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SS 冬毬「慣れない主役」
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とまマル
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日付が変わるのを待ち構えていたかのように、スマートフォンの通知音がにぎやかに鳴り響く。
次々と押し寄せる通知音は止むことがなく、初めての事態に「まさかSNSが炎上しているのでは」と、不安が胸をよぎる。
おそるおそる画面をチェックすると、そこに広がっていたのは、思いがけない数のバースデーメッセージだった。
「お誕生日おめでとう!」「happy birthday!」
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画面に浮かぶ、先輩方や同級生、ファンの方々からのお祝いの言葉たち。こんなにも沢山の人が自分のことを祝福してくれるなんて。胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。
「メッセージにお礼を返さなければ」
そう思って画面に向き直るけれど、いざ取り掛かろうとすると、何から手をつけるべきか迷ってしまう。
そのとき、ふと目に留まったのは、マルガレーテからのメッセージだった。
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「冬毬、お誕生日おめでとう。沢山のメッセージが届いていると思うから、私への返信はしなくていいわよ。とにかくおめでとう」
マルガレーテらしい、シンプルだけど配慮がにじむメッセージ。思わず頬が緩む。
優先度の高いタスクに手を付けないのは主義に反するけれど、ここは素直に彼女の気遣いに甘えることにする。
「お気遣いありがとうございます、後で必ずお礼します」
スタンプと一緒にそう送ると、すぐに既読がつき、続けてメッセージが届いた。
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「返信不要って言ったでしょ」
ちょっとぷんすかしたイラストのスタンプが添えられていて、思わずくすりと笑ってしまう。
画面の中で交わされる短い会話が、こんなにも幸せを与えてくれるなんて。
沢山の「おめでとう」が次々と画面を彩る中、私はしばらくの間、そのスタンプを眺めて微笑んでいた。
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「おはようございます、マルガレーテ」
「おはよう、冬毬。改めて誕生日おめでとう。昨日はちゃんと眠れたの?」
「もちろんです」
「ふーん」
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マルガレーテが不意に私の顔を覗き込み、間近で目を合わせる形となる。
「な、なんですか」
正直、この距離は気恥ずかしい。マルガレーテは私の顔をまじまじと見つめた後、「やっぱり」と言わんばかりの表情を浮かべる。
「クマができてる。沢山メッセージが送られてきて、つい夜更かししちゃったんでしょ」
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「し、仕方ないではないですか」
昨晩は心のこもったメッセージのひとつひとつに目を通していたら、ふわふわと嬉しい気持ちになって、なかなか寝付くことができなかった。規則正しい睡眠を心掛けているけれど、今回ばかりは例外だし、不可抗力だとも思う。
「ダメじゃない、本日の主役がそんな顔してちゃ」
「主役…」
その言葉が妙に胸に響く。
パフォーマンスで注目を集めることには慣れていても、このようなシチュエーションは初めてのことだ。
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「まあいいわ。ほら、行きましょう」
マルガレーテはやれやれ顔を浮かべて歩き出し、私は彼女の背中を追う。
そこからはいつもの登校だった。いつもの会話といつもの速度、いつもの距離。
けれど私は、相変わらずどこかふわふわとした、あたたかい気持ちを抱えていた。
「主役…」
先程のマルガレーテの言葉と、昨日のスタンプのことを思い返しながら、私は普段どおりを装いつつ、学校へと歩いていった。
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練習の後、私はマルガレーテに連れられてかのん先輩のお宅へとやってきた。マルガレーテに促されてお店のドアを開けると。
「せーの、冬毬ちゃん、お誕生日おめでとー!」
お祝いの言葉とクラッカーのシャワーに迎えられた。
店内には眩しいほどの光景が広がっていた。カラフルな飾り付けが施された店内には、Liella!のメンバーが勢ぞろいして、大きなケーキの周りには明るい笑顔が弾けている。
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驚きと感激で立ち尽くす私に、かのん先輩が優しく声をかける。
「冬毬ちゃん、どうぞ座って。今日の主役なんだから」
拍手で迎えられながら、私はテーブルの上座へ座るよう案内された。普段座ることのない、いわゆる「お誕生日席」だ。
いつもと違う視点と、みんなの注目を一身に浴びる雰囲気が少し照れくさい。けれど、すごく嬉しい。
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「ほら、何飲む?」
右手にコーラを、左手にジンジャーエールを持ったマルガレーテが話しかけてくれる。
私がコーラをセレクトすると、千砂都先輩が「さすが冬毬ちゃん、わかってるねぇ!」と元気に声を上げ、みんなが笑顔で応えた。私もつられて笑顔になる。
「まったく、始まる前から賑やかなんだから」
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「楽しいです。でもなんだか、初めてすぎて少し慣れません」
マルガレーテは「そう?」と落ち着いた声で答えた。
「まあ、いいんじゃない。誕生日なんだし」
「はい、いいと思います」
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小さな声で答えた私に、マルガレーテも満足げに「ん」と頷いた。
パーティーは賑やかで、笑顔が絶えなかった。
「ハッピーバースデー、ディア、冬毬ちゃーん!」
特等席でLiella!の歌を聴き、みんなで一緒に写真を撮ったりして、初めは少し緊張していた私も、だんだんと心から楽しめるようになっていった。
「ありがとうございます。私は幸せ者です」
こんなにも素敵な時間を、最高の仲間と過ごせるなんて。心からの感謝があふれた。
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パーティーが終わり、静かになった店内で心地よい余韻に浸っていると、片付けを終えたマルガレーテが声をかけてくれた。
「楽しかったわね」
「はい。皆さんにこんなふうに祝ってもらえるなんて、思ってもいませんでした」
「今日はそればっかり言ってるわよ、主役さん」
マルガレーテがくすっと笑い、隣の椅子に腰掛ける。
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「そういえば、まだでしたね」
「なにが?」
「昨日送ってくれたメッセージのお礼です。ありがとうございました」
「ああ。いいわよ、わざわざ改まって言わなくても」
「マルガレーテの言葉のおかげで救われました。本当ですよ?」
「そういう律儀なところ、嫌いじゃないわ」
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とまマル助かる
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くすくすと笑いあう他愛のないやり取りの後、二人の間を沈黙が流れる。
料理と飲み物は片付けられ、音楽は止み、店内に残ったのは壁の装飾だけ。
キラキラと光る飾り付けを眺めながら、私は胸の奥で名残惜しさをじんわりとかみしめる。
今日という特別な一日が、少しずつ終わりに近づいていく。そのことがどうしようもなく切なかった。
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「本当にありがとうございました。それでは、失礼します」
「冬毬っ」
未練を振り切ろうと歩き出そうとした私の手を、マルガレーテがそっと引き止める。
「マルガレーテ?」
振り返ると、頬を少し赤く染めたマルガレーテが、視線をそらしながら口を開いた。
「もう少し、二人で話さない?ほら、今日はせっかくの誕生日だから…かのんも、泊っていって良いって言ってたし…」
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意外な提案に驚きながらも、自然と笑みがこぼれる。
そうか、今日をまだ手放したくないと思っていたのは、私だけではなかったんだ。
「もちろん、喜んで」
マルガレーテがふわりと嬉しそうに微笑む。
私の特別な一日は、もう少し続きそうだ。
終わり
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冬毬ちゃんバースデーとまマルでした。
宣伝となり恐縮ですが、以下はとまマルの過去作です。よろしければ併せてお願いします。
SS マルガレーテ「冬毬の季節」
https://www.kyodemo.net/sdemo/r/s_anime_11210/1733659271/
ありがとうございました。
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Yoki
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乙
素晴らしいとまマル
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こういうのでいいんすよこういうので
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とまマルにありがとう
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とまマルがいっちゃんたすかる
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とまマル尊いデスよ冬毬
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