■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

SS 冬毬「慣れない主役」

1 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:16:36 ???00
とまマル


2 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:17:11 ???00
日付が変わるのを待ち構えていたかのように、スマートフォンの通知音がにぎやかに鳴り響く。

次々と押し寄せる通知音は止むことがなく、初めての事態に「まさかSNSが炎上しているのでは」と、不安が胸をよぎる。

おそるおそる画面をチェックすると、そこに広がっていたのは、思いがけない数のバースデーメッセージだった。

「お誕生日おめでとう!」「happy birthday!」


3 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:17:47 ???00
画面に浮かぶ、先輩方や同級生、ファンの方々からのお祝いの言葉たち。こんなにも沢山の人が自分のことを祝福してくれるなんて。胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。

「メッセージにお礼を返さなければ」

そう思って画面に向き直るけれど、いざ取り掛かろうとすると、何から手をつけるべきか迷ってしまう。

そのとき、ふと目に留まったのは、マルガレーテからのメッセージだった。


4 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:18:07 ???00
「冬毬、お誕生日おめでとう。沢山のメッセージが届いていると思うから、私への返信はしなくていいわよ。とにかくおめでとう」

マルガレーテらしい、シンプルだけど配慮がにじむメッセージ。思わず頬が緩む。
優先度の高いタスクに手を付けないのは主義に反するけれど、ここは素直に彼女の気遣いに甘えることにする。

「お気遣いありがとうございます、後で必ずお礼します」

スタンプと一緒にそう送ると、すぐに既読がつき、続けてメッセージが届いた。


5 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:18:24 ???00
「返信不要って言ったでしょ」

ちょっとぷんすかしたイラストのスタンプが添えられていて、思わずくすりと笑ってしまう。

画面の中で交わされる短い会話が、こんなにも幸せを与えてくれるなんて。

沢山の「おめでとう」が次々と画面を彩る中、私はしばらくの間、そのスタンプを眺めて微笑んでいた。


6 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:18:54 ???00
「おはようございます、マルガレーテ」

「おはよう、冬毬。改めて誕生日おめでとう。昨日はちゃんと眠れたの?」

「もちろんです」

「ふーん」


7 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:19:35 ???00
マルガレーテが不意に私の顔を覗き込み、間近で目を合わせる形となる。

「な、なんですか」

正直、この距離は気恥ずかしい。マルガレーテは私の顔をまじまじと見つめた後、「やっぱり」と言わんばかりの表情を浮かべる。

「クマができてる。沢山メッセージが送られてきて、つい夜更かししちゃったんでしょ」


8 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:20:14 ???00
「し、仕方ないではないですか」

昨晩は心のこもったメッセージのひとつひとつに目を通していたら、ふわふわと嬉しい気持ちになって、なかなか寝付くことができなかった。規則正しい睡眠を心掛けているけれど、今回ばかりは例外だし、不可抗力だとも思う。

「ダメじゃない、本日の主役がそんな顔してちゃ」

「主役…」

その言葉が妙に胸に響く。
パフォーマンスで注目を集めることには慣れていても、このようなシチュエーションは初めてのことだ。


9 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:21:28 ???00
「まあいいわ。ほら、行きましょう」

マルガレーテはやれやれ顔を浮かべて歩き出し、私は彼女の背中を追う。

そこからはいつもの登校だった。いつもの会話といつもの速度、いつもの距離。
けれど私は、相変わらずどこかふわふわとした、あたたかい気持ちを抱えていた。

「主役…」

先程のマルガレーテの言葉と、昨日のスタンプのことを思い返しながら、私は普段どおりを装いつつ、学校へと歩いていった。


10 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:22:19 ???00
練習の後、私はマルガレーテに連れられてかのん先輩のお宅へとやってきた。マルガレーテに促されてお店のドアを開けると。

「せーの、冬毬ちゃん、お誕生日おめでとー!」

お祝いの言葉とクラッカーのシャワーに迎えられた。

店内には眩しいほどの光景が広がっていた。カラフルな飾り付けが施された店内には、Liella!のメンバーが勢ぞろいして、大きなケーキの周りには明るい笑顔が弾けている。


11 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:23:06 ???00
驚きと感激で立ち尽くす私に、かのん先輩が優しく声をかける。

「冬毬ちゃん、どうぞ座って。今日の主役なんだから」

拍手で迎えられながら、私はテーブルの上座へ座るよう案内された。普段座ることのない、いわゆる「お誕生日席」だ。

いつもと違う視点と、みんなの注目を一身に浴びる雰囲気が少し照れくさい。けれど、すごく嬉しい。


12 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:23:42 ???00
「ほら、何飲む?」

右手にコーラを、左手にジンジャーエールを持ったマルガレーテが話しかけてくれる。

私がコーラをセレクトすると、千砂都先輩が「さすが冬毬ちゃん、わかってるねぇ!」と元気に声を上げ、みんなが笑顔で応えた。私もつられて笑顔になる。

「まったく、始まる前から賑やかなんだから」


13 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:24:04 ???00
「楽しいです。でもなんだか、初めてすぎて少し慣れません」

マルガレーテは「そう?」と落ち着いた声で答えた。

「まあ、いいんじゃない。誕生日なんだし」

「はい、いいと思います」


14 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:27:31 ???00
小さな声で答えた私に、マルガレーテも満足げに「ん」と頷いた。

パーティーは賑やかで、笑顔が絶えなかった。

「ハッピーバースデー、ディア、冬毬ちゃーん!」

特等席でLiella!の歌を聴き、みんなで一緒に写真を撮ったりして、初めは少し緊張していた私も、だんだんと心から楽しめるようになっていった。

「ありがとうございます。私は幸せ者です」

こんなにも素敵な時間を、最高の仲間と過ごせるなんて。心からの感謝があふれた。


15 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:28:10 ???00
パーティーが終わり、静かになった店内で心地よい余韻に浸っていると、片付けを終えたマルガレーテが声をかけてくれた。

「楽しかったわね」

「はい。皆さんにこんなふうに祝ってもらえるなんて、思ってもいませんでした」

「今日はそればっかり言ってるわよ、主役さん」

マルガレーテがくすっと笑い、隣の椅子に腰掛ける。


16 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:28:30 ???00
「そういえば、まだでしたね」

「なにが?」

「昨日送ってくれたメッセージのお礼です。ありがとうございました」

「ああ。いいわよ、わざわざ改まって言わなくても」

「マルガレーテの言葉のおかげで救われました。本当ですよ?」

「そういう律儀なところ、嫌いじゃないわ」


17 : 名無しで叶える物語◆N3a4chQR★ :2024/12/30(月) 11:29:39 ???Sd
とまマル助かる


18 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:30:14 ???00
くすくすと笑いあう他愛のないやり取りの後、二人の間を沈黙が流れる。
料理と飲み物は片付けられ、音楽は止み、店内に残ったのは壁の装飾だけ。

キラキラと光る飾り付けを眺めながら、私は胸の奥で名残惜しさをじんわりとかみしめる。

今日という特別な一日が、少しずつ終わりに近づいていく。そのことがどうしようもなく切なかった。


19 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:31:49 ???00
「本当にありがとうございました。それでは、失礼します」

「冬毬っ」

未練を振り切ろうと歩き出そうとした私の手を、マルガレーテがそっと引き止める。

「マルガレーテ?」

振り返ると、頬を少し赤く染めたマルガレーテが、視線をそらしながら口を開いた。

「もう少し、二人で話さない?ほら、今日はせっかくの誕生日だから…かのんも、泊っていって良いって言ってたし…」


20 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:32:20 ???00
意外な提案に驚きながらも、自然と笑みがこぼれる。
そうか、今日をまだ手放したくないと思っていたのは、私だけではなかったんだ。

「もちろん、喜んで」

マルガレーテがふわりと嬉しそうに微笑む。

私の特別な一日は、もう少し続きそうだ。



終わり


21 : 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ :2024/12/30(月) 11:32:43 ???00
冬毬ちゃんバースデーとまマルでした。

宣伝となり恐縮ですが、以下はとまマルの過去作です。よろしければ併せてお願いします。
SS マルガレーテ「冬毬の季節」
https://www.kyodemo.net/sdemo/r/s_anime_11210/1733659271/

ありがとうございました。


22 : 名無しで叶える物語◆P4zcyTmH★ :2024/12/30(月) 11:36:42 ???00
Yoki


23 : 名無しで叶える物語◆w0VYEc★ :2024/12/30(月) 11:40:34 ???00

素晴らしいとまマル


24 : 名無しで叶える物語◆s8VPXZpC★ :2024/12/30(月) 12:30:37 ???00
こういうのでいいんすよこういうので


25 : 名無しで叶える物語◆tY4k5B2F★ :2024/12/30(月) 12:32:05 ???00
とまマルにありがとう


26 : 名無しで叶える物語◆Vz93JPFr★ :2024/12/30(月) 13:03:07 ???Sd
とまマルがいっちゃんたすかる


27 : 名無しで叶える物語◆g4JHY9wd★ :2024/12/30(月) 23:36:17 ???00
とまマル尊いデスよ冬毬


■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■