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日曜桜坂劇場「ラストステージ」[字][解][デ][終]私とあなたの物語。
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しずく『先輩は私のこと、好きって言ってくれますか?』
しずく『……でも一番に私を頼ってくれないとやですよ?』
しずく『いつかは「なんとなーく」なんて言えないくらい、私のことを好きにさせちゃいますからねっ』
しずく『私が一番ときめいたのは……佳織里さんです!』
しずく『やっとふたりきりになれましたね、先輩』
しずく『今日先輩と会えたのは、きっと運命なんです』
しずく『先輩はひとりじゃありませんよ』
――――――
――――
――
演劇部部長「そろそろ幕を下ろそうか……しずくの物語に」
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しずく「幕を下ろすって……」
演劇部部長「今のしずくは大罪人だからね。それ相応の罰を受けなくちゃいけない」
しずく「……私がどんな罪を犯したって言うんですか?」
演劇部部長「わからない? ならヒントをあげる」
演劇部部長「しずくの紡いできた物語は、誰の目にも触れず、誰にも演じられることはなかった」
演劇部部長「それがどういうことか、しずくならわかるよね?」
しずく「物語にとっての、死……」
演劇部部長「そう。しずくはいくつもの物語を生み出し、殺してきた」
演劇部部長「その罪を償う時が来たんだよ」
しずく「……私が罪を犯したとして、それをどう償えばいいんですか?」
演劇部部長「まずしずくには二度と物語を書かせない。これ以上、物語を殺させない」
演劇部部長「そして“あの子”とも、永遠に会うことはできない。それがしずくに与えられた罰」
しずく「あの子って……まさか、先輩のことじゃないですよね?」
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演劇部部長「他に誰がいるの? あの子こそしずくに道を踏み外させた張本人でしょ?」
演劇部部長「彼女が存在する限り、しずくは過ちを繰り返してしまう……」
演劇部部長「だから彼女の存在しない世界に閉じ込めるしかないってこと」
しずく「嫌ですっ! 部長……それだけは、嫌なんです……」
演劇部部長「もう、決まったことだから」
しずく「部長っ!!」
演劇部部長「……あの子との最後の一日を、どうか悔いのないように過ごしてほしい」
しずく「…………」
演劇部部長「私からはそれだけ」
しずく「待ってください……待って――」
しずくの部屋
しずく「っ!?」バッ
しずく「夢……? ただの、夢……だよね……」
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同好会部室
あなた「あれ……ないなぁ……」ゴソゴソ
歩夢「どうしたの?」
あなた「教室に忘れ物しちゃったみたい……ちょっと取ってくるよ」
演劇部部長『“あの子”とも、永遠に会うことはできない』
しずく「ダメっ!」グイッ
あなた「わっ! し、しずくちゃん?」
しずく「あ……ごめんなさい、私……」
あなた「大丈夫だよ。しずくちゃんも一緒に行く? なーんて……」
しずく「行きます……」
あなた「へ?」
しずく「私も一緒に、行きます……」
あなた「えぇと……うん。じゃあ一緒に行こっか」
歩夢「えっ……」
あなた「すぐ戻るから歩夢ちゃんは待ってて」
歩夢「わ、わかった……いってらっしゃい」
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廊下
あなた「……しずくちゃん、なにかあった?」
しずく「いえ……」
あなた「そっか。もし困りごとができたりしたら、なんでも言ってね」
しずく「はい……」
あなた「…………」
しずく「…………」
あなた「……ふふっ」
しずく「先輩?」
あなた「ごめん、ちょっとおかしくって」
しずく「? なにがですか?」
あなた「しずくちゃん、お芝居は上手なのに嘘つくのは下手っぴなんだな、と思って」
しずく「私、嘘なんか……」
あなた「ならどうしてそんな顔してるの?」
しずく「っ……」
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あなた「なにか……あったんだよね?」
しずく「……先輩には敵いませんね」
あなた「私に関係があることなのかな」
しずく「はい……でも話しても仕方のないことですから」
あなた「そうなんだ……」
しずく「ひとつ聞いてもいいですか?」
あなた「なに?」
しずく「先輩は……いなくなったりしませんよね?」
あなた「それって私が同好会を辞めちゃうとか、そういうこと?」
しずく「そうではなくて……」
あなた「あれれ、じゃあどういうこと?」
しずく「……忘れてください」
あなた「え〜、そんなこと言われてもなぁ……」
しずく「…………」
あなた「…………」
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しずく「ねぇ、先輩」
あなた「ん?」
しずく「私……私は……」
しずく(もし本当に今日が先輩に会える最後の日なら、私は先輩に伝えなくちゃいけない)
しずく(ずっと秘めてきた私の想いを打ち明ける最後のチャンスなのだから)
しずく(難しい言葉じゃなくていい。ただシンプルに『好きです』と言ってしまえばいい)
しずく(それを伝えないまま、二度と先輩に会えなくなってしまえば……きっと私は一生後悔し続ける)
しずく(毎日毎晩今日という日を悔いて、もう一度やり直せたらと叶わない夢を見るに違いない)
しずく(だけど……私は信じたくなかった。先輩のいない明日が来るなんて、思いたくはなかった)
しずく(だから……)
しずく「いえ、なんでもありませんっ」
あなた「……?」
しずく「さ、忘れ物を持って早く部室に戻りましょう?」
あなた「そうだね」
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翌日 同好会部室
しずく「かすみさん、先輩は?」
かすみ「レッスン室じゃない?」
しずく「そう」
レッスン室
しずく「先輩いますか?」
せつ菜「しずくさん! なにかご用ですか?」
しずく「はい、先輩にちょっと」
せつ菜「なら私が聞きますよ!」
しずく「いえ、そうではなくて……」
せつ菜「? 3年生じゃないとダメでしたか?」
しずく「ですから、先輩を……」
歩夢「どうしたの?」
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せつ菜「しずくさんが先輩に用事があると」
歩夢「先輩? 彼方さんだったらソファでお昼寝してるけど……」
しずく「歩夢さんもなにを言ってるんですか……? 先輩ですよ! 歩夢さんの幼馴染の!!」
歩夢「えっと……私には幼馴染なんていないよ……?」
しずく「嘘……そんなはず……」
歩夢「誰かと勘違いしてるんじゃないかな?」
しずく「っ!」タッタッタッ
せつ菜「しずくさん!?」
演劇部部室
しずく「部長っ!!」
演劇部部長「しずく? どうし――」
しずく「先輩を返してください!! 私の先輩をっ……!」
………………
…………
……
-
演劇部部長「落ち着いた?」
しずく「はい……すみませんでした」
演劇部部長「それじゃあもう一度ゆっくり話そうか」
演劇部部長「要約するとしずくには大切な人がいて、私がその子を消したと思ったんだね?」
しずく「部長が『先輩にはもう会えない』と言っていたので……」
演劇部部長「残念だけど私はその子を知らない。存在を消したりもしてないし、私にはそんなことできないよ」
しずく「じゃあどうして……」
演劇部部長「これは推測だけど、そのしずくと話した別の私は単なるメッセンジャーだったんじゃないかな」
演劇部部長「何者かの決定をしずくに伝えるだけで、世界に干渉したりはしていないと私は思う」
しずく「なぜそう思うんですか?」
演劇部部長「私ならそんなふうにしずくを傷つけるようなことはしたくないからね」
しずく「部長……」
演劇部部長「だから協力するよ。しずくがもう一度彼女に会えるように」
しずく「ありがとうございますっ」
演劇部部長「まずはそうだね……その子を覚えているのがしずくだけなのか、確認してみようか」
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あなたちゃん消えたか
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同好会部室
しずく「皆さん、本当に覚えていないんですか?」
璃奈「うん。璃奈ちゃんボード『はてな?』」
栞子「私も全く心当たりがありませんね……」
かすみ「まぁたしず子の妄想なんじゃないの?」
しずく「妄想なんかじゃ……」
せつ菜「私の知る限りそんな生徒はいないはずですが……」
ランジュ「ランジュがお友達のことを忘れるとは思えないわ」
愛「愛さんたちと同級生なんだよね?」
しずく「はい。歩夢さんの幼馴染で……」
歩夢「うーん……全然ピンとこないけど……」
エマ「どんな子なんだろう? わたしも会ってみたいなぁ」
彼方「しずくちゃんのイマジナリーフレンドかもしれないね〜」
ミア「ふーん、高校生じゃ珍しいね」
果林「居間? 地鳴り……?」
しずく「どうして……あんなに大切な人を、どうしてみんな忘れてしまうんですか……?」
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演劇部部室
演劇部部長「同好会のメンバーでも覚えていない、か……」
しずく「みんな先輩のことが大好きだったはずなのに……」
演劇部部長「しずくの先輩が消えた以外になにか変わったことはある?」
しずく「変わったこと……あっ、ノート。私の創作ノートがどこにもないんです」
しずく「たしか部長は私にはもう物語を書かせないと言っていたので、そのせいかもしれません」
演劇部部長「……しずくは今でも物語を書きたいと思ってる?」
しずく「そう、だと思います」
演劇部部長「なら私のノートに少し書いてみてくれないかな」スッ
しずく「わかりました……」
演劇部部長「……どう?」
しずく「部長……このペン、インクが切れてるみたいです」
演劇部部長「えっ? そんなはずは……貸して」
しずく「はい……」
演劇部部長「……私にはちゃんと書けるみたい」
しずく「どういうことなんでしょう?」
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演劇部部長「鉛筆は? 今度は鉛筆で書いてみて」
しずく「やってみます……あれっ、どうして? たしかに書いてるはずなのに……」
演劇部部長「なるほど……どうやらこの世界はしずくに罰を与えるためだけにあるらしいね」
しずく「えっ……」
演劇部部長「しずくの話を信じてなかったわけじゃないけど、私もようやく実感が湧いてきたよ」
演劇部部長「元凶とされるしずくの先輩を排除するなら、しずくの記憶からも存在を消せばいい」
演劇部部長「物語を作らせないなら、しずくの創作意欲をなくしてしまえばいい」
演劇部部長「なのにそうしなかったのは、きっとしずくを苦しめるため……まったく嫌らしいことを」
しずく「……だとしたら、もう先輩には会えないのかもしれませんね」
しずく「私、今日はもう帰ります……」
演劇部部長「しずくは諦められるの?」
しずく「…………」
演劇部部長「大好きだったその子のこと、諦めてもいいの?」
しずく「……いいわけないじゃないですか」
しずく「私が先輩を、そんなに簡単に諦められるわけないじゃないですかっ!!」
演劇部部長「なら取り戻そう。なんとしても、その子を」
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日曜日 マンション
演劇部部長「ここがその子が住んでた部屋?」
しずく「はい。歩夢さん、このお部屋は?」
歩夢「私が小さい頃からずっと空室だよ」
演劇部部長「できれば中も確認したいところだけど……」
しずく「それなら内見するのはどうでしょうか?」
演劇部部長「私もそう思って調べたら、この部屋は売りに出されてないみたいでね」
しずく「変ですね……」
歩夢「考えてみたら10年以上ずっと誰も住んでないっていうのもちょっとおかしいよね」
歩夢「どうして今までなんとも思ってなかったんだろう……」
しずく「部長」
演劇部部長「うん」
演劇部部室
演劇部部長「おそらくこの世界には彼女の消失によって生じた違和感が存在してる」
しずく「その違和感が先輩を取り戻す手がかりになるってことですね」
演劇部部長「あくまでもその可能性があるってだけだけどね」
しずく「とにかくできることはなんでもやりましょう」
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翌日 生徒会室
しずく「栞子さんはどうしてスクールアイドル同好会に入部したか覚えてる?」
栞子「もちろん覚えていますよ。歩夢さんがいなければ今の私はありませんでした」
しずく「歩夢さんだけ?」
栞子「いえ、しずくさんを含めた同好会の皆さんのおかげです。それから姉にも背中を押されました」
しずく「……栞子さんが同好会に加入する前、生徒会活動がうまくいってなかったよね?」
栞子「はい」
しずく「その時栞子さんはどうやって乗り越えたの?」
栞子「同好会の皆さんとの交流もあり、私も考えを改めて――」
しずく「あの頃の堅物だった栞子さんが、そんな簡単に改心するわけないでしょ?」
栞子「か、堅物……否定はできませんが……」
しずく「それにどうして私たちの練習に参加しようと思ったの?」
栞子「あれは私からではなく、半ば強引に……」
しずく「その強引に栞子さんを引き込んだのは誰? 歩夢さんじゃないよね?」
栞子「……たしかに歩夢さんではなかったような気がしますが……変ですね。なぜか思い出せません……」
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同好会部室
せつ菜「廃部寸前のスクールアイドル同好会がどうやって復活したか、ですか?」
かすみ「それはかすみんが頑張ったおかげでしょ?」
しずく「具体的にどう頑張ったの?」
かすみ「せつ菜先輩の条件をクリアするために部員を集めたの、しず子も知ってるよね?」
しずく「そのためにかすみさんが最初に声をかけたのは誰だった?」
かすみ「しず子……じゃなくて、歩夢先輩だったはず……」
しずく「うん。でもかすみさんと歩夢さんってどう知り合ったの?」
かすみ「どうって……あれっ? どうだったっけ……」
せつ菜「かすみさんと歩夢さんの出会いがそんなに重要なんですか?」
しずく「はい。せつ菜さんが出した同好会存続の条件、覚えてますよね?」
せつ菜「もちろんです! 部員を10人集めて――」
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しずく「そう、10人です。でもそれだと人数が合わないんじゃありませんか?」
せつ菜「……あっ!」
かすみ「えっとぉ、今は部員が12人で、しお子とミア子とランジュ先輩の3人があとから入ったから……ほんとだ」
しずく「どうして9人しか部員が集まらなかったのに、せつ菜さんは存続を認めたんですか?」
せつ菜「それは……うーん、なぜでしょう……」
かすみ「せつ菜先輩が大目に見てくれた、とか?」
しずく「せつ菜さんがそんな妥協をすると思う?」
せつ菜「私が大好きなことで妥協するなんてありえません!」
かすみ「ですよね……」
しずく「つまり同好会には間違いなくもう1人、大切な部員がいたんです」
しずく「先輩が……いたんです」
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演劇部部室
演劇部部長「私なりに考えたこと、聞いてくれる?」
しずく「もちろんです」
演劇部部長「しずくの先輩を覚えているのは、今のところしずくだけだよね?」
しずく「部長は?」
演劇部部長「私はしずくに聞いたことしか知らないからね。その子が存在していた記憶は私にもないよ」
しずく「ああ……そうでしたね」
演劇部部長「すなわち、今この世界ではその子はしずくの妄想の中だけの存在ってことになる」
しずく「先輩は私の妄想なんかじゃありません!」
演劇部部長「うん、私はしずくの話を信じてるよ。だけど信じるだけじゃダメなんだ」
しずく「どういうことですか?」
演劇部部長「もししずくと同じようにその子がたしかに存在していたと認識している人間が現れたら――」
演劇部部長「この世界でもその子の存在が確立されるんじゃないか……ってこと」
演劇部部長「もっともこれこそ私の妄想で、机上の空論かもしれないけど……」
しずく「いえ、可能性は十分あると思います」
演劇部部長「なら誰に思い出してもらう?」
しずく「……歩夢さんです。先輩と誰よりも長い時間を過ごした人ですから」
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翌日 同好会部室
歩夢「えっと……しずくちゃん、なにをするの?」
しずく「今から私が先輩を演じます。歩夢さんは私を幼馴染だと思って自由に接してください」
歩夢「はあ……」
しずく「最初は登校中からやってみましょうか。先輩、先輩……よしっ」
しずく「では、始めますね……歩夢ちゃん! おはよう!」
歩夢「お、おはよう……」
しずく「今日も同好会楽しみだな〜!」
歩夢「そう、だね。あはは……」
しずく「早くしずくちゃんに会いたいよ。しずくちゃんって本当に可愛いよね!」
歩夢「ふふっ、あなたはしずくちゃんのことが大好きなんだね」
しずく「違います!」
歩夢「え?」
しずく「そこは嫉妬するところです! どうして普通に受け入れるんですか!?」
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歩夢「だって自由にやってってしずくちゃんが……」
しずく「二人は幼馴染なんですからもっと関係性をよく考えてやってください!」
歩夢「うぅ……ごめんね、しずくちゃん……」
演劇部部長「しずく、少し落ち着いて」
しずく「はっ……ご、ごめんなさい歩夢さん! 私、つい熱が入って……」
歩夢「ううん、大丈夫だよ。しずくちゃんはお芝居が大好きなんだもんね」
しずく「お恥ずかしいです……」
歩夢「しずくちゃんの話だと、私はその子と仲良しだったのかな?」
しずく「それはもう……だからこそこうして歩夢さんに協力してもらっているんです」
歩夢「じゃあもっと聞かせてほしいな。その子のこと」
しずく「先輩のお話を、ですか?」
歩夢「うん。まずはその子をもっとよく知りたいから」
しずく「……わかりました。私の知っている先輩は――」
………………
…………
……
-
歩夢「そっか……それが私の幼馴染の子なんだね」
しずく「これで先輩のこと、少しわかってもらえたでしょうか?」
歩夢「よ〜くわかったよ。その子のことも、しずくちゃんがその子を大好きだってこともね」
しずく「あっ、すみません……もっと客観的にお話したほうがよかったですよね」
歩夢「気持ちがこもっててよかったと思うよ?」
しずく「そうですか? 歩夢さんがそう言ってくれるならいいのですが……」
歩夢「もし本当にそんな子がいたとしたら、私も好きになっちゃってたかも」
しずく「それは間違いないですね」
歩夢「えっ?」
しずく「では先輩を熟知した上で、もう一度エチュードをしましょう!」
歩夢「ええっ!? まだやるの!?!?」
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翌日 演劇部部室
しずく「昨日の先輩を体感してもらう作戦はうまくいきませんでしたね……」
演劇部部長「私を含めたしずく以外の人間は彼女を忘れてしまったわけじゃなくて――」
演劇部部長「最初から存在していなかったと認識してるんだと思う」
しずく「ということは先輩を思い出させることはできないんでしょうか?」
演劇部部長「おそらく思い出させるというより、存在を上書きするって感じかな」
しずく「でもどうやって……」
演劇部部長「前にも話した違和感だよ。彼女の存在を裏付ける決定的な何かがあれば……」
しずく「先輩の存在を裏付けるもの……そうだ。私、大事なことを忘れていました!」
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同好会部室
しずく「先輩がいたことを証明するもの……それは私たちの歌です」
しずく「私たちがステージの上で歌うのは、先輩が作ってくれた歌なんです」
ミア「待ってよ、同好会の作曲担当はボクだろ?」
しずく「もちろんミアさんの作った曲もあるけど、全部じゃないよね?」
しずく「それにミアさんが加入する前はどうしてたの?」
ミア「し、知らないよ……」
しずく「やっぱり先輩はちゃんといたんです。今だってこの世界のどこかに――」
果林「しずくちゃん、もういいんじゃない?」
しずく「はい? いい、というのは……?」
栞子「しずくさんの考えるお話はとても面白いのですが……」
愛「そろそろ愛さんたちもついていけなくなってきたかも……」
エマ「わたしにはちょっと難しいよ〜」
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しずく「ま、待ってください! これは私の作り話なんかじゃないんです!」
かすみ「っていう設定ってこと?」
せつ菜「なんだかワクワクしますね!」
璃奈「私もそういうお話、好き」
しずく「違う……違うんです……先輩は……!」
彼方「しずくちゃん、あんまり眠れてなくて疲れてるんじゃないかなぁ?」
ランジュ「疲れてるならお肉を食べるといいわ! 一緒に食べましょ!」
しずく「歩夢さん! 歩夢さんは私のこと、信じてくれますよね?」
歩夢「えっと……あはは……」
しずく「そんな……」
………………
…………
……
-
しずく(それからも私は先輩の存在証明を何度も何度も試みた)
しずく(けれど先輩を思い出してもらえないまま、ただ時間だけが過ぎていった)
しずく(気がつけば私と同好会の間には溝が生まれて)
しずく(私はゆっくりと孤立していった……)
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演劇部部室
演劇部部長「私の仮説は間違っていたのかもしれない……」
しずく「えっ……?」
演劇部部長「この世界が作られた理由を考えると、存在の上書きじゃしずくの先輩は……」
しずく「なら他にどんな方法があるんですか?」
演劇部部長「もっと根本に戻るんだよ。例えばしずくの書いた物語を誰かに読んでもらう、とか」
演劇部部長「だけど今のしずくに物語は書けない……書かなければ誰にも読んではもらえない……」
しずく「じゃあ……やっぱり無理、なんですね。先輩にもう一度会うことは……」
演劇部部長「……ごめん。私の考えが甘かったせいで――」
しずく「いいんです。部長は私のためにできる限りのことをしてくれました」
しずく「本当に、ありがとうございました」
演劇部部長「……うん」
しずく「私、今日はもう帰ってゆっくり休もうと思います。では」
演劇部部長「しずく!……また明日」
しずく「……はい」
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夜 しずくの家・浴室
しずく「…………」
しずく「先輩。私、必ずあなたに会いに行きます」
しずく「だから……待っていてくださいね」
………………
…………
……
-
翌朝 同好会部室
しずく「やっぱりまだ誰も来てないよね……よしっ」
――――――
――――
――
しずく「……これでいいかな? うん、大丈夫そう」
しずく(きっとこの部室が私の死に場所に最も相応しい)
しずく(誰が最初に私を見つけてくれるのかな? その時、どんな言葉をかけてくれるんだろう?)
しずく(気になるけど……それはあまり重要なことじゃない)
しずく(私にとって大切なのは、向こうで先輩を見つけることだから)
しずく(先輩に会ったら、今度こそ私の想いを伝えなくちゃ)
しずく(他の誰よりも、死ぬほど先輩のことが好きなんだ、って)
しずく「ふぅ……いってきます。っ――!」スッ
ガタンッ!
ギュウゥゥ……!
-
しずく「がっ、ぁ……!」
しずく(苦しいっ……息が吸い込めない……)
しずく「ぅぐぐ……くぁっ……」
しずく(先輩……先輩先輩先輩先輩先輩先輩!)
しずく「――――!!」
ブチィッ!
ドサッ!
しずく「げほっ、かはっ……! ぉえっ、ひぐっ……な、っで……」
しずく(ロープが、千切れた?)
しずく「えほっ! ごほごほっ……せん、ぱぃ……!」カチカチ
しずく(だったら、カッターで手首を……!)
しずく「っ!」スッ
しずく(切れない……切れない!)
しずく「なんでっ! どうして!? このっ!!」カチャン
タッタッタッ……
-
屋上
しずく(だったら飛び降りてやる! 頭から真っ逆さまに!!)タッタッタッ
しずく「先輩っ!!」バッ
しずく(これで、もう……)
ドサッ……
しずく「え……?」
しずく(たしかに今、飛び降りたはずなのに……まだ屋上に……?)
しずく(ならもう一回!)スック
タッタッタッ……!
演劇部部長「しずくっ!!」ガバッ
しずく「っ!?」
演劇部部長「バカなことしないでっ!!」
しずく「離してください! 私は、先輩のところに――!」
演劇部部長「死んだってその子には会えない! 会えないんだよ、しずく!」
しずく「うるさいっ! 私はもう生きていたくないんです! 先輩のいない世界なんて、なんの価値もないっ!!」
しずく「こんなくそったれな物語、ここで終わらせてやるんです! だから離して、離してください……!」
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演劇部部長「しずく……そんなにその子のことが大事なの?」
しずく「当たり前じゃないですか……私にとって先輩は……」
演劇部部長「…………」
しずく「…………」
演劇部部長「……ねぇ、しずく。私じゃ、ダメなのかな」
しずく「えっ……」
演劇部部長「私じゃ、その子の代わりに――」
しずく「っ! やっぱり部長の仕業なんですね……最初から私のことを騙して……」
演劇部部長「な、なにを言って……」
しずく「そうやって私を自分のものにするために、こんな世界を作ったんですよね!?」
演劇部部長「違う! 私はただ……いや、もしかしたらしずくの言う通りなのかもしれない……」
演劇部部長「だとしたら私はもう、しずくのそばには……」
しずく「…………」
演劇部部長「……さようなら、しずく」
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しずく(先輩……今あなたはどこにいますか?)
しずく(私は今自分がどこにいるのか、よくわかりません)
しずく(先輩を失くして、同好会も失くして、この世界で誰よりも私に寄り添ってくれた部長すらも失くして……)
しずく(行きたい場所なんてどこにもないのに、ただひたすらさまよい続けています)
しずく(いつか私は、どこかにたどり着けるのでしょうか?)
しずく(たどり着いたとしたら、そこで私は……)
しずく「先輩……会いたい……もう一度、あなたに……」
しずく(私の言葉はもう先輩には届かない)
しずく(生きる意味をなくして、ただ死んでいないだけの存在になった私は、きっともう……)
あなた「しずくちゃん」
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しずく「……せん、ぱい……?」
しずく(これは、幻……?)
あなた「やっと見つけた」
しずく「なんで――」
あなた「んっ……」
しずく(唇から、先輩の温もりがはっきりと感じられる……先輩が、ここにいる)
しずく「先輩……」
あなた「私からもおまじない、ちゃんとかけたからね」
しずく「……はいっ。私、先輩のことが――大好きです!」
この物語は……♡
日曜桜坂劇場
完
-
お粗末さまでした。
良いお年を。
-
部長…
-
ずっといてよあなたちゃん
-
今回も面白かった!
作者さんいつもありがとう
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