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かのん「え? 優勝の条件が転科?」

1 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 13:50:02 ID:PakFuLd2
百合 

ちーかのが恐らく致すので苦手な方回れ右
書き溜めず勢いで書きます

3 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 13:52:19 ID:PakFuLd2
おとぎ話かと思うくらい、現実味に欠けた話だった。

「その話、ちーちゃんは知ってるの?」

「いえ、たぶんまだ知らないと思いますが……」

「クゥクゥちゃんは、それ誰に聞いたの?」

思わず詰め寄る様に聞くと、

「わたしもクラスの子が話しているのを偶然耳にしただけで……かのん、顔、激おこで怖い」

「え、ごめん」

でたらめにも程がある。

「あの、かのん、もしかしたらわたしの聞き間違いだったかも」

「あ、そっか、そういう線も」

だったらいいのだけど。

「ご、ごめんなさい、クゥクゥも衝撃的で、ちゃんと真相が分かってからお話するべきでした」

4 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 13:59:04 ID:PakFuLd2
真相。そんなものあるのだろうか。ただの噂なんだから。でも、

「ちーちゃんには絶対に耳に入れないようにしないと」

「はい、ですね」

「ちょっと、わたしも頭の中整理したいから、今日はこれで帰るね……」

項垂れるクゥクゥちゃんが、不安そうに私の袖を引っ張った。

「話してくれてありがとう。逆にその噂を野放しにしておく方が良くないから、だから、そんな顔しないで」

「はい、ありがとかのん」

ちーちゃんを守らなくちゃ。

5 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 14:09:00 ID:PakFuLd2
うちの学校で、『嵐千砂都』の名前を知らない人間はいるだろうか。
いやたぶんいない。それぐらい、ちーちゃんの知名度は学内でも恐らく業界でも高い。
こんなくだらない噂も、真実ではないとしても、彼女の経歴に傷痕を残すには十分だ。

「嵐さん」

翌日。
ちーちゃんと教室を移動していた時の事。
クラスメイトが数人近寄って来た。わたしはもちろん警戒した。

「あ、なにかな」

急いで、彼らとちーちゃんの間に躍り出る。

6 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 14:15:25 ID:PakFuLd2
クラスメイトは首を傾げながら、

「あの、まだ分からない事あるだろうから先生がこれ渡すようにって」

差し出されたのは、数冊の使い古されたテキストだった。

「あ」

わたしは間抜けな顔をしていたようで、ちーちゃんが少し笑って、

「ありがとう、すごく助かるよ。今度、分からない所とかあったら教えてくれる?」

「もちろんだよ、ね」

クラスメイトが頷き合う。
そのやや後方では、クゥクゥちゃんが苦笑いしていた。

7 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 14:22:16 ID:PakFuLd2
(何やってるんですか)

(ご、ごめん)

視線だけでそう会話する。

「二人ともどうしたの?」

「ううん、なんでもないよー」

「かのんさんが、漏れそうだから早くもがあ?!」

「クゥクゥちゃん?! 何言ってるの!?」

彼女の口元を抑えつける。

「あー、それで」

ちーちゃんがにやりと笑った。

「ごめんごめん、早く行こうか」

「ちが、いや、はい」

あー、もう!

8 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 14:33:45 ID:73MRv8L.
期待

9 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 14:38:01 ID:PakFuLd2
その後、特に何事もなく放課後を迎えた。かのように思えた。

「ギャラクシー! 聞いてよ、すっごい噂がもが!?」

わたしとクゥクゥちゃんが、その口をふさいだのはほぼ同時だった。

「ちょっとトイレ!」

「あれ? かのんちゃんさっき」

「千砂都! ダンスの振り付けでわっからない所があ!」

わたしは部室の外にすみれちゃんを連れていき、階段の踊り場まで移動したところで、

「言っちゃダメ!」

「へあ?」

「ちーちゃんの噂でしょ?」

「知ってたんだ、なら」

「ちーちゃんの耳に入れないで」

少し怒気強めに言う。

「あー、悪かったわよ、確かに軽率だったわ。でも、大会の主催者に媚び売って優勝して、それがバレて普通科に追いやられたなんて、誰も信じなくない?」

10 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 14:47:12 ID:PakFuLd2
「あー、悪かったわよ、確かに軽率だったわ。でも、大会の主催者に媚び売って優勝して、それがバレて普通科に追いやられたなんて、誰も信じなくない?」

「はいい?!」

あまりの事に、わたしの声は階段を突き抜けていく。

「うるさいわね! まあ、わたしも最初聞いた時そんな反応だったから、人の事言えないけど」

わたしは、踊り場の壁にふらりと寄りかかった。

「ちょ、かのん?!」

「それ……普通科の子から聞いたの?」

「え、まあ」

「そっかあ……その子達の反応は?」

「反応? 半信半疑って感じだったけど。まあ、業界じゃ珍しい話じゃないし」

「いやいやいや、ちーちゃんとは程遠い話だからね!?」

11 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 14:57:38 ID:PakFuLd2
「そんなの分かってるし、その子達にはギャラクシーなしつけを施しておいたから、安心しなさいよね」

なんだろう。聞かなかったことにしよう。

「あの子たちが言いふらす事はないと思うけど」

すみれちゃんがふんと鼻息をもらす。

「……でも」

「え?」

わたしは混乱していたのか、

「火のない所に……」

そう呟きそうになって、

「かのん!」

すみれちゃんが私の肩を掴む。

「信じてるなら、そのもしもは口にするべきじゃない」

「あ、うん」

私は、何を。

「もう行きましょ。千砂都もバカじゃないんだから、普通にしておかないと勘繰るでしょ」

12 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 15:06:56 ID:PakFuLd2
戻ってきて、ちーちゃんは何も聞かなかった。
逆にそれは不自然に思えたけど、あえて何も聞かなかったんだと思う。

いつも通りに戻らなくちゃ。
今日の練習メニューをちーちゃんと確認して、屋上へ向かった。
平常心、平常心。そう、自分に言い聞かせる。
けれど、昨晩頭の中を整理したのが噓のように、
頭の中はちーちゃんの噂がぐるぐると渦巻いていた。

夜になった。お風呂上りスマホの画面をぼおっと眺めていた。
と、着信。
目が覚める。

「ちーちゃん……」

13 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 15:14:30 ID:PakFuLd2
「出ないと……」

噂の事を聞かれたら。
どうしよう。
喉が鳴った。
恐る恐る、指をスライドさせた。

「はい」

『あ、もしもし、今大丈夫だった?』

「うん、どうしたの」

『あのね、今日、クラスメイトの子達に』

心臓が脈打った。

『歓迎会開くよって言われて、どうしようか迷ってて』

「え?」

14 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 15:20:19 ID:PakFuLd2
なんだ、歓迎会。
驚かせないでよ、もう。

「はあ……」

『かのんちゃん、聞いてる?』

「あ、聞いてる聞いてる。え、行って来たらいいじゃんか」

『うん、行くには行くんだけど』

「何かあるの?」

あ、まさかここからが本題か?!

『あの、かのんちゃんも……あ、ううん、なんだかカフェを貸し切ってしてくれるらしいんだ。だから、びっくりしちゃって』

15 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 15:35:58 ID:PakFuLd2
「へえ、すごいね! どんなメニューが出たか後で写メ送ってね」

早とちりは良くない。平常心、平常心。

『うん! 送る送る!』

「みんな、優しいね。そこまでしてくれるなんて。でも、先越されちゃったな! ちーちゃんの歓迎会、うちでもやろうとおもってたんだけど」

『え?』

「内緒にしてたんだけどさ、悔しいから言っちゃった」

『あはは、ありがとう、かのんちゃんなら後でも先でも嬉しいんだよ?』

「えー、でも、先が良かったよ。あ、じゃあ、今言っちゃおう」

『かのんちゃん?』

「ちーちゃん、普通科へ、そしてスクールアイドルへようこそ! 絶対に後悔はさせないから」

『……はい』

16 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 15:47:33 ID:PakFuLd2
ちーちゃんが急に静かになった。

「ちーちゃん? もしかして眠い?」

『ううん、違うの』

もう、夜も遅い。
ちーちゃんと話していたら先ほどまでのもやもやも少し収まっていた。
本人が動じてないのだから、周りが騒いでもしょうがないよね。

『かのんちゃんの笑った顔想像してた』

「へっ? て、照れるな、もお」

『うん、わたしもなんだか浮かれてるみたい……』

「変なちーちゃん」

『そうだね、でも、夢だったから』

「夢?」

『ふふ、なんでもない』

「え、なにそれ、聞きたい」

『かのんちゃんにはそれとなーく話してるよ』

「うそ……なんだろ、え、ん?」

17 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 15:52:38 ID:PakFuLd2
『ひどいなー、覚えてない?』

「いや、覚えてる、覚えてるよ? だから、ヒントを」

『むう、じゃあ、歓迎会の日の帰りに迎えに来てくれたら教えてあげる』

「え? 別にかまわないけど」

『いいんだ』

「言ったのはちーちゃんじゃん」

『うん、そうだけど、ありがと』

「どういたいしまして。帰りに教えてよね」

『そんなに知りたい?』

「そりゃあ」

『そっか』

18 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 15:54:48 ID:PakFuLd2
いったんここまで

19 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/10(金) 21:28:50 ID:JlwFr5VM
期待

20 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 17:29:32 ID:9mlR.DLk
その後はぐだぐだとお喋りした。授業の事、練習の事。
噂の事は、ちーちゃんはまだ知らないようだ。
それでいい。

それから何日かして、クラスメイト主催のちーちゃんの歓迎会の日になった。
放課後、行く前に少し話した。
本人は隠しているつもりだったのだろうけど、ちょっぴり緊張気味だったので、
クゥクゥちゃんとすみれちゃんと冗談を言い合って和ませたりした。
楽しんでくるね、と笑って手を振るちーちゃんと別れ、わたしは一度家に帰宅した。

しばらく経って、SNSに画像が送られてきた。
クラスメイトの一人がちーちゃんをハグしていて、別の誰かが写真を撮ってくれているようだった。
貸し切りということもあってか、周りのテンションも高そうだ。

「さすがちーちゃん、馴染むのが早い」

何となく危惧していた事も杞憂だったみたい。

21 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 17:50:59 ID:sro9/dYc
そう言えば、誰が言い出してくれたんだろう。
一言お礼を言いたいというか。
いや、そこまでしなくてもとは思うけど。
ちーちゃんのために考えてくれた事が純粋に嬉しかった。
帰りにちーちゃんに聞いてみよう。

短パンとパーカーに着替えて、次のライブ用の歌詞を考えながら、宴が終わる時間を待った。
時折、楽し気な写真が送られてきた。
カフェの特別の計らいで用意されたらしい特大パンケーキの写真が送られてきた時は、正直羨ましかった。
うちのカフェも負けてはないけれど。

そうこうしている内にちーちゃんから

『もうすぐ、終わりますー』

と送られてきたので時計をちらっと見た。
2時間半過ぎて、19時を回っていた。
残念な事に、アイデアノートはページの半分も埋まっていない。

「あちゃー」

がっくりと肩を落としながら、わたしは家を出た。

22 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 18:02:02 ID:sro9/dYc
ランニングついでにと思って走ってきたら、思いの外早くカフェに着いてしまった。

『外で待ってる』

と打ち込んでスマホをポケットに突っ込む。
途中コンビニで買った服飾雑誌を取り出して、街頭下のベンチに座った。
衣装の参考になるようなものを探していたら、カフェの呼び鈴がちりんちりんと鳴ったので、顔を上げた。

(終わったかな)

見知ったクラスメイトの中にちーちゃんを発見。
向こうは気が付いていないようだ。
口々にお別れを言い合っている。
様子を見て声をかけよう。

23 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 18:10:55 ID:sro9/dYc
暗がりでよく見えなかったけれど、最後まで残っていた女の子と写真を撮って何か話していた。
女の子が頷いて手を振って別れていく。
そろそろかな。

「ちーちゃん」

雑誌を袋に突っ込んで、声をかけた。

「かのんちゃん! わーありがとう!」

「へ?」

私に気づくや否や犬のように飛びかかってきた。
やたらテンションが高い。
それもそうだろうけども。

「転んじゃう転んじゃう! 甘えん坊か!」

「えへへ、ごめん」

24 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 21:12:39 ID:sro9/dYc
「お酒でも飲んだ?」

「飲むわけないよ、何言ってるのかのんちゃん」

よっぽど楽しかったのか、声が弾んでいる。

「あ、さっきコンビニでお水買ったけど飲む?」

袋を漁って、ペットボトルを差し出す。

「ありがとう。あれ、汗かいてる? 走ってきてくれたの」

カフェの入り口のランプに照らされた私を覗き込むちーちゃん。

「うん、ランニングのついでに」

「真面目だ」

水を口に運びながら、ちーちゃんが小さく笑った。

「真面目だよ」

それから私も一口飲んで、

「帰ろっか」

ちーちゃんの手を握る。

25 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 21:14:00 ID:sro9/dYc
聞きたいことも一応あったけれど、今日の余韻を味わうちーちゃんの邪魔はしたくない。

「うん、迎えにきてくれてありがとう。さすが、頼りになる」

別に大したことはしていないけれど、

「でしょー」

と、とぼけたように返した。

「あ、そう言えば」

ちーちゃんの髪が跳ねる。

「ダンスの大会見てたよって子がいて、名前教えてもらい損ねちゃったけど。スクールアイドルの話にもなってね、興味ありそうだったかなあ」

「ほんと!?」

思わぬ収穫に食いついてしまう。

「この間の島のイベントも動画で見てくれたって。私も嬉しかったよ」

「ええっ、わたしも話したかった……」

「顔は分かるから、明日教えるね」

26 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 21:52:18 ID:D4wDtHhQ
知名度が上がっているのは単純に嬉しい。活動が認めてもらえているようで。

「あ、でもダンスの大会見てたなら、その子ちーちゃんのファンなんじゃない?」

「え? ないと思うけど」

「なんでさ、ダンス大会で優勝するくらいなんだから、ファンの100人や200人いてもおかしくないよ?」

「かのんちゃんのファンじゃない?」

「それは無理がある」

私が手を振ると、ちーちゃんは私の前にくるりと回って、

「そうかなあ、だって私はかのんちゃんのファンなんだよ?」

ステップを軽やかに踏んだ。街の明かりを纏うちーちゃんはまあるく笑っている。
一瞬見惚れてしまった。

27 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/11(土) 23:25:09 ID:D4wDtHhQ
「嵐さん!」

唐突な第三者の声に、ちーちゃんも私もびくりと跳ねた。
振り返る。

「誰?」

背の高い、男性。どこかで見たことのある学生服を着ている。
近所の高校生だろうか。

「あの、嵐さんですよね? 驚かせてごめんなさい……」

彼はそこで一度言葉を切った。そして、隣にいた私に少し驚いた視線を送る。
何だろう。彼はちーちゃんに近づいて、

「あ、あの、怪しい者じゃなくて」

と慌てて鞄の中から何かを取り出す。
学生証を取り出して、未だに固まっている私たちに差し出した。
二人で覗き込む。すぐそこの高校だ。
というか、なんて誠実。

「あ」

ちーちゃんが声を上げる。

「大会、出てました?」

「え、あ、はい。部門が違うのに、覚えててくれたんですか」

緊張した面持ちだった彼は、少し緩んだように笑った。

28 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 00:23:23 ID:WZRbp6Fo
「プロの人かなって思うくらい上手だったので」

見知った人だと分かり、ちーちゃんもいつもの調子で話し始めた。

「え、そんな、嵐さんにそんな風に言ってもらえるなんて」

照れているのか、彼は下を向いた。それから、少し言いづらそうに私を見て、

「あ、あのその」

その様子にはっとした。

「私、ちょっとそこのコンビニいるから」

「え、かのんちゃん! ちょ」

いやー、びっくりした。でもこの流れだと、明らかに私邪魔だよね。
ちーちゃんは何か言っていたけど、さすがにこの現場に部外者であろう私がいるのは気まずい。

29 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 00:35:42 ID:WZRbp6Fo
だって、思いっきり今から告白しますみたいな雰囲気だったんだもん。焦った。
コンビニに駆け込み、窓際から二人の様子を見守る。私の方がドキドキしてきた。
ちーちゃんは私よりも小さいから、彼と並ぶと遠目で見てもさらに小さい。
なんだろ、守ってあげたくなるみたいな感じなのかな。
それは、なんとなく分かるなあ。

と、彼が少し動いた。ちーちゃんを抱きしめている。

「わお、大胆……」

ひゅっと、肺の奥が締め付けられたような気分になった。
息が。苦しい。

「ですね」

「はい?」

「こんばんわ」

「クゥクゥちゃん?! ごほっ、ごほ!?」

「やりますねえ」

思わず持っていた袋を取り落としそうになった。

30 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 00:36:41 ID:WZRbp6Fo
今日はここまで

31 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 02:39:12 ID:XUFrM0m.
おつ

32 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 18:51:32 ID:MEPj2xro
「いつからそこに」

「ちょっと前からいましたよー。小腹が空いたので」

見ると、手に野菜チップスのカップ。

「でも、いいんですか?」

クゥクゥちゃんが眉根を寄せる。

「何が?」

「あれ」

あれ、と彼女が指で示したのはちーちゃんと彼。

「私がかのんさんだったら、二人きりになんてさせません」

「え、でも告白しそうだったし」

「だからデスッ! ぽっと出のヒューマンに自分の大親友奪われるの嫌じゃないですか?」

「ぽっと出のヒューマンって」

クゥクゥちゃんが、私の両肩を掴む。

33 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 18:54:51 ID:MEPj2xro
「千砂都さんの事だから、大丈夫だと思いますけど……もし恋愛に現を抜かすようになって、スクールアイドルを止めるなんて言い出したら」

「それは、妄想が過ぎると思うけど……」

「やっぱり、不安要素は取り除いておかなければ……それにぶつぶつ」

危険な独り言を放ち始める。

「え、クゥクゥちゃん?」

彼女は踵を返して、

「私、ちょっと仲を引き裂いてきまス!」

「待って待て待てーい!?」

何を言い出すんだこの子は!? 
急いでクゥクゥちゃんにしがみついて引き留める。

「何してるの二人とも」

呆れた声。

34 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 18:56:36 ID:MEPj2xro
「あ、ちーちゃん」

「千砂都さん! 私は認めませんよ! 一度命を懸けたならば、最後までその命スクールアイドルに捧げて頂かないとお!」

私に羽交い絞めにされながら、クゥクゥちゃん。
コンビニの店員が何事かとこちらを見ていた。

「ちょ、ちょっともう出ようか」

私は慌てて二人を外へ連れ出した。それから、暴走したクゥクゥちゃんをちーちゃんとなだめて疲れ果てた末、漸く和解した。
正気に戻ったクゥクゥちゃんと別れて、先ほどから笑っているちーちゃんの肩に顎を乗せる。

「なんか、ごめん」

「なんで、かのんちゃんが謝るの」

確かに、私が謝らなくてもいい。

「うん、なんで私謝ったんだろ」

ちーちゃんに顎をくすぐられる。

「飼い主みたいな気持ち?」

「そうそう……って違う違う」

ちーちゃんが笑う。そして、一拍おいて、

「もし私がいなくても、スクールアイドルを諦めたりなんて絶対しないでしょ。今までそうしてきたんだし」

しなやかな口元から、毅然とした言葉が続く。

「それと同じで、私にも譲れないものがあるから」

私は少し慌てて顎を外した。

35 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 18:58:24 ID:MEPj2xro
「それって夢の事?」

「うん」

「聞いてもいい?」

「……」

ちーちゃんが口を閉ざす。ほんのわずかな沈黙。

「ごめん」

え。あれ。

「ごめん、今日はやっぱり……また今度」

ちーちゃんの感情の変化は一瞬だった。
その奇妙な感覚は、言葉よりもよっぽど引っかかって。

「ちーちゃん、どうかした?」

「えー? どうもしないけど」

と言う声はいつも通り。疲れちゃっただけかな。色々あったし。でも――。

「何か、不安な事あった?」

ちーちゃんの顔が強張ったように見えた。

36 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 21:39:44 ID:MEPj2xro
不安、で合っていたのかは分からない。
ちーちゃんが不安であって欲しい訳じゃないのに。
その揺らぎを放っておけない。

「そうだねえ、普通科の子と馴染めるかなあとか?」

まるで空を掻いたような答えだった。
言いたくないんだ。さっきの男の子が関係しているのかもしれない。
違うかも。私は歩む足を止めないちーちゃんの手を握った。
二人、立ち止まらない。

「そんなちーちゃんなら……さっきだって」

あれ、上手く言葉が出て来ない。
この感覚。さっきだって。続きが止まった。緊張だ。ちーちゃん相手に? 
あり得ない。しっかりしろ。しっかりしろ。不意に噂の事が脳裏をかすめていく。

「かのんちゃん、どこまで行くの」

「へ?」

気が付けば我が家を通り越していた。

37 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 22:57:06 ID:MEPj2xro
「あはは」

私は誤魔化すように笑った。
ちーちゃんも、何の嫌味も無く、何事もなかったと言わんばかりに笑い返す。
それで、私の緊張は解けたものの、かける言葉が見つからなくなってしまった。

「ふわあー……眠い。話、途中になってごめんね、かのんちゃん」

「いいよ、いいよ、私こそごめん」

「……ね、ちょっといい」

ちーちゃんが私の首に腕を回す。
柔らかな香りと共に、先ほどの男の子がちーちゃんに抱き着いていたのを思い出した。
もし、本当に付き合うことになったら――。

こつ。
ちーちゃんの額が私の額に当たる。

38 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 22:59:00 ID:MEPj2xro
「ちーちゃん?」

ちーちゃんのおでこ、あったかい。ついで、思い切り擦り付けられた。

「いだだあああっ?!」

おでこが出火するかと思った。

「これで、許してあげる」

うっすらと朱に染まったちーちゃんの額とそして、

「え」

「じゃあね」

ちーちゃんが駆けていく。
呼び止めたい気持ちとは裏腹に、体は動かなくて。
赤くなっていた彼女の目元の理由を、去っていく影に問うばかりだった。

39 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/12(日) 23:00:02 ID:MEPj2xro
今日はここまで

40 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/15(水) 00:28:08 ID:jCSKZC7M
楽しみにしてる

41 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 13:38:46 ID:iq8sMHMo
ありがと

42 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 13:41:17 ID:iq8sMHMo
その夜はちーちゃんから電話は無かった。
毎日電話している訳でもないのに、そんな風に気にしてはスマホの画面とにらみ合っていた。

「……」

時間ばかり過ぎていき、嘆息する。
歌詞ノートにいつの間にかちーちゃんの名前をいくつも書いていて、慌てて消す。
明日、聞いてみればいい。心配するような事じゃなかったのかもしれないし。
気のせいかもしれない。思い込みかも。
胸ぐるしさを紛らわすように、私は無理やり目を閉じた。

43 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 13:43:07 ID:iq8sMHMo
「千砂都サーン、今週末予定あります?」

クゥクゥちゃんがそう話を切り出したのは、もう昼休みの事だった。
二人きりになってから聞こう聞こうと思っていたら何も言えず今に至る。
ひよってしまったのだ。

「何もないよー? あ、もしかして歓迎会?」

「ちょっと、ちょっと! なんでバレてるのよ」

すみれちゃんがクゥクゥちゃんの肩を揺さぶった。

「わ、ワタシ、何も言ってないデース?!」

ちーちゃんが私の方に視線を寄越す。ごめんね、と目配せされた。

「カンだったんだけど、当たったんだ」

私が話した事を隠して、ちーちゃんは言った。

44 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 13:45:16 ID:iq8sMHMo
「千砂都さん、あなた図りましたね?!」

「バレたならしょうがないわね、予定空けときなさいよ? 業界で鍛えた腕ふるってあげるから」

「むっ、ワタシも作りますヨー!」

「わー楽しみー!」

「場所は、かのんの家ね。かのん? 聞いてる?」

「あ、うん、そうウチでやるから……!」

ワンテンポ遅れて返事をしたので、すみれちゃんに小突かれてよろける。

「しかし、歓迎会先を越されるとは思いませんでしたネ」

クゥクゥちゃんが頬を少し膨らませた。

「まあ、いいんじゃない? 何回祝っても」

「デスケドー」

すみれちゃんはクゥクゥちゃんを慰めるように笑う。
優しいな。

45 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 13:46:09 ID:iq8sMHMo
「そう言えば、スクールアイドルに興味あるって子がいたよ」

「ホウホウホウホウ!? どの子ですカ!?」

「えっと」

ちーちゃんはクラスを見回す。

「今はいないみたい。あと、島のイベントも動画で見たって言ってて」

「かのんさん! 有力株ですよ、今のうちに引っこ抜かなくては」

「そうだね、私も直接話してみたい」

その子の話をしばらくして、昼休みが終わった。
クゥクゥちゃんは昨日の男の子の話を持ち出さなかった。
意外とわきまえているのか。意外は失礼か。
聞きたそうにはしていたけれど。もちろん、それは私もだった。

46 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 13:48:05 ID:iq8sMHMo
放課後。
雨が降りそうな天気で、なんとか持ちこたえているような雨雲が広がっていた。

「次のイベントの歌詞、半分まで考えてきたんだけど、どうかな」

屋上で4人顔を突き合わせるようにしてノートを見る。

「なんか迷走してる?」

すみれちゃん。

「え」

「何回も消してますね」

クゥクゥちゃん。

「私の名前……?」

ノートの隅に消し損ねてしまったらしい『ちーちゃん』を目ざとく発見される。

「あ」

しまった。顔が熱くなる。

「「ふーん」」

すみれちゃんとクゥクゥちゃんが悟ったような目を向けてきた。

「こ、これは、その消し忘れて」

「かのん、次の曲、ちーちゃんは私のものよ! みたいなノリでいくんですね? 愛ですね?」

「何言ってるのクゥクゥちゃん!?」

私はクゥクゥちゃんに叫ぶ。

「なにそれ」

すみれちゃんが疑問符を浮かべた。

「いえー、なんでもありませんよ? ね、千砂都サン?」

「あははっ……!!」

ちーちゃんは何が面白いのかお腹を抱えて笑っている。

「あー! もー! 雨降る前に練習するぞー!」

「えー! 私何も知らないんですけど!?」

すみれちゃんが私の首を絞めかねない体制で飛びつく。

「ぐうっ……」

落ちかけた私を見かねて、ちーちゃんは笑いながら、

「あー、実はね」

と昨日の告白現場?の経緯を話し始めたのだった。

47 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 14:06:54 ID:iq8sMHMo
「告白じゃなかったんですか?!」

ちーちゃんの話の途中でかじりつくように言ったのはクゥクゥちゃんだった。

「カン違いさせてごめんね」

「なに、つまり……ダンスに惚れたって言う男の子に抱き着かれただけってこと?」

すみれちゃんが言った。

「うそぉ……」

私も思わず声が出ていた。

「何でもない事だったから、何も言わなかったんだけど……かのんちゃん落ち込んでるし」

ちーちゃんが私の頭を撫でる。

「そ、それは、ちーちゃんが不安そうだったからで」

「そう見えた?」

今となっては、その面影すらない。

「あー、で、かのんの様子がおかしかったわけね。ギャラクシー納得したわ」

48 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 14:31:12 ID:6aZqYDjg
「でも、普通女子に抱き着きますカ? 日本の男は草になったと聞きましたヨ?」

草になったとはいったい。

「草食系ってこと?」

私は聞いた。

「デス」

「スキャンダルのカモにだけはならないでよね」

「よくあるし、大丈夫だよ」

「え、よくあるの?!」

かなりもやっとした。

「ダンスしてる人けっこう男女間の垣根ないというか、欧米っぽいというか。ハグくらいなら普通かも」

それを聞いても、納得できていないのが自分でも分かった。

「そう……」

「じゃあこれでかのんの歌詞制作も進みますネ。良かったですね、かのん」

「クゥクゥちゃん私は別に」

「こじらせるとうざがられるわよ?」

「すみれちゃんまで……」

みんなして何だというのか。

49 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 14:48:35 ID:6aZqYDjg
ちーちゃんもちーちゃんだ。あの思わせぶりは何だったのか。

私は肩を落として、いじけるように

「はいはい、練習はじめますよ」

遊んでいる暇もないので、話を打ち切ってダンスのパート確認に入った。
ウォーミングアップをして、1時間もしないうちに肌はしっとりと濡れてきた。
汗と湿度のせいでクゥクゥちゃんが参りましたと言って床に大の字で寝ころんだ。

「ふぁっ」

寝そべっていたクゥクゥちゃんが言った。

「雨?」

生暖かい細かな雫が私の額に当たった。

「もうちょっとしたら戻る?」

ちーちゃんに言われて頷く。

「だね」

50 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 15:11:29 ID:6aZqYDjg
ちーちゃんが一度大きく伸びをした。
濡れて薄っすらと透けてきたちーちゃんのシャツの下に、柔らかな素肌が見えた。

「かのんちゃん?」

「あ」

「何かついてる?」

「ううん」

疲れてるのかな。
ちーちゃんを見ていたら喉の渇きのような感覚を覚えた。
その欲求は手を伸ばして水分を補給するようなイメージと重なる。何だろう。

「千砂都さん〜、さっき躓いた所もう一回見たいでス〜」

いつの間にか復活したクゥクゥちゃんが、手を振っている。

「はーい」

集中できてないな。
ちーちゃんを目で追いかけている自分に喝を入れる。
スポドリをぐいっと飲み干して、気合を入れ直した。

51 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/16(木) 15:14:41 ID:6aZqYDjg
今日はここまで

52 名無しさん@転載は禁止 :2021/09/21(火) 13:12:22 ID:e38P02WQ
支援


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