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千歌「夏の思い出」曜「グルメレポート!」
1
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/08/30(水) 08:52:58 ID:WoXOZUPA
みんな! 千歌のお家に集まってくれてありがとう!
え、何の用かって?
ただお話しようと思っただけだよー。
だって、今日が夏休み最後の日だもんね。
いやあ、つい昨日に夏休みが始まったばかりな気分だよ。
あっ、果南ちゃんは歌い出さなくていいからね。
とにかく、今年の夏をみんなで振り返るのだ!
……。
あれ、誰も何も話さないの?
ほら、ダイヤさんとか髪切ったでしょ。
何か言うこと―――あ、ない? ごめんね。
うーん、じゃあテーマを決めよっか。
そのお題の通りに思い出を話すのだ!
いい? ……よかった!
えーっと、何にしようかなあ……。
あ、そういえば善子ちゃんが堕天使の涙をつくってくれたんだよね。
じゃあテーマは「食べ物」で!
さすがに夏休み、何も食べなかった人なんていないもんね。
*
2
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/08/30(水) 08:54:19 ID:WoXOZUPA
1.高海千歌
あむ……あむ……善子ちゃん! これちゃんと辛くない!
改良版? おおー、すっごいねえ。
そういえば誰から話す?
え、千歌から?
言い出しっぺの法則って……まあ、仕方ないかあ。
うーん、私のは美味しい話じゃないかもしれないよ。
えへへ、ごめんね言い出しっぺなのに。
どうして美味しい話じゃないかって言うと、私が食べたわけじゃないからなんだ。
食べたのは十千万のお客さん。
先々週、手伝いでお客さんの前に出させてもらったときのことだよ。
ちょっと、梨子ちゃん笑わないで!
千歌だってちゃんと手伝いしてるんだからね。
そのお客さん、Oさんって言うんだけど、すっごい優しそうな男の人でね。
チェックインするときも、ずっとにこにこしてるし、袖からお菓子が出てくるし。
そうそう、本当に袖から出てきたんだよ。
甚平っていうのかな、ああいうの。
紺色で、肩のちょっと下のところに模様が入ってた。
3
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/08/30(水) 08:56:20 ID:WoXOZUPA
ちょうど志満姉は手が離せなくてね、お部屋までは私が案内することになったんだ。
ほら、曜ちゃんは知ってるでしょ?
うち、奥に行けば行くほど料金が高い部屋になってるんだ。
道路とは反対側の景色って、案外きれいなんだよ。山も見えるし。
今度みんなも泊まりにおいでよ!
あ、だめだ、高いんだった、てへ。
それで、私はお部屋の名前なんかを紹介しながら、Oさんを連れて歩いてたんだ。
Oさん、無口な人だったみたいで、ほとんど千歌がしゃべりっぱなしだったんだけどね。
まあそうやって歩いてたんだけど、廊下に飾ってあるお花の紹介をしてるあたりで、Oさんが急に立ち止まっちゃったんだ。
どうしたんですか、って声を掛けても、Oさんは窓の外をぼうっと眺めてた。
それで、千歌がもう1回声を掛けようとしたら、また急に顔をこっちに向けてきてね。
目が綺麗ですね、って呟くんだ。
最初、何を言ってるのか全然わかんなくて、え? って聞き返しちゃった。
そしたら、また目が綺麗ですね、って言ってくれて。
千歌の目を褒めてくれてるんだってわかった瞬間、もう、すっごい恥ずかしかった。
結局その後、晩ごはんは何時にしますかって聞いて、お風呂の案内もしたんだけどね。
その間もまともに顔を見れなかったなあ。
4
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/08/30(水) 08:57:49 ID:WoXOZUPA
千歌の仕事はそこまでだったんだけど、お夕飯の片づけはしたんだよ。
Oさんはどのお皿にも大きな食べ残しなんてなくてね、ああ、行儀もいい人なんだなって思ったなあ。
ただね、1つだけ不思議だったところがあったんだ。
目があったの。
まあ内浦だし、お造りも出してるんだけど、そのお皿にね、魚の目だけがわざわざ取り出してあるの。
透明のぶよぶよしたのが丸ごと残ってて、黒い部分と目が合っちゃったみたいで、ちょっとびっくりしたなあ。
でも、まあ、食べてるうちに取れちゃったのかなって思って、普通に厨房に運ぼうとしたんだ。
あんまり気持ちのいいものじゃないから、運んでる間もそっちの方は見ないようにしてた。
でね、その途中で志満姉とすれ違って、これ不思議だよねって話したんだ。
そしたら、志満姉ったら急に怖い顔で低い声を出して、
千歌ちゃんそれ捨てなさい、って。
今から厨房に持っていって捨ててもらうんだよ、って返したんだけど、やっぱり怖い顔のまま。
いいから捨てなさい、あとの片づけは私がやっておくから、って。
いつもは手伝いを頼まれるのに変だな、って思ったんだけど、なんだか真剣だったから、言われるままに旅館の生ごみと一緒にすぐ捨てたんだ。
5
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/08/30(水) 08:59:07 ID:WoXOZUPA
それからずっとその話は忘れてたんだけど、最近思い出したから、志満姉が洗い物してる時に聞いてみたんだ。
なんであの時あんなに変な顔してたの、って。
そしたら志満姉、しばらく黙ったままで。
お皿持ったまま、こっちを向いてもくれなくてね。
もう一回どうしたの、って聞いて、やっと答えてくれた。
うちの旅館、お造りは小さな船盛りにしてるんだって。
お頭つきのお刺身は出してないんだって。
あの目、何の目だったんだろうね。
*
6
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/08/30(水) 09:12:29 ID:B6Y/9ffA
まさかのホラーかよ
7
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/09/01(金) 13:24:30 ID:bck.3qzs
誰か解説たのむ…
8
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/09/07(木) 00:29:37 ID:AxEuxMNE
これで終わりなのか
9
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/09/14(木) 13:45:34 ID:5g6MWJmY
2.黒澤ダイヤ
まったく、千歌さんったら食べ物の話と言いながら、食べたのは自分ではないなんて。
その点わたくしの話はきちんとわたくし自身の話ですから、心配無用ですわ。
えー、それでは、わたくしの好きな食べ物と言えば、はい、ルビィ。
ええ、その通り。プリンですわ。
先日、素敵なお店を見つけましたの。
たまたま一人で入ったのですけれど。
え、私も連れていけって、鞠莉さんが先に帰ってしまったのではありませんか。
わたくしは生徒会の仕事で、日が暮れた頃に帰路についていたのです。
それで、そう、お店の話ですわね。
一言でいえば、品の良いワゴン車でした。
薄桃色の屋根がかかった、クリーム色の。
最初、わたくしはそのワゴンが営業中だとは思いませんでした。
何せ他に客もおらず、よくある黒板のメニュー表も見当たらなかったのです。
ただ、紫色ののぼりだけが風に揺れているのが気になりました。
そこには「食べ放題」とだけ書かれておりまして。
ちょっと、笑わないで。わたくしだって、思いきり何かを食べてみたいと思うことくらいありますわよ。
とにかく、少しだけ覗いてみてもいいかもしれない、そう思ったのですわ。
10
:
名無しさん@転載は禁止
:2017/09/14(木) 13:47:34 ID:5g6MWJmY
そうして屋根の下に入ると、うっすら寒気がするのです。
不思議でしょう、世間は8月。夏真っ盛りだというのに。
外から見た通り、わたくしの他に客はいません。
店主らしき方が目の前にいるのですが、ああ、不思議なことに、どうも詳しい姿を思い出せないのです。
ただ墓石のように煤けたエプロンをつけて、にっこりと笑っていたことだけは覚えていますわ。
ワゴン車の中はぼんやりと夕日のような灯りがともっていて、寒気とあいまって少し居心地は悪くて。
しかし、入ったからには何か頼まなければ失礼ですわよね。
それで、何がありますか、と尋ねたのです。
何が食べたいんだい、店主はそう返してくれました。
質問を質問で返すとは変わったお方です。
わたくしは戯れのつもりで、プリンが食べたい、と言いました。
そうしたら、目の前に美味しそうなプリンが出てくるではありませんか。
皿に伏せった黄金色の台形に、とろりとしたカラメルがかかっているのです。
カラメルの表面は滑らかで、淡い灯りを反射し、わたくしには炎のように揺らめいて見えました。
ごくりと、生唾を呑みました。
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