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変身ロワイアルその3
1名無しさん:2012/07/14(土) 00:17:17 ID:7FgjuXN60
この企画は、変身能力を持ったキャラ達を集めてバトルロワイアルを行おうというものです
企画の性質上、キャラの死亡や残酷な描写といった過激な要素も多く含まれます
また、原作のエピソードに関するネタバレが発生することもあります
あらかじめご了承ください

書き手はいつでも大歓迎です
基本的なルールはまとめwikiのほうに載せてありますが、わからないことがあった場合は遠慮せずしたらばの雑談スレまでおこしください
いつでもお待ちしております


したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15067/

まとめwiki
ttp://www10.atwiki.jp/henroy/

2名無しさん:2012/07/14(土) 00:22:01 ID:7FgjuXN60
参加者

【魔法少女リリカルなのはシリーズ】4/7
●高町なのは/●フェイト・テスタロッサ/●ユーノ・スクライア/○スバル・ナカジマ/○ティアナ・ランスター/○高町ヴィヴィオ/○アインハルト・ストラトス

【仮面ライダーW】5/7
○左翔太郎/●照井竜/○大道克己/○井坂深紅朗/●園咲冴子/○園咲霧彦/○泉京水

【仮面ライダーSPIRITS】4/6
●本郷猛/○一文字隼人/○結城丈二/○沖一也/○村雨良/●三影英介

【侍戦隊シンケンジャー】4/6
○志葉丈瑠/●池波流ノ介/○梅盛源太/○血祭ドウコク/●腑破十臓/○筋殻アクマロ

【ハートキャッチプリキュア!】4/5
○花咲つぼみ/●来海えりか/○明堂院いつき/○月影ゆり/○ダークプリキュア

【魔法少女まどか☆マギカ】2/5
●鹿目まどか/○美樹さやか/○佐倉杏子/●巴マミ/●暁美ほむら

【らんま1/2】3/5
○早乙女乱馬/○天道あかね/○響良牙/●シャンプー/●パンスト太郎

【フレッシュプリキュア!】4/5
○桃園ラブ/○蒼乃美希/○山吹祈里/○東せつな/●ノーザ

【ウルトラマンネクサス】5/5
○孤門一輝/○姫矢准/○石堀光彦/○西条凪/○溝呂木眞也

【仮面ライダークウガ】4/5
○五代雄介/○一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/○ゴ・ガドル・バ//○ン・ダグバ・ゼバ

【宇宙の騎士テッカマンブレード】3/4
○相羽タカヤ/○相羽シンヤ/●相羽ミユキ/○モロトフ

【牙狼−GARO−】3/3
○冴島鋼牙/○涼邑零/○バラゴ

【超光戦士シャンゼリオン】2/3
○涼村暁/●速水克彦/○黒岩省吾

【47/66】

3名無しさん:2012/07/14(土) 00:22:52 ID:7FgjuXN60
ルールが長くなってしまったため、特徴的な部分だけ抜粋
詳細が知りたい方は、下記リンク参照してください

ttp://www10.atwiki.jp/henroy/pages/19.html

【変身用アイテムのデフォ支給】
基本支給品やランダムアイテムに加え、変身用アイテムがデフォルト支給されます

ガイアメモリ、デバイス、ソウルジェム等があたり、これらはランダムアイテムとは別に必ず本人に支給されます
照井竜のガイアメモリやスバル・ナカジマのデバイスのように、変身用アイテムが複数存在している場合も全て本人に支給とします
ただし、参戦時期によってはその限りではなく、例えば照井竜の場合、トライアルメモリを得る前からの参戦ならば、トライアルメモリは支給されません
また、変身アイテム以外の武装、例えば暁美ほむらの銃火器等は全てランダム支給へと回されます

固有の変身アイテムを持たない人間には、この枠でのアイテム支給はされません

※ハートキャッチプリキュアのプリキュア達には、プリキュアの種とココロパフュームを支給。妖精は支給されません。
※左翔太郎、ウルトラマンネクサスのデュナミストについて特殊ルールが存在

【特殊ルール】
・左翔太郎について

左翔太郎には、仮面ライダーWへの変身用ガイアメモリのうち、彼が使う3つのガイアメモリが支給されます
残る3つのガイアメモリと、エクストリームのメモリはフィリップが所持した状態とし、そのフィリップは主催に幽閉されている扱いになります

フィリップは、戦闘中(Wへ変身した時)のみもう一人のベルトの使い手と意志疎通でき、それ以外の手段を用いたフィリップ側からロワへの介入は禁止
フィリップが独力で脱出することもありえません。

かなり特殊ですが、ダブルドライバー自体をデバイスに代表される意思持ち支給品と同等に扱うと考えればわかりやすいかもしれません

・ウルトラマンネクサスのデュナミストについて

最初に光を持っているのは姫矢准。姫矢が死んだ場合、次の人物へと光が継承されいきます
他作品キャラへの継承については書き手任せとしますが、もちろん誰でも対象というわけではなく、姫矢と面識のあるキャラに限られます
当然、他作品キャラへ継承させず、孤門や凪に継承させるのもありです

その後の継承については、姫矢→次のデュナミストに置き換え、同様の処理を行いますが、姫矢と違い、孤門や凪との面識がないキャラならば、当然2人は継承対象にはなりません

・その他

まどかの魔女化は、原則禁止です
もしも魔女化の条件を満たしてしまった場合は、魔女化はせずにそのまま死亡扱いとなります

4名無しさん:2012/07/14(土) 00:23:04 ID:7FgjuXN60
以上です。

5名無しさん:2012/07/14(土) 12:06:27 ID:Ajr8.C7o0
スレ立て乙です!

6名無しさん:2012/07/14(土) 12:51:01 ID:00NCZFMEO
それはとっても乙だなって

7 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:43:37 ID:rK//hTlo0
これより、予約分の投下を開始します。

8青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:45:36 ID:rK//hTlo0

 天より降り注いでくる木漏れ日の輝きは時間と共に強くなり、深い闇に覆われた筈の森林を徐々に照らしていった。
 光とは、この世界に生きるほとんどの生き物にとってなくてはならないもの。そして人間に至っては、それを希望の象徴と捉えるような者が多いだろう。光があるからこそ人は生きていける。
 しかしごく稀に光を忌み嫌う者もいた。闇の申し子であるその男こそが、代表例だろう。

「光か……下らないな」

 空から降り注ぐ太陽の光を見上げながら、軽く舌を打った。
 ナイトレイダーAユニットの元副隊長であり、アンノウンハンドから生まれ出た黒い悪魔・ダークメフィストに選ばれた男、溝呂木眞也は徐々に表情を顰めていく。
 斎田リコの代わりとなる新たなる操り人形、美樹さやかを手に入れられたのは実に愉快だったが、この世界に差し込む光はそれを塗り潰してしまうほど不愉快だった。
 ダークフィールドを生み出して辺りを闇で塗り潰してやりたかったが、あの加頭順やサラマンダーという男が用意した首輪に特別な仕掛けが施されているのか、それはできない。本当ならこの場で引き千切ってやりたかったが、その結果がどうなるかは目に見えているのでやるつもりはなかった。
 どうやら、いずれはこの首輪を解体することのできる奴も操り人形にする必要もあるかもしれないと眞也は考える。これのせいで、本来できるはずの巨大化もできないし、ダークファウストの力も著しく弱体化していた。ダークメフィストに比べれば弱々しい存在だが、本来ならあんな小物どもなど一分もかからず皆殺しにできるはず。
 しかしそれにさえ目を瞑りさえすれば、この孤島で起こっている戦いは至高の愉悦と呼ぶに相応しかった。弱き人間どもが醜い本性を曝け出して互いに殺し合い、あの孤門一輝や姫矢准を始めとした正義の味方を気取っている連中の願いを簡単に打ち砕く。そうしてたくさんの絶望が生まれるのが、眞也は何よりも愉快だった。
 このたった六時間の間で既に一八人も死んでいる。恐らく姫矢なんかは、この現実を前に責任感と自身に対する強い無力感を抱いているに違いない。聖人を気取ってビーストから人間などを守り続けている愚か者には、丁度いい報いだ。
 奴が生きているのは実に都合がいい。愚かな人間に殺されるのもそれはそれで面白いかもしれないが、やはりこの手で絶望のどん底にまで落として殺したかった。同じようにあの孤門も、いずれは殺し合いを前に心が折れて再び闇に飲み込まれるかもしれないから、その時に人形にするのも面白いかもしれない。

「孤門に姫矢、お前らの守りたかった人間など所詮こんなちっぽけで醜い存在だ。よくわかっただろう?」

 この島の何処かにいるであろう宿敵達に向けて、眞也は静かに呟く。
 もしも今、自分がこのさやかという哀れな少女を人形にしていることを知ったら、奴らはどう思うか? きっと、怒り狂ってさやかを取り戻す為に戦おうとするに違いない。
 だがその前に、この人形を使えるだけ使って無様に捨てるつもりだ。そして、ただの屍となったこいつを二人の前に放り投げる。そうすればきっと、素晴らしい絶望を見せてくれるはずだ。
 とはいえ何処にいるのかもわからない奴らと出会うまで、取っておくつもりはない。今はあの五代雄介、村雨良、響良牙という男達を前にこの人形をどう扱うかを考える必要があった。恐らく奴らは皆、さやかを取り戻す為に動くだろうから、再び遭遇する前に上手い扱い方を考えなければならない。
 単純にファウストにさせても先程の戦いがあるから意味はないだろう。如何にファウストだろうと弱体化させられている今、策も無しに突っ込ませては殺されるだけだ。別に人形一つが壊れたところで惜しむことなどないが、こんな奴でも一応は戦力なので扱いどころは考えなければならない。

9青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:46:03 ID:rK//hTlo0

「お前の仲間が、もう一人増えればいいがな……ファウスト」
「そうですよねマミさん! あたし達の仲間がもっと増えれば、こんなふざけた殺し合いもすぐに止められますよね! まどかだってそう思うでしょ?」

 そんな微かな願望を口にすると、さやかは壊れた瞳で満面の笑顔を向けてきた。
 彼女は幻覚の力で自分のことを鹿目まどかや巴マミという、既に死んだ参加者だと思い込んでいる。できるならその二人の死体も確保して人形に代えてやりたいが、いちいち捜す余裕などない。
 ただ、人形にできそうな弱い人間をもう一人欲しいとは思う。闇の力を使って、自分のことを鹿目まどかか巴マミだと思い込ませて、さやかと傷の舐め合いをさせるのも実に面白そうだからだ。
 こうやって幻の世界に閉じ込めた哀れな少女を見守るのも愉快だが、それでは些か芸に欠けてしまう。斎田リコをファウストにした時と同じことをするのでは、新たなファウストを見つけた意味が薄い。
 木々の間から差し込んでくる太陽の光をスポットライトにしながら、独り言を呟き続けるさやかの演劇はそれなりに面白いが、時間が経てば飽きるかもしれなかった。これでは役者と舞台を変えただけだと思った瞬間、辺りに吹き付ける風が急に荒々しくなる。
 そして、アンノウンハンドの影響によって常人を遥かに超えた眞也の聴力は、遥か彼方から凄まじい轟音を鳴らしながら突風のような何かが接近してくるのを捉えた。

「……この音は、竜巻か?」

 吹き付ける風に伴って、多くの木々がバキバキと砕け散っていくのも聞こえる。ナイトレイダーにいた頃の自分なら気付かなかっただろうが、今ならば聞き取るのは造作もないこと。
 振り向いて木々の間を凝視すると、数十メートルほど離れた先から小規模の竜巻が周囲を破壊しながら接近してくるのを見る。何故、積乱雲どころかまともな積雲もない空の下であんなのが発生するのかと思ったが、別にそれほどおかしなことではないとすぐに気付いた。
 この世界にはウルトラマンや仮面ライダー、それにドーパントのような超常現象に等しい力を発揮する存在が数え切れないほどいる。加頭順がオープニングの際に見せつけたガイアメモリの力さえあれば、自然現象の一つや二つなど簡単に起こせても不思議ではない。
 つまりあそこにいるのは竜巻を自由自在に操れる、ドーパントということになる。突然の来訪者を前に一瞬だけ目を見開いたが、すぐにその表情は笑みへと変わった。

「どこの誰かは知らないが丁度いい所に来てくれたな、歓迎するぞ」

 徐々に激しくなっていく風の音に掻き消されそうな声で、眞也は静かに呟いた。





「十臓様が……死んだ?」

 放送で現れたサラマンダーという男の告げた事実は、サイクロン・ドーパントとなったスバル・ナカジマにショックを与えるのは十分な威力を誇っていた。
 高町なのは達のようにこの手で殺した参加者達も少なからず動揺を与えたが、腑破十臓の名前を聞いた途端にそれを呆気なく塗り潰されてしまう。
 愛する主人の筋殻アクマロから彼を守るように言われたのに、それを全く果たせなかった。あのお方は自分の全てであるにも関わらずして、裏切ってしまった。
 生きる意味であるアクマロ様の願いを、果たせなかった……?

10青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:46:34 ID:rK//hTlo0
「嫌……嫌、嫌、嫌、嫌……アクマロ様に、嫌われる!」

 感情の高ぶりと共に風となるスバルは喚きながら必死に飛ぶ。
 十臓様が失った今、アクマロ様の為にできることがあるのか? 
 一体どうすれば、アクマロ様は喜んでくれるのか?
 アクマロ様が求めているのはこの世に地獄を齎すこと。その為に、十臓様と裏正が必要だった。
 でも十臓様が死んだのに、どうやってこの世界を地獄に変えるのか? 彼の変わりなんて、この世界のどこにもいないのに。

「……十臓様の、変わり?」

 そんな中、不意に芽生えた思考からサイクロン・ドーパントの顔の下で、スバルは怪訝な表情を浮かべてしまう。
 十臓は死んでいるからもういない。でも、十臓になることができればアクマロの願いが叶う可能性があるかもしれなかった。
 何処かにある十臓の死体を見つけて食べさえすれば、十臓の姿にコピーすることができる。そうして裏正も見つけさえすれば、アクマロに地獄を味わわせることが充分にできる。
 自分が十臓にさえなりさえすれば、裏見がんどう返しの術を使うことは充分にできた。

(何だ……そうすれば、良かったんだ! 十臓様を見つければいいんだ!)

 たったそれだけで、アクマロ様は喜んでくれる。どこにあるのかわからないけど、十臓の死体さえ見つけられれば何の問題もなかった。
 そんな希望に胸を躍らせるが、スバルは知らない。ソレワターセで他の参加者を吸収したとしても姿と情報は得られるが、制限によって力を得られないことを。つまり十臓を見つけてその身体を取り込んで姿をコピーしたとしても、裏見がんどう返しの術を行えなかった。
 また、例え力がコピーできたとしても術の発動に必要なもう一つの鍵、妖刀裏正は相羽シンヤによって破壊されている。つまり、どう足掻こうがアクマロの悲願は果たせないが、皮肉にも彼女はそれを知らない。
 ただ期待を胸に、風となって進むしかできなかった。
 やがてサイクロン・ドーパントは十臓を探す為にも、島に広く生い茂った森を目掛けて急降下する。風の力で辺りの植物を無差別に破壊しながら突入して辺りを見渡すと、ドーパントになったことで発達した視覚と聴覚が、他の参加者の存在を捉えた。
 生み出される暴風の音で断片的にしか声が届かなかったが、それを聞いた瞬間に彼女の心が疼いていく。
 彼女がその身に取り込んだ、鹿目まどかの記憶がサイクロン・ドーパントの脳裏を刺激していた。

「さやか……ちゃん」

 生前、まどかがまた会いたいと願っていた親友の美樹さやかが、少し離れた場所にいる。
 やはり、亡くなってしまったはずの彼女は生きていた。放送で名前が呼ばれてしまった巴マミのように、こうして目の前にいる。やはりキュウべぇがその力で彼女を蘇らせたのではないか――一瞬だけ、その思考が頭に過るもすぐに振り払った。
 例えまどかの親友だとしても、彼女の性格から考えてアクマロ様の計画にとって邪魔にしかならない。魔女になったのならともかく、魔法少女となったさやかの力はアクマロには及ばないものの、芽は一つでも潰さなければならなかった。
 幸いにもさやかはまだこちらに気づいていない。故にサイクロン・ドーパントの変身を解いたスバルはガイアメモリを懐にしまって、ソレワターセの力で鹿目まどかの姿に化ける。
 きっとさやかは放送でまどかやマミ、それにほむらが呼ばれたことで絶望を覚えているに違いない。そこでまどかの姿となって彼女に迫って、偽りの希望を植え付けた後に殺害する。そうすれば、アクマロ様の望む嘆きと悲しみはもっと広がるはずだった。
 アクマロへの忠義と愛を原動力とした彼女は、まどかの姿で微笑みながらゆっくりと歩を進める。数メートルほど進んだ瞬間、さやかがこちらに振り向いてきた。

「……あれ、まどか?」
「さやかちゃん、無事だったんだね!」

 本物のまどかのように瞳から涙を滲ませながら、さやかの前に立ってその身体を抱き締める。
 数時間前に得た情報によると、まどかとさやかの絆は余程強いらしい。まどかはさやかを救う為に魔法少女になろうとしたこともあったし、さやかは子どもの頃から何度もまどかを助けたようだ。
 だからこうしていれば、放送を聞いてショックを受けているはずのさやかはきっと喜ぶ姿を見せてくれるだろう。自分が偽者のまどかだとは微塵も思わないで。

11青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:47:14 ID:rK//hTlo0

「よかった……さやかちゃんが生きていてくれて、本当によかった! わたし、さやかちゃんにずっと会いたかったんだよ!」
「何を言っているのまどか? あたし達はずっとそばにいたでしょ? ちょっと離れただけで、大げさだなぁ……」
「……えっ?」

 しかしさやかから帰ってきた返事は、まどかとなったスバルにとってあまりにも予想から外れていた。

「怖いのはわかるけど、まどかはあたしが守ってあげるから大丈夫だって! それにまどかがそうして落ち込んでたら、あたし達だって悲しむよ!」
「さ、さやかちゃん……?」
「あの杏子やほむらって奴らもきっと何処かで頑張ってるはずだから、あたし達も頑張らないと!」

 既に十八人もの参加者が死んでいるというのに、それにしてはさやかの声は異様なまでに明るい。親友を失った直後とはまるで思えなかった。
 不審に思ったスバルはさやかから手を離して、顔を覗き込む。目前にいるさやかはやはり笑っていた。
 その笑顔はまどかの見慣れたさやかがよく見せるように明るかったが、壊れている。まるで無理矢理作らされている偽者の笑みに見えて、流石のスバルも違和感を抱かざるを得なかった。

「一体どうしたのさやかちゃん……何で、そんなに笑ってるの?」
「どうしたのって……そりゃあ確かにたくさんの人が殺されたのは悲しいに決まってるけど、いつまでも塞ぎこんでちゃいられないでしょ? ウジウジと悩んでたら、残された人達に言わなきゃいけないことも言えないし」
「そうじゃないよ! さやかちゃん、変だよ……いつものさやかちゃんじゃないよ!」
「まどかこそ、何を言っているの? こんな状況だから仕方ないかもしれないけど、もうちょっと落ち着こうよ」
「落ち着こうよって……」

 ショックのあまりに現実逃避を起こしているのかと思ったが、それも違うように見える。
 しかし考えてみればこの方が都合はいいかもしれない。一体何がさやかをここまで壊したのかは知らないが、自分を本当のまどかだと思い込んでいる。だから、消すには丁度いいかもしれなかった。
 気を取り直してまどかの姿で再び微笑んだスバルはそのまま腕を伸ばそうとする。だがその数秒後、極寒の地にいきなり放り込まれたかのような悪寒が全身を駆け巡った。
 おぞましい何かがこの近くにいると瞬時に察したスバルは振り向こうとするが、その直前に首根っこが締め付けられてしまう。
 唐突な出来事に驚く暇も無く、スバルは目前に漆黒の衣服を纏った一人の男が笑みを浮かべているのを見た。反射的に首を圧迫するその手を振り解こうとするが、まるでビクともしない。
 一方で男はそんなスバルに構いもせずに、さやかの方に振り向いた。

「ファウスト、少しそこで待っていろ……俺はこいつに話があるからな」
「わかりました! 誰か来ないかしっかり見張ってますから、あたしに任せてください!」

 その言葉に満足げな笑みを浮かべる男は、そのままスバルの首を掴んだままさやかの元から離れる。
 一体ファウストとは何のことなのか、それにこの男は何者なのか。スバルは取り込んだ参加者達の情報を引き出して正体を探るが、全くわからない。鹿目まどかも、本郷猛も、高町なのはも、池波流ノ介も、ズ・ゴオマ・グも、シャンプーも、ノーザも、そしてスバル・ナカジマ自身も誰一人として知らなかった。
 お前は誰だと問おうとしたが、そうしようとした瞬間に手から伝わってくる圧力は更に増していく。

「なるほど、鹿目まどかというのはお前のことか」

 呼吸が遮られてスバルは呻き声を漏らす中、男の冷たい声が鼓膜に響いた。
 それはノーザやアクマロのように狡猾な者達が慈愛に溢れていると錯覚してしまうほど、冷たくて殺意に満ちている。
 目の前の男は人の外見をしているだけで、その下には人ではない別のおぞましい存在が潜んでいるとスバルは思ってしまった。

「だがそいつはもう死んでいる……どういうカラクリかは知らないが、お前がまどかとやらを殺してから化けて、それからファウストに取り入ろうとしたみたいだな」

 恐ろしい雰囲気を放ち続けながら、男は饒舌に語り続ける。
 目が合っただけでも、自分より遥かに上の存在であると本能が警鐘を鳴らしていた。
 振動破砕を使おうとしても、それが通る数秒の間に殺される。もしもマッハキャリバー達やレイジングハートが万全の状態で手元にあったとしても、刹那の時間もかからずに肉片残らず消されてもおかしくなかった。
 ソレワターセで吸収しようとしてもその為には元の姿に戻る必要があるし、この男がそんな暇を許すとも思えない。例え戻れたとしても通用するわけがなかった。

(このままじゃ……殺される。アクマロ様の願いが叶えられない……アクマロ様、アクマロ様、助けて!)

12青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:48:34 ID:rK//hTlo0

 絶体絶命と呼ぶに相応しい状況に追い詰められたスバルは、恐怖のあまりに震える。
 ソレワターセに植えつけられてから経た悲劇によってあらゆる感情を失ったはずだったが、今の彼女には筋殻アクマロに対する強い愛情が惚れ薬によって存在していた。
 アクマロの愛を得られないのが何よりも恐ろしい。そして、この男を野放しにしていては何れアクマロすらも殺されてしまうかもしれないのが、もっと恐ろしかった。

「そう震えるな……俺はお前に頼みがあるだけだ」

 だが、次に男の口から出てきたのはそんな思ってもみなかった言葉。
 耳に入った途端、圧迫感が少しだけ緩くなったがそれでも男から感じられる殺意は消えない。
 最早、男の言葉は恫喝にしか聞こえなかった。

「どうやらファウストはお前を友達だと信じているみたいだ。なら、友達になってやろうぜ?」
「と、とも……だち?」
「そうだ。お前もまどかなら、友達を独りぼっちにするような薄情な奴じゃないだろ? あいつはお前を信じているみたいだから、仲良くしてやれよ」

 息も絶え絶えになりながらも必死に言葉を紡ぐスバルは、酷薄な笑みと共に告げられる言葉の意味が飲み込めていない。
 確かにまどかはさやかの為にインキュベーターと契約して魔法少女になろうとしたことがある。この事実から考えるに、まどかは余程さやかに入れ込んでいたことがわかった。
 だがそれはあくまでも生前のまどかの話であって、まどかの姿を利用しているに過ぎないスバルには関係ない。だが、そんなことなど言えるわけがなかった。物理的にも言葉を紡げるような状況じゃないし、何よりも言っては今度こそ殺される恐れがある。
 一体どうすればいいかと考えた頃、スバルの首を締め付けていた手は唐突に離されてしまい、その華奢な身体は地面に叩き付けられた。
 軽い痛みが走る中、咳き込みながらも必死に呼吸する。

「アクマロ……様?」
「スバルはん、どうかお願い申し上げます……まどかはんの姿になって、さやかはんの友達になって頂けないでしょうか?」
「嘘……アクマロ様が、何で……!?」

 その声もその姿も、スバルの知るアクマロと寸分の違いもない。
 おかしいと思って目を擦ってみたが、それでもアクマロは前に立っていた。

「あんたさんは悪い夢でも見ていたのでしょう。我はずっと、スバルはんと一緒にいたではありませぬか」
「だって……アクマロ様は、あたしに十臓様の……」
「十臓はんも大事ですが、スバルはんの方がもっと大事に決まっておるでしょう。何故なら、こんなにも我に尽くしてくれているのですから……十臓はんのことは残念ですが、スバルはんが気にすることではございませぬ。これからは、ずっとスバルはんと一緒におりますゆえ安心してくだされ」

 その言葉は一瞬でスバルの全身を駆け巡り、これまで抱いていた疑問と恐怖を瞬時に拭い払った。
 アクマロは自分を大事にしてくれているだけでなく、ずっと見守ってくれている。その事実がスバルにとって何よりも嬉しかったのだ。

「スバルはん、お願いを申しあげます。どうかまどかのまま、ずっとさやかはんのお友達になっては頂けぬでしょうか? 嫌なら、無理にとは言いませぬが……」
「わかりました……愛するアクマロ様の頼みなら、何だって聞きますよ!」
「ほっほっほ。やはり、スバルはんは素晴らしいお方ですなぁ……」

 一語一句が耳に響く度にスバルの全身が疼いていき、脳髄が熱くなっていく。
 度数の高いアルコール飲料を一気飲みしたかのように、スバルは快楽の渦に酔っていた。これほどの感覚を味わえたのは生まれて初めてだろうが、今の彼女にそれを判断できる力などない。
 止め処なく湧き上がる愛情が、スバルから思考力を容赦なく奪っていたのだった。

「では、さやかはんと一緒に頑張ってくだされ……我らの邪魔者を一人でも消すためにも」
「はい……全ては愛するアクマロ様のために。あたしは、鹿目まどかになりきります……!」

 アクマロの願いを叶えるならば、スバル・ナカジマという名前なんていくらでも捨ててやる。今の自分はスバルなんかではなく、美樹さやかの親友である鹿目まどかになればいい。
 本当なら敵であるはずのさやかを大切にすることも、アクマロが望むなら全く苦にはならなかった。まどかの知識さえ利用すれば、さやかの信頼を得ることなんて造作もない。
 今はただ、アクマロが言うようにさやかの友達になって一緒に頑張ることだけを考えるだけ。
 そんな考えなど露知らず、当のさやかはヘラヘラと笑い続けている。

13青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:51:13 ID:rK//hTlo0
申し訳ありません……>>12に一部ミスがありました。
修正版です。


 一体どうすればいいかと考えた頃、スバルの首を締め付けていた手は唐突に離されてしまい、その華奢な身体は地面に叩き付けられた。
 軽い痛みが走る中、咳き込みながらも必死に呼吸する。 軽い痛みが走る中、咳き込みながらも必死に呼吸する。喉から全身に酸素が駆け巡っていく度に、これまで忘れていたはずの生きている実感を思い出していた。
 しかしだからといって助かったわけではないと思った彼女は、男の方を見上げる。だがそこにいたはずの男はどこにもおらず、代わりにいたのは忠誠を誓う外道だった。

「アクマロ……様?」
「スバルはん、どうかお願い申し上げます……まどかはんの姿になって、さやかはんの友達になって頂けないでしょうか?」
「嘘……アクマロ様が、何で……!?」

 その声もその姿も、スバルの知るアクマロと寸分の違いもない。
 おかしいと思って目を擦ってみたが、それでもアクマロは前に立っていた。

「あんたさんは悪い夢でも見ていたのでしょう。我はずっと、スバルはんと一緒にいたではありませぬか」
「だって……アクマロ様は、あたしに十臓様の……」
「十臓はんも大事ですが、スバルはんの方がもっと大事に決まっておるでしょう。何故なら、こんなにも我に尽くしてくれているのですから……十臓はんのことは残念ですが、スバルはんが気にすることではございませぬ。これからは、ずっとスバルはんと一緒におりますゆえ安心してくだされ」

 その言葉は一瞬でスバルの全身を駆け巡り、これまで抱いていた疑問と恐怖を瞬時に拭い払った。
 アクマロは自分を大事にしてくれているだけでなく、ずっと見守ってくれている。その事実がスバルにとって何よりも嬉しかったのだ。

「スバルはん、お願いを申しあげます。どうかまどかのまま、ずっとさやかはんのお友達になっては頂けぬでしょうか? 嫌なら、無理にとは言いませぬが……」
「わかりました……愛するアクマロ様の頼みなら、何だって聞きますよ!」
「ほっほっほ。やはり、スバルはんは素晴らしいお方ですなぁ……」

 一語一句が耳に響く度にスバルの全身が疼いていき、脳髄が熱くなっていく。
 度数の高いアルコール飲料を一気飲みしたかのように、スバルは快楽の渦に酔っていた。これほどの感覚を味わえたのは生まれて初めてだろうが、今の彼女にそれを判断できる力などない。
 止め処なく湧き上がる愛情が、スバルから思考力を容赦なく奪っていたのだった。

「では、さやかはんと一緒に頑張ってくだされ……我らの邪魔者を一人でも消すためにも」
「はい……全ては愛するアクマロ様のために。あたしは、鹿目まどかになりきります……!」

 アクマロの願いを叶えるならば、スバル・ナカジマという名前なんていくらでも捨ててやる。今の自分はスバルなんかではなく、美樹さやかの親友である鹿目まどかになればいい。
 本当なら敵であるはずのさやかを大切にすることも、アクマロが望むなら全く苦にはならなかった。まどかの知識さえ利用すれば、さやかの信頼を得ることなんて造作もない。
 今はただ、アクマロが言うようにさやかの友達になって一緒に頑張ることだけを考えるだけ。
 そんな考えなど露知らず、当のさやかはヘラヘラと笑い続けている。

「お待たせ、心配かけてごめんね」
「おっ、だいぶ落ち着いたみたいだね! 元気になってくれてよかったよ」
「ありがとう……さやかちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「うん、まどかとなら何だってできるよ!」

 まどかの姿で微笑みながら、スバルはゆっくりとさやかの手を握った。
 愛するアクマロへの忠誠と愛を胸に抱き続ける彼女は知らない。そうやってさやかと偽りの友情を培っている光景を、嘲笑っている男がすぐ近くにいることを。
 そして、彼女がアクマロだと信じている存在は、アクマロとは全く別人であることも。




14青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:52:38 ID:rK//hTlo0
「もう一体、ファウストを作れるかと思ったが無理だったか……やれやれ、ここまで力が抑えられているなんてな。やってくれるぜ」

 不満に満ちた呟きとは裏腹に、眞也の表情は笑みで染まっていた。
 鹿目まどかを演じていた何者かは今、自分のことをアクマロという参加者と勘違いしている。名簿には筋殻アクマロという変わった名前が確かにあったような気がしたが、今はそんなことどうでもいい。
 怯えきった彼女を恐怖で脅して、闇の力で幻覚を見せたらこうも簡単に操り人形となった。その瞳の奥底にはさやかと同じ闇が感じられたのでファウストをもう一体作ろうとしたが、それは叶わない。ダークフィールドの発生が無理なようにファウストの生成も恐らく一度に一体だけに限られているのだろうが、別に構わなかった。
 何故なら、ファウストと同じ哀れな手駒がもう一つ増えるのだから。

(恐らくあの女も操り人形にされている……やはりこの島には面白い連中が数え切れないほどいるみたいだな)

 言動から察するに、あのまどかはアクマロと言う参加者に酷く心酔している。元々惚れていたのか、それとも何らかの方法で洗脳されているのかは知らないがどちらにせよ面白かった。
 アクマロへの忠誠を自分に向けさせられたのなら便利なことこの上ないし、上手くいけば奴が愛するアクマロと殺し合う光景が見られるかもしれない。アクマロという奴が善人だろうが悪人だろうが、面白い結果になるのは火を見るより明らかだ。
 愛する存在を自分の手で殺した時、まどかはどんな絶望を見せてくれるのか? そして、そんなまどかを本物だと信じているさやかが、まどか本人から裏切られたらどうなるのか?
 様々なシチュエーションが脳裏に浮かび上がっては、眞也の気分がどんどん高揚していく。

(奴ら二人で潰し合わせるのも面白そうだが、それは先の楽しみとして取っておくか)

 親友同士のまどかとさやかを試しに殺し合わせたい衝動に駆られるが、始末するべき敵が多い現状はそんなことなどできない。
 どちらも質が低い分、戦いの際は数でカバーをしなければならなかった。クウガやゼクロスのように、それなりの戦闘力を持つ存在を前にするならそれくらいはしなければならない。

(楽しいゲームには楽しい出し物が付き物だ……加頭順もサラマンダーもいい道具を用意してくれたな。感謝してやるぜ)

 見たところ、まどかの支給品には一台のバイクの他にガイアメモリが含まれている。
 それを使わせれば、五代雄介達とあの二人を殺し合わせて絶望を味わわせられる他にも上手く集団の中に潜ませて、崩壊のきっかけを作ることも可能だった。
 どちらにせよ、こういう時にガイアメモリは役に立つ。精神が汚染する代償はあるものの、その代償を背負うのはあの小娘どもだから関係ない。

「本当のお前が誰だろうとどうでもいい……俺を楽しませるために頑張ってくれよ。ファウストと一緒に面白いイベントを起こしてくれるのを、楽しみにしてるからな」

 さやかと共に歩いていくまどかの背中を、眞也は冷酷無情な笑みで見送っている。
 かつての孤門一輝のように幻覚を見せたが、彼女の闇もさやかと同じように出来上がりすぎていた。だから一輝や凪のように積み上げていく楽しみが微塵も感じられなかったが、それならば無残に死んでも惜しいとは思えないのでむしろよかったかもしれない。
 如何にデスゲームを盛り上げて、どんな無残な死に様を見せてくれるのか。地獄に堕ちた少女達に眞也が期待しているのは、ただそれだけだった。



【一日目・朝】
【D-3/森】

15青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:54:11 ID:rK//hTlo0
【溝呂木眞也@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜2個(確認済)、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS
[思考]
基本:より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至り、世界を思うままに操る。
0:ファウスト(さやか)と鹿目まどか(スバル)の様子を見て、どう扱うかを考える。
1:姫矢准からウルトラマンの力を奪う。
2:その他にも利用できる力があれば何でも手に入れる。
3:弱い人間を操り人形にして正義の味方と戦わせる。
4:西条凪を仲間にする。
5:今は凪は放置。
[備考]
※参戦時期は姫矢編後半、Episode.23以前。
※さやかをファウストにできたのはあくまで、彼女が「魔法少女」であったためです。本来、死者の蘇生に該当するため、ロワ内で死亡した参加者をファウスト化させることはできません。
※また、複数の参加者にファウスト化を施すことはできません。少なくともさやかが生存している間は、別の参加者に対して闇化能力を発動することは不可能です。
※ファウストとなった人間をファウスト化及び洗脳状態にできるのは推定1〜2エリア以内に対象がいる場合のみです。
※ダークファウストが一度に一体しか生み出せないことを、何となく把握しました。
※目の前にいる鹿目まどかはまどかを殺した何者かが化けた偽者と推測しています。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、妄想状態、裏にファウストの人格があります
[装備]:ソウルジェム
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いを打破する
1:まどかやマミと一緒に行動する!
2:仲間がいると心強い
[備考]
 ※参戦時期は8話、ホスト二人組の会話を聞く前です。
 ※『癒し』の魔法の効果で回復力が高まっており、ある程度ならば傷の自然回復が可能です。
 ※正義の味方として戦う事が本当に正しいのかと絶望を覚えていますが、少しだけ和らいでいます。
 ※溝呂木によってダークファウストの意思を植えつけえられました。但し、本人にその記憶はありません。
 ※溝呂木が一定の距離にいない場合、彼女がファウストとしての姿や意思に目覚めることはありません(推定1〜2エリア程度?)。ただし、斎田リコのような妄想状態になる可能性はあります。
 ※妄想状態の影響が強くなり、今はまどかやマミと一緒に行動していると思い込んでいます。また、あらゆることを自分に都合よく解釈します(何かの拍子で自我を取り戻すこともあります)。


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身に生命活動に致命的なダメージ、
    ソレワターセによる精神支配、シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザの肉体を吸収、惚れ薬によりアクマロに惚れている、鹿目まどかの姿に変身中、幻覚を見せられている。
[装備]:T2ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、スモークグレネード@現実×2
[思考]
基本:愛するアクマロ様のしもべとして働く。
0:アクマロ様が傍にいてくれている……!
1:アクマロ様に従い、他の参加者(シンケンジャー、仮面ライダー、プリキュアを主に)を仕留める。そして、鹿目まどかになりきって美樹さやかの友達になる。
2:ティア……
[備考]
※参戦時期はstrikers18話から20話の作戦開始前までのどこかです。
※『高町ヴィヴィオ』は一応ヴィヴィオ本人だと認識しています。
 また、彼女がいることからこの殺し合いにジェイル・スカリエッティが関わっているのではないかと考えています。
※ソレワターセに憑依された事で大幅にパワーアップしています。
※シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザの肉体を吸収したことで、彼らの情報を得ると共にその姿にコピーすることができます。但し、その力までは得られません。
※一日玉の効果でアクマロに惚れています、最低でも12時以降までは解除はされません。同時にソレワターセを浄化してもこちらは解除されません。
※生命活動に致命的なダメージを受けており、その命をソレワターセで繋いでいます。つまりソレワターセを浄化しただけではスバルはそのまま死にます。
※溝呂木眞也によって幻覚を見せられました。その結果、溝呂木眞也の事を筋殻アクマロだと思い込んでいます(今後、違う種類の幻覚を見る可能性があります)。

16 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/15(日) 09:55:29 ID:rK//hTlo0
以上で投下終了です。
矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします。

17名無しさん:2012/07/15(日) 10:44:31 ID:Ddf0h5aQO
投下乙です。地獄姉妹……キック担当の長女はまだですか?w

18名無しさん:2012/07/15(日) 11:03:09 ID:iaJrlVew0
投下乙!
スバル、散々すぎる…
ノーザから始まって、アクマロ、メフィストって…いいように使われすぎだろw

19名無しさん:2012/07/15(日) 11:49:54 ID:Jl9L9ghM0

もう駄目だこの2人……つーか溝呂木さん仕事しすぎだろwいいぞもっとやれw

>>17
ゆりさん辺りがいいんじゃねw
今幼女だけど

20名無しさん:2012/07/15(日) 12:26:52 ID:4Ew/HTp20
乙です

さやかもスバルもいい操り人形だぜw
そして複雑というかなんというかw
溝呂木さんも棚ボタでいい手駒が増えたなあ。でも調子に乗ってるマーダーも痛い目見て欲しい気もするぞw

21 ◆gry038wOvE:2012/07/16(月) 13:05:25 ID:L.sNh98s0
ただいまより、投下を開始します。

22二人の黒騎士 ◆gry038wOvE:2012/07/16(月) 13:06:15 ID:L.sNh98s0


「────さて」



 キュアブロッサムを見送った一文字は、石堀に対して切り出した。
 出発進行の合図かと思われたが、どうやらそういう様子ではない。
 もう一歩、また別のところに踏み込んだ一言だった。
 ここまでの出来事で、最も気になった部分を話したのである。



「石堀さん、だったな。アンタは一体何者だ?」



 一文字の言葉に対しても、石堀は淡々としてた。
 少なくとも、ダークザギの事を言っているのではなく、ナイトレイダーの事を言っているのだろうと察しをつけたからである。
 ただの男のフリをして、ナイトレイダー。更にナイトレイダーのフリをして、アンノウンハンド。
 この現場にいる人物に対しては、そういう二重の隠しをしている。



「何の事だ?」

「アンタ、少なくともただの一般市民っていうわけじゃないよな?」



 一文字の詰問はまあ、わからないこともない。
 何年もかけて戦いを行ってきた戦士には、異形を前にした人間の様子というのがわかるのだ。
 たとえ戦場であっても、仮面ライダーの姿に拒否反応を示さなかった人間というのは希少である。
 覚悟のある人間だとしても、自分の常識を超える存在を前にも何も思わないというのは非常に珍しいタイプだ。
 最終的には、滝和也のように協力してくれる人間もいくらでもいる。
 だが、そんなことは言えない。少なくとも、それはつぼみにも該当する質問だ。────実際のところは、二人は「慣れていた」からなのだが。



「まず、あの状況で、俺たちの交戦を止めた理由が気になる。
 アンタはつぼみが変身能力を持つことは知らなかったから、戦力的には不十分だろ?」

「そんなことか……あれはKorrosion弾の威力を試したんだよ」



 実際、石堀が何故あの状況で乱入すると決めたか────それは、ただ単純に特殊な弾丸の威力を試すためでしかなかった。
 メモレイサーなどの能力は彼だってわかる。あれは何度もメモリーポリスが使用するのを見てきた。技術面に詳しい石堀が、それについて知らないはずもない。
 110のシャンプーは、また特殊な拳法が必要だから、はっきり言えば石堀にとってはゴミ同然でもある。


 だが、あの弾丸については能力が未知数となる。
 そのうえ、飛ばされた地点は森の中であり、つぼみ含め、鉄と呼べる類も支給されていない。
 あの場では、鎧の戦士などがいる戦闘は絶交の試験機会だった。



「…………危険を冒してまで、かい?」

「ああ。この場では、まず支給された武器の実用性を確かめる必要がある」

「なるほど。まるで軍人やSPIRITSみたいな考え方だ。
 ……いや、もっと身近なところで警官とかか? 
 まあ、とにかく、あんたはそういう職じゃないかって俺は思ってる」



 と、一文字は石堀について察しをつけていた。
 石堀にとっては、図星であるが──────図星ではない。
 核心となる部分は知られていない。それどころか、発覚した方が今後動きやすいメリットのある部分だ。
 だが、あくまで一回はそれを暈す。あっさり言えば、疑われるが、念を押していけば疑われない。念を押しすぎるのも疑われるだろうが、そのために一回だ。
 とはいえ、あくまで肯定の意味の言葉を述べた。

23二人の黒騎士 ◆gry038wOvE:2012/07/16(月) 13:06:45 ID:L.sNh98s0



「…………守秘義務があるんだ、詳しくは話せない」

「なるほど。組織人の鑑っていうわけか……」



 一文字の言った、警察などは潜入捜査などを目的としているのなら、身分を明かすことはできまい。
 まあ、この状況は潜入捜査ではなさそうだが、他にも可能性はいくらでもある。
 守秘義務というのはどの組織にも存在するものだし、それを守り通さねばならないのは確かだろう。



「……だが、そんなこと言ってられる状況じゃねえっていうのはわかるだろ?
 あのお嬢ちゃんだって、自分の素性を明かしてくれた。それは状況が状況だからだ」

「…………しかし」

「わかってるだろ、あんたにも?」



 一文字はこの程度の強情が悪いこととは思わなかったし、むしろ正しい選択とも思ったが、融通を利かせるために言う。
 沖といい、ここに来てからこういう真面目な奴らばっかりだ…………などと思いつつ、彼は石堀と話す。
 まあ、実際石堀という男は違うのだが────。



「……わかった。俺の所属する組織について話す」



 石堀も、一度躊躇した(フリをした)割には、あっさりとそれを了承する。
 彼は最初から了承するつもりだったのである────ただ、組織人であることを強調するために守秘義務について触れたというだけで、了承には大きなデメリットはない。
 一文字とて、彼を一片たりとも疑わない。
 確かに、このあっさりした反応は不自然だったが、それも石堀がまだ融通の効く人物だったのだな、としか思っていない。


「俺の所属している組織はTLTという。ビーストという特殊な怪物を倒すために結成された組織だ」

「ビースト?」

「ビーストっていっても、ただの獣じゃない。あの三影とかいう奴が変身した白虎とも違うな。
 言ってみるなら、人間の数倍から40メートルほどにまで成長する人喰い怪獣さ」



 それから石堀はビーストについて、そしてナイトレイダー、ウルトラマンについても包み隠さず話す。
 ただ、それはナイトレイダーの一員として得た情報ばかりであるため、基本的にはその情報は公平で、石堀の思惑とは全く別次元のものだった。
 善良なだけの組織でもない、しかし悪の組織でもない────ただ、人類にとって有害な生物を排除する中立的な存在であるということは、人を騙すうえでも逆に信頼されやすいのだった。



「…………なるほどねぇ、ウルトラマンか」

「あんたたちは、仮面ライダーだったな」



 広間での加頭の言葉、「仮面ライダー」、本郷猛と一文字隼人。
 片方は死んでしまったらしいが、ベルトの形状が同じだった覚えがあることから、二人は同じような姿なのではないかと石堀は思った。
 根拠としては薄かったが、石堀にはそれしか考え付かなかったのである。タイガーロイドやキバのような姿ということもありうるといえばありうるが、死んでしまった以上はわからないし、一文字に聞くこともない。正直言えば、そのあたりのことを考察してももう遅いし意味がないのだ。


 そういえば、彼がかつて並行宇宙で戦った────M78星雲のウルトラマンたちも、ほぼ同様の姿をしていたはずである。
 思い出すだけで嫌になるが、結局は随分と前の話だ。



「ウルトラマンに、仮面ライダー、プリキュアか…………。
 三つの存在は、絶対共存してない。あんたの時代に仮面ライダーやプリキュアなんていないわけだろ?」

「ああ。俺は聞いたこともない」

「…………俺はここで参加者の時系列に違いがあるってことを沖に聞いて知ってる。
 あんたらが少し未来の人間で、仮面ライダーやプリキュアの記憶を操作した可能性もあるっちゃあるが……」

「何度も繰り返して記憶操作をされているっていうのは無理があるし、第一俺たちが知らないわけがない」



 と、石堀は言ったが、実はTLTの人間であってもかつてあるウルトラマンの戦いが隠蔽されていることは知らされていない。
 そのうえ、石堀自身が自分以外全員に対して記憶処理を施して存在を許された戸籍なのだから、これははっきり言ってでまかせだ。
 だが、これも演技なのだから、せめて馬鹿のフリをしておいてやろうと思った。
 一文字が続ける。

24二人の黒騎士 ◆gry038wOvE:2012/07/16(月) 13:07:54 ID:L.sNh98s0



「────そもそも、俺たちが別世界の人間っていうこともありえるんじゃないか?」

「ああ、ありえるな。だいたい、タイムマシンが存在するなら、異世界が存在しようが全然不思議じゃない。
 というよりもむしろ、タイムマシンよりその方が遥かにありえそうな話だ。
 そういえば加頭も時を止める能力がなんとか言ってたな……」



 かつてダークザギとして並行宇宙に飛ばされた石堀は、その論を全く問題なく受け入れた。
 いや、ある程度は察していたのだろう。仮面ライダーや魔戒騎士、プリキュアなどという存在には正直驚愕したし、扱いの難しさも確かだった。
 何にせよ、石堀はその程度の仮説で驚いたりはしない。ここに来ている知り合いでも、大きく驚くとすれば孤門くらいじゃないだろうか。



(……となると、やっぱりこの殺し合いにTLTが関わってる可能性だってゼロじゃないわけか。
 尚更、光を吸収するには機を伺う必要がありそうだ)



 ”来訪者”という存在がいるTLTならば、異世界との流通や記憶操作なども充分考えられる。
 一応、ビーストと戦うための組織だが、冷徹な人間の多いあの組織ならば、ナイトレイダーA班の数名を戦闘実験に使うということもありえなくはないだろう。
 加頭の雰囲気もやや、TLTの人間の気味の悪さに似ていたような気がする。
 あの組織の動向は把握したつもりだったが、石堀に隠してこうした行動をしてくるとは驚きだ。


 少なくとも、ネクサスの光が凪に回るまでは、TLTでは石堀光彦としての地位を捨て置けない。
 その位置こそが凪に最も近く、凪の監視も、正体を明かすことで光を奪うことも容易な、見事なポジションなのであった。
 そのため、ダークザギはそれを死っても、いやそれを知ったからこそ尚────石堀光彦としての行動をやめない。



(…………全ては、凪に光が回ってくる時に終わる。
 その時になれば、俺は力を取り戻し、光は消える!)



 石堀はにやけることもなく、ただそうして思考するのみだった。
 ダークザギの胸に滾る野望に、一文字は気づかない。
 鈍いのだろうか、と問われようものなら、それは違うと否定するだろう。
 何故なら、ダークザギが石堀光彦として行動していた期間──彼がここに連れて来られなかった場合の未来を含む20年もの間──、彼はTLT全体にさえ、その正体を隠しとおしたほどの役者だったのである。
 それに、理由というべきものはもう一つある。



 ────彼はもう一方の野望には気づいていた。



「石堀、気づいてるか?」

「ああ」



 二人は小声で、会話する。
 超能力を持つ石堀と、超聴力を持つ一文字である。
 きわめて察しが良い二人に対し、会話が聞こえるほどの距離に隠れているなら、どんなに相手が気配を消す達人であっても、隠れきることは難しい。
 後方に姿を隠す、黒装束の男に────二人が気づかないはずもない。



「……随分としぶといな、あの野郎」

「一応言っとくが俺に戦闘能力はないからな。
 倒すって言うなら、あまり派手にやらないでくれよ」

「合点。もしヤバくなったら、ソイツを使って逃げてくれ」



 一文字は、ビートチェイサーを指しながら言った。
 そして、そのまま変身ポーズを取る。




 ────ライダァァァァァ変身!!────



 仮面ライダー2号となった彼は、黒い装束の男の隠れた方を向く。
 それだけで、相手も気づくだろうと思ったのだ。
 石堀はKorrosion弾を装填したライフルを持ち、ビートチェイサーに身を隠しながら、そこにいる敵へと銃口を向けた。


 そこから現れたのは、黒き鎧の魔戒騎士であった。
 暗黒騎士キバ。彼の姿を見るのは、結局三度目となる。

25二人の黒騎士 ◆gry038wOvE:2012/07/16(月) 13:08:36 ID:L.sNh98s0



「貴様の息の根を止めてくれる……!」

「俺もこの辺で決着をつけさせてもらう!」



 仮面ライダー2号と、暗黒騎士キバは双方を向いたまま、三度目の戦闘に息を呑む。
 タイガーロイドという男を葬った以上、ここにいる敵はコイツだけだ。



(石堀がいる以上、負けたらアイツは牙を失う……。
 そうするわけにはいかねえよな……)



 ビートチェイサーという逃走手段があるとはいえ、それを使って一瞬で逃げるのは難しいように思える。
 だから、勝利を目指しつつ、仮面ライダーは眼前の敵へと駆けて行く。
 どこまでも止まらないような走り。目の前の敵にパンチをかまそうと駆けて行く。



 ────本郷猛────
 ────巴マミ────
 ────来海えりか────



 戦友の名前や、知り合いと同じ名前が、放送で呼ばれた。つぼみの友達の名前も呼ばれた。
 結局、仮面ライダーやプリキュアやナイトレイダーのように自衛のための武器を持つ人間たちが殺し合いをしているのだとしても、彼はそういう人間たちを守り通したい。
 目の前にいる男のような、悪を倒すため────



 正義、仮面ライダー2号は駆けて行く。






★ ★ ★ ★ ★






 バラゴという男は、一文字を気にかけると同時に、彼と行動を共にすることになってしまった石堀という男にも興味があった。
 先ほどから、時折感じる謎の影────それは、およそ自分と同一の気配を持つ闇の波動であるような気がした。
 無論、核心はない。彼はそれを押し殺しているし、それを一文字の前に公言する気もない。彼は彼なりの目的があって、一文字に何かを隠しているのだろう。それは、もしかすればバラゴの目的──一文字の悪堕ちに一役買ってくれる隠し事かもしれないとも思っていた。
 ……とはいえ、この感じは共感ではないことはわかっている。彼は誰かに共感し合う気はないし。
 バラゴは誰とも協力し合う気はない。



 最強の存在として君臨する野望を抱えた戦士に、もはや協力者など不要だ。
 


 ────彼はかつてアキラという弟子を持ったことがある。
 旅の途中、ホラーを狩った際に、バラゴの意思とは無関係に助けた形になってしまった男だ。
 その男を弟子に持つうち、バラゴはだんだんアキラに思い遣りを持つようになってしまった。
 その感覚が体中に伝播しようものなら、暗黒の魔戒騎士として君臨する目的は消える。
 師匠であり、親友でもあった冴島大河は斬ったのだ。他にも何人ものホラーを、魔戒騎士を、殺した。
 最強であるためだ。
 力を得るためだ。
 

 しかし、アキラは結局斬らなかった。
 その判断は、今は間違いだったとさえ思う。



 ──────あそこで斬れば、きっとバラゴは冷酷無比な最強の騎士となりえただろう。




 バラゴはそう思った。
 はっと我に返り、石堀と一文字の様子を見た。
 二人はひそひそと話しており、その内容が聞き取れなかった。
 だが、あちらから──




 ────ライダァァァァァ変身!!────




 ──バラゴの方を向き、変身の声を唱える一文字の姿が見えた。
 なるほど、気づかれていたわけか。バラゴは悟る。
 己の中に、まだアキラや大河のことを思い出す余地があり────それが今、少しばかり邪魔をしていたことを。



 力を求める戦士…………。
 そう、バラゴは力を求める魔戒騎士だった。

 仮面ライダーを闇に落とすのも一向だったが、こうして一文字に対して発覚してしまった(これはバラゴが一瞬でもアキラや大河のことを考え、僅かながらでも隙を緩めたが故であったが)。
 それならばそれで、力を求め戦うのみ。


 バラゴは上空に剣を翳し、円を描く。
 暗黒騎士キバの鎧がバラゴを包んだ。
 既にkorrosion弾による腐食の痕はなく、戦闘に充分と言える状態だ。
 あの腐食痕は既に飲み込まれていたのだろう。



「貴様の息の根を止めてくれる……!」

「俺もこの辺で決着をつけさせてもらう!」



 眼前の仮面ライダーは向かってくる。
 暗黒騎士は、そんな相手を前に黙って立ちすくんでいた。

26二人の黒騎士 ◆gry038wOvE:2012/07/16(月) 13:09:18 ID:L.sNh98s0





【1日目/朝 C−2】

【一文字隼人@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、胸部に斬痕、左腕が全体的に麻痺、2号に変身中
[装備]:ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考]
基本:仮面ライダーとして正義を果たす
0:キバを倒す
1:石堀と共に南から市街地へ向かう
2:他の仮面ライダーを捜す
3:暗黒騎士キバを倒す(但しキバは永くないと推測)
4:もしも村雨が記憶を求めてゲームに乗ってるなら止める
5:元の世界に帰ったらバダンを叩き潰す
6:この場において仮面ライダーの力は通用するのか……?
[備考]
※参戦時期は第3部以降。
※この場に参加している人物の多くが特殊な能力な持主だと推測しています。
※加頭やドーパントに新たな悪の組織の予感を感じています(今のところ、バダンとは別と考えている)。
※園咲霧彦、園咲冴子が園咲来人の関係者である可能性が高いと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時までに市街地エリアに向かう予定です。
※村エリアから南の道を進む予定です。(途中、どのルートを進むかは後続の書き手さんにお任せします)
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
 フレプリ勢、ハトプリ勢の参加者の話も聞いています
※石堀の世界について、ウルトラマンやビーストも含めある程度聞きました(ザギとして知っている情報は一切聞いていません)


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:korrosion弾(一発消費)@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する
0:キバを倒す(危険なようならば一文字の言うようにビートチェイサーで逃げる)
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る
2:今、凪に死なれると計画が狂う……
3:一文字と共に南から市街地に向かう
4:孤門、凪、姫矢、つぼみの仲間を捜す
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています


【バラゴ@牙狼─GARO─】
[状態]:胸部に強打の痛み、顔は本来の十字傷の姿に、キバの鎧を召喚中
[装備]:魔戒剣、銃@牙狼
[道具]:支給品一式×3、ランダム支給品0〜2、冴子のランダム支給品1〜3、顔を変容させる秘薬?、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:参加者全員と加頭を殺害し、元の世界で目的を遂行する
0:一文字を倒す
1:一文字に復讐する
2:今のところ顔を変容させる予定はない
3:石堀に本能的な警戒(微々たるものです)
[備考]
※参戦時期は第23話でカオルに正体を明かす前。
※顔を変容させる秘薬を所持しているかは不明。
※開始時の一件で一文字のことは認識しているので、本郷についても認識していると思われます。
※冴子と速水の支給品はまだ確認していません。
※つぼみ達の話を立ち聞きしていました
 そのためプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について知りました

27 ◆gry038wOvE:2012/07/16(月) 13:12:20 ID:L.sNh98s0
以上、投下終了です。
バラゴの弟子については小説版の設定です。

28名無しさん:2012/07/16(月) 13:26:24 ID:qh1xfJXw0
投下乙です!
アキラか、そういえばあの時期のバラゴはまだある程度綺麗だったんだなぁ……
それはそれとして、二号とキバの三度目の戦いか! 今度の決着は、どうなるだろう……

29名無しさん:2012/07/16(月) 13:58:19 ID:9yhOrRFQ0
投下乙です

目的もだが主催にTLTがいるかもと推測した以上は石堀はギリギリまで正体は隠しておくか。一応は対主催なんだが…
そしてバラゴはストーカーがばれて一文字と再戦キター

30名無しさん:2012/07/16(月) 16:07:15 ID:VQF5cc1g0
皆様、投下乙です、

>〜SILVER REQUIEM〜
意外にも一番考察が進むこのコンビ。
冴島邸近くまで到達したがシンヤとの接触はもはや不可避、互いの情報が合わされば状況が一気に動く……のか?

>青き地獄
あいてむがふえるよ、やったねしんちゃん♪
というか地味にアクマロ涙目過ぎる展開が続いている様な気がする。

>二人の黒騎士
一文字、そいつは一番危険な奴だ、TLTで片付けていい奴じゃ無い。
まぁ、現状はそこまで驚異じゃ無いけど……でキバとの第3ラウンド……
だが、確か近くには村を目的地とした副隊長も近くにいて、地味に前述の溝呂木と便利なアイテム2つも射程圏内……
しかも場合によっては井坂&都知事+オマケも来そうだからなぁ……これ地味に修羅場じゃね?

31 ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:53:07 ID:qhtg3YQs0
花咲つぼみ分投下します。

32森をゴーです! 仲間捜しすすみません!! ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:54:09 ID:qhtg3YQs0
 何故、サラマンダー男爵は主催者側にいるのだろうか?

 キュアブロッサムこと花咲つぼみが記憶する限りの話だが――
 サラマンダー男爵は元々砂漠の使徒の王デューンが生み出した幹部の1人だった。
 だが、彼は自身の存在意義やデューンの心を知りたいと願っていた。砂漠の使徒としては異端の考えを持つ彼をデューンは追放した。
 その後最初のプリキュアともいわれるキュアエンジェによって長き時の間封印された――
 故に彼の心は砂漠の使徒やプリキュアへの復讐心に満ちており、砂漠の使徒の本来の目的である砂漠化ではなく、世界の破壊を目的と――
 ――していたのだろう。だが、彼の封印を解いた1人の少年――名前すら無い彼との出会いが彼を変えた――
 サラマンダー男爵の力はキュアエンジェによって世界各地によって分散されていた。それ故に、数年間本来の力を取り戻す為、少年――男爵はルー・ガルー(狼男)と名付けた彼と共に旅を続けていた――
 ルー・ガルーいや、以後は彼のこころの花からつぼみが名付けたオリヴィエとでも呼ぼうか、
 オリヴィエは親を求めていた、それ故にサラマンダー男爵にそれを願い2人は旅をした。サラマンダー男爵の目的を踏まえるならば、男爵はあくまでも彼を利用していただけだったのだろう。
 だが、最初はそうであっても、何時までも同じだったのだろうか?
 いや、きっと違うだろう。それはサラマンダー男爵自身が証明してくれた――
 彼自身の肉体は長きに渡る封印によってボロボロになっていた。それ故そう遠くない未来限界を迎えると考えて良い。

『どうせ一人に戻るんだ、わざわざ知らせてやる事もないさ……』

 直接聞いたわけではないがそう口にしていたらしい――本当に利用していただけならばそういう風に口に出来るだろうか?
 つぼみはそうは思えなかった。彼はきっと、彼なりにオリヴィエの事を想っていたのだろう――それ故の不器用な発言だったのだろう。

 サラマンダー男爵は『変わった』のだ――オリヴィエとの出会いによって――

 つぼみの記憶する限りでは、あの戦いの後オリヴィエと再び旅をしている筈であり、力の源ももう失われている以上、大した事は出来ない筈。
 とはいえ、一文字隼人や石堀光彦によって偽物、再び心変わり、そもそもプリキュアとの戦いの前から連れてこられている等、考えられる可能性は幾つか存在する事は触れられていた。
 だが、つぼみとしてはやはり一番に考えられる理由はオリヴィエを人質に取られている――それしかないと考えていた。
 これならば、プリキュアとの戦いの前から連れてこられていようとも協力する理由付けとしては十分だ。つぼみ達と出会うよりもずっと前から2人は旅を続けていたのだから――
 勿論、その前提を否定して偽物、心変わり、オリヴィエが封印を解く前から連れてこられた可能性も否定できない。だがそれは主催陣がそれだけ強い力を持っている事を意味している事に違いはない。
 そもそもの前提として主催側がわざわざサラマンダー男爵を組み込んだ事自体が疑問ではある。
 前述の通り、封印されていたせいで殆ど力を発揮できず、肉体的にも限界が近い者を組み込んでも仕方ないだろう。それならばそれこそ見せしめのクモジャキーの方が都合が良い。
 主催側がわざわざ力を集めておいた、取り戻してくれたとしてもそこまでしてやる理由がいまいち不明瞭だ、というより高確率でオリヴィエが必要になるのに少々面倒ではないのか?

 何にせよ、キュアブロッサムとしては一度宣言しておくべきだろう。
 下手に抵抗すれば首輪が爆発される事から考えて盗聴の可能性はある。しかし、多少の抵抗の意志を示した所で反応しない辺り、核心に触れた発言をしない限りはまず問題は無いと考えて良い。
 故に――


「サラマンダー男爵、貴方が私達の事を知っているかはわかりません……だけど貴方の大切なオリヴィエは必ず助け出します、だから諦めず私達の事を信じて待っていて下さい」


 明確な宣言である。
 勿論、この仮説自体絶対の保証は無い。しかし、オリヴィエ人質説自体は既に口にしている為、今更それを前提とした宣言をした所で影響は無いだろう。
 これはキュアブロッサムなりのサラマンダー男爵への配慮なのだ。
 状況的にサラマンダー男爵は敵にならざるを得ない。恐らくは彼を敵視している参加者は数多くいるだろう。
 色々な意味で追い詰められているサラマンダー男爵の支えになれば――そう考えての事である。
 勿論、全く違う真相だったらこの宣言自体道化でしかないのだが――考えても仕方なかろう。

33森をゴーです! 仲間捜しすすみません!! ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:55:18 ID:qhtg3YQs0





「はぁ……はぁ……」


 プリキュアの力ならば数キロ程度を短時間で走り抜ける事もそこまで難しいわけではない。C-2を出発して数十分でC-3に辿り着いた。


「ここは……」


 その場所は川岸――だが、何も無い川岸では無く、戦いの痕跡があった。
 地面は荒れ、木々は折れ、川も所々溢れている始末だ。
 この場所でも戦いが起こっていたという事だ。
 周囲を見回したが死体といったものは見受けられない。川に落ちて流されたというものでない限りは高い確率でこの戦いで死者は出なかった――そう信じたい所だ。
 とはいえ、自身が駆けつけていたならば違う結果もあったのだろうと思うと少々やりきれない。

 実際、この地に来てから最初の放送までつぼみ自身、プリキュアの正体を一切隠し、関係する情報についても全部伏せていた。
 そのお陰で最初に遭遇した石堀からは何の力も無い普通の女子中学生として扱われ実質彼に保護される形で何も出来ないでいた。
 それ故に、D-3辺りで巻き起こった気柱を目の当たりにしても何も出来ず黙認せざるをえず、一文字が三影英介にトドメを刺そうとした時も説得しきれずそのまま仕留められる結果となった。
 無論、正体を明かし何の力も無い少女ではなく力を持った戦える少女である事を明かしたからといって結果が好転したとは言いがたい。
 例えばD-3に向かうとしても逆に石堀を1人放置するわけにもいかなかっただろうし、三影の件についても一文字の方が彼について詳しかった以上はこれまたどうにもならなかっただろう。
 とはいえ、どちらにしても最善を尽くしていなかった事に違いは無い。最善を尽くした上での結果ならともかく、最善を尽くしていなくてこの体たらく、その責任が全く無いとは言いがたいだろう。

 しかし悔やんでいても仕方あるまい。悔しさがあるとはいえ、俯いてばかりでは状況が好転することもない。
 行動を起こさなければ何も変える事など出来ないのだ――


「あ、そういえば……」


 今更な話ではあったが、キュアブロッサムの手元には三影の所持していたデイパックがあった。
 鯖だけでは心許ないという一文字の配慮なのだがよくよく考えてみれば中身を確認していない。
 今後の事も考え確認をしておいた方が良いだろう。

 とはいえ、物によっては考え物ではある。
 殺し合いに乗っていないキュアブロッサムにしてみれば殺傷能力の高い武器はかえって困りもの、使い様の無い道具をもっていても仕方なく、下手に危険人物の手に奪われても困る。
 ガイアメモリの様な道具にしても得体の知れない物を使いたくはないし、そもそもプリキュアに変身できるならそれで十分だろう。
 かといって自身の支給品の様に鯖を支給されても扱いに困る。予備の食料にしても調理すらしていない生ものを支給してどうしろというのだ?


「男爵……多分違うと思いますけど、これ貴方が考えたわけじゃないですよね?」


 念の為、サラマンダー男爵に確認を取る様に口にした。流石にサラマンダー男爵が『よし、キュアブロッサムには鯖を支給してやろう』なんてやっていたら本気で堪忍袋の緒が切れそうだ。
 当然と言えば当然だが確認取った所で反応があるわけも無い。というか実際にその通りであってもわざわざ教えてくれる程親切でもなかろう。


 ともかくどうするにせよ一度確認せねばなるまい。
 だが、1つ懸念があった――使える道具であれば既に三影が使用済みだったのではなかろうか――
 何にせよ開けてみれば全てはわかるだろう。そう考えてデイパックを開ける――


「ナイフ……ですか?」


 そうリアクションを取りながら取り出したるは6本のナイフ的なもの。
 ナイフ的――という言い方になるのはそのナイフの形状が通常のものと異なっていたからだ。
 正直な所、ナイフ自体は武器となるだけではなく使い所が割とあるので有り難――いと言えるのか?
 まず形状が特殊だから普通のナイフ同様に使えと言われても困る(それ以前につぼみ自身ナイフ技能を持っているわけではない)。
 しかも(使うつもりは無いが)武器として使うには少々心許ないにも程がある。
 三影がわざわざこれを使わなかったのも頷けるだろう。普通に殴った方が早い。
 一応、説明書きが付属していたので確認した所、スティンガーというものでチンクという人物が使用していたとある。
 妙な名前――といえばそれまでだが、キュアブロッサムには微妙に聞き覚えがあった。

34森をゴーです! 仲間捜しすすみません!! ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:56:23 ID:qhtg3YQs0


「確かフランス語で5がcinq(サンク)だった筈ですよね、スペイン語やイタリア語も似た様なものだった筈です……もしかしてそっちの人……ですか? でも数字を名前にするのは……」


 疑問は晴れないもののキュアブロッサムの推測は実に正しくチンクの名前自体5を意味している。とはいえ、今の所それについてはこれ以上意味は無い為これ以上は触れない。
 ちなみにチンクは自身の固有技能により金属を爆発物に変化させる能力を持ち、このスティンガーはその力を有効に生かす為の武器である。
 効率的に目標を仕留めるのに都合の良い爆弾、こう言えばそれがどれだけ有効か素人目にもわかりやすいだろう。
 とはいえ、その能力が無い限りは変わった形状のナイフ以上の意味は無い。

 続いて取り出したのは――


「眼鏡……ですよね?」


 今度は何の変哲も無い眼鏡である。いや、それは外見だけの話で何か特殊な力を持っているのかも知れない。例えば透視能力を持っているとかレーダー機能を備えているとかと言った――
 というわけで試しにかけてみる。


「うっ……」


 あまりにも視界が歪んで見えて少々気持ち悪くなっただけだった。
 いや、別にかけた者を不調にするという力があるというわけではなかろう。
 要するに――


「これ、只の度がきついだけの眼鏡じゃないですか!!」


 キュアブロッサムことつぼみ自身も眼鏡を使用しているからわかるのだが、眼鏡というものは視力を矯正する為のものだ。
 それ故に、使用者の視力に合わせて眼鏡の度も異なり、合わない眼鏡をかけたところで歪んだ光景しか見えないのである。
 だが、手元にある眼鏡を懸けた時、想像を絶する程に歪んだ光景が見えた。それはそれだけその眼鏡の度がきついという事だろう。
 言い換えれば、それを使用しなければならない人物の視力は想像を絶するまでに悪いという事、眼鏡無しにマトモにものを見る事など出来ないだろう。
 幸いこちらも説明書きがあった。それによると――『ムースの眼鏡』――ただそれだけである。
 ちょっと待て、要するにムースという人物が使っている眼鏡以外の情報は無いという事ではないか。


「ムースって一体誰なんですか? お菓子の事ですか? それとも整髪料の事ですか?」


 こう口にせずにはいられない。そう言えばシャンプーという変わった名前の人物もいたからその関係者――という都合の良い話も無いだろう。
 それ以前に参加者ではない人物の眼鏡を支給した所で何の意味があるのだ? というかこんなもの三影じゃなくても持て余すだろう。そこまで視力のきつい人物がいるとも思えない。

 何となく本気で堪忍袋の緒が切れそうになるがまだ全て確認したわけではない。全てはそれが終わってからだ。最後の1つは――

 結論から言えば明らかにハズレであった――三影にしてみてもそうであり、それは恐らく殆どの全ての参加者にとって意味のあるものではないだろう。
 始末の悪い事にこちらに関しては他2つと違い説明書きすら存在していない。真面目に主催者の正気を疑いたい所だ。
 だが、キュアブロッサムはその支給品に関しては悪くいうつもりは全く無かった――
 その支給品とは――
 花である、アマリリスの――


「花言葉は『誇り』……それと『内気の美しさ』……」


 その花はある参加者が好きな花である。とはいえ、この地においてはそれ以上の意味を持たないし何故支給されたのか理解に苦しむとしか言い様が無い。
 それでもその美しさに違いは無く、キュアブロッサムはその花を悪く言うつもりなど無かった――

 長々と留まっても仕方あるまい。川の上流に向かった痕跡があった。このまま痕跡を辿り上流に向かえば問題の人物に会えるかもしれない。
 キュアブロッサムはそう考え再び走り出す――

35森をゴーです! 仲間捜しすすみません!! ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:57:10 ID:qhtg3YQs0





 可能であれば同じプリキュアであるキュアサンシャインこと明堂院いつき、キュアムーンライトこと月影ゆりと合流したいところだ。
 彼女達と力を合わせればどんな敵が相手であっても――
 他にボトムと戦った時に共闘した桃園ラブ他4人自分達とは違うプリキュアとも合流し――


「あれ……?」


 ちょっと待て、何か引っかからないか?
 そうだ、確かサラマンダー男爵の事について話した時、一文字から気になる事を聞いていた筈だ。


『沖みたく過去から連れてこられたって可能性もあるぜ?』


 詳しくは知らないが、一文字のいた世界ではBADANという悪の組織が存在していて、一文字は彼等との戦いの真っ最中らしい、だが仲間である沖一也はそれより数ヶ月前BADANが現れたタイミングで連れてこられたらしい。
 それが自分達にも適応されるとしたら?


「駄目ですよそれじゃ……いつきやゆりさんをアテにする事が出来ないかもしれないって事じゃないですか……!」


 そう、いつきがプリキュアになったのはつぼみがプリキュアになってから数ヶ月経った頃でありそれまでは普通の友人でしかなかった筈だ。
 またゆりに関してはダークプリキュアとの戦いに敗れたことで長い間プリキュアの力を失っており、その力を取り戻して復帰したのは比較的最近の事である。
 彼等がタイミング悪くプリキュアの力が無い時期から連れてこられた可能性を何故想定しない? 幾らなんでもその時期の彼女達をアテにするつもりなど全く無い。

 問題はそれだけではない。一文字から仲間の情報は聞いているがその中に村雨良という人物がいる。
 だが、一文字視点では仮面ライダー10号仮面ライダーZXであるという風に語られていたが、沖視点ではまだBADANの尖兵ゼクロスであったらしい。
 つまり、村雨がBADAN時代から連れてこられている可能性もある事だ。一文字からはそうなっていたらぶん殴ってでも止めてやれという風に言っていたわけだが――

 が、実はこれに関してもつぼみ達が無関係とも言えないのだ。正確にはつぼみ達とは別のプリキュア、つまりラブ達の事である。


「聞いた話じゃせつなって昔……」


 そう、ラブ達の仲間である東せつながかつてラブ達の戦っていたラビリンスの幹部イースだったのだ(むしろイースが本名)。
 紆余曲折を経てプリキュアになったらしいのは聞いたが彼女がイース時代から連れてこられている可能性も無いわけじゃない。最悪の場合は彼女と戦う羽目になるのかも知れない――

 とはいえ、そんな最悪なケースを今から考えても仕方あるまい。ただ、それでなくてもラブ達が必ずしも自分達を知っているわけではないという事は忘れてはならない。
 要するにボトムと戦う前から連れてこられているならばそうなっているわけなのだから。
 いきなり『私は貴方と同じプリキュアです』なんて言われて素直に信じてくれるとも限らない。驚いてくれるだけで済めば良いが過度な期待は出来ないだろう。

 それでも同じプリキュアならば信頼には値する事に違いは無い。可能ならば合流したい所ではある。
 また、仮にいつきやゆりがプリキュアの力を持っていない時期から来たとしても過剰に心配する事も無いだろう。
 かつてのボトム戦の時、両名もあの場にいて自分達の戦いを応援してくれた事は確かであり。
 それで無くても元々自分達よりもしっかりしているのだ、無茶する事無く彼女達に出来る範囲でこの殺し合いを止めるべく動いていく事だろう――


 それなのに――


 拭いきれない違和感を覚えていた――


 それは、無意識の内に最初の場にいたゆりの顔が微妙に焼き付いていたからだろう――


 この世の全てが終わったかの様な顔をした彼女の――


 そして――

36森をゴーです! 仲間捜しすすみません!! ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:57:36 ID:qhtg3YQs0





「ガバババァァ……ボボボボボァァァ……!!」


 気が付いたらキュアブロッサムは川の中にいた。


 急いで岸に上がり口の中に入った水を吐き出しつつ息を切らす。


「はぁ……はぁ……」


 事のいきさつを簡単に説明しておこう。
 痕跡を追ったは良いが途中でそれは途切れていた。それでも進行方向に間違いはないとそのまま進んでいたが――
 いきなり穴に落ちてそのまま藻掻いている内に――川まで出てしまったのだろう。


「私……堪忍袋の緒が切れました!!」


 思わずそう口にしてしまった。
 それもそうだろう、川に繋がる落とし穴だったのかも知れないが、それにしては随分と無駄に手が込んでいる。
 というか罠のつもりじゃないのだとしたらそれこそ何の為に掘ったのか理解に苦しむ。
 嫌がらせにしてももうちょっとやり方があるだろう。


 読者諸兄はもうお気づきかもしれないが先の気柱にしろ戦いの痕跡にしろ川に繋がる穴にしろ、これらは全て1人の参加者によって引き起こされたものである。(ついでに前者2つには村雨も関わっている)
 そう、ムースの仲間(?)である響良牙である。つまり、彼女は図らずも彼の痕跡を追ってしまっていたのである。
 だが、このまま進んだ所で良牙に会える可能性は低い。というのも良牙は結局全く違う方向に進んでしまったのだ。
 それ故に、幾ら堪忍袋の緒が切れようともそれをぶつける相手はいないというお話なのだ。

 とはいえ、良牙の痕跡を追う形になったお陰で幸運か不運かどうかは不明瞭ではあるもののある偶然に恵まれた。
 実はキュアブロッサムの進行方向次第ではD-3にて危険人物である溝呂木眞也がいたのだ。更に、キュアブロッサムの進行ルートを横切る形でノーザによって殺戮人形と化したスバル・ナカジマがD-3へと向かっていた。
 つまり、結果的に彼等との遭遇を避ける事が出来たというわけだ。危険人物を放置する事になったのは不運かもしれないが、キュアブロッサム単独では分の悪い相手との戦いを避ける事が出来たのはある意味幸運とも言える。

 幸いな事に溝呂木(及び操り人形にされた美樹さやか)もスバルもキュアブロッサムが通り抜けた事には一切気付いていない。キュアブロッサムの進行があまりにも早かった、精神的な動揺等といった理由である。
 当然のことながらキュアブロッサムの方も彼等の存在には一切気付いていない。


 だが、逆に冷静に考えて見て欲しい、これは少しおかしくないだろうか?
 キュアブロッサムはC-2から川の上流に向かう形でD-4までやって来た。ここまで約1時間強程度でだ。
 勿論、プリキュアの能力があればそれだけの時間で10キロ近くを走り抜ける事は十分可能だ。
 しかし出来るからそのままやって大丈夫という問題では無い。そもそもキュアブロッサムは何が目的で走っていたのだ?
 それは森の中にいるであろう参加者達と接触する為である。
 そう、参加者と接触する事が目的なのに、溝呂木達の存在に気付かず走り抜けた事が問題なのだ。別に彼等は自分達の存在を隠そうとしていたわけではない。
 それなのに気付かないという事は探索をおろそかにしていたと言わざるを得ないだろう。実際、もう少し冷静にD-4を集中的に探索していれば冴島鋼牙、及び一条薫と接触できた可能性もあったのだ。
 とはいえ、それもある意味では仕方ないだろう。何しろ6時間も何もせずにいたのだから、それを取り戻す為に焦燥していたとしても不思議はあるまい。
 目先の事に若干視野が狭くなってついつい見落としてしまったという事だ。
 そしてそれが穴に落ちてそのまま川に流されそうになるというお粗末なミスに繋げてしまったのだ。笑えない話である。

37森をゴーです! 仲間捜しすすみません!! ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:58:21 ID:qhtg3YQs0





 そんなキュアブロッサムではあったが、流石に落ち着いて歩きながら考えている内に自身が少々熱くなりすぎてしまっていたと思い直した。


「もしかしたらえりかが少し頭を冷やさせる為にしてくれたのかもしれません……」


 考えすぎかもしれないが、来海えりかが死してなおつぼみ達を助ける為に力を貸してくれたのではと思うことにした。


「でも危ない所でした、プリキュアに変身してなかったらあのまま溺れ……て……?」


 ここに来て、1つ気になる事があった。
 何故自分達はプリキュアに『変身』出来るのだろうか?
 いや、そもそもそれ自体がある意味おかしいのだ。
 元々自分達はパートナーの妖精(つぼみの場合はシプレ)がプリキュアの種を生み出し、それをココロパフューム等に装填する事で変身を行っていた。
 現在ゆりはパートナーコロンを失ってはいるが、いた当時は彼が種を生み出していた筈である。
 つまり、本来の流れならばパートナーがいなければならない筈なのだ。そうしなければプリキュアの種を用意できないわけなのだから。
 だが、この場では最初から相当数のプリキュアの種が手元にあり、現在のゆり同様パートナー無しでもプリキュアへの変身が可能となっている。

 冷静に考えてみればおかしくないか? これではまるで最初からプリキュアに変身して戦えと言っている様なものではなかろうか?
 それ以前に、一文字達にしても皆仮面ライダーや怪人への変身能力を持っていた。

 自分達は変身する事で戦う力を得ている――だがそれは主催陣にとっては喜ばしい事では無い。
 殺し合いに反逆するであろう戦力をそのまま放置するのはリスクが大きい、サラマンダー男爵からプリキュアの情報は聞き出せる筈だから、障害にしかならないのは予想がつくはずだ。
 その抑止力としてダークプリキュアなど危険人物も参加させたのだろうがそれにしても変身させるメリットが薄い。
 勿論、中には石堀の様に変身能力を持たない物もいる(勿論、つぼみ達同様何かしらの理由で隠しているのも否定できない)だろうが――

 だが、連中は更にガイアメモリを使えば超人に『変身』出来ると説明したが妙に『変身』というキーワードを強調していた様な気がする――
 まるで、変身能力を駆使して戦えと言わんばかりに――


「どうしてあの人達は『変身』に拘るん……ですか?」


 無論、改造人間である一文字達の存在を踏まえるならば変身出来る事が必ずしも良い事では無いし、中にはデメリットしか無い変身もあるかも知れない。
 ガイアメモリによるドーパントへの変身にしても良いものとはどうしても思えなかった。

 わかっている事は、『変身』出来る参加者を中心に集め、『変身』能力を駆使して戦え、という事である。
 何故、主催者は『変身』に拘――


「違います……『変わる』事に何か意味があるのではないんですか……?」


 『変身』、それは結局の所、身を変える事である。言葉を変えるならば『変貌』、『変態』と言っても良いがどちらにしてもその意味は『自身を変える』事である。
 連中の口ぶりから考えて――この殺し合いにおいては『変身』あるいは『変わる事』に意味があるのではなかろうか?

 キュアブロッサムがその事に気付いたのは、彼女自身が元々自身の内気な性格を変えたいと考えていたからだろう。外見にしろ中身にしろ変わる事である事に違いはない。
 『変わる事』、それがこの殺し合いのキーワードではなかろうか?

 勿論、これは何の確証も無い只の仮説でしか無く、仮に仮説通りであったとしてもそれが何の意味を持っているのかは不明。
 これについては他の参加者にも聞いた上で判断したい所ではある。
 そもそもこの推測自体全くの的外れである事も否定できないのだ。それでも頭には入れておいた方が良いだろう。

38森をゴーです! 仲間捜しすすみません!! ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 16:59:25 ID:qhtg3YQs0





 そうして考えつつ周囲を見回しながら進んでいく内にD-5まで辿り着いた様だ。
 時計を確認したがまだ7時50分ぐらい。思っていた以上にハイペースで進みすぎた気がする。
 待ち合わせが18時である事を考えると急ぎすぎても仕方あるまい、当面はこの周囲を探索すべきであろう。
 丁度都合良く川沿いを進行している。今はこの辺りを中心に――


「あれ……?」


 そんな時だった――比較的遠くに白い何かが見えたのは――
 その白い何かは川岸へとふらつきながら歩いている様に見えた――


「アヒルさん……ですか?」


 遠目故に断言は出来ないが、それはアヒルの様に見えた。
 だが何故こんな所にアヒルがいるのだろうか? 
 キュアブロッサムは知らない、そのアヒルが例の眼鏡の持ち主であるムース同様水を被るとアヒルに変身する体質となっていた事を――
 キュアブロッサムは知らない、そのアヒルがその体質になる原因に例の花を好きだった少女の兄が関わっている事を――
 キュアブロッサムは知らない、そのアヒルは今はまだ自身の身に起こった事を把握しきれずその事を知り数分後に悲しみの鳴き声をあげる事を――
 キュアブロッサムは知らない、そのアヒルが自身の全てを失い絶望している事を――
 キュアブロッサムは知らない、この状況に対する最善手を――


「……どうしたらいいですか?」


【1日目/朝】
【D-5/川岸】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、加頭に怒りと恐怖、強い決意、キュアブロッサムに変身中
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム
[道具]:支給品一式×2、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、ムースの眼鏡@らんま1/2、アマリリスの花@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:遠くに見えるアヒルさん(丈瑠)に対しどうする?
1:仲間を捜す、当面はD-5辺りを中心に探してみる。
2:南東へ進む、18時までに一文字たちと市街地で合流する
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。


【支給品紹介】
スティンガー@魔法少女リリカルなのは
三影英介に支給、
チンクの固有武装、ただの金属製ナイフではあるが彼女は自身の固有技能を使い強力な武器として運用している。
勿論、チンク以外にとっては変わった形状のナイフでしか無い。今回は6本セットで支給。

ムースの眼鏡@らんま1/2
三影英介に支給、
ムースの眼鏡、彼は眼鏡が無ければすぐ近くにいるものすら見分けられない程のド近眼である為、非常に度のキツイ眼鏡である。
無論、それ以外に特別な機能など無い。

アマリリスの花@宇宙の騎士テッカマンブレード
三影英介に支給、
相羽ミユキの好きな花

39 ◆7pf62HiyTE:2012/07/16(月) 17:00:24 ID:qhtg3YQs0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

40名無しさん:2012/07/16(月) 18:14:15 ID:9yhOrRFQ0
投下乙です

三影さんの運の悪さがよく判ったw
つぼみは人探しでそれはダメなんだが運がいいのかな
そして殿と最初に出会ったのはお前かw

41名無しさん:2012/07/16(月) 21:52:41 ID:L.sNh98s0
投下乙です。
ようやく参加者が「変身」のキーワードに気づき始めましたね。
変わることに拘ったつぼみが一番最初に気づいたわけか…。
ムースの命の次に大事なメガネがまた一つ犠牲に…。
一文字はちゃんと確認してからつぼみに渡せよぉ…。

42名無しさん:2012/07/17(火) 06:17:13 ID:fUghdAUQ0
投下乙です。
確かに「変身」ってこのロワのテーマとも呼べる、重要なキーワードですよね。
果たしてこれに何の意味があるのか……
で、それはそれとして殿を見つけたつぼみはどうするのかな。

43名無しさん:2012/07/17(火) 17:34:21 ID:Iw/AJ/xgO
大規模予約キター!

44名無しさん:2012/07/17(火) 18:21:06 ID:X/B7.ncc0
こっちに行くのかな

45名無しさん:2012/07/17(火) 19:43:50 ID:I/EiBwzsO
誰の命運が尽きる事やら……殿とカワイソスブルー'Sはもう尽きてるから論外で←

46 ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:53:55 ID:fAXj4N5k0
ダークプリキュア分投下します。

47The Raven Chaser ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:55:35 ID:fAXj4N5k0







 完全にありえないことを取り除けば、残ったものは、いかにありそうにないことでも、事実に間違いないということです――



 ――――――シャーロック・ホームズ







「18人か――」


 漆黒の衣を纏いし少女がそう呟く――
 少女には人間で言う所の名前を持たない――
 何故なら彼女はキュアムーンライトを倒す為に生み出された存在なのだから――
 光のプリキュアに相対する闇のプリキュア――
 ダークプリキュア、それが彼女を識別する呼称である――


 放送が終わり彼女は思考する――


 66人に上る参加者の内6時間で18人――単純計算で4分の1以上が退場した事になる。
 これが多いか少ないか、それを簡単に判断する事は出来ない。
 ダークプリキュア自身は結局この6時間で誰1人仕留める事は出来ていない。
 とはいえ、彼女自身は別にキルスコアを挙げるつもりで戦っているわけではないのでそこまで気にしていない。
 というより、烏合の衆を十何人仕留めた所で意味などない。彼等の持っている所持品を確保できるかどうかの違いしか無いだろう。
 脱線したようだが、この18人という数字は予測よりは若干多い――と考えていた。
 自身が結局1人も仕留められなかったのもあったし、プリキュア共や仮面ライダーといった連中が数多くいるならばそうそう簡単にはいかないだろうと考えていたからだ。
 にもかかわらずこの人数という事は、恐らくは殺し合いに乗った強者が数多くいるという事なのだろう。プリキュア共が守ろうとも追いつかない程の――

 そういえばあの場で真っ先に対抗を宣言した仮面ライダー1号本郷猛の名前も呼ばれていた――
 先に交戦した仮面ライダースーパー1の仲間と思われるその男、どれほどの強さだったのか?
 最初はキュアサンシャインを率先して守ろうとした辺り、少なく見積もってもキュアサンシャイン並の強さはあったと考えて良い。
 それを踏まえて考えれば本郷の強さも同等――それだけの強さであっても生き残れないという事だ。

 が、実の所ダークプリキュアは自身の実力には自信を持っている為、それについてはあまり気にしていない。
 先に述べたとおり、自分の知らない所で何人退場しても気に留める事も無い。潰し合いして勝手に自滅してくれるのであればこちらとしては都合が良い。
 元の世界に戻る為に優勝するつもりではあるが、無駄に力を使う必要も無かろう。1人で65人仕留めようが、最後に残った1人だけを仕留めようが、最後に優勝できるのであれば過程には意味はない。
 言ってしまえば、このまま隠れ続けて最後の漁夫の利を得ても構わないのだ。
 とはいえこれまた先に述べたとおり、倒れた奴の所持品で強化されると厄介なので全く動かないというわけにはいかないだろうが、それについては臨機応変に考えれば良い。


 但し、ある人物だけはダークプリキュア自身の手で仕留めねばならない――
 言うまでも無くその人物はキュアムーンライト、月影ゆりである――


 それこそがダークプリキュアの存在意義なのだ、彼女を打倒し。優勝しサバーク博士の下に戻る、他の事などこの際どうだって良いという事だ。


 放送で彼女の名前が呼ばれる事は無かったが、それ自体はむしろ当然の事、故に全く気に留めていない。


 とはいえ、思ったよりも速いペースである事を踏まえるとキュアムーンライトすら危ないとは僅かに思う。


 何しろ、一度は倒しているわけなので、絶対に倒せない相手というわけではないのだ。
 勿論、それは自分も同じ事、復活した奴には一度はしてやられている。


 それを踏まえて考えれば急ぎ彼女との決着を着ける為に動いた方が良いだろう。


 何しろ、下手をすればキュアムーンライトとキュアサンシャインが合流しかねない状況なのだ。
 キュアマリンと合流されただけでも若干は面倒なのに余計なオマケがこれ以上増えても厄介なだ――


「……なんだ、この違和感は?」


 しかしダークプリキュアは妙な違和感を覚えていた。だが、彼女はその違和感の正体に気付かない――


「気のせいか……馬鹿馬鹿しい……」


 故に気にせずC-8の森を進む――そして、

48The Raven Chaser ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:56:05 ID:fAXj4N5k0





「確かこの辺りだったな」


 辿り着いた場所は先にキュアムーンライト(とついでにキュアマリン)と交戦した場所、その痕跡は確かに残っている。
 キュアマリンを餌にしてキュアムーンライトをおびき寄せようとしたが結局は2人を相手にする結果となり撤退を余儀なくされた。
 キュアムーンライトだけならば勝てただろうが、オマケであってもキュアマリンが加わった事で実質的には敗北したという事だ。
 しかもその原因の一端にはキュアマリンを餌にする為野放しにした自身も関わっているのだから笑えない。


「全く……腕の一本や二本折っておくべきだったか」


 今更ながらに反省するダークプリキュアだった。どうせキュアムーンライトを仕留めれば用済みなのだからあらかじめ瀕死にしておいても問題は全く無い筈だ。
 だが今更悔やんでも仕方ない。オマケだと侮りすぎていた自身の甘さを反省するだけだ。


 ともかく今はこの辺りを調べキュアムーンライト達の行方の手がかりを――


「なんだ――?」


 そんな中、ふと不自然に盛られた土の山を見つけた――あの辺りにいた自身がよく知っている。あの時にはそんなものは無かった筈だ――


「……!」


 調べるべきか? どうするべきか? それを即決する事は出来なかった――
 何故即決できない? 何も無いと断ずるなら捨て置けば良い、何かあると思うのなら調べれば良い、悩む所では無い筈だ――
 何故迷う? 何故迷わなければならないのだ――


 まさかあそこに埋まっているものがわかったというのか――?
 いや、そんな筈は無い、何故なら名前が呼ばれなかったのだから――
 大体、そもそも何故そんな予感を感じたというのだ――


「まさか……な」


 動揺を振り切りその山を掘り返し始める――
 掘り進める内に胸が高鳴っていくのを感じる――
 そこに埋まっているのが『奴』ではない事を願い――


「なっ……」


 そして少し掘り返して『それ』は現れた――


「こいつは……キュアマリン……」


 それはキュアマリンこと来海えりかの死体だったのだ――


「ふっ……」


 そして胸の高鳴りが静まるのを感じつつ落ち着き払う――
 全く、馬鹿馬鹿しい話だ、こんな所にキュアムーンライトが埋まっているわけもないだろうが。
 幾らこの場所がキュアムーンライトと戦った場所だからと言って考えすぎにも程がある。
 ああ、そういえばこいつの名前も呼ばれていた様な気がするな。どうやら違和感の正体はそれだったか。


 何にせよ、キュアムーンライトで無いならばどうでも良い、全く無駄な力を使った――


 そう考え足早に立ち去ろうとしたが――


 何故かその場から立ち去れない――


 いや、それ所か再び鼓動が高鳴ってくる――


 違う――


「待て……何故だ?」


 そう、明らかにおかしいのだ。


「何故、ここにキュアマリンが埋葬されている? いや……それ以上に不可解なのは……」


 おそらくこの疑問はこのタイミングでキュアマリンを見つけたダークプリキュアだから気づけた事だろう――





「誰がキュアマリンを仕留めた――?」

49The Raven Chaser ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:56:35 ID:fAXj4N5k0





 さて――読者諸兄にもわかりやすく状況を整理しておこう、
 ダークプリキュアは運良くキュアマリンを捕獲し彼女を餌にキュアムーンライトをおびき寄せようとした。
 そして大体午前4時より少し前、C-8の森にてキュアムーンライトと交戦、キュアマリンが加わった事でダークプリキュアはこの場から待避――
 そして午前6時過ぎ、殆ど同じ場所にキュアマリンが埋葬されているのをダークプリキュアが発見した。

 以上の事から分かるとおり、午前4時より少し前の段階ではキュアマリンは生存していた。だが、それから2時間強の間に彼女は何者かに殺されそのまま所持品を奪われこの場所に死体を埋葬された事になる。


 真面目な話、ダークプリキュアは警察でも探偵でも無い為、別にキュアマリンが何処でのたれ死のうがどうだって良い。
 その為本来ならばこのまま捨て置いても構わない――にもかかわらず彼女は真剣に彼女の死の理由を推理しようとしている――


 恐らく、その時点で彼女は気付いていたのだろう――キュアマリンを仕留めた人物の正体に――


 だが、彼女は無意識の内にそれを認められないでいた――だからこそ、その事について考え始めたのだ――


 勿論、危険人物の数多いこの舞台、戦いの果てに敗れ去り死する事など別段珍しくも何ともない――
 ――だが、この場所を調べた所、自分達が戦った以上の戦いがあったとは到底思えない。
 それを踏まえるならばこの場所で戦いがあったとは考えにくい。
 ならば別の場所で戦いが起こり、殺された彼女をこの場所に移して埋葬した――
 ――それも可能性は低いだろう、周辺を探ったがそんな痕跡は無かったし、それ以前にここまで死体を移動させる理由が無い。


「それ以前に……キュアムーンライトがそうそう簡単にキュアマリンを殺させるわけもない……」


 そもそもの前提として、キュアムーンライトがいる状況でキュアマリンをやすやすと仕留めさせるとは思えないのだ。


「ならば、キュアムーンライトとキュアマリンが別行動をしている間に……いや、これもないか」


 別行動をしたとも思えない。プリキュアは基本的に単身よりも複数組んで戦う事で力を増す。
 手分けして事に当たる――という可能性も無くは無いが、あの状況から即刻別行動を取るとは思えない。
 何よりキュアマリンは元々仲間を探していた筈だから、あそこから即刻別行動をとるのもまず考えにくい。
 また単身で戦う事が厳しいと考えるならばなおのこと別行動を取る事も無いだろう。
 それ以前にこの場所で埋葬されている以上、殆ど動いていないと考えるのが自然だ。まさか別行動をとったけど片方は動かなかったなんてお粗末な話もあるまい。


 だが、そうなると難しくなってくる。
 キュアマリンが殺されたのはこの場所だ、しかし戦いが起こった痕跡は無い。
 更に言えばキュアムーンライトの存在から単純に仕留めること自体厳しい。

50The Raven Chaser ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:57:20 ID:fAXj4N5k0


 そこで今一度キュアマリンの死体を確認して見る。
 だが、思ったよりも損傷は見受けられない――


「私との戦い以上のダメージはない……いや……これは……」


 そんな中、鋭利な刃物で刺された痕を見つけた。恐らくはこれが致命傷になったと考えて良い。
 刺し傷1つで殺せるかが少々疑問だが毒か何かの類を使えば不可能では無い。
 それ以上の負傷の痕跡が見えなかったことから戦いでは無く完全な不意打ち、あるいは奇襲によって仕留められたという事だろう。


「だが、あのキュアムーンライトが見落とすだろうか……?」


 しかしやはりキュアムーンライトの存在がネックになってくる。キュアマリン如きならば自分でも簡単に出来るがキュアムーンライトのいる状態で不意打ちなんて至難の業だろう。


「何だ……何かが引っかかる……」


 それでもダークプリキュアはもう1つ引っかかりを感じていた。


「何だ……何を見落としている……」


 ダークプリキュアは今一度考える。
 そもそも何故、キュアマリンは埋葬されていた? それは誰かが埋葬したのだろう。
 先程キュアサンシャイン達か? いや、もし彼女達がキュアマリンを埋葬したのならば先の戦いではまずこういう言葉が出るだろう。


『ダークプリキュア、お前がキュアマリンを?』


 キュアマリンの死を知れば確実に動揺する。その上で敵対している自分が現れれば真っ先にこういう言葉が出なければおかしい。
 にもかかわらずキュアサンシャインはその類の発言を一切せず、それどころか敵対しているにしては奇妙な発言を繰り出してきた。
 その発言についてはこの場では置いておくが、何にせよキュアサンシャイン達は彼女の死を知らない。つまりは埋葬していない事になる。


「それ以前に一番に考えられるのはキュアムーンライト……待て」


 ここでキュアムーンライト視点で考えてみよう。
 何かしらに奇襲を受けキュアマリンが致命傷を負ったのであればまずどうするのであろうか?
 最初に行うのは襲撃者への対処、そして――負傷したキュアマリンを――


 改めて、キュアマリンの死体を確かめる――そして――あるべき筈のものがない事が分かった。


「手当てした痕跡が全く無い……どういう事だ?」


 そう、キュアマリンの死体には応急処置を行った痕跡が無かったのだ。
 奇襲された時点で既に助からなかった?
 いや、それにしても自分との戦いで消耗した時点である程度の応急処置は必要だろう。それすら行わなかったのは不可解としか言い様が無い。
 大体、キュアムーンライトの性格を考えるならば、例え治療の見込みが無くとも最善を尽くすだろう。なのに最善を尽くさなかったという事は――


「最初から治療を行ってはいなかった……つまり、キュアムーンライトはキュアマリンを見捨てた……」


 いや、見捨てたというのは少し違うだろう、恐らくは――


「違う……キュアマリンを殺したのは……キュアムーンライトだという事か……」


 導き出されたのは――たった1つの真実――


 だが、キュアムーンライトが下手人だとするならばつじつまはあう。
 あの戦いの直後で安堵したキュアマリンを不意打ちで殺すのは容易い、
 死体を埋めてすぐに立ち去ればキュアムーンライトが殺した事などまず気付かない。
 殺し合いに乗った参加者が襲撃してきて殺されたよりもよっぽど可能性が高い、というよりキュアムーンライトが存在する以上はまず不可能に近い。
 しかしこれならばその問題はクリアだ、何しろ一番の障害と思われたキュアムーンライト自身が下手人なのだからだ。
 手当ての跡が無くて当然だ、キュアムーンライトは最初からキュアマリンを殺すつもりだったのだ、そんなことする必要も無い。





 分かってしまえばなんてことの無い話だ、キュアムーンライトがキュアマリンを裏切って殺したというお話だ。

51The Raven Chaser ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:58:12 ID:fAXj4N5k0





 ダークプリキュアは急速に頭が冷めていくのを感じた。そう、別になんてことない話なのだ、キュアマリンが誰に殺されたってどうだって良いのだ、
 キュアマリンがキュアムーンライトに裏切られ殺された所で――


「……けるな……!」


 内から何かが湧き上がってくる気がした――


「巫山戯るな……! キュアムーンライト……!! 何故貴様が仲間を殺すのだ!!」


 感じていた苛立ちは頂点に達した。
 憤っていたのだろう――キュアムーンライトが信頼する仲間を裏切り惨殺した事を――

 最初見た時点でそれに薄々気付いていた――ある意味では直感に近いものだったのかも知れない。
 だが、それを認めたく無かったのだ。だからこそ、あらゆる可能性を考えそれを否定しようとした。
 しかし考えれば考える程それが一番可能性が高い事を認めざるを得なくなってしまうのだ。
 それがどんなに信じがたい真実であったとしても――


 ある意味で言えばダークプリキュアにとってキュアムーンライトは絶対的な存在とも言える。
 ダークプリキュアが闇、そして悪の象徴であるのならば、キュアムーンライトは光、そして善の象徴なのだ。
 故にキュアムーンライトは自身を中心に仲間を集め闇を打ち払う光となるのは至極当然のことだ、
 だが、その彼女がそれに背き仲間を惨殺する――それがキュアムーンライトの光なのか? 違うだろう、そんなのは光ではない! 断じてない!
 ダークプリキュアが打倒したかったキュアムーンライトはそんな奴だったのか? そんな筈無いだろう?
 サバーク博士が自身を生み出してまで打倒したかったキュアムーンライトはそんな愚かな行いをする人物だったのか? そんな事は絶対に無い。

 言ってしまえばキュアムーンライトはダークプリキュアだけでは無くサバーク博士まで裏切ったという事なのだ。


「許さんぞ……キュアムーンライト、サバーク博士は仲間を裏切り惨殺する様な奴を倒す為に私を産みだしたわけではない!! そんな奴の為に……サバーク博士は……!!」


 最早怒りは留まらなかった――キュアムーンライトに対する憎悪や憤怒は最高潮に達していた。


 このまま怒りに任せ全てを破壊し尽くそうか――そう考えたが――


『あなたがゆりさんの『妹』だっていうことも! あなたのお父さんがあなたを愛していたことも知ってる!』
『サバーク博士は、あなたを本当の娘だと思って愛してた! あの人の愛は、ゆりさん一人のものじゃなかった!』


 脳裏に響くキュアサンシャインの言葉がそれを踏みとどまらせた――


 そうだ何故自分はここまで怒りを感じているのだ?
 サバーク博士を裏切った事が許せない? これではまるでキュアムーンライトも自分と同じサバーク博士の『娘』で自分の『姉』だから怒っているみたいではないか。
 馬鹿馬鹿しいではないか、奴と自分は『光』と『闇』、どちらかがどちらかを消し去るまで戦うだけのものでしか無いか。


「何をやっているんだ……私は……奴と私が姉妹であるわけがないのに……」


 怒りは急速に冷め、何時もの冷静な面持ちに戻る。
 そう、例えキュアムーンライトが仲間を殺そうと関係は無いのだ――どちらにしても自分が倒すべき相手なのだから――

52The Raven Chaser ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:58:38 ID:fAXj4N5k0





「そう……真実はたった1つ……私と奴は光と影、光が影を消し去る、あるいは影が光を飲み込み月が1つになるまで戦うしかないのだ……そして最後に勝つのは私だ!」





 気が付けばキュアマリンの死体は元の様に埋葬されていた。無論、ダークプリキュアが行ったわけだが彼女にしては些か不可解な行動だろう――


「……なんだ、死んだのではないのか?」


 ふと振り向くと、キュアマリンことえりかが立っているのが見える。どうせ只の幻なのだろうがダークプリキュアにとってはどうでも良い話だ。
 そんな中、彼女は口を開き何か言おうとしている――


「何故、埋葬したのかだと……? ふん……只の気まぐれだ」


 その行動の理由はダークプリキュア自身も実の所わかっていなかった。気が付いたら元の様に埋葬していたとしか言い様が無い。
 案外、キュアマリンを惨殺したキュアムーンライトに対する意趣返しなのかも知れない。
 どちらにしてもキュアマリンを哀れんでという事ではないのは確かだ。


「安心しろ……すぐに貴様の仲間……キュアブロッサムとキュアサンシャインも同じ所に送ってやる……もっとも、私に出会う前に殺されているかも知れんがな……大人しくその様を見物しているんだな」


 これ以上、死人と話す趣味など無い。故にこれ以上は振り返らず歩き出す。
 結局の所すべき事は変わらない。キュアムーンライトを倒し、この殺し合いに優勝しサバーク博士の所に戻る――それだけだ。


 だが――本当に何も変わらなかったのだろうか?
 なぜ、キュアマリンに対し『キュアムーンライトも同じ所に――』とは言わなかったのだろうか?
 やはり、どんなに認めずとも、キュアムーンライトに対する憤りは完全には収まらなかったのだろう。
 勿論、キュアサンシャインが語った通り自分と彼女が姉妹である事を認めるつもりなど全く無い。
 普通に人間として生まれた彼女と人形として作られた自分では生まれ方が全く違う。
 だが、こういう考え方もあるのではないか? 生まれ方が違う以外に違いはあるのかと――
 自身が生まれた事にサバーク博士と彼女が関係した事は揺るぎない事実なのだ。勿論、それを親子とか姉妹と呼んで良いのかは全く別問題ではあるが――
 そうでなければここまで強くキュアムーンライトを意識するわけもないし、彼女の凶行にここまで憤る事も無い。


 とはいえ、今ここでそれを言った所でダークプリキュア自身決して認めはしないだろう。
 どちらにしても、ダークプリキュアのすべきことに変わりはない。


 そう、今すぐにでもキュアムーンライトを追跡せねばならない。
 だが、問題は何処に向かったかだ――


 まず、キュアムーンライトがキュアマリンを殺した理由は不明(というかダークプリキュア的に考えたくも無い)だが、殺し合いに乗っている事は確実。
 それ故、このまま仲間を探すという可能性は低いだろう。現状でキュアサンシャイン達と合流していないことからも単独で動いていると考えて良い。
 とはいえ、何も知らないキュアサンシャイン達と合流されればどちらにしても面倒である事に違いは無い為それは避けるべく急いだ方が良い。


「まず南方面には向かってはいない筈だ」


 先の戦いの後ダークプリキュアはE-8まで移動し、それから戻る形でC-8まで移動した。その道中で遭遇していないのならば南方向に移動したとは考えにくいだろう。
 となれば、それ以外の方向――

 では、何処に向かう?
 ここで彼女の視点に立って考えてみよう。彼女が優勝狙いであるならば、参加者を可能な限り迅速に仕留めに向かう筈だ。あのタイミングでキュアマリンを仕留めたことから考えても、積極的に動くだろう。
 となると一番に考えられるのは人通りが多く人が集まりそうな場所――


「B-7のホテル……あの辺りか?」


 他の参加者の動きを踏まえて考えても、参加者は隅にある灯台よりも道中にあるホテルに集結しやすい。
 参加者を一網打尽にする場所としては相応しい場所だろう。
 ダークプリキュア的に人が沢山いる場所に向かいたくはないがキュアムーンライトが向かうならば話は別。例えどんな障害があろうとも向かうべきだろう。
 とはいえ絶対的な確証があるわけではない。

53The Raven Chaser ◆7pf62HiyTE:2012/07/17(火) 23:59:20 ID:fAXj4N5k0


「あれがあればこんな苦労はなかったのだがな……」


 それはキュアムーンライトが所持していたプリキュアの種の片割れである。彼女を一度倒した時に確保していたもので、互いに共鳴し合うのを利用して場所を探し出した事もあった。
 だが、どういう理由か今はそれはない。とはいえないものをねだっても仕方ないだろう。
 例えそれが無くても関係は無い、必ず見つけ出す事に違いは無いのだ。

 主催者共はその代わりにパラシュートらしきものを支給してはくれたが正直何故こんなものを自分に支給したのか理解に苦しむ。何しろ自分が使う状況が想定できないのだ。
 というか、説明書きでは『天道なびきが火車王金之介に10円で売りつけようとした』と書いているがそもそも天道なびきは誰なのだと言わずにはいられない(注.貴方が最初に襲撃した少女(天道あかね)のお姉さんです)。


 そうして足早に歩を進めていく――そうしていく内に


「!!」


 何かを感じ目を閉じて耳に全神経を集中させる――そして、


「聞こえるぞ、戦いの音が――」


 方向はB-8の辺り、そこで何者かが戦っている音がかすかに聞こえた――
 誰が――いや、理由はわからないが確信していた――


「あの近くにキュアムーンライトがいる――」


 そして程なくして戦いの音は止んだ、決着がついたのだろう。
 だが、あの戦いでキュアムーンライトが負けるわけもない。恐らくはすぐさまホテルに向かうのだろう。
 ならば自身も急がねばならない、翼を展開し足を速める――


 漆黒の追跡者(チェイサー)は走る――月光をこの手に掴む為に――


 自身と彼女の関係がどのようなものであっても関係は無い。互いが健在である限り、その戦いの行く末にそのたった1つの真実は現れる事だろう――


 だからこそダークプリキュアは彼女を何処までも追い続ける――


「追い続けてやる……奴をこの手で倒すまでな……!!」


【1日目/朝】
【C-8/森】

【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、キュアムーンライトに対し強い憤り
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、10円パラシュート@らんま1/2、ランダムアイテム0〜2個
[思考]
基本:キュアムーンライトを倒し、優勝してサバーク博士のもとへ帰る
0:ホテル方向に向かう。
1:キュアムーンライトは次こそ倒す。
2:キュアサンシャインの言葉が気にかかる。
3:キュアムーンライト以外の参加者については現状能動的に襲撃するつもりはない。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※いつきの「少し未来から来た」という発言や「ゆりの妹」などのキーワードに少なからず動揺しています


【支給品紹介】
10円パラシュート@らんま1/2
ダークプリキュアに支給、
勿論、何の変哲も無い普通のパラシュート。
作中においては10円を使わせる勝負においてなびきが落下中の火車王金之介に対し10円で売りつけようとした。
但し、金之介は結局買う事は無くかった。それを見ていた2人の反応。
あかね「恐ろしい男…ついに10円パラシュートを買わなかった…」
乱馬「おれはタダで渡さなかったなびきの方がコワい」

54 ◆7pf62HiyTE:2012/07/18(水) 00:00:30 ID:20NVqrtg0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

55名無しさん:2012/07/18(水) 00:37:39 ID:GZth4SOg0
例の大規模予約、面子見てみると主人公が5人もいる…
いったいどうなるんだ…

そしてダクプリ予約、投下乙!
あー、やっぱダクプリはムーンライトの凶行に怒るんだな
光としてのムーンライトを倒したかったんだろうからなあ…

しかし、読み終わってからしばらく気付けなかったけど、なびきの10円パラシュートとか、バーローとか中の人ネタが満載でワロタw

56名無しさん:2012/07/18(水) 01:12:07 ID:UH4ynKNQO
投下乙です!たった一つの真実見抜く、見た目はプリキュア、思考は悪人、その名も(ryってなんでさw

57名無しさん:2012/07/18(水) 16:56:19 ID:PrNGWrK60
投下乙
自らを悪と認めるからこそ善であるムーンライトが悪になることを許せない
そういう心情が伺える話でした

しかしダープリが「漆黒の追跡者」とは言い得て妙だわ
色的にも思考的にも中のヒト的にもw

58名無しさん:2012/07/18(水) 20:58:51 ID:hPhzb5SE0
投下乙です

悪に拘り過ぎというか、ムーンライトに依存してるというか正義の味方も生身の人間だけどなあ
第三者から見たら愚かとも思えるし哀れとも思えるなあ
なるほど、中の人ネタかあw

59名無しさん:2012/07/19(木) 16:20:41 ID:yAhOC2yc0
投下乙です。
ああ、何という真実はいつも一つw 今のゆりさんと出会ったらバーロって言ってほしいけど……無理かw

60 ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:51:17 ID:NgZuP.WI0
ただいまより、予約分を投下します。

61「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:52:49 ID:NgZuP.WI0

 親友────その言葉に該当する人物を、この殺し合いの中で何度か思い浮かべた人間は数多いるだろう。
 だが、その言葉通りの友と呼べる人間は、彼ら一人一人によって違うし、意味の理解の仕方も多種多様だ。


 花咲つぼみにとっての、来海えりか。
 志葉丈瑠にとっての、梅盛源太。
 美樹さやかにとっての、鹿目まどか。
 スバル・ナカジマにとっての、ティアナ・ランスター。
 五代雄介にとっての、一条薫。
 響良牙にとっての、早乙女乱馬。
 村雨良にとっての、三影英介。
 一条薫にとっての、五代雄介。
 冴島鋼牙にとっての、涼邑零。


 少なくとも、現時点でこの面々の心に強く出ている名前はそうだった。
 他に友達がいないわけではない。ただ、最も強い想いを持つ相手というなら、その名前だ。
 少なくとも彼らはその相手を大事に想っていた。あるいは、良牙と乱馬などは競争心や対立心を持っている一方、隅に隠れていた友情であったかもしれない。
 何にせよ、彼らはその友が死なないことを願っている。────もしくは、つい数時間前までは思っていた。
 だから、親友の死んだ人間を眼前にした彼らは、少しばかり友を想う気持ちを強めたのだろう。


 だが、この複数のカードとは共存できない存在がいた。────美樹さやか、スバル・ナカジマの同行者である溝呂木眞也という男である。
 彼には現在、親友と呼べる人間が此処にはいなかったし、これからできようはずもなかった。
 ダークメフィストとの邂逅以来、闇に溺れた男には、既にそんな感情がないのだろう。


 誰それの死も、彼にとっては関係のないことで、その周囲にその人間の親友がいるというなら、むしろゲームに利用させてもらおうとさえ思っていた。
 溝呂木は、このゲームの扇動者と呼ぶに相応しいかもしれない。
 そんな男であった。




★ ★ ★ ★ ★




 川岸で、花咲つぼみという少女は膝にアヒルを抱えて少し撫でた。
 はぁ、と溜息が漏れる。
 結局、この奇妙なアヒルをつぼみは放っておけなかったわけで…………その結果、このアヒルをどうすべきか迷っていたところであった。
 このアヒルは不思議なことに首輪を巻いている。
 即ち、このアヒルはこのゲームの参加者だということだ。



(どうしてアヒルさんが参加させられたんでしょう……)



 つぼみがこのアヒルを放っておかなかった理由は、このアヒルの鳴き声を聞いたからだった。
 このアヒルは、ただ「ガァァァァァ……」と悲しげに、虚空へとそんな慟哭を放った。
 その声はあまりにも人間的な感情に包まれていて、まるでこの殺し合いの惨状を嘆いているようだった…………だから、つぼみも放ってはおけず、こうして膝に乗せているわけだ。

 更に言うならこのアヒル、なんと羽が折れている。
 既に飛べない────あまりにも悲惨な状態にあるアヒルだった。
 童話のように白鳥になったとして、この羽でどうして飛べようものか。
 ここに連れて来られる前からの怪我だったのだろうか。それとも、連れてこられてから誰かにやられたのだろうか。

 ……まあ、前からの怪我だったのではないかと思う。
 その根拠を挙げるとするなら、このアヒルはまず外傷をほぼ負っていないことである。
 羽だけがボロボロになっており、わざわざアヒルに対してこんなことをするのも難しい。アヒルであろうと、抵抗はするだろう。
 それに対して、わざわざ人間でいう拳にあたる部分だけを折るなど、面倒だ。相手が人間ならば、バイオレンスな話であろうともありえるし、まだやりやすいだろうが、アヒルに対してそんなことをする意味はわからない。
 だから、ここに来る前になんらかの形で負った外傷ではないかと思った。
 どうであれ、そんな状態のアヒルを殺し合いに狩り出すというのは酷な話である。



 ────さて、



 つぼみは知らないが、このアヒルは志葉丈瑠という男性である。
 これは殺し合いに乗った無様なマーダーの末路とも言うべき醜態だった。
 ショドウフォンを使いシンケンレッドとなることもままならず、またメタルメモリを使いメタルドーパントとなることもできず、武器さえも手に取れない。
 だから、言ってみれば放心状態なのであった。
 深い絶望感と虚無感が丈瑠のすべてを押さえ込み、眼前の少女に対する殺意さえ沸かさせない。
 遠い向こうを見つめる瞳が、潤んでいる。



 彼が思い出しているのは、楽しかった時間への後悔だろうか。
 既に戻ることはできず、つい先ほどの覚悟さえも疎ましいとさえ思うほどの憂鬱。
 それが、彼に少女の瞳を直視させなかった。

62「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:53:24 ID:NgZuP.WI0



「アヒルさん、私の言葉は理解できますか……?」



 つぼみは、そんなことも知らずにアヒルに訊いた。
 宮沢賢治の童話じゃあるまいし、動物から返答が来るとは思えなかったが、試しに一言、だった。
 とりあえず、相談相手とかそういうものが欲しかったのだろう。
 誰でもいいから、少しだけ聞いてほしいことがあったのだ。
 丈瑠はそれに頷くこともできたが、そうはしなかった。
 どうにでもしろ、という意味だった。



「……やっぱり、わかりませんよね」



 自分に対して呆れたような口調で、溜息を吐くように言った。
 何にせよ、アヒルに対して敬語とは、なんと礼儀正しいのだろうか。
 その礼儀正しさは流ノ介を彷彿とさせる。さすがに彼もアヒルに対してはこんな言葉を使わないだろう。
 だが、流ノ介のことを思い出すこと────それはこのアヒルにとっては、ストレスでしかなかった。
 それを発散させる術はない。
 メモリが使いたい。メモリを使って────
 と妙な衝動が走ったところで、少女は再び口を開く。



「それでもいいです。私はキュアブロッサム、本当の名前は花咲つぼみです」



 そこで初めて、丈瑠は少女の名前を知ることになった。
 変わった格好、そして名前である。シンケンレッドやドーパントと同じく、何かしらの変身をしたのだろうか。
 花咲つぼみという名前は、何の変哲もないように見えて、名前が花に関連する言葉ばかりという奇怪な名前だったので、丈瑠の中でも印象に残っている。
 まさかキュアブロッサムなどという二つ名があるとは思ってもみなかったが、どうやらただのお花畑な少女ではないらしい。
 それはわかった。彼自身、同じようなものだったからだろう。



「…………アヒルさんは、この辺りで誰かに会ったりしませんでした?」

「……」

「青い髪の子……キュアマリンを見たりしませんでしたか?」



 真先にそう訊いたのは、彼女が来海えりかのことを忘れていなかったからだろう。
 もしここまでに、このアヒルがえりかと会っているということはなかったのだろうか、とつぼみは思ったのだ。
 何にせよ、彼女は別にそれが凄く気がかりだったというわけでもない。もしえりかの死に場所がわかるというのなら、そこで手を合わせて一度、本当のお別れをするべきだろう。
 けど、そうなるのはえりかの死が100パーセント確実なものと認めてしまうようで怖いし……できれば、えりかの死を確実にしてしまうような返答が返って来ないような質問をしたかった。
 なのに、こう訊いてしまう。
 えりかの話がしたかっただけなのかもしれない。
 埋め合わせのできるものがないから、せめて少しでもその穴に泥をかけようとしたのだろう。


「そうですか……」

「……」

「キュアマリン、……来海えりかは、私の親友です。
 でも、今はもう……彼女はこの世にいません」



 アヒルが、それにはっと気づくような仕草を見せたので、つぼみは驚いた。
 丈瑠も来海えりかという人物が死んでいることは知っていた。
 だから、その名前を聞いた瞬間、彼女は死んだということがわかっていた。
 青い────その特徴は、丈瑠の中で流ノ介のそれと重なる。

63「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:54:00 ID:NgZuP.WI0



「えりかは、私を変えてくれた……それくらい元気いっぱいの女の子でした」



 もはや、語らうような口調ですらなくなっていたが、丈瑠はその涙さえ流さない屈強さに、これまで彼女にどんな変化があったのかを想像していた。
 一見すると弱弱しささえ感じる、頼りない姿ではあるが、強くなっていったのだろう。
 肉体的にだけではなく、精神的にだ。
 まるで自分とは違う反応である。────嫉妬に狂って同行者を惨殺した狂気の侍・志葉丈瑠とは。



「えりかがもういないなんて、私はまだ信じられません……」



 それでも、まだ精神的に弱い部分はあったのだろう。
 彼女の涙は丈瑠の羽に当たったし、上から水滴が降っているのを感じた。
 表情を覗き込むような真似は野暮だからしない。
 彼女の泣かないという意志が脆かったのではないだろう。ただ、どうしても耐え切れないことはある。この年頃の子は本来、耐えなくていいのだから。



「………………アヒルさん、行きましょう!」

「グェ?」



 思わず、声が出る。彼女の切り替えにではない。彼女はすぐに泣き止むだろうと思っていた。
 彼が驚いたのは、てっきり自分はここに射続けるものだと思っていたからだ。まさか移動させられるとは思っていなかったのである。
 だが、彼女は、それをさせないつもりらしい。動けないアヒルがこのまま禁止エリアなどの影響で死ぬのを見過ごせないのだ。だから、当然のような行動だった。
 明らかに殺し合いには邪魔なアヒルを抱えるように手に取ったまま、立ち上がる。



「とにかく、加頭さんや男爵と戦う仲間を探すんです!」



 つぼみは、つい先ほどの方針を穿り返す。
 もはやその目に涙がないのは確かで、声もはっきりしていた。
 深く悲しみはしないし、まだ確定した情報じゃない。
 だから、先ほどから悲しみを殺して行動してきたし、前向きにやっていたのだ。



「あ! 誰かいます……」



 つぼみは、自分たちと同じ側の川岸に誰かがいることに気がついた。
 自分と同じくらいだろうか。ピンクの髪と、青い髪の女の子である。
 同じ制服を着ているところを見ると、きっと同じ学校なのだろう。それだけは確実だ。
 つぼみは、何の危惧もないままに二人に声をかけた。



「おーい!」




 それに気づいた二人へと、つぼみは手を振る────その姿は、キュアブロッサムのものではなかった。既に変身を一度解いているのだ。
 一切、何かを心配することなどないままに。





★ ★ ★ ★ ★





「私は花咲つぼみって言います。えっと、その……よろしくお願いします!」



 つぼみは言う。
 少なくとも今は彼女は、一切二人に警戒しておらず、様子が変だとも思ってはいなかった。
 そう、少なくとも彼女たち二人の自己紹介を聞くまでは────。



「私は美樹さやか。こっちが、鹿目まどか」

「よ、よろしく……」

「え?」



 彼女の紹介の言葉に、つぼみは驚愕する。
 鹿目まどか────その名前は放送で呼ばれたのではないか。
 読みにくい名字だったので、凄く印象に残っている。だから、勘違いのはずがないと思ったのだ。



「どうかした? 花咲さん」

「いや、別に……」



 しかし、当人を前に「死んだはず」などと言うのはさすがに失礼というもの。
 それゆえ、つぼみは勘違いだと思い込ませることにして、会話を続けることにしようとした。
 だが、先に口を開いたのはさやかの方である。

64「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:54:51 ID:NgZuP.WI0


「ところで花咲さん、そのアヒル……」



 彼女も、さすがに気になったのだろう。
 この眼前の少女の、最も気になる部分だ。
 どうしてアヒルを抱えているのか。邪魔じゃないか。



「え? ああ、この子は、すぐそこの川岸で拾いました!」

「この首輪……私たちと同じものじゃない?」



 首輪のないさやかが言うのも変だが、そのアヒルの首には首輪が巻かれている。
 ソウルジェムに巻かれているような、小さな首輪だ。
 つぼみも、そういえばさやかに首輪がついてないと思ったが、それは後にして聞かれたことに答える。



「はい! そうです。…………だから、この子も参加者なのかなぁ、なんて思ってます」



 名簿のどの名前がこの子のものなのかはわからないが、パンスト太郎などという明らかに人間の名前としては不自然なものもあったし、この子はそのパンスト太郎なのではないかとつぼみは思った。恥ずかしいので、その名前を呼ぶことはないが。
 奇しくもその名前は、このアヒルが人間だった頃に殺した仲間の名前であった。



「へぇ……変わった参加者ねー」

「え、ええ……凄く変わってると思います」

「そうだね……」



 しばし沈黙が流れる。アヒルの目を見つめながら、三人は何を言うこともない。
 アヒルなどと同等に扱われ、そして殺しあわされているわけか。
 そう思うと、色々と感慨深い思いに差し迫られる。



「……あの、美樹さん」

「んー?」

「つかぬことをお聞きしますが、美樹さんって首輪がありませんよね」



 少し前につぼみが気になったことを、とりあえず質問した。
 首輪がないに越したことはないのだが、こんなアヒルには首輪があり、さやかには首輪がない。
 そのうえ、同じ条件と思しき生徒・まどかにはちゃんと首輪がついているのである。
 これは明らかにおかしい。



「……もしかして、美樹さんって”ソウルジェム”という物の持主なんじゃないですか?」



 つぼみは、広間で聞いた言葉────首輪は「ソウルジェム」に取り付ける、というのを思い出す。
 この短時間で解除したとは思えないし、その「魂の宝石」と直訳できるものに、さやかの首輪がとりついているのではないかと、つぼみは睨んだ。
 他にも何らかの事情があるかもしれないが、真先に思いついたのはそのケースである。



「……どうして?」



 さやかの様子が少し不機嫌になった。
 肯定でも否定でもなく、質問で返される。字面としては違和感のない会話なのだろうが、その聞き方が肯定を意味するような感じがして、恐ろしげだった。



「えっと……」



 その理由をはっきり言いたいところなのに、既にそれを言わせてもらえる雰囲気ではない。
 つぼみは黙ってしまう。雰囲気に呑まれ、何故そう思ったのかが咄嗟に口に出せなくなったのだ。
 もう少し気軽な気持ちで訊いたはずなのだが、どうやら彼女にとってはそう単純な話ではなかったらしい。 つぼみは有無を言わずに謝ろうとしたのに、先にさやかがそれをした。



「……っと、ごめん。変な空気にしちゃったかな」

「さやかちゃん……」

65「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:55:26 ID:NgZuP.WI0


 それにつられて、つぼみも謝らなければという気分になった。
 一歩遅れたが、つぼみはあまり重苦しい気分でなく謝る。
 さやかのものとは違い、全力で頭を下げてのものだ。



「こちらこそ、ごめんなさい!」

「いや、いいよいいよ。そういえば最初に加頭が言ってたね。私がちゃんと全部話す」



 さやかはそのまま、軽く笑いを挟みつつ、ソウルジェムについて、魔法少女についてを話し始めた。
 その軽快な笑みは、つぼみに対する敵意がない証だった。
 少なくとも、つぼみは悪意などを持っていないし、周囲に誤解されるようなことをするタイプでもないので、さやかとしても汲みしやすかったのだろう。
 つぼみがさやかの話で一番気にかかったのは、魔法少女のことである。



「……えっと、つまり美樹さんたちも変身能力があるってことですか?」

「えっと、そうだね。あと、ちょっと近くを散策してる巴マミっていう人も魔法少女だから」

「え? 巴マミ……?」



 はっと気づいたが、やはりその名前も放送で呼ばれたはずだ。
 まどかの名前といい、一体どういうことなのだろうか。
 しかし、やはり質問をするのもいただけない。
 そうこう考えているうちに、またさやかから一言返される。



「で、花咲さん。『美樹さんたち”も”』ってどういうこと?」

「あ、ああ……そのことなんですが」



 つぼみもまた、これまでの話をする。
 仮面ライダー2号、一文字隼人のこと。
 タイガーロイド、三影英介のこと。
 暗黒の騎士のこと。
 非人間の容姿をした変身者たちのことを、つぼみはちゃんと話し始めた。



「へぇ。魔法少女みたいなのがたくさんいるなんて」

「う〜ん、ちょっと違うような……」

「でも、まどかは違うし、花咲さんも違うでしょ?」

「え、いえ……! 私は…………」



 つぼみは、ココロパフュームとプリキュアの種を、両手に構える。
 二つの支給品をそれぞれの指に持った彼女の表情は至って真剣。
 プリキュアの種はココロパフュームへとはめ込まれ────



「私は、『大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!』 ……………………………に変身するんです」



 ────彼女の姿を、キュアブロッサムへと変身させた。
 名乗りと説明を混同しつつ、キュアブロッサムのポーズでそう言うと、さやかは口を大きく開けたまま固まった。





★ ★ ★ ★ ★

66「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:56:03 ID:NgZuP.WI0





 溝呂木眞也は単身で散策を続けている。
 つい先ほどまでさやか、スバルと共に行動していたのだが、今は単独行動。
 その理由は二つある。いずれも単純だ。
 一つは、つぼみとの接触の際に厄介になるからだ。この大男が「マミさん」などと呼ばれる姿は目も当てられない。相手方が殺されようが構わないが、もう一つの理由がそれも躊躇させる。
 ────後方からやって来る三名の無作法な人間たちを察知し、その三名をまださやかとスバルに近づけたくなかったからである。


 三名とは、五代雄介、響良牙、村雨良。……凪だけがいないが、何にせよ五代はここでは何かと因縁のある相手のひとりだ。
 ともかく、その背後に寄って集る三人の男が早い段階でさやかやスバルと出会うことは避けたかった。
 再会からぶつかり合うまでが早過ぎるというのは面白味に欠ける。あの戦いからまだ二時間。もっと満遍なく、有意義に時間を使ってこそのゲームだ。
 第一、スバルの実力はわからないし、ファウストは戦力面ではバケモノ三人を相手にできるほどじゃない。
 交戦となると、さやかたちは圧倒的に戦力が未知数で、現在では「死」によって五代たちの精神を痛めつけるくらいしかできないのだ。
 それで、溝呂木は、それに気づいて、さやかとスバルの二名を川岸に向かわせ、そこで待機するように命令すると、三人がどこへ向かうのかの確認を始めた。



「……ほら、もう川の音が聞こえてきましたよ」

「その川が見つかれば、もう呪泉郷は近いんだな!」

「いや、まだ結構あるけど……」

「…………というか、良牙。お前は川に近付くと危ないんじゃないか」



 三人の男性が、そのような会話をしているのを溝呂木は木の陰で聞いた。
 なるほど、どこまでも邪魔をするというか……。川沿いの道を使って呪泉郷に行く気だというのだろうか。
 だとすると、面倒だ。川岸でさやかなどと交戦する可能性がある。



「……まずいな」



 と、溝呂木はあまり表情を変えずに言う。
 五代にせよ、良牙にせよ、村雨にせよ、呪泉郷に向かうのはわかった。
 だが、その課程で川沿いの道を行かねばたどり着けないわけではないだろう。むしろ、直線で行っても確実にそこは通らなくてよい道である。
 ただし、方向音痴がいる場合を除けば、だが。



「……仕方がない。少し相手をしてやるか」



 溝呂木は懐からダークエボルバーを抜き、それを真横に引いた。
 闇の力が溝呂木の中で増大し、顔が割れるような光景が周囲に晒される。
 そして、────溝呂木と同化している、『もうひとつの溝呂木』が現れる。
 その名はダークメフィスト。
 死神の戦士が、その姿を陽に晒す。



「一番厄介なのは……」



 五代でもない、村雨でもない。
 変身能力を有する二人なら、もしかすれば咄嗟にそれを避けられるかもしれない。
 だから、真先に狙いを定めた相手はバンダナを巻いた男────良牙である。
 年齢的にも一番若く、一番未熟であるように見えたし、あの気柱さえなければ最弱だろう。



「よし…………」



 良牙の背中を目がけ、ダークメフィストはメフィストクローから緑色の光弾を発した。





★ ★ ★ ★ ★

67「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:56:33 ID:NgZuP.WI0





「……ッ危ない、良牙!」



 ────そのメフィストショットと呼ばれる光弾に気づいたのは、村雨良であった。
 村雨はその反射神経を用い、良牙の体を庇うように飛び掛る。
 良牙と村雨の体が倒れ、メフィストショットは前方の木の幹を焼く。


 ドゥグンッ!!


 しかし、光弾自体の威力は音として伝う。
 現象を具体化したのはあ、弱弱しく突っ立っていた成長過程の小さな木だったが、充分な破壊であった。
 決してその威力の見せしめのためではない。しかし、残虐性を確かとする行動。



「……何だ!?」

「……すまない、良!」



 一瞬、三人とも何が起きたのかを解せなかった。
 しかし、音と、木の表面から舞う煙、という事象は、次の一瞬で何が起こったのかを知らさせる。
 そう、これは奇襲だ。そして、その弾丸か何かが飛ばされた方向を眺めながら、三人は戦慄する。

 ダークファウスト────美樹さやかのもう一つの姿に酷似した怪物が、そこに立っていたのである。
 メフィストクローの鋭利な刃の切っ先を向けながら、ダークメフィストは敢然と立っている。



「…………溝呂木、眞也?」



 五代も、その特徴から彼が溝呂木なのだと気づく。
 そう、彼の爪────それは、凪が言い放った特徴の一つである。
 そして、五代は彼に真先に訊かねばならないことを訊く。



「さやかちゃんは……さやかちゃんは、どうした!?」



 メフィストは答えない。答える必要がないのだ。
 ただ、次の攻撃の準備を確かにしたまま、構えている。ダークウルトラマンといえど、攻撃の際に”溜め”のポーズを取る必要があったのだ。
 奇襲が成功しなかったことを、おそらく少しは嘆いているだろうが、それは大したことではなかった。



「変身」



 先に体を変化させたのは村雨────否、ゼクロスであった。
 相手が変身してかかってきた以上、躊躇はない。



「変身!」



 五代も、それに一歩遅れてクウガへと変身する。
 赤と赤。二人の赤き戦士が、ダークメフィストへと向かっていった。
 メフィストとしても、極力ならこの人数相手に戦うのは避けたいところだ。
 うまい具合に引き離したいところであるが、まずは戦うのみだ。


 ゼクロスは電磁ナイフを、クウガは己の拳を武器として前方に走っていく。
 そんな二人と良牙に対し、メフィストは無差別に光弾を発し始めた。
 威力ある攻撃をするにはある程度力を溜める必要があるのだが、まずは威嚇のために、それをある程度乱発している。
 まずは力の証明から始め、相手を臆させるのだ。


 ゼクロス、クウガ、良牙とメフィストの戦いがここに始まった。





★ ★ ★ ★ ★

68「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:57:15 ID:NgZuP.WI0





「…………魔法少女、じゃないわよね…………?」



 さやかは目を見開いて驚いていた。
 つぼみが変身したキュアブロッサム────その威光に、そして先ほどと違い、精悍になった彼女の表情に。
 可愛らしい衣装は、まどかが好むであろう姿。桃色が彼女のイメージカラーとそっくりだ。



「これは、プリキュアです!」

「はぁ……」



 キュアブロッサムが威風堂々、さやかに言う。
 流石のさやかも気圧されたらしく、一歩引いたような形になってしまった。



「美樹さんも魔法少女に変身できるんですよね! これで私たちは百人力です!」

「そう、だけど……派手すぎっていうかなんていうか……」



 さやかはそのキュアブロッサムという戦士をどこか認められずにいた。
 彼女には、「代償」はあるのだろうか……という疑問である。
 少なくとも、首輪が首についている以上、魔法少女とは全く別の存在のはず……。
 だとするなら、彼女はプリキュアというものになる際、一体どんな代償を払ったのか。
 それが気がかりだった。────それが少なからず、嫉妬を帯びた疑問だったのは、当人も自覚してはいない。

 また、つぼみはそんなさやかの辛いバックボーンも知らない。
 それゆえ、その瞳は輝いていたし、ともかく仲間が集まったことが嬉しそうだった。



「美樹さんたちの魔法少女っていうのはどんな姿なんですか?」



 さやかはそう問われて渋る。
 何と言っていいやら……ここで変身しろというのも酷な話。
 魔女や敵が出るわけでもなく、その行動自体がさやかにはデメリットしかない。



「あんまり変身しちゃいけないことになってるんだ。悪いけど、その時までおあずけ」

「そうですか。でも、それでもいいです。私だって、同じですから」



 つい先ほどまでキュアブロッサムも変身を躊躇していた。
 それは人目を偲ぶ必要がある……そのプリキュアの性ゆえであった。
 魔法少女も同様なのだろう。



「……そうだ、鹿目さん。一つだけ真剣に聞いておかなきゃならないことがあります」



 不意に、つぼみは、先ほど疑問に思った一点について考えた。
 その表情は、つい数秒前の嬉しそうな表情ではない。凄く真剣な話だったから、真剣な表情で訊くべきだ。
 第一、人の死などが関わる内容であるため、迂闊なことは訊き方はできない。
 ともかく、彼女は気がかりなことをそのままにはしておけなかったのだろう。



「なに?」

「さっきの放送で、一応鹿目さんと巴さんの名前が呼ばれましたよね。でも、鹿目さんはここにいるし、巴さんも近くにいると言いました。
 どういうことなんでしょう。放送で呼ばれた方も、もしかしたら生きてるかもしれないっていうことなんでしょうか?」



 そう、鹿目まどかも巴マミも放送で呼ばれた名前だ。
 放送で呼ばれた死者のうち、その死について知っているのは三影英介のみ────その三影も、この目で確かにその死を見届けたというわけではない。
 そのため、今つぼみが考えているのは「放送の情報が100パーセント信用できるのか」という部分だ。
 さやかを信じていない、というわけではない。
 だが、そんな認識すら無いさやかは、不快感を露骨にむき出しにした。



「はぁ?」

「……え?」

「放送? 何のこと?」



 放送で呼ばれた────その意味は、今のさやかにとっては、「学校の放送のようなもので召集をかけられた」という意味としか思えなかった。
 それもピンポイントにまどかとマミだけ。
 それだけならまだいい。
 だが、そこで生きているとか何とか言うのは意味がわからないし、つぼみの台詞全体の意味が解読できなかった。

69「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:58:14 ID:NgZuP.WI0


「あの……死んだ人の名前と禁止エリアを放送する放送です」

「死んだ人の名前?」



 さやかもまどかも、あまり良い表情ではなかったが、つぼみもこの事を置いてはおけない。
 何やら、さやかは放送のことを知らないらしいし、双方の認識に食い違いがあるというのを、一つの情報として取り込み、何かしら考察しなければならないだろう。



「すみません……気を悪くしないでください。
 もしかしたら、お二人とも聞いてないだけかもしれませんが、私や一文字さん、それに石堀さんは男爵の放送を聞きました。
 ……その放送で、鹿目さんや巴さんは死んだって……」



 ──────その時、さやかの様子が変わる。




「……馬鹿言わないでよ!」



 最初の注意を無視するが如く、さやかは物凄い剣幕で怒り出した。
 それに順ずるように、まどかが言う。



「そうだよ! いくら何でも、ちょっと酷いんじゃないかな」



 本来のまどかがこう言うかどうかはわからない。……が、まどかに擬態した『スバル』がそう言った。
 彼女はとにかく、美樹さやかと仲良くすればいいのだ。アクマロの命令通り。
 少なくとも、まどか他数名の死は確実に認識していたし、さやかが混乱し続けているだけなのは明白。
 正しいことを言っているのはつぼみの方だというのはわかっていたが、それでも黙ってさやかの味方をする。



「……でも、確かに聞いたんです。その放送で、私の友達の名前も呼ばれました」

「へえ、そうなんだ……」

「来海えりか。私と同じプリキュアの、キュアマリンだった人です」



 これで何度目かになる言葉であった。
 親友の死を他人に告げること……それは、アヒルを含めて何人も行った。
 そのたびに、そのことに慣れたのか、不思議と悲しみが薄れていった。
 決意に変換されたと言ってもいい。何も、悲しみが薄れたからといって、何も考えずに口から出ているわけではない。



「…………で、その腹いせに人の友達を死人扱いしたっていうわけ?」

「そんなこと……!」



 違う。
 さやかの言っていることが違うのではない。
 さやかの様子がおかしいのだ。
 そう、まるで「まどかの死、マミの死」という事実に過剰な反応を示しているかのように、その話題だけ有無を言わせないような返答ばかり帰って来る。
 優しさの欠片もないような、そして根拠もないような斜め上の回答ばかりが、つぼみに帰ってきてしまう。



 ──────そう、



 さやか自身、どこかで友達の死を自覚したうえで、こうして凶行に走ろうとしているのかもしれない。
 だから、真実に目を向けることを恐れたように、真実を教えて来ようとするものを遮断する。
 その結果、どういうわけか、まどかがさやかの元にやって来た。
 それで、完全に麻痺したさやかの神経は、つぼみにこれ以上何かを言わせることを拒否したのだろう。

70「親友」(1) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 10:59:13 ID:NgZuP.WI0


「そんなことない? じゃあ、どうしてまどかやマミさんが死んだなんて、本人の目の前で言うの?」

「それは……放送で言われたことを……!」

「あのさ、正直、やめてほしいんだよね。そういう嫉妬はさ! まどかに、マミさんに謝って!」

「私は……!」

「謝らないなら、私はあんたを許さない」



 さやかは、何かを必死で否定するような早口で、つぼみを責め立て始めた。
 つぼみの言葉は途中で遮るように。そして、何も聞かないように。



「……絶対に、許さない」



 そして、まるで友を想う少女のように────友達の悪口を言われて、それに沸点が達した、友達想いの良き少女のように呟いて。
 それで、彼女は魔法少女へと変身した。



「まどか、逃げて。この子、もしかしたら本当にまどかを殺すために襲ってくるかもしれない」

「…………でも」

「私の言うことが聞けないの!?」



 だが、その言葉は友を想う少女というより、ただ現実から逃れようともがく道化のようで────。



「うん! ……わかった」



 まどかは────スバルは、言われた通りに逃げる。
 一緒にいるだけでなく、しかしさやかとの関係を確かなままにするために。
 アクマロに言われた通り、彼女はさやかと仲良くしなければならないのである。
 だから、彼女は一旦、その場を逃げていった。



「……美樹さん、ちゃんと話を聞いてくれないで、戦おうとしてくるなんて…………私、堪忍袋の緒が切れました!」

「かかってこないなら、私が先に倒してあげる!」



 かくして、プリキュアと魔法少女がぶつかりあうことになってしまった。
 溝呂木がこの場にいたらば、一体どんな反応をしただろうか。
 少なくとも、この状況を知っていれば、彼は惜しんだのだろうな、と思われる。
 一匹のアヒルは、その様子に嫌悪感を催しながら、しかし脱力感にも囚われながら、その戦いをキュアブロッサムの腕の中で見送っていた。

71「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:00:21 ID:NgZuP.WI0




 ────スバル・ナカジマは、まどかの姿のまま森を駆ける。
 機を見て、サイクロン・ドーパントに変身しようとしたのである。
 その姿のまま乱入すれば、まどかとさやかの仲が極めて悪くなるということはない。
 その戦闘に介入したうえ、キュアブロッサムを撃退し、その場を去り、その後川岸で「まどか」としてさやかと落ち合えばいい。
 そう、それでアクマロの言う通り、さやかとの仲を保ったままキュアブロッサムを仕留めることができるはずだ。



「……ここまで来れば大丈夫かな」



 まどかの声、まどかの姿でスバルはそう呟いた。
 まるでまどかの面影を感じさせない、冷淡な表情のままで。
 そして、サイクロンメモリを片手に掴んで、スバルはサイクロン・ドーパントへと変身する。


 ──サイクロン!──


 仮面ライダーの変身に使われるメモリ音ではない。これはドーパントへの変身だ。
 その音は、スバルの中でしか響かない。
 周囲に誰もいないようだったし、スバル自身は周囲の様子について気にかける必要はないのである。
 だから、静寂の中に迫力ある男性の声が聞こえようと、誰も気にしない。
 それが、サイクロン・ドーパントという怪物への変身を、一切の阻害なしに成功させたのだ。


 さて、さやかたちのところへ向かうか。
 さやかの味方として────アクマロ様の命令通り。


 だが、そんな折、サイクロン・ドーパントの耳に爆音轟く。
 小さな爆音であったが、それが気にならざるを得なかった。
 ここからあまり離れていない────ごく近くの距離だ。
 放置しておけば、さやかやキュアブロッサムの戦いに交わる可能性も考えられた。


 優先すべきはさやか────これは紛れもない事実だが、不穏分子は早いうちに排除しておいた方が良い。
 少なくとも、キュアブロッサムがさやかより強いとは、彼女には到底思えなかったし、さやかは『まどか』の協力を下手すれば拒む。
 そう、この場合は爆音の方へ向かい、キュアブロッサムやさやかと接触する可能性のある者を排除すべきなのだ────。


 サイクロンは、竜巻となり、そちらへと向かっていった。





★ ★ ★ ★ ★





 メフィストはゼクロス、クウガ、良牙の三人を前に自分には勝算が薄いことも感じていた。
 良牙はともかく、残りの二人は強敵だ。99パーセント機械のサイボーグや、願いを叶える霊石を組み込んだ古代戦士────さて、どのように戦っていくか。


 ───ゼクロスは、めまぐるしいスピードでメフィストの元へと駆けてくる。


 風を切る音が一瞬遅れて聞こえるくらいに、その速度は凄まじかった。
 が、一方のメフィストも置物のように突っ立ってはおらず、電磁ナイフを構えたゼクロスの縮地の如き突進を、うまい具合に上方へと跳び、何ということもないという風にかわす。
 メフィストのいた地面に、ようやく風を切る音が鳴った。



「……ハッ!」



 上空のメフィストは次のゼクロスの攻撃を予測したがゆえ、木の枝にメフィストクローを突き刺しぶら下がる形になった。
 彼の確認されている限りの装備から考えれば、彼は次に衝撃集中爆弾やマイクロチェーンを引っ掛けてくるだろうと、そう感じたのだ。
 空中で身動きが取れないはずのメフィストに向かって、適切な行動だろう。どちらにしろ、空中でメフィストの体を爆ぜる攻撃だ。

72「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:02:03 ID:NgZuP.WI0



 全身の力を腕に込め、肩を回すような動作でタイタンソードを跳ね返す。
 それで怯み後方へとバランスを崩してしまうクウガに、メフィストは隙を感じる。


 ────全身からパワーを溜め、暗黒の球体を作り出す。


 その球体が小さく分裂し、ゼクロスを、クウガを、良牙を目がけて飛散する。
 あるものは木々に当たり、あるものはゼクロスに当たり、あるものはクウガに当たる。


「うえっ!」

「ぐっ……!」



 良牙は上空へと跳び避けたが、隙のあったクウガや、攻撃の準備に取り掛かったゼクロスはその暇がなかったのだろう。
 ほぼこの戦闘と関わっていない良牙は、結局回避もしやすかったわけだ。特に、あのような単調で足元を狙った攻撃は。



「大丈夫か!?」



 良牙が二人に呼びかける。
 ゼクロスは何も言わず立ち上がり、クウガもまた何も言わなかったがサムズアップを返した。
 ともかく、二人はあの攻撃の急所命中だけは回避し、すぐに次の戦闘態勢へと変化させたのである。
 本能が、その攻撃の直撃を避けたのだろう。


 だが、仮に直撃を避けたとしてダメージを負っていないわけではない。
 クウガもゼクロスも、消耗はある程度大きかった。
 タイタンソードを杖に、クウガはその剛健な体をのし上がらせる。
 その瞳は決して敵対をやめず、メフィストを睨みつけていた。



「……五代、何故そんなになってまで戦う? お前の戦いは、人を突き放していくだけだぜ?」



 メフィストは、そんなクウガに語りかけた。
 ただ、この場の三人の戦士に、攻撃させない隙を作っておきたかっただけで、この言葉で闇に堕とそうなどという甘い目論みはない。
 彼は、自分がクウガやゼクロスよりも格段と上にいる存在であることを印象付け、メフィストに手出しすることの愚かさを知らしめたかっただけなのだろう。そう、強者然とした様子で語らいかけることで、自身の無力さを痛感させるのが狙いだ。
 そして、吐く言葉は常々正論のみを撒き散らす。溝呂木自身の行動は、言葉の説得力を消し去るようなものだが、これは聞き分けの良い人間にはどういうわけか利いてしまうのだ。
 偽善者は、「自責の念」────それに浸りたいために、反論をしないのである。



「凪のような合理性がなけりゃ、結局大勢の命を救うことはできない。
 あのさやかとかいう子供に同情しているようじゃ、先が思いやられるな……。
 その偽善じみた行動の結果、お前はここで凪という仲間に愛想を尽かされた」

「……」

「お前の考えなんて、誰も理解しない。ファウストを守るという行動は、結局自己満足でしかないぜ?」



 メフィストを見据えるクウガの視線。それは、つかず離れずというべきか。
 彼の戯言を鵜呑みにはせず、しかし真剣にその言葉のひとつひとつを聞き入れている。
 精神面を攻撃するようなものではない。ただ、合理的な判断とは何か────その答えを、クウガは頭の中で組み立てた。
 いや、既に組み立っていたから、メフィストが話し終えるのを待っていただけなのかもしれない。
 そのようなメフィストの鎌も、五代雄介を前には無力だった。



「……自己満足とか、偽善とか……そういう言葉だと思われたって、俺は俺の思いに嘘はつきたくない!」



 タイタンソードの用途を杖から剣へと戻すと、クウガは言う。
 これは決して、体制を取り持つための力ではない。
 五代に何故、こうした牙が与えられたのか────その答えが、ここにあるから彼は言う。

73「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:02:44 ID:NgZuP.WI0



「……お前みたいな奴のために、誰かの笑顔がなくなるのを見たくない……! だから、俺はさやかちゃんも、他のみんなも絶対に救って、絶対にみんなで帰りたいから……!」



 クウガが剣を持ってメフィストへと立ち向っていくのを見て、ゼクロスもまた攻撃態勢を再開する。
 十字手裏剣がメフィストの体へと散弾のように投げられ、その全てがメフィストクローで地面へ叩き落とされる。
 その隙をつき、クウガがメフィストへとタイタンソードを振り上げた。回避手段たるメフィストクローが使えなくなった瞬間だからだ。
 しかし、それを受ける直前、メフィストの右足がクウガのわき腹へと当たる。回避の準備をしたわけでもない、咄嗟の行動であった。



「ぐぁっ!」



 と、クウガが真横へと蹴飛ばされ、彼の肉体が木に激突した。
 葉っぱが地面に舞い落ちるところを見ると、これはなかなかの衝撃だったのだろう。
 木にもたれるように倒れたクウガだが、その立派な隙を、今度はゼクロスがカバーする。



「衝撃集中爆弾!」



 ゼクロスの体内で生成される小型の爆弾が、メフィストの足元を爆ぜさせる。



「────何っ!?」


 地雷でも浴びたかのように、メフィストはそのまま吹き飛ばされた。
 一度、このようにメフィストが劣勢になると後は袋叩きだ。
 二人の戦士、そして一人の傍観者が敵である以上、メフィストは太刀打ちする術を失う。
 爆煙の中に消えようかと思ったが、それもなかなかに難しい。
 何せ、かなり近い距離にクウガがいるのである。



(面倒な奴らだ……)



 クウガとゼクロス、二人の戦士との戦いを強いられた男は、己の勝利も、己の死も確信していない、中途半端な気持ちで煙が掻き消えるのを待っていた。
 深く傷ついたわけでもないが、これは相手の精神面でも一つのスイッチとなりうる。
 一撃も当てていなかった彼らが、ついに初撃に成功したのである。



 ──────だが



 そんなメフィストに、思わぬ助けが現れた。
 先ほどクウガが衝突した際の落ち葉を巻き込む、勝利への追い風が。



「…………そうか、お前かぁっ!」



 四人の前に、小さな竜巻がやって来たのである。





★ ★ ★ ★ ★





 キュアブロッサムとさやかの戦いにおいて、キュアブロッサムには決定的に不利な点が一つ存在した。
 そう、アヒルの────丈瑠の存在である。
 キュアブロッサムは、レイピアを向けてくるさやかを前に、アヒルを抱きかかえながら、人知を超越した跳躍力で後退するしか、戦法はなかった。
 魔法少女とプリキュア、そのどちらも俊足は一つの自慢である。



「……美樹さん、目を覚ましてください! 別に私は鹿目さんや巴さんのことを悪く言ったわけじゃ……!」


 シュンッ、シュンッ。
 何度説得しても、返って来るのはさやかのレイピアから発される殺意の音。
 一瞬前につぼみが居た虚空を突き刺す、凶器の姿────それは一歩間違えば、つぼみと丈瑠の命がないことを示していた。



「口を開けば言い訳ばっかり!」

「ち、違います……!」



 川の上流へと向かって後退し、キュアブロッサムはレイピアを避けるだけ……戦闘というには一方的で、あまりに見栄えの悪いものではあったが、彼女たちは命の危険すら孕んでいた。
 ブロッサムは無論、レイピアの一撃が致命傷となる。
 いくら身体が強化されているとはいえ、細長い凶器を一身に受ければ痛覚を麻痺させるほどの致命傷となるだろう。第一、さやかのレイピアは強化を施されたものだ。



「目を覚ますのはアンタでしょう!? 自分の友達が死んだからって、他人の友達にまで干渉するのはやめてっ!
 まどかもマミさんもきっと迷惑してるんだから!」

「だから…………話を聞いてださい!」



 そう返して、レイピアの攻撃を避けた時である────。
 はっと、キュアブロッサムことつぼみは、言い知れぬ違和感を抱いた。
 まどかもマミさんも……という台詞の、ある部分。


 ──巴マミ──


 その名前についてだ。
 その少女は、果たしてここにいるのだろうか?
 そうだ、鹿目まどかという少女には会ったが、巴マミという人物には会っていない。
 先ほどまで一緒に行動していたという話なのに、彼女が来る様子が一切ない。
 これはおかしいのではないだろうか。

74「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:03:41 ID:NgZuP.WI0


 キュアブロッサムは、激しい行動をやめ、急に静まり返ったように────そして、何かを考え直すようにして川辺に立ち止まる。
 あまりにも無抵抗すぎて疑問に思ったのか、さやかはそこへ一撃加えようとは思わなかった。
 怒りを理由にキュアブロッサムを襲っていたさやかには、このように抵抗や逃走をやめ動かなくなったキュアブロッサムに止めを刺す価値を見出せなかったのかもしれない。
 興が削がれたような形で、さやかの怒りは一時的に収まった。



「どうしたの? 急に黙り込んで」

「…………あの、巴さんっていう人は、一体どこにいるんですか?」

「え?」



 さやかも、はっと気づいたように攻撃を一瞬やめた。
 何か、違和感を感じたらしいが、やはりキュアブロッサムに対する敵意は拭えず、粗い言い方で返す。



「近くを散策してるって言ったじゃない! 天国にいるとでも言うつもり!?」

「いえ。…………もし、本当に散策しているとするなら、遅すぎませんか?」



 さやかも、そう言われて違和感の正体に気づいたのかもしれない。
 マミ────彼女はどうして、まだ自分たちのところへ帰ってこないのだろうか。
 それを思うと、確かにおかしい。
 マミはここにいない?
 そういえば、近くを散策するだけなのならそう時間はかからないはずだ。



((まさか……))



 二人は、同時にある考えを浮かべた。
 マミを生者と考えたなら、こんな長時間帰ってこないのはおかしい。
 さやかにとっては、マミは一つ上の先輩だ。魔法少女ではあるが、プリキュアなどの人外がいるこの場で、マミが殺されるということも、
 ありうるのではないか?



「……つぼみ、だっけ? とりあえず一時休戦。私は今、マミさん捜すのを優先しなきゃいけない」



 初めて下の名前で呼んだのだが、それに深い意味はない。
 とにかく、敵対しても「花咲さん」と呼び続けるのが不恰好に思ったからだろう。確かに、そうするとつぼみが誰に対しても敬語というのは、丁寧を通り越し異常とさえ思える。



「……私も手伝います」



 キュアブロッサムは、マミの捜索に名乗りを上げる。
 彼女は別に、マミの生死に関してさやかに不信感を持っているわけじゃない。
 だから、マミが誰かの襲撃に遭い、下手すれば殺されているというのなら、助けなければならないと思っていた。



「……ちょっとあんた、何言ってんの?」

「巴さんも魔法少女と言いましたよね?
 その巴さんが、もし本当に危ない目に遭ってるなら、美樹さんだけで行くのは危険です」



 そうキュアブロッサムは説明する。
 魔法少女が単身行動するだけでは、力不足と考えたのだ。
 魔法少女が卓越した身体能力を有するようになっているのは、先ほどの戦闘で充分わかった。
 だが、それでも対等に戦えない相手ならば、もう少し息を飲んでかかる必要がある。



「……それでも無理。そう言って、見つかったマミさんをどうにかしようっていう魂胆かもしれないし」



 さやかはとことん疑り深かった。
 その現在の性質は、先ほどからの会話で十二分わかっているつもりだったので、キュアブロッサムはもう動揺することもなく返す。

75「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:04:23 ID:NgZuP.WI0



「そんなことしません。そんなに心配なら、私は変身を解除した状態で歩きます」

「あんたがどうしようと、私は変身したまま行くよ」

「構いません」



 敵対した人間が変身状態にも関わらず、変身形態を捨てて行動する。それは紛れもない自殺行為だ。
 咄嗟に変身するというのも大変だろうし、それは間違いなく戦力の放棄だ。
 さやかが突然、つぼみの胸を一刺しにすればつぼみは死ぬ。



「…………そこまでされちゃ仕方ないかな。あんたたちも連れてってあげる」



 さやかは、素直さの欠片もない返事をつぼみに投げつけた。
 だが、その雑に投げつけられたボールをキャッチすることさえ、キュアブロッサム────いや、その変身を解除したつぼみ────は喜んだのである。





★ ★ ★ ★ ★




 サイクロン・ドーパントの乱入により、クウガやゼクロスは翻弄される。
 どう猛攻を受けた訳でも無い。ただ、その介入はリズムを崩すのに十分なものなのであった。
 二人はメフィストを袋叩きにするつもりなどはなかったが、それでも二人で倒す未来をどこかで予感していたのだろう。それを崩壊させるのが、第三勢力の介入である。
 敵か味方か。それは現時点ではわからないにしろ、無視して戦闘を続けるわけにはいくまい。
 ゆえ、二人は目の前の竜巻の戦士を相手に、どうしようかと悩んでいた。

 戦うか。戦わされるのか。或いは、その交戦を妨害するのか。



(ファウストと共に行動するよう暗示をかけたはずだが……まあいい。結果的には役に立った)



 危機に陥ったのではないが、メフィストはサイクロンの乱入を撤退の好機と感じた。
 二、三人を相手に善戦はできないだろうというのは感じてはいたがそれ以上に問題となるのは────そう、サイクロンがメフィストとしての溝呂木を認識していないことにある。
 この場での戦闘は、ただの無差別な攻撃。
 暗示が解けたのか、それとも彼女自身の考えあってのことか、ともかく彼女はここに来た。
 それならば、彼女が以前溝呂木たちにしようとしたのと同じように、この場の超人たちに無差別な攻撃を仕掛ける可能性は無きにしも非ず。
 まあ、どちらにせよこの機会を溝に捨てるわけにもいかない。



(後は任せたぜ)



 ダークメフィストは、爆煙と竜巻の中に、消えていった。
 だが、クウガとゼクロスは介入者のみを見据えていた。
 油断する暇、追う暇はない。
 その場で行動を切り替え、試練を乗り越えて戦う必要があった。



「────お前は、」



 ゼクロスが呟く。
 前方の敵には、仮面ライダーの如き巨大な眼、腹部のベルト状の装飾、まるでマフラーを模したかのような首回り────その異形といい、仮面ライダーとの相似を感じた。
 ただ、容姿についてはクウガほど似てもいない。
 しかし、この戦士が数時間前、仮面ライダーと呼ばれていたことも確かであり、ゼクロスはそれをどこかで感じていたのかもしれない。
 ──その戦士に、クウガ以上の因縁を感じながら、その反面で根拠なき因縁を振り払いなが──
 それだけ呟いて、その続きを言うことはなかった。

 そして、その曖昧な一言は、結果的に正体を問う疑問形として認識されたのだ。

76「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:05:12 ID:NgZuP.WI0



「私はアクマロ様の下僕、そして貴方たちを倒す者────」



 アクマロという名前は、はっきりとしたカタカナの字面で見覚えがある。
 筋殻アクマロ、それは名簿で目を引いた名前の一つであった。
 彼女は、その人物と知り合いらしいが、その言葉の意味するところはわからない。
 アクマロに従順な存在であるのはわかるのだが、優等生の五代にはそれがクウガとゼクロスを倒すのに繋がる意味がわからなかったのである。



「そうか、奪う者か……」



 ゼクロスが真正面の怪人だけを見つめながら────しかし俯いたような暗い雰囲気を醸しつつ、何かを溜めるように呟いた。
 前進する一歩手前のような構えと共に、ゼクロスはドスの利いた声をあげる。



「────ならば、容赦はせん」



 十字手裏剣が流星群の如くサイクロンの周囲に降り注ぐ。
 それは不規則なタイミングと距離で、サイクロンの身体へと向かっていった。そのため、かわし難く、見切りにくい。
 一つ一つを叩き落としたとしても、そのいずれかが当人も知らぬ間に身体に突き刺さっているという寸法だ。
 だが、サイクロンはそれをする必要もなかった。

 ────そう、彼女はただ、逆風を起こせばいいだけなのだ。

 二つの風が相殺し合い、十字手裏剣の全てが力無く地面へと落ちる。



「クウガ、良牙、お前たちは溝呂木を追え」



 と、彼らに呼び掛けるゼクロスは既に空中へと飛んでいた。
 何度目かもわからぬ、空中からのゼクロスキック────制限下で、決して光り輝くことのない弱き蹴り。
 調整を受けぬ限りは決してその威力は無い。
 が、彼はまた試したのである。ある意味では全く懲りない。
 それは、良牙の特訓という言葉が効いていたのかもしれない。目的地がある以上、途中で立ち止まって特訓をするわけにもいかず、戦闘中にその攻撃を試すほかなかったのであろう。



 ────案の定、そのゼクロスキックは不発であった。



 サイクロンの風が、彼の攻撃を押し返す。
 少なくとも、威力に任せた攻撃はサイクロン・ドーパントを前には無意味なのだ。



「村雨さん、これ!」



 クウガがタイタンソードをゼクロスへと投げ渡す。
 一見すると危険だが、互いの能力への信頼関係のもとに生まれた行動である。
 タイタンソードはゼクロスの手の中で電磁ナイフへと姿を戻す。
 クウガ以外の手の中では、これはただの電磁ナイフなのだ。



「……任せたぞ、良!」



 良牙は躊躇なくメフィストを追いかけ始めた。
 これもゼクロスが逆風に負けないと評価した上でだ。……躊躇したクウガだが、彼こそメフィストと相対すべき存在である。
 追わないはずがない。
 …………何より、このままメフィストの向かった方向を間違えて走り出している良牙を、独りで変な方向に向かわせないために。



「……お願いします!」

77「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:05:54 ID:NgZuP.WI0



 ゼクロスは一対一という状況下で、ようやく戦闘に興が混じったのだろう。
 電磁ナイフを構える彼の姿は、一周見渡しても全て正面を向いているかのように隙がなかった。
 一方のサイクロンも、纏めて相手するよりもこの方が楽だった。
 あの二人は、メフィストを追ったし、結局この場で立つ彼を殺した後に、残りの三人を消してしまえばいいと思っていた。



「マイクロチェーン!」



 電撃付のチェーンが、サイクロンの身体でなく、上方の木の枝を目がけ放たれた。
 くるくるとチェーンが木の枝に巻きつけられると、ゼクロスはそのまま助走をつけ、空中へと跳ぶ。



「───クッ!」



 ターザンのようにして、サイクロンへと向かおうとした────そのゼクロスの作戦は一瞬で見透かされていた。
 ゼクロスの視界が、竜巻で覆われる。生易しい光景ではない。
 視界を埋め尽くす竜巻の中へと、ゼクロスは構わず特攻した。
 サイクロンの視界から、ゼクロスの姿は消えてしまう。



「……っがはぁっ!」



 ────刹那、サイクロンの片目を目がけ一筋のナイフが飛んで来た。
 光が差し込んだと見まごう如きスピードで、電磁ナイフがサイクロンの片目を潰す。
 そして、潰すだけでなくその内部に電流を送り込むのだった。



「ぐあああああああああああああっっっ!!」



 全身を焼き尽くす電流が、サイクロンの中へと流れ込んでいく。
 それはあまりに禍々しい光景であり、彼女自身も一瞬何が起きたのかわからなかった。



「────風の動きを読めば、貴様の身体にそれを当てるのは簡単だ!」



 ゼクロスの声は、竜巻の中からでなく、木の上から聞こえた。
 ────彼は竜巻の中で電磁ナイフを忍ばせた後、腕に巻きついたマイクロチェーンを縮めることで竜巻を回避したのだ。
 逆風でなく、竜巻を迫らせたことによって可能とされた作戦なのである。



「───────」



 その先、ゼクロスが何を言ったのかは風と悲鳴にかき消されてわからない。おそらくは、その必殺技の名前を虚空へと呼んだのか。
 木の上から、真下へ────自由落下だけでないスピードで、もがき苦しむサイクロン・ドーパントへと落ちていく。



 ───ゼクロス・キック───



 エネルギーが溜まっていったのだろうか。
 彼の足に、光が灯り始めた。
 必殺技を放とうとするなり、すぐに消えるのは目に見えている。
 だが、これからも何度でも試すのみ────。
 ────でなければ、今後も成功はありえない。



「………………っ!!」



 しかし、再びゼクロスキックを妨害したのは、制限でも調整不足でもなく、どこから伸びたのか奇妙な蔦だった。
 右手で負傷した右目を押さえ、左手を地面に向けて垂れ────既に変身を解除して少女の姿になって、サイクロンは一見すると攻撃できない体勢のようだった。
 だが、その左手をよく見れば植物の蔦を巻いている。それをゼクロスに向けて伸ばしたのだ。衣類の中から、無数の蔦が伸びている。────意思を持って動いている限り、それは触手とでも言うべきだろうか。
 それが、ゼクロスの足を絡め取っていた。



「…………なるほど。純正の人間ではないか」



 ゼクロスがサイクロンだった少女──スバルの姿を見て言う。
 だが、そんな冷静さを打ち砕くが如く、その触手はゼクロスを地面へと打ちつけた。
 並の速さではなく、地面に小さなクレーターができるほどの威力である。
 それでもゼクロスは強い痛みを感じておたけぶこともなく──ただ、感情の起伏すら感じさせない仏頂面で、何度も地面と空との間を強制的に行き来させられるのみだった。
 この状況に打ってつけの電磁ナイフという凶器が手元をなく、また他の武器も体の自由が利かない以上は使えない。



(だが、これなら使える……!)



 ゼクロスの体から、マイクロチェーンが再び射出された。
 ソレワターセの触手と、ゼクロスのマイクロチェーン。
 二つが交差し合うなり、本来絶縁体であるはずのソレワターセの蔦にも、高すぎる電圧から電流が流れる。
 そして、二人の体に、強い電流が走り始めた──────。





★ ★ ★ ★ ★

78「親友」(2) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:07:47 ID:NgZuP.WI0




 その頃、C-3。

 これまでの戦いの地は、一条薫と冴島鋼牙の二人の戦士とは、かなり離れていた場所であったため、この一連の闘いは二人の耳には通らなかった。
 だが、当初から示唆していた通り、二人も立派なこの話の登場人物である。

 ただ、彼らは既に居るべき場所を通り過ぎていたのだ。もう少し進行が遅ければ、もしかすればその戦いに乱入することはできたかもしれない。
 一条は、五代雄介という親友に会うことができた可能性があったのだ。



「一条、先ほどから、音がしないか……?」



 彼らが進行方向を変えた理由は、そんな鋼牙の一言である。
 実は、一条も先ほどから気になっていたのだが、この無風の地に、ヒューヒューという風の音が聞こえた。

 それは、ゼクロスのターザンロープ作戦の際、サイクロン・ドーパントの起こした竜巻の音である。
 ただし、この時点では二人はまだ、それをただの音としか認識していない。戦闘音だということは思わなかったし、発言がなければそのまま素通りしていたところだろう。
 しかし、その風音の割りに、自分たちが通りかかったときには風を感じなかった。────可能性として考えられるのは、誰かが何らかの形で風音を起こしているという可能性だ。



「確かに……私も先ほどから気になっていた」

「他の人間がいるかもしれない」



 たとえば、こうして強い音を発することによって、誰かを呼んでいるという可能性だ。
 はっきり言えば声を出すなり何なりあるが、こうして誰にも言われなければ気にかけないような音ならば、人が集まってこない。
 そう、大量の人間が集まってきて、殺し合いに乗る者まで呼び寄せるよりは遥かに良いだろう。



「行ってみるか? 一条」

「ああ……!」



 二人は特に行く宛てがあるわけでもなかったし、この程度の道草ならば物ともしない。
 だから、二人は目的地を変えて歩き出した。




★ ★ ★ ★ ★




「ここはどこだ?」



 良牙が、至って真剣な顔で言った。
 ダークメフィストの退路とは全く違う場所にいたのである。
 そのために、彼は完全に道を失った。
 ────少なくとも、呪泉郷には確かに向かっていたのだが、メフィストを追うという今の彼の目的を果たすには、あまりに見当違いである。



「……溝呂木が逃げたのは、逆方向だよ」



 クウガが言った。
 完全に人外の姿で、表情一つ変えずにそう言うのは、極めてシュールな姿であったが、無論そんなことを考える余裕はない。
 メフィストを追いたい気持ちは山々だったが、それよりまずは良牙をどうにかしなければならなかったのだ。
 正反対の方向にメフィストを追おうとする良牙を……。



「何!?」

「あの人はもう、ここにはいない。……だから、村雨さんを助けに行こう!」



 責めたり、呆れたりはしない。
 ただ、良牙のミスを後回しにして、彼はポジティブに次の行動をするように決めた。
 もしメフィストを逃がしたとしても、それで村雨良という男を助けられるならば、それでいいじゃないか──と。
 一方で良牙はそこに自分の責任を少なからず感じていた。



「クソォッ! 俺が方向音痴じゃなければ……っ!!」


 そう言ってヤケクソになり、目の前の大木を殴って折る良牙。轟音が鳴って、眼前の木にその大木が寄りかかり、それ以上の被害は出なかったが、明らかに危険な行動なのは確か。
 ダークメフィストですら、木の幹は焦がすだけで、破壊はしなかった。
 そんな彼に驚きつつも、クウガは彼を宥めようとした。
 このままだと逆に危険だというのもあるが、それ以上に、こうして自分を責めている人間を方っては置けないのだ。



「スペイン語の言葉にこんなのがあるよ。『ケ・セラセラ』──なるようになるさ、っていう意味だけど、知ってる?」

「は?」

「だから、今は俺についてきて。村雨さんを────ゼクロスを、助けに行こう!」



 ケ・セラセラ。その言葉は、非常に有名である。
 何の因果か、それは五代と相対するグロンギ族の怪人も使っていたが、その言葉が似合うとすれば本来五代のように前向きな人間だろう。
 彼は溝呂木に何を言われても、この殺し合いで人の醜さを見せられても、心情を変えることはない。


 みんなの笑顔のため。



 そのためだけに、彼は戦い、そして人を救うのだ──。

79「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:08:41 ID:NgZuP.WI0





「ぐぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐぉぉぉぉぉっ!!」



 ゼクロスでさえ咆哮する、電撃と電撃の嵐。
 ゼクロスとスバルが、マイクロチェーンと蔦によって、双方に電撃を流し合う。
 互いの電気回路をショートさせそうなほどの攻撃に、二人は麻痺を始めていた。
 互いの体が強く光っていく。雷でも浴びているかのような衝撃が、二人を襲っていく。



「あ、くまろ、さまあああああああぁぁぁぁっ!!!」



 その麻痺した体を前方へと走らせるのは、禍々しい音声からもわかる通り、愛なのである。
 アクマロへの「手ごたえのない愛」が、ただ彼女を前へ前へと走らせる。
 当人は走るほどのエネルギー量を放出しているつもりであるにも関わらず、その動きは動きになっていない。
 元々、マイクロチェーンや電磁ナイフを体に仕込んでいるうえに、電気を通しにくい「植物」で電流を感じるゼクロスとスバルでは、威力は全く違うのだ。
 今の彼女の体が魔改造とでも呼ぶべき異常な強化を遂げていなければ、死ぬ可能性を孕むほどである。



「……グンッ!」



 触手の力が緩んだのを感じるなり、ゼクロスは触手から逃れ、マイクロチェーンも自らの手首に戻す。
 彼もマイクロチェーンを発し続けるのに限界があることを悟っていたのだ。
 ゆえ、次の攻撃へと体勢を移す。



「────はっ!!」



 次なる攻撃は衝撃集中爆弾。
 弱り動けなくなったスバルに目がけ、次々と衝撃集中爆弾を投擲する。
 いずれも、スバルの周囲で弾け、彼女の目を伺わせた。
 煙を吸い込んでも、ケホケホと咽る音が聞こえないところを見ると、やはり彼女は普通の人間ではないのだと実感させられた。
 が、それはスバルの破壊に充分な量だと、ゼクロスは思っていたのだろう。



「…………やったか!?」



 その硝煙の中に、期待でも交じったかのような言葉を向ける。
 あれだけの猛攻を受けても尚、生きているとすれば、それはゼクロスの想定以上の相手ということだ──。



「アクマロ様の為に……私は、こんなところで死ねは……」



 だが、煙の中からは執念の戦士が現れるのだ。
 おそらく、爆弾の量は関係ない。ただ、執念がある限り彼女は立つ。
 このアクマロへの愛も、明らかに余計なものだったろう。彼女を冷徹な戦闘マシーンへと変化させる要因の一つとして、充分働きかけていた。



「……まだか!」



 ゼクロスは、また構えて、今度は真っ直ぐにスバルの方へと走り出した。
 彼は彼女が死なない限り、次の攻撃をするのをやめない。
 たとえ、どうあっても。
 彼女の愛が深かろうと、その想いが何かを「奪う」というのなら────



「……はぁぁっ!!」



 間合いを詰めたゼクロスは、スバルの右目に刺さった電磁ナイフを強引に引き抜いた。
 ニードルの針とは違い、これを引き抜くのは簡単だ。
 だが、相手に痛覚がある限り、それは決してただならぬ痛みであろう。



「ぬぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」



 そう、それだけで充分なのだ。
 何らかの攻撃を仕掛ける必要はない。
 刺さったナイフを抜く。それだけでも十分に痛い。
 そこから血が流れていき、結構な量が地面に流れ落ちている。

80「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:09:27 ID:NgZuP.WI0



 ──────ゼクロスは、そんな彼女を見て、拳を強く引く。



 次に前に押し出す、という動作だった。
 スバルの顔面を吹き飛ばすための動作であり、彼はそれを平然とやってみせようとした。
 感情が欠落しているわけではない。ただ、こうして悪鬼の如く、「何か」を奪っていこうとするものを、消し去る為に。
 「女」が泣くのを、やめてほしいがために。



「ア、ク、マ、ロ、さ、ま、ぁぁぁぁぁぁっ!!」



 だが、彼女は決して黙ってそこに立っていようとはしない。
 取り込んだ体の一つ────鹿目まどかの姿を借りて、彼女はゼクロスの攻撃をやめさせようとしたのだ。
 まどかの姿で、彼女は同情を買う。
 桃色の髪、優しそうだが血で穢れた瞳、青ざめた顔のスバルとは違い、それはただの少女。
 そして、あわよくばこの辺りに知り合いがいるから、この状況で最も扱いやすいであろう顔。



「………………」



 答えない。
 ゼクロスの拳は、止まろうとしない。
 そんなものが効きはしないし、彼はスバルのような敵に容赦をしない。



「……うぉぉりゃぁっ!!」



 ──────しかし、そんなゼクロスのパンチを打ちとめる横からの乱入者が現れる。




「クウガ……!?」



 それは再び戦場に舞い降りたクウガであった。




★ ★ ★ ★ ★





「つぼみ、あんたどうして、まどかの目の前であんな事言ったの……?」



 これまた露骨に不機嫌そうな顔で、さやかはつぼみに訊いた。今度は戦いながらでなく、森を二人(と一羽)で歩きながら。
 弱弱しい表情の彼女に、多少苛立っていた部分もあったのだろうか。
 強迫的だが、そっぽを向いて喋っている分、気が軽い。



「…………美樹さんは、放送を聞かなかったんですか? その放送で、鹿目さんや巴さんの名前は確かに呼ばれていました。
 でも、もしかすれば、放送自体が私たちを動揺させる嘘なのかもしれません。むしろ私はその方が……!」



 つぼみがこう思うのは、偏に親友の死が関わっていたからである。
 えりかという少女は、つぼみが転校してきて初めて下の名前で呼び合うようになった友達である。
 だから、彼女が死んでいないという可能性が少しでもあるのなら、それを追いたかった。


 彼女らも知る由はないが、彼女たちの手の中のアヒルは────その推測を恐れていた。
 流ノ介や十臓が死んでいないとするのなら、自分がパンスト太郎を殺したあの一件は無駄な行動だったのではないか────自分はただ道化をしていただけなのではないか、という疑念があるのだ。
 暁美ほむらにしろ、二人は彼女が完全に死ぬところを目撃したわけではない。


 つぼみは放送が嘘であることを願い、丈瑠はどこかでそうでないことを願い、さやかは放送の内容そのものを受け入れきれず壊れてしまったのである。



「……もしかしたら、ですけど」

「うん?」

「放送は、首輪を通して音声が送られました。だから、参加者によって全く別の放送を聞かされているのかもしれません」

81「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:10:19 ID:NgZuP.WI0


 つぼみ、一文字、石堀が聞いた放送では、本郷猛や来海えりか、鹿目まどかや巴マミの名前が呼ばれた。
 ここに来てから縁の深い名前といえばその辺りだけだろうか。
 結果的に放送が原因でさやかとの対立は起こったわけだし、そうした嘘が交じっている可能性もありえなくはない。
 別の地点で、えりかや本郷がつぼみや一文字の死について放送で聞かされている可能性だってあるのだ。
 上空にいるサラマンダー男爵だけではわからない。



「……なるほど、私たちは放送を聞かせてもらえなかったっていうわけか」



 鹿目まどか、美樹さやか、巴マミの三人には、放送自体がカットされていたわけだ。
 特にさやかやマミなどは、首輪が全く別の部分にあり構造が違う(大きさが違う)以上、それもしやすいだろう。
 まどかの場合も同様だ。
 第一、知り合いが全く分散されずに合流できているというのがおかしい。
 これは、対立を生じやすくさせるための罠だったのではないか。



「でも、私の言葉で結局、美樹さんを怒らせてしまいました。……本当にすみません」



 つぼみは、反省して頭を垂れる。明らかにさやかが話を聞かなかったのが悪いあの状況にも関わらず、しっかりと自分の責任も考慮するあたりが、彼女の礼儀正しい部分なのだろう。
 そんなつぼみの様子を見て、さやかは態度を変えた。



「……ごめん。本当に悪いのはあたしだった」

「……」

「もしかしたら、私はつぼみを殺そうとしていたかもしれないし、私のせいで三人バラバラになった……折角、つぼみも含めて四人で一緒に戦えたかもしれないのに」



 さやかも強い自責の念に囚われたのである。
 森を歩きながら、二人はここで初めて、互いを思い遣るようになった。
 相手のために、自分の非を認め合うようになったのだ。
 マミという人物を共通して心配したことや、つぼみの純粋さがさやかの中の黒い感情を一時的に追い払ってくれたのかもしれない。



「良いんですよ。私はちゃんと生きてます。それに、バラバラになったって、何度でも一緒になれるから!」

「……ありがとう。あんたって本当に良い子ね」



 さやかはつぼみにそう言った。
 偏見が入り混じっているうちは、誰も気づけないことだ。
 勝手に人を偏った思考で判断し、見つめているうちは、誰もわかりあうことなどできない。
 そして、彼女たちは結果的にこうして互いの良いところに気づくことができた。



「ねえ、つぼみはさ、なんで戦ってるの?」



 プリキュアの力は明らかに戦闘用の側面がある。
 そう、あの跳躍力は似非ではない。戦うための力であるのは確かだ。
 魔法少女として戦っていたさやかは、尚更そう思った。プリキュアと魔法少女を切り離して考えられないのだ。
 実際、プリキュアは戦う力でもあった。



「……私が戦う意味、ですか」

「ええ」

「…………私は、人間みんなが心に咲かせている花を護るために戦っています」



 つぼみという少女が戦う理由は、そうだった。
 こころの花やこころの大樹を守ること──それがプリキュアの持つ使命。
 そして何より、つぼみは人のこころの花を枯らせる連中が許せなかったのだろう。



「そっか。立派だね、つぼみは……」



 さやかは少し溜息をつく。
 彼女はまだ、自分が戦う理由がよくわからなかったのだ。
 マミへの憧れか、正義のためか何のためか────自分が何故そんなことで悩むのか、その起源さえ、彼女は覚えていないというのに。

82「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:11:00 ID:NgZuP.WI0



「と……とにかく、一緒に巴さんを捜しましょう!」



 そう言うつぼみの表情は完全に照れていた。
 このように言われたことが、たまらなく嬉しかったのだろう。
 誤解を乗り越え、今は二人は共通の目的を持ち始めている。
 だから、それがたまらなく嬉しかったのだ。



「そうだ、つぼみ。あんた、友達のえりかっていう子のこと、名前で呼び捨てだよね」

「ああ、ハイ!」

「……私も、美樹さんなんていう堅苦しい呼び方はやめて、さやかでいいよ」



 頑としてつぼみを認めなかったさやかにも、そうした感情は芽生え始めている。
 戦いを通したからか、彼女の意見を素直に聞き入れることができたからか、二人に芽生えているもの、それは……


 ────友情。そう呼ぶに相応しい感情だった。


 そんな純粋な感情を目の当たりにして、一羽のアヒルは何を思っただろうか。
 ただ、黙ってそこに居るしかないアヒルだったが、その純な友情を、彼は遠い日にどこかで感じたはずだ。
 そう、まだ幼い彼は────梅盛源太という友達を。


 なのに、自分は彼を殺そうとさえ考えていたのだ。
 その絶望感は、二人を見たことでより重く圧し掛かっている。
 一途な友情は、彼には毒だったのだろう。





★ ★ ★ ★ ★





「……やめてください!」



 ゼクロスの拳を掴んだクウガは、彼を静止した。
 ただ、少女の姿をした敵に強い一撃を浴びそうという彼の姿を止めたかった。
 それだけなのである。



「……離せクウガ。コイツはさっきの怪人だ」

「え……?」



 右目から血を流し、ポタポタと地面に落とす少女──。
 それが、あのサイクロン・ドーパントの正体だったというのか。
 あまりに惨酷な現実であった。
 何があって、彼女が他の参加者を襲撃するようになってしまったのか。


 ────ふと、クウガの頭に、何かデジャヴのような感覚が閃光する。
 彼女の姿には、見逃せない点が一つ確かにあったのだ。
 彼女は、そう……



 美樹さやかと同じ制服を着ていた。



「……まどかちゃん? それとも、マミちゃん、ほむらちゃん……?」



 さやかの挙げた「同じ学校の人間」の名前を挙げる。
 他の生徒かもしれないが、少なくとも彼が知っているのはこの三つだ。
 だから、彼はそれを訊こうとした。


 彼女は答えない。
 代わりに、その質問を無視した村雨が口を開く。



「…………良牙はどうした?」

「え!?」



 気づけば、クウガの後ろに良牙はいない。
 ゼクロスに言われてようやく気づいたが、クウガの後ろにいたはずの良牙がどういうわけか途中で迷子になっているのである。
 もっと気をつけていれば間違いなくこうはならなかったのだろうが、残念ながらこういう事態が起きてしまったのである。
 良牙は普段、人についていけば目的地にたどり着くことがある。
 乱馬と自分の家に帰ったときなどがそうだ。ただ、目的地に向かうことに関しては、彼は時折、こうして人の言うことを一切聞かないときがある。その所為だろうか、良牙は既に迷子になっていた。



 ────何はともあれ、スバルは、ゼクロスがクウガの意識を別のものに向けたこの隙を狙った。



「あっ!!」



 と、クウガが叫んだ時にはもう、彼女は体を引きずるようにして逃げようとしていた。
 ただ、今回の交戦は避けた方が良いと思ったのだろう。
 ゼクロスの多彩な武装を前に、彼女は今回一度敗れたのである。
 多数の敵を相手に戦いキルスコアを稼いだ少女であったが、単身ではゼクロスへの勝利に限界があったのかもしれない。
 まあ、このまま戦ったとしても少女────スバルはその不屈を武器に勝ち得たのかもしれないし、本当のところはわからないが、少なくとも今は苦汁を飲んだままで戦うのを避けようとしていた。

83「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:11:44 ID:NgZuP.WI0



「……ねえ、誰だかはわからないけど!」



 クウガは変身を解き、五代雄介の姿で少女へと叫びかけた。
 諭すように、彼女の心に訴えかけるように。



「こんなこと、俺はくだらないと思う! だから絶対、殺し合いなんてやめてほしい!」



 さやかが殺し合いを望まなかったように、彼女にもそれをしてほしくないのだ。
 彼女がさやかと知り合いなら尚更だ。
 さやかの為にも、絶対に殺し合いに乗らないで欲しい。

 スバルが立ち止まる。
 何も彼女は殺し合いがしたくてやっている少女ではなかった。────しかし、やめようとも思わなかった。
 だから、彼の呼びかけには腸が煮えくり返るような不思議な怒りの感覚を覚えたのである。
 くだらないとまで言った。何人も殺したのに。

 立ち止まったのは一瞬で、また何も聞いていないかのように彼女は歩き出す。
 そうすると、今度は五代がそれを追って走り出した。
 生身で一対一の説得をしようとしたのだ。このまま放っておくわけにも、いかなかった。
 だから、真っ直ぐ彼女の背中を目指して走っていた。


 ザッ、


 近くの茂みから、音がしたと思って村雨やまどかがそちらを見ると、そこから何かが姿を現した。
 間髪入れずに、誰にも気づかれないように、そこから現れたのだろう。
 五代は、そこから現れたものに流石に驚いたから、口から言葉を漏らした。




「…………え?」




 そちらに顔を向けた五代の左胸を、体の真横から冷たい感触が突き刺し邪魔する────。
 それはまた、一瞬で引き抜かれ、彼の胸から大量の血を噴出し、彼はここに倒れた────。
 誰にも、何が起きたのかわからなかった。──そう、刺した本人でさえも。


 五代が、その何かを見る。



 そこには、スバルでも溝呂木でもない、意外な顔があった。





★ ★ ★ ★ ★

84「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:13:13 ID:NgZuP.WI0




「まどか……!?」

「えっ!?」」



 マミを捜索していたさやかとつぼみは、ある地点でまどかの姿を目撃した。
 彼女は遠目で見たところ、あろうことか右目から血を流している。
 それは見るのも痛々しいほど鮮血に染まりきった、少女が目にするにはグロテスクすぎる光景だった。
 つぼみの目があまり良くなかったのは、この場合幸いだろう。つぼみはそこにまどかがいることしかわからなかった。



「……おーい、まどかさー」



 と、つぼみが叫ぼうとしたのを、さやかは彼女の手を口で押さえることで静止する。
 ショッキングな映像を見ながらも、行動は冷静だった。



「……まどかは右目から血を出してる」

「えっ!?」

「事故なのか誰かにやられたのかはわからない。けど、誰かにやられたとしたら……」



 そう、このまま大声を出してしまうのは非常にまずいのである。
 だから、さやかはつぼみがまどかを呼ぼうとするのを静止したのだ。



「……つぼみはここにいて。私がまどかを呼んでくる。念のために、変身しておいて」

「わかりました!」



 二人は息の合ったコンビネーションで、遠目に見えるまどかを救出しようとしていたのである。
 彼女たち二人は、互いがどういう風に動くのが得策かを先刻承知していた。
 アヒルを抱え守るつぼみは、今は戦いに向かないのだ。


 さやかは、物怖じせずに、真っ直ぐまどかに向かって走っていく。



「プリキュア! オープンマイハート!」



 後方でそんな声が聞こえたのを聞いて安心し、さやかは右目を潰されたまどかを護るため、走っていく。



(────そうだ、私はこの力でまどかたちを守れれば、それでいいんだ)



 自分が今、どうして走っているのかを考えた時、戦う理由は見つけ出された。
 あの茂みの向こうにいるまどかを、助けたいから。
 そして、まどかと同じような状況にある人を見かけたら、さやかはまた助けたいと思うのだろう。



(……私は、つぼみみたいになりたい…………! 力無い人、みんなを助けたいんだ!)



 目の前で、まどかが男に追われている。歩いて必死で逃げているまどかを、男が走って追いかけている。
 その様子が見えた。甚振るつもりだろうか、殺すつもりだろうか。
 ……男の顔は見えない。
 だが、彼女にはとにかく、その男が許せなかった。



(だから、許さない……! どんな理由があったって、まどかを、みんなを苦しめるなんて……絶対に!)

85「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:14:52 ID:NgZuP.WI0



 走り出した体はもう止められない。
 傷付ける者に容赦はしない。ましてや、それが友達ならば。
 だから、友達を護るために、さやかは走り出す。
 風を、森を抜かし、次は茂みの先へと向かうのだ。



 サーベルを構え、茂みを抜け、彼女はそこにいる男の体を突き刺す──────。



 茂みを抜けた其処は、まるで異世界だった。



 全てが止まって見える。誰もが新たな乱入者の顔を見て、異常なほど驚愕している。
 手元では、サーベルが男の胸を貫き、そこから少し血が垂れている。内臓にダメージを与えたせいだろうか、男は吐血していた。
 さやかは、咄嗟にサーベルを抜く。
 すると、余計に血が吹き出た。



「…………え?」



 その声が、刺された男の発した声と重なる。
 互いが、そこで意外な顔を見ていた。



 ────さやかは、男の顔に見覚えがあったのだ。



 そして、その顔が全てを思い出させる。
 そうだ、彼は──




「五代、さん?」




 五代が、村雨が、まどかが、つぼみが…………さやかを見ていた。
 血塗れのサーベルを手にして、返り血に体を汚したさやかを、誰もが見ていた。
 その視線が痛くて、彼女も、誰も、その空気の中で、何も考えられなかった。



「嫌…………嫌…………どうして…………」



 さやかは五代の顔を見たとき、全てを思い出した。
 どうして自分がこんなことをしてしまったのか、どうしてここにいるのが五代なのか……全てがわからない。



『さやかちゃんはゾンビなんかじゃない!』



 あの時聞いた言葉が、いかに嬉しかったのかを思い出す。
 短い時間に受けた彼の気遣いや、彼の慰め、彼の言葉────何もかもが、今は過大に優しく感じられた。



「…………さ、や…………」



 心臓を刺されたはずの五代が、血を吐きながらさやかの名前を呼ぼうとした。
 その目は、さやかを怨んでいるようにしか見えなかった。
 たとえ、五代に一切敵意がないとしても。
 五代はその中途半端な呼びかけと同時に、完全に動かなくなってしまった。



(そうだ……五代さんは、死んだんだ……)



 動かなくなった理由でさえ、彼女は一瞬わからなくなった。
 だから、その理由をちゃんと考え直したのである。



(私が、殺しちゃったんだ……)



 間違いから、人を殺めた……その事実は、さやかの精神を黒ずませていく。
 そして、もう一つの疑問が生み出される。


 どうして、まどかがここにいるの?


 そう、まどかは死んだはずなのに。
 少なくとも放送で呼ばれたこと──それは事実なのに。
 そんな怪しいまどかをどうして自分は人を殺してまで助けようとしたのだろう。
 なんで誰もいないのに、マミさんがいると思ったのだろう。
 そして、何故その放送のせいで自分はつぼみを襲ったのだろうか──。
 全部聞いていたはずなのに。

86「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:15:29 ID:NgZuP.WI0


 どうして。


 傀儡であった彼女には、それはわからなかった。



 その機会の逃さずにまどかは逃げていく。
 まどかは、何故逃げていくんだろう。
 そうだ、さやかが人殺しだからだ。




「嫌あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」



 皮肉にも、彼女は誰かを守ると誓った時に、────戦う意味を知ったときに、誰かを殺めてしまった。



「さやかっ!!」



 キュアブロッサムが向かってくる。
 そうだ、逃げなきゃ……とさやかは思った。
 だって、一緒にいたら自分はキュアブロッサムを殺してしまうかもしれないから。


 ただ普通にしているつもりだったのに、これまで色々と勘違いをした。
 きっと、自分の中にはもう一人、別の自分がいるのだろう。 
 それが、こうして凶行を引き起こしている。
 さやか自身が、五代を殺したのは確かだが、もう一つの人格のようなものがあって──それが誰かを傷付けていく。


 なら、せめてキュアブロッサムを────つぼみを殺さない為に、彼女から遠ざからなければ。
 だって、前に本気でキュアブロッサムを殺そうとしたことがあったから。



「……お願い、来ないでぇぇっ!!」



 さやかは、ただ、キュアブロッサムや、そこにいる人を傷付けない為に走った。
 これ以上誰も傷付けない為に、誰もいないところで死のうと、そう思ったのである。





★ ★ ★ ★ ★





 さやかの足取りは非常に速かった。
 軽やかではなかったが、一刻も早くキュアブロッサムから逃げていきたかったのだ。
 意識してはいなかったが、彼女が来た場所は川岸だった。
 そう、つぼみとの邂逅を果たした地点である。



(…………キュゥべえ、ソウルジェムが穢れ切ったらどうなるの……? このまま死ねるのかな……。
 それとも、つぼみたちに危害を加えるような存在になってしまうのかな…………)



 これだけ他人に対して危害を加えてしまったさやかは、自分がこのまま魔女と等しい存在になる可能性があることを薄々予感していいたのかもしれない。
 だから、彼女はソウルジェムの穢れを待つ以外の形で死にたかった。
 見れば、自分のソウルジェムは本当に真っ黒だ。これを砕けば、きっと死ねるのだろう……。



「さやか!!」



 つぼみが────キュアブロッサムが追ってきたのだ。
 殺人を犯したさやかを、どうしてここまで追ってきたのだろう。
 普通は畏怖嫌煙の念を払い、絶対に自分の近くに寄らせようとはしないだろうというのに。
 どこまでも変わった子だった。



「……来ないで、つぼみ。私はあんたを傷付ける」

「そんなことは、ありません!」



 五代の死に様を見ても、つぼみはこう言った。
 確かに五代の事は、誤解とはいえ許し難い事件だ。
 すぐにさやかを、五代の死地へと戻し、彼の埋葬を手伝わせなければならないとは思っている。
 だが、それより前に────五代には申し訳ないが、彼女はさやかの友達として言わなければならないことがあったのだ。



「さやかは…………いつも友達のために一生懸命で、そのせいで人とすれ違ったりしても、人を思い遣る気持ちを忘れない、私の友達です!
 だから、さやかは私を、絶対に傷付けません!」



 さやかの目は既に人を殺めた後悔の涙で一杯だった。それゆえ、つぼみの言葉がさやかに届いているのかどうかは、第三者から見ればわからない。
 表情の変化も大きくはなかった。
 だが、つぼみには、その言葉が確かにさやかに届いていることがわかった。
 彼女はきっと、優しい人だから──

87「親友」(3) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:16:41 ID:NgZuP.WI0



「……そっか。あたしって、ほんとバカだなぁ…………どうしてこんな子を傷付けちゃったんだろう……」



 さやかは、ついに涙を拭い始めた。
 ぽろぽろと落ちる涙が、だんだん現実味を帯びていく。
 その涙には、拭う手には、赤色が交じっている。
 人殺しの証。人殺しの手。人殺しの色。
 それをつぼみに見せ続けてしまうのが、とにかく厭だった。



「私はどんなに傷ついたってさやかの友達です。きっと、さやかの心には美しい花が咲いてるから!
 それを護るためなら、どんなに傷ついたって構いません!」



 つぼみは、さやかを救いたかった。
 さやかの心に咲くはずの、綺麗な花が見たかった。
 さやかの笑顔が見たい。……そんな、五代と共通したような感情も、つぼみにはあったのだ。



「…………でもね、駄目なんだよ。つぼみ…………。私、もうこんな痛みは負いたくないんだ」



 本当ならさやかだって生きていたい。
 だが、誰かを守りたい……五代やつぼみのそんな願いを知って、それに影響を受けた。
 自分こそが、その想いを阻害する張本人になってしまったのだと思うと、彼女は何も言えなかった。



「私、好きな人いたんだけどさ……こんなんじゃあ、もう顔向けできないし。
 だから、お願い。私はここで、死なせてよ…………」



 そして、人を殺す痛みを、人を傷付ける痛みを、これ以上負いたくない。人殺しの少女として生きていくことも、辛いし、大切な人にはもう会えない。
 会っても否定されるだけ。会っても傷付けるだけ。
 そんな想いがさやかの中で渦巻く。
 これをどうすることもできない。
 つぼみがどれだけ説得しても、さやかの中にある、その感情を拭い去ることはできないだろう。


 それを知ったつぼみの表情は非常に暗く、そんな彼女に思わず笑みがこぼれる。
 なんでこんな自分の身をそこまで心配してくれるのか。
 なんでこんな自分の事を悲しんでくれるのか。
 それを思うと、なんだか気が緩んで笑えてしまったのだ。
 もう死ぬのを確信していたから、生きようとし続けるつぼみに対しては、神のような目で見られたのだろう。



「ごめん…………色々と迷惑かけたね。私の事は、忘れていいからさ」

「いいえ……忘れません、絶対に!!」

「…………そっか」



 さやかは、────自分が笑顔を発して良い人間なのではないと思いながらも、
 つぼみが、少しでも笑顔になれたら良いな、とそれだけ思って笑って言った。



「ありがとう、つぼみ……」



 そして────


 さやかの体が、不意に動かなくなった。
 当人の自殺しようという意思さえ飲み込んで。
 彼女の意思とは無関係に、彼女の中の何かが消え去った。


 ────彼女のソウルジェムが、完全に濁り切ってしまったのである。
 人を殺す痛み、血の匂いの不愉快さ、これ以上人を傷付けたくないという思い────その全てが、彼女に強い絶望の感情を持たせ続けたのだろう。


 この場では、ソウルジェムの濁りは魔女化ではなく、死を意味する。
 そんな彼女の死を回避するグリーフシードは、もう存在しなかったのだ。



「…………こんなの、あんまりです」



 つぼみの涙が、地面にぽろぽろと零れていく。
 倒れて動かなくなった少女の死体──。
 抱きかかえられたアヒル──。
 その全てが黙っていたから、つぼみの絶叫だけが川の向こうへと響いた。



「折角、友達になれたのにーーーーっ!!!」



 さやかという少女がこの場に来てから、確かに不幸だった。
 だが、たった一つの幸せが、最後に彼女の笑顔を作ってくれた。
 だから、自分の死そのものには後悔はしていないだろう。
 こんなに想ってくれる友達が、できたのだから────。




【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】

88「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:17:27 ID:NgZuP.WI0



 もう一方の場所では、もう一つの遺志が渦巻いていた。



「────クウガ」



 村雨が、血を噴出して倒れた男の体に手をかける。
 その体はもう治らない。ゼクロスと違い、体の構造自体はほぼ人間なのだ。

 …………しかし、男の手が、またピクリと動いた。

 ──そのことに気づいて、彼は驚愕する。



「……生きているのか!?」



 そう、厳密に言えばこの時点ではまだ死んでいない。
 アマダムの持つ、自衛効果によって五代の体は致命的なダメージを受けると、仮死状態にするような効果があったのである。
 そんな仕組みを知らないゼクロスは、その生存本能に驚いているようであった。


「村、雨さん…………」



 無論、制限下にあるアマダムは、そんな働きを長くはもたせられない。
 だから、それを知る霊石が、深い眠りの代わりに最後に仲間に語り欠ける時間を明け渡したのだろうか。
 そう、この石は持つ者の願いを具現化させるのである。
 その効果か否か、五代は小さな声を出そうと必死だった。



「喋るな、クウガ」

「あの子、たちを、を見つけたら、……助けて、あげてください…………。
 それが、仮面ライダーの、使命だと、思うから……」



 死に際に託す言葉がそれなのか、と村雨は思った。
 だが、この男の感情には何処か突き動かされる。
 どうあっても、人を救いたいのだな……という強い意思が、ゼクロスの欠落した部分を揺さぶっていく。
 仮面ライダーという言葉を知らない彼に、こう言われてしまうのも変だなと思ったが、彼の遺志である以上は、批判もできない。



「……わかった」



 ────また、この了承と同時に、五代のもう一つの願いが偶然にも叶った。
 アマダムの能力とは全く関係ないところで、五代の最期の望みが、彼らを呼びかけたのである。
 五代の耳に、声が聞こえる。



「……五代! 五代なのかっ!!」




 その時、近くから男性の声が聞こえた。
 真っ黒なライダースーツを着た男と、白いコートの男である。
 声を発したのは、ライダースーツの男の方であった。



「…………一条、さん……………」



 彼の最期の望み────それは、親友・一条薫と再会することだったのだ。






★ ★ ★ ★ ★

89「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:18:07 ID:NgZuP.WI0





「さやか……あなたのことは忘れません……」



 涙も枯れたつぼみは、血まみれになったさやかの顔や体を川で洗う。
 彼女は、人を殺したことを後悔していた。だから、せめて亡くなった今こそ、彼女は血で汚れていてほしくなかったのだ。
 衣服についたものは落ちにくかったが、皮膚に付着したものは、多少赤みがかっている程度になった。



「アマリリスの花言葉は、内気の美しさ……」



 さやかの良い部分は、常に隠れているようにさえ思えた。
 本当の優しい彼女が、美しい彼女が、どこかに隠れていたのである。
 彼女の美しさは、とことん内気で、なかなか姿を見せてはくれなかった。
 つぼみだって一度、彼女に堪忍袋の緒を切らせてしまったくらいだった。


 そんな花を、さやかの体の上に乗せる。
 岸辺で、美しい死体が手を組んで、花を乗せて眠っていた。
 ダークファウストとして目覚めることも、もうない。



「ありがとう、さやか……私の永遠の友達……」



 さやかはつぼみに何をしてくれたわけでもない。
 だが、彼女の優しさや本当の心に触れ、友達として認め合い、彼女の死を乗り越えてつぼみは強くなり──えりかの死とも向き合うことができた。この場で確かに人の死は起きていて、それをプリキュアとしてどうにかしていかなければならないという自覚も強まった。
 ……その戦うための強さが、彼女からの贈り物だと思うと寂しい。
 さやかの性格を考えると、こんな状況じゃなければ、きっと一緒にいるだけで楽しかったのだろうな、とつぼみは思った。



「私たち、もっと早く会っていれば……こんな事にならなかったんでしょうか」



 もし、会えたのがごく平穏な日常だったら。
 同じ中学校のクラスメイトとか、近所の友達同士とか、そういう真柄だったのなら。
 そんなありもしない日常を想像して、つぼみは涙ぐみそうになった。
 どうして、こんなことになってしまったのだろう。
 だって、彼女は死ぬ直前だって友達や好きな人を考えてるくらい純粋な女の子だったのに──。



「えりか、もしそっちにいたら……私の友達と仲良くしてあげてください。
 ちょっときつい事を言うかもしれないけど、本当に楽しくて、優しい人だから……」



 そう言って、つぼみはさやかに少しだけ黙祷を捧げた。
 永遠の友達を鎮魂する、その姿は悲しげで、今にも折れそうだった。



「…………その子、死んじまったのか」



 つぼみの背後から、若い男性の声が聞こえ、彼女は慌てて振り向いた。
 一体、誰だかわからない以上、警戒が必要だと思ったのだ。
 黙祷という行為は隙が大きすぎる。



「……安心しろ。危害を加えるつもりはない」

90「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:18:49 ID:NgZuP.WI0



 バンダナを巻いた、体格の良い男────それはゼクロスの応戦に向かい、迷子になった良牙である。
 つぼみはその男のことを知らなかったが、彼は敵意を見せてはいない。



「……まあ、俺もその子と喋ったわけじゃないが、前にちょっと見かけたんだ。俺にも手を合わさせてくれないか?」



 つぼみは、暗い顔で「はい」と答え、その男がさやかに手を合わせて黙祷するのを見つめた。
 本当に良い人であることははっきりわかった。
 つぼみに対して敵意を見せないというどころか、こうしてさやかの死体に手を合わせてくれる。
 さやかの死を悼む人がいてくれたことが、つぼみには嬉しかった。



「なあ、そのアヒル……」



 と、黙祷を終えた良牙はそこにいた一羽のアヒルを指差した。
 さやかの死も気になったが、同時にこのアヒルについても気になっていたのだ。
 何故かといえば、それは単純────



(ムースじゃないか?)



 そう、名簿には載っていないが、それはムースではないかと良牙は思ったのだ。



「このアヒルさんを知ってるんですか?」

「ああ……まあ、ちょっと知り合いでな」

「なら、このアヒルさんを引き取ってくれませんか?」



 このアヒルの知り合いがいるのなら、その人物にこのアヒルを託したいと思ったのだ。
 冷静に考えれば、殺し合いの場においてこの行動は厄介払いもいいところだ。
 ただ、アヒルを持主に返したいという想いはあったので、良牙に明け渡そうと考えたのだ。



「……わかった」



 良牙もそれを了承する。
 彼は、とりあえずムース(?)にお湯をかけて、彼を元の姿に戻そうとしたのである。
 多少因縁のある相手だが、時に協力することもある。そもそも、同じ呪泉郷仲間として、乱馬のライバルとして、少しは協力できる関係であるのは確かなのだ。
 それが何時でもガラスの友情であるのも確かだが。



「……良かったですね、アヒルさん」



 そう言って、アヒルを良牙の手元に渡すと、少しの寂しさも感じる。
 一応、しばらく一緒に行動していたアヒルである。
 さやかとの事も全部、このアヒルは見届けていてくれた。



「で、お嬢ちゃんはこれから、一人で行動する気なのか? 何なら、俺が一緒に……」

91「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:19:49 ID:NgZuP.WI0



 良牙はつぼみの身を案じて言う。
 そう、これが自然な対応なのである。つぼみは勝手にアヒルとの別れまで考えてしまったが、結局はこうなる運命だ。
 互いに仲間を求めていたのだから。



「あ、ああ……そうですね! 確かに一緒に行動した方がいいかもしれません。ただ、一つだけ寄りたい場所があるんですが……」

「そうか……。俺も行きたい場所があるが、そこには別の奴が向かったから大丈夫だろう……」



 奇しくも、向かおうとしている場所まで同じなのである。
 良牙はゼクロスと怪人の交戦地、つぼみは五代が死した場所──それはほとんど同じ場所だ。
 双方の地は50mも離れていない。



(ムース……、しばらくしたら元に戻してやるから安心しろよ!)



 お湯のポッドはあるが、変身を解除すると全裸になるし、極力隠したい変身体質であるため、良牙はムースを元に戻すのを後回しにする。
 そんな思いさえ知らぬまま、丈瑠は良牙の腕で、あまりにきつすぎる抱きしめ方に痛みを感じていた。



「私は、花咲つぼみです。あなたは?」

「俺は、響良牙だ」



 二人は、再び森を歩み始めた。





【1日目/昼前】
【D-5/川岸】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム
[道具]:支給品一式×3、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、ムースの眼鏡@らんま1/2、さやかのランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:五代の死体がある場所へと向かう
1:仲間を捜す、当面はD-5辺りを中心に探してみる。
2:南東へ進む、18時までに一文字たちと市街地で合流する
3:あのまどかは……???そしてマミは……
4:そういえばバンダナの人(良牙)の名前を聞き忘れた
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。



【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(小)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:水とお湯の入ったポット1つずつ(お湯変身2回分消費)、秘伝ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリ@仮面ライダーW、支給品一式
[思考]
基本:天道あかねを守る
0:とりあえずまどかの向かう場所についていく。良と五代はまあ大丈夫だろう…
  あとは隙を見てムース(丈瑠)を元の姿に戻してやろう
1:天道あかねとの合流
2:1のために呪泉郷に向かう
3:ついでに乱馬を探す
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※現在の進行方向は不明です(また途中で方向転換する可能性があります)。
※良牙のランダム支給品は2つで、秘伝ディスクとガイアメモリでした。
 なお、秘伝ディスク、ガイアメモリの詳細は次以降の書き手にお任せします。
 支給品に関する説明書が入ってる可能性もありますが、良牙はそこまで詳しく荷物を調べてはいません。
※シャンプーが既に死亡したと知りました。
※シャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
 「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。

92「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:20:18 ID:NgZuP.WI0



【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:両手完全破壊、ダメージ(大)、疲労(極大)、ガイアメモリによる精神汚染(中)、アヒル化、絶望、全裸、体が痛い(良牙が過剰に強い力で抱えている為)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:?????
0:もうどうして良いのかわからない。
1:源太に対して合わせる顔が無い……
[備考]
※参戦時期は、第四十六、四十七幕での十臓との戦闘中です
※鴨子溺泉の水を浴びた事でアヒルに変身する体質になりました。但し丈瑠はまだ原因には気付いていません。
※しばらくつぼみと行動していたため、つぼみとさやかの行動については粗方見届けています。それにより、自分の行動に対する後ろめたさも強まっています。


【備考】
※D-5の川岸に美樹さやかの死体が残っています。死体には、アマリリスの花が添えられています。

93「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:21:54 ID:NgZuP.WI0






★ ★ ★ ★ ★






「折角、友達になれたのにーーーーっ!!!!」



 溝呂木眞也は、その雄たけびを聞いていたし、さやかが完全に死ぬのを眼前にしていた──。
 人形が壊れた瞬間を、彼はもう目の当たりにしてしまったのである。



(ハッハッハッハッ…………惜しいが、これで充分だ)



 見届けられなかったが、彼女は人を殺したらしい。
 誰を殺したか知らないが、五代だと聞けば、彼は喜ぶよりむしろ、その場にいなかったのを惜しむだろう。
 だが、何にせよさやかはファウストとして、充分に働いた。殺してくれた。そして死んでくれた。
 もっと存分に楽しませて欲しかったが、もう彼女を使ったゲームは終わりだ。
 さて、次はどう遊ぶか。



 ともかく、溝呂木はサイクロン号の置いてある辺りに向かった。
 ここで、彼は二人を一度分散させたのである。
 鍵が溝呂木の手元にある以上、それは誰にも使えない。
 そして、幸いにも破壊などの外傷もされず、誰にもみつけられずに放置されていた。
 すると、そこへ……



「はぁ…………はぁ…………」



 右目を潰された少女が、全身に疲労感を感じながらよろよろと歩いてくるのが見えた。
 まどか────いや、スバルである。
 先ほど、サイクロン・ドーパントとして溝呂木の撤退を手助けしてくれていたのだが、怪我をしている。
 クウガやゼクロスにやられたのだろうか。
 何にせよ、その怪我を溝呂木は何とも思わないし、もし出来るのなら彼女を利用して遊べないかと考えた。



「……まあいい。少し事情を聞かせてもらうか」




【一日目・昼前】
【D-4/森】


【溝呂木眞也@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜2個(確認済)、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS
[思考]
基本:より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至り、世界を思うままに操る。
0:まどか(スバル)から事情を聞く。
1:姫矢准からウルトラマンの力を奪う。
2:その他にも利用できる力があれば何でも手に入れる。
3:弱い人間を操り人形にして正義の味方と戦わせる。
4:西条凪を仲間にする。
5:今は凪は放置。
[備考]
※参戦時期は姫矢編後半、Episode.23以前。
※さやかをファウストにできたのはあくまで、彼女が「魔法少女」であったためです。本来、死者の蘇生に該当するため、ロワ内で死亡した参加者をファウスト化させることはできません。
※また、複数の参加者にファウスト化を施すことはできません。少なくともさやかが生存している間は、別の参加者に対して闇化能力を発動することは不可能です。
※ファウストとなった人間をファウスト化及び洗脳状態にできるのは推定1〜2エリア以内に対象がいる場合のみです。
※ダークファウストが一度に一体しか生み出せないことを、何となく把握しました。
※目の前にいる鹿目まどかがまどかを殺した何者かが化けた偽者だと推測しています。

94「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:22:13 ID:NgZuP.WI0


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:疲労(超極大)、ダメージ(超極大)、全身に生命活動に致命的なダメージ、右目刺傷&流血
    ソレワターセによる精神支配、シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザの肉体を吸収、惚れ薬によりアクマロに惚れている、鹿目まどかの姿に変身中、幻覚を見せられている。
[装備]:T2ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、スモークグレネード@現実×2
[思考]
基本:愛するアクマロ様のしもべとして働く。
0:アクマロ様が傍にいてくれている……!
1:アクマロ様に従い、他の参加者(シンケンジャー、仮面ライダー、プリキュアを主に)を仕留める。そして、鹿目まどかになりきって美樹さやかの友達になる。
2:ティア……
[備考]
※参戦時期はstrikers18話から20話の作戦開始前までのどこかです。
※『高町ヴィヴィオ』は一応ヴィヴィオ本人だと認識しています。
 また、彼女がいることからこの殺し合いにジェイル・スカリエッティが関わっているのではないかと考えています。
※ソレワターセに憑依された事で大幅にパワーアップしています。
※シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザの肉体を吸収したことで、彼らの情報を得ると共にその姿にコピーすることができます。但し、その力までは得られません。
※一日玉の効果でアクマロに惚れています、最低でも12時以降までは解除はされません。同時にソレワターセを浄化してもこちらは解除されません。
※生命活動に致命的なダメージを受けており、その命をソレワターセで繋いでいます。つまりソレワターセを浄化しただけではスバルはそのまま死にます。
※溝呂木眞也によって幻覚を見せられました。その結果、溝呂木眞也の事を筋殻アクマロだと思い込んでいます(今後、違う種類の幻覚を見る可能性があります)。

95「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:22:48 ID:NgZuP.WI0




★ ★ ★ ★ ★




 ────五代と一条。
 元の世界の唯一無二の仲間同士である二人が、ここで別れの言葉をかわしていた。
 二人がここで出会えたのは紛れも無い偶然である。



「……どうしてだ、五代……どうして、こんなことに……」



 村雨と鋼牙。普段から寡黙な二人の男も、その様子を気まずそうに眺めていた。
 彼らは決して、何の感情も抱いていないわけではない。
 五代の死を惜しいと感じたり、一条の姿に同情したり、そうした感情を抱いていた。


 だが、五代はそんな一条の言葉とは無関係に、ただ必死で、一条に伝えたい事を話そうとしていた。



「一条さん、こんな、戦い、絶対、止めてください………」

「ああ……」

「………みんなの、笑顔を、守って……」

「ああ! 勿論そのつもりだ! だから君も生きて、一緒に守るんだ!」



 一条は、この状況を知らなかった。
 五代の血が左胸を染めていることから、それが致命傷であることには気づいていたが、少なくともアマダムの力がある限りは治癒や仮死状態による蘇生も可能かもしれないと考えていた。
 かつて五代の死を見送った時とは、比べないほど遥かに強い悲しみでもあった。
 彼の死は、絶対に避けたい事実なのである。



「…………ありがとう、ございます…………」



 遂に五代の息は切れ始めていた。
 アマダムの力も弱まりつつある。
 だが、その前に……まだ五代には伝えたい事が山ほどあったのだ。
 完全にアマダムの力が消える前に。
 そして、己の全身が活動をやめる前に。



「ねえ、一条さん、…………俺が、こんな力を、持って、戦うことに、なったの……、後悔してるでしょう?」

「……ああ!」



 鬼刑事・一条薫が頬に涙を垂らす。



「君にこんな寄り道はさせたくなかった! 君には冒険だけしていて、欲しかった……!
 君がこんなに傷ついたのは、きっと、私のせいなんだ……」


 顔をぐしゃぐしゃにしていた。
 それは、いまだかつて誰も見たことが無い表情かもしれない。
 だから、五代は意外な表情に胸を打った。



「……そんな顔、しないでください、俺は後悔、してないんです……」



 彼は笑顔を愛する男だった。
 笑顔のために、戦ってきた男だった。
 痛みに耐え、ただ誰もが笑顔になれる世界を作りたいために戦った。
 その戦いのことを、一条は忘れないだろう。
 五代は、それから先の言葉は一切切らずに、一呼吸ではっきりと言った。



「……だって、一条さんに会えたから!」



 五代は、笑顔を作り、力無い腕でサムズアップを返した。



「ああ…………!」



 一条は、きっとどこかで、「それ」が来た事を確信したのだ。
 くしゃくしゃの笑顔、そして五代の拳へと拳を合わせたサムズアップ。
 それは、見るものにこれまで二人がどれだけ親しい関係であったのかを考えさせる。


 今までにない表情で、五代を見送る────それは二人の友情の証だった。


 だが────


 二人の友情の証が、そのまま崩れ落ちていく……。
 五代の右腕は力なく地面に落ちて、そのまま動かなくなった。



「五代……?」



 死んでいるとは思えない顔だったから、死体慣れした一条ですら、それが誰かに殺された死人の顔だとは思えなかった。
 笑顔。
 そんな表情で、青空を見ながら死んでいる男は、これまで一人だっていなかった。
 それは、彼が一条との出会いを本当に後悔していなかったことを、意味していた。
 きっと、殺した相手だって、彼は怨んではいないのだろう。



「五代! 五代!」



 それでも、彼に再び笑顔を見せてやりたいから、彼の体を揺さぶる。
 戦わなくてもいい。ただ、もう一度、どこかへ冒険をしに行ってほしい。
 それで、桜子たちに土産話を聞かせてやってほしいのだ。


 …………しかし、2000もの技を持った男は、既に動かない。



「五代ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!」



 最後の笑顔、最後のサムズアップ、最後の友情────一条はそれを噛み締め、慟哭した。




【五代雄介@仮面ライダークウガ 死亡】





★ ★ ★ ★ ★

96「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:23:27 ID:NgZuP.WI0




 …………それから、また数分経った時、五代の体からアークルが摘出された。
 涙も枯れた一条は、彼の体から浮き上がったアークルを彼の体から取り出したのである。
 本来、変身していない時には体内で分散されるが、持主の死が近付くと体の外に出てくるのが、このアークルの特徴でもあった。



「これでもう、彼は戦い続けずに済む……。彼は、争いの無い世界へと行けたんだ……」



 青空となった男は、最後まで笑顔だった。
 彼にその姿を返してやる為に、一条は涙を拭い去った。
 これからは、一条が誰かの笑顔を護るために戦わなければならないのだ。


 村雨良が、目の前で土を掘っている。
 生身でありながら淡々と、工事でもしているのかというくらいの早さで、地面が掘られていく。
 人間離れした能力であり、人間じみた行動をしようとしている証だった。



「……五代は、一体どうして死んだんだ?」



 一条は村雨に問う。名前を聞くよりも先に、こんなことを聞いてしまうのは警官失格かもしれない。
 だが、それが最も気になった。クウガはどうして死んでしまったのか。
 凄まじき戦士となりうる超人が、どうしてこんなところで血を吹いたのか。



「横から剣で刺された……溝呂木という男に操られた女の子にな」

「その女の子は……?」

「美樹さやかというらしい……。どうしているかはわからない」


 溝呂木眞也、美樹さやか。その二人は名簿に載っていた。
 溝呂木という男には人を操る能力があるという────



「溝呂木……か」



 鋼牙はその名を呟いた。
 人を操ったというその男こそ、ホラーに操られている可能性がかんがえられる。
 何にせよ、斬らなければならない相手である可能性は無きにしも非ず。
 彼に会った際は気をつけなければならない。



「君の名前は?」

「俺は……村雨良と言うらしい」

「らしい?」



 自分の名前なのに、まるで他人事である。
 しかし、そうした一条の疑問を無視して、村雨は続ける。
 まるで自分の名前など、今は全く関心がないように。



「あいつは最期にさやかを助けろと言った……」



 村雨の目は脅迫じみていた。だから決して殺すな、と。
 一条はそれに屈しているわけではないが、本当に操られているだけなら、五代の遺志も継ぐべきだと思った。
 だから、憎しみからさやかを殺す気はない。



 そう、その少女には鼻から憎しみなど感じていないのだ。



 ただ、彼の遺志を継ぎたい。
 彼の生命を少しでも保たせてくれた……彼の死に目に会わせてくれた、このアークルに誓って。
 そして、このライダースーツの戦う力に誓って。



「……彼らしいな。……ああ、わかっているつもりだ。彼が望むことも、望まないことも」



 五代との付き合いは一条が最も長い。この場でも一番長いのである。
 だから、当然彼がさやかの死を望まないことくらいわかっている。

97「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:24:05 ID:NgZuP.WI0



「……ところで、君はどうするんだ? これから」



 一条は、村雨に訊く。
 彼についてはほぼ何も知らない。
 だが、少なくとも五代と仲良くやっていたというのはわかる。
 ここまで五代がどうしていたのかを、聞いておきたかった。



「行く宛てはない」

「なら、我々に着いて来てくれないか。仲間は多いに越したことはない」

「……俺はそれで構わない」



 村雨の答えは単純である。
 良牙も五代もいないこの状況で、一条や鋼牙に誘われれば、彼らについていくしかない。



「……出来た。五代一人分の穴だ」



 男性の姿を目測できる村雨は、五代を包むのに充分な穴を既に作り出していた。
 一条が、五代の亡骸を抱えて、その穴へと優しく乗せた。
 土の上で五代が笑っている。
 できれば、彼にはいつまでも青空を見せておいてやりたかったが、それはできない。


「……五代」



 もう一度、その名を呟き、土を被せていく。
 彼の笑顔に土をかけていくのは躊躇われたが、死者を埋葬する一つの手段として、寧ろ彼の為の行動であると思った。



「五代雄介……誰かの笑顔を守るために戦った戦士か────」



 守りし者たる鋼牙は、一言も会話をかわすことがなかったが、その男のことが強く印象に残った。
 一条薫の親友であり、鋼牙と同じ守りし者────一条たちの世界の未確認生命体第4号、クウガ。



「お前が守りたかったもの、か……」



 村雨は、五代という男が最後までわからなかったが、彼の強い意志と魂だけははっきりと理解していた。
 それはまるで村雨の心に抉り込んでくるような、不思議な感情だった。
 今の彼の表情は、感傷に浸っているというよりは、感傷に浸れないことを惜しんでいるような、そんな姿である。



「行こう」

「ああ」



 三人は、五代の眠る場所を去っていく。
 振り向きはしない。ただ、親友の思いを背負って……。

98「親友」(4) ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:24:36 ID:NgZuP.WI0



【1日目/昼前】
【D-4/森】

【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
2:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
3:再びバラゴを倒す
4:一条・村雨と共に行動し、彼を保護する
5:零ともできれば合流したい
6:未確認生命体であろうと人間として守る
7:相羽タカヤに会った時は、彼にシンヤのことを伝える
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
 また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています


【一条薫@仮面ライダークウガ】
[状態]:健康、悲しみ
[装備]:滝和也のライダースーツ
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品2〜5(一条分1〜2確認済み、五代分1〜3未確認)、警察手帳、コートと背広、アークル
[思考]
基本:民間人の保護
0:五代…
1:警察として、人々を護る
2:五代の意志を継ぎ、さやかという少女を保護する
3:魔戒騎士である鋼牙の力にはある程度頼る
4:他に保護するべき人間を捜す
5:未確認生命体に警戒
※参戦時期は少なくともゴ・ガドル・バの死亡後です
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※アークルはほぼ完全な状態であるため、五代のようにこれを使用して変身することはできるかもしれません。



【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:負傷(右肩に切り傷、左胸から右わき腹までの深い切り傷、左前腕貫通、胸部破損、いずれも回復中)、疲労(大)
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣、虚像投影装置、煙幕発射装置
[道具]:支給品一式、生命の苔@らんま1/2、ランダム支給品0〜2個
[思考]
基本:カメンライダーを倒す。主催の言葉に従い殺し合いに乗るつもりは無い。
0:五代の死に……
1:二人の後をついて行く、『守る』……か。
2:良牙と合流できたら……???
3:エターナルを倒す。
4:特訓……か。
5:ミカゲや本郷の死に対する『悲しみ』
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。
※能力制限は一瞬しかゼクロスキックが出来ない状態と、治癒能力の低下です(後の書き手によって、加わる可能性はあります)。
※本人は制限ではなく、調整不足のせいだと思っています。
※名簿を確認しました。三影についてはBADANが再生させたものと考えている一方、共に戦う事は出来ないと考えています。



【備考】
※D-4にて五代雄介の死体は土葬されました。アークルは既に摘出されています。

99 ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 11:25:38 ID:NgZuP.WI0
以上、投下終了です。
今回は結構長いので、ミスや修正点などあるかもしれません。
指摘も遠慮なくお願いします。

100名無しさん:2012/07/21(土) 11:38:34 ID:4eBj6lQ.0
投下乙です!
五代さんにさやかちゃん……色々あったけど、最後に救われたのが救いかな。
とりあえずこれでまどマギ勢は杏子だけになったか……マジで全滅してもおかしくないかも。
五代さんは最後に一条さんと再会できてよかったな。彼の残したアークルが希望を齎してくれると信じたいです。
つぼみと良牙と出会った殿はムースに間違われてるけど、もしも元の姿に戻ったときに別人だと知られたらどうなるだろ?

そして、溝呂木さんに拾われてしまったスバル……もう、楽にしてあげて。

最後にもう一度、大作乙でした!

101名無しさん:2012/07/21(土) 14:03:12 ID:HA8hgMgE0
投下乙!
五代と一条、つぼみとさやかの最後のやりとりにグッと来た。
五代に戦ってほしくなかった、旅を続けて欲しかったっていう一条さんの言葉には、いつもクールな彼の本音を見ることが出来て良かった。
さやかちゃんも良かったなあ、最期につぼみに救われて。
改めて、大作乙です!

102名無しさん:2012/07/21(土) 14:07:58 ID:OhT8ZfYUO
投下乙です!
こう言っちゃ悪いがさやかあちゃんは結局最期まで行動が全て裏目裏目のいい道化だなぁ・・・まあスバルは最早最期の救いすら期待出来ないからそれに比べたらまだ幸せなんだろうけど

103名無しさん:2012/07/21(土) 16:03:08 ID:tM3fcpkY0
投下乙です

死者に鞭打ちたくないがさやかちゃんは原作からして正義の味方向きの人間では無かったからなあ。つぼみとのやり取りはただただ悲しくて綺麗だったよ
出会う場所が違ってたら…
五代さんは結果だけ見たらアレだが大きな希望を残してくれたと思うぞ
良牙は方向音痴とかギャグ空間ならまだ笑えるんだが…とりあえずこのまま行ったら殿の姿は元に戻りそう
その後は…
さて、スバルは…

104名無しさん:2012/07/21(土) 17:17:37 ID:Ive2ydEw0
投下乙です。

予約メンバーから誰か退場者出るとは(つぼみ、良牙、アヒル、アクマロの愛人)思ったが……まさかさやかと五代とは割と予想外。
しかも、4部作と長いけど実は戦いそのものはそこまで派手でもないのが。
結果だけを見れば五代退場というかなり痛いポイントだけど、最後にさやかがある意味救われたのが……一条達も五代の意志を継ぎさやかを救うつもりだっただろうけど……まぁ既に死んでいる……けどもう救われているというのが。
そういう意味ではつぼみ今回一番活躍出来ていたなぁ、救えなかったけど救えていたわけなのだから。
五代の影響は確実に村雨や一条に届いている(鋼牙には影響は無いだろう)わけだしなぁ……
良牙は相変わらず方向音痴でかき回してくれる……方向音痴のお陰でいきなり集団からはぐれて明後日の方向に行っても問題無いのが便利過ぎる……
勿論、この方向音痴が無ければこの結末も無かっただろうから悪くは言えないんだよなぁ(五代の動きが変わる関係上、結末も変化する)
鋼牙にしても零と遭遇する可能性も高いから安泰とは言えないし、アークルを誰かが受け継ぐとしても逆説的に凄まじき戦士のリスクも伴う問題もある。
とはいえ、このままつぼみ達と一条達が合流でめでたしめでたし……とはいかないんだよな、つぼみ達の仲間である一文字は村雨にとっては敵なわけだか一悶着が起こりかねない……
溝呂木はファウスト失ったのにあまり気に留めてないのが……まぁ代わりの愛人もあるわけだしね。
アヒルは……見ているだけだがもう辛い、つぼみとさやかのやり取りで胸が苦しく、両名の行動も結果の善し悪しはあってもそれ自体が必ずしも間違っているわけではないだろうから迷走していたアヒル的には辛い……しかも元に戻れそうな勢いだけど、元に戻ってどうしろというレベルな気も……ここまでヒドイ目にあう主人公も珍しい。

105名無しさん:2012/07/21(土) 17:28:29 ID:HA8hgMgE0
「心を救う」って意味じゃつぼみはハトプリの主人公らしい活躍をしたわけだな
しかし、さやかがつぼみと出会ったことで、まどマギ勢は全員がプリキュアと遭遇したわけだ
しかも5人とも出会ったキャラがバラバラ。

まどか→サンシャイン
さやか→ブロッサム
ほむら→パイン
マミ→ピーチ
杏子→パッション

まどマギの方は杏子以外死んでるのに対しプリキュア5人は全員生存中…
あれ、もしかしてプリキュアは厄b(ry

106名無しさん:2012/07/21(土) 17:43:40 ID:Ive2ydEw0
そういやまどマギ勢もう杏子だけになったけど、逆に杏子が一番長生きというのも珍しい気がする。
確かパラレル、ニコγでも他は割と健在でも杏子は退場済みだし、オーズの方も他健在であるにも関わらずこのほどほぼ退場状態(復帰の可能性は一応ある)になった筈。

107 ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 20:50:45 ID:NgZuP.WI0
感想ありがとうございます。
一箇所だけ修正点があるので、それだけ報告。
さやかちゃんの武器が全然レイピアじゃないのに、途中でレイピアになってたので、そこはサーベルに修正します(つぼみともめてるあたり)。

>>105
プリキュア同士が遭遇しても、複数のプリキュアと合流したえりかは(ry
mktn見ただけで子供になったゆりさんは(ry
ホテル組も大半死んだのに、いつきだけは(ry
ブッキーと行動し続ける霧彦は虫の息だし場所は戦地だから(ry

特に女性キャラと合流した時は高い確率で死んでますね…

108名無しさん:2012/07/21(土) 21:59:01 ID:HA8hgMgE0
>>107
実際女性の死亡比率高いしな
このロワの参加者の男女比は40:26で男性の方がだいぶ多いにもかかわらず、ここまでの死亡者は男10人、女11人だし

109名無しさん:2012/07/21(土) 22:24:09 ID:HA8hgMgE0
まあ、考えてみればラスボスだったりチート戦闘能力もちがほとんど男性陣だから女性が死にやすいのは仕方ない現象なのかもしれない

110 ◆gry038wOvE:2012/07/21(土) 22:36:48 ID:NgZuP.WI0
乱馬と京水とユーノがいるので、男女比とか言い出すとややこしいことになりますよ!

111名無しさん:2012/07/21(土) 22:40:31 ID:HA8hgMgE0
ちょとまて、最後はどういう意味だ

112名無しさん:2012/07/22(日) 02:58:20 ID:dKBpWpK.O
というかイメージ的にはプリキュア勢の出てる話での退場者が全体の半分近くに及ぶような気が、大惨事多いしw

113名無しさん:2012/07/22(日) 06:20:15 ID:qt9vtQrM0
やめて!このままだと用語集に【プリキュア=疫病神】や【男女比】が追加されちゃう!

114名無しさん:2012/07/22(日) 08:14:24 ID:J/babNjY0
それじゃあプリキュアをフォローする話でも一つ
>>112の真偽を調べるついでに、ライダーにもちょっと注目してみたんだが…
プリキュア(ノーザ以外の9人)が出てる話での死亡者が11人、プリキュア本人を数えなかったら10人
ライダー(各作品の仮面ライダー計9人)が登場する話での死亡者が15人、ライダー本人の死亡を除けば12人
つまり、プリキュアよりもライダーが出てる話の方が死亡者が多いんだよ!

あとついでにいうと、死亡したライダー3人、こいつらは誰一人単独死亡がいない

115名無しさん:2012/07/22(日) 08:29:53 ID:zp5N7hYY0
単純に参加者にかける割合じゃねーの?

116名無しさん:2012/07/22(日) 09:35:54 ID:wwqGTr5w0
そもそも未明、黎明はプリキュアと合流してない人しかいないから問題は早朝以降
早朝以降に死亡した参加者でプリキュアと会ってないのは十臓とパンストだけ
まあ、実際総合して見ると疫病神っていうより【プリキュア>>>魔法少女】だなぁ…
仮面ライダーは疫病神っていうより、原作からして関わった人間が死ぬし、原作ではあんまり人死なないプリキュアだから何か感じるんだね

で、全魔法少女&プリキュア中、唯一他の魔法少女&プリキュアに合流してないmktn
ここでも安定と信頼の不遇っぷりだな

117名無しさん:2012/07/22(日) 09:43:19 ID:NnRoJQqo0
でも、他の青の子と比べるとずいぶん恵まれてると思うんだよね……

118名無しさん:2012/07/22(日) 10:02:27 ID:wwqGTr5w0
でも「え?参加してたの?」みたいな感じだし…
孤門含め、登場する話では別の場所にいる参加者の後に描かれることが多い
しかもこの二人は歩きながら休んでるだけで、市街地に向かってる人の中で一番遠い
戦闘にもめぐり合わないし、孤門はこの時点で何も変身道具持ってない
あまり話題になった覚えもない…
他の青い子とは別のベクトルで悲惨じゃね?

119名無しさん:2012/07/22(日) 10:08:24 ID:wwqGTr5w0
とりあえず各話で描かれた順番ね

不幸のバトルロワイヤル!〜 → ラブマミパート>孤門mktn
願い → シンヤ>孤門mktn>ゆり
三つの思い!〜 → ゆり>孤門mktn

なんなんだこの扱いは…

120名無しさん:2012/07/22(日) 11:13:38 ID:VeAaVp2w0
まあ、この時点では違うけど、最終回ではジュネッスブルーに変身したし
ナイトレイダーの制服も青いからな……

121名無しさん:2012/07/22(日) 11:17:30 ID:J/babNjY0
この二人は情報交換した後はほとんど移動しかしてないはずなのにかなりの牛歩だからな
しかもゆりさんに灯台から観測されるために移動距離を短くされたのにそのゆりさんにはスルーされるしな

122名無しさん:2012/07/22(日) 11:24:04 ID:6lUr5ZjU0
姫矢さんと孤門君マジ歩くメタフィールド

123名無しさん:2012/07/22(日) 12:39:29 ID:QzREYgY60
メタもあるが良くも悪くも活躍がいまいちだな
でもドウコクと一緒で拡声器での挑発が来たから…

124名無しさん:2012/07/22(日) 13:49:19 ID:zp5N7hYY0
まぁ正直参戦する前から、もし出たらこうなるだろうなとは予想されてたけどな

125名無しさん:2012/07/22(日) 14:54:19 ID:wwqGTr5w0
実は誰にも会わなくて暇だから途中で何回もテープレコーダー見てたのかも
つか突然雑談が物凄い増えたなぁ

126名無しさん:2012/07/22(日) 17:41:15 ID:dKBpWpK.O
まあやり過ぎるようならしたらばでやれってなるけど、勢いがあるのはいいことじゃないか?しかしまた用語集がw

127名無しさん:2012/07/22(日) 20:19:13 ID:dyP2FlU.O
まどかなのはは他ロワに出てるけど、プリキュアはほぼ初参戦なのも大きいと思う
別に優遇されてるとかじゃなく、「こういうキャラなんですよ」と紹介される役回りに回ることが多かったというか

シャンゼらんまも初参戦だけど、こいつらも死人出しつつもだいぶ活躍してるし

128名無しさん:2012/07/22(日) 20:31:37 ID:wwqGTr5w0
一方ネクサスと牙狼は(ry

129名無しさん:2012/07/22(日) 20:36:42 ID:RMNQvkYwO
ネクサスと牙狼は正直、強すぎて逆に扱いにくいと思うんだよね
下手に活躍させると一強になりかねないし。

130名無しさん:2012/07/22(日) 20:55:02 ID:wwqGTr5w0
牙狼はそもそもホラー相手じゃなければ変身する意味が無いからなぁ…
そのうえ、99.9秒しか変身できないというオマケつき(既に鎧に食われたバラゴは変身しまくれるけど)
更に、こいつら生身でも馬鹿みたいに強い
まあ、乱馬たちが雑魚扱いなら流石に変身キャラに敵わない扱いだろうけど

131名無しさん:2012/07/22(日) 22:47:53 ID:J/babNjY0
うん、魔戒騎士の時間制限は確かにシビアすぎて戦わせづらいよね
ネクサスは、ファウストやメフィストの戦闘ぶりからプリキュアやライダークラスだと思ってたが、そんなに強いもんなのか?

132名無しさん:2012/07/22(日) 22:50:17 ID:mEyAvrf60
加えて、鋼牙も零も実は普通に考察役に回せるくらい頭脳面でも優れてんだよな。
ホラーが仕掛けてきたゲームやギャンブルとか、謎解きの試練を難なくこなしてるし……

事実、首輪の考察も魔戒騎士組が一番進んでる。
まあ、相方が結城に一条ってのがこれは大きいかもしれないが。
……考えてみたら、二人とも似た相方を引いてるな。
一条も結城も、生身でありながら闘い続けた猛者だわ

133名無しさん:2012/07/22(日) 23:23:10 ID:F84kLvg60
>>130 >>131

一応、魔界かそれに準じた場所なら制限時間がなくなりはしますけどね。
もっとも、この会場がそうだという保証はないから……

134名無しさん:2012/07/23(月) 04:13:00 ID:cNpEqO7g0
という事は三途の池なら制限なしかな?

135名無しさん:2012/07/23(月) 10:30:09 ID:2dXz6FkQ0
むしろ心滅獣身があった方が主催者的には上手い具合に進むからなぁ…
ちなみに魔戒騎士たちのチートぶりまとめ

基本的に魔弾、毒、幻覚剤などは効かない模様

鋼牙
ただでさえチートな魔戒騎士の最高位で、ホラーの始祖や7体の使徒ホラー、闇に堕ちた魔戒騎士、メシアの牙などを葬った爆チート野郎
画面の外でも最強クラスのホラーたちを狩っている
クールだが「守りし者」の使命を胸に抱きし熱血漢で、心滅獣身しても強靭な意志でちゃんと元に戻った
冴島財閥の御曹司という設定があるらしくデカい屋敷を持っていて、顔も美形なのでカオル、邪美、列花など様々な女性キャラからもモテモテ
しかも当然のように頭が良いし、甘ちゃんというわけでもないからホラーが何を言っても動じず容赦なく斬る
更にいうなら運も豪運の域


黄金騎士には劣るものの、おそらく魔戒騎士では二番目くらいに強い
魔導馬というサブウェポンは既に魔戒騎士界で三人しか使えないが、それを駆るうちの一人
一時期は鋼牙と互角かそれ以上の戦いぶりを見せており、二期では単独で主人公を飾ることも多い(その回に鋼牙は出ない)
おそらく鋼牙よりも美形で、女子高に入るなり周囲にキャーキャー言われることもある(鋼牙はムスっとしてるので通りすがる人に不審がられやすい)
鋼牙とは違いフラフラと旅をしているが、派手なバイク持ってたりするので、おそらくコイツも結構な金持ち
実は鋼牙よりも甘いが、それでも充分容赦ない

バラゴ
上二人が同時にかかっても倒せなかったキチガイ
ホラーを千体も狩ったうえに喰らい、魔戒騎士の大半をコイツ一人で葬ったせいで全国的に魔戒騎士が減った
鋼牙の父親(先代牙狼)、零の兄弟子、零の家族などを殺害した張本人(つまりマジで強い)
一応、克己とかと同じで元々優しい少年らしい
顔は京本政樹だが、それは薬で変容させてるだけで実は超醜い顔
外伝、小説版などでは主人公を張り、その辺りから元々優しい人間だった設定についても触れ始める
死後は、さも京本が本当の姿だったみたいな描かれ方をすることがある
あと、「66」人の参加者は何気に彼にとって因果のある数字

136名無しさん:2012/07/23(月) 13:54:11 ID:W3E6GYI20
アークルってなあに??

137名無しさん:2012/07/23(月) 14:17:08 ID:nh99zFYI0
ただ、牙狼は敵キャラもチート揃いだから、結構作中でも苦戦はしてるんだよな。
ホラーもピンキリだし。
とりあえず、一期シリーズのみであげると

・ハンプティ
鋼牙の剣がまるで通用しなかった巨体ホラー。
パワーと防御力がかなり高く、轟天を入手できなければ勝てなかった可能性が高い強敵。

・コダマ
一期の黒幕である三神官が、従えている従者。
鋼牙や零には特別な道具を使わなければ扱えない魔導火を、生身で使用可能。
また、口から音の塊を弾丸として発射でき、威力は変身した鋼牙と零を怯ませるほど。
しかし何より凄まじいのは身体能力で、素手の白兵戦で鋼牙と零二人相手に完全に互角。
魔戒剣でも簡単には傷つけられない肉体強度があり、攻守共に完璧。
その上で、更に獣形態への変身能力まであり、獣化した時の能力は、変身した鋼牙達ですら歯が立たなかった。

・ガルム
三神官が合体した姿であり、コダマの母親。
戦闘力はコダマと互角かやや劣る程度だが、それでも十分すぎる。
ゴンザの乱入というアクシデントさえなければ、零が倒されてた可能性は高い。

・メシア
全てのホラーの始祖とされる存在。
100mは軽く越えてる巨体で、歩いたその足跡からは大量のホラーが生まれてくる。
軽く吐息をしただけで辺りが吹き飛ぶ被害をだし、体中からは砲門を出現させて爆撃が可能。
こいつを目覚めさせるのが三神官とバラゴの狙いで、人間界に現れたら最後、人間界が滅びると言われている。
ウルトラマンかシンケンオーでも持ち出した方が絶対にいい規模の敵。

そしてSPや二期シリーズでは、レギュレイスとかシグマとか、こいつら以上にやばい連中も出る始末……

138名無しさん:2012/07/23(月) 15:37:20 ID:2dXz6FkQ0
あと、プリキュアも実はメチャクチャ強い気がする
明らかに仮面ライダーより身体能力あるだろ

139名無しさん:2012/07/23(月) 15:51:30 ID:XKGxA5Js0
ウルトラマンもなかなか強いと思うけどね
ただ、3分間しか戦えない上に原作通りにやると一強になりそうなのが。

140名無しさん:2012/07/23(月) 17:10:02 ID:2dXz6FkQ0
ネクサスはメタフィールド以外では3分じゃないぞ
しかも作中でも実は苦戦ばっかりだし
ノアに変身したらガチで強すぎるけど

時間制限あるのは魔戒騎士とクウガだけじゃね?

141名無しさん:2012/07/23(月) 17:13:59 ID:2dXz6FkQ0
あとアクセルか

142名無しさん:2012/07/23(月) 17:14:04 ID:bxF..eGI0
ブレードも30分制限あるで

143名無しさん:2012/07/23(月) 17:43:18 ID:52Pgz1KI0
>>136
クウガのベルトの名前

144名無しさん:2012/07/23(月) 18:08:21 ID:HwsqfB3.0
>>143
ありがと!
クウガのベルトって誰にでも使えるんかなぁ…

145名無しさん:2012/07/23(月) 20:09:36 ID:ETAwFElk0
未把握の人のために、ちょっと牙狼の戦闘シーン動画を見つけてきた。

鋼牙vs零
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm5353256
鋼牙vsハンプティ
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm5369997

おそらくこの二つを見ただけでも、牙狼がいかに凄まじいか分かる筈。

146名無しさん:2012/07/23(月) 20:37:20 ID:LPg5WqfgO
>>144
「誰にでも」は無理、アークルに選ばれても某クウキみたいな例もあるわけだから五代さんみたいな活躍は……今までロワで五代さん何か活躍したか?

147名無しさん:2012/07/23(月) 20:59:54 ID:yN7tgosg0
牙狼一期しか見てないから、ついさっきwikipedia見るまで邪美は死んだと思ってた
来年の春に映画やるとかって話だし、それまでに2期とか白夜とかREDみたいなあ

148名無しさん:2012/07/23(月) 21:36:48 ID:2dXz6FkQ0
>>144
たぶん、アークルが選べば可能なんじゃね?
今のところ一番の候補は一条さんか村雨かな?というか他にいないだろう

149名無しさん:2012/07/23(月) 21:40:02 ID:e/vGcBGg0
ブラスター化ブレード、牙狼、絶狼、ネクサス
対主宰で言うなら、ここまでの流れだとこの四人がトップクラスな気がするな。
故人を含めるならクウガもアルティメットやアメイジングがあるから期待できたが……
あと、エクストリーム化が出来るならWも

150名無しさん:2012/07/23(月) 21:41:56 ID:52Pgz1KI0
>>146
むしろロワだと某クウキの方が活躍してるしなw

151名無しさん:2012/07/23(月) 21:57:03 ID:JusoQCzc0
>>149
牙狼&絶狼:99.9秒の制限時間あり、それを越えると心滅獣身が起こり暴走

ブラスターブレード:記憶障害が起こる

ネクサス:メタフィールド内でのみ制限時間ありだが、この会場内ではどうなるかはまだ不明。
また、光線等にエネルギーを使いすぎても変身が解ける危険性もある。

……書いてから気づいたけど、強い分代償もでかいな、この四人

152名無しさん:2012/07/23(月) 23:10:22 ID:LPg5WqfgO
>>150
変に完成されたキャラより未熟な方がロワ映えするってことなのか……

153名無しさん:2012/07/23(月) 23:17:41 ID:Yxl7Og/E0
最強形態のエターナルを倒したWのCJGXや、各々のラスボスを倒したプリキュアの最終形態も相当チートだぞ

154名無しさん:2012/07/23(月) 23:46:49 ID:2dXz6FkQ0
ノアに変身すれば他全部で攻撃してきても勝てないレベル
ただでさえ強いウルトラ戦士で最強

まずダークザギのスペックが
・ウルトラマンキングの単一宇宙破壊の4該7304京倍以上の攻撃が効かない
・素早さは、秒速236穰5200垓光年で戦闘可能のウルトラマンキングを圧倒する

そんなザギを一話で余裕しゃくしゃくと葬ったのがウルトラマンノア

155名無しさん:2012/07/24(火) 01:24:02 ID:JBRSFlrI0
>>148
一条ならともかく、村雨にアークルが装着できるのか?
アークルで生身の体を神経伸ばして改造する原理だろうに、村雨って99%改造されたほぼ機械製のメタルボディだろうに。

156名無しさん:2012/07/24(火) 02:48:29 ID:DMpSrzWc0
ベルトが二つも埋められてるとか見栄え悪いし、たぶん誰もやらないだろうな

157名無しさん:2012/07/24(火) 10:32:21 ID:y0wZF8ho0
バトロワの風刺というかロマン的にはそのアークルってやつに誰かが選ばれればいいなーなんて思っちゃうんだよね

158名無しさん:2012/07/24(火) 11:04:31 ID:DMpSrzWc0
他のスレで請け負ってもらって、遂に現在地の移動できるやつ完成!
作成者さんありがとうございました!
というわけで、たぶん全員分の画像と名前だけは入力終わりました。

それから死者スレも更新されていた模様。
さやかちゃんとマミさん…折角友達ができたのにーーーーっ!

159名無しさん:2012/07/24(火) 17:37:57 ID:ONyQQ.IA0
現在地の地図が出来たんですか!やったー!
マミさんが「みんな死ぬしかないじゃない」じゃないですか!やだー!

160名無しさん:2012/07/24(火) 18:30:46 ID:p9UMHsUI0
差し替えよう!(提案)

161名無しさん:2012/07/24(火) 18:59:06 ID:sN.FJO6E0
>つぼみ「えりか、もしそっちにいたら……私の友達と仲良くしてあげてください。」

えりか、つぼみの願いとは裏腹にいきなりさやかと喧嘩してるw

162名無しさん:2012/07/24(火) 19:10:05 ID:4xMs6T4YO
やっぱりなんちゃって正義の味方はダメだな、次

163名無しさん:2012/07/24(火) 20:45:35 ID:DMpSrzWc0
ていうか、さやかはまず五代に謝れよー!!
死者スレのさやかとマミさんは原作レイプならぬ、二次創作レイプだなwww
死に際のやり取りと死後でギャップありすぎだろ

164名無しさん:2012/07/24(火) 21:46:30 ID:n.2OLx0E0
他の三人が刃牙クラスの戦いをしていたとすれば、ムーンライトさんは一人だけドラゴンボールの世界だった

165名無しさん:2012/07/24(火) 21:58:58 ID:sN.FJO6E0
ニコニコ大百科のスレではテッカマンブレードの世界に住んでるって言われてたな、ゆりさん

166名無しさん:2012/07/24(火) 22:33:08 ID:DMpSrzWc0
それパロロワ関連のスレでも言われてたな

167 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/25(水) 09:22:27 ID:OfRDttTg0
>>158
画像と名前の入力ありがとうございます。
せっかく入力していただいたのに申し訳ありませんが、キャラの画像を差し替える事ってできるでしょうか?

168名無しさん:2012/07/25(水) 09:56:50 ID:S61KPy4M0
確か一回削除して作り直さないと無理

169名無しさん:2012/07/26(木) 16:08:45 ID:Jfex5bhA0
つぼみのおばあちゃんの名前って旧姓だと五代薫子なんだな…。
五代という苗字といい、薫子という名前といい凄い偶然。

170名無しさん:2012/07/27(金) 15:46:35 ID:gmi6ejxQ0
そういやこのロワ、猫と縁がある参加者が多いよね
縁の強さに大小こそあるけど
とりあえず思いつく限りだと

猫に変身(シャンプー)
猫が苦手(乱馬、ユーノ)
猫型デバイス所持(アインハルト)
敵幹部が猫(翔太郎、照井)
その幹部猫に命を狙われる飼い主(霧彦、冴子)
招き猫になる(殿)
猫に食われかける(源太)
猫の蘇生を願って魔法少女になる(1週目まどか)

171名無しさん:2012/07/27(金) 19:17:54 ID:Slzrkt6AO
あと三影が虎怪人

172名無しさん:2012/07/27(金) 19:20:57 ID:Slzrkt6AO
あと、村雨が黒猫を助けた

173名無しさん:2012/07/27(金) 22:49:18 ID:33Pwqzjg0
暁やブッキーは犬と仲が良いな
まあ、暁はゴキブリとも縁があるけど

174名無しさん:2012/07/28(土) 04:43:57 ID:DedHKhLA0
ゴキブリを「飼ってるんだ」とかいってる暁はぶっちゃけ可愛かった

175名無しさん:2012/07/28(土) 17:08:37 ID:SxpYeumM0
最近の死者スレの伸び具合は目を見張るものがあるな。
でもキャラ崩壊して台詞が毎回ありそうなさやかやマミやキャラ崩壊の道を探しているほむらはともかく
まどカスや変態まどかも見飽きられた感があるまどかや根がいい子な杏子は正直どうしようもない感じがあるな。

176 ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 01:52:52 ID:1o4kUQyU0
お待たせしました。ただいまより投下を開始します。

177仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 01:54:38 ID:1o4kUQyU0



 ダークプリキュアが進み続けた森は、彼女には似つかわしくない────飲み込み消したいほどの「光」が差し込んでいた。
 しかし、全身が黒尽くめの彼女の姿はその大量の光を浴びることによって初めて、その存在が証明される。闇と微量の光だけに染まれば、彼女の姿が浮かび上がることは決してないからだ。
 光が僅かであれば、人はダークプリキュアの存在にさえ気づかれず、其処にただ漆黒があるのだという認識しか受けない。
 ────無論、この状況下では夜間に闇に紛れた方が色々とやりやすいし、彼女は光を好ましく思わない。この際、己の存在などは関係ないだろう。


 ……が、逆に敵の姿を捕捉しにくくなるというデメリットも確かに存在する。
 ゆえに、彼女としては源太らと交戦した時間帯よりもむしろ、キュアサンシャインらと交戦して間もない今現在の方が遥かに動きやすいと思っていた。
 実際、夜も昼も変わらない。自分はどうあっても勝ち進むだけだ。それでも、やはり聴覚のみで戦うよりか、視覚に頼り行動した方が効率は上がる。
 そして、彼女の視覚は今この瞬間、標的の少女を見つけ出した。



(あれは……キュアムーンライト……)



 ────しかし、時として視覚がまた厄介な存在となるのだ。
 聴覚だけで得た情報はまだ絶対なものではない。耳から入る情報の中には、嘘も大いに含まれる。その人が受けた情報を、口で説明しているのだから、絶対に確定的な情報というわけではない。
 無論、内容や状況や相手によれば、それでも充分な真実味はあるが、そこに視覚が加わってこそ、真実味が増していく。
 人間が本当に信じていいのは、この目で確かに見たものだけだ。


 ────目的地にたどり着いた、今の彼女はその情報が確実なものであることがわかったのが、悔しいとさえ思った。


 聴覚と視覚の二つの感覚が、彼女に全てを伝え、唖然とさせる。
 だから、彼女は思わず、それを現実の光景だと受け入れることさえ拒んで思った。



(何を、バカな……)



 ────衝撃の事実を伝えるのが、聴覚。
 ────そして、それが真実だと教えてくれるのが、視覚。



(これが…………キュアムーンライトの────)



 己が執着し続けた対象の少女が、誰かも知らぬ男と戦いを繰り広げる悪夢が、彼女の行く手にはあった。
 対峙というには、あまりに一方的に敗北する姿。言ってみれば、危機的な状況に在る。
 彼女が本当にあのキュアムーンライトであるというのなら、この手で決着をつけねばならないのだから、この手を足を翼を、この戦いに介入させたろう。
 しかし、彼女は視覚と聴覚を通してその光景を見たというのに、まだ半信半疑であったから、ただ呆然と眺めるだけで戦いに介入しなかった。
 これが夜でなく朝の出来事だから、余計にはっきりと見えてしまう。
 


『え……そんな……』

『大体、あんた自身が俺が人間である事を疑問視していただろう、それが証拠だ。誰を生き返らせたいのか知らないが、感情や過去の記憶を失っていく奴を取り戻した所で意味なんてあるのか?』



 ──己の推測が一分の狂いも無かったことを証明する会話のシーンを、彼女は色違いの両目に焼き付けてしまったのであった。
 男が白色の戦士に変身し、ゆりを追い詰める際の会話が、その前の話の流れを知らずとも、彼女が殺し合いに乗っていたということを教えた。
 男は言う。


 
『ああ、そうだ狂っているな。だが、過去に囚われ殺し合いに乗った悪魔が言えた事じゃねぇ。俺に言わせりゃ、人間は皆悪魔だ』



 ダークプリキュアは、その言葉でその少女が自ら進んで殺し合いに乗っていたということを知る。そして、何度も女子高生の姿を見つめなおした。

178仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 01:56:17 ID:1o4kUQyU0
 其処にあるのは、ダークプリキュアの存在が近くにあることさえ気づかず、ただ目の前の敵に対し足掻こうとする無様な人間────きっと、普段ならダークプリキュアは気にも留めないであろう一般人が、そこにいた。
 唯一、その女子高生が人間離れしているのは、この状況にあっても決して諦めようとも挫けようともせず、足掻いて生き続けようとすることであろうか。


 しかし、それでもダークプリキュアならばきっと、一瞬で彼女を吹き飛ばせてしまえるだろう。
 ここからファークフォルテウェーブを放てば、きっと彼女は消滅する。
 ダークプリキュアの望む『勝利』が、そこで手に入るのだ。
 だが、それで勝ったと、そう言えるのだろうか────?


 仮に正々堂々と勝負したとして、今の彼女に負けるものだろうか。
 ましてや、キュアマリンという明らかに利用し甲斐のある仲間を喪い、これからも殺し合いを続けていこうという彼女には。



(どういうことだ……! キュアムーンライト……!!)



 結局、ダークプリキュアはそれ以後も戦いに顔を出すことなく二人の様子を見続けた。
 その二人の戦いは、キュアムーンライトの機転で、二人の戦いは誰も死なないままに終わった。
 それは、劣勢だったキュアムーンライトが辛うじて生き延びたというのみで、鼻から大道克己が死ぬという結末は在り得ない事象だったのかもしれない。


 ともかく、二人の戦いは終わり、ダークプリキュアの周囲は静かになった。
 だが、彼女は先ほどの騒音と静寂の落差にさえ気づかないほど、深く考え込んでいたので、実際既に聴覚の情報はどうでも良いのかもしれない。
 彼女が考えているのは一点だった。



(奴は一体、誰を生き返らせようとしたのだ……?)



 そう、彼女は誰かを生き返らせるために戦っている。
 それはわかった。認めたくは無いが、これは真実だ。
 しかし、結局、その会話の中でその「生き返らせたい相手」については、一切触れられなかった。これが殺人事件であったのなら、「動機」にあたる部分だ。
 もしや、加頭という男の戯言を鵜呑みにして、参加者全員を蘇生しようという短絡的な考えの元生まれた行為でもあるまい。
 彼女の性格について、そこまで詳しくは知らないのだが、そんな事をする人間とも思えなかった。



(キュアマリン、いや────)



 一人のプリキュアの名前を浮かべたが、それはきっと、目的の一貫だ。おそらくは、キュアマリンはキュアムーンライトの手で葬られた。誤って殺してしまったというわけでもないだろう。おそらく、それより先に明確な目的が存在したからだ。
 先ほどまでの推理は、推という字を入れるのさえ躊躇われるほど現実感の高いものだった。
 彼女が殺し合いに乗ったのは事実、そして彼女と行動していたキュアマリンが死亡したのも事実。
 それはあの場だけでも充分に確信であったし、その結果として在り得ないことも充分わかる。


 そして、もう一つの確信の持てなかった情報が、不意にその瞬間、頭を過ぎった────



『私は、知ってる……! あなたがゆりさんの『妹』だっていうことも!
 あなたのお父さんがあなたを愛していたことも知ってる! だから、あなたを救う手助けができる!』



 ムーンライトらの会話で、出て来た「母親」というキーワードが連想させた、「親」「家族」の概念。その言葉を聞いた時の既視感が、いま再び舞い降りた。
 キュアサンシャインから聞いたあの言葉を、ダークプリキュアはキュアムーンライトの行動と照らし合わせて考察する。

179仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 01:56:58 ID:1o4kUQyU0


 父さん────?
 母親────?
 妹────?


 その愛を知らず、人形として生きてきたダークプリキュアが知るはずも無い。
 幸せや愛の定義など、彼女にはわからないし、感じていたとしてもそれが愛なのだと気づかない。求めてはいても、知ってなどいない。
 ゆえに、その言葉を聞いても何の重みもない。……が、この時に限れば別であった。


 キュアムーンライトは殺し合いに乗っているというのに、大道が母親への愛情を失ったと聞いたとき、異常と言ってもいいほど動揺した(この時、ダークプリキュアも自分でも気づかぬほど小さな動揺を見せていた)。
 キュアムーンライトは、『仲間』は殺したというのに、『家族』というものに強く反応した。
 おそらく、彼女が求めたのはそれであると、ダークプリキュアは思った。
 いずれも、仲間や家族は、人間や動物ならば誰にでもあるはずのものだ。


 ダークプリキュアに二つの言葉は、重く圧し掛かる。


 ダークプリキュアが殺し合う目的は、サバーク様の下へと帰る為────言うならば、彼女の家族はサバークただ一人。
 だから、そこで妙な共感さえ生まれかけていた。
 だが、その共感こそが敵であり、在ってはならない物なのだと、彼女は思った。



(────奴は仲間の為ではなく、私と同じ目的で戦っているのか?)



 大事なもの二つを天秤にかけ、その結果、片方を選び片方を切った。
 家族のために、仲間を殺した。
 ダークプリキュアはこの場には敵対相手しかいなかったし、唯一同勢力といえるクモジャキーはオープニングでは言葉をかける暇すら与えられずに散った。
 しかし、それに一切動揺はしていないし、むしろそこで死んでしまった彼に対しては余計冷淡になったといえる。
 今のキュアムーンライトは、そんなダークプリキュアと同じだった。



(…………意味がない。あんなキュアムーンライトと戦うことに、意味はない!!!)



 ダークプリキュアは密かに激昂する。


 キュアムーンライトの絶望?
 ダークプリキュアとしてはそれは大いに結構。
 もし、ダークプリキュアの策略や行動によって、悪に堕ちるというのなら大歓迎である。──────しかし、それはあくまでダークプリキュアの手によって、だったらばの話だ。
 他人の手で悪に堕ち、他人の甘言に乗せられ、他人の変身能力を奪われたキュアムーンライトなど────意味のない、相手だ。


 彼女の中に刻み付けられた人間は、皆特異だった。
 プリキュアたちは皆、当然ただの無力な人間ではない。ダークプリキュアに比べれば格下の相手で眼中にない相手だが、少なくとも認識はされている。
 ドーパントなどという得体の知れない怪物に変身して、何もせずに撤退した彼女はそれと同等────或いは、それ以下。


 彼女は変身能力を奪われ、のこのこ逃げた(その場にいた克己が気づかなかったくらいなので、ダークプリキュアの目にもバード・ドーパントがデイパックを奪った映像や彼のデイパックの数は映っていなかったため、彼女はただ一撃浴びせて逃げたとしか思われていなかった)。
 何と落ちぶれた姿だろう。
 それでも、ダークプリキュアはあくまで、『キュアムーンライト』との勝負に拘る。

180仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 01:58:14 ID:1o4kUQyU0



 ダークプリキュアは今、ココロポットとプリキュアの種を持っているであろう男・大道克己の姿を追っていた。
 月影ゆりがバード・ドーパントに変身して戦ったとして、それは何かが違う。
 彼女が固執するのは月影ゆりである以前に、キュアムーンライトとして戦う彼女だ。だから、彼女は変身のできない頃の彼女に変身後ほどの強い執着はしてこなかったし、プリキュアの名を貶める為にダークプリキュアを名乗ったりもした。
 ならば────



(私の手で取り戻し、私の手で決着をつけさせてやる────)



 そうだ、奴の力を取り戻すのだ。
 もし、奪う時は、自分の力で奪ってみせる。
 一度はダークプリキュアはキュアムーンライトの変身能力を奪った。
 その時とは正反対の行動でありながら、同じ目的を持ちながら、ダークプリキュアは歩く。
 彼女は引きつった目で、喜怒哀楽の一つを表現していた。
 それが、喜と楽は絶対にありえない。それは彼女を知る者なら、わかるだろう。
 しかし、怒か哀かは、誰の目にも見せなかったから、どちらかはわからないままだった。




★ ★ ★ ★ ★





「闇の力よ集え……ダークタクト!」



 ダークタクトを生成したダークプリキュアの目線の先にあるのは、先ほどキュアムーンライトと対決していた大道克己である。
 彼の外見は若いようにも見えれば、ある程度年をとっているようにも見える。だが、険しく感情を映さない姿は、善良にも見えないし、笑顔さえ似合いそうになかった。
 ダークプリキュアが持つ情報といえば、少なくとも彼は何らかの変身者であり、ネクロオーバー・NEVERなる特異な存在だということ。
 NEVERにしろ何にせよ、一番厄介なのは変身能力だ。
 あのエターナルの姿になる前────変身前に奇襲した方が確実であり、絶対である。

 故に────



「ダークフォルテウェイブ!」



 ────こちらに気づく前に、一瞬で解き放ち、吹き飛ばす。


 まるでこちらに気づいていない生身の相手を攻撃することに躊躇はない。
 彼女が執着するのはキュアムーンライトだけであり、それ以外は取るに足らない脇役でしかないのだ。
 だから、この行為さえ蟻を踏むのと同じで、後ろめたく思ったりしない。
 彼女はゆっくりと地を踏み、ココロポットの回収へ向かっていたのである。

181仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 01:59:12 ID:1o4kUQyU0



「死んだか……? まあいい……」



 てくてくてく。


 土ぼこりが舞い、少し視界が悪い。
 デイパックは無事だろうか。何にせよ、あれがそう簡単に壊れるとは思えない。
 人体が吹き飛ぶ程度の威力は使ったはずだ。デイパックの中身も大半が吹き飛んでいるだろう。


 ─────が、



「次から次へと、死にたいヤツが多いらしいな」



 眼前の土ぼこりの山から、爆煙を踏み越えていると錯覚させる跳躍力で、白い戦士────仮面ライダーエターナルが現れ、ダークプリキュアに言う。
 彼女はそれに動じなかった。とはいえ、やはり厄介には思っただろう。
 顔をもう少し上げて、彼を見ながらダークプリキュアが口を開いた。



「NEVER……やはり、そう簡単には消えてはくれないか」



 身長を見れば大きな差があったが、ダークプリキュアは敵の大きさには屈しない。
 まあ、場合によれば彼は変身して奇襲を回避するだろうと当たりをつけていたために、すぐ彼女はダークタクトを構えた。
 だが、シュタッと音をたてて地に舞い降りる彼は、構えることさえしない。
 ただ堂々と、眼前のダークプリキュアを見下しているかのように、楽な姿勢で立って睨みつけている。
 積極的な攻撃よりも、敵が来るのを待って迎撃す……今はそういう怠惰な格闘タイプであった。何も普段からそういうわけではない。ただの気まぐれであった。
 彼はダークプリキュアの華奢で若々しい少女の姿を見て、呆れたように吐き捨てる。



「……なんだ、また女か」

「キュアムーンライト……奴の変身道具を渡してもらおう」



 ダークプリキュアには性別など関係ない。強く意識したこともない。
 だから、彼の台詞は無視するし、苛立ちもしない。感情が動かないのだ。
 それよりも、真先に本題となる要求を始めた。
 彼女の目的は単純。彼女の武器を────せめてココロポットと欠けたプリキュアの種を得ようというのだ。
 これが殺し合いであるから、奇襲ついでに得ようとしたのみで、手に入るのならばどういう形でもいい。ここで明け渡してもらえるならそれでいい。

182仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:00:03 ID:1o4kUQyU0



「ほう。キュアムーンライトの知り合いか? っていうことは、お前がダークプリキュアっていう奴みたいだな。
 確かあのキュアムーンライトとかいう奴の『姉妹』だったか……」



 ダークプリキュアは眉を顰めた。
 エターナルに変身する大道克己の曖昧な記憶は、先ほどの会話での月影ゆりの反応をそう認識させていたのだ。無論、彼とて、確信があって言ったわけじゃない。
 ただ、そこに間違いがあったところで、彼には恥でも何でもない。第一、この言い方そのものが曖昧だ。
 とにかく、そんなうろ覚えの言葉だったが、ダークプリキュアには多少効き目があった。



「何を言うかと思えば…………やはり、この場には余計な記憶違いをしている人間が溢れているようだな。
 私は確かにダークプリキュアだ。しかし、キュアムーンライトの姉妹などではない!」



 そう口にしてはいるものの、彼女は内心動揺していたのである。
 何故、こんな風なことを口にする者が、この場にはこんなにいるのか。
 彼女は何も知らなかったし、彼女はそこから確信を得ていくこともない。
 ただ、もやもやとした疑念が頭の中を渦巻く。



(まさか、キュアムーンライトが言ったのか……?)



 そう、ダークプリキュアという名前を名簿で知ったにしても何にしても、そこからキュアムーンライトの姉妹という発想が生まれるには、何らかの理論を通す必要がある。
 少ない手がかりでそれを得ることは、おそらく彼には不可能だろう。
 接触したキュアムーンライトの口から、何かを聞いた可能性が高い────。
 実際、大道は彼女に揺さぶりをかけて、その反応から姉妹という情報を得たのだから、ダークプリキュアの推論もあながち間違いではなかったといえる。



(だとすれば、何故奴はそんなことを……? まさか、私とキュアムーンライトは本当に────)



 キュアサンシャインといい、キュアムーンライトといい、この眼前の白き怪人といい、不思議な勘違いをする人間が多すぎた。
 サバーク博士に作られたダークプリキュア、そして月影博士の子・キュアムーンライト。
 それが姉妹という言葉には直結しない。二人は敵対する存在であり、決して交わらない光と影なのであった。

183仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:00:48 ID:1o4kUQyU0



「まあ、そんなことは俺にはどうでもいいし興味は無い……。
 女だろうが、あいつの姉妹だろうが、武器を向けたからには、戦うしかあるまい?
 ……しかし、残念ながら向けた相手が悪かったみたいだな!」



 と、エターナルの言葉でダークプリキュアは我に返る。



「なるほど……。欲しくば戦って奪えということか!」

「そういうことだ!」



 何も言わずに問答無用で攻撃を受けていれば、ダークプリキュアには只ならぬダメージが襲い掛かっていたことだろう。
 そんな隙を作っていたことを悔いながら、しかし実際に何も起こっていないのなら戦えるという新たな覚悟で、ダークプリキュアは敵を睨んだ。
 戦いの火蓋は切られた。



「悪いが時間がねえ。すぐに地獄に送ってやる!」



 エターナルの主要武器・エターナルエッジが抜かれ、ダークプリキュアへと駆けていく。
 人知を遥かに超え、韋駄天さえも目を見開き驚愕するような一秒間が、二人の距離を一瞬で零へと変える。



(何っ……!?)



 瞬きさえ許されないであろう高速で寄って来たエターナルに、ダークプリキュアは咄嗟にダークタクトを翳す。
 支給品を十メートルほど遠くへ置いたままにしているエターナルだが、その中には既に彼にとってめぼしいものはない。横から誰に取られようが、もうどうでもいいし、実際そんなことをする相手がいるのなら首をかき切るだけである。
 エターナルエッジと、ダークタクトがぶつかりあう。
 攻として、防として……二つの武器が、今にも砕けそうな距離で放たれあった。



「……クッ。見くびることができる相手ではないらしいな……NEVERというものは!」

「お前もやるじゃねえか。闇のプリキュア……!」



 エターナルは、この一瞬で勝負が決まると、どこか高をくくっていたらしい。
 それもダークプリキュアの反射神経は、武器を翳すという形で防いでしまった。
 エターナルエッジが、その武器に1ミリたりとも食い込んでいないことから、それが易々と砕けない性質のものであるのは理解できた。
 が、それでも攻撃はやめない。


 宙を舞う、エターナルの横一回転の蹴り。
 頭が地を、足が天を向く、この独特の蹴りには、ダークプリキュアの顔が狙われる。
 しかし、それもまた両腕が防ぎ、彼の体制が元に戻るまでの一瞬で一歩後退する。

184仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:01:35 ID:1o4kUQyU0



「ハッ!」


 そして、そこからまた前方へと跳びながら、無数の拳をダークプリキュアは繰り出した。
 一秒の間に何発、いや何十発繰り出されたのだろうか。見ているものの眩暈さえ誘いかねない強烈な連打であった。
 それが十秒間。エターナルはその間、一度たりとも攻撃はしていなかった。


 …………が、はっきり言えばダークプリキュアも攻撃らしい攻撃はしていない。
 何故なら、その全てをエターナルは交わす、あるいは受け流すという形で手ごたえのないものにしていた。
 確かに何度かはエターナルの体や顔に当たっている。しかし、受け流すような動作が原因で全ては「当たる」だけで、ダメージという形では届いていない。
 彼が浴びるのは、その拳圧によって沸き起こる風だけだ。



「クッ……!」

「さっきのヤツよりは『アタリ』だな。速さも充分だ。俺が急いてるからチャッチャと片付けようとしたっていうなら感謝もしてやる」



 エターナルは、そう言って真正面にエターナルエッジを繰り出した。
 眉間か眼球へと突き刺すためか何かはわからないが、とにかく全てを飲み込む速さを帯びた一撃を。
 顔に当たりかけたその攻撃は、ダークプリキュアの腕が真横から叩き落としたのだが、エターナルはダークプリキュアの足元のバランスを崩すように、地面に足をくっつけたまま半円を描く蹴りをかました。



「……うがっ!」



 ダークプリキュアが地面へと倒れる。
 立っている者と、倒れ伏す者────どちらが優位かは手に取るようにわかるだろう。



「……だが、状況が状況だ。命は捕らせてもらう」



 地面というフィールドからを這い出ようとする上半身をエターナルは真横から蹴り、ダークプリキュアの体を転がした。
 翼があるため、人間の体のように綺麗には転がらず、彼女の翼は彼女の体を包み込もうと必死になった。
 それはあまりに弱弱しい姿であるように見えた。



「地獄行きの切符だ……受け取りな!」



 エターナルがメモリをエターナルエッジに差し込んでいる隙に、ダークプリキュアは立ち上がる。
 幸いにも、大きな技は喰らっていないので、翼が大きな負傷を抱えた程度で、すぐに立ち上がることができた。
 だが、そんな彼女が立ち上がるタイミング丁度を狙っていたのだろう。
 立ち上がるタイミングそのものを狙い────

185仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:02:20 ID:1o4kUQyU0



『エターナル!マキシマムドライヴ!』



 ─────しかし、一方のダークプリキュアも、エターナルの目測より一瞬早く立ち上がっていた。



「ダークパワーフォルテッシモ!」



 エターナルが向かってくる前に、赤い気柱がダークプリキュアの周囲を覆う。
 太陽に照らされる朝方の平原を、赤黒い闇が包んだ。
 だが、何も構うことなく、力に導かれるまま、彼は突き進む。
 それは、キュアムーンライトとの戦いの時と同じだった。



 ドゴォォォォン



 そう、結果として二つの力が相殺し切れずに爆発する点まで、同じなのだ。



 ────二つの戦いは、まるで姉妹のように同じ展開を見せたのである。



 そして、その戦いの当事者のうち一人だけがそこに立っていた。

186仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:03:40 ID:1o4kUQyU0



「……どうやら、地獄への切符は渡し損ねたようだな」



 その焦げる匂いと僅かな煙の中から聞こえたその声は、女性のものである。
 即ち、ダークプリキュアはエターナルのマキシマムドライブから生存し、そこに立っていたということであった。
 一方のエターナルは、この場に姿がない。
 あの爆発の中に消えたということなのだろうか?



「……まあいい。プリキュアの種は貰っていくぞ」



 ゴシックロリータ風の衣装に身を包んだ、人形のような少女が歩いていく。
 何故、自分はこうまでしてあれを取りに行こうとするのだろうか。
 結果的に一人、参加者を潰したようではあるが、わざわざ戦いを挑む相手だっただろうか。
 キュアムーンライトが変身不能になることは、かつてもあった。それはパートナーの妖精の死によるもので、それを引き起こしたのはダークプリキュアその人だった。
 かつては、それに何の感慨も抱かなかった。
 しかし、今他人の手によって彼女の変身が阻害されることには、不快感さえ湧いた。
 つまり────彼女は、こう理解した。



「……私の望む本当の決着はこれからだ……キュアムーンライト!」



 自分が、思った以上に几帳面で、しっかりとした決闘による勝利を目指しているのだと。
 本来なら、この状況を乗り切るキュアムーンライトと戦いたかったのだが、ゆりと大道が別方向に向かった時点で、彼女はゆりでなく、大道を追っていた。
 二人が離れ離れになったということは、ゆりは暫く変身を諦めたということ。
 即ち、キュアムーンライトとはまた長時間戦うことができなくなるわけだ。

 目的のものがある大道の支給品が詰まれている道路へと、彼女は歩いていく。
 焦ることもなく、ただ、音さえ立てずに。
 だんだん距離は近付いていく。
 ダークプリキュアは、そこにある支給品に手をかけた────



 ──────が



「はっ!」



 そんなダークプリキュアの右腕へと、一本の短刀が突き刺さった。
 本来、この短刀は魔戒騎士しか使えず────そして、常人ならばどこに刺さっても急死するという、とてつもない威力を持つ剣である。
 無論、それは制限されていたし、どうであれダークプリキュアは常人ではなかったので、それは致命傷にはならない、ただの痛みでしかなかった。

187仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:04:15 ID:1o4kUQyU0



「……だ、誰だっ!」



 振り返ったダークプリキュアが見たのは、先ほどの白い戦士────仮面ライダーエターナルである。
 ダークプリキュアと同じく、立ち上がるだけの力を残しており、回収していた武器を投げたのだ。



「……貴様、生きていたのか!」



 彼女は、左腕でその短刀を引き抜き、野に捨てた。
 もう一本の腕で右腕を押さえる彼女は、鋭い眼光でエターナルを睨む。
 それは強敵への怨みつらみと、一瞬でも抜かった自分の甘さを悔いていた。



「……お前もキュアムーンライトと同じ所を狙ってくると思って、今の戦いは様子を見ていた。
 が、その点じゃあ期待外れだ。やっぱり、姉妹だから狙いが同じっていうのは考えすぎだったな」



 キュアムーンライトとの戦いにおいて、エターナルはドライバーを狙われ、変身解除に追い込まれた。
 実際、そうした行動をされたところで大きな問題はない。エターナルメモリは、どうあっても自分を選ぶだろうという確信が彼にはあった。そう、先ほどのように。
 だが、それが破壊という形で叶えられるようならば、また別だ。ゆりが甘かった点は、エターナルメモリを破壊しようとしなかったことである。
 彼は一度、エターナルのメモリが破壊されたのを経験している。
 あの時は試供品だったし、今のT2のメモリならばある程度は耐えられるだろうとは睨んでいた。が、念には念を押したのである。
 キュアムーンライトの行動が多少、エターナルの行動に影響していたのだろう。



「……それから勿論、キュアムーンライトのデイパックは既にこちらで回収させてもらった」



 彼はあの時、本気でぶつからずに回避行動を取っていた。
 が、相手がロストドライバーやメモリに手出しする様子がなかったため、後方に撤退したのである。

 そして、爆煙に隠れ、デイパックを一つ回収した。ダークプリキュアは遠目では「デイパックの山」としか認識しなかったから、何の違和感もなくそこに近付くだろう。
 其処へ攻撃を仕掛けるのだ。
 無論、回収するのは月影ゆりの支給品とココロポット。あれは駆け引き材料として使わねばなるまい。適当なデイパックに入れたのだが、駆け引き材料として使うための特別なデイパックとして、印象付いていた。
 偶然にも、彼女の支給品である破邪の剣もそこに入っていたから、それをダークプリキュアに投擲したのである。



「クッ……」

「奴のがしっかりしてそうだ。お前は妹っていうところだろうな」

「何度でも言う…………奴と私は貴様らの言う姉妹ではない!」

「俺ももう一度だけ言ってやる。お前ら二人が実際どういう関係だろうが、俺には興味は無い」



 再び仮面ライダーとプリキュアが対峙する。
 本来、正義の戦士であるはずの「仮面ライダー」の称号、「プリキュア」の称号。それを悪用する者、騙る者同士の戦いであった。
 双方が闇の存在であるが、光の存在のように協力し合うということもない。
 闇と闇は衝突するのみだ。

188仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:04:48 ID:1o4kUQyU0



「……時間がねえんだよ。お前の強さは充分わかった。あとは、それを越える強さで叩き潰すだけだ」



 エターナルは、右腕を負傷するダークプリキュアにも容赦はしない。 
 エターナルエッジを構えたまま、真っ直ぐ前に走っていく。
 ダークプリキュアはそれを見て、回避行動に移る準備をしていた。
 彼女はまだ、エターナルの足元に落ちていたデイパックと、この道の上に落ちているデイパックのどちらが本物なのかは見当をつけていない。
 おそらくは、彼が回収した方だろうが、ランダムに回収して武器を投げた可能性だって考えられなくはないだろう。
 ゆえに、戦って両方奪うしかないと考えていた。それが最も手っ取り早く、冴えたやり方であるように彼女は思ったのだ。



「……何を急いでいるのかは知らないが、私はそう易々と倒されたりなどしない!
 奴の変身道具もこの手で奪ってみせる!」



 ダークプリキュアは向かってくるエターナルの右腕を傷ついた両腕で掴み、エターナルエッジを自らの体の後ろ側へと通り過ぎさせてしまう。
 そのまま、軟体を活かしエターナルの顔へとキックを叩き込む。

 ダークプリキュアは、相手が急いているのを利用しようと考えたのだ。
 相手の攻撃を着実に防いだうえでの攻撃を繰り出す。
 彼女は、エターナルが急いている理由を考えた。

 ──────エターナルは持久戦をされると厄介なのではないか?
 と。まさかトイレに行きたいわけでもあるまいし……。

 実際は、彼らNEVERはスタミナにおいて無尽蔵で、おそらく戦闘中にそれが切れることはない。ただ、酵素が無ければ肉体が崩壊するし、非常に危険な状態になるわけだから、戦闘が長引くと厄介なのは確かだった。
 何より、彼は月影ゆりを一刻も早く追いたいのだ。



「大した自尊心だ。易々と地獄に送ってやるよ」



 エターナルは強く腕を引き、エターナルエッジを対象を通過した無辺世界から、自分の胸元まで寄せた。
 後ろから背中を刺すのも一手だが、ナイフの使い方としてはこちらの方がやりやすい。
 何度も突き、何度も刺す。
 そのような手で行くのが簡単であるように思えた。



「うおおぁっ!」


 ……が、一方のダークプリキュアは一発目の突きを避けながら、右腕に赤い光を溜める。
 彼女の手に一瞬で溜まったエネルギー弾は、前へと突き出されて、エターナルの顔へと当たる。
 距離が近かったがゆえ、クリーンヒットである。

189仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:06:41 ID:1o4kUQyU0


 彼の体は地面に足をつけたまま後方へと飛ばされ、地面にはスキーのシュプールのような二つの線が残されていた。
 その先にある彼の姿は腕で顔の周囲を固めるような形であり、剛健には見えないものの、ダメージの薄さを感じさせた。



「……時間稼ぎのつもりか。残念だが、考えが甘い。……プリキュアとやらよりもNEVERはタフだぜ!」



 そこから更にダークプリキュアの想像を超える連撃が始まる。
 ダークプリキュアの方へと駆け抜けかねない速度で跳ぶと、何度とない拳や足の攻撃が開始した。
 負けじとダークプリキュアもスピードを活かして前へ前へと拳を送り、足を送る。
 双方の攻撃はほぼ当たらない。……が、右腕を破邪の剣で突き刺されたダークプリキュアの拳のスピードは、エターナルに比べて極めて遅かった。
 更に、疲労の状態もエターナルに比べて際どい。死にたくない、負けたくない、攻撃を受けたくないという気持ちが拳を止ませないだけなのかもしれない。
 彼女でさえ手足が棒になるほどの持久戦だった。



(…………なんなんだ、こいつの持久力は…………)



 ダークプリキュアは思う。
 持久力に何らかの欠陥があるのだと睨んだ自分の推測は大ハズレだったらしく、エターナルの連撃は常にダークプリキュア以上の速度を保ち続ける。
 疲労というものを知らないのか、異常なまでの持久力であった。
 だが、その理由や打開策を推測する暇さえ許されず、ただ余計な事を考えれば拳が顔に当たるだろうと思われた。


 このまま、この持久戦を終えるための切欠も得られずに戦いを続ければ自分は負けるだろうとダークプリキュアは本能的に思った。
 キュアムーンライトが敗れるほどの相手であるのは確かであるとさえ思う。
 無論、それでもこの持久戦を終える切欠が芽生えない以上は続けるしかない。


 ダークプリキュアの突きは減速していく。
 エターナルの拳を見切るほどの頭の回転も無くして行った。疲労により集中力がとだえ始めていたのである。
 こうなるともう末期だ。


 そして、隙を感じたエターナルがダークプリキュアの顎を砕くアッパーを見舞った。



「……あ、あがっ……!」



 ダークプリキュアの体が上方に吹き飛ぶ。
 ダークプリキュアが弱かったのではない。エターナルが強すぎたのだ。
 まして、装甲のようなものを持たない彼女と、装甲に身を包んだ戦士の戦いである。
 彼女はやや、不利な状況にあったのかもしれない。確かに彼女は打たれ強いのだが、それだけでは勝つことはできないのだ。


 しかし、そうして地面へと落ちたダークプリキュアに、エターナルからの止めが飛んで来ることはなかった。
 何故か─────


 それは、彼女が地面に落下しながらも、地面に倒れることがなかったからである。


 ダークプリキュアは、落ちた勢いを利用し、その細い左腕で跳躍したのだ。本来、そんなことができたとして、それは足で行う動作だろう。
 常人ではありえない腕力や軟体によるものであった。
 戦うために生まれてきたような存在だから、こういう際の受身もできるのは当然である。


 攻撃を受けることによってただ落下などしない。
 戦うために生まれた者として、倒れることを許さない意地が、其処にはあったのである。


 その勢いのままに、彼女の蹴りが今度はエターナルの顎に当たる。



「……ぐっ!」

「……この程度で負けるわけにはいかないっ!」



 エターナルの体も後退した。
 バランスを軽く崩した程度で、大きく体が倒れたり宙に浮いたりはしない。
 しかし、それでも効き目は充分だった。少なくとも、自分の劣勢を消し去るには。



「はぁぁぁぁっ!!!」



 ダークプリキュアはエターナルの体へと、パンチやキックを何度も何度も、高速で繰り出した。
 肉眼で見たところで、それが何発かは通常わからないだろう。
 この場には、その回数をカウントできる人間は何人もいたので、エターナルはしっかり数えきった。百を越える数字を正確に。
 しかし、この状況でカウントができるのは明らかに余裕の表れだった。
 元々、この技は一撃一撃が弱い。確かに強いが、一撃一撃が次の攻撃への布石や囮であるため、どうしても力が入りにくいのだ。
 威力よりもスピード勝負な部分も否めない。

190仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:07:18 ID:1o4kUQyU0


「はぁっ!!」


 更に再び、ダークプリキュアは赤いエネルギー弾をエターナルの顔面へとぶつけた。
 この戦いで何度目か、再び小さな爆発が起きる。



「……はぁ………………はぁ……………………」



 流石のダークプリキュアも消耗する。
 既にシンケンゴールド、キュアムーンライト、キュアマリン、キュアサンシャインとかなりの数の戦士と戦っていた彼女が、休みを挟んだとはいえ、エターナルを相手にここまで戦っていたのは、ある種の奇跡だ。



「言ったはずだ。プリキュアなんかより、NEVERはタフだってな」



 エターナルローブというマントによって自身の体を保護できる彼は、そんな攻撃も大した事ではなかった。
 そのうえ、NEVERは確かに疲労度が低い。
 第一、ダークプリキュアは先ほどから消耗の激しい技ばかりをしていたのだ。
 人造人間とはいえ、体力が無尽蔵なわけではない。



「…………まだか…………それなら…………」



 と、ダークプリキュアは必死に構える。
 目の前の敵を倒し、その先でキュアムーンライトと戦うために。
 彼女の眼光は鋭く、それだけで脆弱な精神力の持主ならば泣いて逃げるほど。
 神経の図太い克己は剛として立っているし、負けることを一切考えていないから真っ直ぐにダークプリキュアの前に歩いていく。



「キュアムーンライトみたいに撤退するのが一番利口だぜ、ダークプリキュア」

「黙れ!」



 そういいつつも、己の強さを信じていたダークプリキュアは、初めて目の前の敵を恐ろしいとさえ思った。
 彼に死を送りつけることは如何に難易か。
 だが、絶対に撤退だけはしたくなかった。
 キュアムーンライトがそうしてこの場を凌いだのが、胸の奥に残り続けていたから。
 それが、なんだか異常なほど自分を苛立たせるから。

191仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:08:18 ID:1o4kUQyU0


「……なるほど。この場で死にたいっていうわけか。なら、一足先に死神の前夜祭だ」



 エターナルは容赦などしない。前に前に、突き進みながら、戯曲のように大袈裟に言った。
 当人はいつも通り喋っていたのに、そう聞こえただけかもしれない。
 ダークプリキュアの中に恐怖があったから、錯覚したということもある。


 だが、彼女ははっと思った。
 このまま死ぬには忍びない。そう、自分が立っている理由は何か。
 それを忘れていた。
 いま、まさに恐怖が自分の脳の大半を占めていた。
 戦う理由を思い出せ。
 そうだ、自分が戦う目的は────



 キュアムーンライトとの決着。



 それまでは絶対に死ぬわけにはいかない。
 厳密には決着が目的ではない。
 その戦いでも絶対に負けるわけにも、死ぬわけにもいかない。
 勝たなければならないのだ。
 キュアムーンライトへの勝利。
 そして、自分は──────


 サバーク様に認められなければならない。



(……最後の賭けだ! あれを使う!)



 ダークプリキュアはそのまま、自らのデイパックをエターナルの方に放り投げた。
 そして、最後の力を振り絞って赤い光を放つ────。

 あの中にはパラシュートや様々な支給品が入っている。名簿や禁止エリアをメモした地図もあの中だ。
 だが、もう一つの支給品が、彼女の記憶の中にあった。



「トチ狂ったか!」



 エターナルの罵声にさえ気を向けない。彼は、きっとそれを死に際の人間が錯乱して行った、無意味な攻撃としか思っていないのだろう。手近なものを投げ始めるのは最終手段だ。
 だが、ダークプリキュアの脳裏にあったのは、支給品の確認をした際、もう一つ気になっていた、「いかにも胡散臭い」支給品のことだ。
 実際、それを使ったところで、効果があるかはわからない。
 しかし、今は懸けてみる。
 そして、賭けの結果として────

192仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:09:40 ID:1o4kUQyU0



 爆破したデイパックから、パラシュートの破片が、はじけたペットボトルの水が、金色の粉末が舞う。
 美しい雨ではあるが、この場にその光景を綺麗と思う心の持主はいなかった。
 ダークプリキュア自身は一つの奇策として、エターナルは不自然な現象として、感情とは別のところで考えるのみだ。


 しかし、疑問に思う心はあったので、エターナルは咄嗟に疑問を抱いた。
 この金色の雨は何なのだ? と。
 止めを刺そうと歩いていたエターナルの興味はそちらに向いてしまい、戦いへの興が一気にそがれた。
 だが、ダークプリキュアの目的は決してそんなことではない。



「…………どうやら、この賭けは成功だったようだな」



 再び戦いを取り戻したエターナルがダークプリキュアの方を見ると、彼女の様子が明らかに変だった。
 既に彼女の体つきが「華奢」ではなくなっているのだ。
 其処に在ったのは、「女の格好をした男」と見まごう如き異常な絵姿。


 ダークプリキュアはボディビルダーのような筋肉質の体格に変身していたのだ。


 ダークプリキュアが使った道具は、「筋肉強化剤」という薬だった。
 その名のとおり人間の筋肉を強化する某所の新薬であり、それを使うことによってボディビルダーの如きマッスルボディーとなる────



「……はぁぁぁっ!!」



 疲労感は残っているが、それでもみなぎる力が止められない。
 ただでさえ彼女は人間離れした身体能力の持主だったので、前方へと跳んだ彼女のスピードと、そこから繰り出されるパンチはエターナルの顔に強烈なダメージを与えた。



「何っ!?」



 それはエターナルがいまだかつて味わったことのない、異常な痛みであった。
 そのうえ、脚力まで強化されている彼女のスピードは、エターナルでさえ観測できるかが危ういレベルなのである。
 女らしからぬ姿ではあるが、彼女は気にも留めない。



(この効果は一時的な物だ…………切れるまでに決着をつける!)



 エターナルの腹が、頭が、足が、次々と、彼女の腕力と脚力を前に麻痺されていく。
 変身能力者でさえ痛ましく思うほどの連撃は、NEVERにさえ効いた。



「はあぁぁぁぁぁっ!!!」



 そして─────

193仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:10:24 ID:1o4kUQyU0


 ダークプリキュアの力と筋肉強化剤の力で相乗された彼女の圧倒的な腕力を前に、仮面ライダーエターナルの変身が解ける。
 ロストドライバーにも何度か攻撃が当たったからだろうか。
 幸いにも、それは後方へ吹き飛ばされて連撃が止まっていた瞬間だった。


 いや、幸いなどではない。
 変身が解けた瞬間が攻撃を受けなかっただけで、それから先は問題だ。
 NEVERである彼が高い身体能力を有していようが、エターナルの時点で敵わない相手と戦えるわけがない。
 いよいよ、形勢逆転だ。



「だぁっ!!!」



 変身能力を失った彼の腹を、強すぎる一撃が襲った。
 彼の腹筋や、地と繋がる足のバランスは、その攻撃を耐えなかった
 そして────


 克己の体が、宙をもがき、木の幹へとぶち当たった。
 そこから先、彼の意識は無くなる。



「…………フンッ。終わりか。余計な体力を使いすぎたな」



 最早彼女は克己などに興味はない。
 克己の傍らに置いてある、キュアムーンライトのデイパックを回収した彼女は、彼以上に急いた。
 余計な時間と体力を使いすぎたゆえ、既にキュアムーンライトが何処にいるのかも不正確な状況だ。歩き方によっては、彼女と再会することはできない可能性もある。
 だから、克己の体は放置だ。
 キュアムーンライトの支給品以外も、既に興味対象外。道に転がっているデイパックの山にも、わき目も振らない。彼女の支給品は克己が回収した物だとわかっているのだ。
 それ以外のデイパックは、誰に拾われようと知ったことではない。



 ボディビルダー体型のダークプリキュアはそのまま、驚異的な歩幅で森を走り始めた。





★ ★ ★ ★ ★





「……姉妹揃ってやってくれたな! プリキュアぁっ!」



 克己が起き上がるのに、そう時間は費やされなかった。
 元々、睡眠のようなものは必要のない体。気を失いかけることはあっても、それはそう長い時間ではない。
 そして、そう簡単に死にもしないわけだ。



「だが、ベルトとメモリを奪っていかないのがお前の甘さだ」



 少なくとも、彼の耐久力からしてみれば問題はなかったようで、生存には問題がない。そのうえ、ロストドライバーやエターナルメモリも手元に健在。細胞維持酵素が無い点を除けば、今の彼に致命的な装備の欠陥はない。
 ただ、背中と腹部には未だに痛覚は残留していて、立ち上がるのも一苦労といったところだ。
 しかし、それでもまだ死ぬわけではない。制限されているとはいえ、高い再生能力もある。
 この程度のダメージはNEVERにはまだ許容範囲。変身前で何度も連撃を受ければ難しかったが。

194仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:11:30 ID:1o4kUQyU0



(まあ、俺も少し遊びすぎたか……)



 何度も言うように、克己は何もダークプリキュアと戦う必要はなかった。荷物がある時点で逃げればよかったのを、殺し合いという状況で格下の相手を前にしたから、相手をすることにデメリットはないと思ったから戦った。 
 だが、思ったよりも時間を取られたうえに、大事な駆け引きの材料さえ彼女は奪った。
 慎重に行動する気はないし、ダークプリキュアは、あの謎の支給品さえなければエターナルの克己には敵わなかっただろう。



 何にせよ、細胞維持酵素は奪還しなければならない。



 克己の手元にあったはずのデイパックはないが、見てみれば前方の道にはデイパックや腕から引き抜いた破邪の剣が転がっている。なるほど、あちらのデイパックや道具に興味はないわけだ。
 よく見れば、通常の人間ならば生命線となる水、食料にすら手がつけられていない。そのうえ、彼女は自分のデイパックですら躊躇いなく破壊している。



(もしや……あいつらは水や食料がいらねえのか?)



 そう思うほどの違和感だったが、ダークプリキュアが自分と同じくキュアムーンライトの元へ急いでいた可能性もある。
 彼女のキュアムーンライトへの固執は異常とも言える域だったし、考えられなくも無い。
 それに彼女だって一応ゆりのデイパックを奪っていたし、あの分量で充分と思った可能性だって否めない。だから、その辺りの考察はかなり曖昧だ。



(何だろうが……奴らは潰すしかねえ)



 キュアムーンライトが力を取り戻したこと、そしてダークプリキュアが強化されたこと、二人が合流するかもしれないこと、それははっきり言ってどうでもいい。

 永遠であるためには勝つしかない。

 相手が己より強かろうが、弱かろうが関係はないだろう。
 ただ、目の前の障害を叩き潰して永遠に自分の存在を刻み続ける────。



【1日目/朝】
【B-8/森】
※同エリア上にある道の付近(平原)に、破裂したパラシュートやデイパックの残骸があります。

【大道克己@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、腹と背中を中心とするダメージ(中)
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+エターナルメモリ、エターナルエッジ、昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×3、プリキュアの種&ココロパフューム@ハートキャッチプリキュア!、破邪の剣@牙浪―GARO―、ランダム支給品1〜5(十臓0〜2、えりか1〜3)
[思考]
基本:優勝し、自分の存在を世界に刻む。
1:ムーンライト(ゆり)を追撃し酵素及びガイアメモリを奪還する。
2:T2ガイアメモリを集める。
3:京水と会ったら使ってやる。もしくはメモリを奪う。
4:ダークプリキュアも厄介。ムーンライトと共に叩き潰したい。
[備考]
※参戦時期はマリア殺害後です。
※良牙を呪泉郷出身者だと思ってます。
※細胞維持酵素を失いました。数時間以内に摂取しなければ身体を維持する事が出来なくなります。
※プリキュアは食事、水分の摂取を必要としない可能性を考えています。ダークプリキュアの一件から、プリキュアはただの人間だと考えていない可能性もあります。

195仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア! ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:12:29 ID:1o4kUQyU0





★ ★ ★ ★ ★





 一方のダークプリキュアの筋肉強化剤の効果は既に切れていた。
 だが、関係はない。あの筋肉強化剤は人知を超える力をもたらすための物であり、既に人外であるダークプリキュアは、あの効果がなくなったところで何でもないのだ。
 自分にはキュアムーンライトと戦うだけの力があればいい。
 確かに、もし勝てないならばあれが欲しいとは思うだろう。……感情の無い彼女には、全身筋肉と化した自分の容姿に悩む乙女心もないわけだ。


 ────しかし、本当に感情が無い、のだろうか……?


 その辺りは、彼女の姿を描きながらも、疑問に思う一点だった。
 キュアムーンライトに固執するのも、父の愛情を欲するのも、明らかに感情の作用。
 サバーク博士が作り上げたのは、少なくとも感情がない兵器とは違うだろう。



(──────キュアムーンライト、お前も何か知っているのか? 「未来」とやらについて……)



 長い足が前へ前へと進んでいく。まるで地に定期的に足をつけながら滑空しているかのような、見事な走りをしながら、彼女は様々なことを考えた。
 NEVERの男との戦いの直前の会話で、一度キュアムーンライトと自分の関係について考え直したことがあった。
 そう、彼はキュアムーンライトとダークプリキュアを「姉妹」と表現したし、その直前にもキュアムーンライトとの邂逅を果たしていた。即ち、姉妹云々はキュアムーンライトから聞いた情報である可能性が高い。


 ならば、キュアムーンライトも、キュアサンシャインと同じく未来の存在なのではないか?



 彼女らの戯言を耳に通す気はないが、事実キュアサンシャインの言葉は気にかかる。
 彼女たちが現在知らないはずの情報を、ダークプリキュアに向けたわけだし、もしかすれば本当に時間軸に差異があるという可能性も考えうる。
 キュアムーンライトは少し前、ダークプリキュアの行動について「どうして自分を狙うのか」と訊いたことがあったし、少なくともダークプリキュアの時間軸においてはサバーク博士との事について詳しくは知らないだろう。
 だのに、そんなキュアムーンライトとダークプリキュアを見て、克己は「姉妹」と表現した。



(決着をつける前に、全て教えて貰う────
 何故貴様が殺し合いに乗ったのか、
 誰を生き返らせるために戦うのか、
 キュアマリンを葬ったのは正真正銘キュアムーンライトなのか、
 お前は私より未来の存在なのか、
 ─────────私たちは、未来で「姉妹」と呼ぶべき関係になっているのか)



 彼女の中で、疑問は耐えなかった。
 そして、戦いよりも先にそれを答えて欲しいとさえ、彼女は思っていた。
 その思いが、彼女の体を無理やりにでも動かしていた。






【1日目/朝】
【C-7/森】

【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、右腕に刺し傷、キュアムーンライトに対し強い憤り
[装備]:無し
[道具]:ゆりの支給品一式、プリキュアの種&ココロポット@ハートキャッチプリキュア!、ランダムアイテム0〜2個(ゆり)
[思考]
基本:キュアムーンライトを倒し、優勝してサバーク博士のもとへ帰る
0:キュアムーンライトに全てを訊きたい。そのためにキュアムーンライトを捜す。
1:キュアムーンライトに変身道具を渡し、次こそ倒す。
2:キュアサンシャインの言葉が気にかかる。
3:キュアムーンライト以外の参加者については現状能動的に襲撃するつもりはない。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※いつきの「少し未来から来た」という発言や「ゆりの妹」などのキーワードに少なからず動揺しています
※ゆりと克己(ダープリは彼の名前を知らない)の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※キュアムーンライトもキュアサンシャインと同じく、自分より未来の時間軸から来ている可能性を考えています



【支給品解説】

【筋肉強化剤@超光戦士シャンゼリオン】
ダークプリキュアに支給。
第35話「呪う女と救いの女」に登場。
飲んだ人間の筋力を一時的に人外レベルまで上昇させる即効性の新薬。
飲用でなく、その粉末を浴びるだけでもマッスルボディになれる。
暁のガールフレンド軍団が使用し、大勢でザファイアと格闘した。
効果が一時的であることは作中では説明されていないが、作中の描写を見る限りでは、効果はすぐに切れる模様(戦闘終了時には切れているように見える)。

196 ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 02:15:23 ID:1o4kUQyU0
以上、投下終了です。
投下して気づきましたが、克己の支給品数は2コなので、そこだけ修正します。
他にも修正点とかあるかもしれないので、指摘お願いします。

タイトルは考えるのが面倒だから安直に(ry

197名無しさん:2012/07/30(月) 10:14:57 ID:VSQV7p4w0
投下乙です!
エターナルはやっぱり強いな……あのダークプリキュアすらも圧倒するとは。
だが、そんな逆境を跳ね返してしまうほどにマッスルとなったダークプリキュア……想像したら、吹いたw

198名無しさん:2012/07/30(月) 14:57:15 ID:PK1IA.uoO
投下乙です!やっぱ超人対決は熱いなぁ

199 ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 15:48:36 ID:1o4kUQyU0
>>170
ちなみに、暁も獄中でキャットフードを与え続けると猫になります

200名無しさん:2012/07/30(月) 16:55:50 ID:OXIjEApU0
>>199
そういえばそんなこともあったw

投下乙!
ダープリの方針欄のムーンライト率に吹くw
どんだけムーンライトのこと好きなんだ、ツンデレか!w

201名無しさん:2012/07/30(月) 17:13:47 ID:oZ.NZpME0
投下乙
悪の仮面ライダーvs闇のプリキュアの一大バトル!
うわぁ、なんだかすごいものを見ちゃったぞ
つーかタイトルの頭に激突!ってつけたら東映まんがまつりぽくなる、ふしぎ!

202名無しさん:2012/07/30(月) 18:44:43 ID:/x2s17es0
投下乙です

克己のここ2話を振り返ると両方とも『プリキュア(しかも姉妹)にボコられ徐々にヤバイ』というお話だけど実際は殺し合いに乗った者同士の潰し合い。
しかし、状態表もさることながら本編でもどれだけムーンライトに夢中すぎるんだダークプリキュア。今回の戦いも裏を返せば『(ムーンライトを倒す為だけど)ムーンライトの変身道具を奪還する』というだけでしかないからなぁ。
だが、最強クラスのプリキュアと連戦しながら割と優勢だったエターナルが……酵素の問題以外の問題が無いのが恐ろしい。
それにしても……まさか勝利の決め手がマッスル化というのが……というかシャンゼ時空のギャグが本気出したら恐ろしいのを思い出した(冷静に考えたら克己、地味に良牙にもしてやられていたんだよな……らんまもギャグ時空だからなぁ)。
とまぁ、どちらにしてもこいつらの目的はゆりちゃんなんだが……今のゆりちゃんと出逢えたら出逢えたらで恐ろしい気がする。

1点だけ気になったんですが、>>177にて、

> ──己の推測が一分の狂いも無かったことを証明する会話のシーンを、彼女は色違いの両目に焼き付けてしまったのであった。

確か、ダープリの参戦時期は46話終了時だからその時期だとダープリの両目は色違いでは無く両目とも金色だった様な気がするのですがどうでしょうか(記憶違いだったらすみません)?
勿論、本筋には絡まないので修正するにしても微修正なのでwiki収録時でも問題無いとは思います。

203 ◆gry038wOvE:2012/07/30(月) 20:00:54 ID:1o4kUQyU0
>>201
じゃあつけちゃいますか、激突!
というわけで、「激突!仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア」に変更します。
wikiには自分で収録するので。

>>202
今その回について見返したところ、両目金色でしたね。そこはもう只の「両目」に修正しておきます。
毎度毎度、ハトプリの把握度・記憶が雑魚すぎてスミマセン…。

204 ◆gry038wOvE:2012/07/31(火) 12:31:30 ID:3dlWpC4I0
……と思ったんですが、今日編集してみたところ、
非ログイン・同一IPアドレス・同一ページ編集で、20回の編集のうち10回を超えると荒らし対策エラーが出るようです。
wikiの管理人さんってもういないんでしょうか?

205wiki管理人:2012/07/31(火) 14:11:54 ID:tAS4PsQA0
>>204
先程設定を調整いたしました。これで編集が可能になったと思います。

206 ◆gry038wOvE:2012/07/31(火) 16:06:17 ID:3dlWpC4I0
乙&ありがとうございます。編集できました。
シャンゼリオンの第35話を再視聴したところ、筋肉強化剤は一度服用したら何度でも効果がある…という可能性もあるように見えたので、その辺りを追記しておきました。
筋肉ムキムキ、マッチョマンの変態になったダークプリキュアが今後も登場する可能性……アリ?

自分の過去作についても、今日中に細かい点を修正します。
既にリレーされた後の作品もありますが、影響しないように修正するのでご了承ください。
詳しい修正点を聞きたい方がいれば後程(一応、wikiの「最新版との変更点」を見ればわかるかと)。

207 ◆gry038wOvE:2012/07/31(火) 23:00:06 ID:3dlWpC4I0
短いですが、アクマロを投下します。

208野望の「二の目」 ◆gry038wOvE:2012/07/31(火) 23:01:25 ID:3dlWpC4I0


 アクマロはゲーム開始時と同じ三途の池で休みながら、考える。
 さて、これからどうしたものか。
 彼のデイパックの中にある名簿では、腑破十臓の名には既に横線が引かれていた。
 要するに、彼はもう死んでしまったわけで、この事実は変えようが無いのだ。
 とまあ、それほど簡単に受け入れられる問題でもない。
 彼にとっては、二百年に渡る野望を果たすのに必要不可欠な人材をこんな処で落としてしまったということ────。


 それを聞いてから何度も、同じことを思った。



(……弱りましたなぁ、十臓さん。こんな処で死なれてしまっては……)



 よもや、十臓がこんなにも早くいなくなるとはアクマロにとっても予想外であったのだ。
 彼の太刀は確かなもので、油断などする筈も無いから不意打ちも効かないだろう。
 しかし、ここにはシンケンジャー、ドウコク、ほか仮面ライダーやらノーザやらプリキュアやら……多数の異形の者たちが、その祭典であるかのように何十人と参加している。
 ゆえ、十臓の死もいま改めて考えれば納得できてしまう範疇。
 計画の中途にあった自分や十臓を殺し合いなどに呼び寄せた主催側の二名には怒りさえ湧く。


 だが、何も積極的に彼らを殺すため動こうというわけでもなかった。


 彼らもまた、ここに殺し合いという地獄を作り上げたわけだ。巻き込まれる側からしてみれば厄介だが、アクマロのように歪んだ思考の者には、それを引き起こしたい気持ちもわかる。
 ただ、アクマロ自身がそれを一部分しか味わえていないのは不服の極みでもあった。
 どうせなら、主催者側につきたかったというのが正直な感想でもあった。



(殺し合いで優勝すれば願いが叶う────その甘言も念頭に入れときましょうか)



 十臓と共に地獄を作り上げる計画は、早くもアクマロの知らないところで潰えた。
 が、主催者はそれほどの連中をこの場に引き寄せ、武器を奪い殺し合いをさせるような者たちである。
 その力は外道衆以上と見えるし、組織的に動き、首輪などをつけてアクマロ達を上手に管理している。
 六時間で十八人の死亡者を出すほど殺し合いは迅速に進んでいるわけで、参加者として呼び寄せた人選もとてつもない。
 そのうえマップにはこのように三途の池まで用意し、外道衆に対するフォローや準備は万端。そういえば、「そうるじぇむ」をつけた参加者にはそこに首輪を取り付けるなどとも言っていた。
 それだけ、参加者の特性に関しても強い理解があるわけだ。
 ならば、アクマロの思考等も判るのではないだろうか────



(ともすると、優勝すれば私もその御仲間に入れていただける可能性も、無きにしも非ず────)



 願いの発現を行うとするなら、十臓の蘇生も一つの手であるし、十臓を使わずともこの世に地獄を出現させることもできるかもしれない。
 ……が、それよりもまた別の行動だって考えられる。
 主催陣に協力し、今後も殺し合いを開催すれば、何時か地獄を見ることが出来るのでないか。
 現に、この殺し合いの欠片の姿はまさに地獄絵図であった。
 アクマロが見たいのは本当の地獄であるが、この殺し合いの主催共に協力すれば、それも何時か見つけ出すことができるのではないだろうか……?


 その圧倒的な力を考えれば、そんな思惑も浮かび上がってくる。
 そう、アクマロは数百年と生きても現れなかったような集団に、惚れこんでいたのである。
 もしかすれば、こんな事をわざわざ開催する主催側が、アクマロの計画に何時か乗ってくれる可能性もありうる。

209野望の「二の目」 ◆gry038wOvE:2012/07/31(火) 23:02:04 ID:3dlWpC4I0



(……しかし、生き残るというのも難儀なものですな。ソレワターセの力はあるものの、残り四十余名の参加者を葬るというのは……)



 明らかに簡単な条件ではない。
 ましてや、十臓があっさりと死ぬくらいであるということは、アクマロが長時間生き続けられるという可能性は薄い。
 改めて、自分が六十六人に一人の勝者となるのは恐ろしく難しいだと、自信も失せる。
 ソレワターセことスバルを利用したところで、放送で彼女の名が呼ばれれば、アクマロはほぼ完全に「詰み」状態だ。



(ん……)



 と、アクマロは再考する。
 そうだ、アクマロなら殺し合いを開いた時にどうするか。
 開く側の視点に、今の彼は既になっている────



 そうだ、殺し合いの状況下にある参加者たちを監視するし、音声も拾う。



 主催者の加頭やサラマンダー男爵、またその協力者等は、ほぼ間違いなくアクマロ達の動向を監視しているであろう。
 アクマロならば、その地獄を見つめたくなるに決まっている。
 地獄を見て、味わいたくなるほどに愉しむ。その思考におよそ間違い無し。
 相手方がこちらの様子を見ているのなら、熱心に頼み込むこともできるわけだ。


 アクマロは、咄嗟に自らが所持している首輪の一つを眺めた。
 二百年の長きに渡り三途の川に沈んでいた彼は、こうしたもののメカニズムには詳しくは無い。
 が、おそらく音声や映像を拾っているとするなら、それを行うのは参加者共通で取り付けられているこの道具だ。
 ……彼は試しに、その首輪に対して声をかけてみた。首元にあるよりは、こちらの方が伝わりやすいだろう。



「あー、この殺し合いの主催者の皆さん。聞こえていますか?」



 何処かでアクマロの独り言を聞いている者に、アクマロは問いかけた。
 例え受け入れられなくとも一向に構わない。ただ、主催陣がアクマロを仲間に入れてくれることがあるというのなら、というだけだ。
 あくまでこれは、一つの可能性。
 叶えられれば良いが、叶えられなければ今までと同じように行動するのみである。



「……知ってのとおり、私はこの殺し合いを至高の地獄絵図として愉しんでおります。
 ……が、十臓さんが死んだ今、我が野望は潰えたも同じ。
 そこで、今は私も皆さんに御力添えすることによって、何時の日にか!
 この世に地獄をば、出現させて見せましょうかと思う次第……。どうにか、私をあんさん達の仲間として拾ってはいただけないでしょうか?」



 至高の地獄を得るために、彼は声を張り上げ、延々と必死でのたまっていた。ただの独り言にしか見えず、通常なら恥ずかしいはずのこの行動も一切苦痛ではない。
 もし、万が一にでも、この戯言が主催者の耳に留まり、アクマロを拾う可能性を考慮に入れてくれるというのなら、それはアクマロにとっては殺し合いを抜ける最大の歓喜となるだろう。
 成功すれば殺し合いをもっと広く見つめられる。
 今できる限りの地獄を見られる。

210野望の「二の目」 ◆gry038wOvE:2012/07/31(火) 23:03:19 ID:3dlWpC4I0



 …………が、待てども待てども返事は来ない。




(……なるほど、やはりそう甘くはありませぬか)



 アクマロ自身、もし主催者側だったらば、きっとそう簡単に参加者を自分たちの側に引き込まないだろう。
 それでは殺し合いの意味がない。
 殺し合いにもルールはある。そう、この参加者たちを易々と手放さないという不動のルール。
 でなければ、主催者としては何も楽しめない。


 与えられた参加者が殺し合い、狂い合い、傷付け合い、混沌とする。恐怖や苦痛に塗れ、互いを疑い、善良だった人でさえ外道に堕ちる。


 その愉しみを得るには、参加者全員を最後の一人になるまで殺し合わせるしかない。
 まあ、アクマロが自らの技量を主催側に示し、更なる功績をあげれば、「殺されるには惜しい」と考え拾われる可能性はある。
 何せ、味方としてつければ、アクマロは幾らでも殺し合いを円滑に進める方法が思いつくような存在だ。
 これからの行動次第で、主催に認められる可能性は低くは無い。



(しかし、徹底しておられるようで、やる気は出てきました。
 あんさん達の御仲間になり、今後も永年殺し合いを見つめる為に、私はあんさん達の望む通り、殺し合い最後の一人となりましょう)



 だが、その機会を待つのも一向だが、彼はそういう考え方に意向した。先ほどのように待っても来ないということは、待つよりもあらゆる手を使い殺し合いをするのみ。
 アクマロでも、スバルほかあらゆるものを利用して殺し合いはできる。
 得意の策略さえあればゲームの覇者となることも夢ではないのではないか。
 そういう希望も持ちつつ、彼は再びこの場を後にする。

 おおよそ、目的も纏まったし、ここで立ち止まるのを止め、志葉家に向かおうと考えたのだ。
 首輪も再び、デイパックに仕舞い込む。




 ただ一つ、どういう形であれ、「地獄」を待ち望みながら────







【1日目/昼前】
【C-4/三途の池付近】

【筋殻アクマロ@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に大火傷
[装備]:削身断頭笏@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×5、ランダム支給品2〜10(アクマロ1〜2、流ノ介1〜3、なのは0〜2、本郷0〜2、まどか0〜1)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、
    ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのは 、志葉家の書状@侍戦隊シンケンジャー

[思考]
基本:主催側につき、また何度も殺し合いを開く。その為に知略を尽くして優勝する。
1:休みながら志葉家へと向かいつつ、首輪について調べて見る。17時頃に志葉屋敷でスバルと合流する。
2:基本行動方針を果たせるならば、殺し合いの途中で拾われる形でも良い。
3:ドウコクに関してはひとまず放置。
4:条件が揃うならばこの地で裏見がんどう返しの術を試みる。
 (ただし、これに関しては十臓という条件が潰えた為、主催側についてから再び機を待つ形でも良い)
5:仮面ライダースーパー1から受けたこの借りを必ず返す。
[備考]
※参戦時期は第四十幕『御大将出陣』にてシタリから三味線を渡せと言われた直後。
※アインハルトが放った覇王断空拳の音を聞きました。
※何処かで主催側がアクマロたちの行動を監視、盗聴していると考え、それは首輪によるものである可能性が高いと考えています。

211 ◆gry038wOvE:2012/07/31(火) 23:03:56 ID:3dlWpC4I0
以上、投下終了です。

212名無しさん:2012/07/31(火) 23:32:51 ID:ltOpommY0
投下乙です。
アクマロwwww十臓さんが死んだからって何をやってるんだwwwww

213名無しさん:2012/08/01(水) 02:16:36 ID:S/d/wgjE0
投下乙です

それで仲間入りできるのなら苦労しないってw

214名無しさん:2012/08/01(水) 08:36:55 ID:BIuDTYgM0
投下乙。
アクマロが本格的に動き出したか。
しっかしこの人、自分の預かり知らぬところで不幸が続くなあw
ノーザ殺害という大金星を挙げたかと思ったら、十臓がすぐ後の話で殺されるし…w
せっかく手に入れた手駒を寝取られるしw

215名無しさん:2012/08/01(水) 11:00:01 ID:oN6s7D46O
むしろこんな不幸な奴主催側もいらんだろw

216名無しさん:2012/08/01(水) 22:36:37 ID:Zh69nWcc0
この人、やろうとしてる事が尽く潰されて企てが全く進歩しないw
実力も頭脳も有るんだが、運が無さすぎて今後も色々とふらつきそうだな

217名無しさん:2012/08/01(水) 23:12:35 ID:gge8mEtk0
本当に運がないのはこんなヤツに騙されて恋して散ったノーザ

218名無しさん:2012/08/02(木) 19:58:40 ID:ZslDV2UE0
また予約結構来てるなあ

219名無しさん:2012/08/02(木) 20:37:26 ID:uag9CO0sO
どっちにもリリカルカワイソスとプリキュアいるけど、状況は天と地っていうw

220名無しさん:2012/08/02(木) 20:42:52 ID:zMDjVwsw0
暁と黒岩が出会いがどうなるか楽しみだw
後、mktnのいつきと放送で呼ばれるえりかへの反応も気になるな

221 ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:51:02 ID:FeQBemuo0
ただいまより投下を開始します。

222ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:51:48 ID:FeQBemuo0


 ラブは真っ直ぐに走っていく。 
 村に続いていく道を真っ直ぐに、真っ直ぐに。
 黒岩省吾が向かった方向に、彼の足跡を探しながら。
 おそらく村に向かったのだろうが、その中途でも必死に叫んだ。



「黒岩さん! いますか!?」



 精一杯に声を張り上げて、その名を呼ぶ。
 誰が引っ掛かってもいい。とにかく、彼を────黒岩省吾を先ほどの男やマミのような死体にしたくなかったのだ。
 既になっているかもしれないという不安が胸を刺すが、マイナス思考にはならずにただただ必死で、彼を捜す。
 死体などにはしない。絶対に、させない。



「黒岩さーん! 私はここです!」



 誰が来たって構わない。
 たとえそれが味方でも敵でも、この戦いから救い出したい。
 できれば味方であってほしいけど……その保証は既に100パーセントじゃないのだ。
 もう何人も死んでいるし、ラブ自身が何度も襲われている。
 それでも、それは悲しいことだし、出来るのなら救い出したいと彼女は思っていた。



「黒岩さーん!!」



 果たして、その声は、彼女の叫びは天へと届いたのか────
 ただ、できるのなら、天には彼女の想いに応えて欲しい。
 真っ直ぐに他人の幸福を願ってくれる少女の想いに。






★ ★ ★ ★ ★




 ────そう、確かに天にいる三人の男女にその声は聞こえていた。
 三人同時に能力で巻き込んでいることや、他者が対応しにくい能力であることから、上空での活動はある程度制限されていたのだ。
 具体的には、真下への攻撃が大幅に弱体化し、スピードも落ちるなどの制限である。
 ゆえ、彼らはあっさりとラブに追いつかれてしまったらしい。



「知り合いがお呼びですよ、黒岩さん」



 ウェザー・ドーパントは真下の地面で黒岩省吾の名前を呼び続ける少女の姿を見て言う。
 井坂深紅郎自身もその相手は知っている。勿論、先ほどティアナ・ランスターが交戦した彼女だ。
 たしか、キュアピーチとか言ったか。まあ、彼女が追ってくるのは当然である。黒岩と接触があり、彼を逃がしたくらいである。
 井坂としては、教会ごと潰れてくれていれば良かったものを、どうやら生きてこちらまで来てしまったらしい。
 一応、井坂は黒岩に訊いた。ああも大声で呼びかけられては、流石にここに居る誰もが聞こえているだろう。

223ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:52:16 ID:FeQBemuo0



「一度下ろしましょうか?」

「……しかし、突然空から我々が降ってくれば彼女も驚くでしょう」



 黒岩は少し躊躇った。
 確かに、いまこの場で下降して彼女と会うのはタイミング的には悪くない。行動が遅れれば遅れるだけ、彼女には不審がられることになる。
 この時に近くにいたことが、何らかの理由で発覚すれば、どうして姿を現さないのかと疑われたり問い詰められたりするわけで、その際の言い訳を考えるのは面倒。つまり会うならば早い段階、つまり今であった方が良い。


 それに、万が一、ラブと会おうとしなければ、今度は井坂らも不審がるに決まっている。
 黒岩を必死に呼ぶ者に対し、一切応じずに会おうともしないというのは、不自然極まりない行為。避けている様子も薄く、やり取りとしては友好的な者同士という感じだっただろう。


 だが一方で、現在は井坂やティアナとラブの間で板ばさみされる形になってしまっているわけだ。おそらく彼らとラブとは同時に行動はできないし、行動する相手をコロコロ変えると、またすぐに面倒なことになる。


 そんな黒岩を後押しするのは、意外な人物の言葉であった。



「すぐに会った方がいいと思いますよ。近くで下ろしますから」



 ティアナである。
 黒岩に対する敵意を仄めかしていた彼女が何故────と思うような、清清しい笑みと言葉であったが、どうにも彼女の様子は怪しい。
 不機嫌で無愛想だったはずの彼女が、どういうわけかこの時ばかり友好的だったというのが問題なのである。
 黒岩はティアナに対する注意警戒をした上で返答した。
 ラブ以上に、彼女の様子には気をつけた方がいいように思う。


「私たちの事は気にしないでください」

「……わかりました。お願いします」



 桃園ラブ────ともかくは、彼女に対する信頼を得ておかねばなるまい。
 黒岩も別に彼女をチームとして見捨てたわけでも、切ったわけでもない。
 まあ、利用している相手ではあるが、彼女は女。黒岩の敵ではない。


 ウェザーは近くの森に黒岩とティアナを下ろすと、黒岩をそちらへ向かわせた。





★ ★ ★ ★ ★





 …………で、その頃、涼村暁はようやく廃教会に到着していた。
 はっきり言えば、この時間までに廃教会というのは充分なペース。疲労を兼ねたうえで行けたのは凄い。
 とは思うのだが、実は走るというより山の斜面に足を持っていかれていただけだったようにも感じる。同時に目的地にしっかり向かっていたのは彼の偉いところだった。
 禁止エリアなどというものとスレスレの中で生存したがゆえ、彼も首に巻いている物に恐怖を感じ始めていたし、それが原因で疲れていても禁止エリアから非常に遠い廃教会へと向かわせたのだろう。


 もしかしたら、シャンゼリオンの力を持つ彼にとって一番恐ろしいのは禁止エリアかもしれない。
 あれには先ほど心臓をヒヤッとさせられたし、はじめに三人の男性の吐きそうなくらいのグロ死体を見せられ動転させられたしで、もう彼の恐怖はそこに全て詰まってるといえよう。
 現実的に考えて、他人よりもコレが怖い。人間は説得で何とかなる相手だろうが、首輪はただ命令通り機械的に暁を殺す。
 爆発が近いと死を伝えるカウントまでして、恐怖を煽る始末だ。
 ゆえに、彼はとりあえず禁止エリアからある程度離れている教会エリアに向かったのである。



「…………ふぇー。もーう疲れた! もうダメだ〜。少し休んでやる……」



 全身は汗まみれ。既に着用してるものはズボンも含めて色が変わっている。
 たぶん、近寄られたら相当臭いだろう。
 爽やかな汗という感じではなく、真夏のようにジットリとしている。
 椅子に背中を任せたはいいが……体にまとわりつく汗は非常に気持ちが悪い。だが、足の疲労を考えたら、やはり座る場所が欲しい。
 彼はそこでペットボトルの水を一本ガブ飲みした。
 先ほど、川の水を何となく飲んだが、それに比べると温くて不味い。



「しっかし、……誰もいないな、この教会」

224ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:53:14 ID:FeQBemuo0




 せめて教会のような特殊施設に来れば誰かいると思ったのだろう。
 だが、その期待は大外れだ。ここには誰もいない。
 だいたい、暁のように疲労困憊などで特殊な精神状態に無い限りは、真先に気づくことがあるはずだ。
 そう────



「ていうか、……なんかボロくないか? …………まっいいか!」



 ギギギギギギギギ………

 この教会が半壊していて、そんな音を立てていることに。
 ましてや彼の場合、ここに来る時に壁にもたれながら歩いたり、あまつさえぶつかったりと、とんでもなく教会にダメージを与えるやり方をしていたのだ。
 彼がここに来たのは、崩れるための良い手助けとなっていた。振動した教会は、ゴソゴソと崩れる準備を始めていた。



「え? やっぱりなんか変な音が……」



 暁が教会の中で寂れた椅子にもたれてしばらくすると、ようやく奇妙な音が聞こえ始めた。
 木と木が軋んでいるような、変な音。まるで腐った床を踏んでいるような音。
 しかし、ここには自分以外の参加者はいないから……。



「って、まさか、この教会が崩れようとしてるんじゃ……!」



 そんな思考に、暁はたどり着く。

 ──そうだ、この教会は明らかにボロい!
 ──今にも崩れそうで、もしここで戦いが起これば間違いなくオレは死ぬ!
 ──よく見れば天井に穴が開いて光が差し込んでいるじゃないか!

 そう気づいた彼は、すぐにデイパックを持ったまま教会を出ようとする。



「えっと、入り口入り口……あれ? 出口か? ってそんなことはどうでもいいー!!」



 入り口を探すのも一苦労。そのくらい切羽詰った状態である。何故自分がこんな状態の教会に気づかなかったのかと思う。やはり疲労が原因なのだろう。
 右に行けばいいのか、左に行けばいいのか、とにかく死にたくないから混乱する頭を必死で正常な状態にしつつ、入り口を見つける。そういえば、あそこから入ったんだっけか。
 そんな簡単なことさえ、この極度の疲労と混乱の状態ではわからない。
 彼の走る床はミシミシと音を立てる。タイガーロイドの体重が一度乗った場所で、そこから砲撃が発せられたのだ。床そのものもダメージを受けている。
 もうこの教会は長くないようだ。



「クソッ! なんだって俺ばっかりこんな目に……!」



 と思って、ようやく教会を出た彼は適当な方に走り出した。
 禁止エリアの次は、暁を潰そうとするオンボロ教会だ。これでは、殺し合い以前の外敵な要因で死んでしまう。
 来た道を戻るとなると、山を登る必要がある。それは面倒だし、と行くあてを必死に探す。


「えっと、あっちは来た道だから…………よし、こっちだ!」


 暁の真後ろで、教会の一部がまた崩れ落ちた。元から天上は光が差し込んでいるような教会である。その巨大な穴から、ばらばらと周囲の天上が降り注いだのである。
 それは、つい先ほどまで暁の頭上であった場所だ。
 教会自体が大きく崩落することはなかっただろうが、あそこにいれば暁は死んでいた可能性が高い。……いや、もしかすれば頭を打ってマトモになる可能性もあるが、常識的に考えれば死ぬ可能性が大半。
 そんな事は知る由もないとはいえ、あそこに居続ければ間違いなく自分は死んでいたろうと考える彼が、無我夢中で走った先には────



「え!? 女の子!?」



 『黒岩』という名前を呼ぶ奇天烈な髪形の女の子がいた。
 今は、ほむらと出会ったときのような余裕はなく、女好きな彼とてナンパができる状態ではないというのは理解していたものの、やはり他の参加者がいてくれるなら、声をかけるべきだろう。
 襲撃はしない。そこまで積極性を持って殺し合いをする気はないからだ。
 ただ、とにかく今は声をかけたい。
 救いが欲しいのだった。


 その直後、彼の真後ろで、教会は音を立てて崩れた。




★ ★ ★ ★ ★

225ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:54:41 ID:FeQBemuo0




 桃園ラブという少女に導かれてやって来た二人の男性────

 片方は、古臭い長髪を揺らす汗だくの男・涼村暁。
 もう一人は、紳士的で爽やかな印象をもたらす男・黒岩省吾。

 彼らがラブの目の前に現れたのは、ほぼ同時であった。
 しかし、ラブの目に真先に目に入ったのは勿論知り合いである黒岩だ。



「あ! 黒岩さん……。良かったぁ……」



 ラブはまず黒岩の方を見て安心した様子を見せるのだが、それよりも黒岩は別の場所を見ていた。そう、目に入らずにはいられない。
 そう、元の世界の知り合い(というか敵)であるシャンゼリオン────暁が。



「っ…………!!?」



 黒岩は、また面倒なヤツが現れたものだと思って、露骨に不機嫌な顔をした。
 というか、このタイミングで暁が出てくるというのは厄介にも程がある。
 ダークザイドという正体も含め、全てが彼女に発覚してしまうではないか。
 その他、あらゆる黒岩の本性が全て手に取るようにわかってしまう。



「…………疲れたぁ〜。ちょっとそこのお姉さん、あ、そっちのお兄さんでもいいから水くれません?」

「おい、何をふざけている! シャンゼリオン!」



 ……と、正体を隠したかったところなのだが、先に怒号が出てしまう。
 暁は黒岩を明らかにスルーしているのだ。明らかに心身ともに「あっぱらぱー」な状態であるとはいえ、流石に黒岩には反応するだろうと思っていた。普通に考えればそうなのだ。

 黒岩は少なくとも、暁を「バカ」であるが、「脅威」と考えていた。「ライバル」でもある。
 バカではあるが、確かにシャンゼリオンの存在はダークザイドにとって脅威に他ならないし、自分のライバルでもある。この男のバカさ加減を利用した打開策は幾らでもあるにせよ、なんだかんだでここまで生き残っている相手だ。
 そいつが、自分を無視するのが許せなかったのだ。



「あ、あの……黒岩さん、シャンゼリオンって? というか、この人とお知り合い……?」



 名簿にシャンゼリオンなんていう名前は無かったので、ラブはその言葉の意味がわからない。
 ただ、ああして呼んでいるところを見ると、彼のあだ名か何かだというのもわかる。ラブでいうのなら、「キュアピーチ」のようなものだろうか。「ブッキー」、「美希たん」、「せっちゃん」のようなものではないのは、ニュアンスでわかる。



「桃園さん、彼には近付かない方がいい。バカがうつる」

「……ちょっ!? あんた、初対面の相手にいきなり失礼だろ」



 この時、暁としては「初対面」とは暁と黒岩の事だったのだが、この時は黒岩はそれを暁とラブの事と捉えることもできた。…………が、やはり暁の態度には違和感も否めない。
 何というか、黒岩に対しての態度も余所余所しく、敵意さえまるで無いように見えたのだ。そう、まるで他人のように扱ってる。
 ゆえ、彼は試しに、怪訝そうに訊いた。



「……待て。貴様は確かにシャンゼリオンだよな?」

「あ、いや、やっぱりわかる? 俺は正義のヒーローシャンゼリオン! …………けど、あんたなんでそれを知ってんの?」

「…………フム」

「どうかしました? 黒岩さん。…………っていうか、黒岩さん! 流石に失礼ですよ! いきなり人に対して……」



 周囲の煩さを無視しながら、黒岩は少し考えた。
 「この暁」は、明らかに黒岩のことを知らない。……そう、それは何となくそう見えないというのではなく、どう見ても黒岩に対する敵意は薄く、「何故シャンゼリオンについてコイツが知っているのか?」という顔までしている。
 そう、つまり、彼は────



「ついに完全に頭がおかしくなったらしいな」



 と結論づけてしまったのである。





★ ★ ★ ★ ★

226ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:55:19 ID:FeQBemuo0





『トリガー!』



 森の中でその電子音を聞いた井坂は、ティアナの方を見た。
 彼女の顔が目を大きく見開いたまま、不気味に笑っていたのである。
 そうか、彼女は要するにラブにリベンジしたいわけなのだな……と思った。
 黒岩も巻き込まれる形になるのは間違いなし。



『トリガー!』



 だが、構わない。
 黒岩のように優秀な人間がこの場に幾らでもいることは既に井坂にもわかっているのだ。
 一人くらい犠牲にしても、大きく場は動かないに決まっている。
 というよりもむしろ────



(彼の持つ特殊な力、見られるかもしれませんしね)



 自分はただの人間だと言い放った黒岩だが、彼は明らかにただの人間ではない。
 もしかすると、ドーパントでないにせよ特殊な能力を持つ戦士なのかもしれない。
 だから、彼は、その姿も見たがっていたのだ。一度、ドーパント以外の存在に対する対策も練っておく必要があるだろう。
 キュアピーチに、それから黒岩に妙な男────ティアナには明らかに劣勢となる組み合わせだが、彼は実際に見てみたくなった。
 一度、ウェザー・ドーパントの変身を解き、彼はトリガー・ドーパントを見送る。


 トリガー・ドーパントは森を出て走っていく。
 キュアピーチが、そして彼女の大切な人がいるのだ。
 まずは黒岩、それからもう一人の男、そしてキュアピーチを甚振る。
 既に彼女はそれを望むようにまでなっていた。





★ ★ ★ ★ ★





「死ねぇーーーっ!!」



 ────刹那

 不意に黒岩たちを襲ったのは、そんな声と銃声。
 その銃口は黒岩を的確に狙い、そして発射される。
 突然ではあったが、黒岩はティアナや井坂のいた森に警戒を示していたので、回避には成功していた。
 ティアナの様子に気づいていなければ蜂の巣になるまで撃たれていたであろう。



「くっ……!」



 黒岩が真横に飛んで避けたところを、また今度はトリガーの銃が発射される。
 そんな彼の真横で、ラブや暁が奇襲に驚き慌てふためいていた。



「黒岩さん!」

「……ひええええええ!!! だ、ダークザイド!?」



 ラブが黒岩を助けようとリンクルンを手にする。一方、暁は自分はもう少し安全なところへ向かおうと逃げ込んでいた。
 暁はともかく、目の前の二人を助けようとするラブの思いは確かである。救える命は絶対に救いたかったのだ。
 彼女は、プリキュアに変身するために変身ポーズと掛け声を取った。



「チェインジ! プリキュア、ビーーートアーップ!!」



 大きく手を広げると、彼女の体が、光とともにプリキュアの衣装に包まれる。
 彼女の全身にプリキュアの衣装が着用されたとき、



「ピンクのハートは愛あるしるし!」



 手で作ったハートを弾くように、彼女は手をポンと叩いた。



「もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」



 ラブはキュアピーチへと変身完了する。
 だが、キュアピーチへと変身した彼女を無視して、トリガー・ドーパントは黒岩に銃口を向け続けた。
 しかし、そこにキュアピーチが跳び、庇うように銃弾の前へ立つ。腕をクロスしてガードしたまま、黒岩が弾丸をあびないようにしたのだ。
 プリキュアとなった彼女の腕の前で、幾つかの弾丸が弾けていく。強化された体に跳ね返されているのだ。

227ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:55:59 ID:FeQBemuo0



「うおっ! なんだありゃあ!?」


 一方の暁は回避の体制に入ってはいたが、その変身に驚きの声をあげる。ここに来てから、変身者というものは何人と見たが、こんなに何人も何人もいるとは驚きだ。
 ともかく、暁は目の前で女の子が戦っているのに、それを無視するような男ではなかった。
 感嘆の言葉をあげるとともに、彼は立ち上がる。
 自分の方に弾丸は飛んでこないので、絶好の燦然日和というところだった。



「……俺も負けてらんないって! ……燦然! シャンバイザー!」



 変身ポーズを取った彼の目を隠すようにシャンバイザーが現れる。
 すると、彼の体はクリスタルパワーにより、シャンゼリオンへと変わっていく。
 黒岩も勿論見覚えのある姿であり、何とも忌々しい姿に見えた。
 キラキラと輝く体表は、今は太陽を反射させていた。



「大丈夫か、オッサン! それにキュアピーチ!」



 シャンゼリオンは二人の前に駆け寄り、転がっていた黒岩を起き上がらせた。
 黒岩を守る、もう一人の盾となる。
 そんな暁の姿にキュアピーチは驚いた。



「……え!? あなたも変身するの!?」

「あはは……」



 ともかく、彼女にも暁が味方のように見えるのは確かだろう。
 初対面だが、これは共闘の流れだ。暁と黒岩を逃がそうとしたキュアピーチも、今は彼の力を借りることにする。



「一人くらい増えたところで同じよ!!」



 キュアピーチとシャンゼリオンの二人の壁が現れたのに対し、トリガー・ドーパントは分身することで対応する。
 四体ものトリガー・ドーパントに対し、変身者二人というのは一見すると不利にも見えるだろう。……が、仮にもキュアピーチ一人に圧倒された相手である。
 とはいえ、ラブサンシャインを浴びないよう三人の周囲を囲い始めた。
 今度は一人一人倒すしかないということだ。



「おいおい、なんか増えたぞ!?」

「大丈夫! 二人で力を合わせよう!」



 黒岩を見つけたことによってある程度精神が晴れたのか、この時ばかりはキュアピーチもしっかりと返事をした。
 多くの死を忘れることにはならないだろうが、今は目の前で力を合わせてくれる存在への喜びが彼女を戦わせてくれる。



「………うん、まあ………オッケーイ!」



 一方、シャンゼリオンは「そういえば自分は優勝するために殺し合いに乗る予定だったんだっけ」などと唐突に思い出しながら胸に手を翳した。
 まあいい。とにかく、今はキュアピーチたちと一緒に黒岩を助け、この大群を倒すのだ。
 それが、黒岩を人間だと思っている現在の暁の小さな正義感だった。



「ガンレイザー!」



 遠くから銃で攻撃してくる今回の敵にはガンレイザーだ。
 目には目を、歯には歯を、銃には銃を……という単純な理由である。
 あるいは、西部劇のような撃ち合いを期待していたのかもしれない。



「ディスク装填! ハッ!」



 シャンゼリオンの手元のガンレイザーからトリガー・ドーパントに向け、ビームが飛んでいく。
 一発、二発と、別の相手に撃ったものだが、命中したのは一発であった。
 その一発が当たったドーパントはそのまま消えるだけで、何ということもない小さな痛手でしかない。
 それはあくまで幻でしかないのだから。



「おいおい、本当に分身かよ!」

「だが奴は攻撃を受ければ消えるとわかった。敵は残る三体。全て消し去ればいい!」



 黒岩はシャンゼリオンにアドバイスを送りつつ、スーツの懐で自身の支給品であるデリンジャーを密かに手へと持ち変える。
 シャンゼリオンやキュアピーチにさえ気づかれぬように、ひっそりと。手のひらよりも小さなデリンジャーだからこそ、誰にも悟られずに胸に仕舞うったり、手に持ったりすることができるのだ。
 あくまで、それは護身用であり、これで裏切るようなことはしない。
 今はシャンゼリオンやキュアピーチの援護や助けをありがたく思うことにしておこう。

228ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:57:47 ID:FeQBemuo0



「……よし!」



 キュアピーチは前に跳ぶと、前方の二体のトリガードーパントを殴り、蹴る。
 しかし、それも外れである。
 残るは一体となったが……



「おりゃっ! おりゃっ!」



 シャンゼリオンのガンレイザーがなかなか命中しない。あっさりと避けられてしまうのである。



「直接行って倒してやる!! シャイニングクロー!!」



 シャイニングクローを装着したシャンゼリオンがそちらに向かって走って攻撃し、その一体もほぼ同時に消えていた。
 ガンレイザーが当たらなかった割には、随分とあっさりした終わり方である。

 …………全てが幻。そう、ここで襲撃したトリガー・ドーパントは消し去られ、この場からトリガー・ドーパントが完全に消えてしまったのだ。
 それでは、あいつも何故襲撃してきたのかわからない。強さにおいて、これだけの差があったというのだ。
 シャンゼリオンは、キュアピーチは、黒岩は、周囲を見回す。



「………………そうだ!」



 その時、キュアピーチはある事実に気づいた。
 そう、よくよく考えれば自分が先ほど戦ったトリガー・ドーパントは五体だった。
 なのに、この場で交戦したトリガー・ドーパントは僅か四体。一体足りないのである。
 つまり、何処かにもう一体が隠れている。



「気をつけて! どこかにもう一体隠れてるよ!!」



 と、キュアピーチが呼びかけたまさにその瞬間である。



「死ねぇっ!!」



 ドン!

 銃声が鳴る。
 その音が聞こえたのは、近くの木の上であった。森と呼ばれる木の群れの中に、トリガー・ドーパントが一体混ざっており、的確に狙いを定めていたのである。
 トリガーことティアナは最初から、分身を使って黒岩からキュアピーチを遠ざけ、その隙に黒岩と暁を殺し、最終的にはキュアピーチも殺そうという算段で動いていたのである。
 暁がシャンゼリオンに変身したのがティアナにとっても、少し予想外だったが、分身がある程度多かった為、シャンゼリオンも遠ざけることができた。
 一体はあっさり消滅したが、もう一体は遠距離攻撃を避け、近距離攻撃に向かわせることに成功したのであった。


 銃声が鳴り、キュアピーチもシャンゼリオンも、真先に木の上を見てトリガー・ドーパントの姿を確認してしまった。
 だから、黒岩がどういう状態なのかを知るのが一瞬遅れる。
 二人とも、こういう状況に遭遇したことがなかったから、すぐに銃声を優先して見てしまったのだろう。
 一瞬遅れて、そちらを見ると────





 ────其処にあったのは、黒岩省吾という男ではなく、弾丸を一刀両断した暗黒騎士ガウザーの姿であった。





 刀を振り終え、憮然とした構えを見せる奇怪な怪人。
 その頭に斧のようなものが刺さっているのが気にかかるが、それよりも……そうだ、彼は変身している。
 シャンゼリオンやキュアピーチさえその事実を知らなかったのだから、彼らは驚き口をぽかんとさせている。
 それは、トリガー・ドーパントも同じだった。



「黒岩ぁ! 私を騙したなぁっ!!」



 トリガーは思わずそう口にしてしまう。
 黒岩が自らを「ただの人間」と言った相手は限られる。井坂、もしくはティアナだ。
 先ほどの態度を見ると、やはりティアナではないかとあたりをつけた。

229ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:58:47 ID:FeQBemuo0


「おいおい、マジかよ!!」

「……嘘!? 黒岩さんも!?」



 ──黒岩省吾が暗黒騎士ガウザーにブラックアウトするタイムは、僅か0.05秒(当社比)に過ぎない。では、ブラックアウトのプロセスをもう一度見てみよう──


 時間は十秒前に戻る。


 ──────トリガー・ドーパントの手から飛んで来る弾丸。
 それを、黒岩は自分に向かってくるものだと当たりをつけていた。
 さて、キュアピーチやシャンゼリオンはそれにろくに気づいている様子もなく、周囲を捜している。
 が、自分はどうすればいいのだろうか。
 ダークザイドといえども人間体で弾丸が当たったら痛いし、最悪死ぬかもしれない。
 ただ、東京都知事として日本を立て直そうとする自分が怪物であるなどと知れては……

 と、思ったが命には変えられまい。


「ブラックアウト!」


 ──ブラックアウトとは、黒岩省吾がダークパワーによって暗黒騎士ガウザーへと変身する現象である──

 ガウザーとなった彼は、跳んでくる弾丸を所持する刀で素早く一刀両断した。
 キュアピーチとシャンゼリオンがガウザーとなった黒岩を見るのは、その一瞬後の出来事だったのである。


 という経緯で、彼は現在の姿に至るのだ。



(……よく考えてみれば、俺が変身するのも違和感のないことかもしれないな。
 そう、ここにはおそらく『変身のできる者』だけだ。加頭やサラマンダーも俺の変身能力を知ったうえでここに呼んでいる可能性が極めて高い)



 ガウザーは変身した今だから気づく。変身してしまった以上は仕方がないので、後付でも何でも、「変身しても周囲に影響のない理由」が必要だったのかもしれない。
 もっと知的で冷静な自分であるために、思わず変身してしまったという事実を消したかったのだ。だから、彼の中では、そこまで計算し尽して変身したことになってしまった。



(つまり、俺がダークザイドっていうことも、奴らにはお見通しか)



 変身を渋っていた自分が今思うと滑稽である、とまた自分が愚かになる理由が一つできてしまった。
 つい先ほどまでの自分は東京都知事として正体は知られてはならぬと、怯えていたに過ぎないのだ。
 だが、こうなった以上は好き勝手に暴れられる。



「行くぞシャンゼリオン! 今は協力してやる! 奴を倒すぞ!」

「…………いや、俺はもう疲れたから勘弁。ていうか、だいたいアンタそんな力を隠して戦うのサボってたんだから、アンタが戦えばいいでしょっ!
 俺とこのコはこっちで休んでるから、その隙にアンタが倒しといて。よろしく!」



 シャンゼリオンはそそくさと、戸惑うキュアピーチの肩を両手で持ちながら後退してしまう。
 そう、彼はもう疲労で完全にやる気が無いし、そもそも黒岩が変身できるなら彼が戦えばいいとさえ思っていたのだ。
 実は、それでやられようが知ったことではないかもしれない。彼は黒岩を快くは思っていなかったし、事実彼は忘れがちだがマーダーだ。



「貴様に頼んだのが間違いだった。だが、まあいい。貴様如きの力を借りる必要もない……!」



 木の上から地上に降りてきたトリガー・ドーパントに向けてガウザーは敵意の視線を送る。
 互いが互いの目を敵意を持って見つめていた。



「あの……本当にいいんですか? あの人たち」

「いいのいいの! まあ見てろって! あいつがヤバそうだったら行くから」



 シャンゼリオンは手で枕を作ってだらしがなく寝転び、足を組んで休んでいた。
 人外がこうして休んでいるのは何ともシュールな光景だったので、流石のキュアピーチも額に汗を浮かべる。
 別にガウザーの実力を知っているわけではないが、少なくともしばらくの時間稼ぎにはなると睨んだのだろう。
 というか、要するに彼は極度の疲労で休みたがっていた。ここまでの道中を考えるとまあ仕方が無いだろう。
 それは、ティアナも同じだったのかもしれない。




 だが、彼の言ったとおり、────


 対峙するトリガー・ドーパントと暗黒騎士ガウザーの勝負は一瞬でついた。

230ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 00:59:45 ID:FeQBemuo0



 間合いを縮めたガウザーが、トリガー・ドーパントの腹をすれ違い様に斬ったのだ。
 実際、トリガー自体は傷や作戦の失敗により撤退したいと想っていたのに、ガウザーがそれを許さなかった。
 相手への躊躇が一切ない、冷徹無比の攻撃である。それは、ダークザイドである彼や、敵に一切容赦しないシャンゼリオンのような戦士でなければ出来なかっただろう。



「うわああああああああああああああっ!!」



 ただでさえ魔力消費や疲労状態が酷かったティアナと、ここまで交戦を一切せずに健康体の黒岩である。
 ガウザーは、久々のブラックアウトで、あっさりトリガー・ドーパントを倒してしまったのである。



「フンッ!」



 トリガー・ドーパントは斬られた腹を押さえながら、必死で逃げようとした。
 そんな彼女を、ガウザーは情け容赦なく後ろから斬りつけたうえ、まん前へと蹴り上げた。



「ぐあっ!!」



 もがき苦しむトリガー・ドーパントであるが、ガウザーは情け容赦一切なし。おそらくシャンゼリオンでも同じことをするだろうが、キュアピーチならばそうしないのだろう。
 女の子が目にするには少し惨酷であったし、これまで多くの敵の心を救ってきたキュアピーチには、その光景は少し酷であったかもしれない。



「やめ……!」



 やめてください、と叫ぼうとしたまさにその時、また別の要因がガウザーが怯ませた。
 突然、竜巻と吹雪が襲い掛かる。


「何っ!!」


 つい先ほどまでの状態からはありえない天候であり、それがガウザーとトリガーの周囲だけというのも変だ。何らかの力によるものだと考えられる。
 キュアピーチは、そして、シャンゼリオンもまたそれに驚愕する。



「なんだありゃ!?」

「『WEATHER』……そうか、奴の力によるものか……!」



 その吹雪を回避するため、ガウザーが後退する。
 そうだ、井坂ことウェザー・ドーパントによるものだろう。
 トリガー・ドーパントの回収に来たのだろうか。おそらく、このまま戦闘になることはない。
 だから、彼らが去る前にガウザーは一言言っておいた。


「井坂、知っているか! 世界で最初のスーパーセルは1962年にイギリスのウォーキンガムを襲ったという!」


 実際、吹雪と竜巻が止むと、やはりトリガー・ドーパントの姿が無い。
 攻撃を受ける様子もなかった。
 ……まあいい。危険人物は殺しておくに越した事は無いが、あれだけ弱らせた相手ならば問題はないはずだ。
 何度挑んで来ようと、大した相手ではない。



「……黒岩さん!!」

「ああ、桃園さん。驚かせてしまってすまない。実は、私も変わった力を持っていてね……」



 黒岩が言うと、ラブは無邪気に感激する。
 黒岩が悪い人間でないことを知っているから、結局は反応は変わらない。
 プリキュアと違い、(言っては悪いが)醜い怪物のような姿だったから、隠したとも考えられる。

231ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 01:00:22 ID:FeQBemuo0


「いえ、確かに驚きましたけど……凄いですよ! これでみんなで一緒に戦えます!」

「あ、ああ……そうだな」



 黒岩としても、これからどうすべきかは迷うところだ。
 黒岩が得たいのは加頭やサラマンダー男爵や、その裏にあるものたちが持つ力。
 ならば、彼らの力を奪うのはどういう形でもいいだろう。
 殺し合いに乗るのも一つの手だ。
 ……が、今はやはり、黒岩省吾として安定した戦いをしたいのだ。独力で殺し合いの覇者となり、その後たったひとりで主催陣に歯向かい力を得るというのは少し無茶な気もするのである。
 無論、邪魔な存在を消し去るのに躊躇はないが、必要な人材は次々に得ておかねばなるまい。
 その点では、首輪に関する知識のある井坂の裏切りは痛手だった。


 それともう一つ。女性を相手に卑怯に裏切り殺してしまうのは、彼の主義に反していたのである。
 彼はあくまで卑怯な手を使う気はない。都知事となったのも、人間界のルールに則って、人間界を征服する几帳面さからの行動である。
 確かに黒岩は自分に惚れた女のラームを吸収するダークザイドだが、ラブは黒岩には信頼を寄せているだけで、惚れているわけではないのはわかっている。年の差もあるので、おそらくはこれからもそうなることはないだろう。
 黒岩の男としてのカンは、とっくの昔にラブをそういう対象から外している。
 己の主義のうえでは、彼女は一応手出ししてはならない相手である。
 つまり、彼女は無理に殺す相手でもないのである。
 戦う力も充分に持っているし、これから共に行動し続けるのも構わないはずだろう。



「ちょっと待った!」



 ……と思ったが、涼村暁という面倒な男がいることに黒岩も気づく。



「……あんたのあの姿。もしかしてダークザイドなんじゃない? というか、どうして俺たちに正体隠そうとしてたのよ? 俺たちを殺そうとしてたとか!」



 バカではあるが、妙に目ざといのがこの男。
 女には騙されやすいが、男には常に疑いの目を崩さない。要するに、男・黒岩にとっては、とても嫌な奴だ。
 どういうわけか黒岩やガウザーのことを全く知らない様子だが、それでもやはり黒岩と対立するのは明らかだ。



「……信用できないのなら、我々について来なくても構わない」

「いや、俺はアンタたちについていくぜ! ……第一、その子が心配だ」



 一方の暁は、黒岩とラブを二人で行動させるわけにはいかないと思っていた。
 一応忘れないように言っておくと、「暁はマーダー」、「黒岩は対主催」だ。
 しかし、二人は本来の役目を忘れているように見えた。
 暁はラブに対する善意、黒岩は暁に対する敵意が強い。

 ……とはいえ、やはり暁の女好きであり、「フェミニスト」な部分は黒岩も嫌いにはなれない。
 そうした性格が、黒岩が彼をライバルと認めた最大の理由かもしれない。
 ゆえに、彼の答えは簡単だった。


「貴様の考えはわかった。俺たちと共に来い」

「言われなくてもな」


 それは、もし万が一にでも、自分がラブを殺すような状況になったのならシャンゼリオンとしてこの女を助けてみせろ……というライバルへの課題なのかもしれない。
 彼を気に入らないと思いつつ、どこかで認めているからこその決断と想いである。

232ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 01:00:58 ID:FeQBemuo0



「……だが、一つだけ忘れるな、暁」

「あ?」

「俺の名前は黒岩省吾だ!」



 彼は何よりも真先に、その事を注意する。
 不穏なまねをしたら殺すぞ、とかそういう注意ではなく、ただ自分の名前を彼に伝えたのである。
 何というか、自分のライバルがバカなのは知っていたが、何があったにせよここまでバカ度合いが増えたのは苛立つだけなのだ。
 



「忘れないぜ、その名前。……で、君は?」

「え? あ、桃園ラブです」

「へぇ……ラブちゃんか……うん、君の名前も忘れない!」



 暁としてもまあ、やはり恋愛感情などとは一歩引いた感情なのだろうが、それでも表情は妙にいやらしいというか、邪な感情でもありそうな笑みだった。本人も意識してないに違いない。
 ラブは、ほむらに比べると、また幼さが残る。そう、朱美と同じような「ひまわり」タイプである。女性であるので、暁の気前はよくなるが、別に恋愛対象とか、ナンパの対象とかは違うだろう。
 彼は可愛い女性が相手ならば、一応は誰に対してでも優しい。



「ねえ、俺もうヘトヘトだからさ、ここでちょっと休まない? 寝転がりたいんだけど」

「置いていくぞ」

「ハイハイ……わかりましたよ……でも、村に着いたら、ちゃんと休ませろよ? さっきから何キロも走りっぱなしなんだからな!」



 二人の強烈な変人に囲まれてしまったラブは、普段と違ってやや引いた態度で、気になった事を訊いてみる。



「……あのお二人とも……」

「「はい?」」

「二人はお知り合いなんですよね?」

「「こんな奴知らん!!」」



 二人はそれぞれ別の思い、別の意味で、全く同じ事を、全く同じ瞬間に言った。



(なんか気に食わないんだよな、コイツ……)

(やはり貴様とはいつか決着をつける……なるべく早いうちにな)



 暁と黒岩は腹の中でそう思いながら、互いを睨んでいた。
 






【1日目/昼前】
【E-2 平原】
※F-2 廃教会は暁のせいで完全に崩れ去りました。

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、精神的疲労(大)、罪悪感と自己嫌悪と悲しみ、決意
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、巴マミのランダム支給品1〜2
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:暁、黒岩と行動する。 この二人の関係は……?
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達(堂本剛三、フリッツ、クモジャキー、巴マミ、放送で呼ばれた参加者達)への罪悪感。
6:ダークプリキュアとテッカマンランス(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。

233ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 01:01:30 ID:FeQBemuo0



【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、汗だく
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式(ペットボトル一本消費)、首輪(ほむら)
[思考]
基本:願いを叶えるために優勝する………………(?)
1:ラブ、黒岩と行動し、黒岩が変な事をしないよう見張る。
2:何故黒岩が自分のことを知っているのか疑問。
3:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。但し、まどかの名前等知り合いの事については全く聞いていません。
※黒岩はダークザイドなのではないかと思っています。


【黒岩省吾@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー(2/2)
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:周囲を利用して加頭を倒す
1:あくまで東京都知事として紳士的に行動する
2:涼村暁との決着をつける ……つもり、なのだが……
3:人間でもダークザイドでもない存在を警戒
4:元の世界に帰って地盤を固めたら、ラビリンスやブラックホールの力を手に入れる
5:井坂とティアナが何を考えていようとも、最終的には自分が勝つ。
6:桃園ラブに関しては、再び自分の前に現れるのならまた利用する。
[備考]
※参戦時期は東京都知事になってから東京国皇帝となるまでのどこか。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマンはダークザイドと同等又はそれ以上の生命力の持主と推測しています。(ラブ達の戦いを見て確信を深めました)
※ラブからプリキュアやラビリンス、ブラックホール、魔法少女や魔女などについて話を聞きました 。
※暁は何らかの理由で頭が完全におかしくなったのだと思っています。




★ ★ ★ ★ ★

234ライバル!!誰? ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 01:02:00 ID:FeQBemuo0





「どうやら彼も、随分と面白い存在のようですね……ティアナさん」



 井坂はティアナたちの戦闘を見て、舌なめずりをした。
 彼は黒岩に対し、純粋な興味を持っていたのである。人ならざる物であるのは確かだと思っていたが、やはり奇怪な怪人だったというのか。
 やはり、面白い。ここにはそういう能力の持主が何人といるようだ。
 手駒として使えたかもしれないが、結果的に彼がどうにでも転ぶ人間なのはわかっていた。生きて会えれば、また彼は裏切ることがあるかもしれない。
 なので、さして惜しいとも思っていない。



(……しかし)



 井坂は、ティアナの足取りを見ながら疑問に思う。
 腹や背中に傷を残したまま、彼女は前へ前へと歩くのである。
 いまだにガウザーの幻影から逃げているつもりなのだろうか。
 血をポタポタと流しながら……しかし、治療道具がある村の方へは向かおうとせずに。
 クロスミラージュも、きっと彼女を心配していたのだろう。
 たとえ何をしようと、主には死んで欲しくないと。だが、そんな思いも全くの無視だ。



(何故、彼女はあちらへ向かうんでしょう?)



 井坂は、採石場の方へと向かっていくティアナに疑問を浮かべていた。
 もう村は近いからどう行こうが構わないのだが、何かに惹かれているようにさえ見える。
 井坂はその動向に興味があった。ティアナは、あまりに疲弊しきっているのに、その足取りだけは崩そうとしなかった。



「スバル────」



 彼女がそう呟いたのを、クロスミラージュだけが聞いていた。



【1日目/昼前】
【E-3 森】

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
[状態]:健康、腹三分
[装備]:ウェザーメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式(食料残2/3)、ランダム支給品1〜3(本人確認済)
[思考]
基本:殺し合いを打破して、主催者を打倒する。
0:ティアナと行動し、トリガー・ドーパントを観察する
1:他の参加者に出会ったらティアナと共に戦う、ただしリスクの高い戦闘は避ける
2:首輪の解除方法を探す
3:手駒を見付ける
4:空腹に備えて、できるだけ多くの食料を確保したい。
5:黒岩省吾はまたいずれ、仲間に引き入れたい。
[備考]
※仮面ライダーW第34話終了後からの参戦です。
※首輪により能力が制限されているのではないかと考えています
※黒岩省吾の正体を知りましたが、少なくとも善良な存在ではなく、まだ自分たちの側に転がる可能性があっると思っています。
※飛行能力使用時は、攻撃力や移動速度もかなり落ちます。

【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:ガイアメモリによる精神汚染(中)、疲労(中)、魔力消費(中)、ダメージ(中)、断髪(スバルより短い)、下着未着用 、全身火傷、腹部と背中に斬傷と出血
[装備]:ガイアメモリ(T2トリガー)、クロスミラージュ(左4/4、右4/4)@魔法少女リリカルなのは、小太刀のレオタード@らんま1/2
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1(確認済)、機動六課制服@魔法少女リリカルなのは、下着
[思考]
基本:優勝する事で兄の魔法の強さを証明する。
1:井坂と行動を共にし、他の参加者を倒す
2:引き際は見極める。
3:スバル達が説得してきても応じるつもりはない。
[備考]
※参戦時期はSTS第8話終了直後(模擬戦で撃墜後)です。その為、ヴィヴィオ、アインハルトの事を知りません。
※首輪により能力が制限されているのではないかと考えています。
※本人も無意識に、採石場の方に向かっています。

235 ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 01:02:31 ID:FeQBemuo0
以上、投下終了です。

236名無しさん:2012/08/06(月) 07:18:39 ID:J2l4p0eA0
投下乙!
おお、暁と黒岩が共闘か!
敵、ライバル同士が手を組むってなんか燃える展開だ

それにしても黒岩、卑怯な手は好まないってなかなかかっこいい主義掲げてるじゃん
たしかにこいつはそういうやつだったな

237名無しさん:2012/08/06(月) 07:25:28 ID:J2l4p0eA0
あ、指摘なんですが、黒岩の行動方針の6って消していいのでは?

238 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:06:20 ID:kA9.3LK.0
投下乙です!
まさかこの二人が手を組むとは予想外ですよ! 確かに参戦時期の都合上、暁は黒岩を知りませんからこういうシチュエーションもあり得るかもしれませんね。
こいつらに囲まれた、ラブの運命は……
それにティアナも相棒と同じで、どんどんボロボロになっていきますね……二人の距離は近いですし、どうなるだろう。

それでは自分も投下を開始します。

239希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:07:19 ID:kA9.3LK.0

 午前6時を過ぎてから行われた放送を聞いて、沖一也の中では様々な感情が湧き上がっていた。
 尊敬する大先輩である本郷猛をはじめとした18人もの死に対する悲しみと憤り、放送を行ったサラマンダー男爵という男やノーザの死に対する疑問、残された者に対する罪悪感。
 様々な思いが一也の胸を駆け巡るが、まず思い浮かんだのは主催者達の思い通りになっていることに対する悔しさだった。あの時、猛は命を捨ててまで自分達を逃がしてくれたのに、肝心の自分は猛の遺志をちっとも受け継いでいない。
 一体、自分は何をやっているのか。人類の未来を守らなければならないのに、その使命をまるで果たせていない。これでは先輩ライダーの一文字隼人や結城丈二、更に村雨良という男と同じ『仮面ライダー』を名乗る資格がなかった。

(本郷さん……申し訳ありません。俺が無力なせいで、こんなことになってしまい……ですが、それでも俺はあなたの分まで戦い続けます。仮面ライダースーパー1として)

 それでも、一也は決して挫けない。
 木漏れ日の光を見上げながら、彼は本郷猛の言葉を思い出す。どれだけボロボロになろうとも、こんな自分を希望だと信じてくれた。
 長い間、人々の希望を守ろうとたった一人で地獄を味わってきた彼の矜持を無駄にしない為に、自分がその遺志を継いで戦うとあの時誓ったはず。これから歩く先にどんな悪夢が待ち構えていようとも、全ての命を守るまでは決して死ぬわけにいかなかった。

(あのノーザという魔女が呼ばれたという事は、やはり本郷さんは最後まで戦い抜いた……いや、アクマロという怪人が裏切ったのか? どちらにしても、今は真相を確かめる為だけにホテルへ戻るわけにもいかないな……)

 放送では忘れ難いあの悲劇を生み出したノーザの名も呼ばれている。つまり、自分達が撤退してからあの場で何かがあった可能性が高いが、ここでそれを考えた所で何の意味もない。わざわざホテルに戻って確認しようとしても、恐らくアクマロとスバルはもういないだろうし、何よりも猛から託された彼女達を危険に晒すなど以ての外だった。

「あ、あ、あ、あ、あ……!」

 そして今、一也の耳に震えるような少女の声が届いて、振り向く。
 あの凄惨な戦いの中で、ようやく助けることができたアインハルト・ストラトスの表情は放送が終わってからずっと、失意と絶望に染まっていた。
 無理もない。一也は現場にいなかったから知らないが、高町なのはと鹿目まどかはアインハルトを守ろうとして惨殺されたといつきから聞いている。加えて、あの放送ではアインハルトにとって尊敬する人物であるフェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアの名前も呼ばれた。
 頼れる人物が立て続けに死んだという事実を一方的に突き付けられて、それを受け入れるなどこんな子どもには無理に決まっている。

「なのはさんやまどかさんだけじゃなく、フェイトさんやユーノさんまで……それにマミさんやほむらさんも……!」
「アインハルト、落ち着いて!」

 宝石のような瞳から涙を流すアインハルトの肩を、明堂院いつきが支えた。その声は悲痛に満ちていて、表情もとても辛そうに見える。
 いつきもあの放送で来海えりかという名前が呼ばれてから、強いショックを受けているように見えた。しかしそれでも、悲しみを堪えて気丈に振舞おうとしているのだろうが、そんな彼女の心構えに一也は後ろめたさを覚える。
 守ろうと誓ったのに、逆に無理をさせてしまっては意味がなかった。

「私が、私がいたから……私なんかと関わったせいで、たくさんの人が死んだ……なのはさんもまどかさんも本郷さんも流ノ介さんも……みんなが……!」
「アインハルトちゃん、それは違う!」

 だから一也は、そこから紡がれるアインハルトの言葉を無理矢理遮るように叫ぶ。

240希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:08:04 ID:kA9.3LK.0

「本郷さん達が死んでしまったのは、君が悪いわけじゃない!」
「えっ……? でも、なのはさんとまどかさんは私なんかを庇ったせいで……!」

「彼女達の死は元を辿れば、そうなるきっかけを作ったノーザ達や、こんな馬鹿げた殺し合いを仕組んだ加頭が原因だ! だから、君が悪いわけがない!」
 アインハルトがここまで追い込まれるきっかけとなった場面を見ていないのに、こんなことを言っても何の慰めにもならないかもしれない。だがそれでも、少しでも可能性があるならばそれに賭けるしかなかった。

「たった六時間で、これだけの犠牲を出してしまったのは俺が無力だったからだ……」
「でも、なのはさん達は私が……!」
「いや、あの戦いだって本当なら俺はもっと早くに駆けつけなければいれば、犠牲が出なかったかもしれないし、君達二人にこんな辛い思いを背負わせることもなかった……だから、責任を感じることなんてない」

 こんなのはただの気休めでしかないが、それでもアインハルトにいつまでも自責の念を背負わせるわけにはいかない。誰の笑顔も生まない殺し合いを強いた主催者たちがのうのうとしていて、こんな少女が落ち込んだままでいるのはおかしいからだ。

「優しいんですね、沖さんは……」

 しかしアインハルトの口から出てきたのは、蚊の鳴くような声だった。
 俯いた表情からは、ようやく登り始めた太陽の輝きを呆気なく塗り潰してしまいそうなくらい、濃い闇が宿っているように見える。

「こんな私を助けてくれただけじゃなく、そこまで言ってくれるなんて……なんてお礼を言ったらいいか……」
「違う、そういう意味じゃ……!」
「でも、さっきも言ったみたいに私と関わった人達がみんな死んでしまうんです……私は、疫病神でしかないのですよ」
「何を言っているんだ、そんな訳ないだろう!」
「このままだと、いつか二人も……身勝手なのはわかりますが、ティオの事をよろしくお願いします……武装形態」

 そう言いながらアインハルトはいつきから離れて、悲しげな表情でアスティオンを一瞥すると、その小さな体躯から眩い光が放たれた。その眩さを前に、一也は思わず目を閉じてしまう。
 しかしそれからすぐに瞼を開くと、目の前に立っていたアインハルトの姿が大きく変わっていた。小学生程度の外見だったが、まるで魔法でも使ったかのように大人のような姿に変身している。
 仮面ライダーとはまた違うやり方の変身を前に、一也は思わず瞠目した。

「……さようなら」
「待つんだ!」

 悲痛に満ちた言葉を耳にした一也は危機感を覚えて腕を伸ばそうとするが、その直後にアインハルトは背を向けて、逃げるように走り出していった。
 放送まで求刑していたのに加えて、変身した影響もあるのかその足取りは先程より軽くなっていて、すぐに見えなくなる。

「アインハルトちゃん、待ってくれ!」
「一也さん、すぐに追いましょう!」

 そう語るいつきの表情からは、辛さを無理矢理抑えつけているような雰囲気が感じられた。
 プリキュアという戦士も、仮面ライダーと同じで人類の平和を守る為の存在で、いつまでも悲しみに溺れているのは許されないのはわかる。しかし、まだ中学生でしかない彼女にそこまでの強さが必要とは、一也は思えなかった。

「いつきちゃん、どうか無理をしないで欲しい……確かに、悲しみは乗り越えなくてはいけないが、無理にやろうとしても何の意味もない」
「……ありがとうございます。でも、僕だっていつまでも悲しんでいるわけにもいきませんから。そうじゃないと、えりかが怒るに決まってるでしょうし。それに今は僕の事よりも、アインハルトを止めないと……サラマンダー男爵の事も、その後に話します」
「そうか……よろしく頼む」

 強くあろうとするいつきの姿に一也は胸を痛めるが、それを振り払ってアインハルトを追う為に走り出した。

241希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:08:42 ID:kA9.3LK.0





「嘘でしょ……えりかって、まさか……!?」

 朝日が孤島を照らす中、放送で十八人もの人間が死んでしまったという事実は蒼乃美希に強い動揺を与えていた。
 宿敵ノーザがこんなにも早く死んでしまうという驚きも混ざっていたが、プリキュアでありながら人を守れなかったという自責の思いがそれを上回っている。
 そして、放送で呼ばれてしまった人間の中に、あの来海えりかが含まれていたことが、美希に大きなショックを与えていた。
 ラビリンスとは違う地球を危機に陥れてきた組織、さばくの使徒と戦ってきたプリキュア・キュアマリンに変身していた彼女とは、そこまで長い付き合いではないが確かな絆が芽生えていた。

「美希ちゃん、えりかってまさか……!?」
「……きっと、あの子の事だと思います。あたしやラブ達の友達の……来海えりかで、間違いないです」
「そんな……っ!」

 美希は弱々しく頷くと、孤門一輝は悔しそうに拳を握り締める。
 その気持ちは、美希も同じだった。命を玩具のように扱う悪辣な殺し合いを全く止められず、無様に震えていたせいでえりか達が犠牲になってしまう。彼女達を殺した者への憤りが、美希の中で燃え上がり始めた。
 ラブやつぼみ達が無事だったが、だからといって救いにはならない。彼女達もえりかの死には悲しむだろうし、何よりもサラマンダー男爵が加頭順に協力しているという事実はショックなはず。
 美希は詳しい事情を知らないが、つぼみ達は男爵を改心させてオリヴィエという少年との平和な日々を取り戻させたらしい。そんな彼がまた悪事に手を染めたなんて、つぼみ達にはあまりにも残酷な話だ。
 プリキュアのみんなで集まって、ショッピングモールでえりか達のファッションショーを楽しく見ていた最中だったのに、どうしていきなりこんな闘いを強いられなければならないのか。本当なら今頃、つぼみ達のショーにいきなり乱入してきた見知らぬ少女も一緒に連れて、楽しく遊んでいたかもしれないのに。

「美希ちゃん、僕は……」
「孤門さん、行きましょう」

 えりかがいる日常が、もう二度と戻ってこない事に寂寥感を覚えるものの、美希はそれを振り払って一輝に力強い表情を向けた。
 決して希望を捨ててはいけない事を思い出させてくれた彼を、少しでも心配させないために。

「えりかの為にも、いつまでも悲しんでるわけにはいきませんから……こうしている間に、これ以上誰かが死ぬなんてことがあったら、それこそえりかは怒るでしょうし」
「……その気持ちは確かに必要だけど、無理をするのは駄目だ! 誰かを守るのは必要だけど、それで君が無理をしなければいい理由にはならない」
「ありがとうございます……でも、あたしは戦わないといけないんです。他のみんなだって、今もどこかで頑張ってるはずですから」
「でも……?」

 一輝の言葉は、そこで唐突に止まる。見ると、彼の視線は美希の背後に集中しているようだった。
 それを怪訝に思った美希も、一輝のように後ろを振り向く。すると、一人の少女が森の中から飛び出してくるのが見えた。美希より少し年上に見える彼女は緑色の長髪を棚引かせて、何かから逃げるように走っている。
 何があったのか。一瞬だけそう思った直後、少女が駆け抜ける先が砂浜であるのを見て、美希の全身が警鐘を鳴らす。
 彼女は自殺しようとしているという最悪の可能性が、美希の思考を一瞬で満たした。

「あの子……まさか!?」
「待ちなさい!」

 同じ不安を抱いたのか、走り出した一輝の後を追うように美希も飛び出す。だが少女の足取りはおぼつかないが、それでも早くてこのままでは追いつけそうにない。
 だから美希は懐から取り出したリンクルンの上部に、クローバーキーを差し込んだ。

「チェンジ、プリキュア! ビート・アーップ!」

 その叫びと共に彼女の全身は青い光に包まれて、一瞬で希望のプリキュア・キュアベリーへの変身を果たす。
 名乗る暇なんて今はない。プリキュアの脚力を用いて先を進んでいる一輝を追い越して、自殺を図ろうとしている少女に追いついて、その背中にしがみついた。

「やめなさい! あなた、何をしようとしているの!?」
「放してください! 私は……私は生きていてはいけないんです!」

 振り解こうと暴れる少女の言葉で、ベリーは確信する。やはり、彼女は自殺をしようとしていた。

242希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:09:26 ID:kA9.3LK.0

「生きていちゃいけないって……何てことを言ってるの!?」
「私のせいで……私なんかを守ろうとしたせいで、みんなが死んでしまったんです! なのはさんやまどかさん、それにフェイトさんにユーノさんだって……私みたいな厄病神のせいでみんなが死ぬなら、代わりに私が死ねば……!」
「馬鹿なことを言わないで!」

 ベリーは少女の言葉を遮るかのように叫び、顔を合わせるかのようにその身体を無理矢理動かす。
 そのまま少女の頬に平手打ちをして、辺りに乾いた音を響かせた。

「あたしはあなたに何があったのかは知らない! でも、もしもあなたが死んだらあなたを守った人達の思いはどうなるの!?」
「えっ……?」
「その人達は、あなたを守ろうと頑張ったはずでしょ! でも、あなたが簡単に命を捨てたら、その人達の思いはどうなるの!? 何にもならないわ!」

 今にも壊れてしまいそうな少女の心を取り戻すため、ベリーは必死に腹の底から叫ぶ。
 彼女の言っていたなのはやまどか、それにフェイトとユーノとは放送でサラマンダー男爵が告げた、たった六時間で死んでしまった人達のことかもしれない。言葉から察するに、きっと四人は少女を庇った結果、その命を奪われたのだろう。
 罪悪感のあまりにパニックとなって、自殺という安易な逃避を選んだ。確かにまともな人間ならば、もしも自分のせいで誰かが死んでしまうという状況に陥ったら、発狂してもおかしくない。
 けれど、だからといって親から貰った大切な命を粗末にしてはならない理由にはならなかった。

「彼女の言う通りだ」

 そして、ようやくこちらに追いついてきた一輝もまた、少女を諭す。

「僕達は君の事や、君がどんな辛い目に遭ったのかは全くわからない……でも、だからこそ君の事を知りたい。君を支える為にも」
「でも、私なんかがいたら今度はあなた達が……あの時みたいに、あなた達二人が死んでしまったら……!」
「いいや、僕達は決して倒れるつもりはない! こんな馬鹿げた殺し合いを止めるまでは、絶対に諦めたりもしないよ。それに、君みたいな子を一人でも多く助けたい……だから、死ぬなんて言わないでくれ」

 一輝の語る一語一句を、ベリーは心の底から同意した。
 不意に彼女は、おもちゃの国でトイマジンの真実を知った際に戦えなくなったキュアピーチを、プリキュアのみんなで立ち上がらせた時のことを思い出す。この少女はかつてのピーチと同じで、責任のあまりに何もできなくなっていた。
 だから、自分達が彼女に生きる力を与えなければならないと、ベリーは考える。
 次の瞬間、ガサガサと植物が揺れるような音が響いたので、彼女は反射的に振り向いた。突然の来訪者にほんの少しだけ警戒心を抱くも、森の中から現れた少女の顔を見て、それは瞬時に消える。

「君はまさか……ベリー!?」
「えっ……もしかして、いつき!?」

 見知らぬ男と共に現れたのは、死んでしまった来海えりかの友達であり同じプリキュアである少女、明堂院いつきだった。

「よかった……あなたは無事だったのね!」
「ベリーこそ、無事でいてくれて本当によかった……!」

 ベリーもいつきも顔を合わせたことで、その表情が一気に晴れていく。
 会いたかった友達と出会えたことで、この時ばかりは流石の彼女も張り詰めていた神経をようやく解すことができた。
 しかしいつきの顔を見て、ベリーはすぐに思い出す。友達を失ったばかりの彼女の前で喜ぶことなんて、出来る訳がなかった。
 自分と違って彼女は、友達を失ったばかり。その気持ちを察することができなかったベリーは、思わず心を痛めてしまった。





 放送で呼ばれてしまった本郷猛の後輩で、仮面ライダーの一人でもある沖一也という男から聞いた話は、孤門一輝に衝撃を与えるのに充分な威力を持っていた。
 美希達プリキュアと戦っていたノーザという魔女が、洗脳したスバル・ナカジマという少女や筋殻アクマロという怪人と共にいつきやアインハルトの仲間達を殺し続けたらしい。しかも、その場所はこれから向かおうとした市街地とは正反対の位置にあるホテルだった。
 反対方面の市街地を目指してよかったなどと、思える訳がない。自分一人がいれば犠牲者が出なかったなどと自惚れるつもりはないが、可能性はゼロではなかったかもしれなかった。それにアインハルト・ストラトスという少女だって、ここまで追い詰められることはなかったかもしれない。
 だが今は、亡くなった四人の為にも戦わなければならなかった。ノーザは死んでしまったが、まだアクマロとスバルがいる。恐らく、もうホテルから離れているだろうから、少しでもその危険性を多くの参加者に伝える必要があった。

243希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:10:42 ID:kA9.3LK.0

「孤門さん、ありがとうございます……美希ちゃんと一緒に、アインハルトちゃんを止めてくれて」
「いえ、僕は何もしていませんよ。彼女を支えてくれたのは主に美希ちゃんですから」
「それでも俺は、あなたにもお礼を言わなければいけません。不甲斐ない俺の代わりに、彼女を支えてくれたのですから」
「……そうですか」

 微笑みながら一也は感謝の言葉を告げてくるが、一輝は素直に喜べない。
 二人の少女を守りながら戦いを乗り越えてきた一也に対して、自分は何もしていなかった。アインハルトの自殺だって、もしも美希がキュアベリーに変身していなかったら止められなかったかもしれない。
 同じ大人でありながら、力がないのが悔しかった。

「それにしてもBADANにアンノウンハンド、そしてブラックホールか……やはり、この殺し合いを仕組んでいる奴らは、一筋縄ではいきそうにないですね」

 そんな一也の言葉を耳にして、一輝は胸の中に広がりつつある慚愧の念を一旦振り払う。

「確か、一文字隼人さんはこの殺し合いを開くために、多くの人を別々の時間から集めたって……」
「はい。あの人が言うには、俺が経験した事件は数ヶ月程前の出来事だったらしいです。ですがみんなの話を聞いていると、主催者達は時間だけでなくそれぞれの世界すらも越えている可能性も、確実な気がします」
「成程……」

 アインハルトを止めてから、一輝達は数時間後には禁止エリアになるはずのD−9エリアで休息を兼ねた情報交換を行っている。
 まず、あの加頭順やサラマンダー男爵と言う男の背後にいる黒幕の正体が、時間と世界を超越する程に強大な存在である可能性を立てた。
 その証拠に一也の先輩である一文字隼人という男は、一也が生きる数ヶ月先の未来から連れて来られたらしい。加えて美希といつきも互いの認識に齟齬があったことから、美希はいつきの生きる世界よりも少し過去から来た説があると、一也は立てる。
 その推測を絵空事と斬り捨てるのは、一輝には到底できなかった。アンノウンハンドのような未知の存在であればそれくらいのことはできるかもしれないし、何よりもこの状況で起こる出来事に対して「有り得ない」などと言うのは以ての外。
 自分達の敵は、ウルトラマンやTLTの手に負えるかどうかもわからないという認識も必要だった。

(そんな連中が、未来ある子ども達に殺し合いを強いている……)

 不意に一輝はアインハルトを慰めている、美希といつきの方に振り向く。
 アインハルトは先程と比べるとまだ落ち着いているように見えるが、やはり不安定な事に変わりはなかった。尤も、目の前で仲間が殺されるなんて大人でもトラウマが残りかねない出来事を、あんな少女が簡単に乗り越えるなんてできるわけもない。
 本当なら一也達と一緒にいつきやアインハルトを立ち直らせたかったが、彼女達だけに拘るわけにもいかなかった。西条凪達だって心配だし、まだ生きている人達のことも救わなければいけない。

(情けないな、僕は……)

 その直後、一輝はまるで二人を切り捨てているような感覚に陥ってしまう。
 いつきも一見すると悲しみを乗り越えたように見えるが、本当はまだ辛いはずだった。確証は出来ないが、彼女や美希の仲間である月影ゆりという少女は死んでしまった家族や妹のダークプリキュアのため、殺し合いに乗った可能性があるらしい。
 頼りになる先輩が人の命を奪うような事実なんて、誰だって認めたくないだろう。そんな状態の彼女達を一也だけに押し付けるのはやはり心苦しいが、本当に彼のためを思うなら美希を守らなければいけなかった。

「それと……孤門さん、本当に二人だけで大丈夫なのですか? いくらノーザが死んだとはいえ、この島にはまだ危険人物がたくさんいるかもしれませんよ」
「それはそうですけど、僕一人があなたの負担になるわけにもいきません」

 ここに集まった五人の目的地は偶然にも一致している。しかし一也達の方は戦いの疲れがまだ完全に癒えていないのだから、本当ならもっと休息が必要だった。
 だから一輝と美希は先に市街地へ行き、一也達は休憩後に移動してから午後12時辺りに中学校に落ち合うこととなっている。それほど疲労していない二人が、いつまでも休むわけにもいかなかったからだ。

244希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:12:01 ID:kA9.3LK.0

「いつきちゃんとアインハルトちゃんのこと、どうかよろしくお願いします」
「わかりました……孤門さん達も、どうか気を付けてください」

 そう言葉を交わした後、美希はこちらに振り向いてくる。
 そして、彼女はもう一度だけアインハルトと目を合わせた。

「アインハルト、確かに辛かったかもしれないけど……どうか悲しみに溺れないで。あなたにはいつきと沖さんがついているから」
「いつきさんと、沖さんが……?」
「そう、あなたは支えてくれる人がここにいるの。それにあたし達だって、離れていてもあなたの事を思ってるの……だから簡単に諦めないで。あたし達は、あなたに生きていて欲しいと願ってるから」

 そう言い残した美希はデイバッグを手に取った後、いつきに顔を向ける。

「アインハルトのこと、任せたからね。いつきもどうか、無事でいて……ゆりさんと出会ったら、止めてみせるから」
「わかってるよ……美希の方こそ、気をつけて」
「ありがとう」

 ようやく出会えた友達同士を離れ離れにさせるのは心苦しいが、情けない事に一輝はここにいる者達の中で一番弱い。だから、美希の助けが必要だった。
 美希はこの提案に賛同してくれたが、それでも胸が痛む。しかしだからこそ、自分は弱音を吐かずにまだ若い美希の支えになる必要があった。

「二人とも、どうかご無事で」
「沖さん達も、気を付けてください」

 一也達の無事を祈りながら、美希を連れた一輝は市街地に向かう。
 ここから先、自分が生きて力になれるのかはわからないが、諦めるわけにはいかなかった。どんな時でも絶望だけはしていけないと美希に言ったのだから、自分だってそうしなければならない。
 そうすることで、これまで何度も危機を乗り越えてきたのだから。


【1日目・朝】
【D-9】

【共通備考】
※五人の間で情報交換をしました。
※沖一也、明堂院いつき、アインハルト・ストラトスは少し休んでから市街地に向かう予定です。

245希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:13:14 ID:kA9.3LK.0
【青乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:今は孤門と市街地に向かい、みんなを捜す。
2:プリキュアのみんな(特にラブが) やアインハルトが心配。
3:相羽タカヤ、相羽シンヤ、相羽ミユキと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する知識は知りませんが、いつきから聞きました。
※午後12時までに中学校で沖一也達と合流する予定です。


【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康、ナイトレイダーの制服を着ている
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:美希ちゃんを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:姫矢さん、副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
3:溝呂木眞也やゆりちゃんが殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
4:相羽タカヤ、相羽シンヤ、相羽ミユキと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
5:沖さん達が少しだけ心配。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※午後12時までに中学校で沖一也達と合流する予定です。


【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、強い決意
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:今はここで少しでも身体を休めて、その後に孤門さん達と合流するために行動する。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:この命に代えてもいつきとアインハルトを守り、スバルを絶対に助けてみせる。
3:先輩ライダーを捜す
4:鎧の男(バラゴ)は許さない。だが生存しているのか…?
5:仮面ライダーZXか…
6:アクマロは何としてでも倒す。
7:ダークプリキュアをどうするべきか…
[備考]
※参戦時期は第1部最終話終了直後です
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時までに市街地エリアに向かう予定です。
※村エリアから東の道を進む予定です。(途中、どのルートを進むかは後続の書き手さんにお任せします)
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。

246希望  ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:14:11 ID:kA9.3LK.0
【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、罪悪感と決意
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1
[思考]
基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す
0:今は身体を休めながら、アインハルトを慰める。
1:沖一也、アインハルトと共に行動して、今度こそみんなを守り抜く。
2:仲間を捜す
3:ゆりが殺し合いに乗っている場合、何とかして彼女を止める。
4:スバルさんをアクマロの手から何としてでも助けたい。
5:ダークプリキュアを説得し、救ってあげたい
[備考]
※参戦時期は砂漠の使徒との決戦終了後、エピローグ前。但しDX3の出来事は経験しています。
※主催陣にブラックホールあるいはそれに匹敵・凌駕する存在がいると考えています。
※OP会場でゆりの姿を確認しその様子から彼女が殺し合いに乗っている可能性に気付いています。
※参加者の時間軸の際に気付いています。
※えりかの死地で何かを感じました。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。


【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)、ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に怪我、極度のショック状態、激しい自責
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3個(確認済み)
[思考]
基本:???????????
1:私は……どうすれば?
[備考]
※スバルが何者かに操られている可能性に気づいています。
※高町なのはと鹿目まどかの死を見たことで、精神が不安定となっています。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。
※フェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアの死の原因は、自分自身にあると思い込んでいます。

247 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/06(月) 09:14:51 ID:kA9.3LK.0
以上で投下終了です。
矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします。

248名無しさん:2012/08/06(月) 10:06:05 ID:3856NEdA0
投下乙です

悪役だけど自身の主義を曲げない黒岩。暁との共闘でどうなるか
それにしても暁が黒岩を知らないのを馬鹿で…片づけられるなあw
ラブはこの二人に挟まれて大変だろうが今の所は無事か
ティアナはこの状況だとスバルとのご対面はありえるが…

おお、ここで対主催の大規模合流か
メタ的には別れて行動した方がいいが不安定なアインハルトを抱えた状態でそれは無理だろうから…
それにダメージ受けてるのも二人いるからなあ。休憩できたらいいが

249名無しさん:2012/08/06(月) 10:19:14 ID:J2l4p0eA0
投下乙!
mktnはハトプリのこと知ってる時期からか〜
DX3参戦なのにブラックホールのことは知らないってずいぶんよく分からないタイミングで飛ばされてるなあw
ていうか今さらだけどラブと一緒に初登場したときにラブの方はハトプリとの面識状況確定させたのにmktnが不確定だったのはなんでなんだろうな

>>248
mktn組と沖組は別れてるよ

250名無しさん:2012/08/06(月) 10:44:20 ID:qhJDNMhwO
投下乙です。
わー、プロのサラマンダーさん(主催側のあの人じゃないよ)だー。すごいなー、あこがれちゃうなー
……身の程知らずもここまで来たらさっさと先生にメモリだけ残して美味しく頂かれてしまえばいいと思うよ。つか暁のスタンスがもう分からんw

アインハルトはカワイソスからの復帰は……微妙か?考えてみれば悪い意味でメンタル面に定評のあるへいとさんポジだし。

251 ◆gry038wOvE:2012/08/06(月) 12:34:28 ID:FeQBemuo0
投下乙です。
街に向かってる参加者は7人か…。基本的にマーダーや危険人物が一人もいないけど、街には…。
ましてや中学校に向かうなんて死地に向かっているような(ry
そして、現在地は禁止エリアかぁ。まあ、11時までいるような理由はないだろうけど。

>>237
指摘ありがとうございます。確かに状態表6は不要ですね。

252名無しさん:2012/08/06(月) 12:40:36 ID:mHA2skOMO
暁のやる気のなさマジぱねぇww

253名無しさん:2012/08/06(月) 23:16:25 ID:FeQBemuo0
万全なマーダーはもう結構少ないよなあ…
マーダーとして機能しないレベルまで削られたり、ゆりちゃんや克己やダプリは潰し合ってたり

254名無しさん:2012/08/06(月) 23:26:06 ID:FeQBemuo0
あと、暁は十数キロ走ったので頑張った方なんですよ!
作中ではペットボトルの水や川の水しか飲んでなくても暁は死にませんが、皆さんはちゃんとスポーツドリンクなどを飲みましょう…

255名無しさん:2012/08/07(火) 16:09:56 ID:Nfz.FRyI0
予約キター!
尻彦さんに死亡フラグ来ちゃったー!

256 ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:16:40 ID:BKF0zt2.0
ただいまより投下を開始します。

257風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:20:23 ID:BKF0zt2.0


「…………」

「…………」



 ゴ・ガドル・バの放送から数十秒。
 園咲霧彦は沈黙の中で、その返答を考えていた。山吹祈里は彼が出す回答を待つのみだ。
 祈里は、ガドルの放送に関して、霧彦の判断次第で行動することにしている。
 だだ、彼の出す答えは祈里にも薄々わかっていたのかもしれない。



「……行くしか、……ないだろう」



 ガドルという男は、何をしたか。
 フェイト、ユーノ。二人の男女を殺害し、ヴィヴィオという小さな子供を悲しませた。
 たとえどんなに死者を囃して自分を飾ろうとも、ガドルという男は戦いにしか生きていけない殺人鬼に違いない。
 その行為は子供たちを傷つける…………霧彦にとって、心から許しがたい敵だ。

 これ以上、破壊のカリスマを名乗る男が誰かを傷付けるのを放っておくわけにはいかない。
 霧彦自身が死ぬことにより悲しむ人がいるのはわかっているが、それでも、子供たちが傷つき悲しむとするなら、それは自分の死によるもので最後であってほしい。
 勿論、生きて帰ることができればそれに越したことはないが……。



「あれだけの規模の放送だ。もしかすれば、生き残っている僕たちの知り合いに会える……かもしれない。たとえ、期待は薄くても……」

「ええ!」



 祈里は、知り合いに会えるという言葉に理解を示したのだろう。ガドルという敵を倒し、これ以上の悲しみを生みたくないという気持ちも当然あった。
 だが、近くに同じプリキュアの幼馴染たちがいるというのなら、彼女たちも惹きつけられるだろうし、一緒に会いたいと思うのだ。
 特に、桃園ラブ────彼女ならば、きっと放送を聞けば来る。
 もし、彼女が来た場合は「彼女を助ける」という意味も兼ねなければならないだろう。彼女がいたら絶対にそこに向かおうとするだろうということが、何よりも心配だった。
 祈里の瞳は、心配と決意に満ち溢れているのが、霧彦にもよくわかった。



「ただ……その前に少し準備しておくことがある。祈里ちゃん、背中を向けていてくれないかな?」



 霧彦は、そう言ってデイパックを漁る。特別な支給品があるのだろうか。
 はっきり言えば、彼とは信頼感が芽生えつつあるものの、1パーセントくらいは背後から襲われる可能性を恐れていたかもしれない。状況が状況だから仕方がなかっただろう。
 しかし、言うとおりにしないわけにもいくまい。
 祈里は「はい」と返事をして、後ろを向いた。

258風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:21:49 ID:BKF0zt2.0


 霧彦がデイパックをがさごそと漁る音が聞こえる。
 何か、祈里の前では持てないような支給品があったのだろうか。
 それが見えない分、彼女は不安だったし、気がかりだった。
 ただ、今になって不信感ではないような気がする。彼の「善意」と「悪意」を同時に感じるのだ。その正体のわからない不思議な気持ちに、不安感が渦巻く。


 そして、遂に彼女は霧彦の方を向いてしまう────



「背中を向けていてくれ…………そう言ったはずだよ」



 ビリッ……!

 霧彦は、そんな祈里にスタンガンを向け、彼女の腹で電撃を浴びせた。胸元でないのは、万が一にでも彼女の将来に危険を生まないためだ。
 とはいえ、非常に手荒な手段で、霧彦自身も好まない手だったのだが、この行為が危険な戦いに向かわせない為の彼の優しさだったのだ。
 スタンガンは通常、一瞬激痛が響く程度のものだから、、祈里は一瞬ひるむだけだった。
 しかし、その一瞬で充分だったのだろう。



「うわっ……!」

「すまないけど……少しだけ眠っていてくれないかな? 君を行かせるわけには……未来ある子供を、危険に晒すわけにはいかないんだ」



 霧彦が取り出した、もう一つの支給品が、祈里の前で香りを運ぶ。
 なんだか良い香りがしている。どうやら、お香のようだ。毒ガスの類ではないだろう。それならば、霧彦自身まで死んでしまうだろうし、彼がそういう事をする人間でないのはこれまでの行動でも何となくわかる。
 これも霧彦がこの少女に向けた手荒な優しさなのである。


 彼が流したお香は「春眠香」というものだった。


 この香りを嗅いだ者は春の間中眠ってしまい、夏になるまで目を覚まさない。しかも眠っている間中、あらゆる攻撃から身を守り、眠りながらでも本来の実力以上に戦うことができるのだ。
 説明書にはそう書いてある。なかなかに強力な武器であった。
 ……とはいえ、やはりこの春眠香には主催者側の施しがある。
 このお香は一時間で、蚊取り線香の匂いが流れ、彼女は起きてしまうのだ。一応、それも説明書に書いてはあった。
 そのため、彼女が眠り続けるということはないし、眠っている間も彼女が敵に奇襲をかけられることもない。


 祈里の目の前で、霧彦は首元のスカーフを外した。
 その意味が、まだ眠ってはいない祈里にはわかってしまった。
 それは、あの時────彼が森に向かおうとした時と、全く同じだ。彼はそれを祈里に託して一人で行こうとしている。
 だから、祈里は必死でそんな霧彦の行動を止めようとしたのである。



「霧彦さ…………」



 更に、そんな彼女に霧彦は当身で気絶させる。
 彼女に対する、彼の最後の優しさだった。



「……ふう」



 霧彦は、完全に眠ってしまった祈里を前に息を吐く。もうこれで彼女に触れようものなら交戦することになる。だから、彼女はベッドに座ったまま眠っており、しっかりと足を伸ばし、布団をかけて寝かせることはできない。
 まあ、できれば誰も彼女に近付かないよう注意書きでもしておきたいが、生憎そんな時間はなかった。ただ、その部屋の前に春眠香の説明書をそっと置いておき、彼女に触れる前に誰かがそれを読むのを期待した。
 霧彦はもうひとつ。余計な時間は使いたくないが、少しだけ書置きをしておいた。



『ガイアメモリを使う参加者がいたら、極力回収して誰も使用できないよう保管してくれ』



 まだ書きたいことは幾らでもあったが、彼女が目を覚ました時に託したいのはその事だけだ。少年少女たちにガイアメモリを使わないでほしいのは、霧彦のできうる限りの願いである。
 また、少年少女という指定も今はいらない。わざわざ書く必要はないし、この場では普通の大人でさえ狂わせ、子供たちを襲うようになる可能性があるくらいだ。
 それに、これからすぐ、霧彦は出かけなければならない。

259風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:22:34 ID:BKF0zt2.0



「冴子のこと、ヴィヴィオちゃんのこと、それに僕のこと……本当にありがとう………………そして、君たちの想いを無駄にしてしまってごめん」


 
 あの時、ガドルは言った。フェイトやユーノを葬った。二人の戦士は強かった……と。
 そう、たとえ祈里にどれだけの戦力があっても、二人もの強敵を葬れる相手と戦わせるわけにはいかないのだ。
 彼が挑発したクウガ、ダグバも気にかかるし、迂闊なことはさせられない。


 それに彼は、向かえばきっと自分は死ぬのだろうと、どこかで予感していた。


 一度風都で冴子の手により死に、また地獄の業火の中で死に損なった彼は、何処か死を告げるカンというものを手に入れていたのかもしれない。
 ナスカメモリとガイアドライバー以外の全ての道具は祈里のもとに置いていく。
 もし、このまま敗北した場合はガドルに全て奪われてしまうだけだ。それよりは遥かに良いし、もし勝利したならまたここに戻ってくればいいだけの話。


 死を予感しながらも、彼は祈里に言った。



「夢の中で信じていてくれ……僕が必ず帰るとね」



『ナスカ!』



「ぐっ!!」



 体に激痛が走る。
 変身するものの、彼の体は変身によって蝕まれるように傷ついていく。
 ガイアドライバーのフィルター機能が破損した事による、最悪の状態であった。
 だが、それでも彼は中学校の外へ飛び、ガドルのもとへと走り出した。

 満足に戦えないことはわかっている。
 だが、祈里を無闇に強い相手と戦わせることはできないし、ガドルを放っておくことも彼にはできない。
 生きてあの街に帰りたいという願いだって、今は消し去っていいだろう。



「そして、たとえ僕の死で誰かが悲しむとしても…………やるしかない。できるなら、その悲しみを力に変えてくれ、みんな…………!
 誰かがやらなきゃならないのなら、……………それを君たちに押し付けることは、やはりできないんだ」



 園咲霧彦は、想いを乗せて戦場へ走る。





★ ★ ★ ★ ★

260風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:23:55 ID:BKF0zt2.0





 軍服の男────ゴ・ガドル・バの前に一人の怪人が現れた。
 青色の剣の戦士……ナスカ・ドーパント。



「……一人来たか。思ったよりも早い」



 そう吐きながらも、正直言えば、ガドルは待ちくたびれていた。
 数分間。そこそこ待ったつもりだが、来た参加者はまだ彼のみ。
 その勇敢な戦士を前に、ガドルは憮然と立ちすくんでいた。



「まだ、来たのは僕一人だったのか…………」



 ナスカの様子はよろよろとしており、危なっかしかった。どうにも不自然で、既に傷つき死にかけているようにさえ見える。
 このまま独力で戦うのは明らかに不可能。
 せめて、仮面ライダーなどの仲間が来ていてくれれば助かったのだが、そうもいかなかったらしい。
 この体で限界まで戦うしかないのだ。


 やっと来た敵が、傷物であったのは痛手だったが、ガドルには関係はない。戦う意思のある者と戦うこと────それがあの放送の目的だったし、折角の来客を無碍にするような真似もしない。
 戦力を持つ者と戦うのが好きなだけで、別に戦力の無い者を虐殺することに抵抗があるわけでもないのだ。
 まあ、どうするかは戦ってから決める。
 勝者には、彼の末路を選ぶ権利があるのだ。逃がすか殺すかはその時になってから決めればいい。



 ガドルの姿がカブトムシの怪人のものへと変身する。
 メモリを使ったわけではないらしいが、その姿に霧彦は何となく見覚えがあった。
 いや、厳密には見覚えがある部分は彼のベルトである。そう、彼の持つそのベルトは……。



「!? お前は、あの白い怪人の仲間か!」

「…………ダグバと会ったのか」



 白い怪人で、自分と同族と勘違いされる者といえばン・ダグバ・ゼバしかおるまい。
 彼がダグバと会ってどれくらい経ったのかはわからないが、まだ近くにいる可能性はある。放送が聞こえたのなら、ここで彼を待った方がいいだろう。

261風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:24:42 ID:BKF0zt2.0



「そうか。あの白い怪人が『ダグバ』っていう奴なのか」



 ダグバと少なからず因縁のある霧彦は、あの白い怪人の名を知ったことだけで少しの達成感を感じてしまう。倒してさえいないのに、それだけで充分とまで感じるようになってしまったのだろうか。
 ただ、できるのならこの男は倒したかった。
 ヴィヴィオの体を傷つけたダグバの仲間であり、フェイトやユーノを殺害しヴィヴィオの精神をこれからも傷付けるであろうこの男を、刺し違えてでも倒したかった。
 だから、その刃を確かにガドルに向ける。



「なら、お前だけは倒す……! 私がこの手で!」

「面白い」



 ナスカは傷ついた体でガドルに向かっていった。
 体中が痛む。
 加速して一瞬でガドルの前にたどり着いた彼は、その刃をガドルの肩に向けて振り下ろす。
 しかし、その攻撃もガドルは微動だにせずに受け止めてしまう。



「フンッ。他愛も無い」



 近付いたナスカ・ドーパントの顔面にガドルの強烈なパンチが飛ぶ。
 ナスカの体はかなり後方まで吹き飛ばされてしまう。
 力の差は歴然だった。運によって埋まるものでもない。
 何せ、ナスカの全てをガドルは上回っているのだ。



「……クッ!」

「少し前に戦った戦士はもっと強かったが」



 クウガ、一条、フェイト、ユーノ、ダブル、杏子。
 あらゆる戦士がガドルと戦い、時には勝利し、時には死亡した。
 ガドルとしては、彼にもそれだけの実力が欲しかったし、できれば万全な彼と戦いたかった。
 ナスカはそのうちの二人が倒されたということだけ知っていたので、問う。



「フェイトさんと、ユーノさんという人のことか……」

「ああ。だが、他にもいたな」

262風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:27:04 ID:BKF0zt2.0


 霧彦の怒りにも、ガドルは一切動じない。
 戦い果てた者の死に思うところはあったのだが、霧彦のような強い怒りまで出てくる感情を知らない。仲間が散ったことにも、これまで深く何かを感じることはなかったのだ。
 ただ、彼の覇気は本物である────それだけはガドルも認めていた。



「その二人の死に悲しんだ少女の為にも…………そしてお前がこれから泣かせる人や町の為にも、私は負けるわけにはいかないんだ!」



 そんなナスカが立ち上がり、剣を取る。
 無駄だとわかっても、ガドルにせめて少しのダメージでも与える為に、ナスカは戦おうとするのだ。
 先述した勝利は無理かもしれない。だが、それでもせめて……。



「はぁぁぁっ!!」



 剣が凪ぐ。
 剣が斬る。
 剣が舞う。
 ガドルの体表を前に、全ての攻撃は弾けて消えてしまう。
 そして、あっさりと、ナスカの握力は尽き果て、剣が宙から地面に落ちていく。



「クッ…………!」



 ナスカは、圧倒的な戦力を前に武器を失っても尚、拳で彼に挑んでいた。
 危険な怪人ダグバを倒さなければならない。
 炎の中で聞いた殺し合いの様子を繰り返してはならない。
 フェイトとユーノを殺害しヴィヴィオを悲しませたガドルを野放しにしてはならない。

 だから、無様でも何でもいいから、せめてガドルに微量でもダメージを与えたかったのだ。


 だが、その時既にガドルが全く別の剣を持っていた。
 それは、ガドルが胸の装飾品を変質させたものである。
 その大剣を前には、今のナスカは無力同然である。

263風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:27:42 ID:BKF0zt2.0



「剣とは、こう使うんだ」



 それが振り下ろされると、ナスカ・ドーパント────園咲霧彦の体は左腕を切り裂かれてしまった。
 あまりに一瞬の出来事で、痛みなどは伴わない。
 これは自動車ですれ違い様に腕を持っていかれた人間にも言われることである。
 ナスカ自身は、自らの左腕がなくなっていることに気づいて、ようやく血の気が引くような感覚に陥る。…………が、それでも右腕だけは戦うのをやめようとしなかった。



「まだ退かないか、リントの戦士」

「無論…………死ぬまで退くつもりはないさ。もし、死んだとしても、私の想いが仲間たちへの追い風となり、殺し合いを行うお前たちの逆風となる存在を育て上げる……!」

「面白い……ならば、試してやる。刀を取れ。どちらかが死ぬまでの一騎打ちだ」



 ガドルはそう言って、ナスカが刀を取るだけの時間を開け渡した。
 その間に、ガドルは傍らの拡声器のスイッチを入れ、ナスカは刀を取りに行く。



「聞け! 今から勇敢で無謀な戦士と決戦する!」



 再び、ガドルの拡声器のスイッチが入り、大きな音をあげた。
 彼は、園咲霧彦の意志が誰かの胸に届き、その者を強くするというのなら、試してやりたかったのだ。
 それは片腕をなくしても戦おうとする男の意志を賞賛し、彼の想いを多くの人に伝える行為ともなりうる。
 ナスカが刀を取るまでの時間は早かった。本来ならば、彼はもう少しゆっくりして死期を延ばすこともできたはずだ。
 だが、それをしない。



「お前も、言い残すことがあるか」

「…………ああ! だが、それは戦いながら言わせて貰う。それは私の仲間たちだけじゃない……哀れな君やダグバへの言葉でもあるのさ!」

「全て言い切る前に殺してやる!」



 ガドルとナスカが対峙する。ガドルとしては、気に入らない部分もあった。
 何が気に入らないかというと、この程度の実力で戦いながらおしゃべりをしようという神経だ。
 本来、それは余裕あるものが行う行為。ガドルに対する大きな侮辱だ。
 だが────



「!?」



 右手だけで必死に刀を振るうナスカは、先ほどより強かった。
 メモリが彼の想いに答えたのか? 一体、弱弱しかったはずの彼が何故、これだけの剣さばきを見せるのか、ガドルにはわかるまい。
 一撃一撃は弱くとも、目で追うのは困難なほど速くなっている。
 背負うもの、託すものが霧彦にはあるのだから、言い終えるまでは簡単に死ぬわけにはいかないのだ。

264風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:31:27 ID:BKF0zt2.0



「私はかつて、街を愛しながらも、数え切れない罪を重ねた! 私が売ったメモリが未来を担う子供たちさえ傷付けたんだ! その報いか、私は愛した人に裏切られ、彼女に殺された!!」



 その剣さばきに一定の法則を感じたガドルは、ある一点で剣の切っ先を掴み、そのまま跳ね返す。彼の攻撃は確かに届いていたが、圧倒的な防御力を前にはダメージにはならなかった。
 後方に吹き飛んだナスカに、ガドルは刀を投げ返す。



「くっ……! だが、私はどういうわけか、そのまま死ぬことさえ許されないまま、此処に召喚された!!」

「成る程。貴様も死の雪辱を晴らす為に蘇ったのか」

「いや、違う!! 私はきっと数えられる限りの罪を全てを償い、再び街を綺麗にする為に蘇ったんだ!!」



 ナスカは剣をキャッチして、そのままガドルに向かっていく。
 だが、その剣を体表へと斬りつけようとするなり、今度はガドルの剣がガードする。
 体表にダメージがないとはいえ、剣を相手には剣、そういう戦い方をしたのだ。



「だが、私は……冴子を、なのはさん、フェイトさん、ユーノさんを…………誰も守れず、この街を、人々を泣かせてしまった!! 目の前で殺し合う人たちを止めることさえできなかった!!」



 ガドルが、腕力でナスカの剣を跳ね返して、地面に倒れる彼に斬りかかった。
 だが、ナスカは咄嗟に刀を盾に必死で押し返そうとする。
 ガドルの圧倒的な腕力を前に、必死で持ちこたえていた。



「そのうえ、親しい人の死に悲しむ少女にかける言葉さえ見つけられなかった!! だから、彼女を傷付けた貴様を倒すことで、その罪を償う!! はぁっ!!」



 重力と腕力でナスカを殺そうとするガドルの体を押し返すと、ガドルがよろけた隙にナスカは真横に転がって立ち上がる。
 片腕で立ち上がるのはバランスが悪く、慣れない分非常にやりにくい。
 そのうえ、今になって左肩から遅れて痛みがやってくる。傷ついた内臓も悲鳴をあげる。



「………ッ…………もしかしたら、貴様の命を奪うこと……それ自体は罪かもしれない……。だが、それならそれでいい。
 仮面ライダー君や祈里ちゃんと僕は違う……僕はドーパントとして、僕のやり方で街を綺麗にすることができる。
 だから、もう迷いはない……メモリよ…………私の体を、心をどれだけ蝕もうと構わない。私の想いに答えろ!!」



 そう言った彼の姿に異変が生じる。

 ────彼の姿は、その言葉に返答するように、青きナスカのものから、赤色のナスカのものに変身していた。

 風が吹き、新たな彼の姿が、白色のマフラーを靡かせた。
 左腕はないが、右腕だけでも両手分の力が刀を支える。

265風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:32:20 ID:BKF0zt2.0


 左翔太郎の仮面ライダーが罪を制裁する戦士を貫くのなら、園咲霧彦はドーパントとして戦う。
 それが、かつてミュージアムだった彼の意地である。
 彼はかつての自らの行動は罪だと知りながらも、今はその罪よりも、この新しい命で生んだ悲しみを断ち切ろうとしている。
 そのうえ、メモリ自体が元々レベル2まで進化していたうえに、ここに来てから二度も変身している。
 霧彦もナスカメモリも、互いに意地を張り、戦おうとしていた。
 その結果、彼はより強いドーパントと変わっていったのである。



「……それがお前の本当の姿か!」

「さあね! だけど、さっきより力が沸きあがるのを感じるよ! これならお前を倒せるかもしえれない!」


 
 電撃で強化したガドルと、レベル3に達したナスカ。
 二人の準備が整った以上、これは二人の最後の決戦であった。
 二人の戦士は遠く離れ、間合いを取る。
 すると、彼らは剣をより強く構えた。そのまま右方へとじりじりと歩く。
 ガドルとRナスカは、右手だけで剣を構え、敵を睨む。



 そして、走り出す。



 互いの剣を互いの体にぶつけるために、真っ直ぐ駆け出す。
 この剣を敵の体に当てるため。───────霧彦はきっと、刺し違える為に。



「はあああああああああああ!!!」



 二人が取った距離の中央で、二つの刀と剣がぶつかり合う。
 すれ違いさまに斬り合う二人の姿はあまりに速すぎたため、傍から見ればどちらがその戦いを制したのかわからなかっただろう。



「…………グッ」



 ガドルが、駆け抜けた先で膝を突いた。
 彼の右沸きには、先ほどまでの攻撃からは想像もつかない事だが────斬傷が残っていたのである。
 肉が数センチ削げており、怪人体にはグロテスクな傷跡を作っている。
 これまでの攻撃やグロンギの特性も原因で、そこからは火花が散るような音が鳴っていた。





 しかし────

266風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:33:12 ID:BKF0zt2.0






「僕の、負け、か………………」



 そう小さな声で呟いて倒れるのはガドルでなく、R・ナスカドーパントの方であった。
 彼の方が、傷が深かったのである。
 彼は今の殺し合いで全てを言い尽くしたらしい。



「だが…………………………よか、った…………………」



 彼の体が腹から上下半分に裂け、変身が解ける。「メ」の怪人と同じく、早すぎる攻撃が死を気づかなくさせたのだ。それが、彼に最後のアンドを齎した。
 当然、彼が生きているわけもない。


 やがて、直挿しと同じ状態でナスカメモリを使用していた霧彦の体は切り落とされた腕も含め、灰になって消えていった。


 果たして、敗因は何だっただろうか。
 傷ついた体で戦ったことだろうか?
 元からあった戦力の圧倒的な差だろうか?
 他を頼らず独力で戦いを挑んでしまったことだろうか?


 だが、少なくとも彼は独力で戦ったことは後悔していない。
 彼は体が裂ける直前、こう思ったのではないかと思う。



 ────やはり、祈里を置いて来て良かった、と。



 彼女を連れたところで、やはり死人が一人増えていただけなのではないだろうか。
 いや、それはほぼ確実だっただろう。実際、ガイアドライバーの故障によって霧彦自身が戦力になるには少し不十分だったし、少女であろうとガドルは一切の容赦をしない。
 そして、何より自分はあの時、祈里がいたら完全な「ドーパント」となり散る事さえ躊躇っただろう。仲間が誰もいないからこそ、悪としての散り方を考えることができた。
 ならば、死人となるのはやはり自分だけでよかったのだ。
 どうせ一度死んだ身である。



「思ったほど強くはなかったか……」



 一方のガドルは、彼から受けた傷を撫でる。あまり痛みはなかった。
 だが、その男の死にはやはり何かを感じていた。
 この男はおそらく、万全であればもっと強かったし、このまま生かして傷の再生を待つこともできただろう。
 そう、今のナスカはそれが原因で殺す価値のない相手だったはずなのだ。あろうことか、この破壊のカリスマに傷だらけの姿で挑んだ愚か者である。



 だが、────ガドルの「思ったほど強くなかった」という感想は、彼を強いと錯覚してしまった証である。
 あの時の覇気は、弱者にはありえないし、その覇気が体さえ強くする事は通常ありえない。
 あの叫びは遠吠えなどとは違う。絶対に敵対をやめず、絶対に勝利するという野望に満ちた瞳であった。
 その言葉と瞳に、ガドルは確かに強者の「それ」を感じていたのである。だから、強者と戦うような時の気持ちで戦い、彼を殺した。

267風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:36:24 ID:BKF0zt2.0



 それに彼は、最後に「良かった」と呟いた。
 それは、果たして何のことだろうか。
 ガドルの価値観からすれば、彼は強者と戦い散ったことに喜んだのか。
 それが彼の誇りだったのか?
 彼の目的が、フェイトとユーノの敵討ちだったというのだから、それはやはり違うように思う。彼は何の目的も果たせていないことになってしまう。
 とにかく、死に際にそんな言葉を呟けるというのだから、彼は大した器だったのだろう。



 そう、万が一彼が万全だったのなら、ガドルは傷を負っていた可能性だってある。
 よくよく考えてみれば、彼はあのダグバと遭遇したのに生存しているのだ。



 ガドル自身も、それに薄々気づいていたが、所詮既に霧彦は灰。
 元に戻すこともできないし、彼を成長を待たずして殺した事や何が良かったのか問わなかった事への後悔もない。
 これから、幾らでも強者はここに来る。
 彼が言った通り、彼の意思を継ぐという者たちが来るというのなら、それを待つのも良い。
 拡声器のスイッチを切ると、彼は再び誰かがここに来るのを待った。


 もしかすれば、ダグバだって来るかもしれないのだ。


 しかし、ここで彼らを待たなければならないが、園咲霧彦だった灰が風に吹かれてどこかに行ってしまうのを見ていたくないという想いも少しはあった。
 決着がついたとはいえ、彼ともう戦えないのは寂しくもある。互いが平等な条件での戦いではなかったので、不本意にさえ思ったのだ。



 ────だが、そんなことを思っているガドルは何もわかっていない。



 その風は、彼をあの街に運んでいるのだ。



【園咲霧彦@仮面ライダーW 死亡】






【1日目/朝】
【H−7 市街地】
※霧彦の死体は灰化して消滅しました。メモリの状態は不明(残っていればレベル3まで進化済)、ガイアドライバー(フィルター機能破損)はこの場に置いたままです。

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)(回復中)、右脇に小さな斬傷(回復中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ガドルのランダム支給品1〜3(本人確認済み、グリーフシードはない) 、フェイトのランダム支給品1〜2、ユーノのランダム支給品1〜2個 、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、拡声器@現実
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する
0:己の呼び声に引かれた猛者と闘う。
1:クウガ(五代)と再び戦い、雪辱を果たす。
2:強者との戦いで自分の力を高める。
※死亡後からの参戦です
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)

※H-7で拡声器を使い、他の参加者へと呼びかけを行いました。
 周囲1〜2マスの範囲に、聞こえている可能性があります。
※更に、同じ場所でナスカ・ドーパントとの戦闘の一部が放送されました。
 霧彦の最後の言葉などは小さな声だったので、おそらく拡声器に通っていません。

268風のR ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:37:16 ID:BKF0zt2.0



【1日目/朝】
【G-8/中学校】
※春眠香が置かれたままです。春眠香は一時間弱で蚊取り線香の匂いを発します。
※祈里がいる保健室の前には、春眠香の説明書が置いてあります。

【山吹祈里@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康、体操服姿、春眠香によって睡眠中
[装備]:リンクルン
[道具]:支給品一式×2(祈里:食料と水を除く、霧彦)、ランダム支給品0〜1 、制服、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、 T2ヒートメモリ@仮面ライダーW、スタンガン、霧彦の書置き
[思考]
※あくまで気絶前の思考です。
基本:みんなでゲームを脱出する。人間と殺し合いはしない。
1:ガドルの所へ向かいたい。
2:桃園ラブ、蒼乃美希、東せつなとの合流。
3:一緒に行動する仲間を集める。
[備考]
※参戦時期は36話(ノーザ出現)後から45話(ラビリンス突入)前。なお、DX1の出来事を体験済です。
※「魔法少女」や「キュゥべえ」の話を聞きましたが、詳しくは理解していません。
※ガドルの呼びかけを聞きました。
※春眠香によって一時間後、蚊取り線香の匂いがするまで眠り、場合によっては近寄ってくる敵と眠りながら戦います。
 万が一、彼女が何らかの理由で蚊取り線香の匂いを嗅がなかった場合、どれくらいで目覚めるのかは不明です。

269 ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 17:38:34 ID:BKF0zt2.0
以上、投下終了です。

270名無しさん:2012/08/07(火) 19:21:53 ID:oAzIMt1s0
投下乙です

確かに二人で行ったとしても……本当に霧彦らしい行動でそして悲しいぜ
最後に風は彼をあの街へと運んでいったのだろうか…
ここで春眠香とは面白い。ただ個人的には早く目を覚まして学校から逃げた方がマシか?
そしてガドルの周りがまたどう動くか…

271名無しさん:2012/08/07(火) 21:04:58 ID:0vLm5OhIO
投下乙です。ああ、霧彦さんは案の定……色々とフラグ過ぎたなぁ

272 ◆gry038wOvE:2012/08/07(火) 21:17:46 ID:BKF0zt2.0
スミマセン、タイトルが切れてました。
正しくは「風のR/戦うために生まれ変わった戦士」です。

273名無しさん:2012/08/07(火) 21:32:10 ID:ai0Dbu4A0
投下乙です。
霧彦さん、やはりこうなってしまいましたか……でも、最後の最後までカッコ良かった!
ガドル閣下はまだまだ頑張りそうだなぁ。そしてブッキー、早く起きて!

274名無しさん:2012/08/08(水) 01:45:07 ID:dCmcmboU0
投下乙です。最近数話分合わせて、

>野望の「二の目」
とりあえずアクマロは乗る、但し出来れば主催者側になりたい方向で……いや、アクマロの思考や嗜好ぐらいわかっているであろう主催陣がわざわざ入れるとは思えないのだが。
成果さえ上げればとはいえ、ホテル方面には格好の獲物が来ていた筈なのにわざわざ離れちゃったからね……やったねゆりちゃん。
しまいにゃ愛人まで寝取られるし……とりあえずそっちにいる対主催は……2号……後殆ど危険人物あるいはマーダーじゃねぇか、これでどうやって主催に入れと?
何より最大の問題は、今更乗るって言われても今までのあんまり変わらない罠。

>ライバル!!誰?
まさかのコンビ結成な暁と黒岩、というか地の文で「暁はマーダー」と入れなきゃわからないのがもうヒドスギル(褒め言葉)、だってもう本編描写だけじゃどっちかというと対主催だもの。
一方、平成ライダーの某ナイトよろしくプロマンダーの称号を得たランスターさん、マーダーで何度も戦っている筈なのに全く成果があがらない……
どう考えても対主催な事ばっかりやっているバカは図らずもキルスコア得ているのに……ひょっとして『ランス』ターなだけに今回のランスさん成分モロトフじゃなくて全部こっちに行っちゃった?

>希望
アインハルト自殺未遂……で、やっと仕事をしてくれた美希、情報交換もそこそこに分かれて向かうがよくよく考えたら説得完了している状況じゃないんだよなぁ……しかも向かうところは死地……

>風のR
霧彦ー!!
どうやって霧彦単身で向かうと思ったら春眠香があったか、さすがらんま勢のアイテムは自重しないぜ。まぁ今回は一時間で蚊取り線香発動で目覚める(注.原作でも蚊取り線香(なびきが夏来香と称して売りつけた)で無事に目覚めました)親切設計だけど。
そしてまさかの赤ナスカ覚醒……がそれでも当然と言えば当然だけど勝てなかったよ……しかしこれまだ前哨戦なんだよなぁ……タワー組がどう動くか……。

275名無しさん:2012/08/08(水) 17:07:38 ID:iImrcnZA0
投下乙
一度死した者同士の戦いは閣下の勝利か
しかし霧彦さんアンタかっこいいよ

>>274
>ひょっとして『ランス』ターなだけに
誰がうまいことを言えと

276名無しさん:2012/08/08(水) 17:23:54 ID:SEkNLED6O
思えばランスターでも十分残念フラグに(デェッド!ロォン!フゥゥゥゥン!

277名無しさん:2012/08/08(水) 19:21:35 ID:2GLrHZDA0
ティアナとスバルは出会いそうなんだよなあ
ほとんど詰みに近いけどな

278名無しさん:2012/08/12(日) 22:51:46 ID:FPXBnuR20
予約来てたな

279名無しさん:2012/08/12(日) 23:27:57 ID:FgIS0RQkO
こっちもこっちで合流ヤバめなV組か……

280名無しさん:2012/08/12(日) 23:43:13 ID:roxjCd/w0
乱馬とあかねも合流したらどうなるだろう……

281名無しさん:2012/08/12(日) 23:43:18 ID:vu0YZ/yg0
全員対主催だけど一筋縄じゃいかなそうだ
らんま組、V組の合流に加えて、ホテルの戦いとか学校にいるブッキーとか殿の手紙とかいろいろ重大な情報が多いからなあ

282名無しさん:2012/08/12(日) 23:48:21 ID:vu0YZ/yg0
まあ、実際にどの組がどう合流するか分からないから投下されるまで何とも言えないけど
全員が出会ったりしたら情報量と各々の参加者に与える影響がやばそうだ
特にヴィヴィオと源太は

283名無しさん:2012/08/13(月) 01:56:11 ID:jLNCP1lk0
いつき、乱馬、あかね、沖、ヴィヴィオ、アインハルトと9人中6人が格闘家だな

284名無しさん:2012/08/13(月) 12:11:52 ID:MBucGd7o0
格闘家というか格闘スタイルの奴が多いんだよな
武器も使う奴もいるけど

285名無しさん:2012/08/13(月) 15:09:24 ID:D4cukRDw0
>>283
乱馬…無差別格闘早乙女流
あかね…無差別格闘天道流
ヴィヴィオ…ストライクアーツ
アインハルト…覇王流(カイザーアーツ)
沖…赤心少林拳
いつき…明堂院流古武道

6人の流派はそれぞれこうなるな
ここまで多種多様の流派持ちの格闘技者が同予約中でそろうとはな…

286名無しさん:2012/08/14(火) 18:01:26 ID:.fl/A52E0
流派の流れが出たところで、ふと気になったことが。
このロワで一番破壊力・殺傷力のある攻撃ってなんだろ。

ランスのボルテッカの威力をみる限り、制限込みの上で、ブラスターボルテッカな気がするが……
あれが出たら、マップ1マス分吹き飛びかねないよな

287名無しさん:2012/08/14(火) 18:17:44 ID:gO4sy84Q0
あとマイクも

288名無しさん:2012/08/14(火) 19:18:50 ID:fZIDeWIoO
マイク破壊ネタw

289 ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:44:37 ID:e5.VbpdM0
ただいまより投下します。

290警察署の空に ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:45:34 ID:e5.VbpdM0

 ある一方から街を目指す参加者の目には、ほぼ必ずと言っていいほど目に留まる施設がある。
 この警察署である。
 マップ東側にいた参加者が街を目指す際、その行き先となるのは基本的にまずこの警察署だろう。
 目に留まりやすいだけでなく、「殺しをしにくるようなヤツ」が絶対に避けるような名前で、どことなく安心感があるからだ。
 それに加え、市街エリアには三つしか施設はなく、そのうちの二つは川を越えた先にあるので、市街地エリアに来れば、まずこちらへ立ち寄る可能性が高い。
 普段ならば、警察署と聞くと妙に敷居の高い場所であるようにも感じるが、逆にそうであればあるほど、後ろめたい感情の持主はそこへ行かないので、ゲームに乗らない人間は一度こちらへ来てみたいと思うのだろう。


 まあ、状況が状況ゆえ、絶対の安全地帯ではない。
 ただ、あくまで後ろめたい感情の持主はどことなく近寄り難く思うだろうというだけで、その感情を逆手に取られて襲われる可能性も在る。
 この警察署で強盗や殺人を行う人間がいないのは、あくまで平穏な日常の話だ。
 更に言うなら、有人の警察署の場合である。
 これまでの日常であるならば、おそらく警察署には何百人という警官が常駐されていただろうが、この「あらゆる建造物が模造された島」にある警察署は当然無人。そこに勤務する者などいるはずもない。


 とにかく、その言葉の響きによって十人近い参加者が集まったのだろう。
 だが、人が多ければいいというものでもない──。
 多くの人間を前にすると、その一人一人を見つめて理解することは当然困難であり、時間のかかる作業となる。
 学校や職場にも多くの人間がいて、その全員の個性を見つめるには何年かの時間を費やす事になるのだから、出会って数分〜数時間の相手にそこまで求めることはできるはずがない。
 そんな短時間の接触ならば、誰もがどこか互いに対する不信感のようなものを持っていて、それが一見平和で人材に恵まれたように見えるはずのチームにも摩擦を生じさせる。
 幸いなのは、この場の人間は悪人やライバルとの激闘を乗り越えて並々ならぬ精神力の持主を獲得した人間ばかりであるため、他人を表面だけで不信に思ったりはしなかったということだろう。
 もし、そうだとするならこの場で互いの信頼は完全に崩れ去っていたこととなる。



★ ★ ★ ★ ★

291警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:46:10 ID:e5.VbpdM0



 まず既にその警察署に居た乱馬とヴィヴィオの前に現れたのは、二人の男女であった。
 双方は知り合いでも何でもない。ただ、偶然にもこの警察署の同じ階層で会ったのだ。乱馬とヴィヴィオがこの階層に来たのは、トレーニングルームを探るためであるが、二人と会ったところでそれは中断される。
 もしかすると、もっと前から二人はこの警察署にいたのかもしれない。


「私は蒼乃美希です」

「僕は孤門一輝」


 二人はそう名乗った。
 乱馬とヴィヴィオの間には信頼関係が芽生えていたが、この二人の事を乱馬はまだよく知らない。
 それに、美希はともかく孤門のSWATのような格好は妙だった。孤門の顔立ちは、乱馬とは対照的な「草食系男子」の典型のようであるゆえ、そのギャップは大きい。
 とにかく、乱馬は基本的に、そういうタイプが何となくいけ好かなかった。まあ、霧彦もそういうタイプといえばそうなのだが、孤門と霧彦は更に細かく分けられるだろう。やや言動に見下ろすような嫌味のある霧彦とは根本的に雰囲気が違う。
 孤門に対しては、「嫌味がないのが嫌味に見える」という無茶な理由の嫌い方だった。乱馬が今まで出会ってきた人間の中では、東風先生に似ている気もする(しかしあの人どこ行ったんだろう…)。
 まあ、とにかく第一印象ではそりが合わない感じもしたが、何と無く悪い相手ではないというのはわかる。
 突っかかっていくのはナシにした。


「蒼乃美希って事は、祈里の知り合いか!?」


 もう一人の美希というのが、これまた年齢がわかりにくい。
 身長や外見だけならば、高校生くらいであるように見える。……下手をすれば、大学生だろうか。いや、一応制服を着ているので、やはり高校生くらいだろう。最悪、OLに見えなくもないが、この制服は企業的ではない。
 とにかく、乱馬と同じくらいの年齢か、それより上でも違和感はない。凄く大人びた印象の少女だ。祈里の友達────それも同じくらいの年齢だというのに、全くそう感じさせないのである。
 祈里は無邪気奔放で可愛いタイプに見えるのに対し、美希は非常に落ち着いていてモデル級の美人であった。


「祈里……!? あなた、彼女と会ったの!? 山吹祈里で間違いない!?」

「ああ、それじゃあ間違いねえみてえだな。あんたもプリキュアっていう奴になるのかよ?」


 そんなモデル級の美人が取り乱すのは、やはり友人の事であった。
 祈里の事が心配なのは彼女だけじゃない。きっと、乱馬やヴィヴィオも同じだ。
 だが、逆に乱馬やヴィヴィオのことが祈里に心配されているのだろうな……と思う。
 彼女は戦力者、乱馬やヴィヴィオは非戦力者だ。
 そして彼女は────


「ええ」


 肯定。すなわち彼女はプリキュアだ。
 また、随分と心強い仲間である。…………とはいえ、まだ中学生か。
 生身での戦闘力なら明らかに乱馬たちがピカイチであるのは、ほぼ確かと言っていいだろう。もしかすれば、乱馬たちもプリキュア対策の訓練を行えば、充分に彼女らに勝利できる可能性はある。

292警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:46:54 ID:e5.VbpdM0


「プリキュアか……なんか色んなヤツがいるんだな」


 だが、今はプリキュアは敵ではなく味方。殺し合いの場で、わざわざマーダー以外と戦い削る体力はない。
 乱馬も、プリキュアを相手に敵意をむき出しにしたりはしなかった。第一、祈里のような相手と連戦していれば乱馬とて体がもたなくなる。

 それよか、隣でヴィヴィオが乱馬の気になっていた質問をしたのが気にかかる。


「あの、美希さんって、本当に祈里さんと同じ年齢なんですか?」


 これは聞きたかった。
 乱馬より多少低いくらいの身長、祈里とも10センチくらいは差がありそうに見える。
 初対面に対する質問ではないが、祈里の友人と聞くと、何となく親近感が持てたのだ。


「そ、そうよ」

「……ってことは、中学二年生だよな?」

「嘘っ!? 乱馬さんと同じくらいだと思ってました!」

(……僕も正直、高校生くらいだと思ってたよ)

「……一応、モデルをやってるから」


 道理で、という感じでこの場のみんなも妙に納得してしまった。読者モデルをしているような同級生がいる学校はそう珍しくないが、まあその為に必死でスタイルを維持しているのだろう。
 その努力は、乱馬だって賞賛するようなものだった。
 …………だが、乱馬の口からはそういう女性を見るとどうしても出てきてしまう悪態があった。目の前の少女に対してではない。
 この島のどこかにいる少女に対する、いつものコミュニケーションだ。


「……どっかのずん胴は大違いだぜ」


 いないとわかっていても、やっぱりどこかでツッコミを待ってしまうのだろうか。
 乱馬の口から、そんな言葉が出てしまう。普段から撤回しないが、この場に彼女がいない以上は、心置きなく言える言葉である。
 ずん胴。
 体型の話に関しては、やっぱりこの悪口だろう。

293警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:47:32 ID:e5.VbpdM0

 と、その刹那────


 ばき!


 背後から殺気を感じ、乱馬が振り向くと、そこから飛んで来るのは乱馬の想定を遥かに越えた高威力とスピードを帯びたパンチであった。鈍い音が響く。
 乱馬の体が宙を舞い、誰もが呆けながら宙を眺めていた。
 そして、彼は、殴った本人を除く全員の間抜け面を眺め返し、


「だぁれがずん胴だぁぁぁぁぁっ!!!」


 聞き覚えのある声と言葉を聞きながら───


 ずどーんっ!


 ────天井に吹き飛ばされる。乱馬の体は跳ね返らずに、警察署の天井の方が割れてしまった。良牙ほどでないにしろ、彼も打たれ強かったからだ。
 彼はその体の硬さが原因で、顔面を天井にめりこませ、首を吊っていた。
 ぷらーん、と首から下だけを地面に垂らしたチャイナ服の男を、計五人の男女が眺めている。
 攻撃をした主が、他の人間に対し殺戮を行う様子はないが、まずその攻撃者以外の誰もが思っただろう。
 この男は生きているのか…………? と。
 なぜか、明らかに不意をついて乱馬を殴った少女のことは、誰も警戒せず、気にも留めなかった。

 あまりに咄嗟の出来事で、誰もが呆けていたのかもしれない。



【早乙女乱馬@らんま1/2 死亡…………………?】



★ ★ ★ ★ ★

294警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:48:27 ID:e5.VbpdM0



「…………痛て……。いるなら声をかけりゃいいだろうが! 首輪が爆発したらどうするんだよ!」


 顔に絆創膏を貼る乱馬の体はボロボロの体で怒鳴った。
 あれをされて生きているのだから、とんでもない生命力である。おそらく、他の全員なら致命傷。こうやって、絆創膏で治そうということは無いだろう。
 とにかく、真剣に彼の無事を案じた者も中にはいたという。



【早乙女乱馬@らんま1/2 あっさり生存】



 また、同時に、その少女────天道あかねの、乱馬に対するパンチが凄まじさも全員を驚かせた。
 生身でありながら、乱馬を吹き飛ばすだけで警察署の天井を割るようなパンチである。


「ずん胴で悪かったわね!」


 それが、この高校生ほどの少女によるものだというのか?
 身長は美希よりも小さいが、この場の女性では最年長。
 だが、ストライクアーツの達人であるヴィヴィオさえも驚愕するほどの怪力とパンチだ。当然、誰もが絶句する。
 てっきり、乱馬は星になってしまったものだろうと思っていたが、それを加減したうえでだろうか。にしても凄い。

 彼女もまた、街にたどり着くと真先に警察署にやって来た人間のひとりだ。
 基本的に資材も揃っていて、殺しを行う相手が避けやすい印象があったので、ここを目指した。乱馬を殴る数分前からここに来ていたのだが、乱馬に気づいたのは彼が「ずん胴」と口にする数秒前である。
 最悪のタイミングでやって来たのは偶然だったが、とにかく予期せぬ再会といったところだろう。


「しっかし……こんな凄え姉ちゃんだったとはな」


 あかねの同行者で、彼女をここに連れてきた梅盛源太もまた、手の震えを抑えられなかった。
 彼は、一度彼女の刺繍のモチーフを言い間違えたことがあるのだ。それを考えると、あの時怒鳴られるだけで済んで良かったのだと心から思った。
 ともかく、これだけの長時間行動していて、機嫌を損ねなかった自分は奇跡的な何かに恵まれているのだろう。
 乱馬ならともかく、源太なら再起不能かもしれない。


「完璧に乱馬さんが悪い!!」

「……そうですよ。乱馬さんも半分女なんだから、少しは女の子の気持ちも考えて……」


 乱馬は、更にそのうえから二人の少女も敵に回す結果になってしまった。ヴィヴィオはたしなめるような口調だが、美希に関しては少し憤りを感じているようにも見える。
 いや、確かにそうなのだろう。あかねとも比較的年齢が近いぶん、乙女の感情に対する理解度は高い。
 ましてや、不良タイプの乱馬は、見るからにガサツで、乙女心を汲み取らない。

 ……と、怒りで一瞬忘れたが、よくよく考えればヴィヴィオはいま、随分と気になる発言をしたような気がする。
 それに美希が少し遅れて気がついた。


「……そうそう、半分女の子なんだから……。うん? ヴィヴィオちゃん、今何て?」

「半分女って言わなかった?」


 美希と孤門がそう口にした。源太と彼ら二人は乱馬の体質を知らないのである。
 彼らは、その意味が全くわからない。夜になれば女になるとかいう体質だとか、身体的な特徴の一部が女だとか、あるいは精神的に女な部分があるのか、少し色々と考える。
 なるべく、下品にならない方向で考えるものの、やはり理解はし難い。


「あの、乱馬さんは……」


 ……とヴィヴィオが説明しようとする最中、隣のあかねが黙って乱馬の治療のため汲まれた水を乱馬にひっかけた。
 目が点になりかけた乱馬の体に、避けられない滝が降りかかる。

295警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:49:12 ID:e5.VbpdM0


 ざぱーん!


 ある一室の床に大量の水がこぼれていった。
 誰もがあかねの突然の行動に驚愕する中で、たった一人の怒声が響く。


「何しやがる!!」


 その水の中から現れた人間に、三人が驚いた。
 乱馬とは髪形服装だけが全く同じで、身長や外見や声質が全く違う……一部要素が同じだけの別人がいるのである。
 事情を知らない三人には、別人と入れ替わったようにも見えたが、その感じはどこか乱馬がそのまま女になったような印象だったので、やはり乱馬自身が女になるのだろうと何処かで納得してしまう。
 そんな横から、まだ不貞腐れた表情で目を瞑ったまま、あかねが冷静に説明した。


「乱馬は水を被ると女になって、お湯をかけると男に戻る体質なんです」

「おい、お湯が少ねえんだから無闇に女にするんじゃねえ!」


 川や水道やペットボトルなど、水がたくさんある一方で、お湯に関しては支給されたポットと、一部の場所で使えるコンロなどを利用して作るお湯など、水の量に比べれば少ない。
 男の状態でないと弱体化する乱馬は、そのせいで少し神経質にもなっていた。
 高い声の乱馬が叫ぶが、男の時に比べると可愛らしさが先行してしまい、どうも迫力には欠けていた。


「これは驚いた……」


 孤門たちも絶句していた。


「ったく、元気じゃねえか。心配して損したぜ……」


 と言いつつ、デイパックから出したポットのお湯をチョロチョロと被ると乱馬の体はみるみるうちに男の姿に戻っていく。
 こうして、女になってからの姿と比べてみると、彼も随分と体格のいいものだ。
 その服装から考えれば、やはり中国拳法でもするのだろうか?
 何かしらのスポーツはしているだろう。寿司屋やらSWATやらチャイナ服やらで、この場の服装はかなり混沌としているが、あかねはすぐに明るい口調で聞き返す。


「心配してくれてたの?」

「……誰がっ! だいたい、お前ならプリキュアが2、3人で襲ってきてもブッ飛ばせるんじゃないか?」

「勝手にプリキュアを悪者にしてぶっとばさないで……」

「なんだ? そのプリキュアって?」

「えーと、プリキュアっていうのはですね」

「プリキュアっていうのはだな……」

「乱馬は黙ってて! そっちの子に聞くから!」

「なんだと!?」

「あの……」


 孤門が色々と考えているうちに、他数名はギャーギャーと騒ぎ始めた。
 孤門とヴィヴィオはハッと気づく。
 互いの情報が万全でないうえに持っている情報の内容が偏っているので、全く話が纏まらないのだ。それが原因で、彼らはまた随分と酷いことになっている。
 このまま纏め役がいないまま話し続ければ、情報に混乱や誤解、不備が生じかねない。

296警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:50:03 ID:e5.VbpdM0


「みんな静かにして!!」

「あの、聞き入れる余裕がなくなってるみたいですけど……」


 既に、まともに孤門の一喝を聞き入れてくれるのはヴィヴィオ一人になるくらい、場は荒れていた。まだ会話が始まってから数秒しか経っていないのだが……。
 ちょっとしたことからドタバタを作り出すのは、乱馬やあかねの専売特許である。
 それゆえ、この二人のほか個性的な面子が揃った今、既に孤門のような常識人では場の収集はつかなくなっている。


「…………放っておけば収まるかな?」

「たぶん、無理だと思います……」

「そうだね……」


 この中で、唯一この状況に紛れていかないのがまだ小学生くらいのヴィヴィオだけというのが凄まじい。
 眼前では、乱馬とあかねが口喧嘩を始めたり、源太と美希が止めていたりで偉いことになっている。その点、ヴィヴィオはしっかりしていると思えた。

 ────だが


(ヴィヴィオちゃん……アインハルトちゃんの友達か……)


 孤門は、ヴィヴィオを見ると暗い気持ちになってしまう部分もある。
 孤門は、既にヴィヴィオの名前を知っていた。そう、家族を失った少女として。……彼女に伝えたくない情報を沖たちの口から聞いたうえでだ。
 先ほど会ったアインハルトという少女のことも伝えなければならないし、勿論「高町なのは」という女の子の死に方も伝えなければならない事になる。
 無論、それは今ではない。
 彼らが既に情報に収集がつかなくなっているところを見ると、迂闊に情報を明け渡せそうにないだろう。


(そうだ、沖さんたちもここに来るんだろうか……。12時までは余裕があるし、もしかしたら……)


 ……それから、孤門は、沖やいつきやアインハルトもこちらに向かうのではないかと推測する。
 先ほど、12時に中学校集合と約束したが、今から行けばかなり余裕があることになってしまうし、それだけの時間、彼らが同じ場所に待機し続けることはないだろう。
 それならば、ここに立ち寄る可能性はゼロじゃない。

 ということは、アインハルトとヴィヴィオを再会させることもできるのではないか……?
 それを思うと、やはり孤門はいてもたってもいられなくなった。ヴィヴィオが正常な神経のままであるなら、ヴィヴィオを救うことが、できるかもしれないと思ったのだろう。
 だから────


「ヴィヴィオちゃん、やっぱり彼らは放っておこう。一度こっちへ……!」


 孤門は、収集のつかない乱馬たちの喧嘩に割り入ろうとしたヴィヴィオの手を引く。
 彼女と共に警察署の入り口で沖たちを少しだけ待ってみるか、と思ったのである。
 来なかったら来なかったでいい。ただ、より確実に会える場所に行かなければならない。


「えっ!?」


 警察署は何階層もあるからすれ違う可能性だってある。
 既に他にもこの警察署にいる人間がいるかもしれないのだ。彼らも、別に窓から周囲の様子を伺っているわけではない。
 だが、入り口にいれば嫌でも遭遇するので、すれ違わないにはそこで待つのが一番手っ取り早いだろう。
 孤門はわけもわからず手を繋ぐヴィヴィオの重みを少し感じながら、走っていく。
 そんな孤門にヴィヴィオが問うた。


「……どうしたんですか!?」

「思い出した! 入り口で待ってれば、アインハルトちゃんたちに会えるかもしれない!」


 その言葉はヴィヴィオを驚愕させた。孤門はアインハルトを知っているのだろうか、と。そして、会えるのは本当だろうか、と。
 それならば、彼女も戸惑うのをやめた。
 そうすれば、ここにいる参加者は全部で9人。それも、誰も殺し合いに乗っていないということになる。
 孤門は、それでも根拠となる事を簡潔にヴィヴィオに伝える。


「……アインハルトちゃんたちも、D-9から街に向かってるはずだ。それなら、僕達より少し遅れてここに来る可能性は高いと思う」

「わかりました!」


 そんな孤門とヴィヴィオの様子を見て、他の四人はキョトンとしていた。
 なんとなく、服装がボロッとしているような気がするが、戦っていたりとめていたりで仕方がない。
 とにかく、彼らもわけもわからないまま、遅れて二人の後に続いていく。
 どこに行くつもりかはわからないが、二人だけで突然何処かに行くなどと、色んな意味で怪しくないかと思ったのだ。




★ ★ ★ ★ ★

297警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:50:49 ID:e5.VbpdM0



 警察署、入り口。
 向こうからやってくる三人の人影を見ながら、孤門たちの顔は笑顔になる。


「やっぱり……!」


 総勢六名の人間が、三人の来客を見てそれぞれ歓喜や警戒に満ちた表情を浮かべた。
 主に警戒しているのは乱馬である。源太やあかねも、なにがなにやらわからないという表情をしていたし、孤門や美希のように接触のある人間は安堵している。


「アインハルトちゃんたちが、ここに来ると予想してたんですか?」


 美希の問いに、孤門は答える。


「あの道から街に来るなら、急いでない限りはここに寄ると思ったんだ。とにかく、これで大勢の参加者が一緒になることになるね」


 向こう側からやってくる三名は、晴れた顔が二人、曇った顔が一人。
 その、「曇った顔」の少女を見て────表情以前に姿だけを見て、こちら側にいる少女が一人で叫んだ。


「アインハルトさーんっ!」


 ヴィヴィオの叫びに抱きついてくるわけでもなく、歓喜する様子でもなく、ただ側面の二人に背中を押されるように歩いてくるアインハルト。
 そんな姿に、やや拍子抜けしつつも、アインハルトの性格上ではこんなものだろうか、とヴィヴィオは思っていた。
 とにかく、仲間がより一掃増えたことでヴィヴィオは安堵していた。これで、霧彦や祈里とも会えば、頭数はかなりのものではないだろうか。
 などと思っているうちに、三人が警察署のドアの前まで歩く。


「……思ったよりも、早く会えましたね」


 沖は、自分と身長が同じくらいの男・孤門に微笑みかける。
 いつきと美希が互いに手を合わせ、二度目の再会に喜ぶ。
 待ち合わせる前に、こんな場所で会えたのは良かった。
 まあ、またいつ離れるかはわからないが。


「俺は沖一也。仮面ライダースーパー1だよ」


 周囲にいる子供たちに、沖はそう告げる。
 とりあえず自分の名前を告げていこうと思ったのだが、孤門はその自己紹介に内心ヒヤッとした。
 仮面ライダーの単語については、情報が薄い一部の人間が反応してしまう可能性が高い。


「仮面ライダー? っていうと、1号とか2号とかエターナルとかいう……」

「仮面ライダー? そういや、霧彦もそんな事言ってたな……」


 乱馬やあかねが口を開きだし、また色んな情報が跋扈し始める。
 よほど頭の纏まりがよくない限り、きっとこんな無数の情報を捕捉し切れはしないだろう。
 そのため、騒ぎが始まる前に孤門が静止する。


「ごめん! みんな、一度少し黙ってほしい! 互いに色々と聞きたいことはあると思うけど、このままだとみんな混乱してしまうから、もっと順番にちゃんと話をしなおそう!」


 孤門の呼びかけに、二人もすぐさま黙った。
 もっとエスカレートしていくと、黙ることはなかったのだろうが、孤門の言っていることは正論である。
 このままでは、得られる情報も得られない。


「ヘイヘイ。じゃあ、さっさと順番に話そうぜ」


 乱馬が、やる気なさげに言う。
 どうも、質問を制止されたのが気に喰わないらしく、孤門に対してジト目を飛ばしていた。
 仕切る人間というのは、彼もあまり好かない相手だ。

298警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:51:34 ID:e5.VbpdM0


「……とりあえず、ここじゃないところで話そうと思う。これだけの人数で話し合いをするには、結構な時間を要するだろう。
 だから、こうして周囲から見えるところに長時間いると、沖さんたちみたいな人だけじゃなくて、危険な相手に出会うこともあるかもしれない」

「……それならそれでブッ倒せばいいじゃねえか」


 乱馬の発現は基本的に暴力的であった。
 キュアパインやナスカ・ドーパントといった猛者を前にしても、こういう考えが浮かぶのは、自分やプリキュア、仮面ライダーが仲間にいるからである。
 そういう安心感もあったのだろう。共闘すれば、充分に誰とでも戦えると思っているのである。
 だが、孤門は極力非戦を訴えかけたかった。


「でも、できるなら避けられる戦闘は避けたい。人数がいるからと言って、勝てるかどうかはわからないし、犠牲が出てしまう可能性だってある」

「……もし、殺し合いに乗ってない人だったら?」

「だから、せめて窓が張ってあって、入り口が見えるような場所で会議するのが良いと思う。それに、警察署内は他の施設に比べると、安全だ。
 意思のない相手や、人外の相手ならともかく、何かの事情で殺し合いに乗った人は何となく、ここは避けるだろうからね」


 と、およそ孤門が司会するような形で、綺麗に話が纏まっていった。
 年長である沖、孤門、源太が話し合いの場では要となるのだろう。
 ナイトレイダーという、厳しいながらもしっかりと兵法を学べる場にいた孤門は、特にこういう時の思考が豊かである。


「ちょっと待ってください。一つだけ、乱馬さんに聞きたいことがあるんですけど……」


 美希が手を挙げる。まるで、孤門が先生で美希が生徒のようだ。
 とにかく、特筆すべき発言なのではないかと思い、誰も美希の質問を制止はしなかった。


「さっき祈里って言いましたよね? 祈里はどこにいるんですか……?」


 どさくさで聞き忘れていたが、乱馬は祈里のことを知っている。
 それなら、まずは彼女の情報を得ておきたいと美希は思ったのである。
 だから、彼女は手を挙げたのだ。
 乱馬もその質問には答えた。


「何もなけりゃ、中学校にいるはずだ。霧彦っていうヤツもいる」

「中学校か……。孤門さん、私、そっちに向かいたいんですけどダメですか?」


 美希は、祈里が心配だったので、極力そちらに向かいたかった。
 これまでも、友達のことが気にかかっていたので、そちらに向かうのも一つの目的だ。


「……祈里って、あの祈里だよね?」

「ええ」

「それなら、僕も行きます。一人では危険でも、二人で行けば……」


 いつきも名乗りをあげる。二人は、プリキュアでは黄色仲間である。
 幼い頃からの友人である美希と祈里ほどではないとはいえ、彼女らも親しい仲であった。
 ゆえに、二人がその場で中学校に向かうことを提案したのである。


「……できるなら、そうしたいと思う。祈里ちゃんという子も近くにいるなら、引き連れて後でみんなで話し合うこともできるし。けど……やはり二人というのは危険じゃないかな」

「俺も同意だ。正直、何人いても勝てないような相手がここにはいる」


 沖もまた、孤門の意見に同意した。
 本郷など複数名の知り合いが、怪人の集団によって倒されたのを既に目にしている以上は、安易に女子中学生を二人だけで歩かせるわけにはいかないと思ったのだ。
 基本的には、誰もが同意だろう。
 だが、それならそれで美希は乱馬に別の質問をする。

299警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:53:10 ID:e5.VbpdM0


「乱馬さんたちはどうして祈里たちと分かれたの?」

「……なんでも、あかねやアインハルトを探すために向かわせたんだとよ。まあ、他にも探すヤツはいるんだけど、二人はとにかく見つかったから、顔出してもいいんだけどな」

「そうか……その時と同じように、人数を分散するのも一つの手だね。でも、この二人の事をよく知らない君が行くより、二人を知ってる人の方がいいと思う」

「ケッ」


 乱馬の不愉快そうな態度に多少心を痛めながらも、孤門は冷静に考える。どう分つのが一番良いのか。
 できるなら、まず美希といつきは祈里の知り合いだから、中学校に向かった方がいいだろう。
 あとは、なるべく相性の良い相手を向かわせるべきである。
 そうなると、やはり沖か自分だろうか。片方がこちらにいないと、話は纏まらない。


「……沖さん、二人のこと、お願いできますか?」


 いつきと沖はともかく、精神的にストレスが溜まっているアインハルトをそちらに入れるのは問題となりかねない。そうなると、知り合いであるヴィヴィオも待機になる。
 乱馬とあかねは、美希やいつきとはあまり行動も会話もしていない。二人を向かわせるのも微妙だ。それから、あかね以外に知り合いがいないと思われる源太も不可能。
 そのうえ、二人より弱い「ただの人間」こと孤門ならば明らかに力不足。

 …………やはり、二人と共に行くのは沖しかいない。


「孤門さんこそ、アインハルトちゃんのこと任せましたよ」


 そんな孤門の考えに、沖が笑顔で答える。
 いつきと長時間行動しており、孤門ですら信頼している彼が行くのが最も得策だ。
 正直言えば、仮面ライダーへの変身能力を持つ彼が行くのは当然。……孤門は彼と比べると弱すぎるのである。


「……わかりました。僕達は僕達で、できる限り情報をまとめておきます」


 孤門はそう言い返す。
 とりあえず、元の世界である程度の信頼関係を持っているであろう乱馬とあかね、ヴィヴィオとアインハルト、いつきと美希をこの場で離散させないように組むならば、こういう形になる。
 沖やいつきや美希が持つ情報を、孤門はある程度受け継いでいるので、彼らがすべき話も乱馬たちに伝えられるだろう。


「……それじゃ、ここでまた、しばらくお別れか」


 沖と孤門の再会は、またこういう形ですぐお別れとなってしまう。
 だが、美希の不安そうな目を見つめて、沖はすぐに、孤門たちに背を向け、歩いていった。
 長時間共に行動してきた美希も彼やいつきに連れて行かれるが、孤門はまた新たな仲間の面倒を見なければならない。
 それも、この六人の中で、最も他の誰かとの縁が薄いのは孤門であるから、纏めるのは至難だ。
 気合を入れていこう、と決意してから孤門は上の会議室へと他の五人を誘導した。



★ ★ ★ ★ ★

300警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:53:56 ID:e5.VbpdM0



 覇王の記憶を受け継ぐ少女────アインハルト・ストラトスは戸惑う。
 出会う人が多ければ多いほど、彼女の不安は膨らんでいく。
 孤門という男に促されるまま、彼女は階段を登り、廊下を歩く。その横で、ヴィヴィオが屈託の無い笑みで話しかけているのだが、アインハルトは何も言い返せない。
 何も耳に入ってこない。
 これは、関わる事を本能的に拒絶しているからだった。会話をしたり、関ったりしたくないのだ。


(私のせいで、みんな死んでしまうのに……)


 アインハルトの表情は弱弱しい。また、何を言っても返答が来ないヴィヴィオの表情もだんだんと弱弱しいものに変わっていった。
 それを見たくはないのだが、彼女を自分と関らせない為には、話し合うことさえも捨てようと思ってしまった。
 覇王として守るべきだった相手──────


(私は───────)


 覇王イングヴァルトとしての最も哀しい記憶が、アインハルトの中から離れなくなっていく。
 守ろうとしても、離れていくもの。
 目の前から消えていってしまうもの。
 ここに来てからの様々な記憶も、アインハルト自身のトラウマとして刻まれていく。
 これは最悪の戦場だった。

 会議室の中でも、暗い表情で、彼女は孤門の言葉を全く耳に入れようともしなかったし、ホワイトボードを見ようともしなかった。



★ ★ ★ ★ ★
 



「……それじゃあ、沖さんたちがここに来るまで、僕達だけで少し話をしておこう」


 孤門が、ホワイトボードの前で残りの五人を見ながら言った。
 ともかく、それぞれの動向を振り返っておく良い機会である。
 第一、自己紹介すらろくに済んでいない相手だっているのだ。


「とにかく、みんな改めて名前だけ、自己紹介をしよう。僕は孤門一輝」


 ナイトレイダーという冠をつけないのは、まずは余計な情報から話を広げてしまわないようにするためだ。おそらく、TLTやナイトレイダーという言葉を、多くの参加者は気にかけてしまうだろう。
 

「早乙女乱馬」

「天道あかねです」

「高町ヴィヴィオです」

「…………」


 アインハルトが黙って俯いているのを見て、ヴィヴィオが促そうとするが、ヴィヴィオが何かを言う前に孤門が紹介する。


「彼女はアインハルト・ストラトス。色々あって今は落ち込んでる。だから、そっとしておいてあげてほしいんだ……」


 事情を知っているがゆえ、ヴィヴィオが何かしら促してパニックを起こさせるよりも、先に紹介させてしまうのが良いと思ったのだ。


「……で、俺は梅盛源太っていうわけだ」


 基本的に男性陣は一風変わった格好をしている。
 制服が貴重の女性陣に比べると、基本的に変な格好が多いのだが、源太は中でも異質だった。
 服装を見ただけで、職業がわかってしまう。


「……ってオイ。ちょと待て。あんたが梅盛源太だったのか?」


 乱馬が、名前だけでも反応してしまった。
 まあ、会話が混ざり合ったりはしないので、発言は許される。
 今は、会議のような形になってしまうも少しは許そう。


「ああ、俺は正真正銘梅盛源太で間違いないぜ?」

「……ちょっと待て! なんでそれを早く言わねえんだよ!」

「悪ぃ。ちょっと名乗るタイミングを逃しちまって」

「乱馬、この人の事知ってたの!?」


 乱馬は、デイパックの中身をごそごそと漁りながら、いい加減にあかねの言葉に答えた。
 別に知っていたわけじゃないが、何と答えればいいかわからない。

301警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:54:38 ID:e5.VbpdM0


「名前だけ聞いてたんだよ。志葉丈瑠ってヤツにちょっと頼まれてな」

「志葉丈瑠って……おい、丈ちゃんに会ったのか!?」

「……まあな。けど、様子が只事じゃなかったぜ」


 そう言いながら、乱馬が開けたデイパックからショドウフォンと書置きが取り出される。
 少しグシャグシャになってはいるが、乱馬はそれを広げて机に乗せた。
 開け話したように机に乗せられたそれを、源太が確認する。


「なになに……流ノ介、源太、俺にこれを持つ資格はない。……このショドウフォンは、お前達に預ける!?」


 それを読む源太は、それを読んでかなり驚いた様子だった。
 当然だろう。
 何せ、戦力であるショドウフォンを手放した彼の心理が全くわからない。
 どうしてこういう風になったのか、その経緯が全くつかめない。


「これをいつ……?」

「この悪趣味ゲームが始まってすぐだ。内容は変だけど、別に誰かを殺った後っていうわけじゃなかったみたいだけどな……」

「じゃあ、なんで……」


 源太の記憶では、ここに来る前の丈瑠の様子には、そこまでおかしい部分はなかった。
 何かしらの出来事があったから、丈瑠はシンケンジャーとして戦うのをやめてしまったのではないか?
 そのことだけは、何となくわかった。


「……もしかして、丈ちゃんは……広間で死んだ三人を守れなかった事を相当気に病んでるのか……」

「俺には、そうは見えなかったけどな」

「そうか……? とにかくこのままじゃ、理由がさっぱりわからねえ。丈ちゃんに会って直接聞いてみるしかなさそうだな。丈ちゃんは何処に行った?」


 幼馴染の源太にも、丈瑠が何を考えているのかはわからなかったようで、とにかくそれが気にかかった。
 何度も言うとおり、彼はまだ無知すぎた。少なくとも、影武者としての丈瑠の心情を察するにはまだ弱かったのだ。


「……わからねえな。さっき言ったとおり、丈瑠ってヤツと会ったのは始まって直ぐだ。それから、すぐどっかに行っちまった」


 乱馬も力にはなれそうもなかった。
 丈瑠の居場所は既に、不明慮。乱馬の及び知るところではない。
 あれだけの時間が経っているのだ。移動が速ければ、既に村の方に行っていてもおかしくはない。何せ、志葉屋敷などというのがマップにあるくらいだ。


「ところで、あんたとあいつは一体どういう関係なんだ?」


 乱馬はそれも気にかかった。
 源太が丈瑠を捜索するのを惜しみながらも諦めたと見て、聞いたのである。


「……俺と丈ちゃんは幼馴染だ」

「幼馴染、か……やっぱりな」


 乱馬の中は、こうした親しい呼び名をする相手として、幼馴染というものを連想してしまう。
 彼にも久遠寺右京という幼馴染がおり、彼女のことを「ウッちゃん」、右京は乱馬のことを「乱ちゃん」と呼んでいた。
 この場に彼女がいなかったのは乱馬を安堵させる要素のひとつであった。
 あかねやシャンプーが巻き込まれたなかで、彼女まで巻き込まれてしまったら乱馬も正常な神経ではいられないかもしれない。


「ウッちゃんのこと、思い出してるの?」

「ああ。ちょっとな。…………あの屋台のお好み焼の味は、子供の頃から忘れられないぜ」

「それ、アンタが盗んだ屋台でしょ」


 あかねが小声でツッコミを入れる。
 そういえば、あかねが源太を見たとき、彼女は少しだけウッちゃんのことを思い出した。
 お好み焼の屋台を持っていたという右京と、寿司の屋台を引く源太の姿はどこか重なったのである。
 そのうえ、幼馴染までいるという。
 乱馬と丈瑠の境遇には、少し似通っている部分もあるのだろう。屋台で稼ぐ人間が幼馴染にいるなど、滅多にあることではない。

302警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:55:22 ID:e5.VbpdM0


「……で、コイツは一体どうやって使うんだ?」


 乱馬が気にかけたものはもう一つ。
 丈瑠が託したショドウフォンである。一見すると、ただのゴテゴテした携帯電話である。
 迷っている最中に、他人に託すようなものではないだろう。
 彼の中では相当の重荷だったからこそ、「これをもつ資格はない」と言ったのだろうが、そうは見えないのである。
 別に武器にはならなそうだが……。


「……ああ、これは丈ちゃんが変身するために必要なものなんだ」

「変身?」


 乱馬は納得しつつも、興味があった。女体化、猫化、豚化、シャンゼリオン、ナスカ・ドーパント、キュアパインなど多々ある戦士の姿を見てきた乱馬である。納得する一方で、一体どんな姿に変身するのかが気になったのである。


「おう! ちょっと見てみるかい!?」


 源太は特に乱馬の心情を察したわけでもないが、得意気に自らのスシチェンジャーを目の前に翳す。
 口で説明するより、実際にやってみた方がいいと思ったのだろう。


「一貫献上!」


 …………そう言って金色の戦士に変身する源太。
 既に数名を除く全員が、それに対する驚きを感じるほどではなくなっていた。
 あかねだけが既に目にしていた戦士────


「シンケンゴールド、梅盛源太!」


 ポーズを決めるシンケンゴールドだが、誰もが唖然としていた。
 敵もいない警察署の会議室で、この男は突然何をしているのだろうかと思ったのである。


「……どうだい? このスシチェンジャーは、丈ちゃんのショドウフォンとは少し違うけど、同じような力を持ってるんだ」


 あかねが頭を抱えているが、その隣ですぐにシンケンゴールドは変身を解く。
 とにかく、ショドウフォンの能力をおおまかに説明しただけである。


「へえ。また凄え道具が出てきたな」

「ガイアメモリとかとは違うみたいですね」


 乱馬やヴィヴィオが何となく関心する中────

303警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:56:01 ID:e5.VbpdM0


「……あ……ああ……!!」


 ─────そんな源太の親切が裏目にでてしまう相手が一人いた。

 ある少女がただ一人だけ、源太の姿を見るなり、カタカタと震える。
 既に彼と全く同じ姿の男の戦いを見て、彼の死を知っていた少女────アインハルト・ストラトスである。


(似てる…………流ノ介さんと同じ……!)


 話を一切聞こうとしていなかったアインハルトも、視覚的に見えたその姿に驚愕してしまったのだ。
 色が違い、文字が違うが、その基本的な姿は全く同じだ。


「……どうしたんだ、アインハルトちゃん!?」


 孤門が呼びかけ、周囲がざわめきだした。
 乱馬も、あかねも、源太も、ヴィヴィオも、先ほど話もしなかった少女の異質な姿に戦慄したのである。
 彼女は一体、どうしてしまったのだろう。


「あああああああああああああああああああああああっっ!!!」


 アインハルトの口から絶叫が響き、目からは涙がこぼれた。
 あの戦いのトラウマが……拭いきれないトラウマが、今この瞬間蘇ってしまったのだ。
 シンケンゴールドの姿を見たことで。
 シンケンブルーの姿を思い出したことで。
 傍らに転がっているショドウフォン。彼がそれで変身したのなら、彼は流ノ介の仲間だったということ。


「どうしたの、アインハルトさんっ!!」


 親友・ヴィヴィオが必死で彼女の体を揺さぶっていく。
 だのに、彼女は何も聞こえていないようになって、ヴィヴィオの手が触れているのにも気づかない。
 今は世界に自分ひとりでいい。
 誰とも関わらずに生きていくしかない。
 少なくとも、この殺し合いの間、自分は他人に迷惑しかかけていないのだから。


「え……」


 アインハルトは、ようやく自分の背中に添えられた手に気がついた。
 そこにいるのはヴィヴィオさん──────?
 いや────


「駄目っ!!」


 荒い息のままに、アインハルトはヴィヴィオの手を振り払い、椅子を倒して立ち上がる。
 今、アインハルトの体をさすったのは、なのはの手に似ていたのだ。
 そう、つい数時間前に出会った、あの小さななのはにそっくりだった。
 だから、また自分は彼女を失ってしまうかもしれない。


「おい!! いくら何でもそりゃあねえんじゃねえのか? ヴィヴィオは、お前のことを心配して……」

「だからです!!」


 誰もきっと、ヴィヴィオのことは理解できないだろう。
 他人の親切を頑なに拒んで、頑なにその手を振り解こうとする。
 それも、親切にしてくれるからこそ離れようとしなければならないと思うのは、彼女がとにかく責任感の強い少女だからだった。


「……ごめんなさい、やっぱり…………私…………」


 そう呟くと、アインハルトは会議室を出て走っていってしまう。
 無造作に開けられたドアの内側で、五人の男女が放心していた。
 なにがいけなかったのだろうか。
 彼女は突然に、謎のヒステリックを起こしてしまった。
 その原因を、人づてにでも聞いているのは孤門だけである。


「なにがあったのかわからないけど……私、追ってきます!!」

「おい、ヴィヴィオ!!」


 ヴィヴィオが追っていくと、乱馬がそれに続いた。
 乱馬はアインハルトでなく、ヴィヴィオを追っているようである。
 続いて、他の三人も追おうとしたが、孤門が残りの二人を制止した。

304警察署の空に(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:56:37 ID:e5.VbpdM0


「待った! 二人とも、やっぱりあの二人に任せよう」


 あまり大人数で行くのは逆効果だと思ったのだ。

 孤門も、彼女を追いたかったが、それでいて迷っている部分がある。
 沖にアインハルトのことを任されたはいいが、彼女をヴィヴィオと接触させるのは逆効果だったのかもしれない。
 いま考えれば、まだ精神的に安定しないこの判断は明らかに間違いだった。
 一ナイトレイダー隊員として、恥ずべき判断ミスである。
 アインハルトの精神をもう少し労わる必要があったのかもしれない……。


「僕も、そこにいたわけじゃないから知らないけど……アインハルトちゃんにあったことを知ってる限り話します」


 源太とあかねが呆然と取り残される中、せめて彼らに知ってもらおうと、孤門は話し始めた。



★ ★ ★ ★ ★

305警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:57:28 ID:e5.VbpdM0



 …………警察署、屋上。
 アインハルトの傷ついた体での歩速は決して早くは無かったが、行き先を探り探った結果、三人があったのは此処であった。
 何故ここにいるのかは、何となくわかってしまう。
 どうして彼女が追い詰められているのかは、ヴィヴィオだって知らなかったのだ。


「……アインハルトさん」


 後ろには、かつて自らが守らなければならなかった聖王女の姿があるように思えた。
 かつて目の前で消えていった女性の姿が、そこにはあったのである。
 記憶が齎した幻を見て、尚更決心は固くなる。
 ああ、そうだ。やはり、大切な人を護るためには、自分から消えていくしかないのだ。


「一体、どうして?」


 ヴィヴィオが、アインハルトの突然の行動を疑問視して訊いた。彼女は何と答えるだろうか。
 とにかく、アインハルトの深刻な顔の理由は全くわからなかった。


「私のせいで、なのはさんや、まどかさん、流ノ介さんや本郷さんは死んでしまいました……」

「なのはママ……!?」

「それに、フェイトさん、ユーノさん、スバルさん、マミさん、ほむらさん……みんな、私と関わったせいで死んでしまった…………だからきっと、私は疫病神なんです」


 アインハルトの表情はいつにもまして暗い。
 これまで、哀しい記憶を何度も夢に見てきた事や、この戦場でまた哀しい記憶を積み上げていく自分。それが、彼女に完全に笑顔を忘れさせてしまう。
 後ろにいるヴィヴィオを守りたい一心が、アインハルトには確かにあった。


「……おい、テメェ何か勘違いしてねえか?」

「え?」

「俺はな、既に疫病神を知ってる。そいつは八宝斎って名前のスケベジジイだ! だから、お前みたいなクソガキが疫病神じゃねえってのも、俺にはわかるんだよ」

「…………は?」


 ある程度固い決心をしたはずのこの屋上に寒い空気が流れる。
 どこか作り話じみた話だったがゆえ、ヴィヴィオもアインハルトも目が点だ。
 乱馬自身も、この発言をやや後悔してるようだが、顔を崩さずに続ける。


「だいたい、あんたの話が本当なら……なのはってヤツもフェイトってヤツもユーノってヤツも…………もう死んじまってるって言うんだろっ!! なら、俺はお前まで死んでヴィヴィオをこれ以上傷付けるってのは絶対に許さねえ!」

「……」

「ヴィヴィオはなぁ、お前に会うのをずっと楽しみにしてたんだよっ!! それをてめえは辛気臭え顔でブチ壊しやがって!! 少しは他人の気持ちも考えやがれっ!!」


 ただ、乱馬は、とにかく本気で怒っていたのである。
 これまで行動してきて、ヴィヴィオに対して、愛着のようなものがあったのもある。
 それゆえ、折角再会できたヴィヴィオが暗い顔をしているのを、乱馬は許さなかったのだろう。
 その原因は、何よりもアインハルトの弱さにあると思った。
 気に入らないが、死んでほしくは無い。いや、死んでは駄目なのだ。

306警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:58:01 ID:e5.VbpdM0


「……でも…………きっと、このまま誰かを傷付けるよりは、ずっといいんですっ!!」


 アインハルトは、正直言えば迷っていたのだ。
 乱馬の言うとおり、折角会えたヴィヴィオの言葉を、アインハルトは素通りし続けてしまった。
 まるで、出会った頃と全く同じような感じで、アインハルトはヴィヴィオが縮めようとする距離を遠ざけてしまっていた。
 だから、そうやって迷う前に────


 跳んだ。


 フェンスを越え、デイパックを置き去りにして────
 すくむ足を前へと動かし、下に何も無い空中へと────


「駄目ぇぇぇぇぇっっ!!」


 ヴィヴィオは慟哭して、彼女の飛び込んだフェンスのところへと駆けて行く。
 その真横で、乱馬が何も言わずに駆けていき、アインハルトよりも身軽にフェンスを飛び越えていった。



★ ★ ★ ★ ★



「……そんなことがあったんですか……」


 あかねは、孤門の話をかなり暗い気持ちで聞いていた。
 目の前で何人もの参加者が殺されたという彼女の気持ちを察する。
 彼女の中では、ここではっきり自分と出会って死んだ人といえば十臓くらいのものだった。
 そんなにたくさんの人を目の前で失ったのだから、正常な神経ではいられないだろう。


「……許せねえ!」


 源太は机を殴る。
 主催者や、すすんで殺し合いに乗った連中に、激しく憤っているようだった。
 それは己の拳を割るような一撃だったが、そこまで考えてはいなかったし、アドレナリンのせいか痛みは薄い。


「……だから、今の彼女は何をするかわからないんだ。自分のせいでみんな死んだと思ってる……。できるなら、ヴィヴィオちゃんや乱馬くんが彼女を見つけ出して助けてほしい」


 他人事のような言い方だが、孤門も心から心配していた。今は願うしかないのだ。
 孤門は、あの年頃の少女の死を他人事とは思えないのである。
 今までレスキュー隊やTLTの仕事をやってきて……年端もいかぬ少女だって悲しい出来事に巻き込まれることが何度もあった。

 記憶に新しいのは、廃工場でビーストに襲われた少女──杉山里奈。
 TLTは彼女を見捨てろという判断を下したが、孤門にはそれができなかった。
 結局、彼女は何とか助けることができたものの、少女の命を救いにいかない判断を下した自分のことを考えると、あの時のことを思い出す。

 それから、遊園地で会った山邑理子という少女だ。
 これはごく最近、再び会うことになったが、彼女の運命は惨酷であった。
 両親を目の前で失い、挙句の果てに両親はビーストヒューマンにされてしまう。そのうえ、ビーストに人質にされ、記憶を中途半端に消され、しばしの交流をした溝呂木さえも失った。

 アインハルトの心情を考えると、ビーストに襲撃されたまま「記憶を失うことができなかった」人間たちのようなものだろうか。
 TLTにとって、被害者の記憶を削除するのは「救済」の措置だった。
 アインハルトは、ビーストに襲われた人間のようにトラウマに苛まれ続けるのだろうか……。


★ ★ ★ ★ ★

307警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:58:42 ID:e5.VbpdM0



 アインハルトの視界で、あらゆるものが高速で過ぎ去っていく。
 警察署の窓や外壁。それを視覚が認識するよりも早く通り過ぎてしまう。
 しかし、いつもに比べればスローモーションに見えた。
 死の危険が迫ると、人間の脳は通常よりも大量の視覚情報を送るためである。

 それが、アインハルトに恐怖と後悔を与えていた。


(嫌だ……やっぱり死にたくない……!! このまま、私は……!)


 視界がやや暗くなっていく。地面に近付いていって、警察署の影が自分の体を包んでいったのだ。
 このまま完全に落ちてしまえば、自分は永久に暗い中に閉じ込められる。
 彼女の中に流れて来る記憶は、イングヴァルトのものでなく、アインハルトのものであった。


 ヴィヴィオたちと遊んだ思い出や、戦いの記憶────


(嫌だ……っ!!)


 だが、そんな時、アインハルトの耳に、近くから大音量の声が聞こえた。
 誰かがアインハルトの近くにいる?
 どうして、ここは地面から遠く離れた何もない空中。
 その高さから落ちれば死ぬのに。


「アインハルトぉっ!!」


 その叫びの主は、アインハルトの真っ隣で、一緒に空を泳いでいた。
 早乙女乱馬。
 彼は、何の躊躇いもなく、アインハルトを追って飛び降りたのである。
 この高さから落ちれば常人なら死ぬ気がするが、うまい具合に技を使えば、乱馬はそれを回避することもできる。
 第一、それに耐えうるだけ乱馬の体は頑丈だった。


「……死ぬなっつっただろうが!!」


 その片腕がアインハルトを抱えたと思うと、乱馬はそう怒鳴った。
 同じ速度で、真っ隣で怒鳴る彼の声は、よく通った。
 とにかく、そんなことよりもアインハルトはまだ怖かった。
 ここには乱馬がいるが、彼が一緒にいようと、自分は死んでしまう。
 近付いていく死への恐怖が、アインハルトの中で加速していく。


(ん……? なんだ、この感触は……)


 乱馬の足に、何かが引っ付いている。
 そういえば、先ほどから少しだけ右足が重いような気がした。
 一体、なにが錘になっているのだろうか?
 乱馬が右足を見てみると、そこには────


「にゃー!」


 乱馬が駆け出したときに、どさくさに紛れて一緒に引っ付いたアスティオンの姿があった。


「ね゛ごぉっっっ!!!!!?」

「ティオ!?」


 そうだ、アインハルトは猫型の相棒がいるのだった。
 乱馬はそれを忘れて飛び込んでいたから、とんでもないことになった。
 アスティオンもアスティオンなりに、アインハルトの力になりたいと思っていたのだろう。
 険しい目つきで、アインハルトの体の方へ飛ぼうとした。


「にゃー!?」


 だが、二人は落下しているゆえ、それは失敗。
 アスティオンは乱馬の顔に激突してしまう。顔に猫が張り付いた乱馬は、アインハルトの体を放さないようにしながらも、空中で必死でもがいていた。


「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!!
 ぎゃぁ!! ぎゃぁっ!! ぎゃあああああああああああああああああっっ!!!」


 乱馬はジタバタジタバタと、手足を空中で泳がせるようにした。
 このままでは真下も見られないし、何より受身がとれない。
 ピンチ中のピンチだ。
 顔に張り付いた猫への恐怖が先行してしまい、その他のことへと頭が回らない!!
 このままだと大量の猫に引っ掛かれる!! 喰われる!! 噛み付かれる!!
 いや、それ以前にこのままでは、この猫と一緒に落ちて死んでしま────

308警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 00:59:35 ID:e5.VbpdM0


 ────ぷっつん


 そう思ったとき、乱馬の中で何かが切れた。
 意識が遠のき、乱馬の中にあるもう一つの意思が浮かび上がってくる──。


「………………にゃぁぁぁぁぁご」


 地面に近付いていくアインハルトとアスティオンは、そんな鈍い泣き声を聞いた。
 アインハルトがアスティオンの方を見ると、アスティオンはふるふると首を振っている。
 自分じゃないぞ、と言いたいのだろう。
 だとすると、既に妙に冷静な素振りを見せた乱馬だろうか?


「にゃーごっ!!」


 やはりそうだ。乱馬は身軽にも、警察署の外壁を走っていく。
 重力に引かれながらも、彼はただひたすら走っているように見えるが、そこには深く爪が突きたてられている。
 いや、これは彼の爪か? 自分自身を猫と思いこむ彼が爪と勘違いした、ただの”気”にも見える。
 とにかく、それがスピードを緩めていた。


「にゃおーん♪」


 スタンッ。

 また鳴くと、乱馬は身軽に地面に降りた。
 まるで猫が塀から下りるように、見事に降りていく。
 アインハルトもアスティオンも完全無事の無傷である。
 その右脇から、アインハルトの体は放たれる。


「あ、……ありがとうございます……乱馬さん……」


 死ぬのが怖かったから、アインハルトは思わず感謝の言葉を述べた。
 ……が、当の乱馬は話も聞かずに暴走して、素早くどこかへ行ってしまう。
 明らかに様子がおかしかった。外見からして、猫背で四足で、先ほどの乱馬のものとまるで違う。


「あ……」


 気づけば、アインハルトの目の前から凄まじい速さで走り去っている。
 とにかく、思わずアインハルトは追うような言葉を口にしてしまった。


「待って……!」


 色んな人の前にまた姿を現さなければならないが、それは乱馬を追ってからだ。
 今、彼女の気持ちは少し先ほどとは違っていた。
 戸惑いながらも、死の恐怖から逃れた彼女の気持ちは……。


「ティオ、追いましょう」

「にゃー!」

「──武装形態」


 助けてくれた乱馬は今、明らかに正常じゃないから、彼がどこかに行ってしまわぬよう、彼を捕まえよう。
 ヴィヴィオたちには心配をかけるだろうが、今はまず彼を追いかけていかなければ。


 そして、自分たち二人とも無事だったのだということを伝えねばならない。


 今は何をするよりもそうしようと思ったのだ。
 何せ、これだけ怖い目に遭って、後悔させられるものだというなら、本当に死にたくないのだ。
 これからしばらく死への恐怖が付きまとってしまう。
 だから、少なくとも今だけはそんな恐怖に陥った自分を助けた乱馬に、お礼を言って戻らないといけないのだ。

309警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 01:00:05 ID:e5.VbpdM0


【1日目/昼前】
【G-9/警察署付近】

【早乙女乱馬@らんま1/2】
[状態]:健康 、悩み、ヴィヴィオと霧彦への後ろめたい感情
    現在猫拳発動中につき普段の乱馬の思考は停止
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[思考]
基本:殺し合いからの脱出。
0:猫ーっ!!
1:暫くあかねたちと警察署に待機して、美希たちを待ち情報交換をしたい。
2:何とかヴィヴィオを知り合いと合流させたい。
3:パンスト太郎、丈瑠、シャンゼリオン(暁)とあったら少女(ほむら)の死について聞いてみる。
4:サラマンダーの顔をいつかぶん殴る。
[備考]
※参戦時期は原作36巻で一度天道家を出て再びのどかと共に天道家の居候に戻った時以降です。
※風都タワーの展望室からほむらとシャンゼリオン(暁)の外見を確認しています。
※放送で呼ばれた参加者達の死を疑っている一方で、ヴィヴィオと霧彦には後ろめたさを感じています。
※ほむらの死に丈瑠、パンスト太郎、暁が関わっているのではと考えています。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。


【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)、ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に怪我、極度のショック状態、激しい自責、大人モード変身中
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:なし
[思考]
基本:???????????
0:乱馬を追い、お礼を言って連れ戻す。
1:私は……どうすれば?
[備考]
※スバルが何者かに操られている可能性に気づいています。
※高町なのはと鹿目まどかの死を見たことで、精神が不安定となっています。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。
※フェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアの死の原因は、自分自身にあると思い込んでいます。


★ ★ ★ ★ ★

310警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 01:00:45 ID:e5.VbpdM0



「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!!
 ぎゃぁ!! ぎゃぁっ!! ぎゃあああああああああああああああああ!!!」


 ────会議室の窓を、二つの人影と絶叫が過ぎ去っていく。
 それを見て聞いたとき、三人とも一体何が起こったのかわからなかった。
 窓の横を、落ちていく二つの影はそれぞれ見覚えのあるものであった。
 乱馬と、アインハルトだ。


「お、おいっ……!」

「乱馬……っ!?」


 流石のあかねもその様子に驚いてしまう。
 どうやら、落ち急いでいたようで、あかねたちの方に気づかぬまま落ちていってしまった。
 だが、彼は特に焦る様子もなかったし、アインハルトをうまく捕まえたようで、平然と落ちて行った。
 通常なら死ぬから、恐れおののく距離だろう。
 彼は普通じゃないから、この程度の落下は許容範囲内だ。
 とはいえ、少し心配である。
 あかねは窓を開けて下を見ようとした。


「駄目だっ!」

「孤門さん!?」

「僕が下を見てくるよ。……残念だけど、二人は」


 ここも二階だし、結構な高さだ。
 それより上の階──おそらく屋上から落ちたとなると、二人は助からないだろうと孤門は見込んだ。
 だから、二人よりも死体慣れしている孤門がそちらに向かおうとしたのだが──


「大丈夫。乱馬はそんなに柔じゃないから。たぶん、あの子を助けるために飛び込んだのよ!」

「え!? だって、……そういう風にはとても……」

「ほら、見てみなさい!」


 あかねが開け放した窓から孤門が真下を見てみると、ちょうど乱馬がアインハルトを抱えて着地したようだった。
 声をかければ届きそうだが、あまりに驚異的な出来事に放心してしまう。


「ほ、本当だ……!」


 孤門が窓から首を突き出したままぼーっとしていると、真後ろで乱馬の様子を見られないあかねが言い出した。
 窓の前で待つよりも、とにかく乱馬たちのところへ行こうと思ったのだ。
 最悪、足を挫いていることだってありえる。乱馬にあるとするなら、その程度だろう。


「私が下の様子を見てくるから、孤門さんたちはここで待ってて!」


 言うなり、あかねは飛び出して行ってしまった。
 どうやら、一片も悲しむ気はないらしい。
 ただ、生きてはいるだろうが、心配というところだろう。


「あ、俺も行くぜ!」

「……あ!」


 更にそこへ、源太が続いていってしまう。
 結局、自分の制止を聞いてくれるのは一度が限界か……と孤門はしょんぼりしていた。
 やはり指揮する立場というのは自分だけでは間に合わないらしい。ましてや、これだけ個性的な面子である。
 ……凪ならもっとうまく纏めただろうか?

 とにかく、孤門は結局会議室で一人ぼっちになってしまった。


(そ……そうだ、ヴィヴィオちゃんだ。まだ彼女が残ってる……きっと屋上にいるんだろう)


 一人ぼっちで思い出したが、アインハルトを追っていったヴィヴィオがいない。
 アインハルトが飛び降りた場所が屋上だとするなら、彼女も屋上にいるはずである。
 とにかく、孤門は屋上に向けて無我夢中で駆け出した。



★ ★ ★ ★ ★

311警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 01:01:33 ID:e5.VbpdM0



 あかねは乱馬とアインハルトが落ちたはずの場所に居た。
 その後ろから源太もやって来る。
 だが、なんだかんだで安心していた。ここには死体も血痕さえもない。本来なら、この辺りに落ちて死んでいてもおかしくないのに。


「でも、二人ともどこに行ったのかしら……」


 死んではいないが、姿は消してしまった。
 乱馬なら帰ってくると思ったが、なぜ彼はそうしないのだろう。
 もしや、アインハルトをどこかへ連れて行ったのだろうか?
 乱馬の事だから、あのアインハルトにまで惚れられて振り回されたとか……。

 と、思うとあかねの中でも何かが切れる。


「乱馬ーっ!!」


 あかねが呼ぶが、返事はなかった。
 仕方が無い。
 あかねは、何も言わずに警察署を出て、すぐに近くの捜索を始めた。
 そんな折、源太が


「……おい、姉ちゃん。あの乱馬っていう兄ちゃん、随分騒いでたみたいだけど……」

「うるさいわねっ! 私は乱馬を探しに行くからっ!!」


 あかねは少しピリピリしていた。
 アインハルトの年齢を考えれば、乱馬がどうこうすることはないだろう。
 ……が、仮にも女形態で良牙に手を出したりすることもあった乱馬である。
 あかねは、乱馬の性癖の話において、彼を微塵も信用しようとはしていなかったのだ。
 とにかく、乱馬と男女二人きりという状況がマズい。
 こうなると、あかねは止まらなくなってしまう。

 乱馬が他の女性と行動していると知ると、とにかく盲目で嫉妬深い。
 最悪、都合の悪い記憶を封印したり、都合の悪い話は聞かなかったことにしたりして、乱馬を苦しめる(ただし、乱馬もあかねに対して同じことをする)。
 それゆえ、源太の話など全く聞かずに、彼女は乱馬を探し始めた。



【1日目/昼前】
【F-9/警察署付近】

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、とても強い後悔、乱馬に怒り
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:乱馬たちと合流して殺し合いから脱出する
0:とにかく、乱馬たちを探して連れ戻し、また警察署に戻る
1:警察署に戻ったら、また情報交換会議に参加する
2:源太と行動し、首輪を解除する
3:今は市街地に行きたい。
4:自分が役に立ちそうに無いので落ち込み中
5:仮面ライダーエターナルの事を多くの人に伝える
6:不気味な絵を捨てる
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前で、少なくともパンスト太郎とは出会っています

【梅盛源太@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、後悔に勝る決意
[装備]:スシチェンジャー、寿司ディスク、サカナマル@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、スタングレネード×2@現実、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン 、 ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー、丈瑠のメモ
[思考]
基本:殺し合いの打破
0:今はあかねについていき彼女を守るしかない
1: 警察署に戻ったら、また情報交換会議に参加する
2:より多くの人を守る
3:丈瑠と合流し、事情を聞く
4:自分に首輪が解除できるのか…?
5:ダークプリキュア、仮面ライダーエターナルへの強い警戒
[備考]
※参戦時期は少なくとも十臓と出会う前です(客としても会ってない)
※乱馬から、丈瑠の様子について聞き、メモを受け取りました



★ ★ ★ ★ ★

312警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 01:02:24 ID:e5.VbpdM0



(私の方が……)


 ヴィヴィオはアインハルトと乱馬の飛び越えたフェンスを黙って見つめた。
 二人は死んでしまったのだろうか?
 この高さから落ちて、二人は────


(私の方が、ずっと疫病神なの?)


 本当になのはやフェイトやユーノが死んで、アインハルトや乱馬まで死んでしまったら、それこそヴィヴィオの方が疫病神だ。
 家族や友達の確かな死を知ったいま、彼女の涙は止まらない。
 今は悲しみで精神が安定しなかった。だから、飛び降りようという気さえ起きない。
 ただ、ひたすらに悲しい気持ちでいっぱいだ。目の前に置き去りにされたアインハルトのデイパックが哀愁を漂わせる。
 それを背負っていた人はもういないのだと思うと────


「ヴィヴィオちゃん!」


 後ろで誰か阿賀慌てて駆けつけて、泣き崩れるヴィヴィオを呼んだ。
 顔を強引にあげさせられると、そこにあった顔は孤門のものであった。 
 涙でいっぱいのヴィヴィオの顔を、孤門が覗いている。


「……安心して。アインハルトちゃんと、乱馬くんは生きている。……乱馬くんがアインハルトちゃんを助けたみたいなんだ」

「……え?」


 ヴィヴィオは、喜ぶよりも先に、その言葉への驚きが出てしまう。
 あの高さから落ちても生きている……? にわかには信じ難い話だ。
 ただ、自分たちのように魔力の持主ならば空の上に立つことも可能だし、実際アインハルトを助けることだってできた。
 その初動があまりに遅かったのが助けられなかった一つの原因でもある。


「正直、信じられないよ。乱馬くんは本当にここから落ちたんだよね? ……彼は、アインハルトちゃんを抱えたまま、平然と両足で着地したんだ。本当に凄かった」

「……」


 ヴィヴィオはほっとする。まだ少し呼吸が乱れて涙が出るが、根本的な部分は泣き止んでいたのだ。
 精神面で、アインハルトと同じになりかけたのは孤門の冷静な判断によって免れたといえる。
 孤門本人は気づいていないが、あと少し遅ければヴィヴィオもアインハルトと同じように此処から飛び降りていたかもしれない。
 そのうえ、背後から助けてくれる乱馬もいないから、彼女はその幼い体を固いアスファルトにたたきつける惨たらしい有様になってしまうわけだ。


「……行こうか、ヴィヴィオちゃん。アインハルトちゃんたちは、あかねちゃんたちが連れて来てくれるはずだよ」

「わかりました……」


 そう言って、ヴィヴィオは手を引かれるままに会議室に向かう。
 思えば、ここに来てからの9時間、色んなことがあったが、その間彼女は誰かに支えられ続けていた。
 そう、彼女はただひたすら守られるだけの存在だったのである。
 まだ誰かを守れていない。


(やっぱり凄いなぁ……乱馬さんは。……私も誰かを守るためには、乱馬さんに鍛えてもらわなきゃ……)


 今頃にゃーにゃー鳴きながらどっかをウロチョロして、二人の少女に追いかけられている男を知れば多少幻滅するかもしれないが、とにかく今、ヴィヴィオの中で乱馬の存在は輝いていた。
 他にも霧彦や祈里、孤門など色んな人への思いが憧れに変わっていく。


(でも、アインハルトさんが言ってたとおり、なのはママやフェイトママは……それに、スバルさんも……)


 そう、アインハルトはヴィヴィオの知る放送での死者のほかに、「スバルさん」という名前を出した。……それはきっと、スバルももうこの世にいないということなのだろう。
 だが、一方でヴィヴィオの中では新たな期待も生まれていた。


(……いや、もしかしたら今の私みたいに、アインハルトさんの勘違いなのかも……)


 そう、いままさに自分がアインハルトや乱馬の死を勘違いしたのと同じように、彼女の勘違いという可能性だってある。
 結局のところどうだかわからないが、とにかくその可能性も考えてみようとヴィヴィオは思った。


(まだわからない……それなら、信じる余地はあるかもしれない……)


 今はまだ、はっきり知らない出来事を飲み込むときじゃないと、彼女は思ったのだ。

313警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 01:03:01 ID:e5.VbpdM0

【1日目/昼前】
【F-9/警察署屋上】

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷、左腕骨折(手当て済) 、決意と若干の不安
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式×2(ヴィヴィオ、アインハルト)、ヴィヴィオのランダム支給品0〜1、山千拳の秘伝書@らんま1/2、アインハルトのランダム支給品1〜3個(アインハルトは確認済み、ヴィヴィオは未確認)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:まずは警察署の会議室に戻り、しばらく待機。
1:強くなりたい。その為にらんまに特訓して欲しい。
2:みんなを探す。
3:ママ達、無事だよね……?
4:スバルさん……?
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。


【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康、ナイトレイダーの制服を着ている
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:まずは警察署の会議室に戻り、そこでしばらく待機
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:姫矢さん、副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
3:溝呂木眞也やゆりちゃんが殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
4:相羽タカヤ、相羽シンヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
5:沖さん達が少しだけ心配。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。


★ ★ ★ ★ ★


 彼らの目の前には既に川があった。
 この川にかかる橋を渡れば、中学校はすぐだ。
 ただ、ここまで参加者と会わなかったところを見ると、街に集まった参加者は基本的にこの橋の向こう側にいるのだろうか、と沖は思う。だとするなら、危険人物もいるだろうから警戒が必要だ。


(俺を含む参加者の多くはこの街に来た……だとすると、大概の参加者は街に目が行きやすい。安全性を考えるなら、もしかすると森エリアに滞在するのも一つの手かもしれない……)


 沖はそう考えるが、森で生活というのもきついだろう。
 今後を考えると、やはり街エリアのほうが安定感は強い。
 何せ、祈里や霧彦、孤門やアインハルトのほか、主催にあだなす仲間が何人もここにいるのだ。
 だが、だからこそ好戦的な相手には目をつけられやすいかもしれないが……。


(とにかく、この橋を渡って向こうに行こう。美希ちゃんやいつきちゃんも急いでるようだし……)


 果たして、山吹祈里はまだあの中学校にいるのだろうか?
 そんな不安を抱えながらも、沖は二人を連れて橋に足をつけた。




【1日目/昼前】
【G-8/橋の前(警察署側の街)】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、強い決意
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:中学校に向かい、祈里と霧彦を警察署に連れて来る。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。
3:この命に代えてもいつきとアインハルトを守り、スバルを絶対に助けてみせる。
4:先輩ライダーを捜す
5:鎧の男(バラゴ)は許さない。だが生存しているのか…?
6:仮面ライダーZXか…
6:アクマロは何としてでも倒す。
8:ダークプリキュアをどうするべきか…
[備考]
※参戦時期は第1部最終話終了直後です
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時までに市街地エリアに向かう予定です。
※村エリアから東の道を進む予定です。(途中、どのルートを進むかは後続の書き手さんにお任せします)
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。

314警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 01:03:28 ID:e5.VbpdM0


【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、罪悪感と決意
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1
[思考]
基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す
0:中学校に向かい、祈里と霧彦を警察署に連れて来る。
1:沖一也、アインハルトと共に行動して、今度こそみんなを守り抜く。
2:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。
3:仲間を捜す
4:ゆりが殺し合いに乗っている場合、何とかして彼女を止める。
5:スバルさんをアクマロの手から何としてでも助けたい。
6:ダークプリキュアを説得し、救ってあげたい
[備考]
※参戦時期は砂漠の使徒との決戦終了後、エピローグ前。但しDX3の出来事は経験しています。
※主催陣にブラックホールあるいはそれに匹敵・凌駕する存在がいると考えています。
※OP会場でゆりの姿を確認しその様子から彼女が殺し合いに乗っている可能性に気付いています。
※参加者の時間軸の際に気付いています。
※えりかの死地で何かを感じました。


【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:中学校に向かい、祈里と霧彦を警察署に連れて来る。
1:今は孤門と市街地に向かい、みんなを捜す。
2:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。
3:プリキュアのみんな(特にラブが) やアインハルトが心配。
4:相羽タカヤ、相羽シンヤ、相羽ミユキと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。

315 ◆gry038wOvE:2012/08/15(水) 01:06:33 ID:e5.VbpdM0
以上、投下終了です。
修正点や問題点などの指摘をお願いします。

また、予約時に宣言したとおり、これで書けるパートがなくなり、自分は書き手への変身能力を失ってしまいましたので、今後しばらくは読み手として感想を送り、wiki更新などバックアップを務めさせていただきます。
書き手の皆さん、読み手の皆さん、どうか今後ともよろしくお願いします。

316名無しさん:2012/08/15(水) 01:28:09 ID:LOMTiTCIO
投下乙です!
なんとかなったようで最後の最後で迂闊なことに……下手したらサーチアンドデストロられるぞこれ……つか今近くに誰がいたっけ?

そして一足早くお疲れ様でした!丁度ライダーはそろそろ入れ替え時期だなぁ、なんて

317名無しさん:2012/08/15(水) 10:23:55 ID:srRmvZjI0
投下乙です!
一騒動起こるかと思ったけど、何とか収まったか……孤門隊員、どうかリーダーとして頑張ってくれ、
あと乱馬は猫拳発動したけど、近くには危険人物がわんさかいるぞw このままじゃやばそうだ……
ダグバ、ドウコク、ガドル、ランス……うん、どいつもこいつもやばすぎる。

318名無しさん:2012/08/15(水) 11:53:26 ID:LOMTiTCIO
>>317
こ れ は 酷 い
もうダメかもしれんな……無茶しやがって(AA略

319名無しさん:2012/08/15(水) 15:41:33 ID:ZJxH0ppM0
投下乙です

騒動になるかなあと思ったら案の定だぜw
とりあえずアインハルトが…と思ったら最後に猫拳発動とか不味いぞ。しかもあかねまで追いかけて行きやがった
それと学校に行く連中も下手したら…

320 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:46:58 ID:5ZcRRYho0
これより、予約分の投下を開始します。

321 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:48:09 ID:5ZcRRYho0
 屈強な鎧を纏った大男(声のトーンや喋り方から考えて)が振るう長槍を、佐倉杏子は両足を屈めることで避ける。そこから前に踏み出して、男の懐へ潜り込むと同時に杏子は槍で突きを放つが、装甲から金属音と共に火花が飛び散るだけでダメージになっているとは思えない。
 それならばと思いながら、同じ部分に三段突きを繰り出すものの結果は同じで、呻き声すら洩らさなかった。
 それでも杏子に諦めの文字はないので、力の限り槍を振り回し続けている。しかし相手も棒立ちで攻撃を受けているままではなく、二メートルは超えるかもしれない槍を頭上に掲げてきた。
 大気が薙がれる音を耳にしたのと同時に、杏子は反射的に飛び退って回避に成功する。槍の先端がコンクリートを軽々と破壊した直後、男は再度それを横薙ぎに振るってくるが、杏子は跳躍することで空振りに終わらせた。
 そこから数メートル程の高さまで跳躍した後、彼女は全身の体重を乗せて急降下をしながら槍の矛先を男に向けて、冷たい空気が全身に突き刺さる感覚を感じながら一気に叩き付ける。すると、重力によって増した威力の影響のおかげか堅牢に見える鎧からは火花が噴き出して、中にいる男は呻き声を漏らしながらようやく微かに後退した。

「ぐっ……!」
「まだまだぁ!」

 度重なる攻撃によって、亀裂が刻まれている部分に杏子は槍を突き刺す。
 相手がかつての師匠である巴マミの敵であるせいなのか、得物が振るわれる度に両腕の力が増していった。そして、男の姿がフェイトとユーノを殺したであろう怪物と重なって見えて、彼女の怒りが更に燃え上がっていく。
 もしかしたら、そこには数時間の自分に対する憂さ晴らしも混ざっているのかもしれないと、激昂しながらも杏子は考えるがすぐに振り払った。そんなことをここで考えても意味などないし、今はこの男を倒すことに神経を集中させるべき。
 杏子がその手に持つ槍を斜め右に振り下ろして装甲を斬り裂こうとするが、その一撃は相手の槍によって弾かれてしまい、けたたましい衝突音が鳴り響くと同時に杏子は体勢を崩した。
 この一瞬の隙を好機と見たのか、男はその槍で突きを繰り出そうとしてくるのを杏子は見る。長い間、数多くの魔女やその使い魔を倒してきた彼女は、経験により培われた勘でまずいと思うが、身体が言うことを聞かない。姿勢を正すにも回避行動を取るにも、男の方が早かった。

「たああああぁぁぁぁぁっ!」

 だが数秒後の未来を予測した直後、それは彼女にとっていい意味で裏切られることになる。
 キュアパッションに変身している東せつながロングタイツに包まれたしなやかな足で、杏子を串刺しにしようと企む男の巨体を一気に蹴りつけて仰け反らせたのだ。
 その細い足の何処にそんな力があるのかと杏子は思ったが、考えてみたら魔法少女も常人を遥かに超えた力を持っている。だから、プリキュアと言う戦士も馬鹿力があってもそこまでおかしくないかもしれない。
 キュアパッションのおかげでダメージを負うことはなくなった杏子は、すぐに体勢を立て直す。そんな彼女の隣に、命の恩人とも呼べるキュアパッションが立った。

「大丈夫、杏子!?」
「ああ、あたしなら問題ない! それよりも……」
「ええ」

 目を合わせたがそれはほんの一瞬で、彼女達は同時に前を振り向く。
 視界の先では、キュアパッションの蹴りによって吹き飛ばされた男が、まるで何事もなかったかのように歩いている姿があった。

「フッ、温い……温すぎる」
「何だよ、余裕のつもりか……!」
「やはり貴様らもあの小娘どものように、ただの蛆虫に過ぎないようだな!」

 嘲りに満ちた叫びと同時に、男はその身に放つ殺意を爆発させながら勢いよく突貫しながら、その手に持つ得物で突き刺そうと迫る。それを見た杏子はキュアパッションと同時に飛び上がりながら、自らの槍を一気に分離させて多節棍の形状への変えていき、眼下を通り過ぎた男の槍に絡めさせた。
 そのまま地面に着地した杏子は男の槍を奪い取ろうと渾身の力で引っ張るが、やはりビクともしない。一応、相手の動きを止めることはできたがいつ力負けをして、逆に吹き飛ばされてもおかしくない。
 だが、それは彼女も予想していた。

「今だ!」
「わかったわ!」

322 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:48:52 ID:5ZcRRYho0
 そのまま杏子は隣にいるキュアパッションに振り向くことなく、大声で叫ぶ。
 彼女の真の目的を察したのか、キュアパッションは韋駄天の如く男に向かって疾走し、勢いよく拳を叩き付けた。彼女の攻撃は一度だけに終わらず連続で巨躯を揺らして、その度に大気が振動する轟音が鳴り響き、威力が如何に高いかを物語っている。
 キュアパッションの叫びが鼓膜を刺激する中、男から伝わる力が弱くなっていくのを感じた杏子は両腕を振り回して、槍を奪い取った。そのまま頭上で一回転させた後、男の巨大な槍を少し離れた道路に放り投げる。
 遠投した相手の武器に目もくれず、キュアパッションが放った正拳突きによって男が後退するのを見て、杏子は走った。
 いくら男が馬鹿力を持っていたとしても、武器を無くしてはその戦力は減少する。無論、あんな大きな拳で殴られては痛いで済まされないかもしれないが、それでもチャンスが出来たのなら活かさない手はない。
 男は狼狽したような声を仮面から漏らしながら案の定、キュアパッションに殴りかかる。だが彼女は素早く跳躍したことで軽々と避けながら一回転をした後、胸部に蹴りを叩き込んだ。
 その反動で再び飛んで地面に着地したキュアパッションと入れ替わるように、杏子は力強く槍を振るう。幾度にも渡る攻撃の甲斐があってか、胸部の傷は確実に深くなっていたがそれでも崩壊する気配は感じられなかった。
 だが、それなら無理に壊すつもりはない。いつ打ち破れるのかわからないのに、同じことを続けていても無意味なだけ。

(上手く行くかどうかはわからねえけど……やってみるか!)

 そう心の中で告げながら槍を振るった後、杏子は背後に飛んで男と距離を取る。
 数メートル離れた直後に、男は激昂しながら突っ込んできた。だが杏子に取ってそれは予想通りで、次の瞬間には男の足元に赤い鎖を出現させて、巨体を微かに躓かせる。
 それを好機と見た彼女は、男の勢いを止める為に次々と鎖を出して、頑丈そうな装甲を縛りつけた。たった一人で行う拘束はそれなりに効果があるようだが、やはりフェイトとユーノを殺した怪人のように、長時間止めるのは不可能かもしれない。
 もしも一人で戦っているのなら一時しのぎにもならないだろうが、今は隣に協力してくれる奴がいる。

「歌え、幸せのラプソディ! パッションハープ!」

 振り向くと同時に、キュアパッションは活力に満ちた声を発しながら、いつの間にか手にしたハート型の赤いハーブを奏でていた。
 聞く者全ての心を和ませそうな優しい音色が響くが、杏子は穏やかになれずそれどころか怒りすら湧き上がっていく。

「てめえ、こんな時に何をやって――!」
「プリキュア! ハピネス・ハリケーン!」

 しかし杏子の叫びが完全に紡がれる直前、キュアパッションの言葉に合わせるように、凄まじい輝きがパッションハープという楽器から発せられた。その眩しさに思わず半目になってしまった杏子は、光の中心でキュアパッションがその身を大きく回転させるのを見る。
 すると、パッションハーブから発せられた光輝は分離していき、純白の羽や小さなハートへと姿を変えていって、槍に拘束されて動けなくなった男を勢いよく飲み込んだ。

「はあああああぁぁぁぁぁっ!」

 そのままキュアパッションはパッションハーブを持つ手を真っ直ぐに伸ばして、円を描くように動かすと光はより激しくなって、一瞬の内に爆発した。
 その眩さを前に、杏子は勝ったと確信する。魔女を軽く吹き飛ばしてしまいそうな光の竜巻を受けては、どんな奴だろうと負けるに違いない。
 暴れまわるエネルギーの余波に両足で耐える杏子の中に、新たなる希望が生まれていた。

「やった……のか?」

 真っ赤な光が収まり、風が落ち着いてきた頃に杏子は思わずそう呟きながら、キュアパッションの方に振り向く。
 見ると、彼女は息を切らせながらも膝を崩すが、それでも落ちないように耐えているようだった。やはり、いくら強靭な肉体でもあれだけの相手では、かなり消耗するのかもしれない。
 だから倒れる前に急いで駆け寄って、キュアパッションの身体を支えた。

「おい、大丈夫か!?」
「え、ええ……ありがとう。私なら、大丈夫だから」
「たく、見てられねえな……あたしがいなかったら、今頃あんたは死んでたぞ」
「あはは……ごめんね。でも、それは杏子も同じじゃない?」
「……そうかもな」

323 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:50:18 ID:5ZcRRYho0
 微笑みを向けるキュアパッションは、杏子の身体を支えにしてゆっくりと立ち上がる。
 減らず口を叩くその姿に、思わず杏子は安心感を抱いていた。それと同時に、最後まで強がっていたフェイトとユーノの事も思い出してしまい、針で刺されたような痛みを胸に感じる。
 もしも、せつなともっと早く出会えていたら二人が死ぬことはなかったのかもしれないが、IFの可能性を考えていても仕方がない。
 何よりもまだ、終わっていないのだから。

「あんた、まだ立てるよな?」
「大丈夫だって……それに、まだ終わってないのだから」
「そうだよな」

 もくもくと立ち昇る煙の中からは、未だに衰えない殺意が感じられる。それが意味するのは、大男が生きていること。
 頑丈なのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。だがそれなら、マミやせつなの仲間であるキュアピーチという奴の分まで叩きのめせばいいだけ。
 そう思いながら槍を握りしめたが、その瞬間に粉塵から光が放たれるのを杏子は見てしまった。

「なっ……!? おい、飛ぶぞっ!」

 キュアパッションからの返事を待たず、杏子は全神経を回避に集中させて跳躍する。その直後についさっきまで立っていた地面が、凄まじい轟音と共に爆発した。
 足元から伝わってくる衝撃によって杏子の身体は吹き飛び、視界が大きく揺れていく。そんな中でも彼女はキュアパッションの姿を探すが、目の前が眩い光に飲み込まれてまともに見えることがなかった。
 視覚と同じように彼女の悲鳴も無慈悲な爆発に飲み込まれていくが、それに気づく者は誰もいない。
 ただ、爆発が続くだけだった。





 煙の中から飛び出した閃光の嵐に飲み込まれたキュアパッションは、灼熱によって焼け焦げた全身を駆け巡る痛みに耐えながらも、ゆっくりと身体を起こして佐倉杏子を探す。
 しかし周りに見えるのは瓦礫の山と、大量の煤煙だけで他には何も見えない。風が吹いてくれれば視界も安定するだろうが、それまでの時間すら彼女には惜しかった。

「っ……杏子、大丈夫!? 杏子っ!」

 何とか立ち上がりながらも杏子の名前を呼ぶが、返事はない。
 まさか、彼女はやられてしまったのか。巴マミという人を始めとしたたくさんの人と同じように、彼女を助けられなかったのかという暗い感情が、キュアパッションの中で生まれていく。
 ナケワメーケ達とはまた違う正体不明の敵はキュアピーチと戦い、マミの命を奪ったと言っていた。マミの命を奪って杏子を悲しませたことに憤りを覚えるが、今はそれどころではない。
 キュアパッションは、慎重に目を配っていた。この煙に紛れて、不意打ちを仕掛けてくるかもしれないから下手に動くのは危険。しかし、このまま敵の動きだけに集中していたら杏子も危ない。だから、いつまでもこうしているわけにはいかず、次第に焦燥感が強くなっていた。
 一体、どこから敵が現れるのか……そう思った瞬間、瓦礫が崩れる乾いた音がして、キュアパッションは反射的に振り向こうとする。
 しかしその直後、煙の中を切り裂くように、巨大な拳が勢いよく飛び出した。

324この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:52:23 ID:5ZcRRYho0

「ッ!?」

 反射的に両腕を交差させてガードの体制に入るが、それだけで防げるような一撃ではなく、めきりと両腕の骨が軋むような音を鳴らしながら、彼女は軽々と吹き飛ばされてしまった。
 キュアパッションは悲鳴をあげるが、それだけで終わらない。宙を漂う彼女に追い打ちをかけるかのように、辺りの建物を破壊した光が再び発射された。
 受け身を取る暇も、アカルンを発動させる時間的余裕もない。レーザーはキュアパッションの身体を容赦なく焼いて、凄まじい激痛を生んでいく。通り過ぎていくまでの数秒間、彼女の悲痛な叫び声が発せられるが、呆気なく掻き消されてしまった。
 それからすぐに、全ての光はキュアパッションを通り過ぎて、新たに建物をいくつも破壊していく。だが、それに気を止める余裕など彼女にはなく、ただ力なく地面に倒れるしかなかった。

「これだけで終わると思うな」

 それからすぐに、あの男の声が耳に響いてキュアパッションの意識が急激に覚醒する。
 そのまま顔を上げようとした直後、片手で首を掴まれてしまい、勢いよく持ち上げられてしまった。
 同時に甲冑を纏った男の姿を捉える。キュアパッションは拘束から逃れるために蹴りを叩き込むが、力がまるで入らずに弱々しい音が響くだけに終わった。しかも、パッションハーブも手元から零れ落ちているので、必殺技を放つこともできない。
 だが、そんな彼女の事情など関係ないとでも言うように男は唐突に跳躍して、それに伴ってキュアパッションの身体も空に引き上げられていく。
 まずいと思ったキュアパッションは必死に足掻くも、男の握力は凄まじくて振り解けない。

「落ちろ、小娘!」

 そして男は50メートルを超える高さから、キュアパッションを乱暴に投げ飛ばした。すると彼女は成す術もなく、空中で錐揉み回転をしながら一瞬で大地に叩きつけられてしまい、コンクリートが砕かれる鈍い音が辺りに響く。
 普通の人間ならば、落下によって身体は原形を留めずに崩壊していたかもしれない。しかし、強靭な肉体を持つキュアパッションは生きていた。
 だが、凄まじいダメージが全身を蹂躙していて、動こうとしても激痛がそれを邪魔をしている。それでもキュアパッションは立ち上がるため、表情を顰めながらも力を込めようとした瞬間、上空から降ってきた槍が右腕に突き刺さった。

「うっ、ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 耳にするのも苦痛になるような悲鳴と共に鮮血が溢れ出して、コスチュームを彩る赤が更に濃さを増していく。その喉から発せられた叫びが自分自身のだと理解した直後、まるで隕石でも落下したような衝撃がキュアパッションの背中に襲いかかる。
 それが急降下をした男による攻撃だと察する暇もなく、地面もろとも突き刺さっていた槍が無理矢理引き抜かれて、血液が噴水の如く噴出し始めた。
 自分の中から水分と熱が流れ出ていくような苦痛が全身に広がりつつあるが、それでもキュアパッションは男を睨みつけようと顔を上げる。だがその視界が相手の姿を捉える直前、肉が磨り潰されるような音が耳に響いた。
 そして、左脇腹から伝わる痛みによって仰け反ったキュアパッションは両目を見開き、その口から夥しい量の血を吐き出してしまう。そして、地面に散らばっている生臭い液体を見て、彼女は刺されたことを察した。

「あっ……あ、あ、あ……」

 度重なるダメージと失血によって声も小さくなっているが、それでもキュアパッションは何とか痛みを堪えて意識を保っている。

「哀れだ、実に哀れだな……テッカマンである私に出会わなければ、まだ命が伸びていただろうに」

 今にも命が燃え尽きてもおかしくなかった彼女の耳に、嘲笑の声が届いた。
 そして、その中に含まれていたテッカマンという単語を聞いて、キュアパッションは何とか顔を上げる。

「テッカ、マン……? まさか、あなたはタカヤさんと同じテッカマン……なの?」
「ほう、貴様はブレードの仲間だったか……そうだ。私の名はテッカマンランス……冥土の土産にこの名を聞けたことを、光栄に思うがいい」

 テッカマンランス。相羽タカヤのかつての仲間であり、相羽シンヤと共に宇宙生命体ラダムに支配されたモロトフという男が変身するテッカマン。
 つまり、ラダムの意思によって望まない戦いを強いられている人。ラブを襲った上にマミの命を奪ったのは許せないが、それでもこの手で助けなければいけなかった。

325この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:53:05 ID:5ZcRRYho0

「モロ、トフさん……」
「何?」
「どうか、こんなことは……もう、やめてください……タカヤさんだって、本当は望んでません……どうか、昔のあなたに戻って……」

 こんな説得が通じる相手とは思えないのはキュアパッションも理解しているが、それでも最後まで諦められない。
 今のテッカマンランスは……いや、モロトフはタカヤや結城丈二の言うように話し合いで解決するような相手ではなく、ノーザと同じ倒さなければならない敵であるのはわかる。
 だけど、やはりいがみ合ったまま終わらせるなんて嫌だった。

「何を言い出すかと思えば、命乞いですらない下らない言葉とは……キュアパッションと言ったか? やはり貴様も、あのキュアピーチとかいう小娘と同じ愚か者だったか……貴様如きが生きている価値などない、この私が引導を渡すことを感謝するがいい」

 ランスの持つ槍が高く掲げられていくのを見るが、キュアパッションにはもうどうすることもできない。
 背中が踏まれていて身動きが取れず、痛みのせいで身体に力は入らなかった。ここからアカルンを使ってワープをしたとしても、この傷ではすぐに死んでしまう。
 みんなを助けるためにもここで倒れるわけにはいかないが、立ち上がるための方法が何も思い浮かばなかった。

(ラブ、美希、ブッキー……みんな、どうか生きて……それとお父さんにお母さん……ごめんなさい)

 この残酷な世界に連れて来られた友達みんなと、こんな自分を娘と認めてくれた両親の顔が脳裏に浮かぶ。
 もしも、私が死んでしまったらみんなは絶対に悲しむはずだった。人々を守る使命を持つプリキュアが誰かを悲しませるなんて、あってはいけないのに。
 それでも、みんなの無事を祈るしかなかった。

(杏子は……無事かな? 生きていてくれたらいいなぁ……)

 そしてキュアパッションは、一緒に戦ってくれた杏子のことも思い出す。
 可能性が低いのはわかっているが、せめて彼女だけでも無事でいて欲しい。彼女ならいつか、ラブ達と一緒に魔法少女の力を正しく使ってみんなの幸せを取り戻してくれるはずだから。

「死ね……!」
「やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 巨大な得物がギロチンの如くキュアパッションに振り下ろされようとした瞬間、ランスの動きは止まる。
 それに疑問を抱く暇もなく、聞き覚えのある叫び声の方にキュアパッションが振り向いた先では、あの佐倉杏子がいた。
 それも一人だけでなく、三人も。痛みのあまりに錯覚を見ているのかと思うのと同時に、現れた杏子達はランスに攻撃を仕掛けてきた。

「何っ!?」

 三人の杏子が同時に槍を叩き付けたことによってランスは後退してしまい、キュアパッションはようやく解放される。
 何故、いきなり杏子があんなに増えたのかという疑問が湧きあがっていくが、それを言葉する暇もなくキュアパッションの身体は再び持ち上げられた。
 誰、なんて口にすることはない。意識は徐々に薄れていくものの、それでも姿だけははっきりと見えたのだから。

「杏子……」

 キュアパッションを抱えながら走っているその少女は、無事を願っていた佐倉杏子その人だった。

326この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:54:04 ID:5ZcRRYho0





 巴マミと同じ魔法少女である佐倉杏子がいきなり増えたのには流石のテッカマンランスも驚いたが、だからといって不利になるわけではない。
 恐らく、分身の術に等しい技を使ったのだろうが、やはり戦闘力は元の杏子と同じ。そんな奴が三人増えたからとはいえ、ランスにとっては虫けらの数が増えた程度にしか思えなかった。
 左右からそれぞれ迫る杏子達は同時に槍を振るうが、ランスはテックグレイブと自らの腕だけで軽く受け止める。普通の刃物より鋭いのは確かだが、テッカマンにとってはなまくらに等しい。
 勢いを止めてから渾身の力を込めて弾き返し、そのままテックグレイブを横に一閃させて二人纏めて両断した。鮮血が吹き出すことはないが、その代わりに霧の如く杏子の姿は消えてしまう。
 しかしそれに大した関心も寄せず、ランスは最後の一人に振り向いた。もう後がないと悟ったのか、無謀にも突っ込んでくる彼女は槍を掲げてくる。
 だが振り下ろされる直前、テックグレイブで突きを繰り出してその華奢な体を貫き、跡形もなく消滅させた。

「フン、他愛もない……所詮、小娘は小娘に過ぎないということだ」

 そう語りながら息を整えて辺りを見渡すが、誰もいない。
 恐らくあの杏子と言う小娘は、分身を囮にしてキュアパッションと共に逃げたのだろう。だがあんな小物どもをわざわざ追いかけ回すのも、それはそれで馬鹿馬鹿しいだけ。あれだけ痛めつけたのだから、巴マミのように勝手に死ぬだろう。
 やはり慢心さえしなければ、プリキュアと魔法少女は充分に圧倒できる相手だ。油断をしなかったからこそ、わざわざボルテッカを使うこともなく勝てている。
 だが、終わったことをいつまでも悔やんだ所で仕方がない。それよりも今は、このエリアにいるブレードにメッセージを伝えるのが最優先だった。
 小娘どもがブレード達と合流して、自身のことを話されてはたまったものではない。奴がブラスターテッカマンへの進化が可能となっているなら、また敗北してもおかしくなかった。

『どんな手を使おうとも、多人数で挑もうとも構わん!!
 この俺……破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バに挑むがいい!!』

 そして、三人の杏子が現れてから途切れ途切れに聞こえてきた大声が、ようやく止まる。
 戦いによる咆哮や轟音でほとんどが掻き消されている上に、音源が遠かったせいでまともに聞こえなかったが、ランスの耳には確かに届いていた。
 恐らくあのゴ・ガドル・バとかいう名の小物も、自分と同じように拡声器でも使って蟻どもを呼び出しているのだろう。
 ならば、ブレードの後に始末してやればいい。相当な自信があるのだろうが、テッカマンには遠く及ばないことを教えてやろう。
 そう、テッカマンランスは心の中で呟きながら、テッカマンブレードを探すために足を進めた。


【1日目/朝】
【H−8 市街地】

【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、強い苛立ち、ランスに変身中
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0〜2個(確認済)
[思考]
基本:参加者及び主催者全て倒す。
0:一刻も早くタワーにいるタカヤに会う。
1:市街地に移動して拡声器を使い、集った参加者達を排除。
2:ブレード(タカヤ)とはとりあえず戦わない。
3:プリキュアと魔法少女なる存在を皆殺しにする。
4:キュアピーチ(本名を知らない)と佐倉杏子の生死に関してはどうでもいい。ただし、生きてまた現れるなら今度こそ排除する。
5:ゴ・ガドル・バという小物もいずれ始末する。
[備考]
※参戦時期は死亡後(第39話)です。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
※ボルテッカの威力が通常より低いと感じ、加頭が何かを施したと推測しています。
※ガドルの呼びかけを聞きましたが戦いの音に巻き込まれたので、全てを聞けたわけではありません。

327この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 07:58:09 ID:5ZcRRYho0





 まだ理想に燃えていた頃、あのテッカマンランスという奴に殺された巴マミと一緒に特訓した末に会得した、ロッソ・ファンタズマという名の魔法。もう二度と他人のために使わないと決めていたはずなのに、佐倉杏子は感情任せに使ってしまった。
 命が徐々に尽きていってしまうキュアパッションの姿が、自分一人を残して死んでしまった家族のみんな、それにフェイトやユーノと一瞬だけ重なって見えてしまう。普段ならそんなことあるはずないし、使う訳もない。
 だけど、杏子は封印したはずの魔法を使って、キュアパッションを連れて必死に走った。

「おい! しっかりしろよ、おいっ!」

 その甲斐があってか、ランスの元から逃げ出すことに成功したが、状況が良くなっている訳ではなく、時間の経過と共に悪化している。
 腕の中でぐったりとしているキュアパッションの呼吸は既に弱弱しくなっていて、青白くなった唇からはゆっくりと血が流れていた。風穴の空いた脇腹や腕から流れる血の勢いは止まる気配を見せず、杏子の衣服や地面を容赦なく汚していく。
 あんな槍に刺されては、骨や臓器も無事でいる訳がない。魔法少女である自分ならまだしも、人間が変身するプリキュアがそんなダメージを受けたら致命傷になるに決まっている。

「くそっ……何か、何かないのかよ!?」

 戦場から離脱する際に確保しておいたデイバッグの中を杏子は漁るが、傷を治せるような道具は何一つ見つからない。自分達のサイズに合いそうにない胴着を引き千切って包帯代わりにしても、止血にすらならないだろう。
 まだ微かに息があるとはいえ、長くないのは明らかだった。殺し合いの場には病院なんてものはないし、ガイアメモリを使った胡散臭い男のような医者もこの場にはいない。
 しかも、逃走の最中に焦って左翔太郎や相羽タカヤのいる風都タワーから離れてしまったので、誰かに頼るのも不可能。
 マミや美樹さやかのように癒しの魔法さえ使えれば可能性があったかもしれないが、杏子の得意分野は幻覚や幻惑なので、そんな力はなかった。
 つまり、キュアパッションを……東せつなを救う手段を、杏子は何一つ持ち合わせていなかったのだ。フェイトやユーノの時のように、彼女を見殺しにするしかないと悟った瞬間、頭部がハンマーで殴られるような錯覚に陥ってしまう。

「杏、子……ゴホッ!」

 そんな中、肝心のキュアパッションはぼんやりとした瞳でこちらを見上げながら口を開いた瞬間、血を吐き出してしまった。

「喋るんじゃねえ、傷に響くだろ!」
「……もう、いいの。私はもう、長くないから……」
「そんなこと言ってるんじゃねえ! てめえは……せつなは、あたしの事が心配じゃなかったのかよ!? あたしが心配なら、弱音なんか吐くなよ!」
「ごめんね、私が弱いせいで……杏子を、苦しめることに、なって」
「謝るな、謝るんじゃねえよせつな! 今、あたしが何とかしてやるから待ってろ!」

 震えるキュアパッションの手を力強く握りしめながら杏子は叫ぶ。
 無論、どうにもならないのは杏子が一番よくわかっていたが、納得などしたくなかった。
 だから必死に嘘を言い続けたが、そんなことをしたって死への運命を変えられるわけがない。慰めにすらならない、無意味な行動だった。

「ねえ、杏子……」
「だから、喋るなって……!」
「やっと……呼んで、くれたね……」

 どうにかしなければならないと思いながらも方法が浮かばず、ただ制止を促すしかできない杏子の言葉が、そんなキュアパッションの言葉に遮られてしまう。

「……えっ?」
「ありがとう……せつなって、名前で呼んでくれて……」
「何で、何でありがとうなんて言うんだよ……あたしは、あんたに感謝されるようなことなんかしてないのに……何で?」
「だって、最後に私の名前を呼んだから……このまま名前を、呼んでくれなかったら……ちょっとだけ、寂しかったけど……もう、心残りは、ない……かな? それに、友達が……一緒に、いるし」
「と……友達?」

 いつの間にか柔らかい微笑みを向けているキュアパッションに対して、杏子は呆けたように呟いた。

328この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 08:00:11 ID:5ZcRRYho0

「友達って……まさか、あたしのこと……なのか?」
「決まってる、でしょ……他に、誰がいるの……?」
「何で、何であたしなんかがせつなの友達なんだよ……あたしは、せつなを……!」
「だってあなたは……モロトフさん、から……私を助けて、くれたでしょ……それにあのままじゃ、ラダムに支配されて望まない戦いを、させられているあの人を……もっと、悲しませるかも、しれなかった……それに、杏子が私を逃がしてくれたから、私は最後に杏子と……話が、できた」

 息も絶え絶えになっているが、それでも必死に紡がれるキュアパッションの言葉を杏子は黙って聞くしかない。このまま、邪魔することなど杏子にはできなかった。
 キュアパッションはこの期に及んで、自分自身よりも他人のことを心配している。しかも、こんな身体にまで追い込んだランスや、何もできない自分のことを。
 本当なら恨むべきなのに、それどころか心配や感謝をしている。こいつは……せつなはどうしようもないくらいお人好しだった。

「あんたさ……だったら尚更、最後だなんて言うなよ」

 だからこそ、杏子は許せなかった。マミ達みたいな正義の味方でありながら、生きることを諦めようとするキュアパッションが。

「あたしの友達なんだろ……だったらさ、あたしを置いて勝手に死ぬなよ! せつなは、あたしと一緒にやりたいことがあるんだろ!? なあ!」
「いっぱいあるよ……でも、杏子がそばにいてくれるから……私は、悲しくないよ」
「悲しいとか悲しくないとか、そんな話じゃねえ! せつなは良くても……友達のキュアピーチって奴はどうなるんだよ!? せつなが死んだら、悲しむに決まってるだろ!」

 杏子自身、激情のあまりに何を叫んでいるのかがわからなくなってくる。
 叫び声に導かれて、危険人物が寄って来るかもしれないと言う思考は今の彼女にはない。ただ、キュアパッションに対して湧き上がってくる胸の蟠りを爆発させるしかできなかった。
 そして、杏子の感情をひたすらぶつけられているキュアパッションは僅かに咳き込んだ後、苦笑を浮かべながら変身に使ったアイテムを手に取る。
 するとキュアパッションの全身は赤い光に包まれたが、ほんの一瞬で元の東せつなの姿に戻った。

「せ、せつな……?」
「杏子……ラブや美希、それにブッキーって呼ばれてる祈里って子の事……お願いね」

 そして震える腕で差し出されたそれを、杏子は両手で取る。
 見た目はちょっと変わった形状の携帯電話なのに、異様なまでに重く感じられた。魔法少女の力を自分勝手に振舞うためだけに使った自分には、プリキュアが使うアイテムを握る資格などないと、一瞬だけ思ったため。
 しかしそれでも、手放してはいけないような気がした。

「アカルンは……きっと、あなたの力になってくれるはずだから……」
「な、何を言ってるんだよ……?」
「どうか、誰も憎まないで、みんなを助けて……大丈夫、優しい杏子なら……絶対に、できるはずだから……」
「待てよせつな! 勝手なこと言ってるんじゃねえよ! せつな……せつなっ!」
 
 杏子は必死に叫び続けるが、せつなは相変わらず微笑み続けるだけ。
 それが納得できず、ひたすら身体を揺さぶりながら名前を呼び続けるが、その努力を裏切るかのように瞼がゆっくりと閉じていく。
 そのまま、糸の切れた人形のように項垂れてしまうまで、時間は必要なかった。

「せつな……せつな……せつなああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 佐倉杏子は叫ぶが、市街地に空しく響くだけ。
 また、死なせてしまった。フェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアの次は、東せつなだった。 
 もう、彼女が目覚めることはない。どれだけ杏子が呼び続けても、せつなが答えてくれることは永遠になかった。


【東せつな@フレッシュプリキュア! 死亡確認】
【残り43人】

329この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 08:03:15 ID:5ZcRRYho0





 時間を少しだけ遡る。
 サラマンダーと名乗った男が行った放送の内容は、姫矢准にとってあまりにも受け入れがたい事実だった。
 自分が血祭ドウコクという怪物を追跡している間に、既に十八人もの人間が命を落としている。その中には加頭順に反旗を翻した、本郷猛という男も含まれていた。
 孤門一輝や西条凪、それに石堀光彦の名前は呼ばれなかったが、だからと言って喜ぶことなどできるわけがない。この力がありながら、溝呂木眞也のような冷酷な奴らの思い通りになっているのが悔しかった。
 だが、悔やむことは姫矢には許されない。今はドウコクを何とかしなければならないのだから。

「シンケンブルーも十臓の野郎も死んだか……ハッ、殺す手間が省けたみたいだな!」

 そして肝心のドウコクは、知り合いの名前が呼ばれても感傷に浸る素振りを見せない。それどころか、むしろ喜んでいるようにも見えた。
 やはり、この怪物は危険だった。いくら加頭順の言葉に従わないとはいえ、放置していたら簡単に犠牲者が増えてしまう。

「ドウコク、ちょっといいか」
「何だ姫矢……今更怖気づいたのか?」
「そうじゃない、少しお前について気になったんだ……協力する以上、相手のことも知らなければならない。俺も、俺について出来る限り話す……だから、ドウコクもできる限り知っていることを話してくれないか?」

 チームを組むにおいて基本中の基本とも思えることを、姫矢は口にした。
 あまりにも単純な方法だが、これ以外にドウコクを落ち着かせる方法が思いつかない。無論、全ての情報を簡単に渡してはこちらが消されるだけだから、タイミングを計らなければならないが。
 見る者全てを震え上がらせるような恐ろしい顔面は動く気配はない。しかし、全身から放たれる凄まじい殺気は、ほんの少しだけ和らいだように感じられた。

「面倒だがそれも悪くねえ。いいだろう、特別に……」

 だが、ようやく芽生えた小さな希望は、次の瞬間に響いてきた轟音によって、呆気なく吹き飛ばされた。
 何事かと思い振り向いた先では、数メートル先の建物が崩れ落ちていくのが見えた。盛大な爆発音と共に繰り広げられていく破壊は、幾度も訪れた戦場の光景を嫌でも思い出させてしまう。

「ほう? あそこで暴れてる野郎がいるみたいだな……面白ぇ」

 トラウマにも等しい残酷な思い出に浸る時間は、姫矢にはなかった。
 ドウコクはあの爆発に興味を引かれているのか、こちらのことなどまるで関係無いとでも言うように歩を進めている。

「待て、ドウコク! まだ話は終わってない!」
「そんなのは後回しだ。戦いが起こってるなら、俺もそれに加わる……面白え奴がいるなら、下僕にしてやるだけだ」
「しかし……!」
「ゴチャゴチャうるせえ野郎だ」

 姫矢の答えを遮るかのように、ドウコクはその手に持つ刀をいきなり向けてきた。

「腰抜けが……言ったはずだ、俺は殺りたい時に殺るってな。てめえの指図は受けねえ……邪魔をするなら、てめえから斬る」

 それだけを言い残したドウコクは刀を下げた後、デイバッグを姫矢の足元に放り投げる。

「姫矢、てめえは荷物の番でもしてろ……これが最後の警告だ。もし、次に俺の邪魔をするなら容赦はしない……覚えておけ」

 そして、ドウコクは崩れ落ちた建物に向かって走り出した。
 その脚力はやはり普通の人間を大きく上回っていて、あの溝呂木に匹敵するかもしれない。建物の屋根を伝って飛ぶドウコクはすぐに見えなくなるが、それでも姫矢は諦めずに走り出した。
 もしもあそこに孤門のような人間がいたら、取り返しのつかないことになりかねない。そんな焦燥感が、駆け抜ける姫矢の中に湧き上がっていく。

330この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 08:04:44 ID:5ZcRRYho0
「せつなああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 しかしそれからすぐに、何処からともなく少女の叫び声が響いたことによって、彼の足は反射的に止まった。
 思わず周囲を見渡しても、声の主はどこにも見られない。しかし、近くにいるのは確かだった。
 何があったのかは知らないが今からでも駆け付けて、場合によっては保護しなければならない。

(まずいな……せめて、ドウコクが人を殺さないのを祈るしかないか)

 戦場に向かうドウコクを放置するのは確かに危険だが、今は少しでも助けられる命を助けなければならなかった。
 そんな言い訳をする自分自身に後ろめたさを感じるが、それを振り払って必死に走る。
 進む度に嘆きの声が強くなっていき、姫矢は走るペースをどんどん上げた。そして、散々嗅ぎ慣れた生臭さが鼻を刺激して、最悪のシチュエーションが脳裏に過る。
 そうして角を曲がった瞬間、彼は絶句してしまった。

「なっ……!?」

 それは現実と認めるには、あまりにも残酷すぎる光景だった。
 まだ中学生にしか見えない少女が、同じ年代と思われる少女を抱えて項垂れている。しかも、抱えられている少女の身体からは夥しい量の血液が流れていて、一目見て死人だと理解できた。
 それにも関らずして、まるで心の底から満足したような笑みを浮かべている。それが姫矢には納得できず、こんな年場もない少女を執拗に痛めつけた犯人への憤りを抱いた。
 だが、ここにいない犯人のことを考えても仕方がない。今は、生存者であるもう一人の少女を、守らなければならなかった。

「君、大丈夫か!?」

 姫矢が呼びかると、赤毛の少女は微かに身体を震わせながら振り向き、両腕の中で眠る少女を守るように抱える。
 名前も知らない少女が向けてくる、警戒心と不安が混ざり合ったような複雑な表情を見て、余程酷い目に遭ったのだろうと姫矢は考えた。
 友達を失ってしまった少女のために、自分は一体何が出来るのか? その答えを求めている姫矢准は、東せつなの遺体を抱える佐倉杏子と視線を交錯させていた。

331この想いを… ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 08:05:20 ID:5ZcRRYho0
【1日目/朝】
【G−8 市街地】


【姫矢准@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康、罪悪感
[装備]:エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式×2、魔導輪ザルバ@牙狼、箸袋コレクション@超光戦士シャンゼリオン、ドウコクのランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:今は目の前の少女(佐倉杏子)から話を聞く。
1:人や街を守り、光を持った者としての使命を果たす
2:ドウコクと共に行動する(ただし、場合によっては同盟を破ることも辞さない)
3:孤門やTLTの者と合流する
4:溝呂木を倒す
[備考]
※参戦時期はダークメフィストとの最終決戦直前です。
※制限によりストーンフリューゲルの召喚、メタフィールドの発現は禁止されています。
※ドウコクを自分が戦ってきたビーストと同種とは考えていませんが、未知の生物の総称としてビーストと考えることにしました。
※ザルバが意思を持っていることに気づいていません。
※ザルバを入れているケースは、耐水・耐衝撃・耐爆などの特殊加工がされています。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ソウルジェムの濁り(大)、自分自身に対する強い疑問、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、姫矢への警戒
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×2、伝説の道着@らんま1/2、ランダム支給品0〜2、リンクルン@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:????????????
0:誰だ……?
1:自分の感情と行動が理解できない。
2:翔太郎に対して……?
3:あたしは本当にやり直す事が出来るのか……?
4:美樹さやかも参加している……?
[備考]
※魔法少女まどか☆マギカ6話終了後からの参戦です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※魔法少女の身体の特性により、少なくともこの負傷で死に至ることはありません。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。


【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:健康、少し苛立ち
[装備]:降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:まずは崩れ落ちた建物(H−8エリア)の方に向かう。
1:姫矢と行動し、首輪を解除できる人間やシンケンジャーを捜す
2:姫矢も邪魔をするようならば容赦はしない
3:昇竜抜山刀を持ってるヤツを見つけ出し、殺して取り返す
4:シンケンジャーを殺す
5:加頭を殺す
6:アクマロも殺す
7:もしも姫矢がまた腑抜けた態度を取るなら、その時こそ斬る。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※ザルバが意思を持っていることに気づいていません。
※ブラストショットは姫矢の支給品だと思っています。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※支給品を姫矢に預けました。

332 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/16(木) 08:05:50 ID:5ZcRRYho0
以上で投下終了です。
疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。

333名無しさん:2012/08/16(木) 10:36:32 ID:ukaxZ.Wg0
投下乙です。
せっちゃん、最後まで敵との和解の道を探ったか…元ラビリンスから仲間になった彼女ならではなだよなぁ。
ランスがこんなに活躍するロワはたぶん、後にも先にもないだろう。ドウコクが来たからもう終わりだろうけどwwww
こんなに御大将の活躍を望む瞬間はないwwwww
しかし、戦闘中だったためにあんまりガドルの呼びかけをちゃんと聞いてる人いないんだな。
でもまだ次の呼びかけ(ガドルVS霧彦)があるし、あとはそれ聞くかどうかか…。

334名無しさん:2012/08/16(木) 10:46:06 ID:Wwq69k32O
投下乙です!おかしいな、俺の知ってるランスさんは幼女にボコられたりプロの傭兵にちょっかい出して必中熱血のガトリングガンで消し炭にされたりするヘタレなんだが……つか閣下への小物発言は完全にブーメランだろw

335名無しさん:2012/08/16(木) 12:32:11 ID:mEQBt5p20
投下乙!
ありゃあ、せっちゃんここで退場か
すぐ近くにブッキーやmktnがいたけど出会えなかったか
それにしてもこのランスさんいい仕事するなあw
あと杏子の消耗度がだいぶやばい
ブレードたちが上手いことダグバからソウルジェムを奪ってくれれば…

336名無しさん:2012/08/16(木) 15:59:43 ID:ukaxZ.Wg0
そういえばこれで寿司屋とパッションの共闘は見られなくなってしまったな
寿司屋カワイソス

337名無しさん:2012/08/16(木) 19:07:01 ID:Wwq69k32O
>>335
それやとダグバがQBと契約してまうw

338名無しさん:2012/08/16(木) 20:25:30 ID:mEQBt5p20
間違えたww
グリーフシードだw

ダグバ「君はボクを笑顔にしてくれるのかい?」
QB「君の願いは聞き届けられた。今日から君は魔法少女だ!」


魔法少女ダグバ☆マギカ始動!

339名無しさん:2012/08/17(金) 03:33:08 ID:5qZLyTkc0
ソウルジェムのおかげでむしろ勝ち目が出てくる件

340名無しさん:2012/08/17(金) 10:43:45 ID:Ew0DiUE.0
魔法少女は基本不利だよな

341名無しさん:2012/08/17(金) 13:34:55 ID:Le5H6FgMO
魔力使い過ぎても心理フェイズで折れても、当然普通にSG割れても即死とこれで有利になれって方が……

というか生命線なGSが初期支給品にないと結局ジリ貧で導かれる

342名無しさん:2012/08/17(金) 17:11:08 ID:O5PFl/2A0
心理が折れる前に戦闘でバーサーカー状態になればいいと思うよw
もっともその時の相手は誰になるか知らないがw

343名無しさん:2012/08/17(金) 23:29:41 ID:UOPwo8iU0
それはさやかちゃんの役目じゃないか

344名無しさん:2012/08/17(金) 23:38:08 ID:Ew0DiUE.0
いま生き残ってるキャラだとシンヤ、克己、京水、杏子の四人が開始時点から若干不利だよな
開始時点でろくに戦えないシンヤ、酵素が必要な克己と京水、ソウルジェムとかいう爆弾持ちの杏子

345名無しさん:2012/08/18(土) 00:27:49 ID:ymmJOJ4U0
むう、ルール読み直したがメモリーメモリは支給不可なのか
「記憶」に関連するキャラは割と多かったのだが。これも新規書き手の宿命か

346名無しさん:2012/08/18(土) 01:32:19 ID:waJx82BYO
>>345
さじ加減の難しいアイテムだしなぁ、変身制限のないこのロワなら尚更

347名無しさん:2012/08/18(土) 11:27:35 ID:PIg7.B420
変身リストを見ると、オリ変身はWのライダーやドーパントが多いな
本人以外が変身できるのが少ないのもあるけど
一条クウガ、あんこパッション、あんこネクサス、ダークムーンライト、結城絶狼とかできるのかな?

348名無しさん:2012/08/18(土) 11:29:10 ID:05zoIG0w0
有利不利言うなら変身したら逆に弱くなるらんま勢が一番アレじゃないか

349名無しさん:2012/08/18(土) 12:56:13 ID:tseYHCkk0
ウルトラマンネクサスの序盤で凪が「どうしてビーストは市街地を襲わないのか」みたいなこと言ってたが、ニコニコ大百科の記事に書いてあった理由がリアルでワロタww

350名無しさん:2012/08/18(土) 13:38:08 ID:PIg7.B420
らんま勢は上の四人とベクトルが違うじゃん
らんま勢は他のアイテムで変身すれば間違いなく最強クラスになるし、生体機能に欠陥があるわけじゃない
外道、魔法少女、NEVERは戦闘外で死ぬようなリスクがあるから不利なんじゃね

351名無しさん:2012/08/18(土) 16:25:08 ID:fFsrGZFw0
ただらんまらが素直に変身するかと言われたらしないかもな
乱馬は天邪鬼、あかねは追い詰められたらするかな

352名無しさん:2012/08/18(土) 17:15:00 ID:J6Z4DRng0
今まで格闘技はおろか筋トレすらしたことなさそうな涼村暁が、変身でそこそこ戦えて怒りで大幅パワーアップした事を考えると
らんま勢はライダーに変身したら相当凄そうだわなあ
でもまあ言い出したらキリが無いけど、変身後の身体能力ってそれぞれ人間では本来扱えないスペックであって
元の握力が30kgだろうが100kgだろうが大した違いじゃないような気がしなくもないけど
パンチ力10tだったり、ジャンプ力100mだったりするしね

353名無しさん:2012/08/18(土) 19:47:49 ID:waJx82BYO
>>352
てかライダーのレベルでもスペック差なんて目安にしかならないわけで、技の一号がそう呼ばれる理由だし

354名無しさん:2012/08/18(土) 20:21:27 ID:PIg7.B420
>>352
暁はジロウの回でジョギングとか腕立てとかしてたし、普段からしてたんじゃね?
女の子にモテるための努力はするけど、暑苦しいスポーツはやらないみたいな

355名無しさん:2012/08/18(土) 22:23:30 ID:J6Z4DRng0
改めてライダーの能力ぐぐってみたら、差があり過ぎわろた
なるほど、目安にしかならん

>>354
そうだったっけ…ジロウの回は覚えてるけど流石に細かい所は忘れてしまったな

356名無しさん:2012/08/18(土) 22:36:16 ID:PIg7.B420
スペック通りならブレイダーも結構強かったような…
あいつもパンチ力が35tだっけ?
スペック通りならスーパー1が爆チートすぎて他全部が話にならなくなる

357名無しさん:2012/08/19(日) 23:49:46 ID:uzKVpadY0
このロワって何気に把握難易度高くね?
50話あるような作品はザラだし、設定も作品が好きじゃないとわからないくらい複雑なのがある
らんまも明らかに巻数が長いし、シャンゼはそこそこ古いうえにレンタルがない…
参戦してない作品やゲーム版を見ないとわからないような話や設定があるし(ライスピとか)

358名無しさん:2012/08/20(月) 01:01:06 ID:dhEQ/EUQ0
難易度高いね
だからこそ今いる書き手さんに期待

359名無しさん:2012/08/20(月) 08:59:16 ID:h5yhAMCM0
テスト板の過去ログを見てみると、らんまとフレプリはかなりギリギリで参加圏内に潜り込んだみたいだな
票数ギリギリで、最後の票が入ったのが投票終了の5、6分前とは…

そういえば、例のシャンゼリオンの公式配信、遂に黒岩回が来るみたいだな!
ちなみにニコ動には彼の「知っているか!」のまとめがある

360名無しさん:2012/08/20(月) 15:45:50 ID:fxPr7y3g0
しかも参戦二度目以降のキャラばっかり死んでいくから余計に他ロワ読んだくらいじゃ把握できない
なのは組、まどか組、本郷、三影、照井、冴子、霧彦、十臓、五代、ゴオマ…

361名無しさん:2012/08/21(火) 09:06:03 ID:VNItAfdM0
ツッコムところがあるが
参加者動向表いらなくないか?
参加者名簿に動向表あるのだから

362名無しさん:2012/08/21(火) 10:17:05 ID:vDzteL.k0
>>361
全員分参加者名簿に移転し終えたようなんでメニューから消しておいた

現在死亡者の分の本編動向更新中。
死亡者全員分更新できるかは怪しいけど。
後の方の死亡者になればなるほど説明が大変で面倒だからな〜
他のロワなんかにある死亡者名鑑なんかとほとんど同じようなものだから称号もつけてみようかと考えてるんだけど

363名無しさん:2012/08/21(火) 11:53:21 ID:p1Lv09GM0
>>361
色々と試行錯誤してる最中で変にページとかいっぱい作ってしまってすみません…。
動向表は一部のページ(らんま、フレプリ)だけ偏って重くなるので、この際だから各参加者に振り分けました。
今後も使いやすい&見やすいようにテンプレやページ名を変えてくかもしれませんが、既に記述された内容の削除はするつもりはありませんのでご安心を。

まとめの方がいましたら、お手数ですが動向表のページを削除してもらえると助かります(ご迷惑かけてすみません)。

364名無しさん:2012/08/21(火) 12:01:14 ID:p1Lv09GM0
>>362
称号とかも確かにいいかもしれませんね。
このロワには死亡者名鑑もないですし。

一応、他に考えていることというと…
・ネタバレ表示の上は他のロワのように各キャラの一人称や能力などのデータを入れる
・他参加者との関わりも他のロワのようにわかりやすい表にすべきか、踏破区域とかも必要か

単体でのページでも重くなるかな、これだと…。

365wiki管理人:2012/08/21(火) 12:36:25 ID:HyvdwW460
依頼された動向表のページ削除完了致しました。
また、重複等で不必要になったページの削除の際はご連絡下さい。

366名無しさん:2012/08/21(火) 14:10:06 ID:p1Lv09GM0
>>365
乙です。ご迷惑かけてすみません。

367名無しさん:2012/08/22(水) 22:54:33 ID:wbr7QYdQ0
予約ルールの変更について報告します。

・既に何処かのロワで3回以上作品が通ってる書き手の予約期間は5日に変更。延長は2日まで。
 新規の方は今まで通り、3日+2日です。
・一度予約をして投下した場合、次の予約をするのは24時間経って問題点が指摘されなかった場合のみ。
 投下から24時間経って初めて次の予約が可能となります。

368名無しさん:2012/08/23(木) 08:11:41 ID:jweOjDLY0
>>367
あれ? 議論スレのログ読んだけど、これって

>既に『何処かのロワ』で3回以上作品が〜
これは他所での実績という意味じゃ無く、ここで3回以上作品が通ったらっていう意味じゃないの?
他の所で何回SS通っても、ここでは関係無い様な気もするけど

多分、SS通ったら期限を長くする事を認めるって言った書き手2人も、他の所でSSが通ったらっていう意味じゃ無くて、ここでSSが通ったらっていう意味で言ったんだと思うけど?

369名無しさん:2012/08/23(木) 09:22:47 ID:4nMr1K6U0
じゃあ「何処かのロワ」→「変身ロワ」でいいかな?

370名無しさん:2012/08/23(木) 09:34:25 ID:.6rIR9Ig0
>>369
議論スレに書き手の1人がそういう意味合い(変身ロワで3回以上作品が〜)で言ったというコメントあったからそうだと思う。

371名無しさん:2012/08/27(月) 02:08:26 ID:Yukq1us20
予約来てた

372名無しさん:2012/08/27(月) 12:19:10 ID:RgOCObgUO
ゆりちゃんはもう詰んだかこれ?

373 ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:52:41 ID:o5d6buTg0
ただいまより、投下を開始します。

374花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:53:27 ID:o5d6buTg0

 人の歩行を、初めてこう記す。

 ──それは鋭い歩みだった、と。

 ダークプリキュアの体は傷だらけであるにも関わらず、これでもう一時間近く歩みをやめていない。
 ただ、その全身から溢れる気迫は、見る者を唖然とさせるほどであった。
 今まで彼女にはなかった想いが芽生え始めているゆえ、モヤモヤとした感情に囚われて、その苛立ちが歩き方や表情にしっかりと出ている。
 まるで地面に突き刺さるような細い足を、勢いよく前に出しているので、ただ歩いているだけでもなんとも鋭い印象を受けた。
 行動そのものに、刃物のような切れ味がある。意味がわからないかもしれないが、彼女の歩みはそれだけ近寄り難いのだった。





 この深い森の中で、私はキュアムーンライトを探している。
 NEVERの男が変身する白い戦士との戦いで随分と時間を食ったが……まあいい。
 私にとっては、キュアムーンライトと戦うことが今の指針。この殺し合いでは当然勝ち残るつもりだが、この目標だけは譲れない。他人にこの戦いを譲るわけにはいかないのだ。
 ただ、今現在のキュアムーンライトの状況が状況であるだけに、私も妙な気持ちに囚われる。


 既に奴が死んでいるのではないかという一点が私を震わすのだ。


 そうすれば私はこの闘争心をぶつけることも、幾つもの問いの答えを知ることもなくなる。そのうえ、仮にキュアムーンライトを生き返らせたとして、NEVERなるものにされてしまっては、戦う意味も何もない。
 ただ、私はこの奇妙な震えが、そうした今までの私の考えとは違うものなのではないかと思い始めていた。
 今まで、こんなに体が震えたことはないのだ。
 ましてや、他人が死ぬかもしれないと思って震えるなど……。



「キュアムーンライト……もうこの近くにはいないか……。NEVERの相手をしている間に遠くに行ってしまったようだな……」



 私が周囲を見渡しても、月影ゆりの姿はない。
 ……これだけ捜しても近くにいないというのだから、この付近にはいないのだろう。
 見落としているだけとも思えないし、あれだけ身長が高ければ相当目立つはずだ(しかし、その点ではダークプリキュアも人の事を言えない)。
 仕方がない。
 まあ、とにかくまた適当にその辺りをうろうろ歩くことになるのだろう。見かけた相手も今は奴以外無視だ。基本的に体力を使いたくは無い状態にある。

375花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:54:06 ID:o5d6buTg0


 私は手元にある変身道具を見つめた。ココロポット、それにプリキュアの種だ。
 プリキュアの種は、欠片の状態になっている。
 そのプリキュアの種の状態を見ると、私は不思議な気分になった。
 本来、私が持っている欠片はこちら側ではないはずだ。だから、見慣れている方と逆の割れ方をしたこの種が新鮮だった。
 これをまじまじと見つめるのは初めてのことになる。

 何故、私が今これを持っているのか。
 それを突き止めても、きっとわからないだろう。
 これを潰せばキュアムーンライトを倒す絶好の機会となるにも関わらず、どこか嬉しくは無かった。
 今まで捜していた相手のものがあるにも関わらず、その当人がいないというのももどかしい。


 ザクッザクッザクッ。


 不意に、近くで落ち葉の踏まれる音が耳を打った。
 振り返ると、そこには見たことのある奴────NEVERの男が周囲を見回しながら小走りをしていた。
 私は奴がこちらを向く前に、羽を縮め、身を屈めてその場に隠れた。どうやら、辛うじてこちらには気づいていないらしいが、やはり鉢合わせたくない相手だ。


 …………もうここまで来ているのか。


 先ほど気絶まで追い込んだはずであるにも関わらず、もう平然と散策を始めている。さすがはNEVERというべきか、本人の言うとおり、なかなかタフだ。
 ……そういえば、奴も急いでいると言っていたが、確かにそんな様子に見える。
 今度こそ、彼も私の相手をしている暇はなさそうだ。
 しかし、私こそ、うかうかしてはいられない。


 とにかく、奴も動いているということは早々にキュアムーンライトに会わなければならないということだ。


 変身道具を取り戻せば、キュアムーンライトもまだ善戦する可能性が僅かながら存在する。
 少なくとも、あんな状態で会わせられるわけがない。
 一方的に嬲り殺されるだけだ。


 ……………………………。


 ……どうやら、NEVERの男はもう行ったらしい。
 あちらの方向は先ほど、私も既に捜索済みだ。見つかることはないだろう。

 キュアムーンライトも手のかかる奴だ。
 これだけ捜しているのに現れないというのだ。
 このまま村の方向に向かうのは考え直すか……?

 そうした方がおそらく良いだろう。奴も私やNEVERの行動を読んで、村側を避けた可能性がある。
 少なくとも、気配がある感じがしないのである。
 とにかく、私はNEVERの男を避けるようにして、全く逆方向へと歩いていった。



★ ★ ★ ★ ★

376花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:55:04 ID:o5d6buTg0



 俺はいま、情けなくもダークプリキュアに敗れて走っていた。
 ダークプリキュアの奴は、ふざけた事に、キュアムーンライトから奪った交渉材料を奴は取り返しにきやがった。
 ……まあ、油断した俺にも問題はあっただろう。

 だが、奴の行動が原因で、キュアムーンライトは逆に危険な状況になってると言っていい。
 キュアムーンライトを見つけたらすぐに殺して奪う。そういう風に思考を変えただけだ。
 何としてでも、ダークプリキュアより先にキュアムーンライトを見つけ出し、奴がまだ弱いうちに殺せばいい。
 少なくとも、こちらにエターナルがあるうちはまだ安全だ。
 ダークプリキュアも、そのうち殺そう。

 …………奴の事を考えるより、自分の心配をした方がいいに決まってるな。
 あの酵素だけは、どういう形であれ手に入れなければならない。京水が近くにいれば、それはそれで構わない。
 あいつは俺のモノだ。だから、当然俺のために酵素を分けてくれるだろう。
 その後で、京水と共にあの姉妹をブッ殺せばいい。

 そうすりゃ、こちらも万全だ。



 …………ん?
 今、後ろから何か音がしたか? 誰がいるのか?
 俺は振り向こうとしたが──
 ────いや、待て。振り向いたら、こっちが気づいてるっていうことまでバレる。
 奇襲にせよ、俺から隠れたにしろ、こっちが知っている分は有利だ。
 奇襲を仕掛けてきたところを殺したほうが、相手の準備が薄くてラクになるし、成功すると信じて襲ってきたヤツの首を掻くことの方が面白えに決まってる。


 通り過ぎたフリをしてやろう。
 追いかけて来るようならブッ殺す。
 来ないようなら、こっちの好き勝手にやればいい。
 一応、キュアムーンライトである可能性も考えて、姿の確認だけはしておくべきか。


 …………。


 どうやら、隠れただけらしいな。俺を追ってくる気はねえし、もう後退してやがる。ただの臆病者か。
 俺はそいつの方を見たが、その時はさすがに驚いた。
 そこにあったのはダークプリキュアの奴の姿だ。通り過ぎたと思って、もうあの目立つ羽を掲げてやがる。


 どうする?
 ああ、勿論、追うに決まってる。
 奴がキュアムーンライトの変身道具を返すっていうなら、それは絶好のチャンスだ。
 その時が一番の狙い目となる。
 姉妹揃って相手することもできるわけだ。



★ ★ ★ ★ ★

377花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:55:44 ID:o5d6buTg0



 …………私は、あれからかれこれ数分歩いていた。
 どうやら、思ったよりも早く、他の参加者に遭遇することになったらしい。
 マップで言う、「グロンギ遺跡」という場所の近くだ。
 確かに人の気配を感じた。


「……そこにいるのは誰だ?」


 私は問う。木の陰に隠れているのは、子供だ。
 具体的な年齢は? と聞かれてもわからない。私は人間と同じように成長してきたわけではないし、姿がはっきり見えないからだ。
 とにかく、木の後ろから少し見えた頭から推測される背丈が、私の腰と胸の間あたりであるとは思えた。


「出て来い。……さもなくば殺す」


 私はそう言って脅す。子供一人襲うことに抵抗などあるわけもない。
 とにかく、私は機械的に参加者を潰していきたいのだが、そこにいる子供から、まず情報を得たかった。
 このあたりでキュアムーンライトを見なかったか。
 その質問にさえ答えれば、肯定であろうとも否定であろうとも今は見逃そう。相手をするほどの者ではない。


「……」


 子供は答えない。
 私の問いへの答えを躊躇っているらしい。
 まあ無理もないだろう。力を持たない人間が姿を出すのを躊躇うのは当然だ。
 こういう状況でなければ、間髪入れずに襲っている可能性は高い。


「素直に出てくれば危害は加えん。姿を現せ!!」


 私は怒鳴った。
 少なくとも、殺し合いの場でそこまで子供一人に拘る必要もないだろう。
 だが、重要な手がかりを得られる可能性もある。無視するよか、相手にして質問だけさせてもらったほうがいい。


「……わかったわ」


 その台詞は、かなり高く聞き取りにくかった。短い言葉だったので聞き取れた、というくらいだろう。質問は、「はい」か「いいえ」か、それだけ簡潔に答えてもらわなければ会話もできそうにない。
 ……木の陰から子供が顔を出す。

 ────!?

 その顔、その髪、その雰囲気が、私の目に映るなり、私は思わず声をあげた。


「お前はっ!?」

「月影ゆり……キュアムーンライトだった者よ」


 ……その子供が、そう、答えた。
 私は、その言葉を一字一句聞き逃さず、しっかり耳に入れた。
 確かに、彼女の姿は私の知っている者とは明らかに違ったのだ────つい数時間前に私が戦ったはずのキュアムーンライトとも、その後でNEVERの男と交戦していた月影ゆりとも。
 だが、それが彼女であるのは私にはわかった。おそらく、他のプリキュアや奴の知り合いが見ても、その容姿で気づくだろう。
 帯びている雰囲気は、どう見ても彼女である。月影ゆりとこんなに似通った相手がいるとは思えなかった。
 ……私はそれをどこかで感じていたのだろうが、どうしても否定せざるには負えなかった。

378花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:56:27 ID:o5d6buTg0


「嘘をつくなっ!!」


 私が激昂しても、彼女は一切動揺しない。
 子供離れした冷静さは、それが只の子供でないと告げていた。
 私が襲った街では、子供はただ泣き喚き逃げるだけの弱い生物。
 このように激昂されて平然とできるわけがない。


「だいたい、お前がキュアムーンライトだというのなら、その姿はなんだっ!!」

「長々と説明する気はないわ。……とにかく、私はあなたを倒さなければならない。予定が狂ったけど、仕方がないわね」


 ゆりはバードメモリを取り出す。どうやら、それで変身して戦う気らしいが、勝敗は見えている。
 この子供がカイジに変身したところで、私に勝つことはできまい。普段私と互角の戦いをするキュアムーンライトは、これより遥かに成長した姿だ。
 ……いや、勝てないことは奴とてわかっているはずだ。


「……待て! キュアムーンライト。今は貴様と戦うよりもまず、聞いておきたいことがある」

「…………何かしら?」


 奴はメモリを握る手を緩め、行動を止めた。
 どうやら、命が消えるのを先延ばしにしたいらしい。
 その事に対する憤りは止まない。
 いっそ、こんな無様な「月影ゆり」はこの手で醜く殺してしまいたいほどの激昂だった。
 だが、私はそんな心を鎮めて訊く。


「……何故殺し合いに乗った?」

「私も聞きたいわ。何故あなたがその事を知っているの……? だいたい、そんな事は、あなたには関係がないはずよ」

「関係がないだと!? お前は死んだ人間を蘇らせたいはずだ! NEVERの男との会話を聞いたから全て知っている」


 私は冷静に話しているつもりだったが、相手の言い分が全く聞こえていない。
 今にも怒りで我を忘れてしまいそうだった。
 これはもう、私の知っているキュアムーンライトではない。
 私が倒すべき相手はもうこの世にはいないのではないかと、そう思ってしまうほどに別人だった。


「お前が蘇らせたいのは、一体誰なんだ?」

「…………」

「何故、黙る! お前が蘇らせたいというのは、父か!? 母か!? それとも──────」


 その先は出てこない。
 何だか、はっきり言いたくなかったのである。
 キュアムーンライトの様子が明らかに不自然だったから、そこから先に私が言おうとしたことこそ真実なのが、わかってしまった。
 だが、それでも認めたくないので聞いている。


「答えられないわ。……それを答えたら私はきっと、あなたを倒すことができなくなる」


 私は眉を顰める。
 仲間を殺し、私を襲っておいてそう言うのか。
 どうしてそれを答えれば殺せなくなるのか────その意味さえ、私にはわからない。
 答えはわかっている。だが、それを答えたところで殺すのに支障はないはずだろう?

379花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:57:49 ID:o5d6buTg0


「…………ならせめて、これだけは教えてくれ、キュアムーンライト。お前は私が知るより未来のキュアムーンライトではないか?」

「…………」

「お前の仲間は、私に気になる事を教えた……。未来の私たちは、一体どういう関係なんだ!?」


 純粋な興味などではなく、確実に知っておきたかった。
 今まで、私はサバーク博士やキュアムーンライトの事しか興味がなかったはずなのに、ここで知る真実が増えるたびに自分の事が知りたくなる。
 この答えこそ、私の命、私の人生なのではないか。

 キュアサンシャインが、あのNEVERの男が、私とキュアムーンライトの関係を何と呼んだのか。
 そして、NEVERの男が直前に会っていたのは誰か。


「……その口ぶりだと、私が語らなくても……あなたはもう全部、知らされているみたいね」

「まだ、……まだ私は全ては知らない」

「……でも、そこまで知っているのなら、私はあなたに残りの全てを告げなければならない。でも、本当は、あなたには何も知らないで欲しかった……。あなたには何も知らないまま死んでもらって、もっと幸せな命を授けてあげたかった……」


 彼女は、物憂げにそう呟いた。
 彼女が次に口にする言葉を、私は知っている。
 だが、それが推測でなく、キュアムーンライトの口からしっかり確定することを待ちわびているのに、このまま時間が止まって真実から目を背けたい気持ちも揺れ動いた。

 それでも、時間は止まらずに、キュアムーンライト────いや、


「あなたは、私の妹よ」


 ────私の姉は、そう告げた。



★ ★ ★ ★ ★



 俺の目の前で女が二人グダグダと話している。
 位置的にも遠すぎて、その内容ははっきりとは聞き取れない。……ダークプリキュアと喋ってる相手は、随分と身長が小さいようだが一体誰だ?
 こっからじゃ、木が邪魔で全く見えねえな。
 だが、少なくともあれは月影ゆりじゃなさそうだ。あいつのもっと身長は高いはず……。
 あれじゃあ、どう見ても子供だろう。


 …………とは言うが、流石に少し気になった。
 あのダークプリキュアが話しているような相手だ。キュアムーンライトと関係がある可能性は否めない。
 少し違う角度に回ってみるか……?

 相手の姿は見えた方がいい。
 後ろの遺跡も気になるが、そんなものは酵素を手に入れてからだ。
 奴の持つ酵素がとことん気にかかる。


 仕方ねえ。
 やっぱりあのガキが見えるようにしないと何もわからなそうだ。
 あのガキがキュアムーンライトの情報を持ってるって可能性も高い。
 ダークプリキュアも何やら尋問じみたことをしてるみたいだしな。


 俺は、その木陰からもっと別の角度にある木陰の方に向かって行った。



★ ★ ★ ★ ★

380花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:58:22 ID:o5d6buTg0


 私の目の前で、ダークプリキュアは地を叩く。
 尖った岩が露出している地面だったので、少し気にかけたが、彼女はその岩より強く地を叩いていた。


「……何ということだ。何のための戦いだ…………姉妹同士が血で血を洗う戦いをしてきたというのか……!?」

「……そうなるわね。サバーク博士の正体は私の父さんだった。……そして、あなたもサバーク博士の娘……」


 私は、ダークプリキュアに自分の知っている限りのことを告げる。彼女は、自分たちの関係を知って、一体どう行動するのだろう?
 ……少なくとも、告げた時点で私は彼女を殺せそうになくなった。
 彼女はこれを告げられた時点で、自分の姉に殺される運命にならなければならない。
 いつの間にか姉になっていた身とはいえ、家族であることを意識した相手を殺すことはできなかった。


 そう、ここに来る少し前……私は彼女を殺してしまったのだ。
 あれは私が殺したと言っても過言ではない状況だった。だから、姉妹と殺し合う運命の辛さはわかっているつもりだった。
 そんな辛さを背負うのは、私だけでいい。
 今は知らぬ間に死んでもらって、もっと幸せな運命のある「月影家」の子として新たな命をあげたかったのだ。


「……それじゃあ、お前が蘇らせたい相手というのはサバーク博士か……! つまり、サバーク博士は……!」

「そう、死んだわ。デューンという男に殺された。……でも、私が必ず生き返らせてみせる。……そのために……私は……」


 私はやはり、殺しあわなければならない運命にある。
 そして、ここまで話してしまった以上は、尚更私は彼女を殺し合わさなければならない。
 ……これを聞いた彼女はもしかすれば、サバーク博士のために殺し合いに乗ってしまうかもしれない。
 孤独に戦ってきた私は、つい仲間を欲してしまったのかもしれない。彼女が一緒に戦ってくれれば、それだけ私たちの願いは叶うと心のどこかで思ってしまったのだろう。
 …………でも、やっぱりそれだけはやめてほしい。
 茨の道を歩くのは私だけでいい。
 棘で体を痛めるだけの道を歩いて、倒れないうちにゴールまで走り抜けるのは私だけ。
 ダークプリキュアはその先の光で待っていてほしいのだ。
 ……まあ、現時点でその光があるのかも現時点では怪しいが、もう信じるしか道はない。

 ダークプリキュアが少し躊躇って口を開く。


「……それが本当なら私はどうすればいい……。サバーク博士のためにお前を倒すことこそ、私の生きがいなのだ! サバーク博士も死ぬ! お前との戦いも無意味なものだった! それなら、私に生きる意味はないのか……?」

「そんなことないわっ! あなたが私に敗れた時も、父さんはあなたを自分の娘と呼んで抱きしめたの! 父さんは本当は、あなたにも辛い宿命なんて負わせたくなかったはずだから……あなたは普通の女の子として生きることだってできるのよ!」


 私は本気で激昂する。
 馬鹿なことを言い出した妹を叱咤するのは、こんな気持ちなのでしょうね。
 でも、今は7歳の姿……威厳があるかどうかはわからない。
 ただ、思いさえ伝わってくれればいい。


「……父、さん……?」


 ダークプリキュアはそれだけ呟いた。以前の散り際のような安らかさはない。
 その言葉を覚えたての赤子のように、自信なさげな一言だった。
 しかし、だからこそそんな姿を見守ることができて嬉しかった。私は彼女が生まれてからの成長課程を見ていないのである。

 ……私はその時、ふと、ダークプリキュアの手元に見覚えのあるものが乗せてあることに気がついた。
 どうしてか。
 仮面ライダーエターナルに奪われたはずのココロポットとプリキュアの種である。
 ずっと握り締めていたのか、この子は……。

381花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 16:58:52 ID:o5d6buTg0


「……ねえ、それは……」

「ああ、そうだ。お前に、これを────」

「どうして? これは仮面ライダーエターナルが奪ったはず……もしかして、彼から取り戻したの?」


 そう聞くと、ダークプリキュアは少し俯いた。


「…………ああ。キュアムーンライトとなったお前と戦うため、だった」


 ……そうか。彼女はもう、そう思うようになるまで心を成長させていたのか。こうして俯くのも、私を付けねらうことと関連づけられた理由だったからだろうか。
 とにかく、父さんはダークプリキュアの心の無い人形と呼んだが、彼女の心は確かに育っていたのだろう。
 父の愛を求めたのも、それゆえだったのだ。


「とにかく、これはお前のものだ……受け取れ」


 とはいえ、まだダークプリキュアはこの調子。
 姉妹として見るには、まだ少し学習が足りないらしい。……まあ、突然の事だったから無理もないか。
 突然、目の前の敵に自分たちが姉妹だと告げられても、そう易々と受け入れられるわけが無い。


「私はお前に妹だと言われてもまだ……はっきりと確信は持てない……。だが、私と戦う時は、それを使って戦ってもらわなければ張り合いもないからな」


 私は、ただ彼女の奪い返した「それ」を受け取ろうと手を前に出した。
 彼女はそれを渡すときに屈まなければならない。到底、私が姉とは思えない状態だ。


 ─────────その刹那


 白い風が、私たちの前を横切った。



★ ★ ★ ★ ★



 どうなってるのかはわからねえが、どうやらあれは月影ゆり……キュアムーンライトらしい。
 随分と変わり果てた姿だ。俺も区別がつかなったくらいだ。こうして別の角度からアイツを覗いて初めてそれに気づいた俺はすっかり驚いている。
 もしかすれば、あれはメモリの力かもしれない。……まあ、そんな事には興味はないが。
 今なら殺せそうだが、そう簡単に不意打ちするとダークプリキュアが厄介だ。

 先ほど交戦したときは随分仲の悪い姉妹に思えたが、ここでの二人は随分普通に会話している。
 ……まあ、要するに片方が危機に陥ればもう片方がパニックになりかねないわけだ。
 俺からしてみれば、ダークプリキュアという奴のが強かったが、エターナルに変身して襲撃すればこっちのもんだ。


『エターナル!』

「変身!」

『エターナル!』


 俺の体はエターナルメモリの作り出した白い装甲に包まれる。
 仮面ライダーエターナル。俺のもう一つの姿で、奴等の変身アイテムを奪う。厳重に所持している以上、直接デイパックを奪うのは難しい。
 要するに、あれがダークプリキュアの手から月影ゆりの手に渡る瞬間を狙えばいいわけだ。


「踊るぞ、地獄のパーティータイムだ」


★ ★ ★ ★ ★

382花咲く乙女(中編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:00:07 ID:o5d6buTg0


「仮面ライダー…………エターナル!」


 ゆりがそう叫んだとき、私の手から既にココロポットとプリキュアの種は消えていた。
 ゆりが向いている方に顔を向けると、そこには先ほど交戦したNEVERの戦士が立っている。
 その手に、二つの道具を乗せて。


「久し振りだなぁ、元・キュアムーンライトにダークプリキュア!」

「……どういうつもり? こんな状態の私からそれを奪う必要は無いはずよ」


 ゆりは、それでも淡々としている。少なくとも子供になった状態で、これ以上戦力を奪う必要はないはずなのだ。
 そう、今すれ違う際に、あのナイフでゆりを殺すことだってできたのである。
 とにかく、我々に危機が及んだ状況であるのは確かだった。


「俺が用があるのは、コイツじゃねえ。お前が背負ってるそのデイパックだ」

「……何?」

「その中には俺の大事なモノがその中に入ってるんでなぁ。……要するに、これを引き換えに渡しゃあいいだけの話だ。危害を加えに来たわけじゃねえ」


 NEVERの戦士とゆりがにらみ合う。
 私はゆりの前に出た。相手が変身した状態である以上、警戒は必要だ。
 ゆりは変身できる状態ではないし、取引なしに奪われる可能性はある。
 つい数十分前まで宿敵の真柄であったとはいえ、このまま殺されては癪だし、心も収まりがつかない。
 姉妹としてならば、殺すのも躊躇する。宿敵としてならば、こんなところで死なすわけにはいかない。第一、この敵には色々な恨みもあったから余計にゆりを殺させるわけにはいかない。


「……いいわ。但し、まずはあなたも変身を解きなさい」

「いいだろう」


 NEVERの白い戦士は腰に巻いたベルトを外して変身を解き、黒いジャケットの男に戻った。
 顔は険しいが、警戒しているというよりは、比較的落ち着いていたような感じである。
 奇妙な自信を感じる。


「さあ、そいつを渡せ。中身はちゃんと入ってるんだろうな?」


 どうやら、ゆりが必要な支給品をデイパックの中に入れていない可能性を危惧しているらしい。
 だが、一方のゆりは、それに応答する。


「……何が必要なのかわからないけど、手をつけてはいないわ」

「わかった。まあ信じてやる。さっさとそこに置いて二人とも後ろに下がれ」


 私は少し後ろに下がった。ゆりは地面にデイパックを置いて、後退しているようである。
 この男から目を離さぬように、私はゆりの様子を察して退いた。
 男は、私が後ろに下がるのとほぼ同じ間隔で前に歩いて来る。


「ほう、……確かにしっかり入ってるな」


 そして、デイパックの所にたどり着くなり、デイパックの中身を開けて中身を探った。
 中身を見て、彼はニヤリと笑ったようだった。目当てのものが中に入っていたらしい。
 男は私に向けてココロポットとプリキュアの種を投げた。


「さあ、交渉は終わった……! ってことは、今から敵同士だ」


 そうして、男はまたベルトを巻き、例のガイアメモリという道具をそこに填める。
 加頭とは別の使い方をしていたということに、私は今になり気づいた。

383花咲く乙女(中編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:00:49 ID:o5d6buTg0


「変身!」

『エターナル!』


 なるほど。私にココロポットとプリキュアの種を投げ返したのは、私に一瞬の隙を作るためであり、ゆりに戦わせぬためだったのだ。
 本来、一対一なら変身道具を返しもしなかったに決まっている。
 とにかく、これが返って来たのは幸いだ。本来、奪われなければ一番良かったのだが。
 ゆりが高い声で、しかし冷静に感想を述べる。


「……そんな事だろうと思ったわ」

「全くだ。今は協力するぞ、キュアムーンライト!」


 私はすぐにココロポットとプリキュアの種を、まとめてゆりに投げ渡した。小さい姿になろうと、プリキュアになることに問題はないはずだろう。
 戦闘力はかつてに比べれば遥かに下がるだろうが、変身していれば防御力は今よりマシになるだろう。
 受け取ったゆりは、高らかに叫ぶ。


「プリキュア! オープンマイハート!」

「させるかっ!」


 変身が完了したNEVER────いや、エターナルがゆりに向けてナイフを投げたが、私はそれを空中でキャッチする。
 しかし、それはあくまで私に向けて隙を作る為の行動だった。エターナルは、それをキャッチした私の眼前で高く舞い上がり、上がった右手の脇から回し蹴りを放つ。
 私は一瞬何が起こったのかわからなかったが、私の体はそのまま吹き飛んだらしい。そして、そのまま私の右手に掴まれていたナイフまで奪ってしまう。


「月光に冴える一輪の花! キュアムゥゥゥンライトッ!!!」


 そうこうしているうちに、私が知っているキュアムーンライトよりも、体の小さいムーンライトが名乗りをあげた。
 ともかく、変身自体は辛うじて間に合っている。
 ……しかし、それでもエターナルは計画が狂ったような感じではなく、むしろ計画通りという感じで戦っていた。


「はぁっ!」


 同時に、ナイフを持って駆けるエターナルがムーンライトの体に差し迫っている。
 私は、それに一瞬焦りを感じながらも、またその焦りが無駄だったことに気づく。
 ムーンライトの反射神経が、エターナルが顔面に向けて突き立てたナイフを、すんでのところで腕ごと掴んでいたのである。
 だが、小さい体に慣れておらず、視界に限界があるためか、少しその反応が遅れており、ムーンライト自体もかなり鬼気迫る表情であった。


「そいつを放せっ!」


 私はそう叫びながら、エターナルに向けて跳ぶ。
 真後ろからエターナルの首を掴み、私の後ろに放り投げる。この程度の重さを片手で持つのは造作もなかった。
 だが、エターナルは受身を取ったようで、地面に体をぶつけたような音はしない。

 だから、咄嗟に振り向く。
 やはり其処には、ナイフを構えるエターナルが、ファイティングポーズで立っていた。
 どうやら、まだまだ戦意は抜群らしい。

384花咲く乙女(中編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:01:33 ID:o5d6buTg0


「……クッ」

「ハッ。どうやら、もう二人揃ってロクに戦えないっていう面だな。戦いが込んでの、ダメージの負いすぎ、慣れない体での戦闘……無茶があるわけだ」


 確かに、私の疲労は目に見えていただろう。
 幾つもの無茶が祟り、私の体は既に何度とない戦闘に耐えられるような状態ではない。
 ……既にこの程度の運動で肩が息を始めているくらいだ。それに対し、奴は……。
 だが、そう簡単に負けられるはずもない。


「何を言ってる……私は、まだ戦える。お前の首の根を掻き切ることくらい、造作もない……!」

「そんな状態で戦うことに意味はない。お前が感じているのは地獄の苦しみだ! もういっそ、本当の地獄に行ってしまった方が楽というものだろう」


 私は聞く耳さえ持たずに前に跳び、幾度となく拳を彼に向けて繰り出した。


「あだだだだだだだだだだだだだりゃぁぁぁぁっ!!!!」


 しかし、拳速は私の想定より遥かに遅い。
 腕に力が入らず、おそらく当たったとしてエターナルに加えられるダメージは微々たるもの。
 培養液で回復することもなく、スナッキーもデザトリアンもいない連戦は過酷であった。
 私の体は、一瞬で捉えられ、鳩尾にあたる部分をエターナルに蹴り飛ばされてゆりの目の前まで吹き飛ばされることになる。


「ムーンタクト!」


 私の真上で、キュアムーンライトがムーンタクトを取り出し掲げた。
 どうやら、早々に勝負を切り上げる気らしい。


「……くっ、私もだ! ダークタクト!」


 私は転がったまま、ダークタクトを取り出す。
 二つの攻撃を喰らえば、奴もひとたまりもないはず……それは間違いないだろう。
 ならば────


「プリキュア・フローラルパワー・フォルティッシモ!」

「ダークパワー・フォルティッシモ!」
 

 ────やはり、私も早々に蹴りをつけるべきだ。
 弱弱しい力二つであろうと、混ざり合えば、せめて一つ分くらいにはなるだろう。
 私の甘い算段で、エターナルへと二つの衝撃波が雪崩れ込んでいく。


「ハァッ!」


 だが、その光がエターナルに到達するも、そのマントがその攻撃を吸収する。
 奴を相手にするには、あまりに威力が弱すぎたか。私の攻撃は効果らしい効果を成さなかった。

385花咲く乙女(中編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:02:30 ID:o5d6buTg0
 プリキュアの力が、エターナルのマントにかき消される。


「あくまで、死神に抗い続けるか……俺の前には無意味だ」

「クッ……!」


 死神、という言葉にゆりは妙にきつい面持ちになった。
 何かそれに当たるものでも見たのだろうか。────そういえば、私も既に死んだ人間に出会って……。
 キュアマリン……そうか、奴か。
 奴が死神だったのか?
 それでも、私は抗い続けたい。殺されるのなら、キュアマリンでもエターナルでもない、もっと別の、そう……。


「ここは私が食い止める! 逃げろ、ムーンライト!」

「えっ!?」

「安心しろ! 私はこんなところではまだ死なん! 早く体を元に戻し、この男との再戦に備えろ!」


 ……そう、ムーンライトとの決着による死ならば、まだマシだ。
 今までは、ムーンライトに勝たなければ意味がないと思っていたが、今は負けても決着がつけられればそれで良いと思う。
 本当にサバーク博士が私を愛しているというのなら、結局は負けても、これ以上望むものはないからだ。
 本当に私が奴の妹ならば、これ以上戦う必要はないだろう。
 それでも私の中の今までの戦いや思いは、ムーンライトとの決着で果てるのなら本望だと告げている。

 …………そうか、今やっと気づいた。
 私が望んでいたのは、得るのは難しくても、私の中にもうあるものだったのだ。
 ここで私が命をかけるのは、ムーンライトとの決着のためじゃない。

 ゆりに、助かって欲しい。

 その思いによるものなのだ。


「お返しだ。……さあ、地獄を楽しみな!」


 ……だが、やはり駄目だ、コイツは強すぎる。
 確かに奴は言った。NEVERはタフだと。
 その通りだ。あの時完全に殺してしまえばよかったものを、私は……。
 このままでは、目の前の強敵に食い殺される格好の餌。
 まだ反撃はできるはずだが、どうしても戦意が薄らいでいってしまうのを感じた。
 このままでは、どうあっても勝てない気がしたのだ……。


『エターナル! マキシマムドライブ!』


 前方からエターナルが駆けてきて、私の前で跳び回し蹴りを繰り出そうとする。
 私は、その攻撃への反撃方法を探りつつも、その恐怖に負けて目を瞑った。

 目を瞑り、視界から情報が送られてくることはない。
 ただ、耳元の爆音が耳障りだ。


 ……そのうえ、高い声で悲鳴まであげてしまっている。
 私自身、悲鳴などあげているつもりはない。
 その声が自分があげているものだとさえ、私は気づけないのだろうか……?
 そこまで、私は生物的でないのだろうか?
 私は何が欲しかったのだろうか───────


(サバーク博士……)


 爆音と共に、目を瞑ってもわかるくらいに、世界が白い光に染まっていく。
 この白い光の先に、私はキュアマリンの姿を見た。

386花咲く乙女(中編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:03:47 ID:o5d6buTg0















 ────────────だが、マリンは消え、今度は私の視界は真っ暗になっていく。
 ふと、今度は父親の顔と名前が浮かんだ。
 我ながら、馬鹿なことをしたと、思っているけれど……。


「……………………え?」


 全身が何ともない「ダークプリキュア」が、「私」を見て驚いていた。


 …………そう、つい数秒前、家族を庇いエターナルの攻撃を受けたのは私・月影ゆりだった。


 彼女は、行けと言ったが、私は結局そんなことができなかった。
 だから、立ちすくむ彼女を無我夢中で押しのけ、私はあの攻撃を前に無謀に飛び上がったのだ。

 ダークプリキュアは本来、我々の敵で、庇うべき相手じゃないはずだ。それでも私は彼女を助けた。
 それは多分、私がプリキュアらしくやっていくことをやめているからだと思う。
 たとえ、姉妹だとかいう事情があるとしてもだ。私は、こころの大樹の為なら彼女を倒すべきだっただろう。
 しかし、私は結局、自分の家族を選んだ。
 だから、家族の為に悪になり、今こうして家族を守り、体を裂いたのだ。


「……ムーン、ライト? ………………………ゆり?」


 ダークプリキュアの唖然とした顔が、意外にも愛らしく、私は笑顔をこぼしてしまう。
 このまま死んでしまうというのに、何故だろう。私は、今まで果たせなかった責務を果たせなかった充実感があった。


 ────良かったんだ、今度は彼女を守れて。


 だって、私は姉だから。
 ずっと、一人っ子だと思っていたけど、今まで一緒に団欒することがなかったけど、私はいつの間にか姉になっていたから。
 死ぬ恐怖とか、そういうものが全然ない。


「……………ぁ、………」


 声が出ないから、私は彼女に何も伝えられない。
 体の中がもう、ばらばらで、喉に力を込めることもできないみたい。
 お願いだから、貴方はもう……私みたいに戦わないで、と、そう必死に頼んでいるのに。


 ……彼女の顔は呆けている。無理もない。
 キュアムーンライトは、今まで辛辣な顔で対峙し合ってきた相手だ。
 そんな私が、自分を庇って笑っている。
 私があなただったなら、きっと相当驚くでしょう。いえ、さっき私は確かにその感覚を味わった。
 まるで乗り物酔いのような感覚が私を襲って、少しの絶望感を感じた……それを、きっと彼女はいま味わっているのだ。


 何を思ったのか、彼女はつい私の体に駆け寄ってきてしまった。
 小さくなった私の体に抱きつきながら、ただ驚いて私の体をゆすった。
 彼女にはわからないのだろう。私の体は、その行為で少し息苦しくなっていることに。これは私の命を考えるならば逆効果だ。
 ……けれど、私には戦い以外で彼女の手に触れられるこの一瞬で、心だけは少し安らかな気持ちになっていくのを感じた。


 ……でもね、私にはあなたに抱きしめられる資格なんてないわ。全て私の心の弱さが引き起こしてしまったことだから……。


 思い浮かんだのは、父さんと全く同じセリフだった。……やっぱり親子ね。
 たとえこうして彼女の命を守ったとしても、この一日だけ彼女を思い遣ったとしても、私は十数時間前まで彼女を憎でいたし、数時間ほど前に一度、彼女を殺した。
 そして、ここに来てからもまた何度も殺そうとした。更には、親友の妹まで殺して、この場では妹への愛なんて断ち切るつもりで戦っていた。
 彼女を憎んでいた時間の方が遥かに多かった。自分のためだけに戦う時間が大半だった。
 人を憎み、人を殺し……その果てに血塗られた体を、妹に抱かれる資格などあるはずがない。
 この気持ちを、父さんも味わっていたんだ……。

387花咲く乙女(中編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:05:20 ID:o5d6buTg0


「…………おい、起きろ!」


 そうだ……すっかり忘れてた。
 家族ができたんだから、こんな名前じゃなくて、ちゃんとした名前をつけなきゃ。
 闇のプリキュアなんて、そんな名前を名乗るのはもうやめてもらわないと。
 私だって、ここで戦ってる間、少しはあなたの名前を考えたんだから…………
 それを教えてあげないと………………


「姉さん!」



 ねえ、お母さん、お父さん、コロン。私、今度生まれる妹の名前決めたんだよ。絶対この名前にしてね──────




 …………月影ゆりの体は、正真正銘、動かなくなった。何かを伝えようと震わせていた唇も、もはや少しも動かない。
 その目に笑顔と涙が残っている。彼女は最後に、きっと得られなかった幸せを思い描いていたのだろう。
 最後に語りかけた相手である人々の笑顔が、自分を最期に姉と呼んだ女性の姿に重なっていったのだろう。

 
 朝起きれば四人分の朝ごはん。
 洗面所に四本の歯ブラシがあって、二人の姉妹が朝早く、仲良く同じ鏡に顔を映す。
 親友やその妹、更にはその親友────そして、自分の妹と毎日楽しく通う学校。


 そんな日常だったら、よかったのに……。



【月影ゆり@ハートキャッチプリキュア! 死亡】
【残り42人】



★ ★ ★ ★ ★

388花咲く乙女(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:06:29 ID:o5d6buTg0



「飛んだお涙頂戴だったな……面白かったぜ、ダークプリキュア!」


 姉の亡骸を抱えた私の前で、エターナルは私を嘲笑った。
 コイツがいま私を殺さなかった理由は、ただこの私を嘲笑う為……だけだったらしい。
 私の中で感情が燃え上がる。
 倒れそうな体さえ、いまは全く重くない。
 いや、重さを忘れるほどの怒りと憎しみ────そうした感情が、私を支配したのである。


「…………貴様だけは絶対に!!!!」

「やってみろ。傷だらけのその体でな!」

「刺し違えてでも……!!」


 ……その先を言おうとした瞬間、なぜか誰かに押しとめられるような感覚が私を襲う。
 私は、その先をいう事が出来なかった。
 激昂する私の感情に、何かもっと安らかなものが入ってくる。
 私を止めているのは、ゆりか? キュアマリンか? キュアサンシャインか?


「どうした、刺し違えてでも……どうするって言うんだ?」


 エターナルは煽る。
 …………だが、不思議とそれを何とも感じなかった。
 私の体の中に流れ込んでくる力を感じたのである。
 これは、今までの私に無かった力。


「……これは……」


 ゆりを抱きしめたときに、私の手に在ったのだろう。
 ココロポット、それにプリキュアの種である。
 とんだ偶然だった。だが、これが此処に在るだけで、私はゆりと共に戦っていける気がした。


「……成る程。お前も俺と同じっていうわけか」

「何?」

「俺がエターナルに選ばれたように、お前もそいつに選ばれた。そいつは本当はお前の力を欲していて、お前はいまその力を感じ取ったんだ」

「何を言ってる……私がこれに選ばれる筈がない……これはゆりのものだ!」


 そう否定しつつも、私に何か聞き覚えのある声が語りかけている。
 エターナルと会話するのとは、別のところで私に語りかけてくる声が聞こえて、私はそれに心のどこかで答えている。


『ダークプリキュア……僕の声を覚えているかい?』


 ──ああ、覚えている。だが、私はお前を殺したはずだ。
 何故、いま私に力を貸そうとしている……?


『確かに君は僕を消滅させた。けど、今はかつての君とはどこか違う。それに、僕だって彼女の事は哀しいんだ。……彼女の仇を取って、この男も救って欲しい』


 そこまで他人を思い遣るならば、何故お前はゆりを止めなかった?
 奴を最後まで真のプリキュアでいさせてやることは、おまえにはできなかったのか?


『それは僕の力の及ぶところじゃない…………それにきっと、彼女にはもう、僕の声は聞こえなくなっていたんだと思う』


 …………そうか。
 だが、私もこの男を倒した先はわからん。
 ゆりの為に殺し合いに乗るか、それとも────。

389花咲く乙女(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:07:25 ID:o5d6buTg0



 ……あの妖精は何ひとつ答えなくなった。
 なるほど、私もゆりも本来の使命から外れたところで戦っていた。だが、それを止めることは今の奴にはできないのか。
 ムーンライトが戦う理由はサバーク博士であり、あの妖精であり、私だったと知った時──私は少しだが、その目的を止める言葉を失った。
 奴もまた私と同じだった。だから、奴は力を与えることを拒めなかったのだろう。
 そして、今も私に力を与え続けることを躊躇いながらも、結局は力を貸している。
 この力を使わない手はない。たとえゆりのものだとしても、ゆりが欲する物のため────


「…………いいだろう。やってみせてやる」

「随分と僅かな時間で気が変わったらしいな、ダークプリキュア! 見せてみろ、本当にお前がそれを使えるのか見届けてやる」

「プリキュア・オープンマイハート!」


 いままでプリキュアを名乗っていた私が初めて口にした言葉であった。
 白いベールが翼ごと私の体を包む。
 ……きっと、まるで私には似合わない姿であろう。

 更に、その直後に私の体をキュアムーンライトの衣装が包んでいる。
 そして初めて実感する。
 私はキュアムーンライトになっているのだと。


「……まさか、こんな形で私がムーンライトになるとはな」


 かつて望んでいた、私がキュアムーンライトと成り代わる夢。
 しかし、皮肉にもそれを望まなくなった今になり、私はキュアムーンライトとなっている。
 そう、今こそ私とゆりは────本当の意味で一つになったのだ。


「月光に冴える一輪の花! キュアムゥゥゥンライト!!」


 …………はっ! 気づいたら、ゆりと同じセリフを口にしている。
 なんだ? このセリフはつい自動的に言ってしまうものなのか?
 いや、それとも私自身のゆりを継ぐ思いが口にしたのか……まあいい。


「なるほど。見かけは少し違うが、お前がキュアムーンライトであることには違いない。そいつはお前の姉を見捨てて、お前に乗り換えたわけだ」


 ゴタゴタと煩い仮面ライダーだ。
 ゆりの仇である以上は、絶対にこの減らず口を、二度と利けなくしてやる。
 だが、こいつの間違いは訂正させてもらう。真実を知らぬままに消え行くのはいくら何でも可哀相というものだ。


「…………違うな。今もこの力は、ゆりを選んでいる」

「ほう。なら、どうして今お前がそいつに変身してるんだ? そいつが月影ゆりを見捨て、お前が選ばれたからに違いないだろう」

「それは、私はあいつだからだ! 二つに分たれた月が一つになったに過ぎない」

「……意味がわからん」


 わからなくても良い。この男にあの妖精の声は聞こえないのだから。
 伝わらないのなら、この漠然とした何かを知らないままに死んでもらっても一向に構わない。
 先ほどまでふらついていた体も、なんだか妙に力がわいてくる。

 ゆりやあの妖精が、今こいつを倒せと囁いて、私を支えてくれているのだろうか。
 …………なるほど。
 プリキュアが馴れ合う理由が、私にも何と無くだがわかってきた。


「ムーンライト・リフレクション!」


 私の掌から銀色の円盤が放たれる。
 エターナルを狙い打つべく、二つの円盤が素早くエターナルの体へと吸い込まれていった。


「無駄だ!」

390花咲く乙女(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:08:18 ID:o5d6buTg0


 奴のマントがはためき、その攻撃を吸収する。
 私は、そんなエターナルの懐まで跳び、ローブが覆わない顔面を殴り飛ばした。
 だが、それをものともしないままに、私の顔に向けて、勢いよく頭突きをかます。
 頭部が痛んだが、まだ戦意は失せない。


「はぁっ!」


 私は高く跳びあがると、今度はその顔面に向けて回し蹴りを放つ。
 回し蹴りか…………厭な技だ。
 この技がゆりを葬った。だが、だからこそこの男にはその痛みを味あわせる。


「何っ!?」


 私は体を強くひねり、回し蹴りのスピードを加速させる。
 人間離れした身体能力がこんな荒技を可能とする。
 エターナルの体は真横へと吹き飛んだ。奴の体が地面に転がる。


「ムーンライト・シルバーインパクト!」


 エターナルの転がる地面に向けて、膨大なエネルギーを放つ。
 奴のマントは地面と奴の体の間にあり、これを吸収することはできない。
 仰向けに寝そべる奴の腹に、強烈な一撃を叩き込む。


「ぐあぁぁぁっ!!!」


 そのまま、エターナルの真横に降り立つと、奴のマントを掴み、エターナルの体ごと前方の巨大な岩場に向けて投げつける。
 そういえば、この場所はグロンギ遺跡という場所に近い。
 これが、その遺跡である可能性は高い。
 何にせよ、奴のマントは掴んで投げやすいという特徴も兼ね合わせているわけだ。
 とにかく、いま投げ出されたことで、奴は綺麗に受身を取って立ち上がることができたらしい。
 エターナルは私に語りかける。


「…………クソッ。何でそんな力が出る? お前はボロ雑巾みたいに汚く傷ついてたはずだ」

「……これまでお前が見てきたのは、月の半身に過ぎない」

「何だと……?」

「そして、二つの月は一つになった。……光が闇を飲み込んだのか、闇が光を飲み込んだのかは私にもわからない」

「わけのわからないことを言うな」

「……私をダークプリキュアと同じに考えることも、キュアムーンライトと同じに考えることも許されないということだ。お前はその二つが合わさった力を前にしているのだからな」


 そう言うなり、エターナルは笑った。
 見事なまでの高笑いである。……何がおかしいのか。


「……なるほど! お前らも二人で一人のプリキュアっていうわけか……だが、その程度で威張ってるつもりかよ? たかだか二人じゃねえか」

「何?」

「ハッ。俺はお前らの力が倍になったところで負けはしない。……パーティの続きをしようぜ、プリキュア!」


 そう言って、エターナルはナイフを構えて走り出す。
 このスピードにはもう慣れた。
 目視すれば、既にどのタイミングで近付くかがわかってしまう。


「そこだっ!」


 私はエターナルの右腕を掴むと、そのまま近付いてくる顔に左腕でパンチを放つ。
 奴に刺された左腕は少し痛む。全身のあらゆる部位で、最も激痛が走っている場所だ。
 だが、確かにその一撃はエターナルの顔にダメージを与えた。


「ぐっ!」

「……二人で倍になるという考え自体が軽薄だ、仮面ライダーエターナル!」

「何だと?」

「一人が二人になるだけでは、確かにこの力は倍にしかならないだろうな。だが、そこに奴の思い、そして私の思いが加わる時、力は何倍にでもなる。……それに、これは元々、奴だけの力ではない!」


 そう、此処にはゆりだけでなく、サバーク博士の英知や、あの妖精の力もある。
 そのうえ、ゆりの仇を討ちたいという気持ちや、奴から授かった不思議な感情が私を駆け巡っているのだ。
 そう、これは感情というやつだ。

391花咲く乙女(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:09:05 ID:o5d6buTg0


「……そうか。それでも俺はお前如きに負けるつもりはない。俺の存在を永遠に刻み続ける為に、絶対になぁ────!!」


 エターナルが右腕を振り払い、数歩後退する。


『エターナル! マキシマムドライブ!』


 先ほどゆりを葬った音声が流れた。
 なるほど。あの強力な技を再び使うというのか。
 だが、今の私には到底負ける気がしなかった。


「花よ輝け! ムーン・シルバーフォルテウェイヴ!」


 私も、同じようにムーンライトの放つ強力な技を放つ。
 二つの光が光り輝いていく。
 奴の力を、私の光が飲み込んでいる。
 そう、これは最早、相殺されるほど均等な力ではなかった。
 私は何ともない。
 バースト、否、これは空中のエターナルを私が吹き飛ばしたに過ぎない。


 そして私は、此処に立っている。
 ムーンライトの圧倒的な力で、私はエターナルに勝ったのだ。 



★ ★ ★ ★ ★



「…………クソッ」


 無様に、仰向けに倒れる俺の前にキュアムーンライトは歩いてくる。
 歩きながら、その変身を解いてダークプリキュアに変わるが、結局は変わらない。
 俺もエターナルの変身が解けており、ロストドライバーもメモリも俺の手元から消えていた。
 そのうえ厄介なのは、時間の経過と過度のダメージが原因で、既に俺の細胞が────俺の体が崩壊を始めていたことだろうか。一回の変身で二度もマキシマムドライブを発動するのは、体には結構な負担がかかるらしいっていうのも一つの原因だろう。


「エターナル……」


 何かを言おうとしたが、その言葉を遮り、俺が質問する。


「……最初の質問の続きだ。俺だけは……刺し違えてでも……どうするつもりだったってんだ?」

「………………殺すつもりだ。……だが」

「だが?」

「私にはゆりが望んだことなどわからない。奴は私が殺し合いをすることを望まなかったかもしれないし、逆に意思を継いで家族を蘇らせることを望んだかもしれない」


 ………………なるほど。
 この姉妹は互いが望むことさえわからないほど、浅い絆の連中だ。
 まあ、それはNEVERの仲間も同じかもしれない。俺が望んでいることなんて、あいつらにはわかっちゃいないのだろう。
 人と人との絆なんてそんなものだ。互いを理解し合うことなどできない。


「なら、お前の運命を決める方法を俺が教えてやる」

「何?」

「ロストドライバーとメモリを使って変身してみろ。……お前の姉や加頭は赤い姿になったが、俺は青い姿になる。『赤』になるか、『青』になるかで、お前のこれからの運命を決めろ」

「お前の指図を受ける気はない」

「やってみろよ。エターナルは以前、俺の思いに答えた。お前が真に未来を見つめている人間なら、『青』になるはずだ」


 そう、たとえこのまま朽ち果てるとしても、俺の事を永遠に刻み続ける夢だけは手放さない。
 終わってみると、案外このダークプリキュアとかいう奴は面白い奴かもしれない。
 死ぬのは元から怖くないが、コイツが俺と同じ運命なら……俺のエターナルに殺されるなら、俺もまた────


『エターナル!』

「変身!」

『エターナル!』


 …………で、こいつ、結局やってやがる。
 まあ、俺にもエターナルがどういう人間を青にするのかはわからない。俺だけなのか、どうなのか。
 これは占いみたいなモンだ。


「……その姿は、『どっち』だ? 殺し合いに乗るのか、それとも────」

392花咲く乙女(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:09:53 ID:o5d6buTg0


 一瞬だけ、赤。
 ────だが、青。
 メモリはダークプリキュアに、青と答えた。
 エターナルローブもちゃんと装備されてやがる。
 エターナルが運命を感じたのは、俺だけじゃなかったらしい。
 ……いや、もしかすると俺が死ぬという運命を悟って、エターナルはコイツに全てを託したのか?
 それとも、コイツに俺以上の何かを感じたのか?


「ああ……。私はゆりやサバーク博士のために殺し合いに乗る事になったらしい」


 そうか。コイツは俺と同じで、未来を見つめてる。
 月影ゆりと同じ願いを持ちながら、奴と同じ過去を持っていない。
 ……そもそも、コイツはあいつと同じように家族の団欒というのを経験してないんじゃないか? あるいは、俺と同じで記憶っていうものが欠落しているのかもしれない。
 だから……コイツは見るべき過去そのものが存在してないから、蘇らせたい存在も優勝して初めて得られるものなんじゃないか?
 まあいい、死ぬのは二度目だ……。恐怖ってものも過去に置いてきちまった。
 死ぬっていうなら、俺が望むことは一つだ。


「そうか。……なら、その力で俺を殺し、俺とお前の存在を永遠に刻み続けろ。仮面ライダーエターナル、大道克己が過去に刻んできたものを未来永劫、お前が紡げ」

「……私の姉を殺した挙句、最後には私に命令までするというのか。そんな奴の力を借りるのはご免だ」


 そう言って、ダークプリキュアがエターナルの変身を解除し、俺の体にドライバーとメモリを投げる。
 痛んだ体には随分な負荷がかかるが、NEVERには慣れた痛みだった。


「……だいたい、同じように殺し合いに乗っている以上、お前と私が潰しあうことはない。確かにお前は強いが、私より格下であることももうわかった。お前が他の連中を潰してくれれば、それだけ私もラクになる。お前は本当に使えなくなってから殺せばいい」

「……あ?」

「近い未来、月影ゆりは必ず蘇る。だから、お前に殺された事実など、結果的には関係のない話だ。今は復讐などを考えるよりも、お前を泳がせた方が効率的だろう」


 俺はダークプリキュアが、過去ばかり見つめた月影ゆりとは対照的な存在であることを感じた。
 まるでNEVERみたいに冷徹な感情の持主だ。感情自体が人間のものとは少し違っている。
 死んだ人間は蘇ってはならない……なんていうルールもコイツには通用しないし、結果的にゆりが蘇るのならその過程はどうでもいいとさえ考えている。
 結果が見えれば、先ほど見せた強い怒りの感情さえ、その場に捨てちまっている。

 そう、コイツは本質的には俺たちと同じだ。
 こんな場所じゃなければ、絶対仲間に引き入れるほど面白い奴だ。


「……まあいい。とにかく俺を生かす、っていうわけか。後で後悔しても知らねえぞ」

「私はゆりの生きる未来のためにゲームに乗った。だから、後悔や……過去を見つめるような真似は二度としない」


 そう言うと、ダークプリキュアはゆりの死体を抱えて去っていく。
 どうやら、デイパックを取っていったりする気はしないらしい。
 まあ、これだけ体力が残ってれば、酵素打つくらい問題ないだろう。


「……馬鹿な奴だな」


 俺は無様に……だが必死に這いながら、転がっていたデイパックを掴む。
 俺が生きるためには、徹底的に抗ってやる。たとえどんなに無様にでも、だ。
 奴は他人の為に殺し合いに乗ろうとしている。
 どんなに未来を見つめて生きてようが、俺と奴の生き方は全く別物に違いない。


「他人の為に生きていく……そんな生き方、長続きしねえよ」


 俺は酵素を打ち、何とか細胞を維持した。ダメージの負いすぎで酵素が大量に必要になったが、まあいい、途中までは奴の思い通りに、適当に参加者を殺して回る。
 だが、最後に奴を勝たせるような真似だけはしてやらない。
 最後に勝つのはこの俺だ。

393花咲く乙女(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:10:55 ID:o5d6buTg0


「エターナル、お前の本当の主はちゃんと生きてるぜ。もう他人の為に力を貸す必要はない」


 ふと、気づく。
 奴が変身したエターナルが「赤」だったら殺し合いには乗らないということだ……だが、その場合、奴は俺を殺すつもりだったのか?
 アイツは「殺し合いに乗る」という選択をしたから、俺を殺さなかった。
 なら、逆の「殺し合いに乗らない」という選択をしたら、俺は殺されたのだろうか。
 殺し合いに乗らないからこそ、奴は俺のように邪魔な存在を消すのだ。でなければ、あそこでエターナルに変身して運命を決めるという選択をする事はない。


「……ハッハッハッ、なるほどぉ。お前はハナっから奴に運命なんて感じちゃいなかった……そういうことか。やっぱりコイツは俺を選んだ──俺の『運命のガイアメモリ』だったみたいだな!」


 エターナルが決めたのは、ダークプリキュアの運命である以前に俺の運命だった。
 つまり、エターナルはダークプリキュアに力を貸したわけじゃない。
 運命の相手である俺を生かしたのだ。
 ……まあ、実際のところこのメモリが何を意図したのかはわからないが。


「ハッハッハッハッ。てっきり、あれが俺の二度目の死に時って奴だと思ったが、どうやら俺はまだ戦う運命らしい。面白えじゃねえか!」


 あいつに、もう未来は渡さない。
 たとえ、二度敗北したとしても、三度目が同じとは限らない。


「三度目の正直っていう奴だ……いずれ、また会えるといいな、プリキュアぁ」


 ああ、やってやる。死ぬのは怖くねえが、二度も死ぬ運命なんかには、何度だって抗ってやるさ。
 そうだ、まだまだ俺には、いくらでも抗う術がある。
 抗える限り、俺はダークプリキュアにも、キュアムーンライトにも…………全てのプリキュアや仮面ライダーどもに抗ってやる。




【1日目/昼】
【D-6/森 グロンギ遺跡付近】

【大道克己@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(大)、腹と背中を中心とするダメージ(中)
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+エターナルメモリ、エターナルエッジ、昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×3、プリキュアの種&ココロパフューム@ハートキャッチプリキュア!、破邪の剣@牙浪―GARO―、ランダム支給品1〜5(十臓0〜2、えりか1〜3)、細胞維持酵素×2@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2
[思考]
基本:優勝し、自分の存在を世界に刻む。
1:とりあえずダークプリキュアは無視し、他の参加者を殺す。
2:T2ガイアメモリを集める。
3:京水と会ったら使ってやる。もしくはメモリを奪う。
4:プリキュアや仮面ライダーは特に優先的に殺害する。
[備考]
※参戦時期はマリア殺害後です。
※良牙を呪泉郷出身者だと思ってます。
※プリキュアは食事、水分の摂取を必要としない可能性を考えています。ダークプリキュアの一件から、プリキュアはただの人間だと考えていない可能性もあります。




★ ★ ★ ★ ★

394花咲く乙女(後編) ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:12:06 ID:o5d6buTg0



 ゆり…………これはお前が殺した友の墓だ。
 この女がお前を許すかはわからないが、せめて今はお前はここに埋めてやる。
 これからもし、他のプリキュアを葬ったのなら、全部この場に埋めてやろう。
 嬉しいかどうかはわからないが、せめて全てが戻るまではここで一緒にいるといい。


「……いずれまた会おう、ゆり」


 叶えられる願いの範囲がどのくらいだかはわからないが、もしゆりの他のプリキュアたちも蘇らせることができるなら、私はこのキュアマリンも、これから死ぬキュアブロッサム、キュアサンシャインも蘇らせてやろう。
 NEVERになる……? 関係ない。
 第一、サバーク博士は生きているはずが、お前の来た時間では死んでいる。
 そんな事があるのだ。お前が死ぬ前から、お前を連れてくればいい。


「そうだ、悪いがコレはまだ使わせてもらう。これからまだ使えるかどうかはわからないが……」


 ココロポットとプリキュアの種。
 これは本来、ゆりの物だが……私を知るあの妖精は私に全て託した。
 力を貸したのは、僅か一度に過ぎないのかもしれない。

 あともうひとつ。奴の支給品にはガイアメモリもあった。
 Bの字が模されたガイアメモリである。ゆりの死体を運ぶ時に、ゆりの体から落ちたのだ。
 これがゆりの持っていたメモリらしい。

 ……とにかく、私はしばらく体を休めることにした。
 エターナルとの連戦は私にも厳しかったし、結果的に勝ったとはいえ、傷は多い。


 ここでしばらく休もう。
 ここは、なんだか、少し、落ち、着、く…………。



 ────そう思いながら、ダークプリキュアは、しばしの眠りについた。



【1日目/昼】
【C-8/森 えりかの埋葬地】
※ゆりの死体はえりかの埋葬地に一緒に埋められました。

【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、右腕に刺し傷、気絶中
[装備]:無し
[道具]:ゆりの支給品一式、プリキュアの種&ココロポット@ハートキャッチプリキュア!、ランダムアイテム0〜2個(ゆり)
[思考]
基本:キュアムーンライトの意思を継ぎ、ゲームに優勝して父や姉を蘇らせる。
0:今は休む。
1:もし他のプリキュアも蘇らせられるなら、ゆりのためにそれを願う。
2:つぼみ、いつきなども今後殺害するor死体を見つけた場合はゆりやえりかを葬った場所に埋める。
3:エターナルは今は泳がせておく。しばらくしたら殺す。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。
※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です。
※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。
※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。

395 ◆gry038wOvE:2012/08/28(火) 17:12:59 ID:o5d6buTg0
以上、投下終了です。

396名無しさん:2012/08/28(火) 17:50:55 ID:BdbI3pyQO
投下乙です!
ゆりさん……こんな所で無念と思ったら、まさかダークがその遺志を受け継ぐとは!

397名無しさん:2012/08/28(火) 18:39:42 ID:UbAamx5Y0
wikiの名簿が大変な事になってる。

398名無しさん:2012/08/28(火) 21:13:56 ID:XHO3GEVk0
投下乙です

まさかダークプリキュアがこうくるとは…
ゆりの想いがこういう風に継承されるとはな
マーダーなのは変わらないが下手な対主催より心惹かれるなあ
そして大道の言う三度目の正直が来るのか?

399名無しさん:2012/08/28(火) 22:29:00 ID:TudQe8wc0
投下乙です

>>378
> この子供がカイジに変身したところで、私に勝つことはできまい。普段私と互角の戦いをするキュアムーンライトは、これより遥かに成長した姿だ。

カイジ→怪人かな? カイジに変身ってちょっと笑ったけどさw

400名無しさん:2012/08/29(水) 00:22:38 ID:ySaXpwI20
自分もカイジってどこから出たんだ?と思っていたけど
プリキュアシリーズも仮面ライダーWも全然知らないから、そういうキャラがいるのかなあとw

顎はとんがらない方が良いよねw

401 ◆gry038wOvE:2012/08/29(水) 00:35:55 ID:vCAcikWg0
>>399
指摘ありがとうございます。カイジ→怪人で間違いないです。
本当にすみません。
肉焦がし骨焼く鉄板の上での土下座だけは勘弁してください。

402名無しさん:2012/08/29(水) 00:59:45 ID:spSdlvLg0
書き手、圧倒的誤植……!
いやそんなことはさておき、熱いなぁ、最初で最後のプリキュア姉妹の共闘とか、しぶとい克己とか。
今後が気になりますね。ていうか克己のエターナルへの思いが強すぎて笑った。
なんだよメモリはダープリに力を与えたんじゃなくて遠回しに俺を助けるために青にさせたってwww

403名無しさん:2012/08/29(水) 01:02:40 ID:upGd6yKg0
>>401
ダークプリキュアの所持品ですが、バードメモリが書いてないのは書き忘れでしょうか?

いやあそれにしても投下乙!
まさかダークプリキュアがゆりに代わってその道を選ぶことになるとはな…
ゆりさんお疲れ様。最後の思い描いてた日常の場面ではなんか泣けてきたよ…

404 ◆gry038wOvE:2012/08/29(水) 15:46:19 ID:vCAcikWg0
それも記入忘れですね。
wiki収録時に修正します。

よく考えたら、克己と戦うマーダーはヒーローみたいな行動しやすいですね。
自分が書いた月影姉妹だけでなく、十臓もヒーローじみた行動して死んでるし。

405 ◆gry038wOvE:2012/08/29(水) 19:51:22 ID:vCAcikWg0
あと、時刻にもミスがありました。
昼じゃなくて昼前ですね。

406名無しさん:2012/09/02(日) 03:19:14 ID:4k.54Za60
このロワって熱血話多い方なんだろうか
住人的にはどの話が熱い?

407名無しさん:2012/09/02(日) 05:43:58 ID:WRUOJqLsO
>>406
やっぱりほむほむスカルかなぁ、他の魔法少女が生死問わず散々なだけに燃え上がって綺麗に散れたし

408名無しさん:2012/09/02(日) 08:34:33 ID:agWfkL0U0
マミさんもかっこよく倒れましたよ!
さやかちゃんは…その…まあ……うん………

409名無しさん:2012/09/02(日) 10:54:28 ID:dw5KXUZM0
さやかちゃんはぶっちゃけ役立たずどころか他人の足を引っぱったなあとストレートに言ってみるw

410名無しさん:2012/09/02(日) 17:18:11 ID:4k.54Za60
まどっちは…………?

411名無しさん:2012/09/02(日) 19:53:15 ID:72W/yDHw0
そんなまどマギ勢ももう杏子だけか……

412名無しさん:2012/09/04(火) 16:10:10 ID:d553fyTY0
じゃあ逆に…切ない話、鬱な話、哀しい話は?
以下、さやか禁止

413名無しさん:2012/09/04(火) 16:31:23 ID:Iqjwvh9U0
そんなひどい…

414名無しさん:2012/09/04(火) 17:07:56 ID:01EjXYN60
鬱な話だとスバルが…

415名無しさん:2012/09/04(火) 17:36:24 ID:VL4o7Yv.O
>>414
スバルはもう別人28号過ぎて同情すら……さっさと相棒共々楽になったらいいよ

416名無しさん:2012/09/04(火) 18:26:36 ID:VOZsjpu60
殿も大概欝だと思う
話自体はそうじゃないかもしれないけど、本人の歩んだ道は……

417名無しさん:2012/09/05(水) 22:23:57 ID:XD5wQrrk0
>>414 >>415
あれはもうスバルじゃなくてヌバルだな

418名無しさん:2012/09/05(水) 22:26:15 ID:PimW/5O20
いやいや、ンバルでしょ

419名無しさん:2012/09/05(水) 22:39:54 ID:KB2ycuaU0
ダークプリキュアはあとつぼみと会えば同作キャラコンプリートだな
ローソンのプリキュアスタンプラリーやってるみたい

420名無しさん:2012/09/06(木) 01:10:45 ID:0fSPpBE.O
最早フパレだろう

421名無しさん:2012/09/06(木) 01:34:00 ID:PUVwEqZU0
フvベノレだろ

422名無しさん:2012/09/06(木) 09:37:17 ID:g0svOa0s0
シバルぞおい

423名無しさん:2012/09/06(木) 16:48:19 ID:vDNDuGU60
シャマルだな

424名無しさん:2012/09/07(金) 16:29:35 ID:.RnfjVn20
>>423
あやまれ!シャマル先生にあやまれ!

425名無しさん:2012/09/07(金) 17:01:49 ID:bcHlbrx20
キュアルージュで

426名無しさん:2012/09/07(金) 17:16:20 ID:/9j4cDVc0
ルしかあっとらんやんけ

427名無しさん:2012/09/08(土) 22:09:08 ID:7cthNNC.0
一時期の投下量が凄まじかったせいか、普通のロワ並になっても少し寂しく感じるな…

428名無しさん:2012/09/10(月) 23:24:48 ID:fqjzjGzw0
10月8日にロワラジオでここ回るっぽいぞー

429名無しさん:2012/09/11(火) 22:33:34 ID:nXFz.xXU0
予約キターーーーーーーー!!!!

430名無しさん:2012/09/12(水) 01:24:37 ID:kWX9VaTg0
面子がwww
バラゴやばすぎるwww

431 ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:46:31 ID:fuApQ0Fg0
これより、予約分の投下を開始します。

432ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:48:28 ID:fuApQ0Fg0
(少しはやるようだが……俺が今まで見てきた奴らと比べたら、お遊戯会に等しいな)

 ナイトレイダーAユニットの一隊員、石堀光彦の姿を騙った邪悪なる暗黒破壊神、ダークザギは目の前で繰り広げられている戦いをそう評した。
 この殺し合いの開幕式が行われた会場で加頭順に反旗を翻した一文字隼人が変身する仮面ライダー二号と、黒装束を纏った正体不明の男が姿を変えているキバと言う名の暗黒騎士。互いを敵と見做している彼らは今、石堀の前で己の武器を振るい続けていた。
 キバはその手に持つ禍々しい剣を横薙ぎに振るって大気を振動させるが、二号は驚異的身体能力で高く跳躍して軽々と避ける。そこから二号は空中で一回転した後、流星の如く勢いで飛び蹴りを叩き込んで、キバを僅かに後退させた。
 あの頑丈そうな鎧から漏れる呻き声から考えるに、二号の蹴りは相当な威力を誇る。そしてキバの方も、そんな二号の技を受けてもまともなダメージを受けていない。
 恐らく奴らは、TLTやナイトレイダーにあるような装備程度では太刀打ち出来る相手ではないだろう。あらゆる金属を腐食させる性質を持つKorrosion弾も、二号やキバにとっては大した脅威にならないかもしれない。
 放送前の戦いでキバが撤退したのは予想外の事態に驚き、撤退せざるを得なかったのだろうが今度はそうもいかないだろう。奴は、自分達を本気で抹殺する気でいるように見えた。

(もしもここで一文字が少しでも危なくなったら、本当にバイクに乗って逃げる必要があるかもしれない……まだ、俺の正体を知られるわけにもいかないからな)

 ダークザギの生み出すアンノウンハンドの力さえあれば、二号とキバを一瞬で屠るなど造作もない。これまで見てきたウルトラマン達やビーストと比べても、圧倒的に弱すぎるのだから。
 しかし、殺し合いの内面が掴めない今の状況で、迂闊な手段を取るなどできない。元の世界で演じている石堀光彦という、ただのナイトレイダー隊員として振舞うしかなかった。
 俺には戦闘能力がない。一文字隼人に対して口にしたその言葉は、石堀光彦という男にとっては真実だった。ただの人間として振舞っている以上、この状況でキバを倒す手段を持っていない。アンノウンハンドの力を発揮するわけにはいかない今、戦力として期待できるのは仮面ライダー二号だけ。
 故に、力を使わざるを得ないような状況に追い込まれる気配があれば、ビートチェイサー2000に乗って逃げるつもりだった。完全復活の為にも、少しでもリスクは減らす必要がある。
 その思考に反して二号は予想以上に粘るも、その動きは何処となく精彩を欠いていた。迫りくる刃を確実に反応しているものの完全な回避ができずに、装甲がほんの少しだけ切り裂かれていく。二号はそれを気にせず、体勢を微かに低くして振るわれる剣を避けてそこから拳を放つが、鈍い衝突音が響くだけでキバのダメージになっているようには見えない。
 そこからまた一閃されるのを見て、やはり二号はジリ貧になっていると石堀は推測する。
 尤も、無理はないと彼は考える。一文字隼人はキバとこれまでに二度も戦っているから、戦闘スタイルや対処法を見極められてもおかしくはない。加えて、隼人は二度目の戦いの直前に、二体の怪人とも戦っていたので顔に出していないが消耗は激しいはず。
 そんな不利な条件が揃っては二号が不利になるのも当然だった。

(簡単に隙を見せるような奴ではない……だとすると、一文字がそれを作ってくれるのを待つしかないか)

 無暗にKorrosion弾を撃ったとしても、キバはこちらにも警戒心を向けているので簡単に避けるだろう。陽動にもならない恐れがあるし、下手をすれば二号に当たってしまう危険があった。キバの全貌がわからない以上、武装を消耗するだけになる危険は避けなければならない。
 二号の攻撃を上手く捌きながら剣を振るうキバを標的に定めて、石堀はライフルを構えた。
 とはいえ、すぐに撃つような真似はしない。奴に悟られないように意識を集中させて、チャンスを窺わなければならなかった。例え戦っている最中でも、ほんの僅かな敵意でも見逃すことはないはずだから。
 そう思案を巡らせていると、二号はほんの一瞬だけ目を向けてくる。一秒に届くかどうかもわからない間だが、石堀は確かに視線を察した。

433ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:49:25 ID:fuApQ0Fg0

(あいつ、まさか俺に撃てとでも言いたいのか……?)

 キバの剣術を避けながらひたすら反撃を続ける二号の赤い瞳は、まるで何かを訴えているような雰囲気が感じられる。チャンスを作るから、援護をしろとでも言いたげだった。
 確かにこのまま戦い続けたところで戦況が変わるわけではないし、二号が敗北する恐れだってある。もしもキバがまだ本気を出していないのだとしたら、正体を隠すどころの話ではなくなるかもしれない。
 二号は戦いながらだが、確実に自分とキバを離れさせようと動いていた。奴は攻撃を避けるために跳躍すると、それを追うようにキバも駆ける。その動作が何度も繰り返されて、自分と両者の距離は既に10メートル以上も開いていた。
 二号の誘導があったおかげで、キバの体制はこちらに背を向けているようになっている。進攻の度に漆黒のマントが棚引いて、背中が露わとなった。

(ここだ!)

 ようやくチャンスが芽生えたと確信した石堀は、ライフル銃のトリガーを指で引く。耳を劈くような鋭い銃声と共に、弾丸が発射された。
 Korrosion弾は空気を切り裂きながら、暗黒の鎧を目指して一直線に突き進む。発射の轟音に気付いたのか、キバは二号との戦いを一時中断して瞬時に振り向いた。
 奴は後退して弾丸を回避するが、石堀は特に嘆かない。こちらに危険が及ばない条件で、意識を向けさせることこそが目的なのだから。

「トオオオオオオォォォォォォッ!」

 そして発砲の意図を察したのか、凄まじい咆哮と共に二号は跳躍する。
 一瞬で数メートル程の高さまでに到達した二号を追うように、キバは上空を見上げた。しかしその一瞬の間で二号は一回転した後、飛び蹴りの体制に入っていた。

「ライダアアアアァァァァァァキィィィィィィクッ!」

 力強く叫びながら、音すらも凌駕しかねない速度で必殺の一撃を放つ。
 一方でキバは仮面の下から微かに狼狽したような声を発しながらも、腕を振るおうとするが、二号の方が早い。ライダーキックはキバの頭部に容赦なく叩き込まれて、鈍い音を響かせた。
 そして蹴りの衝撃によってキバが吹き飛んでいく中、二号は地面に着地する。しかし彼の全身からは未だに警戒心が感じられるし、何よりも石堀自身も気を緩めていない。
 いくら仮面ライダー二号が強いとはいえ、あれだけで負けるような相手ではなかった。聞いた話によればキバという戦士は、沖一也という男が変身する仮面ライダースーパー1の協力があって初めて撃退できたらしい。
 そんな相手にたった一発の必殺技を当てただけでは、勝利に繋がるとは考えられなかった。
 そして案の定、キバはあっさりと立ち上がってくる。

「……どうした、その程度か。仮面ライダー」

 声からは苦悶の色が感じられるも、ライダーキックのダメージは致命傷となるには遠いようだった。恐らく、戦いには支障を及ぼさないかもしれない。

「さあ……どうだかな」

 しかし二号はその事実を前にしても、微塵にも狼狽える様子を見せずに再び走り出した。その仮面の下で、隼人が笑みを浮かべていることは容易に想像できる。
 気概は結構だが、やはり動きにはキレが減っていた。どれだけ四肢を用いた打撃を繰り出そうとも、キバは確実に回避しながら刃を振るう。その度に鋭い金属音を響かせながら、装甲に亀裂が生じた。
 唸り声が仮面から漏れて、ついには血液までが噴き出してくる。その量はまだ僅かだが、二号が危機に陥っていることを物語っていた。このまま戦闘を続けた所で、先に二号が崩れ落ちるのも時間の問題。

(道具に成り得る仮面ライダーを捨てるのは惜しい……しかし、このまま留まっているのもまずいな)

 二号の血が地面に飛び散っていくのを見て、石堀はビートチェイサー2000に目を移す。
 だが、ここから安易に逃亡を図ってもキバの脚力ならば追いつくのは造作もないだろうし、また遭遇しては今度こそ力を発揮する事態になりかねない。そんなことになっては、計画が狂う恐れがある。
 状況を打破する為にはどうするべきか……石堀はそう思案を巡らせていたが、その刹那に『Jet』という電子音声が背後から響いてきて、意識を瞬時に覚醒させた。
 そして次の瞬間には、発射されたエネルギー弾が凄まじい速度で彼の横を通り過ぎて、キバの鎧に命中。そのまま小規模の爆発を起こして、微かにふらつかせた。
 一体何があったのかと思い、石堀は振り向く。すると、数メートル離れた先から仮面ライダーと思われる謎の赤い戦士が、刃が銀色に輝く剣を握りながらやってくるのが見えた。
 今のエネルギー弾を発射したのも、この戦士。だが石堀は敵か味方かの判断がつかなかったので、思わず銃口を構えた。

434ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:50:29 ID:fuApQ0Fg0

「無事みたいね、石堀隊員」

 しかしその仮面の下から聞こえた女の声によって、彼は警戒心を一瞬で解く。何故なら、長年に渡る計画の鍵であるのだから。

「その声は……まさか、副隊長!?」
「ええ。この姿は新しく手に入れたアクセルという名の武装よ……詳しい事情はわからないけど、あの緑色の戦士はあなたの味方みたいね」
「はい! 彼はあの会場で加頭に反旗を翻した一文字隼人という男で、仮面ライダー二号です!」
 
 アクセルに変身した西条凪の声を聞いて、石堀は表情を輝かせながら答える。
 こちらの味方を瞬時に見分ける洞察力は相変わらず感心するが、それ以上に凪をようやく見つけられた喜びの方が大きい。

「わかったわ……なら、今はあの黒い騎士を抹殺することが最優先ね。石堀隊員、貴方は援護をしなさい」

 そう言い残して、アクセルは二号の隣に立つ。

「あんたが石堀の上官の西条凪さん……で、いいのかな?」
「そうよ。石堀隊員を守ってくれたことには感謝するけど、今は奴を倒すことを集中して」
「了解」

 頷いた二号が走り出し、それに続くようにアクセルも剣を掲げながら向かっていった。
 凪の言葉は冷静そのものだが、その裏には抑えられているとはいえ確かな殺意と憎悪が感じられる。
 当然だ。一八年前に来訪者研究チームの一員であり、ザギの存在に絶望した山岡一という男の身体を乗っ取ってから凪の母親をこの手で惨殺して、彼女の心に影を植え付けている。凪に光が渡った時、更なる闇で塗り潰すために。
 
「何人増えようが同じことだ……この手で、闇に送ってくれる」

 アクセルの乱入が原因なのか、キバの声から感じられる憤怒は濃さを増していく。だが石堀にとって、それは単なる子供騙しにしか思えなかった。
 奴の宿らせる闇も相当な濃さを持つが、アンノウンハンドからすれば足元にも及ばない。それに近い未来、斎田リコや溝呂木眞也を遥かに凌駕する闇を、西条凪は秘めることになる。
 暗黒騎士キバなど、計画の過程で凪の闇を強くさせる道具に過ぎなかった。

(奴との戦いで凪の闇が強くなればいいが、あまり油断はできないな……いざという時、凪だけでも確保して撤退しなければならない。一文字、どうか凪を死なせないでくれよ?)

 アクセルとキバの剣戟が繰り広げられることで金属音と火花が飛び散る中、横から機会を窺っていると思われる二号を見ながら、石堀は心中で呟く。
 幾らキバがアンノウンハンドより劣っているとはいえ、それでもビーストと同じ驚異的存在であることに変わりない。例えアクセルが加勢したとしても、キバはそれだけで打ち破れる相手ではなかった。
 アクセルの振るう剣を、キバはその手に持つ剣であっさりと弾く。その衝撃で怯んだのを好機と見たのか、キバはアクセルの装甲を横一文字に切り裂いた。
 凪は悲鳴を漏らしながら後ずさる中、二号が拳を振るう。対するキバは軽く上半身を弓なりに反っただけで避けるが、二号はそれに構わず攻撃を続けた。
 左足を軸に回転しながら蹴りを繰り出すが、キバは片腕だけで受け止める。そこから足を振り払われた二号は体制を崩してしまい、その隙を突いてキバは素早く剣を振るった。
 だが二号もただ受けるだけでなく、微かに身を捩る。そのおかげか、刃先が微かに胸の装甲を掠るだけでキバの一振りは終わった。
 そのまま二号は背後に飛んだことで、キバとの距離が一気に開く。奴らの睨み合いが始まるかと思われた、その瞬間だった。

『ENGINE MAXIMUM DRIVE』

 あの加頭順が使ったガイアメモリから発せられたのと同じトーンの人工音声が、戦場に響き渡る。
 続くようにバイクの排気音とよく似た音が鼓膜を刺激し、石堀は思わず振り向いた。見るとアクセルが全身から赤いオーラを発しながら、咆哮と共に突っ走っていく。

435ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:50:59 ID:fuApQ0Fg0
「来るがいい」

 彼女が駆け抜ける先にいるキバも、右手と黒い剣の刃を滑らせた。一体何をしているのかと疑問を抱いた瞬間、漆黒の刀身から禍々しい炎が噴き出してくる。
 そして刀を携えるキバもまた、地面を蹴って疾走した。すると、先程までキバが立っていた場所から鈍い破壊の音が響き、瞬時に数メートル規模のクレーターへと変わっていく。
 そのまま、同じタイミングで得物を掲げるアクセルとキバの距離は徐々に縮んでいき、放たれるオーラと炎はより濃さを増した。
 目前へと辿り着こうとした直前、互いに振るった剣が衝突。その影響なのか圧縮されたエネルギーが一気に解放され、盛大な爆発を起こす。
 爆撃のような轟音によって大気は震え、激突した地点より凄まじい煉獄の炎が燃え広がった。灼熱を帯びた衝撃は近くにいた二号を吹き飛ばし、少し離れた石堀の肌に突き刺さる。
 二号は勢いよく地面を転がるものの、すぐに立ち上がった。その様子を見届けてから、石堀は叫ぶ。

「副隊長!」

 その声に答えたのは、燃え盛る火炎の音だけ。
 石堀は心中で舌打ちをする。もしもあんな爆発程度で凪が殺されてしまっては、目も当てられないからだ。一応、アクセルという武装を身に纏っているとはいえ、あのキバを前に耐えられるかどうかは甚だ疑わしい。
 凪の憎しみを強化させるというメリットに釣られず、無理をしてでも逃げるように進言するべきだったか? そんな後悔が脳裏に芽生えた頃、風に流されていく灼熱の中からアクセルが飛び出し、地面に叩き付けられていく。
 衝突が原因なのか、地面を転がるアクセルの装甲は崩れ落ちていくように分解され、中で守られている西条凪の姿を無防備に晒した。
 起き上がる気配はなく、ぐったりと倒れている彼女の元に石堀は急いで駆け寄る。ナイトレイダーの制服に包まれた胸元がゆっくりと上下しているので、幸いにも気絶しているだけのようだった。
 生存しているのは幸いだったが、安堵する暇などない。燃え盛る炎の方に振り向くと、それを掻き分ける様に暗黒騎士キバが姿を現したからだ。
 漆黒の装甲から放たれる殺意は衰える気配が感じられず、未だ健在ということを物語っている。

「その女が秘める憎しみ……かなりの物だが、それだけでこの暗黒騎士キバを倒せると思ったら大間違いだ」

 ゆっくりと歩みを進めるキバの言葉は嘲りに満ちているが、石堀はそこまで気にとめない。凪が戦えない現状、どうやってこの場を切り抜けるべきかを考えていた。
 しかし剣を向けられたことですぐに思考を振り切って、彼女が持つアクセルへの変身アイテムを手に取る。何れキバを倒さなければならない機会が来るだろうから、多少のリスクには目を瞑って戦わなければならない。

『ACCEL』

 凪のようにアクセルドライバーを腰に装着して、アクセルのメモリのスイッチに手をつけた。そのままメーターとよく似たベルトの中央に挿入しようとした直前、二号が前に現れる。
 しかも、石堀と凪に背を向ける形で。

「石堀、あんたはその副隊長さんを連れて、先に行ってくれ!」

 そして振り向くことをせずに、力強くそう告げた。

「あんた、どういうつもりだ?」
「その人はあんたの上官なんだろ? そんな人が死んだら、あんたの所属する部隊はガタガタになる……それに、そんな別嬪さんを戦わせるのは俺の主義じゃない」
「そいつを前に、一人で戦えると思ってるのか」
「おいおい、俺を誰だと思ってる……こんな奴に負けるほど、柔じゃないさ」

 余裕ぶっているようだが、やはり疲弊した雰囲気を隠すことができていない。それにも関らず、自分達を逃がそうとしている。
 この男は救いようのないお人好しだと、石堀は思った。一見するとリアリストだが、実はただの理想主義者。M78星雲で戦ったウルトラマン達のように、誰かのためならば己の命を簡単に捨てるような愚か者だ。

「……わかった。だが、決して死ぬなよ。俺達には一文字の力が必要だからな」

 だから今は、凪を守るためにも二号の善意に甘える。その表面上では、さも心配しているかのように振舞って。

「当たり前だろ? 心配するなって……絶対に、あんたらを助けてみせるからよ」

 予想通りの答えを返す二号は、仮面の下で笑みを浮かべているのが容易に想像できる。
 実際、一文字の力が必要なのは確かだった。この世界は不確定要素が多い以上、一枚でも多くの手札を確保しておきたい。
 だが今は、凪を守るために一文字を切り捨てなければならなかった。有能な男と別れるのは惜しいと思うが、凪を守るためには仕方がない。

436ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:51:49 ID:fuApQ0Fg0

『ACCEL』

 故に、一文字が暗黒騎士キバを打ち破って生きて現れてくれるのを祈りながら、メモリをドライバーに差し込んだ。電子音声が響き渡るのと同時に、スロットルを捻じった石堀の肉体は、赤い装甲に包まれる。
 バイクとよく似ているから、力を解放させるキーになる部分があると思ったら、案の定だった。この他にもアクセルの力を更に発揮できる部分を調べたいが、そんな暇はない。
 今は戦いに巻き込まれないように、凪の身体とデイバッグを抱えて走り出した。本当ならビートチェイサー2000も確保したいが、諦めるしかない。
 超能力さえ使えば別かもしれないが、正体が知られてしまうリスクを背負ってまで欲しい物ではなかった。

(なるほど……これがガイアメモリって奴か。悪くない代物だな)

 ドライバーを通じたガイアメモリの力が全身に流れ込むのを感じて、石堀はそう心の中で呟く。
 恐らく、クロムチェスター以外のナイトレイダーが使用するどの武装よりも優れているはずだ。この状況では是非とも凪に持たせたいが、暗黒騎士キバや溝呂木眞也のような連中が相手では通じないだろう。
 そして凪は、そんな人類に仇なす連中を殲滅しようと動くに違いない。本来なら彼女の影を強くできるのは大歓迎だが、こんな世界では下手に彼女を戦わせられなかった。

(凪、俺への憎しみを強くするのはいいが、どうか無茶をするのは止めてくれよ……)

 背後で繰り広げられている戦いによる怒号や金属音が響く中、仮面ライダーアクセルに変身した石堀光彦は腕の中で眠り続ける西条凪にそう告げる。
 きっと彼女はこの戦いの中で、更なる憤怒や憎悪を異形の存在に対して向けてくるはずだ。それによって生じる負のエネルギーこそ、ダークザギの糧になる。
 その為にも、彼女は絶対に生かさなければならなかった。





 空で輝く太陽から【E−2】エリアに降り注ぐ光はとても温かかったが、桃園ラブは一身に浴びても全く心地よくなれなかった。
 それもそのはず。井坂深紅郎やティアナ・ランスターとの戦いが終わってから、あまりにも重苦しい空気が漂っているからだ。
 涼村暁と黒岩省吾。この二人は出会ってから、ずっと顔を合わせていなかった。恐らく元の世界で知り合いだったのかもしれないが、かなり仲が悪いように見える。
 今のところ、喧嘩をする気配は感じられないがいつ爆発してもおかしくない。できることなら二人には仲良くして欲しいが、事情を知らないラブには何を言えばいいのか皆目見当がつかなかった。

「それにしても、暁さんも黒岩さんも強いですね! あたし達が力を合わせれば、きっと何だってできそうですよ!」

 だから、せめて空気を変えるためにラブは話題を出す。
 これだけで仲良くできるなんて到底思えなかったが、少しでも可能性に賭けたかった。

「はあ? 俺がこんな胡散臭い奴と力を合わせる? おいおいラブちゃん、何を言ってるの?」

 だが、暁から帰ってきたのはそんな彼女の願いを呆気なくぶち壊すような、無神経な発言だった。

「えっ?」
「こいつの正体見たでしょ! こんな野郎と一緒にいたら、騙されるだけだって!」
「それはこっちの台詞だシャンゼリオン!」

 そんな暁に張り合うかのように、黒岩は声を荒げる。

437ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:52:40 ID:fuApQ0Fg0

「貴様こそ、この場でもどうせ下らぬことを考えているのだろう……大方、主催者達の甘言に乗せられて殺し合いに乗り、俺達を利用する気なのだろうがそうはいかん!」
「ちょっと、黒岩さん!」

 幾らなんでも、その言い方は酷すぎる。そう思ったラブは黒岩を咎めようとしたが、その前に暁が出てきた。

「何ぃ!? 優勝しようとしているのはてめえの方じゃないのか!? そうやって気取っているけど、どうせ殺し合いのどさくさに紛れて俺達人間のラームを奪う気だろ!」
「フン、所詮貴様ではそんな浅はかな考えしかできないようだな……知っているか! ローマ帝政期に造られたコロッセオでは……」
「わけわかんないこと言うんじゃないの!」

 薀蓄を無理矢理遮った暁を前に、黒岩は憤りの表情を向ける。だが肝心の暁はそんな黒岩に目向きもせず、ラブに振り向いた。

「ラブちゃん、こんな奴は放っておいて俺達だけで行こう?」
「え、ええっ!? そんなの駄目ですよ!」
「あのね、こういうインテリぶった野郎といたって何もいいことはないの! それよりもほら、俺と一緒に……」
「待て、そうはいかんぞシャンゼリオン!」

 ラブの手を取ろうとした暁の言葉を、今度は黒岩が勢いよく邪魔する。それはまるで薀蓄を途中で止めたことに対する仕返しのようだった。

「貴様こそ、一人で行けばいいだろう! どうせ足手纏いにしかならないのだから、さっさと消えてしまえ!」
「何だと……足手纏いなのはどっちだ! てめえ、さっきの戦いは俺達に任せてサボってたくせに、何様のつもりだ!?」
「何……!?」

 そうして暁と黒岩は睨み合い、彼らの間に火花が飛び散っていく。どちらも、譲り合う気配はまるで感じられない。
 何とか二人の仲を取り持とうとしたのに、むしろ逆効果だった。それを思い知ったラブに後悔が芽生えるが、もう遅い。

「え、えっと……暁さんも黒岩さんもちょっと……」
「「何だっ!?」」
「……何でもありません」

 おろおろしながらもラブは暁と黒岩を落ち着かせようとするが効果はなく、萎縮してしまう。
 こうなった以上、もうどうしようもなかった。せめてこの場に美希達がいてくれたらまだ希望はあったかもしれないが、ラブ一人では何もできない。
 このままじゃ、本当にどちらかが怒りのあまりに離れてしまう恐れがあった。そうなったらここで一人にさせるなんて危ないし、この二人がいがみ合ったままで終わらせたくはない。
 だからラブはもう一度、暁と黒岩を落ち着かせようとしたが、そう思った直後に足音が聞こえてくる。それに気づいた彼女が振り向いた先から、赤い鎧を纏った誰かが女の人を抱えながら近づいてくるのが見えた。

「な、何だぁ!?」
「何者だ!?」

 そして暁と黒岩も同じタイミングで、来訪者に対して警戒の言葉をぶつける。
 二人のようにラブも思わず身構えたが、その瞬間に鎧を纏った何者かは目の前で足を止めた。

「あんたら、この先の村に行くつもりか?」

 銀色の角に仕切られた青い瞳を輝かせている仮面の下から聞こえてきたのは、敵意の感じられない男の声。
 発せられた言葉と、腕の中で気絶している女性の存在を考えて敵ではないかもしれない。ラブがそう思うのと同時に、黒岩が前に出てきた。

438ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:53:33 ID:fuApQ0Fg0

「そうだが……どうかしたのか?」
「なら、やめておいた方がいい。あの村では今、俺の仲間が黒い化け物と戦っている……命が惜しかったら、すぐに引き返しておくんだな」
「それは本当か?」
「おいおい、こんな時に嘘を言ったってどうなる? 俺が信用できないのはわかる……だが、もしも本当に敵だったらこうして呑気に話しかけたりはしないぞ」

 黒岩に答える男の表情を窺う事はできないが、声には明らかな焦燥が感じられるので嘘を言っているようには思えない。
 目の前にいる二人とは味方になれるかもしれないとラブは思うが、だからと言って安心はできなかった。

「申し遅れた、俺の名は石堀光彦。どうやら、あんたらは俺達の敵じゃなさそうだな……なら、一緒に来てくれないか? ここにいたら危険だからな」
「待ってください!」

 だからラブは石堀光彦と名乗った男の提案を遮るように力強く叫ぶ。

「あの先にある村では、あなたの仲間が襲われてるんですよね!? だったら、あたしが行きます!」
「何を言ってるんだ? 君みたいな子どもを一人で戦場に向かわせるわけにはいかない……気持ちはわかるが、ここは俺について来てくれ」
「いいえ、行かせてください! あたしはもうこれ以上、誰も犠牲になって欲しくないんです!」

 そう宣言しながら、彼女は懐からリンクルンとクローバーキーを取り出した。
 プリキュアの正体は秘密にしないといけないが、今のラブは明かすことに対して躊躇いはない。巴マミや黒岩省吾には話したのだし、涼村暁には変身した所を見られているのだから、これ以上知られても同じだった。
 だから彼女はリンクルンにクローバーキーを挿して横に回し、表面を開ける。そこからローラーを勢いよく回して、輝きが辺りを包むのと同時に宣言した。

「チェインジ、プリキュア! ビート! アーップ!」

 するとラブの全身は光に包まれて、変身が始まる。
 茶髪は一瞬で黄金色に輝き、身体を覆っていた光は弾けて新たなるコスチュームやブーツ、そして鮮やかなアクセサリーやポシェットが姿を現した。
 変身を果たした頃、両手でハートを作りながら彼女は名乗りをあげる。

「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」

 そうして、軽く手拍子を取りながらキュアピーチに変身した桃園ラブは宣言した。
 プリキュアになった彼女は、赤い装甲を纏った石堀に振り向く。その仮面の下では、横にいる暁のように呆気に取られているかもしれない。
 そんなことを考えながら、キュアピーチは石堀に声をかけようとする。

「キュアピーチ……まさか君は、つぼみちゃんが言っていたプリキュアの一人なのか?」

 しかしその前に石堀から出てきたのは、キュアピーチの予想を遥かに超えた言葉だった。

「えっ? つぼみちゃんって……あなた、つぼみちゃんと会ったのですか!?」
「ああ。今は仲間を探すために別行動を取って、街を目指しているがな……キュアピーチってことは、君が桃園ラブちゃんなのか?」
「ええ、そうですけど……」
「だったら尚更、君を行かせるわけにはいかない。君にもしもの事があったら、つぼみちゃんが悲しむ……それに向こうで戦っている一文字の願いだって、俺は無碍にしたくない」
「一文字って……まさか、広間にいた一文字隼人って人ですか!?」
「そうだ。だから今は、俺の言う事を聞いて欲しい……彼も、君みたいな子には戦ってほしくないだろうから」

 石堀の言葉は、キュアピーチには痛いほど理解できる。
 花咲つぼみや加頭順に反抗した一文字隼人と一緒にいたからには、きっと彼は優しい人間なのかもしれない。自分を犠牲にしないでつぼみのことも悲しませない為にも、ここで引き止めようとしているのだ。
 その気持ちはとても嬉しいし、キュアピーチもそんな石堀を心配させようと思わない。このまま村に行くのは、石堀の優しさや一文字の決意を裏切ることになってしまう。
 しかしそれでも、キュアピーチは石堀の言葉を受け入れることができなかった。

439ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:54:51 ID:fuApQ0Fg0

「石堀さん、心配してくれてありがとうございます……でも、ごめんなさい」

 だから彼女は、石堀の言葉に対して首を横に振ることで答える。

「もしもここで一文字さんに何かがあったら、それこそつぼみちゃんは悲しむと思います……から、あたしは行きます!」
「おいおいおい、ちょっと待ってラブちゃん!」

 石堀から返事が来る前にピーチは走ろうとしたが、その道を遮るかのように暁が出てきた。

「君がそこまでやる必要はないでしょ、危ないって! この石堀って野郎の言うとおり、ここは離れようよ!」 
「暁さんも、ありがとうございます。でもすぐに行かないと……」
「だったら、俺も行く!」
「いいえ……暁さんはさっきまでたくさん動いたから、無理しないでください!」
「無理をしているのは君の方でしょ!」

 必死になって止めてくれている暁を前に、キュアピーチは思わず表情を曇らせてしまう。

『駄目よ……行っちゃ駄目!』

 そして周りにいる石堀と暁の姿を見て、母親である桃園あゆみの言葉が脳裏に蘇った。
 それは、クローバータウンのみんなにプリキュアであると明かした、絶対に忘れられないあのクリスマス。あの時だって、お母さんを含む街のみんなはラビリンスに乗り込もうとした自分達を、必死に止めている。
 今だってあの日みたいに、ここにいるみんなを心配させていた。

「やはり君も、つぼみちゃんと同じプリキュアになっただけのことはあるな」

 その最中、彼女に芽生えた後ろめたさを振り払うかのように、石堀が声をかけてくる。

「わかった……なら、一文字を助けに行ってくれ」
「はぁ!? あんた、本気か!?」
「どうせここで俺達がいくら止めようとしたって、彼女は行くに決まっているさ……そうだろ?」

 驚愕で目を見開く暁に軽く答えてから、石堀はキュアピーチに振り向いた。
 その問いかけに、彼女は否定することはできない。実際、彼らの制止を無視してでも助けに行こうとしたのだから、反論しても無意味だった。
 太陽の光に照らされる仮面の下で真摯な表情を浮かべているはずの石堀は、何もいえないキュアピーチを前にそのまま続ける。

「ここにいるみんなはどうか俺に任せてくれ。ただし、絶対に生きて戻って来るんだ……一文字が戦っているキバという奴は強い。いざとなったら、迷わず逃げろ……無理をして君が死んだら、元も子もないからな」
「わかりました……ありがとうございます!」
「どうか、一文字のことを頼んだぞ。彼はこんな所で死んでいい男じゃないからな」
「はい、石堀さん達も気をつけてください!」

 石堀への感謝を告げたキュアピーチは、心配そうに見つめている暁と無言で頷く黒岩を一瞥した後、村に向かって走り出した。
 三人を心配させるのは心苦しいが、彼女は瞬時にそれを振り払う。今はつぼみや石堀達の為にも一文字隼人を助けることだけを考えなければならない。
 彼がどんな人物なのかは全く知らないが、強くて優しいのは確かだった。だから、キバという奴から助けたい。
 石堀達や今もどこかで頑張っているつぼみ、そしてみんなを守るために戦っている一文字の無事を強く願いながら、キュアピーチは走り続けていた。

440ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:55:57 ID:fuApQ0Fg0





 仮面ライダーアクセルに変身していた石堀光彦の視界から、キュアピーチの姿が見えなくなるまでそれほどの時間はかかっていない。
 花咲つぼみの仲間の一人、桃園ラブに出会えたのは僥倖だったかもしれないが、いつまでもここにいるわけにはいかなかった。
 凪は当然だが、彼女から頼まれたこの男達も一応守らなければならない。暁と黒岩……恐らく、涼村暁と黒岩省吾のことだろう。
 特に黒岩省吾は見覚えがあった。この孤島に飛ばされてつぼみと出会ってから、影から覗いていた男である。あの時は接触すらせずに立ち去ったのでこちらも干渉しなかったが、まさかこんな形でまた出会うとは予想外だった。

(一見するとただの人間にしか見えない……だがこんな所に呼び出されている以上、その可能性は低いな)

 きっとこの男達も何らかの変身能力を持っているのだろうが、邪魔をしない限りは何もする気はない。無論、警戒は怠らないし、現状では保護するつもりだが。

「本当に大丈夫なのかよ、あんな子を一人で行かせて?」

 そして案の定、涼村暁は不満を漏らしている。
 一見するとずぼらで軽い性格の男だろうが、それでも油断はできない。どんな相手だろうと、こんな状況では慎重に向き合わなければならなかった。
 不信を抱かれては、そこから崩壊に繋がりかねない。

「仕方ないだろう。ここで無理矢理連れて行ったとしても、彼女はきっと抜け出して一文字を助けに行っていたはずだ」
「そりゃ、そうかもしれないけどよ……」
「心配なのはわかるが、今は彼女を信じるしかない。行っておくが、あんたまで行かせる訳にはいかないからな。俺について来てもらう」

 本来なら人間の一人や二人が死んだ所で何とも思わないが、味方になるのならば情報を引き出すつもりだ。それにナイトレイダーとして振舞っている以上、危険人物以外はできる限り保護しなければならない。
 いい加減な暁も、胡散臭い黒岩も同じだった。

「はいはい、わかったよ……」

 暁がさも面倒臭そうに答えた後、先導するように石堀は森を通って進む。本来のルートとは違うが、もしも二号とキュアピーチがキバに敗れたりしたら、そのまま追跡される恐れがあった。
 こんな戦場に安全地帯などある訳ないが、生存の確率を少しでも上げる為に遮蔽物の多い森を進んだ方が得策かもしれない。

(それにしてもあの光……力そのものは圧倒的に劣るが、ウルトラマンの光とよく似ていたな)

 そして太陽の光が木々に遮られていく位置にまで辿り着いた頃、アクセルは歩を進めながらキュアピーチとキュアブロッサムの姿を思い出す。
 人々を守るという下らない信念やその身体から放たれた光は、忌むべきウルトラの一族達が持つそれとよく似ている。しかもキュアブロッサムの話によるとプリキュアとやらはこの地にも八人いて、元の世界ではもっと多くいるそうだ。
 その話はアクセルにとって忌々しいと思わせるのと同時に、強い興味を抱かせる。もし、もっと早くプリキュアの存在を知っていれば、完全なる復活を果たすための拠点をそちらの地球に選んでいたかもしれない。
 一つ一つはウルトラマンに比べれば弱いだろうが、つぼみ曰くどんな困難が訪れても諦めない限り、強い光が宿ってその度に危機を乗り越えてきたようだ。
 そんな光を闇に変換できれば、少しは力になるかもしれない。無論、過度な期待はしないが。

(来海えりか……キュアマリンは死んだがまだ七人は残っているか。精々、生きていてくれよ)

 この殺し合いに巻き込まれたプリキュア達は一人減ったが、まだ大勢残っているのは有り難かった。もしも可能であればウルトラマンと同じように戦いの中で光を強化させて、復活のエネルギーの足しにするのも悪くないかもしれない。
 本当ならあの場でキュアピーチやキュアブロッサムの光を奪うこともできたが今は協力者なので、まだやらなかった。それに何よりも、目先の利益だけに囚われては西条凪や姫矢准を生かすことができなくなる恐れもある。
 何故なら、彼女達も邪魔者を消すための手段なのだから。

441ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:56:56 ID:fuApQ0Fg0

(石堀という男……やはり、あの時の男か)

 そして黒岩省吾もまた、赤い鎧を纏った石堀光彦の背中を見ながらこの殺し合いに放り込まれた当初を思い返している。
 当初は情報収集を優先していたので接触はしなかったが、こんな形で再び再会することになるとは思いもしなかった。この男もどうやら善人のようなので、自分もそういう風に振舞わなければならない。
 だが、油断はならなかった。一見すると軽い感じの男だが、その裏では何を考えているかは分からない。もしもこちらがダークザイドであることを知ったら、一気に警戒を強める恐れがあった。

(チッ……シャンゼリオンさえいなければ、まだ動きやすかったのだが……)

 涼村暁を見ながら、黒岩は心の中で舌打ちをする。
 もしもこの男が余計なことを石堀に口走ったりなどしたら、自分の立場が危うくなるかもしれない。そうなっては、敵と認識される恐れもあった。
 一刻も早く決着をつけたかったが、そんなことなどできない。それに何よりも、シャンゼリオンの様子がどこかおかしかった。
 そんな状態のシャンゼリオンと戦ったとしても、何にもならない。

(とにかく今は、こいつが余計なことを口走ったとしても何とか誤魔化さなければな……)

 一応、シャンゼリオンがこちらの正体を明かそうとしても、それを誤魔化せる自信はある。自惚れるつもりはないが、東京都知事を目指しているので多くの人を魅了させた話術さえ用いれば、切り抜けることはできるはずだ。
 それに石堀が抱えている女性も、魅了することができるかもしれなかった。無論、それはやるにしても余裕があってからの話だが。
 今はキュアピーチやキュアブロッサムと再び出会えることを信じながら、自分の安全を確保しなければならない。その為にも、涼村暁に最新の注意を向けなければならなかった。

【1日目/昼前】
【E−2/森】


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康、仮面ライダーアクセルに変身中、凪を抱えている。
[装備]:korrosion弾(二発消費)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー@仮面ライダーW、ガイアメモリ(アクセル、トライアル)@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する
0:凪を守りながら涼村暁と黒岩省吾を保護する。
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る
2:今、凪に死なれると計画が狂う……
3:凪と暁と黒岩と共に森を通って市街地に向かう
4:孤門、姫矢、つぼみの仲間を捜す
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています

【西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、気絶中
[装備]:コルトパイソン+執行実包(2/6)
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×8)、照井竜のランダム支給品1〜3個、相羽ミユキのランダム支給品1〜3個、テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
0:…………(気絶中)
1:一文字隼人と共に暗黒騎士キバを倒す。
2:状況に応じて、仮面ライダーアクセルに変身して戦う。
3:孤門、石堀と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:五代雄介、美樹さやかの事を危険な存在と判断したら殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前
※さやかは完全に死んでいて、助けることはできないと思っています
※まどか、マミは溝呂木に殺害された可能性があると思っています

442ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:57:32 ID:fuApQ0Fg0

【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、汗だく
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式(ペットボトル一本消費)、首輪(ほむら)
[思考]
基本:願いを叶えるために優勝する………………(?)
1:石堀、黒岩と行動し、黒岩が変な事をしないよう見張る。
2:何故黒岩が自分のことを知っているのか疑問。
3:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
4:ラブちゃん、大丈夫なのか……?
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。但し、まどかの名前等知り合いの事については全く聞いていません。
※黒岩はダークザイドなのではないかと思っています。


【黒岩省吾@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー(2/2)
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:周囲を利用して加頭を倒す
1:あくまで東京都知事として紳士的に行動する
2:涼村暁との決着をつける ……つもり、なのだが……
3:人間でもダークザイドでもない存在を警戒
4:元の世界に帰って地盤を固めたら、ラビリンスやブラックホールの力を手に入れる
5:井坂とティアナが何を考えていようとも、最終的には自分が勝つ。
6:桃園ラブに関しては、再び自分の前に現れるのならまた利用する。
7:涼村暁が石堀光彦に妙なことを口走らないよう、警戒する。
[備考]
※参戦時期は東京都知事になってから東京国皇帝となるまでのどこか。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマンはダークザイドと同等又はそれ以上の生命力の持主と推測しています。(ラブ達の戦いを見て確信を深めました)
※ラブからプリキュアやラビリンス、ブラックホール、魔法少女や魔女などについて話を聞きました 。
※暁は何らかの理由で頭が完全におかしくなったのだと思っています。

443ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:58:37 ID:fuApQ0Fg0





 仮面ライダー二号は暗黒騎士キバの斬撃をかわし続けながら、ひたすら反撃の機会を窺っている。石堀光彦も彼の上官である西条凪も逃がした今、一人で戦わなければならない。
 もっとも、それ自体は慣れているのだが相手が悪すぎた。がんがんじいの偽物な割には頑丈で素早く、しかも剣術の技量が異様なまでに高い。
 認めるのは反吐が出るが、キバは自分より強かった。これまでの戦いでも、沖一也や石堀達の乱入が無ければ確実に負けている。加えて今は二度にも渡るキバとの戦いや、タイガーロイドの襲撃による疲労が完全に癒えてない状態だった。
 無論、それに諦めて死を選ぶ二号ではない。石堀や一也達と再び出会うと約束したのだし、何よりも散ってしまった者達に報いることはできなかった。

(それにあいつらだって……特に本郷なら、どんなハンデを背負ったとしても負けなかった。俺がそのくらいのことをしなくて、どうする!)

 この島のどこかで、誰かを守るために死んでいったはずの本郷猛に約束を交わしたのだから、倒れるつもりは毛頭ない。キバによって与えられた刀傷が痛むも、死んでしまった者達に比べたら何てこともなかった。
 キバが持つ漆黒の剣による太刀筋を、二号は横に跳んで避ける。それにより、名も知らぬ植物もろとも地面に傷が刻まれていった。こんな小さな命すらも奪われたことに、少しだけ良心の呵責を感じながらも赤い拳を振るう。
 その顔面にクリーンヒットするが、やはりキバは揺るがない。続くように反対側の手で殴りつけるが、結果は同じだった。
 埒が明かないと思いながら二号がバックステップを取るのと同時に、キバの斬撃が繰り出されて胸板にまたしても傷が刻まれる。ダメージ自体はそこまで酷くないが、かなり蓄積されているので、これ以上受けると流石に危険だった。

「中々粘るようだが……そろそろ終わらせて貰うぞ、仮面ライダー二号」

 そして、そんな二号の焦りを見透かしたかのようにキバが嘲りの言葉をぶつけてくる。
 猛獣を模した仮面の下で、黒装束を纏った名も知らぬ男は笑っているに違いない。それに怒りを覚えるも、明らかな挑発に惑わされる二号ではなかった。
 猛る感情をすぐに抑えつけて、仮面の下から静かにキバを睨みつける。

「それはこっちの台詞だ……いい加減、しつこいんだよ」
「そうか」

 二号は対抗するように煽るも、キバはただ頷くだけだった。
 その反応を見た二号は、つまらねえ奴だなと心中で呟く。直後、キバは漆黒の刃に右手を添えてきた。

「ならば、終わらせてやろう」

 殺意に満ちた宣言と共に、掌と刃を擦れ合わせる。すると灼熱が噴出するのを見て、二号は思わず身構えた。
 それは先程、仮面ライダーアクセルに変身した凪を軽く吹き飛ばした一撃に用いられた炎。その威力は彼女を戦闘不能にまで追い込むほどだから、かなり高いはずだった。
 しかしそれでも、最後まで諦めるわけにはいかない。例え勝てないとしても、石堀達を逃がすための時間稼ぎになるのなら、それで結構。

(一か八か、ライダーキックをやってみるか!)
 
 相手が必殺技でかかってくるなら、こっちも必殺技で抵抗するだけ。キックと剣の激突で身体が吹き飛ぶ可能性もあるだろうが、それに怖がっていたら仮面ライダーをやってられない。
 剣を構えるキバと睨み合いながら、二号は全身に力を込めながら腰を落とす。そして、キバが疾走するタイミングを見計らって飛び上がろうと考えた、その直後だった。

「プリキュア! ラブ・サンシャイィィィィィィンッ!」

 少女の叫び声が二号の耳を打ち、眩い桃色の光が太陽と混じりながら周囲を照らす。
 こちらを両断しようとしていたはずのキバは振り向くと同時に構えを解いて、背後に飛び退いた。それにより、キバの立っていた場所を桃色の光線が一瞬で横切っていく。
 必殺技を受けずに済んだのは幸いだろうが、二号はその喜びを嚙み締めることはできなかった。

「プリキュア……だと?」
 
 聞き覚えのある単語を反芻しながら、二号は光が発射された方に振り向く。見ると、ここから数メートル離れた先から、輝いて見えるような金色でツインテールを結んで、鮮やかな桃と白を基調にした衣服を着ている少女が近づいていた。
 二号はその煌びやかな格好に、デジャブを抱いている。洋服や飾りの形状こそは違うが、雰囲気は何処となくキュアブロッサムを思い出させた。つまり彼女こそ、キュアブロッサムの仲間であるプリキュアの一人と考えて、間違いない。
 そう推測した二号の隣に、現れた少女は隣に駆け寄ってくる。その真摯な表情からは敵意が感じられないので、やはり味方だと考えて間違いはなかった。

444ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 08:59:59 ID:fuApQ0Fg0

「大丈夫ですか、仮面ライダー二号!?」
「ああ……君はもしかして、キュアブロッサムと同じプリキュアなのか?」
「はい、あたしはキュアピーチです! 石堀さんから、あなたがあの一文字隼人さんだってことも聞いてます!」
「なるほど」

 力強くて眩い笑顔を前に、二号は頷く。
 記憶が正しければ、キュアピーチとは桃園ラブという少女が変身するプリキュアのはずだった。それに、つぼみ達よりも少し先輩らしい。
 そんな彼女が助っ人に現れるのは嬉しいが、同時に少しだけ心苦しくなる。恐らく彼女は石堀の制止を振り切ってまでわざわざ駆けつけてくれたのだろうが、キバに勝てるかどうかは別だった。
 無論、アクセルから与えられたダメージは残っているだろうが、それでも奴の戦意は微塵にも衰えない。

「色々と話はあるけどな、まずはあの野郎を何とかするか? キュアピーチ、奴はかなり強い……気を引き締めて行こうぜ」

 だが、二号は怖気づくことなどしなかった。
 ここで少しでも震えては石堀達の元に戻れないし、何よりもこうして現れたキュアピーチの想いを裏切るだけ。彼女は自分を信頼しているのだから、それに全力で答えなければならなかった。
 キュアピーチと力を合わせてキバを倒し、石堀達に無事であるとこの身で証明する。そして、ラブとつぼみを再会させて殺し合いを止めるまでは絶対に死ねなかった。

「勿論です! あいつを倒してから、みんなの所に戻って……それからつぼみちゃん達と合流しましょう!」
「ああ!」

 活力に満ちた言葉をぶつけあった後、二人は同時に暗黒騎士キバの方に振り向く。
 その漆黒はおぞましさを感じさせるほどに濃く、太陽の光を容赦なく塗り潰さんとする雰囲気を醸し出していた。

「愚かな……例え何人増えようとも、我が暗闇の前では塵に等しい。あの男と共に逃げていれば、命が延びただろうに……」

 そして当のキバは相変わらず気取ったような態度で、見下すような口を利いている。凄まじい殺気が感じられるが、二号はあまり脅威と感じない。
 念の為、キュアピーチに目を呉れてみたが、キバの邪念を前にしても怯えてるようには見えなかった。やはり多くの修羅場を切り抜けてきたのだから、この程度で怖気づくこともないのだろう。
 キュアピーチへの頼もしさを感じながら、二号はキバに向かって走り始めた。
 当然ながらキバも疾走してきて、その剣を横に振るってくるが二号は少し屈んだことで回避し、そこから燃え上がる炎の如く赤い拳を漆黒の装甲に叩き込む。
 打撃音が鈍く響いた瞬間、一瞬で腕を引いて反対側の拳で胴体を殴った。そこからマシンガンのように連打をするが、キバもただ黙って受けている訳ではなく、得物を振るおうと腕を掲げてくるのを二号は見る。
 しかも、キバもただ黙って受けている訳ではなく、体制を少しずらしながら回避し、そこから得物を振るおうと腕を掲げてくるのを二号は見る。

「やああああああぁぁぁぁっ!」

 直後、キバの一閃を避けることに神経を集中させた二号の鼓膜に、キュアピーチの叫び声が響いた。
 視界の外から、飛び出てくるかのようにキュアピーチが姿を現して、そのまま勢いよくキバの肉体を殴りつける。その衝撃によって鳴った音は凄まじく、キバは微かによろめいた。
 そこからキュアピーチは二号と入れ替わるかのように進撃して、しなやかな右足で蹴りを繰り出す。彼女の一撃は見事、キバの脇腹に命中した。
 素早く足を引いた後、キバはその手に握る剣を斜め下に振るう。だがキュアピーチはその斬撃を、横に跳ぶことで軽々と回避した。
 中学生程度の華奢な体形に似合わず、その身体能力はかなりの物かもしれない。きっと、BADANの怪人相手でも引けを取らないだろう。もしも彼女やキュアブロッサムが自分達の世界にいてくれたら、きっと後輩ライダーやSPIRITS部隊の大きな力となっていたかもしれない。

445ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 09:06:27 ID:fuApQ0Fg0

(っと、しょうもないことを考えても仕方がない……あいつらにはあいつらの世界で役目がある。俺達の世界の問題を、あいつらに押し付けてどうするんだ)

 そう自らを叱責しながら、二号はいつもの変身ポーズを構えてライダーベルトのパワースイッチを起動させる。
 カチリ、と改造された肉体に埋め込まれたパーツが稼働する音が、耳に響いた。

「ライダー……パワー!」

 そんな二号の叫びに答えるかのようにライダーベルトの風車が回転し、力が身体の奥底から溢れ出てくる。
 これまでの戦いでは一対一を強いられていたので余裕がなかったが、今回はキュアピーチという名の強い味方がいた。戦えるからとはいえ、ただの女子中学生に任せるのは気が引ける。だがそんなのを気にしている場合ではないし、何よりも考えていたら彼女に失礼だ。
 そんなキュアピーチは今、キバが振るう刃より放たれる漆黒のかまいたちを、左右に跳んで一生懸命に避けている。しかしその量と速度は凄まじく、僅かとはいえ肌が確実に切り裂かれていた。
 しかも標的から避けられた衝撃波は周囲に激突した後、轟音と共に大爆発を起こす。そんな攻撃をまともに受けたら、いくら彼女でも危ないはずだ。
 そう危機感を覚えた二号は急いで地面を蹴り、全身全霊を込めて疾走する。数歩進んだ後、キバがキュアピーチから振り向くのと同時に彼は飛び上がり、宙で前転をした。

「ライダー……キイィィィィィィィック!」

 雄叫びと共に蹴りの体制に入った二号は、眼下に立つキバが掌で刃を滑らせるのを見る。キバが握る得物の刀身から漏れる灼熱は、そのまま暗黒色の鎧を巻き込んでいった。
 どうやら、奴は確実にこちらを潰しにかかっているようだと、二号は思う。必殺技同士の勝負に出るというなら、望むところだ。
 どの道、決着を付けなければいけないのだから、奴を完膚なきまでに叩きのめさなければ気が済まない。可能性は低いだろうが、今はキュアピーチという頼れる仲間がそばにいるのだから、負けられなかった。
 やがてキバも対抗するように跳躍して、全ての存在を燃やし尽くしかねない灼熱を纏った刃を、勢いよく振るう。
 そうして、仮面ライダー二号の蹴りと暗黒騎士キバの一閃は空中で衝突し、再び大爆発を起こした。





「二号ッ!」

 数メートル上空で燃え上がる爆炎の熱が肌に突き刺さる中、キュアピーチは頼れる先輩の名前を呼ぶ。
 無差別に広がる爆風は大気をピリピリと振動させて、灼熱は地面に飛び散った。あんな爆発に巻き込まれたら、どんなに強い戦士だろうと無事でいられるとは到底思えない。
 強い不安が胸中に広がっていった瞬間、爆発の中から仮面ライダー二号が飛び出してきて、そのまま落下した。
 勢いよく地面を転がる彼の元にキュアピーチは駆けつけて、その身体を抱える。

「大丈夫ですか、二号!?」
「何、大丈夫だ……わざわざ、悪いな」

 仮面の下から聞こえてくる声は震えていて、まるで蚊が鳴いているようだった。
 本人は大丈夫だなんていっているが、全然そんな風には見えない。どう考えたって、戦えるような状態ではなかった。
 一刻も早く二号をここから逃がしたい。キュアピーチがそう思うのと同時に、背後から大地を踏み締める足音が聞こえてきた。また、凄まじい殺気が背筋に突き刺さるのを感じて、彼女は振り向く。
 大輪の炎から生まれた熱によって陽炎が起きて、大気がゆらゆらと揺れる中で暗黒の騎士が近づいてくるのを見た。その狼を模した禍々しい仮面からは、射抜くような鋭い視線が感じられる。
 キバの歩みは威風堂々としていて、未だに戦えるということを実に物語っていた。

「キ、キバ……!」
「震えることはない、すぐに永遠の闇へ送ってくれる」

 冷酷無常な言葉をぶつけながら剣を構えるキバに、キュアピーチは戦慄しながらも睨み返す。
 ほんの少しだけとはいえ戦闘を繰り広げたが、キバはとても強いとキュアピーチは察していた。その実力はあのテッカマンランスと同等、あるいは遥かに上かもしれない。仮に二号が戦える状態だとしても、勝てる可能性は低かった。
 それでもここで戦わなければ多くの人が犠牲になるだろうから、キュアピーチは戦おうと決意する。どんな相手だろうと、諦めなければきっと負けないはずだから。

446ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 09:07:52 ID:fuApQ0Fg0

「テメェ……言ってくれるじゃねえか……」

 だが、キュアピーチの耳に二号の震える声が響いたことで、その決意は一気に揺らぐ。
 この腕の中にいる彼は、今すぐにでも休ませなければいけない。でも、彼一人だけでは何処かに移動するなんてできる訳がなかった。
 今の二号を放置して戦いに出たら、キバの悪意による犠牲になってもおかしくない。

『どうか、一文字のことを頼んだぞ。彼はこんな所で死んでいい男じゃないからな』

 直後、石堀の願いがキュアピーチの脳裏に蘇る。
 彼に無理を言ってまでここに来たのは、何のためか? こんな戦いを打ち破ってくれる仲間の一文字隼人を助けるためだ。それに石堀は、二人揃って戻ってくることを望んでいる。
 ここで無理をしてまでキバと戦うのは、彼の願いではない。一文字の命を救えるのは、キュアピーチ一人だけしかいなかった。
 だからキュアピーチはゆっくりと二号の身体を地面に下ろして、立ち上がる。そのタイミングを見計らったかのように、ピックルンが姿を現した。

「お、おい……」
「ちょっとだけ待ってください、すぐに終わらせますから」

 一瞬だけ微笑みを向けた後、再び前を振り向いてキバに鋭い視線を向けながら、キュアピーチは走る。
 同じようにキバも突貫してくるが、彼女はそれに構わずピックルンを手に取ってリンクルンに挿し込んだ。そこからリンクルンを横に回したことでピーチロッドが現れたので、キュアピーチはそれを掴む。
 徐々に距離を詰めながら、彼女はピーチロッドのスイッチを指で流してメロディを奏でた。ハート形の宝石が輝きを放つと同時にキバは一閃するが、少し屈んだことでキュアピーチの上を通り過ぎて終わる。
 
「プリキュア! ラブサンシャイン・フレーーッシュ!」

 その直後、彼女はキバの胴体を目掛けて腕を真っ直ぐに伸ばして、強く叫んだ。
 すると桃色の輝きがキバの巨体を飲み込み、轟音と共に突き飛ばしていく。宝石から開放された光は、一気にハートの形となった。
 しかし、キュアピーチは決して油断してはいない。ピーチロッドを握る腕から、こちらを弾き飛ばすかのような凄まじい圧力が伝わってきたからだ。あの光を吹き飛ばそうとキバは足掻いていると、キュアピーチは推測する。
 このままではその圧倒的な膂力によって、光が打ち破られてもおかしくない。だからこそキュアピーチは、エネルギーを増幅させることをせずに後ろを振り向いて、二号の元に駆け寄った。

「おいキュアピーチ、何をしてる!?」
「すみません二号、しっかり掴まってください!」

 投げかけられた疑問に答えることをせず、キュアピーチはデイバッグと二号の身体を抱えて全力疾走をする。普段なら持てる訳がないが、プリキュアの力さえあれば可能だった。
 敵から逃げ出していけないのは、キュアピーチだって理解している。しかし、必殺技で動きが止まった隙を付いて逃げる以外、二号を助ける方法が思いつかなかった。
 みんなを助けられるであろう、力強い戦士を救うためにも、キュアピーチは走り続ける。二号や、彼の仲間達が再び平和な日々を過ごせることを信じて。





 この肉体を拘束する光はそこまで力強くないが、あまりにも不愉快な眩さで満ちていた。
 魔戒騎士……それも、かつての師匠である冴島大河が選ばれた黄金騎士を思い出させてしまう。まるで、この期に及んで大河の亡霊が邪魔をしているかのようだと、暗黒騎士キバは思った。
 だがそんな錯覚に囚われているわけにもいかない。

447ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 09:09:20 ID:fuApQ0Fg0

「……フンッ!」

 キバは全身に力を込めて、ハートの光を一気に吹き飛ばした。
 そのまま彼は戦いによって荒れ果てたエリアを見渡すが、既に誰もいない。石堀光彦達は勿論のこと、仮面ライダー二号とキュアピーチの姿も見えなかった。
 恐らくキュアピーチは攻撃のためでなく、足止めを目的にしてあの光を放ったのだろう。仮面ライダーと同じ、別世界に存在する戦士も所詮はただの軟弱者ということか。

「僕ともあろう者が、ここまでしてやられるとはな……」

 しかしそれでも、キバは屈辱を感じている。奴らの術中にまんまと嵌って、挙句の果てに見失ってしまった。戦いに勝ったとはいえ、この手で止めを刺せないなんてあってはならなかった。
 尤も、逃げられたのならばいつまでも拘る訳にもいかない。再び相見える時が来れば殺せばいいし、そうでないのなら勝手に死ぬのを待てばいいだけ。
 この戦場には、まだ大勢の参加者が残っている。だからいつまでも、特定の相手だけと戦っている訳にもいかない。一文字隼人を潰すことに尽力しすぎて、他を忘れては不測の事態が起こる可能性もあった。
 とにかく今は数人相手の戦いで少し消耗したから、休んで体力を回復させなければならない。そう判断した彼は鎧を構成するデスメタルを解体して、バラゴの姿に戻る。
 生身を晒して軽く息を吐いた彼は、一文字隼人が移動に使っていたビートチェイサー2000に手を触れた。奴らは皆、同行者の存在があったからこそ、この乗り物を見捨てて撤退している。そのせいか、鍵も残っていた。
 魔導馬・雷剛に比べればその速度や性能は圧倒的に劣るが、この場では召喚ができない。だから、代用品が手に入ったのは有難かった。

(やはりこの場では力が抑えられている……首輪の影響か?)

 主催者達によって、自らに架せられた首輪を撫でながらバラゴは思案に耽る。
 二度に渡って烈火炎装を放ったが、仮面ライダーアクセルに変身した西条凪という女や、一文字の命を奪うことはできなかった。それにこれまでの戦いでも閻魔斬光剣を召喚しようとしたが何も起こらず、黒炎剣だけでの戦いを強いられている。
 大方、加頭順やサラマンダー達が何らかの下らない仕掛けを施しているに違いない。そうでなければ、殺し合いの根底を崩される恐れがあるからだ。首輪の効果か、それともこの島全体に参加者全員の力を抑える結界でも張られているのか……
 だが、ここで考えていても仕方がない。今は体力の回復を待ちながら、次の行動を考えることに集中すればいいだけだ。
 不意に、バラゴはデイバッグから取り出した地図を広げる。その中央には、彼にとって非常に関心を引く建物が描かれていた。
 冴島邸。かつて大河と共に暮らしていた、今のバラゴにとっては忘却の彼方に葬りさりたい記憶が眠る屋敷だ。
 恐らくこれは、主催者が用意した偽者だろう。だから、カオルやゴンザもこの屋敷にはいない。何故、こんな偽の屋敷を作るのかという疑問が芽生えたが、すぐに振り払う。
 どうせ、主催者達も皆殺しにするのだから、深く考えても意味はなかった。

「冴島鋼牙……」

 そしてマップを仕舞い込んだ後、名簿の中に一際気になる名前があったのを、バラゴは思い出す。あの冴島大河の息子である、冴島鋼牙もこの殺し合いに巻き込まれていた。
 風の噂によると、奴は大河の遺志を継いで黄金騎士となったらしい。ならば、この手で闇に葬る必要があった。
 無論、それは実際に遭遇してからの話。放送で呼ばれなかったのでまだ生きているだろうが、この戦いで死ぬ可能性もある。そうなれば、メシア降臨の邪魔者は一人残らず消えるだろうが、過度な期待はしない。
 いくらこの地に仮面ライダーやプリキュアのような戦士がいるからとはいえ、鋼牙とて魔戒騎士の一人。簡単に殺されることはないはずだ。
 もしも冴島邸に行けば、鋼牙と戦うことになるのか? そう取りとめのないことを考えながら、バラゴはひたすら身体を休めていた。

448ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 09:09:53 ID:fuApQ0Fg0
【1日目/昼前】
【D−2/荒れ地】
※戦いの影響によって荒れ地となっています。

【バラゴ@牙狼─GARO─】
[状態]:胸部に強打の痛み、ダメージ(中)、疲労(中)、顔は本来の十字傷の姿に
[装備]:魔戒剣、銃@牙狼
[道具]:支給品一式×3、ランダム支給品0〜2、冴子のランダム支給品1〜3、顔を変容させる秘薬?、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア! 、ビートチェイサー2000
[思考]
基本:参加者全員と加頭を殺害し、元の世界で目的を遂行する
0:今は身体を休めて、その後にビートチェイサー2000を使って移動する。
1:冴島鋼牙と出会ったら、この手で葬る。
2:今のところ顔を変容させる予定はない
3:石堀に本能的な警戒(微々たるものです)
4:一文字隼人とキュアピーチは再び出会うことがあれば、この手で殺す。(ただし、深追いはしない)
5:冴島邸を目指すか……?
[備考]
※参戦時期は第23話でカオルに正体を明かす前。
※顔を変容させる秘薬を所持しているかは不明。
※開始時の一件で一文字のことは認識しているので、本郷についても認識していると思われます。
※冴子と速水の支給品はまだ確認していません。
※つぼみ達の話を立ち聞きしていました
 そのためプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について知りました
※雷剛や閻魔斬光剣の召喚はできません。
 バラゴはこれを制限の影響だと考えています。






 暗黒騎士キバに追い詰められたが、キュアピーチの手によって仮面ライダー二号は何とか戦場から離脱することに成功する。
 既に変身を解いて一文字隼人の姿に戻った後、木に凭れかかる様に身体を休めていた。全身の至る所から激痛が走る中、彼は考える。
 俺ばかりに救いの手が差し伸べられるのに、どうして本郷は死ななければならないのか? あいつのように地獄を見てきた男こそ、救いが必要なのに。

(……もしかしたら、本郷の奴が向こうから祈ってくれてるのかもな。俺達が生きてくれるようにって)

 とはいえ、運命を憎むつもりは毛頭なかった。
 こうして生かされている以上、最後の最後まで戦い抜かなければならない。沖一也、石堀光彦、花咲つぼみ、西条凪、桃園ラブ……命を救ってくれた彼らのためにも、殺し合いを絶対に止めなければならなかった。
 ぼんやりと考える一文字の頬に、冷たくて柔らかい感触が走る。振り向くと、そこにはキュアピーチの変身を解いた桃園ラブと言う少女が、白いタオルを当ててくる姿があった。

「大丈夫ですか、一文字さん?」
「悪いな、何から何まで……俺なら大丈夫だ」

 心配そうな表情を浮かべる少女に、笑顔を返すことしかできない。できる限り力を込めるが、やはり戦いの疲労は誤魔化せなかった。
 彼女に連れられて南を一直線に進んだが、仲間達の姿は見えない。石堀や凪、それにラブの同行者である涼村暁と黒岩省吾という男達とは再会できなかった。
 だが、嘆いていても仕方がない。こうして生きていられたのだがら、市街地を目指せばいつかまた再会できるかもしれないと、信じるしかなかった。

「それとラブ、お前は無茶しすぎだ……俺を助けに来てくれたのは嬉しいけどよ、石堀の忠告を無視するなって」
「うっ……ごめんなさい」
「別に怒ってねえよ」

 ほんの少しだけ咎めたことでばつの悪そうな表情で俯くラブの頭に、一文字は軽く手を乗せてそのまま撫でる。
「確かに俺達はその力を精一杯、使わなければいけない時が来る。けどな、俺達には帰りを待っている人達がいるってことも忘れるなよ……まあ、俺が言えた義理じゃないけどな」

 そう、穏やかに告げた。
 仮面ライダーもプリキュアも平和を守る戦士だが、後ろには自分達を心配する人がいる。ガモン共和国でBADANに襲われた真美や子どもたちだって、悪と戦っている自分の帰りを待っているはずだ。
 平和を守ることだけを考えすぎて、彼らと二度と会えなくなるなんてあってはならない。

「わかりました……でも、一文字さんもどうか無理をしないでください」
「わかってるって」

 そうやって軽く頷いた一文字は、隣にいるラブがようやく笑ってくれるのを見る。
 やはり、子どもの笑顔は何物にも勝る最高の宝だなと、桃園ラブを前に一文字隼人は思った。

449ピーチと二号! 生まれる救世の光!! ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 09:11:15 ID:fuApQ0Fg0
【1日目/昼前】
【F−2】


【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(中)、罪悪感と自己嫌悪と悲しみ、決意
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、巴マミのランダム支給品1〜2
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:今は一文字さんを守りながら休む。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達(堂本剛三、フリッツ、クモジャキー、巴マミ、放送で呼ばれた参加者達)への罪悪感。
6:ダークプリキュアとテッカマンランス(本名は知らない)と暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:石堀さん達、大丈夫かな……?
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。



【一文字隼人@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、胸部に斬痕、左腕が全体的に麻痺
[装備]:ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考]
基本:仮面ライダーとして正義を果たす
0:今は身体を休める。
1:ラブと一緒に石堀達を探しながら市街地を目指す
2:他の仮面ライダーを捜す
3:暗黒騎士キバを倒す(但しキバは永くないと推測)
4:もしも村雨が記憶を求めてゲームに乗ってるなら止める
5:元の世界に帰ったらバダンを叩き潰す
6:この場において仮面ライダーの力は通用するのか……?
[備考]
※参戦時期は第3部以降。
※この場に参加している人物の多くが特殊な能力な持主だと推測しています。
※加頭やドーパントに新たな悪の組織の予感を感じています(今のところ、バダンとは別と考えている)。
※園咲霧彦、園咲冴子が園咲来人の関係者である可能性が高いと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時までに市街地エリアに向かう予定です。
※村エリアから南の道を進む予定です。(途中、どのルートを進むかは後続の書き手さんにお任せします)
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
 フレプリ勢、ハトプリ勢の参加者の話も聞いています
※石堀の世界について、ウルトラマンやビーストも含めある程度聞きました(ザギとして知っている情報は一切聞いていません)

450 ◆LuuKRM2PEg:2012/09/12(水) 09:11:44 ID:fuApQ0Fg0
以上で投下終了です。
疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。

451名無しさん:2012/09/12(水) 19:05:17 ID:8z6pcpCA0
投下乙です。
おお…バラゴもヤバいが一文字もヤバいな…
まあ、予約キャラの数の割りには乱戦というほどではなく落ち着いたか
しかし、副隊長とザギさん、暁と黒岩が一緒っていうのがヤバげに見えるな
ザギさんの思考もだんだん磨きがかかってきて怖いな
とりあえず凪だけは手中に収めてるから、これから多少アレかもしれない

452名無しさん:2012/09/12(水) 21:02:14 ID:7bAie4kg0
投下乙です

うん、ザギさんは凪を手に入れて変化してきたというか
行動に変化の兆しが出てきたかも

453名無しさん:2012/09/15(土) 06:06:57 ID:tAQ9VEW.0
月報なので集計
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
103話(+13)  42/66 (- 5)  63.6 (-7.6)

454名無しさん:2012/09/16(日) 19:29:50 ID:GGLkStbI0
ペースが少し落ちてきてるな…
やっぱり、この時期になると書き手さん方も忙しいんだろうか

455名無しさん:2012/09/16(日) 19:48:06 ID:UNabJJfI0
まあ、第一回放送前も全員登場したころからペース落ちてるし
後、スピード投下してたgryさんがほとんどのパートを書きつくしたからね

456名無しさん:2012/09/17(月) 00:42:58 ID:2sm7zz/A0
波みたいな形で投下数が変わってるかも
始まりは好調、全員登場後衰退、放送直前〜放送直後好調、現在衰退みたいな感じで
待ってれば次の波が来るって、私、信じてる

457名無しさん:2012/09/17(月) 16:21:13 ID:VJf7NALU0
ゆっくり待つよ

458名無しさん:2012/09/23(日) 18:27:02 ID:EhAWQbik0
予約きた!

459名無しさん:2012/09/23(日) 19:06:49 ID:N4I7qfsYO
お互い表立って争う気はないだろうけど穏便に済むかどうかとなると微妙な…

460 ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:16:35 ID:tBvJQ0xo0
ただいまより、投下を開始します。

461 ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:20:49 ID:tBvJQ0xo0

 結城と零が冴島邸の直線的な廊下を歩いている。零の横顔は、その中にある全てを憎しみの目で見つめていた。
 ……この豪勢な家の中には、色々と思うところがあるのだろう。地図上の「冴島邸」の名前から、結城は様々な想像をしてきたが、更にその上を行くような豪奢な家である。
 見た感じでは、非常に綺麗な洋風の建物だ。魔戒騎士というのは、やはり随分と儲かるのだろうか? ましてや、その最高位という冴島鋼牙という男ならば、尚更だろう。仮面ライダーという慈善事業とは違い、魔戒騎士は職業としての側面も持っていると思われる(無論、その活動は秘密裏のようだが)。


 しかし、そんな一方で、傍目の零は自分で縫いつくろった痕のあるコートを着ている。これも高そうだが、それは元値だけだろう。何度も買い換えた様子には見られない。いや、無数の縫い痕は、むしろ買い換えることへの過剰なまでの抵抗さえ感じられる。
 何か思い入れのある品なのだろうか。結城はそこまで考えたが、あくまで黙っておいた。
 いちいち、細かいことまで聞いて、反感を買っても困る。彼のコートが何であれ、この場で関係のあることではないだろう。


「……結城さん。一ついいかな?」


 結城は、突然零に呼ばれて、疑問顔のままそちらを見る。まだ頭の切り替えをするには、少しばかり早い。この邸宅から考えうる、冴島鋼牙という男への考察はまだ済んでいないのだ。
 零の表情は、強張ったまま、しかし、数秒前の憎しみの目とは異なる、何かに対する警戒に染まった目で結城に言葉を投げかけていた。
 結城の目を見ようともしていないことから察するに、彼の視点の先に何かあるのだろう。目線を反らすことで、彼は結城に合図を送っているようだった。
 何かいる、らしい。
 ……確かに結城も、この家の中で何かを感じてはいたのだが、それをはっきりと掴めてはいない。
 零は、あの先でもっと精密に何かを感じて睨んでいるのだろうか。


「二階から、誰か降りてくる」


 視点の先に何かがあるというのは正解である。そこは柱で区切られていてうまく見えないが、階段の三段目までが、何とか視界に入った。
 すると、二人は互いを向き合い、頷くと同時に階段へと駆け出した。結城と零は階段までの間合いを俊敏な動きで詰める。
 それぞれの武器を────双剣を、ヘルメットをそれぞれの利き手に握り、数歩だけ歩けば、彼らの視界に、一瞬で階段の八段目まで映る。
 零の動きの速さに、コートがふわりと風に浮いた。
 彼が、目の前にある異変を感じたことで立ち止まると、靡いたコートは彼の背中にパサッと音を立ててくっついた。


 この零のコートの背中に縫い付けられたマークは、かつて婚約者・静香により贈られたドリームキャッチャーを模している。
 ──彼が背負い続けるものが、ピッタリと背中について彼を追ってくるようになっているのだ。
 あの瞬間に知った怒りを、悲しみを、己の無力を、敵の名を忘れぬ為に、彼が自分自身に科した重い宿命の証である。皮肉にも、悪い夢を吸い取るはずのこのドリームキャッチャーこそが、彼にあの悪夢を何度となく思い出させていた。


「ナケワメェーケェー!!」


 零の察したとおり、階段の方から不気味な怪物が降りてくるが、二人の戦士は驚くこともなく、それを見据えている。
 これまでの経験上、怪物など珍しくも何ともないのである。むしろ、単体で襲ってくることや、容姿にグロテスクさがなく可愛気さえ感じることから、生易しい相手と思うほどだ。
 結城丈二はライダーマン。涼邑零は魔戒騎士。……化け物を見ても反応を示さない理由など、それだけで充分だろう。
 人の気配を感じた時点で構えていた剣を、あるいはマスクを、彼らは戦いの構えにもどす。

462 ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:25:17 ID:tBvJQ0xo0


「ヤァッ!」


 鋼の右腕を持つ男・ライダーマンが一瞬で変身する。結城がヘルメットを被ると、全身は強化スーツに包まれ、仮面ライダーの姿へと変身するのだ。
 むしろ、この変身には怪物の方がギョッとしたようである。
 何だか、調子の狂う相手だ。零は構えたまま動かない。鎧を召喚するにも、今はそのタイミングではないだろうことが明白だった。それほど強い相手ではなさそうだ。


「ロープアーム!」


 彼の右腕が太いロープの束へと変形する。彼の意のままに発射されるロープの腕である。
 彼はそれを使って、一瞬で目の前の怪物の体の四肢を包んだ。
 的確に、敵の動きを止める妙技であった。数年来、このロープアームを腕としてきたライダーマンは、もはやこの技において、右に出る者なしの達人といえよう。


「……零、こいつは参加者ではないだろう。だが、これを操ってる参加者がここにいるかもしれない」

「鋼牙か……。捜してみる価値はあるかもな」


 結城としては、それが冴島鋼牙であるかどうかは微妙に思ったが、ともかく操っている者がいる可能性を少なからず考えている。
 参加者ではないにせよ、まだ主催者側がこの施設に送り込んだ措置という可能性も否めない。
 ……が、どうにも、主催者が送り込んだ物とは思えないのだ。どうして、この施設に限りこんな怪物を寄越してくるのかが疑問である。警察署には、怪物などいなかったし、他の場所でも参加者外の怪物は見ていない。
 また、この怪物が参加者により変身した戦士という可能性もあるが、形状が人間的でないことや、首輪が装着されてないことが不自然に感じられた。


 零は二階へ登っていく。
 それを見届けたうえで、目の前でロープを絡ませた相手を見つめた。


「ナケワメーケェ!」


 怪物はあまりにも機械的に、この言葉だけを繰り返す。その性質はデストロン怪人にも似ている。
 彼の鳴き声は、即ち、「泣け喚け」ということだろうか? しかし、状況と台詞が明らかに合致していない。異国の言葉を「泣けわめけ」と聞き取ったわけでもないだろう。
 ……やはり、変身者とは思えない。
 怪人たちとも、違う。

463 ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:28:06 ID:tBvJQ0xo0

「意思疎通ができる相手でもないからな……どうすればいいか」


 そのうえ、ライダーマンが今行っている動作は、戦闘ではなく、ただの棒立ちになっている。
 ライダーマンは、もがけばもがくほどロープに絡まっていくこの生物をどうすればいいのか悩み、棒立ちしているのだ。
 放っておいても良い相手であるような、そんな戦い甲斐のない敵。
 果たして、これは倒すべき相手だろうか? 倒していい相手なのだろうか?
 よくよく考えていれば、こちらに目立った被害があったわけでもない。


「……やれやれ」


 しゅるしゅると、ナケワメーケがもがくたびに自分の腕から伸びていくロープを見つめて、ライダーマンは苦笑いした。
 これは、どうしようもない敵だ。何せ、倒させてくれない。
 こいつがいたところで、誰も困らないのではないだろうか。階段から、何かを守るように襲ってくるこの奇怪な生物を、とりあえずライダーマンは縛り付ける。


「二階を見てみるか」


 結城は変身を解き、階段を踏み出す。その際、ナケワメーケの巨体は邪魔なのだが、何とか切り抜けて歩き出した。
 しかし、結城はこの場所が気にかかって仕方がない。
 この家は、深く進めば進むほどに「何もない」。いや、確かに一般的な家には絶対にないようなものがいくらでもあるのに、殺人鬼が持っていそうな悪趣味な代物が、何もないのだ。
 人を殺すような人間の邸宅にしては、あまりにも上品すぎる。
 ……まあ、強いていえば、椅子の化け物がやや下品だろうか。




★ ★ ★ ★ ★



「あんたは……」


 零は二階の一室に座する男の外見に心当たりがあった。
 その男は、冴島鋼牙ではない。……だが、彼がその手の剣を彼に向けることに、躊躇を持つことはなかった。
 彼はこの一室に置かれた全てを憎む。ベッド、花瓶、棚、机、埃の一片……そして、そこにポツンと佇む人間さえ。
 この一室が冴島鋼牙の部屋であることは、「魔戒騎士らしい道具のある部屋」であることから明白であったから、零の眉は半ば強制的に顰められたのだ。
 零の記憶に残る、血で汚れたあの部屋と、この綺麗に整えられた部屋──一体、どちらが殺人鬼の部屋であるべきか。神という者に良心があれば、二つの部屋の居住者は逆であるべきなのではないだろうか。そんな怒りが、零の中に湧き起こる。
 しかし、彼は無機質な「部屋」よりも、まずはそこにいる「人間」に語りかけた。


「相羽タカヤ、か……?」

464Predestination ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:32:01 ID:tBvJQ0xo0


 この男は、警察署にいた相羽タカヤという男と全く同じ外見だったのだ。しかし、雰囲気は似ても似つかない。どちらも底知れぬ闇を感じさせる表情である。
 柔和な表情をしているのはどちらかといえば、今零の目の前にいるタカヤの方だろう。彼は、警察署で会ったタカヤよりも温厚そうな雰囲気であった。……しかし、その実、あのタカヤよりも感情の見えない不気味さを感じさせた。
 あちらのタカヤを見た時、零は少なくとも、あの憎しみや怒りなどの激情を露にした彼に、どことない共感を覚えたような気がする。
 このタカヤには、そういうものが一切ない。


「へえ、兄さんに会ったのか……」

「兄さん……? あんたは、タカヤじゃないっていうのか」


 相羽シンヤ、相羽ミユキの二つの名が名簿にはあった。どちらも、男性に在り得る名前であるが、ミユキの名は既に死者として呼ばれているため、自動的に彼はシンヤということになる。
 二人の外見が相似しているのは、双子であるからという可能性が高い。……となると、やはり親族が似たような名前をつけられる不思議な風習が由縁だろう。
 たとえるなら、────冴島大河と、冴島鋼牙のように。


「そうか。相羽シンヤか」

「ご明察の通り、僕は相羽シンヤだ」


 そう言って、男は微笑む。やはり、タカヤの数百倍、彼は不気味だった。
 口調がタカヤとは別物で、無邪気なように聞こえることが、何処かの誰か───零にとっては、鏡の向こうからしか見られない誰かに似ている。
 だから、零には余計に不気味なのだ。


「……それより、兄さんのことを知っているようだったけど、実際のところどうなんだい? はっきり話したというなら、どこで会ったかを訊きたいな」


 一方、シンヤの興味は一点、そこにあるようだった。
 危害を加えようという様子は全く見られないが、実のところ、この笑顔の裏になにが隠れてるのかはわからない。だから、零は剣を垂らしたままだった。
 しかし、垂らしているだけで、構えることを忘れさせている。シンヤの不気味さが、零の理解を超えているから、剣を持って警戒することさえ、この時ばかりは忘れていた。
 そして、何の切欠もなしに、はっと我に返る。
 俺は屈強な魔戒騎士だろう、と。


「……ああ、知っているよ。だが、その前に俺からも一ついいかな?」


 この男はここにいたのだ。
 タカヤのことを話す前に、自分の捜し人のことも訊かなければならない。
 何より、それが零の最優先事項なのだから。


「冴島鋼牙っていう男が、ここに来なかったか?」

「それに答えれば、兄さんと会った場所を教えてくれる……そういうことでいいのかな?」

「ああ」


 それぞれ、駆け引きの材料としては良い条件だったかもしれない。
 何せ、シンヤは鋼牙に会っている。零はタカヤに会っている。それゆえ、これはフェアな駆け引きになる。
 結果的に、互いが必要とする情報を得られるのだ。ここで、シンヤが鋼牙の情報を一切持っていなければ、零には手掛かりらしいものも入って来ず、焦燥するに違いない。


「……確かに冴島鋼牙はここに来た。……白いコートの男だろう? 朝が明けたくらいだったな……どこに行ったのかは、知らないし、興味もないよ」


 シンヤはそう述べる。
 直後に、ダンッ、と壁を叩く音が部屋に鳴り響いた。シンヤは一切動揺しない。目の前の男が発した音なのは、見ればわかるのだから。


「……クソォッ! もっと早くここに来ていれば!」


 ……あらゆる行動が零を遅らせなければ、彼は鋼牙に遭遇していた可能性が極めて高い。
 壁に裏拳を発する彼は、そんなすれ違いに対する怒りを露にするが、当のシンヤは淡々としている。零には一切無関心だ。
 激情している零には、そんな態度が腹立たしく思えたが、約束は反故にはしない。

465Predestination ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:33:18 ID:tBvJQ0xo0


「で、タカヤ兄さんはどこにいた?」

「……警察署だ。少なくとも、黎明ごろまではそこにいた!」


 八つ当たりじみた言い方だが、シンヤは情報を得られたことを素直に感謝する。
 タカヤに会えるのなら、問題などない。彼にとって一番の問題は「タカヤに会えないこと」であり、その問題を回避する手段の手掛かりを得られたのなら、どんな態度をとられようが構わないのだ。
 本来ならば、この場で零を消すのも良い。
 しかし、体力は使いたくない。これから、移動することになるのである。


「不思議だな。俺とあんたの立場が逆だったら、互いが会いたい人間と会うことが出来たっていうのが」

「ああ……。厭な偶然だな。あんたと入れ替わりたかったよ」


 そういえば、シンヤは眼前の男の名前を聞いていなかったことに気づく。


「そうだ、名前を訊いてなかったね」

「……それを聞いて何になる」

「さあ、きっと何の足しにもならないさ。……でも、俺だけが名前を名乗るなんて、フェアじゃない」


 シンヤの言い分はもっともだ。興味のない相手にしろ、情報提供者の名前を聞かないと後々面倒だ。
 ガセネタだったのなら、責める場所もないし、真実だったのなら、感謝する相手もない。
 ゆえに、彼はとにかく、名前を聞きたがった。


「俺は銀牙騎士ゼロ……涼邑零だ」


 その名前を聞いて、何を感じることもなく、シンヤは歩き出す。
 案外、聞く前の興味に対して、聞いた後の感想とは味気ないものだ。変わった名前だろうが、それがシンヤにとって何になることもない。


「俺にはもう、あんたへの用はないよ。あんたもそうだろう?」

「ああ」


 シンヤは、ドアノブに手をかけ、部屋を後にする。
 零は、もうシンヤに興味はなかった。あるのは、ただ自分の行動が早ければ鋼牙と会えたのだろうという後悔のみだ。
 そのもどかしさが零を苛立たす。どこへ行ったのか、零は少し考えた。
 ここはマップの中央。向かう場所は360度、あらゆる可能性があったのだから。



★ ★ ★ ★ ★



「……どうやら、積極的に殺し合う気はないようだな……相羽シンヤ」


 シンヤがドアを潜ると、そこには腕を組んだ青年が、壁にもたれて盗み聞きするように立っていた。
 結城丈二である。彼の今、この瞬間のスタンスは「様子見」である。
 シンヤと零に、それぞれ交戦する様子がなかったことから、判断を遅らせたのだ。
 シンヤは、警戒した目つきで結城を睨んだ。知らない相手なのだから当然である。


「私も彼と同じように、相羽タカヤに会っている。そして、君との因縁も把握している」

「だったら何だい? 止めるっていうなら……」

「君はおそらく、ラダムに支配されながらも、兄に執着する弟の心は失っていない。人間らしい心を盛ったままのタカヤもまた同じだ。それなら、まず君たちは互いにコンタクトする必要がある。
 私は今、この場で君たちの再会の邪魔をすることはしないさ。……第一、君には他の参加者を襲う様子も見られないしな」


 結城はそう告げる。

466Predestination ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:35:11 ID:tBvJQ0xo0


「……誰だか知らないけど、邪魔をしないのなら俺は何だろうが一向に構わない」

「そうか。……本来なら君の邪魔をしたいところだったが、零で手一杯だからな……」


 シンヤの危険行為を止める道。それは、仮面ライダーとして当然の行為だろう。
 だが、この場には復讐に燃える零もいる。彼の私情は、かつての自分のような男・零に同行する道を選んだ。
 それに、殺し合いの場において、シンヤは積極的に殺す気はないという。あるとすれば、ここから逃れた後の日常だろう。その後のシンヤを止めるというのなら、それはやはりタカヤ──いや、テッカマンブレードの役割りだ。


「ナケワメーケ、バットショット、スタッグフォン、行くよ」


 階段の下のナケワメーケのロープを外して、シンヤはすぐこの家を出る。
 ナケワメーケを移動手段として、警察署や街の方に向かう予定だ。


「……零」


 結城は、ドアの向こうの部屋で後悔している零を呼びかける。
 部屋を荒らさないだけ利口だ。仮にそんなことをしても何にもならないのだから。


「近くをあたった方がいいぞ、零。鋼牙がまだ近くにいるかもしれないのなら、早いうちに捜すの得策だ」


 そんな結城の一言で、零ははっと我に返る。
 この考えが浮かばなかったわけではないが、「急がば回れ」の言葉通り、少し鋼牙の行方を考察した。
 ……だが、それを考えたところで、結局は同じことだった。それなりの考えの下、ここへ来ても鋼牙はいない。それならば、いっそ直感に頼るか。


「そうだな、俺は────」


 零は、脳内で地図をシミュレーションし、ある施設を指差していた。
 次は、その施設に向かおう。結城がついて来るなら、それはそれで構わない。


 気づけばもう、放送から二時間以上経っているが、彼らは戦闘らしい戦闘に遭っていない。
 向かう先に戦いはあるだろうか?
 零の決断は、正しく鋼牙のもとへと導くのだろうか?



★ ★ ★ ★ ★

467Predestination ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:42:02 ID:tBvJQ0xo0
【1日目/昼前 E−5 森/冴島邸】


【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、パンスト太郎の首輪
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:零と共に冴島邸へ向かう。
3:一文字、沖、村雨と合流する
4:加頭についての情報を集める
5:首輪を解除する手掛かりを探す。
  その為に、異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
6:タカヤたちとはまた合流したい。
7:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は12巻〜13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
 何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※零の狙う仇が冴島鋼牙である事を知りました。
 彼が復讐心に捉われる様ならばそれを力ずくでも止めるつもりです。
 ただし、鋼牙を討つ事そのものに関しては全否定をしておらず、もし彼が倒すべき悪であったならば倒すべきだと考えています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。



【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止める。
0:××××に向かう(後続の書き手に任せます。どこかの施設です)
1:牙狼を見つけ出し、この手で仇をとる。
2:鋼牙が向かう可能性があるため、冴島邸に向かう
3:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
4:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
5:結城に対する更なる信頼感。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
 その為、鋼牙が恋人と師の仇であると誤認しています。
※魔導輪シルヴァは没収されています。
 他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
 実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
 仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※もしも結城が自分の復讐を邪魔するつもりならば、容赦はしないつもりでいます。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
 また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
 ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。


★ ★ ★ ★ ★

468Predestination ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:51:24 ID:tBvJQ0xo0


 ナケエワメーケの背中に揺られながら、シンヤは森を走っている。
 向う先は街エリアだ。街にまだタカヤがいるのか否かはわからないが、少なくとも街を出る理由は考えられないだろう。
 第一、テッカマン同士では、同じ街エリアにいれば充分な相互認識可能範囲だし、気配を感じられる能力を世要すればいい話。ともかく、零とは違い、向かうことに意味があるのだ。
 11時のボーナスについても、向かう先は施設が多数点在する場所である。相手の居場所もほぼわかっているくらいなので、あそこに留まる必要もなければ、ボーナスとやらを待つにも街エリアのほうが都合が良いだろう。


(タカヤ兄さん……どうやら、このまま戦えそうだよ)


 ナケワメーケの速度はそれなりに速い。人間を超越した存在なのは確かなのだ。
 彼が、シンヤを冴島邸から離していく。
 しばらく居座った場所とはオサラバだ。


(ただ、きっと、それが最後だ……僕がタカヤ兄さんと一緒にいられる最後の機会だよ)


 おそらく、この先でタカヤと戦えば、シンヤは死ぬ。結果的に勝っても、負けても、彼のその後は保証されない。勝敗を決する前に果てる可能性さえありえる体だ。
 負ければもちろん死ぬ。勝てば全てをやりつくした安心感が、彼というものを保ってきた一本の細い糸を切ってしまうだろう。
 彼の行き先は、このまま定まっていった────。


【1日目/昼前 F−6 森】

【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:ブラスター化の副作用による肉体崩壊、ナケワメーケで移動中
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式×3、バットショット&バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン&スタッグメモリ@仮面ライダーW、椅子型のナケワメーケ@フレッシュプリキュア!、
    T2メタルメモリ@仮面ライダーW、水とお湯の入ったポット1つずつ(変身3回分消費)、力の源@らんま1/2、不明支給品(パンスト)0〜1
[思考]
基本:タカヤ(ブレード)と決着を着ける。
1:街エリア(主に警察署付近)に向かい、タカヤを捜す。
2:タカヤと戦う時以外は出来るだけ戦いを避ける。
3:11時ごろ、街エリアの施設を気にしてみるのも良いだろう。
[備考]
※参戦時期はブラスター化完了後〜ブレードとの決戦前(第47話)です。
※ブラスター化の副作用により肉体限界が近いです。戦い続ければ命に関わります。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。

469 ◆gry038wOvE:2012/09/25(火) 22:53:18 ID:tBvJQ0xo0
投下終了です。

470名無しさん:2012/09/25(火) 23:26:22 ID:OeiCqzjA0
投下乙です!
おお、いよいよシンヤも移動を開始するか……そっちには一応兄さんはいるけど、他に危険人物がたくさんいるよ。
で、結城と零はこれからどうするだろう。

471名無しさん:2012/09/26(水) 07:24:10 ID:GB07egIcO
投下乙です!
これ、もしシンヤまで市街地に来たら更なる地獄絵図に…最悪誰一人として生き残れないぞこれ?

472名無しさん:2012/09/26(水) 21:21:56 ID:0rHoQ/QI0
投下乙です

とうとうシンヤも動くのか
確かに勝っても負けても先は無いんだよなあ…
最期の兄弟対決はどうなる? もっともそれ以前に危険人物が多いぞ

473R-0109 ◆eVB8arcato:2012/10/01(月) 18:53:36 ID:O1hcyLss0
初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る10/14(土)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。

474名無しさん:2012/10/02(火) 16:42:43 ID:0IGbiDYM0
大歓迎です!
まだ結構日数あるけど楽しみだなぁ

475 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:07:51 ID:7.Vtpcxw0
投下します

476悲しき道 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:09:30 ID:7.Vtpcxw0
冴島鋼牙、一条薫、村雨良の3人は、東に進路を進めていた。
殺し合いを止めるために先を急ぐ彼らであったが、その前にやらなければならないことがあった。

「さやかという子は、こっちの方へ逃げていったのか?」
「ああ」

一条の問いに、良が肯定する。
そう、彼らは五代雄介を刺殺した張本人、美樹さやかの後を追っているのだ。
五代は死ぬその間際まで、さやかの身を案じていた。
そんな彼の意志に応えないわけにはいかない。
それに、下手に放っておけばまた溝呂木に利用されてしまう可能性がある。

そうして歩を進めていると…


「良!」


目の前に現れたのは、良の同行者であった良牙、そしてさやかと一緒にいた少女とアヒルだった。




「五代が死んだ、だと……!?」

良から聞かされたその話に、良牙は驚きと呆然が入り混じった表情となった。
それほど長い間一緒にいたわけではないとはいえ、彼の人柄の良さは十分に感じることができた。
自分のせいで溝呂木を見失ったときも、責めるどころか励ましてきた。
そんな五代が死んだ。
自分が道に迷ってはぐれていた間に。

「くそ…俺は……俺ってやつは!くそおおおおおおおお!!」

悔しさをぶつけるように地面を殴りつける良牙。
仮に自分がそばにいたとして、五代の死を回避できていたかは分からない。
だが、彼が大変な状況にあった時に、その場にいることすら出来なかったのだ。
そんな後悔が、良牙の心を責め立てていた。


「良牙、お前が責任を感じる必要は…」
「分かってる!だが…」
「…俺は、奴のそばにいたにもかかわらず、死なせてしまったんだ」
「!」

そう、あの時と同じだ。
あの時も、自分の目の前でミカゲは死んだ。
もう、あんなことは二度と繰り返させないと心に誓ったはずなのにだ。

「本当に責められるべきは…この俺だ」
「良……」

悔しさをかみしめた様子の良に、良牙は言葉を返すことができなかった。



「そうか、美樹さやかは死んでしまったのか」
「はい……」

鋼牙の言葉に、つぼみは俯きながら答える。

477悲しき道 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:11:00 ID:7.Vtpcxw0
「五代、すまない…」

つぼみの話を聞き、悔しげな表情で一条は既に遠くへ旅立ってしまった五代に詫びる。
結局、彼の願いをかなえることは出来なかったのだ。

「あの…すみませんでした」

そんな一条に、つぼみは謝った。
自分があの時さやかを止めることができていれば、さやかも五代も死なずに済んだかもしれない。

「いや、君が謝る必要はない」

しかし、そんなつぼみの謝罪に一条は気丈な態度でそう答えた。
確かに美樹さやかの件は残念だが、殺し合いはまだ終わっていない。
警察官として、五代の親友として、いつまでも落ち込んでいる場合ではなかった。


「(五代やさやかという少女の無念を晴らすためにも…こんなところで立ち止まっている暇などないからな)」



ひとまず彼ら5人は、情報交換をするべく、自己紹介をすることになった。
まず鋼牙と一条が名乗り、続けて村雨があいまいな口調で自分の名を名乗る。
だが、彼が名を名乗ったことで、いきなり波紋が巻き起こる事となった。

「村雨良…一文字さんの仲間ですか!?」

つぼみがそう言った瞬間、良はつぼみにつかみかかっていた。

「一文字隼人…奴を知っているのか!?」
「あ、あの、その……」
「お、おい!落ち着け良!」

良牙の制止により、良は激情を抑えつつつぼみを解放する。
そして、再び問うた。

「…奴に、会ったのか?」
「は、はい」
「どこで会った?」
「村の方で別れました。でも、バイクで移動してるはずなので今行っても出会えないと思います」
「…そうか」

チッと悔しそうに舌打ちをする良。
その様子を不思議に思ったつぼみが、良に尋ねる。

「あの…一文字さんは仲間なんじゃ」
「奴が仲間だと…ふざけるな!俺はあいつに…ミカゲを殺されたんだ!」
「え?ミカゲって…」
「俺は奴らを…大切なものを奪っていくカメンライダーを許しはしない!」


その後、良の悶着があったものの、名簿に名前のないムースというアヒルの存在が軽く疑問視された以外には特に問題なく自己紹介が続いた。
ちなみにその名前を聞いたつぼみがムースの眼鏡を取り出し、良牙がかけさせようとしたものの、眼鏡を近づけた瞬間アヒルこと志葉丈瑠が暴れだしたため、結局眼鏡は良牙のデイバックへ戻された。

478悲しき道 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:12:44 ID:7.Vtpcxw0
「きっと、アヒルさんの姿だと人間サイズの眼鏡は刺激が強いんですよ」

つぼみのその一言で、良牙は「なるほどな」と納得した。


自己紹介が終わった後は、情報交換となった。
冗長なので省くが、簡単に説明すると自身の素性、知り合いおよび殺し合いの場で出会った人物の情報、起こった出来事についてだ。
他にも、鋼牙の首輪に関する考察やつぼみが一文字から聞いた参加者間の時間軸の違いについても語られた。
つぼみが出会ったまどかについては、良達を襲った怪人と同一人物で、マミについては溝呂木の擬態ではないかということになった。


「(この良牙という男…早乙女乱馬やあのパンスト男の知り合いだったのか)」

自分を抱く少年を見上げるのはアヒルの姿となった丈瑠。
彼は、情報交換の話には参加していないが、良牙の語る情報により、彼が乱馬やパンスト太郎の知り合いであること、そして自分がアヒルの姿になってしまった原因を知った。
もし自分のこの身体が本当に呪泉郷の水によるもので、お湯をかけて元に戻るのだとしたら。

「(その時…俺はこいつにどんな顔で向き合えばいい?)」

パンスト太郎を殺してしまった罪悪感が、丈瑠を苦悩させた。


各々が提供した情報に基づき、今後の行動方針が決まった。
その結果、彼らは三手に分かれることになった。

まず、冴島鋼牙は一人で村に向かうことになった。
理由は、つぼみが語った暗黒騎士キバの存在だ。
一条やつぼみなどが一人では危険だと諭し、彼自身も保護対象である彼らと離れることに抵抗はあるようだったが、彼としてはバラゴとの戦いに他人を巻き込む気はなく、譲らなかった。

次に、良牙と一条は呪泉郷へ。
良牙はもちろんあかねを探すためであり、一条はその道案内だ。

最後につぼみと良。
もともと市街地で一文字と合流の約束をしていたつぼみに、良が同行することになったのだ。



「それじゃあ俺はいくぞ」
「待ってください!」

足早に立ち去ろうとした鋼牙を、つぼみが呼び止める。

「なんだ?」
「その、差し出がましいことだとは思うのですが…そのバラゴって人を説得することは出来ないんですか?」
「無理だ」

つぼみの問いに、あっさりと無理だと断定する鋼牙。

「で、でも!元々は冴島さんと同じで、魔戒騎士で、人間だったんでしょう!?だったら…」
「奴は暗黒騎士となったその瞬間から、魔戒騎士としての誇りと人間の心を失った。説得など不可能だ」

そういうと鋼牙はつぼみに背を向けて村へ向かって歩き出す。
が、ふと何かに気付いたように立ち止まり、ふりむいてつぼみに尋ねた。

「そういえば、時間軸のずれについてだが…確かなのか?」
「は、はい!一文字さんの話では…」
「そうか」

それだけ聞くと、再び鋼牙は村へ向けて歩き出した。

「(零…ここにいるお前は、俺のザルバ…親友なのか?それとも…)」

479悲しき道 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:13:57 ID:7.Vtpcxw0
【1日目/昼前】
【D-5/森】


【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
2:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
3:村へ向かい、バラゴを倒す
4:零ともできれば合流したい
5:未確認生命体であろうと人間として守る
6:相羽タカヤに会った時は、彼にシンヤのことを伝える
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
 また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています


鋼牙が去り、4人と1羽も行動を開始する。
二手に分かれる予定の彼らだったが、その前に冴島邸で着替えを探し、ムース(※丈瑠です)を人間に戻そうという話になり、そこまでは共に行動しようという事になったのだ。
ちなみに一応家主の鋼牙に屋敷の物色許可をもらっている。
目的地を聞いたアヒルが少し顔を曇らせたのだが、気づいた者はいなかった。

さて、ところで先ほどまでの情報交換だが、一人嘘をついているものがいた。


「(村雨さん…ごめんなさい)」


嘘をついていたのは、花咲つぼみ。
彼女は、一文字とバラゴの戦いに三影がいて、一文字に殺されたことを伏せていた。
そのことを話してしまうと、彼の悲しみが余計に深くなり、また憎しみを増大させることになると思ったからだ。

一文字からは、村雨良は仲間の仮面ライダーであり、三影英介はBADANという悪の組織に属する悪人としか聞かされていない。
あの一文字が嘘を言ったとも思えないし、おそらくそれは真実だ。
だとしたら、おそらくこの彼は一文字が知るより過去の村雨良なのだろう。
もしかしたら、かつてラビリンスの幹部だったせつなと同じような境遇で、仮面ライダーになる前はBADANに属していたのかもしれない。

しかしそれでも、つぼみには良が悪人とは思えなかった。
三影という、たぶん友達だった人の死に、あれだけ怒りを見せることができる優しい人なのだから。
だからこそ彼女、花咲つぼみは願う。


「(村雨さん、どうか憎しみにとらわれないでください。復讐のために戦うなんて、きっと悲しすぎるから……)」

480悲しき道 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:19:47 ID:7.Vtpcxw0
【D-5/森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム
[道具]:支給品一式×3、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、ムースの眼鏡@らんま1/2、さやかのランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:アヒルさんを人間に戻すため冴島邸へ向かう
1:仲間を捜す、当面はD-5辺りを中心に探してみる。
2:南東へ進む、18時までに一文字たちと市街地で合流する
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。


【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:負傷(右肩に切り傷、左胸から右わき腹までの深い切り傷、左前腕貫通、胸部破損、いずれも回復中)、疲労(大)
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣、虚像投影装置、煙幕発射装置
[道具]:支給品一式、生命の苔@らんま1/2、ランダム支給品0〜2個
[思考]
基本:カメンライダーを倒す。主催の言葉に従い殺し合いに乗るつもりは無い。
0:アヒルを人間に戻すため冴島邸に向かう
1:つぼみと共に18時に市街地で一文字と出会い、倒す
2:『守る』……か。
3:エターナルを倒す。
4:特訓……か。
5:ミカゲや本郷の死に対する『悲しみ』
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。
※能力制限は一瞬しかゼクロスキックが出来ない状態と、治癒能力の低下です(後の書き手によって、加わる可能性はあります)。
※本人は制限ではなく、調整不足のせいだと思っています。
※名簿を確認しました。三影についてはBADANが再生させたものと考えている一方、共に戦う事は出来ないと考えています。

481悲しき道 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:20:49 ID:7.Vtpcxw0
【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(小)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(中)、五代の死に対する悲しみと後悔
[装備]:なし
[道具]:水とお湯の入ったポット1つずつ(お湯変身2回分消費)、秘伝ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリ@仮面ライダーW、支給品一式
[思考]
基本:天道あかねを守る
0:ムースを人間の姿に戻すために冴島邸へ向かう
1:天道あかねとの合流
2:1のために呪泉郷に向かう
3:ついでに乱馬を探す
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※現在の進行方向は不明です(また途中で方向転換する可能性があります)。
※良牙のランダム支給品は2つで、秘伝ディスクとガイアメモリでした。
 なお、秘伝ディスク、ガイアメモリの詳細は次以降の書き手にお任せします。
 支給品に関する説明書が入ってる可能性もありますが、良牙はそこまで詳しく荷物を調べてはいません。
※シャンプーが既に死亡したと知りました。
※シャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
 「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。


【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:両手完全破壊、ダメージ(大)、疲労(極大)、ガイアメモリによる精神汚染(中)、アヒル化、絶望、全裸、体が痛い(良牙が過剰に強い力で抱えている為)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:?????
0:もうどうして良いのかわからない。
1:源太に対して合わせる顔が無い……
2:良牙にどんな顔で向き合えばいいのか……
3、冴島邸でシンヤと出会うことに不安
[備考]
※参戦時期は、第四十六、四十七幕での十臓との戦闘中です
※鴨子溺泉の水を浴びた事でアヒルに変身する体質になりました。良牙の話を聞き大体そのことに気づきました
※しばらくつぼみと行動していたため、つぼみとさやかの行動については粗方見届けています。それにより、自分の行動に対する後ろめたさも強まっています。


【一条薫@仮面ライダークウガ】
[状態]:健康
[装備]:滝和也のライダースーツ
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品2〜5(一条分1〜2確認済み、五代分1〜3未確認)、警察手帳、コートと背広、アークル
[思考]
基本:民間人の保護
0:警察として、人々を守る
1:アヒルを人間の姿に戻すため冴島邸へ向かう
2:良牙と共に呪泉郷へと向かう
3:魔戒騎士である鋼牙の力にはある程度頼る
4:他に保護するべき人間を捜す
5:未確認生命体に警戒
※参戦時期は少なくともゴ・ガドル・バの死亡後です
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※アークルはほぼ完全な状態であるため、五代のようにこれを使用して変身することはできるかもしれません。


【6人の共通認識】
・丈瑠を除いた5人で情報交換を行いました
・それにより、5人の知り合いや出会った人物についての情報が共有されました
・また、鋼牙の首輪に関する考察や参加者の時間軸の差異などについて情報が共有されました
・つぼみが出会ったまどかは良達を襲ったサイクロン・ドーパントと同一人物で、マミは溝呂木が擬態した姿ではないかと考えています

482 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:21:45 ID:7.Vtpcxw0
投下終了です

483名無しさん:2012/10/03(水) 09:34:52 ID:LscSjfiI0
投下乙です。
鋼牙は一人で向かったけど、大丈夫なのか? そっちにはバラゴ以外にも危険人物はいるし。
で、村雨はやはり一文字に対する憎しみを抱いたか……近くにいる結城と出会ったら、どうなるだろう。

484 ◆OmtW54r7Tc:2012/10/03(水) 09:44:20 ID:7.Vtpcxw0
>>483
感想ありがとうございます。

ミス見つけたので報告です。
ムースの眼鏡の所有者を、つぼみから良牙に変更です

485名無しさん:2012/10/03(水) 14:04:47 ID:EhAgaqHg0
投下乙です

村雨は仕方ないんだよなあ。しかも三影殺害が二回目というガソリンもあるから知ってしまったら
その分つぼみが気にかけてるがどう転ぶか…
鋼牙も一人でそっちに行くとか不安しか感じねえw

486名無しさん:2012/10/03(水) 20:17:41 ID:f1gZATZs0
投下乙です。
村雨も鋼牙も因縁の相手を探しにいくのか…さて、どうなることやら。
劇場版を経た鋼牙ならまだバラゴと戦えるだろうけど、独力だと勝利はきついかなぁ。

487名無しさん:2012/10/04(木) 21:48:59 ID:Amz1Yqgc0
予約来た!
ランスさんwww

488名無しさん:2012/10/05(金) 01:17:00 ID:Ks8qXenw0
火薬庫が大爆発するのかな?

489名無しさん:2012/10/05(金) 02:02:07 ID:YUpi3rLg0
うわあ、この予約は誰かしら死にそうでこわいw

てか杏子と姫矢は寝てるブッキーと絡むのかと思ったら気付かれずにスルーかw
てことは、朝組の10人のうち9人が予約されたから、彼女は朝組ボッチになる可能性があるということかw
なにげに市街地以外のパートはみんな昼前に突入してるからな

490名無しさん:2012/10/05(金) 10:40:37 ID:YUpi3rLg0
死亡者分のロワ動向解説と称号付与が完成した!

491名無しさん:2012/10/06(土) 00:19:27 ID:HwEZp6dU0

褒美としてテッカマンにしてやろう

492名無しさん:2012/10/06(土) 01:05:02 ID:FI/96R7Q0
>>491
くっ、やめろ、ラダムめ……うわああああああああ!!

493R-0109 ◆eVB8arcato:2012/10/14(日) 21:08:02 ID:asHsZ7F20
遅れて申し訳ございません。
ロワラジオツアー3rd、間もなく開始です。
実況スレ:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1350216405/
ラジオアドレス:ttp://ustre.am/Oq2M
概要ページ:ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします

494 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:39:34 ID:3t00uZcU0
これより予約分の投下を開始します。

495解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:40:28 ID:3t00uZcU0

 バトルロワイアル。
 そんな題名の戦いによって、六六もの命が運命を狂わされた。
 加頭順、更にサラマンダー男爵やニードルを率いる何者かによって開かれた狂気と絶望の殺し合いによって、狭い孤島の中で多くの命が失われていく。
 元の世界で何をしていたのか、どんな道を進んでいたのかなど関係無い。歩むべき未来が捻じ曲げられて、悲劇が徐々に生まれていく。
 そして今も、誰が望むわけでもなく血と涙が流されていった。


 悪意の犠牲になった、清く優しい者達がいる。
 鹿目まどか。
 高町なのは。
 池波流之介。
 本郷猛。
 美樹さやか。
 五代雄介。


 運命の悪戯によって、道を踏み外してしまった者達がいる。
 志葉丈瑠。
 スバル・ナカジマ。
 ティアナ・ランスター。


 悪辣な殺し合いを強いられても、己の中に宿らせる悪意をひたすら増幅させる者達がいる。
 筋殻アクマロ。
 井坂深紅郎。
 大道克己。


 そんな過酷な運命を強いられても尚、抗おうとする者達がいる。
 守りし者としての使命を背負い、黄金騎士となって戦う冴島鋼牙。
 失った友の遺志に答える為、人々の笑顔を取り戻そうと戦う一条薫。
 例え記憶を奪われようと、残された大切なものを壊させないように戦う村雨良。
 戦いに巻き込まれてしまった大切な人を死なせない為、どれだけの不幸を前にしても戦う響良牙。
 みんなのこころにある花を枯らせない為、悲しみを乗り越えて戦う花咲つぼみ。


 皆、誰にも負けない強い意志を持っていた。
 善と悪の違いはあれど、それでも胸の中に宿らせる想いに一切の揺れはない。だがこの殺し合いは、それを容赦なく打ち砕いていく。
 その悪意を煽る男が、ここにいた。
 溝呂木眞也。
 宇宙の影、アンノウンハンドによって悪魔へと変貌させられたその男はどれだけの犠牲が出ようとも、嘲笑い続けている。誰がどれだけ溝呂木に尽くそうとも、温情を向けることはない。
 何故なら、溝呂木にとって純粋な想いなど塵の価値すら持たないし、命など単なる駒に過ぎなかったのだから。
 そして今も溝呂木は、己が完全な存在に至る為に必要な駒の動かし方を考えている。その相手に善悪など関係無い。ただ、どれだけ役に立ってくれるかの方が遥かに重要だった。

496解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:41:48 ID:3t00uZcU0





「なるほど、ファウストが五代を殺したか……」

 溝呂木慎也は、闇の力で操り人形にした少女の報告を聞いて、笑みを浮かべている。
 鹿目まどかの姿を語った人形によると、先程の戦いで新たなるダークファウスト──美樹さやか──は五代雄介を殺した後、ソウルジェムが砕け散って死んだらしい。
 人形曰く、美樹さやかはインキュベーターという生命体によって生まれた魔法少女という存在のようだ。ソウルジェムという宝石がある限り、どれだけ肉体が傷付こうとも戦い続けることができる。即ち、ゾンビのような戦士だった。
 だが溝呂木はその話を聞いても、魔法少女が完璧たる存在とは微塵にも思わない。一見すると兵士にするには便利かもしれないが、ソウルジェムという致命的な弱点がある。それを遠くに離しても、今度は本当の死人の如く動けなくなるようだ。これでは、鉄砲玉程度の役割しか果たせないだろう。
 一応、絶望しきれば魔女という化け物になって人々に絶望を齎すようだが、この場では何も起こっていない。恐らく、主催者の仕業かもしれないが。
 インキュベーターとやらは宇宙の繁栄のため、思春期の少女から溢れ出る感情のエネルギーを得ようとして、魔法少女を生み出したらしい。そういう力を持つ生命体は実に興味深いし、この手に収めたいと思う。
 この他にも、溝呂木はスバルから様々なことを聞き出した。彼女はここに来るまで、既に六人もの参加者を殺してその体内に取り込んでいる。その中には、あの本郷猛という男が含まれていると聞いた瞬間、溝呂木は笑みを浮かべた。
 やはり、そんな正義の味方気取りの奴が矜持を打ち砕かれていくのは、とても面白い。早く姫矢准や孤門一輝も同じ目に遭わせてやりたかった。

「その場面を見られるなんて、お前は凄くついてるじゃないか」
「はい……全ては、アクマロ様の……おかげ、です……」

 溝呂木の率直な感想に対して、スバルは息も絶え絶えに答える。今の彼女は、満身創痍という言葉が相応しいほどに疲弊していた。
 一時の休みすらも与えられず、ただ只管戦いを続けている。加えて、ゼクロスとの戦いでは右目を潰されてしまった。
 どんな優秀な機械だろうと連続で稼働させては精度が落ちるし、休ませてメンテナンスを受けさせる必要がある。しかし、スバルにはこれまで休ませた形跡などないし、溝呂木自身も行う義理や意思などなかった。
 どれだけ働こうとも、所詮は使い捨ての駒に過ぎない。そんな相手に対して、溝呂木は手心を加える男ではなかった。

(とはいえ、そろそろこいつも潮時か……)

 壊れたように終点の定まらない瞳を向けられて、溝呂木は心中でそう呟く。
 道端で面白そうだから拾ったが、もうあちこちにガタが来ていた。このまま同行させても、どうせさやかのように勝手に死ぬ筈。別にこんな奴の一人や二人が壊れた所で惜しむことなどないが、何もしないまま動けなくなるのもそれはそれで面白くない。
 かといって足手纏いを治すつもりなどないし、そんな手間をかける位なら新しい駒を見つけた方がずっと効率的だ。

(どうせ長くは持たないだろうし、こんなになっては誰かを殺すこともできない……それに、いざという時の盾にすらならないか)

 せめてさやかがまだ生きてさえいれば、他の参加者を相手に特攻させる位はできたかもしれない。数でも質でも役に立たなくなった今、いつまでも持っていては何か不都合が起こる恐れだってある。
 軽く溜息をつきながら、溝呂木は懐からT−2バイオレンスメモリを取り出した。

(どうやら、こいつともおさらばしないといけないようだな……惜しいが、一つの道具にいつまでも拘ったって仕方がない)

 この地には別のガイアメモリがたくさんあるし、何よりもスバルが持っているT−2サイクロンメモリだってある。だから、例え一つ失ったとしても別のガイアメモリを探せばいいだけだった。
 そして、それは人形にも同じことが言える。

「お前に最後の仕事を与える」
「最後の……仕事?」

 T−2バイオレンスメモリを差し出すと、スバルは震える手をゆっくりと伸ばしながら受け取った。
 この程度の動作にも時間がかかる辺り、やはり壊れかかった人形でしかないと溝呂木は思う。だからこそ、仕事を任せられるのだが。

497解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:43:16 ID:3t00uZcU0

「これを使って溝呂木眞也に成り済まし、一人でも多くの参加者を殺せ……特に俺の偽物は優先的にだ。俺の名を騙るような奴は、お前だって許せないだろ?」
「はい……アクマロ様の、名誉を陥れるような……愚か者は、許せません……」

 そうしてゆっくりと立ち上がった彼女の全身から木の根が飛び出して、そのまま華奢な体躯が飲み込まれていく。数秒ほど蠢いた後、その肉体を覆っていた根が凄まじい速度で引っ込んでいき、本来の青髪が特徴的な少女の姿に戻った。

『VIOLENCE』

 己の額にガイアメモリを差し込んだスバル・ナカジマの肉体は、電子音声が響き渡ると同時に変質していく。小柄な体系から一変して、筋肉が異様なまでに盛り上がった巨大な異形へと変身した。
 T−2バイオレンス・ドーパント。この地に放り込まれてから、溝呂木が二度に渡って変身した怪人の一種だった。

「さあ、お前の役目を果たしてみろ……捨て駒という、立派な役目をな」

 溝呂木がそう告げると、バイオレンス・ドーパントは背を向けて森の奥に走っていく。
 どの道、彼女はもう助からない上に戦力として全く期待ができない。ならば、ゼクロスや響良牙のような善人や、筋殻アクマロとかいう奴と戦わせて、その果てに死なせるしかなかった。
 そうすれば、奴らの心に人を殺したという罪の意識を植えつけられる上に、運が良ければ消耗も可能かもしれない。だから、彼女の持つ全ての支給品を確保した後に、T−2バイオレンス・メモリを渡したのだ。

(奴らが戦うドーパントは俺ではなく、人形だ……正義の味方気取りどもがその力で、ガキを殺したと知ったらどうなるか見物だな……)

 かつて斉田リコを失った孤門一輝に、リコという少女を体内に取り込んだノスフェルを撃破させた。そうして少女に重傷を負わせて、孤門を絶望させている。
 本当なら孤門や姫矢、それにスバルの知人を相手にゲームを行いたかったが、どこにいるかも分からない相手を探しても、それまでに人形が動ける訳がない。だからゼクロスや良牙で妥協するしかなかった。
 尤も、奴らが絶望する様を見るのも、それはそれで面白い。そう、心中で呟きながら溝呂木眞也は歩みを進めていた。





(すみません、あかねさん……でも俺はここにいるみんなも守らないといけないんです。許してくれとは言いません。でもどうか、無事でいてください)

 響良牙はアヒルとなった志葉丈瑠(良牙本人はムースと思っているが)を抱きしめながら、この殺し合いに巻き込まれた天道あかねの無事を祈る。
 本当なら、一刻も早く呪泉郷に向かわなければならない。しかし方向音痴の自分が一人で行った所で迷子になるだけだし、何よりもムースを庇いきれるとも思えなかった。
 力に自信はあるものの、仮面ライダーエターナルや溝呂木眞也のような実力者が蔓延っているこの島では、どこまで通用するかわからない。あのシャンプーですら簡単に殺されてしまうのだから、一人で出歩くのは危険極まりなかった。
 そして何より、花咲つぼみのような少女をほったらかしにする訳にもいかない。彼女も彼女で強いし、良のような頼れる仲間が一緒にいるのは分かるが、やはり離れるのは不安だった。
 だから今はあかねよりもここにいるみんなを守らなければならない。そんな結論に至った瞬間、良牙は胸の中に憤りを感じてしまう。

498解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:44:00 ID:3t00uZcU0

(仕方がない……? くそっ、何を考えているんだ俺は! あかねさんの命がかかっていると言うのに……!)

 命を天秤にかけて、少ない方を切り捨ててしまっているような錯覚に襲われてしまい、思わず両腕に力が籠った。一体、いつから俺はそんなクズ人間になってしまったのか……そう考えた途端、遣り切れなさで一杯になってしまう。
 だがその瞬間、腕の中から聞こえてきたアヒルの鳴き声が聞こえてきて、良牙は意識を覚醒させた。

「グエェェェェ……」
「わ、悪い……」

 今、ムースを抱えていることを思い出して、彼は慌てて力を緩める。
 どうして名簿に名前の書かれていないムースがここにいるのかという疑問はあるが、考えてみれば主催者が嘘をついている可能性は充分にあった。あるいはムースの名前を書き忘れてただけかもしれないが、ここで考えた所で仕方がない。
 とりあえず、移動しながら代わりの服を探す必要もあった。いきなり全裸の男が現れたらみんな驚くだろうし、何よりもムースの尊厳がズタズタになってしまう。一条の服を借りるのも悪くないかもしれないが、そうなるとこの体質について話さなければいけない。
 ここにいるみんななら馬鹿にすることはないかもしれないが、それでも隠せるなら隠したままでいたかった。

(それにしても、一体誰がムースにこんなことをしたんだ……?)

 よく見ると、その白い翼は酷く折られている。恐らく、何者かに襲われてこうなってしまい、何らかの拍子で川に落ちて今に至ったのかもしれない。
 あのムースがここまで追い詰めた相手に対する憤りを感じると同時に、この怪我を何とかして治せないかと良牙は思う。今の状態で元に戻ったとしても両腕は折られたままで、戦うどころか日常生活を過ごす事すらも困難だ。
 一刻も早く治したいがこの島に病院はないし、医者だっていない。当然ながら、良牙に医療の知識や技術などあるはずがなかった。
 このままではどうしようもない……そう思いながらムースを抱える良牙は、視線を感じる。
 振り向くと、感情が込められているとは思えない瞳でこちらを見つめている、良の姿があった。

「良か……どうかしたのか?」
「これをそいつに使え」

 そして良は懐から生命の苔の入った瓶を取り出しながら、静かにそう語る。

「その怪我を治すことができるのは、これしかない……このまま放置する訳にもいかないだろう」
「そうだが……いいのか?」
「俺に断る理由などない」
「……つぼみも一条も、大丈夫か?」
「私なら、大丈夫ですよ。アヒルさんの怪我を治したいのは、私だって同じなので!」
「私も同じだ……どうか一刻も早く、君の友人の怪我を治してやってくれ」

 つぼみと一条が頷いてくれたのを見て、良牙は思わず表情を少しだけ明るくした。
 ムースとはこれまで何度も争ったが、それでも助けたい事に変わりはない。だから、ここにいるみんなの好意が何よりも嬉しかった。

「わかった、ここは使わせて貰う……みんな、ありがとう」

 軽く頷きながら、良牙は瓶を受け取る。
 ホッと胸を撫で下ろしながら良牙は瓶の蓋を開けて、折れた翼に苔を塗る。骨折にも効くのかと不安を抱いたが、それはただの杞憂だと証明するかのように癒えていった。





499解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:45:55 ID:3t00uZcU0
 井坂深紅郎は、森の中をひたすら歩み続けるティアナ・ランスターの背中を無言で見守っている。
 黒岩省吾達との戦いで負傷してから、彼女は何かに取り憑かれたかのように前を進み続けていた。一応、傷の応急手当はしておいたが、今のティアナには休息が必要だから、このままでは悪化してもおかしくない。
 だが、井坂は特に何も言う気はなかった。彼女の瞳には野望や執念とはまた違う、凄まじい炎が宿っているように見える。その原料である感情が、コネクタ無しでも使える謎のガイアメモリを成長させる鍵になるかもしれなかった。
 それに例えティアナが何も成し遂げられないまま死んだとしても、別に構わない。手駒はまた新たに見つければいいし、使えなくなった実験材料など処分する以外に道はなかった。
 最低でも、ガイアメモリさえ確保できればそれでいい。コネクタが無いという事は誰でも使えるので、次の手駒さえ見つけられれば観察は続けられる。

(それまではどうか頑張ってくださいね……ティアナさん、貴方には興味がありますがこうも無謀な行動を続けるのであれば、もう用はありません。せめて、そのメモリの糧となる事を私は祈っています)

 ここに来るまで、ティアナは戦いに負けてばかりだった。それにも関わらず、彼女は己の力量を弁えずに無謀な行動ばかりを続けている。そんな相手といつまでも共にいては、いずれ火の粉が降りかかる恐れがあった。
 彼女が用いる魔法はとても興味深いし、謎を解き明かしたいとは思う。だが、この場では自身の生存率を上げながら、主催者を打倒する方法を見つける事が最優先だった。
 だから、不安要素となるティアナは早々に切り捨てなければならない。思案を巡らせながら冷淡な視線を向けていると、肝心の彼女が突然足を止めた。

「井坂先生……あれを見て」

 そんな呟きを聞いた井坂もまた足を止めて、ティアナが指差す方に目を向ける。
 見ると、そこには数人の参加者が集まっているのが見えた。男が三人と、ティアナやキュアピーチと同年代と思われる少女が一人に、小さなアヒルが一匹。この状況でグループが結成されているという事は、どうやら彼らは殺し合いの打破を目指していると考えていい。
 恐らく彼らは皆、何らかの特殊な能力を持っているはず。そうでなければ、この過酷な戦場で生き残るなど不可能だからだ。そんなグループには是非とも取り入って利用し、最後には力の謎を知りつくしたいと思う。
 距離は数メートル離れているので、向こうはまだこちらに気付いていない。

『TRIGGER』

 だが、そう考えたのも束の間。
 横に立つティアナがガイアメモリのスイッチを押し、そのまま右手に差し込んでドーパントに変身するのを井坂は見た。
 すると、グループの一員である男と薄汚れたマントを羽織った男が振り向いてくる。
 ガイアウィスパーのせいで気付かれたかと井坂が思った瞬間、トリガー・ドーパントが走り出してそのまま透明になるのを見た。どうやら、彼女はあの人数を相手に特攻しようとしているのだろう。

(やれやれ、呆れて何も言えませんね……私に力を見せてくれるのは感心ですが、それで危機が及ぶようになっては意味がありませんよ)

 恐らく彼女は度重なる敗北のあまりに、焦っているに違いなかった。加えてガイアメモリの毒素はその感情を暴走させて、人間から冷静な判断を奪っていく。
 結果、今のティアナには自分自身と相手の力量を計る思考など、一片も持ち合わせなくなったのだ。

(ですが、それでも彼らがどんな力を持ち合わせているのかを知るのに、丁度いいです……それこそが、ティアナさんの最後の役目ですから)

 もう、ティアナ・ランスターなど実験台ですらない。目の前で群がっている者達の秘密を知る為の手段でしかなかった。
 これから起こる戦いを、井坂深紅郎は静観するだけ。一応、トリガー・ドーパントが危機に陥ったら助けるつもりだが、駄目なら諦めるしかない。
 ウェザー・ドーパントとなって出てくるタイミングは、見計らわなければならなかった。

500解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:50:18 ID:3t00uZcU0




「……ッ!」

 奇妙な音声が何処からともなく聞こえてからすぐに、空気が破裂するような轟音が響く。
 それを瞬時に気付いた村雨良は素早くゼクロスに変身して、腕を横に振るった。すると、木々の間から飛び出してきたサッカーボール程のサイズを誇るエネルギー弾が両断され、彼の後ろで爆発を起こす。
 しかしそれで終わる事はなく、巨大な弾丸は次々と発射された。しかしゼクロスは跳躍して避けながら、右手を振るって弾く。
 仲間達の方に振り向くと、響良牙は突然の事で驚いている花咲つぼみと一条薫を守るように立っていた。良牙が抱えていたアヒルは今、つぼみの腕の中にいる。

「大丈夫か……?」
「問題ないです、村雨さん!」
「俺達も大丈夫だ、良!」

 つぼみと良牙が頷くのを見た鋼牙は、後ろにいる一条達にも目を向ける。みんな、怪我をしているようには見られなかった。
 身構えている一条と、やや目を見開きながらも必死にアヒルを抱き締めているつぼみの姿を確認すると、ゼクロスは前に振り向く。すると、ここから数メートル先に右腕がライフル銃のようになっている青い怪物が立っているのが見えた。
 遠くから不意打ちを仕掛けてくるのだから、ドーパントと思われる怪物は殺し合いに乗っている。少なくとも、味方だなんて有り得ない。だから、一刻も早く止めなければならなかった。
 速攻で決断を下したゼクロスは地面を蹴って疾走しようとしたが、その直後に青い怪物の数は四体にまで増える。

「数が増えた!?」
「良牙、恐らくあれは幻だ」
「幻?」

 背後で驚く良牙に対して、ゼクロスは静かに口を開く。

「恐らくヤツは幻で俺達を欺いて、その隙に本体が不意打ちを仕掛けようと企んでいる筈だ……俺も、似たような技を持っている」
「成程な」

 良牙が頷く一方、森の中を並ぶ怪人達をゼクロスは睨みつける。
 弾丸の威力は凄まじいが、この肉体ならそれほど脅威ではなかった。それにここには強豪の良牙もいるので、あのドーパントを倒すのは簡単かもしれない。
 だが、あまり時間をかける訳にもいかなかった。もしも青いドーパントが仲間を連れていたら厄介な事になるだろうし、生身の良牙や一条が致命傷を負う恐れもある。それにつぼみや、つぼみの守っているアヒルもどうなるか分からない。

(……新手か!?)

 刹那、十時の方角で足音が響いたので、ゼクロスは振り向く。すると、ドーパントと思われる怪人が、木々の中より飛び出してくるのが見えた。
 筋骨隆々とした紫色のドーパントは空中で左腕を振るい、手の位置に備わっている巨大な鉄球を発射する。
 その標的は、この中では一番弱いように見えるつぼみだった。

「危ない!」
「きゃあっ!?」

 ゼクロスが駆けつけようとした瞬間、そばにいた良牙がアヒルごとつぼみを抱えて瞬時に飛び上がる。それにより、つぼみは何とか無事で済んだが、標的を失った鉄球は地面を容赦なく砕いて、そのまま植物を引き千切りながらクレーターを生み出した。
 良牙達が地面に着地するのを見届けたゼクロスは、鉄球の威力に思わず戦慄する。もしも良牙がいなかったら、つぼみ達は無事ではいられなかったかもしれない。

「すまない、良牙」

 ゼクロスは短く感謝の言葉を告げるが、良牙の視線は地面に降り立ったドーパントに向けられている。しかもその目つきは、とても鋭かった。
 そしてそれはゼクロスも同じ。何故なら、ここにいるドーパントは彼だって知っている男・溝呂木眞也が変身したドーパントなのだから。

501解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:51:51 ID:3t00uZcU0
「テメエ……溝呂木か!」
「溝呂木? まさか、溝呂木眞也の事か?」
「そうだ! あいつはさやかを操っただけじゃなく、その前にも教会で人を殺した野郎だ!」
「分かった」

 声に激しい怒りを込めている良牙に、一条は頷く。
 溝呂木眞也。それは、美樹さやかと五代雄介が死ぬきっかけを作った男だ。人を操り人形にして多くの悲劇を生み出しているから、許すわけにはいかない。

「俺達の前に出てくるなんていい度胸してるじゃねえか……散々好き勝手やっておきながらよ!」
「……消えろ」

 現れたドーパントは返事をするかのように、良牙を目がけてあの鉄球を放つ。その速度は凄まじいが、良牙は素早く跳躍して軽々と避けた。
 そこから空中で一回転した彼は、勢いよく拳を叩きつける。鈍い殴打音と共にドーパントが揺らぐ中、良牙は反対側の拳を振るった。
 その勢いを殺さないかのように脇腹を目がけて、回し蹴りを叩き込む。良牙の攻撃を受けたドーパントは衝撃で後ずさりながらも、鉄球を元の位置に戻した。
 ドーパントは鉄球を使って殴りかかるが、良牙は両膝を軽く曲げた事で掠る事無く回避に成功。そして反撃と言わんばかりに、筋肉が盛り上がった腹部に拳を叩きつけた。
 そうしてドーパントが後退するのを見て、ゼクロスは再びライフル銃を持つドーパントに振り向きながら、発射された銃弾を砕く。
 そのまま疾走しながら、ゼクロスは考えた。

(こいつらは仲間なのか……? だが、その割には連携が感じられない。それに溝呂木なら、こんなにも堂々と正面から来るか?)

 鉄球のドーパントとライフル銃のドーパントが仲間であるにしてもそうでないにしても、今は関係ない。すぐさま戦闘を止めさせて、拘束する必要があった。
 一瞬でドーパントとの間合いを詰めた彼は拳を振るうが手ごたえは無く、霧のように消えるだけ。しかしそれに感情を動かされる事をせずに地面を蹴り、もう一体のドーパントを両断する。だが、またしても血を流さずに消滅した。
 しかしそれに構わず、ゼクロスは手の甲からマイクロチェーンを発射させて二体同時に怪人の肉体を貫くが、やはり霧散するだけ。
 これで一体残らず消えたので、残るは本体だけかと思った。しかしそれからすぐに、空気を振動させる程の爆音が響いたので、鋼牙は瞬時に飛び上がる。するとあの弾丸が、彼の立っていた場所を凄まじい速度で通り過ぎて、一気に巨木を破壊した。
 そうして地面に降り立った彼が振り向くと、消滅させたはずのドーパントが六体も現れていて、ライフル銃を向けている。

(また幻……いや、そもそもあの中に本物はいるのか? 弾丸は誰もいない所から発射された……もしも、俺達の目を誤魔化せるのだとしたらこのまま戦っても終わらないな)

 ドーパント達を睨みながら、ゼクロスは思案した。
 幻はあくまで幻でしかなく、相手にしてもこちらが翻弄されるだけでしかない。それを操っている本体を叩かなければ、不意を突かれるだけだった。
 ドーパント達の数がどんどん増えていく一方、ゼクロスは意識を集中させる。刹那、七時の方向より気配を感じ、彼はそちらに振り向きながら走り出して、虚空を目がけて拳を叩き込んだ。

「ギャアッ!」

 すると、何もなかったはずの空間が歪んで、そこから醜悪な悲鳴と共にライフル銃を持つドーパントが現れて、よろめきながら地面に倒れていく。攻撃を受けても姿が消えなかったので、今度こそ本物の可能性があった。
 現実として、あれだけ森の中にいた幻は全て消滅している。

「こいつが本体か……」

 ゼクロスが牽制のように拳を向ける一方、ドーパントは左腕で腹部を抑えながらも立ち上がる。相手は震えながらもライフル銃を向けてくるが、その腕を目がけてマイクロチェーンを発射させて絡み付かせた。
 そのまま両腕に力を込めてドーパントの身体は勢いよく持ち上げ、良牙と戦っていた鉄球のドーパントに激突させる。
 その衝撃の影響か、鉄球のドーパントは少しだけ吹き飛んでいった。

「衝撃集中爆弾!」

 矢継ぎ早にゼクロスは右膝に備わった装甲を取り外して、ドーパント達を目掛けて投げつける。すると、爆弾の名が示すように小規模とはいえ爆発を起こした。
 その影響で煙が巻き起こり、視界がほんの少しだけ遮られる。しかしその中を突き破るように、鉄球のドーパントが姿を現した。
 空中で左腕を振るうと、あの鉄球が凄まじい速度で飛び出してくるのをゼクロスは見る。しかし臆する事などせず、避ければいいだけ。
 回避に神経を集中させて、飛び上がろうと力を込める。その時だった。

502解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:53:38 ID:3t00uZcU0

「うりゃあああああぁぁぁっ!」

 若い少女の叫び声と共に小さな影が飛び出してきて、ドーパントが放った鉄球を吹き飛ばす。
 そして、煌びやかな衣装を身に纏った少女がピンク色のポニーテールを揺らしながら、目の前に着地するのを鋼牙は目の当たりにした。

「お前は……」
「大地に咲く、一輪の花……キュアブロッサム!」

 小さな背中を向ける少女は、ゼクロスに答える事などせずに力強く名乗りを上げる。
 キュアブロッサム。それは花咲つぼみが変身する、砂漠の使途という連中から人々の心を守るプリキュアという戦士の一人だった。
 不意に後ろを振り向くと、一条があのアヒルを抱えている。つぼみは彼にアヒルを任せて、それから急いで変身をして援護をしてくれたのかもしれない。

「すまない、つぼみ……」
「いいえ、大丈夫です!」

 こんな若い少女の助けを借りてしまった事に些か心が痛むのを感じながら、ゼクロスは助けてくれたキュアブロッサムに謝罪する。すると彼女は振り向いて、明るい笑顔を見せてきた。
 それからキュアブロッサムは、勢いよく前に踏み出しながら声を張り上げる。

「溝呂木さん、こんな事はもうやめてください! これ以上、悪行を重ねても何の意味もありません!」
「つぼみちゃん、こんな時に何を言っている……!」
「いいえ一条さん、ここは私に任せてください!」

 一条の疑問をあっさりと払い除けて、キュアブロッサムはそのまま続けた。

「あなたがさやかとまどかを利用したり、五代さんが亡くなってしまったきっかけを生み出したのは私も許せません……私の堪忍袋の緒は、切れています!」
「五代、さやか、まどか……!?」
「でも、だからこそあなたには償う義務があります! 人は誰でも、生きている限りやり直す事が出来ます! あなただって……今の自分から変わる事が出来るのです!」

 その叫びは、大量の粉塵が風で流れていく森の中で大きく響いた。
 あまりにも予想外の行動を取るキュアブロッサムにゼクロスどころか、良牙も呆気に取られている。
 しかし、その隙に鉄球のドーパントが攻撃を仕掛けてくる事はない。それどころか、金縛りにでもあったかの如く、ピタリと止まっていた。

「変わる……変わる……今更、何が出来る……!」
「出来る事はいくらでもあります! 大切なのは、溝呂木さんが一歩前に踏み出す勇気です!」
「勇気……!?」

 怒鳴るキュアブロッサムを前にドーパントは鉄球を掲げるが、その腕は震えている。やろうと思えば頭部を潰せそうなのに、行動に進もうとしない。
 まるで、望んでいないのに人殺しを強いられて、躊躇いや迷いを抱いているようにも見える。本当は、誰かを犠牲にする事を快く思わない奴なのだろうか?
 一瞬だけそう思い当ったが、同時にゼクロスは強い疑問も抱く。そういう迷いを心の内に抱える男が、笑いながら人を操るのだろうか。溝呂木眞也という男はBADANと同じで、人を虫けらの様に利用する男なのだから。
 そんな男が、キュアブロッサムの説得程度で信念を捻じ曲げるような事をするのかどうか、疑問だった。

(待てよ……そもそもこいつは、本当に溝呂木なのか?)

 そして思案する内に、ゼクロスは一つの可能性を導き出す。
 目の前のドーパントは、溝呂木は持っていたガイアメモリによって変身できるドーパントだ。故にその正体は溝呂木である可能性は高いが、こちらは変身した場面を直接見た訳ではない。
 根拠は少ないが、もしもこの推測が正しいのならドーパントの正体は、溝呂木が操っている何者かである可能性もある。いや、溝呂木のやり方から考えれば、そちらの方が自然だった。
 恐らく、手駒となる人間を炊き付けてからこちらを消耗させて、その隙に不意を仕掛けてくる作戦なのかもしれない。もしもその術中に嵌っていたら溝呂木の思い通りになっていただけでなく、罪の無い命も犠牲にする恐れだってあった。

503解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:54:59 ID:3t00uZcU0

「キサマ……何者だ」

 だからゼクロスはその鋭い眼光をそのままに、ドーパントへ問いかける。

「わた……いや、俺は溝呂木だ……お前達の……」
「違う、キサマは溝呂木ではない。お前が本当に溝呂木眞也なら、わざわざ正面から戦いを仕掛けて来ないはずだ」
「えっ……どういう事ですか!?」
「溝呂木なら、大人数を相手に戦わないだろう。こいつの正体は鹿目まどか……いや、鹿目まどかに化けた、緑色の怪人だ。恐らく溝呂木はそいつを操って、俺達にぶつけるつもりだったのだろう」

 驚愕するキュアブロッサムに、ゼクロスは静かに答えながら周囲を警戒した。
 最悪の可能性として、こうして問いかけている間にも溝呂木は虎視眈々とチャンスを窺っているかもしれない。もしも目の前にいるドーパントごと、ここにいる者達を一気に殺害する手段があるのだとしたら、一刻も早く食い止めなければならなかった。
 もしかしたら、さやかの親友である鹿目まどかである確率すらもあり得る。キュアブロッサムが、まどかとさやかが一緒にいたと言っていたからだ。
 だがまどかの名前は、既に放送で呼ばれている。それにも関らずしてまどかがこの世界にいるという事は、何らかの手段でその姿に化けているとしか考えられなかった。
 BADANには人間社会に潜伏する為、人間の姿に化ける怪人が多くいる。ダブルライダーに殺されたミカゲや、ヤマアラシロイドの正体を隠しているニードルがその例だ。
 だからこのドーパントも、それと同じ事をしているとゼクロスは考えていた。





(ほう……あのバイオレンス・ドーパントは洗脳されているだけでなく、その上で変装も行っているとは。どのような技術でやっているのか、実に興味深いですね)

 井坂深紅郎が変身したウェザー・ドーパントは、村雨と呼ばれた仮面ライダーと思われる赤い戦士の宣言を耳にしてそんな感想を抱く。
 この島には最初に戦った怪物や少女達のように、何らかの特異な能力を持つ存在が数多くいる。だから今更どんな相手と出会おうが驚かないと思っていたが、村雨の推測は実に興味深い。もしもバイオレンス・ドーパントを操っている溝呂木という男と接触できれば、進化の手段を得られるかもしれなかった。
 その為にも交渉材料としてティアナ・ランスターとバイオレンス・ドーパントは勿論、鋼牙達のグループにいる誰かを確保したいが、この状況で飛び込む訳にもいかない。ウェザーの力を最大限に使ったとしても、数も戦力は鋼牙達の方が圧倒的に上だった。生身の良牙や一条という男に稲妻を落としても、そこから村雨に攻撃されたら元も子もない。
 とにかく今は、チャンスを窺わなければならなかった。あと一人、何らかの火種が欲しい。そうすれば、あの二人を確保する道筋が開ける可能性があった。
 思案を巡らせていると、少し離れた場所で植物が揺れるのをウェザー・ドーパントは聞き取る。振り向いた先では、禍々しい形状の刀を構えた奇妙な怪物が歩いているのが見えた。
 皮膚は平安時代の貴族が着るような衣服を彷彿とさせて、両肩には魚の頭蓋骨とよく似た装甲が飾られている。仮面のように動かない口元に生えた鋭い歯は、薄気味悪さを演出させていた。

(あれはドーパント……いや、何らかの怪物でしょうか? あの黒岩省吾が変身するような……)

 一瞬、ガイアメモリによって生まれるドーパントと思ったが、あのような固体は見た事がない。むしろ、未知の存在であると考えた方が自然だった。
 その怪物にはすぐに興味が惹かれたが、素性が分からない以上は迂闊に声をかけられない。そもそも理性があるのかどうかさえ、判別がつかなかった。
 だからといって、このまま放置するのは惜しい。どうしたものかとウェザー・ドーパントが考えている。





 三途の池で身体を休めてから、筋殻アクマロはひたすら木々の間を歩いていた。
 いくら知略を巡らせて殺し合いに優勝するとしても、たった一人ではやれる事に限界がある。スバル・ナカジマに邪魔者の排除を任せたが、もしも血祭ドウコクのような怪物と出会ったら一巻の終わりだし、既に殺されている可能性があった。
 別に彼女一人が死んだところでどうという事はないが、そうなっては今後の戦いが不利になる。なので、今からでも代わりの戦力を探す必要があった。
 捨て駒になるような弱者なら暴力で屈服させて配下にし、それなりの実力を持つ者ならば上手く同盟関係を結び、あの本郷猛達のように殺し合いを打ち破ろうとする集団があるなら取り入る。この状況では簡単にいかないだろうが、それでも行動しないわけにはいかない。
 腑破十臓が死んで裏見がんどう返しの術が出来なくなった以上、地獄を齎すには主催者達の味方となる方法を取るしかないのだから。

504解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 22:56:32 ID:3t00uZcU0

(合流まで時間があるので遠回りしてみれば……おやおや、これはまた凄い状況になっておりますな)

 志葉屋敷のある村に向かう前に、他の参加者を探す為にあえて遠回りをする形で森を歩いていたら、一触即発と呼ぶに相応しい舞台に辿り着いた。
 ドーパントと思われる二体の怪物と、生身の男が二人と、仮面ライダーと思われる異形と、プリキュアと思われる少女が一人と、そしてアヒルが一匹だけ。どういう状況なのかは知らないが、そこにいる者達は睨み合っている。
 恐らく、あそこで戦いが起こっていたのだろうが、何らかの要因で中断せざるを得なくなったのだろう。故に、あの状況は不安定となっており、少しの不確定要素が入れば一気に爆発する可能性もあった。
 尤も、アクマロは下手に飛びこむつもりは無い。上手く行けばあの参加者達を一網打尽に出来るのは確かだが、何の策も無しに干渉したとしても袋叩きになるだけ。素性の分からない連中を前に下手な行動は選べないが、だからといってこのまま放置するのも惜しい。
 もしも奴らが利用出来るのならば、今後の行動で利益となるかもしれないからだ。始めはこの外見で怪しまれるだろうが、正義の味方を気取る者達の同情を誘えるように振舞えばいい。
 とはいえ、少しでも怪しまれたら即刻で切り捨てられるよう、常に優位な立場に立てるように地盤を固めなければならないが。

(どなたかあの場を引っかき回してくださる方はいないものか。例えるなら、あそこにいる白いドーパント……あの方が何かをしてくださるなら、我も行動に移せるのですが)

 不意に、アクマロは参加者達が集まる舞台から視線を外して、少し離れた場所に目を向ける。そこには、アクマロと同じように戦場を覗いているドーパントのような白い怪物がいた。
 もしかしたらあのドーパントも、あれだけ集まった参加者に興味を抱いているがどう対処するべきなのか、悩んでいるのかもしれない。そう、アクマロは推測する。
 ノーザの時のように接触するのも悪くないかもしれないが、何を考えているのか分からない相手なので迂闊に近づけない。もしも優勝を目指しているのであれば、逆にこちらが利用されてしまう恐れもある。

(……仕方がありませぬ。どうやら、ここは引かざるを得ないようですな。何も手駒は奴らだけでは無い故、急ぐ事も無いでしょう)

 このまま膠着状態が続くのであれば、長居は無用だった。
 あの参加者達は興味深いが、何らかのきっかけで戦いが始まっては飛び火する恐れがある。こんな所でダメージを追うのは御免だった。
 そう結論付けたアクマロは物音を立てないよう、ゆっくりと歩を進める。無駄に時間を食っただろうが、安全を確保する事が何よりも重要だ。
 そうして離脱出来るかと思った瞬間、アクマロは視線を感じる。それに気づいて反射的に振り向くと、戦場の中にいる鉄球を持ったドーパントが、こちらを見つめていた。

(気付かれた!? いや、たまたま目線が合っただけ……? どちらにしても、あのドーパントと我は離れております。ならば、焦る事も無いでしょう)

 アクマロはほんの一瞬だけ動揺したが、すぐに精神を落ち着かせる。
 例えあのドーパントがこちらに気づいていたとしても、周りには囮となる参加者達が大勢いた。あのドーパントが動き出したとしても位置から考えて、その後に参加者達が食い止めるに違いない。
 ならば焦る事も無いとアクマロが思った、次の瞬間だった。

「あ、ああ、あ、あ、あ……ああああああああああああああああああああ!」

 視線を交錯させていた鉄球のドーパントがいきなり叫び、地面を蹴って一直線に突っ込んでくるのを、筋殻アクマロは見た。





『こんなこと、俺はくだらないと思う! だから絶対、殺し合いなんてやめてほしい!』

 あの五代雄介という男が最後に遺した言葉が、バイオレンス・ドーパントに変身したスバル・ナカジマの心の中でずっとリピートされていく。
 愛する筋殻アクマロにとって邪魔者でしかないプリキュアの一人、キュアブロッサムの言葉を聞いてからずっとそうだった。彼女を叩き潰さなければならないのに、何故かこの腕が震えてしまう。もうこの手で多くの命を奪ってきたのに、今更どうしてこうなるのかがまるで理解出来なかった。

『もうやめてよ……スバルさん!』

 美樹さやかと一緒に行動する際にその姿を騙った、鹿目まどかの声が脳裏に響く。
 こんなのは幻聴だ。彼女の話を聞いても何にもならない。愛するアクマロ様の為にも、早く消えてしまえ。

505解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:01:00 ID:3t00uZcU0
『あなたはこんな事、本当は望んでないはずだよ!』
『そうよ! これ以上続けたって何の意味もないし……何よりも、つぼみだって悲しむ! だからもうやめて!』

 鹿目まどかに続くかのように、今度は美樹さやかの声まで聞こえてくる。
 もうやめろ。今更、どうして出てくるのか。あたしは参加者を皆殺しにすると決めたから、邪魔をするな。
 彼女達の声を振り払おうとしても、それをすればするほど聞こえてくる。まるで、亡霊となって邪魔をしているかのようだった。
 アクマロへの愛情と、犠牲者達の声。それらが心の中で拮抗して、彼女の動きを止める要因となっていた。
 一体どうすればいいのか……そんな悩みが生まれて、不意に視線を移した頃に彼女は見た。

「あ、ああ、あ、あ、あ……」

 ここから少し離れた場所に、愛する外道がいる。全てを尽くしてみせると誓った、筋殻アクマロがいたのだった。
 その姿を見たスバルの胸は高鳴っていく。ああ、愛するあのお方が見ていてくれている。このまま他の参加者達を殺せば、アクマロ様はきっと褒めてくれるはず……

『溝呂木眞也に成り済まし、一人でも多くの参加者を殺せ……』

 しかし彼女の愛情は、脳裏に湧き上がった言葉によって途端に収まっていく。

『特に俺の偽物は優先的にだ』

 続くように駆け巡る言葉によって、スバルを満たす愛情は瞬時に殺意へと変わっていった。
 何故、全てを任せてくれた筈のアクマロ様があそこにいるのか? アクマロ様ならば迂闊に正体を悟られるような事をしない筈なのに、どうしてあんな所にいるのか?
 もしかしたら、あのアクマロは偽者なのではないか?

『俺の名を騙るような奴は、お前だって許せないだろ?』
「ああああああああああああああああああああ!」

 その推測に至った瞬間、スバルは……否、バイオレンス・ドーパントは猛獣のような雄叫びを発しながら走り出していく。
 そうだ、アクマロ様の名を騙る愚か者がいると、アクマロ様は教えてくれた。そしてアクマロ様は、そいつを優先的に殺せと言っている。だから、奴を殺さなければならない。
 本当のアクマロ様なら、隠れている最中に姿を見られるような失態を犯したりなどしない。それも分からず、ただ姿を真似ているだけの奴が許せなかった。

(許さない……よくも、よくもアクマロ様を愚弄したな! 絶対に殺してやる!)

 後ろにいるゼクロスという奴やつぼみの声が聞こえるが、バイオレンス・ドーパントはそれを無視して突き進んでいる。
 彼女は知らない。今、そこにいる筋殻アクマロは彼女が愛情を抱いている本物である事を。しかし、幻覚を見せられている今の彼女は溝呂木眞也を『本物の筋殻アクマロ』と思い込んでいて、目の前にいる筋殻アクマロは偽者だと信じている。
 その結果、溝呂木の口から出た全ての言葉が、アクマロの言葉となってしまっていた。

「があああああああああぁぁぁぁぁ!」
「くっ……!」

 闇によって弄ばれている彼女は残酷な真実を知らないまま鉄球を掲げて、アクマロの頭部を目掛けて振り下ろす。しかし、その手に握る武器によって受け止められてしまい、鋭い金属音が響いた。
 その形は、削身断頭笏と寸分の狂いがない程に同じ。その事実がバイオレンス・ドーパントを激高させて、力を更に込めさせる結果になった。

「アクマロ様の偽者が……私の愛するアクマロ様の姿を利用するなんて許せない……殺す、殺す、殺してやる!」
「まさか、あんたさんはスバルはん……何を仰るのです、我は……!」
「黙れええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 声や口調まで似せている目の前の異形に怒りを覚えて、バイオレンス・ドーパントは感情のままに鉄球を振るうが、削身断頭笏によって弾かれる。衝突によって火花が飛び散るだけで、ダメージを与えられない。
 数合打ち合った後、偽物だがそれなりの実力を持っていて、まともに戦っていても勝てないと彼女は推測する。
 ならばと思い、アクマロの肉体に絡み付いてその自由を奪った。当然ながら相手は足掻くも、痛む身体に鞭を打って渾身の力で投げ飛ばす。その甲斐があってかアクマロの巨体は宙に飛ばされ、そのまま鋼牙達がいる戦場の地面へと叩き落とされていった。

506解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:03:17 ID:3t00uZcU0

「ぐっ……血迷ったのですか!?」

 偽物が何かを言いながら立ち上がってくるが関係ない。この手で叩き潰すだけだ。
 ゼクロスや良牙との戦いを経て、既に満身創痍となっている彼女がここまで出来たのは、アクマロへの愛があるからこそ。いつ死んでもおかしくない彼女が生き延びていられたのは、唯一にして絶対の感情が肉体を満たしているからだった。
 無論、そうであっても肉体にせよソレワターセにせよ、酷使し続けていた事に変わりはない。あと少しの攻撃でも、まともに受けたら死んでもおかしくなかった。
 しかし彼女はそれでも構わない。この愛が果たせるのであれば、いくら傷付いても惜しくはないと考えているのだから。
 何も知らない者がそれを見たら、狂っていると思うかもしれない。しかし彼女は今の行動にどんな意味合いを持っていて、更にどのような結果を齎すのかを考えられない。アクマロの指令をただ果たすだけの機械でしかなかった。
 これまでもそうだったし、これからもずっとそうであったのかもしれない。風によって流されていく粉塵の中から現れた、少女の姿を見るまでは。

「……あ、あ、あ、あ、あ?」

 呻き声を漏らしながらもゆっくりと立ち上がってくるのは、バイオレンス・ドーパントにとって……否、スバル・ナカジマにとってよく知っている少女だった。
 見なれた服装は着ておらず、髪型もどこか違う。しかし髪の色やその表情は、見間違えようがなかった。
 そして、その姿を見た瞬間に、胸中を満たしていたアクマロへの愛や偽物に対する憎しみ、更にこれまで抱いていた殺意も、全てが払拭されていく。

「……ティア?」

 何故なら、ずっと会いたいと思っていた親友のティアナ・ランスターが、そこにいたのだから。





「子どもが……ドーパントだと?」

 先程投げた衝撃集中爆弾によって舞い上がった煙の中から現れた少女を見て、ゼクロスは思わずそう呟いた。
 発砲したあのドーパントの姿は何処にもなく、代わりにいたのはレオタードを纏った少女だけだった。一瞬、ドーパントがまた何か奇妙な技を使ったのかと思ったが、少女の傍らにはあのガイアメモリが落ちている。
 つまり、ライフル銃のドーパントの正体は、ここにいるオレンジ色の髪の少女という事だ。
 つぼみと同じ年頃に見える若い少女をどう対処するべきか? 無論、奪う者をこのままにするつもりはない。しかしだからといって、殺していいのかどうかは疑問だった。

『あの子、たちを、を見つけたら、……助けて、あげてください…………。  それが、仮面ライダーの、使命だと、思うから……』

 少女の姿を見た瞬間、五代が遺した言葉がゼクロスの脳裏に過ぎる。
 彼は命が尽きようとしていた時にも関わらず、大勢の命を奪った自分自身にまどかとさやかを助けろと言った。最後の最後まで、自分よりも他の誰かの事を考えていた。恐らくその中には、目の前の少女も含まれているかもしれない……そう思った瞬間、拳を振るう事が出来ない。
 女の願いと五代の遺志がゼクロスの中で拮抗する中、キュアブロッサムが少女の元に駆け寄り、手を差し伸べる。

「大丈夫ですかっ!?」
「触らないで……っ!」

 だが、それは乾いた音と共に呆気なく弾かれてしまった。
 キュアブロッサムは反射的に手を引っ込める一方で、少女は殺意に満ちた瞳で睨み付けてくる。

「何よ……情けでもかけるつもり? 殺すなら、さっさと殺しなさいよ!」
「何を言ってるんですか!? そんなこと、出来る訳ありません!」
「ハッ、あたしには殺す価値すら無いって言うの? 随分と見下してくれるわね……!」

 隠そうとしない苛立ちを発する少女は、キュアブロッサムから目を逸らしてガイアメモリに手を伸ばした。
 しかしその指先が触れる前に、ゼクロスは素早くガイアメモリを拾い上げる。そのまま西条凪が持っていたジーンメモリの時と同じく、ガイアメモリを握り潰した。
 鈍い音が響いた後に手を開いて、ガイアメモリの破片を地面に落とす。しかしゼクロスはそれに気を止めず、メモリの所持者である少女に目を向けた。
 名も知らぬ少女はほんの少しだけ茫然としていたが、すぐにその小さな身体をわなわなと震えさせる。

507解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:05:40 ID:3t00uZcU0
「なっ……何てことするのよ!? あたしはそれを使って、あんた達を殺さなきゃいけないのに!」
「こんなのを使った所で、誰かに勝てる訳がない……例え人を殺せたとしても、お前自身がいずれ破滅するだけだ」
「そんなの知ったことじゃないわ! あたしは……あたしは兄さんが強いって事を証明する為にも戦い続けなきゃいけないのよ!」

 そうやって絶叫する少女の瞳は猛禽類の如く鋭さを放っており、やがてポロポロと涙を零し始めた。
 まるで平常とは思えない少女の様子に、ゼクロスは言葉を失う。そして同時に、ガイアメモリの恐ろしさを思い出した。
 ガイアメモリを使うとドーパントになって力を得られる代わりに使用者の精神を著しく汚染させてしまい、最後に命を落としてしまうと言う話を五代から言った。
 つまり加頭順は、最初から参加者達を罠に嵌める気でいたのだ。恐らく、薬物の中毒患者のように壊れさせて正常な判断力を奪い、反逆の手段を全て奪うつもりでいるのかもしれない。カメンライダーやプリキュアのように何らかの力を有する者ならともかく、一条のような何の力も持たない人間がこれを使ったら、集団が崩壊するきっかけが生まれるはずだった。
 そしてこの少女も、ガイアメモリの過剰使用によって精神が壊れてしまったのかもしれない。一度そうなってしまっては、元に戻るまで地獄の苦しみを長い時間味わわなければならないだろう。最悪、一生戦わなければならない可能性だってあった。
 そう考えた瞬間、少女に対する殺意が一気に薄らいでいく。彼女の凶行は決して許されないが、それでもこのまま倒した所で女は喜ばないかもしれなかった。
 詳しい事情は知らないが、壊れるきっかけとなったガイアメモリを主催者から与えられなければ、まだこうならなかったかもしれないから。
 ゼクロスがそう考えた瞬間、乾いた音が鼓膜に響く。それは、キュアブロッサムが少女の頬を平手打ちした音だった。

「ふざけないでください! お兄さんを……暴力の言い訳にしないでください!」

 そしてキュアブロッサムは、瞳から涙を滲ませながら少女に怒鳴り始める。
 それに驚いたのか、少女は目を見開いていた。

「何をするのよ……!?」
「あなたのお兄さんは、あなたがこうして傷つくのを望むような薄情者なのですかっ!?」
「なっ……兄さんは、兄さんはそんな人じゃない! 兄さんを侮辱するな!」
「じゃあ、どうしてあなたはお兄さんが望みそうにないことをしているのですか!? そもそもあなたのお兄さんは、自分の強さを誰かに見せびらかして喜ぶような人なのですか!? 他人に力を見せびらかす人が強いだなんて、私は絶対に思いません!」

 饒舌になるキュアブロッサムからは、変身する前に見せた気弱な雰囲気は微塵も感じられない。だからといって憎しみは感じられず、むしろ少女の事を思っているようにも見えた。
 ゼクロスは、どうしてキュアブロッサムがそこまでするのかが理解できない。そして兄妹や家族がどれくらいに大切な存在なのかも分からないのが、あまりにも惜しいと感じていた。
 ただ、少女の気持ちだけは少なからず理解出来ている。BADANにいた頃、ずっと隣にいたミカゲの為に戦いたいと思った事が何度かあった。だから少女も、兄とやらの為にドーパントになってでも、戦ったのだろう。
 キュアブロッサムの叱咤を前に青ざめる少女は、何も言えそうに無かった。その言葉が堪えたのか、狂気と殺意は少なからず和らいでいるようにも見える。
 ゼクロスはそんな少女を見下ろしながら、静かに言葉を紡いだ。

「お前の兄とやらがどんな奴で、お前が兄の為に何をしようとしているのかを俺達は知らない」
「……だから、何なのよ」
「だが、お前の兄は……今のお前を見たら泣くんじゃないのか……?」

 茫然とした少女に言い聞かせるかの如く、ゼクロスはそう告げる。
 本当ならこんな事を言う義理など無いのだが、この少女をこれ以上戦わせてはならないと、ゼクロスは考えていた。恐らく少女にとっての兄とは、自分にとって泣かせてはならないあの女と同じような存在なのかもしれない。
 少女に共感を抱いたのかは分からないが、とにかく止めなければならないような気がした。

(……これで、いいのか?)

 ふと顔を上げると、やはりあの女は笑っている。瞳から涙を流し続けているが、それでも笑顔を浮かべていた。
 彼女は何も言わないし、こちらから問いかけても何も答えて来ない。しかし、奪おうとする者からみんなを守れば、笑顔でいてくれるのは確かだった。
 女が何者なのか、ゼクロスは知らない。しかし、彼女の事を考えるとからっぽな筈の心は疼いて、涙を流させてはならない為の行動を取るようになってしまう。
 だからドーパントになった少女も、殺す訳にはいかなかった。

508解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:08:07 ID:3t00uZcU0

「分かってるわよ、そんなこと……分かってるけど……あたしは……あたしは……!」

 少女は涙を零しながらも呟くが、そこから先の言葉が出てきていない。
 こうなってはもう、何も奪えない筈だった。ガイアメモリを砕いた以上、魔法のような幻影を使った所で何の脅威にもならない。逃げ出すような気力すらも、感じられなかった。
 そんな少女から目を離して、ゼクロスは良牙の方に振り向く。するとその先には、鉄球のドーパントが謎の怪人と戦っているのが見えた。
 見た所、アクマロの偽物と呼ばれた怪人がドーパントを押しているように見える。溝呂木との戦いで現れたまどかの変身したドーパントが忠誠を誓っていたので、奪う者である事に間違いはない。
 しかし、何故あのまどかがアクマロを襲っているのかが理解出来なかった。

「チッ、何がどうなっている? アクマロって奴は敵なんだよな……? なのに、なんで同志討ちをしているんだ……?」

 そして良牙も状況が読めてないようで、戦いを眺めているだけになっている。
 ここで奴ら二人を纏めて倒す事も出来るが、もしもあれが何らかの罠だったら痛い目を見るかもしれない。故に、考えなしに乱入する事が出来ないが、ここで放置する訳にもいかなかった。
 どうしたものかと、ゼクロスは考える。

(ん……何だ、この風の流れは?)

 穏やかさを取り戻しつつある風の流れが、徐々に激しくなっていくのを感じた。それに伴って、森の中に差し込んでいた太陽の光が薄くなる。それに違和感を覚えたゼクロスは空を見上げると、巨大な暗雲が見えた。
 突然現れた黒い雲によって光が遮られ、辺りが一気に冷える。それに驚愕する暇もなく、稲妻が落ちてきた。

「なっ!?」
「チッ!」

 雷鳴が轟くと同時に、良牙とゼクロスは咄嗟に跳躍した瞬間、轟音と共に地面が砕ける。しかしそれで終わる事は無く、雷は暗雲からどんどん発せられていき、周囲の植物を無差別に焼き払っていった。
 二人は持ち前の反射神経で回避行動を続ける中、嵐の勢いはどんどん激しくなっていく。吹き荒れる暴風によって木の葉は吹き飛び、ついには枝まで折れてしまった。
 しかしゼクロスはそれに気を止めず、仲間達の方を振り向く。キュアブロッサムは未だに茫然としているオレンジ色の髪の少女を説得しているが、耳に届いているかなど分からない。一条も、アヒルを守る様に抱えながら、必死に暴風を耐えているようだった。
 だが、安心は出来ない。もしも稲妻が彼らを襲ったら、命が危なかった。プリキュアは知らないが、生身の人間である一条と良牙やアヒルに落ちたら死ぬ以外に想像出来ない。
 だから、彼らだけでもすぐに逃がさなければならなかった。

「おい、良! あれを見ろ……竜巻だ!」
「何?」

 しかしすぐに良牙の狼狽するような声が聞こえたので、ゼクロスは振り向く。
 すると、数メートル離れた先から、巨大な竜巻が生い茂った木々や大地を舞いあがらせながら、轟音と共に接近していた。
 それは雷と同じく、時として人の命や建物に甚大な被害を与える自然現象の一種。しかし、こうして起こっている竜巻は自然の物とは到底思えなかった。つい先程まで空は晴天に恵まれていたのに、何の前触れもなく暗雲が現れて天気が急激に変わるなど、余程の外的要因が無ければ有り得ない。
 もしかしたら、緑色のドーパントのように自然を操る力を持つ怪人が近くにいる。ゼクロスはそう推測するが、犯人を探す余裕などなかった。先程のように竜巻へ飛び込んでも、あの中にドーパントがいるとは限らない。
 新たに現れた巨大な竜巻が周囲を破壊するのを前に、ゼクロスは思わず身構える。しかし次の瞬間、上空を覆う巨大な雷雲から閃光が迸って、雷鳴が轟いた。
 そして、轟音と共にゼクロスの視界は光に飲み込まれた。





 晴れ渡った空だったにも関わらず、何の前触れもなく空が暗雲で覆われたのは筋殻アクマロも驚いたが、だからといって動揺などしない。
 この地には奇妙な力を持つ者が数多くいるし、その中に天候を操る輩が混じっても不思議ではなかった。恐らく、隠れていた白いドーパントが力を発揮したから、この現象が起こったのだろう。
 しかし、奴が動き出したのならばあまり長居は出来ない。もしも漁夫の利を得る為に仕掛けたのならば、殺される恐れがある。そう推測したアクマロは、スバルが変身したと思われる鉄球のドーパントを削身断頭笏で一閃した。惚れ薬で下僕にしたのに、敵と認識するならばもう用などない。ここで切り捨てなければならなかった。
 怯んだ隙に胸部を蹴って吹き飛ばすと、ドーパントは竜巻に巻き込まれた事で一気に舞い上がる。その悲鳴は暴風によって飲み込まれる一方、アクマロは巻き添えにならないように背後へ飛んだ。

509解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:11:05 ID:3t00uZcU0

(この機を逃す訳にはいきませぬ……スバルさんは惜しいですが、我を裏切るのであれば仕方がありませんな)

 あの惚れ薬の効果はまだ続いていたような気がするが、考えてみれば説明書に全ての真実が書かれているとも限らない。了承も得ずに殺し合いを強いるような主催者なのだから、効果が発揮する時間が一時間足らずだったとしてもおかしくなかった。
 しかしスバルが吹き飛んだ以上、真相がどうであろうと関係ない。今はこの場を乗り切る事が重要だった。
 可能ならこの騒ぎに乗じて他の参加者を仕留めたいが、ここに味方はいない。単独で戦いに参加するなど、危うすぎる賭けだった。
 荒れ狂う風に吹き飛ばされないよう、アクマロは両足に力を込めて前を進む。そんな中だった、木の陰に隠れて戦場を覗き見ていたあの白いドーパントが前に現れたのは。

「あんたさんは……!」
「御機嫌よう。私はずっと貴方に興味を持っておりましたよ……どうやら、ドーパントではなさそうですが、今は構いません」

 まるで社交辞令のような態度で穏やかに語るが、その声からは邪念しか感じられない。きっと、あのノーザと同じで表面上は友好的だが腹の内は善からぬ事を考えているのだろう。
 そして、白いドーパントは右腕を天に掲げると、アクマロの推測が真実だったとでも言うように暗雲から稲妻が放たれた。ただし、その標的はアクマロではなく、敵である筈の参加者達だったが。

「長々と話す暇はないので手短に言います……この私、井坂深紅郎と手を組みませんか?」
「……それは、どのような意味で?」
「言葉の通りですよ。私は貴方に興味があるので、共に戦いたいと思っているのです……無論、メリット与えるつもりです。この首輪を解体する為に、力となりましょう」
「それは、誠ですか?」
「私は機械工学やガイアメモリに関する知識を持っています。それさえ用いれば、状況を打破するきっかけを作れるでしょう……その為にも、貴方の力が欲しいのです」

 井坂深紅郎と名乗ったドーパントは、雷を放ち続けながら綽々たる態度で語る。
 その話は、もしも本当ならアクマロにとって非常に興味深かった。元々首輪について調べる予定だったし、その為に協力者が得られるのは有難い。そして幸いにも、こちらにはサンプルとなる首輪が多くある。それを利用すれば、取引の際に大きな力となるかもしれなかった。
 この首輪さえ外せれば少なくとも主催者達に命を握られる事は無くなるだろうし、構造を知りさえすればあの血祭ドウコクを倒す糸口も掴めるかもしれない。
 無論、その後には井坂という男を殺すつもりだが、それまでは協力関係にあるのもいいだろう。

「成程……宜しい、我もあんたさんの力となりましょう。この場では、協力者が大いに越した事はありませぬ……」
「それは嬉しい返事ですね。ではまずは、この場を切り抜ける為に力を合わせましょう」
「それもいいですが、まずはあんたさんの力ももう少し見せていただけませぬでしょうか? 我も、先程からあんたさんに興味がありましたので」
「ふむ……それは構いませんが、退かなくてよろしいのですか?」
「彼らを放置しては、邪魔者となるでしょう? 何、我も力を貸します」
「……それも、そうですね」

 ドーパントが頷いた後、アクマロは仮面ライダー達の方に振り向いて、腕を翳した。そして、暗雲から降り注ぐ稲妻に合わせるかのように、アクマロも掌から雷を放つ。
 これはアクマロにとって、井坂の品定めだった。いくら協定を結ぶとはいえ、数の不利を引っ繰り返す力を持たなければ、役に立つとは思えない。だから、ここで確かめる必要があった。
 もしも戦いが不利になるのであれば、井坂一人を囮にして逃げればいい。それまでは、邪魔者どもを少しでも消耗させるだけだった。





「ガ……ガアアアァァァァァ……」

 鴨子溺泉の効果によってアヒルとなった志葉丈瑠は、痛む身体に鞭を打って起き上がる。
 荒れ狂う風によって、小さくなったこの体はいつの間にか一条薫の腕から離れていたが、そんな事はどうでもいい。
 この場には、これまで何度も苦しめられてきたあの筋殻アクマロが姿を現した事の方が、遥かに重要だった。奴は、続くように現れた白いドーパントと共に電撃を放っているので、やはりこの殺し合いに乗っている。
 相羽シンヤによって腕を砕かれてこの身がアヒルとなる前だったら、何の躊躇いも無くアクマロを斬ったが、今はどうしようも出来ない。響良牙が両手に奇妙な苔を塗ったおかげで怪我は治ったが、こんな姿では戦えなかった。
 例え人間に戻れたとしても、ガイアメモリも剣も手元に無いのではどうしようもない。ただ、一方的に嬲られるだけだった。

510解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:12:24 ID:3t00uZcU0

(それに……俺なんかが今更、彼らのような者達と共に戦う資格があるわけない……ゴミにも劣る俺なんかが)

 シンヤの言葉が心に深く突き刺さっていて、丈瑠の枷となっている。
 生きる意味を失いたくないと言う理由だけで人斬りに走って、まだ若い少女の暁美ほむらや自分に協力してくれたパンスト太郎を殺した。そして、無二の親友である梅盛源太すらも裏切った。そんな自分に何かをする資格など、ある訳がない。
 いっその事、このままアクマロ達の雷で焼かれてしまった方が、彼らの為になるのではないか……失意のあまり、丈瑠はそう思うようになってしまう。

(姿は違うが、シンケンジャーと全く同じだな……彼らの在り方は)

 そして、アクマロとドーパントを相手に戦う村雨達の姿が、丈瑠にはシンケンジャーと重なって見えてしまった。
 かつてはシンケンレッドとなって外道衆から人々を守る為に剣を持ち、人の世を守る為に戦っていた。それなのに今は、八つ当たりに等しい身勝手な感情のまま他者を斬って、その報いとしてこんな姿になってしまっている。
 だけど、ここにいる彼らはこんな自分すらも守ろうとしていた。

(どうして、俺なんかの為に彼らが傷付かなければいけないんだ……俺など、救う価値は無いというのに……俺は、彼らに何をしてやればいいんだ?)

 もしも少し前の自分だったら、彼らが傷付く姿を見ても何とも思わなかったかもしれない。しかし今は違う。愚か者でしかない自分の為に誰かが傷付くのは、この心が耐えられなかった。

(あいつの持っているお湯さえ使えば……だが、俺は……!)

 目の前に放置してある良牙のバッグに入っているポットのお湯さえ使えば、すぐ元に戻れるだろう。だが、そこから何をすればいいのかがまるで分からなかった。
 震える両手でポットに触れたが、そこから進まない。ここにいる者達と同じ人として生きていいとは思えず、丈瑠の手は動かなかった。

「おい、君! 大丈夫か!?」

 迷いと罪悪感に支配されている中、一条が駆け寄ってくる。
 そして丈瑠の小さな体を、ポットごと持ち上げた。

「ここは危ない。彼らが心配なのは分かるが、今は俺と一緒にいてくれ!」

 そのまま彼は、戦場から遠ざかるように進む。
 丈瑠は移動による振動を感じながら、戦いの場に目を向ける。そこで戦っている良牙達は稲妻を上手く回避しているが、そこから攻撃に入れていない。ドーパントの力によって生まれる突風が、三人の動きを阻害していたのだ。
 やがて風圧に負けたのか、キュアブロッサムと良牙の身体が軽く吹き飛ばされていく。一方で、仮面ライダーと思われるゼクロスという赤い戦士に変身した村雨良は踏み止まっているが、それを狙ったかのようにアクマロは稲妻を放った。
 ゼクロスは呻き声を漏らしながらも、必死に耐えている。風と稲妻を前にしても、倒れる気配は見えなかった。しかしそれでも、長時間受けていては危険かもしれない。

(あいつは俺の怪我を治してくれた……なのに、どうして傷付かなければいけない? あいつに、そうされなければいけない理由でもあるのか?)

 自身を気遣ってくれたゼクロスが苦しむのが、あまりにも不条理だった。そして、彼を苦しめるアクマロ達への憤りが湧き上がっていく。
 やがて、丈瑠の中である気持ちが芽生えていった。ここにいる皆の力になりたいと。剣を持てなくても皆の為に何かをしたかったが、やはりどうにもならない。
 そんなもどかしさが胸中に広がっていくのを丈瑠は感じる。その直後、彼はアクマロが掌を向けて来たのを、一条の腕の中で見た。

(アクマロ……まさか、俺達を狙っているのか!?)

 その推測を証明するかのように、アクマロの視線はゼクロス達ではなくこちらに向けられている。白いドーパント達が三人の相手をしているからだろうか。
 恐らくアクマロは戦えない自分達から先に殺して、ゼクロス達を動揺させようとしているのかもしれない。そうなっては例え彼らとて、嬲り殺しにされる恐れがある。戦いの中で技と力以上に重要となる場合がある心を崩されては、危険だった。
 だが、ゼクロス達とアクマロの間に数メートル程の距離がある。数歩分だが、それでもアクマロの攻撃を邪魔するには遠すぎた。
 もしもこの状況でアクマロがこちらに雷を放ったら、一条もろとも焼き殺されるだけ。

511解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:15:38 ID:3t00uZcU0

(まずい……せめて、一条薫だけでも!)

 罪の無い一条が外道の犠牲になるなど、あってはならない。そう思った丈瑠は迷わずポットのお湯を、己の身体にかけた。
 すると、アヒルだったはずの身体は一瞬で元に戻る。シンヤとの戦いで服を失っているので全裸となっているが、羞恥よりもまた人間になったと言う驚愕の方が強かった。
 だが、視界に強い光が入った瞬間、丈瑠は一瞬で我に返って胴体を抱えていた、一条の両腕を振り払う。そのまま振り向き、全力で彼の身体を突き飛ばした。

「君――!」

 驚愕で目を見開く一条の言葉は、轟く雷鳴によって遮られる。
 一体、何を言っているのだろうか。そんな疑問が芽生えた直後、丈瑠の身体は稲妻に貫かれる。
 それも一度までならず、丈瑠を焼き切るとでも言うかのように連続で襲いかかる。すると、彼の見る世界はほんの一瞬で白に染まってしまった。

(これが俺の報い……いや、こんなのでは安すぎるか……身勝手な理由で、暁美ほむらやパンスト太郎を殺した俺は、地獄すらも生温い苦しみを……冥府で味わうのだろうな)

 これから訪れるであろう死に対する恐怖や、身体を焼かれる事による痛みは全く感じない。冷静な思考を出来ている事に、丈瑠自身も驚いていた。

(仏と言う者が本当にいるのなら……聞いてくれ。身勝手な俺はどうなっても構わない……ただ、流ノ介や十臓、それに暁美ほむらやパンスト太郎のような、殺し合いの犠牲になった者達を……どうか救って欲しい。皆、本当なら犠牲になってはいけない者達だったんだ)

 結局、良牙には乱馬に我侭を押し付けた事やパンスト太郎を殺した一件を話せていない。最後の最後まで、自分は嘘を吐き続ける事になってしまった。もしも仏がいたとしても、こんな我侭など聞かないだろうと、丈瑠は思う。
 それでも丈瑠には、死んでしまった皆が生まれ変わって幸せになってくれる事を願うしか出来ない。彼らには、もう取り返しの付かないことをしてしまったのだから。

(早乙女乱馬、涼村暁、相羽シンヤ、花咲つぼみ、響良牙、一条薫、村雨良、冴島鋼牙……そして、源太)

 そして己の最期が近いと悟った丈瑠は、まだ意識がある間に祈る。
 愚かな自分と違って、彼らはこんな状況に屈することのない強さを見せていた。そして源太は今も何処かで、殺し合いに巻き込まれた多くの人々を守る為に戦っているはず。
 本当なら自分だって彼らのように、誰かを守る為に剣を持たなければならなかった。そもそも、偽りの殿としての役目を終えたとしても人を守ることは出来た。
 そうしなかったからこんな罰を受けることになったと、丈瑠は悟る。しかしそれを後悔する時間すら、彼には残っていない。

(どうか……生きてくれ……!)

 だから志葉丈瑠は最期にひたすらそう願った。
 胸の中に、一切の嘘偽りを込めたりせずに。





 殺戮兵器にされた彼女は壊れていたはずだった。
 もう死んだに等しい肉体を無理やり動かしているソレワターセは、ゼクロスやアクマロとの戦いで傷を負い、そこから追い討ちのようなウェザー・ドーパントの竜巻に飲み込まれたせいで、膨大なダメージを受けている。生命維持装置も修復不可能で、肉体の傷を癒す事もできない。故に、これ以上は指一つも動かせないはずだった。
 それにも関わらずして、スバル・ナカジマはゆっくりと立ち上がってよろよろと歩いている。T−2ガイアメモリの力が、ドーパントとなった彼女に最後の力を与えていた。
 しかしそれに気づく事はできず、奇跡と呼ぶに相応しい力を味わう暇も、今の彼女にはない。
 壊れかかった身体は、既に痛みの感覚すらもなかった。これまでの戦いをどうやって乗り越えてきたのかも記憶になく、行動原理となっていた愛情すらも彼女から完全に抜け落ちている。元々の精神も、その身に取り込んだ者達の精神すらも、ダメージによって磨耗しきっていた。ここまで来ては、もうどんな手段を使っても心と身体を癒すことはできない。
 それでもたった一つだけ、バイオレンス・ドーパントとなったスバルを支えている思いがあった。

512解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:16:16 ID:3t00uZcU0

「ティア……ティア……ティア……」

 ここから少し先に、親友のティアナ・ランスターがいる。
 どれだけ精神が壊れたとしても、ティアナの存在だけは決して忘れる事はできなかった。どんな過酷な目に遭おうとも、どれだけ傷付こうとも、親友の存在だけは消えなかった。
 何故なら、ティアナこそが呪われた運命に終わりを齎してくれるのだから。正義感の強い彼女が全てを知ったら、迷わず撃ち抜いてくれるはず。
 唯一にして最後の救いを掴む為だけに、彼女は歩いていた。終わりさえくれるのであれば、後はどうなったっていい。
 少なくともこの時まで、彼女はそう思っていた。雷鳴が、彼女の鼓膜を刺激するまでは。

「ティア……ティア……ティ……ア……?」

 壊れたテープレコーダーのように単調となっていた、口から発せられた言葉に変化が起こる。その途端、呆然としているティアナの脇に稲妻が落ちて、地面を破壊した。

「ティア……!」

 それを目にして、彼女の足は自然に速くなる。傍から見れば歩いているに等しいが、それでもバイオレンス・ドーパントは走っているつもりだった。
 そうして、また落雷が起こる。このままでは危ない。彼女に危険が迫っている。何としてでも、守らないといけない。何があっても、助けなければいけない。急がないといけない。彼女だけは、死んで欲しくないから。
 ティアナはその虚ろな瞳で見上げてくる。もしかしたら、彼女はあたしのしたことを知ってしまい、失望しているのかもしれない。それがほんの少しだけ恐ろしく感じたけど、止まっている暇などなかった。
 バイオレンス・ドーパントはティアナの盾になるように、大の字となる。すると、その巨体に稲妻が落ちて、一瞬で焼かれていった。
 雷の熱によって、彼女の心と身体を支配していたソレワターセは焼失していく。多くの人々を苦しめた悪意の元はもう、限界が来ていたのだ。

「………………ッ!」

 しかしそれは乗っ取られていたバイオレンス・ドーパントも同じで、声にならない悲鳴と共に身体がぐらりと揺れる。
 そのままゆっくりと地面に崩れ落ち、ガイアメモリが排出された。それによって記憶が体内より消滅して、元のスバル・ナカジマという少女の姿を取り戻した。
 しかし、彼女の見る世界はどんどん闇に飲み込まれていく。そんな中、痛みすらも消え去った肉体が揺さぶられるのを、スバルは感じた。
 意識がはっきりとしないまま顔を上げると、ティアナの姿が見える。彼女の顔は碌に見えないが、何かを言っているようだった。必死に耳を澄ませるが、まともに聞こえない。
 ただ、ティアナが無事である事だけは分かった。

「ティア……」

 スバルは必死に言葉を紡ぐ。
 伝えたい事はたくさんあるし、優しい親友を裏切ってしまった事を謝らなければいけなかった。だけど、全てを言う時間など残されていない。そして、それが罰である事を認める余裕すら、最早なかった。
 だからせめて、これだけでも言い残さなければならない。

「無事で、よかった……」

 最期にティアナ・ランスターを守る事ができた。呪われた運命の犠牲となった彼女にとって、最大の救いだった。
 ティアナならば道を踏み外す事はないし、こんな過酷な殺し合いを強いられたとしても誰かの為に戦ってくれるはず。何故なら、彼女はとっても強いのだから。
 その瞬間、胸の中からあらゆる絶望と悲しみが洗い流されていくのを感じて、スバル・ナカジマは笑みを浮かべながらゆっくりと瞳を閉じていく。
 もう、彼女は涙を流す事なんて二度となかった。

513解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:17:37 ID:3t00uZcU0





 一体何が起こっているのか理解するのに、響良牙はほんの少しだけ時間がかかった。
 一条の腕にいるアヒルはムースかと思っていたが、その正体は見知らぬ男。しかも彼は人間になった途端、アクマロという怪物の稲妻を受けてしまった。そしてあの鉄球のドーパントも、ゼクロス達が戦っていたあの少女を庇った。
 その結果、彼らは死んでしまった。

「アヒルさん!」
「おい、君っ!」

 焼け焦げになった男の元にキュアブロッサムと一条は駆けつける。二人は身体を揺さぶっているが、男からは何の反応もなかった。尤も、生身で落雷を受けては、どれだけ鍛えていようと関係ない。
 動かなくなるのは必然。だが、良牙はその結果を受け入れることを拒んでいた。ただ、呆然と立ち尽くすしかできなかった。

「アヒルさん、アヒルさん、アヒルさん! 起きてください、アヒルさんっ!」
「そんな……どうして……俺なんかを庇って……っ!」

 瞳から澎湃と涙を溢れさせるつぼみの叫びと、慙愧のあまりに項垂れる一条の言葉が聞こえてくる。だが、今の良牙にはどちらも遠く感じられた。
 この島にいる全ての者に突きつけられている、死という名の運命。元の世界でも滅多になく、開幕の時にも見せられたその光景を、現実と信じたくなかった。

「ほう? ただのアヒルかと思いきや、まさかシンケンレッドだったとは……いやはや、これは驚きましたよ」

 その最中、嘲りに満ちたアクマロの声が耳に届いた事で、良牙の意識は急激に覚醒する。そして身体をピクリと揺らしながら、ゆっくりと振り向いた。

「まあ、こちらとしては実に都合がよろしいですけどね……何せ、一番の邪魔を消すことができたのですから……」
「……なん、だと……!?」

 アクマロの表情は微塵にも動かなかったが、それでも死人を侮辱している雰囲気を醸し出している。それを目にして、良牙の表情は一気に歪み始めた。

「てめえ、何言ってやがる……!?」
「何、恐れることなどありませぬ……すぐにあんたさんらも、後を追わせて差し上げましょう。血の池で、仲良く傷の舐め合いでもすればいいのです」
「何……!?」

 あまりにも禍々しいアクマロの声がきっかけとなって、良牙の怒りは頂点に達する。
 あの化け物は人を二人も殺しておきながらまるで悪びれもせず、それどころか喜んでいた。その姿が、良牙には加頭順やサラマンダーと重なって見えてしまう。
 そして、彼の中で怒りがどんどん燃え上がっていった。

「ふざけ……!」
「ふざけんじゃないわよ!」

 激高する良牙の言葉は、しかしそれを上回る少女の叫びによって遮られる。
 小太刀が愛用しているのと似ているレオタードを纏った、ドーパントに変身した少女のものだった。それに気づいた良牙が振り向くと、名も知らぬ少女もまた憤激したように表情を歪ませている。
 そのまま彼女は手に奇妙なカードを持って立ちあがった。

「クロスミラージュ!」

 華奢な身体は眩い光に覆われた瞬間、叫んだ少女は走り出す。
 すると輝きは一瞬で弾けて、別の衣服が纏われていた。レオタードは黒のインナースーツと純白のジャケットに変化している。そしてカードも一瞬で分裂した後に、ダガーナイフのような形となった。

514解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:18:39 ID:3t00uZcU0

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「よせっ!」

 オレンジ色の刃が太陽に照らされる中、少女はアクマロに向かって走っていく。それを見た良牙は止めようと動くが、視界の外から突風が吹きつけてきた。
 あまりにも予想外の圧力によって身体は舞い上がって、視界が揺らぐ。そのまま地面に叩きつけられてから転がるも、良牙はすぐに体制を立て直した。
 衝撃によって駆け巡る痛みに耐えながら振り向くと、ゼクロスと戦っていた白いドーパントが腕を向けているのが見える。つまり、今の突風は奴の仕業だったのだ。
 そんなドーパントを目掛けてゼクロスは拳を振るうが、軽く避けられてしまう。そこからドーパントは突風をゼクロスの腹部に叩きつけて、一気に吹き飛ばした。
 その光景を見て、あのドーパントは相当な実力者であると良牙は察するが、戦慄などしない。ここで少しでも恐れを抱いて、みんなの足手纏いとなるからだ。
 故に彼は気を取り直して、アクマロに突っ込んだ少女の方に再び振り向く。見ると、そこでは既に戦闘が始まっていた。
 少女は獣のような咆哮をあげながら二本のダガーナイフを無茶苦茶に振るうが、アクマロはその手に構える刀で全て弾いている。

「よくも……よくもスバルを! 殺す、殺してやる!」
「ほう、スバルさんのお友達なのでしたか……なら、あんたさんも我が地獄へと送って差し上げましょう」
「黙れえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 少女は激情のまま刃を一閃するが、アクマロが横に素早く回りこんだことで簡単に避けられてしまう。
 そのまま少女の脇腹が蹴られていくのを見て、危機を感じた良牙は疾走した。
 恐らくあの少女は、スバルという奴の敵討ちをしようとするあまりに冷静さを失っている。だがそんな状態で戦っては、簡単に隙を突かれてやられるだけだ。
 倒れる少女を前に、アクマロは刀を掲げる。それに目を見開いた良牙は、反射的に両腕を前に向けた。

「くっ……獅子咆哮弾!」

 そして、圧縮した『重い気』を掌から勢いよく放出した。
 轟音と共に放たれたエネルギーの塊は一直線に突き進むが、その行く先にいるアクマロは容赦なく刀を振り下ろしていく。
 良牙の技が放たれたのと、アクマロの一振りが行われたのは全く同じタイミングだった。





 ティアナ・ランスターは力なく地面に倒れていた。
 起き上がろうとしても身体に力が入らず、それどころか奇妙な眠気と寒気に支配されていく。
 あのアクマロと言う化け物を倒さなければならないのに、身体が言うことを全く聞かない。腕すらも、まともに動かなかった。

「……ス、バル……」

 彼女は親友の名前を呼びながら、首をゆっくりと動かす。それだけは唯一、思い通りになったが喜ぶなんてできない。
 目の前で横たわっているスバル・ナカジマは黒焦げになっていたが、それでも眠る様に穏やかな表情で笑みを浮かべている。それは、ティアナにとってあまりにも見慣れた屈託のない笑顔だった。
 何があったのかは知らないが、彼女は既に瀕死の重傷となっていた。それにも関らず、その身を犠牲にしてでもこんな自分を助けて、そして死んでしまった。

『無事で、よかった……』

 スバルの最期の言葉が脳裏に過って、ティアナの瞳から涙が零れ落ちる。
 彼女の死に際を看取った瞬間、ティアナの中で得体の知れない感情が爆発して、これまで目指していた優勝への渇望が吹き飛び、代わりにアクマロへの殺意が湧き上がっていた。
 だから、もう二度と使わないはずだったクロスミラージュを持って突っ込んだが、結果は無様な敗北。一矢報いることすらできなかったのだ。
 元々の技量をアクマロが上回っていることもそうだが、度重なるガイアメモリの使用によって今の彼女は精神を破壊されている。それによって思考力が奪われてしまい、敗北という結果を招いてしまったのだ。

515解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:20:20 ID:3t00uZcU0


 結論から言っておくと、響良牙の放った獅子咆哮弾は確かにアクマロを吹き飛ばしていた。しかし当たる直前、アクマロの持つ削身断頭笏はティアナの胸部を深く斬り裂いてしまっている。
 当然、彼女はクロスミラージュで防御をしたが、アクマロの刀はそれを安々と破壊して、そのまま致命傷を負わせていた。
 身体から溢れ出る血は留まることを知らず、バリアジャケットどころか辺りの地面に広がっていた。だが、当の彼女はその傷を痛みと感じることすら、最早ない。
 もう、ティアナの命は尽きようとしていた。



「スバル……どうして、あんたはこんなあたしを……守ったのよ……?」

 ティアナは必死に言葉を紡ぐが、それに答える者は誰もいない。
 最愛の兄・ティーダ・ランスターの力を証明する為、ティアナは殺し合いに乗った。その思いに嘘はないし、誰が何と言おうと決して止まる気もなかったし、邪魔をするなら高町なのはやフェイト・テスタロッサ・ハラオウンでも殺すつもりだった。
 しかし実際は、凡人である自分を嘲笑うかのように、運命は敗北ばかりを導いている。強くなりたいと思って井坂深紅郎という怪しげな男と手を組んだのに、結局裏切られた。
 ガイアメモリやクロスミラージュも、この戦いで既に破壊されている。所詮、何の力もない凡人には味方なんて誰一人としておらず、ただゴミのように捨てられる運命しかないのだ。

(でも、スバルは……スバルだけは……スバルだけは、あたしを庇ってくれた……あたしは、そんなスバルを裏切ったのね……)

 きっとスバルはこんな自分を信じていたからこそ、あんな行動を取ったのだろう。こんな自分が機動六課の一員として、殺し合いを止めてみんなを助けてくれると思ったのかもしれない。
 でも、そんな純粋な思いを踏み躙ったどころか、スバルを殺そうとすら考えていた。もしも違う状況で再会していたら、どんな汚い手段を使ってでも信頼を裏切っていたかもしれない。
 少し前ならそれをしたところで何も感じなかっただろうが、今はとても心が痛んだ。

「……おい、しっかりしろ! おいっ!」

 罪の意識が芽生えていた頃、ティアナは身体が大きく揺さぶられていくのを感じる。
 すると、視界が闇に飲み込まれていく中、あの良牙と呼ばれた男の姿が微かに見えた。彼は、自分を心の底から心配しているような表情を向けていた。
 まるで、ティーダ・ランスターのように。

「おい……おい! こんな……死ぬな……気をしっかり持て……!」

 良牙はこちらを心配しているのだろうが、言葉は途切れ途切れにしか聞こえない。何とかして聞き取ろうとしたが、それは無意味だった。

(ここにもいてくれた……あたしのことを心配してくれている人達が……でも、あたしはこの人達までも裏切った……みんな、あたしのせいなんだ……)

 キュアブロッサムという少女やゼクロスという赤い戦士も、こんな自分に手を差し伸べてくれたのに、それを握らなかった。彼らの優しさを無碍にした報いがこれなのかもしれない。
 でも、悔やんだ所でもう遅かった。

「ごめん、ね……」

 許されないと知りつつも、ティアナは謝らずにはいられなかった。
 響良牙だけではない。ゼクロスとキュアブロッサム、更に一条という男やこんな自分を守ってくれたスバル・ナカジマもそうだ。そして、最愛の兄であるティーダ・ランスターにだって謝りたかったが、思いが届く訳がない。
 もしかしたら、最初からみんなを裏切らなければこうならなかったのかもしれない。そんな後悔を胸に抱きながら、ティアナ・ランスターは息を引き取った。

516解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:22:03 ID:3t00uZcU0





「くそっ……なんで、なんでだよ……なんで、なんでこんな子が死ななきゃいけないんだ!?」

 涙を流した少女がもう動かなくなったのと同時に、良牙は思いっきり地面を殴りつける。
 何としてでも彼女を助けなければならなかったのに、結局はこの様だった。五代やさやかの時みたいに、間に合わなかったのだ。生命の苔は既に使ってしまったからもうどうにもならなかったなんて、言い訳にはならない。
 ゼクロスとキュアブロッサムの頑張りを無駄にしたことが、良牙の心を激しく責め立てていた。

「ただの小僧が……よくもやってくれましたな」
「何……!?」

 そんな良牙の耳に入ったのは、下手人であるアクマロの声。
 振り向くと、獅子咆哮弾を受けたことで吹き飛ばされたアクマロが、よろめきながらも歩を進める姿が見えた。
 そして、その姿を視野に入れた瞬間、またしても良牙の中で怒りが燃え上がっていた。

「許せませぬな、ここまで我を冒涜するとは……覚悟は宜しいですね?」
「それは……俺の台詞だ!」

 アクマロも許せなかったが、それ以上に失敗を繰り返してしまう自分自身の不甲斐なさが許せず、良牙は走る。
 次の瞬間、アクマロが掌を翳してくるのを見て、良牙もまた反射的に両腕を前に向けて獅子咆哮弾を放った。すると、アクマロより放出される稲妻と重い気の塊は衝突し、盛大な爆発を起こす。
 轟音と共に生まれる衝撃によって良牙は軽く吹き飛ばされるも、そこからすぐに立ち上がった。だがその間で、アクマロはその手に持つ剣を構えながら疾走するのを良牙は見る。
 一瞬で目前にまで迫ったアクマロは得物を横に一閃するが、良牙はしゃがむことで回避に成功。そこから、がら空きになった脇腹をめがけて回し蹴りを叩き込み、アクマロの巨体を微かに揺らす。それを好機と見た良牙は、右手で正拳突きを放った。
 アクマロによって殺された三人のことを全く知らないが、誰かの為に行動をしていたのだから決して悪い奴らではない。あのドーパントになった少女だって、何か理由があるかもしれなかった。そんな彼らの思いを踏み躙ったアクマロは、ここで絶対に叩き潰さなければならない。
 その決意を胸に良牙は拳打を続ける。だが、アクマロは戦い方を見切ったのか拳を避けて、そこから禍々しい形状の得物を振るってきた。その一振りを前に良牙は後退することで回避するが、そこからまた刃が横に一閃される。
 彼はバックステップを取ることで避けるしかなかった。

(チッ、厄介な奴だな。だが、このままだとみんなが……!)

 アクマロの持つ鋭利な刃と掌から鋭く尖った爪の存在が、良牙に進撃を躊躇わせる原因となっていた。下手に接近戦を仕掛けても相手は武器を二つも持っているし、例えベルトを硬化させても役に立つとは思えない。だからといって距離を取ってはあの厄介な電撃が襲いかかる。
 エターナルとはまた違った意味で厄介な相手だった。獅子咆哮弾を使おうとしても気を貯める一瞬の間に攻撃される恐れもあるので、下手に隙を見せられない。
 故に、肉弾戦でどうにかアクマロにダメージを与えなければならないが、現実はあまりにも無情で、なかなか攻撃は当たらなかった。良牙は距離を取った所を狙うように、アクマロの蹴りが肉体に叩き込まれてしまい、微かな悲鳴と共に吹き飛ばされる。
 すぐに立ち上がろうとしたが、既にアクマロが目前にまで迫ろうとしていた。だがその刹那、風を切る音と共に十字手裏剣が視界の外から現れて、アクマロの肉体に激突する。
 続くようにゼクロスが現れて、動きが止まったアクマロの顔面を殴りつけた。

「ぐおっ!?」

 潰されたような鈍い悲鳴を発したアクマロの巨体は、ゼクロスの拳によって一気に舞い上がる。
 しかし一方のゼクロスはアクマロが地面に転がる様子を見向きもせずに、良牙の方に振り向いてきた。

「すまねえ、良!」
「良牙、こいつらは俺が引き受ける……お前はつぼみと一条を連れて、先に行け」
「はあっ!?」

 ゼクロスが口にした予想外の言葉によって、良牙は目を大きく見開いてしまう。

517解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:24:03 ID:3t00uZcU0

「お前、何のつもりだ!?」
「言葉の通りだ。奴らは俺が倒す……お前はその隙に、二人を連れて行けといったんだ」
「それは俺が足手纏いってことか!? 気持ちは有り難いが、俺はまだ戦える……!」
「ここで二人を守れるのは、お前しかいない!」
「何!?」
「このまま戦いを長引かせては、また奪われてしまう……それに、お前が守ろうとする人はどうなる!?」

 そう問いかけられた途端、良牙の脳裏にあかねの姿が浮かび上がる。
 確かにゼクロスが言うように、このまま戦いを長引かせてはあかねが心配な上にキュアブロッサムと一条の二人が危ない。無論、簡単に負けるつもりはないがここにいる敵達は強く、ゼクロスが言うように一歩間違えばまた犠牲者が増える恐れがある。
 しかし、だからといって彼の言葉を簡単に受け入れることはできなかった。

「だが、お前はどうするんだ!? こいつらを相手に、一人でどうにかなるのかよ!?」
「急げ! 五代の為にも……二人を守るんだ!」

 その叫びを残して、ゼクロスは電磁ナイフを構えながら怪物達に向かって走り出す。
 そんなゼクロスを良牙は止めようとしたが、五代の名前を聞いた途端にそれができなくなる。ゼクロスが言うには、五代は最期にみんなの笑顔を守ってと語っていたらしい。
 あんな優しい男の遺志を尊重するならば、尚更キュアブロッサムと一条を守らなければならなかった。

「……わかった! だが、お前も絶対に死ぬなよ! そこまで言ったからには、良も俺達の前に戻ってこなかったら、許さないからな!」

 だから良牙もまた、強く叫びながらゼクロスから背を向けて走る。
 そのまま支給品を回収しながら、名も知らぬ男の死に泣くキュアブロッサムを守るように立っている一条の前に辿り着いた。

「急ぐぞ、二人とも!」
「しかし村雨君が……!」
「あいつなら大丈夫だ! だから今は急いでくれ!」

 その返事を遮った良牙は、一条とキュアブロッサムの手を引いて走り出す。
 彼らも本当なら逃げ出したくないだろうし、その意思を尊重したい気持ちはあるが、やはり生身の人間でしかなかった。
 それに二人が死んでしまっては五代とさやかが悲しんでしまう。亡くなった彼らの為にも、二人は何としてでも守らなければならなかった。

(すまねえ……俺がふがいないせいで、あんたらを守れなくて……)

 そして良牙は、アクマロに殺されてしまった三人のことを思いながら、ひたすら走り続ける。
 ゼクロスが……村雨良が生きてまた自分の前に現れてくれることを強く願いながら。





「くそっ……冴島邸はまだなのか?」

 二人を連れた良牙は我武者羅に走った後、そう呟いた。
 当初の目的地である冴島邸を目指したつもりだが、一向にそれらしき建物は見えない。周りには、相変わらず木々と植物が広がるだけだった。
 彼は気づいていないが、焦って疾走したせいで道を間違えてしまっていた。その結果、本来の道を大きく外れてしまい、E―6エリアに辿り着いてしまっている。冴島邸は勿論のこと、呪泉郷とも正反対だった。
 しかし一概にそれが間違っているとも言い難い。良牙が探している天道あかねは既に呪泉郷から離れていて、今は市街地に辿り着いている。
 加えて街には早乙女乱馬もおり、更に言うならキュアブロッサムが探している明堂院いつきや青乃美希、そして山吹祈里もいた。故に、結果としては捜し求めている人達と出会える可能性が増えたのだが、本当に巡り会えるかはまた別の話。

518解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:25:46 ID:3t00uZcU0

「響君、少し待ってくれ!」
「あっ……悪い」

 やや息を切らせている一条を見て、良牙は思わず足を止めてしまう。
 警察官である彼も人並み以上の体力はあるが、それでも無理をさせてはいけない。それにキュアブロッサムだって、目の前で立て続けに人が死んだのだからショックが大きいはずだった。
 逃げることばかりに集中して、細かい配慮ができなかったことを良牙は悔やむ。

「つぼみ……その、大丈夫か?」
「……心配してくれてありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですから。ごめんなさい、私がしっかりしないといけないのに……」
「そうか……」

 キュアブロッサムの様子は先程よりも落ち着いたようだが、それでも悲しんでいることに変わらなかった。
 親友を二人も失うだけでなく、目の前で人が何人も死んでしまうなんてこんな子供には耐え難い出来事のはず。本当なら悲しんでもいいのに、キュアブロッサムは気丈にも耐えていた。
 そんな彼女の為に、俺は一体何ができるのか……不意に良牙はそう考えてしまう。
 その時だった。

「物音がすると思って来てみれば……まさか、お前がいるとはな」

 足音と共に聞き覚えのある声が聞こえて、良牙は思案するのを止めて顔を上げる。
 そのまま振り向いた瞬間、彼は目を見開いてしまった。漆黒のマントを羽織った純白の異形が、黄金色の瞳を輝かせながら木々の間より現れたため。
 それはこの地に放り込まれた良牙が最初に戦った敵、仮面ライダーエターナルだった。

「てめえは……エターナルかっ!?」
「てっきりくたばったかと思ったが、まだ生きていたか……まあ、それならここで殺してやるだけだが」
「何だと……!?」

 殺意に満ちた嘲笑を仮面から零すエターナルは、ナイフの切っ先を向けてくる。木漏れ日によって照らされる刃からは凄まじい殺気が放たれていた。
 それを見た良牙は思わず戦慄してしまい、額から汗を流してしまう。自分よりも強い相手と再び遭遇する羽目になった上に、アクマロ達の戦いで消耗している。
 数で勝っていてもあまり意味はない。何故なら、採掘場でもエターナルはその不利をひっくり返していたのだし、何よりも二人を戦わせられなかった。
 あの時は不意打ちからの獅子咆哮弾で何とか危機を乗り越えたが、それが何度も通用するとは限らない。
 だから今は、二人を何とかして逃がさなければならなかった。

「くっ……おい一条! つぼみを連れてここから……!」
「いいえ、私は逃げません! 良牙さん、私も一緒に戦います!」

 しかしそんな良牙の言葉を遮るように、キュアブロッサムが前に出る。
 彼女の瞳からは数秒前とは打って変わって、強い闘志が放たれているように感じられた。

「何を言ってやがる!? あいつは簡単に倒せる相手じゃねえ、だからここはお前達だけでも逃げろ!」
「嫌です! ここで逃げたら、私は村雨さんを裏切ってしまいます! それにえりかやさやかにも、みんなを守るために戦うって約束しましたから!」
「お前……」

 彼女の意思をぶつけられたことで、良牙は何も言えなくなる。
 こうなってはもう何を言ってもキュアブロッサムは聞かないかもしれない。例え一条が連れて行ったとしても、戻ってくるだろう。
 こんな女の子を戦わせるのは心苦しくなるが、それならば死なせないように戦うしかなかった。

519解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:27:02 ID:3t00uZcU0

「そうか……だが、無理をするな。それだけは約束してくれ!」
「良牙さんも、無理をしないてくださいよ!」
「わかってる! 一条、少しでも危なくなったらつぼみだけでも何とか逃がしてやってくれ!」
「ああ!」

 一条が頷いた後、良牙はキュアブロッサムと共にエターナルを睨む。
 表情は白い仮面で覆われているので伺えないが、どうせこちらを見下しているのだろうと良牙は考える。ならば、仮面を叩き割ってその面をぶん殴ってやらなければ、気が済まなかった。

「最期の馴れ合いを楽しんだようだな……なら、俺がお前達を纏めて地獄に落としてやろう。さあ、パーティーを始めるか!」
「やれるものなら、やってみやがれ!」

 もうこれ以上、誰も殺させたりしない。花咲つぼみと一条薫は勿論、早乙女乱馬や天道あかねを始めとした多くの人達も。
 仮面ライダーエターナルからみんなを守るという、強い決意が篭った響良牙の叫びが戦いのゴングとなった。


【1日目/昼】
【E―6/森】


【大道克己@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)、腹と背中を中心とするダメージ(小)、仮面ライダーエターナルに変身中。
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+エターナルメモリ、エターナルエッジ、昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×3、プリキュアの種&ココロパフューム@ハートキャッチプリキュア!、破邪の剣@牙浪―GARO―、ランダム支給品1〜5(十臓0〜2、えりか1〜3)、細胞維持酵素×2@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2
[思考]
基本:優勝し、自分の存在を世界に刻む。
0:目の前の三人を殺す。
1:とりあえずダークプリキュアは無視し、他の参加者を殺す。
2:T2ガイアメモリを集める。
3:京水と会ったら使ってやる。もしくはメモリを奪う。
4:プリキュアや仮面ライダーは特に優先的に殺害する。
[備考]
※参戦時期はマリア殺害後です。
※良牙を呪泉郷出身者だと思ってます。
※プリキュアは食事、水分の摂取を必要としない可能性を考えています。ダークプリキュアの一件から、プリキュアはただの人間だと考えていない可能性もあります。

520解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:27:43 ID:3t00uZcU0
【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(中)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(中)、五代の死に対する悲しみと後悔
[装備]:なし
[道具]:水とお湯の入ったポット1つずつ(お湯変身3回分消費)、秘伝ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリ@仮面ライダーW、支給品一式、ムースの眼鏡@らんま1/2
[思考]
基本:天道あかねを守る
0:つぼみと一条を守る為にエターナルを倒し、それから冴島邸へ向かう。
1:天道あかねとの合流
2:1のために呪泉郷に向かう
3:ついでに乱馬を探す
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※良牙のランダム支給品は2つで、秘伝ディスクとガイアメモリでした。
 なお、秘伝ディスク、ガイアメモリの詳細は次以降の書き手にお任せします。
 支給品に関する説明書が入ってる可能性もありますが、良牙はそこまで詳しく荷物を調べてはいません。
※シャンプーが既に死亡したと知りました。
※シャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
 「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
※道を間違えて市街地に向かっていますが、良牙はまだそれに気づいていません。


【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、キュアブロッサムに変身中
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム
[道具]:支給品一式×3、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、さやかのランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:良牙さんと一緒に戦って、エターナルを倒す。
1:仲間を捜す、当面はD-5辺りを中心に探してみる。
2:南東へ進む、18時までに一文字たちと市街地で合流する
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。


【一条薫@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:滝和也のライダースーツ
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品2〜5(一条分1〜2確認済み、五代分1〜3未確認)、警察手帳、コートと背広、アークル
[思考]
基本:民間人の保護
0:警察として、人々を守る
1:エターナルを倒す。もしもつぼみが危険になったら、彼女を連れて逃げる。
2:良牙と共に呪泉郷へと向かう
3:魔戒騎士である鋼牙の力にはある程度頼る
4:他に保護するべき人間を捜す
5:未確認生命体に警戒
※参戦時期は少なくともゴ・ガドル・バの死亡後です
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※アークルはほぼ完全な状態であるため、五代のようにこれを使用して変身することはできるかもしれません。

521解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:30:15 ID:3t00uZcU0






 ゼクロスに変身したその男、村雨良は目の前にいる怪人達を睨み続けている。
 戦いによって与えられた痛みが肉体に響くも、ゼクロスは気に留めない。そんなのを理由に動きを止めるつもりなど毛頭なかった。
 彼の中を満たしているのは、奪い続ける怪人達に対する『怒り』と、守れなかった己自身への『怒り』だった。

(俺は……五代との約束を裏切ってしまったのか)

 そしてゼクロスの心に、五代雄介への後ろめたさが芽生えていく。
 彼から託された少女達を救えなかったどころか、また新たに二人の人間を死なせてしまった。五代との約束を果たすのなら彼らのことも助けなければいけないのに、それができなかった。
 せめて五代の親友である一条や、良牙とキュアブロッサムだけは逃がしたが、一刻も早く彼らの元に駆けつけなければいけないことに変わりはない。

「行ってくれましたか……尤もそちらの方が都合はいいですけどね」
「……何?」

 悠然とした態度で立つ白い怪人の言葉にゼクロスは思わず疑問を抱く。
 どういうことだと問い詰めようとしたが、その前に怪人が語る方が早かった。

「彼らは皆、凄まじい力を持っています……私も知らない能力がどんな仕組みで生まれるのか、とても興味深いですよ。その謎を解き明かすチャンスを残してくれた貴方には感謝しなければいけないようですね」
「何だと……?」
「本当なら貴方の力についても知り尽くしたいのですが、どうやら少し難しそうですね……まあ、死体でも構わないのですが」

 怪人の表情は一ミリたりとも動かなかったが、ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべているのだけは言動から察する。
 やはりこの怪人達はBADANや溝呂木と同じ『奪う者』だ。何を目的としているかは知らないが、己の欲望を満たすためならばどんな犠牲が出ようとも躊躇わないような奴らだ。
 このまま放置しては良牙達どころか、多くの命が奪われてしまうことは簡単に想像できる。許すわけにはいかない。

「……ふざけるな」
「ほう?」
「キサマらにはもう何も奪わせない……俺がここでキサマらを倒す」
「何か誤解をしてるようですね……一つ言っておきますが、私はこの殺し合いを良しとしない者です。むしろ貴方のような者の力になりたいのですよ……尤も、それはもう叶わないようですが」
「そうか」

 怪人の言葉からは良牙達のような温かみが感じられず、嘘としか聞こえなかった。
 奴はあのニードルと同じで表面上では穏やかな態度を取っているだろうが、その裏では数え切れないほどのものを奪ってきたはずだった。体表を彩る白という色も、余計にニードルを連想させてしまう。
 ゼクロスは電磁ナイフを構えながら取り留めのないことを考えた頃、アクマロという怪人が突っ込んでくる。
 二対一な上に傷はほとんど癒えていないが負けるわけにはいかない。痛む身体に鞭を打ったゼクロスも走ろうと足に力を込めた。
 その時だった。

「はあああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 鋼牙は大声で叫びながらその手に持つ剣を横に振るって、アクマロの一閃を弾く。刃同士の激突によって鋭い金属音が響き渡ると同時に、アクマロは微かに後退した。
 その隙を見逃さずに鋼牙はアクマロの肉体を勢いよく切り裂き、鋭い前蹴りを叩き付けて吹き飛ばす。
 そのまま鋼牙は地面を転がるアクマロを睨みながらゼクロスの横に立った。

「その声……お前、村雨だな」
「鋼牙、何故戻ってきた?」
「こんな天気で雷が鳴るなど有り得ない。だから駆けつけて来たが……どうやら、詳しい事情を聞いている暇はなさそうだな」

 周りで倒れている死体に目を向けながら鋼牙は語る。

522解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:32:06 ID:3t00uZcU0

「薫達はどうした?」
「先に向かわせた……このままでは彼らまで、奪われてしまうかもしれなかったからだ」
「そうか」

 頷く鋼牙の声には若干の安堵が感じられた。
 そして、彼の全身から闘志がどんどん放たれていくことにゼクロスは気付く。鋼牙の硬い表情には、烈火のような怒りが宿っているはずだった。

「グッ……何処の何方かは存じませぬが、やってくれますね。覚悟は宜しいですな?」

 そんな鋼牙によって倒されたアクマロはようやく立ち上がって、殺気と共に刃を向けてくる。
 だが、それを突き付けられた鋼牙は微塵にも怯む様子を見せず、それどころか怒りの炎を更に燃やしていた。

「生憎だが、俺達はお前らと遊んでいる暇などない……早めに決めさせて貰うぞ」
「ほう……? ならば、お望み通りにあんたさんを地獄に送って差し上げましょう!」

 そしてアクマロも鋼牙に負けないくらいの憤怒を声に出しながら、剣を掲げながら走り出す。
 一方で鋼牙も勢いよく疾走しながら剣を振り上げた。
 それから瞬き一回分の時間が流れた後、彼らの影が交錯。同時に激しい金属音が森の中に響いた。
 あまりにも一瞬すぎる出来事で、ゼクロスすらも何が起こったのかすぐに理解できていない。しかし、結果は目前に存在していた。
 鋼牙は何事もなかったかのように悠然と立っていて、アクマロは膝を地面に落としていた。しかもよく見ると、アクマロの胴体には大きな傷が刻まれている。
 それは見間違えようのない確かな光景だった。

「ガ……ッ! な、何ですと……!?」
「ほう……これはこれは……!」

 苦悶の呻きがアクマロの口から零れる一方、白い怪人は感嘆の声を上げている。
 それを見て、この怪人達は互いを信頼し合っていないとゼクロスは考えた。予想は出来ていたが、こいつらの同盟などいつ崩れてもおかしくない程度のもの。
 尤も、ゼクロスにとってはどうでもいいことだが。

「村雨、行くぞ」

 鋼牙はそんな怪人達の様子に目を向けることなどせずに、その手に持つ武器を天に掲げる。彼は頭上で円を描くように腕を動かすと、空間に裂け目が生じた。その中から黄金の光が鋼牙を祝福するかのように降り注ぎ、辺りを照らす。それは木々によって遮られている太陽の光よりも眩い。
 その眩しさに耐えられなかったのかアクマロも白い怪人も腕を翳す中、ゼクロスは見た。天使のような羽を持つ小さな存在が光の中より何匹も現れるのを。
 天使達はその手に持つ黄金色の装甲を、鋼牙の肉体に装着させる。すると彼の持つ剣もまた黄金の輝きを放ちながら形を変えていき、より鋭さを増した。
 すると、ようやく辺りを照らす凄まじい輝きが収まっていき、そんな中でゼクロスは思う。ああ、これが彼の変身なのだと。
 その思考を証明するかのように現れた黄金の騎士は剣を構えて、狼のように強く吼える。それに伴い、狼を模した仮面からは並の怪人ならば瞬時に怯ませる程の威光が放たれた。
 そこに現れたのは魔戒騎士の最高位である称号を背負う黄金騎士。旧魔戒語で『希望』を意味する名を持つ騎士へと、鋼牙は姿を変えていた。
 その名は牙狼……黄金騎士ガロへの変身を冴島鋼牙は果たしていたのだった。





 黄金色に輝くガロの鎧を纏った冴島鋼牙は己の判断を呪っていた。
 バラゴを再び倒すために別行動を取ってしまった間に、こんな多くの犠牲が出てしまっている。驕るつもりはないが、もしも彼らと共に冴島邸に向かっていればこんなことにはならなかったかもしれない。
 人の死というものはこれまで何度も経験してきたが、守れなかった者や残された者達のことを思うとやはり無念を抱かざるを得ない。
 しかし悲しみに溺れるなど守りしものにはあってはならないことだ。ここで腑抜けになっていては一条達を守れないし、今も何処かで誰かを人を守っている涼邑零とも共に戦えない。何よりも五代や本郷猛達のような者達の無念だって晴らせなかった。
 今やるべきことはこの怪物達から人々を守って、一刻も早く良牙達を追うのが最優先だった。この鎧を装着してから魔界の砂時計である魔導刻が動き始めているので、急がなければならない。99・9秒以内に解除しなければこの身が鎧に食い尽されてしまい、心滅獣身となって暴走してしまう。
 特にこの場では主催者達が何らかの力で鎧を細工している可能性もあるので、尚更早く決着を付けなければならなかった。

523解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:33:35 ID:3t00uZcU0

「その輝き……おお、まさかこんな所で出会えるとは実に幸運ですね! ああ……ますます貴方に興味が出てきましたよ! 是非とも、貴方の力を見せてください!」

 白い怪人は興奮を露にしたように巨体を震わせながら語る。
 一体何のことを言っているのか。一瞬だけ疑問を抱いたが、この島に放り込まれてから数時間経った後に鎧を召喚したことを思い出す。恐らく怪人はその光景を目撃したのかもしれない。
 だが、真相がどうであろうと関係なかった。

「言ったはずだ、俺達はお前らに付き合っている暇はないと」

 ガロが静かに宣言しながら牙狼剣を構える。
 白い怪人は右腕を天に掲げると、轟く暗雲より稲妻が降り注いできた。しかしガロは剣を横に振るうことで簡単に弾く。立て続けに雷は迫るが、ガロはその度に牙狼剣を振るい続けて防いでいた。
 稲妻は凄まじい速度と熱を誇っているが、それでも何十年にも渡る修練を積み重ねてきた魔戒騎士にとっては恐れるには足りない。加えて、そんな魔戒騎士達の中でも最強の実力者であるガロには自然現象による雷など子供騙しに等しかった。
 雷撃はすぐに止んだが今度は突風がガロの肉体に襲い掛かる。ガロは両足に力を込めて吹き飛ばされないように踏ん張りながら進もうとするが、風圧によって中々進めなかった。
 仮面の下で表情を顰めた瞬間、あのアクマロと呼ばれた怪人が剣を振るってくるのを見て、ガロは思わず跳躍する。
 身体が軽くなるのを感じた彼は牙狼剣を一閃して迫りくる剣を弾き、そこから反対側の拳を叩き付けてアクマロを吹き飛ばした。
 悲鳴を耳にした後、ガロは再び白い怪人に向かって駆け抜けて、一瞬で目前に迫ると同時に剣を振るう。鈍い音と共に切り裂かれた皮膚から火花が飛び散って、怪人は後ずさった。
 無論、怪人もただ棒立ちで受けているだけではなく、腕を翳して白い煙を噴き出させる。それは氷を上回るような凄まじい冷気を帯びたそれによって視界が遮られるが、ガロはそれに構わず突き進んで再び一閃。
 手応えを感じると同時に煙の勢いは止まり、衝撃によって白い怪人は吹き飛ばされていった。

「なっ……ま、まさか攻撃だけでこれほどの威力を誇るとは……!」

 斬られた腕を抑えながら白い怪人は立ち上がり、戦慄したような声を漏らしている。
 一方でガロは、敵が追い込まれた要因は仲間達にあると考えていた。白い怪人にせよアクマロにせよ、その動きには何処か精彩さを欠けているようにも思える。原因は、ゼクロス達が戦ったことにあるだろう。
 怪人達が消耗していなければ、ガロとて有利には戦えない。良牙達を逃がさなければならないとゼクロスに思わせるような相手なのだから、普通に戦ったら苦戦は免れないはずだった。
 心の中で仲間達を想いながら、ガロは白い怪人を睨みつける。
 鎧を召喚してから既に30秒は経過している。ここにいる怪人達は並のホラーを上回る力を誇っていて、消耗した状態でも簡単に勝てる相手ではなかった。それにもしかしたら予想を上回る切り札も持っている可能性だってあるので、悪戯に戦いを長引かせる訳にはいかない。
 何にせよ、今はこの怪人を戦闘不能に追い込まなければならなかった。
 救えるのであれば救いたいし、これ以上の凶行を繰り返させて犠牲者を出させるわけにもいかない。その為に牙狼剣を振るおうとした瞬間、大気が荒れ狂う轟音が鼓膜を刺激した。
 そして大気が荒れ狂って周囲の木々が吹き飛んでいき、ガロは思わず足を止めて振り向く。その先では、大きな竜巻が吹き荒れていた。





 黄金騎士ガロに変身した冴島鋼牙が現れた瞬間、ゼクロスの心の中には奇妙な思いが芽生えていた。
 それはBADANにいた頃、まだ生きていたミカゲと共にいる時に感じられた思い。そしてあの女が笑っている顔を見られた時に感じられた思いでもある。
 まるでからっぽになったこの心が満たされていくような気持ちだったが、その正体が何なのかはわからない。そして今も、ガロと一緒にいることでその謎の感情が胸に湧き上がっていた。
 だからそれを奪わせない為にも戦わなければならない。
 電磁ナイフを全力で振るってアクマロの肉体を斬り、衝撃で怯ませてから回し蹴りを叩きつける。アクマロは吹き飛ばされるが、それでもすぐに体制を立て直した。
 良牙やガロ、それにドーパントに変身した少女達と連戦しても尚、奴は体力を残している。やはり、一筋縄ではいかない敵だった。

「どこまでも我々を虚仮にしてくれますな……あの仮面ライダー達のように!」
「……カメンライダー達のように?」

 そんな中、憤りに満ちたアクマロの言葉に含まれた単語を聞いて、ゼクロスは思わず足を止める。

524解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:37:12 ID:3t00uZcU0

「どうやら、あんたさんも仮面ライダーの一人のようですな……本郷猛、それに仮面ライダースーパー1と同じく」
「俺がカメンライダーだと……何を言っている……?」
「フン、とぼけても無駄です!」

 刹那、アクマロの掌から輝きと同時に稲妻が発せられ、ゼクロスに襲いかかった。
 この場で三つの命を奪った雷は装甲を貫き、一瞬で体内を縦横無尽に暴れまわる。身体の至る所が爆発して、ゼクロスに痛みを与えていく。
 しかし、それでもゼクロスは倒れなかった。

「……俺を、カメンライダーと呼ぶな」

 雷鳴にかき消されそうな呟きを零して、ゼクロスは走る。
 凄まじい衝撃は走るが、その程度ではゼクロスを止めることなどできない。耐えながら前を進み、アクマロを睨み続けていた。
 あの怪人もつぼみと同じように、俺をカメンライダーの仲間だと思っている。何故、俺が奴らの仲間だと思われているのか? カメンライダーは大切なものを奪い取っていく奴らだというのに。
 そんな疑問が湧き上がっていくが考えても意味はない。思考を振り払ったゼクロスは痛む身体に鞭を打って、アクマロの腕を掴んだ。

「オオオオオオオオオオォォォォォォォッ!」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 そのままゼクロスは強く咆哮しながら身を捻って、驚愕するアクマロの巨体と共に回転する。そのスピードとゼクロス自身のパワーによって大気は大きく振動し、彼を中心にした竜巻が巻き起こった。
 ゼクロスがアクマロを力任せに放り投げる。するとアクマロは風の流れに飲み込まれたかのように舞い上がっていった。それを追うかのようにゼクロスも跳躍すると、竜巻が徐々に収まっていく。
 風の流れは元に戻った頃、ゼクロスは宙を漂うアクマロの胴体の上に立っていた。
 そしてゼクロスは僅かに屈みながら全身に力を込める。すると、深紅の輝きが放たれた。

「ゼクロス──」
「なっ──!?」
「──キック!」

 そう宣言するゼクロスの足からエネルギーが解放されて、アクマロを地面に吹き飛ばしていく。
 一刻も早くアクマロを倒すためには至近距離でゼクロスキックを叩き込むしかない。そしてその為に、かつてガモン共和国で仮面ライダー一号が使っていた技でアクマロを吹き飛ばすのが有効だと、ゼクロスは判断していた。
 ゼクロスは知らないが、アクマロは仮面ライダー一号こと本郷猛を殺した相手だった。その相手を倒す為に一号の技を使うことになるのは運命かもしれないが、奇妙な偶然には誰も気付かない。
 ただ、ゼクロスがライダーきりもみシュートを使ったという事実しか、この場にいる者達には認識されなかった。
 ゼクロスキックによってアクマロは隕石のような勢いで地面に激突して、そのまま盛大な爆発を起こした。それにより周囲が無差別に破壊されながらクレーターが生じる中、ゼクロスは地面に着地する。
 自らが生み出したすり鉢状の穴を覗き込むと、黒く焦げた人型の塊が転がっていた。それが筋殻アクマロの遺体だと瞬時に察する。
 もう動かないのであればそれでいいと考えたゼクロスは、すぐにもう一体の怪人の方に振り向いた。どうやら、天候を操るあの白い怪人はガロに追い詰められているように見える。
 ならば、このまま加勢して一気に倒せばいい。そう決めたゼクロスは前に進もうとするが、急に彼の膝が落ちてしまう。
 何とかして前に進もうとするが身体が言うことを聞かない。
 連戦によって体力を異常に消耗している所に、ゼクロスキックを使ったのが原因だった。ダークメフィストやサイクロン・ドーパントとの戦いの疲れすら完全に癒えていない状態なのに、そこから四人との戦いを強いられては如何に彼といえども限界が来る。
 本来なら、変身を保っているだけでも精一杯だった。

「なっ、身体が……!?」
「どうした、村雨!?」

 全身が鉛のように重くなってくるのを感じたゼクロスにガロが振り向く。
 その直後、ガロと戦っていた怪人は腕を振るって、その巨体を何重にも渡る突風で覆った。凄まじい風圧が周囲に吹き荒れる中、動けないゼクロスを守る様にガロが立つ。
 黄金色に輝くガロの背中を見るゼクロスは怪人の攻撃が来るかと警戒した。しかしその警戒は杞憂で終わることを証明するかのように、風は収まっていく。
 だが、白い怪人の姿は既にない。つまり逃げられてしまったとゼクロスが思った頃、ガロの鎧が砕けて、冴島鋼牙が姿を現した。

525解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:41:11 ID:3t00uZcU0

「何をしている鋼牙、奴を追うんだ!」
「馬鹿を言うな、今のお前を一人にする訳にはいかない。奴を倒すことだけを考えて、お前が死んでしまっては意味がないだろう」
「しかし……!」
「それに、ここにいる彼らも早く弔わなければならない……それは俺の役目だ」

 静かに語る鋼牙の表情は、何処となく悲しげな雰囲気を放っている。
 それを見て、ここでは三つの命が奪われてしまったことをゼクロスは思い出した。そして五代との誓いを果たせなかったことを嫌でも思い知らされてしまう。
 彼らを殺した怪人は倒したが、だからといって奪われた命が帰って来る訳ではない。結局、名前も知らない三人を救うことはできなかったのだ。
 そう思った瞬間、ゼクロスは拳を強く握り締める。銀色に輝く手は無念の余りに大きく震えていた。





 鬱蒼と生い茂った木々の間を覚束ない足取りで進む白い怪人がいた。
 その異形、ウェザー・ドーパントは痛む腕を押さえながら軽く息を吐くと、耳元よりガイアメモリが排出されて、井坂深紅郎という男の姿に戻る。
 戦いに勝てないと判断した彼は、ゼクロスという仮面ライダーが膝を落とした一瞬の隙を好機と見て竜巻を起こし、そのまま逃走した。
 大分離れた甲斐があってか、追手の気配は感じられなかった。

「くっ、私ともあろう者が……欲望に負けたのが敗因でしたね」

 しかし井坂は微塵も喜ぶことが出来ずに己の判断ミスを呪っている。
 あの戦いでは特異な能力を持つ者が何人もいたことで、謎を解き明かしたいという井坂の欲望が一瞬で湧き上がっていた。それを抑えることができず、隙を見て筋殻アクマロと接触して共闘したが、それが失敗だった。
 いくらアクマロの力を確かめるとはいえ、本来ならば利用するはずの人材を殺すなんてあってはならない。それ以外にも、ウェザーの力ならばあのグループを叩きのめせると判断してしまったのも敗因だった。
 そしてもう一つ。幾らゼクロスが弱い奴らを逃がしたことで数の有利ができたとはいえ、高を括りすぎたのも失敗だった。二対一で戦えば勝てると感情が高ぶっていたら、今度はガロと戦う羽目になってしまう。
 もしかしたら、欲望を抑えなかったツケが回ってきたのだろうか。

「ですが、過ぎたことは仕方がありませんね……また、手駒を見つければいいだけです」

 ティアナ・ランスターもアクマロも死んでしまったが別に惜しむことはない。
 死体を確保する暇もなかったので彼らの謎は解き明かせなかったが、命とウェザーメモリさえ無事ならそれでよかった。いざとなれば、主催者の技術を全て奪った後に彼らのこと調べることだってできる。
 やるべきことは新たなる戦力を見つけることだけ。幸いにもウェザーに変身する場面は誰にも見られていないので、いざとなったら無力な弱者を装って鋼牙や良という男達に取り入ることも可能だ。
 それに逃走する際にバイオレンスのメモリやアクマロとティアナの支給品も確保しておいた。トリガーのメモリを失ったのは惜しいが、代わりにこのメモリを育てればいい。
 調べてみるとティアナのものと思われる衣服や下着、それにうさぎのぬいぐるみや書状と思われる物が見られた。だがこれは必要ないので、この場で捨てるしかない。
 しかし、これらはあくまでハズレなだけでもっと探せば当たりがあるかもしれないが、今は身体を休めることが最優先だ。そう取りとめのないことを考えながら、井坂はウェザーのメモリを眺める。

「ああ……それにしてもここはやはり素晴らしい。この地に集められた者達の謎を、必ず──」

 しかし、井坂の言葉は最後まで続かなかった。
 そこから先の言葉を紡ごうとした瞬間、彼の耳に銃声のような音が響く。しかし井坂深紅郎に反応する暇などない。
 何故なら、彼の視界は闇に飲み込まれてしまったのだから。

526解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:46:42 ID:3t00uZcU0




 物言わぬ男は頭部と右腕を焼失していて、二度と動く気配を見せない。
 井坂深紅郎という男の遺体を、笑みを浮かべながら見下ろす者がそこにいた。
 その男、溝呂木眞也は右手に構えるダークエボルバーを下ろすと、井坂が確保したT−2バイオレンスメモリと支給品を拾い上げる。
 無論、井坂が放置した物を拾う気はないが。

「まさかこいつを確保してくれるなんてな……俺の為に、わざわざご苦労なことだ」

 その言葉の中には一切の労いが込められていない。むしろ、井坂に対する侮蔑しかなかった。
 溝呂木が井坂を殺した理由はたった一つ。利用できそうにない邪魔者を消したかった、ただそれだけ。手駒にしようとしても既に負傷しているし、何よりも面白そうにも見えない。
 故に溝呂木は疲弊しきった井坂を目がけて、ダークエボルバーから闇の弾丸を放って殺害した。その際に奴が持っていたウェザーというガイアメモリも破壊してしまったが、別に構わない。
 手元にはサイクロンとバイオレンスがあるのだから、遊ぶには困らなかった。

(小娘どもは死んだ……まあ、惜しむことなどないか。邪魔者は充分に消してくれたからな)

 ダークファウストになった美樹さやかに続いて何処からともなく現れたスバル・ナカジマも死んだ。それだけでなく、本物の筋殻アクマロを始めとした邪魔者が三人も始末することができた。
 本当ならダークメフィストに変身して戦場に集まった奴らを一気に殺すこともできたが、それをしなくても勝手に潰し合ってくれるのだから、わざわざ消耗することもなかった。
 スバルが死んだことでまた一人になったが、奴からは全ての情報を引き出せたので未練などない。途中、計算外の行動が幾つかあったが、面白く死んでくれたので充分だ。
 冴島鋼牙、それに村雨良や響良牙のような邪魔者はまだ残っているが、今は泳がせておけばいい。その気になれば殺すことはできるが、あれでも参加者を減らしてくれるのに役立つ。
 今は西条凪の成長を楽しみに待ちながらゲームを楽しめばいい。その為にも、次の遊び道具を探すのも悪くないかもしれなかった。

「どうやら、デスゲームはまだまだ楽しめそうだな……孤門も姫矢も、精々楽しんでくれよ?」

 死神の視界にはもう井坂深紅郎という人物は存在しない。彼が求めているのは弱き人間ども闇に堕ちて、絶望する光景だけ。
 それこそが、溝呂木眞也の望みだった。


【一日目・昼】
【D-4/森】
※ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのは 、機動六課制服@魔法少女リリカルなのは、下着、志葉家の書状@侍戦隊シンケンジャーが放置されています。


【溝呂木眞也@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×3(内一つ、食料残2/3)、ランダム支給品1〜2個(確認済)、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS、スモークグレネード@現実×2、
ランダム支給品(未確認)3〜14(井坂1〜3、ティアナ0〜1、アクマロ1〜2、流ノ介1〜3、なのは0〜2、本郷0〜2、まどか0〜1)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)
[思考]
基本:より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至り、世界を思うままに操る。
0:ゲームを楽しむ為にどうするべきか考える。
1:姫矢准からウルトラマンの力を奪う。
2:その他にも利用できる力があれば何でも手に入れる。
3:弱い人間を操り人形にして正義の味方と戦わせる。
4:西条凪を仲間にする。
5:今は凪は放置。
6:冴島鋼牙、村雨良、響良牙達は今は泳がせておく。こちらから接触するつもりはない。
[備考]
※参戦時期は姫矢編後半、Episode.23以前。
※さやかをファウストにできたのはあくまで、彼女が「魔法少女」であったためです。本来、死者の蘇生に該当するため、ロワ内で死亡した参加者をファウスト化させることはできません。
※また、複数の参加者にファウスト化を施すことはできません。少なくともさやかが生存している間は、別の参加者に対して闇化能力を発動することは不可能です。
※ファウストとなった人間をファウスト化及び洗脳状態にできるのは推定1〜2エリア以内に対象がいる場合のみです。
※ダークファウストが一度に一体しか生み出せないことを、何となく把握しました。
※スバル・ナカジマから全ての情報を聞き出しました。

527解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:48:44 ID:3t00uZcU0





 冴島鋼牙の目前で盛り上がった土の下には殺されてしまった者達が眠っている。
 スバル・ナカジマとティアナ・ランスター、それに志葉丈瑠の三人だったが、鋼牙は彼らのことを何一つ知らない。しかしそれでも村雨良が誰かの為に命を賭けていた者達だと言っていたから、本当なら死んではならなかった。
 だからせめて鋼牙は良と共に黙祷を捧げる。せめて彼らの魂だけでも救われることを祈って。
 そして、埋葬を終えた鋼牙は右手に視線を向ける。彼は今、狼の仮面を被った女性を模した銀色に輝くペンダントを握っていた。

『事情はわかったわ、教えてくれてありがとう……それにしても、まさかあたしが貴方の元に渡るなんてね。冴島鋼牙』

 口元は本物の人間のように動き、穏やかながらも妖艶な女の声が響く。
 それは同じ魔戒騎士である盟友・涼邑零が長らく共に過ごしてきたシルヴァという名の魔導具だった。旧魔戒語で『家族』の意味を持つ彼女は村雨良の手に渡っていたが、事情を教えて貰った際に休憩を兼ねて支給品を確認した後、こうして鋼牙の手に渡っている。
 シルヴァが入っていたケースは防音加工になっていたので、この状況を把握していなかったので、鋼牙は全てを話している。

「シルヴァ、お前は本当に知らないのか? 零の家族や婚約者……それに、阿門法師の本当の仇を」

 だが、ここにいるシルヴァは鋼牙の知るシルヴァとは少し違っていた。彼女はガルムとの戦いで零を庇ったがその傷が何処にも見られず、何よりもその出来事を知らないように見える。

『ええ、あのホラー喰いの魔戒騎士が道寺と静香を殺した張本人で、あの番犬所と手を組んでいただなんて……でも、あの胡散臭い老婆達ならやりかねないわね』
「ああ。奴らにとって俺達魔戒騎士はメシア復活の道具に過ぎなかった……だから人間の命も、何とも思っていなかったのだろう」
『道寺と静香がそんな奴らの犠牲になるなんて……最悪だわ』

 溜息と共に零れたシルヴァの声は静かながらも、確かな憤りが感じられた。
 その気持ちは鋼牙も大いに理解している。奴ら三神官は己の野望を果たす為だけに、大勢の人間や騎士達を犠牲にした。その中には冴島大河や、零にとってかけがえのない家族である道寺や静香も含まれている。
 あの戦いを乗り越えた鋼牙さえも、犠牲になった者達の無念や悲しみを思ったら怒りが燃え上がりそうだった。無論、それに支配されてはバラゴのように暗黒の道へ堕ちてしまいかねないので、抑えなければならない。

『でも冴島鋼牙……貴方、零に会ったらどうするつもりなの?』

 その精神力で心を静めている鋼牙に、シルヴァは問いかけてくる。

「何がだ」
『貴方の話が真実だったとしても、あたしの知る零はそれを信じるとは思えないわ。彼は貴方を殺そうと躍起になっているし……実際あたしだって、貴方の話を完全には信じられないもの』

 その疑問は、鋼牙にとって重要な課題だった。
 ここにいるシルヴァが連れて来られたのは、零が三神官の言葉に騙されて道寺や静香の仇を自分だと思い込んでいた頃かららしい。だから彼女も、三神官やホラー喰いの魔戒騎士の真相、それにバラゴの存在も知らなかった。
 だとすると、零も同じ時間から連れて来られた可能性が高い。憎しみと激情のあまりに邪美を襲って、カオルを人質にしたあの頃から。
 もしもこの事に気付かないまま零と出会ったら、また戦いになる恐れがあった。

「例えこの島の何処かにいる零が俺を仇だと思っていたとしても、俺が零に直接伝えるつもりだ」

 しかし、もしそうだったとしても鋼牙の答えは決まっている。

『貴方、本気なの?』
「誤解させたままでは、何も解決しない……それに零がバラゴの事を知らないのは危険だ、この島には奴もいるのだから」
『確かにそうだけど、今の彼が貴方の話を聞きいれるとは思えないわ。例えあたしが話したとしても、簡単に止められると思う?』
「止めてみせるさ……絶対に」

 もしも零が憎悪のままに斬りかかったとしても、そうなったら戦いにならないように説得するだけ。守りし者である魔戒騎士同士で殺し合いになるなど、あってはならないのだから。
 それに彼は今だって、この殺し合いを潰す為に戦っているはず。何故なら、零は憎しみに囚われていても、ホラーから多くの人々を守り抜いたのだから。
 難しい事なのは鋼牙自身も強く理解している。零の実力は凄まじく、誤解から生じた戦いの時も隙が全く見つけられなかった。故に、もしかしたら無傷で終わらせるのは困難かもしれない。
 それでも、零には真実を知って欲しいし、出来るならまた共に力を合わせたいと鋼牙は思っていた。

528解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:49:55 ID:3t00uZcU0

『そう……なら、あたしは祈ってるわ。零が全ての真実を知って、貴方と一緒に戦ってくれる事を』
「そうか」
『ただし、これだけは忘れないで。いくら三神官に騙されて戦いになったとしても、零を怪我させたりしたらあたしは貴方を許さないから』
「分かっている。俺も、あいつを傷つけるつもりなど全くない」
『そうしてくれるなら、あたしも出来る限り貴方達の力になるわ。あたしだって、こんな悪趣味極まりない殺し合いなんか、許せないから』

 シルヴァの口元は憤りで歪んでいたが、言葉は実に頼もしい。
 そんな彼女を見て、鋼牙は思わず安堵を感じた。例え生きる時間は違っていても、やはり自分がよく知るシルヴァである事に変わりはない。零やザルバには悪いが、彼女と出会えたのは心強かった。
 零と出会うまで、シルヴァは必ず守らなければならない。彼女がいなくなっては戦いが不利になるだろうし、何よりも零にとってはかけがえのない家族だ。
 これまで数え切れない程の大切な存在をホラーに奪われてきたのだから、シルヴァまで失わせる訳にはいかなかった。

(ザルバに零……どうか無事でいてくれ)

 何処かにいるであろう、二人の友の無事を冴島鋼牙は強く願う。
 すると、そんな彼の思いに答えるかのように、太陽の光に照らされたシルヴァから微かな輝きが放たれた。
 そして鋼牙はシルヴァから目を離して良に振り向く。
 戦いで受けた傷は癒えているようだが、それでも万全には見えなかった。

「鋼牙、そのバラゴという男を負わなくてもいいのか?」
「言ったはずだ、俺は今のお前を一人にする訳にはいかないと。それに今からまた村に向かったとしても、奴がいるとは限らない」
「……そうか」

 良は先に向かった響良牙達を追おうとしているが、その最中に溝呂木やバラゴのような人物に襲われたら危ない。今の良は完全に回復していないのだから尚更だ。
 バラゴは確かに放置できないが、それでも良は守らなければならなかった。

「行こう、良牙達も心配だ」
「そうだな」

 冴島鋼牙は最後にもう一度だけ、眠る者達に祈りを捧げる。
 しかしそれをすぐに終わらせて、村雨良と共に仲間達の元へと急いだ。


【1日目/昼】
【D-5/焦土】
※戦いの影響で焦土となりました。
※ゼクロスキックによって黒焦げになった筋殻アクマロの遺体が放置されています。
※スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、志葉丈瑠の遺体はD−5エリアに埋葬されています。

529解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:52:24 ID:3t00uZcU0
【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、魔導具シルヴァ@牙狼─GARO─
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
2:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
3:良を守りながら良牙達を追いかける。
4:零ともできれば合流したい。そしてシルヴァを渡して全てを伝える。
5:未確認生命体であろうと人間として守る
6:相羽タカヤに会った時は、彼にシンヤのことを伝える
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
 また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※シルヴァから零が自分を仇だと思い込んでいる時期から連れて来られている可能性があると聞きました。


【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:負傷(右肩に切り傷、左胸から右わき腹までの深い切り傷、全身に切り傷、全身に軽い火傷、いずれも回復中)、疲労(極大)
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣、虚像投影装置、煙幕発射装置
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1個
[思考]
基本:カメンライダーを倒す。主催の言葉に従い殺し合いに乗るつもりは無い。
0:鋼牙と共に良牙達を追いかける。
1:18時に市街地で一文字と出会い、倒す
2:『守る』……か。
3:エターナルを倒す。
4:特訓……か。
5:ミカゲや本郷の死に対する『悲しみ』
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。
※能力制限は一瞬しかゼクロスキックが出来ない状態と、治癒能力の低下です(後の書き手によって、加わる可能性はあります)。
※本人は制限ではなく、調整不足のせいだと思っています。
※名簿を確認しました。三影についてはBADANが再生させたものと考えている一方、共に戦う事は出来ないと考えています。
※不明支給品の一つは魔導具シルヴァ@牙狼─GARO─です。


【支給品解説】


【魔導具シルヴァ@牙狼─GARO─】
村雨良に支給。
涼邑零から没収されている支給品で、彼の相棒の魔導具のペンダント(普段は零が首にかけている)。
妖艶な女性の声で話していて、零にとっては本当の家族に等しい。CVは折笠愛。
シルヴァとは旧魔戒語で『家族』という意味を持つ。
参戦時期は涼邑零とほぼ同じです。

【全体備考】
※生命の苔@らんま1/2は消費しました。
※ウェザーメモリ@仮面ライダーW、ガイアメモリ(T2トリガー)@仮面ライダーW、クロスミラージュ(左4/4、右4/4)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、削身断頭笏@侍戦隊シンケンジャーは破壊されました。

530解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:55:57 ID:3t00uZcU0





 暗闇だけしかなかった彼女の世界に、太陽のように暖かくて穏やかな光が差し込んで来ていた。
 その優しい光が肌に刺さり、まるで布団の中で眠っているような心地よさが感じられた。スバル・ナカジマは瞼を開けると、そこには鹿目まどかと美樹さやかの姿が見えた。
 穏やかな笑みを向けている彼女達に、スバルは尋ねる。

「あなたたちは、あたしのことを憎んでいないの……?」

 まどかの命を奪って、さやかのことを騙そうとした。
 それにも関らずして二人はその手を差し伸べてくれている。

「ううん、誰もあなたのことを憎んでなんかいないよ……だってスバルさんが優しい人だってこと、私たちは知ってるから」

 まどかはスバルの右手をゆっくりと握りながら、微笑んだ。
 その言葉は、スバルの心を絶望から解放してくれるかのように、希望に満ち溢れていた。

「あなたはもう、誰のことも傷付けなくてもいい……それに、あたしと一緒にいてくれたもの。だから、あなたはもう苦しむ必要なんてないわ」

 さやかはスバルの左手を静かに掴みながら、笑顔を向けてきた。
 彼女の声は、スバルが味わってきた悲しみを忘れさせてくれるかのように、愛が込められていた。

「本当に、いいの……?」
「言ったでしょ、あたし達はあなたのことを憎んでなんかいないって」
「もう、苦しまなくてもいいんです……私達と一緒に、行きましょう?」

 二人を前に言葉を失うも、スバルはすぐに頷く。
 すると、辺りの光は徐々に世界を満たしていき、彼女達三人を一瞬で飲み込んでいく。
 そんな中、スバルは聞いた。光の中からスバルの名を呼ぶ声を。
 それが本郷猛と高町なのは、そして親友のティアナ・ランスターだと気付いた瞬間、スバル・ナカジマはようやく本当の笑顔を取り戻すことができた。






 そして同じ頃、志葉丈瑠も光の中にいた。
 元の世界、そしてこの地で共に戦った仲間と丈瑠は向き合っていた。
 家臣の池波流ノ介、そして己の心に正直に生きてきたパンスト太郎。そんな二人を、丈瑠は最悪の形で裏切ってしまった。
 本当なら顔を合わせるなんてできないが、逃げることも許されない。しかし、何を言えばいいのかがわからなかった。

「流ノ介、俺は……」
「殿、何も言わないでください……もう、いいのです。殿は、人を助けたのですから」

 そう語る流ノ介の笑みは、何処となく儚げに見える。
 彼は全てを知っているのだ。身勝手な理由で人斬りに走った愚かな自身のことを。
 だが、それを知っても尚……流ノ介はまだ認めてくれている。

「侍野郎、俺はお前を許してねえ……だが、このままてめえだけを地獄に行かせる訳にはいかねえ。俺と同じ場所に連れて行って、ギタギタにしてやるから覚悟しやがれ」

 パンスト太郎は憎まれ口を利くも、憎悪は感じられなかった。
 それは丈瑠にとって、罵られるよりも辛く感じられた。義理に溢れた彼を裏切ったのに、報いすらも軽すぎる。
 それがより丈瑠の心に圧し掛かっていくが、それこそが己に架せられた罰なのではと気付いた。

「……本当にすまない。流ノ介、それにパンスト太郎……」

 許されないのはわかっている。しかしそれでも、謝らずにはいられなかった。
 この意識すらも、もうすぐ世界から消えてしまう。その前にこの気持ちだけでも伝えたかった。
 どうして侍として正しい道を歩めなかったのだろう。例え影武者としての使命を終えたとしても、人を守ることなんていくらでもできたというのに。
 もしもまた生まれ変われるのであれば、今度こそ誰かの為に戦いたかった。最期に一条薫を救ったように。
 そんな微かな願いを胸に抱くと同時に、志葉丈瑠の意識は光の中に飲み込まれていった。

531解放 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/22(月) 23:56:45 ID:3t00uZcU0


【志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー 死亡確認】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】
【筋殻アクマロ@侍戦隊シンケンジャー 死亡確認】
【井坂深紅郎@仮面ライダーW 死亡確認】
【残り37人】





 残酷な殺し合いに巻き込まれ、その果てに犠牲となった者達の魂はようやく解放された。
 本郷猛も、鹿目まどかも、美樹さやかも、高町なのはも、志葉丈瑠も、池波流ノ介も、シャンプーも、パンスト太郎も、ノーザも、ズ・ゴオマ・グも、筋殻アクマロも、井坂深紅郎も、ティアナ・ランスターも、スバル・ナカジマも……ようやく解放された。
 もう彼らの魂は何かに囚われることはない。
 もう、残酷な運命の犠牲になることは、永遠になかった。

532 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/23(火) 00:00:05 ID:NDAkLEnE0
以上で投下終了です。
>>521で鋼牙が登場する前のシーンで、幾つか鋼牙の名前が出ていますがゼクロスの間違いです。
その他にも矛盾点などがありましたら、ご指摘をお願いします。

533名無しさん:2012/10/23(火) 12:31:17 ID:fl7FWMp2O
投下乙です!何だかんだでマーダー側は二人残して壊滅、落ちぶれ三人も最期の最期に…あ、絶望がアインハルトのゴールだ。さあ地獄を(ry

534名無しさん:2012/10/23(火) 13:34:02 ID:TFDHuxYEO
投下乙です。

スバルとティアナは最期に互いを想えたのがせめてもの救いか。

535名無しさん:2012/10/23(火) 19:04:54 ID:OJJSj.7o0
投下乙です。
溝呂木がまた一人勝ちだな、まぁ無理に戦おうとせず影から操った人形達をうまく使った結果なんだけれど。
とはいえこれでもう溝呂木の手元で操れる人間はいなくなったわけだし、ここからが溝呂木自身の戦いになってくるわけだ。

にしても最後の最後でなんか泣きそうになったわ。
まさかのメガまど様とさやかちゃんがスバルの手をとってたり、殿が死者スレより早く流ノ介たちと分かり合うとことか、色々きついぜ全く。

にしても誰もアクマロと井坂先生に触れない件。
いい外道コンビだと思ったけどちょっとばかり運が悪かったな。

536名無しさん:2012/10/23(火) 19:39:34 ID:G90Kul5Y0
>>535
>ここからが溝呂木自身の戦いになってくるわけだ。

つまりこういうわけか。

溝呂木「俺たちの戦いはこれからだ!」


変身ロワイアル・完

537名無しさん:2012/10/23(火) 20:08:29 ID:fl7FWMp2O
>>536
おいやめ…本当に次で退場したらどーすんだw

538名無しさん:2012/10/23(火) 20:12:40 ID:QFZjN95Q0
投下乙です。
もうアレだな…死ぬのも生きるのも悪くないバトルロワイアルだな。
殿とかティアナとかは死体がアレだけど。
もはや消耗品同然だったマーダーどもは全員死んじまったか…。
闇堕ちマーダー合掌。この流れじゃモロトフも長くないかもな。

てか、リリカルもうvivid勢だけじゃん!
そしてウルトラマン無双じゃん!

539名無しさん:2012/10/24(水) 18:07:45 ID:VTqpsumcO
「ウルトラマンには勝てなかったよ……」

540名無しさん:2012/10/25(木) 15:58:30 ID:LKg/seX60
ネクサスーーー!はやくきてくれーーーーーー!!

541名無しさん:2012/10/25(木) 20:40:28 ID:llhLgIfE0
第一回放送→無印、A's
第二回放送→StS
第三回放送→ヴィヴィオ

>>533 こうですかわかりません!

542名無しさん:2012/10/25(木) 20:43:15 ID:D4gaISDQ0
>>541
そしてアインハルトが発狂してマーダールートですね、わかりますん

…いや、その前に誰かがトドメ刺すかもしれんが。目の前でヴィヴィオ死亡とかで

543名無しさん:2012/10/25(木) 21:36:39 ID:yxl4ssd.0
第二の殿になりそう……

544名無しさん:2012/10/25(木) 22:21:03 ID:1oqXeeBkO
>>542
ここでまさかのレリック支給&アイン死亡→さあ、聖王タイムだな可能性を

545名無しさん:2012/10/26(金) 12:24:49 ID:0PDshrSYO
聖王の裁きを下す。判決は……皆殺しだ!

546名無しさん:2012/10/26(金) 12:52:16 ID:dUWmfXOc0
でもVivid時代のヴィヴィオは聖王の鎧使えないみたいだよ

547名無しさん:2012/10/26(金) 13:22:51 ID:S9zcxL2Q0
もうアマダムとか埋め込んじゃえばいいんじゃないかな(適当)

548名無しさん:2012/10/26(金) 18:23:02 ID:0dSfeX2k0
アマダムとか遠すぎだろwww

549名無しさん:2012/10/26(金) 21:32:31 ID:T5I/AbLc0
お前ら幼女苛めんなよwww
でもヴィヴィオのアルティメットフォームならちょっと見たいかも(アインでも可

550 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/27(土) 00:42:06 ID:sAz2MUNA0
皆様、感想ありがとうございます。
これより予約分の投下を始めます。

551果てしなき望み ◆LuuKRM2PEg:2012/10/27(土) 00:43:06 ID:sAz2MUNA0
 冷たい仮面をずっと被っていた父がようやく素顔を見せてくれた。それはとても温かくて優しさに満ちた笑顔だった。
 これまで何度もいがみ合っていた女を、ようやく姉と呼べるようになった。それからは彼女と共に笑いながら、毎日を幸せに過ごしている。
 幸せな日常の中には母と呼べる女や、親友と呼べる女達も増えた。彼女達もまた姉のように笑っていて、それを見ると心が温まってくる。
 心が安らぐと『彼女』は思った。
 これまでまともな名前で呼ばれなかった『彼女』がようやく人と同じように生きられるようになって、輝く太陽の元を歩いている。
 もうこれ以上、戦う必要などなかった。みんなと共に生きていてもいいのだと『彼女』は思った。
 だから『彼女』は、その手を真っ直ぐに伸ばした……





「……ッ」

 ダークプリキュアは瞼を開くと、木々の間より見える太陽に向かって真っ直ぐに伸ばしている腕を見た。
 ここはどこなのか。どうしてみんなと過ごしていたはずの私がこんな所にいるのか……そんな疑問が脳裏に過ぎるが、今まで見ていたのは全て夢であったことに気付く。
 月影ゆりの遺志を受け継いでキュアムーンライトに変身して仮面ライダーエターナルを倒してから身体を休めて、そのまま気を失ったのだ。どれくらい時間が経ったのかはわからないが全身の痛みや疲れは和らいでいる。
 これならば殺し合いに勝ち残ってゆりの願いを叶えて、家族を元に戻すことができる。あのコロンという妖精だってゆりと再び会わせられるはずだった。その為の邪魔者を消す為に、これからまた戦わなければならない。
 これまでさばくの使途として多くの犠牲を出してきたことに対する贖罪というつもりなどなかった。ただ、月影家の妹として大切な姉と父を再び蘇らせて、幸せな生活を取り戻したいという己のエゴで戦うだけ。
 きっと、ゆりは私がこれ以上傷付くことなど望まないだろう。ダークプリキュアは一瞬だけそう考えるも、だからといって止まるつもりはなかった。
 姉は幸せな生活を取り戻す為、その手を罪と血で染めている。罪の意識に苦しみながらもキュアマリンを殺したのだ。そこまでした彼女の願いを叶えるというのであれば、どれだけの困難が待ち受けていようとも戦わなければならない。ここまで進んだ以上、今更止まる訳にはいかなかった。
 キュアブロッサムとキュアサンシャインもまだ生きているはず。エターナルのような殺し合いに乗った連中が始末してくれれば手間が省けるが、そう簡単に負ける奴らではない。この手で倒してから死体を持っていき、ゆり達と同じ場所に眠らせなければならなかった。

『私は、知ってる……! あなたがゆりさんの『妹』だっていうことも!  あなたのお父さんがあなたを愛していたことも知ってる! だから、あなたを救う手助けができる!』

 不意に放送前で出会ったキュアサンシャインの言葉が脳裏に過ぎる。

552果てしなき望み ◆LuuKRM2PEg:2012/10/27(土) 00:44:04 ID:sAz2MUNA0

『あなたは、私の妹よ』

 そこから続くようにゆりの言葉も蘇った。
 キュアサンシャインが言ったことの意味を本当に知ったのは、よりにもよってゆりが死ぬ少し前とは何の皮肉だろう。もしもゆりを助けられたら今頃どうなっていたのだろうか……そんな仮定が思い浮かぶも、すぐに考えるのをやめた。
 過ぎてしまったことをいつまでも振り返った所で意味などないし、何よりも本当に答えを知りたいのなら優勝すればいいだけ。ゆりの遺志を継ごうというのなら尚更そうするべきだ。
 そんな決意と共にダークプリキュアは立ち上がって、ゆりと来海えりかが眠る墓標を見つめる。
 もしも死後の世界というものが本当にあるのなら二人は今頃何をしているのかが、少しだけ気になった。えりかがゆりを憎んでいるのか、それともゆりを許してキュアブロッサムとキュアサンシャインを始めとした殺し合いの打倒を目指す者達を見守っているのか。
 そして、キュアムーンライトを受け継いだことをどう思っているのか? どういう訳か、それがほんの少しだけ気になってしまう。
 いつかキュアブロッサムやキュアサンシャインと出会った時が来るかもしれない。もしも、キュアムーンライトとの一件を彼女達が知ったら何を思うだろうか。
 キュアムーンライトを殺してその力を奪った悪魔と思うだろうか? それとも、話を信じてその上で止めようとするのか?
 だが、どちらにせよ戦いは避けられないのだから考えても意味はないだろう。向かってくるならば叩き潰すだけだし、優勝した際の願いとやらでゆり達と共に蘇らせればいいだけだ。
 きっとゆりとえりかはプリキュア同士の戦いを望まないだろう。人々の心を守り続けてきたプリキュアが潰し合っては、逆に絶望を植え付けるだけ。
 ゆりはそれを知った上で戦い続けただろうが、えりかはきっと心を深く傷付けるだろう。もしも蘇ったとしてもその傷まで癒せるかどうか……

(癒せる癒せないではない……幸せな日常を取り戻して、癒せるようにしなければいけない! ゆり……いや、姉さんの為にも!)

 少し前までならばこんな風に考えなかっただろう。
 だが今は違った。倒さなければならない宿敵なはずだった女の真実を知ってからは、彼女の為に戦いたいと思っている。
 その為ならば例えどれだけ傷付こうとも後戻りする気はないし、後悔などなかった。そうでなければ、ゆりだって救うことができないのだから。

「ゆり、えりか……もう少しだけ待っていてくれ。私が二人の幸せと日常を、必ず取り戻させてみせるから……」

 そう静かに言い残して、ダークプリキュアは墓から背を向けて去っていく。
 今はもう、振り返るつもりはない。また来るのであれば、それはキュアブロッサムやキュアサンシャインの死体を見つけて同じ場所に眠らせる時だけだ。
 それまでは、誰にもあの場所を荒らされないことを願うしかない。

(ここから市街地まではそれほど離れていないか)

 当面の目的地はゆりとえりかが眠るエリアから南に進めば辿り着ける市街地だった。ホテルには誰かがいる気配はなかったし、村も少し遠い。
 市街地は人通りが多く、大勢の参加者が集まっている可能性が高い場所だ。そんな場所に飛び込むのは危険かもしれないが、一人でも多くの参加者を減らすと言うならばリスクは避けられない。
 何よりもあそこにプリキュア達がいる可能性だってあった。100%とは言い切れないが、ダークプリキュアとしてはこの手で決着を付けたい気持ちもある。
 尤も、戦いが既に起こっているのであれば様子を見てから飛び込んだ方がいいかもしれないし、状況次第では離れる必要もあるかもしれないが。

「キュアブロッサム、キュアサンシャイン……来るなら来い。私はお前達を必ずこの手で倒してみせよう……」

 ダークプリキュアは残った因縁の相手達の顔を思い浮かべながら冷たく言い放つ。
 彼女の声色は鋭利な刃物のように鋭かったが、何処となく感情が込められていた。姉と共に幸せな日々を過ごしたいと言う、純粋な感情が。
 それを邪魔するならば例えゆりにとって大事な仲間であろうとこの手で葬ってみせる。そんな揺るぎない決意を胸に抱いたダークプリキュアは、漆黒の羽を広げながら木々の間を駆け抜けていった。

553果てしなき望み ◆LuuKRM2PEg:2012/10/27(土) 00:44:56 ID:sAz2MUNA0


【1日目/昼】
【D-8/森】


【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、右腕に刺し傷
[装備]:T2バードメモリ@仮面ライダーW
[道具]:ゆりの支給品一式、プリキュアの種&ココロポット@ハートキャッチプリキュア!、ランダムアイテム0〜2個(ゆり)
[思考]
基本:キュアムーンライトの意思を継ぎ、ゲームに優勝して父や姉を蘇らせる。
0:市街地へ向かい、集まった参加者達を倒す。
1:もし他のプリキュアも蘇らせられるなら、ゆりのためにそれを願う。
2:つぼみ、いつきなども今後殺害するor死体を見つけた場合はゆりやえりかを葬った場所に埋める。
3:エターナルは今は泳がせておく。しばらくしたら殺す。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。
※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です。
※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。
※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。

554 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/27(土) 00:45:57 ID:sAz2MUNA0
短いですが投下終了です。

555名無しさん:2012/10/27(土) 07:46:01 ID:raTs0J760
投下乙。
ダークプリキュアは市街地行きか。
本当に、いい意味で変わったなあ。

しかし、幼女disってる流れで「感想ありがとうございます」ってのも、なんか変な感じだw

556名無しさん:2012/10/27(土) 16:45:13 ID:INEfB3BQ0
投下乙です

家族を取り戻すために殺し合う、悲しいが止められないのだろうか…
本当に変わったなあ
そして彼女も市街地に…

557 ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:03:03 ID:vndGBEJI0
只今より、投下を開始します。

558Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:04:21 ID:vndGBEJI0

「「さあ、お前の罪を数えろ!!」」

 仮面ライダーダブルが、指先を突き立てて言うが、ダグバはそれに答える様子はなかった。
 このダブルのアクションに対し、答えることもなく、ただ笑顔(それは異形のためにわからないが)で棒立ちしたのだ。
 ともかく、ダグバは戦闘を欲していた。殺戮や暴力によるゲームを行う彼らには、善も悪も──罪などという概念もない。あるとすれば、ゲゲルのルールを犯すという行為で、少なくともダグバはそれに抵触するような行為は一切していなかった。
 だから、ダグバはダブルに感じた怒りという名の戦意に、笑顔を見せただけである。

「ふふっ……」

 頑強な図体とは不釣合いな中性的で不敵な笑みを、声として漏らす。まるで華奢な少年が発するような声……その声に、三人は息を呑む。
 ”こいつ”はどういう戦い方をするのだろう。
 外見と性格の不一致は、この強敵と戦う側からしてみれば、一番厄介である。何せ、戦い方をその性格からおおよそ予測することもできない。
 不気味なダグバの視線に、飲まれそうになった。
 翔太郎やフィリップ、それにタカヤは恐怖を覚えていたかもしれない。──一方で、”恐怖”の欠如した京水だけは体をくねくねと揺らしていた。

「ふふふっ……あんた楽しそうね」

「そうだね。戦う相手が三人もいると、こっちもゾクゾクするよ」

 それは、翔太郎の相方・フィリップのような台詞だった。
 翔太郎もフィリップも、少しはこのダグバの言葉に反応したらしい。
 ただ、彼らの返しは、ゾクゾクするという部分に対してではない。
 もっと……もっと前に引っ掛かる言葉があった。

「三人じゃねえ」

「そう、僕たちは今、四人……だ!」

 翔太郎とフィリップはそれぞれのボディの複眼を発光させて語りかける。
 ダグバは、その様子を見て敵の数を不正確に見ていたことを理解する(どういう原理かはわからないが)。……しかし、最早ダグバにはそんなことは関係はない。結局のところ、意識が四つでも体は三つだし、敵の数がどれだけ増えようと易々と勝利する自信が、ダグバにはあった。

「ふふっ……」

 もう一度笑うと、ナスカ・ドーパント──ダグバの姿が一瞬で消失する。
 ナスカの能力は、常人を超越する超加速であった。ダグバのもともとの脚力も相まって、そのスピードは人が一瞬消えたと錯覚するほどである。
 ダブルが、テッカマンブレードが、ルナ・ドーパントが敵の姿を捜す。

「キターっ!」

 その刃が最初に向けられたのは、ルナの体である。口から漏れたのは不思議にも悲鳴ではなかった。
 ルナの体を一凪ぎすると、ナスカは加速を止めた。相手が対応できない速度に面白味を持つことができなかったのだろう。
 また、ルナの伸びた右腕が、咄嗟にナスカの腰をくるむように掴んでいたのも一つの原因か。
 とにかく、ナスカは振り返って、自分の腰部をくるむ右腕に刃を突き刺した。

「やるわねっ! 痛いじゃない」

 ルナは多少の痛みは感じてはいたが、かつて──人間だった頃ほどではなかった。
 この痛みが死へと繋がってしまうことにも、恐怖を感じない。彼(女)は既に二度死んでいるのだから。彼(女)はNEVERなのだから。

「さあ、今よ! やっちゃって!」

 そう言って、残りの三人に向けて攻撃を煽る。
 無論、彼らはそれを好機と見ていたので、すぐに遠距離攻撃の準備に入った。
 ダブルは、メモリをチェンジする。

『トリガー!』

『サイクロン!』『トリガー!』

 京水の仲間で言うのなら、これは芦原賢の持つメモリである。
 これまでジョーカーのメモリを挿していたドライバーが、トリガーの声を発する。
 サイクロントリガー。緑と青を半々に受けたダブルが、ナスカに向けて銃を狙い打つ。

「ハァっ!」

559Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:05:06 ID:vndGBEJI0

 複数の弾丸がナスカの腕を、頭を、足を狙う。一方で、ブレードはボルテッカを使えば彼(女)の腕ごと吹っ飛ばしてしまうゆえ、エネルギーを溜めるだけに止めた。
 もう一年以上、こうしてトリガーのメモリを使ってきているので、射撃は日本人としては異質なほど精密だった。
 ……が、一方でナスカに与えたダメージが高いかというとそうでもない。

「つまらないなぁ」

 ────ただの小虫だった。
 そう、何でもないのだ。彼にとっては、ただの小さな虫の大群が止まったようなもの。
 ナスカの持つ二つの剣が、上から、下から同時にくるりと回されてルナの右腕を切り落とす。まるでハサミが切り落としたような──そんな風に。

「嫌ぁぁぁぁっ!! 私の腕がっ!!」

 流石の京水にも、これは効く。
 ナスカは、その悲鳴を聞いて──笑った。先ほど受けた攻撃による不快感を、今度は自らの殺傷で、とりあえず収めたのだ。
 地面で、とかげの尻尾のようにもがく金色の腕が、動きを止める。
 それを見て、ダブルとブレードが怒りに燃えた。

「ボル・テッカァァァァァァァッ!!!」

 怒りは、技で示す。
 先ほど溜めたエネルギーが一気に吐き出されると、ナスカの体を無数の粒子のような光が包んだ。それはブレードの両肩から発射されたと気づく前に、ナスカは光に視覚を奪われる。
 変身を解けば、京水の腕はないのだと思うと感慨深かった。
 京水の戦力は大きく奪われることだろう。

「……ムッキィィィッッ!! 初めて男のコに怒りを覚えたわ! これじゃあ、もうイケメン触れないじゃないっ!! ………………………………な〜んてネ♪」

 ルナの腕がまた再生している。地中でもがいていたはずの腕も消え去っていた。あれは幻想だったのだろうか。
 ブレードの士気が下がるが、ともかく彼はナスカがどうなったのかが気になり、硝煙の中を見た。向こうのガラスに向けて、風都タワーの土台となった土が露出している。
 ナスカの姿は、というと……其処にはない。
 今の一撃で消えたのか? ──そんな安易に行く相手だったのだろうか?

「何っ!」

 そう思っていると、真正面からナスカの顔が浮かび上がる。
 ブレードの顔の目の前に、突然ナスカが現れたのである。手ぶらでなく、双剣を左右の首元に突きつけようとしながら。
 あの瞬間、ナスカは天井に向かい飛びあがり、回避していたのだろう。
 ブレードの首元を砕いて、二つの剣が突き刺さる。

「ぐああああああああああああっ!!」

 しかし、そんな一瞬の中でもブレードは、咄嗟に真横からナスカの腹へとテックランサーを突き刺した。
 すると、流石にひるんだのか、ナスカは双剣を引き抜いて後退する。
 それが仮にもダグバの生身にまで到達していたために、初めてダメージらしいダメージがダグバに残る。

「……」

 仮面ライダーやテッカマン──歴戦の勇者でなければ、見るのも痛々しい傷だっただろう。
 テックランサーが生み出した深々とした傷口から、ポタポタと血が流れ出ていく。
 渾身の一撃であったがゆえ、ブレードにも予期せぬダメージを与えたらしい。
 ブレードの体躯がナスカよりも巨大であったのが原因で、彼のサイズに合ったランサーは、目に見えるほど大きな傷口を作っている。

 この痛みに対して、ダグバはどう反応するのか。
 彼ら常人の思考で考えれば、おそらく──悲鳴、憤怒が予想される。
 傷をつけられたことへの怒り、死への恐怖や痛みの雄たけび、ただ痛みに耐え切れず蹲る姿────

 どれも、違った。

560Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:05:57 ID:vndGBEJI0


(笑った)


 ン・ダグバ・ゼバは、笑顔になったのだ。
 そう、痛みを与えることも、受け入れることも彼は楽しむ。
 殺し合うことの楽しみ、おかしみがあった。

 この場において、ダグバは誰よりも容赦なく、笑える男だった。
 幾つの命が奪われても、たとい自分の命が危機に晒されたとしても。
 常人には耐え難い痛みが体を伝うとしても。

「異常だ……」

 フィリップが呟く。
 だが、ダグバにはこれが常だった。グロンギという生物の中でも特異な男だったのだ。
 グロンギといえど、自分が痛めば悲鳴を上げる。が、彼だけは笑った。
 他人を殺すことをゲゲルと称すグロンギの中でも、彼だけは唯一──自分の痛みさえ笑った男だったのだ。

『聞け! ダグバ、クウガ、そしてこの場に集いしリントの戦士達よ!』

 ────そんなダグバの笑顔に凍りついた、その場の静寂を切り裂くように、太い声が放送を始めた。
 誰しもが、その声に流石に反応する。……どこから聞こえてくるのだろうか、誰かが何らかの装置を使って声を拡大して、放送しているらしい。
 先ほどのサラマンダー男爵の放送とは違った感じだ。この近くで、何者かが、一部のエリアにだけ伝えるよう拡声器で放送を行っている。
 少なくとも翔太郎──彼だけはその声をはっきりと覚えていたので、明確に反応した。拳を振るわせる、という形で。

「ガドル……随分やってるみたいだね」

 ダグバも、その声に覚えがあったので動きを止める。戦闘よりも、この「ガドル」の言葉を聞くことを優先したのだろう。
 彼の第一声がダグバに対する呼びかけだったのが、何より彼の動きを止める理由だった。
 だから、彼は傷を塞ぐことも、戦うこともせず、ただ放送に耳を貸した。
 他の四人も、ダグバに目をやりつつも、結局のところは同じだった。

『俺はこのゲゲルに乗っている、殺し合いに乗っている!』
『既に、二人のリントを葬った! フェイトと、ユーノという名の勇敢な戦士だ!!』

 ダグバがにやりと笑い、────翔太郎は遂に怒りに声をあげた。
 「ふざけんな!」その一声をすぐにフィリップが制する。「落ち着くんだ、翔太郎」
 翔太郎は落ち着けそうな様子には見えなかったが、またガドルは次々と言葉を流し込んでいた。

『奴等は強かった、だがそれでも俺を倒すには至らなかった!  俺は、より強く誇り高き戦士との闘いを何よりも望んでいる!!』

『もし貴様等がこのゲゲルを止めたいと望むなら、俺という障害をまずは退けてみろ!  我こそはと思う者がいるならば、遠慮はいらん!  どんな手を使おうとも、多人数で挑もうとも構わん!!  この俺……破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バに挑むがいい!!』

561Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:06:48 ID:vndGBEJI0

 ダグバが、はっきりと……声をあげて笑い出した。ロビー全体に響き渡る笑い声だった。
 そんなダグバに向けて、フィリップの制する声さえ聞かずに、仮面ライダーダブルの半身は殴りかかる。

「らぁぁぁぁぁっっ!!」

 だが、ナスカは彼の姿を見ることさえなく、ダブルの拳の前にクモジャキーの剣の刃を向けた。
 そこで、ダブルの動きは止まる。このまま拳を突き出せば、剣に向かって自分の拳を傷付けるだけだ。
 それでも、完全には翔太郎の頭は冷えなかった。

「駄目だ、翔太郎!!」

「……くそ! こいつは笑いやがった……人の……それもユーノやフェイトみたいな、まだ小さい子供の死を……笑いやがったんだ!!」

 ナスカは初めて、そちらを見て言った。
 相変らず、彼の心は笑い続けていたが、もっと面白いことがありそうだと、思ったのである。
 これだけの怒りを持つ変身者で……どう、”楽しむ”か。その策略がダグバの頭の中で既に出来上がっていた。
 笑うのをやめて、ダブルに語らいかける。

「君もガドルと会ったんだ」

「何だと……じゃあ、てめぇ……」

「ダグバ────ン・ダグバ・ゼバ。それが僕の名前だよ」

「……あいつの仲間かよ、クソッ……!」

 目の前の刃に圧倒され、右腕を失った京水や両肩を砕かれたタカヤの支援を待つこともできず……仮面ライダーダブルはただ怒りに震える。
 ゴ・ガドル・バやン・ダグバ・ゼバ。名簿の中でも特殊だが、はっきりとは覚えにくい名前だった。
 その二人と、彼は遭遇している。二人は、仲間同士だった。

「ねえ、ガドルとは、戦ったのかな?」

 ダグバはそう言いながら、ナスカの変身を解いて白い少年の姿になった。
 だが、人間の姿であったのはほんの数秒だった。
 また彼は、変身する。今度はメモリなど使わず、直接、彼の身体そのものが──白い怪物の姿に変身していった。
 ……金色の触覚や、じゃらじゃらと飾った装飾品。
 ぞくっ、と得体の知れない恐怖を煽る仏頂面。この変身を遂げたダグバの笑っているのかさえ、初見では曖昧だ。
 おそらく、彼は笑っているだろう。しかし、仮面のような造形をした面皮は、人間の表情と照らし合わせて考えるのも難かった。
 何より翔太郎にとって覚えがあるのは、その”ベルト”だった。
 ふと、そのバックルを敵の表情よりも優先して気にしてしまう。彼が仮面ライダーだから、特に目を凝らして見つめてしまう部分でもある。

「見覚えはない?」

 ──そう、そのベルトのバックルは、まさしくガドルのものと全く同じ形状だったのだ。
 おそらく、彼はこれを見せ付けるためにこの姿に変身したのだろう。

「…………てめぇっ!! やっぱり……!」

562Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:08:32 ID:vndGBEJI0

 翔太郎には、確かな確信が沸いた。その異形を見つめた瞬間、咄嗟に沸いた怒り。
 それを、仮面ライダーダブルの力が爆発させる。
 その手に握った銃の使い道さえ忘れて、ただ本能に任せて拳を向けて、走り出すダブル。
 しかし、そんな思いは、あっさりと打ち砕かれる。

 ダブルの目の前に、炎の壁が作り出されたのだ。
 ぼわっと燃える、その炎の壁を消し去ることは、咄嗟にはできなかった。

「……君ももっと強くなれるのかな」

「当たり前だ……俺たち仮面ライダーは、お前ら、誰かを傷つける悪を倒す為なら、どこまでも強くなる!」

「────そう。なら、今度会うときは、もっと僕を笑顔にしてよ」

 そう言って、炎の向こうでダグバは言った。
 彼はガドルのもとに向かうのだ。彼の行動は非常に目立ったので、参加者が向かう可能性は高いし、彼はダグバのほかに「クウガ」の名前も呼んだ。彼が来るかもしれない。そしたら、ここに来る前の”続き”ができる。
 彼にとって、それほど都合の良いことはない。
 ダブルの成長、クウガとの戦闘、ガドルとの再会。楽しみなことはいくらでもあった。
 その全てを、ダグバは楽しもうとしている。……全部、根本は殺傷や戦闘にあるのだが。

「……くそっ」

 ともかく、ここでの戦いは、ひとまずは終わった。
 ブレードがガクリと肩を下ろし、跪く。彼の両肩の痛みは相当なものだろう。
 また、近くで京水が変身を解く。右腕を、コキコキと動かしていた。
 仮面ライダーダブルの前では、まだめらめらと炎が燃える。
 いくら模造とはいえ、風都タワーがまた荒らされ、仲間たちはとてつもない深手を負った。あの男の到来は、僅か数分間の出来事だったはずだ。
 しかし、彼らにとって、その数分間が大打撃だったのだ。
 果たして、またあの男と合間見えた時に勝てるのだろうか……。
 テラー・ドーパントのテラーフィールドの時に感じた強い恐怖に近い何かが翔太郎の中を伝った。
 ダブルドライバーに手をかける。────しかし、やはり少し躊躇った。
 ……ただ、少なくとも変身している間だけは相棒が傍にいてくれる──今はその安心感に、まだ少しだけ身を委ねていたかったのだ。


★ ★ ★ ★ ★


 姫矢准と佐倉杏子が、一言でも会話を交わそうとした瞬間だった──。
 どちらが先に口を開いたのかというのは、この際関係のあることではない。
 結局、その第一声は、拡声器を使った一言に遮られたのだから。

『聞け! 今から勇敢で無謀な戦士と決闘する!』

 その声は、不意をついていたため、二人をはっとさせた。距離は、遠くもないが、随所が聞き取りにくいことを考えると、それなりにあるだろう。
 ドウコクも、或いはこの場に横たわる一つの死体を築き上げた男も聞いているのかもしれない。
 姫矢は、先ほどの放送をはっきりとは聞いていなかったので、この放送の主の言葉が何者だかはわからない。善人か、悪人か────いや、そんな事よりも殺し合いに乗っているか、いないか。
 決闘の目的は、一体何なのか。その決闘は勝敗を決するだけのものなのか、それとも生死を分つようなものなのか──。

「……悪いが、少しの間だけ静かにしてくれ」

「ああ、わかってる」

 姫矢と杏子が最初に交わした会話は結果的にこれになった。互いに名乗りもしない。
 ただ、一人の少女の死体を優しく包んでいた杏子の手に、わけもわからぬ震えが残っていた。
 そう、彼女は知っていたのだろう。それが、間違いなく生死を分つものだと──。
 この声の主には、少なくとも殺し合いに乗っている。そう確信させる出来事に、遭ったじゃないか。仲間を二人も喪った仇──その男の声なんだ。

『お前も言い残すことがあるか』

『──全て言い切る前に殺してやる!』

 あのカブトムシの怪人は、どうしてこうも戦いに固執するのだろうか。
 杏子の中で、わなわなと怒りが沸き立っていく。
 フェイトの事、ユーノの事……奴には何でもない事で……仮に彼が死者を称えているとしても、そんな賛美の言葉はフェイトやユーノの命よりも、遥かに軽いものだ。
 まるで、戦った相手にフェアであるような素振りが気に入らなかった。
 結果的に奴はフェイトやユーノの命を奪いながら、自分だけは自分の主義を通したような面で格好付けて、誇らしげに満足げに生きてやがるんだ、と。

(……私には、それが許せねえ)

 もはや、杏子の中に正義も悪も無い。
 少なくとも、そんな言葉を語れるほど杏子は善たる行いをしてきたわけじゃないと、……それは彼女自身がわかっている。
 だから、少し考えた。
 せつなが言ったように、優しく生きていけるとしてもだ。

563Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:10:28 ID:vndGBEJI0

『私はかつて、街を愛しながらも数え切れない罪を重ねた!』

 杏子が餌に使った人間にだって、杏子がこのゲームで殺そうと目論んでいた人にだって、家族はいたんだ。友達はいたんだ。
 杏子は翔太郎も、フェイトも、せつなも、マミも殺そうとしていたから、あの男の殺戮行為にかけるべき断罪の言葉はなかった。
 彼女は、自分自身の優しさを否定するためだけに、罪を重ねてきたんだ。
 間違いなく、罪を重ねていた────。

『私はきっと数えられる限りの罪を全て償い、再び街を綺麗にする為に蘇ったんだ!!』

 見知らぬ男が、あのカブトムシの男と決闘している。
 その男に──杏子は自分自身を投影した。
 「罪」────そんな言葉に縛られていて、それを発散する相手を捜す人間。
 自分自身を助ける為に、その声のありかにたどり着かねばならない気がした。
 だから、彼女はせつなの身体から、必要以上に優しく手を離し、姫矢の方を向いた。

「……兄ちゃん、出会ったばっかりでこんな事頼むのは悪いんだけどさ……その子の傍にいてやってくれよ。すぐ戻るからさ」

「おいっ!」

「……静かにできねえんだ、やっぱり」

 杏子は、そう言って強引に血まみれの死体を、見ず知らずの男に半ば強引に託して走り出してしまう。それでも、本人は死体に傷がつかないようデリケートに渡したつもりだった。

 ──困惑するだろうな、あの兄ちゃん。……まあ、これも軽い罪ってやつかな。

 無論、姫矢は困惑した。
 こうして死体を抱えると……やはり戦場を思い出す。
 砲撃を受けて無残に散ったセラの姿──あの優しく穢れない少女ですら、血で淀ませた「死」という姿を。
 ……ここにもまた一人、少女が死んでいるということが姫矢には耐え難い事実だった。
 間近で見ると、その少女の死体は笑っているようにさえ見えた。それが姫矢にはまた辛い。セラも、死ぬ直前に笑っていたじゃないか。セラは逃げ惑う人々や戦う人々、あるいはもう立つことのない人々で散らかった戦場で、奇跡的にも姫矢のことを見つけて、笑いながら──

(……いや、少なくとも今の俺はあの笑顔に救われているんだ)

 それでも、かつて、姫矢を苦しめたあの笑顔は今はもう、姫矢准の”光”を輝かしてくれる、かけがえのないものとなっているのだ。姫矢はそれを思い出す。
 この少女の笑顔は、やがてきっと……あの少女に届く時が来るだろう。

「すまない。俺は行く。君の傍にいるよりも、今生きている命を……俺は守りたい」

 姫矢は丁重に少女の死体を、少し近くのビルにもたれかけると、杏子が向かった方向へと走り出した。ドウコクはこの場所を知っているので、少し遠ざけた場所に安置した。
 戦場では、そこにある死体を丁寧に弔う時間なんて無かったのに……。あの頃は、ただ、姫矢は自分の事を守りながら写真を撮るのに必死で、死体が出来上がるのを見かけても鉄のように表情を固めていた。
 姫矢が走ると、眼前を走っているのは、先ほどの少女ではなく、────一人の魔法少女であった。また姫矢は戸惑う……が、受け入れて走る。
 そんな様子を見て、ビルにもたれかかる死体が、もっとはっきりと微笑んだ。



(ひとつ。私はトンデモない悪魔と契約して、私の家族の命を奪ってしまった。
 ふたつ。私はマミを見殺しにしてしまった。口先だけでも、マミの死を嘲笑ってしまった。
 みっつ。私はたくさんの人を…………ちぇっ、……いや、やっぱり数え切れねえな)

 杏子は、数えられる限りの罪……自分の罪を少し数えてみようと思ったのだが、やめた。
 あの放送の男に比べて、数え切れるぶん、自分の罪はマシだと思いたかったのかもしれない。
 でも、数えなおしたら……数え切れなかった。思い出せない罪もあるだろう。おそらく、被害者にとっては大きな悲しみや怒りだったのに、忘れてしまう自分は薄情すぎた。
 だから、彼女は開き直ったのかもしれない。ひとつめの罪で開き直って、「悪」になろうとしたのかもしれない。
 そんな自分に対する罪悪感が再び、巡っていく。表情は柔らかくは無かった。

『なのはさんを、フェイトさんを、ユーノさんを……』

 放送の男の言葉が、杏子を覚醒させる。
 今の自分は、善悪に縛られて戦ってるのか? ──否、ただやりたいようにする。
 開き直るには一番の手段だった。
 無理して悪役ぶる必要もなければ、無理して善人になりたがってトンデモないバッドエンドを引き起こす必要もない。
 だから、今は────

「仇を、取りに行く。それだけできれば、いいんだ」

564Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:11:25 ID:vndGBEJI0

 そう呟く彼女の横を、観音様のような銀色の生物が、地面にうつ伏せになるような姿勢で低空飛行し、並走をはじめた。一応、デイパックを二つ肩にかけている。
 なんだかよくわからず、杏子が困惑する。
 開いた口が塞がらない。
 というか、敵だか味方だかもわからないうえに、表情も読めないので怖かった。

 開口して真横を向いて、惰性で首から下だけは着々と目的地に走っていた杏子。
 そんな杏子の姿を見て、その謎の生物はコクリと頷いた。

「おいっ! なんなんだよアンタ、味方なんだよなぁっ!」

 そんな杏子の問いも虚しく、凄まじいスピードで飛び抜けていく。聞こえてないのか、そもそも日本語がわからないのか、意思がないのか、それともただ単に無視したのか、彼は答えてくれなかったのだ。
 しかし、杏子よりも先に、声の聞こえる向こうに行ってしまっている。
 ……まあ、とにかく、杏子の目の前で放送が聞こえている。

(まあ、あの声はもう一人の私みたいなもんなんだ……。私はそいつを助けてやりたいけど……それまでに辿り着けなかったら……そんでお前が負けたら、そん時は私が……必ず!)

 放送の主、園咲霧彦の敗北が聞こえたのはその直後だった。


★ ★ ★ ★ ★


「はぁ、面白そうじゃねえか……」

 別のエリアに向かっていたドウコクだが、放送が聞こえたので足を止める。
 さて、目的を途中で変えるというのも癪だが、あっちに向かうことの方が遥かに面白そうだ。
 殺戮あるところにドウコクは在りたい。
 いや、ただ単純に腹に虫が沸いたからだろうか。とにかく、今は何かを斬る必要があった。
 できれば、ここからの脱出に、ドウコクにとって不要な生命を──。

「……まさかとは思うが、お前は向かってねえよなぁ……姫矢」

 いや、ドウコクはピンときていた。
 姫矢がこの放送が聞こえても、あそこに居続けるとは思えない。
 彼が愚直にもあの場で荷物番を続けていたとして、それを疑うことに何か問題はあるだろうか。
 ドウコクはニヤリと笑い、軌道を変更した……。

 姫矢、ガドル、霧彦など、思い当たる限りでも三人も参加者が向かうような場所だ。
 この周囲で暴れていた男がそちらに向かう可能性も高い。
 よって、ドウコクはそちらに向かうことを決定したのだ。

 ほんの短い間の心変わりだったが、少なくとも────この先にいるモロトフという男が、この放送の存在が無ければ血祭りに晒されていたことは、……まあ言わなくてもわかるだろう。


★ ★ ★ ★ ★


 タワーの炎が、強い風に呑まれて消える。
 仮面ライダーダブルが、「サイクロン」の力をもって消し去ったのである。彼の多彩な能力は、こういう場では使い道が多かった。もっとも、ダグバにも制限があったので、消火器を取りに行けば済むであろう小火に過ぎなかったが。
 今は急ぎたかったのだが、それよりも前に体勢を整える必要もあるし、少なくとも、風都を象ったこの街を、炎に晒し続けたくはなかった。
 その作業を続けながらだが、翔太郎は重要な話をフィリップにしなければならないことを覚え続けていた。戦っている最中も、頭の中をチラついていた情報だ。

「フィリップ、こんな時に何だが……言わなきゃいけないことがいくつかある」

「ユーノ・スクライア、そしてフェイト・テスタロッサの死……の事かい?」

「……ああ。だが、……それだけじゃねえ」

 もう翔太郎の意識は一切躊躇うことはなかった。
 フィリップは充分辛いことを乗り越えた男だ。……悲しいかな、仮面ライダーである二人の男は、もう普通の人間と同じ場所にはいない。常人と同じ次元で、その死を悲しむことはできないだろう。
 しかし、少なくとも翔太郎と共感し合うことはできる。共通の知り合いの死について……。

「放送で死者として名前を呼ばれた知り合いが、他にも二人いる。園咲冴子、そして照井竜だ」

565Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:12:23 ID:vndGBEJI0

 冴子の名前は、翔太郎にとっては心を痛めるほどの相手でもなかった。
 だが、フィリップにとっては喪うのが二度目となる家族の名だ。おそらく、冴子も照井も、同じくらいに悲しい名前に違いない。
 それでも、フィリップの返答はあっさりしていた。あっさりした言葉の中に、深い感情は感じられた。

「…………そうか。照井竜や、冴子姉さんが」

「あいつが願ったことはわかるよな……フィリップ」

「ああ。わかってるよ、翔太郎」

 左翔太郎も、フィリップも、照井竜も「仮面ライダー」だった。────それだけが、二人が照井の思いを一瞬で理解した理由だった。
 照井がどこの誰に倒されたかわからないが、「仮面ライダー」としてそいつを倒すことが照井への手向けとなる。いや、更に言えば加頭や財団Xを倒すことこそが何より望ましいことだろう。
 復讐ではない。照井の経験を思えば、復讐など彼にとって最も疎ましい行為だろう。仮面ライダーとして、人類の自由と平和のために敵と戦う。
 その目的の一端が、ダグバだった。

『聞け! 今から勇敢で無謀な戦士と決闘する!』

 この場の四人の耳に、突然そんな太い音声が入った。
 そう、これはゴ・ガドル・バの放送に間違いない。再び、彼が放送を始めたのである。
 それも、何者かと決闘するという形で────。
 距離から考えると、おそらくダグバではないだろう。

『お前も何か言い残すことがあるか』

『…………ああ! だが、それは戦いながら言わせて貰う。それは私の仲間たちだけじゃない……哀れな君やダグバへの言葉でもあるのさ!』

 ダブルの中にいる二人────翔太郎とフィリップは、その声を聞いて、はっとした。
 忘れもしない、この声の主は間違いなく園咲霧彦である。
 かつて一度、この街の運命を仮面ライダーに託して散った一人の仲間の声に違いなかった。

「あいつ……っ!」

 ダブルは拳を握りながら、後ろを振り向いた。
 肩を負傷したテッカマンがうなだれている。京水は悪い奴ではなさそうだが、やはり信頼度は低い。
 駄目だ。仲間のもとに向かいたいが、後ろにいる二人も心配だ。

「この放送の男と知り合いか?」

 ブレードが訊く。ダブルの様子を見て、わかったのだろう。
 この放送の男と、翔太郎が知り合いであること……。そして、少なくとも怨みつらみの関係ではなさそうであるということ。
 左肩を抑えながら、よろよろとブレードは言う。

「……なら、心配する必要はない。行け、仮面ライダー。仲間の助けになるんだ!」

『その報いか、私は愛した人に裏切られ、彼女に殺された!!』

「……そうだ、霧彦は、一度死んだ。……俺は、俺は……」

 霧彦は少なくとも、新しい命さえ捨てる覚悟で戦いに臨んでいる。それを、翔太郎はいま現在の放送で悟った。だから、そんな覚悟を持つ霧彦より、ここにいる二人のことを考えようと思ったのだ。
 タカヤの怪我は、明らかに後を引くものである。この装甲の下にあるであろう、彼の体からも血が流れている。きっと、これから一生残る痕が肩に二つ生まれているのではないかと思う。
 京水は無事だが、彼(女)にもダグバと渡り合える強さがあるかはわからない。
 第一、霧彦は死人だ。どういう経緯で蘇ったのかはわからない。時間軸の違いでなく、本人も死を自覚しているというのなら、彼は間違おうことなき死人なのだろう。
 だとすれば、彼はNEVERなのかもしれない。

566Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:13:11 ID:vndGBEJI0
 死んだ人間は蘇らない────蘇った結果がNEVERだと言うのなら、それは……。そう、神が創った原則に抗うことは、悲惨な結果しか生まない。京水を前に考えるのも何だが、克己がその良い例だ。
 だから、翔太郎は躊躇った。
 霧彦は、NEVERになっているのかもしれない。だというのなら、今助けるべき命なのか?

 霧彦は助けたいが、
 それが一度、
 死んだ命ならば────

「見捨てていいのか!?」

「……いいわけねえだろ! けど、あいつを助けに行くっていうことは、お前らを助けないっていうことだ……だから」

 誰かを助ける。その裏に、助からない命がある。
 二つのうち一つしか助けられない状況だってある。選択により、斬り捨てられていく人々がいる。彼らをそれにするか、霧彦をそれにするか──そういうことだった。

「……だから迷ってるのか。……なら、心配するな」

 ブレードは、そう言って間髪入れずにダブルの顔を殴る。巨大な拳が、ダブルの顔全体に圧力をかける。まるで鉄球のような一撃だ。
 ダブルの身体が後方に吹き飛んで、先ほどまで火が立っていた地面に落ちた。本来なら、そこに残留した熱を背中に感じるかもしれないが、その程度の熱は仮面ライダーの体を覆う仮面やスーツが吹き飛ばした。
 しかし、それでもブレードの攻撃の反動で背中に、熱でない痛みが残る。

「俺はまだ、充分戦える。……仲間を助けるためなら、行かない理由はないはずだ!!」

 ブレードは両肩に傷を負いながらも、まだまだ健在だった。
 そう、ダブルの力が及ばないほどに。……あるいは、今のダブルが少し精神的に弱りすぎていたのが悪かったのかもしれない。
 それが喝となるには、少し足りなかったかもしれないが、それでもダブルは立ち上がった。
 ブレードを殴りに行くことはできない。

 そこへ今度は、つかつかと京水が歩み寄ってくる。
 露骨に不機嫌な様子で、京水はダブルに叫んだ。

「……まったく、NEVER差別よっ! NEVERサ・ベ・ツ! 私たちは一回死んだって、必死に生きてるのよ! あんたはその相棒ちゃんが一回死んでNEVERになったら助けないの!?」

「オイオイ、お前もかよ……」

「大体、アンタは男のくせに肝心なことを忘れてるわ! ライダーは助け合いだって、忘れたの!?」

「忘れるもんかよ! お前らに言われなくても、その言葉は片時も忘れたことがねえ」

「ならゴタゴタ言うんじゃねえ! ────だいたい、ライダーとかそれ以前に、仲間同士なら仁義を果たせってんだよオ゙ラ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ゙!」

 京水の声が一瞬、常々使っていた高音でなく、ドスの利いたヤクザのような声になった。
 他の三人の背筋が凍る。それほどに男らしく、恐ろしい声だった。今までの京水と180度違う姿たったのが原因だろう。
 これは、かつて彼が、完全な男だった頃、通していた”筋”であった。
 しかし、恥ずかしくなったのか、「コホン」と咳払いをしてから、京水はダブルの背中を叩いた。彼(女)の利き腕とは違うので、それはぎこちなかった。

「…………というわけで、さっさとイッちゃいなさい! 私たちはちょっとだけ、ここで待ってるわ」

 そう言う京水の笑顔は、敵とは思えなかった。
 風都を汚した人間の顔とは、到底思えない姿に、翔太郎とフィリップは放心する。
 もしかしたら、泉京水は、NEVERは、そして大道克己は本来なら、少しは良いところもあったのではないのだろうか。
 今まで翔太郎たちが京水たちに抱いていたイメージと、今ここにいるこの漢はまったくの別人としか思えなかった。

567Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:14:30 ID:vndGBEJI0

(いや、余計なことを考えるのはやめるか……行くぜ、フィリップ)

 ダブルは、何も言わずに走り出した。
 二人はそれを、逃げ出す背中とは思わなかった。
 声の呼ぶ方に向かっていく”二人”の戦士を見送りながら、ブレードががっくりと倒れる。

「やっぱり、痛いのね……タカヤちゃん」

 京水は、ブレードの肩に触れる。
 変身を解こうか迷ったが、またも接近するテッカマンの存在を、タカヤは感じていた。そのテッカマンが襲撃した場合、やはり戦わなければならないだろう。
 おそらく────人間・相羽タカヤの両肩には、ほぼ同じ位置に赤い円が染みている。
 しかし、そんなものを気にして戦ってはいられまい。

「……このくらいの痛み、今に始まったことじゃない。それより──」

「何?」

 言いかけたようだが、タカヤはそこから先の言葉を心の中に止めた。
 ミユキは死んだ。一度その死がタカヤの中にあったとはいえ、やはり放送で呼ばれたとき、少し己の無力感を感じることはあったのだ。

 そう、彼はまた守れなかった……。

 妹を守る。そんな、兄としての義務を果たすことはできなかったのだ。
 たとえ一度彼女の死を経験して、心のどこかが慣れていたとしても、すこしだけ前よりもドライな反応をしたとしても、やはり二度目の死というやつがタカヤの心の中で、どこか残り続けている。
 この心の矛盾────言い換えるなら、「痛み」。それを背負う戦士は、多くなくていいのだ……。
 だから、せめて仮面ライダーダブルが、仲間の二度目の死を経験することなく辿り着いて欲しいと、彼は願っていた。


★ ★ ★ ★ ★


「……ダグバか」

 ガドルの眼前に霧彦の次に現れたのは、ダグバであった。
 もともと知り合いであった二人であるがゆえ、堅苦しい会話で始まることはない。
 ただ、強いて言えばガドルには、やや堅苦しい様子はあったかもしれない。ダグバが目上であるのもの一因だが、もともとガドルは寡黙で両肩を角ばらせる性格だった。

「早速、ダグバを相手にすることになるとはな」

 ガドルはすこし構えるが、ダグバが戦闘を開始する様子はなかった。
 ガドルが急いているわりには、ダグバは緩慢だったのだろう。
 二人の強さには、大きな差がある。ダグバの科せられた制限がガドルより重く、二人のバランスは元の世界よりマシになっているが、それでも互角に近付いているとは言い難い。
 ゆえに、ダグバはここで戦う気は、無く、ただ言葉を投げかけた。

「ガドル。面白い相手と戦ったね」

「何?」

「一人の体に二人分の意思を持ったリントの戦士だよ」

 ガドルは、それが仮面ライダーダブルのことだと悟った。
 さほど強い相手とも思わなかったが、ダグバはどうして彼を指名したのだろう。
 ……おそらく、それはごくごく単純な理由だろう。「二人で一人」なのが面白いとか。強さを認めた節ではない。
 ただ、リント、グロンギのどんな相手とも当てはまらない敵だったのが楽しかったのだ。魔法、時間停止、”二心同体”……ここでの出来事に、ダグバは不思議な刺激を受けていた。
 殺すのも一向だが、それ以上に興味関心が強かった。実を少しだけ齧って、成熟を待っているようだった。

「そんなことはいい。早く俺と戦え、ダグバ」

「……ううん。もうすぐ、そいつがまたここに来る。だから、僕は勝った方と戦う。より強くなったガドルやクウガと戦いたい」

 ダグバは自信ありげにのけぞっているように見えた。ここに来る参加者のうち、誰よりも強い敵と戦うのをダグバは楽しみにしているのだろう。
 これこそ、まさにバトルロワイアルである。
 もともと、この時点でガドルにダグバと戦う資格はないはずだというのに、ダグバ直々にそれを与えられたというのは、ガドルにとっても好都合な条件である。
 この場だからこそ、ダグバもそんな特例を認めたのだろうか。
 ガドルにとって、損のない条件だった。

「…………面白い。ならば、待っていろ」

「うん。待ってるよ」

 ダグバは、そう言ってまた歩き出した。
 彼は、ともかく面白そうな相手は放っておいている。殺傷が楽しいのは確かだが、それは自分に近い存在ほど、より確かなものになった。

568Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:15:55 ID:vndGBEJI0

 人間に換算しよう。
 ダグバが人間を殺すのは、人間で言えば虫を殺すようなことに過ぎない。
 生命力が高いとされるゴキブリだって、人が新聞紙で叩けば死ぬ。骨や肉の感覚を感じさせることさえ無く、あまりにもあっさりと死体に変わる。
 ダグバにとって、人間を殺すのはそんなことと変わらないのだ。
 しかし、彼が行いたいのは、そんな味気ない殺傷ではない。
 猫、鳥、犬、熊、獅子……そんな骨のある連中と戦うことが、彼の楽しみだった。
 そういう戦いほど、印象に残るのだろう。自らの骨身にも沁みる。強い相手と戦う時ほど、生への実感が確かになる。
 だから、変身者の多いこのゲゲルで、まだ彼は成果を残していないのである。
 まだまだ成長が期待できる相手が、ダグバの中でも多すぎた。もっと時間を経て生き残っているような相手ほど、楽しんで殺しあえそうな気がした。

「……僕はここで見てるよ」

 ダグバは、不自然に一箇所にだけ散らばった灰を踏みながら、近くにあったベンチに座る。
 街中にある、ちょっとしたベンチだ。清涼飲料水のロゴマークが書かれている。
 そのダグバの態度を不愉快そうに見つめていたが、ダグバが笑顔で虚空を指差したので、ガドルはそちら側を見つめた。

「来たか、リントの戦士……」

 そこには、三人────いや、四人の挑戦者がいたのだ。

 ウルトラマンネクサス。
 魔法少女・佐倉杏子。
 仮面ライダーダブル。

 杏子とダブルは、知り合いであったため、既に向き合っていた。もう一人の銀色の怪人も気にはなったが、攻撃してくる様子もなかったし、杏子と一緒に来たように見えたので敵ではないと……ダブルは思った。

「……クソッ! 遅かったか!!!」

 それよりも、灰となった霧彦の姿に、彼らは落胆したようだった。その中から、霧彦の使用していたガイアメモリとガイアドライバーが見つかった。本来、これは壊してやるべきなのだろうが、翔太郎はそうしない。
 霧彦は、人として散ることを拒んだのだから、簡単にこれを壊してしまうのは彼への冒涜なのかもしれない。
 とにかく、その男は多くの人間に影響を与えた。その男に共感や友情を抱いていた彼らは、やがて共通の敵に目を向けた。
 黒きカブトムシの戦士────そう、敵は彼ひとり。

「だが、仇は取るぜ……フェイト、ユーノ。それに」

「あの街を愛したドーパント……」

「あいつらの思い、絶対に無駄にはしない」

「「さあ、お前の罪を数えろ!!」」

 その言葉は、いつになく寂しげに響いた。
 この場から友が二人も消えたこと。そして、霧彦の死を二度も感じなければならない痛み。

 そうだ。タカヤが感じていたのはこれなのだろう。
 ”慣れてしまうのが痛い”。


★ ★ ★ ★ ★


「ブレードォッ!! やっと見つけたぞ、随分と梃子摺らせてくれたな」

 と叫びながら現れたテッカマンランスの姿に、そのタワーのロビーで肩を休める二人は顔を上げる。テッカマンブレードは、そして京水はそちらを見ながら、最悪のタイミングで現れた敵の対処法を考えた。
 接近したのは、エビルでなくランスだったのだ。安心したような、期待して損したような不思議な気分である。少なくとも、京水のような仲間がいる場合は、長期戦の可能性のあるエビルとの遭遇は避けたかったが。

「……モロトフ!? 何の用だ!」

「フッ。エビルから伝言を頼まれて来たのだ。島の中央で待っている……とな!」

 困惑する京水をよそに、二人はにらみ合い、互いの言葉をぶつけ合う。
 しかし、ランスにとって最も不安だったのは、タカヤが怪我をしているらしいということだった。
 できるなら、ブレードとエビルの戦闘を見送って、後の戦いを楽にしたいと考えていたランスだ。エビルが一方的にブレードを叩きのめすような展開は好ましくない。

「シンヤと会ったのか……クッ。勿論、あいつとはすぐに決着をつける。……だが、その前に……俺は貴様と決着をつける!」

「愚かな。その姿で何ができる? 第一、今の私は貴様と戦おうという戦意はない」

「なら聞く。お前は何人殺した!? そして、何人殺すつもりだ!? 俺はその全ての命のために、もう一度貴様を消し去る、モロトフ!」

569Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:16:56 ID:vndGBEJI0

 ブレードは目の前のテッカマンランスを倒さねばならないことを考える。彼はまだ知らないが、ランスは先ほどまでタカヤや京水と行動していた東せつなを殺している。
 だが、両肩を怪我した今戦うのは非常に危険であった。第一、時間も少ない。
 そんな戦況を察してか、ランスはにやにやと笑っていた。仮にブレードがランスの力を上回ったとしても、これでは手を出す術があるまい。
 エビルを倒すには力不足だが、こうして目の前で刃を突きつけてこないのは優越感を感じさせた。

「タカヤちゃん、あれがモロトフちゃんね!? 会いたかったわっ! 素顔を見せてっ!」

 その矢先、京水がまたまた随分と空気を無視してランスの方へと走り寄っていく。筋肉質のオカマが駆けて来るのは、モロトフにとっても誤算だったのだろう。
 一瞬動きを止め、ギョッとしていた。ブレードも片手を伸ばして京水を制止しようとしたが、傷がうずくようだった。

「な、何だ貴様っ!!」

「モロトフちゃん、あなたの相手、私がしてあげるわっ!」

 不敵な笑みを浮かべ、京水はルナメモリを取り出す。
 目的だけはしっかりと頭に刻まれているらしい。今はモロトフを、仲間に引き入れるのではなく攻撃すべきなのだと。
 少なくとも、タカヤをシンヤと再会させるうえで何らかの障害になりうる可能性が高いと思ったのだろう。
 京水はモロトフが漁夫の利を狙っていることなど知る由もないから、タカヤの身を案じる上で、モロトフと戦うのは当然の判断だった。

「さ、タカヤちゃんはこの島の中央にさっさとイッちゃいなさい! モロトフちゃんは私とヤらせて!」

「な、なんだこの下品なオカマは……!」

「ムッキィィィッ!! 今のは駄目よっ! イッチバン言っちゃいけない言葉よ! 私のどこが下品!? 私のどこがオカマ!?」

「どう見ても、下品なオカマだぁっ!」

「あ。もう完ッ全に怒ったわ! もう容赦しないことに決めちゃった! 乙女の意地にかけて……あんた倒して、タカヤちゃんとシンヤちゃんの兄弟どんぶり、いただいちゃうんだからーッ!」

 京水がメモリを額に翳し、ルナ・ドーパントに変身した。
 ありえないほどに伸びきった手に、ランスは少し驚いたが、不気味な怪人を相手に小気味よく
笑っていた。
 これまでの敵と違い、素顔を晒さぬ相手だが、このテッカマンランスの相手ではない……と。

「キタキタキタァッ!! 本日二回目キマシタワーッ!!」

「そのうるさい口を黙らせてくれるっ!」

「さあ、タカヤちゃん行きなさい! そしてモロトフちゃん、あなたは太陽に代わっておしおきよ! おしおきの時間よ!」

 ブレードは、「だが……」と少し躊躇った後、京水の姿を見て、やはりすぐに駆け出した。
 島の中央という場所が決定している以上、京水はしっかりそちらに向かうだろう。
 不安はあるが、モロトフの相手をルナドーパントに任せて、タカヤは走る。
 ルナはその背中を見届けると、味方のいない一対一の戦闘に涎を垂らす。そういえば、ここに来てから味方がいない状態というのは久々だ。

「ルナ・ドーパント! タイマン張らせてもらうわーっ!!」

 ランスは我が目を疑った。
 そう言うルナドーパントの横には、先ほどまではいなかったはずの四体の怪人がいたのだ。
 これは、ルナメモリの能力によって現れたマスカレイド・ドーパントである。

「どこがタイマンだっ!!」


★ ★ ★ ★ ★

570Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:17:41 ID:vndGBEJI0



「デュァッ!」

 ダブルよりも、杏子よりも、真先に駆け出したのはネクサスだった。
 走り出すと同時に、その姿は銀色の”アンファンス”から、赤いラインの入った”ジュネッス”へと変身する。彼にとって都合の良い形態だった。
 ダブルが、それに遅れて銃を構えた。杏子も槍を構える。しかし、直接攻撃用の武器でありながら、後方でそっとネクサスの動きを待っていた。
 ガドルを掴み攻撃のチャンスを作ってくれるのを待っているのか、それとも吹き飛ばされるのを待っているのかはわからない。ただ、何かを待ちながら構えていた。

「フンッ」

 ネクサスの拳が、ガドルの掌に吸い寄せられるように掴まれた。
 ネクサスが殴りかかろうとした拳を見切り、手を翳した。たったそれだけの動作だった。スローモーションならば、ごく自然に見えるだろうが、ネクサスの拳の速度が風を切る音を鳴らすほどだっただけに、それは異様な光景だった。

(この調子では、ザギバスゲゲルは近いな)

 ベンチに座るダグバはこちらを見ている。混ざりたそうだった。
 しかし、冷静に自分を抑えて選別している。どいつが勝つのかを、おそらく勝手に賭けているのだろう。頭の中で、たった一人で。
 彼が動き出すときといえば、おそらくクウガが現れたときだろう。

「グァァァッ……」

 拳を握られたネクサスは辛そうだった。
 その拳を動かすことができないのである。開くことも、腕ごと引くことも、振りほどくことさえできない。左足がダグバの体を蹴るが、硬さが仇となり、手ごたえがなかった。
 それを見て、待っていた二人が一気に駆け出す。

 トリガーマグナムの銃口から、次々とガドルの体に光が当たる。ものともしない。
 杏子が槍を持って走り出す。が、ガドルはネクサスを盾にするように杏子の前へ差し出した。何もできない。

「ハッ」

 ガドルがネクサスの拳を離す。ネクサスの体から、緊張の糸がフッと切れてしまった。その直後、彼は自分の迂闊さを呪う。
 ガドルの右足から繰り出される何発もの蹴りがネクサスの腹を何度も突く。
 痛みを感じる前に次の痛みが来る。表面よりも、体内が傷むような攻撃だった。ネクサスは、鳴くような声とともに後方に吹き飛んだ。

「チッ……! やっぱり強すぎるな! いくぞ、兄ちゃん!」

 杏子の槍が伸びて、ガドルの体にポカポカと当たる。そう、まさに”ポカポカ”という感じだった。まるで子供の喧嘩に乱入した大人のように平然としていたからだ。
 また、逆方向からはメモリをチェンジしたダブル『ヒートメタル』が、接近して棒術を使う。
 少しだけ効くが、それでもガドルの体に「痛み」を作り上げるには足りなかった。
 ガドルは、一度これの「マキシマムドライブ」を受けているため、少しだけ注意をしたのだ。しかし、それは杞憂に過ぎなかったことを解して、ダブルの顔面に一撃浴びせる。

「痛ぇっ……! なんだか今日は殴られてばっかりだな」

「でも、さっきより痛くないだろう? 翔太郎」

「ああ、そうだな。あいつのパンチの方がよっぽど効いたぜ!」

 ダブルはまたメモリを変える。おそらく、ヒートメタルの効果は薄い。
 電撃系の技は無論効かないし、以前の戦いではマキシマムドライブも今ひとつだった。
 もし、ファングジョーカーやエクストリームになれたらもう少しまともな戦いができたかもしれない。隣に仮面ライダーアクセルがいれば、あるいは……。
 しかし、今はそんな力は全てがない。そんな状態で戦うしかない。

571Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:19:02 ID:vndGBEJI0

「……杏子! さっき戦ったとき、あいつに弱点らしい弱点はあったか!?」

 試しに杏子に訊いてみる。彼女は、翔太郎が倒れた後も戦い続けたのだから、少しはガドルとの戦闘経験も高いだろうと思ったのだ。

「いや」

 だが、杏子は首を横に振る。弱点らしい弱点は見つからなかったし、あれも交戦と呼ぶには薄かった。

「なら、色々試してみるしかなさそうだな」

「じゃあ、これでいこう」

「あいつの力か。……まあ、いいけど」

 翔太郎が次に変身したのはルナトリガー。黄色と青のダブルが、腕のリーチを何倍にも伸ばしてガドルの顔面にビンタをした。
 その常軌を逸した行動に、ガドル含む三人ほど驚いていたようだが、すぐに腕の軌道を見破られ弾かれる。

「……って、危ねえ!」

 杏子の頭上すれすれを、ルナの腕が振り回されていた。危うく、杏子もこれに当たって吹き飛ばされるところだっただろう。ダブルは「悪ぃ」と謝った後、腕を元に戻す。
 ダグバがベンチから笑いながら見ているのを察して、ダブルは大分頭を苛つかせた。
 ともかく、今は着実にガドルを倒しておきたいと思い、すぐに彼は次の行動に移る。

「杏子、ちょっと離れてろ」

「怪我するよ」

 二人が言った後、少し顔を顰めた杏子が後方に下がる。
 と、同時に杏子は槍をもう一本作り出した。更にダメージを与えるための強化の隙を見たのだろう。
 ガドルは憮然と立っている。不自然なまでに、一歩も動いていなかった。

『TRIGER MIXIMUM DRIVE』

「「トリガーフルバースト!!」」

 一方、ダブルは必殺技の名を叫び、トリガーマグナムから無数の弾丸を発する。
 多方向から銃撃してくる彼の攻撃に、ガドルの体は飲まれた。一体、この爆煙の中で彼は何をしているのだろう。
 やはり憮然と立っているのだろうか。────いや、それは些細な疑問ではない。
 これまでの戦闘を見た感じでは、やはりガドルはこの煙の中から立ったままこちらを睨んでいるのでないだろうか、と思ってしまう。

 その嫌な予感は見事的中した。
 ガドルは何事もなく、立っていた。ただ、立ったまま彼は「痛み」を感じていた。
 ガドルの体の、たった一箇所が少し赤く光った。

572Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:20:03 ID:vndGBEJI0

「フンッ」

 力を込めると、彼はその光を振り払ってみせた。些細なものだったので、簡単に我慢できる。
 ただ、その位置は感慨深いものがあった。霧彦が斬撃で傷をつけた箇所だったからだ。
 なるほど、彼の一撃は確かに届いていたわけだ。それが、今回のマキシマムドライブで再び現れた。それだけのことだった。

「……杏子ちゃん、翔太郎! 右の脇腹だ! そこを狙うんだ!!」

 その小さな反応に、フィリップだけは気づいた。
 ガドルの右脇腹を照らす小さな光……通常なら見逃すようなものだったし、煙で見えにくかったのだが、彼だけは冷静に弱点を分析しようとしていたため、それに気づき、叫んだのだ。
 それを聞き、ガドルは少し身構えた。

(なるほど。気づいたか)

 面白いと思った。戦闘の中で、最も気をつけるべきは敵の様子だ。
 それを、フィリップはしっかりと分析しており、ガドル本人が気づかれぬように吹き飛ばしたこの痛みにさえ気づいたのだ。
 なるほど、複数が同じ体の中に同居しているというのは、こういう面白味もあるのだ。ダグバが面白いと言うのもわかる。

「ガグガザバ(さすがだな)」

「ハッ。何言ってるかわかんねえぜ、なあフィリップ」

 翔太郎はいつものように少し挑発的な態度をとりながらトリガーに手をかけ戦闘を始める。
 精神面で自分のペースに乗せようと思ったのだろうが、ガドルはそう甘いタイプではない。
 ガドルは一歩前に出ると、敵の銃撃を再び浴びる。だが、その狙いは左脇腹に集中していた。

「ボシャブバ(こしゃくな)」

 その攻撃を、ガドルはその左手を以って跳ね返す。
 剛健な体には無意味な攻撃と言えるだろう。
 だが、そうしてガドルも余裕な態度を取っている中で、そういえばもう一人銀色の敵がいたのだということを思い出す。
 いや、先ほどから薄々とその存在の有無を考えてはいたのだが、気に留めなかったのだ。
 相手にするほど強くもない。逃げたのだろう。と。
 しかし、────

 戦闘の興奮を感じ始めていたガドルに、不意に何かとてつもない危機感が過ぎった。
 ぞくっ、と背筋が凍ったのである。今の一瞬で何かを予感した。
 果たして、それが何であるかはガドルにもわからない。
 ただ、着実に何か自分の体を狙うエネルギーがあることをガドルは直感した。

「ハァッ!!」

 その予感の正体が、直後にガドルの体にダメージとして襲い掛かった。
 ガドルの左脇腹に、ボードレイ・フェザーの連発が命中する。
 後方で、ネクサスは機を狙っていたのである。ダグバは気づいていたが、言わなかった。
 ただ、その一瞬の気の緩みでその攻撃の直撃を受けたガドルを、少し笑っていた。

「何──ッ!?」

 何が意外だったかというと、一撃一撃がガドルの想定外のエネルギー量だったことろう。先ほどのパンチがガドルにとって堪えるものでなかったのに対し、この光刃は確かにガドルの弱点を蝕む攻撃だった。
 ありえない。
 あれほど骨の無いと感じた相手だったのに。
 ガドルの体の、ただ一箇所だけは明らかに不思議な光を見せていた。
 そこは、先ほどから何度も話題に上がっているガドルの弱点だった。

573Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:21:01 ID:vndGBEJI0

 ネクサスから放たれた光刃が消える。
 果たして、これでガドルを倒したとして、ダグバを相手できるのだろうか。
 その光が消えた先を見ると、ガドルは立っていた。ただ、憮然と立っているというよりは、脇腹を抑えて、体中の力が抜けたように前かがみに立っていた。
 辛うじて、立っていられる状態というところだろうか。

「……行くぜ、フィリップ、杏子、それに銀色の巨人。あいつをブッ倒すチャンスだ」

「巨人? 僕には、全然大きくは見えないけど」

「……確かにそうだな。だが、なんつーか、なんとなく巨人っぽい、みたいな」

 なんとなくだが、なんだか等身大とは思えない仲間だった。ビルの群れの下に、人のいる街の中にいるのが違和感のある戦士だったのだ。
 翔太郎の知る仮面ライダーともドーパントとも違う戦士に、呼称はあるのだろうか。
 少し考えた後、やはりこれからも適当に名前を呼ぶしかないだろうと彼は結論づけた。それより、ガドルと戦うのが優先だ。
 とにかく、ここからガドルを相手に希望を見出し始めた四人の戦いが始まった。


★ ★ ★ ★ ★


「くね〜くねくねくね〜くね〜♪」

 ランスが槍でマスカレイドを突こうとすると、今度は伸びた両腕が絡みついてくる。
 不思議な戦い方をするルナドーパントに翻弄されつつも、純粋に敵に勝つ方法をランスは探っていた。
 本体はルナなのはわかっているのに、ルナを突こうとしても軟体に避けられる。
 まるで、幻と戦っているような手ごたえのない戦いだった。ただ、苛立ちだけがランスの中で溜まっていく。

「おのれ……っ!」

 ランスは肉弾戦を諦め、強行的に肩のエネルギーを蓄える。
 ボルテッカで一掃する準備に取り掛かっているのだ。この戦法は一体一体倒すのが面倒なランスにとっては、非常に手っ取り早い手段である。

「いくら数を増やそうと、ボルテッカを使えばひとたまりも……!! 喰らえ、ボル・「ボル・テッカァァァァ!!」──何ぃぃぃぃっ!?」

 しかし、そんなランスの真横から、焦土を作りかねない一撃が発される。
 ボルテッカを放とうとして隙が出来たランスの体に、どういうわけかボルテッカが発されたのである。
 ルナドーパントも爆風に耐えていた。マスカレイドも巻き込み、周囲の景色は色を失っていく。
 一瞬の出来事に戸惑うランスの体は、すぐに膨大な痛覚の働きとともに、後方に吹き飛んだ。

574Nのステージ/罪─ギルティ─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:22:11 ID:vndGBEJI0

 そして、地に落ちる瞬間に気づいた。
 これは因縁のブレードのボルテッカだ。かつて、私自身を葬った──

 

「タカヤちゃん!?」



 力なく体を下ろしたテッカマンブレードの姿に、京水は思わず歓喜した。
 彼が帰ってきたのである。
 おそらく、因縁のエビルと会うこともなく。

「京水。お前の言ったとおり、仲間同士は仁義を果たすものだ!」

 ただ、その言葉がタカヤの中で引っ掛かっていたのである。
 ランスは確かに強い。だから、京水が単独で勝てる相手とは思えなかった。
 仲間として、振り返って助けに来るのは当然だった。

「流石タカヤちゃん、いい事言うわ!」

「これはお前の台詞だ!!」

「残念。花も恥らう乙女はそんな事言いませーん!!」

「なら安心しろ。お前はどこからどう見ても立派な男だ」

 そんなやり取りの最中、眼前でランスが立ち上がろうとしていた。
 助けに来たとはいえ、まずい。
 もう時間がないし、第一、これだけの高層建造物の中でボルテッカを乱発し合えば、崩れ去り周囲に余計な被害を与える可能性も高いだろう。
 今の一撃も、肩部のダメージ残留も一つの原因であるが、かなり威力を加減した部類にある。

「……もういい。行くぞ、京水!」

「え!? 逃げちゃうの!?」

「ああ。まともに戦闘すれば体力と時間の無駄にしかならない」

「……恋の逃避行ね♪」

 タカヤは京水を無視して、ランスが立ち上がる前に走り出した。ランスの追尾を考えて、かなり焦っているように見えた。
 だが、彼らの考えとは異なり、ランスはそれを積極的に追おうとはしなかった。
 彼らの行く先はエビルのもとで確定している。
 わざわざブラスター化の虞のある相手を深追いするべきではない。……あのオカマだけならばまだしも、ブレードを相手にするわけにもいくまい。

「……ともかく、私の仕事は終わったわけか」

 これからどうすべきか。
 無論、優勝のために動くに決まっている。
 そのために、ランスはとりあえず、──

(ブレードの気配の方に向かってみるか。とにかく今は奴を追い、エビルとの戦いで勝ち残った方……そいつを早い段階で倒しておいたほうがいい)

 結局、少し遅れる形でタカヤと京水を追うことに決めた。
 あまり気配を察されるのも困り者であるため、今はとりあえず歩いて向かおうとしている。
 奴等の戦いを見届けるつもりはない。とにかく、勝者をしとめることだけは考えているというだけだった。


 こうして、京水、タカヤ、モロトフは街を外れる形になっていった。

575Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:23:13 ID:vndGBEJI0

 ガドルは左脇腹に抱えた痛みを、数秒に一度吹き飛ばしていた。
 まるで麻薬のように痛みが消えていくが、また数秒で痛みは舞い戻ってくる。
 その繰り返しを、戦いの中で行っていた。

 特に、ネクサスの攻撃は強力だった。
 手刀を繰り出し、三日月型の光刃でガドルの体を切り裂こうとする。
 ガドルはそれを跳ね返すが、パンチ、キックと、当初とは全く違う勢いで攻撃を続ける。
 この戦士との戦いが最も面白かった。

「ヘァッ!」

 他の戦士のように、戦いながら余計な口を挟むこともない。
 それはあの霧彦の、最も不愉快な部分だった。……ただ、同時に物足りなさも感じる。
 彼のような熱意を、今ひとつ感じることができないのだ。戦いに対する情熱は、拳や足で説いてくる。
 しかし、そこから感じる感覚は、おそらくガドルには理解できない感情が込められており、彼にとっても愉快なものではなかったのだ。

 だが、不可解なのはこの理解できない言葉──グロンギの言葉でもリントの言葉でもない、ただの動物の鳴き声と大差ないこの一言に、感情が込められている気がした。
 何かを誰かに訴えかけようとしている。
 仲間か。後ろにいる戦士たちへ、か。それとも霧彦のように見知らぬ誰かへの言葉か。

 ガドルは、数歩後退した。
 そんなところに、ダブルと杏子が二人で飛びかかってきた。
 ガドルは、この崇高な戦いを二人に侮辱されたような気分で、その剛力を以って、二人をそれぞれ端へと跳ね返す。


 ──逃げろ──


 当のネクサスは、ダブルと杏子にそう訴えたかったのである。
 こうして戦うとき、支えてくれる仲間は必要だ。それは知っている。
 だが、巻き込みたくない思いも、姫矢には確かにある。
 姫矢をこれまで支配してきた思いだった。

 セラを巻き込んでしまったときから、ずっとそうだった。

 あの時の姫矢は、自分の正義感で、戦場に向かいカメラを向け続けていた。
 死んでいく人々を見てもカメラに手をあてたまま、その手で誰かを助けようとは思わなかった。
 戦場でのストレスで、人間らしい思いが少しくらい欠けていたのかもしれない。
 僅かなその人間らしい思いは全てセラに対して注がれていた。
 そのセラを、あの時、自分の行動が原因で死なせてしまった────。

 皮肉にも、姫矢准はその瞬間に撮った写真で、賞を取ってしまったのである。
 何故助けなかったんだ、という批判の声も少しは世界から沸いた。その弾圧による苦しみが、辛うじて姫矢を保っていたのかもしれない。
 もし、手放しに褒められ続けたならば、姫矢は世間の評価と自分自身とのギャップに苦しめられ続けただろう。自分は、そんな人間じゃない──と。
 そして、誰も自分を正しく認識してくれない孤独や、過大評価によるストレスが彼をひたすらに苦しめ続けた。
 ただ、セラの時に感じ続けた罪の意識から、姫矢はウルトラマンとして人々を守り続けた。
 人を守り続けた末に、いつか死ねことで、自分の贖罪は完遂されるのだと、ずっと思っていた。


 ──何故か、不思議と、そんな自分が重なる相手が此処にはいた。


 赤い髪、赤い衣装の、まるで男のような言葉遣いの少女である。
 何故か、彼女の瞳には、自分自身と似た孤独を感じたのだった。
 それに、彼女も「罪」という言葉に異常な反応を示していた。
 だから、姫矢は彼女が逃げ去ってくれることを望んだ。

576Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:24:28 ID:vndGBEJI0

 この場にいる中で、誰かが敗北を喫して死ぬというのなら、それは杏子だろう。
 ダブルは戦略面にも特化しているゆえ、辛うじて生き残る目もある。だが、このまま混戦すれば杏子はおそらく救われることはない。
 ダブルと杏子には極力逃げて欲しかったのだ。
 そんな姫矢の思いは届かない。


「ガドル……本当に楽しそうだね。このままだと、ガドルの負けもあるかもね」


 ダグバは、その混戦を見て、いてもたってもいられなくなったのか。
 やはりベンチから、立ち上がった。戦うも戦わないも、彼の気まぐれだった。
 ガドルとこれだけ遣り合える相手たちならば、やはり随分楽しめる相手なのだな、とダグバは思ったのだ。
 これだけの時間待たされるとは、ダグバも思わなかったのだ。

「それに、このままだと退屈かな……混ざるよ、ガドル」

「この戦士には手を出すな。あとは好きにしろ」

 ガドルはネクサスに向かって走っていった。
 ダブルも杏子も、このネクサスに比べれば全く相手にならない。
 しかし、座り続けることに飽きたダグバは、それでも充分なようだった。それに、ダグバはダブルを面白い相手だと思っていたのだ。

 だが、ダブルと戦うには一人、邪魔者がいる。
 あの赤い少女──杏子だ。
 この子とダブルは知り合いらしいが、もしこの子がダグバの手で死ねばダブルはどうなるだろう。
 もっと強くなる? どうやら、その目があるようだ。
 くすっ、とダグバは笑った。

「いいよ、ガドル。僕は──」

 杏子に向かって、白と金の戦士へと変身したダグバが走り出す。
 カブトムシとクワガタ。二人の相対すべき脅威が、同時に三人を襲う形になった。
 ダブルは、一瞬防護のために警戒する。
 しかし、ダグバは杏子の方へと走り出した。

「いきなり私が相手かよっ!」

 額に汗を浮かべながら、向かい来るダグバに警戒して杏子は槍を構える。
 しかし、それはダグバを前にはあまりに遅い行動だった。
 ダグバは杏子の顔面に拳をたたきつけ、杏子の体をあっさり後方へ吹き飛ばしてしまう。
 杏子は、その一瞬の出来事に、何が起こったのか理解できなかった。まるで、いま杏子の意識はダグバに殴られたあの場所にあって、体だけが宙を舞っているような……不思議な感覚に陥る。
 更に、その空中の杏子を追尾したダグバが、無数の拳を杏子の体中に叩き込んだ。
 杏子が空中で再び飛んでいく前に、何度も何度も。

577Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:26:03 ID:vndGBEJI0

「あが、ぁっ!!」

 そして、杏子が地面に落ちる。
 ダブルやネクサスも反応できないほどの、一瞬の出来事だった。

「……おいっ! お前の相手はこっちだ! マッチョメン!」

「ふふふ……」

 ダグバはダブルの言葉を無視する。
 ダブルの相手をするのは、もっと後でいい。
 まずは杏子を殺して、ダブルが強くなるのを待ちたいのだ。

「君は僕を笑顔にしてくれなくてもいいよ」

 杏子は、迫ってくるダグバに怯えた。
 ただ、全身も動かないし、迫り来るダグバに繰り出せる術もなさそうに思えた。
 槍を杖代わりに立ち上がることさえ、難しい。
 安らかさなどなく、ただ回避できそうにない苦痛の未来に怯えて、体を奮わせた。

「君は餌みたいなものだから」

 ダグバが、地中に向けて再び拳を振るおうとした。
 このまま喰らえば、後方に吹き飛ぶ余地もなく、拳とアスファルトに挟まれて顔を潰すだろう。
 視覚機能や、嗅覚機能も奪い、歯を折り、顔を醜いものに変える。
 その恐ろしい未来が、影を帯びて近付いてきた。
 杏子は、すぐに目を瞑り、せめてその恐怖を、いつ来るともわからない薄い恐怖にしようとした。

「杏子ぉっ!!」

 ダブルの声が聞こえた。
 彼は杏子を助けるために走り出していたのである。
 彼の行動は当然だった。ダグバへの恐怖も当然のように感じていたが、それを抑え、仮面ライダーとしての使命を胸に抱きながら。
 しかし、一歩遅かった。
 杏子の顔が潰されたわけではない。

 そんなダブルの真横を、銀色の光が抜かしていったのだ。

「────デュァァッ!!」

 ダグバの体を、ネクサスが真横に突き飛ばす。
 ネクサスに戦線を離脱されて棒立ちするガドルが、ネクサスのように杏子を助けようとしたが一歩遅れていたダブルが、その様子を眺めていた。
 杏子は、ようやく目を開け、自らの真上に銀色の戦士が立っていることに気がついた。

「……ぁ……」

 助けてくれたのか、といいたかったが、声が出ない。
 声の出し方を一瞬忘れるくらいの恐怖だったのか。
 ネクサスは、ただ、杏子に向けて首を縦に振る動作をした。その様子に、杏子は少し安心して正気を取り戻した。

578Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:27:11 ID:vndGBEJI0

「邪魔が入ったね」

 ダグバはすぐに、ネクサスの方に向けて歩き出した。
 杏子の殺害を邪魔した事に対する怒りはない。一人殺すことにそこまで強い執着はない。
 あるとすれば、それは強い者を殺そうとしたときの場合だ。
 ただ、まだ杏子を殺すことを諦めてはいない。ダブルを強くする為にも。

「ガドル。やっぱり僕もこいつと戦うよ」

 ダグバは、ネクサスの首を掴んだ。
 杏子の上で、二人の強き戦士が戦い合っている。
 杏子は、身動きも取れないような状態になった。ネクサスも、そこを避けたかったが、身動きが取れない。

「ハァッ!」

 ネクサスの体を吹き飛ばすと、ダグバはすぐにその体に向けて掌を翳した。
 ネクサスの頭部が炎に包まれる。
 そんなネクサスの体に、ダグバは容赦なく、何度も何度も、殴り、蹴る。

「あんたの相手は、私だろっ!!」

 杏子は、その後ろで立ち上がり、ダグバの体に後ろから槍を突き刺そうとした。
 しかし、その攻撃もダグバの右手に弾かれた。ダグバは、杏子の方を見向きもしなかった。
 彼は、杏子に最早興味がなかった。

「その戦士の相手は俺だ、ダグバ」

 ガドルも怒りを燃やした。
 ネクサスは自分の相手だったはずだ。それを、横取りする形でダグバは殴っている。
 それも、戦いというより一方的に攻撃するだけだった。
 攻撃を受ける暇もない。戦いというより、ただの虐殺だ。

「助けるぜ」

 ダブルもそこへ割って入ろうとする。
 ダグバは別にネクサスに執着しているわけではないから、手放すのはかなりあっさりだった。
 すぐに、ネクサスの体を地面に向けてたたきつける。
 それは、ガドルに明け渡すような意味合いだった。

 ネクサスは地面をもがいた。
 ガドルの無事とは対照的に、ネクサスの体は弱っていた。
 それを見て、ガドルの興は一気にそがれる。
 この場で最も戦いたかった相手は、ダグバの邪魔によって弱ってしまったのだ。

579Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:29:17 ID:vndGBEJI0

「余計な事をしてくれたな、ダグバ! 興が失せた」

 ガドルは変身を解き、軍人風の屈強な男に姿を戻した。
 そして、先ほどまでの戦闘意欲を忘れて、彼はその場の全てを冷めた目で見つめるようになってしまった。
 ネクサスの相手をすることも、ダブルの相手をすることも、杏子の相手をすることも、どうでもよくなってしまったのだ。
 結局、ここから先はダグバの独壇場。ガドルは引き際を見極め、ここから去っていく。

「……あいつ……っ!! クソ……っ!!」

「翔太郎。今は杏子ちゃんと銀色の戦士を助けよう」

「ああ、わかってる……!!」

 霧彦、フェイト、ユーノの仇であるあの男を倒したかったが、それよりもダグバの相手をしなければならない。
 杏子やあの銀色の戦士のように、傷ついた仲間がいるのなら、それを助けるのを優先する。
 それが、あの京水のいった「仁義」だ。

「おらぁっ!!」

 ダブルは、杏子に襲いかかろうというダグバに立ち向う。
 しかし、相手にもされず、一払いで地面に投げられてしまう。
 これまで戦ってきたどんなドーパントよりも強いのではないか、という相手だった。
 仮面ライダーエターナルに匹敵する……あるいは、それ以上の相手だ。ガドルさえそのレベルだったが、ダグバはその上を行くようだ。
 それも、ファングもエクストリームもなしというのは少しきつい。

「ねえ、もっと僕を笑顔にしてよ……」

 そういいながら、杏子の体に向けてダグバは片手を翳した。
 あれは、ネクサスの体を燃やした技である。
 ネクサスは、すぐに、ダグバの手を目がけて、片手で軽い光線を放った。
 ダグバの掌の向き先が変わり、アスファルトが小さく燃える。燃えるというより、一箇所だけ熱く光ったというところだろうか。

 ダグバがネクサスの方を向いた。
 ネクサスは、少しだけ戦うのを躊躇った。
 これ以上戦っても、やはりダグバは杏子とダブルを狙うだろう。
 このままでは埒が明かない。
 戦いは際限なく続いてしまう。

「デェァッ!!」


 ──しかし、それでも、戦うしかない。


 護るための戦いは、姫矢の中で続いている。
 たくさんの人を護るために。
 幸いにも、敵は一人になった。まだ勝機はある。
 ウルトラマンネクサスは、このゲームで、希望を失わない人々の仇となる相手を倒す為ならば、その命さえ惜しまない。

580Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:32:16 ID:vndGBEJI0

 ネクサスは、ダグバに向かって走り出した。
 その体を抱きつけるように飛びかかる。
 ダグバは鬱陶しく思っているようだったが、すぐに杏子を手放してネクサスに意識を集中させた。
 杏子は、首元から、嘔吐でもするかのような声を上げて咳き込んだ。
 しかし、生きているのならば安心である。


 ──この光を継ぐ者が、生きていく意思を掴んでいくのなら、俺はこの少女に……俺と同じように何かの原因で自責し続けるこの少女に──


「ハァッ」


 ネクサスは、ダグバの顔面にパンチを繰り出した。
 ダグバの体は大きく後ろへ吹き飛んだ。
 そして、その隙に彼は両腕を伸ばし、クロスし、体中のエネルギーを腕の先に集中させる。
 エネルギーといっても、残りは僅かな量に過ぎない。倒せるかどうかはわからないし、ダメージを負いすぎた現状、使えば命さえも吸ってしまいかねない。


 ──光を託す!──


 ダグバもすぐに歩き出す。そして、更にそのすぐ後に走り出す。

 あと十歩、
 光線が放出できるネルギーを溜めるまで、あと五秒はかかりそうだというのに。

 あと七歩、
 金色の鞭と、青い弾丸が、ダグバの走行を邪魔した。
 ネクサスの右横で、仮面ライダーダブル・ルナトリガーが全力でダグバの攻撃を邪魔していたのだ。左右の特性を使い、ダグバがこちらへ来るのをひたすら防ぐ。
 確かに前へ前へと進んではいるが、ネクサスの邪魔ができそうな様子ではなかった。

「お前のことは全くわからなかったが、強くて悪いやつじゃねえ……ってことだけはわかったんだ、協力してやる」

「僕たちが少しだけ時間を稼ぐよ、その間にパワーを溜めるといい、銀色の巨人。……なんだか、僕にも君が大きく見えてね」

 そうこういわれているうちに、ダグバが、ネクサスの手の届きそうなところまで近付いた──

 ──……だが、もう遅い!!──

 ダグバの前で、ネクサスの手が今度はL字に組まれていた。
 ダグバは邪魔をしようとしていたにも関わらず、ネクサスが必殺を使おうとしていたらしいことに気づいて興奮した。


「その技なら、僕を笑顔にできるかな?」


 オーバレイ・シュトローム────それは、今の彼の成せる最大の必殺技であった。
 そのLから発される光を見た瞬間、ダグバの体は膨大なエネルギーに包まれた。
 立っていることさえままならず、己の体の形さえ認識できないような、ただ思考だけがあるような感覚。
 全身の力が抜け、視界が真っ白になり、腕も足も動かない。感覚らしい感覚が抜け、意識だけが転がっていた。
 彼の顔は笑っていたし、気分も高揚していたが、顔の筋肉がどのように動いているかも認識できなかった。
 ダグバの体が、光の中に消えていき、その場所から消えていった。


「──おい、どうしたんだ……私たちが勝ったのか?」


 ──オーバレイ・シュトロームの光が消えたとき、そこにはン・ダグバ・ゼバも、ウルトラマンネクサスもいなかった。
 しかし、減った人間もいれば、増えた人間がいる。
 変身に必要な……或いは、生命の維持に必要なエネルギーを失った姫矢准という男が、空を見上げて寝転んでいた。
 その手には、エボルトラスターが握られているが、変身できることを示す光がなかった。

581Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:33:04 ID:vndGBEJI0

「……逃げろ。きっと、まだ敵が来る」

 自分の顔を覗きこむ仮面ライダーダブルと佐倉杏子に、姫矢准はそう言った。
 ダグバが倒れたかどうかわからない。
 しかし、ダグバが倒れようが倒れまいが関係はない。
 おそらく、これだけの騒ぎをすれば、それに乗じてあの男──血祭ドウコクがやってくる。
 そいつから逃げてくれと、姫矢は思っていた。

「あんただったのかよ……すげえ強かったんだな」

 杏子が言う。
 しかし、姫矢は笑えてきた。
 その強さを継ぐ人間として、姫矢は彼女を選んだのだ。
 彼女はそれを知らないし、姫矢の名前さえ知らない。姫矢だって、彼女の名前を知らない。
 彼女の瞳や仕草から何かを感じ、この力を使って欲しい人間として選んだだけだ。

 この運命は、ダークザギとて読めなかった。
 ダークザギの予言では、サード・デュナミストとなるのは、千樹憐という少年だったはずなのである。
 姫矢は、海辺で出会った少年を無意識のうちにデュナミストに選択するはずだった。
 しかし、彼は今、本来出会うはずのない相手と出会い、サード・デュナミストに選択した。運命さえ覆した、主催者の魔力である。

「……おい、あんたの名前聞いてないぜ。……おっと、俺も言ってなかったな。俺は左翔太郎」

「僕はフィリップだ。しばらく姿を見せることはできないけど、ダブルに変身した時だけよろしく」

「私は、佐倉杏子」

 なるほど、杏子というのか。
 姫矢は、こんな若い(というより幼い)相手に光を継げるのか疑問に思ったが、やはり彼女が次のウルトラマンに相応しいと感じた。
 彼女がこれから、孤門や凪、石堀といったナイトレイダーの面々と出会えれば心強いだろう。
 彼らならば、きっと新たなウルトラマンを支えてくれる。
 特に、孤門ならば……。

「俺の名前なんかどうでもいい……とにかく逃げろ……」

 ただ、姫矢はこの戦友たちを逃がさねばならない。
 ドウコクはきっと来る。
 その時、姫矢は間違いなく殺されるだろう。持ち場と言える場所にいないのだから。
 第一、ドウコクは姫矢を使うために行動していた。使いようのなくなった姫矢は殺されるに違いない。

「逃げるったって、あんた……」

「翔太郎、杏子ちゃん。確かにこの人の言うとおりだ。この人を連れて逃げた方がいい。あの放送に加え、この騒ぎだ。別の参加者が来るかもしれない。
 ダグバだって、死体が確認できるわけでもないし……いや、僕も彼は死んだと思うけど」

 翔太郎は、来た敵を倒すことも考えたが、姫矢の状態を見てそれは無理と判断する。
 少なくとも、姫矢がいる状態では仮面ライダーも戦えまい。
 ここは、誰とも遭遇しない場所へ向かって逃げるべきだ。

582Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:35:07 ID:vndGBEJI0

「左、フィリップ、杏子……俺もすぐに行く……先に行ってくれ」

 姫矢は天を仰ぎながら、二人に言った。
 しかし、ダブルは行こうとしない。姫矢を背負おうとしていた。
 だが、そんな事をすれば移動速度が減少するのは明白。その後も、おそらく体の回復は乏しく、彼や彼女の足かせとなってしまう可能性が高い。
 それに、このまましばらくすれば姫矢は「ウルトラマン」ではなくなってしまうのだ。

「放っておけるか!」

 ダブルの言葉に、姫矢は嘘をつく。

「動けないのは変身後の副作用だ。数分で治る。俺を待たずに、なるべく早く行った方がいい……俺もすぐに行く。心配することはない」

「…………どうする? 翔太郎」

「……おい、えーっと」

「姫矢准、だ」

 先ほどはどうでもいいと言ったが、会話に余計な時間がかかるのなら名乗ったほうが便利だ。
 とはいえ、すぐに逃がすつもりだった。

「姫矢。俺はお前信じるからな。俺たちは真っ直ぐ向こうに行く」

「そうだな……突き当たりで落ち合おう」

「ああ」

 ダブルが走って去っていく。
 姫矢がそれを見て安心していると、杏子がこちらを見た。
 彼女はまだ逃げていないらしい。

「なあ、あのダグバっていう奴は倒せたのか?」

「……いや、おそらく」

「そうか。……また私と一緒にあいつを倒してくれよ」

「ああ。それより、もし君がこの先で何か不思議な力を授かったら、孤門という男に会うといい。そいつが協力してくれる」

「わかった。でも、すぐに来てくれるんだよな」

「ああ……すぐに行く」

 杏子が去っていく。
 この全身から失われていく力が、変身の副作用によるものだということは嘘だ。
 必殺技のエネルギーのために、全てを犠牲にした……その結果に過ぎない。
 ゆえに、これは自業自得。

 姫矢の顔を、今度は異形の怪物が見つめる。
 まるで血でも浴びたかのように真っ赤な怪人だった。ビーストではない。
 彼は、そう……外道だ。

「……あいつらを逃がしたのか? 姫矢」

「……」

「そうか。それはご苦労なこった」

583Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:36:08 ID:vndGBEJI0

 血祭ドウコクの表情は恐ろしい。
 先ほどまで、二人の戦士が姫矢の表情を不安げに見つめていたが、ドウコクは一片の不安さえ見当たらない。
 首につけた金属を外す事だけを、彼は考えているのだろう。

「……姫矢。俺はお前に荷物番を任せたはずだが?」

「……」

「荷物番もできねえような奴は、仲間とは呼べねえよ」

 ドウコクは、降竜蓋世刀を姫矢の首元にくっつけた。
 彼らしい、古風な殺し方。斬首だ。
 その目的は、ただ単純に彼がそういう乱世と縁があるからではない。
 この場においては、首輪を得るためだ。

「一つだけ条件付で生かしてやってもいいぜ」

「何?」

「今お前が逃がした奴等を、お前の手で殺せ。さあ、どうする? 姫矢?」

「……御免だ」

 姫矢が即答すると、ドウコクの刀で、一切の容赦なく、姫矢の首が、切り裂かれた。
 彼の右手にはもう、エボルトラスターという変身道具はなく、ウルトラマンとはもう関係のないただの男性でしかなかった。
 何も知らずに、杏子と翔太郎が、今も向こうへ走っている。
 ドウコクは、そちらを少しだけ見た。

「……この首輪が手に入っただけ、お前は役に立ったな。まあ、今回はこれで勘弁してやる」

 ドウコクは二人を追うのはやめることにした。
 もっと別の場所に行き、市街地内で適当な相手を見つけたい。
 あとは首輪解除に役立たなそうな人間を探すなり、シンケンジャーらを殺すなり、自由だ。
 ドウコクはまた、一人で適当に市街地を歩き始めた。




【姫矢准@ウルトラマンネクサス 死亡】




【1日目/昼前】
【H-7/市街地】

【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:健康、少し苛立ち
[装備]:降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:姫矢の首輪
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:崩れ落ちた建物(H−8エリア)の方に向かう。
1:首輪を解除できる人間やシンケンジャーを捜す
2:昇竜抜山刀を持ってるヤツを見つけ出し、殺して取り返す
3:シンケンジャーを殺す
4:加頭を殺す
5:アクマロも殺す
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※ザルバが意思を持っていることに気づいていません。
※ブラストショットは姫矢の支給品だと思っています。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※支給品を姫矢に預けました。



★ ★ ★ ★ ★

584Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:36:53 ID:vndGBEJI0


「ふふふ…………ははは…………」

 ダグバは、人間の体に戻って笑っていた。
 その体はボロボロとは無縁。しかし、傷も浅くはない。少しだけ体の節々、その内部が傷む程度だろうか。少なくとも、戦闘不能のレベルではなかった。
 ダグバは建物に背をもたれて、ゆっくりと重い腰を上げる。

「本当に面白いね、このゲゲル」

 変身能力者の祭典。
 クウガやガドル、ゴオマやダグバのような戦士など、この場では珍しくもない。グロンギの社会からリントの社会に出て、力を取り戻すまでしばらくダグバは弱いリントを見てきた。
 しかし、変身能力を得たリントは、ダグバを楽しませるに充分な力を持っているのだ。
 グロンギの頂点であったダグバも、十二分楽しめる戦いだった。

「……」

 さて、タワー襲撃、ガドル放送と続いて、この付近の参加者はある程度密集しただろう。
 ただ、川を越えた向こう側にもまだ街はある。
 ガドルの放送はそちらには届いていないだろうし、向こうに行くのも悪くない。

「……クウガ、今度こそ君に会えるかな?」



【1日目/昼前】
【H-8/市街地】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]: 全身に中程度のダメージ
[装備]:クモジャキーの剣@ハートキャッチプリキュア!、T−2ガイアメモリ(ナスカ)@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×2(食料と水は3人分)、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(ほむら1〜2(武器ではない))
[思考]
基本:この状況を楽しむ。
0:警察署側に向かう。
1:市街地を適当に歩いて、リント達を探す。
2:強い変身能力者たちに期待
[備考]
※参戦時期はクウガアルティメットフォームとの戦闘前です
※発火能力の威力は下がっています。少なくとも一撃で人間を焼き尽くすほどの威力はありません。


★ ★ ★ ★ ★


 杏子の脳裏に、不意に不思議なイメージが沸いた。
 不思議な遺跡がある。
 二つの篝火と、棺桶のような石がある。
 しかし、そこには死を連想させる不快さはなく、不思議と安らかな気分になった。
 心を落ち着かせるような、透き通った音楽も聞こえた。

「ここは……」

 気がつけば、先ほど見た戦士が、杏子を見ていた。
 それはまさしく巨人。杏子は、何もない空間に浮いていて、その巨大な戦士が杏子を巨大な顔で見つめている。

「なあ、あの兄ちゃんはどうしたんだ?」

 杏子の問いかけに、その戦士は寂しげに首を振った。
 杏子は俯いて、その答えを受け入れるのを躊躇った。
 結局、ダブルや杏子は彼を見捨てて逃げてしまったことになる。助ける余地はいくらでもあったはずなのに。
 父、母、妹、マミ、フェイト、ユーノ、せつな……あらゆる人を喪った挙句に、またこうして失敗を繰り返してしまうのだろうか。
 ならば、杏子という人間が生きている意味はどこにあるのか。

「これが、あの兄ちゃんの言ってた不思議な力ってやつか……あの兄ちゃんは、全部わかったうえで……」

 おそらく、「変身の副作用」で死んでしまうのだろうと、杏子は思った。
 姫矢の様子から察すると、そういう結果になる。何せ、杏子たちが離れてからそう時間が経っていないのに、彼は死んだのだ。
 何度となく変身してエネルギーを使いすぎた彼は、きっともう衰弱しきっていたのだろう。
 死体を見せないために、彼は死んだ。

「……わかった。今度は、私が犠牲になる」

585Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:39:20 ID:vndGBEJI0

 贖罪のために、この力で誰かを守り、その果てに死ぬ。
 その生贄となるのも悪くないだろう。
 杏子のせいで、何人も死んだのだ。

 ──彼女は、どこか、かつての姫矢に似ていた。

「まずは孤門って奴を、捜しに行くよ」

 孤門はあの広間で一度顔を見ている。あの若い男を捜せば、この力について色々わかるはずだ。それまでは杏子の解釈で行く。
 遺跡やウルトラマンのイメージが杏子の中から消えていく。


 気づいた時には、現実で杏子は、突き当たりの場所に来ていた。
 変身を解いた左翔太郎が、そこにいる。その翔太郎の目を見て、杏子は不意に恐ろしくなった。一つだけ、彼に隠し事をしなければならないことに気づいたのだ。
 そう、あの事は翔太郎やフィリップには教えない……教えられない。
 姫矢の死を知れば、彼らは動揺するだろう。そして、杏子と同じく自分を責める。
 いつかバレるとしても、今はまだ、その必要はないと思う。

「どうした、杏子」

「兄ちゃん。少し向こうに行こう。あの兄ちゃんの荷物を取りに行く」

 姫矢はデイパックを持ってこなかった。
 ……ということは、せつなの死んだあの場所に、姫矢はデイパックを置きっぱなしにしている可能性が高い。
 杏子はそれを取りに行こうと思ったのだ。
 いや、むしろこの道路の延長線上に姫矢の死体が見えてしまう可能性があるので、それを見せないためという意味合いが強い。

「荷物?」

「ああ、実はあの兄ちゃんとは、少し前に会ってたんだ。あの兄ちゃんは、荷物をそこに置いてきたから、そこで落ち合おうって、後から私に言ったんだ」

「おい……それは本当か!?」

「ああ。だから、そっちに行こう。すぐ近くだ」

「わかった!」

 杏子は、姫矢についてもウルトラマンについても、翔太郎には何も教えない。
 いざという時は、ウルトラマンに変身して戦うかもしれない。教えるとするなら、その時か、あるいはもっと別の事情で隠しとおすことが困難になった場合。
 杏子はとりあえず、うろ覚えの道を歩き出した。
 この近くに、せつなの死んだあの場所があるはずだ。杏子はそれを探した。

 そういえば、せつなからは一つ預かり物をしていた。
 アカルン。これが力になってくれると、せつなは言った。
 キュアパッション、ウルトラマンネクサス。二人の戦士の変身道具を継いだ彼女は、その力を自分の贖罪に利用することを少しだけ躊躇う気持ちもあった。
 だが、二人が望んだように、杏子は誰かを護るために戦わなければならない。
 そして、戦いを続ける中で死ななければならない……。

586Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:40:40 ID:vndGBEJI0



【1日目/昼前】
【G-8/市街地】
※エリア内のどこかに、支給品一式×2、魔導輪ザルバ@牙狼、箸袋コレクション@超光戦士シャンゼリオン、ドウコクのランダム支給品0〜2、せつなの死体が放置されています。

【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、照井、霧彦の死に対する悲しみと怒り
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW (腰に装着中)
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ランダム支給品1〜3個(本人確認済み) 、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用できるかは不明)@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損)

[思考]
基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する
0:杏子についていき、姫矢を待つ。
1:ここにいるみんなと力を合わせて、一緒に行動する。
2:あの怪人(ガドル、ダグバ)は絶対に倒してみせる。
3:仲間を集める
4:出来るなら杏子を救いたい
5:泉京水は信頼できないが、みんなを守る為に戦うならば一緒に行動する。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女についての情報を知りました。
※姫矢の死を知りません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ソウルジェムの濁り(大)、自分自身に対する強い疑問、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×2、伝説の道着@らんま1/2、せつなのランダム支給品0〜2、リンクルン@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、人を守った後死ぬことで贖罪を果たす 。
0:姫矢の死は翔太郎には隠しつつ、姫矢の支給品を回収しに向かう。
1:孤門一輝という人物に会いに行く。
2:自分の感情と行動が理解できない。
3:翔太郎に対して……?
4:あたしは本当にやり直す事が出来るのか……?
5:美樹さやかも参加している……?
[備考]
※魔法少女まどか☆マギカ6話終了後からの参戦です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※魔法少女の身体の特性により、少なくともこの負傷で死に至ることはありません。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※彼女の行動はあくまで贖罪のためであり、自分の感情に気づいたわけではありません。
※姫矢が死んだのはネクサスの力による消耗のせいだと考えています。


★ ★ ★ ★ ★

587Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:41:58 ID:vndGBEJI0


「くっ……火事か……」

 タカヤと京水がマップ中央に向かおうとしたとき、そこには燃え盛る炎があった。
 いつか、ダグバが作り出した炎であった。いつか、シャンゼリオンやほむらがメタルドーパントと戦った場所であり、いつか、霧彦が向かおうとした場所である。
 さて、これをどうすべきか。

「まるで燃えるような恋のような炎ねっ!」

「言ってる場合かっ!! ……まあ、今は放っておこう。あとでこの火を消さないとな」

 一応、回り道できないこともない。
 小火ならともかく、ある程度燃え盛っており、ボルテッカで吹き飛ばしてしまうのも随分時間がかかりそうだ。
 おそらく、この先に行けば、彼がエビルとの決着をつける頃には街に戻るのも大変な状態だろう。
 禁止エリアも近いので、かなりの遠回りが予想される。

「……誰だ、こんな火をつけたのは……。まあいい」

 モロトフも、数分後に同じようにこの炎の壁にぶち当たる。
 随分と調子に乗って戦っている相手がいるな、という程度の認識だ。
 この付近には別の参加者はいないようなので、その参加者はいないらしいが。

「……今はブレードを追うのみだ」

【1日目/昼前】
【G-7/森】

【相羽タカヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:両肩部に刺傷、疲労(中)
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、メモリーキューブ@仮面ライダーSPIRITS、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:主催者を倒す。
1:シンヤを倒す為、マップ中央に向かう。
2:俺はいつまでコイツ(京水)と付き合わなければならないんだ……
3:シンヤ、モロトフを倒す。
4:克己、ノーザ、冴子、霧彦、左達を襲った怪人(ガドル)を警戒。
5:記憶……か。
6:後でG-7の火を消す。
[備考]
※参戦時期は第42話バルザックとの会話直後、その為ブラスター化が可能です。
※ブラスター化完了後なので肉体崩壊する事はありませんが、ブラスター化する度に記憶障害は進行していきます。なお、現状はまだそのことを明確に自覚したわけではありません。
※参加者同士が時間軸、または世界の違う人間であると考えています。

【泉京水@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)
[装備]:T-2ルナメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、細胞維持酵素×4@仮面ライダーW、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:剛三ちゃんの仇を取るために財団Xの連中を潰す。
0:ナスカを倒す
1:タカヤちゃんが気になる! 後、シンヤちゃんやモロトフちゃんとも会ってみたい! 東せつなには負けない!
2:克己ちゃんと合流したい。克己ちゃんのスタンスがどうあれ彼の為に全てを捧げる!
3:仮面ライダー(左翔太郎)とは、一応共闘する。
4:後でG-7の火を消す。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーオーズに倒された直後です。

【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、強い苛立ち、ランスに変身中
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0〜2個(確認済)
[思考]
基本:参加者及び主催者全て倒す。
0:しばらくブレード(タカヤ)の後を追う。
1:ブレードとエビルの戦いを見届け、隙を見て勝者を殺害する。
2:その後、市街地に移動して拡声器を使い、集った参加者達を排除。
3:ブレード(タカヤ)とはとりあえず戦わない。
4:プリキュアと魔法少女なる存在を皆殺しにする。
5:キュアピーチ(本名を知らない)と佐倉杏子の生死に関してはどうでもいい。ただし、生きてまた現れるなら今度こそ排除する。
6:ゴ・ガドル・バという小物もいずれ始末する。
[備考]
※参戦時期は死亡後(第39話)です。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
※ボルテッカの威力が通常より低いと感じ、加頭が何かを施したと推測しています。
※ガドルの呼びかけを聞きましたが戦いの音に巻き込まれたので、全てを聞けたわけではありません。


★ ★ ★ ★ ★

588Nのステージ/英雄─ヒーロー─ ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:42:41 ID:vndGBEJI0

 ガドルは再び、街を出て、街の外にいる参加者を探し始めた。
 ダグバに邪魔をされたことは不愉快だった。それゆえ、ダグバが留まるであろう街を抜け、今度は先ほど来た道をなぞるように彷徨おうとしていた。

「山の方に向かうか」

 禁止エリアもあるが、向こう側には村もある。
 街に次いで、人が集まる場所といえば山の頂上か村だろうか。
 山の頂上ならば、周囲の観察もしやすく、ある意味穴場ともいえる。
 それに、市街地よりも声が通りやすく、拡声器を使って周囲の参加者を呼びやすいだろう。

 ある意味、ガドルにとっては都合の良い場所かもしれない。
 何より、クウガを探すためにも。

「……クウガ、貴様はどこにいる」

 せめて、己を倒したクウガへのリターンマッチを邪魔されたくはないと、ガドルは意気込んでいた。
 ダグバを倒すのは、最後の二人となった時でいい。
 それまでに、ダグバを越える力を得ていかなければならないだろう。
 ガドルは、真っ直ぐに山の方へと歩き始めた。


【1日目/昼前】
【H-5/森】

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)(回復中)、右脇に斬傷(回復中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ガドルのランダム支給品1〜3(本人確認済み、グリーフシードはない) 、フェイトのランダム支給品1〜2、ユーノのランダム支給品1〜2個 、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、拡声器@現実
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する
0:山の頂上に向かう。
1:クウガ(五代)と再び戦い、雪辱を果たす。
2:強者との戦いで自分の力を高める。
※死亡後からの参戦です
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)

589 ◆gry038wOvE:2012/10/27(土) 23:47:05 ID:vndGBEJI0
以上、投下終了です。

修正点
>>584の最後から二番目の行
× 死体を見せないために、彼は死んだ。
○ 杏子や翔太郎に死体を見せないために、彼は孤独に死んだのだ。
という形に変更で。かなり意味が伝わりにくいので。

他にも修正点や問題点などありましたら、報告お願いします。

590 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/27(土) 23:55:25 ID:sAz2MUNA0
投下乙です!
姫矢さん……あなたは最期まで英雄でしたね! 結果的にマーダーは倒せませんでしたが、その光を受け継いだ杏子が人を守ってくれることを祈りたいです。
しかしランスさん……コソコソついていってるけど、下手したら戦いに巻き込まれるぞw
そんなランスやダグバを相手に生き残った京水さんは流石ですねw
あと、ダグバやドウコクはこれからどう動くだろう……街はまだまだ一波乱ありそう。

591名無しさん:2012/10/28(日) 02:12:42 ID:OA.wJkdAO
京水さん、あんた漢やd…おい、タイマンしろよw

色々言いたいことあるのに続くランスさんのツッコミまでのノリに全て持ってかれた、おのれ(ry

592名無しさん:2012/10/28(日) 02:21:24 ID:ZiBNzMag0
姫矢……、やっと戦ったと思ったら熱血死とは、なんとも極端な男だ。
さてそんなこんなで杏子に光が渡ったわけだけれど彼女が変身する場合にはアンファンスの次はどうなるんだろうか。
ジュネッスブルーっぽくもないし、サードデュナミストなのにジュネッスでいくってのも違うような……?

そしてWはずっとエクストリームがないための微妙な戦力不足に悩まされてるな。
戦えないわけでもないし、かといってダグバやガドルに対抗できる力でもないし。
アクセルはザギさんが持ってて結局相棒にはなれそうにないし、エクストリームは主催で確保されてるし……。
……なんかもう杏子がさっさとネクサスを翔太郎に渡しちゃえばいいんじゃないかな(適当)

593名無しさん:2012/10/28(日) 02:38:02 ID:kbTboQqE0
>>592
杏子のイメージカラー的にはジュネッスっぽい
孤門だってジュネッスになってるんだし、同じ形態になっても問題はないだろうし

そして投下乙。
遂に光の継承キターーー!
姫矢が選んだのは杏子かあ
光を受け継いだ彼女の今後に期待

594名無しさん:2012/10/28(日) 02:49:40 ID:ZiBNzMag0
592で大切な一言を忘れてた。
投下乙!

595名無しさん:2012/10/28(日) 14:53:26 ID:E1sCfXRA0
投下乙です

ふう、濃厚で熱い作品だったぜ
そして希望はあるがまだまだ先が困難というか…
あんこちゃん…

596名無しさん:2012/10/28(日) 17:59:23 ID:ynNV7jvIO
投下乙です。

杏子、色んなもの受け継いじゃったな。ストレスやらプレッシャーやらでソウルジェム濁りそう。
そしてダグバは安定のロワ充。

597名無しさん:2012/10/28(日) 22:30:49 ID:kbTboQqE0
そういや、姫矢とドウコクのデイバックって、姫矢の遺体に放置?

598名無しさん:2012/10/28(日) 22:37:25 ID:kbTboQqE0
あ、読み返してみたらせつなの遺体付近に放置してたのか
失礼

599名無しさん:2012/10/29(月) 21:02:05 ID:yvpAAPQ60
予約来た!

600 ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:10:11 ID:WWz0lbzA0
ただいまより、投下を開始します。

601目指せ!ハッピーエンド ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:11:20 ID:WWz0lbzA0

 さて、時刻は十時過ぎである。
 昼飯の目安とされる時間まであと一、二時間というところだが、連戦していた一文字とラブのお腹はあまり満たされていなかった。
 特に一文字だ。ラブもそれなりに空腹ではあるが、食欲はなぜか失せている。一文字は、朝飯も食べていないし、自由行動のできる時間のうちに、少し腹を満たしておきたいと考えていたのだ。
 第一、十二時といえば、また放送が行われる。するとまた人の死を聞かされる。
 その中に知り合いもいるかもしれないというのに、ご飯を食べるどころではない。
 そのため、一文字とラブは少し早めに食事を摂ろうとしていた。

(ここに来てから食事を摂るのは……二回目か……)

 ラブはそう思いながら、デイパックの中身を漁っていた。
 そう、彼女がここに来てから食事を摂るのは二回目になる。

 巴マミ。
 彼女との出会いを、ラブは忘れないだろう。しかし、彼女という友達ができてから、楽しい思い出と言えるのは、あのティータイムだけだった。
 もう彼女とお茶を飲むことも、ドーナツを食べることも、楽しく話すこともできない。

 そう思うと涙が出そうになったが、やはり物を食べる時くらいは楽しくやりたかった。ラブが急に涙を流したら、一文字もきっと困惑するだろう。
 これから、カオルちゃんのドーナツを食べに行くたびに、マミのことを思い出すのだろうか。
 せめて、マミの写真が欲しかった。彼女の姿を忘れない為に。
 時間が経つと、人の顔は記憶の中で色あせてしまう。それがどんなに大事な人で、どんなに一緒にいた人のものでも、だ。
 ただ、写真さえあれば、マミはずっとそのままの形で残り続けることができる。

 しかし、ラブは今、もっと別の形で彼女を思い出すことができることに気づいた。
 カオルちゃんのドーナツを見たときだ。
 こうしてドーナツを眺めたとき、初めて彼女の姿を完全に思い出すことができる。それは、マミとお茶をしたときの表情であり、マミの死に際の微笑みでもあった。
 だから思う。また、元の世界に戻っても、ラブはマミを思い出すのだろうと。

「……はぁ」

 ラブは溜息を吐いた。
 溜息を一つ吐けば、幸せも一つ逃げてしまうかもしれない。けれど、吐かずにはいられなかった。これは、幸せが一つ逃げたぶん、溜息を一つ吐いたのだ。
 なんだか、食欲がなくなってしまう。
 またしばらくしたら、戦いに借り出されるのだ。
 思えば、ここに来てから幸せな時間なんて、そうそうあるものではない。ほとんどが戦いの記憶。それも、命をかけた戦いだ。
 戦争と何ら変わりはない。
 大砲のような威力を持つ力が、この場には幾らでもある。自分もその大砲の一つなのだ。

「一文字さんは、いつから仮面ライダーなんですか?」

 ラブは少し訊いた。
 この男性のことを、ラブはまだ全然知らない。
 彼が仮面ライダー2号で、一文字隼人であること。それ以上の何も、彼女は知らない。
 最初に出た質問がこんなものであるのは、少しおかしいかもしれないが、こんな場所にいるとおかしくもなる。

「ん? 随分前」

「随分前って、そんなアバウトな……」

「もう何年も、仮面ライダーのままだな……マトモな人間の体って、どんなものなのか忘れそうになるくらいだ。まあ、バケモノ呼ばわりされるのも、日常生活で力を加減するのも、悪の組織に狙われるのも、もう慣れたしな。……こうして飯を食うのも不自由しねえし」

 一文字はそう言いながら、パンを咥える。
 もはや哀愁も何もない。自然と、ただの会話の中で口から出て行くような言葉だった。
 しかし、マトモな人間の体だとか、バケモノ呼ばわりだとか、一文字の口から出てくる言葉は少し自嘲気味でもある。

602目指せ!ハッピーエンド ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:16:07 ID:WWz0lbzA0

「ああ、そういや言い忘れてたけど、俺は改造人間とかいうヤツで、体がほとんど機械なんだ。そのお陰であんな姿に変身できる」

「改造人間!?」

「カメラマンやってたんだけどな……ちょっと危ない橋渡りすぎた。ショッカーとかいう秘密結社に捕まって、組織に忠実な改造人間にされるところだった。脳までイジらされてな。そんで、それを助けてくれたのが仮面ライダー1号、本郷猛だった。まあ、俺はそん時、既に俺の体は改造されちまってたから、あいつは俺を助けちまったことを後悔したらしいけどな」

「本郷猛さん、ですか……」

 本郷猛。その名前は聞き覚えがあった。
 あの広間で一文字と共に呼ばれた男で、放送で死者として呼ばれた名前である。
 一文字隼人の命の恩人にあたるはずが、既に死んでしまったらしい。

「……コラ、あんまり悲しそうな顔すんなよ。本郷はきっと、誰かのために死んだんだ。あいつも本望さ。改造人間になったら、生きることは死ぬことより遥かに苦痛だって言ってたしな。……ま、あいつに未練があるってなら、BADANや加頭を叩き潰せないうちに死んじまったことだろう」

 生を苦痛と感じながらも、誰かを護るために生きる。それが、本郷猛の生き方だった。
 改造人間になる者がこれからも増えるのなら、それを防ぐために。自らと同じ苦しみを誰にも味合わせないために。

「……一文字さんは?」

「あ?」

「一文字さんは、生きることがそんなに苦痛なんですか?」

 ラブは、まだ悲しげだった。
 返答によっては、泣き出して、一文字に小言を言いかねない。
 大人らしく、素敵な答え方を考えるが、そう考えるとやはり自分の内面について深く考える必要が出てきた。
 こんな質問をする人間は、極稀にいるが、こんな若い少女だったことはない。

「……ま、楽しくはねえな。辛いことの方がずっと多い。俺たちにとっちゃ、毎日がこのバトルロワイアルみたいなもんだ。でも、だからこそたまーに少しでも楽しいことがあると、それがたまらなく嬉しいんだよな。どんな些細なことでも、そのために生きられるっていうくらいって感じる……まあ、そんなとこかな」

「……」

「そうだな、たとえば、飯食ってるときとかも、結構楽しい時間だ」

 一文字は表情も変えずにパンを食べている。
 一食分は軽く食べるつもりだろう。ラブはまだ、何も口に入れていなかった。

「しかし、これはあんまり美味くねえな。……ま、飯にも嫌な思い出ってのが一つあるんだよ。ネオショッカーとかいう連中のせいで」

「い、一体何が……」

「飯屋で勘定が10万円とかわけのわからないこと言われて、無銭飲食で捕まった」

「じゅ、10万円!? どれだけ食べたんですか!?」

「テンプラ定食ひとつ」

 ラブは冗談だと思って、思わず噴出してしまう。一文字という男は、こういう男だった。
 たとえ辛い話題でも、すぐに笑い話に変えてしまう。
 本当の意味で、誰よりも感情が「顔に出てしまう」男だったので、辛さは極力隠して生きてきた。たとえ悲しいと思っていても、それを顔に出しても、誰かの笑顔は生まれない。

603目指せ!ハッピーエンド ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:17:31 ID:WWz0lbzA0

「で、飯は食わないのかい? 俺が食っちまうぞ」

「いえ、……でも、食べ物を前にすると、少し思い出すんです」

「なんかあったのか?」

「数時間前です。私と一緒にお茶をした巴マミっていう女の子が……」

「巴、マミ……」

 聞き覚えがあるので、一文字は一度その名前を復唱する。そして、口を開いたことを後悔した。
 巴マミ。その名前は死者の名前であった。
 一文字の知り合いにも真美という女性がいたので、その名前ははっきりと覚えている。
 ラブと知り合いだったのか、と思うと一文字も少し暗い表情をする。

「さっき、一文字さんは本郷さんの事を教えてくれましたよね。私は本郷さんのことをよく知らなかったけど、その話を聞いたらどんな人なのか……っていうのがよくわかりました」

「……」

「人は死ぬのも辛いけど、忘れられてしまうことも辛いんじゃないかって思うんです。私、マミさんの事、色んな人に知って欲しい。マミさんの知り合いも、二人死んでしまったから……だから、マミさんについての話、聞いてくれますか?」

「……ああ、そうだな。でも、一つだけ条件出していいか?」

「なんですか?」

「飯は食っとけ」


★ ★ ★ ★ ★


 一文字は巴マミという女性について、あらゆる情報を得た。
 彼女の知り合いの名前や、彼女の様子・外見、彼女とドーナツを食べたことや、彼女の死に様に至るまで、はっきりと告げた。
 ラブはそれを伝える中で、自分がマミについて知っていることなんて、ほんの少ししかないのだと気づいた。自分が思っている以上に、一文字に伝えられる情報は少なかった。
 忘れていることなんて、一つもないはずなのに、ラブは全てを話すことはなかった。

 パンは少しだけ減っている。
 一応朝食を食べていたことや、気分が優れない状態であることもあり、一食分は減っていない。
 それでも、もう彼女は「ごちそうさま」と言っていた。
 一文字は、摂取量については何も言わない。むしろ、彼女の話の方に気が向いていた。

「良い友達に出会えたんだな」

「……はい」

 ラブの言葉は、少しだけくぐもっていた。
 一文字は、ラブにどういう言葉をかけるか迷った。
 良い友達に会えたのはいい。しかし、その友達を失ってしまったのが、問題なのだ。

「それに、テッカマンとかいう奴等が殺し合いに乗ってるのもわかった……そいつら、絶対許せねえ」

 マミについての話に、必然的に登場する「テッカマン」というワードもかなり重要だった。
 このテッカマンは、マミやラブを襲撃した相手である。プリキュアを撃退するということは、なかなかの強敵だろう。
 そのうえ、相手が少女であっても容赦なく襲撃し、人を蟻共と呼ぶ歪んだ人間性の持主である。
 実際、テッカマンが誰もそうであるとは思えない。

「俺も会いたかったよ、そのマミって奴に……良い奴が、何故かいっぱい巻き込まれてるんだよな、この殺し合い……」

 正義感の強い者、人を思い遣る者、人を守る者……この殺し合いにはそんな人間がたくさんいた。仮面ライダーはもちろん、ナイトレイダーやプリキュア、魔法少女など、暗黒騎士など、何人もいる。
 というより、善人と悪人に極端に二分されているのだ。
 魔法少女にしろ、テッカマンにしろ、仮面ライダーにしろ、プリキュアにしろ、変身能力の持主という点で共通しており、例外であるナイトレイダーも特殊部隊。
 まあ、善や悪が必然的に関わってくる立場の人間であるのが特徴だ。一般人がいるのかどうかも怪しいところだ。

「……でもな、ラブ。その子を死なせちまったせいで、さっきから暗い顔してるが、それって全然良いことじゃないと思うぜ」

「え?」

604目指せ!ハッピーエンド ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:20:00 ID:WWz0lbzA0

「罪悪感を感じるのは、君が良い奴っていうことの証でもある。けど、それを顔に出し続けるのは、自分がそれだけ良い奴だって言って回ってるだけだ、それ以外の何にもならねえ。……お前がマミって奴との約束を果たしたい反面で、マミを死なせた罪悪感を感じてるのは、俺にもよくわかるよ」

「……はい」

「けどな、罪悪感を感じていても、それに潰されそうでも、笑顔でいれば、もっと周りのためになることがある。他人の笑顔を作れるし、他人に幸せを分けられるだろ? まあ、明るくやるのも暗くやるのもラブの自由だけどな。で、ラブはどっちがいい?」

 それは、幾つもの罪悪感を、幾つもの悲しみを、幾つもの殺人を、幾つもの痛みを笑顔の裏に抱えてきた男の言葉だった。
 明るい笑顔でいるか、暗く俯いた顔でいるか、ラブはどちらを選ぶか、一文字は聞きたかった。
 この選択は、実は生易しいものではない。
 己の痛みを隠して生きていくというのは、修羅の道である。
 しかし、一文字はラブにはその修羅の道を行き続けてほしいと思ったのだ。


 それは────一文字自身が、その修羅の道を進んだ結果に見られる他人の笑顔を、案外楽しんでるからに違いない。



「私は、」

「待った。答えを言う必要はねえ。ここでどう答えたって、実際どうなるかはわからねえしな。だから、答えを見つけたら態度で示せ。その方が、意味がある」

「はい!」


 一文字は、ラブの表情を見て笑った。
 それは、ラブが一文字の言葉を納得し、「他人の笑顔を作る」ことを決めたゆえの笑顔だった。
 また、ラブと人との約束が増えた。


★ ★ ★ ★ ★


「で、飯のついでだから支給品を出してみたが……」

「なんでそんなに説明口調なんですか」

 一文字とラブの前に、支給品がざっと出されている。
 姫矢准による戦場写真や、ドーナツ、毛布、紅茶のほかに少しだけ、他の支給品が残っていた。
 それらの支給品をお互い見せ合うのは、やはりその支給品の本来の持主を探る為だろう。
 しかし、お互いに心当たりの所持品は一切なかった。

「ほんと、何に使うのかもわからねえガラクタばっかりだな」

 毛布やドーナツはある意味役に立つが、写真などは役立たず。
 それと同じように、役に立つものと役に立たないものを分類する。


 まずは戦闘に使えそうなものに分類される支給品。
 これは一つしかない。一文字の支給品だ。

「モロトフ・カクテル……」

 モロトフ火炎手榴弾、三つ。そういえば、モロトフとかいう参加者もいたが、この際それはどうでもいい。
 これはなかなか強力な武器で、扱いを充分注意しなければならない支給品だ。
 そもそも、手榴弾や重火器自体、かなり扱いを注意しなければならない代物なのは言うまでもない。しかし、そのリスクの割には、この場での実際の効用が低いのが問題だ。
 先ほど、強力な武器とは言ったが、この場では別だ。何せ、誰もが仮面ライダーのような力の持主なのだから。

605目指せ!ハッピーエンド ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:22:31 ID:WWz0lbzA0

 次に生活を便利にするものに分類される支給品。
 これは毛布やドーナツ以外にも、一つあった。これはラブが受け取ったマミの支給品である。

「うわあ……何だかわからないものがいっぱい……」

 工具箱だ。これについては色々と考えることがある。
 首輪という存在があることを踏まえて考えると、主催者の意図が見え隠れしてくる。
 ドライバーやスパナなどの工具が入っているということは、首輪の解除にも使用できる可能性が高い。ドライバーも何種類もあるため、もはや何を使えば良いのかさっぱりだ。
 これで首輪を解除してみろ、ということなのだろうか? ──この首輪がこんなものでは外れないから、無駄な努力をする人間を笑おうということなのだろうか。
 それとも、これを解除してしまうこともゲームの一部と考えているのだろうか。

 とりあえず、しばらくはこれを使うわけにはいかない。
 マミの首輪はあるが、サイズは一文字たちのものに比べると小さく、このドライバーで解除を実験できるかはわからないし、第一、貴重な首輪を一文字の手で迂闊に使ってしまうのも問題だ。
 こういう事は、結城や沖など、科学知識が一文字よりも遥かに高い人間に任せた方がよさそうだ。
 一文字も、機械について、ある程度の知識はあるが、より専門的な人間に任せた方が得策だ。
 少なくとも、彼らが放送で呼ばれていない現状ではその方がずっといい。


 そして、何にも使えそうにない支給品がふたつ。

「……まずは俺の支給品だな。タカラガイの貝殻だ」

 これはガラクタ以上の何者でもないだろう。
 使い道もないだろうし、実際このゲーム内での用途はない。
 実質、一文字の支給品の中で戦闘に使えそうなものはモロトフ・カクテルのみだろう。
 残りはタカラガイと写真だけだ。人によっては、こんな支給のされ方もあるということだ。

「それと、絵本ですね」

 マミの支給品は、「黒い炎と黄金の風」という絵本である。
 最後のページが真っ白な、不思議な絵本だった。画力は高いし、話は単純ながらも勧善懲悪とヒーローの悲哀を感じ、どことなく一文字やラブも共感しやすい内容だった。
 無論、何の効力もないガラクタには違いないのだが、しかし、何かを感じる。
 この絵本に描かれた、「黄金の戦士」という希望。それは、まるでラブや一文字のような存在のことであるような。そういえば、マミも黄色系の色であった。
 とにかく、殺し合いの場に借り出されるような邪気のある本ではないと思う。この作品は、何か希望を信じている人が書いた作品であるような気がするのだ。

「……まあ、支給品がガラクタだろうが、俺たちには俺たちの力があるから、別に問題はないだろ」

「そうですね。でも、何の意図があって、貝殻や絵本を……? 工具箱は、加頭っていう人やサラマンダー男爵にとっても不利になるものだし、この絵本なんかは、まるで──」

「ああ、これを読んだら、まあ……よっぽど感受性の高い奴に限るが、逆に俺たち対主催組の士気が上がるんじゃねえか? って感じだな」

「そうですね! この絵本の騎士みたいに、私たちが黒い炎を振り払わないと!」

(その感受性高い奴はここにいたよ……)

 ラブの目は、この絵本を読んで無駄に輝いている。
 はっと、ラブはこの絵本の最後のページが気になった。

「一文字さん、この白いページの先はどうなるんでしょう……?」

「ん? そりゃ、流石に作者しかわからねえだろ。…………と思ったが、いや、やっぱり違うなコレ」

「え?」

「真っ当な出版物には乱丁・落丁なんて滅多にないし……それも最後のページがないってのは、出来すぎだ。これは、作者の意図で、わざと最後のページが真っ白になってるみたいだな。この先のストーリーは読者で決めろ、っていうことだろう」

 仮にも出版物と関わる職業だった一文字は、その本を見て言った。
 おそらく、余韻を残す意味と、最後のページを自由に書かせる意味があったのだろう。
 子供の想像力を作るにも良し。最後のページまでに、もうこのストーリーは作者の手を離れているのだ。
 ラブの考えるエンディングは一つだ。

606目指せ!ハッピーエンド ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:23:13 ID:WWz0lbzA0

「……じゃあ、やっぱりハッピーエンドがいいですね」

「そうだな。ま、この絵本もマミから受け継いだものだろ。最後一ページ、自由に描いてくれや」

「一文字さんも一緒に、ですよ」

 ラブに言われて、一文字は彼女がこの絵本を現実に当てはめて考えていることに気がついた。
 なるほど……この殺し合いにハッピーエンドを作れ、ということか。一文字は苦笑する。
 面白いことを言う子だ。

「……そうかい。まあ、少しは協力するぜ」

 二人は休息を終えて立ち上がる。
 ラブが知り合った女の子に、星空みゆきという子がいた。
 そして、その子は物語にハッピーエンドを作ることを目指していた。
 そう、ラブも同感だ。
 更に言うなら、一文字も同じである。

「で、それはともかくこの貝殻はなんか意味があるのか……」

「その貝殻は……って、なんで余計な話するんですか! 折角、話も綺麗に纏まったところなのにー!」

「いや、オチも必要かなって思って」

「いりませんよ!」



 ──ちなみに、このタカラガイは千樹憐という男が、ある施設から脱出した際に海辺で得たものである。
 絶対に脱出できないとされた施設から、ただ広い世界を見に行く為に憐は脱走し、友達に渡した貝である。
 運命に抗う希望、その象徴ともいえる貝殻だった。
 まあ、そんなバックグラウンドは、憐がここにいない以上、誰も知る由もないが。





【1日目/昼】
【F−2】

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(中)、罪悪感と自己嫌悪と悲しみ、決意
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:今は一文字さんを守りながら休む。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達(堂本剛三、フリッツ、クモジャキー、巴マミ、放送で呼ばれた参加者達)への罪悪感。
6:ダークプリキュアとテッカマンランス(本名は知らない)と暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:石堀さん達、大丈夫かな……?
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。


【一文字隼人@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、胸部に斬痕、左腕が全体的に麻痺
[装備]:モロトフ・カクテル×3
[道具]:支給品一式(食料一食分消費)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:仮面ライダーとして正義を果たす
0:今は身体を休める。
1:ラブと一緒に石堀達を探しながら市街地を目指す
2:他の仮面ライダーを捜す
3:暗黒騎士キバを倒す(但しキバは永くないと推測)
4:もしも村雨が記憶を求めてゲームに乗ってるなら止める
5:元の世界に帰ったらバダンを叩き潰す
6:この場において仮面ライダーの力は通用するのか……?
[備考]
※参戦時期は第3部以降。
※この場に参加している人物の多くが特殊な能力な持主だと推測しています。
※加頭やドーパントに新たな悪の組織の予感を感じています(今のところ、バダンとは別と考えている)。
※園咲霧彦、園咲冴子が園咲来人の関係者である可能性が高いと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時までに市街地エリアに向かう予定です。
※村エリアから南の道を進む予定です。(途中、どのルートを進むかは後続の書き手さんにお任せします)
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
 フレプリ勢、ハトプリ勢の参加者の話も聞いています
※石堀の世界について、ウルトラマンやビーストも含めある程度聞きました(ザギとして知っている情報は一切聞いていません)

607目指せ!ハッピーエンド ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:35:50 ID:WWz0lbzA0
【支給品解説】

【モロトフ火炎手榴弾@現実】
一文字隼人に支給。
旧ソ連で開発された焼夷手投げ弾。形状は棒状の柄の先に燃料 (焼夷剤) が詰まった陶磁器製の容器が装着されたもので、燃料にはガソリン・ベンジン・硫黄、そのほかにも高オクタン燃料やピクリン酸や硫酸の混合液など、さまざまな可燃物が使用されていた。
使用方法は炸薬部に付属する安全ピンを抜き信管部分を摩擦発火、その後投擲を行う。遅延時間は0秒から10秒まで設定することができたため中の燃料を十分気化させてからの爆発も可能であった。着火すると陶磁器製の弾頭部分が破裂し飛散、その後十分気化した可燃性燃料が引火し周囲を巻き込み爆発を起こす。そのため使用方法を誤ると大変危険な武器でもあった。
参加者のモロトフとは関係ない。

【タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス】
一文字隼人に支給。
千樹憐が、プロメテの子の施設を抜け出して海へ行ったとき、拾ってきて吉良沢優に渡した貝殻。
タカラガイは非常に綺麗な貝殻を持つことで有名。
吉良沢はこの貝殻を現在も大事にしている。

【工具箱@現実】
巴マミに支給。
ドライバー、スパナ、ペンチ、ニッパ、ハンマー等等がそれぞれ多種類ずつ入れられた工具箱。
持ち運びやすい手持ちタイプで、もしかしたら首輪の解除に使えるかもしれない。

【黒い炎と黄金の風@牙狼】
巴マミに支給。
御月カオルの父が描いた絵本であり、黄金騎士(鋼牙の父・大河)とホラーの戦いについて描かれている。
最後の1ページは意図的に空白になっており、見た人それぞれが黄金騎士の未来を描くようになっている。
最終回にて、カオルが描いた最後の1ページを読んだ鋼牙は号泣する。

608 ◆gry038wOvE:2012/10/29(月) 22:38:18 ID:WWz0lbzA0
以上、投下終了です。
一文字が「モロトフ・カクテル」と呟くシーンと、状態表のモロトフ・カクテルは修正漏れなので、wiki収録時は「モロトフ火炎手榴弾」に変更でお願いします。

609名無しさん:2012/10/29(月) 22:54:07 ID:yvpAAPQ60
投下乙です!
一文字さんはやっぱり落ち込んでいる人を支えるシーンが絵になってるな!
ラブは今のところ大丈夫そうだけど、放送聞いたらどうなるだろう……ゆりさんとせっちゃん、それにさやかちゃんも死んでるし。
そしてモロトフ・カクテル……ラブにとっては凄く因縁がある名前だなw

610名無しさん:2012/10/30(火) 12:16:08 ID:RgGpobXM0
投下乙です

さすが仮面ライダー、落ち込んだ女の子を慰めるとか物凄く絵になる
ラブは確かに落ち着いたんだが放送があるから…
支給品が意味あり気なのがあるがモロトフ・カクテルって…確かに因縁深いわw

これで放送まで残りは…あ、まだ残ってるキャラの方が多いか

611名無しさん:2012/11/05(月) 21:52:50 ID:fAjRx.to0
予約キター
Wすずむらとか、結城と石堀軍団とか絡むのか
危険人物ばっかり多すぎwwww

612 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:03:07 ID:ErJt5zWU0
これより予約分の投下を開始します。

613あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:04:29 ID:ErJt5zWU0

 仮面ライダーアクセルに変身した石堀光彦は西条凪の身体を抱えながら、木々の間を進んでいた。
 凪の身体と大量の支給品は別に重くなどない。今の肉体は軟弱な人間のものとはいえ、ダークザギにとっては塵程度の重量すら感じなかった。
 撤退の途中で保護した二人の男──涼村暁と黒岩省吾──は問題なく後ろについてきている。暁は体力を消耗しているようなので、念の為に水を与えたが一刻も早く休ませなければならないようだ。
 それに落ち着いて凪を休ませる場所だって必要になる。だから来た道を引き返してマップの中央にある冴島邸を目指していた。

(冴島邸……そういえば、参加者の中に冴島鋼牙とかいう奴がいたな。建物の関係者……それともただの偶然か?)

 そこまで重要ではないとはいえほんの少しだけ気になってしまう。
 名簿に書かれていた冴島鋼牙という男に接触すれば疑問が解明されるだろうが、拘った所で意味などない。それに顔も知らない相手のことばかり考えても、出会えなければどうしようもなかった。
 だから、この疑問は保留とする。今はそれ以上に解決しなければならない問題があるからだ。

「ち、ちくしょう……またこんな森の中を歩かなきゃいけないのかよ!」
「なら、貴様だけでここに休んでいろ!」
「そんなこと、できるわけねえだろ!」
「それなら黙っているんだな……知っているか! マラソンの起源とは紀元前450年……9月12日までに遡る! ミルティアデスという名のアナテイの名将が、奇策でペルシャの大群を撃退したマラトンの戦いからと言われている! その勝利を……!」
「知るか! マラソンなんかどうだっていいだろ!」

 思案するアクセルの後ろでは暁と黒岩がくだらない言い争いをしている。
 この光景を見るに、どうやら二人はかなり仲が悪いようだ。本人達の問題だから別にどうでもいいが、こんな時に喧嘩をされてはたまったものではない。
 おまけに二人はかなり大声で怒鳴りあっている。それを聞きつけて殺し合いに乗った奴らがやってきては、凪に火の粉が降りかかる可能性だってあった。
 ただの弱者ならばまだいいが、溝呂木眞也やキバのような奴らだったら面倒が増える。
 真紅の仮面の下で溜息を吐きながら石堀は、足を止めて振り向いた。

「あんたら、こんな時に喧嘩はやめたらどうだ? 今はそんな状況じゃないだろ」

 騒動が治まるのを祈りながら進言するが、当事者の一人である暁は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「なあ石堀、やっぱりこんな胡散臭い奴を仲間にするのはよそうぜ? こいつはな……」
「涼村、あんたが黒岩を嫌っているのに理由があるのはわかる。だがな、俺はあんたのわがままばかり聞いていられないからな……この状況では協力者だからな」
「だけどよ……」
「話があるなら冴島邸で聞く。あんただって早く休みたいだろ? だから今は口論をせずに歩くことだけを考えてくれ」

 アクセルはそう平然と言い放って、暁の文句を強制的に遮る。
 暁の口が止まった瞬間、今度は黒岩が誇らしげに鼻を鳴らしてきた。

「やれやれ……全く、貴様がもう少し我慢をすればいいだけの話だろう。これに懲りたら、少しは我侭を控えることだな」
「黒岩、あんたもあんただ。涼村にも問題はあるが、だからといって煽るような言い方はやめろ……東京都知事を目指すなら、感情を抑えることも必要じゃないのか?」
「むっ……」
「それにあんたらが下手に騒ぐと、その声で他の危険人物を呼び寄せるかもしれない。こんな場所では、不意打ちを仕掛けてくる奴らなんて数え切れないくらいにいる……だから、気をつけて欲しい」
 
 そう言うと、意図を察してくれたのか黒岩も頷いた後に黙り込む。
 それを見届けたアクセルは再び足を進めると、暁と黒岩も歩き出した。

614あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:04:55 ID:ErJt5zWU0
 やや面倒なこの男達も凪を守る為に上手く使わなければならない。ここまで生き残っているからにはそれなりの実力者だろうから、邪魔者を消すのに役立つかもしれなかった。
 問題は凪がこの男達を信頼するかどうかだ。彼女の過激な性格を考えるに、二人が少しでも不安要素だと判断したら即刻で切り捨てるだろう。それならそれで構わないが、他の参加者に凪を不審だと思わせるのは避けなければならない。
 彼女もナイトレイダーの副隊長だし短絡的な行動はそんなに取らないだろう。それでも、念には念を入れる必要があった。
 まずは暁と黒岩のことを凪にどう説明するか……その方法を考え始めた瞬間、遠くより二つの足音が近づいてくるのをアクセルは気付く。
 その距離はすぐそばだ。

(まさか、二人の喧嘩を聞き付けたのか? もしも危険人物だったらまずい……凪はまだ気絶している。数はこちらの方が多いが、守り切れるか……?)

 近づいている奴らが溝呂木のような凄まじい力を持っていたら、凪が殺されてしまう恐れがある。
 実力がわからない暁と黒岩がいたとしても切り抜けられるかどうかは微妙だ。二人を囮にして凪と共に逃がす方法もあるだろうが、それでは不審を抱かれてしまう危険がある。
 対策を考えていると、木々の間から二人組の男が現れた。漆黒のコートを纏った若者と、仕立てのいいビジネススーツを着ている20代と思われる男だ。

「だ、誰だ!?」
「待つんだ! 私達は敵ではない」

 後ろに立つ暁が狼狽したような声で喚いた瞬間、スーツの男が制止を促すように手を翳してくる。
 その様子と声の調子から考えるに、どうやら危険人物ではないようだった。現に同行者と思われる若者からも、敵意は全く感じられない。
 何にせよ無駄な戦闘はしなくても済んだので、思わず仮面の下で石堀光彦笑みを浮かべた。





 ナケワメーケという謎の怪物と共に去った相羽シンヤを見送ってから、結城丈二は涼邑零と共に北西の村を目指していた。
 しかし今は島の中央にある冴島邸へ戻り、道中で出会った石堀光彦達のグループと情報交換をしている。森の中でも話し合いは可能だがそれでは危険人物に襲撃される危険がある上に、何よりも西条凪という女性もきちんと休ませなければならなかった。
 零にとって家族の仇である男の自宅に戻るのは悪いとは思うが、こればかりは仕方がない。彼は微かに表情を顰めたが、幸いにも何とか了承してくれた。

「そうか、あなたが一文字と出会ったとは……情報をくれて感謝する」
「いや、礼を言われることなどしていない……俺は一文字を囮にしてしまったのだから」
「だとしても、その状況では仕方がない。石堀が気を落とす必要なんてない……そうしなければ、彼らを守れなかっただから」

 そして今、リビングに備え付けられたテーブルを境に結城は石堀と向き合う形で座っている。
 石堀達はここに来るまで、仮面ライダー二号こと一文字隼人と行動を共にしていたらしい。しかしその最中、暗黒騎士キバという奴に変身した男に襲撃されて、一文字と別れてしまったようだ。
 尤も、結城はそれを責めるつもりは全くない。仮面ライダーであるからには、時として己の身を犠牲にしてでも人類を守らなければならないのだから。その意志を汲み取ってくれた石堀には、むしろ感謝をしなければならない。

「それにしても、まさかあの少女が我々と似たような戦士だったとは……驚いたよ」
「東せつな、だっけか? あんたが街で出会ったプリキュアは」
「ええ……話によるとこの場には8人いる。だが、来海えりかは既に放送で呼ばれてしまった……せめて、彼女達は無事でいてくれることを、信じるしかない」

 そして情報交換の際に、石堀は花咲つぼみや桃園ラブという少女と出会ったことを話している。
 彼女達はプリキュアという異世界に存在する戦士で、仮面ライダーのように人々を守って戦ってきたそうだ。しかも仮面ライダーと違って、変身する前は普通の女子中学生らしい。
 そして市街地で出会った東せつなという少女もプリキュアの一人で、つぼみによるとラブの友達のようだ。こんな殺し合いに放り込まれているからにはただの子どもとは考え難かったが、戦士の一人である事は予想を遥かに超えていて、結城も驚いてしまう。

615あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:06:24 ID:ErJt5zWU0

(そんな少女達も誰かの為に戦っていると言うのに、私はまだ何もできていない……情けないな)

 こんな様では先輩ライダーの一文字、それに後輩の沖一也や村雨良に会わせる顔はない。
 大人である自分自身が積極的に行動しなければならないのに、犠牲を防ぐことはできていなかった。それを嘆く暇があるのなら動くべきだが、やはり後ろめたさを感じてしまう。
 だからせめて結城はプリキュア達の無事を祈った。せつなも相羽タカヤや泉京水と一緒にいるとはいえ、やはり心配であることに変わりはない。

(君達、どうか無事でいてくれ……未来は君達のような未来ある子ども達が作っていかなければいけないのだから)

 しかしその祈りが東せつなという少女に届くことはもうない。
 何故なら、彼女はタカヤと敵対しているテッカマンランスの手に掛かり、既にその命を奪われてしまったのだから。
 そんな救いのない事実が主催者によって知らされる時間が迫る中、結城は石堀に尋ねる。

「それで、一文字と沖は確か18時に市街地で落ち合う予定となっているのだったか?」
「ああ。つぼみちゃんやラブちゃんもきっと来てくれるはずだ。あんたもその頃に来れば、仲間と再会できるはずだ」
「わかった……私達もできる限り、事情が片付き次第そちらに戻ろう」

 一文字は村から南、一也は東から進んで仲間を探しながら市街地に向かっているようだ。しかし落ち合うのは18時からのようなので、すぐに後戻りする必要もない。
 何にせよ、このまま村に向かっていたら無駄足に終わるかもしれなかった。あそこには、一文字によって倒された三影英介の遺体しか残っていないようだから。





「それにしても涼村暁か、こんな所で名字が似ている男と出会うなんてな」
「ああ……偶然って本当にあるんだな!」
「全くだよ」

 涼邑零は涼村暁という男を前にして、素直にそう言葉を漏らす。
 漢字は少しだけ違うものの同じ「すずむら」という名字は、零に微かながら興味を持たせていた。
 見た所は普通の男だが、どことなく戦士の雰囲気が感じられる。魔戒騎士として多くの戦いを乗り越えてきた零は見抜いていた。
 暁のようなフランクな性格は嫌いではない。あの冴島鋼牙のような愛想のない男よりは余程好感を持てた。
 もしも一緒にいれたら楽しいのかもしれないが、今はそれどころではない。

「で、黒岩省吾……聞いた話によると、あんたはダークザイドって化け物らしいな。人間の命を奪い取ろうとする、ね」

 零は暁の隣で豪華な雰囲気を醸し出す椅子に座っている黒岩省吾という男に、やや鋭い目線を向ける。
 ここにいる者達で情報交換をした際、暁はやや紳士のように見えるこの男がダークザイドという怪物だと言った。暁曰く、ダークザイドとはラームと呼ばれる人間のエネルギーを奪うらしい。
 言うなれば、ホラーと似たような存在のようだ。
 そんな危険な相手を前に零が警戒を露わにする中、黒岩は口を開く。

「……確かに俺はダークザイドだ。だが、無益に命を奪うことを望まない」
「へえ」
「俺の同族には人間社会に潜み、快楽の為に卑劣な手段を使う恥晒しは絶えない……だが、だからこそ俺がそんな奴らを粛清しなければならないんだ! 東京都知事として!」
「それは確かに立派だな……だけど、悪いが俺はあんたの話を完全には信用できない。今の言葉だって、そもそもただの演技である可能性だって充分にあるからな」

 強い熱が秘められた真摯な表情で黒岩は語るが、それでも零は全く気を許していない。
 彼の態度にほとんどの人間が騙されるだろう。仮にも知事の地位を手に入れているのだから、流石とは思う。
 しかし、多くの人間を騙すホラーと同じように黒岩も嘘をついていることが充分に考えられた。東京都知事となったのも、どうせ何か善からぬことをする為だからと邪推しまう。

616あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:08:37 ID:ErJt5zWU0

「そうだそうだ! こんな野郎が東京都知事になったら東京……いや、日本という国は終わるに決まってる! だから、こんな奴はとっとと……!」
「俺もそうしたいけど、そんなことをしたら結城さんがうるさいからね……それに、もしかしたら本当っていう可能性もあるしな」

 暁の言葉を遮る様に零は意見を述べたが、そこには建前が混ざっていた。
 黒岩が本当のことを言っているとは零は微塵にも思っていない。もしも結城や石堀がいなければ、人間の命を吸い取る怪物なんて今頃とっくにこの手で斬っていたはずだった。
 それでも今は、余計な面倒を起こさない為にも剣を納めている。ここで下手に結城を刺激して同盟を決裂するようなことになり、消耗をするなど得策ではなかった。

「そうか……すまないな、涼邑君」
「礼を言うのは勝手だ。だけど、もしも涼村暁が言うようにあんたが人を襲うような奴だったら……その時は、わかってるよな?」
「当然だろう。東京都知事が人殺しなど、できる訳があるか」
「そうしてくれるなら、俺も助かるよ」

 零が軽く答えた頃、部屋のドアがゆっくりと開く。
 振り向くと、結城丈二と石堀光彦が順番に部屋に入り、そして石堀の上官である西条凪という女が最後に現れた。

「へえ、あんたも目が覚めたのか……いがいとイケてるな、西条さん」
「こんな時にふざけないで、涼邑零」
「はいはい」

 凪の瞳は鋭利な刃物のような輝きを放っている。
 どうやら、彼女はややきつい性格のようだと零は思った。この状況では正解なのかもしれないが、あまり仲良くなれそうにない。
 あの東せつなという少女のようにもう少し穏やかならまだ話しやすいが、贅沢を言っても仕方がなかった。

「結城さん、もう話し合いは終わったのかな?」
「ああ……一文字や沖と出会える可能性が増えたのは、私としても喜ばしいことだ」
「それじゃあ、そろそろ行こうか? やっぱりここは居心地が良くないし」

 石堀達の為に戻ったが、本当ならば家族の仇である男の家などにはいたくなかった。
 それにこうしている間にもあの冴島鋼牙は今も何処かでのうのうと生きている。零にはそれが何よりも許せなかった。
 他の参加者によって無様に殺されるのも面白いだろうが、できるならこの手で決着を付けたい。だから、早く移動したかった。

「そうだな……いつまでもここにいるわけにはいかないからな。石堀、私達は先に行く。どうか、無事でいてくれ」
「ああ。あんたらこそ、生きてまた会えることを祈っているよ」

 石堀がそう答えた後、結城は部屋の外に向かって歩いていく。
 そんな彼を零も追おうとしたが、その前に暁に振り向いた。彼とはもう少し話をしたかったが、そんな時間などない。

「それじゃあ涼村暁、俺はこの辺で行く。お互い、生きていられるといいな」
「男と約束するのは趣味じゃねえけど……まあ、また会おうぜ!」
「全くだな」

 朗らかな笑みを浮かべる暁に軽く言い残して、零もまた部屋から出る。
 暁と別れるのはほんの少しだけ惜しいが、今はやるべきことを果たさなければならなかった。
 ロビーの扉を通って結城の元に辿り着く。そして、鋼牙を探す為に足を進めた。

「涼村、少しいいか」

 日の光が差し込む森を歩む中、結城が訪ねてくる。

617あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:10:11 ID:ErJt5zWU0
「結城さん、どうかしたのかな?」
「君は本当に知らないのか? 一文字が戦った暗黒騎士キバという奴を」

 それは石堀達を守っていた一文字隼人という男が戦った、漆黒の騎士のことだ。
 どうやらこの会場には鋼牙以外にももう一人、魔戒騎士がいるらしい。石堀が言うには、奴は計り知れない実力を持つ化け物のようだ。
 恐らく、奴もまた魔戒騎士の名を汚すような愚か者だろう。見つけたならば、この手で倒さなければならない。
 そんな相手と戦いに向かった桃園ラブという少女が気がかりだが、今は無事を祈るしかなかった。

「……いや、俺はそんな奴知らないよ」
「そうか……そういう危険人物がいるのならば、てっきり知れ渡っているかと思ったが……」
「それは、俺が世間知らずといいたいのかな?」
「そうじゃない。ただ、奇妙に思っただけだ……聞いてみると、君達が所属する組織の情報網はかなり広そうだ。それなのに、人を傷付けかねない魔戒騎士の情報を伝えないのは変じゃないのか?」
「むっ……」

 零はほんの少しだけ表情を顰める。
 実際、結城が言うように番犬所の情報網は計り知れない。己の使命を忘れて人斬りに走るような騎士など、すぐに番犬所が制裁を下すはずだ。
 例えその管轄にいなくとも、すぐにホラー喰いの魔戒騎士のように噂となるはず。

「……情報を意図的に隠したと?」
「いや、私にはまだ何とも言えない……君の世界について直接見たわけではないからな。ただ、警戒をする必要があるとだけ言っておこう」
「そうかい。忠告、感謝するよ」

 そう言い残して零は思考を切り替えた。
 実際、今ここで真相を考えても何にもならない。石堀達との件で時間を使ってしまった以上、その分だけ急がなければならなかった。
 暗黒騎士キバとやらについては鋼牙のついでに倒せばいい。石堀が言うにはキバはかなりの化け物らしいが、負けるつもりはなかった。
 未知の魔戒騎士に対する敵意を燃やすが、零は知らない。
 その暗黒騎士キバこそが零が追い求めている本当の敵であることを。もしも全ての真実を知ったとき、涼邑零は何を思うか。


【1日目/昼】
【E−5 森/冴島邸】


【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、パンスト太郎の首輪
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:零と共に移動する。
3:一文字、沖、村雨と合流する。その為に18時には市街地へ戻る。
4:加頭についての情報を集める
5:首輪を解除する手掛かりを探す。
  その為に、異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
6:タカヤや石堀たちとはまた合流したい。
7:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は12巻〜13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
 何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※零の狙う仇が冴島鋼牙である事を知りました。
 彼が復讐心に捉われる様ならばそれを力ずくでも止めるつもりです。
 ただし、鋼牙を討つ事そのものに関しては全否定をしておらず、もし彼が倒すべき悪であったならば倒すべきだと考えています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。

618あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:11:24 ID:ErJt5zWU0
【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止める。
0:××××に向かう(後続の書き手に任せます。どこかの施設です)
1:牙狼を見つけ出し、この手で仇をとる。
2:結城と共に鋼牙を探す。
3:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
4:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
5:結城に対する更なる信頼感。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
7:暗黒騎士キバという奴をいつか倒す。
8:涼村暁とはまた会ってみたい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
 その為、鋼牙が恋人と師の仇であると誤認しています。
※魔導輪シルヴァは没収されています。
 他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
 実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
 仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※もしも結城が自分の復讐を邪魔するつもりならば、容赦はしないつもりでいます。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
 また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
 ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。





「つまり……俺とこの黒岩って野郎は、未来で戦っているってことになるのか?」
「そういうことになるな」

 呆けたように口を開ける涼村暁に石堀光彦は冷静に返答する。
 結城丈二と涼邑零が去った後、休憩を兼ねた情報整理を改めて行っていた。気絶していた凪には詳しいところまでは話せていないので、今後の行動方針を決めるついでに伝える必要があった。
 そして今、結城が話した参加者達は別々の時間から集められているという説を、石堀はここにいる者達にも話していた。
 その結果、ここにいる暁と黒岩省吾は同じ世界に生まれながらも別々の時間から集められていることを石堀は知った。理由は、暁は黒岩のことを知らないのに対して、黒岩は暁のことをよく知っているような口ぶりだからだ。
 どちらかが嘘を吐いているようにも思えない。それならば、暁は黒岩が生きる時代よりも少し過去から連れて来られたと考えるのが自然だった。

「じゃあ、俺はこんな訳のわからない奴と出会うのかよ……何だか、明日を迎えるのが嫌になってきたぞ……」
「なら、この場で息の根を止めてやろう。俺も貴様にはいい加減うんざりしていた所だからな」
「そんなことさせるかよ! むしろ、てめえを返り討ちにしてやる!」
「やれるものならやってみろ! シャンゼリオン如きが、俺を倒せるとでも思ったか!」
「それはこっちの台詞だ! てめえみてえなペテン師に俺が負けるわけねえだろ!」
「待ちなさい!」

 睨み合いながら言葉をぶつけ合う暁と黒岩の間に割り込むように、凪は叫ぶ。
 その姿はまるで手のかかる子どもを叱ろうとする母親のようだった。

619あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:12:48 ID:ErJt5zWU0
「あなた達の因縁はわかったわ……でも、決着を付けるのは後にしなさい! 状況がわからないの!?」
「だって、こいつが……」
「黒岩省吾が危険人物だって話は聞いたわ……私だって、正直信用できない。それでも今は協力者なのだから、無駄に戦うのは止めなさい」

 凪の言葉に石堀は思わず目を見開く。
 いつの間に彼女はこんなに丸くなったのだろうか。こういう状況ならば不安要素になりかねない黒岩など即刻射殺するはず。例え殺さないにしても、集団から追い出すかもしれなかった。
 しかし今の彼女はそれをしないということは、何かがあったとしか考えられない。現に目が覚めてから事情を説明してからも暗黒騎士キバの元に飛び出して行ったりせず、状況の説明を求めていた。
 もしかしたら、違う時間から連れて来られたのかもしれない。いつも見てきている凪より、少々丸くなっている印象があるのだから。
 尤も、ビーストのような人類に害を成す存在への憎悪という根っ子の部分は変わっていないようだが。

「それと黒岩省吾……あなたがもし少しでも不振な動きを見せたら、私はあなたを敵と認識するわ。例えどんな信念を持っていようとも、ダークザイドであるあなたを認めるわけにはいかないのだから」
「……肝に銘じておこう」

 凪の鋭い眼光を前に黒岩は頷く。
 その瞳には獲物を狙う猛獣のような殺気が宿っていて、今にも襲い掛かりそうな雰囲気を醸し出している。
 殺し合いという異様な状況下に置かれているのもあるだろうが、いつも以上に闇が宿っているようだった。

(流石は凪だな。この状況下にいても尚、闇を強める……それでこそ俺が選んだ女だ)

 油断はできないが、どうやらこの殺し合いは凪を強化させるきっかけとしては上出来かもしれない。それはウルトラマンの光も同じで、もしかしたら凪に継承される頃には予想される以上の力を得ている可能性もあった。
 今は凪の生存を最優先に考えて、孤門一輝や姫矢准を探さなければならないだろうが。

(そして、ボトムにブラックホールか……まさか平行宇宙にはそんな連中がいるとはな)

 そして石堀の興味を引く存在がもう一つある。
 花咲つぼみとの情報交換の際に知ったボトムという名の深海の闇。
 黒岩省吾が出会った桃園ラブという少女が戦ったと言われるブラックホールという名の闇。
 どうやらこの殺し合いの裏にはそういう連中がいる可能性があるようだ。聞いていると、そういう奴らならば異世界や時間、更には異なる宇宙すらも手を伸ばせるかもしれなかった。

(だとしたら、不完全とはいえ俺を拉致できる輩がこの殺し合いに関わっている……やれやれ、事態は思った以上に深刻なようだな)

 ほんの少しだけ驚愕はしたが、微塵の恐怖も抱かない。神に等しい存在であるダークザギは、むしろ畏怖を齎す側だった。
 とはいえ、現状ではそんなことに力を入れる余裕などない。本来の計画通りに事を進める為にも、まずは脱出の糸口を探らなければならなかった。
 一文字隼人や沖一也、更に結城丈二達や花咲つぼみとは18時に市街地で落ち合うことになっている。そこに集まった者達を、どう利用するかが鍵になるかもしれない。
 とはいえ、主催者達も恐らくその事態を見通して市街地全域を禁止エリアにする可能性もあるだろうから、その時の事も考えなければならなかった。
 だが、それよりも今は……

「ほら見ろ! やっぱりてめえみたいなダークザイドは信頼されてねえじゃねえか!」
「それは貴様も同じじゃないのか!? シャンゼリオン、もしもこれ以上足を引っ張るようなことをするなら、どうなるのか覚悟を決めておいた方がいいぞ!」
「いい加減にしなさい!」

 子どもみたいな口喧嘩を続ける涼村暁と黒岩省吾や、そんな二人に対して苛立ちを露わにする西条凪をどう落ち着かせるべきか。
 このままだと凪は絶対に二人とは別行動を取るはず。それはそれで構わないが、利用できる可能性がある男達を切り離すのは惜しいかもしれない。
 ここは静観するか、それともどうにか同行させられるように場を宥めるか……それが石堀光彦にとって現状の課題だった。

620あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:13:33 ID:ErJt5zWU0




 西条凪は強い苛立ちを覚えていた。
 仮面ライダーアクセルに変身して一文字隼人と共に暗黒騎士キバと戦っていたはずなのに、無様な敗北を喫してしまう。その上、石堀光彦に抱えられて撤退させざるを得ないような状況を作ってしまった。
 しかも聞いた話によると桃園ラブという少女が一人で一文字を助けに向かったらしい。
 せっかく力を手に入れたのに、これではただ集団の足を引っ張っているだけだ。全体の規律を乱しかねない五代雄介達と別行動を取ったのに、何の意味もなかった。

(これじゃあ、彼らのことを笑えないわね……石堀隊員と合流した意味だってないわ)

 このままでは誰と出会っても役立たずのままだと、凪は思わず自嘲する。
 溝呂木眞也や暗黒騎士キバどころか、誰にも勝てる訳がなかった。加頭順やサラマンダーの元に辿り着けるなんて夢のまた夢だ。
 ましてや元の世界でビースト達を殲滅させることだって、できるわけがない。

(……いいえ、弱気になっても意味はないわ。今は目の前の男達をどうにかしないと。溝呂木眞也や美樹さやか、それに暗黒騎士キバもこの手で必ず殺す……今はその為に力を蓄えるべきだわ)

 しかし凪はその思考を振り切って、涼村暁と黒岩省吾をどうするべきかを考える。
 黒岩という男は危険な生命体のようだが、それでも五代雄介や美樹さやかと同じ対応を取るつもりだった。協力するなら良し、裏切るのであれば惨殺するだけ。
 また、不穏になるようであれば別れることも辞さない。涼村暁にも言えるが、これまでと同じだった。


 西条凪は知らない。
 信頼を寄せている部下がビーストの親玉である全ての元凶であり、母の仇でもあることを。
 また凪が力を振るう度に、その影は笑みを浮かべていることも知らない。
 この殺し合いの中で西条凪が全ての真実を知る時が来るのかどうかは、まだ誰にもわからなかった。


【1日目/昼】
【E−5/冴島邸】



【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:korrosion弾(二発消費)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー@仮面ライダーW、ガイアメモリ(アクセル、トライアル)@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する
0:今はこの場をどうするか……
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る
2:今、凪に死なれると計画が狂う……
3:凪と暁と黒岩と共に森を通って市街地に向かう
4:孤門、姫矢、つぼみの仲間を捜す。
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています

621あざ笑う闇  ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:14:22 ID:ErJt5zWU0

【西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、苛立ち
[装備]:コルトパイソン+執行実包(2/6)
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×8)、照井竜のランダム支給品1〜3個、相羽ミユキのランダム支給品1〜3個、テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
1:涼村暁と黒岩省吾をどうするべきか。
2:状況に応じて、仮面ライダーアクセルに変身して戦う。
3:孤門と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:五代雄介、黒岩省吾の事を危険な存在と判断したら殺す。
6:溝呂木眞也と美樹さやか、そして暗黒騎士キバもこの手でいつか殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前
※さやかは完全に死んでいて、助けることはできないと思っています
※まどか、マミは溝呂木に殺害された可能性があると思っています



【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式(ペットボトル一本消費)、首輪(ほむら)
[思考]
基本:願いを叶えるために優勝する………………(?)
1:石堀、黒岩と行動し、黒岩が変な事をしないよう見張る。
2:何故黒岩が自分のことを知っているのか疑問。
3:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
4:ラブちゃん、大丈夫なのか……?
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。但し、まどかの名前等知り合いの事については全く聞いていません。
※黒岩は未来で出会うダークザイドであることを知りました。



【黒岩省吾@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー(2/2)
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:周囲を利用して加頭を倒す
1:あくまで東京都知事として紳士的に行動する
2:涼村暁との決着をつける ……つもり、なのだが……
3:人間でもダークザイドでもない存在を警戒
4:元の世界に帰って地盤を固めたら、ラビリンスやブラックホールの力を手に入れる
5:井坂とティアナが何を考えていようとも、最終的には自分が勝つ。
6:桃園ラブに関しては、再び自分の前に現れるのならまた利用する。
[備考]
※参戦時期は東京都知事になってから東京国皇帝となるまでのどこか。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマンはダークザイドと同等又はそれ以上の生命力の持主と推測しています。(ラブ達の戦いを見て確信を深めました)
※ラブからプリキュアやラビリンス、ブラックホール、魔法少女や魔女などについて話を聞きました 。
※暁は何らかの理由で頭が完全におかしくなったのだと思っています。
※暁は違う時間から連れて来られたことを知りました。

622 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/09(金) 22:14:53 ID:ErJt5zWU0
以上で投下終了です。
問題点などがありましたら、指摘をお願いします。

623名無しさん:2012/11/10(土) 00:00:41 ID:PlXlAaRY0
投下乙。
零がキバのことを知ったかー
果たして彼こそが仇であることを知る日は来るのか…
そしてWスズムラが意気投合してるのにワロタw

それと一つ気になることがあります。
黒岩は、これまでダークザイドであることを隠してきたと思うのですが、なぜこのタイミングでばらしてきたのでしょうか?
一応暁は黒岩をダークザイドと疑うセリフは何度も吐いてましたが、黒岩は特にそのことに対してしらを切って隠し通してきましたし
後、石掘に東京都知事だと身元をばらしているのも気になります。
井坂との接触の時点で、東京都知事と身分を明かすことには慎重になっていたはずですが…

624 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/10(土) 00:15:34 ID:e5YpOvk.0
感想及びご指摘ありがとうございます。
申し訳ありません。正体が知られてしまった部分に関しては、読み直したら確かに隠し通してました……
これに関してはこちらのミスです。後程、修正版を修正スレに投下させて頂きます。

625 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/11(日) 11:21:20 ID:O3F7xuMc0
拙作の修正及び加筆版を修正スレに投下しましたので
お手数ですが、ご確認をお願いします。

626名無しさん:2012/11/15(木) 09:55:03 ID:9YHr19JU0
月報なので集計
もしもミスがあったらすみません。
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
110話(+7)  36/66 (- 6)  54.5 (-9.1)

627名無しさん:2012/11/23(金) 15:56:09 ID:gEFlgKAAO
予約きたね
牙狼勢、全員集合か……

628 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/23(金) 19:44:26 ID:UOXPIwbA0
これより、予約分の投下を始めます。

629せめて 願いと ともに ◆LuuKRM2PEg:2012/11/23(金) 19:45:28 ID:UOXPIwbA0
「霧彦さん……っ!」

 キュアパインに変身した山吹祈里は焦燥に満ちた表情を浮かべながら、市街地を駆け抜けていた。
 目が覚めたとき、園咲霧彦の姿は既に部屋の中にはなかった。
 何故、なんて考える必要はない。ゴ・ガドル・バと名乗った危険な男を止めるために、たった一人で飛び出していったのだ。その男は高町ヴィヴィオにとって大切な存在であるフェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアを殺害した上、まだ他者を犠牲にしようとしている。
 ボロボロな身体でそんな危険な相手の所に向かったら、すぐ負けるだけだ。

(お願い……無事でいてください!)

 必死に祈ると共に辺りを見渡すが誰も見つからず、余計に不安を煽ってしまう。
 時計の針を見てみると、あれから既に一時間以上も経過していた。そんなにかかっていたら、もう生きていない可能性の方が高かったが、それでも最後まで信じていたかった。
 それにもしかしたら、霧彦の元に桃園ラブのような優しい人が助けに現れているかもしれない。殺し合いを防ごうとしている人達の為に戦うなら、この足を止めるなんてできる訳がなかった。
 もしも、ガドルの呼びかけを早乙女乱馬やヴィヴィオが聞いてしまったら絶対に向かうだろうし、何よりも乱馬の頑張りが無駄になってしまう。
 そうなっては、何の為に乱馬が嘘吐きになったのかがわからなかった。

『ガイアメモリを使う参加者がいたら、極力回収して誰も使用できないよう保管してくれ』

 目が覚めた時に見つけたメモの内容を思い出す。
 たったそれだけの短い文章だったが、それだけしか書き残せないほど霧彦は急いでいたのだ。
 それもそのはず。ヴィヴィオが強いと言っている二人を倒す程の相手なのだから、放置させる訳にはいかなかった。
 メモを見た彼女は急いで変身して飛び出したが、霧彦のスカーフ、そして彼にとって大切なキーホルダーや絵だけは置いている。もしも戦いが激しくなったら、巻き込まれて壊されてしまう恐れがあったからだ。
 だから一緒に帰った頃に、返せばいい。

(私が寝ている間にも誰かが不幸になってる……これ以上、誰も犠牲にさせちゃいけないんだから!)

 既に放送では18人もの名が呼ばれている。
 ノーザのような人々を不幸にする奴は別だろうが、本当なら犠牲になってはいけない人達だ。みんな、それぞれの生活があるのに主催者達はそれを台無しにした。
 せめて、残された人達だけでもどうにかして助けなければいけない。その思いを抱く彼女の足は自然に速くなっていった。
 その時だった。

「この世界には、やっぱり面白いリントがたくさんいるみたいだね」

 そんな穏やかで涼しげな言葉が、後ろより聞こえてくる。
 それに気づいたキュアパインが素早く振り向いた先では、純白の衣服を纏った男が笑みを浮かべているのを見た。その笑顔はまるで、純粋な興味を向けているにも見えて、思わず彼女は怪訝な表情を浮かべてしまう。

「あの……あなたは?」
「君も、僕を笑顔にしてくれるのかな?」
「えっ?」

 意図がまるで理解できない返事によって、キュアパインの疑問は更に膨れ上がった。
 出会えたのがそんなに嬉しいのか? もしかしたら彼はここに来るまで、誰とも出会えずにずっと一人だったか、誰かに襲われて酷い目に遭ったのかもしれない。
 そう思ったキュアパインは、数メートル離れた場所にいる男に声をかけようとした、その時だった。

630せめて 願いと ともに ◆LuuKRM2PEg:2012/11/23(金) 19:46:10 ID:UOXPIwbA0

「さあ……始めようか」

 そんな言葉がきっかけで、周囲の空気が一気に冷たくなっていくのをパインは感じる。まるで、横浜を襲ったフュージョンの闇に取り込まれた時のように。
 彼女は全身から滝のように冷や汗を流す中、男の姿が急激に変わっていった。純白の衣服は骨格のようになり、額からは金色に輝く角が伸びている。しかも全身には異様なまでに派手な装飾品が飾られていた。
 変身した男の姿は、まさに怪人と呼ぶに相応しかった。

「白い、怪人……!?」

 その姿にキュアパインが驚く一方で、怪人は真っ直ぐにその腕を翳してくる。すると、彼女の身体は一瞬で灼熱の炎に飲み込まれた。

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

 メラメラと燃え上がる炎によって、彼女は耳を劈くような絶叫を喉の奥から発する。その灼熱を振り解こうと足掻くがデイバッグを落としただけで、何も変わらなかった。
 しかしそんな彼女を気遣う者など、この場には誰一人としていない。次の瞬間、無防備となったキュアパインの腹部に衝撃が走って、華奢な身体が呆気なく浮かび上がる。
 不意打ちに対応できないまま声にならない悲鳴を漏らし、瞬時に地面へ叩き付けられた。その際、衝突によって地面に小さなクレーターが轟音と共に出来上がるも、それに意識を向けている余裕などキュアパインにはない。
 そんな中、ようやくその身体を蹂躙していた火炎が消えたのは、不幸中の幸いだったか。

「あ……う、あ……っ!」

 しかしだからといって、彼女の痛みが完全に消えたわけではなく、ただ呻き声を漏らすしかない。たった二発の攻撃だが、威力があまりにも桁外れだった。
 それでもキュアパインは必死に耐えて迫り来る怪人に目を向ける。辺り一面に広がる煉獄の炎の中で唯一、白だけが異彩を放っていた。
 だがその体色を見て、彼女はある事を思い出す。

「白い怪人……まさか、あなたが霧彦さんやヴィヴィオちゃんを……!?」
「ヴィヴィオ……そういえば、そんな名前のリントがいたね。とっても面白かったよ」
「やっぱり……!」

 今は中学校で乱馬と一緒にはずのヴィヴィオはその身体に酷い大火傷を負っていて、霧彦はそれを白い怪人のせいだと言っていた。
 それら二つから考えて、二人を襲った犯人はこの怪人だとキュアパインは気づき、痛む身体に鞭を打って必死に立ち上がった。

「一体どうして、そんなことを……!?」
「僕が笑顔になりたいからさ」
「え、笑顔……?」

 睨むキュアパインの事などまるで意に介していないかのように、その怪人は愉悦に満ちた声であっさりと答える。しかしその答えはキュアパインの疑問を強めるだけだった。

「僕は君みたいな面白そうなリントとゲゲルができれば、それでいいんだ……そうすることで、僕は笑顔になれるからね」
「そんなっ……じゃあ、あなたはそんな理由だけで霧彦さんやヴィヴィオちゃんを傷つけたの!?」
「そうだよ」
「なんですって……!?」

 さも当然であるかのような怪人の答えは、日頃穏やかなキュアパインといえども怒りを覚えてしまい、両手を強く握り締めた。
 この怪人はラビリンスと同じで人の不幸を喜ぶような悪人だ。止めなければ多くの被害が出てしまう。だから何としてでも戦わなければならないと考えて、キュアパインは前に進んだ。

「やあぁっ!」

 その脚力によって一瞬で怪人の目前にまで迫ってから、横薙ぎに拳を振るう。しかし怪人は微かに屈んだだけで避けてしまい、掠る事もない。気にせずキュアパインは反対側の拳を叩き込もうとするも、やはり当たらなかった。
 それでも彼女は怪人の胸部を目掛けて、もう一度拳を放つ。このまま行けば当たると彼女は思った。だが次の瞬間、パインの拳は怪人によって軽々と止められてしまう。
 それも、片手一本だけで。

631せめて 願いと ともに ◆LuuKRM2PEg:2012/11/23(金) 19:47:24 ID:UOXPIwbA0

「えっ!?」
「なかなか、面白いね」

 そんな声が聞こえてくるのと同時にパインの身体は急激に持ち上げられてしまい、そこから何発も殴られ、吹き飛ばされていった。
 地面に叩きつけられて転がるが、すぐに体制を立て直す。しかし次の瞬間、彼女の膝は震えてしまう。
 怪人の拳は、持久力に優れたプリキュアであるキュアパインの体力を容赦なく奪うくらいに重かった。

(強い……だけど、今は私だけでも頑張らなきゃ!)

 この白い怪人はナケワメーケ達よりも遥かに強くて、一人だけではとても勝てる相手ではない。戦ってまだ数分も経過していないが、拳の重さは圧倒的な実力差を嫌でも思い知らされてしまった。
 だけど、ここで逃げ出してしまったらまたヴィヴィオが傷ついてしまうし、何よりもプリキュアのみんなだったら絶対に戦っているはずだ。
 例えどれだけ傷つこうとも、殺し合いを打ち破ろうとしている人達の為にも白い怪人を倒さなければならない。自身にそう言い聞かせながらキュアパインは一直線に走り、一瞬で距離を詰めた。
 その直後、当然ながら怪人の拳もまた砲弾のように迫り来るが、キュアパインは頭部を僅かに横へずらして回避に成功する。そこから疾走の勢いを乗せたパンチを白い上半身に放った。
 衝突によって鈍い音が響いて、怪人は微かに揺れる。それを好機と見たキュアパインは機関銃のような勢いで拳を何発も放ち、そこから回し蹴りを叩き込んだ。
 その甲斐があってか、怪人は呻き声を漏らしながらようやく後退するのを見て、キュアパインは両手を頭上に掲げて叩く。
 そのままハートの形を作る様に構えた両手に力を込めると、山吹色の光が放たれた。

「悪いの悪いの飛んでいけ! プリキュア・ヒーリングプレアー!」

 穏やかながらも力の籠った宣言と共に、二つの掌から光線が発射されて怪人を飲みこんで、その姿を見えなくする。
 本当ならキュアスティックを出して必殺技を使いたかったが、その時間すらも隙になってしまう恐れがあるので、ヒーリングプレアーにせざるを得なかった。
 だけど、この程度で勝てる訳がない。そう判断すると同時にピックルンが現れたので、キュアパインは掴もうとした。
 しかし次の瞬間、ようやく収まっていく光の中より小さな影が飛び出してくるのをキュアパインは見る。だがそれに反応しようとした直前、腹部に衝撃が走ると同時に膝が崩れ落ちた。
 立ち上がろうとしても力が入らず、その直後に彼女は咳き込んでしまい血を吐き出してしまった。

「……ッ!?」

 掌に付着した赤い液体に驚いたのも束の間、穴が開いたキュアパインの腹部から大量の血液が流れ出ていった。
 それと共に彼女の力も消えていき、水溜りのように広がった血の中へと体が倒れていった。
 全身が血で濡れた瞬間、足音が聞こえてきたのでキュアパインは顔を上げる。薄れていく意識の中で、あの白い怪人が赤く染まった剣を持ちながら見下ろしている姿があった。
 刃は赤で彩られている。それを見て、ヒーリングプレアーに飲み込まれている間に剣を投げたのだと気付いたが、怪人から与えられたダメージが身体の動きを阻害して反応を遅らせていた。
 結果、刃はキュアパインの腹部を容赦なく貫いてしまったのだ。

「もう終わり?」
「……ま、まだよ……私は、まだ……!」
「じゃあ、続けようか」

 そんな軽い言葉を呟く怪人は、キュアパインの腹部に空いた穴を踏みつけてくる。
 その一撃によって出血は更に激しくなり、声にならない悲鳴を口から漏らしながら目を見開いた。
 押し返そうとしても、今の彼女にそんな力など残っていない。意識を保っているだけでも精一杯だった。
 しかし数秒ほど経った後、突如として怪人はキュアパインから足を離す。それによって圧力は解放されるも、それでも命が削り落ちていくままに変わりはなかった。

「……君はもう駄目みたいだね」
「……え、っ……?」
「面白そうだと思ったけど、これじゃあもう僕を笑顔にするなんてとてもできないね……残念だよ」

 キュアパインの耳に届いたのは失望にも聞こえる言葉だった。
 怪人の表情は微塵にも変化を見せないが、まるで遊びがつまらなくなって失望したような雰囲気を放っているようだと、彼女は思う。

「もしもまた僕の前に現れてくれるのなら、今度は笑顔にできるようになってね……リントの戦士」

 そう語る怪人は興味をなくしたかのように目を逸らして、ここから離れようとする。
 しかしキュアパインは怪人が動く前に、必死に腕を伸ばして足を掴んだ。

632せめて 願いと ともに ◆LuuKRM2PEg:2012/11/23(金) 19:50:01 ID:UOXPIwbA0
「待ち、なさい……!」
「ん……?」

 必死に口を開きながら怪人を睨む。
 しかし怪人はキュアパインに見向きもせずに手を振り払って、そのまま勢いよく身体を蹴りつけた。
 まるで巨大な鉄球が激突したかのような凄まじい衝撃によって彼女は悲鳴と共に吹き飛ばされてしまい、そのまま地面を転がっていく。
 致命傷の身体にその一撃はあまりにも辛い。回転によって飛び散った血液の量は夥しく、キュアパインの命はもう長くないことを証明していた。
 戦うことはおろか、立ち上がることすらもできない。この場に第三者がいれば、間違いなくそう判断していただろう。
 だが――

「ま、まだよ……まだ……まだ……!」

 華奢な体躯の至る所に傷と痣が生まれて、腹部からの出血が止まる気配を見せないにも関わらずキュアパインは立ち上がった。
 激痛と失血によって意識は朦朧としていて、怪人の姿すらもまともに見えない。足元は覚束なくて今にも崩れ落ちてもおかしくなかった。
 それでもキュアパインは痛む身体に鞭を打ち、最後の力を振り絞るように立ち上がったのだ。

「へぇ、まだ立てたんだね……ちょっとだけ驚いたよ」

 そんな中、怪人の声が聞こえてくる。
 まるで小さな子どもが物事を訪ねてくるかのような穏やかも感じられるが、それが逆に異常性を引きたてていた。
 しかしキュアパインはそんな事などお構いなしに、腰からリンクルンを取る。

「どうして、君達リントはそんなに頑張るのかな……僕を笑顔にできないのに」
「私は……あなた達から……みんなを、守らないと、いけないから……! プリキュアだから……!」
「プリキュア……?」
「乱馬君やヴィヴィオちゃん……それに、霧彦さんだって守って……みんなで、帰るの……! 元の世界に帰って、楽しい毎日を送らないといけないから……!」

 震える声で必死に喋る彼女は反対側の手を伸ばして、現れたピックルンを掴んだ。目の前はまともに見えないが、それでもすぐ近くにあるという確信があったからこそ、触れることが出来た。
 そのまま彼女は身体を無理矢理動かして、キルンをリンクルンに差し込み、そして横に捻る。それによって現れたキュアスティック・パインフルートを掴み、音色を奏でた。
 いつもならば簡単にできているはずのそれが、今回は重労働に感じられる。音を響かせる度に血は流れていき、キュアパインの命は確実に削り落ちていった。
 死ぬのは怖い。みんなに会えなくなるのは嫌だ。誰も助けられないなんて信じたくない……様々な弱音が彼女の脳裏に過っていく。
 しかし、彼女はそれを振り払って演奏を続けて、最後のパートを終わらした。それによって、パインフルートから輝きが放つ音が耳に届く。

(みんなを……助けなきゃ……みんなを、絶対に……!)

 パインフルートを握り締めるキュアパインの脳裏に、大切な人達の姿が浮かび上がっていった。
 桃園ラブ、青乃美希、東せつな、早乙女乱馬、高町ヴィヴィオ、園咲霧彦、四つ葉町に住むみんな……本当ならみんなとまた会いたかったが、それすらも叶いそうにない。
 でも、それならばせめてみんなに危害を与える怪人を止めなければならなかった。ヴィヴィオや霧彦に大怪我を負わせて、今だって誰かを襲おうとする邪悪な怪人からみんなを守らなければならない。
 そんな決意を胸に抱いて、キュアパインはパインフルートを振るった。

「プリキュア……ッ、ピー……リン、グ・プレアー……フレーッシュ!」

 掠れるような声と共に、山吹色の光線が杖の先端より勢いよく発射されるが、それすらもキュアパインにはまともに見えない。
 せめて、この一撃だけは届くことを信じるしかできなかった。そして、あの白い怪人が浄化されてもう誰も殺さないようになって欲しい。
 誰かを傷つけるのが幸せだなんて絶対に有り得ないし、何よりも悲しすぎた。出来るなら、ラブ達には彼に本当の幸せを教えてくれるのを信じるしかない。
 そして最後にはあの怪人もせつなのように心を入れ替えて、みんなの為に戦って欲しかった。それがあまりにも難しすぎることはわかっているが。
 ピーリング・プレアーフレッシュが眩い輝きを放つ中、キュアパインの身体はゆっくりと倒れていく。もう、彼女は限界だったのだ。
 そのまま血の中に沈んでいき、瞼がゆっくりと閉じていく。

(みんな……無事でいてね……みんなが生きて帰れるって事を、私は信じているから……)

 そして、キュアパインは最期にそう祈った。
 もうこれ以上、誰も殺し合いなんかの犠牲にならずに無事でいることを。そして、無意味な戦いなんかが早く終わってたくさんの幸せと笑顔が生まれてくれることを。
 そんな純粋な祈りこそが、山吹祈里という少女が最期に抱いた願いだった。

633せめて 願いと ともに ◆LuuKRM2PEg:2012/11/23(金) 19:50:42 ID:UOXPIwbA0





 白い怪人――ン・ダグバ・ゼバは戦場であった市街地に一人で佇んでいた。
 赤と銀の戦士・ウルトラマンネクサスとの戦いの後に生き残ってから市街地を歩いていると、暁美ほむらという魔法少女のようなリントの少女が駆けつけているのを見つける。
 その速度と跳躍力を見ると、ただのリントとは思えなかったので戦いを挑んだが、その実力はダグバには遠く及ばなかった。無論、ズやメのグロンギと比べると強いだろうが、それでもダグバにとっては何の障害にもなりえなかった。
 腹部が剣を貫通したにも関わらず立ち上がり、そこから光線を発射してきたが面白かったので受けてやったが、やはり碌なダメージは残っていない。
 そして肝心の少女は血で出来た水溜りの中に倒れていて、起き上がる気配を見せなかった。
 そういえば、この少女の名前を結局知る事はできなかったと今更になって思い出す。殺してしまったのでもう関係ないが、聞いておくべきだっただろうかと、ぼんやりと考えた。
 こうして死んでしまった以上、もうどうにもならないが。

(それでも、ちょっとだけ笑顔にはなれた……楽しかったよ)

 暇潰し程度とはいえ存外楽しくなれた。だから、もう未練はない。
 ダグバは少女の持っていた支給品を全て回収した後、携帯電話のようなアイテムに手を触れる。しかしその瞬間、奇妙な衝撃が掌に駆け巡る。
 その携帯電話・リンクルンは邪悪な心を持つ者が触れようとすると拒絶する性質を持ち、かつてイースだった東せつなの手を払い除けていた。
 しかしその抵抗はダグバにとってあまりにも弱弱しく、あまり意味を成さなかった。

(プリキュアって他にもいるのかな……? ソウルジェムを持つリントみたいに)

 もしもあのプリキュアは他にもいて、この携帯電話を見せつけたらどんな反応を示すだろうか? ゴ・ジャラジ・ダと戦ったクウガのように怒りを見せてくれるだろうか?
 面白いことになってくれそうなのは確かだが、ここでそれを考えても仕方がない。後の楽しみにすればいいだろう。
 携帯電話をデイバッグの中に収めたダグバは腕を少女に翳して、超自然発火能力を発動した。すると、少女の身体を構成していた全ての分子が摩擦を起こして、そのまま灼熱の炎に飲み込まれていく。
 それは彼女から流れ出た血や崩れ落ちた瓦礫も飲み込んで、全てを焼き切ろうと容赦なく広がった。その勢いならば、それほど長い時間はかからずに少女の体は燃え尽きるだろう。
 この事をリントの戦士が知ったら、きっと面白くなるはずだった。特にそれがクウガだったら、凄まじき戦士となってくれるかもしれない。

(そういえば、リントには火葬っていう文化もあったね……これも、そうなのかな)

 純白の衣服を纏った青年の姿に戻ったダグバはそんな事を考えながら、笑みを浮かべる。
 無論、この行為に敬意など一切存在しない。それどころか、死者となった少女や残された者達への愚弄しかなかった。
 しかしそれ以前に、ダグバの中に敬意という感情など存在しない。自分自身が笑顔になる事しか求めていないのだから、当然だった。
 天に高く昇る太陽な強い輝きを放っているが、それはダグバの心に届かない。
 何故なら、ン・ダグバ・ゼバの中には太陽すらも葬ろうとする究極の闇しか存在しないのだから。



【1日目/昼前】
【H-8/市街地】

※【G-8/中学校】 には蚊取り線香の匂いを発する春眠香、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置きが置かれています。


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]: 全身に中程度のダメージ
[装備]:クモジャキーの剣@ハートキャッチプリキュア!、T−2ガイアメモリ(ナスカ)@仮面ライダーW、 T2ヒートメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×4(食料と水は3人分、祈里:食料と水を除く、霧彦)、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、スタンガン、リンクルン@フレッシュプリキュア!、ランダム支給品(ほむら1〜2(武器ではない)、祈里0〜1)
[思考]
基本:この状況を楽しむ。
0:警察署側に向かう。
1:市街地を適当に歩いて、リント達を探す。
2:強い変身能力者たちに期待
[備考]
※参戦時期はクウガアルティメットフォームとの戦闘前です
※発火能力の威力は下がっています。少なくとも一撃で人間を焼き尽くすほどの威力はありません。


【山吹祈里@フレッシュプリキュア! 死亡確認】
【残り35人】

634 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/23(金) 19:51:55 ID:UOXPIwbA0
以上で投下終了です。
もしも気になる点がありましたら、指摘をお願いします。

635名無しさん:2012/11/23(金) 22:57:52 ID:dd7L0U9Q0
投下乙。
最近は真っ先に死にそうなやつばっかり死ぬなー。

636名無しさん:2012/11/23(金) 23:23:47 ID:2cFrC24sO
投下乙です。ま、ラスボスの中でも規格外なダグバに集団戦前提なヒーロータイム(ライダーからしての)前後組が会えばこうならあな、南無。

637名無しさん:2012/11/24(土) 01:25:12 ID:XAfbBgBM0
投下乙
ついにダグバにキルスコアがついたか
ブッキー…起きた直後にダグバ遭遇とかドンマイ

638名無しさん:2012/11/24(土) 20:00:12 ID:hO3YUhsAO
投下乙です。

ダグバは、幸せを問われたら「全力の殺し合い」とか答えるんだろうな。

639 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 16:56:30 ID:tt6LLEqc0
ただいまより、投下を開始します。

640牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 16:57:55 ID:tt6LLEqc0

 その再会を祝福する者などいなかった。
 四人の戦士の間にあるのは、二つの強力な爆弾である。普段ならば、その爆弾が起爆することはないだろう。その爆弾が発動するのは、一定の条件が満たされた場合だ。
 ……しかし、それは偶然にも、そして非常に残念なことに、起爆剤となる二つの条件が、見事に出揃った状況での再会なのである。

 村雨良、という男がいた。
 その男は親友・三影英介を『仮面ライダー』によって奪われた。

 涼邑零、という男がいた。
 その男は自らの家族を『黄金騎士』によって殺された。

 そして、結城丈二は『仮面ライダー』であり、冴島鋼牙は『黄金騎士』だった。
 ただ、それだけだった。

「鋼牙、偶然だな……こんな所でッ!」

 冷たい森の中で、涼邑零は怒号を交えて叫ぶ。
 その表情は、つい先ほど別れた集団に見せた顔と、今の零の顔は、似ても似つかないほどである。零も、普段は笑顔に感情を隠していた、相当の役者だったらしい。
 ……などと感心している場合ではなかった。
 結城丈二は、まず目の前の状況を片付けなければならない。

 結城が遭遇した相手の片割れの名はわかっている。
 村雨良。実際に会った事もあるし、共闘した記憶も残っている。
 もう一方が、おそらく冴島鋼牙だろう。二人はおそらく行動を共にしていた。その意図は不明である。鋼牙が善か悪かは、まだ判断し難い。
 少なくとも、零の認識上は悪であるというのはわかるが、それは偏見に満ちた判断だ。結城自身で判断すべき場面である。

「零……!」

 鋼牙と村雨が零の呼び声に気づく。
 二人は、少し固まったようだった。あちらも、少し考えてから行動を開始しようとしているのだ。結城、鋼牙、村雨の三名は、いま現在冷静に考えて行動することができる。
 しかし、零はできる状態ではなかった。
 少なくとも、鋼牙という仇の目の前では……。

 零の双剣が、その腰から抜かれる。

 零自身、すぐに鋼牙を殺そうという気はない。少しは鋼牙にもがく余地を与える気なのである。
 少なくとも、今の今まで、零は鋼牙をすぐに殺そうと襲ったことはなかった。これは所謂威嚇というものだ。

「「……待て、零!」」

 結城と鋼牙の言葉が重なる。
 だが、零は魔戒剣を両手に構え、鋼牙に向かって走り出した。
 鋼牙は自らの魔戒剣を抜いて、体を切りつけようとした零の剣を、間一髪で防いだ。
 真横に構えられた鋼牙の剣の上に、零の剣が二つ重く乗せられて、厭な金属音を発している。

641牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 16:58:27 ID:tt6LLEqc0

 こうして鋼牙に避けられるのもまた、零の計算の範囲内だった。
 魔戒騎士の最高位と呼ばれる黄金騎士だ。この程度の攻撃を回避できないようでは、零が既にその称号を受け継いでいたに違いない。
 もし当たれば即死するような攻撃であるのは間違いないが、黄金騎士は間違いなく避ける。少しの狂いもなく、確実に避ける。縦令どんなアクシデントが発生したとしても、彼は絶対に零の剣を回避するだろう。
 そうして互いにこわばった顔で睨み、腕と剣に力を込めあっていると、鋼牙の胸元から、突如として聞き覚えのある声が零を呼んだ。

「零!」

「シルヴァ……?」

 この場には女性はいないが、それは女性の声である。もっと言うのなら、ここに来てから零が所持することを許されなかった相棒・『魔導具』のシルヴァだと、零は知っていた。
 何故、その声が鋼牙の胸元から聞こえるのか、零にはわからなかった。
 零は注意力を一瞬失ったが、力を入れることは忘れず、まだ鋼牙との競り合いを続ける。

「……鋼牙、零、剣を仕舞いなさい」

「そんな事を言われても困る。俺は今、手が離せない」

 鋼牙は驚いた風もなく答える。少なくとも、彼は今手を離せる状況ではなかった。手を離せば鋼牙の体が三つに避けてしまう。
 この場合、零が先に剣を下げる必要がある。だが、零にはそんな様子が見られなかった。
 彼はただ、更に激情を重ねた様子で、

「鋼牙、何故貴様がシルヴァといる……!」

 と問い詰めた。
 ホラーに関する何かが隠されているから、シルヴァは没収されたのではなかったのか。

「話を聞けばわかる。零、剣を仕舞え!」

 結城や村雨には、二人のやり取りの意味がわからなかった。
 特に結城などは、どこから女性の声が聞こえるのかさえ、把握できなかった。
 ともかく、それぞれの立会人がいるという事実は、鋼牙か零の裏切りを防止する最善策だ。どちらかが剣を下ろした隙を狙って、もう一方が剣を振るったならば、結城か村雨が黙ってはいまい。
 そう考えて、結城は一歩前に出る。同じ結論に至ったのか、村雨も前に歩んだ。

「……零、先に剣を下げなさい! 鋼牙の話を聞いて」

「……!」

 シルヴァに言われた数秒後、村雨の顔色を伺い、躊躇いながら零は剣を下げた。
 鋼牙も同じように、剣を地面に向けた。敵意こそないようだが、互いに警戒し合っている。
 鋼牙は、左手で己の首にぶら下がった魔導のネックレスを外し、零に渡す。いや、シルヴァが話しやすいように、そちらに向けただけだろうか。
 とにかく、零は自分に向けられている相棒を、やや不機嫌そうに受け取った。

642牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:02:55 ID:tt6LLEqc0

「零、誤解しているようだが俺はこの殺し合いに乗っていない」

「……信用できるか」

「お前の家族を殺したのも俺じゃない。……バラゴ、暗黒騎士キバこそがお前の家族の仇、そして俺の父親の仇だ。太刀筋が同じなのは、奴が黄金騎士──俺の父の弟子だったからだ」

 鋼牙の言葉に、零が反応する。
 暗黒騎士キバ──石堀たちから聞いた名前である。
 この会場にいる、凶悪な刺客であるというのは聞いた話では確かだ。

「やはり、暗黒騎士キバか……」

 結城が呟く。そう、結城も薄々実感していたのである。
 「零の知らない魔戒騎士」という違和感が、結城に少しの猜疑心を持たせたのだ。
 村雨は黙っていた。話についていけないせいもある。結城が村雨に声をかけないのは、偏に村雨のこんな様子にも不自然さを感じていたからだった。
 結城の仮説が正しいのなら、村雨に正体を明かすことでまたひと悶着起きてしまう。この二人のように争いごとになるのは御免だ。

「信じられるわけないだろう、鋼牙。……俺はお前を仇と思うのはやめない」

 零は頑なだった。
 結城は、自らの考えを語ろうと口を開いたが、先に鋼牙が声を発した。結城の様子に気づいているようだった。

「……そうか。いずれにせよ、時が来ればわかる」

「その男とはいずれ会うことになる……そう言いたいのか?」

「ああ。それに、お前が俺を殺さないことも、わかっている」

 鋼牙は既に零がこれからどう動くのかを知っている。
 そう、これから先、零は決して鋼牙を殺せないし、殺さない。

「銀牙騎士絶狼(ゼロ)──その魔戒騎士の名を、俺は信じているからな」

 ──シルヴァの言うようにやって来た時系列が異なったとしても、零は魔戒騎士に違いないからだ。
 零の知らない零を、鋼牙は未来で知っている。
 誰よりも熱く、誰よりも人を守る使命に忠実で、鋼牙が信頼した友である「涼邑零」という男の名と誇りを、鋼牙は生涯忘れないだろう。

「……」

 零は、また少しだけ迷った。
 冴島鋼牙を敵として見つめる時、零は毎度不思議な違和感を感じるのである。
 彼が、人を殺すようには見えない……という不思議な違和感を。
 いや、むしろ零自身は心のどこかで願っているのだ。本当の仇が別の誰かであることを。
 零自身、そんな自分の本性に気づいているはずもないが。

 はっと、零は自分が鋼牙から目を逸らしていた事実に気がついた。
 本質的に、彼を避けているのが零の本当の心理……ということなのだろうか。
 そして、鋼牙を見つめなおすと、彼は太い声で零に言う。

「……構えろ、零」

 不意に、鋼牙の表情が曇り、妙な気配のある方に顔を向けた。
 彼は剣の柄を持つ腕に力を込めている。……その理由は簡単だ。

「思ったよりも早く信じてもらえそうだな」

 零は、鋼牙の視線の先を同じようにして見た。
 鋼牙が見ていたのは、黒衣を着た奇妙な人物であった。木々の向こうから、何の構えもなしに歩んでくる。零は、その様子にまた、既視感を覚える。
 そう、彼は知る由もないが、それは、かつて鋼牙が戦い倒した漆黒の魔戒騎士の異形である。
 結城も、村雨も、そちらを向いて、その異様な雰囲気に戦慄しながら構えた。

643牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:04:26 ID:tt6LLEqc0

「……冴島鋼牙」

 奇怪な人物のその呟きを聞き、鋼牙はその人物に向かって駆け出した。鋼牙の踏む地面の落ち葉が、かつて舞い降りた時のように、虚空に上がり舞っている。
 そして、顰めた表情で、零たちに叫ぶ。

「奴がバラゴ──俺たちの本当の仇だ」

 バラゴは、黒い着物の下でニヤリと笑ったように見えた。その様子から、少なくとも男性であるのは見て取れる。もともと、魔戒騎士は男性しかなり得ないものでもある。
 鋼牙が一凪ぎすると、バラゴは上空に引っ張られるように跳び避けた。足を跳躍の形に曲げた様子もない、奇妙な『浮遊』だった。
 結城と村雨は、それに少し驚いたようだった。
 だが、既に一度倒した鋼牙は、バラゴの速さも強さも知っている。
 最初にバラゴが狙ったのが鋼牙だったのは、鋼牙にとっても好都合であった。

「はぁっ!」

 鋼牙は声を高らかに上空へ跳び、バラゴの真横で剣を振り下ろす。
 今度は、上空でバラゴの体は狙われた。そして、バラゴはそれを黒衣の中から取り出した剣で防いだ。
 先ほど聞いたよりも、ずっと重い金属音がその場にいる全員の耳を刺激する。

「「!!」」

 地面に着地する頃には、その鍔迫り合いが終わっていた。二人は互いの剣をぶつけ合う力を反動として、距離を離して降り立ったのである。
 しかし、二人の猛攻は終わらない。
 他の三人が割ってはいる隙など無いほどに。

(バラゴ……いや、暗黒騎士キバ! 俺は何度でも貴様を倒す!)

 鋼牙の刃が、一振り、一凪ぎされるのを、そこにいる超人たちは辛うじて視認していた。
 素早く、そして一つ一つが重い一撃だった。
 だが、その攻撃をバラゴは的確に避けている。黒衣を掠めればまだ良い方だ。尤も、その剣が黒衣を掠めることに、バラゴはかなり驚いているようだったが。

(この一撃、もはや僕の知る冴島鋼牙の腕ではない。短期間のうちに、腕を上げたか……?)

 くどいようだが、この鋼牙はバラゴの知るより後の鋼牙である。
 既に一度バラゴを破り、メシアやレギュレイスなどという強敵ホラーをも討ち滅ぼした彼の剣を、そう簡単に避けられるはずもない。

(流石は冴島大河の息子か……だが、その強き太刀さえも俺は喰らう)

 バラゴは剣を上空に掲げたかと思うと、そこに円を描いた。
 その円は、神秘的な煌きとともに、バラゴの体の各部位へと、デスメタルの鎧が落としていく。まるで、円の向こうには別の世界が広がっているようだった。
 そして、一秒とかかることなく、禍々しい黒のシルエットの戦士が、鋼牙と零の前に再び現れる。

 暗黒騎士キバが、邪魔そうにマントを翻した。
 暗黒に堕ちし魔戒騎士バラゴ。その真の姿とでも言うべき、悪の外形が四人の戦士を睨んだ。
 結城は、初めて見た魔戒騎士の姿に少し驚いたようだったが、一秒も経たないうちに受け入れた。変身方法や形状が、これまでの敵よりもやや特殊というだけで、変身する戦士も珍しくも何ともない。
 それより、結城は隣の零を気にかけた。

「……そうか」

 そう呟いた零の横顔。
 その目はやはり、眼前の黒騎士を睨んでいた。瞳の色は、鋼牙を見たとき以上に、復讐の黒に染まっていた。
 結城は、暗黒騎士キバの姿よりも、そちらの様子に驚いた。

「奴の言ったとおりだ。鋼牙は俺の本当の仇じゃない……!」

 零の脳裏に焼きついた、忘れもしない魔戒騎士のシルエット。──静香が突き刺される、零の毎日の夜の夢。その最悪の登場人物。
 それは、こうして眼前に立つ暗黒騎士キバのものと重なった。
 零の両手がわなわなと震える。しかし、魔戒騎士の双剣だけは確かに持っていた。

「零、無茶しちゃ駄目!」

 シルヴァの声を耳に入れることはなく、零は駆け出していた。
 銀牙という少年が涼邑零と名乗るようになった原因である男。零の恋人と父親を殺した男。零から守りたいものを奪った男。
 許せるものではない。
 たとえ、零の命が脅かされるとしても、戦わねばならぬ敵である。

 涼邑零はこれまで、誰かを護るために戦ってきたわけではないのだ。
 最初は、静香を守るために魔戒騎士になった。
 その人を奪われてからは、零は、仇を討つために戦っていた。
 だから────

「静香の仇ィっ!!」

 銀牙騎士ゼロとなった涼邑零が駆け出す。
 それを追うように、結城丈二と村雨良は駆け出す。その男の危険を、二人は察したのである。
 零の無理を通させぬよう、二人は反射的に変身をしていた。

644牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:05:04 ID:tt6LLEqc0

「ヤァッ!」

 聞こえるは、ライダーマンの変身の発声のみ。
 その真横で、ゼクロスがライダーマンの横顔を見つめていた。

「仮面ライダー……っ!」

 だが、今はそれ以上に優先すべきものがあった。
 鋼牙を襲い、更にその知り合いを脅かす謎の戦士に、仇なす。鋼牙に協力することだ。
 ゼクロスは、ともかくライダーマンとはこの戦闘中は手を組むことにした。その後、どうするかはわからないが。

「仮面ライダー、それに魔戒騎士。まとめて地獄に送ってやる」

 キバの前に現れたのが、因縁深き魔戒騎士と仮面ライダーばかりだったのは、ある意味奇跡的ともいえる。役者が揃った姿に、キバは愉悦を感じた。
 この全てを飲み込み、最強となる資格があるか──それが試されているのだろう。

 鋼牙の方を見れば、その姿は黄金騎士ガロのものに変わっていた。
 かつて戦った冴島大河と違うのは、瞳の色が紅でなく碧であるということだ。しかし、獰猛な魔戒騎士の「獣」に似た姿は違いが無い。
 この場で最大の敵になるとすれば、この男だろうが、キバはまず真横から来るゼロに剣を向けた。

「がっ……!」

 ゼロの胸部にキバの剣が突き刺さる。そして、ゼロの体が剣一本で持上げられ、ライダーマンとゼクロスの方に吹き飛ばされた。転がってくるゼロに、二人の戦士が足止めを喰らった。
 怒りに狂ったうえに、まだ未熟なゼロは、キバの敵ではなかったのだ。
 ライダーマンがゼロを抱き起こすと、今度はゼクロスがキバに向けて攻撃を開始する。

「マイクロチェーン!」

 電撃を帯びたチェーンが、キバの体へと到達する。
 しかし、そんな攻撃は何でもないという風に、キバはその鎖を剣で切り裂いた。電撃による光が見えたが、それを痛々しいと感じる者はここには誰一人いなかった。

「はぁっ!」

 ガロの牙狼剣がキバの方へと向かっていく。
 それをキバは左手で軽く受け止め、今度は右手の黒炎剣をガロに向けて振り下ろそうとした。

「ふんっ!」

 しかし、それはガロの左足が蹴飛ばして、木々の向こうへと落ちてしまう。
 ガロは、それを好機と見るに、キバの握力にも勝る豪腕で牙狼剣を引き抜いた。

 その剣は、すぐに真っ直ぐキバの体へと振り下ろされる。
 右肩から左脇にかけて、牙狼剣はデスメタルに深い傷をつけた。

「鋼牙、そいつは俺の獲物だ!」

 だが、その優勢は長くは続かない。
 起き上がったゼロが、ガロを突き飛ばして割ってはいる。ガロは、その不意打ちによろけてキバの正面を取られてしまった。
 雌雄一対の銀狼剣をキバに向けて×の字に振るうが、キバはそれを問題にすることもなく、また両手の握力で止めてしまう。

「零!」

 ガロが名前だけ呼んだ。それは、警告の意味であるのだとわかっているのだが、ゼロは意にも介さない。この男を倒せれば、それで良いのだと思った。
 しかし、銀狼剣はそのままゼロの両手からすっぽりと抜けた。
 剣を失ったキバが、黒炎剣の代替としてゼロの剣を奪ったのである。刃の部分を掴んでいるが、鎧の上からでは結局変わらない。
 すぐに柄の部分に持ち変えると、キバはそのまま向かってくるガロとゼロを同時に斬った。

「ぐあああっ!」

 二人の魔戒騎士は、キバの素早い太刀に吹き飛ばされ、地面に落ちる。今度は、形勢はキバに優位に働いたようだった。
 キバは、更に地面に落ちたゼロを追い、銀狼剣をゼロの体に突き立てる。
 ゼロは辛うじて、それがソウルメタルの鎧を砕いて零の体に傷をつける前に、両手で刃をしっかり握った。
 が、圧倒的な腕力によって突き立てられた剣の衝撃は、零の体の中に痛みを伝わせた。
 キバは、もう一本の銀狼剣を持ったまま、黒炎剣を再び手に取るために走り出す。

「零っ……!」

 キバを追うのは、やはりガロとゼクロスであった。
 ライダーマンはゼロの方に寄り、体を抱き起こした。
 ゼロは、ライダーマンにお礼さえ言わず、復讐に燃える狼の目つきで立ち上がり、左手で銀狼剣を持って走り出した。腹部は相当痛んでいるようだが、もはやそれさえも彼にとっては些細なことらしい。

645牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:05:44 ID:tt6LLEqc0

(零、君は復讐に我を忘れている。だが、どうやらそれを止めるのは私の役目ではなさそうだ)

 ゼロの背中を見つめて走りながら、ライダーマン・結城丈二は思った。
 かつて復讐のために戦った自分ならばゼロを止めることができるかもしれないと思っていたが、どうやらその鍵となるべくは自分ではないらしい。
 いや、ここに来る直前までならば、結城以上の適任者はいなかったのだが、ここで冴島鋼牙に出会ってしまった以上、結城丈二はただの零の友人でしかなかった。

(冴島鋼牙、本当の魔戒騎士の使命を知るのは、同じ魔戒騎士である君だけだ。……そして、どうやら私にも仮面ライダーとして果たすべき使命があるようだな)

 今まで一言も口を交わすことはなかったが、ゼクロスは、やはり「あの時期」のものだと推定される。
 それならば、やはり同じ仮面ライダーである結城丈二のほかに、止めるものはいないだろう。

 まずはキバを倒す。
 同じ鎧の戦士ということもあり、タヒチでヨロイ元帥を倒した「あの作戦」を脳裏に浮かべたが、それが可能か否かはわからない。接近戦になる以上、敵としては難しいかもしれない。
 ソウルメタルなる鎧(本来キバの鎧はデスメタルだが、結城は知らない)は特殊であり、生半可な攻撃では砕けそうにない。
 だが、この場では──首輪という特殊条件がある。
 それがソウルメタルの本来の効果を抑え込めているのは確かだ。事実、キバの鎧には、凍結や腐食の小さな痕があった。ほぼ修復しているため、それは観察力に優れた人間でなければ見つけることはできなかっただろう。
 結城が思うに、あれは歴戦の勇者である証というより、ごく最近何らかの戦闘で受けたものである。

 考えながら、ライダーマンは森を駆ける。

 そして、着いた先では暗黒騎士キバが暗黒剣を構えていた。
 黄金騎士ガロの黄金剣との鍔迫り合いを演じている。

「衝撃集中爆弾!」

 真横から、ゼクロスが衝撃集中爆弾を放ち、小さな爆発が起こるが、それさえもものともしない。
 キバの腕力が、今度はガロをも押した。
 ゼロが銀狼剣を二本持っているところを見ると、どうやらキバはもう一本の銀狼剣も放棄したらしい。おそらく、黒炎剣以外は不要なのだ。

「はぁっ!」

 ゼロも割って入るが、それも弱弱しくキバの鎧に当たるだけだった。
 先程、キバの鎧についたような深い傷は、残せていない。

「……ドリルアーム!」

 ともかく、準備はしておこうと、ライダーマンはアタッチメントを変更する。
 ヨロイ元帥との戦闘時の戦法はこうだ。
 強硬な鎧に身を包んだヨロイ元帥を倒す──その方法として、ライダーマンはアタッチメントを駆使しての戦闘を考えた。
 その際に利用したのは、ヨロイ元帥が「鎧を纏った生体」であり、彼そのものの体は弾丸でも死ぬという事実であった。
 ライダーマンは執拗にヨロイ元帥の体の一部をドリルアームで砕き、小さな穴を作り出し、そこにマシンガンアームの銃口を押し込むと、弾丸を連射した。
 ヨロイ元帥の鎧の中で、マシンガンの弾丸が跳弾し、何度も何度も跳ね返ると、中のヨロイ元帥は止められない数多の弾丸の嵐に倒れた……。

 キバが同様の性質を持っている「鎧の戦士」であることが、ライダーマンの希望であった。


 ライダーマンはキバの体に向かい駆け出すと、そのドリルをキバの脇部の鎧に向けた。
 腐食の痕がある部分だった。これならば、穴も開けやすい。

「弱すぎる」

 ……が、無論近接戦は不利である。暗黒剣が、一瞬でライダーマンの胸部を斬りつけた。
 そこには真っ黒な痕が残った。ライダーマンの強化スーツごしに、結城丈二の体も強い熱を感じた。久々に感じた強い痛みだ。
 キバの鎧を見るが、どうやら大した痕が残った様子はない。

646牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:06:22 ID:tt6LLEqc0

「パワーアーム!」

 ライダーマンは次に、パワーアームを装備する。
 ランダムに選んだアタッチメントである。目的は、露骨に同じ箇所ばかりを狙い続けるよりも、さまざまな方法で全体を攻撃しつつ、さりげなく腐食部を狙った方が良いと思ったからだ。
 同じ箇所ばかりを攻撃すれば、無論警戒を受ける。

「はぁっ!」

 ライダーマンの後ろから、ゼロが走り出す。
 キバの前で、ゼロは剣舞のように巧みな剣使いを見せた。デスメタルの鎧に、次々と剣が当たるが、もはやそれらは大した意味を持つものではなかった。
 すべて、無意味に弾かれていくような感じがした。
 しかし、ゼロは先ほどより冷静になっていた。剣舞をしているように滑らかな動きを見るに、時間が経つごとに激情に疲れたのだろう。
 かえって、頭も働くようになったのだ。
 しかし、

 ──89,3秒──

 彼がゼロに変身してから、これだけの時間が過ぎていた。
 いささか、冷静になるのが遅かったらしく、零自身あせりを感じはじめていた。
 限界まで、鎧を解かずに戦わなければ……そう思いながら、零は戦う。

「零!」

「わかってる!」

 残りタイムが僅かであることを知ったシルヴァからの呼び声も、零は怒号のような声で静止する。しかし、シルヴァは気づいていた。
 零は、わかっていない。
 本当の仇を知った彼は、もはや怒りを抑え込めようとはしていないのだ。
 心滅獣身──バラゴの心身を蝕んだ、その悪夢が繰り返されようとしていることを、シルヴァは直感する。
 それは、鋼牙もまた同じだった。

「はぁぁぁぁっ!!」

 ガロのタイムも、残り僅かだ。その前にこの強敵を滅ぼさねばならない……それはおそらく無理だろう。
 せめて、重症を負わせ、撤退させる。
 幸いにも、キバもガロやゼロと同様に、攻撃に制限があるため、強力な反撃技は使えないはずだ。

「はぁっ!」

 ガロに気をとられたキバだったが、その隙にライダーマンがパワーアームで腹部を傷つけていることに気がついた。
 が、彼はライダーマンを無視したまま、走り来るガロに眼をやった。
 真の強敵はガロである。それは、戦闘中に重々理解している。

 ガロは黄金剣を両手を使って構えたまま、キバの懐まで来た。
 キバも暗黒剣を構え、タイミングを見計らう。

647牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:06:54 ID:tt6LLEqc0

「──今だ、ゼクロス!」

 そして、限界まで近づいた瞬間に、ガロは叫んだ。
 はっとして、キバが上方を向くと、木の枝の上に忍者の如く潜んでいた赤と銀の戦士が、キバの上に向かって落ちてくる。
 そうしてキバが気をとられた一瞬の間に、今度はガロがまた至近距離で火花を散らす。
 ガロがキバの脇を駆け抜けると、今度は上方からゼクロスが降りかかる。

 キバの二本の角は掴むのにおあつらえ向きだったのだ。ゼクロスは落下しながら、キバの両角を掴み、何度も回転させて空中へとぶん投げた。遠心力によって、キバの体は大した力を加えずとも高速で回ってしまう。
 ライダーきりもみシュート。
 今のゼクロスはこの技を使うしかなかった。──しかし、次の蹴りは無い。
 空中で自由を奪われたキバに、ガロが飛び掛り、剣の柄でキバの顔面をたたきつけた。
 しかし、それによって回転は封じられ、キバは何とか直立の形で地面に降りた。顔面も痛むが、首が特に痛む。
 更にその直後には、左脇腹を切り裂くガロの剣、右脇を切り裂くゼクロスの電磁ナイフ、腹部はライダーマンがパワーアームをドリルアームに組み替えてキバの鎧を砕こうとしている。

 ガロとゼクロスが、キバの体の横を過ぎ去り、一人では不利と見たライダーマンも、一歩後退する。

「絶狼!」

 彼らが行ったのはトドメの一撃ではなかった。
 キバの動きを止めるための一撃。

「ああ!」

 駆け出すゼロ。
 ゼロが、これまでの戦いすべてを振り切るための道を拓いたに過ぎないのだ。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 銀狼剣を両手に構えたゼロは、その協力の意図をようやく理解したらしい。

「父さんの、静香の仇!!!!」

 銀狼剣がキバの体へと近づいていく。
 暗黒の鎧の戦士は、三つの攻撃によって固まったように佇んでいた。
 聳え立つキバの体は、絶好の的だった。


 ──96.7秒──

 危険なタイムだったが、どうやらキバを倒すことができそうだ。
 零は、心の中でそう思った。
 しかし、そんな中でも、ゼロは決して余裕を見せることなく走っていく。
 全身全霊を込めた一撃で、ようやく倒すことができる状態なのは、わかっている。

 そして、97秒でキバに銀狼剣が到達した。
 ゼロは、そこで散る火花の中に、静香を見た、かつての幸せな風景を見た。
 きっと、キバを倒す憎しみを強めるために、零の──いや、銀牙の心の奥底が見せた光景だろう。
 キバへの攻撃は、確かな手ごたえを伴い、ゼロに安心を与えていく。

 ──99.8秒──

 キバの体から離れ、ゼロは鎧の召還を解く。
 涼邑零が、前方にあるキバの姿を見て安堵した。
 動かない。
 静止したまま、先ほどと同じ状態で。
 鎧の中のバラゴは間違いなく死んだ。そう、零は勝手に思っていた。

「やったぜ……静香」

 だから、喜びで胸がいっぱいだった。
 この鎧の中で、バラゴはきっと息絶えている。あっけない幕切れだったが、これでいい。
 これで、家族を弔うことができる。
 これから先は、悪夢を見ずに済むだろう。

648我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:07:52 ID:tt6LLEqc0



 不意に、零の胸元でピキッ、と音がした。 

「いいえ、零……残念だけど」

 そして、シルヴァの苦しげな声や、駆け寄る冴島鋼牙の表情に、零は初めて異変に気づく。
 零の体が、がくっと、崩れ落ちる。胸に締め付けられるような痛みが残っていた。
 零は、はっとして、シルヴァを手に取った。

「シルヴァ……!」

 シルヴァは、半分が砕けていた。
 それが、どういうことなのか、零が知るのは前方のキバを見たときだった。
 彼は何事もなかったように、零に背を向けて歩き出したのである。

 ──バラゴを倒してなどいなかった。

 逆に、彼はあの一瞬でゼロの胸の魔導具を突き刺していたのだ。
 ある意味では心臓よりも痛烈に零に痛みを与える箇所への攻撃だった。それが意図したものなのか、それとも単純にダメージを与えやすい場所だったからなのかは結局のところ、わからない。

「バラゴぉぉぉっ!!」

 魔戒騎士の姿になれない状態ではあるが、零はバラゴの背を追い始めた。
 既に心滅獣身を経験し、鎧の制限時間に縛られることのない暗黒騎士は、こちらにマントを向けている。振り向こうとさえもしない。

 バラゴが背を向け去っていく理由は単純だった。
 零という男が、自分と同じく心滅獣身を試みる可能性が高いと思ったからだ。
 執拗にキバを狙う姿は、もはや魔戒騎士本来の姿とは大きくかけ離れていた。悪への憎しみではなく、個人的な憎しみによる斬撃。
 魔戒騎士である以前に、人間らし弱さに満ちている。
 そして、この「三日」というリミットの中で手っ取り早く強くなる手段を、彼は探すだろう。
 心滅獣身しかない。
 敵になるのは目に見えているが、ホラーや魔戒騎士を喰らい強くなったキバとは差がありすぎる。

(どうやって、僕を殺す? 答えはひとつしかない……闇に堕ちるといいさ、銀牙騎士)

 零が駆けてくるときに、バラゴは鎧の中で笑う。
 鎧を召還せずにどうやって戦うのだろう。大河の息子も、鎧を召還できない。
 強いて言えば、仮面ライダーという厄介な相手がいるが、それもこの二名では敵ではない。
 赤と銀のライダーの蹴りは、多少バラゴの首を痛めてくれたが、もう片方はダメージと呼べるものさえ感じなかった。

 そして、零がここでこれ以上追うことはないのだろうと、バラゴは思っていた。
 というのも、破壊したはずの魔導具にまだ少し余力が残っているからだ。
 彼女の崩壊を見届けるドラマが、まだ零には残っている。
 他の三名が見入るほどのドラマになる。彼らがそれに見入らないような性格であるとしても、バラゴには片手落ちで勝利できるような相手だ。
 それ、ドラマが始まった。バラゴはそのドラマを見ようとはせずに、まっすぐ歩いていった。彼は自分自身がこのドラマの出演者であり、ここで去る役なのだと知っているのだ。

649我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:08:35 ID:tt6LLEqc0

「零、駄目っ……! あれは今のあなたの敵う相手じゃない……」

 零が声をかけられてシルヴァを見ると、彼女は右半分が欠損しかけ、今にも重力に引かれて崩れ去ってしまいそうな体になっていた。
 魔戒法師もおらず、この崩壊を止める術を知らない零は、あわてふためく。
 バラゴを襲おうとする体を止める。しかし、バラゴを殺したい。
 二つの感情に惑わされるが、その間立ち止まっているのだから、バラゴを追う選択肢は小さなものとなっていた。

「……憎しみにとらわれないで、零。……そのまま戦っても、本当の強さは得……ら、れな……」

 言い終える前に、シルヴァの半身が、零の足元に落ちた。
 拾い上げると、それはたちまち消えてしまう。胸から下げていたシルヴァのもう半身も崩れ落ちていく。壊れた機械のように、まだ小さな火花を散らして微動しているが、それはシルヴァの魂によるものではなく、ただ、ソウルメタルという無機質が懸命に働こうとしているだけの動作である。
 シルヴァ──魔戒語で「家族」という意味の相棒。
 父を喪い、婚約者も喪った彼の最後の砦だった魔導具であった。

「クソォォォッ!!!」

 零は、泣いてはおらず、ただシルヴァを奪った者への怒りに慟哭していた。彼の涙は、とうの昔にかれてしまったのだ。
 彼はもう、辛いとき、泣くことさえ出来ない。それが更に自分の胸を締め付けるのだと、零はこのとき初めて悟った。
 また、強い怒りに身を任せながらも、どこか自分を制止していたから、ストレスも溜まっていた。
 本当なら、怒りに任せてこの手に握った物体を投げたり、叩き落したりするのだろうが、それがシルヴァの残骸である以上、彼は強く握り締めるしかできなかった。

「零!」

 鋼牙の一喝が零の背後で響く。
 それが、零の当たる相手だった。
 零は、ただ怒りに任せてその男を殴るための拳を繰り出した。
 まっすぐ正面に、顔狙いのパンチだ。ボクサーでさえ一撃で焦点するような魔戒騎士のパンチである。
 しかし、受ける相手も魔戒騎士。鋼牙のパーが、零のグーを受け止めていた。

「鋼牙、お前の父親が、あの男の師匠なんだろう……!?」

「ああ、そうだ」

「なら、お前の父親があいつを止めていれば! お前の父親があいつに何も教えなければ! お前の父親があいつを殺していれば、静香や、父さんやシルヴァは死なずに済んだんだ!!」

650我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:11:55 ID:tt6LLEqc0

 零は、八つ当たりとしか思えない言動をするが、心が弱くなっていくのを抑えられなかった。
 彼は、ただひたすらにこの世界が憎かった。
 たった一人の男によって、家族を次々と奪われる。
 しかし、元をたどれば、その男を産んだ両親がおり、その男を育てた師がある。
 その全てさえ、今の彼には憎かったのである。

 鋼牙も、実はバラゴが生きながらえるのに一役買ってしまったゆえ、それに関しては反論もできない。
 大河とバラゴの決着の夜。あの日、鋼牙が現れなければ、大河はバラゴを倒せたかもしれないのだ。
 鋼牙にのしかかるのは、父の死の責任だけではない。その先にバラゴに倒された全ての命は、鋼牙の些細な行動によって奪われたと言ってもいい。
 だが、それは既に悩み抜いた。
 そして、鋼牙がすべきは悩むことではなく、零を本当の零に戻すことだと、既に理解していた。

「シルヴァの最後の言葉を忘れたのか、零! 憎しみにとらわれるな!」

「いや、俺はもう何もいらない! あいつを倒せればそれでいい! こうなったら、もう一度鎧を召還して、心滅獣身を……」

 バラゴが鎧に魂を喰われた魔戒騎士ならば、同じ手で対抗すればいいのだ。
 零は、この島内で、この場所のごく近くにいる男を、ただ殺したかった。
 もはや、自分が得られる幸せもないし、守る者もない。
 零は、自分だけのために生きるだけの欲を持っていないのだ。ずっと静香を守るために戦ってきたし、それを喪ってからも、黄金騎士を倒す目標を持って生きてきた。
 シルヴァがいたから、闇に堕ちることも避けた。
 しかし、もう喪う者が何一つとしてない自分が、どこまで堕ちようが、悲しむ者もいなければ、止める者もいない。
 どう生きようが自由なはずだった。

 すると、零の右腕を握ったまま、鋼牙は零の腹を蹴飛ばした。
 足を高く上げ、零に避ける暇さえ与えず、何より強い一撃を鋼牙は繰り出したのだ。
 零の右腕がすぐに離され、一瞬空中に浮いてから、地面に落ちた。
 零が苛立ったまま見上げると、そこでは鋼牙が零以上に顔を歪めて零を見下ろしていた。

「何するんだよ……鋼牙ぁっ!」

 鋼牙は魔戒剣を抜き、零の首元へと差し出す。零は一瞬だけ、そこに映った自分の顔を見た。
 毎朝、鏡で見ている顔と比べると、醜い顔だ。今までにこんな顔の自分を見たことがない。この醜い顔は何かの間違いなのではないかと思った。

「お前が魔戒騎士の禁忌を犯すというのなら、俺はお前を斬る!」

 鋼牙の宣言は、重たく響く。
 彼にとって、ホラーでない誰かを斬るということは、唯一果たしきれない覚悟でもあった。
 御月カオル。魔戒騎士としての使命に反して、「斬らなかった」女性。
 あるいは、鋼牙が「シロ」と呼ばれていた遠い昔に仲間に誓った「もし誰かがホラーとなったら斬る」という約束も思い出す。
 死んでしまった彼らは、親友だった。
 そして、涼邑零も親友だった。
 それを斬るというのに、どれだけの覚悟がいるだろう。
 しかし、鋼牙は本気だった。斬りたくなかったとしても、こうして道を外すのなら、冴島鋼牙は涼邑零を斬る。

「忘れたのか、零。俺とは違い、正当な魔戒騎士の系譜でもなかった……お前の今までの血のにじむような努力を」

「俺が魔戒騎士になったのは、静香を守るためだった! ……だから、俺は静香を殺したアイツを殺す! それが今の俺の魔戒騎士としての使命だ……そのためなら何にでもなる!」

「黄金騎士に憧れていたんじゃないのか」

「……なんでそれを……っ!! クッ…………だがっ! 俺にはなれなかった……っ!!」

 黄金騎士に言われると、少し嫌味っぽい気もするが、無論彼にそんな気は一切なかった。
 ただ、道を忘れた魔戒騎士を正すために、かつて零に言われた言葉をかけた。

「なら、銀牙騎士・絶狼──その名に誇りはないのか」

 しかし、何も最高位だけが魔戒騎士ではない。
 一人前の魔戒騎士には、誇り高い異名がつく。銀牙騎士になることなど、並みの魔戒騎士では不可能だ。
 人間らしい娯楽にも怠けず、気を常に張り巡らせ、常に襲われる覚悟を持ち、休日など忘れ、人の姿をした敵を殺す覚悟を持ち、常に鍛錬を行う。そんな、己の生さえも半ば捨てたような努力と苦渋の果てに成り立つ魔戒騎士の仕事の中でも、特にその技能と経験に優れた者だ。
 それが、この若さ、それも魔戒騎士の家に生まれでもない人間にできたというのは、奇跡的なことなのである。

651我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:14:58 ID:tt6LLEqc0

「あるさ、あるに決まってる! 今の俺には黄金騎士なんかよりも、ずっと誇らしい名前だ。だけど……」

「心滅獣身を行えば、お前は第二のバラゴになる。そして、またお前が誰かを殺し、第二第三の涼邑零を生む、静香を生む、道寺を生む、シルヴァを生む、冴島鋼牙を生む、冴島大河を生む。そんな悲劇を……繰り返していいのか?」

「……」

「俺たちは、その悲劇を断ち切るために戦う魔戒騎士じゃないのか!!」

 はっ、と零の心臓に何かが突き刺さったような刺激を受けた。外的でなく、内的に、何かが零の胸の中で動いた。
 魔戒騎士。
 この会話の中で、鋼牙は何度も使った言葉だが、こう問いかけられた瞬間、なぜだか胸を抉った。
 その問いかけに自信を持って答えられなくなりそうな自分が怖いのだ。
 このまま、心滅獣身を行えば、魔戒騎士でなくなる。

 静香も、父も、シルヴァさえ喪って、もう魔戒騎士なんてどうでもいいはずなのに、なぜか魔戒騎士の名を捨てることが怖い。
 いやなのだ、魔戒騎士でなくなることが。

「そうだ、俺は……」

 鋼牙の言葉が、闇に片足を乗せようとしていた零を掬い上げた。
 憎いはずのバラゴの後姿が、零の中で浮かび上がる。
 無論、その背中を突き刺したい気持ちは変わらない。
 だが、そこに伴う感情が、何を憎むものなのか……それが少し違っていた。

 仇を憎む感情か、敵を憎む感情か、
 否、悪を……人の命を脅かす者を憎む感情だ。

「……俺は、魔戒騎士──銀牙騎士・絶狼だ!!」

 銀牙騎士・絶狼が今、その使命を取り戻した。

「ああ、知っている!」

 剣を仕舞った鋼牙は少し笑ったように見える。
 零を斬らずに済んだ安堵、零を喪わずに済んだ安堵、零が本来の零になった安堵。
 その全てが、鋼牙から緊張感を取り外したのだ。

「だが、鋼牙……何故俺が黄金騎士を目指していたことを知っていたんだ?」

「お前が言ったことだ。……まあ、今のお前より、ずっと未来の涼邑零の話だ」

「そうか。なら、俺はお前の未来の──」

 友、なんだな。そういいかけて、やめた。
 この男に、それを言ってしまうのはなんだか癪だった。
 鬱積した感情が、晴らされていくなか、どうもこの男と打ち解けきれない部分があった。
 それは、やはりこれまで散々敵として戦ってきたせいもあるだろう。
 そう簡単に和解を認められる関係ではないと、零もわかっていた。
 何より、彼はクールなのである。自分からこういうことを言うのは、余程のことだ。

 鋼牙も、そんな零の心情や性格を察していたので、そこから先の言葉を聞こうとはしなかった。
 第一、彼はその先の言葉を既に知っていた。

「零。再びバラゴと戦うときは、お前の力が必要になる」

「そうか。じゃあ、協力してやってもいいかな」

 そのずっと後ろで、結城丈二は、「少しは素直になれんのか」と小突いてやりたい気分になっていたが、こちらはこちらでそんな状態ではなかった。
 零ら二人の召還制限時間が厄介で、キバに対して勝算のある戦いが望みがたかったこともあって、ライダーマンとゼクロスの二名はキバを追跡していない。
 いや、これ以上の犠牲者を出す可能性を考えれば、間違いなくキバはここで仕留めるべき相手だったはずだ。たとえここが、特殊能力者ばかりだとしても、現実に死者は出ている。

652我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:16:19 ID:tt6LLEqc0

(とはいえ、確実に自分の身を守らなければな……)

 そう、本郷猛でさえ死亡している現状では、無茶な行動は絶対に避けなければならない。
 ましてや、結城は自分がこのゲームにおける要の一人であると自負していた。少なくとも、首輪の解除を行うことが脱出に近づく手段ならば、結城は死んではならない。
 それも、敗北はもちろん、同士討ちさえも望まれない。
 自分を守るための手段を正当化しているのでなく、結城自身も苦渋の決断だった。
 より多くの命を守るためには、普段通りの無茶は厳禁である。自分の才能を自覚することも、正義を果たすうえでは要される。

「……で、結城さん」

「……良」

「「なぜ変身したままなんだ?」」

 魔戒騎士二人が、それぞれ問うた。結城や良の様子が不自然だったのだ。
 ライダーマンとゼクロス。二人は、まだキバを警戒しているかのように、変身状態を保っていた。
 彼らは魔戒騎士二名の会話を見ていたようだが、その間、何かを気にしているようだった。
 二人の言葉をきっかけに、口数の少ないゼクロスが、ライダーマンに向けて一言言い放つ。

「……そうだな。早いところ、片付けて変身を解こう」

「ああ、そうだな。早くお前を、解放してやらねばなるまい」

 ライダーマンのロープアームが、ゼクロスのマイクロチェーンが、同時に敵に向けて放たれる。
 もはや、それらは彼らの腕だった。任意の方向に、1ミリの狂いもなく飛んでいく。
 しかし、ライダーマンはゼクロスが自分と同じように的確に狙ってくるのを予測し、反射的に避けていた。
 一方、ロープアームの先は、確かにゼクロスの右脚の衝撃集中爆弾を狙っていた。

 ドン!

 ロープアームによる刺激でゼクロスの右脚の爆弾が爆ぜる。
 実質、それは自爆だった。体に武器を詰めすぎたがゆえの、自爆。
 更に、そこに装備された爆弾たちが次々に誘爆していく。
 しかし、自分の武装に対する耐性がないわけがなく、爆ぜた脚も煙を発するだけで、痛みなど感じさせなかった。

「結城さん、何を!?」

「良ッ!」

 ライダーマンはロープアームを引くと、煙の中から飛んでくるいくつもの手裏剣をロープではじいた。本当にこのロープが右腕のような綺麗な扱いをする。
 鞭のように伸びたロープアームが、手裏剣を次々とはじいていた。

「仮面ライダー10号、ゼクロス……相変わらず、君は頑なに仮面ライダーを拒むな」

「俺を仮面ライダーと呼ぶな」

「……やはりその時期か。加頭め、厄介な時期から人を呼んでくる……とはいえ、まあ、【最悪】の中ではまだマシな部類か」

653我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:18:00 ID:tt6LLEqc0

 万が一、JUDOに心を支配された状態や、BADANの尖兵だった時期ならば、彼は殺人に躊躇はない。命の概念さえ、おそらくわからない。
 それならば、ライダーになるのを待たずに殺さなければならない可能性もあっただろう。

 衝撃集中爆弾と、その誘爆による煙が晴れていく。
 十字手裏剣が飛んできたはずの煙の中には、ゼクロスがいない。
 どこにいるか。
 ライダーマンは、すぐに周囲を見渡した。

「ゼクロス……っ!!」

 上だ。
 非常時ではないので、ゼクロスはきりもみシュートを使わず、例の「制限ゼクロスキック」を放とうとしていた。
 ゼクロスの脚は光らないが、ゼクロスキックと同じ角度で飛んでいく。

 ライダーマンは、それを回避するために後方へ跳んだ。
 ……しかし、

「何ッ!?」

 その上空からゼクロスキックを放とうとしたゼクロスが、まるで幻だったように消えてしまう。
 ホログラフ……つまり、あれは虚像投影装置による囮だったのだ。
 それに気がついたライダーマンが、前に駆け出そうとしたが、もう遅い。
 ゼクロスは、ライダーマンが反射的に避けるであろう場所を計算して、電磁ナイフを構えていた。

「良、やめろッ!!」

 斬──。

 鋼牙の叫びさえ聞き入れることなく、ゼクロスがライダーマンの体を斬った。
 鋼牙や零が仲介する前に、ゼクロスの刃がライダーマンに到達してしまったのである。

「結城さん!」

 零は声を上げる。
 また、大切な仲間を失ってしまったのか。
 何故、自分の大切な人は次々といなくなるのか。
 そう思いながら、ゼクロスを見た。
 しかし──

「私を狙うのならば、まず右腕をどうにかしなければな」

 ライダーマンは、自分の体の後ろに回したパワーアームの先で、電磁ナイフを器用に挟んでいる。
 その様子に、零は安堵した。鋼牙もまた、ゼクロスの行動が殺人を犯さなかったことに安堵する。

「……ゼクロス。君もいずれ、仮面ライダーとなる。人類の自由と平和を守る戦士になる日がきっと来るだろう」

「……」

 ゼクロスは黙ってライダーマンの姿を見つめる。
 攻撃していいのかわからないほど、ライダーマンは穏やかだった。

「見たところ、仮面ライダーに対する憎しみは強いが、それ以外を攻撃する気もない。ましてや、あれだけ立派な戦士と行動しているんだ。悪の道に走ることは、まずないだろう」

「何が言いたい」

「『それならば、何故仮面ライダーになることを拒むんだ』」

「……」

 ゼクロスはその先を言いたくは無かった。
 敵だったから──というのが、単純な理由だろう。

「まあいいさ。……冴島鋼牙、彼は君に任せる」

「何?」

「私はどこかで村雨良が変わるのを待つだけだ。共に行けば、また無駄な争いになる」

 これまで、結城丈二は彼が仮面ライダーとなる日を待とうとしていたが、ここに来てまた新たな可能性が見えてきた。
 魔戒騎士やテッカマン。さまざまな存在がこの場に存在することが確認できた以上、彼の持つ可能性は『仮面ライダー』だけではないということだ。
 彼は仮面ライダーだけを名乗る必要もない。さまざまな出会いとともに、正義の自覚は芽生えるだろう。ゆえに、この場で彼を刺激するようなワードを連発するのも如何なものかと思った。

「ゼクロス、君もこの殺し合いには乗らないだろう?」

「……」

「私は首輪を外そうと考えている。君たちとは別のルートを使う。そして、いずれまた会い、協力しよう。零、君はどちらと行く?」

654我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:19:18 ID:tt6LLEqc0

 結城丈二、または冴島鋼牙と村雨良。
 零は、そのどちらと行くのか。それを彼は訊いたのである。
 少し待った後、零が答える。

「鋼牙、また会おう。俺はまたしばらく結城さんと行動する。バラゴと戦うための仲間も増やしておくさ」

「わかった。行くぞ、良。この場でこれ以上消耗する必要はない」

 ゼクロス──いや、村雨良と冴島鋼牙は、バラゴが向かった方向に向けて歩き出した。バラゴを追うような足取りではない。
 なぜなら、すぐにバラゴとは違った方向に歩き出したからだ。彼らは、良牙を追いに行ったのである。数分ばかり遅れる結果になったが。
 結城も、当面の目的を果たしたのでそちらに向かおうとしたのだが、二人が行くならばそちらにはいけない。
 バラゴの向かった側は避けたい。

「さて、俺たちはどこへ行く? 結城さん」

「そうだな。一度、森を出よう。教会側に下山して、森の周囲を回る形で街側へ向かう。禁止エリアの心配もなく街に向かえるぞ。他の参加者にも会えるかもしれない」

 結城はそう提案する。
 無難なルートだった。森エリアにいると、バラゴ等の強敵からの襲撃を感知しにくい。
 平原エリアの方が、周囲を見渡しやすく、結城としても行動がしやすかった。
 このまま、最短ルートで行くよりも他の参加者との遭遇もしやすいと思ったのだ。

「わかった」

 零は、やはり少しだけ心に靄が残っているようだった。
 目の前で家族を殺した張本人とは、正反対の道を行くことになったこの展開を、少し惜しんでいるのかもしれない。
 だが、今の彼は何より自分の力不足も承知している。
 このまま何人も犠牲者がでるかもしれない──それでも、少し割り切る必要があった。
 残った参加者だけで、何とかバラゴを倒す方法を考えなければならない。

(シルヴァ……俺があの時、もっと強ければお前は──)

 そう思いながらも、手っ取り早く悪と戦う術──即ち、悪へと堕ちることを彼は拒んだ。
 だが、本当の強さを解し、結城という仲間とともにバラゴを、そして加頭を倒す方法を考えるべく、彼は結城よりも先に森を下りる道を歩いた。
 シルヴァの残骸を握りながら、零は歩く。
 あわよくば、元の世界で魔戒法師にシルヴァを修復してもらえるかもしれない、と少し望んでもいる。
 ゆえに、絶対に生きて帰ろうという意思だけは手放そうとしなかった。


【魔導具シルヴァ@牙狼 破壊】


【1日目/昼】
【D-6/森】

【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。
2:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
3:いずれ零とともにバラゴを倒す。
4:良を守りながら良牙達を追いかける。
5:未確認生命体であろうと人間として守る
6:相羽タカヤに会った時は、彼にシンヤのことを伝える
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。
 また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています
※零の参戦時期を知りました。

655我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:20:40 ID:tt6LLEqc0

【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:負傷(右肩に切り傷、左胸から右わき腹までの深い切り傷、全身に切り傷、全身に軽い火傷、いずれも回復中)、疲労(極大)
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣、虚像投影装置、煙幕発射装置
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜1個
[思考]
基本:カメンライダーを倒す。主催の言葉に従い殺し合いに乗るつもりは無い。
0:鋼牙と共に良牙達を追いかける。
1:18時に市街地で一文字と出会い、倒す
2:『守る』……か。
3:エターナルを倒す。
4:特訓……か。
5:ミカゲや本郷の死に対する『悲しみ』
6:結城丈二は特に相手にする予定はない。
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。
※能力制限は一瞬しかゼクロスキックが出来ない状態と、治癒能力の低下です(後の書き手によって、加わる可能性はあります)。
※本人は制限ではなく、調整不足のせいだと思っています。
※名簿を確認しました。三影についてはBADANが再生させたものと考えている一方、共に戦う事は出来ないと考えています。
※不明支給品の一つは魔導具シルヴァ@牙狼─GARO─です。


【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、パンスト太郎の首輪
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:零と共に移動する。
3:一文字、沖、村雨と合流する。その為に18時には市街地へ戻る。
4:加頭についての情報を集める
5:首輪を解除する手掛かりを探す。
  その為に、異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
6:タカヤや石堀たちとはまた合流したい。
7:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は12巻〜13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
 何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※零の狙う仇が冴島鋼牙である事を知りました。
 彼が復讐心に捉われる様ならばそれを力ずくでも止めるつもりです。
 ただし、鋼牙を討つ事そのものに関しては全否定をしておらず、もし彼が倒すべき悪であったならば倒すべきだと考えています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。
※村雨良の参戦時期を知りました。ただし、現在彼を仮面ライダーにすることに対して強い執着はありません(仮面ライダー以外の戦士の存在を知ったため)。

656我が名は絶狼 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:21:05 ID:tt6LLEqc0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、シルヴァの残骸
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:教会側の平原から街へ向かう。
1:魔戒騎士としてバラゴを倒す。
2:結城と共にバラゴを倒す仲間を探す。
3:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
4:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
5:結城に対する更なる信頼感。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
7:涼村暁とはまた会ってみたい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
 実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
 仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※もしも結城が自分の復讐を邪魔するつもりならば、容赦はしないつもりでいます。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
 また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
 ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。

657Warrior〜闇を駆けるキバ〜 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:23:01 ID:tt6LLEqc0

 バラゴはビートチェイサーを押しながら、山道を歩いていた。
 先程、二名の魔戒騎士を発見した際にビートチェイサーを別所に置いていたのである。
 これからバラゴが向かうのは、呪泉郷やグロンギ遺跡といった施設のあるエリアであった。
 特に、目的はない。ただ、零が『悪』となるのを待つまでの時間潰しに、他の参加者を殺そうと適当にマップ上を回っているのだ。
 森であるだけならともかく、ここは山の上りである。
 ゆえに、ビートチェイサーを駆ることはできない。
 ともかく、マップ上で黄土色に示された道にたどり着くまでは、バイクは押すようにしている。
 龍咲駆音として暮らしていた彼は、こうした文明的な乗り物も乗りこなすことができるが、ここでは流石に難しい。

「……グロンギ遺跡か」

 しかし、そんなバラゴが最初にたどり着いたのは、グロンギ遺跡という施設であった。
 ここに来たことには大した理由はない。
 ただ単純に、施設の内容が気になったからだ。
 不可思議な紋様に覆われた、神秘の遺跡……といったところだろうか。
 ホラーに似た『魔』の雰囲気を、バラゴは本質的に感じ取っていた。

 バラゴは、その中央にある棺に手をかける。

「封印、か」

 その棺から、ホラーとはまた一味違った──しかし本質的には共通した気配を感じたバラゴは呟く。
 この中に、ホラーに匹敵する何かが封印されていると、バラゴは睨んだのである。
 どちらにせよ、バラゴの行動はひとつ。

 もし、ここにホラーのような魔物が封印されているというのなら、開放する。
 それだけである。
 バラゴは、魔戒剣を取り出すと、棺を真っ二つに切り裂いた。
 刃渡りは足りないが、一箇所が避けると、剣圧や振動で真一文字な斬り痕ができたのである。
 その中から出てきたのは、ミイラ化した男性の死体である。

「この男が封印していたのか? ……しかし、封印が解かれたが、何かが変わった気配もない」

 何も起きない……。
 バラゴは肩透かしを食らった気分になる。
 どうやら、魔物は現れなかったらしい。

 いや、バラゴの知らないところで、何かが起きていた可能性というのは少なからずあるだろう。
 もともと、この先代のクウガがグロンギを封印したため、この棺が開けば、封印は解かれるはずである。
 現代にグロンギが現れたのも、この封印が解かれたのが原因である。
 しかし、制限下にある今、グロンギがこの場でのさばるということはなかった。

「まあいいさ。ここは何でもなかったらしい。……そうだな。あとは、呪泉郷というのも気になるな」

 バラゴは剣を強く握りながら歩き始めた。
 更なる敵を喰らうために。


【1日目/昼】
【D−6/グロンギ遺跡】
※棺の封印が解かれました。ただし、グロンギの怪人が現れることはありません。

【バラゴ@牙狼─GARO─】
[状態]:胸部に強打の痛み、ダメージ(中)、疲労(中)、顔は本来の十字傷の姿に
[装備]:魔戒剣、銃@牙狼
[道具]:支給品一式×3、ランダム支給品0〜2、冴子のランダム支給品1〜3、顔を変容させる秘薬?、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア! 、ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:参加者全員と加頭を殺害し、元の世界で目的を遂行する
0:山内の道に出て、ビートチェイサーで呪泉郷に向かう。
1:冴島鋼牙と出会ったら、この手で葬る。
2:今のところ顔を変容させる予定はない
3:石堀に本能的な警戒(微々たるものです)
4:一文字隼人とキュアピーチは再び出会うことがあれば、この手で殺す。(ただし、深追いはしない)
[備考]
※参戦時期は第23話でカオルに正体を明かす前。
※顔を変容させる秘薬を所持しているかは不明。
※開始時の一件で一文字のことは認識しているので、本郷についても認識していると思われます。
※冴子と速水の支給品はまだ確認していません。
※つぼみ達の話を立ち聞きしていました
 そのためプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について知りました
※雷剛や閻魔斬光剣の召喚はできません。
 バラゴはこれを制限の影響だと考えています。
※零は放っておけば心滅獣身で闇に堕ちると考えています。

658 ◆gry038wOvE:2012/11/25(日) 17:23:28 ID:tt6LLEqc0
以上、投下終了です。

659名無しさん:2012/11/25(日) 17:35:21 ID:gqI/Vn0A0
投下乙です。
予約のメンバーから考えて、誰か死ぬかと思ったけど……そんな事はなかったか。
(その代わり、シルヴァを失ったけど零の誤解がようやく解けたのがせめてもの救いかな)
あと村雨と結城の間に一悶着はあったけど、どうにか丸く収まってよかったw

660名無しさん:2012/11/26(月) 02:14:00 ID:kDYE5T2M0
投下乙!
読み終わった直後からすごいすっきりした気分で、胸が熱くなった
鋼牙と零、戦闘後の二人のやりとりがすごいいい感じだ
憎しみを押し殺し、魔戒騎士としての道を進むことを決めた零のこれからに期待!

661名無しさん:2012/11/26(月) 03:31:18 ID:kDYE5T2M0
細かい点ですが、気になったことを。

>>648の 
そして、この「三日」というリミットの中で手っ取り早く強くなる手段を、彼は探すだろう。

とありますが、「三日」のリミットというのは…?
特にこのロワにそういう日数制限は無かったような気がしますし
あるいは牙狼原作にかかわる設定か何かなのかもしれないですが


後、零の状態表の復讐の邪魔をするつもりならば容赦はしないというのは今の零の心理状態なら消していいんじゃないでしょうか
これと関連して結城のこの部分も

※零の狙う仇が冴島鋼牙である事を知りました。
 彼が復讐心に捉われる様ならばそれを力ずくでも止めるつもりです。
 ただし、鋼牙を討つ事そのものに関しては全否定をしておらず、もし彼が倒すべき悪であったならば倒すべきだと考えています。

662 ◆gry038wOvE:2012/11/26(月) 12:47:14 ID:bu.6ER5s0
>>661
指摘ありがとうございます。

>三日
これは勘違いでした。そうした制限時間は無かったみたいですね。
「数日」に変更します。

状態表も削除漏れです。wiki収録時には削除でいいです。

663名無しさん:2012/11/26(月) 13:47:36 ID:VsrX.MZc0
投下乙です

言いたい事は既に上で言われてるが俺も熱くなれたというかここまで熱い作品を書いてくれた書き手に感謝だぜ
和解失敗の可能性もあったがこれで光明が見えたと思うぞ

664名無しさん:2012/11/26(月) 17:56:20 ID:Zc7b1PRsO
投下乙です。

バラゴは倒せず、シルヴァは犠牲に。しかし、最悪は避けられたか。

遺跡を先代クウガごととは、主催陣ゆるせんな。

665 ◆gry038wOvE:2012/11/26(月) 21:31:18 ID:bu.6ER5s0
報告。
某所で聞いて、バラゴの持ち物の銃の名称が判明しました。
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%94%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AB
これが魔弾の回に登場した銃です。
正式な名称があった方が後々やりやすいと思うので、後でこれまでのwikiの状態表を変更したいと思うのですが、よろしいでしょうか?

666 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/26(月) 21:49:20 ID:PmaGNV9Q0
自分は大丈夫だと思います。

667 ◆7pf62HiyTE:2012/11/26(月) 22:42:28 ID:wGnai.vA0
了解です。

668名無しさん:2012/11/27(火) 18:26:48 ID:nk/oqA9EO
予約きてるね

669 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:31:52 ID:HwHzoZ0E0
ただいまより、投下を開始します。

670かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:32:57 ID:HwHzoZ0E0

 昼も近づいてきた頃、一匹の猫が、殺し合いの現実さえ忘れてはしゃいでいた。
 眼は見開いているのかさえわからないほど一直線で、笑顔を見せているように見える。
 人ごみのある街ならば、その身軽な動きに心を奪われるものがいたかもしれない。
 この猫は、ただの猫ではないのである。だから、人目につく。
 赤い服を着ていて、おさげ髪で、その体格は人とほぼ同じ。
 と、その特徴を脳内で反芻してから、初めて気づく。
 これは猫ではない。人だ。
 人のように巨大な猫ではない。猫のように身軽な人なのだ。
 その脳内も、猫の思考に染まっている。思考の遥か奥までも、ほぼ完全に猫化しているのだ。

「にゃーん♪」

 鳴いている。
 猫のように丸めた指先──蛇さえも敵としない、猫の爪。
 それは彼の武器だった。

 そして、その猫は、偶然にも最悪のクワガタ虫と遭遇してしまった。
 本当の猫とクワガタならば、易々退治できるであろう相手だが──それがどちらも、人であり、それらの要素を受け継いだ戦士であるのなら、結果はわからない。
 いや、猫が圧倒的に不利だった。
 所詮は、彼は人間の枠の中でもがいた人間だった。
 だが、敵は違う。
 人間を超える力を得た、最低最悪の人間だった。

「……君は僕を笑顔にできるかな?」

 闘争を求める悪鬼。
 クワガタの戦士──ン・ダグバ・ゼバ。
 その足元に、何も知らない猫はぶつかった。その瞬間、猫の顔から笑顔が消えた。
 それがじゃれあえる相手でないのは、猫の生物的直感が告げたのだ。
 猫拳の使い手──早乙女乱馬。
 ここまで接触して、初めて戦いが始まる。

「……にゃーご…………ニ゙ャ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァァッ!!!」

 喧嘩をする猫の、うなるような鳴き声が街に響く。
 ダグバさえ感知しない一瞬に、ダグバの着ていた白い服が胸元から三本の爪痕とともに裂けていた。美少年の華奢な体がその中から見えている。
 近くを女性が通ったら、騒ぎ出す声が聞えるかもしれない。ここが乱馬の通っている高校の敷地内ならば、間違いなく黄色い雄たけびが聞えたことだろう。

671かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:34:06 ID:HwHzoZ0E0

「へえ、意外と強いんだね」

 ダグバは、もはや服など必要のない姿に変身する。
 白い体を幾つもの金色の装飾品で飾った、偉大なるグロンギの王の姿に。
 それを見て、乱馬は飛び上がり、何歩か引いた。四つんばいのまま、その姿を警戒していた。
 全身の身の毛を上がらせて、彼はダグバの様子を伺う。

「……変身はできるかな? まあいいや」

 ダグバは乱馬を殺すために、前へと走り出した。
 今回は、火は使わない。人間は、火を使ったら、ごく簡単に燃え尽きてしまうような、あっけない存在だからだ。
 少なくとも、彼は生身。
 生身の人間にしては強いという程度。ダグバが殺したグロンギの下級戦士よりも、おそらくは強い。だが、火では死んでしまう。
 ダグバは知らないが、ラ・バルバ・デは人間の戦士──一条薫を興味対象にしていたし、グロンギでさえ認められる人間というのは確かにいた。
 乱馬のように特殊な修行を受けた人間が、グロンギの興味を引くのは必然だったかもしれない。ましてや、猫拳を使う乱馬は、人間の時よりも理性が効かず、強い。
 そいつを、あっさり火で殺してしまってはつまらないからだ。

「にゃぉっ!」

 乱馬は、助走をつけたダグバのパンチを避けるために右方に避けた。
 アスファルトの地面が、深く陥没する。その衝撃は、乱馬にも伝った。
 猫は少し震えた。
 勝てない存在を知ったのか。──この恐ろしい生物を前に、どう立ち向かうか迷った。

「乱馬さん!」

 そこに、特殊武装に身を包んだ女性が通りかかる。乱馬を追ってきた、アインハルト・ストラトスという少女である。ただし、今の姿は少女のものではなかった。
 覇王形態。
 乱馬を追うのに都合がいいゆえ、彼女は既に変身した状態だった。
 ダグバと乱馬の視線は、そちらに注がれる。
 アインハルトは、目の前で起こっている出来事がどういう状況なのかわからず、少し思考を停止してしまった。
 だが、そこから乱馬の警戒と、ダグバの殺気を感じて顔をこわばらせる。
 また、自分に関わった人が巻き込まれている。──自分を助けてくれた人が、強敵に立ち向かっている。
 無論、助けなければならない。
 乱馬さんに、絶対お礼を言うんだ。

「君も僕を笑顔にしてくれるの?」

 ダグバは問う。
 その武装した外形から、彼女が戦闘の準備を果たしていることを察したのである。
 だが、その問いにアインハルトは答えない。息を呑んだ後、乱馬に聞いた。

「……逃げてください、乱馬さん。助けてくれたお返しをします」

 息を呑んだせいか、少しテンポの悪い言い方になってしまった。
 魔力消費、大。
 ダメージ、大。
 疲労、極大。
 勝率、およそ0パーセント。
 それらのデータが、アインハルトにもはっきりとわかる。だが、死ぬのが怖いとしても、無責任な行動はしたくない。
 だが、乱馬への恩義を果たさねばならない。この「死への恐怖」が存続されるのなら、あそこで死ぬのも悪くなかったかもしれない……そんな考えも頭を過ぎる。
 少し、考えていることが矛盾している。

672かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:34:56 ID:HwHzoZ0E0

「二人がかりで構わないよ?」

 ダグバは自信に満ちた言葉をかける。
 先ほど、一人参加者を殺害した。その時点で、ダグバは殺傷のリズムを崩したくなかったのだ。このまま、軌道に乗って敵を殺し続けるためにも。
 ダグバの力は、プリキュア一人の命を簡単に、完全に奪った。

 ────そういえば「乱馬君」と、あのプリキュアは口にしたか。
 
 ダグバはそんなことを思い出す。それが、彼だったのだ。
 だが、乱馬はこの強敵が、祈里、霧彦、ヴィヴィオの三名と交戦済みであることを知らない。

「……にゃー……」

 その実、どこか乱馬はダグバの風貌から、仲間の匂いを感じていたのかもしれない。誰か親しい人──きっと祈里──と関連した悪い気配がする。
 ただ、猫である彼にはその気配が何なのか具体的にはわからなかった。
 乱馬は、悲しそうに鳴くだけだった。──怒りは無い。それは、猫としての野生の本能が流し込む恐怖の感情が、怒りを押しているからだろう。
 普段の乱馬では、まずこんなことにはならない。
 乱馬らしい「意地っ張り」精神が消えているのが、猫拳のデメリットだろうか。

「……覇王」

 アインハルトが前に向かって走る。
 ダグバは、乱馬から注意を完全に逸らした。凄まじい速さで駆け巡るアインハルトの方を眺めたのである。
 しかし、アインハルトの殺気を感じながらも、ダグバの行動は比較的スローモーションだった。彼は、ゆっくりとそちらを眺めるだけで、激しいアクションを一切しない。

「────断空拳!!」

 ドンッ!
 アインハルトの速度は一瞬で、ダグバとの距離を詰める。重い一撃が、ダグバのベルトのバックルに当たると、流石にダグバの体も後方に吹き飛んだ。
 いや、端から彼はその攻撃を受けてみようと思っていたのだろう。

(やっぱり、この人は、あの人の仲間……!)

 アインハルトは、ダグバが吹き飛んでいる瞬間に、最初に会ったコウモリの怪人のことを思い出した。
 あの怪物のベルトのバックル部と同様のものを、ダグバは装着していたのである。
 それにしては、日本語が上手な気がするが、所在している国そのものが違うのかもしれない。
 仲間、というよりは同属だろうか。彼ら同士が、互いを認識していたかどうかもわからない。
 しかし、アインハルトにはわかった。
 その種族が、間違いなく人間の脅威であることが──

「今度は僕の番だね」

 あっさりと、ダグバは起き上がった。
 地面にたたきつけられても、逆に地面の方に致命的なダメージを残して立ち上がる。それがダグバだった。
 一方、アインハルトは、今の一撃でも消耗するほどの体力だった。
 反撃が来ることがわかっているのに、動けそうにない。

「……ふふ」

 ダグバは、その刹那、地面を強く蹴った。
 一瞬で、ダグバの豪腕が、アインハルトに近づいてくる。
 だが、アインハルトには、その想定外の速さに回避の術がなかった。
 ただでさえ、ギリギリ避けられるかの体力だったのだ。その体力を駆使し、ダグバの拳が飛んでくる瞬間に右か左に避ける予定だったが、意外な速さを前に、飛ばなければならないタイミングを逃した。
 まずい────。

673かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:35:35 ID:HwHzoZ0E0

「にゃぁぁぁっ!!」

 しかし、その真横から身軽な猫がダグバへとタックルをかます。
 ダグバの体が横に吹き飛び、ダグバの拳がアインハルトの顔に衝突する前に、攻撃は中断された。
 だが、ダグバもこれまたあっさり立ち上がる。

 乱馬は、また発情期の猫のように唸った。
 この静かな街に、猫による雑音が流れる。
 乱馬の鳴き声は、アインハルトの耳も打つ。本当の猫のようだった。
 一体、今の乱馬がどういう状態なのか、アインハルトは知る由もない。

「────乱馬さん」

 すぐに、アインハルトはそんな乱馬の横に寄った。
 また乱馬に助けられてしまった。いや、もう助けられることしかできないのかもしれない。
 はっきり言って、もうアインハルトには乱馬を助けられるだけの力はない。それでも乱馬を助けようとしたのは、こうした敵と遭遇する前に弧門たちのところに戻すためだった。
 だが、結局敵と遭遇してしまったのだ。己の不幸を呪うしかない。

「やっぱり、強いのはそっちだけみたいだね」

 乱馬を見て、ダグバは言う。アインハルトの胸に、その言葉は突き刺さった。
 女である、子供である、現在疲労し切っている──そうした不利な要素があるとはいえ、こう言われることでアインハルトはコンプレックスを刺激された。
 足手まとい、という言葉が頭の中で組み立てられていく。ダグバは一言もそう言ってはいないが、まるで直接そう言われたような気分だった。

「……でも、リントにしては少し強いくらいかな」

 変身もしない相手が、ダグバを押し倒すなど、滅多なことではない。
 乱馬が、人間離れした身体能力の持ち主である証だった。
 仮に猫拳を使っていなかったとしても、押し倒すくらいはギリギリ可能だったかもしれない。

「────乱馬!」

 また、戦いの緊張感を裂く女性の声が街に響いた。高い声だったので、どうしても耳に入りやすい。
 それは、猫化した乱馬にも認識できる唯一の女性であった。
 天道あかね。
 どうやら、彼女もこの場所にたどり着いたらしい。
 そして、乱馬の様子を見て初めて、彼が猫拳を発動していることと、アインハルトの体が急に成長したこと、怪物がいることに気づいた。

「おい、ちょっと待ってくれよ姉ちゃん……はぁ……はぁ、なんでそんなに早く走れんだよ、陸上部か何かやってたのか?」

「源太さん、ホラ、見て! あいつら……」

「あっ! あいつはまさか外道衆か!? ……いや、なんかまた違うみてえだが」

 続いて現れた梅盛源太も、その異様な光景に立ち止まる。
 全身の疲労さえ忘れさせる、異形の怪物の睨み。──悪しき大気に包まれた、不気味な怪人。
 源太は、その顔を見て、眉を顰めた。
 おそらく、自分が侍として相対すべき悪なのだと、源太は知ったのだ。
 ダグバは、彼ら二人を見るのをやめ、乱馬たちに視線を戻した。

「一貫献上!」

 シンケンゴールドへと変身した彼は、サカナマルを両手に構えながら走る。
 ダグバが何か、実害を及ぼしているのを見たわけではない。
 しかし、乱馬と、その隣の女性の怯えた表情だけはわかった。
 走りながら、彼は名乗る。

674かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:36:20 ID:HwHzoZ0E0

「……シンケンゴールド、梅盛源太、参る!」

 だが、その煌きは一瞬で吹き飛ばされた。
 ダグバが、裏拳でシンケンゴールドのマスクを叩いたのだ。サカナマルがダグバの体に到達する前に、あっさりとダグバはその攻撃を回避する。
 それも、相手にダメージを与える形で。

「くそぉっ……なんだよいきなり……っていうか、こいつマジで強え」

 シンケンゴールドは、サカナマルをクロスして構えながら、じりじりと乱馬たちの方へ寄った。ダグバの正面に立って、表情を見て戦いたいと思ったのだ。
 だが、そうしているうちに恐ろしくなる。
 彼の前に立った瞬間、この程度では済まなくなるような気がしたのだ。

「……おいっ、兄ちゃん、姉ちゃん、逃げろ。こいつは俺が食い止めるからな!」

 それでも、威勢だけは忘れない。
 どんな窮地に立たされたとしても、ここで逃げたり、女性を死なせてしまったりしたら、それこそ丈瑠に合わせる顔がないというもの。
 この場に、うまい具合にシンケンレッドの助けが来ないか、などと期待しながら、ダグバを見つめた。
 気づけば、自分の立ち位置は完全にダグバの真正面だった。

「……源太さん、ごめんなさい! 少しだけ時間を稼いで!」

「合点承知!」

 あかねの高らかな声を合図に、ダグバへと再び攻撃を仕掛ける。
 ダグバの両手が、サカナマルを構えながら、ダグバの体へと伸ばされる。
 しかし、そんな両手は、気づけばダグバの両手に締め付けられていた。

「乱馬、こっちよ」

 あかねは、源太に再び心の中で謝りながら乱馬を呼ぶ。
 乱馬を元の乱馬に戻さなければならない。
 猫拳がいくら敗北を知らぬ最強の拳法だとしても、殺し合いの場であんな精神状態の乱馬をほうっておくわけにはいかない。
 乱馬をなだめられるのは、あかねだけなのだ。
 あかねは、戦いが飛び火しないことを祈りながら、その場で正座した。
 乱馬は、あかねの様子を見て嬉しそうに駆け、その膝に、これまた嬉しそうに座った。

「よーし、よーし」

「っておい、何だよオイ! 何してんだ、姉ちゃん」

「うるさいわねっ!」

 あかねは、源太が言ってきたことを怒鳴ってかわす。
 事情を知らない人間には当然の反応だが、彼女だって今、遊んでいるわけではなかった。
 だいたい、仕方がない状況だからこうしているわけで、恥ずかしいから、こんなことしたくないのだ。

 シンケンゴールドが、そうしてダグバに封じられている隙に、再びアインハルトがダグバのわき腹に一撃を叩き込んだ。
 本当はバックルの部分を狙おうとしたが、正面にシンケンゴールドがいたために、それは叶わなかった。

 ダグバは、今度はアインハルトに注意を向けた。
 アインハルトは、きりっと決めた表情でにらんだつもりだったが、ダグバの目にはその恐怖の表情がはっきりと映っていた。
 だから、少し笑った。
 怖がっているのに、自ら攻撃してくるとは。
 ダグバは、シンケンゴールドの両手を離し、思わず足を引きずりながら退いていくアインハルトに、またゆっくりと近づいた。
 シンケンゴールドは、サカナマルを反射的に手放す。両手首が、かつてないほど強く痛んだのだ。
 サカナマルを握って敵を倒せるだけの力が無さそうだった。

675かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:37:02 ID:HwHzoZ0E0

「猫ぉーーーーっ!!」

 と、今度は乱馬の絶叫で、またしても全員の注意がそちらに注がれる。
 あかねによって、乱馬が元に戻ったのである。
 その最後の記憶は、アスティオンが顔に引っ付いた恐怖の記憶だったがゆえ、彼はそう叫んだ。
 そんな乱馬の後頭部を、あかねがポンと叩いた。……と表現すれば聞えはいいが、ぶっちゃけグーで殴っていた。

「……おい、一体どうしたんだよあかね……あいつは、」

「なんだかわからないけど、とにかく敵が出たみたいなのよ。あんたは猫拳でバカになってたわけ」

「……そんなことはどうでもいいんだよ。あいつは、霧彦とヴィヴィオが言ってたヤツじゃねえか……」

 乱馬の中で、闘志が燃えてくる。
 また、乱馬の理解を超える強敵が現れた。それも、何の脈絡もなく。
 霧彦とヴィヴィオが言っていたあの怪人の特徴と一致した、ダグバの外形。先ほどからずっとダグバを前にしていたのだが、乱馬がそれに気がついたのは今この瞬間だった。
 だが、おそらくその特徴を知らなかったとしても、乱馬はダグバを敵と認識したのではないかと思う。ダグバから放たれる殺気は、乱馬の全身に鳥肌を立たせるほどとてつもないものだったからだ。
 乱馬は、少し体をポキポキと鳴らしてから、ダグバに語りかける。

「おい、そこのバケモン。うちのヴィヴィオがずいぶん世話になったそうじゃねえか」

「やっとリントの言葉で話したね」

「チャラチャラした格好しやがって。女ばっかり相手にしてねえで、俺と一対一で勝負しようぜ」

 女性が弱いことを前提にした発言だが、女性の体にコンプレックスのある乱馬は、男性と比較したときの女性の弱さを誰よりも知っている。

「えっと、アイハルトか……?」

 アインハルトが苦しそうな表情をしつつも、頷く。

「ヴィヴィオにアインハルト……女ばっかり相手にしやがって」

 乱馬は、そう言った後に、はっと気づく。
 厭な予感がした。女性の死亡者が多数出ていたことを思い出した。なのは、フェイト、シャンプーなどの名前も知っている。
 彼が、霧彦やヴィヴィオ、アインハルトに源太などと戦っているのはわかっているが、他にも交戦している可能性はある。あくまで、乱馬は、ダグバと戦って生存した人間の情報しか持っていないのだ。
 乱馬は恐る恐る聞いてみた。
 こいつが死人を出している可能性が浮かんだのである。

「……まさか、一人も殺してねえだろうな、バケモン」

「教えてあげようか? ……そうだね、教えたら、もっと強くなってくれそうだし」

 ダグバはニヤリと笑った。
 乱馬は、厭な予感が当たってしまったことで眉を顰め、固唾を呑んだ。
 人殺し。許されてはならない大罪人である。それが、あかねや自分の前にいるのだ。

「プリキュアっていうリントを、一人殺したよ。ダークプリキュア、かな? 君のことも知ってたよ」

 乱馬は、プリキュアという言葉で思い当たる少女がいた。
 プリキュアも乱馬のことを知っているというのなら、それは、間違いない。
 山吹祈里──キュアパインだ。

「…………………あかね、下がってろ」

 殺した張本人は、笑っていた。
 あかねに近づけさせまいと、まずあかねにそう言った。
 だが、ダグバは当然遠ざかったりしない。あかねの方を遠ざけるよう、乱馬はそう呼びかけたのである。

「お前らもだ、源太、アインハルト……」

 乱馬は、ダグバを真っ直ぐ見つめたまま、わなわなと震えていた。
 怖いわけでもない。武者震いでもない。
 ただ、静かだがメラメラと燃える炎で揺れているだけだった。
 怒り。
 乱馬が、これまで感じたどんな怒りよりも強い怒りだった。なぜなら、人一人の命がそこに関わっているからだった。

676かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:38:22 ID:HwHzoZ0E0

「テメーは俺が絶対ブッ殺す!!!!!」

 山吹祈里。
 ダグバが殺したのはダークプリキュアではない。彼女だ。
 乱馬よりもずっと幼い少女だ。
 何らかの理由で霧彦と離れたのか、あるいは霧彦も、下手をすれば、後からそこに向かった美希やいつきや沖も……しかし、乱馬はそれについて聞きたくなかった。
 その先を聞くと、乱馬の中で死人の名前が増えてしまう気がしたのだ。

 今、乱馬がコイツに感じるべき怒りはひとつでいい。

 コイツが、祈里の命を奪ったという事実。
 
 それが、乱馬には許せない。──乱馬の心ひとつはちきれそうなほどに、怒りが胸から湧き上がっている。
 いや、乱馬以外の誰であっても、知り合いの死を簡単に受け入れることはできないだろう。知り合いを殺した人間を許すこともできないし、そんな相手をブチのめさずにいられるわけがない。

「ねえ、もっと僕を笑顔にしてくれるよね?」

「笑顔? ざけんじゃねえ!!! 俺はテメエがどれだけ謝っても許してやらねえし、テメエがどれだけ泣いても殴るのをやめねえ……祈里を殺したってのが、冗談だったとしても、死ぬまで絶対許さねえ!!」

 冗談ではないのはわかっていた。
 冗談を言うべき場面ではないし、ここは人の死をネタにした冗談を言っていい場所じゃない。
 乱馬は、おそらく初めて、本気で人を殺す気で拳を握っていた。

「乱馬!」

「下がってろっつってんだろ、あかね! コイツは只者じゃねえ……それはわかるだろ?」

 あかねも、ダグバの強い殺気を感じていた。
 ダグバが何の恨みも持たず、ただ純粋に殺しを楽しんでいるゆえか──何とも不安定な殺気だったが、それが全てを飲み込むに等しい殺気であるのがわかる。
 十臓を除くこれまでの死亡者──シャンプーさえも──が、全てこの一人の怪物から生み出されたとしても、あかねは疑わないだろう。
 ダークプリキュアや仮面ライダーエターナル以上なのはおそらく間違いない。

「お前が出てきて勝てる相手じゃねえ……さっさと逃げてもらわないと困んだよ!!」

「でも、乱馬……!」

 だが、あかねは、ダグバがおそらく、乱馬さえ凌駕する強さの持ち主だとにらんでいた。
 乱馬も知っているはずだ。きっと、怒りに気を取られているから、わからないのだ。

「忘れんな、あかね。俺は負けねえ。俺は格闘と名のつく物で負けたことは、無え!!  俺を信じて待ってろ。……源太とかいう寿司屋、お前があかねとアインハルト連れて、ヴィヴィオたちのところへ行け」

 源太は、その一言では乱馬の言いなりにはならなかった。

「いや、俺も戦う!!」

「ふざけんな!! 誰かが連れてかねえと、この凶暴女はまたこっちに帰ってくんだよ……!! あかねをコイツとの戦いに巻き込むことだけは、俺が許さねえ。俺は大丈夫だ」

 乱馬は、ある構えをした。
 以前、キュアパインに防がれた技。本来、封印すべき技。
 だが、その強さは、今だけは強靭だった。
 今ならば、この技を乱馬に放った張本人・良牙を超えるほどの技を撃てる。

「獅子咆哮弾!!」

 黒炎が龍のように、ダグバの体へと放たれた。
 アインハルトとシンケンゴールドは絶句する。人間の手から放たれた、不思議な炎に目をぱちくりさせる。
 それは、祈里を失った怒り、そして乱馬自身もこれから人の道を踏外さなければならないという悲しみ──そうした不幸に塗られた、悲しい獅子の咆哮だった。

「……見ろよ、これでも俺が心配か?」

 ダグバも少し驚いたようだが、獅子咆哮弾に呑まれながら笑っていた。
 リントの限界を超えたリントの姿に、初めて出会ったのだ。
 リントの姿のまま、こんなことをやってのける相手は乱馬が初めてだった。
 しかし、ダメージそのものは弱い。

677かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:39:18 ID:HwHzoZ0E0

「……さっさと行きやがれ。ほうっておいたら、あのバケモンは誰にも容赦しねえだろ。あかねとアインハルトをよろしく頼む」

「……おい、俺はもう御免だぜ。あの十臓って客みたいに、俺たちのために誰かが死ぬなんて」

「そいつが誰だか知らねえが、安心しろよ。俺は死なねえ」

 乱馬の手のひらから血が滴っていた。
 どれだけ強く拳を握っているのだろうか。爪が立てられているから、手のひらが血を流しているのである。

「……信じるぜ、兄ちゃん。だから、裏切るなよ」

 シンケンゴールドが、そう言ってアインハルトの手を握り走り出す。
 アインハルトは浮かない表情だった。だが、恐怖から解放されたような安堵感を感じている。
 それで、アインハルトはまたはっとした。
 乱馬が身代わりにこの男と戦っていることで、自分が傷つかない──それで安心している自分に気がついたのだ。

「乱馬さん」

 シンケンゴールドが、あかねを連れる過程で乱馬に近づいたとき、アインハルトは乱馬の耳元で一言名前を呼んだ。

「ベルトのバックルを狙ってください」

 乱馬はダグバの腹のベルトに目をやる。バックルは、奇抜な形をしていた。
 普段なら厭でも目立つが、ダグバの体はさまざまな装飾で飾られていたので、そんなところには目が行きにくい。

「あれを狙えば、変身ができなくなる……かもしれません」

 ゴオマの時を思い出す。
 あの時も、バックルを殴った結果、ゴオマは変身できなくなった。

「ありがとよ。……そうだ。ヴィヴィオには、祈里が死んだことを絶対に言わないでくれよ……まあ、放送で知っちまうかもしれないけど、それでもそんな事は知らなくて、いい」

「…………わかりました」

「にゃー!」

「それから、その猫こっちに向けんな」

 乱馬は、アスティオンを前にしても、今は動揺しなかった。
 怒りが、感覚を麻痺させている証だ。
 猫を前にしたのに、感覚的には、「少し苦手」というだけ。あの猫拳の修行のトラウマさえ、乱馬の脳裏には浮かばなかった。
 それだけ、ダグバに対する怒りは強かった。
 そんな中でも、乱馬はあかねを巻き込みたくない気持ちを最優先した。
 乱馬という男が、あかねという女との出会いの中で変わった証だった。

「……乱馬」

「あかね、さっさと逃げろ。俺は一秒でも早くアイツをブン殴りたくてウズウズしてるんだ。お前らが逃げれば、俺は何も気にせずアイツをブチのめせる。だから、さっさと行け」

「……乱馬。絶対、戻ってきてよね」

「あたりめえだろ。俺がいなかったら、誰がお前のクソマズい飯を食ってやるんだ。豚だって喰わねえぞ、あんな飯」

 乱馬の頭が、あかねのグーで軽く殴られた。あまり痛くなかった。きっと、痛みを感じないよう優しくしてくれたのだろう。
 あかねは、これだけのことを言われても、イラッとはこなかった。
 ただ、これが乱馬に触れられる最後のチャンスであるような、そんな悪い予感がしたから、少し不器用なスキンシップのつもりだった。

678かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:39:50 ID:HwHzoZ0E0

「早く行けよ。何回言わせんだ!」

「そうだ、行くぜ、二人とも!」

 シンケンゴールドが、二人の少女の手を引いて去っていく。
 その姿を、乱馬は見ようとしなかった。
 今から、この世に一人のつもりで、戦うのだ。
 自分が死んでも、この世に何も影響がないように……。
 それでも、あかねともう一度会いたい気持ちは振り払えない。頭の片隅に、戦い以外の存在がいた。
 負けるつもりは、もちろんない。
 けれど、死ぬかもしれない。
 もし、乱馬は勝ったとしても────天道あかねにはもう会えない。
 ここで、人を殺すのだから。
 好きな人を、人殺しの許婚になんてさせられるわけがないのだ。

「おい、テメーも邪魔者が消えたみたいな顔して、随分嬉しそうじゃねえか」

「そうだね」

「じゃあ教えてやる。この地上で一番邪魔なのは、────テメーなんだよ!!!!」

 乱馬は、駆け出した。
 拳を、すばやくダグバの体へと向けて突き出す。
 百本近い腕が数秒に繰り出された。
 注意しておくが、乱馬の腕はたった二本しかない。その二つの腕が、その数秒に五十回突き出されただけである。

「────!」

 あいも変わらず、この怪物は笑っている。
 殴られる事さえも、ゲームの楽しみだったのだ。
 人間の筋肉構造とは思えないほど、活発に活動する乱馬の腕に驚きながらも、彼なら可能かもしれないとダグバは思った。

「うらっ!」

 乱馬は打撃をやめ、長い足を利用してダグバの股を狙ったキックを放つ。
 いわゆる金的だが、ダグバはそれを物ともせずに、パンチの嵐を止めた乱馬の顔面に一撃、叩き込む。
 乱馬のこれまでの常識を超えた一撃だった。

「……ぐぁっ!!!」

 鼻でも折れたか。
 これまでの修行では珍しいことではない。今や、アスファルトに叩きつけられたとしても折れないような強靭な骨が、こんなにもあっさりと折られるのはまた意外だったが……。

「チッ。顔を殴るんじゃねえ!! 色男が台無しになるだろーがっ!!」

「ふふ……」

「……チッ」

 冗談を言ったのは、乱馬のやせ我慢だ。
 こうしていないと、相手に屈してしまう。それくらいの威圧感だったから、こうして気分を高揚させて恐怖の感覚を麻痺させようとしていた。
 こんな冗談めいた言葉を言う唇が、いつになく震えていた。

(……猛虎高飛車は使えそうにねえ)

 強気でなければ放てない技は、この状況下使えそうにない。
 乱馬がいかに無神経で、常に自信過剰な性格であっても、ダグバはそれを押し潰すほどの強靭な存在だった。

(そのうえ、これだけ強いくせに闘気も不安定で、飛竜昇天破も使えねえ)

 また、相手の闘気を利用した技も使えない。
 ダグバは、攻撃を待って突っ立っているようなものだ。
 殺気は強い。だが、それはまた奇妙な殺気で、怒りやら悲しみやらを力に変えるそぶりが無い。最初から渦を巻いたような、不気味な闘気だった。うかつに障るべきでない部分だ。
 それに、むしろ今は乱馬が言い知れぬ怒りに任せて戦っている。
 ダグバがあの技を使えるかはわからないが、何にせよ警戒すべきだろう。

 では、他にどんな技があるのか──乱馬は考える。
 猛虎落地勢、魔犬慟哭破、敵前大逆走。乱馬の頭を過ぎるのは、そんなスチャラカな奥義ばかりだった。
 無差別格闘早乙女流のあまりの使いようの無さを、乱馬は呪った。

679かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:40:50 ID:HwHzoZ0E0

(やっぱりあれが一番か)

 何度でも使うしかない。
 あの呪われた技、獅子咆哮弾を。
 この技だけは、今の乱馬をどこまでも強くする。
 乱馬は、ある程度の距離を置いてから叫んだ。

「獅子咆哮弾!」

 この時、乱馬が考えたのは、シャンプーのことだった。
 彼女はおそらく、もういないだろう。
 中国にいた時、彼女は何度も女乱馬の命を狙ってきた。これまでに何度か、「いなくなれ」と思ったこともある。
 だが、────彼女は、ある日から男乱馬を愛するようになり、やがて女乱馬さえも愛するようになった。
 あかねの命を狙っているが、いつの間にか彼女は喧騒ばかりを残して、命の取り合いなど忘れさせた。

 もう、いない。

 仮に乱馬が天道道場に帰ったとしても、それを壊しに来るチャイナ娘はいないし、ラーメン屋の妖怪ババアや近眼男がシャンプーを探すのを、後ろめたい気持ちで見つめる毎日が待つだけだ。

「────あはは」

 ダグバは、この一撃に呑まれても笑っている。

「獅子咆哮弾!!」

 この時、乱馬が考えたのは、パンスト太郎のことだった。
 彼が一人の少女の死に関わっている──それを知った乱馬は、パンスト太郎への見方を変えた。
 たとえ、何度乱馬たちを襲っても、あんな少女の命を奪うことなんて、絶対にないと思っていたのに。
 もう、パンスト太郎のことをライバルとして見られない。友人とも、見られない……。
 このゲームが無ければ、もっとマシな関係のままでいられたのではないだろうか。

「────ははははは」

「獅子、咆哮弾!!!」

 乱馬は、良牙のことを考えた。
 この先、もし乱馬が死んだら、彼は悲しむだろうか。────逆に、良牙が死んだら、乱馬だって、きっと悲しいと思うだろう。
 あるいは、もし乱馬が──たとえ相手がこんな怪物であっても──人を殺したら、彼は乱馬をどう思うだろうか。あの目で、軽蔑するんじゃないか。
 それは厭だ。なんだかんだで男子校時代からの友人だったのだから。
 あの男子校にいた時のパン屋でのいさかいから、三日も待ったのに果たされなかった決闘、それから、何度ぶつかることになったか数え切れない。
 だが、それが日常だった。
 普通の人が見れば、一見、物騒に見えるかもしれないが、楽しい日常……。

680かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:41:29 ID:HwHzoZ0E0

「────あっははははははは」

「獅、子、咆哮弾!!!」

 ヴィヴィオとアインハルトのことを考えた。
 大切な人が死ぬって、どれだけ悲しいことだろう。
 クソ親父がいつどこでくたばったって、何も思わないんじゃないかって、思ってた。
 母親がいるって知って、親の温かみを知った。
 母親にその姿を見せてやりたくて、乱馬は何度も悩んだ。
 高町なのは、フェイト・テスタロッサ。
 だから、大事な母親を同時に二人も失ったヴィヴィオを見た時、乱馬は……。

「獅、子、咆、哮弾!!!!!」

 祈里のことを思い出す。
 祈里は死んでしまった。乱馬よりずっと幼く、しかし乱馬を慕った良き仲間。
 霧彦のピンチに駆け出して、散々乱馬に心配をかけて、戻ってきて、あまりにも素直に謝った……どこまでも純粋な少女。
 彼女も、もういない。
 それが悲しくてムカつく。
 短い付き合いだったが、乱馬はあのひと時が楽しかったのだ。

「獅、子、咆、哮、ダァァァァン!!!!!!!!!!」

 あかね……。
 この勝負が終わったら、俺はもう……。

「あははははははははは」

 煙の中で、笑い声は止まらない。
 だが、その笑みの裏に、僅かでも、きっと────確かな怒りが見えてきた。
 ダグバは、少なからず闘気を放っている。
 それが、この獅子咆哮弾の乱れ打ちの中で、見えてきた一つの希望だった。

「────僕の番だね」

 ダグバは、乱馬のいた場所に向けて手を翳した。
 発火のポーズである。生身であるにも関わらずしばらく楽しめそうな相手──乱馬。彼に対して、発火を行って勝負を強制終了するというのは、彼らしからぬ怒りの現われだった。
 獅子咆哮弾による煙が晴れたら、この右手が火を放つ。

「……どこ向いてんだ? タコスケ」

 はっと、ダグバが煙の中のどこからかその声を聞いた。
 しかし、煙が運んだ声は、上空に向かって流れてしまうため、どこから聞えるのかはわからない……気配も無い。
 ダグバは反射的に背後を向いた。相手の不意を突くならば、背後に回るだろうと考えたのだ。
 最もベタなやり方だった。だから、ダグバはそのベタなやり方である可能性が最も高いと思って、後ろを向いた。

 そこには誰もいない……。

 ────いや、

「俺はここだ!」

 獅子咆哮弾を放った後、乱馬はダグバの後ろについた。おそるべき速さと、巧妙な存在感のコントロールだった。
 しかし、ダグバが振り向いたところで視界には入らない。
 乱馬は、低い位置にしゃがみこんでいたのだ。ダグバの腰に、ようやく頭がある。
 かがむようにして敵が振り返るのを待った彼。
 その目的は簡単だった。

 アインハルトに言われたとおりの弱点を潰すためだ。

「おらぁっ!!」

681かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:42:11 ID:HwHzoZ0E0

 乱馬は、ダグバの所持品であり、──一人の命を奪い、血で汚れたがゆえに使い物にはならないため──その辺りに放棄されていた、クモジャキーの剣でダグバのベルトのバックルを突いた。
 どうして、乱馬がこれを持っているのか、そして、どうしてこんな場所にいるのか、ダグバは疑問だったらしい。

 海千拳。

 それが、乱馬の使った技だった。
 気配を消して、金目の物を盗んでいく『コソ泥』の拳。
 今回盗んだのは、あまりにも堂々とその辺の道路に置かれていたダグバの所持品だった。
 不幸なのは、乱馬が手に取った時点で、その剣はあまりにも汚れすぎていたことだろうか。
 ダグバのベルトを砕くには、あまりに錆びに汚れすぎた。

「─────」

 ダグバは、正真正銘何も言わなかった。笑ってさえ、いなかった。
 だが、大事なベルトの装飾品を狙われたことで、反射的にその手を乱馬の方に翳した。
 乱馬は、しゃがんだ状態から後方に飛んで避けたつもりだったが、乱馬の体よりも一歩遅れた「おさげ髪」に火が燃え移り、靡いた髪が今度はチャイナ服に燃え移った。
 一瞬で、乱馬の体を火が包んだ。

「熱っ!!」

 乱馬は燃え立ての瞬間こそ、そんな情けない声をあげたが、すぐにやせ我慢を始める。

「……………………ま、ちょっとは熱いけど、こんなもん……大したことはねえよな」

 それは、ダグバに向けられた言葉ではなく、自分の意地に向けて、必死に語らう乱馬自身の乱馬自身への言葉だった。
 負けそうな自分。
 負けたくない自分。
 母親の一件の時に、切腹が怖くて逃げ回ったような、弱い1/2の乱馬が、もう1/2の乱馬に支えられて、泣き言を忘れる。

「火中天津甘栗拳の修行に比べれば、熱くも何ともねえってんだよ!!」

 乱馬の、燃えていく服の中から、切れ端と一緒に幾つかの『盗品』が零れていく。
 リンクルン、ヒートメモリ、ナスカメモリ。
 盗ったとき、はっとした。やはり見覚えがあったのだ。
 リンクルン……これは、間違いなく祈里のものだし、ナスカメモリは霧彦のものだった。
 祈里だけじゃなかった。
 霧彦も、もういない……その証だった。

「もう一発だ、獅子咆哮弾!!!!!!!!!!」

 その気圧が、乱馬の体の炎までも吹き飛ばした。
 今回は、ダグバに向けられたものではない。良牙がかつて使おうとした、気柱を放つ「完全型」の獅子咆哮弾である。
 乱馬が使うのは初めてだった。

 ダグバも、体の軸をゆがめる。
 初めて、その両手を顔の前で組んで、これから来る技への警戒を見せていた。

「────消えやがれ!!!!」

 大量の気が、地面に向けて降ってくる。
 本来、獅子咆哮弾を使うとき、使用者は「気」を抜かなければならないのだが……

 ────乱馬にはできなかった。

 悲しみや不幸だけでなく、怒りにまでも呑まれた乱馬の心は、簡単に気を抜いたりできる状況ではなかったのだ。気のコントロールは出来ない。
 しかし、あまりに重過ぎる気は、ダグバにも確かにダメージを与えていた。
 周囲の建物までも、次々に潰れていく。それだけの威力だった。
 人の形をした、あまりに脆すぎる存在には、この理不尽な重荷に、どれだけ抵抗することが可能なのだろう。

682かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:42:57 ID:HwHzoZ0E0

 雨や嵐、と言うにはあまりにも大雑把な、その落下物を浴びながら、乱馬の意識が途切れそうになった。

(あ、…………)

 気づけば、乱馬の前に冷たい壁があった。
 ダグバの前にも、壁があった。
 地獄の門ではない。
 地面だった。
 しかしまた、少しずつ意識が朦朧としてきた。
 乱馬の視界は真っ白になった。


★ ★ ★ ★ ★


「あれは……!!」

 その気柱に、あかねたちが、気づかないはずがない。
 あまりに巨大な気柱が、轟音を上げていたのだ。この近辺のエリアの人間ならば気づくだろう。
 それが乱馬の放った獅子咆哮弾によるものだというのは、誰に説明されなくとも、あかねにはわかった。良牙か乱馬しかいないのだが、おそらく今戦っている乱馬だろう。位置もその辺りなので、よくわかった。

「……乱馬!」

 乱馬が死ぬかもしれない。そんな気持ちに流されてそちらに向かおうとしたあかねの手首を、シンケンゴールドの手が掴む。
 シンケンゴールドは、何も言わずに首を振った。
 その横でアスティオンが、悲しそうに鳴く。
 だが、アスティオンの猫のような鳴き声は、乱馬を彷彿とさせて、あかねには逆効果だった。乱馬は猫が大の苦手だった。

「離して! あれはきっと乱馬の技よ! 獅子咆哮弾の完成型……でも」

 乱馬はその技を使ったことがない。
 あの技を使ったのは、良牙である。
 それに、あの技を使えば不幸に自分を落としていくだけだというのに、乱馬は使おうとしている。ただ、敵に勝つためだけに。

「だからって、なぁ姉ちゃん。あの兄ちゃんのことも信じてやろうぜ。俺たちはできる限り遠くに逃げるしかねえ……!」

「……源太さん。ここまで来れば、もうあの怪人は追ってこないと思います」

 アインハルトが、いつになく凛々しくそう口にした。
 彼女は、きっと、このまま背を向けられなかったのだろう。
 だから、せめて、こうして少し離れた場所で、乱馬が命をかけ、激しく戦っているということだけ胸に焼き付けておきたかったのだ。
 せめて、見届けようとアインハルトはここで立ち止まったのだ。
 そして、ひとつ気になったことがあったので、あかねに少し質問をする。

「あかねさん。乱馬さんには、おそらくあの怪人にも弱点がある……ということを教えました」

「弱点!?」

「ベルトのバックルです。ここに来たとき、あの怪人と同種と思われる──コウモリの怪人と交戦しました。その際に腹部と背中を同時に攻撃したところ、怪人は変身が解除され、変身能力を失いました」

 ズ・ゴオマ・グとの交戦を思い出すと、やはりあの攻撃がゴオマの変身能力を奪ったのではないかと推測できる。
 あの時は、ほんの偶然──ただ最も目に入った箇所を殴っただけだったが、今になって思えば、あれが彼の弱点だったのではないだろうか。
 そう、仮面ライダー1号こと本郷猛も、ベルトで変身していたではないか。

「あかねさん。あの技は、そうした特定の……ごく小さな的を攻撃できるような技なんでしょうか?」

「違う……あれは、もっと大雑把な攻撃よ」

「じゃあ、何か策があってあんな技を放っているんでしょうか?」

「……きっと、それも違うわ」

 あかねは少し悲しげに言った。

「あいつ、ホンッッッッットに人の話を聞かないのよ。いっつも、大事な事を忘れてたり、大事な事を聞いてなかったり……いい加減な性格! 私たちとの約束だって、本当に聞いてたか…………本当に帰ってきてくれるか……………」

 あかねは、怒りながら泣き出してしまった。
 残る二人には、かける言葉もない。
 乱馬がどうして、バックルを狙わないのかはわからない。
 ただ、この戦いにおいては、乱馬には持久戦が不利であることと、既に二人の間では持久戦が始まってしまっていること……それだけがわかった。
 あかねは、乱馬が約束を果たしてくれそうにない────そう思ったのだ。

683かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:43:43 ID:HwHzoZ0E0

 アインハルトにも、そんな予感が少しあった。
 乱馬は『魔力』のようなものをひたすら消費していくだけで、このままダグバのバックルを破壊できないのではないか。
 このままでは乱馬は犬死してしまう。
 乱馬はアインハルトに何をしてくれた? アインハルトの友達であるヴィヴィオの支えになってくれて、アインハルトの命を救ってくれた。
 そんな乱馬を見殺しにしていいのか?
 アインハルトは、決心を固めた。

「……乱馬さんは、そういう人だったんですか」

「そうよ。私たちの言う事なんか、絶対聞いてくれないのよ!」

「……わかりました。なら、私も乱馬さんの話は聞かなかったことにします」

「え?」

「逃げろなんて言葉、もう忘れることにします。……私もう、逃げません」

 アインハルトは、シンケンゴールドが止めるよりも先に、あまりにも素早く走り出した。
 魔力消費、大。
 ダメージ、大。
 疲労、極大。
 勝率、およそ0パーセント。
 しかし、乱馬を助けたい気持ち、ダグバを許せない気持ち、共に極大。


★ ★ ★ ★ ★


「────乱馬くん」

「乱馬」

「乱馬君!」

 霧彦、シャンプー、祈里。
 声が聞えるけど、どこにいるのかわからない。
 街を探しても、世界のどこを探しても、その姿が見つからない。
 ただ、声だけは聞える。
 乱馬の頭の中に、記憶として残っているから、その声だけは何度でも思い出せる。
 これもその類だと思っていた。走馬灯っていうやつなんじゃないか、と。

 だが、やがてはっきりと姿を見せてきた。
 その姿が見えてくることには違和感があった。
 乱馬の頭の中が見せる景色は空白同然で、背景や地面さえも無いし、上も下も存在しなかったから、そこに人が立っているなんていうことは無いはずだったのだ。
 ただ、「何もない」だと思い込んでいたものが、人のいる世界に変わった。

「立てないかい? 乱馬くん。何なら、僕が力を貸そうか?」

 霧彦がそう言ってくる。

 うるせえ。
 こんな気障な奴に肩を貸してもらいたくはねえ。
 一人で立ってやる。

「乱馬、みっともないね。いつもの乱馬なら、あんな奴一ひねりよ。でも、疲れたならこっちに来るよろし。二人で一緒に暮らすある!」

 シャンプーがそう言ってくる。

 うるせえ。
 どこも疲れてねえ。
 こんな危ない奴と二人で暮らすなんて御免だ。

684かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:44:38 ID:HwHzoZ0E0

「……乱馬君。もしかして、あの敵を倒したらいつも通りに暮らせなくなるって思ってる?」

 祈里は、少し心配そうに乱馬を見つめていた。

「違っていたならゴメン。私が言えたことじゃないけど……乱馬君は間違ってないよ」

「あの怪人のせいで、私みたいに人が死んじゃうなら、それを止めたいって……そう思ってるんでしょ?」

「ヴィヴィオちゃんや、あかねさんを守りたい、って」

「だから、ぜったいに倒さなきゃいけないって思ってるんでしょ?」

「でも、乱馬君があの怪人を倒したとしても、乱馬君がそんな事で変わったりしないって……みんな知ってるよ」

「乱馬君は、命を軽く見てるわけじゃないから」

「だから、あの怪人を倒した後も、胸を張ってあかねさんに会いに行って」

「だから、そのために乱馬君が立ち上がるって……」

「私…………ううん、みんな、信じてる!」

「だから────」

 うるせえ。
 長いんだよ、台詞が。もっと短くまとめろ。
 これくらい、簡潔にまとめた方が、場が盛り上がるだろうが……ッ!!



「俺は、無差別格闘早乙女流・早乙女乱馬だ!!!」



 あの常人ならば絶対に立ち上がれないような状態から立ち上がった理由は、たったそれだった。霧彦に肩を貸してもらったからでも、シャンプーと二人きりになるのがいやだったわけでも、祈里の信頼に答えたわけでもない。
 彼が早乙女乱馬であることが、全てだった。
 らんまの物語を知る者には、それだけで十分だろう。
 彼の強さ、熱さ、意地の悪さ、あきらめの悪さ、優しさ────全てはその言葉だけで十分伝わった。

 眼前で立ち上がった強敵ダグバにも、いてもたってもいられずに再びその場へと現れたアインハルトにも、ほんの少しだけ眠っていた自分の眠い頭にも、それだけで全てが伝わった。

「……ったく、縁起でもねえ夢見ちまった」

「へえ……どんな夢を見たのかな?」

「ガミガミうるせえ奴らが、俺の耳元で指図してくる夢だ」

 乱馬は、一本の蛸糸でつながったような意識の中で、ダグバに向けて冗談を言い放つ。
 ダグバに疲弊の様子は見えないが、どうやら彼も相当なダメージを受けてはいたらしい。
 人間。
 乱馬は、その壁をぶち壊したのだ。

(霧彦。俺はお前みたいなスカした奴に指図されるのが嫌いだった)

 乱馬は、ナスカメモリを片手に握っていた。
 霧彦は、お腹にある奇妙なベルトにメモリをさしこんで変身していたが、加頭は人体に直接挿入している。
 この道具は、それが可能ということである。

(お前に、「使うな」、って言われた……気に喰わなかったけど、これは俺に向く道具じゃなさそうだった……だけど────)

 変身。

 ──NASKA──

 霧彦と同様の姿の青き戦士──ナスカドーパント。
 彼は、より体勢を安定させるためにこの姿に変身した。

685かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:45:26 ID:HwHzoZ0E0

「アインハルト、使え!」

 ナスカドーパントは、もうひとつのメモリを投げる。
 ヒートメモリだ。奇しくも、以前、ヴィヴィオが一度だけ使ったメモリだったが、この二人は知る由もない。
 ともかく、魔力消費と関係のないその戦闘道具をアインハルトは受け取る。
 常人である鹿目まどかも同様のものを使っていたはずだ。おそらく、アインハルトも問題なく変身ができる。

「ここに来たっていうことは、お前も相当な意地っ張りだよな……。霧彦はコレが子供の手に渡るのが何トカ言ってたけどな、俺はお前もヴィヴィオも、ただのガキとは思ってねえ」

「……はい!」

 ──HEAT──

 アインハルトの体が、ヒートドーパントのものへと変わる。
 ナスカドーパントとヒートドーパントが、ダグバを睨んだ。
 二人のドーパントが、強敵を前に構える。

「いくぜ!!」

 そう言うなり、ナスカは、乱馬であったとき以上の加速を開始する。
 ただでさえ並大抵のものではなかった乱馬の身体能力に、ドーパント化による肉体強化上乗せされた。
 それゆえ、ナスカはレベル2並のスピードで加速を始めた。

「はぁっ!!」

 真横から、ナスカウイングで飛翔し、ナスカブレードでダグバを切り裂く。
 刃は深くは通らなかった。しかし、すれ違いさまに、確かにダグバの体を傷つけていた。
 それがたとえどんな小さな傷でも、次に繋ぐ活路だった。

「行きますっ!!」

 ヒートドーパントによる火炎弾が放たれる。
 一見するとランダムに放たれているようだったが、そのうち二つはベルトのバックルを狙って放たれていた。
 不規則に放つことで、安易に弱点狙いであることを悟られないようにしたのだ。
 そして、その火炎弾を放つと同時に、その炎に追いつかんばかりのスピードで駆け出した。

「はぁっ!!」

 熱を帯びたパンチが、ダグバの前方から何度も何度も放たれる。
 羽原レイカの得意技が足技だったのに対し、彼女は拳だった。
 拳は熱を帯びたまま、何度も何度も────ほとんど恣意的に見せかけながら、重い拳はて的確にベルトのバックルに叩きつけた。

「おらああああっ!!!!!!」

 その隙に、背後からナスカドーパントはナスカブレードでダグバの背中を突き刺す。
 ダグバの筋肉に刺さった。骨に刺したのかと思ったが、肉だった。
 あまりに硬すぎるため、ナスカブレードにも皹が入っていく。
 それを見た瞬間、ナスカは剣を突き刺したまま後方に下がった。

「────猛虎、高飛車ぁぁぁっ!!!」

 先ほどまで放てなかった必殺技がダグバの背中に向けて放たれ、ダグバの背中は綺麗に沿った。
 Uの字型に沿った結果、お腹の部分が突き出ている。
 そう、バックルの部分が、狙えとばかりに突き出ているのだ。

「やれ、アインハルト!!」

「覇王────」

 魔力を帯びる、そして炎も帯びる。
 ドーパントになっても、覇王としての力も使えるのは好都合だった。
 より強い、より重い一撃が放てるのだ。

686かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:46:07 ID:HwHzoZ0E0

「────断空拳!!!!!!」

 ダグバは、今度は逆方向に吹き飛んだ。
 慣性の法則に抗い、ダグバは自分がどちらに吹き飛んでいるのかもわからなかっただろう。
 ただひとついえるのは、
 ダグバにとってそれが楽しいひと時だったということだ。

「あははははははは」

 ダグバは、空中から落ちていく瞬間、笑っていた。

 しかし、簡単には落とさせてくれない。
 ダグバの体へと到達せんとする、もう一人の戦士────早乙女乱馬、ナスカドーパント。
 ナスカの力を使い飛翔した彼は、再び上空へ飛び上がっていた。
 その手には握り拳が作られている。
 剣は、ダグバの背中に刺さったままだった。痛くも痒くもないので気がつかなかったが、だから乱馬は拳で戦おうとしているのだろう。
 まだ、ダグバのバックルに与えるダメージは不十分だと思ったのだろうか。
 ダグバは不敵に微笑んだ。

「でも、狙いがわかってたら、意味がないよ」

 本来自由を奪われるはずの、空中というバトルフィールドにあって、
 彼は簡単にその手を動かしてみせた。
 そして、ナスカの腕を掴んで、振り回してみせた。
 バックルが狙いであるのは目に見えていたから、ナスカの腕を掴むのは簡単だった。

 乱馬は、もうダグバには、もうほとんど動く力もないのだと思っていた。
 ……が、非常に残念なことに、違った。
 ダグバの体は、まだ少しだけ元気だったのだ。確かに、全身は古代のクウガと戦ったとき以上に悲鳴をあげていたけど。

「ちっ……くしょう……」

 ナスカの体を弄ぶのに飽きたダグバは、適当な場所に向けてナスカを放り投げた。
 空中でこんな動作をするなど、ダグバにしか出来ない芸当だろう。
 ナスカの体が、地面に激突する。
 その後で、ダグバは、背中のナスカブレードを抜いて、ナスカに「お返し」してみせた。

「リントも、随分強くなったね」

 ダグバがようやく、長い航空を終えて、着陸した。
 ヒートドーパントは、その姿に違和感を覚える。
 ダグバの体が、先ほどのものとは異なった姿になっていた。
 着地を果たしてから、ダグバはそれに気がついたようである。自分の体の装飾品が消え、体色も茶色っぽい色に変わっていた。

「やってくれたね……」

 ダグバは静かに怒った。
 ようやくベルトの修復が済んだのに、こんなに簡単に破壊されてしまうとは。
 ダグバのベルトの欠片が、地面に落ちて割れる。
 それを寂しそうに見つめるダグバ。笑顔が消えている。
 第一に、アインハルトの知るダグバとは顔が違った。
 もじゃもじゃした髪の毛のようなものが生えていて、これまでの姿に比べて、豪奢ではなくなっていた。
 アインハルトの一撃は、ベルトに確かなダメージを与えていたのだ。ベルトも壊れまいと必死で踏ん張ったが、その力は、ついに切れた。
 剣を抜いた瞬間、役目を終えたように力がなくなったのだ。

 ダグバ、中間体。

 それは、これまでのダグバに比べると、能力が圧倒的に劣る存在だった。
 乱馬の命を枯らした奮闘が、ダグバの力を弱めたのだ。
 それでも、殺人には差し支えがなく、「ゴ」集団に匹敵する能力は持っているのだが、そんな小さな傷に見えても、それは十分な活路となりえた。

「……楽しみだったな、ザギバルゲゲル」

 そう呟いて、ダグバはひどくつまらなそうに去っていく。
 ダグバも今の戦闘では相当ダメージを受けていたし、アインハルトとこれ以上戦えそうにないと思ったのかもしれない。
 アインハルトも限界だった。だから、少し安堵した。
 ただ、ひとついえるのは……

(私は、乱馬さんの役に立てたんだ……)

687かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:47:09 ID:HwHzoZ0E0

 そんな暖かい気持ちがアインハルトをかろうじて立たせているということだろうか。
 そして、すぐにアインハルトは乱馬を探しに向かおうとした。
 乱馬は、ダグバに投げ飛ばされて近くで倒れているはずなのだ。
 アインハルトはヒートドーパントと覇王形態の変身を解いて、近くに放置されていた乱馬のデイパックを拾い上げた。急に大人モードでなくなったため、視点の高さに、少しだけ違和感があった。
 最後に、これは忘れちゃいけない役目だ。

(……乱馬さん、最後までしっかり助けます)

 アインハルトは、誓って走り出した。



【1日目/昼】
【H-8/街】
※完成型獅子咆哮弾による気柱が立ちました。周囲のエリアから観測できた可能性があります。
※一部の建物が、完成型獅子咆哮弾によって押しつぶされています。
※クモジャキーの剣@ハートキャッチプリキュア!が錆びた状態で放置されています。
※ダグバのベルトの破片が放置されています。

【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)、ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に怪我、極度のショック状態、激しい自責、大人モード変身中
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、T2ヒートメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[思考]
基本:???????????
0:乱馬を探す。
1:乱馬を助ける。
[備考]
※スバルが何者かに操られている可能性に気づいています。
※高町なのはと鹿目まどかの死を見たことで、精神が不安定となっています。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。
※フェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアの死の原因は、自分自身にあると思い込んでいます。


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]:全身に極大のダメージ、ベルトの装飾品を破壊(それにより、完全体に変身不可)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×4(食料と水は3人分、祈里:食料と水を除く、霧彦)、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、スタンガン、ランダム支給品(ほむら1〜2(武器ではない)、祈里0〜1)
[思考]
基本:この状況を楽しむ。
0:完全体に変身できなくなったことへの苛立ち。
1:警察署側に向かう。
2:市街地を適当に歩いて、リント達を探す。
3:強い変身能力者たちに期待
[備考]
※参戦時期はクウガアルティメットフォームとの戦闘前です
※発火能力の威力は下がっています。少なくとも一撃で人間を焼き尽くすほどの威力はありません。
※ベルトのバックル部を破壊されたため、中間体にしか変身できなくなりました。

688かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:48:03 ID:HwHzoZ0E0

★ ★ ★ ★ ★


 俺の左腕がない。
 それが、乱馬が起き上がって最初に気がついたことだった。
 ダグバが放ったあの剣は、見事に乱馬の左腕に吸い寄せられるように突き立てられたのだ。結果、乱馬は左腕を失うことになった。
 しかし、あまりにも見事に斬られていたせいで、痛みを感じるということもなかった。それより、体の方が痛いと感じる。
 むしろ、立てないくらい体が重かったから、腕一本くらい落としたほうが、丁度釣り合いが取れて良かったのではないだろうか。

(……悪いな……霧彦。約束は守れなかった)

 結局、メモリを使ってしまったし、使わせてしまった。
 ナスカメモリは、残った左腕にしっかり握っている。本来、これは霧彦の所持品とは別物なのだが、乱馬には結局同じようにしか思えなかった。
 ナスカメモリは、服が半分燃えているため、左腕で握るしかない。
 意識が朦朧としてくる。これまで腕を繋いでいた場所から流れ出る血。骨はどれだけ折れただろう。

(俺は嘘つきだ……だけど、これだけは……この約束だけは破るわけにはいかねえよな……)

 ダグバが倒せたかどうかわからない。
 でも、ダグバに致命的な攻撃を与えたのは確かだ。空中で振り回されたときに、ダグバの消耗を感じた。
 それにダグバは、剣をおそらく乱馬の「心臓」につきたてるつもりだったはずだ。
 それが、手元が狂い、左腕に刺さった。すなわち、彼も限界だったということだ。

(あかね、どこにいるかな……)

 先ほど見た自分の左腕。祈里のリンクルンを握った左腕。
 これまでずっと、乱馬と共に生きていたはずなのに、いつの間にか体の一部ではなくなってしまった、あの腕。
 今まで、自分が思っていたよりもずっと細かった。散々鍛えたから、もっと太いと思っていた。
 あのか細い腕で、何を守れたのだろう。
 あかねを守ることはできただろうか。

「乱馬、男らしくなったわね」

 後ろから母親の声が聞えた。
 嬉しい一言だった。
 振り向いても、そこには早乙女のどかはいない。

「乱ちゃん、カッコよかったで!」

 幼馴染の声が聞えた。
 誇らしい一言だった。
 振り向いても、そこに久遠寺右京はいない。

「乱馬」「乱馬くん」「乱馬さま」「乱馬」「早乙女乱馬」

 ムース。「乱馬、そんなところで何をしとるか。次はオラと勝負だ!」
 妖怪ババア。「婿どの、これまた随分と強くなったものだな」
 なびき。「あんたが勝つに、5000円賭けてたわ。ありがとね」
 おじさん。「さあ、早くあかねのもとへ行くんだ、乱馬くん」
 ジジイ。「わしの修行の賜物じゃー!」
 久能。「早乙女乱馬。天道あかねを守ってくれたことだけは感謝する」
 小太刀。「惚れ直しましたわ、乱馬さま!」
 かすみさん。「らんまくん、夕飯には帰ってくるのよー」
 ひな子先生。「らんまくん、さっすがー」
 東風先生。「君も毎回毎回、よくこんなに無茶をするね」
 親父。「流石はワシの息子だ! 乱馬、父は誇らしいぞ!」

「……おめーら」

 彼の周りは、どういうわけか自然と人が集まった。常に騒ぎがあった。鬱陶しいくらいに感じることもあったが、それは、彼が愛されているからに違いなかった。
 彼の死を惜しむ者は、いくらでもいた。
 彼を愛する女性もいっぱいいたし、彼がいなくなることで心に靄ができるような男性がいっぱいいた。
 良牙も、シャンプーも、パンスト太郎も。
 そいつらが、今乱馬を激励している。

 会いたいんだ。

 乱馬が帰りたい世界の人々がやって来るのは、きっと乱馬がそこに早く戻りたいからだ。
 けれど、帰れないことがわかっているから。
 もう、ここで果てることを知っているから。
 乱馬は、あの日常で支えてくれた人々のことを思い出しているんだ。
 これで、見納めだから。

689かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:48:52 ID:HwHzoZ0E0

(あかね…………)

 先ほど、たった一人の少女だけが乱馬の近くに現れなかった。
 ビルにもたれていた乱馬の体が、そのまま地面に転がる。
 足の力がない。 
 もう、体全体が消耗し切っていた。全身も地面に強打して、どうしようもないくらい体が痛かった。
 やはり、ダグバの最後の一撃が効いたのだ。
 だが、このまま眠ったら負けたことになる。
 乱馬はまだ、ダグバが先に眠っている姿を見ていないから────。

(俺は格闘と名のつくものでは負けねえ。たとえ、敵がドーパントやらプリキュアやら、とんでもねえ奴らだとしてもだ……)

 毛虫のように無様に這いながら、必死で乱馬は前へ前へと進んでいく。
 右手の力もないのだ。顎を地面にくっつけて、その力だけでほんの少しだけ前に進む。
 早く、アイツの──ン・ダグバ・ゼバの──死に顔を見てやらねえと。
 まさかあのヤロー。笑いながら死んでるってことはねえよな。
 それを知るまでは、俺は………


 ………………笑顔、か。


 乱馬の、最後の意地がふと切れた。
 もういいか。勝負なんて、もういい。無敗にこだわるのも、もういい。
 乱馬は、ダグバを確かに倒したのだ。命までは奪わなかった。それだけのこと。
 もう、それでいい。あかねを守れたのなら、それで。
 だから、最後に彼女の笑顔が見たい。

(あかね……おまえ、かわいくねー女だけど……)

 戦いしか知らなかった男は、そうしてたった一つの愛によって事切れた。
 長い長い戦いだった。
 彼は、名も知れぬビルの傍らで、驚いたような顔で眠っていた。安らかさとは無縁だ。
 きっと、彼はどんな静かな場所にいても、喧騒を起こす才能の持ち主だったのだろう。
 だから、こんな顔をしているのだ。

 ────いつか、天道あかねの笑顔を見たときの、ドキッ、とした表情。

(笑うと、可愛いよな)

 それは、あの日常の──────延長戦。


【早乙女乱馬@らんま1/2 死亡】


★ ★ ★ ★ ★

690かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:49:44 ID:HwHzoZ0E0

 あかねが乱馬の腕を見つけたのは、乱馬の意識が切れてしばらくした後だった。
 乱馬が落ちた場所に向かったあかねが見つけたのは、一本の腕。早乙女乱馬の衣服を腕時計のように巻いた、太い太い腕だった。これまであかねを守ってきた腕は、今まで、もっと細いものだと思っていたが、思っていたよりずっと太かった。
 その後、その近くの血の痕を辿り、乱馬の死体を、あかねと源太は見つけた。

「────嘘」

 受け入れられるはずなんてない。
 ここで倒れているのが乱馬だなんて、あかねは認めない。
 だって、今まで乱馬は一度だって負けたことはなかったし、死ぬような状況を何度だって潜り抜けてきたんだから。
 乱馬は、ずっと死なないのだ。
 死なないはずなのだ。ずっと一緒にいられるはずなのだ。

「……おい」

「ねえ、源太さん! 嘘だよね! こんなのって……絶対に無い、よね……」

 あかねは、乱馬の右腕をそっとなぞった。そこには、ガイアメモリが握られている。
 「N」のガイアメモリだった。以前あかねが手に持っていたのは、「B」のガイアメモリだった覚えがある。
 しかし、どうでもいい。
 今は、そのメモリという武器があることが大事なのだ。

「……ほら、乱馬も起きてよ! ねえ! もしかして、あれでしょ、私が乱馬を死んだと思って恥ずかしい事言ったときに起きて、私がカァーッてなるのを見て、それでまた意地悪なこと言って……そういうつもりなんでしょ!」

 源太は逃げ出したい気持ちになった。
 だが、これが自分の行動によって起きた結果なのである。
 源太は、乱馬に頼まれて、アインハルトとあかねを戦いから遠ざけた。
 それを言い訳にして、源太は侍として戦うべき場所を逃げてきたのだ。
 たとえ、乱馬がどれだけ必死に頼んだとしても、シンケンゴールドの力で彼を助けるべきだったのだ。

「……ねえ、」

 あかねの声は、本当に聞かせたい場所に届かない。
 今、初めて、この馬鹿みたいに広い世界で、この声がたった一人届けばいいって思ったのに。
 何を言えば、乱馬は起きてくれるだろう。
 好きといえば、真面目な顔して起きてくれるのか。
 バカとかオカマとかいえば、怒って飛び起きてくれるのか。

「…………源太さん、言ったわよね」

「……」

「乱馬を信じてやれって。でも、やっぱり乱馬は嘘つきだった」

 乱馬は、帰ってくるという約束は、果たしてくれなかった。
 あかねたちが来るまで、こんなところで止まっていて──歩んできてはくれなかった。帰ってきてはくれなかった。
 結局、残される側の気持ちなんて彼は考えないのだ。
 だから、平気で約束を破る。

691かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:50:56 ID:HwHzoZ0E0

「乱馬は約束は守らなかったわ。…………だけど、」

 あかねは、ナスカのメモリを握り締めたまま、少し黙った。
 考えていることを、源太に悟られるようにだ。
 この時、あかねはこの先どうするかを二択で考えたのである。
 それは、悲しい二択だった。あかねの人生さえ左右する、究極の選択。

 ──NASKA──

「私の事は、こんな風になっても守ってくれた」

 あかねが変身したナスカドーパントは、ナスカブレードを握り締めて言った。
 そう、天道あかねは、選んだのである。
 乱馬の姿を見たら、こう決めないわけにはいかなかった。
 この傷は、あかねたちを逃がすために作ったのだ。そう思うと、乱馬に申し訳なかったのだ。
 それだけじゃない。あかねは、もう一度乱馬と話したかったし、喧嘩がしたかった。

 許婚。その関係の先にある、二人の未来を、体感したかった。
 たとえ、どんなに血で汚れたとしても、あの場所に帰りたい。
 あの騒がしい日常が、こんなにあっさり崩れるなんて、あかねは思ってもいなかった。

「……今度は、私が乱馬を守る」

『────或いは、人の命を蘇らすことなども可能です』

 今まで、詭弁としか思っていなかった言葉が、およそ十二時間の時を経て、あかねの心の響いた。
 奇跡も魔法もあるのなら──いや、無いとしても、あかねはそれに縋る。

「どうして変身した──?」

「乱馬を、守るため」

「それはつまり、俺たちを殺すってことか?」

「かもしれない」

 あかねは、曖昧に答えた。
 はっきり、殺すなんて言いたくなかったのだ。
 乱馬を守るという尤もらしい理由を振りかざし、これから優勝を目指して戦う。

「……そんな事、乱馬の兄ちゃんが望むって思ってんのか?」

 あかねは、源太がこう言うと思った。
 二時間ドラマで聞いたことのある台詞だった。
 こういう時、ドラマか何かでは周囲はとにかくこう言う。
 サスペンスで、犯人に「被害者に恋人を殺されていた」とかそんな悲しい動機があったときの、刑事の常套句。
 あまりにテンプレートで、飾り気も工夫もない言葉に、あかねは少しだけ苛立った。

 あかねは反論はできないが、源太の言葉が、とってつけたような言葉にしか思えなかったから、ナスカブレードを振り上げた。
 こんないい加減なことを言って、本当に、大切な人を失う辛さがわかっているのか。
 それさえも知らないくせに、偉そうに、ただ格好をつけるためだけに、自分をよく見せるポーズのつもりで、こんなことを言っているんじゃないのか?
 そして、少しの間を置いてから──それを真下に振り下ろす。

「一貫献上!」

 間一髪、シンケンゴールドに変身した源太は、サカナマルを盾にしてナスカブレードを防いでいた。

「……姉ちゃん。俺は絶対に認めねえ。あんたが外道になれるなんて、俺は思えねえよ」

 ────勝手に思ってろ。
 だんだんと、あかねの精神はどす黒いものに染まっていく。
 ただでさえ混乱して、麻痺して、疲弊している精神に、ここぞとばかりにメモリの毒素が進入していくのである。
 あかねは、源太の話すひと言ひと言に苛立ちを覚え始めた。
 振り返ってみれば、源太の発言は全てが──。

「……駄目」

 だが、完全に殺意へと昇華する前に気づく。
 これじゃあ、駄目だ。
 このままじゃ、いけない。
 こんな事をしていても、乱馬は喜んでくれない。
 このまま戦っていても、乱馬は守れない。

 ”こんな相手に、剣を防がれているようじゃ駄目だ”

 このゲームでたった一人の勝者となるには、強さが必要だ。
 より強いガイアメモリが必要となる。
 ガイアメモリでなくてもいい。とにかく、強くなるためのすべを全て使う。

692かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:51:46 ID:HwHzoZ0E0

 そうだ、呪泉郷。
 あそこがいい。パンスト太郎のように巨大な怪物になることもできる。
 自らあの泉で溺れて、より強い怪物になるのだ。

 それから、あのアップリケが支給されていたことだし、もしかしたら強い装備が支給されているかもしれない。
 たとえば、そう──道ちゃん。伝説の胴着があれば、乱馬より強くなれる。
 乱馬を守るのに丁度いい武器だ。

 今はシンケンゴールドの相手をしている場合ではない。
 まずは呪泉郷に向かおう。
 そして、ダグバや仮面ライダーエターナル、ダークプリキュアやシンケンゴールド、腑破十臓やアインハルトよりも強くなって────乱馬を守る。

「……このままじゃ、駄目」

 ナスカは、ナスカウイングで羽ばたき、その場を去っていった。
 その小脇には、切り離された乱馬の左腕を抱えていた。
 既に硬くなってしまったその左腕で、何度でも乱馬の残滓を感じるために。
 乱馬への想い──それがあまりに純粋すぎたために、あかねの感情はメモリによって暴走しやすかったのだ。

(────ふざけんなよ)

 残された源太は、変身を解きながらそう思った。
 あかねに対する言葉でも、ダグバに対する言葉でも、乱馬に対する言葉でもない。
 この悲劇のゲームを起こした男と、その仲間に対して。
 加頭やサラマンダー男爵。このゲームの主催者を、絶対に倒すという決意。
 そして、あかねを救い出したいという希望も確固たるものだった。






【1日目/昼】
【H-9/街(中学校・風都タワー側)】

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、とても強い後悔、とても強い悲しみ、精神的疲労、ガイアメモリの毒素により精神不安定、ナスカドーパントに変身中
[装備]:T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、乱馬の左腕+リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:”乱馬たちを守る”ためにゲームに優勝する
0:呪泉郷に向かい、更なる強さを得る
1:乱馬を守るために、もっと強くなる
2:この場にあるならば伝説の胴着を手に入れる
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前で、少なくともパンスト太郎とは出会っています

【梅盛源太@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、後悔に勝る決意
[装備]:スシチェンジャー、寿司ディスク、サカナマル@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、スタングレネード×2@現実、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン 、 ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー、丈瑠のメモ
[思考]
基本:殺し合いの打破
0:あかねを元のあかねに戻したい…
1:警察署に戻ったら、また情報交換会議に参加する
2:より多くの人を守る
3:丈瑠と合流し、事情を聞く
4:自分に首輪が解除できるのか…?
5:ダークプリキュア、仮面ライダーエターナル、ン・ダグバ・ゼバへの強い警戒
[備考]
※参戦時期は少なくとも十臓と出会う前です(客としても会ってない)
※乱馬から、丈瑠の様子について聞き、メモを受け取りました

693かがやく空ときみの声 ◆gry038wOvE:2012/11/27(火) 23:52:27 ID:HwHzoZ0E0
以上、投下終了です。

694名無しさん:2012/11/28(水) 01:46:35 ID:SwW.5RNc0
投下乙です
ドーパント、魔法少女、シャンゼリオン、仮面ライダー、テッカマン、ウルトラマン、プリキュアと、数々の相手と連戦してきたダグバにようやく大きなダメージが入ったか
乱馬・・・・・・流石だよ・・・・・・・・・

695 ◆OmtW54r7Tc:2012/11/28(水) 02:26:26 ID:0ldQDPu60
今回は登場話書いたキャラがいろいろあったのでトリ付き感想だ…

投下乙!
乱馬、最後まで熱かった!
そして、アインハルト共々よく頑張った!
お疲れ様!
ダグバはベルト破壊で弱体化…これは対主催チャンスだ!

そして…あかねぇぇぇぇぇ!!
まさか堕ちちまうとは…うごお……
乱馬もあかねも登場話書いたキャラなだけに、この展開はスバル洗脳以来のビッグショックだ…

しかし乱馬死んで、ヴィヴィオ特訓してもらえなくなったのもちょっと切ない…

とはいえ、とてもハラハラドキドキな話で面白かったです!
改めて乙です!


あ、それとこれは別件の修正依頼なのですが、一文字達の登場話、修正した方がいい部分があります
一文字が登場話でフィリップのことに触れてますが、OPの加頭と翔太郎の会話は他の参加者がロワ会場に転送された後で行われているので一文字は彼らの会話を聞いていないはずです

696名無しさん:2012/11/28(水) 03:51:41 ID:YC6uJrhoO
投下乙です。ようやく、ようやくの一手の結果がこれか…しかも不適合時の暴走の酷いT2だもんなぁ。

それと気になってところが一点、加頭も変身には霧彦同様ドライバーを使っているはずなのですが…

697 ◆gry038wOvE:2012/11/28(水) 12:22:24 ID:UzTkNxNE0
>>695
時間がかかるかもしれませんが了解です。
登場話の考察と、それ以後の一文字の状態表の※部を削除します。

>>696
W本編では確かにドライバーを使用してますが、オープニングではドライバーの描写はなかったかと思います
説明の場でドライバーを使用すると多くの参加者は使い方がわからなくなりますし(あの形状のものを腕に挿す動作はしないと思う)

698名無しさん:2012/11/28(水) 12:59:15 ID:YC6uJrhoO
>>697
あ、確かにそうでしたね、失念してました

699名無しさん:2012/11/28(水) 19:06:14 ID:EY8/wA4E0
>>697
確かにオープニングではドライバーを使用した描写はなかったのですが、使っていないという描写もなかったです。

ただ、『街(Nasca Version)』において乱馬が霧彦に仕掛けた際に加頭が使ったベルトと同じベルト(ガイアドライバー)を使用した事を指摘しています。そこから考えるとオープニングでもドライバー経由で変身したと思います。
とはいえすぐ後の地の文で肉体に挿入すれば良いと言ったがベルトの事は何も言っていなかった、変身にはベルトは必要無いと説明されている為、流れそのものに問題はないでしょう。

700名無しさん:2012/11/28(水) 22:10:20 ID:q2QwlLMo0
投下乙です!
乱馬……あのダグバをそこまで追い込んだのは流石だけど、その代わりに死んでしまうなんて……
しかもあかねは殺し合いに乗っちゃうし。
てかヴィヴィオとアインハルトの二人もどうなるんだw

701 ◆gry038wOvE:2012/11/28(水) 22:58:54 ID:UzTkNxNE0
>>699
了解しました。
問題部分はカットします。

702名無しさん:2012/11/29(木) 17:45:42 ID:rFR3e8iU0
あげ

703名無しさん:2012/11/29(木) 20:02:55 ID:nu0nCGWk0
投下乙です

乱馬、お前がここまでやるとは思わなかったぞ。でも死ぬとは思わなかったし思いたくなかった
ダグバのベルト破壊は大きな快挙だ。快挙だがよお…死んじまったらおま…
あの賑やかだが平穏な世界に帰れないと思うと…
そしてあかねは…原作を知ってるだけにきつい…

704名無しさん:2012/12/02(日) 00:12:34 ID:OcyqZfV60
予約来てた
そのメンバーかあ…

705名無しさん:2012/12/10(月) 22:04:51 ID:d3usMvMc0
予約来てる
これは…

706名無しさん:2012/12/13(木) 20:35:38 ID:ciP8/wdE0
どうなるんだろう……みんなボロボロだし

707 ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:28:59 ID:zMkqANBk0
左翔太郎、佐倉杏子、天道あかね、梅盛源太、アインハルト・ストラトス分投下します。

708Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:31:35 ID:zMkqANBk0
Passage 01 Sinner's confession



――銀色の巨人、それに変身して俺達と共にダグバと戦った姫矢准と別れた後、杏子の案内の元、姫矢の荷物の回収に向かった。
  その道中にて、杏子が意外な告白をしてきた――



「何だって? それは本当か?」
「ああ……本当はあたしは殺し合いに乗っていた。それでユーノやフェイト、それに兄ちゃんを利用していたんだ」


 左翔太郎が佐倉杏子から受けた告白、それは彼女が殺し合いに乗っていてフェイト・テスタロッサ、そしてユーノ・スクライア及び翔太郎を利用していたというものだった。


「………………なんで殺し合いに乗ってい『た』んだ?」
「別に大した理由じゃないさ、生き残れるのが1人だけだって話だから自分が生き残る為、それだけの話さ」


 翔太郎の頭に広がったのは裏切られたという怒りや失望よりもむしろ困惑だった。
 実の所、翔太郎自身としては杏子に対しては僅かながら疑心――というよりは違和感を覚えていた。

 ここで翔太郎と杏子の出会いがどうだったかを今一度再確認しておこう。
 図書館にてユーノと共に情報収集を行っていた所、気絶していたフェイトを抱えて自身も重傷を負っていた杏子が訪れたのだ。
 幸いユーノとフェイトが知人(注.実際はフェイト視点では知らない人物)という事もありすぐさまユーノは2人を受け入れ、
 そのフェイトを傷つきながらも助けた杏子の姿に翔太郎もその瞬間は特別疑いを持ってはいなかった。

 翔太郎が杏子に対し最初に違和感を覚えたのは自身の身体の事を何事も無かったかの様に語る彼女の態度、

 まだ親にも甘えたい年頃である中学生ぐらいなのに魔女と戦うだけに特化した身体とされ、魔女との戦いを強いられる事になる魔法少女、
 魔法少女という可愛らしい響きに反した過酷な状況、仮面ライダーに似ているとも言えるが中学生という歳、元には戻れないという事からそれよりも酷いと言って良い。
 (注.勿論、これはあくまでも翔太郎の知る仮面ライダーがガイアメモリ等の特殊なツールを使っただけの普通の人間という前提があるからである。
  仮に、翔太郎が本郷猛等の仮面ライダーを知っていたら若干別の表現になっていた事を付記しておく。もっとも、どちらにせよ杏子達魔法少女が翔太郎よりも過酷な運命を背負っている事に違いはない)
 普通ならばその過酷さで精神的に壊れてしまってもおかしくはない。人間の身体を失い、人々を助ける為とは言え自身は傷つくばかりだからだ。
 人を助ける――といえば聞こえは良いが自分を犠牲にするそのスタンスを翔太郎は受け入れる事は出来ないでいる。
 かつて、圧倒的な実力を持ったある人物へ復讐すべく勝ち目のない戦いに赴こうとした照井にこう口にした事がある。


『死んでも構わんだと……思ってんのはお前だけだ! 少しは周りを見ろ……心配している奴がいるだろ……』


 当然これは照井の身を案じての言葉である(もっとも、その後、照井を助けるべく翔太郎自身が無茶をしてボロボロになった為あまり偉そうな事言えない気もする)

 そういう事情もあり杏子達魔法少女を救えるのであれば救いたいとは考えてはいた。
 が、どうも杏子の態度を見る限り、そういった人々を守る為に戦うという自分達仮面ライダーと同じタイプの人物に感じなかった。
 良くも悪くも他人よりも自分、長年の探偵経験もあってそれを僅かながらも杏子の言動から感じたのだ。
 そしてもう1つがフェイトの様子を見に行く時にユーノの同行を断り単身で向かった事だ。
 それを断った理由は調べ物を優先する為、確かに状況を考えればわからなくはない。
 しかし負傷したフェイトの事を考えるとやはり知人であるユーノも向かわせるべきだったと翔太郎は考えていた。(ただ、もし『年頃の女の子だったら傷を見られたく無いだろ』と言われれば流石に納得せざるを得なかっただろう)
 穿った見方をすれば、一時的にでも自分とユーノから離れフェイトに対して何かをした可能性もあっただろう。

709Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:32:14 ID:zMkqANBk0

 杏子自身はどうということもない言動ではあったが、その僅かな綻びから翔太郎は違和感を覚えたという事だ。
 とはいえ、あくまでもそれはささやかな違和感でしかなく確証が全くなかったし、更に言えばその時点で負傷していた事もあり別段言及する事も無かった。
 更に言えば真意はともかく何処か気負っていた自身を気遣ってくれていた。
 そういった事情もあり、一方で翔太郎は杏子の言動に対して全く真逆の可能性も考えていた。それは――

 もっとも、杏子1人のスタンスを事細かに考察するよりも優先すべき事は多く、その直後に杏子達が交戦したゴ・ガドル・バの襲撃等があり、結局それ以降は共闘した為うやむやになってしまったが――


「………………まぁ色々と言いたい事も無いわけじゃねぇが……別に好き好んで誰かを襲いたいってわけじゃねぇんだな?」
「当たり前だろ、何のメリットもねぇのにそんな悪趣味な真似するわけねぇよ」


 翔太郎は困惑している。確かに自分達を利用していたとするならばガドルとの交戦までの杏子の行動にも説明がつく。
 強敵がひしめく状況ならば集団に潜り込んで利用する事は常套手段だからだ。
 だが、それはあくまでも真意を伏せていなければ成立しない。露呈してしまえば信用を失い瓦解してしまう。絶対に自分からカミングアウトすべき事では無いのだ。


「それに……信じてもらえるかはわからねぇけど、あのガドルって奴以外とは誰も戦って…………」


 と、ここまで考えて杏子はある人物の存在を今更ながらに思い出した。


「………………悪い兄ちゃん。あたし嘘ついていたわ、1人いた……殺し合いを止めようとしている奴と戦ったわ……それも兄ちゃんの知り合いだ」
「ちょっと待て、俺の知り合いといえば……照井に霧彦に冴子……京水の野郎は違うとして……まさか大道克己か……?」


 翔太郎は驚愕しつつ殺し合いを打破しようとする知り合いを頭に浮かべる。
 照井と園咲霧彦は言うに及ばず、園咲冴子は主催陣の1人加頭順との関係や彼女の性格を考えれば乗らず打破しようとする可能性も決して低くはなく、
 打破しようとする泉京水のスタンスを考えれば大道克己も打破しようとする可能性は0とは言えなかった。


「いや、そういや名前は聞いてなかった……けど正直思い出したくねぇなぁ……あんな気持ち悪い変態のおっさん……」
「気持ち悪い変態のおっさん……なぁ、そいつ医者じゃなかったか?」


 翔太郎の脳裏にピンポイントで思い当たる人物がいた。


「ああ、なんかガイアメモリの技術を持っているとか言っていたな……力になりたいなんて言ってあたしやフェイトを丸め込もうとした……乗っていた……というのもあったけどあまりにも気持ち悪ったから……」
「井坂ぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そうだ、コイツがいた。
 井坂深紅朗、己が欲望の為に風都に住む数多の人物、更には照井の家族を惨殺し、多くの人々を泣かせてきた男だ。
 その性格を踏まえれば素直に主催に従い殺し合いに乗るとはどう考えても思えない。むしろ連中を出し抜き全てを手に入れようと目論む筈だ。
 仮に対主催とマーダーつまりは従主催という2つのスタンスでしかくくれないというのであれば井坂は間違いなく対主催と言えよう。
 だが、井坂と翔太郎及び照井達は決して相容れない。勿論、この地でのスタンスがわからない以上、断定は仕切れなかったが杏子による断片的な証言だけでも確信した。
 井坂はこの地でも普段と変わらず危険人物であると。

710Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:32:50 ID:zMkqANBk0


「なぁ、そのおっさんが言っていたんだけどそういう技術持っているんだよな? やっぱまずかっ……」
「いや杏子……確かに井坂は自力でガイアメモリを強化していたからそれは可能だ……だが、奴はその為に多くの人々を泣かせてきた……恐らく、フェイトや杏子も自身の強化だけの為に利用したんだろう……」
「あたしが喰われる側になっていたかも知れなかったわけか……」
「ああ、だから井坂相手じゃ流石にとやかくは言えねぇよ……照井が聞いたら間違いなくブチキレるな……」
「まぁ、あたしが偉そうな事言える立場じゃねぇけどな……」


 杏子自身、使い魔が人々を襲って魔女になるのを放置してきた事もあり井坂の行動の全てを否定する事は出来なかった。
 勿論、杏子が魔女になるまで放置していたのは魔女を倒さなければグリーフシードを入手出来ないという事情、つまりは死活問題であった為、実際は井坂とは似て非なるわけだが杏子視点では大差は無いと考えている。


「ん、なんか言ったか?」
「いや、要するにあたしは兄ちゃんやユーノ、それにフェイトと違って善人じゃなくそのおっさんと同類な他人を利用するだけ利用してボロ雑巾の様に捨てる極悪人って事さ」


 やや自虐的に口にする――余談だが、杏子は1つ重要な嘘を吐いている。
 そう、フェイトが殺し合いに乗っていたという事実だ。翔太郎達を利用する際にもフェイトには口裏を合わせる様に根回しをしていた――もっともそれはフェイト自身殺された今とはっては無意味な話である。
 何故その事を話さないのか? 勿論、前述の通り無意味でしかないからだ。だがそれ以上に――フェイトの存在を穢したくなかったのだろう――
 汚れ役は自分だけで十分――杏子自身無意識の内にそう考えてしまったのかも知れない――


「……俺にはそうは見えねぇな」
「どういう意味だ?」
「俺には杏子がそこまで悪い奴には……街を泣かせる様な奴には見えねぇって事だ」
「数え切れねぇぐらい罪を犯してきたって言ってもか?」
「………………だったら、なんで今更それを俺に打ち明けたんだ? 本当に極悪人なら最後まで黙っていれば良かっただろう?」
「さぁ……なんでだろうな」


 杏子自身、何故ここにきて真意を告白したのだろう?
 それは自分達を守る為に散っていったフェイトやユーノ、自身に大事な物を託して逝った東せつなや姫矢准達の想いに応えるべく、これ以上騙す――いや、もう乗っていない以上これは違うか――
 騙していた事を黙っている事に耐えられなかったのだろうか――


「それに、今は乗っているわけじゃねぇんだろ? 大体、そんな極悪人だったらあの時俺も見捨ててドライバーとメモリだけ確保しておけば良かったんじゃねぇか?」


 翔太郎視点では杏子が乗っていたのは事実だとしてもその理由は彼女自身が語ったとおり自分が生き延びる以上の意味は無かったと思っている。
 つまり善悪云々ではなく単純に1人しか生き残れないから他人を蹴落とそうとしただけの話だ。状況を考えればその選択をとったとしても仕方の無い部分はある。
 それを良いというつもりは当然無いが、彼女自身が口にしたとおりそれだけで極悪人という事にはならないだろう。
 それ以前に自分だけ助かるつもりだったなら極悪人云々を別にしてもあの時気絶していた自分を見捨てなかった事に説明がつかない。あの時の翔太郎は完全に足手纏いだからだ。
 ドライバーやメモリを含めた道具を持ち逃げしたって良かった筈だ、事情を把握できないフィリップには後で何とでも言い訳がつく。
 にも関わらず――


「そうしなかったって事は……」
「……れなかっ……」
「あ、何だって?」
「見捨てておけなかったんだよ!! 理由なんか知るか!! 何度も言わせんなよ恥ずかしい!!」
「いや……なんで俺キレられているんだ?」

711Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:33:25 ID:zMkqANBk0










Passage 02 Partner's counsel



 ――とまぁ、そんなやりとりもあって俺達は姫矢の荷物が置いてある場所に辿り着いた。
   だがそこで突きつけられたのはせつなの死という残酷な現実だった――


 思い返せば、せつなはタワーを去って行った杏子を追いかける為に姿を消していた。
 どういう原理かはともかく順調にいけば杏子と合流出来ていた可能性は高い。
 だが、ガドルの所で杏子と再会した時せつなの姿はなかった。あの時は目の前の戦いに対処する関係上詳しく追求できなかったがせつなの姿がないのは少々奇妙な話だ。
 とはいえ、幾つか考えられる展開はある。単純に合流出来なかった、合流したけど杏子1人で戦いに向かう為一端別れたという可能性もあっただろう。
 その中でもあくまでも可能性の1つでしかなかったが、合流はしたが何者かの襲撃に遭いせつなが殺される展開も考えられた。
 つまり結局の所、十分過ぎる程推測はできたという事だ。


「俺達がタワーでダグバと戦っていた時か……」
「ああ……確かモロトフって奴だった……」
「Dボゥイから聞いた……確かラダムのテッカマンか……」


 実は翔太郎は放送前後辺りで京水及び相羽タカヤことDボゥイと互いに情報交換を行っていた。
 余談だが、相羽シンヤやモロトフの事をDボゥイが説明する度に京水が色々やかましかった事を付記しておく。


「奴の話が確かならマミをやったのもあいつらしい……仇を取るなんて粋がっておきながらこのザマさ……」
「ん? マミ?」
「ああ、そういや言ってなかったっけ。巴マミ、魔法少女の先輩って所さ」
「ちょっと待て、知り合いいたのか!?」
「いや黙っていたのは悪かったけどあたしだって放送で名前が呼ばれて初めて知ったんだって。大体……あたしの知る限りもうとっくに魔女と戦って死んでいた筈だったし……」
「何……杏子もなのか?」
「……って兄ちゃんもか?」
「ああ……俺の知る限りだと霧彦、井坂、冴子、大道に京水……それにあの加頭も1年以上も前に死んでいた筈だ」
「どういう事だよそれ……確かあの霧彦の兄ちゃんは蘇ったとかどうとか言っていたけどよ……マミだけだったらキュウべぇが騙していただけかも知れねぇけど……そんなにいるんだったらその線はねぇしなぁ……」
「キュウべぇ……確か杏子達を魔法少女にした奴か……」
「ああそうだ。もしかしたらその加頭って野郎の背後にそいつがいるかも知れねぇよ。魔法少女について一番詳しいのはそいつだからな」
「言われて見りゃ、ソウルジェムに首輪なんて発想、魔法少女の情報を知らなきゃ出来ねぇからな……」


 ――その後、俺達は姫矢の残した支給品……何故か2つあったデイパックの中身の確認をしつつ姫矢を待つ事にした。
   その傍ら俺はドライバーを装着し相棒と連絡を取り合う事にした。
   こうして相棒とやり取りできる機会は少ない。だが僅かな機会を無為には出来ない、こちらが得た情報、あるいはキーワードをフィリップに伝え、この状況を打開する術を――





『ハーフボイルド……』



 相棒の返答は余りにも辛辣だった。


「なんだよフィリップいきなり……」
『結局殺し合いに乗っていた彼女をそのまま信用すると……』
「悪いかよ……」
『彼女がフェイト・テスタロッサとユーノ・スクライア、それに君を騙していたのは事実だ。そして危険人物とはいえ殺し合いを打破しようとしていたであろう井坂深紅朗と交戦していたんだろう』
「けどな、わざわざそれを話したって事はもう……」
『それすらも君達を騙す方便かも知れない、その可能性を全く考えていないわけではないのだろう?』
「それはねぇんじゃねぇか……?」
『また感情に流されて……』
「そうじゃねぇよ……確かにあのマッチョメン……ガドルと戦う前の杏子だったらそうかも知れなかったが……何か違うんだよ……今の杏子には何かが……」
『………………確かに僕も杏子ちゃんの様子には気になる所があった……何故あの時一人タワーから出て行った事を考えるとね……本当に利用するならばそのやり方は得策じゃあない……もしかすると本当に君の言う通りかも知れないが……』
「それにそれでなくても杏子がそこまで悪い奴には思えねぇんだ……」
『どういう事だい?』
「確か魔法少女になる為にはキュウべぇと契約する必要があるらしい……少女の願いを叶える代償として魔法少女としての力を得る……」

712Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:34:10 ID:zMkqANBk0

 余談だがこれは図書館で確保した本から得た情報である。


『君の話通りならば、割に合わない契約だと僕は思うよ』


 その年頃の少女の願いのレベルを考えるならば、その為に人間の身体を捨てさせられ延々と命懸けの魔女との戦いを強いられるのは少々割に合った契約とは言いがたい。
 魔法少女という甘美な響きに反した過酷な運命――ある種の悪徳商法と言っても良いだろう。
 勿論、魔女が人々を脅かすならばある程度は必要悪かも知れない。だが、それを何も知らない少女に背負わせて良いという理屈になり得ない。


「そうだろうな、魔女と戦い続ける宿命を背負わされるわけだからな……だが俺が今気にしているのはそこじゃねぇ……」
『というと?』
「言っただろ、『少女の願いを叶える代償として』と……つまり、杏子が魔法少女になったのは当然前提となる願いがあるという事だ」
『それで?』
「誰かを助ける為に願いを叶えようとする奴が、他人を泣かせる真似をすると思うか?」
『私利私欲の為に契約したとは?』
「あのなフィリップ……そんな自分の為だけに願う奴が魔女と延々と戦えると思うか?」
『もっともだね……だが……それは君が彼女達の境遇に対して同情しているだけじゃないのかい?』
「……同情だと?」
『彼女達が自分から進んでその過酷な運命を選んだのは事実だ、後から話が違うって言われてもそれはその道を選んだ彼女達の自業自得……そういう事にもならないかな?』
「わかっているさ……だがな……」
『………………煮え切らないか……やはり相変わらずの半熟卵……ハードボイルドじゃないね』
「んだとぉ?」
『………………だが翔太郎、それが君の良い所だ。君のその甘さと優しさこそ必要だ……前にも言ったと思うけど、それが弱さだとしても僕は受け入れる……』
「フィリップ……」
『何より、僕自身も少し気になっているしね……』
「そういやフィリップ、さっき伝えた……」
『……検索は一応はしてみた……が……』
「キーワードが足りな……」
『いや、それ以前の話だ……残念だけど君の言っていた魔女や魔法少女の情報は地球の本棚にはなかった。キュウべぇに関する情報もね』
「本当かよ?」


 密かに翔太郎はフィリップと連絡を取った際にキーワードを伝えて検索を依頼していた。
 殺し合いの打破のヒントを掴む為――というのもあったがそれ以上に何とかして杏子達を助ける方法を探したかったのだ。
 だからこそフィリップにその関係のキーワードを伝えたわけだが――御覧の有様という事だ。それどころか――


『ああ、それどころかミッドチルダ、ベルカ、ジュエルシード、闇の書、それからテッカマンにプリキュア、それらの情報についても全く情報が得られなかった』
「どういう事だ?」
『『地球の本棚』は僕達の地球の記憶が収められている……つまり、別の地球の出来事に関する情報は管轄外という事なのだろう』
「つまりフィリップの力をもってしても打つ手無しという事か……」
『一応美少女仮面とかそういうのは見つかったけど……君の探しているのはそういうのじゃないんだろう?』
「ああ……つか美少女仮面って何だよ……魔法少女と全然関係ねぇじゃねぇか?」
『だが……仮面ライダー1号と仮面ライダー2号に関する情報ならあった』


 フィリップの検索が使えず落胆する所だったが意外な糸口が見つかり歓喜する翔太郎だったが、


『ただ……彼等が存在したという都市伝説がある……それ以上の情報は掴めなかった』
「まぁそもそも俺達が仮面ライダーって呼ばれているのも風都の皆がそう呼び始めた事が切欠だからな……案外その都市伝説に倣って……かもしれねぇなぁ……」


 そもそも自分達が仮面ライダーと名乗っているのは風都の人々がそう呼び始めそれを気に入ったからだ。
 という事は当然風都の人々が呼ぶ理由というのが存在する。

713Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:35:14 ID:zMkqANBk0


『翔太郎、だが逆にこうは考えられないかい。僕達の活躍に倣って新たな仮面ライダーが現れる……そういう事も何れはあるんじゃないかな?』
「そうかぁ?」
『ともかく……もしかするとあの場にいた仮面ライダー1号達も僕達の世界とは違う仮面ライダー1号かもしれない。そう……かつて出会ったもう1人のスカルの様に』
「ディケイドと2度目の共闘をした時か……そういや……ディケイドがスカルやWのカードを持っていたな……まさかとは思うが別の世界にも俺達の力の宿った……」
『それを使う事で僕達を呼び出す事も出来るかも知れないね……もしかすると僕達の世界にも似た様なものがあるかも知れないよ』


 2人が話題にしているのは死人帰りの一件の時に逃走したダミー・ドーパントを追跡した先で仮面ライダーディケイドと共闘した時の事だ(ちなみにその前にも1度共闘している)。


「そういやフィリップ、その前に一緒に戦った時、さっさと帰ったよな。確か銀ピカ倒してさっさと……」
『銀ピカ……そんなのいたかな……それにそんな事はどうだって良いよ』
「それもそうだな」


 それが1度目の共闘時の話である。なぜ彼等がその戦いに介入したか、そして何をしたのかは敢えて語る事はしないでおこう。


『ともかく仮面ライダー1号達も僕達の世界の彼等とは違うかもしれないという事だ。それから砂漠の使徒や外道衆についての情報も見当たらなかった』
「つまり実際に会って確かめるしかねぇって事か……」


 フィリップの検索でも調べられないのは難儀な話ではあるがそれがわかっただけでも仰の字と言えよう。


『それより翔太郎、気になることがある。ナスカのドライバーについてだ』
「ああ、アレがどうかしたのか?」
『単刀直入に言うよ、僅かながらだが破損の形跡がある』


 フィリップが指摘しているのは先のガドル及びダグバ戦の最中で回収した霧彦のメモリとドライバーについてだ。


「使えねぇのか?」
『それはわからない……使えるが何かしらの負荷がかかる可能性もある……だが仮に壊れて使用出来なくてもメモリそのものは無理矢理にも使う事自体は可能だ』
「ああ、霧彦と最後に戦ったバードの時か……」
『……とはいえ、君自身使うつもりも他の誰かに使わせるつもりもないんだろう?』
「当たり前だろう、それだけか?」
『……実は僕が気にしているのはそこじゃない。何時、誰によってそれが成されたかだ』
「そりゃガドルの野郎と戦って……」
『あの男が壊したにしては破損が小さすぎる……』
「言われてみりゃ……」
『言い方を変えよう……ドライバーを直接攻撃して破損させた形跡があった……』


 その言葉で翔太郎も何が言いたいのかに気付いた。


「おいつまりそれは……」
『ああ、誰が壊したが分からないがその人物はドライバーを破壊するつもりで攻撃を仕掛けた』
「つまり俺達の弱点を突いたと……確かにガドルならそんな必要はねぇな……」
『そう、そしてその人物は……僕達の味方になり得る可能性もある』
「なんでだよ、そりゃ元々はミュージアムの幹部だったが……」
『そんな事は問題じゃない、彼が加頭と同じドライバーを持っていた事が問題だ』
「そうか事情を知っている俺達ならともかく何も知らない奴がそれを見たら……」
『主催関係者の可能性を疑い……誤解による戦いが起こるというわけだ』
「……なるほどな、霧彦にしてみれば災難だったが、霧彦を加頭の仲間であると考えるなら……」
『逆を言えば僕達の味方……それも僕達の弱点を突ける事を踏まえれば強力な味方になり得るかもしれない……勿論仮説に過ぎないけど……』
「いや、それが聞けただけでも十分だ」
『ただ、今更言うまでも無いがドライバーは僕達にとっても弱点だ、メモリとドライバー、そのどちらかを失っても僕達は力を失う』
「ああ、わかっているさ……そういやあのガドルやダグバは……」
『確かに特徴的なバックルではあったがそう結論づけるのはまだ早い。そもそも僕達のドライバーはベルトの形をしているが、必ずしもベルトである必要はないだろう?』
「それもそうだな……わかった、また暫くしたら頼む」
『了解』

714Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:37:04 ID:zMkqANBk0










Passage 03 左翔太郎の原点



 そう言ってフィリップとの交信を終え一端ドライバーを外す。
 支給品の確認もあらかた終え、姫矢が少し移動させたらしいせつなの死体も戦いに巻き込まれるのを避ける為ビルの内部へと移し、後は姫矢の到着を待つだけだ。
 しかし一向に現れる気配はない――状況から考えあの後現れた危険人物に襲われそのまま――という可能性もある。


「まさか姫矢……俺達を逃がす為に……」
「(流石に何時までも隠せねぇか……)」


 姫矢の死を薄々察している(もっとも現実の理由そのものは杏子の推測とは違うが)杏子はやきもきする翔太郎をどうすべきか考える。
 何れはわかることと言えばそれまでだ。だが、自分達の為に死んだ事を知ればまた翔太郎は自分を責める。できればもう少し時間が欲しい――
 だが、時間稼ぎもそう出来ないだろうし状況的にあまり良くはない。
 どうしたものか――と、ふと頭に1つの疑問が浮かんだ。

「なぁ兄ちゃん……姫矢の兄ちゃんもあたし達を守る為に……」
「まだそうと決まったわけじゃねぇよ……何時までも待っていられねぇがその内来て……」
「1つ聞いていいか?」


 と、共通の食料であるサンドイッチを1つ頬張りつつ話題を切り出す。


「なんだ?」
「もし、今ここでどうしようもないぐらい強い敵……」
「ガドルやダグバの様な奴か?」
「まぁそんな所、そいつが現れ全滅しそうになるとするだろ……」
「もしも何も殆どさっきと同じ状況じゃねぇか」
「しょうがねぇだろ、他に浮かばねぇんだから!」
「わかったわかった、その状況がどうしたんだ?」
「その状況で自分を犠牲にすれば他の皆を助けられる方法があるとするだろ……」
「あの時のユーノとフェイトと同じか……」
「兄ちゃんも進んで自分を犠牲にするつもりなのか?」


 勿論時間稼ぎという目的もある。だが杏子自身気になっていたのだ。
 翔太郎自身もユーノやフェイト、それにせつなや姫矢の様に他人の為に平然と自分の命を投げ出せるのかどうかが。
 それはそう遠くない未来の杏子自身の姿なのだろう。だからこそユーノ達と同じタイプである翔太郎にも聞いてみたのだ。
 とはいえ杏子自身返答はわかっている、大体ユーノ達と同じタイプと判っているなら返答など聞くまでも無い。
 それでも翔太郎自身の口から聞いてみたかったのだ。


「……まぁ、俺も杏子達を守る為ならば同じ事をしていただろうな……」


 予想通りの返答だ。


「やっぱそうか……」


 だが、翔太郎を犠牲にするつもりはない。どちらが先に犠牲になるかでいうならば自分の方が先だろう、杏子はそう考えていた。しかし――


「だがその前に俺自身も含めた全員が助かる方法を探すさ」
「え?」
「杏子……何か根本的な所で勘違いしてねぇか? 俺達が他人の為に平然と自分の命すらも投げ捨てる奴等だって思ってねぇか?」
「違うのかよ? 他人を助けるためだったら自分なんてどうなったって良いって……」
「そんなわけねぇよ、俺だって死にたくなんかねぇよ。フェイトやユーノだって同じだ、最初から死ぬつもりだった……なんて事は絶対にねぇよ」
「じゃあなんであいつらは……」
「あいつらにとっては自分が死ぬ事よりも仲間達が死ぬ事の方がよっぽど辛かったって事じゃねぇか?」


 そういえばと思い返す――
 気絶した翔太郎と共に離脱する際、ガドルを拘束していたユーノだけが残る必要があった。
 だがフェイトにしろ杏子にしろそれは受け入れがたい話だった。しかし、


『でもこのままここに残ったって、君達二人が犠牲になる! 君達はそれでもいいの!? 僕は……僕はそんなの嫌だ!』


 そう言って2人の反論を押し切りユーノは残ったのだ。
 また離脱直後フェイトがユーノの所に戻ろうとしていた。杏子はそんなフェイトの暴走に反対するが、


『でも、やっぱりユーノがいた方が杏子も私も助かるかもしれないから』


 とよくわかるようなわからないような返答で杏子の反論を押し切り戻っていった。

715Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:37:40 ID:zMkqANBk0


 フェイトの方は彼女自身もよくわかっていなかったのでひとまず置いておくが、ユーノに関してはほぼ間違いなく自分達が犠牲になる事の方が自分が死ぬよりも嫌だという事がわかる。
 それを踏まえてフェイトの言葉を振り返ろう、状況的にはユーノを助けられる可能性は限りなく低いのはフェイト自身も判っていた筈だ。
 それ以前にそもそもフェイトは優勝狙いだった筈だ。幾ら一時的な戦力としてユーノが必要とはいえ、フェイト自身が助けに戻るのはリターンに対し余りにもリスクが大きすぎる。
 ――が、そもそもの話、確かフェイトとユーノは仲間だった筈だ。その割にはフェイトの言動には引っかかる所があるもののユーノの様子を見る限りは相当に信頼のおける仲間である事に違いない。
 更に言えば出会ったときから感じていたがフェイトの言動はどこかはっきりしていなかった。
 平然と襲ってきながら謝罪してきたり、変態のおっさん(翔太郎が名前を言っていたが覚える気はない)の言葉にあっさり動揺した辺り(それは杏子にも若干あったが)からもそれは明らかだ。
 だが、曖昧な部分はあろうともフェイト自身はちゃんと真意を口にしていたのではなかろうか? 謝罪はしていたが目的の為に殺す事を明言していたし、動揺していても母の為に戦っている部分は決してブレてはいなかった。
 となるとあの時の言葉の真意は結局の所は――
 『ユーノがいれば自分が助かる』、裏を返せば『ユーノがいなければ自分が助からない』ではなかろうか?
 つまりフェイトとユーノは全く同じ理由だったという事だ。


 更に思い返す。せつなが死ぬ時の事だ。自身が死ぬ時だというのに助けた杏子を友達と言ってこう口にしていたのだ。


『だってあなたは……モロトフさん、から……私を助けて、くれたでしょ……あのままじゃ、ラダムに支配されて望まない戦いを、させられているあの人を……もっと、悲しませるかも、しれなかった……』


 なんとせつなは自分を殺した相手であるモロトフの身を案じていたのだ。その一方で生きて一杯やりたい事があるとも語っていた。


 つまり、彼女達にとっては自分が死ぬ事よりも他の人が悲しむのが辛かったという事だ。他人を犠牲にして自分が生き残っても自分自身が満たされないと――


「そういうもんか……」
「だからと言って犠牲になって良いわけもねぇよ。ユーノ達にだって……いやそれだけじゃねぇ、死んでいった奴等みんな心配してくれる奴等がいただろうからな……杏子にだっているだろ?」
「いや、あたしにはそういうのはいないよ」
「何?」
「家族はみんな死んじまったし、こうやって自分だけの為に戦っていりゃ友達だって出来るわけもねぇしな」
「それは寂しくねぇか?」
「寂しいかも知れねぇけどさ……もう慣れたよ……」


 と、せつなから託されたリンクルンに視線を向け――ほんの少し心が痛んだ。


「待てよ? なぁ、魔法少女の知り合いとか仲間とかはいなかったのか?」
「知り合いはいない事もねぇけど……仲間と呼べるのは……」


 首を振る杏子を余所に翔太郎は名簿を広げる。


「……なぁ、今更かも知れねぇがマミって子以外にも杏子の知り合いが巻き込まれていなかったか?」
「いるにはいる……けどもう手遅れだよ」


 今更ながらに杏子はマミ以外の知人3人の名前を挙げる。何れもそこまで親しい関係でもなく名前を知っている程度のレベルのものだと付け加えた上で。
 それを聞いた翔太郎は落胆する。なにしろ鹿目まどか及び暁美ほむらの名前は既に放送で呼ばれているからだ。杏子が手遅れと言ったのも頷ける。


「そのまどかって奴はよく知らないけど、ほむらって奴はキュウべえが極めつけのイレギュラーって言う辺りあたし達の知らない事も知っていたと思う……アイツが素直に兄ちゃん達に協力するとも思えねぇけど」

 最後の方は聞こえないぐらい小声で口にした。

「何か言ったか?」
「いや、別に」
「ちょっと待て……なぁさやかって奴はまだ……」
「あーアイツ……うーん……」


 現時点で唯一名前が呼ばれていない美樹さやかの話になったが妙に歯切れが悪い。


「まさか殺し合いに乗りそうな……」
「それはねぇよ、アイツ人助けとか正義とかの為に魔法少女になったらしいしな……そういう意味だったら兄ちゃん達とも合っていたと思うけど」
「おいおいちょっと待てよ……」

716Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:38:29 ID:zMkqANBk0


 確かに性格だけで言えば味方であろう。
 だが、魔法少女の過酷な運命をそんなあっさり受け入れられるものだろうか? 翔太郎にとってはそこが引っかかっていた。


「そういう意味じゃあたしよりもずっと心配すべきかもな」
「ん、じゃあなんで……」


 だが逆に引っかかる。何故、杏子はさやかに対して妙に歯切れが悪かったのか?
 が、落ち着いて考えてみよう。もし、正義感の強いらしいさやかが唯々自分勝手に振る舞う杏子を見てどう思うだろうか?
 決して良く思いはしないだろう。


「まさかとは思うが……杏子から何かしたって事は……」
「いや、現実知らない甘っちょろい後輩にちょーっとお灸を……」
「やってんじゃねぇか!!」
「兄ちゃん達だって遊び半分で首ツッコまれたらムカツクだろ」
「そりゃそうだけどよ……どうすんだよ……」
「いや、今更あたしからやりあうつもりはねぇよ」
「当たり前だ!! 無用なトラブル起こさねぇでくれよ……」
「うん……アイツについては……本当にゴメン……」


 以上が杏子の知り合いである。


「……というわけで元の世界に帰ったって待っててくれる奴なんて誰もいねぇよ」
「そんな事はねぇんじゃねぇか?」
「じゃあ誰かいるっていうのかよ?」
「確かに杏子は自分の為だけに魔女と戦っているかも知れねぇよ。でもな、魔女によって泣いている人達を助けた事に違いはねぇんじゃねぇのか?」
「そんな奴いるかなぁ……」
「いるさ、杏子の帰りを静かに待っている人がな……」


 翔太郎はそう言うが杏子には全く見当もつかない――


 だが――ある1つの可能性の話、いやむしろ1つの現実として起こった出来事だ。
 それは極めつけのイレギュラーと評した少女、たった1人の少女を救う為に何度も時を繰り返し永遠にも近い長い時間を駆け抜けた1人の少女が経験した1つの時間――
 杏子は魔女に襲われていた1人の少女を助けていた――その後、その少女と杏子は行動を共にする事になる――
 当然の話ではあるが、その少女あるいは杏子にとってそれぞれが大事な存在である事は言うまでも無い。

 勿論、その杏子とここにいる杏子がそのまま重なるというわけではない。
 だが、思惑はどうあれ魔法少女が魔女から人々を守っている事に違いは無い。助けられた人々の中には感謝する人もいる筈だ――
 そしてその人々はその魔法少女の身を案じる――

 これは机上の空論でも何でも無い。杏子の知り合いが実際にそうなのだから――
 そもそもまどかやさやかが魔法少女に憧れる事となったのはマミに助けられたからだ。
 更に言えばほむらにしても魔法少女となったのは自身を助けてくれたまどかを助ける為である。

 助けられた人々にとって魔法少女は希望――希望だからこそその身を案じるのだ――翔太郎はそう考えている。


「そういう兄ちゃんには待っている奴は……」
「ああ……亜樹子……おやっさんの娘で探偵事務所の所長をやっているアイツがな……」
「兄ちゃんの彼女?」
「むしろ照井……そうだ、照井の事をなんて言えば……」
「彼女じゃねぇんだったら……大家?」
「いや、それ自体は間違ってねぇ(実際権利者である)が……つか所長って言ったよな? ……むしろ……俺はアイツの父親代わり……だな……」
「父親って歳には見えねぇけど」
「当たり前だ。俺もまだ若ぇよ」


 そう話している内に杏子のサンドイッチも丁度尽きた頃だ。


「そういやずっとあたしの事ばっかり気にしているけどそういう兄ちゃんはどうなんだよ?」
「ん?」
「いや、兄ちゃんだって仮面ライダーなんだろ? どうして仮面ライダーになったかって」


 それは何気なく浮かんだ疑問ではある。


「やっぱり人々や平和を守る為なのか?」


 考えてみればさやかもそんな理由であっさり魔法少女になっていた。杏子自身その時はさやかの事をバカにしていたが今となっては流石にそんなつもりはない。


「………………少し違うな」


 だが、翔太郎の返答はまたしても予想外のものだった。


「ん、違うのか?」
「ああ……あんまり語る様な事じゃねぇが……」

717Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:39:30 ID:zMkqANBk0


 翔太郎は自身がWになったいきさつを語る――
 元々翔太郎はおやっさんこと鳴海荘吉の元で探偵の助手をしていた――
 そんな中、ある依頼――ミュージアムからフィリップの救出に向かった時の事、自身のミスにより荘吉を死なせてしまう。
 悲しみに暮れる間もなく自身とフィリップに迫るミュージアムの連中、そして――


『悪魔と相乗りする勇気、あるか?』


 それが全ての始まり、ビギンズナイトであった――


「なんか聞いてみれば殆ど成り行きだな」
「そうだな……おやっさんの後を継いだと言えなくもねぇが……そもそもおやっさんが仮面ライダーだった事自体その時まで知らなかったからな……」
「じゃあさ、人々を守るのは仮面ライダーとか関係……」
「ああ……実は関係ねぇんだ……」


 そういって遠くに見える風都タワーへと視線を向ける。


「俺はこの風都という街が好きだ……この街で誰一人泣いて欲しくねぇんだ……ガキの頃からずっとそれは変わらねぇ……」
「1つわかんねぇんだけど……だったらなんで探偵なんてやっているんだ? 別にそれだったら警察でも役人とかでも良くないかな……」


 杏子視点から見た場合、探偵というのは調べ物をする仕事であり人々を守る仕事――というものからは若干ズレている。


「いかなる事態にも心揺るぎない、男の中の男の生き方……それが……俺の憧れるハードボイルドだからだ……」
「……答えになってねぇよ、それに兄ちゃん見ても全然そんな風に見え……」


――確かに杏子の言う通りだ。本当のハードボイルドなら一々語りはしない。
  だがどことなく思い詰めている様に見えた杏子を見て語らずにはいられなかった。
  いや、本当は俺自身の為だったのかも知れない。
  そう、この殺し合いに対して殆ど何も出来ないでいる俺自身が原点に立ち返る為に――


 翔太郎は静かにあの日の事を思い出す――
 幼馴染みである津村真里奈と共にある女性歌手のショーを見に行った時の事、その女性歌手(今にして思えばどことなく亜樹子を彷彿とさせる)が謎の怪人(今にして思えばドーパントだったのだろう)によって襲われた。
 警官が駆けつけようとも怪物には全く歯が立たず、女性歌手に怪人が迫ろうとしたが――


 そこに颯爽と現れたのだ――


『俺の依頼人に手を出すな』


 怪人に対しても全く引かずそう言い放った1人のハードボイルド探偵――


 幼き翔太郎はその姿に唯々見とれていた――


 超格好良いと――


 荘吉を死なせ、フィリップと共に初めて変身したあの夜が仮面ライダーWとしてのビギンズナイトならば――
 あの日何処までもハードボイルドな探偵を魅入られたあの夜こそが探偵としてのビギンズナイトだったのかも知れない――



 あれからどれぐらい時間が経過しただろうか? 姫矢が現れる気配はない――
 これ以上待つわけにもいかない、そう考えていたその時――

 風都タワーの見える方向に大きな柱の様なものが打ち上がったのだ――


「何だありゃ!?」
「兄ちゃん!?」


 既に杏子の方は動ける状態になっている。


「わかっている!! 姫矢の事も気になるが今は……!」


 翔太郎もすぐさま走り出した。





――俺は何処か忘れていた、今現在も殺し合いは着々と進行している事を。
  危険人物が何の罪もない人々を脅かそうとしている事を
  立ち上がった何かの柱はそれを俺に思い出させてくれた――





――だが、それは余りにも遅すぎた。それ故に俺はこの後余りにも悲しい出来事と遭遇する事になる――

718Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:45:15 ID:zMkqANBk0
Passage 04 アインハルト・ストラトスの決意



「そんな……」


 ダグバとの戦いを終えた後、ダグバに投げ飛ばされたであろう早乙女乱馬を助けるべくアインハルト・ストラトスは走った――
 アインハルトのダメージは決して小さくはない。それでも気力を振り絞り走ったのだ。
 もう誰も自分のせいで死んで欲しくないと――


 しかしその想いはすぐさま裏切られる事となる――


 確かに乱馬を見つける事は出来た――


 だが、その姿は既に死体だった――


 また、自分の所為で知っている人が死んでしまった――


 結局また繰り返してしまったのだ。目の前が真っ暗になるのを感じた――


「にゃぁ……」


 アスティオンの鳴き声が悲しく響く。


「また……私の所為で……」

 もし、自身の力がもっと強かったら乱馬をこんな姿にする事も無くダグバを倒せただろう。
 自身の無力さがまたしても誰かを死なせてしまったのだ――


 ずっと繰り返しだ――


 ソレワターセに操られているスバル・ナカジマを助けると意気込みながらも何も出来ず凶行を繰り返させてしまった。
 自分の所為で鹿目まどか、高町なのは、池波流之介、本郷猛を死なせてしまった。
 フェイトとユーノも死んでしまった。
 自分と関わった人達が死ぬ、あるいは不幸になってしまう――


 自分が疫病神だから――


 それなのに何故まだ自分は生きているのだろうか?
 まだ誰かを死なせ悲しませろと言うのか?


『もしもあなたが死んだらあなたを守った人達の思いはどうなるの!?』


 そう言って自殺しようとする自分を止めたキュアベリーこと青乃美希の言葉がリフレインする。


『その人達は、あなたを守ろうと頑張ったはずでしょ! でも、あなたが簡単に命を捨てたら、その人達の思いはどうなるの!? 何にもならないわ!』


 言っている言葉がわからないわけではない。
 だが、もう限界だったのだ。自身の不甲斐なさで他人が死んでいくことが――


 全身から力が抜ける――体力的にも限界だった状態なのだ、無理もない――
 そしてそのまま倒れ込み意識がだんだんと遠のいていく――


 覇王流の強さを証明すべく大切な人達を守ると意気込んだのに――
 結局何も守れず死なせただけ――
 自身のした事は結局は無駄だったという事だ――


 意識が途切れたという所ですぐさま死ぬという事は無い――
 だがこんな所で1人倒れていれば危険人物1人現れただけですぐさま死ねるだろう――


 それでも構わない――


 これでもう誰も――自分の所為で死なせないですむのだから――

719Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:45:50 ID:zMkqANBk0





 だが――





『巫山戯んじゃねぇぇぇぇぇ!!!』





 脳内に聞き覚えのある男性の声が響いた――


「乱馬……さん?」


 そうだ、その声は間違いなく乱馬のものだ。だがアインハルトの目の前に広がるのは暗闇だけで何も見えない。


『俺が何の為にアイツと戦って死んだと思ってやがる? お前等を死なせたくなかったからだろうが! それなのにここでお前が死んだらそれこそ俺のやった事が無駄になっちまうじゃねぇか!! そんな巫山戯た真似絶対に許さねぇ!!』


 乱馬の言い分はよくわかる。それでももう限界なのだ。大体、今更生きた所で何が出来るというのだ?
 また知り合いを死なせるだけじゃないのか?


『大体お前が死んだら誰がヴィヴィオを守ってやるんだ!? 俺は信じてねぇがもし本当になのはもフェイトもユーノも死んだならもうお前しかいねぇんじゃねぇのか!?』


 その言葉を聞いてハッとした。
 自分には不特定多数の人々よりも誰よりも守らなければならない人物がいたのではなかろうか?
 高町ヴィヴィオ、遠い昔に守るべき存在だったオリヴィエ・ゼーゲブレヒトを受け継ぐ少女であり、大切な友人である――

 他の人々も無論大事だが、何よりも彼女こそ最優先で守るべきではなかろうか?
 思えば知り合いで残っているのは他にティアナ・ランスターしかいない。しかし彼女は時空管理局局員、ヴィヴィオよりも先に人々を守らなければならない使命がある。

 だが、彼女の元に戻った所で今度はヴィヴィオが死んでしまうのではなかろうか? その不安があるからこそあの時も飛び降り――


『さっきも言ったがヴィヴィオはずっとお前に会うのを楽しみにしていたんだ! ヴィヴィオの気持ちを考えてやれ!!』


 そうだ乱馬はずっとヴィヴィオと行動を共にしていた。あの時までずっとヴィヴィオの事を守ってくれていたんだ。
 本当ならば自分がやらねばならない事を乱馬は代わりにしてくれていたのだ。
 そもそもなのは達を失って一番辛い想いをしているのはヴィヴィオではなかろうか? そんなヴィヴィオを乱馬はずっと助けてくれていたのだ。
 そんなヴィヴィオの想いを知っているからこそ飛び降りた自身を身体を張って助けてくれたのだ――

 それなのに自分と言えば、折角運良く会えたというのに全く向き合おうともしかなったでは無かろうか――

 そうだ、身体を張り命を懸けてまで自分達を守ってくれた乱馬の想いは絶対に無駄には出来ない。
 勿論、いっそこのまま消えた方が良いのではという気持ちに変わりは無い。

 しかし――このまま何も言わずに消えたらヴィヴィオは何も知らずに悲しむだけだ。
 せめてヴィヴィオにちゃんと向き合い伝えなければならない、自分の所為でなのは達を死なせた事を――乱馬の死を――
 ヴィヴィオは優しい――きっと自分の事を許してくれるだろう。いっそ憎むなり侮辱するなりしてくれれば楽なのだが――

 全てはその後だ、ヴィヴィオの前から消えるにしてもこのままヴィヴィオを守る為に戦うにしても――


「わかりました……私、あの子……ヴィヴィオに会います……後の事はそれから考えます」


 それが精一杯の答えだ。


『そうだ2つ程頼めるか……1つはヴィヴィオに謝ってくれ……鍛えてやるって約束したのに破ってしまって……まぁ元々俺がやるよりもアインハルトが適役だったんだろうけどな……』


 乱馬の声が小さくなっていく――だが頼まれた事については問題は無い。


『もう1つは……頼む……』


 更に小さくなっていく――それに加えこれまでと違いどことなく辛そうに聞こえる――


「え? 今、何て……?」

720Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:46:24 ID:zMkqANBk0





 ――気が付けば元の場所にいた。夢でも見ていたのだろうか?


 目の前には全く変わらず乱馬の死体がある。やはり夢だったのだろう。


「……そういえば、最後に乱馬さん何てお願いしていたんでしょうか……」


 引っかかるのは乱馬の最後の言葉だ。余りにも小声だったが故に聞き取れなかったのか?
 いや、恐らくはそれこそが乱馬が本当に伝えたかったメッセージだ。確実に聞き取れていた筈だ。


「いいえ、今はそれよりも……」


 それも引っかかるが大事な事は他にもある。ヴィヴィオに会う為にも休んではいられない、少し寝てたお陰でましにはなった。ゆっくりと立ち上がり今一度乱馬の死体を見つめ、


「ありがとうございました!!」


 精一杯の言葉でお礼を口にした。と、


「……?」


 何か違和感を覚えた。何だ、この違和感は――
 乱馬の左腕がない? いやそれについては全く問題ではない。あの時ダグバは刀を飛ばしていた。それが決まり腕が斬り飛ばされたのだろう。
 それは残った血痕が証明してくれている。だが――


「乱馬さんの腕が……無い?」


 その斬り飛ばされた腕がない事が問題なのだ。血痕を辿ればそこにあるべき筈なのだ。


「!?」


 そういえば他にもなければならないものがある。乱馬が使ったガイアメモリは何処に? そして何より――


「まずい! 急がないと……!!」


 脳裏に浮かんだ事通りなら非常にマズイ事になる。一刻も早く探さなければならない。
 まずはすぐ近くにある風都タワーに向かおう。そこからなら近く一帯を探る事も出来る――


 誰も救えないかも知れない――それでも、いや、だからこそこれ以上誰も死んで、あるいは悲しんで欲しくはないのだ。
 乱馬の為にもこのままでは終われないのだ――思い出した乱馬の最後の頼みに応える為にも――





『俺の許嫁を……あかねを……止めてくれ……頼む……!!!』

721Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:46:55 ID:zMkqANBk0










Passage05 Encounters of the Nasca



 気柱を見た翔太郎と杏子は全力で市街地を駆け抜ける。
 十中八九戦いが起こっている筈だ。これ以上の犠牲者を出さない為にも何としてでも駆けつけなければならない。


「兄ちゃん、誰がいると思う?」
「わからねぇ、Dボゥイ達かもしれねぇし姫矢達かも知れねぇ」
『こっちはいつでもOKだ、翔太郎』


 既に翔太郎の腹部にはドライバーが装着されている、いつでも変身が可能な状態だ。杏子の方も既に魔法少女の服を展開している。


「上だ!!」


 そう口にする杏子の言葉に従い、翔太郎は上を見上げる。


「なっ……あれはナスカか……」


 見上げるとナスカ・ドーパントが上空を飛行しているのが見える。


『だが翔太郎、霧彦のメモリとドライバーは僕達の手にある。つまりアレは……』
「T2の方だ、そしてそれを持つのは……ダグバか!」


 目の前のナスカ・ドーパントの正体がT2のナスカメモリによって変身したダグバだと判断する。


「ちっ……やっぱ倒せなかったか……」
『それよりもどうするんだ翔太郎?』
「聞かれるまでもねぇな、フィリップ、奴は空を飛んでいる」
『了解だ』


 ――Luna――


 ダブルドライバーの右側にルナメモリが転送される。フィリップの方が装填したのだ、


 ――Trigger――


 それを確認しすぐさま翔太郎も左側にトリガーメモリを装填、


「「変身!!」」


 そのまま倒し、


 ――Luna Trigger――


 右半身が黄、左半身が青の仮面ライダーWルナトリガーへの変身を完了した。


「一撃で決めるぜ」
「ああ」


 そう言いながらWはトリガーメモリをトリガーマグナムへと装填する、


 ――Trigger Maximum Drive――


 その音声と共にトリガーメモリの銃口が発光する。そして銃口を高速で飛行するナスカ・ドーパントへと向ける。


「「トリガーフルバースト!!」」



 その言葉と共に無数の光弾を発射する。
 ルナの幻想の力を得た弾丸は通常の直線的な軌道ではなく曲線的な軌道を描き標的であるナスカ・ドーパントを捕捉する。
 いかにナスカ・ドーパントが高速で飛行していようと不規則に飛ぶ銃弾を回避する事は容易ではない。
 例え一撃は回避出来ても無数に繰り出された銃弾全てを回避する事は不可能。
 一撃でも命中すれば、その衝撃でたじろぐ間にもう一撃、更に一撃と命中していく。
 そして全ての銃弾が炸裂した事により――ナスカ・ドーパントは力を失い落ちていった――

722Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:47:29 ID:zMkqANBk0



 完全な不意打ちだった――
 一刻も早くさらなる力を手に入れるためにナスカ・ドーパントの力で呪泉郷へと向かっていた矢先だった――
 いや、それでもナスカの速度ならば捕らえる事は出来ないと思っていた――
 だが放たれた銃弾は自身の上下前後左右全てに回り込み迫ってきたのだ。
 いくら高速であっても何処から飛んでくるかわからない銃弾全てを回避など出来ない。ある意味どんな格闘家にも不可能だろう。
 無数の銃弾による衝撃は強い――
 それでも守らなければならない――
 乱馬の腕は――

 砲撃が止んだ――乱馬の腕は無事だ――
 だが、受けた衝撃の強さ故に落ちていく――
 バランスを取らないと――

 ナスカ・ドーパントはウィングを羽ばたかせ耐性を整える。これならば無事に着地出来るだろう。
 ともかく今は戦っている場合じゃない。すぐさまこの戦域を抜けて――


「でぃりゃあ!!」


 だが背後から槍を持った少女が有無を言わさず突撃してきたのだ。
 ギリギリの所で気配に気付いたナスカ・ドーパントはブレードを構え防ごうとするが――
 逆にブレードははじき飛ばされそのままバランスを崩し地面へと叩き付けられる。


「ぐっ……」


 まさかもう1人いたとは、それも自分よりも年下の少女が。
 だが何とか立ち上がり、後方へと――


「ちっ、散々好き勝手暴れておきながら逃げてんじゃねぇよ!!」


 少女が何か言っているがそんな事はどうでも良い。何とかこの場から待避――


「逃がさねぇよ」


 気が付けば黄色い腕に捕らえられ放り投げられていた。体勢を整える間もなく今度はそのまま地面へと叩き付けられた。
 見ると左半身が黒、右半身が黄色の戦士――着けているベルトの形状から仮面ライダーエターナルを彷彿とさせる戦士がそこにいたのだ。


「ン・ダグバ・ゼバ、これで3度目だね」


 同じ戦士から別の男の声が聞こえる――だが、何を言っているのだろうか? 初対面ではなかろうか?


「自分だけを笑顔にするために罪もない人々を泣かせた事……」
「許される事ではないね」


 戦士から響く2人の声。それについて気になる事はあるが今はこの場を切り抜けねばならない。運良く近くに落ちていたブレードを拾い上げたが――


「がら空きだ」


 槍の少女が再度ブレードをはじき飛ばす。


「杏子、ナイスアシストだ」


 ナスカ・ドーパントの行動を封殺する杏子の動きに対しWルナジョーカー(途中でメモリを変えた)こと翔太郎が声をかけるが

723Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:47:59 ID:zMkqANBk0


「なぁ兄ちゃん……コイツ、本当にダグバなのか? ダグバにしちゃあまりにも手ごたえがなさ過ぎるぜ?」
「言われてみりゃそうだな……だがさっきはアイツがメモリを……」
「なら答えは簡単だ、何者かが何らかの方法でダグバからメモリを手に入れて変身した。そういう事だろう。だがどちらにしても」
「逃がすという選択はねぇな。ダグバからメモリを手に入れたんだったら奴がどうなったのか知っているかも知れねぇからな」


 2人(3人)の心は決まった。早々にナスカ・ドーパントを仕留めるのだ。


「ぐっ……」


 だがナスカ・ドーパントとてやらなければならない事がある、それを成す為にもこの場は引けない。
 何発もの光弾を繰り出し2人へと発射する。


 ――Heat Metal――


 光弾による爆煙が広がる、今の内にウィングを展開し離脱を――


「そんなチャラチャラした攻撃が通じると思ってんじゃねぇよウスノロ!!」


 爆炎から杏子が飛び出しナスカ・ドーパントに斬りかかる。ナスカ・ドーパントはそれを防ぎきれず受けてしまいそのまま腰をついてしまう。


「そんな……」
「残念だったな、ドーパントとの戦いは専門分野なんでな」


 そして爆煙が消えた先にWヒートメタルが姿を見せる。光弾に気付いたWはすぐさまメモリを差し替え最もパワーと防御に秀でたヒートメタルへとチェンジしメタルシャフトを回転させ迫り来る光弾を全てはじき飛ばしたのだ。


「ぐっ……」


 まずい、これは非常にまずい。このままではこのまま倒されてしまいメモリが奪われてしまう。
 現状ではメモリが唯一の武器、これを失えば『守る』事が出来なくなってしまう。


「なぁ兄ちゃん、さっさとコイツ片付けて向こうに行こうぜ」
「気をつけて杏子ちゃん、この場にいる連中は一筋縄ではいかない奴等ばかりだ、油断は」
「わかってるって……ん?」


 余裕を見せる杏子だったがナスカ・ドーパントのある一点を見てほんの一瞬だったが動きを止めてしまう。


「!!」


 だがそれこそがチャンスだった。光弾を発射し杏子を――


「油断も隙もねぇ……けどこんな程度で倒せるなんて思ってんじゃねぇ!!」


 光弾は杏子のデイパックの1つを僅かにかする程度で回避され、逆に振り回された槍によって殴られる。


「だから言ったのに……」
「悪い悪い……」
「ま、ともかくさっさと片付け……」


 そう、誰もがWと杏子の勝利、ナスカ・ドーパントの敗北を確信した時だった。

724Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:48:29 ID:zMkqANBk0


 ナスカ・ドーパントの光弾によって僅かに開いた杏子のデイパックが揺れ動き出したのだ――


「何だ?」
「さぁ?」
「……!」


 何が起こっているのかわからない2人(3人)、その間にもデイパックの揺れは大きくなりその口はナスカ・ドーパントの方を向く。
 だが、ナスカ・ドーパントだけは何か気付いた様だ。


「そう……そこにあったの……」


 今までは何処か籠もっていたせいか誰の声か性別すらも判明できなかったが今度は明らかな女性の声が響く。


「!?」
「翔太郎、杏子ちゃん、あのデイパックに何か変わったものは無かったかい?」
「いや、フィリップが言う様な変なものなんて無かったよな……」
「ああ、確かせつなの持っていたものに使えるもの何て……」
「急げ翔太郎! 取り返しの付かない事になる前に」
「何だって? どういう事だ?」


 フィリップはこの後に起こる危機を予見した。
 恐らく、あのデイパックの中には目の前のナスカ・ドーパントにとっての切り札が眠っている。
 仮にその人物が殺し合いに乗っていた場合、みすみす強化する結果となってしまう。それだけは阻止しなければならない。



 だが――



「来て! 道ちゃん!! 私はここよ!!」



 杏子とWが次の行動に入る前にナスカ・ドーパントが叫ぶ――



 その声に呼応し――



 デイパックの口からあるものが飛び出し――



 ナスカ・ドーパントへと飛び込み強烈な光を放った――



 そして飛び散る服の破片――



「何だ……何が起こったんだ……」
「見ろよ兄ちゃん……」



 そう言われ視線の先には――



 ナスカ・ドーパントの姿はなく――



 伝説の道着を纏った少女――天道あかねの姿があった――

725Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:48:59 ID:zMkqANBk0










Passage 06 The selected martial artist



 伝説の道着――持ち主の潜在能力を引き出す文字通り伝説の道着、
 しかし、着る人を選ぶそれは道着自身が主人と認めた者しか着る事を許されない――
 その一方で着てくれる主人を求めて夜泣きまでしていたという――



 そしてその選ばれた真の武道家こそが――天道あかねだったのだ。



 天道あかねも参加させられている以上、伝説の道着が誰かに支給されてもなんらおかしい事ではない。
 但し、仮面ライダーや魔法少女の変身ツールと違い、あかねにとってのそれは変身に関係ある道具とは言いがたい。
 それ故にあかね本人に支給されず、別の参加者に支給されていたのだ。

 ちなみにその支給先は泉京水――正直、道着にとっては災難以外のなにものでもない。
 好き勝手動ける道着であってもこの地では制限のせいか好き勝手は動けない。それでも京水から離れたいとずっと願っていた。


『……その服、なんか私に助けを求めている様に見えるのは気のせい?』


 せつははそう口にしていたが実際その通りだったのだ。道着は本気で京水の元から離れ一時的でもせつなの所に行きたいと願っていたのだ。
 その後、紆余曲折を経て道着は交換という形でせつなへと譲渡され――せつなの死後、彼女の所持品共々杏子の手に渡ったというわけだ。

 そして今の戦いにより開かれたデイパックの先に見えたのだ――ナスカ・ドーパントに変身したあかねの姿が。
 もしかしたらと思った、だがまだ確証がなかった――
 だが、あかねの声を聞き――確証を得た道着は本来持つべき主人の下へと戻ったという事だ。



「なぁ、メモリはどうなったんだ?」
「服が飛び散った事から考えて、排出されて近くへと飛んだのだろう。すぐにでも回収すべきだ」
「……」


 そう会話をする杏子とフィリップを余所に翔太郎は何か考えている様だった。


「そういえば……メモリを探さないと」


 一方のあかねは道着を装着する際に一度排出されたメモリを探すべく周囲を見渡すが。


「悪いが嬢ちゃん……あんたにそれをさせるわけにはいかねぇ」


 と、Wが口にする。


「どいて、今貴方達とやり合うつもりはないわ」
「けっ、そっちはそうでもこっちはそういうわけにはいかねぇんだよ。聞きたい事も出来たしな」


 落ちていたデイパックを拾い上げた杏子は再び槍を構える。


「そんなチンケな道着きた所で何が変わったか知らねぇけどまた叩きつぶしてやるだけさ」
「言っておくけど、私と道ちゃんの力甘く見ない方が良いわよ」
「道着を道ちゃんなんて呼ぶ様なロマンチストなんかに負けたら世も末なんだよ!!」


 そう言い放つ杏子に対しあかねの方も構える。


「翔太郎、どうやら彼女達はやるつもりの様だ、僕達も……」
「フィリップ、俺達はメモリを探すぞ」
「? 翔太郎、まさか君は……」

726Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:49:30 ID:zMkqANBk0



 その時、



「待て待てまてぇぇぇぇぇぇぇい!!」



 その時、1人の半纏姿の男性が戦場へと現れた。



「何だ?」
「彼はいったい?」
「寿司屋か?」
「梅盛さん……」


 新たな乱入者に対し3人(4人)は思い思いの反応を見せる。あかねだけが名前を呼んだところ知り合いらしい。


「やっと追いついた……ってアンタエターナルの仲間か!?」


 と、Wを見て驚愕の声をあげる。


「アイツと一緒にするんじゃねぇ!!」
「……って事は味方って事でいいん……だよな?」
「どういうことだ……?」
「どうやら前にエターナルの襲撃に遭ったという事だね、君の様子を見る限りエターナル大道克己は殺し合いに乗っている。それで間違いはないね、梅盛源太」


 梅盛源太の僅かな言動からフィリップは仮面ライダーエターナルこと大道克己の動向を看破し源太に確認を取る。


「あ、ああ……あれ、俺名乗ったっけ?」
「この殺し合いに誰が参加しているかは翔太郎から聞いた。そして今彼女が梅盛と呼んでいた……参加者の中で梅盛はたった1人、そういうことだよ」
「すげぇなあんた」
「ちっ……大道の野郎は乗っているのかよ……予想していなかったわけじゃねぇが……」
「なぁ、1人の身体から2人の声が聞こえるんだけど気のせいか?」


「てめぇらコントやってんじゃねぇよ!!」


 そんなやり取りを繰り返す男2人(3人)に対し思わず杏子がツッコミを入れた。


「そうだそうだ、悪ぃな嬢ちゃん……」
「それで、何をしに来たの梅盛さん?」


 そう問いかけるあかねに対し、


「決まっているだろ、姉ちゃん、あんたを止めにだよ」


 強気で応える源太であった。


「おい、梅盛……あの子に何があったか知っているのか?」
「ああ、ついさっきあの姉ちゃん、彼氏……許嫁の兄ちゃんを亡くしちまって……」
「………………その人を殺したのは白と金の怪人じゃなかったかい?」
「!! ああ、確かにその通りだ……なんでわかったんだ?」
「マジかよ……」


 その言葉を聞き翔太郎は内心で落胆する。
 つまり結局ダグバを仕留める事は出来ず、ダグバはその後も参加者を惨殺し続けてきたという事だ。


「彼女の持っているメモリは元々白と金の怪人……ン・ダグバ・ゼバが所持していたものだ。だがそのメモリを何故か彼女が持っていた……
 恐らく、ダグバの襲撃を受け彼女の許嫁……婚約者と言うべきかな、彼が命を落とした……だが何とかメモリを奪取する事に成功して彼女がそれを手に入れた……といった所だね」
「そしてアンタはその婚約者……恋人を殺された復讐をする為に……」


 そう語る2人に対し、


「……探偵みたいな喋り方をするのね」
「探偵みたい……じゃあない、僕達は探偵さ」
「左翔太郎……」
「僕はフィリップ……2人で1人の探偵であり……」
「仮面ライダーWだ……」


「随分変わった探偵もいたものね……でもね探偵さん達……1つ間違っているわ……私は復讐するつもりなんて無い……今度は私があいつを『守る』、その為に……」
「守る? どういう事だ?」
「!! まさか……」
「ああ、その通りだ、姉ちゃんの奴、その兄ちゃんを生き返らせる為に殺し合いに乗っちまったんだ……」

727Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:50:00 ID:zMkqANBk0


 その言葉に2人(3人)は衝撃を受ける。


「馬鹿な、加頭の言葉を信用するというのか?」
「冗談じゃねぇ、こんな悪趣味な事やっている連中が素直に約束を守るわけねぇだろ」


 2人(1人)はどうやら加頭の事を知っているらしい。
 勿論、それ自体はあかね自身も理解している。連中の言葉を素直に鵜呑みにしてしまう程あかねも愚か者ではない。
 だが、他にどんな方法がある? 他に方法がない以上それに縋るしかないだろう?


「大体姉ちゃん……さっきも言ったが兄ちゃんがそんな事を望むと思ってんのかよ!」


 そう源太があかねに言い放つ、先程と殆ど何も変わらない言葉でしかない。


「知った様な事をいわないで! 梅盛さんなんかに私の気持ちなんてわからないわ!!」



 そう言って急速に源太へと間合いを詰める。



「なっ、速い!?」



 先程までとは打って変わった動きに一番近くにいた杏子も対応出来なかった。



「くっ……スシチェンジャー」
――イラッシャイ!!――
「スシディスク」



 源太は手持ちのスシチェンジャーにスシディスクを装填、さながらそれは寿司を握るかの様に――



「本当に寿司屋かよ!! なんで食べ物なんだよ……」



 思わずツッコんでしまう杏子を余所に、



「一貫献……」



 だがそれよりも速くあかねが懐に入り――



 一撃目、差し出されようとしていたスシチェンジャーを蹴り飛ばし――



 二撃目、そのままアッパーカットで源太を高く殴り飛ばし――



 三撃目、落下する源太を両脚で挟み込みそのまま抱きかかえ地面へと叩き付けた――



「何なんだアレは……さっきと全然動きが違う」


 先程までのナスカ・ドーパント、つまりはあかねの動きは戦い慣れているWや杏子から見れば素人レベルでしかなく対処そのものはそう難しいものじゃない。
 だが今の動きは拳法の達人レベルのものだ。


「伝説の道着……まさか本当だったのかよ……」
「ああ……フィリップ……説明してなかったがそいつを着た奴は潜在能力を限界まで引き出すとあった……眉唾ものだったが本当だったとはな……」
「杏子ちゃん、確か君が持っていたんだよね、どうして君が着なかったんだ?」
「あんな胡散臭いもん着る気になんてならねぇよ……それにあたしに合うサイズじゃねぇし……」
「翔太郎!」
「どう見ても女物だろうが! ハードボイルドがそんなもん着られるわけねぇよ!!」

728Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:50:27 ID:zMkqANBk0


「破ぁっ!!」


 そんな2人(3人)を余所にあかねによる猛攻は続き、最後の一撃を受けた源太はそのまま近くのビルの中へと叩き込まれた。


「ああ、寿司屋の兄ちゃん!」
「梅盛!!」



 Wと杏子はすぐさまビル内部に突入し源太の安否を確認に向かった。



「どうだ、梅盛の様子は?」



 Wは近くに落ちていたスシチェンジャーを回収し源太の近くに起き、源太の様子を確かめていた杏子に問う。



「骨数本持ってかれてるかもしれねぇけど……息もあるみてぇだから大丈夫だと……」
「そうか……」


 そんな中、あかねの方はW達に構うことなくナスカのメモリを探していた。


「ちっ、どうやら本当に私らとやり合うつもりはねぇみたいだな……けどどうする兄ちゃん? メモリを見つけられたら面倒な事に……!?」


 と、Wへと視線を向けた杏子は驚愕した。目の前のWが変身を解除し元の翔太郎の姿に戻っていたのだ。


「杏子……すまねぇコイツを預かっててくれ」


 そう言ってダブルドライバーを杏子に渡す。


「え、ちょ? 何考えてんだ?」
「幸い、あの道着を解除する方法は判っている。今からそれをしにいくだけだ」


 幸か不幸か説明書きがあった為、道着の弱点については杏子も翔太郎も把握している。


「ちょっと待てよ兄ちゃん……その方法って確か……」


 主人の武道家が異性に心を奪われると二度と着る事が出来なくなる。つまり――


「ナンパしに行くつもりかよ!? 兄ちゃん、言っちゃ悪いけど兄ちゃんには無理だと思うぜ。なんだか兄ちゃん女に縁無さそうな顔しているしさ……」
「違ーよ! それにさりげなく失礼な事言ってんじゃねぇ!! もう1つの方法だ、もう1つの……」


 もう1つは道着の帯にある解体ボタンを力一杯殴るというものだ。


「だったらなおのことわけがわからねぇよ、それならなんで変身を解く必要があるんだ?」


 その通りだ、変身している状態ならばいかに相手が達人級の力を持っていても対応出来ないレベルではない。


「今の奴はドーパントでも怪人でもない服を着替えただけの只の人間だ……人間相手に仮面ライダーの力を使う気はねぇよ。そいつを身につければフィリップと話が出来る、何かあったらフィリップに聞いてくれ」


 そう言ってあかねの元へと向かおうとする翔太郎、


「待ってくれ、あたしも……」
「俺1人にやらせてくれ、気になる事もあるからな……それに杏子……まだアレ使ってねぇんだろ? これから戦うつもりなら俺が戦っている間に……」
「兄ちゃん……」


 そう言って翔太郎はビルを出て行った――

729Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:50:54 ID:zMkqANBk0










Passage07 Half Boiled eXtreme



「何処に落ちたのかしら……この辺りだと思ったけど……」



 ガイアメモリを探すあかねの側に――



「何か探し物かい、綺麗なお嬢さん……」



 帽子を構えた翔太郎が話しかける。





「何言ってんのコイツー!?」


 一連の様子を見ていた杏子は思わず口にせずにはいられなかった。
 すぐさまダブルドライバーを装着し


『翔太郎、大丈夫か!?』
「フィリップの兄ちゃん、あのバカの兄ちゃん何とかしてくれよー!!」


 フィリップへと連絡を取る。


『杏子ちゃん……やっぱり翔太郎は……』
「やっぱりって兄ちゃんも気付いてたのかよ!?」





「その声……もしかして探偵さん」
「左翔太郎だ……お嬢さんが探しているのはガイアメモリだろう?」
「ええ、そうよ」
「お嬢さんにはそんなものは似合わねぇ……涙も人を泣かせる様な事もな……」



 そう口にする翔太郎に対し――



「………………ふっ」



 ほんの一瞬笑みを浮かべ――



「ばっっっっかじゃないの?」



 白けた様な顔で言い放った――





「当たり前だー!!」


 当然と言えば当然の返答に杏子も口にせずにはいられない。


『何が起こったが当ててあげよう、翔太郎はあの女の子に歯の浮くような台詞を口にした……だがそれは通じなかった、違うかな?』
「その通り過ぎて泣けてくる……」
『ハーフボイルド……』

730Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:51:19 ID:zMkqANBk0





「私の事をナンパして道ちゃんとの仲を裂く作戦でしょ、引っかかるわけないでしょ」
「いや、今の言葉は俺の本心だ。アンタに涙も人を泣かせる様な表情も似合わねぇよ……そしてガイアメモリもな」
「……だから何?」
「あんたに街の人々を泣かせるわけにはいかねぇ……ガイアメモリは回収させねぇよ……」
「そう……だったら探偵さん、相手になってあげる」



 そう言って翔太郎へと闘志を向ける。



「来な……」



 その言葉と共にあかねが急速に間合いを詰め、



「破ぁっ!!」



 拳を翔太郎へと振りかざす。だが翔太郎は上手く後方に飛びそれを回避し拳はそのまま地面を殴りつけ――



 巨大なクレーターを作り出した。



「ちっ……なんてパワーだ……」
「ところでどうして変身を解除したの? 私と道ちゃんの力はさっきも見たからわかる筈よ? 変身しないで相手になんて……」
「ドーパントでも何でもない只の人間相手に仮面ライダーの力を使う気はねぇ!!」



 そう言いながらも翔太郎は体勢を整えあかねの攻撃に備える――





『杏子ちゃん! 翔太郎はどうなっている? 状況を教えてくれ!?』
「あの姉ちゃんの攻撃を何とか紙一重でかわしているけど……防戦一方だ」


 あかねの猛攻を翔太郎はすんでの所で回避し続けている。


『その力はさっきも見たが……本当に凄いのか?』
「さっきまではシロウトレベルだったのが急激にベテランになったって感じだ……なぁフィリップの兄ちゃん……なんで左の兄ちゃんは変身もしねぇで向かっていったんだ?
 兄ちゃんだってわかるだろ? Wに変身したままの方がずっと良いって」
『杏子ちゃん……今の彼女はドーパントじゃなく特別な服を着た以外は只の人間だ。潜在能力を100%まで引き上げただけで肉体そのものは全く変化していない。そんな彼女にメモリの力をぶつけたら……』
「それはわかるけどよ……」
『僕達は例え街を泣かせる悪人であっても只の人間にメモリの力は使わない……君だって魔法少女としての力を普通の人間に振るったりはしないだろう?』
「そりゃまぁ……」
『君が甘いと考えるのはわかる……でもこれが僕達のやり方だ……だから今は翔太郎を信じてくれないかい?』


 翔太郎が無謀な挑戦をしているのはフィリップ自身理解している。
 だが、仮面ライダーとして今のあかねにその力を使うわけにはいかない。
 恐らくドーパントの変身が解除された時から翔太郎はそれを考えていたのだろう。
 フィリップはそれを理解し認めているからこそ信じているのだ。


「でも、どう考えても無茶じゃ……そうだ、左の兄ちゃんに何かすげぇ力なんかないのか? ああいう相手を一発で倒せちゃう様な魔法とか凄い才能とか……」


 余りにも都合が良すぎる話だ。そんなものが無い事ぐらいわかりきっている。それでも何とかそれを願わずにはいられない。


『そんなものはないよ。翔太郎には何の特別の力は無い、組織に選ばれるような知能も無い……ガイアメモリへの耐性だってもっていない男さ……
 Wだって本来ならば鳴海荘吉……あるいは照井竜と僕が変身すべきものだった……母さん……園咲文音ことシュラウドはそう考えていた……』


 そういえば仮面ライダーとなったのは成り行きだって言っていた。


『探偵としてもハードボイルドとは遠くかけ離れた半人前、ハーフボイルド……弱い男さ、左翔太郎という男は……』
「ちょっと待てよ! あんた相棒だろ? なんで相棒をそこまで悪く言うんだ!?」


 翔太郎が相棒にそこまで悪く言われて我慢が出来ない杏子だった。
 確かに甘いという事はわかるがそこまで悪く言われる様な事でもないだろう。何より何故一番信頼できる相棒に言われなければならないのか?

731Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:51:54 ID:zMkqANBk0


『だけど……それは彼が心の優しい男である事の証明でもある。翔太郎はハードボイルドだからこそ何かをやる男だ……これは僕じゃなく、亜樹ちゃんの言葉だけどね……』
「兄ちゃん……」
『強いだけのWに価値はない……彼の優しさがあるからこそのWなんだ、それが弱さだとしても……僕は受け入れる』


 だが違っていたのだ。フィリップは誰よりも翔太郎の事を信じているのだ。今の言葉だけでそれを理解できた。


「……けどよ、状況は全く変わってねぇよな?」


 杏子とフィリップが話をしている間も戦いは進んでいく。





「はぁっ!!」
「がぁっ!!」



 あかねの攻撃で壁へと叩き付けられる。だがそれでも翔太郎は立ち上がってくる。



「まだ立てるの?」
「ああ、この程度の攻撃なんて事ねぇよ……」



 そう言いながら翔太郎は帽子を整える。



「そう、だったら次で……」



 と再びあかねが翔太郎へと迫る――






「……これじゃジリ貧じゃねぇか? 本当に大丈夫なのかよ?」
『大丈夫だ杏子ちゃん……翔太郎は1人でも戦えるぐらいの強さを持っている』
「けどフィリップがいなけりゃWにだって変身出来ねぇんだろ?」
『……僕はつい最近まで……1年ほど翔太郎の元から消えていた』
「え?」
『その間……翔太郎は1人で戦っていた……僕の残したドライバーとジョーカーのメモリで仮面ライダージョーカーとして……』
「よくわかんねぇんだけど、ジョーカーのメモリって事はメモリ1個しか使ってねぇんだろ? Wと比べて半分しか力出せねぇんじゃ……」


 杏子の言う通り、ロストドライバーとジョーカーのメモリで変身する仮面ライダージョーカーは2つのメモリを使うWと比較しても単純計算で半分の力を出せない。
 またWの特性であるメモリチェンジも行えない為、Wの時には使えた多彩な能力は使用出来ず、ジョーカーのメモリが持つ切り札の記憶しか活かせない――


『だが、それでも翔太郎は1年間戦い続けた……』


 しかしそれはジョーカーが弱いという事ではない。ジョーカーの力により翔太郎の運動能力は極限まで高められる――それ故に格闘戦だけならば他のライダーと比較しても劣らない強さを持っている。


『だからこそ……単純な格闘戦だけならば……そう簡単に負けたりはしない!』


 勿論今現在翔太郎は変身すらしていない為その力は全く発揮されていない。
 だが、メモリの力無くとも、1年間単身ジョーカーとして戦い続けた経験、そして更に2年間フィリップと共に戦い続けた経験もある。
 それだけの経験をもつ翔太郎なのだ、その格闘能力は並の格闘家にだって負けはしない。


『……正直意外だったよ、杏子ちゃんがそこまで翔太郎の事を心配してくれていたなんて』
「ば、ばか、そんなんじゃねぇよ、フェイトやユーノみたいに馬鹿やって勝手に死んでほしくねぇだけだ」
『優勝狙いだったとは思えない口ぶりだね』
「兄ちゃん……悪魔みたいな奴だって言われねぇか?」
『昔はそんな感じだったよ』


 翔太郎の事を必死で心配する杏子の言動からフィリップの中で彼女に対する疑心は既に消えていた。翔太郎が信じた様に自分も彼女の事を信じようと思った。


『それよりも……問題はこの後だ、もし彼女がメモリを手に入れたら流石に変身しないわけにはいかない。そういえば杏子ちゃん、ソウルジェムの調子は大丈夫なのかい?』


 振り返ればあれから随分と激闘を繰り返し消耗している。もうそろそろソウルジェムも限界ではなかろうか?


「ああ、それだったら心配ねぇよ……」


 と、デイパックからグリーフシードを取り出した。それは姫矢の所持品の中にあったものだ。
 ちなみにこのグリーフシードは姫矢と行動を共にし彼に自身の荷物を預けさせた血祭ドウコクに支給されていたものである。
 先に確認した時に既に見つけていたが杏子はそれを今現在も使わずにいた。
 何故使わなかったのか――温存するという目的もあったかも知れないだろう。
 また一方で心の整理がつかなかったのだろう――姫矢からネクサスの光を受け継いだ事――そして――

732Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:52:20 ID:zMkqANBk0



「そうだな……」



 杏子は翔太郎に猛攻を繰り出すあかねのある一点を見る――



「やっぱ、あのまんまにはしておけねぇか」



 せつなから託されたリンクルン、つまりはプリキュアの力――



『? まあいい、それより杏子ちゃん、1つ頼まれてくれないかい?』





「がはっ!」



 あかねの一撃をうけまたしても地に伏せられる翔太郎。



「もう諦めたらどう?」
「誰が諦めるかよ……」



 それでも翔太郎は立ち上がってくる。



「ぐっ……何処にそんな力が……」



 翔太郎が何度もあかねの攻撃を受けても立ち上がれるのには幾つか理由がある。
 1つはあかねの攻撃を見極め寸前で受け身を取る事に成功している点、
 1つは密かに仕込んだ『あるもの』による点、
 そしてもう1つは――



「なぁ、本気で考え直す気はねぇか?」



 勿論、それはある人物を『守る』為に殺し合いに乗る事だ。



「悪いけどそんなつもりはないわ」
「俺達全員を殺すって事か? 悪いがお嬢さんには無理だ」
「何ですって……」
「さっきも言った筈だ……人を泣かせる事は似合わねぇと……あんたには無理だ」
「そんな事……」
「だったらなんで俺は今も立っていられるんだ? いいや俺だけじゃねぇ、梅盛も命に別状はなかった。
 わかるか? あんた自身人を殺す事を迷っているんだ。そんなあんたに……優勝は無理だ」
「ぐっ……」


 もう1つ、それはあかね自身無意識の内に手加減をしてしまっているという事だ。
 だからこそ翔太郎はあかねから受けるダメージを最小限に抑える事が出来たのだ。
 ちなみにこれはナスカ・ドーパントと戦った時からどことなく感じていた事だ。
 あまりにも手ごたえがなさ過ぎる――そして、あれだけの猛攻を受けたにも関わらず源太の命に別状がなかった事でハッキリと感じたのだ。
 あかねは本気で他人を殺そうとしていないのではないか? という事に、


「あんたはそんな平然と人殺しが出来る様な血も涙もない悪女じゃない……心の優しい女だ……そんなあんたに人殺しなんて出来ねぇよ……」


 翔太郎の言っている事はわかっている。何しろ優勝するなんて言っておきながら未だに『殺す』なんて言葉すら口に出来ないのだ。


「そんなあんたに惚れられたんだろう……あんたの彼氏は本当に幸せ者だ……その彼氏の為にも……」
「そう……だったら……もう手加減はしないわ!」


 だが、天道あかねはそう言われてはい引き下がります、と素直に言えるような人物ではない。
 ここまで来たら半分は意地でもある。絶対に引くわけにはいかない。


「やっぱこうなるか……」
「何を企んでいるかなんてわかっているわ、隙を突いて道ちゃんのボタンをぶん殴る、そうでしょ?」
「お見通しってわけか。良いぜ、一撃で決めてやる。だからあんたもこの一撃で決めるつもりで来いよ」


 あかねには翔太郎の意図がわからないでいる。だが、何時までも翔太郎1人に構っているわけにはいかず、ビルの中にはまだ杏子とフィリップがいる筈だ(あかねはフィリップがWに変身している時しか出られない事を知らない)。
 ならば翔太郎の挑発に乗り文字通り一撃で終わらせる。そう考えてあかねは構えを取る。

733Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 22:52:55 ID:zMkqANBk0



「来いよ……」
「でぃりゃぁぁぁぁぁ!!」



 そしてあかねは走り出す。一方の翔太郎は動かず構えたまま。



「(カウンター狙い?)」



 翔太郎の狙いをカウンターとあかねは読んだ。確かにそれならば僅かながら翔太郎にも勝機はある。
 女子高校生であるあかねと青年男性である翔太郎を比べた場合、翔太郎の方がリーチは長い。
 リーチが長い分、あかねの攻撃が届く前に翔太郎の攻撃が届く可能性が十分にある。



「(だったら……)」



 と、あかねは地面を蹴り上げ高く飛び上がった――



 空中からの跳び蹴り、伝説の道着で潜在能力を100%引き出した状態ならばその破壊力は絶大。



「だぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」



 そして蹴りの体勢を取る――



 その動きは速く、そして強く――



 まるで稲妻の様であった――



 その稲妻の様な蹴りに対し翔太郎は――



 突如懐から無数の箸袋を展開した――


「(なっ……)」


 視界が僅かながら遮られる事で狙いが定まらない。


 命中しても想定よりも与えられるダメージは小さいだろう。


 だがそれでも構わない、このまま蹴り抜くだけだ――


 そして蹴りは程なく翔太郎の腹部へと――



「ぐっ……」



 だが翔太郎はその蹴りに耐える――



「届いたぜ――道着の根源!!」



 そしてそのままあかねの腹部に拳を叩き込んだ――



 そのままあかねは数メートルほど吹っ飛ばされた――

734Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:01:55 ID:zMkqANBk0
Passage 08 佐倉杏子の懺悔



「兄ちゃん、大丈夫か?」



 ビルから杏子が出てきて翔太郎の身を案じる。



「流石にちょっとやばかったが……だが大した事はねぇよ」



 と、腹部に仕込んでいたあるものを見せる。



「そのベルトは……」
「ああ、霧彦のベルトだ」


 そう、翔太郎は密かに霧彦のガイアドライバーを防具代わりに仕込んでいたのだ。気休め程度ではあったが防具としては十分使えた。
 あかねの蹴りについても都合良くドライバーのベルト部を滑ってくれたお陰で翔太郎自身にかかるダメージを軽減出来たのだ。
 とはいえ流石に無数の箸袋で目くらましをしなければ直撃しベルト共々倒されていただろうが――姫矢の所持品からそれを見つけた時は何に使うんだと頭を抱えたが無事に使えて安堵していた(本当に使うとは翔太郎自身も思わなかったが)


「はい、こいつは返すよ」


 そう言って預かっていたダブルドライバーを翔太郎に渡す


「あ、そうだフィリップの兄ちゃんから頼まれたんだった」
「何だっ……がばっ!?」


 と、杏子の拳が翔太郎の顔面に炸裂した。


「何しやがる!?」
「無茶したからじゃねぇか?」


 幾ら翔太郎のスタンスを理解しているとはいえ翔太郎の行動は無謀以外の何者でもない。だからこそフィリップは翔太郎を殴る――それが出来る状態じゃないから杏子に代役を頼んだのだ。


「全く……」
「ところで兄ちゃん、あの姉ちゃんの道着が解体されたって事は……」
「!! 今アイツは……」


 思い返して欲しい、伝説の道着を身につけた瞬間、あかね自身が身につけていた服は全て弾け飛んだ。
 そして伝説の道着を解体したならば――今現在あかねは――全裸になってなければならない。


「……流石にマズイんじゃねぇか?」
「仕方ねぇ、俺の上着を……」

 と、あかねの方に視線を向けるが――全裸ではなく道着のままだった。


「ちっ……どうやら外れていたか……」


 確実に入ったと思われた一撃だったが命中箇所はボタンから少しズレていたらしい。故に道着は解体されなかったのだ。


「まぁいい、気絶してりゃ解体は……」


 そう言ってゆっくりと近づく翔太郎だったが――



 ――Nasca――



 響くガイアメモリの作動音――



「なっ……」
「まさか……」

735Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:02:19 ID:zMkqANBk0



 そう、あかねの手にはナスカのメモリが握られていたのだ。
 翔太郎が殴り飛ばした先――丁度そこにナスカのメモリが落ちていたのだ。
 朦朧とした意識の中でそれを掴み――作動させ――
 そのまま自身の身体に挿入――
 ほどなくあかねの身体はナスカ・ドーパントへと変化したのだ――



「まずいぜコイツは……行くぜフィリップ!」



 ドーパントに変化したなら話は別だ。Wとなって迎え撃つしかない。ドライバーを装着しフィリップに――



「させると思う?」



 だがナスカ・ドーパントが瞬時に間合いを詰めドライバーへとその手を――



「ちっ、ドライバーが狙いか……」



 翔太郎はドライバーを奪われまいとそこに意識を集中させる――だが、



 ナスカ・ドーパントは突如狙いを変えそのまま駆け抜けた。



「なっ……」
「大丈夫か兄ちゃん!!」
『翔太郎、無事か!?』
「やべぇ……メモリが奪われた……」


 そう、ナスカ・ドーパントの手にジョーカー、メタル、トリガーのメモリがあった。


「これでもう変身出来ないわね」
「ぐっ……」
『まずい翔太郎、今の彼女は伝説の道着で潜在能力を高めた状態のままナスカに変身している、つまり……』
「戦闘能力は今までの非じゃねぇって事か……」



 ドーパント及び仮面ライダーに変身する際、来ている衣服もそのまま変化する――
 そして今現在あかねは伝説の道着を着用したままナスカ・ドーパントへと変身した――
 つまり、伝説の道着も一緒にナスカ・ドーパントの一部となったのだ。
 当然、伝説の道着によりあかねの潜在能力が100%引き出された状態でだ。
 加えて言えば――唯一の弱点だった解除ボタンもドーパントの肉体に変化した事でガードが堅くなっている。
 それでなくても全力で殴らなければ作動しなかったそれが並大抵のパワーでは作動しなくなったという事だ。
 つまり今のあかねは弱点を克服した最強クラスの格闘家のままナスカ・ドーパントへと変身したというわけだ。
 T2ではあるが元々ナスカメモリはミュージアムの幹部が所有するゴールドメモリにラインナップされていたものだ。
 ゴールドという事は通常よりも強大な力を持つのはおわかりだろう。
 無論、強大故にそうそう簡単にその力を引き出せるわけではないが――潜在能力を限界まで引き出されている今のあかねならば――



「がはぁっ!!」



 壁に叩き付けられた事で全身に激痛が奔る――



『大丈夫か翔太郎』
「ああ……今、奴の動きが見えなかった……」



 その力を引き出せるというわけだ――そう、レベル2の領域である超加速すら使用出来る様になったのだ。
 その高速移動により翔太郎の背後に回り殴り飛ばしたというわけだ。



「くっ……どうすりゃいい……メモリを奪われたままにはしておけねぇ……だが……」



 メモリはWの生命線、奪われたままには出来ない。だが取り戻すには最強クラスとなったナスカ・ドーパントを相手にしなければならない。


「下がってな、兄ちゃん」


 と、傍らに杏子が立つ。

736Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:02:44 ID:zMkqANBk0


「杏子……」
「変身出来ないんだろ? だったら黙って見てな」
「わかってんのか杏子、今のアイツは……」
「チンケな道着来てパワーアップしていい気になっているだけだろ? 幾らパワーを得たって中身は変わってないんだったら何の問題はないさ」


 そう口にする杏子だが本心ではない。幾ら中身が変わっていないとはいえ、今の彼女が厄介な相手である事に違いは無い。


「要するにアイツからメモリを取り戻せばいいんだろ? 楽勝っしょ」
「簡単に言うけどなぁ……」
「別にあたしが戦っている間に逃げろっていうつもりはないさ、はいこれちょっと預かっててくれない」


 と、自身の持っているデイパックを渡す。


「ちゃんと中のもの大事に持っててくれよ、よーく確認して……特に食料とかね」
「………………わかった、だが気をつけろよ……」


 言われた通り中身を確認しつつそう口にする翔太郎を余所に杏子は視線をナスカ・ドーパントへと向ける。


「というわけで選手交代だ、あたし個人としてもあんたに用があるんでね」


 そう言って抜き取っておいたサンドイッチをくわえる。


「ちょっと、これから戦うって時に何食べてるのよ?」


 そうツッコムナスカ・ドーパントだったが、


「何って腹減ってんだからしょうがねぇだろ」
「さっきも食ってただろうが……ていうか戦いながら食うなよ……食べ物を粗末にす」
「しねぇよばーか」



 と言いながら槍を棒高飛びの様に使って高く飛び――そのまま槍を分割(鎖で繋がっている)して刃をナスカ・ドーパントへと飛ばす。



 だが、ナスカ・ドーパントはそれをブレードで易々と防ぐ。



 しかし既に杏子は背後に回り込み柄の部分でナスカ・ドーパントを叩こうと――



 その瞬間にはナスカ・ドーパントの姿は消えていて――



 杏子の背後に無数の光弾が迫ってきた――超加速で回り込み光弾を発射したのだ。



「甘いんだよぉ!!」



 だが、杏子はその光弾を全てはじき返していく。
 その立ち回りを見てナスカ・ドーパントは驚愕する。
 先程も感じたが杏子の動きはあかね自身が知る格闘家よりもずっと精錬されている。
 しかし見た所自分より年下の少女にしか見えない。



「貴方……何者?」
「ああ? 只の魔法少女だ」
「それの何処が魔法よ!?」



 魔法少女、その可愛らしい言葉はロミオとジュリエットのジュリエットに憧れるあかねから見ても甘美に聞こえる。
 だが、その魔法少女のやっている事は時には力任せに、時にはトリッキーに槍を振り回し戦うだけじゃなかろうか。
 正直な話、格闘魔法少女と言われた方がまだ納得出来る。



「うるせぇな、大体アンタにとっちゃ只の敵なんだからそんなのどうだって良いだろ!」



 そんなナスカ・ドーパントの言葉に思わずそう返してしまう杏子であるが、

737Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:03:09 ID:zMkqANBk0



「それよりあんた……さっきから聞いてりゃ死んだ彼氏を生き返らせる為に殺し合いに乗ったらしいじゃねぇか?」
「貴方も探偵さんや梅盛さんと同じ様に説得するつもり?」



 今更何も知らない他人に何を言われようと引くつもりは全く無い。ナスカ・ドーパントはそう考えながら杏子へと間合いを詰めつつ仕掛けていく。



「いいや、あたしには兄ちゃん達みたいに殺し合いに乗るのはやめろなんていう資格なんてねぇからそれを言うつもりはねぇよ。それがあんたの望みだったら勝手にすればいいさ」



 そう言いながらナスカ・ドーパントの攻撃を次々と防いでいく。



「それであんたが良い目に遭おうが悪い目に遭おうが自分の所為、つまりは自業自得、それだけの話さ」



 そう言いながら再び槍で斬りかかろうとする。



「だったら放っといてくれる? 貴方にとっては私がどうなっても構わないんでしょ?」



 しかしナスカ・ドーパントは何事もなくそれを回避する。



「まぁそうなんだけど……あるバカの話を聞く気はないかい?」
「……?」
「戦いながらでも構わないさ、勝手に話すから……ちょっとばかり長い話になる……」



 ナスカ・ドーパントの攻撃をかわしつつ杏子は話し始める。



「その女の子の父親はとある教会で人々に説教を説いていた……正直すぎて優し過ぎる人だった……新しい時代を救うのは新しい新興が必要だって口にしていた」



「何を言っているんだ杏子の奴……」


 杏子の話は近くにいる翔太郎の耳にも届いている。


『翔太郎、杏子ちゃんが何か話しているのかい? 僕も興味がある、君が復唱してくれないか?』
「ああ、判った……」



「それで教義にない事まで信者に説教する様になった……でも誰も話を聞いてくれなかったし本部からも追放されてしまった」



『当然だろうね、客観的に見れば新手の宗教団体と変わらない。そんな胡散臭い宗教を信じる方がどうかしている』



「お陰で一家揃って食うのに困る程だったさ」
「あなたみたいに?」
「………………続けるぞ……だけど間違った事なんて言ってなかった……人と違う事を話しただけだ……ちゃんと聞けば正しい事だって誰にだってわかった筈なんだ……なのに誰も相手にしてくれなかった……」



「聞きもしねぇで正しいかなんて決められねぇからな……それにしてもよくあの攻撃の中で話出来るな……」



「誰もわかってくれないのがその少女には我慢出来なかった……だから……」



「『みんなが親父の話を真面目に聞いてくれますように……そう悪魔にお願いしたんだ』……」
『なるほど、その悪魔がキュウべぇ、そして杏子ちゃんは魔法少女になったと』



「おかげで教会の信者は増えていった……その代わりその女の子は怪物と戦う羽目にはなった……幾ら説法が正しくても怪物は退治できるわけじゃない……だからそこは自分の出番だって女の子は意気込んでいたさ……」



「『表と裏から世界を救うって』……だがな……」
『そう、そんなチャチな嘘で塗り固めた所でいずれは……そしてその時には……』



「そう……ある時カラクリがバレた……魔法の力で集まったのを知った時、父親はブチ切れたよ……娘の少女を人の心を惑わす魔女だって罵った……」
「……それ自業自得じゃないの?」
「全く笑い話さ、毎晩怪物と戦っていたのにさ……それで父親は壊れてしまった……酒に溺れて頭がイカれて……最後は家族を道連れに無理心中さ……少女1人を置き去りにしてね……少女の祈りが家族を壊しちまった……」

738Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:03:36 ID:zMkqANBk0



「『他人の都合も知りもせず、勝手な願い事をしたせいで、結局誰も不幸になった』……」
『なるほど……それが……』
「ああ……杏子、あんたのビギンズナイトか……」
「だから誰があたしの話をしたって言ったんだ! 知り合いのバカの話だって言ってんだろ!!」



 嘘だ――杏子はそんな他人の行動を安易に侮辱する様な奴じゃない。
 つまり、自分自身に起こった事をさも他人の出来事の様に語っていただけなのだ――もっとも、翔太郎とフィリップにはバレバレだった様だが。



「……それでその女の子の話がどうかしたの? 他人の不幸を人に聞かせるなんて良い趣味じゃないわね」
「ちょっと待て……おいアンタ、本気で気付いてねぇのかよ!?」



 一方、あかねの方はそれが本気で杏子の知り合いの話だと思っている様だ。



「わからねぇか? 今のあんたがどことなくその女の子と同じ事をしようとしているって言っているんだよ……」
「何ですって……」
「言った筈だ……他人の都合も知りもせず勝手な願い事をしたせいで誰もが不幸になったって……願い事が叶ってその彼氏が戻ったとしても……あんたも彼氏も幸せになんてなれないって事さ……」
「そんな事、やってみなけりゃわからないじゃないの」
「奇跡ってのはタダじゃないんだ……それを祈れば同じだけ絶望がまき散らされる……そうやって差し引きをゼロにしてバランスは成り立ってんだよ……」



『そうだ……あの時死んだ僕がデータ人間として生き返ったからこそ僕の家族は……そして消滅するはずだった僕が戻れたのも若菜姉さんのお陰……』


 翔太郎経由で伝えられた杏子の言葉はフィリップの胸にも刺さる。


「フィリップ……」


 そんな翔太郎達を余所に、



「……言いたい事はわかるわ、でもね、さっきも言ったけど私達もそうなるとは限らないわ。大体さっきから何? 説得するつもりなんて無いって言っておきながら説得しているんじゃないの?」
「別に? ただあんたがその子と同じ間違いをしそうだから口を出しただけさ、そういうの見ていられないんだよね……まぁ、自業自得といえばそれまでだけど……」



 と、ナスカ・ドーパントの攻撃をかわしつつ、



「アンタの自業自得に『そいつ』まで付き合わせるわけにはいかねぇんだよ!」



 目を見開いて言い放った。



「あんたが後生大事に抱えているその腕……それが持っているもの……それだけはアンタに持っていかせるわけにはいかねぇ!」
「……!」



 ナスカ・ドーパントは抱えている乱馬の腕が未だに力強く握っている『それ』を見る。
 それは山吹祈里の持っていたリンクルンだ。プリキュアの力を与えるらしいそれを何故杏子は欲しがっているのだろうか?



「貴方と『これ』が一体何の関係があるの? 私のものってわけじゃないけど別に貴方のものってわけじゃないでしょ、だから渡す理由なんて……」
「ああ、確かにあたしのものじゃねぇ……だけどそいつはあたしの……」



 そういってナスカ・ドーパントが繰り出す無数の光弾をすり抜け――



「『友達』のものだぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 最後まで自分よりも他人のことを気遣って逝ったせつな――


『自分を幸せにする為に生れてきたの。でも、自分を責め続けたって本当の意味で幸せにはなれないわ……杏子だって自分を責めたり傷つけたりしないで、幸せになってもいいの』


 散々悪行を重ねてきた自分を説得し最期に『友達』とまで言ってくれたせつな――
 正直、それに今更応えられはしないだろう。幸せになるには余りにも罪を重ねすぎた――
 皆の為に犠牲になるつもりではあってもそれはせつなが望むものではないだろう――

739Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:04:07 ID:zMkqANBk0


 だが――


『ラブや美希、それにブッキーって呼ばれてる祈里って子の事……お願いね』


 その最期の願いは裏切れない。どんな人物かは詳しく聞けなかったが同じプリキュアでリンクルンを所持しているのは確かだ。


 その最中、乱馬の腕がリンクルンを掴んでいるのを見た――
 最初は何故それがあるのかはわからなかった。だが、フィリップの推測等からリンクルンの所持者がダグバに殺された可能性が高く、それを乱馬が奪還したと見て良いだろう。
 そしてそれをあかねが持ち出した――


 早い者勝ちという考えもあり、今までの杏子だったらとやかく言うつもりはなかった。
 だが、今は違う。せつなから託されているのだ。
 アレは間違いなくせつなの友達が持っていた物だ、せつなの友達なのだ、きっとせつな同様自分よりも他人の為に戦う様なお人好しに決まっている。
 だから彼女が他人の為に戦って散ってもそれをどうこういうつもりはない。
 しかし――その彼女の所持品を殺し合いに乗った悪人が持ち悪用する――


 それはそれを持っていたせつなの友達やせつなが望む事ではないだろう?


 結局死なせてしまった以上、せつなの約束は破ってしまった事になる。だが、残された彼女の想いまでは穢させない――自分を『友達』と言ったせつなの為にも――
 『友達』の『友達』は『友達』なんて安っぽい理屈が通じるとは杏子は思わない。だがきっとせつなはそう言うだろう。
 だからこそ、『友達』の物を取り戻すのだ――



「(姫矢の兄ちゃんやせつなから受け継いだ力を使えばもっと簡単だったかもな……けど、コイツ相手には使わねぇ……絶対にだ!)」



 しかし杏子は未だそれらを使う気にはならなかった。まだ自身が使って良いのかという事に抵抗があったのもある――
 だが、目の前のあかねは、テッカマンランスやガドル、そしてダグバと違い他人の為に戦っている――
 そんな相手にネクサスやプリキュアの力を使う気になどならなかったのだ――



 だが問題は無い。相手の動きは大体見切った。くぐり抜けた修羅場はこちらの方が大きい、猛攻をすり抜けほんの一撃乱馬の腕を叩き落とせば良い。
 それを回収すれば今度は翔太郎のメモリを取り戻す、2対1になればまだ立て直し様がある。
 多少のダメージならば何の問題は無い、最悪の場合の保険もかけてある――



「でぃりゃぁぁぁぁぁぁ!」



 マズイ、非常にマズイ――捨て身覚悟の杏子の突撃にナスカ・ドーパントは焦燥した。
 伝説の道着が幾ら強化するとは言えそれは潜在能力を100%引き出すもの、つまりは強化に限界はあるという事だ。
 突撃は速度は速くレベル2のナスカの力をもってしても対応しきれない――



 それが意味するのは――ナスカ・ドーパントの敗北である。



 だが――伝説の道着で真の力を得た事に加え、ナスカで得た力もある。
 それだけの力を得て負ける事など許されるのか?
 敗北した瞬間、メモリも道着も失うのは必至、それはイコール詰みである。



 それは乱馬を『守れない』と同義である――



「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」





 ――何故、佐倉杏子はここに来て自身の罪、つまりは自身の身勝手な決断で全てを失った事を告白したのだろうか?





 勿論、それは眼前の少女が自身と同じ過ちを犯そうとしていたのを見て、自身と同じ結末になるのが見るに耐えなかったというのもあるだろう――





 だが、もしかしたらそれは少女の為ではなく自分自身が悔い改める為だったのかも知れない――

740Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:04:37 ID:zMkqANBk0





 懺悔――つまり、神の前で自身の罪を告白し悔い改める、あるいは許しを請うというものである――
 だが――これはあくまでも1つの考え方に過ぎないが――
 懺悔とは結局の所、告白者自身が新たな一歩を踏み出す為のものではなかろうか?
 生まれ変わる――という程大げさな事をいうつもりはない。
 袋小路に嵌まってしまい一歩も進めなくなった状況から抜け出す、新たな扉を開いたは良いが足がすくんで動けない――
 その状況で一端心を落ち着け清め、小さな一歩を踏み出す――そんな程度の話でしかないのだ。





 勿論、杏子自身がそこまで考えていたとは限るまい――彼女自身も知らず知らずに何気なくやってしまった程度のものだろう――






 そして――





 佐倉杏子は――





 壁に十字にめり込まれた形で――





 左胸にナスカブレードを突き刺され――





 磔にされていた――





 さながらそれは人々を救おうとした聖人の様に――





「はぁ……はぁ……」



 震えが止まらない――
 無論、いずれはやらなければならなかった。それは理解している。
 だが何だろうか? 心の奥底から湧き上がる嫌な感情は――
 『守る』為には後何度同じ事を繰り返さなければならないのだろうか――



 呆然と立ち尽くすナスカ・ドーパント、だがまだ終わってはいない。気持ちを落ち着けて残る者達と対峙せねばならな――





 その時――一陣の風が駆け抜けた――



「!?」



 風が吹きすさぶ方向を見る――そこには――



「あれは……」



 ドッペルゲンガーか何かなのか?



 そう、青色の戦士――ナスカ・ドーパントがそこにいたのだ――

741Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:05:03 ID:zMkqANBk0










Passage 09 フィリップの意味



『翔太郎、状況はどうなっている?』
「杏子の奴殆ど防戦一方だ……くっ、メモリさえあれば……」


 翔太郎は自身の過ちを悔やんだ、また自身の勝手な決断で取り返しのつかないミスをしてしまうのかと――
 だが悔やんだ所で最早どうにもならない。今はまだ杏子が持ちこたえているが、杏子が破れてしまえば自分達は全滅、良くてメモリをそのまま持ち逃げされてしまうだけだ。
 そもそも持久戦自体出来る状況ではないのだ、このナスカ・ドーパントとの戦いにはタイムリミットがあるのだ。
 焦る翔太郎はどうすれば良いのかと考える。変身せずに飛び込んだ所で自殺行為以外の何者でもない、それどころか杏子から預かり物をしている以上、それを守る為にも飛び込むことすら出来ないのだ。
 悔しそうに戦うのを見つめるしかできない翔太郎を余所に、


『翔太郎、メモリを使うんだ』


 相棒がそう口にした。


「メモリって俺のメモリは全部アイツに……」
『本当に全部なのかい? 君の手元にはもう1本メモリがある筈だ』
「………………まさか、霧彦のメモリか?」


 フィリップは霧彦が所持していたメモリを使えと言っているのだ。


『ドライバーの方は?』
「さっき蹴りを受けたが破損とかはなかったぜ」
『使えるならば問題は無い……』
「……だがコイツはミュージアムの……それも幹部が使っているメモリだぜ?」


 しかし翔太郎自身、街を泣かせた敵ともいうべきミュージアムのメモリを使う事に抵抗があった。
 メモリによる汚染も心配だったし何より本来なら敵側のドーパントに変身したくはなかった。
 無論、フィリップも翔太郎の考えている事は理解している。


『翔太郎……僕と君が初めて出会ったあの夜……ビギンズナイトの時に僕が言った言葉を覚えているか?』



 それは全ての始まり、2人が出会ったビギンズナイトの夜――
 翔太郎が持っていたダブルドライバーと6本のメモリを見て究極の超人が生まれる事に対し狂った様に笑うフィリップに対し、


『何がおかしい? この悪魔野郎……お前達の作ったメモリの所為でこの街がどんなに泣いてるかわかってるのか!?』


 そう激昂する翔太郎だったが、


『拳銃を作っている工場の人間が犯罪者か? 違うだろう、使って悪事をする人間が悪い、より効果の強いメモリを見たいだけなんだ』

 そう平然と言い放つフィリップだった――



「ああ、そんな事も言っていたな……」
『要するにそういう事だ、メモリを使う事が罪じゃない、メモリを使って悪事をする事が罪だ……それに君だってわかっている筈だ、園咲霧彦の最期の戦いを……それは悪のものだったのか?』
「いや……アイツは人々を守る為に戦った……2度共な……」


 フィリップの言おうとしている事は理解している、出来うる限り使うべきではないがこの状況を切り抜けられる可能性がある手段はこれ以外にないのも事実だ。
 だがそれでも踏ん切りが付かないのだ。


『翔太郎……僕のもう1つの名前……フィリップの意味……君はよく知っている筈だ』
「ああ……忘れるわけねぇだろ……俺やおやっさんが大好きな男の中の男の名……」


 翔太郎や荘吉の原点ともいうべきハードボイルド探偵、フィリップ・マーロウ――
 自分の決断で全てを解決する男だ――


『園咲来人という名前と過去を消され、その時まで何1つ決断しなかった僕に鳴海荘吉が与えてくれた名だ……自分自身で決断しろとね……』


 ビギンズナイトで2人は罪を犯した――
 翔太郎は勝手な決断をした事、フィリップは決断をせずに生きてきた事、


『翔太郎、決断をしない事もまた罪だ……後は……』
「その先は必要ねぇよ……男の仕事の八割は決断だ、後はオマケみたいなもんだ……」


 意を決しガイアドライバーを装着するため一端ダブルドライバーを外そうとしたが、

742Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:05:27 ID:zMkqANBk0


『待ってくれ翔太郎、ダブルドライバーを装着したままドライバーを装着してくれないか?』
「は? そりゃ出来なくはねぇが……」


 フィリップの意図がわからず思わず不思議そうな顔をする。

『僕も付き合わせてくれないか?』
「そりゃいいけどよ……けど別にWに変身するわけじゃねぇからこうやって話す事しか……」
『それでも構わない、僕も君と共にそのメモリを……』
「だからなんでだよ!?」
『そのメモリは冴子姉さんのメモリでもあるんだ』


 園咲冴子が使用していたのはタブーのメモリである。だがミュージアムを裏切った事で一時期そのメモリを失った事があった。
 だが彼女はミュージアムを裏切ろうとした霧彦を始末した際にナスカのメモリを確保していた、そして隠していたそのメモリを手中に収め――ナスカ・ドーパントとして舞い戻ってきたというわけだ。


『非科学的だとは思うが……姉さんの力を借りたいと思う、君だって園咲霧彦の力を借りるつもりだったんだろう?』
「それがお前の決断が……いいぜフィリップ!」



 その言葉と共にダブルドライバーを装着したままガイアドライバーを装着する。
 幸い、ナスカ・ドーパントと杏子は戦いに夢中で此方には一切気付いていない。



『翔太郎、あくまでも君が使うのは……』
「わかっている、確実にやれるタイミング……そこで仕掛ける!」



 その最中、杏子がナスカ・ドーパントに突撃を仕掛ける。



『まだか翔太郎?』
「まだだ……」



 だが、寸前の所でナスカ・ドーパントのカウンターが炸裂しナスカブレードを刺されたまま壁へと叩き付けられる――



「今だ! 行くぜフィリップ!!」



 ――Nasca――



 作動させたメモリをドライバーへと挿入、メモリ内部の記憶が翔太郎の身体をナスカ・ドーパントへと変化させる――



「うぉぉぉぉぉぉ!!」



 そのエネルギーは強い、霧彦や冴子はこのエネルギーにずっと耐えてきたというのか? 今更ながらにその事実に驚愕する――



「霧彦……」
『冴子姉さん……』



 翔太郎は耐える――フィリップは祈る――



「俺達に……!」
『力を……!』



 それはある種の爆発とも言うべき一瞬の加速――



 瞬時にもう1体のナスカ・ドーパントの側を駆け抜けた――



「どうして同じドーパントが……?」



 何故自分と同じナスカ・ドーパントがいるのか、それを理解できないでいる。



「同じだと……違うな……コイツは子供達の笑顔を守る為に戦い風となった男が遺した力だ……力だけをコピーしたそいつと一緒にするんじゃねぇ……」

743Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:06:09 ID:zMkqANBk0



 そう言って変身を解除しメモリを抜き取る――時間にしてみれば10秒にも満たない時間だ。



「探偵さん……あなただったの?」



 もう1体のナスカ・ドーパントの正体が翔太郎だったのを見て問いかける。



「ああ」
「どうして変身を解いたの? 同じドーパントなら条件は一緒だったんじゃ……」



 翔太郎が変身を解いた理由をナスカ・ドーパントは理解できないでいる。



「ドーパントになって戦うつもりなんて最初からねぇよ……」



 そう、フィリップも翔太郎もナスカ・ドーパントとなって戦うつもりなどなかった。
 当然だ、ドーパントに変身する事に抵抗云々関係無く長時間変身するべきではない。
 ゴールドメモリのパワーはそれだけ危険なのだ。変身出来て数十秒、それ以上の変身は命に関わりかねない。



「俺が欲しかったのは……」



 と、3本のメモリ――ジョーカー、メタル、トリガーを取り出す。



「そのメモリは!?」
「そうだ、俺が……いや俺達がナスカに変身したのは最初からメモリを取り戻す為だけだ……取り戻したぜ……Wをな!」



 翔太郎達の狙いは最初からWのメモリの奪還だったのだ。ナスカ・ドーパントのスピードならば短時間でそれを成す事が出来る。
 後は目の前のナスカ・ドーパントが隙を見せたタイミングで仕掛けた――そういうことだ。



『やったね翔太郎……ゾクゾクするよ』
「行くぜフィリップ」



 そう言ってメモリを構えるが――



「くっ……変身なんて……」



 だがそれを阻止するべくナスカ・ドーパントが突撃をかけようとするが――



 次の瞬間、ナスカ・ドーパントの眼前に何かが落下し地面に刺さり込む。ナスカブレード――



「!?」



 飛んできた方向は背後――確かそこには――



「よう」



 杏子が何事もなかったかの様に壁から出ていた。その間に、



 ――Cyclone――



 ――Joker――



「『変身!!』」

744Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:08:02 ID:zMkqANBk0



 ――Cyclone Joker――



 2人は右半身が緑、左半身が黒の戦士、仮面ライダーWサイクロンジョーカーへと変身していた。



「そんな……どうして……?」



 Wへと変身を許してしまった事もそうだが、何故仕留めた筈の杏子が平然としているのが不思議だった。



「ああ、大した事じゃねぇよ、あんたの攻撃は急所を外していただけだ」
「嘘、どう見たって心臓を……」
「実際外していたんだからしょうがねぇだろ」
「大丈夫か杏子?」
「僕達が来たからにはもう大丈夫だ、はい君の大事なものだ」
「サンキュ」


 と、何事もなかったかの様にWは杏子から預かっていたデイパックを返す。


「(まぁかなり分の悪い賭けだったけどな……)」


 と、杏子はデイパックに隠していたあるもの――ソウルジェムの無事を確認する。
 実は杏子は翔太郎にソウルジェムを預けていたのだ。
 魔法少女はその魂をソウルジェムへと変化させる――その結果、肉体そのものは魂のない抜け殻となる。
 それ故に肉体を幾ら傷つけようとも修理さえ出来れば何の問題も無いのだ。
 逆を言えば、ソウルジェムさえ破壊すれば簡単に仕留める事が出来るという事でもある。

 杏子はナスカ・ドーパントと単身戦うにあたって最悪の事態を想定した。
 普通のやり方では致命傷にはならないとはいえ、知らず知らずソウルジェムを持っている所に仕掛けられる可能性は高い。
 そこで、敢えて自身の手元にあるソウルジェムを翔太郎に預けたのだ。
 これなら攻撃の矛先が翔太郎に向かない限りはまず自身のソウルジェムが傷つく事は無い。
 そして治療できるダメージである限りは全身の骨が砕かれ様が心臓を破壊されようが死ぬ事は無いという事だ。

745Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:08:22 ID:zMkqANBk0

 但し、ソウルジェムと肉体を離しておける距離は100m圏内、これはあくまでもコントロール出来る限度なので実戦レベルではそれよりもずっと短いと言えよう。
 つまり翔太郎が杏子から離れすぎたらその時点で杏子は戦闘不能になるというわけだ。
 だが、杏子は翔太郎が戦場から去る可能性は低いと考えていた。
 渡した時に言った何気ないメッセージからデイパックの確認をさせソウルジェムがある事を確認させる。
 この時点で杏子の狙いに気付けば翔太郎がこの場を去る事はまずない。翔太郎は魔法少女の秘密を知っているのだから離れる事の意味も知っているのだからだ。
 勿論、それでなくてもメモリも奪われている状態で杏子1人だけを残し逃げる様な性格じゃないのは十分に理解している。
 とはいえ、逃げる結果になってもそれはそれで構わなくはあった。どちらに転んでも最悪翔太郎達を逃す事は出来たのだからだ(勿論、そんな可能性は限りなくゼロに近いが)。


「(まぁまさか兄ちゃんがアイツと同じドーパントになって自力でメモリ回収するとまでは思わなかったけど)」


 ちなみに――翔太郎が単身戦っている間にグリーフシードを使用した事でソウルジェムの濁りは回復させたので戦闘能力は戻っていた。
 ここに至るまでの戦いでそれなりに消耗もしているが致命的なものではない。左胸を刺されてはいたが杏子自身口にした通り心臓を外していた為、そこまで問題は無い。
 翔太郎がナスカ・ドーパントと話している間にブレードを抜きながら一時的でも傷を塞いでいった為出血も最小限に抑えている。


「だが翔太郎、急いだ方が良い。彼女……大分メモリにのまれかけている」
「ああ、さっきまでは人を殺す事なんてどう見ても出来そうになかったが……今の杏子の一撃を見る限り……」


 結局の所、杏子が直撃を免れたのはナスカ・ドーパントの心に迷いがあったからだ。しかし、普通の人間ならば十分致命傷になりかねない一撃だった事に違いは無い。
 思えばメモリを奪った時点で逃走すれば良いのにそれもせず延々と戦い続けている事も不可解ではある。
 故に――天道あかねはガイアメモリに大分汚染されていると考えて良い。迅速にメモリを排出しなければ取り返しの付かない事になる。


「それに僕達は知っている……ナスカには……」
「ああ……」


 だが、メモリを排出させる為にはマキシマムドライブ級の一撃を叩き込む必要がある。
 しかし、今のナスカ・ドーパントの能力を考えるならばメモリの差し替えは隙を見せる事に他ならない。
 加えて言えばマキシマムドライブを発動できた所で防がれてしまえば何の意味も無い。


「何か手はないのかフィリップ?」
「確かに僕達2人じゃ難しい……だが今は2人だけじゃない、杏子ちゃんもいる」
「ああ」
「僕に1つ手がある」
「? 何か手があるのか?」


 秘策があると語るフィリップに対し杏子が問いかける。


「キーワードは波だ」

746Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:08:48 ID:zMkqANBk0










Passage 10 Heaven's Tornado



「さっきから何をごちゃごちゃやってんのよーっ!!」


 と、ナスカ・ドーパントが光弾を乱射してきた。


「はっ!」


 杏子は棒高跳びの様に高く飛び上がる。


「翔太郎、僕に任せて!」
「あ、ああ!」



 一方のWは軽快なステップで光弾を回避しナスカ・ドーパントへと間合いを詰めていく。



「なっ、踊り!? ふざけているの!?」



 そう言いながらWは回転しながら拳を振るいナスカ・ドーパントへと仕掛ける――無論、この程度の動きならば対応は可能だが――



「あたしがいる事忘れるんじゃねぇ!」




 と、背後から杏子が槍で突き刺そうとする。ナスカ・ドーパントは何とか紙一重でこれをかわす。



「杏子ちゃん、君は好きに動いてくれ。僕達が勝手に合わせる」
「あ、ああ……」
「おいフィリップ、まさかお前……」



 元々、杏子の戦い方はスピードや変幻自在の槍を駆使してのトリッキーな動きによって相手を翻弄するものだ。
 そしてその動きに合わせながら踊るかの様にWもまた軽快な動きを見せる。



 対するナスカ・ドーパントはWの謎の動きに苛立ちを見せる。
 無論、攻撃は仕掛けている。だが杏子にしてもサイクロンジョーカーである今のWにしてもスピードに秀でている故にことごとく回避される――



「ははっ、面白ぇじゃねぇか!」



 一方の杏子もWの動きに関心を持ち、少しながらも合わせる様にする。勿論踊る――とまではいかないが軽快な動きはそのままだ――



 ナスカ・ドーパントは加速して仕掛けようもことごとく回避され逆にもう片方から仕掛けられる――



「ぐっ……さっきからちょこまかと……」



 踊るような2人(実際に踊っているのはWだけ)ナスカ・ドーパントはまるで格闘新体操や格闘スケートをやっている様な感覚を覚えた――何故こんな所でと思わずにはいられない。



「なぁ、フィリップ……こいつは……『Heaven's Tornado』か?」
「その通りだ翔太郎」

747Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:09:19 ID:zMkqANBk0



 ある時、フィリップが地球の本棚にて興味を持った謎の本、キーワードが足りず閲覧する事の出来なかったのが『Heaven's Tornado』、フィリップは何とかそれを閲覧しようと飛び出して行った――
 一方の翔太郎は当時街を騒がせていた闇のお仕置きヒーローを追っていた――
 彼等が追っていったその先は1組のダンサーへと繋がる――
 『Heaven's Tornado』はそのダンサーの技だったのだ――ようやく見る事が出来ると思われたその時、お仕置きヒーローの正体であるドーパントによってダンサーの片割れが負傷し踊れなくなった――
 だがその時に口にしたキーワード『波』を手に入れた事で閲覧を成功させる――


『『Heaven's Tornado』の鍵は2人で生み出す……波のリズム……』


 かくしてフィリップの変身したWが片割れの代わりとなりドーパントと戦いながら踊り――
 遂に『Heaven's Tornado』を現実のものにしたのだ――



 それをこの戦いで再現したのだ――勿論、フィリップも杏子もダンサーというわけではない為ダンスとは言いがたい。
 だが、『Heaven's Tornado』で重要なのは2人が生み出す波のリズム――
 そう、あの時もダンサーではないフィリップことWがそれを成功させたのは波のリズムを生み出したからなのだ――

 警戒に動き回りながら杏子はWの方を見る。Wはなにやら手を構えて待っているかの様だ――



「(掴めってことか?)」



 Wの意図をくみ取りその手を掴む――



 その瞬間Wは杏子を高く持ち上げ――



 そのまま回転させる――



 その動きはさながら神が巻き起こす竜巻の様に――



 そのままナスカ・ドーパントへと近づく――



 杏子は槍を何節に分けフレイルの様に振りかざし竜巻の回転に乗って何発も当てていく――



 ナスカ・ドーパントは防ごうともその波状攻撃を防ぎきれず――



 ついに、杏子の狙いであった乱馬の腕を弾き飛ばしたのだ――



 何故フィリップは唐突に『Heaven's Tornado』を使う事を提案したのか?
 それは杏子がリンクルンの奪還を考えていた事を聞き、その事を思い出したのだ。
 実はその一件では問題のドーパントにサイクロンとジョーカーを除く4本のメモリを奪われていた。
 フィリップ自身はメモリよりも『Heaven's Tornado』の方ばかり気にしていたが、翔太郎にとっては当然死活問題だった。
 だが、『Heaven's Tornado』で奪還に成功、そのままルナトリガーとなりマキシマムドライブで撃破したのだ――
 そう、その時と状況が似ていたからこそこの事を思い出したのだ。
 無論、これは相方との信頼関係が無ければ成功する事は無い――
 故に、同時にフィリップの杏子に対する信頼の証でもある――

748Wっくわーるど/イチポンドノフクイン ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:09:42 ID:zMkqANBk0



「今だ!」



 Wの腕を放しリンクルンを持つ乱馬の腕へと手を伸ばす杏子――



「渡さない!」



 一方のナスカ・ドーパントも超加速を駆使し乱馬の腕へと迫る――



 両者がその手を伸ばすタイミングは殆ど動じ――否、



 ナスカ・ドーパントの方が若干速い――



 だが――



 思い出して欲しい、乱馬の腕はずっとリンクルンを握りしめていた。
 リンクルンは伝説の戦士プリキュアの持つ道具、それ故に邪悪な心を持つ者を拒絶する――
 ならばこれ以上の説明は必要あるまい――



 リンクルンの力がナスカ・ドーパントを拒絶し触れられなかったのだ――



 無論、このまま押し切れば無理矢理掴む事は出来ただろう――が、



「だりゃー!!」



 だが、せつなの友達のリンクルン、あるいはその想いを守らんとする杏子の腕がそれより速く――



 乱馬の腕共々リンクルンを掴んだのだ――



 腕を掴む事が出来ず愕然とするナスカ・ドーパントだが、



 ――Joker Maximum Drive――



 その音声と共にWが風と共に舞い上がる――



「「ジョーカーエクストリーム!!」」



 その言葉と共に蹴りの体勢へと入り――



 中央から真っ二つに分かれ――



 二発の蹴りをナスカ・ドーパントに叩き込んだ――

749Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:20:05 ID:zMkqANBk0
Passage 11 梅盛源太の意志



 情けねぇ――



 人々を守る為に侍になったのに――



 何も守れていない――



 ダークプリキュアからあかねを守ろうとした時も殆ど何も出来なかった、
 何故かダークプリキュアの気が変わり見逃してくれたから助かったがそれがなければあのまま――
 仮面ライダーエターナルに襲われた時もそうだ、
 本来は敵である筈の外道衆の不破十臓が引き受けてくれなければ自分達は死んでいた――
 警察署でもそうだった、
 何気なくシンケンゴールドに変身した事でアインハルトのトラウマを呼び起こしパニックに陥らせ飛び降りさせる羽目となった。
 それを乱馬が助けてくれなければ彼女は死んでいた――
 そしてあの白い怪人ダグバとの戦い、
 その戦いすらも乱馬とアインハルトに任せただけで自分はあかねと一緒に見ていただけじゃなかったのか、
 その結果乱馬が命を落とし、あかねを殺し合いに乗せる結果となった――
 そしてそれすらも止められずこのザマだ――



 何も守れていないじゃないか、
 外道や子供達が守れているのに何故侍であるはずの自分が何も守れない?



 これじゃ――何の為に侍になったのかわからないじゃないか――



 こうしている間にも殺し合いは進んでいる――



 だが身体が動かない――



 自分はあまりにも――無力だ



『寿司屋……何を寝ている?』



 誰だ――



「あんたは……十臓の旦那?」



 夢をみているのだろうか? それとも自分はもう――



「すまねぇ……俺達を守る為にあんたは……」



 だがそんな事はこの際問題ではない、自分達の所為で殺された事を謝ま――



『勘違いするな、俺はお前達を守ったつもりはない。俺は強い奴と斬り合えればそれでよかった……それに、お前の寿司を台無しにされた借りを返したかった……』
「俺はそんな事なんて……」
『貴様がどう思おうが知ったことか、俺が勝手にやっただけだ……大体貴様こそシンケンジャー……侍なのに何故外道である俺に手を貸した?』



 逆に十臓から問われてしまう。だがその問答はエターナルとの戦いでも行った事だ。



「言った筈だ……あんたは俺の客だ、客を守るのが俺のポリシーなんだ! 俺は……寿司屋だからな」
『やはりお前は本当に面白いな……』



 そう行って去って行こうとする。



「旦那! 何処に?」
『言っておく……お前は侍には向いていない……寿司を握っている方がお似合いだ……また、お前の寿司が食いたかった……』



 その言葉を最後に十臓は――消えた。

750Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:20:37 ID:zMkqANBk0



「何だったんだ……」



 と、突如後ろを振り向くとそこには、



「流ノ介……」



 池波流ノ介が正座して座っていたのだ。



「流ノ介……どうして……いや、そんな事はどうだっていい……すまねぇ、俺は……」



 何を謝ろうとしているのだろうか?
 侍の使命に刃向かって外道を助けた事か?
 侍であるにも関わらず人々を守れなかった事か?
 流ノ介が戦い命を落とした一方、自身はのうのうと生き延びている事か?
 目の前で外道に墜ちようとしている少女を止められなかった事か?



『確かに甘過ぎだ……貴様には侍の覚悟はない!』



 言葉に詰まる十臓に流ノ介はそう言い放った。だが、



『だが……それでこそ源太だ……』



 そう言って立ち上がり去って行こうとする。



『お前の様な侍が皆には必要だ……殿達もそう思っている……』



 そういって流ノ介もまた消えていった――



「わかんねぇよ! 何が言いてぇんだよ!!」



 だが、本当に自分が必要なのか? 今の源太にはそれを信じる事が出来なかった――



「何なんだ一体……」



 苛立ちながらも周囲を見回す――と、



「……? 丈ちゃん?」



 胡座をかきながら紙を折る志葉丈瑠の姿をみつけた。



「丈ちゃん……丈ちゃんなのか……!?」



 何故ここに丈瑠がいるのか? いや、そんな事は今は考えるな――



『源太……お前、何故シンケンゴールドになったんだ?』
「え……?」



 丈瑠は何を聞きたいのだろうか?



『お前は流ノ介達と違い侍の家に生まれたわけじゃない……志葉家の当主と共にシンケンジャーとして外道衆として戦う必要は全く無い……』

751Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:21:14 ID:zMkqANBk0



 その言い方にどことなく違和感は覚えるものの今は良い、それよりも何が言いたいのだろうか? だが、その答えは決まっている。


「殿様として戦う丈ちゃんの力になりたかったからに決まってるじゃねぇか!」
『……それは、俺が志葉家の殿だからか?』
「違う、丈ちゃんは俺の大事な幼馴染み……友達だ! 友達を助けたいからに決まってるじゃねぇか!」
『そうだな……』



 それを聞いた丈瑠の声は何処か穏やかだった。



『なぁ源太……どうして外道である十臓を助けたんだ?』
「え……それは……旦那は何処か他の外道とは違う気がしたんだ……いや、それ以上に……それに何よりアイツは俺の客だ、俺の寿司をうまいと言って喰ってくれたんだ。客を守るのは寿司屋として当然の……」



 寿司屋だから客を守るのは当然の使命――確かにそれは事実だ。
 だが、源太が客を守るのは寿司屋だからなのか?



『それは寿司屋の使命だからか?』
「……いや、少し違う……寿司屋だからじゃない……俺の寿司を食って笑ってくれたからだ!」



 源太が寿司を握っているのはあくまでも親の後を継いだからだ。
 源太自身が寿司が好きというのもある。
 だがそれ以上に――自身が握った寿司を食べて人々を喜ばせたいからではなかろうか?
 そんな人々を守りたかったのだ――それは外道であっても関係無い、寿司を食べて喜んだ時点で1人の客だ。
 その客を守りたかったのだ。



『お前が寿司を握っているのは結局はそういう事なんだろう……だったらそれで良いじゃないか』
「丈ちゃん……」
『なぁ……どうしてあの子を止めたいと思ったんだ?』



 それはあかねの事を言っているのだろう。



「え、そりゃ……」



 だがその先が出てこない。



『侍の使命だからか?』



「いや……違う……乱馬の兄ちゃん、姉ちゃんを守る為に戦って死んだんだ……きっと兄ちゃんは姉ちゃんに戦って欲しくも傷ついて欲しくもなかったんだ……だから……」



 そう、だからこその先のあかねに対する言葉なのだ。もっともそれは全く通用しなかったが――



『早乙女乱馬の為……確かにそれも間違ってはいない……だが、本当にそれだけなのか? そうじゃないだろう……なぁ、お前自身はどうなんだ?』



 丈瑠は何を言いたいのだろうか?



『言い方を変えるか……そうだな……早乙女乱馬の件とは別にしてだ……全く理由も分からず突然殺し合いに乗るなんて言い出した時は止めないのか?』
「……?」
『あの子はお前の何だ? もうわかっているだろう?』



 その言葉で、



「ああ、止めるさ……」
『それは外道を止める侍の使命だからか?』
「違う……」
『他の知らない誰かの為なのか?』
「違う……」
『じゃあ何の為だ?』



「それは……俺自身が止めたいからだ!!」

752Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:24:30 ID:zMkqANBk0



 それが源太の答えだ。それを聞いて穏やかな笑顔を浮かべ、



『そうだ……それで良い……自分を偽るな……』
「丈ちゃん……」
『それが道を外れたものであっても気にするな、それは只の結果だ。お前はお前の心に正直に往け……侍も外道も関係無い……お前はお前だ……』



 そうこうしている間に丈瑠の手にあった紙は1つの紙飛行機へと折り上げられていた。



『なぁ源太……お前に取って俺は何だ?』



「そんなの決まってる! 丈ちゃんは俺の……友達だ!!」



『良かった……それだけでもう俺は十分だ……』



 そう言って紙飛行機を飛ばす、紙飛行機は闇の中を飛んでいく――



『飛び続けろ……源太……落ちずに……』



「……わかったよ丈ちゃん……俺、行ってくる」



 そう言って、紙飛行機を追いかけるように走り出す――



『そうだ……お前は間違えるな……俺の……様に……』



 後ろで丈瑠が何か言っているが上手く聞き取れなかった――



 結局の所、何故いきなり3人が目の前に現れたのだろうか?
 いや、きっと無力感で袋小路に陥った自分に思い出させたのだろう。
 自分が本当にすべき事、あるいはやりたい事を――



 1つだけ確信出来る事がある――死者である筈の十臓と流ノ介の後に丈瑠が現れた事の意味――
 それは既に丈瑠がこの世にはいない事を意味している――
 結局、丈瑠の心に何があったのか、そして何をして散っていったかはわからない。
 人々を守る為に戦ったのだろうか? それとも――



 だが、1つだけハッキリとしている事がある――



 志葉丈瑠と梅盛源太は友達――それだけは変わらなかった。



 それだけわかれば十分だ――



「一貫……献上!」



 気が付けば奔っていた――



 気が付けば手元にあったスシチェンジャーを寿司の様に出してシンケンゴールドへと――



 そしてそのまま光溢れる外へと――



「丈ちゃん……俺は飛び続けるよ」

753Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:24:54 ID:zMkqANBk0










Passage 12 Count your crime.



「あ……あ……!」


 杏子は開いた口が塞がらなかった。


「ん、どうした杏子?」


 何も知らない翔太郎が問うと、


「何なんだその技は!? なんで真っ二つに分かれるんだよ!?」

 杏子はWのマキシマムドライブを見て驚愕していたのだ。


「何を驚いているんだい? 僕達は2人で1人の仮面ライダーだ、1つの力を2人で分けただけじゃないか」
「だからって中央で分けるのはねぇぇぇぇ!!」
「それより奴はどうなった……」


 そう、まだ戦いは終わっていない。メモリ排出を確認するまでは油断は――



「駄目だ翔太郎……」



 未だナスカ・ドーパントは健在――



「外したのか?」
「いや、僕達の攻撃は確かに決まった……」
「ああ……半分な」


 そう、マキシマムドライブは完全に決まらなかったのだ。
 伝説の道着により強化された潜在能力のお陰で防御態勢を取る事が出来たと――
 正確には一撃は決まっていた。杏子も驚愕したのだ、いきなり目の前で真っ二つに割れたのを見て初見では対応仕切れない。
 だからこそその一撃は決まった。だが二撃目はそうはいかない――なんとか防御が間に合ったという事だ。
 ジョーカーエクストリームは二撃で一撃の必殺技、二撃目が決まらなかった為、完全ではなかったという事だ。
 故に、メモリ排出すらされなかったという事だ――



「ぐぐっ……」



 故にナスカ・ドーパントは立ち上がる。



「くっ、まだやれるのかよ……」
「だが彼女のダメージは大きい、もう今までの様にはいかない筈だ」



 その時、



「待て待て待てぇーい!!」



 シンケンゴールドが3人(4人)の前に現れた。



「その声……」
「寿司屋の兄ちゃんか?」
「身体の方は大丈夫か?」
「こんなケガ大した事ねぇよ! それよりもだ……姉ちゃん、もういいだろ!」



 シンケンゴールドはナスカ・ドーパントを止めるべく声を張り上げる。

754Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:25:52 ID:zMkqANBk0



「梅盛さん……まだ止めるつもりなの?」
「ああ、俺は絶対に諦めねぇ、姉ちゃんを外道になんて絶対にさせねぇよ!」



 まだこの男はそんな安っぽい言葉を――



「アイツが喜ばないから? 私達の事を何も知らないで偉そうな事を……」
「違う! いや……違わねぇけど……それだけじゃねぇ! 確かに兄ちゃんの為というのもある……けど何よりも……姉ちゃんの為だ!」
「私の……為?」
「ああ、だって姉ちゃん……そんな外道になれる様な人じゃねぇだろ……ブタのアップリケを作ったりと可愛い所だってあるじゃねぇか!」
「イヌよ!!」



「梅盛源太と彼女何の話をしているんだい?」
「知らねぇよ?」



「姉ちゃんは本当は心優しい筈なんだ……人を殺せる様な事なんて出来るわけねぇしやっちゃいけねぇよ……」
「知った事を……」
「そんな事したら姉ちゃん心から笑えなくなっちまうじゃねぇか!! 俺にはそれが耐えられねぇ!!」



 シンケンゴールドは叫ぶ、自身が本当に願う事を――



「私が何をしようと私の勝手でしょ、もう構わないで!!」
「いや構うさ!! だって姉ちゃんは俺の客だ! 客を悲しませるわけになんていかねぇよ! 俺の客にはみんな笑っていて欲しいんだ!!」



 それこそがシンケンゴールドこと源太が願う事、



「くっ……だったら……」



 先程までの言葉とは違いそれはナスカ・ドーパントの心に届いてはいる。だがそれならば――



「だったらこのまま私を……」



 放っておいてほしい、だって乱馬のいない世界で本当に笑え――





「あかねさん……ですよね、もう止めて下さいあかねさん!」



 と、そこに新たな少女が姿を見せた。



「! アインハルトの嬢ちゃん……あんた無事だったのか?」



 覇王形態となったアインハルトがライディング・ボードに乗って現れたのだ。
 風都タワーの展望室は激闘があったせいか大分荒れていた。そして中に誰もいないのを確認したのだ。
 その後、展望室から周囲の様子を確認し――ナスカ・ドーパントが撃ち落とされるのを見つけたのだ。
 十中八九ナスカ・ドーパントに変身しているのはあかね、彼女がそこにいるのは間違いない。
 乱馬との約束を果たす為に、手元にあったライディング・ボードを駆使し一気に移動したというわけだ。



「アインハルトちゃん……」
「ごめんなさい……私の所為で乱馬さんを死なせてしまって……いいえ……乱馬さんだけじゃない……なのはさんにフェイトさん、それにユーノさんや流ノ介さんにシャンプーさんまでみんな私に関わったばかりに……」



 謝罪を始めるアインハルトの言葉に、



「ちょっと待て何言ってんだ?」
「ああ、フェイトとユーノは……」



 驚きを示すのが2人と行動を共に為ていたWと杏子だ、何故無関係な少女が責任を感じているというのだ?

755Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:26:16 ID:zMkqANBk0



「え、貴方達は……」
「ああ、あたし達はフェイトとユーノと行動を共にしていた」
「あんた、まさか2人の知り合いなのか?」
「はい……そうですけど……」
「どういう事だ……」
「アインハルト・ストラトス……だが、ユーノ・スクライア達は……」
「コイツの事なんて何も話してねぇ……」



 フェイト達が知らず一方的に彼女達の事を知るアインハルトの存在に疑問を浮かべるWと杏子、



「でもあかねさん……やめてください! 許嫁……恋人の貴方だったら乱馬さんがそれを望んでいないのを知っている筈です!」
「乱馬の事をよく知らないく……」
「わかります! 身体を張って屋上から落ちそうになる私なんかを助けてくれた……私なんかを信じてこれを託してくれた……」



 と、T2ヒートメモリを取り出す。



「アレはT2のヒート!?」



 Wが驚くのを余所にアインハルトは言葉を続ける。



「ずっと私なんかやヴィヴィオさんの事を気遣ってくれた……そして何より……あかねさんを戦わせまいと身体を張ってくれた……そんな乱馬さんがあかねさんに人殺しを望む筈がありません! それはあかねさん自身が一番知っている筈です!!」
「その通りだ、嬢ちゃんの言う通りだ! なぁ姉ちゃん……」
「……それでも私は……!」
「本気かよ姉ちゃん……本気で俺達を殺すつもりなのかよ!! いや、俺達だけじゃねぇ……友達の良牙の兄ちゃんもいるだろうが!?」
「良牙君……!!」
「なぁ姉ちゃん……殺しちまったらもう本当に戻れなくなっちまう……それで乱馬の兄ちゃんを取り戻せても……姉ちゃんは本当に笑えるのか? 兄ちゃんの前で笑えるのかよ? 友達まで殺して……それでも笑えるのかよ!?
 いや笑えねぇ……笑えるわけなんてねぇ……そんな哀しい顔を乱馬の兄ちゃんに見せたいのかよ!!」
「乱馬さん……私に『あかねを止めて』と頼んでました……望んでなんかいませんよ! あかねさんが人殺しをするなんて!!」



 いつの間にかアインハルトの目からは涙が溢れ出している――マスクに隠れて見えないが恐らく源太の目も潤んでいるのだろう。



「だからお願いです、乱馬さんが死んだのも全部私の所為なんです、怨むなら私だけを怨んで下さい! だから……」
「違うぜ嬢ちゃん、俺の力が足りなかったからだ……侍としても寿司屋としても……人としても未熟だったから……俺の所為なんだ!!」



 全ての責を背負おうとする2人を目の当たりにし、



「何言ってんだお前等……」
「翔太郎……」



 思わず口にしてしまう翔太郎、



「馬鹿……」



 そんな中、ナスカ・ドーパントはゆっくりと口を開く。



「姉ちゃん……」
「あかねさん……」
「いいのよ……2人が責任なんて感じなくて……」

756Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:27:44 ID:zMkqANBk0



 2人を怨む様な言葉など無い、だが。



「だって、悪いのは全部アイツなんだもの……戻ってくるって約束を破ったアイツが悪いのよ……」
「え?」
「何言ってんだよ姉ちゃん……」



 全ては戻るという約束を破った乱馬が悪いと言い放ったのだ。
 勿論、あかねとしては割と何時もの調子だったのだろう。
 だが、命を懸けてあかねを守ったであろう乱馬が悪いと言い出した事にシンケンゴールドもアインハルトも困惑する。



「だからこうなったのは全部……アイツの……乱馬の所為……だから……」



 あかね自身としてはそこまで考えたわけではなく、あくまでも2人を気遣うつもりで口にした言葉だ。その時、



「ちょっと待てよ……黙って聞いてりゃ何フザケた事ぬかしてんだ……」



 今まで沈黙を保っていた杏子が口を開いた。



「何……」
「なぁあんた……それはつまり自分が殺し合いに乗ったのは全部その乱馬って彼氏の所為ってことかよ?」
「ええ全部乱馬の所為、それがどうかしたの? 別に関係無いでしょ」
「繰り返すがあたしは別にあんたが殺し合いに乗ろうが乗るまいがそんな事は知ったことじゃねぇ、あんたが決めた事ならそれは全部あんたの自業自得だ……
 けどさ……あんた自身の行動を……誰かの所為になんてするんじゃねぇってんだよ!!」



 杏子には許せなかった――
 あかねが自身が殺し合いに乗った事を乱馬の所為にした事を――
 杏子自身、自身の愚かな選択で家族を失ったがそれを誰かの所為にはしなかった――
 フェイトにしてもユーノにしても自分勝手に死んでいったが誰かの所為にはしなかった筈だ――
 せつなに至っては殺したモロトフを恨みもしなかったのだ――
 思えば彼氏の為に奇跡を使い潰し魔法少女となったさやかだってその責をその彼氏に押しつけてはいなかった――



「あたしとしてはリンクルンさえ戻ればこんな腕なんて返しても良かった……けどあんたには渡さねぇ、自分の行動を彼氏の所為にするアンタなんかにはな!!」



 怒りを宿した視線をナスカ・ドーパントに向ける――



「何ですって……良いわ、乱馬の腕は意地でも取り返すわ」



 と、ゆっくりと杏子を見据えるナスカ・ドーパントである――



 互いに怒りをぶつける杏子とナスカ・ドーパント、
 あかねの乱馬に対する発言に涙ながらに困惑するシンケンゴールドとアインハルト、

757Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:29:03 ID:zMkqANBk0



「何だ、これ……何でこんな事になってんだ……何でこいつ等が泣かなきゃいけねぇんだ……」



 一方、翔太郎は唖然としていた。
 何故こんな事になってしまったのか? 何故皆泣いているのだろうか?
 この場には街、あるいは人々を泣かせる悪人はどこにもいない。
 あかねですらも乱馬の為に殺し合いに乗っただけでしかないのだ。
 本当の悪いのは誰だ? 乱馬を殺したダグバなのか?
 確かに直接の切欠はそうだろう、だが本当にそうなのか?



 本当に罪を数えなければならない者が他にいるだろう?



「翔太郎……君の考えている事はわかる……だが、天道あかね……彼女は既にアインハルト・ストラトス、梅盛源太……そして早乙女乱馬の生き様を泣かせた……」



 相棒は自分の心中を察してくれている、同時に厳しく釘を刺してくれる――だからこそ肝心な所で間違えずに済む――



「ああ……わかっているぜ……フィリップ……!」



 それでもやりきれない――



 思い返すのは幼き頃に見たハードボイルド探偵の姿――



 その当時は唯々格好良い、完璧な男としか感じなかったが――



 だが『Nobody's perfect』、完璧な人間など存在しない――



 きっと、間違いなくその探偵も何処かで間違いを犯し人々を悲しませてしまった事があるのだろう――



 この事態を引き起こした事は自分にも責がある。自分の決断の甘さがこの悲劇を引き起こしたという事だ。



 ああ、何処まで行っても自分は半人前だ――



 そんな弱い自分をフィリップは受け入れるといった――だがそれだけでは駄目だ、



 翔太郎自身がフィリップについて行ける様な男にならなければならない――



 だから――ナスカ・ドーパントへ、あるいはこの場にいる者達全員に言わなければならない。



 アインハルトも源太も罪を数えた、杏子も先の告白で自分なりに罪を数えたのだろう――ならば、



 ゆっくりと前へと踏み出すのだ――そして、

758Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:29:30 ID:zMkqANBk0



「ひとつ……俺は自分の無力さで幼い仲間2人を死なせてしまった……」



「フェイト……ユーノ……」



「え、まさか……フェイトさんとユーノさんも……」



「ふたつ……ダグバを倒しきれず逃がしてしまい人々を泣かせる怪物を野放しにしてしまった……」



「仮面ライダーの兄ちゃん……」



「みっつ……その所為であんた達を泣かせた……」



「何が言いたいの?」



 仮面ライダーW、いや左翔太郎の言葉に一同が視線を向ける。



「俺は自分の罪を数えたぜ……」



 それは、悪党に自分達が永遠に投げかけるお決まりの言葉――



「天道あかね……」
「さぁ……」



 しかし、今口にするそれは余りにも哀しいものだった――



「「お前の罪を数えろ……!!」」







 その時――







 ふしぎなことが起こった――







「翔太郎……僕達の……完全敗北だ……」

759Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:30:03 ID:zMkqANBk0










Passage 13 天道あかねの慕情



 青い戦士ナスカ・ドーパント、レベル2に到達する事で超加速能力を得るミュージアムの幹部ドーパントである。
 だが、ナスカの力には更にその先がある――
 それは冴子によって到達したレベル3、赤いナスカ・ドーパント、またの名をRナスカ・ドーパント、

 何故冴子は霧彦がレベル2にしか到達出来なかったレベル3にまで到達できたのか?
 勿論、冴子自身の資質という要因、ドライバーを介さず直挿しによってダイレクトに引き出したという理由もあるだろう。

 だが、別の解釈は出来ないだろうか?

 ナスカ・ドーパントは元々霧彦が使用し育てていったものだと解釈される。今更語るまでも無いが霧彦は冴子の事を愛していた。
 霧彦の意志が冴子に応えたという事は考えられないか?
 また一方で冴子が直差しを行ったのは愛する男性とも言うべき井坂の教えからだ、つまり直挿しを行ったのは井坂への愛が成した事とも言える。
 つまり、メモリを強化したのは愛、つまりは想いの力というものだと考えて良いだろう。

 それを裏付ける情況証拠の1つにこの地での霧彦のナスカ・ドーパントがいる。
 本来ならば到達出来なかったレベル3の領域に霧彦は到達したのだ。勿論、ドライバー破損により直挿しに近い状態になっていたという理由も存在はする。
 だが、一番の理由は霧彦の風都という街に対する愛といよう。

 愛が奇跡を起こした――陳腐な話だろうがそういう事だ――



 さて、仮面ライダーW、杏子、シンケンゴールド、そしてアインハルトと対峙しナスカ・ドーパントは絶体絶命であると感じていた。
 先程のマキシマムドライブによるダメージは大きく、全力を出せない状態だ。
 伝説の道着で潜在能力を引き出しているとはいえ前述の通り限界はある。1対1ならばともかく4人全員を倒すのは厳しい。

 つまり、将棋で言う所の王手、チェスで言う所のチェックメイトをかけられた状態という事だ。



 無論、皆の言葉が理解できないわけではない。



 だが――諦められない



 諦められるわけがないのだ――



 もう一度、乱馬と共に笑い合ったあの日常へと帰りたいのだ――



 だから願う――



 伝説の道着は潜在能力を100%まで引き出すもの、



 だがそれではまだ足りないのだ――



 限界を――超えろ――



「乱……馬……!」



 その想いに――ナスカは応えた――

760Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:30:23 ID:zMkqANBk0



 余談だが、少し前にナスカのメモリは乱馬自身がダグバを倒す為に使った――そう、ダグバを倒し再びあかねの元に戻る為に――



 つまり、ナスカのメモリには乱馬の想いもまた宿っていると言えよう――



 そして今、あかねもまた乱馬への想いを――



 互いを想う2つの想い――それはすれ違っていたとも言えるが想いは想いだ――



 想いは奇跡を呼び――



 限界を超え、ナスカのその先、レベル3へと到達したのだ――



 赤いナスカのスペックは当然青のそれとは比較にならない――



 スピードだけを見てもトップクラスを誇る仮面ライダーアクセルトライアル以上、


 それ故、エクストリームではない通常のWではまず相手にはならない――


 フィリップと翔太郎は最初からこの最悪の事態を想定していた――赤いナスカに変身した時点で敗北すると――


 変身した時点で結末など考えるまでもないだろう――







 H-7の森を赤い怪人が進む――天道あかねの変身した赤いナスカ・ドーパントだ。
 だが待って欲しい、確かあかねはさらなる力を得る為C-7にある呪泉郷を目指していた筈だ――
 全く真逆ではなかろうか?

 そう――今の赤いナスカ・ドーパントには彼女の意志はない――
 元々パワーが強い次世代型のT2のガイアメモリ、それに加えて僅かな時間でレベル3に到達したのだ。
 更に言えば精神及び肉体が受けた強いダメージ――あかねはとっくの昔に限界だったのだ。

 故に今のナスカ・ドーパントは強大な力を唯々振りかざす怪物でしかない――
 純粋な願いの果てに変貌した意志を持たない怪物――
 それでも伝説の道着は健在故にその能力は発揮される――

 あかねにしてみればこれは望む結末だったのだろう。
 願い通り強大な力を得られ、自我を失ったお陰で迷い無く参加者を惨殺し優勝へと近づける状態となれた――

761Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:30:52 ID:zMkqANBk0



 もう、悲しまなくて済む――



 その代わり、笑うことすらももうないだろう――



 乱馬の愛したあの笑顔も失われたのだ――





 最後にもう1つ――



 呪泉郷は恐らくはあかね達が知る唯一の共通の場所である――



 あかねや乱馬の友人である響良牙がそこに向かう可能性は高い――



 呪泉郷に向かわなかったのはきっと――



 醜い殺戮怪物となった自分の姿を――



 大事な大事な友達である良牙に見られたくなかった――



 天道あかねの最後の良心だったのかも知れない――





【1日目/昼】
【H-7/森】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、とても強い後悔、とても強い悲しみ、ガイアメモリの毒素により暴走状態となり自我消失、Rナスカ・ドーパントに変身中、伝説の道着装着中
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:”乱馬たちを守る”ためにゲームに優勝する
0:(暴走により自我消失)
1:良牙君……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前で、少なくともパンスト太郎とは出会っています。
※伝説の道着を着た上でドーパントに変身しているため、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。

762Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:31:26 ID:zMkqANBk0










Passage 14 The 7th stage player



「赤いナスカ……」
「姉さんと同じ……間に合わなかった……」


 天道あかねの変身した青いナスカ・ドーパントが赤いナスカ・ドーパントへと進化――
 それを目の当たりにした瞬間、仮面ライダーWこと翔太郎及びフィリップは敗北を察した――
 勿論、捨て身覚悟で仕掛ければ勝利の可能性自体は0%ではない――
 しかし、それはこの場にいる4人(5人)が全滅あるいは限りなくそれに近い状態となる(最低でも2人は犠牲になると考えて良い)事が前提だ。
 しかもそれだけの犠牲をもってしても無力化までもっていける確率は1桁クラス――
 それだけ絶望的な状態だったという事だ――


「翔太郎……僕達の……完全敗北だ……」


 あまりにも分の悪すぎる賭けだ――
 翔太郎自身――いや、あの場にいる全員が自分1人だけが犠牲になれば済むと考えているならばまだ良い。
 だが、他の者を犠牲にしてまで――となれば話は別だ、それに前述の通りそれだけもってしても失敗する可能性が高い――


「ああ……俺だけならともかく杏子や梅盛、アインハルトまで命の危険に曝すわけにはいかねぇ……」


 故に翔太郎とフィリップはこの場でのナスカ・ドーパントの撃破を断念、
 杏子、アインハルト、源太、3人の生存確保を最優先にしたのだ――
 全力で逃げに徹するならば全員生還の可能性はそこまで低くないからだ。


「掴まれ、梅盛!!」
「なっ、兄ちゃん!?」
「ぼさっとしてんじゃねぇ、ボンクラァ!?」
「えっ? あかねさんは……?」


 真っ先に動いたのはW、そして杏子だ。
 実際に戦い青いナスカの実力を把握していた杏子は赤くなった事で大幅な強化がされたのを直感的に察知、
 危険性を理解した杏子は全員を生還させるべく動く――示し合わせたわけでもないのにWと同じ結論に至ったのだ。


「仕方ねぇ、姉ちゃんは……」
「また目の前で誰かが死ぬのを見てぇのかぁ!? もう見たくねぇんだったら黙って言う事聞きやがれ!」
「詳しい事は後で説明する、だから今は……!」
「はい……わかりました……!!」


 一手遅れたもののアインハルト及びシンケンゴールドも赤くなった事による強化は何となく理解は出来ていた。
 そしてWと杏子の動きから即座に説得を断念し撤退あるいは防戦に出た方が得策である事も理解した。
 あかねをこのままにしておくのは心苦しい、それでもこれ以上誰も死なせたくないという想いから苦渋の決断をしたのだ。


 ウィングを展開し高速でブレードを振り回しながら飛び回る赤いナスカ・ドーパント――
 何十発も高速で放たれる光弾の嵐――



 4人(5人)はひたすらに回避・待避・あるいは防御し続けた――
 時間にしてみれば数十秒程度の出来事だったのだろう――
 その程度であったからこそ何とか耐えきる事が出来た――
 これが数分も続いたら全滅は必至――そうとしか言えなかった――



 この戦いで誰も死なせなかった事を勝利と言えるのならば勝利と言って良い――
 だが、フィリップの言葉通り今回の戦いは完全敗北以外の何物でも無い――
 赤いナスカの実力は冴子が見せた通り、Wが戦ったドーパントの中でも最強クラスである。
 それと同等、いや伝説の道着で素の戦闘能力が強化されている分それ以上と考えても良い――
 更に言えば、赤いナスカ・ドーパントが結果として数十秒しか攻撃をしなかったのは暴走状態、つまり自我を失っていたから自分達にお構いなしに攻撃直後早々に追跡できない場所まで移動しただけでしかない。
 恐らく今後無差別に参加者を襲撃することだろう――
 結果として、最強最悪の怪物を放ってしまったのだ――自分達が倒しきれなかったばかりに多くの参加者の命を危機に晒してしまったのだ――
 ついでに言えばガイアメモリの暴走が続けばメモリを使っているあかねの身体や精神、あるいは生命、それらはもう永くは保たない――
 結局の所、数人の目先の命を一時的に守っただけでトータル的に言えば何も守れていないのだ、完全敗北の中の完全敗北だ――





 だが――それで心が折れる程弱い連中か? 全てを諦め絶望するような連中か? 否、断じて否!!

763Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:34:56 ID:zMkqANBk0





――天道あかねの変身した赤いナスカ・ドーパント、暴走状態に陥ったその無差別な攻撃から俺達は何とか生還する事が出来た。
  だが、結局の所、最強最悪の怪物を解放してしまった事もまた事実、
  アインハルト・ストラトスから聞いた話では早乙女乱馬の命を賭した戦いのお陰でダグバの弱体化には成功したらしい、
  しかし未だ奴は健在でありガドルの行方も知れず、梅盛源太によれば仮面ライダーエターナル大道克己は殺し合いに乗っているらしい。
  アインハルトの話では風都タワーには既に誰もいなかった……つまりそこで待っていた筈のDボゥイ達も何処かへ移動したという事になる。
  状況は好転どころか悪化の一途を辿っている、それでも――



「この戦いで誰も命を落とさなかった事だけは幸いだった……そして、絶対に諦めずこの殺し合いを止め……」
「何1人でナレーションしてんだよ!! しかも長ぇよ!!」


 と、独り独白する翔太郎に杏子が思わず後ろから軽く叩く――


「なぁ、アンコの嬢ちゃん、そんなに怒るなよ……」
「『アンコ』じゃねぇ! あたしの名前は『キョウコ』だ! ていうかさっき自己紹介した筈よね……」
「そういえば……桜餡子というお菓子ってありませんでしたか?」
「いや、それ桜餅の事じゃねぇか?」
「そうそう、何かそれ思い出してさ! なぁアンコの嬢ちゃん」
「だから『アンコ』じゃねぇぇぇぇ!!」


 赤いナスカ・ドーパントの猛攻が止み、戦いが終わった事を確認した一同はそれぞれ変身を解除し大まかな情報交換をした。
 しかしその中でもアインハルトの語ったある事が翔太郎達にとってはある意味重要だった。


「つまり、アインハルト達の世界……というより時間ではフェイトやユーノ達は20過ぎで……フェイトとなのはにはヴィヴィオという娘がいる……という事でいいんだな?」


 どうやらアインハルトとフェイト達の時間は10年以上も差があった。
 死亡しているにも関わらずこの地にいる大道達の存在も踏まえて考えると参加者同士には時間の差異がある可能性も考えて良いだろう。


「そういやフェイトとユーノ知り合いって割にはフェイトの様子がなんか変だった気がするのはその所為だったんかな……」
「……ちなみにそっちのユーノはどうなってんだ?」
「確か仲の良いお友達……と聞いています」
「彼氏ってわけじゃないんだな」
「ユーノ……」


 翔太郎は最初に出会ったユーノから高町なのはの事を特に真剣に話していた事を思い出す。
 その事を考えると、ユーノの行く先に哀愁を感じてしまう翔太郎であった。


「ハードボイルドだな……ユーノ……」
「何を言っているんですか、翔太郎さん……」
「ああ、気にしなくていいぜ。兄ちゃん、ハードボイルドを気取っているだけの完成されたハーフボイルドだから」
「んな完成したかねぇよ!! 亜樹子みたいな事言うんじゃねぇ!」


 そう叫ぶハーフボイルドを余所に杏子がアインハルトに対し、


「それからボンクラ……1つ言っておく事がある」
「え?」
「あんたさ、自分の所為で知り合い全員死んだと言っていたよな」
「はい……」


 杏子は自分の所為で全ての参加者が死んだと思い込んでいるアインハルトに言いたい事があったのだ。


「他の連中はどうか知らねぇし実際にそうだったのかもしれないが……さっきも話したけどフェイト達に関してだけ言えば違うからな。
 あいつらはあたしと兄ちゃんを守る為に勝手に犠牲になったんだ。だからそれはあいつらの自業自得、もしくはあたしと兄ちゃんの所為だ、感じる必要の無い責任まで感じる必要なんてねぇよ、むしろあたしらを責めてくれたって構わねぇ」
「ああ、ユーノ達を死なせたのは俺の決断が甘かった所為だ、アインハルトが気にする事なんてねぇよ」
「でも……」


 杏子に続き翔太郎もアインハルトを気遣う言葉を言う、それでもアインハルトは素直に受け入れられないでいる。


「ああもうともかくだ、今度あたしの前でそんなうぜぇ事抜かしたらその顔ぶん殴るからな、言っておくがあたしが殴るんじゃねぇ、フェイトとユーノの分だ」


 何となくだが、こうやってアインハルトが苦しむのをフェイト達は望んではいないのだろう。だからこそ杏子はこう口にしたのだ。


「ありがとうございます……アンコさん」
「ああ……ってアンコじゃねぇって!!」


 また名前を間違えられて叫ぶ中、今度は源太が、

764Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:35:50 ID:zMkqANBk0


「そうだぜ嬢ちゃん、それに俺もさっき気を失っちまった時、死んだ筈の流ノ介に会ったんだ……流ノ介の奴、嬢ちゃんのこと全然怨んでなかったぜ。むしろ自殺された方が困るって言っていた……
 だから流ノ介の事で責任感じているんだったら死ぬなんて絶対に駄目だ……」


 厳密に言えば、流ノ介はアインハルトの事については一切触れてはいない。
 だが、きっと流ノ介はアインハルトを守って死んだ事については全く気にしていない、むしろ悩まれる方が困る、だからこそ源太はこう口にしたのだ。


「それにあいつ……まど……」
「はい?」
「いや、なんでもねぇよ……」


 杏子はまどかも気にしていないだろうと口にしようと思ったが止めることにした。
 どうもアインハルトの様子を見る限り彼女から杏子の事は何も聞いていない様に見えた。
 先の話から考えてまどかは杏子の事を知らないタイミングから来たのではと考えた。
 ならば、わざわざアインハルトに彼女と知り合い(という程深い仲でもないが)である事を明かす必要もないだろう(翔太郎も深い仲ではない事は知っていた為言及はしていない)。

 実際の所は、まどか視点では杏子は死亡していた為、参加している事を知らず、一瞬だけ名前を見たものの色々な事がありすぎた為、そこについて考える余裕もなかったが故に結局アインハルトに語らなかっただけである。
 それ故に、アインハルトは杏子とまどかが知り合いである事を知らなかったのだ。


「(はぁ……全くあの馬鹿……)」


 正直、まどかが戦って死んだ事に関しては馬鹿としか言い様がないと感じていた。
 まどかに関してはフェイト達と違い全く戦いとは無縁の少女だ。


「(戦いなんてもんは誰にだって務まるもんじゃねぇってのに……)」


 杏子視点から見て、毎日を幸せに不自由なく暮らしをしている奴が安っぽい感情で魔法少女になる事は許せないと感じている。
 無論、何れはそういう時が来るのかも知れないが、アインハルトから聞いた状況では他にも戦える奴がいた筈だ、どう考えてもまどかが前線に出て戦う時ではない。


「(結局それで死んでボンクラに必要無い罪を背負わせたら意味ねぇじゃねぇか……)」


 そう思う一方、まどかもまた誰かを守る為に命を散らせた事は理解できた。


「(全く……馬鹿な奴……)」


 だが、逆にこう考える――まどかにとってはその時だったのだろうと――仲間を守りたいと必死に考えての――


 もっともその結果は自身の死、そして同行者に決して消せないトラウマを植え付けたという最悪なもの――


 他人の都合も知らず、勝手な行動で、結局自分を含めた誰もを不幸にした――


「(あれ……なんだこれ……なんかどっかで聞いた様な話だな……)」


 杏子は気付かない、その話が最も身近な人物の事だという事を――


「(ま、いいか)」



 さて、問題は今後の方針である。
 翔太郎達が見た柱はどうやら乱馬とダグバの戦いによるものだとわかった以上、その確認をする必要は無くなった。
 源太によると仲間達は警察署に集まっていて、一部の仲間が中学校にいる仲間を警察署に連れて行く為に向かったらしい。
 もっとも中学校にいる仲間である霧彦も祈里も既に死亡している為それは徒労に終わってしまったが――
 何にせよ、警察署で仲間が集結する手筈になっているらしい。

 そして今現在警察署にはアインハルトの知り合いにして未来のなのはとフェイトの娘であるヴィヴィオ、姫矢の知り合いらしい孤門一輝がいる。


「私は……ヴィヴィオさんに会って、ちゃんと話をします」


 まずアインハルトはヴィヴィオとちゃんと話をする為に警察署に向かうと言った。それがあの時現れた乱馬との約束でもあるのだ。


「あたしもフェイトの事を話してやらなきゃいけないから一緒に行くよ。孤門の兄ちゃんもいるらしいしな」


 続いて杏子もアインハルトと同行する旨を口にした、ヴィヴィオの件もそうだが姫矢から受け継いだ力について聞く必要もある。それに――


「確かせつなの友達の美希って奴も来る手筈になっているんだろ? せつな達の事も伝えなきゃな……」


 そういやさやかの名字も『ミキ』だったよな――そんな事を考えながら口にする杏子だった。


「なぁ、俺としては姉ちゃんを探しに行きてぇんだけど……」

765Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:36:19 ID:zMkqANBk0


 源太としては警察署に戻りたいと思う反面、あかねの事が気に掛かっていた。
 翔太郎の話ではガイアメモリによって汚染され暴走状態に陥ったらしい。このまま参加者を無差別に襲撃する危険性もさることながらあかね自身の命も危ない以上、放ってはおけない。


「梅盛の気持ちもわかるが何処に向かったかわからねぇからな……結局Dボゥイ達もどっかに消えちまうし……」


 無論それは翔太郎も同じである。しかし所在がわからない上、現状の戦力では厳しいと言わざるを得ない。それに加えDボゥイ達の捜索もしたい所ではある。そういう意味では源太と翔太郎(+フィリップ)の2人(3人)で散策すべきという考えもある。
 だが一方で警察署にいるヴィヴィオ達を放置できないという問題もある。
 ダグバあるいはガドルがそちらに向かった可能性もあり、エターナルやダークプリキュア、更には未知なる危険人物が現れる可能性は否定できない。
 それを考えるならば全員で警察署に向かう事も考えた方が良いだろう。


「時間もそう多くねぇしなぁ……」



――全く、頭の痛い話だ……そう思っていたその時だった――



『◆◆――、◆◆――』



 妙に籠もったような声の様なものが聞こえてきた。



「ん? 何だ今のか?」
「あたしの……こいつは姫矢の兄ちゃんのか……」



 そう言って、杏子は自身の持つデイパックの1つを探る。

 さて、翔太郎と杏子は姫矢の所持品、つまりは姫矢と血祭ドウコクのデイパックを回収しこの場所まで駆けつけた。
 結局、戦いの最中で翔太郎と杏子の間で何度もデイパックや支給品のやりとりをして最終的に2人のデイパックは杏子の手に渡った。
 実は――姫矢の支給品の中にとある物が入ったケースがあった。
 そのケースはこの地において開けられた事はあるもののそれ以後ずっと閉ざされたままだった。
 翔太郎達も確認したとはいっても説明書きも無く、他の支給品の確認等もあり結局ケースの方は開けなかった。
 だがナスカ・ドーパントとの激闘による衝撃で――ついにそのケースが開かれたのだ。
 その時に中の物、いや『奴』とでも言うべきかそいつが飛び出した――

 『奴』がケースを飛び出した時、戦いの音を耳に為た。
 詳しい事は不明だがとてつもないものが起こっている事は理解した。
 それ故にこれ以上黙っているわけにはいかない、故に状況を把握すべく声を発したのだ――



 そして、杏子がついにそれを取り出す。



「何かのデバイスですか?」
「外道衆が持ってそうな奴……とは少し違うか?」
「なんか魔法が使えそうな気がするぜ」
「何言ってんだあんたら……」



 思い思いの感想を口にする4人を余所に――



『よう、あんたは確か……アンコだったか?』



 指輪――魔導輪ザルバが遂に参加者と接触を果たしたのだ――



 無論、それぞれに思う事はあるが、まず最初に思ったのは――



「「「「指輪が喋ったぁ!?!?!?!?」」」」



――次の放送まで後15分を切った状況、決断を迫られていた俺達だったが、それを決める新たな材料が現れてしまった。喋る指輪との接触、それは新たな何かとの出会いを予感させるものだった――



【H-8/市街地】
【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、照井、霧彦の死に対する悲しみと怒り
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ランダム支給品1〜3(本人確認済み) 、
    ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし)
[思考]
基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する
0:魔法の指輪か!?
1:全員で警察署に向かう? 源太と共に街を散策する?
2:あの怪人(ガドル、ダグバ)は絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。
3:仲間を集める
4:出来るなら杏子を救いたい
5:泉京水は信頼できないが、みんなを守る為に戦うならば一緒に行動する。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。またフィリップの参戦時期もTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女についての情報を知りました。
※姫矢の死を知りません。

766Wっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:36:50 ID:zMkqANBk0


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(小)、自分自身に対する強い疑問、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×4(杏子、せつな、姫矢、ドウコク)、魔導輪ザルバ@牙狼、
    リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕+リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ランダム支給品0〜3(せつな0〜2、ドウコク0〜1)
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、人を守った後死ぬことで贖罪を果たす 。
0:アンコじゃねぇぇぇぇぇ!!!
1:ボンクラ(アインハルト)と共に警察署に向かい孤門一輝という人物に会いに行く。またヴィヴィオや美希にフェイトやせつなの事を話す。
2:自分の感情と行動が理解できない。
3:翔太郎に対して……?
4:あたしは本当にやり直す事が出来るのか……?
5:美樹さやかも参加している……?
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※彼女の行動はあくまで贖罪のためであり、自分の感情に気づいたわけではありません。
※姫矢が死んだのはネクサスの力による消耗のせいだと考えています。


【梅盛源太@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、後悔に勝る決意
[装備]:スシチェンジャー、寿司ディスク、サカナマル@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、スタングレネード×2@現実、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン 、 ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー、丈瑠のメモ
[思考]
基本:殺し合いの打破
0:新手の外道衆か!?
1:全員で警察署に向かう? 翔太郎と共に街を散策する?
2:あかねを元のあかねに戻したい。
3:警察署に戻る場合、また情報交換会議に参加する
4:より多くの人を守る
5:自分に首輪が解除できるのか…?
6:ダークプリキュア、エターナル、ダグバへの強い警戒
[備考]
※参戦時期は少なくとも十臓と出会う前です(客としても会ってない)。
※丈瑠が既に死亡している事を察しました。


【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)、ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に怪我、極度のショック状態、激しい自責
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、T2ヒートメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式(乱馬)、ランダム支給品0〜2(乱馬0〜2)、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[思考]
基本:???????????
0:新手のデバイス!?
1:アンコさん(杏子)と共に警察署に向かいヴィヴィオと話をする。その後の事はヴィヴィオに委ねる。
2:乱馬の頼み(ヴィヴィオへの謝罪、あかねを止める)を果たす。
[備考]
※スバルが何者かに操られている可能性に気づいています。
※なのはとまどかの死を見たことで、精神が不安定となっています。


[全体備考]
※箸袋コレクション@超光戦士シャンゼリオンはH-8での戦いで散り散りになりました。
※ドウコクの不明支給品の1つはグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカでした。なお既に杏子によって消費済みです。
※ぜつなの死体はG-8のビル内部に移されました。

767 ◆7pf62HiyTE:2012/12/15(土) 23:43:29 ID:zMkqANBk0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

wikiへの収録に関してはストーリーの区切りの関係で4分割収録でお願いします。名前欄にも書かれている通りですが念の為以下の通りとなります。


>>708-717(Passage01〜03)が『Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ』
>>718-733(Passage04〜07)が『Hボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギ』
>>734-748(Passage08〜10)が『Wっくわーるど/イチポンドノフクイン』
>>749-766(Passage11〜14)が『Wっくわーるど/ウルセイヤツラ』

この分割で問題がありましたら(分割数を減らすべきor増やすべき)指摘の方をお願い致します。その場合、サブタイトル変更も視野に入れた上で対応致します。

768名無しさん:2012/12/15(土) 23:52:38 ID:R2DXvvoQO
投下乙です。ヤンデレと化した一名暴走中とはいえ何だかんだ上手く合流できたな、おやっさん…お前の罪を〜の下りはスカル風な流れも合わさって痺れました

769名無しさん:2012/12/15(土) 23:57:59 ID:Aac699hY0
投下乙です!
翔太郎……まさかあのあかねを相手にここまで戦い抜くとは……てか、まさかナンパをするとはw
一瞬だけ、暁を思い出してしまったぞw
友達を思うようになる杏子は、やっぱり変わってきてるね。あと、突っ込み役が実にハマってるように見えた。
アインハルトは立ち直ってるけど、やっぱり放送が不安すぎる……本当、どうなるだろ。
寿司屋の方はまだ大丈夫かもしれないけど。
そんな彼らの前に現れたザルバは、はたしてどう動くか?

あと、あかね……そんな状態で戦い続けたら、本当に死ぬぞ。
頼れるのはもう、良牙だけか……

770名無しさん:2012/12/16(日) 15:41:54 ID:2e4ntiT60
投下乙です

やっと全部読めたぜ…
濃い、凄く濃い話だったぜ
みんながみんな、見せ場があって必死だったぜ
ああ、凄くよかったです

771名無しさん:2012/12/16(日) 19:32:17 ID:9Y4LoLicO
投下乙です。

暴走ナスカは、あかね自身が一番死亡フラグたってるよなあ。

772名無しさん:2012/12/17(月) 13:47:44 ID:beWleav60
クリスマスイブに変身ロワ語りあるで

773名無しさん:2012/12/18(火) 22:12:35 ID:.T1kA/jEO
再予約きた!

774 ◆LuuKRM2PEg:2012/12/21(金) 19:05:42 ID:VlJXIPW20
これより予約分の投下を始めます。

775三つの凶星 ◆LuuKRM2PEg:2012/12/21(金) 19:07:05 ID:VlJXIPW20

 これから繰り広げられるのは闘争や悲劇、またそれによって絶望が生じるような物語ではない。
 演劇で例えるならば、幕間と呼ぶに相応しいような時間だった。しかしその間でも、役者達は次の演劇に備えて準備をしている。
 今回は、そんな物語だった。
 但し、それを繰り広げているのはある世界では人類の脅威となっている凶星と呼ぶに相応しい怪物達だが。





 ゴ・ガドル・バはたった一人、森の中を進んでいた。
 全てのグロンギ族の頂点に立つ王……ン・ダグバ・ゼバによって闘争を邪魔されてから、来た道を戻るように歩いていたが、誰とも出会わない。
 クウガは勿論、生前から何度も狩って来たリントの戦士も誰一人として見つからなかったが、別段構わない。
 そんなことを気にした所で意味などないからだ。

(……放送は近い、か)

 ガドルにとって唯一気になるのは、放送の時刻が近くなっていること。
 数時間前にも行われたそれによって、戦いで敗れ去った参加者達の名と禁止エリアとやらが読み上げられる。そこには、ドーパントという怪物に変身した名も知らぬリントも含まれているだろう。破壊のカリスマに遠く及ばぬ弱者だったが、傷付きながらもダメージを与えたことだけは評価してやってもいい。
 ドーパントに変身したリント、そしてその後に戦った戦士……ウルトラマンネクサスから与えられた傷が未だに疼く。しかしガドルはそれに耐えながら、山道を登り続けた。

(お前達は今、どうしている……俺がいなくとも、戦っているのか)

 不意にガドルはこの殺し合いに呼ばれているクウガとダグバのことを考える。
 別に彼らの身など、微塵にも心配していない。闘争以外に存在意義を持たない戦闘民族であるグロンギに、そんな感情など存在するわけがなかった。
 ただ、決着を付けられなければ、何の為に蘇ったのかがわからない。それだけが、ガドルにとっての不安要素だった。
 だが、ガドルは思案することでそれをすぐに振り払う。

(奴らを倒すほどの兵も、ここにはいるのか……?)

 もしもクウガやダグバの名前が呼ばれたとしても、構わなかった。
 例え彼らが死んだとしても、それは彼らすらも上回る強者が存在するだけ。奴らすらも上回る戦士を、今度はガドルが倒せばいいだけのこと。
 何も嘆く必要はない。決着を付けられなくても、また新たなる敵を探せばいいだけの話だ。敗れ去った者のことを考えても何にもならない。
 その為にも、島の中央を目指して進むだけ。それだけだった。

(クウガ、ダグバ……俺が再び現れるまで、決して無様を晒すな)

 ゴ・ガドル・バはそう心中で呟くが、まだ知らない。
 仮面ライダークウガに変身する五代雄介という男がもうこの世にいないことを。そして、ン・ダグバ・ゼバは既に究極の力を失っていることを。
 彼はまだ、何も知らなかった。


【1日目/昼】
【G-5/森】


【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)(回復中)、右脇に斬傷(回復中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ガドルのランダム支給品1〜3(本人確認済み、グリーフシードはない) 、フェイトのランダム支給品1〜2、ユーノのランダム支給品1〜2個 、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、拡声器@現実
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する
0:山の頂上に向かう。
1:クウガ(五代)と再び戦い、雪辱を果たす。
2:強者との戦いで自分の力を高める。
※死亡後からの参戦です
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)

776三つの凶星 ◆LuuKRM2PEg:2012/12/21(金) 19:07:33 ID:VlJXIPW20






 首輪を得る為に姫矢准を殺害した血祭ドウコクは今、G−7エリアに存在する三途の池の中に潜っていた。
 あれから、適当に市街地をうろついてみたが誰とも出会っていない。破壊された町の一角も見てみたが、やはり他の参加者は見つからなかった。
 それに溜息をついてから、ドウコクは少し離れたエリアに三途の池があるのを思い出して、そこに進むことにした。それでも誰かと出会うことはなかったが、馴染みのある場所だからかそこまで苛立ちを感じることもない。
 もしもドウコクがもう少しだけ市街地を回っていたら、左翔太郎や沖一也を始めとした様々な参加者と出会う可能性もあっただろうが、偶然にも入れ違いとなってしまった。
 その偶然は参加者達にとっては幸運だっただろうが、ドウコクにとっては不運だった。

(……チッ、やっぱり気が紛れねえ。こいつのせいだろうな)

 ドウコクは心の中でそう呟く。
 見慣れた血の色だが、やはり気分が晴れることなどない。それは、この首輪が原因だった。
 いけ好かない人間に命を握られていることが、何よりも不愉快だった。本当ならこんなチンケな道具など引き千切りたいが、間抜けな殺され方など御免だ。
 やはり、これを外せる人間を一刻も早く探す必要がある。そう思いながらドウコクは勢いよく飛びあがって、池の中から飛び出した。

(めんどくせえ……ああ、めんどくせえ)

 上の方から、何かが崩れ落ちるような音が聞こえる。水のせいで遮られているが、つい先ほどまでいた市街地の方からだった。
 それは早乙女乱馬という人間がン・ダグバ・ゼバという怪人に向かって放った、完成型獅子咆哮弾による轟音だった。普通の人間ならば聞き逃してたかもしれないが、外道衆の大将であるドウコクならば聞き取るのは容易。
 しかし、何が起こったのかまでは、池の中にいたせいで見ることができなかった。

(……やれやれ、また俺のいない時に好き勝手やってる奴らが出てくるとは、しょうがねえな)

 ドウコクは赤い水の中から急いで飛び上がるが、まだ足は動かさなかった。
 今から三途の池を離れて、わざわざ街に戻っても誰かに出会えるとは限らない。しかし、その轟音を聞き付けた奴らがいる可能性はあった。
 だが、もしも徒労に終わってしまったら馬鹿をみるだけ。無論、まだ探していない警察署の方を見て回るのも悪くないかもしれないが。
 いっそのこと、適当に島の中を歩くこともできるが、それはそれで面倒だ。

(あの放送って奴も近い……さて、それからどうするか)

 時間が進む中、血祭ドウコクは考える。
 もうすぐ、二度目の放送が始まってシンケンレッドこと志葉丈瑠や筋殻アクマロの名前が呼ばれるが、彼にとってそれほど気に留めることではない。
 これから何処を目指して、そしてどうやってこの苛立ちを晴らすかの方が遥かに重要だった。


【1日目/昼】
【G-7/三途の池付近】


【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:健康、少し苛立ち
[装備]:降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:姫矢の首輪
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:再び市街地に戻って人間を捜すか、それともどこか違う場所に向かうか?
1:首輪を解除できる人間やシンケンジャーを捜す
2:昇竜抜山刀を持ってるヤツを見つけ出し、殺して取り返す
3:シンケンジャーを殺す
4:加頭を殺す
5:アクマロも殺す
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※ザルバが意思を持っていることに気づいていません。

777三つの凶星 ◆LuuKRM2PEg:2012/12/21(金) 19:07:56 ID:VlJXIPW20





 ここから時間は一気に進む。
 ン・ダグバ・ゼバはH−9エリアの一角に備え付けられた椅子に座って休んでいる。
 究極の力を失ってから、身体が思ったように動かなかった。これでは強くなったクウガやゴ・ガドル・バと戦っても、負ける未来しかない。
 だが、それはそれで面白いかもしれなかった。宿敵や弱者としか思っていなかった者達に何もできないまま負けるのも、新鮮味がある。
 あの乱馬とかいう奇妙な力を使うリントにここまで追い込まれた時だって、胸が高鳴ったのだ。きっと、ここはそういう気分を味わわせてくれる場所なのだろう。
 絶対的強者と思っていた自分に、残酷な現実を教えてくれる楽園……そう考えると、主催者達は粋なことをしてくれたとダグバは思う。

(だとしたら、クウガも誰かに……?)

 そんなダグバの思考は、何処からともなく響いてきた爆音――レベル3のナスカ・ドーパントとなった天道あかねが、かつての仲間達に放った光弾の音――によって中断された。
 ほんの数秒だけだが、先程までいた風都タワーという場所から立て続けに音が聞こえてくる。つまり、あそこで何者かが戦っていたことになるはずだ。
 規模から考えて、クウガや「ゴ」のグロンギ程の実力者ではない。だが、それでもダグバは興味を抱いたが、今から向かったとしても間に合う訳がなかった。
 それにあそこはこれから向かおうとしている警察署とは正反対の方面だし、もう戦いが終わった場所にまだ戻っても誰もいない可能性がある。
 別にそれ自体はどうでもいいが、何度も徒労に終わるのだけは流石に嫌気を感じてしまう。

(……それに、放送も近いよね)

 定時放送も近かったし、そこで風都タワーや警察署のあるエリアが呼ばれたら、向かう事すらもできなくなってしまう。
 もしかしたら、この市街地全域が禁止エリアになってしまう可能性だってあった。だから、いつまでもこんな所にいる訳にもいかなくなるかもしれない。
 当初の予定通りに警察署に向かうか、それとも音が聞こえてきた風都タワーの方に逆戻りをするか、あるいはこの街から離れるか……ン・ダグバ・ゼバがそう考える一方で、時間は確実に進んでいく。
 そこで呼ばれる参加者の中に仮面ライダークウガに変身する五代雄介が含まれていることを、彼はまだ知らなかった……


【1日目/昼】
【H-9/街】


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]:全身に極大のダメージ、ベルトの装飾品を破壊(それにより、完全体に変身不可)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×4(食料と水は3人分、祈里:食料と水を除く、霧彦)、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、スタンガン、ランダム支給品(ほむら1〜2(武器ではない)、祈里0〜1)
[思考]
基本:この状況を楽しむ。
0:完全体に変身できなくなったことへの苛立ち。
1:このまま警察署側に向かうか、それとも音がした方(風都タワー方面)に戻るか?
2:市街地を適当に歩いて、リント達を探す。
3:強い変身能力者たちに期待
[備考]
※参戦時期はクウガアルティメットフォームとの戦闘前です
※発火能力の威力は下がっています。少なくとも一撃で人間を焼き尽くすほどの威力はありません。
※ベルトのバックル部を破壊されたため、中間体にしか変身できなくなりました。

778 ◆LuuKRM2PEg:2012/12/21(金) 19:08:56 ID:VlJXIPW20
これにて投下終了です。
もしも疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。

779名無しさん:2012/12/22(土) 05:25:13 ID:uwaKWKKM0
投下乙!
やばい面子の放送直前か…
ダグバは完全体になれなくなってこれからどうすんだろ…
閣下は宿敵がどっちもあれなことになってドンマイw
ドウコクさんは安定のすれ違いスキルの持ち主w
こいつ翔太郎と杏子を遠目にみた以外だと未だに姫矢以外の参加者に会ってないんだよなw

780本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 01:55:48 ID:haf8Hahc0

 仮面ライダーエターナルは、キュアブロッサム、響良牙、一条薫を見つめる。
 どんな因果か知れないが、三人はそれぞれエターナルこと大道克己の興味をそそる姿をしていた。
 まず、良牙は、一度交戦した相手である。人間にしては強い。あの妙な技は、超能力兵士──クオークスを彷彿とさせたが、能力の発動によってクオークスほど大きく体力を損ねた様子もなかった。おそらくは中国拳法の「気孔」のようなものだろう。
 それから、(大道はその名前を知らないが)キュアブロッサムだ。その衣装は、憎むべきキュアムーンライトやダークプリキュアに酷似している。身長は彼女らに比べて小さく、また明るい色彩であった。
 おそらくは、プリキュアであるが、その素養は半人前というところだろう。体躯にも大きな差がある。何より、ムーンライトやダークプリキュアほど、戦士らしい顔立ちにはなっていなかったのである。何かを背負うほど長く戦士をやってきた顔ではなかった。
 もう一人の男もまた、コートを脱ぎ、びっちりとした黒いタイツスーツに身を包んでいる。そして、エターナルの目の前でヘルメットを装着し、髑髏をイメージさせる戦士となった。
 はっきり言えば、彼が最も相手にならないだろう。……良牙のような特殊能力があるというのなら別だが、人間並みならば問題はない。
 しかし、死神であるエターナルと対峙するとは、因縁めいたものも感じさせた。

 一方、良牙はこんな事を考える。

(良、あんまりじゃねえか……こいつはアクマロなんかよりもよっぽど強えぞ)

 強敵から逃げた結果、それを超える強敵と遭遇する羽目になってしまったのである。
 同じバケモノでも、こいつは決定的に違う。規格違いなバケモノだ。
 あらゆる攻撃を吸収するそのローブが災いして良牙の攻撃も効かず、攻撃もまた、良牙らの必殺に匹敵するほどの威力を持つ。
 乱馬やムースやパンスト太郎…………それからシャンプーなどと協力して、やっと勝てるくらいの相手だろうか。
 死者の名前も含めなければならないほど、勝利に現実味のない相手であるように思えた。

「おい、バンダナ」

「バンダナじゃねえ。響良牙だ」

「どっちでもいい。なあ、あの時と同じ技だけは使うなよ? 面白くねえからな」

 あまりに簡潔なエターナルの要望が良牙に提示される。
 あの時の技というと、獅子咆哮弾か──と良牙は思い出した。少し、心拍数が上がっている。エターナルは落ち着きすぎていた。良牙は、落ち着いたように見せながらも、敵がいつ襲ってくるかわからない緊張感に怯えていた。
 獅子咆哮弾。確かにあの技は大した手ごたえを見せなかった。良牙も、その技を使う気はない。
 まだまだ自分の技は多彩のはずだ、と思いながらも、自信は確かではなかった。

781本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 01:56:42 ID:haf8Hahc0

 まずは試しに、良牙は自分のバンダナを外して、エターナルめがけて投げた。ただ投げたのではない。気を込めたバンダナは硬質化する。それ良牙が投げると、バンダナは高速で回転し、残像が生まれ、まるで円盤に変身したかのように、空中を飛ぶ。
 更にその周囲にはかまいたちが発生し、すんでで避けたと思わせても、並みの人間なら傷口を作ってしまう。
 次から次へと、良牙は額のバンダナをエターナルに飛ばした。

「お前、いくつバンダナまいてるんだ?」

 それをいともあっさり、エターナルエッジで切り落とし続けたエターナルの感想はそれだけだった。
 立っている位置は変わらない。エターナルエッジは刃こぼれをしない。エターナルには一撃も当らない。……この攻撃そのものは、何の意味もないものになってしまったのだろうか。
 しかし、これは良牙としても、小手調べのつもりだったのだ。エターナルには先ほどの戦いから疲労がない。
 ……それに

「ひとつ弾き損ねてるぜ?」

 ガキーン。
 と、まるで鉄と鉄がぶつかったような音が鳴ると、エターナルの左腕にバンダナが刺さる。
 このフリスビー状に変質させたバンダナを、エターナルに当たらないように後方へと投げていたのだ。フリスビーのように投げれば、たといバンダナであっても手元に戻ってくる。
 とはいえ、所詮はバンダナ。エターナルの左腕から、布きれがはらりと落ちた。先ほどの音を発した物体とは思えないほど柔らかい物体が、地面の小石を覆う。
 攻撃的な意味はなかった……らしい。エターナルの左腕に傷をつけることもなかった。
 一条やつぼみは目をぱちくりさせる。良牙の妙技には、さすがの二人も驚かざるを得ない。
 一方、エターナルはやはり落ち着いていた。

「……このくらいで調子に乗るんじゃねえよ、なあプリキュア?」

 今の攻撃は物ともせず、今度はキュアブロッサムに話しかけた。
 ブロッサムは彼の口調の妙な威圧感に呑まれかけ、恐怖を感じる。
 本当に対話ができる相手──なのか? 邪悪に染まりきった、人間味のない口調や佇まいに、ブロッサムは自信を失いかけた。
 『エターナル』。その名前は、かつてプリキュア5に聞いたことがあったが、その組織に所属したブンビーという人物との和解は成功したらしい。
 ……会話をしてみることには始まらない。少しでも彼が、闇から解放させる事があるのなら、それに賭けてみる。プリキュアの使命である。

「他のプリキュアを知ってるんですか?」

「キュアムーンライト、それからダークプリキュアなら見かけたぜ。丁度、もう一度プリキュアって奴に会いたいと思ってたところだ」

 エターナルが、そこで一度区切った。

「……キュアムーンライト・月影ゆりにはもう会えないしな」

「どういう事、ですか?」

「月影ゆりはもう、この世にいないって事だ」

 キュアブロッサムの背筋が凍る。
 もうこの世にいない、それは死んだという事と直結する。
 エターナルは恐ろしいほどに淡々としていて、とても死の事実にショックを感じているようには見えなかった。それとも、やはりそれは嘘だと言う事なのだろうか。ブロッサムはすぐに反論する。

「!? 嘘です!! ゆりさんは、簡単には死にません!!」

「いや、確かに死んだ。俺が地獄に送った」

 今度は、遠回しではなく、直に死んだと言い切った。……それも、「自分が殺した」と、どこか誇らしげに言っていた。
 ぐっと、ブロッサムは涙目になりそうなのをこらえる。それを、良牙と一条は唖然とした表情で見つめる。
 しかし、ブロッサムは「これは嘘だ、惑わされるな」と心の中で唱えている。
 だが、本当ならば────エターナルは本当の悪鬼だ。
 ブロッサムは、まだ実感が沸かずに、エターナルの次の言葉を待つ。

782本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 01:57:55 ID:haf8Hahc0

「……そうだな。お前にも教えてやるよ、人間がいかにちっぽけで単純な存在か。死神を前にすれば誰も何もできねえ。そう、プリキュアだろうが何だろうが、人間ってのは簡単に死ぬんだ」

 エターナルはセリフと同時に駆けだしていた。ブロッサムは、彼の言葉を待つだけではいけなかったのだ。攻撃か防御の準備をしなければならなかった。
 エターナルローブが、ぼわっと音を立てて揺れる。その音が聞こえた後に、ようやくブロッサムは構えたが、既に死神の仮面は数歩前にあった。
 それでも尚、死神の仮面が近づいてくる。ブロッサムは、顔の前で手を構え、反射的に目をつぶった。戦うには目を開けなければ……と思ったが、目は簡単に開いてはくれない。
 勇気を振り絞って目を開いたとき、エターナルエッジの刃はブロッサムの目の前で止まっていた。

「今、俺があと一歩前に出れば、お前は眼球を抉り取られていたぜ。或いは、コイツは心臓や首につきたてられていた。そして、隣にいる男二人はそれを防げなかった──ハナっから仲間を守る気なんて無えんだろうな、こいつら二人は一歩も動いてねえ」

「「……!!」」

 良牙と一条は、自分の足元を見る。足を動かした跡はない。知ってはいるが、心のどこかで、自分が気づかぬうちに彼女をかばおうとしたと思い込みたかったのだろうか。それで、自分が少しでもつぼみのために動いていた証拠を確認したかった。だが、位置は一切変わらない。
 しかし、すぐに悟る。
 自分は動けなかったのだ。つぼみを助けるというところまで頭が回らなかった。
 それは、心の中で本当に優先された行動が、「助ける」ではなかったという証であった。助けようと思えば助けられたはずだった。エターナルが殺そうとしていれば、つぼみは目玉を抉られていたか、殺されていたはずだ。
 そう思うと少し落ち込むが、二人は顔を引き締めてエターナルに向けてファイティングポーズをとる。
 しかし、エターナルは無視だった。ブロッサムの目の前にナイフを突き立てたまま、ブロッサムに質問を始める。

「なあ、ピンクのプリキュア。お前はこのゲームに乗らないのか?」

「……乗りません」

 エターナルは、そんなブロッサムを嘲るように鼻で笑ったが、すぐにもっと彼にとって面白みのある質問をすることにしたらしい。

「なら、キュアムーンライトがこのゲームに乗ってないと思うか?」

「絶対に、ありえません」

「残念。不正解だ」

 エターナルは、その手元からエターナルエッジをぽろっと、落とした。ブロッサムの眼球を抉り取るという猟奇的な動作を中断したという事だ。ブロッサムは安堵すると同時に混乱した。
 何故、こんな風にエッジを落としたのか。そして、不正解とはどういうことなのか。考える事が二つもあったために、体がしっかり構えるまでに少し時間がかかった。
 エターナルはマスク越しにニヤリと笑う。
 エターナルエッジが落ちた先にはエターナルの右足がある。彼は足首でエターナルエッジをキャッチしていたのである。

「ハァッ!!」

 そして、その右足でブロッサムのわき腹を強く蹴る。
 刃は別に、そちらに向けられていたわけではないから、ブロッサムのわき腹に刺傷ができるというわけではなかった。
 だが、足を勢いよく上げたことで、エターナルエッジは空中を舞っていた。それは自分の目の前まで飛ぶように調整されていたものである。
 エターナルが右腕を前に出すと、そこにエターナルエッジが落ちてくる。

「うわぁっ!!」

 ブロッサムが背中から木にぶつかる。
 人質扱いである彼女を放したと思った一条と良牙は、その隙にエターナルの両腕を掴むために飛び掛った。
 だが、エターナルは近づいてきた良牙と一条の前に、順にエターナルエッジの切っ先を見せた。エターナルの懐まで走ろうとした足が止まる。少しでも隙を見せてしまえば、あっさり刺されてしまうのだ。
 この距離でナイフというのは、少し難しいシチュエーションだった。

783本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 01:59:15 ID:haf8Hahc0

「おい、バンダナに髑髏。……お前らもだ。プリキュアは信用しない方がいい」

「……どういうことだ」

「キュアムーンライト、それにダークプリキュア……奴らは殺し合いに乗っていた。こいつもきっと同じだ。周りを騙して善人面してやがる。プリキュアは皆悪魔さ」

 そんなエターナルを見て、ブロッサムが立ち上がった。
 木に叩きつけられたブロッサムは、少し苦しそうだったが、声を出すことはできた。

「……嘘です。その人の言うことを、信じないでください!!」

「もちろん、信じるつもりはない! 私たちは大丈夫だ。下がっていなさい」

 一条は、ブロッサムをそう言ってなだめた。
 エターナルの方が信用できない存在なのは、これまでのやり取りで明らかだ。
 第一、こうして襲撃してくる相手を易々と信じるはずもない。つぼみの方が信頼に値する。

「そうだな。もちろん俺も信じないほうがいい。そうだな……プリキュアが悪魔なら、俺は死神だ。当然、貴様ら全員を今すぐ地獄に送ってやるつもりでいる」

「なら、何故御託をならべている……!」

「あっさり殺してどうする? 死ぬ前に教えてやることが山積みだ。信じたくない事実を知る苦しみ……ってのもあるだろう」

 エターナルの邪悪な考えは、キュアブロッサムを見た瞬間に浮かんだ。
 つくづくプリキュアと縁がある身だが、今回はせっかくだから、プリキュアであるブロッサムを利用して、少し絶望させてやろうと思っていたのである。
 自ら手を下すのも一向だが、殺し合いを見るのもまた一向。
 ゆえに、変に固まって協力して殺し合いを打破しようとする存在は煩わしかった。
 信頼感を築きつつあるチームは、自分が片っ端から潰してやろう。そんな考えを生むに至る、エターナルの略歴だ。そこまで算段を重ねているわけではなく、少し面白そうだからやってみる程度であった。
 エターナルはまた、ここにいる誰かを追い詰めるために口を開いた。

784名無しさん:2012/12/24(月) 02:00:21 ID:haf8Hahc0

「……そうだ、キュアムーンライトは面白い奴だったな。ゲームに乗った理由は、父親と妹の為だそうだぜ」

「妹……?」

 ブロッサムは、頭に疑問符を浮かべる。不謹慎だが、表情は少し明るくなった。惚けた表情になっているだけだが、先ほどのように変な迷いがあるわけではない。ただ、少しエターナルの言うことの確定性が薄れたから、気が軽くなっただけだった。
 そう、月影ゆりの妹など、花咲つぼみは知らないのだ。
 確かに、ゆりは父親が行方不明になっていたが、妹のことなどひと言も言っていなかった。第一、つぼみに妹ができると知った時点で、少しはその事に触れても良いのではないだろうか。
 それが、ゆりの親友であるももかの妹────すなわち、このゲームで命を奪われたえりかのことを、聞き違いか何かでエターナルが誤解したならば辻褄も合うが、ゆりがえりかのために他を殺そうとするなどありえない。
 肉親ならまだ理解できるが、ゆりは周囲にそこまで強い依存を持つタイプではない。ももかやえりかなど、ほぼ無関係な人間のために殺し合いに乗るだろうか?
 答えはノーだろう。

「ゆりさんに妹はいません!」

 なので、言葉通りに受け入れる。
 ゆりの妹。そんなものはいない。
 つまり、エターナルの発言は全てが信用に足らない戯言なのだ。
 しかし──

「知らねえのか? ダークプリキュアは、あいつの妹らしいぜ」

 これまた意外なひと言が、エターナルの口からこぼれた。
 ダークプリキュアというと、何度となくプリキュアと戦ったあの黒い戦士のことだろう。
 彼女はゆりに執着していた。しかし、仮に妹だとしても、ゆりはその正体など知らなかったはずだ。いつか、ゆりはダークプリキュアがゆりに執着する理由をわざわざ訊いていたくらいだし、ダークプリキュアの正体については一切知らない。

「え────?ダークプリキュアが、ゆりさんの妹……? 何を言ってるんですか? ダークプリキュアは、砂漠の使徒……私たちプリキュアの敵なんですよ!?」

「ハッ。随分な言い様だな。だが、事実だ。テメーらが敵だとか砂漠の使徒だとか呼んで、人間扱いもされてねえダークプリキュアが、月影ゆりの妹であることも──」

 チクリと刺さる、嫌味のある言い方だったが、ブロッサムは真面目な顔で彼の言葉を聞いた。

「そして、そいつらが互いのためにゲームに乗ったことも」

「……急にそんなこと言われても、私は信用できません!」

「飲み込みの悪いガキだな。じゃあ、もう一つとっておきの事実を教えてやる」

 良牙がピクッと動いて、エターナルを襲おうとしたが、エターナルは即座に反応してそちらにエターナルエッジを向けた。良牙は動くのをやめた。
 いつまでも、彼にしゃべらせておくのはマズいと感じたのだろう。

「キュアムーンライトは、俺が会ったとき既に誰かを殺していた。そして、その誰かってのはほぼ間違いなく、仲間のプリキュアだ」

 そう、エターナルはある事実に気づいていた。ゆりのデイパックは一つ多かったのである。
 そのデイパックには、ゆり自身の変身道具のほかにも、もう一つ酷似した道具が入っていた。
 それらの事実から、大道克己は、「これは仲間から奪ったものではないか」と推察したのだ。
 まあ、実際間違っていたとしても、それは結局、ブロッサムの心を砕くには効果的な一言になる。エターナルにしてみれば、説得力が1パーセントでもあれば十分で、それが事実である必要はない。

「嘘です!!」

「あいつに会わなくてよかったなぁプリキュア。会ってたらお前、仲間に殺されてたぜ?」

「そんなの、出鱈目です!!」

 エターナルは、左右の男性二名を殴り、蹴ると、後方に歩いていく。視線すら彼らに合わせず、ただ右足左腕の届く距離にいたから、攻撃をしただけだった。まるで呼吸でもするかのような自然な動作に、その場にいた誰もが唖然とした。
 良牙と一条は、地面に倒れてエターナルを睨むが、エターナルはそんな憎悪の視線など物ともせずに、後方のデイパックを一つ掴んだ。
 そして、それをブロッサムの手の中に投げる。ブロッサムは、地面の二人に目を向けながらも、彼らが頷いたのを見て、手の中のデイパックのジッパーに手をかけた。

785本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:01:46 ID:haf8Hahc0
スミマセン、投下宣言書き込めてませんでしたorz

786本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:02:43 ID:haf8Hahc0

「見てみろ。言っておくが、そいつは俺が手に入れたものじゃねえ。俺が会ったときにゆりが持っていたものだ」

 ブロッサムが恐る恐るデイパックを開けて見ると、そこに入っていたのは、ココロパフュームである。
 ブロッサムは、すぐに自分のココロパフュームを確認するが、それは確かに腰にあった。ずっとそこにあったのは分かっている。
 シャイニーパフュームの形状でもない。ココロポットでもない。
 では、マリンの────

「これを、どこで!?」

「だから、キュアムーンライトが持っていた物だ。信じろよ? 俺は嘘は言ってない。それから、もうひとつ」

 エターナルの左手には、月影ゆりの所持品である破邪の剣という武器が握られていた。
 破邪の剣はかなり綺麗に輝いていたが、よく見てみると、柄には薄っすらと血の痕があった。
 エターナルは、その部分を見せつけるように刃の部分を隠して破邪の剣を握ったため、つぼみは、刃にまで血がついているものと誤解する。

「おそらく放送の前後あたりだ────お前の仲間のプリキュアは、お前の仲間によって殺された。放送で心当たりのある名前はなかったか?」

 来海えりか。
 ブロッサムは、先ほどから気になっていたその名前を、サラマンダー男爵の声で脳内再生した。
 放送の前後──。時間ははっきりとはわからないが、えりかは確かに死亡したと言われていた。
 ……いや、エターナルが奪った可能性もある。しかしもしかすると……。
 そういえば、出会ったばかりのゆりは誰にでも厳しくて……いや、しかしそれは優しさや自分への反省から来るもののはずで……。

「こいつの言う事を聞いちゃいけない!」

 そう叫んだ一条の眼前の地面に、破邪の剣が突き刺さった。エターナルが投げたものだった。エターナルは、一条の方を見もせずに、それを投げていた。
 どこに当てようとしたのか想像して、彼は黙ってしまう。威嚇で最初から地面に当てるつもりだったかもしれないし、一条の体に刺そうとした可能性もある。

「……なあ、プリキュア。それでもムーンライトを……仲間を信じられるか? 
『キュアムーンライトもダークプリキュアも、殺し合いに乗った』。それだけは事実だ。まあ、殺されたプリキュアも殺し合いに乗ってたかもしれねえが、それは俺の知るところじゃない」

「嘘です、嘘です、嘘です!! そんなこと、絶対にありません!!」

「じゃあ、このゲームで人を殺した人間のことを一人ずつ思い出してみろよ。本当に、俺みたいな奴ばっかりだったか? 善人ヅラしておきながら誰かを殺したヤツに、お前は一度も会わなかったのか?」

 言われた通り、反射的に思い出してしまうのがブロッサムの悪い癖だった。相手の言葉を真面目に聞きすぎるのだろうか?
 一文字隼人。
 美樹さやか。
 つぼみが思い出したのは、そんな優しいはずの人たちだった────。
 溝呂木眞也のような者も確かにいたが、信用していた人が人を殺した……そんな悪しき思い出ばかりが頭を巡る。
 兄のためにゲームに乗ったティアナ・ランスターのような者もいる。

 そう、たとえ優しい人だって、このゲームのうえではどうなるかわからないのだ。

「普段は人が殺し合うことなんて滅多にない。だが、この場では違う。誰もが自分が生き残るため、或いは優勝者が得られる『賞品』ってやつのために殺し合ってんだろ? ……隣にいるヤツだって、すぐに裏切るに決まってるだろ。誰もが善者のフリをしながら、仲間を殺すタイミングを狙ってる。どうすりゃいいかは簡単だ」

「クッ……」

「殺される前に殺せ! そいつがこの場で一番利口な生き方だ! でないと、いつ寝首をかかれるかもわからないしな!」

 エターナルは、年頃の少女の不安定な心を弄ぶ。

787本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:04:01 ID:haf8Hahc0

「惑わされるな!! 私はたとえ、何度裏切られても誰かの笑顔のために戦う男を知ってるぞ!!」

 その時、一条は、立ち上がる。
 善人ヅラ──そんな言葉を聞いたときに、ふと五代雄介のことを思い出したのである。彼のように、絶対に殺し合いに乗らないと信じられる存在が、一条の近くにはいた。冴島鋼牙や響良牙もまた、彼の信頼に値する相手であった。
 ゆえに、目の前に突き刺された破邪の剣の事など忘れて、一条薫は立っていた。
 エターナルは、今回止めなかった。立ち上がらせることが都合良いとさえ感じたのだろう。

「……どうだ? プリキュア。こいつが本当に信用できるか? こいつはさっき、お前を助けようとしなかったんだ。……そうだ、三人で殺し合ってみろ! 生き残った一人だけは、俺も見逃してやる。それができないなら皆殺しだ!」

「そうはさせないっ!!」

 一条は、エターナルに向けて駆けていた。
 ライダースーツの力は、エターナルにはおそらく敵わない。だが、エターナルの作戦が信頼感を利用したものだったため、今は、この男に立ち向かうことで信頼を得たい気持ちだった。
 そして、エターナルを許せないという怒りも確かにそこにあった。

「私はお前と戦う。五代の魂を継ぎ、お前たちにような悪魔を消し去るために──」

「やめてください、一条さん!」

 と、一条を止めようとしたのは意外と言うべきか、キュアブロッサム──花咲つぼみだった。
 結果的に一条は止まらなかったが、その間もブロッサムが声をかけ続ける。

「五代さんの命を奪ったのは、さやかなんです……五代さんも、信じていた人によって、命を奪われた……」

「なら、私たちで殺し合えというのか!!」

「そうは言ってません!! でも、私はどうすればいいか……」

 五代の死には、間違いなくつぼみの責任も関わってくる。
 五代を刺したのはさやかだ。
 しかし、さやかが五代を刺すとき、つぼみはその行動を止めるだけの力を持っていた。そして、止められる場所にいた。
 それだけならいい。つぼみはさやかと一緒になって、「まどかを脅かす存在」を倒そうとしていたのだ。

 エターナルの言葉に反論できない。自分だって、人殺しに加担してしまったかもしれない。

 また、つぼみだってさやかに殺される可能性はあったと思う。彼女の剣は何度もつぼみの体を掠ったのだから。
 あの時の剣が刺されば、つぼみは血を流し、痛みに苦しみ、傷を残した。死んでいた可能性だってかなり高い。
 他人を信じた結果、五代のように死んでしまう。……やはりそれは、怖かった。

「……フンッ!」

 エターナルは、一条ライダーの顔面を殴った。
 ライダーマスクが砕け、中から一条薫の顔が現われる。

「クッ…………それでも、私は五代の行動が無駄だとは思わない。五代が信じた未来を、こんな奴らに奪わせたくはない!!」

 割れたマスクの破片が、彼の顔を少し切っていた。
 おそらく、直で喰らっていたら確実に意識はなかっただろう。マスクを付けていたことは無駄ではなかったようだ。
 その血の滴る顔で、一条はまっすぐにエターナルを睨んでいた。目の近くを切ってはいたが、目を瞑ることはしていない。

「刑事は疑うのが仕事だ……しかし、私は五代のような男を見かければ、私は職務を放棄しよう。疑い合った結果、笑顔がなくなるというのなら……私は誰かを信じ続ける」

「綺麗事だな! 」

 エターナルは嘲った。
 初めはそのまま一条に視線を送っていたが、やがて別の相手の方を見た。
 地面に伏す良牙だ。とにかく、あらゆる人間に疑心暗鬼を振りまくのが今の彼の目的なのだろうか。

788本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:04:50 ID:haf8Hahc0

「バンダナ。お前はどう思う?」

「俺か……?」

「そうだ、お前だ」

 良牙は、軽々と立ち上がった。
 エターナルが襲い掛かる様子がない以上、このまま伏せている理由はない。
 体の痛みも引いていたし、エターナルに立ち向かう覚悟も十分にできていた。

「俺は、お前の言っている事なんてほとんど聞いてない。人間がどうの、心がどうの……そんなのは俺には重過ぎる」

 良牙の生活は、人間の醜さや裏切りとは無縁だ。
 そんなテーマは、良牙には臭いやり取りでしかない。
 学校にもろくに行っていないのに、そんな論争をさせられるとは思わなかったのだろう。
 別に、人間の心などに大きな期待をしながら生きてるなどという事は無いので、エターナルの言葉に深く絶望するという事も無い。
 それでも、自分の回答をごく簡単に述べる。

「ただ、あんたの事は気に入らねえ」

 以前の戦いの事もある。先ほどから殴られたり、ナイフを投げられたりと、腹の立つ行動ばかりだ。
 平然と人を殺そうとする。つぼみの知り合いを殺したっていうのなら、それは、本当に許しがたい話だった。
 そのうえ、長々と演説までしてくる。面倒な事この上ない相手だ。

「……だいたい長々と議論してどうすんだ。俺は今、テメエをブッ潰す事以外には興味がねえんだ」

「そうか」

 エターナルは、良牙のこの反応をどうも思っていないかのように、呟いた。
 だが、内心では少しは、戦いこそ本当に面白いものと思っていたのだろう。仮面の下で笑っていた。
 殺されるか、殺すか──そういう自分の「生」を実感できる場面こそ、エターナルには向いているのだろう。
 エターナルエッジを体の前で構える。隙の無い、傭兵らしい構えだった。
 そのまま、エターナルは走りこむ。

 良牙はエターナルエッジが顔の前に来る直前に、伸びたエターナルの右腕を掴むと、彼の腕の上で側転する。
 地面とは違い、いつ力が抜けるかもわからない相手の腕の上で、良牙はくるりと一周回って、エターナルの背後に立った。
 しかし、エターナルの反応も早い。
 即座に振り向くと、再びそちらにエッジを向けた。
 顔のあたりを凪ぐと、良牙は屈む。腹のあたりを凪ぐと、良牙は跳ぶ。
 そして、突いてくる一撃は、カンフーのような構えをして、両手で抑え込んだ。
 動きが無くなった良牙に、エターナルは少しだけ話しかける。

「お前、NEVERになったら面白そうだな。……あいつらよりも強くなれるかもしれねえ」

「俺はバターになる気はない!」

「NEVERだ、NEVER」

 エターナルが余った左腕を使って、良牙の顔面を殴ろうとする。
 その拳を、良牙は両足で抑え込む。足が着かず、少しばかり辛い体制になったが、仕方が無い。避ける手段が足しかないのだ。
 両手を放てば、避ける間もなくエターナルエッジが顔の前に突き刺さる。

「ぐおおおおっ」

 良牙は空中で勢いをかけて、エターナルの腕ごと、くるりと回転させた。
 エターナルの両手が、彼自身の体の後ろへと回転する。

「今だ!」

 エターナルの体の前が無防備になったところで、一条がスタンガン付きのナックルで強く殴った。これまでチャンスのなかったところへ、強い一撃が加わる。
 両手が塞がってエターナルローブで防ぐこともできず、その衝撃は克己の体にも伝った。

「ぐっ……」

 と、良牙はその瞬間に己の両手両足を離した。
 エターナルが突きどころではなくなったのだから、離しても何の問題もない。
 そして、見事に着地すると、今度はブロッサムに言葉をかけた。

789本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:06:43 ID:haf8Hahc0

「つぼみ!」

 エターナルを注意しているために、声をかけるだけで目線も合わせない。
 しかし、それはブロッサムが良牙の方を振り向かせるには十分な一言。
 彼女は、良牙の方を見ながら口を開いている。

「なに悩んでんだよ、俺たちは戦うしかねえだろ!?」

「でも……」

「俺に言わせてみれば、仲間が裏切るとか裏切らないとかは、後で考えればいい。コイツは放っておいたらいけない相手だろ……!」

 エターナルが、良牙の方を向いた。
 再び一条はエターナルを殴ろうとしたが、エターナルはそんな一条を、振り向きもせずに一蹴する。一条は蹴られた腹を抑えながら後方に引きずられるように下がった。
 そして、エターナルは、良牙の方に向かってエターナルエッジを向けた。

「プリキュア、二つに一つだ。全員俺に殺されるか、もしくは、他の二人を殺してお前だけ生き残るか」

「ッ……! それは、あなたの決める事じゃありません!」

 ブロッサムは、震えながらもそう答えた。
 神にでもなったかのような、エターナルの物言いが気に喰わなかったのだろう。
 エターナルの言葉には心を折られかけているが、それでもエターナルの「殺しあえ」という言葉だけは受容できないし、死ぬ気もなかった。

「そう思うんなら、少しは俺に味方してくれ!」

 エターナルエッジは、依然良牙の方を向いており、それがいつ良牙に向かってくるかはわからないような状態である。良牙は基本的に回避をしていたが、少しでも意表を突かれれば即死だ。
 良牙は別に、これまで確実に実力だけでエターナルの攻撃を回避できたわけではない。ひとえに、運の力もかかわっている。
 つぼみに味方らしくしてほしい、というのは良牙の切実な願いであった。

「……はいっ!」

「……」

 しかし、それでもキュアブロッサムの返事がやや弱弱しいことが変わらないと気づいた良牙は、ため息を吐く時のような気持ちになる。
 やはり、戦力として味方に引き入れるには絶望的かもしれない。いや、むしろこのままでは足手まといだ。
 良牙は少し表情を険しくした。

「だー! やっぱりだめだっ!」

 ちゃんと返事をしたのに、良牙が突然怒り出したことに対して、つぼみは困惑した。
 何に怒っているのかもわからない。というか、そもそもこれは怒っているのだろうか。
 急な出来事で、彼女は戦おうと走りかけていた足を止める。

「……つぼみ。やっぱり手を貸してくれなくてもいい! もし、いま答えがわからねえっていうなら、ここは俺たちに任せて、答えを探しに行け!」

「え?」

「仲間のプリキュアを探しに行って来りゃあいい。殺し合いに乗ってるか乗ってないかなんて、だいたいは見りゃわかるだろ」

 いい加減な答えだ。見てわかるのなら苦労はしない。
 ただ、つぼみくらいの女の子がもし、人を一人殺したというのなら、少しは冷静さを欠くだろうし、ある意味様子を見ればわかるかもしれないとは思っていた(実際のゆりはつぼみより何歳か上だが)。
 足手まといを味方につけて戦いをするくらいならば、いっそ逃がしてそちらの用事を優先させてしまった方がいいと考えたのである。

「……そうだな。私たちの事はいい。仲間が信じられないのなら、信じられる仲間に会いに行ってみればいいんだ」

 一条もまた、同じ事を言った。
 彼女を一人にするのはためらわれるが、それでもエターナルなどと交戦するよかマシだと思ったのである。

「……だけど、私は戦うつもりです!」

「悪いがつぼみ……今のままじゃ足手まといにしかならない。今は戦うよりも、万全に戦うための準備をするんだ!」

 良牙の言葉は、今まで戦いだけに生きてきたゆえの言葉だった。
 悲しみや不幸を力に変えたり、己の万全を知ったうえで戦うのが兵法である。
 戦えない状態で戦う──そんな意地を使ってしまう時もあるが、客観的に見たつぼみは、まさにそれだった。
 自分の時は止められないが、他人の時はこうして止められる。

「……そうはさせねえぜ」

 エターナルは、エターナルエッジの刃先をブロッサムの方へと向け変えた。
 はっとして、ブロッサムは後方へ下がる。
 だが、エターナルがブロッサムを追っていく。
 後ろには、それに対応すべく、エターナルを追う良牙と一条の姿があった。
 二人は回りこむ形で、ブロッサムとエターナルの間に立とうと走る。一条が先頭であるが、すぐに良牙がそれを追い越した。

「……おらっ!!」

 ブロッサムが通り過ぎた機を見て、良牙は大木を殴り倒す。
 みしっ、という音とともに木が折れて、エターナルの行く道を塞いだ。完全に地面に落ちた瞬間の音は筆舌に尽くしがたい。

790本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:07:44 ID:haf8Hahc0

「おい、つぼみ!」

 良牙は、舞い散る砂塵の向こうにいるはずの少女の名前を呼んだ。

「一条刑事が言ったとおりだ、仲間が信じられなくて戦えないなら、信じられるようになってから戦えばいいだろ!」

「……」

「会って確認して来い、そいつが死んだって事も、殺し合いに乗ったって事もどうせ嘘なんだ。実際に見てみりゃ、自分はこんな馬鹿な事で悩んでたのか……って笑えてくるに決まってる!」

 良牙の声量を考えれば、その言葉はエターナルにも聞こえただろう。
 だが、とにかくつぼみに聞こえればそれでいい。
 今、つぼみがすべき事は、戦う事よりも、確かめる事なのだと良牙と一条は思っていたのである。

「お二人とも、すみません!」

 もくもくと視界を曇らせる土煙で何も見えないが、そこからつぼみの声がした。
 つぼみの選んだ判断が、その中から聞える。

「私、ゆりさんたちを探してみます。ゆりさんを信じるために!」

 ────つぼみが選んだのは、エターナルを倒すのでなく、ゆりを信じるという決断だった。
 花咲つぼみ・キュアブロッサムは森を駆けて行く。
 ブロッサムがどちらに向かったかわからないのは残念だが、一応街に向かう事は事前に約束しているので、はぐれる事には問題はない。

「……よし、行ったな」

「ああ」

 一条と良牙は、砂埃から来るであろう刺客を待った。
 そこから来るのタイミングがわからないので、少し息を呑む。

「……まあいい。“響良牙”、お前はアタリだ」

 エターナル──大道克己の声。

「殺し甲斐がある」

 砂塵が晴れたそこには、キュアブロッサムの姿などなかった。
 白き死神、仮面ライダーエターナルが憮然と立っていた。



★ ★ ★ ★ ★

791本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:08:16 ID:haf8Hahc0



「ダークプリキュア……」

 キュアブロッサムは、そうして走った先で、街に向かおうとしていたダークプリキュアと偶然会う事になった。黒い翼、黒に染まった容姿は間違えようもない。
 ダークプリキュアにしてみれば、花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆり──元の世界の知り合い全員と会う結果になったというのだから、この会場も狭いものだ。
 それも、その全員が森エリアで出会っている。……まあ、大半が森と山に覆われているのだから、当然ともいえるだろう。

「……キュアブロッサムか」

 キュアブロッサムはぐっと構え、一撃を待った。
 しかし、まだダークプリキュアが何かしらの動きを見せる様子はなかった。
 ただ、彼女は少し残念そうに、そして気の毒そうに呟く。

「不意打ちで死ねば、恐れることも苦しむこともせず逝けたというのに」

 そんな言葉は、ブロッサムの耳には入らない。
 それでも、ダークプリキュアの様子の異変は、ブロッサムにもわかったらしい。
 先ほどの喧騒が嘘のように、静かで落ち着いた邂逅であった。

 ブロッサムが彼女の姿を見て思い出すのは、彼女がゆりの妹だというエターナルの言葉。
 それが嘘ならば、まずエターナルの言葉を信用する必要性はかなり薄くなる。
 そのまま、言葉の全てが嘘である可能性を追いたかった。

「ダークプリキュア、あなたが……」

 訊いてみようとするが、少し怖かった。
 ダークプリキュアの立ち振る舞いは、あまりにも静かで繊細さを感じさせる。簡単に折れそうなくらい華奢な体に見える。
 今まで荒々しい戦いを繰り広げてきた相手とは、少し違う。
 ダークプリキュアは、普通の少女のようでありながら、普通の少女ではなさそうだ。

「……あなたが、ゆりさんに執着する理由を教えてください!」

「……」

 ダークプリキュアは、押し黙る。
 キュアブロッサムもまた、その空気の悪さに何も言えなくなった。

「……それを伝える必要はない」

「……なら、こう質問します。あなたとゆりさんが、姉妹であるというのは本当ですか?」

「それも、答える必要はない」

 だが、それが肯定という意味なのは、ブロッサムにもわかった。
 そう、こんな事を言われたのに、ダークプリキュアはその質問を冷静に受け止めすぎている。本来なら、鼻で笑ったり、怒ったりするかもしれない。……本来、ブロッサムが聞きたい返答はそれだった。
 しかし、残念ながら、事実はブロッサムの信じたい事実ではなく、エターナルの方だったらしい。
 はっきりと肯定されたわけでもなく、根拠となるものを一切受け取っていないために彼女の心の靄が深くなるばかりで、吹っ切ることもし難かった。
 ぐっと、ブロッサムは拳を握る。どう反応すればいいのか、しばし悩んだ。
 今度はダークプリキュアの方が口を開く。

「……貴様の質問に答える気はないが、一つだけ用がある」

「何ですか?」

「貴様に渡しておくものがある」

 ダークプリキュアは、ブロッサムに向けて何かを投げつけた。
 ブロッサムがそれを胸と腕で受け止めて見てみると、それはココロポットであった。
 鋭利な武器が飛んでくるのではないかと構えたが、そんなものよりずっと深くブロッサムの心を抉った。

792本当ですか!?ダークプリキュアの真実!!:2012/12/24(月) 02:08:50 ID:haf8Hahc0

「ゆりのものだ」

「どうして、これを……?」

 ゆりの遺品であるから、プリキュアに受け取ってもらおうとしたのが一番の理由だろう。
 このまま、ダークプリキュアの手でさらに穢れ続けるよりも、ブロッサムに持ってもらっていた方が良いと考えたに違いない。
 しかし、ブロッサムにはそんな意図がつかめるはずもない。

「キュアブロッサム。今から私と勝負をしろ」

 そしてダークプリキュアは、ただ返答を拒否する。
 その哀愁漂う瞳だけが、ブロッサムに回答していた。



★ ★ ★ ★ ★



 一方、一条や良牙もその間中戦っていた。
 何度か責めては、すぐに退くような戦法だが、それはなかなかに難しい。
 傷を負わないのは、エターナルが敵の攻撃を楽しみ続けたからだとしか言いようがない。
 積極的に攻撃せずに、敵が怯えながら地道な攻撃をするのを楽しんでいるようだった。

「おりゃあっ!」

 その掛け声は、一条薫という男らしくはない。
 どこかで聞いたことがあると感じるのは、おそらくそれが五代雄介とまったく同じ掛け声だったからだろう。
 強力スタンガンを仕込んだ黒いブーツによるライダーキック。良牙の肩を借りてジャンプしてからの、甲高い声と一撃だった。

「はぁっ!」

 エターナルローブを使うまでもない。
 一条の装備がメモリにも劣る低い技術の産物であるのは明白だったから、エターナルの胸に当っても何の問題もないのである。ローブをしているのと同じだ。
 エターナルの胸で電撃が光る。
 エターナルはその左足を掴むと、左方に投げ飛ばした。

「ぐぁっ!」

 一条の体が激しい勢いで地面に激突して何度かバウンドする。
 土埃が黒いスーツを汚す。受け身もうまく取れず、一条の体にはすぐには立ち上がれないほどの衝撃が残った。

「爆砕点穴!」

 更に、その次に良牙の人差し指がエターナルの胸に突き出される。
 特殊な技であるがゆえ、もしこれがベルトを狙ったものならば、ロストドライバーとメモリの破壊につながったかもしれないが、良牙が狙ったのは一条と同じく胸。
 残念だが、エターナルの装甲は彼の技で簡単に破壊することはできないものだった。

「ふつう、生身でこの距離に来るか──」

 エターナルとほぼ零距離に来てしまった良牙の胸は、次の瞬間、エターナルエッジによって切り裂かれた。
 咄嗟に体を逸らしたため、そんなに深くは抉られてはいない。しかし、衣服がめくれて血も出た。
 強靭な筋肉を持っていたゆえか、その傷を痛いと感じることはなかった。
 例の爆砕点穴の修行によって、彼の体はとっくの昔に致命傷を笑えるほどに頑丈になっていたのだ。

「ここまでタフとは面白いな……」

「それだけが取り柄でね」

 更に、良牙は前に出る。
 エッジの攻撃の威力がわかったことで、前に出やすくなったのだろうか。
 彼の体には、大したダメージではなかったから、恐れる必要がなかったのだ。

「はぁっ!」

 良牙はエッジを持った右手を掴むと、足を高く上げてエターナルの顔や胸、腹から足を何度も何度も蹴りつけた。
 あれだけ筋肉が硬いというのに、長い足はエターナルの顔まで上がる。
 中国拳法の使い手である彼だからこそできる特殊技能であった。

793本当ですか!?ダークプリキュアの真実!!:2012/12/24(月) 02:09:48 ID:haf8Hahc0

「調子に乗るなよ」

 エターナルは、エッジを持った右手を自分の側に引き寄せる。
 それによって、良牙もまた引き寄せられた。その場を離れまいとした良牙を引き上げるのだから、ものすごい力である。
 良牙の腹に、今度は一撃だけエターナルの蹴りが叩き込まれる。

「がはっ……!」

 良牙は急に息苦しくなり、両手でのどを抑えた。急所──おそらく鳩尾にキックを受けたのだ。
 そう、たった一撃でありながら、ライダーと人間にはそれなりの差があった。
 少なくとも、良牙の注意を逸らし、良牙の手を離させる程度の差は。

 エターナルが、良牙に背を向けて歩き出した。
 なぜ優勢になったというのに、背中を見せて歩き出したのか、良牙にはわからなかった。
 しかし、その理由はごく単純────

「そんなお前に最高の死に様を用意してやる」

 エターナルはエターナルエッジにメモリを挿し込み、マキシマムドライブを起動する。
 月影ゆりを殺害した技・「エターナルレクイエム」である。

 ──Eternal maximum drive──

 本来、メモリを停止させる効果が何よりの意味を持つのだが、この場では無意味だ。
 ならば、この技の持つ意味はたったひとつ。
 純粋に相手を殺害する、まさしく必殺技としての鎮魂歌。
 エターナルが助走をつけると、良牙は身構えた。エターナルが離れたのは、高い威力を引き出すための助走のためだったのだ。

「さあ、地獄を楽しみな!」

 しかし、走りながらそう呟いたエターナルは、真横からの一撃に倒れることになる。
 エターナルも、どうやら何が起こったのかわからない。良牙さえも、その姿に唖然としただろう。
 油断したとはいえ仮面ライダーをたった一回のタックルで突き飛ばすだけの力がある者──つまり、一条ではないとエターナルは脳で判断した。
 それに、エターナルが倒れる瞬間に見たのは、謎の赤い影だった。
 黒色もあったが、一条ライダーの外形とは少し異なった、それは────


★ ★ ★ ★ ★


「ダークタクト!」

「ブロッサムタクト!」

 二つのタクトが、森を駆けながら争い合う二人の手で交錯する。
 タクトとタクトがぶつかり合う。
 何故、この二人の戦士が戦うことになってしまったのか。プリキュアとダークプリキュアが戦うのは必然であるはずなのだが、ここに至る経緯を考えればそう思わずにはいられなかった。
 当事者であるキュアブロッサムも、少なくとも、この瞬間だけはそう思っていた。
 ダークプリキュアの行動に幾つか疑問があることが、ブロッサムを悩ませる原因だった。

「ダークプリキュア、あなたはどうして……そこまでして私たちと戦うんですか!?」

 ダークプリキュアの方が優勢に見える戦いだった。
 ダークプリキュアは攻撃に、ブロッサムは防御に回っているようにさえ見える。
 少しでも気を抜けば、ブロッサムがタクトの一撃を受けるだろう。

「答えを知る必要はない!」

 ダークプリキュアが縦に振り下したダークタクトは、ブロッサムが真横に構えたブロッサムタクトに防がれる。
 その隙に、ダークプリキュアの腹にブロッサムの足が叩き込まれた。
 ダークプリキュアは、その一撃によって、初めて彼女や青いプリキュアと戦った時の事を思い出した。あの時より、随分と一撃の重みが違う。成長の証だろうか?
 しかし、それはダークプリキュアの動きを止めるにふさわしくはなかった。

「はぁっ!!」

 ダークプリキュアはタクトを握ったまま、真正面に拳を突き出す。
 顔を狙った攻撃だったが、それはブロッサムに避けられる。

「答えを知る必要なら、あります!!」

 今度は、その小さな体から、ダークプリキュアの鳩尾に肘が叩き込まれた。
 避けた勢いで、そのまま低い体勢からの肘打ちを決めたのである。
 仮にも急所である鳩尾をつかれると、さすがにダークプリキュアも息が止まるような感覚に陥った。

794本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:10:43 ID:haf8Hahc0

「ぐぁっ!」

「あなたが本当にゆりさんの妹なら、私の大切な人の家族なんです! 誰かの悩みを聞いて、その心を救う……そして、こころの大樹を……人々のこころの花を守ってあげることが私たちの使命だから!!」

 ゆりの妹。その言葉を、ブロッサムは額面通り捉えるしかなかった。
 ゆえに、ダークプリキュアは一人の人間として扱っている。心があるというのなら、その心を救うべき使命が、彼女にはあるのだ。
 そして、それが友人の肉親であるというのなら、特にその使命は重要なものになってくる。

「……それに、私はすべての答えを知ってから、本当の戦いに臨むんです。だから、あなたから返事を聞かないといけない」

「くっ……なる、ほど。私を前座扱いか。……面白い」

 鳩尾を抑えて、呼吸を整えながらダークプリキュアが言う。
 表情は苦しげだが、ブロッサムをにらみつけている。
 だが、どうやら何かたくらみがあるらしく、ダークプリキュアの方も口を開いた。

「キュアブロッサム、仮面ライダーエターナルと会ったな?」

「仮面ライダーエターナル!? 知っているんですか!?」

「やはりな……。私とムーンライトの関係を言って回るのは奴くらいしかいまい」

 エターナルと、何度か月影ゆりとの関係について話した覚えがある。
 キュアブロッサムがその話題に踏み込んでくるのは、エターナルを通じて知った可能性が高いと、ダークプリキュアはにらんでいた。
 一方、ブロッサムとしては、エターナルが仮面ライダーの二つ名を持っていることに唖然とする。もしかすれば、広間で聞いた仮面ライダー1号、2号────本郷猛と一文字隼人の二つ名を拝借しただけかもしれないが。
 もし、あれがプリキュアだったらキュアエターナルとでも名乗ったのだろうか? 滑稽な響きに聞こえるが、実際そんなことをされたらプリキュアであるブロサッムは決して許さないだろう。……などと考えてみたが、目の前にいるのは実際にそれをやってのけた相手だった。

「……やっぱり、あなたはゆりさんの妹なんですか?」

「やめろ。あの女を姉と思ったことは一度もない」

「え?」

「奴が光なら私は影。そういう風に生まれてきた」

 ダークプリキュアの、かつての本心を吐露する。
 しかしそれは、今の本心ではない。
 今になってみればまったくの嘘でしかない言葉でありながら、事情を知らないプリキュアには真実以上の説得力を持つであろう言葉だった。
 だから、ダークプリキュアはこうしてプリキュアを前に語る。

「ムーンライトはエターナルに殺されたな。私の手で殺すことができなくなったのは残念だが、邪魔者が消えたという意味ではむしろ我々にとって好都合だ……」

「……!!」

「お前の仲間──キュアマリンと言ったな」

 既に怒りつつあるブロッサムの表情。
 ダークプリキュアがキュアマリンの名前を出すと、彼女は大きく目を見開いた。
 怒りと驚きに、ブロッサムは女の子らしからぬ表情になる。

「あれは私が殺した」

 ブロッサムは、反射的にその拳をダークプリキュアの腹に叩き込もうとしたが、ダークプリキュアの右手がそれを押さえつけていた。
 そう何度も同じ場所に攻撃を受けたりはしない。

 ダークプリキュアの言動は、やはり実際の行動とは違う──まったくの嘘ばかりであった。
 実際にキュアマリンを殺害したのはキュアムーンライトだったし、キュアムーンライトの死を彼女は悲しんでいた。
 しかし、それでも彼女が嘘をついた理由はごく単純。
 キュアムーンライトがゲームに乗ったという事実について、キュアブロッサムが知らずに済むようにしたのである。
 少なくとも、ムーンライトは自分の罪が仲間に知られるようなことを望まないだろう。
 普通に考えればそれは発覚しないだろうが、エターナルという存在が厄介だった。やはりあの時、殺しておくべきだったと後悔する。
 こうしてブロッサムがエターナルの戯言を聞けば、彼女が殺し合いに乗った事実を知ってしまうし、奴はどこまでも他人を侮辱する。
 だが、エターナルに何らかの事実を聞かされてしまった今、ダークプリキュア自身がゆりの罪すべてを被ることによって、ブロッサムがエターナルの言った真実を信じ込むことは回避できるはずだ。

795本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:11:35 ID:haf8Hahc0

「ダークプリキュア、私……堪忍袋の緒が切れました!!」

 何も知らないブロッサムはいつもの言葉を投げかける。
 しかし、何も知らないブロッサムを責めることは誰にもできない。
 ダークプリキュア自身が、この言葉を受けることを望んだ──その結果なのだから。

(……こうなったプリキュアと敵対するのは厄介だが、まあいい。せめて、何も知らないまま死なせてやろう……)

 一方のダークプリキュアも、今さらこの程度の汚名を被ったくらいで傷つくことはないのだから。

「プリキュア・ピンクフォルテウェイブ!」

「プリキュア・ダークフォルテウェイブ!」

 二人の怒りの光弾は、空中でぶつかり合い、行き先を譲ろうとはしない。
 それはまさしく、お互いの魂の一撃であった。
 プリキュア同士が放つ一撃は、簡単には破れない。
 ……が、すぐに二つのエネルギーは爆発し合い、その周囲を飲み込んだ。
 その爆発的なエネルギーは、二人の視界をうばい、当事者二人まで巻き込んで破裂する。



★ ★ ★ ★ ★



(五代……)

 一条の脳裏に、一人の男の戦いが浮かぶ。
 それは、同僚でも、家族でもなかった。
 ただ偶然であった、冒険家を名乗る妙な男。
 普通に就職して、普通に家族を作るのではなく、世界を旅する楽しみに生きるというのは、一条とは全く別の生き方だった。
 そして、この男の一番妙なところは、やはり、未確認生命体との戦いのことだろうか。
 純粋な人間ではなくなり、未確認生命体と戦い続ける宿命に取りつかれたというのに、その男はどういうわけか笑顔だったのだ。
 誰かに笑顔を与え続けることに、なぜか純粋だった。
 本当は敵を殴る拳が血で汚れることも、敵の命を奪うことも、嫌っていたはずなのに。
 あるいは、自分の命が脅かされていることへの恐怖もあるはずなのに。

(────これが君の見ていたものなのか)

 一条薫は、いま目の前に見えている景色が、血で汚れているようには見えなかった。
 仮面ライダークウガの目で見る、自分の手。
 それは、「白」ではなく、「赤」だった。

 そう、仮面ライダーエターナルを真横から突き倒した赤い影──それは仮面ライダークウガ・マイティフォームだったのである。

 一条薫の腹にアークルが嵌った理由は単純だった。
 一条自身が、それを望んだからに他ならない。
 欲のためでも、悪のためでも、力のためでもなく、ただ純粋に「誰かを守るため」にそれを取り込もうとした結果だった。
 そして、五代と違い「警察」であり、戦う覚悟が十二分にできていた彼がグローイングフォームになることもない。

「誰だ、てめえ。仮面ライダーか?」

 エターナルの言葉に、クウガが答えなかった。
 ただ、いまの一瞬で良牙を救えた事実に放心していた。
 どうやら、クウガの力というのは予想以上らしい。しかし、彼としてはその強すぎる力に飲み込まれずに済んだ五代雄介という男への敬意もまた強まった。

「……おい」

 クウガは拳を握ったり開いたりしてみた。
 力がぐっとこもる。

796本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:12:12 ID:haf8Hahc0

(五代、君はこんな事を、本当なら望まないだろうな)

 五代と一条の間には、友情が確立されていたから、それだけお互いの身を心配する気持ちは強かった。
 ゆえに、一条は五代がクウガとなったことを後悔していたし、彼が戦うのを何度か止めた。
 そして、何度思ったことだろう。

 もし、自分がクウガだったなら────と。
 その願いは、今思わぬ形で叶っていた。

(だが、あのとき約束しただろう。こんな戦いを止め、人々の笑顔を守ると──そのために、少し君の力を借りるだけだ)

 一度クウガになれば、たとえ元の世界に帰ってもクウガのままになるかもしれない。
 もしかすれば一生このままで、後でこの事実を後悔してしまうかもしれない。
 しかし、ここでやらなければ確実に後悔するというのはわかったのだ。

「仮面ライダー、クウガ」

 少し遅れてそう呟いたのは、なぜだろうか。
 もしかしたら、アマダムの中で、五代雄介の意思が少し染みついていたのかもしれない。

「仮面ライダークウガか。ガイアメモリは使わねえみたいだが、 その姿……確かにライダーのそれに似ている」

 当然である。
 シンケンジャーの世界を訪れた「仮面ライダー」はまさしく、異世界のクウガであったし、彼は確かに仮面ライダーの称号を受ける者であった。
 むしろ、エターナルよりもよほど、その名に似合った魂の持ち主である。

「────いくぞ……!」

「おう!!」

 放送まで、あと数分というところだった。
 しかし、誰も時間など気にしていられる状況にはなかった。
 このままだと、この三人は放送を聞きながら戦うことになる。
 それでも時間と敵は待ってはくれない。

 クウガとエターナルの拳がぶつかった。



【1日目/昼】
【E―6/森】

【大道克己@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)、腹と背中を中心とするダメージ(小)、仮面ライダーエターナルに変身中。
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+エターナルメモリ、エターナルエッジ、昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×3、破邪の剣@牙浪―GARO―、ランダム支給品1〜5(十臓0〜2、えりか1〜3)、細胞維持酵素×2@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2
[思考]
基本:優勝し、自分の存在を世界に刻む。
0:目の前の二人を殺す。
1:とりあえずダークプリキュアは無視し、他の参加者を殺す。
2:T2ガイアメモリを集める。
3:京水と会ったら使ってやる。もしくはメモリを奪う。
4:プリキュアや仮面ライダーは特に優先的に殺害する。
[備考]
※参戦時期はマリア殺害後です。
※良牙を呪泉郷出身者だと思ってます。
※プリキュアは食事、水分の摂取を必要としない可能性を考えています。ダークプリキュアの一件から、プリキュアはただの人間だと考えていない可能性もあります。

797本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:12:47 ID:haf8Hahc0

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(中)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(中)、腹部に軽い斬傷、五代の死に対する悲しみと後悔
[装備]:なし
[道具]:水とお湯の入ったポット1つずつ(お湯変身3回分消費)、秘伝ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリ@仮面ライダーW、支給品一式、ムースの眼鏡@らんま1/2
[思考]
基本:天道あかねを守る
0:つぼみと一条を守る為にエターナルを倒し、それから冴島邸へ向かう。
1:天道あかねとの合流
2:1のために呪泉郷に向かう
3:ついでに乱馬を探す
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※良牙のランダム支給品は2つで、秘伝ディスクとガイアメモリでした。
 なお、秘伝ディスク、ガイアメモリの詳細は次以降の書き手にお任せします。
 支給品に関する説明書が入ってる可能性もありますが、良牙はそこまで詳しく荷物を調べてはいません。
※シャンプーが既に死亡したと知りました。
※シャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
 「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
※道を間違えて市街地に向かっていますが、良牙はまだそれに気づいていません。

【一条薫@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小) 、アマダム吸収、仮面ライダークウガに変身中
[装備]:滝和也のライダースーツ
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品2〜5(一条分1〜2確認済み、五代分1〜3未確認)、警察手帳、コートと背広
[思考]
基本:民間人の保護
0:警察として、人々を守る
1:エターナルを倒す。もしもつぼみが危険になったら、彼女を連れて逃げる。
2:良牙と共に呪泉郷へと向かう
3:魔戒騎士である鋼牙の力にはある程度頼る
4:他に保護するべき人間を捜す
5:未確認生命体に警戒
※参戦時期は少なくともゴ・ガドル・バの死亡後です
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。
※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。
※アークルはほぼ完全な状態であるため、五代のようにこれを使用して変身することはできるかもしれません。




★ ★ ★ ★ ★



「……なるほど」

 ダークプリキュアと、変身途中のベールに身を包んだ花咲つぼみが、その地に立っていた。
 どういうわけか、互いにほとんど無傷なまま、互いを見つめ合っている。
 あれだけの爆発の中で、周囲の木々や花が一切朽ち果てていないのは、どういうわけだろうか。

(互いに手加減をしていたわけか)

 キュアブロッサムは、周囲の木々や花を傷つけないために手加減をしていたらしい。
 そして、それができたのはダークプリキュアが奇妙な加減をしたことに気が付いたからだ。
 ダークプリキュアの一撃は全力ではない。
 つぼみにはその理由はわからなかったが、それに合わせて力を緩めたのである。

 憎しみにとらわれず、「愛」で戦うのがプリキュアだった。

(……どうやら、仲間を殺されるのを躊躇っているらしいな。ゆり)

 何故、ダークプリキュアは手加減をしたのか。
 その理由はごく単純。ダークフォルテウェイブを放つ瞬間、どういうわけか月影ゆりと来海えりかがキュアブロッサムを庇うように立っている幻影が見えた。
 それが幻影なのはわかっているが、両手を広げて彼女を庇おうとしたのを、ダークプリキュアは確かに見た。

798本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:14:29 ID:haf8Hahc0

(しかし、ここにある全てが無事というのは不自然だ。……やはり────)

 プリキュアの奇跡、とでもいうべきだろうか。
 死して尚、マリンのココロパフュームとムーンライトのココロポットに込められたプリキュアの意思が、あの爆発を食い止める力を使った……と、そういうことなのだろうか。
 実際、ココロポットはダークプリキュアに一時的に力を貸してくれたし、ムーンライトは妖精がいないのに変身している。
 プリキュアがプリキュアであった証であるあの二つのアイテムは、どうやらプリキュアらしい奇跡を起こしてくれるらしい。

 ────ならば

(キュアブロッサム、キュアサンシャイン。お前たちはその奇跡とやらで幸せを取り戻してみろ。私は私のやり方でゲームを進める)

 本当のプリキュアが奇跡を起こす力を持つのなら、それに依ってみる。
 ゆりやえりかがそれで戻るのなら、ダークプリキュアはそれでいいのだ。
 だから、「ゲームで優勝する」以外の方法として、「プリキュアに奇跡を起こしてもらう」という可能性もあるのなら、並行してそれを視野に入れているといいだろう。

「……キュアブロッサム、また会える時を楽しみにしているぞ」

 ダークプリキュアは、その目的や意思を隠しながらつぼみの前を去って行った。
 プリキュアの変身が解除されたつぼみは、それを追いかける術がない。
 そして、同時につぼみの頭に一つの疑問が過る。

(本当に、ダークプリキュアがマリンを……?)

 なぜ、今ダークプリキュアはつぼみに手加減をしたり、見逃したりしたのか。今までと違い、他人を傷つけることに少しでもためらいがあるのだろうか。
 ダークプリキュアの情報と、エターナルの情報の食い違いがつぼみに混乱を齎す。
 どちらを信じればいいのか、彼女にはもうわからない。
 だが、ゆりがえりかを殺したとは信じられないし、ダークプリキュアが犯人だということも疑問に思う。
 それゆえか、怒りも少しおさまっていた。

(いえ、そんなことを考えている場合じゃありません……、みんなのところに戻らないと……)

 すぐに思考を切り替えた。
 ゆりは死んでしまった……その事実は重たいが、ゆりが人殺しでなかったと聞けたことで、少しは気が楽になったかもしれない。
 もちろん、それは対症療法にもなっていないのだけれど。



【昼前/E-8 森】

【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、右腕に刺し傷
[装備]:T2バードメモリ@仮面ライダーW
[道具]:ゆりの支給品一式、ランダムアイテム0〜2個(ゆり)
[思考]
基本:キュアムーンライトの意思を継ぎ、ゲームに優勝して父や姉を蘇らせる。
0:市街地へ向かい、集まった参加者達を倒す。
1:もし他のプリキュアも蘇らせられるなら、ゆりのためにそれを願う。
2:つぼみ、いつきなども今後殺害するor死体を見つけた場合はゆりやえりかを葬った場所に埋める。 ただし、プリキュアの奇跡にも頼ってみたいので、その都度生かすか考える。
3:エターナルは今は泳がせておく。しばらくしたら殺す。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。
※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です。
※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。
※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。

799本当ですか!?ダークプリキュアの真実!! ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:14:41 ID:haf8Hahc0

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、キュアブロッサム変身途中の下着みたいな姿
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム
[道具]:支給品一式×3、鯖(@超光戦士シャンゼリオン?)、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、さやかのランダム支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
0:良牙たちのところに戻る。
1:仲間を捜す、当面はD-5辺りを中心に探してみる。
2:南東へ進む、18時までに一文字たちと市街地で合流する
3:ダークプリキュア…
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※ダークプリキュアにより、「えりかはダークプリキュアが殺した」という情報を得ましたが、上記の情報と矛盾するため混乱しています。

800 ◆gry038wOvE:2012/12/24(月) 02:17:28 ID:haf8Hahc0
以上、投下終了です。
色々ハプニングがあって申し訳ない…。

>>798の状態表ですが、正しくは昼前でなく昼ですね。
本当にすみません。

801名無しさん:2012/12/24(月) 04:35:29 ID:wNPlwhdE0
投下乙です

なるほど、ここの大道なら言いそうだよなあ
つぼみは心がぶれたまま戦っても死ぬだけだし結果的にこれでよかった…のか? ダークが罪を被ったが真実知ったら…
そして一条がおま、キター!
戦いは更に深まるのか、それとも…

802名無しさん:2012/12/24(月) 06:32:38 ID:CMM1VyGsO
投下乙です!ダークプリキュアはそういう道を選ぶか…つぼみも薄々と気付いてるだけにな

クウガは倒れたが仮面ライダークウガが新たに…つかさやかあちゃん死んでも余計なことにしかなってないw

803名無しさん:2012/12/24(月) 10:10:28 ID:vIvel7y60
投下乙!
うわあ…エターナルの言葉責めがエグイ……
つぼみはこの先大丈夫なんだろうか…
そしてついに一条クウガキター!
そういやダークプリキュアはこれで同作キャラ全員に遭遇したわけか

後、今日は毒吐き別館の方でロワ語りをやっていますよ〜

804名無しさん:2012/12/24(月) 10:49:53 ID:spdKXyFk0
投下乙です!
おお、ついに一条さんがクウガになったか……良牙もいるとはいえ、エターナルに勝てるかな?
その一方でつぼみはダークプリキュアに見逃されたか……てか、ダークプリキュアがまさか悪役を引き受けるとは意外だった。
そして、放送も近いか。良牙もどうなるか、気になるな。

805名無しさん:2012/12/25(火) 12:59:22 ID:iwBl5qbo0
放送まで後は

高町ヴィヴィオ、孤門一輝、蒼乃美希、沖一也、明堂院いつき、相羽シンヤ、相羽タカヤ、泉京水、モロトフ

かな

806名無しさん:2012/12/26(水) 18:11:55 ID:ascUWoU20
街組はまあ大丈夫だとして、問題はタカヤシンヤモロトフ京水だな
これは死人が出る予感

807名無しさん:2012/12/29(土) 00:07:32 ID:ALoH6uMQ0
予約きたああああああああ
翔太郎たちも絡むのか

808名無しさん:2013/01/07(月) 22:21:52 ID:2Mv8jEGQ0
一度破棄が来たが別の予約が来たなあ

809 ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:48:05 ID:HwjZ8YCw0
明堂院いつき、沖一也、蒼乃美希分投下します。

810ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:50:21 ID:HwjZ8YCw0
The 0(4)th movement ◆◆◆◆◆◆×◆◆◆◆



「ねぇ、◆◆◆……」


 そう1人の少女がもう1人の少女に話しかける――


 対話、一言で言えばガールズトーク、度が過ぎれば百合とも呼ばれ極一部の人々が喜びかねない話が展開されるであろう――
 無論、この場ではそこまで盛り上がることは無いであろうが――そういった行為である事に違いはあるまいて――
 その行為自体は何ら変哲のない行為だろう――
 だが、状況的に言えばある一点で特異と言える――


「『君』はどうしてそんなに安らかな顔で死ねたの――」


 それは片方の少女が既に死人だったからだ――
 思わずもう片方の少女ももう1つの『素』の姿をさらけ出す程の――



 唐突だが――物語、つまりはストーリーというのは誰の為のであろうか?


 読み手が読んで歓喜に震える為? 無論、現実的にはその通りだ、だが今の話はそれを言いたいわけでは断じてない。
 展開されている物語が誰の為のものかと言っているのだ。
 何が言いたいのか? ――ひとまずその答えについては置いておこう。


 さて、実に唐突にして今更の話ではあるが――この地には66人の老若男女がたった1人だけの勝者を決める生死を懸けた戦いを強いられている。
 要するに理論上はたった1人の生還者を決める。逆を言えば64人の死者、あるいは退場者を決める戦いとも言えよう――
 確認出来る限り現段階までで――実に約30人前後が退場した事になる――
 約11時間前後で4割以上、あるいは半数弱が退場する状況――これが多いか少ないか、そんな議論をここでするつもりはない――
 重要なのは30人前後が退場、いやあえて言おう、死亡した事実に意味があるのだ――


 そしてこれから語られる物語はそんな死者となった参加者に遭遇した参加者の物語だ――
 間違えるな、もう一度言おう、この物語は死者と遭遇した者、その者の為の物語だ――
 まず、死者にこの言葉を捧げよう――


 earth to earth ――
 ashes to ashes ――
 dusu to dust ――


 土は土に、灰は灰に、塵は塵に――


 深く考える事は無い――死者が土、あるいは灰か塵に帰るだけ――それだけの事だ――
 そう、それは死者に対する礼儀程度の事でしか無いのだ――

811ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:51:55 ID:HwjZ8YCw0








The 1st movements 沖一也×青乃美希×明堂院いつき



「これは一体……?」


 これまでの話で既に語られる事ではあるが、今一度状況を簡単に整理しておこう、


 F-9にある警察署で合流を果たした9人の老若男女、その内青乃美希、及び明堂院いつきは早乙女乱馬から彼女達の仲間である山吹祈里がG-8にある中学校にいるという情報を聞き、沖一也と共に中学校に向かった――
 乱馬の話によれば何事も無ければ祈里、及び彼女と行動を共にしている園咲霧彦と合流出来る――筈であった。


 移動そのものは殆ど何事も無く、比較的ハイペースで行う事が出来た。
 無論その要因の1つに美希及びいつき自身が祈里との合流を急ぎたかった事情があったからだ。
 そんな彼女達ではあったが周辺の警戒に関しては余念は無かった。その辺りは本来ならば2人を守らなければならない立場にいる筈の仮面ライダースーパー1こと沖自身も感嘆していた。


「(流石はプリキュアか……)」


 そう思う沖ではあったが――実の所、その認識は誤りである。
 彼女達は今現在読者諸兄が確認出来る20人以上存在するプリキュアの中でもしっかり者の部類と言える。
 つまり、彼女達の行動に余念がないのはプリキュアだからではなく、彼女達の性格及び経験に起因するという事だ。


 かくして3人は無事に中学校に到着したわけだが――中には誰もいなかった。
 気になった点としては2つ―校内に荒らされた痕跡があった、特に家庭科室は何かの爆発があったのでは無いのかと誤認する程破壊の跡が見られた。それが1点、
 もう1点は保健室及びその近くに幾つかの道具が置き去りにされた点だ。


「誰かがここを襲ったのかしら?」


 真っ先に考えたのは何者かの襲撃に遭い、戦いが繰り広げられその後離脱した――


「でも美希、誰かがここで戦ったのは確かだとしても、それは離脱とは関係ないと思うよ」


 しかし美希の推測をいつきが否定する。


「どうして?」
「ほら、あれ……」


 そう言っていつきはある物を指す。


「……時計? あっ……」


 一般的な中学校には各教室に概ね掛け時計というものが存在している。そしてそれらは無事に機能しており何事も無ければ今現在の時刻を指す筈である――が、
 家庭科室を含めた幾つかの時計は3時前後で止まっていたのだ。つまりその時に何かが起こり破損、あるいは電池が外れた事により機能を停止した事を意味する。
 十中八九、それは戦いによるものだ。そしてそれは概ね3時頃に起こったという事になる。


 だが――


「確か乱馬さん達が中学校を発ったのは放送が終わった後……」


 美希達は落ち着いて情報交換を行う前に警察署を発った為、あの場にいた乱馬達から情報を殆ど得られなかった――と言いたい所だがそれは正確ではない。
 各々が勝手に話し始めた為、普通に考えればその情報を処理仕切れない。だが美希はその勝手に話し始めた話の中で、乱馬が放送後に中学校を出た事を口にしていた事を覚えていたのだ。
 その事から乱馬と祈里達が放送後、つまりは6時過ぎまでは中学校で行動を共にしていた事は間違いない。


「だったら祈里達はその戦いで中学校を出たわけじゃないね」


 そう言いながらいつきは保健室及びその近くから回収した幾つかの道具(ちなみにそれらの道具をいつきが所持しているのは彼女の手持ち道具が一番少ないから)の中からある物を取り出す。
 それは保健室に置かれていた春眠香の説明書である(なお春眠香自体は今更使えそうも無いので置いたままである)。
 その中には色々書かれてはいたが重要なのは春眠香の香りを嗅いだ者は眠ってしまい、夏が来る――つまりは蚊取り線香の匂いを嗅ぐまでは目を覚ます事はない事、
 そして今回は1時間で蚊取り線香の匂いを発する仕掛けが施されている――つまり、1時間だけ眠らせるものという事だ。
 保健室にそれが置かれていたという事は何者かがそれを使用し何者かを眠らせた事になる。


「乱馬さんの話では祈里の他に霧彦さんもいた筈……」


 中学校には祈里の他に霧彦もいた。故に片方がもう片方を眠らせた事になる。
 春眠香の特性上、眠っている1時間に限っては通常よりも安全を確保出来るわけではあるが――

812ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:52:40 ID:HwjZ8YCw0


「幾ら眠っている間は安全だからって、祈里が誰かを眠らせるのは流石に無いと……」
「それ以前に祈里の場合そこまで考え回らないわよ」


 となると、霧彦が祈里を眠らせ――一時的に守る為に使用したと考えて良い。乱馬の話では子供達を守る為に馬鹿な事をした大馬鹿野郎らしいからそれから考えてもまず間違いないだろう。


「でも……幾らなんでも祈里を眠らせたまま1人にするなんて……」
「……逆を言えば、そうせざるを得ない何かが起こったんじゃないかな」


 つまり、乱馬達が中学校を発った後、どうしても中学校を発たなければならない事態が起こった。
 だが、それはあまりにも危険で命の危険があった。しかし祈里にしても霧彦にしても絶対に引かないだろう。
 そこで霧彦は祈里を一時的にでも守る為、敢えて使ったのだろう。


「乱馬さん達がここを出た時間から考えて……」
「その後に何かが起こって祈里が眠り再び目を覚ますのが1時間後……」


 いつき達は祈里が眠らされた時刻を乱馬達が発ったらしい時刻から約1時間前後である7時から8時だと推測した。
 そして再び目を覚ますのは8時から9時――


「祈里が目を覚ましたら間違いなく霧彦さんを捜しに向かうわね」
「僕達がもう少し早く来ていたら間に合ったかも知れなかったのに……」


 勿論、美希にしろいつきにしろ遊んでいたわけではない。だが、もう少し迅速に動けていれば合流出来たのではと考えずにはいられない――



「………………」



 その最中、後ろで2人の話を静かに聞いていた沖が口を開く、



「君達、本当に女子中学生?」
「え、はい。男子の制服は着ていますけど」
「よくそう見えないって言われはするわ」
「いや、外見とかじゃなくて……」



 両者のやりとりが中学生の会話じゃ無い――沖はそう思ってしまった。



「ともかく、祈里達がここにいない以上は長々といても仕方ないわね」
「警察署に戻るか……近くを探……」
「………………!! 2人とも静かにしてくれ!!」


 と、2人の会話を遮る様に沖が声を荒げた。


「!? ……これは……!」
「かすかだけど聞こえるわ……」
「ああ……俺にはハッキリと聞こえる……」


 3人は周囲を見回し音の方向を確かめる。そして――


「沖さん、音の方向は……」
「距離まではわからない……だが方向はあのタワー……風都タワーの方角に間違いない」


 3人が耳にした音はある戦いにおいてある参加者が繰り出した技によって発生した轟音である。
 その技によって大きな気柱が発生した為、それを視認出来れば距離及びおおよその場所も割り出せたが不幸にも3人とも校舎の奥にいた為気柱を確認する事は出来なかった。
 それどころか改造人間である沖が知覚出来なければ後の2人は気付く事すら出来なかっただろう。


 何にせよ、状況は変わった。祈里達の安否は無論心配だがそればかりを優先するわけにはいかない。
 轟音が響いたという事はその場所には間違いなく参加者がいる。同時にその周辺にいる参加者――つまりは市街地の広範囲にいるであろう参加者が何かしらのリアクションを起こす。
 そうなれば次から次へと戦いが起こる事だってあるだろう。
 つまり今自分達がすべき事は音の方向に向かいその周辺にいるであろう参加者との合流あるいは保護である。無論、祈里達もそこにいる可能性は多分にある。


「変身!」
「チェィンジ! プリキュア! ビート・アーップッ!!」
「プリキュア! オープン・マイ・ハート!」


 故に三者共に――


「仮面ライダースーパー1!!」
「ブルーのハートは希望のしるし、つみたてフレッシュ! キュアベリー!!」
「陽の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン!!」


 各々の姿へと変身した――

813ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:53:25 ID:HwjZ8YCw0


「2人とも、俺について来……」
「沖さ……いや仮面ライダースーパー1、お願いがあります」
「ここは別れましょう」


 3人共に行動しようとしたスーパー1に対し、キュアサンシャインとキュアベリーは別々に手分けして探したいと提案した。
 単身だけで勝てない相手が数多くいる状況、それを踏まえれば別れて単独行動する事は些か危険と言える。
 だが目的地が特定されているならばともかく、数キロあるいは十数キロ四方に広がる市街地を探すのは単一グループだけでは厳しいと言わざるを得ない。
 今にも危機に脅かされている者達がいるのかもしれないのだ、多少の危険はあっても手分けして事にあたり迅速に対応すべきだろう。


「だが……」


 スーパー1も彼女達の言い分は理解できる。
 しかし幾ら力があるとはいえ未来のある若い子供達を単独行動させて危険にさらす事は決して容認出来ない。
 無論、スーパー1の心中を2人が理解出来ないわけもない。しかし、


「スーパー1の言いたい事はわかるわ!」
「それでもこの広い市街地で危機に晒されている人々を助ける為には分かれて探す方が得策だと思うから!」


 2人としても人々を守りたい事に違いは無いのだ。その彼女達の言葉を聞き、先輩である仮面ライダー2号こと一文字隼人と別行動をする際、それを渋る沖に対し彼が口にした言葉を思い出す。


『何故俺だけにこだわる? お前も仮面ライダーなら、優先するのは何だ?』
『俺を心配するのは勝手だが、何を優先させるべきかをしっかりと見極めろ』
『こうしている間にも罪のない命が次々に犠牲になったらどうする? だったら、一緒に行くよりも別々に行動する方が効率も良いだろ?』


 状況的にはあの時と似た状況だ。沖自身は納得出来なかったものの最終的には折れ一文字の提案を受け入れ別行動を取った。
 そして結果的に一文字の判断は正しかった。別行動を取らなければノーザ達の襲撃からいつきやアインハルト・ストラトスを助ける事は出来なかった。
 いや、むしろ素直に一文字の提案を受け入れてさえいればいつき達と共に戦っていた大先輩である仮面ライダー1号本郷猛を含めた多くの人々を助ける事も出来ただろう。
 それは沖自身の判断ミスと言える。勿論、沖自身の考えが間違っているわけではない。だがほんの僅か優先順位を間違えたが為に多くの犠牲者を出した事は決して忘れてはならない。
 仮面ライダーとして人々の夢や想いを守るのは当然のこと、そしてそれはプリキュア達にとっても変わりは無い。故に――


「わかった、ここは手分けして探そう――」


 スーパー1は2人の提案を受け入れた。


「但し、あくまでも人々の保護が優先だ。危険人物に遭遇したとしても無理に戦う必要は無い。勝てないと思ったならすぐに逃げるんだ。そのまま警察署に戻って孤門さん達に状況を伝えるんだ、いいね」


 が、決して単独では無理をするなという条件を出した。それが最大限の譲歩だ。
 スーパー1こと沖にとってはプリキュアであろうとなかろうと2人もまた守るべき対象なのだから――


「「はい!!」」


 2人もまたスーパー1の言葉を受け入れた。が、


「でもスーパー1、それは貴方も同じです」
「貴方も絶対に無茶はしないで下さい」


 一方の2人にとってもスーパー1には死んで欲しくは無いのだ。だからこそそう返すのだ。


「ああ」


 かくして、その言葉を最後に3人はそれぞれの方向へと急ぎ足を進めた――


 人々を保護し再び合流出来る事を信じて――





 さて――


 この後、3人は市街地を捜索するわけではあるが、その先で3人はおのおの1人の人物と遭遇する事となる――


 無論、彼等が遭遇した人物は何れも違う人物ではある――


 しかし、ある1点共通点があった――


 それは――


 彼等が遭遇したのは皆死人だったという事だ――

814ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:56:55 ID:HwjZ8YCw0








The 2nd movement 沖一也×山吹祈里



「これは……」


 2人と別れた後、市街地の捜索をしていたスーパー1だったが、その途中黒ずんだ物体を視認した。
 すぐさまその場所に向かい確認した所――


 それが人だったもの、つまりは焼かれた死体だという事がわかった――


 死体は炎によって焼かれたらしく所々炭化してい所もあった。殺されてから焼かれたのか、焼かれた事で殺されたのかそれはわからないがどちらでも大した違いはないだろう。
 死体の損傷は激しく、それが誰なのかすら判別が出来ない。専門家で無ければ性別すら判別出来ないだろう。
 そう、その死体が合流を目指していた筈の祈里のものであったとしてもそれを確かめる術は無い――恐らく美希が見てもそれが祈里だとはわからないだろう――
 せいぜいスーパー1が理解できたのは背丈からそれが中学生ぐらいの子供だろうという事ぐらいだ――


「………………すまない」


 そう口にするしかなかった。
 その人物が何時殺されたのかはわからない。殺し合いが始まってすぐかも知れないし、ほんの1時間程度前の事だったかも知れない。
 それ故に、スーパー1がそこまで謝る必要は無い。だが、自身がもう少し上手く立ち回れば――そう考えると悔やんでも悔やみきれない。
 だが、それでもこれ以上謝りはしない――


 責任を感じていないわけではない。だが何時までも自分を責め続けては駄目なのだ。
 そう、力があるにも関わらず守れなかったのは自分達仮面ライダーだけではないのだ。
 いつき達プリキュア達も同じなのだ。恐らく、この場に彼女達がいた場合彼女達も自分の無力さを嘆くだろう――
 責任を感じるのは良い、だがそれで過剰に苦しむ必要など無いのだ――


 とはいえそう考えられる様になったのは本郷達を犠牲にしてしまった自分の無力さを嘆いた自身に対しいつきが


『僕だって、あの場で戦っていたんです! 僕だって、もっと強ければ、みんなを救えたかもしれないんだ!
 一也さんが自分を責めるたび、僕も自分を責めてしまうんです! だって、僕も…………プリキュアの力があるのに、友達を救えなかった……それは、同じなんです』


 そう口にしたからだ。自分が自身を責めればそれだけ彼女達も傷つく、それに気付いたからこそそう考えられる様になったのだ。
 恐らく先輩達も嘆いている、自分を責める暇があるならもう二度と犠牲者を出す事無く人々を守れと厳しい言葉をぶつける事だろう。


 重要なのはこれからの事なのだ。何時までも悔やんでなどいられない。そんな余裕や暇があるならばすぐにでも人々を守る為に動くべきだろう。
 だからこそすぐにでも動く――


 その前に、


「いつき達と別行動をしたのは結果的に正解だったか……」


 スーパー1はおもむろに焼死体に手をかける――
 幸か不幸か炭化部分が多いお陰でそこまで血生臭い事にはならないで済む――
 それでもこんな現場など中学生の少女であるいつき達には見せられないが――


「取れた……」


 スーパー1の手には1つの首輪が握られていた。そう、スーパー1は焼死体から首輪を回収していたのだ。
 殺し合いからの脱出する為には首輪の解除が必須、しかしその為には首輪構造を把握しなければならない。
 その為に必要なのが首輪のサンプルなのだ。だがその為には死体から回収しなければならない。
 偶然にも死体が見つかった事でようやく首輪を回収できたという事だ。
 とはいえこれは第一歩に過ぎない。首輪を手に入れただけでしかなく、これから解析などを行わなければならないのだ。


「これを技術者……結城先輩に見せれば……」


 とはいえ、解析を行う技術者にはうってつけの心当たりがある。それが先輩の1人である4号ライダーライダーマンこと結城丈二の事だ。
 彼でなくても本郷と共に風見志郎を仮面ライダーV3へと改造手術を行った経験を持つ一文字でもある程度調べる事が出来るかもしれない。
 そもそもスーパー1こと沖自身も元々科学者なのだ、相応の設備あるいは施設があれば自身で解析する事も出来る。だが――

815ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:57:40 ID:HwjZ8YCw0


「いや、先輩達ならもう既に首輪を手に入れ解析を進めているだろうな……」


 既に彼等が自分の先を行っているだろうと思い直した。元々技術者である結城が首輪の解析を真っ先に考えないわけもなく、一文字にしても首輪の確保程度の事は考えている筈だからだ。


 そう考えて見れば自分は仮面ライダーとしてはまだまだ未熟者だ――
 本郷、一文字、結城、そしてこの地にいない風見、神敬介、アマゾン、城茂、筑波洋、彼等先輩ライダーと比べれば自分など足下にも及ばない。
 無論、負けないという想いはあるがそれは先輩達も同じ事、まだまだ先輩達から学ぶべき事は山という程あるだろう――


「村雨……良……」


 そして脳裏に思い浮かべるのは先の未来で10号ライダーZXとなっているらしい自身の後輩とも言える村雨良の存在――
 無論、沖の時間軸においてはまだBADANの尖兵の筈だが一文字の時間軸では自分達と同じ仮面ライダーとなったらしい。
 一文字の話ではその過程で色々な過程があったらしい、

 ある時はBADANを脱走し記憶を求めて彷徨い――
 ある時はBADANに復讐すべくその力を振るおうとし――
 ある時はBADANの大首領JUDOの器である事を知り苦しみ――

 その過程を経てようやく仮面ライダー10号ZXとなったのだ――

 だが、この地においてはどのタイミングで連れてこられているかは不明瞭――仮面ライダーとして戦っている時期から連れてこられている保証など何処にも無い。
 それどころかBADANの尖兵時代から連れてこられている可能性だってあるし復讐の鬼となっているタイミングからという事もありうる。

 正直な所を言えば――沖自身は奴を――村雨を信用する事が出来ないでいる。
 幾ら先輩ライダーの言葉があるとは言えど沖自身が彼自身に直に会っていない以上それは仕方の無い事だ。
 その力を人々の為に使うのであればともかく、BADANの為、あるいは復讐の為に使っているタイミングで来ているのであれば――尚のこと信頼できない。


 しかし――





 少し前、いつきとこんな会話をしていた――
 先の放送より少し前に交戦したダークプリキュア、その彼女に対するキュアサンシャインこといつきの言動が気に掛かりそれについての事情を聞いていた。
 どうやらダークプリキュアはキュアムーンライトこと月影ゆりに対抗する為に彼女の父である月影博士ことサバーク博士によって生み出された存在らしい、
 光に対する闇というネーミング、生み出した者が共通している事から2人が姉妹というのは的を射た表現だ。
 勿論、ダークプリキュア自身はその事実を知らなかったが彼女がサバーク博士の為に戦っていた事だけは間違いない。そう、父を想う娘として――


『なるほどそういう事情があったのか……』
『ええ、だから僕は彼女を救いたいんです……』


 いつきの心中は理解できる。しかし、


『その気持ちはわかる……だけど、それは正直難しくないだろうか……口で説明した所でその事実を簡単に受け入れてくれるとは到底思えない……それはあの時の戦いで君自身が痛い程理解している筈……』
『はい……』


 更に言えばダークプリキュアの戦闘力はキュアサンシャインよりも上、それもその筈元々キュアサンシャインよりも強いキュアムーンライトをベースにしているのだから――
 倒す事すら難しいのに倒さずに説得という事など出来るのであろうか――


『僕自身も……ここに来た時は彼女の事情を知っているとはいえ、救おうとは考える事は出来ませんでした……彼女は殺し合いに乗る可能性が高いだろうから注意しなければ……それしか考えられませんでした』
『? だったら何故……』
『彼女の事を説明した時にある女の子が言っていたんです……『闇のプリキュアなんていう哀しい呼び名で呼ばないでちゃんと名前で呼んで』って……まぁ、他の名前は知らないから流石にそれは無理だけど……』


 いつきがダークプリキュアを救いたいと考えたのは高町なのはの言葉があったからだ。

816ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:58:25 ID:HwjZ8YCw0


『彼女の友達もある人物を元にしたクローンだったらしいんです……でも、生まれ方は違っても……いや、生まれ方が違うだけで同じ命には違いはない……彼女はそう考えていたんだと思う……
 多分なのはは……ダークプリキュア……彼女を最初から僕達と同じ『人間』だと考えていたんだと思う……』
『『人間』か……』
『はい同じ『人間』だからこそ話し合う事が出来、信じる事が出来る……そう、疑って敵と警戒して戦ったり倒したりする事は出来る……だけど、信じなきゃ救う事は出来ないと……これもなのはの言葉があったからこそ気づけた事だけど……』


 いつきの話を聞き、


『わかった、ダークプリキュア……彼女の事は君に任せるよ。だが……』
『わかっています、決して無理はしません。それと……』
『?』
『沖さん達……改造人間である仮面ライダーの自分達は人間じゃ無いって思っていませんか?』
『何が言いたいのかな?』
『沖さんや本郷さん達だって僕からみれば『人間』です。身体が改造された以外は僕達と何も変わりませんよ』
『ふふっ……』
『どうしたんですか?』
『いや、自分の身体でも『人間』扱いされるとは思っていなかったからさ……それだけさ』





 そんなやり取りを思い出し――


「そう……仮面ライダーであろうとなかろうと村雨……奴が俺達と同じ改造された『人間』である事に違いは無い……
 疑う事は幾らでも出来る……だが信じなければ仮に仮面ライダーであったとしても仲間になんてなれない……」


 スーパー1はまだ見ぬ後輩を信じる事に決めたのだ――


「もし、奴が未だ仮面ライダーで無いというのであれば……俺がこの手で教えますよ……仮面ライダーの心を……魂を……そうですよね、一文字先輩!」


 遠い空で戦っているであろう先輩に向けてそう口にした。
 それこそが先輩として後輩にしてやれる事だと――そう信じて――


 だからこそ何時までも足を止めるわけにはいかない――今一度死体に小さく礼をし、スーパー1は再び走り出した――

817ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:59:00 ID:HwjZ8YCw0








The 3rd movement 青乃美希×早乙女乱馬



「そんな……どうして……」


 誰よりも祈里の身を案じていたキュアベリーの足は速くH-9の方まで来ていた。
 そして見つけたのが――


「乱馬さんが……?」


 乱馬の死体である――全身が火傷等で傷つき左腕を失っていたその死体が――


 約2〜3時間程度前に話していた筈の人が物言わぬ骸となっていた――それはキュアベリーにとっても大きなショックだった。
 思えばこの地に来てから殺し合いの説明時に殺された者達以外の死体とは一切遭遇していない。
 放送で名前を呼ばれる、あるいは人伝いの情報で誰かが殺されているという事は把握もしていたし衝撃も受けていたが――どことなく実感が薄かったと言わざるを得ない。
 思わず腹から湧き上がっている何かを押さえ込む――

 目の前で誰かが死ぬ――
 厳密に言えばラビリンスとの決戦時に総統であるメビウスの策略によってデリートホールにサウラーとウエスターが吸い込まれ消える(実際はシフォンとクローバーボックスのお陰で助かった)のを見ている為皆無というわけではない。
 それでもそういう経験が少ない事に違いは無く、ここまで痛ましい死体と遭遇した事も無い為、精神的にくるものを感じる。

 とはいえ、幾ら実感が薄かったとはいえ全く予想していなかったわけではない、それ故にそれだけで折れる事は決して無い。
 むしろ脳裏にはある種の疑問が浮かぶ――


「どうして警察署にいる筈の乱馬さんがここで?」


 乱馬達が待機しているのはF-9にある警察署、だが乱馬の死体がある現在位置はH-9、少々距離が開き過ぎている。
 死体の様子から考えて、1時間以上前に死んだと推測できる。
 だとしたら奇妙な話なのだ。あの後1〜2時間の間にここまで移動して何者かと戦って死んだという事になる――
 だが、警察署では残ったメンバーで情報交換を行う手筈になっていた。それからわざわざここまで移動するとは到底思えない。
 そもそも乱馬は中学校から警察署まで移動していた筈だ、自分達を迎えに行く為に中学校方面に向かうのならばまだわかる、だが方向的には些か明後日の方向ではないかと言わざるを得ない。
 何故この場所で死んでいたのか?


「警察署で何かが起こった……?」


 何者かによる襲撃に遭い警察署から離脱せざるを得ない事態が起こった。
 警察署では自分達並に戦力的に頼れるのはシンケンゴールドに変身出来る梅盛源太ぐらいなもの、十分過ぎるほど考えられる。
 とはいえこれだけでは推測の域を出ないのも事実だ。
 警察署にいるであろう仲間達が心配ではあるが市街地にいるであろう人々の保護も大事だ、そうでなければリスクを負ってまで3人バラバラに行動した意味が無い。
 だからこそ、何時までも立ち止まってはいられない――

 とはいえ、これ以上乱馬の死体を野ざらしにしておくのも気が引ける。埋葬出来ればそれが一番良いが、現状ではそんな余裕も時間も無い。
 ひとまず近くの建物の中に移しておこう。そう考え彼の死体を背負い移動を始める。

818ASH TO ASH ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 15:59:30 ID:HwjZ8YCw0



「……」



 移動しながら今更ながらに考える――
 そこまで親しいわけではない乱馬の死についてここまで自身がショックを受けていたのだ。
 目の前で親しい人物を死なせてしまったアインハルト・ストラトスはどんな心中だったのだろうか?
 しかも、いつき達から聞いた話ではノーザによってソレワターセに操られたスバル・ナカジマの手によってアインハルトを庇う形でなのはを死なせソレワターセに目の前で捕食されたという話なのだ。
 冷静に想像しただけでも嫌悪感を抱かざるを得ない。それを近くで目の当たりにしたアインハルトが受けるショックは想像を絶するものと考えて良い。
 それで自身を疫病神扱いしてなおかつ自殺を試みてしまうのは流石に飛躍しすぎているが、あそこまでの出来事を経験して心に受けた傷は相当なものであろう。
 無論、自殺などさせない為にも説得はしたがアレで本当に彼女を助けられたのかどうかは正直微妙だ。そもそも側にいたいつきや沖がまずフォローした筈なのにそれでも自殺を強行した事から考えても、説得が通じているとは思えない。
 考えてもみればラビリンスと戦っていた頃もサウラー達と大体毎回毎回同じ様な会話のやり取りをしていたわけだから、そこまであっさり言葉が通じるという事もないのは容易に推測が出来る事だ。
 一応、警察署には彼女の友達である高町ヴィヴィオもいるし、美希と行動を共にしていた孤門一輝等の仲間もいるから彼等のフォローさえあれば大丈夫――
 ――だと思いたいがここに警察署にいた筈の乱馬の死体があった事を考えると正直不安だ。

 何にせよアインハルトの心配ばかりしても仕方が無い。今は乱馬の死体を安置させるのが先決だ。
 それにしても乱馬は何故命を落としたのだろうか?
 死体の様子を見る限り一方的に嬲られた――というわけではなく、文字通り死闘を演じ――傷つき倒れたと考えて良い。
 だがキュアベリーから見れば余りにも無謀な行為としか思えなかった。
 乱馬の戦闘能力自体は一般人から見れば高いものなのは理解できる。だが、だからといって仮面ライダーやプリキュア、あるいはそれと敵対する怪人や幹部と戦えるわけではない。
 連中から見れば乱馬の戦闘能力など取るに足らないものだと言っても過言では無い。実際に戦えばこういう結果になる事自体わかる筈だ。
 だからこそ祈里達は乱馬達を警察署に向かわせ彼等の安全を確保したのだろう。

 そう、乱馬の行為はある意味ではアインハルトの自殺行為と殆ど変わらないという事だ。
 とはいえ、実際の戦いを見たわけでは無い為、単純にそう断じるわけにもいかないだろう。乱馬自身にも譲れない何かがあって戦った、そういう理由があったのかも知れないのだ。

 だが――例え実際にそうであったとしても、キュアベリーは乱馬の行動をどうしても認めるわけにはいかなかった。
 どんな理由があっても乱馬の行動は限りなく自殺行為に近く、実際に死んでしまっているのだから――



 近くの建物に乱馬を安置した。これでひとまず乱馬の死体が荒らされる事は無い。


 一刻を争う状況故にすぐにでも動かなければならない。だが、


「……ねぇ、乱馬さん……貴方がこんなになるまで戦ったのには譲れない理由があったのかも知れない……」


 やはり乱馬に対し一言言わないわけにはいかなかった――


「でも……それで貴方自身が死んだら何の意味も無いじゃない……貴方自身がやり遂げて満足出来たとしても……貴方が死んだ事で残された人達がどう思うか……貴方を大切に思ってくれる人がどれだけ悲しむか……考えた事はあるの……?」


 わかっている――今更こんな事を説いた所で何の意味も無い。アインハルトの時と違いもう乱馬は死んでいるのだ。
 それでも言わずにはいられなかった――


『ったく、元気じゃねえか。心配して損したぜ……』
『心配してくれてたの?』


 そう、乱馬が死ぬ事で悲しむ人がいるのだ――


 詳しい関係までは聞けなかったが――あの何処までも息の合ったやり取りを見た辺り――


 単純な友人関係以上の――いや、回りくどい言い方は止めよう――


 恋人だったのだろう――


 どんな事情があったにせよ――無茶をして勝手に死んで恋人である彼女を不幸にした事を――


 キュアベリーにはどうしても許せなかった――

819Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:02:24 ID:HwjZ8YCw0








The 4th movement 明堂院いつき×東せつな



 正直な所、ここで別行動を取った事が正しいのかいつき――キュアサンシャインにはわからなかった。
 手分けした方が広い市街地を捜索するのに都合が良い、だが単独行動が無茶である事に違いは無い。
 もし、単独行動している所でいきなりノーザあるいはダークプリキュアクラスの強敵と遭遇したらどうなる?
 単身で負けるつもりは全く無いが――余りにも分が悪すぎる。
 それを見越してスーパー1は無理をするなと言ったのだろう。



 だが――今回に限ってはある意味正解だったのかも知れない――



 市街地を散策していると血痕を見つけた。何時かは不明だがこの近辺で戦いがあった事は確実、
 負傷者がいるのならば助けなければならない、故にすぐさま血痕を辿った。
 そしてある一点で血だまりの跡と共に血痕は途絶えた。
 その後、すぐ近くを散策し――


「せつな……」


 建物の中に東せつなの死体が安置されているのを見つけた――


 せつなは美希や祈里達と同じプリキュア、当然いつきとも仲間である。勿論、美希達ほど親しくはないがいつきにとっては大事な仲間である事に違いは無い。
 出来れば生きている内に出会いたかった、それ故にこの形で再会した事は非常に悲しい――
 美希がこの場にいなかった事はある意味幸いだったのかも知れない。後1時間前後で始まる次の放送で名前を呼ばれるのは確実故に知る事は間違いない。
 それでもこうやって目の当たりにするよりはある程度ショックも軽減出来るだろう。
 恐らくせつなが力尽きたのは血だまりのあった場所。親切な参加者が彼女の死体がこれ以上荒らされない様にここに移してくれたのだろう。
 ならば今自分がせつなにしてやれる事は何もない――いや、せつなは間違いなく、人々を幸せにする事を望む、それを叶える事は自分達の望みでもある。ならば足を止めず先へ進む事だ――



 だが――1点だけ気になった事があった。



「ねぇ、せつな……」


 それは死に顔を見てから感じていた疑問――


「『君』はどうしてそんなに安らかな顔で死ねたの――」


 いつきとせつなは同じプリキュアではあるが若干違うプリキュアである。
 せつな達はスイーツ王国の伝説に伝わる戦士プリキュアであり、
 いつき達はこころの大樹を守る伝説の戦士プリキュアである。
 同じプリキュアではあるがその出所には若干の違いがある。
 だが――実の所、いつきとせつなにはこれとは別の共通点がある。
 それは――両名とも元々いたメンバーに対し新たに加わった戦士であるという事だ。
 奇しくもブラックホールとの戦いでプリキュア達が3つのチームに分かれた時はせつなといつきは共に新たに加わったプリキュアが比較的多く集まっているチームで共に戦ったのだ。
 その関係もあってかキュアサンシャインこといつきはせつなにはある種の想いがあったのだろう――

 とはいえ、同じ追加の戦士と言える両名だが当然と言えば当然のことではあるがプリキュアになったいきさつは全く違う。
 新たにやって来た精霊であるポプリに選ばれた以外は比較的普通(?)の少女だったいつき、
 一方せつなは元々管理国家であるラビリンスの幹部イース(こちらが本名)として総統メビウスの意志の元、当初は人々を不幸にしていた。その為当然プリキュアとも敵対していた。
 桃園ラブとの出会い等紆余曲折を経てプリキュアとなりラビリンスと袂を分かって今度は人々を幸せにする為に戦ったが――
 当然の事ながら彼女はイースとして人々を不幸にし続けた事について罪悪感を持っていた。ある意味では贖罪だったのかも知れない。

 せつながそれでどれだけ苦しんでいたのか――それは恐らくいつきには知り得ない話だろう。
 無論、イースとしてしでかした事は客観的に言えば決して許されるわけではない。
 だが、生活に関する全てそして寿命までも管理されているラビリンスで生まれ育った事情を考えるならばある程度仕方ないと言える部分はある。
 何より、人々を幸せにする為とはいえ祖国とも言えるかつての同志と戦う事を選んだのだ、それもまたある意味では辛い選択だったのだろう。

 結局の所――せつな自身は幸せだったのだろうか? 犯した罪にずっと苦しみ続けていたのではなかろうか?

820Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:03:45 ID:HwjZ8YCw0



 死ねば救われる? 死ねば全て許される?
 馬鹿な、それだけは絶対に違う、死など救済でも何でもない。
 死ねばそれで終わり、その意志は誰かが受け継ぐとしてもそれは受け継いだ者の物語でしかなく、死者自身の物語はそれで終わり、先など何も無い。
 犯した罪が許されるという事も決して無い――

 死に際に殺した者達が自分を許してくれたヴィジョンを見たとしてもそれは死者自身の自分勝手な妄想、つまりは幻想でしか無い。只の自己満足だ。それの何処が許しだ? そんなのは只の唾棄すべき逃避だ。



 さて――少々脱線した部分はあるが何故せつなは安らかだったのだろうか?
 死ねば許されるなんて事をせつなが考えるわけもない――


「せつな……もしかして最期に誰かを助けられたの……」


 恐らく――せつなはキュアパッションとして戦いながら人々を幸せにしようとした――
 そして最期に安らかな顔をしていたという事は――
 最期に誰かを助け――幸せにする事が出来たのかもしれない――

 もしかしたら、彼女の持っていたリンクルンは誰かに託したのかもしれない、
 自分の代わりに人々を幸せにしてくれる事を願って――


「わかったわ……せつな……貴方の願い……貴方が守ろうとした人々の幸せは……今度は私が……私達が守る……私達の光で照らして見せるから……だから安らかに……」


 故にもう振り返らない――幸せを望むせつなが何時までも俯いている事なんて望まないのだから――


「こんな事頼むのもおかしな話だけど……向こうでえりか達と仲良く……幸せに……」


 それが――せつなに対する最後の願いだ――



 そんな中、今更ながらに1つ気になる事があった――



 確証は無いが来海えりかを殺したのは月影ゆりだ――
 あの場で見たゆりの表情、放送前に遭遇したえりかの魂から託された願い、加えて参加者が異なる時間軸から連れてこられている状況――
 それら全てが最悪の推測を裏付ける情況証拠だ――
 とはいえそれ自体は今更気にする事は無い。推測が外れならばそれで良し、当たりならばえりかの願い通りにして自身にとっても望み通りであるゆりを止めれば良いだけの話だ。

 そう、キュアサンシャインが気にしているのはそこではない。
 ここにダークプリキュアの存在が絡んだ場合大きな問題となるのだ。
 推測通りならばゆりの時間軸は『月影博士の死の後、つぼみの説得を受ける前』だろう。つまりそのタイミングの場合、ダークプリキュアの正体も知っている筈なのだ。

 更に加ええりかの魂と遭遇した場所の辺りでダークプリキュアと遭遇した事実――
 恐らくえりかが埋葬されているのはあの辺り、更にえりかを殺したのがゆりならば――
 あの近くにゆりがいた可能性は非常に高い事になる。
 そしてダークプリキュアの元々の目的はゆりの変身するキュアムーンライトとの決着、誰よりもゆりとの遭遇を最優先にする筈だ。

 そう、光と闇、姉と妹、ゆりとダークプリキュアが遭遇する可能性が非常に高いのだ――

821Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:04:30 ID:HwjZ8YCw0

 その遭遇がどの様なものとなるか――それは予測不可能だ。
 唯々戦いとなる――そんな可能性もあるだろう――
 だが一方でダークプリキュアがゆりから全ての真実を聞いてしまう可能性も否定は出来ない。
 全てを知ったダークプリキュアはどうする?
 全てを知ってもなおキュアムーンライトとの戦いを望むのか? それとも人々を悲しませる為にその力を振るい戦う事をを止めるのか?
 あるいは全てを知り、自身の新たな願いを果たす為に戦うのか? 人々を守る為? それとも願いを叶える為に優勝を目指すか?

 全てを知ったダークプリキュア、彼女がどうするのかが読み切れないのだ――

 あの戦いの後、キュアサンシャインはダークプリキュアの心の闇を照らすと誓った――だがそれは次に会った時も変わらずキュアムーンライトとの決着に固執しているならばの話だ。
 だが、全てを知り自身の新たな願いを叶える為に優勝を目指すのであれば――ゆりの場合と違い、元々人々を悲しませる側にいたダークプリキュアにそれを躊躇する理由は全く無い――そうそう簡単に説得などできないだろう。

 いや、それでもだ、それでも救うのだ――方法はわからない、糸口も見つからない、可能かどうかもわからない、だからといって諦めるつもりはない――


 自身の名であるキュアサンシャイン――


 太陽の光は全てを照らす――


 闇夜に月が輝くのも太陽の光が反射するから――


 故に――


「必ず照らして見せる……私の光で闇夜とそこに浮かぶ月を……キュアサンシャイン、この名に懸けて……!!」


 ゆりもダークプリキュアも救う事を改めて誓うのだ――





 さて――かくして沖一也、青乃美希、明堂院いつき、3名の死者との対面、あるいは対話は終わった――
 もっとも、死者が何かを語る事が無い以上、これは対話(Duologue)というよりは独白(Monologue)というのが適当であろう。
 何より彼等は死者の事を考えることよりも今生きている者達を救う事を考えている――
 死者に対しては少し想いを馳せる程度で良いのだ――

 土は土に、灰は灰に、塵は塵に――
 最初に言った通り――死者が土、あるいは灰か塵に帰るだけ――
 最後に礼儀を果たせばそれで良いのだ――


 物語は死者の為のものではない――


 物語は常に今生きている者達の為のものなのだ――


 そう、これまで語った物語はこれから語られる彼女達の物語の布石に過ぎないのだ――

822Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:05:45 ID:HwjZ8YCw0








The 5th movement 沖一也×ン・ダグバ・ゼバ



 放送まであとどれぐらいだろうか――スーパー1はあの後誰とも遭遇する事無く市街地を散策していた――
 そんな時だった、ある方向から轟音が響いてくるのが聞こえたのが――
 戦いの音なのは明白、故にスーパー1は走る――
 距離は大分離れてはいるものの急げばそう時間はかからない――


 だが――不意に足を止めてしまった――


 スーパー1のスペックの高さ、そして沖自身の格闘家としての経験から研ぎ澄まされた感覚のお陰で早々に気付いてしまったのだ――
 数百メートル先に1人の白服の青年が何事も無かったかの様に座っているのが見えたのだ――
 青年が座っている――勿論、それだけならば別に大した問題では無い。


 だが――急がなければならない状況でスーパー1自身が足を思わず止めてしまう程――
 それだけのプレッシャーをあの白服の青年は放っていたのだ――
 間違いない、あの男はこの殺し合いに乗っている――
 それどころか自身がこれまで戦ったドグマあるいはジンドグマのあらゆる怪人よりもずっと強い――そう感じさせるものを感じたのだ――


 そう、勝てるかどうかすらわからない程の――最強最悪の敵と遭遇したのだ――



 ある意味では不運であり、ある意味では幸運だったのかも知れない――
 もし、いつき達が一緒なら下手すれば戦いで彼女達を死なせていたかも知れなかったから――

 問題はどうするべきか? 戦って厳しい以上は当初の取り決め通り無理をせず離脱すべきかも知れない。
 しかし、このまま危険人物を野放しにするわけにもいかない。
 それどころかあの青年が警察署に向かう可能性もある――それならなおの事放置するわけにはいかないだろう。
 そもそもこのまま離脱出来るかどうかすらわからない、この距離でもあの青年が此方に気付いている可能性は多分にある、そうなれば戦いは避けられない――


 恐らく戦いとなれば文字通り生きるか死ぬかの死闘となるだろう。


 人々を守る為ならば自身が死んでも構わない――
 だが、今自分の手には首輪のサンプルがある――


 知る事は決して無いが目の前の青年が殺した人物の首輪が――


 これを届けなければそれこそ黒焦げになった参加者の死が無駄になってしまう。それは許されない、
 更に、自身の持つ貴重な技術力が必要になるかも知れない――それならばなおの事死ぬ事は出来ない――

823Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:06:35 ID:HwjZ8YCw0


 いや、そんな細かい理屈なんて関係無い――


 仮面ライダースーパー1、沖一也が死ぬ事が出来ないのはそんな理屈では無い、もっと根源的な理由なのだ――


 脳裏にはこれまで出会った全ての人々の姿が浮かぶ――


「そう……俺は……俺はまだ……人類が未来をつかむ姿を見ていない……」


 急降下し燃え尽きようとするスペースシャトルを支える為に外に出る際に死にに行くのかと言われた時に返した言葉と殆ど同じ言葉を呟く――


 その時が来るまでスーパー1は戦い続けるのだ――


 そして強く拳を握る――


『己も拳士ならばその力、己が拳の為にあるのではないか?』


 殺し合いに巻き込まれる少し前に問われた言葉が不意に浮かぶ――だが答えはその時も今も変わらない――


「そう……俺は人の夢の為に生まれた……この拳、この命はその為のものだ……!」


 放送まで後10分を切った――


 人の夢の為に戦う『人間』は、自身の笑顔の為に戦う『怪物』へと向き直る――


「俺は――!!」


【1日目/昼】
【H-9/市街地】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、強い決意、仮面ライダースーパー1に変身中
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1〜3、首輪(祈里)
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:白服の青年(ダグバ)に対処する? あるいは離脱する? そしてこのまま捜索を続ける? それとも警察署に戻る?
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。また首輪の解析も行う。
3:この命に代えてもいつきとアインハルトを守り、スバルを絶対に助けてみせる。
4:先輩ライダーを捜す
5:鎧の男(バラゴ)は許さない。だが生存しているのか…?
6:仮面ライダーZXか…
7:アクマロは何としてでも倒す。
8:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。

824Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:07:10 ID:HwjZ8YCw0








The 6th movement 青乃美希×天道あかね



 一方、市街地の轟音を市街地を散策していたキュアベリーも聞いていた。
 当然の事だが彼女も最初は轟音が響いた方向へと走る。


 だが――


「!? あれは……赤い……鳥!?」


 赤い鳥みたいなものが飛び去っていくのが見えた。
 それが何かはわからない、だが轟音の響いた方向からやって来たそれは全く真逆の方向へと飛び去っていく――それも高速で。
 キュアベリーは進行方向を変えその赤い鳥――いや翼を広げた赤い怪人が飛び去っていく方向へと向かう――


 その動きは速くキュアベリーの全力をもってしても差が広がっていく程、
 怪人が乱雑な動きをしてくれたお陰で何とか見失わずに済んだのがある意味では幸いだ。


「何なのよ……あれは一体……」


 そして気が付いたら森の中へと入っていく。赤い怪人はそこで速度を落とした様に見えたが視界を遮る木々のお陰で肝心の怪人の姿を見失ってしまった。


「はぁ……はぁ……」


 気が付けば市街地からも離れてしまっていた。元々市街地を探索する手筈だったのに流石に行き過ぎだ。
 更に言えば戦闘にはならなかったがあの赤い怪人は相当な戦闘力を持っている。
 市街地からも離れたしスーパー1との約束もある、放送まで10分程度である事を踏まえても市街地あるいは警察署に戻った方が得策だろう。
 とはいえ、割と森の深い部分まで入ってしまった為、戻ったとしても森を抜けた所で放送を迎える事になるだろう――


 だが――あの赤い怪人を放置して良いものかという懸念はある。


 言ってしまえば危険人物を野放しにしてしまうということだ、それが良くない事は誰にでもわかる事だろう。
 市街地の中では祈里どころかせつなもラブの姿も無かった。もしかしたらこの場所を目指して森の中を進んでいる可能性もある。
 そうなればあの赤い怪人と遭遇し戦闘となる可能性もあるだろう――
 ラブ達の場合無茶をしかねない――幸い赤い怪人の速度は落ちてくれた、このまま追跡すれば追いつける可能性はある。


 いや、もしかしたら――キュアベリー自身どうしても放っておけなかったからだったのかも知れない――


 無論、気付いているわけではない――
 その赤い怪人の正体が乱馬の最愛の人物にして、乱馬を最も愛した人物である事に――
 ただ何となく何かを感じていたのだろう――
 勿論、その正体とその真意を知ったならばキュアベリーは彼女を止める事だろう、殺し合いに乗った所で乱馬はそれを望みはしないと――


 キュアベリーの言葉は完璧に正しい。だが、完璧に正しいだけじゃ彼女には届かない――
 そもそも正論などキュアベリーは知らないだろうがアインハルト等々の皆が既に彼女にぶつけている、届いていないからこそのこの結果だ――
 その正論が届いていたならば彼女が自意識を無くした赤い怪人の姿になんてなるわけないのだから――


 とはいえそれは実際に対峙してからの話だ、今それを語った所でそれは机上の空論に過ぎない。
 重要なのは今どうするか、選択肢は提示されている――
 完璧を目指す事を信条としているのがキュアベリーこと青乃美希ではあるが――
 この場においては完璧に正しい選択肢など存在しない――
 どちらも正解であり、同時にどちらも不正解なのだ――


「私は――!!」


【H-7/森】

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康、キュアベリーに変身中
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:赤い怪人(あかね)を追跡する? それとも市街地あるいは警察署に戻る?
1:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。
2:プリキュアのみんな(特にラブが) やアインハルトが心配。
3:相羽タカヤ、相羽シンヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※正体こそ気付いていないものの赤い怪人ことRナスカ・ドーパント(あかね)に何かを感じています。

825Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:08:34 ID:HwjZ8YCw0








The 7th movement 明堂院いつき×佐倉杏子



 キュアサンシャインは走る、轟音の響いた方向へと――
 のんびりしていたつもりはなかったが、あれからまたしても戦いが起こってしまったのだろう。
 これでは死んでいった者達に顔向け出来やしない――
 とはいえ今後悔しても仕方がないだろう。今は一刻も早く現場へと駆けつけるのだ――
 あの轟音はキュアベリーやスーパー1にも聞こえている筈、ならばそこに行けば彼等とも合流が出来る筈だ――
 だが、その場所に危険人物がやってくる可能性がある。気が付いたら炎に包まれ焼かれていたとか頭から食われていたとかそんな話も十分に考えられる。
 急ぐことには違いは無い、だが冷静さは決して欠いてはならないのだ――


「はぁ……はぁ……」


 建物の上を飛び回りながらいつきは急ぐ――周囲の様子も確認出来るから一石二鳥とも言える。
 そしてようやく4人の参加者が集っている場所まで百メートル程度の所まで近づいた。
 だが油断してはいけない、何時敵の奇襲があるかも知れないのだ。周辺の警戒だけは決して怠らない――
 幸か不幸か他に近づいている参加者は見られない。油断は禁物だがひとまず安堵して視線を4人に――


「え!? どういうこと!?」


 浮かび上がるのは驚愕と疑問――そう、その場にいる筈の無い人物が2人もいたのだ――


「どうしてアインハルトと梅盛さんがいるの……?」


 4人の内1人は帽子とスーツ姿の男性、1人はパーカーを来た少女、ここまでは別に良い。
 だが重要なのは――残り2人がアインハルトと源太だった事なのだ。
 何故警察署で自分達を待っている筈の2人がここにいるのか?
 警察署で何かが起こったのか? ヴィヴィオ達残りの4人はどうなったのか?


「いや、それは直接聞けば……」


 とはいえ、それは直接アインハルトと源太から聞けば良い事だ。気を取り直し周囲の警戒を怠らず近づいて――

826Duologue ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:10:05 ID:HwjZ8YCw0


「!? ちょっと待って……あれは……」


 そんな中――パーカーを着た少女が持っている物に見逃せないものがあったのだ――


「祈里のリンクルン!?」


 彼女の手(正確には彼女が持っている腕が掴んでいる)には祈里のリンクルンがあったのだ――
 流石に動揺は隠せない。だが1つだけ確実に言える、祈里が持っている筈のリンクルンが全く別の少女が持っているという事は――


「という事は……祈里はもう……!!」


 キュアサンシャインは気付かない、その少女がそれとは別にせつなから彼女のリンクルンを託されている事を――
 そしてせつなの願いに応える為に祈里のリンクルンを取り戻した事を――
 ショックはあっても警戒を怠ってはいけない、周辺に注意を配りつつ足を進めていく――


『『『『指輪が喋ったぁ!?!?!?!?』』』』


 その最中、彼等はまだキュアサンシャインの接近に気付いてはいない――
 その一方、祈里の死の可能性が高い事にショックを受けつつも足を進めるキュアサンシャインは――


「私は――!!」


【H-8/市街地】

【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、罪悪感と決意、キュアサンシャインに変身中
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、春眠香の説明書
[思考]
基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す
0:色々疑問はあるけど周辺の警戒を怠らずアインハルト達4人と接触する、パーカーの少女(杏子)が祈里のリンクルンを持っているという事は祈里は……
1:沖一也、アインハルトと共に行動して、今度こそみんなを守り抜く。
2:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。
3:仲間を捜す
4:ゆりが殺し合いに乗っている場合、何とかして彼女を止める。
5:スバルさんをアクマロの手から何としてでも助けたい。
6:ダークプリキュアを説得し、救ってあげたい
[備考]
※参戦時期は砂漠の使徒との決戦終了後、エピローグ前。但しDX3の出来事は経験しています。
※主催陣にブラックホールあるいはそれに匹敵・凌駕する存在がいると考えています。
※OP会場でゆりの姿を確認しその様子から彼女が殺し合いに乗っている可能性に気付いています。
※参加者の時間軸の差異に気付いています。
※えりかの死地で何かを感じました。

[全体備考]
※中学校にある道具はいつきが回収しましたが春眠香@らんま1/2のみ未回収です。
※乱馬の死体はH-9にある建物内部に移されました。

827 ◆7pf62HiyTE:2013/01/08(火) 16:13:50 ID:HwjZ8YCw0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

wikiへの収録に関してはストーリーの区切りの関係で2分割収録でお願いします。名前欄にも書かれている通りですが念の為

>>810-818(The 0th〜3rd movement)が『ASH TO ASH』
>>819-826(The 4th〜7rd movement)が『Duologue』

以上の通りとなります。

828名無しさん:2013/01/08(火) 19:04:34 ID:vAuhx13M0
投下乙です。
みんな、街で散った人達の死を知ってしまったか。
放送も近い中で、それぞれがどんな行動を取るのか楽しみだ。

829名無しさん:2013/01/09(水) 01:00:19 ID:8Ojk8HbQ0
投下乙です

別れて探索した結果、それぞれに突き付けられた選択肢
さて、放送後はどうなるか…

830名無しさん:2013/01/12(土) 19:05:53 ID:CFpaNrd20
あとは京水+テッカマン組くらいで放送か…
弧門やヴィヴィオはまだ何とかなる

831名無しさん:2013/01/16(水) 14:49:37 ID:gn/YcFqw0
予約来たね

832名無しさん:2013/01/17(木) 11:09:53 ID:EXLQ926k0
月報の時期みたいなので集計
ミスがあったらごめんなさい。
117(+7) 34/66(-2) 51.5(-3.0)

838 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:30:56 ID:8AoWPCn20
ただいまより、投下を開始します。

839メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:31:50 ID:8AoWPCn20


 あれから、時計の短針が一周回ってしまうほどの時間が過ぎた。
 僕たちは、この警察署の会議室で、まだ仲間の帰還を待っている。……飽きもせずに、ただ壁や腕の時計に数分ごとに目をやるような、気まずい沈黙がしばらく流れていた。
 美希ちゃん、乱馬くん、あかねちゃん、梅盛さん、いつきちゃん、沖さん、アインハルトちゃん……ここを去って行った仲間は、姿を見せてくれなかった。
 彼らが今やっていることは、それなりに時間がかかるだろう。それは少し考えればわかる。
 中学校にいる祈里という少女を探しに行った沖さんたちは、中学校に向かってるものの、祈里という子が見つかる場所は中学校とは限らない。中学校周辺をまだ探しているのかもしれない。他の皆は、乱馬くんを追っているわけだから、行くあてさえないのだ。
 それに、もしかすれば、警戒しながら歩いているかもしれないし、戦闘に巻き込まれている可能性だって否定はできない。

 だが、とにかく彼らには早く帰ってきてほしかった。
 僕にとっては「待つ」ということが少し辛かったのだ。この場の空気が重いのは、その待つ行為に与えられるプレッシャーゆえだろう。
 あの子たちを心配しながら待ち続けるのは、一分だって長く感じる。流れていく時も、ストレスを積み重ねていくだけにしかならない。一刻も早く、目の前に姿を見せて安心させてほしかった。
 ……いくら、高所から落ちても受け身をとれる乱馬くんや、変身能力がある沖さんたちとはいえ、現実的にはそういう彼らと同等の能力を持った人間だって死んでいるのだから、彼らを安心して見送ることはできないだろう。
 もしかしたら……、あるいは……、と考えてしまうのは仕方がないことだった。
 それに、アインハルトちゃんの心にトラウマを残した危険な殺人者の情報も受けているのだ。ここだって、はっきり言えば全く安全じゃない。万が一、変身能力者が襲ってきたら、僕には戦う手段がないのだ。
 相手によるが、大半の敵はビーストと戦ってきたその技術や体躯を使って時間を稼ぐことはできても、おそらく撃退には至らないだろう。
 あくまで僕は科学に依った力であって、一般人に比べて筋力や運動神経が高い程度にすぎない。おそらく、あの屋上から落ちたら死んでしまう。もし、あそこで受け身をとれるようなら、レスキュー隊時代の僕に命綱はいらないだろう。
 とにかく、彼らのようにどこかに無鉄砲に行けるのなら、それが一番うらやましいとさえ感じた。
 もしかしたら、彼らのようにここから抜け出して、それぞれの目的に向けて突っ走っていく方が、待っているよりもずっと、ストレスが無いものなのかもしれない。



 いま、この部屋には僕のほかには、ヴィヴィオちゃん……それから、クリスというウサギのぬいぐるみがいる。ぬいぐるみが数に入っているのは、クリスが意思を持っているからだ。
 コクコク、と頷くだけで会話らしい会話はできないが、ヴィヴィオちゃんを通せば辛うじて、日常会話程度が可能だった。
 しかし、僕はそれに対して驚くだけで終わってしまい、会話らしい会話はほとんどなかった。
 これまで、意思を持つ人形(……というとダークファウスト関連の悪い記憶も出てくるけど)など存在すると思っていなかった僕には、このクリスと何を話せばいいのかサッパリわからなかったのだ。
 なぜ喋るのか……と聞いてみたい気持ちもあったが、そういうのは少し聞きにくい。
 ヴィヴィオちゃんを仲介しないと話ができないので手間がかかる、というのも一つの理由だ。
 万が一、この後死ぬのならここで少し「ぬいぐるみとの会話」という滅多に経験できないことをやってみたい気もするけど、生憎僕は死ぬつもりはない。ナイトレイダーとして鍛えてきたことは、僕に生存に対する自信をつけさせるには十分だったと思う。
 確かに、変身者との戦いには弱いだろうという気はしているのだが、不思議とまだしばらく生きながらえそうな予感がしていた。

840メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:32:41 ID:8AoWPCn20

 それで、実際のところ、僕はヴィヴィオちゃんとは数十分前までは会話を交わしていた。
 そうしなければ、心臓が張り裂けてしまいそうなのだ。唾を飲むたびに首回りが苦しくなって、吐き気まで襲ってくるほどだった。
 何もしない時間というのが、あまりに重すぎたのだ。今も、まさにそんな感じだ。
 ああして、会議という形を借りて、そこにヴィヴィオちゃんを置いておくのはまだ良い。しかし、一対一で残酷な話を続けなければならないというのは気が引ける。
 ビーストに捕らわれた少女・杉山里奈との時もそうだった。
 僕は、なるべく残酷な話をしないために、彼女の飼い犬の話をしたはずだ。……僕がその犬につけた名前を、彼女は忘れてしまったし、僕のことだって彼女は覚えていないけど。
 だから、姫矢さん、西条凪副隊長、石堀光彦隊員のこと……それから美希ちゃんたちの言っていた名前を全て説明して、注意すべき相手──溝呂木眞也の事を言っておいた。
 こうした話は必須だ。
 溝呂木についても、なるべく残酷にならないよう、注意した。「そいつは危険である」という抽象的な内容しか説明していない。
 彼の残酷さを説明したら、僕だって怒りを抑えられるかわからない。
 ヴィヴィオちゃんもそれなりにしっかりしていて、彼女の経緯を話してくれた。
 本当に年齢の割にしっかりしているし、あんな状況でも自分の持つ人間関係や境遇について話してくれる精神力は、もはや異常とも言える。
 “プリキュア”の美希ちゃんやいつきちゃんといい、最近の女の子は案外しっかりしているんだろうか。
 そう思いながらも、何かまた話を切り出すタイミングというものが掴めなかった。
 ヴィヴィオちゃんは曇った表情をしているように見える。……それは僕もなんだろうか?
 何かもう一度話しかけようとしたが、声の出し方を忘れているような感じだった。


「……ヴィヴィオちゃん、少し警察署の中を探検してみない?」


 そう切り出すに至るまで、何度この言葉が喉から出かかったことか。
 異常な状況下での日常会話とは、意外にも勇気のいること……だったのかもしれない。
 とにかく、それで僕とヴィヴィオちゃんはこの一室を抜け出したのだった。



★ ★ ★ ★ ★



 ……で、意外なのはそれからの探検というものが、新たな発見や楽しみに満ちていたこと、だろうか。
 そう、発見だ。
 警察署には、当然さまざまな部署や部屋がある。
 それを念入りに見ていくと、また違った発見がある。



 仮にも元・警視庁のレスキュー隊員であり、現・ナイトレイダーで兵器を取り扱う僕は、美希ちゃんと行動している最中に少し警察署内の(おそらく一般人なら誰も気づかないような)ロッカーを確認していたのだが、その中身は空っぽだった。
 本来なら、そこに銃──場合によっては他人を殺傷することができる兵器が存在するはずだった。
 だが、既に来た誰かに抜き取られていたのか、それともあらかじめ主催側がロッカーだけを配置していたのか、そこに銃の類はない。いや、そもそもそこには何もないのだ。攻撃には使えないような警棒の類もない。
 ロッカーの端から端まで目をやったが、本当に空間だけがそこにあるような状態だった。
 この時、後ろから、美希ちゃんに
「何を探しているんですか」
 と訊かれたが、このゲームが始まってから銃殺された人間がいるのではないかなどと余計なことを考えた僕は、
「ううん、何も」
 と答えてお茶を濁していた。美希ちゃんが僕の意図に気づいていたかはわからない。
 とにかく僕は、この時点で思考を切り替え、武器を探すよりも、ここに来る仲間を探そうという方針を固めたのだ。
 それからすぐ後に別の階に移動し、僕はヴィヴィオちゃんと乱馬くんに出会った。



 思えば、あれだけの人数があそこに集まっていたというのに、つい少し前に出会ったばかりの僕とヴィヴィオちゃんだけになってしまうというのは数奇な話だ。
 それは、「殺し合いを終えたい」という思いは共通しながら、細かい目的はそれぞれ違っていたせいだったと思う。
 僕にもう少し、周囲をまとめる力があれば、何とかできたかもしれない。
 ただ、ヴィヴィオちゃんには一抹の心強ささえ感じていた。
 まだ僕たちは完全にはバラバラになってはいない。
 ここにヴィヴィオちゃんがいる。ずっと一緒に行動してきた美希ちゃんや、ヴィヴィオちゃんと一緒だった乱馬くん、アインハルトちゃん……みんな、どこかで繋がっているから、きっとまた会えるんだと信じられる。

841メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:33:08 ID:8AoWPCn20
 ……話を戻そう。
 僕たちは、この警察署の探検の中で、ある発見をした。
 短い時間だったが、放送までの僕たちの経緯をおおまかに説明しておきたい。
 それは、後にこの警察署に来てくれた人たちに、いずれ説明することになるだろうし、僕たちの記憶にもはっきりと留めておかなければならないからだ。



★ ★ ★ ★ ★



 探検を初めて、数分経つ。
 ……いや、まだ探検が始まったとはいえない。会議室を出て、交通課か何かの部署を発見しただけだ。
 大量の紙類で散らかり、まるで本当に人のいた場所のようにさえ見える一つの部署。
 壁にはもれなく張り紙がされていて、不思議なことにその日付は不明だった(本来、平成○○年度などとポスターには書いてあるはずなんだけど……)。


 会議室などの一部の部屋がどこにあるかはなんとなくわかる。しかし、レスキュー隊だった僕は、警察署の構造を詳しくは知らない。もともと、警察組織で他の部署に顔を出すことなど滅多にないし、レスキュー隊は署内の中でも特に銃の扱いが不要な存在だ。
 ナイトレイダーに入って、訓練を強いられたときには何度も何度も平木隊員に怒られた。
 あれから随分腕を上げたつもりなので、銃があれば一応手に入れておきたいと思っていたが、やはり回収済らしかった。
 銃のような武器を探す旅というよりは、普通の探検になってしまったらしい。


「うーん……」

「どうしたんですか、弧門さん?」


 気づけば僕はうなっていた。
 別に、武器を探す目的が一切果たせていないからではなかった。


「ヴィヴィオちゃん、どう思う?」

「え?」

「……この探検。面白いかな」


 そう、僕が気になったのはそれだった。
 警察署。
 はっきり言って、ただの公共施設だ。
 確かに、男の子なら一度この場所にあこがれる。僕もそうだった。子供のころに誰かに助けられて、誰かを守る仕事に就きたいと思ったときも……。
 しかし、ヴィヴィオちゃんは女の子だし、現実の警察署に面白いものが転がっているわけがない。大半の人がデスクワークの真っ最中である。
 ドラマによく出てくる被疑者の取調室とか、「事件は○○○で起きてるんじゃない!現場で起こってるんだ!」の○○○の部分に入る会議室(これは行ったか)とか、見たくなるものはそれなりにあるだろうが、署内が無人では社会科見学にもならない。
 どちらかというと、肝試しに似た感覚かもしれないが、今は昼も近づいてきた頃合いである。どう考えても、ヴィヴィオちゃんが気を紛らわせて楽しめるような場所ではなさそうだと思った。


「そ、そんなことないですよ……?」

「あの、ヴィヴィオちゃん……僕は、面白いかなって聞いただけなんだけど」


 ヴィヴィオちゃんは、「失言した」と思ってうっかり口を塞ぐ。
 そう、まるで僕が「面白くないんじゃないかな」と訊いたのに対し、フォローをしたかのような反応である。
 彼女も深読みしすぎたのか、こんな突飛した回答が返ってきたので、僕は少し凹んだ。
 しかし、それは心の中だけに置いておいて、素直に彼女の気持ちを優先することにした。

842メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:34:07 ID:8AoWPCn20

「……みんなが戻ってくるまで、この警察署にいなきゃいけないんだけど、どこか行きたいところとか見たいところとか、ある?」


 腹を立てるわけでも機嫌を損なうわけでもない。……僕もそこまで子供ではないのだ。いや、僕の精神が子供とかどうとか以前に、ヴィヴィオちゃんのような少女なら腹を立てたり機嫌を損なったりもしないか。
 ただ、少し計画が狂って凹んでしまっただけだった。
そして今は、ヴィヴィオちゃんの意見を積極的に取り入れていきたいと思っていた。
 本当なら、わずか数分でこうなるのは目に見えていたはずだろう。
 計画が狂った……とは言ったが、最初から無計画同然だったのだ。
 そう、できればヴィヴィオちゃんの意見を積極的に取り入れていくべきなんじゃないかと……


「ねえ、弧門さん。あれ」


 不意に、ヴィヴィオちゃんは何かに気が付いたように目の前の張り紙を指差した。
 無数の張り紙があるものの、どれを差しているかははっきりとわかった。
 カラーコピーで交通安全の注意を呼びかけるような張り紙が並んでいる中でも、それはなんだか妙に既視感を感じるものであった。
 でかでかと書いてある文字に、目を持って行かれる。
 その文字の意味を、どこかで聞いたことがあったのだ。それを思い出そうとしていた。

 そこにあるのは────「ガイアメモリ」、という単語だった。

 僕がその言葉の持つ意味を思い出すより前に、ヴィヴィオちゃんはその張り紙の前まで早歩きして、その紙を剥がした。
 そして、その文字が視界から消え、僕の脳裏で声として浮かんできたとき、初めてその物体の持つ意味を思い出した。加頭も言っていたし、ヴィヴィオちゃんも言っていた。
 ガイアメモリとは、僕のような人間でさえ異形へ変えてしまう器具──そして、最悪の場合にはその心や精神までも蝕んでしまうという麻薬だ。
 ガイアメモリについての張り紙が警察署にあるのは、メモリの持つ犯罪性の強い意味合いがゆえだろう。


 張り紙を覗かせてもらうと、ガイアメモリの副作用云々について書いてあり、張り紙の下部には、「バード」、「サイクロン」、「ジーン」などと謎の名称と小さな写真が書いてある。
 バード。Bird。赤い背景に何かの一文字。……よく見ると、Birdの頭文字のBに見えなくもない。
 サイクロン。Cyclone。緑の背景に、おそらく「C」の文字。
 ……という感じで、名称とともに写真が貼られていた。
 それは正確にはT-2ガイアメモリというらしく、その画像の下部には、T-1ガイアメモリも名称だけ載っている。サイクロン、メタル、アクセル、スカル……など、T-2にも存在する名前や、T-1だけのものもある。


「ガイアメモリ……加頭が言っていた変身道具だ。でも、どうして……」

「わかりません。でも、この副作用については霧彦さんが言ってました」


 園咲霧彦。
 その名前は、先ほどヴィヴィオちゃんから聞いていたので知っている。中学校でヴィヴィオちゃんを保護していた紳士的な人物らしいが、ガイアメモリについては詳しかったらしいのだ。
 ……おそらく、加頭と同じくこの「ガイアメモリ」のことを知る「パラレルワールド」の住人なのではないかと思う。
 いや、ヴィヴィオちゃんも含め、ここにいる多くは僕から見れば別世界の人間だし、向こうから見た僕もまた異次元人だ。

843名無しさん:2013/01/22(火) 00:34:51 ID:8AoWPCn20

「ガイアメモリについて詳しく書いてある……でも、これが本当ならこれは僕が思ってるより、ずっと恐ろしい物なんじゃ……」

「はい。それで、霧彦さんにも使わないように、と言われてました。……私も一度使ったけど」

「……そうか」


 少し時間をおいて考える。
 ヴィヴィオちゃんの発言の意味するところをもう一度考えたのだ。
 このポスターによると、精神汚染などの弊害があるはずなのだが、とてもそのようには見えない。


「ヴィヴィオちゃんは、大丈夫なんだね。一回使ったみたいだけど」

「はい。その時は特にそれを使ったことでどうかしちゃったことはありませんでした」


 僕はもう一度、ポスターに書いてある内容を読み直した。
 一応、ダブルドライバー、アクセルドライバー、ロストドライバー、ガイアドライバーの四つの予備アイテムについても書いてある。これを使えば、メモリを使った人間のように精神に害を及ぼすことはないようだ。


(これを使ったのかな? ……あるいは、気合や精神力で押さえつけることができるって書いてあるけど)


 ガイアメモリか……。
 これは全くもって未知の道具だ。このポスターの説明も、精神汚染や気合、精神力などと言う抽象的な表現でよくわからない。
 もちろん、僕たちはこの紙を持ち歩くことにした。ガイアメモリについてよく知らない僕たちにとっては、貴重な情報源だ。
 よく見ると、そこら中にこのガイアメモリの説明書きポスターは張り出されている。僕とヴィヴィオちゃんの分のほか、他の人たちに配るかもしれないので、余分に剥がしておいた。
 また、ここに後から来る人のために一応、何枚かは残しておいた。
 僕たちの手元には五枚、五枚で計十枚のポスターが握られていることになる。


(メモリの用法と副作用、T-2メモリの名称と画像、T-1メモリの名称、ドライバーの名称と画像、それから強化アダプターやトライアルメモリ……このポスターから読み取れるのはそれだけか。でも、十分だな……少なくとも、ガイアメモリについて無知な僕にとっては)


 こうした細かい情報も、後々役に立つかもしれない。
 どうやらヴィヴィオちゃんも霧彦さんに教わっていない情報があったようだし、主催側もそれなりに役に立つものを用意してくれたことだと思う。
 ……しかし、これには加頭の使った「ユートピア」というものはなかった。主催側に都合の悪いものは表記されていないのだろうか。


「ここには他に何もない、かな……?」

「わかりませんけど、たぶん……」

「一応、探してみるよ。ヴィヴィオちゃんはそこで待ってて」

「いえ、私も探します」


 そんなこんなで少し探してみたが、机の上の書類はやたらと硬い文章でおそらくこの状況や世界とは関係のないものばかり、ポスターにもめぼしいものはなし……という具合だった。



★ ★ ★ ★ ★

844メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:35:59 ID:8AoWPCn20


 そろそろ、他のみんなが来るかどうか気になったし、いろんな部署を見てきたが、ガイアメモリのポスター以外には情報源になりそうなものもなかった。
 書類の類はさまざまな部署に積まれていたが、それを一つずつ調べていくというのは少々きついものがある。
 幾つか部屋を回ったが、もう頭が痛くなるレベルだ。
 それで、外の空気を吸うことも兼ねて、屋上へ出た。
 もし、あの時アインハルトちゃんが乱馬くんに助けられなければ、忌まわしい場所として記憶に残り続けただろうし、ここにもう一度来ることはなかったと思う。


 屋上から見える景色は、ほとんど変わっていない。空気の味は少し美味しく感じたが、景観は、本当にただの街だ。遠くまでは見えない。
 ただ、あの時と確実に違う「異常」は屋上の『床』、そのものにあった。
 あまりに巨大で、確実に目立つ異変が屋上にはあったのだ。


「……なんだろう、これ」

「……召喚魔法陣、でしょうか?」


 光る円、その中に描かれた何処かの国の文字と記号。
 魔法陣……と呼ばれるものが、屋上で光り輝いていたのだ。
 大きさは直径が僕の身長か、それより少し大きいほどで、おそらく誰でもこの直径に収まりそうな仕様だ(勿論、ウルトラマンに変身したときの姫矢さんは無理だけど)。


「でも、ベルカ式ともミッドチルダ式とも違うし……どうしてこんな所に?」


 ヴィヴィオちゃんのセリフは僕には意味不明だ。
 ヴィイヴォちゃんやアインハルトちゃん、その他の一つが、魔法・魔術というものに精通しているのは知っている。
 ……まだ信用しがたい部分も理解しがたい部分もあるが、子供のお遊びではないのは確実だと思っていた。プリキュアやアンノウンハンド、バダンなど様々な単語を聞き入れ、その能力の一部を目の当たりにしてきた僕には、もはや魔法・魔術は聞きなれた部類だった。
 もっとも、僕の世界では昔読んだ童話やファンタジーでしか存在しない言葉だったけど。


「……ヴィヴィオちゃんの知らないものとなると、これは一体何なんだ?」


 僕は魔法陣にそっと手を触れてみた。
 警察署の屋上そのものの温度とは明らかに違う。その部分だけ、発光している電球のような温かみがあった。
 しかし、それは輝きながら温度を発しているだけで、僕の手がどうにかなることはない。
 ここにある魔法陣は、何の効果ももたらしてはくれなかった。


「……そうだ」


 記憶を辿り、ある可能性を閃く。


「もしかして、サラマンダー男爵が言ってたボーナスって、これなんじゃないかな?」

「ボーナス?」


 ヴィヴィオちゃんは、まるで放送を聞いていなかったかのようにキョトンとしている。
 サラマンダー男爵という名前には反応していたようだし、おそらく放送の時点ではショックで放送の内容を全て聞き取ることができなかったのだろう。
 僕もうろ覚えだった放送内容を思い出し、サラマンダー男爵の言ってたボーナスについて説明する。

845メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:36:47 ID:8AoWPCn20

「サラマンダー男爵は、放送の時に禁止エリアの情報のほかに、僕たちに特別ボーナスを渡したことを説明してたんだ。確か、十一時に会場のどこかにある施設に、移動に役立つものを用意してるって言ってた」

「はい」

「……遠い施設にも一瞬で辿りつけるって言ってたから、きっとこの魔法陣のことなんじゃないかと思う。僕も最初は戦闘機やバイクのことを考えたけど」


 ふつうに考えれば、移動に役立つものといえば乗り物だろう。
 しかし、直後のサラマンダーの通り一瞬で別の場所にたどり着く。それが比喩でないとするのなら、それはワープというオーバーテクノロジーだ。
 そして、僕の中のワープのイメージの一つとして、幾何学模様や魔法陣によって異世界へ行く……というものがあった。昔見たファンタジーか何かの設定だろう。
 それを思い出したのだ。
 実際、ヴィヴィオちゃんのように魔法や魔術の専門家が「魔法陣でそんなことはできない」とこれを否定したら笑いものだけど、とりあえず可能性を口に出してみた。


「でも、弧門さんが触れても瞬間移動とか……何も起きませんよね……」

「うん……。もしかしたら、ヴィヴィオちゃんみたいに魔法や魔術の素養がある人じゃなきゃ移動ができないのかも。僕は魔法陣でワープなんてしたことがないし」


 僕は苦笑した。
 ただ手をかざせばいいというものではないのだろう。
 乗り物にも乗り方というのはある。都合よくはいかないんじゃないかと思う。
 それだと、誰でもできるかのようなサラマンダー男爵の口ぶりはまるっきり嘘になる。


「……あるいは、これがこちらからは移動できずに、どこかの魔法陣の移動先として配置されているのかもしれない」

「確かにそれはあるかもしれません」

「一応、ヴィヴィオちゃんも試してみてくれるかな」


 ヴィヴィオちゃんは、言われて試しに手をかざしたり、足を乗せたりしたが、どうやら魔法陣が何らかの形で作用する様子はない。
 ヴィヴィオちゃんの知る魔法・魔術ともまた違った作図なのだから、おそらくこれは主催側しか知りえないのだろう。
 とにかく、今はこれを使うことはできなさそうだ。
 やはり、一方通行の魔法陣の「来る」側か、何か発動の条件があるかのどちらかだと思われる。


「どうする? ヴィヴィオちゃん、行く?」

「そう、ですね……。クリスもわからないって言ってますし」


 クリスがヴィヴィオの前でしょんぼりと肩をすくめている。
 ……どうやら、彼女たちの世界の魔法とはまた違った魔法なのだ。


 僕たちは、その直後、ヴィヴィオちゃんの提案でトレーニングルームに行くことになった。
 まあ、ちょっと前と比べれば、僕とヴィヴィオちゃんも少し、打ち解けてきているのかな……と思う。



★ ★ ★ ★ ★

846メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:37:33 ID:8AoWPCn20


「これは……」


 またまた、僕は目の前の物に唖然としていた。
 意外と、新たな発見があるものだな……。そして、それがどれも驚くべきものばかりだった。
 小学校の体育館のように広く光る茶色に磨かれたトレーニングルームで僕たちを待っていたのは、僕よりもまた頭二つほど大きな「人型のメカ」だ。
 おそらく、大きさは二メートルを軽く超えている。
 青と白に包まれた、ゴツゴツとした人型の、異形。メカニカルでありながら、どこか人のような愛嬌のある不思議な鎧。
 鎧、という表現は間違いなく適切ではない。
 そう──例えて言うなら、子供のころに見た巨大ロボットのような、何か。だが、巨大ロボットと呼ぶには少し小さすぎる。


「な、なんだろう……これ」

「よ、鎧……? ロボット……?」

「それは僕も考えたんだけど……」

「誰も入ってませんよね? しゃべりかけてきたりしませんよね!?」

「さ、さあ……」


 恐る恐る、僕はそれに触れた。
 触れるだけで、その硬さと冷たさを感じ取った僕は、これがとてつもない重量感を放っていることに今更ながら気づく。
 足元の床が揺れているようだった。……僕の足が震えているだけだった。
 しかし、足元の床は、やや陥没していた。
 そんな威圧感と恐怖に陥りながらも、僕は少しそれを調べてみた。


「……本当に、ロボットみたいだ」

「動くんですか?」

「さあ、僕もロボットを動かしたことはないから……」


 さっきから僕は役立たず同然だ。
 魔法もロボットもわからない人間は、この場では駄目人間なのだろうか。


「でも、操縦したり、ラジコンで動かしたり……って感じじゃないよな」

「じゃあ、鎧みたいに着るんですか?」

「わからない。でも、これの装備がはっきりしないと、重りにしかならないな……マニュアルでも置いてくれればありがたいんだけど。……飾り、ってこともないよなあ」


 僕は悩みながらも、少し素を出していた。 
 クロムチェスターなどの兵器とは出会ってきたが、巨大ロボットのような二足歩行の人型の武器なんて見たこともない。
 そう、たとえるならウルトラマン──サード・デュナミストの憐がそのままロボットになったような印象だろうか(いや、これは憐に失礼か)。
 青というカラーも似ているが、憐はそこまで無骨ではない。
 これが空を飛べたり、ビームを発射できたりするものとも思えなかったし、ナイトレイダーの装備だと言われても納得できるか微妙なところである。


 触れるだけでなく、そのロボットの周りを一周して、いろいろと調べてみる。
 しかし、あまり迂闊に触ることもできず、その外観だけで装備を見ていく。
 おそらく、兵器の類であるのは、背中に垂れた砲台と右腕から見える小銃からもよくわかる。

847メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:37:59 ID:8AoWPCn20

「…………やっぱり、これは立派な兵器だよ。ただ、動かせない以上はただの置物かな。見たところ、人が装着するパワードスーツみたいなものだけど、あまり得たいの知れないものに障るのは流石に怖いかな」

「そ、そうですね」


 ある程度、兵器に対しての知識を身に着けたとはいえ、パワードスーツなど知らない。
 ただ、一歩間違えば暴発されるかもしれない兵器を、何も知らない状態でいじるのは危険行為だ。
 とりあえず、話題を変えてヴィヴィオちゃんに、このトレーニングルームに来た理由を訊いた。


「……で、ヴィヴィオちゃんはどうしてここへ?」

「ちょっと、リハビリをしようかな、って思ったんです。やっぱり少し体を動かさないと」


 それで僕は、納得する。
 彼女もひと暴れしたいのかと思っていたが、やはり腕の状態や上半身の状態を見た感じでは、まだ激しい運動をするわけにはいかないだろう。
 ただ、リハビリは大事だ。
 体はすぐに鈍るし、怪我をしたままだと日常的な行動さえも慣れが必要になる。
 そういう意味で、ここに来たのか。


「……よし、じゃあヴィヴィオちゃん。少し体を動かそうか」

「はい」


 ヴィヴィオちゃんは、トレーニングルームの端にある、衝立に囲まれた箱に入った竹刀を一本取り出した。
 竹刀……どうやらこの場では武器にならなそうだな、と僕は思う。
 ディバイトランチャーの方が、まだ敵には効果的だろう。あくまで、今回はこのヴィヴィオちゃんのリハビリと僕自身の軽い運動を兼ねて、……僕も竹刀を取り出す。
 竹刀自体には大して重さを感じることはなかったが、これを振り回すと腕が疲れるのだ。


「はぁっ! はぁっ!」


 ヴィヴィオちゃんはなるべく僕から離れ、右手だけで竹刀を振るっていた。
 まだ竹刀の長さとも変わらないような身長なのに、片手でこれを振るえるのは、相当な腕力だ。しっかり握っていなければ、竹刀は手から抜けて吹っ飛んでしまう。
 僕はそれを心配しつつも、ヴィヴィオちゃんから距離を置いて竹刀を振るい始めた。
 僕も同じように、右手だけを使う。
 右手だけで竹刀を持つ。右手だけで風を切る。右手だけで竹刀を持ち上げる。
 これを繰り返すのは、なかなかに体力が要る。……まあ、ナイトレイダーに入ったころの訓練よりずっとマシだと思うけど。


「すごいね、ヴィヴィオ、ちゃん」

「弧門さんも、結構」


 竹刀を振るいつつ、そんなことを言った。これはすぐに息が切れる。
 道場の端っこでは、クリスが手を振って応援していた。もっとも、集中しすぎていてそれに答えることはできないんだけど。
 そのうえ、前方で僕たちを見守るもう一つの物体──青と白のパワードスーツの威圧感も半端ない。
 ……というか、今気づいたが、こうした兵器を危険視しながらも、結局兵器のある部屋でのほほんとリハビリを始めるのは少し変だろうか。こうした兵器も、おそらく放っておけば何の問題もない。
 あれが動いて、銃を人や物に向け始めた時から、戦争が始まる。こうして、見守ってくれているだけならまだ問題ないのだ。
 TLTで生きてきたから、少しだけ兵器が隣にある特訓にも慣れていたのもまた、僕がこうして平然と特訓をしている理由だろう。


「何回で、終わりに、する?」

「今回は、百回、それから、また後で、また、やりましょう」


 壁にかかったアナログ時計は、もう十分足らずで正午になるということを表していた。

 八十九。九十。九十一。九十二。

 時計を見ると、だいたい一秒に一振りのリズミカルな素振りをしているのだとわかる。

 九十三。九十四。九十五。九十六。

 竹刀を振るっている間は、あらゆることを忘れて、竹刀を振るうことだけに集中する。もうすぐ、ノルマは終わるのだが、百に向けてペースが速まるようなことはなかった。
 腕がそこまで疲れておらず、むしろ物足りなさを感じるくらいだ。

 九十七。九十八。九十九。百。

848メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:38:51 ID:8AoWPCn20


「おわり、……っと」


 それでも、約束通り、竹刀を元あった場所に立てかけた。


「大丈夫? ヴィヴィオちゃん、疲れてない?」

「はい、大丈夫です」

「やっぱり、ヴィヴィオちゃんも結構鍛えてるんだ」


 と言いつつ、僕らはほんの少しだけ水を口に含んでおいた。
 冷たい水ならば、どんどん飲んでしまうかもしれないが、既にこの水はそこまで冷えてはいないため、本当に一口だけすすいだような感じだった。
 腕も痛むことはなかったし、ほどよい運動になったんじゃないかと思う。
 疲れて眠くなることもない。むしろ、眠気覚ましになった気がする。


「……一度、会議室に戻ろう。放送が終わったらみんなも来るかもしれないし」

「そうですね。探検は一時中断っていうことで」


 そう言って、ヴィヴィオちゃんは無邪気に笑う。
 僕もつられて、薄く笑みを浮かべた。
 ……でも、そんな無邪気さを見た瞬間、背筋がゾクッとするような考えも頭を巡ってきた。

 アインハルト・ストラトス、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、早乙女乱馬、山吹祈里、園咲霧彦……ここに来てから彼女と親しくしてきた人たちが、一人でも死んでいたら、彼女は無邪気に笑えるのだろうか。
 あと数分で放送が始まるが、その瞬間に、彼女は笑うことさえ許されなくなってしまうのではないか。またあの重い時間が流れてしまうのではないか。
 残酷にも告げられる死者の名前──。
 僕も、その中に西条凪、姫矢准、石堀光彦、蒼乃美希──そんな名前を聞き取ってしまったら。
 僕の笑顔の裏には、そんな不安があった。

849メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:39:31 ID:8AoWPCn20


 彼女は、僕との情報交換のときに高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの死を信用していないと言っていたが、その時の目は決して前向きに未来を捉えているようには見えなかった。
 どこかで大切な人の死が確かなものであると知っていて、それがつっかかっているようだった。


 ──リコ。


 僕の脳裏に浮かぶ、一人の女性の名前。
 大切な人の死。
 それがいかに辛いものなのかは、僕だって知っている。
 そして、誰かを憎みたくなる気持ちも、そこから目を背けたくなる弱さも、乗り越える痛みが襲ってくる。
 彼女は耐えられるのだろうか。今、本当に彼女は耐えているのだろうか。


 思いつめながら会議室に帰り、そのホワイトボードに書かれた、
「ヴィヴィオ、弧門、警察署内探検中。戻ってきた方はこちらで待機をお願いします。」
 という書置きを消した。


 放送のための準備として、僕はデイパックの中から名簿と筆記用具を取り出した。
 そういえば、前の放送の時も美希ちゃんとこうして名簿などを準備したっけ。


「諦めるな!」


 その言葉を、今度は自分に言い聞かせなきゃらならない。
 まだ起きていない不幸──まだ呼ばれていない名前──を恐れるなんて、愚かしいことに違いない。
 みんな、きっと生きてる。
 僕もヴィヴィオちゃんも、今は、そう信じるしかない。


 ……それからもうひとつ。
 まだこの「探検」の中で残っている謎が幾つかある。

 あのトレーニングルームにあったパワードスーツ。
 あれが本当にパワードスーツであるのかさえわからない──ただ、それが一番近いからそう呼んでいるだけだ。あれを知っている人が、誰かいるかもしれない。

 それから、屋上にあった魔法陣。
 あれの正体も、はっきりとはわかっていない。
 ヴィヴィオちゃんたちにもわからなかったので諦めかけているが、もしかしたらもっと詳しい人がいるかもしれないから、情報を提供してみる価値はあるだろう。



 再び静寂が沸き起こった会議室に、放送の音が鳴ろうとしていた。

850メモリとスーツと魔法陣 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:53:17 ID:8AoWPCn20
【1日目/昼】
【F-9/警察署会議室】
※時空魔法陣が設置された場所は屋上です。


【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷、左腕骨折(手当て済) 、決意と若干の不安
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式×2(ヴィヴィオ、アインハルト)、ヴィヴィオのランダム支給品0〜1、山千拳の秘伝書@らんま1/2、アインハルトのランダム支給品1〜3個(アインハルトは確認済み、ヴィヴィオは未確認)、ガイアメモリに関するポスター×5
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:強くなりたい。その為にらんまに特訓して欲しい。
2:みんなを探す。
3:ママ達、無事だよね……?
4:スバルさん……?
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。


【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康、ナイトレイダーの制服を着ている
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター×5
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:姫矢さん、副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
3:溝呂木眞也やゆりちゃんが殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
4:相羽タカヤ、相羽シンヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
5:沖さん達が少しだけ心配。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。


【ガイアメモリに関するポスター】
主催者特製のポスターで、警察署内に幾つも貼られている。
次の情報が記載されており、メモリに関する情報を得ることができる。
・メモリの用法と副作用(説明所と同様。ただし、精神力や気合で抑え込める等、今ロワのルールも触れてある)
・T-2メモリの名称と画像(今ロワで支給品または変身アイテムとして支給されているものだけ。効果や変身後については触れてない)
・T-1メモリの名称(T-2メモリ一覧の下に名称のみ羅列されている)
・ドライバーの名称と画像(ダブル、アクセル、ガイア、ロストの四つ。用法や変身後については触れてない)
・強化アダプターやトライアルメモリの名称と画像(用法や効果は触れていない)

【ソルテッカマン2号機@宇宙の騎士テッカマンブレード】
警察署内のトレーニングルームに配置。
詳しい説明書などが一切ない(配置場所が書かれたメモや説明書等が誰かに支給されているか、どこかに配置されている可能性もあるが、少なくとも配置場所付近にはない)。
原作ではノアルが装着したソルテッカマン。
フェルミオン砲とレーザーガンの装備は揃っているが、エネルギーがどの程度あるか、補給場所があるのかも現在のところは不明。

851 ◆gry038wOvE:2013/01/22(火) 00:54:10 ID:8AoWPCn20
以上、投下終了です。
感想、問題点、修正点、指摘などがあったらお願いします。

852名無しさん:2013/01/22(火) 09:13:49 ID:8Stt4um60
投下乙です!
おお、ソルテッカマンがこんな所にあったとは。これがあれば孤門も立派に戦えそうだけど……残ってる相手がどいつもこいつもやばすぎるw
ガイアメモリに関するポスターは考案の際に便利かもしれないけど、果たして上手くいくかどうか。
そういえば、姫矢さん達の名前も呼ばれるんだよね……

853名無しさん:2013/01/22(火) 11:55:47 ID:7vAbEiwc0
投下乙です

放送後の悲劇が判るだけに痛々しい
嫌な予感が事実になった時が怖い
ワープポイントらしき魔法陣とソルテッカマンか
いや、孤門は乗り気じゃないがそれに乗って戦う事も視野に入れないと死ぬ相手とか多いから悠長にしてる時間なんてないぞ

854名無しさん:2013/01/24(木) 00:46:48 ID:fS3cTqfU0
ソルテッカマンで活躍できるといいけど、どうなるかな……
エネルギーの問題だってあるし。

855名無しさん:2013/01/25(金) 00:12:28 ID:imGSSjsU0
テッカマン組と京水に予約来た!

856名無しさん:2013/01/26(土) 01:17:42 ID:9LgwvSx20
本当だ
キター

857 ◆gry038wOvE:2013/01/26(土) 23:52:29 ID:bMUGefFg0
ただいまより、投下を開始します。

858勝利のテッカマン(前編) ◆gry038wOvE:2013/01/26(土) 23:53:11 ID:bMUGefFg0
 この鬱蒼たる森林に集いしは、憎き運命に突き動かされし悲劇の兄弟。
 共鳴し合う感覚は、すぐにこの森林に、生存するテッカマン全員を揃わせた。たった一人、脱落者がいることを考えると少々遅かったかもしれないが……。
 それでも、そこにいるテッカマンは皆、共通して「彼女」のことを知りながら、彼女のことを考えたり、話題に出したりはしなかった。
 避けているのではない。
 今は、どういうわけかその少女の名前が身近に感じるのであった。
 その少女がいる場所────死後の世界に最も近い場所に、自分たちはいるのだと思わせるほどに、その場は張りつめ、凍り付いていた。

 相羽。

 その苗字から察することができる通り、この場にいる二人の男は血縁者──兄弟であった。体格が良く、華奢という言葉とは無縁。しかし、華奢でも違和感が無いであろう美少年。
 二人分の描写をする必要はない。彼らは双子でほぼ同じ顔だったからだ。
 その顔つきまで非常に似通っているものの、これから彼らが見せる異形は、似てはいるが色合いも造形も違うものとなる。
 相羽タカヤが変身するのは、テッカマンブレード。
 相羽シンヤが変身するのは、テッカマンエビル。
 光と闇の騎士であるのは確かだが、そのどちらが光でどちらが闇なのか、今となってはわからない。周囲への貢献で言えば、間違いなくブレードが光だが、当人の心の持ちようによって光か闇か決まるのなら、エビルが光と見えるだろう。
 ブレードは、人間の味方だった。エビルは、人間の敵だった。
 ブレードの心は、まだどこか曇っていた。エビルの心は、不思議と晴れやかだった。


「兄さん」


 その呼びかけに、タカヤは答えない。
 巡り合いは偶然でも何でもない。モロトフからの情報と、テッカマン同士のシンパシーが起こした必然。
 だからこそ、なるべく早く踏ん切りをつけてきたはずだった。
 両肩が痛む。
 肩が凝るどころの話ではない。肩から血が溢れ、激情とともにその血が噴き出そうとするのだ。森に吹く生暖かい風の煽りを受けて、痛みは増すばかりだ。


「……京水、見ろ。あれがテッカマンエビルだ」


 タカヤと共に来ていた泉京水という男(ただし心は女)が、シンヤの歪んだ顔つきを見て、少しだけ目を大きくした。
 タカヤと全く同じ顔でありながら、険しい表情をするタカヤとは違い、シンヤは妙に落ち着いて微笑んでいた。
 タカヤならば絶対に見せないであろう表情だと思う。
 京水はタカヤとシンヤの二人の顔を交互に見比べた。
 ……まるでシンヤが善玉で、タカヤが悪玉のようにも、見える。
 しかし、どちらも美少年には変わりはない──ということに気が付き、京水は声をあげた。

859 ◆gry038wOvE:2013/01/26(土) 23:54:04 ID:bMUGefFg0


「シンヤちゃーん! 会いたかったわ!」


 少しは畏怖するかと思いきや、予想に反して相変わらずだった京水に呆れる。
 実際、京水が一切恐怖を抱かないのは、彼がNEVERという特殊な存在だからに違いない。彼は死に対する恐怖を持ち合わせないのだ。


「……兄さん、これは新しいガールフレンドかな? まあいいさ、俺たちの邪魔さえしなければね……」

「お前こそ、その奇妙なペットに邪魔をさせるなよ」


 シンヤの傍らには、ラダムとは明らかに形状が違う、しかしおそらく宇宙にも生息しないであろう奇怪な生物が佇んでいる。
 椅子から生み出されたナケワメーケで、やや巨大な外形である。
 ラダムやテッカマンよりは愛嬌があるものの、シンヤの仲間には違いなしという感じだろうか。


「……勿論。これは俺と兄さんだけの勝負さ。絶対に他の誰にも邪魔はさせない。ナケワメーケ……お前はもう自由だ。ここから離れるといい」


 しかし、ナケワメーケが離れていく様子は無かった。離れたとしても、することがないのだ。主の戦いを見届けたい気持ちがあるのかもしれない。
 シンヤの様子が奇妙であることに、タカヤは気が付いた。
 なんだか、「テッカマンエビル」にしては妙に落ち着いている。──こんなに一対一の勝負に拘る男だっただろうか。
 これまで憎しみの対象としてきたテッカマンとは、まったく違う……そう、例えるならまるで、タカヤが知っている「相羽シンヤ」のような……。
 タカヤが言葉を忘れた間を狙ってか、シンヤが再び口を開く。


「兄さん、聞いてくれるかな……俺は、やっとわかったんだ。なぜ、兄さんとこんなにまで憎み合い、戦わなければならなかったのか」

「何……?」


 タカヤがようやく言葉を発する。
 それは、言葉の出し方を思い出したというよりは、反射的に口から出かかった言葉だった。
 シンヤは、戦う意味がわかったと言った。
 それは、彼が戦う意味を知りたがっていたということ──ただ本能的に戦っているだけのはずのテッカマンが。


「俺は、兄さんと戦い続けることでしか、俺の存在を、俺が生きてるってことを証明できなかったんだよ」


 京水、ナケワメーケ……部外者のすべてが黙り込んでいた。
 相羽タカヤは、憎しみに狂ったよりも、もっと真摯な瞳でシンヤを見つめた。
 一瞬、かつてのシンヤの姿と重なる。
 かねてより持っていたシンヤの、裏の顔なのだろうか。
 彼が兄弟に対して持っていたのは、愛情だけだけではなかったのだ──愛情と紙一重のところにある、もう一つの黒い感情を持っていたのではないだろうか。

860 ◆gry038wOvE:2013/01/26(土) 23:55:00 ID:bMUGefFg0

「ラダムでも人間でも同じことさ。……たとえ、テッカマンにならなくても、俺はきっと兄さんと戦っていたと思うよ」

「シンヤ、おまえ……」

「────嬉しいんだよ、俺は。こうやって兄さんと決着をつけられるってことが。だからこそ俺は、俺のもつ力を全てかけて、兄さんを倒す」


 タカヤの背筋が凍る。それは、ラダムに支配されたテッカマンとしてでなく、シンヤとしての彼が持つ闘争心から来た言葉だったからだ。
 仲の良い兄弟にあった、もう一つの感情。
 ラダムに寄生させる前からずっと持っていたはずの、シンヤの何か──。


「気にするなよ、兄さん。これは宿命なんだ。俺たち双子が、いや、ラダムと人類ふたつの種族が、未来をかけて戦う……逃れようのない宿命だったんだ」


 ──しかし、そんな気持ちが熱い何かに中和され始めた。
 シンヤの言っていることは間違っていると、タカヤの中の何かが告げる。
 父孝三の死と引き換えに生かされ、シンヤやケンゴといった兄弟と戦い、ミユキという妹の死を経験した男には、それを宿命などと片づけることはできなかった。
 しかし、それを言葉で返すことは、不思議とできないのだった。


 シンヤが、ニヤリと笑った。
 その口元に生まれた微笑を見て、タカヤは、口元を引き締めた。


「京水、お前は逃げろ。……俺たちが全力で戦えば、この周囲すべてが吹き飛ぶぞ!」


 その顔のまま、タカヤは京水に怒鳴るように言った。
 しかし、京水は数メートル引き下がるだけで、一切タカヤやシンヤを視界から外そうとはしなかった。
 シンヤはナケワメーケに何も言わない。
 それが物でしかないこと……それをよく理解していたし、大きな愛着もない。バットショットやスタッグフォンも同じだ。邪魔さえしなければいい。
 タカヤは京水がそう離れていないことにさえ気づかずに、拳を強く握った。
 それが合図だった。
 二人は、ほぼ同時に、変身のための掛け声を叫んだ。



「「テック・セッタァァァァァ!!!!!!!!!」」



 生まれたままの姿になった二人の手から、足から、背中から……体の内部から裏返るように突き破り、生々しい音を立てながらグロテスクな変形を辿っていく。
 人の姿を失い、化け物同然の姿となった戦士。
 ラダムという寄生生物によって、人であることを許されなくなった異形。
 その名はテッカマン。
 その異形がそれぞれの色に光りながら、より完全なものへと変化していく。
 そして、テッカマンブレード、テッカマンエビルも、それぞれの変身を完了させた。
 京水も、ナケワメーケも、────その様子を陰で見守っていたテッカマンランス・モロトフも思わず一歩下がる。

 ────爆風によって周囲の木々が乱れていく。

 巨体ナケワメーケが吹き飛びかねないほどの、強風。それは、テッカマンが走り去った後から吹いていた。
 緑と赤の光が、同じ距離だけ走って、中心でぶつかり合っている。
 光でなく、それがテッカマンブレードとテッカマンエビルの形なのだとはっきり認識できた頃には、それぞれのテックランサーが押し付け合っている。ガキン、という鈍い音がそれぞれの耳に入っていただろうが、それは他の人間には聞こえなかった。それより遥かに巨大な爆音が鳴り続けていたのである。
 しかし、それぞれの手元に握られた武器は、一瞬で命を絶つことも難儀ではない武器。──ゆえに、音がどれほど小さくても、その一撃の意味は大きかった。
 両刃のテックランサー。
 十字のテックランサー。
 どちらが圧しているのかもわからないほど、強い力と力を感じるものだった。

861 ◆gry038wOvE:2013/01/26(土) 23:56:10 ID:bMUGefFg0


「でぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ……が、すぐに十字のテックランサーが圧すようになった。
 能力的には互角でありながら、ブレードの肩はダグバによる傷が残っているのだ。力比べとなれば、あっさり負けてしまうのは当然であった。


「ぐああっ!!」


 ドサッ、と音を立てて地面をバウンドした後に、ブレードの体が数メートル吹っ飛ぶ。
 彼の体が転がった地面は、あまりの熱のためにか、砂埃ではない煙を出している。
 本来なら、地面に尻をついたブレードにトドメを刺すのは簡単なはずだった。
 しかし、エビルは追撃しなかった。


「兄さん……肩を怪我してるみたいだね。これじゃあ、俺の望む決着なんかつかない」


 エビルは、己のテックランサーを使い、あろうことか自分の左肩にそれを突き刺した。
 それを力強く引き抜き、血のような液体が噴き出し、本人も小さく悲鳴のような声をあげる。
 しかし、それだけでは終わらない。
 テックランサーを左手に持ち替え、ひと思いに右肩に突き刺す。その瞬間、左肩からも右肩からも液体が噴き出したが、エビルはそれを何とも思ってはいないようだった。


「……はぁ……はぁ……どうだい、兄さん。これで俺たちは平等だ。正々堂々と戦える」


 兄へのコンプレックスを持ちながら、彼は決して優位な立場から兄に勝とうとはしない。
 それでは、存在を証明することにはならないのだ。
 双子。本来、一つだったはずの存在──わずか三十分の生まれた早さの違いで、生涯タカヤを兄と呼び続ける運命にあった男の、兄の背中を追い、親の愛を求めた男のプライドが、一切の卑劣を許さないのだった。
 少なくとも、シンヤとしての意識が強い今だけは……。


「何をしようと容赦はしないぞ、シンヤ!!」


 しかし、ブレードは容赦をする気は毛頭ない。彼がテッカマンエビルならば、どんな手を使っても彼を倒さなければならない。そして、相羽シンヤなら、兄として全力で彼と戦い、たとえ勝敗がどうであれ────弟の存在を証明しなければならない。
 悲しいかな、タカヤはそのどちらであっても弟を殺す運命になってしまったのである。
 タカヤの言った、宿命とやらは正しかったのだろうか。
 否、それだけは絶対に認めてはならない。
 平和な家族を壊したのはラダム。だからこそ戦える。それがシンヤや自分自身だったというのなら、タカヤはきっと……。


 テックランサーを構えたブレードが、再びエビルに立ち向かっていく。エビルの血まみれのテックランサーが、フェルミオンワイヤーによって発射される。
 エビルの手から離れながらも、真っ直ぐブレードに向かっていく。


「はぁっ!!」


 ブレードがそれを叩き落とすが、そちらに気を取られた隙にエビルがブレードとの距離を縮めている。
 そして、例によって肩から体当たりをした。
 重い体重がのしかかることにより、またブレードが吹っ飛ぶ。
 しかし、今度はただ吹き飛ぶのでなく、倒れる瞬間にブレードもテックランサーでエビルの脇腹に死傷を与えた。


「「ぐっ……!」」

「タカヤちゃん!」

「邪魔をするなっ!!」


 京水がかけた声を、ブレードは突き放す。逃げろ、と叫ぶ余裕さえないのだ。
 だが、誰も邪魔をする気はなかった。事情を知らない京水でさえ、邪魔する気になれなかった。
 もしかしたら、東せつなならば止めようとしたかもしれないが、残念ながら彼女はここにはいない。
 京水は彼女ほど甘くはなかった。どちらかの死を受け入れる覚悟もあったはずだ。
 ゆえに、この一瞬の心配の一声を除いて何かを言うつもりはなかった。

862 ◆gry038wOvE:2013/01/26(土) 23:57:53 ID:bMUGefFg0


「兄さん、とっても嬉しいよ! いま俺は、生きてることの素晴らしさを、この肌で感じているよ」

「シンヤ、お前やケンゴ兄さんがラダムとなり、ミユキが死ななければならなかったのも、すべて宿命で片づけられるのか!?」

「いやだなあ、兄さん。俺はむしろ感謝しているのさ。ラダムになったおかげで、兄さんとの勝負にケリがつけられることをねぇ!」


 起き上がった二人は、何度でも敵に向かう。
 それしかない。
 敵に背を向けるのは、もはや兵法に無い。それこそ、この戦いの意味を無に帰すものとなるだろう。
 ブレードがテックランサーを凪ぐと、真一文字にエビルの体が切れる。
 エビルがテックランサーを突き刺すと、ブレードの腕が血まみれになる。
 しかし、どこか麻痺しているのか、それらは些細な傷としか認識されない。


「最高だ! 最高だよ兄さん! こんなにも充実した時を過ごせるなんて」


 エビルの狂気。
 それは全て、あるひとつのトラウマに起因していたのだった。


「もうラダムも人間も関係ない!」


 シンヤが小さい頃、彼が落としたランプの火がカーペットに燃え移った。ちょっとした不注意だったが、それが取り返しのつかないことになった。
 ランプの火はカーペットの隅から隅まですぐに燃やし尽くしていき、その周囲もすぐに燃やしていった。
 どうすることもできず、動けないまま、必死で「助けて」と叫んで、母はすぐにシンヤを助けに来た。
 しかし、周囲はそのまま火に囲まれた。
 彼女が助けに来ても、結局傍にいる以外はできなかった。
 母の腕の中で、シンヤは放心状態に陥った。
 自分のせいで、自分が過ごしてきた家が焼けていく。このままだと自分も母も死んでしまう。いろんなことで頭がいっぱいで、泣くことしかできなかった。
 母は、何か思いついたように大時計にシンヤを閉じ込めた。丈夫な時計だったから、その中に入れれば助かると思ったのだろう。ちょうど子供一人分のスペースにシンヤを入れて、母は微笑んだ。


「この瞬間が俺のすべてだよ、兄さん!」


 そして、シンヤの目の前で……一つガラス板をこえた向こう側で、母は……母だったものは燃えていった────。

 それが負い目となって、彼は家族に対するコンプレックスを強めた。
 父が愛してくれるはずがない。母を死なせてしまった自分を。
 タカヤ兄さんも、ケンゴ兄さんも、ミユキも……。彼らのあの時の、冷めた表情は忘れられない。
 ずっと、そんな思いにさいなまれて生きてきたシンヤの強い劣等感が、テッカマンとなって爆発したのだろう。
 彼が、「テッカマンにならなくても戦っていた」と言うのは、おそらくこの出来事が原因で家族に接しにくくなったのを薄々記憶しているのが原因だと思われる。己の罪を、兄たちが許してくれるはずがないと……いつか、誰かが突き放していくのだろうと、父の愛は全てタカヤに注がれて、シンヤなど「いなかったこと」にされてしまうのだろうと、そう思ったから、双子の兄に対するコンプレックスは強かったのだ。
 尤も、今の彼はその時の記憶など封印してしまったのだが。


「違う──!」

863 ◆gry038wOvE:2013/01/26(土) 23:59:07 ID:bMUGefFg0


 タカヤは、シンヤの戦闘意思を拒絶する。
 この戦いがシンヤの全てならば、共に過ごしてきた幼少期は何だったのだろう。
 あの楽しかったはずの日々は、シンヤにとってオマケでしかないのだろうか。
 タカヤの場合は逆だ。
 相羽家の本当の記憶は、忌まわしいラダムとの戦いなどではなく、全て、もう時が止まってしまったあの家で過ごしたものなのだ。
 そこにずっとあったシンヤの気持ちも知らない。
 これは全て、ラダムによる暴走ゆえなのだと信じていた。
 だから、彼はシンヤの言葉を否定した。
 しかし、シンヤは叫び続ける。


「勉強! スポーツ! 親の愛! 何もかもが兄さん一人のものだったのさ! 人間の時はねぇっ!!!」

「そんなことは……!」



 エビルとブレードが対峙したまま叫びあう。
 ブレードのタイムリミットの都合がある以上、長々と話しているのは無駄以外の何物でもないのだが、それでもブレードは、タカヤとして……兄として、シンヤの……弟の言葉を聞かなければならないのだ。


「俺が……あの日々をずっと楽しく生きてきたと思ってるのかい、兄さん!! 何度も思ったさ……兄さんが憎いって!! でも言えなかったのさ、憎いだけじゃなく、愛してもいたからねぇっ!!!」

「──シンヤ……お前は……!!」

「だから、これは俺にとって最後のチャンスなんだ。兄さんを超え、兄さんを殺す最後のチャンス!! 俺は絶対に負けない……、負けられないんだ、絶対にぃっ!!!」

「──父さんや、母さんに……!!」

「俺は人間をやめるぞっ! ブレードォォォォ!!」


 負ければ、シンヤはタカヤの劣化版という不要物でしかなくなってしまうのである。
 幼少期から、学校生活までのあらゆる場面で、シンヤはタカヤに負けてきた。
 何度も競争して、何度も負けた。野球や空手といったスポーツでも勝てない。
 勉強でも勝てない。親にも愛されない。
 ミユキも、タカヤにばかりべったりで、シンヤに対する態度は少しよそよそしかった。
 同じ顔、同じ日に生まれた双子なのに……。


「……その姿は……進化した、テッカマン……なのか!?」


 テッカマンエビルの赤い異形──その姿はブラスター化していた。
 体中が刺々しい物体が生えて来て、全身をより巨大に見せている。
 不完全なテッカマンの能力を補う進化形態であり、タカヤは彼がブラスター化を果たしていたことなど知る由もなかった。
 これにより、パワーは強化されるが、他のあらゆる面で大きな弊害が巡ってくる。
 しかし、そんなものを今のシンヤが気にするはずがない。
 どうあっても、絶対にタカヤを殺さなければならないのだ。そのためにこの力を得て、寿命を削ったのだから。

864 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:00:08 ID:ZbrL6gI.0


「ブラスター化については知ってるみたいだね……さあ、兄さんもなってみせなよ……ブラスターテッカマンに」

「くっ……!!」


 躊躇いたくなる気持ちを忘れてしまったのだろうか。
 声だけは躊躇をしているように聞こえたが、タカヤは一切そんな気持ちがなかった。
 ただ純粋に、シンヤと対等に戦いたい気持ちがタカヤにはあった。
 シンヤを認めるためか?
 いや、タカヤも薄々気づいていたのだろう……。


 ──本当は、シンヤが「勝って」いたことに。


 手をかけずとも勝手に育つ天才・タカヤ。
 手をかけなければ、何をするかわからない努力家・シンヤ。
 親やゴダートが気にかけ続けたのは常にシンヤだった。
 それは、あたりまえのことだっただろう。タカヤを本当に慕っていたのは、幼いミユキだけだった。
 タカヤは、きっとそれを心のどこかで知っている。そして、寂しく思っていたはずだ。


「ぐぉぉぉぉっ!!」


 ブラスターテッカマンブレード──その進化がシンヤへの答えだった。
 あまりのエネルギーに、地面が盛り上がり、木々は激しく揺れる。
 京水も、流石にその場には長居できなくなり、さらに後方へと引き下がっていく。
 ナケワメーケも、尻もちをつく。モロトフは、その場で目を覆う。


 この時系列のテッカマンブレードは、まだブラスターになったばかりだった。
 ゆえに、ブラスター化の経験が薄い者同士となっている。
 ブレードに至っては、そのリスクさえ詳細に知らないのである。



★ ★ ★ ★ ★



「…………やはり、あれは!」


 物陰からその様子を見ていたモロトフが、二人のブラスター化した姿を見て驚愕する。
 ブラスター化したブレードを見ると、かつて撃退された記憶がよみがえったのだろうか。
 その姿を見た瞬間、モロトフの足は自然と後ろに下がった。
 恨みつらみよりも、あの瞬間のトラウマが、モロトフの戦意を奪ってしまった。


(……しかし、奴らはおそらく、戦いの決着がつくまで、私を攻撃することはないか……。だが、もし……ブレードが勝てば……)


 と、少し考えた後、自然にまた一歩下がる。
 ブレードはやはり、その後、自分を殺しに来るだろう。
 だが、それ以上は下がらなかった。
 弱弱しくも、まだラダムの闘争本能や、高いプライド、そして優勝者となる野心を確かに胸に抱いたままなのだ。
 機会があればタカヤかシンヤを殺したい。
 その思いは今も変わらず、胸の中に存在するのだ。

 そして、同時に自然と退いてしまった自分の足元を見る。
 その瞬間、ふと我に返った。


(クッ。私とした事がっ! ……退くわけにはいかない! 私こそが最強のテッカマン……そして、このゲームの勝者なのだ……っ!!)

865 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:01:07 ID:ZbrL6gI.0


 そう、勝てないはずがない……はずだ。
 たとえ、至近距離からのボルテッカが効かないとしても、エビルとの戦いで弱ったブレード──それも、30分の変身制限で人間の姿に戻ったブレードならば何の問題はないはずだ。
 もし、エビルと戦いになったとしても、あの様子ではブレードとの勝敗以外には興味はない。
 どちらにせよ、あそこまでの死力を尽くした戦いの挙句に、きっと二人は簡単に死ぬだろう。
 そうだ、テッカマンランスが死ぬことはない。
 エビルよりも、ブレードよりも強き戦士──テッカマンランスは、漁夫の利を拾い、テッカマンの頂点となることができる。


 ……。


 ……………。


 ………………しかし、本当にそれで良いのだろうか?


 ……………………それが、完全なテッカマンのやることといえるのだろうか?


 モロトフは自分の力に絶対の自信を持っている。
 本気になれば、ブレード、エビル──いや、ブラスターブレードやブラスターエビルさえも消し炭に変えられるはずだ。


(そうだ、弱気になるな……。私の力さえあれば、姑息な真似を使うことなく、奴らを倒すこともできる……!!)


 モロトフは、拳をぐっと握った。
 ここから見える二人は、己の存在証明のためだけに、平等な条件で正々堂々戦っている。
 では、モロトフは何のために戦っているのだろうか。


(私はオメガ様に知ってもらいたいのだ。エビルよりも私の方が有能であることを……ならばっ!!)


 前へ前へ、今度は自然と足が動く。
 ────彼もまた、己の存在をかけて戦うテッカマンの一人だったのである。
 蟻と称する人間相手なら、一対一は時間の無駄になるゆえ、どんな卑怯な手でも使っただろう。
 しかし、テッカマンという同条件の相手に、卑劣な真似を使うことは、ブレードやエビルを卑怯な真似を使わなければならない弱い存在であると認めてしまうようなものだ。

866 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:01:35 ID:ZbrL6gI.0


「テック・セッタァァァァァァァァァァッ!!!!」


 テッカマンランスはかつての雪辱を晴らすため、再び無謀な戦いに身を寄せようとしていた。
 あの時とは違う。
 返り討ちの可能性もあると考えている。
 しかし、それでも、テッカマンブレードに敗北した弱い自分を消し去るには、今しかないのだ。


(エビル……約束が違うが……貴様らの兄弟喧嘩を邪魔させてもらう。私にも、貴様と同じく果たさねばならない因縁があるのだっ……!)


 二人のテッカマンは、もう一人のテッカマンが近づいてくるのを感じ取っていた。
 それがテッカマンランスであるのは二人ともわかっているはずだ。
 しかし、ブラスター化した以上、戦闘には大きな影響をもたらさないだろうと考えていた。
 互いが感知し合い、三人のテッカマンが集結することになった。



★ ★ ★ ★ ★



 物陰から現れたもう一人のテッカマン。その名はランス──人間名はモロトフ。
 先ほどから認知してはいたが、二人のテッカマンはこれまで一切彼に気を回すことはなかった。
 しかし、こうして戦闘に介入する気でやって来た彼を前に、エビルが思わず口を出す。


「……モロトフ! 邪魔をするな──約束をしたはずだっ!!」


 ブラスターエビルが、ランスに喝を入れたが、ランスはそんなものを聞き入れようとしなかった。
 一瞬で、二人のもとへ現れたランス。
 先ほどまで、明らかに漁夫の利を狙っていたランスが、何故ここにきて急に現れたのか、ブレードにもエビルにもわからなかった。


「……身勝手なことを言うな! 私もオメガ様の為に戦うテッカマンの一人……」


 身勝手なのは明らかにランスの方だったが、彼は彼なりの思いがあった。
 もはや約束など関係はなかったのだろう。
 約束など大事なことじゃない。彼にとって大事なのは、何より己の強さ、それに対する絶対的なプライドと威厳だったのだろう。


「私自身のプライドにかけて……! ブレード、貴様を殺す!! ……私の邪魔をしたいのなら、二人まとめてかかってもらっても構わん!!」


 ランスはそう叫んだ。もはや、ブラスターテッカマンを前にしても一切恐怖などなかった。
 二人纏めてでもいい。
 それで勝利すれば、テッカマンランスの名前に箔がつくはずだ。
 テッカマンも、プリキュアも、魔法少女も倒しつくし、加頭さえも倒す。
 そして、無事オメガ様のもとに帰還し、全てを報告するのだ。
 そのために────

867 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:02:46 ID:ZbrL6gI.0


「ボル・テッカァァァァァァァッッ!!!!」


 木々を巻き込み、テッカマンランスの首からボルテッカが発される。
 ブレードに向けて一直線に向かっていく光の粒子の束。
 次の瞬間、ブレードの体がその光に包まれたが、光が消えると、そこには何事もなかったかのようにブレードが立っている。


「……これが、ブラスターテッカマンの力か!!」


 ブレードは驚いているようだったが、それについてはランスもエビルも経験済みだった。
 ブラスターテッカマンの圧倒的な強さに、やはりボルテッカは効かない。
 しかし、それも計算済み。
 土埃や煙の中にいるブレードの影へと、ランスは突っ走る。


「──テックグレイブ!!」


 彼は自分のテックランサー──テックグレイブを構え、そこに立つブレードへと突き立てる。
 しかし、ブラスター化した彼の表面は、そんなものを通さない。
 そして、そんなランスの真後ろに、エビルが迫っていた。ランスは、はっとして背後を振り向くが、エビルが真横に百八十度回転させた手刀でランスを吹き飛ばす。


「……何っ!? ぐああああっ!!」


 ランスの体は、ブラスター化したテッカマンの圧倒的な力を前に、数メートル吹き飛ばされてしまう。
 ダメージも半端ないものだっただろう。
 起き上がるのに時間がかかるし、起き上がった後もすぐには戦えないのが容易にわかる。


 そう、どれだけ強い決意を固めたとしても、テッカマンとブラスター化したテッカマンの間には決定的な実力の開きがあった。
 かつて一瞬で吹き飛ばされたことを思えば、十分まともに戦った方だっただろうか。


「さあ、兄さん……続きだぁっ!!」


 エビルは、すぐさま振り向いて、テックランサーを抜いた。
 そして、それをブレードへと突き刺そうとする。


「ぐっ!!」


 しかし、ブレードもまた、すぐにテックサンサーを抜いて、エビルの攻撃を一瞬で防いだ。

868 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:03:32 ID:ZbrL6gI.0


「はぁっ!!」


 二人は、それを弾きあうと、同時に後方へと引く。
 そこへまた、エビルがテックランサーを投擲する。
 ブレードはそれを避けるが、その顔面へエビルは拳を突き出す。一瞬で、そこまで駆けぬいたのだ。


「ほぁぁぁぁっ!!」


 ブレードの体は、その一撃でまた後方へと吹き飛んだ。
 だが、そこにエビルが追撃していく。
 またしても回り込んだエビルは、右腕を前に突き出す。
 それを読んだブレードは、そこにテックランサーを翳した。
 エビルはテックランサーにパンチを繰り出し、彼のテックランサーに指を切り裂かれる。


「うっ……!」


 ひるんだエビルに、ブレードが右足で一撃、キックを放ってエビルを後方へ吹き飛ばす。
 バランスを崩したエビルは地面を転がるが、すぐに立ち上がり、ブレードの追撃を回避する。
 ブレードの方を向いたまま、少し浮き上がって後方へと下がっていく。
 遠距離攻撃。
 その意図はわかっている。
 テックランサーを投擲してしまった今、エビルの遠距離からの攻撃方法は一つ。
 ブレードもまた後方へと下がって、エビルの方を向いた。


「……これで最後だ、ブレード!!」

「……シンヤ!」


 それぞれの肩に、エネルギーが集中していく。
 テッカマンの必殺技にして、ブレードにとってはたった一度しか使えないはずの攻撃。
 それを使ってでも、早く決着をつけなければならなかった。
 時間が迫っている。それに、またランスがいつ攻撃してくるかもわからない。
 だから、己の肩に集中したエネルギーを使い───


「「ボルテッカァァァァァァァッッッ!!!!!」」


 肩から発された二つの光が、中央でぶつかり合う。
 あっさり弾けたりはしない。
 互いが必至に力を込め、保たせよう保たせようと必死だった。



★ ★ ★ ★ ★

869勝利のテッカマン(後編) ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:04:24 ID:ZbrL6gI.0



 ────時刻はほんの少し遡る。
 ブラスターテッカマンエビルによって吹き飛ばされたテッカマンランスは、意外にもすぐに起き上がっていた。
 それは、おそらく己の意地によるものだっただろう。
 そして、ランスは、再び二人の戦闘に割り込もうとしていたはずだ。


「ナケワメェケェ…」


 その道を阻んだのは、主に忠実な下僕、ナケワメーケだった。
 主の戦いを邪魔させないために、ナケワメーケはテッカマンランスの前にたたずむ。


「……なんだ貴様は。たった一匹の蟻ごときがこの私の通る道を阻もうというのか……」


 しかし、その真横に泉京水が歩み寄ってくる。
 テッカマンランスには見覚えのある姿だったが、それもまた蟻だった。


「一匹じゃないわ。私も、タカヤちゃんとシンヤちゃんの兄弟喧嘩はやらせておくべきだと思うのよっ! やっぱり、喧嘩も大事よっ!! あの二人の誰かが来るなんて空気読めない、略してK・Y! KYねっ、モロトフちゃん!! 何なら私が相手してあげるわっ!!」

「フンッ……何匹だろうが蟻は蟻だ。それに、私はブレードへの再戦を望んでいるのみ……貴様らの相手をしている暇はない。蟻どもを踏み潰すなど、退屈なだけだ」


 ランスが通り過ぎようとした瞬間、電子音が響く。

 ──Luna──

 ──Luna──

 ルナ・ドーパントとなってまで、京水はランスの行く道を阻もうとしていた。
 戦力差はわかってはいるが、それでも二人の邪魔をさせない。
 ランスの気持ちもわかる。
 一度やられた屈辱を晴らすために、もう一度戦おうとするのは男子に生まれれば仕方ない感情かもしれない。
 悔しさが、絶対に勝ちたいという思いを作り出す。
 しかし、残念ながらブレードにはエビルという先客がいた。
 その一対一の戦闘を見守るために、悪いがランスには諦めてもらおうというのだ。


「そうか……あくまで阻むというのなら、容赦はしない……いくぞっ!!」


 その言葉を発した直後、ランスの耳にボルテッカの叫びが聞こえる。
 ブレードとエビルのボルテッカだ。
 その威力をよく知っている彼は、一瞬伏せるような様子を見せた。
 そして、直後に光はやってきた。
 ブラスターボルテッカの爆風が、ランスたちの体を吹き飛ばした。


「何ぃぃっ!!?」


 その中で、ランスは見た。
 その衝撃を回避するために、上空へと飛び上がったナケワメーケの姿を──。



★ ★ ★ ★ ★

870 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:05:15 ID:ZbrL6gI.0



 ブラスターボルテッカが二つとも爆発し、周囲の木々が吹き飛んだ。爆心地に直接関係ない木々さえも、爆風によって炭となり、灰となった。
 その轟音と衝撃が終わると、ブレードの体中がボロボロに砕け散っている。ルナドーパントが吹き飛ばされ、ナケワメーケもテッカマンランスさえも、その光に飲み込まれていった。
 辛うじて、体をある程度保っており、生だけは保っているが、それでもこれ以上戦える力が残っている気はしなかった。


「……うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「何っ!?」


 だが、そんなブレードの目に、その煙の中から、向かってくる一筋の影が映った。
 拾いなおしたテックランサーを、左手で構えている、ブラスターテッカマンエビルだった。
 こちらが放ったボルテッカの残滓によって、少し動きが鈍っているようにも見えるが、確かに回避しがたいスピードで、彼は向かってきていた。
 ブレードはあの一撃でこれほどのダメージを受けたというのに──エビルも同等のダメージを受けていて当然なのに、彼はできる限り回避し、痛むはずの傷も、体の疲労さえも我慢して、ただ執念でブレードを殺しに来たのだ。


「さらばだ、ブレードぉぉぉぉっ!!」


 どこを刺してくるかはわからない。
 ブレードは、必死の思いでテックランサーを突き出した。
 防御する気がなく、ただ前からやって来るエビルの心臓を先に止めようとしたのだ。


 ────しかし、────


 心臓に向けてテックランサーの照準が定まり、ブレードの体を貫こうとしたまさにその瞬間であった。

 突然の頭痛のような感覚が、エビルを襲った。

 その一瞬、彼の手元が狂い、テックランサーはブレードの右腕に突き刺さった。

 そして、ブレードのテックランサーは真っ直ぐ、エビルの腹へと向かっていこうとしていた。


 ──負ける!!──


 直感的にシンヤはそう思った。

 完全なる優勢のこの瞬間、例によってブラスター化の代償がやって来たのだ。

 あと一歩で、兄さんに勝てたのに…………。


「……ナァケワメェケェ……」


 主を失いかけたナケワメーケのその声を聞いたエビルの胸に、浅くテックランサーが突き刺さった。
 痛み。
 敗北の痛み。
 最後まで、勝てなかったのだろうか……。
 このまま、深々とエビルの胸を貫き、この競争は終わってしまう。
 やっぱり、僕は勝ってなかったのか……。
 本当に、あと一歩だったのに……。


 しかし、次の瞬間、二人のテッカマンが、反発し合うように吹き飛んだ。
 テックランサーをぶつけ合った衝撃によるものだった。
 そして、二人のテッカマンの間に、奇妙な影があった─────

871 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:05:55 ID:ZbrL6gI.0


「──ナケワメーケ!?」


 エビルが驚愕する。
 あの一瞬の間に、ナケワメーケが飛び出していたのだ。
 主の危機的瞬間を見抜いたナケワメーケが、テッカマンランスとの戦いも何もかもを放り出し、あるかもわからぬ命を呈してブレードの一撃からエビルを庇った。
 それは、そういうことだった。


「……くっ……ナケワメーケ、邪魔をするなと、あれほど……」


 そこに現れた小さな椅子の残骸を見ながら、テッカマンエビルは落胆する。
 椅子から生まれた奇妙な巨体────命、感情、意思、生き続ける意味さえあったのかもわからない存在だった「それ」は今、シンヤに仕えていなくなった。
 生物かどうかさえわからないナケワメーケとのお別れ。
 それが何だか、戦いの邪魔をされたことよりもずっと、もどかしい感情をシンヤに与えていた。
 腹部を突き刺された痛みなど、もはや感じなかった。


「…………それに、僕、だって……もう、永くないって、いうのに…………」


 こんな形で生きながらえてしまった。
 もう数時間ともたない命のために、ナケワメーケは散った。
 ナケワメーケは、知っていたはずなのに。
 だが、それだけナケワメーケの主に対する情が深かったということだろうか。
 シンヤはナケワメーケに過去の話をしたり、番人をやらせたり、移動手段として重宝したり、無意識のうちに可愛がっていたのである。
 それが、ナケワメーケに伝わったのかもしれない。
 今となっては、ただの壊れた椅子にすぎないそれが、実際どんな気持ちだったのかなど、ここにいる誰も知る由はないが……。


 ピコン、ピコン、ピコン……。


 テッカマンブレードの頭上で、点滅が始まった。
 30分。気づけば、あっという間にその戦いは終わっていた。
 そして、それはブレードのピンチを意味していた。
 このまま変身を解かずに放っておけば、ブレードは完全にラダムに洗脳され、おそらく他の参加者を殺しつくす悪鬼となる。
 しかし、変身を解けばシンヤやモロトフ……いや、シンヤはともかく、モロトフは襲ってくるだろう。


「……もう30分か。また1時間後に戦おう、兄さん。ランスは俺が止めておく……」


 そう言って、エビルがブレードに背を向けた。
 ブレードは、その背中を黙って見つめながら変身を解く。
 誰かが駆け寄ってきた。タカヤにはわからないが、ルナ・ドーパントだった。彼もまた、モロトフを警戒してか、変身を解く様子はない。



★ ★ ★ ★ ★



 タカヤは深く息を吐いてへたりこむ。肩からはまた血が流れて、全身はズタボロだった。
 目も開かないのだろうか。
 何故か、目の前の光景が真っ暗で、何も見えなかった。


 ────いや、待て。


 ここは一体どこなんだ?
 真っ暗で、何も見えない。全ての光を阻まれた箱の中にいるような感覚だ。瞼の裏が薄く光ることさえもない。
 だから、タカヤは手探りで、自分が閉じ込められている場所の「壁」を探し始めた。

872 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:06:36 ID:ZbrL6gI.0


「……おい、どこだ……。どこだ!」


 空気にもたれかかり、バランスを崩して倒れてしまう。
 服が泥だらけになり、体中の傷が痛んだが、それさえもわからない。


「ちょ、? ちょっと! どうしたのよタカヤちゃん!」

「ここはどこだ、俺はどうしてこんな真っ暗なところに! 京水、シンヤ……お前たちはどこにいるんだ!!」

「タカヤちゃん、目の前よっ!! ホラ、ホラ、私を見て!!」


 ────このタカヤは、いま初めてブラスター化をしたばかりだった。
 ゆえに、ブラスター化のリスクを詳しくは知らないし、この異変が何なのかわからない。
 彼の視界から光を奪い、同時にあらゆる記憶を消し去っていく。
 声さえも届かず、永遠の孤独に閉じ込められてしまったのである。
 そして、寂しさと痛みが襲ってくる。
 何故、痛むのかわからない肩。
 何故、疲れているのかわからない体。
 何故、出会ったのかさえわからない京水という男。


 そうだ、京水の名前は知っている。シンヤとの戦いも消えてはいない。ミユキのことも覚えているはずだ。テッカマンのことも、戦いのことも忘れ去ってはいない。
 しかし、今の彼はそれ以外のほとんどの情報を失ってしまったのである。
 加頭、せつな、結城、零、モロトフ、ダグバ、翔太郎、杏子のことは完全に忘れてしまったし、「殺し合い」、「首輪」、「Dボゥイ」の名前────あらゆる記憶が彼の中から消えていく。
 そして、どうしようもない不安ばかりが募ってくる。
 壁を探して這うタカヤに、30分は長すぎたし、1時間は短すぎた。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」



★ ★ ★ ★ ★



 ランスの前に現れた赤い影。それは、テッカマンエビルその人だった。
 真っ赤な外形は、忘れるはずもない。
 ランスとはある約束を交わしていたし、それが破られた以上、戦闘後に彼が現れたのは必然だった。


「邪魔をしてくれたねぇ……モロトフ」

「フンッ。……あの戦いで生き残った方を殺すというのは、貴様らの方がより完全なテッカマンだと認めてしまうのと同じ……そう思われるのが癪だっただけだ!」

「もう一度言っておくべきかな……あんたは俺や兄さんよりも、ずっと完璧なテッカマンさ。ブラスター化は自分の体を崩壊に近づけていく……俺の命も、もう……」


 エビルの姿が巨大なクリスタルの結晶となり、そのまま相羽シンヤの姿へと戻っていった。
 相羽シンヤの体は、もはや一時間の戦闘が可能な状態ではなかったのだ。
 そう、あの時ナケワメーケが庇わずとも……ブレードのテックランサーがシンヤの体に突き刺さっていたとしても、きっとシンヤは力を使い果たして死んでいた。
 辛うじて彼を保っていたのは、敗北に対する異常な嫌悪感で、勝利への異常な執着だった。


「はは……モロトフ、もう責めるつもりはないさ……。俺の、……僕の代わりに、兄さんにトドメを差すいい……」


 シンヤの首の後ろから、小さな虫が飛び上がった。
 ────ラダムの、あまりにも矮小な本体だった。
 この戦闘力の欠片さえ見られないごく小さな生物が、人を戦うためだけの戦士へと変身させ、地球を滅亡に追い込んできたのだ。
 これがいなければ、シンヤたちがテッカマンとなることはなかったし、親兄弟、友人同士が殺し合うことにはならなかった。
 このゲームに招かれることも、ラダムなしにはありえなかっただろう。
 そして、この小生物は、例によってシンヤの命が残り少ないからとシンヤの体を見捨てた。まるで、消耗品のように。


 ラダムから解放されたシンヤの表情はいやに落ち着いていた。
 体の痛みも感じず、心の中まで全くと言っていいほど、曇ってはいなかった。
 これほど晴れやかな気持ちがあっただろうか。
 そして、この気持ちを例えた一言を、シンヤは心の中でつぶやいた。

873 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:07:03 ID:ZbrL6gI.0


(……兄さん、悪い夢を見ていたみたいだよ)


 そう、悪い夢から覚めたような気分だった。
 長い長い悪夢。
 父が死に、兄と殺し合い、妹が死に、可愛がってくれたゴダードも死んだ……。
 ラダムによって齎された苦しみの数々を、シンヤは思い出す。
 タカヤやミユキやゴダード……。
 ラダムによって、シンヤは様々な人を傷つけた。


 それでも、一つだけラダムのおかげで誇れることはあったと思う。
 長い長い現実で、唯一の曇りだったものを消し去れた。


 僕は────


「勝ったよね? 僕は兄さんに勝ったんだよね。ブラスター化の限界が襲ってこなければ、あの時、確実に兄さんの心臓をとらえてたよ……ようやく兄さんに勝ったんだ……素晴らしいよ、兄さんは……本気で、僕と戦ってくれたんだもの」


 悲しいことに、その思いを伝えたい兄はここにはいない。
 さらに言えば、兄はこの場でのことをどこまで覚えているのかもわからない。
 しかし、シンヤは呟いていた。


「嬉しい、はずなのに、悲しいな……いつまでも、兄さんと戦っていたかった……目標、なくなっちゃったじゃないか」


 本当に嬉しかった。
 何よりの目標であった兄に勝つことができた。
 天才の兄・タカヤ。
 それに追いつこうと必死で努力したシンヤ。
 いつも、その方程式だった。
 そして、追いつくことは一度もなかったのだ。


 それでも、そんな日々が楽しかった。
 追いつこうとして努力して、兄を超えようと作戦を練っている時間が好きだった。
 いつまでも、目標でいてくれた兄が好きだった。
 あの暖かい家族が、相羽シンヤは好きだったのだ。


「ごめんね、兄さん」


 一人の同志が朽ち果てていくのを、テッカマンランスが見守っていた。
 ランスは、その死体の胸に抱えられたクリスタルを拾い上げ、ナケワメーケだった椅子の残骸に向けて乱暴に投げ放った。
 なぜ、そんなことをしたのかわからない。せめてもの情け、という奴か。
 彼は、そのままその場を去っていこうとした。
 その歩みの中で、何かを踏み潰した。
 足元を見てみると、ラダムの本体──自分の中にも存在する、今の彼の本当の「仲間」が潰れている。
 仲間を殺したことに対して、何も感じなかった。
 所詮、ラダムだけではこの程度のちっぽけな存在だ。蟻どもにさえ、殺されてしまいそうな生物……それが人間と融合し、テッカマンとなって初めて本当の力を見せる。
 ランスは、何もなかったかのように歩き出した。



【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード 死亡】



★ ★ ★ ★ ★

874 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:07:56 ID:ZbrL6gI.0



「……フンッ、それが進化したテッカマンとやらの代償か!」


 地を這うタカヤを、ランスは蔑むような瞳で見下ろした。
 ルナはそれを警戒したが、ランスは興がそがれたようで、一切彼らに手を出そうとはしなかった。


「エビル──相羽シンヤは死んだ。ブラスター化の代償とやらでな。……そいつの体ももう持たん」


 進化したテッカマン──確かに、それは不完全な存在だった。
 常に死と隣り合わせで、ブレードやエビルの神経を蝕み続ける。
 その代わりに力を得たとして、それは完全なる消耗品。
 ブレードもおそらく、このまま死んでしまうだろう。


「……だが、生きていたらエビルが死んだことを伝えておけ。そして、いずれ、そんな進化をせずとも我々は貴様らよりも強い力を持っていると証明してやる」


 仮にタカヤがこれを乗り越えて生存したというのなら、モロトフはいずれブラスターテッカマンブレードと戦うつもりだ。
 そして、そんな不安定な力を持たずとも、本当に完全なテッカマンというものが存在することを証明する。
 それまでに、魔法少女やプリキュアといった存在を消し去り続けてやる。
 殺し合いの覇者となるために────



★ ★ ★ ★ ★



 相羽タカヤの体は、すっかり眠りについてしまった。
 糸が切れたように、ふっ、と倒れて、そのまま彼が動くことはない。
 ただ、死んではいないようで、彼の心臓は鳴っていた。
 ルナ・ドーパント──京水には懐かしい音である。


「……タカヤちゃん、起きられる?」


 答えは無い。
 タカヤはどうやら、完全に気絶してしまったらしい。
 ……どうする。
 このタカヤを、京水はどうすればいいのだろう。


 弟の死。
 ブラスター化の代償。
 ボロボロの体。
 盲目。
 全てが、殺し合いで生きていくには重すぎる荷物だ。
 これから、どんな過酷な死が追ってくるのか、想像に難くない。
 何より、それに付き添うのは京水とて困難だ。
 生き残るため──いっそ、ここで楽に殺してしまうのもタカヤのためなのかもしれない。


「……そうね、それが一番いいかもしれない」


 ルナ・ドーパントは、立ち上がり、倒れたタカヤをその手で突き刺そうとする。
 いくらタカヤを仲間と慕っていた京水としては、少なからず心が痛むが、それでも冷徹なNEVERらしい行動ともいえた。
 いや、NEVERでなくとも当然かもしれない。
 いつ敵が襲ってくるかもしれないこの殺し合いの中で、タカヤのように目も見えず、体もボロボロな男を背負う──タカヤは、足かせ以外の何者でもないだろう。
 それを、今のうちに安楽死させる。それによって、自分も楽になる。
 それは、誰を殺しても構わないこの殺し合いの中では、きっと、割り切らなければならない部分だ。


「……いろいろと、楽しかったわ、タカヤちゃん」


 そういいながらも、その言葉は乾いていた。
 この手がゆっくりと振り下ろされる。
 ドーパントの力をもってすれば、人間体のタカヤくらい、あっさり────


 ブォォォンッ



★ ★ ★ ★ ★

875 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:08:41 ID:ZbrL6gI.0



 テッカマンランスは、再び市街地に向かって走っていた。
 彼は、次の獲物をしとめる場所として、人の多いであろう市街地を選んでいたのだ。
 拡声器を持ち、いずれ来るかもしれないブレードとの戦いに備える。
 そのために……


(退屈しのぎに他の戦士たちを消し去ってくれる──)


 その行先は、中学校だった。
 ただ、その付近では特に目立つ施設であるゆえ、彼はそこに向かおうとしている。
 そして、そこに来た参加者は皆殺しにしてやろうと思っていた。


(私こそが、最強のテッカマン──テッカマンランスだっ!!)



【1日目/昼】
【G-7/森】

【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ランスに変身中
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0〜2個(確認済)
[思考]
基本:参加者及び主催者全て倒す。
1:いずれブラスター化したブレードを倒す。
2:今は市街地に移動して拡声器を使い、集った参加者達を排除。
3:プリキュアと魔法少女なる存在を皆殺しにする。
4:キュアピーチ(本名を知らない)と佐倉杏子の生死に関してはどうでもいい。ただし、生きてまた現れるなら今度こそ排除する。
5:ゴ・ガドル・バという小物もいずれ始末する。
[備考]
※参戦時期は死亡後(第39話)です。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
※ボルテッカの威力が通常より低いと感じ、加頭が何かを施したと推測しています。
※ガドルの呼びかけを聞きましたが戦いの音に巻き込まれたので、全てを聞けたわけではありません。



★ ★ ★ ★ ★



「……あんたは」


 ルナの前を横切り、彼の邪魔をした、二機のメカがあった。
 それは、シンヤの忘れ形見である、メモリガジェットのバットショットとスタッグフォンであった。
 ドーパントの暴挙を止めようとしたのか、それとも先ほどまでの主と同じ顔の男を守ろうとしたのか、彼らはルナの前を必死に横切り、執拗に邪魔をし続けた。


「こらっ! やめなさいっ!」


 ルナは、必死に手を振って、その二つのメモリガジェットを振り落とそうとする。
 しかし、すばしっこく、なかなか捕まえられない。


「……ムキーッ!! あんたたち、そんなにしてまで私の邪魔をしたいのっ!?」


 ルナは、目の前で止まるメモリガジェットに対して地団駄を踏んで怒りを表現した。
 メモリガジェットは、その問いに答えない。
 ルナはすっかり諦めて、変身を解いた。
 泉京水。
 体格の良い男が、仕方がなくその場に座る。


「まったく……仕方ないわね。もういいわよ、もう。私だって、本当はタカヤちゃんを殺したくはないわ……」


 タカヤのことは好きだったし、仲間を刺し殺すというのは彼には耐えがたい思い出だ。
 仁義。
 その言葉に倣うなら、これは本当にそれを守った結果といえるとは思えなかった。


「でも、その代わりシンヤちゃんの支給品がある場所を教えて頂戴。何か使えるものがあるかもしれないわ」


 京水が言うと、スタッグフォンが頷くようなそぶりを見せた。
 どうやら、シンヤの支給品がある場所を知っているらしい。


「……じゃっ、ちょっと待ってね。よっこいしょういち」


 そう言いながら、京水はタカヤを背負う。
 京水にしてみれば、タカヤの巨体も全然重荷にはならなかった。
 ただ、戦闘にさえならなければ……の話だが。


「さあ、案内しなさい」


 京水は複雑な気分のまま、スタッグフォンとバットショットの後を追っていく。
 シンヤの支給品は、言ってみればシンヤの遺品になる。
 それを見て、タカヤは何も思わないのだろうか。
 たとえば、あの変身した時のクリスタル。
 それも全て──。

876 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:09:14 ID:ZbrL6gI.0


【1日目/昼】
【F-6/森】
※F-6の森の一部が焦土と化しました。
※付近に相羽シンヤの支給品と所持品、シンヤの死体、ナケワメーケの残骸(破壊された椅子の状態でクリスタルもそこにある)などが放置されています。

【相羽タカヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:全身に大ダメージ、両肩部に刺傷、疲労(大)、ブラスター化の後遺症で気絶、一部の記憶喪失
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、メモリーキューブ@仮面ライダーSPIRITS、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:??????????
1:????????????????
[備考]
※参戦時期は第42話バルザックとの会話直後、その為ブラスター化が可能です。
※ブラスター化完了後なので肉体崩壊する事はありませんが、ブラスター化する度に記憶障害は進行していきます。なお、現状はまだそのことを明確に自覚したわけではありません。
※参加者同士が時間軸、または世界の違う人間であると考えています(この情報は喪失)。
※自分が殺し合いに巻き込まれていることや、禁止エリアやルール、Dボウイという名前を忘れました。
※また、シンヤ、ミユキ、京水以外の参加者に関する記憶を喪失しています(加頭やサラマンダーについても覚えていません)。

【泉京水@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)
[装備]:T-2ルナメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、細胞維持酵素×4@仮面ライダーW、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、バッドショット+バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン+スタッグメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:剛三ちゃんの仇を取るために財団Xの連中を潰す。
0:メモリガジェットについていって、シンヤの支給品を探す
1:今はタカヤちゃんを守る!…しかない!
2:克己ちゃんと合流したい。克己ちゃんのスタンスがどうあれ彼の為に全てを捧げる!
3:仮面ライダー(左翔太郎)とは、一応共闘する。
4:後でG-7の火を消す。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーオーズに倒された直後です。

877 ◆gry038wOvE:2013/01/27(日) 00:09:30 ID:ZbrL6gI.0
以上、投下終了です。

878名無しさん:2013/01/27(日) 02:09:06 ID:wmLvnOzo0
投下乙です

とうとう兄弟対決が来てしまったかあ
ああ、避けられない対決だとは判ってたがタカヤ、シンヤ……
決着は付いた。でもそれだけで終わらずにこれは……
みんながみんな、見せ場があって燃えた。そして終わりが物悲しいなあ

879名無しさん:2013/01/27(日) 06:00:37 ID:zJmKCXxs0
投下乙です!
シンヤ……決着を付けて、ようやく燃え尽きたか。
てかランスさんが普通にカッコよすぎるwww もうカマセだなんて呼べないや。
生き残ったタカヤはこれからどうなるだろう。放送でせつなのことだって呼ばれるし。

880名無しさん:2013/01/27(日) 06:11:48 ID:zJmKCXxs0
って、忘れてた。今のタカヤにはブラスター化の副作用があることも。

881名無しさん:2013/01/27(日) 12:28:12 ID:n4ryxIwMO
ランスさんがこうまでかっこいいとは……
てか考えてみると、このロワじゃそんなに負けてないんだな。

882名無しさん:2013/01/30(水) 19:36:08 ID:g3w7d7l.0
議論スレで放送案の募集の日定が決まったな

883名無しさん:2013/01/30(水) 22:13:13 ID:sdJY7/E60
ランスさんネタキャラ化の要因
・造形のかっこよさと渋いボイスに似合わぬ小物じみた言動
・そもそもまともな出番が少ない
・ようやくの出番で相手がソルテッカマンですらない一般兵
・しかもよりにもよってブラスターテッカマンお披露目の回(パワーアップを示すかませ)
・「フッ、いくら進化したと言えど、この至近距離からのボルテッカではひとたまりも……なにっ!」

つまり強敵に恵まれているロワはランスさんにとって華の舞台!

884名無しさん:2013/01/30(水) 23:10:13 ID:FexD5Sx20
ランスさんの強み
・設定上はエビルと同格の強さ
・敵に「せめてもの情け」として、本人愛用の武器を使って殺そうとしてくれる慈悲深さ
・弾切れだと見逃してくれる優しさ
・必要最低限の殺害しかせず、その辺の人間を殺すことには興味がない武人的な性格
・所属は、ラダムだぁぁぁぁっ!!のシーンのダンディな感じ
・自信過剰だがプライドが高い性格

885名無しさん:2013/01/31(木) 00:51:36 ID:6AhoBem.O
かじょうがきマジックって すげー!

886名無しさん:2013/01/31(木) 08:02:30 ID:XApOohJgO
でもそんなランスさんがキルしたのは女子中学生だけ……

887名無しさん:2013/01/31(木) 17:14:22 ID:oVCM4DeEO
最近の若人は凄いな。
おじさん疲れちゃう。

888名無しさん:2013/02/01(金) 12:22:22 ID:5MyLO5hE0
>>886
遭遇したのが女子中学生かテッカマンか京水だから仕方ない…
しかも女子中学生とはいえ、プリキュアは相当強いから

889名無しさん:2013/02/01(金) 22:34:07 ID:GIdh1X7s0
>>883
出演したゲームで幼女にボコられ、ゲーム屈指の強敵に突撃するも返り討ちも追加で

890名無しさん:2013/02/02(土) 01:17:46 ID:ey/6eajgO
>>889
しかもその時は能力的に普段よりHPの低い舐めプ仕様っていうねw

891名無しさん:2013/02/03(日) 00:44:18 ID:MaIcyEAY0
もうすぐ第二回放送ってことで
第一回放送〜第二回放送までの作品で何か好きな話、好きなキャラとかいる?
前にやった投票はアレだったし、ここで軽く語らない?

892名無しさん:2013/02/03(日) 05:13:46 ID:SI5o82tw0
俺はスバルとティアナの最後の話かな

893名無しさん:2013/02/03(日) 16:12:32 ID:QwtABztsO
二人いるけど赤ナスカ絡みは地味に好きかな、後者はいきなり踊りだしたフィリップに吹いたがw

894 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:17:26 ID:3BOOp96w0
一応、仮投下に意見もなかったので、投下を開始します

895第二回放送 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:18:03 ID:3BOOp96w0


 一日目、正午。
 直前まで戦いを続ける者、放送に備える者、何かの判断を強いられている者……生きている限りは誰も何かの行動を取っている。
 長い一日の中で最も暖かい日の光が注いでいるが、屋外にいる者もいれば屋内にいる者もいる。だから、それを誰もが体表で感じているわけではなかったし、それを心地よく浴びる余裕のある者なんていなかった。
 ……それにしても。
 星も見えるし、空も見える。日の光も浴びれる。
 それが、不思議だ。
 作った当人たちでさえ、この島が疑似的に様々な施設を再現した模造の島だとは信じがたいと思っているほど、精巧な異世界。
 あまりにも、違和感や異常が無さ過ぎて、逆に気が狂ってしまいそうだ。


 昨夜、誰か大切な人を喪い、六時間前の放送を聞いた者もそろそろ悲しみを収めただろうか。
 しかし、その悲しみを上塗りする悲劇が、また報ぜられる。
 そう、第二回放送──。
 その時間が今、ちょうど来たのだ。
 十二時きっかり、一秒の狂いもなし。
 今度は小汚い男のホログラフが映った。逆立った金髪も特徴的だが、眼鏡に白衣という研究者風の風体の方が目立つ。しかし、同じ白服でも加頭が放った、気品のようなものがない。やはり着崩し方、汚し方に問題があるのだろうか。
 その代わりと言っては何だが、加頭ほど人間味がないようには見えない。加頭が感情の無い置物ならば、彼はどこか内面に狂気や歪んだ歓喜を抱えているように見えた。それも決して、良い感情とは言えないが。
 彼の名はニードル。
 かつてバダンの幹部だった、「ヤマアラシロイド」の別名を持つ男だった。



「初めまして、参加者の皆さん。私の名前はニードル。
 加頭順、サラマンダー男爵と同じく、このゲームの企画に協力している者です。……彼らに心当たりはなくとも、私に心当たりがある方は何名かいるでしょう。
 放送担当者が変わってわかりにくい……という方もいるでしょうが、私の名前など覚える必要はありません。私は企画・主催の協力者の中ではあくまで末端だと考えてください。
 我々が持つ兵力は絶大なのです。あなたたちが身を寄せ合ったところで、敵わない存在です。ですから、我々に刃向おうなどと愚かなことは考えないようお願いします」



 こうして、毎回のように放送者を変えるのは、主催者側の兵力を示すためだろう。
 加頭順……ユートピア・ドーパントの場合なら、左翔太郎やフィリップ。
 サラマンダー男爵の場合なら、花咲つぼみや明堂院いつき。
 ニードルの場合なら、一文字隼人や村雨良。
 誰かしら、彼らの恐ろしさを知る者がここに来ており、その者たちは必ず仲間の参加者に情報を伝える。
 結果的に、彼らは主催陣営の強大さに気づいていくわけだ。
 少し長い前置きになったが、すぐにニードルの脳内にある死亡者リストが読み上げられた。

896第二回放送 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:18:41 ID:3BOOp96w0



「では、サラマンダー男爵の時と同じく、まずは第一回放送からここまでの死亡者を読み上げましょう。
 相羽シンヤ、井坂深紅郎、五代雄介、早乙女乱馬、志葉丈瑠、筋殻アクマロ、スバル・ナカジマ、園咲霧彦、月影ゆり、ティアナ・ランスター、パンスト太郎、東せつな、姫矢准、美樹さやか、山吹祈里……以上15名。
 ここまで、全参加者のちょうど半分にあたる33名が死亡ということになりますね。素晴らしいペースです。これを維持して頂きましょう」



 おそらく、既に全ての参加者が誰かしら知り合いを喪っている頃だろう。
 もしかすれば、行き会う参加者がほとんど死亡している人間もいるかもしれない。
 参加者の半分というのは、それだけ重みのある数字だった。



「次に禁止エリアを発表します。メモの準備はいいですか? 一度しか言わないのでよく聞いてください。
 13時に【H−9エリア】、15時に【F−8エリア】、17時に【G−3エリア】。以上の3つが今回の禁止エリアとなります。そのエリアの近くにいる参加者は、くれぐれも首輪の爆発で死んでしまわないよう注意してください。」



 それから、またしばらく間を置いている。
 一応、参加者が禁止エリアを塗りつぶすのを待っている……ということになっているのだが、おそらくどの参加者も急いで塗るだろうから、この時間はそもそも無駄である気がしてならなかった。
 三つの禁止エリアのうち二つが街エリアなのは、そこに参加者が寄ったからだろう。
 この放送が開始した時点で、そのエリアにいる参加者もいるが、一時間で逃げ切るだろうか?



「……それから、前回のボーナスですが、まだ使用した参加者はいないようですね。まだ一時間しか経っていないようですが…まあ、見つけてもらえないのではこちらとしても甲斐がないので、みっつのヒントを差し上げましょう。

 ひとつ。ボーナスは「○+×」、または、「青+黄色」の式が示す施設に存在すること。

 ふたつ。雄介−弧門−薫+隼人−結城。この数の参加者を手にかけた人間のみが使用できること。

 みっつ。現在これが使用できる人間は五人。そのうち二人が、どちらかの施設の近くにおり、その参加者はいずれも“変身後”の姿の敵を倒した実績を持つこと。

 心当たりのある参加者は、その施設に立ち寄ってみては如何ですか?」



 まるで、なぞなぞのようなニードルの言葉。
 主催側がいかに、このバトルロワイアルをゲーム感覚で行っているかがわかるルールだった。
 同時に、なぞなぞが解けたならば、自分の近くにイベント施設があることや、自分の身に危険が迫っていることも把握できる。



「そして、今回のボーナスは、特殊アイテムの配置場所の指名です。
 こちらはヒントなしで簡単に説明しましょう。……もう見つけた参加者もいるのですが、ある二つの施設に緑と青の強力な武器を用意しておきました。
 ただ、こちらで制限をかけて、使用不能となっていますから、見つけても無駄だったでしょう。今回は、17時からその制限解放と、説明書の配置を行います。
 尚、説明書の配置時には我々が自ら出向くわけではありませんから、その瞬間を狙っての奇襲などを考えても無駄ですよ?
 ……それはいいとして、戦力のない方、より強い力を欲する方はボーナスの利用も考えてはどうでしょうか。今回の武器は、体格が合い、一定の体力があれば誰でも使用可能になっています。
 それでは、今回の放送は終了です。……みなさん、ごきげんよう」

897第二回放送 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:19:03 ID:3BOOp96w0



 ニードルの姿が消え、第二回放送が終了する。
 参加者たちは、この放送を聞いてどう行動するのだろうか。
 放送により一度、休憩時間のように時が止まった世界が、再び不思議な慌ただしさを取り戻して動き出す。
 変身者たちのゲームはまだまだ続く……。



★ ★ ★ ★ ★



 放送の終了とともに、ニードルは主催陣の一人に声をかけられた。
 案の定、加頭順だ。


「ご苦労様です、ニードルさん」

「加頭さん。どうでしたか? 私の放送は」

「……サラマンダー男爵以上に楽しげな放送だ、とだけ言っておきましょう」


 楽しげ、という言葉を彼の口から聞いて、ニードルは思わず苦笑する。喜怒哀楽の表情とは一切無縁で、彼が楽しいと感じるかさえ怪しいと思える。
 しかし、その言葉の裏にある「嫌味」の意味もはっきりと理解していた。
 ボーナスについてベラベラと話してしまうのは、あくまで「提供者」である主催側としては、中立性を欠いていて不平等だ。
 一応、台本はあるのだが、ボーナスのヒントでなぞなぞを使ってくるなどとは、思っていなかったのだろう。


「ククク……いや、失敬。“立案者”としてはボーナスが使われないのは不服でしたからね。“イラストレーター”の台本にヒントの提示を付け加えてもらったんですよ」


 そう、このゲームに存在する「ボーナス」という制度を作ったのはニードルだった。
 時空魔法陣も彼の世界の技術で、彼の協力なしには実現しない制度だ。
 しかし、それをあの抽象的な放送内容のせいで見つけてもらえないのは、立案者としてはつまらないことこの上ない。
 加頭やサラマンダーが機械的に作業を行っているのに対し、ニードルは冷徹ながらも少しはゲームを面白くする工夫を必要としていたのである。


「……あのくらいは許容範囲でしょう?」

「ええ、許容範囲です。しかし、中立性があるとは言えません。特定の参加者に語りかけるのはいけません」

「特定の参加者に語りかける……? 私に心当たりがある方、というくだりでしょうか。それとも、ヒントで示した『警察署』のくだりでしょうか」

「後者です」


 後半のボーナスのくだりでは、警察署にいる弧門やヴィヴィオを動かそうというニードルの思惑が見えていた。
 主催側があのように、暗に特定の参加者に対して道を示すような行動は本来あってはならない。


「……加頭さんは、あれを私のアドリブだと思ってるんですか? 私のアドリブは、ヒントを、なぞなぞ風味に変えたことだけですよ。ククク……」


 そう言い残し、答えも聞かないままにニードルは去っていく。
 加頭がニードルの方を見ると、彼は左手をポケットに入れ、こちらに背を向けたままもう片方の手を振っていた。
 ニードルが闇に消えていき、加頭はそこに一人取り残された。



★ ★ ★ ★ ★

898第二回放送 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:20:16 ID:3BOOp96w0



「調子はどうですか、イラストレーター」


 加頭順は、その一室で作業を行う「イラストレーター」と呼ばれる少年・吉良沢優にそう話しかけた。
 財団Xの同業者を彷彿とさせる白い服と凛々しい顔だったが、決定的な違いはやはり、彼の容姿が極めて幼いことである。彼は、人間の中でもトップクラスの天才「プロメテの子」であり、その有用性は大人以上であると言えるが、どうも加頭は彼の実力を認められなかった。
 ここに来たのも、ニードルの含みある言葉を疑い、放送の原稿を書いた彼を訪問したからだった。


「……君たち変身能力者と同じ場所で働け、って言われて、本調子が出ると思う?」

「……」


 イラストレーターの嫌味に、加頭は言い返せなかった。
 一応、メモリやガイアドライバーを渡してはいるが、彼にそれを使う気持ちはないようだし、精神面でも少し弱いかもしれない。まあ、一般人よりは少しマシという程度だろう。


「更に付け加えるなら、僕は君たちと違って、この殺し合いには否定的な立場だ。ただ単に反抗を企てても勝てないと知っているから絶対に反抗しない……それに、人が死んでも淡々としていられる。それだけの理由でこれをやってるに過ぎない」

「人が死んでも淡々としていられる……そうでしょうか? どうやら、先ほどの放送では、弧門一輝を動かすような内容を書いたようですが」


 イラストレーターの表情が固まるのを、加頭は見逃さなかった。
 どうやら、図星らしい。
 イラストレーターは元々、弧門一輝や西条凪が属していた組織の一員である。
 それを、こちらの提示した特殊な条件を飲ませる形で引き入れたに過ぎない。


「……ヒントの提示は、ニードルさんが要求したことです。僕は、それに従ったに過ぎない。口答えができる立場ではないから、ね」


 イラストレーターがそう答える。
 とにかく、ニードルに責任の一部をなすりつけることで、こちらに牙が剥くのを回避しようとしたのである。
 そう、ヒントの提示はニードルがイラストレーターに頼んだ。イラストレーターはその原稿を書き、ニードルに読ませる。そして、ニードルがアドリブでヒントをなぞなぞ形式にしたのだ。
 もともとのヒントは、「赤い仮面ライダーの職場と白い魔導師の故郷」という露骨なものが多かったのだ。それらの人物の情報を持つ者にはそのまま答えとなってしまう。
 それを、ニードルが誰でも解けるチャンスがありながら、少し頭を使わなければわからないなぞなぞにしたわけである。
 そうした経緯があって、責任問題となったら誰が中心になるのかはわかりにくくなっていたのだろう。


「……まあいいでしょう。我々はあなたの条件の一部を既に叶えました。ですから、途中で投げ出したり、我々の意向にそぐわない行動を取ったりするのは契約違反です。……以後、厳重に注意をしておいてください」

899第二回放送 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:21:03 ID:3BOOp96w0


 加頭は、そう言い残してその場を去って行った。
 どうやら、そこまで大きな問題としては見られておらず、加頭個人が気にした程度にすぎないらしい。そのため、引き下がるのも早かった。
 部屋で一人になったイラストレーターは、安心した気持ちになる。
 この部屋の形はTLTの司令室と全く同じ間取りになっていて、彼の心を落ち着かせていた。来訪者たちもここにいるし、レーテの再現もあるので、実際、ここが異世界であるとは信じがたかいものだった。
 更には、イラストレーターが見たい参加者の音声が再生できるようになっており、彼としては最も快適な場所だ。
 彼の役割は、“来訪者”との会話と、“コンタクティ”としての能力を利用した大まかな予知、そしてその片手間に放送原稿の作成することである。それも、実際イラストレーターの脳内で起こる予知が全てそのまま、他の主催者たちに知れ渡っているため、実質仕事は台本の作成だけだ。
 これを殺し合いの終了──おそらく三日もかからないだろう──までやっているだけで、イラストレーターが提示した条件は全て果たされるのだから、美味しい話だと言える。
 しかし、それでも彼の心は僅かに曇っていた。


「……憐」


 イラストレーターの手には、タカラガイの貝殻が握られている。
 それは、一文字隼人に支給されていたものと全く同じ貝殻だった。本来、まったく同じ形の貝殻が二つも存在していることなどありえない。
 しかし、異世界の存在や別の時間軸に干渉する方法を認めた今、それは当然ありえることだった。


 イラストレーターが殺し合いの協力のために提示した条件は幾つかあった。
 まずは、イラストレーターと同じ「プロメテの子」の仲間である千樹憐の救済である。
 遺伝子に障害のある彼は、17歳を境に全身の細胞がアポトーシスを起こし死亡する……という、「プロメテの子」の失敗作であった。
 天才となるために生まれてきた特殊な遺伝子の集団の中で、たった一人だけが持つ、悲しい運命である。
 否認、怒り、取引、抑うつ、受容。
 死への五つの段階のうち、憐は「受容」の段階に入っていた。元々、親も無く生まれ、閉じ込められて生き、常人とは話がかみ合わないであろう彼だったから、その段階を踏んでいくのはなかなか早かったはずだ。
 あとは、死ぬだけだと思っていたに違いない。憐はその運命に、どこか達観し始めていた。
 しかし、見ている方としては、それを見ているのは苦痛だった。
 「プロメテの子」の仲間たちはその特効薬「ラファエル」の完成に急いでいた。
 医学、薬学、遺伝子学のあらゆる分野から、あらゆる国籍の人たちが、世界にたった一人しかかかっていない病のために奮闘していたのである。研究することは他に幾つもあるだろうというのに、たった一人の親友のために何人もの天才が時間を費やす。
 イラストレーターは、それを見かねて、悪魔と契約を結ぶ第一条件として、彼の救済を要求した。


 そして、ラファエルはすぐに完成した。
 イラストレーターは、その時、かなり久々に驚愕したのである。
 地位、名誉、金……特にそんな願い事もないイラストレーターは、試しとして絶対に不可能だと思う条件を提示したはずだった。
 彼が吉良沢優として願っている、おそらくは一番の願い。そして、彼自身も半ば諦観していた願い。
 だから、彼はそれを真っ先に口にした。──「ダメでもともと」というようなネガティブな考えのもとに。


 更に驚くべきは、彼が要求した細かな条件までやってくれたことである。
 仲間たちの努力を無駄にしないためにと……あくまで、「プロメテの子」たちの手で完成させることを要求すると、それを実現させた。どうしてそんなことができたのかと聞くと、彼らの脳内に直接、ラファエル完成のためのヒントを閃かせるような合図を送ったという。
 しかし、何にせよ、その結果、憐がデュナミストになった直後に、ラファエルが完成し、憐の病は完治した。
 更には、加頭順の口からは、アンノウンハンドの正体なども詳細に教えられた。

900第二回放送 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:22:58 ID:3BOOp96w0


 加頭順を初めとする“彼ら”の介入はイラストレーターの住む世界線に多大な影響を与え、デュナミストの変動や早期段階でのダークザギの正体発覚につながることになった。
 予期されていた出来事は、“彼ら”の介入がなかった場合の世界線でのことであるため、レーテやダークザギの予知能力も実質無意味になった。
 更に言うなら、ここに来ているダークザギやダークメフィストに関しては、自分が予知能力を有することさえ忘れているらしい。世界線の影響なのか、主催側で制限を設けたのかはわからないが、それにより彼らの動きは変わってきている。



 その後正式に決めたもう一つの契約内容は、イラストレーターの住む世界そのものの救済だった。
 イラストレーターの来ていた世界で起こるはずの、あらゆる出来事の可能性を排除することで、自分の住む世界の救済を行うのだ。
 たとえば、斎田家や山邑家や西条家の家族の死、溝呂木眞也のダークメフィストとの融合、新宿大災害やビーストによる数多の犠牲。その全てが消えた世界──ビーストのいない世界としての再構築。
 それを実現できるか、と問うと“彼ら”は肯定した。後から、鹿目まどかのいた世界では、実際にそれが行われたとも言われた。
 流石に、姫矢准に降りかかったセラという少女の死のように、ビーストと直接関係のないところは干渉できないかもしれないが、それはまた個々に頼めば良い話。……こうした細かな条件も付け加えなければ、弧門一輝は幼少期に溺死してしまう運命にある。


「……救われる世界もあれば、救われない世界もある、か……」


 ここに来ているダークザギがいた世界線は救済に近づいていることだろう。巨悪ダークザギが世界から消えれば、残るはビーストの残党やダークメフィスト程度。それにより、世界を大きな絶望から遠ざけることができる。
 ダグバ、ドウコク、バラゴなどが来たことで救われた世界線や命も確かに存在すると思う。彼らが奪った命、壊した街の数は計り知れない。
 ……まあ、一方で、それに仇なす存在が消えた代償も大きいだろうが。


「僕はただ、救われる側の世界に住みたいだけなのかもしれない。たとえ、その下に幾つもの救われない世界が転がっているとしても」



 こうして、何人もの異世界の戦士たちや、彼らの住まう世界を犠牲にして、自分の世界を救う。
 後ろめたい気持ちも多少はあるが、それはどんな社会でも同じことだった。
 人は皆、誰かの不幸のもとに幸福を得ているのだ。


(……それでも、なるべくここでも犠牲者は出したくない。この鳥かごから脱出できない運命なら、その運命を打ち砕いてほしいんだ。──憐のように)


 イラストレーターの手に握られたタカラガイ。
 憐があの折から脱出した証を、イラストレーターはまた見つめていた。
 わざわざ異世界からもう一つの全く同じタカラガイの貝殻を取り寄せてまで、参加者に支給したのは、彼のそんな願いゆえだった。

901第二回放送 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:23:16 ID:3BOOp96w0



【全体備考】
※主催側には、【吉良沢優@ウルトラマンネクサス】がいます。彼のいる部屋には、来訪者がいるほか、レーテなども主催側施設に再現されている模様です。また、戦力を持たない彼にはガイアドライバーとメモリが支給されています。
※吉良沢の参戦時期は憐がデュナミストになったあたりですが、主催組織の介入によって世界に変動が起きており、ネクサス世界のその後も主催側のデータで知っているため、終盤の出来事も知っています。
※予知能力は一部健在ですが、多大な情報が与えられたことや、複数世界のものが入り混じった空間であるため、やや弱まっています。


【第一回ボーナスのヒントの答え】

【ひとつめの答え】○+×(組み合わせると警察署の地図記号)、青+黄色(組み合わせると緑=碧屋)。このふたつの施設にボーナスがあることを示しています。

【ふたつめの答え】放送されたそれぞれの名前は、“五”代雄介、弧門“一”輝、“一”条薫、“一文字”隼人、結城丈“二”。そのため、式は5−1−1+1−2=2で、二人殺害することで時空魔法陣が使えることを示しています。

【みっつめの答え】これはなぞなぞでも何でもありません。そのままの意味で、既に二人殺害した参加者が五人(ガドル、溝呂木、モロトフ、克己、ダグバ)おり、モロトフとダグバが警察署の近くにいることを示しています。


【第二回ボーナスについて】
どこかの施設に配置されたソルテッカマン1号機(または改)、警察署に配置されたソルテッカマン2号機の制限が17時以降解除され、説明書が付近に転送されます。
逆を言えば、それまでソルテッカマンの使用は不可能です。
こちらには、一定の殺害数などが必要になることはありませんが、体格が合うことや活動に見合う体力を持っていることは最低条件です(特に、体格に関しては人外のドウコク、小柄なヴィヴィオなどは絶対に不可能と思われます)。

902 ◆gry038wOvE:2013/02/05(火) 13:23:31 ID:3BOOp96w0
以上、投下終了です。

903名無しさん:2013/02/05(火) 17:27:08 ID:S90L1XGA0
投下乙です

こういう揺さぶりは嫌らしいし殺し合いの最中に明らかに面白がってるなぞなぞとかムカつくぜw
そして主催者の中にはお前もか…
確かにその対価なら協力するわなあ…

904名無しさん:2013/02/05(火) 17:35:04 ID:Plx21K6wO
投下乙です。

悪魔と契約し、時間を遡って世界を救う。
確かに、まどマギの世界で実際に起きた出来事だな。

905名無しさん:2013/02/05(火) 21:15:21 ID:m.GcU0fk0
投下乙です。
まさか主催側にはイラストレーターまでいるとは、どう動くだろう。
しかしザギの正体を探れる主催者って本当何者だよw

906名無しさん:2013/02/06(水) 12:47:47 ID:TPvAMF7I0
もう予約来てるね

907 ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 08:52:32 ID:yH3FGKxo0
投下します

908分身出来ると思った?残念枯れちゃいました! ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 08:53:58 ID:yH3FGKxo0
「ここが呪泉郷か」


ビートチェイサーから降りたバラゴは、一言そうつぶやくと辺りを見回した。
どうやらここは、修行場らしい。
そして辺りにはいくつかの水のたまり場…泉が点在している。


「『呪泉郷』という名前からすると、この泉に何かがあるという事か」


ひとまずバラゴは、近くにある社務所のような建物に入ってみることにした。
そして部屋の中の物色を始めた。

「ん?これは…」

そうしてしばらくすると、バラゴはあるものを見つけた。

「…なるほどね、それで『呪泉郷』というわけか」

バラゴが見つけたもの…それは呪泉郷の顧客名簿だった。
そこには泉の名前とその効能、溺れた人の名前(この殺し合いの参加者の名前もいくつかあった)、などが書かれてあった。

「…とはいっても、あまり僕には関係ないかな」

泉の効能は猫になったりブタになったり、あるいは性別が変わったり…あまりこの殺し合いで役に立つとは思えない。
阿修羅など強そうなものに変身する効能のものもあるようだが、暗黒騎士としての絶対的な力を持つバラゴにとっては気休めにしかならない。


「…ん?この泉の効能は…」


だが、そんな中一つだけバラゴの興味を引いた泉があった。


「双生児溺泉か…」


双生児溺泉。
それは水をかぶると双子になる体質となってしまう。
確かにこれがあればこの殺し合いを円滑に進めることができるだろう。

「…ともかく、その泉の場所とやらへ行ってみるか」



「…ち、やはりだめか」

909分身出来ると思った?残念枯れちゃいました! ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 08:55:20 ID:yH3FGKxo0
双生児溺泉のある場所へと向かったバラゴは、舌打ちをした。
双生児溺泉は…枯れていた。
他の場所はちゃんと泉がわいているというのに、そこだけ水が一滴もなかった。

「まあ、当然か。そんなものを主催者が用意しているはずもない」

考えてみれば当たり前の話である。
浴びたものが分身する水など、支給品として少量用意するならともかく、マップに泉として配置していては参加者が増えまくり殺し合いがいつまでも進行しない。
それは、主催者の望むことではないのだろう。
多少残念に思いながらも、すっぱりと双生児溺泉のことを諦めたバラゴのもとに…



『初めまして、参加者の皆さん。私の名前はニードル。
 加頭順、サラマンダー男爵と同じく、このゲームの企画に協力している者です。』



二度目の放送の声が響いた。



「…ふん、魔戒騎士共や一文字隼人は生き残っているか。そうでなくてはな」

放送で、バラゴの知る名前が呼ばれることはなかった。
いや、花咲つぼみの話を聞いたプリキュアや、先ほどの呪泉郷顧客名簿にあった名前など、名前だけなら聞き覚えのある者はいたが。
ニードルという男が出したボーナスのヒントについては、幼稚ななぞなぞに過ぎなかったためすぐに分かった。
とりあえず、不本意ながら直接手を下した参加者が一人もおらず、またその『ワープ地点』からも距離が離れているバラゴには、今の所関係ない情報だ。
頭の隅にとどめておく程度でいいだろう。

「パンスト太郎…か」

そういえば、先ほど放送で名前を呼ばれたあの男、顧客名簿には二つの泉に溺れたとあった。
複数の泉に溺れた場合、その人物はどのような変身を遂げるのだろうか。
少し気になった。


「…まあ、せっかく来ておいて収穫なしの手ぶらというのもさみしいからな。少しここの泉を拝借していこうか」


そういうとバラゴは、社務所で見つけたいくつかの容器で、適当にいくつかの泉の水を掬った。
まあ、使う機会があるかどうかは分からないが。


「次は北のホテルへ寄ってみようか」


ビートチェイサーにまたがったバラゴは、北へと進んだ。




「これは…」

そこは、まさしく戦場跡だった。
辺りの木々は倒れたかあるいは消滅し、地面はボロボロで大きなクレーターまでできている。
しかし、周りに人の気配はない。
全滅したか、あるいは生き残りは既に移動をしたのだろう。

バラゴは、その戦場跡の中にできた大きなクレーターへと近づいた。
すると…


『Who are you?(誰ですか?)』


クレーターの中から、声が聞こえてきた。
それは、機械的ながらどこか悲しみを帯びた女性の声だった。

910分身出来ると思った?残念枯れちゃいました! ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 08:56:04 ID:yH3FGKxo0
【1日目/日中】
【B-7/ホテル付近・戦場跡】

【バラゴ@牙狼─GARO─】
[状態]:胸部に強打の痛み、ダメージ(中)、疲労(小)、顔は本来の十字傷の姿に
[装備]:魔戒剣、ボーチャードピストル(0/8)@牙狼
[道具]:支給品一式×3、ランダム支給品0〜2、冴子のランダム支給品1〜3、顔を変容させる秘薬?、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア! 、ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ、呪泉郷の水(種類、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿@らんま1/2
[思考]
基本:参加者全員と加頭を殺害し、元の世界で目的を遂行する
0:声の主(レイジングハート)との接触
1:冴島鋼牙と出会ったら、この手で葬る。
2:今のところ顔を変容させる予定はない
3:石堀に本能的な警戒(微々たるものです)
4:一文字隼人とキュアピーチは再び出会うことがあれば、この手で殺す。(ただし、深追いはしない)
[備考]
※参戦時期は第23話でカオルに正体を明かす前。
※顔を変容させる秘薬を所持しているかは不明。
※開始時の一件で一文字のことは認識しているので、本郷についても認識していると思われます。
※冴子と速水の支給品はまだ確認していません。
※つぼみ達の話を立ち聞きしていました
 そのためプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について知りました
※雷剛や閻魔斬光剣の召喚はできません。
 バラゴはこれを制限の影響だと考えています。
※零は放っておけば心滅獣身で闇に堕ちると考えています。
※呪泉郷からいくつかの泉の水を拝借しました。種類およびその数については後続に任せます
※ニードルの出したヒントによりワープ装置の場所及び使用条件を知りました


※呪泉郷の双生児溺泉の水は枯れています

911 ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 08:56:59 ID:yH3FGKxo0
投下終了です

912名無しさん:2013/02/11(月) 09:43:39 ID:NO3BnDdI0
投下乙でした。
呪泉郷の水大量確保か……ものによっては致命的な事になりかねないな……
で、もうメタ的にも参加者来そうに無かったから出番無さそうだったレイハが再び登場、再び花道を飾る事が出来るか……


1点だけ気になったのですが、確か『Dの戦士/MOON〜月光〜ATTACK』において、

>どの泉がどれに対応しているかまでは全くの不明瞭。詳しいガイドがいるならともかくいない以上は実際に入るもしくはその水を浴びて確かめるしかない。

という記述があったのであくまでもバランスブレイカーである双生児溺泉の場所が(枯れているけど)わかっていて、他の泉の効用はわかっていないという事になるので、
バラゴ自身も自身がどの泉の水を手に入れたかは解っていないという事になりますがこの解釈でOKでしょうか?

913 ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 11:00:12 ID:yH3FGKxo0
>>912
感想&指摘ありがとうございます
指摘の点については、失念していました
後で修正ssを投下します

914 ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 11:34:15 ID:yH3FGKxo0
修正スレに修正ssを投下してきました

915 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:48:14 ID:R6V9EaIg0
投下乙です(修正版も見ました)。
バラゴ…これは孤立フラグ。呪泉郷の水をどう使うのか楽しみですね。
そしてレイジングハートと出会ったバラゴはどう行動するのか…。
使ってもバラゴは魔法少女になれないから(ry

自分も投下を開始します。

916温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:50:05 ID:R6V9EaIg0



「爆発よ、伏せなさいっ!!」


 ────正午を迎える少し前あたり。
 西条凪は、自分と共に行動する三人に向かってそう言い放った。
 石堀光彦が、背後から涼村暁の頭を強く抑えて、強引に伏せさせる。
 黒岩省吾は、そんな事をされずに勝手に伏せる。彼も凪と同じように、その閃光を予感していたのだろう。
 彼らの眼前で、強い光が放たれ、視界を遮る。
 F-6エリアに響き渡る轟音が、彼らの耳を打った。耳に水が詰まった時のような感覚と、焦げ臭いにおいが一瞬で暁たちを襲った。
 凪や黒岩、石堀が兆候らしきものを察したのは、直前だった。
 二つの小さな光が、一秒ごとに大きくなっていくのが見えたのである。それが何なのかは結局謎だが、それは決して自分たちに利益のあるものではないのは、直感が悟った。
 その光が膨れているたびに、それが破裂するような未来が見えてきたのだ。大きく膨れていくものに、人はどうしても危機を感じてしまうのだろう。
 そして、膨れるという形ではなかったが、それは巨大な音を立てて、直線的に進んでいった。
 もう一方の光へと向かっていくように、二つの光が伸び進んでいく。
 その二つがぶつかる瞬間が、危ない気がした。それで、凪が叫んだのである。

 結果的に、大きな爆風を感じたが、四人の体は何ともなかった。
 四人の頭の上を、木々の破片が飛んで行ったため、もし伏せていなければ上半身に致命的なダメージを受けていたかもしれないが、閃光に目を伏せた彼らはそんなことを知る由もない。
 そして、伏せた目を開け、顔を上げると、眼前にはもう森林などなかった。
 そこは、焼け焦げ、砂漠のように禿げた荒れ果てた地があるのみだった。
 光の正体は不明だが、遠目にも二人の人間の姿が見当たる。彼らが何らかの方法で起こしたのではないか、というのがよくわかった。


「……どうする?」


 口を開いたのは、石堀だった。
 彼らが通る予定だった道だ。情報交換をせず、あと数分早く歩いていたならば、彼らは確実にこの爆発の餌食だった。
 そして、これからまた爆発が起きようものなら、彼らの命はない。


「別のルートを行きましょう。爆発の正体を知りたいけど、そんなことをしている暇はないわ」


 凪の判断は、一瞬で決まった。
 おそらく全員の総意だろう。このルートを歩きたくはない。
 もう目の前には街エリアがあるのだが、残念ながらそちらへの近道は絶たれたようだ。
 更に、少しでも道を反れれば禁止エリアにも抵触する。仕方がないので、一度山を登ってから、川沿いに歩き、図書館跡地に向かってから街へと迂回するルートしかなさそうだ。


「くそ〜!! もうすぐ目的地だっていうのに、迷惑な奴らだ!!」


 既に足に筋肉痛が回り、山を登るのが嫌になってきた暁は、そう嘆く。
 仕方がないこととはいえ、腹立たしさを解消できそうにはない。
 しかし、文句を言おうが、結局暁も山を登るということには賛成だ。死にたくないので、こうするしかない。

917温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:51:06 ID:R6V9EaIg0


「……仕方がないか」


 若干の居心地の悪さを感じている黒岩もまた、行動は同じだ。
 この状況下では、同じようにしばらく彼らと行動し、無駄な戦闘は避けなければならない。
 少なくとも、この場には爆心地に突っ走っていくような熱血漢はいなかった。
 四人は、自分の生存と脱出を目的に行動しているのである。



★ ★ ★ ★ ★



 山の頂上付近を歩くのは、ゴ・ガドル・バである。
 彼の現在地からは、既にあらゆる光景が目に入る。
 頂上ほど完全に周囲を見渡せるわけではないが、少なくとも、右隣に見える──いやでも目立つような光景だけは確実に目に入った。


「……センオグ、バ!(戦闘か!)」


 爆音。轟音。怪音。
 間違いなく、破壊の音。
 それを聞いたガドルの視界に入ったのは、焦土と化した麓の森である。少なくとも、一瞬前まで其処には緑色の森が広がっていた。しかし、既にそれは無い。
 それまでの戦いは見ていないが、放送を待っていたガドルは、放送の終わりまで拡声器を使う気もなかったし、誰か参加者が来るのをなんとなく待っていた程度だった。


「……フン」


 ガドルとしては、そちらに向かう気も無かった。
 あの爆発を見る限りでは、現地にいた人間は死亡──または瀕死となっている可能性が高い。
 かつて、ガドルの視界を完全に消し去ったあの黒いクウガのキックともまた違う。
 爆心地を中心に広がっていくのではなく、直線的な光線がぶつかり合い、爆ぜたのだ。
 出力を見た限りでは、おそらくあれは戦いの始まりではなく、終わりを表す硝煙。


「……ホグゾグ ゾ ラズバ(放送を待つか)」


 ガドルはまた、何事もなかったかのように山の頂上へ向かう。
 万が一、あそこで戦っていた戦士が万全ならば、頂上からの放送は聞こえるだろうと思う。拡声器によって巨大化された音は、静かで車の音一つないこの場にはよく響くものだ。
 また、爆音を聞いて集まってくる奇特な人間──たとえるなら、ダグバのような人間もいるだろう。
 そこに集まった人間もまた、ガドルの放送を聞く。
 絶妙なタイミングで大音をたててくれたものだ。
 ガドルは、そう思いながら上を目指す。


 そして、頂上へとたどり着いた時、正午となった。



★ ★ ★ ★ ★



『『『『みなさん、ごきげんよう……』』』』


 ニードルからの別れの言葉とともに、空に現れた映像が消え、首輪からの音声も途絶える。

918温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:51:31 ID:R6V9EaIg0


「……」


 西条凪はニードルという男の放送に、思わず大口を開けてしまった。
 五代雄介。
 姫矢准。
 美樹さやか。
 彼女にとっては、ごく最近まで慣れ親しんでいた名前が幾つかある。
 共に行動していた仲間の名前、そして当初敵対をしたものの共にダークメフィストを撃退した仲間だったウルトラマンの名前。
 そちらの名前は、石堀隊員も知っているようだった。


「……五代雄介、それに美樹さやか……」


 彼ら二人は、やはり一緒に行動していて死んでしまったのだろうか。
 彼らと共に行動していたなら、凪も死んでしまったのだろうか。あの離別こそが、きっと凪たちの運命の分岐点だったのだろう……。
 あそこでどう行動していたかによって、凪が今ここにいるか否かは決まったに違いない。
 ともかく、彼ら二人の死を悲しむ時間は凪にはなかった。……いや、悲しむ時間そのものが、無駄だった。
 仲間の死は凪の思いを加速させる。


(あなたたちも、この殺し合いの被害者ね……溝呂木を、加頭を、サラマンダーを、ニードルを倒すことで、私はあなたたちにお詫びをするわ)


 さやかを利用した悪魔・ダークメフィスト。五代の死がそれによって生まれたものだという可能性も否めない。
 彼らの死に溝呂木の存在がかかわってくる可能性はゼロではないだろう。
 ともかく、溝呂木だけは参加者の中でも絶対に殺さなければならない。
 何にせよ、ナイトレイダーの隊員の一人として、犠牲は最小限に抑えなければならないのだ。
 一人の犠牲は、これからの反省に変えていかなければならない。


 しかし、同時に凪は考える。


 もしかしたら、二人が殺し合ってしまったのかもしれないし、誰かに襲撃されたのかもしれない。
 どちらにせよ、二人との行動は確実に危険なものだったのだ。
 そんなことを考えるのは野暮かもしれないが、凪にとって数時間前の同行者の離別後の死はその可能性を考えさせるに十分だった。
 ……凪は、二人と行動していたら死んでいたのだ。
 早く二人と別行動をとったおかげか、凪だけは生き残ることができた。


 そういえば、かつて、両親が殺されたときもそうだった。
 自分だけ生き残った。
 あのときは何が運命を変えたのかわからない。
 言ってみれば、ただの運だ。
 しかし、今は確実に自分の判断によって、危険から脱した。


「ったく……弧門のヤツ。どこで何をしてるんだ一体」


 凪は知る由もないが────その“西条一家惨殺”の犯人・石堀がそう言った。
 一応、ナイトレイダーの隊員は「元・隊員」も含めて全員生存している。
 ウルトラマンという超人は死んだが、戦闘のプロであるナイトレイダー隊員は全員生きながらえているのだ。
 今は、その弧門と合流する必要が大きい。
 この場において、変身能力を有さないナイトレイダーが三人も生き残っているのは不思議な思いもあるが……(まあ、石堀だけは仮面ライダーアクセルへの変身能力を得たが)。


「彼も彼で、きっとうまくやってるわ」


 一方、暁は暁で別の名前への心当たりがあったらしい。
 暁も馬鹿ではないので、流石に心当たりのある名前だけははっきりと聞き取った。

919温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:52:12 ID:R6V9EaIg0


「銀ピカ野郎……それに、パンスト野郎?」

「……なんだ、貴様はパンスト太郎とやらと知り合いか」

「ああ、ほむらは、あいつらのせいで……」


 志葉丈瑠。パンスト太郎。
 いずれも暁が知る敵の名前である。そして、彼らはほむらを襲撃した、殺し合いに乗る参加者たちだ。
 忘れもしない。ほむらが弱っていく姿を暁に見せたのは、彼ら二人だった。


「クソッ……!!」


 暁が久々に、深刻そうな表情で叫んだ。
 あの二人が死んだのはいい。
 ……しかし、暁の知らぬところで勝手に死んでしまったというのは煮え切らない。
 この手で葬ることができなくとも、せめてその死を見届けたかった気持ちは少なからずあったのである。
 彼にとっても、何とも後味の悪い決着になってしまった。


「桃園さんの知り合いも数名……亡くなったようだ」


 黒岩省吾もまた、聞き覚えのある名前が放送で呼ばれたことを告げる。
 月影ゆり、東せつな、山吹祈里。
 その三つの名前は、桃園ラブと同じく、プリキュアの力を持つ者だ。
 黒岩もその能力を目にしたが、ラブ──キュアピーチと同等の力を彼女たちも持つというのなら、それを打ち滅ぼした者は相当の手練れだろう。
 あとは、黒岩とはまったく関係ないが、美樹さやかという少女も、ラブによって聞いている。ラブの知り合いのマミの知り合い……というかなり遠回しな名前であるため、これは本当に他人事としか思えなかった。彼女には申し訳ないが。



「──ところで」



 石堀は、すぐに気持ちを切り替えてそう言う。
 彼にもまた、人間的な感傷は似合わない。
 いや、現実的に人間的な感傷に浸ろうにも、それらしい感情がないのだから、傷を受けることもない。
 実際、姫矢たちの死も、彼にとってはどうでもいいものでしかなかった。少し意外に思った程度だろうか。
 それを、ナイトレイダーの隊員として私情を捨てた中立的態度と見てもらえるのは、やはり「石堀光彦」としての利点と言えるだろう。
 石堀は本題に入る。


「……主催側の『なぞなぞ』とやらの答えがわかった方はいますかね?」


 石堀にとって気がかりだったのはそれだ。
 石堀もすぐに答えに気が付いたが、彼が知りたいのは、凪以外の連中がその答えを知ることができたか否かである。
 特に涼村暁とかいう奴だ。到底、頭が回りそうにない。

920温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:52:43 ID:R6V9EaIg0


「あ、ああ。まず、○と×を足す……っていうのは、警察署の地図記号のことで間違いないだろう」


 黒岩がそう言った。
 伊達に図書館で毎日人間界のことを勉強はしていない。警察署の地図記号が○と×を組み合わせたようなものであるのは、彼も知っていた。
 単純に知識があるだけでなく、彼は頭の回転も早い。
 二つの記号を組み合わせ、また別の記号を生み出すことも彼には容易だった。
 更にそこへ、暁が付け加える。


「青+黄色……青と黄色を混ぜ合わせると、緑だぜ?」


 地図記号に関する知識はなくとも、こういう「お遊び」的な常識は何となく知っている。
 絵具の青と黄色をかき混ぜれば、そこに生まれる色は緑だ。暁はそんな脳内のイメージでその答えを出した。
 たとえこの場で一番バカな人間が答えたとしても、誰も疑問に思わない。


「……緑、別の書き方をするのなら、コレだ」


 先ほどまで禁止エリアを書き込んでいたマップを、石堀が指差す。
 そこには、「翠屋」と書いてあった。ひらがなに直せば、「みどりや」。緑、碧、翠……など様々な書き方をする「みどり」という漢字の一つだ。ちなみに、表す意味はどれも同じく、「青と黄色を混ぜあわせた色」である。
 ……ただ、この読み方は暁にはよくわからなかったが、彼は適当に話を合わせることにしたようだ。


「主催者側のボーナスは、警察署と翠屋を繋ぐもののようね」

「ちょうどマップの端から端だ」

「……ちくしょー! 羨ましい! 俺も翠屋にいれば街まで簡単に行けたんじゃねえか」


 暁がそう叫ぶ。
 こうやって、走ったり山を登ったり道中で戦ったり……そんな風にしてマップを歩かなければならないのは流石に辛い。
 もう暁の足は悲鳴をあげているのだ。いや、むしろ全身が悲鳴をあげていると言っていい。シャンゼリオンになると、まるで100キロ近くあるスーツを着せられたような重みを感じる。
 スーツアクターであっても、そんなものを着るなんて、ほとんどの人が無理だろう。
 ……などと暁が勝手に考えていると、黒岩が声をかけた。


「……暁。お前は二人も人間を殺したのか?」

「は?」

「二人殺さなければ翠屋にいても警察署へは行けない」

921温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:53:16 ID:R6V9EaIg0


 黒岩にそう言われて、暁は疑問符を浮かべた。
 あまりに不意な発言に、彼が何を言おうとしているのかの意図がわからなかったのだ。
 それから数秒後もまだ疑問符を浮かべつつ、なんとなく彼が言いたいことを推理する、探偵らしい鋭さを発揮して、暁は訊く。


「……もしかして、人の名前でできた式のことか?」


 暁の記憶にあるヒントといえば、「この数の参加者を手にかければボーナスが使える」という発言だ。
 ニードルの言葉は早すぎてうまく聞き取れず、全員の名前を覚える前に進んでしまったが、その言葉は覚えている。。
 厳密に言えば、暁も、最初の「雄介」と最後の「結城」は聞き取った。しかし、それだけしか覚えていなかった。今までに覚えたあらゆる名前が、頭の中で交錯したのである。
 他の三人はどうやら全員分覚えていたらしい。


「……ああ。名前が呼ばれたのは、五代雄介、弧門一輝、一条薫、一文字隼人、結城丈二だ。全員、名前に数字が入っている」

「式は雄介−弧門−薫+隼人−結城だから、5−1−1+1−2で2。二人殺してないと、移動手段は使えない」


 黒岩と石堀の解説で、暁は全部理解した。
 しかし、男の名前ばかりで嫌になるな……とも思う。だから覚えなかったのだ。
 知り合いの名前も入っているが、そんなことは関係ない。
 しかも、その問題で名前が出された人間のうち一人は、もう死んでいるのだ。はっきり言って気分が萎えるようなヒントだ。


「……つまり、二人殺した人間が警察署か翠屋に行けば移動手段が出るんだな?」

「そういうことになる」

「ボーナスでも何でもないじゃねえかよそれ……」

「主催者から、“殺人者”へのボーナスってわけだ。主催者にとって一番都合が良いのは、殺し合いを積極的にやってくれてる人間だからな」


 暁は深いため息をすると、彼は不意にほむらのことを思い出した。
 そういえば……。


 「あれ」も、「数」に入るのだろうか?


 結果的に、暁美ほむらにトドメを刺し、息の根を完全に止めるに至ったのは暁だ。あれも数に入るとするのなら、暁はもう一人殺していることになる。
 あれは主催側で、殺害1とカウントされているのだろうか。
 だとしたら、プレイヤーの意思に関係なく、主催者は暁を人殺しとしてカウントしていることになる。
 一生涯、おそらく人を殺すことなんてなく、終わるだろうと思っていた暁の人生が、血塗られたものになってしまう。
 暁の意図や暁の認識と無関係に……。


(……まあいっか)


 暁は、すぐに思考を停止した。
 難しいことはなるべく考えないようにしよう。

922温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:53:42 ID:R6V9EaIg0
 根暗の加頭や、変な名前のサラマンダー男爵、それからどう見ても○○○○(放送禁止用語)のニードル……あいつらにどう思われたところで、あれが暁の手による殺人なのか否かは暁が決めることだ。
 自分が殺人者であると思い込むことはない。
 ……いや、彼は一応、優勝を狙うスタンスなのだが。


「……で、今回のボーナスの方も気がかりだな」

「特殊アイテムの配置、か。緑と青の強力な武器……」


 もう一つのボーナスについても、全員が少し考えてみるが今のところ思い当たるものがないらしい。
 緑と青の斑の武器が二つあるのか、緑の武器が一つ、青の武器が一つあるのかもわからない。
 心当たりがないということは、自分たちの世界のものではないのか、または自分たちがまだ巡り合っていないのか……そのいずれかだろう。


「これまでにどこかの施設に立ち寄って、それらしいものを見た人はいる?」


 凪の問いかけに、その場にいる全員が首を横に振る。
 暁は一応教会に立ち寄ったし、黒岩は図書館が崩壊するのを見た。
 少なくとも、それらの施設に武器はないと思うが、武器がどのような形状になっているのか等のヒントがなかった以上、詳しくは不明のままだ。


 ともかく、今回はヒントが少なすぎるので、考えるのを停止して山を登ることにした。
 第一回ボーナスも無縁だったし、ボーナスに関しては切り離して考えてみるのもいいかもしれない。


 彼らが歩きだしたその時────


「聞けぇっ!! リントの戦士たちよっ!!!」


 低く野太い声が木霊する。
 全員が足を止め、山の頂上を見た。
 言葉が反芻され続けるために、どこから聞こえるのかははっきりとはわからないが、最初の一声は真上から聞こえたような気がした。



★ ★ ★ ★ ★



「……ゴダイ」


 放送を聞き、ガドルはその名前を呟く。
 五代雄介という男の名前。
 ──それは、クウガのリントの世界での呼び名であると推測された男の名前だ。


(何者だ? クウガを葬った戦士とは……)


 この場には、クウガやガドルと同じく、変身する能力を有する者が何人もいる。
 リントの戦士(警察)と戦っていた生前よりも、ずっと楽しい宴ではないか。
 フェイト、ユーノ、仮面ライダーダブル、杏子、ウルトラマンネクサス……骨のある戦士と戦える好機だ。
 しかし、ガドルを倒したクウガさえも超える戦士が、この場にはいる。

923温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:54:43 ID:R6V9EaIg0


(……面白い)


 クウガにはこの手で引導を渡してやりたかったが、彼が死んだ以上は、それを超える戦士を倒し頂点に立つほか道はない。
 ……とはいえ、一抹の怒りも感じざるを得ない。
 クウガとの再戦を果たす好機を潰した者には制裁を加えなければならないのだ。


 剛健な肉体。
 強い者を欲し、戦い続けた結果、「ゴ」のトップにまで上り詰めたガドルの血のにじむような戦いの記録。
 人間ならば何度死んだ痛みを受けたかもわからない。
 リントを殺し、反撃を受け、傷ついても己の為に戦い続けた。
 その全てを否定したリントの戦士──クウガ。
 奴を倒すのが、ガドルが蘇った意味の一つだと考えられた。
 しかし、それは叶わなかった。こんなにもあっさりと、その名前が告げられるという形で幕を下ろすというあっけなさで。


 ガドルは目を瞑る。
 黙祷ではない。精神を落ち着かせる、いわば黙想だ。
 これからどうすればいいだろうか。
 どのようにして、あの戦いの雪辱を晴らせばよいのだろう。


 ……。
 …………。
 どれくらい考えていたかはわからないが、ガドルの答えが決まり、彼は目を開けた。


 ………………クウガなどという小さな目標を狙わず、クウガさえ凌駕する戦士を殺し、ダグバを倒す。
 ────それしか、ガドルの道はない。


「……フン」


 禁止エリアは聞き取ったが、ボーナスなどはどうでもよかった。
 その程度の事に興味はない。
 ガドルにとってこれは、殺し合いであると同時に重要なゲゲルだ。
 己の力で敵を打ち滅ぼし、ゲームの頂点にならなければ意味がない。

 移動手段も不要だ。ただ、そこにいる敵を殺せばいい。行くあてはないのだ。


「……」


 ガドルは高所から山を見渡す。
 其処には、確かに木々を揺らす「人」の気配があった。
 誰かが移動しているのだろうか。
 それとも、ただの気のせいだろうか。
 何にせよ、ガドルはそれを確かめる術を持っているのだ。


 ガドルは拡声器を片手に、深く息を吸う。

924温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:55:19 ID:R6V9EaIg0


「聞けぇっ!! リントの戦士たちよっ!!!」


 拡声器に向かって、枯れんばかりの声でそう叫ぶ。
 この場に来て、こうして拡声器で声を発するのは二度目になる。
 付近のエリアにいる参加者たちを呼び寄せ、何人がかりだろうとかたっぱしからねじ伏せる。


「俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バだ! リントの戦士よ……腕に自信があるならば、鎧を纏い俺に挑戦してみろ!! 挑戦を受けないならば俺は殺戮を繰り返す!!」


 ガドルは本気だ。
 もし、この場に来る者がいなければ、下山して適当に人を殺す。
 無論、相手は戦力を持つ者に限るが、この場にいる人間の多くは「鎧」を纏ったり、姿を変えたりすることができることが既にわかっている。


「もし止めたいのならば何人がかりでもいい!! 自由に戦略を練り、戦力の限りを使い、俺の体に一つでも傷を作ってみろ!! 俺は山の頂上にいる、いつでも来い!!」


 ガドルはそう叫ぶと、拡声器のスイッチを切った。
 今の放送は、誰かが聞いただろうか。
 この周囲に人がいるなら、この放送に何らかの反応を示すだろうか。
 ともかく、ガドルはまたそこで剛として立ったまま、山のふもとを見下ろしていた。



★ ★ ★ ★ ★



「んで、どうするんですか? 西条副隊長」


 石堀が訊く。
 アクセルの力を得たとはいえ、石堀としてもなるべくそこへは行きたくなかった。
 誰が殺戮を繰り返したところで、正直彼には全く興味がないのだ。
 ナイトレイダーの隊員の一人としてどうすべきかは凪に託す。
 この緊急時の対処をすべきは凪なのだ。


「……行くつもりはないわ。明らかに罠よ」


 そして、石堀が望んだとおり──あるいは予測した通りの答えが返ってきた。


「だな。俺も賛成」

「俺もだ。迂闊な行動は危険すぎる」


 凪、暁、黒岩と全くの同意見だった。
 彼らも意見は同じだ。山を登るのは面倒だし(←これが暁)、わざわざ殺人を宣告しているイカレた人間のもとへ行く意味もない(←これが他)。


「たまにいるんだよなぁ、ああいう変なやつ」


 暁がそう呟き、四人は真っ直ぐ歩いて行く。
 ガドルの渾身の叫びが見事にスルーされた。



★ ★ ★ ★ ★



 ゴ・ガドル・バの目に四人の参加者の姿が映ったのは、ほんの偶然だった。
 彼は来訪者を待つまでの間に、もう一度荷物の整理を始めようと荷物を取り出したのだが、その時にまた意外なものが出てきたのだ。
 双眼鏡。
 以前、フェイトのデイパックを確認した時にも拡声器と共に出てきたのだが、あの時はまだ使おうとは思わなかったし、興味もなかった。
 理由は単純。
 これは敵を呼ぶこともできず、戦いにも使えない。


「……バスホゾ(なるほど)」


 これは、おそらく何かのめぐり合わせによって配られたカードだ。
 あそこで歩く四人の男女と戦うために、ここへ入っていたのだろう。
 あの四人はおそらく、ここへ来ずに逃げようとしていた。それは、積極的に頂上に上ろうとせずに、地面と並行に歩いていることからもうかがえる。
 しかし、禁止エリアがあるせいで、ある程度、距離を近づけながら歩いて行かなければならないのという問題があった。
 それが原因で彼らはガドルの視界に入ってしまった。
 四人。バイクを押している。
 おそらく、変身する者、戦う者は間違いなくいる数だろう。
 特に、青い服を着ている二名は、明らかに「リントの戦士」(警察)に酷似した服装である。ガドルは知らないが、少なくとも、ああして統一された服を着用しているのを見る限りでは、おそらく戦うリントだろう──とにらみを付けたのである。

925温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:55:58 ID:R6V9EaIg0


 ────逃げられると思うな。


 ガドルの体が、胸を中心に一瞬でカブトムシの怪人のものへと変化する。
 変身。
 ガドルが対戦相手に求める最低条件となるのは、この姿だった。
 ガドルの心を満足させるだけの力を持つ者がいるならば、この場で戦い合い、殺す。
 ガドルは拡声器と双眼鏡を山の頂上で放り投げ、彼らのもとへと歩き出した。
 宙を舞った二つの道具が地面に落ちたとき、そこに怪人の姿はもう無い。



★ ★ ★ ★ ★



「……ここ、随分前に通ったような気がするな」


 暁がそう呟いたが、全員が無視した。
 暁がここを通ったのは、禁止エリアから逃げるために必死で走った時であり、既に暁の中では忘却の彼方へと投げ捨てられた事実だ。
 しかし、いざそこへ来てみるとなると、なんだか木の感じが似ている気がした。南東にある1メートルほどの木の小さな割れ目や、先ほどいた場所より少し色が暗く見える土、前に見える木の生え方、折れ方。
 まあ、森の木々など、はっきり言って違いもわからないものだし、わかったところで何ということもないものなので、暁もその既視感を無視した。
 特にここに置き忘れたものもなく、この場所に何か伏線があるわけでもない。
 たとえここがどんな場所か思い出しても、暁は勿論、どんな人でも「ふーん、ここ通ったんだ」で終わってしまいそうなくらいの場所だ。
 はっきり言って、この地の文の100パーセントは無駄でできている。わざわざ丁寧に地の文まで読んでくれた人間には謝らなければならない。


「禁止エリア制度……やはり厄介ね」


 凪は頂上を見ながら呟いた。
 彼女たちは、7時に禁止エリア指定されたG-6エリアを避けながら、F-5からG-5へと移動しようとしている。
 その間に、頂上にいるはずの男に目を付けられたり、行き過ぎて鉢合わせたりしないだろうかと不安だったのだ。
 可能性としては決して低くない。
 例によって、最悪の場所を歩いたものだ。
 F-6は戦闘。G-6は首輪爆破。それに加えてF-5はバカの放送ときている。
 周囲のエリアが危険に囲まれたといっていい。このまま、うまくやりすごせればいいのだが……。


「残念ですね、副隊長。誰か来る……」


 石堀はいち早く異変に気付いた。黒岩も、その言葉で表情を変えた。


「副隊長、それから二人とも。今は、少し隠れて」

「あなたは?」

「少し時間を稼ぎますから、戦闘の準備を。俺はもうできてます」


 と言う石堀の腹部には既にドライバーが巻かれている。
 どうやら、一人で先に戦闘の準備をしていたらしい。
 常に危機を回避する方法を探っていた石堀としては、当然の行動だった。


「了解」


 凪と黒岩はすぐに茂みの影に隠れた。
 暁も一歩遅れて凪の尻を追いかけ、茂みへと隠れる。
 暁は隠れてすぐに、何が来るのかと、そっと顔を出そうとしたが、凪が強引に頭を押さえつけた。

926温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:56:59 ID:R6V9EaIg0


「……静かにしなさい」


 言いつつ、凪はコルト・パイソンに弾を装填する。
 そういえば、前に弧門に、「残弾の数は常に把握しておけ」と忠告したことがあった。これは、銃を持ち戦場に出るものが絶対に忘れてはならない鉄則である(ちなみに、凪は姫矢に「残弾の数は確認しておけ」と注意をされたこともあるのだが……)。
 彼女もそれに倣い、残りの弾数を改めて確認した。
 そして、使っていい弾数を脳内で想定する。


「あなたも戦う準備をしなさい。ふざけていられる相手かわからないわ」

「味方かもしれないんだろ?」

「そう。でも、敵かもしれない。それはすぐにわかるわ」


 凪が暁にそう言う。
 仕方がなく、暁は腰にロストドライバーを巻いた。
 以前、ほむらがこれを使って戦ったのを、暁はよく覚えている。


(そういえば、この人は魔法少女とかプリキュアってやつに変身しないのかな……)


 暁は凪を見ながら思う。
 暁の頭の中では、凪が携帯電話で変身し、超フリフリな恰好をしながら──


『ブルーのハート(←ダブリ)は復讐のしるし! 撃ちたてフレッシュ! キュアレイダー!』


 と名乗る。
 想像上の凪は、今の凪からは想像もできないであろう満面の笑みである。
 手でハートを作り、ポンと叩いて名乗る。
 そんな凪を想像しつつ、「それはない」と暁は勝手に自分のイメージを一蹴した。凪は暁の複雑そうな顔を、怪訝そうな顔で見つめる。
 それで怪しまれたと思った暁は、気を取り直して周囲を見る。


 別の茂みでは、黒岩も同じように変身の準備をしているようだった。
 それぞれ、一人一人で分かれているが、凪と暁は同じ茂みの中にいる。暁の初動が遅れたからだ。
 窮屈で、下手をすれば頭や尻が飛び出てしまうかもしれない状態だ。
 これが殺し合いじゃなければ最高なのに……と暁はひそかに思っている。凪の体が少し、暁の体にあたっているのだ。


「……変身!!」

『アクセル!』

「さあ来い、カブトムシの化け物」


 石堀が変身するバイク音と声が聞こえる。仮面ライダーアクセルの変身の際に必然的に鳴る音だった。
 彼が変身したということは、向こうから来たのが敵であるという合図である。
 更に石堀は、カブトムシの化け物……と敵の特徴も教えた。
 三人が気を引き締める。


「お前だけじゃないだろう。隠れても無駄だ」


 茂みの向こうから声がした。
 先ほどの頂上からの放送の男の声に似ている。
 おそらく、あの「ゴ・ガドル・バ」とかいう男に間違いないだろう。


「お前はゲームに乗ったのか」

「ああ。このゲゲルのプレイヤーの頂点に立つ……それが俺の──破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バの目的だ」


 どうやら、石堀と会話してるらしい。
 ゲームに乗っていることや、あの放送の人物と同一人物であることまでベラベラと話している。
 暁は小声で凪に訊く。

927温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:57:35 ID:R6V9EaIg0


「……おい、どうするよ」

「合図をしたら、あなたも変身しなさい」


 落ち葉を踏む足音がはっきりと聞こえる。そのうえ、彼が歩いているだけで、周囲の葉が靡く。彼の体から発されるプレッシャーが、葉を揺らし続けているのだ。
 その音が大きく聞こえるにつれ、暁の胸の音も大きくなる。
 なんだ、この恐ろしさは……。
 変身もしていない。相手は殺し合いに乗るプレイヤー。そのうえ、かなりの手練れ。
 その圧倒的な戦力差を、暁の動物本能が教えていた。


「おい、変身していいか?」

「3……」

「おい、」

「2……」

「ちょっ」

「1……」

「なっ」

「行きなさい!!」


 凪は片足で暁を蹴り、茂みの外に放り出す。
 それと同時に、凪が頭を出して、


 ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ

 弾丸を撃つ。
 そのうち三発がガドルの体に命中し、ガドルの体が少し後ろによろけた。
 肩、胸、それに頭だ。
 なるほど、それなりに効いたらしく、ガドルは命中した箇所を押さえて悶えていた。
 暁はそれを見てすぐに起き上がり、目の前にいる黒岩とともに叫ぶ。


「変身!!」

「ブラックアウト!!」


 変身──それは、涼村暁が仮面ライダースカルへと(略)
 ブラックアウトとは(略)


 仮面ライダースカルと暗黒騎士ガウザーがその場に姿を現し、ガウザーは不思議そうにスカルの方を見た。
 そこにあるべきはシャンゼリオンの輝きであると思っていたので、ガウザーは違和感を感じてしまったのだ。


「ちょっと待て、暁。なんだその姿は」

「ん? ああ、これは仮面ライダースカルだ。試着試着♪」

「試着!?」


 ガウザーが右手を自分の額に当て、俯く。呆れた、といったポーズだった。
 この土壇場で、変身アイテムの試着とは何を考えているのだろう。


(……いや、もしスカルがシャンゼリオンより強い力を持っていれば、あるいは──)


 ……と思って、ガウザーはスカルの姿を見たが、真ん丸な頭やシンプルすぎる黒と白の異形、シャンゼリオンに比べて圧倒的にスマートなそのボディラインにまた絶句した。
 そう、偏見ではないはずだ。
 ……こいつは、明らかに弱い。雑魚の顔だ。見ればわかる。

928温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:58:07 ID:R6V9EaIg0


「だいたいさ、毎回毎回あんな恰好したらシャンゼリオンの中に入ってる次郎さんがたいへ」


 言い終わる前に、スカルが背後からの衝撃を受けて前のめりにバランスを崩す。
 何かまずいことを言ったという予感を、暗黒騎士ガウザーは感じた。
 このまま喋れば、この男は間違いなく危険なことを言う。
 それを心のどこかで予期したガウザーは、スカルを後ろから殴ったのである。


「何すんだよっ!!」

「暁、知っているか!! 世界文学で一番最初のメタフィクションは1096年にフランスの作家イノーエット・シキが書いた『チャンゲリオン』という小説で」(※適当です)

「あーもういいっ!! 何の脈絡もない知識自慢はもう散々だ。だいたい、なんだメタナントカって」

「貴様こそ。誰だ、次郎さんって!!」


 そう言い返されると、暁はムキになって適当なことをほざき始めた。


「いいか黒岩ぁ。次郎さんっていうのはだなぁ……、シャンゼリオンの中に入ってる力の源、言ってみれば動力源だ。俺がさっき創作した。だからこれは、メタナントカでもなんでもない。もう一度言う、これは俺の創作だ」

「シャンゼリオンの力の源はクリスタルパワーだ! だいたい、なんで力の源が人名なんだ」

「それはだな、深〜いワケがある。次郎さんはクリスタルパワーの小さな粒子の中に住んでいる妖精なんだ。そして、シャンゼリオンの力を発揮させるために、シャンゼリオンの中で毎日必死に家族のためを想い、上司の文句を受けながらも自転車を漕いでいる……そして」

「話が深まる前に言っておくぞ、暁! 俺はお前の相方のあの暑苦しい奴じゃない。だから、その話のオチがいかに感動的なものであったとしても、俺はお前の話に何の感銘も受けないし、騙されることもない。聞くだけ時間の無駄なのはわかってる」


 ガウザーに前置きされたせいで、スカルは舌打ちをした。完全に魂胆が透けていたのだ。
 しかし、相方の暑苦しい奴というのがいまいちピンとこない。
 はっきり言ってどうでもいいので、その単語は完全に無視することにしたが。


 一応、解説しておくと暑苦しい奴というのは速水克彦のことである。
 このゲームにも参加していたが、暁は彼と深く関りあう前から参戦したため、彼の姿は知っていても名前は知らない。
 で、スカルがふとガウザーに訊く。


「……ところで、黒岩ぁ。俺たち何をしてたんだっけ?」

「……忘れるな暁! …………えっと、つまり、あれだ」


 暁は勿論、黒岩もその瞬間自分が何をしていたのかド忘れした。
 はっきり言って、緊張感が全くない。


「「戦闘中!!」」


 アクセルと凪の怒号で二人ははっきりと思い出す。
 そう、カブトムシの怪人との戦闘中だったのだ。
 それが、長いお喋りのせいで完全に忘れ去られていた。
 暁のせいだ、黒岩のせいだ、……という感じで心の中で相手のせいにしたが、原因を作ったのは間違いなく二人両方である。
 今更ながら恰好をつけ、仰々しいポーズとともに二人は叫んだ。

929温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:58:57 ID:R6V9EaIg0


「……さあ、かかってこいカブトムシ野郎! この正義のヒーロー・仮面ライダースカルが昆虫標本にしてやるぜ!」

「知っているか! 世界で最初の昆虫標本は紀元前600年ごろ、ローマで捕まえられた金色のカブトムシを保管する方法を探るために作られたが、実はそれはただのカナブンだったという……」(※適当です)


 二人がガドルの方を見ると、そこにはガドルののびた姿があった。
 あの巨体が、地面に突っ伏して、何も言わず、少しも動かなくなっている。
 カッコいいポーズや決め台詞を出した二人は、すぐに萎えた様子で言った。


「おい、あんた意外とやるんだな……」


 アクセルに向かってスカルが言うが、アクセルは首を横に振り、凪を差した。
 人差し指で差すのは失礼だと思ったのか、指を全て立てた状態で差している。
 かなり丁寧な動作。紳士だ。
 とりあえず、コイツを倒したのは凪らしい。一体どうやったのだろう。
 まさか本当にプリキュアに変身したのだろうか。


「支給されていた特殊な弾丸が効いたわ。ただ、早く撤収しないと神経が回復してしまうから急ぎなさい」


 ……そう、先ほど西条凪が発砲した弾丸は神経断裂弾という特殊な弾丸であり、グロンギの怪人をこのように弱らせることができる。
 場合によっては、殺害もできたのだが、こうしてあっさり敵がのびたのを見て、凪はもういいだろうと判断した。
 逃げられるだけの隙ができれば十分だ。


「……というわけだ。二人とも、早くここを立ち去るぞ」


 石堀の言葉を聞き、二人は凪と石堀の背中を追った。
 よく見ると石堀と凪の荷物が増えている。ガドルから剥ぎ取り、もとい奪ったもの……らしいとすぐにわかる。
 動きにくいだろうが、殺し合いに乗る者が気絶してるのなら、荷物くらいは奪っておくのが当然か。
 それだけ考えて彼らが行動していた間、暁と黒岩は何をしていただろう。


「「……」」


 明らかにピリピリした様子の凪に、二人は思わず黙る。
 これは完全に怒らせた。
 別にふざけていたわけではない。いつものノリで戦っていたら、思わずこうなってしまっただけだ(ただし黒岩のみ)。

930温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:59:19 ID:R6V9EaIg0


「……そうだ、涼村暁」


 凪が急に立ち止まって、暁に声をかける。
 顔が明らかにムスッとしており、不機嫌だ。
 本人が真面目に戦っているなか、暁と黒岩はふざけていたのだから当たり前だ(ただし黒岩はふざけていたわけでh)。


「……そのドライバーは私に預けなさい。シャンゼリオンに変身できるあなたが複数の変身道具を持ってる意味はないわ」

「……あ、いや、でも次郎さんが」

「預けなさい」

「はい」


 暁は、すぐに弱り、ロストドライバーとスカルメモリを凪へと手渡す。
 片手間に持てるのが不思議なくらい小さな道具だ。あれが腰に巻けるベルトになるというのはなかなか興味深い構造である。
 何はともあれ、これでこのチームは全員が変身できる装備を持ったことになる。


 しかし──


 メンバー内の不和は大きくなったと言っていい。
 暁と黒岩の住む世界、凪と石堀の住む世界は空気が違う。
 全員がその世界の空気を持ち込んでしまったがゆえに、互いの不信感やストレスは深まるばかりだった。



★ ★ ★ ★ ★



 ガドルが負ったダメージは相当のものだった。
 かつて、彼がリントの戦士──警察たちを襲ったとき、ガドルは全身に何度も銃創を作ったが、弾丸は全て体の内部からはじき出し、攻撃が持つ意味そのものを無に返したことがある。
 しかし、この弾丸はガドルをダウンさせた。
 相当のダメージで、動くことができなくなるのである。手も足も、体の全てが麻痺して動かない。
 神経そのものが断裂されているのだ。
 そう、この痛みは──


(一条と呼ばれていた奴の……)


 クウガに「一条」と呼ばれた男の放った弾丸に似ている。
 いや、似ているのではない。これはあの時と全く同じだ。
 神経断裂弾という、対グロンギ用の弾丸なのだが、彼がそれを知る由もない。
 ともかく、回復するのに少しだけ時間がかかる。
 ほんの少しだけだが……。


(……逃げたか? まさか戦う前に終わるとは)


 立て。
 奮い立て。
 立ち上がれ。
 ガドルは、自分の体へと何度も念じる。
 視神経など五感の幾つかも断裂したらしく、思考だけが巡る。
 目も見えず、耳も聞こえない。
 しかし、誰かが襲ってくるかもしれない……という恐怖はない。
 襲撃されたとしても、死ぬ前に神経が回復するという自信があったからだ。

931温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:59:39 ID:R6V9EaIg0


 少しだけ、待つ。


 ガドルの視界に光が取り戻されていく。
 最初に見えたのは黒。
 それが茶色になり、やがてはっきりとそれが土だと認識できるようになった。
 それと同時に、ガドルはゆっくりと立ち上がる。


「ボゾギデジャス(殺してやる)」


 ただ、それだけ呟いた。
 ガドルが地面に伏す。そんな無様な姿にさせた者は許さない。
 まずはあの女。それから、次に残りの三人。
 これから始まる新たなゲゲルの幕開けだった。


 彼らが逃げたルートはわからないが、頂上のガドル、禁止エリア、爆発の全てから逃げていた連中のルートはほぼ限られる。
 ガドルは、間接を鳴らすような動作をした。
 断裂された神経はどうやら、全身で完全につながったらしい。

 荷物が無い──彼らが奪ったのだろうが、それは些細なことだ。
 プライドを奪われたことの方がずっと重大な問題である。
 ガドルは、敵の数を頭に浮かべた。


 四対一。
 あの時──フェイトとユーノを殺したときと同じだ。
 あの時とは違う。全員殺す。


「ジョグオク ザ(上等だ)」


 逃がしはしない。




【1日目/日中】
【G−5/森】


【石堀・または凪が次の道具を持っています】
基本支給品一式×2、ガドルのランダム支給品1〜3(本人確認済み、グリーフシードはない) 、フェイトのランダム支給品0〜1、ユーノのランダム支給品1〜2個 、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー@仮面ライダーW、ガイアメモリ(アクセル、トライアル)@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る
2:今、凪に死なれると計画が狂う……
3:凪と暁と黒岩と共に森を通って市街地に向かう(ただし爆発が起こったエリアや禁止エリアを避ける)
4:孤門や、つぼみの仲間を捜す。
5:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
6:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました

【西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、強い苛立ち
[装備]:コルトパイソン+執行実包(2/6) 、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、照井竜のランダム支給品1〜3個、相羽ミユキのランダム支給品1〜3個、テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:涼村暁と黒岩省吾をどうするべきか(その思いは更に強力に)。
2:状況に応じて、仮面ライダースカルに変身して戦う。
3:孤門と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:黒岩省吾の事を危険な存在と判断したら殺す。
6:溝呂木眞也、暗黒騎士キバ、ゴ・ガドル・バもこの手でいつか殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前
※さやかは完全に死んでいて、助けることはできないと思っています
※まどか、マミは溝呂木に殺害された可能性があると思っています
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました

932温度差 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 16:59:58 ID:R6V9EaIg0


【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(ペットボトル一本消費)、首輪(ほむら)
[思考]
基本:願いを叶えるために優勝する………………(?)
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:石堀、黒岩、凪と行動し、黒岩が変な事をしないよう見張る。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:ラブちゃん、大丈夫なのか……?
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。但し、まどかの名前等知り合いの事については全く聞いていません。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました

※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました



【黒岩省吾@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー(2/2)
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:周囲を利用して加頭を倒す
0:とりあえずガドルから逃げる。
1:あくまで東京都知事として紳士的に行動する
2:涼村暁との決着をつける ……つもり、なのだが……
3:人間でもダークザイドでもない存在を警戒
4:元の世界に帰って地盤を固めたら、ラビリンスやブラックホールの力を手に入れる
5:井坂とティアナが何を考えていようとも、最終的には自分が勝つ。
6:桃園ラブに関しては、再び自分の前に現れるのならまた利用する。
7:涼村暁が石堀光彦や西条凪に妙なことを口走らないよう、警戒する。
[備考]
※参戦時期は東京都知事になってから東京国皇帝となるまでのどこか。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマンはダークザイドと同等又はそれ以上の生命力の持主と推測しています。(ラブ達の戦いを見て確信を深めました)
※ラブからプリキュアやラビリンス、ブラックホール、魔法少女や魔女などについて話を聞きました 。
※暁は何らかの理由で頭が完全におかしくなったのだと思っています。
※暁は違う時間から連れて来られたことを知りました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました
※森林でのガドルの放送を聞きました



【1日目/日中】
【F−5/森】
※同エリアで拡声器を使い、周囲に呼びかけをしました。周囲1〜2エリア(頂上で使ったため、場合によってはもっと遠くも)に聞こえた可能性があります。
※拡声器と双眼鏡が同エリアの頂上に放置されています。

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)(回復中)、右脇に斬傷(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する
1:凪を殺す。ほかの三人(石堀、黒岩、暁)もついでに殺す。
2:強者との戦いで自分の力を高める。
※死亡後からの参戦です
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました

933 ◆gry038wOvE:2013/02/11(月) 17:01:01 ID:R6V9EaIg0
以上で投下を終了します。

934 ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 17:52:45 ID:yH3FGKxo0
たびたびすいません。
再び矛盾点があったため、状態表と現地調達品解説を修正しました
原作の顧客名簿について勘違いがあったため、これも主催側が用意した特別アイテムとしました

935 ◆OmtW54r7Tc:2013/02/11(月) 18:05:44 ID:yH3FGKxo0
そして投下乙。
シャンゼ組…w
お前らちゃんと戦えよw

936名無しさん:2013/02/11(月) 18:41:15 ID:TwhqHBfQ0
お二人とも投下乙です。
>◆OmtW54r7Tc氏
バラゴは呪泉郷の水をたくさん手に入れたか。もしかしたら、何かに使えるかな?
で、レイジングハートとマッハキャリバーはまた出れたけど、活躍できるかな。

>◆gry038wOvE 氏
次郎さんとか、中の人ネタじゃんwww
シャンゼリオン組も凄いなww ネクサス組とガドル閣下を振り回すんだから。
今のところは何とか逃げられたけど、まだ閣下は諦めてないんだよね……四人とも無事でいられるかどうか。

937名無しさん:2013/02/11(月) 19:20:19 ID:9c9uu1tQO
投下乙です。やめろ、毎回アクション用でもやたら重いスーツの中で頑張っている人などいない!

938名無しさん:2013/02/11(月) 19:39:51 ID:nV6UFrf.0
投下乙
真面目にやってる人達とメタネタコンビの温度差が酷いなぁww
とりあえず暁、お前はスカルじゃなくて王蛇(ry

939名無しさん:2013/02/11(月) 19:45:31 ID:eC9jpPPM0
投下乙です

呪泉郷の水の確保は誰かやるかなあと思ったらお前かあ
でも使えるのか判らんけどなw
そしてデバイス組は…

シャンゼリオン組は本当に凄いなあw ある意味大物w
さて、閣下との死の鬼ごっこ開始だあ

940 ◆OmtW54r7Tc:2013/02/12(火) 10:54:24 ID:cjNJbVyA0
一応報告。
ウィキの自分のページの名前を現在のトリである◆OmtW54r7Tcに変更しました
今までは最初に使ってたトリがページ名になってたので

941 ◆gry038wOvE:2013/02/12(火) 13:27:25 ID:/zbeSsHg0
了解しました&編集乙です

942名無しさん:2013/02/13(水) 03:12:02 ID:40qXvcOY0
おお、しばらく忙殺されてる間に、兄弟対決が決着していたか!
このロワのシンヤすごく好きだったんだけど最後までテッカマンブレード愛の籠もった作品で感無量だった
よもやランスまでかっこよくなるとは……。しかし原作もだけどタカヤは悲惨だなあ
熱くも物悲しい名作今更ながらにですが乙でした!

そして遂に放送も超えて、ヤバい水確保や、死体を前にしてのそれぞれの想い、シャンゼワールドとネクサスの不協和音と、続々話が来ていて読み応えありました―!
皆さんお疲れ様です!

943名無しさん:2013/02/13(水) 14:16:09 ID:MEkgtAYQ0
予約来てた

944 ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:11:53 ID:wTMYZaFA0
ただいまより、予約分の投下を開始します。

945You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:12:24 ID:wTMYZaFA0


「私は──!!」


 その先の言葉が、美希の喉に出かかったが、言うのをやめる。

 遠くへ羽ばたいてしまった赤い鳥の戦士をどうするか。
 今、蒼乃美希はその選択を強いられている。
 あの赤い鳥を探すか? ──少なくとも、この森の何処か、おそらくそう遠くない場所にあの鳥はいるだろう。チャンスは今だ。
 あるいは、無視して沖たちと合流する約束のために戻るか? ──単独行動は危険だし、その方が賢明な判断に違いない。

 完璧な判断。

 ──合理性を求めるなら、それは間違いなく後者だと思う。
 しかし、なんだろう……。この、いまいち踏み切れない感覚は。
 勇気を要するとするのなら、深い森へ行く方だろう。だから、なぜ帰ることを躊躇おうとしているのかが、美希自身もわからない。
 どちらも完璧からはほど遠い判断になってしまう気がするのだ。


「……っ!!」


 何も考えない。それが、美希の下した判断である。
 思考を放棄したわけではない。
 何も考えずに体が思うように突き進んだら、どこへ行くかを待ったのだ。
 そして、その結果────


(……何だかわからないけど、行かなきゃいけない気がするのよね)


 キュアベリーは森へ深く深く潜り込んでいった。


『────初めまして、参加者の皆さん。私の名はニードル』


 十分という時間は短かった。
 首輪から流れた音声に、キュアベリーは驚きもしない。一分前の段階で時計を確認して、覚悟していたからだ。
 無我夢中で赤い鳥を探していた、というわけではなかった。

 そして、同時にキュアベリーは耳を澄ます。
 この放送は首輪から発されるものだ。参加者全員に取り付けられているのだから、あの赤い鳥の首輪もまた音声を発するはず。
 全く同じ音声が流れているせいで、やや聞き取りにくいが、音の伝わる早さは距離によって違う。


『こ』『こ』『の』『の』『ゲ』『ゲ』『ー』『ー』『ム』『ム』『に』『に』


 確かに今、少しだけ音のずれた音声が聞こえた気がする。
 ニードルという男のどうでもいい前置きの部分であり、まだ死亡人数や禁止エリアに動揺する段階ではないからこそ、冷静にこの音を聞き取ることができた。
 ニードルの放送の内容を聞きながら、キュアベリーは周囲を見回し始めた。


『では、サラマンダー男爵の時と同じく、ここまでの死亡者を読み上げましょう』


 その言葉が聞こえた瞬間、キュアベリーは周囲を見回すのを、やめる。
 死亡者、という言葉がベリーの胸に刺さった。
 これを聞き逃すということは、死者への冒涜である気がしたのだ。
 ここで死んでしまった人間の名前を、せめて彼女の頭の中に刻んでおく。そのために、ベリーはここで死者の名前を聞き取っていかなければならない。

946You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:12:52 ID:wTMYZaFA0

 彼女の記憶力は高い。
 だが、初めて聞いた名前を完全に覚えきれるほどではない。名簿に死亡者名をマーキングするための準備などは、今回はしていなかった。
 そのため、この戦闘の後はすぐに街に戻り、沖たちと合流してそちらのマーキングをしなければならない。


『相羽シンヤ、井坂深紅郎、五代雄介──』


 聞き覚えのある名前から始まった放送。
 そうだ、あのテープレコーダーから聞こえた少年の声。その主。
 相羽シンヤ────相羽タカヤという参加者の弟である。
 彼は死んだ。
 それを知ったタカヤはどう思うのだろう。
 美希の中で、憤りという感情が生まれてくる。
 相羽ミユキもおそらくその関係者。残されたタカヤは、一体何を思うのだろう。


 東せつな、桃園ラブ、山吹祈里など、知り合いの名前はほとんど終わりごろに呼ばれる名前ばかりだ。
 もし、蒼乃美希の名前が呼ばれたなら、その名前はきっと、すぐに呼ばれるだろう。
 しかし、彼女たちの名前が呼ばれるとは思わなかったし、自分の名前が呼ばれることなど想像したくもない。こう思えるのは、弧門の「諦めるな」という言葉のお蔭だろうか。


『早乙女乱馬』


 すぐに、美希の知る名前が呼ばれ、美希の中で時が止まった。
 早乙女乱馬。
 その人は、警察署で出会った美希より少し年上の男性の名前だ。チャイナ服におさげ髪というファッションから、やたらと美希の中に残った。
 そして、美希はその死体を確かに、見た。


『志葉丈瑠、筋殻アクマロ、スバル────』


 ────その刹那。
 森の茂みが疾風によって、ざわめき、ベリーはそちらを見た。

 赤。

 そちらを見た瞬間、ベリーの視界には森の緑色には似つかわしくない、真っ赤な花が見えたのである。
 否、それは花などではなかった。
 超高速でこちらに接近する、真っ赤な戦士────これは先ほど見かけた、赤い鳥だ。
 どうやら、探していた相手は最悪のタイミングでこちらに来たらしい。


『ランスター、パンスト太郎』


 名前が次々と呼ばれる中、ベリーは赤い鳥が真っ直ぐに突き刺そうとしてきた剣を白羽どりの要領で掴んでいた。
 その間も、容赦なく死亡者の名前が呼ばれている。
 しかし、赤い鳥の攻撃に気を取られていたため、聞き取ることができない。


「……ちょっと! なんで今襲ってくるの……!?」


 赤い鳥の無骨なマスクは答えない。
 そのマスクの下には何があるのだろうか。
 男か、女か。それさえもわからない。
 知ってる人か、知らない人か。それさえもわからない。
 わかっているのは、この剣から伝わる殺意だけだった。


『東せつな、姫矢──』

「えっ!?」


 と、ベリーが驚いた瞬間に、赤い鳥は左足を上げ、ベリーの脇腹に強力な蹴りを叩き込んだ。
 ベリーの体がジェットコースターのような速さで木に激突する。
 だが、そんな痛みよりも、「東せつな」という名前の方がベリーの脳内で強く響いていた。
 ……東せつなの名前が呼ばれた。
 この放送は死者の名前を呼ぶ放送だ。
 つまり、せつなは死んだ。
 そんな三段論法で全てを理解するとともに、ベリーは全身の力を失う。

947You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:13:28 ID:wTMYZaFA0


『──山吹祈里……以上15名』


 更に無情なのは、そこに幼馴染の名前まで追加されたことだ。
 間の名前が聞き取れなかったため、もしかしたら桃園ラブも……と、ベリーは不安な気持ちになった。
 目のピントは、赤い鳥の方に合っていなかった。
 いや、意識そのものが戦いの最中にあることを忘れていたのだ。


(嘘……よね、そんなわけ……)


 傷ついた体ながらも、ベリーの体ははがれるように木の幹から落ちた。
 涙はこぼれない。
 百パーセント信じているわけではないからだろう。
 少なくとも、親友の死があるのなら、それを予期する出来事──たとえば、病気の発覚とか──があったり、自分の目の前で死んでいくものだと思っていた。
 しかし、こうして自分も知らないうちにどこかで仲間が死んでいる、というのは不思議だった。
 実感、というやつがないのだ。


「クッ……」


 真っ先に湧き出るのは、悲しみじゃない。
 怒りだ。
 祈里やせつなとの別れが来るのは、美貌の美希がしわくちゃのお婆さんになっている頃であると思っていたのに。
 こんなくだらないゲームに、ある日突然。何の前触れもなく招かれた。
 人が次々と死んでいった。
 それは、事故でも天災でもない。人の手に、そして明確な悪意によって起きた出来事だった。


「……!」


 ベリーはふと我に返る。
 何かの動きがあったとしても、まるで何も起きていないかのように感じてしまっていた視界が、ようやく機能した。
 何故、機能したのか。

 それは、フレームいっぱいに映った赤に、気づいたからである。────赤い鳥は、眼前まで迫っていたのだ。
 赤──それはキュアパッションを連想させる色だ。
 彼女が近くにいるような錯覚に陥るとともに、彼女ははっと気づいた。これはせつなではない、と。意識を取り戻したベリーは、咄嗟に左に避けたのだ。


『【エリア】、15時に【F−8】エリア』

「はぁっ!!」


 前に拳を突き出す掛け声を、はっきりと発していたかどうか不安だった。下手をすれば、放送の音声より聞こえが悪かったのではないだろうか。
 突発的に出た声さえも、大観衆の中で初めて漫才をやる時のような──不思議な抵抗感があった気がした。
 ふと、いつか実際にそんな事があったのを思い出す。
 目の前で赤い鳥が持つ剣が木へと突き刺さり、木をなぎ倒したのを見て、そんな懐かしい光景も消えた。

 あの細い剣は、ただ、斬ったり凪いだり刺したりする程度の道具ではないらしい。
 そう、この怪人自体の能力と相まって、敵を粉々に破壊してしまうのだ。相手が人間ならば、どこに突き刺しても体中の骨が砕けるほどの衝撃を受けるのではないかと思う。剣本体の耐久性も高いため、今も折れずに残っている。
 不思議な力に守られたプリキュアならば、並みの刃は通さない。
 しかし、この剣はわからない。

948You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:13:53 ID:wTMYZaFA0


『「青+黄色」の式が示す施設に』

(いけない……集中集中。そうよ……パインやパッションがそんなにやられるわけがないんだから……っ!!)


 ベリーはそんな赤い鳥の後ろ姿に向かって、まっすぐ駆けていく。
 その細く長い脚は、同年代のどんな女性よりも早く地面を掴んでいくだろう。それがプリキュアとなっているのだから、尚更地面を早く掴む。
 彼女が赤い鳥の後ろに立つのは、刹那、瞬の出来事であった。


 ドンッ


 ベリーの真っ直ぐ伸びた腕が、的確に赤い鳥の体を狙う。
 しかし、相手も戦闘においてはプロだった。素早く身体を翻し、ベリーの右腕を握りこむように掴む。
 ベリーの拳は、決して優しくない鳥の腕によって、めきめきと音をたてはじめた。
 折れる音ではない。折ろうとする力に必死で耐える音だ。


「……い、た……」


 三文字目が出ないほど、強い痛みに襲われる。
 プリキュアになってから、こんな事はなかった。どんな激しい戦いをしても、プリキュアとなった彼女を相手には、内臓や骨にダメージを与える事ができない。
 だのに、どうしてこんなにまで痛むのだろう。
 答えは簡単。これまで肉弾戦で戦ったどんな敵よりも力強いからだ。


「……ッッッ!!!」


 声は出さなかったが、ベリーはもう片方の手・左手で怪人の腕にパンチを叩き込んだ。
 大振りなパンチのため、大きなダメージを与えるには不適切だ。しかし、敵の右腕を麻痺させるにはちょうどいい。
 とりあえず、敵にダメージを与えるよりも、悲鳴をあげている右拳の救出が先決だ。
 もし、彼女にプリキュアとしての経験がなければ、敵の右腕を掴んで引きはがそうとしただろう。それは、きっとこの鳥には無効だったに違いない。

 しかし、こうしてベリーが敵の腕を力強く殴ったのは、……有効だった。
 ベリーの右拳は、敵の拳の力が一瞬緩んだ隙に、重力が自動的に解放してくれた。
 窮屈な世界から抜け出した彼女の右拳は、思いっきり開かれる。多少痛んだが、先ほどのように握りつぶされそうな状態と比較すると、随分解放感に溢れており、痛みがまた心地いいとさえ感じる。


「いたたたた……」


 やっと、ベリーは声を取り戻した感覚だった。
 痛みをこんなにも軽く表現できるのは、幸福だった。
 今の痛みは、本気だっだ。握りつぶされるのではないか、と本気で思ったのである。利き腕である右手の骨を、粉々に折ってくるのではないか……。
 それは、殺気と共に差し出された痛みだ。


(くっ……こんな時、みんながいてくれたら……)


 こんな強敵と戦う時、一人だった事があっただろうか。
 真っ先に立ち向かっていくピーチや、それに続くベリーとパインとパッションがいる。それがプリキュア・クローバーではないか。
 しかし、そんな考えは逆に自分自身の心を痛めつけてくる。
 まだ、祈里やせつなという仲間が死んだと報じられた事が、心の中で曖昧にしか映っていないが──それでも、不安は大きいのだ。
 美希の中での彼女たちの死は曖昧なものだが、ニードルの言葉ははっきりと口に出されたものだ。彼女たちの死を確信してから口に出したもの。誤報だったとしても、あの瞬間、ニードルは確かに躊躇いもなく、言葉を濁さず、彼女たちの死を伝えていたのである。
 だから、不安は大きくなる。
 信じたい気持ちこそが、今は曖昧だったのだ。


 放送で死んだ名前が正真正銘の事実である可能性。
 これは高い。
 まず、アインハルトや沖やいつきが言っていた名前は、実際に放送で呼ばれた名前そのものだったし、えりかもここでは会っていない。
 実際に死体を見た乱馬の名前も確かに呼ばれた。
 そのうえ、首輪によって全く別の放送を流すという手段を使うとしても、目の前の赤い鳥の怪人の首輪から流れた音声とほぼ同一である時点で、その可能性は低い。
 もし、主催側が知り合いの死を伝えることで精神的動揺を誘おうとしているのなら、第一回放送で呼ばれる名前はこうなるはずだ。

『来海えりか、月影ゆり、花咲つぼみ、東せつな、明堂院いつき、桃園ラブ、山吹祈里』

 ここまで死んだ人間にも会っていないのもベリーが放送の内容の信憑性を確かに感じている理由である。

 それを思うと同時に、首輪からの音声が途絶える。


『────今回の放送は終了です。……みなさん、ごきげんよう』

949You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:14:24 ID:wTMYZaFA0


 話を戻そう。

 美希が聞き間違いをしていた可能性。
 これは低い。
 もし、「東せりな」とか、「山吹みのり」とか、そんな名前の参加者がいるのなら、可能性はゼロではないが、そんな参加者はいない。東せつな、山吹祈里。どちらも、似通った名前が全くないのである。
 それに、あれだけはっきり聞こえた音声を無視することはできない。今、すべての放送が終了したばかりだ。放送自体は割とはっきりと伝わるような音声である。
 祈里やせつなは、ずっと一緒に遊び、一緒に踊り、一緒に戦ってきた仲だし、その名前が聞こえたら、聞き逃さないだろう。


 つまり、どれだけ信じたくても、美希はこの真実からは、逃れられない。
 考える事を完全に捨てられるのなら幸せだっただろう。
 たとえ、考えたくなくても、人間は不思議なもので、考えるのをやめる事が絶対にできない。特に、美希のように几帳面なタイプはそうだ。


 結局、自分でついている嘘を信じ込む……なんて事が、彼女にはできなかった。


「……ック…………」


 何故か、今頃になって涙が流れているのを感じる。
 テレビの女優のように、涙がツーと頬を伝うわけではない。
 鼻の奥がツンとして、鼻の中が柔らかくなって。顔中が、意思とは無関係に自分を歪めようとしてきた。
 こんな感覚はいつ以来だろうか。
 永遠のお別れなのだ。それも、もっと続くと信じていた日常がある日突然、凄惨な現実とともに降り注いだ。
 卒業式や、離婚──美希が経験してきた何かの形でのお別れ。そんなの、まだずっとマシな話かもしれない。
 ラブとも祈里とも和希とも、また会えた。
 そう、死んだ人間は蘇らない。
 せつながラビリンスのイースから、キュアパッションへと変わった時は、死んだ人間が蘇る瞬間を見たけど……それは、きっとあの時限りの奇跡だった。


 そうだ。奇跡や、魔法。そんなものがあるのだろうか。


「うわああああああああああああああ!!!!!」


 ────無いから、キュアベリーはこんな風に、赤子のように泣いているのだ。


 ただ、周りが何も見えなくなるほど泣く事でしか、思考を放棄できない。
 思考を放棄したかったのは、辛い事から逃れるためだった。
 しかし、今たしかに辛いと感じているのだから、全てが無意味だった。
 意味もなく、ただ自動的に感情が溢れて泣いてしまう。
 それが今の美希の姿だった。


「……」


 意識ある者ならば、突然泣き出したキュアベリーを不気味がったかもしれない。
 だが、意識を捨て去ってしまった赤い鳥────無骨で、もはや感情のようなものが無いようにさえ見えるこの鳥は、それを好機と見た。
 頭がろくに働かない相手は、物と同じ。
 物を破壊するのは、人を殺すよりずっと楽だ。
 それと、同感覚で鳥はキュアベリーに刃を向け駆けだした。


「うわああああああああああああああああああ!!!!!!」


 誰に響いてもいい。
 誰に聞かれてもいい。
 それくらいの大声で、キュアベリーは泣いていた。
 赤い鳥は、そんなキュアベリーの無防備な腹を、剣を野球のバッドのように振りかぶって吹き飛ばす。
 キュアベリーの華奢な体が、地面を削りながら滑っていく。
 摩擦や、地面の凹凸がキュアベリーの体を傷つける。
 砂埃が、自動的にベリーの口の中に入り、ベリーはむせた。しょっぱい味と、土のしゃりしゃりとした食感が、口の中で入り混じる。最悪の味だ。
 だが、味覚よりも視覚が映す光景に、ベリーは心を奪われた。

950You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:14:52 ID:wTMYZaFA0


 キュアベリーの真上に、空が広がっている。
 太陽。
 眩しい。
 これだけ眩しいのだから、涙を早く蒸発させてほしいのだが、光は瞳孔に刺激を与える。涙のせいで、光が目を沁みさせる。それで、余計に涙が流れる。
 こんな晴れた日に、みんなで集まったり、遊んだり、旅行に出かけたり、した事があった。文化祭とか、ダンス合宿とか、ダンス大会とか、いろいろあった。
 ベタな話だが、それが全部フラッシュバックした。
 祈里の父親、祈里の母親、せつなの友人である隼人、瞬、幼い頃の祈里とか、ラブとか……彼女たちに関係のある人物の顔も浮かんでくる。
 全部、笑顔だ。
 祈里がいた事で、両親は笑顔になってる。祈里が大事なのだ。こんな所で死んでるなんて、絶対に知らない。
 隼人や瞬もそうだ。一緒にラビリンスを復興させるために、せつなを待ってる。前にせつなの寿命が尽きた時のような淡泊な反応は、きっともうしないだろう。
 ラブ。彼女も生きているかわからないが、祈里やせつなが死んだら、きっと今の美希以上に悲しむんじゃないだろうか。
 しかし、これ以上の悲しみなんて、きっと生涯味わう事ないからわからないだろう。


 ……今見ている思い出を見て、思う。
 なんで、あの日、雨じゃなかったのだろう。空は黒くなかったのだろう。
 あの日が雨だったら、思い出は作られなかった。
 あの日の空が真っ暗だったら、遊びに行くこともない。
 笑顔でいられた記憶が、こんなに重々しく圧し掛かってくる事もない。
 ラブが、祈里が、せつなが、元々いなかったら……。
 地球もラビリンスのように幸せのない世界だったら……。


 ずっと、あの楽しい時間が続いていくはずだから、一緒にいる間はそんな風に思った事が無かったのに……。


「……」


 そんなベリーの視界に影が落ちる。
 赤い鳥が歩いてきたのだ。もはや、戦意喪失しているベリーを前に、駆けてくる事さえなかった。
 剣を握り、寝ころぶベリーの左隣に立つ。これも、ベリーが相手ならば、相手の動きを封じずとも殺せると思ったからだろう。普通なら、足と足の間にベリーを挟み込むように立つと思う。
 しかし、どうしてだろうか、剣の刃の切っ先が、まったく怖く見えなかった。
 祈里やせつなも体感したものが、すぐ先にある。
 親しい人が二人も死んで、死というものが身近に思えてきたのだろうか。
 それとも、それが最も簡単な悲しみからの逃避方法だからだろうか。


 いや、ただ単純にもうどうでもよくなっているだけなのかもしれない。
 これが、自分をどう痛めつけようが、もはや関心がないだけなのかもしれない……


『駄目!』


 真っ直ぐに振り下ろされた刀は、ベリーの首元を狙っている。
 ギロチンのように、刀を首に落とそうとしたのだ。
 だが、それは、生身の肉体を切り裂くことなく、柔らかい地面に落ちていった。
 ベリーが右に寝ころんで避けていた。
 ベリーの意思や、想いとは全く無関係に、ベリーの体は敵の攻撃を避けていたのだ。
 ベリー自身が、無意識にそれを望んだのだろうか。言われてみれば、そうかもしれない。その可能性は大いにありうる。否定はできない。
 しかし、何だろうか。
 直前に聞こえた声や、今ベリーの肌が感じた温もりは。
 ベリーは思わず立ち上がった。そこには、赤い鳥以外に誰もいないのである。


「……ブッ、キー?」


 何かに反応して突然泣き止んだ赤子のように、ベリーの声は不思議な平静を取り戻していた。
 いまの声、確かに山吹祈里の声だったように思う。
 プリキュアに変身しているにも関わらず、ベリーは彼女を慣れ親しんだあだ名で呼んだのだが、本人でさえその事には気づいていない。


「何処にいるの、ブッキー!?」


 ベリーは、思わずそう叫ぶ。
 赤い鳥の事などお構いなしだ。それは、彼女が完全に我を忘れてしまっているという事だった。

951You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:15:31 ID:wTMYZaFA0


「……」


 鳥は、またも機械的に彼女の姿を捉え、破壊しようとした。
 右上から左下へ、斬りやすいように斜めにそれを振り下ろす。


『前を見て!』


 はっとしたベリーは、前方のそれを避ける。
 今の声は、東せつなだ。
 彼女が、何処かからアドバイスを送ったのだ。
 しかし、脳内に直接響いたかのようなその声が、どこからのアドバイスなのか、特定できなかった。
 周囲を見回しても、人の姿はない。



『────────』



 だが、その瞬間に誰かがまた、キュアベリーの耳に耳打ちをした。
 その言葉で、急にジェットコースターが落ちていくような、不思議な感覚を感じる。
 はっとする。
 ベリーは目を見開く。
 それと同時に、涙が目から伝っていくが、目は乾いている気がした。


(────そうか……!)


 キュアベリーの胸の中に、また奇妙な感情が湧きあがった。
 落ち着いて、息を吸い、それを深く吐いた。
 そうすると、まだ、少し咽そうになる。泣きっ面に土……だから仕方がない。
 しかし、心はだんだんと落ち着いてくるようになった。


(そうよね、……なんで、今までわからなかったんだろう……あたしって、ほんとバカ)


 そういえば、こんな風に誰かを説得した覚えがある。
 それも、ごく最近の話だ。
 セリフが最初に思い浮かぶ。


『その人達は、あなたを守ろうと頑張ったはずでしょ! でも、あなたが簡単に命を捨てたら、その人達の思いはどうなるの!? 何にもならないわ!』


 その台詞は少女の顔が思い浮かぶ。
 アインハルト──彼女も親しい人を亡くして、傷つき、死ぬ事を考えていた。
 美希は、自分で諭しておきながら彼女と同じになっていたのだ。
 ベリーは思わず、自分の「完璧」とはほど遠い心情に、思わず苦笑する。


 そうだ、人は完璧じゃない。
 だから、自分で言った事を守れない事だってある。
 他人の傷口をえぐりながらも、自分には全く同じ傷口がある事もある。
 他人の傷口を撫でながらも、自分にはもっと深い傷口がある時もある。
 不完全なのが人間なのだ。どこか不出来なのが人間なのだ。


 ……しかし、完璧になるための努力は絶対に怠ってはいけない。
 反省すればいい。改善すればいい。完璧に近づくために頑張ればいいのだ。


「私、やらなきゃ……!」


 キリッと、ベリーは眉を整え、レーダーが敵を補足して睨みつけるように、目を細めた。
 前に見えるのは、先ほどから同じ。赤い鳥だ。
 しかし、見えてはいなかった。
 他の事がずっと気になって、倒すべき敵の事など、まったく見ていなかったのだ。
 こいつは無差別に敵を襲う。実際、キュアベリーも同じようにして襲われた。
 どんな事情があるかも知れない。
 けれど、放っておいてはいけない。
 このまま負けて、やられて、こいつが他の人たちを傷つけるような事があってはならないはずだ。
 赤い鳥の心を、浄化する。
 それが、キュアベリーの果たすべき使命なのだ。


「……さあ、来なさい。あなたの名前は聞かないわ」

「……」

「けど、あなたの心に完璧に私を残しておくために、私の名前を教えてあげる!」


 先ほど、誰かがそっと教えてくれた事を、キュアベリーは頭に焼き付ける。
 そう、────だから、落ち込んで自暴自棄になる事なんて、無くていいのだ。
 今やるべき事をやる。
 今しかできない宿題を、頑張らなくちゃいけない。
 そのために────


「ブルーのハートは希望のしるし!」


 青い空の下で、キュアベリーがハートを作る。
 希望。
 その名前が意味するものを、危うくキュアベリー本人が捨ててしまうところだった。
 今まで名乗ってきた、五十回以上に及ぶこの言葉を、ベリーは自分で否定してしまうところだった。


「つみたてフレッシュ! キュアパッション!」


 キュアベリーは、敵にこの名前を刻ませるために、再び赤い鳥を睨みつけた。
 右足が、左足が、前へ前へと勝手に動く。

952You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:15:52 ID:wTMYZaFA0


「はぁぁぁぁっっっ!!」


 鳥の前で高く飛び上がったベリーは、そのまま垂直に落下し、敵に熱いキックを放った。
 更に、まるで敵を踏み台にしたアクトバット技のように、そこからぐるりと背面飛びをして、大地に再び立つ。
 その足は、再び動くと、敵の顔面めがけてキックを放った。
 軟体と長い脚。その両方があって、初めて実現される技だ。


「……」


 AIのように無口だが、赤い鳥はその攻撃にひるんでいるようだった。
 しかし、次の瞬間その右足を両手で掴んだ赤い鳥は、その足を掴んだままジャイアントスイングのようにぐるぐると回転し始めた。
 そして、ベリーの足がその手から放たれ、ベリーは体ごと吹っ飛ぶ。


「はぁぁっ!!」


 だが、ベリーも体勢を立て直し、近くの木を踏み台にして、人間大砲のように赤い鳥へと突っ込んでいく。
 木を蹴ることで勢いをつけたベリーは、そのまま前へ拳を突き出した。
 赤い鳥は当然のようにそれを避けた。
 しかし、これもまたベリーの狙いである。


「はぁっ!!」


 グーにしていた拳を開くと、ベリーはそのまま赤い鳥が元いた地面に手をついた。
 足はつかない。
 滞空している足が、そのまま赤い鳥を蹴り飛ばしたのだ。
 今のベリーは、まるで逆立ちしているような状態だった。手が足、足が手。
 クローバーとして特訓したダンスの演目にはないが、ブレイクダンスのようなものだった。プリキュアとして高まった身体能力やバランス感覚が成す技だ。
 本来、キック技を得意とするベリーは、わざと敵の回避を狙ったのである。
 赤い鳥も、その瞬間だけは思わず、「ぐっ!」と声をあげて吹き飛んだ。その声ははっきりとは聞こえなかったし、中性的な声で、仮に聞こえたとしてもベリーの耳はその正体を知る事が出来なかっただろう。


「ラブ、祈里、せつな……私に力を貸して!!」


 その声は、仲間にすがるような意味ではなかった。
 この強敵を倒すために、ベリーだけでは引き出せないほどの力が要る。
 それを引き出したいのだ。
 キュアベリーの心の中にいる仲間たちが、何をしてくれるのか。


「響け、希望のリズム! キュアスティック!」


 そう言って、ベリーソードを構える。
 ベリーソード。これは、キュアベリーの専用武器であるキュアスティックだ。
 それを、赤い鳥の更に向こう側へと放り投げながら、キュアベリーは迫っていく。


「……受けてみなさいっ!」


 反射的に、鳥はキュアソードの方に目を向けた。
 ……しかし、何もない。
 再びキュアベリーの方に目をやると、その顔面にまたも強力なキックが繰り出された。
 長い脚が、かなりの回転とともに赤い鳥の顔面にキックを叩き込む。
 痛くないはずがない。


「ベリーソードは囮よ!!」


 倒れた赤い鳥に向かって、キュアソードはそう声をかけた。
 ベリーソードを投げた事────その行動には、何の必殺技的な意味もない。
 ただ、敵の注意を引くためにベリーソードを投げ、こちらを向いた瞬間に蹴りを入れて怯ませる。ただそれだけの、ごく単純な作戦だ。
 しかし、単純でもいい。
 作戦が思い浮かぶだけの思考回路が取り戻せた事が、大きな戦果なのだ。

953You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:16:29 ID:wTMYZaFA0


 上空で、放り投げたキュアソードをキャッチして、キュアベリーはまた赤い鳥の方に向きなおす。
 赤い鳥は、ちょうど起き上がろうとしているところだった。剣を杖代わりに使い、よろよろとしている。


 今更ながら、ベリーはそう言ってキュアスティックを構える。
 そして、いつもの向上を敵に向けて叫んだ。


「悪いの悪いの飛んでいけ! プリキュア・エスポワールシャワー! フレーッシュ!」


 スペードを象ったマークをなぞり、そこから青色の光線が放たれる。弾丸よりもずっと疾く、弾丸よりもずっと優しい光が真っ直ぐに赤い鳥へと向かっていく。
 その光線は、空中で爆ぜる事などなく、赤い鳥の姿を包み込んだ。赤い鳥には避ける間すらなかったのだ。
 だが、これは攻撃のための技ではない。
 言ってみれば、敵を浄化するための、心の剣。
 もし何かに支配されて悪い事をしているのならば、その支配から救い出してあげる力だ。
 赤い鳥はそれから数秒間、光に包まれたままの状態だった。


 光輝く赤い鳥を前に、キュアベリーはたそがれる。


(ありがとう……ブッキー、せつな……)


 あの時、蒼乃美希に声をかけたのは、紛れもない彼女たちだ。
 山吹祈里、東せつな。その二人だから、助けれくれた。
 本来、会えるのならずっと会いたい存在だが、長い言葉など彼女たちには不要だった。


(あなたたちは、私の心の中にいる……)


 それに、あれは祈里やせつな本人でもなければ、祈里やせつなの霊なんてものでもない。
 言ってみれば、美希が思い描いた祈里やせつなの姿。
 懐かしい思い出から抜け出した、美希の中に残っている二人の記憶だった。


(私は、ブッキーやせつなが、あんな時私にどう声をかけるか、知ってた。……自分でも無意識のうちに、私は二人の声を……)


 それは、現実に魂を持っている祈里でもせつなでもない。
 美希自身が、自分を守ろうとして作り出した優しい幻覚であり、あまりにも精巧に彼女たちを象った「想像」であった。
 しかし、そう言って切り捨ててしまうにはあまりにも勿体ない存在だ。
 彼女たちが実際にそこにいたら、……幽霊として出てくることができたなら、きっと全く同じ言葉をかけてくれるからだ。


(私たちはお互いの事を完璧に知り合ってる。だから、たとえ誰かがいなくなったとしても、いなくなった子が思う事が、手に取るようにわかるのよ)


 人と人とは完全には理解し合えないかもしれない。
 しかし、友達が困っていれば美希はそれがわかる。その友達が、もし困っている人を見かけたら、どう声をかけるのかもわかる。
 困っている自分に、友達がどう声をかけてくれるのかも、わかる。


(私たち、プリキュアクローバーは誰も欠ける事はない! たとえ一人になっても、心は通じ合っているから……)


 祈里やせつながもういない事には変わりはないかもしれない。
 それでも、美希は祈里やせつなの死を怒っても、もう悲しむ事はないと思う。


(私たちは、世界で一番の完璧な友達だから)


 祈里やせつなが何と呟いて彼女を立ち直らせたのかは聞くだけ野暮だろう。
 プリキュアの使命を説いたのか、変わらぬ友情を説いたのか、生きる事の大切さを説いたのか、それははっきりとはわからない。
 しかし、本当に親友が声をかけてくれたのかというほどの説得力が、美希の中にはあった。


(ブッキーたちが残した、優しさや強さ、青い空の下の思い出は、今も私の胸にある。それが消えない限り、彼女たちは消えない)


 とにかく、蒼乃美希は、それを知ったのだ。
 空が青くて良かった。あの時、心に残る思い出を作っておいて良かった。
 それが美希の胸の中にある限り、二人の存在は永遠に消えない。
 だから、美希もこのままこの殺し合いで死ぬわけにはいかないのだ。

954You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:17:44 ID:wTMYZaFA0


「……っ、く…………ここは……」


 ベリーが、その声を聞いて赤い鳥の方に意識を向ける。ベリーの視覚は見覚えのある女性の姿を捉えた。
 そう、あのショートヘアはどこかで見たことがある。顔、体つき、声……それは赤い鳥のものではなく、美希が知っている人間のものだ。


「あかね、さん……?」


 天道あかね。
 美希より年上の、ショートヘアの少女である。服装が前に見た時とは違い、中華風の胴着を身に着けた格好に変わっている。
 早乙女乱馬の前で怒りを爆発させ、天井を破壊するほどの腕力を見せた感情的な彼女と、先ほどまでの機械的で無感情な赤い鳥は、まるで別人のようだった。
 しかし、不思議と驚きはなかった。
 そう、美希は彼女を見たとき、何かを感じたのだ。もしかしたら──と心のどこかで思っていたのだろう。
 あかねがこちらに気づき、訝しげな目で美希を睨みつけていた。


「あなたは……?」

「キュアベリー、蒼乃美希です。警察署で会いましたよね?」

「……」


 あかねは、何かを思い出そうとしているようだった。
 本当はプリキュアの正体はあまり教えてはならないのだが、状況的に仕方がないし、この場ではもう多くの人にその正体が発覚してしまっている。


「……そうか、あの子か……」


 あかねが、美希の事を思い出したように、そう呟いた。
 自分の傍らに落ちているガイアメモリをチラリと見てから、キュアベリーの姿をまた見た。


 キュアベリーは、あかねに対する警戒など無かった。
 かなり高い確率で、彼女は何かに操られていたのだろうと思っていたのである。
 プリキュア・エスポワールシャワー・フレッシュによって浄化されたとき、彼女の姿が元に戻ったのが主な理由だ。
 そう、たとえばハートキャッチプリキュア──キュアブロッサムたちが戦った砂漠の使徒などは、人の心を利用して怪物を生み出す。
 それと同様の原理であの赤い鳥は生まれたのではないか、と思ったのである。
 では、そうした場合、彼女を操るに至った心の弱さとは何だったのか。


 早乙女乱馬。


 その死に違いない。
 美希はずっと乱馬やあかねと行動していたわけではないが、二人が旧知の仲であり、かなり親しい仲なのは二人のやり取りを見てよくわかった。
 恋人、と断定していいだろう。現実に、美希はそういう関係なのだと思っていた。
 もしそうなら、あかねはきっと、乱馬の死に相当のショックを受けただろう。
 そう、例えるのなら先ほどまでの美希のように。


 ……そうだ。
 赤い鳥がキュアベリーを襲撃した時も、あの名前があった。
 あの時、あの意思なき赤い鳥は、なぜか立ち止まって放送を聞いていた。それは、その名前が呼ばれるのを確認するためなのではないだろうか。
 呼ばれないことを期待したのか、それともただその名前が呼ばれる瞬間を期待したのかは、わからないが。
 そして、乱馬の名前が呼ばれた瞬間に、放送を聞くことさえ忘れて、キュアベリーに襲いかかってきた。


「あの、」


 あかねは何も言わないが、美希は言葉を何かに遮られた気がした。
 美希は、彼女にどう声をかければ良いのかわからなかった。
 親しい人を喪い、その後暴走して人を襲撃した……その事をどう切り出せばいいのだろうか。
 美希も、先ほどのように親友の死を聞いた直後に、誰かに話しかけられたらデリカシーが無い人間だと感じるだろう。
 ただ、美希は押し黙った。
 あかねが何かを言うのを待った。自分からは、何も言えなかった。

955You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:18:04 ID:wTMYZaFA0


「……」


 あかねは、美希が何も言ってこないのを確認した。彼女が近づいてくる事もない。
 それで、先ほどから考えていた行動を実行した。
 あかねは、少し間を置いた後に、“何か”(無論ガイアメモリだが、ベリーには見えない)を拾い上げると、そのまま一目散に走り出した。

 何か彼女に危害を加えるわけではない。ただ、逃げるだけなのだ。

 はっとしたベリーが、あかねを追いかけ、すぐに追いつき、彼女の手を掴んだ。
 しかし、その手は必死でベリーを振りほどこうとする。乱暴に振り回すが、ベリーの手はすぐには離れない。
 ベリーは、大きな声で言った。


「ちょっと待ってください、そっちは禁止エリアです!」


 そう言ったベリーも、そういえば第二回放送での禁止エリアを聞き逃したことに気づく。
 そうだ、あと一時間くらいしかない。
 幸い、まだ放送が終わってから十分程度。
 残り五十分のうちに、他の人から死亡者と禁止エリアを聞かなければ……


 ……と思っている隙に、あかねの手はキュアベリーの手を振りほどいた。
 それは人間の力ではなかった。伝説の胴着によって強化された力は、プリキュアに匹敵するレベルである。
 意識を集中していれば握り続けることができただろうが、思わず注意が反れたのだ。


「あっ!」


 と声を出したときにはもう遅い。
 また、あかねは走り去ってしまった。そして、今度はすぐに視界から消えて行ってしまう。高く跳ね、人の身の丈の何倍もある一歩を踏みながら。
 人間の速さでは、なかった。
 キュアベリーは、禁止エリアの事を考えてしまい、あかねを逃してしまった事を後悔する。
 もっと、他に考えてあげるべき事があったのではないだろうか。
 ぐっ、と拳に力を込めてから、キュアベリーは彼女の姿のあった方を見た。
 そこにはもう、何もなかった。


(仕方がないわ……1時になる前に、沖さんかいつきと合流しないと)


 もしかしたら、追っている間に自分のいるエリアが禁止エリアになってしまうかもしれない。そうなれば、美希は当然、死んでしまうのだ。
 勿論、そうなっていいはずがない。
 美希は、みんなのために生きなければならない。
 キュアベリーは躊躇いつつも、街へ向かって走り出した。街に向かうまで、何度も振り向いた。



【1日目/日中】
【H-7/森】

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、キュアベリーに変身中、祈里やせつなの死に怒り
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:市街地あるいは警察署に戻り、放送の内容を誰かに聞く。
1:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。
2:プリキュアのみんな(特にラブが) やアインハルトが心配。
3:相羽タカヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。



★ ★ ★ ★ ★

956You make me happy ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:18:21 ID:wTMYZaFA0



 天道あかねは右手に握ったガイアメモリを見る。
 ナスカメモリ。
 これがこの手にあるということは、まだ戦える……という事なのだ。乱馬を守る、ただそのために戦えるのである。
 しかし、どういうわけか、これを使う前と同じく、これに対する嫌悪感さえあった。
 つい先ほどまでは、使わなければいられないほどだった。
 ガイアメモリは、ドラッグのような中毒性を持っていたのである。


「────っく」


 あかねは、泣いていた。
 何が今、起きているのかわからない。
 どうして、他人を傷つけるような行動を繰り返してしまったのか。
 彼女がそんな風になったのは、このメモリを使った瞬間だった。


 乱馬が死んだ。
 だから、優勝し、メモリを使って戦おうと思った。
 ここまでは、確かにわかる。
 それ以降のあかねの行動は、あかね自身が知っているあかねではなかったのだ。


 本来、ガイアメモリの毒素が注入された彼女は、自分の凶行が間違った行いである事に気づく由もなかったはずである。
 しかし、どういうわけか今はあれが間違った行いだったのではないか、という強い反省さえも出てくる。
 それはおそらく、────あかねはまったくその事を知らないが、プリキュアによる浄化技を受け、これまでに注入されていった毒素が消滅したから、だろう。


「ック……乱馬ぁ」


 確か、このメモリを使った時、あかねは全てを乱馬のせいにした。
 このまま乱馬のせいにして戦い続ければ、もしかすればあかねは完全にあかねではなくなるかもしれない。
 現に、ある一定期間の記憶があかねにはないのだ。
 意識を完全に失い、それでも人を襲い続けていた事になる。
 もしかすれば、それは少しの間だったかもしれないし、太陽が一周し、一日が終わるほどの長い時間だったかもしれない。
 パンスト太郎に響良牙──彼らは生きているのだろうか。


 とにかく、あかねは再びメモリをどうするか悩んでいた。
 悩みながら、どうすればいいのかわからず泣いていた。
 キュアベリーの手から放たれ、逃げて、そのあと森で座り込んで泣いていた。


 このメモリがなければ、戦いを勝ち抜く事は出来ないかもしれない。
 しかし、メモリを使い続ければあかねは完全にあかねとしての意思をなくし、乱馬の事さえも忘れて、彼を守れなくなってしまうかもしれない。


 毒素は消えたが、あかねの心にある乱馬を想う心は消えないままだ。
 言ってみれば、これは不完全な心の浄化だった。
 それは、むしろ、一人の少女に毒をもたらしてしまったのかも、しれない……。



【1日目/日中】
【H-7/森】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、とても強い後悔、とても強い悲しみ、毒素は一時浄化、伝説の道着装着中
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:”乱馬たちを守る”ためにゲームに優勝する
0:再びメモリを使うかどうか決める
1:良牙君……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前で、少なくともパンスト太郎とは出会っています。
※伝説の道着を着た上でドーパントに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。

957 ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 19:20:23 ID:wTMYZaFA0
以上、投下終了です。

958名無しさん:2013/02/15(金) 20:46:06 ID:eAswNQNM0
投下乙です。
おお、あかねは何とか元に戻ってくれたか! でも、女一人だからどうなるか不安だ……
mktnもどうにか立ち直ってくれたけど、まだまだどうなるかわからないな……ブッキーとせっちゃんも死んだし。

それと指摘ですが
>「つみたてフレッシュ! キュアパッション!」
ここはベリーでは?

959 ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 21:09:32 ID:wTMYZaFA0
>>958
やらかしてました、すみませんorz
かなり大事なシーンなのに名前間違えちゃうとか、読み手さんおよびmktnに申し訳ないことをしました
これは書き手として詰みたてフレッシュです…

もちろん、「つみたてフレッシュ!キュアベリー!」が正しい台詞です

しゅわしゅわー…

960 ◆gry038wOvE:2013/02/15(金) 21:21:48 ID:wTMYZaFA0
あ、ごめんなさい…
確認してみたらもう一点誤字がありました…
えっと…>>952のベリーソードとキュアベリーに関する記述が一部、キュアソードになって文章がトンデモないことになってました
キュアソードは少なくともこのロワには登場しませんし、放り投げられたり赤い鳥と会話したりしません…

これ本当にすみません…
タイガーマスクの一件もあるし、また過去にさかのぼって全部誤字を直したほうがいいかもしれない…

961名無しさん:2013/02/15(金) 22:50:57 ID:Y0ZsAAjA0
投下乙です

確かにあかねは戻れたがここからどうなるんだろう…
乱馬の生き返りの為に優勝狙いは未だに変えてはいない、いないが…

962名無しさん:2013/02/16(土) 01:46:27 ID:.YOonixgO
投下乙です。暴走こそ一時的に収まったけど目的も手段も見失ってるままじゃ未来はないぞ…

963名無しさん:2013/02/16(土) 13:54:38 ID:QsnJxNG6O
投下乙です。

みんなとの思い出により、希望を取り戻した美希。
一方あかねは、ガイアメモリの危険性には気付いたけど……

964 ◆gry038wOvE:2013/02/16(土) 21:03:43 ID:g8PC7kBY0
すみません、もう一か所だけありました
あかねの現在位置ですが、【H-7/森】になってますが、【H-6/森】の間違いです
重ね重ね申し訳ありません

965 ◆gry038wOvE:2013/02/20(水) 00:27:38 ID:w./UHv520
ただいまより、投下を開始します。

966ポイ捨てはやめましょう ◆gry038wOvE:2013/02/20(水) 00:28:48 ID:w./UHv520



 溝呂木眞也はあの戦いの後、E-4の山のふもとあたりで休んでいた。
 疲労はないので、特に休む必要はないのだが、ただ歩いているだけなのは退屈だった。
 この後は戦いに巻き込まれることもなく、参加者に出会うことさえ一切ない。
 これは殺し合いゲームだ。
 恐怖、怒り、悲しみ──人間の負の感情が全て詰まった殺し合いの遊戯。溝呂木の前に落とされた、楽しむべき時間だった。
 彼の嗜好に合い、彼の心を満たす。
 姫矢准がいる、西条凪がいる、孤門一輝がいる。このゲームには、元々溝呂木が関っていたあらゆる人間がいたし、元の世界に帰ろうなどという考えは全く浮かばなかった。


 そして、今、彼は「戦利品」ともいえる支給品たちを確認している。
 何か使えるものがあるかもしれない。そのための支給品だ。もしかすれば、ガイアメモリのように便利な道具もあるかもしれないのである。
 デイパックのチャックから漏れた支給品を、一つ一つ取り出し、ペットボトルや食料以外のものを確認する。



 最初に出てきたのは、白い帽子だった。
 鳴海壮吉という男が被っていた帽子であり、彼は弟子である左翔太郎に「帽子の似合う男になれ」と言い続けた。
 仮面ライダースカルへと変身してからもこの帽子を被って戦うのが、鳴海壮吉という男だった。スカルの姿は、帽子無しでは物足りないだろう。
 本郷猛の支給品だが、彼はこれを被ることもなく、バッグに戻したらしい。渋い顔なのでたぶん似合うが、本郷はそれには興味がなかった。
 溝呂木もまた、これを不要物と考えて放り投げる。
 木にぶつかり、コツン、と音を立てて落ちた。


「チッ……」



 デイパックの中から、珍妙なピンクのカツラが出てくる。
 それを見た溝呂木は、あまりのくだらなさに思わず舌打ちをした。


 軽快痛快ペット君二世────要するに、動物用のカツラ。


 これも本郷猛の支給品である。無論だが、本郷はこれを被ることがなかった。
 無数の支給品の中で、また異質な道具だった。ペットたちには気持ちの良い道具なようだが、そもそも、この場にはペットがいない。
 本来なら、ソレワターセと化して大暴れ(?)した過去を持つのだが、ソレワターセ無しではただのカツラでしかないだろう。
 溝呂木は軽快痛快ペット君二世を帽子の上に投げ捨てる。

967ポイ捨てはやめましょう ◆gry038wOvE:2013/02/20(水) 00:29:09 ID:w./UHv520


「この支給品もダメだな……次」


 次を取ろうとして、溝呂木が握ったのは……

 黒い革の手袋だ。


(このままいけば、体中の着衣が揃うんじゃないか?)


 などと思いつつも、溝呂木はその手袋を、気に入ったようにそれを腕に通した。黒という色が気に入ったのもあるが、これは電気を通さない特殊仕様なのである。
 つまり、放電するものを触ることができる……という、いつ使うかわからない利点がある。とはいえ、まあ面白いのでつけてみた。
 これは本来は、城茂という男が着けていた手袋だ。
 電気人間である彼は、他人と接触するときにこれを通してしか握手ができないのだ。ちなみに、これは鹿目まどかの支給品である。
 とりあえず、溝呂木はそれは捨てずに着用することにした。


(ゲーム性を重視したせいで、支給品は多種多様というわけか)


 面白い、と素直に喜べない。
 これが支給された人間の表情を見るならともかく、溝呂木自身がそうなっては、なんだか不愉快だった。
 まあいい。これだけの支給品があるのだから、何か武器になるものもあるだろう……そう思いながら、溝呂木は次の支給品を取り出す。


「……なるほど、着衣シリーズは終了のようだな」


 溝呂木の手には、ウサギの人形が乗せられている。
 溝呂木にはあまりにも不釣り合いなファンシーな姿だった。
 ウサピョン。
 そう名付けられたぬいぐるみは、八百万の神の例外に漏れず、意思を持っていたが、今回は特に自立行動できるわけでもなく、会話できるわけでもないので、溝呂木に伝えるべき言葉は何もなかった。
 それに、この人形は今、人間で言うなら「眠っている」状態で、意思自体が存在しない。
 無論、説明書に目を通す暇もなく破棄だ。これはティアナ・ランスターの支給品である。
 黒い手袋を装着したままの溝呂木は、それも帽子の上に投げ捨てた。


 それからも、溝呂木の支給品との格闘は続く。
 池波流ノ介の支給品、特殊警棒。これは別名をトライアクセラーと言い、バイクの起動キーにも警棒にもなりうる武器だ。そのバイク、トライチェイサーがあるかはわからない。
 一応、これは手持ちに入れる。


 同じく池波流ノ介の支給品、タロットカード。東せつなが使っていたタロットカードだ。占いの知識が無い者にはわからない。
 ……が、占い、という言葉には不思議な親近感を覚えた。
 未来を視る……そんな事象を占いと言う。
 溝呂木は、それをデイパックに入れる。死神のカードも好みだったのだろう。その不気味な感じが、溝呂木には気に入ったらしい。


 井坂深紅郎の支給品は、ポリポットに入れられたユリの花だ。
 城茂が岬ユリ子の墓に捧げた花であり、花言葉は威厳、純潔、無垢。──溝呂木には不要だった。
 帽子、カツラの上にウサピョンが乗った奇妙な一角の前で、土と花をこぼしてボソッと落ちた。とても野に咲く花には見えまい。

968ポイ捨てはやめましょう ◆gry038wOvE:2013/02/20(水) 00:29:53 ID:w./UHv520


 更には、超音波発信装置というものもある。
 人間には知覚できないレベルの超音波を発することができるらしい。未確認生命体第3号(B2号)に有効。
 これは流石にいらない。重いうえに人間に有効でないとなると、意味がないだろう。
 先述の通り、それなりに重いが、溝呂木はすぐにそれを同じ場所に投げ捨てた。


 井坂のもう一つの支給品が、花咲薫子の宝物とされるオルゴール箱だ。
 これもまた、はっきりとハズレとわかる支給品だったので、溝呂木は破棄した道具のあたりに乱雑に投げた。
 今、そこには帽子、カツラ、ぬいぐるみ、ポリポットに入れられた花、超音波発信装置、木の箱と置いてあり、はっきり言って木々や草木が生い茂るこの森では、不自然な光景だった。
 まあ、本当の山だって、観光者たちがこの闇の魔人のようにポイ捨てしたゴミで散らかっているのだが……。


 高町なのはの支給品は、ルビスの魔剣というものだった。
 ホラーの牙というもので作られた短剣らしいが、到底剣には見えない。はっきり言って、溝呂木にとってコレは奇妙な置物以上の何物でもなかった。
 しかし、その奇妙さが溝呂木の趣向に合ったし、短剣ということでどうにか武器として使える可能性もある。溝呂木はそれを懐に隠した。


 彼女のもう一つの支給品は、六体の人形。
 キュアピーチ、キュアベリー、キュアパイン、ウエスター、サウラー、イースを模した人形であり、ウエスターが制作したものだ。出来はすごく雑で、プリキュア三人の顔つきが悪く、サウラーとイースの顔がかなり適当で、ウエスターの人形だけ(実際の彼と違って)凛々しい顔に作られている。
 ゴミだ。
 溝呂木はそれを同じ場所に投げる。


 次に見つかったのは、鷹麟の矢という道具だ。筋殻アクマロの支給品だった。
 白夜の空に現れる結界を破る道具……らしいが、こんなところにそんな結界はない。
 とはいえ、これは意外と使いようがあるかもしれない。純粋に矢や刃として使えるのではないだろうか。
 一応、溝呂木はそれを持つことにした。


 筋殻アクマロのもう一つの支給品は、ムチだ。
 泉京水という参加者の愛用の武器だが、そんなことは知る由もない。
 殺害には使えないが、まあ、武器としては申し分ないだろう。不要だが、これは一応残留組だ。


 溝呂木が今回確認した中では、手袋、トライアクセラー、タロットカード、ルビスの魔剣、鷹麟の矢、ムチ……のみが残され、帽子、カツラ、ぬいぐるみ、花、装置、箱、人形は捨てられる。
 デイパックはだいぶ軽くなり、森は廃棄物で汚された。


『初めまして、私の名はニードル』


 溝呂木は、自分の首輪から聞こえた音声に驚きつつ、上空を見上げた。
 そこには、奇妙な風貌の男のホログラフィーが浮かんでいる。この男がニードルだ。
 溝呂木個人を見ることはなく、ある種普遍的な、虚空を見つめるような視線でニードルという男は放送を始めた。


(放送か……)


 溝呂木は、ちょうどデイパックを開けていたので、名簿や地図、筆記用具を取り出した。
 ちょうど、近くに超音波発生装置が落ちているので、それを下敷き代わりにする。


『では、サラマンダー男爵の時と同じく、……』



★ ★ ★ ★ ★

969ポイ捨てはやめましょう ◆gry038wOvE:2013/02/20(水) 00:30:16 ID:w./UHv520



『みなさん、ごきげんよう……』


 ニードルの放送が終わり、溝呂木は一息つく。
 死亡者、禁止エリア、ボーナスの全てが読み上げられると、溝呂木は一人の男性の死を気にかけた。
 さやかや五代、スバルのように既にその死を知っている相手もいたが、溝呂木の注意を引いたのはそんな名前ではない。


(姫矢……)


 姫矢准。───奴から光を奪い、更なる力を得て世界を支配する。それが溝呂木の目的だった。
 その目的が、ここで絶たれたわけだ。溝呂木は今後、次のデュナミストを探して、そいつから光を奪わなければならないのだ。


(姫矢という男に対しては、格別興味もない。ただ、光を探す方法が面倒になったのは少し厄介だ。孤門、凪のように姫矢と関わりのある人間をまずは洗っていきたいところだが……)


 溝呂木は少し考える。
 考えた後で、やはり参加者をランダムで襲撃するのが最も楽に光を見つける手段なのではないかと考えた。
 利用できる参加者ならば利用し、そうでないならば殺せばいい。


(まあいい……俺もじっくり探させてもらう)


 と、溝呂木はサイクロン号を押して歩き出す。
 捨て去った支給品の類は、全て無視だ。超音波発信機が机代わりになっただけで、他は溝呂木の役にも立ちそうにはない。


(さあ、デスゲームの再開だ)


 ボーナスも移動手段には興味がない。サイクロン号があれば十分だ。
 ヒントの類は、後でじっくり考えればいい。
 二人殺せばいいというのはわかったし、溝呂木はそれを満たしていたが、移動先に何もなければ意味がない。
 彼の体力は実質、無尽蔵に近い。面倒には違いないが、自分で移動して参加者を見つければいいのだ。


 しかし、サイクロンにまたがろうとした、その瞬間────


「聞けぇっ!! リントの戦士たちよっ!!!」


 山の頂上から聞こえた野太い声に惹かれ、溝呂木は動きを止めた。





【一日目・日中】
【E-4/森】
※鳴海壮吉の帽子@仮面ライダーW、軽快痛快ペット君二世@フレッシュプリキュア!、ウサピョン@フレッシュプリキュア!、ユリの花@仮面ライダーSPIRITS、超音波発生装置@仮面ライダークウガ、花咲薫子のオルゴール箱@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアとラビリンス三幹部の人形@フレッシュプリキュア!は付近に放置されています。

【溝呂木眞也@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW、城茂の手袋(着用済)@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×3(内一つ、食料残2/3)、ランダム支給品1〜2個(確認済)、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、東せつなのタロットカード@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、京水のムチ@仮面ライダーW、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)
[思考]
基本:より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至り、世界を思うままに操る。
0:ガドルの呼びかけに対して、どうするか決める。
1:ウルトラマンの力を奪う(姫矢が死んだので、まずは凪や孤門をあたる)。
2:その他にも利用できる力があれば何でも手に入れる。
3:弱い人間を操り人形にして正義の味方と戦わせる。
4:西条凪を仲間にする。
5:今は凪は放置。
6:冴島鋼牙、村雨良、響良牙達は今は泳がせておく。こちらから接触するつもりはない。
[備考]
※参戦時期は姫矢編後半、Episode.23以前。
※さやかをファウストにできたのはあくまで、彼女が「魔法少女」であったためです。本来、死者の蘇生に該当するため、ロワ内で死亡した参加者をファウスト化させることはできません。
※また、複数の参加者にファウスト化を施すことはできません。少なくともさやかが生存している間は、別の参加者に対して闇化能力を発動することは不可能です。
※ファウストとなった人間をファウスト化及び洗脳状態にできるのは推定1〜2エリア以内に対象がいる場合のみです。
※ダークファウストが一度に一体しか生み出せないことを、何となく把握しました。
※スバル・ナカジマから全ての情報を聞き出しました。
※第二回放送のボーナスなぞなぞは、二番目の答えしか解いてません(興味が無いため)。

970ポイ捨てはやめましょう ◆gry038wOvE:2013/02/20(水) 00:30:35 ID:w./UHv520


【支給品紹介】


【鳴海壮吉の帽子@仮面ライダーW】
本郷猛に支給。
鳴海壮吉が着用していた白い帽子で、仮面ライダースカルに変身してからも身に着けている。
死後、翔太郎が受け継いだ。今回支給された帽子に傷がついているかは不明。


【軽快痛快ペット君二世@フレッシュプリキュア!】
本郷猛に支給。
第12話に登場するペット用のカツラ。ラブのお父さんが改良に改良を重ねて作った。
タルトのお気に入りらしく、このエピソードの後もたまに着用している。


【城茂の手袋@仮面ライダーSPIRITS】
鹿目まどかに支給。
仮面ライダーストロンガー、城茂が両手のコイルを隠すために着用している黒い手袋。
電気を通さないが、ゼクロスの攻撃であっさり破壊されているので、そこまで頑丈ではない。


【ウサピョン@フレッシュプリキュア!】
ティアナ・ランスターに支給。
劇場版などに登場するウサギのぬいぐるみ。桃園ラブが幼い頃、一緒に遊んだ。
劇場版では喋ったが、今回はずっと「眠ったまま」の状態になっているので、ただのぬいぐるみ以上の何物でもない。


【トライアクセラー@仮面ライダークウガ】
池波流ノ介に支給。
トライチェイサーの起動キーになる特殊警棒で、劇中ではタイタンフォームになったクウガがタイタンソードへと変化させることが多かった。


【東せつなのタロットカード@フレッシュプリキュア!】
池波流ノ介に支給。
東せつなが占いに使うタロットカード。


【ユリの花@仮面ライダーSPIRITS】
井坂深紅郎に支給。
城茂が岬ユリ子の墓に植えたユリの花。植える前と同じく、ポリポットに入れられている。
花言葉は威厳、純潔、無垢。


【超音波発生装置@仮面ライダークウガ】
井坂深紅郎に支給。
第39話に登場する道具で、アタッシュケースに入れてあった警察の兵器。
ズ・ゴオマ・グにしか聞き取れない超音波を発生させ、彼の動きを一時的に止めることに成功した。
ゴオマ亡き今、もはやただの鈍器。


【花咲薫子のオルゴール箱@ハートキャッチプリキュア!】
井坂深紅郎に支給。
第27話に登場する、キュアフラワーこと花咲薫子の思い出のオルゴール箱。
このオルゴール箱が夫の最初のプレゼントで、引っ越しの時のなくしたかと思われていたがつぼみの幼馴染が持っていた。


【ルビスの魔剣@牙狼】
高町なのはに支給。
劇場版に登場。ホラーの牙で作られた短剣で、カルマの住む魔鏡の世界の結界を開くことができる。


【プリキュアとラビリンス三幹部の人形@フレッシュプリキュア!】
高町なのはに支給。
第14話に一瞬だけ登場する、ウエスターが制作した人形。作中でウエスターが制作したというのは確実ではないが、ラビリンスでこんなことをするのは彼しかいない。
キュアピーチ、キュアベリーはものすごい目つきに作られ、キュアパイン、イース、サウラーの人形は適当な感じで作られ、ウエスターだけはやたら凛々しい表情に作られている。


【鷹麟の矢@牙狼】
筋殻アクマロに支給。
SPに登場する、白夜に現れる結界を破壊するための矢。天に放てば結界は消滅するが、地に突き刺すとレギュレイス一族を復活させてしまう(無論、今ロワでは地面に突き刺しても復活はしない)。
ガロはこれを自らの体に刺すことで、鷹麟ガロへと進化した。


【泉京水のムチ@仮面ライダーW】
筋殻アクマロに支給。
泉京水が使ってるムチ。本人は没収された模様。

971 ◆gry038wOvE:2013/02/20(水) 00:30:59 ID:w./UHv520
以上、投下終了です。

972名無しさん:2013/02/20(水) 20:29:42 ID:ZXsW10Cg0
投下乙です
役に立つもの立たないもの、支給品がたくさん出てきたなあ

973名無しさん:2013/02/21(木) 23:12:44 ID:slx59dsQ0
投下乙です

故人もこの支給品を手に取って見たんだろうなあ
役に立たなくてもそれは溝呂木が持っていいものではないものもあるのがなんとも…

974名無しさん:2013/02/22(金) 02:49:43 ID:KbI0FOqE0
オルゴール時計とゆりの花か
両方とも井坂から溝呂木に渡って捨てられるとかな…

975名無しさん:2013/02/25(月) 16:11:25 ID:c/26g4vI0
予約きてるー!

976 ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:27:57 ID:GET9.OWg0
ただ今より、予約分の投下を開始したいと思いますが、おそらく>>1000までに投下し切れない分量のため、
分割された最初の部分のみこちらに投下し、残りを次スレに投下したいと思います。

また、wikiに載っている一部の話の誤字を先日、修正し、バラゴのアイテムに変身アイテムであるペンダントを追加しておきましたので、ここで報告しておきます。

977 ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:29:38 ID:GET9.OWg0

 ──少年は追っているはずだった。必死に走って、必死にあがいて、それを求めているはずだった。
 それが何なのか、彼自身にさえわからない。ただ、それが無ければその人間は、その人間としての価値を失ってしまうということだけは、うっすらとわかった。
 人間の価値──それは、人間であるはずの彼には確かに必要なものだったはずだ。
 だから、彼は必死にそこに手を伸ばしていくのだろう。
 もしかしたら、彼自身、既にそれに届かないと気づいていたのかもしれない。
 それでも彼は必死に手を伸ばし続けた。
 ……しかし、どんなに足掻いても、それは日々遠ざかって行った。
 普通の人たちだって、いつかはそれを失い続けるのはわかっている。


 だが、彼にはまた、常人の何倍ものスピードで消えていくものなのである。
 ……あきらめたくない。
 手を伸ばしても、声を出して呼んでも、それに手が届くことはなく、彼の声も聞いてないふりをされるだけだった。
 やがて、それを求めていたことさえ忘れ始めた。


 そして、もう完全に失ったのだろう。


 ある時、少年は気づいた。
 Mが遠ざかっているのではない。
 自分の足場がMから離れていくのだ。
 自分の中の崩壊は、もはや留まるところを知らないのだ。


 殺しの記憶が蘇る。
 海外の戦地。何人の人間を殺したか。
 兵士、民間人、老人、子供……。


 普通に生きていれば……ある出来事がなければ、彼は優しい少年だったはずだ。
 家族想いで、戦争や争いごとなんて大嫌いな、正義感の強い少年だったはずなのだ。



 彼を崩した物は何?
 彼からMを奪った物は何?
 彼を殺人鬼にした物は何?



 心はいつしか空っぽになっていた。
 空っぽで、乾いた心が、殺人を何とも思わない人間にした。
 失ったものはもう取り戻せない。
 それを失った時点で、取り戻したいと思う心も消えていったのだから。



★ ★ ★ ★ ★



 花咲つぼみは、再びキュアブロッサムに変身して走り出していた。
 走る、という動作はほぼ自然に行われている。「走ろう」と考えてもいないのに、彼女はただ真っ直ぐに走っていた。
 まあ、言ってみれば「来た道を戻るだけ」だった。特に意識しなくとも体が勝手に行ってくれる動作である。
 行きと景色が違えど、森の木々が、僅かに聞こえる川の音が、なんとなく彼女を元の場所に帰す方法を教えてくれた。彼女自身、ほとんど真っ直ぐに走っていたことを記憶していたので、深く考える必要もなかった。
 とはいえ、本来、山中や森では、道順を意識して進まなければならないであろう。樹海に迷い込む人間がいるのも事実だ。
 なのに何故彼女は、まったく別の事を考えているのだろう。
 理由は、ここまでの話の順序を考えれば、ごく単純だった。


(ゆりさん……)


 頼れる先輩にあたる仲間の死。
 月影ゆりという人の死。
 それを、キュアブロッサムこと花咲つぼみはつい先ほど知ったのである。自分のことなど忘れて、そこに意識を置いてしまうのも仕方なかった。
 死体を見たわけではない。しかし、段階的にその死を確信的なものへと変えていった。
 仮面ライダーエターナルの言葉で知り、ダークプリキュアの挙動で確信へと変わった。
 月影ゆりは、もういない。
 つぼみの仲間のプリキュアが、無二の親友・来海えりかに続いてもう一人、逝ってしまったのだ。


 そして、もう一つの事実──その来海えりかの死に、よく知っている人間が関っている可能性が浮上してきた事も、彼女の頭の中を混乱させていた。
 これに関しては、二つの全く情報が入り混じっていたゆえに、余計に混乱を強めたのである。
 仮面ライダーエターナルの言葉によると、えりかはキュアムーンライト──つまりゆりによって殺害されたらしい。
 どちらかといえば、彼の言葉の方が信用に足らないものだろう。
 ダークプリキュアによれば、えりかを殺害したのはダークプリキュア自身だという。
 勿論、どちらも敵の言葉には違いない。いずれも嘘という可能性だってある。

978届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:33:21 ID:GET9.OWg0


(ダークプリキュア、あなたの言葉は……)


 だが、素直すぎる少女は、このどちらかが真実なのではないか……と察した。

 ダークプリキュアは、敵ながらにして、こんなくだらない嘘をつくような相手とは思わせなかったのだ。
 ダークプリキュアは狡猾だが、嘘をついてまで自分の手柄を得ようとする敵だとは思えなかった。はっきり言って、キュアムーンライト以外の人間は彼女にとって同等。たとえプリキュアであっても、それは違わないだろう。
 それを、倒してもいないのにわざわざ「キュアマリンは自分が倒した」などと言う必要は彼女にはないし、キュアマリンは彼女にとって、特別視される存在ではない。


 そして、砂漠の使徒で敵である彼女には、キュアマリンを撃退する理由も存在する。
 実際に、つぼみたちは彼女と何度も交戦しているのだ。ブロッサムも先ほど、ダークプリキュアによって殺されかけている。
 同時に、その戦いこそが、情報を混乱させる最大の理由にもなっているのだが。


(えりか……えりかは──)


 そこまで決まっているにも関わらず結局のところ、つぼみはその答えを断定できないのだ。だから、聞けるのなら、えりかに聞きたかった。その死の真実──全てを。
 ダークプリキュアが彼女を殺したのだと決定づけてしまえば非常に楽なのに──そこに踏み出す勇気がなかった。
 えりかの死を受け入れられない、というわけではない。
 ただ、ダークプリキュアの態度が、とにかく引っかかったのだ。
 あの落ち着きは何だろう。
 キュアブロッサムに見せた瞳は、まるで敵意を感じないものだった。
 彼女の目にあったのは、「決意」とでも言うべきもの。まるで、普段彼女がキュアムーンライトに見せるような表情と、どこか似通っていたのである。
 ゆりの代わりを求めているのとも違う。
 そう、あれは、悪辣で非情な彼女とは、まったく別なのだ。
 なにか、憂いのようなものが入った瞳だったのだ。


 ドゴォォォォォォォォオン


 爆音が鳴る。
 そこで、つぼみの意識が別の方向に向いた。
 えりか、ゆり、ダークプリキュアではない。
 今は今の仲間と共に、撃退しなければならない相手がいる。今聞こえた音は、きっとその戦闘音だろう。

 ──仮面ライダーエターナル。

 彼を撃退するために、キュアブロッサムは力を貸さなければならないのだ。
 何故か。
 そう、──彼女には守るべき仲間がいる。
 一条薫、響良牙──彼らはあの場を引き受けてくれたが、戦力を持つ人間ではなかった。
 いや、確かに良牙は人間離れした戦闘能力を有しているし、一条も人間としては破格の強さを持つ男だった。
 しかし、ここで言う戦力とは「変身」の力のことである。二人はそれを持ってはいなかった。


(待っててください、一条さん、良牙さん!)


 少しその音に惑わされて、迷いながらもキュアブロッサムは走る。
 己の力の全てをかけて、戦いを止めたいのだった。



★ ★ ★ ★ ★



 ドゴォォォォォォォォオン


 クウガとエターナルの拳がぶつかり合った瞬間、何処かから爆音が鳴り響く。
 それは、ブラスター化したテッカマンたちのボルテッカがぶつかり合った音なのだが、どちらから聞こえた音なのかは、この森でははっきりとはしなかった。
 その周囲が驚きに固まる。
 耳を打つ爆音に、良牙は不吉な予感を感じずにはいられなかった。


「……つぼみ!」


 良牙は、花咲つぼみの心配をする。
 彼女のいる場所から発された音なのではないか、と思ったのである。
 死人が出たのではないかと思えるほどの轟音だった。
 どうやら、一瞬拳をぶつけ合った二人──仮面ライダークウガと仮面ライダーエターナルもそれを気にしたようだった。
 拳をぶつけ合った瞬間に爆音とは、まるで映画の演出のようだったが、その音を気に掛ける二人は戦闘から一瞬だけ解放されたようだった。
 懐の距離にありながら、敵以上に気になる存在があったのだ。

979届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:34:11 ID:GET9.OWg0


「どうやら、どこもかしこも、戦いが好きらしいな」


 エターナルは言う。
 鼻で笑ったような言葉だった。
 ここにいる誰もが、もう人の死や争いには慣れ始めている。
 しかし、それが実際また起きても、笑うことができるのは、この場では仮面ライダーエターナル──大道克己ただ一人だった。
 あの爆音の結果、誰かが死んだとしても、彼はそうして鼻で笑うようなそぶりを見せるに違いない。


「……さあ、中断は無しだ。俺たちも続きを始めるか」


 と言っている隙に、エターナルの顔面に向けてクウガのパンチが放たれる。
 戯言を言い続けているのはエターナルだ。クウガは、爆音に一瞬気を取られながらも、エターナルに対する注意を忘れなかった。
 が、エターナルはその腕を真横から掴んで止めていた。


「俺が気を抜いてると思ったか?」


 エターナルは、エターナルエッジを構えている。
 そのブレードがクウガの体へと至ろうとしていく。
 片手を封じられたクウガには、それを避ける術がない。
 だが、仮面ライダークウガ──一条薫にも隙などなかった。


「超変身!」


 その姿を「赤」のマイティフォームから、「紫」のタイタンフォームへと変化する。
 すると、その身体はどんな刃にも屈さぬ銀色の鎧に覆われる。この鎧に守られたゆえ、彼の身体にエターナルエッジが到達することはなかった。


(……なるほど、傍から見るぶんにはもう少し簡単そうだが、やはり実戦では難しいな)


 一瞬の判断に、一条薫は救われたのである。
 少なくとも、いまの判断がなければ身体へのダメージはもう少し深刻なものになっていただろう。ただ、一条自身、それは余裕のある状態での判断ではなく、まさに咄嗟に出た判断だった。
 五代雄介は、このフォームチェンジのやり方にある程度慣れてはいたようだが、これがいかに難しいものだったのかを一条はその肌で理解する。


(各形態の差も考えなければな。緑のクウガはこの場で使うのは難しい、か……)


 クウガは、エターナルエッジをエターナルの手から強い力で引き抜くようにして奪った。
 刃を持つエターナルエッジは、クウガの手でタイタンソードへと変化していく。
 ナイフから大剣に変わっていくエターナルエッジ──いや、タイタンソード。
 それは、周囲から見れば異常な光景だっただろう。


「……面白い能力だな」


 エターナルは、至近距離では危険と感じ、敵の腕を離しながら、咄嗟に木の上へとジャンプする。
 予感的中だった。
 タイタンソードは、エターナルのいなかった。虚空へと振り下ろされた。
 長年の戦闘経験ゆえ、至近距離での戦闘が危険な相手くらいは判断がつく。
 ブォンッ、と音が鳴ると、エターナルが乗っていた枝葉もそっと揺れた。


「エターナルにも欲しい技だ」


 敵の武器を奪い、それを自分の武器へと変える……という能力はエターナルにとっても新鮮で、随分と面白みのあるものだった。
 その切っ先は長く、ナイフという形状から大剣へと確かな変化を遂げていたのである。
 ガイアメモリのような特性を持つそれに、エターナルは思わず苦笑した。


(クッ……五代によれば、ずっと金で戦えるらしいが……)


 一方、一条も別のことを考える。
 金──ライジングフォームの力をここで使って大丈夫だろうか。
 この場であの強すぎる力を放てば、周囲は壊滅、そして良牙も巻き込むのは間違いない。
 周囲の物を爆破し尽くすあの封印エネルギーを使うことは、おそらく今は許されないのである。
 五代がアマダムそのものを進化させているならば、おそらく一条が変身したクウガでも変わらないはずだが、五代もおそらく使わなかっただろう。


「はっ!」


 エターナルは、また準備が完了したように木から降りてくる。
 エターナルの体重を支えていた硬い枝が、ざわっと揺れ、エターナルが完全に着地した瞬間、その木の枝が折れた。エターナルが落下する時の踏み込む力にやられたのだろうか。それとも、体重を支えるにはもろかったのか。タイタンソードの素振りの効果か。
 まあ、彼はそれを意にも介していなかった。
 彼の目の前にあるのは戦いのみ。
 作戦はないが、エッジがなければ戦えないわけではない。
 格闘能力も当然常人と比べて高いのが克己だ。


「さあ、そいつを返してもらおうか」


 ……とはいえ、武器がないといろいろと不都合だ。
 エターナルは右手を前に差し出し、タイタンソードと化したエターナルエッジの返却を求める。
 が、一条がそれに応じるわけもない。

980届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:34:38 ID:GET9.OWg0


「……人を傷つけるための剣を、返すわけにはいかない」

「おいおい、人のこと言えるのか?」

「……君にはわからないだろうな」


 そう言って、クウガは大きく振りかぶってエターナルに踏み出た。
 剣道の「面」の構えと同じ。
 隙のない踏み込みであるがゆえに、エターナルは簡単に避けることができた。
 が、避けたところに今度は、「銅」を打つ。エターナルローブが遮るが、それは、刃が通り過ぎた後に風が来るようなキレの良い一撃だった。


「剣道か」


 警察の必修である剣道を、一条ができるのは当然だった。
 ただ、タイタンソードの鎧に包まれた身体がやや重いゆえにそれが少しぎこちない動きになってしまうのが問題か。
 何にせよ、剣道の腕においては一条も克己には負けないほどである。
 攻撃を受け続けて敵に面を与える……という五代の戦法に、一条は更なる味を付け加えることに成功した。


「そういえば、NEVERにはそういう技を使う奴はいなかったな」


 エターナルの足が、クウガの腹へと叩き込まれる。クウガはやや後方へ下がると、タイタンソードを握りしめた。
 と、その瞬間、


「チッ、定時放送か」


 エターナルは舌打ちし、その言葉で残りの二人も定時放送の時間であることに気づく。


『初めまして、参加者の皆さん。私の名はニードル』


 上空のフォログラフィ、首輪から鳴る主催の男の音声。
 それはサラマンダー男爵とは違う人間によるものだ。彼が感じさせていた気品とはまったく違う。落ちこぼれた科学者のような、汚い白衣に包まれた、髪型も髭も無精な男によるものだった。


 ────休戦。


 エターナルにせよ、クウガにせよ、良牙にせよ、その瞬間に敵と戦おうなどという真似はしなかった。
 この時間は戦いそのものを中断するのが暗黙の了解なのだ。
 全員が、互いを気にしつつも、上空のフォログラフィに目を奪われ、首輪の音声をはっきり聞いている。


 下手に敵を襲って、禁止エリアなどの重要な情報を聞き逃したら目も当てられないだろう。
 彼らは、理性というものがあるゆえ、そのあたりの分別はまだついていた。


『では、サラマンダー男爵の時と同じく、まずは第一回放送からここまでの死亡者を読み上げましょう。
 相羽シンヤ、井坂深紅郎、五代雄介────』


 一条と良牙の中で何かが奮い立つ。
 一条はその場にいたのだから、五代雄介の死は誰よりも強く認識している。
 その名前がこうして放送で呼ばれるのは、また不思議な感覚だった。
 大勢の名前は知らない。相羽シンヤや井坂深紅郎がどんな人間なのか、一条ははっきりとは知らない。
 なのに、五代が死んだのを一条は知っている。
 偶然、一条は五代雄介の死を目撃しただけで、確かにこの場では相羽シンヤや井坂深紅郎の死を見届けた人間たちがいるはずなのだ。その人たちはその人たちで、またかなり重い宿命を背負っている。それが不思議だった。
 ……ちなみに、実は、二人とも一条のかなり近くにいたのだが、一条は二人とすれ違い同然の関係だった。

981届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:35:09 ID:GET9.OWg0


『早乙女乱馬』


 良牙に、心臓を射抜かれたような感覚が襲う。
 まさに、最も身近に「死にえない」人間の名前だ。
 高校の同級生であり、何度戦い合い、何度共闘したかもわからぬ男──早乙女乱馬、その死。
 良牙は、暴力的な衝動に見舞われることさえなく、ただその場で力そのものを失っていく感覚に飲み込まれた。


『志葉丈瑠』


 彼らは知らないだろう。
 その名前が、自分たちを助けた男の名前だったことに。
 いつか、気づくことがあるか否かはわからない。
 ただ、二人はあの男の名前を何も知らずに聞き流してしまっているのは申し訳ないと少し心の中で思っていた。
 この瞬間呼ばれているなど、想像もしなかっただろう。


『筋殻アクマロ、スバル・ナカジマ』


 どこまでも縁のある名前ばかりが呼ばれる。
 スバルの名前は、良牙の胸に刻まれていた。あの少女が呼んだ名前だ。
 スバル。
 スバル・ナカジマ。
 良牙は、その名前をきっと忘れない。


『園咲霧彦』


 園咲の名を知る克己も、これに少し反応する。


『月影ゆり、ティアナ・ランスター、パンスト太郎──』


 彼らにとって因縁のある名前が、今回は多すぎた。
 すれ違い。
 名前も知らない相手。
 近くで戦闘を繰り広げていた者。
 元の世界の知り合い。
 克己本人が殺した者。


 あらゆる名前が呼ばれ、死者の名前が呼ばれる時間は終了する。
 天道あかね、という名前が良牙の中で反芻されるが、その名前が呼ばれなかったことに安心感はなかった。
 乱馬の死という痛みを、彼女が抱えているとするのなら──。


『次に禁止エリアを発表します』


 禁止エリアも、知っておかねばならぬエリアだった。
 ここから街に行くには確実に通る森中が、15時からの禁止エリアだ。……まあ、一応目的地は呪泉郷のはずなのだが。
 マップを用意できる状況下なのでマークはできないので、三つのエリアは一条が記憶する。
 絶対に良牙を単独行動させないようにという決意が彼の中に生まれた。


 その後、ボーナスについても発表される。
 強力な兵器、というものがまた気になった。
 しかし、それ以上に、一条や良牙にとっては、殺し合いの状況下でゲーム感覚でなぞなぞを出題してきた主催陣に対する冷めぬ怒りが渦巻いている。


「クソォォォォッ!!!!!」


 辛うじて抑えられていた良牙の怒りが放送終了と同時に爆発し、轟音が鳴る。
 そちらを見ると、良牙の拳のあたりから綺麗に折れた木が有った。
 彼の人間離れした腕力は、木をあまりにも見事に折っていた。
 早乙女乱馬。
 その死が、良牙の中では強くのしかかっていた。


「さあ、始めるか。休戦時間は終了した」


 エターナルは言う。
 勿論、良牙の精神状態を汲み取って、デリケートな言葉をかけるなんて、彼にはありえない。
 ただ、放送はエターナルが提案する稀有な休戦時間だった。
 しかし、いっそ戦闘をして忘れていた方が良いような事実が、良牙には伸し掛かる。
 五代の死を知っていた一条、ほとんどの死に関心がない克己は、戦闘体勢に入っている。
 強い悲しみや、驚きに見舞われることがない。
 だが、良牙には強いショックが与えられていた。

982届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:35:39 ID:GET9.OWg0


(くそっ……。あの野郎が死んだくらいで俺は……)


 早乙女乱馬の死。
 それは、良牙にとってもありえない事象。
 殺しても死なないから、良牙は彼を相手に本気で戦ってきたのだ。
 その全てを否定しながら、乱馬は死んだ。
 良牙が本気を出しても息の根が止められないような男が、おそらく何者かに殺されたのである。許しがたい出来事だった。


(……なんなんだよ……! この湧き出る怒りは! なんで勝手に死にやがるんだよてめーは……)


 良牙のプライドもある。
 はっきり言って、常に乱馬の行動にはイライラしていたし、彼からあかねを奪おうと必死になったこともある。
 しかし、悔しいが……彼が死んだことにより、あかねはきっと笑顔を忘れた。


(くそっ……あかねさんはどうする気だよ……)


 良牙もあかねが好きだった。
 ……しかし、その一方でわかっていたのだ。
 彼女は間違いなく、乱馬と一緒にいるときが一番輝いていた。彼には本心をぶつけていたが、良牙に対してのあかねは優しく笑いかけるだけだった。
 あかねは、良牙を友達としか見ていない。
 それを認めたから、自分は今──


 泣いているんじゃないか──


 と、思っていた。
 乱馬の死を悲しむあかねの姿を必死に想像した。
 それによって自分が泣いているのだと思い込みたかったからだ。


 しかし、実際はそうじゃなかった。
 それも良牙の中ではわかり始めている。
 乱馬と共に戦ったあらゆる日々ばかりが目に浮かぶ。
 そこにあかねの姿はなかった。
 時にはあかねの姿もあったが、良牙はその姿に泣いているのではなかった。


 想い人の悲しむ姿で泣いているんじゃない──
 良牙は、親友の死に泣いているのだ。


「……ダチじゃ」


 良牙は、涙ごしにクウガとエターナルの戦いを見ていた。
 クウガは、タイタンソードを使って、良牙を庇うように戦っている。
 良牙は先ほど倒した木の幹に目をやった。


「ダチじゃねえのかよ、俺たちは……」


 木の幹が立ち上がる姿は異様だったと言えるだろう。
 エターナルとクウガの目の前で、折れたはずの木の幹が、また生えたように立ち上がる。
 それは、良牙が全身を使ってそれを抱え込んでいるからだった。
 人がこんなものを持てるはずがない。
 大木を、僅か十六歳の男が全身で抱え持っている。


「もう会えないなんて俺はいやだぜ!! 乱馬ああああああああああああああああああああ!!!!」


 良牙はそれを思い切りエターナルの方に投げつけた。
 エターナルは初動が遅れたせいでその大木が自分に降りかかるのをよけきれなかった。
 NEVERでもこんな真似ができる奴はいない。
 はっきり言って、化け物としか思えない。


(クソ……だが、面白い奴だ……)


 エターナルの上に大木がのしかかり、エターナルは体を崩す。
 絶句するクウガを前に、良牙は、ここにいる誰でもない男に言った。

983届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:36:18 ID:GET9.OWg0


「────乱馬! 俺は方向オンチだから言わせてもらうぜ。てめーのいる所には、じじいになるまでたどり着かねえ! 会いたくても我慢しろよ!」


 俺は仮面ライダーごときにやられる男ではない。
 俺は簡単に死ぬ男ではない。
 だから、三途の川の向こうにはたぶんしばらくは行き着かないだろう。
 良牙の発言の意味は、だいたいこんな感じだった。
 そして、エターナルを前に見せたこうした技が、その言葉に確かな説得力を持たせていた。


 ……ただ、「乱馬に会いたい」と言っていたのはほかならぬ良牙自身であって、当の乱馬はおそらく天国で「誰も会いたくなんかねーよ」とジト目で彼を見つめていたであろうことは保障する。



★ ★ ★ ★ ★



「……ニードル」


 村雨良はその名前を呟いた。
 つい先ほど上空に現れたホログラフ、そして音声はその男のものだった。
 BADAN──ゼクロスが刻んだ記憶の中にあった悪魔の組織の名前。
 そいつらの追跡をゼクロスは未だに受け続けていた。


「……やはり、BADANが絡んでいたか」

「BADAN、だと……?」


 鋼牙もその言葉に反応する。
 未知の言葉であるが、どうやらこの殺し合いの主催者にまつわる言葉らしいので、情報の一つとして訊いておかねばならない。


「人間を拉致し、記憶を消し、改造して殺戮兵器にする集団だ……ニードルは、そこの幹部だった。そして、俺も……」


 彼の顔は怒りに満ちていた。
 BADANという組織への怒り……奪う者たちに対する憤り、全てを拳に込めつつ、彼はただ震えていた。
 どこにも振るう当てはなかった。


「……」


 鋼牙はそんな彼を黙って見守る。
 人として生きながら、ある日突然奇妙な組織に拉致され、洗脳され、改造され、殺戮させられる……そんな苦しみから解放された彼の先にあったのは、きっとまた苦しみだ。
 この男の辛さがわからない限り、鋼牙は声をかけることができなかった。


「……前回は18人、そして今回は15人の命を……奴らは奪った」


 鋼牙と村雨は、険しい顔をしていた。
 今回の戦死者は15名。それは男女や人間非人間問わずだ。
 魔戒騎士や仮面ライダーの死者はいなかったものの、気になる死亡者は何名か確かにいたし、第一回放送終了以降に何人もの参加者が死んだのを二人は確認していた。


(相羽シンヤ、奴もか……)


 鋼牙が冴島邸で出会ったあの奇妙な男も死んでしまったという。
 それは、鋼牙にとってどことなく寂しいものだった。
 この半日の間に様々な出来事があったために、随分昔に会ったような気分だったが、シンヤと出会ったのは数時間前である。


(スバル……あの女の子が呼んだ名前だ)


 村雨は思い出す。
 どちらも死んでしまったが、あの少女は最後に「スバル」と名前を呼んだ。
 スバル・ナカジマ。
 放送によって呼ばれたその名前で間違いないだろう。──村雨良は、全身のうちで唯一「村雨良」のものである脳に、その名前を刻んだ。


((五代雄介))


 二人が確かに知っている名前だ。
 鋼牙は、はっきり言えば彼を看取っただけだが、最後まで誰かの身を案じたというその男の魂に敬意を払っていた。
 村雨は、その名前の男によって心の中の何かを動かしていた。
 そう、人間らしい何かを。

984届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:36:43 ID:GET9.OWg0


「……行くぞ」

「ああ」


 たとえ、呼ばれた名前に思うところがあっても、彼らは立ち止まるわけにはいかない。
 そう、良牙たちを追い、万が一の場合に彼らに加勢する戦力となるのだ。
 ボーナス、なぞなぞ。それらはまた後で考えればいい。
 内容は二人とも頭の中に叩き込んでいた。────明らかに五代雄介の意味を持つ、「雄介」や一条薫の意味を持つ、「薫」という言葉もあったのだから当然だ。


 二人は良牙たちの向かった場所へと歩き出した。
 検討はついている。
 良牙のことだから、呪泉郷に向かっただろう。……ということはつまり、「呪泉郷ではないところ」。
 そして、この近くで戦闘音が聞こえる場所だ。



★ ★ ★ ★ ★



「……そんな」


 キュアブロッサムが足を止める。
 首輪から響いた放送の音声に、彼女は立ち止まらずにはいられなかった。


「やっぱり、ゆりさんは……」


 これがまず一つ目の衝撃だった。
 月影ゆりは死んだ。──悪役二人に聞かされた話は、やはり事実だった。
 先ほどの出来事で覚悟はしていたが、やはり僅かにここで呼ばれない事を期待したつぼみの胸が痛む。


「……それに、プリキュアのみんなも」


 二つ目の衝撃。
 それは、山吹祈里、東せつなの二名も死亡したことだ。
 共にボトムと戦ったプリキュアの仲間であり、共に遊園地で遊んだ友人たちだった。
 第一回放送終了時点では、来海えりか以外のプリキュアは死亡していなかったが──。


「さやか……五代さん……」


 美樹さやかの死、五代雄介の死。
 いずれも彼女の心を抉るような事実だった。
 放送によって初めて知ったことではないが、やはりあの時の出来事を思い出してしまう。
 二人もの人間が、つぼみの近くで死んでしまった……。
 それは、広間でのクモジャキーたちの死とともに強く刻まれていた。


「スバルさん、アヒルさん……」


 それから、何度となくつぼみに襲いかかる戦いや死。──スバルと呼ばれていた女の人。名は知らなかったけどアヒルの姿をしていたあの男の人。他にも、たくさんの死がつぼみに伸し掛かる。
 全ての幕開けであるあのオープニングさえ、つぼみの心を痛めつけた。


「……やっぱり、こんなの間違ってます」


 誰のために争いが開かれたのか。
 何のために殺し合いをしなければならないのか。
 殺し合いをする人は、何故殺し合いをしてしまうのか。
 つぼみの心は、あらゆる疑問が渦巻いていた。


「……えりかが死んで、さやかが死んで、ゆりさんも死んで、みんな……みんな悲しんでるのに────なのに、どうして殺し合いなんて、するんですか!!」


 本当は誰も、殺したくなんてないはずなのに、殺し合いは進んでしまう。
 つぼみは、そのやり場のない怒りをぶつけることができない。
 たとえ、その想いをぶつけたとしても、誰かが答えてくれることはない。


 つぼみに、──キュアブロッサムに出来ることは、誰かを守り続けることだけだった。

985届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:37:08 ID:GET9.OWg0


 この殺し合いがある理由。「変身」に拘る理由。
 すべて、今のつぼみには解明しようがない。
 だから、つぼみに出来るのは、殺し合いをする人もしない人も──たとえ誰であっても、この殺し合いの会場で犠牲を出さないように奮闘することだけだ。


 キュアブロッサムは再び走る。


 響良牙や一条薫を守らなければならない。
 そして、仮面ライダーエターナルの、心も────。



★ ★ ★ ★ ★



「良」

「良牙」

「冴島君」

「薫……か?」

「みなさん!」


 良牙による木の倒壊を合図に、五人の戦士が結集する。
 左端、冴島鋼牙。
 左端と中央の間、村雨良。
 中央、響良牙。
 右端と中央の間、仮面ライダークウガ。
 右端、キュアブロッサム。
 変身、非変身の違いがあれど、彼らはいずれも志の強い戦士であった。
 彼らの終結と同時に、倒された木は再びざわめき始め、その下敷きになっていたエターナルが立ち上がった。


「よう」


 その木を片手でどけながら、仮面ライダーエターナルの白い姿が現れる。
 エターナルローブに包まれていない状態での一撃は、流石にこたえたらしい。
 不意の一撃。まさにそう呼ぶに相応しい攻撃。
 その感触にエターナルは酔う。
 生身であれだけのパワー、そして耐久力。NEVERに一瞬でもダメージを与えた生身の身体能力。
 それを浴びるのは最高の気分だった。


「……五人がかりか。面白いじゃねえか」


 そして、ここからも楽しい戦争の時間が始まることだろう。
 険しい顔でエターナルを見つめる五人の姿を、彼は笑っていた。


 ────と、同時にクウガが体色を白く染め、その後すぐに一条薫が姿を現した。


「くっ……10分か……」


 仮面ライダークウガの変身は僅か10分で解けてしまう。
 電気ショックにより進化したアマダムは、ライジングフォームの発動時間や変身形態の制限こそ変化したものの、根本的に変身時間が変わらない。
 ……そのため、10分の変身を経ると二時間は変身ができなくなってしまうのである。


「……すまないが、後は任せた」


 一条は申し訳なさそうに誰かに言う。
 誰に言えばいいのかはわからなかった。
 冴島鋼牙か、村雨良か、響良牙か、花咲つぼみか。
 しかし、誰かが確かにその言葉を継いで戦ってくれることを彼は信じた。


「……おっと、その前にこいつは返してもらうぜ」


 エターナルの初動は速かった。
 彼は一瞬で一条の前まで走りぬけた。まるで瞬間移動のようにさえ見える。
 エターナルは、一条の首を絞めながら、一条の右手にあるエターナルエッジを半ば強引に掴む。
 敵に武器を返すまいと、一条はエターナルエッジを強く握ったが、残念なことにエターナルの握力を前には無意味だった。
 エターナルエッジを奪った彼の満足げな目を見た一条の身体は、そのまま吹き飛ばされ、高く舞い上がってから地面に叩きつけられた。


「……がほっ、がはっ……」


 一条は、急所か何かを打ったせいか、むせ返る。


「一条さん!」


 ブロッサムが声をかけるが、一条はむせ返りながらも「私のことはいい」と返した。
 ともかく、一条の身体は少しの間このような状態になるだけで、これから行動するのに大きな支障はなさそうだった。
 一条の身体は、それなりに頑丈にできているのだ。
 それより、一条が今気にかけているのは、エターナルの姿だった。

986届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:37:39 ID:GET9.OWg0


「さあ、残りの四人。誰が俺と戦いたい? 全員かかってくるのも一つの手だ」


 エターナルエッジを構えたままのエターナルは、四人の戦士に対してそう言った。


「……一人ずつ行くぞ」


 鋼牙が言った。
 彼は今のところ、ほとんど「共闘」というやつをしてこなかった。
 銀牙騎士絶狼や、済し崩し的に共闘した仮面ライダーたちくらいだろうか。


 だが、今回はほとんど見ず知らずの相手との共闘。
 それは、冴島鋼牙にとって厄介だった。
 巨大なホラーが相手ならともかく、この体積の相手にした場合、うまく連携が取れず、仲間同士で自滅する可能性だって生じてしまうだろう。


「……まずは俺が行く。良、お前は休め」


 それに、村雨良は疲労の度合いが大きい。
 この中で最も信頼できる相手は一条と村雨なのだが、その二人は今戦闘に出せる状態ではない。
 そのうえ、残りの良牙とつぼみはまだ子供だ。
 できれば、戦いはさせたくない。
 いざ、という時は戦闘力がある彼らにも任せなければならないが……


 エターナルは問う。


「おい、いいのか? 一対一で」

「構わん」


 鋼牙は魔戒剣を右手にぶら下げたままエターナルにゆっくりと向かっていく。
 ブロッサムは、その姿を心配そうに見つめた。


「……あの、何なら私も手を貸──」

「手を出すな」


 ブロッサムの言葉を遮ったのは、良牙だった。
 その手はわなわなとふるえている。
 その顔を見ると、彼の顔は目を充血させて怒りに満ちた表情をしていた。
 ブロッサムは思わず良牙を恐れたが、彼は別にブロッサムに怒っているわけではない。


「あいつにはここにいる全員がムカついてるんだ。……これは、誰があいつの息の根を止めるかを選ぶ戦いだ!」


 ブロッサムには良牙の気持ちはわからなかった。
 しかし、ブロッサムも確かにエターナルと戦いたい気持ちがあったのである。
 それは、決して彼の命を奪うためではなく、救うためなのだが。


「それに、エターナルはタフだ……順番にやって体力を崩すのも良い手段だろう。奴自体もそれに気づいているのか気づいていないのか、このやり方に乗ってる」


 良牙は言った。
 鋼牙の中にも、そういう考えはあっただろう。順番に一人ずつ戦うことで敵の体力を削っていくというやり方も一つの手だ。

987届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:37:56 ID:GET9.OWg0


「それに、俺が勝つにせよ、エターナルが勝つにせよ……アイツが回復するまでの時間稼ぎくらいにはならねえといけない……!」


 良牙は、良の方を見る。
 先ほど、良牙たちを逃がした戦いのうちで、彼はかなり疲弊し切った様子である。
 彼はおそらく順番に一人ずつ戦うなら、最後に戦う戦士だろう。
 現状では疲弊も目に見えており、良牙の中で最も「戦士」として信頼されているのは村雨良──ゼクロスだった。

 それぞれの目的を胸に秘めながら、エターナルとの対戦が始まる。


「面白いな、順番に俺と一対一で戦うゲーム──名づけるなら、【エターナルゲーム】ってところか」


 鋼牙が眉をしかめる。

 ゲーム──それは、この殺し合いにおいて最も禁句となる言葉であった。
 バトルロワイアルというゲームの中で、仲間の死を何度も見ることになる。それを、ゲームと呼んでいいはずがないはずなのだ。
 しかし、最も呼びやすいネーミングであるゆえ、誰もが皆、ついその名前で呼んでしまう。「バトル・ロワイアル」、「殺し合い」と言った呼称よりも呼びやすいのだ。殺し合いに招かれながらも、「殺す」予定のない人間には、喉に引っかかる時がある。
 このエターナルがこの戦いを「エターナルゲーム」と名付けたことで、「ゲーム」という呼称に対する嫌悪感が増した。
 ゲームは遊ぶもの、あるいはバルチャスのように戦略を考えるものだ。
 こんなに辛い思いをしながらやるものじゃ、ない。


 ────仮面ライダーエターナルと、冴島鋼牙が対峙する。


「エターナルゲーム、一回戦の始まりだ────」


 エターナルゲームと名付けられた遊戯が、今始まった。

988届かない、M /─僕はここにいる─ ◆gry038wOvE:2013/03/01(金) 22:38:40 ID:GET9.OWg0
「届かない、M /─僕はここにいる─」は終了です。次スレに続きます。

989 ◆gry038wOvE:2013/03/02(土) 18:47:20 ID:omQVfXu.0
次スレ
「変身ロワイアルその4」
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1362144883/

990名無しさん:2013/03/03(日) 19:29:58 ID:NV39AnB20
こっちで雑談としてネタフリするが主催陣の全体がまだ見えてこないなあ
ネタ潰しになるから具体名は出さないがあいつかこいつが上にいそうだなあ

991名無しさん:2013/03/03(日) 21:01:54 ID:1oeckYB6O
>>990
既にニーサンがやらかす気配MAXだが、主催側で跨ぐ作品が多いとどこぞの3みたく内部分裂する未来しか見えんのがなんともw

992名無しさん:2013/03/03(日) 21:02:37 ID:1oeckYB6O
>>991
すまぬ、ニーサン云々は間違えた…おのれディケ(ry

993名無しさん:2013/03/04(月) 03:04:03 ID:LZmgffFo0
加頭順、サラマンダー男爵、ニードル、イラストレーター
どいつも末端に過ぎないし、ボスにはあんまり関係なさそうなんだよな
今後も何人か末端が出てくるのかな

994名無しさん:2013/03/04(月) 03:06:48 ID:LZmgffFo0
あと、フェイトの支給品はどちらも他の参加者とダブってるんだな
もう一つの支給品も誰かのダブリなんだろうか

995名無しさん:2013/03/08(金) 13:28:11 ID:zgxV8BkY0
今残っているマーダーと対主催らに残っている不和の種だけで下手したら誰か優勝しそう

996名無しさん:2013/03/08(金) 16:22:07 ID:efB2JzPA0
純粋な対主催:19名
マーダー:8名(ただし暁も含む)
危険人物:4名(マーダー寄りなドウコク、石堀、黒岩、および対主催寄りな凪)

京水も危険人物寄りか?
この段階でこのマーダーの数と質はヤバい

997名無しさん:2013/03/08(金) 17:44:27 ID:lqpbHWP20
大道が死んだからそのまま乗りかねんな…

998名無しさん:2013/03/08(金) 17:55:01 ID:rRw2xduYO
半分近く、危険人物ってことか。

999名無しさん:2013/03/08(金) 19:31:49 ID:efB2JzPA0
実際、タカヤ殺そうとしてるしな

1000名無しさん:2013/03/08(金) 20:44:31 ID:QxXUeEbIO
>>999
どっちかと言えば介錯に近いが、このまま次の放送聞いたら「貴方を殺して私も死ぬ!」をやりかねんのが困るw

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