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ロワイアル×ロワイアル Part3
1 ◆CFbjQX2oDg:2011/09/13(火) 00:09:35 ID:Wz3M2H.M0
原作でバトルロワアルをしている作品のキャラを集めて新たにバトルロワイアルを行うリレーSS企画です。
企画の性質上、参加キャラに対する残酷な描写、死亡描写があります。苦手な方は注意してください。
また、参加作品の原作ネタバレ内容を含む場合がございますので、こちらも同様にご注意ください。


まとめwiki ttp://www43.atwiki.jp/rowarowa/pages/1.html 
ロワロワ専用掲示板 ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14292/

2 ◆CFbjQX2oDg:2011/09/13(火) 00:11:23 ID:Wz3M2H.M0
【基本ルール】
 ・最後の一人になるまで参加者は殺し合いを続けなければならない
 ・最後の一人を優勝者として、願いを叶える権利を与える
 ・会場内での参加者のやりとりに一切の反則は無い
 ・会場から逃げ出すことはできない


【参加者名簿(作品別)】

【仮面ライダー龍騎】6/6
○城戸真司/○秋山蓮/○北岡秀一/○浅倉威/○霧島美穂/○香川英行
【金色のガッシュ!!】6/6
○ガッシュ・ベル/○キャンチョメ/○ティオ/○シュナイダー/○ゼオン・ベル/○レオパルドン・パピプリオ
【バジリスク〜甲賀忍法帖〜】6/6
○甲賀弦之介/○陽炎/○霞刑部/○朧/○薬師寺天膳/○筑摩小四郎
【ブレイブ・ストーリー〜新説〜】6/6
○ワタル/○ミツル/○ハード/○チャン/○カントリーマン/○ブック
【未来日記】6/6
○天野雪輝/○我妻由乃/○来須圭悟/○戦場マルコ/○美神愛/○雨流みねね
【ローゼンメイデン】6/6
○水銀燈/○金糸雀/○翠星石/○蒼星石/○真紅/○雛苺
【銀齢の果て】5/5
○宇谷九一郎/○猿谷甚一/○津幡共仁/○是方昭吾/○乾志摩夫
【バトルロワイアル】5/5
○七原秋也/○三村信史/○杉村弘樹/○桐山和雄/○相馬光子
【BTOOOM!】4/4
○坂本竜太/○平清/○ヒミコ/○吉良康介
【WaqWaq ワークワーク】4/4
○シオ/○レオナルド・エディアール/○ヨキ/○ノール
合計54/54名

【参加者名簿(五十音順)】※参加者にはこちらを支給

01:浅倉威/02:秋山蓮/03:天野雪輝/04:戦場マルコ/05:乾志摩夫/
06:宇谷九一郎/07:雨流みねね/08:朧/09:香川英行/10:陽炎/
11:我妻由乃/12:霞行部/13:ガッシュ・ベル/14:金糸雀/15:カントリーマン/
16:北岡秀一/17:城戸真司/18:キャンチョメ/19:吉良康介/20:霧島美穂/
21:桐山和雄/22:来須圭悟/23:甲賀弦之介/24:是方昭吾/25:坂本竜太/
26:猿谷甚一/27:シオ/28:シュナイダー(ウマゴン)/29:真紅/30:水銀燈/
31:翠星石/32:杉村弘樹/33:ゼオン・ベル/34:蒼星石/35:相馬光子/
36:平清/37:筑摩小四郎/38:チャン/39:津幡共仁/40:ティオ/
41:七原秋也/42:ノール/43:ハード/44:雛苺/45:ヒミコ/
46:ブック/47:美神愛/48:ミツル(芦川美鶴)/49:三村信史/50:薬師寺天膳/
51:ヨキ/52:レオナルド・エディアール/53:レオパルドン・パピプリオ/54:ワタル(三谷亘)/

※()内の表記は参加者支給の名簿には記載されていない
※死者の確認はまとめwikiをご覧ください

【参加作品媒体】
 ・漫画
  金色のガッシュ!!、バジリスク〜甲賀忍法帖〜、ブレイブ・ストーリー〜新説〜
  未来日記、ローゼンメイデン、バトルロワイアル、BTOOOM!、WaqWaq ワークワーク
 ・特撮
  仮面ライダー龍騎
 ・小説
  銀齢の果て

3 ◆CFbjQX2oDg:2011/09/13(火) 00:11:59 ID:Wz3M2H.M0
【スタート時の支給品について】
 ・参加者には開始時に支給品として以下の物資が与えられる。
 「会場地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「ランタン」「時計」「ランダム支給品(2〜3個)」
 ・尚、参加者が原作世界での愛用の武器がある者についてはそれを支給する。その種類によりランダム支給品の数が減少する。
 ・荷物は通常のちょっと大きめのリュックサック。明らかに入らない不明支給品は初期配置付近に設置。

 ・以下の支給品は支給品枠2つ分とする。
  カードデッキ@仮面ライダー龍騎
  護神像@waqwaq
  旅人の証・玉・杖等@ブレイブ・ストーリー〜新説〜


【参加作品固有の制限について】
 ・未来日記について    → 各自専用の未来日記のレプリカを支給。予知能力が劣るが破壊されても死ぬことは無い。
 ・金色のガッシュについて → 『魔本』は術ブースト装置である。魔物の子単体でも術は使用可能だが若干弱体化する。その際の使用量は魔物の子自身の心の力を消費。
               パートナーの心の力を本に通すことにより本来の威力になる。この場合はパートナーの心の力を消費。
               魔本は燃えても強制帰還にならず、術ブーストが失われる。
 ・BTOOOM!について    → 右手に埋め込まれたレーダー装置の効果範囲は同エリア内のみ有効(半径500m)。同じくレーダーを持っている人間にしか効果は無い。
 ・バジリスクについて   →甲賀弦之介の瞳術 半径10メートル以内の敵にしか効果は無い 強い精神力で無効化可能 
              薬師寺天膳の蘇生 首と胴体分離、木っ端微塵は死亡。それ以外の怪我は基本的に時間が経てば治る。
 ・仮面ライダー龍騎について→ミラーワールドには侵入禁止。 変身時間に制限は無いが長時間変身していると疲労。
 ・ローゼンメイデンについて→nのフィールドには侵入禁止。
 ・その他         →細かいキャラ毎の制限事項については先に書いた書き手準拠!


【放送について】
 ・0:00 06:00 12:00 18:00の一日四回主催者からの放送が入る。内容は以下の通り。
 ・放送間での死亡者発表、禁止エリアの発表


【禁止エリアについて】
 ・侵入すると首輪が爆破されて参加者は死亡する。
 ・放送から1時間後、3時間後、5時間後に放送で発表した箇所が禁止エリアとなる。以降ずっとそのままである。


【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

4 ◆CFbjQX2oDg:2011/09/13(火) 00:12:39 ID:Wz3M2H.M0
【書き手参加の心得(初参加編)】
 ・したらば掲示板の予約スレにてトリ付きで予約するべし (名前欄に#○○○と記入するとでるやつ。例:#rowarowaと入力すると◆uL6jaaW6Jk となる) 
 ・予約期間は5日間、延長は2日間、時間は遵守するべし
 ・内容、展開に不安がある場合は一時投下スレにて投下するべし
 ・書き手参加で不安があったら勇気を持って質問するべし 優しい人が答えてくれるから
 ・展開のための展開にならないよう注意するべし


【書き手参加の心得(共通編)】
 ・リレーSS企画なので、一人で先走りすぎないこと、書き手参加の皆でひとつの物語を作ることを意識するべし
 ・キャラへの愛情を持って書くべし 
 ・特定の参加者の時間だけ進めすぎることがないようにするべし 取り残されると動きが制限されてしまうので


【禁止事項・作品NGについて】
 ・過去の作品で死亡が確定している参加者を蘇生してはいけない(優勝賞品除く)
 ・文章そのものが小説の体をなしていない(日本語として意味が通らない)
 ・過去の作品との大きな矛盾がある作品は修正。不可能な場合は破棄。
 ・修正要求は主観的な意見は一切受け付けない。明確な指摘がある場合は本スレかしたらば修正用スレにて該当箇所の指摘。本スレでの指摘後はしたらばに移動。
 ・修正要求を受けた書き手は48時間以内に返答、必要とあらば修正をする。
 ・2ch本スレッドでの修正議論は行わない。したらばに誘導し、従わない場合は対応しない。


【その他注意事項】
 ・ここに書かれていないこと=しても良いこと、ではありません。ルールの悪用は避けましょう!
 ・特定の書き手の誹謗中傷はしないこと 議論でなく罵り合いにならないように注意!
 ・作品が投下されたら誤字脱字の指摘や矛盾点の報告の前にできるだけ投下乙!の声を! 書き手の動力源です!
 ・みんなで仲良くリレーしていきましょう


【SS用キャラのテンプレ】
【エリア(A-1など)/地名/○○日目・時間(深夜・早朝・昼間など)】


【キャラ名@作品名】
[状態]:体調、精神状態、怪我 など
[装備]:装備 手に持ったりとすぐに使える状態の物
[道具]:基本支給品、不明支給品、などリュックに詰まっている物など
[思考・状況]
基本行動方針:ロワ内での基本的指針 
1:
2:
3:
現在の状況での行動・思考の優先順位


[備考]
その他、SS内でのアイテム放置、崩壊など

5 ◆CFbjQX2oDg:2011/09/13(火) 00:15:10 ID:Wz3M2H.M0
以上でテンプレを終了致します。

遅れましたが、管理人氏、他のロワの方へ
今後こちらでお世話になりたいと思いますのでよろしくお願い致します。

もし何かありましたら出来るだけ早く対応するようにしたいと思います。

6 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:35:23 ID:PF41Ruos0
では予約分を投下します。

7名無しさん:2011/09/13(火) 23:36:13 ID:H38W4VAQ0
支援

8白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:36:42 ID:PF41Ruos0
「移動しようと思っていましたがその必要はなかったようですね……桜見タワーへようこそ、そこの貴方はまた会いましたね」

その男、ヨキは先程までの涙を感じさせない極上の笑顔でにこやかに来客を迎えた。

「わざわざ出迎えご苦労様なことだ、出来れば二度と見たくない顔だったんだがな」
「…………」
「……っ」

おかしな珍道中を繰り広げていた三人、桐山和雄、ハード、翠星石の目の前に有るのは無残にも壊された美神愛の成れの果て。
地面に垂れた血はカピカピになり鮮やかな赤は黒へと変わり地面を染めあげる。
眼球は崩れ落ち、内股から覗いている肉は新鮮さを失い、嗅ぐだけで胃液がこみ上げてきそうなくらいに臭い。

「それで、そいつはお前が殺したのか?」
「ええ、この人は私が殺しました」

至極あっさりと答えるヨキにハードはどうでもいいと軽く流す。
そのぞんざいな反応に翠星石が何かを言おうとするが桐山に止められてぐぬぬとなんとも言えない顔で出かかった言葉を止めた。
いくら嘆いても、怒りをあらわしても、死んだ者は帰ってこない。この場にいる全員がそれを理解していた。
今は死者が出てしまったことを嘆く時ではない。

「そうか……もう一つ聞いてもいいか?」
「いいですよ、何かありましたか?」
「ワタルという参加者に聞き覚えは?」

ワタルを殺した者を必ず殺す。それはハードにとって唯一無二の“願い”である。
希望を刈り取った愚か者には罰を。その者がどんな者であったとしても容赦なく撃ち抜く。
何を喋るまでもなく、理由を聞くまでもなく、殺す。

「いえ、あの放送で私は聞いただけです」
「そうか……」
「ですが、どっちにしろ会ったら私が殺していましたね」

言葉が言い終わるのと同時に銃声が一つ。二つ。三つ。
放たれた三つの銃弾は瞬時に装着されたスプンタ・マンユの装甲によって弾かれた。
弾丸如きでやられるほどちゃちなものではないのだ、護神像というものは。

「もういい……お前は害でしかない、此処で消えろ」

翠星石も、桐山もいつでも動ける態勢を取る。この者をこのままにしておけばさらなる犠牲者が出ることは嫌でも理解できた。
人を殺すことに良心の呵責がないこの男は危険だ、と三人は考える。
ならば、ここで決着をつけたほうが後々にも良い方向へと響く。

「やれやれ……まあいいでしょう。お手柔らかにお願いしますね」

9白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:37:15 ID:PF41Ruos0



◆ ◆ ◆



坂本竜太は放送も聞かずに恐怖からの逃亡を続けていた。
九一郎の死、チャンによる宣言とそれに付随して襲いかかってきた闘気。
それらの影響からなるストレスにより竜太の心のキャパシティはもう限界を越えている。

(……冗談、じゃねえ)

もう殺しあいなんてしたくない。何処か安全な場所でぐっすりと眠りたい。
これは贅沢な悩みなのだろうか。いや、当たり前の願いだろう。
あくまで一般人である竜太にとってこの世界は害でしかないのだから。

(もう嫌なんだよ、何もかも! オレを休ませてくれ!)

竜太は背中に背負った蒼星石をチラッと見るが起きる気配はまだない。
ともかく戦闘がない場所へ。桜見タワーで休息を取り、しばらく籠城して体力を回復させる。
最初こそは快速だった竜太の足も何時間も走り続けた結果、動きが鈍く時には縺れそうになり限界を迎えていた。
なればこその籠城。これから先、戦うにしても今は休息が歳優先。
それが竜太のプランだった。だが、そのプランは簡単に崩されることとなる。

「ふざけんなよ……」

眼前――桜見タワーで繰り広げられている超常的な戦闘光景を竜太は見てしまった。
銃弾と光る無数の手が飛び交い、付随して樹の枝がうねうねと動くといった常識ではありえない景色。
それに拍車を掛けるのが全員が全員移動が化物じみているということだ。
あそこまで戦えるのは何故。ああ、やはりあの者たちは化物なのか。
竜太が後ずさりし、その場から急いで逃げようとしたその時。

「逃がしませんよ」

スプンタ・マンユから放たれた千手が竜太目がけて迸る。今の竜太では避けること叶わぬ即死の一撃。
そのまま身動きすら取れず貫かれると思いきや黒の風が千手を圧潰する。

「早く、逃げろ」

桐山の短くも明瞭な言葉に竜太は首をブンブンと振り慌てて起き上がり逃げようとするが身体は思い通りに動いてはくれなかった。
今までの走行に体力を奪われた結果である。ニートとして惰眠を貪ってきた竜太の体力は既に底をつきかけていたのだ。

10白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:37:51 ID:PF41Ruos0
このままここにいたら殺される。竜太はもがきながらも必死に後ろへとはいずるがそんな蟻のような遅さをヨキは見逃す訳がなかった。

「ひっ!」

竜太の悲鳴を耳に聞き、再び飛来する千手を弾きながら、桐山は冷静にこの強大な敵の排除方法よりもどうやってこの先頭から翠星石を逃がすかについて考えていた。
彼はとことんまでに水銀燈の遺言を遂行する騎士である。
『アリスゲームを守る』という言葉を最優先に桐山はこの殺し合いで動くのだ。
なればこそ、最悪のケースを想定して翠星石は命を犠牲にしてでも護らなければならない。
そしてもう一つのキーパーソンがここにある。

(あの男の後ろに背負われているのもローゼンメイデンか。見た目からして蒼星石、と判断できる)

目的に蒼星石の生存も追加。達成難易度はノーマルからハードへと変更。
二人を五体満足に無事に生かすにはこの敵は些か強く、全員で逃げる選択肢は除外される。
ならばどうすればいいか。その為に桐山が編み出した手段は。

「翠星石」
「あ? 今必死にあの変な手をふせ……ってひゃあ!」
「あの二人を護っていろ、片方はお前の会いたがっていた奴だ」

翠星石を竜太の元へと投げ飛ばし、迫り来る千手をデイバックから取り出した刀で斬り落とす。
前衛では自分の他にもハードが両手に持つ拳銃、それに加えて背中から伸びている五本の拳銃である“千銃”を駆使しながら千手を躱しつつも反撃を行っている。

(これでいい)

桐山が考えた手段は簡素なものだった。
前衛の自分とハードでヨキを殺す。翠星石には動けない二人の護りを担当してもらい直接に関わらせない。
もし自分達が倒される可能性があるならば彼女達には逃げるよう説得するだけである。
だがそんなことをせずとも、

「……遅れるなよ、ハード」
「誰にものを言っている。貴様こそ足を引っ張るんじゃないぞ」

ここでヨキを完膚なきまでに殺せば万事解決だ!
まずはハードが牽制含めて放った銃弾が地面を跳ねながらヨキに対して左右上下と様々な角度から迫る。
しかし、銃弾による多重攻撃もヨキのスプンタ・マンユを貫くに値しない。
いくら銃弾を撃ち放っても護神像による装甲に弾かれて足止め程度にしかならなかった。
それでも桐山には一歩を踏みこむ十全たる隙となる。

11白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:38:19 ID:PF41Ruos0

「斬り崩す――っ!」

次の瞬間、ヨキの眼前に突風が到来した。手には刀を。桐山による横薙ぎに振るわれた一撃はスプンタ・マンユに肉薄する。
これだけでは終わらないし止まらない。追撃の手数を緩めずに刀は風を抉り斬りながらヨキを殺そうと虚空を駆け抜けた。
加えて、援護射撃としてハードが繰る銃弾が桐山の身体の合間を縫うように飛び跳ねる。

「さすがはこのバトルロワイアルで有数の実力者なだけはある。私も攻撃を躱すので精一杯だ」
「そう言ってられるのも今のうちだぞ。もう手は抜かない。私の全力でお前を殺してやる」

銃弾と刀の波状攻撃にヨキは何をするでもなくただ避け続けている。
桐山はハードの指示を受けて的確に躱し、動けない竜太をめがけて千手を放っても翆星石の茨に阻まれてその先には届かない。
戦況は明らかに桐山達の優勢で進んでいた。
そして、この戦闘の核は言うまでもなくハードだ。彼女の絶対的な空間認識能力がこの戦闘を有利に進めている。

「今だっ、進めぇぇええええええ!」

合計七つの拳銃から放たれた銃弾の波が三百六十度の角度からヨキを襲い動きを止める。
刹那、桐山が仮面ライダーとしての身体能力を利用して一気に間合いを詰めて刀を大きく――振るえなかった。



――――――なぜ水銀燈がここにいる?



桐山の目にはもう二度と映ることはないであろう忠義を誓った主の姿が写ってしまった。
それを見て決して止めてはならなかった動きが停止する。
先ほどまでの奇妙な形態の人間とは違ってそこにいるのは水銀燈。
誓いを立てたあの可憐な姿は一寸の違いも見当たらない。

「水銀――」

その言葉は最後まで紡がれない。桐山は思った。
なぜ、自分は腹に痛みを覚えている。なぜ、自分は水銀燈に拳を振るわれている。
それに対しての応えはないまま、桐山は地面に崩れ落ちる。

12白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:40:00 ID:PF41Ruos0



◆ ◆ ◆



崩れ落ちていく桐山の姿に翠星石は目を見開いた。
退治していた謎の男が突然自分の姉へと姿を変えた。そして、その姉が桐山を吹き飛ばした。
頭の中にはクエスチョンマークがポンポンと出てくる。

「き、さまっ!」

吹き飛ぶ桐山に巻き込まれて態勢を崩したハードが立ち上がり取りこぼした拳銃を拾い前へと向ける。
今すぐにでも銃弾をめちゃくちゃに撃ち放ってでも距離を取らなければ。
そう瞬時に判断し、ハードは顔を上げて前を見据える。
そして、ハードもまたもう見ることはない幻想を見ることとなる。

「ワタル……!」

わかっている、わかっているのだ。これがヨキの見せる幻想であり本物のワタルはもうこの世にはいないということに。
それでもワタルなのだ。何処からどう見ても彼にしか見えないのだ。
ハードは今すぐにでも引かなければならないのに銃爪を引くことに躊躇を覚えてしまった。
銃把を握り、標的を定め、銃爪を引いて銃弾を放つ。
ただそれだけのことなのに。指が震えてしまったのは、一瞬でも迷ってしまったのは自分の弱さなのだろう。

「あ…………」
「君は脆いね、だけどそれでこそ私が憎む赤き血の人間だ」

ワタルの姿をしたヨキによるまっすぐに突き出された拳がハードの腹を貫いた。力を失った身体からは血をダムから放出される水のように流れだす。
翆星石にはハードが銃爪を引くのをためらった理由がはっきりとはわからなかったが大体は理解できる。
彼はきっとハードにとっては大切な人だったのだろう、と。

「さてと、残るのは君達だけだよ」

ヨキはゆっくりと、されど悠然と翆星石達へと迫る。
その訳もわからぬ迫力に翆星石は思わず喉を鳴らす。
こちらの残存戦力はもう自分一人しかいない。
横でへたりこんでいる男はもう見るからに限界。蒼星石は未だ目を覚まさない。

「お前、もれ人間が言ってた……ヨキ先生?」
「ほう、君はシオに会っていたのかい?」
「……もれ人間は翠星石をかばって死んだですぅ」

脳裏にはシオの底抜けに明るい笑顔が容易に浮かぶ。
命を犠牲にしてでも翠星石を守ったその意志は護神像の継承によって嘘偽りのない綺麗なものだったということが嫌になるくらいにわかっている。
それなのに、自分は。

13白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:40:47 ID:PF41Ruos0

「翠星石はもれ人間を信じてやれなかったですぅ。きっとこいつも裏切る、そう思っていたですぅ」

きっと裏切る。今までと同じように平気な顔をしてヘドロのような感情をぶちまけられて自分はまた落胆する。
勝手に落胆して、人間は汚いと思って。それらの繰り返しを延々と続けてきた。
そして、この殺し合いの場でもその繰り返しは終わらなかった。

「それでももれ人間は翆星石を命がけで護ってくれたですぅ。最後まで信じきれなかったのに……」

彼を見捨てて逃げた自分のほうが本当の裏切り者だった。あの時一緒に戦っていればシオは死ななかったのかもしれない。
一つの命は失われずに尚も輝きを増していたのかもしれない。その輝ける機会を奪ったのは翆星石本人だ。
自分の臆病な心が原因で大切なモノを失ってしまった。

「この護神像を受け継いで初めて知ったですぅ。もれ人間が背負ってきたものの重さが。
 もれ人間が最期まで闘いの果てにある平和を願っていたことも」

翆星石はアールマティの“願い”がインストールされたことにより防人の全てを知ってしまった。
防人達の生きたいという、幸せになりたいという思いが嫌でも流れこんでくる。
痛みに耐えつつも一つずつ受け入れた“願い”、そして最後にインストールされたのはシオの願いだった。
皆が笑って暮らせればいいのに。宿命なんてなくなって自由気ままに生きることが出来ればいいのに。
その願いのインストールを終えた後に待っていたのはどこか穴が開いたような喪失だった。
これらの願いは叶えられることなくこの地で沈んでしまった。幾多もの防人と一緒に薄くなっていく。

「だから背負うですぅ、忘れないですぅ。アールマティに溜め込まれていた願い、もれ人間の願いも含めて……!」

例えそれらの願いが薄くなったとしても無駄にはしてたまるものか。
何一つ忘れずに自分は最期まで生き抜いてみせる。重くて苦しくて、倒れかけても絶対に。
誰の為でもない、自分自身がそう望んでいる。

「君に止められるのかい? 私の護神像を! 神様の玩具如きが!」
「翠星石が止めるんじゃないですぅ」

どんな時でも独りじゃない。翆星石にはわかるのだ、アールマティの中にシオがいることに。
頑張れ、そう言ってくれていると。
だから――

「アールマティに溜め込まれた願いともれ人間の願い、翆星石の願いのみんながお前を止めるんですぅっっっ!!」

14白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:41:19 ID:PF41Ruos0
――翆星石はもう迷わない。
合体。翆星石にまとわりつき、装甲が完成する。
ここに元の世界では叶わなかったスプンタ・マンユとアールマティの決着の場が整った。

「君も戦うのか……自ら闘いの渦に飲み込まれようとする者を見逃す程私は甘くない」

空に無数の手が浮かび上がる。空に浮かんだ千手は刹那に輝き、翆星石を飲み込もうと牙をむく。
それら全ては必殺たる一撃。今のヨキにもはや手加減はない。

「邪魔ですぅ……!」

縦横無尽に迫る千手をアールマティの特性である硬化を利用して力強く握り潰す。
この程度の攻撃を乗り越えられないのではヨキを倒すなど夢のまた夢である。
叩いて、殴って、蹴り飛ばして。そうして全部の千手が消失する頃には再び、千手の第二陣がすぐに迫ってくる。
翆星石はその場で立ち止まりそれらを受け止める他ない。

「どんなに美麗な言葉を並べたとしても結局の所、君は一人だ。一人で戦うには限界があるだろう?」
「……っ」

右から来る千手を拳を叩きつけることで潰し、正面から胸めがけて迸った千手は踏み潰してそのまま大地を蹴り上げてヨキめがけて全速力で駆け抜ける。
だが、その動きは次々に現れてくる千手が阻害することで意味を成さない。
いくら翆星石が戦えるとしてもヨキが言ったとおり限度があるのだ。
たった一人で戦うには眼の前にいる敵は強すぎる。

「一人じゃねぇよ、ばーか」

その言葉が二人の耳に聞こえたのと同時にヨキめがけて何かが投擲された。
間一髪で投擲の直撃は避けはしたが、“何か”から発生した爆炎がスプンタ・マンユに直撃し身を焦がす。
焼け付くような熱さでヨキは身をくねらせて苦痛の表情を浮かべる。

「君は……!」
「本当は黙って逃げればよかったのかなって思ってた。だけど、逃げてどうなる? 何かが変わるのか? 何も変わんねーよな。
 最終的に惨めにクソみたいな死に様晒すだけだ。それに、アンタが素直に逃がしてくれそうになかったしな」

投擲の正体はBMフレイム型。翆星石との戦闘にヨキが気を取られている隙に竜太は桐山のデイバックを漁って発見したのだ。

「ならさ、立ち向かうしかねえだろ。クソゲーのバグキャラみてぇな強キャラにでも」

これがあれば立ち向かえる。この何もかもが崩れて狂ってしまった世界でも自分は坂本竜太として生きていける。

15白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:42:22 ID:PF41Ruos0
BIMを使って人を殺すということに竜太はまだ覚悟はしきれていない。
だが目の前で誰かが死んでいくことにはもう耐え切れなかった。
ならば、例え罪を負ってでも進むべきなのではないか。今は、わからぬ道筋なれどいつかはきっと光が見えるのではないか。
その手始めに翆星石を助ける。そう決めたのだ。

「そういうことだ、ガキ。お前は一人じゃない」
「たかが一人増えた所で何が変わる!? 何も変わらないよ!」
「そう、なら僕も加われば少しは変わるんじゃないかな」

千手を次々と切り落としていく一人の人形がニコリと笑みを浮かべる。

「蒼星石…………!」
「目が覚めたばかりで状況は余りつかめていないけど。取りあえずは貴方を倒すということに結論はついたよ」

竜太と蒼星石は翆星石の横に並び立ち、互いに得物を取ってヨキを強く睨みつける。
三人の迷わぬ瞳にヨキは思わず後ろに一歩下がってしまう。
ああ苛立たしい。自分の体内に流れている黒き血が憎悪で煮えたぎる。
なぜそんな目が出来るのだ。なぜ強大な力に意志を崩さないのだ、諦めを表に出さないのだ。
殺してやる。このスプンタ・マンユの力で眼前の敵を塵一つ残すことなく殲滅してやる。

「ガキ、援護はオレ達がやる」
「後ろのことはいいから。翆星石は前に進むことだけを考えていればいい」

そして二人の援護を受け、翆星石は少しずつではあるが前へと確実に攻め上る。
護神像を受け継いだ翆星石にはわかる。地力ではヨキの方が有利であり、持久戦だとジリ貧であるということに。
今の翆星石がヨキに打ち勝つ方法はただ一つだけ。一点集中の攻撃を放ちこの闘いにピリオドを打つという単純明快なやり方だ。

「あああああああああああっ!!!!! 穿けぇェえええぇええぇぇぇえええええええええええ!!!!」

特攻形態。この一撃に願いの全てをかける。敗北は死だ、ああ負けてなるものか。
身体を沈ませて拳を後ろに大きく弓のように引き絞る。
瞬間、銃弾を放つかの如く光速の一撃を叩き込む!

「っァ……!!」

力の使いすぎで頭にノイズが走る。気にするものか、その程度シオが受けた痛みに比べたら小さい。
もう、後ろの心配をする必要はない、翆星石には仲間がいる。
今の翆星石に出来ることは仲間達を信じて眼前の敵を倒すことだけだ。
それこそがこれからの未来を創る唯一の方法なのだから。

「いい一撃です、だがその程度……私には届かない!」

16白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:42:55 ID:PF41Ruos0
「ならば私も加わればどうだ?」

そして立ち上がる一人の狙撃手。その目には砕けて飛び散った意志が再び集まっていた。
ハードは血を口からゴボゴボと吐きながら一歩ずつしっかりとした足取りで地面を踏む。
両手に持つ拳銃の行く末は翆星石とヨキの激突点。余波を受けるだけでも体に負担がかかるというのに歩みは止まらない。
停滞は、死だ。立ち止まっている暇があるなら動け。

「……私の今ある生命力の全てをお前にぶつける。さすがに無傷ではいられないだろう?」
「……正気ですか。今なら手当をすれば貴方はまだ生き延びることが出来るんですよ」
「正気さ。だって、私の願いは――」

笑う。哂う。嘲う。ハードは何もかもがおかしいと言わんばかりにケラケラと声を上げてはいるが、どこかその顔には清々しさが感じられる。
それはハードが何よりも望んだことだから。
愛する男を失う以前から抱いていた原初たる意志だから。

「誰かを護ることなのだからな」

封印魔法――蛇蝎垓流星。アールマティの一撃に相乗するように発射された光は強くきらめいた。
その輝きはこの世界の極々一部にしか届かないが尊かった。
太陽が浮かぶ蒼穹の空の下で生まれ、見る者は強いと感じる光。何かを為そうと地獄の戦場で強く咲く花のように。

(結局、ワタルの仇は討てずじまいか)

この世界で早々に散ったワタルのことを思うと胸が痛くなる。
なぜ彼が死ななければならなかったのか。死ぬ寸前になっても明確な答えはでなかった。
死んではならなかった者が死ぬこの地獄のゲーム。そして、結局は自分も死ぬのだから笑うしかない。

(それでも、)

志半ばでの死。ワタルを殺した者を殺すという願いは果たされないし、たまたまこの会場で出会った人形を助ける為に死ぬ。
だが、その行動はまさしく勇者の行動ではないか。ワタルのような綺麗な意志を持つ英雄そのものだ。
自分はそんなもの、柄ではないというのに。
だけど、不思議と嫌な気分ではなかった。むしろ、澄んだ空を見ているような、そんな感覚。
自分の身が誰かの明日への一歩を助けるものであれば。護れるものであれば。

「この結末に後悔なんて、ない」

全ての終が終える世界での狙撃手の光は絶望を貫き希望の筋を描いた。

17白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:43:49 ID:PF41Ruos0



◆ ◆ ◆



「終わった、のか?」

竜太は眼の前で起こった光景についていけなかった。
結局どうなったのか。誰が死んで誰が生き残ったのか。
ハードの封印魔法の余波によって倒壊した桜見タワーだけが確かなものとして目に映る。

「あれだけの攻撃を直撃したんだ。どう見ても無事だとは思えないね」
「ならいいけどな。そういやあのガキはどこだよ?」
「翆星石ならあそこに……」

力を使い果たして地面に倒れこんでいる翆星石の姿が見える。
それと同時に見えてはいけないものまで見えてしまった。
二人に見えたのは光る手――千手。
どうして!? ヨキは死んだのではないのか!? 二人がその疑問を抱いている間にも千手は止まらない。
千手による一撃が翆星石を貫こうと一直線に閃く。
力を使い果たして動けない翆星石に躱す術はなく、竜太も蒼星石も護るにしては距離が遠すぎる。
二人はこのままヨキの千手により貫かれる翆星石の姿を想像してしまった。
もう、間に合わない。諦めの情が嫌でも浮かび上がる。
そう、ただ一人を除いて。

「護ると、誓った」

千手が翆星石に届く直前に黒の風が代わりに受け止める。
桐山は翆星石が千手に当たらないよう全身を強く抱きしめて後ろへと下がっていく。
翆星石の体は抱きしめたら壊れてしまいそうなくらいに華奢で頼りなかった。
それでも両手は離さない。この手を離してしまったら誓いを破ってしまいそうだから。
自分にとって誓いは絶対であり生命よりも優先されるものだ。
この身体を物言わぬ盾にしてでも護り抜かなければならない。
だが、その代償は大きかった。

「ぐっ……」

桐山は口から赤い血を咳と混じらせて苦しそうに吐き出した。
そのまま片膝を地面につき、乱れた息を必死に整える。
痛みに身体を丸めながらも前を見ることは決して止めはしない。
なぜならそこにはまだ敵がいるから。

「さてと君達」

崩壊した桜見タワーの瓦礫の中から現れる白の魔人。元は純白だったスプンタ・マンユも煤と血で濡れて元の色はほとんど残っていない。

18白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:44:09 ID:PF41Ruos0
黒き血の賢者はまだ死んではいなかった。絶望は消え去ってはいないのだ。
ヨキが消え去る時は赤き血を持つ神を根絶やしにするまで。まだ死ぬべき時ではない。
勇気、友情、勝利、大いに結構。だが、それがどうした。この黒の意志を崩す理由には至らない。
悪も善もなく血反吐と臓器がぐちゃぐちゃに混ぜ込まれたこの世界で――。



「もう一度、絶望してもらおうか」



【ハード@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 死亡確認】



【E-4/崩壊桜見タワー/午前】

【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(大)、気絶
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、護神像アールマティ@waqwaq
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:ヨキを倒す。
2:アールマティと行動を共にする。
3:姉妹を探す。
4:最後の姉妹がいるかもしれない…
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:健康、ダメージ(大)、重傷?
[装備]:カードデッキ(リュウガ)
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、不明支給品1、水銀燈の羽
     エディアール家の刀@waqwaq 、七夜盲の秘薬@バジリスク
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:ヨキを殺す。
2:協力者を求める(ローゼンメイデン優先)
3:ローザミスティカをローゼンメイデンの元に集める。
4:黒い騎士からローザミスティカを取り戻す

【備考】
※参戦時期は死亡後です。

【坂本竜太@BTOOOM!】
[状態]:後頭部に痛み、現実感の喪失? 圧倒的恐怖を塗り替える勇気
[装備]:フレイム型BIM×5@BTOOOM!、デリンジャー(2/2)@現実、レーダー@BTOOOM!
[道具]:基本支給品、予備弾薬12発、
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルからの脱出
1:ヨキを倒す。
2:平さんに癒されたい

[参戦時期]ヒミコの名前を認識する前から参戦。
 ヒミコと合流しているかどうかは後の書き手にお任せします

【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(小)
[装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデン 、神業級の職人の本@ローゼンメイデン、
     葬いのボサ・ノバ@銀齢の果て
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る。
1:ヨキを倒す。
2:少女(ティオ)の夢の世界に入りたい
3:九一郎と行動を共にする。
3:ドールズと合流する。
4:雛苺を警戒。
5:水銀燈にローゼミスティカを返すよう言われたら……?

【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(大)、BMによる火傷
[装備]:スプンタ・マンユ@WaqWaq、首輪探知機@オリジナル 、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、
    夜叉丸の糸@バジリスク、スタンガン@BTOOOM!、BIM(タイマー型)@BTOOOM!(8/8)
[道具]:基本支給品×3、手鏡、果物ナイフ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:残りの敵を殲滅する。

※美神愛の日記はすべて破棄されました。
※ヒミコのレーダーは手に埋め込むことはできませんが意識を集中させることで
 レーダーの役割を果たすことはできます。感度は当然普通に使うよりも落ちます。
※近くにハードの死体、千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、ブーメラン@バトルロワイアルが落ちています。

19白光のスプンタ・マンユ〜What a beautiful hopes〜 ◆W91cP0oKww:2011/09/13(火) 23:44:33 ID:PF41Ruos0
とうかしゅうりょうです

20名無しさん:2011/09/14(水) 08:12:10 ID:baJCIB3c0
投下乙!!
ハードさん死んじゃったか
相手が悪すぎるしなあ
ニートはニートのくせにかっこいい
桐山もかっこいい

けれどもヨキはそれ以上に危険

21名無しさん:2011/09/15(木) 00:03:24 ID:h/xqCaX.0
投下乙!!
ハードおおおおおおおお
水銀燈にワタルに化けるとかマジスプンタマンユ鬼畜w 
ヨキ先生だってシオかアルの姿をした人を前にしたら止まっちゃうだろ!卑怯だぞ!w
坂本登場直後の地の文での扱いひっでえw そりゃあ惰眠を貪っていただろうけどさw
翠とアールマティというかシオのコンビ良いよなぁ。
てかヨキ先生しぶてえw 最後の台詞通りまた絶望しそうだ……

22名無しさん:2011/09/15(木) 01:26:45 ID:W9KpwR1k0
投下乙!
移転前の旧スレの方にも投下されているのでそちらもチェックだ☆

という訳で
>白光のスプンタ・マンユ
何という熱血中盤決戦!
幻覚に千手は卑怯すぎいるw
しかし傷ついても立ち上がり信念の一撃を!
、と熱く来たところでヨキ先生復活。
コレまでがイケイケモード(死語?)だっただけに絶望感が半端ないぜ!
そしてハード姐さんに合掌。最後までカッコよく姐さんらしかったです!

>立ち上がれども(前スレ)
ジジイとパッピーいいコンビだなぁw
パッピーからガッシュの誤解は一生溶けないままだな。ガッシュもゼオンも死んでしまった
何よりティオがアレでは……
そしてこのままだと確実に激突かw

23 ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:16:56 ID:XH7/HwPI0
投下します

24Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:19:26 ID:XH7/HwPI0

白髪鬼、津幡共仁は頭に穴が開いた少年を見下ろしていた。
空は陽が上がり、死体の状況と死体の素性を余すことなく伝えてくれる。
同行していた子供が腰を抜かし、怯えてしまったほどには。

子供、パピーを抱きかかえ、
死体から離れた壁に寄り掛からせてから。
津幡共仁は死体を検めた。

額に空いた銃創。
銃弾に突き破られた皮膚の周囲は焦げていた。
そして、この創穴からすると小口径の弾丸だ。

頭を持ち上げて死体の後頭部を見ると
銃弾の出口があった。

ならばと、津幡共仁は射線上、
突き当たるであろう
壁へと歩き、辺りを調べた。

「やはり、か」

見つけた弾丸は大きくひしゃげていたが
間違いなく.38スペシャルと呼ばれるものだった。
パピーが目覚める前、自らを覆うアーマーを叩いた銃弾と同じもの。

「不意打ち……か」

何故そう思ったか。
それは少年の顔があまりにもきれいすぎることだ。
この弾丸を用いる銃を至近距離で額に撃たれたのなら
まず顔面は判別不可能なほどに破砕されているはず。

兜か仮面越しの銃創でもなかった。
ならばこそ、凡そだが推察できる。
この少年はなにかしらの特別な力を持っていたのだと。

「この弾丸。
そして時間から考えれば
あの男が犯人と思っていいだろうな」

掌で弾丸を転がしながら白髪鬼は考えた。
この死体が纏う白銀のプレート。
まるで物語の勇者のような出で立ち。

酔狂でこのような格好をしているとは考えにくい、か?

それはどうだろうなと白髪の鬼は首を振った。
雲ひとつない青空。
風が心地よいとはいえ照りつける太陽。
服の下では汗でじっとり濡れている身。
そして純白のタキシード。

自分のような伊達男ならば
こんな格好は嬉々としてするだろう。

25Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:20:03 ID:XH7/HwPI0

「なあパピー」

後方、離れた所にある建物に寄り掛かって
座りこんでいるパピーは驚き声を出す。

「な、なんだよう!?」

「お伽噺の戦士のような格好をしたものは
 どういう人間なのだと思う?」

「し、知るかよ! 俳優かなんかじゃないのか!?」

ふむ、と白髪鬼は顎に手をやる。
少年の纏うものは勇壮。

しかし、装具に着られているという感は死体と言えども全くない。
それもこの少年が観劇に生きる者ならば説明はできる。
そして、この地で勇者、異常の力を手に入れ、
戦おうとした矢先に呆気なく殺された。
正解とは思えないがそれも中々に面白い想像だ。
白髪鬼はそう思う。

そのような同志といえる者が短い間でも
この殺し合いの舞台にいたと考えるのは、面白い。

彼もまたこの舞台で英雄になろうとするものなのだから。

「なあ、もういいだろ。ティオを探しに行こうぜ!?」

背後からパピーの声が聞こえる。

掌にある弾丸を白髪鬼は懐にしまった。
あの男、猿谷がこの少年を殺したという確たる証拠はない。
だが彼が同じ弾丸を扱う銃を持っている以上、
疑いをかけるのは自然。いや当然だろう。

「うむ。そうじゃな」

頷いた白髪鬼はパピーを
立ちあがるのを黙って待った。

腰を上げたパピーは死体に眼を向けないよう気をつけながら
おっかなびっくりパピーは白髪鬼に駆け寄った。

「止まれ!」

それを一拍の気合がこめられた声で
制する白髪鬼。

「そこにいるんじゃろう?」

26Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:20:48 ID:XH7/HwPI0

声、それが向けられたのはビルディングの群れ、
その影へ。

「ああ、鋭いご老人だ」

感心するような。
賞賛するような声とともに姿を見せたのは青年。
だが顔に塗られた儀式めいた化粧が
この青年の異様さを際立たせていた。

「覗き見するとは感心せん若者じゃな」

「これは失礼を。僕の名はブック。
 しがない魔獣使いさ」

恭しくブックは礼をする。

「ところでご老人。
 その彼は貴方が?」

「いいや。わしではないぞ」

心外そうに肩をすくめて、
白髪鬼は懐から先の弾丸をとりだした。

「これと同じ弾丸を支給されている
猿谷甚一という男が殺したようだ」

「へえ……ただの銃弾で旅人を」

仰々しい仕草でブックは
驚きを露わにした。

「旅人? この少年の名前を知っているのか?」

「ええ。ワタルという少年さ。
 勇敢でやさしい少年だった」

悲しげに伏せたまつ毛を震わせてブックは話す。

「こんなところで死んでいい少年じゃなかったのに」

白髪鬼は興味深く、最大の用心もこめて
ブックの挙動を観察する。

どこかおかしいこの男。
内に底知れない傲慢さと冷酷性を持っているように思えた。
信用は、すべきではないだろう。

27Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:21:43 ID:XH7/HwPI0

「な、なあ!」

白髪鬼がこの場をどう対応するか悩んでいた中、
後ろにいたパピーがブックへと話しかける。

「ティオっていうやつを知らないか!?
 ピンク色の長い髪をした女の子なんだけども」

パピーの言葉を聞いてブックは眉を上げる。

「ティオ? 友達かなにかかい?」

「い、いや……そういうんじゃないけどよ」

「ああ、そうだろうね」

ブックは同意するようにしきりと頷く。

「ティオは君のことを――」

その瞬間、空間が震えた。
圧倒的な音量がパピーと
白髪鬼の鼓膜どころか体全体を震わせた。

建物群の波打ったガラスがたまらず
振動に耐えきれず粉となって割れ散った。

警戒に眼つきを一層鋭くした
白髪鬼は音のした方へと視線をやった。

「君のことを敵だと言っていたからね。
 レオパルドン・パピプリオ」

豪風が面ではなく点となって
パピーへと襲いかかった。

凄まじい破壊力が地面を砕き。
周囲丸ごと陥没させた。

コンクリートが砕けて
泥団子のような固形となって舞い上がった。

パピーの命は奪われていない。
とっさにクシャスラと合体した白髪鬼が
パピーを抱え上げて5階建ての建物の屋上に着地した。

「凄いね。ティオ」

微笑み。褒めるように
ブックは手を上品に叩いた。

乾いた音が埃で覆われた
空間に虚しく響いた。

28Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:23:19 ID:XH7/HwPI0

「な、なんだよお前!」

唇を震わせたパピーが
必死に口を動かして言葉をなそうとしている。

「ほんとうにティオなのかよそれ!?
 なにをしたんだよティオに!?」

パピーの声に反応したように。
なにかに抗うような、叩き潰す咆哮が辺りを震わせる。

ピンク色の髪の化け物の服装は
パピーから聞いたものとさして変わらない。
ただ、大きさが、少なくとも5mはある。

顔は、およそ少女と表現できるものではない。
顔中の筋肉が著しく膨張し、
目が埋没してしまうほどになり。
伸びた白い牙が禍々しく陽光を反射する。

「なにもしてないよ」

口に手を当ててカラカラと笑うブック。

「ただ、ね。もう誰のことも信用できないみたいなんだ。
 君を殺すほどにはね」

肥大した足の筋肉を撓め、爆発させ、
ティオらしき化け物が白髪鬼達がいる建物へと突進する。

踏みしめている場所。
下の下の方で何かが欠けて傾く感触。
そして体が建物ごと落下しようとする。
景色が上へと落ちていった。


パピーを抱えたまま、
堪らず白髪鬼は地面へ降りた。

瓦礫の山と化した建物跡。
太い腕がそこからにょきりと生え、
ピンク色の頭が瓦礫を撥ね退けた。

「ひ、ひぃ!」

恐怖に歯の根が合わないのだろう。
かちかちという音が聞こえてきた。

雄叫びとともにティオがその巨腕をふるう。
速く、強く、そして重い。
パピーを抱えた白髪鬼には到底受け止められるものではない。

己の身を分裂させて壁にし、
辛うじて白髪鬼はティオから距離をとった。

29Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:23:46 ID:XH7/HwPI0

「キシャア!」

硬質な鳴き声が背後から聞こえる。
後ろを見た白髪鬼に映ったのは黄色の蟹のような怪人。

疲労しきった白髪鬼は一瞬反応が遅れ、
やむを得ず片手で攻撃を受け止めた。

その拍子にパピーが腕から振り落とされ
地面を転がった。

すぐ助けに向かおうとした白髪鬼だが
そこを蟹の鋏が襲いかかる。

遅く、そして軽い。
万全ならばおよそ苦も無く倒せただろうが
今の白髪鬼ではどうじても手こずってしまう。

「あ、あああああ…………」

静かに、足音強くティオがパピーへと近づく。
息遣いはまさしく獣。
だがその中にもたしかにティオの面影を感じることができて、
パピーは言いようのない悲しみに顔を歪める。

矢継ぎ早の蟹の攻撃を紙一重でかわす白髪鬼は
とっさに拳銃を構え、ブックに狙いを定めた。

パピーの言葉を信じるのなら、
ティオという少女はこの男に操られている可能性が高い。

男は今、愉悦の表情でティオとパピーに見いっている。
蟲惑的に弧を描いた口元は
劇を楽しむ観客のものか、
己の台本の出来を自賛する演出家のものなのかはわからないが。

好機と見た白髪鬼は引き金を引いた。
銃声とともに弾丸が飛び出す。

こちらを見ていないブックの額に確かに当たるはずだったそれは
まるで予知していたかのように上体を反らすことで外れた。

ブックの着ている動きやすくゆったりとした装束。
その胸元から小動物の鳴き声とともに
栗鼠のような生き物が顔を出し

「ありがとうジュリー」

ブックが指の腹で頭を撫でる。

30Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:24:23 ID:XH7/HwPI0

次の手を考える前に、
蟹の鋏が横殴りに白髪鬼の頭部を叩いた。
白髪鬼はたまらず錐もみして建物へと突っ込んだ。

クシャスラの風をもって
あのティオとかいう化け物となった少女を足止めするにも
あれを止めるほどの風を出すには体力が足りない。

「ぐ、ぐぅぅ……!」

涎を口の端から垂らして。
今にもパピーの喉笛を
食い破ろうとするようにティオは歯を剥いた。

「ま、待ってくれよティオ!」

必死に、懇願するように両手を前に出して
パピーは語りかける。

「落ち着いてくれ、ティオ。
 頼むよ。前のおまえにもどってくれよ。
お、オレ。そうしないとちびっちゃいそうだよ」

涙を目の端に浮かべて震えた声で弱弱しく話す。

「わ、わかるぜ。怖いんだよなティオ。
 正気でいるのがさ。オレですら怖くてしょうがないぜ?」

虚勢を張るように笑みを浮かべて
パピーはティオへと呼びかける。

わずかに、ティオの動きが鈍る。
油がきれ始めたからくりのように。

「で、でもさ。
 オレもいるからさ。
 元気だぜよ。一緒に協力してやるからさ。
 へへへ。百人力だぜ?」

自分の言葉に自分で勇気づけられたのか
パピーは徐々にいつもの元気をとりもどしていく。

「な? 大丈夫だって。
 なんならオレが、その、『ともだち』になってやるからさ」

ティオの両の手が震え、弱弱しくパピーへと伸ばされる。
顔は俯いたまま。巨大になった体を小さくして。

「オレもガッシュが殺し合いにのってたのはショックだけどさ。
 もうへっちゃらだしさ」

パピーの肩へとティオの手が置かれた。

31Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:25:09 ID:XH7/HwPI0


「オレは、おまえの味方だからさ」

「うそをつくな」

パピーの言葉への返答。
それは底冷えして、感情がなく。
置かれた両の手はそのままパピーの首へと移動して
包み込むように首を捻じり切った。

「ヴそをづくな」

何が起こったのかもわからないまま死んだだろう
パピーの生首を両手で握りしめる。

「ヴぞをづくな」

ゆっくりとそれは圧縮されていき。
ついには血と脳漿の色の混じり合った悪趣味なジュースとなって
ティオの手から零れおちていく。

「がっじゅがのるはずがなヴぃだろう」

伏せられた顔はピンクの髪がかかって
表情をうかがい知ることはできない。

「がっじゅをおとじいれようどするのなら」

髪を振り乱し。
ティオは空を見上げ、叫ぶ。

「おまえはともだちなんかじゃない!」

血を落とすことなく
顔を覆った。血が顔中を真っ赤に染める。

「あ、ああ……!」

ブックは嗤う。
ひたすらに喜ばしそうに嗤い続ける。

「あああああああああ!!」

顔中を掻き毟り、
耐えきれない痛みを狂った心ですら感じたのか。
ティオは何処へと去っていった。

ティオが走っていった方角をしばし見てから
ブックは白髪鬼に視線を向けた。

そこにいたのは、
白の翼人が力尽きたように膝をついている姿と。
散らばった蟹怪人の残骸。

32Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:26:03 ID:XH7/HwPI0


「おまえさんの“願い”は……なんじゃ?」

白髪鬼が苦しそうに喘ぎながらブックへと問う。

その言葉にブックは凝った装飾が施された一冊の本をとりだした。

「これは、魔界の魔物たちの術を
 人間の力で引き出すものなんだけどもね。
 面白いよこれは。人間の心の力で術を発動するんだ」

ブックの話に白髪鬼は黙っている。
ブックは、嘲りを浮かべて本を翳す。

「これは。心の限界を教えてくれるものなんだ。
 人間の限界をね」

白髪鬼はやっとのことで体中の力を振り絞って立ち上がる。

「人は心から逃れることはできない。
 だが心は限界がある。
 それなら……心なんて滅びるべきなんだ」

それを聞き、白髪鬼は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「若いな」

「若くてもかまわないさ」

ブックはその場から立ち去った。

僕は直接戦うのは苦手だからね、と最後に言い残して。

残された白髪鬼は、瓦礫に埋め尽くされた道を歩いて。
体だけとなったパピーへと歩み寄る。

幸運にも残っていた首輪と。
荷物を回収して、白髪鬼は静かに漏らした。

「疲れたなあ」

その言葉を聞くものは、いない。

33Dear My Friend  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:26:50 ID:XH7/HwPI0


【レオパルドン・パピプリオ@金色のガッシュ!! 死亡確認】
【残り 26名】


【D-3/一日目/午前】

【津幡共仁@銀齢の果て】
[状態]:気絶寸前、ダメージ(小)
[装備]:クシャスラ@waqwaq、コルト・シングル・アクション・アーミー(5/6)@現実
[道具]:基本支給品×2、簡易工具セット、輸血パック(各種血液型、黒い血のも)、
     ワタルを打ち抜いた弾丸 、月の石@金色のガッシュ!!、
     レオパルドン・パピプリオの首輪、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:英雄として行動する
1:……休むかなあ
2:ワタルの首輪も回収しておく。
3:ワタルを殺してのは猿谷だと言いふらす。
  (本当かどうか関わらず)


【D-3→???/一日目/午前】


【ティオ@金色のガッシュ!!】
[状態]:狂戦士(バーサーカー)の術により狂化・外見にも変化
[装備]:
[道具]:基本支給品、ヨキの弓矢(9/10)@waqwaq
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:グウウウウウウウ!!
※魔法が使えるかどうかは不明です
※体長5m、顔は鬼みたいな感じになってます。

【ブック@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:ダメージ小 、心の力消費小、
[装備]:契約の玉@ブレスト、ジュリー(銀嶺)@ブレスト、双眼鏡@現実、
[道具]:基本支給品、青酸カリ@バトルロワイアル、魔本(ティオ)@金色のガッシュ!!、
[思考・状況]
基本行動方針:人の心と生命を殺していく
1:ティオを利用し人間を殺す
2:ガッシュ達魔物の子に興味
3:さよならボルキャンサー……

※ボルキャンサーは津幡共仁に破壊されました。

34 ◆1yqnHVqBO6:2011/10/02(日) 02:27:07 ID:XH7/HwPI0
以上で投下終了です

35名無しさん:2011/10/04(火) 00:02:38 ID:6xr6imNw0
投下乙!
パピプリオおおおおおお
ティオはもう完全に引き返せないところに来ちゃったな……
ジジイは一先ず休憩か。肉体的には回復出来たとしても、パピーという保護対象を目の前で死なせてしまって英雄への道に対してどうするのか……
あっ、ボルキャンサーさんはおつかれさまでした。

36 ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:02:40 ID:lwPk4joM0
投下します

37【おまえがそう想うのならそう在るのだろう。】  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:05:03 ID:lwPk4joM0


【未来は不可能性に満ちています。】


「貴様は狂っている」

真紅とカントリーマンの会話を
ただじっと目を閉じて聴いていた
ミツルはあらん限りの侮蔑を込めてそう吐き捨てた。

軽蔑。
真に軽蔑すべきはこの哀れな人形ではないことなど
ミツルもわかっている。

荒廃した大地。
抉れ、消滅し、窪んだ地面。
風は吹かない。砂埃すら、空中には見当たらず。

遺っていた死体は
ノール、朧、秋山蓮、ゼオン・ベル。
そしてチャンだけであった。

最強が残した爪跡は周囲一帯に
消えない被害を残していた。
癒えることは永遠にないだろう。

この世界がミツル達の
考えている通りのものならば。

永劫癒えない世界で狂気を弾劾しようと
誰が救われるものか。

自嘲に口元を歪めるのが普通の殺人者の思考だろうが
彼らはそうしなかった。

大体の情報を交わして、
ただ休むために腰を落ち着かせているだけの時間。
支給品も、首輪も、とれるものは可能な限りとったのだから。
関わる気はないはずだった。

「身勝手な親の愛など……手にいれてなんの価値がある」

開けた目。
周囲に張り巡らせていた意識を
ドールに向けて言い放った。

そうだ。
親の愛など手に入れて何の意味がある。
エゴのために娘を作って、
思い通りにならなかったからといって。

捨てる人間など。
殺す人間などと。

38【おまえがそう想うのならそう在るのだろう。】  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:06:21 ID:lwPk4joM0

赤いドレスを血で汚した真紅は
ミツルの言葉に表情を変えず。
視線だけを向ける。

「わからないわ」

その口調に動揺はない。
強い意志が感じられた。

「手にいれたことは一度もないのだから。
知らないものの価値を理解するなんて」


【過去は不可逆性に満ちています。】


真紅に“彼”の姿が確かに重なった。
“彼”もたしかに喪われた親の愛を取り戻すために
人を殺してきた。

なのに、“願い”のために世界を犠牲にする者たちを
間違っていると否定して、闘い続けていた。

愚かな男だ。
だから。死んだ。
誰に殺されたのかもわからぬまま。
劇的な何かも遺せないまま。

「くだらん」

少しよろめきながら立ち上がった
ミツルは真紅達に背を向けて歩き出した。

「ミツル」

その背に声をかけられても
ミツルは足を止めない。
振り返ることなくその場を去ろうと
足を動かし続ける。

「私を。俺を殺さねえのかい?」

迷いがそこには見えた。
そして、覚悟が。

「ハッ」

足を速める。
真紅とカントリーマンの
気配がどんどんと遠ざかっていく。

「思い知らせたのは貴様だ」

口の中だけで呟いた。
音は出ていない。
舌だけを動かした。

39【おまえがそう想うのならそう在るのだろう。】  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:07:15 ID:lwPk4joM0


「俺の世界はもはやどこにもないと」

腕の中には今もあの感触が残っている。
意識を亡くした彼女の重みを。
この眼には今も焼き付いている。
なにも映さない眼の虚しさを。

「今など、無意味だ。
他者を気遣う必要もない。
他の世界を守る必要などどこにもない。
俺の世界は、あの時、あの瞬間であるべきだ!」

妹を死に追いやった両親はもはやこの世にいない。
女王を害したものは今では命の尊さのために闘っている。

「は、はははは」

乾いた笑いが口から零れた。
一度堰をきったそれはもう止まらない。

「ハハハハハハハハハハハハハハ!」

茶番だ。
すべてが、なにもかもが。
だからおまえは3番目にはなりえない。

真紅の姿が何故か眼に浮かぶ。
それが、僅かな時間だけ共闘しただけの七原秋也の姿に変わり。
最後は彼の、三谷亘の姿に変わった。

「おまえの仇など。討つはずがない!!」

40【おまえがそう想うのならそう在るのだろう。】  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:09:00 ID:lwPk4joM0


【現在は不確実性に満ちています。】


チャンが消費した膨大な想波エネルギーにより
闇へと呑まれていくのが定められたエリアを抜けだして。

すぐ下のエリアに入ったミツルは
岩陰へと炎を放った。

「あちゃちゃちゃちゃ!」

岩が蒸発し、跡形もなく溶けた先にいたのは
頭を燃やし走りまわる幼い子供。

褐色肌が高く上った陽に照らされて
綺麗な色合いを見せる。

ミツルの妹と同じくらいの年頃だろう。
だからなんだというわけでは断じてないのだが。

「知っていることを洗いざらい吐け。
 苦しまずに逝かせてやることもできるし。
 なんなら見逃してやってもいい。服従を誓うのならな」

これほどの幼子ならば“願い”を持って
殺し合いをするとは考えにくい。
無意識にそう強く思ったミツルはこの少女も
真紅と同じ薔薇乙女だと判断して杖を眼前にかざした。

姉妹殺しを肯定するものにかける容赦はない。

想波を練り上げ、いつでも魔法を発動できるよう備えた
ミツルは少女の返答を待つ。

「なにをするんじゃいきなり!」

憤慨した声を上げて地面を転がりまわり
火を消した少女はミツルを睨みつけた。

「おまえは……」

鉄面皮を保っていたミツルも少女の外見を見て
驚愕の表情を浮かべた。
注目は少女の首元に集中して

「あの影に与するものか」

強い口調でミツルは少女に詰問する。

「チャンとの闘いの後から
 ずっと俺達を見張っていたのはどういうことだ」

「う……」

「そもそもなぜここにいる。
 ゲームの進行に不具合が出たのか」

「うう」

「ならば随分と杜撰なことだな。
 まだ半日も経っていないというのに」

「うるさーーーーーーい!
 すこしは儂の話を聞かんか!!」

癇癪を起こした少女は地団駄を踏み。
煩わしげにわしゃわしゃと頭を掻いた。
長い銀髪がそれにあわせてぐしゃぐしゃになるが気にする様子はない。
そもそも、焦げてちりちりになっていたのだから
どうしようもないのではあったのだが。

41【おまえがそう想うのならそう在るのだろう。】  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:11:10 ID:lwPk4joM0


「……順番に。ゆっくり尋ねてやる。
 どうして俺たちを見ていた」

「それはじゃな。面白そうでついつい」

「おまえの役割は何だ」

「会場警備員。盗聴したり色々したり。
 ぶっちゃけ暇なんじゃよ。
 おぬしらみんなマジメじゃし」

「この役立たずが」

舌打ちとともに踵を返し
少女を無視することに決めたミツルの袖を少女が引っ張る。

「待つんじゃ! せっかくだし何か聞いていくんじゃ!
 儂イベントキャラ! お得お得!!」

見た目からは想像もつかない程の力で
踏ん張る少女を振りほどくのは不可能だと諦めた
ミツルは逡巡してから問いかける。

「ハルネラという単語を知っているか?」

「知ってるに決まっとるじゃろ。
 何しにお主らを喚んだと思っとるんじゃ。
 バカめ。バーカバーカ」

髪を焦がされた恨みからか少女は鼻を鳴らして全力で
ミツルを見下しにかかった。
精一杯に胸を逸した姿は愛らしいものかもしれないが
ミツルにはそんなことお構いなしであり、

「おまえを殺したら制裁はくだされるのか?」

「うむ。儂超偉いからの。というか儂以外もこのゲームの主催者は
 お主らより基本偉い。もっと感謝するんじゃぞ。
 みんなおぬしらのために忙しく働いとるんじゃし。たぶん」

さあ、敬えと言いたそうに両腕を扇ぐような形にして
少女はミツルの反応を待った。

だがミツルはこれ以上少女に付き合う気は毛頭なく。
少女がちらりとミツルを見たときには遠く離れた場所にいた。

「ワタルを殺した人間を知りたくはないか?」

彼にかけられた言葉。
その音はどこか残酷な底冷えするような響きを伴っており
思わずミツルは振り返った。

「……知っているのか?」

42【おまえがそう想うのならそう在るのだろう。】  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:13:33 ID:lwPk4joM0

「教えんもんねーだ。お主、意地悪じゃし。
 ツンデレツンデーレ」

その瞬間。
ミツルの杖から冷気が疾走し、
少女を絡めとろうとした。
しかし、あっさりと、軽々と、
跳躍しそのまま宙に浮かんだ少女は何もなかったように
ミツルへと話しかける。

「これからどうするんじゃ?」

「……女神像を見に行く。
 『儀式』は終わっていないのだろう?」

溜め息と共に出された言葉。
疲れたように首を振ると、今度こそ迷わず足を進めた。

「“闇”の進行止まらんし、
 世界の壁を保つのがしんどくなってきたようじゃから
 もうすぐこの世界を小さくするんでそのつもりでな。
 これでおぬしらも殺し合いしやすくなったというわけじゃ。
 この頑張り屋さんめ!」

振り返らない。
足もとめない。
重大な情報を知らされたのはわかっているが。
主催者側の戯れにこれ以上、注意を向けるには
ミツルという少年はまだ若さを持っていた。

自尊心を捨てられないくらいには。

――絶望はしないわ。しないように闘うと彼にも誓ったのだから。

涙の跡を残したまま。“願い”をためこむ
機械を背後に従えた人形。
姉妹の死の果てに愛を受けることなど不可能だと何故認めない。

――まあ、いいさ。こっちも楽しいって思っちまったんだ。

人々のためと謳い、女王を害しながらも。
“願い”を捨てた男、旅人。
未来が無いのを受け入れ、
今を享楽的自己満足に費やすことを選んだ反吐の出る愚者。

そして、

――ミツル。

これは、違う!
おまえは違う。
おまえは死者だ。省みる価値すら無い死者だ。
冒険譚のようには死ねなかった馬鹿な男だ。

家族の再生。姉妹の死。未来を捨てて今を生きる。

胸が痛む。
ジクリ、ジクリと。

チャンとの闘いによる
疲労はやはり無視できないか。

胸に手をあてたミツルはそう分析した。
分析しなければ、いけなかった。

43【おまえがそう想うのならそう在るのだろう。】  ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:14:52 ID:lwPk4joM0


【B-5/1日目/昼】

【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
     仮面ライダーファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
     
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:……女神像を見に行くか?
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。

※由乃の日本刀@未来日記、
 鋸@現実は貰い手がいなかったので放置されています。
 ムルムルが暇をしているのでちょこちょこと
 他の参加者にちょっかいをだすかもしれません。
 対主催側が頑張れば働き始めます。
 会場のスケールが第二放送後に縦横2分の1になります。


【B-4/1日目/昼】

【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]: 疲労(大)、“願い”インストール、七原の戦闘技術と知識継承
[装備]: ハルワタート@waqwaq、真紅の懐中時計@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品、ホーリエ、ハリセン@現実 、ローザミスティカ(水銀燈)、
     レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(8/8)、
勇者の剣(ブレイブレード)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、
     ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ、レミントンM870の弾(16発)
    カードデッキ(ナイト)、不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:七原秋也の意志と共に 。
1:とりあえずはカントリーマンと行動する。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。

【カントリーマン@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:全身ダメージ(極大)疲労(大)
[装備]:奇跡の執刀(ハイブリッド・メス)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、
カードデッキ(龍騎)、救急箱@現実、ニューナンブM60(3/5)@現実、
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×2、首輪(是方昭吾) 、首輪(相馬光子)、
     桜田ジュンの裁縫道具セット@ローゼンメイデン、首輪(朧)
     カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎、
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。
1:とりあえずは真紅と行動する。
[備考]
※ローゼンメイデン側の事情を大体把握しました。
※陽炎、相馬光子の武器を毒と判断しました。

44 ◆1yqnHVqBO6:2011/10/14(金) 14:16:23 ID:lwPk4joM0
以上で投下を終了します。
色々と考えて会場を2分の1スケールに縮めることにしました。
反論がある方もいると思いますので何かあるようでしたら議論スレにてお願いします。

45名無しさん:2011/10/16(日) 12:19:05 ID:ZZJskPUo0
投下乙!
ムルムルもいたのかw
そして他にもまだ誰かいそうなことを示唆しやがったぜw 今この時間の流れではデウスは一体どうなっているやら
ミツル! ムルムルに聞くまでもなく、猿谷さんが生きているうちに荷物を見る機会があれば答えはわかったのにな!
護神像があった上に猿谷と合流した直後にチャンとの戦闘でそんな暇無かったけどなw
真紅たちと話の後に荷物漁りすれば勇者の剣を発見して気づいたかもなw

46 ◆1yqnHVqBO6:2011/10/16(日) 14:37:16 ID:ZlqltnRA0
ああ、ごめんなさい。勇者の剣のこと忘れてました!

>>37


>大体の情報を交わして、
>ただ休むために腰を落ち着かせているだけの時間。
>支給品も、首輪も、とれるものは可能な限りとったのだから。
>関わる気はないはずだった。



大体の情報を交わして、
ただ休むために腰を落ち着かせているだけの時間。

支給品も、首輪も、とれるものは可能な限りとった。
互いに何をとったのかは一切明かさないまま。

有用な武器やアイテムがあったのならば
チャン相手に使わないはずがない。

魔術に類するものならば千を超える術を修めた
ミツルが休息を消してまでとる価値があるとは思えない。

ゲームを壊す支給品。
そんなものがあるとも思えなかった。

今のミツルには体を休めることが最優先。
だから、関わる気はないはずだった。

と変更します。

47 ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 01:52:30 ID:1kXl1w660
投下します

48弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 01:54:12 ID:1kXl1w660


巻き上げられた瓦礫が宙を舞い。
真上にさしかかろうとする太陽を隠していた。
斬撃。斬り払われる無数の手。

それをぼんやりと目にして。
翠星石は瞼を開けた。

「気がついたか!?」

大声で覗き込んできたのは
たしか桐山ではなくもう一人の人間、坂本。

「どれくらい……?」

「十分も経ってねえよ」

吐き捨てるように言った坂本の声には
焦りと苦悩が混じっており。
状況が決して良いものではないということを教えた。

「蒼星石……」

坂本に抱きかかえられていた
翠星石は地面へと降りて、残る二人の姿を目にする。
言うなれば籠城。

前方では蒼星石が庭師の鋏を振るい。
後方では桐山が負傷を堪えて刀を振るう。

半ばで切り落とされる手。手。手。
だがその勢いは已然、止むことがなく。
互いに寄り添うように固まることで
辛うじて猛攻を凌いでいた。

「あの、蒼星石ってやつが言ってたんだが」

剣戟が産みだす擦過音と火花が周囲を喧しく乱す中。
坂本が真剣な顔で、一縷の望みを託すように
翠星石を見つめていた。

「お前たち二人なら
逆転の目があるっていうのは本当か?」

「駄目だ」

翠星石の答えを聞くまでもなく。
譲らぬ意志を感じさせる堅さをもって
桐山が割り込んだ。

「だからといってこのままじゃ全滅だぞ!?」

「まだBIMがあるだろう。
 いざとなったら薔薇乙女を逃し。
 俺とお前で特攻自爆して目眩ましになれば」

「いや、お前はなにを言っているんだ」

49弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 01:54:52 ID:1kXl1w660


眉間に皺を寄せて憮然とした坂本は
付き合っていられないとしゃがみこみ
翠星石に目線を合わせる。

「頼む。サポートは全力でするから
 なにかあるのなら教えてくれ。
 俺はみんなと生きて帰りたいんだ」

大人としての自尊心のすべてを捨てて、
坂本は翠星石に問いかける。
彼の半分の身長もない小さなドールに
希望を見出そうと必死で。

「ある……ですよね。蒼星石」

攻撃のほぼすべてを小さな体で必死に受け止める
蒼星石に応える余裕はない。
ただ、ほんのわずかに視線をこちらに向け。
たしかに、こくりと頷くのが見えた。


………………………………………………………………。

50弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 01:56:09 ID:1kXl1w660

一通りの各々の力を話した上での
方針立案は終了した。

桐山は薔薇乙女を危険に晒すことを了承するのに時間がかかったが。
だんだんと精彩を失っていく動きでは
捨て身であっても薔薇乙女を逃し切るのは
難しいと判断して最後は首を縦に振った。

「じゃあ、だめ人間はカズオと
 一緒に後ろでサポートするですよ」

「お前、あとで覚えてろよ」

頬をひきつらせながらも
坂本は翠星石の言葉に従い桐山の側へと寄る。

猛攻は未だ止むことがないが。
相手も疲労しているのか
わずかに緩む瞬間がある。

翠星石が、右足を後ろに置き。
すぐにでも走り出せる体勢をとる。

蒼星石が大きく後ろに飛び。
彼女に目掛けて光とともに手が伸びてくる。

「行け!」

読んでいた坂本がフレイム型BIMで
手を焼き払うのと同時に。

「すこやかに〜。のびやかに〜」

隣り合った翠星石と蒼星石の足元を大樹が持ち上げ。
前方へとコンクリート床ごと撥ね飛ばした。

手に覆われて見えなかった敵の姿。
それが空へ飛ぶことで視認可能となる。

「来るよ。翠星石」

「よしきたですぅ!」

周囲に光が散乱し、
腕が翠星石達を掴みとらんと伸ばされる。

そのすべてを前もって喰らっていた
瓦礫の欠片群を吐き出し、打ち消す。

敵、ヨキは遥か下から翠星石と蒼星石を
無表情に見上げている。
視線が突き刺すような鋭さを帯びて。
放物線を描き、落下していく二人とヨキを結ぶ
直線に沿って数百の腕が槍のように束ねられ。
進む。進む。肉片すら残すまいとして。

槍がコンクリート床を破砕する直前。
アールマティと合体した
翠星石の左腕が床をすべて喰らい。

足場を失った二人は
鞄に乗って風をきって滑空する。
狙いが分かれたことで
それぞれに行われる攻撃の手が緩む。

51弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 01:57:24 ID:1kXl1w660


ほぼ垂直に鞄を傾けて速度を上げた翠星石は
喰らったコンクリートを雹のようにヨキへと乱射した。
それを目前で防いだヨキは落下地点を目測し
四方に生じさせた腕で押し潰そうとするも

「こちらだよ」

注意が逸れた隙に鞄から飛び降りた蒼星石が
鋏を振り上げヨキの脳天へと襲いかかった。
それを虚空から突き出された手で握りしめられ。
浮かんだまま身動きの取れなくなった蒼星石へ
更なる腕が襲いかかる。

「まだまだぁぁぁ!」

気合の入った叫びとともに木が
蒼星石を持ち上げ腕を根元から断つ。

解放された蒼星石は即座に樹の幹を蹴り
蒼い弾丸となってヨキへと突き進む。

「あまいよ」

氷のような冷たさを声にのせてヨキは壁のように
隙間なく手を張り巡らせ、蒼星石を迎える。

だが、蒼星石は更に生えでた大樹を蹴ることで
方向転換し着地すると勢いを殺さず。
ぐるり、ぐるぅりと大きく回転し遠心力をもって
死角からヨキの胴体へと斬りかかった。

「……どういうこと?」

左右に産み出した腕で刃が触れる寸前に持ち上げられた
ヨキは予想以上の二人の実力に疑問の声をあげた。

「互いがいなければなにもできない無力なドール。
 もう敗れた水銀燈はかつて僕たちをそう称したね」

「え、まじぃ!? く〜!
 これだからあんちくしょうは意地悪ドールですぅ!」

頭に載せられたシルクハットは落ちることなくそこにあり。
小さい体には不釣り合いな大きな大きな鋏を構えて。
蒼星石は凛然とした眼を揺らがせることなく対峙する。

不満の声をあげる翠星石には返事せず。
蒼星石は続ける。

「けれど。僕たちが二人でひとつとなれば
 誰にも負けない。姉妹以上に近しい。双子である僕たちは」

「降参するなら今のうちですよ!」

胸を張る翠星石と静かに構える蒼星石。

52弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 01:58:27 ID:1kXl1w660

対する音もなく地面に降り立ったヨキに動揺はない。
頬を血に汚して。純白の体がおびただしい血痕と煤に塗れても。

そう。動揺があったのはむしろ

「黒き……血」

「人間じゃなかったんですか!?」

ヨキはその言葉に口の端を自嘲で吊りあげる。

「人間でないのなら。なんだというのだい?」

殺気が、気配が。増していく。
これは怒りにか。殺意にか。
それとも

「私も、シオも。人間だよ」

悲哀か。

「意志なき機械人形(オートマトン)では、断じてない」

いいや、これは“願い”。
渇望が空気を歪めているのだ。
震える大気。総毛立つ体をなんとか抑えこみ。
翠星石は言葉を発しようと

「翠星石!」

その前に蒼星石の叫び声が耳に届き。
ヨキによって固められていた意識と緊張が解かれる。

聞こえるのは機械音。
デジタル時計がアラームを鳴らすような。
朝を告げようとするような。

「硬化です! アールマティ」

爆風が周囲に展開された結界の外で吹き荒ぶ。
周囲が赤と黒に覆われ。
上空に座す弦を垂らしていた手が急降下して、
硬化バリアーを貫く。

バリアーにより辛うじて狙いが逸れた貫手は
翠星石の髪の毛を一房切るとそのまま地面にめり込む。

蒼星石は寸前でBIMを遠くに弾くことで辛うじて
爆風から逃げのびていた。
その衝撃で頭からシルクハットが飛んでいき
服の端々が焦げ付いてしまってはいたが。

53弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 02:00:18 ID:1kXl1w660


「彼は!?」

「翠星石から見て右斜め前だ!」

遠くから坂本の声が聞こえる。

「翠星石!」

「がってん!」

翠星石と蒼星石の手に握られているのは
フレイム型のBIM。
スイッチを押すと十字架の
粘着性のある炎が産まれるもの。

その真価は燃える軌道の予測が容易であり。
囲い込みがしやすいところにある。

「こっちはお前が爆弾持ってることなんて
お見通しだったんですよ!」

二人は炎を発生させ。
すぐさま産み出した木に乗って
蒼星石は翠星石の方へと飛び移った。
蒼星石たちはすぐに元いた場所へと飛ぶ。

「囲い込みは終わった。
 位置は俺のレーダーで捕捉できる。
 これで俺達の勝ちだ!!」

ガッツポーズをして笑みを浮かべる坂本とは対照的に、
上へ逃げられた際の銃撃のために
油断なくデリンジャーを構える桐山。

「支障はないか。ふたりとも」

安否を問う桐山に大きく頷き。
翠星石は右手に庭師の如雨露を持ち。
蒼星石は左手に庭師の鋏を握りしめ。

交差する二振り。
重なる音が鈴のように鳴り。
歌う声が炎にたゆたう。

「健やかに。伸びやかに」

「芽を吹かせ。若葉を萌やし」

炎が空高く吹き上がる。
白光の手に似た太陽へと。

「緑の梢を茂らせて……」

「光の示す方向へ――!」

大樹。
それはまるで世界樹のように。
纏う炎をものともせずに。
幾重にも折り重なった牢獄のように育ち。

54弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 02:01:42 ID:1kXl1w660

ヨキのいる場所で一つの美術品のようにそれは育った。
圧倒的な力をもって。
桜見タワーにも届く高さを、
双子の人形が産み出し。

新たな塔が、そこには。あった。

「すげえ……」

感嘆の息を漏らし。
坂本は空高く白光浴びて
そびえる大樹を見上げた。

「まだだ」

達成感に包まれて、
強ばらせていた表情を和らげる翠星石たちをよそに
桐山だけが空の先。大樹の頂上を見据えていた。

そこにいたのは罅割れた人の似姿。
太陽の光を一身に浴び、黒き影となった姿。
大樹が伸びるのとほぼ同速度、超高速で腕を産み出し。
そこから回避したのは足元にある大穴により推測できたが。
桐山たちからは見えない。

ただ、わかったのは。
双子人形のすべての力を振り絞っても
あの賢人には届かなかったということ。

そして、光が煌き。
こちらへとまっすぐ伸ばされる腕がひとつ。

狙いは逸れない。
伸びる、伸びる。
炎も緑も突き破り。

翠星石たちへと。
弩のような剛健さで奔る。

「くそぉっ!」

已むを得ず残りのBIMすべてをもって
炎の壁を展開させる坂本。

二重の十字架。
しかし、それをも腕は引き裂く。

「アールマティ。フルパワー硬化!」

展開した鎖のように綿密な障壁を貫いて。
最後に蒼星石が庭師の鋏で食い止める。
だが、勢いは減じただけで消えはせずに。

「これで……終わりか……!」

55弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 02:03:04 ID:1kXl1w660

「まだだ」

言葉とともに。仮面ライダーリュウガはデッキから
カードを一枚抜き取り。

「行方のわからなかったコイントス。
 再び試すのも。そう、悪くない」

桐山は、彼すら効果の知らないカードを
バイザーにセットする。

――ADVENT――

空中を駆ける暗黒竜。
腕が突き進んできた道を遡るようにそれは進み。
空を喰らい。炎を喰らい。緑を喰らい。
最後に、影となった人をも喰らった。

大樹の頂上にはなにもいない。
ただ祝福するように陽が照らす。

「今度こそ、終わったのか」

「ああ」

安堵のあまりその場で
腰を下ろしそうになる体を叱咤して。
燃える炎から大きく迂回して坂本は大樹の方へと歩く。

散乱していたヨキとハードの荷物を拾った坂本は口に笑みを浮かべて。
桐山達に手を振った。

それに小さく手を振る翠星石と蒼星石を見て。
漆黒の鎧に身を包んだ桐山は息を吐き。
ここにいない誰かを思ってか空を見上げた。

だが。
地面に大きな影が射し。
空気を押しつぶす轟音とともに。
鎧を一色に塗っていた漆黒は、霧散し。
虚空へと溶けた。

大地を揺らし。
残骸となった黒龍、
ドラグブラッカーは地に伏す。

開いた腹の穴から覗くのは肥大化した能面。

それは、歓喜に歪み。
暴食に身を任せて口を大きく開き。
噛み締めるように並んだ太く白い歯で
押し潰し。飲み込んでいた。

56弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 02:06:07 ID:1kXl1w660


急速に。急速に。
ナンセンスというべきか。
異界の光景と呼ぶべきか。

だが、それはたしかにそこにあった。

能面が。龍を貪り尽くしていた。

「坂本!」

声にびくりと体を大きく震わせた坂本は
咄嗟に持っていた荷物を桐山へと投げ、叫んだ。

「逃げろ!」

辛うじてキャッチした桐山は
有無をいわせずに翠星石と蒼星石を抱えようとして。

坂本が宙に浮いたまま
高速でこちらに走ってくるのを目にした。

背中からは筋張った誰かの手が生えており。
炎を一つ跳びで越えると坂本から手を抜きとった。

彼の影になって見えなかった
それは中年女性の姿をしていた。

「共闘した仲間の死体も樹に飲み込むとは感心しないね」

跡形もなく食われた黒龍のいた場所。
そこに立つ賢者が一人。
悠然とそこに立ち。
顔には微笑みを貼りつけて。

「四つの玉が産みだす力はやはり素晴らしい」

炎を背にしたそれは微笑んでいた。

一歩を踏み出し。
後ろ足に力を込めて蹴ると弾丸へ変わり。
桐山たちへ襲いかかった。

その前に出たのは桐山。
ブランク体となった装甲。
腕を交差して貫手を迎え撃ち。

衝撃が、体中を走り。デッキが割れる。
吹き飛ばされた桐山が翠星石たちにあたり
もろとも転がる。

着地したそれは水銀燈の姿をしていた。
髪を靡かせて、歩く。それは微笑んでいた。

「彼を連れて逃げるんだ。翠星石」

「そ、そんなの……」

「急いで。早く!!」

歩みを止めずに。
水銀燈の姿は今や
蒼星石の姿に変わっていた。

服装も、造形も寸分違わずに。
やはり、それは、微笑んでいた。

57弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 02:07:07 ID:1kXl1w660

蒼星石は翠星石を抱きしめて。
額にそっと接吻をする。

「君のマスターがそうするように。
 君がマスターにそうするように」

蒼星石は翠星石へと笑いかける。
微笑むのではなく。満面の笑みで。

「愛しているよ。翠星石。
 大嫌いでもあるけれど。
 それよりも。ずっと、ずっと。愛している」

瞳から一筋の涙を零して。
双子の人形は離れる。

大粒の涙を流しながら、
なにも言うことができず。
翠星石は桐山を担いでその場を走り去った。

「此処から先は、通さない」

疲労に蝕まれた体を必死に鼓舞し。
涙の跡を細く残したまま。

鋏を構え、蒼星石の姿をした
それの前に立ちはだかる。

微笑む蒼星石と
静謐な表情を崩さない蒼星石。

「未来を悟り、なお死の嵐に立ち向かうか」

ヨキの声が。小さいはずの声なのに。
翠星石の耳にも届き。
射すような痛みを与える。

「賞賛しよう」

拳を構えた護神像、
その一撃の隙間を縫って
全身全霊を篭めた一太刀で両断しようと機を狙う蒼星石。

拳が放たれ。
風とともに蒼星石へと撃たれる。
重心を沈めて避けた蒼星石は一直線に
胸元へと切っ先を走らせ。

表情が歪み。
刃が、ぶれる。
斬撃が、空を斬る。

「君は、儚く。勇敢で。美しい」

もう片方の手が貫手となって
蒼星石を穿つ。

手から鋏が零れ落ち。
彼女の瞼が静かに閉ざされる。

彼女の胸を貫いたまま。
翠星石は微笑んでいた。

58弔いのボサ・ノバ  ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 02:10:29 ID:1kXl1w660


【E-4/崩壊桜見タワー/昼】

【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、BMによる火傷 、気絶寸前
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、
     蒼星石のローザミスティカ完食)@WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:休む。




滲みゆく視界。
その先で蒼星石が貫かれるのを
ただ為す術なく桐山は見つめていた。

翠星石の姿をしたそれは、
能面の異形へと戻り。
桐山の見るなか、蒼星石を喰らった。

哂いながら。声を出さずに。
翠星石は前を走り続けていたからそれを見なかった。
桐山だけが見ていた。

我知らず握りしめた拳。
爪が手のひらの皮を破り赤き血となって滴る。

「協力者2名死亡」

堕ちていく意識の中、
桐山は自身に告げる。

「ローゼンメイデン1名死亡。
 要懸案事項」

翠星石のしゃくりあげる声が聞こえた。
翠星石の鼻を啜る音も。

「俺は弱い」

うわ言のように繰り返し。
ゆっくりと、意識を手放す。

「俺は…………弱い」

視界が、虚に染まる。



【蒼星石@ローゼンメイデン 死亡確認】
【坂本竜太@BTOOOM!  死亡確認】
【残り 24名】


【E-4→?/昼】

【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(極大)
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、護神像アールマティ@waqwaq
[道具]:神業級の職人の本@ローゼンメイデン、
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:???
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、重傷、気絶
[装備]:デリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、不明支給品1、水銀燈の羽、予備弾薬12発、
     エディアール家の刀@waqwaq 、七夜盲の秘薬@バジリスク 、夜叉丸の糸@バジリスク、首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:???
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは砕け散りました。

59 ◆1yqnHVqBO6:2011/11/11(金) 02:11:26 ID:1kXl1w660
以上で投下終了です。
問題がある可能性が多々ありますので
ご意見、ご指摘があるようでしたらお願いします。

60名無しさん:2011/11/11(金) 16:18:17 ID:LWgIsUDc0
投下乙です。
ニート……最後は頑張ったけどダメだったか。
一生懸命働いた結果がこのザマだぜ!
蒼星石は最後は翆星石を護って死んで……。
ヨキまじ強すぎるwwwwww

61名無しさん:2011/11/12(土) 20:47:02 ID:wkxhC1Z.0
投下乙です

ヨキが相手でなければまだ何とかなったかもしれないが…無常だな
だが、全滅にならないだけマシだったぜ
とにかく死んでしまった人はお疲れ様
翠はどうするんだろう…

62名無しさん:2011/11/13(日) 17:57:56 ID:Hl8WtHTQ0
投下乙

wiki掲載の方の状態表見てきたけどヨキ先生、
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします
とかまだパワーアップフラグ残ってるのかwww
チャンがいなくなって対主催的に難易度少し下がったと思ってたけどそんなことは無かったでござる

63 ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 21:50:12 ID:MpXlaTHU0
投下します

64人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 21:52:20 ID:MpXlaTHU0


   ローゼンメイデンには宿命がある。

   姉妹同士の殺し合い。相手の核を奪って集め。
   最後には究極の少女になる。


一面見渡すかぎりの白。
その上を滑る、滑る。

雪は深く。
どうやら城に近づくにつれて
深度が増しているようだった。

まるで孤島のようだと
それを知って平と金糸雀は思った。

二人が乗っているのは簡易なソリ。
城にあったテーブルを加工したもの。
継ぎ接ぎだらけの出来栄え。

そんなもので雪原を抜けようとは
すわ、運動力学への卑猥な挑戦かと
笑われかねないものだが。

雪がどのように積もっているか。
この舞台が凡そどれくらいの広さか。

マルコとの情報交換で知っていた
二人は雪の海で難破するとは思わず。
楽観的な予測を立てていた。


それがあたった二人は
高く積もったところから
低く積もったところへと
滑っていくソリの上で空を見上げた。

「いいーー天気やなあ」

雪を眩しく照らす太陽を見て
感じいったように歎声を上げた平。

雪の中を泳ぐようにして
城に辿りついたというのだから
苦しめられた雪の上を
楽に滑っていく快感は一汐だろう。

「こういうふうにしてると
 殺し合いなんて忘れてしまいそうや」

返事はせずに。
金糸雀は流れていく景色を
ただ黙って眺めていた。

65人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 21:54:05 ID:MpXlaTHU0

考えるのは、
これからの闘い。
金糸雀は自答する。

このゲームの進行は速い。
あの水銀燈がこんなにも早く
敗北してしまうほどだ。

金糸雀の記憶での水銀燈は
決してしっかり者ではなく。
中途半端に抜けており
慢心する癖もあったが。
実力だけは本物だと誰もが認めていた。


    その闘いに意味なんてないのだ。
    生まれたときから。
    いいや、意識の覚醒を自覚したときから
    課せられているだけで。


その彼女が負けたのだ。

負け。死。
呆気なさすぎるがこれは事実だ。
あれほど涙を流して受け入れた事実だ。

このゲームは、厳しい。
金糸雀は改めて認識した。

いつかは、時が来る。
隣にいる中年男も
殺さなければならない時が。

平だけではない。
真紅も。翠星石も。蒼星石も。

そして

「雛苺」

白薔薇に一度は喰われた筈の彼女をまた殺す。

もしくは、誰かに殺される。
最悪の場合は、
アリスゲームもローザミスティカも
知らない誰かによって。

最悪だけれど、最も高い確率で。
その死は齎される。

66人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 21:55:09 ID:MpXlaTHU0

物思いに沈んだ金糸雀の額を
身を切るような冷たい風がうつ。

金糸雀は頭を振ると
手を擦り、息をかけて温めた。

「だいぶ雪が浅くなってきたかしら」

「そうやなあ」

「隣のエリアにはそろそろ着くころかしら」

「だとええなあ」

浅くなっていくに連れて
傾斜が緩やかになっていき。
今はもう小走りしているのと
変わらなくなっている。

長い間乗っていたソリから降りると
それを乗り捨て、歩いて移動することにした。

耳を澄ますと
雪を踏みしめる音が聞こえる。
押し潰すだけなのにどこか温かみのある音。

と、そこにピチカートが激しく舞う音と
平ではない何者かが雪を踏みしめている
音が聞こえてきた。

荒々しく。なのに這うような。
不気味な音。

舌を出して下品に
皿を舐めとるようにも
それは聴こえて。

平と金糸雀の前に男が立っていた。
ぼさぼさの髪を整えもせず。
憤怒と渇望に息を荒げている男。

間違いなく、
平のように脱出を目指しているものではない。

間違いなく、
マルコのように人の心があるものでもない。

動物の。
肉を好んで喰らう猛獣が
獲物を前に舌なめずりするにも似た表情。

「変身」

男は手に取ったカードデッキを
腰に浮き出たベルトのバックル挿し込むと
紫色の鎧を纏ったものへと姿を変えた。

67人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 21:56:17 ID:MpXlaTHU0


マルコとの一件があったせいか
平の動揺は思ったより小さい。
ひえっと息を呑む音は聞こえはしたが。

「おまえら…………」

金糸雀がすぐに
身構えるのを目にすると
男は小さく笑う。

「はは」

手に握られた杖に何かカードを差し込むと
新たに剣が現れる。

捻じれに捻じれ。
苦痛をもって相手を貫くことを欲するように
刀身が男の手の中で輝く。

「ははははははははは!」

哂い声が空気を燃やしたかと錯覚するほどに。
男が発する狂気は強烈で。
たまらず平は腰を抜かす。

恐らく。普通の人間では対峙しただけで
飲み込まれ。屈服してしまうだろう。

金糸雀は剣を振り上げ向かってくる男を
音による衝撃波で迎え撃った。

ダメージはない。
雪が舞い。
雲母の欠片のような美しさで光に瞬くのが見えた。

いや、違う。
これは雪結晶だけの輝きではない!

高速で飛来する円盤が金糸雀へと
向かってくる。

反応は、できる。

彼女ならできる。

それが、彼女に向けられた攻撃なら。

「がぁ!」

叫び声が聞こえ、
金糸雀はハッとしたように
平の方を見る。

たまらず蹲る彼の足に文字通り
めりこんでいるのは首輪。

68人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 21:58:09 ID:MpXlaTHU0

「首輪を……投げた!?」

そうだ、脱出を目指さないのならば
首輪はただの首級でしかない。

あたりまえのこと。
なのにこんなにも動揺してしまうのは
平との交流により生じた迷いのせいか。
姉妹を殺すことへの迷いのせいか……

ピチカートが瞬くのを感じ。
金糸雀は平に向けられていた
意識を瞬時に戻す。

だが、遅い。

目前まで迫った男の刃が
一直線に金糸雀へと突き進む。

体を横に倒すことで
攻撃を避けた金糸雀はそのままの姿勢で
音の波をぶつけ、吹き飛ばす。

「わいのことはいい!
 もう行きや!」


   意味なんてない。
   人が生きて死ぬのと同じように、寿命でしかない。


離れてしまった平が
金糸雀へ声を出した。
苦痛に耐え、脂汗を流しながら。

「でも……」

逡巡。
迷い。
それがまたも仇となり
男の斬撃への対応が遅れてしまう。


   黒い翼と黒いドレス。
   自慢気に見せびらかして。
   偉ぶってばかりのくせに
   なんど言っても部屋を片付けることもせず。


流れが悪い。
体勢を立てなおさなければこのまま
押し切られかねない。

69人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 22:00:32 ID:MpXlaTHU0


そうだ。
最初から見捨てることが
前提の関係だったのだ。


    そんな風に二人だけで過ごしていた時間。
    覚えているけれども、思い出すにはもう時が流れすぎて。


その時がついにきただけ。
それだけ。それだけのことなのだ。


だから。
金糸雀は

背を向けて、
バイオリンを傘へと変えて。
空へと飛び立った。


「チッ」

期待はずれの強者の闘いが叶わなかったことを悟ると
男は憎々しげに舌打ちし。
平を見下ろした。

平の手にあるのはホーミングタイプのBIM。
威力が小さいそれでは
男の装甲を破るのは不可能だろう。

鳥の鳴き声が辺りに響く。
規則正しく、一声。二声。

深く深く、息を吐くと。
本来人が呼吸したときに出る
白い息はない。

男は恐らく人の心を持っていないのだ。
それは紫の戦士に堕ちた時か。
それとも、もっと前か。
それはわからないけれども。


    絶望するために産まれてきたと彼女は言った。


玩具を前にして、
壊し方を考える子供のように
男は大きく首をまわして。

   闘いが絶望ならば。
   きっと人間たちが生きて死ぬことも絶望だと
   彼女は嘲るのだろうなとそのときは思った。


嬲るように浅く、短く剣を振り上げ。
平の腕あたりを斬り飛ばそうと振り下ろし――

70人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 22:02:23 ID:MpXlaTHU0


それを、
音が押し潰す。

巨大な足に踏み潰されたように倒れた男。

寸前で予め決めていた合図に気づいた
平は力を振り絞って
後ろに飛び退いていた。
庇うように金糸雀は平の前に降り立つ。


   彼女の言葉を聞いてそう思ったことも。
   彼女の死を知るまで長らく忘れていた。
   涙を流して、彼女の記憶を求めるまで。


「…………この時だけ。これが終わるまでだけ」

毅然と殺気に立ち向かう
金糸雀の目に迷いはない。
怯えも。恐れも。
今、この瞬間だけは。

「この闘いだけは。
 参加しない」

バイオリンを肩に乗せ。
音の支配者として
領域を支配する
本来の彼女の瞳があった。

「アリスゲームでないのなら。
 薔薇乙女に真っ当な終わりも許さないなら」

男が新たにカードを挿し込むと
巨大な合成獣が現れ、金糸雀と平に襲いかかる。

牙が、金糸雀の小さな体を噛み砕く。

その、寸前に――

「失われし時への鎮魂歌」

雪が空へと降りそそぐ。
天と地が鏡合わせに反転したと思うほどの
衝撃が、世界を揺るがす。

「こんな闘い。
 クソ食らえ!」

強者との闘いへの愉悦に
体を震わせて。男は哂い続ける。

こんなものによって死ぬのなら。
こんなものの手に一刻でも
彼女のローザミスティカが渡るのなら。

それは、ローゼンメイデンへの侮辱なのだろう。
だから、闘う。

姉妹同士の殺し合いが宿命であり。
そこから逃れられないとしても。

それが、薔薇乙女らしい終わりであるのなら。

進もう。そこに向かって。

人形である薔薇乙女も。
人間の言葉を借りるとするならばだけど。

――人間らしく死ねるのなら。

71人間/人形らしく   ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 22:04:12 ID:MpXlaTHU0


【A-1/1日目/午前】

【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:健康
[装備]:金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
     川田章吾のバードコール@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊
1:浅倉威を倒す。
2:お父様、みんな……
3:マルコを探す? それとも放っておく?
[備考]
※支給品であるファウードの回復液@金色のガッシュは既に飲み干されました。

【平清@BTOOOM!】
[状態]:右脚負傷(程度不明)
[装備]:ジョゾの服@ブレイブ・ストーリー〜新説〜
[道具]:基本支給品、BIM(ホーミングタイプ)×8@BTOOOM!、レーダー のレプリカ@BTOOOM! 首輪(霞刑部)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出する。
1:朝倉を倒すか金糸雀の邪魔にならないところまで離れる。
2:マルコを探す? それとも放っておく?
3:信頼出来る仲間を探す。
[備考]
※4巻で指を切り落された以降の参戦です。

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[状態]:興奮状態、極度の苛立ち、右腕骨折(応急処置済)、ダメージ(大)、
     疲労(中)、満腹、 顔に大ダメージ、はははははははははは!
[装備]:スコップ
[道具]:基本支給品×2、カードデッキ(王蛇)、不明支給品3〜4、
[思考・状況]
基本行動方針:戦いを楽しむ
1:金糸雀との闘いを楽しむ
2:戦場マルコ、筑摩小四郎を殺す殺す殺す殺す。
3:二人が行ったと思われる方向を進む。

72 ◆1yqnHVqBO6:2011/11/24(木) 22:04:28 ID:MpXlaTHU0
以上で投下終了です

73名無しさん:2011/11/29(火) 00:45:44 ID:TYRraTH.0
投下乙です。
金糸雀はとりあえず乗らないという結論にしたか。
平のおっちゃんと一緒に生き残れるかが分岐点になりそうだな

74名無しさん:2011/11/29(火) 21:53:14 ID:afoV/WZE0
投下乙です

カナリアは悩みに悩んで乗らなかッたのか
この決断がどう影響するか気になる
カナ、頑張れ

75歩くような速さで ◆W91cP0oKww:2011/12/02(金) 01:13:12 ID:mvGPQdaY0
「やあ、気がついたかい」

薄ぼんやりとした視界が次第に明瞭になっていく。そして耳に入るのは低い男の声。
雛苺はぱちぱちと眼をまばたきをした後、ゆっくりと辺りを見回した。

「ここは……どこ?」
「遊園地の待合室だね。大丈夫、ここは安全だからさ」
「誰かが襲ってきても僕と弘樹が追い返すから」

杉村が見せた笑みはシャイで無愛想ながらも精一杯見せたものだった。
怖がっているのなら安心させなくては。出来ることならば彼女の不安を取り除いてあげたい。
そう思った結果、笑みが出てきたのだ。
キャンチョメもそれに付随して元来の明るい性格からなる快活な笑みを見せた。

「……おうまさんは? ガッシュは? 雪輝は? あの大きな龍は? ヒナ達は一体どうなったの?」

その何も知らぬ言葉に杉村はすぐには返答出来なかった。
真実を告げるべきなのか。それとも隠しておくべきか。
杉村としては出来ればバレる嘘なんてつきたくなかった。
だが、雛苺は眼を覚ましたばかりでまともな思考能力を有していない。
少し時間を置いてから真実――遊園地での乱戦の結末、放送の内容を伝えるのが吉ではないのか。

「弘樹……」

キャンチョメがじっと杉村を見つめる。視線から察するにこちらに判断を任せるといったものだろう。
どうする。俺はどうすればいい。
頭の中で今の自分の考えをまとめ上げる。

「馬と雪輝君は俺にもわからない。生きてるか死んでるか、俺達もあの遊園地で別れてからは姿を見ていない」
「よかったぁ……」
「だけど、ガッシュは死んだ」

結局、杉村は真実を伝えることに決めた。
後回しにして物事が拗れる可能性、逆恨みにより刃を向けるといったマイナスの方面を気にしたら今ここで真実を伝えた方がいいのかもしれないと思ったのだ。
これが杉村一人だと判断も変わったのかもしれないがここにはキャンチョメもいる。自分一人の考えで仲間を巻き込むわけにはいかなかった。

「……そう死んじゃったんだ、ガッシュ」

雛苺は事実を確認するかのように静かに呟いた。
そして「他には?」と聞かれたので杉村は予めメモしていた放送の内容を伝える。
雛苺に放送で呼ばれた名前を全て告げはしたがさほど動揺はせず。
ただ『水銀燈』という名前の時、顔を少し歪めて悲しそうに少しうつむいた。

「大丈夫かい?」

杉村は雛苺が泣き喚いてさっきのような事態がまた起こってしまう可能性も視野に入れていた。
その予想とは大幅に違っていささか拍子抜けではある。

「うん、ヒナだけが悲しいわけじゃないもの。雪輝もおうまさんもあなたたちもみんな、悲しくて泣きたいはず」
「いや、俺は……大丈夫だから」
「嘘。だってあなた、今にも泣きそうな顔をしている」

放送の時はそれどころじゃなくて気には留めていなかったが杉村も大切な友人を失っている。
三村信史。バトル・ロワイアルで死に別れてしまった親友ともう一度会えるかもしれないというささやかな希望は脆くも崩れ去った。
大丈夫なわけがない。大切な友人を二度も失う経験なんてしたくなかった。

76歩くような速さで ◆W91cP0oKww:2011/12/02(金) 01:13:34 ID:mvGPQdaY0

「ごめんな、心配かけて。でも、泣く暇があったら俺は笑って前を向きたいんだ。だから俺は泣かない」

ここで下を向いて俯くことは簡単だ。
しかし、そうすると自分は哀しみで押しつぶされて前を見ることはきっとできないだろう。
過去に囚われたまま死んでいく。そんな最後は杉村はごめんだった。
明日を目指してみんなで生き抜くのだ。
それがこの殺し合いに巻き込まれる前からの共通して持っていた意志。その意志は変わらずに今もこの胸に内包している。

「アイツも、七原もきっとそう思っているだろうから」

誓ったのだ、生きてまた会おうと。一緒にこのクソッタレな殺し合いから生き延びて共に笑おうと。

「でも俺はこの強さを君に押し付けるつもりはない。これは俺が見つけたものだ。だから俺に構わずに君は泣いてもいいんだよ?」
「大丈夫です、こんな殺し合いにヒナは負けたくない。もう一度、皆と会いたい……!」
「そうか……じゃあ一歩ずつでもいいから一緒に進もう。俺達はこんなゲーム“程度”で収まる命じゃないんだ。
 なあ、キャンチョメ?」
「うん!」

杉村は思う。この子達を護ってみせる。この輝きを失わせなんかしないと決意を新たにする。
力が弱くてもこの思いだけは負けてやらない。

(そうだ……俺がやりたいことは、牙でも爪でもなく――――言葉を武器にして)

いつかみんなで百点満点の笑顔が出来るその時までどんな敵とだって戦ってみせる。
杉村の秘した決意は――何かを打ち破るきっかけとなるのか。
それは神様の振る賽次第。

(誰かを護ることなんだ。そうだよな、三村……)



【A-7・遊園地の待合室/一日目/午前】


【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
     指の爪剥離
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、仮面ライダータイガのカードデッキ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:七原と合流 
1:少し休んだあと、オアシスに行くことを考える
2:時間を見つけて仮面ライダーとしての力の使い方の練習をしたい。
3:城戸真司に会えたら霧島美穂からの伝言を伝える
4:もし、桐山が琴弾を殺したのだとしたら、俺は……

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後

【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:ちょっと休んだあと、オアシスに行くことを考える。
2:あの女の人はなんだったんだろ?
3:フォルゴレがいないのになんで呪文が使えたんだろう?

[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
参戦時期:ファウード編以降

【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、クレヨン@現実、人参@現実
[思考・状況]
基本行動方針:誰も傷つかない世界が欲しい。
1:笑って前を向く強さを手に入れる。
※シュナイダーの愛称はウマゴンでいいよねと思っています。

77歩くような速さで ◆W91cP0oKww:2011/12/02(金) 01:14:37 ID:mvGPQdaY0

「ごめんな、心配かけて。でも、泣く暇があったら俺は笑って前を向きたいんだ。だから俺は泣かない」

ここで下を向いて俯くことは簡単だ。
しかし、そうすると自分は哀しみで押しつぶされて前を見ることはきっとできないだろう。
過去に囚われたまま死んでいく。そんな最後は杉村はごめんだった。
明日を目指してみんなで生き抜くのだ。
それがこの殺し合いに巻き込まれる前からの共通して持っていた意志。その意志は変わらずに今もこの胸に内包している。

「アイツも、七原もきっとそう思っているだろうから」

誓ったのだ、生きてまた会おうと。一緒にこのクソッタレな殺し合いから生き延びて共に笑おうと。

「でも俺はこの強さを君に押し付けるつもりはない。これは俺が見つけたものだ。だから俺に構わずに君は泣いてもいいんだよ?」
「大丈夫です、こんな殺し合いにヒナは負けたくない。もう一度、皆と会いたい……!」
「そうか……じゃあ一歩ずつでもいいから一緒に進もう。俺達はこんなゲーム“程度”で収まる命じゃないんだ。
 なあ、キャンチョメ?」
「うん!」

杉村は思う。この子達を護ってみせる。この輝きを失わせなんかしないと決意を新たにする。
力が弱くてもこの思いだけは負けてやらない。

(そうだ……俺がやりたいことは、牙でも爪でもなく――――言葉を武器にして)

いつかみんなで百点満点の笑顔が出来るその時までどんな敵とだって戦ってみせる。
杉村の秘した決意は――何かを打ち破るきっかけとなるのか。
それは神様の振る賽次第。

(誰かを護ることなんだ。そうだよな、三村……)



【A-7・遊園地の待合室/一日目/午前】


【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
     指の爪剥離
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、仮面ライダータイガのカードデッキ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:七原と合流 
1:少し休んだあと、オアシスに行くことを考える
2:時間を見つけて仮面ライダーとしての力の使い方の練習をしたい。
3:城戸真司に会えたら霧島美穂からの伝言を伝える
4:もし、桐山が琴弾を殺したのだとしたら、俺は……

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後

【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:ちょっと休んだあと、オアシスに行くことを考える。
2:あの女の人はなんだったんだろ?
3:フォルゴレがいないのになんで呪文が使えたんだろう?

[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
参戦時期:ファウード編以降

【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、クレヨン@現実、人参@現実
[思考・状況]
基本行動方針:誰も傷つかない世界が欲しい。
1:笑って前を向く強さを手に入れる。
※シュナイダーの愛称はウマゴンでいいよねと思っています。

78 ◆W91cP0oKww:2011/12/02(金) 01:15:11 ID:mvGPQdaY0
オット間違って二十書き込み。
ともかく、短いですが投下終了です。

79 ◆1yqnHVqBO6:2011/12/02(金) 08:52:28 ID:iCXRSS4k0
投下乙!
杉村はようやくこのゲームでの確かな指針を持つに至ったか
ガッシュの意志がどう受け継がれていくか楽しみ
このチームはこのロワには珍しい正統派対主催チームだなあ

80 ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:39:32 ID:DvVePz3E0
投下します

81トラーギッシュ  ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:41:31 ID:DvVePz3E0

――命を奪えば。人は何かを永遠に喪う。
   少なくとも。彼女は確実に喪うだろう。


音。響き、雪の大海原が波打つ。
だが波は水のように元に静まることはなく
天高く舞い上がり陽の光に照らされる。

楽士である金糸雀。
音を操る彼女の最も強大なアドバンテージは
最低速度の高さだろう。

音を使う以上。
それは人間の反応可能な速度を
軽々と飛び越える。

そして金糸雀は音を練り、
形を変えることができる。

ときには波の形。
ときには弾の形。
果てには槍にも。

彼不可視の攻撃は
浅倉威をたしかに惑わせていた。

仮面ライダーナイトの
ミラーモンスターも音を攻撃に使うが
それは獣が牙を剥き、獲物に突き立てる粗雑さに留まるもの。
全くの未知の力を振るう相手。

だが、浅倉威は怯まない。
後退の意志の片鱗すらなく。

蛇のしなやかさは
毒蛇の戦士にも存在するのか。
予測不可能な動きで
金糸雀の音を避け。

足跡が白銀に
蛇の這った跡のような蛇行となり。
走る浅倉威が接近し、剣を振るう。薙ぎ払う。

上体が地面に接しそうなほど
前へ傾いているのに
不安定な体勢から放たれた斬撃は
正確に金糸雀の胴体へと進む。

だが、斬撃は金糸雀のすぐ下を通り過ぎ。
バイオリンを傘へと変えた金糸雀は空へと逃げる。

眩い空の光が金糸雀の黄を基調とした服と混じり
砂粒に落ちた砂金のような印象を与える。
そこに飛来する長方形の物体。

ローゼンメイデンが眠りにつく鞄が
金糸雀の足場となる。

それは同時に光に浮かぶ点として
浅倉からも見分けることが容易になったことを表すが。
金糸雀は間を置かず、傘をバイオリンに戻し。
浅倉の立つ雪原を音の塊で絨毯爆撃する。

82トラーギッシュ  ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:42:34 ID:DvVePz3E0

巻き上げられた雪の結晶が細かく舞い散り。
金糸雀の周囲を翼のように彩る。

銀。銀。銀。
金糸雀は平清が遠くに逃れたか首を動かし
視界に彼を収めると心に束の間の安堵が訪れる。

死なせたくは、ない。
人の命は、重い。
雛苺の死も。水銀燈の死も。
彼女の心には重く響いた。

覚悟を決めたとしても。
それが宿命でも。
死に涙を流すことを
とめるのはできなかった。

だから、力の限り――

無意識下の思考。
彼女の攻撃を休めるには至らない
小さな決意。彼女自身、自覚しないほどの。

高低差を利用した攻撃は
周囲一帯の雪を丸ごと削らんばかりに。

白銀の霧と金の日光が溶け合う中、
空気をつんざく音をたてて
赤い剣が彼女へと放たれた。

剣。それはそんな大仰なものではない。
赤。それは一色のみではなく、濁りの末の。
赤錆のスコップが
金糸雀を足元から貫かんと襲いかかる!

「あっ……」

咄嗟に体を捻り。
鞄を貫き、生えたスコップの刃は躱した。
けれども、鞄はもはやかつての飛行機能を失った。

唸り声が、下方から聞こえ。
銀も、金も意に介さぬ紫の戦士が
天高く飛び上がった。

その脚力は人外。
しかし、音速の攻撃の嵐のなか。
巧みに狙いを定めて放ち、
見事当てた力量は人だからこそ。

人外の身体能力と
本能に基づいた戦闘スタイル。
狂気の中に人の知性が在ったことを見抜けなかった
金糸雀は罅走り壊れていく鞄とともに落ちていく。

悲鳴を上げそうになるのを危うい所で堪え。
天地が逆さまになった視界に浅倉威が。
仮面ライダー王蛇が。
空に浮かんだスコップを握りしめ、
体を真後ろにまで捻ると
鞄の破片を雨アラレと打つ。

蒼空の中、銀を頭上に、
地中から金色を背にした紫が弾丸を乱射する。
シュールな表現にもなりそうな状況。

傘で空を飛ぶにも時間がない。
音で迎撃すれば着地の衝撃が
金糸雀の意識を奪いかねない。

83トラーギッシュ  ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:43:39 ID:DvVePz3E0


「金糸雀!」

絶望が素早く金糸雀の心を握りつぶす前に
上から、地上からかけられた声。
顔を上げなくても、空を仰ぐように地上を見なくても
声の主がどこにいるかは瞬時にわかった。
手に握られたレーダーを使わずとも、わかった。

飛来するかつての寝床の欠片を
震える大気を音で包み、盾にして防ぐ。

自由落下に任せ空から遠ざかる
金糸雀への追撃。
更に飛来するは
細い筒の先に鋭い針が付けられたダーツ。

銀線、幾筋も金糸雀へと吸い込まれる。

「それくらい!」

だが、その程度で金糸雀を殺すことはできない。
空気を斬り裂く。

だが、そこから音が産まれる限り。
楽士に届くことはない!

「無駄かしら」

一つ。
二つ。
更に、更に。
ダーツは楽士を狙う。

金糸雀の肩にあるバイオリンが奏でる
音が、貫く針を払い落とす。

落下。落下。
そして、地面にあたる前に、
太くて大きな腕が金糸雀を受け止める。

体ごと、すべてをもって支えるように!

「ようやく役にたてたな」

「役立たずだなんて一度も思ってないかしら」

すぐ傍でニカリと虚勢とともに笑った平に
金糸雀は優しく答えた。

その二人に渦巻く突風が襲いかかった。
銀雪が空気ともに、一点へと吸い込まれていく。
それは、もはや大蛇の捕食ではなく。
どの動物にも分類されない、
暴食、悪食が行うものだった。

84トラーギッシュ  ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:45:51 ID:DvVePz3E0

金糸雀達の遥か前方。
しかし圧力は、遠近法を軽く踏み越え
目の前にいるような錯覚を与えた。

合成獣。
もはや元が何であるのか見当もつかない化物が
頂点に差しかかろうとする太陽の下、そびえ立つ。

「離れないで。平」

平の腕から音もなく降り立つと。
力強く。勇気づけるように金糸雀は言った。

「守るから」

ブラックホールがあらゆるものを吸い込む。
生命以外の、すべてを。
音が、世界を騒がしくして。

事態の把握を妨げる。

けれど。

――水銀燈。

瞳を閉じて思い浮かべるのは死した姉の姿。

――意地悪でいいから。
   また会うことができたら好きなだけ意地悪していいから。

バイオリンを構え直し。
すべての力をもって、耳に意識を集中する。

――力を貸して。

浅倉威、大蛇の男、仮面ライダー王蛇。
彼が化物へと吸い込まれ。
そのまま大口に呑まれるかと、思う前に。

射出。
迅速に、銀の中、紫影が弾丸をも超えた威力、
空気が唸る大砲の如き威力で金糸雀へと襲いかかる。

その速度に反応するのは困難。
敢なくこの技の前に倒れた者は
浅倉の狂気に喰われるのが運命。

しかし、足りない。
速さが。空気歪め、穿つには、足りない。
壁は1秒。いいや、もしくは2秒か。

「今まで、何度も部屋の中を片付けてあげたんだから」

聞いている。
聴いている。

「恥ずかしい秘密もぜんぶみんなに黙ってきたんだから」

楽士の本領を余すことなく発揮した金糸雀は応える!

「少しくらい……妹に協力しなさい!」

浅倉威の両脚が、蛇の顎のように上下に開かれ。

貫き、砕く蹴撃が――

「これで、終劇!」

瞳を開き、浅倉威のすべてを視界に収める。
今から殺すだろう男の姿を、確かにこの眼で見る。

「追憶の――――――――――カノンッ!!」

弦が切れんばかりの大音量。
それを、一つに収束し、
槍のように貫く。

一本。
だがそれは槍衾も敵わない強靭な鋭さ。

全力が一瞬だけ拮抗し。
浅倉威の、ベルトが、砕け散った。

85トラーギッシュ  ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:48:21 ID:DvVePz3E0

それと同時に衝突からの解放により吹き飛ばされて。
雪原を転がり回った金糸雀は、確かな満足感に包まれて。
瞼の裏に浮かぶ小生意気な彼女に胸を張りたい気持ちでいっぱいになり。

そのまま、意識を手放す――

のを、浅倉威を囲む
三体のモンスターの出現を目にしたことで阻まれた。

大の字で横たわる浅倉威を、
モンスターが見下ろす。
モンスターが咆哮する。

「が。がああああああ!!」

憤怒に顔を悪鬼にして唸る浅倉威。
だが、どうしようもない事態が
今確かに彼を飲み込まんとしており。

化け物たちは待望の時だと歓喜した。
一本一本を丁寧に味わう心は微塵も感じられず。
腕を喰らう。脚を喰らう。腹を喰らう。

飛び散る血液が湯気をたてて銀雪を汚し。
一体のモンスターがくわえた腸から、
なぜか人肉らしき肌色が覗いていた。

「え……?」

理由もわからず眼前に繰り広げられる惨劇。
金糸雀は必死に意識を再覚醒しようと頭を振った。

だが、現実は刻一刻と迫り。
絶叫する浅倉威の声はとうに止み。

三体のモンスターが金糸雀に狙いをつける。
浅倉威を破ったのならばさぞかし美味かろうと思ってか。
金糸雀を喰おうと動き出した。

もう、逃げ場はない。
力はすべて使い果たして。
指先一本動くこともなく。

「逃げるかしら。変平」

せめて守れたことは誇りにしようと。
恐怖に震える心に必死で終わりを納得させて。

平がぎこちなく足を動かす音を耳に、
金糸雀は目を閉じた。

86トラーギッシュ  ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:49:58 ID:DvVePz3E0

だが時は来ない。
来たのは柔らかい
何かがぶつかる感触と
ささやかな浮遊感。

目を開くと映るのは
金糸雀の目の前で立つ平の姿。

「なに、してるのかしら……?」

もう、間に合わない。
金糸雀を狙ったモンスターは邪魔する
平清を平らげるために囲み。こぞって齧る。
噛み砕く。平清の全身を。

「どう、して…………」

絶望に、また一人の死に。
金糸雀の心が静かに、落ちていき。

平の手に握られたBIM全てが。
モンスターに喰われ、
衝撃を受けたことで作動し、爆発した。

モンスターの首から上が
爆発により呆気無く破裂する。

「平…………」

平が何をしようとしたのか。
朦朧とした意識の中、悟り。

悟ったからこそ。
なにをしていいかわからなくなる。
なにを、考えればいいのかすら。

残骸となったモンスターの
骸の中央に散らばる肉片。
金糸雀の眼に強烈に映り。

奇跡的に無事だった頭部が。
辛うじて無事といえる顔が。
金糸雀の眼に映った。

眼を逸らすことも、できたはずなのに。
なにかを、期待して。
見極めようと眼を凝らしてしまって。

金糸雀は見てしまった。
恐怖と、諦観をないまぜにして、
壊れてしまった平清の顔を。

「あ、ひ……」

金糸雀は顔に手をやる。
何かから逃げるように。
手が、爪をたてて掻きむしるように痙攣し。

「いやあああああああ!」

逃れるように、大切な人の名前を呼んだ。

「みっちゃあああああん!」

恐慌する幼子が、母に助けを求めるように。

「みっちゃあああああん!」

けれども、いくら呼んでも。
金糸雀が愛するマスターはここにはいない。
彼女の強さを信じてくれたマスターは、いない。

銀色の雪は赤い血と原色の濁りに汚されてしまった。


――親しき者の死。引き起こすのもまた、
   命を奪った時と同じく自己の喪失。
   それが嫌ならば、闘う以外に道は――


【浅倉威@仮面ライダー龍騎 死亡確認】
【平清@BTOOOM!  死亡確認】
【残り 22名】


【A-1/1日目/昼】

【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)
[装備]:金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
     川田章吾のバードコール@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊 ?
1:???
[備考]
※支給品であるファウードの回復液@金色のガッシュは既に飲み干されました。
※基本支給品×3、レーダーのレプリカ@BTOOOM! 首輪(霞刑部)、
 不明支給品2〜3が放置されています。

87 ◆1yqnHVqBO6:2011/12/04(日) 03:50:51 ID:DvVePz3E0
以上で投下終了です

88名無しさん:2011/12/04(日) 10:22:33 ID:cKyoRRZk0
投下乙!
平のおっちゃんお疲れ!
ミラモンに立ち向かって自爆とはおっちゃんよく頑張った
男を見せたがカナには傷にしかならないな。カナどうなるんだろ
そしてこれでBTOOOM!勢は全滅か

89名無しさん:2011/12/08(木) 02:46:09 ID:0QgWS95I0
投下乙です

平さんはお疲れ様でした
ただ、カナにとっては…なのが問題だがそれでもよくやったと思うよ

90 ◆W91cP0oKww:2011/12/18(日) 21:00:56 ID:bgqrOwfQ0
放送を投下します

91第二放送 ◆W91cP0oKww:2011/12/18(日) 21:01:14 ID:bgqrOwfQ0
笑う。
その笑い声は誰だっただろうか。
哂う。
その哂い声は誰だっただろうか。
嗤う。
その嗤い声は誰だっただろうか。

声は地上にいる“盲目の戦士”には聞こえない。
否、“盲目の生贄”と訂正させていただこう。
所詮は駒、駒は掃いて捨てるほど存在する。
そんな哀れな駒達の為に神は言の葉を授けるのだ。

「我が子らよ。再びではあるが祝福しよう。
 お前たちは数少ない優秀な人種である。決して劣等などではない。
 “願い”への成就は着々と準備が整えられている。
 さあ、戦って足掻いて生き残れ。全ては己が願いのために。
 では死亡者の発表に始めよう。
 城戸真司。相馬光子。陽炎。香川英行。霧島美穂。猿谷甚一。来須圭悟 。朧。
 ノール。ゼオン。秋山蓮。チャン。七原秋也。 ハード。
 レオパルドン・パピプリオ。坂本竜太。蒼星石。浅倉威。平清。
 以上だ。この度は多くの参加者が志半ばで散っていった。
 闘争で、裏切りで。全ては“願い”を叶えるが為に。
 次に禁止エリアの発表に移る。お前達にとっては聞き逃してはならないことだ、心して聞くが良い。
 禁止エリアは一時、A-4、B-4。三時、C-4、D-1。五時、D-2、G-2。以上だ。
 そして、闘いを望む戦士達に朗報だ。この世界を揺るがす程の闘いがあった。
 その影響でお前達がいる世界が狭まることになる。闘いが熾烈となるだろう。
 ククッ……終焉は近いぞ? これより先は――強き者だけが生き残る地獄だ。
 生き残ってみせろ、我が子よ」

笑う。
その笑い声は誰だっただろうか。
哂う。
その哂い声は誰だっただろうか。
嗤う。
その嗤い声は誰だっただろうか。

『“シルバーバトル”。“魔界の王を決める闘い”。
 “次期時空王を決める闘い”。“女神へと至るための闘い”。
 “アリスゲーム”。“甲賀伊賀忍術勝負”。“ライダーバトル”』

ただ一つ確かとされるのは“プログラム”の進行を記録し続ける
赤き血の神の像のみ。




――――全ては犠牲により成就されるでありましょう――――――

92第二放送 ◆W91cP0oKww:2011/12/18(日) 21:05:48 ID:bgqrOwfQ0
投下終了です。予約開始は明日でもいいでしょうか

93 ◆1yqnHVqBO6:2011/12/18(日) 21:07:13 ID:vnfOF3xo0
投下乙です!

いいんじゃないかと>予約開始は明日

94名無しさん:2011/12/19(月) 23:03:42 ID:tA6MZtcU0
投下乙です

放送キター

95 ◆CFbjQX2oDg:2012/01/01(日) 01:19:45 ID:SCriEVMk0
あけましておめでとうございます。

早いものでロワロワも第2放送突破ですね。
私事ですが昨年は破棄や遅延を繰り返してしまったことを反省し、今年の投下に生かしたいと思います。

96 ◆1yqnHVqBO6:2012/01/04(水) 21:39:39 ID:1WqqZDyo0
主催者サイド話投下します

97DOLL JUNKY ◆1yqnHVqBO6:2012/01/04(水) 21:46:54 ID:1WqqZDyo0

「ラプンツェル。ラプンツェル。
 お前の髪を下げておくれ」

天井は幾重にも重なった渦、すり鉢にも似た形になっており。
歯車のような床の上に少女と機械はいた。

「……ここを出て、あなたと一緒に行きたいけれど。
 どうやってここから降りるのかわからない。
 だから絹でできた……丈夫な糸を」

本来は透明なはずの機械の声、
それは今、どこか苦々し気な響きを持っており。
敏感に感じとったのか背の高い椅子に座った少女は
愉しげに目を歪ませ、背の高い彼を見上げた。

「なんだ……上手いじゃない」

「神……このような戯れは」

着かない足を宙に投げ出した少女、柿崎めぐは
金の長い髪を無造作に伸ばしているキクの言葉に鼻を鳴らした。
ふん、と幼いの少女のように。太陽を知らない白い肌を震わせて。

「仕方ないでしょ? 
 だってここ、つまらないんだもの」

長く艶やかな髪をなびかせて
天井を見上げるとめぐは歌うように話す。

「ずっとずっと病院から出られなくて。
 最初は王子様を待っていたの。
 あの産まれてからずっと塔に閉じ込められていたお姫様のように。 
 けど駄目ね。駄目だったから天使を待ったの。
 黒い翼の、わたしに死を与えてくれるもの」

俯くと少女の頬に髪がかかり
彼女の表情を覆い隠した。
清楚なセーラー服と相まって
その様は真に汚れを知らないラプンツェルのように見えた。

「死んだんでしょう? 水銀燈は」

その言葉に顔を強張らせたキクは思わず眼をそむけて答えた。

「……そうだ」

「…………もういいわ。行きなさい」

「それが命令なら私は従う。
 ……ところで神。オンバの気配を感じたようなら私に――」

「消えろって、言ったのよ。」

顔を上げないまま押し殺したようにくぐもった声を出すと
めぐは手で払うような仕草をし。応じたキクはその場から消えた。

一人、鏡面の壁に囲まれて、
四方に姿を映しためぐは静かに椅子から降りると
ゆっくりと歩き始めた。
靴も、靴下も履かずに。

ひたり、ひたりと
ひんやりした床の感触を足の裏に感じて。
めぐは壁へと歩く。

「だからわたしは魔女と約束したのよ、水銀燈。
 王子様も、天使様もわたしに何もしてくれないものだから。
 力をくれる魔女の呪いを望んだのよ」

額を壁に当て。
開いた眼には同じ顔が、大きく映る。
とても近く、唇が触れ合いそうな距離。

「こんなお話を知ってるかしら。
 遠いどこかに背が小さくて悩んでいる男の子がいたの。
 いつもみんなに馬鹿にされて。男の子は願ったわ。
 もっと大きくなりたいって。子供みたいでおかしいわね」

言葉に反してめぐの表情は暗く、
青白いままだったが、彼女は続ける。

「そしたら魔女が魔法の薬をくれたの。
 もらったのは白い白いお薬でね。
 それを飲んだ男の子はみるみる大きくなったの。
 際限なく、星そのものよりも大きくなって。
 最後は別の星に行くの、もっともっと大きな人間たちが住む星に」

鏡に指を這わせて、
平らな表面でつつ、と滑ると少女は大きく息を吐いた。

「どうしたらあの病室から出られるんだろうと思っていたわ。
 どこまで足を動かせばこの籠から出られるんだろうって。
 …………どうやっても変わらないのよ。水銀燈」

額に皺を寄せて、淡々と、
けれど吐き捨てるような口調でめぐは紡ぐ、彼女の“願い”を。

「いくら”願い”を叶えたって。結局は走り続けなければならないだけ。
 アリスよ。走れ、走れ。赤の女王のお言葉のままに、てね。
 どうやっても。魔女の呪いで人魚は足を手に入れたとしても。
 このゲロでクソみたいな世界から抜け出すことはできないのよ、水銀燈」

めぐはそっと瞳を閉じて。
鏡に映る彼女は口元を歪めた。

いつも彼女は楽しそうに笑い。
いつも彼女は何かに苛立っていた。
彼女の“願い”は果たされることなく。
孤独なまま、自由な体を与えられ。

ガラスの大地を裸足で踏みしめていると嘯く少女。

それ故に、“私”は、柿崎めぐを――

98 ◆1yqnHVqBO6:2012/01/04(水) 21:50:21 ID:1WqqZDyo0
以上、1レスで終了です。
できるものなんですね。

主催者話を予約なし
ゲリラ投下はまずいんじゃないかという方は遠慮なくしたらばでご指摘ください。
残り人数と速度がこれなんでアンフェアに見えるのも当然ですし

99名無しさん:2012/01/06(金) 00:02:19 ID:rUjOzPmQ0
投下乙です
めぐもいたのか! コトさんまずいっすよ!
自分以外の赤い血の人を陣営に加えちゃ! キクは赤い血の人なら言うこと聞いちゃうから!

めぐも”願い”に翻弄されている感じだなあ
原作での彼女の動きとあわせて、深い部分で何を考えているのか気になるところだ

100 ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 12:12:43 ID:h3MiuVfQ0
投下します

101鏡を見ながら人を殺そう  ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 12:18:10 ID:h3MiuVfQ0

世界がたしかに縮まった。
地平線が失われ、
大地が急にぶよぶよとした不定形に思えてしまう。
空ですら見あげれば雲が大きく感じられた。

この世界で見上げる夜空はどんな星が浮かぶのか。
すこし考えたがやめた。
この世界で輝く星に美しさなどないだろう。

殺すために造られた世界に美しさを見ることはない。
殺すために赴いた世界で作った絆など…………ない。

現に今こうして、
二人の参加者を殺そうとしているのだから。

視界の外から一角獣が突進してきた。
それをミツルは宙に浮かんで避ける。
しかし馬は虚空を蹴るとミツルの逃げた空へと跳んだ。

その速さはそうそう捉えきれるものではない。
ましてや、
疲労を心身ともに負っているこの身ではなおさらだ。

戦闘のきっかけは些細なものだった。

縮まった世界。
カメラのファインダー越しに世界を写すのとそれは似ていた。
一点に絞られて他が徐々にぼやけていく世界。

視界に映る世界が再び形をとりもどしたとき、
目の前に少年と馬がいた。
警戒のために杖を向けたのは当然の反応。

なのに、それを見るやいなや馬はすぐさま攻撃を開始した。
傍らに立っている少年は馬の凶行に反応すらできない。
少年がようやく理解したようなのは
攻撃を受けた魔導師ミツルが空から叩き落とされてから。

少年は口を開こうとして、馬の表情を見て
思わず目を背けたのをミツルは見逃さなかった。
同行者を諌めることもできない
少年の臆病さに嫌悪感を抱いたが
今はそんなことを気にしている場合ではない。

馬の眼に浮かぶのは燃え上がる怒り。
何を原因としているのかは知らないが
それがこの一角獣を突き動かしていた。

だが、早いだけならばどうという相手ではない。
ミツルには千を超える魔法がある。
その中の一つ、魔法反射壁を展開し
一角獣の動きをわずかであるが止める。

物理的攻撃である突進には
それほど効力を発揮しないが纏う炎はべつだ。
先端に至る温度の低い炎から蝕むように打ち消した。

しかし一角獣が魔法障壁を打ち壊し、
角がミツルの胸を貫いた。

「俺の勝ちだ」

角に貫かれたミツルの体がぼやけて霧散すると
下には井戸のようにポカリと開いた穴が見えた。
そこから吹き上がる冷気は忽ち一角獣の体を覆い、
咀嚼するように細かく砕くだろう。数瞬の後に。

「ディオエムル・シュドルク!」

声が近くから聞こえた。
声に呼応するかのように一角獣が纏っていた鎧から
あらゆる物を溶かす炎が産まれ、冷気を蒸発させた。

底にいたミツルに焦りが生じる。次に何をすべきか。
逃げ場が無い。仮面ライダーの力を借りるべきなのか。
見上げると目に怒りを炎に変えた一角獣が睨みつけていた。

「やめるんだシュナイダー!」

銃声とともに一角獣の頭が弾かれたように揺らぐ。
その隙にと声の主である少年が
シュナイダーと呼ばれた
一角獣に両手を突き出して体当りした。

半ば炎に突進する形に見えたが
炎の威力は調節できるようであり。
少年の体が焼かれることはなかった。
皮が焼ける音は確かにしたが。それだけ。

「彼に僕達を殺す気があるかはわからないよ!
 だからここは抑えて! 僕に任せて!」

一息にそう述べた少年は手に持っていた大きな本と
銃をリュックにしまい込むと穴の底で事態の推移を見ていた
ミツルに手を差し伸べた。

「大丈夫? 僕達に戦う気なんて無いから安心して」

その姿は何故か“彼”とはひどく違ったものに見えた。
先の乱戦で七原秋也には嫌というほど感じていた
“彼”の姿はどこにも見えなかった。
“彼”の声は聞こえなかった。

代わりに、何かが書き換わるような、音が――

102鏡を見ながら人を殺そう  ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 12:21:24 ID:h3MiuVfQ0

…………………。


############

12:10

白銀の戦士がシュナイダーを貫く。
そしてその後、天野雪輝に狙いを定めた。
僕は凍死する。

DEAD END

############


――ザザッ。


############

12:10
周囲を焼き尽くすシュナイダーが
魔導師を殺した後にこちらを見た。
シュナイダーは炎と血に狂っていた。
僕は焼死する。

DEAD END

############


――ザザッ。



二度のノイズが聞こえ、
DEAD END を先延ばしできたことを知った
雪輝は安堵の息をついた後。
魔導師ミツルと情報交換を始めた。

差し伸べた手はミツルに払いのけられ、
手の甲で叩かれた手はまだ少しだけ痛む。

シュナイダーに取りすがるように
突進した際に負った手の火傷ほどではないが。

ミツルに警戒心を持たれないよう、
リュックは武器も含めて
全てシュナイダーに預け、離れさせた。

シュナイダーがあそこまで
危うくなっていることには気づけなかった。
闘いの匂いを嗅ぎつけた途端に
抑制の効かない野生の獣のようになった。

これでは、雪輝と一緒に行動するのは危うすぎる。
現に日記はたしかに
シュナイダーに殺される雪輝を予知したのだから。
……どこかで切り捨てる判断をすべきなのか。

「――俺が話すのはここまでだ」

地面に座り、向かい合っている雪輝とミツル。
彼から得ることのできた情報は途方の無いものだった。
“願い”をためる護神像、
“願い”を求めて闘う旅人、
中学生を殺しあわせるプログラム。

雪輝が気になったのは

「脱出した? 殺し合いから?」

「七原秋也という男だ。
 もっとも、もう死んだが」

例外を見つけた。
ガッシュ達の殺し合いでもあったところの例外。
いや、それに輪をかけてもはや災厄といってもいい。

見つけたら
なんとしてでも殺さなければならなかった存在だ。
ガッシュと同じく、否定しなければならなかった。

火傷がじくりと傷んだ。
ガッシュの涙が目に浮かび必死でそれを振り払った。

「……お前はこれからどうするつもりだ」

雪輝の表情の変化には気づかないまま。
ミツルはシュナイダーに視線を注いでいた。
親友を亡くした
彼の境遇に何か感じるものはあったのか。
雪輝はその問いに少し考えたが首を振り

「殺し合いから脱出するよ」

「……両親を蘇らせるんじゃなかったのか?」

「それは自分の世界に戻ってからにするよ。
 他の世界の人達を殺すのは間違っているんだからさ」

微笑みながら雪輝は話す。
ここからがキーターンだ。
冷や汗が流れるかと思ったがそんなことはない。
予想以上に冷静な自分に他人事のように内心驚く。

「僕が時空王になれば全てチャラにできるんだからね。
 信用できるかもわからない
 あの影の言葉に縋ってもしょうがない。
 それに、僕達のゲームが
 まだ“続いている可能性”だってあるんだし。
 ならこのゲームの最中に
 僕が最後の所有者になればそれで終わり、
 チャラになる可能性だってあるかも。
 その終わりならみんなが幸せになれる。そう、みんながね」

「ふん」

「そうだ。君にも忠告しておくよ」

103鏡を見ながら人を殺そう  ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 12:31:58 ID:h3MiuVfQ0

数拍の間を置いて、雪輝はミツルの目を見る。
大丈夫だ。
彼は今、シュナイダーではなく雪輝に関心を抱いている。

「7thはよくわからないけど
 9th、雨流みねねに気をつけて。
 彼女は間違いなく殺し合いに乗る気だ」

「……そいつの“願い”は?」

「9thは……たぶんだけど神の抹殺を願っている」

雪輝の言葉を聞きくと
ミツルは暫くの間、顎に手をやり思案し――



#########

12:30
ミツルは情報交換の後、
僕を殺す。

DEAD END

#########


――ザザッ。


#########

12:30
ミツルは天野雪輝と別れ、
西の女神像へ向かった。

#########

体中の力が抜けてへたり込み、
雪輝はウマゴンに預けていた未来日記に目を通した。
危なかった。やはりDEAD ENDは解けていなかった。

三度のDEAD ENDフラグ回避は
まさしく幸運であったとしか思えない。
時空王に死者の復活は
恐らくだが不可能であるということがバレていたら
間違いなく殺されていた。

雪輝の用いた策は二つ。
一つは時空王は死者の復活が可能であるということ。

もう一つはこのゲームとはべつに
雪輝やガッシュのゲームが
平行して行われている可能性を示唆したこと。

雪輝は誰にも言っていないことがある。
それはデウスとゲーム開始前から接触していたということ。
妄想の精神世界でデウス、ムルムルと何度も会話したこと。

人の身で人間の無意識の世界にそびえ立つ
因果律大聖堂に接近していた身だということを。

だから雪輝にはわかる。
放送後の世界の縮小で理解できた。
この世界が、何なのかを。ある程度までは。

雛苺も気づいているのかもしれない。
この世界が、無意識の海に酷似していることが。
このゲームから逃れる方法なんてないことが。
無意識の海で繰り広げられるゲームに優位も劣位もない。
人は誰も無意識の軛から逃れることはできない。

だから、雪輝は

104鏡を見ながら人を殺そう  ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 12:32:38 ID:h3MiuVfQ0

――9thはともかく、7thは死ぬべき人間じゃなかった。
   来栖さんも8thも死んでいいような人間じゃなかった。
   母さんも父さんも死ぬべきじゃなかった。
   高坂も日向も野々坂も秋瀬くんも西島さんも死ぬべきじゃなかった。

殺し合いを否定する存在を否定する。
デウスが死んで、
その後を継いで世界を復興してもみんなが戻らないのなら
受け入れることはできない。無効試合なんて認めない。

――だから”最低最悪のケース”は考えなくていい。
   そこまで考えれば、僕は足を止めてしまう。

殺し合いを憎んだという七原秋也に思いを馳せる。
自らの手で死に追いやったガッシュのことを思う。

――誰も僕にどうすればいいかなんて言ってくれなかった。
   ただみんな僕を殺そうとして、殺されて、離れていった。
   だから僕は……僕は…………これ以外に道はない。

尻の下で確かに存在を訴える草も風も
くだらなく感じられて。

立ち上がった雪輝は隣にいるウマゴンに話しかける。

「もう行こうか。
 次はもう少し気をつけてね。
 僕がいるんだからさ。対応は僕に任せてよ」

「メル〜〜」

しょげて項垂れるシュナイダーに思わず笑みをこぼした
雪輝は頭を撫でようとして
掌の火傷が急に痛み手を引っ込める。
皮がずるりと剥け落ち、赤い筋繊維が露わになるほどひどい怪我だが
不思議と未来日記や武器を手にしても痛まなかった。

なのに、どうして。

――ローゼンメイデンの一人、雛苺が慕っている真紅。
   彼女が七原秋也って人の意志を継いだ。
   姉妹の死を受け入れたのに、殺し合いの否定を選んだ。
   僕は、家族の死も何もかもを受け入れることをやめて
   殺し合いを望んだ。どちらが狂っているかなんてどうでもいい。

手をしばしの間、見つめてから
雪輝は南東の空に現れた巨大な建造物に目を向けた。
垂れ下がる糸にも見えたそれは教科書で読んだ
あるお話を思い出させた。

「あそこを目指そうか」

地獄の底に垂らされる、
神様の気まぐれによる救いの糸。

――どうせ、次の瞬間には誰も彼もが狂っているんだ。



【C-6・女神様の像前/一日目/正午】


【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康、心の力の消費(大)、両手の平に大火傷
[装備]:無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、投げナイフ(14/15)@未来日記、IMIウージー(25/32)
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする?
1:他の参加者に取り入る(ウマゴンが危ういラインに立っていることを理解)
2:情報を集める。そしてゲームの破壊に繋がるようなものは隠す。
3:南東を目指す。

[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づいていません。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。

【シュナイダー@金色のガッシュ!!】
[状態]:心の力の消費(中)、右目失明、
[装備]:なし
[道具]:魔本@金色のガッシュ!!、基本支給品、マキビシ@バジリスク〜甲賀忍法帖〜、煙草@現実
[思考・状況]
基本行動方針:ガッシュの思いを継ぐ。仲間と共に主催を撃破して清磨たちのいる所へ帰る
1:雪輝と同行する。

[備考]
※第一放送をしっかりと聞いていません。ガッシュが死んだことだけは理解しましたが、他はどの程度聞いていたかはわかりません。
※右目の後遺症については不明。洗浄し、消毒液をかけた程度の処置しかしていません。
※殺し合いに乗っている者への強烈な憎しみを自覚しました。
 雪輝への憎しみを他者に向けている可能性があり。

105鏡を見ながら人を殺そう  ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 12:34:20 ID:h3MiuVfQ0


「……これが、女神か」

見とれるほどに荘厳な像を前に
ミツルは歯噛みし、声を荒げる。

それは小さな像に過ぎず、
台座に彫られた鏡文字が
ミツルに心を喪った彼女の姿を想い起こさせた。

そしてこの像の外見もまた、
もう二度と浮かべることのない顔で微笑む彼女の。
たしかにこの腕で抱きしめ、
魂が消え去る様子までこの腕で感じとった彼女の。

「なんのつもりかは知らないが礼を言おう。
 おかげで思い出すことができた」

顔を手で覆い、
ミツルは辛うじて口の端を吊り上げた。

「   は死んでいい存在ではなかった」

彼女の最後の表情が脳裏をよぎる。
彼女の笑顔が瞼の裏に今もある。
彼女の温もりは一度も忘れたことがない。

「   はもうこんな顔を浮かべることもない」

だからミツルは決心し、人を殺してきた。

「   はそんな顔で死ななかった」

顔を掻きむしるように手を握りしめ。
両眼を爛々と輝かせる。

「そんなの……許されるわけがないだろう!!」


【B-6・女神様の像前/一日目/正午】

【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:疲労(極大)
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
     仮面ライダーファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎

[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:休む
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。

106 ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 12:35:09 ID:h3MiuVfQ0
以上で投下終了です。
160行だと駄目ですが120行はOKみたいですね。

107 ◆1yqnHVqBO6:2012/01/22(日) 21:07:06 ID:xZnFQ1og0
>>103

> 体中の力が抜けてへたり込み、
> 雪輝はウマゴンに預けていた未来日記に目を通した。
> 危なかった。やはりDEAD ENDは解けていなかった。
>
> 三度のDEAD ENDフラグ回避は
> まさしく幸運であったとしか思えない。

よく考えたら未来日記の性質的にありえなかったので


緊張感から解放されて思わずへたり込み、
雪輝はウマゴンに預けていた未来日記に目を通した。

これがDEAD ENDフラグ回避により齎された記述かは
未来日記を手放していた雪輝には知ることができない。
だが今、彼が生きているのは幸運だったと確信できた。
ミツルはその気になれば容赦なく彼もシュナイダーも殺せたのだから。

に変更します

108名無しさん:2012/01/25(水) 23:57:20 ID:dMSq0O8Q0
投下乙です。
ユッキー安定のクズヘタレっぷり。ウマゴン捨てる気満々じゃない。
でもそんなユッキーが大好きです。
一触即発を何とか切り抜けたユッキーに果たして先があるのか。
あ、ミツルは安定のシスコンっぷりでした。

109名無しさん:2012/01/31(火) 22:58:18 ID:qdfRGWhc0
投下乙です

ユッキーは完全にアレだなあw
それでも危うい場面を切り抜けたが…
ウマゴンはいつ切り捨てられるか…

110 ◆1yqnHVqBO6:2012/01/31(火) 23:03:05 ID:nDDGDFqs0
投下します

111銀の鍵と青の剣を手に握り   ◆1yqnHVqBO6:2012/01/31(火) 23:07:43 ID:nDDGDFqs0

視界に光が射し。
映る暗闇にひとり佇んでいた
少年の姿が徐々に遠のいていった。

桐山にはそれが誰なのかわかっていた。
あれはかつての彼、幼かった頃の彼だ。
不思議だったのは少年の頬が濡れていたこと。

それが涙だというのは知っていたが
何故涙を流すのか。桐山にはわからない。

手が引かれる感触がした。
背後を振り返るとかつての彼と同じように
瞳に涙を浮かべる翠星石がいた。

手に持っているのは庭師の如雨露。
桐山は何かを言おうとして、
覚醒する意識の微睡みに拒まれた。

目が覚めた桐山は
ベッドから起き上がると状況の把握を行なった。

病院の天井には染みがあり。
罅が走り始めた壁には
病院が生きた歴史が見える。

視線を落とすと
桐山の腰のあたりで
俯せになって眠る翠星石がいた。

彼女が手に握っていた
如雨露をそっと取ると抱え上げ。
近くにあった彼女の鞄の中で寝かせようとした。

鞄の中で眠るという行為が
薔薇乙女にとって重要な意味を持つことは
水銀燈から聞いていたからだ。

「……カズオ? 」

目を薄く開けた翠星石が桐山を見つめる。
泣きはらした後なのだろう真っ赤な目元が
桐山にもはっきりと認識できた。

「何も言うな。
 俺は蒼星石を守ることは出来なかった。
 協力したハードと坂本も死んだ。
 そこまでしてもヨキを倒すことは出来なかった」

一息に話す桐山を見て翠星石は首を振った。

「違うです。お前のせいじゃ……」

「俺は」

言葉を遮って、桐山は口を動かす。

「俺はお前の涙をとめる方法がわからない。
 だから、今は眠れ。
 お前を守るには俺は無力だが
 お前の瞼を閉じることくらいはできる」

真っ直ぐに翠星石のオッドアイを見つめて
話す桐山に、翠星石は笑顔を浮かべて。

「お前は優しいですね」

その言葉の意味が分からず、
首を傾げる桐山を可笑しそうに笑う。

「優しい人は好きですよ。
 蒼星石も、ハードも、シオも、真紅も。
 お前も、優しいから大好きです」

鞄の蓋を閉める桐山の耳にその言葉が届き。

桐山は何かを言おうとしたが、
脳裏に何故か夢での光景が浮かび。
額がちくりと痛み。そのまま鞄を閉めた。

112銀の鍵と青の剣を手に握り   ◆1yqnHVqBO6:2012/01/31(火) 23:11:40 ID:nDDGDFqs0

「眠ったようね」

翠星石が眠りに落ちたのを見計らって
病室に入ってきたのは一人の人形と二人の老人。

理知的な内面を窺わせる佇まいと身なりをした老人たち。
ここが殺し合いでなかったのならば
彼らには書斎が似合っただろう。

「その格好。お前が真紅か」

「水銀燈から聞いていたのね」

「下品で不細工な真っ赤な
 ドールと言っていた」

桐山の言葉に
真紅は何故か頬を引き攣らせていたが
隣に立つカントリーマンと名乗る老人になだめられた。

大きな溜め息をついた
真紅は意を決し、口を開いた。

「……七原秋也が死んだわ」

「そうか」

気遣うように間を置いたあとの言葉。
桐山は動揺もせず受け入れた。

何も思うことはない。
脱出のために川田省吾と動いていた
彼の力を借りたかったのは確か。
だが死んだのならばそれもできない。

「相馬光子って女も死んだぜ」

「それはどうでもいい」

死にいく桐山に涙を流していた七原。
彼に自分は何を言おうとしたのか。
思い出せない。

七原はもう死んだのだから
思い出す必要すらないのだろうと桐山は思った。
額がちくりと痛み。胸元で何かがほのかに暖かく瞬いた。

「これは?」

重傷だった体は既に手当されていた。
最悪の場合は自分で治療するつもりだったが
これは明らかに専門家の処置だ。

縫合を受けた感触すら存在しない凄腕。
しかし、それだけならば
今の今まで傷を忘れていた説明にはならない。

懐に手をやった桐山が握ったのは光り輝く――

「水銀燈のローザミスティカよ」

水銀燈の灰から浮かび上がったもの。
蝙蝠のモンスターに奪われてしまったもの。
それが今、桐山の体を暖かく包んでいた。

「さて、情報交換をしようか」

今まで黙っていたもう一人の老人、
津幡共仁が病室にいた全員を見渡し、
話し始めた。

113銀の鍵と青の剣を手に握り   ◆1yqnHVqBO6:2012/01/31(火) 23:17:12 ID:nDDGDFqs0

―――――――――――――。

「ブックにヨキ。
 どちらも十分に危険な男だな」

腕組みしてパイプ椅子に
脚を組んで座っていた津幡共仁はそう締め括った。

「金糸雀と雛苺がどこかは知らないのか」

「ええ」

「ブックが向かったのは?」

「西じゃ。恐らくは北西じゃろうな」

「金糸雀か雛苺がそこにいる可能性は」

「あるだろうなあ」

翠星石が眠る鞄をベッドに乗せ。
桐山は既にベッドから降りて
パイプ椅子に腰掛けていた。

「首輪は……」

桐山の問いかけに
白髪鬼は口に指を当てる仕草で制する。


『ここからは筆談で行こうじゃないか』

下の階から調達してきた
紙に字を書き桐山に見せた。

それに頷き、
桐山は白髪鬼から紙を受け取り
鉛筆を走らせる。

『進展は?』

『造りは貴方たちが巻き込まれた
 プログラムと同じよ。
 造りがわかれば外すのは簡単。
 シュウヤの記憶とあまり構造は変わらないみたい。
 そのまま流用したようね』

『なら、もう外してもいいだろう』

『それが問題なんだがな。
 あまりにも外すのが簡単すぎる。
 裏があるんじゃないかと警戒してんのさ』

『裏? 殺し合いを脱出するのに
 最も重要なのは首輪の分解じゃないだろう。
 素直に第一関門クリアということで片付けてもいいはずだ』

桐山の答えに白髪鬼は頬を綻ばせる。

『中々有能な若者じゃな。
 是非ともその七原という
 青年にも会ってみたかった』

『たしかにそれはあってるんだよな。
 私達が殺し合いを抜ける上で最も大事なのは覚悟だ。
 プログラムやシルバーバトルは政府が主導だ。
 そこから脱出するってことは
 今までいた社会からおさらばしなきゃならねえ。
 私達の闘いでは“願い”を叶えるしか
 先がない連中たちが殺し合っていた』

『殺し合いから抜け出すっていうことは……
 今までの生き方から
 大きく変わる何かを寄り代に
 生きなければならないということなのでしょうね』

『じゃから首輪はあくまでも一つの要員
 外的に自分たちの置かれた状況を認識させる
 アクセサリーと見るのは正しくもある。
 まあ、実際簡単に外れたんじゃし』

『けれどもそう単純な話ではないの。
 貴方はまだ
 この世界が縮まったことを知らないでしょう?』

『会場がということか?』

『うむ。じゃが、儂らは何ともない。
 衣服は愚か、奴らから支給された
 この首輪もじゃ』

『つまり、俺たちと
 この世界は性質が異なっている可能性があるということか。
 それを繋ぐのが首輪という可能性もあると』

『nのフィールドか、ミラーワールドか。
 両方の技術の応用か』

『解明はお前たちに任せる』

114銀の鍵と青の剣を手に握り   ◆1yqnHVqBO6:2012/01/31(火) 23:24:20 ID:nDDGDFqs0

「俺は北西に向かう」

「カズオ……」

真紅の瞳が桐山を映す。
彼女に桐山はどう見えているのか。
少し、知るのも悪くないと思った。
水銀燈の好敵手だった真紅のことを知るのは。

ちくりと、また額に痛みを感じた。
懐にあるローザミスティカが輝くのとそれは
対応しているように見えた。

「一人で行くつもりか?」

「ああ」

「何故そこまでするんじゃ?
 ブック達に会ったらお前さんは死ぬぞ。
 水銀燈とやらのためにそこまでするのか?」

白髪鬼の問いに桐山は瞳を閉じた。
思い出すのは何故か夢の中で見たかつての彼。
死にいく桐山に涙を流して叫んだ今は亡き男。

そして、
額が今までにないほど強く痛み。

金糸雀の姿がはっきりと目に浮かぶ。
同時に、柿崎めぐの姿もはっきりと。

これが何を意味するのかはわからない。
だが桐山は確かに思い出した。

水銀燈のローザミスティカが思い出させた。

「俺は思い出した」

「何をじゃ?」

幼き頃、トラックに衝突した車。
乗っていた自分を庇うように抱きしめた母。
衝撃と共に感じた母の体が砕ける様子。
それを感じた自分は母の死を悟り――

「俺は母が死んだとき涙を流していた。
 今の今までそれを忘れていたが思い出した。 
 蒼星石が死んで涙する翠星石のように、
 俺が死にいく時に涙を流した七原のように。
 俺には何故涙を流すのかわからないが」

桐山の言葉の意味が理解できずに
三人はいささか唖然としながらも
桐山の言葉に耳を傾ける。

「水銀燈は金糸雀を思っていた。
 それを思い出した。
 だから、守る。あいつが……愛したものを守る。
 そうするのは悪くないと思う」

桐山の言葉にカントリーマンは
微かに釈然としない表情を浮かべなからも大きく頷き。
懐から一組みのデッキとカードを桐山に投げた。

空中で受け止めた桐山の手にあるのは
水銀燈を殺した男が持っていたのと同じもの。

「真紅から預かって
 白髪鬼と一緒に調べていた。
 わだかまりがないなら使いな。
 行くなと言ったって聞かねえだろうしな」

「二時半までに戻って来い。
 儂らはそれまでに首輪を調べている。
 幸い、お前さんが目覚めるまでに周囲を回って手に入れたものと。
 翠星石が拾ったご隠居の形見もあるしな。
 合流したら禁止エリアになる寸前を通過するぞ」

「わかった。翠星石を頼む」

椅子から立ち上がると桐山は肩を回し
コンディションを認識する。
動かすには支障がない。激痛はあるが無視できる。

「私も行くわ」

同じく椅子から飛び降りた真紅が
桐山の裾を握り微笑み、彼を見上げた。

「駄目だ。ここにいろ」

「嫌よ」

「ここにいろ」

「い、や、よ」

断固として譲らない真紅に
桐山は力尽くで意識を奪おうかと考えたが。

「シュウヤが言ってたのよ。
 桐山は俺の友達だって。
 だから、放ってなんかおけないわ」

「観念しろよ桐山」

「うむ。
 これは問答するだけ時間の無駄じゃ」

口の端を吊り上げ桐山を見る
老人たちの言葉を受け。
たしかに時間の無駄かと桐山は納得した。
ここで力尽くの戦闘を始めても恐らく自分が負ける。

「わかった。なら行くぞ。
 俺の側から離れるな」

笑みを浮かべて頷く真紅が拳を突き出したのを見て
桐山もそれに拳をこつりと当てる。

「雛苺を守る。金糸雀を守る。
 柿崎めぐを守る。
 巻き返すのは・・・・・・ここからだ」

115銀の鍵と青の剣を手に握り   ◆1yqnHVqBO6:2012/01/31(火) 23:39:58 ID:nDDGDFqs0

【D‐3・病院/一日目/日中】

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、「愛」の概念を思い出しました
[装備]:デリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、不明支給品1、水銀燈の羽、予備弾薬12発、
     エディアール家の刀@waqwaq 、七夜盲の秘薬@バジリスク 、夜叉丸の糸@バジリスク、首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:真紅と一緒に北西で金糸雀か雛苺を探す
2:2時半までに病院に戻る。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。

【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]: 疲労(小)、“願い”インストール、七原の戦闘技術と知識継承
[装備]: ハルワタート@waqwaq、真紅の懐中時計@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品、ホーリエ、ハリセン@現実 、ローザミスティカ(水銀燈)、
     レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(8/8)、
      勇者の剣(ブレイブレード)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、
     ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ、レミントンM870の弾(16発) 、桜田ジュンの裁縫道具セット@ローゼンメイデン、
    神業級の職人の本@ローゼンメイデン、 不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:七原秋也の意志と共に 。
1:桐山と一緒に北西で金糸雀か雛苺を探す
2:2時半までに病院に戻る。。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。

【津幡共仁@銀齢の果て】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)
[装備]:クシャスラ@waqwaq、コルト・シングル・アクション・アーミー(5/6)@現実 、ワルサーP38(0/8)@現実
[道具]:基本支給品×3、簡易工具セット、輸血パック(各種血液型、黒い血のも)、
     ワタルを打ち抜いた弾丸 、月の石@金色のガッシュ!!、 レーダー@BTOOOM!、ワルサー予備弾×16、
     レオパルドン・パピプリオの首輪、ワタルの首輪、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:英雄として行動する
1:首輪をもう少し調べる。
2:翠星石を保護する。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ローゼンメイデンの事情をだいたい把握しました。
※バトルロワイアルの事情をだいたい把握しました。
※ワタルの首輪を分解しました。
 造りはガダルカナル22号と同じようです。

【カントリーマン@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:ダメージ(中)疲労(小)
[装備]:奇跡の執刀(ハイブリッド・メス)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、
カードデッキ(龍騎)、救急箱@現実、ニューナンブM60(3/5)@現実、
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×2、首輪(是方昭吾) 、首輪(相馬光子)、 首輪(朧) 、 動物園の鍵@銀齢の果て、
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。
1:白髪鬼と一緒にもう少し調べる。
2:時間があったら動物園を探しに行きたい
[備考]
※ローゼンメイデン側の事情を大体把握しました。
※陽炎、相馬光子の武器を毒と判断しました。
※他の死体は消し飛びました。首輪はどうなっているかは不明です。

【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:睡眠
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、護神像アールマティ@waqwaq
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:???
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
※シオとヨキが黒き血の人であることを知りました。
※双子の大樹があのままなのかどうなのかは後続にお任せします

116 ◆1yqnHVqBO6:2012/01/31(火) 23:40:19 ID:nDDGDFqs0
以上で投下終了です

117名無しさん:2012/02/01(水) 09:34:04 ID:nwpRxdWAO
投下乙です。
首輪解除キター!
そして何というキレイな桐山
ロワ開始当初、まさか桐山が「涙を思い出す」と誰が予想しただろうか

118 ◆1yqnHVqBO6:2012/02/20(月) 19:25:18 ID:JR5bcgLs0
遅れましたが投下します

119ポツンとひとり  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/20(月) 19:31:25 ID:JR5bcgLs0

    不意に意識に浮かび上がった過去があった。
   
    過去というより、
    それはセピア色の思い出だったけれど。
    絹のヴェールに覆われて
    質素な額縁に収められた大切な写真のような。
   
    幼い頃、愛はいつも下を向いていて、
    どこに行くにもマルコの後ろをついていた。
    そんな愛をマルコは心配してはいたが、
    その時は幼かったから異性として意識せず。
    兄貴分としてそれとなく気にかけながら気の向くまま
    街を探検しまわっていた。そんな頃。

     「大丈夫か? ったく無理してついてくる必要もねえだろ?」

    日が暮れ始め、
    そろそろ帰ろうと遊んでいた山から降りようとした際。
    疲れてもう歩けないと言う愛をおぶって、
    マルコはてくてくと歩いていた。

    叱られていると勘違いしているのか、
    愛はマルコの背で震え、消え入りそうな声で
  
    「ごめんなさい」

     と、何度も謝っていた。
  
    「いや、そこまで謝るほどのことでもねえけどさ。
     疲れて歩けなくなる前に今度は言ってくれよ?」

    「……はい」

    「本当にわかってんのかぁ?
     ま、いっか。今日の夕飯は何かな?」

    笑いながら黄昏の下、歩くマルコ。
    背中の上で泣きじゃくる愛に苦笑して問いかける。

    「今日は楽しかったか?」

    「……うん」

    「ならよし!」

    うんうんと頷き、少年は足を進めた。
    背中にかかる少女の重みを確かに感じながらも。

    その時は今のままで全てが出来ると思っていた。
    この短い手足でも愛を守れると信じていた。
    あまり良くない頭でも愛を喜ばせることができると知っていた。
  
    けれど、
    ほんの少し伸びた腕では届かない物があると知り。
    これだけの繋がりでは守れない時があると知り。

    その手を血に染めた時。
    少年だったマルコは何もかもが
    間に合わなかったことに絶望した。



放送を聴いて何かが変わったということはない。
平の死は予想していたし、
金糸雀が生き残ったことも予測通り。

ひとつだけ誤算だったのは。

「姫様……姫様……」

うわごとのように呟きながら幽鬼の面相と
糸の切れた人形の頼り無さで足を進める小四郎の有様。

「しっかりしやがれ! 置いてくぞ!」

もはやマルコを付いていくだけの
腑抜けになった小四郎に
マルコは振り返って怒鳴る。

こうなってしまえばもうどうしようもない。
同盟を破棄し、殺すのが当然。

下を向き、ぶつぶつと姫様と天膳なる男への謝罪をし、
たまにマルコに殺すことを要求するばかりの小四郎。

「つうか、その天膳様とやらに会わなくていいのかよ」

「会わせる顔がない。あのお方は既に憎き弦之介だけでなく、
 陽炎や霞刑部までも屠っておられる。
 なのに、姫様を守れなかったおれが……どの面下げて会えというのか」

「……てめえが優勝したらその姫様に会えんじゃねえか?」

小四郎の言葉に身につまされる思いを抱いたが
それをサ悟られまいよう掠れた声でマルコは返す。

「何を言う。死者を蘇らせる忍術があったら
 今頃天下は織田のものになっとる」

「いや、それはお前の個人的考察だろうけどよ」

投げ槍な冷笑を浮かべ否定する小四郎に
マルコはうんざりして首を振った。

しんしんと降る雪は未だ止む気配もなく。
本来ならばとうに抜けているはずだったが、
小四郎の歩く速さに合わせていると
移動スピードがかなり落ちてしまう。

ならばやはり見捨てるのがベストだろうということは
マルコも知っている。なのに未だ同盟を続けているのは。

――ヘタレにいちいちかまってる余裕なんてないのにな。

小四郎に絶望に駆られ、
手に持つ刃で喉を貫こうとしたかつての自分をみてしまうからか。

――治らねえもんだよこの性格。なあ、愛。

自嘲ですら胸に鈍い痛みを覚えた。
それは十分に自覚したが治す術はない、
死んだ彼女を蘇らせるまでは。
痛みは常に付き纏う、“最悪”なことに。

ふと遠くに目を凝らすと雪に埋もれんとしている
黄色い塊が見えた。

まさか、と思ったがマルコはたまらず駆け寄った。
雪を払って沈みかけていたそれの姿を明らかにした。

120ポツンとひとり  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/20(月) 19:35:46 ID:JR5bcgLs0

「金糸雀」

マルコが再会したのは金糸雀。
可愛らしい衣装の袖を血で濡らし。
力尽きて倒れている小さな小さな人形。
親に捨てられた、少女。

「マ……ルコ?」

目を瞬かせながら金糸雀は
力を振り絞って弱々しい動きで顔を上げた。

「また会っちまったな」

金糸雀の頭を撫でながら
マルコはおどけ半分に肩を竦める。

振る舞いとは裏腹にマルコの心は冷え切っている。
腑抜けの小四郎はともかく、
金糸雀を生かしておくのは危険だ。
今なら苦しませることなく殺すことができる。

気配を悟られないよう静かに拳を振り上げ
一直線に、金糸雀の頭を――

「もう、わかっちゃった」

疲れきった、涙で滲んだ声がマルコの耳にも届いた。

「私たちはいつだってひとりなんだわ」

マルコは腕を振り下ろす。
金糸雀の。金糸雀の――

マルコは歩く。
きゅっきゅっと靴の底で雪を潰す感触とともに。
後ろからついてくるのは小四郎。
背にいるのは――

「平が、死んじゃったかしら」

「知ってるよ」

「カナも、頑張って守ろうとしたのに」

「そうかい」

「水銀燈が言ってたの。
 みんな、絶望するために生まれたんだって」

「へえ」

背に負うのは金糸雀。
拳を振り下ろし、頭を砕くその刹那。

マルコの心に石が投げられたように波紋が生まれ
ずっと忘れていた思い出が脳裏に浮かび上がった。

拳が止まったのはそのせいか。
いいや、きっと金糸雀に利用価値を見出したからだと
マルコは自身に言い聞かせる。

「初めて聞いたときは
 ああ、またなんか変な本読んで影響受けたんだって
 笑っちゃって・・・・・・悪いことしちゃったかしら」

「じゃあ、次に会ったら謝んねえとな」

「……無理、かしら。もう、死んじゃったから」

会話が途切れる。
倒れたのは負傷よりも精神的負担が大きいようだ。
何があったのかわからないが
平の首輪をとったのにも
とてつもない精神的負担を負ったのだろう。

意識を失うのにそう長い時間はかからないだろう。

「……最悪」

「良かったじゃねえか。
 あとはもう上がるだけなんだぜ。
 ワクワクするだろ」

マルコの言葉に、金糸雀は何を感じたのか
強ばっていた体を安心に緩ませ。
体の重みすべてをマルコに預け始めていく。

「起きたら言いたいことがいっぱいあるかしらマルコ」

「・・・・・・俺もあるぜ。
 けど今は休んでろよ」

そうして眠りに落ちた金糸雀を背に負って
マルコは歩く。ただ歩く。
なかで渦巻く葛藤を力任せにねじ伏せて。

「その人形を陥れたのはお前だろう?」

金糸雀と再会してから
ずっと黙っていた小四郎が口を開く。

「油断させるのに役立つだろ」

それで小四郎を納得させられないのは
マルコもわかっている。

「お前は愚かだ。
 そうでなければどうしようもなく甘い」

「黙れ」

振り返ることもなく言い放ち。
あとに残るのは雪が音を吸い込んだ後の静寂だけ。

馴染みのない雪を一身に浴びて。
マルコは歩く。歩く。

かつてと比べて腕はずっと長くなった。
相手がナイフを持っていても
動じず負けないくらいになった。

かつてと比べて足はずっと長くなった。
速く動かし永遠に走り続けられるくらいになった。

何もかもがあの頃とは違う。
隣にいた彼女は死に。
東南の空にはあの時、
垂らされなかった神からの糸がある。

なのに、なのに。
背負う重みをたしかに感じ。
それは喪った者の重さを埋めはしないくせに。
思い出だけは掘り起こし。

危うく、
目から雫が零れそうになるのを
マルコは懸命にこらえた。

121ポツンとひとり  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/20(月) 19:35:59 ID:JR5bcgLs0


【B‐2/一日目/日中】

【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、気絶
[装備]:金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
     川田章吾のバードコール@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品、 レーダーのレプリカ@BTOOOM! 首輪(霞刑部)、首輪(平清)
    不明支給品2〜3
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊 ?
1:???
[備考]
※支給品であるファウードの回復液@金色のガッシュは既に飲み干されました。
※基本支給品×3、が放置されています。


【筑摩小四郎@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:首筋に痣。疲労(中)、無気力
[装備]:鎌@バトルロワイアル 、人別帖@バジリスク〜甲賀忍法帳〜
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:どうしよう
1:天膳様に会わせる顔がない
※香川英行の名前を知りません

【戦場マルコ@未来日記】
[状態]:疲労(中)、頭部に傷
[装備]:交換日記のレプリカ・戦場マルコ用@未来日記、
     常勝無敗のケンカ日記のレプリカ@未来日記、 アムルタート@waqwaq
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:愛をとりもどす
1: 皆殺し。(まずは桜見タワーに行く?)
2:小四郎と手を組む?(見捨てるか……)

122 ◆1yqnHVqBO6:2012/02/20(月) 19:36:20 ID:JR5bcgLs0
以上で投下終了です

123 ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:15:56 ID:9H6UqJSY0
投下します

124そして誰かいなくなった  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:17:06 ID:9H6UqJSY0

「ガキの頃、遠い異国の地で両親を殺された。
 殺したのは神を信じるクソッタレ達さ」


「それで、お前はどうしたんだ?」

「神を信じるヤツらを片っ端から殺した。
 巻き添えになった連中も大勢いたけど
 そんなのはわたしの知ったことじゃない」

「赤き血の神も神を信じるのか」

「お前、そういうの言ってて混乱しないか?
 バカは信じるんだよ。
 誰かが自分を救ってくれるってな」

「おかしくないか?」

「あ?」

「お前がやってることが復讐だとしたら
 両親を殺した連中だけを殺せばいいだけだ。
 そうでなくても、神を信じる者だけ殺せばいい」

「そうだな」

「だがお前の“願い”はその先にあるんだろ」

「そうだ。神を殺す。神の座を手に入れてな」

「神を殺す……どうしてだ?」

「ああ?」

「神が最初からお前と関係ないのなら。
 お前を救いはしないとわかってるなら
 神を殺す必要はないだろ。神を信じてないんだから」

「違う。わたしは神を殺して神を信じる奴を――」

「信じようと信じまいと
神と会ったことあるやつなんていねえよ。
ウリュウ・ミネネ。オレにはお前が……」

「わかった。もういいだろ。
 お前が知りたがっていた“願い”は教えてやったんだ。
 あとは契約通りわたしの言うことを聞けばいい」

「誰よりも神に救われたかったようにしか見えねえ」

大きな音を立てて鳴り響いたレオの頬。
殴った反動で少し擦り剥けたみねねの拳。

「痴話喧嘩してる場合じゃないでしょ」

北岡が割り込んできたのは沈黙の中。

「誰かが大学の前を通ってるみたいよ?」


――――――――――

125そして誰かいなくなった  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:18:05 ID:9H6UqJSY0


七原が死んだ。
その事実が杉村の脳をぐるぐると駆け回り
脳を不快に揺さぶる。
視界が歪んで吐きそうになり、口を抑えて堪えた。

「大丈夫? ヒロキ」

優しく手を繋いできた雛苺が
心配そうに杉村を見上げる。
彼の膝より少し高いくらいの大きさしかない
彼女の表情は痛いほど
杉村の心情を慮っているのが見てとれた。

「ごめんな。大丈夫。
 平気だよ、俺は全然」

雛苺の頭を優しく撫で杉村は微笑む。
根が繊細で人付き合いも得意ではない彼だが
浮かべた微笑みはなんとか形になっていたはず。

それでも、雛苺は彼から離れず。
杉村の手を一層強く握った。

「ヒロキ」

なだらかな丘陵。
照りつける太陽は、
もう疑いなく紛い物なのだろう。
偽物だと意識すると
それの発する熱が煩わしく感じられた。

このゲームは杉村達が参加していた
糞益体もないゲームとは違う。

川田章吾もいない以上、
七原が順調に脱出の道を
進めていたと思えるほど楽観的ではない。

けれども、杉村は心のどこかで信じていた。
七原なら何かやってくれるはずだと。
かつて自分に道を示してくれたあの男ならと。

緩やかな斜面を登ったキャンチョメは
少し後ろを歩く二人へ振り返る。

「大切な人が死んだら。
 その人を想っていた人も死ぬのかな」

逆光に照らされてキャンチョメの顔は見えない。
しかし、その声音には
壊れそうなほどの無垢が感じられた。

「そうじゃない、キャンチョメ。
 俺の親友は家族が目の前で殺されても
 必死に生きようとしてた」

「ゼオンは強かったんだよ凄く」

ゼオン・ベル。
たしかガッシュの兄だという人物だ。
キャンチョメが言うには訳あってガッシュを憎悪していたが
ようやく和解し、魔界に帰ったらしい。
と言っても、魂としてではあるが。

何か、言わなければならない。
杉村は口を開き言葉を発しようとしたが、
喉に栓が詰まったようになり。潰れた吐息しか出ない。

杉村が焦燥を感じ始めたそのとき。
爆音とともにノイズ混じりのダミ声が聞こえた。

「こんにっちはあ〜〜〜〜!
 私はテロリスト「雨竜みねね」です!
 お前たちは今私の標的になりました〜!」

猛スピードでこちらに向かってくる
オープンカーが杉村たちの前に現れた。

運転手は深緑の装甲に身を包んだ
おそらくは仮面ライダーなる存在。
そしてその隣に立つのは拡声器を手に
大声を張り上げる眼帯をつけた女性。

「なっ!?」

驚愕のあまり杉村は思考が停止してしまった。
こんな平野で拡声器を使うのは愚策だ。
禁止エリアと南東に現れた謎のオブジェを見ても
南東に向かおうとする参加者はかなり多いはず。

「選択肢は二つ!
 おとなしく降伏して情報を吐き出すこと!
 もう一つは抗戦して捕虜になってから情報を吐くこと!」


車が杉村たちの横を走りすぎると
後方で大きく旋回し再びこちらに向かってくる。

「どっちでもDEAD ENDは決まってるんだけどな!」

突如として現れた襲撃者たちに対応すべく
杉村はデッキをバックルに挿し込み変身する。

キャンチョメたちを庇おうと前に出ると。
目前に接近したスポーツカーを底からの打撃で
掬い上げようと杉村は重心を低くする。

杉村の背後から膨大な熱気が感じられ
思わず意識を遮られ振り向いてしまう。

失態に気づくもどちらに対応すべきか迷った
杉村は振り返る途中の姿勢で固まってしまった。

126そして誰かいなくなった  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:19:29 ID:9H6UqJSY0

「フォウ・スプポルク!」

隣から声が聞こえ、
杉村はキャンチョメに助けられたと知り。
地面に大きな車の影が射し、
雛苺が失態をカバーしたことを悟った。

雛苺の蔓によって天高く持ち上げられたスポーツカー。
奇襲を仕掛けてきた男はキャンチョメの術によって
炎の剣が霧散し、一瞬だが動揺を見せていた。

「雛苺! 車ごと捕らえてくれ!」

蔓がスポーツカーごと襲撃者たちを包み込んだのを背に
杉村は地上に残った男へ攻撃を仕掛ける。
突き出すのは鋼の拳。相手も装甲に包まれている。
一撃ならば相手を殺さずに無力化できると踏んだ。

狙いは肩。
キャンチョメの術により剣を喪った相手に防ぐ術はない。
毎日練り上げてきた突きが吸い込まれるように進む。

「あめえよ」

だが、それを半歩だけ身を捻り躱した相手が
続けざまに杉村の胸へと裏拳を叩き込む。

「ぐっ……!」

予想外の反撃に杉村は大きく後退しようとしたが
腕を相手に掴まる逃れることができない。

「俺は防人だ、仮面ライダー」

裏拳に使った左手で右腕を封じられた杉村は
畳み込まれるように至近距離からの肘鉄の連打をくらう。

「俺の中には今までの防人たちの戦闘経験がある」

的確に防御の隙を縫って出される攻撃に
杉村は為すすべなく打たれるのみ。

「剣術だけじゃねえんだよ」

杉村の腕から手を離すと両手を腰に構え、
強く地面を踏みしめると
防人レオは両掌を杉村の腹部に当てる。

産みだされた衝撃は絶大。
胴体が陥没する錯覚を覚えながら
杉村は地面を転げまわる。

「これで終わりか? 弱いぞ」

拍子抜けに溜め息をついて
レオは杉村が倒れている方へと歩く。

「闘いに迷いでもあるのか。
 これなら龍騎の方が遥かに強かった」

レオの手に再び炎が集まり
粘土のようにこねて剣へと形を変える。

レオの追い打ちを防ごうと
キャンチョメがレオの前に立ちはだかる。

「機械……ではなさそうだな。
 お前も抵抗するか。ならやってみろ」

「フォウ・スプポルク!」

キャンチョメの手から光と音が放たれ
先ほどと同じようにレオの剣を覆い、霧散させる。

「さっきと同じ手じゃねえか」

鼻で笑い、レオは一瞬で間合いを詰めると
キャンチョメの首筋に手刀を打つ。

「コポルク!」

しかしその一撃は空を切り
レオの視界からキャンチョメの姿は消え失せた。

「ディマ・ブルク!」

レオの周囲を取り囲む8体のキャンチョメ。
その全てが実体を持ちレオへと襲いかかる。

舌打ちして、周囲に炎を撒き散らすと
跳躍し、キャンチョメたちから離れる。

「……強いな。おまえの“願い”が知りたくなった」

もう片方の手にも炎の剣を生み出すと
二刀流の構えをとり、キャンチョメの分身たちと対峙する。

「オレと闘え」

その言葉を背後に置き去りにするほどの速度で、
レオはキャンチョメへと躍りかかり――

「ゲームセットだレオ!」

襲撃者、雨竜みねねの声で踏みとどまった。

声のした方を見るとそこにいるのは
蔓すべてを焼き払い。
雛苺を取り押さえたみねねと
少し離れたところから
興味なさげにあらぬ方を見ている
仮面ライダーゾルダ、北岡の姿。

127そして誰かいなくなった  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:20:42 ID:9H6UqJSY0

「抵抗すればこいつを殺す!
 大人しく降伏しな!」

冷酷な笑みに歯を剥き出しにして
みねねは勧告する。
その要求に従って
キャンチョメは分身を消し、ひとりに戻った。

「ひな、いちご……」

腹部を抑え、声を絞り出す杉村。
瞳には敗北感がありありと浮かんでいる。

「相手は子供みたいよ?」

事態を静観していた北岡が口を挟んだ。

「嫌ならすっこんでろ」

煩わしげに北岡を一瞥した
みねねはもがく雛苺の口を抑え、
目の前に手榴弾をちらつかせ。
ひたひたと雛苺の丸い頬に冷たい手榴弾をあてる。

「やめろよ! 雛苺から離れろ!」

これから受けるだろう行為を想像するだけで
足が震えても必死にキャンチョメは抗議する。

「なんで……そんなことをするんだお前たちは」

動かない手足、
やけに重くなっていく体に不甲斐なさを覚えつつ。
杉村はみねねに問う。

「状況を受け入れな。
 弱いからお前たちは負ける。それだけのことだ」

「……それで納得できるわけないだろ!」

「納得しようがしまいがゲームは進む。
 言っとくけどあたしたちはまだ誰も殺しちゃいないよ」

「つまりは口だけっていうね」

「黙ってろクソ弁護士」

痛いところを突かれ、憮然と北岡に返事し。
みねねは肩を竦めると改めて杉村たちに告げる。

「諦めな。お前たちはここで死ぬ」

「――――ディカポルク」

その声にはたしかに怒りが混じっていた。
強い、強い、怒りが。少年の口からでていた。

その時、天を衝く程の巨人がその場に現れた。
大きさは30メートルを優に超えている。
巨人、キャンチョメは拳を引くと
力任せに雛苺ごとみねね達に叩きつける。

それを防いだのはレオの炎。
しかし、腕をこんがりと焼くかと思われた
キャンチョメの腕は炎を通さず。
蜃気楼のように揺らめくのみ。

「幻影か」

「コポルク」

「痛っ!」

突然の巨人の出現に呆気にとられたみねね。
指先までよじ登っていた
小さなキャンチョメに気づくことができず、指先を噛まれた。

「ヒロキ!」

――FREEZE VENT――

キャンチョメの機転に呼応して
杉村はカードをデッキに挿し込む。
現れた白銀の大虎が吹雪を伴う冷気を吹きつける。

草木すらもたちまちに凍りつき、
バリバリとした音とともにキャンチョメは雛苺を抱えて走る。

「逃げてよう!」

杉村に半ば押し付ける形で雛苺を預けると
キャンチョメは杉村の背中を押すように走る。

「逃すかよ」

だがそこを先回りしていた
レオが杉村の頭部へと回し蹴りを放つ。
軽く、速度もなかった攻撃を杉村は前転することで避ける。

「おまえは逃さない」

だが後続のキャンチョメに
そのままつま先の向きを変え。
踵落としをすると抉られた
大地や草木がクリスタルのように砕け散り宙を舞う。

「レオ! おまえはそのまま二人を追え!」

みねねの指示にレオは一瞬反抗の意思を見せたが
大人しく従い、杉村達を追う。

128そして誰かいなくなった  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:28:49 ID:9H6UqJSY0


「キャンチョメ!」

「行って! 後で追いつくから」

「二対一でやる気か?」

遠くに消えていく杉村たちの背を見送ることもなく。
キャンチョメはみねねと対峙する。

「…………二対一?」

場に満ちる緊張感にそぐわぬ仕草で
キャンチョメは首を傾げる。

その反応にみねねは巨人の出現から
北岡の姿が見えなくなっていたことを思い出し。
首筋をちくちくとした違和感があるのに気づいた。
手をやってみるとそれは紙切れであり。


『体調が優れないんで帰るよ。
 同盟は破棄ってことでごめんね。

                PS、べつに子供を傷つけたくないとか
                   そういうのじゃないから勘違いしないでちょうだいね』


「あんのクソ弁護士があ!!」

みねねは怒りのあまり置き手紙をびりびりに引き裂き
紙切れを地面に叩きつける。

「おまえはここで倒す!」

「あー、そうですかそうですか。
 これ、レオも知ってて置いてったよなあ。
 いいねえ。雨竜みねねらしくなってきたっ!」

ヤケクソに叫び散らしつつ、冷静に爆弾と日記を手にし
みねねは次の一手を考え始めた。

129そして誰かいなくなった  ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:29:06 ID:9H6UqJSY0



【D‐6/一日目/日中】

【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)、心の力消費(中)
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:みねねを倒す。
[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
参戦時期:ファウード編以降

【雨流みねね@未来日記】
[状態]:疲労(小)、色々と考えたい
[装備]:MKⅡ手榴弾[4個]@現実 BIM(烈火ガス式)[7個]@BTOOOM!、拡声器(現地調達)
[道具]:基本支給品一式、逃亡日記@未来日記、
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して“神”を殺す
1:キャンチョメを対処する
[備考]
※参戦時期は原作六巻以降のどこかからです。詳しい時期は後の書き手にお任せします
※龍騎の世界観、城戸、秋山、浅倉についての大体の情報を得ました。(霧島については聞いていません)
※カードデッキは他人が使うと死ぬと誤認しています。
※仮面ライダーデッキを誰でも使えると知りました
※未来日記で周囲に杉村たちしかいないことを確認済みです。

【D‐6→E-6/一日目/日中】

【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:軽度の打撲、
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:頭スッキリ。お目々パッチリ。俺、どうしよう?
1:杉村たちを追う。
2:キャンチョメに興味があるがお預け。
3:他の“神”らしき女にも会いたい。
4:防人以外にも戦えるやつがいるみたいだ 。今はどうでもいいが
※由乃の返り血を浴びています。

【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、クレヨン@現実、人参@現実
[思考・状況]
基本行動方針:誰も傷つかない世界が欲しい。
1:東へ逃げる
※シュナイダーの愛称はウマゴンでいいよねと思っています。


【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
     指の爪剥離
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、仮面ライダータイガのカードデッキ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:どう、すれば……
1:東へ逃げる
2:時間を見つけて仮面ライダーとしての力の使い方の練習をしたい。
3:城戸真司に会えたら霧島美穂からの伝言を伝える
4:もし、桐山が琴弾を殺したのだとしたら、俺は……

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後


【D‐6→???/一日目/日中】

【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
[状態]:疲労(小) 、
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)
[道具]:基本支給品一式、マスターキー@オリジナル、黒のアタッシュケース
     香川英行のレポート?
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:子供殺すとかないって
[備考]
※参戦時期は劇場版開始前のどこかからです。詳しくは後の書き手にお任せします。
※未来日記の世界観、雪輝、由乃、来須、マルコ、愛のみねね視点で知っている大体の情報を把握しました。
※逃亡日記は所有者の逃走経路を予知するものだと勘違いしています。
※香川英行のレポートに仮面ライダーの弱点が書かれていると
 北岡は言っていますが真っ赤な嘘です。

130 ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:29:54 ID:9H6UqJSY0
これありなのかよくわかりませんが
たぶんOKだろうと続きの話を投下します

131けれど彼は前を見る   ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:33:02 ID:9H6UqJSY0

火花が散ると、辺りが焦げつき
影が二つ交わった。

デッキの力を使い、
ダメージを負った体を補おうとする杉村だが
目の前での攻防に立ち入る隙を見いだせない。

「機械……か?
 違うな。お前はなんだ?」

斬撃を蔓で自らの体を持ち上げて躱した
雛苺は地面を這わせていた蔓を鞭としてレオに叩きつける。

「無駄だ」

だがそれもレオが周囲に散布する
炎の粉で節々に火がつき
崩れ落ちてしまう。

「多くには相性が存在する。
 お前の力が植物に関するものなら、俺は火を力にする。
 火は木を焼き払うものだ」

杉村からの攻撃のために作っていたのだろう二刀は
雛苺だけに狙いを限定するとひとつの刀に戻る。

「人形」

雛苺の言葉にレオは興味深げにその先を待つ。

「ヒナは人形なの」

「人ではないということか」

頷く雛苺に得心が行ったのか
それ以上、問いかけることはなく。
炎の戦士は周囲に幾つもの炎球を展開する。

「おまえの“願い”はなんだ?」

「ヒナには誰かを傷つけてまでやることなんてないの」

その時だけ、
雛苺の声色が大人びたものに変わったのは気のせいか。

「願わなくていい毎日が欲しいの。
 闘わなくてもみんなで楽しく生きれる毎日が欲しいの」

雛苺の言葉に、レオはその眼に微かな痛みと郷愁を浮かべる。

「それこそ、夢物語だったよ。人形」

雛苺の言葉に何の感銘を受けることはなく。
レオは一つの“願い”として聞くだけ。

「雛苺、一瞬でいい。
 あいつの動きを止めてくれないか」

杉村の要請に雛苺は何の疑いもなく頷く。
失態ばかりをしている杉村を信じる彼女の姿に
眩しさを感じ。杉村は沸き起こる闘志を体中に巡らせた。

雛苺の四方から蔓が生え
幾重にも互いに重なり合い絡み合い編まれていく。
それは一つの大槌となり、レオを叩きつけんと襲い掛かる。

それを冷静に巨大な炎の剣で焼き払ったレオは
そのまま雛苺へと襲いかかる。

しかし、雛苺へと向かうために踏み出した地面が
崩れ落ち、レオは宙へと舞い上がる。

雛苺が大槌と同時に地面へと潜らせ張り巡らせていた大網が
地中深くからレオを掬い上げる。

大きさは大槌よりも遥かに大きい。
炎をだいぶ消費したレオに焼却しきれるものではない。

幾重もの網目に覆われたレオを見て
杉村は勝負にかける。

――FINAL VENT――

蔓の網を突進で引き千切り
白銀の大虎がレオの前へ現れる。
大虎はそのままレオの首根っこを鷲掴みにすると
地面に押し付けながらジグザグ走行で杉村へと走る。

圧倒的な膂力で生み出される摩擦は
アシャの装甲をも大幅に削り取っていった。

待ち構える杉村は手に構える両手のクローを
研ぎ澄ませるとレオを迎え撃つために
アッパーを打つ体勢になる。

おそらくこれが当たれば
あの男は死ぬだろうという直感があった。
暴力への忌避感は絶えず杉村に付き纏っていた。

幼いころから、今の今まで。
七原との出会いによりかなり克服は出来ても、
生来の性質はがんじがらめの鎖となっている。

けれども、殺すことを覚悟に入れる必要はある。
七原や、三村のような希望を絶やさないためにも。

「そろそろだな」

白の虎に引き擦られるレオが静かに言った。

132けれど彼は前を見る   ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:37:25 ID:9H6UqJSY0

「おまえは、
 最初の時点で俺に負けている、仮面ライダー。
 そう、お前が仮面ライダーだから」

レオの言葉にいぶかしむ杉村の耳にもそれは聞こえた。

ぴしり。

音が聞こえたのは腹部から。
いいや、正確にはベルトから。

「俺たちは負けたら護神像に喰われる。
 お前たちは鏡の化け物に食われる」

「ヒロキ!?」

慌てた雛苺の声が聞こえたが
杉村はそれに応えるどころではなかった。

デッキに入っていたその罅は気づかぬ間に
どうしようもないほどデッキを摩耗させ。

ついには砕け散った。

鋼の装甲が解け、現れるのは
ただの中学生に過ぎない少年。

舌舐りがたしかに聞こえた
鋼と鋼が擦れ合う金属音ではあったが。
彼に従っていた虎は今、
標的をレオから杉村へと変えた。

「それが定めだ。俺達の。
 力を持てば負けた時に喰われる。
 それから逃れる術はない」

反応できない。
いや、正確には反応はできる。
だが杉村にはわかってしまう。

これには何も出来ない。
鋼の装甲に人の拳で通る攻撃は、ない。
それは、蛙が蛇に睨まれるのと似ている。

単純な圧倒的力差が産み出す無力感と諦念。

何が言葉を武器にだったのだろう。
自分はみねねに何も言い返すとができなかった。
何が収まってはいけない命だった?
デッキが砕け散ったら容易く死ぬ命だったのに。

そして、それが杉村を縛り付け。
大虎の爪が杉村の両眼を抉った。

赤、だったのか最後に見た光景は
杉村はぼんやりとそんなことを考えながら
あらん限りの絶叫をする。

喪った目を抑え、恐怖に屈して。
無力感に怯え、雛苺のことすら忘れて。
当然のように虎から逃げる。

暗い、ここは暗すぎる。
奈落の遥か底のように。

救いの手は訪れない。
仮面ライダーの定めからは逃れられない。

――大丈夫。大丈夫だから。

そのとき、杉村を抱きしめる小さな体を感じた。

「ひゅ、ないちご……?」

呂律の回らない口で、杉村は雛苺の名を呼んだ。

「に、げろ。まきこまれる」

それは精一杯の勇気だった。
見捨ててしまった雛苺に対するせめてもの。

――ヒナはね。嬉しかったの。
   誰かと心が通じて。ヒロキの前で起きたとき。
   ヒナはひとりで眠るわけじゃないんだって。

杉村にはその言葉の意味がわからない。
雛苺の声が直接耳に届いてるものではないことにも気づかない。
足がもつれ、転んで、蹲り。みっともなく震える彼には。

――守ってあげて。ヒロキにはそれができるって知ってるから。
   ヒナの大切な人たちの明日を守ってあげて。
   みんなが笑顔で前に向けるんだもの。知っているもの。

「雛苺……?」

抱きしめていた彼よりとても小さな人形が
徐々に形を失っていっていることに、
杉村はようやく気付いた。

「俺を、庇って……?」

杉村の両眼がまだあったのならば。
少女の人形の背に痛々しいほどの
爪痕が残っているのが見えただろう。

「どうして? どうしてなんだ?」

怯えにかき混ぜられた意識は徐々に明瞭になり。
恐怖で凍った心が雛苺の無機物であるはずの
体の熱によって溶けていく。

――お“願い”します。ヒロキ。

そう言って、雛苺は杉村の掌に静かに口づけをした。
涙で濡れた接吻。これは契約。そしてこれは託し。

咆哮が聞こえた。
白銀の大虎、デストワイルダーが今、顎を開き。
杉村を喰おうとしているのがわかる。

歴史の道標、神崎士郎が産んだ鏡の怪物。
その鋭利な鉤爪から逃れる人はいない。
喰われる運命から逃れる人間はいない。

故に、打開するには喰われる宿命と引き換えに
“願い”を追い求める仮面ライダーが
人を助けなけらばならない。

永劫に続く悪循環、ジレンマ。
それが仮面ライダー龍騎である城戸真司が闘い続けた運命。

逃れることは誰にもできない。

けれど。
もしも。
その心。
――絆があったのなら。

133けれど彼は前を見る   ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:39:17 ID:9H6UqJSY0

「俺は……わかった。
 思い出せた。刻むことができた。ありがとう」

杉村は両手を包み込むように合わせる。
祈りにも似たその動き。

契約による執行は目の前にもう――


――――――――。


“願い”は多くの場合、矛盾を孕んでいる。
雨竜みねねの場合は特に顕著だった。

しかし、彼女の想いの強さが本物なら、
それはいつしか蜘蛛の糸をつかむまでになるだろう。

その矛盾を内包し、
それが産み出す葛藤に揺れ動いたのならば
爆弾魔は本当に全てを失ったまま死ぬだろう。

黒き血の人間を造った
赤き血の神でもそれは変わらないのだとレオは知った。

レオが今求めるのは自分が闘う理由。
恐らくそんなことのために闘うのは自分くらいだろうと
レオは自覚している。

いや、ここに来たばかりの時に
闘った龍騎は違ったかもしれないが。

しかし奴は死んだのだと北岡は言っていた。
放送を境に北岡が物思いにふけるのをレオは目撃していたが
みねねには教えなかった。
迷ったやつから死ぬ戦場、放っておけばいい。

風が吹きすさび、野原の草をそよがせる。
それは、春という季節を連想させた。
レオはその季節を本の上でしか知らないが
その形容が相応しいと直感的に思った。

そして、その風は徐々に勢いが増していき、
意識しなければ吹き飛ばされないほどにまでなった。

「……今のおまえはなんだ?」

“願い”を喪った少年は仁王立ちする大虎へと声をかける。
いや、正確には虎の胴体に開いた大穴から覗く男へ。

制服の端を千切り、眼を覆った杉村は
ようやく倒れた大虎をまたぎ、レオへと歩をすすめる。

眼を喪ったはずなのに
それは正確な足取りで。

「おまえの“願い”はなんだ?」

レオの10歩前で立ち止まる杉村。
杉村の周囲に浮かぶ光が杉村の前に行くと
抱きしめるように杉村は両手でそれを覆う。

「勇気は、この胸に」

それは懺悔か。誓いか。
ほのかに瞬く光を解放するように、
覆っていた手を開くと周囲に烈風が起こった。

杉村の変貌を目の当たりにした
レオは炎を構え、油断なく杉村を見る。

「“願い”は正義。
 そして俺は、俺は――」

風の流れが水流のように引き絞られて
その全てがレオへと焦点をつける。

「――杉村弘樹だ。行くぞ防人。
 俺は既に、お前とも絆を結ぶと決めている」

134名無しさん:2012/02/28(火) 11:43:00 ID:i4nu48/w0
支援

135けれど彼は前を見る   ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:43:51 ID:9H6UqJSY0

【雛苺@ローゼンメイデン 死亡確認】
【残り 21名】

【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:疲労(中)、軽度の打撲、
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:頭スッキリ。お目々パッチリ。俺、どうしよう?
1:杉村に興味
2:キャンチョメに興味があるがお預け。
3:他の“神”らしき女にも会いたい。
4:防人以外にも戦えるやつがいるみたいだ 。今はどうでもいいが
※由乃の返り血を浴びています。


【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
     指の爪剥離、両眼失明、覚醒
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、雛苺のローザミスティカ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:正義
1:レオと闘う

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
覚醒した杉村は空気を読むことで周囲10mの状態を把握することができます。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後

136 ◆1yqnHVqBO6:2012/02/28(火) 11:44:21 ID:9H6UqJSY0
以上で本当に投下終了です。

137名無しさん:2012/03/03(土) 01:07:57 ID:urTOGIus0

>ポツンとひとり
>そして誰かいなくなった
>けれど彼は前を見る

138名無しさん:2012/03/03(土) 01:18:26 ID:urTOGIus0
間違って書き込んでしまった。ミスミス。

>銀の鍵と青の剣を手に握り
桐山が綺麗でビビる。今まで参加したロワの中で一番じゃねえか。
こっから反撃はできっかねぇ…。まだ色々と敵は残っているしねぇ。

>ポツンとひとり
マルコがかっけえよ、ただのリーゼント野郎じゃねえよ。
アニメ効果もあって一段とかっこ良さが増してるんだよなあ、マルコ。

>そして誰かいなくなった
北岡wwwwww やだこの弁護士ヤル気ねえwwwww
お前もうマーダーじゃねえだろwww

>けれど彼は前を見る
覚ッ醒ッ!杉村覚醒ッッ!杉村覚醒ッッ!杉村覚醒ッッ!杉(ry
また一人、一般人が消えたよ…! 
それはともかくいろいろとぶっ飛んでるけどすげえかっこいいのはなぜだろうね!
最後のセリフとかっべーよ、っべーよ。かっけーよ、パネーっす。
杉村マジヒーローじゃないか。今まで地味だった分目立ち始めちゃって…!

139名無しさん:2012/03/17(土) 22:34:32 ID:h89txELs0
子供殺すとかないって
ってのがらしすぎるw

140 ◆W91cP0oKww:2012/03/17(土) 22:38:22 ID:ob9sLo3s0
とーかしますー。

141名無しさん:2012/03/17(土) 22:38:37 ID:h89txELs0
支援

142 ◆W91cP0oKww:2012/03/17(土) 22:39:37 ID:ob9sLo3s0
(しかし、ライダーは俺以外全滅か……これはラッキーとでも言うべきことなんだろうね)

強い風が吹きすさぶ荒野。生命なき大地で北岡秀一は悠々自適に足を進めていた。
北岡は顔を顰めながらもこれから先の方針について考えを巡らせる。

城戸真司。秋山蓮。霧島美穂。浅倉威。香川英行。
自分以外の仮面ライダーは皆この世界で生命を散らした。
それについてはどうでもいい。そう、どうでもいいことだ。
城戸真司、霧島美穂の名前が呼ばれた時に少し胸に痛みが走ったが許容範囲内、十分に耐えられる。

綺麗事を謳えばその先は闇しかない。
特に城戸真司はいい例だ。
愚直に過ぎたその正義、他人を助けるために、ライダーを護るために戦うといった自己犠牲が彼を死へと誘った。

(まったく、何考えてるんだか。死ねば、そこで終わりなのにね)

死ねば美味しい物を食べることもできないし、いい女を抱くこともできないといった無い無い尽くしである。
北岡にとってみると死は喪失でしかなく絶対に受け入れられるものではない。

(野垂れ死になんてまっぴらごめん。死ぬなら勝手に死ねばいい)

ましてやこんなどこかもわからない世界で死ぬことなど許しはしなかった。
だからこそ北岡はこの闘いに乗ったのだ。
全てはこれから先の人生とそこで得るであろう快楽をこの手に掴みとるために。
もう、長くはない身体を元の健康な身体へと戻すために。
その過程で女性、子供を犠牲にするとしても。北岡は迷わない。
否、迷ってはいけない。そう自分に無理やり言い聞かせる。

(気が重いけど……やらなくちゃいけなかったんだけどなぁ)

女性、子供に手をあげるのは北岡の望むことではない。
だが、それが不可避の障害でありやらなければいけないのなら。
ゾルダのデッキを用いて彼は悪にでもなるだろう。
その決意はあったのに結果としては同盟を破棄してトンズラをこいてしまった。

(やっぱりねぇ……子供を殺すってのは気が進まないんだよね。女性に手を出すってのも趣味じゃないし)

北岡自身、あの場でとった行動はほぼ無意識のうちであった。
殺す道と殺さない道。どちらを取るべきか考えていたら自然と逃げの方向へと身体が動いていた。

「殺さないといっても正義の味方ぶって助けるのも性に合わない……どうしたいのよ、俺」
「簡単だ、戦えばいい」

その独り言じみた問いに突如現れた一人の男が答えを出した。

143 ◆W91cP0oKww:2012/03/17(土) 22:40:05 ID:ob9sLo3s0

「神崎……士郎。やっぱりいたのかい」
「闘え。闘って願いを叶えればいい」
「そうは言ってもねえ。よくよく考えると俺達ってただ踊らされている立場なんだよね。
 あの闘いの終盤まで必死に勝ち残ってさ。高みの見物決め込んでいるお前からするとさぞや面白い演劇みたいなものだっただろうね」

神崎は先ほどとは打って変わって北岡の皮肉じみた言葉に返答を返さない。

「というかさ。お前が元々やっていた十三人のライダーの闘いはどうなった訳?
 いきなりこんな変な闘いに俺達を巻き込んでさ。
 それに、防人がいる未来の世界、未来日記によるバトルロワイアル。ライダーと対を張るファンタジーな世界や道具まで出てきたしね。
 ライダー同士の闘いを中止してまでやったこの闘いの目的はなんだい?」
「その答えを知る必要はない。お前たちに与えられた選択肢は闘うことのみだ」
「それがお前の答えかい? 話にならないね。スーパー弁護士の俺でもこんな最低の顧客は見たこと無い。
 はぁ……こういう時、質問には答えるもんでしょ、普通。嘘でも真実でも、ね。
 もういい。そっちがそうなら俺も勝手にするよ」

交渉にすらならない。否、それ以前の問題である。
何せ神崎は壊れたロボットのようにただ闘えとしか言葉を発さない。
ああ、くだらない。実にくだらないし腹が立つ。
こんな理由すら知らない闘いに巻き込まれて死んでいったライダーがくだらない。
神を殺す、主体性もなく流れるままに行動している。雨流みねね、レオナルド・エディアールがくだらない。

「要はさ、願いを叶える為に闘え、ということだよね。神崎士郎」
「ああ、そうだ。その果てにお前の理想郷が待っている筈だ」
「あのさぁ……」

永遠の生命を手に入れる、人生を楽しみたい。ただそれだけが願いなのに。
こんな馬鹿らしい闘いを望ませる男の掌で踊らされている自分がくだらない。
そして。

144名無しさん:2012/03/17(土) 22:40:40 ID:h89txELs0
支援

145First bet ◆W91cP0oKww:2012/03/17(土) 22:41:54 ID:ob9sLo3s0






「舐めるな、引きこもり」







神という安寧とした立場で自分達をせせら笑っているこいつらが一番くだらない。
故に、もう退場してしまえ。
北岡はスーツのポケットに入れていたゾルダのデッキを取り出し首輪へと掲げる。

「変身」

その二言が北岡の全身に緑の装甲を装着させる。仮面ライダーゾルダがここに顕現する。

「前から思っていたんだけどさ、お前自身生命も賭けないで他者に生命賭けた闘いを求めるってのは不公平だよねえ。
 敏腕弁護士の俺でもこの罪は擁護できないなあ」
「……それがお前の答えか」
「ということで、まずはお前から消えてくれない?」
「それは出来ない。俺はまだ死ねない、願いを叶えるまでは――」
「神崎優衣の期限付きの生命を延ばすため、でしょ? 実に素晴らしい、笑えるくらいに綺麗な兄妹愛だね、壊したくなるくらいに」
「……! お前は」
「今の俺の願いはお前の破滅だよ!」

神崎が喋り終わる前に北岡は腰に下げたマグナバイザーに込められた弾丸を放つ。
だが、瞬間。一秒前までここに確かに存在した神崎の姿が掻き消えていた。

『優衣は俺が護る。俺が救う。俺が幸せにする。その願いを邪魔するというのなら。お前が闘いを肯定し、最後まで生き残れたのなら。
 北岡秀一。お前は、俺が殺す。俺の願いをお前“程度”の重さに潰される訳にはいかない』

最後に捨て台詞のような言葉を残し。
闘え。最後まで生き残れ。
神崎士郎は再び姿を晦ました。
数秒前まで殺気が充満していた空間は静かな湖畔のように音が消えていた。
だが、それも終わりの始まり。
始まりは北岡の陽気な笑い声だった。

「は、はは、はははっっはっ! あはははごほっ。は、はは……ははははっ。俺の生命が軽い? スーパー弁護士の俺の生命が?
 上等だ、おもしろいジョークだったよ神崎士郎! 生き残ってやろうじゃないか、最後まで」

笑い声も止まり、最後に残ったのは北岡らしからぬ獰猛さが多分に含まれた笑顔。
まるでその笑みは既に死んでいった宿敵、浅倉威のようで――。

「勝つのは――俺だ」

願いを貪欲に追い求める戦士の姿がそこにあった。


【E-7/一日目/日中】

【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ゾルダに変身中、神崎士郎への怒り。
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)
[道具]:基本支給品一式、マスターキー@オリジナル、黒のアタッシュケース
     香川英行のレポート?(神崎士郎の願いについて書かれている?)
[思考・状況]
基本行動方針:安寧とした立場でせせら笑っている神陣営に踊らされるのは気に入らない。
0:生命をベットしようよ、神崎士郎。それと、お前の指図は受けない。
[備考]
※参戦時期は劇場版開始前のどこかからです。詳しくは後の書き手にお任せします。
※未来日記の世界観、雪輝、由乃、来須、マルコ、愛のみねね視点で知っている大体の情報を把握しました。
※逃亡日記は所有者の逃走経路を予知するものだと勘違いしています。
※香川英行のレポートに仮面ライダーの弱点が書かれていると
 北岡は言っていますが真っ赤な嘘です。

146First bet ◆W91cP0oKww:2012/03/17(土) 22:42:47 ID:ob9sLo3s0
投下終了です。

147名無しさん:2012/03/17(土) 22:44:43 ID:h89txELs0
投下乙ー!
馬鹿な、北岡さんがかっこいいだと!?
というか散々マーダーじゃねえと言われてきたが本当に対主催になりやがったw

148名無しさん:2012/03/17(土) 22:48:41 ID:dhKV2IRg0
投下乙です!
北岡さんがシリアスになった!
やったね北岡さん! 周りはマーダーだらけだよ!

149名無しさん:2012/03/18(日) 00:12:19 ID:8MHZKUw60
投下乙です!

>笑えるくらいに綺麗な兄妹愛だね、壊したくなるくらいに

この字面だけだと外道なのに、最高にかっこいいな!

150名無しさん:2012/03/18(日) 00:13:31 ID:hGv9NTpg0
投下乙です!
かっこいい北岡さんだなんて……グッとくるじゃない……!
まずは周りのマーダーをなんとかしようね!

151 ◆1yqnHVqBO6:2012/03/25(日) 09:17:00 ID:xSLz0rXo0
投下します

152少年よ、我にかえれ  ◆1yqnHVqBO6:2012/03/25(日) 09:20:08 ID:xSLz0rXo0
  レオが生まれたところは厳しい風雪に毎日覆われ、
  強力な機械たちが村を囲むように徘徊していた。
  外にでることを少年だったレオは決して許されず。
  蟻の巣のようなコミュニティがレオの世界だった。

  しかしある日、村を防っていた老いた防人がついに倒れ。
  村に機械が大挙して押し寄せ。
  少年の前で彼の家族が殺されたとき。
  少年の心は、少年の世界は壊れた。
  
  壊れたものは痛みを訴える。
  欠けたものを補うために。
  壊れた心が発する衝動はレオの頭を蹂躙し、
  痛みで狂いかけたレオは縋るように願い、防人となった。


空高く、陽はまだそこにあるというのに
流星がいくつもいくつも舞い落ちる。
赤い線は虹の軌道で地へと落ち、
しかし落ちきることなく霧散する。

人がそれを見たら“願い”を託したか。
たとえその流星を創り出しているのが
年若い二人の少年のぶつかりあいだったとしても。

「“願い”は正義と言ったな」

レオの焔剣が不規則的な筋で杉村へと襲いかかる。

「なら正義はなんだ」

しかし杉村は掌に空気の塊を集めると
剣にぶつけ逸らし、流れるようにレオの懐に潜りこむ。

「どこにでもあるものだ」

肩を護神像と合体し装甲に包まれたレオの胸部に
押し当て、踏み込みをもってレオに体当りする。

後方にステップしたレオは杉村が上段後ろ回し蹴りを
左腕でガードし、足払いを放った。

「抽象的だな。おまえの正義はそんなものか」

レオは失望に鼻を鳴らし。
対する杉村の表情は窺い知れない。

「おまえはこの殺し合いを破壊するんだろう。
 だが仮に脱出して、おまえたちは何をするつもりだ」

レオが語り始めると杉村は構えたまま耳を傾ける。

「オレには帰る場所はない。
 そんなのはオレだけじゃないだろう。
 “願い”を求めることでしか
 自分の居場所を確立できない奴は」

「……帰るところは俺にだってないさ」

「そうか。なら“願い”を叶えるチャンスを
 奪おうしているのがわかってるか?
 人を殺さなくても“願い”は叶うとでも言うつもりか?
 笑わせるな。常人と隔絶した力を得ても
 壊れた心の鎮痛剤にしかならないというのに」

「そうだな。俺はお前の言葉を否定することはできない」

「否定できないなら。おまえの正義はそんなものだ。
 おまえの“願い”も結局は人を壊してでしか成り立たない」

沈黙したままの杉村を見限るかのように
レオは焔剣を更に大きくする。

「絆を結ぶなんて世迷いごとは通用しねえんだよ」

高く振り上げた焔剣は太陽の光をも吸い込むほどの
熱を出している。周囲の草や花がちりちりと焼け焦げていった。
レオは大きく足を前に出し、剣を振り下ろす。

「否定もできず、無力なまま死ね」

「俺はお前を否定できない。
 そう、否定できないし――――」

焔剣は杉村の中心線を綺麗になぞるかたちで
降ろされる。それはギロチンよりも鮮やかに彼を殺すだろう。
彼の命と“願い”を灰に変えて。

「――――俺は誰も否定するつもりはない」

杉村の体が二つにわかたれる寸前。
大地を蹴った杉村は空高く飛び上がる。

レオの追撃が牙となって再び杉村へ噛みつくより早く、
杉村は宙に産みだした空気の塊を蹴った。
自身の体を一個のミサイルに見立て
杉村はレオへと突き刺さらんとする。

レオは舌打ちすると迷わず焔剣を捨て、
拳で杉村を迎え撃つ。
アシャが産みだした炎を纏った拳は
体重と速度を乗せることで
何をも砕き燃やす槌となるだろう。

153少年よ、我にかえれ  ◆1yqnHVqBO6:2012/03/25(日) 09:21:24 ID:xSLz0rXo0

「俺の正義は」

交差する拳と拳。
相手に当たるのは僅差でレオの方が早い。
横殴りに打ちつけることで
杉村の体当たりを逸らす。

しかし、

「俺の正義は!」

杉村の拳が開かれるとそこから
かすかに輝く光が舞った。

太陽が眩しいほどに周囲を照らし。
暴力的な赤い炎が杉村とレオ以外を
世界から追い出しても。

その光は

「俺だけのものじゃないからだ!」

レオの心に触れた。

衝撃がレオの視界を揺さぶり。
たまらずレオはエネルギーのぶつかり合いで開いた
クレーターの底に埋まる。

レオの脳に護神像の“願い”を
インストールするときのように
自らのものとは違う記憶が流れこんでくる。

腕の中で幼馴染の少女が息絶え、
少年の目の前で命が零れ落ちていく。

愛情を向けていた少女に別れを告げられ
徐々に閉じられていく世界。

ずきん。と、レオの脳が疼きだした。
それは、赤き血の洗礼により
失われた者のはずだったのが。
記憶に触れ、忘却の砂漠に
沈んでいくはずの痛みが浮かび上がる。

「痛っ……。なら言ってみろよ!
 テメエの正義が。この記憶の先の“願い”が何か!」

クレーターの底から跳び上がったレオは
彼と同じように記憶の奔流に
顔をしかめていた杉村に問いかける。
叫びながら、癇癪を起こした少年の様に。

「俺は思い出したんだ!
俺は強く在りたかったんだって!」

「だからなんだ!」

「俺は今まで刻んできたんだ!
 雛苺の言葉を! 貴子の気高さを!
 刻んで、願ったんだ!」

「何を!」

「みんなの陽のあたる場所を守りたいって!
 誰かじゃない、みんなが笑顔でいられる心であればいいと!」

「みんな!? みんなと言ったか!」

杉村の言葉に掘り起こされる脳の痛みに耐え、
レオの顔に脂汗が滲んでいる。

「そんなのは不可能だって――」

「不可能でもいい!」

杉村は拳を突き出し、

「不可能なことが俺の“願い”でも!
 歩みを止める気はない!
 誰にもできないことでも、
 誰かと絆を結べばたしかにそれは近づくんだ!」

「だからオレとも絆を結ぶってか!?
あの人形を死に追いやったのが誰だと思ってる!
オレが痛みから逃れるためにどれだけの
“願い”を喰らったと思ってる!」

レオは足を大きく開き腰を落とし
重心を低くする。

「わかりあえるわけがないだろう!」

「わかりあえないからこそ!」

瞳を黒い布で覆った杉村の両眼が
熱く燃え上がるのがわかる。
純粋な、一片の枯れ木すらない竜巻が
渦巻いているのがわかる。

「絆を結ぶんだ!
 いつか、おまえの陽の当たる
 場所を守りに行けるその時のために!
 俺の世界が、心が更に広がるように!」

154少年よ、我にかえれ  ◆1yqnHVqBO6:2012/03/25(日) 09:23:33 ID:xSLz0rXo0

酷くなっていく頭痛を振り払おうと大きく息を吐き。
苛立ちを隠しもせずにレオは口を開く。

「……教えてやるよスギムラ・ヒロキ。
 オレにもひとつだけまだあるんだ。
 失いたくないものが」

しっかりと確認するために
レオは両手を開き、再び握り締める。

「防人であるオレだ。
 オレにたくさんのことを教えて、
 いままで一緒に生きてきた護神像アシャだ」

レオの声は今までとは一転して静かな声だった。
静かに、迫り来る、追いかけてくる者を諦観に見る声だった。

「防人は山ほどの“願い”を背負う。
 そしてその中でも貫ける
 自分の“願い”がなければいけない」

けれど、とレオは自重に口を歪め。
杉村を投げやりに見やった。

「オレはもう願うものがないんだ。
 機械への憎しみも。偏頭痛を治す“願い”も。
 みんなここでなくなったんだ」

レオの言葉がどう聞こえたのか。
杉村は沈痛な面持ちで口を引き結ぶ。

「防人は願うのをやめたら自我そのものを喪うんだ。
 だからオレは“願い”を知りたいんだ。
 それが赤き血の神のものでも。
 知って、なにかを”願い”たいんだ」

水を打ったような静けさの中、
レオは告げる。これから繰り出す技を。

「これは、仮面ライダー龍騎が使っていた技だ。
 おまえの“願い”が本物なら耐えられるはずだ。
 そしてオレを殺して先に行けばいい。
 どうせ先がないんだからな」

開いていた足を更に開き。
両腕を旋回し、それと連動するように
アシャの炎で作った炎龍を背後に置く。

「オレは防人で、“願い”がなければ
 喰われる運命だ。だからおまえと絆を結んでも
 オレは戦いをやめることはできない」

「……違う」

「違わねえよ」

炎龍に十分な炎が蓄えられ、
周囲の景色が蜃気楼に歪む。
レオが天高く跳躍すると、
追いかけるように炎龍を空へと昇り。

炎龍はひとつの槍となり滞空する
レオの背中を強く強く押し出す。

「…………わかった。
 なら俺はすべてを賭けてお前に応えよう」

右足を後ろに置き、
体重を後方に置いた杉村は飛来するレオを迎える。

「ははっ……けっきょく殺し合いになるんだ。
 わかっただろスギムラ」

摩擦熱により更なる炎を纏いレオは空を落ちていく。

「違う。違うんだ」

風圧が杉村にレオの位置を教える。
杉村は掌にありったけの空気を込め。

燃えるサジタリウスの矢となったレオの蹴りを受け止める。

155少年よ、我にかえれ  ◆1yqnHVqBO6:2012/03/25(日) 09:26:01 ID:xSLz0rXo0
「何が違うんだ」

「……これは言葉だ」

「……なに?」

「俺の武器は言葉だ防人。
 それでも足りないのなら……
 言葉では拾えきれない思いを、
 拳に…………乗せる!」

爆発した空間の中、
右手で空気のシールドを展開し、
杉村はその場に踏みとどまる。

「だから、無意味だって言ってるだろ!
 オレは何を言われようと止まる気はねえ!」

「“願い”がないから。
 誰かの“願い”を知りたいという
 お前のそれはなんだ!?
 それこそが、心を突き動かす想いなんじゃないのか!?」

「違う! これは! オレでいたいからそうするんだ!」

「ならそうし続ければいい!
 前に走り続ければいい!」

「できるわけねえだろう!? 世界は狭かったんだよ!」

「できる! 俺達が広げる世界なら!」

「オレは今まで――」

そのとき、杉村は叫んだ。
爆風が風に掻き乱され、
風景が混濁としたなか、たしかに。

「今まで!? 俺もおまえも違う世界で、
 時代で、人生で生きてきて!
 今、このとき初めて会ったんだ!」

「そんなことは言われなくても……!」

「わかってないだろう!
 俺も、お前も今の今まで互いを
 殺し合いと“願い”という尺度でしか見ていなかったんだ!」

「当然だ!」

爆風の渦の中、レオは最後の力を振り絞り、
アシャの炎を産み出し、右脚に展開する。

「悲しい話だ!
 違う世界にある可能性を見ないなんて!
 走り続ける今を明日への道だと思わないなんて!」
 
突き出した左腕をくるりと捻り、
杉村が手の甲を外側にする。
それに合わせて空気も捻じれ、レオの炎を幾分削る。

「そんな小細工で!」

憤りに声を荒げても杉村は心を穏やかに保ったまま。
伸びきった左腕、その肘に右の拳を添えた。

レオは知らない。
この動きが、仮面ライダーファムを
打倒した際のものと同じであると。

「だから俺はこの拳にさらに世界をこめる!
 大人に捨てられ。大切な人を守れず、
 怪物の前では震えることしかできなかった俺の世界を!」

「上等だ、やってみろ!
 どの道、今のままじゃ何も手に入れられねえんだ」

左手を捻り、相手の攻撃をわずかに逸らす。
そして、左腕をシャトルに見立て、
添わせた右手を左腕を引くと同時に前へと打つ。

「両眼を失って、仲間に守られて、仲間を失って。
 そのとき抱いた傷を抱きしめて。
 俺はこのままじゃ嫌だってわかったんだ。
 このまま終わるのは嫌なんだよ防人!」

「奇遇だな!
 オレもこのままじゃいられねえんだよ!」

中国拳法では初歩の技。
護神像のデータにもあった
レオも知っていたその技。


     名を――――崩拳という。

156少年よ、我にかえれ  ◆1yqnHVqBO6:2012/03/25(日) 09:29:09 ID:xSLz0rXo0

右手がレオの蹴りを遂に押し返し、
炎の壁をついに消失し、レオの鳩尾へと
吸い込まれるように進み。ついに砕いた。

だがそれでも。

「おまえは生身で。
オレは鋼だ。惜しかったな」

装甲が砕け散った先に現れた
金髪の少年の体には届かず。

杉村の拳は空を………………。

「……雛苺が俺に言ったんだ。
 明日をくれてありがとうと。
 みんなの明日を守れと」

杉村の拳を暖かく包んだ光があった。
綿毛のようにやさしくたおやかに瞬く命。
決勝の欠片。そこにさらなる風が集まり。

「これでも足りないのなら
 さらに“願い”をこめる。
 言葉にも、拳にもならない、
 世界から溢れ出る“願い”を。
 だからこれは俺の正義で――」

とん、と音がして、
レオの腹部に杉村の右手が優しく触れた。
優しく触れ、そこに篭った風が。

「――俺達の“願い”だ!」


――――――。


頭痛は治まり、レオの前に空が広がる。

「本当に殺さなかったとはな」

皮肉に笑みを浮かべ、
レオは隣に立つ杉村を見た。

「……たしかに、世界は広いな」

「ああ」

「そもそもお前がほとんど一般人っていうのが……
赤き血の神は化け物か」

「お前とそんなに変わらないと思うんだけどなあ」

杉村は困惑して鼻の頭に指を当てる。

「オレはな杉村」

レオは体を起こして瞳を閉じ、暗闇を見た。
自分に流れる血と同じ黒色を。

「初めて頭痛もノイズもない眼で
世界を見たとき、思ったんだ」

杉村はレオに顔を向け、
紅く滲んだ布地越しにレオを見つめる。

「世界はきれいなんだなって」

「そう……だな」

自分の心のどこを探しても
かつて抱いていた、焼けつくような衝動は見当たらない。

だけれど、レオの胸の中にはなにかに疼く心があるのを
今のレオは受け入れることができた。

「これからどうするんだ?」

「キャンチョメたちのところへ行く」

迷いなく断言する杉村を見て
レオは目を細め呆れて肩を落とした。

「忙しいもんだな。正義の味方は」

「お前も来るんだろ?」

躊躇なく差し伸べられた杉村の手を
レオは逡巡の後に握った。

「自己紹介がまだだったな。
 オレはレオナルド・エディアール」

力強く頷く少年に意地悪か
自虐に頬を歪めて付け加えた。

「防人の運命から逃げ続ける男だ」


【E-6/一日目/日中】

【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、軽度の打撲、
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:自分で在り続けるために走り続ける。
1:キャンチョメのところへ戻る。
※由乃の返り血を浴びています。

【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
     ダメージ(中)、指の爪剥離、両眼失明、勇気を刻みました、覚醒 、気絶
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、雛苺のローザミスティカ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:正義
1:キャンチョメのところへ戻る

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
覚醒した杉村は空気を読むことで周囲10mの状態を把握することができます。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後

157 ◆1yqnHVqBO6:2012/03/25(日) 09:29:35 ID:xSLz0rXo0
以上で投下終了です

158名無しさん:2012/03/28(水) 01:50:27 ID:mmCvkNq.0
投下乙です。杉村のかっこよさがマッハで天元突破でやべえよ!
生身で防人を撃破とかこいつ中学生じゃねえwwwww
まあ全部熱さで気にならないんですけどね!

159 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/10(火) 23:54:06 ID:TfEnkYiU0
投下します

160循環型悲劇症候群  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/10(火) 23:55:14 ID:TfEnkYiU0



  それは、天文学的確率で起こったことではあった。
  なにが彼らの世界を繋げたのか。
  起こったことの原因を追求する時間は彼らにはなく。

  彼らは物語の終着点で産まれる一つの種を
  どこまでも広大な無意識の海に作った。

  偶然にも同じ終わりへと至った幾つもの世界。
  終わるならばそこから
  新たな物語が産まれるのは必然。

  「世界の時間を止めたね」

  「ええ」

  「君が望んだように私達は君の記憶を閉じよう。
   君が今度こそ彼を玉座へと押し上げるために」

  「わかった」

  「ひとつ訊きたいのだけれど」

  「なんだ?」

  「君は永劫の狂いを受けいれてまでして
   彼という偶像に縋るのかい?」

  「黙れ」

  ぬばたまの外衣を纏った真なる赤き血の神は 
  賢人を穿つような眼で睨みつけた。

  「狂っているのは世界だ。
   だから私が狂うのも許される」

  「……そう」

  嘆息した賢人は傍らにいる
  無邪気な笑みを絶やさぬ悪魔に命じて少女の記憶を閉じ。
  神の力の大部分を行使し滅びいく世界の時と壁を再構築した。

  それは、あくまで間に合わせのものに過ぎなかったが。



――――――――。


賢人ヨキは横たわっていたベッドから降りると
慣れた手つきで衣服を脱ぎ去り。肢体を露わにする。

ヨキの常人より白い肌は日光にはあまり映えず
ここに見る者がいれば今が夜でないことを惜しんだだろう。

熱が空気へと溶けるまで待っていた椀にためたお湯から
タオルをとりだすと寝汗を拭き取り、
じっとりと湿った肌を一新したことに恍惚めいた息をついた。

「オーディンの素体を見つけた」

「お前は背後から声をかけるのがよほど好きなんだね」

着替えたヨキの後ろから聞こえた声に
賢者は皮肉をこめて応えた。

「もうここに存在できるようになったか」

振り返ったヨキが眼にしたのは鏡の中ではなく
確固たる存在感をもって佇む神崎士郎の姿。

「チャンが消費した想波の量は膨大だ」

「しかし、それだけでここに来るのは危険だと思うけどね。
 他に想波の闘法を使うのは魔導師だけだ」

「いや…………」

表情を変えず言葉を濁した神崎にヨキは眉を上げた。

「もう一人いる。……正確には二人か」

「そうなのか」

興味深げにヨキは微笑み首を傾げた。

「勇者や革命家、魔王が落ちても依然として
 脅威は残っているということだね」

「白薔薇は本当に俺達に協力するのか?」

「……少し、話をしよう。
 私のスプンタ・マンユはある人形の魂を喰らった」

静かに、単調な口調で語り始めたヨキに
壁に背を預けた神崎は耳を傾ける。

161循環型悲劇症候群  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/10(火) 23:55:25 ID:TfEnkYiU0
「その人形は双子の姉と仲睦まじく暮らしていた。
 彼女達もいつかは殺しあわなければならない運命にあったが。
 恐らくその姉は薔薇乙女ではなく、
 本当の意味で人形に近かったのだろう。
 停滞と安寧が彼女の正気を保つ術だった」

ヨキの底知れぬ瞳から自嘲の色がほのかに浮かんだが
神崎士郎は何も言わずに賢者を見ていた。

「しかし彼女たちは本能としてローザミスティカを、
 己の理想を追い求め続けるよう
 刷り込みにも似た意志を持たされてある。
 だから少女は、双子の妹である少女は願ったのだ」

そこで一旦、言葉を切ると、
ヨキは歴史の道標の反応を見極めようと目を細める。
茫洋とした、蜃気楼のような男の持つおぞましき欲望は
双子人形の話を聞いて何を想うだろうかと。

「己が己で在り続けるために。
 自分は彼女とは正反対の、鏡合わせの闘いをしようと。
 激変と狂乱を己の心に抱いていこうとね」

ヨキの話が終わり、何を思考したのか。
しばらく押し黙り、時計の針が鳴らす音だけが室内に響く。

「白薔薇は言っていたな。
 己の求めるものは確かな抱擁と肉の感触だと」

「つまり、協力をとりつけるのであれば
 提示するのは彼女の願いに
 最も近い究極の少女像でいいということさ」

「なるほど、よくわかった」

背を壁から離すと神崎士郎は足元から空気と同化するように
ゆっくりと姿を消していく。

「……七原秋也が引き継ぎのため、
 ハルワタートに喰われた」

「へえ」

「アールマティは――」

「たしかにいたね。
 仕留め切れなかったのは大きな痛手だよ」

「それでも“願い”を叶えるのはこの俺だ」

ヨキは滅多に無いことではあるが
神崎士郎の言葉に嘲けりをこめて口の端を歪めた。

「妄執にとらわれた男よ。
 おまえもまたあの赤き血の神と
 同じ失敗を繰り返すだけだ」

ヨキの背後で浮かぶスプンタ・マンユが
能面の瞳、虚の空洞を歓喜と渇望に歪ませる。

「真の勝利は私が掴む」



【E-4/一日目/午後】

【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、BMによる火傷 (処置済み)、
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、蒼星石のローザミスティカ完食)
     @WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:動く。
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします

162 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/10(火) 23:56:21 ID:TfEnkYiU0
以上で投下終了です
百合霊さんが面白すぎて色々と滞ってしまってましたごめんなさい
素晴らしい作品です百合霊さん

163 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/11(水) 01:44:47 ID:MCCj/ssw0
気に入ったらサフィズムにもぜひ

164 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/14(土) 20:47:48 ID:dhnbFwCM0
投下します

165 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/14(土) 20:48:52 ID:dhnbFwCM0
塔の最上階で乾は数台ものコンピューターと
壁に映し出される
巨大スクリーンの間を行き来していた。

そして、

「っと、まーた生き返りおったよこの仏さん」

呻き声が口から溢れだし。
静かに、徐々に息を吹き返し始めた
男、薬師寺天膳の側により。

「けどそうは問屋がおろさないっと」

そう言って乾は天膳の胸から生えたリコーダーを
錐で孔を開けるように擦りだした。

「ぐっ……んんっ……ぬっひぃぃ……!」

またしても心臓に穴が開いた
天膳は数回の痙攣のあと死亡した。

死した天膳の胸、
さらにその先のリコーダーの口から
血が噴水のように噴き出し辺りに散った。

「おお」

今まで幾度となく繰り返された反応、
塔が赤い血を飲み込むように消し。
塔のなかが淡く発光する。

「よしよし」

鼻歌を歌いながら
スクリーンに表示されたデータを眺める。
灯りを消した空間内で発光し流れるように
新たなデータが表示される。

「なんなんだろうなあこれ。
 きれいだからいいけど」

打ち出される文字で辛うじて理解可能な文字は
《想波》《ミラーワールド》《nの世界》《因果律》という単語のみ。
そしてそれらの文字とともに何らかの数値が上下している。

「デフォルトで表示されてる会場地図と
 照らしあわせればまあ
 推測くらいはできるかな」

マップに示された参加者の名前があるアイコンが
移動し、闘い、死んでいるということ。

そこに例の単語群と数値の流れから推測するに。

「《想波》が大量に消費されたのはB-4、
 少しだけ消費されたのが今のところC-6、E-6か。
 そしてだんだんと《因果律》が不可解な動きを見せて
 《ミラーワールド》の項にある
 膨大な演算の動きが激化していっていると」

こちらへと向かってくる参加者を確認し、
乾は暫し物思いに耽る。

「隠れる場所は山ほどあったけど。
 ここに辿り着かれたら居場所わかるしなあ。
 どうしたもんか…………」

その時、乾の耳に
甲高い金属音が響いてきた。
ガラスとガラスを擦り合わせ、
掻き回し、傷をつけるような音。

「そこに眠っているのが薬師寺天膳だな」

唐突に背後から声がかけられ、
乾は瞬時に声のした方から距離を取ると銃を向けた。

「その男にこれを渡せ」

背後に立っていたのは
蜉蝣の羽、胡蝶の鱗粉のように
透き通るような空気を持つ男。

しかし、男が発する声には
底知れぬ執念がこもっており。
ロングコートを羽織った
男は観察めいた視線を寄越してきた。

「首輪をしていないってことはこのゲームの管理人か。
 男ってこの仏さんのこと?
 いやあ、生き返ったら殺されるだろうし」

放られたカードデッキを受け取った乾は
思わせぶりに難色を示した。

「安心しろ。
 これを使わせれば意識もじきに消えていく。
 そしてこの男にはやってもらわなければならないことがある」

「そうだねえ…………」

「なんだ?」

「一応こっちとしても大切なアイテムだからね。
 渡すっていうのなら
 それなりの条件があるんだけども」

―――――――――。


「ぜぇ、はぁ……
なんって長い階段だよ。
来なきゃよかった」

息を荒げ、膝に手をついた
北岡は頼りない足取りで天に昇らんとする
塔の最上階へとやってきた。

ここに来るまでもあった
壁に血管のように張り巡らされたチューブ。
そして蓮の花ではなく絵の具を
無造作に散らしたかのような鏡の破片。

そして無数のコンピューターと壁全面に
映しだされた謎のスクリーン。

166束の間のコミックショウ  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/14(土) 20:49:28 ID:dhnbFwCM0

注意深く当たりを見渡しつつ、中を進んでいくと
部屋の隅にうずくまる小さな影があった。
ランドセルを背負って肩を震わせ
弱々しいしゃくり声をあげている。

背丈は北岡の腰の少し上くらいだろう。
顔はこちらから見えないが
背格好的に小学校低学年くらいか。

―SHOOT VENT――

北岡はとりあえず榴弾砲を撃ってみた。

「うわぁ!」

体の負担を和らげるために
すでにゾルダに変身していた北岡は
悲鳴をあげて着弾点から逃げた男へと狙いをつける。

「こ、子供を撃つなんて何考えてるんだ!」

「バレバレの嘘泣きする度胸がある時点で
 普通の子供じゃないでしょー。
 っていうかランドセルって」

万が一、本当に相手が子供だった時のために
かなり狙いをずらしていた。
いたのだが顔を見ると
その必要もないようだ。

「小児症……かい?」

「そうだと言ったらどうするの?」

「良かった。
 俺を騙す子供はいなかったんだね」

他に伏兵がいないか改めて眼を走らせたが
北岡の視界に映ったのはあくまでこの小男のみ。

殺すか、殺さないべきか。
北岡は考える。

神崎士郎にかっこ良く啖呵を切ったのだから
やる気満々なプレイヤーはクールに殺しておきたい。
だが、どういうわけか引き金にかかる指が重い。

城戸真司、霧島美穂の死を知らされてから
徐々に進行していた半ば無自覚な症状。

「とりあえず、拘束しようか」

相手を怯ませようと
砲弾で砕けた床の欠片を握り
キャッチボールするような軽い動作で投げる。

身長差だけで見たら河原で
キャッチボールする親子にも見えるだろう。

しかし、こめられた力は仮面ライダーのもの。
軽々と時速160kmを超え、
小男のすぐ横へと突き進む。

だが北岡に当てる気はないと見切っていたのか。
小男は避ける動作すら見せず
手に握りしめた直方体の物体を掲げ。

「変身」

現れたベルトのバックルにデッキを挿しこむと
濃緑色の装甲に身を包む。

「そう来たか!」

予想外のことではあったが慌てずに
北岡は小男、現仮面ライダーベルデへと
榴弾をお見舞いする。

「ケケーッ!」

瞬時に助走も付けず高く跳躍し、
ベルデは予想以上に遥か上にある天井へと逃げ。

天井ごとぶち破ろうと北岡は両肩に冗談のように
大きい口径の大砲を出現させ、撃つ。

吐き出された光線のような攻撃が
ベルデを蹂躙する寸前。
カメレオンを模した怪物は天井を蹴ると逆に
北岡へと突進してきた。

空中でくるりと宙返りし、
収めた両腕と両足を解放すると大の字になり
北岡へと落ちてきた。

「マグナギガ!」

開いた天井から埃がぱらぱらと舞い降り、
北岡の眼に一瞬だが上空の超巨大建造物へと昇る
光の奔流が見えた。

北岡を守るように出てきた鋼鉄の猛牛がベルデの
攻撃を受け止める。

167束の間のコミックショウ  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/14(土) 20:49:39 ID:dhnbFwCM0

「キシャァーッ!」

「役にはいりきってるねえ。
 普通口調までは変わらないはずなんだけど」

慎重にベルデから距離をとった北岡は
男の攻撃を思い出し、相手の手の内を推測する。

「ボディプレス……
 っていうことは元プロレスラーとかかな。
 ルチャリブレっていうんだっけ?」

マグナギガを蹴り、宙返りをして
離れたベルデは北岡の呟きに大きく頷いた。

「……意識がないってわけじゃないのね。
 じゃあ提案なんだけども
 この辺でお開きってことには――」

「ケケーッ!」

「首を振ったということは話を聞く気がないと。
 …………じゃあ、俺が勝ったら言うこと聞くのは?」

「ケ〜ッ」

北岡の譲歩にベルデは大きく二回頷いた。

「交渉成立……でいいのかな?」

裏付けるようにプロレスラーのように
腕を大きく広げて
ベルデは挑発するように手を叩きながら北岡を見た。

「じゃあ始めようか。
 あ、最後の質問忘れてた」

「ケーッ?」

「ルールは《生死問わず(デッド オア アライブ)》?」

「うん」

「いや、普通に喋っていいの?」

「大事なところははっきりさせなきゃね」

「ありがたいけどさあ……ムードなくなるよ。
 まあいっか。よし、やってやるよ」

「ケケーッ!」


【G-7 古代遺跡/一日目/午後】

【乾志摩夫@銀齢の果て】
[状態]:健康 、ベルデに変身中
[装備]: 仮面ライダーベルデのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、子供服@現実、ランドセル@現実、コルトジュニア(4/6)@現実
[思考・状況]
基本行動方針:やばいこれめっちゃ楽しい。他のことはどうでもいいくらい。
1:北岡を殺す(ベルデの性能を楽しみながら)。
[備考]
※参戦時期は死亡直後です、が本人はいまいち覚えていません。
※地下水路への行くためには橋付近にある階段を利用するか、地下階がある建物内からの侵入、
 或いは会場内に隠れている蓋を開け梯子を降りていく必要があります。
※ドザえもんになった死体は古代遺跡の地下に辿りつくことがわかりました。
※ベルデの使い方は神埼から教わりました。
※古代遺跡は血に何らかの反応を示すようですが詳細は不明です。
※甲賀弦之助の死体は古代遺跡の地下に放置されています。




【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ゾルダに変身中、神崎士郎への怒り。
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)
[道具]:基本支給品一式、マスターキー@オリジナル、黒のアタッシュケース
     香川英行のレポート?(神崎士郎の願いについて書かれている?)
[思考・状況]
基本行動方針:安寧とした立場でせせら笑っている神陣営に踊らされるのは気に入らない。
0:生命をベットしようよ、神崎士郎。それと、お前の指図は受けない。
1:ベルデを倒す(殺さずに収まったならそれでいいけど手加減はしない)。
2:上空に昇った光の正体も気になる。
[備考]
※参戦時期は劇場版開始前のどこかからです。詳しくは後の書き手にお任せします。
※未来日記の世界観、雪輝、由乃、来須、マルコ、愛のみねね視点で知っている大体の情報を把握しました。
※逃亡日記は所有者の逃走経路を予知するものだと勘違いしています。
※香川英行のレポートに仮面ライダーの弱点が書かれていると
 北岡は言っていますが真っ赤な嘘です。




【?????????】

【薬師寺天膳@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:???
[道具]: ???
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:???
[備考]
※ノールの独白を天膳は聞いています。
※支給品、不明支給品はF-5に放置されています

168 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/14(土) 20:49:51 ID:dhnbFwCM0
以上で投下終了です

169名無しさん:2012/04/21(土) 00:39:29 ID:g0VuUgKU0
>循環型悲劇症候群
賢者同士会話がクールw
なんとも言えない雰囲気がいいね!

>束の間のコミックショウ
ギャグ戦闘にしか思えないwwwwwくっそwwwww
ラストは糞ワロタw

170 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/29(日) 13:54:32 ID:6OgXPVPM0
投下します

171時打ちをやめないミニッツリピーター  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/29(日) 13:58:51 ID:6OgXPVPM0



「こんにちは君たち」

気やすさがこもった挨拶とともに
マルコと小四郎に青年は話しかけてきた。

「僕はしがない旅人ブック。
 君たちは今までこの周辺にいたのかい?」

「……そうだがそれが?」

不信感を隠しもせずマルコは眉を顰めて
ブックと名乗った青年に問いかけた。

「ずいぶんと無用心じゃねえか。
 会ったこともない奴に丸腰で声をかけるなんてよ?」

ブックは意外そうに眉を上げ、
面白がっているのか声を弾ませ
マルコの背で眠っている少女を指さした。

「彼女、大丈夫かい?
 この先に橋があってね。
 その下なら雪もないし人目に隠れられるよ」


――――――。


意識が覚醒した時に見える暗闇。
そこから眼瞼を開けるのが金糸雀は不安に心を冷やした。
周りにまた誰もいなかったのならと。

「それで君達はその蛇男と闘ったあとで
金糸雀という人形を見つけたんだね?」

「それで合っている」

聞いたことのない柔らかな声と
聞き覚えのある硬質な声が
言葉を交わしているのが聞こえ。

金糸雀は静かに眼を開いた。

「その蛇男はどうなっていたの?」

「小四郎が見に行ったが死んじまっていたな」

「…………へえ」

意味有りげに微笑むとブックは
探るような目付きでマルコを観察した。

橋の下の広場にいるせいで大きな影がかかっており。
たださえ日の当たらない曇り空の下、
マルコの表情は金糸雀からだとよくわからない。

「……ここに来てからこんな少女と出会ったんだ」

金糸雀が目覚めていたことに気づいていないのか
ブックは人差し指を立てて独白のように語り出した。

「彼女は決定的に人を信じることができなくなっていた。
 歳幼い少女の身に刻まれたのは激しい目を覆う暴行の跡」

口を挟まずに聞いているマルコは次第に拳を強く握り始めていた。
爪が掌の皮を破る音が聞こえそうなほどに。

「愛とは素晴らしいものだと思わないかい?
 繋がる者たちに確かな実感、生の可能性が広がっていく。
 日々を過ごすのにも世界そのものの色が変わるんだ。
 誰もが追い求めてやまないのは当然なのだろうね」

「…………そう…………だ、な」

マルコの声に何かが混じっていたことに
ブックは気づいているのかいないのか。

 「だが強制的な結びつきを求めようとする行為。
 いいや、これは結びつきを求めているのではないね。
 彼女はまだ10にもならない少女だ。
 解消、発散と呼ぶのが相応しい」

地面に座り俯いているマルコの口元が引き結び
奥歯を噛み締めているのか顎が一度大きく震えた。

「……そして少女は男を殺し、
 血と暴力に晒された身を引きずって……泣いていたよ」

嘆き長い睫毛を伏せたブックは憂いに沈み。
ここにはいない少女への同情を隠そうとしない。

「……その子はどう――」

「ところでマルコ。
 気になっていたんだけれど訊いてもいいかい?」

重々しく、苦々しく口を開いたマルコを遮って
世間話をするように、雪が降り止まないねと切りだすように。

172時打ちをやめないミニッツリピーター  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/29(日) 14:01:54 ID:6OgXPVPM0


「蛇男をその少女にけしかけたんだよねえ?」

「………………え?」

金糸雀は呆然と思わず声を出して、
マルコが反射的に金糸雀の方を振り向いた。

「だってそうだろう。
 蛇男に傷を負わせてその場から離れたとして。
 その男が君達を追わずに北西に向かったのは
 どう考えてもおかしいよ」

ブックは肩を竦め責めるような視線でマルコを睨む。
批難しているのはマルコに対してのはずなのに。
まるで金糸雀が責められているかの如く、
胸の奥がじくじくと痛みだし。

「なあ、答えてくれよマルコ。
 君だろう? 君が金糸雀を苦しめたんだろう?
 なのにどうして金糸雀を助けたんだい?
 ねえ、ねえったら。マルコ?」

ブックはマルコに対しての怒りを隠さない。
少女を苦しめた男をマルコに見ているのか。
思いあまってかマルコの両肩に手を置き揺さぶりつつ
ブックはマルコを責めるのをやめない。

「…………ああそうか。
 君は金糸雀をまだ利用しようとするつもりだったんだね。
 なんてひどいんだろうねえ」

一息に話し終えるとブックは
口を閉ざし、首を傾げてマルコの反応をじっと待っていた。
その瞳は悲しみに彩られ
唇は憤りに震えているのが金糸雀にもわかった。

「…………本当なの……マルコ……?」

放心状態となった金糸雀の声。
嫌なほどにかすれ、磨り減り、錆びついた声が。
雪の積もる音に沈みそうなほどに小さな音で。

「…………ああ。そうだ」

俯いていたマルコは顔を上げて
金糸雀を真っ直ぐに見つめ、うなずいた。

次の瞬間、響いたのは肉を打つけたたましい音。

「このヤロー!!」

肩を大きく震わせて、マルコを殴り飛ばし。
金糸雀は呆気なく倒れたマルコに馬乗りし
胸ぐらを掴みあげて、腕を振りかざす。

直前で両手を上げて離れたブックが嘲笑していたように見えたのは気のせいか。

「このヤロー! よくも! なんで!
 なんでそこまでしてっ!!」

感情の爆発に少しも抗わず、
身を委ねた少女人形はひたすらにマルコを殴り飛ばす。

マルコの顔と重なる平清の最期を振り払うために必死で
小さな拳が真っ赤な血に濡れてもかまわずに力いっぱい殴りつける。

「なん……でっ……! 
 そのせいで平は……平はっ……!
 マルコのせいで……っ!!」

涙が何滴にもなって顎へとしたたり、落ちる。落ちる。

涙で濁りきった声を張り上げて
ありったけに金糸雀は叫ぶ。

「…………馬鹿っ!!」

けれどもその怒りはやがて静かに引いていき。
涙で顔中を濡らした金糸雀は鼻をすすりつつ、
マルコから手を離した。

173時打ちをやめないミニッツリピーター  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/29(日) 14:02:39 ID:6OgXPVPM0

「いいのかい金糸雀?
 彼が君を悲しませたんだ。
 彼が……戦場マルコこそが君を害する男だよ」

諭す言葉を聞いて、金糸雀は首を静かに振った。

「平が死んでわかったの……
 私は…………ほんの少し一緒にいただけだとしても。
 誰かを傷つけることなんてできないって」

瞼の裏で水銀燈の姿が浮かんだ。
いつも苛烈に振る舞い闘っていたたったひとりの姉の姿。

「カナは……究極の少女(アリス)になれない」

最後の一滴が雪の無い大地に落ちた。
マルコの上から離れた金糸雀は振り絞るように呟いた。

「ひとりは……いやだから……」

「金糸雀……」

呆然と体を起こして見上げたマルコに
金糸雀は努めて笑顔を形作った。

「だから……仲直りしましょマルコ。
 カナも元々は誰かを陥れるつもりだったんだし……ね?」

顔を拭った手を服の端で拭き。
マルコへと手を差し出して金糸雀は、必死に微笑んで。

「とんだ茶番だね」

苛立ちを含んだ音、声。
それは今の空気にどこか異物として響いた。


それと同時に遠吠えが橋を揺らし、
どんどんと近づいてくるその声はまたたく間に橋の上へと来た。

「戦場よ、化生がやってきたぞ」

橋の上から降りてきた黒装束の、
テレビで見た忍者の格好をした男が気怠げに報告した。

「報告すんのがおせえんだよこのノロマ!」

苛立ちに舌打ちしたマルコが素早く起き上がると
傍らに浮かんでいた護神像と合体を果たした。

そして橋が砕け、
上から桃色の体毛を生やした大猿が降ってきた。

「GRRRRRR…………」

「マルコ。君は言っていたね。
少女がどうなったのか。
これが結果だよ。壊され狂い人の形を喪った」

大猿の背後に移動したブックは悠然と口の端を歪め
両眼を喜悦に炯々と輝かせた。

「かくも人の心は醜く、残忍で、そして価値がない」

ブックの腕が素早く走り、
金糸雀の前へとマルコが躍り出る。

交差した腕に激突したのは煙玉。
灰色の気体の中で唸りを上げる豪腕。

「さあ、断罪の時だ」

大きく後ずさったマルコが改めて構えを取り。
ブックと大猿へと樹を伸ばした。

174時打ちをやめないミニッツリピーター  ◆1yqnHVqBO6:2012/04/29(日) 14:04:01 ID:6OgXPVPM0
【B-2/一日目/午後】

【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、
[装備]:金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
     川田章吾のバードコール@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品、 レーダーのレプリカ@BTOOOM! 首輪(霞刑部)、首輪(平清)
    不明支給品2〜3
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊 ?
1:ブックとティオを対処。
[備考]
※支給品であるファウードの回復液@金色のガッシュは既に飲み干されました。
※基本支給品×3、が放置されています。

【筑摩小四郎@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:首筋に痣。疲労(中)、無気力
[装備]:鎌@バトルロワイアル 、人別帖@バジリスク〜甲賀忍法帳〜
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:どうしよう
1:天膳様に会わせる顔がないがブック達は殺したほうが良いかなあ
※香川英行の名前を知りません

【戦場マルコ@未来日記】
[状態]:疲労(中)、頭部に傷、顔中腫れ上がっている
[装備]:交換日記のレプリカ・戦場マルコ用@未来日記、
     常勝無敗のケンカ日記のレプリカ@未来日記、 アムルタート@waqwaq
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:愛をとりもどす
1: 皆殺し? (まずはブックたちを殺す)
2:小四郎と手を組む?(見捨てるか殺すか……?)


【ティオ@金色のガッシュ!!】
[状態]:狂戦士(バーサーカー)の術により狂化・外見にも変化
[装備]:
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:グウウウウウウウ!!
※魔法が使えるかどうかは不明です
※体長5m、顔は鬼みたいな感じになってます。

【ブック@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:ダメージ小 、心の力消費小、ボルキャンサー……きみはいいやつだった
[装備]:契約の玉@ブレスト、ジュリー(銀嶺)@ブレスト、双眼鏡@現実、 ヨキの弓矢(8/10)@waqwaq
[道具]:基本支給品、青酸カリ@バトルロワイアル、魔本(ティオ)@金色のガッシュ!!、
[思考・状況]
基本行動方針:人の心と生命を殺していく
1:ティオを利用し人間を殺す
2:ガッシュ達魔物の子に興味

175名無しさん:2012/04/29(日) 14:05:15 ID:vXITOT9o0
支援

176 ◆1yqnHVqBO6:2012/04/29(日) 14:08:18 ID:6OgXPVPM0
っと、以上で投下終了です

177 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/04(金) 06:00:52 ID:TeJs392M0
投下します

178破滅の時計盤も時には   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/04(金) 06:02:38 ID:TeJs392M0



  彼女の表情は見えなかった。
  袋を被せられていたから。

  夕焼けの色が薄暗い倉庫とは相性が悪いのか。
  その場の状況を掴むのにも時間が必要だった。

  学生服を着ている彼とそう変わらない歳頃の少年達。
  取り囲んでいるのはひとりの少女。
  衣服が乱れ、か細い声で彼の名前を呼ぶ声がした。

  震える足を動かして暗闇の中を潜るように進んでいく。
  徐々に露になっていく光景。

  近づくに連れて鼻孔を刺激する生臭い匂い。
  汗と体液が散っていた埃と砂まみれのコンクリート床。

  少女の下半身から赤いものが流れていたのを彼、マルコは目にした。

  何かに気づいたときは時は既に破滅の時刻を過ぎ去っていた。


  愛は汚され、視界にノイズが走り。

  少年が我に返った時、彼の両手は血に染まっていた。





………………。




############


突如として訪れた予想外の攻撃に
戦場マルコは跡形もなく消滅する。

DEAD END


###########


雪の降る音、それはここにいる誰に届くのだろうか。

蔓が幾本にも編み込まれ鞭となり
大猿ティオとブックへと襲いかかった。

その木々。のたうち回る蛇か。
不規則的な動きをする蔓ではあったが
ティオは難なくこれを掴みとった。

「マルコ、その子を殺すのかしら!?」

「……場合によってはな」

金糸雀を振り返ることなくマルコは答えた。
煮え切らない返答は彼の迷いを意味しているのかもしれないが。
彼の頭をヘルメットのようにすっぽり覆った触手。
大きく脈動をしているのがマルコの意志を裏付けていた。

「あの子はカナに任せて欲しいかしら」

「いや駄目だ」

「ど、どうして?」

狼狽する金糸雀の頭に手を置いて
マルコはにかりと笑って力強く頷きかける。

「そんな顔すんなよ。
 一緒に闘った方が早く済むって話なだけだ」

「マルコ…………
 顔がアンパンマンになってなかったら
 かっこよかった気がするかしら」

「ほっとけ」

マルコは苦笑して手を離し。
手が置かれていた場所に自身の手をやっていた金糸雀も
口をとがらせてはいるが表情自体は穏やか。

「見ていられないね。
 ついさっきまで裏切り、裏切られ、あれほど怒っていたというのに。
 どうせ再び殺しあうということがわからないんだ?」

「テメエには理解できねえ簡単な話さ。
 情が移ったんだ」

「この先……互いに闘うのだとしても。
 心通じる瞬間ができるならカナは信じてみたいかしら」

嫌悪で額に深く皺を刻んだブックは
迷わずティオに攻撃を命じる。

轟く咆哮が雪原を揺らし、
筋肉で覆われた腕が三度と振るわれる。
しかしそれをマルコは避けることなく
大樹を生やして盾にして防いだ。

拳を受け止めた大樹はたちまち悲鳴をあげ、
大きく撓み、軋み音を立て、ついにはへし折れる。

だがその先にあるのは金糸雀が展開していた音の網。
張り巡らされたそれは鋼線に突進したかのごとく腕中の皮膚を斬り裂いた。

予想外の罠に大きくよろけたティオへと間髪をいれず。
マルコは地面深くに両腕を突き刺す。
その両手から地面に伝わるのは植物の息吹。

橋が壊れ、たちまちに積もった雪の層から
生えてくる大樹の根。

動きが鈍ったティオにそれを避けることはできず。
肥大化した筋肉を締め付ける樹の根は確実に
ティオの体力を吸い取っていった。

「狂戦士がこんなに容易く負けるとはね」

初めは両足を踏ん張ることで辛うじて立っていられたティオだったが
際限なく吸い込むアムルタートの能力に意識をも吸われ倒れ伏した。

179破滅の時計盤も時には   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/04(金) 06:03:31 ID:TeJs392M0


称賛の言葉に苦渋の表情を付け加えたが
マルコは返事もせずに脇目もふらず言葉の主へと突っ込む。

「金糸雀、援護を頼む!
 小四郎はその子を見張ってろ!」

マルコの後方に位置する小四郎は頷きもせず
ティオに無気力な視線を注ぎ。
金糸雀は改めてバイオリンを構える。

一瞬でブックとの距離を詰めたマルコは
ジャブを放つ、だが拳が砕くのは雪の粒、結晶のみ。

真っ先に勝負を決めようとブックは
マルコの顎へと掌底を叩きこまんとするが
呆気なく打ち手を掴まれた。

「蓋を開ければなるほど、人に頼るしか
 能がねえへなちょこ野郎だぜ」

口汚く罵られてもブックは涼しい顔で受け流し
至近距離からの光弾を連射する。

「きかねえなあ! あくびが出るってもんだ!」

しかし幾つもの光弾をその身に受けようが
物ともせずにマルコはブックに連打を浴びせる。
狂戦士として強化されたティオ、
その身に蓄えられた養分を吸収したことで
マルコの身体能力は飛躍的に向上していた。

限界まで伸びきるストレートで距離を取ると
マルコは頭上で両手を組み合わせさながら大鎚の形をとる。

「決まりだ!」

振り下ろされる拳、不得手であろう接近戦に持ち込まれた
魔物使いブックに避ける術も防ぐ術もない。

なのに、ブックの顔には焦りが微塵もなく。
魔物使いの懐から場違いなほどに愛らしい小動物が顔を出した。

「……出番だよジュリー。
 正体を現し、僕と一つになるんだ」

マルコの攻撃がブックを叩き潰す瞬間、
視覚可能な範囲を超熱量による発光が消し飛ばし。

マルコの攻撃は空を切った。

「これこそが僕の真のカードさ」

声が聞こえたのは遥か上空から。
降り止まなかった雪はここに突如として出現した
超大な威圧感に恐れをなしたのかやんでいた。

空にいたのは龍。
龍を纏った人。
胴体は龍の頭部が鎧の役割を果たし
手足もまた如何なる攻撃を通さない絶対的硬質の鱗に守られていた。

「神々しい姿だろう?
 冥土の土産として眼に焼きつけておくのを勧めるよ」

そして龍の頭部にエネルギーが集まり、
灼熱の劫火球を吐き出した。

「反応する暇もないだろうね」

ブックの言葉に間違いがないことを示すかのように
火球が地面に着弾するよりも早く余波で雪も大地も焼け焦げていく。

マルコの護神像アムルタートの能力は木。
故に弱点は炎。
加えて大ぶりの攻撃を交わされた後の事態の急展開により
マルコの体は反応を許さない。

破滅の時は訪れる。

これによりDEAD ENDは予知通りに――


――ザザッ。


############


突如として訪れた予想外の攻撃。

だが所有者戦場マルコは金糸雀の援護により
空いた顔面にクロスカウンターを決めた。


###########


耳に届いたのはノイズ。

180破滅の時計盤も時には   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/04(金) 06:03:50 ID:TeJs392M0

「切り札といっても予知されてたら
 テレフォンパンチと変わんねえな」

声はブックの直ぐ側から。
火花の音に掻き消されそうな
バイオリンの音が周囲を漂う。

マルコの頭から生えた触手が集まり、束ねられ、
3mの巨大な棍棒と化してブックの顔面を
今度こそ真正面から確かに打った、打ちのめした。

ブックの鼻から血が噴き、顎から滴り落ちていく。

空の両手でブックから弓矢を奪い。
攻撃が終わったマルコは落下したが
金糸雀の音のクッションにより音もなく着地する。

「……予知……未来予知か」

顔を片手で抑えたブックは唇を噛み締めつつ
マルコの能力の正体を探ろうとした。

「俺の未来予知は常勝不敗のケンカ日記だ」

「ちょっとマルコ! わざわざ教えなくても」

「いいじゃねえか。気にすんなよ」

屈辱に染まっていてもブックの眼は知性を失わず
視線は金糸雀の手元に縫い付けられた。

彼女の手にあるのはすこし大きめの携帯電話。

「……そこに映し出されるのが予知というわけかい」

「そうだ」

「いやだからいちいち反応しなくても。
 ああもうカナは策士キャラなのに相性悪いかしらぁ」

「何故だ」

マルコと金糸雀のやりとりを眼にして
ブックは困惑に拳を震わせる。

「なぜそんなものを預けることができる……!
 お前たちはさっきまで殺し合いに順応してたんじゃないのか!?
 隣の者への信頼が次の瞬間には踏み躙られる。
 そんな簡単なことを予知できないというのか!」

「テメエの言ってることは正しいかもしれねえがよ。
 こいつは俺を殺すこともできたのに俺を殺さず信頼したんだ」

金糸雀の前に再び歩み出たマルコは足を開き、拳を構える。

「なら俺の生命もちょっとは預けねえと
 男がすたるってもんだろうよ。
 愛(ラブ)以前の問題だぜ」

ブックの表情を徐々に邪気が侵食していき、
龍の炎よりも熱い赫怒が魔物の力と呼応していった。

「……信頼を、心を依り所にするのなら……
 僕がこの世から抹殺してやる」

根源的な暴力欲求、衝動に身を委ね
抑えることなのない鬼気で澄んでいた雪原の空気が脈動する。

「へっ、いいねえその顔。実に見苦しい」

「気をつけるかしらマルコ」

背中越しに金糸雀へと親指を立て、
睨めつけるマルコはチンピラのように手招きする。

「来いよ《童貞(チェリーボーイ)》。
 愛こそはすべて。この言葉がマジもんだって教えてやる」

181破滅の時計盤も時には   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/04(金) 06:04:01 ID:TeJs392M0


【B-2/一日目/午後】

【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、
[装備]:金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
     川田章吾のバードコール@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品、 レーダーのレプリカ@BTOOOM! 首輪(霞刑部)、首輪(平清)
    不明支給品2〜3
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊 ?
1:ブックとティオを対処。
[備考]
※支給品であるファウードの回復液@金色のガッシュは既に飲み干されました。
※基本支給品×3、が放置されています。

【筑摩小四郎@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:首筋に痣。疲労(中)、無気力
[装備]:鎌@バトルロワイアル 、人別帖@バジリスク〜甲賀忍法帳〜
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:どうしよう
1:ティオを見張る
2:天膳様に会わせる顔がないがブック達は殺したほうが良いかなあ
※香川英行の名前を知りません

【戦場マルコ@未来日記】
[状態]:疲労(中)、頭部に傷、顔中腫れ上がっている
[装備]:交換日記のレプリカ・戦場マルコ用@未来日記、
     常勝無敗のケンカ日記のレプリカ@未来日記、 アムルタート@waqwaq
     ヨキの弓矢(8/10)@waqwaq

[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:愛をとりもどす
1: 皆殺し? (ブックは殺す)
2:金糸雀を殺したくはない
3:小四郎と手を組む?(見捨てるか殺すか……?)

【ティオ@金色のガッシュ!!】
[状態]:狂戦士(バーサーカー)の術により狂化・外見にも変化、体力消費(大)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:…………。
※魔法が使えるかどうかは不明です
※体長5m、顔は鬼みたいな感じになってます。

【ブック@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:ダメージ小 、心の力消費小、着殻、ボルキャンサー……きみはいいやつだった
[装備]:契約の玉@ブレスト、ジュリー(銀嶺)@ブレスト、双眼鏡@現実、 [道具]:基本支給品、青酸カリ@バトルロワイアル、魔本(ティオ)@金色のガッシュ!!、
[思考・状況]
基本行動方針:人の心と生命を殺していく
1:ティオを利用し人間を殺す
2:ガッシュ達魔物の子に興味

182名無しさん:2012/05/05(土) 03:44:02 ID:vY15211AO
投下乙です!
マルコさんかっけえええ!
裏切られる可能性を視野に入れながらま、敢えて「男がすたる」と命を預ける…いいなぁ
状態表には(?付きとはいえ)「皆殺し」とか書いてあるのにw

この組に限らず、このロワはさっきまでマーダーしてた同士や、マーダーと対主催の共闘が多いな
ロワ経験者だからこそ、対主催もクレバーにマーダーと組んだり情報交換できるし

183名無しさん:2012/05/10(木) 01:15:30 ID:x1wfjv8Y0
おつー。
マルコが相変わらずかっこいい。ブックさん小物臭がすごいっすよw
ただ、このままいい方向で終わらないのがロワなんだよねぇ

184 ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:30:25 ID:WFRUX43c0
投下します。

185ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:32:50 ID:WFRUX43c0
「さて、行くぜ!」

マルコは地面を強く踏みしめて、身体を前へと傾けた。
その勢いは普通の人間では絶対に出るはずのないもの。
防人としてアムルタートによる恩恵を受けたマルコだからこそ生み出せる勢いだ。

「先手必勝ってなぁ!」

そのままブックの間合いに入ったマルコは、右腕を前へと突き出した。
何の変哲もないただの右ストレート。
だが、その勢いは光速。躱すのは容易でない。

「くくっ」

それが普通の人間であればの話だが。
今、相対しているブックは旅人の中でも宝玉を四つ集めている実力者である。
得ている力は並のものでは収まらない。

「偉そうに語った割にはその程度の力しかないのかい?」

ブックは、軽く身を横に傾けることで右ストレートを躱し、お返しとばかりに同じく右ストレートを繰り出した。
アムルタートの恩恵を受けているマルコとはいえ、ジュリーと合体したブックの力を跳ね返すことが出来ず、後方へと吹き飛ばされてしまう。

「さっさと死ねよっ!」
「死なせない、カナが護るから」

マルコが後退したのをカバーするかのように入れ替わりに金糸雀が前に出た。
手に持ったバイオリンから出る音がブックの動きを止める。
いかに強力な魔物の装甲に身を包んでも、音を防ぐことはできない。
ブックの動きが止まることを好機と見たのか、マルコが再び前進し、強烈な右ストレートをブックの腹部に突き刺した。

「これが……!」

そのままでは終わらない。そのまま右フック――脇腹に右腕を突き立てる。
ブックの口から唾が吐き出され、顔は痛みに醜く歪む。

「愛の……力だっ、よぉく刻んでおけ!」

最後に止めと言わんばかりに顎に右アッパー。
増大された力を存分に含んだ一撃は、ブックを宙に浮かし、地に伏せさせた。

「マルコ! まだ!」
「ああっ、わかってるッ! 往生際の悪い野郎だな、おい」
「お前たちぃ……! 殺してやる、殺してやるぅ!!!!!!!!」

ブックは再び胸部の装甲から熱のエネルギーを集め、大きな火の玉を吐き出した。
だが、その技を一度見たマルコ達には通用しない。
近づいてくる火の玉を横に走りこむことにより悠々と回避する。

「クソっ! クソっ! 何なんだよ、お前たちは!! ああ、苛立たしい、妬ましい!」
「ハッ! そうやっていつまでも喚いてろよ、てめーに愛の重みはまだ早すぎるっての」

火の玉を躱されたことに腹を立てたのかブックは直接、マルコの元へと迫り拳を振り上げる。
ジュリーを纏ったブックの攻撃は旅人の中でもトップクラスを誇る。
アムルタートの恩恵を受けているマルコでも回避は難しいだろう。

186ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:33:18 ID:WFRUX43c0

「マルコ! 右ストレート!」

だが、その拳はマルコには届かない。
常勝無敗のケンカ日記による予知がその攻撃を無意味なものと仕立て上げる。

「あいよ!」

マルコの拳がブックの顔面に突き刺さる。無論その一撃だけでは終わらない、終わらせない。

「てめえには信念が足りねえんだよ! ちょっとやそっとのことで悲劇の主人公気取りか!? 笑わせるんじゃねえ!」

竜の鎧の隙間を縫うように拳を突く。ブックもやられているままでは終わらず、拳を握りしめ、マルコに殴りかかる。
拳と拳が交差して互いの身体を強く揺らす。口からは血反吐混じりの痰が吐き出され、顔は無残にもボコボコに膨れ上がる。

「俺は立ち上がったぜ! 何度でも、何度でも! 大切な女が死んでも俺は!」
「立ち上がっても裏切られる! どんなに信頼を置いても! どんなに正しい道を選んでも!
 大切な人が死んだ? ああそうだ、僕にもあったよ、大切なものが!」

今まで溜めてきた感情をむき出しにしてブックは叫ぶ。
間違っているのは自分じゃない、世界の方だと。
人間の汚さを目の当たりにしたブックには愛という概念など信ずるに値しない。
だから、彼は願ったのだ。全ての人間の心を消し去りたいと。

「だが、なくなった! 理想なんて信じていたから、人間を信じていたから!」
「だからどうした! なくしたら取り戻せばいいだろうが! 死ぬ気で探しまわって見つけろよ、ヘタレ野郎!」

最も、そんなことは、愛と情を何よりも重要視しているマルコには関係のないことだ。
誓ったのだ、愛と一緒に生きていくと。
その誓いはこのバトル・ロワイアルで無残にも壊れてしまったけれど。

「だから、俺はこんな所で負けてられねえ。絶対に、負けられねえ」

壊れたのならまた治せばいいのだ。無くしたら取り戻せばいいのだ。
その為にもマルコは止まれない。
優勝して愛を取り戻すまで、彼は迷わない。
その過程で他人を助けることはあっても、分かり合う事があっても。
彼の一番は愛なのだから。

「特に、愛を否定するテメエには絶対に負けたくねえんだよ!!」

血を吐くかのようなマルコの咆哮がブックの心を揺さぶった。
彼は今まで見てきた人間とは違い、確固たる信念を持っている。
それに追随する金糸雀もだ。
殺し合いに乗ったものと乗らないもの。
絶対に相入れぬ存在が自分という敵に立ち向かう為に命を預け合っている。
訳がわからない。どんなに殴っても、吹き飛ばしても、必死に食らいついてくるマルコ達。

187ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:33:48 ID:WFRUX43c0

――憎い。

怨嗟の声が頭の中で反響する。
そうだ。そのとおりだ。憎しみのままに敵を討つ。
何も考えずに今は、戦うだけだ。

「その僕に、お前たちは負けるんだ!」
「マルコ、一旦下がって! 攻撃の、ワルツッ!」

マルコが一旦下がり、金糸雀が前へ出てバイオリンの弦を強く引く。
音が見えない力の塊となってブックの体を貫いた。
だが。

「うざったいんだよぉ!!!!」

最強の魔竜、ジュリーを纏ったブックを打倒するには力が足りないのだ。
口から血反吐を吐きながらもブックは鬼の形相を浮かべながら右手を振り上げる。
彼の掌に集まった想波が球体となって収束していく。
それはマルコ、金糸雀共々叩き潰す大きさを持つ。
後数秒もすれば球体は完成し、二人を粉々に吹き飛ばすことだろう。

「水よ、穿ちなさい」

後ろから飛んでくる水弾が、できかけの球体を破壊しなければ、その未来は避けられぬものだっただろう。

「誰だ、お前たち!」
「はぁ……こういう時は自分から名乗るものでしょうに。まあいいわ、名乗りましょう。
 ローゼンメイデン第五ドール、真紅。ここに参上」
「名前を言うのはいいが、その登場の仕方は何だ」
「あら、こういうのは雰囲気が大事だってシュウヤから教わったのだけれど。カズオはやらないのかしら」
「やる必要性が感じられない。それをすることで何かが得られるのか?」
「まあ、細かいことは気にしないでやってみればいいと思うのだけれど。取って減るものではないし」
「…………仮面ライダー、桐山和雄。ここに参上。これでいいのか?」
「いいんじゃないかしら。なかなか様になっていると思うわ」

ブックが後ろを振り返ると、そこには赤い服を身にまとった金髪の少女――真紅と、顔色ひとつ変えない無愛想な青年――桐山が立っていた。
軽口を叩きながらの登場に、ブックは心を苛立たせた。
一目でわかる。この二人もマルコ達と同じ、甘い理想を信じて戦っている奴等だ。
互いを信頼しあっているその姿には反吐が出る。

188ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:34:14 ID:WFRUX43c0

「ああいいさ、やってやる。何人増えようが全員僕が殺すだけだ!」

自分の中にある憎しみが増大されていく。
あんな風に生きている人間が憎い。
なぜ愛を信じていられる。
なぜ憎しみを抱かない。

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!」

これだから人間はわからない、だから殺す。
殺し合いに乗ったもの、乗らないもの同士が手を取り合っている、だから殺す。
あいつらは愛を信じている、だから殺す。
人間という枠組みももはや関係ない。殺したいから、殺す。理由なんてそれだけで十分だ、

「死ね――――っ!」

ちょこちょこと小技を出すのはもう止めだ。
全力全開、最強の一撃で全てを押し潰す!

「それは出来ぬな」

ブックが大気中にある想波を両手に練り込み、封印魔法を放とうとした時、その場にいるもの全てが、耳を塞ぎたくなる程の強い風切り音が鳴った。
それと同時に巻き起こる強い風が、ブックの全身を吹き抜けた。
それだけならば、誰もが驚かなかっただろう。
彼等彼女らが驚いたのは、風がすり抜けた後、ブックの全身に切り傷が刻まれ、血が吹き出したことである。
その所業を起こしたのが、今の今まで何もせずに静観を続けていた小四郎であったことが、マルコ達を驚かせた。

「な……ん、で……?」

風は無形であり防御は不可能。
いくら魔竜の鎧を身に纏っていたとしても、鎧の隙間に入る風を完全にシャットアウトすることは出来ない。
故に、鎌鼬による不可視の斬撃は鎧をすり抜けて、ブックの内面のみを綺麗に切り裂いたのである。

「僕は……ぼくは、ただ……」

全身から血を流しながらブックは地面へと倒れこむ。
流れだした血が地面を赤に染め上げる。
誰がどう見ても瀕死であり、今も息をしているのが不思議なくらいブックは弱まっていた。

「こんなはずじゃなかった、世界を…………取り戻したかっただけなのに」

培うはずだった信頼も、愛情も、部下も、友も。
彼は何も知らず、何も得ず、無様に地面に伏せる。
先には仲間もでき、人生に満足して逝くはずだった男はここで無念のままに死に果てた。
そして、ブックの突然の死にマルコ達は言葉が出なかった。あれだけの強敵があっさりと死んでしまったという事実は、口を閉じる理由には十分だった。
数秒間、静寂が続くが、いつまでも黙ってはいられないと悟ったのか、マルコが、ブックを殺した下手人――小四郎に向かって問いかけた。

189ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:35:04 ID:WFRUX43c0

「小四郎、テメエ……今更何動いてんだよ」
「戦場よ、あいつは殺っておかなければ厄介になると思ったのだ。
 正面から戦っても、勝機が見えぬと思ってな。故に、奇襲にて討つ、それがおれの考えた手段だった」

返答として返ってきた言葉はありきたりだった。忍者らしく奇襲でケリをつける。
その行動には確かな納得が存在する。
他の三人もその論理には一応の理解を示した。

「そ、そうなのかしら。まあいいかしら、結果としてカナ達も生き残れたし」

金糸雀が微妙な空気を察して、わざと大きな声で喜びを示す。
マルコも言っていたじゃないか。最悪の下なんて無いって。
もうこの先、いいことだらけだって。
だから、この胸に疼く不安はきっと気の迷いのせいだ。そうに違いないのだ。
金糸雀は、気づかない。否、気付きたくない。
小四郎の目は依然と鋭く尖り、薄っすらとした殺意が残っているということに。

「ああ、言い忘れていた」

一方、マルコは違和感を感じていた。何か、取り返しのつかないことが起こる気がしてならない、と。
小四郎はあいかわらずの腑抜けであり、何の問題もないはずなのに。
加えて、こんな多人数もいる中で殺し合いに乗るべく動くのだろうか。
彼も気づかない。そう――。

「お前たちにも死んでもらわねばならない」

――最悪はいつだって予想外の所からやってくるってマルコは知っていたというのに。
小四郎が深く息を吸い込み、吐き出した。
その動作が意味すること――鎌鼬の兆候を防ぐのに、金糸雀もマルコも桐山も真紅も動くには遅すぎた。
甲高い風切り音を伴いながら鎌鼬が、唸りを立てて地面を削り取る。それらが向かう先は、金糸雀だった。
回避は間に合わないし、マルコ達も突然の小四郎の凶行に呆気にとられ動けていない。
金糸雀は数秒先に迫る死を確信する。

「マルコッ!」

自分がここで死ぬことが避けられぬのならば。せめて、マルコとの信頼の証であるこの携帯だけは守り抜きたい。
服に差し込んでいたマルコの携帯をデイバックに投げ込んで、鎌鼬の範囲外へと力いっぱいに投げつけた。

(ごめんなさい、平。カナはここまでみたい)

身体のパーツが離れていく。意識が、切り刻まれていく。痛みを感じたのも一瞬だ。
かの黒い翼を持つ少女もこのような気持ちだったのだろうか。彼女も最後まで弱音を吐かずに気高くあったのであろうか。
願わくば、自分も。最後までローゼンメイデンとして誇りを胸に。
だけど。

――――でも、一人は、いやかしら。

ぬくもりが欲しかった。最後ぐらい誰かに抱きしめられながら死にたかった。
抱きしめて、大切にして欲しい。それはもう叶わぬ願いだけれど思わずにはいられなかった。
最後に思うのは水銀燈も真紅もマスターも皆が笑い合っている暖かな空間だった。
どうか、次の生があるならば。そんな空間で寂しさが吹き飛ぶぐらい笑いたい。
それが、金糸雀の最後の意識が読み取ったものだった。

「今まで腑抜けの皮を被っていたお陰で実に殺しやすかった。礼を言おう、戦場、金糸雀。お前たちが勘違いしてくれたおかげだ」
「あ、ああっ……」

足元に転がる携帯電話がマルコの意識を無理矢理に現実へと引き戻す。
目の前で起こったことに思考が追いつかない。
壊れたおもちゃのようにバラバラに散らばっている金糸雀の身体。
もう自分に憎まれ口を叩くこともなく、ボコボコに殴られた時のような泣き顔を見せることもない。

190ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:35:29 ID:WFRUX43c0

「テ、テメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!」
「あなた! ちょっと待ちなさい!!」

瞬間、出そうとも思っていなかった声が勝手に口から溢れ出す。
アムルタート内に溜め込んでいた力を全てを身体能力の強化にあてる。
制止の声が聴こえた気がするがそんなのは無視だ。
今、最優先にすべきことは小四郎を殴り飛ばすということなのだから。
こいつは。筑摩小四郎は。

「この、クソ野郎がああああああああああああああああ!」

戦場マルコが一番嫌いなゲス野郎なのだから――――!
地面を強く踏みしめて、マルコは身体を前に倒して疾走する。
一秒すら惜しい、今すぐ目の前にいる小四郎を叩き潰さなければ気が済まない。
そして、疾走の果てに間合いに入る。
血が滲む程に強く握られた拳はいつでも発射できる態勢だ。
後はもう殴るだけ。それで、全ては終わるのだ。
数秒もしない内に小四郎はマルコに殴られてこの会場に転がっている肉塊の仲間入りをすることだろう。

「おれを殺せるか? 何も知らぬ少女ごと」

目の前で突き出された少女――ティオがいなければ。
伸ばしかけた拳が寸前で止まる。
動けよ、拳。マルコが強い念で命令しても拳は動かない。
腕は愛を片腕で持ち上げているとすら錯覚してしまうくらいだ。

「ちく、しょう」

マルコにもその理由ぐらい、とっくにわかっている。
ブックから聞いたティオの顛末が愛とだぶるのだ。彼女をもう死んでしまった愛と重ねてしまった。
殺せない。いくら小四郎が憎くても彼女ごとは殺せない。

「やはりお前は甘いよ。戦場。その甘すぎる愛が、己を殺すのだ」

今のマルコにできることといえば、小四郎から無理矢理ティオを奪って来るであろう鎌鼬による衝撃を和らげることぐらいだった。
再び、風が鳴く。
鎌鼬に切り刻まれ、血煙を撒き散らしながらマルコとティオが空高く舞い上がる。
結局、マルコには拳を放つことが出来なかった。
少女諸共、小四郎を殴り飛ばしていたらならば、そこでこの闘いは終わっていたことだろう。

「愛……俺は、間違っていたのか?」

その問いに答える者はもうこの世界にはいない。彼はもう一人なのだから。

191ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:35:58 ID:WFRUX43c0

「俺は、選択を間違えたのか……?」

そのつぶやきは最後まで紡がれることがなく。マルコは意識を闇の底へと落としていった。
そして、止めと言わんばかりに小四郎はもう一度、鎌鼬を起こそうとするが、真紅のハルワタートの水弾によりやむをえずに回避を優先する。

「真紅、二人を連れて病院に戻れ。あいつは俺がやる」

現状、戦闘は混迷を極めている。最初は対ブックで一対多だったのが今では混戦模様になっている。
今も両の足で立っているのは小四郎、桐山、真紅の三人のみ。
ならば、桐山が小四郎と戦い、真紅が二人を連れて逃げていく。
真紅では小四郎相手では少し厳しい上に、ローゼンメイデンである彼女を戦わせたくないという桐山自身の思惑も含まれている。

「変身」

桐山がナイトのデッキを首輪にかざし、仮面ライダーへと変身する。
水銀燈を殺した男の武器。それでも、今はローゼンメイデンを護り抜く武器であるのだ。
そこに、何かを感じはしない。桐山はそう“思おうとしている”。
全身を青の装甲で包み、桐山は腰に下げられている剣を抜き、臨戦態勢へと入る。

「おれとやるのか。まあいい。どちらにしろ逃すつもりはない。ここで始末し、天膳様を導く糧としてくれる」
「お前は水銀燈が想っていた金糸雀を殺した、護ると誓った存在をみすみす死なせてしまった。
 その根幹にいるお前を倒すのに何の躊躇いがある」

この男は金糸雀を殺した。それは水銀燈の願いを踏み躙る行為だ。
桐山にそれを許すということは微塵も存在しない。

「それにだ。俺は“怒り”を感じている気がする。長らくは忘れていたのに、お前を見ていると心がざわついて仕方ない」
「ほう……何も感じないと言わんばかりの表情であるのにか。これは、おもしろい。それに、どうやら乱入者はまだいるようだぞ」

小四郎の視線の先には血濡れになりながらもゆらりと立ち上がったブックの姿があった。
桐山は死んだはずの彼がなぜ起き上がったのか、疑問に思うが、今は考えている暇もない。

「がががああああああああっっっっがああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「おれらの闘気に当てられて復活したか。しかし、まるで獣だな。そんな様ではもはやまともな頭も残っていまい。おれが、何度でも殺してやる」
「獣だろうが忍者だろうが関係ない。お前たち二人共、俺がここで殺す。生かしてかえしはしない」

己の“願い”を賭けた戦いは、終わらない。
強さを持って“願い”を殺す。それだけが、たったひとつの冴えたやりかたなのだ。
様々な感情の入り混じった戦闘は血を流すことでしか解決できないのだから。



【金糸雀@ローゼンメイデン 死亡】

192ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:36:40 ID:WFRUX43c0

【B-2/一日目/午後】



【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、「愛」の概念を思い出しました
[装備]:デリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、不明支給品1、水銀燈の羽、予備弾薬12発、
     エディアール家の刀@waqwaq 、七夜盲の秘薬@バジリスク 、夜叉丸の糸@バジリスク、首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:金糸雀の仇を討つ。ブックもここでで始末する。
2:可能ならば、2時半までに病院に戻る。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。

【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]: 疲労(小)、“願い”インストール、七原の戦闘技術と知識継承
[装備]: ハルワタート@waqwaq、真紅の懐中時計@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品、ホーリエ、ハリセン@現実 、ローザミスティカ(水銀燈)、
     レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(8/8)、
      勇者の剣(ブレイブレード)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、
     ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ、レミントンM870の弾(16発) 、桜田ジュンの裁縫道具セット@ローゼンメイデン、
    神業級の職人の本@ローゼンメイデン、 不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:七原秋也の意志と共に 。
0:どうすればいいのよ、もう!
1:桐山の指示に従うか、それとも……。
2:可能ならば2時半までに病院に戻る。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。

【筑摩小四郎@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:首筋に痣。疲労(小)
[装備]:鎌@バトルロワイアル 、人別帖@バジリスク〜甲賀忍法帳〜
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:天膳様の優勝への道を支援する。
1:腑抜けの皮を被っていたが、機は熟した。今こそ動く時。
※香川英行の名前を知りません

【戦場マルコ@未来日記】
[状態]:ダメージ(大)、頭部に傷、顔中腫れ上がっている、気絶
[装備]:交換日記のレプリカ・戦場マルコ用@未来日記、
    アムルタート@waqwaq、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
    ヨキの弓矢(8/10)@waqwaq
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:愛をとりもどす
1:…………。

【ティオ@金色のガッシュ!!】
[状態]:体力消費(大)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:…………
※一度、ブックが死んだことにより狂戦士の術は解除されました。

【ブック@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:ダメージ極大、心の力消費小、着殻、精神半崩壊
[装備]:契約の玉@ブレスト、ジュリー(銀嶺)@ブレスト、双眼鏡@現実、 [道具]:基本支給品、青酸カリ@バトルロワイアル、魔本(ティオ)@金色のガッシュ!!、
[思考・状況]
基本行動方針:殺す
1:殺す
※近くに基本支給品、首輪(霞刑部)、首輪(平清)、常勝無敗のケンカ日記のレプリカ@未来日記、
 不明支給品2〜3が入ったデイバックが落ちています。金糸雀の装備していたものは全て壊れています。

193ぬくもりのなかであたしを殺して ◆W91cP0oKww:2012/05/16(水) 23:37:12 ID:WFRUX43c0
これにて投下終了です。

194名無しさん:2012/05/16(水) 23:40:48 ID:H16KK8uY0
投下乙!
金糸雀が死んだ!!
桐山が怒った!
小四郎とブックが牙を剥いた!

195名無しさん:2012/05/18(金) 18:06:28 ID:p3FRXUH20
投下乙です

桐山は本当に変わったなあ…
金糸雀、お疲れ様…
さあ、続きが気になるがそう簡単に行くかどうか…

196 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/19(土) 01:05:11 ID:al3EhF3k0
投下します

197過去の産声  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/19(土) 01:07:05 ID:al3EhF3k0

  雲の形がなんなのか。
  それは幾重にも重なる枝の隙間から当てていた。

  「えっとあれはパンですよきっと。
   胡桃が入った焼きたてのパンです」

  「どうかな?
   ボクにはトマトに見えるよ」

  地面から一番近い枝に二人並んで座り、
  木漏れ日がくれる陽気に浸って
  闘いを知らないかのように双子は
  空が紅く染まるまで囁き合っていた。

  「むむ〜、意見が割れたですね。
   じゃあもっと上の枝に登って確かめてくるですよ」

  「気をつけて」

  張り切った緑のドレスを着た少女は幹にしがみつくと
  両足を樹の凹凸に引っ掛けて
  体全体を押し上げることで上へと登る。

  頬にちくちくと樹の皮、
  鱗が触れてくるのを少しも気にせずに
  少女は動き続けた。

  けれど、一番高い枝に足を乗せようとした瞬間、
  隣の穴から小さな鳥が飛び立って。

  予想外の出来事に足を滑らせた
  少女はそのまま地面へと真っ逆さま。

  「のぉぉっ!? そうはいかねえですよ!」

  空中で身を翻した少女は草木が生い茂る大地へと着地を果たし。
  両手を広げて屈託なく笑った。

  「す、すげえカッコよくなかったですか今の!
   見てましたか蒼星石!?」

  「ああ、見ていたよ」

  姉の蛮行に眉ひとつ動かすことなく、じっと眺めていた
  妹はそこでようやく表情を変えて。

  「お見事」

  小さく微笑んだ。


  「まだ起きないすか」

  「………………」

  「あの子が妹?」

  「そうですよ。可愛いでしょう?」

  「そうすね。仲良しで微笑ましいす」

  「二人きりの時はあんな表情を浮かべることもあったですよ」

  「お姉さん子だったすねー。
   もれには弟も妹もいないから羨ましいす」

  「……殺し合いするとしてもですか?」

  「それでも、残るものはあるすよ。
   もれだって闘いは嫌す。
   けど父ちゃんの心とレオの願いに触れたのは
   大切なことだって思うすから」

  「残るもの……それはきっと心にしかないんですよ。
   だって私達は人形なんですもの。
   壊れてしまった人形が人間の心より進んでしまったら
   あべこべになってしまうでしょう?」

  「チャンと闘ったとき、もうダメだって思った
   もれを動かしたのは父ちゃんでした。
   だから、ね? 残ったものは今もれの隣にいるすよ」

  「            」

  「そんな顔しないしない。
  友達がいつまでも悲しそうな顔したら
  もれまで泣けてくるすよ」

  小さく開いたドアの隙間から覗き見るように
  他愛のないことではしゃぐ双子人形を、虚ろな眼で見ていた翠星石は
  そこでようやくはっきりと隣に座る誰かへと視線を移し。

  そこにいる人の顔を明確に認識する前に、翠星石の意識は覚醒した。


――――――――。

198過去の産声  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/19(土) 01:07:49 ID:al3EhF3k0


「これがワタルという少年の武器でいいんじゃな」

「ああ」

「ふむ……」

手に握られた勇者の剣をじっくりと観察し、
試しに数度振りおろし。使用に弊害がないということを理解した。

「その少年は魔導師の友人だったと」

「そうだ」

「何故、その魔導師にこれを見せなかった?」

「それを見つけたのは猿渡とかいう爺さんの荷物からだ。
 ゲーム開始から経った時間から見ても
 そのジジイが下手人だったんだろう」

「なんじゃ。儂の勘も冴えておるな」

「何か言ったか?」

「いやなんでもない。続けろ」

「だからまあ、なんだ。
 また会った時にどっかのヤバい奴からこれを奪ってきたんだ。
 きっとそいつがワタルを殺したに違いねえと言えば
 懐柔できるかと思ってな」

カントリーマンは言い終わると肩を竦め、
自嘲に口の端を吊り上げた。

「ずるいだろう?」

「それでずるいと言ったら
 多くの者がずるいということになるじゃろうて」

腕組みをし、白髪鬼は窓から外を覗いた。

「お前さんの“願い”は医学の壁を超えることじゃったな」

「今はもうやめたけどな」

「何故やめたんじゃ?
素晴らしいではないか。
お前さんが泥をかぶったおかげで何人の命が助かるか」

「……今そんなことを言うのかよ」

カントリーマンは剣呑な眼つきで白髪鬼を睨みつけたが
白髪鬼は横目でカントリーマンの反応を認めるとふっ、と笑みを漏らした。

「責めとるわけじゃない。
 人間はどうやっても目前に
 ある物の価値を大きく捉えるものじゃ」

窓からはちょうど双子が生やした超巨大な樹木と
突如として現れた天から垂れる建造物が同時に見えた。

「儂もなあ、最初は適当なところでゲームに乗って
 お前さんのような相手と
 スリリングな闘いを繰り広げようと思ったんじゃが」

「おいおい」

白髪鬼の告白を受けてカントリーマンは気楽に振る舞いつつも、
その手を懐に入れ、足をさり気なく開き、
いつでも斬りかかれる体勢をとる。

199過去の産声  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/19(土) 01:08:34 ID:al3EhF3k0

「やめじゃやめ。
 子供を守れずに終わるというのは英雄たる儂としては
 いささかともの足りん」

憤慨して小言のようなものを始めだした白髪鬼。
カントリーマンは懐から手を離すと脱力感に襲われ、眉間を揉んだ。

「あれ、カズオと真紅は何処なんです?」

そんな時、ドアの開く音が聞こえ、
寝ぼけ眼の翠星石があくびをしながら入ってきた。

「まず最初におはようというもんじゃよ、こういう時はな」

「……おはようでず爺1号」

「2号は俺ってわけかい」

「うむ、正直に挨拶する子は良い子じゃ。
ほれご褒美にこれをやろう」

満足して顎を撫でた白髪鬼は
荷物からパンを取り出して翠星石に手渡した。
病院で調達したヤクルトもつけたのはそれなりの心遣いだろう。

受け取るとすぐさま大口を開けて翠星石はかぶりつく。
だが、パンを加えたまま、一回、二回、と咀嚼していく内に
その表情はどんどんと険しくなった。

「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
 石油臭っ! ものっすごく臭っ!」

口にあったものを残らず吐き出し、喉をおさえて悶える翠星石に。
大きな声で笑い、少女の頭を撫でる
白髪鬼はヤクルトを片手に翠星石の背中をさすった。

「きぃっ!」

金切り声を上げて白髪鬼の足にパンチすると
ヤクルトをひったくって口直しに一気に飲み干した。

「何やってんだかお前ら……」

呆れ果てた表情で少女と老人のやりとりを眺めていたカントリーマンは
気を取り直すと荷物を持ち上げて肩にかける。

「あれ、どっか行くんですか2号?」

「動物園の下見だよ。
 お前さんにはまだ早いさ」

それを最後にカントリーマンは
翠星石に手を振って翠星石が開けたのとは別のドアを開け。
階段を降りて病院の外に出ると病院で見つけた
地図を手に動物園へと向かう。

200過去の産声  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/19(土) 01:11:28 ID:al3EhF3k0


放送の後に様相をいくらか変えた会場ではあったが
方向が変わることはなかったのか
同エリア内にあったその施設はすぐに見つかった。

「ここか?」

とは言ってもそこは一般的な動物園とは違い、
寂れた一棟の賃貸ビルではあったが。

看板を確認するとカントリーマンは中に入っていく。
まず目に入ったのが動物園は地下1階との案内。

受付を通り過ぎるとコンクリートで塞がれた上への階段ではなく
下への階段を降りていくと、
鼻を刺激したある匂いにカントリーマンは顔をしかめた。

徐々に強くなっていくその匂い。
階段を下り終えたカントリーマンの鼻はすでに麻痺しきっていた。

錆びたドアノブ、日光の当たることがなく、
換気していない空間が産み出す独特の湿気と空気の感触。

意を決したカントリーマンはドアノブを捻り、
静かに扉を開けていった。

錆びついた音が来訪を伝えるだろうことから
武器を片手に持っていた。
だが部屋の中の予想外の事態に
カントリーマンは息を呑んだ。

そこにあったのは部屋を文字通り埋め尽くすほどの
散乱した肉片、皮膚の切れ端、ばらけた髪の房。

その中から突き出た刺のように見える白いものは骨。

つまりは、何十ものなにかがここで死んだということだ。

靴をたちまち血が浸し、中まで濡らしていったのは
部屋から出ようとするほどに血が溜まっていたということ。

「ど、どういうことだこりゃ!?」

らしくもなく狼狽しきった
カントリーマンは階段を一段、二段と上がり、
中を改めて覗く。

「明らかにこのゲームの参加者よりも多いぞ……?」

これが【動物園】なのだろうか。
それではあまりにも悪趣味すぎる。

ただ参加者を驚かせるためにこんなものを用意したのか。
部屋に入る前に目を走らせたナンバーと表札を確認し、
カントリーマンは今度は上へと上がっていく。

塞いでいたコンクリートを斬り裂き、
昇っていくとまた同じように肉の山があった。
その次も、その次も。

ようやく落ち着きを取り戻したカントリーマンは
肉片の形状、皮膚、眼球の色がどれもみな同じであったことに気づいた。

最上階の一つ前、そこにあったのは一人の男の死体。
これは嫌というほどカントリーマンも知っているもの。

そしてついに最上階に着いたカントリーマンが眼にしたのは。

「これは……繭か?」

巨大な脈打つ虫の繭。
今にも成虫が生まれそうなほどに膨れ上がったそれは
八本脚の蟲が紡ぐ糸に吊るされて部屋の中央を占領していた。

「とにかく白髪鬼の意見を聞くとしようかね」

僅かな時間で気が動転し、消耗しきったカントリーマン。
ここに来る前に眼にした微笑ましい光景が無性に懐かしくなり、
自然と早足で下へと降りていく。

【チャン】

最上階の一つ前の階の壁に大きく落書きされた名前。

【ムルムル】

けれど、後はどの階も同じ名前が壁に
でかでかとスプレーで書かれてあった。
地下の動物園の看板に書かれていた展示物の名前と同じく。

もう一階を降りればここから出られる。
弾む心を抑えきれず、カントリーマンは足を踏み出し、

「久しぶりじゃの、カントリーマン」

階段の下からカントリーマンを見上げていたのは。
彼が肉片の欠片、皮膚の一部から自然と想像したのと寸分たがわぬ少女の姿。

見上げる少女はあくまで無表情で。
カントリーマンの指先ひとつ見逃さない透徹した眼をしていた。

いつからそこにいたのか。
どこから来たのか。
彼女は何なのか。

あらゆる疑問がカントリーマンの脳を埋め尽くし、掻き乱す。

瞬間、カントリーマンの耳に轟音が響き、
少女、ムルムルの目がわずかに逸れた隙に
ありったけの銃弾を彼女へと撃ちこんで。

同時に壁を切り崩し、脱出した。

遠くに見える倒壊していく建物。

そこにあったのは無数の手形――。

201過去の産声  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/19(土) 01:14:20 ID:al3EhF3k0

【D‐3・病院/一日目/日中】

【カントリーマン@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:ダメージ(中)疲労(小)
[装備]:奇跡の執刀(ハイブリッド・メス)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、
    カードデッキ(龍騎)、サバイブ(烈火)、救急箱@現実、ニューナンブM60(3/5)@現実、
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×2、首輪(是方昭吾) 、首輪(相馬光子)、 首輪(朧) 、 動物園の鍵@銀齢の果て、
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。
1:すぐさま白髪鬼のところへと戻る。
2:時間があったら動物園を探しに行きたい
[備考]
※ローゼンメイデン側の事情を大体把握しました。
※陽炎、相馬光子の武器を毒と判断しました。
※他の死体は消し飛びました。首輪はどうなっているかは不明です。
※動物園には本来ならムルムルがいたようです。


【津幡共仁@銀齢の果て】
[状態]:
[装備]:クシャスラ@waqwaq、コルト・シングル・アクション・アーミー(5/6)@現実 、ワルサーP38(0/8)@現実、チャンの玉@ブレイブ・ストーリー〜新説〜
[道具]:基本支給品×3、簡易工具セット、輸血パック(各種血液型、黒い血のも)、
     ワタルを打ち抜いた弾丸 、月の石@金色のガッシュ!!、 レーダー@BTOOOM!、ワルサー予備弾×16、
     レオパルドン・パピプリオの首輪、ワタルの首輪(分解済み)、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:英雄として行動する
1:首輪をもう少し調べる。
2:翠星石を保護する。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ローゼンメイデンの事情をだいたい把握しました。
※バトルロワイアルの事情をだいたい把握しました。
※ワタルの首輪を分解しました。
 造りはガダルカナル22号と同じようです。


【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、護神像アールマティ@waqwaq
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:カズオと真紅が何処に言ったのか知りたい
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
※シオとヨキが黒き血の人であることを知りました。
※双子の大樹があのままなのかどうなのかは後続にお任せします

202名無しさん:2012/05/20(日) 00:03:50 ID:tqwnex0c0
投下乙です

彼らの掛け合いが面白いなあと思ったら色々と嫌なものが見えて…ムルムルキター
まったく、休む暇がないなあ

203 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:14:58 ID:6XYZjuWo0
投下します

204ぎゅっと握り締める  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:17:55 ID:6XYZjuWo0

――おまえはどうするんだ?

傍らに佇むハルワタートが真紅へと問いかける。
意識を喪い、傷ついた男と少女。
そして離れたところで激戦を繰り広げている
三人の男を交互に見やって、
時間のなさをもどかしく思いつつ、
真紅は必死に最適な道は何かと考える。

――おまえには生きて欲しい。

真紅のリュックの中には桜田ジュンの裁縫道具と
彼の神業を写した精微な写実本がある。

「水銀燈は金糸雀を想い遣っていたそうよ」

声なき言葉で語りかけるハルワタート、水に浮かぶ仮面を
真紅はそっと撫でて微笑んだ。

「おかしなものね。それなりにあの子のことは知っていたはずなのに
 そんな驚愕の事実を少しも察することがなかったなんて」

雪はまだ降り続けている。
倒れたマルコ達に積もる雪は確実に体力を奪うだろうが
ハルワタートによって水の傘を作ることで防いでいた。

――けれど、おまえは言っていたもんな。

「そうね、これは私の闘いよ。
 誰かの闘いはその人だけのもの」

ハルワタートから少し離れると
真紅は手を掲げ、高らかに命じた。

「合体よ、ハルワタート」

――――――――――。

雪が降っているとわかる方法は
少し離れた世界を見ることと、
遥かに高い上空を見上げることだけだった。

咆哮とともに暴れ狂う龍と一体化した男。
猛々しい叫びは桐山を確かに打ちつけるが
そこに意思は感じられず、ただ純粋な感情だけがあった。

桐山の背後から雪を踏みしめる音が聞こえた。
剣を握り直すと真後ろを突き刺し、
そのまま旋回する。

手応えはない。
忍び装束に身を包んだ小四郎が着地したのが見えた。

上から超質量の光球が落とされ、
落ちていく氷の羽が瞬時に蒸発した。

だが地面が焼け焦げ、陥没したときには
桐山はすでにブックの背後、正確には背中にしがみついていた。

「ぐぐあああああああ!」

意味の取れない言葉を喚き散らし、
口の端から血の泡をブックは次々に吐き出している。
精神を喪った魔物使いの首に両手を巻きつけた
伊賀忍の秘薬、七代盲の香を手に桐山は
振り落とされないよう気をつけ。
ブックの顔の覆われていない部分へと向けて――。

「ぎゃあああああ!!」

予想外の出来事に精神が動揺したのか
ブックは顔を抑えてあらぬ方を飛び回った。

すでにブックの背中から飛び降りていた桐山は
着地地点で待ち構えていた
小四郎へデリンジャーを向けて発砲する。

だが銃口の向きからか着弾点を読んでいた
小四郎は横へとわずかにステップすることでそれを躱し。
口を卵のような
小さな楕円形の形にし、真空を産みだした。

ブックが離れたことで雪は常のように熱を受けることなく
しんしんと枯葉のような大きさで空から溢れ落ちる。

それにより、ある程度の場所はわかるはずだったのだが。

ひゅるるるるるるる

桐山を待ち受ける前に地面に潜ませていた
超大の真空が解き放たれ、周囲の雪が舞い上がる。

桐山の視界を雪が覆い、目の前すら見渡せない状態が続く。

そして、桐山は真空へと呑まれた。

すんでマントを展開した桐山は辛うじて直撃を避けたが
衝撃によって変身が解かれ、雪原を何度も弾み転がる。

仰向けになった桐山、小四郎からの追撃はまだなく。

代わりに目前に迫る盲目の猛獣が
弱者の匂いを嗅ぎつけ突撃してきた。

未だ桐山の手足は動かない。

剣は数m先に落ちており、
振るえる武器は何一つない。

目と鼻の先にブックの爪が光った。

205ぎゅっと握り締める  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:19:18 ID:6XYZjuWo0


ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるる


だがブックの爪が桐山の端正な顔を切り裂く前に
桐山が展開していた真空の玉がブックの頭部を
今度こそ致命的なまでに引き裂いた。

それでもまだ生命を保っているのは
旅人筆頭のシグドラというべきか。

よろけ、虚ろな目で後ずさったブック。
しかしそこにはもう何者かが放った鎌が突き刺さっていた。

「ここまで弱らせればただの刃でも刺さるか」

生命が抜け去った頭から鎌を抜き、
小四郎は流れるような手つきでブックの首を刈り取る。

「…………何をしている?」

桐山の問いには答えず。
小四郎はブックの首に
かけられていた首飾りを自身につけ。
ブックの足元で小動物になって気絶していた
龍、銀嶺から契約の玉を取り出した。

「よせ、銀嶺を解放するつもりか」

「いいや」

小四郎はブックの持っていた魔本を手に取ると
そこに書かれていた文字を読み上げた。

「さいす」

近くもなく、遠くもない場所で疾風が天へと放たれ、
小四郎に呼び寄せられるかのように
気絶したはずの少女がこちらへと駆け寄ってくる。

「やはりあの魔物使い。
 あの娘の心にも何らかの催眠術を施してあったか」

少女ティオへと契約の玉を放り、
小四郎は改めて契約の言葉を口にする。

「着殻」

光りに包まれた後、現れたのは
1000mは優に越える龍と苦悶する鬼女の顔を胴部につけた小四郎の姿。

「……手際がいいな」

「おれの支給品はこれだ」

ようやく起き上がった桐山の元へ放られたのは名簿。
しかし通常の参加者に
支給されたものよりは遥かに分厚い。

「荒唐無稽な記述ではあったがな。
 謎の火薬を使う男を目の当たりにしてようやく信じられた。
 遙か未来の世。面妖な童たちによる殺戮。
 そして異国ではない地獄を彷徨う稀人」

滔々と語る小四郎へとブックの支配から解き放たれ、
目覚めた銀嶺が牙を剥き襲いかかる。

「鎮まれ」

しかし、語気鋭い、疾風の命が。
銀嶺に伝わると瞬く間にひれ伏し牙を収めた。

「龍といえど所詮は獣。
 魔王には勝てまいよ」


桐山にもわかる。
今の小四郎は先程よりも遙かに強大な力を持っている。

小四郎が手を挙げると
それに付き従う銀嶺が再戦の狼煙と火炎を噴き。
雪を降らせた雲に風穴を開け、晴れ間を覗かせる。

縦に伸びた龍は地上からでは
頭部まで視界に収めることができない。

これを一人で倒すにはどうするべきか。
桐山は高速に動き出す脳の演算装置で考える。

しかし、

「まずは小手調べだ」

魔王の腕に自身の腕をかぶせた小四郎は
桐山へと腕を振るい、唱える。

「さいす」

放たれたものは桐山が小四郎より盗み、
修めた技よりも強く撃たれた真空の鎌鼬。

避ける手段もなく今度こそ桐山は、死ぬ。

206ぎゅっと握り締める  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:20:19 ID:6XYZjuWo0

しかし、桐山の前に突如鋭い水の鎌が現れた。

「大丈夫、カズオ?」

ティオが走ってきた位置からそう離れていないと思ってはいたが
声のした方を振り向いた桐山が目にしたのは真紅とマルコの姿。

「…………離れろといったはずだ」

「嫌よ」

「戦場だったな。真紅を抱えてここから逃げろ」

「一人でどうするつもりだよ。
 っつうか俺の心配なしか。
 事前に精力吸ってなかったら今頃お陀仏だったんだぜ?」

広大な雪原そのものと同化したハルワタートを駆る真紅。
水の中で仮面をかぶり浮かび上がる姿は
禍々しさとともに神々しさがあり、異教の原初神ヌンを想起させた。

「これを貴方に渡すわ」

真紅から手渡されたのは小さな裁縫道具と
少年と青年の裁縫風景が描かれた一冊の本。

「これを俺にどうしろと」

「絆があれば、何かを得られるかもしれない。
 貴方は水銀燈に芽生えた炎に触れたのだから。
 取り返しのつかないほどに体が壊れ、
 概念と魂しか残っていないあの娘にも何かができるかも」

真紅の言葉に桐山は沈黙し、
亡骸となった金糸雀を見た。

真空に蹂躙された金糸雀。
砕け散ったボディからは
かつての容姿を想像できる者はいないだろう。

まして、短い間しか会っていない桐山には……

額に痛みが走った。

それは針に刺されるくらいのものだったが。
思わず傷んだ箇所に手を触れた
桐山の肩に暖かな光が灯った。

「そうか。だから、お前がいるんだな」

桐山は誰にも聞こえないほどの小さな声で呟き、
真紅とマルコを背に、金糸雀の亡骸へと走る、走る。

207ぎゅっと握り締める  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:21:44 ID:6XYZjuWo0



――――――――。


孤独とはなんだろうか。

それは誰もいない劇場で
小さなスポットライトがあたるのに似ている。

その灯りは生きていくのにたしかに十分すぎるもので。
少し動けば灯りも一緒についてきてくれるから
何かを得るのに不自由することはない。

けれど、時が経つに連れて、誰もが忘れてしまうのだ。

自分の心と体がどうであったのか。
他者に触れることをなくしてしまったから。
他者に光をあてることがないから。

迷いない恍惚感と葛藤を知る必要のない意志。
永遠の思索のとき。

それでは時には満足できなくなり、
長らく続くと自分を導く糸すら見えなくなり。

真の暗闇が心を照らす。

金糸雀の瞳が開いた。

鼻をくすぐる羽の感触があったから。
ありえないはずの意識をまた持って。

金糸雀は横たわったまま、四肢の感覚がないままに。
まぶたを開いた。

――あぁ。

声はでない。言葉をまとめることももうできない。
これはたゆたう思考、魂、概念が発する瞬きに過ぎない。

けれど、そこにはたしかに金糸雀の姉がいた。
いつものように苛烈な刺々しい瞳で何を言うこともなく。
彼女へと視線を注ぐだけの、そんな姉がいた。

――変なの

口を開いた、ような気がする。
音には誰よりも精通していても、
体が壊れてはどうしようもない。

それを嫌だと思ったし怖いとも思ったが。
金糸雀は、一瞬だけ戻った両手の感覚を必死に動員し。

空へと手を伸ばした。

ただ、伸ばしただけで。
何に触れるわけでもない。
何を手に入れるわけでもない。

本来ありえなかったことだとは金糸雀も理解していた。

けれど、金糸雀は、ほんの少しだけ寂しいと――

体をなにかに包まれた気がした。
暖炉の前よりも暖かく、手で撫でられるよりもくすぐったい感触。

黒い羽が両翼ともに広げられて、
金糸雀をたしかに抱きしめる。

力強く、壊れないように。存在を伝える。

――いっつもいっつも。ひとりで離れたところにいて。

金糸雀の口元に笑みが浮かんだ。
金糸雀の瞳から涙がこぼれた。

――なのに、結局はお姉さんなんだから。

ぎゅっと抱きしめられた金糸雀は再び崩壊していく
体を繋ぎ止めることはできず、黒の天使の腕の中で死んだ。

――大好き、水銀燈。

それだけのできごと。
戻ったものは何も成すことなくまた死んだ。
意味があった行為とは到底言えない無駄骨。

けれど、

「これが《孤独》か」

金糸雀を抱きしめていた少年は

「想いだした」

たしかにそう呟いて。

208ぎゅっと握り締める  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:23:25 ID:6XYZjuWo0

――――――。


小四郎と銀嶺のまえに屈する真紅とマルコ。

「無駄だったな。お前たち二人ではおれたちに敵うまい。
 あの男がいたとしても焼け石に水だったろうがな」

まだ行使できる力の源は膨大にあるが
真紅とマルコにはそれを振るうだけの体力、
それ以上に畳かかかる攻撃に反応し切ることができない。

「無様なことだ」

冷徹にそう告げると、小四郎はとどめの一撃のために。
体中に力を蓄え。放とうとし――

「させるか」

それを黒の一撃により遮られた。

乱入は予想していたがこめられた力は先程とは段違い。
苦鳴の音を漏らした小四郎は大きく距離をとった。

「戦場、おまえに渡しておくものがある」

そう言って桐山がマルコへと放ったものは
一組のエンゲージリング。

「これは……!」

「後で渡しておくつもりだったんだが。
 大切なものなんだろう。
 今のうちに渡しておく」

体勢を立て直し終えたマルコと真紅を
振り返ることなく桐山は話す。

「お前たち二人は銀嶺をやれ。
 俺はそれまでにこいつを倒しておく」

無謀とも言える提案に異を唱えようとした二人だが
振り返った桐山の表情を見て言葉に詰まってしまう。

「不服なら早いうちに片付けて援護に来い。
それで問題ないだろう」

「……気をつけて」

「ほどほどに頑張れや」

真紅とマルコが銀嶺へと改めて挑もうとしたに、
桐山は真紅を呼び止めた。

「ありがとう」

「……え?」

「恐らくだが金糸雀の最期の言葉だ。
お前に言うのが相応しいと思った」

真紅はそう話す桐山に笑みを見せて、
今度こそ龍へと飛び立った。

残ったのは魔王の力を手に入れた忍びと、
ただの少年の二人だけ。

雪がやみ、降り積もった雪では
吸い込みきれない激闘の音が周囲に木霊する。

「…………ひとりで勝てると思うのか?」

「……ひとり?」

桐山は小四郎へと歩み出す。

「一人か」

――右手に力をこめる。
水銀燈のローザミスティカが激しく輝く。

「独りか」

――左手に力をこめる。
金糸雀のローザミスティカが可憐に瞬く。

「俺がひとりに見えるのならば」

桐山は駈け出した、そして消えた。

現れたのは小四郎の懐。

両手が小四郎に触れて、
衝撃が体内で振動する。

「お前に勝ち目はないぞ、魔忍者」

209ぎゅっと握り締める  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:27:52 ID:6XYZjuWo0



【ブック 死亡確認】
【残り19名】


【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、重傷(治療済み) 、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。

[装備]:ローザミスティカ(水銀燈)、ローザミスティカ(金糸雀)、カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、デリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、予備弾薬12発、
     エディアール家の刀@waqwaq 、夜叉丸の糸@バジリスク、首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:小四郎を討つ。
2:可能ならば、2時半までに病院に戻る。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。


【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]: 疲労(小)、“願い”インストール、七原の戦闘技術と知識継承
[装備]: ハルワタート@waqwaq、真紅の懐中時計@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品、ホーリエ、ハリセン@現実 、
     レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(8/8)、
      勇者の剣(ブレイブレード)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、
     ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ、レミントンM870の弾(16発) 、
     不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:七原秋也の意志と共に 。
1:銀嶺を討つ
2:可能ならば2時半までに病院に戻る。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。



【戦場マルコ@未来日記】
[状態]:ダメージ(大)、頭部に傷、顔中腫れ上がっている、
[装備]:交換日記のレプリカ・戦場マルコ用@未来日記、
    アムルタート@waqwaq、レーダーのレプリカ@BTOOOM!
    ヨキの弓矢(8/10)@waqwaq 、マルコと愛のエンゲージリング@未来日記
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:愛をとりもどす
1:銀嶺を討つ。


【筑摩小四郎@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:首筋に痣。疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:鎌@バトルロワイアル 、人別帖@バジリスク〜甲賀忍法帳〜
     契約の玉(ティオに装着)@ブレスト、ジュリー(銀嶺)@ブレスト、双眼鏡@現実、
[道具]:基本支給品、詳細名簿、不明支給品 、青酸カリ@バトルロワイアル、魔本(ティオ)@金色のガッシュ!!、
[思考・状況]
基本行動方針:天膳様の優勝への道を支援する。
1:腑抜けの皮を被っていたが、機は熟した。今こそ動く時。
※香川英行の名前を知りません
※詳細名簿はムルムルが執筆したことから主催者の情報も記されています。
  (例)【コト】段取りを踏めば最強に近いがその段取りが色々と面倒くさい。
         素のスペックでこいつに負ける参加者、主催者はいない。
     【キク】コトを補佐する縁の下の力持ちを本人は自負しているのだろうが
         なにぶんスペックがバカ高くルックスもイケメンなことから
        縁の下からはみ出しきっているという不運の人物。
※近くに基本支給品、首輪(霞刑部)、首輪(平清)、常勝無敗のケンカ日記のレプリカ@未来日記、
 不明支給品2〜3が入ったデイバックが落ちています。金糸雀の装備していたものは全て壊れています。

【ティオ@金色のガッシュ!!】
[状態]:体力消費(大)、着殻状態
[装備]:
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:…………
※一度、ブックが死んだことにより狂戦士の術は解除されました。

210 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/20(日) 16:28:08 ID:6XYZjuWo0
以上で投下終了です

211名無しさん:2012/05/23(水) 01:03:12 ID:EKIkaRdU0
投下乙です。

>>過去の産声
ついにロワの根幹につながっていく話が投下!
謎の繭に無表情のムルムル、チャンの死体。
これらがなにを意味するのかがとてもきになる話でした。

>>ぎゅっと握り締める

桐山が綺麗すぎて主人公。杉村、七原といいバトロワ勢が熱すぎてやばい。
序盤は七原が主人公やってたけど後半は桐山が主人公やってるってのもおもしろいなあ。

212名無しさん:2012/05/23(水) 22:52:20 ID:PJYsgewY0
投下乙です

桐山がっこまで大化けするとは…
いやあ、面白いのは俺も同意だぜ

213 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:48:11 ID:7ezHla6k0
投下します

214雪原の祝福  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:49:04 ID:7ezHla6k0

ドラゴンは怪異の王。
幻想の王はべつにいるとしても、
怪異の王の名を種族単位で
冠するに至るのは古今東西ドラゴンしかいない。

ドラゴンをその地位に押し上げたのは
ドラゴンには如何なる刃も魔法も通らないことから。

体を覆う鱗は絶対的な防御力を持ち。
故に巨体とともに突進されるだけで
あらゆる砲弾を超える破壊力を産み出す。

それがドラゴン。弱点は存在しない。

大海原、ではなく大空。
だが背に乗って攻撃を繰り出している者に
してみれば大差はないだろう。

泳ぐように体をうねらせ
水中であるかのような空気の抵抗感を感じる。

「マルコ、もう少し左に誘導して!」

「あいよ!」

雪原、大地を埋め尽くす雪、水の塊。
這わせておいた根が養分に急成長を遂げ、
大樹の先端が銀嶺の右顎を打ち抜いた。

大きく揺れた銀嶺、
その上に乗っているマルコは大きくぐらついた。
それはつまり銀嶺が攻撃によって衝撃を受けたということ。

「やったぞ真紅!」

二人の間の距離はおよそ500mほど離れ。
生半可な声量ではたちまち空気の音と銀嶺の鳴き声に掻き消されてしまう。
直接、声が振動として伝わるように、
簡易糸電話をアムルタートで作り、使用している。

真紅が展開していたのは
雪原の雪を使用し、細く鋭く張り巡らせた水刃の網。
真正面から衝突して肉塊にならない生き物はいない。

銀嶺が頭から網にぶつかり、大きく撓む。
振動で上へと跳ね上がるのを堪え、
マルコは攻撃の結果を見極めようと目を凝らす。

網の大きさは50mプールくらい。
水の刃は粘つき、刻みつき、
銀嶺の皮膚に大きく食い込む。

困惑の声をあげながらも
銀嶺は前に進もうともがき続け。

ついには抜けだした。
鱗を突き抜けることなく無傷で。

「やっぱ無理か。
どうしたもんかねえ」

「…………予想しなかったわけではないけれど……」

「さすがにへこんだか?」

「……見くびらないでちょうだい。
 まだまだこれからよ」

「そいつはけっこう」

真紅から声の底に潜む落胆には敢えて触れず。
マルコは軽快に励まして、
これ見よがしに両の拳を打ちあわせる。

次の手を思案するマルコ。
トレードマークのリーゼントは
この豪風でも乱れず屹立している。

視界に否が応にも入るのは地図には表示されていない
場所から侵食してくる漆黒の闇。

目に入るだけでも精神が削れていく一面の黒は
今やマルコと金糸雀がいたクリスタルパレスにまで領土を広げていた。

「あれがデウスの言ってた因果律の崩壊か?」

あれが何なのか。
マルコの性格的に追求する気はあまり起きなかったが
気になるのは正体、原因ではなくその性質。

215雪原の祝福  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:50:05 ID:7ezHla6k0

「…………マルコ」

「わかってるって。
 俺も死ぬ気はねえよ」

生き物としての直感でわかる。
あそこに引きずりこまれたら生きては出られない。

「これもあまりやりたくなかったんだけどなあ」

ぽりぽりと緊張感なく頭を掻いたマルコは独りごちる。

「何か考えがあるのね?」

「まあな」

真紅に策を話している間にも
銀嶺は空を駆けまわり
真紅とマルコを振り落とそうとする。

今はちょうど逆さになったところであり。
地面が空となっている。

「…………意外と私頼みの作戦なのね」

「俺一人で殺るわけねえだろ。
てめえの500倍のナリしてる奴とタイマンなんてよ」

「それもそうね」

「だろ」

軽口を叩きながらの会話。
納得した真紅は逆さまになった体勢から
地面へと昇っていき、
途中でくるりと翻り鮮やかに着地する。

雪に刻まれるのは小さな足あと。
場所はちょうど4つのエリアの中心。

真紅が降りたのを
マルコは銀嶺に這わせた根から伝わる振動で知った。
根に足を絡ませることで落下の事態を防いでいた。

その根に手を這わせ、そこから伝わる振動に意識を集中する。

頭の付け根。
普通ならば最も手の届かない位置。
そこに攻撃を加えるのならば当然に。

口を塞いでいた糸電話、ガスマスクへとマルコは怒鳴った。

「来たぞ真紅!!」

同時にマルコの頭上に巨大な影が差す。
空気が悲鳴に砕け散り。
物々しい質量の物体がマルコへと迫りくる。

それは尾。
銀嶺の頭から最も遠くにある体の一部。
1000mにも渡って根を広げていた
マルコには咄嗟に防ぐ手段がない。

しかしその一撃を透き通った槌が
軌道をわずかに横へと逸らした。

その槌は桜見タワーよりも大きく。
ガラスで出来ているかの如く中で陽光が反射する。
それは雪を、このエリア中の雪をかき集めて作った水の塊。
広大なる海を練り、捏ね上げた芸術品。

216雪原の祝福  ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:51:30 ID:7ezHla6k0


槌が尾を逸らす。
ぐるり、ぐるりと旋回し。
柄にそっと触れている真紅の掌を支点に回転する。

真紅が舞う。
真紅が舞おうと飛び上がった空中で駆ける。

「あなた」

銀嶺の尾にかかるたしかな圧力。
ぎりぎりとかかる重さが
マルコを襲おうとかけられた力とともに
銀嶺の首筋にのしかかる。

「ここで」

しかし、銀嶺はドラゴン。
何者をも通すことのない鱗。
たとえそれが己の刃であろうとも。
最強の盾が本質であるがゆえに己すら跳ね返す。

けれど、真紅の狙う一撃はそれではなく。

槌、両刃のハルバード。
片方が押し潰そうとするならば、
もう片方が自然と空く。

空を更に覆う黒雲があった。
銀嶺を呑み込むほどの大きさの影が差す。
銀嶺の眼球が異変を察知してせわしなく動きまわる。

その正体は槍、突撃する槍。
大樹の頂点が槍となって銀嶺へと振り下ろされる。

根は先ほどまで雪を降らせていた雲にしかりと根ざし。
雲に蓄えられた水分を存分に吸い上げて地上へと育つ。

空から生える大樹。
槌へと触れ、さらに槌の水をも養分に槌の中を突き進み。
ついには尾に触れ、ドラゴンの首筋へと負荷をかける。

「終わっちまえよ」

鱗が砕け、銀嶺の皮膚を突き破る。

素早く首筋へと駆け戻った
マルコは僅かに覗いた傷口へと腕を突っ込み。

体内に直接木々を無限に生やし、蹂躙する。

体内を喰われるという未知の感覚、苦痛に
銀嶺はたまらず苦痛の声を挙げてのたうち回る。

体内を守ることはできなかったのか呆気無いほどにやすやすと
樹々が生え、成長のための養分に臓器を喰べ、呑み干す。

樹々は銀嶺の体からは出てこない。
鱗が皮膚を突き破った樹々の成長を邪魔し。
行き場を失った樹々は
体内へと引き返し出口を求め走り回る。

もはや銀嶺に生き延びる道はない。

「……終わったか」

「早くカズオのところに戻りましょうマルコ」

「いや」

銀嶺に直接腕を刺しているマルコは小さく首を振って
眼瞼を閉じた。

「わりぃ、ドジッちまった」

その呟きが誰へのものか。
マルコ自身、わからない。

誤算は銀嶺に知能と呼べるものがあったこと。
状況を把握する能力があったことだろう。

悲鳴のような口蓋よりも奥底から発せられる声とともに
銀嶺は一直線にある場所を目指す。

そこは闇、漆黒のオニキスのような深みと密度をもった世界。

マルコの腕を最期の力を振り絞って
逃すまいと締めあげた銀嶺は
ともに闇へと飛び込もうとする。

力を使い果たした
マルコに腕を斬っても生き延びられる余力はない。

巨体を震わせ真っ直ぐに闇へと突き進む銀嶺。

ついに頭が闇へと呑まれ、闇自身にも意志があるのか。
呑み込む速さがさらに上がる。

マルコの目に映るのは一面の闇。

――チリン

だがマルコの耳にたしかに飛び込んだ音が
あるはずのない光を反射し、存在を主張する。

「路線変更だ」

笑みを浮かべたマルコは二つの指輪に蔓の糸を通し。
一つの首飾りに仕立て上げた。

片方の掌でそれを転がした
マルコは覚悟を決めて空を頭を垂れる。

「愛の永遠を証明してやるよ、ブック」

最期の言葉とともに。

「引き継ぎだ、アムルタート」

彼の体は喰われた。

【マルコ 死亡確認】

【残り18名】


――くすくす――

217 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:53:18 ID:7ezHla6k0
続きますが一応は題名ごとに独立した作品ってことで

218花弁も遺すことなく    ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:54:09 ID:7ezHla6k0

雪原、ではなく今では
水の結晶が見え隠れする草原に真紅は立ち。
銀嶺が消えた方向をただ見ているしかなかった。

「……っ!」

大きくよろけて膝をついた。
ドレスの裾にじわりと広がる水の染み。
もはや水のドレスを纏う余力もなかった。

けれど、闘いは、殺し合いは向こうでまだ続き。
巨大な剣が何故か小四郎へと落ちた。

「行かないと」

膝に手をつき、這々の体で立ち上がった真紅。
傍らに浮かぶハルワタートを見上げて微笑んだ。

「もう少しだけ付きあってちょうだい。ハルワタート」

ぐい。
ぐいぐい。

「ハルワタート?」

けれど、ハルワタートは真紅の言葉に反し。
頭を真紅に押し付け、
桐山が闘っている場所から離れさせようとする。

「…………」

真紅は真っ直ぐにハルワタートの仮面を見つめ。
そこに手をやり、額をつける。

「これは私の闘いよ。
 力尽きても、悔いなんてないわ」

真紅に押し付けていた頭はそれでも静まることがなく。
体に水がほとんど残っていない状態で
ハルワタートは真紅を押す。

「考えるよりも、感じるよりも先に、
走りましょう? ハルワタート」

ハルワタートの仮面から額を離して、真紅は優しく微笑んだ。

「貴方の大好きな“ろっくんろーる”な舞台よ」

219花弁も遺すことなく    ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:55:27 ID:7ezHla6k0


――――――――。


「さいふぉじお」

小四郎がそう唱えると空中に剣が現れ、小四郎を貫いた。
これまで何度か眼の前で行われた流れ。
小四郎の傷が瞬く間に塞がり、完治する。

「本来の娘ならばここまでの力を使うことは
 到底叶わぬのだがな」

息を荒げ、
地面に突き立てた剣に
もたれかかっている桐山に
冷酷に小四郎は告げた。

「魔物使い。女神より賜りし力。
 それが引き出す深き魔王の力。
 どちらも真、強力なものじゃ」

「…………徳川の世は500年で潰えるぞ」

「らしいな」

情報統制が行われている大東亜共和国で
歴史を知ることはできない。
桐山も小学校の頃に知ってみるのもいいかもしれないと
思って政府のデータをハッキングしなければ知ることはなかった。

「だがそれがどうした。
この世界を創りあげた忍の術を借りれば
全てを為すことができる。
姫様を蘇らせることとてできよう!」

両手を広げて高らかに歌い上げる小四郎の表情は
前途洋々としており、期待に輝いていた。
未知の文明、文化に触れたことで小四郎は明らかに酔っていた。

「おれと天膳様が何もかもを姫様のために捧げよう!
 永禄も! “願い”も! 
 甲賀を消し去り、伊賀の天下をとった後に!」

「そうか」

立ち上がった桐山はサバイブのダブルセイバーを構えた。

「だが俺にとってはその“願い”は悪い冗談だ」

疾風と化した桐山は小四郎へと斬りかかる。
風とともに駆ける桐山が小四郎へ残した斬撃は9回。
だがどれも小四郎が展開したバリアを傷つけるには至らない。

「お前は金糸雀を殺した」

「復讐か」

「そうだ」

「小者め」

「お前にそれを言う資格はない」

マントを大きく翻した桐山は
デッキから一枚のカードを抜くと召喚器にセットした。

――TRICK VENT――

「小細工を弄しようと今のおれには効かんよ」

「お前ではなく。
 正確にはお前が纏っている少女だがな。
 それすらお前の力ではなくあの男の仕事だったが」

「だが掌中に収めてしまえば同じことよ」

小四郎の嘲笑を合図に複数に分裂した
桐山は一斉に躍りかかった。

220花弁も遺すことなく    ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 22:58:12 ID:7ezHla6k0

「遅い。さいす」

小四郎の手から放たれる疾空の刃が桐山を消し。
一つのアクションで一人、また一人と消えていく。

前方にいる桐山の背を踏み台にもうひとりの桐山が飛び出し
小四郎の頭を斬り裂こうとする。

「ぬるい」

しかし、呆気なく刃を掴んだ小四郎は
相手の首の骨を折り、姿を打ち消した。

そこに飛び込む火薬の音、匂い。
背を踏まれた桐山がデリンジャーを手に、
小四郎へと銃弾を浴びせる。

だが魔王の卵の力を纏った小四郎には
野球ボールていどの脅威しかない。

容易く避け、小四郎はバリアを展開する。

だが小四郎の頬が予期せぬ方に裂けた。

「なに?」

小四郎の頬をかすめたのは小さな光の弾。
わからないのは何故それが地面からやってきたのか。

素早く視線を降ろした小四郎の眼に映ったのは
地面から謎の触手とともに生えた一丁の銃。

よく見ればそれは地面を掘り進めて出てきたのがわかった。

「地面が柔らかいのが幸いした。
 真紅が雪を消していたのも作業を誤魔化すのに役立った」

小四郎から最も遠いところに立っている
桐山が背負っているのは幾本かの銃とともにある触手。

その一つが地面を突き進み、
小四郎の直ぐ側から顔を覗かせている。

策が功を奏したのを確認した桐山は
すべての銃を地面に潜らせて小四郎のすぐ側から銃口を出す。

「桐山ぁ!」

怒りに満ちた小四郎の声はバリアに当たって反響し。
撃ち出された光弾がバリアに跳ね返り
縦横無尽にバリア内を飛びまわる。

バリアが消失した場に残ったのは傷だらけの小四郎。

「金糸雀はその少女を助けたがっていた。
 だから俺はお前だけを殺さなければならない」

残っていた三人の桐山が小四郎を囲み。
覆われていない首元に刃を突き立て、
缶詰の蓋を開けるようにして首を切り落とそうとする。

「ま・せしるど」

刃が盾によって防がれる。
硬い盾に剣が弾かれた隙に小四郎は這いつくばって
桐山から距離を置いた。

「……交渉だ。大人しくするなら痛みなく殺してやる」

「黙れ!」

桐山の提案を跳ね除けて
小四郎は屈辱の炎に揺れた眼で睨みつける。

「これで貴様も終わりだ!
 ちゃあじる・さいふぉどん!」

空から桐山へと切っ先を向けるのは巨大な一振りの剣。
剣を柄もなしに掴んでいるのは水晶の女神。
水晶に映し出されるのはこの一日でティオが受けてきた痛み。

少年と闘い、敗れ。陵辱されかけ。
次には蒼星石と闘い、首元を打たれ。
友の死を聞かされて決定的に狂い。
奇妙な格好をした片腕のない少年を殺し。

そうして育まれてきた怒り、憎しみ。
次第に女神の顔が安らかなものから憤怒に染まり。
一つの鬼女の貌へと変貌を遂げた。

「これは……」

桐山の目の前で威容を露にする巨大な剣。
大きさは銀嶺すらも
凌駕する術に秘められたのはどれほどの感情か。

「無理だ」

ここまで来たらどうしようもない。
常人よりも遥かに優れた脳を持つ桐山は冷静に判断する。
蟻が人に踏み潰されるしかないように。

人は魔王の怒りには甘んじて受けるしかない。

奥の手を使わせただけで上出来か。
納得する桐山を叱咤するように
二つの光が桐山の周囲を舞うが

「真紅とともに逃げろ」

そう言って桐山は両手を降ろし、死の結果を受け入れた。

221花弁も遺すことなく    ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:00:13 ID:7ezHla6k0

マルコが完全に消した曇り空。
青空だけを遺して心地よい風が桐山の肌に触れる。

「お前たちに会えて悪くはなかった」

学生服を着た少年はそう言って。
地面に座り、最期の時を受け入れようとし――

「なんだ!? 何が起こった!?」

小四郎の声を聞いて桐山は剣に向けていた虚ろな瞳を下ろした。

そこにいたのは小四郎と少女。
そしてアムルタート。

「戦場は死んだか」

金糸雀が生を願っていたもう一人が死んだことを知り。
桐山は思わずため息をついた。
ため息をついたのは十年ぶりではあったが。

だが死を待つ桐山とは裏腹に事態は進行し、
頭を抱えて、苦しむ小四郎は何かを押さえ込もうと吠え続けている。

「馬鹿な…………娘の心に直接……!?
 そこまでするか……そこまでして何になる!」

小四郎の胴体を覆っていた少女の顔に動揺が走り、
異様な声とともに小四郎の体を覆っていた鎧が収縮を始める。

「戦場ぁぁぁぁぁぁ!!」

「諦めないでカズオ」

桐山の前に現れたのは真紅。
そのドレスは傷だらけになり、
表情にも色濃い疲労が見える。

「真紅……」

せめてもの抵抗か。
宙に浮かぶ剣の後ろに逃げた小四郎は
徐々に小さくなっていく剣を無理矢理に発射させた。

「あの子を助けたいのでしょう?」

「それは金糸雀の意思だ。
 お前がそれに尽くす道理はない」

真紅を庇おうと前に出ようとした桐山。
だがその寸前に出されていた
真紅の足に引っかかり、みっともなく転んだ。

「何故だ」

「私に任せなさい」

「蒼星石といいお前といい。
 どうして俺の言うことを全く聞こうとしない」

「私の闘いだもの」

地面に倒れた桐山の頭を撫でて。
真紅は毅然と一つの災害にまでなった大剣に対峙し。

右手を弓師のように伸ばして叫ぶ。

「特攻形よ。ハルワタート!」

222花弁も遺すことなく    ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:02:53 ID:7ezHla6k0

傍らにつき従う仮面の護神像が姿を変えて。
流れて廻る三角錐へとなるシルエットを組み直す。

「鋼鉄を抉りなさい!」

次の瞬間にはハルワタートを駆る真紅と
剣を放つ小四郎の激突が始まっていた。

真紅とハルワタートの一撃は
ドリルが岩を砕くように掘り進んでいく。
削られ、滓になった剣の粉は空中で砂のように消えていく。

だが、それでも足りない。

アムルタートがティオを主として“願い”を直接注ぎ込もうと。
真紅が防御を捨てて全てのちからを一撃にしようと。

錐となったハルワタート。
残る水すべてを使い、回転しようとも穿つには至らない。

「伊賀忍とは!
 己の忍術に拘らず!
 任務の為にはあらゆる駒を使う有能な忍!
 己の術に胡座をかき続ける無能はいないと知れ!」

忠義の狗が叫ぶとおり、
ハルワタートの水は激しい勢いで弾け、
雨のように地面に滴り落ちた。

それでも真紅の勢いは止まらない。
水が剥がれ落ち、他愛もなく貫かれるはずの人形を護るのは
七原秋也から受け継いだヴァルセーレの剣。

最後の破砕音とともに真紅は剣を真っ向から穿ち。
上空に浮かぶ水晶に最期の力を振り絞り、刃を突き立てる。

「貴女の苦悩をわかることは私には一生できない」

水晶に罅が入り、刃の雨に打たれ続けた
真紅の体が光に照らされた。

「でもこのままにはさせないわ、絶対」

桐山の眼に映ったのは上半身だけ。
それも左側を丸々消失した姿。
下半身は鋼鉄の雨に混じり既に落ち。

ずたずたに斬り裂かれたドレスの裾も捲れ上がり。
球体関節は関節から先が亡くなっていた。

「《究極の少女(アリス)》なら、できたのかしらね」

「おまえの抱いているものが何なのか。
 俺には理解できない。
 きっと昔の俺にもなかったものだ」

崩れ落ちた真紅を両腕で捕らえ。
桐山は語りかける。

苦痛に呻く、小四郎の声は気にならない。

ただ。

――FINAL VENT――

ただ潰えるのが見たくないという想いがある。
この腕の中でまたもや消えていこうとしている
美しい何かが抱いていたものを更なる高みにあげてやりたいという想いが。

「喪いたくない。忘れたくない。
 そう”願う”のが悪くない。いや、いいと想える」

剣の欠片は今、強靭なる弦に編まれ、一本の綱となっている。
短時間でそれを為したのは桜田ジュンの技術を学び、
伊賀忍、夜叉丸の弦を持っていた桐山だからできること。

一台のバイクが真紅と桐山を乗せて小四郎の元へと走る。
大地から伸びる弦の先はアムルタートに結びつけてある。

故に、途切れずに。
一直線に水晶へと走りぬけ。

ついにはチャージル・サイフォドンを壊した。

壊れた般若像の先にあるのは。
小四郎から分離し、離れた少女、ティオの姿。

「これが《誇り》か」

それを必死に手を伸ばし、抱え込み。
桐山はバイクに跨り、双刃を煌めかせ。
小四郎の横を一瞬で駈け抜けた。

後に跳び上がったのは小四郎の首。

「ならば、真紅。
 おまえとともにいたことを《誇り》に想う」

焦げ付いた草原、
轍となって残るのはともに駆けた証。
けれど、学生服に戻った少年の腕からはすでに、

真紅の姿はなく――

223 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:03:20 ID:7ezHla6k0

次で最後です

224深淵での邂逅   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:07:24 ID:7ezHla6k0


晴々とした蒼天の下。
完全に変身を解いた
桐山の腕に眠っているのは
桃色の髪をしたあどけない表情の少女。

桐山が守ろうとした薔薇乙女は
二人とも灰になり空へと還り。

清々しい風に頬を撫でられた桐山は眼瞼を細めようと――

ぱち、ぱち、ぱち

拍手の音が響いた。

ここは何もない開けた空間であるはずなのに。
まるで小さなホールの観客席から送られたかのように。
その拍手は何度も桐山の耳元で木霊した。

橋の向こうから一人の少女が歩いてきた。
雪と熱量が何度もぶつかったことで辺りに
濃密な霧が漂っていたことに桐山は今更だが気づく。

それはセーラー服を着た少女だった。
外見的には桐山の少し上、くらいか。
長い髪をなびかせて、両の手を高らかに打ち鳴らして。
その少女はやって来た。

「こんにちは、桐山くん」

桐山が瞬きをした瞬間にはその少女は目の前にいた。

人差し指でこつん、と額をつつき顔が密着した状態で
少女は静かに口の端をつり上げた。

「水銀燈と一緒にいたのよね」

「……おまえを……知っている。
 柿崎…………めぐ」

少女、めぐは意外そうに眼を丸くして。
桐山から少し離れた。

「…………私のこと、聞いていたの?」

「ああ、水銀燈が最期にお前のことで――」

桐山の言葉が言い終わる前に。
世界が廻り、太陽が顔を真っ直ぐに照らしつけた。

「ああ、ごめんなさい。
 口を動かすような反応しちゃって。
 でもべつにいいのよそんなことは。
 あなたには何の興味もないの」

――くす、くすくす

どこかから囀る声が聞こえる。
それは嗤っている声であり。
なのにどこか茫洋と響いていた。

視界にあるのはめぐと少女とアムルタート、
そして桐山を選んだハルワタートのみ。

もう一つの声を発する者には心当たりは――

ばき、とアムルタートの体が大きく歪んだ。

その音の意味を探ろうと顔を動かしても首は少しも動かない。

「おとなしくして」

耳元に吐息とともに囁かれた気がしたが。
実際は気のせいだ。

なにせめぐは今、桐山の顔を裸足で踏みつけているのだから。

「わたしはね、男が嫌いなの。
 だって蹴ったりぶったり乱暴でしょ?
 桐山くんがさっきまでやっていたみたいにね」

裸足の脚は太陽を知らないように細く、白く。
太腿が動くとスカートが付け根付近までめくれ上がった。

桐山の鼻が足の指でつままれ、徐々に力が込められていく。

225深淵での邂逅   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:11:13 ID:7ezHla6k0

「でもね、女の子はそんなことをする必要がないの。
本当は痛いことなんか少しもせずに、
もっと簡単に傷つけることができるのよ」

体が動かない。
思考にノイズが走って。
眼に映るものすべてが明滅して全体を捉えられない。

「ねえ、桐山くん」

鼻をつまんだ足の指が眼瞼の方へと移って。
唇に土踏まずの感触が圧迫とともにやってくる。
柔らかい足の裏に体重のすべてが乗せられて。

「くすくす」

「あなたを、傷つけてあげる」


自身の体をよく見渡せば、
真っ白の茨に全身縛り付けられたのがわかっただろう。

そして、

三つのローザミスティカを手にした白薔薇の乙女が
桃色の少女とめぐを連れて立ち去るのも見えただろう。

だがその時には、
桐山の意識は乱れ、犯され、深いところまで落ちて――


【筑摩小四郎 死亡確認】
【真紅 死亡確認】
【残り 16名】

【ティオ@金色のガッシュ!!】
[状態]:???、《願い》インストール済み
[装備]:アムルタート@waqwaq(?)、マルコと愛のエンゲージリング@未来日記
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:…………
※一度、ブックが死んだことにより狂戦士の術は解除されました。
※アムルタートの中には白薔薇が潜んでいました。
  中の状態がどうなっていたのかは不明です。


――――。

226深淵での邂逅   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:13:41 ID:7ezHla6k0

そこは落ちた先だったのか。
落ちた底の底。水面を超えた底にいるのか。

目が覚めた時には見知った場所にいた。
見知ってはいるが、ひどく懐かしいところ。

そこは教室。それも城岩中学校3年B組。
桐山も所属していたところ。
なのに、今では多くのことが思い出せない。

正確には思い出せないのではなく。
今の自分との違いが大きすぎて
別人の記憶であるように感じてしまうのだが。

「よぉ、桐山」

声が聞こえた方に目をやると、
一人の学生服を着た少年が椅子に座っていた。

「まぁまぁ、立っていないでここに座れよ」

気軽そうにすぐ後ろの席を引いて
桐山を促した少年、その顔は仮面に隠されて見えない。

「…………」

「大変だったんだぜ?
 おまえの心がかなりギリギリまで裂かれていてさあ。
 咄嗟にここに連れてきたってわけ。
 あ、俺ハルワタート、よろしくな。
 んで俺が今からお前に話すのはこれからの――」

「待て」

「何だよ?」

「おまえ…………七原だろ」

促されるままに席に着き。
弾丸のように繰り出される言葉の数々を
最初は黙って聞いていたが耐え切れず口を挟んでしまう。

「…………こほん。
 いいか桐山。よく考えるんだ。
 これはあくまで例えだけど最強を打ち倒した
 ルックスもイケメンな革命家兼ロックンローラーが
 かつてのライバルの危機に素性を隠して手助けする。
 ジョン・レノンも言ってたように大事なのは想像だ。
 いいか、想像してみろ。今の俺、最高にロックじゃないか?」

ハルワタートの仮面をかぶった謎の少年の答えに
桐山は顎に手をあててしばし物思いに耽る。

どれほどの時間が経ったのか。
ようやく顔を上げて桐山は言った。

「それで、お前は七原なんだな」

おぅ、と妙にどこかにかぶれてきたように
仮面に手をあてて天井を仰いだ少年は肩を竦め。
これだから、と言いたげな口調で桐山を諭した。

「いいか桐山。よく聞いてくれ。
 俺が誰だろうとどうでもいいと思うだろ。
 それって根本的な解決になる話じゃないよな?」

両肩をばんばんと勢い良く叩いてきたハルワタートを名乗る少年。

しかし、桐山の反応は芳しくなく。
無表情で今いる教室を見渡した。

記憶どおりの展示物。
机に刻まれた落書きの正誤は
桐山の記憶と照らしあわせても半々。

不思議とある男の席の周囲に近づけば近づくほどに
正解が多くなっていくのだが
少年の言葉を信じるのなら関係ないのだろう。

天井には蛍光灯が明々と点いている。
窓からはぎらぎらと照らす太陽の日差しが差しこんで
教室内を明るくするので本来の役割はあまり果たしていない。

後ろにあるロッカーに目をやれば
ある一人の男の番号にうず高く海外の雑誌が積まれてあった。

ハルワタートの言葉を何度も反芻し。
桐山は結論づけた。

「いや、十分に重要な問題だと思う」

227深淵での邂逅   ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:17:16 ID:7ezHla6k0


【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷、廃人寸前
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、
     ハルワタート(俺と桐山でそんなに意識の違いがあったなんて……!)@waqwaq
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     エディアール家の刀@waqwaq 、夜叉丸の糸@バジリスク、首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:ハルワタートと話をする
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。

228 ◆1yqnHVqBO6:2012/05/26(土) 23:17:36 ID:7ezHla6k0
以上で投下終了です

229名無しさん:2012/05/28(月) 10:51:32 ID:sHuvZZDUO
投下乙です
シリアスなのに桐山が原作のジュンみたいに踏み踏みされてるところ想像してシュールさに吹いたw
久々に七原が出てきて嬉しかった(小並感)
七原は桐山を友達認定してたし、今度は友情の概念でも思い出しそうだな

230名無しさん:2012/05/28(月) 17:22:10 ID:ffS7PSiE0
投下乙です
桐山www あの踏み踏みネタがこうなるとはw
七原はバトロワ原作から大きく変わった桐山を友達認定したが…
同じ原作のキャラが近づくのはなあ。嫌な予感もするなあ

231 ◆1yqnHVqBO6:2012/06/09(土) 13:59:55 ID:OlWoDhYA0
投下します

232見つけに行く  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/09(土) 14:01:30 ID:OlWoDhYA0

「とりあえず言うとな。
 俺はお前を選ぶつもりはなかったんだよ」

仮面をつけた学生服の少年、ハルワタートが言う。

「秋山蓮、仮面ライダーナイトが
 水銀燈のローザミスティカから力を受け取ることができたのは
 たぶんだけど無意識の海で“献身”の領域に足をひたしていたからだ。
 けれど殺し合いに迷っていたナイトは重なりあっていた面がズレ始めていた」

一つの机に椅子を向かい合わせて顔をつき合わせている
光景はかつての桐山和雄とハルワタートの関係からは
想像もつかないのどかなものだった。

「桐山、お前の心は今の今まで限りなく透明だった。
白紙のほうが近いかもしれない。
そんなお前だから薔薇乙女のローザミスティカと通じ合うことができた。
白紙の心に魂、魂魄である
ローザミスティカの情念をそのまま焼きつけていたんだからな」

「それが俺を選ぶつもりがなかったのとどういう関係があるんだ」

「相性の問題だよ。
護神像にためられた“願い”の奔流は
ようやく芽生えたお前の心には刺激が強すぎる。
とは言ってもあくまで俺の見たてにすぎないんだけどさ」

「もしも、お前から“願い”を引き継ぎ、
 それに耐えられなかったらどうなる?」

「……お前は“七原秋也”になるだろうな」

桐山の問いにハルワタートは腕組みをして
苦しげに重く答えた。
ハルワタートの答えを聞いた
桐山は少しの間、視線を彷徨わせて、口を開いた。

「…………そのほうがいいのかも――」

「ストップ。
 それ以上言うな。それは絶対に無しだ。
 お前はお前でありつづけるんだ。
 たとえどれだけ心の在り方が変わっても絶対に」

「だが護神像の力を使えないのは……」

「だからお前には“願い”をもって欲しい」

「“願い”なら水銀燈のものが……」

「それではまだ駄目なんだよ、桐山。
 お前だけの、あらゆる葛藤を踏み越えるだけの
 真っ直ぐな意志がないといけない。
 それがその子の想いとは別になってしまうとしても」

「“願い”……考えたことがなかったものだ」

「今までのお前のことを覚えているか?」

「言葉では表しにくいが。
 永遠に続く砂漠の中で生きていたように思う」

「けれど今のお前はそうじゃないんだ。
 できないことではない、きっとな」

机の上で手を組んでいたハルワタートは最後にそう言うと、
桐山の背後を指し示す。

「もう目覚めるころだな。
 川田の銃はお前が使え。
ローザミスティカは奪われているから気をつけろよ」

「…………ローザミスティカ。
 柿崎めぐが何を考えているのかわかるか?」

「さあねえ。
 俺、水銀燈のことよく知らないし」

「そうか」

「たださ」

椅子から立ち上がり、
罅が割れて光が入り込んできた天井を見上げた桐山は振り向いた。

233見つけに行く  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/09(土) 14:02:09 ID:OlWoDhYA0


「おまえの心が引き裂かれるとき。
 あの子がどんな顔をしていたか思いだしてみなよ。
 今じゃなくて。もう少し先でさ」

「やってみる」

罅が天井に及んで、
網目のように走り、ついには砕けた。
天井の先に見えたのは、濃い青色。
濃度が増した、漆黒に近いほどの青。

「七原」

「…………なんだ?」

「すまない」

桐山の要領を得ない言葉に
ハルワタートは苦笑して手を振った。

「気にするな。生き残れよ桐山」

そうして桐山が海へと昇り。
教室にいるのはハルワタートのみ。

「すまない、ね」

桐山の言葉を思い出して、
ハルワタートは笑みを浮かべた。

「あいつからそんな言葉を聞くなんて」

――くすくす

虚ろに寒々しい声がハルワタートの
すぐ隣から聴こえてきた。
見るまでもなく、
ハルワタートにはそれが誰なのかわかった。

「白薔薇か」

――喰べてしまえばよかったのに。
   おかしなおかしなお兄さん。

「俺にそのつもりはないよ」

指が伸びて、ハルワタートの仮面に触れる。
小さく、頼りない指が静かに仮面を外して彼の顔を露にする。

――かわいそう

ハルワタートの素顔に指を這わせて、
眼から流れる雫をすくい取ると口に含む。

――体を喪っても涙を流してしまうなんて。
   けれどそれはただのあなたがそう認識しているからの幻。
   だからその涙には味がしない。
   悲しみで声と体が震えることもないの。

体をハルワタートに寄せて、
口の端を吊り上げた白薔薇はせせらわらう。

――どうして喰べないの?
   彼は貴方のザーバウォッカだったのに。
   
「アリスはザーバウォッカと
 物語が終わっても出会っていなかったんだよ」

両眼から溢れるものを拭うことなく、
ハルワタートは滔々と話す。

「つまりはそういうことさ。
 お前と同じにな」

――くすくす

ハルワタートが身を離したときには
白薔薇の気配は領域から消え失せ。
彼の精神そのものである教室だけがそこにあった。

喧騒のない教室、
窓の縁に寄りかかって。
ハルワタートは目元に触れて。

「…………真紅」

死した友を想って心のままに慟哭した。

234見つけに行く  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/09(土) 14:07:24 ID:OlWoDhYA0

【B-2/一日目/夕方】

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、レミントンM870(8/8)、
     ハルワタート(俺と桐山でそんなに意識の違いがあったなんて……!)@waqwaq
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     エディアール家の刀@waqwaq 、首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(8/8) 、
     レミントンM870の弾(16発)
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:起きてから考える
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります

235 ◆1yqnHVqBO6:2012/06/09(土) 14:07:43 ID:OlWoDhYA0
以上で投下終了です

236 ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 00:56:16 ID:yTzrw2Zg0
主催者だけの話を投下します

237参の支配者《歴史の道標》《クイーン》《ジョーカー》  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 00:58:54 ID:yTzrw2Zg0


 【巻き戻し】


「悪いな、坊主」
「え?」

銃口がワタルの眉間を狙っていた。
即座に引鉄が引かれた。額に赤い穴が開いた。
自分の身に起こったことが絶対に信じられない顔のまま、ワタルはゆっくりと仰向けに倒れた。
手にした剣の刀身が陽炎のように揺らぎ、霧散した。


【一時停止】


くちゃくちゃ。
ずずずっ。
咀嚼する音と血を啜る音が
灯りの一切ない地下室にて木霊する。

音の主は褐色肌の少女。
外見だけなら10にも満たないだろう幼さ。
しかし、彼女の続けている行為が醸しだす臭いは
その場にいた者の鼻孔を一度刺激すれば10日はとれないだろうもの。

ぼり、と少女の口の中で骨が砕ける音がした。
その骨は大腿骨であり、
本来ならば小さな口には入らない大きさ。

けれども少女は人にはありえないほどに
大きく広げた口で噛み砕く。

しかし、固形から液体にまで磨り潰したものを飲み込まずに
その場で吐き出すと少女は次の素材の吟味にとりかかった。

「……ひぃっ!」

小さな弱々しい悲鳴は少女が掴んだ肉の口から。

「ま、待つんじゃ。お主も儂らの協力者じゃろう?
 なのに何故このようなことを」

最後まで聞くことなく少女は肉を丸呑みし、
大きく口を動かす。

断末魔は少女の口の中から聞こえるが
構うことなく咀嚼する。

だが何かに気づいたのか少女は動きを止め、
口の中から赤くぬめった塊を吐き出した。

「膵臓……」

掌で数回転がし、ためつすがめつ眺めると
愉悦の笑みを浮かべてそれを虚空へと消す。

「まだ続けているのか」

これはまだカントリーマンが来訪する前のこと。
故に扉の鍵は閉まったままであり。
そこには誰も来れないはず。

「部屋が肉片で埋まっている」

卒倒する光景にも来訪者、神崎士郎は眉ひとつ動かすことなく。

「あれは持ってきたのかえ?」

少女の問いに無言で付き人を促す。
来訪者、神崎士郎に付き従うのは
金色のアーマーに身を包んだ謎の仮面ライダー。
両腕に抱えていた死体を少女の隣に下ろすと神崎士郎の背後に戻った。

「ごくろう」

「…………何をするつもりだ」

「人形を創るための素材の厳選をしておる。
 同じ魔の者どうしならば、口内で吟味するのが一番よ」

「違う」

冷然とした眼つきで周囲を見やると、
本来のこの部屋の役割だった首輪盗聴のデータを集める装置がある。

「誰を殺すつもりだ」

238参の支配者《歴史の道標》《クイーン》《ジョーカー》  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 01:00:23 ID:yTzrw2Zg0


【早送り】

「呆気ないなあ」

「殺気は見事。
だがそれだけだ」

【再生】


神崎士郎が去り。
褐色肌の尻尾が生えた少女はひとり黙々と肉を喰い続けている。

「ひぃっ!」

「おねがいじゃ! 見逃してくれ」

「なんで儂がこんな目に!?」

悲鳴、命乞い。
すべてを一顧だにせず、喰らい、砕き、吐き出す。
その中でこれはと思うものは歯を突き立てず器用に掌へと出す。

「もう少しじゃ」

恍惚と頬に手をあてて。
恥じらう乙女か、桜色に紅潮した顔で
少女は上階に位置する繭を見上げた。

「ワタルよ。もう少しじゃ。
 もう少しでそなたの仇が討てる」

しかし、《勇者》ワタルを殺した男はもういない。

「誰じゃ。誰がそなたを殺した?」

元は別の役割のために用意されたこの体と
任された無数の枝分かれした悪魔たち。

少女の首には参加者を意味する首輪はどこにもない。

「最強の旅人かえ?」

否、チャンはもう死んでいる。
死んだからこそ素材に戦場から持ってきた。

「電龍駆る魔王かえ?」

否、ここにある記録装置により。
ガッシュは無力な少年に謀殺されたことを知った。

「ならば白銀の雷帝かえ?」

否、少女はたしかに
雷帝ゼオンが屠られるのをこの目で見た。

「眠れる牙持つ炎龍の戦士かえ?」

否、城戸真司は闘うことなく
諦めに身をやつした少女のために生命を散らした。

「かつての戦友、魔物使いにかえ?」

否、時代のずれにより
ブックはワタルに勝つ力を持たずして死んだ。

「ならば」

俯いた少女は奥歯を噛み締めて
困惑と憎悪に満ちた声で言の葉を紡ぐ。

「誰が殺した?」

239参の支配者《歴史の道標》《クイーン》《ジョーカー》  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 01:01:03 ID:yTzrw2Zg0





【巻き戻し】


「悪いな、坊主」
「え?」

銃口がワタルの眉間を狙っていた。
即座に引鉄が引かれた。額に赤い穴が開いた。

【停止】


「否! そのようなことがあろうはずなし!
 幾多の戦士をくだしてきた強き勇者が!
 このような形で終わるはずがないであろう!?」

腕を振り回し、床に積もった肉と血の海を蹴り。
少女、オンバは部屋中を叫びまわる。

「仮に、仮にその爺がワタルを殺したとしよう!
 ならばこの妾の手で爪を剥ぎ。
 歯を砕き。内蔵の全てを蹂躙して尚殺さず!
 じわじわと耳と鼻を削ぎ、
 命乞いにのたうつ舌を引っこ抜いてから!
 殺さねばなるまい! 希望を絶やした罪を、償わせてくれよう!」

240参の支配者《歴史の道標》《クイーン》《ジョーカー》  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 01:02:50 ID:yTzrw2Zg0


【早送り】



「呆気ないなあ」

「殺気は見事。
 だがそれだけだ」


【再生】



「ありえぬ!
 あってよいはずがない!
 勇者とは人を救う者! 人を護る者!
 人に愛される者! 女神の寵愛を受ける光!
 こんな、こんな形で潰えることを誰が望む!?」
 
金切り声とともに顔中を掻き毟り。
オンバはひたすらに何かに問う。
まるで救いを求めるかのごとく。

「いたわしやワタル。いとおしやワタル。
 妾のために唯一涙を流してくれたそなたが。
 痛かったろう。苦しかったろう。辛かったろう。
 待っておれ。そうじゃ、妾がこの手で仇を……」

自嘲する勇気はない。
己の愚かさでどうすれば輝きを失った愛する者を慰めてやれる。
オンバには何もできない。

だから。

「…………ああ、そうじゃ。
 そうなんじゃワタル。
 そなたと妾の世界を創ろう。
 永遠に妾がそなたを愛し続けよう」

その手に握られているのは彼女の肉体、
ムルムルが持っていた剣。デウスの秘宝の一つ。
忘却をもたらす剣。

《赤き血の女神(クイーン)》我妻由乃ならば自力で
それをやれようが。オンバにはそこまで狂うことはできなかった。

狂う、自我の混濁。
勇者を愛することの滑稽さを誰よりも理解していたから。
今の彼女こそが狂った形ではないのかと思えてしまうから。

だからオンバは手にある剣で己の喉を――

241参の支配者《歴史の道標》《クイーン》《ジョーカー》  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 01:04:26 ID:yTzrw2Zg0


【メニュー】


この記憶・記録を削除します。
よろしいですか?


【はい/いいえ】


そこは地下。
カントリーマンがやってくる少し前。

そこにはひとりの少女がいた。
褐色肌で血の海に浮かぶ幼く純粋な娘がいた。

「…………死んでしまったのじゃなワタル」

眼からつたう涙は頬から血の海へと落ちて、赤に溶けていく

「我妻由乃は死んだ」

その顔には何かから解き放たれたように
安らかな表情が浮かんでいる。

海の底には電気のコードが蛇のように這っているが
その先にあるはずの装置は“何故か”どこにもない。

「《歴史の道標》、《ジョーカー》は勝利を掴もうと足掻いておる」

囁く口の端からは砕かれた機械の残骸が覗いている。
しかし、オンバは指で摘むと飲み込んだ。

「仇は討とう。
 殺られたままでは悔しかろう?」

ざぱん、と水の抵抗を感じつつ。
オンバは起き上がった。

「これは祝福された道よ。
 おさなごころの君を超えるための」

すっ、と音もなく浮かび上がると
粘着く血液が細く水柱となって立ち上がる。

「ならば依代は決まっておろう。
 なあに、そなたとそっくり同じではない。
 白薔薇から教わった技術は中々に高度」

傍らに浮かぶ土左衛門、甲賀弦十郎の眼球を抉り出すと
舌舐めずりして官能に身悶えする。

「ワタル、ワタル、ワタル。
 誰に殺されたかもわからぬなんて不憫極まりない。
 だが安心するんじゃ。蜃気楼のように消えた我が幸福よ」

炯々とぎらつく両眼はまだ正気を喪わず。
オンバは未だ――

「皆殺しにすれば仇は討ったことになろうてなあ?」

未だ――



【メニュー】



消去されたデータを復元しますか?



【はい】




           ――女神が勇者を見捨てたのならば!――

         ――《魔姫(クイーン)》なる妾が愛するのみ!――

 ――たとえ、勇者を腕に抱く妾が醜悪と蔑まれることを知っていようとも!――



【失敗】

242 ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 01:04:41 ID:yTzrw2Zg0
以上で投下終了です

243 ◆1yqnHVqBO6:2012/06/13(水) 01:18:32 ID:yTzrw2Zg0
>>241
>
> 傍らに浮かぶ土左衛門、甲賀弦十郎の眼球を抉り出すと
> 舌舐めずりして官能に身悶えする。


甲賀弦之介です。

さすがに恥ずかしいので訂正

244 ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:30:18 ID:h8N.aQOQ0
投下します

245老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:31:59 ID:h8N.aQOQ0


  「私がすっかり変わっちまったと。
   何故、以前の俺を知らないあんたに言うことができるんだい?」

  いかにも、と。白髮鬼は言った。

  「おまえさんの服は泥まみれで
   見かけも振る舞いも取り繕ったものではない。
   偽善者であるならばすぐさまわかったじゃろう。
   もっと言えばもしお前さんが根から変わっていなかったのなら
   そう遠くない将来に少なくとも振る舞いだけは人殺しに戻っただろう。
   服や見かけはどうあろうともな。
   何故なら、偽者とは上辺だけゆえに
   思想を変える勇気を持ち合わせとらんからじゃ。
   城戸真司がお前さんの心に刻んだ思想はしっかりと根づいておる。
   魂に刻みつけられとる。もはやそれはお前さんの宿命じゃ。
   憐れな者よ。
   お前さんはこの世界では最も救い難く、目も当てられない敗者だ」

246老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:33:24 ID:h8N.aQOQ0



建物の外で轟音が響いた。
音は風として病院に打ちつけて、
白髪鬼がいる部屋も少しだけ揺れた。

「爺ィ!」

ドアを勢い良く開けて血相を変えた
翠星石が息を切らしてやって来た。

「カントリーマンは戻ってきたか?」

「まだですよ!」

音が来たのは東から、
闘っているのはカントリーマンと何者か。
ヨキという防人ならば最悪のケースだ。

「すぐにここから離れるぞ。
支度はできているかね?」

「ちょっと待つです!」

身を翻して突進せんばかりの勢いで走りだした
翠星石を見送ると白髪鬼もリュックを背負い。
数枚のカルテに目を通すと折り畳んで懐にしまいこんだ。

「これは誰のさしがねか」

病院から出ると後から少し遅れて翠星石が続いた。

「何処に行くかわかっとるな?」

「え、でもまだカントリーマンが……」

「奴は奴で何とかするじゃろう」

空気が震え、また建物が倒壊する音が聞こえる。
舞い上がった埃は激流のように道路を流れ、
カントリーマンたちの視界を遮ってしまう。

「まだ逃げてねえのかよ!?」

翠星石を粉塵から庇った白髮鬼のまえに飛び出してきたのは
埃と汗で灰色の顔になっているカントリーマン。

「無事だったですね!」

「逃げられたのか?」

喜色満面にカントリーマンに抱きついた翠星石とは
反対にあくまでも冷静に白髪鬼は尋ねた。

「いや、闘ってるのは私じゃないみたいだけどよ」

首を振って否定するカントリーマンの背後で、
未だに倒壊していく市街地の建物。
病院が設置されているせいか人を多く収容できる建造物が多い。

「…………やられたな」

「まんまと炙り出されたというわけじゃな」

事態を呑み込めない翠星石が
カントリーマンと白髪鬼を交互に見上げている。

ズボンの端を握りしめた翠星石をそっと引き剥がずと
無数の手形に穿たれ倒壊していく建物を一瞥する。

「ヨキだよな」

「虱潰しに壊せばいつか出るだろうと踏んでのことじゃの」

会話にようやく追いついた
翠星石は表情を曇らせて俯いた。
そんな翠星石の頭を
カントリーマンの手が載せられ、勢い良く撫でた。

「気にするこたぁねえよ。
 どうせいつかはカチあたるんだ」

「今は……1430時か。
 桐山たちは置いて行くしかないな」

「そんな!」

悲痛な顔で翠星石は悲鳴をあげた。
それと同時に桐山達が行った方角から
山のように巨大な龍が立ち昇る。

雲に頭を埋めてもなお飛び回るその威容は
見る者を圧倒する迫力があり。
白髪鬼ですら、一瞬目を奪われる。

「最悪の事態になっているようじゃな」

他の二人にも聞こえただろう呟きだが返答はない。
代わりに返ってきたのは倒壊する建物群を掻き分け、押し潰して
なお有り余る力を奮う《ジョーカー》の宣告。

「見つけた」

既に護神像と合体しているヨキの顔は能面に覆われており、
窺い知れるのは溢れんばかりの鬼気と
スプンタ・マンユの能力の発動の予兆。

247老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:33:36 ID:h8N.aQOQ0



そして

「蒼星石!
 蒼星石のローザミスティカを返してもらうですよ!」

先の闘いで味わった恐怖と絶望がまだ抜けきっていないのか。
今度は白髮鬼の側で震えつつも、翠星石は声を張り上げる。

「どうして?」

「どうしてって当然でしょう!
 翠星石と蒼星石は双子なんですよ!?」

ヨキは能面をかぶったまま、
抑揚のない声でスプンタ・マンユの腹に触れる。

「蒼星石は君とは違い、闘いを受け入れていた。
 我がスプンタ・マンユの力になっているのは彼女の意志さ」

「う、嘘です!」

「安寧を求めているのは君だけだと何故気づかない。
 運命に従ったのは彼女の意思だ。
 ……君を選んだアールマティと同じくね」

「それはいいとしてだ」

旅人としての武器を構え、
一瞬たりとも目を逸らさずに
ヨキを注視してるカントリーマン。

よくねえです! と翠星石が反論したが
無視してカントリーマンは続けた。

「三対一だが。やるってえのか?」

「もちろん」

地面が嵐に放り込まれた小舟のように激しく揺れだす。
コンクリートの道路を突き破り、砕くのは無数の手。
その全てが必殺に近い威力を内包している。
対面する者の心胆を凍らせるに余りある最強の護神像の力。

「我が“願い”。運命、導からの自由のために」

手が三人に襲いかかり、
天蓋を白色の斑が隠してしまう。

それを体で守るのは分裂した白髪鬼。
稼いだ時間は僅か。
だがその隙に三人はその場を走り去る。
進むは1500時に禁止エリアになる南西の方角。

248老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:35:42 ID:h8N.aQOQ0


――――――――。



太陽は天高くあるはずなのに薄暗い一本道。
どぶねずみ色のコンクリートに残された足跡。
綺麗な足形が続く先を静かに慎重に歩く。

掌に握られたレーダーに反応があり。
脳の中に直接反応の主の姿がぼんやりと映し出される。

確認すると口元に笑みを浮かべてヨキは坂を登った。

「ごきげんよう、ご老人」

坂の上、少し開けた広場にあったのは老人ホーム。
その入り口の前に椅子をひとつ設置し、ゆったりと腰掛ける白髪鬼。

「誘いに素直に乗ってくれて感謝するよ賢者くん」

老獪な空気はそのままで白髪鬼
パンを数個まとめて頬張り、咀嚼し、水で流すと不快な顔をする。

「もっとマシなものを用意できなかったものかの」

白髪鬼の悪態には肩を竦めただけ。
ヨキは無機質な瞳を白髪鬼に投げかけたまま。

「アールマティ……の主とは知り合いだったのかね?」

飲み干したペットボトルをキャップと分別してビニール袋に入れながら
白髪鬼は何でもないことのように問いかけた。
その言葉にヨキはわずかに眉を上げた。

「何故そう思った?」

「ただの勘じゃよ。
 おまえさんに不手際があったわけではない。
 年寄りの眼力も捨てたもんじゃなかろ」

「私は貴方以上に生きているのだけどね」

「歳月の波に魂削られて至る境地もあるのじゃよ青年」

喰えない男だと内心吐露するも、
ヨキはあくまでも冷静に答えた。

「友の息子さ」

「翠星石を見逃したのは感傷かの」

髭を撫で、興味深げに眼を細める白髪鬼に
どう返答するかヨキは暫し考えた。
捉えどころのない、
それでいて底知れない鬼気を持つこの老人との会話を楽しむのも
心を疼くのを止めたヨキですら悪くないと思うことだが
生憎と今は時間がない。

「馬鹿なことを言うものではないよ」

ヨキが一歩進むと虚空に光が瞬き、
次の瞬間には白髪鬼がいた場所を手の嵐が荒らした。

しかし、ヨキの背後から突風が吹き付け、
ヨキの重心が大きく揺らぐ。
頭上に現れたのは一振りの剣を振り上げた白髪鬼。

249老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:37:56 ID:h8N.aQOQ0

今、老人は純白のタキシードから
荘厳な光沢を帯びたプレートメイルを身に纏い。
天高く跳び上がると、落下速度に身を任せ剣を振り下ろした。

斬撃を真っ向から迎え撃つのは当然、
スプンタ・マンユの無数の手。
夥しい数のそれがひとつに束ねられ、
槍と化して白髪鬼の剣よりも早く、遠くから攻撃する。

「消影(バニッシュ)」

目の前に槍の穂先が現れる直前に、
魔法を行使した白髪鬼はその姿を風景に溶けこませる。

しかし、消影はあくまで己の体を光学的に見えなくするもの。
槍は問答無用と白髪鬼を跡形もなく吹き飛ばし、
背後の老人ホームごと粉砕するだろう。

「合体だ。クシャスラ」

入り口を彩っていた花壇の花びらが吹き上げる竜巻に
渦となって散っていき、ヨキの視界を一瞬だが奪う。

目まぐるしい色彩で見通しが立たない風景から
吐き出される何発もの鉛玉。
不思議と正確にヨキのボディの装甲に当たった。

ヨキの斜め左前方から殺気がぶつけられ。
無条件に注意をそこに向けたのと同時に
右側面へと回し蹴りが打ち込まれる。
だが既に手の盾を展開していたヨキは無傷。

次に仕掛けられた攻撃は
ヨキを中心に全方位取り囲んだ集中砲火。
高低ばらばらの絨毯銃撃がヨキ、
引いてはスプンタ・マンユの動きを止める。

スプンタ・マンユの弱点、
それは属性が人であるが故の耐久性の低さ。
精密動作が可能な千手とスプンタ・マンユの変化を併せれば
応用性は無限大へと広がるが防御も
殆どは手を用いなければならない。

そんなスプンタ・マンユにこの弾丸の乱れ撃ちは致命傷になることは
ありえなくとも動きを鈍らせるには十分なものになっていた。

甲高い音がヨキの周囲で鳴りまわり、
ヨキの耳から聴覚を消す。
硝煙と鉛が潰れる臭いが
鼻孔を鈍く強く刺激して
脳神経の働きも阻害された錯覚を起こした。

「……舐めないでもらおうか」

銃弾を撃ち尽くしたのか、
未だ嵐に乗って
オーロラのように色彩豊かな垂れ幕の花弁。

それを掻き分け、潜り抜け、吹き飛ばし。
姿を現す無数の白髪鬼。

純白から白銀のフルメイルを装着したジジイ軍団は
背後に花嵐を背負ってスプンタ・マンユへと連打を仕掛ける。

「今の私は不服ながらも神の祝福を受けているんだよ」

ヨキの口から言葉が滑り流れると、
放射状に幾何の線が走り。
爺たちの胸に風穴を開けた。

ほどばしった線の正体は潰れた弾丸。
それを指弾に弾けばたちまち歪に相手を喰らう。
動きを止められた状態から
ヨキは最小限の力で分身を退けた。

「レーダーは身から離せば効果を喪い。
 探知は不可能となる。
 だが白の老練した鬼よ。
 想波を産み出すのは心の海を持つ者にしかできない」

十色が晴れた今、青空には雲の衣もなく。
チャンが消費した膨大な想波が呼び寄せた
闇の気配がこの場にいる者の心を蝕むのみ。

「……ふむ、赤き神の血。
 紅のワインをあおった漆黒の力とは素晴らしいものよ」

「それは誤解だよご老人」

剣道のように正眼に構えた白髪鬼に対して
やれやれとヨキは息を吐く。

「私達黒き血の人は
 元来、赤を遥かに上回る性能を持つ存在として造られた。
 この盆台の上でお前と私が対等に闘うことが本来おかしいのだよ」

「ほお」

「恍惚的無意識浸る同胞の中、
 初めて意識を持った私でさえ
 大幅にグレードダウンした力しかなかった。
 おそらくは、原罪意識が黒き血の人々には刻まれているのだ」

「それは儂ら人間に積まれたプログラムか」

「いいや。お笑い種なことに違う」

陽射しに黒色が混じり始め、
光が呑まれていく。
一瞬、ヨキの顔が黒塗りの球体となり。
自嘲に裂いた口元から
呪詛の重さに沈む言葉が紡がれる。

250老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:40:34 ID:h8N.aQOQ0



「我ら黒き血の人々が無意識に望んでいるのだ。
 己に不自由の楔を打ちつけ。
 十字架を背負いて赤の代わりに
 留まるのを求めているのだよ」

ゆえに、そう続けてヨキは勝負を決めにかかる。
分身と勇者の剣を同時に操るのは難しいはずだ。
想波の闘法を修めていない
白髪鬼は刀身を維持するだけにも集中が必要なはず。

「我が“願い”。
 神の祝福を受けずとも何者かになれる自由を得るため、
 世界の果実の収穫を」

興味深く耳を傾けていた白髪鬼も
対峙する者の殺気で空気が悲鳴を上げるのを感じ。
構えを改め、足を大きく前に開く。

「最後に儂の“願い”を聴いてくれんか?」

「ご自由に」

「楽しい老後」

「理解できないね」

舌打ちをきっかけに千を超えた万の手が
白髪鬼の体を蹂躙し消失せんと迫りくる。

踏み込んだ足がコンクリートの床を砕き。
すり足が砕けた破片を巻き上げて、
白髮鬼の剣は唸りをあげると産まれるは巨大な光球。

「醒天」

だが呆気無くも無数の手により光球は握りつぶされ。
ヨキの視界にも神々しき光を喪い。
姿を見せた白髮鬼の上半身が見えた。

「グランド・ブレイバー」

肩を抉られ、穴だらけにされて尚、
白髮鬼は怯むことなく前へと進み。
勇者の剣を握っていた腕もとうの昔に何処へと消え。

ぱちん、とヨキの指を鳴らした音が響いたときが
白髪鬼が人の形をしていた最期だった。

――ピッ

「狙いには気づいていたけれどね」

白髪鬼がいた場所には大きな血溜まりが出来あがり。
その上にはクシャスラが所在無げに浮かんでいる。
主に見捨てられたかのような憐れな姿。

――ピッピピピ

首元でやかましく電子音が叫ぶ。

時計を観るまでもなく。
今は1500時。
ついでにここは禁止エリア。

251老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:42:22 ID:h8N.aQOQ0

―――――――。



「時間だ」

カントリーマンは手首のスナップをきかせて
懐中時計の蓋を閉じた。
隣でとぼとぼと歩いている翠星石は沈痛な面持ちで頷く。

足止めを提案したのは白髪鬼であるし
自らを捨て石にするのを決めたのも本人だ。
つまり、翠星石が気に病むことではないのだが
これは彼女の性質によるものだろう。

なにか慰めの言葉を考えつこうと
頭を捻って脳の奥の奥から
何かいい案がないかと苦闘していた中、
翠星石が口を開いた。

「津幡共仁は……死んでしまったんですかね……?」

耳慣れない名前だと最初に思ってしまったが
それこそが白髪鬼の名前だったのだと思い当たる。
何故あれほどまでにこの名前がしっくり来るのだろうか。

交流したのは短い間だったがおかしな老人だったと
つくづく思い返した。
掌の上で踊らされていた感がかなり強いあの男。
旅人として殺し合いに従事していた頃ならば
何とか寝首を掻こうと夜な夜な頭を悩ませていただろう。

それでも良好な関係を築こうと思えたのは
城戸真司の影響を受けたためか。
翠星石が眠っていたときに交わした会話が
脳裏をよぎって、しこりを残す。

「敗者ときたか……」

翠星石も物思いに沈んでいたため、特に反応はない。
そのことに気恥ずかしい安心を覚えてしまう。

まったく腹立たしいくらいにのどかな風景だ。
空は天高く牧歌的な草原はなだらかな
斜面を形作り遠くまで続いている。
耳を澄ませば風の悲鳴だって――――

「…………ありえねえ」

驚愕、そして恐怖で息が乱れてしまう。

ありえない。
その言葉通り、ここに来れるはずはない。
接近速度から逆算しても禁止エリアには間違いなくいたはず。
そして白髪鬼の誘いを蹴ったならば死んでいるのは自分たち。

ならば、どうやって。

「元気だしたほうがいいですよ」

声がした方を見ると翠星石が小さな両手で
カントリーマンの手を包むように握っていた。

気の抜けてしまった彼女には異常を察知することができない。
だからこんな的外れな言葉をかけてきた。

なのに、どうして。

「悪い、翠星石。
 先行っててくんねえか?」

守りたいと想うのだろうか。
こんなに小さくて震えている手を。

翠星石はカントリーマンの言葉に
きょとんと首をかしげた。

「やっぱあんなジジイでも死なれると悲しいもんだぁね。
 けど泣き顔見られるのは爺の私でも恥ずかしいからよ。
 ちょっと先まで走っててくんねえかい?」

力強く翠星石の頭を撫でて。
小さな手にカントリーマンの玉を載せた。

深緑の袖がふわりと揺れて
まじまじと翠星石はカントリーマンの玉を見つめた。

「なんで、これを…………!?」

事態に気づいたのは自力でか、
それとも空を走るあの音を聞いたからか。

「ほら、行け。
 爺ちゃん、もう涙で前が見えねえよ」

肩を押しやると翠星石は弱々しく後ずさって首を振った。

「いや……いやです……」

手持ちの武装は旅人としてのものしかない。
“あれ”を渡すのは気が引けたが
白髮鬼は生き残る気でいた。

奴から逃げ延びた可能性も……ないとは言えない。

「レオと雛苺って奴と会いたいんだろ?
 友達と姉妹は大切にしとけよ。
 どっちも亡くして狂った奴を知ってるからよ」

そしてその一端をカントリーマンもたしかに担っていた。

生き残るべきはやはりこの“二人”だろう。

「楽しかったぜ。
 アールマティを連れて、行きな」

アールマティの単語を出されて
翠星石は顔をくしゃくしゃにしても頷いた。

「あばよ、楽しかったぜ」

笑みを浮かべて手を振ったカントリーマン。

最後に翠星石が大きくジャンプして
カントリーマンの頭に抱きついて。

顔中を涙と鼻水だらけにされたが
死んでいく荷物には重すぎもなく軽すぎもなく。
満足とはこのことを言うのかもしれない。

252老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:43:33 ID:h8N.aQOQ0


「すまねえ、城戸」

玉を四つ喪いすっかり貧相になった愛用のメス。
相手に届けるには封印魔法しかない。
使用制限が解禁された
こちらの殺し合いのルールには感謝もしておこう。

雲の向こうからやってきた小さな影は
重低音とともにカントリーマンの真ん前に降り立つ。

完全に舐めきっているのだろう。
影だったヨキは今や表情がはっきりと視認できる近さにいる。

――黒医伝術――

幾十もの手が現れると同時に
カントリーマンは宙に魔方陣を刻む。

爆発が辺りを揺らし。

立っているのはカントリーマンとヨキ。

――黒医伝術――

再度、筋肉の悲鳴を感じて。
病に蝕まれた身が軋み上げるのを無視して
封印魔法を行使した。

幾百もの手を消し飛ばし。
大地が光に燃え上がった。

立っているのはカントリーマンとヨキ。

――黒医伝術――

数千の手がカントリーマンの両腕を消し飛ばし。
喪った血液で視界が暗くなる。

それでも、最後には封印魔法がヨキの体に刻まれ。
“首輪を喪った”ヨキの体が破裂し。
砂のように霧散していく。

「――――」

なにか言おうとしたが何も言えない。
もう音は消え去り。
眼もほとんどが見えなくなった。

仰向けに倒れた
カントリーマンの眼に飛び込んできたのは人影。

それは誰か。
白髪鬼ならいいと思った。
城戸真司なら何を言うか迷った。
翠星石ならば内心とても嬉しい。

「実験につきあってくれてありがとう」

カントリーマンの顔を覗き込んでいたのはヨキ。
それも数人ではきかない。
最低でも数十人の。
最強の護神像の群れ。

「禁止エリアを用いるのは有効な案だった。
 実際は首輪を喪うことで闇を呼び寄せて死ぬのだけれどね」

柔らかに微笑んでヨキの群れは囁いた。

「爆発のダメージは寸前で首輪を外したから、ない。
 闇を呼び寄せるペナルティは私には存在しない。
 さて、どうしてかわかるかい。カントリーマン?」

「が、あぁっ…………」

「私は《JOKER》だからさ」


【カントリーマン 死亡確認】

【残り 15名】

253老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 22:48:16 ID:h8N.aQOQ0


【C‐4/一日目/午後】

【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、BMによる火傷 (処置済み)、
     スプンタ・マンユはクシャスラの能力使用可能
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、蒼星石のローザミスティカ、クシャスラ完食)
     @WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:動く。
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします



【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、護神像アールマティ@waqwaq、カントリーマンの玉四つ@ブレイブ・ストーリー〜新説〜
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:…………
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
※シオとヨキが黒き血の人であることを知りました。

254老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 23:03:51 ID:h8N.aQOQ0

これは賢人と鬼が対峙する前。
何か優雅なものはないかと白髮鬼が老人ホームを荒らしていたときのこと。

視界の隅で誰かが動く気配がして
迷わずそこへと銃弾を撃つ。

「いきなり銃なんて撃ったら危ないですよ!」

冷や汗を浮かべて銃弾を掴みとっている闖入者は少年の姿をしていた。
黒曜石の肌をして、黒色のシャツと革のパンツを履いていた中学生くらいの平凡な。

「すまんすまん。
 お前さんもいきなり現れんでくれよ。
 撃たれても文句は言えんぞ」

からからと笑うと銃口を改めて少年へと向け直し。
クシャスラを待機させ、相手の出方を見た。

「僕にはわかるんです。
 あなたが英雄を求めていることを」

「んん? 盗聴の記録でも覗いたのか?
 べつに大した秘密でもないぞ」

「そういう意味ではなくて」

「オンバ」

頭を掻いて困惑していた少年の表情は白髪鬼の言葉でぴしりと固まった。

「……何故わかった?」

「そもそも儂はその少年の死体見をとるんじゃが……
 カントリーマンからその名前を聞いとったし。
 タイミング的にはそれ以外なかろうて」

「おや、主がワタルを殺したのかえ?」

「いや違う。
 違うから殺気で家具類を破壊するのはよせ」

オンバの発した気迫、
想いが呼び寄せた波が周囲の家具を粗方壊しつくし。
老人たちの憩いの場を廃墟へと変える。

「あーあー。
 せっかくヨキくんと優雅に
 茶飲み室内決闘をしようと思っておったのに」

「御託はいい。
 妾には賢者二人を出し抜く手駒が必要ぞ」

胸ぐらを剛力で掴み上げ、
白髪鬼を持ち上げたオンバはそう告げた。

「ほお? 何故儂を?」

「おぬし、”願い”は?」

「楽しんで死ぬ。
 そのための英雄道よ」

「はっ」

窮地においても眉ひとつあげず答えた白髪鬼に
オンバは破顔し、獰猛に嗤う。

「それでよい。
 それでこそ鬼じゃ。悪魔じゃ」

白髪鬼を下ろしたオンバは
鬼の胸元に人差し指をあてて、上目遣いに見上げた。

「ゆえに勇者殺したであろう
 人やヒトモドキよりよほど信頼出来る」

そうして、白髪鬼とオンバは手を組んだ。

「妾に勇者の剣を献上すれば。
 お主に大義の道を歩ませてやろう」

たった一つの餌とともに。

「蜘蛛の糸に征き、コトどもを殺せ」

255老賢人に幕はおり  ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 23:05:51 ID:h8N.aQOQ0



【蜘蛛の糸/一日目/午後】

【津幡共仁@銀齢の果て】
[状態]:疲労(大)
[装備]:カードデッキ(龍騎)、サバイブ(烈火)、チャンの玉@ブレイブ・ストーリー〜新説〜
[道具]:基本支給品×3、簡易工具セット、輸血パック(各種血液型、黒い血のも)、
     ワタルを打ち抜いた弾丸 、月の石@金色のガッシュ!!、 レーダー@BTOOOM!、ワルサー予備弾×16、
     レオパルドン・パピプリオの首輪、ワタルの首輪(分解済み)、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:オンバの要求を呑み。英雄として行動する
1:これだから人生は面白い!!!!!
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ローゼンメイデンの事情をだいたい把握しました。
※バトルロワイアルの事情をだいたい把握しました。
※ワタルの首輪を分解しました。
 造りはガダルカナル22号と同じようです。

256 ◆1yqnHVqBO6:2012/06/23(土) 23:13:39 ID:h8N.aQOQ0
って、ああ
忘れてた。投下終了です

257名無しさん:2012/06/26(火) 00:16:01 ID:a7cajVLo0
いよいよ根幹につながる話が投下されてきたなあ。
七原ハルワタートにオンバ様乱入。
あいかわらずのヨキが無双して、白髪鬼は自分の愉悦のためにとことん動く。
真紅やカントリーマンが落ちていくことが嫌でも終盤を考えさせるなあ。

258 ◆1yqnHVqBO6:2012/07/07(土) 23:53:59 ID:kNDkdOR60
投下します

259PARADIGUM  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/07(土) 23:54:43 ID:kNDkdOR60


賢人が扉を開けば世界は知識を映しだす。
薄暗い広間の中、
茫洋とした足取りで大きめのコートを羽織った男が進む。
足音はない。無音。それ自体はだけれど。

その空間には音が響いていた。
周囲至る所に設置された音を流す機械。
臨場感を高めるためのそれは己の役割全うする。
全うして、今にも果てそうな声で叫んでいた。

「観客のいない映画館」

誰もいない。男がいるではないかと言うだろう。
だが男の正体を知る者ならば
迷いなくそこは無人だと断言する。

「今は……魔界の王を決める戦いが上映されているのか」

中央の席に腰掛け、スクリーンに映しだされる光を見る。
長いあいだ弟を憎んでいた兄の誤解が解かれ、
安らかな気持ちで脱落する場面だった。

「家族を捨てるのは一度でいい」

銀髪の少年の体が光に包まれ、天へと昇っていく。

「二千年の間、忘却を憎悪で補うことしかしなかった愚かな賢人よ」

視界に薄桃色の線が走り、
画面いっぱいに映しだされた
金色王の顔を両断する。

「世界の果実は未来のために」

指でその線を摘み上げると
瑞々しさを失った一本の髪の毛が
所在なげに宙をたゆたう。

「デウスの核はこの手中にある」

この映像を何者が放映しているのかはわからない。
コトはキクを用いて解析を行わせていたが
ゲーム管理の膨大な作業に追われすぐに興味を失った。

参加者がここに来た様子はない。
《赤き血の神(クイーン)》がここにいたのがわかるのみ。

「死に逝く世界の走馬灯」

断末魔に似た轟音とともに巨人が海を割った。

「だが俺こそは――」

260PARADIGUM  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/07(土) 23:56:03 ID:kNDkdOR60


―――――――――――。

 

――ああ、今も頭の片隅で泣き声が聞こえる。

これを最初に聞いたのはいつだったかわからない。

初めて人を殺した時かもしれない。
初めて人を陥れた時かもしれない。
両親を失った時からだったのかも。

その声はいつもどんな時もどんな場所でも
テロリスト雨流みねねの脳に木霊していた。

この声をやませるにはどうすればいいのか。
考えるまでもなくみねねにはわかっていた。
神を殺せばいい。信じる者も含めた全てを。

山のように人を焼き殺し、死骸の上でいくら笑っても。
頭にこびりついて離れないあの声は油断すると
鼓膜の機能をやすやすと踏み越えて心を引き裂いてしまう。

爆発が3m前方で起こり。
砕け散った手榴弾の破片が飛び交い、
これまたへし折られた車のドアを盾にしてそれらを防ぐ。

ザザッ、とみねねの手元からノイズの音が聞こえ
何よりも優先して日記の記述に目を走らせる。


################


8体のキャンチョメが&い掛かってくる。
%#$に賭けたみねねは烈火ガスを作動した。


################


「ああ!?」

目の前に突き出していた
ドアが溶接されたみたいに動かなくなる。
咄嗟に指を離したがもう遅い。

左右から同時にキャンチョメが飛び出し
雨流みねねに飛び込んでくる。
タイミングも速度も反応可能範囲を優に超えてしまっている。
躱すことはできない。

薄汚れた白色の服を着た少年の指先が
みねねに触れるか触れないかの瞬間。

みねねの親指は辛うじてスイッチを押すことが出来ていた。
掌にすぽりと収まる大きさの薬缶型のそれは瞬く間に
この場にいる二人を焼け爛れた皮膚にしてしまうだろう。

本能で危機を察知したのかキャンチョメは
ガスが周囲を包む前にBIMを奪いとると上空高くに放り投げた。

雲にも届きそうな高さまで突き進むBIM。
発生したガスが尾を引いてくるくると回る。

みねねはBIMの行方を確かめるのは放棄し、
一目散にキャンチョメから逃げ出す。

腕と脚を軋むまで必死に動かして
変わり映えのない風景の中、走る。

平坦な道を駆けるのは楽ではあるがそれは相手も同じこと。
魔物の子として常人より優れた脚力を持つ
キャンチョメの足音が背後にまで迫る。
背中に張り付く気配。


##########


キ*ン*ョ@に追いつかれた
!‘ねは再度烈火BIMを作動する。


##########


「何なんださっきから!」

未来日記に意味不明の文字化けが
混じっていることに悪態をつくみねね。
しかし忙しなく動く口とはべつに
既にBIMはすぐ下の地面に落としていた。

「こいつもおまけだ!」

いざという時のために
首元にぶら下げていた手榴弾のピンを外し。
振り返ることなくBIMへと投げ捨てる。

大きく後方に下がったであろうキャンチョメ。
烈火ガスタイプのBIMの弱点は射程範囲の狭さ。
この僅かな時間でそれを見ぬいたのは見事と
百戦錬磨の爆弾魔であるみねねは評価した。

だが手榴弾の爆発が
BIMをさらにキャンチョメの方へと弾く。
放物線を超えた直線の軌道で少年へと襲いかかるBIM。

261PARADIGUM  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/07(土) 23:57:36 ID:kNDkdOR60

起動の時が来た。
胴体に刺さるよう調節したBIMは避けようなく
分身したキャンチョメに当たるだろう。
的が大きくなったからこその手。

空が赤く燃えるとともに背後から
喉が焼け爛れた少年の絶叫が聞こえるだろう。

脳の中から少女の泣き声が聞こえる。

レオの言葉が蘇る。

「うるさいんだよ。
 どいつもこいつも」

いつのまにか足を止めていた
みねねは荒くなった息に胸を抑え。
キャンチョメがいた方を見やった。

声もなく死んだ少年。
罪悪感など存在しない。
自分が殺すまでもなく毎日どこかで必ず子供は死ぬ。
神を殺す“願い”のために殺すのと、どこが違う。
くだらない屁理屈で自分を正当化することは決してしない。

だが破滅思考に耽溺することしか知らない
みねねにはそんな思考が心地よく馴染む。

――ザザッ。


##########

手首%*ャ#チ、メが昇っ&(きた。
対応?きれない。

##########


「捕まえた!」

ノイズの音と同時にみねねの胸部に唐突に姿を現した
キャンチョメがみねねを羽交い絞めにして押し倒した。

勢い良く地面に倒れ、肺から空気が押し出される。
顔が苦痛で歪み、
滲んだ視界でキャンチョメの白色と空の雲が溶け合う。

「これでボクの勝ちだ!降参しろ!」

両肩を押さえつけて馬乗りになった
キャンチョメは緊迫した顔で叫ぶ。

顔についている嘴が弦のように
震えているのは恐怖のためか。
ウブなことだとみねねは失笑した。

「殺さないのか? あんだけ怒っておいて?」

「…………殺さない」

「へえ。そいつはお優しいことで。
 けど私達のだれかのせいで
 すでにお前の仲間は死んでいるかもしれないぞ?」

みねねはシニカルに頬を歪めてせせら笑う。

「とっくにお前の仲間
 ……ピンク色のチビが殺されていたら。
 お前が殺す気なくてもあの拳法チュー坊が私を殺すかもな」

「……じゃあ、ボクがヒロキを止める」

「へえ」

虫唾が走った。
どこまでも甘いガキだ。
こいつみたいな
ガキが人間の持つ憎しみを抑えられるわけない。
今も頭の中で少女の泣き声がわんわんと響いてくる。

「覚悟もねえガキが生言ってんじゃねえよ」

底冷えする声と貫くように
冷えきった鋭利な瞳がキャンチョメを震わせた。

「仲間を殺されりゃ報復で誰かを殺す。
 あたりまえのことだろうが!
 テメエはダチや身内喪った人間相手にも
 “みんななかよくてをとりあいましょう”と呼びかけるってのか!?」

「……そうだ!」

みねねの肩を押さえつける手に力が篭り、
肩甲骨がみしり、と音を立てた。
その気になればこの少年はみねねを楽に殺せるのだという証明。

「だって。誰かが殺された恨みで誰かを殺して!
 みんながそんな風になっちゃったら
 ボクみたいな弱虫はすぐに死んじゃうんだよ!!」

みねねの頬に雫が落ちて。
響きあうようにキャンチョメの背後に
顔を覆ってしゃくりあげる一人の少女が現れた。

「ボクは苦しんで救われなくなるような生き方は嫌なんだよ…………」

涙が溢れる瞳は弱々しく揺らめいていて。
少しでも強い風が吹いたら
たちまちに折れてしまうように思えた。

背後にいる少女とキャンチョメが重なってしまうのを
見るのがどうしても嫌でみねねは眼を閉じた。

「……誰かが死んだのか?」

「友達が……死んだ」

「そうか」

寒々しいほどに虚ろな裡を痛いほどに感じ。
みねねは眼を開けた。

262PARADIGUM  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/07(土) 23:59:05 ID:kNDkdOR60

「わかった。降参だ。
 一時停戦ってことにしてやる」

小さな声で呟いたみねねの言葉に
まだ警戒を残しながらもキャンチョメは
おっかなびっくり手を離した。

ゆっくりと起き上がって
みねねは解放された肩の痛みを紛らわそうと腕を回した。

「はあ、もうちょっと優しくしてもよかったんじゃねーの?」

「ご……ごめん」

「ははっ、冗談だ。気にすんなよ」

子供らしくしょげるキャンチョメに
みねねはあっけらかんと笑って頭を撫でた。
殺し合いをしていたときとはまるで違うみねねに
戸惑いを隠せなかったキャンチョメも次第に安堵の表情を見せる。


――ザザッ。


#############

白$+!=<&ダーに
*〜&は心臓を*+“た。

DEAD END

############


突然、声が出なくなった。
さっきまで撫でていたはずの
キャンチョメはかなり離れた場所へ突き飛ばされている。
みねねの腕が突き出されていることから彼女がやったようだ。

みねねがぼんやりと視線を下に降ろすと
胸から一振りのレイピアが生えていた。
滑らかに生えていたレイピアはみねねの体内へと戻り。
体内を異物感が駆け抜け、たまらず膝をついた。

「9th.雨流みねねだな」

純白の仮面と北岡のものに比べると
かなり軽量のアーマーに身を包んだ何かが立っていた。

  ――ADVENT――

「自爆でも仕掛けられたら困るんでね。
 安全策をとらせてもらう」

草原に広がった鏡面から
羽ばたいた機械仕掛けの白鳥がみねねに狙いをつけて襲い掛かる。

呆気ないほどに片腕が喰われ、
大量に血を喪ったみねねの脳から血が引いていく。

悲鳴の声が上がったのはみねねの背後から。
振り向くとキャンチョメが腰を抜かして立てずに眼を見開いていた。

「……げろ!」

上手く言葉を口に出せず。
夥しい血泡が舌を飲み込み。
烈火BIMを抱きかかえると仮面ライダーに突進した。

どくん、とみねねの心臓が大きく跳ねた。

それを他所に無情にも
みねねの片腕も白鳥に喰いちぎられた。
一思いに殺さないのは万全を期してのことだろう。

いつから観察していたのか知らないが
キャンチョメはどうにでもできると確信しているのだろう。
最悪、仮面をかぶっているのだから素知らぬ顔で近づくこともできる。

最後の力を振り絞って立ち上がったみねね。
烈火ガスは既に作動してみねね自身を包んでいた。
ちょうどよくトドメを誘うと接近してきた
白鳥は装甲がボロボロと焼け剥がれ、激痛に叫ぶ。

みねねの肺に否が応にも侵入する
烈火ガスは思わずごくりと飲み込むと
食道全てを焼け爛れたホースにした。

――どくん。

死の淵にあって活発化していく心臓。
それとは他所にたしかに溶けていく肌、皮膚。
ばさりと何かが落ちた。それはみねねの頭髪。
口を開けていないはずなのに零れた白いものは
失った頬を通って落ちた歯。

首を緩慢な動きで動かした
みねねはキャンチョメのいた方を向く。

今もまだ少女の泣き声が聞こえた。
そこにむかってゆっくりと脚を前に進め。
ガスが充満する空間を歩く。

泣き声がまだ聞こえる。
涼しけな風が肌を撫でて、
一瞬だがみねねからもキャンチョメが見えた。

少年とその隣で泣く少女。

キャンチョメの顔はもう見えなくなっても
少女の表情はまだ見えた。
とは言っても、顔は手で覆われて判断ができない。

263PARADIGUM  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/08(日) 00:00:33 ID:orVfjZIw0

――どくん。

今までにないほどの大きさで心臓が膨らみ。
みねねの下から巨大な掌が産まれ、
同時に苦し紛れの足掻きか機械仕掛けの
白鳥、ブランウイングがみねねへ突進した。

けれどもそんなことは少しも意に介さず。
みねねは少女を見つめ続けた。

「――ああ」

最後の最後に少女の手が下がって、
表情が露になった。

みねねの口が動き。
その瞳が感情を映そうとした。

けれど、ブランウィングの嘴がみねねの胴体を貫き。
みねねの鼓動も蠢く胎動も全て喰らい尽くした。

みねねが死に。
彼女に眠っていた因子を喰らった仮面ライダーファム。
心を通わせた敵を目の前で喰われた魔界の王、の卵。

同じ時を以って始まった彼らの権能は拡大し。
ついには《時空王》と《白色魔王》へと変容した。

「シン・ポルク」

少年の言葉とともに二人を取り巻く世界が歪み。
会話なくとも激突は避けられないと《時空王》は悟った。

二人から二柱へと拡大変容を果たし。
異なる“願い”を秘めて刃を向け合う。

共通した性質はただ一つ。



     ――無敵――

       ゆえに

 ――物理破壊は不可能― ―



【雨流みねね 死亡確認】

【残り 14名】

264PARADIGUM  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/08(日) 00:04:33 ID:orVfjZIw0


【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)、心の力消費(???)、シン・ポルク発動
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:               。
[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
シン・ポルクを修得(効果:精神面において限りなく全能)
参戦時期:ファウード編以降


【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:デウス因子とり込み??
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
     仮面ライダーファム(デウス因子吸収による存在変容)@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:キャンチョメを殺す。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:物質面において限りなく全能

265 ◆1yqnHVqBO6:2012/07/08(日) 00:04:47 ID:orVfjZIw0
投下終了です

266 ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:03:30 ID:AvKu.aPA0
投下します

267強制型エンターテイメント判明  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:04:44 ID:AvKu.aPA0


四方を配線コードに囲まれての明滅する
PCが明かりのない視界の中、
複眼の昆虫めいた様相を見せる。

四角の隅には用途不明の棒が突き立ち。
配線が巻きつけられている。

「粗末なリングだよ」

「キーシャー!」

甲高い叫び声が聞こえた時には既にベルデは
北岡の目の前へと飛びかかっていた。
だがそれは北岡にとっては何度も体験したこと。

遠距離からの攻撃が専門なゾルダを相手にするならば
距離をいかに潰すかというのは誰もが考えること。

今はもういない城戸真司、龍騎も愚直に試した戦法だ。

失望とともに鼻を鳴らすと。
北岡の手に握られた銃が火を噴く。

狙いは既にベルデへと定められている。
弾丸はベルデの眉間を真っ向から貫くだろう。

しかし、宙に飛んでいたベルデは不規則な動きで
空からゾルダの側面へと周り、ゾルダの肩に手を置く。

「うわっ!?」

ゾルダの肩に置かれた手を支点に、
ベルデは体を密着すると。
ゾルダの体を支点に高速で這いまわる。

北岡も幼少の頃、何度もTVでこの動きを見た。
幼い北岡の眼にもプロレスラーと呼ばれた彼らの姿は
ヒーローの体現者であり、心を沸き立たせるものだった。
だがブラウン管越しではパフォーマンスとして楽しんでいた
そんな動きもこうして体験してしまうと。

「気持ち悪っ!」

とにかく目が回る。
攻撃を仕掛けるまでもなく、
夜中に睡眠を乱す羽音のように。
外見のとおりカメレオンのように密着したベルデは
ひたすらにゾルダの銃の射線から外れて逃げまわる。

「腹立つっ!」

どう体を動かしても巧みに重心を移動して
ベルデは北岡から離れない。

おちょくられる動きを味わい、
苛立ちを抑えきれなくなった北岡。
思わず空いた方の手でベルデの腕を掴むと
慌てて藻掻くベルデを体から引き剥がす。

「おらぁ!!」

そして闘いの間つねに握りしめていた銃を手放すと
渾身の力でベルデを殴り飛ばした!

「ケ〜!」

情けない悲鳴を上げて地面を
数度バウンドしたベルデ。
ロープ代わりの配線コードにぶつかると
跳ね返り、地面に倒れ伏した。

渾身の力で相手を殴る。
ほぼ未知の体験。
スマートとクールを信条にする北岡の最も嫌う攻撃手段。

まともに頭に直撃し、ああも吹っ飛んだのだ。
意識が残っているはずがない。

びりびりと痺れる手を見つめ。
こみ上げる不快感に舌打ちした。

「キシャーッ!」

だが俯いた北岡をよそにベルデは元気いっぱいに跳ね起きて。
コーナーポストに飛び乗ると拳を天につきだした。

「んん?」

不可解なベルデの言動。
予想外のベルデのタフネスに驚くより先に
ゾルダ、北岡は首を傾げた。

楽しそうにポストの上で何度も飛ぶと
悪ガキが教師を囃し立てるような素振りで北岡を指さした。

「なんだ?」

北岡を指さしていた手が拳に代わり、
ベルデの顔をスローモーションにコツリと当てる。

「俺の・パンチ?」

拳が当たった箇所を大げさに押さえて
ベルデはポストから床へと身を投げてのたうち回る。

「吹っ飛んで――」

そしてむくりと起き上がると、
口元に両の手を当てて肩を震わせた。

「全然効かないと」

ご名答とでも言いたいのか
ベルデは親指を立てて北岡に見せびらかす。

「ふーん……」

268強制型エンターテイメント判明  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:06:21 ID:AvKu.aPA0


平静を装う北岡にある感情が芽生える。
それは腹の奥底から、最初はとても冷たく。
だが喉元に行くに連れて徐々に熱さを持ち始め。
頭にその感触が来ると、体中の筋肉が力む。

ああ、これが頭に来るということなのだろう。
冷静な北岡がそう認識して感心するのと同時に
北岡、ゾルダは銃を拾い上げて乱射しながらベルデへと駆け出す。

「キシャーッ!」

だがベルデは挑発にまんまと乗った
ゾルダを迎え撃つ準備は完了していた。
身を屈めて、脚に力を送り、解き放つ。

するとベルデの姿が消えて
またしても弾丸を掻い潜り北岡の前に。

「わかってたよ!」

迷わず銃を捨てると、
ゾルダはベルデの顔を鷲掴みにして
地面へと叩きつける!

陥没し、破片が舞い上がるのをものともせずに
北岡はベルデに馬乗りになると頭に吹き荒れる激情のまま
マウントポジションからベルデを殴打する。

本来ならば接近戦も可能な万能型がゾルダの性能。
身を蝕む病のため、頑なに銃に固執した北岡が初めて
ゾルダの力を存分に振るう。

一発一発が高威力。
ベルデの頭が床にめりこむと。
床に罅が走り、亀裂がどんどん深くなる。

「もいっぱぁつ!!」

拳を限界まで振り上げ、
背中を捻りきれるほどに絞り、
最後の一発を食らわせる。

空気の摩擦で熱を放つほどの一撃に耐え切れず、
ついに粗末な簡易リングは崩壊し。
ゾルダとベルデはともに下の階へと落ちる。

「いたたた……ゴホッ」

体の慣れない酷使に悲鳴をあげた肉体。
血の味がする口内を忌々しく思いながらも
ベルデの死体を確認しようと粉塵の中、目を凝らす。

「ケーッケッケッケ!」

「うわぁ……マジで……?」

どんよりと気が滅入った
北岡は目眩に体がよろけるも懸命に堪える。
埃に覆われた視界が晴れると
そこにいるのは明らかにノーダメージのベルデ。

「もうプロレスラーにミラーモンスター倒させようよ。
 なんだよこれおかしいだろちょっと
 神崎士郎馬鹿じゃないの」

決別した男への恨み言を止めない北岡。
はしゃいでいたベルデはそんな北岡を気遣ってか、そっと近づき。
ポンと肩に手を置いて晴れやかな声でこう言った。

「うっわだっせ」

……北岡は激怒した。
必ずやこの鼻持ちならぬ仮面ライダーベルデを
懲らしめてやらねばならぬと心に誓った。

北岡にプロレスはわからぬ。
まともに知っているのはキン肉マンとタイガーマスクくらいであり
お気に入りのキン肉マンはアメリカ巡業編という変わり者である。
だがそんな北岡にも許せぬ者が一つある。

己の信念に従わねばならぬ時がある。

それが今で――

「死ね!」

――SHOOT VENT――

榴弾砲が手元にやってくると我武者羅に振り回して
ベルデを横殴りにする。確かな手応え。
だがいい加減プロレスラーとは
おかしい人種なのだと北岡も嫌というほど身にしみている。

相手が小人症の老人であることなどすでに北岡の頭からは消えている。

あるのはただ、
スーパー弁護士を馬鹿にするこの男を許すまじという一念のみ!


「微塵に砕けろぉ!」

榴弾砲から放たれる一撃。
だがそれすらも

――HOLD VENT――

ベルデが駆る超音速のヨーヨーに絡め取られ
銃口を上にずらされてしまう。

「ケーッケッケッケ!」

「くそっ。俺をおちょくる時だけキャラ崩すんじゃないよ?!」

悪態をついて榴弾砲を戻そうとするも
ヨーヨーの糸は砲身だけではなく
トリガーにかかった指までもがっちり固定して動けない。

「なら!」

武器が使えないのはこの状況では相手も同じこと。
ならスペックでは優っているゾルダの膂力で
今度こそ完膚なきまでに叩くのみ!

知らぬ内に殺しへの忌避感が薄れていくのを北岡は気づいていない。
それは無自覚に芽生えた相手への信頼。
言うなれば「これで死ななかったならまあ大抵はイケるよね」という根拠なき確信。

269強制型エンターテイメント判明  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:07:07 ID:AvKu.aPA0

非論理的な、今までの北岡ならば最も嫌う思考に
彼は今、急速に蝕まれていた。

病に弱った脚が重い。
だがかまうことかと北岡は走る。走る。

ベルデは反応できない? いいや、待ち構えているのだ。
仮面ライダーゾルダの一撃を。
緑の体躯で真っ向から受け止めようと!

ベルデとゾルダの距離は今や半歩ほど。
腕を伸ばせば振れられる距離。

両手を広げて待ち構えるベルデにゾルダは迷いなき一撃を繰り出す。
拳が直撃し、独楽のように回転して天井、大穴の空いた上階へと
ベルデは錐揉みしつつ吹き飛んだ。

  ――ADVENT――

だが追撃しようと踏み込んだ北岡の足が動かない。
蛇のように締め付けられている感触が痛みを持って
ゾルダの動きを止めていた。

振り返った北岡の眼に映るのは誰もいない空間に
静かに浮き上がる巨大なカメレオンの姿。

そして後頭部を襲った衝撃で北岡は床を転がる。

  ――FINAL VENT――

床にあった銃を拾い、反撃に移ろうと体勢を立て直す前に
ベルデはトドメを刺す準備を始める。

カメレオンの舌がベルデの脚に巻き付き、
ヨーヨーの如くベルデを振り回す。

ベルデのFINAL VENTの内容がつかめない。
イチかバチかでカードを挿しこんだのと同時に
ヨーヨーとなったベルデは北岡をがっちり掴みあげて、
空中を何度も旋回すると同時に間接を極めていく。

「こ……これは……」

己の状態を目の当たりにして北岡は狼狽する。
馬鹿な。これを現実に使用するとは。
このレスラーの頭がオカシイのか。
それとも神崎士郎の頭がオカシイのか。

ハッキリしているのはこの技を考えた者は
間違いなく悪魔将軍が好きということ!
悪魔将軍を屠るために編み出された技に
仮面ライダーゾルダが耐えられるはずがない!

これから待ち受ける衝撃、
蹂躙とすら言える技に北岡の心すら恐怖に凍ってしまう。

「乾ドライバー!」

即興だと断言できる微妙なセンスの技名が叫ばれるのと同時に
ベルデとゾルダは空中へと降り注いだ。

これは悪魔の技だと北岡の胸にはっきり刻まれる。

落ちる、落ちる、
空気が泣き叫び。
コンクリートの大地が北岡の墓標にならんと――

「マグナギガ!」

しかし技は完全には決まらない!
ADVENTで召喚していた契約モンスターマグナギガが
北岡を受け止める。

その献身の体現、息を呑んで
試合を観る観客達には
悪魔将軍戦のバッファローマンが重なったに違いない!

軋む音、別れの言葉すら遺す暇もなく。
マグナギガは粉砕してしまった。
さらば木偶の坊よと北岡は心の内で別れを告げる。

しかしマグナギガの不在のもたらす意味は大きく。

無色のブランク体になってしまった
北岡はふらつきながらもギラついた闘志に瞳を燃やす。

北岡の耳には聞こえているのだ。
観客の歓声と地鳴りのような足踏みが。
無人であるはずのこの会場で!

「なあ。君」

「なんだよ!?」

「楽しいだろ?」

今までとは打って変わって
深い知性とユーモアを讃えた声でベルデ、乾は尋ねた。

「……悪くはないね。プロレスも。
 いつか吾郎ちゃんと観に行くよ」

「楽しい。それこそが全てさ」

試合に臨むボクサーを思わせる数度の小さなジャンプ。
今まであった愉しげな空気から捕食者の気迫に変わり、
ベルデの姿がまたも消えた。今度は突飛な動きではなく。

純粋な身体能力と格闘技者の練りこまれた技術が
北岡の反射速度を上回った。

鞭が空気を弾く音がしたと思うと。
緑色の脚が北岡の視界を埋め尽くした。

特に策があったわけではない。
ただ万事休すの中、せめてもの足掻きと
突き出した手にたまたまあっただけ。

黒の盾がベルデの脚を受け止める。
北岡自身、今まで思考から外していたアタッシュケースが
ベルデの一撃を受けて、ひび割れていく。

卵から未知の生き物が産まれ出す童話の
一ページのような神秘性を帯びた光景だった。

そして、アタッシュケースの中に秘められた財宝がついに姿を――

270強制型エンターテイメント判明  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:08:21 ID:AvKu.aPA0



























               /`:-、、、、、、-:'`:.、       チ
           ,-|:::::::::::::::::::::::::::::: ヘ、       /  
           / l::::::::::::::::::::::::::::: ..:::l ヽ      / 
           / /:::ヾ::::::::::::::::::::::::::::::::::lrヾ!
            l l:::::::lヽ::::::::::::::::::::::::::::/l:::::l l
     チ    i !:::::::l ヽ::::::::::::::::::::::::/ l:::::! !
     l    ヽ、ー'   ヽ::::::::::::::::/ ー'ノ
     |      ` ァ-、、、_ヽ__∠、、-''´
           / ,    ヽΦ_'' ̄、゙、
             | .j   「 ̄。↓  l i
             l ,l.  ↑フ ラ   l.j
             ゛゙、 └‐、‐┘ / 
             ヽ、 / \ /
              '''´    ´

271強制型エンターテイメント判明  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:11:05 ID:AvKu.aPA0


……沈黙が辺りを包んだ。
それは栗頭のロボットだった。
膝丈ほどの小さな小さなロボットだった。
チーチーと鳴くロボットであった。
だがそれはまさに機械であった。

「…………」
「…………」

「「……………………………………………………」」

人はあまりの出来事に遭うと言葉を失う。
ウルトラ弁護士の北岡も今まで何度も
そういう症状に陥った人間と接してきた。

だがまさか自分がそうなるとは。

仕切りなおす切っ掛けを必死に探す乾と北岡。
二人の間にはある一つの共通認識があった。
先に攻撃を仕掛ける気力を戻した方がこの闘いに勝つのだと。

「でぃっ!」

ブランク体であろうと構わず北岡はベルデを殴る。
この状態でも銃は使えるが威力が心もとない。

「ケ、ケーッ」

放心状態から立て直すのに数秒遅れたベルデは
受け身を取ることも叶わずゾルダのパンチをまともに喰らった。

「ケー!」

「チー?」

自分を無視して闘いを再開した二人に
首を傾げるロボット。機械。

しかし格闘技術ではやはりベルデ、乾には勝てない。
スペックでも大きく劣ってしまったゾルダ。
突きや蹴りを絶え間なく繰り出すがどれもいなされ、空を切る。

「ぜぇっ……このっ!」

当たっていたさっきまでとは違う
殴った拳が空振りするという徒労感、空虚。
それらが北岡の動きを鈍くし、
腰の入ってないパンチをベルデに受け止められた。
くるりとベルデが回った。
だが実際に回ったのは足払いをかけられた北岡。

仰向けに倒れたゾルダを踏みつけにかかるベルデ。
だが足の裏がゾルダの腹部を殴打する前に。
首を支点に跳ね起きたゾルダの両足がベルデの顔を直撃した。

「キシャーッ!」

「チー……」

殺伐とした闘い。
二人の空気を察したロボットが悲しげな顔をし、
北岡の足元へトコトコと歩いてきた。
その小さな両手には一枚のカードを掴んでおり。
眉をあげてそれを受け取ると記された文字に目を通す。

272強制型エンターテイメント判明  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:11:26 ID:AvKu.aPA0

  ――CONTRACT――

「……え? 」

「痛たた……おお、凄いなあゾルダくん。
運に愛されてるんじゃない?」

横でさっきまで口論をしていたベルデが感心して拍手した。

いやぁ、と照れ笑いを浮かべた
北岡は人差し指と中指に挟んだカードを機械に掲げた。
ブランク体が光りに包まれると色の無くした手足が彩りを取り戻していく。

光が収束すると機械を肩車して仁王立ちする
仮面ライダーゾルダの姿があった。

「さあ、今度は俺の番だね」

  ――FINAL VENT――

北岡から飛び降りた機械、プラの頭に銃口の差込口を見つけた
北岡は迷わずそこに銃を挿す。

プラの頭部がぱかりと押し開き。
内部からは圧倒的質量の重火器が触手のように生える。
感嘆の息を漏らし。
トリガーにかかった指に力を込める。

呆気無くプラの頭部から放たれる
超質量のレーザーが塔を紅く照らし。
ベルデの体躯を紅く照らし、燃やした。

攻撃の余韻が冷めやらぬ室内。
大きく穿たれた穴からは高所の新鮮な空気と
近くに感じる太陽光の熱が流れてくる。

「びっくりだねこれは……」

真向から受け止め、さすがに倒れ伏した
ベルデに歩み寄り、頭部に銃口を押し付けた。

「当然生きてるよね」

「ギリで」

「降参する気は?」

「無いよ。
 観客も君が生き残ったほうが喜びそうだしねー」

「観客……? 勝ったら俺の言うこと聞くんじゃなかった?」

「負けを認めてないからノーカン」

「あっそ」

短い言葉を言うのにも舌が重く。
引き金を引く指が動こうとしない。

長い間、無音のままでそうしていた。
動かない北岡を不審に思った乾は北岡を見上げ、
葛藤を見抜いたのか苦笑いの声を零した。

「最期にこんなに楽しめるなんて思わなかった。
 ありがとう、ゾルダくん」

別れ際に付け足すような気安さで
ベルデは自分の首輪に手を当てると忠告した。

ベルデの首から上を爆発が覆い隠し。
意表を突かれた北岡は咄嗟に乾から離れた。

夜をさらに溶かして鋳型に流し込んだ。
そんな形容も似つかわしく思えるくらいの。

北岡が意識を失う直前に、
足元を支えていた床が消え。
宙に投げ出されたとき、
塔は黒の茨に雁字搦めにされ、崩れ落ちた。

太陽が燦々と照りつけ、
頬をじりじりと焼く感触に顔をしかめ。
瞼を開いた北岡の眼に映ったのは
蜘蛛の糸に届かんとする巨大な闇。

背中には砂の感触。
変身が解かれたために服の襟か砂が入り、
汗まみれの体に貼りついた。

「大分離れたところに落ちたなあ。
 っていうかまさか生きてるなんて」

現在地点を確認した北岡は蜘蛛の糸を見上げる。

「チー」

服の袖を引っ張られ、見下ろすと
契約し、今はミラーワールドにいるはずのプラがそこにいた。

「ひょっとしてお前が助けてくれたってわけ?」

「チ!」

「おかしなこともあるもんだね」

プラの頭を撫で。これからについて考えを巡らせる北岡。
遠く離れた所から足音が聞こえ。
いち早く察知したプラが昂ぶる威嚇のポーズをとった。

「えっと、こんにちは」

「メールー」

塔の反対、北西の向こうからやってきたのは
あどけなさが強く表れる顔立ちの少年。
そして原理不明の二足歩行の隻眼の子馬。

「またなんかおかしなのが来たよ」

「チー!」

「ごめん、反応しないで。頭が痛くなる」

さらなる事態の複雑化を予想して北岡は思わず頭を抱えた。
クールに戦いたいというスーパー弁護士の希望はまだ果たされず。

273強制型エンターテイメント判明  ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:12:56 ID:AvKu.aPA0

【乾志摩夫 死亡確認】
【残り 14名】

【G-7 古代遺跡/一日目/午後】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康、心の力の消費(大)、両手の平に大火傷
[装備]:無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、投げナイフ(14/15)@未来日記、IMIウージー(25/32)
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする?
1:北岡と話をする(この人、なんだか父さんに似てる)
2:他の参加者に取り入る(ウマゴンが危ういラインに立っていることを理解)
3:情報を集める。そしてゲームの破壊に繋がるようなものは隠す。
[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づいていません。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました

【シュナイダー@金色のガッシュ!!】
[状態]:心の力の消費(中)、右目失明、
[装備]:なし
[道具]:魔本@金色のガッシュ!!、基本支給品、マキビシ@バジリスク〜甲賀忍法帖〜、煙草@現実
[思考・状況]
基本行動方針:ガッシュの思いを継ぐ。仲間と共に主催を撃破して清磨たちのいる所へ帰る
1:雪輝と同行する。
[備考]
※第一放送をしっかりと聞いていません。ガッシュが死んだことだけは理解しましたが、他はどの程度聞いていたかはわかりません。
※右目の後遺症については不明。洗浄し、消毒液をかけた程度の処置しかしていません。
※殺し合いに乗っている者への強烈な憎しみを自覚しました。
 雪輝への憎しみを他者に向けている可能性があり。


【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ゾルダに変身中、神崎士郎への怒り。 疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)(プラ@waqwaqと契約)
[道具]:基本支給品一式、マスターキー@オリジナル、
     香川英行のレポート?(神崎士郎の願いについて書かれている?)
[思考・状況]
基本行動方針:安寧とした立場でせせら笑っている神陣営に踊らされるのは気に入らない。
0:生命をベットしようよ、神崎士郎。それと、お前の指図は受けない。
1:雪輝と話をする(ははぁん、この少年。初っ端から超失礼なこと考えてるね?)。
2:上空に昇った光の正体も気になる。
[備考]
※参戦時期は劇場版開始前のどこかからです。詳しくは後の書き手にお任せします。
※未来日記の世界観、雪輝、由乃、来須、マルコ、愛のみねね視点で知っている大体の情報を把握しました。
※逃亡日記は所有者の逃走経路を予知するものだと勘違いしています。
※香川英行のレポートに仮面ライダーの弱点が書かれていると
 北岡は言っていますが真っ赤な嘘です。
※アタッシュケースには契約カードとプラが入っていました。
  なぜ契約できるのかは不明です。

274 ◆1yqnHVqBO6:2012/07/18(水) 16:13:18 ID:AvKu.aPA0
以上で投下終了です

275 ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:25:33 ID:Y.3UQZd60
投下

276僕達は強がって笑う弱虫なのさ  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:26:47 ID:Y.3UQZd60

――キク。キクはいるか。

――ここに。我が神よ。

――《白色魔王》が顕現した。
    何のために異なる時間から喚び寄せたと思っている。
    すべて貴様の失態だ。どう償うつもりだ。

――はじめから喚ばないという選択肢はなかったのか?

沈黙


――あの世界において想波の理そのものに干渉できる
   魔王の情念の焼付け、それが齎すエネルギーは魅力だ。
   だがそれで制御不可能なゲームになっては元も子もない。

――己の造物主に意見するか。愚図なる木偶が。
    すべては我が永遠の楽園のため。
    貴様はただ従い、奉仕すればいい。

               思考


――神崎士郎か白薔薇を仕向けよう。
    ヨキでは結託される恐れがある。

――それでよい。チャンですら我が策の前に敗れたのだ。
    あの最強すらもがこの神の前では駒に過ぎぬ。

――チャンの死に我らはあまり関与していないようにも思うが。

――口答えするな。

――御意。我が神よ。


――――――――――――――――。

277僕達は強がって笑う弱虫なのさ  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:27:25 ID:Y.3UQZd60

【機械仕掛けの神/儚くも頑強なブリキの王】


広大な白い雲と青空だったはずの黒、
大地、飛び交う濡れた黒色の王。

純白の騎士であったその姿。
だが今はヒビのなかった仮面が
悠久の風に削られた髑髏と化し。
透けるような外套は如何なる可視光線も阻む
底なしの暗がりを湛えた垂れ幕へとなっていた。

深海の底からも、遠き宇宙の果てからも見いだせない黒色。
外套の下より伸びる腕は未だ仮面ライダーファムのまま。
くすみ、灰色に近くなってはいても。

《時空王》の因子をとりこんだミツルの聴覚を
冒涜的病の衰弱に蝕まれた叫びが揺さぶる。

「ヴぁああああぁぁぃぃいいいい」

声の主は白。
けれどもそれはキャンパスの白ではなく
決壊したダムの穴のように。
周囲の全てを呑み干しても
なお吸い込み続ける生きた貪欲。
不変のタブラ・ラサ。

初めは相手、《白色魔王》も漆黒を纏い、
この会場を構成する想波に働きかける化物。
体から生える無数の触手には微弱ながらも振動し、
先端には紅く濡れた口蓋が開き、数百の乱杭歯が覗いている。

50の触手が牙を剥いてミツルへと襲いかかる。
速度も何もない。知覚した瞬間には目の前で口を開いてそこに在る。

「これくらいで」

ミツルの体をすポリと覆い尽くすマントから
棘が無数に生えて、魔王の触手を絡めとる。

「魂魄ごと消えろ!」

触手の口が開き。
顎が変形し、槍のような弓矢のような風貌になる。

咆哮、鯨の巨躯が発する鳴き声なのか。
至近距離で浴びせられるだけで
地響きがしてしまう。

それが30同時。
そして69の鉄の槍衾と矢。

棘によって半ばで斬り落としても勢い失われず。
燕のように夥しい吸盤から羽が生えて滑空する。

だがその飛来群も姿が粘土細工のように歪み。
時空王によって起きた歪に呑まれて消えていく。

ミツルの頭上に影が落ち。
見上げたミツルに見えたのは空一面の雲、
雲に擬態した巨大なる顔。
目のないものではあるが紛うことなき顔。

空を舞う巨大な生物との対面は
深海に蠢く巨大な未知の生物に対面するときにも似て。

否応なしの無力感が恐怖の感情を引き起こす。

ぱかり、と入道雲が口を開ける。
口の中には乱杭歯が突起物として
イソギンチャクのように赤水のなか揺れ動き。

そして口からこぼれ落ちる。
唾液の決壊。歯が抜け落ちて雲が痛みに悶えている。

隕石と同じく。摩擦熱を帯びて。
巨大な熱量を放ち。
なのに物理の法則を軽々と無視して
落下は不規則な軌道で続く。

ミツルは即座に広範囲空間の因果を歪め。
それが存在したという事実ごと黒球に呑み込ませる。

黒玉の中よりは悲鳴も何も聞こえない。
数度、大きく中で跳ね、形が歪んだがそれだけ。

そして目の前にて振動し再生を始める触手を掴む。
ミツルの手から先へと辿り、触手の根本、本体まで。
炎のように揺らめく影、幾本の棘が時計の針、
長針の形となって魔王のもとへ這い進む。

魔王の権能は旅人に許された範囲を優に超えた
想波の膨大な射出。一個の爆弾のごとき思想の暴力的氾濫。
この世界以外においてはその力、
理想を現実に投影し、相手の知覚にも催眠作用を及ぼすものだろう。

だが想波は強い“願い”が力の源。
深遠な想像力と発想力が産み出す幻影は
想波にも共鳴し、知らず知らずに威力が数百にも倍増する。

魔王との闘いにおいてミツルは旅人の力を使う気はない。
たかだか人間ひとりに出せる
“願い”の量には限りは……ないかもしれない。
しかしさらに壁を越えるという想いを
今の“旅人”ミツルには持てない。

魔王へと送った強欲の茨の棘。
因果崩壊の象徴である黒色の歪み。
現実に起こる崩壊として無意識の存在に限りなく
近い魔王の喉元に食らいつく。

「あああいヴぁヴええええ」

理解不能な呻きとともに体を大きく震わせて、
魔王は己の眼球を突き刺すだろう剣から身を引く。
触手には無数の瘤があり。
体液のような白濁を先端の切れ目より流れていた。

追撃にとミツルは手をかかげ。
小さな直径2mほどの黒色の球体群が魔王を囲んで展開した。

278僕達は強がって笑う弱虫なのさ  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:29:41 ID:Y.3UQZd60

因果の崩壊。
糸と糸を繋ぎあわせ、
未来をつくるのが世界の理ならそれを切ることで
導き出す者は終焉。

想いすら遺すことを赦さない
諦めそのものである事象。

開いた手を強く握りしめ。
同時に球体が収縮し、潰れ、
点から無へとなり、解放する。

空も空気も緑も色を失い。
冷たい突風とともに消えた黒球。

逃げることは不可能のはず。
緑豊かな平野だった。
無人の荒野となった今。
風化の黄土色が大地を覆い、
崩壊の知らせにところどころ大地が割れている。

花など一輪も生えないだろう。
草木すら未来永劫無縁に等しくなるはずだ。

「花……」

仮面の奥で自嘲の笑みを浮かぶ。
喉の奥からこみ上げる衝動。
色に狂った母と依存に堕ちていた父。
とばっちりで死んだ美鳥、愛しい妹。

「三谷……」

みすぼらしい見習い勇者から
白銀の勇者へとなり、
《炎竜(ファイアドラゴン)》の誇りを胸に抱いた男。

「ゾフィ」

己の野望のために近づき、
弄び、利用して。
なのにミツルに笑顔を向け続けていた妹の写し似。

「どれも、どれも。
 美鳥のいない世界にあったとして何になる」

花を踏み潰すよう足に力を入れる。
世界のために尽力する男でも容易く死ぬ。
如何なる強者に殺されたかはわからないが。

チャンも、ワタルも、死ぬ。

「さあ」

今のミツルには時空王の力が宿っている。
仮面ライダーファムが時空王デウスの因子を取り込み。
変容しきったことで生命の再生も理解したことがある。

「帰ろう」

己の胸に空いた空虚なる傷。
絶えず咽び泣き、傷を癒やせと叫びかけてきた
ミツルの衝動の根本。

帰る。還る。変える。
目指すはあのとき。あの日、あの瞬間。
生命の復活ができないのならば――今を変えるまで。

変身を通してミツルの身にも流れてくる
デウスの力、時を紡ぐハンプティダンプティに座す観察者の。

そこには全てがある。
妹の笑顔も妹の幸福も絶たれぬ兄弟の絆も。

なんならアイツの不幸も変えてやったっていい。

産みの親の首を挙げれば終わるだけの容易いこと。
そうだ。両親を殺すだけですべてが上手くいく。

足元まで黒に包まれて。
戦場だった場所に背を向ける時にも
王の足は歩くのではなく海底で踊るように生を営む海生生物。
次の獲物を求めて這うのにも似て。

――しかし蛞蝓が歩くように緩慢に。
そう、蛞蝓のように体が動かない。
ミツルの感覚に違和感はない。

傷を負った訳でもない。
何か大いなる神性が現れたのでもなく。

ミツルの目の前の風景が変わった。

罅というよりも線が規則正しく横縞模様に走り。
風景が昔のトーキー映画のようにずれて映しだされる。

そしてゆっくりと風景が変わり。
ミツルの周囲が白色に染まった。

そんな中、ミツルの黒衣にぽたりと何かが落ちた。

周囲を取り巻いているのは魔王の触手。
斑点のように瘤ができ、突起物が脈動し。

生物が環境に擬態するかのように。
それぞれが体色を変えることで。
広大な空間を上映していたのだと理解したのはこの瞬間。

触手にあるのは無数の瘤と突起。
ぬらぬらと流れているのは白濁した体液。
瘤の先にある切れ目から絶えず生み出されるそれ。
ミツルの体をくるみ、縛り付けている触手にある
瘤の切れ目がゆっくりと開く。

瘤となっていたのは眼球があるから。
ミツルの四方で夥しい目玉が忙しなく周囲を見回し。
やがてミツル一人に焦点を定める。
目玉より溢れていた白濁液は涙のつもりか。
ぬるりとした触感の中、とまらない液体は異常さを際立たせていた。

279僕達は強がって笑う弱虫なのさ  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:30:14 ID:Y.3UQZd60


「きききききぃぃぃぃいいきゃああああえええええええええええ」


刃物を耳の穴に直接差し込まれて、
奥で掻き回される。そう錯覚すらしてしまう
見えないどこかから聞こえる咆哮。

金属と金属が触れあい、こすれあう時に生じる不協和音。
だが決して現実には存在し得ない音程が
ミツルの鼓膜を打ち響かせる。

思わず口元を抑え、吐き気を堪えるのはお構いなしに、
盛大な叫声はミツルの精神を強引に削りとっていく。

黒色球を展開させようにも意識の揺さぶりがそれを阻み。
精神への打撃が体の動きを阻害する。

耳を塞いだところで少しもその音は止むことなく。
無数の眼球は流れる液体の量を増やしながらも
悶えるミツルを観察する。

心の一番脆いところを長い爪で抉り取られ、
晒され、掻きむしられる圧倒的な不快感。
瞼の奥でフラッシュバックするあの日、
見知らぬ男と裸で絡み合った母。
その横で体中に穴が開いていた妹。

《時空王》すら《白色魔王》の精神汚染には抵抗すること叶わず。

傷つけられていく心を癒そうと
脳が幸福だった時代の記憶を引き出す。
誕生日を祝う母。
レギュラー獲得のお祝いに新しいシューズを贈った父。
家族で行った桜並木。

……三谷。
三谷ワタル。

自分を愛し、ひたすらに信じ抜こうとした王女。
魂抜かれ、自分の腕の中で虚ろへとなった彼女。

美鳥。誰よりも強い心を持ち、誰よりも優しく、
誰よりも気高く、誰よりも愛らしく、
4歳という幼さであらゆる生物の頂点に在った妹。
花を好んでいた小さな――

――花が咲いた。
炎の、花が。
触手を焼き払い、その向こうでこちらを覗いていた
巨大な獅子の顔が露わになり。

花が散った後には目の前で炎の剣士がこちらに刃を向けていた。

280僕達は強がって笑う弱虫なのさ  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:31:08 ID:Y.3UQZd60

【遍く全能なる白色魔王/全てを断つ牙と爪をもった獅子】

王杖というものがある。
魔界の王を決める闘いに勝ち抜き
王座を手にしたものにだけ持つことを許される国宝。

それを手にした者の周囲にいる
魔物は術を使うことができず頭を垂れることしかできない。
圧倒的力を持った王が世界を支配するのを助ける杖。

だがその杖をもってしても制御不可能な力を持つ魔物がいる。
あらゆる冗談を現実として再現可能なその能力は
王杖が効果を及ぼす範囲をも優に超え。

よって、本気で牙を剥いた
白色の彼に対抗できるものは魔界にはいない。
ましてや、たったひとりの弱き少年には太刀打ちできるはずがない。

「……キャンチョメ」

突風が魔王を打ちつけ、
ミツルから引き剥がされ。
割って入ってきたのは学生服を着た盲目の少年。

無数の触手を蠢かせ。
理解不能な言葉を喚き散らし。
風が悲鳴を上げたときには既に
少年の隣の大地が二つに割れていた。

「ああああいいいいいい」

「正気を失ったふりはよせ」

冷静に言い放つ少年、杉村を見て。
魔王は動きを止めて、触手に覆われた奥から
ようやく人としての言葉を告げた。

「その眼、どうしたの?」

「闘いで喪った」

「雛苺は?」

「死んだ。
 けれどもレオとは和解できた」

「そっかあ」

魔王、キャンチョメの声が平坦なものから
少しだけ明るいものへと変わり。
体が揺れたのは笑みを零したからかもしれない。

「すごいなあヒロキは」

「……キャンチョメ」

「どいてよヒロキ」

空気の温度が数十度下がったという錯覚を与える声音。
そして錯覚をしてしまえばそこを隙間に相手を崩すのが魔王の権能。

「できない」

手足が震え、歯の根が噛み合わず。
そんな己を鼓舞して毅然と杉村はキャンチョメに告げる。

「邪魔だよ」

空気は悲鳴をあげない。
大地は震えない。
しかし杉村の腹が薙ぎ払われ、
夥しい量の血が流れる。

「だ……めだ……」

「邪魔」

腹部を抑えた両手がマリオネットのように
不自然な動きで頭上に掲げられ。
指先からゆっくりと螺子をまわすように捻られていく。

「すごいだろ、ヒロキ。
 今のボクはなんでもできるんだ。
 “そこにあれ”と命じれば何でも産まれるし
 “消え去れ”と命じれば次の瞬間には消える」

光、神々しい純白の刃の鞭がキャンチョメという獅子の頭部から伸びて。
大気を存在を以って圧し潰し、唸りをあげる。

「だから僕がなんでもするよ。
敵は全員殺すし味方は絶対に守る。
誰も損をしないでしょ?」

ねえ? と歯を剥いて笑いかけた瞬間。
ビデオをコマ送りしたかのように、
杉村の目の前に白色の鞭があった。

「…………そんな王様になりたいのか?」

「………………オウサマ?」

281僕達は強がって笑う弱虫なのさ  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:33:21 ID:Y.3UQZd60

きょとんとして杉村の言葉を復唱し。
しばし、間をおいてからキャンチョメの体が大きく震動し、
地獄の熱さの叫びが放たれる。

「もういいんだよ! 王様なんて!!
 ティオかウマゴンがなればいい!
 アースを生き返らせてもいいんだし
 ウォンレイでもいい! ……ああそうだ。
 ねえ、ヒロキ。ウォンレイに会わせてあげるよ。
 きっと仲良くなれると思うんだ」

穏やかな言葉とは裏腹に無数の触手が
杉村へと打ち込まれ。
肉を打つ、抉る、喰らう。

「今の僕がどれだけ手加減をしているかわかるかい!?
 必死にやりすぎないように。
 杉村がわかってどいてくれるように加減しているんだ!」

怒声が次第に波を持ち。
獅子の頬に涙がこぼれ。
《白色魔王》は叫ぶ。

「もういいだろ!?
 放っておいてくれよ!
 僕はもうひとりでも大丈夫なんだ!
 無敵の獅子になったんだよ!!!!!」

声、触手、夢幻の無限。
魔王が権能を行使している限り。
世界は魔王が思うままに歪み。
勇者を己のために殺したこの世界では正すものは誰もいない。

魔王が手繰るのは心。想波。
故に、“願い”こそが最大の武器である
このゲームの参加者はこの魔王には絶対に勝てない。

世界に負けて願った彼らに。
日のあたらぬ世界で涙を流し続ける彼らに。
魔王の暴走をとめるのは世界に剣を突き刺すのと同義。

「――これがお前の牙だというのか」

暖かな光があった。
それは両手をもぎ取られた少年の肩で輝く。

「――これがお前の爪だというのか」

――ザザッ。

雨流みねねが死ぬまえに流れたノイズの似た音が響いた。
けれども、ここに定められた未来を乱すものはない。
そのはずなのに、魔王の手が、たしかに止まる。
魔王によって作り変えられた世界が異常を訴える。

杉村弘樹を嬲っていた
100兆の触手全てが動きを止めていた。

「これが、こんな程度のものがか!?」

「な、なにが起こって……?」

キャンチョメの巨体が浮き上がる。
触手の先の輝き、閃光を支点にして。

浮き上がり、そして。
投げ飛ばされる。

直立歩行の強堅なる巨大な獅子が
キャンチョメの描く最強。
それが、今たしかに尻もちをついていた。

残虐と暴虐しか映さなかった
キャンチョメの双眸が大きく揺らぎ。
自身を転ばせたものの正体を見極めようとする。

「おまえの爪はたしかにどんなモノも引き裂くだろう」

燦然と輝く光を纏い。
確かに歩く、学生服を着た盲の少年が一人。
ただ一人、魔王へと歩を進める。

「お前の牙はたしかにどんな敵も喰らい尽くすだろう」

しかし、少年はひとりで“そこに在る”のではない。

例え魔王に“そう在る”ことを赦されずとも。
例え魔王に“消え去れ”と拒絶されようとも。

「だが、俺の心、魂にたしかに根ざし。
 俺を奮い立たせるこの大樹は!
 決して誰にも変えることはできない!!」

歪められた世界に、伸びる一筋の光輝。

導かれるように、再び紡がれる彼の両手。

「……やめろよ! 僕に構わないでよ!
もう置いてってくれよ!!期待させないでよ!
僕はどうやったって駄目だったんだ。
僕はガッシュにもヒロキにもフォルゴレにもなれないんだよ!」

「……断る」

「どうして!?」

「今、おまえを諦めたら。
おまえはもう戻れなくなってしまう」

「それでいいんだ! 
 そうなりたいんだよ僕は!」

それは、奇しくも彼らの与り知らぬところで死んだ
《炎龍(ファイアドラゴン)》の戦士と同じ言葉。
無限の殺し合いに心、摩耗し朽ち果てようとも。

いつもあった確かな想い。

龍騎と闘ったレオ。
そしてレオと絆を育んだ彼の胸にもある、それ。

「な……んでそこまでするんだよ!?」

「決まってるだろ」

光そのものとなった両手を伸ばして。
少年は優しく微笑む。

「友達だからだ」


【小鳥の乗る頼りない両手/きっと彼はスケアクロウ】

282僕達は強がって笑う弱虫なのさ  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:36:22 ID:Y.3UQZd60



【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)、心の力消費(???)、シン・ポルク発動
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:ヒロキィィィィィィィィィィィィ!              
[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
シン・ポルクを修得(効果:限りなく全能なるメーノーグ)
参戦時期:ファウード編以降


【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
     ダメージ(中)、指の爪剥離、両眼失明、勇気を刻みました、覚醒
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、雛苺のローザミスティカ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:正義
1:キャンチョメ…………!

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
覚醒した杉村は空気を読むことで周囲100mの状態を把握することができます。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後


【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:デウス因子とり込み??
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
     仮面ライダーファム(デウス因子吸収による存在変容)@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:全員殺す。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ



【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、軽度の打撲、
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:自分で在り続けるために走り続ける。
1:杉村とキャンチョメが話すための時間は稼ぐが勝てる気がしないので防御に専念。
※由乃の返り血を浴びています。

283 ◆1yqnHVqBO6:2012/08/09(木) 00:36:36 ID:Y.3UQZd60
終了

284 ◆1yqnHVqBO6:2012/08/15(水) 14:43:17 ID:fkWO/bG60
投下

285アリス イン ミラーワールド   ◆1yqnHVqBO6:2012/08/15(水) 14:45:36 ID:fkWO/bG60

――究極の少女とは何か。
   私は無意識の海にこそそれがあるのだろうと思う。

暮れなずむ空。赤色に燃え上がる夕日は
青かったそれを同じ赤に染めていく。
白の薔薇、散った花弁が雪のように空から舞い降りて。

殺風景な工場という場所を幻想的に見せる。

――無意識の海に永久に佇む一人の少女。
   すべての人間、生命が共有する海にいることができるのならば。
   少女は大人になりゆく子供たちの青春の幻影となり、
   瞼の裏に焼き付くペルソナになるだろう。

靴の裏で白薔薇の花を踏みにじり。
光の差す入り口から奥へと
ゆったりとした足取りで歩を進める。

暗がりの中で蠢く人影。
座り込んだ小柄な影を取り囲んで踊る彼らは
異邦の民族、夜闇の儀式にも見えた。

紙袋をかぶった小柄な影、
引き裂かれた衣服から覗く小さな乳房。
まだ年若き少女。

その肉体を蹂躙するこれもまた年若き少年達。
下半身には何も身につけず。
一人、また一人と順番に少女の内奥へと腰を打ち付ける。

――つまり《究極の少女》とは無意識の海にある
   ひとつの永劫なりし《偶像(イコン)》なのだよ。
   白薔薇、雪華綺晶。

少女を犯す少年達の頭には
現実ならざる白薔薇の花がすげ変わっていて。
首から花を生やした少年は白濁液を撒き散らし
腹に刺さったナイフから真紅の血を滴らせる。

「まだ、諦めないの? お兄さま」

鈴の声。可憐で軽やかに。
けれどもどこか似合わぬ艶やかさをもった声音。

――己の青春そのものの姿をした君を誰もが拒みはしないだろう。
   君が厳選すべきは有機と無機両方の素材だ。
   “願い”を貯めこみ、最も強き愛を知った護神像。
   そして最も人々に愛されるだろう力と心をもった者。

紙袋をかぶった少女。
何度この世界で犯されたのかわからない。
これはただの幻想。
過去に起こった
ひとりの男の人生を決定的に変えた日。

ひとりでは決して乗り越えられなかったモノを。
正真正銘にひとりとなった今では耐えられるはずもない。

だが――

「――なあ、白薔薇ちゃんよぉ」

男に犯される彼女を守ろうと。
背後から腕をまわして抱きしめる形をとって。
空いた手で、嘲笑を浮かべる乙女へと中指を立てる。

「俺達の《愛(ラブ)》を利用しようってんなら。
 代償は高く付くぜ?」

白薔薇に蝕まれたアムルタートの裡。
肉体を喰われ、魂魄のみが封じられ。
彼女の側だけが最後の領土となってはいても。

男の眼は、まだ死なず。

――さて、私の“願い”の成就には、
   君の欲望の充足(サティスファクション)の席も設けておこう。
   …………協力してくれるね? 我らが《偶像(イコン)》よ。

「くすくすくす」

286 ◆1yqnHVqBO6:2012/08/15(水) 14:45:53 ID:fkWO/bG60
1レスで終わったっていう

287 ◆1yqnHVqBO6:2012/08/19(日) 23:56:03 ID:WeKUitq20
投下します

288HAPPY END’s FRAGMENTS  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/19(日) 23:59:03 ID:WeKUitq20
「決めたよ由乃。
僕はこのチャンスに賭けてみる」
                    「そう、頑張ろうねユッキー。
たぶん、私はもうすぐ死ぬけど」

「……ごめん」
                      「どうして謝るの? ユッキー?」
「僕のプランでは君はきっと死ぬ」
                 「でも私じゃなきゃ。この世界でユッキーの本当の味方は由乃だけだから」
「ひとつ、教えて欲しいんだ由乃」
                 「…………なぁに?」
「僕はきっと僕を守ってくれる人なら誰でも良かった」
                 「………………」
「でも僕が愛しているのは由乃だけだよ」
                 「アッ……あ、私は……」
「きっと君も自分だけの“願い”があって僕を騙したんだよね」
                 「ユ、ゆっきい……」
「必ず迎えに行くよ。
その時は君が本当に欲しかったものを教えてね。
一緒に君が臨むものを見たい。……愛しているよ。由乃」
                「私は……私は……ユッキーが好き。愛している。
それが私なんだもん。ユッキーが好きだから私は」

           炎の中のできごと。
            会話はしても。
           言葉、交わることはなく。



…………………………………………。

僕の夢はなんだっけ。
目の前の人の話しを聞きながら僕はぼんやりと考えた。
小学生だった頃はなにになりたかったっけ。
その前は何になりたかったっけ。

「……君の話を聞かせてもらえる?」

クールな、殺し合いという状況下でも余裕をなくすことなく
その人、北岡秀一は首を傾げて僕に問いかけた。

「ぼ、くは――」

口を開いて、言葉を吐き出す。
栓をされたみたいに空気の通りが悪い僕の喉。

「僕は時空王デウスの後継者を決める殺し合いに参加していました」

「それは自主的に?」

冗談じゃない。
僕にはこの人、仮面ライダーと違って自分から人を殺す度胸なんてない。
今も、昔も。自分のためだけに殺すなんて。

「いいえ。時空王に選ばれてです」

初めはつっかえながらだったけれども
一度話し始めたらすらすらと自分のことを語れる。

それはきっと先に北岡さんが自身のことを
話してくれたのが大きいのだろう。

「時空王自身に狙いは?」

「なかったと思います。
 寿命が尽きる寸前でしたから」

狙い。それは仮面ライダーによる殺し合いと
次期時空王を決める殺し合い、
そして隣のウマゴンが参加していた
魔界の王を決める闘いとの間にある決定的な違いだろう。

ライダーバトルの主催者、神崎士郎には妹である
神崎優衣という女性を蘇生する“願い”があるらしい。
けれど、時空王デウスにも魔界の王を決める闘いにも
主催者の狙いも、人格すらもあまり見えては来ない。

これは僕とウマゴンの殺し合いがある意味で
自然現象に近いものだからだろう。
寿命や災害には人為を見つけることはできないように。
そこには狙いも“願い”もない。

「それで君はどこまで生き残った?」

「最後の二人までです。
 世界の崩壊は始まっていたけれど。
 優勝者を決める直前にここへ連れてこられました」

「優勝したら?」

「全てを再生します。
 僕も、そしてもうひとりの由乃っていう子もそれに同意してくれていました」

けれど、恐らくそれは不可能だということは北岡さんには話さない。
ウマゴンにも決して。

神崎士郎は神崎優衣さんの魂、
ここでは便宜的に魂魄と呼ぶものを複製していたらしい。
しかしそれは人としての生を全うできるものではなく。
誕生日が来れば消滅してしまう。

だから神崎士郎はライダーバトルで
新たに優衣さんに与える生命を創ろうとしたらしい。

大盤振る舞いな情報公開だと僕は嘆息した。
北岡さん曰く、神崎士郎が気持ち悪いひきこもりのシスコンだということを
みんなに知ってもらいたいからだそうだけど
本当ならばこの人は凄く……性格が悪い。

289HAPPY END’s FRAGMENTS  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/20(月) 00:00:05 ID:pivIQ7Ro0

「じゃあ……ここに来てからのことは?」

そう北岡さんが続きを促す。

「まず始めにガッシュと会いました」

ここに来てからについても北岡さんの方から先に話してくれた。
なんでも殺し合いに乗っている極悪二人組に加担して
三人組として行動し
―まるでヤッターマンの悪役だなと思った―
北岡さんと9th対キャンチョメ、
そしてレオという防人対雛苺と仮面ライダータイガに勝負がもつれ込んだ際、
華々しく9thを置いてとんずらすることで
対主催への劇的アシストを果たしたという。

…………うーーーーーーーーーーーん。
どの口でほざいてんだとは誰もが思うだろうし
はっきり言ってこの人がそこまで善人には思えない。

キャンチョメと一緒に取り押さえなよとは思うけど
タイミング的には良いと思うし。
おかげで今すぐキャンチョメのところへ駆けつけようとした
ウマゴンを落ち着かせることができた。
さすがに魔物には9thも勝てないだろうと説得した上で。

つまり追求しても僕に利益はない。

「それから?」

「雛苺とウマゴンに会って。
 一緒に行動することになりました」

北岡さんが眼でウマゴンに確認を取るとウマゴンは大きく頷いた。

「順調じゃないか」

「ええ……そうだったのですが」

そこで僕は拳を握りしめて肩を震わせる。
あくまで演技だけれども
ウマゴンは心配して僕の肩に蹄を乗せてくれた。

「ガッシュが妬ましかったんです」

「……へえ」

「ガッシュみたいに仲間に恵まれて、闘いに勝って。
 みんなに愛されてHAPPY ENDを迎えるというのがとても羨ましくて――」

「妬ましかったと」

「はい」

少し前に遡って、神崎士郎のことについて考えよう。
彼が示すこの殺し合いに関与しているという
事実が示す大きな情報は、死者が生き返るということである。

そしてその方法。
神崎優衣の魂はすでに用意してあるはず。
つまり魂の安置が死者の蘇生に重要な意味を持つ。

そのことは魔界の王を決める殺し合いでも明らかだ。
ガッシュがいうには肉体を喪った魂は魔界を漂い、
激化していく闘いを見守っていたという。

こうしてガッシュ・ベルの王道は
見事に栄光を掴みとったというわけだ。

「そして、どうしてあんなことをしてしまったのか。
僕は理性を喪って鞄の中からナイフを取り出して」

「ヒュウ」

「けれどもウマゴンに見つかって止めてもらったんです」

あのときウマゴンに噛まれたところはどこだったっけ。
もう忘れてしまった。たしかに痛みを訴えていたはずだったのに。

「そしたら僕が襲われてると思って由乃が乱入してきて」

「タイミング良すぎぃ」

「そういえば……そうですね。
 ひょっとしたら僕のことをずっと見ていたのかもしれません」

それについては確認しなかったけれども十分ありえる話だ。
というか恐らくそうなんだろう。

「熱すぎる愛じゃないの」

「ウマゴンが由乃を敵だと認識して攻撃しかけた瞬間、
 さっき北岡さんが言っていた仮面ライダータイガも入ってきて」

「ちょっとどういうこと……」

怒涛の展開にプラという機械を
膝の上に乗せた北岡さんが身を乗り出した。

「乱戦になってしまった状況の中で。
 由乃もどういうわけかガッシュと雛苺に狙いを定めていて。
 僕は場を収めようと早まってバオウ・ザケルガという
 超強力な術を使ってしまったんです」

「使ったと言ってるけど実際に術を行使したのは
 ガッシュでいいんだよね?」

「はい」

「で、ここがひとつのクライマックスかな?」

「火の海になった遊園地の中。
 僕は前も後ろもわからずに彷徨って。
 瓦礫の倒壊にも気づかずに……」

耐え切れなくなって僕は嗚咽を漏らす。
視界が滲んで、ガッシュの勇姿を思い浮かべるだけで
涙がとめどなく溢れてくる。

290HAPPY END’s FRAGMENTS  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/20(月) 00:01:20 ID:pivIQ7Ro0


ガッシュは間違いなく凄い奴だったと僕は再確認した。

「けれども君は死なず……」

「ガッシュが飛び出して僕を庇って死にました」

息を吐くと、鼻水と震え疲れた顎で口の中が
言いようのない不快感に満たされているのに今更ながら気づく。

ウマゴンはその時のことを思い出したのか
肩を落として悄然としている。
対して北岡さんは顎に手をあてて暫し思案にくれている。

「ウマゴン……だっけ?
 人の言葉がわかるんだよね。
 わかっていたら左手を胸に右手を頭の上。
 片足の側面をもう片方の脚の膝に乗せて……」

言うとおりにしたウマゴンの姿を見てシェーと北岡さんは呟く。

「あの……なにを?」

「ちょっとウマゴン。
 うきてるから離れて」

「雪輝です」

「そうそう、ユッキーから離れて。
 うん、それで俺と雪輝の間の位置に立って。
 それからちょっと後ろに下がって……OK」

北岡さんの言うことにウマゴンは大人しく従って動く。
そしてウマゴンの位置に満足した北岡さんがしたり顔で頷くと。

プラを膝の上からどけて佇まいを正した。

「じゃあ、もう一度聞こうか」

「……何を?」

「バオウ・ザケルガを放ったときは、
 由乃って子はどうなってもよかった?」

「已むを得ないと思っていました」

「でも彼女は君を愛していたんだよね?」

「はい」

「けれども君を置いて……」

「ウマゴンに襲いかかって死にました」

「そのことについてウマゴンを恨む気持ちは?」

「ありません。ウマゴンもガッシュに嫉妬した
 僕を恨まないでいてくれるんですから」

「まー、美しい関係」

「……何が言いたいんですか?」

「由乃は君を置いてウマゴンと鉢合わせしたから戦闘を挑んだ」

「錯乱していたんでしょう」

「けれども君は彼女を探すでもなく
 心折れて彷徨っていた。
 そうなることを予測していただろうに」

「バオウは……僕が思う以上に強力な術だったんです。
 あれを目の当たりにして怖がらない人はいませんよ」

「未来日記は?」

「……知ってるんですね」

「みねねから聞いてるよ」

「僕の未来日記は周囲のことを無差別に予知できる無差別日記です」

「それは君のことも予知できるの?」

「いいえ、でもありますしはい、でもあります。
 僕に振りかかる出来事は予知できますがその結果まではわかりません」

「優れものだね」

「そう、ですね」

291HAPPY END’s FRAGMENTS  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/20(月) 00:06:00 ID:pivIQ7Ro0


「何故使わなかった?」

北岡さんの眼の色が変わり。
僕を威圧する剣へとなる。

「煙が濃すぎて……」

「携帯も見えないくらいに暗かった。視界が悪かったと。
 それは道理が通らないよウッキー」

「ユッキーです」

「ウマゴンと由乃ちゃんは普通に闘えているんだ。
 そして君の未来日記は
 そういう何が起こるかわからない事態だからこそ機能する」

「ま、待ってくださいよ。 
 僕は闘いのときは由乃の後ろに
 隠れていることしかできない弱虫だったんですよ?」

「なら尚更に君の未来日記は命綱に等しい。
 このゲームは予めの使い慣れた武器+αが支給されているのがデフォだ。
 だけど君の未来日記以上に
 有用な支給品なんておよそありえないと言って良い」
 
「垂れ幕! 遊園地にはありますよね。
 パレードの知らせをするようなものが!!
 それが偶然、僕に飛んできたんです!
 それで周りが見えなくなって――」

「それで……君を助けたのは?」

「ガッシュですよ! 
 ガッシュは本当に凄いんです!
 優しい王様なんだ!」
 
「瓦礫の倒壊から庇って」

「はい!」

「君を突き飛ばして」

「そうです!」

「そして死んだ」

「ガッシュ……!
 僕のせいで……!!」

「周り見えなかったんだよね?」

おどけたように肩を竦めて北岡さんは苦笑した。

冷や汗が、思わず僕の背を伝っていく。

「瓦礫が倒壊した。
 咄嗟にガッシュくんが君を突き飛ばした。
 そしてはい、さようなら。
 その間わずか2秒もないよ。
 仮面ライダーでも魔物でもない君が
 どうやってガッシュを知覚できた?」

「そ……れは……瓦礫の中から!
 このマントと一緒にガッシュを見つけたんです!」

「じゃあ結局今まで言ってたことは何だったわけ?」

「あ……そ……れは……」

「心折れて。仲間に助けられて。炎の海に囲まれて。
 それで前も見えない視界の中で必死に仲間の死体を探したと」

「未来……日記を……」

「使える余裕あるんじゃないのよ」

「…………」

「認めなよ。ガッシュを殺したのは君だ」

北岡さんの言葉が無情にも僕の嘘と誤魔化しを切り裂いて。
僕の行いを露にする。僕の罪を餌のようにウマゴンの前に垂らす。

292HAPPY END’s FRAGMENTS  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/20(月) 00:09:19 ID:pivIQ7Ro0


野生の衝動。
ウマゴンの片目の色が変わり。
僕を敵だと認識していく。

北岡さんの論理武装には僕ではどうやっても勝てないだろう。

「……最後に一つ聞かせてください」

「なに?」

今にも襲いかかろうとするウマゴンを制して、
北岡さんが無表情に応えた。

「貴方、何者なんですか?」

「スーパー弁護士北岡秀一だよ。
覚えておくといい」

「そうですか」

頭を垂らして。
北岡さん達に僕の表情が見えないようにする。

こんなにも、
こんなにも!

「やっぱり――」

チョロいなんて!

「貴方がガッシュを殺したんですね」

「…………はぁ?」

293HAPPY END’s FRAGMENTS  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/20(月) 00:09:34 ID:pivIQ7Ro0

僕はずっと身に着けていたガッシュのマントを
これ見よがしにはためかせる。

「これがガッシュから受け継いだ誇りの証。
 聞いてくれウマゴン、あの時あった本当の出来事を」

「いや何言ってんのよちょっと」

「あの時、僕は火の海の中でガッシュと出会って!
すぐさまに和解できたんだ! 
けれども、そのとき。僕を遠方から狙う狙撃に気づいて!
ガッシュが僕を突き飛ばしたんだ!
そしてそのあとで観覧車を閃光が走って。
ガッシュに向けて倒れていったんだ」

「ちょっとおかしいでしょそれ」

呆れ果てた北岡さんが僕の演説に水を差す。

北岡さん。
貴方は間違いを犯しているんだよ。

「どうして僕がすぐそれを言えなかったかって!?
 用心したのさ! 君と合流した後も僕達を狙いっているんじゃないかって!」

「んでなんでそれが俺よ?」

「狙撃は高所からするのが有利なんだよね?」

「んまあ、そうだけど」

「だから僕はまっさきにここに来たんだ!
 途中で予知されたキャンチョメのことを避けて真っ直ぐにね!
 この身を危険にさらしてでも来たんだ!
 卑劣にも僕を陥れようとする貴方を倒すために!
 生憎と、貴方は他の勇者から既に塔を追われた身だったようだけど!!」

ウマゴンがすっかり動揺して僕と北岡さんを見比べる。

「僕は死に逝くガッシュから託されたんだ、このマントを!
 遺されるウマゴンを守ってやってくれって!
 僕達の意志を潰えさせてはいけないってね!」

「この糞ガキ……なにをいけしゃあしゃあと……!」

「ねえ、ウマゴン!!」

両手を広げて、僕はウマゴンに微笑んだ。
力強く、ガッシュのように見えるよう意識して。

感情が論理を圧し潰していくために。

ガッシュの遺した絆が、事実よりも、理屈よりも、
ウマゴンにとって大事であることを願って。

それが、殺し合いの法をも乗り越えた彼らの強さなんだから!

「ガッシュを殺そうとした僕を助けに行って
 ガッシュは僕に殺された。
 そして君はそんな僕を許した!
 それが北岡さんの推理だ。
 けどもう一度君の心で考えて欲しい」

心細く僕の方に歩み寄って。
ガッシュのマントの裾を
縋るように掴んだウマゴンの頭を力強く、僕は撫でた。

「君の主が。君の親友が。
 命がけで守った僕が悪者だなんてあっていいと思うかい?
 それこそ――ガッシュの死への冒涜だ」

その言葉が引き金となって。
ウマゴンが僕を守ろうと北岡さんへ振り返り。
鎧を纏った一角獣に変わった。

「よく、よーーーーーーくわかった!」

緑色の猛牛を模した戦士に変身した北岡さんが、
銃を抜き放って僕に狙いをつける。

「君は浅倉以下の糞野郎だ」

そして、一角獣と仮面ライダーの殺し合いが始まった。



#########

雨流みねねがこちらへと真っ先に爆弾を投擲。
炎に心的外傷のあるウマゴンが暴走。
潜んでいたミツルも炙り出され。

1st.天野雪輝は乱戦に巻き込まれ、死ぬ。


DEAD END
#########


ここで潮時だろうとずっと思っていた。

キャンチョメという人がどういう人かはわからないけれども
ガッシュの親友ならばきっと凄く良い奴なんだろう。

そして、たぶんなんだけども9th“も”ガッシュみたいな奴が
大好きなんじゃないかって直感だけど思う。

もし、殺し合いを仕掛けて、取り押さえられて。
キャンチョメと和解していたとしても。

殺し合いを仕掛けた奴の言うことなんて鵜呑みにするわけない。
そもそも、僕と9th.雨流みねねの間にはそこまでの差はない。

まだ近くにいる。

取り入ることができる。

北岡さんの過去は追求しないけど
せいぜい利用はさせてもらうよ。罪悪感ないし。

死ぬのは脛に傷ある大人一人と無垢な子供一人だ。

バイバイ、ウマゴン。

君は仮面ライダーゾルダとともに死んでくれ。

294HAPPY END’s FRAGMENTS  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/20(月) 00:10:54 ID:pivIQ7Ro0

【G-7 古代遺跡/一日目/午後】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康、心の力の消費(大)、両手の平に大火傷
[装備]:無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、投げナイフ(14/15)@未来日記、IMIウージー(25/32)
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする?
1:北岡とウマゴンには共倒れになってもらう
2:他の参加者に取り入る
3:情報を集める。そしてゲームの破壊に繋がるようなものは隠す。
[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づいていません。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました

【シュナイダー@金色のガッシュ!!】
[状態]:心の力の消費(中)、右目失明、
[装備]:なし
[道具]:魔本@金色のガッシュ!!、基本支給品、マキビシ@バジリスク〜甲賀忍法帖〜、煙草@現実
[思考・状況]
基本行動方針:ガッシュの思いを継ぐ。仲間と共に主催を撃破して清磨たちのいる所へ帰る
1:北岡を殺す。
[備考]
※第一放送をしっかりと聞いていません。ガッシュが死んだことだけは理解しましたが、他はどの程度聞いていたかはわかりません。
※右目の後遺症については不明。洗浄し、消毒液をかけた程度の処置しかしていません。
※殺し合いに乗っている者への強烈な憎しみを自覚しました。
 雪輝への憎しみを他者に向けている可能性があり。


【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ゾルダに変身中、神崎士郎への怒り。 疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)(プラ@waqwaqと契約)
[道具]:基本支給品一式、マスターキー@オリジナル、
     香川英行のレポート?(神崎士郎の願いについて書かれている?)
[思考・状況]
基本行動方針:安寧とした立場でせせら笑っている神陣営に踊らされるのは気に入らない。
0:生命をベットしようよ、神崎士郎。それと、お前の指図は受けない。
1:雪輝をどうにかする。
2:上空に昇った光の正体も気になる。
[備考]
※参戦時期は劇場版開始前のどこかからです。詳しくは後の書き手にお任せします。
※未来日記の世界観、雪輝、由乃、来須、マルコ、愛のみねね視点で知っている大体の情報を把握しました。
※逃亡日記は所有者の逃走経路を予知するものだと勘違いしています。
※香川英行のレポートに仮面ライダーの弱点が書かれていると
 北岡は言っていますが真っ赤な嘘です。
※アタッシュケースには契約カードとプラが入っていました。
  なぜ契約できるのかは不明です。

295 ◆1yqnHVqBO6:2012/08/20(月) 00:11:06 ID:pivIQ7Ro0
以上、終わり

296 ◆IRxFfnsX8c:2012/08/22(水) 02:08:33 ID:PQuMzWgE0
投下乙です!
スーパー弁護士マジ頑張れ。
ユッキークズいぞもっとやれ!
何か普通のロワっぽい空気があって(ロワロワ独特の空気もいいけど!)大好きです!

297 ◆IRxFfnsX8c:2012/08/22(水) 02:13:50 ID:PQuMzWgE0
よし、久々に使った鳥だけど合ってた!
お久しぶりです。でも予約じゃありません。
「ロワロワイラスト大量描き企画」として支援イラストなど描こうと思っております
ttp://www3.atpaint.jp/rowarowa/src/1345568445296.jpg/img/
とりあえずトップバッターは私が一番好きな翠星石&シオ、のロワ関係ない絵w
リクエストや俺も参加するぞ!って方はWikiのお絵描き掲示板にて(ファイルアップロード可能です)

ロワロワもいよいよ大詰め!? 完結を楽しみにしています。
一回くらい投下したいなーとか思いつつ現実はキビシイ。
ではでは、宣伝でした!

298 ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:15:33 ID:ulIAQH9M0
イラストとかちょっと興奮してきましたね。実に楽しみで素晴らしいと思います。
イラストの期待はともかくとして投下します。

299 ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:17:55 ID:ulIAQH9M0
荒野で始まった闘いは拮抗していた。

「チッ」

炎の剣士と魔術師が互いに縦横無尽に草原を駆け回り、杖と剣を交差させる。
炎の剣士――レオが持ち前の速さを生かして、魔術師――ミツルの後ろに回り込み、炎で生成した剣を横薙ぎに振るう。
だが、剣はもょもとに接触せずに空を切る。

(畜生……いくら速さで上回っても当たらない。ある程度は攻撃をしながら防御しようって決めたけど、めんどくさいな)

レオは蓄積された防人としての経験を用いて、ミツルの振るう斬撃を紙一重で回避する。
無論、経験を差し置いても戦闘の天才であるレオがただ回避するだけで終わるはずがない。
斬撃を回避した瞬間、すぐに拳を握りしめ掌底をミツル目掛けて抜き放つ。

「だけど……テメエの動きはわかりやすい」

風を貫きながら光速の勢いで放たれた拳はミツルの頭上をすり抜けるだけにとどまった。
まるで、その攻撃が来るだろうと予測していたかのように彼は頭を引っ込めたのだ。

「……!」
「五月蝿い……」

攻撃を躱されるとは思っていなかったレオは目を大きく見開いて身体を硬直させる。
その一瞬の隙をミツルは見逃さなかった。
硬直の間に、地面を強く踏みしめ、レオの横を風の如くすり抜けた。

「邪魔だ、消えろ」

そして、すれ違いざまの斬撃がレオに傷をつける。

300 ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:18:28 ID:ulIAQH9M0

「ハッ。かすり傷だ。屁でもねぇ」

脇腹についた切り傷など脇目もふらず、レオは炎の剣の形を解き、球状へと変化させる。
触れるもの全てを溶かし尽くす炎玉がレオの右手に乗り、一回り、二回りと大きくなっていった。

「燃えろ」

成人男性の頭の大きさにまで膨らんだ炎玉がレオの手から離れ、ミツルへと飛翔する。
勢い良く放たれたストレートの豪速球。それを前にミツルは手を前へと掲げて――。

「全てはゼロになる」

時空王の力の片鱗、ゼロにする力が炎玉を飲み込んだ。
飲み込まれた炎玉は音を立てずに消失し、跡形も残らない。

(やってられねぇな。全部の攻撃が消されちゃ。本当は防御に専念した方がいいんだろうが)

レオが顔を渋くして炎の剣を再び、生成する。
防御に専念するとは言っても、攻撃もそれなりにしなければ相手には舐められる。
隙あらば殺そうとはしているが、なかなか作ってくれない。
だが、それ以上に。

「ムカツク目をしてやがるからな。とりあえず、ぶっ倒す」

ムカつくからぶっ飛ばす。
それが、レオの行動原理として身体を動かしているのだ。












「……ヒロキ。もう、諦めなよ」
「ま、だ……俺は諦めない」

友達を救う為に始めた戦闘は数分を持たずに決着を告げる。
戦況はもはや明らかだった。
キャンチョメの身体には傷一つないが、杉村の身体に傷がない部分はもはやない。

301 ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:22:04 ID:ulIAQH9M0

「いつだって、俺は……立ち上がってきた」

血まみれの拳を強く握り締める。
ぎゅっと握りしめて。不屈を、明日を、友達を。
全部ひっくるめて意志に変換し、前を見る。

「どうした、キャンチョメ……俺は、まだ立っているぞ」
「……ならいいよ。ハンデだよ、ヒロキの得意分野で相手をしてあげるよ」

瞬間。一秒前までそこに存在していた怪物は消え、その代わりに一人の男が存在することとなる。
その容姿は、情報規制により外国関連のものを見ることが少ない杉村にとっては見慣れないものだった。
流れるような金髪、彫りの深い顔、杉村を優に超える長身。
このイメージがキャンチョメの抱く最強のイメージなのだろうか。

「関係ないさ……俺は、俺だ。どんなことがあっても、友達を見捨てない」

変わらない。杉村の胸に灯った正義の炎は消えない。
キャンチョメを救う。それが、今の彼の正義であり、やりたいことなのだから。

「来い、キャンチョメ。俺が、教えてやる」
「何を?」
「本当の力というものを。お前が心から欲しいという強さを」

大地から想波を吸い込み、身体に循環させる。
これにて準備は完了。後は――勝つだけだ。

「……行くよ。これで、終わりにする」
「終わりにはならん。始まりさ、この戦いは」
「いいや、終わるね。ヒロキは負ける。それだけは確実なんだからさ――――っ!」

キャンチョメは強く地面を蹴りあげて、前へと加速する。
目標、杉村弘樹。勝利条件は相手の戦闘不能。

302 ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:23:55 ID:ulIAQH9M0

「あああああああっ!」

それを見て、杉村は動かない。何もせず、ただ立つのみ。
拳を握り締めることすらせずに前を見据えている。

「それでも、俺は言うさ……」

今のキャンチョメは力のみに頼って、中身を全く見ようとはしない。
敵はただ、潰すだけ。その中に何があるのかを考えようとも、見ようともせずに。

「間違っている、そんな正義は悲しいって」

彼の頭の中に一人の少女がよぎる。
いつも、つっけんどんでお世辞にも優しいとはいえない少女だった。
それでも、その少女には譲れない意志がいつも存在していた。
前を見て、走る。脇目もふらず駆け抜けるその姿は杉村の憧れだった。

(貴子……お前の分まで生き抜くって決めたんだ。
 だから、俺は――こんな所で死ねない。キャンチョメを救って、俺も生きる。そんな、ハッピーエンドを叶えてみせるさ)

後、百メートル。
キャンチョメが拳を固く握る。
後、一メートル。
杉村は、まだ動かない。
後、百センチメートル。
キャンチョメが杉村の腹部へと狙いを定める。
後、十センチメートル。
拳が、放たれる、
後、一センチメートル。
放たれた拳は風を捩じ切りながら押し進む。

「…………何で」

ゼロ。拳は突き刺さる。
腹部への攻撃の影響か、杉村の口からは血がドボリと吹き出した。

「ねえ、何でさ」

キャンチョメはこの無音の空間に耐え切れず問いかける。
必殺の攻撃を受けてなお、立っている杉村を“怖い”と思ってしまった。
最強の力を持つ自身がである。
もはや、変身に意味はなく、キャンチョメの姿は元に戻る。

303 ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:25:25 ID:ulIAQH9M0
「何でっ! 避けないのさ!!!!」
「何でだろうな……自分でもよくわからない」

杉村は震える足を気合で必死に立たせながら顔を上げた。
目はもう見えないけれど。そこにはキャンチョメの泣いている姿が容易に想像できる。
泣いている友達。ならば、今ここで自分がすべきことは何か。

「ただ……思ったんだ。俺の武器は、牙でも爪でもなく言葉だって」

強張る顔を無理矢理に笑顔に変えて、へたり込んでしまったキャンチョメの頭をなでる。

「なぁ、キャンチョメ。確かに、お前は強くなったよ。だけど、それだけじゃ駄目だ。
 思いだけでなく、力だけでなく。誰かを心から思う。相手に言葉を届けることこそが本当の強さだって俺は思ってる」
「でも。ヒロキ……僕は、皆を護りたいって思いも、最強の力も。どっちも持っていたはずなんだ」

キャンチョメはグスグスと嗚咽混じりに言葉を紡ぐ。
強くなって、皆を護る。もう、これ以上仲間を傷つかせない。
それが、いつからだろう。
何かを倒すことに快感を覚えてしまったのは。
きっと、雨流みねねが死んだ時だろう。
あの時、歯車が狂ってしまったのだ。

「……ごめん。僕、嘘ついた。本当は強くなった力を試したいって気持ちがあった。
 誰かを甚振ることに快感を覚えていた! 皆を護ることを僕自身の優越感とすげ替えて……」
「そうか、でも、いいじゃないか。間違いに気づけて。これからは、正しい方向にその力を使っていけばいい」
「うん。ごめんね、ヒロキ。迷惑をかけて」
「気にするな。俺達、友達だろう」
「嬉しいな……。よかった、ヒロキと仲直りできて」

どんっと杉村は身体を横に強く押された気がした。
既に、立っていることすら厳しい杉村は簡単に地面へと倒れる。

304終わりのメーノーグ ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:28:34 ID:ulIAQH9M0










「さよなら、ありがとう。…………ごめん」










何かが消える音が。書き換わる音が、耳に入る。

305終わりのメーノーグ ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:31:05 ID:ulIAQH9M0

「イレギュラーは、消す。それが“表”の俺の役割だ」

突如、現れた男の言葉は、キャンチョメの消失を告げていた。
声が、叫び声が。自然と口から漏れだした。
震える身体にムチを打ち、立ち上がり駈け出した杉村を無視して、男は無情にも告げる。

「杉村弘樹。レオナルド・エディアール。ミツル。謁見だ」

男の声と、同時に。
世界が、変わる。

「お前達には、これから……知ってもらう。この闘いの真実を。その為に、全ての異常を、平常に戻したのだから」

もう、戻ることのない視界は色を取り戻し。
手に入るはずがなかった世界の景色は、美しさを演出する。
限りなく限りなく全能なるゲーティーグは不能となる。

「全ては、時の遡るままに。“裏”の俺はメッセンジャーだ。後は任せたぞ―――時空王・デウス」



【キャンチョメ@金色のガッシュ!!  消失?】


【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:『健康』
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、雛苺のローザミスティカ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:正義
1:????

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
覚醒した杉村は空気を読むことで周囲100mの状態を把握することができます。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後


【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:『健康』
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
    仮面ライダーファム(デウス因子吸収による存在変容)@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:????
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。



【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:『健康』
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:自分で在り続けるために走り続ける。
1:????
※由乃の返り血を浴びています。

306終わりのメーノーグ ◆W91cP0oKww:2012/08/29(水) 00:31:48 ID:ulIAQH9M0
投下終了です。

307 ◆1yqnHVqBO6:2012/08/31(金) 17:29:30 ID:DfIhrwR.0
イラスト支援に投下に予約と
嬉しい叫びに日々を過ごしています。
すごい企画ですねイラスト支援

というわけで投下します

308「薬師寺天膳死す」。デュエルスタンバイ!  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/31(金) 17:32:37 ID:DfIhrwR.0

大きく円を描く通路。
何度か明滅を繰り返す建造物。
オンバから聞いたところによると名前は蜘蛛の糸。

空から垂らされる糸そのものの外観を持ち。
上空のどこに根本があるのか
見極めることができない巨大な建物。

隠れる素振りを見せることなく。
堂々と存在を誇示して爆音を響かせ二輪自動車で爆走するのは
真っ赤な鎧と仮面を纏った白髪鬼。

「誰も来ないとはどういうわけじゃ?」

ハンドルに手を付けず腕組みするというハコ乗り。
爺には似つかわしくないファンキーなライディング。

不満気に呟くのも無理はない。
オンバから聞いた情報によるとコトとは
このゲームを開くために尽力したという人格者であり
同志となって集まった者たちの要求を
こまめに取り入れてくれたという器の大きさを持つ
素晴らしい人物である――キクという機械の賢人を扱き使う小者。

長々とした情報の途中までならば
是非とも誇りを賭けて闘いたいところ。
だが最後にどんでん返しの情報が来るのだから
やる気の出ない相手ではある。

故に主に歯向かう者を排除するためにやってくるキクと闘う為に
あえてダンボールをかぶるようなスニーキングミッションではない。
目立つ目立ちて目立つ時の誘い受けが一手を選んだのだ。
なのに音沙汰もないというのは拍子抜けにも程がある。

「機械の守衛もどきもいないというのはおかしなことじゃて」

髭のないつるりとした表面を
つい、いつもの癖で撫でる白髪鬼。

そして、音も気配もなく。
目の前に金色の豪奢な戦士が出現した。

「おお、小言を言った途端にお出迎えが。
 ありがたいことじゃて。おまえさん、名前は?」

空気を斬り裂く感触を味わい。
少しも速度を緩めることなく
戦死のいる場所へとバイクを駆る。

答えは、無言。
次の瞬間、空間を転移した金色の戦士、
オーディンの一撃が白髪鬼の背後から迫る。

一撃は鎧斬り裂く火花もなく空を斬る。
背後に現れようと爆走する
バイクがすぐさまその位置から離れるのだから斬ることは不可能。

「城戸くんの情報は正しかったようじゃな」

感慨深げに頷く白髪鬼を睨みつけるように
遠い背後で腕組みし、仁王立ちするオーディン。

「コトを殺すのはこのタイミングではない。
 お前はここで死んでもらう」

初めて言葉を述べたオーディンだが

「すまん、風の音でよく聞こえんかった」

耳に手を当てて聞き返す白髪鬼。

309「薬師寺天膳死す」。デュエルスタンバイ!  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/31(金) 17:34:34 ID:DfIhrwR.0

「Once more please」

流暢な発音で優雅に再発言を促す。

「おお、バイクとは楽しいものじゃ。
 すまんが止まりたくないから走って来てくれんかの?」

闘争の悦びよりも未知の技術で造られたことから
常識外の速度を産み出すバイクの喜びに興味が向き始めた。
しかし白髪鬼も熱心な若者の声には耳を傾ける賢人。

故に音速となったバイクに追いついて
耳元で叫んでくれるのならば
きちんと真摯に向き合うだけの誠実さは持っているのだ。
だが白髪鬼の好意虚しくオーディンは無言。

――いや、そうではない。

白髪鬼の振る舞いがオーディンの。
頭部を抱え込むかのように手をあてて
ぷるぷると震え始めた。

白髪鬼の振る舞いの何が原因となったのか。
それは体の深く、彼が彼たらしめる芯から来たのか。
徐々に大きくなっていく震えは、
とうとう解き放たれ、絶叫となって空間を軋ませた。

「おおぉぉのれぇぇぇぇぇ舐めおってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
あのじじぃがぁぁぁ「おっと失礼」ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

だが絶叫は悲鳴へと変わってしまった。
何故か。心配した白髪鬼がわざわざ来た道を引き返して
様子を見に全速力でバイクとともに戻ってきたのだ。

予想外だったのは
オーディンが未だに道のど真ん中にいたこと。
そして気が違ってしまったかのように
気持ち悪く身悶えしたことだった。

白髪鬼は誇り高き闘争をしに来たのであって
夢野久作めいた狂人と触れ合いに来たのではない。

対応を思考するあまりついつい
ブレーキを踏むのを忘れてしまっても
それは誰にも責められないことだろう。

「すまんすまん。大丈夫じゃったかの」

強く痙攣して倒れ伏したオーディンを助け起こした白髪鬼。

「しっかりするんじゃ。
傷はまだそんなに深くはないと
自分に言い聞かせるんじゃ」

オーディンの装甲ならば本来
全速力の仮面ライダーが駆る二輪自動車に轢かれても
ぎりぎり大丈夫である。

だが今回のケースは実に良くない。
被害者であるオーディンは無防備によがっていたことで
バイクの衝撃をまともに喰らってしまったのだ。

変身が解けてしまった彼の体は無残なもの。
両の手足が折れ曲がり、
腹からはピンク色の内蔵が元気に飛び出している。

ここから助かるのは難しい。
最先端の医療設備と名医がいれば助かるだろう。
ここが蜘蛛の糸でここにいるのが白髪鬼と条件は揃っている。
しかし白髪鬼は今、メスをとるのが億劫な心境である。

「……これは!?」

冷静沈着な白髪鬼すらも驚嘆する光景がそこにはあった!
折れ曲がった両の手足が緩慢ながらも自力で正しい位置に戻り。
開いた傷どころか飛び出た内臓までもがビデオの逆再生のように
腹へと後退していく、その様まさに人体の神秘。

「お主、薬師寺天膳じゃな!?」

「ぬぅ……そうだ」

カントリーマンから聞いた情報と一致する。
不死の身体を持つ伊賀の男。

「伊賀の忍びじゃな!?」

「そうだ儂こそが伊賀の頭領じゃ」

不慮の事故で失われていた意識が徐々にはっきりし、
天膳の口調が確かなものになっていく。

「ならば死ね」

だがその意識は二度と役に立つことがなく死んでいった。

首を跳ねたサーベルについた
夥しい血を落とそうと大きく振り払う。

「すまんなあ。オンバからすでに
 お前さんの体の秘密は聞いておったのじゃよ」

分かたれた首を戻そうと必死に
天膳の皮膚で蠢く異形の者には目もくれず。

「めぐという娘の病の治療につながるとカントリーマンは思っていたのだがなあ」

白髪鬼は天膳の横に落ちていたオーディンの
カードデッキを拾おうとした。

「それは貴方に過ぎた力だ。ご老人」

穏やかな風のような声が白髪鬼の耳に触れた。
顔を上げるとそこにいたのは無機質な体に人の如き顔を持つ
機械の人。長い髪と硬質化した指先が特徴的な。

「お前さんがキク君かね?」

「……ああ」

心待ちにしていた答えが聞けて。
仮面の奥にある皺だらけの口元が鮫のように引き歪む。

「ならば――」

バイクに飛び乗り、起動する。
進行方向は先と同じく目の前の相手へと。

「――闘ってもらおう!」

目も眩む光が、蜘蛛の糸を縦横無尽に駆け回った。

【薬師寺天膳 死亡確認】
【残り 12名】

310「薬師寺天膳死す」。デュエルスタンバイ!  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/31(金) 17:35:45 ID:DfIhrwR.0

【蜘蛛の糸/一日目/午後】

【津幡共仁@銀齢の果て】
[状態]:疲労(大)
[装備]:カードデッキ(龍騎)、サバイブ(烈火)、チャンの玉@ブレイブ・ストーリー〜新説〜
[道具]:基本支給品×3、簡易工具セット、輸血パック(各種血液型、黒い血のも)、首輪解除
     ワタルを打ち抜いた弾丸 、月の石@金色のガッシュ!!、 レーダー@BTOOOM!、ワルサー予備弾×16、
     レオパルドン・パピプリオの首輪、ワタルの首輪(分解済み)、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:オンバの要求を呑み。英雄として行動する
1:これだから人生は面白い!!!!!
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ローゼンメイデンの事情をだいたい把握しました。
※バトルロワイアルの事情をだいたい把握しました。
※ワタルの首輪を分解しました。
 造りはガダルカナル22号と同じようです。

311  ◆1yqnHVqBO6:2012/08/31(金) 17:36:13 ID:DfIhrwR.0
短いですが投下終了です
残りのキャラは後日

312名無しさん:2012/09/01(土) 16:11:43 ID:PYQ03OdU0
投下乙です
天膳様、最期まで役に立ってないwww

313  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:08:19 ID:6zTtAcJM0
投下します

314鉄の少年、その終焉  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:10:49 ID:6zTtAcJM0


「こうして走ってると思い出すな」

「なにがだ?」

「ここに来る前も俺はこうしてずっと走っていた。
 前、と言っても一週間も経っていないんだろうけど」

「そうか」

「一人目は間に合わなかった。
 二人目はどうかわからない。
 三人目は前を向くのが遅かった。
 四人目こそは……間に合いたい」


……………………………………………………。


「これは遠くない過去、近くない未来。
 言うなれば永遠の今日という出来事」

荘厳なる大聖堂。
あらゆる因果律が産まれる場所であり
運命の糸をタペストリーに織る絶対なる旧き神の玉座。

「幻界という世界があった。
 それは現界に生きる人の数だけ存在し。
 人の想いを受けて産まれる正しき世界の鏡面世界だった」

重音なる音の主は
ハンプティ・ダンプティの玉座から
崩れ落ちたかのように。
ほつれ、破けた外套の上にある
鳥の骨が囀るよりも弱々しく、
しかし確かなものを感じる調子で話す。

「世界と世界の壁は強固であり、
 千年の時を経たねば壊れぬ程に確かなものだった。
 千年、神にとっては短き時間だが
 人にとっては永遠に等しい」

「世界の壁が壊れたのは知っている。
 多世界のが化物どもが跋扈するだろうこともな」

尊大に、奪われた
時空王の力を惜しむことなく
ミツルは神に問いかけた。

「《儀式(ハルネラ)》はどうなった?」

「私が執行することも万全ならば可能だが。
 既に9thからに施した因子操作を巡り巡って
 還元しなければこうして話すこともできない
 私には到底、無理なことだ」

「ならば誰がそれを行う」

「参賢人の一人、コトは
 それをプログラム、蜘蛛の糸で行えると思っていた」

「待て。蜘蛛の糸で“願い”を叶えてもらえるんじゃねえのか」

それまで無言だったレオが口を挟む。

「それだけならば可能
 ……だが万能の“願い”昇華と世界の壁、
 そして遍く広がった因果律の乱れを直すには足りない」

「多元世界の住人はすでに魂だけとなって
 無限に連なる広大なある世界へと安置されている。
 彼らにも新たな肉体を与えるとなれば恐らくは
 コトが打った殺し合いで更なる“願い”エネルギーを
 集めても不可能だろう。あくまで予測にすぎないが」

亡霊のように廃墟の玉座の傍らに立つ
神崎士郎が補足を付け足した。

「それで、闘いを中断し。
 俺から力を取り上げてまでして。
 何をしろと言うんだ?」

「この殺し合いにて動く想波の量は甚大。
 私が求めるのは未だ消息がつかめぬ、幼心の君」

「消息がわからないのなら。
 もう死んでるんじゃねえだろうな?」

「この馬鹿が」

疑問を鼻で笑うミツルを
レオが険悪な目付きで睨みつけた。

315鉄の少年、その終焉  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:14:22 ID:6zTtAcJM0
「そこの男が首元にぶら下げているのは
 女神への道を開く闇の宝玉への鍵、真実の鏡だ。
 それがあるなら、性根の悪い女神様が
 俺達を見ているってことだろうさ」

ミツルが指さした先は
杉村弘樹が首から下げたペンダント。
一同の視線を浴びて、狼狽する杉村を他所に話は続く。

「真実の鏡、我を受け継ぐ者。
 これらの邂逅が起きたことこそが女神の降臨の前兆」

肉体のない仮面だけとなった時空王。
硬質の髑髏の奥の閉じられた両眼が重々しく開く。

「闘え、子らよ。
 想いの衝突、絶望、それを前に屈する
 諦念を良としないならば。
 《望みを統べたもう金の瞳の君》への階段は開ける」

「なんだ、わざわざ喚んできておいて
 つまるところは今までと変わらないんじゃないか」

冷笑を浮かべたミツルは興味を失い、
時空王に背を向ける。

「戻ったら、始めるぞ」

「へんてこな力がなくなったのにまだやる気か?」

鼻で笑い、好戦的な色を眼に浮かべるレオ。
そんなレオを無視して、ミツルはここに来たのと同じく
ビデオを切り替えるように前触れなくそこから消えた。

「なんか釈然としないがこれで終りかな。
俺達も行くぞ、杉村。帰り方はわかるか?
俺はこういうのアシャとの対話で慣れてるけど」

「……俺にはもう途方も無いことばかりで
 なにがなんだかよくわからないんだけど」

今までほとんど口を開かなかった
杉村がおずおずと話しだした。

「キャンチョメは…………どうなった?」

「あれは恐怖に最も近き者から
 恐怖そのものへと変容し始めていた。
 そうなればチャンも敵わない真の魔王となる」

「だから殺したっていうのか!?」

「殺したのではない、消失させた。
 あれが産み出す想波を
 浮かぶ島のなくなった海に浮かぶあの果実世界に頒布し。
 《儀式》のため、女神を呼び寄せるために」

「えっと……キャンチョメはまだ
あの世界にいるということか?」

「お前が考えていることは予想がつくがな杉村。
 けれど想波は恐らく護神像に貯めこまれているような
 “願い”と同じものだ。決まった形はなく、だから強い。
 おまえにはもう届かない存在になったんだ」

レオは穏やかな口調で杉村を宥めようとし。
思案に暮れる杉村が折れるのをじれったそうに見つめた。

「レオ」

「……なんだよ?」

「こいつを頼む。
 キャンチョメを取り戻してくる」

杉村が投げ渡したなにかを受け止めたレオ。
握りしめた掌を開き、そこにあるものを認めて目を見開く。

316鉄の少年、その終焉  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:14:35 ID:6zTtAcJM0

「これを俺に渡してどうする気だ!
 お前にはまだこれが必要なはずだろ!?」

レオの手にあるのは雛苺のローザミスティカ。
杉村の、強い絆の証であり、雛苺の魂の塊、魂魄の宝石。

「ローザミスティカは情念の源、魂の焼付け。
 それなら、きっと俺達人間の魂でも
 似たことができるんじゃないかな」

「確証がなさすぎるだろ、やり方だって定かじゃない。
  “願い”に直接触れるなんて、
 死んだらどうするつもりだ」

「頼むよ、レオ」

抉れた両眼はこの世界では喪われぬまま。
そこにある黒色の視線が赤い視線と初めて確かに交わった。

「コイントスの裏表、
 ロスタイムが残ってるなら手を伸ばせば届くと信じたい」

折れたのはレオの方か。
顔を歪めて下を向き、荒々しく地面を蹴り、
勝手にしろと顔を背けた。

「ごめん、レオ」

「謝るな。おまえは俺に何も悪いことしてないだろ」

「たしかに、そうかもしれないな」

顔をあわせて笑う二人。
そのときだけは昔からの友達のように自然に。

「凄く短い付き合いだったけどさ。
 かっこ良かったぜ、おまえ」

「ありがとう」

「……戻れるなら戻ってこいよ」

その言葉を最後に、
レオも因果律大聖堂から姿を消して。

そこにいるのは
《歴史の道標》と《時空王》、そしてただの少年。

静かに、風化していくように外套と仮面が粒子に溶けていく
時空王が最後に問いかける。

「本当に行くのか」

「ああ」

「おまえも奴への恐怖はあっただろう」

「怖くたって痛くたって友達だ、行く」

因果律の大聖堂の端に立ち。
気休めにもならないストレッチを入念に行い。

「……琴弾は生きてるのか?」

「すでに死んでいる」

「――そうか」

水の中のような溺れそうな声は最後の一言で断ち切り。
今まさに駆け出そうとした瞬間に、大きな指先が、
杉村の背中を押し、無意識の海へと消えていった。

「真実の鏡はあのままでいいのか?」

「それがなくても蜘蛛の糸がある」

「……あの少年に何を見た」

「もしもこの身がかつての人の手を持っていたのなら
 あるいは私は輝きを捉えたかもしれん」

仮面の一欠片が述べる最期の言葉。
神崎士郎はその眼になんの感情を映しもせず。

「契約は終えた」

そう言って、玉座を取り巻く卵の欠片に触れ。

「これで核は真にこの手に」

因果律大聖堂が崩れ落ちていくなか、
無人となった王の世界に、生きるものはなく。

317鉄の少年、その終焉  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:15:45 ID:6zTtAcJM0

……………………………………………………。

無意識の海。
世界を取り巻く場所。
デウスの指先から送られた知識により、
万色の大海原での移動の仕方も存在の保ち方も理解はできる。

だが、それでも。
体は既に形を失い。
両の手足は意味を成さず。
広大なる場所でひとり、
ひとつの意識で駆ける不安感は筆舌に尽くしがたい。

動くことはないが存在する交じり合い、
はじけ合う、無数の巨大な想い。
一人の人間がまともに触れ合うならば
海の中で巨大な肉食海棲生物に対面する絶望がある。

デウスによって花開いた想波の闘法、
自己を守る術はあっても流れこんでくる余波。
淀み、悲鳴、怒号、嘆き、憤り。
あらゆる感情が流れ込み、
冒涜的不快感を杉村の脳に植え付け、
無数に芽吹き、身体の隅々まで掻き乱す。

ここから、あの世界にいるキャンチョメへ繋がる道を
見つけなければならない。
砂漠に埋まる米粒を探すよりも困難な。
不可能と切り捨てたほうが早い荒行。

殴りつけられた感触がする。
それは子を殺された親の絶望。

腹部を刺された気がする。
それは愛する者を喪った人の悲憤。

足を切り落とされた。
それは絶対なる存在に容易く踏みにじられた者の虚無。

耳を千切られた。
鼓膜が針に刺された。
眼球を誰かに握られている。

思考はできない。
諦めてしまえと何かが呪詛を吐く。

口を開いた。
あくまで開いたつもり。
口を開けば想いの残滓に舌に
釘打たれたけれど構うことなく。

「キャンチョメ」

弱いのか、強いのか。
どれほど響くかわからない。
わからないから叫ぶしかない。

「やっと思い出したよ。
 おまえがさっき変身した人。
 フォルゴレさんだろ?
 初めて会った時にもその姿だったよな。
 嘴がなかったから、わからなかったけど」

何かがかすかに動いた気がした。
ジェット機の隣で衣擦れがしたような頼りなさだけど。

「おまえは俺にたくさん話したよな。
 フォルゴレはかっこいいんだって。
 みんながフォルゴレを好きなんだって。
 世界一のヒーローなんだって」

気配が少しだけ強くなる。
ピアノの音が少し高くなったくらいに。

「俺がなりたかったのはさ」

揺らぎを、感じる。
揺らぐ揺らぐ、どこかで、誰かが。

「走って。泣いている誰かの役に立って。
 そして誰かが明日笑顔でいるのを隣で――」

意識が、こぼれ落ちる。
杉村の胸の何かが削れ堕ちていく。

「ささやかに胸を張っているような人なんだ」

落ちていく、落ちていく、
どこから?
わからない、どこかから。

「でも俺には勇気が足りなくてさ。
 怖かったんだ。誰かを殴ったりするのってさ。
 そもそも殴った手がとても痛いのも怖い。
 殴った手がいつものように開いてくれるのか怖い。
 あの真っ白な仮面の女性と闘った時も、
 雛苺を助けに行った時も――怖かった。勇気が欲しかった」

杉村は、手を伸ばす。
なにかが指先に触れてくれるのを願って。
再び喪った視界の先に誰かがいることを望み。

「お前に会えて良かった。
 お前が、お前にとっては
 大して特別なことじゃなかったかもしれないけど。
 お前がたったひとりで俺達を逃がそうと立ち向かっていった姿が
 俺には本当に眩しく見えた」

手を動かす。
手の形はきっとしていないのだろう。
あくまで思惟の延長にすぎない。
けれども、手で良い。

「わかるか? 俺に勇気を見せてくれたのはお前だ。
 だから、迎えに行くんだ。
 お前が友達で、憧れるヒーローだったから」

318鉄の少年、その終焉  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:16:39 ID:6zTtAcJM0

周囲が震えた。
溶けた世界ではっきりと意志を放つ
異物の存在に気づき。
無数の口を開けて、杉村を噛み砕こうと雪崩かかっていく。

「なあ、キャンチョメ。
 お前は強さを見失ったのかもしれない」

杉村のかたちが、輪郭を取り戻した。

「じゃあ、初めて会ったときに変身していたフォルゴレさんは、
 心細いおまえが真っ先にいてほしかったその人は、
 今のおまえには弱く見えるのか?」

輪郭を取り戻した両の手で、
何もない空間に爪を立てる。

それは、硬く閉じられて扉の隙間に手を潜り込み。
力尽くでこじ開ける動きに似ていた。

「答えろ、応えろ、キャンチョメ!」

無意識の海、歪が走ったのは
杉村の目の前から。

縦に裂けた空間の割れ目が
万色から自然の色彩へと姿を変えて。

前へと踏み出す杉村の前に。
たしかにいた。

「ずるいよ、ヒロキ」

両手で目元を擦り、
涙を擦る少年の姿が。

「フォルゴレが強くないなんて。
 そんなことあるわけないじゃないか」

涙と鼻水まみれの顔を杉村に押し付けて。
大声で泣くキャンチョメの頭を杉村は優しく撫でる。
撫でる手も。徐々に砂像のように風に散っていっても。

「――笑ってくれ、キャンチョメ」

慟哭するキャンチョメに、
杉村は懇願する。懇願、そう言うに相応しいほど
頼りない姿で、顔で、頼みこむ。

「今の俺には、もう何も聴こえないし見えないのだけれど。
それでも、笑ってくれ。お“願い”だ」

琴弾佳代子の顔が浮かぶ。
千草貴子の顔も浮かぶ。
七原秋也の顔も浮かぶ。

再会した時に、盲た暗闇のなか、
泣いている子供の姿をしたキャンチョメの姿が浮かぶ。

胸元で何かがひび割れる音がした。

それをきっかけに、杉村の崩壊が進む。
足はもう存在していない。
左腕もかたちを保っていない。

右腕だけでキャンチョメを抱きしめて。

ようやく、キャンチョメが顔を上げて、表情を見せた。

「ありがとう」

それが鉄の少年、スケアクロウの最期の

「これで、俺の望みは――――――叶った」

         言葉

319鉄の少年、その終焉  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:20:44 ID:6zTtAcJM0

……………………………………………………。


波形の呪法というものがある。
謀反を起こすのが定めの旅人を縛り付ける呪い。
意に沿わない行動をすれば、
対象の心に無限の恐怖を想起させるもの。

だがこれには別の効果がある。
想いを力にするのが旅人であるからこその。
波形の呪法を耐え、凌ぎ、立ち向かう意志を持つことで
旅人の力を飛躍的に増大させる結果をもたらす。

同様に、《白色魔王》の絶対なる精神汚染を受け、
そこから回復することで
想波の威力が跳ね上がるということもありえるのだ。

「これで終わりか?」

嘲笑を浮かべて見下ろす先には
倒れ伏したレオナルド・エディアールの姿。

「ずいぶんと元気になったじゃねえかよ」

嫌味を吐く元気はあっても、
すぐに体勢を建てなおす力は湧いてこない。

「手応えはなかったが準備運動にはなった。
 礼だけは言っておいてやる」

純白の鳥を模した仮面の騎士。
レイピアとトライデントを持つ両手が
同時に振るわれて、レオの生命を刈り取ろうとする。

「やめなよ」

それをそっと押しとどめるのはひとりの男。

すぐさま距離をとったミツルを他所に
レオの隣に屈み込み、立ち上がらせる。

「少し離れていて。
 ここは僕がやるから」

事態が呑み込めないながらも、
大人しく引き下がったレオを確認し。

ミツルへと向き直る。

男の姿は漆黒が主。
金髪を伸ばした美丈夫。
二つの心臓を模した意匠をワイシャツにつけ。
その上に羽織るのは闇色のマント。

だがそれは時空王のものではなく
金色の王のマント。

男は手を合わせる。
誰かに、何かを感謝するように。

手を開くとそこに産まれるのは
豪風、竜巻、男とミツルを取り囲む。

「ずいぶんと弱そうじゃないか」

「強いよ」

その姿は鉄より堅く。
誰より無敵な男。

「ヒーローだからね」

男の名はパルコ・フォルゴレ。
キャンチョメの最強のかたち。
誰もが認める鋼鉄の男。

【杉村弘樹 消滅】

【残り 11名】

320鉄の少年、その終焉  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:23:56 ID:6zTtAcJM0



【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:【白色のキャンチョメ=Man of steel】
[装備]: 闇の宝玉@〜新説〜ブレイブ・ストーリー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:ミツルと闘う              
[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
シン・ポルクを修得(効果:限りなく全能なるメーノーグ)
とれる姿は一つになりました
参戦時期:ファウード編以降




【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:健康
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
    仮面ライダーファム(デウス因子吸収による存在変容)@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:皆殺し
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。



【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:健康
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:自分で在り続けるために走り続ける。
1:さてどうするか
※由乃の返り血を浴びています。

321 ◆1yqnHVqBO6:2012/09/02(日) 15:24:18 ID:6zTtAcJM0
以上で投下終了です

322 ◆1yqnHVqBO6:2012/09/23(日) 16:13:45 ID:p3DoI5vA0
投下しmす

323降り立つ、長い道歩む少年の前に  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/23(日) 16:15:51 ID:p3DoI5vA0


「機械にはあるプログラムが施されている。
赤き血の神には逆らえない。剣を向けない。
唯一の知性持つ賢者である私も例外ではない」

「くだらんね」

「しかし、ミラーワールドで戦うために作られた仮面ライダー。
位相の違う世界で存在を保つには己もまた存在を作り替える必要がある」

「つまり……どういうことじゃってばよ?
わかってはいるがね。君の口から聞きたいのだよ」

「仮面ライダーでいる限り
私は人間である貴方に刃向かえるということだよ」

「素晴らしい!」

口笛を吹いた白髪鬼はバイクを最高速度まで唸らせる。
空気は悲鳴をあげ、円を描く通路を急な角度で曲がる。
火花が上がるタイヤ。それとは別にキクへと撃たれる弾丸。

目にも留まらぬ速さで
疾走するバイクと並走する機械の賢人。
胴体を狙って放たれた銃弾は
強化された動体視力で正確な狙いを持っていた。

弾丸は硬化能力で産まれた壁に阻まれる。
幾何学の模様を施された結界に衝突すると弾丸は消滅した。

次の瞬間には踊るように白髪鬼の前に飛び出し。
前輪を勢い良く蹴りあげる。
如何なる力がこもっていたのか、
床を抉った蹴撃は白髪鬼を機体ごと浮かび上がらせ。

瞬時に飛び退いた白髪鬼が着地するのと同時に
追撃に眼から破壊光線を発射した。

「眼!」

予想外の攻撃を防いでいたのは
手首に巻き付いていた極細の弦が引き寄せる
仮面ライダーのライドシューター。

「桐山くんから拝借しておいて助かったわい」

バイクを蹴り押すと凄まじい勢いと倍増する質量が
さながらモーニングスターの体でキクへとぶつける。
たまらずたたらと踏んで後退する。

宙でバイクを数回旋回した後、
自身の真ん前に下ろすと再度乗りなおし再起動する。
速度を上げ、前輪を浮かし。
機体を持ち上げて斧のようにキクの顔面へと振り下ろす。

硬化壁を展開するには間に合わず。
腕を鞭のように撓らせライドシューターを弾くと
鋼鉄を斬り裂く指を伸ばして白髪鬼へと進む。

だが貫いたのは龍騎の赫き残滓。
斬り裂いたのはライドシューターの残り香。
遠くに行った鬼の背中へと迷うことなく賢者は駆け出す。

軽すぎる衝撃がハンドルを揺らし。
砕かれたエレベーターのドアは
細かい欠片となって下界に落ちていく。

壁を伝い、下るよりも落ちるのが相応しい
直角の坂を落ちていく白髪鬼。

誰もが断じる愚策。
眼からレーザーを発射するならば
両手からレーザーが撃てない道理はない。
そして発射口が大きければそれすなわち極太レーザー。
逃げ場を自ら失う鬼に似合わぬ行為。

重力加速度をどうしてか上回る速度で落ちる爺。
縁に立ってそれを見下ろすキクは俯き、
髪が顔に垂れて表情が判別しにくい。

だが僅かに覗く理知的な双眸にはたしかに躊躇いが見えた。

とん、と白髪鬼に続いて飛び降りると
足の底から噴射機構を出して、
白髪鬼を確実にこの腕で捕らえんと亜音速で駆け下りる。


−ADVENT−

しかしキクの眼前に広がるのは鋼鉄なる炎龍の頭部。
視界を埋め尽くすお伽話サラマンドラの再現を思わせる灼炎。
両腕を交差して放射にキクは耐える。
潜り、火炎を吐き出す喉元に辿りつくと腕を高々と掲げる。

五指すべてをまっすぐの剣の形にして。
斬りつければ鋼鉄の神獣たる皮膚も
耐えきれはしないだろう威力。

一閃の斬撃。
しかしそれも下方から聞こえる
腹の底へと響く重低音に妨げられる。

龍の背を道にして駆け上がってきた白髪鬼。
龍よりも高く翔んだその姿は炎に照らされた
閉塞空間で一際、光々と煌めく。

その姿に思わず目を奪われた機械の賢人にはお構いなしに。
壁に後輪を勢いよくぶつけ、
その反動でキクへとライドシューターが飛びかかる。

猛烈な回転数を誇る二輪。
処刑台そのものの様相を呈しキクへと圧しかかる。
白刃取りの動きでタイヤの回転を力ずくで止めるが
停止したわけではないバイクは動くことをやめようとしない。

そこに加えて多大な衝撃が産まれ、
キクはあえなく地面に落ちていく。

324降り立つ、長い道歩む少年の前に  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/23(日) 16:17:56 ID:p3DoI5vA0


衝撃の正体はバイクから翔んだ白髪鬼が
長大な竪穴空間を縦横無尽に飛び、落ち、蹴って。
最高速度、人体力学に沿った最も効率的な姿勢で壁面に着地し、
爆竹が破裂した時に似た鋭い音と同時にバイクごとキクを蹴ったから。

予想を超えた攻撃にキクは頭部に搭載された
樹海のようなに入り組んだプログラムが一時明滅し。
覚醒をしたときには己の上に乗っていたバイクの重みがなくなっていた。

聴覚を研ぎ澄ましても
ライドシューターの噪音は届いてこない。
こちらへの襲撃の機会を窺っているのか。
いや、それならば意識を失っていた時に勝利を掴んでいたはず。

すぐさま起き上がり、白髪鬼の行方を探す。
万が一、あの場所に行ってしまったのならという焦燥が
キクの思考回路を揺さぶり、乱す。

指先から無数のレーザーを産みだし、
鋭利な刃が最後の砦への道を最短距離で切り開く。

ダストシュートにようにぽかりと
小さく一直線に開いた通路を飛び。
天井の見えない高大な大広間へと踊り出る。

蜘蛛の巣のように中心から広がる床の意匠。
影が差して、音もなく賢者が降り立つ。

背後にあるのは全長30mの赤き血の神の像。
黒き血の人が生きる《世界(ワークワーク)》で
機械に脅かされる人々の希望の偶像。

活動領域を限界まで縮小し。
許されたキャパシティ全てを迎撃にあてる。

活動の静止。
人で言うならば集中。

ライドシューターの音がやかましく聴覚素子を刺激し。
無数の回路が活動への準備に熱を放つ。

天空の矢。
速度が龍騎の装甲を引き伸ばし、
一つの真っ赤な矢となり、キクへと突き進む。

入射角から走ってきたのはキクが開けた穴から。
今度は完全に読んでいたその攻撃。
踏みこみもいらない。
機械の膂力は無造作な横薙ぎだけで追随を許さぬ暴風となる。

呆気無く、擦過音が火花とともに
割れたライドシューターから聞こえ。
あとは攻撃が失敗し、
慌てて離れる白髪鬼を拘束するだけで闘いは終わる。

赤き血を流さずに済む安堵を抑えられないのは
プログラムのせいか。それとも、それとも。

がきん、と金属が金属を貫く不快な音が聞こえる。
力学ではなく力任せによる不協和音。

それは、キクの後方から。

視界の向こうで黒い影がこちらになにか叫ぶ。
口の動きだけで言葉の内容は自ずと理解できた。

何をやっている、愚か者め、殺せ、穿て、喰らえ。
あれに肉体があればさぞかし醜い表情を浮かべているのだろう。

当然のように、赤き血の神の像は両断され。
中に隠されていた
無数のチューブに繋がれた培養槽にも罅が走る。

カプセル内を満たしていた液体が流れ、
堰を切ったように勢いが増すと
大きくなった罅が全体を覆い。

ここに、赤き血の神が崩御した。

半ば呆然と、けれどもどこかで冷めた己を自覚して。
着地した仮面ライダー龍騎、白髪鬼と対峙する。

「……気づいていたのか?」

「我妻由乃という子が隈なく調べていたそうじゃ。
 もっとも、あくまで
 このエリアの近くということしかわからなかったそうじゃが」

瓦礫の城と化した赤き血の神の像。
《世界(ワークワーク)》で永遠の楽土を築こうとしたコト。
ゲームの終焉を前に来る勝者への道を歩むために
己の体に入って英気を養っていた神。

「一瞬で崩れ落ちるものだな……」

「そのとおり。全くもってそのとおり。
 故に思わんかねキクくんよ」

腰につけたベルト、
そこにあるデッキから一枚のカードを抜き取る。

325降り立つ、長い道歩む少年の前に  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/23(日) 16:20:20 ID:p3DoI5vA0

    −SURVIVE−

龍の頭部をあしらったプレートメイル。
シルエットは翼を広げたドラゴン。

「楽しまなければ損だと!」

動画をコマ送りしたかのように
キクの眼でも捉えきれない高速の戦士が殴りかかる。

それをステップで躱し、
あまりの速さについ反射的に首元へ手刀を振るう。

   −SWORD VENT−

手刀は1mmの狂いもなく。
だからこそ人体に精通した白髪鬼にとっても捌くのが容易。
キクの方を見ずに裏拳の要領で柄をぶつけると
浮かび上がったキクの手、
くるりと持ち手を変えてその先の脇本へ鋭い突きを繰り出す。

突きはすんでで空いた手に掴み取られ。
力任せに振り回すと冗談のように重さを感じない勢いで
白髪鬼が遙か上空へと投げ飛ばされる。

壁を砕き空へと投げ出される直前に
縁を掴み、危うくとどまる龍騎。

すぐさま這い上がる龍騎の前にはすでにキクがおり。
龍騎の胸ぐらを掴み上げるとそのまま広間の中央へと蹴る。

「さすがに強いのぉ……」

四つん這いの体勢から起き上がろうとするにも
如何せん足腰に力が入らず。ふらつく体を剣で支えた。

「なんじゃお主。
 今までは覇気がなかったというのに。
 主がいなくなって力が増したか?」

「どうだろうな」

己の手を見つめて、不可解そうに賢人はつぶやく。
たしかに体が軽くなったという実感は少しある。
だがそれはコトが死んだせいと言うよりはむしろ。

――ねえ、あなたは二千年生きてきたんだからわかるでしょう?

血色の悪い、ともすれば土気色と呼べる肌の。
遠くを見る眼で死を“願う”少女の横顔が胸の裡にあるから。

――ゲロみたいにくだらないわ、なにもかもが。

「その顔、ようやく自覚したということじゃね?」

床に刺した剣を抜き。
雀の涙だけとりもどした活力で剣を構え。
殺気がキクの長い流麗な髪を震わせる。

「まだ死ねんということだろう、君も。
 だからこそ儂が命を賭けるに相応しい」

キクは無言。
ただ、白髪鬼の言葉を否定もしない。
そうなのかもしれないと思うし、
それだけではないのかもしれない。

「ラプンツェルの少女がいる。
 すべてを唾棄し、天使がもたらす死を求めた
 蝕まれし赤色の血の乙女」

「柿崎めぐという子かの」

「私に彼女の胸に届く言葉は持てない。
 だから、そうだ。
 コトときっと変わらないはずだ、私にとっては」

キクの独り言に近いそれを聞いた
白髪鬼はその眼に大きな失望を浮かべ。
剣をキクから僅かに逸らし、残酷な声色で言った。

「ならばコトの次はその子にしようか」

それが合図。
互いに打ち合わせたわけではないのに。
弾かれたように二人は己を突き動かす衝動に従い。
銃と剣を交差するのだ。

  ―SHOOT VENT―

手品を超えた魔法の域。
銃から出てくるレーザーが焦点となり。
背後に現れた炎龍が吐く炎の連弾がキクの髪を焦がし、
装甲の数カ所を黒く焦がす。

両手の指が茨の蔓のように伸びて白髪鬼の銃を取り上げると
体勢をどこまでも低くして、顔が地面に接するスレスレから
右脚がキクの側頭部へとトマホークのように襲いかかる。

上体を人間ではありえない稼働領域を活かして
大きく後方に倒すと両手を床につけ。
腕が大きな土台に変形し、両足をランスの突撃に模す。

しかし槍の穂先は無人。
天を翔ける龍の影が機械の賢人の上を横断する。
着地したのは槍が向く反対側。

つまりはキクの頭部があるところ。

326降り立つ、長い道歩む少年の前に  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/23(日) 16:21:06 ID:p3DoI5vA0

目の前に停止した白髪鬼の爆走。
破壊を目前にしたことで
キクに搭載されたCPUに記録されたあらゆるメモリーが
事態を回避しようと最後の輝きの高速演算を行う。
実際に止まっているわけではない。さらなる速さで動けるわけもない。

最適解を導くための無数の計算式。
キクのこれまで眼にしてきたことから
事態の打開に繋がる欠片をさーちする。

視界で再生されたのはひとつの光景。
その場に居合わせたわけではないが遠くから監視していた。
もう死んだ少年と今なお闘う少年の死闘の終末。

左腕を裂かれた少年が静かな瞳で告げる。

―あなたが殺した機械があなたに復讐したがってるす。


左腕を投げやりに伸ばされた。
盾どころか囮にもならない。
真正面から左腕が潰され、壊れ、火炎に呑まれていく。

崩壊は肩まで進行し、
花が開いたように
動線を守っていた皮膚が内側から外側へと壊れていく。

全身に埋め込まれた光学兵器。
眼からでも指先からでもレーザーを放ち。
蹂躙することができる。

あと数cm。
それだけで炎龍の矢はキクを貫く。
けれどもその前に、裂けた左腕がバイクに接し。

裂けた左腕からの超至近距離光線。
正面からの激突による爆発はなく。
一点に絞られた光の矢は至近距離でバイクを穿ち。

あらゆるものを貫き。
遮蔽物に妨げられることのない光は
機体ごと白髪鬼を貫いた。

「すまんがキクくん」

ダメージによって変身の解けた白髪鬼は
貫く光に吊るされつつ、
口から流れる血を拭うと優雅な笑みを浮かべて言った。

「空の見えるところに連れてってはもらえんかね?」

恐らくは最後の白髪鬼の頼みだろう言葉に
キクは無言で従い、開かれた穴へと運ぶと横たえる。

「痛いなあやはり。
 これがなければ死ぬのも悪くはないんじゃが」

腹部に空いた大穴に手をやって、
徐々に失せていく顔の赤みはそのままに自嘲する。

「ご老人……」

「なんだね、その顔は?
 お前さんは勝ったんだ。
 堂々としなさい、お前さんはもう自由なのだよ」

ようやく頬からどろりと滴る液体に気づき、
無事な右手の人差指で掬ってみると指先が赤く濡れた。

腹部からとめどなく流れる血が床に血だまりを作り。
腹部から手を離した白髪鬼は胸の上に両手を組む。
超高度にある建造物ゆえか、吹いてくる風はかなり強い。

「最期の言葉を言っても?」


「……かまわない」

穏やかな顔で礼を言い。
弱々しくなっていく声で滔々と、
まるでベッドに横たわる哲学者のように老獪に語る。

327降り立つ、長い道歩む少年の前に  ◆1yqnHVqBO6:2012/09/23(日) 16:25:13 ID:p3DoI5vA0

「天よ、地よ、そなたらが聞かなくとも。
 数多の人々が、少なくとも歯車仕掛けの賢人が聞くだろう。
 私はこの世界で英雄となろうとしてもそれは叶わず。
 守らんとした子供を守り切ることはできず。
 数多の勇敢な戦士たちが死に逝くのを止めることはできず」

最後に、閉じられようとした両の瞼がはっきりと開いて、
深きユーモアを湛えた瞳がキクへと向けられる。

「しかし。ひとりの賢人を友とし。
 自由の野原に連れ出すことはできた。
 観衆の方々よ、この鬼が世界で演じたものに。
 少しでも称賛してくれるならどうかささやかな喝采を――
 ああああ痛たたた! もう我慢できん。
 キクくんトドメを刺してくれんかね!」


―――――――。

「桐山和雄だな」

暮れなずむ世界。
橙色に燃える空の下でどこか
迷子になった子供のような覚束なさで歩く少年が一人。

「お前は……?」

「私は参賢人のひとり、キク。
 赤き血の少年よ。柿崎めぐを助ける気はあるか?」

「参賢人……ならヨキやコトと同類か。
 なら答える前に聞かせて欲しいんだが」

「何をだ?」

「七原やローゼンメイデンを
 この世界に連れてきたのはお前か?」

「そうだ」

瞬間、キクの頬に衝撃が走り。
為す術なく賢人は地面を転がる。

少年、桐山和雄は殴った手をまじまじと見てから
キクを助け起こして言った。

「勝手に手が出ただけだ。
 べつにお前を殺す気はない」

背後に付き従う水の護神像ハルワタートをちらりと見やって、
少年は確かな力強さを感じる調子で言った。

「それとさっきの問いの答えはYESだ。
 コイントスなんてするまでもなく」

【津幡共仁 死亡確認】

【残り 10名】

【E-2/一日目/夕方】

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、レミントンM870(8/8)、
     ハルワタート@waqwaq
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     エディアール家の刀@waqwaq 、首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(8/8) 、
     レミントンM870の弾(16発)
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:キクの話を聞く
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。

328名無しさん:2012/09/24(月) 01:14:02 ID:CErEdw5o0
投下乙です!
熱い!

329 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:08:20 ID:UpZzn3iI0
投下おつっす。桐山が王道突っ走っていて惚れる。
爺はホントひねくれててよー、最後までそのままでいてくれてよー。
最後までロワ楽しんでやがってよー。

と、予約した分をとーかします。

330 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:10:22 ID:UpZzn3iI0



おかしく、楽しく生きていくことに間違いなんてないよ。



◆ ◆ ◆



戦闘はウマゴンが優勢で進められていた。
自慢の素早さと術で強化した角を利用して、北岡を翻弄する。

「っ!  もっと当てやすい速度で動いて欲しいね!」

軽口もそこそこに北岡は銃口をウマゴンに向け、弾丸を発射させるが空を切る。
仮面の下で顔を歪ませながらも思考は止めない。
この場を乗り切らないことには神埼士郎に銃弾をぶち込むことが出来ないのだから。

(どうする? 俺のゾルダは大技ばかりだしねぇ……。素早い奴相手取るには不利)

ウマゴンの戦法は徹底的にヒットアンドアウェイ。
一撃離脱の手法で北岡を追い詰めている。
頭の咲きの尖った角がゾルダの装甲を貫こうと鈍く煌めいた。

(さっきの闘いの疲れも取れてないまま戦闘に移行しちゃったのが痛いなあ。
 あのクソガキをもっとおだてておいた方がよかったね、もう後の祭りだけど)

ウマゴンと北岡の戦闘が始まったのと同時に、雪輝は早々に後ろへと引き上げて、姿を消してしまった。
ガキのくせに戦闘に関しては頭が回る。
超常の存在である自分達に割り込む余地はないと判断したのだろう。
正解だ、今行われているのは人智を超えた殺し合いなのだから。

331 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:13:40 ID:UpZzn3iI0

「メルメルメー!」
「はっ、ふざけた鳴き声だ! 悪いけど、耳障りなんだよ」

北岡はウマゴンの突進を躱す刹那、カードを取り出した。
即座にマガジンスロットに装填、反撃の時間だ。

――GUARD VENT――

虚空から出現した巨大な盾――ギガアーマーを握りしめ、再び突き進んできたウマゴンを真正面から押さえつける。
角と盾がギチギチと金切り声を上げ出した。

「こういう力仕事はスーパー弁護士な俺には似合わないんだけどなあ」
「メルメルメーッ!」
「だけど、うざったいド畜生動物はいい加減駆除しないとね」

北岡は盾に半ば突き刺さった角を力任せに曲げる。ウマゴンの声から甲高い悲鳴が上がった。

「だからさ、うるさいんだよっ! 耳が壊れたらどうするっ! 弁護できないだろっ!」

そのままゾルダの恩恵により得た力を利用し、盾に突き刺さったウマゴンごと上空に放り投げた。
無論、それだけでは終わらない。北岡は新たにカードをデッキから引き抜き、装填する。

――SHOOT VENT――

瞬間、北岡の両手には、見るものを圧倒させるかのような巨大な大砲――ギガランチャーが握られていて。

「汚物は消毒だ、なんてね」

トリガーセット、ファイア。銃口からは高圧のエネルギー砲弾が発射される。
砲弾は一寸の狂いもなくウマゴンを狙い、破裂した。
ただし――――。

「嘘でしょ……?」

――――ウマゴンへと到達する前に。
訳がわからないよと言う暇もなく、突発的に発生した焔の波が砲弾を飲み込んだ。
そして、波の勢いはそれだけにとどまらず、そのまま北岡を燃やし尽くした。

332黒炎のベルセルク〜What a ugly warrior〜 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:15:52 ID:UpZzn3iI0



◆ ◆ ◆



憎い、目に映る敵が。ガッシュ達を愚弄する世界が。



◆ ◆ ◆



地獄の獄炎、文章で表現するならばその言葉が一番ふさわしいだろう。
焔の色は普段とは違い、黒に染まり。
焔に触れた石の建造物は灰へと還っていく。

「■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

もはや、いつものおどけた鳴き声はそこにはない。
憎い、殺したい。底なしの悪意だけが鎮座していた。
これにてこのお話は終了。
心優しき魔物は血に飢え、まだ見ぬ誰かを殺す為に疾走する。

「はっ…………誰が、そんな三文芝居を見るんだよ」

業火に焼かれながらも。立つことも辛くて、膝を地面に落としそうでも。

「ヌルいよ、お前。俺の行きつけの高級サウナの方がもっと暑いって。温度調節、きちんとしてくれないかな?」

笑って、否定する。憎しみに身を任せることよりも、楽しくおかしく生きることが一番だろ、と真顔で証明するが故に。
そうだろう、とそっと呟いた。

(城戸も、そうだった。正義感とかよりも自分がやりたいこと、誰かを助けることが喜びにつながるから行動した)
 その結果、満足して死んでいったんだろう)

死に様は見てはいないけれど。なぜか、確信できるのだ。
それは同じ仮面ライダーとしてかはわからないが、確信を持っていうことができる。

333黒炎のベルセルク〜What a ugly warrior〜 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:17:50 ID:UpZzn3iI0

(ホント、馬鹿は死んでも治らなかったんだね。全く、らしいというかさ。言いたいことがたくさんあったっていうのに……)

ただ、不思議と突き放せなかった。見ていて飽きなかった。
横で屈託なく笑うアイツと小馬鹿にする俺。
その構図が何故かマッチしたのだから。

(勝手に、死ぬなよ……お前さ、俺の中に残った悪口レパートリー無駄になったじゃん)

頭空っぽのお人よしの馬鹿は、自分にとって――。

(友達? あはは、気持ち悪い。強いて言うなら、奴隷と主人? それもどうにもあわないなあ)

どうにもしっかりとした言葉が思いつかない。
スーパー弁護士の頭脳を持ってしてもはっきりと言えないとは、これは失態だ。
そんな取り留めもない思考に浸していたいのに、憎悪の叫び声が邪魔をする。

「■■■■■■■■ーーーーー!!!!」
「……本当に、うるさいって」

黒の焔を纏い、全てを破壊しようと“化物”と化した彼がやってくる。
その姿を見ていて、何故か苛立ちが高まった。
浅倉ではないが、イライラすると口に出したいぐらいに。

「あっ、そっか……焔はアイツの象徴だからか」

故に、こんなにも腹立たしく視界に入れたくないのか。
北岡は納得し、ため息を吐く。

「アイツの焔を汚すな。そんなドス黒く醜いものにしてくれるなよ、お前」

城戸真司の。お人よしの仮面ライダーの象徴である焔を、こんな見るに耐えないものにしないでくれ。
お前の行動は城戸に対する侮辱だ、と叫びたい。

「一秒も見ていたくないんだよ。だからさ……」

北岡は目の前の世界を終わらせるべく。
ウマゴンは目の前の敵を消し去るべく。

334黒炎のベルセルク〜What a ugly warrior〜 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:19:03 ID:UpZzn3iI0

「早く、決着をつけようか!」
「■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

カードを取り出し、最後の装填を行った。
焔を最大に放出し、世界を黒く染め上げた。

――FINAL VENT――
――ディオエムル・シュドルク――

この醜く、黒に染まった世界を――終わらせる為に。
目に映るもの、全てを焼き尽くす世界を――始める為に。
互いの世界、弾幕と焔が激突した。

「■■■■■■■■ーーーーー!!!!」
「負けるのはお前、勝つのは……」

こんな黒い焔に包まれて死ぬ?
ふざけるな、ふざけるなよと。
北岡は立ち塞がる焔の壁を否定する。
否だ、断じて否。
こんな仏頂面の化物よりも、笑顔が素敵な俺が生き残った方が素敵ではないか。

「――――俺だ」

この焔の壁を乗り越えて笑うのだ。
弾幕よ、目の前の世界を消してしまえ。
北岡の“願い”が通じたのか、焔の波が弾幕に押されていく。
ウマゴンの必死の叫び声も虚しいものだ。
もう、流れは北岡の方にあるのだから。

335黒炎のベルセルク〜What a ugly warrior〜 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:20:55 ID:UpZzn3iI0

「勝因は一つ、俺の方が冷静だったってこと。
 ただ、力を垂れ流しているお前と集中して力を使っている俺、どっちが勝つかなんて明白でしょうに」

ついには、弾幕が波を突破してウマゴンへと突き刺さる。
甲高い悲鳴が口から焔と一緒に漏れ出した。
既に、ウマゴンは瀕死だ。放っておいても勝手に死んでくれるだろう。
だが、それでは北岡の気がすまない。
ここまでコケにしてくれたんだ、跡形もなく消し去ってくれないと苛立ちは収まらないだろう。
そして、弾幕がウマゴンを包み込み、跡形もなく消し去ろうとした。



「シン・シュドルク」



天野雪輝が戦闘前にこっそりとウマゴンの魔本を持ちだしていなければ。



「馬鹿みたいに、踊ってくれてありがとうございます、北岡さん」



結果は、北岡の勝ちとして終わっていただろう。
しかし、そうはならなかった。
刹那の瞬間、ウマゴンは北岡に突進し、胸に角を突き刺した。
北岡の胸に突き刺さる角はどう見ても致命傷であり、ゾルダの装甲を貫いて後ろに飛び出している。

336黒炎のベルセルク〜What a ugly warrior〜 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:22:33 ID:UpZzn3iI0

「あ、がはっ」
「僕のことを忘れてるなんて、スーパー弁護士も大したことないんですね」

北岡の誤算は、雪輝がただの甘ったれた中学生だと思っていたことだ。
雨流みねねから未来日記所有者とは聞いていたが、中学生故に大したことはないと判断した。
雪輝のことを過小評価せずにきっちりと仕留めていれば、こんな結末には決してならかっただろう。

「この、糞ガキ……」
「その糞ガキに負けた貴方はどうなんでしょうかね。いくら言葉を並べても……貴方は負けて、僕が勝った」

嘲笑うかの如く、雪輝は手に持ったIMIウージーの銃口を北岡に向ける。
もはや体力の欠片も残っていない彼は指先一つ動かせない。
発射される銃弾も躱せずに受けてしまうだろう。

「この、野郎」
「最後まで立っていた人が勝者で、正義なんですよ……だから、僕は徹底的に迷いません。
 生き残らなくちゃ、力がなくちゃ。“願い”を叶えることなんて出来はしないから」

雪輝は笑う。自分の望む未来に一歩着実に近づいたことに。
雪輝は嗤う。現実だの色々とくだらないことを言っていた人も結局は死ぬ。
自分の“願い”を叶える礎となってくれる。

「全部がチャラになった後にまた会えたらいいですね」
「はっ、ごめんだね……どうせ、お前が“願い”を叶えるなんてありえないし」
「負け惜しみはそこまでにしておいた方がいいですよ……さようなら、スーパー弁護士」
「地獄に落ちろ……糞ガキ」

たたたん、と軽い音と共に。
手負いの魔物と最後の仮面の戦士が血に伏せる。
最後に立っていたのは、この場で最も非力であった少年だった。

337黒炎のベルセルク〜What a ugly warrior〜 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:24:39 ID:UpZzn3iI0




◆ ◆ ◆



戦士も、魔物も。未来には勝てないんだよ。




【北岡秀一   死亡確認】
【シュナイダー 死亡確認】
【残り 8名】


【G-7 古代遺跡/一日目/午後】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康、心の力の消費(大)、両手の平に大火傷
[装備]:無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、投げナイフ(14/15)@未来日記、IMIウージー(0/32)
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)、魔本@金色のガッシュ!!、基本支給品、マキビシ@バジリスク〜甲賀忍法帖〜、煙草@現実
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする?
1:ひとまずは休憩する。
2:他の参加者に取り入る
3:情報を集める。そしてゲームの破壊に繋がるようなものは隠す。
[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づいていません。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました。
※北岡の支給品は燃え尽きたかどうかは不明です。ただし、カードデッキ(ゾルダ)は破壊されています。

338黒炎のベルセルク〜What a ugly warrior〜 ◆W91cP0oKww:2012/10/01(月) 00:25:03 ID:UpZzn3iI0
投下終了です。

339名無しさん:2012/10/01(月) 00:28:27 ID:KhTChFX20
投下乙です!
死ね。ユッキーマジで死ね
無残に何の救いもなく死ね(最高の賛辞)
北岡かっこよかったぞ! ウマゴンはあの世でガッシュに慰めてもらおう…

340 ◆1yqnHVqBO6:2012/10/03(水) 22:42:52 ID:GL0WCyvA0
投下します

341那由多の海で少女は涙する  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/03(水) 22:44:56 ID:GL0WCyvA0


眼が覚めればそこには琥珀色の海が広がっていた。
はちみつを溶かした紅茶のようにそれは甘く視界に入り込み。
桃色の少女をうたかたの夢に誘おうとする。

「……こ、こは……?」

茫とした頭、油が切れたようにぎしぎしと動く関節。
一歩。進むと垂れ込めた霧の中へ少女、ティオは入る。
地面はまるで綿菓子のようにふわり、ふわりとしていて。
甘いクリームの世界はティオの感覚を摩耗させていく。

――すまねえ。

霧の中を歩いて行くと
一人の少年が立っていた。
奇妙な髪型をした彼の手には
血の滴るナイフが握られて……
いいや、あれは少年が握っているのではない。
ナイフが、ひとつの意思持つ楔の如く少年に憑いている。

――すまねえ。俺がついていなかったから

涙を流して、悲哀に濡れた表情で謝罪の言葉を述べ続ける少年。
彼の先に、ぼう、と簡素な布で体を覆い俯く少女が現れた。

ひと目でわかる嬲られたからの無力に打ちひしがれた姿。
心細げに抱えこむ手足。

ティオの心の中の、靄がかかった思考に小さな火種が産まれる。

「かわいそうな方たち」

耳元で囁かれる、距離で判断すれば
唇が今にも耳朶に接してもおかしくない。
声とともに吐息が肌をくすぐらなければおかしいはず。

なのに、何も感じない。
気配すら。衣擦れの音すら。

声だけでどうにか隣に、
抱きつくように腕を回した少女がいるのだとわかった。

「たまたま一緒にいなかった。
 いつもは一緒のはずなのに。
 その日だけは違っていたの。
 二人は親に捨てられ、寄り辺に手を繋ぐ
 トゥーイ−ドゥルダムとトゥーイ−ドゥルディ。
 離れては、いけなかったの。片時も」

歌うように軽やかな。
人の生気を微塵も感じさせない調子で囀る。
視界の端で踊り子のように舞う純白のドレスの裾。

肩に顔を載せているはずなのに重みを感じない
実体なき《白の女王》。

頭が痛む。
眼の奥が熱く、
けれど深くなるにつれて絶対の冷たさに。

「あなたにもいたのかしら。
 狂気に落ちて正気を保っていた《赤の女王(クイーン)》には
 すがる相手がいたようだけれども」

少しずつ、閉じていた扉が重々しく開かれて。

自分を殴打する蟹の男。
蹂躙し、辱めようとした悪漢。
なのに、本当の姿は清麿や恵と変わらない年頃の少年だった。

恐怖。屈辱。
思い返しただけでも体が震える。

「……ガッシュ」

「素敵。今の貴女にはきっと恐怖の記憶が渦巻いているのに。
 頼れる人は決めているのね。
 貴女は彼に守られたかったのね?
 雷のジャバウォックを従える金色の王に」

くすり、と唇が頬に触れて、
舌がちろりと頬を這った。

「可哀想な人。
 もうその人は死んでしまっている。
 それを貴女は気づいていて。
 夜露のように儚い涙に頬を濡らして」

そう言われて、ティオはぼんやりと頬を撫でた。
湿った感触、体温の水滴が雫となって零れ落ちる。

――君は選ばれたのさ。

傍らにいつの間にか立っていた。
顔に奇妙な化粧を施して、
蠱惑的な笑みを絶やさない魔物使いがティオを諭す。

――王の力を持つから王の心を持つから
   王のように振る舞うことを赦されたんだ。

ブックの言葉が心地よく耳に入る。
けれども、その声が一層の記憶を引き出す。

冗談のように首が折り曲げられる老人。

掌で潰れていくパピプリオの頭。
頭蓋骨も脳症も一緒くたにして、
指の間から滴り落ちていく悪趣味な果汁ジュース。

悲鳴をあげて、駆け出した。
体がこんなにも動くのだということに安堵を覚える己を観て。
嬉しさと切なさと罪悪感が同時に湧き出で、裡をぐるぐると回る。

息が切れて、
蒸気した肌が赤くなって。
必死に振る手足が不恰好にもどこかへと進む。

「――恵!」

霧の果てで、殺し合いに喚ばれてずっと恋しく思っていたパートナーの姿を見て。
たまらずティオは抱きついて号泣した。

342那由多の海で少女は涙する  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/03(水) 22:46:14 ID:GL0WCyvA0


いい匂い。清潔な服装。
利発そうな顔立ち。
強い意志を秘めた両の眼。

ティオが大好きだった全てを持った女性が側にいる。
それだけで壊れそうなほどの不安も怖さも
彼女のぬくもりに触れるだけで和らいでいく。

「……ティオ」

声がかけられるだけで、
ティオの体がぽかぽかと暖かくなる。
ずっとこうしていたいという強い欲求が芽生えて育ってしまう。

「人を殺したのね?」

「……え?」

その言葉、正確にはその音のあまりの冷たさに
ティオは一瞬把握できずに顔を上げて、恵を見た。
恵の無機物を見るかのような低温の眼差し。

「どうして人を殺したの?
 あなたはあんなに優しい子だったのに」

「そ……それは、ブックが……」

「貴女が王様になれると期待されているから。
 だから力を使ってもいいし。
 悪い人は懲らしめてもいい。
 そう言われたのよね?」

「そ、そう! そうなの!
 だ、だからわたしは……」

「それでブックは一緒に辛さを分かち合ってくれると言ったの?
間違いや困難には一緒に悩んでくれるって言ったの?」

「え…………」

「答えなさい、ティオ」

「………………言ってなかった」

喉が震える。視界も滲む。
足元がぐらついて真っ直ぐに立っていたかもわからない。

「貴女にはパートナーが必要なのよティオ。
 人は一人で正しい判断ができるわけじゃないの。
 一緒に悩んで苦しんでそれでも前に進もうとしてくれる人が必要なの」

「あ……う……」

「騙されていたのよ。貴女は」

騙されていた? ブックに? 
嘆くばかりだったティオに優しく手を差し伸べてくれた彼に?
信じられない。信じたくない。

けれども。
わかってしまう。
恵の言うことは本当だって。

「さようならティオ。
もう貴女と一緒にはいられない」

「ま、待ってよ!」

間違えたとわかっていても。
恵には側にいて欲しい。
パートナーだから。
ずっと一緒に戦ってきてくれたから。

「ごめんなさい」

なのに背を向けて彼女は行ってしまう。
霞の彼方へと、パートナーだったティオを置いて。
間違えてしまったティオを見放して。

「人殺しで血に濡れた人と一緒にいるのは嫌なのよ」

そう言い残して。
彼女は消えてしまった。

ひとり、ぽつんと残されたティオを取り巻いて
やってくるのはティオが殺した人たち。
ティオを苦しめた人とティオを騙した人も。

短い悲鳴がこぼれて。
ティオはぺたんと座り込んでしまった。

「見捨てられてしまったのね。
 可哀想。可哀想な女の子」

ゆっくりと距離を縮めてくる亡者を他所に
羽根のようにふわりと《白の女王》雪華綺晶が降り立った。

343那由多の海で少女は涙する  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/03(水) 22:48:34 ID:GL0WCyvA0



「あなたのいる場所をよく見てみて。
 そこに眠っているのは誰なのか見てみて」

言われるがままに、ティオは視線を下ろす。
同時に霧が晴れて、何処にいるのか明らかになった。

そこは巨大な大聖堂。
無数の氷塊が安置され、どこまでも地平線まで続く。
世界と言っていい程の遠大な聖堂。

氷にいるのは眠る人々。
安らかな顔で夢にいるだろう彼ら。

「肉体、魂、概念。
 それらがあって初めて人も薔薇乙女もパーソナルを持てる。
 絶対普遍のエーテルの定め」

ティオの目の前に亡者が立つ。

「けれど、肉体は魂を覚えているの。
 私達の兄弟のように近い護神像が“願い”を封じるのは何故?
 “願い”の持ち主が神のように高潔だから?
 それで鳥籠に神を封じるの?
 いいえ、それは魂を作るただ一つのピースが“願い”だから」

ティオへと亡者が手を伸ばす。
腐乱してはいない、綺麗な手なのに醜悪な指先がティオに触れようとする。

「だから貴女の体をください。
 貴女の肉体、魂の記憶を持てば
 みんなが私を愛してくれるの。
 選んでくれるの。抱きしめてくれるの。
 クスクスクスクスクスクス」

指先がティオの衣服に触れて。

「ご…………ごめんなさい」

涙に満ちた少女が届かぬ謝罪の言葉を亡者に述べて。

そして、ティオの魂はここで――

――オイタはそこまでにしときな白薔薇ちゃん

逞しい、腕がティオを守るように振るわれた気がした。

気がしただけの錯覚なのかもしれない。
これも、すぐに側から離れてしまうのかもしれない。

一人の大男が立っていた。

堂々として。
似ても似つかないはずなのにさっき見かけた
ナイフを握って泣きじゃくる少年の姿と重なり。

男はティオを助け起こした。

「莫迦な人。
 貴方も直に私が喰べてしまうのよ、お兄さま?」

立ち上がったティオの前に男の姿はもうなく。
代わりにいたのは大きな大きな彫像。
プカプカと浮かんで、ティオの側で防るもの。

「滅びゆく世界で生きる千兆もの人々が眠るこのデラ・ルベシ。
 安寧なる夢に揺蕩う午睡の世界なら、
 私は誰にも負けないザーバウォッカ」

可愛らしく小首を傾げて。
雪華綺晶は問いかける。

「闘うというの?」

心の奥底で幻灯機が映し出す一つの光景。
ナイフを握った少年の続き。
人を殺した後悔から喉元を突き刺そうとした、
少年の手を優しく掴んで抱きしめる少女の姿。

――大丈夫。側にいるよ。

那由多の眠り子に崇められ。
《白の女王》は哄う。

「……闘う」

背後の護神像アムルタートを従えて。
少女は謳う。

「巻き返す」

きっとこの愛の光景が託されたのは
何か意味が。希望があるはずだと想いたい一心で。

344那由多の海で少女は涙する  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/03(水) 22:50:23 ID:GL0WCyvA0

【???・???/時の流れより隔絶されたデラ・ルベシ】

【ティオ@金色のガッシュ!!】
[状態]:《願い》インストール済み
[装備]:アムルタート@waqwaq(?)、マルコと愛のエンゲージリング@未来日記
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:わからない、けれど――
1:……立ち向かう
※一度、ブックが死んだことにより狂戦士の術は解除されました。
※アムルタートの中には白薔薇が潜んでいました。
  中の状態がどうなっていたのかは不明です。

345  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/03(水) 22:50:42 ID:GL0WCyvA0
投下終了です

346名無しさん:2012/10/10(水) 20:54:15 ID:2W.ITDo20
なんかもうほんとすごいことになってるなーw

347 ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:32:48 ID:ykpqDMTg0
時が止まった世界でティオは何と闘うのか。
終わりへと近づいてきたと感じさせる作品でした。
それでは投下します。
なお、ユッキーとティオは構成上入らなくなったので登場しません、申し訳ございません

348 ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:34:30 ID:ykpqDMTg0

(お前も、三谷と同じ目をするのか)

ミツルは、キャンチョメの目に今はもういない勇者の面影を見た。
バトルロワイアルが開始されて早々といなくなった彼。
あれだけ自分に突っかかってきたというのに、あっさりと消えてしまった。

(……気に入らない)

思い通りにならない現実を。
不当に奪われた妹を。
自分に何も言わず消えた――を。
気に入らないからこの手で、やり直す。

「戦う。その為に俺はいる」

ミツルは宙に無数の光弾を浮かせ、一斉に発射させる。
旅人になりたての頃とは違い、一つ一つが必殺。
耐えられるものなど、幻界の中でも数少ないであろう。

「そうだね、戦おう」

一方のキャンチョメ、拳を横薙ぎに一振り。
たった、それだけの動作で向かってきた光弾は全て掻き消える。
これにはミツルも眉を顰めるほかない。

「ここまで戦ってきたんだ、言葉だけで止められるとは思っていないから」
「はっ。そんなもので止められるものか。否、止めてなるものか」

言葉で止められる安い決意などミツルは持った覚えはない。
全ては未来、妹が笑って暮らせるような光景を作ることのみ。
光り射す日常の奪還という“願い”だけが今までのミツルを支えてきたものなのだから。

「優勝して“願い”の成就。それ以外の思いなど全て不純物に過ぎんっ!」
「……それでも、僕は――否定する。世界はもっと広いんだ、“願い”だけが大事なんじゃない!」

槍と拳が光速で交差し、離れていく。
そして、再び接近。触れ合うたびに風が荒野の大地を吹き抜ける。

349 ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:36:05 ID:ykpqDMTg0

「否定? 否定だと……ククッ。クハハハハハハハッッ!!! ハ、ハハハハッッ! 否定と言ったか、お前!
 ふざけるなよ、俺の“願い”をそんな一言で片付けるのか……」
「……!?」

キャンチョメは世界の温度が氷点下に下がった感覚さえ覚えた。
ミツルの体内の魔力が極限まで練り上げられ、杖に凝縮されていく。

「消えて、なくなれッ!!」

ミツルは杖を地面に突き立て、大地に魔力を注ぎ込む。
瞬間、キャンチョメを中心として巨大な魔法陣が突如出現した。
やばい。考えるよりも、身体が先に動いた。
即座にキャンチョメは魔法陣から避難をするがもう遅い。

「沸黒波動獄」

ミツルの言葉が紡がれると、周囲を透明なレンズが覆っていく。
レンズの中に閉じ込められたキャンチョメに逃げる場所は存在しない。
漆黒波動獄とは乱反射したレーザーがレンズ内の水分を加熱し、血液ごと人間をを燃やす技なのだから。

「まだだよ!」

加熱が始まる前に、キャンチョメはレンズの壁へと拳を振り上げ一閃。
一発でレンズの全体に罅が入り、ガラスのように砕け散る。

「鉄の拳は何だって、砕けるんだ」

どんなものだろうと打ち砕く鉄の拳、それは今はキャンチョメだけのものではない。
ガッシュのものでもあり杉村のものでもあり――フォルゴレのものだ。

「フォルゴレはこんな程度じゃ諦めないんだよ」

今までの積み重ねがこの拳だ。悩んで苦しんだ末に見つけた武器。
それは約束された勝利の拳。
もう迷わないし、負けもしない。

350最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:38:18 ID:ykpqDMTg0

「鉄の拳、か。鉄程度で俺の魔法が破れると思うな」

ミツルはキャンチョメの言葉を鼻で笑い、杖を振り上げる。

「チェックメイトだ、魔物」

ミツルがニヤリと笑い杖を降ろしたと同時に、再び魔法陣が地面に描かれる。
出現した魔法陣は先程のものと同じであり、それが意味するのは。

「保険はかけておくべきだろ、魔法にも」

キャンチョメが壊したはずのレンズの檻が形成されていく。
そう、ミツルは最初の魔法である沸黒波動獄を二重に詠唱していたのだ。
一つはそのまま解放し、残りの一つは保険として遅延しておいた。
最初の魔法を破り油断していた所で発動するのが肝である。

「もう逃がさん。今度こそ、死に絶えろ」

二重の魔法による完全なる一撃、顕現せよ。

「沸黒波動獄」

レンズの檻の中でマイクロ波が乱反射を始めた。
そして、キャンチョメの体内の水分を沸騰させ、ついには肉体自体を破裂させるのだ。
これに耐えられる者などミツルが今まで出会ってきた中でも手で数えられる。

「何、だと……?」

バキンと甲高い音をあげ、レンズの檻が壊れていく。

「鉄の男は負けないって誓ったから」

プスプスと大地が焼け焦げているにも関わらず、キャンチョメ自身に致命傷はない。少し、服が焦げているだけでダメージはほぼないに等しい。
嘘だ、ありえない。
目の前に今も悠然と立っているキャンチョメの姿に、頭から滴り落ちる汗が地面へと垂れ落ちる。

「行くよ」

短い言葉を皮切りにキャンチョメの姿が視界から掻き消えた。
ミツルは混乱していた頭を無理矢理に冷やし、瞬時に横に飛び込んだ。
瞬間、ミツルがいた場所にはキャンチョメが拳を突き出している。

351最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:39:40 ID:ykpqDMTg0

「返り討ちにしてやる、よっ!」

接近、そして交差。魔力による身体強化を自分にかけて、ミツルは体感速度をあげていく。
右手に杖を。左手に仮面ライダーファムの固有武器であるレイピアを。
けたたましい音を上げながら二人の戦士は荒野を縦横無尽に駆け抜ける。

「僕の拳は鉄! ぶち抜き、砕き、勝利を掴むっ!」
「ほざけよ、魔物! お前の拳は届かん。所詮は、その程度のものだっ」
「届くさ。思いを抱き続ければ、きっと」
「抱き続けるだけで俺を倒せると思うな……!」

右ストレートをミツルは身体を半身ずらすことで回避。
拳の通った後にはとても人間では出せない風切り音が発生した。
続いて、回し蹴り。ミツルは上空に飛翔し、一旦は安全圏へとフィールドを変える。

「詠唱――開始」

このままやられっぱなしは癪に障る。
ならば、打ち返してしまえばいい。それだけの力を自分は持っているのだから。
数えるのも馬鹿らしくなるくらいの光弾を瞬時に生成。
今度は拳を振る隙さえも与えない。

「穿て、魔弾の雨」

光の雨が荒野に突き刺さる。生えていた雑草は跡形もなく世界から消失し、土は粉塵をあげて大地から舞い上がる。
これで死ぬとは思っていないが、暫くは動きが封じられるはずだ。
痛みがわからないバカでもない限りは安心安全設定の攻撃、ああ素晴らしきかな。

352最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:40:43 ID:ykpqDMTg0

「うおおおぉぉおぉおおおおっっ!!!!」

ああ、そうだったとミツルは再確認する。
今まさに相対している奴は。
光弾の雨を受けながらも上空に天翔けてこちらに向かってくるのは紛れもなく――特大級の馬鹿だったと。

「届かせるっ! どこまでもっ!」
「どこまでもは無理だ。俺が撃ち落とすからなぁっ!」

二つの閃光がぶつかり合う超常の戦闘はまだ、終わらない。
キャンチョメが拳を届かせるまで。
ミツルが“願い”の成就に至るまで。
命煌めく戦場が、激しさを増していく。
そして。

「ふん……あっちでも始まったみたいだな」
「レオ!?」
「丁度いい。ここにいる全員を纏めて殺してやる。そこをどけ、魔物ッ!」
「させない、僕が皆を護るんだからねっ!」

全てをやり直す“願い”を掲げるは最後の旅人、ミツル。
王へとなる覚悟を決め、気高き魂を持った魔物、キャンチョメ。
二人の戦いは大きな波紋を放ちながらうねりを生み出し、世界の終末へと向かっていく。

353最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:41:11 ID:ykpqDMTg0
「見れば見るほどアホらしくなっていくな、本当に」

レオはあくびをしながら眼前の闘いを遠目で観察していた。
飛んだり跳ねたり壊したり、お前等は本当に人間か。
考えるのも馬鹿らしくなり、レオは座り込んでのんびり水を飲み始めた。

「んっ。この水うまいな、あの世界の水とは格が違う」

ペットボトルに入っていた水を飲み干し、次は支給されていた乾パンをポリポリと食べる。
機械を殺して回る旅路では味わえなかった落ち着いた食事だ。
もぐもぐ。ばくばく。
ああ、うめえと目の前の万国びっくりショーを遥かに超える二人組からは目をそらした。

「飯も食ったことだし寝るか。起きたら全部終わってんだろ」
「アホですか、お前は〜〜〜〜〜〜!」

それなりに満腹になった身体は睡眠を欲している。
眠くなったら仕方ねえな、そう思ったレオは見張り番をアシャに任せて眠りに落ちる、そのはずだった。
目を開けるとそこには自分の安眠を邪魔するちびっこい女。
ああ、関わりたくない。

「かったりぃ……」
「お前は何寝てるんですか〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「あ? 眠たいから寝るんだろうが。見張りならこいつがいる。せっかく、アイツらの流れ弾が飛ばない所まで避難したんだからよ」
「助けに行けですぅ!」
「無理言うな。あんなのに割り込めるか」
「仲間じゃないんですか!!?」
「仲間というか……同盟っつーか」
「どっちにしろ助けに行くですよっ、レオっ」
「やめとけって……っとちょっと待て。お前どうして俺の名前を」

レオが少女――翠星石に理由を聞こうとしたその時。
横から声をかけてきた男が一人。

「レオ! 無事だったか!」

男は数分前に別れたはずだった『杉村』。
彼は手をこちらに振り小走りで駆け寄ってくる。

354最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:42:44 ID:ykpqDMTg0

「あいつもお前の同盟仲間なんですか?」
「ああ、あの野郎は――」

レオは『杉村』に対して苦笑し――。

「――俺の敵だ」

――生成した炎玉を盛大にぶん投げた。

「お前、何勝手に俺の“ダチ”に化けてやがる。殺すぞ?」

『杉村』は軽く横に跳ぶことで炎玉を躱す。
レオは依然と変わらないニヤけづらに眉を顰めた。

「……ふふっ、よくわかったね。レオナルド・エディアール」
「スギムラはそんな胡散臭い笑い方はしねぇ」

杉村とレオは出会って数時間しか一緒に行動していない。
その数時間で相手の全てがわかった訳でもないし、杉村も自分のことを全てわかっていた訳でもない。
だが、それでも。

「お前からは血の匂いが嫌になるぐらいするんだよ」
「おっと、これは失敗だった。どこかで洗い流してくるべきだったかな」
「アホ抜かせ。騙すんだったらもっと演技を勉強して出直してこい」

あの短いながらも濃密な時間はレオの人生の中でも一際輝いている。
その輝きを姿を似せただけの偽物に隠せるものか。

「大人しくしているつもりだったんだがな、全く。この世界では戦ってばっかりだ」

レオは横に控えていたアシャと合体し、鎧をまとう。
炎の異名を持つ防人がここに産声を上げる。

「敵だってわかっていれば話は簡単だ。斬るぜ」

創造するのは灼熱の太刀。
アシャの恩恵による炎の力が指先から外へと漏れ出していく。

355最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:44:06 ID:ykpqDMTg0

「形成」

その一言と同時に、レオの右手には灼熱の太刀が握られていた。
パチパチと火花を散らして誕生の産声を上げる太刀は赤一色。
それは触れるもの全てを燃やし尽くすフランベルジュの如く。
灼熱の太刀を手に添えてレオは前を向く。

「ちび女、お前は下がってろ。こいつは俺の獲物だ! おいお前。その偽物のツラ、ひっぺがしてやるよッ」
「できるものならやってみせるがいい」

レオは地面を強く蹴って、太刀を縦に横にと振るうが、『杉村』へと届かない。
何合か太刀と拳がぶつかるが、『杉村』の身体に傷をつけることは叶わず。
これ以上は埒があかないと判断したのかレオは一旦後退。太刀を炎玉へと変えて投げつけた。
即座に『杉村』は横に跳び、炎玉を回避する。
その回避の間、レオは右手を天高く振り上げ、言の葉を紡ぐ。

「喰いつくせ、炎の龍!」

刹那、レオの右手の上空には炎で形作られた龍が現れた。
龍は火の粉を吹きながら獰猛に声を張り上げる。
右手を降ろす。龍は天翔けながら大口を開け『杉村』に喰いついた。

「足りないね、ドラグレッダーの方が強かった」

炎で視界が見えないのに反して、声はレオの耳に嫌になるくらいにはっきりと届く。
そして、悪寒を感じたレオは横に飛翔。態勢のことを頭に入れずに飛んだ為に身体に泥がついてしまう。
だが、そんなことを考える余裕は今のレオになかった。
なぜならつい一秒前にいた場所には閃光が突き刺さっていたのだから。

「こいつは……やべえかもな」

冷や汗混じりにレオはため息をついた。
正直、勝てる気が全くしない。
赤き血を浴び、身体能力が大幅に向上したというのに目の前の敵はその自分を安々と乗り越える。
逃げ出すことを視野に入れたがもう遅い。既にレオは敵にロックオンされている。
この場を切り抜けるには、意地でも戦って倒すしかない。

356最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:45:36 ID:ykpqDMTg0

「ざっけんなよ、簡単に死んでたまるかッ!」
「死ぬんだよ、人は脆く儚いからね」

炎の煙が晴れた瞬間、二つの影が勢い良く交差する。
再び形成し、レオの両手に握られた太刀と『杉村』の拳が激突し、離れていく。
返し刃で『杉村』の首筋に小さな切り傷ができた。
咆哮。レオは縦横無尽に太刀を振るい、拳の先へと届くようにと士気をあげる。

「人は脆くねえっ! 少なくとも、お前の本物は脆くも儚くもなかったんだよ!」
「だが、死んだ。杉村弘樹はもうこの世界には存在しない」
「……っ。あのバカ、生き急ぎやがって」
「悲しむ必要はない、君もすぐに彼の元へと行くことになる」
「ぬかせっ! まだ、俺の運命はまだ続いているんだ。こんな所で転んでたまるか」

横薙ぎの太刀の一撃、拳によるガードで打ち払われる。
太刀が折れ、刀身が消えた。
その隙を『杉村』は逃さずに追撃――正拳突き。
レオは後方へと跳躍。追撃を紙一重で躱す。

「その運命に飲み込まれるのが決まっているのにかい? 防人、レオナルド・エディアール」
「黙れっっ!!!! 糞食らえな運命に俺は最後まで抗うんだ!」
「ならば、その理想を抱いたまま死んでいけ」
「冗談っ、死ぬのはお前だ。何せ、俺はあいつの分まで背負っちまったんだからな」
「背負うって何をだい?」
「お前にはもったいないくらい大切なものだ」

レオは不敵に笑い、両手に一本ずつ太刀を形成。
『杉村』目掛けて左右からぶつかるように投擲する。

「この程度の攻撃で殺せるとでも? あまり舐めないでほしいものだが」
「はっ。俺の攻撃がこれで終わりだと思うか?」

左右から飛んできた太刀を軽く躱した『杉村』はレオの間合いへと駈け出した。
投擲を躱され接近されたが、レオの笑みはまだ消えず。
再び、太刀を形成し投擲する。
『杉村』は前と同じように投擲を躱そうとするが。

357最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:45:57 ID:ykpqDMTg0

「四方向からの攻撃!?」

一番初めに投擲した太刀がUターンをして返ってきたのである。
前後左右から炎の刃が『杉村』を襲う。

「ならば、全て消し去るだけだ」

『杉村』はその場で立ち止まり、後方へと回転しながら飛翔する。
炎の刃を飛び越えることで回避し、地面に着地。
炎同士がぶつかりムラができた瞬間、掌底を一閃。
掌底の風圧で炎が掻き消え、レオへの道ががら空きとなる。

「もう一度言おうか。舐めるな」
「舐めてんのはお前の方だろうが、偽物ッ!」

だが、それはすなわち『杉村』への道ががら空きになるのと同意義である。
この千載一遇の好機を逃す程、レオは戦闘に対して音痴ではなかった。
疾走。地面に火の粉を散らしながら勝利への道を走り抜く。

「お前が何考えてるかは知らねえけど……その胡散臭いツラ諸共燃え尽きろッ!」

レオは気力全てを注ぎ込んだ太刀を『杉村』の胸へと突き刺した。
形成解放、形の解かれた太刀が炎の塊へと変わり『杉村』の身体を溶かしていく。
前の炎龍とは違って、正真正銘の本気の一撃だ。

「がああああああああああああああああああああっ!!」

耳をつんざく絶叫と共に『杉村』は融解し、最後には消し炭一つ残らなかった。
ただ、そこにあるのは炎の残り火だけ。
レオは戦いが終わったのだとほっと一息をつき――。

358最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:47:42 ID:ykpqDMTg0

「避けるですううううううううううううううううううううううっ!!」

後方から突然感じた殺気と翠星石の声に振り返るのと同時に閃光がレオを貫いた。
レオは何が起こったのか理解できないといった表情を浮かべ、閃光が迸った元を見る。

「やあ、無駄な闘いをご苦労様。安心して死んでくれていいよ」

視線の先にはニコニコと意地の悪い笑みを顔に貼り付けて、賢者ヨキがゆっくりと荒野の戦場へと上がった。
血反吐を吐きながら、レオの身体は力を失い地面へと倒れこむ。
翠星石は即座にアールマティと合体し臨戦態勢を整える。
彼女にとってヨキは仲間、姉妹である蒼星石を殺した因縁ある宿敵だ。
自然と瞳には怒りの情が浮き上がってきた。

「クシャスラによる分身とスプンタ・マンユによる変化の併用、殺気の意図的な消失。思ったより疲れたが……今の私には苦にならない」
「お前、よくも……!」
「よくも? 君は何を言ってるんだい? この世界は闘争によって是非を決めるのだろう? 私は至って正当だよ」
「お前、カントリーマンをどうしたんです! 答えるですぅ!」
「ああ、そうそう。そのことについてだが君に伝えたいことと渡すものがあるんだ。まずはこれだ。君に返すよ、彼の形見だ」

口を三日月に釣り上げて、ヨキはゴミを投げ捨てるかのように銀色の物体を地面へと叩きつける。
それは、生前にカントリーマンが使っていた愛用のメス。
くすんだ銀色に染み付いた赤が彼の最後を物語っていた。

「最後まで惨めに足掻いていたよ、実に滑稽だった。あっはっはっ」
「あ、ああっ……!」
「残 念 だ っ た な」
「うあああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」

もう限界だった。一分一秒でも早く、眼前の敵を殴りたい。
翠星石は涙を撒き散らしながら拳を強く握りしめ、大地を駆け抜けた。
真っ直ぐの右ストレート。風を突き抜けながらの一撃はヨキを容易く突き破る。

359最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:48:51 ID:ykpqDMTg0

「おいおい、私はここだよ」
「いいや、私こそが本物だ」
「それは違う、偽物は君だろ」
「っ!? 嘘、です……」

翠星石が周りを見ると、いつの間にかに無数のヨキが存在し、不敵にかつ気味の悪い笑い声を上げて彼女を完全に取り囲んでいた。

「これだけの数を相手に」
「君はどうするのかな?」
「諦めて」
「死ぬのが」
「いいんじゃないだろうか」
「人がフラフラで横になっている時にごちゃごちゃうるっせえんだよ!!!!」
「!?」
「君は……!?」
「生きていたのか!?」
「幻像よ、枯れ落ちろ。死骸を晒せ――――っ!」

走り続けると誓った防人が戦場へと舞い戻る。
上空で生み出した炎が雨のように落ちて、ヨキの幻像を貫いていく。
それはアシャの力を全面に押し出した防人の意地。炎の雨は苛烈にして美しくヨキの幻像を全て屠った。
それを見て、ニヤリと笑い、レオは立ち上がる。

「何、勝手に殺してくれてんだ……!」
「ほう……寸前で躱して致命傷を避けたか。やはりここまで生き残ってきただけはある」
「こっちは譲れねえ“願い”背負ってんだ! 死ねねえ、負けられねえ! 俺は、まだ……走り続けなければいけないんだよ!!!」
「ふむ、だがそのマラソンはここで終わりにしてもらおう。君達二人が立ち向かった所で私に勝てるとでも?」
「じゃあ、二人増えたらどうだ?」

抑揚のない声と銃弾がヨキの言葉を遮る。
即座にスプンタ・マンユによる千手の壁を展開、銃弾を届かせない。
だが、それに驚く様子もなく乱入者、桐山和雄は淡々とレミントンM870を仕舞い、カードデッキを取り出した。

360最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:54:38 ID:ykpqDMTg0

「変身。う、忘れていた。この言葉を言わなければな。仮面ライダー桐山和雄、ここに参上」
「カズオ……!」
「済まない、遅れてしまった。遅れた分の損害はこれから俺が取り返す」
「……真紅は?」
「死んだ。だが、俺の胸の中に――生きている」

簡素な会話も程々に。桐山は共に来たキクがヨキを抑えている内に必要な行動を起こす。
デイバックを開け、二つの武器をレオへと投げつけた。

「これは……あの仮面ライダーの! それと、俺の刀じゃねぇか!」
「使え。この二つは今のお前に必要なものだろう」
「……いいのかよ。俺が使っても。形見なんじゃねぇのか」
「そんなことを言う程の余裕はない。早くしろ。キクが耐えている内に」
「わかった。それじゃあ使わせてもらう」

龍騎のカードデッキもとい仮面ライダー龍騎はレオがこの世界に入って、始めて出会った異物である。
いわば、これが始まり。
掌に握られている真紅のカードデッキは燃え滾る炎を表している。
レオは鼻を鳴らして、カードデッキを首輪へと写す。
ああ、これは自分にとってはおあつらえ向きのものだ。
更なる高みへと、昇る為に。
それを成すだけの力がこのカードにあるのだから――!

「変身」

炎龍の仮面ライダー、龍騎が今ここに再び。
右手には使い古した愛用の刀を携えて。
名を掲げるは――仮面の防人、赫炎のエディアール。

「いつまでも、どこまでも。走り続けてやるさ。この手が“願い”を繋ぐまで」



【願い受け継ぐ仮面の防人/きっと彼もスケアクロウ】

361最後のプロローグ ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 00:58:00 ID:ykpqDMTg0
【D-6/一日目/夕方】

【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:脇腹軽傷
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、雛苺のローザミスティカ、カードデッキ(龍騎)、サバイブ(烈火)@仮面ライダー龍騎
    エディアール家の刀@waqwaq 
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:自分で在り続けるために走り続ける。
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。


【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、
     ハルワタート@waqwaq
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(7/8)
     レミントンM870の弾(16発)
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:闘う。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。

362名無しさん:2012/10/14(日) 00:59:38 ID:ykpqDMTg0




【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:《白色のキャンチョメ=Man of steel》
[装備]: 闇の宝玉@〜新説〜ブレイブ・ストーリー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:闘う。            
[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
シン・ポルクを修得(効果:限りなく全能なるメーノーグ)
とれる姿は一つになりました
参戦時期:ファウード編以降




【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:健康
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
    仮面ライダーファム(デウス因子吸収による存在変容)@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:闘う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。

363 ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 01:01:15 ID:ykpqDMTg0
【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、BMによる火傷 (処置済み)、
     スプンタ・マンユはクシャスラの能力使用可能、首輪解除
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、蒼星石のローザミスティカ、クシャスラ完食)
     @WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:闘う。
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします




【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:健康
[装備]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン 、
    護神像アールマティ@waqwaq、カントリーマンの玉四つ@ブレイブ・ストーリー〜新説〜
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針: 闘わないで済む世界が欲しい
1:…………闘う。
[備考]
※参戦時期は蒼星石の死亡前です。
※waqwaqの世界観を知りました。シオの主観での話なので、詳しい内容は不明です
※護神像アールマティに選ばれました。
※シオとヨキが黒き血の人であることを知りました。

364 ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 01:04:24 ID:ykpqDMTg0


















「全部、予定通り。僕達の盤面は狂っていない」

「ククッ、ならば妾達も動くとするか、ユキテル」

「ええ、オンバ。では行きましょうか」



「僕 達 の 為 に 闘 っ て く だ さ い ね 馬 鹿 み た い に」

365 ◆W91cP0oKww:2012/10/14(日) 01:06:30 ID:ykpqDMTg0
投下終了です。ユッキーとティオに関しては一旦破棄という形で。
書き上がったら再度予約して投下します。

366名無しさん:2012/10/14(日) 01:08:07 ID:MW3pUQko0
投下乙!!!
レオ頑張った!勝ち目欠片もないのによく耐え切った!!
この面子なら押し勝てるか!?

367名無しさん:2012/10/15(月) 11:31:12 ID:.kix./S.0
投下乙です

久々にキター!

368名無しさん:2012/10/15(月) 22:08:28 ID:rybNG6i2O
投下乙です。
どう見ても、電子レンジ。
これが、魔法(物理)

369 ◆1yqnHVqBO6:2012/10/18(木) 15:09:47 ID:OM3WW6qI0
投下します

370冥界に踊るデウスの嬰児たち  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/18(木) 15:14:06 ID:OM3WW6qI0

  彼/彼女と会ったのはスーパー弁護士と会う前のこと。
  未来日記で行く先に待ち受ける闘いを予知し。
  大きく迂回し、その先のオアシスで短い休憩を取った時のこと。

  瞬きをした次の瞬間には、
  雪輝は暗闇の中、立っていた。
  見通しの効かない無明の空間。
  呼吸の音すら暗闇に喰われてしまう。

  おっかなびっくりに、手を突き出し、
  探り探りに歩き出すとすぐに大きな壁にあたった。
  その壁はぬくもりと弾力があり、ゆったりとしたペースで
  かすかに移動、振動を繰り返しているのがわかった。

  「デウスが行動を起こしている故、
   因果律大聖堂へのアクセスが可能となった。
   ここは因果律大聖堂のデッドスペースと言えよう」

  背後から聞こえた声に振り返るとひとりの少年が立っていた。
  年の頃で言えば、雪輝とちょうど同じ頃か。

  「君は誰?」

  「オンバ。そなたを見込んでここに喚び寄せた」

  その肌は黒鉄色。
  闇に溶け込むように自然な皮膚。
  話すときに開いた口が異様な赤みを持っていた。

  「次期時空王を決める闘いは、
   間もなく終わろうとしておる」

  少年、オンバがワタルに歩み寄る。
  摺り足で移動したのがどこか蜥蜴が這うのに似ていた。

  「しかし、たとえ未来日記の所有者が一人になろうと
   新たな時空王が産まれることはない」

  すこし、上体を前に傾けて
  オンバが見上げる形で雪輝を見つめる。
  蛇の瞳が射すくめるような鬼気を放った。

  「だが妾は悪魔・ムルムルの力を取り込んでおる。
   この力によって弱められたそなたの未来日記の因果を強化し、
   正当なる後継者と舞い戻ってもらおう」

  「それで、貴方は何を得るの?」

  裡にざわめく恐怖に苛まれる心を悟られまいと意識して。
  雪輝はオンバを見つめ返した。

  「世界の果実を、この手に。
   妾が手にしてこそ《無垢》なる月の女神を屠る唯一の手段となりえよう」

  「それは何なの?」

  「元は神世にて世界を司っていたひとりの女帝が振るった剣。
   参博士であるヨキ、神崎士郎、そして旧き支配者たるこの身が
   造らんとする破壊と創世の宝具、四宝の器」

   陶酔した面持ちでオンバは己の身を抱き、
   なにもない上空を睨みつけた。

   「そして、妾は女神を屠って愛の本懐を遂げるのじゃ」

   美酒に浸るように頬を紅潮したオンバの表情を観察する。
   常に冷静に在ることができることが雪輝の最大の武器。

   「僕は――」

371冥界に踊るデウスの嬰児たち  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/18(木) 15:17:52 ID:OM3WW6qI0

############


「――貴女の提案を呑んだけれども、
 これからどうすればいい?」

9th.雨流みねねが死んだのを聞き。
この世界に来る前と
何ら変わらない性能を取り戻した未来日記を弄る。

「蜘蛛の塔へ行ってもらおう」

二人の亡骸を丁重に弔っていたのには関心を払わず。
雪輝が身支度を整え終わるまで、
オンバはひたすらに西を見やっていた。

「ここと蜘蛛の糸では位相が厳密には違うのじゃよ。
 この会場は“願い”に吸い寄せられる者共の血を飲み込む
 毒蜜の花が性質を高めておるが故に、未来日記の性能は戻ろうと、
 時空王の乗り換え駅の役目を果たすことはできん」

闇に包まれて漆黒になった空へと伸びる尖塔と
正午を契機に現れた地面へと垂らされる糸。

「時空王と成りて、蜘蛛の糸に赴き、
 赤き血の神の像へと向かえ。
 首輪が起動認証コードなれど、
 そなたは条件を満たしておる」

「上手く行くんでしょうか」

「妾の策ぞ。
 赤き血の神の像に仕込んだプログラムを起動するには
 デウスの核が最上であり、計画ではあったが。
 時空王本人となればそれ以上の適格はない」

「……で、それが終わったら?」

「そなたの首を引き抜き、
 妾自身の“願い”を叶えようぞ」

「理想世界が欲しいんでしたっけ?」

「然り」

「そんなのは夢物語に過ぎませんよ、オンバ」

「世に夢幻など存在せぬ。
 うたかたにこそ真理は在り」

難解な言葉を並べ、煙に巻こうとしているが
オンバの意志はただひとつ。
それは、勇者ワタルと添い遂げるただ一点のみ。

しかし、それは

「ワタル君はただの人間でしょう?
貴女のような存在と釣り合うとも思えないけれども」

「口を閉じよ、下郎」

鬼の形相となったオンバが
雪輝を貫くように睨みつけた。
口を動かすたびにちらちらと唇から牙が覗く。

「ワタルは勇者ぞ。
 人とは違う。妾がこれまでに弑した
 人、魔物、神性、全てと違う。
 永遠なる輝きを妾に示してきたのじゃ」

それは弱点だ。
雪輝にはよく見える。
雪輝だからこそわかる。
そこを突けばこの邪神は呆気無く自壊するだろう。

従って、この鬼女も雪輝の同盟者に相応しい。

「チー」

足元でか細い機械音が鳴った。
携帯に向けていた視線を横にずらすと
スーパー弁護士が行使した機械が雪輝の足元にしがみついていた。

「……君も一緒に来る?」

「チ!」

うんうんと頷いたプラから視線を剥がすと
オンバに確認を取る。

「じゃあ貴女は地上で虐殺。
 僕は蜘蛛の糸で赤き血の神の像にアクセスをする。
 それでいいんだね?」

「うむ」

勇者に狂った邪神が盤上の駒を洗いざらい落とし。
後ろから言葉で刺せば最強のルークはボーン以下の愚兵になる。

「全部、予定通り。僕達の盤面は狂っていない」

僕達、“僕とみんな”の世界を求める雪輝と
“私とあの人”の世界を求めるオンバで対峙する盤上は違うのだろう。

「ククッ、ならば妾達も動くとするか、ユキテル」

だが僕達と強調すれば
雪輝はオンバに従うのだという意味を暗に示すことが出来る。

「ええ、オンバ。では行きましょうか」


雪輝は蜘蛛の糸に行き。
オンバは生贄の刈り取る。

「僕 達 の 為 に 闘 っ て く だ さ い ね 馬 鹿 み た い に」

遠くない未来。
愚かな邪神が舞い終えた盤上にて、
残るは女神の膝下へと続く螺旋階段のみだろう。

############

372冥界に踊るデウスの嬰児たち  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/18(木) 15:18:40 ID:OM3WW6qI0


「トロイアの木馬は己の愚行に未だ気づかず」

携帯電話に視線を注ぐ桃色の髪の少女。
長い髪を両脇から下ろし。
体に密着するボディスーツの上にコートを羽織っていた。

「次期時空王の闘いはまだ終らない」

彼女の周囲にて
黄金の鳳凰が羽ばたくと
キラキラ煌く鱗粉が舞い落ちる。

「デウスの核はここに。
そして時空王の継承権はこの肉体に」

玉座に腰掛ける少女は
今、茫漠たる空気を纏い、
少年が断頭台への階段を登り切るのを待ち受ける。

「全ては優衣の未来の為に」

――次期時空王を決める闘い――

    ―決勝戦開始―

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康、心の力の消費(大)、両手の平に大火傷
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(14/15)@未来日記、IMIウージー(25/32) 、プラ@waqwaq
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする
1:蜘蛛の糸に赴く

[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づいていません。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました


【我■由◆@&%#*】
[状態]:神崎士郎
[装備]:オリジナル雪輝日記@未来日記、????????
[道具]: ???????
[思考・状況]
基本行動方針:神崎優衣の未来を
1:雪輝を殺し、《時空王》となって赤き血の神の像へ向かう
※オーディンデッキ@仮面ライダー龍騎は破壊しました

373  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/18(木) 15:19:05 ID:OM3WW6qI0


これで終了

374  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/18(木) 21:08:14 ID:OM3WW6qI0
すいません。
やっぱオーディンのデッキは不明に変更します

375  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/19(金) 20:30:54 ID:yl.1G0AI0
放送ーーーー

376最後の放送・半分の月が微笑う  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/19(金) 20:33:14 ID:yl.1G0AI0


燃える空は矢のように過ぎ。
紅は濃紺に沈んでいく。
風は重く、湿り、血の匂いを湛え。
それは鉄の意志の生贄が生きた証であり。
果実が血を養分に熟れ始めた兆しでもあった。

それぞれの首輪に誰かが映った。

映しだされたシルエットは小柄な人。
いいや、小柄とすら言えない小動物の大きさ。

「…………チー」

喋った。いや、これは鳴き声だ。
言葉や意志を見出せる者はこの世界に何人いるか。
電子音は下界の参加者の鼓膜を通じて動揺に落とした。

「はい、君じゃ誰もわからないからね」

電子音を囀る小動物、プラの脇に手をやって持ち上げた。
新しく現れたのは気の弱そうな何処にいても不思議ではない少年。

「もう放送はできない。
 記録者は喰われてしまったし。
 “願い”を蓄える赤き血の神の像も黒い影、コトが移動した。

だから誰が死んだのかはわからない。
ただ残りの人数はわかるよ。
一エリアに固まって殺しあう君達。
君達が最期の生き残りだ」

そう言うと少年は口元に笑みを浮かべたまま暫し沈黙する。
一秒、二秒、三秒。

「君達はどうして闘っているのだろうか。
“願い”のため? それもあるだろう。
けれど、もうひとつあるんじゃないだろうか。
それは死んでしまった友の志を継ぐ、とかかもしれない」

参加者たちが動きを止めたか。
参加者たちは思い思いに誰かの顔を浮かべただろうか。

「これは僕の“友達”の話なんだけども。
 名前はガッシュ・ベル。
 明るくて、強くて、太陽のように周りを元気づける人だった」

少年の瞳に涙が滲んだ。
声は震え、湿り気を帯びている。

「殺したのは僕だ。
 僕は彼を殺そうとして。
 しかし阻止され、窮地に立たされた。
 でもそんな僕にガッシュは手を差し伸べてくれた。
 僕には理解できない強い心を持ってるんだなって感動したよ。
 僕の友だちの中できっと秋瀬くんと同じくらい優しいんだ」

少年に抱きかかえられたプラは悲しそうな顔で少年の独白を聞く。

「僕は殺した。
 彼の善意を踏みにじって殺した。
 涙ながらに訴える彼に笑顔で殺した。
 これが君達が信じた人の結末だよ。
 どんなに赦したって、赦した相手に殺される。
 そんな運命だ。そんな世界だ。想いにどれほどの価値があるっていうんだ」

懺悔にすら聞こえる悲壮な少年の言葉は徐々に語気が強くなり。
瞳には澱んだ沼地の底知れなさがあった。

「……僕は、赦さない。
 そんな世界を赦さない。
 母さんを殺した父さんだって僕は赦したんだ。
 いつか星を観に行こうって約束だってしたんだ!
 それを、踏みにじったのは、僕じゃない。
 “願い”に狂った君達みたいな人だった!
 ガッシュのように信念を持った人たちだった!!
 だから、だから僕だって踏みにじっていいだろう!?」

377最後の放送・半分の月が微笑う  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/19(金) 20:37:25 ID:yl.1G0AI0



唐突に訪れた烈火の激昂が過ぎると。
後には穏やかな水面の静けさがあった。

「君達の友達。
 それは七原秋也くんかもしれない。
 城戸真司さんかもしれない。
 シオ君かもしれない。
 みんな誰よりも素晴らしい人達だ。
 勇者には届かなくても、気高い人たちだ。
 全部僕が無意味に出来る人達だったけどね」

笑み、少年は絶やさない。
弓形の目も眉も口も彼の心情を少しも教えない。

「それではさようなら。
 僕が君達を皆殺しにする、その時まで」

その言葉を最期に。
最後の放送は幕を閉じた。


――女神の降臨とともに成就するでしょう――


「これでオンバへの良い援護射撃にはなったかな。
 ブラフも撒けたし、上出来だよね。
 キャンチョメって子がこの言葉に堕ちないとも思えないし。
 すべて、すべて、そうすべて。
 僕が愛するみんなの救済のために。
 無意味に、無価値に死んでくれ。
 君達が大好きな友達みたいに」


手元の未来日記に着信音が鳴った。
不審に思いながらも確かめると一通のメールが届いていた。

それに素早く目を通すと、
先ほどまでの演技とはたしかに違う本当の笑みを浮かべてプラに言った。

「もう…………戻れないよ」

空には、月が。
ありえないほどに大きな月が――――半分だけ、姿を……

378 ◆1yqnHVqBO6:2012/10/19(金) 20:38:00 ID:yl.1G0AI0
以上で放送終了です

379 ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:10:57 ID:u4rw14Gs0
投下

380黄雷のジャバウォック/少年の帰還  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:13:17 ID:u4rw14Gs0


「俺達は似ている」

ジクザグに飛行、交差、激突する両者。
魔術師が口を開いた。

「大人たちの身勝手な都合に望まぬ定めを強いられ。
 せめてもと望みに向かって闘うことを選ぶ。選ばざるをえない」

魔術師、ミツルに繰り出される拳の連打。
速さを突き詰め。威力を極め。
砕く鉄の拳は受け止めることを赦さない。
止まらぬ男の拳。

ミツルは冷静に周囲に漂う想波を練り、風の塊をぶつけ。
速度が弱まった隙に距離を取るのではなく。
伸びきった腕ではどうしようもない側面へ回り。
二つの刃で胴を刈りとらんとキャンチョメへ襲いかかった。

「放り込まれた道でも、歩き方くらいは初めから自由でしょ?」

トライデントとレイピアは
キャンチョメの大きく開かれた両足に弾かれ。
鋼鉄の頭部がミツル、仮面ライダーの額に叩きつけられた。

「詭弁だな。
 自分が強く生きれば死んだ者も浮かばれるとでも言うつもりか。
 それで、死にも意味があったとでもいうつもりか!」

「たしかに、君の言うとおりさ!
 でも、友達が死んで、それでも生きるなら。
 みんなが喜ぶ生き方のほうが良いに決まってる!」

「失望したぞ《白色魔王》!!
 運命の享受を説くつもりか!
 お前の内に眠る力を見抜き、放置したのも。
 お前の両親だ! お前の敬う王だ!」

「きっと大人たちは信じていたんだよ。
 僕達なら。どんなことでも乗り越えられるって!」

「その悟りこそが諦めだと気づかないか!」

純白のマントが大きく広がり、
ミツルの背後を白い大輪の花のように飾る。
茜から漆黒へと変わる直前の紫苑の空に、
禍々しいほどミツルの白色は似合った。

「運命を受け入れろ。
 届かない理想を諦めて、
 相応の生き方をしろ。
 それが、大人たちの言い分だ!
 ただ、己の無力に直面し、屈した負け犬の言葉に過ぎん!!」

「でもガッシュはそうだった!
 どんな辛いことにも立ち向かって。
 乗り越えて、僕達を元気づけてくれたんだ!!」

「三谷も……ワタルもそうだ!!
 なのに死んだんだ!
 呆気無く。
 何をしたかも未だ掴めないような無力な結果に!!」

叫ぶ。吠える。
瞳に激情の炎を燃やし。
憤怒に滾る身体は奥底から突き上げられる力に翻弄される。

「僕を見ろ、《白色魔王》。
 この両手は色に狂い、家庭を捨てた母の血で出来ている。
 この両足は絶望に敗け、人を……己の子を殺めた父の肉で出来ている。
 産まれた時から肉も、骨も、魂も、全ては醜く腐り果てたものだ」

ミツルの背後に咲く花、花びらひとつひとつが触腕となって
キャンチョメへと伸びていく。
無数の、五月雨のように。

「それなら……変わればいい!
 人を殺してまで救われようとするなんて間違っている!」

「今更、善悪の話か、
 《魔王》が俺に人道を訴えるか。
 嗤わせるなよ、《人殺し》」

381黄雷のジャバウォック/少年の帰還  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:14:28 ID:u4rw14Gs0


ミツルの言葉に、キャンチョメは怯み。
それが触腕の群れへの反応の遅れを招いてしまい。
幾つかが鋼鉄の肉体に突き刺さり、動きを止める。

「僕も、お前も、戻れないほどに汚れた血の手だ。
 ならば、何を躊躇うことがある。
 心などあの時、あの瞬間に凍りついた!」

「それで、関係のない世界まで巻き込むっていうの!?
 大切な人のために、誰かの大切な人を奪うっていうの!?」

触腕を急いで抜き取ったキャンチョメが
口の端から血を滴らせても、訴えた。

「元より俺の世界と交わるはずのない世界!
 どうなろうと知ったことではない!」

「君は、君はここに来て別の世界の人に触れて
 何も感じなかったのかい!?
 みんなの中に、優しさがなかったっていうの!?」

「あったとしても! 結局は奪われ! 
 残された者は悲しみに頬を濡らした!
 ただそれだけのことだ!」

愚かな革命家・七原秋也、
元は無力な存在ながらも。
殺し合いという理不尽への怒りと
希望だけを心の剣にして、最強のチャンに立ち向かい。

ミツルと同じく“願い”に狂ったはずの仮面ライダーナイトの
心に少しでも触れてみせた男。

だが、それも。
何も持たない虚ろな絶対者の拳に貫かれ。
残された者の心に痛みを遺しただけ。

「……美鳥だけは違った。
 美鳥だけはこの醜悪な世界で唯一つ美しく咲いていた!
 あの両親から産まれた身であっても、
 僕とはまるで違っていたんだ!!」

怒号とともに
極大の氷塊を砲弾のようにキャンチョメへと撃ち。
腕を交差したキャンチョメの鋼鉄に砕け。

『……チー』

首輪から音が聴こえた。
もう放送の時間か。
なんだこれは、これがコトか。
こんな鈴の音を出す生き物がコトの正体だったのか。

一瞬、硬直した思考を大急ぎで再稼働する。
それを他所に首輪から新たな少年の声が。
名は雪輝。時間遡行を餌にミツルを出しぬいた不届き者。

無数の破片が流星群となって大地へと落ちていく。
その過程で茜色から濃紺色に変わる天蓋の下で
闘争の色を反射し、七色に煌めいた。

「ここまで来たんだ。
 もう手を伸ばせば届く距離だ。
 《儀式(ハルネラ)》の人柱となって、
 俺の命を散らそうと知るものか」

大地から巻き起こる風。
それはミツルが産みだした突風。
流星は刃の風雨となってキャンチョメへと降り注ぐ。

しかし、キャンチョメが両の手を合わせると
ミツルの風とは比べ物にならない巨大な風が渦巻き。
衝突した氷塊の破片が勢いを失い
一瞬だが風と風の衝突の影響で滞空した。

『これは僕の“友達”の話なんだ。
 名前はガッシュ・ベル』

雪輝が何かを話している。
どうやって、そこに辿り着いたのか。
何を狙っているのか。
今はどうでもいい。目の前の闘いに集中するのみ。

『殺したのは僕だ』

キャンチョメの瞳の光は揺らがない。
殺されたのなら殺した者がいるのだから覚悟済みか。
もう少しこちらの有利になることを言って欲しいものだ。

トライデントの先端から圧倒的光量の光が産まれた。
槍の先から離れるとキャンチョメではなく、
宙にある結晶へと光線が奔る。

『僕は彼を殺そうとして。
 しかし、阻止されて窮地に立たされた。
 でもそんな僕に手を差し伸べてくれたのはガッシュだった』

382黄雷のジャバウォック/少年の帰還  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:16:09 ID:u4rw14Gs0


光が無数の破片に反射して
キャンチョメの前方を覆うベールとなる。

目眩ましの手。
これで相手を貫けるかはわからないが、
本番はその先にある。

優雅さは微塵もなく。
必死の形相で空を飛び、槍のみに想波を集中し。
キャンチョメへと迫る。


『僕は殺した。
 彼の善意を踏みにじって殺した。
 涙ながらに諦めるなと訴える彼を笑顔で殺した。
 これが君達が信じた人の結末だよ。
 どんなに赦したって、赦した相手に殺される。
 そんな運命だ。そんな世界だ。想いにどれほどの価値があるっていうんだ』


光の先にキャンチョメがいる。
近づく。さらに近づく。

目の前へとミツルは肉薄した。
少し突き出せば穂先はキャンチョメの腹部を抉るだろう。

キャンチョメの両眼に……ミツルは映っていなかった。

撤回だ。実にいい援護だ、天野雪輝。
お前の言葉で救われた《白色魔王》は再度揺らいだ。

呆気無く、手応えなく。
するりと、槍はキャンチョメの腹を貫いた。

キャンチョメの術、能力の本質は幻。
揺らがない心から産み出される幻は錯覚を超えて
感覚に直接働きかけてダメージを与える。
それは、世界に遍く存在する想波とも呼応し。
変幻自在の実としてキャンチョメは力を行使する。

そして、揺らいだ結果がこのザマということだ。


「は、は、は」

ミツルの口元に笑みが浮かび。
瞬く間に広がると、真紅の唇が紛糾のような哄笑となった。

「はははははははははははははは!
 どうだ、これがお前の友の果てだ!
 思い届かず、踏みにじられて、死んだ。
 それがお前を取り巻く世界だ!
 誰にも、抗うことなど不可能!」

槍を捻って、傷を広げる。
背中にはためく黒色のマントをも引き裂いて。
ミツルの刃は今、キャンチョメを捉え、傷つけた。

「さあ、憎め! 恨め! 絶望しろ!
 《白色魔王》として産まれたのならば。
 輝きなど握りつぶせ。すべての想いを権能で呑み込むがいい!」

キャンチョメの口から真紅の血が吐き出された。
ブロンドの白人男性、鉄の男の姿が弱々しくぶれた。

「マン・オブ・スティールを嘲笑ってみせろ!」

大きく槍を動かそうと
ミツルは両腕に力を込める。
予想外の結末だが、
ここで終わってくれるのならば重畳。

己の“願い”にまた一歩近づく。

さあ、命を奪おう。
ミツルは両眼を冷然と凍りつかせ。
無情の処刑刀が、キャンチョメを、殺す。

「鉄のーフォルゴーレ 」

動かない。
刃が、縦にも、横にも、動かない。

「無っ敵ーフォルゴーレ」

万力の力で、ミツルの手が握られた。
槍の柄に手をかけていたその上に、更に手が。

痛む。ぎりぎりと、
高温の鉄にのしかかられたように。

「この歌を謳えば。
 フォルゴレはいつだって立ち上がるんだ」

キャンチョメの腹部から、槍が抜かれた。
それでも、力は緩められることなく。
ミツルの視界が大きく、揺らいだ。

「この歌を謳えば、
 僕の体にはいつも、勇気が!
 きっと、ガッシュにもヒロキにも
 雛苺にも敗けない勇気が!
 沸き上がってくれるんだ!」

世界が回る、廻る、輪る。
解放された瞬間にはミツルは遙か彼方へと。

「それが……お前の信じるものか!
 何故そんなにも信じられる!?
 お前も、今たしかに心が折れただろう!」

空中で静止し、体勢を整えたミツルが見たのは。
何かに祈りを捧げるように両手を合わせるキャンチョメ。
手を、離すと、羽織っていた黒色のマントが解けていき。
ちりちりと、弾ける音が雷雲を大きくした。

383黄雷のジャバウォック/少年の帰還  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:18:22 ID:u4rw14Gs0



「その外套は雷雲か。
 想波の闘法でコントロールしたのか」

術を放つ詠唱を始める。
チャンの闘いでも使った最大の技。
この世界において大きく上がった力量で行使すれば威力はどれほどになるか。

   カオス メギトス ハムナトス メルギス 

空が泣く。
過ぎ去った青空の悲しみが聞こえる。
そして、いつの間にか空に鎮座した半分の月が、
どこか微笑っているように――

「決着だ!
 そして僕は帰る! あの日へ!」

ミツルの杖から、魔王を穿つ魔法陣が。

「エターナルエンド!」

巨大な魔法陣。
地上で使えば街一つなど粉々に砕けただろう。
チャンの封印魔法にも肩を並べかねない威力。

「鉄の! フォルゴッレ!
 無敵のフォルゴレ!」

どこまでも広がる雷雲は、
夜空よりも濃く、広く、深く、闇に沈める。

そして、そこから産まれるのは一匹の金色の龍。
ブックの銀嶺よりも巨きな。
威容と輝きを持った、太陽の眩しさ。

「これを撃つのは最初で最後!」

龍を従え、
キャンチョメは己の身もまた雷電を纏い。

「バオウ・ザケルガ!!!!!!!!!!!」

魔法陣とドラゴンがぶつかる。
大気が揺れて、膨大な量の想波が喪われていく。

そして、想波の消費とともに。
地平の彼方から闇が押し寄せてくる。
暴食の底なしの宇宙。

無限にも続くかと思われる術と術のぶつかり合いで、
ミツルは闇に気づくことが出来ない。
ただ、ひたすらに、愚かに、目の前の闘いに集中するのみ。

終わりはすぐに訪れた。
障子紙のように破けた魔法陣から、
龍の頭部が現れて、キャンチョメの拳がミツルへと進む。

「フォルゴレがヒーローなのはさ。
 みんな、すごく悲しい目に会った人も。
 病気で凄く苦しんでいる人も。
 ガッシュやヒロキ達に会ってもそうなるかもしれないけど、
 フォルゴレがいる所は誰よりも上手に“そう”なるんだ」

「これは……」

「フォルゴレの周りでは、みんなが笑っているんだ!!」

「……黄雷か」

太陽よりも強い光に、
ミツルは目を奪われ、見蕩れてしまう。

「僕の負けだ、キャンチョメ」

そして、光に包まれて、ミツルの意識は――



――――――――――――――。

384黄雷のジャバウォック/少年の帰還  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:19:51 ID:u4rw14Gs0



気がつくと、玄関に立っていた。
小さな体、弱々しい手、頼りない足。
ミツルは己の体を確認して、ため息をついた。

これは知っている。
ここは夢だ。何度も見た悪夢だ。
靴を脱いで、幸せな日々とは違う空気に満ちた廊下を歩く。
ドアは開け放たれていた。

だから、見えた。
ベッドの上で見知らぬ男と重なり、裸で息絶えた母が。
そのベッドの横で無造作に壁際に座らされた、血まみれの妹の姿が。

思わず、駆け出す。
転びそうなほどに心がざわめいて。
頭の中が真っ白になるほどの恐怖に占領された。

美鳥を抱きかかえると、
閉じられた瞳が静かに開いた。
血に濡れた少女の顔がミツルを捉えて、歪んだ。

「お……兄……ちゃん……」

わかっている。
ここにいる。僕はここだ。
安心しろ。すぐに助ける。どんなことをしても助ける。
お前だけは絶対に。両親など知ったことか。

そう言おうとしても、口が動かない。
出来損ないの油が切れたブリキのおもちゃ。
幼い頃に買ってもらった玩具のようだと、場違いな思考をした。

「痛いよ……こわいよ……」

妹は、美鳥は手を伸ばした。
視界は滲まない。涙なんて溢れるものか。
この映像を覚えている。
女々しい涙はこの時、捨て去ったのだから。

「お兄ちゃん……」

わかる。知っている。覚えている。
この先で美鳥が何と言って死ぬのかを。

ミツルは、一度も忘れたことがない。

「お“願い”……」

最期の言葉だ。
何度も夢に見たんだ。
僕の心はこのとき、狂ったんだ。

「わ……ら……って……」

知っているさ。
笑えばいいんだ。微笑めばいいんだ。
口を横に広げて、目を細めて。
三、二、一、どんな時でも浮かべられるんだ。
騙すために、笑顔はいつでも使ってきた。

だから、僕はそうしよう。

「…………え?」

できない。
顔の、表情の、何もかもが凍りついて動かない。
チタンの仮面をかぶった少年。
ああ、意外といいタイトルじゃないか?

もう一度、だ。

「…………あ」

またできない。

きっと力加減の問題さ。

「…………ああ」

失敗した。
どうしたんだ、芦川ミツル。
何度も夢に見たんだ。
いつかまた会えた時、
絶対に微笑って見せようって誓ったんだろう?


「ああああああ」

美鳥はまだ泣いている。
君の笑顔を待ちわびている。
最期の光景に泣き顔を、彼女は望まなかった。

「あああああああああああああああああああああ!!」

声が裂けるほどに僕は、ミツルは叫んだ。
喉が潰れようとかまわない。
二度と声が出なくてもいい。
ただ、このとき、微笑うことが出来れば。

「デウス! 女神! オンバ!
 誰でもいい! 時を止めてくれ!!
 僕に、時間をくれ!! どうか、どうか!!」

笑顔を忘れた。
涙だけが堰を切ったように溢れていく。
気づけばそれほど大きくなかった
団地の一室には今まで殺してきた犠牲者の死体が盛り沢山。

「お“願い”だ!!
 僕に! 僕に!!」

涙が止まらない。
けれど顔を覆うことは出来ない。
だって両の手は最愛の人を抱えるので精一杯だから。

「笑顔を教えてくれ!!」

そして、世界は罅割れ。
目の前には倒れ伏すキャンチョメと
涙を流し続ける男の子だけになる。

――――――。

385黄雷のジャバウォック/少年の帰還  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:21:21 ID:u4rw14Gs0


「ご……めん……
 辛いものを見せたんだよね、きっと」

仰向けに倒れたキャンチョメはごほっ、と咳き込む。
姿は少年の者へと戻り。
深々と刻まれた傷跡はキャンチョメの命の残り時間を示した。

「莫迦、だな……」

屈みこんで、キャンチョメの顔を覗きこんだ。

「おまえ……勝っていたのに」

涙がぽたり、ぽたりと、キャンチョメの顔に落ちて。
キャンチョメはくすぐったそうに笑った。

「……いいんだ。
 僕は、こうしたかった。
 ヒロキに助けてもらって、君を見た時から。
 絶対にこうしようって決めてたんだ」

顔から血色が落ちていく。
キャンチョメの命が、消えていく。

最後の力、だったのか。
キャンチョメは懐から、
一羽の小鳥の模した粘土細工を取り出して。
ミツルに渡した。

「とりあえず、さ。
ガッシュと、雛苺と、ヒロキの名前は書いておいたんだ」

不恰好な造形だ。
輪郭も左右不釣合いで。
たどたどしい筆致で名前が綴られているだけ。

「……ありがとう」

ポツリと、つぶやかれたミツルの声を聞いて。
キャンチョメは今度こそ、眼を閉じた。

「そこにいてくれてるって、知ってたよ。ヒロキ」

そして、キャンチョメは死んだ。
安らかな表情で。穏やかな微笑みを湛え。

「……四人目だぞ」

小鳥を胸に掻き抱き。
ミツルは悲嘆にくれる。

「まだ、終わらないのか」

震え、しゃくりあげる声で。
ミツルはここにはいない何かに話す。

「終わるわけがなかろうて、のう?」

背後からかけられた声にミツルはゆっくりと振り返る。

そこにいたのは黒鉄色の肌の少年。
三谷ワタル。勇者の名前。

「妾は、赦さぬ」

ああ、この顔は知っている。

「ワタルを殺してなおものうのうと存在するすべてを赦さぬ!!」

涙を拭って。
魔導師は立ち上がった。

「お前は……お前たちは
 早く逃げろと言うんだろうな」

自嘲の笑みを浮かべて。
真っ赤に腫らした眼を大きく瞬かせる。

「文句なら後で聞いてやるよ」

ミツルの背後から機械じかけの白鳥がオンバへと襲いかかった。

「美味」

しかし、大きく口を開けたオンバに
呆気無く噛み砕かれ。
咀嚼され、飲み込まれた。

「供物を捧げたとて貴様を赦しはせぬよ、ミツル」

「ただの前哨戦さ。
 行くぞ…………“五人目”
 僕はお前を、救ってみせる」


今、自由に浮かべられるのは不敵な笑み。
でも、ここからとりあえずは始めよう。

386黄雷のジャバウォック/少年の帰還  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:23:34 ID:u4rw14Gs0
【キャンチョメ 死亡確認】

【残り 7名】



【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:健康
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:『対話』
1:救う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。

387 ◆1yqnHVqBO6:2012/10/24(水) 18:23:56 ID:u4rw14Gs0
以上で投下終了です

388名無しさん:2012/10/25(木) 13:02:41 ID:Xh9LvJYM0
このロワ熱いね
書き手の方毎度毎度ありがとう

389名無しさん:2012/10/28(日) 13:31:46 ID:bNVqFFvE0
キャンチョメがついに逝ってしまったか

390 ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:00:59 ID:/uUySQ.Q0
投下

391比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:02:55 ID:/uUySQ.Q0


「アリスゲームの話をしようか」

周囲の状況はさながら地獄。
天候、雨というものが
雪というものが
嵐というものが、
武器を持って人間に襲いかかるのならば、
それはこういう光景になるのだろう。

千手は数十のヨキが繰り出すことで
無限の嵐と化して、前方数mも見通せない有様となった。

「これはどちらかというと
 ローザミスティカの性質とも言うべきかもしれないけれど。
 何故、ローザミスティカを集めなければ
 いけないのか考えたことがあるかい、翠星石?」

「それがローゼンメイデンの本能だからですよ!」

「さて、それはどうだろうかね」

涼やかな表情をヨキは崩さない。
必死の形相で最後の決壊を防ごうとする翠星石達とは裏腹に。

「まず、ひとつの真実を告げよう。
 私は神などという傲岸なる者ではないからね。
 真理ではないが許して欲しい」

桐山の剣がヨキの腹部を斬り裂いた。
両断された胴部に少し遅れてヨキの上半身が地に落ちた。

「ローゼミスティカは
己が受けた刺激によって
僅かながらも成長と変化をしていく。
ローザミスティカの変化を感じたボディは、檻となり。
ローザミスティカの成長を妨げる」

レオとキクが千手に仲間が貫かれるのを硬化と炎の壁で防いだ。

「しかし、ローザミスティカは成長を求める。刺激を乞う。
 だからローゼンメイデンはつながりを求めるのだよ。
 深く、温もりに少しでも触れようと、魂まで求めて」

「……えぇっと、どういうことなんですかね?」

「ローゼンメイデンは寂しがり屋ということだろう」

闘いながら、首を傾げる翠星石に桐山が答えた。

「従って、刺激があるのならば、
 世界を体験することが出来るのならば。
 ローゼンメイデンはローザミスティカを手に入れる必要がない」

「テメエはさっきから何が言いてえんだ」

もどかしげにレオは眉をひそめた。

「ローゼンメイデンはローザミスティカを必要としない。
ローザミスティカはそれぞれの姉妹ごとに独自の変化を遂げる」

闘う、ヨキの群れは一様に同じ声量で、
同じトーンで同じ表情で滑らかに言葉を紡ぐ。

「全なるひとつから分かたれたローザミスティカ。
 柔らかい石、賢者の石、
 至高の回路によって組み込まれた文明でない無限動力。
 君、翠星石。妹のことをどれだけ理解していたのかな?」

「……っ!」

「奴の言葉に耳を貸すな翠星石!」

ヨキの問いに、
動きが鈍る翠星石を桐山が叱咤する。
叱咤しようと動きが鈍った、躊躇いが生じたという事実に変わりはなく。

「その、怯みを、突こう」

ヨキの大群は
さらに攻撃の頻度、速度、重さを増していく。
火花が夜空に散り、翠星石の穴を埋めようと
キクとレオが奮闘し、更に体中に傷を負った。

「翠星石……」

「ご、ごめんですぅ」

「べつにいい。
 もう大丈夫なんだな?」

「バッチグーですよ」

392比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:04:07 ID:/uUySQ.Q0



親指を立てて、レオとキクの背後から飛び出し、
ヨキの大群相手に立ち回りをする。

千の手が万にもなって翠星石の周囲を取り囲み、
一斉射撃となって小さな体躯の人形へと繰り出された。

「さあ、行くですよ。雛苺!」

胸に輝く大きな光。
レオに渡された妹のローザミスティカ。

「お前が雛苺を殺したというのは本当なのか?」

「ああ」

「そうか」

「憎むか? 俺を」

「………………殴りたいとは、少し思う」

桐山の言葉に、レオは苦笑した。

「そうか」

「だが、おまえは杉村の友達だ。あいつに俺は借りがある。
なら…………後で考える。色々と俺は考えたい」

これ以上はこの問題は追求しないという意思表示なのか、
桐山はレオに背を向けて翠星石の援護に向かった。

宙に浮かんでいるヨキの一団へ無数の弾丸を浴びせ。
些細ながらも翠星石の攻撃を妨げられる危険をなくす。

「君は何故闘う?」

翠星石を取り囲むヨキが尋ねる。
傷一つ無い絶世の美貌は翠星石の奮闘を嘲笑うでもなく。
迫り来る夜の闇にヨキの白磁の肌は溶け込む。

「君の“願い”は誰のものか。
 君の心は誰のものか。
 シオの“願い”に突き動かされているだけじゃないのかい?」

「それはお前だって同じことを言えるじゃないですか!
 何年昔の戦争を引きずってるの!?」

「甘ったれことを言うんじゃないよ・。
 私は革命の妄執そのものだ。
 それでもいい。戦友たちの想いの昇華には赤色の死がなくては」

「うぇい、頑固者ぉ!!」

左手を突き出し、前方のヨキを食い破らんとする。
だがそれは千手の壁に遮られ。
高く聳え立つ障壁を前に踏みとどまるをえない。

「健やかに〜、伸びやかに〜」

左腕はブラフ。
本番は大地の特性を持つアールマティの体躯から芽生える
大樹の槍。穿突の巨大なバリスタ。

「撃ちぬけええええええぃ!」

壁を崩して、大樹の刃がヨキの群れを薙いだ。
カントリーマンの遺した玉が力を与え、
更に大きく太く、育っていく。

「勝者に従え、蒼星石」

その声が聴こえたのは翠星石の頭上から。
高所に空間に佇むヨキの体が淡く輝く。

「この分身の弱点はね、翠星石。
 ローザミスティカと玉を複製しきるまでには
 いたらないことなんだ、
 だから分身すれば一体一体は本体より大きく劣る」

蒼色の光。
夜闇に浮かべば、蒼天の涙。

393比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:04:59 ID:/uUySQ.Q0



「君は強いね。それとも強くなったのかな、翠星石。
 シオが君を選んだ理由もわかる。
 蒼星石の姉である理由もわかる」

桐山が消失したヨキの群れから自由になり。
翠星石を庇うように
翠星石とヨキを結ぶラインに割りこんだ。

「さようなら、翠星石。
 シオの友になってくれて、ありがとう」

翠星石の眼の前には桐山が見える。
桐山の背中が見えた。
大きい、とまでは残念ながら思えないけれど。
翠星石を守ろうとする姿に、彼女は――

「駄目ですよ、カズオ」

鞭のように撓らせた樹が桐山を吹き飛ばす。
ヨキの千手と翠星石を阻む物はない。

「舎弟はねーちゃんの言うことを聞くもんですからね」

両手を前につきだして。
全力で、雛苺のローザミスティカも、
カントリーマンの玉も限界まで使い、
絶対硬度のバリアを展開した。

眼の端でこちらに走ってくるレオとキクの姿が見える。
レオの眼、シオの記憶で見たのと少しだけ違うけれども、
根っこは同じの、熱い情を秘める眼差し。

両手が震える。
歯の根が合ってくれない。

――翠星石。

頭の中で声が響いた。
こちらを心配する、気遣う声。

「シオ。ハード。坂本。蒼星石。雛苺」

恐怖に萎縮する体が名前を唱えるだけで静かになった。
落ち着いた精神で、夜闇、
大きな大きな半月を背に冷酷に見下ろすヨキの眼を見る。

「私にも勇気を」

その言葉を最後に、翠星石の姿は千手に呑まれ。
翠星石の意識が糸を切ったように途絶えた。


―――――――。

394比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:05:40 ID:/uUySQ.Q0




闘いは続いている。
桐山とキクの姿が遠くに見える。
ヨキは再び群れとなって遺された三人を殲滅しにかかった。

三人。
そう、今はレオの腕の中に翠星石がいる。
両手両足が砕け散って、
ただ抱えられるがままの姿になった翠星石が。

レオの仮面ライダー龍騎のボディはブランク体。
翠星石を助けるためにとっさにADVENTを用い。
盾の役割を果すことなく、
翠星石ごと貫かれたドラッグブラッカーはいない。

「……うぅ」

苦しげな声とともに翠星石の瞳がわずかに開いた。

「無事か?」

「……翠星石の体は、今……どうなってるの?」

「聞きたいか?」

レオの表情と言葉。
そして、少しだけ
身じろぎをした翠星石は全て悟った。

「……レオ、レオナルド・エディアール」

「…………そう言えば、何で俺の名前を知ってたんだ?」

死に逝く者には少しぶっきらぼうな
言い方だったのかもしれない。
けれど、声は努めて穏やかに、優しげに、
翠星石に語りかけた。

「……おまえ、意外とコミュ障ですね」

「うるせぇ」

ぶっきらぼうに言うと
レオは鼻の頭を掻いた。
その様子がおかしかったのか翠星石は弱々しく笑みを浮かべた。

「私の……友達の話をしてもいい?」

「ああ……」

「そう言えば、今のお前に友達います?」

「……一応、ひとりは」

「そう……よかった」

大きく息を吸って。吐いて。

「ここに来る前に、
 人を信用できなくなっていて。
 ずっと、人に触れるのが怖かったんです」

途切れ途切れに話す翠星石。
散りゆく花も己の意志があれば
最後の花を咲かせることが出来るのだろうか。

そんなことを思って、レオは翠星石の語りをじっと聞く。

「狭い私の世界。翠星石の世界。
 安らぎが欲しくてそう選んだはずなのに、苦しい世界。
 そこにずけずけと遠慮なく踏み込んできた、あんちくしょうがいたんです」

レオの顔をじっと眺めて、
翠星石は微笑みを深くした。

「シオ、おまえの友達。
 狭い私の世界に入って。
 私の世界を防ろうとしてくれた彼。
 彼の世界に触れて、私は安らぎを知れたのよ。」

「おまえは……何を……?」

「理由はわからないけれど。
 まだシオを知らない貴方に、
 シオのことを教えたい」

訳が分からず困惑するレオに、
翠星石は最後に、満面の笑みで命じた。

「いいから、額を突き出すですよ」

言われるままに、レオは額を翠星石に近づける。
柔らかい感触が額に触れ、
ふふっ、と笑った吐息が肌にあった。

「……引き継ぎです。アールマティ」

395比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:07:15 ID:/uUySQ.Q0


  そして、闇と戦乱の世界から、
  一面の砂漠と、青空の世界が花開いた。
  乾いた風が頬を撫でて、
  眩しい太陽が熱く照りつけた。

  呆然として、瞬きするレオの前に、
  ひとりの少年が立っていた。
  
  「おまえ…………?」

  少年は何も言わない。
  ただ、にこやかに微笑んで。

  水流のように、レオへ記憶が流れ込んでくる。

  ――あの機械はいいやつす!!
  ――おまえ気持ち悪いぜ。機械に良いも悪いもねえ。
  ――あなたが誰かを傷つけるならもれは力ずくで止めるす。
  ――腹が立つなあおまえ。所詮、俺の痛みは他人事だもんなあ。
  
  「そう、か……」

  ――地の果てでも追ってゆき、取り戻してからぬっ殺す!

  「おまえは……」

  ――無防備に寝やがって。これだから馬鹿は嫌いなんだ。

  あくまでこれは少年の視点の記憶。
  少年の“願い”の記憶 
  少年が見たレオとの記憶。
  紡がれるはずだった絆のお話。

  ――やっとわかったす。
     防人は何千何百の“願い”を背負って戦うんだって。

  ――もれの護神像の中にはレオの“願い”と
     とーちゃんの心が入ってるんだ!!

   「おま……え……は……」

  ――俺と戦え!
  
  ――テメエ……手加減しただろ。

  ――してないすよ?

  ――今のは無効試合だ。いつかまたやるぞ。

  ――うん。いつでも。

  「ごめん……」

  ――さあ、行こうぜ。われらが神さんが待っている。

  「ごめん……」

  ――嬉しいす! コレでお友達すな、機械の人!

  「ごめん……」

  ――チャンさん、貴方も戦う気ですか?

  ――争えば誰かが傷つくすよ!? そんなの耐えられないす!

  「俺は……莫迦だ……!!」

  ――大…丈夫す…か? は、…やく逃げ…るす。姉妹を探すんで、すよね

  「俺は……大莫迦野郎だ……っ!」

  ――レオならきっともれの代わりに何とかしてくれるすよね。
    頼むすよ、レオ…。

  レオの前に歩み寄った少年。
  だぼだぼのツナギを着て。
  大きなフードをぽてぽてと揺らす。

  「……なんて言いましょう。
   なんか照れるすな。わはははは」

  「俺は、俺は…………!
   ただ、闘うことしかしないで……!
   おまえのことを少しも考えずに……!!」

  少年は、レオに手を差し伸べた。
  レオよりも少しだけ年下の彼。
  砂漠の世界、死んだ世界でともに闘った初めての友達。

  「いいんすよ。
   もし忘れても。明日、君と会うのだとしても。
   こうして会えた。記憶してもらうことができた。」

  レオは、できない。
  少年の手を取ることが出来ない。
  灼熱の殺意を振りまいた、
  この世界での事実が彼の体を茨で縛る。

  少年は。そよ風のように笑いかけ。
  元気づけるように笑いかけ。
  砂の、大地を踏みしめて、言った。

  「……初めまして。もれの親友。
   こうして会えたことが、もれには本当に嬉しい」

  だから、と少年が言う。
  この手をとって、と少年が言う。
  

  「もれの名前を、呼んで……?
   絶対に忘れないから。
   此処に、いるから」

レオが少年の手を取る。
  
  「おまえ……は」

  強く、強く、握りしめた。

  ついに、レオは少年の名前を口にする。
  か細くても、不安げでも、確かに少年の名前を言った。

  砂漠の世界。
  親友と一緒にいた世界は泡がはじけたように、ぱちん、と消え。

396比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:08:05 ID:/uUySQ.Q0


元通りの世界が戻った。
桐山とキクが必死に闘い。
だが徐々に、徐々にと押されていく。

レオは、自分が座り込んだままだと気づき。
腕の中の翠星石が、ひとつの宝石を遺して消えたことを知った。

もうひとつの宝石は、
友とともにあることも、わかっている。

ゆらり、とどこか幽鬼の如く立ち上がり。
千手の待ち受ける方へと歩いて行く。

「……動きに精彩がないな」

「…………」

「これを渡しておく」

前で闘うキクと桐山の会話が戦闘の爆音でも届く距離まで来た。

「これは、カルテか」

「柿崎めぐのカルテだ。
私がこの世界に混じらせていた。
白髪鬼が翠星石に託していたらしい」

「これを……俺に?」

「我が神を助けたい想いを捨てていないのなら」

「わかった」

言葉を交わすのは己の気力を奮い立たせるためだろう。
キクと桐山両方の防御のために
動く手足が重さを感じさせる動きとなっていた。

「桐山」

防御する霧山にローザミスティカのひとつを投げ渡す。

「おまえ……?」

無防備な体勢でレオが嵐の前に立った。
千手が、一糸の乱れもなくレオに降り注ぐ。

「ちいせえ」

炎が、巨大な炎が巻き起こった。
夜空を真っ赤に染める程の赫炎の、炎が。

まだ、まだ、千の手が。
万の手が。茨のように自由自在に隙間なく
レオのいる一面に叩きつけられる。

「ちいせえ」

レオは左手を伸ばす。

従えるのは二つの護神像。
アシャとアールマティ。

体躯を覆うのは
アシャの装甲と仮面ライダー龍騎の機械鎧。

レオの左手にあるのはSURVIVEのカード。
高らかに、レオは叫ぶ。

「完全合体だ! アールマティ、アシャ!」

光に包まれたレオは輝きそのものとなった。

現れたのは蒼と白の仮面ライダー龍騎。
いいや、いいや、それだけではない。
少年の左腕は、龍よりも貪欲に喰らう龍の顎になっていた。

「ちいせんだよっ!!!!!!」

龍の顎。
巨大に開かれたそれはヨキの手を砕き。呑み込んだ。

「見てるか、杉村」

雨竜みねねの横顔が浮かぶ。
彼女に張られた頬がいまさら痛んだ。

「見てるか、翠星石」

数えることも、目測することもできない。
無限の手がレオへと――

「見てるか、シオ!!!!!!!!!!」

背後にはアシャの力で産みだした巨大過ぎる炎龍。
少し伸びをするだけで、ヨキの手からレオを守った。

「完全合体を果たしたか」

分身の攻撃では、通らないと悟ったヨキは。
最後にヨキの分身全てで身を捨てた特攻を仕掛けた。

「見えねえなら炎の熱を感じろ!
聞こえねえなら龍の遠吠えを聞け!!
これが、これが俺達の! 『世界』だ!!!!」

397比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:12:11 ID:/uUySQ.Q0



炎龍が炎弾を吐き出し、蹂躙した。
龍の顎が喰らう、ただひたすらに喰らう。

「俺はここでダチができた」

何もなくなった世界でレオはまだ手を伸ばす。
ヨキへ。赤色の人間を滅ぼさんとする黒色の人間へ。

「俺はここで明日の俺を知った」

レオの眼差しは、燃え上がる輝きとなって。
ヨキを睨みつける。《怪異の王》龍のように気高く。

「俺は、走り続ける俺の『世界』は、明日の俺を越えた!!」

レオの叫びに応え、ヨキの体躯も再び輝く。
蒼色の、親友を教えてくれた彼女の妹の輝き。

「運命の享受。従属。
私の妄執が勝者であると認めるならば。
私に従属しろ、蒼星石!」

「行くぜ、黒き血の賢人。
俺の『世界』は、あんたの二千年より大きい!」

「我らが自由のため!
絶たれた未来すら喰らう
貪欲なる『世界』を乗り越えよ!
スプンタ・マンユ!!」

壊れた心を癒された戦士は、
“願い”を喪い、
神を憎む神と出会い。

鉄の少年との闘いで己の『世界』の可能性を信じ始めた。

そして、ひとりの親友との出会いで「安らぎ」を刻んだ
薔薇乙女の魂とともに、彼は、彼は!!

「俺の『世界(waqwaq)』!
ここで、奔るのを止めはしねえ!!」

《始祖たるjoker》に挑む、未来に翔びたつ龍へと――


【翠星石 死亡確認】

【残り 6名】





【D-6/一日目/夜】

【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
     親友との明日を取り戻し、
     蒼と白の装甲は暴食の顎、
     背後に従えるのは赫炎のジャバウォック、
     これが現時点でのスケアクロウ@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:アシャ@WaqWaq ワークワーク、雛苺のローザミスティカ、カードデッキ(龍騎)、サバイブ(烈火)@仮面ライダー龍騎
    エディアール家の刀@waqwaq 
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:走り続け、『世界』を広げよう
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。

398比類なき善の左手  ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:12:56 ID:/uUySQ.Q0



【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、
     ハルワタート@waqwaq
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(7/8)
     レミントンM870の弾(16発)
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン、めぐのカルテ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:闘う。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。

399 ◆1yqnHVqBO6:2012/10/28(日) 20:13:10 ID:/uUySQ.Q0
以上で終了

400名無しさん:2012/10/29(月) 07:02:44 ID:rc3advZs0
投下乙です。
翠星石、お疲れ様。残り六名、もうほとんど残っていないんだなぁ。
WaqWaqの願いの引き継ぎはここまでもいくつも続いてきたけど、今ここでレオとシオが繋がってくれたのは嬉しい。

401名無しさん:2012/10/30(火) 01:00:30 ID:OIM954420
投下乙です
シオとレオの繋がりktkr
レオ

402名無しさん:2012/10/30(火) 01:03:04 ID:OIM954420
レオが杉村、城戸、シオの思いと願いを胸に
今、最強の防人へと戦いを挑む!!

翠星石は燃え尽きたかー。残るローゼンメイデンが白薔薇ちゃんだけだが、桐山がどう動くか・・・
さすがにここまで感情を取り戻した桐山が短絡的に動くことはないだろうが

403名無しさん:2012/10/31(水) 21:18:35 ID:1ENw4fKg0
色々合体したー!?
全載せってやっぱロマンだよなあ
でもここでシオ持ってきてくれたのは嬉しいなあ

404 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 22:58:42 ID:84a.kKAY0
投下乙です。
ユッキーはいい具合に汚れてていいですねえ!
原作とは違ってもう一人だからとことん突き進んでやがる!

そして、全載せはやっぱりかっけー!
レオ対ヨキとか原作だと負けるヴィジョンしか浮かばないのに
ここのレオだと勝てるかもと思うからすごい。

それではできたので投下します。

405 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:00:41 ID:84a.kKAY0

「立ち向かう」

何を?

「闘う」

誰と?

「救う」

世界を?

「巻き返す」

それは全ての時を巻き返す英雄譚。
全ては愛により成就される王道。
きっと、君に届くから。
世界を回せ、愛の謳。

406 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:02:07 ID:84a.kKAY0



############



「クスクスクス」

笑う、白の少女。

「…………」

黙る、桃の少女。

「あらあらあら。立ち向かう? 今更。そう、今更だわ」

白の少女は甘く囁くのだ。
遅すぎる、と。
現に桃の少女は今までロワイアルに自分の意志でほとんど参加していない。
誰かの操り人形になるがまま。流されて、ただ、流されて。

「滅び行く世界に残っている勇者は五人。クスクスクス……」

その果てに待っていたのは誰もいない世界。
無意識の海に浮かぶ時の流れより隔絶されたデラ・ルベシ。
“願い”を持つことを諦めてしまった者達の終末の都。

「そして、全員ザーバウオッカに食べられてしまう」

桃の少女もそのはずだった。
彼女の犠牲により《究極の少女(アリス)》が産声を上げる。
女神の寵愛を受けた純白の白。
白が、世界を塗り潰す。

「きっと。誰も彼もが望んでいる、“願い”を叶えることを」

桃の少女は否定出来ない。
自分は何も知らなすぎるから。
現実から目を背けてきたツケがここで大きくのしかかる。

407 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:04:12 ID:84a.kKAY0

桃の少女は否定出来ない。
自分は何も知らなすぎるから。
現実から目を背けてきたツケがここで大きくのしかかる。

「“願い”なき貴方に何ができるというの? 一人ぼっちのアリス。閉ざされた夢の国。
 でも、私ならこの世界を変えてさし上げられますわ。この可能性を失った世界をあなたの……望む通りに」

白の少女の“願い”は誰からも愛されること。
その為には確固とした身体を得なければならない。
か弱くも強い少女の身体を。

「その為にはまず、この世界を終わらせなければいけませんの」
「終わらせる……?」
「そうよ。終わらせる。最も、零の鐘を鳴らすのと同時に世界は終わるのですけれど。
 滅びの運命はすでに決まっているわ、クスクスクス」

終着点は零。始まりと同じく終わりも零。
零になった瞬間、世界は無へと還っていく。

「勇者も、世界も。滅ぶ。どうせ壊れてしまうのなら――私が壊してしまってもいいのでしょう?」
「そんな……!」
「そうして、今度こそ完璧な世界を作るの。私が、私だけが愛させる世界を」

白の少女は哂う。アヴァロンに恋焦がれる無垢な思いを前面に押し出して。
もう手が届く所まで来ているのだ。
ああ! ああ! 歓喜の渦がこの身体を震わせる!
自然と笑みが浮かんでしまうのも無理はないであろう!

「だから、貴方の身体を私に頂戴?」

桃の少女は想う。
やはり、立ち向かえないのか。
意志だけでは届かないのか。

408 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:06:06 ID:84a.kKAY0

――んなことねぇよ。

意志を支えるのは不動の愛。

――自分の意志を強く持て。貫くことが、大事だ。

桃の少女の背中を押してくれる大柄の男。
その両手はゴツゴツしていて肌触りはよろしくない。
されど、とても暖かくて。優しい両手。

「意志を、貫け」

男は皆汚い。その例に当てはめると彼もカテゴリーの対象に入るはずだ。
それなのに、不思議と嫌悪感が湧き出てこない。

「クスクスクス」

だが、そんなことをゆっくりと考える時間など白の少女は与えなかった。
彼女の意志を邪魔するかのように割り込んでくる笑い声。
聞いているだけで頭が痛くなる。
ズキンズキンと規則正しく痛みは、桃の少女を蝕んでいく。

「貴方には無理よ。私に立ち向かうなんて」
「……っ」

立っているだけでも辛いのに。
白の少女は更なる追い打ちをかけてくる。
せっかく男に背中を押してもらったのに。
これでは、その意志に報えないまま――消えてしまう。

――諦めを踏破してこそ、愛を語れるってもんだ。
「でも、私には無理」
――無理じゃねえ。

桃の少女はついには膝をつく。
遠大なる氷結の世界に身を委ねるかのように。
全て、凍りついてしまえば。
この思いも。
この記憶も。
この身体も。
凍てついた境界線。
世界の果てまで、消えてなくなってしまえ。

409 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:08:59 ID:84a.kKAY0

ガッシュ・ベル。

大海恵。

いらない。全部、いらない。
凍れ、聖堂に包まれて。
消えろ。消えろ。
粉砂糖のように粉々に、美しく。

――それで、いいのか?

問いかける声は悲しげだった。

「いいの、もう」

諦め。桃色は白へと、変質していく。
白の少女の嘲笑が聖堂に響き渡る。

「だって、私は一人ぼっち。一人ぼっちのアリス」

桃の少女は言葉を紡ぎだす。
一人は辛い、と。
孤独の旅路を歩むにはぬくもりに慣れすぎたのだ。

「嫌なの。一人ぼっちは、怖いし寂しい。寒いのよ」

桃の実が雪でコーティングされていく。
そして、完全なる白へと――。

――しゃーないか。

後少しの所で、白への変質がピタリと止まる。
ふと桃の少女が横に視線を向ける。
そこには、一人の大男。
しっかりとした実体を持った愛の男。

――俺の隣は本当は愛だけなんだぜ? だけど、特別だ。

大男は桃の少女の頭をグシャグシャと乱暴に撫で上げた。
ニカリと口を釣り上げて、桃の少女の小さな手握り締める。

410Love song〜世界の終わりで謳い続ける少女〜 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:11:23 ID:84a.kKAY0

「私も、いていいの?」
――おう、俺が一緒にいてやるからよ。世界を凍結するなんて、言うなよな?

桃の少女が満面の笑みを返答代わりに大きな手を握り返す。
笑顔と共に白の世界に色がつく。それは、幸せを司る桃の色。
桃の少女は気づいたから。
どんな時でも一人じゃないということに。
ならば、何処までもこの旅路を歩いて行ける。
もう、何も怖くなんてない――!

「あ、貴方……! 一体、何を!」
「「何って、それは決まってる。やることは――」」

一人ぼっちのアリスは仲間を得た。
大きな大きな騎士様。
騎士の愛は悠然。折れることのない不屈。

「世界を」

ロリータ・リロード――少女装填。
さあ、トリガーを引こう。
どうか、少女の願いを聞き届けて欲しい。
私が皆を愛で包むから。
世界は穏やかに安らげる日々を願っているから。
謳おう、愛を。

「終わらせないに決まってる」

終わりが不可避ならどうすればいい?
修復は不可能、やり直しは否定。
ならば残された道はたった一つ。

「駄目……駄目よ。世界はやり直さなければいけませんの!」
「ううん、それは違うよ。やり直しなんてできない。元通りになんて、しちゃいけない」

桃の少女は謳い続ける。
自由を。喜びを。怒りを。哀しみを。楽しみを。
全てを包み込む愛を。

411Love song〜世界の終わりで謳い続ける少女〜 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:14:51 ID:84a.kKAY0

「たった一度与えられたチャンスだから。やり直しがないからこそ。
 限られた人生を、私達は愛するの。
 忘れないように、後悔なんてしないように」
「違う、違う、違うっ! 私は愛される為にっ! 全部――!」

言葉は最後まで続かなかった。
桃の少女が両手を広げて、白の少女を抱きしめたからだ。
ぎゅっと、力を込めて温かみを共有する。

「大丈夫、私がいるよ」
「あ、ああっ!」
「貴方をずっと抱きしめているから」

謳の理念は愛と自由。
さあ、届かせよう。愛の謳を。
謳の最後はもう決まっている。
桃の少女の“願い”はこの一言に込められているから。
どうかこの瞬間に言わせて欲しい。

「時よ止まれ、世界は何よりも美しいから」

きっと、自分は溶けてしまうけど。
大好きな世界を見守っているから。
いつまでも、どこまでも。

「私は、世界を愛している」

そして。
突如現れた光の螺旋階段。
階段をひとつひとつを噛み締めるかのように登り、少女は――――。



【ティオ@金色のガッシュ!! ???】
【雪華綺晶@ローゼンメイデン ???】

412Love song〜世界の終わりで謳い続ける少女〜 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:19:46 ID:84a.kKAY0



############










「だけど、僕は否定する」










############

413Love song〜世界の終わりで謳い続ける少女〜 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:23:00 ID:84a.kKAY0
「……これも、予想通り」

蜘蛛の糸の頂上を目指すべく駆け上がっていた雪輝が気づいたのは世界の異変だった。
止まっている。世界の何もかもが停止しているのだ。

――私は、世界を愛している。

瞬間、目の前に桃色の少女の幻影が顕現する。
優しい笑みを浮かべ、雪輝に対して手を差し伸べる姿はまるで女神のようだった。
純粋に、綺麗だと。可憐だと思った。
彼女は問う。戻ろよ、と。
それに対して、雪輝も同じように笑みを浮かべながら返答をする。

「消えてなくなれ、幻像」

手に持ったウージーの引き金を迷いなく引いた。
銃弾を受けた少女は悲しそうに。
まだ、間に合うよと呟いて。
最後まで手を伸ばし続ける。

「僕の女神は由乃だけだ。お前の愛なんていらない」

少女の瞳から透明の宝石がぽとりと地面に落ちる。
宝石が地面に落ちた刹那、少女の姿は掻き消えた。
もう気配がないのを確認した後、雪輝は再び歩みを再開する。
彼女の残した宝石を踏み潰し、前へと歩く。

「僕が欲しいのは……由乃の愛だ。君の愛なんて何の意味も成さないよ」

停止した世界でも雪輝の意志は変わらず。
全てをチャラにする。ただそれだけを目指して前を進む。

「下らない、ああ下らないね。私が皆を包むから? やり直しなんてできない?」

桃の少女の“願い”は確かに雪輝へと届き、理解もできた。
雪輝は決して狂気に身を委ねて思考放棄した者ではない。
そう、その上で彼は答えを返したのだ。

「は、はははっ! あはははははははっ! 綺麗事を言ってさぁ! ばっかじゃないのぉ!」

届いた上で真っ向から唾を吐いて否定した。
彼女の万感の“願い”を容赦なく踏み躙る。

「ぷっくく……やり直せば全部元通りなのに否定するなんて。
 もう少しで、“僕とみんな”の世界が手に入るのに何でそれを捨てなきゃいけないのさ」

無駄な時間を過ごしてしまった。
世界の時が止まったとはいえ、人間は止まってないのだ。
こうしている間にも他の参加者達が後ろに迫りつつある可能性がある。

414Love song〜世界の終わりで謳い続ける少女〜 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:27:49 ID:84a.kKAY0
「ねぇ、オンバ。僕は思うんだよ」

だから、彼は誰よりも早く。刹那を駆け上がる。
“願い”を叶えるべく。
あの時聞けなかった答えを再び聞くべく。
あんな紛い物ではない本当の愛を手に入れるべく。

「未来を変えるワタルくんが勇者と呼ばれる。
 それなら最終局面の会場で未来予知し、それを変えられる僕こそ勇者の称号にふさわしいんじゃないかなってね」

雪輝は思う。
勇者。万人を救う光の英雄。常に正しき選択を下すもの。
全てをチャラにして、元通りにする自分にぴったりではないか。
だって、これから自分は黄金の螺旋階段を登って“みんな”を救うのだ。

「無意味に死んだワタルくんよりも、七原くんよりも、シオくんよりも。
 今も生き残っている僕がその称号を受けるのが一番だよね。
 その称号にふさわしい武器ももらったことだしさぁ!」

さあ。高らかに謳おうではないか。

「あは、はははははははっっ、あははははははははははっっっ!!!
 愛してる? 救う? その役目は僕が担うから君達は――」

全てを救う勇者の謳を。

「安心して、夢を見てなよ」

足元には、少女の死体二つ。
それは少女が見た最後の夢。
魔狂姫と少年に喰われた、残骸の“願い事”。
そのすべてを引き継いだのは――。



「世界は、僕達の掌に」



【ティオ@金色のガッシュ!! 死亡】
【雪華綺晶@ローゼンメイデン 破壊】



【蜘蛛の糸/一日目/夜】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:健康、心の力の消費(大)、両手の平に大火傷
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(14/15)@未来日記、IMIウージー(25/32) 、プラ@waqwaq
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)オンバが授けし職業専用武具(不明)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする
1:蜘蛛の糸に赴く

[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づいていません。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました

415Love song〜世界の終わりで謳い続ける少女〜 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:31:33 ID:84a.kKAY0







############










僕の勝利以外、認めるものか。










############



※時空は現在“夜”で止まっています、全ては彼らの掌に。
※愛なんて、存在しません。

416Love song〜世界の終わりで謳い続ける少女〜 ◆W91cP0oKww:2012/11/04(日) 23:32:14 ID:84a.kKAY0
投下終了です。

417 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/04(日) 23:36:41 ID:fdvAWosI0
投下乙です!
ユッキーは糞野郎だなあ実に……
あのままそっとしておけば階段登り切れたのにwwwwwww

418名無しさん:2012/11/05(月) 01:03:54 ID:8t2Jqp7.0
愛を語り愛を語られ愛を騙る
ああ、やっとティオは自分の願いで立てたのに
或いは愛されたいという願いを雪華綺晶は叶えられたかもしれないのに
それも全て自分のものだと奪われ剥奪され踏みにじられたか

ある意味これも勇者らしいんだよなあ
世界を救うためには何をしてもイイという意味で

419名無しさん:2012/11/05(月) 05:27:10 ID:YoCFol.w0
投下乙!
ユッキーいっちゃってるよwww
この子ついに勇者を自称しちゃったよw
どんどん自分を正当化する理由を作っていって、まぁ。

ティオもガッシュと同じくユッキーを救おうとしたのに。お疲れ様。

420名無しさん:2012/11/06(火) 23:32:02 ID:6VuE9dksO
投下乙です。

自分が悪だと気付かない、吐き気を催す邪悪。こういうのをいうんですね。

421 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:01:14 ID:WVmsPdEw0
投下します

422最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:02:40 ID:WVmsPdEw0


エレベーターのドアが重々しく開いた。
一歩踏み出し、複雑な装飾と意匠が施された
廊下を渡ろうとする。背後でドアが閉まる音がした。

黒色のスーツを着、
左腕を覆い隠すように上から
金色の王の外套を垂らしていた。

――ザザッ。

手元の携帯がノイズを知らせる。
迷わず雪輝は後方を振り返らず前へと飛び出した。

甲高い、切断音。
金属と金属がぶつかった音。
技術を感じさせない膂力のみによって
為された行為だと雪輝の耳が教えた。

滑らかな表面の床に手をついた雪輝が
ようやく背後を振り返ると音がした場所には誰もいない。
ただ、金色の何かがいたように思えた。

――ザザッ。

今度は着いてきた変わり者の機械、プラを抱え上げ。
腕だけ後ろに回して、プラの大砲を撃った。

熱線が走る気配。
何度も経験してきた殺し合い特有の
不快な高揚感が雪輝の臓腑を握る。

巨体が身を捩る気配がした。
また、振り返るとそこに立っていたのは金色の甲冑。
起動鎧、機械鎧。腰には精巧な造りの機械帯。

「仮面ライダー・オーディン」

確認に呟いた雪輝を拘泥せず。
オーディンはビデオをコマ送りしたかのように
前触れ無く姿を消した。

「その能力は知っていたよ」

左腕を微弱な振動のように動かし、
右手に持っていた携帯電話、未来日記を懐にしまう。

オーディンが現れたのは
雪輝の背後ではなく、真横。
機械的な動作で携えた剣を振るうが当然、空振り。

「もう一度、頼むよ」

右腕でプラを抱きかかえ、照準を指定する。
狙いは当然、腰元の機械帯。
雪輝とオーディンの距離はわずか数歩。
外しようがない近さ

オーディンが危機を察し、
瞬間移動を行使する。
だが今度は動きもせず、ただその場に立ち尽くすのみ。

プラの極大レーザーがオーディンの胴体を焼いた。
白色のおどろおどろしい現象は周囲の命を奪う業火。
焦げた匂いが廊下に充満し、鼻を覆った雪輝は煙が収まると
オーディンがいた方には目もやらずに立ち去った。

背後に倒れ伏していたのは、
このゲームの主催者として祭り上げられた赤き血の賢人・コト。
白髪鬼の斬撃に生命維持装置を壊され、
命去った木偶として使役された憐れな人形。

「初めて闘いに使ってみたけど、
やっぱり相性がいいみたいだ」

首にかけた旅人の証を左手で弄りながら
朗らかな声でプラへと語りかける。

「…………チー」

プラは雪輝の膝までの大きさながらも
知能は人と同程度かそれ以上にある。
先程まで何度か雪輝の携帯に自身の機能によって
メールを送っていたが、着信拒否に設定したことでそれもできない。

どこか悲しそうに俯き、隣をとぼとぼと歩く姿に
困った表情を浮かべて、雪輝はポリポリと頬を掻いた。

「嫌なら……帰っていいよ?
君がいなくなったら僕の生き残る確率は
結構、消えるんだけどね。でも帰るってそういうことでしょ?」

雪輝の言葉にさらに俯き。
ほとんど丸まりながら歩く、転がるプラに
雪輝は舌打ちを打ちかけてしまう。

オンバが創った精巧なる模造品。
《職業証》。職業は記者。
シグドラのひとり、マコトという少女の能力だったそれ。
遠方の出来事をつぶさに知り、記録し、
真価をはっきすれば空間の情報を
書き換えることが出来るというもの。

423最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:04:41 ID:WVmsPdEw0



雪華綺晶の“願い”がぶれることで
位相が不確かになったデラ・ルベシ。
女神へと至る道を歩む二人の乙女をプラに任せず自分の手で撃ちぬいた。
性能の検証はその時に済ませ。

《職業・記者(ジョブ・ジャーナル)》と
組み合わせた未来日記の予知で
来襲を知っていたオーディンとの闘いで実戦も済ませた。

だから、進む。

大きく弧を描いた通路を歩き。
ついには深奥に最も近い
エリアへ繋がるエレベーターに乗った。

上昇が始まり。
独特な足元の浮遊感を覚えた雪輝は床にあぐらをかくと
リュックをひっくり返して所持品を整理していく。
銃の整備を覚束ない手つきでこなし。
使い慣れたナイフをいつでも取り出せるよう工夫して
ホルスター状にし、ベルトへ挟んだ。

「乾パンか……君も食べてみる?」

冗談めかした口調でプラへと差し出した。

「チー」

隅っこに座って雪輝をじっと見つめていた
プラは力なく首を振って断った。

味気ない食感を水で押し流し。
壁に寄りかかってぼんやりと天井を眺めていると
膝にプラが乗って、雪輝の裾にぶら下がった。

「どうしたの?」

「チー! チー!」

プラが指さしたのは雪輝の未来日記。

「着信拒否を解除しろってこと?」

「チー!」

うんうん、としきりに頷くプラへと、
億劫そうに指を動かしつつも
解除したことを知らせる画面を見せた。

ブブ……と、虫の羽音の似た振動が手に伝わり。
メール受信の通知が来たので、早速メールを読んだ。

『もうこれ以上、
血を流すのはお止めください、神よ。
貴方はあの仮面ライダーや無垢なる魔物を殺した時も
心の底では悲痛に涙を流していたはず。
二人の少女が手を取り合って生きようとするのに
憧憬の念を抱きもしたはず。
己の怨嗟を洗うために、“願い”を求めても貴方は――』

「だから長いんだって」

雪輝は苦笑して、再度着信拒否に設定をしなおした。

がくん、という大きな振動とともに
上昇が終わり、目的のエリアに到着したことを
告げる電子音が鳴った。

リュックサックはエレベーターに置いていく。
少しでも身軽になって、闘いに臨む。

扉が開いた。
真っ先に目に飛び込んだのは血のように紅い絨毯。
宝石のような輝きなど持てるはずもない。
どす黒く瀟洒なインテリア。

「来たか、天野雪輝」

低い声と錯覚したのは可憐な少女の声。
少年が愛した、愛する伴侶。
そういえば結婚式にはこんな道を歩くのだったか。

「こんにちは、由乃」

「取り繕うな、魔狂姫に選ばれた旅人」

「不意打ちを仕掛けてくると思ってました、神崎士郎さん」

「オンバから受け取ったものを知っている。
 そして、その武具が何を齎すかもな」

「僕も追記された情報によって、
 貴方が何を持っているか知っています」

外套に隠された腕を神崎士郎に突き出す。
その手に握られたのは一本の羽ペン。
舞うようにペン先が宙を駆ける。

「最期の闘いを。
 時空王となるために」

玉座に腰掛け、雪輝を見下ろしていた、
少女の姿をした彼、神崎士郎は立ち上がり。
コートの下から一枚の布を取り出し、包帯のように腕に巻きつけた。

424最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:07:24 ID:WVmsPdEw0


少女の手に、少し余った布の長さ。
みるみるうちに手元で硬化していく布の先端。
雪輝の目の前で、
体に合わないコートと純白の布だった刀を少女の姿が纏う。

《職業・魔縫使い(クロス・ライセンス)》。
シグドラであったグルースという男が使っていたもの。
特性として布を自在に操ることができる。

旅人となって強化された五感が、
間合いを詰めてきた少女、神崎士郎の速さを捉える。

お互いが一般の中学生の肉体を使い、
上乗せされた力もほぼ互角ならば。
《正攻法》にて求められるのは《歴史の道標》を超える情報と打開策が。

袈裟斬りに振るわれた布が、雪輝の肩から早くも血を落とす。
布の血を吸った箇所が赤く滲んだ。
そのまま上段に切りかかってきた神崎士郎の攻撃を一歩下がって躱し。
情報の書き換えによって硬度を増したナイフを二つ、
少女の腹部へと投擲する。銀が流線となって少女を貫かんとし。

「遅いな」

だがナイフは布にくるまれ。
手首のスナップを効かせて布が翻ると、
今度は鞭のしなやかさと幽玄さで雪輝の腹部を横薙ぎに払う。

その攻撃を雪輝は避けずに王者のマントを盾にして受け止める。
衝撃で足が宙に浮き、錐揉みしながらも雪輝は壁に激突した。

押しつぶされる壁、穴が開いた側から瓦礫が産み落とされる。

――ザザッ

離さず持っている
雪輝の無差別日記が更新を続けていく。

記されていく情報は
能力を手に入れ広がっていく
雪輝というレンズを通しての。

雪輝の目の前で、
壁に激突し、瓦礫に埋もれた隙を突かんと
少女、神崎士郎が布を展開する。

歩幅で言うとちょうど五歩。
瓦礫の中からあらゆる物を飲み込む獣が飛び出す。
獣、透明の変哲のない円柱型、ただの瓶。

しかし雪輝の掌から飛び出す
それは神崎士郎を正確に狙い定め、
どこまでも追跡していく。

――ザザッ。

再び予知が書き換わる。

《職業:記者》の弱点は接近戦。
全てを歪め、物質に意思を通すその力は強力無比ではあるが
遠距離からの急襲が対等の相手への上策。

「此処に俺がいるのを知っていたなら。
 問答無用で仕掛ければよかったはずだ」

「さっきの言葉を返すよ。
 予知されていたのなら、できない」

自嘲が滲んだ声音ではあったが
雪輝は涼し気な表情を崩さない。

ビンがこちらに迫ってくる。
神崎士郎とともに、床を抉り、呑み込みながら。

すぐに周囲の床の情報を書き換え、
フィールドそのものを広大な凸凹に変えた。

瓶は今尚、神崎士郎の背後を追走している。
機械仕掛けのミニカーは雪輝も幼少の頃に遊んだが、
それと似た愚直な動きを、それはしていた。

14歳の少女、神崎士郎が持っているのは
雪輝に関する未来を予知する雪輝日記。
24時間体制で刻まれる自動筆記の眼は逃れることを赦さない。

雪輝にとっては最悪の相性を持つ日記。

「これなら避けられないよね」

羽ペンを高速で動かし、宙に詠唱の文字を紡ぐ。
まばたきする間に、瓶は室内全体を覆う大きさとなり、
壁際にいた雪輝以外に蓋をするかのように呑み込む。

逃れる隙間はない。
此処に来るまでに襲って来なかったことから
彼……が使役できるだろう
オーディンの契約モンスターを用いて脱出はできる。

しかし、雪輝の手持ちの瓶は3つの内、
“もう一つ” ある。
逃れる術はない。

――ザザッ。

未来が書き換わる音がした。
同時に、先程プラにぶら下がられた時よりも強く
袖が引っ張られる感触がした。

425最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:10:33 ID:WVmsPdEw0


壊れかけたマリオネットがするみたいに
腕を前方にピンと突き出した。
眼を瞠った雪輝が袖元を確かめると、
極細の一本の弦が巻きつけられている。

「無差別日記は極めて有用だ。
 旅人として広げた知覚を通してならば記述情報は倍増する」

弦の先には少女、神崎士郎がいる。
布の端がほつれるのを利用して二人を繋いでいたのだろう。

「だが、所詮はお前の視界を通しての情報だ。
 お前は徹底的に、仮面ライダーの戦闘経験が不足している」

瓶が上空からすぽりと部屋を覆う。
埃が中心から周囲へと押し出され、
突風とともに舞い上がり視界を奪う。

眼を腕で覆った雪輝の目の前には既に我妻由乃、
いいや、神崎士郎の姿が。

「クソッ!」

密着した状態。
腰と腰があわさり、胸と胸がくっついている。
武器を振るう時間もない。

吐息が雪輝の鼻にかかり、
すぅっと息を吸い込んだ音が攻撃の合図だとわかる。

この距離なら、ベルトに挿していた
ナイフを抜く動作のほうが勝る。

迷わず羽ペンを消していた判断の速さは
これまでの闘いによる経験。

流れるようにナイフを抜き。
神崎士郎の柔肌、首を突き刺そうと
関節を激痛の叫びを無視して、無理やり動かした。

「遅い」

額と額があたる。
少女の瞳が、雪輝の瞳と合う。
彼の知るものではない、
悠久の?月に風化した無機質な、石塊。

「呪いだ。《破経の呪法》」

少女の、愛した彼女の細く長い指先が少年の首に触れた。

426最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:13:04 ID:WVmsPdEw0


雪輝の視界が暗転する。
雪輝の鼓膜に怨嗟がある。

暗き世界の地の底より、皮膚なく、
神経と肉でできた無数の腕が雪輝の全身に絡みつく。

精神攻撃。
術者の意にそぐわない行動をした者に
無限の悪夢を招き寄せる。
《白色魔王》の権能には遠く及ばずとも、
人一人の心を折るには十分。

「君は僕の眼にはいつも高嶺の花に映っていた。
何の取り柄もなく、どうして生きているのかも。
自分の価値もわからなかった僕には、君は輝いていた」

けれど、雪輝の口から出るのは
絶叫ではなく、囁き。
ささやくような静謐さ。

「君が僕のストーカーだって知って。
 君と初めて人を殺して。
 色々なことがあったけど。
 遊園地でデートをした時、ずっと一緒にいたいって思った」

「――――よせ」

未来日記の予知が書き換わる音が鳴る。
ラプラスの魔が破れていく音が響いて。

「君が自分の両親を殺したんだと知った時。
 君の過去の片鱗を目の当たりにした時。
 僕は、逃げ出したいほどに君が怖かった」

「それ以上、口にするな!」

――ザザザザザザザザザッ。

「けれども、君はどんなときも
 僕の側にいようとしてくれた。
 みんなが僕を裏切って、僕がみんなを裏切っても尚」

「DEAD END が……書き換わった……?」

我妻由乃の声が聞こえる。
これが彼女自身の声ではないと知っていても。
暗闇と精神陵辱の最中でも聴き逃すことは出来ない。

「だから、愛しているよ。由乃」

そして視界は晴れる。
未だに奈落の呪詛は雪輝の耳に木霊しているが。

「……静かな心では、
 《破経の呪法》の効果が薄れる。
 聴いてはいたが。乗り越えられないと予知していた」

クリアになった世界の元で、
雪輝は少女の体を強く抱きしめていたのだとわかった。

少女、神崎士郎の腕に巻き付けられた包帯形の布が
雪輝を貫こうと硬化を始めた。

「貴方は僕を刺せないよ」

腕を広げて、雪輝は神崎士郎を開放する。
手にナイフは握られたままだ。だから、動かせばいい。

「そういう未来だから」

手を伸ばせば、ナイフは吸い込まれるように
少女の腹部を刺して、抉った。
血の暖かさがナイフを伝って雪輝の手に触れた。

崩れ落ちた少女、神崎士郎は変わらない
無機質な眼差しで雪輝を見上げる。

427最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:15:25 ID:WVmsPdEw0


「…………ひとつ、訊こう」

「なに?」

「お前は、金色のガッシュ・ベルを殺した
 凶行を決行せしめた衝動の正体をお前自身は真にわかっているのか」

「……彼らは運命に愛されていたんだと思った。
魔界の子供たちは自分に最も相応しいパートナーを
予め決められていた。だから、HAPPY ENDを掴み取れた」

雪輝の答えを肯定も否定もせず。
神崎士郎は血が喪われていくのを放置して耳を傾けていた。

「……なら僕達は? ……僕は?
 僕が高坂と友達になったのは偶然同じ中学校だから。
 僕が日向やまおちゃんと友だちになったのは
 偶然、二人が10thの関係者だったから。
 秋瀬くんが僕を守ろうとしたのはデウスの写身だったから」

雪輝は静かに、続けた。

「父さんと母さんが出会ったのもただの偶然だ。
 偶然だったから、父さんは金にだらしないのがバレていなくて。
 上手く行かずに離婚して、星を観に行けなくなった」

変わらない表情の少年の頬に一筋の涙が零れ落ちた。

「……由乃は依存できる人間なら《誰でも》よかった。
 僕も守ってくれる人間なら《誰でも》よかった。
 そんな恋人関係だった。だから……間違えたっていうの?」

震える唇を動かして、雪輝は言った。

「そんなの、認められるもんか」

雪輝の独白を聞き。
《歴史の道標》神崎士郎は敗北を受け入れるように、
雪輝に請い願うように、顔を下ろし。

「世界の果実、《機械の巨人》の起動コードを教えよう。
 お前が、《歴史の道標》と《赤の女王(クイーン)》の先を征くのを受け入れよう」

死に逝く鏡面世界の王は。
最期にようやく、感情を声に乗せた。

「神崎優衣も……お前が救うなら、頼む」

「誰でも僕は救うよ。
僕は《勇者》なんだからね」

そして、雪輝はナイフを以って我妻由乃の首を刈り取った。
少年の旅は、本来ならばここで終わっていたのだろう。


  ――次期時空王継承者を決める闘い――

  ――優勝者・天野雪輝――

428最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:16:49 ID:WVmsPdEw0



………………………。



##############


ユッキーが私に言ったの。

私を愛しているって。
嬉しいよ。私も愛しているよ。
大好きだよ。ずっとずっとずっと。

そう言いたいよユッキー。
そう言って笑いかけたいよユッキー。

頭がごちゃごちゃだけど嬉しい気持ちでいっぱい。

こんな気持ちになれるって思わなかった。
パパとママを殺した人殺しがこんなに幸せになれるなんて。

ユッキーに触れたいよ。
ユッキーに抱きつきたいよ。

もっと沢山いろんなことをしたいよ。

どうして出来ないの?

どうして私の体は動かないの?

おかしいなおかしいなおかしいな。

私はどうしちゃったんだろう。

ねえ、ねえ、どうして? どうして?
どうなっちゃったの、《我妻由乃》?






    ああ、わかった。





    お前のせいか。神崎士郎。




神崎士郎は雪輝によって首を刈り取られる。

DEAD END

############################

429最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:17:36 ID:WVmsPdEw0





私は瞼を開ける。
魔女の契約でラプンツェルは人魚の呪いを受けたのだけど。
駄目だった。魔女は私を置いて救われて、そして殺された。

だから、魔女が死んで呪いが解けて。
ラプンツェルは人魚のように地面の上で
のたうち苦しむ、役立たずになったの。

私の薄いのであろう胸元を、誰かが踏みつけている。

「雪華綺晶を殺したすぐ後で、
 倒れる君を見つけたのは幸運だった。
 まあ、ちょっと時間の節約になったなあ程度なんだけれどね」

子供の頃から苦しんでいた病が私の体を今も苛む。

誰か、誰か。私を助けて。
私の痛みを殺して。

そんなことを毎日“願”っていたら。
ある日、黒い羽の天使が私のもとに来た。
だけど、彼女はもう死んだ。

病める日も健やかなる日も、
ずっと一緒になんておまじないは嘘っぱちだった。

「機械の巨人は赤き血をシンボルに動くんだって」

内側から来る痛みに、
外側の、皮膚を貫く痛みが一緒になった。
私は、体を大きく痙攣させて、口から弱々しい悲鳴を上げた。

「君をまだ殺しはしない」

大きく上下した私の胸。
痛みに見開かれた視界に、
今にも泣きそうな顔で微笑む誰かの顔が見えた。

「さあ、時間だよ」

お“願い”……。
誰か……

「下界が静まった瞬間に、
 起動を始める。操作は僕がやるよ。」

私を……

「君の心を壊して。
僕は後で君を救おう」

……殺して。

430最期に愛は勝つ  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:21:49 ID:WVmsPdEw0


【我■由◆】

【暫定優勝者 天野雪輝】



【蜘蛛の糸/一日目/夜】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:《真時空王》
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(14/15)@未来日記、IMIウージー(25/32) 、プラ@waqwaq
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)、旅人の証、《職業:記者(ジャーナル・ライセンス)》
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする
1:下界の闘いが終わったら柿崎めぐを核に機械の巨人を起動する。

[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づいていません。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました
※《記者》の能力で下界の状況をある程度まで感知できます。

431 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:22:06 ID:WVmsPdEw0
投下終わり

432 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/08(木) 19:31:31 ID:WVmsPdEw0
【我■由◆ 死亡】

さすがに訂正

433名無しさん:2012/11/09(金) 19:06:30 ID:BaR.mPVcO
投下乙です。

434名無しさん:2012/11/09(金) 22:48:40 ID:qugRtNjc0
投下乙です!

由◆でもこのユッキーを止められなかったとか…

435名無しさん:2012/11/10(土) 10:24:13 ID:0S1Oj78s0
乙です。
いったいどんな表情でユッキーはああなってるんだろうなぁ。
ガッシュのときは泣いていた。今でも理性はあり相手の尊さも理解している。
壊れてしまったのか、それとも全て呑みこんでああなったのか……

436名無しさん:2012/11/10(土) 17:45:29 ID:oWVlMPro0
投下乙です

なんていうか悟りを拓いた聖人? 狂人? どちらなんだろう…
そこまでイっちまったのか…

437名無しさん:2012/11/10(土) 17:52:51 ID:n0fJv/uwO
ユッキー=大魔王、めぐ=囚われのお姫様、桐山=勇者みたい。

438名無しさん:2012/11/11(日) 11:08:52 ID:Zq4mMR2A0
>>436
なんかニコ1stのラスボスを思い出したw

439名無しさん:2012/11/15(木) 11:48:36 ID:ilnjgAsU0
神()と一緒にしないでやってくれよw

440 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/15(木) 23:02:06 ID:H5RDw/1A0
投下します

441白銀のツインブレイヴ 〜what a shining fortune〜  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/15(木) 23:05:29 ID:H5RDw/1A0


絢爛なる光。
色とりどりの爆発が弾け、消える。

「妾が“願い”。愛の成就。
 愛の永遠。ワタルと永久に」

銀の線がミツルの腹部の皮膚を薄く斬り裂いた。
速い、強い、冗談ではない理不尽な存在。
お伽話という窓越しで見たのなら、
まるで魔王だと思っただろう。

「しかし、ワタルを死なせた世界を妾は赦さぬ。
 《勇者》を、救済を我利の為に殺し。
 のうのうと生きようとするなど! 虫酸が走るわ!」

「あいつが、そんなことを望むと思うのか?」

「貴様がそれを言うか!
 貴様の妹とて、他者の死を得てまで復活を望むと!?」

距離をとって、地面に魔法陣を描く。
杖が導くは異界の女悪魔への扉。

「どう、だろうな。
 僕にはもうわからない」

ミツルがひとつだけ理解しているのは
自分がもう、妹の望みを叶える存在ではなくなったということ。
ミツルには“願い”を叶える資格がないという、ただそれだけ。

虚空から巨大な二柱の悪魔が現れた。
闇を纏いて、腕がオンバを打たんと放たれる。

「――美味!!」

だがその一撃はオンバにとっては
鬱陶しい銀蝿の羽音にもならない、捕食対象の足掻き。

腕半ばまでオンバに噛み砕かれた二体のうちの一体である
悪魔、バルバローネは姿勢が大きく揺らぎ。
人ではない血を流して地面へと倒れた。

「ならば、虚しき抵抗はやめ。
 己が罪のために死ぬがよい」

「それは、できない」

残った方のバルバローネも、
黒鉄の肌が握る勇者の剣に呆気無く弑された。

「ワタルが死んだ時、何をしていた?
己の欲を満たす手段ばかりを考え、希望の存在を顧みなかった貴様に!
妾を糾弾することなど、できるわけがなかろうぞ!」

「……そもそも、ワタルはどうやって死んだんだ?
 お前は、誰が殺したか知っているのか?」

言葉が上手く出てくれない。
喉が今までの翻弄と嘲りの用途で使っていた時とは
まるで違う造りの機関になってしまったような錯覚さえある。

「…………知らぬ、知らぬ。知らぬ!!」


ムキになっている。
簡潔に評すれば、そんな剣幕。
そこに触れても大丈夫なのか。
触れれば壊れる蝋細工なのか。
ミツルには判断できない。

弱いものだと思う。
魔導師の仮面、旅人の外套を外せば
残るは臆病な年端もいかない少年ひとり。

「…………オンバ。
 僕は、お前の気持ちが理解できるんじゃないかと思う。
 僕も、そうだった。世界の全てが恨めしかった」

黒色の球体を、サッカーボールくらいの大きさにして
周囲に展開する。旋回する無数の衛星。

「そして、僕がわかったことはただひとつだ。
 喪われた大切な物は、取り戻せない。
 過去は、変えることができない。
 “願い”を叶える途中で変わり果ててしまう僕に。
 変わらなかった時間の世界に耐えられないから」

「……知った風な口をきくでない!」

「知った風な口かもしれない。
 まあ、そうなんだろうな」

「ならば口を閉じて死ね!
 潰れよ! 壊れよ! 粉々に砕けよ!」

「お断りだ」

球体を連射する、オンバへと。
高速で飛来はしても決して避けられない速さではない。
むしろ、遅いといって良いだろう。

「笑止!」

黒色の球体のひとつを難なく斬り裂き、
林檎のように二つに割った。

球体が二つに割れ、
斬撃と同時に放った光弾がその先のミツルへと襲いかかる。

しかし、光弾は走らず。
遙か手前で閃光のように爆発した。

爆発の先にいたのはオンバ。

僅かに眉を顰め、
球体を斬り裂いたオンバと
光弾を受け止めたオンバの視線が交差した。

光弾を受け止めた、と錯覚している
幻影魔法に惑わされたオンバの背後からミツルが杖を振り上げる。

「見くびるな。
 同じ戦法をワタルの内に潜んでいた時、見たわ」

振り下ろされた杖は体を沈ませることで躱され。
一歩、前へ足を出すとオンバはミツルと肉薄する。

「妾の眼を見よ、ミツル」

オンバの瞳が縦に割れ、
異常な輝きがミツルの眼へと注ぎ込まれた。

442白銀のツインブレイヴ 〜what a shining fortune〜  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/15(木) 23:08:00 ID:H5RDw/1A0


「瞳術の一種か。
 なるほど、こうも容易く
 接近を許すには裏があると思った」

オンバに睨みつけられた。
蛇の瞳を目の当たりにしたミツルの姿が霧散し。
オンバの頭上から黒球より産まれし、
無数の手が這いつくばるように襲いかかった。

その全てを剣の一振りで薙ぎ払い。
しかし、その時にはミツルは稲光をトライデントに帯びて
オンバの腕を突かんと真正面から踏み込む。

「幻術をよくもまあ、使うこと。
 子供騙しにもなりはすまいよ」

拳が、めりこんでいた。
ミツルの腹部に、オンバの拳が深々と。

たまらず、吹き飛ばされ、
地面を何度も転げ。ようやく勢いが止まったらば。
無様にうずくまり、胃の中の物をあらんかぎり吐き出した。

「妾の両眼は甲賀の魔人が瞳。
 妾の肉体は悪魔の素材より。
 そして、血液は《最強》の男のものを。
 これによって妾は地獄に《勇者》を再現した」

砂利が踏まれて音をたてる。
空気が震えてオンバの接近を警告する。
だが、ミツルの体は動かない。

一度だけでもまともに浴びた
オンバの一撃は、想像を絶し過ぎた。

首根っこを掴まれて
体が持ち上げられた。

息も絶え絶えなミツルの眼には
真鍮の肌をしたワタルの顔が映る。

「おまえ、ワタルの内に潜んでいたと言っていたな」

「………………然り」

「この世界ではどうしていた?
 そこまでワタルに執着した
 お前が、ワタルを放っておいたのか?」

自棄になっていたのが半分。
朦朧とした意識でふと、気になったことを尋ねたというのが半分。

だが、ミツルの何気ない問いに
オンバは大きく震えた。

瞳が弱々しく揺れだし。
腕が微弱ながらも並に翻弄されるように上下する。

「――妾では、ない」

朦朧とした意識が徐々に鮮明になっていく。
腹部の気怠い激痛がミツルの脳を振ってはいるが、
オンバの様子の変化がミツルの意識に光を投じた。

「……どういうことだ?」

「妾ではない!
 妾が殺したのでは、断じてない!」

首にかけられた力がふと緩み、
ミツルの体が宙へと投げ出された。

「妾が殺したはずがあろうか。
 あるものかよ――――
 全ては、あの男のせいじゃ!」

オンバが顔を両手で抑え、
よろよろと後退する。

「妾がいれば玉などいらぬ!
 妾が残りの全てを保管しているのであれば!!
 妾とワタルの二人で全てを屠ることが出来た!!」



 クエスチョン:世界は勇者を喪いました。


沈黙へ閉じ込められたミツル。

両手の指の隙間からオンバの瞳が見える。
苦痛と、後悔と自戒に苛まれ、消耗した瞳が。

「ワタルだけでもあの爺を殺すことなど造作もなかった!
玉を喪ってはいても、あの程度の爺を守ることは!!
ワタルが死ぬ、道理などひとつも、あるはずなど!!」

「ジ、ジイ……?」

思い当たる節が一つある。
だが、それはありえない。
そんな偶然は、ありえない

「だがワタルは何もしなかった!
殺意に反応することもなく!
剣を握れば首を跳ねた!
ワタルがそうせずとも妾が動かして!!!」

こんな現実は――――

「猿谷という爺!!
 奴が、奴こそが!!
 妾から、愛を、愛を奪った!!!!!!!!」

443白銀のツインブレイヴ 〜what a shining fortune〜  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/15(木) 23:10:37 ID:H5RDw/1A0

空気が裂けた。
音の、叫びの嘆きの余波が直撃しただけで
ミツルの顔面が真っ赤に花が咲いた。


  クエスチョン:世界に輝きは何もないのでしょうか?


ミツルには何も言えない。
その男には、間違いなく出会った。
言葉を交わした。あろうことか、ワタルの死を知った直後に!

あの――――男が!!

ワタルを奪ったのか!
あっさりと、《勇者》をミツルから奪ったというのか。

「ワタルは、あろうことか、
 妾を、押さえつけて、言った!!
 ただ、一言。優しく、
 彼に会うまでの誰もが妾にかけてくれなかった暖かさで!!」



     答えられませんね?


――ミツル。

声が聞こえる。
ああ、これもミツルが絶えず聴いているものだ。
脳の中で、綺麗な実態を描いて。

あいつが、僕に、語りかけてくる。


「――――誰かを殺しちゃ、いけないんだ。
 そう言って、妾に、微笑んだのよ!!」

オンバの悲しみ。悲嘆。絶望。
狂いに狂った涙がワタルの似姿から流れてやまない。

「でも、だから何だと言うの!?
 妾はワタルがいればよかった!
 誰を殺しても構わなかった!
 なのに、妾がワタルを死なせて。
 ワタルは妾に誰も殺さないでと頼んで。
 それなら――――――もう……」

激昂に満ち満ちたオンバの葛藤。
彼女が両の手を離すと、そこにはオンバの
表情がまざまざと浮かび上がる。


   ならば、《勇者》は特別な存在だと、認めるのですね?


「全てを忘れてでも、“願い”を叶えて。
 理想世界で生きるしかないでしょう!?」

ミツルにはできない。
自身にも、オンバの凶行を否定することが出来ない。

思ってしまう。
後悔、してしまう。
あの時、あの瞬間に、そのことを知っていれば。
間違いなく、あの男を死に、追いやっていた。

「忘却の剣で、全てを忘れるのは“願い”を叶える直前でいい。
 妾には、今の弱き妾にはこの嘆きもワタルへの尊き愛に想えて愛おしい。
新世界ですべての過ちも、嘆きも忘れ。ワタルに会いましょう」

女帝は今や、ひとりの女になっていた。
歪めた事実に狂っていた全てが、
仮面を外すようにさらけ出されていた。

「ワタルと妾で、永遠に理想世界で生きる。
 きっとワタルは赦してくれるわ」

かぎろひの朧さ。
絶望に怯えて涙する心。



   違う。違うさ。違うとも。

――ミツル。

まだ声がする。
オンバの悲泣に共感するように、
ミツルの鼓膜にはワタルの声が木霊してやまない。

ミツルは、だけど、わかる。

わかることだけは、信じる。
オンバの前でも強く信じられる。


携えていた杖。
幾万、幾億もの夜に血を吸った重み。
ミツルと一緒に摩耗し、笑顔を忘れた。
天に座す女神からの贈り物。

それが、今は羽毛のように軽い。
軽いんじゃない。ひとつになっているんだとミツルは識った。

オンバがミツルの心臓を突こうと剣を翳した。
無駄だと思うほどに詰んだ状況。

キャンチョメに生かされた命も、こんな結果なのか。

ワタルを殺した猿谷が、呆気無くチャンに殺されたように。

「ワタルのために――死になさい」

「――――勇気よ、この胸にある光の剣よ」

――瞼を閉じれば、ワタルの姿がある。
   これは僕だ。僕の姿だ。
   希望を捨てたことを認めまいとする、
   僕の心だ。過去の僕だった。弱いと置き去りにした僕の姿だ。

ミツルに、《勇者の剣(ブレイブ・ブレード)》が振り下ろされる。

剣がミツルの命を断つ前に。
少年は軽く、腕を薙いだ。
凪の水面に波紋をもたらすように。

「――――――この、手に宿れ!!」



  特別なんかじゃ、ないんだ。



「《勇者の剣(ブレイブ・ブレード)》!!!!」

火花が散った。
瞼を開ければ白銀の剣と剣がぶつかりあって眩しく光る。

光、輝き、希望、勇気。

キャンチョメの姿が浮かんだ。
ワタルの姿も浮かんだ。

沢山のこう在りたいと“願う”人たちが浮かんだ。

火花の中に浮かんで、散る。

もういちど、腕を振る。
たったそれだけの動き。
別れのあいさつに手をふるんじゃない。
長い間、待たせた誰かに振るような再会の手。

火花が乱れ咲く。
花が咲いては、また散って。

まだ、まだ、まだ。

444白銀のツインブレイヴ 〜what a shining fortune〜  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/15(木) 23:12:00 ID:H5RDw/1A0



「どうして!?」

オンバがかっと見開いた両眼で驚愕を露わにした。
ミツルは穏やかな顔で剣を振るう。

「僕にも、ひとつ言えることがあるんだよ、オンバ」

舞踏会のステップで、踊ればそこには白銀が在る。

「ワタルは――《勇者》で――それでも――だからこそ――特別なんかじゃないんだ!!」

白銀の切っ先がオンバの頬を撫でて一筋の血を流した。

「なぜ、なぜ貴様がそれを持つ!?
 その剣を、貴様が!
 ワタルに見向きもしなかった、貴様が!?」

ミツルの纏っていた魔導師のローブは
今や勇者の鎧となり。
瞳には気高い意志の炎が芽吹く。

ミツルの鼓膜に違和感があった。
ワタルの声が聞こえない。
キャンチョメの姿が浮かばない。

そして……美鳥の笑みに迷いなく向き合える!

「世界は変えられない。
 現実は変えられない。
 けれど、僕は諦めない。
 輝きを、取り戻すことを」

「そう、女神は貴様に微笑んだのね。
 ワタルを捨てた世界は、
 貴方を選んだというのね」

「だから――」

「ならば――」

「受け入れよう、この運命!」
「憎み続けよう、この運命!」

大地から漆黒の太陽が昇り。
この時、世界の時計は停止した。

天野雪輝が、玉座へ至り
《勇者》たる己を謳うその前に。

二人の《勇者》が想いの雌雄を決する。

445白銀のツインブレイヴ 〜what a shining fortune〜  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/15(木) 23:15:08 ID:H5RDw/1A0



【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:星の数ほどの血に汚れ、
     本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど、
     過去に捨てた輝きを拾い上げ、
     魔王の祝福が雷電を纏わせる、
     此処に勇者は帰還する@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、不恰好な粘土細工@金色のガッシュ
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
    不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:『対話』
1:救う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。

446 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/15(木) 23:15:26 ID:H5RDw/1A0
投下終了

447名無しさん:2012/11/16(金) 17:59:56 ID:gsZ/9ZrUO
投下乙です。

勇者のバーゲンセール
真の勇者決定戦

人類はみんな勇者なんだよ。

448名無しさん:2012/11/18(日) 22:15:14 ID:0LHe8RAU0
投下乙です

449 ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:21:31 ID:joNYPgrI0
遅れてすいません。
レオナルド・エディアール、桐山和雄、ヨキ
投下します。

450たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:23:07 ID:joNYPgrI0


「これでさよならだ。桐山」
「七原。ありがとう」



互いに銃を突きつけ合いながら

二人の少年は同時に撃鉄を起こし、

同時に引き金をひいた。


そして場に残ったのは――






451たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:27:11 ID:joNYPgrI0


互角。

二人の戦いを一言で表すとしたらこの言葉だろう。
護神像によって鍛え込まれた体術同士が

空間を埋め尽くす千の手が
空間を喰い尽く龍の顎が

視界を埋め尽くす分身が
視界を燃やし尽くす大炎が

赤い血の人間への根深い憎しみが
今と未来のダチへの熱き想いが

世界を創りだしたいという意思が
世界を広げ奔りだしたいという意思が

その全てが互角の戦いだった。
小技には小技を返し、大技には大技で潰し合い、
この戦いの勝敗を決定するには程遠い。

”願い”を貫き通すにはまだ足りない。

互いに望まぬ消耗戦へと戦局は移っていた。
激闘を繰り広げるレオとヨキ。
それを眺めることしか出来ない桐山。

勿論、桐山とてキクと共に先程まではヨキ相手に何とか戦うことが出来た。
だが、今の二人の戦いに割って入ることが出来ない。

レオとヨキは激突しながら互いの”願い”をぶつけ合っている。
二人の想いが波となって桐山まで届く。
想いの奔流に、空虚な桐山では適わないのは当然だ。

『愛』を思い出した。
『孤独』を思い出した。
『誇り』を知った。

まだ足りない。まだ届かない。
この胸の喪失感を言葉で表すなら『後悔』と。
自分にも彼らの様に強く願う心があったなら

452たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:30:47 ID:joNYPgrI0
ベルトからデッキを取り外し仮面ライダーへの変身を解除する。
生身で握り締めた拳からは血が滴る。

この場で唯一の赤い血の人間である桐山に付き従うキクに、一言伝える。
しばらく留守にする。その間を頼む、と。
機械であるキクの返事は当然ながら了承。

桐山は戦闘の被害が出ていない場所まで迅速に荷物を持って移動。
二人の戦いが視認出来るが手出し出来ない距離まで来ると荷物を漁る。
取り出したるは護神像ハルワタート。

足りないのなら足せばいい。
無くしたのなら取り戻せばいい。

佇むハルワタートの額に己の額を併せ、目を瞑る。
自然と意識が遠のいて、気がつくと懐かしき教室に再び足を踏み入れた。


「よぉ、また来てくれたんだな」
「あぁ」






以前のプログラムに参加した桐山という男は殺し合いに乗った。
そこに自分の意思など無く。どちらでも良かった。
運に身を任せて選択し、級友達を極めて無機質に殺していった。

自らを慕う者、
自らを憎むもの、

みんな等しく殺した。


「そっちは切羽詰まっているようだな」
「……あぁ」

教室で話す二人の少年。
プログラムにおいて最後の死闘を繰り広げた二人。
けれど、不思議と互いに穏やかな声色だった。

「出来るなら、お前とはここでもう会いたくなかったよ」
「……あぁ」

声に乗せる感情は哀しみ。
以前と行為の意味は違えども、これから行う果てに辿り着く結果は恐らく同じ。
革命家となって、力をつけたつもりの少年も、自分の立てた予測の前では無力。

「今度こそ……せっかくお前とも解りあえてきたのに……」
「……あぁ」

元々は只のクラスメイト。
喪うことばかりの殺し合いを経て、だからこそ交わり、得られたものが二人の間にはあった。
熱き魂と空虚な心。
決して交わることの無かった二人だからこそ得られたもの。

「何かを背負っていくってのは大変だよな。覚悟を決めていたつもりでも、とても重く感じるよ」
「……あぁ」

『人間ってのはつくづく因果な生き物だよな』
二人の元クラスメイトであり、各々にとって相棒で、敵であった男の言葉。
どんな人間だって”そいつなり”の正義を抱えている。
正義とは欲望だ。
欲望とは願いだ。

453たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:36:25 ID:joNYPgrI0
「白薔薇も死に、歴史の道標も死に、この世界の終わりも近い。こっちの準備も整えておいた」
「……あぁ」

ハルワタートの仮面を外し、七原は真っ直ぐに桐山を見据える。

「……七原」

返事を返すだけだった桐山の方から言葉を発した。
七原から見て空虚だった瞳はそこにはなく、微かながらも暖かさが感じられた。

「オレは最初はお前になっても良かったんだ」
 「今回のプログラムに来てから本当に色々あった。水銀橙と出会い、仮面ライダーと戦い、防

人と戦い、魔忍者と戦い。」

ポツリ、ポツリと桐山は言葉を紡ぐ。
目に見えぬ何かがすり抜けていくかの様に、両の手を力なく広げて見つめている。

「元は以前のプログラムと同じだ。コインを投げて方針を決めてそれに従おうとした。だが実際

は違った。
 オレはローゼンメイデンの誇りを、アリスゲームを守る為に戦っていた。
 それが水銀燈がオレに託した”願い”だ。
 だが、それは叶わなかった」

出会う度に失われていく薔薇乙女たち。
何をやっても人並み以上にこなしてきた桐山にとってそれは、辛く苦い記憶だ。
自分の力が及ばないばかりに喪うものがある。
叶えられない”願い”がある。それならば、いっそ――
合理的に考えるなら、一期一会、たった一度のチャンスを
より能力の高い人間が挑戦するべきだ。

「オレは数多くの失敗をしてきた。だが、オレは立ち止まる訳にはいかない」

そこには何もない。何もない空間。過去の桐山と同じ。
だが、手を構えるだけで、そこは特別な空間になる。
字のごとくほんのひと手間加えるだけで。

「勝手かもしれない。この胸に蘇る感情を大事にしたい。
 オレはオレのままで強くなりたいんだ」

両の手の間に生まれた空間を掴み取るように拳を握り、
胸の内を吐き出していく。

「使え」

ここは想いの世界。願いの世界。
思えば何だって手に入る世界。

桐山が念じると二梃の拳銃が生み出され、その一つを七原に投げ渡す。

「七原、お前はオレにいったな。願いのインストールに耐えられない、と。
 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。互いに答えはわからない」
「つまりは桐山が俺の方を喰っちまう可能性だってもちろんある――確かに、そうだな」

どちらかが消滅する。
どちらが倒れても、相手の”願い”を継いでいく。背負っていく。
確かな信頼が二人の間にはあった。
前のプログラムでは苦しみながら、泣きながら、それでも必死に銃を構えた。
クラスメイトに銃口を向けた。
今も同じようにクラスメイトに銃口を向けているというのに、不思議と清々しい気分で悪くない。

454たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:41:59 ID:joNYPgrI0
「しっかし、意外と古風なのな。西部劇なんてロックと同じくらい大東亜じゃ忌み嫌われてるぜ?」
「以前に本で読んだ。今ならわかる。男の誇りを賭けた決闘にはこれが必要だ」
「ははっ、お前も意外に子供っぽい所あるんだな。オーケイ、わかったよ。
 で、合図はどうするんだ?」
「こいつが地についた時が合図だ」

またもどこからか取り出した一枚のコイン。
今回のコイントスは運に身を任せるのではない。
自らの未来を掴み取るのだ。

「桐山、最後にひとつ質問いいか?」
「それは護神像に蓄えた七原の”願い”か?」
「はは、そんな大層なもんじゃないさ」
「これは只の中学生の……
 クラスメイトで友人からの……
 ちょっとしたお”願い”ってやつさ」
「ふっ。その願い叶えてやる。なんだ?」

ニカッと笑う七原。
それにつられたのか
桐山の口元が、本当に少しだけだけど、あがった。

「お前の胸に生まれた感情。そこに……”正義”はあるのか?」
「……あぁ。――――おそらく、な。」
「そっか」

教室で銃を突きつけ合っているのに、七原はその言葉を聞いて嬉しそうに笑った。
川田、見てるか?
壊れてなんかいなかったんだよ。
あの時の俺らの言葉は無駄じゃなかったんだ。
俺らの時には見つからず結局諦めるしかなかったけれど……
真紅の姉妹たちが、他にも多くの人のおかげで……
今度は桐山は自分の足で立って前を見て進むことが出来たんだ……!

「桐山。どっちが残っても、決めてやろうな。極上のダンクシュートをっ
「……そうだな。じゃあ、いくぞ」

桐山の言葉を合図に指からコインが弾かれる。

「これでさよならだ。桐山」
「七原。ありがとう」

互いに銃を突きつけ合いながら

二人の少年は同時に撃鉄を起こし、

同時に引き金をひいた。


そして場に残ったのは――






455たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:45:41 ID:joNYPgrI0


幽鬼の如く俯きながら立ち上がる少年。
隣に佇む護神像の輝きが、新たなる防人を認めた証。

「まずは、変身」

 ――SURVIVE――

少年は起き抜けに仮面ライダーナイトへと姿を変える。

「……ハルワタート、合体だ」

護神像ハルワタートの装甲が、仮面ライダーの装甲をさらに覆っていく。
水流を
水龍を
身に纏う疾風の騎士

自分の体の調子を確認するようにその場でジャンプを繰り返す。
俯いていた顔を持ち上げて、戦場を見据える。
空を見ても、時間がどれだけ経過したのか判断するのは難しい。
夜の闇の中でも一際大きく明るい炎が、先程の戦闘がまだ続いていることを示した。

今度こそ、今度こそ間に合ってみせる。
少年の決意を、いや、”願い”を胸に込めると力が湧き出てきた。
足に力を少し込めただけで、少年は戦場へと舞い戻る。

乱入者に気付き、二人が互いに距離を取る。


「赤い血の少年よ。君の事情も大体知っている。君は今”どっちだ”?」

「オレはオレだ。桐山和雄だ」


「オレは七原の代わりに……いや七原だけじゃない。
 水銀橙だけでもない。薔薇乙女たちだけでなもない。
 オレが今まで関わってきた人の想いを背負って殺し合いを終わらせる。
 それが、それこそが今のオレの”願い”だ!」

456たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:51:22 ID:joNYPgrI0


【D-6/一日目/夜】


【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
     「後悔」を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、
     ハルワタート@waqwaq、雛苺のローザミスティカ
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(7/8)
     レミントンM870の弾(16発)、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン、めぐのカルテ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:闘う。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。



【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
     親友との明日を取り戻し、
     胸に抱くは翠の「安らぎ」と鉄の「勇気」、
     蒼と白の装甲は暴食の顎、
     背後に従えるのは赫炎のジャバウォック、
     これが現時点でのスケアクロウ@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:アシャ×アールマティ×カントリーマンの玉×翠星石のローザミスティカ×仮面ライダー龍騎(SURVIVE)
    エディアール家の刀@waqwaq 
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:走り続け、『世界』を広げよう
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。



【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、BMによる火傷 (処置済み)、
     スプンタ・マンユはクシャスラの能力使用可能、首輪解除
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、蒼星石のローザミスティカ、クシャスラ完食)
     @WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:闘う。
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします

457たった一度与えられた 命はチャンスだから ◆CFbjQX2oDg:2012/11/19(月) 02:56:08 ID:joNYPgrI0
投下終了です。

久しぶりの投下だったので、誤字脱字、さらには気になる箇所などありましたら遠慮なくご指摘ください。


以下、感想。

ミツルーーーー!
ミツルが勇者の剣使うとか胸熱すぎる!!
そっか…ワタルは猿谷さんが内にいるオンバに殺される未来が見えちゃったんだね
記念すべき一話で衝撃の死亡だった勇者ワタル
切ないぜ……
次の予約で決着がつくのか楽しみだ!
投下乙でした!

458名無しさん:2012/11/19(月) 04:34:11 ID:E2m37fJc0
投下乙、熱いぜ!

459名無しさん:2012/11/19(月) 17:52:24 ID:j.Z1QQqUO
投下乙です。

自分の意思で仲間の願いを受け継ぎ、自分の願いの為に戦う。
熱血だぜ、桐山。

460名無しさん:2012/11/19(月) 20:31:11 ID:oroaFYkM0
投下乙!

いやぁ、熱いねぇ!

461名無しさん:2012/11/19(月) 20:47:58 ID:MoL3hhCI0
おおう、二作とも投下おつ!
ワタルええ子やったんやな
あっけなく登場話死亡したと想ったらまさかそんな裏があったとは
優しすぎる言葉に泣いて、勇者の剣に燃えた
でもなあ、オンバも悲哀が篭ってて憎めないんだよなあ、どっち勝っても辛い

桐山が誰かの代わりや器じゃなく真に大地に立ったか
さよなら、ありがとうに終わるやり取りの流れも熱い

462名無しさん:2012/11/19(月) 21:18:36 ID:RHYkXUM60
投下来てた!!!!
桐山と七原の会話がすごく雰囲気出てて良い!
こいつらも何かのきっかけでそんな風に笑い合えたかもしれないんだよなあ
んでも桐山の成長?には水銀燈やローゼンメイデンの影響が不可欠だったろうし難しいもんだ
とにかく頑張れ桐山!

463 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:02:34 ID:iKjciJ3k0
投下します

464これは小さな友の物語  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:04:48 ID:iKjciJ3k0


#############

これは予知ではない。

オンバの剣がミツルの胸を貫いた。
雄叫びとともに、ミツルの腹部も斬り裂いた。
ばらばらに切断されて、魔狂姫の嘆きは終わらずに。
ミツルは死ぬ。

変えられない、運命。
呪われし勇者が力による啓示。


#############




「貴様はワタルを侮辱した」

雷電帯びた白銀の剣が演舞を避け。
忌々しげに舌打ちしたオンバが罵った。

「ワタルこそが、真の救世主。
 世界でただひとり存在を赦されるであろう者」

「…………違う」

対峙する勇者ミツルの姿が夜闇に溶けた。
消失の呪文。9th.雨流みねねを刺した時と同じ力。

ならばと、オンバもまたまるで同じ術を使い、
陽の光似合わない暗闇の肌が夜闇と一体化する。

「違うことなどないわ。
 ワタルだけが、妾の為に涙を流してくれた。
 ワタルだけが、妾に手を伸ばしてくれるのよ」

声がした方へ、風が疾走る。
疾走って、剣戟が鐘の音のように高らかに鳴り響く。

火花、刃鳴散らす光の奔流。
オンバの聴覚が鋭敏化され、研ぎ澄ました肉体の攻撃本能が
最適な行動を選択していく。

オンバが空間を斬り裂くと確かな手応えがあった。
血飛沫が夜空に流れる。
真紅の血がオンバの頬につき、不快感に鼻を鳴らす。

「貴様の血など、悦ぶにすら値しない!」

半歩、左足を軸に時計回りに勢い良く回転。
独楽の動きで血が流れた空間を何度も斬り裂く。

力任せの、王道から外れた乱撃。
咄嗟に剣を盾にしたミツルの唇から苦悶が零れ落ちる。

地面を蹴ると、オンバは高く跳躍する。
横回転から縦回転へ、風車のように綺麗な軌道を描き
ミツルの脳天を一閃にて両断せんと迫る。

しかし、オンバの視界を雷の光が奪う。
弾ける雷電の発動が半分の月が照らす暗闇を駆け抜けた。

オンバの剣が大地を深々と抉り、
めくれた大地が粉となって空へと浮かぶ。

「雷の力。魔王の想波を受け継いだか」

遥か彼方へと飛んだミツルを一瞥した
オンバは雷の残滓を指で払う。

空の黄金と違う黄色の光がオンバの黒い肌に吸い込まれていった。

「しかし、人には御しきれいない力。
 貴様には空が隅々まで思い描けるのか?
 海の最奥まで一片の乱れなく想像し、投射できる
 超高水準の演算が可能だというか?」

体中が擦り切れ、斬られ、血が滲んでいるミツル。
膝をついていた地面からゆらりと立ち上がると
剣を騎士の作法によって眼前に構え。

「まだ、届かないか。お前に」

「まだわからないの?
 妾に触れることができるのはワタルのみだと」

「ならば――――」

ミツルの周囲が歪む。
ミツルの《勇者の剣》を中心にして。
力強い、想波の渦が回り、うねり、轟く。

「――――優しい魔王達の権能も、この剣に」

瞳を閉じたミツルへと、
拒めぬ想いの発露を認めた世界が己の構成を譲り渡していく。

空に座す半分の月が、微笑んだ錯覚がする。

465これは小さな友が奏でる勇気の物語  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:06:14 ID:iKjciJ3k0



「貴様が新たに認めた勇者など……!」

月を呪詛篭った眼で睨みつけ。
毒吐く、オンバを他所にミツルは言う。

「シン・ポルク―模倣―」

深淵なる想波の解放を感じた。
肌が慄き、心がかつての絶望と屈辱を想い出す。
遠き過去。世界創世の6日の翌日。

休日にて世界の汚濁だと断じられ捨てられた。あの最後のページを。

「かまうものか」

剣を晴眼に構えて、
ミツルの行動を待ち受ける。

「ワタルのために、貴様は死ね」

「まだ、死にはしない。
 少なくとも。この瞬間には、まだ」

ミツルの声が聴こえたのは輝きの中。
雷鳴轟く、想波の津波の只中にて。

「――来い!」

ミツルの姿が、紫電とともに
オンバの前へと躍り出る。

音は春雷の如き剣の一振りに掻き消され。
受け止めたオンバの剣が雷に痛みを訴えた。

大きく後ろに飛び退いたオンバ。
ミツルは、今、雷そのものとなっていた。
そして、世界には無限の桜が立ち並ぶ。

「そんな桜が何になる」

「僕の心を、奮い立たせる!」

ミツルの剣が疾走る、落ちる。
音速を超えた雷速がオンバの背後へとミツルを運び
勇者の剣と勇者の剣が互角に打ち合う。

「桜の花言葉を識ってるか、オンバ」

「……ッ! 識らぬ!!」

「『貴女のほほ笑み』」

端正と言えるミツルの顔が雷光に照らされ、
白銀は今、魔王の雷を継ぎ、夜闇においては月より輝く。
神話に語られる雷神の神々しさを得ていた。

「だからなんだというの」

「僕は……ずっと忘れていた。
 おかしな話だよな。僕は、妹にずっと見せてやりたかったのに」

袈裟斬りがオンバの肌を焼く。
燃えるような痛みがオンバの思考を乱し。
ヒステリックにオンバは剣を振り回した。

「それで……妹を見捨てるというの!?
 たあ、自分が思い出を忘れるほどに醜くなったという事実だけで!」

「……そうだよ」

腸が煮えくり返る。
ワタルの友であるこいつが、
このような腑抜けたことをほざく事実が我慢ならない。

「消えろ」

剣の先から光弾を連射、
ミツルの移動を先読みして浴びせる。

「僕は弱く、愚かだった。
 誰かを殺して、その重みに耐えられない自分から目を背けた」

「ならば、口を閉じて、ワタルと妾の糧に――」

「ワタルだってそうだった。
 あいつも、自分の“願い”のために
 人を殺していく自分に耐えられなかった」

静かに告げられた言葉。
最初は意味がわかりかねて、反応が一拍遅れ。
徐々に、沸々と腹の底から黒い怒りが喉元までこみ上げてきた。

466これは小さな友が奏でる勇気の物語  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:08:37 ID:iKjciJ3k0



「貴様……! ワタルが弱いと言う気か!!」

「そうだよ。あいつは弱かった。
 誰よりも安易に都合の良い“願い”に縋ったんだ」

「貴様に……ワタルの何がわかる!?」

「おまえが、ワタルを美化し過ぎているというのがわかる。
 あいつの“願い”は軽かった。
 両親の離婚、支えてくれる親戚がいてもなお。
 夫を奪われて子を捨て自殺未遂を繰り返す母親から離れ。
 あいつは人を殺して“願い”を叶える道を選んだんだ」

「それの何が悪い!?
ワタルにとってはそれこそが
最も失いたくないものだったのでしょう!?」

「悪いなんて言ってないさ。
 ただ…………あいつも、僕やおまえと同じだということだ」

「違う! ワタルは違う!
 妾とは全然違う! ましてや、貴様とは!
 貴様らとは、少しも通じない!!」

激情に駆られ、視界と思考が真っ赤に染まり。
オンバは雄叫びと共にミツルへと斬りかかった。

「違わない。あいつも、僕達と同じ人殺しだ。
 自分のために殺して、変えられない運命を変えようと藻掻いた旅人だ。
 僕達と、何ら変わらないんだ。
 きっと、ワタルを殺したあの男とも、始まりは……同じだった」

血の紅色に染まった世界で幾度となく稲妻が鳴った。
甲高い音がオンバとミツルの間で衝撃とともに弾け。

オンバの剣の腹にミツルの渾身の突きが繰り出された。

「僕達も、ワタルのように在ることができたんだ。
 あの世界で、目の前の優しさをつかもうとすれば、きっと」

オンバは奥歯を噛み締めた。
そんなのは嘘だと彼女の心は叫ぶ。
女神に捨てられて以来、どんな神もオンバを否定した。
すべての命はオンバを恐れ、醜いと糾弾した。

「事実は違う。
 妾は幾星霜の歳月を、ひとりで生きてきたのよ!
 でも、誰も、妾に手を伸ばそうとはしてくれなかった」

「なら――――」

オンバの兜割りをステップで躱し。
白雷の勇者は剣を下ろして、囁いた。

「――――僕の手をとれ、オンバ」

そして、少年は手を伸ばす。
手を、差し伸べる。
未だ暗闇の檻に閉じこもろうとする彼女へと。

「…………ワタルだけが、妾のために――」

「なら僕がお前のために涙を流そう。
 お前の側にいよう。お前の悲しみも、孤独も、
 押しつぶされない限りは分かち合う。
 だから、頼む。オンバ。一緒に来てくれ」

オンバは、少年の姿に、たしかに光を見た。
奈落の底で悲嘆する女に、寄り添う希望を、見いだせると思えた。


「…………いや、イヤ、嫌!」

けれど、できない。
ワタルだけだと思っていた。
ワタルだけが、特別な存在なのだと思っていた。

だから、恐怖してしまう。
触れるのが怖いと思ってしまう。

触れられないから、敵意をぶつけようとする。

「妾はこれでいい!
 ワタルだけで、いいのよ!!
 だから、そんな風に言わないでちょうだい!!」

「わからず屋だな。けど、いいさ。それならそれで」

苦笑したミツルは大きく空へ跳ね。
薄桃色の桜並木の下で剣を構える。

「来い。受け止めてやる」

静謐なるたたずまいが、オンバの想波の瀑流を受けて
竜巻に直面したような有様へとなる。

想波と想波のぶつかり合い。
“願い”と“願い”の削り合い。

白銀の剣が互いの肌を傷つけようと猛る。

天地の狭間にて万物を縛る鎖に敗けていた両者。
断ち切ること容易ならざるものならば、
可なるは神の御業のみ。

467これは小さな友が奏でる勇気の物語  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:11:38 ID:iKjciJ3k0



「これで最期よ、ミツル。
 妾を救うことが出来るのは、ひとりだけでいい!」

   ブレイ グラム ダ・フォール バイド

大地に描く魔法陣。
寸分たがわぬ詠唱。
剣に想いをこめて、ふたりは決着のへと挑む。

「「醒天!!!」」

「「グランドブレイバー!!!!!」」

極大の魔法陣が互いの一撃から放たれ、
ぶつかり合う。膨大な力と力のぶつかり合い。
想波と想波が極限まで消耗し合い、
周囲から闇が押し寄せてくる。

「さあ! 世界の崩壊は近い!
 潰えなさい、偽なる《勇者》よ!!」

魔法陣のぶつかり合いはオンバが勝る。
じわじわとだが、ミツルの魔法陣が小さくなり。
ミツルの周囲の世界が壊れたTVのように揺らめく。

「僕は、ずっと妹が生き返ればすべて良いと想ってた。
 けれど、駄目だった。僕は、僕の弱さから、
 運命という檻から逃れられないと識った」

「なら、死の運命を呪って死になさい!」

「僕は、未来を変える!
 僕が変われば現在に伝えられる!
 変えるべきなのは過去ではない!」

「世迷言ね! ワタルはそんなことは言わない!」

「あいつだって弱かった。
 僕と同じでどうしようもない
 身勝手な救われたいという想いで
 命を奪ってきたんだ!」

ミツルの体が、さらに輝く。

「だからこそ、あいつは――輝きだった!」

「五月蝿い。五月蝿い、五月蝿い!!」

「来たれ、雷電の雷。
 魔王の輝き、魔王の祝福よ!
 勇者の権能でもまだ足りないのなら。
 僕に――僕に――――――想いを繋ぐ、金色の道を!」

ミツルの背後が黒く歪む。
それは雷雲だとわかった。
電気の圧力が高く高く、捏ねられ、産まれようとしている。

「思い出すよ、ワタル。
 おまえと会ったのは、TVゲームがきっかけだったな」

ミツルは《勇者の剣》を逆手に持ち替え、
己の背後へと剣をまわし。雷雲に剣を浸す。

「なに…………よ、それは!?」

「これで最後だ!!」

浸し、埋めていた剣を軽々と抜き、
ミツルは魔法陣へと渾身の力で斬りかかる。

それは、神の身ならぬ魔王の雷だった。
天翔ける空から来たる道標だった。

終末に相応しい――――夜に瞬く黄金超えた蒼い光だった。

「1ギガボルトの雷斬撃よ!!
 裂き、届けえええええええええええええええ!!!!」

468これは小さな友が奏でる勇気の物語  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:14:01 ID:iKjciJ3k0



雷纏い、大地を疾走る《勇者》の一撃が。
オンバの魔法陣を砕いて、超えて。
ついにミツルがオンバの眼前へと立つ。

「あ…………あ……」

一歩、一歩とミツルがオンバへと歩を進めていく。
穏やかに、しっかりと大地を踏みつけて歩く。

逃げられない速さではない。
背を向けて足を動かせば終わりなはず。
なのに、できない。眼を離せられない。

オンバにぶつかりかねない近さまで、ミツルは辿り着き。
そして、そして――――前のめりに崩れ落ちた。

「――――ミツル!」

咄嗟。考えるよりも早く
オンバは手を伸ばしてミツルを受け止めた。
たしかに恐怖していたはずが、自然に。

「……ああ、よかった」

胸に手をやって。
何かを確認したミツルは血の気が失せていく中、微笑んだ。

「未来は……変えられた。ほんの少しだけだけど。
 想波によるこの身の崩壊と引き換えにだけど……やはり、駄目だな。僕ってやつは」

「なにを…………何を言っているのよ、ミツル!?」

ミツルを腕に抱いて離さないオンバは必死の形相で
少年へと叫び続ける。励ましのような、強い言葉を。

助けたいと。少年の命を繋ぎたいと。今は確かに想う。
ひたすらに、己の身を案じ続けてきた少年の暖かさが、
オンバの満ち満ちた負の想念を溶かしている。

「……たしかに、世界は辛いけど。
 どこまでも厳しいけど。“過去”は無理でも。
 “未来”なら……変えられるんだ。
 それで、十分だと想いたい……僕は」

「わかった……わかったから……お“願い”……これ以上は……」

黄金の双眸より流れ落ちる涙を指先で拭い。
ミツルは微笑って頼んだ。

「微笑ってくれ……オンバ。
 僕の最後の、わがままだ。
 ああ、美鳥もこういう気持ちだったのかもしれない」

オンバは、天を仰いだ。
闇は二人を取り囲んで動かない。
絶海の孤島に追い込まれたのか。
誰かに守られているのか、それはどうでもいい。

ただ、祈る。
大きな“願い”を叶えられない想いを、届けるために。

「……我等……女神の申し子……
 地上の塵芥を離れ、御許に昇らんとする」

力を喪い。
眼も開けるのが億劫そうなミツルが、
本当に嬉しそうに呟いた。

「……祈ってくれるのか。
 まさか……お前が……」

「我等の祖にして、源なる浄き光よ。
旅立った我が愛を……導き給え」

  小さき子よ。
  創世の御子よ。
  時に争い。時に諍い。
  虚偽に走り。愚蒙に走り。
  人の子の罪を重ねたことを悔いているか。

――はい。

  偽り。己の欲に従い。
  神の与えし我が子の栄光に顔を背けたことを、悔いているか。

――はい。

  ならば此処に深く悔い改め。
  地上のあなたの罪は赦された。
  

  安らぎなさい。人の子よ。
  召されゆくあなたを永遠の光が包むだろう。


ミツルの頬を撫でて。
彼女は初めて、柔らかな太陽のような微笑みを浮かべた。

「――――ヴェスナ・エスタ・ホリシア――――」

その言葉を聞き、ミツルの眦から一筋の雫がこぼれ。
震える手でオンバの手を握り。
安らかな顔で、ミツルは静かに息を引きとった。

「……さようなら、ワタル」

頬を撫でた手をミツルの背中に回して。
オンバは暖かく、命が抜けた少年の身を抱いた。

「赦してください、我が母よ」

オンバの体が黒い靄が産まれ出で……
ミツルの体をゆりかごのように支えた。

「私は…………この人に、生きて欲しいのです。
たとえ、この魂が削られ、朽ち果てる未来を迎えようと」

黒色の靄が、次第に黄金色に染まって。
オンバの体が、徐々に融解を始めていき。

「だから。また、会いましょう。ミツル」

オンバの姿が夜闇に消え失せた後。
黒鉄と変わった肌で、勇者は眠る。

幾回の爆発音と轟音が世界を揺るがせた後。
大地に横たわるミツルの瞳がそっと開いた。

空には巨大なる機械仕掛けの上半身が垂れ下がっていた。

469これは小さな友が奏でる勇気の物語  ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:15:55 ID:iKjciJ3k0
【D-6/一日目/夜】

【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:星の数ほどの血に汚れ、
     本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど、
     過去に捨てた輝きを拾い上げ、
     魔王の祝福が雷電を纏わせる、
     《魔導師》は白銀の剣士へと職を変え、
     魔狂姫の尊き祈りが胸に宿り、
     此処に勇者は帰還した@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ワタルの剣、不恰好な粘土細工@金色のガッシュ
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
    不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:『対話』
1:救う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。
※これは雪輝が雪華綺晶とティオを殺す前のお話です。
※オンバはミツルと同化しました。

470 ◆1yqnHVqBO6:2012/11/22(木) 00:16:09 ID:iKjciJ3k0
終わり

471名無しさん:2012/11/22(木) 02:15:49 ID:e.MZWOmE0
投下乙!
ミツルよくやったぞ…オンバを真の意味で救ったんだ…
そして俺はミツルの最後の攻撃からアバンストラッシュを思い出したんだがw

472名無しさん:2012/11/22(木) 15:22:24 ID:5AXlH/os0
投下乙です。
ミツルが変えた未来がオンバを救って、救われたオンバが更なる未来を塗り替えて。
尋常じゃない世界でただ進むだけじゃハッピーエンドなんて見えないけど、
こうやって抗って抗って抗って、少しずつ変えていった先にある世界がハッピーエンドで終わってくれればいいなぁ。

473名無しさん:2012/11/23(金) 23:34:02 ID:fyqf9IsI0
投下乙です!
いいなあ 勇気を継いで物語は紡がれていくんだって感じか!
ワタル、オンバ、ミツル
原作の三人の関係がうまい具合に立ち位置変わって面白いw
主催陣営もこれで全滅かな?
参加者だけになっても戦いは止まらないんだろうなぁ

474名無しさん:2012/11/26(月) 02:48:38 ID:5rvm9Whk0
投下乙です!
いいなあ、魔王の雷の剣を抱えた勇者いいなー
自分たちもワタルと一緒でだからこそ変われると包み込みあった二人の魂は救われたんだろなあ
桜の描写といいお見事な優しい物語だった

475 ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:12:35 ID:iOt70InQ0
投下開始

476夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:13:52 ID:iOt70InQ0



「         」

「こんにちは、蒼星石。
もれは翠星石の友達のシオといいます」

「         」

「雪華綺晶が護神像の中に侵入してきた時に
開けた穴を使って、貴女に語りかけています」

「         」

「もれは、できれば。
貴女にレオの助けになってほしいと思うす」


――――――――。


二人の少年、二人の戦士が
一面に並び立つ賢者の群れへと立ち向かう。

「レオ、この数をどこまで減らせられる?」

「半分くらいは。だが減らせても、本体が特定できねえ。
 そして、分裂体に混じって強烈な一撃を繰り出してくるから
 それに対処するとまた、相手の逃走を許しちまう」

「俺に考えがある」

桐山の前方に立っていた数十体のヨキが
ハルワタートの水に包まれた千銃の銃撃乱射に体を穿たれる。
破裂し、消えていくヨキの像を尻目に
桐山とレオは背中合わせにレオへと問う。

「おまえ…………杉村の技は使えるか?」

「いや。無理だ。
 あんなんできるわけねえだろ、人間業じゃねえ」

「俺ならば、できる。気がする。半分くらいは」

地面と並行に飛来してくる
千の手を切り落とし、殴り潰し。

レオは首を振った。

「言うねえ……それで? 俺にどうしろと」

「お前のアールマティに集めた風を
 喰わせる。分身体の弱点は耐久性だ。
 超広範囲の技を炎と混ぜてぶつければ蹂躙できるはず」

「やれるか? おまえに」

桐山は額を指でさりげなく触れて、答えた。

「俺には七原を通じてのチャン記憶もある」

背中越しに桐山はレオの肩をこつん、と叩いた。

「おまえは杉村の友達なんだろう。
 なら、これでやれるはずだ。
 あいつは、俺の知る限りで最強の赤き血の人間だった」

レオからは桐山の表情がよく読み取れない。
肩に感じた小さな感触だけ。
他のすべての感覚は目の前のヨキの群れに集中させていた。

だから、僅かながらの実から得た直感で動くしかない。

「じゃあ、任せたぜ」

「オーケイだ。レオナルド、まずは時間を稼いで俺を守れ」

その言葉を合図にレオは
ヨキ軍団から桐山を守るために、炎のかすみを展開した。

477夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:14:52 ID:iOt70InQ0



―――


「ひとぉつ、聞きたいのですが。
 蒼星石はどーしてヨキ先生に力を貸しているので?」

「      」

「ふーむ、なるほどなるほど。
 じゃあ、貴女は自分の姿を確かなものにしたいから。
 アリス・ゲームの、闘いのルールに従うと」

「       」

「じゃあ、提案す」

少年の形をした魂魄は、
白の茨に巻きつかれ、吊るされた少女に言った。

「闘いを無くすと約束したら。
 貴女はそこから出てくれますか?」

「      」

「いいえ、違うす。
 雪華綺晶はもう殺されてしまいました。
 だからそれは貴女が創った鳥籠なのですよ」


―――――






レオは掌に、宙を逍遥させていた
焔龍の熱を全て込める。
熱量だけで産み出されるエネルギーの余波に大気がひれ伏す。

右手に握りしめたエディアール家の刀に
帯状に纏わりつかせれば。
それは太陽の鳥と同義に空を凪ぐ。

腰に構えて、抜けば周囲を薙ぎ払う
炎の竜巻。唸りを上げて荒れ狂う龍の舞い。

桐山を中心に据えての絶対防御の炎の壁。
力の多くを消費する技、
長くは維持することが出来ない。

周囲を取り囲むヨキに
中へと入ることは出来ない。
触れれば、ではなく近づけば蒸発する炎。

「よくやった。レオ」

両手を合わせ、精神を研ぎ澄ませていた桐山が
その手を離し、大きく広げた。

羽ばたく両腕に巨大な風が集まってくる。
外套がはためき、装甲にまとう水が波のように揺らめく。

「行くぞ」

レオは龍の頭部に変質している左手を
掲げ、桐山が集めた風を喰らう。
スープを飲み干すようにあっさりと、
大きく開いた口で喰した龍の左手。

炎の竜巻は霧散し、
レオと桐山の前に広がるのは
眼前から地平線まで埋め尽くされるヨキの群れ。

レオの左手の頭部から、
アシャの焔と桐山の風の混成が吐き出された。

風を喰らった炎は勢いと体積を増して
炎の嵐は台風のように根本から生き物を引き剥がしていく。

分身体には到底耐えられない災害。
夜闇を燃やすのだから、暗闇に逃げる術もない。

燃えたキャンパスの大地に残るのは
本体であるヨキ一人のみ。
ならば、分裂よりも先に仕掛ければ倒すことは可能。

桐山とレオが眼を凝らして
本体のヨキを見つけださんとする。

そのとき、ふたりの少年の頬を一陣の風が撫でた。

風が吹いてきたのは二人の真上、上空から。
巨大な半分の月、黄金に輝く瞳の如き深遠さを湛えた宝珠。
それを背に浮かんでいたのは黒き血の賢人ヨキ。

レオと桐山の背筋を戦慄が走った。
何時からそこにいた?
気づかないはずがない。

「歴史の道標は、デウスと通じていた。
 それと同じく。私は女神と通じていた。
 正確には、女神の配下である今亡き導師達とではあるけれど」

燐光から産まれ落ちるは無限の手。
クシャスラの烈風が籠手となって二人へと落ちる。

「女神は答えを求めている」

黄金を背に蒼き燐光がヨキの周囲で瞬く。

「ローザミスティカと玉があれば、
 スプンタ・マンユは女神の愛する者への変化をも可能」

手が伸ばされる。
“人”を属性とするスプンタ・マンユの
根源的力。意志に足掻く人の象徴。

「“世界”に変化しただけのことさ」

桐山とレオの命の灯火が握りつぶされようとした。

眼では追いつかないほどの攻撃の量。
不意を打たれ、齎された雪崩に意識を刈り取られそうになる。

だが、ふたりの命は未だ喪われず。
小さな盾が手の雪崩を防いでいた。

478夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:17:22 ID:iOt70InQ0

「キク……!?」

硬化力場を少年たちの前で
展開していたのは機械の賢人・キク。

だが、無傷で防御していたわけではない。
硬化力場も瞬く間に削られていき。
指先から静かに装甲が剥がれ落ちていった。

「……勝つ方法はまだある。
 黒き血の少年。赤き血を受けた者よ。
 お前に更なる血の祝福を享受することが出来るのなら」

「おまえ、何を言って……」

「雛苺のローザミスティカには、
 杉村弘樹の血の記憶があるはずだ。
 それを地下に流れる血の水脈を媒介にすれば
 レオナルド・エディアールは真の赤き血の祝福を得られる。
 我が最後の力をもって、地下の水道に干渉しよう」

キクの手が砕け散り、
破片が花びらのように
レオの頬へと張りついた。

「桐山和雄。赤き血の少年よ」

「…………なんだ?」

「神を頼む」

ここから見えるのはキクの背中のみ。
腕が肘半ばまで砕け壊れていく様がわかるのみ。

「わかっている」

それを最後に、キクは無限の手に呑まれ。
砕けた体はスプンタ・マンユの養分となる。

しかし、キクの死は
同時に地下の水道の決壊を呼び寄せる。

“願い”を吸い、運ぶ助けとするために
地下を流れていた低純度の血液の流れが吹き出す。
暗闇に赤色の橋がアーチ状にかかった。

その血をまともに浴びた二人は髪がぐっしょりと濡れ。
そしてレオナルド・エディアールの手には
再び雛苺のローザミスティカが握られている。

「今、気づいた。
 この宝石に、あいつの血がこびりついていたんだ」

掌でローザミスティカを転がし
眼を細めて、笑みを浮かべるレオ。

アールマティと合体したことで
フード状になっていた頭部装甲から覗く頭髪は、
血の影響で薄赤色に染まっていた。

頬には紋章のような刻印が刻まれ、
それは全身へと及んでいた。

「レオ……?」

「大丈夫だ。悪いな、さっき渡したばかりなのに」

「別にいい。それで、大丈夫なんだな?」

レオは脚を大きく開く。
未来の友が紡ぐ完全合体の恩恵と
今の友が祈りによる祝福の刻印。

「ああ、負ける気がしねーよ」

左腕を大きく振るう。
さすれば空が裂け、喰われ、咀嚼される。
空間が喰われ、ヨキとレオの距離が肉薄する。

「新たに手に入れた機械の賢人の力。
 さあ――――定めの決着をつけよう。防人の少年よ」

「おお!!」

479夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:19:02 ID:iOt70InQ0

―――― 


「ローザミスティカは――」

「はい?」

「僕達のローザミスティカは元はひとつだった。
 翠星石と僕のローザミスティカは
 ひとつのローザミスティカだった」

「うん」

「翠星石は変化した。
成長したんだと思う。
君と出会い、防られ、世界を広げてね」

「大丈夫」

「だから、僕と翠星石はもう、合わさることは――」

「大丈夫すよ、蒼星石。
 だからもれがいるす。
 友達が、いるんすよ。
 凹んだ所はもれが埋めます。
 尖った所はもれが包みます。
 アリス・ゲームっていう鏡は、必要ないのです」

だから、と彼は言った。

「貴女たちは、一緒です」

手を、純白の茨に縛られた彼女へと――

―――

左手を伸ばす。
龍の顎がヨキを喰わんとする。
しかし、喰らうのは空間のみ。

無数の手の乱打がレオの攻撃を逸らす。
神の祝福、人の血に流れる想いの力を形にし。
アールマティの喰らう能力は概念の域に達していた。

「我がスプンタ・マンユは既に属性が
 “人”から“世界”へと昇華している。
 “大地”の護神像、“炎熱”の護神像アシャ。
 偽なる龍の力を持つ龍騎。どこまで届く?」

「どこ、までもだよ! ヨキぃぃぃぃっ!」

裂帛の気合を込めた焔の喰の雨あられ。
背後からは桐山からの援護射撃が。
ヨキは世界に己の身を変化させ、避ける。

「逃がすかよ!!」

瞬時に炎の嵐を展開し、
永続的焔の竜巻を超広範囲に展開し。
顕現点を潰しにかかった。

「逃げてはいないよ」

しかし、ヨキが現れたのはレオの目の前。
肌と肌が触れ合いかねない近さ。
近すぎる。攻撃すらできないほどに。

だがこれならばヨキの方も同じはず。

レオの予想とは反対に、
彼の両腕を拘束される感触があった。
両の腕を掴み、雁字搦めにされていた。

精密な動き。
今までの半ば力任せのものとはまるで違う。

動けない。動けるまでの時間が足りない!
この赤き血の祝福をもってしても、まだ!!

「くそっ……」

「お別れだ。シオの親友よ」

蒼き燐光が輝き。
レオの顔のすぐ側で、終わりを告げる手が……。

翠色の光が輝く。
大地の決壊防ぐ大樹の輝きが。
炎の種となる儚き枝葉のまたたきが。
レオの左手に、強く、強く。

怯んだのは、ヨキではなく。スプンタ・マンユ。
攻撃の発露が確かに遅れ。
それが、レオの脱出を招いた。

拘束より逃れたレオは、
無我夢中で左手をスプンタ・マンユへと翳す。
左手が何かをつかむ。暖かな温もりを掴む。
掴んだ手を強く握りしめ。抜き放つ――――!!

「その道を選ぶか……蒼星石……!」

歯噛みするヨキの声が耳に届く。
届いても、気にはしない。
ただ、ただ、レオは叫ぶ。

「健やかに、伸びやかに」

両の腕を交差する。
左腕は翠色に輝き。
右腕は蒼色に瞬く。

レオの左手は龍の頭部から
こんこんと炎の泉が湧き出る焔の源となり。

レオの体を螺旋に包み。

「意志を吹かせ。輝きを燃やし」

「闘争のルールを否定するのかい。蒼星石。
 お前が、己の存在意義を確立することを諦めると……?」

天へと伸びる焔は大樹の形となる。
生命の木にもその姿は通じていた。

「想いの火花を茂らせて――」

レオの右腕にあるのは庭師の鋏。
鋏が閉じて、開いて。
それとともに大樹の先が分かたれて、それぞれが龍へとなる。

「光の示す――方向へ!!」

7つに分かたれた、炎の大樹より変異した龍。

「金、色に光り……蛟……産み出す庭師の……剪……!
 神の武具の再現……? 《窮極(アリス)》へ、近づいたというのか」

七色の焔龍が、ヨキへと襲いかかる。
一体一体が銀嶺以上の力を持つ偉容なるドラゴン。
炎は虹色に煌めき。夜空に七つの虹がかかる。

「ローザミスティカに翻意されようと。
 我が“願い”に一点の曇はなし!」

手が虹色を捕まんと夜空を駆ける。
星々無き、月光のみが照らす暗闇を
七色の龍とスプンタ・マンユがぶつかりあう。

480夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:20:05 ID:iOt70InQ0



宙を飛び、己の身を万華鏡にうつろわせ。
手と龍がぶつかりあう余波が
世界は闇すら関与できない振動に震えた。

一匹、屠った。
消費される力は甚大。
二匹目、三匹目も屠る。

「我が二千年越しの大願。
我が友を尽く死に至らしめた運命。
乗り越えずには、いられないのだよ!」

「笑わせんなよ、賢者!
運命なんて知るか。
疾走って広げりゃ、知らん内に運命なんて遙か後ろだ!!」

四匹目を屠ると同時に、
ヨキの腹部を黒き血に塗れた騎士の剣が貫く。

「……赤き血の……少年!」

「俺を忘れるなよ」

最後のスプンタ・マンユの力の爆発が、
桐山を吹き飛ばし、無量大数が五匹、六匹目も貫く。

断末魔も残すことなく霧散する龍。

最後の七匹目が見つからない。

「どこだ、虹よ!!」

大地が割れ。空が斬り裂かれ。
ヨキは必死にレオの姿と七匹目を探す。
衝撃波と血の余韻に絶世の美貌は著しく損なわれ。
忙しげに賢者の目が動きまわる。

「何処だ…………」

「此処だ!」

声のした方は、月の座す方角。
振り向くと、ヨキの眼に映るのは黄金月を背負う少年。

「金色の……龍……本命は、黄金か!?」

「そうだ!!」

黄金の龍がヨキの体ごと喰らう。
一口で丸ごとごくりと。

「……終わったか?」

起き上がった桐山の隣に着地した
レオは静かに首を振った。

「いや、まだだ」

その言葉が証明するように。
黄金の龍は地に落ち、大気へと溶けていった。

レオは脚を前後に大きく開いて腰を落とす。
左腕を曲げ、拳を鼻の高さに持ち上げる。

黄金龍より飛び出したのは螺旋に回転するスプンタ・マンユ。
防御を捨てて、攻撃に全てを注いだ不退転の形。

「技を借りるぜ、杉村」

特攻型スプンタ・マンユがレオの体を
粉微塵にしようと直進する。
まっすぐに、曲がることなく。

「左腕はカタパルト、右腕はロケット」

手首の回転で、特攻形の直撃をすんでに逸らし。
側面から、左腕の肘に沿えていた右の拳を、腰の動きと対応し、
後ろ足で大地を蹴って、解き放つ。

「―――――――――崩拳!!!!!」

481夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:21:34 ID:iOt70InQ0



炎が凝縮された拳の一撃。
螺旋の機械鎧は穴が穿たれ、罅が走り。
スプンタ・マンユが壊れ行こうとする。

「まだだ。黒色の解放のために。
 私は、運命からの解放を諦めは!」

拳はヨキの体には未だ足りず。
妄執の賢人は最後の力を振り絞り、レオへと千手を伸ばす。

「大した意志だ。あんたはすげえよ、ヨキ先生。
 けど、この左手はあいつの左手だ。
 あいつの左手に、あんたは負ける!!」

だが、レオは左手を突き出す。
黒赤色のアシャの手はドラゴンの手へと変わり。
ぐわり、と口が大きく開いた。

「―――――――喰!!!!!」

閉じられ、ヨキの体からスプンタ・マンユが飛び出す。
半壊したそれはよたよたと弱々しく飛び回り、
桐山のハルワタートがあっさりと水で砕き喰らい尽くした。

ひとり、遺されたヨキは仰向けに倒れ、
月を見上げ、息も絶え絶えに言ノ葉を紡ぐ。

「赦してくれ。我が同胞たちよ」

「……馬鹿だな。あんたも。
二千年の恨みなんて捨ててもよかったじゃねえか」

腹部からとめどなく血が流れ。
翡翠色ではない黒曜石の血が大地を濡らしていた。

「……それは、できない。
私は……革命家の亡霊なのだから。
蒼星石のように、在り方を変えられはしない」

「あんたはシオの父親のダチだったんだろ。
なら、忘れて今の世界で生きれば良かったんだ」

ヨキは弱々しく、首を振り。
薄れゆく視界の果てで、何かを求めて、
月へと千ではないひとつの手を伸ばした。

「赤き血の人と交わる世界に、私の居場所はない。
……行くがいい。若人たちよ。
辿り着く果ても識らぬままに、明日へと」

そうして、二千年の怨嗟を抱え続けた賢人は力尽きた。
ヨキの手は届くことなく大地に帰った。

「この先、どうする」

「闘いの、決着を」

黄金の半月を見上げ、
レオと桐山は歩き出した。

地面が震え、空気が泣き。
世界中の機械が集結する南東の空へと。

【ヨキ 死亡確認】
【キク 死亡確認】

【残り四人】

482夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:25:09 ID:iOt70InQ0


【D-6/一日目/夜】


【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
     「後悔」を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、
     ハルワタート@waqwaq(キクとクシャスラを喰らったスプンタ・マンユを完食)
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(7/8)
     レミントンM870の弾(16発)、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン、めぐのカルテ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:闘う。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。



【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
     親友との明日を取り戻し、
     胸に抱くは翠の「安らぎ」と鉄の「勇気」、
     雛は卵を割って祝福を運び、
     蒼と白の装甲は暴食の顎、
     背後に従えるのは神の武具の再現、
     赫炎のジャバウォック、
     スケアクロウは賢人を砕いて進む@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:アシャ×アールマティ×カントリーマンの玉×翠星石のローザミスティカ×蒼星石のローザミスティカ×雛苺のローザミスティカ×仮面ライダー龍騎(SURVIVE)
    エディアール家の刀@waqwaq 
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:走り続け、『世界』を広げよう
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。



【ヨキ@WaqWaq】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、BMによる火傷 (処置済み)、
     スプンタ・マンユはクシャスラの能力使用可能、首輪解除
[装備]:スプンタ・マンユ(玉四つ、ドラグブラッカー、蒼星石のローザミスティカ、クシャスラ完食)
     @WaqWaq、ヒミコのレーダー@BTOOOM!、スタンガン@BTOOOM!、
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して赤き血の神を抹殺する
1:闘う。
※神の血をあびたことで身体能力大幅上昇
※どれほどパワーアップしたのかは後続にお任せします

483夜空にかかる黄金への虹  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/01(土) 01:25:43 ID:iOt70InQ0
終了。
ヨキの状態表はミスです。
申し訳ない

484名無しさん:2012/12/01(土) 17:57:09 ID:r4JqxHCoO
投下乙です。

始まりの七つが一つ、龍喚びの鋏。

いよいよ最終決戦か

485名無しさん:2012/12/10(月) 01:44:53 ID:hEtZ1teU0
投下おつかれ様でした!
VSヨキ、遂に決着!
主催者陣営でもこいつは最初から参加者として大暴れしていたイメージがあるんだよな
だからこそ最後の主催者ってこと以上に、倒れると主催者全滅したって実感が沸く
でもなんか寂しい最後だった
レオや桐山、そしてヨキさえもローゼンメイデンや杉村でつながっていてしんみり
こいつらの一言一言に燃えたけど、でも何気に一番好きなのは蒼星石とシオの会話だったぜい

486 ◆1yqnHVqBO6:2012/12/14(金) 01:29:17 ID:uIUMTGpo0
投下します

487いつか巡りあう君へ  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/14(金) 01:31:08 ID:uIUMTGpo0

「俺の話をしたい」

ふたり、ならんで歩いていた。
てくてく、てくてく。
止まった時計の針は囀りもせず。

茫漠な荒野となった世界は暗闇の中、
巨人の胎動に歓喜の静けさを保っていた。

「俺は、この世界に来るまで。
 たくさんのことを忘れていたんだ」

桐山の隣を歩くレオはじっと前を見据えて、耳を傾けた。

「なんで忘れていたのか、思い出せないけれども。
 母が死んだ時、俺の世界は色を無くしたんだ」

「それは……心が壊れたってことか?」

「いいや。違う。
 忘れていたんだ。モノクロの世界で。
 俺は、ずっと機械みたいに、人形みたいに生きてきた」

桐山はレオの横顔を向き、話す。
レオは桐山を見ずに、足を進める。

「……俺は、この世界に来て。
 水銀燈に会って、あいつの”願い”を託されて。
 ようやく、俺の意識にひとつの灯がともったんだ」

闇が迫り来る。
闘いの余波で草木も消えた大地を
橋のように囲んで、狭めている。

「ハードに会い、翠星石に会い。
 坂本に会い。秋山蓮に会い。
 俺は、どんな人間にも何かがあって必死に生きてるんだって想い出した」

夜空を機械が覆っている。
黄金の輝きを機械の果実が隠していた。

「水銀燈に会って『涙』と『愛』を想い出した。
 金糸雀に会って『孤独』を想い出した。
 真紅に会って『誇り』を刻んだ」

桐山の歩みが遅くなった。
少し先に進んだレオが振り返ることなく
無言で桐山を待つ。

「蒼星石の死をこの目で見て。
 七原と確かに通じあって。
 たくさんの死に触れて、俺は……『後悔』を想い出した」

桐山の顔が俯き。彼の顔が影に染まる。

「俺は…………後悔しているんだ」

488いつか巡りあう君へ  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/14(金) 01:31:27 ID:uIUMTGpo0



桐山の声が震えを帯び始めた。

「俺は……ここに来るまでに大勢の人を殺したんだ」

震えは足を止めさせて。
桐山の顎から小さな水が滴り落ちた。

「ずっと一緒にいた人間を殺して。
 手を取り合おうと叫ぶ人間も殺して。
 俺に手を伸ばす人間に銃を向けた。
 愛しあった二人……杉村も、殺したんだ」

闇に囲まれた道を、少年の涙が濡らす。

「俺の周りにはたくさんの人がいたんだよ、レオ。
 父さんも、母さんも、俺の家で働いていた人も。
 俺と同じ学校に通う奴らもいた。
 でも……俺、忘れてたんだ」

少年の湿った声は機械の産声に掻き消されそうになり。
けれども、レオは確かに桐山の言葉を聞いていた。

「みんなのことが好きだったのを忘れてたんだ」

静寂が幕を降ろし。
三歩の距離を桐山の嗚咽が埋めていた。

時計はチクタク、チクタクと
過ぎる時間を教えずに。
空に産まれ来る巨人の顔が崩壊を告げていた。

強く、本当に強く。
桐山は目元をボロボロに擦り切れた学生服の袖で拭った。

「俺はまだ知らないことが沢山ある。
 金糸雀を殺した小四郎に抱いた怒りに似た感情が、
 まだ俺の中で確かな形になっていない。
 俺の新たな”願い”も、俺にどんな道を選ばせるか知らない」

止まっていた足を動かし、
桐山はレオの隣に並んだ。

「俺は、喜びだって知らない。
 俺が何をするのを喜びとするのか。
 俺は何をすれば微笑うのか。わからない」

「そう、か……わかった。
 うん、よくわかんねえかもしんねえけど。よくわかった」

そうして二人は歩き出す。
砂漠を越えて、世界の終わりを目指す。
”願い”が産み出す機械の巨人へと征く。

「そういや、さ。
 七原ってどんな奴だったんだ?」

「……どう?」

「杉村も言ってた名前だから気になったんだよ。
 もう死んだけど。しょっちゅう人に騙される莫迦だったとか」

七原秋也。同級生。
もう死んだ彼。ハルワタートに封じられた魂魄。

慣れない手つき、思考の海を探り。
桐山はたどたどしく貧弱な語彙から相応しいものを見つけようと奮闘する。

けれど、ぴったりなものはすぐに見つかった。
そこに真紅が教えた感情を添えて、桐山は言った。

「七原は俺の『自慢』の友達だ」

レオは口元を綻ばせて、
桐山の背中を勢い良く叩いた。

「教えてくれてサンキューな。
 じゃあ、行こうぜ。闇で分断されちまったけど。
 キャンチョメもきっと同じ場所を目指してる」

そうして、桐山は赤くなった瞼をまばたかせ、
小さく口元に笑みを浮かべた。

「……オーケイだ」

489いつか巡りあう君へ  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/14(金) 01:32:06 ID:uIUMTGpo0



【???/一日目/夜】


【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
     「後悔」を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、
     ハルワタート@waqwaq(キクとクシャスラを喰らったスプンタ・マンユを完食)
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(7/8)
     レミントンM870の弾(16発)、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン、めぐのカルテ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:アリスゲームを守る。そのために影の男を殺す。
1:闘う。
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。



【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
     親友との明日を取り戻し、
     胸に抱くは翠の「安らぎ」と鉄の「勇気」、
     雛は卵を割って祝福を運び、
     蒼と白の装甲は暴食の顎、
     背後に従えるのは神の武具の再現、
     赫炎のジャバウォック、
     スケアクロウは賢人を砕いて進む@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:アシャ×アールマティ×カントリーマンの玉×翠星石のローザミスティカ×蒼星石のローザミスティカ×雛苺のローザミスティカ×仮面ライダー龍騎(SURVIVE)
    エディアール家の刀@waqwaq 
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:走り続け、『世界』を広げよう
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。

490 ◆1yqnHVqBO6:2012/12/14(金) 01:32:22 ID:uIUMTGpo0
短いですが投下終了

491 ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:11:33 ID:RZelqrEU0
投下乙です!
ミツルとオンバの闘いは燃えて燃えて!
最後はミツルの意志がオンバを救ったのはああ、よかったなあって。

桐山とレオ、ヨキも最後まで熱かったなあ。
戻れない、ヨキ。戻った桐山とレオ。
どこまでも、進む二人の果てはいったいどこまで行くのか。

それでは投下します。

492ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:15:16 ID:RZelqrEU0

「終わったみたいだね……」

眼下の大地での死闘が終わりを告げ、雪輝は薄く笑みを浮かべる。
勝者はレオと桐山。最大の障害と考えていたヨキは、脱落した。
これは雪輝にとって予想外。
彼は、ヨキが勝つと予測していたからこの結果には少し、表情を崩してしまった。

「それでも、僕の計画は揺らがない……最後まで、進む」

雪輝の目には曇りはない。
こんなはずじゃなかった全てを取り戻すまで、決意は緩めない。
視界を下から前に戻し、女神への道を歩もうとした時。

「電話……?」

雪輝はズボンのポケットでブルブルと震える未来日記――携帯電話を取り出した。
そして、画面に映し出されている名前を見て、口を少し歪めて笑う。

「やあ、もしもし。驚いたなぁ、君が僕に電話をかけてくるなんてね」
「……久しぶり。いや、数時間ぶりとでも言えばいいのか。天野雪輝」
「どうでもいいんじゃないかな、そんな些細なことなんて気にしても仕方ないよ、ミツル。
 すごいね、まさかまだ生き残ってるなんて。あの時に電話番号を渡しておいてよかったかな?」

電話口の向こうにいるだろう『勇者』に、雪輝は惜しみない賞賛を送る。
その賞賛に嘘はない。雪輝は本心からミツルのことをすごいと思っているのだから。
オンバを相手にとって五体満足で生き残るミツルは間違いなく、強者だ。
油断などできるはずがない。

「それにしても……どうしたのかな? 僕に電話をかけてくるなんて」
「天野。お前が……」
「そうだね、隠しててもしょうがないか。この終わらない夜と黒い太陽の原因についてかい?
 オンバが消えた今、完全に僕の掌の上だね」

全ては『僕』の掌の上に。雪輝は、最初からオンバなどに期待なんてしていなかった。
彼女との邂逅から彼女の終わりまで。
雪輝は『一度』もオンバを信用などしていない。

493ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:16:58 ID:RZelqrEU0

「彼女にはがっかりだね。あれだけ自信を持って出たのに返り討ちなんて。
 意気揚々と行った癖に役に立たないなんてがっかりだよ」
「返り討ちじゃない。彼女は僕の中で生きている」
「同じ事じゃないか。結局は彼女も諦めた。所詮はその程度の愛だったってことだよ」

どんな理由があろうとも。
オンバがワタルとの永遠の世界を諦めたことは明らかだ。
それは、ミツルが勝ち、オンバが負けたことで証明されている。
くっくと喉を鳴らしながら雪輝は嘲笑う。

「安くて薄っぺらい愛だよ。その程度でワタル君と添い遂げようだなんて……失笑ものだ。
 一生、地獄に篭って妄想でもしていればいい。それが化物女にはぴったりなんじゃない?
 あははははっ! ほんと、傑作だね。穢らわしい祝福を君に残してまで生きたかったのかなぁ!」
「……お前にオンバの何がわかる」
「わかるつもりなんてないけど。どうせ、最初から切り捨てるつもりだったし」

雪輝にとってはオンバなど駒に過ぎない。
チェスで現すならば、クイーンといった所か。
クイーンによる残りの駒の殲滅を目論んでいたが、当ては外れてしまった。

「使えない駒のことを理解する必要があるかい? 下らない愛に身を焦がす化物にね。
 哀れだよねぇ。最後の最後まで彼女は勝者になれない」
「それがお前の本心か?」
「へぇ……君がそんなことを言うなんて。心境の変化でも?」
「お陰様でな」

雪輝は僅かの会話でミツルに起こった変化を読み取っていく。
最も、記者の能力によりある程度の事情はわかっている。

(まあ、僕にとっては好都合かな。前みたいに無差別な状態よりはマシだ。その甘さ、利用させてもらうよ)

利用できるものは何でも利用しなければいけない。
雪輝は、ミツルやレオ、桐山とは違い弱いのだから。
弱いからこそ、口先で相手を弄ぶのだ。
少しでも、自分の方へと天秤を引き寄せる為に。

494ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:18:06 ID:RZelqrEU0

「ま、いいよ。それで用件は?」
「……もう、止まらないのか?」
「冗談。僕は“願い”を叶えるまでは止まらない」

全部をチャラにしてやり直す。
その為に、ここまで進んできたのだ。
歩むはずだった未来も。手に入れるはずだった仲間も、幸せも。
掴むはずの可能性を犠牲にしてこの境地まで辿り着いた。

「全部やり直せるなら。偶然が必然に変わるなら。僕は迷わない。“願い”を叶える為に、ね」
「……それで、満足なのか?」
「満足とかそういう問題じゃないんだ。やらなくちゃいけないんだよ。
 それ以外に何があるのさ。完全無欠のハッピーエンドがほしいんだよ、僕は」

雪輝にはもう大切な人はいない。
誰も彼もが自分の前で死んでいった。
もはや、この喪失は運命を変えることでしか埋めることは出来ないのだ。
なればこそ、雪輝は女神の奇跡を望んだ。
奇跡をによる救済によって、やり直しを行おうと黄金の螺旋階段を作ろうとしている。

「嘘だな」
「はぁ?」
「嘘だと言ったんだ。天野、お前は嘘をついているよ。やり直しを望んでなんかいない」
「意味がわからないよ。僕が嘘をついている訳ないじゃないか。
 やり直しを望む事以外の“願い”があるとでも?」

それは、本心からの問いかけだった。
今まで歩んできた道以外にも道があるとしても、もはや手遅れ。
やり直し以外など考えない。否、考えたくない。

「お前自身、本当は認めているはずだ! 両親や友人、恋人の死も。それを含めて、お前の本当の“願い”は―――」

そう、わからない。わかりたくもない。

「思いっ切り泣くことなんじゃないのかっ!」

泣きたいと思うこの心も、きっと嘘なのだろう。
涙を流してはいけない。流してしまったら、立ち止まってしまうから。
しかし、最後の言葉は涙を流すまでに至らなくとも、雪輝の胸を確かに貫いた。
ブツン。指が勝手に通話の停止を行なっていた。

495ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:19:55 ID:RZelqrEU0

「はは、あは」

泣きたいんじゃないのか。
ミツルの口から出た言葉は余りにも予想から外れていて。

「あははははははははははっっ! ははっ、ははっははっっげほっげひょっは、は。はははははっあひゃははははははっ!」

思わず笑い声が絶え間なく出る程に――滑稽だった。

「泣きたい? そんな弱さを認めてくれなかったのは世界……“願い”に狂った君達だったじゃないか。
 それが今更泣いてもいいんだぞって? は。ははっ」

狂笑が無人の塔に響き渡る。雪輝は喉の中の水分が枯れて、声が出なくなるまで笑い続けた。
笑って嗤って笑い尽くした果てに。雪輝の中にあったのは、怒りだけだった。

「ふざけるなぁぁぁあああああっっっ!! いけしゃあしゃあと正義の味方気取ってさぁ!?
 レオナルド・エディアールも!!! 桐山和雄も!!!! ミツルも!!!!
 お前達みたいな“願い”に狂った奴等がいたから! 父さん達は死んだ!」
 
雪輝が掴むはずだった父との平穏は、ジョン・バックスのような高潔な“願い”を持った者に潰された。
十の内、一を切り捨てて九を救う。
雪輝達は一に分類され、切り捨てられた。

「この蜘蛛の糸のデータベースで知ったよ! 妹を蘇らせる為に幾多もの屍を積んだ血塗れの旅人! バトル・ロワイアルで大量虐殺した殺人者! 
 頭痛を治す為に阻む者を踏み躙ってきた防人っ! その君達が僕を止めるなんてさぁ!
 はははっ! 柿崎めぐを殺してでも止めれる気なのかなぁ! 正義を示せるのかなぁ!!!」

雪輝は機会の巨人が起動するまでの間、残りの参加者について詳しく調べたのだ。
データを漁ってみれば全員が全員、真っ当な道を歩んできた者ではない。
狂いに狂った外れものばかり。
その外れものが真っ当な道を歩もうとしているのだから実に面白い。
面白すぎて、憎々しいではないか。

496ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:20:55 ID:RZelqrEU0

「いいさ、勝手に正義を気取っていればいい。真っ向から闘うなんてやってやるもんか。
 無意味で無価値な君達に構う余裕はないんだから。救えるものなら救ってみればいい」

柿崎めぐは、既に機会の巨人に組み込んだ。
彼女は踏み躙る価値もない石っころだ。
直にやってくるだろうミツル達と精々踊ってもらう。
救いたければどうぞご自由に。
最も、その間に自分は“願い”をこの掌に引き寄せるから。

「“願い”を叶えるのは僕だ。玉座も勝利も仲間も未来もくれてやる。だけど、この“願い”だけは……過去だけは! 誰にも渡さないし汚させない!」

ああ。もう少しでやってくる。
赫炎のジャバウォックを従えたスケアクロウがやってくる。
飛べないスケアクロウがやってくる。
そのまま、地面を這いつくばっていろよ、スケアクロウ。
自分の炎に焼かれて燃え尽きてしまえ。

「時よ、動け」

概念を取り戻しつつある人形がいくら足掻こうと、本物に敵うものか。
柿崎めぐと共に朽ち果てろ。薔薇の乙女達の“願い”など時空統べる王にしてみれば小さいものだ。
現に雪華綺晶は実に、軽かった。その“願い”は有効活用して最後に救ってやろうじゃないか。

「世界よ、枯れ落ちろ。全部、全部だ。無意味の海に消えてくれ。無価値の底へ沈んでくれ」

星の数ほどの血に汚れ? そのまま真っ赤に染まって死んでしまえ。
本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど? ただ、諦めてしまっただけだろう。本当の笑顔なんてやり直せれば取り戻せる。
過去に捨てた輝きを拾い上げ? 今更拾い上げた所で遅い。すぐに闇に染めてくれる。
魔王の祝福が雷電を纏わせる? どんなに祝福を受けようとも、踏み潰そう。嫋やかな花を踏み潰すが如く。
《魔導師》は白銀の剣士へと職を変え? くすんだ白銀など何者にも劣る。
魔狂姫の尊き祈りが胸に宿り? 尊き祈り、笑わせる。穢らわしい不相応な祈りなど、那由多の愚物に過ぎない。
此処に勇者は帰還した? そのまま地獄へと堕ちてくれ。僕の道に阻むな。

ああ、そうだ。邪魔なんだよ。これ以上、“願い”への階段を塞ぐなよ、気持ち悪い。
その過程で、涙を流す機会などいらないんだよ。
永劫の“願い”に捧げる最果てまで。
振り返ることは、しない。

497ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:22:58 ID:RZelqrEU0

「許しは請わないよ、ミツル。さぁ、馬鹿みたいに狂おうよ。それが一番楽で――」

――痛みを忘れられるんだからさ。

最後の本音は、どうしても出せなかった。
出してしまったら涙が止まらないような気がしてしまうから。

そして。そして!
遂には、蜘蛛の糸の頂上黄金の螺旋階段が生まれ落ちる。
それは女神の元へと至る道。
女神が謁見を許可したのだろう。

「女神へと至る闘い。言葉にすると『ロワイアル×ロワイアル』かな。短くして、ロワロワとでも言った方がいいか」

さあ、登ろう。
この階段の先に、女神がいる。
余計な言葉は要らない。“願い”を叶えてくれさえすればいい。

「止めたいなら……追いかけてくればいい。ミツル、君が望むなら――」

世界が終わるまで。後、数時間。

498ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:23:48 ID:RZelqrEU0



【蜘蛛の糸/一日目/夜】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:差し伸べられた手の数だけ、血に汚れ、
    本当の笑顔を取り戻すことを恋焦がれて、
    過去に捨てた願いを拾い上げ、
    少女の祝福が虚無を纏わせる
    《記者》は時空を統べる王へと職を変え
    少女の最後の祈りが胸に宿り、
    此処に勇者は帰還した、
    そして、勇者は――@ロワイアル×ロワイアル
《真時空王》
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(12/15)@未来日記、IMIウージー(25/32) 、プラ@waqwaq、旅人の証、《職業:時空統べる王》
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする
1:もう、迷わない。願いを叶えよう。

[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づきかけました。それでも、願いは変わらない。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました
※《記者》の能力で下界の状況をある程度まで感知できます。
※時が動き始めました。

【D-6/一日目/夜】

【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
 [状態]:星の数ほどの血に汚れ、
     本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど、
     過去に捨てた輝きを拾い上げ、
     魔王の祝福が雷電を纏わせる、
     《魔導師》は白銀の剣士へと職を変え、
     魔狂姫の尊き祈りが胸に宿り、
     此処に勇者は帰還した、
     そして、勇者は――@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ワタルの剣、不恰好な粘土細工@金色のガッシュ
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
    不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、不明支給品(ノールの)、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:『対話』
1:救う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。
※これは雪輝が雪華綺晶とティオを殺す前のお話です。
※オンバはミツルと同化しました。

499ロワイアル×ロワイアル――過去ノスタルジア ◆W91cP0oKww:2012/12/16(日) 22:25:10 ID:RZelqrEU0
投下終了です。

500名無しさん:2012/12/16(日) 22:31:04 ID:vEDiARn60
投下乙です!
ユッキー……なんというかユッキー……
ユッキー……おおう、もうユッキー……

501名無しさん:2012/12/16(日) 22:33:01 ID:vEDiARn60
なんというか最終決戦前章だわ
ユッキーもなんというか憐れ過ぎるわ
でも泣いたら泣いたでザマア感も凄いわユッキー

502名無しさん:2012/12/17(月) 18:46:24 ID:kHuZD0tQO
投下乙です。

ラスボスが主人公で、それに立ち向かうのはライバルキャラ三人なんだよなあ。

503 ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:32:15 ID:.hQ12M5g0
投下

504れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:33:46 ID:.hQ12M5g0


螺旋階段、光を帯びた長い階段。
勇者ミツルは天野雪輝が登る階段を。
桐山とレオはもうひとつ新たに産まれた階段を登る。
交差しても交わることなき、道のり。
疾走っても走っても終わらないようにも思える果てしなさ。

終わりを告げる扉に至る前に、
二つの階段は広く深い踊り場へと少年たちを導いた。

「また、会ったな」

最初に口を開いたのはミツル。
対面した桐山とレオナルドは油断せずに獲物を構え、
勇者へ、疑惑と警戒がこもった目を向けた。

「キャンチョメはどうした?」

「僕が殺した」

「落ち着け、レオ! ……おまえは何者だ」

それだけで、今にも飛びかかろうとしたレオを
桐山が押さえつけて、ミツルへと尋ねた。

「……やる気か?」

「いいや。僕にはもう叶えるべき”願い”はない」

「そんなこと言われて信じるとでも」

「よせ、レオ。
 おまえ、七原と一緒に闘っていたな。
 どこでそんな黒い肌を身につけた。
 黒人の肌よりもずっと黒いぞ」

眉を上げて、感心と自虐に唇の端を吊り上げ。
ミツルは二人の少年から目を離し、空を見上げた。

「どうやらもう一人は冷静……の、ようだ。
 お前たちも見てみろ。上空を」

ミツルにつられて桐山とレオも空を見上げる。
気づかない間に階段は夜空の天蓋を越えた高さへと至り。
間に合わせの頂は既に過ぎ去った蒼天の深淵になっていた。

少年たちの踏みしめる大地は、丸い水盆となり。
蘭奢な意匠で造られた水盆の縁は童話の装丁の美しさ。
そこに、無感情な叫びが木霊した。

『G,UOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

地面、あくまで水の似姿でしかない床は波打たず。
空に浮かぶ巨人の顔にぽかりと開くみっつの空洞のひとつ
は産声が如くにけたたましく泣き続ける。

「……あれは、機械の巨人って奴か」

「知っていたのか、レオ?
 何故、此処に来るまでに言わなかった」

「べつに言う必要がないからだよ」

巨人はぼとりと、熟れすぎて
枝から落ちる果実と同じ緩慢な速度で
ぶらりと垂れ下がった両腕から落下した。

自重に藻掻く機械の巨人は四つん這いとなって。
巨大過ぎる体を支えるだけに必死だった。
だが、その全長は果てが見えずに。
夏の昼間にかかる入道雲よりも大きく、長く。

『GUOOOOOOOO!!!』

桐山たちに向けられた顔だけでも
小さな山ほどの大きさを持っていた。
叫びが産み出す豪風で服がはためき、
髪がもつれて、形が乱れる。

「シオの記憶にあったのより何倍もでかいな……
 気をつけろよ。見たままのヤツだ!!」

「それで? 僕のことはいいのか」

「うるっせえ! どうせお前ものうのうと掌かえした口だろ!!」

「そうだ。そしてこれを産みだした男はそんな輩を赦せないらしい」

「そうなのか。気持ちはわかる……気がする。
 秋山蓮やチャンや小四郎を、
 心から受け入れられるかと言われたら……」

「おい、桐山!?」

「だがやるしかないというのもわかる」

背後に従えるハルワタートへと手を翳し、
桐山は巨大な機械を見据えた。
眼をこらせばその体躯を形成しているのが無数の機械の密集だとわかる。

「――変身。そして、合体だ。ハルワタート」

「完全合体だ。アシャ、アールマティ」

「《勇者の剣》」

505れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:35:20 ID:.hQ12M5g0



――――――。

  

クエスチョン、人の営みとは?



――――――。




浮遊感がある。
ふらふらと、足元がおぼつかない。
まっすぐ歩けているかもわからない感触。

巨人の腕で薙ぎ払われた。
それだけの衝撃で空間が弾け飛び。
風圧で立ってはいられない。

指先を動かすと、ぴんと糸を張った感触。
機械の巨人に巻きつけておいた弦が桐山の位置を正す。

桐山の横を虹色の龍が駆けた。
同時に桐山の背後から黒鉄の肌に
白金色の雷の鎧を纏った勇者が翔んだ。

「動きが直接的だな……闘いを知らない動きだぞ」

「だがこの背後には天野雪輝がいるはずだ。
 気を抜くな。奴は、はっきりとした底知れない驚異だ」

巨人がレオとミツルを一挙につぶそうと
両手を眼前にて叩き合わせる。
だがその手をひらりと躱して巨人の頭上へと回りこむ。

巨人の動きはレオが言うように直接的なもの。
目の前で敵が動けばそれをはたき落とそうと動き。
外れれば徐々に冷静さを欠いたものになっていく。

巨人の頭上から顎の先までを
二筋の線が降りて、引き裂いた。
虹の炎と白金色の電撃が巨人の顔に涙の筋を描く。

『GUOOOO』

巨人は怯まない。
無機質な咆哮とともに腕をやたら滅多に振り回し。
ミツルとレオを追い回す。
癇癪を起こした赤ん坊と言えば可愛げがあるが
巨人が持つ威圧感と偉容があらゆる無垢の愛嬌を掻き消した。

「今だ、桐山!」

レオの叫びに応え、
桐山の手、その指先から縦横に伸びた真紅の血の糸が
機械の巨人の頭部をぐるりと囲んで絞殺の形になる。

ぐい、と勢い良く、渾身の力で腕を引くと
綿毛のぬいぐるみのようにぽん、と巻きつかれた箇所から頭が外れ。
ごとり、と落ちれば頭部を象っていた機械群が霧散する。

「両腕は俺に任せて心臓部へ進め!」

再度、結集しようとする機械群を焼き払い、
むくむくと生え出るように集まる機械を潰し。
レオに後ろを任せて桐山とミツルは巨人の背を駆けていく。

「この手のゴーレムは操縦者の知能が物を言うんだが、妙だな」

「こういう物を操縦したことがあるのか?」

「この世界に来る、直前にな」

苦いものが混じっていうのは敢えて無視し。
桐山は流れる景色と激しく動きまわる戦闘の中で
咄嗟に言葉を選び、口にした。

「……俺も子供の頃は。こういうのをよくTVで観た。
 俺は、格好いいと思ってたと、記憶してた」

背中に長い巨人の背中へと勇者の剣を突き刺し、
斬り裂いて、巨人の動きを鈍くし。
桐山の発言を聞いたミツルはけげんそうに桐山を見た。

「そう、か」

「だが、やはりこうして実物を見ると。
 たまったものでは、ないな……」

歯切れの悪い桐山の話し方に
ミツルは苦笑を漏らし、何も言わずに前を向いた。

506れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:36:19 ID:.hQ12M5g0



桐山が赤色の血。
キクが遺した地下水道の破裂。
それで補充した低純度の血を
ナイトの剣とレディアール家の刀に纏い。

双剣が巨人の背中をずたずたに斬り裂き
中に詰まっていた機械に刻まれたプログラムを書き直す。

「……天野雪輝の”願い”は何なんだ?」

「誰も彼もを救いたいらしい。
 僕も、お前も、一切合財をだ。
 きっとチャンのような男も救うつもりなんだろう」

積年の怨みと宿命を入力されていた機械達は
桐山の斬撃に解放されて巨人から少しずつ離れていく。

「それは……無理な”願い”だ」

「へえ?」

「俺はこの世界に来て、救われたんだ。
 だから、きっと全てを救うには殺し合いの記憶はあっては駄目だ。
 だから、そうだ。その”願い”は俺がいるから、破綻する」

「ならそれを天野に教えてやれ」

巨人の咆哮が鳴り止まない。
頭部を喪い。両腕はレオによって足止めされ。
全身を震わせて巨人は哭いていた。
もっとも、あくまで機械の群れが
動くときの電子音声の集合に近いのだから。
あくまでも気がするだけのことなのだろうが。

だが、そこに、どこか。
少女の慟哭が溶けているようにも、思えるのは。
桐山の錯覚なのだろうか。

動力源にされているらしい彼女の嘆きが
暴力を一心不乱に撒く巨人の中にも存在しないのだとは、
桐山には思えなかった。思いたくは、なかった。

足を動かし、でこぼこの巨人の道を走る。
悶え苦しみ背中を揺らす機械の巨人の背中を駆け抜け。
首筋を越え、肩を降り、徐々に足の裏から伝わる熱が高くなる。

「この下がきっと心臓部だ」

「プラとかいう機械は結局見なかったな」

「天野と一緒にいるんだろうさ」

足元に剣を突き立て機械の山をこじ開ける。
その際に多脚型の機械の脚が一斉に激しく動き出すが襲いかかる気配はない。

目を凝らし、深いところまで見通そうとすると。
かすかな隙間から蛍の光のように小さな灯、燐光が見えた。

「呆気なさすぎる……」

「あいつも精々足止め程度にしか思っていなかったのかもしれない。
 しれないが、用心はしておけ。いざとなったら雷速で助ける」

桐山の周囲を警戒し。
上下に揺れる視界の中で紅い血の糸で命綱を結ぶ。

念の為に新たに手に入れたノーコストの
分身体を産み出して奥へと探りに行かせるが罠の様子はなく。
似姿を消去し、桐山自身が心臓部へと進むことに決めた。

巨人の体内へ飛び込む蒼黒の鎧は、一瞬だが蒼天の光を反射し。
ミツルは僅かな不安を押し殺し桐山の侵入を見送った。


潜り、潜り。機械の中を真っ赤な血を削り、
消耗し、進んでいく。細胞とも言うべき機械の一つ一つが
こうして直に触れると明確な意識らしきものがあるとわかる。
熱、エネルギー、ジュール、電気、発電。

人で言えば、そう。
生命の証とでも呼ぶべきもの。

――なんで

桐山の額に痛みが走る。
この痛みは、もう何の予兆かわかっている。
忘れた物を取り戻す為の痛みだ。

――なんで

痛みには拘泥する余裕はない。
無数に蠢く機械の中、接する血の量は
あくまで最低限でなければならない。
最新の注意で水量をコントロールしつつ、潜る。

――なんでよ

機械の体内を掻き分けて、
少年はついに機械の巨人の心臓部へと辿り着いた。
太陽のように光で機会を照らし。
辛うじて人型と判断できるくらいのシルエットだけがわかる。

腕で眼に飛び込む光を軽減し。
一歩ずつ、桐山は光へと歩く。
光りに照らされた、光の道を歩む。

「……柿崎めぐ」

近くへ、近くへと。
桐山は足を動かし、動いた後には轍となって
解放された機械が飛び回る。

「俺は、おまえを――」

光の目前まで桐山は歩き。
桐山は、光の、赤き血の神へと手を伸ばす。
七原秋也が、そうしたように。
水銀燈が、そうしたかったように。

「――助けに来た。だから、出てきてくれ」

簡単な、けれど確かな力を込めて。
今の少年に出来る全ての力を込めて。
桐山和雄は、今の持つ人間性全てを載せて、手を伸ばす。

507れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:36:47 ID:.hQ12M5g0



――どうして

ずきん。
桐山の額に痛みが走る。

――どうして  なの

ずきんずきんずきん。
痛みが強くなり。どんどんと、思考を奪い始めた。

――どうして   じゃないの

「……痛っ…………」

もうどんな形にも例えられない。
言語を絶する痛み。思考もできない痛み。
これは、偏頭痛と呼ぶべきものなのか。

――それは、頭痛を訴えてたんだろ?

レオとの会話が脳裏をよぎる。
痛い。体中が痺れて、足を、止めてしまう。
手が……………………心が、落ちてしまう。

――なら、心が壊れていたんじゃないのか。

「ぐぁ、あああ!」

『僕に君が救えないと言ったね』

耳元で、いいや。
光の背後で、誰かの声が聴こえた。
これは、そうだ。放送の時に聞いた。

『君にも、救いの世界を用意したんだ』

――どうして、あなたなのよ。

桐山の周囲を二つに割れた球体が取り囲む。

『さようなら、桐山君』

――貴方なんか…………だいっきらいよ!!!!!!!!!!

「ハルワ、タート! いいや、スプンタ・マンユだ!!
 頼む、ミラーモンスターに乗って! 逃げろ!!
 必ず、戻るから! 絶対に!!」

桐山の影からミラーモンスターが現れ、ハルワタートを掴み。
桐山から遠く離れて逃げようとする。
解放された機械は徐々に再集結をしだし。

ミラーモンスターが呆気無く潰されるのが見え。
護神像も、機械の群れに押し潰されようと――――

――気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

視界が狭まっていく。
世界が暗闇に落ちていく。

『君をも、救い。
 こうして僕の”願い”の穴は埋まる』

――もう、わたしに近寄らないで

桐山は異世界へと、落ちていく。

508れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:37:44 ID:.hQ12M5g0




――――――。


クエスチョン、命なき世界で人の営みの証明は可能なのでしょうか?



――ザザザザザッ。



      アンサー、黙れ


―――――――。



##############


「桐山! おい、桐山!?」

「無駄だ。もう完全に取り込まれた!
 くそっ、あいつが天野への鍵だと見ていたが……」

「機械の巨人が……再生している」

レオとミツルの前で機械の巨人は四つん這いから起き上がり。
はっきりと二本の足で立ち上がった。

「……これは……?」

「これからが本番ということだ。
 あいつの上で僕たちはまんまと踊らされたということか!」

「桐山は!?」

「わからない、今は目の前の出来事に集中しろ!
 アレには、完全な未来予知がプログラミングされているはずだ!!」

「おい、なんだよあの動きは――があっ!?」

「あの動きは、チャン!?
 そこまで出来るか! この闘いで産まれた化物は!」

「いってえなクソッ。初めから全開だ! 黄金の龍!!」

「すまない。真の姿を、借りる。シン・ポルク―オンバ―」


##########


参の支配者が”願い”のエネルギーで形にしようとしたものは三通り。

ひとつは、オンバ。
宝貝・四宝剣と名付けた存在確率へ干渉する剣。
ひとつは、ヨキ。
あらゆる殺し合いを制する神とも呼ぶべき
超人、ハイデガーと名付けたプログラムを護神像へインストールするもの。
そして、神崎士郎。
未来日記の予知と行動パターンをリンクすることで
最強のミラーモンスター、機械の巨人を産み出す。

「やっぱり、相性が良い」

天野雪輝が引き継いだのは《歴史の道標》神崎士郎の描いたもの。
殺し合いの終焉を招き、完全なる力によって”願い”の成就をもたらすため。
黄金螺旋階段を登る天野雪輝は絶えず未来日記をチェック、更新し。
歩を止めず頂へと邁進する。

「残念だったね」

心臓部へと至るのは桐山和雄。
それも読めることだ。彼だけが今や唯一の純正の赤き血の持ち主なのだから。
そして、彼を招待する。デウスの核で創った
無限に廻り続ける理想的な永遠の今日を営む世界へ。

「やったんだ。僕は!」

逸る気持ちを抑えられない。
足をひたすらに動かして荒くなった息を残った冷静な感情で調整し。
黄金螺旋階段は漆黒の太陽の隣に座す黄金の月へと続いている。

「君達は神崎めぐを救うことが出来ない」

天野雪輝は次第に駆け足となって
十段飛びに階段を駆け登る。

「彼女はこの世界の誰とも違う。
 人殺しまでは許容できない精神の持ち主だ!
 君たちを助けてきたのは、助けられたのは全てを赦そうとする心の持ち主だけだ!
 でも、彼女は救えない! 彼女の花嫁ではない、
 汚らわしい血の汚濁に全身を浸した君たちには!!」

闇雲に走る。駆け上がる。
息を切らせて目の端に歓喜ともつかぬ涙の粒を乗せて。

「これは復讐だ! これは復讐だ!!
 運命への! 世界への!
 人を殺した原因を赦すな!!
 遺された者の悲しみを赦すな!!
 命が幸福になる前に潰える理を――赦すな!!」

雪輝に笑みが浮かぶ。
愛する人の顔が浮かぶ。
父の顔が、母の顔が友人たちの顔が浮かんでいた。

509れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:39:03 ID:.hQ12M5g0







「由乃、君を……救ける」

「桐山君だって救ってみせたんだ。
 あのチャン右頭や七原さんだって救える。
 北岡さんだって救える。
 浅倉威だって救える。
 ガッシュとゼオンも。
 城戸さんと秋山さんも。 三村くんもパピプリオくんも。 弦之介さんと朧さんも。 霧島美穂さんも。 
 キャンチョメと杉村くんと9thも 宇谷さんも。陽炎さんも。 
 香川行部ブック水銀燈 乾カントリーマン筑摩小四郎ハード真紅 ミツルワタルオンバムルムル来須さん
 相馬光子ノール金糸雀だって救える。 
 ティオも7thも雛苺も津幡共仁ヒミコ坂本ウマゴン是方昭吾猿谷甚一蒼星石翠星石 
 吉良平、シオレオナルド・エディアールヨキ、キクコト神崎士郎。そして薬師寺天膳。
 お待たせ、この世界のみんな! 忘れていないよ、元の世界のみんなも一緒に僕が!
 この、僕が――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「そして、ひとり。忘れていないかい?」

510れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:40:06 ID:.hQ12M5g0


――――――。



クエスチョン、これは黄昏の世界。

      神々の終焉をも越えた。

    今なお紡がれるお伽噺の一ページ。

人は、殺し合いによる世界の再生という理になにを求めるか


    アンサー、あなたなんかに告げるのは”願い”だけでいい


―――――。



――――ザザザッ。

ありえない音が手元より響いた。
未来の書き換え、今になってまだ?

「忘れてはいけない最後の名前。
 君が、眼を逸らす名前を俺は突きつけよう」

こつん、こつん、と天野雪輝よりも先の階段を降りてくる足音。
呆然と視線を上にずらすと、学生服の裾が見えた。
はだけた上着に真っ白なYシャツ。どこにでもいる、
ちょっとふざけた少年の格好だった。

「そんな、そんな莫迦な……!?」

「君が犯したミスは、そうだ。
 君は死者への注意が甘かった。
 死人が遺した想いを、君はずっと見なかった。
 だから、君は死者をひたすらに救おうとした」

姿が、完全に天野雪輝にも見える距離まで来た。
その姿は、死者の姿。情報によると、
桐山和雄に完全に喰われたはずの――――!?

「逆転の一手のひとつ。
 君と、機械の巨人の分断」

「ふざ、けないでよ!!
 今更! 今更になって!!」

「君にはわかるはずだよ。
 スプンタ・マンユの権能が」


############

スプンタ・マンユの力。
特筆すべきは無限に広まる分身体。
そして圧倒的な攻撃力を持つ手。
加えて、人の心を映し、
鏡となって己の姿を変えて行動できる。
珍しい従属式自律行動タイプ。

##############


「あいつの中に、俺はいる。
 どんなに分かたれようと、俺はいる。
 幻異とか、そんなんかもしれないけども。いるのは確かだ」

狼狽える天野雪輝は慌てるあまり、
掌から携帯電話を零しかけてしまう。
みっともなく喚いて両手で包み込む。

スプンタ・マンユ。
ハルワタートより一時的に分かたれたその護神像は今、
もうひとつの黄金螺旋階段よりやって来た。
桐山和雄となんら変わらない道を、歩いて!!

511れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:41:22 ID:.hQ12M5g0



「俺は、俺達は、終わらない殺し合いの理を享受した世界に、
 巻き返しの薇螺子を挿し込もうと思う。
 俺達にできるのは、悔しいけどそれくらいだって思った」

天野雪輝が、階段を迷わずに降りてくる相手に気圧されて、後退した。
足元は既に、階段から裁定の水盆へと変わっていた。

「この計画、名付けるならば俺の敬愛するレノンから取ろうと思ったけど。
 俺はなんかそれっぽく『封神演義』と名付けた。
 良い名前だろ? 神の理も、歴史も、少しだけ人間に譲ってもらう。
 あ、そうだそうだ。君は知ってるかわかんないけどさ。
 俺って漫画版読んだあとに原作読んだからさ。
 太公望がふっつーに仲間を斬首しようとすんのがショックでさあ。いやあ、ねえ?」

ぷしゅん、とスプンタ・マンユの体を白い湯気が噴きだした。
白く、軽やかな煙が一足先に巨大な満月へと昇っていく。

「くそ、クソ、畜生!
 いいよ、結局は野良の護神像一体だ!
 僕に敵うものかよ!! 片付けたらすぐに下界の大掃除だ。
 片手間なんていう油断はもうないよ!」

スプンタ・マンユの足が軽やかに床から離れた。
一陣の風となって、天野雪輝の腹部に足を叩き込む。
予想外の攻撃、想定外の威力。これではまるで

「生者そのものじゃないか!」

「この中には七原秋也の血肉が入っている。
 それを蒸気動力の原理で燃やし、エネルギーを産み出している。
 命のない、極寒の地でもたしかに上がる旗を見ろよ。
 ……なんつって。俺ってすっげえ、かっくいい!」

白い煙は赤に染まり。
赤い旗が天野雪輝の周囲を縦横無尽に駆け回る。
その手にはレオの刀が。その手には川田省吾の散弾銃の片割れが。

「無駄だと、思わないのか!
 桐山和雄があの世界から抜け出せるはずがないよ!」

「あいつは『自慢の』友達だぜ? 抜け出せるさ。
 そして。君にだって、抜け出せる!
 君も確かに持ってた光を、取り戻せば君にも、誰にでも、あんな世界!!」

「七原……秋也ぁ!」

「おっと、俺はあくまであいつの光の鏡合わせ。
 コードネーム・ワイルドセブンでよろしく頼むぜ!
 血肉を燃やし尽くすのは30分後の未来。
 そんなになんでもかんでも救いたいなら乗り越えてみなよ、ユッキー!」

「七原秋也ァ!!」

「……なに、みんなして浪漫がわかんないの?
 ちぇっ、オーケイオーケイ。じゃあ、さっきの続きだ。
 宣言するぜ、俺達は世界に!」

目にもとまらぬ速さで動く護神像スプンタ・マンユ……ワイルドセブンは
天野雪輝の目の前で立ち止まり。
時空王へと指を突きつけ、宣言した。

「君が救うと誓った名前に、
 『天野雪輝』を加えよう。
 俺達は、君も、陽のあたる世界に連れて行く」

512れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:41:59 ID:.hQ12M5g0





――――――。



アンサー、これが答えのひとつだよ女神様。
     たなびく真っ赤な旗は反撃の狼煙さ。

アンサー、闘いを終わらせるために闘うす。

アンサー、――――――――――。


採点者:そうですか。こんなにも沢山の人の声を、私に。




――――――。



513れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:45:54 ID:.hQ12M5g0



【黄金螺旋階段・上層/一日目/夜】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:差し伸べられた手の数だけ、血に汚れ、
    本当の笑顔を取り戻すことを恋焦がれて、
    過去に捨てた願いを拾い上げ、
    少女の祝福が虚無を纏わせる
    《記者》は時空を統べる王へと職を変え
    少女の最後の祈りが胸に宿り、
    此処に勇者は帰還した、
    そして、勇者は――@ロワイアル×ロワイアル
《真時空王》
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(12/15)@未来日記、IMIウージー(25/32) 、プラ@waqwaq、旅人の証、《職業:時空統べる王》
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して全てを元通りにする
1:なんかもうふざけるな。スプンタ・マンユの完膚無き破壊の後、レオとミツルを殺害。

[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づきかけました。それでも、願いは変わらない。
※雪輝は女神像の外見を由乃であると認識しました。
 他の参加者もそうであるかは不明です。
※バトルロワイアル、ブレイブストーリー、仮面ライダー龍騎、
  Waqwaqの世界に関する情報を“ある程度”得ました。
※南東エリアの上空に蜘蛛の糸が現れました
※《記者》の能力で下界の状況をある程度まで感知できます。
※時が動き始めました。
※スプンタ・マンユは七原秋也の姿をし、頑張ってますが三十分が限界です。
  限界を越えればスプンタ・マンユは主が来るまで稼働を止めます。



【黄金螺旋階段・下層/一日目/夜】



【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
 [状態]:星の数ほどの血に汚れ、
     本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど、
     過去に捨てた輝きを拾い上げ、
     魔王の祝福が雷電を纏わせる、
     《魔導師》は白銀の剣士へと職を変え、
     魔狂姫の尊き祈りが胸に宿り、
     此処に勇者は帰還した、
     そして、勇者は――@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ワタルの剣、不恰好な粘土細工@金色のガッシュ
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
    不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)、携帯電話@現実、
     チャンの首輪、ノールの首輪、ゼオンの首輪、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
[思考・状況]
基本行動方針:『対話』
1:救う。
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。
※未来日記の世界についてある程度の情報を得ました。
※9thは危険だと認識しました。
 雪輝、というよりも時空王に利用価値を見出しました。
※ミツルの目には女神像は由乃ではない姿に映りました。
※デウス因子を取り込んだ仮面ライダーファムはデッキを使用できません。
※仮面ライダーファム(デウス仕様)の性能:限りなく全能なるゲーティーグ“だった”。
※オンバはミツルと同化しました。


【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
     親友との明日を取り戻し、
     胸に抱くは翠の「安らぎ」と鉄の「勇気」、
     雛は卵を割って祝福を運び、
     蒼と白の装甲は暴食の顎、
     背後に従えるのは神の武具の再現、
     赫炎のジャバウォック、
     スケアクロウは賢人を砕いて進む@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:アシャ×アールマティ×カントリーマンの玉×翠星石のローザミスティカ×蒼星石のローザミスティカ×雛苺のローザミスティカ×仮面ライダー龍騎(SURVIVE)
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:走り続け、『世界』を広げよう
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。

514れっと・いっと・びー/少年たちのたどたどしい革命行為  ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:48:42 ID:.hQ12M5g0











静かな時間帯。
人の活動が終りを迎え始めるのだというのが感じられる。
たぶん、今は昼間が過ぎた時間。
ざわめきは近くから。眼を開けば、そこには沢山の生徒がいた。

白岩中学3年B組の生徒たち。
机の周りを行き交って、
彼らは楽しそうにこれからの予定を話し合った。

「なぁに、呆けてんだ桐山!」

肩に誰かの腕が乗り、
少し遅れて体重も少しだけ傾けられたのがわかった。
桐山には覚えのない感触だ。
振り向けば、そこには三村信史がいた。

「今日はどうする? ゲーセンでも行くか。
 今度は俺が勝つけどな」

「先週は信史、負けてたもんね」

「おいおい、馬鹿言っちゃいけないぜ、豊。
 ここだけの話、本当は俺のが上だぜ、ベイビ」

「お前たちは…………」

三村と豊は桐山の顔を見て不審げな表情を浮かべた。

「おまえ、なんで泣いてるんだ?」
「え?」

言われて思わず目元に手を触れると、
そこには確かに濡れた感触があった。
どうして、泣いていたのか。
そもそも、自分は、本当に泣いていたのか。

頭が、痛い。

「いいや、なんでもない。なんでもないさ」

そう言って桐山は笑った。



【デウスの核/一日目/夜】


【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、重傷(治療済み) 、
     精神に重大な負傷(徐々に回復)、
     「愛」の概念を思い出しました
     「孤独」の概念を思い出しました。
     「誇り」の概念を知りました。
     「後悔」を知りました。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎 、
     ハルワタート@waqwaq(キクとクシャスラを喰らったスプンタ・マンユを完食したがスプンタ・マンユは七原秋也の血肉と一緒に分裂)
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、レミントンM870(7/8)
     レミントンM870の弾(16発)、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン、めぐのカルテ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:???
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。
※スプンタ・マンユ、レミントンM870(8/8) 、エディアール家の刀はどっかに行きました。

515 ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:49:12 ID:.hQ12M5g0
おわーり

516 ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 02:51:50 ID:.hQ12M5g0
>>514
状態表追加。

※あくまで護神像の本体はハルワタートです

を追記。

517 ◆1yqnHVqBO6:2012/12/21(金) 03:11:40 ID:.hQ12M5g0
何度も申し訳ありませんがスプンタ・マンユに分裂能力があるとか書いちゃってますが嘘です間違いです

518名無しさん:2012/12/21(金) 19:41:13 ID:vHxtivNEO
投下乙です。

久しぶりに慌てるユッピー見た。

519名無しさん:2012/12/22(土) 16:10:42 ID:b0nPRvac0
書き手さん好き、ありがとう

520名無しさん:2012/12/30(日) 16:44:03 ID:fPsSoUE60
よっしゃああ、オンバ戦後のたまってた分追いついた!
皆様投下お疲れ様です!
確かに言われてみれば残ってる対主催ってみんなライバル連中で、しかもスポコンのライバルみたいな綺麗な奴らじゃないんだよなあ
みんな人殺しだし、それが今や主人公側な対主催でまっとうな道を歩もうとしていて、人殺しを憎む人殺しで主人公なユッキーがラスボスという
そりゃあ本人もふざけるなと言いたいのは分かるっちゃ分かるわ
でも、ごめん、ユッキーw
久しぶりに慌ててる姿を見てやっぱユッキーはこうじゃないとと思ってしまったw
ユッキーの救いを更に救いでぶつかり合うワイルドセブンさんかっこいい
そしてこれが今の桐山の光の面の鏡写しってのがもうね!

521 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:34:10 ID:zhoW52Sg0
お待たせしました、これより投下を始めます。

522友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:36:02 ID:zhoW52Sg0
「ふざけるな」

雪輝にとって、目の前にいる存在は到底許容することは不可能だった。
それは、光。
眩く、暖かな心地よさを生み出す太陽のようなもの。

「ふざ、けるな……!」

ふざけるな。
この五文字にしか満たない言葉に、どれだけの感情を込められたのだろうか。
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。
ワイルドセブンの言葉によって、雪輝に内在するあらゆる感の情は咆哮を上げている。
ふざけるな、と。

「救われる名前に、僕をだって? 何を言ってるんだよ、全員救えば……僕も自動で救われる」
「おいおい、そいつは本当かい、ユッキー。じゃあさ、さっきはどうして挙げなかったんだ、自分の名前?」
「たまたまだよ。それ以外に何があるのさ。いいや、あってはいけないんだ」
「そうかい……俺の目には。お前は誰よりも、救われたがってるようにしか見えないけどな」
「……詭弁だよっ! 違う、違う違う!!!!!」

今更、だ。今更、なのだ。
この手はもう血を吸いすぎている。
幸せになるには。ハッピーエンドを手に入れるには、最初からやり直して、全てを元通りにするしかない。
そうすることで、誰もが幸せになれるはずなのだから。

「それは大きなミステイク……ってか? まあ、いいさ。お前の苦しみは正当だ。理不尽に奪われた苦しみは俺にも理解できる」

プログラムのせいで、彼は友達、育ててくれた親のような存在を失った。
本来ならば、失われる必要なんてなかったのにもかかわらずだ。
彼も雪輝と同じ、理不尽に日常を奪われた者である。

「ふぅん……そこまでわかっていながらさ。七原さんは、僕に右手を伸ばすとでも?」
「ああ。伸ばすね。たった一度のチャンスが二度に増えたんだ。伸ばすに決まってるじゃん?
 それと、俺はワイルドセブンだっつーの! そこんとこ、間違えないでくれよな!」
「すっごく、どうでもいいよ」
「そんな事言わずにさー。頼むよ、ユッキー」
「嫌だね……というか、ユッキーユッキー馴れ馴れしいよ」
「親愛の情を込めてるんだよ、それぐらいわかってくれよな!」

523友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:37:56 ID:zhoW52Sg0

ワイルドセブンは、レミントンを手でくるくると回しながらヘラヘラと笑っている。
油断している隙を突いてナイフでも投げてやろうか、このニヤけづらはすごく不愉快だ。
雪輝は、衝動の赴くままに、手を動かそうとした。
だが、その行動は柄をとった所で中断される。

(いや、違う。あれが、七原秋也の平常。おちゃらけていながらも、冷静。
 その証拠に僕の手元からは視線が離れていないし、銃のトリガーにも指がかかっている)

ワイルドセブンは、最初から油断なんてしていない。
蜘蛛の糸のデータベースで確かに調べたはずではないか。
七原秋也。プログラムで桐山和雄を打ち破った男。
そして、この世界では仮面ライダーナイト、秋山蓮。最強の男、チャンを撃破した。
どれも、仲間の力を借りたとはいえ脅威である。
雪輝は、自分のほうが見誤っていたと思考を改める。

(やっぱり、馬鹿みたいに強いよね。ウマゴンみたいな感情に身を任せるタイプじゃないから厄介だ。
 北岡さんと同じように奇をてらって攻めれば何とかなりそうだけど……)

緩んでいた気を引き締めて、雪輝は勝利への道を走る為に頭を働かせる。
未来日記を読んで攻めるか? しかし、今の銃がロックオンされている状態で読めるか?
自分を光の当たる世界に引きこむと入ってるが、何処まで本当か。
彼は引き金を引ける男だ。理想を語りながらも、それだけに傾倒しない。
だからこそ、革命家を続けていられるのだ。

(どうしようもない現実を知っててなお、理想を語る)

七原は自分がどんな言葉の刃を突きつけようとも、変わらないだろう。
それが、少しだけ気に障った。

「それで、僕がそっち側にのこのこと戻れるとでも?」
「別にいいじゃん、戻ったってさ。戻るのに資格なんていらないって思うんだけど」
「はっ、僕自身が戻りたいのはそっちじゃないんだよ! こんなはずじゃなかった世界にさ!」

膠着した状況を終わらせるべく、最初に動いたのは雪輝だった。
ホルスターからナイフを数本取り出し、投擲。
旅人の能力により硬化したナイフがワイルドセブンに突き刺さろうと――。

524友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:40:23 ID:zhoW52Sg0

「甘いぜ、ユッキー」

飛んでくるナイフをワイルドセブンはもう片方の手に持つ刀で弾き落とす。
それは洗練された太刀筋ではないが、一切の無駄はない。

「防人流剣術、七の弦。なんちって! あ、この技名な、とあるロックな奴の名前を模してるんだよな!
 つまり、俺ってことさ! ナルシストっぽいけど仕方ない! ロッカーってのは自分に酔った方がかっけーじゃん!」
「どうでもいいって言ってるだろ!!! その口を、閉じろっっっ!!!!」
「おいおい、カルシウム不足かユッキー!」
「黙れ、黙れ黙れ黙れえええええええええっっ!!!」

雪輝はナイフが通用しないと判断。今度はデイバックからウージーを取り出し、引き金を強く引いた。
しかし、闇雲に狙いもつけない銃撃がワイルドセブンに当たるはずがない。
鼻歌混じりに銃弾を躱すワイルドセブンに、雪輝は顔を醜く歪めた。

「どいつもこいつも邪魔ばかりしてさぁ! 救済だ、そうだ救済なんだよ! これは運命に負けた世界を救う救済だ!
 救済への一歩を進んでる僕の道を塞ぐなよ!!!! 七原秋也っ! お前は邪魔で邪魔で潰したくなって仕方がない!!!!」
「………………それは、お前が本当に望んでいることか?」
「ああ、そうさ。『そうでなくてはいけないんだよ』」
「違うね。全然ッ違うって。だって、ユッキーのホントの願いはさ……」



「幸せになりたいだけだろ? 理不尽から救い出してくれる世界を望んでるんだろ? 
 チャラにするとか勇者になるとか誰も彼もを救うとか全部置いといてさ」



心臓に銃弾を穿たれたようだった。
否、言葉の銃弾は確かに突き刺さる。
ワイルドセブンの言葉は、雪輝の真実を貫いていたのだから。

「は、はは……違う。違う、違う違う違うっ! 僕は皆を救う為に!」
「素直になれって、ユッキー。お前は、気づいてるはずだぜ? ハッピーエンドはもう手に入れられないって。
 人を殺すこと……踏み躙ることはもう嫌だってな!」
「あ、ああっ……ぼ、ぼくは…………!」

頭を抑えながら呻き声を上げる雪輝に、ワイルドセブンは指をビシィっと突き立てながら宣言する。

525友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:41:50 ID:zhoW52Sg0

「さあ! 後は、お前が俺の手を取るだけだ。救ってやろうじゃねぇか、お前も。不条理な運命を強いる世界もさ。
 たなびく真っ赤な旗は反撃の狼煙! 闘いを終わらせる為に、俺は闘う! 一緒にお前も闘おうぜ?」
「……無理だよ。僕がこの手で何人を血に染めたと思っているんだい?」
「だからなんだってんだ。お前が嫌がろうと、俺は手を伸ばす。簡単には乗り越えさせてやらねぇぞ、俺は……いや、『俺達』は!」

それでも。それでも、だ。
雪輝は武器を取る。
ここで自分が止まってしまったらどうなる?
今まで奪ってきた命に対しての冒涜ではないか?
そう考えてしまうと、ワイルドセブンの手を取るなんてできるはずがない。

「今更、止まれないよね」

蚊の鳴くような声で。自分を落ち着かせるが如く、呟いて。雪輝は俯いていた頭を上げる。
さあ、殺し合いの再開だ。
七原秋也。
お前は、その理想を抱いたまま溺死しろ。

「貴方達の世界は、僕には眩しすぎるんだ! 眩しすぎてさあ、歩けないんだよ! 
 僕は弱いから! 目も開けられない世界で、生きれないんだよ!」
「……っ! 眩しすぎるならお前が目を開けられるようにしてやる! なんつったってよ、俺は革命家だ。
 世界を変えることぐらいやってみせるさ! それぐらいできなきゃ、革命家なんて恥ずかしくて名乗れねえ!」

硬化したナイフと刀が火花を散らす。一瞬の刹那の間を開けて、再び刃は離れていく。
数度の交錯を経て、雪輝は分析する。
旅人の力で身体的には互角ではあるが、戦闘経験の差は大きい。
この闘いは、今までの戦闘の中で、一番の山場。

526友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:43:48 ID:zhoW52Sg0

「平和な日常を壊したのは高潔な理想だった! 綺麗で眩しい理想に僕の世界は潰されたっ!
 赦さない、僕は絶対に赦さない! 理想に狂う殉教者を! 小さな幸せを踏み潰す運命を!
 平和なままでいられない世界を! 哀しみを生み出す原因を!」
「そんなお前を俺は救ってみせるっ、とぼけた世界なんざ俺が塗り替えてやる!
 お前も俺も桐山もレオもミツルもめぐも! 全員が笑って、手を繋ぐことができる世界にしてやろうじゃねぇか!
 それが――俺の願いだっ!!!!!」

飛び込んでくるナイフと銃弾の雨を切り捨てて。
ワイルドセブンは血肉を燃やし、疾走する。
きっと、君に届くから。
この手は救われぬものに救いをもたらす光の手。
一人ぼっちの王様の涙を拭うのは革命家。

「巻き返してやろうぜ、終わらない理をぶっ壊してよォ! 神様なんて知ったことか!
 やりたいように世界を動かすのは――主役である俺達だ! 断じて神様のお遊戯盤じゃないんだ!
 神様の声? そんなの知らねえ見えねえ聞こえねえ! 俺達の人生は、俺達のものだろうが!」

ワイルドセブンは突如、空に顕現したビンを血肉を燃やすことで、力が増強した腕で叩き斬る。
こんな日光も届かない世界に革命家を閉じ込めることなんて出来はしない。
何等分にも分離して、砕け散ったビンの欠片を踏み越えて。
諦めの境界線を踏破した!

「さあ! 俺は提示したぞ――次は、お前のターンだぜ、時空王! この程度でリザインはクールじゃねーよな!!」
「ほざ、け……! ここまできて簡単に諦めて、たまるか! 黄金階段の最後まで! 僕は登り切る!」

雪輝も負けじとペンを振るう。
ペンで変質したナイフと銃弾は一つ一つが必殺にて完殺。
十全の攻撃は、ワイルドセブンを前には進ませなかった。
攻防は、続く。明日を望むものと、過去を望むもの。
正反対の人間の激闘はうねりを上げて世界を飲み込んでいく。
そして、一進一退の攻防の末に、彼らが考えたことは奇しくも同じ。
それは――!


「本気で来いよ、勇者様! 妥協も中断も勝ち負けには霞むだろ! 俺はお前から逃げない、逃がさない!
 そっちが勝つか、俺が勝つか! いい加減決めようぜ、王様!」
「……いいさ。来なよ。僕を君達の世界に引っ張りたいなら……力づくで動かしてみろよ! 革命家!」
「いいぜ、真っ向からおまえにぶつかってやろうじゃねぇか! 天野雪輝ッ! 俺はお前を――」
「やってやる! 真っ向から潰してやるよ、七原秋也ァ! 僕はお前を――」



最大の攻撃で、一気に決めること。
互いは示し合わせたように、切り札をここで解放する――!

527友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:45:15 ID:zhoW52Sg0



                「――必ず、救ってみせる!」     「――必ず、殺してみせる!」



封印魔法と血肉燃やす一撃がぶつかり合う。
光と刀が世界を押し広げようと互いを削り取っていく。
負けたくないという意志を乗せ、裁定の水盆に波紋が広がった。
グラグラと揺れる水盆など、今の二人には感じない。
ワイルドセブンも、雪輝も。
意思を貫くことしか考えてないのだから。

「負けられないんだ! 理想に狂った奴等には絶対、負けられない――っ!」
「俺だって負けられねぇんだ! 意地を貫く為に! もう、誰も泣かない、優しい世界を作る為に!」
「お前も、ガッシュと同じことを言うのか、最後まで憎たらしい奴だよ、七原秋也ああああああああああああっっ!」
「関係ねぇ! 誰が何を言おうと俺の意志は俺のだ! ガッシュ? 知らねえよ! 俺はお前を――救う!
 言ってやるよ、笑ってなァ! お前がいる世界には、まだまだ幸せが詰まってるってな!」

少しでも気を抜くと、押し流されそうな光の奔流に。
ワイルドセブンは、強く宣言する。
残念だったな! 俺はまだ負けてねえぜ、と。
血肉の全てを燃やし尽くしてでも、貫かなくちゃいけない思いが此処にある。

「正義は、此処にある! 響け、響けぇぇぇええええっ! もっとだ、もっと響けぇえええええええええ!
 手を、一人ぼっちで泣いてる奴に差し伸べなくちゃいけねぇんだ! 
 ユッキー! 俺は、俺は――!」

響け、明日への思い。
否、天野雪輝だけに伝えたい。
七原秋也としての、心の底からの言葉。

「お前と、友達になりたいんだ! 一緒に笑おうぜ! だから、俺の手を、取れ! 天野雪輝ぅぅうううううううううっっっっ!!!!!!!」
「…………ぇ?」

528友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:46:53 ID:zhoW52Sg0

一瞬。本当に一瞬ではあるが、光が弱まった。
それは、雪輝の意志が揺らいだ確かな証拠。
ワイルドセブン――七原秋也はそのチャンスを逃さなかった。
その合間に振るった斬撃は、たどたどしさが残るものだけど、絶対の一撃。
刀は光を突き破り――王へと届かせた。
王と革命家の戦いは、終わる。

「俺の、勝ちだ。ユッキー」
「…………僕の、負けだね。余りにもうるさすぎて力が抜けちゃったよ。あーあ、負けた負けた。
 本当に、君にはやられたよ。頑固者」
「それが俺の取り柄だからな。それで、どうよ。今の気分は?」
「わかる訳、ないだろ。ただ、何でだろうね……頭がすっきりしている」
「……お前がどれだけ苦しんできたか、俺には完全に理解できないけどさ。
 これからのお前を理解することはできる。一緒に悩んで笑って泣いて。な?」
「な、じゃないよ。それ以前に……人殺しの僕と、友達になってくれるのかい……? それもハッタリだったり?」
「ハッタリな訳ねぇだろうが! 男は拳でタイマン張ったらもうダチなんだよ! つまりだ、俺とユッキーはもうダチだ!」
「ぷっ、なにそれ……一昔の少年漫画みたい」
「あーっ! 馬鹿にすんなよ! おもしれーんだからな、昔のやつも!
 今度貸してやるから読めよな! 俺のおすすめラインナップを嫌っていうぐらい味あわせてやっからよ!」
「ははっ」
「へへっ」
「……もう一度、言うぜ。俺達は、君も、陽のあたる世界に連れて行く。
 だから、この手を取ってくれないか?」
「うん、喜んで」

その手は、確かに届いた。
幾つもの手を振り払い、血に染めた王様の手を。
革命家が確かに握り締める。
ここに、王様と革命家の共存が成されたのだ。

529友達 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:48:02 ID:zhoW52Sg0
【黄金螺旋階段・上層/一日目/夜】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:差し伸べられた手の数だけ、血に汚れ、
    本当の笑顔を取り戻すことを恋焦がれて、
    過去に捨てた願いを拾い上げ、
    少女の祝福が虚無を纏わせる
    《記者》は時空を統べる王へと職を変え
    少女の最後の祈りが胸に宿り、
    此処に勇者は帰還した、
    そして、勇者は――解放された@ロワイアル×ロワイアル
《真時空王》
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(12/15)@未来日記、IMIウージー(25/32) 、プラ@waqwaq、旅人の証、《職業:時空統べる王》
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(2)
[思考・状況]
基本行動方針:ワイルドセブンと共に行く
1:ありがとう、ワイルドセブン。

[備考]
※参戦時期はDiary46.5終了以降からの参戦です。
※雪輝は自分の中の矛盾に気づきました。気づいた上で、ワイルドセブンと共に歩むことを決めました。
※スプンタ・マンユは七原秋也の姿をし、頑張ってますが三十分が限界です。
  限界を越えればスプンタ・マンユは主が来るまで稼働を止めます。

530恋人 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:50:50 ID:zhoW52Sg0




















あ あ 、 全 部 嘘 だ け ど 。

531恋人 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:52:08 ID:zhoW52Sg0
何かが刺さる音と、呻き声。
きっと、彼らは選択肢を間違えた。
そこに在るのは。
胸にナイフが突き刺さり、苦しそうに藻掻いているワイルドセブンと。

「七原さん、認めますよ。確かに、僕は皆を救うことなんてどうでもいい。
 自分自身が、幸せになれるならば……他は全て不純物だ」

どこか、悲しそうに笑う雪輝だった。
その笑顔は今までのような満面の笑みではなく。
儚さを含む、年相応の少年の素顔。

「ユッ、キー……お前、どう、して……?」
「確かに、貴方の言葉は届きました。理解もしました。僕が全てを救うだなんて思っていないことも。
 これ以上、人を殺したくないって気持ちも。全部、全部。わかっています」

そこに演技なんてなかった。天野雪輝の心の底からの本心しかない。
ワイルドセブンは、そう理解した。いや、理解せざるを得なかった。
今までの相手を挑発することもなく、ただただ噛み締めるように彼は言葉を紡いでいく。

「その上で……僕は、心の底から優勝を望んでいる。僕のハッピーエンドには……父さん母さん。
 高坂、日向、まおちゃん……秋瀬君。そして、何よりも由乃が必要なんだ」

ワイルドセブンとの戦いで彼は気づいてしまったのだ。
全てをチャラにする、誰も彼もを救ってみせる。
そんな願いよりも大切なモノ。
我妻由乃との幸せを掴むことこそが、一番の願いごとであったことに。

「いつまでも続く日常を取り戻す、大雑把に言うとこれが願いごとなんですけどね。
 それでも、一番の僕の『願い』は……由乃と星を見に行くことだって気づいてしまった。
 由乃との関係が、嘘と偶然で塗り固められたものでも……僕にとっては真実だから」

彼は申し訳なさそうに由乃とのこれまでを語る。
愛も。
憎しみも。
赤裸々なものも。
ポップで軽いものも。
ダークで残虐な血みどろサスペンスも。
全てを隠さずにありのままを語り続けた。

532恋人 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:53:09 ID:zhoW52Sg0

「好きなんですよ、由乃が。
 もっと彼女の声を聞いていたい、彼女の笑顔を見ていたい、彼女の華奢な体を抱きしめたい。
 そんな、彼女がいない世界に救いなんて在るはずがないんですよ、七原さん」

全てを語り終えても。彼の口からは由乃への思いは途切れることがなかった。
偽物と偶然で彩られた愛を笑顔で語り続ける雪輝の瞳は、澄んでいる。
そこに、濁りも荒れも存在しない程に。

「ありがとうございました。矛盾も、間違いも、正しさも。全部が僕だって気づかせてくれて。
 そして、さようなら。できることなら……貴方とはもっと早く出会いたかった」
「……馬鹿、野郎が」

きっと、ここで彼の手を握っていれば。
自分はそれなりの救いを得ることができただろう。
だが、雪輝にはその選択はありえなかった。
彼にとって、我妻由乃なしの救いは救いではないのだから。

「迎えに行くよ、君の元まで」

銃弾の雨がワイルドセブンを抉り、血の海に沈む頃には。
彼の目に哀しみはもう存在しなかった。

「約束したよね。一緒に星を観に行くって。その時は、僕から言わせて欲しい」

もう一度、由乃に会うまで。彼の足は止まることはないだろう。
迷いは完全に消えた。後は――『願い』を叶えるだけ。
愛の証明を果たすべく。
残りの参加者は、徹底的に蹂躙する。
人殺しだとかは関係ない、もうこれ以上邪魔をしないでくれ。
いいから黙って――死に絶えろ。



「由乃。世界で一番、君を愛している」



【スプンタ・マンユ 機能停止】

533恋人 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:54:41 ID:zhoW52Sg0
【黄金螺旋階段・上層/一日目/夜】

【天野雪輝@未来日記】
[状態]:お姫様の為だけの、王子様@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(12/15)@未来日記、IMIウージー(0/32) 、プラ@waqwaq、旅人の証、《職業:時空統べる王》
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(1)
[思考・状況]
基本行動方針:本当の、願いを叶える。
1由乃と星を観に行く。

[備考]
※雪輝は自分の中の矛盾に気づきました。気づいた上で、やり直しを望んでいます。

534恋人 ◆W91cP0oKww:2013/01/04(金) 01:55:46 ID:zhoW52Sg0
投下終了です。

535名無しさん:2013/01/04(金) 18:18:27 ID:z2zHynqgO
投下乙です。

「友達しようぜ」
「恋人が待ってるんで」
友情なんてこんなもんだチクショー!


お為ごかしが無くなったからか、ユッキーがキレイに見える。

536名無しさん:2013/01/04(金) 21:07:04 ID:hiuHlSJI0
投下乙!!!!
ユッキーはもうどうすればいいのかねこいつはw
このままだとミツルとレオがヤバイが桐山は果たして本当に抜け出せるか
脱出したら全滅もありえるがどうなるか

537名無しさん:2013/01/13(日) 07:08:01 ID:zbM4EwEYO
もうユッキーが優勝でいいよww

538 ◆eVB8arcato:2013/01/15(火) 12:12:28 ID:eLDdGVOY0
初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る1/19(土)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。

539 ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:12:05 ID:hrVLBMiQ0
投下します

540比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:13:17 ID:hrVLBMiQ0


修学旅行は無事に終わった。
無事、というのは誰も怪我をすることなく終わったということ。
喜ばしいことなのだろう。
七原は行きと帰りに開催されたバスでの
カラオケ大会に不平を漏らしてはいたけれど。

楽しかった、そう桐山は思った。
七原とノブと三村と豊と杉村。
彼らとの班行動はどれも退屈することがなく。
両手に抱えきれないほどの土産物は
全て桐山の自室に置かれてあった。

「飽きたら俺に言ってくれよ?」

隣を歩く三村が冗談めかした風に言った。

「叔父さんのバーにお前の顔写真と一緒に飾ってやるよ」

「やめてくれ、飽きるわけないだろ」

真っ赤に燃えた空、茜色の空。
夜が浮かび上がる前の太陽は眩しさよりも
熱さよりも冷たさのほうが優っているように桐山は思った。
風邪を引いた豊の家に寄って
談笑に暮れた後、豊の母親に見送られて桐山と三村は帰った。

その途中、腕時計を見れば短い針は5を指したばかりだったことから
三村の提案でゲーセンに寄ろうということとなった。

「夕焼けが……怖いんだ」

「文学的なことを言うじゃないか。
 沼井達が見たら泣くぜ?
 《鉄仮面》だっけ? いや《岩窟王》だったかな」

「どっちだろうと、
 お前たち三人の《三銃士》よりはマシだと思う。
 それより、あまりからかうなよ。正直な気持ちなんだ」

「空が気になって負けましたーは通さないぜ?」

「そんなんじゃない。
 第一、お前は先週俺に負けたじゃないか。
 飯島だって見ていたぞ」

桐山は空を見上げた。

「ただ、どうしてかな。
 俺は最近空そのものが怖いんだ。
 真っ直ぐに空を見られない気がして」

「へえ」

横目で興味深気に桐山を一瞥し。
後ろから追い越していった
部活帰りの大木立道とはたがみただよしに
二人で挨拶を交わして。

その少し後を
滝口雄一郎と相馬光子が並んで歩いて行ったのに
目を瞠り言葉が出なくなって数分後。
三村は口を開いた。

「これは大昔の砂漠の国の悲劇なんだけどな。
 おっと、そう長い話じゃないよ。
 千夜一夜? 違うよ、だいたいそれは今おまえが更新中じゃないか。
 ロスタムっていう勇者の王と呼ばれた戦士がいたんだ。
 彼はふとしたきっかげで長年の敵国の王女と褥を共にして。
 次の日の朝、別れ際に家宝の腕輪を渡し、
 自分の息子にこれを贈ってほしいと告げて去ったんだ」

アーケード街に着くと、
段々と増えていくのだろう帰宅を急ぐ人達の中を
すいすい泳いで三村は桐山の前を歩いた。

三村の話に集中していた桐山は対応が遅れ、
長い黒髪の眼鏡をかけた美女にぶつかりかけて謝罪しつつ、
小走りに三村の後ろを追った。

「一晩の営みで女はロスタムの子を産んだ。
 ここで大事な情報を教えるとだな。
 ロスタムの親父さんは王様でその女性の父親も王なんだ。
 成長した子供はロスタムの腕輪をつけると母親に言った。
 自分は、父の国に向かい、父と会って彼を王にする。
 そして王になった父の力で自分もまたこの国の王になると。
 そうしてその子は出征する兵に混じってロスタムの国へ出発した」

三村の背中しか見えない。
徐々に距離が離れていくのに声だけははっきりと聞こえた。

「その子供、ソフラーブとロスタムは戦場で出会った。
 同じく疲れを知らない勇壮な戦士であった二人は
 軍勢の前に進みい出、戦装束と一体化して時同じく鞘を払った。
 決闘は何時間も続き、ついにはソフラーブは落馬した。
 ロスタムはソフラーブの馬乗りになって首を跳ねようとしたが
 二人の部下が縋ってそれを止めた。
 戦の始まりに死ぬのが敵の将だというのは無作法だったんだな」

アーケード街、長い屋根が道を覆い、
立ち並ぶ商店が活気を伝え、桐山を空から隠す。

「ここで物語に触れている者は期待する。
 もしやこの親子は救われるんじゃないか。
 苛烈と狡猾に過ぎた両国の王は勇者に
 よって王位から落ちるんじゃないかと。
 二度目の決闘は闘いの三日目。待ち侘びた時だが結果はあっけない。
 ロスタムは一瞬でソフラーブを馬から引きずり下ろすと
 ソフラーブの胸に刃を突き立てた」

どこかから聞こえる。
悲鳴と罵声と紛糾の声と声が。

541比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:14:57 ID:hrVLBMiQ0



「そしてロスタムは手首にはめられた腕輪を見て
 ソフラーブが自分の息子なんだと知った。
 ロスタムは自分の息子の血に汚れた大地に蹲って、
 ソフラーブの亡骸を抱いて泣き喚いた」

息が切れて、小さな汗の粒が桐山の額に浮かんだ。
頭が、痛い、こめかみの少し奥がズキズキ。

「ロスタムは自分の体を鎧で隠し、
 ソフラーブは自分の父親を王位に就けようとがむしゃらだった。
 この物語はもう砂漠の国人々にも忘れ去られた代物だけどな。
 実に興味深いことを俺たちに教えてくれるんだ。
 悲劇も喜劇も自覚がないからこそ演じられる。
 身勝手な義侠心も止まらない責任感も、
 人の命を奪うことがある。
 登場人物は己の所業と境遇を相対的に見つめた時、
 本当に耐えられるかどうか」

電光がちらちらと点き始め。
小走りから全力疾走へと変わっていた桐山は
夢中で三村の声がする方へと走っていた。

人混みが途絶え、目の前で三村がこちらをじっと見つめて佇んでいた。
慌てて立ち止まった桐山を確認すると彼は言った。

「自覚したら、おしまいだったのさ。
 最初から最後まで、
 知らなかったなら、ロスタムは最強の勇者だった。
 さ、着いたぜ桐山。今日は何をやる?」


−−−−−−−−。


空が覆われている。
巨大なる科学の果てが産み出す人型が
暴虐の限りを尽さんとし。

巨人は太陽現れぬ紫影を覆う。
巨人は健やかなる蒼天を隠す。
巨人は温かき白光を背にする。
巨人は暮れなずむ赫炎を消す。
巨人は漆黒よりも黒く吼える。

雷とて、どうなるか。

雷を産み出す三頭六足二尾の巨大なドラゴン。
黒鉄の体躯は巨大都市にも匹敵する大きさだが
それでも機械の巨人の半分ほどの大きさにしかならない。

『撹乱を休むなよ! 動力部は僕が叩く!』

尾を蛇腹にうねらせ、振るうと空気が割れて鎌鼬が巻き起こる。
口を開けば雷雲が発生し、機械の巨人へと襲いかかった。
羽ばたく翼は全てを切り裂く雷の速さ。

胴体の正中線へとドラゴンは突進し。
機械の巨人が捌く。

その動きは最強の動きを正確にトレースしたもの。
すれ違いざまに三頭の内の二頭を叩かれ、
ドラゴンへと変化したミツルの意識が歪む。

「こっちだ!」

黄金に燃える龍にのってレオが巨人の頭部へと躍り出た。
超高熱のエネルギーに当てられ、巨人を構成する機械の幾つかが蒸発したが
それをものともせずに機械の巨人は身を沈めると掌底を放った。

直撃は避けたが、龍の横腹に当たる
箇所を殴られきりもみして宙をよろけた。

「まだ死なないの?」

そして、階段を降りて、天野雪輝はやって来る。

「さあ、人柱になる時間だよ」


−−−−−−−−。

542比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:15:53 ID:hrVLBMiQ0



耳に木霊する。
これは言葉だ。呪いだ。囁きだ。悲しみだ。

      Q、誰かを救えばいいと思ってるの?

      A、わからない

      Q、あなたが殺した人達はそんなあなたを見てどう思う?

      A、わからない

      Q、どうして想いだしたの?
 
      A、わからない

ゲームセンターの喧騒。
もつれあった電子音とコインとコインがぶつかる響き。
桐山が座った席には前の客のものだろう吸殻があった。
銘柄はワイルドセブン。

      Q、一番に死んじゃえばよかったのよ

      A、

      Q、あなたのせいでたくさんの人が傷ついているの

      A、

      Q、出て来ないでよずっと縮こまって閉じこもってよ

      A、うん

      Q、あなたが死ねばよかったのよ

      A、そうかもしれない。きっとそうだ

      Q、水銀燈を返して!

      A、…………俺は……

目の前で大柄な男がやられた。
画面が切り替わり、敗者である桐山を他所にゲームは進んだ。
我に返った桐山は小銭を探したが手持ちがないのに気づいた。

「どーした?」

「手持ちがない」

「ちょっと待ってな」

すぐに向こうからコインが放られて桐山は空中でキャッチした。
握った感触と重み。
500円玉だというのに気づくと
桐山は首を傾げたが両替すればいいのだと考え、両替機に向かった。

「桐山」

だがそんな桐山の足を三村が止めた。

「突っ伏してゲームするのはやめとけよ」

「……そうだったか?」

「ああ」

「悪かった。少し休んでくる」

「気をつけろよ。今日が最後なんだからな」

最後、という言葉がわからなかったが
遅れた500円玉の礼を言って桐山は両替機の前に立った。

両替機に500円玉を入れようとして、
桐山はその500円に無数に入った罅に気づいた。
継ぎ接ぎだらけの、500円玉。
三村が間違えて渡したのだろうか。

学生服の裾が引っ張られ、
振り返ると小さな子供が立っていた。

身をかがめ、子供と同じ目線になるよう努め。

「どうした? 迷子か」

子供は首を振るだけで、何も言わない。

「何も言わないとわからないぞ」

困った桐山は子供の頭を撫でて、
感触に違和感を覚え、左のこめかみ付近に指をやった。
傷跡、小さいけれども確かに跡になっている。

「おまえ…………何処かで」

543比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:17:05 ID:hrVLBMiQ0



――チクリ

「おかあ、さん……」

――チクリ

「おまえ……そうか……おまえは……!」

思考にノイズが走った。
ノイズは大きさを増して波へと変わっていく。

何でだ桐山!? 
どうしてこんなくそみたいなゲームに
乗っちまったんだ!?

ノイズで歪んだ映像が少しずつ直って、
七原の顔が浮かび上がった。

この羽根を……あの子に
私たちの誇りを…………

真っ黒な羽根の天使がノイズの向こうで死のうとしていた。
わかる。想い出すんじゃない。ただ、目を背けてしまっていただけだ。

「……三村」

子供の手を引いて、
ゲームをプレイしている三村の後ろに立った。

「両替は終わったか?」

「行かなければ行けない所ができた。
 もう、ここには来れない」

「そうか」

「三村」

「なんだ?」

「俺のことを、恨んでいるか?」

「さて、何のことだかわからないね」

「……このコイン。ありがとう」

「俺、コインなんて渡したっけか?」

「……世話になった」

「気にすんなよ」

三村は振り返らず片手をひらひらと振るばかり。

「どうして、俺に――」

「このままじゃ俺の出番が少なかったからさ」

少しだけ、三村の発言に呆気にとられたが、
桐山は笑みを浮かべて子供の手を握り直した。
三村の言葉を後ろに、桐山はゲームセンターを出て。
子供の手を引いて走った。

ひたすらに走る。走って、腕を振って足を前に進ませて。
体がいくら悲鳴をあげようと、桐山は走る。
心のどこかで聞いた。
心の奥底から芽生え出る。
何かに突き動かされて。

「すまない。俺は、おまえのことをずっと忘れていた」

沼井達が他校の不良に絡まれていた金井泉を助けている。
桐山に気がついて手を振ってきた。

「俺は、空洞だった。
 ずっと、空っぽだった」

買い食いで買ったクレープを頬張る日下友美子と北野雪子が
走っている桐山にどうしたのと尋ねてきた。

「何をしても。何を感じることもなかった」

織田敬憲へ稲田瑞穂があなたの音楽は
彼方からの色彩を招くと熱弁していた。
設定は守ったほうがいいと思った。

「誰が俺に話しかけても。
 誰が俺の前からいなくなっても」

杉村弘樹と琴弾加代子が二人で本屋から出てきた。
桐山を見ると顔を真っ赤にして慌てだした。

「き、桐山!? これは、その、なんだ。
 ……三村には、まだ内緒にしておいてくれないか。
 どれだけからかわれるか、怖い」

「ああ、幸せにな」

同級生たちとすれ違い。
桐山が殺してきた人間たちを後ろに置き去りにして、
桐山は走っていく。すべての始まりの場所へ。

544比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:18:18 ID:hrVLBMiQ0



「……来たか」

学校、城岩中学校の校門。
そこに待っていたのはプロレスラーのように大柄な体格で
無精髭を生やし、深い瞳で刺すようにこちらを見ている男。

「行くんだな」

「ああ」

「ここからは最後の最後まで、
 誰の助けもない。それでも、いいんだな」

「――ああ」

桐山の答えを聞き。
川田省吾は満足気に笑うと、桐山へ右手を差し伸べてくる。

「……お前たちは理想の世界の住人で。
 俺は、きっとこれからもずっと地獄で生きていく。
 でも、忘れない。絶対に、もう二度とだ」

「そうか」

「おまえに言いたかった。
 俺は何度もこの言葉を言っている気がするが。
 ――――――ありがとう。お前のおかげだ」

そうして、桐山は川田省吾の手を握り。
光が、輝きが一度、瞬くと桐山の手にはレミントンがあった。

空、真っ赤な空が罅割れる。
桐山の500円玉のように無数に壊れた。
いいや、いいや、そうではない。
きっとこれは、人の血を運ぶ血管の線。

「今まで会ってきた人を俺がみんな殺した。
 ただそうするのも悪くないって思って、殺した。
 きっと、おまえは……十年前の俺はそれを望まなかった」

左手に握りしめたかつての自分に向き直り。
桐山は掌に500円玉を載せて尋ねた。

「おまえの”願い”を訊きたい。
 おまえが、どういう大人になりたかったのか知りたい」

「ぼく、は――」

俯いていた子供は顔を上げて桐山を見た。
ああ、この表情はもう
自分に浮かべることはできないのだと桐山は思う。
こんなに、輝きに満ちた顔を、桐山はできない。

「だれかが、悲しむのがいやだった。
 がっかりするところを見るのがいやだった。
 怒ったりするのも、暗い顔になるのもいやだった」

走った罅から雨がふりだした。
真っ赤な雨が桐山を濡らしていく。

「ぼくは、みんなの想いを守りたいっておもう。
 子供の頃、ぼくが見た白い服のヒーローみたいに」

白い服、白の男。そういえば、昔そんなアニメがやっていた。
きっとそのことなのだろう、と桐山は納得した。
子供に笑いかけて、桐山は頭を撫でて言う。

「……ごめん。おまえの”願い”は少しも叶わなかった。
 俺は、何も考えずに生きてきた。何も望まずに十年を生きてきた」

でも、と言って。
ピン、と桐山は継ぎ接ぎだらけの500円玉を弾いた。
くるくると表と裏が入れ替わり、天へと昇る500円玉。
真っ赤な空と、桐山を映して、そして護神像ハルワタートを映した。

「これからは、俺は誰かの喜びを俺の喜びにする。
 そうしたいって、思った。だから、俺と一緒に未来へ祈ってくれ。
 どうか、十年後の俺達は、今の俺達に胸を張れるって」

高く舞い上がって落ちてくるコインは
カードデッキへと姿が変わり、掌に収まると
腰に現れた機械のベルトに挿しこんで。桐山は世界に叫ぶ。

「覚悟完了――――変身!!!!!」

雨が子供、ハルワタートへ流れていく。
罅は大穴となって、世界は決壊した。

――――――。

545比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:22:13 ID:hrVLBMiQ0


       Q、水銀燈!

       A、おまえの心からの叫びなら、俺は――



強い。のではなく、知っている。
そう言うのが正しいのだろう。
機械の巨人、天野雪輝が搭乗したそれは、
無類の強さを誇っていた。

相手が攻撃したら捌くのではなく、
相手の攻撃が出る前に正確に芽を踏みつぶしていく。
攻撃があたらないのではなく、攻撃が出せない。

こちらの動きは全て抑えられ、
向こうの攻撃は休みなく襲ってくる。

「《儀式》に必要なのは三つの種族。
 レオナルド・エディアール、君は黒き血の人。
 芦川ミツル、君は恐らくだけど幻想に近い柱」

爪を尖らせオンバとなっているミツルが襲い掛かる。
だが、爪を振るう手は巨人の手にはたき落とされ、
貫手となったもう一方の腕がミツルの腹部にめり込んだ。

「最後の一つの座には僕が収まるんだろう。
 でも”願い”を叶えるのは僕だ。
 僕は、由乃と一緒に星を観に行く」

レオの龍が巨人の腕に巻き付かんとしたが
巨人の足に蹴り飛ばされ、地面を転がった。

「じゃあね。《儀式》の時にまた会おう」

めり込んだ貫手がミツルの体の更に奥へと刺さっていく。
三つの頭、口から血を夥しい量に吐き出して、
ミツルの術が次第に解けていく。

「おまえは、それで満足か」

「うん」

最後の力を振り絞って、
ミツルは巨人の、動力部へと手を伸ばした。
すべての力を込めた右手は無情に握り潰され。

「退場だよ」

ミツルは倒れ伏して雷電纏った体が光りに包まれ
の光となって月へと翔んだ。

「あとは、君だけか。レオナルド」

「くそっ!」

倒れるレオは藻掻くが未だ力が入りきらない。
レオの耳にありえざる波の音が聞こえた。
もっとも、波というものにレオは馴染みが薄いから、
それは、きっと。人の体に流れる血液の音。

「じゃあね」

ばちっ、機械の巨人の胸部に残ったミツルの攻撃の残滓。
しつこく残ってはいるがダメージを与えるには及ばない。

機械の巨人が、天野雪輝を満月へと押し上げるために
腕を振り上げ、黄雷よりも強く振り抜こうとして――――



       「薔薇を求める叫びを聞いた」



波の音が響く。
海はそこにはないはずなのに。
水の音が辺りを賑わわせていく。



         「世界を、殺し合いが廻るなら」



空に座す水盆、
その下から迫り上がってくる鉄砲水が見えた。
天高く昇る巨竜の様相にも通じるのは。



       「おまえが、殺し合いに涙を流すなら」



地上から空へと流れだす真紅の血。



       「胸に、おまえの花嫁の姿がある限り」



機械の巨人の胸部から手が生えた。
手が生え、腕が見えて、騎士が機械の巨人から産まれ出る。



      「俺は、黒い羽根を携えて、現れよう」



地面に降り立った騎士は近くに打ち捨てられた
スプンタ・マンユに手をあてて謝罪する。


「よく、待ってくれた」


桐山の声に反応して、能面がかたかたと動き、
背後に佇むハルワタートと同化した。
海の到来と同じくして、騎士は言った。

「完全合体だ。ハルワタート」

海が騎士を包み、染み込み。
騎士の鎧を膨らませる、巨大化させる。

「……来ると思っていたよ、桐山くん」

静かな声で天野雪輝は言うと、
機械の巨人の両腕をぶつける。

受け止めたのは騎士、真紅の血の色。
巨大なる真っ赤な騎士が、機械の巨人の両腕を受け止めた。

546比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:22:25 ID:hrVLBMiQ0



「……水銀燈の《愛》は俺の愛だ」

機械の巨人の両腕を伝わって、
苛烈な輝きが騎士の右腕に伝わった。
海のように巨大な騎士が銀の光を背負う。

「金糸雀の《孤独》は俺の孤独だ」

可憐な瞬きが騎士の左腕に伝わっていった。
赤のように灼熱の騎士が金の光を纏った。

「真紅の《誇り》は俺の誇りだ」

「馬鹿な! 
 ローザミスティカは柿崎めぐから離れようとしなかったのに!?」

胎動する光が距離をとった機械の巨人からたゆたい
巨大な騎士の前に浮かぶ。

「そして、七原の光は俺の光だ」

ローザミスティカを柄の位置に据えて
長大な真紅の血刀が顕現する。

「俺が今まで出会った全てが――俺の心だ!」

海のように巨大な騎士、
炎のように紅い騎士。
その双眸に火が灯った。

真っ赤な騎士、炎を超えた
星を流れる血液、マグマのように熱く沸騰する血が速度を産み出す。
完全合体した仮面ライダーナイトはワイルドセブンの機構を応用し
蒸気を速度に変換し、流星の速さで、機械の巨人を殴り飛ばす。

「僕の、時空王の予知よりも速い!?」

「ああ」

「何故だ!?」

すぐさま立ち上がった機械の巨人が
チャンの格闘術を模して、形意拳のひとつ、劈拳を仕掛ける。

「この力が人の営みの徴だからだ」

赤い刀がナタのように振り下ろされた腕を弾き。
機械の巨人はたたらを踏んで後退する。

「この血が運んだのは全ての”願い”!
 それが俺の騎士とひとつになり。俺の心に刻みこむ。
 俺達はみな等しく苦境の世界に抗った50の志だと!!」

「まだだ!!」

片足をハイキックのフェイントにし、
上げた足をそのまま地面を踏み込む力にして。

機械の巨人は拳を直線に騎士の顔面へと叩きこむ。

「そして――――今、この瞬間、おまえの心に刻め。
 俺は世界のあらゆる殺し合いを憎む革命家であり。
 この桐山和雄は七原秋也と同じく、
 創造主の理に反旗を翻す――――世界の敵であると!!」

極寒の地、生命失う世界にも、
きっとそこにある熱気。
それは、大地の底に流れるマグマであり。
人の心にいつも育まれる、薔薇のような花。

「空を見上げられずに大地を濡らすなら。
 失ったものに心が裂かれるならば。
 聞こえるか、柿崎めぐ。
 大地の果てに薔薇を求めるがいい。
 どんなときでも俺が、おまえに手を伸ばそう」

あらゆる諦念を嫌うと決めて。
すべての想いの断絶を憎むと決めて。
世界の敵は、真紅なる鋼鉄に歪んだ右手を、機械の巨人へと――

「そして天野雪輝。
 おまえがワイルドセブンに告げたように。
 ”願い”のために世界の理を受け入れて、理の従者になるならば。
 お前の眼の前にいるのは、お前の《宿敵(アークエネミー)》だ」

547比類なき悪の右手  ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:30:12 ID:hrVLBMiQ0



【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:人形のように虚ろな心、
     黒い羽の銀に導かれた《三銃士》とは遠すぎる身、
     孤独に涙するカナリヤを抱きしめ、
     紅の誇りが友の光と通じ合う、
     《鉄仮面》は騎士の装甲、
     炎の赤色は騎士の色彩、
     彼は《岩窟王》であり、
    《薔薇の意思》を帯びた――――世界の敵@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ナイトのデッキ×ハルワタート×真紅のローザミスティカ×金糸雀のローザミスティカ×水銀燈のローザミスティカ×川田省吾と七原秋也の銃
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、
     レミントンM870の弾(16発)、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン、めぐのカルテ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:???
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。
※スプンタ・マンユ、レミントンM870(8/8) 、エディアール家の刀はどっかに行きました。
※あくまで護神像の本体はハルワタートです




【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
     親友との明日を取り戻し、
     胸に抱くは翠の「安らぎ」と鉄の「勇気」、
     雛は卵を割って祝福を運び、
     蒼と白の装甲は暴食の顎、
     背後に従えるのは神の武具の再現、
     赫炎のジャバウォック、
     スケアクロウは賢人を砕いて進む@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:アシャ×アールマティ×カントリーマンの玉×翠星石のローザミスティカ×蒼星石のローザミスティカ×雛苺のローザミスティカ×仮面ライダー龍騎(SURVIVE)
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:走り続け、『世界』を広げよう
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。


【天野雪輝@未来日記】
[状態]:お姫様の為だけの、王子様@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(12/15)@未来日記、IMIウージー(0/32) 、プラ@waqwaq、旅人の証、《職業:時空統べる王》
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(1)
[思考・状況]
基本行動方針:本当の、願いを叶える。
1由乃と星を観に行く。

[備考]
※雪輝は自分の中の矛盾に気づきました。気づいた上で、やり直しを望んでいます。





※これより先、敗北者は魂魄となって人柱へと導かれます。

548 ◆1yqnHVqBO6:2013/01/18(金) 00:30:35 ID:hrVLBMiQ0
終わりー

549名無しさん:2013/01/18(金) 02:47:08 ID:dkKZSkpw0
投下乙です。
セリフ回しがいい感じにくるなあ。
そして、バトロワ勢の集大成とも言える桐山パート。
川田との会話がもうね、本編であり得たかもしれない可能性がさあ!
そして、ついに状態表が! ここまで長かったなあ!

550名無しさん:2013/01/18(金) 17:40:58 ID:1ycknPF6O
投下乙です。

もう目を背けないと決意したから!

551名無しさん:2013/01/19(土) 20:51:23 ID:E5OspoDc0
ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1358596243/
ラジオアドレス:ttp://ustre.am/Oq2M
概要ページ:ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします

552 ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:19:34 ID:2Xi3hASo0
投下、いきまーす。

553箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:20:49 ID:2Xi3hASo0
未来を読む巨人と感情を取り戻した仮面の騎士。
過去を取り戻そうとする者と未来を切り開こうとする者。
正反対の二人の『王』がここに雌雄を決する。
儚くも永久の強い“願い”を叶える為に、最後の戦いを駆け抜けるのだ。

「うおおおおおおおっ!」
「うあああああああっ!」

最後の参加者が現れるまで、この闘いは終わらない。
闘争が肯定され、世界が廻る。

「世界の理を受け入れる? はっ、受け入れるものか! こんな運命を強いた世界を!」
「ならば! なぜ、お前は殺し合いに従っている! 前に進まない!」
「前に進んでも、僕の大切な人はいない! いないんだよ、誰も彼もが僕を残して死んだ!」
「俺もだ! 帰っても、誰もいない! 不条理だらけの世界は、嫌になる!」

光速と幸速。光の速さで世界を翔ける『王』と、未来予知に彩られた幸せに護られ世界を翔ける『王』。
どちらにも譲れない思いがある。大切な人がいた。途方も無い悲しみを生み出した。
それでも。それでも。彼らはまだ立っている。この両足で大地を踏みしめている。

「嫌だから変えるんだ! 由乃がいない世界に、僕の幸せは存在しないから! それなら、過去を変えて由乃を取り戻すしかない。
 あの日、聞けなかった答えをもう一度聞く為に!」
「その為に、踏み躙ったのか」
「ああ、そうだよ。踏み躙る以外に選択肢なんてなかった」
「つまり、お前は闘争を。闘争を是とする世界を認めているんだな」
「…………だからこそ、変えるんだ。やり直す、全てを!」

交差、そして離脱。
目にも留まらぬ速度で二人の『王』が戦場を荒らす。
我こそは、最速。我こそは、最強。
意志を、貫け。世界を変えろ。
両者譲らず、闘争は佳境を迎える。

「世界は変わらなくちゃいけない! 世界が平和でありますようにって!」
「だが、俺はやり直しを望まない」
「へぇ……失ったものを取り戻せるのに?」

巨人の咆哮を伴って、一閃。空間を薙ぎ払う一撃は桐山を吹き飛ばす。
なれど、倒れない。この程度の攻撃で堕ちてなるものかと、歯を食いしばって前に出る。

554箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:21:27 ID:2Xi3hASo0

「失ったからこそ、感じたことがある」

最初に彼は感情を失った。
その日から世界は色褪せて、思うということは忘れてしまった。
そして、ただ流されるがままにプログラムでクラスメイトを虐殺していった。

「失ったからこそ、手に入れたものがある」

この闘いに呼ばれて、桐山は終わるはずだった世界を広げることになった。
出会った人全てが桐山を変えていった。

「この闘いがあったからこそ……俺は人間になれた!」

全ては、闘いから始まったのだ。
桐山和雄という人間を再構成した闘いは――紛れもなく価値があるもので、なかったことにしてはいけないのだから。
 
「天野。お前の考えでは俺を救うことは出来ない」
「あはは、僕はもう誰も彼もを救うつもりなんてありませんよ。僕が救うのは、手を差し伸べるのは――由乃、一人だ!」
「それが本当の“願い”か」
「そうですよ。全てをチャラにするなんて嘘じゃない、僕の、僕だけの本当の“願い”」

未来予知を超える速度で桐山が加速し、その速度を上回ろうと雪輝が先を読む。
真紅の剣で巨人の外装が抉られる。巨人の腕の一振りで何度目かわからない吐血をする。
何度目かわからない激突が再び。刻一刻と零時が迫る中、女神の階段を登るべく前を向く。

「全てが偶然と嘘であったとしても! 僕は彼女を愛すると決めた! 一緒に星を観に行こうと約束をした!」
「俺も、約束をした。絶対に、二度と忘れないと。過去を含めて、俺であると」
「どうしようもない過去でも、君は肯定するのかい!?」
「ああ、肯定しよう。その過程で、俺はこの世界の理に反逆をしよう。そして否定もしよう」

受け継いできた理念がある、それを重ねて生まれた自分の思いがある。
手を差し伸べなければいけないお姫様がいる。
桐山のやることは山積みだ。出来ないかもしれないという不安にも多少は刈られる。
しかし。やらなくてはいけないのだ。
他でもない、桐山和雄がやり遂げなくてはいけない、大切なことなのだから。

「越えていくぞ、天野雪輝」
「越えられないよ、桐山和雄」

未来予知の巨人に宣言しよう。
未来など、簡単に踏み越えていけるのだと。
そして――。

「おいおい、誰か一人忘れちゃいねぇか」

――スケアクロウが『王』の戦に割り込んだ。

555箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:22:43 ID:2Xi3hASo0



######



地に倒れこむ自分の姿は、無様だった。
変えられない未来に妨げられる、戦う以前の問題だった。

「……畜生」

悔しかった。
ミツルが死のうとしている時、自分は手を伸ばせなかった。
圧倒的な力の本流に流され、死んでいく姿をただ見ているだけ。
人を護れないで、何が防人だ。

「このまま、桐山に任せっぱなしはふざけんなって話だよな」

誓ったはずだろう、親友に恥じない真っ直ぐを貫くと。
この程度の障害を越えられなくてどうする。
立て。立て。
夜空にかかる黄金への虹の先まで――走り抜け。
それが、スケアクロウの終着点。
それが、レオナル・エディアールが見たい最高の景色。

「理不尽に、逆らう。運命なんざ……糞食らえっ」

レオは立ち上がる。
何度でも。よろめきながらも、何度でも。
限界なんてとっくに通り越している。
きっと、この闘いが終わったら自分は死ぬだろう。
限界を超えた先にあるのは、死だ。

556箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:23:11 ID:2Xi3hASo0

「アールマティ、アシャ」

ならば、その死すらも変えてみせよう。
逃げて。逃げて。逃げ続けて。
走ってしまえばこっちのものだ、誰も追いつけはしない。

「雛苺、蒼星石、翠星石」

どこまでも、飛んでいけるさ。
儚くも強い少女達の光と、友人達の意志を伴って。

「もう少しだけ、頼む。全部、出しきってからじゃねぇと、死ねないんだ」

比類なき善の左手を力強く握りしめ。
レオナルド・エディアールは、掴み取る。

「ミツル」

特別なんかじゃない、ありふれた想いだけど。
背負うから、受け継ぐから。


――行けよ、スケアクロウ。お前の炎が届くまで。

聞こえるはずのない声が聞こえた。
それは、幻聴かもしれないけれど。レオの耳には確かに響く。

「上等ッ! てめぇが背負った奴等の“願い”も一緒に、運んでやるさ! だからっ!」

勇気はこの胸に。
更なる高みへと、世界の果てへと。
駆け上がれ、スケアクロウ――!

「《防人の剣(ブレイブ・ブレード)》! 覆すぜ、その未来! その運命!」

557箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:23:53 ID:2Xi3hASo0



【黄金螺旋階段・下層/一日目/夜】

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:人形のように虚ろな心、
     黒い羽の銀に導かれた《三銃士》とは遠すぎる身、
     孤独に涙するカナリヤを抱きしめ、
     紅の誇りが友の光と通じ合う、
     《鉄仮面》は騎士の装甲、
     炎の赤色は騎士の色彩、
     彼は《岩窟王》であり、
    《薔薇の意思》を帯びた――――世界の敵@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:ナイトのデッキ×ハルワタート×真紅のローザミスティカ×金糸雀のローザミスティカ×水銀燈のローザミスティカ×川田省吾と七原秋也の銃
[道具]:基本支給品×4、たくさん百円硬貨が入った袋(破れて中身が散乱している)、手鏡
     水銀燈の首輪、水銀燈の羽、デリンジャー(2/2)@現実、
     首輪探知機@オリジナル、
     千銃@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、基本支給品、
     ブーメラン@バトルロワイアル 、
     レミントンM870の弾(16発)、
     神業級の職人の本@ローゼンメイデン、めぐのカルテ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:『封神演義』の完遂
1:祈って願って闘う
【備考】
※参戦時期は死亡後です。
※リュウガのカードデッキは破損しました。
※ローザミスティカと深く通じ合えば思い出すという形で記憶の継承ができます。
 それ以上のなにかもありえるかもしれません。
※ブレイブ・ストーリー〜新説〜側の事情をだいたい把握しました。
※ジュンの裁縫セットは壊れました。
※ジュンの技術を修得しましたが本人ほどの異常な才能はないので技量は劣ります。
※小四郎の忍術を修得しました。
※今の桐山では”願い”インストールに耐えることができません。
  もし強行すれば桐山は”七原秋也”になります
※コトは死にました。
※白髪鬼のアイテムはいくつかキクが持っています。
※スプンタ・マンユ、レミントンM870(8/8) 、エディアール家の刀はどっかに行きました。
※あくまで護神像の本体はハルワタートです




【レオナルド・エディアール@WaqWaq ワークワーク】
[状態]:壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
     親友との明日を取り戻し、
     胸に抱くは翠の「安らぎ」と鉄の「勇気」、
     雛は卵を割って祝福を運び、
     蒼と白の装甲は暴食の顎、
     背後に従えるのは神の武具の再現、
     赫炎のジャバウォック、
     スケアクロウは勇者を受け継いで進む@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:アシャ×アールマティ×カントリーマンの玉×翠星石のローザミスティカ×蒼星石のローザミスティカ×雛苺のローザミスティカ×仮面ライダー龍騎(SURVIVE)
    《防人の剣(ブレイブ・ブレード)》
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:走り続け、『世界』を広げよう
1:闘う。
※由乃の返り血を浴びています。


【天野雪輝@未来日記】
[状態]:お姫様の為だけの、王子様@ロワイアル×ロワイアル
[装備]:オリジナル無差別日記@未来日記、、ガッシュのマント@金色のガッシュ・ベル、
     投げナイフ(12/15)@未来日記、IMIウージー(0/32) 、プラ@waqwaq、旅人の証、《職業:時空統べる王》
[道具]:基本支給品 ×2、IMIウージーマガジン(1)
[思考・状況]
基本行動方針:本当の、願いを叶える。
1由乃と星を観に行く。

[備考]
※雪輝は自分の中の矛盾に気づきました。気づいた上で、やり直しを望んでいます。

558箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:25:10 ID:2Xi3hASo0















【生存者“4”名】

559箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:27:35 ID:2Xi3hASo0
「いつから、黄金の上り道が二つだけだと錯覚していた?」





「いつから、儂が完全に死んだと錯覚していた?」






「謁見させてもらおうか……! 儂の、薬師寺天膳の“願い”を聞き届けてもらう為にも!」






「のう、女神……! 否……!」






「クリア・ノートよ! 女神を偽っていた者よ!」




※情報が開示されました。女神の正体は、クリア・ノートです。

560箱庭世界の果て ◆W91cP0oKww:2013/02/07(木) 22:28:03 ID:2Xi3hASo0
投下終了です。

561名無しさん:2013/02/08(金) 18:39:23 ID:w.WOJTAgO
投下乙です。

天膳殿ォ!
また、死に損なったのかァ!

562名無しさん:2013/02/08(金) 19:06:38 ID:STfLRRao0
天膳殿がまた蘇っておられる

っつーか今まで何してたんだよてめえwwwwwwwwwwwwww

563 ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:16:01 ID:M3s.PFiE0
投下乙です!
おまえwwwwwwwww今までwwwwどこにwwwww
っていうかwwwwwクリアてwwwwwwwwwwwwww
今まで名前の一つも出てないのにwwwwwwwwwww

564 ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:16:12 ID:M3s.PFiE0
投下します

565Say good bye And Good day   ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:18:47 ID:M3s.PFiE0



「君が辿り着くだろうとは思っていたよ」

交わらない黄金螺旋階段。
孤独に、ぶつかりあうことも調和することもなく伸びるもの。
命の理にもっとも近い形ではあったが。
伊賀忍、薬師寺天膳が歩いてきた道は鍍金のようなくすみが見えた。

「君は誰よりもひとりだからね。
 敵を嘲笑い、味方をも利用し。
 己の主君すら覇道の道具でしかない。
 死なず、老いず。君はそんな身を嘆くこともない愚物。
 先立った者達の命を惜しんだこともないだろう。だから、君を助けた」

薬師寺天膳は無言。
この男は真には如何なる話も聞くことがない。
聞かず、聴かず、効かず。
すなわち不敵である不死。

「勝ちを確信した敵を背中から討つ君にこそ。
 僕の宿願の贄に相応しい。さあ、述べろ。君の”願い”を」

女神、黄金そのものである無垢なる存在であったはずの一柱。
宇宙の彼方にて永遠に微睡む言い表しがたき存在。
そのヴェールが剥がれれば、見えるのは《無色》の青年。
みすぼらしいシャツを着ただけで、何の装飾具もつけてなく。

「――――――――!!」

薬師寺天膳は”願い”を告げた。
両腕を広げて高らかに己の野望を謳った。
その顔は達成感に眩しくも輝き、
足元より伸びた栄華の絨毯を踏みしめているよう。

微笑みは嘘。
クリア・ノートは表情を変えない。

「それが君の”願い”なんだね。
 誰もが持っている浅ましく、くだらないものだ。
 他者を蹴落とし、甘い汁を啜ることを求めている。
 だからこそ、望ましい。叶えよう。
 喩え、その形が歪に過ぎたものだろうと、かまわないだろ?」

そう言って、黄金の玉座。
小さき神々が周囲を踊り。
背後にはフルートの調べが響いていても。

微笑みは虚無。
クリア・ノートは何の感慨も抱かない。

「君のためだけに造られた永遠の今日の中で。
 偽りの里を終わりなく孤独に過ごすがいい」

微笑まない、嗤う。
そうして、クリア・ノートは薬師寺天膳を選び、取り込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーー。

566Say good bye And Good day   ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:20:00 ID:M3s.PFiE0


王。ここにいるのは《水の王》に《火の王》、
そして機械仕掛けの《土の王》といったところか。

広大なる水盆のリング。透き通った
水面の先には雄大なる大地が暗闇に蝕まれて行っている。

炎を纏った龍の騎士。
《赫龍士》が巨体なる炎熱のエネルギー体を動かして
《防人の剣》を振るった。
空気が溶けて、余波がまた酸素を喰った炎を産み出す。
そして、その炎は粘つき、消えることがなく。
酸素を喰っては産まれ、喰っては産まれと急速に世界を侵していく。

「桐山、今だ!」

《蒼竜騎》が剣を握り、小さく構える。

「三星の構え」

水の流れのようにゆったりと、握りは弱く、
踏み込みは、低く。縫うようにして炎の間を滑る。

「歩法・川流れ」

だが炎で機械の巨人の逃げ場を無くしたということは
逆に言えば攻める隙間も限定されるということ。

「この巨人には未来日記が直接リンクされてある。
 だから、全てを読めるし、わかっている。桐山くん、遅いよ!」

機械の巨人の頭部が開かれ、
放射線状に機械が散っていくと、現われたのは巨大な砲。
乱れ撃つのは”願い”のエネルギーを溜めに溜めた連弾の攻撃。
一発にこめられた年月はおよそ百年分、それが五発。

「防人流剣術、七の弦」

刀身に渡った水を超振動させ、
数mmの繊細さで砲撃をいなしていく。
逸れた砲撃、超高密度エネルギー体はそのまま空を翔け。
道行く雲という雲に隧道を開けていった。

「桐の突き」

息する暇も与えずに、
桐山は山脈ほどもある
大きさの剣を直線で巨人の喉元へと刺す。

刺突は、惜しくも巨人の重ねられた両手を貫くだけにとどまり。
胴体を蹴られるまえに宙を大きく飛んだ。

「今のワザマエ、すべてに実在の人物の名前を取り入れてある。
 どうしてかわかるか? 天野雪輝」

「その方がロックだからっていうんだろ!?」

「違う。その方がかっこいいからだ」

事もなげに言う桐山に対して
雪輝は咆哮を上げながら腕を振りかぶって殴りかかった。

「俺を忘れるなよ?」

雪輝が桐山を殴ろうとしたのは左腕。
だがそこに、レオの黄金龍が喰らいつく。

粘焼の牙が機械の腕に噛みつくと、
そこから毒に感染したかのように
炎が密集した機械の表面へ燃え移っていく。

炎の侵食は左腕をたちまち覆い。
隙を逃さず横一文字の薙ぎ払いを
レオの《防人の剣》が放つ。

雪輝は逃れられない。
チャンの拳法をインストールしていても。
燃えきった左腕と炎で制限された
足場の中では出来る事など知れていた。

機械の巨人の左腕が切り落とされた。
重々しい音と圧倒的な風圧を巻き起こして左腕が落下し、燃え尽きていく。

567Say good bye And Good day   ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:21:21 ID:M3s.PFiE0


「さあ、これで――」

「ひとつだけ、訊きたい」

首元まで機械の蟲達が来ているなか、
静謐な声で桐山は問いかける。

「おまえの”願い”は、すべてを救うことじゃなかったんだな」

「……そうだよ。僕の”願い”は、愛する人と一緒にいることだ。
 夢は、諦めて。愛を、選んだのが僕なんだ!!」

「よくわかった」

パリッ、と電撃が大きく鳴った。

「お前は傍観者じゃなかった。
 神ではなく、人間だった。
 ワイルドセブンがおまえの本音を引き出してくれた」

機械の海の中で雪輝は眉を顰めた。
怪訝な声で、近くより鳴る不協和音に耳を澄ませた。

「模倣ではない、モノマネでもない。これが、俺の意思で求めた才能。
 コピーではなく、クリエイト。物語を創る。
 ――《神業級職人(マエストロ)》の右手。雷電が導く機体のほつれを掴みとれ」

桐山の右手の指が鍵盤に踊る奏者のようにリズムよく動く。
右手が動かずとも、伸ばすことができなくても、
《神業級職人》には指があれば全てが織れる。

機械の巨人の胸部分、
勇者ミツルが最後に遺していた雷がそこに燻っていて。
桐山の指の動きに連動し、機械の巨人の体躯を大きく縦に裂いていく。

「なっ、いつのまにこんなことを!?」

「機会は何度もあった。
 おまえの未来日記はアカシックレコードでは決してない。
 この世界に、秋瀬或はいない。お前が、殺したんだから」

縦に裂けて、雷電にて二つに割れた機械の巨人。

「もういっぱぁぁぁつっ!!!」

駄目押しとばかりに、
解放されたレオが《防人の剣》で胴体を纏めて斬り裂いた。


##########

【未来日記:無差別日記】
1st.天野雪輝の前にて起こるあらゆる出来事を予知することが出来る。
しかし、その最大の弱点は傍観者の性質の強さから
己の身に起こる出来事を全く予知できない。

【備考】
この弱点は2nd.我妻由乃の雪輝日記と
併用することで完璧に補うことができる。

##########

568Say good bye And Good day   ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:22:11 ID:M3s.PFiE0



ばらばらにほつれて、機械の巨人が崩れ落ちる。
統率を失った機械の群れ達は何処かへと飛び去って、
天野雪輝は床に這いつくばった。

「まだだ! まだ柿崎めぐは生きている。
 もう一度、もう一度!!」

近くに横たわった無傷の柿崎めぐへと雪輝は手を伸ばした。
柿崎めぐの側にはプラが立って、悲しげに雪輝を見ていた。
いざというときに核への攻撃から守るために守護させていた
オーディンのミラーモンスター・ゴルドフェニックスが解き放たれて柿崎めぐへと襲いかかった。

「邪魔だよ!」

雪輝が手を払うだけで
ゴルドフェニックスの因果律が崩壊し、黒球に呑まれた。

「さあ、もう一度だ! もう一度!!!!!」

妄執、狂気、どれもが天野雪輝の瞳にはない。
ただひたすらに、望むだけ。
けれど、天野雪輝の声は届かない。

代わりに、柿崎めぐの体が光りに包まれて、天へと昇った。
同行者だったプラは柿崎めぐにしがみついてチーと鳴きながら一緒に昇っていく。
何をも掴まなかった雪輝の手は虚しく伸びきったまま。

「…………どうして!? 
 女神! 今更に僕の邪魔をするのか!!
 それが、貴女の理だろう! 世界の理だろう!
 僕の”願い”を――――阻むな!」

    クエスチョン:女神とは?

「…………は?」

天から降りてきた言葉に雪輝は耳を疑った。

    女神は、どこにもいない。

    《時空王》デウス。君の求める道標は

    この千里眼で全てを見通してもどこにも、観測できなかった

「――――嘘だ!!
 嘘だと言えよ!! 僕をからかってるのか女神!
 だって、それじゃあ……誰も救われないじゃないか!!」

    クエスチョン:救いとは?

「誰もが幸せになれることだよ!!
 でも、それはいい。さあ、名前も知らない君!
 なら、僕の”願い”を叶えて、世界を救ってくれ!」

    拒否する。

「はあ!?」

    世界に人が奉じるような救いの神はいなかった。
  
    死んだのではなく、始めからいない。

    神と喚べる一柱はもはや、君だけだ。

    君は…………ひとりだ。

「だから、そんな僕を憐れんで救ってくれ!!」

569Say good bye And Good day   ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:23:25 ID:M3s.PFiE0

    僕の名前は

    私の名前は

    俺の名前は

    我の名前は
 
    クリア・ノート

    気づけば黄金の玉座に据えられていた魔物

    すべてをクリアにせよと
    
    見知らぬ誰かに課せられた使命を遂行する魔物

「…………嫌だっ! 嫌だッ! 嫌だよぉっ!
 じゃあ、僕はなんで人を殺したの!?
 高坂も、日向も、まおちゃんも秋瀬くんも!
 ガッシュも北岡さんもウマゴンも神崎もミツルもティオも雪華綺晶も!
 七原……ワイルドセブンだって僕が殺したんだよ!?」

    意味はない

    誰もが目を逸らそうと気づく真理

「やめて! そんなことを言うのはやめてよ!!」

    君が殺しただけだ

「違う!!」

    君が自分の意思で殺しただけだ

「僕は、僕はただ!!!」

    報いも罰も褒美もない


柿崎めぐの体が黄金の満月に到達し。

「幸せになりたかっただけなんだよ!」

    さようなら、天野雪輝

別れの言葉を最後に天からの声は途絶えた。

「――――ふざけるなよ」

ゆらりと、力なく雪輝は立ち上がった。
その瞳はもう何も映してはいない。
虚ろな顔で、桐山とレオを見た。

「なんだよ、それ!
 なんだなんだなんだなんだなんだなんだ!!
 なんだよおかしいだろどうして僕は! 由乃!!」

「「特攻形」」

桐山は右手を伸ばす。
レオは左手を伸ばす。

「ハルワタート」「アールマティ・アシャ」

「嘘さ! こんなのは駄目だ間違ってる
 みんなもそうおもうだろうねえそういってよ
 ゆのとうさんかあさんこうさかあきせくん!」

「おまえのことは、正直、色々殴りたいと思うが。
 俺はやっぱ、お前のこと色んな意味で否定できねえ」

レオが半狂乱になった雪輝を悲痛な面持ちで見る。

「……すまない。おまえのことをどうしようもできない。
 おまえの疑問に俺達はまだ答えられない」

だから、と彼らは言った。

「――――連れて行く。おまえを」

570Say good bye And Good day   ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:25:32 ID:M3s.PFiE0



螺旋状に渦巻く護神像。
赫と蒼の穿孔形態は寸分違わず天野雪輝を狙った。
定めて、突撃する。

「…………ああっ!!」

為すすべなく雪輝は二つの攻撃を同時に喰らい。
黄金の月ではない、慣性をも無視した直線に吹き飛ばされていく。
特攻形は桐山とレオの体から離れて、どんどんと雪輝を空へと連れて行く。

「な、んだよ、僕を何処に連れて行くんだ!!
 この世界の外にはもう、何もないのに!」

「だから、俺達が今から世界を救ってくる」

「それまで、おまえは世界の外側で待っていてくれ」

雪輝の体がどんどん削れていく。
足先から崩れ、溶けて、風化していき。
それでも神である雪輝は死なない。
《時空王》である天野雪輝はこの程度では、死ねない。

「嫌だ、嫌だ! それでどうなるっていうんだ!
 死んだ人間はなにも帰ってこない!!
 僕の帰ってくる場所も! 待ってくれる人も、いないんだよ!!」

「じゃあ、俺達がお前のことを伝えてやる。
 お伽噺としてでもな」

「すべてを奪われて、神にならなければならない運命に翻弄されてもなお、
 愛する人と観る星を望み続けた神がいると。俺達が伝えていく。
 おまえが帰ってきてもさみしくないように」

地平線の彼方、世界と外宇宙との境界線にまで追いやられた
天野雪輝にはもう、桐山とレオの姿は見えない。
左腕が削られて、落ちた。

「どんな有様になってでも、どんな心になっても、戻ってきな」

「無限大の彼方から、宇宙の外から。
 何年、何千年かかっても、戻ってこい。
 帰ってきてから、おまえが観た世界を見てから。
 おまえが何を求めるかもう一度決めるんだ」

体を構成する要素は凡そ全て喪われている。
今や天野雪輝を構成しているのは右腕と、頭部の右半分のみ。

「桐山ぁぁぁぁぁぁぁぁ! レオナルドぉぉぉぉぉぉ!!」

「三千年後にまた会おうぜ」

「ヨグに匹敵しかねない力を持ってもなお、愛を捨てなかった人間。
 覚えていろ、この世界にはおまえを待つものがいることを!!
 おまえにかける言葉はただひとつだ、天野雪輝」

世界から天野雪輝は消えていく。
誰にもわからない場所へ天野雪輝は追いやられる。
思考も一旦は乱れ、聴覚も正常に機能しなくなっていく。

「――――走れ!!」

最後に天野雪輝は想う。
自分が愛した彼女を、自分に手を差し伸べた人達を。
自分が殺めてきた人々を。
きっと、それはすべて同じ人だった。
愛して、殺して、”願い”を求めた。

――けれども。

「………………ちくしょぉ」

天野雪輝は確かに覚えた。
自分を待つ人がいるということを。


【天野雪輝 ゲーム追放】

【残り三名】

571Say good bye And Good day   ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:26:21 ID:M3s.PFiE0











空をつんざく音が上よりやってきて。
桐山とレオを襲った。
咄嗟に展開する硬化シールド。
間に合わない。弱すぎた。

二人もろとも死ぬ。
だがその直前にレオは桐山を突き飛ばし。
光線がレオの胸を抉った。



         【午前零時 突入】

572 ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:26:54 ID:M3s.PFiE0
次の話投下ー

573彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ  ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:29:04 ID:M3s.PFiE0




黄金の階段の果て、黄金に祝福された世界。
月は無慈悲に夜を睥睨し。
青年は涼しげな顔で少年を待ち受けた。

「こんにちは、桐山」

やって来たのはひとりだけ。
桐山和雄ひとりだけ。
レオナルド・エディアールはもういない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

茫然とした表情で桐山の腕に抱きかかえられ。
何が起こったのか理解すると、顔を歪めた後で、桐山の手を握った。

「…………くそっ。ああもう悔しいな、くそっ。
 ……へっ、悪いな。頑張れよ」

そう言い残して、
レオは半壊したアールマティをも包む光となって。
魂魄は二条の光となって天へと還った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。



「…………何故だ?」

俯く桐山の声は低く、震えていた。

「何故、あんなことをした。
 おまえは、何がしたいんだ?」

「べつに、なにも」

事もなげに言ったクリアへ桐山は顔を上げた。

「おさらいをしようか、桐山。
 世界を隔てていた壁は《儀式(ハルネラ)》の未遂と
 想波の浪費によって再建されることがなかった。
 そして、ひとつの世界で産まれた因果律の崩壊は全世界に浸透し。
 世界は崩壊した。それを防ぐために、この殺し合いは開かれた。
 女神を求めて。けれど、女神はいない。
 神はいなかった。世界は、救われない」

ピン、と青年、クリア・ノートはコインを弾いた。
くるくると宙を舞ってクリアの掌に落ちる。
だけど、クリアは結果に注意を払わない。
延々と、コイントスを続ける。

「それで、世界を滅びるままにしていいと想うのか。おまえは?」

「そのために、僕は存在している。
 レオナルドの死についてなら。天野雪輝との対決は済んだだろう?
 慈悲深いと想いなよ。僕は、全てを《無色(クリア)》にする。
 だから、ちょうどよく最後の一撃を終えたところを撃ったんじゃないか」

574彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ  ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:31:35 ID:M3s.PFiE0


コイントスは終わらない。
何の目的もなく、クリアはそれを続けていた。

「……ミツルとレオの魂魄は?」

「さあ? わからないね」

微笑みもしない、ただ観察していた。
桐山の表情を、動きを、蟻に対してするように。

「僕に言わせてみれば理解し難いのは正しく君達だ。
 何故、女神がいるとでも思った?
 いれば、とっくに世界は救われていただろう。
 見捨てられたんだよ、君達は。痕跡残さずの消失が証明している」

桐山は何も言わない。

「アル・ラー……ヤハウェも、ゼウスも、アザトースも、
 オーディンも、オシリスも、女禍も、伏犠も、ニャルラトテップですら、いない。
 観測は不可能だった。それが、この世界の終末にてわかる事実」

烈火の如く、燃え上がった眼でクリアを睨みつけていた。

「すべてを滅ぼした後で。僕は僕自身を殺す。
 そして、薬師寺天膳の望む世界に薬師寺天膳ひとりを放り込む」

フルートの音は桐山には聞こえない。

「……柿崎めぐはどうした」

「彼女は僕のパートナーに選んだ。
 心の力は身体には大抵何の影響も及ぼさない。
 だから、力の出力を弄っても、柿崎めぐは死なない」

「生かすのか?」

クリアは意味ありげにようやく嘲笑った。

「彼女は面白い人間だよ。
 君たちから見れば這いずる弱い人間だけど。
 僕にはとても合っている。魂の婚約者とでも――」

「――黙れ」

確かな怒りを込めていたその言葉。
クリアは怯むことなくゆっくりと吟味した。

「柿崎めぐの花嫁は水銀燈だ」

「――でも、水銀燈は君の前で死んだ」

コインが高く投げられた。
クリアが一歩横にずれたらば、
そこには球体に覆われて浮かぶ柿崎めぐがいた。

投げられたコインはクリアの手の甲に落ちた。

「ゲームをしょうか、桐山。
 コイントスだ。表が出れば君を殺して、その後に柿崎めぐを殺す。
 裏が出れば君と柿崎めぐを同時に殺すよう手加減する」

もう一度、コイントスがなされた。
けれども、結果は出ない。
桐山は唇を噛み締めて、
川田と七原のレミントンM780でコインを撃ち砕いた。

それを見たクリアは苦笑を浮かべて肩を竦めた。

575彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ  ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:33:09 ID:M3s.PFiE0



「やれやれ、どうしたものかな。
 なら、結果は柿崎めぐに尋ねよう。
 ねえ、僕のパートナー? 僕はどうすれば良いと想う?」

「…………やめろ」

眉間に皺を寄せて、
奥歯を噛み締めて、桐山は銃口をクリアに狙いつけた。

「死になさい」

「――――やめろ!!」

眼を閉じていた柿崎めぐは呪詛に満ちた声で呟く。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!」

「おやおや、どうやらそれが僕の結果のようだ」

おどけたように手を挙げてから
クリアは手を拳銃の形にして
こめかみに突きつけた。

「天使は私を殺そうとしなかった」

「うん」

「だから、私は天使にありったけの絶望を与えようとしたの」

「うん」

「それなのに、天使は死んじゃったの」

「うん」

「なら……みんな死ね!!」

「OK、相棒(パートナー)」

そう言って、クリアは銃を撃った。
手から何かが出たわけでもない。
子供のお遊びのようなバン、という言葉が出ただけ。

「金糸雀の死の時も感じた、この感情。怒り。
 それもおまえにとって《消失(クリア)》するものでしかないんだろう。
 おまえにとっては、俺がようやく取り戻したものですら。
 一瞥の価値すら無いと言うんだな、クリア!!」

それだけの動作で、
クリアは己の人間性を全て《無色(クリア)》にした。
透明の球体に座して、柿崎めぐは魔本を開いた。

無色の魔王はその名の通り、世界を無にせんと叫ぶ。
《無色の記述》、汝、楽園より追放され、
煉獄を彷徨い、何を掴み取ることもなく、
不死の忍びを取り込んで、
死なずの徘徊者として理に弾かれながらも従事する、
―――――――――汝の名は《屍鬼》

「《  の剣(ブレイブ・ブレード)》!」

始まるのは終わり。
時間だよ、と告げる者はいない。

零時に止まった世界にて、
《白色魔王》と杉村が孵化させた
漆黒の太陽という名の闇の宝玉が眩しいほどに暗くなる。

「クリアああああああああああああああ!!!!!!!!」

消失した人格に向けての虚しき少年の叫び。
それが開戦の鬨を告げる。

【レオナルド・エディアール 死亡確認】

【残り 2名】

576彷徨う少年達の乱痴気騒ぎ  ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:37:09 ID:M3s.PFiE0


【黄金の月?/一日目/午前零時】

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:人形のように虚ろな心、
     黒い羽の銀に導かれた《三銃士》とは遠すぎる身、
     孤独に涙するカナリヤを抱きしめ、
     紅の誇りが友の光と通じ合う、
     《鉄仮面》は騎士の装甲、
     炎の赤色は騎士の色彩、
     彼は《岩窟王》であり、
    《薔薇の意思》を帯びた――――世界の敵@ロワイアル×ロワイアル
ーーーーーーーー【以下すべて不明】ーーーーーーーーーーーーーーーーー


【屍鬼】
[状態]:世界の従事者@ロワイアル×ロワイアル
[思考・状況]
基本行動方針:すべての《消失(クリア)》
1:殺す

577 ◆1yqnHVqBO6:2013/02/08(金) 19:37:30 ID:M3s.PFiE0
終了―

578 ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:37:16 ID:MAkN3AWs0
投下乙です。
レオおおおおおおお! 最後まで走り続けた姿はまさしくスケアクロウ…!
そして、クリアマジ空気読めねえなwwww 
めぐめぐは八つ当たりモード全開だしもうこれわかんねぇな。

予約した分を投下します。

579―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:40:08 ID:MAkN3AWs0
消失の力と創造の力が激突する。
剣を振るう。消失の波動を解放する。
エネルギーがぶつかり合い、相殺され、光の粒の雨が世界に降り注ぐ。
もはや、二人の激突は個人という枠組みを超えて戦争と評していいぐらいに、世界を揺るがしていた。

「無駄、じゃない……! 決して、この想いは!
 俺が今まで培ってきた世界! 感情! 全てに意味は存在する!」

もはや、問いかける女神も、立ち塞がる敵も。
全ては、消失。誰も彼もが言の葉を紡がない。

「貴様だけには……! 負けられない!」

レミントンからは“願い”を込めた弾丸が発射される。
弾丸は寸分の狂いなく、クリアへと吸い込まれていった。

「…………っ!」

だが、変わらない。
クリアは表情を変えず、ただ消失のエネルギーを垂れ流している。
弾丸も消失の壁に阻まれ、消えていく。

「――――」

声はない。クリアという個は既に消失している。
ただ、全てを消失に向かわせる怪物――それが今のクリアなのだから。
軽く腕を振るう。地面が、消えた。
前に掌をかざす。空が、消えた。
クリアの動作一つで世界の何割かが削られていく。

580―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:43:22 ID:MAkN3AWs0
「……っ、おおぉぉぉぉぉおおおおおお!」

絶え間なく放たれる消失の連弾を、必死に躱す。
削られた世界を背景に、桐山は抗い続ける。

拙い。このままだと、桐山の体力が無くなっていく一方だ。
桐山は強くとも――人間なのだ。
人間であるからには、底が存在する。
故に、これ以上は無理だという限界がある。
言ってしまえば、この闘いは桐山のジリ貧なのだ。
このまま、闘い続けると桐山は負けるだろう。
そして。

「爆ぜろ――っ! 《  の剣(ブレイブ・ブレード)》!」

その敗北を覆す鍵となるのが桐山が振るう剣。
何故か――その剣の名前はわからない。
剣の名前を知り、本当の力を解放することであるいは――。



######



クエスチョン。

借り物を捨てることにより、本来の自分を取り戻しますか?

アンサー。

――――。



######

581―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:45:29 ID:MAkN3AWs0



「……そうか」

ぼそりと、呟く。

「……そうなのか」

剣を握る手を、強く握り締める。

「……それが、答えか」

桐山の中に、紡いできた全てが内包している。
ローザミスティカ、護神像、カードデッキ。
それらを複合して、今の桐山は生きている。
だが、それでは駄目なのだ。

「…………っ!」

今の桐山は背負い“過ぎている”。
その重みが彼の動きを鈍らせている。
溢れんばかりの“願い”は逆に、桐山を封じていた

「ならばこそ、別れの時か」

正真正銘、彼の心だけ。
誰の力も“願い”も借りない――桐山のみが請い願う意志。
桐山だけの《職業》により、桐山だけが知っているはずの剣の名前を知る為に。

「今まで積み上げたものを――リセットする」

だが、それは決別とも言えるのだ。
本当のお別れ――永遠の剥離。
《職業》と護神像の合体は、きっと桐山の肉体には耐えれない。
故に、もう二度と。この暖かな装甲に身を包むことはないだろう。

582―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:47:33 ID:MAkN3AWs0

「感謝する。お前達がいてくれたから、俺はここまで来れた。決して、無駄にはしない」

考えただけで震えが止まらない。
決意をいくら固めようとも、絆の“証”を自らの手で捨てることは、桐山にとって何よりも怖い。
それでも――刻まれた言葉は、共に過ごした時間は消えはしない。

「だから、見守っていてくれ。俺の闘いを。俺の切り開く道筋を」

最後に、心の中でありがとうをもう一度呟いて。
今度こそ、桐山は決別の言葉を紡ぐ。

「護神像、ナイト、ローザミスティカ――全解除」

身に纏っていた装甲を全て分離させ、桐山は単身クリアの前に立つ。
消失のエネルギーに少しでも触れてしまえば、跡形もなく消えてしまうのに。
彼は、立つ。
生身の体をさらけ出し、クリアへと視線を向ける。

「柿崎めぐも、貴様も。もはや無の領域に身を浸したか」

そう、もはや二人の身体からは意志は感じられない。
ただ、世界を消失に還すことのみを考える機械と化している。

583―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:48:18 ID:MAkN3AWs0

「終わらせるのは消失、零から一へと。明日へと繋がっていく、原初の太刀」

桐山は叫ぶ! その剣の名前を!
かつて、スケアクロウだった少年が呟いた日の当たる世界を。
かつて、革命家だった少年が呟いた誰もが笑って暮らせる世界を。
かつて、愛に縋るしかなかった少年が呟いた理不尽のない世界を。
超えていく、明日へと。
不可避の運命を――今こそ、覆す!

「《  の剣(ブレイブ・ブレード)》……いや、《四宝の剣(ブレイブ・ブレード)》よ! 崩れゆく世界を修正し――――」

これは、新しく始める創世の第一歩。
決して、変えることのできない運命に縛られた世界を。

「――――終末を、否定する!」

一振りで、変える。消滅を、断ち切る。
これこそ、闘争のみが肯定される世界を変える、原初の一撃――――!



「これで、いいんだよな……?」



終わる世界で、一人。彼は――確かに、笑った。

584―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:50:58 ID:MAkN3AWs0
【桐山和雄 ――――】

【柿崎めぐ ――――】

【薬師寺天膳 ――――】

【屍鬼 ――――】

【残り ――――名】



【――――/――――/――――】

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:――――

【屍鬼@????????????】
[状態]:――――








【ロワイアル×ロワイアル 終了】

585―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:53:54 ID:MAkN3AWs0
なぜ、お前がそこにいる。










「あはっ、あはっはははははははははははっ! ひゃは、げひゃやはははあははははっ!」










天野、雪輝。

586―――― ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:55:18 ID:MAkN3AWs0
「くふ、ひゅふっ。うん、それでいいんだよ。正解だよ、桐山くん」

故に、信じられなかった。

四宝剣を振るい、一撃でクリアを消失させた。

その上で、崩れゆく世界を修正し、止まっていた零を動かした。

これで、正解ではないか。これ以上の正解があるものか。

「やあ、久しぶり。君にとっては久しぶりでもないか……桐山くん」

そう思っていたはずなのに。

「お前が、お前こそが…………!」

桐山は、突如空間を捻じ曲げて現れた一人の少年を凝視する。

少年はぱちぱちと惜しみない拍手を鳴らしながら、にっこりと柔らかな笑みを浮かべる。

それは、数時間前に見た笑顔であり。

そして――。

「そういうことになるね。じゃあ改めて自己紹介しようか。この闘いの“主催者”として」

「初めまして、桐山和雄。時空王、天野雪輝だ」

――全てを掌に収める王の笑み!





【真・主催者 天野雪輝@ロワイアル×ロワイアル 顕現】

587 ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:55:56 ID:MAkN3AWs0
ここで一旦区切り。
続けて投下します。

588 ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 21:58:15 ID:MAkN3AWs0
「君は疑問に思ったはずだ、レオとミツルの魂魄は何処へ消えた、と」

そこは黄金の月に彩られた理想郷の果て。
地面には黄金の花が咲き乱れ、空は青く澄み切っている。
それは誰もが羨む理想郷。
かつての魔狂姫が、恋焦がれた夢の場所。

「この世界で死んだほとんどの魂魄は僕が握っている。これが、答えさ」

返答を返す余裕は、当然存在しない。
なぜ、天野雪輝が此処にいる?
確かに、世界の外側へと押しやった彼が、自分の目の前に立っている。

「なぜ……お前が……」
「なぜ? 君が教えてくれたんじゃないか。走れって。だから、僕はここまで走ってきた。
 諦めない為に。君達が時空王の力を更なる高みへと押し上げてね。まさか、あんな一つのことしかできない機械が最後の敵だと思った?
 あははっ、それはさすがにバカにしすぎだよ。あんな程度のものが物語の最後を飾るなんて……あっちゃいけない」

雪輝の視線の先には、意識を失っている柿崎めぐが転がっていた。
表情を苦痛で歪め、全身から滝のような汗を流しのたうち回っている。
四宝剣の力により、不可逆の運命を遡らせた最後の敵だったもの。

589ワールドエンブリオ ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 22:02:11 ID:MAkN3AWs0

「クリアと天膳さんは……七原さんが言ってた『封神計画』だっけ? うん、この人達はもういらないからさ。
 それに習ってさ、封じたんだけれど、柿崎めぐだけはさ……どうにもムカツイてねぇ。
 覚めない眠りの中で、地獄の責め苦を味わっているんじゃないかなぁ!」
「お前……!」
「汚いと言っておきながら、自分が一番汚いと認められない売女だ。許せる訳がない……! 
 ただ、嘆き悲しんでいるだけでッ! 自分から動こうともしないっ! ふざけるなっ! 
 そんな奴に否定なんて、されてたまるかっ! あ、ははっ! あはははっ!
 実はさぁ、この闘争の参加者が味わってきた苦しみを全部彼女に注ぎ込んだんだ。
 その苦しみの果てに、彼女は血に濡れた手が汚いって言えるのかな? ねぇ、桐山くん!」

雪輝は両手を広げ、唇を釣り上げる。
それはどこまでも狂気に満ち、止まることのできない天野雪輝だった成れの果て。
たった一人の少女と星を観に行く為に、他の全てを捨てた狂神。
その強烈な意志による気迫に、桐山は思わず後ずさる。

「ああ、この殺し合いを始めた理由? そんなの決まってるじゃないか。君の、四宝剣の覚醒が目的さ。
 うん、君は君の意志で剣の名前を知り、本当の力を引き出してくれた。感謝するよ、桐山くん。
 その力が僕の持つ因果律を操る力と合わされば――由乃は蘇る。
 過去の由乃でも未来の由乃でもない、僕と共に歩んできた由乃が……蘇る」

雪輝はパチリと指を鳴らし、目の前の空間を歪め、何かを取り出した。
それは、輝く金属の小箱。
それは、見るもの全てを魅了するであろう魔性の光沢。

「さぁ、始めようか。最後の闘争を。それに相応しい駒を用意したんだ」

雪輝は、小箱から取り出した黒の多面体をぎゅっと握りしめ。
青い空を黒へと染め上げる。

「トラペゾヘドロンよ、封じられた魂魄の再生を」

トラペゾヘドロンから溢れんばかりの輝きが漏れだし、世界を覆っていく。
そして、光が止み、元の理想郷の世界に戻る時。
そこにいたのは――もう二度と会えないであろう大切な仲間達。

「レオナルド……ミツル……!」

瞳に光を灯さず、されど肉体的には全くの変化はなく。
二人の戦士が雪輝を護るかのように立ちはだかっている。
加えて、もう一人。
その銀色の少女は、桐山の始まり。
きっかけを創りだした高貴なる少女。

590ワールドエンブリオ ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 22:04:34 ID:MAkN3AWs0

「水銀燈――――っ!」
「桐山くんに相応しい相手だろ? これで生贄は最後だ。君の力を取り込んで、今度こそ由乃を救う
 四宝剣の力、奪うよ!!!! 抵抗するなら幾らでも! 全力で潰すからさぁ!
 君は正真正銘のたった一人ッ! 一気に、終わらせるよ!!」

雪輝の合図と共に、三者三様の動きを見せながら、桐山に飛び込んできた。
レオが刃を振るう。ミツルが魔法を紡ぐ。水銀燈が黒の羽をたなびかせる。
桐山は覚悟を決めて、四宝剣を強く握りしめ――――。






「一人じゃねぇぜ、ユッキーーー!」






それは、置いてきたはずの今までの絆。
二度と、共に歩むことはないはずだった護神像。
桐山が、四宝剣を得る為に残した力の全てを引っさげて。
ワイルドセブンが再び、戦場を掻き乱す。

「またまた復活っ、ワイルドセブン! 只今見参ッ!
 ヒーローってのは遅れて到着が基本なんだよな。まっ、その方が」
「クールでロックだから、だろ?」
「いいねぇ、分かってる! わかってるじゃないか!」
「……そういえば、君は回収できなかった例外だったね。
 君は桐山くんと一番近かったからね。護神像的にも、君だけは深く刻まれているのも理由に入る」
「まーね、なんせダチだし? 俺達が最後の砦って感じ? うーん、これは責任重大だぜ、桐山」

ニヤニヤと笑いながら、ワイルドセブンは桐山が身に着けていた装甲を纏い、ビシィッとポーズを決める。
それはまるで、往年の変身ヒーローを彷彿とさせる無駄にカッコイイポーズ。

「さてと、それじゃあ止めるぜ? ユッキー? あの時の答えを本当にする為に」
「……まだそんなことを」
「まだも何も。俺がそう望んでいるんだ、お前に否定させねーって」
「諦めろ、天野。こいつは意地でも変わらん。かくいう俺も必死に抵抗していたんだが……」
「でしょうね……まあ、いい。君達で最後だ。僕の“願い”の為にも!」



「どっちの“願い”が強いかはっきりさせようじゃないか!」




【薬師寺天膳 魂魄封神】
【クリア・ノート 魂魄封神】



【理想郷/――――/――――】

【桐山和雄@バトル・ロワイアル】
[状態]:――――不明

【天野雪輝@ロワイアル×ロワイアル】
[状態]:――――不明

【傀儡の英雄達@ロワイアル×ロワイアル】
[状態]:傀儡に意志など存在しない、必要なのは強さだけでいい

591 ◆W91cP0oKww:2013/02/24(日) 22:05:26 ID:MAkN3AWs0
投下終了です。真・ラスボスもやっと出て来ましたね。

592名無しさん:2013/02/24(日) 22:49:01 ID:CNmvc1Qw0
ユッキーエピローグあたりで復活するかと思ったら実は主催者だった―!?
時系列的にあの後時を遡ってロワでも開いたのだろうかw
その辺り語られるのも期待
しかし絆装甲解除の件はじわりときたなあ。最後の最後にその絆が肩を並べて桐山七原コンビなのも熱い!
何気にここじゃ並んで戦うのは初めてか

593名無しさん:2013/02/25(月) 18:57:41 ID:UpLWNctIO
投下乙です。

原作由乃と同じことしたのか。

594名無しさん:2013/02/26(火) 00:25:44 ID:7o5KbzWI0
投下乙!

桐山と七原の共同戦か…
胸が熱くなるな

595 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:12:06 ID:Xf5ahQV60
投下乙です!!
ここで桐山と七原の真の共闘とは!
そして復活したかつての仲間たち!!
凄く王道で胸熱だ!!!!!!!!!!!!!

596 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:12:17 ID:Xf5ahQV60
投下します

597悔い改めよ、ハーレクイン  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:16:10 ID:Xf5ahQV60
 

理想の世界。
誰にとっても等しくそう映るのが今の闘技場ならば。
それはまさしく、ただしく、停滞なる世界でもあり、
海のような揺らめくさざなみの静けさでもあった。

静かな、暗闇の海。それが観測者が存在できない世界の真実だった。
長方形の箱の更に奥深くに安置される、
《函型二十四面体(トラペゾヘドロン)》は
見るもの全てを無限大の闇に引きずりこむのだから。
観測者は存在することを許されず。傍観者は赦されず、
本来ならば、世界はここに理想の結実を見られたかもしれない。

誰もが己の理想世界を瞳に映して闘う。
レオとミツルがワイルドセブンと桐山へと襲いかかり、
剣と剣が響きあう音、
仮面の戦士と《四宝の剣》の騎士は攻撃の嵐を掻い潜って。
彼らの背後から黒の羽の嵐が襲いかかった。

「桐山!」

「オーケイ!」

桐山が剣を翳すと無数の数式が体をとぐろに巻き付いて、
物質へ干渉を開始する。
存在確率の干渉。太古の神話にて遠き宇宙からやってきた
女神もその力を用いたと推測する者もいたが、真偽を確かめる術はない。

「満身創痍だね、二人とも?」

嘲りの仮面、肉片と成り果てても
力を振り絞って遠い三千年の過去へ遡った彼、天野雪輝。
ヨシュアも、シーザーも、アレクサンドルも、フューラーも、シッダルタも、モハメッドも、ムーサも、
誰も彼をも無意識の海からひたすらに観測して過ごしてきた。

観測しても、覗いていても、語りかけることはしない。
ただひたすらに未来で待つ己を記憶している者達との邂逅のため、治癒と知識に傾けた。

「お前こそどうなんだよ。
 あれだけボコボコにされてさ。
 ここまでさぞかし長かったんじゃないか?」

「長かったよ。人間《天野雪輝》はとっくの昔に消えてしまった。
 僕はもう、誰のことをも覚えていない。
 全てはこの瞬間、滅亡を超えて! あの娘に会うためだ!
 機械仕掛けの大偏差機関アカシックレコードから
 最強のショゴス《消失(クリア)》と創世の《剣(ブレード)》の種を作った僕こそが!」

「消えた……ねえ?」

含みを持った笑みを浮かべて
ワイルドセブンはレオの横切りを避けると足を払い、転倒させた。

598悔い改めよ、ハーレクイン  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:16:53 ID:Xf5ahQV60



「それにしては随分とやり方が杜撰だな。
 防人も旅人も意思を力に変える。
 意思を縛ったこの二人は、何も怖くない」

ミツルの斬撃を受け止め、力を受け流して側面に回ると、
桐山は拳での一撃を叩きこみ、ミツルの利き腕を容赦なく折った。

「攻撃も防御もどこも強くない。
 それに、水銀燈…………ボディとローザミスティカの間で衝突が起きているぞ」

水銀燈の動きが油の切れたブリキのように覚束ないものになっていき、
ついには空から落ちたのを桐山が空中で受け止めた。

「おいおい、どうしたんだよ、ユッキー。
 やり方が今までに比べててんでヌルいじゃんか」

「黙れ、ユッキーって呼ぶな。
 少しは揺らいでくれるかなと思ったんだけども。
 この程度で戦闘不能になるならとっくに落ちているか……」

指を鳴らすとレオとミツルと水銀燈の体が煙のように蒸発し、
光とともに一条の魂魄が雪輝の手へと吸い込まれていった。

「悔しくもなんともないけど、君たちは僕や由乃とはまるで違う。
 運命を覆しかねない連中だ。だから、僕は君たちを殺さなければならない」

「復讐したいんじゃなかったのか……?」

「復讐はもういい。僕と、由乃、ふたりで一つの壊れない世界だけを維持出来ればいい。
 後の世界は、もう知らない。不確定要素の虚数だ。
 猿がランダムにタイプライターへ打ち込むセンテンスの奇跡に任せるだけだ」

「……わかるか、ワイルドセブン?」

「こいつ……三千年で色々拗らせたみたいだぞ、やべえな」

「小声で話すな。神の耳には聞こえてるんだよロック気違いが」

眉を顰めて不快感を露わに雪輝は指をまた鳴らした。

「世界の終末のきっかけは水槽の破綻みたいなものだ。
 壁で仕切られた巨大な水槽の中には別々の水があり、生きている生命がある。
 けれども、壁が壊れたら、どうなるか。それがこのゲームの存在理由だ。
 誰かがやらなければ、ならない。僕はもう受け入れた」

「つまり、諦めたということか。ユッキー」

「そうだ。その通りさ。
 そうしなきゃいけないのが世界だったなら。
 そこで出会った僕と由乃はあの世界でしか生きられない!
 世界よ停滞せよ! 人を鳥籠の中に永遠に閉じ込めておけ!」

二十四面体の函から光が奔流となって流れていき、
桐山とワイルドセブンに新たな三人が現われた

599悔い改めよ、ハーレクイン  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:18:23 ID:Xf5ahQV60

「《黄衣の王》ガッシュ・ベル、《葛藤する龍戦士》城戸真司、《虚ろな旅人》チャン!
 ここからが本番だ! 純粋な武力ならばこの三人に勝てる奴はいない!」

魂の縛られた虚ろな瞳で最強の武力を持った三人が並び立つ。
気迫も意思も感じられない、時の止まった世界で闘い続ける木偶人形。
だが、一度、神の命によって戦地に赴けば、彼らは疲れと後退を吹き飛ばすベルセルクとなる。

「くっ……、この威力。
 無事か、ワイルドセブン!」

「ああ。なんとか! ……何でだ天野! 
 お前だってガッシュやキャンチョメがどう生きたのかわかってるだろう!
 ふたりの魔王のことを知っていたら。
 おまえだってああいう風に生きられるって思えたはずだ!」

「ガッシュは、僕が殺した!!」

龍騎に変身した城戸真司の猛攻。
心を縛られればその戦闘能力を遮るものは何もない。
定めに従う竜戦士は龍頭の戦士の如く、
真紅の仮面ライダーナイト、ワイルドセブンを追い詰めていった。

「大切な人たちを殺したのは同じく大切な人たちだった。
 大切な人たちを殺したのは僕だった。
 友だちになれそうな人達を殺したのも僕だった。
 でも由乃だけはずっと一緒にいてくれる!
 なら、いいんだ! 何もかもが!」

ガッシュ・ベルとチャンが桐山へと襲い掛かってくる。
《四宝の剣》はもう使えない。
存在確率への干渉は相手の存在意思への干渉と同じように
桐山の脳に多大な負担を与える。

模倣の才能を全て想像の才能の構成につぎ込んだ桐山は。
いいや、常の桐山であっても人の域を超えた演算の多様は不可能。
従って、桐山の指は奏でる。《神業級職人(マエストロ)》の業を。

弦は桐山の周囲をオーロラのように美しく垂れ囲み。
チャンとガッシュの攻撃を紙一重に防いだ。

「だからいいんだ!
 創世は僕がやる。世界に光は僕が与える。
 君たちは、死んで。転生しろぉ!!」

天野雪輝の前に光が集い、一冊の荘厳な装丁の本となった。
パラパラと、ひとりでにページがめくれていき、
天野雪輝は叶わぬIfのひとつをここにて顕現する。

「ザケル!」

魔界の王であるガッシュの口から放たれる電撃。
魔本を通じて、天野雪輝の心の力を原動力に産まれた雷は比類なき雷神の槌となる。
弦を編みあげて天へと突き立つ槍へと咄嗟に変えて雷電を逸らそうとしても雷の範囲が広すぎる。
呆気無く槍は崩されて、桐山の体が雷に打たれた。

「桐山!」

600悔い改めよ、ハーレクイン  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:19:10 ID:Xf5ahQV60



弦の壁が壊れて解け、桐山が無防備になった。
すぐさまワイルドセブンは助けに行こうとしても、
その隙を龍騎が攻撃してきた。

「人柱なんているもんか!
 君たちは、何も変わらない未来へ飛んでいけえ!!」

見逃すことなく、意思のないチャンの腕が桐山の胸を貫いた。
桐山の口から止めどなく、生命の赫色が流れだし。
腕を引きぬかれた桐山はその場に力なく崩れ落ちた。

ワイルドセブンの顔が焦りと悲痛に引きつり、
伸ばした手は届くことなく。
所有者の死亡を以って護神像はただの機械に戻った。

哄笑。それだけが辺りを賑わわせる。
ただひとりの神。命なき最強の三者に守られて天野雪輝は己の身も、
覆すことが叶わなかった運命に倒れたふたりを嘲笑った。
両手を大きく広げて、芝居がかった仕草で、舞台の幕を下ろす劇場主のように。

「喝采せよ! 喝采せよ!
 ああ、ああ! なんて素晴らしいんだ。
 僕の作った螺旋階段を盲目の生け贄が踏破し、創世の剣を献上する!
 現在、時刻を記録しない。何もかもが滅びに停止する。
 孤独の果てに僕の”願い”は実を結ぶ!
 誰も僕の側には来させるものか、チクタクマンなど存在しない!
 賽も何もかもが僕の手の内だ! 《女神》よ、悦べ!!」

そして――宝貝《四宝の剣》は時空王天野雪輝の手に握られた。

「僕の夢! 僕の愛を求める旅はここで終わるんだ!」

アカシックレコードより創った創世の《剣》の種。
それは、殺し合いの世界のために造られた世界へ埋められて。
”願い”の発露を養分に芽生えて、
使用者の最も心に残った物質を媒介に成長していった。

ミツルの杖
護神像
レミントンM780

すべては、この時のために。
そして世界は変わらずに廻っていく。

【桐山和雄 死亡確認】

【生存者 0名】

【GAME SET】

601悔い改めよ、ハーレクイン  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:19:43 ID:Xf5ahQV60
























































けれど。
けれど。
もしも、
――――誰かが

602 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:20:07 ID:Xf5ahQV60
次の話投下

603君は光、僕の光  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:21:08 ID:Xf5ahQV60




 これは夢だった。
  あのときの夢だった。
  蒼星石の死を目の当たりにして。
  意識を手放した後の。
  泣いている翠星石と夢の世界で出会ったときの。

  「おまえの木は、これです」

  そう言われて桐山は背後を振り返った。
  そこには荒野の砂漠が広がっていた。
  草木も生えない。生命も失った荒廃していくだけのどこか。

  「足元を見るですよ」

  そう言われて、桐山は足元を見ると、
  そこにはようやく顔を出した芽があった。
  光を放つ原色だけが生を許されるような厳しい世界。
  人の営みから外れれば、砂漠は生命を育むのが困難だ。

  「これがおまえの木です」

  涙に濡れた目元を袖で何度も拭って
  翠星石は桐山の隣にしゃがみこんだ。

  「乾ききった木。
   今までずっと育つことがなかったんですね」

  桐山は何も言わない。
  あのときの彼にはまだ多くのことがわからなかったから。

  「でも、ずっと誰かの思い出が
   ここを守ってくれていたんですよ。
   おまえは、覚えていますか?」

  「わからない」

  「そう」

  翠星石は寂しそうに微笑んだ。

  「人形の翠星石には羨ましいです。
   人形は遊び終わったら部屋の片隅に置かれて、
   子供たちは広い世界に行ってしまう。
   喜ぶべきだっていうのは、わかっているんですけどね」

  桐山には翠星石が何を言っているのかわからなかった。
  
  「辛かったら、呼べばいいんじゃないのか……?」

  翠星石は桐山を横目で見てふふっ、と笑った。
  
  「そうですかね?」

  「そうだろう。少なくとも、俺は、おまえが呼んだら来る」

  「無理ですよ」

  桐山の視界が徐々に狭まって、うす暗くなっていった。

  「だって。おまえは起きたら
   ここのことを忘れてしまうんですもの」

  桐山は――――――

……………………………。

604君は光、僕の光  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:22:48 ID:Xf5ahQV60


――――――忘れていない。

スプンタ・マンユの装甲からハルワタートの水が流れている。
真っ赤な水が行き着く先は桐山の倒れている場所。

桐山の指が、ぴくりと動いた。
赤い血。桐山の指先に触れて、心臓を失い。
死に行く桐山、霞のように消えそうな意識をわずかに目覚めさせた。

「……ァ」

弱々しく開いた口。
声を出せはしない。血を失いすぎた。
気力で繋いできた体力もここで尽きた。
何も、言えない。

――おいおい、だらしないな桐山。

声が聞こえた。彼の声が聞こえた。

――死にそうか、そうかあ、でもなあ、俺はさあ、そっからチャンへ決めたんだよねえ

何も言えない。桐山にはまだ早かった。
なったばかりの世界の敵には、世界の終末はあまりに大きすぎた。
だから、もう、死ぬしか道がない。
天野雪輝とガッシュ・ベルのコンビの一撃には勝てなかった。

――アンコールしてんだけどなあ、俺は

無理だ。

――無理じゃないよ

できない、ひとりでは、もう立ち上がる体力もない。

――なら、呼べよ、あいつらの名前をさ

言われるがままに、桐山はそうした。
魂魄が体から離れかけているのがわかっていても。
暗闇と無音の世界にうずくまる少年は、名前を呼んだ。


       金糸雀

       翠星石

       蒼星石

       真紅

       雛苺

       雪華綺晶

       水銀燈


生命を失った桐山の視界に、7つの光が灯った。
それは、たしかに終末を迎えた世界にはありえざる星の光だった。
ランタンに燈された灯りのように小さいけれども。
太陽よりも強い熱と温もりがあった。

――忘れてなかったんだろ? なら来るって

苦笑混じりの声が桐山の耳に届いた。
灯りは桐山に喉を与えて、同時に手を動かす力もくれた。
だから、叫ぶ。力の限り、声の限り、叫ぶ。
血に濡れた喉は本当に声が出ているのかわからない。
それでも、

605君は光、僕の光  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:24:35 ID:Xf5ahQV60



――叫べ

それでも

――感じるのも考えるのも後回しだ。呼べ

それでも

――絶望の世界の果てに

桐山は

――俺の名を!!

「ハルワターートッ!
 完全、合体だ!!」

視界が完全に晴れた。
桐山の視界に映るのはかつて桐山が通っていた学校。
デウスの核に閉じ込められていた時に何度も見た校舎。

そこの校庭で、桐山の認識では闘っていた。
桐山は手を伸ばす。倒れ伏したスプンタ・マンユの方へ、
《マエストロ》の指がピアノの奏者のように優雅に動いて。
伝う水が桐山とスプンタ・マンユを結びつけた。

桐山にはもう心臓の鼓動は聞こえない。
器官の代わりをハルワタートが埋め合わせた。
砕かれたスプンタ・マンユを光が包む。

「何度もっ! 何度もさあっ!!
 何なんだよ! ローゼンメイデン!!」

「借りるぞ」

7つのローザミスティカ。
天野雪輝に砕かれた雪華綺晶のローザミスティカを赤い水が包んで、
砕かれた宝石の欠片を繋ぎあわせた。

ローザミスティカがスプンタ・マンユの中に入る。
スプンタ・マンユが光りに包まれて、形を変えていく。

「名付けよう。0からの想像ではないが――――お前の名は!
 俺のドール! 護神像NO.XX、ワイルドセブン!!」

「させるか、ザケルガ!」

雷電が桐山へと放たれる。
直進だけの電撃でも、今の桐山には避けられるかどうか――

「遅いねっ!」

雷撃は桐山の目の前で一刀両断された。
霧散した電撃を斬り裂いたのは七原の手に握られた刀。
七つのローザミスティカ、スプンタ・マンユ、仮面ライダー龍騎、《四宝の剣》、旅人の杖で造られた。
初めての桐山のドール。光を象徴する機械機関戦士。

606君は光、僕の光  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:25:12 ID:Xf5ahQV60

「よう、とーちゃん! 俺、何をすればいい!?」

「黙れ。ふざけたことを言うな。
 だが、そうだな。おまえは俺が初めて創った光のシンボルだ。
 それなら、俺は、おまえにこう言おう」

右手を伸ばす。天野雪輝へと。
《神業級職人》の手が絶望の世界を切り裂いて。

「”もっと、光を”。あいつへも」




      【ロスタイム突入】

607 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/01(金) 15:25:43 ID:Xf5ahQV60
投下終了

608名無しさん:2013/03/01(金) 17:05:44 ID:EjuMxAkI0
投下おつー!
おお、これまで名を呼べば来る、俺の名を呼べ状態だった桐山が逆に名を呼んだ―!
ワイルドセブンって七原のことでもあるんだけれど、ローゼンメイデンが七体なことを考えてもマッチするよな―

609 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 15:53:45 ID:c/gu0qLg0
投下します

610深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 15:54:18 ID:c/gu0qLg0


Question、昔むかしのお話でもあり、つい最近のお話でもある男の子の物語。
     その少年はいつもひとりで周りを眺めていました。
     可能性を自ら遠ざけて、同じくひとりだった神さまと語り合っていました。
     けれども、そんなある日、世界は滅びることになりました。
     どうすることもできません、世界に寿命が訪れたのです。
     沢山の人が自分の為に世界を救う殺し合いに赴きました。
     少年も殺し合いに巻き込まれました。
     弱かった少年は、すべてを失います。
     すべてを失った少年はようやく勇気を持ちました。
     少年は世界への復讐を考えて、最後にただひとりの女の子との未来を求めました。
     少年はどうなりましたか? 世界にも、運命にも攻撃された少年は、
     涙も怒りも失って悠久の時を過ごすしか無いのでしょうか?
     ――私は、赦します。あなた達の選ぶ解答のすべてを。

Answer、識れたことだよ”お母様”、世界の敵が救うまでさ

611深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 15:55:19 ID:c/gu0qLg0




―――――――――――。


ここまで沢山のことを忘れてきた。
三千年、現出先は宇宙の彼方も飛び越えた外宇宙。
旧き神である肉体という鎧は肉片であっても意識と生命を失わなかったけれども。

多くのことが零れ落ちていった。
三千年、
たとえばそれは観客のいない舞台でひとり喝采を叫ぶ「孤独」であったり。
たとえばそれは届かない光に向かって歩み続けられる「勇気」であったり。
たとえばそれは無意識の海で誰よりも恵まれているはずの「安らぎ」であったり。
たとえばそれは――――誇りであったり、光であったり。
ああ、最後の二つは決して持ったことがなかった気がすると神は独白する。

学生服を羽織った青年、七原秋也の姿をした護神像、XX・ワイルドセブンが
内部の無限動力を動かして、圧倒的エネルギーでガッシュと雪輝の周囲を駆ける。
疾走は、今や衝撃波を伴って、雷電をも寄せ付けない嵐となっていた。
天野雪輝の目に映る世界は…………無。

理想の世界を観測者に投映する二十四面体のダイス。
トラペゾヘドロンは条件を満たせば幻想、文明問わず止まった闇を呼び寄せてくれる。
けれども、天野雪輝には何も観えない。それは、彼が観測者であるデウスだからなのか。

「ザケル!」

雪輝が呪文を唱えると隣で虚ろに立ちすくむガッシュの口から電撃が出る。
こちらの意思は無条件で従う、万能の雷電兵器。
王であるガッシュの放つ雷電は勇者ミツルの受け継いだ雷に軽々と匹敵する。

「だから何度も言ってるだろ? 遅いよ!」

光がワイルドセブンから産まれて噴き出す。
雷の閃光は標的の後ろへとすり抜けて、
ワイルドセブンは無数の弾丸を吐き出す。

ぐるりと雪輝の周りを旋回すると、
ガッシュと雪輝の周囲にはエネルギー弾が放射状に取り囲んで、撃ちだされた。
雪輝の体が力強く引っ張り上げられる感触とともに上へと飛ぶ。
首根っこを掴まれてガッシュが天高く跳躍した。

どれほど高く跳んでも雪輝の瞳には何も映らない。
無音、無明の世界で毒々しいほどに輝くワイルドセブンと、
チャンと城戸真司を引き受け。
奇妙複雑な動きをする弦で翻弄する桐山の姿だけが
夜の影法師のように浮かび上がる。

「ユッキー、訊きたいんだけどさ。
 我妻を蘇らせたところで彼女は人間だろ。
 おまえのように長くは生きられないぜ?」

「魂は循環していく。
 人柱にならない限りは」

「なら、我妻由乃を人柱に据えるということか?」

「いいや、人柱には気高さの果てに至った魂が必要だ。
 由乃の魂にはきっとその資格がきっとないと思う」

少年の顔に、かすれ、萎びた老醜が浮かべられる諦念と怨讐。

「彼女の命が絶えるときまででいい。
 三千年と山ほどの命を捨てて、
 無力な少年《天野雪輝》も捨てて!
 僕はようやく彼女との星を観られる」

612深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 15:56:20 ID:c/gu0qLg0


術で強化されたガッシュの身体能力は雷のように速く。
音をも受け止める強靭な手足がワイルドセブンと並走する。
雷と光の鱗粉が道筋を照らし、けれども広大な闇に儚く呑まれて。

「止まって、ガッシュ。ザケルガ!」

並走から急ブレーキで止まれば自然とこちらに合わせていた相手の動きが予測できる。
左三十度。外れないはず。ここまで引きつけてからの電撃は人の反応を超えている。

「OK、川田!」

ワイルドセブンは動じない。
掌に現われたショットガンから走る弾丸が電撃と直撃すると
周囲の空間が捻じれ、乱れて消失した。

「《四宝の剣》で因果律を歪めた……
 厄介な力だよ。おまけにローザミスティカを内蔵しているんだから無限だ」

「動力無限はお互い様。それに因果律や確率の操作は、お前の得意分野、お前の力だろ?
 なあ、ユッキー。ラプラスの魔は、お前の眷属として随分と働いてくれたんじゃないか?」

「ローゼンクロイツに廃棄されたのを拾い上げただけさ。
 僕の力の数千分の一を与えただけの三月兎だ」

「え…………あれホントにお前が絡んでたの?
 おいおい、スーパーロボット大戦は二次αが一番好きな俺としては気になる事実だぜ?」

「マクロスが活躍するから?」

「わかってるじゃん」

軽口を叩き合いながらの力の打ち合い。
城戸真司の炎が桐山の弦を焼き尽くして肉薄したのが見えたが、
水を産みだしたハルワタートが新たなる弦を産み出し、難を逃れた。

「…………どれが本命?」

ワイルドセブンは素知らぬ顔で銃を撃ち続ける。

「中川典子が本命かな。
 これ秘密だからね」

「そういうことを聞いているんじゃない。
 君の狙いは僕か、それとも木偶か」

ワイルドセブンは小出しに撃たれるザケルを鋼の脚で跳ね飛ばすと、
隙きのない構えを取りつつつも器用に肩を竦めた。

「木偶……そうしているのはお前だろユッキー。
 なあ、天野。おまえはガッシュくんの隣に立てて満足か?」

「五月蝿い。僕が聞きたいのはそっちはこの期に及んで
 僕を救うとかいうふざけた狙いをまだ持っているのか?」

ワイルドセブンの眼がすっと細まり、
左手にはショットガン、右手には大剣を現した。
沈黙を意味する所が理解できた雪輝は奥歯を噛み締め屈辱に体を震わせた。

「救うってなんだよ。救うってなんだよ!!
 君たちは僕が、そんなにも憐れか!
 ”願い”に狂った君たちのような奴等の喰い滓でようやく神になった僕は!
 そんなにも可哀想か! お前たちが、やったくせに!!
 僕は――哀れまれるほど弱くはない! 見くびるな!!」

「俺もお前と同じく無力だったよ、天野」

「うるさい、うるさい! 」

「見くびってなんかない。お前はよくやったよ。
 俺が川田を助けた回数とお前が我妻を助けた回数なら、
 きっとお前のほうが勝ってるんじゃないかな」

そうだ、とワイルドセブンは重心を低くして、踏み込みを深くする。

「お前は、もしもの俺だ。無力のままで、誰も助けてくれなかったら。
 俺も、お前のようになっていただろう。
 だから。俺は、お前の目を覚ます」

613深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 15:57:16 ID:c/gu0qLg0


そう言ってワイルドセブンは速度を解放した。
光の速さ。物理法則に従えば膨大なエネルギーが放出される速度でも
この空間内では審判に関する化学と物理は極めて歪んだ形で適用された。

速い。亜光速どころではない。ガッシュの目にも追いきれるかどうか。
けれども、大丈夫だ。この速さでもなお、すぐには攻撃してこないならば
それは即ちガッシュの反応速度と戦闘力を追い越せるものには至っていないということ。

天野雪輝の狙うは捨て身の必殺。
この身を敢えてさらけ出し、的にすれば敵はこちらを狙うだろう。
甘ちゃんであるこいつらにはできるはずもない、操られた者を殺すなどと。

ラウザルクは使えない。
身体能力の上昇は魅力的だが術の併用はできないのだから。
雪輝の生命を断つには近距離から渾身の一撃をまともに浴びせる必要がある。
ならば走り、すり抜けざまの斬撃では足りない。

故に相手が力む、その瞬間を狙う。
引きつけ、こちらの生命を差し出してからのバオウ・ザケルガ。
キャンチョメが行使したものとどちらが上かは問題ない。
王の雷電は、容赦しない。

無意識の海にもアクセスできる
時空王デウスならば魂の縛られた人形相手に
以心伝心の連携をとることができる。
捕捉から攻撃へのタイムラグは最小限。

勝てる。

614深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 15:59:30 ID:c/gu0qLg0


桐山がチャンと城戸真司を相手に立ち回りを演じている。
チャンの練り上げられた必殺の一撃が突きとなって桐山の頬を掠める。
だが桐山はその突き出された腕を取ると相手の力を利用して手品のようにチャンを回す。
受け流した瞬間をも隙となるのが乱闘。
城戸真司が炎を篭手に装着した発射口より吐き出す。
だが炎はハルワタートの水に掻き消された。

「ガッシュには兄がいたんだ」

風を切る轟音とともにワイルドセブンの声が微かに聞こえる。

「ずっと憎みあっていたけれど、ようやく分かり合えた兄がいたんだ」

「……僕の父さんだって、そうだ。僕と分かり合えた次には殺されたんだ」

「それで、お前は何もかもを恨んで救おうと思ったんだよな」

じゃあさ、とワイルドセブンが現われたのは桐山の隣。
ワイルドセブンの手が強く握りしめられると、
応えるように指の隙間から雷光が溢れだした。

「ローザミスティカは無意識の海やnのフィールドに通じている。
 お前が、魂魄を《因果律の大聖堂》を模した空間に安置していたのは掴めた。
 俺達は、殺し合いの間、ずっとデウスがやるような無意識の海への通路を探していたからな」

桐山の人差し指と中指の間に一枚の羽が挟まっている。
黒い、烏よりも艷やかで深みのあるオニキスの色。
誰かの羽根。それはきっと、天使の羽だった。

「第二作目。《天使の剣、あるいは黒の長剣》」

黒の羽根に複製された瓜二つの羽根が何枚も集まって、
それはやがて一振りの柄から刀身まで黒色の剣へとなった。

「おまえに奪われた奴が復讐したいってよ」

銀光にワイルドセブンの体躯が呑まれていく。
雷がジグザグに彼の周囲一メートル内に落ちていき。
頭上を雷の天蓋が覆っていく。

「借りるぜ――――《雷帝》ゼオン!!」

ラウザルクが使われた。
革命家の刃、銃身、全てが電撃を帯びていく。

「桐山、あいつの視界を奪え!」

「オーケイ」

桐山が腰だめに長剣を構え、剣が闇に溶けていく。
実際は天野の目にそう映るだけなのだけれども。
それでも、一瞬だけ雪輝は相手の攻撃を予測するのに手間取った。

横斬り、めぐの花嫁の羽根が威力と風を切る力に負けたように。
剣が解けて、無数の羽根の嵐になっていく。
雪輝の視界がまぶしい黒に覆われた。

「は、ははっ! やっぱりそうなるんだ!
 七原さんだって僕を復讐で討つつもりなんじゃないか!
 それでいい! それでいいんだ!」

「違うって…………のっ!」

後頭部に衝撃が走る。つんのめって前に転びそうになりかけて、
天野雪輝は後頭部に手をやると大きく膨らんだたん瘤があった。

「……なんのつもりだ!」

「いや、俺じゃないけど?」

「うるさいっ! 小学生みたいなことを言うな!」

雷土を纏い機動力を急激に押し上げたワイルドセブン。
墨色に染まった世界で小出しに雪輝を殴り、また離れていく。
狙いがつかめない。
デウスをヒットアンドウェイなどという小賢しい戦法で弑せると思っているのか。

雪輝の頬が強く殴られた。
しかし、姿はつかめない。
桐山は静観しているのか、微動だにしていない。

「君は何のつもりで僕の行く手を阻む! 七原秋也!」

「それはだな」

すぐ側に、七原が全てを照らす光とともに走ってきた。
時空王天野雪輝の目にもようやく捉えることができた。
近づき過ぎている。対応できない。
ガッシュに命じればこちらもろとも雷に焼きつくされる。
ならば、どうするか。どう――――

「おまえを、ぶん殴る!!」

615深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 16:00:23 ID:c/gu0qLg0



ワイルドセブンが目の前に現われた。速い。
予想外の出現地点。天野雪輝の目の前。
攻撃を繰り出そうと拳を振りかぶっている。そこまではわかっても、
込められたエネルギーが雪輝を殺すには至らないと直視のみで理解できる。

けたたましい音が雪輝の頬を打った。
衝撃で雪輝の鼻から血が噴き出し、歯が何本も飛んだ。
それでも、雪輝は死なない。

そしてガッシュは虚ろな瞳のまま、
ワイルドセブンの命を刈り取る一撃の隙のみを
狙うよう指示していたため動かない。

胸元の襟をワイルドセブンに掴まれて再度、殴られた。
また殺すほどの攻撃ではない。何のつもりなのか、
雪輝の脳を無数の疑問符が飛び交い、頬を突き抜ける衝撃が思考を揺さぶる。

衝撃を逃がすことはない。
吹き飛ぶ雪輝をワイルドセブンの腕が引き止めて逃さない。

「さあ、どうするユッキー。
 ガッシュの助けを呼ぶかい?」

ワイルドセブンが暗闇を一息に晴らした。

「七……原……!」

「誰かを呼ぶかい?
 援軍気取りで、人形を召喚するかい?」

チャンと城戸真司がワイルドセブンを阻もうと駆けてくるが
桐山が足止めをして阻んだ。

「なあ、天野ユッキー。
 今のおまえの手にはすべての魂へのアクセスがある」

「ガ……ガッシュ!! 僕もろとも雷電を打て!
 僕の暗がりに賭けて! その勇猛な雷鎚で希望を滅ぼせ!」

ワイルドセブンと天野雪輝に雷が降り注ぐ。
ローザミスティカ7つがエネルギー源といえども決して絶対のボディではない。
襟を掴み上げられ、釣り上げられた姿勢のままに雪輝は雷剣に打たれ続ける。

「なあ、どうしてだ。ユッキー?
 今すぐにでも会いに行けばよかったじゃないか。
 何を恐れているんだ? 彼女の声を聞くのが怖いのかい?」

「違う…………」

「なら喚んでみろよ。さあ、さあ! さあ!!」

「城戸真司! チャン! 桐山は放ってこいつを壊せええええ!!」

「させないぜ? もういっちょ! ジガディラス・ウル・ザケルガ!」

金色の雷の嵐の中で、蒼い雷がワイルドセブンの指先から疾走する。
行き場はワイルドセブンの背後、桐山の持つ剣へ。

「使うぞ、芦川。
 ――1ジゴボルトの雷斬撃!!」

逆手に持ち替え、背後へ剣を構え。
重心を低くした桐山の黒い剣に蒼い雷が纏い付く。
亡者に貶められた魂も、人形も、マエストロの翼がくるんで、
肉体という檻から魂を剥がしていった。

616深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 16:02:40 ID:c/gu0qLg0



「な……そんな……ちくしょうっ!
 君たちはいつもそうだ! わけのわからないやり方で平然と僕をあざ笑う!」

「君たち君たちっていつまでも他人のふりしてんじゃねーぞ、天野。
 ズルだの何だのなんて。今のおまえにはブーメランに、ほどがあるだろ!!
 これが、おまえが踏みにじった奴らの拳だ。
 北岡さんは面倒がって来なかったけどなあ!」

ワイルドセブンの拳に炎が宿った。
灼熱に燃焼する真っ赤な炎、ウマゴンの炎。
燃え盛る革命家の握り拳に集まる火炎は太陽に見えた。

「意識の底で、あの子に会ってきな!」

顔面へと真正面から太陽が落ちてきた。
雪輝の視界が光に燃えて、暗がりよりも眩しく。
時空王の意識を燃やし尽くして。


………………………………………………………………………………。


落下している感覚。
どこまでも落ちていく浮遊感に通じる心もとなさ。
気絶。意識の喪失。死がなくとも意識の喪失というのはありえたのかと
雪輝の冷静な部分が自己認識した。

落ちていく。深く、深く。
体も冷えていき、光にも遠く。

雪輝に触れたのは、灯り。
三千年を超えて、久しく忘れていた誰かの自分へと向けられる感情の熱。

「……やめろ」

悪夢にうなされるように、雪輝はその光を遠ざけたいと思う。

「来ないでよ。まだだ、まだ君には」

けれども、雪輝の訴えに関わらず光は想いを運んでくる。

――ユッキー

魂の言葉は短い。
色と僅かな感情の結集の発露にしかならない。

「やめて、そんなのはズルすぎるよ!!」

耳元に彼女の声が聞こえた。

――もう私を追いかけないで

「やめてくれええええ!!」

声の限りの絶叫。
落ちていく彼の悲鳴を聴く者はいない。
ただ、彼女の魂魄だけしか。

三千年の“願い”。彼女と観る星。
彼女、愛する我妻由乃がそれを望まなければ、
呆気なく破綻してしまう。

「どうしてさ……
 今まで、ずっと、君は、僕を追いかけてたのに……!
 僕が追ったら、追うなっていうのかよ、君は……!!」

617深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 16:04:28 ID:c/gu0qLg0



右手を胸元に当てれば、そこには暖かな温もりがあった。
視線の焦点を胸元よりも、もっと遥かに遠い足元に。
いいや、頭から逆さになって落ちているのだから、
正確には頭上を、天井を、空を、宇宙を見下ろした。

そこにあったのは天野雪輝が殺し合いにて集めていた魂魄の安置所。
デラ・ルベシの崩壊にて無意識の海に散らばった無数の魂魄が織りなす空間。

「これは――」

雪輝は思わず目を奪われた。
無数の、熱く燃えて、光り輝き。
彼女の魂魄が寄り添う中で見上げる天の海。

色とりどりに瞬く、美しさは、天野雪輝がはるか昔に失った輝き。

「まいったな」

天野雪輝の瞳から、三千年ぶりに涙が零れ落ちた。
失い、忘れたはずの感情がこみ上げてくる。

涙が空へと還り、雪輝は悟った。

「“願い”が……叶ってしまった」

呆然と呟く彼に。
我妻由乃の魂魄がそっと瞬き、雪輝の心を少年に還していった。

「僕は――――なにひとつ忘れていなかったんだ」

因果を司る神に忘却はありえない。
けっして、すべてが心から去ることはない。
ただ、自ら手放していただけ。

「ずっと、もう無理だと、みんなを遠ざけて。
 あの頃から時間が止まっていたのに。
 過ぎ去ったものだと思い込んでいて」

天野雪輝は、我妻由乃の魂魄を空に手ずから還す。
卵のように誕生を待つ円球が星の海、星の五月雨、星の花畑に行く。

「認めるよ――――僕が、間違っていた」

顔を手で覆い隠し。天野雪輝は敗北を認める。

「僕は――――いつでも自力で救われることができたんだ」

そうして、雪輝の意識は再覚醒した。

618深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 16:06:22 ID:c/gu0qLg0




………………………………………………………………………………。


理想の世界は消えていた。
いるのはワイルドセブン、桐山、天野雪輝のみ。
魂を縛られていたゾンビも解放されて。



「君たちの勝ちだ」

涙を拭って雪輝は言う。

「トラペゾヘドロンに僕の核を共鳴させれば、
 僕が隠していた女神の玉座への道が開ける」

「ユッキー……」

「何さ、その顔は。
 …………僕は、もうダメだ」

そう言って天野雪輝はワイルドセブンの手を握った。
束の間の握手。穏やかな笑みを浮かべて、
天野雪輝は《四宝の剣》に因果を司る力を分け与えた。

「行きなよ。僕は、闘う気力が無くなった」

天野雪輝の背後の空間に裂け目が現れて、
縦に開くと向こうには一つの巨大な建築物を取り囲んで聳え立つ螺旋階段が。
天野雪輝の体が少しずつ罅割れて、岩石が風化しように、少しずつ表面が剥がれていった。

「天野……?」

桐山が天野雪輝の変化に声を上げたが雪輝は首を振るだけ。

「君たちは“願い”を叶えに行きなよ。
 僕は、君たちが、人が何をしようとすべて構わない。
 救いたいなら救えばいい。
 滅ぼしたいなら、そうすればいい。」

天野雪輝は瞳を閉じて、消え失せた両足には意識せず。

「僕は、ずっと世界の奥深くで。
 すべてを見守ろう。もう、満足してしまったから」

でも、と天野雪輝は胸元まで消えていったが
震える口元で、最後の言葉を告げようとした。

「いつか……あの子が、僕を見つけることを――」

「おまえが、迎えに行けよ。
 向こうが忘れてるなら、思い出させてやれ」

ワイルドセブンの、言葉に天野雪輝は大きく目を見開き。
そして、満面の笑顔を浮かべ。

「由乃は、いつも強引だったんだ。
 だから、そうかもしれない。僕も、彼女に――――」

世界の復興まで眠りにつく神が最後に思い出したのは。
初めて少年、天野雪輝が《時空王》デウスに巡り会った時。

619深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 16:08:54 ID:c/gu0qLg0







――そうか、デウスも






    「君は誰?」

    何も知らない、些細な事で傷ついていた。少年だった頃。
    いつの間にかそこに至って、大きな神に初めて会った。
    崩れ落ちそうな鳥の髑髏の仮面をかぶり、
    ハンプティ・ダンプティの玉座に腰掛けた因果律の神。
    
     「私の名は――」





きっと、誰かに見つけられて、嬉しかったんだ
    


【天野雪輝 ゲーム退場】

620深海からの天体観測  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 16:09:15 ID:c/gu0qLg0







―――――――――――――。



「行ったな」

「ああ」

雪輝が去った世界で、最後の場所、女神のおわす玉座を前に。
少年と彼のドールは螺旋階段へと赴かんとする。
ゼオンとシュナイダーの魂魄はもうない。
あとはもう、進むのみ。

けれど、

「……おい、どういうことだ?」

桐山とワイルドセブンの背後でゆらりと立ち上がったのは柿崎めぐ。
繰り返される死の痛みに顔中が引き攣り。
血色の悪い細い手足が薬物中毒者のようにぶるぶると震えていた。

『AAAAAAAA――――!!』

柿崎めぐの放つ鬼気は、
雪輝の手に封じられたはずの《消失》のもの。
魂の花嫁、そんなフレーズが桐山の脳裏をよぎった。

「おまえが行け」

有無をいわさずワイルドセブンを空間の裂け目内へと押しやって。
桐山は柿崎めぐと相対する。

「おまえ――本気なのか?」

返答は霧山から放られたコイン。500円玉。

「“あの時”に言えなかった言葉だ。
カウンターパンチだ。決めてくれよ、七原」

口元に不敵に思える笑みを浮かべて
桐山はワイルドセブンへ完全に背を向けた。

「アンコールだ。応えてくれるんだろ、ロックスター」

「ありがとう、桐山」

「ああ、さよならだ」

そうして、彼らは別れ、
午前零時のままの時計は秒針が少しずつ動き出した。

621 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/06(水) 16:09:28 ID:c/gu0qLg0
終了

622名無しさん:2013/03/06(水) 20:01:35 ID:17USm/z.O
投下乙です。

神の願いは叶い、人の時が動き始めた。

623 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:54:53 ID:voCJyisY0
投下します

624だってその手は比類なき悪だから  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:55:35 ID:voCJyisY0



ローゼンメイデンとは無意識の海を力の源とする。
世界の外で、全てと繋がる広大な茫洋な大海原。
人は己の領域を小さな海として持ち。
薔薇の乙女は契約を結んだマスターを介して、その海から力を得る。

魔物と薔薇乙女は同じ力を元にし。
機械の賢人ヨキは海から自我の芽生えを得た。
幻界は無意識の海にて産まれ。

ヒトは多種多様な世界で生きていく。
唯一つ、誰によって光を与えられたのかを意識の底に刷り込まれて。

世界は消えていこうとしている。
ワイルドセブンを見送った後、三人が闘ったフィールドは崩れ落ち。
桐山とめぐは頂上から崩れ落ちていく黄金螺旋階段を降りながら戦っていた。
天野雪輝、時空王である彼の力で創りあげた理の要は
構築者の退場で呆気なく崩壊していった。

下界に広がる世界はもはや異邦の闇に包まれて。
夜空に浮かぶ雲は幾千幾万に千切れて溶けて。
止まった時間の中で、最後に残ったのは少年少女。

消却光から桐山は逃げる。
掠っただけでも致命傷となる一撃の山。
ぼろのように擦り切れた真っ黒な
学生服をはためかせて桐山は大地を駆ける。

『AAAAAA…………!!』

正気を失った柿崎めぐは言葉を成さないうめき声を上げて
血まみれのセーラー服を着たまま、下方の桐山へと術を放つ。
それを大きく跳躍した桐山は階段の裏側を蹴って加速し柿崎めぐへと斬りかかった。

だが、効かない。
魔物クリアの心と深く結びついた柿崎めぐは不可視のフィールドに守られ。
周囲に展開した冒涜的な佇まいの怪物達の口腔から無数の光を撃ち続けた。

「柿崎めぐ……! 正気にもどれ!」

もどかしげに眉を顰めて桐山はめぐに叫びかけた。
だが届かない。天野雪輝が造り上げた魔物の心がめぐの心を蝕んでいるのだろうか。

弾かれた桐山は階段を更に降りる、退く。
柿崎めぐは常に上を陣取り、
燃え盛る焔のように髪を振り乱して一心不乱に攻撃を仕掛けた。

625だってその手は比類なき悪だから  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:56:01 ID:voCJyisY0



柿崎めぐの攻撃はクリアの術。
消失をもたらす攻撃は不可視の光を曳いて流れ星となる。
桐山の背後でまた大きく階段が穿たれた。

模倣不可能な錬金術の悟りの極地である螺旋階段は
同じく雪輝が造った生き物によって損なわれていく。
ローゼンが神秘の法を探求した螺旋階段の塔にも通じる意匠の階段は
崩れ落ちることはせず、霧散し、消えていく。

階段の中腹まで降りた桐山は、
再度、フェイントを織り交ぜながら柿崎めぐへ斬りかかった。
だが剣を握る腕は柿崎めぐの華奢な手からは想像もできない力で掴まれ、
腹部に強烈な蹴りを喰らい、錐揉みしながら階段を転がり落ちていく。

桐山は即座に立ち上がる。
この殺し合いで味わった意識の目覚めは桐山に人の感覚を与え、
久しく味わっていない真の痛みで攻めてくる。
唾液と吐瀉物でぐしゃぐしゃの口元を袖で拭った。

「柿崎…………めぐ……。
めぐ。俺を許せないのはわかる。
けれども、頼む、意識だけは取り戻してくれ」

痛み。それは手を差し伸べようとした相手に敵意を向けられること。
唾を吐かれること。命を狙われること。
どれも、桐山がかつてやったこと。

桐山の訴えは届かない。
鬼女の面相でめぐは猛り、咆哮する。

「そうだな。この程度で届くはずはないか。
俺は、まだまだ甘いんだ」

苦笑して再度剣を構える桐山の耳に微かだけれど
小鳥のさえずりのように歌う調べがそっと聴こえてきた。

『ラプンツェル。ラプンツェル。
 お前の髪を下げておくれ』

桐山は一時の間いぶかしむ。
場違いな。遠い何処かから聞こえてくるように錯覚する言葉。
それは、桐山にも心当たりがあるフレーズ。

『……ここを出て、あなたと一緒に行きたいけれど。
 どうやってここから降りるのかわからない。
 だから絹でできた……丈夫な糸を』

『ここは良いところよ。
小人たちが私に良くしてくれるの』
『そんな貴女に良い物があるんだよ、白雪姫。
この林檎を食べてごらん』
『ねえ、聞いてちょうだい。The Beast。
ここでふたりのささやかな舞踏会を開くのよ。
人はどんなときでも優雅さと気高さを忘れてはいけないの』
『無駄だよ。私の毛並みはご覧のとおりさ。
大きな爪と腕で君の細い体をエスコートなんてできるものか』
『勇ましき騎士、リーピチープ』
『貴女を守りましょう。
この剣にかけて。たとえこの身が獅子に劣る鼠であっても』
『お慕い申しております、伯爵』

柿崎めぐが口にしているのは物語の一節。
彼女の表情に次第に見え始めて来るのは屍鬼に守られ、囲われるいとけない少女。
天使を失った少女は無機質な病室と同じく、物語の海に揺蕩う。

626だってその手は比類なき悪だから  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:56:46 ID:voCJyisY0



「めぐ」

桐山は苦悶を浮かべて歯噛みし、
剣を威嚇のように数度振ってから、一足で間合いを詰めた。

「めぐ!!」

桐山は何度も柿崎めぐを覆う不可視の防護障壁を攻撃する。
挫けずに何度も、だが所詮は柿崎めぐの体を傷つけないよう配慮した上での斬撃。
厚いゴムのような感触だけが漆黒の剣を通して伝わり。
桐山の頬から無数の汗が飛び散って焦燥が浮かぶ。

柿崎めぐの華奢な体躯が桐山を敵と見做して打撃の乱打を浴びせていく。
それでも踏ん張り、柿崎めぐから決して離れないようにし。
まぶたが腫れて、唇の端が切れ、内臓が著しく痛めつけられる。

めぐの拳が桐山の頭を殴打した。
薄い膜で覆われているめぐの体には直接的な感覚は伝わらない。
桐山の体を傷つける感触をめぐは絶対に知ることはない。
業を煮やしためぐはその手から直接、術を放とうとした。

「その一撃を待っていた」

消失の現象を漆黒の剣が斬り裂いた。
羽根が消失をも喰べつくして、出したカードは柿崎めぐの隙を産み出す。
術を手から直接放出するには体表を纏う結界を薄くする必要があった。
桐山は力を振り絞って紙一重、消失の流星を躱して、めぐの殻に剣を刺し込む。

「柿崎めぐ。おまえは言っていたな。
 水銀燈は死んだと。だがこれを受け取れ」

少しずつ柿崎めぐの殻が剥がれていく。
薔薇の花弁を一枚一枚とるように優しく。

螺旋階段の下腹部で密着する二人。
騎士が女王に忠誠を誓う風景を再現したかのように
桐山の手から黒の長剣がめぐへと手渡された。

「水銀燈はおまえを救けろと俺に命じた。
 この羽根を届けてくれと死の淵で“願った”」

手元の黒の剣が視界に入るとめぐの瞳孔が大きく開いていく。
水銀燈の羽根、
少女が天使と呼んで愛した花嫁の残り香が鬼の面を削いでいった。

「おまえの心にもあいつは居たいと思ったんだ。
 だから、めぐ、あいつを心に抱くおまえは水銀燈が愛したままであってくれ」

柿崎めぐはうなだれて。肩を震わせた。
嗚咽が漏れて、涙がこぼれ落ちていく。
最後の空で、螺旋階段の最下層で、柿崎めぐはクリアの心から外に出た。

627だってその手は比類なき悪だから  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:57:15 ID:voCJyisY0


そして柿崎めぐの指に絡みつく桐山の血。
自身の血で濡れた制服に新たに付くのは桐山の吐いた血。
苦鳴もなく、長身痩躯の桐山が背中から水銀燈の剣を生やして
柿崎めぐにもたれかかった。

「――あなたさえ、いなければ」

螺旋階段の最後の段があっさりと崩れ落ちた。

「あなたさえ、いなければ」

呪詛に繰り返される言葉。
狂気に沈殿しているならば、それは拒絶の意味を持たなかっただろうが
柿崎めぐの大きな瞳が揺れることなく突き刺す鋭さで桐山を睨みつけた。

前にもこんなことがあったのだ。
桐山は突き刺されたまま、蜘蛛の糸へと落ちていき。
世界の崩壊に飲み込まれる機械の巨大建造物が崩れていくのと同じくする。

このままでは地面に激突して両者とも死ぬ。
クリアの力を使う気が一向に見られない柿崎めぐは剣を桐山から抜き、また刺す。
血が噴き出し、空に桐山の血が昇っていく。
昇っていても、桐山の心臓部で稼働するハルワタートが血液を留めた。
幾筋もの線となって赤い血液は蔦のように絡まりあった。
けれども、桐山の目に映るのは憎悪のかぎろひに燃え踊るめぐの瞳。

「あなたがどうして私の前に現れるの。
わたしはあの子を覚えている未亡人よりも、
あの子の心にずっといる思い出でいたかった」

桐山の額に接する近さで柿崎めぐは涙を溢れさせていた。
桐山の背筋が凍っていく、少女の顔にはクリアの面影がどこにもなかった。

「そうすれば私は天使の翼に乗ってどこへでも飛んでいけたの」

だって、そう、クリアの心は柿崎めぐの一言でたやすく失われていたのだから。
失われた心、放棄された心はバラバラの素材となるだけ。
柿崎めぐは己の意志で自分を守る鳥籠を造っていた。

628だってその手は比類なき悪だから  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:57:40 ID:voCJyisY0



だから、届かない。
柿崎めぐはずっと檻に閉じ込められていたのだから。
桐山は柿崎めぐに顔を踏みつけられ、心を壊された時しかめぐに触れてはいなかった。

「だって約束したのよ?
私とあの子は死が二人を分かつまで永遠だって」

場違いの頼りない笑みを浮かべて柿崎めぐは桐山の顔を両手で挟んだ。

「飛んでいきたい。どこか、どこか、どこか、どこかへ。
こんなゲロみたいに醜い塀の中じゃなくて」

少女の眼差しは遠い何処かを見ていた。
水銀燈が旅立っていった異国を見ていた。
少なくとも、めぐだけはそう信じている。

「教えましょう。坂本竜太、あなたと一緒に賢者と闘った男。
あの男は最低の屑だったのよ? 
自分で自分の壁を設けて、決して傷つくことのない世界の内から外へ罵声を浴びせて」

急な話題の転換だったが桐山はめぐの話題にしている男のことを思い出した。

「なのに、ねえ? あなたはあの男と一緒に闘ったのよ?
あいつは母親にも手を挙げるような屑だったのに。
救いようのないゲロ虫だったのに……あの子の妹達と一緒に闘っていたの」

めぐの細い指が桐山の首に巻き付いて、少しずつ力を増していく。

「どいつも、こいつも、楽園からは程遠く、見放された哀れな屍鬼。
――――あなた達のような人間がいるから、水銀燈は去ってしまったのよ」

落下は止まらない。桐山とめぐは地面に激突する。
めぐには生に関する思考が欠片も見えない。
桐山にはめぐを救えなかった。

どうしようもない事実が桐山を打ちのめす。
桐山にはミツルのように貫く、輝ける信念はない。
レオのように無限に広がる心と夢もない。
桐山は、誰のことも救えない。

涙ながらに殺し合いの否定を訴えた七原に銃を向けるような虚無だった
彼に、強い“願い”を持つ者たち同士の殺し合いはあまりに重すぎた。

――なら、どうするの?

桐山はどうすべきかわからない。
唯ひとつ、わかることといえば。

「闘う」

桐山にわかることはひとつだけ。
生きたいと“願う”自分の存在があるということ。
ここで終わるのは嫌だと運命を目前にしても抗う心があるということ。

――生きるって闘うってことでしょう?

「闘わなければ、生きれない」

桐山は右手を伸ばした。
彼の手には何もない。
ワイルドセブンは女神へと進み。
黒の剣は柿崎めぐの手に渡り、彼へと牙を剥いていた。

629だってその手は比類なき悪だから  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:58:29 ID:voCJyisY0



「だが俺には想波の闘法がある」

両手を合わせる。
杉村との闘いで覚えた技術。
今は七原の経験を通したチャンの技術もある。

両手を離すと桐山へ風がやってくる。
決壊したダムのように膨大な風量が押し寄せた。
時を同じくして、桐山の血が逆流して。
風を纏った血の茨が桐山とめぐを包み込んだ。

羽毛のように柔らかく着地した桐山は嵩張った学生服を脱ぎ捨て、
白いワイシャツを露わにした。

「俺の眼にはな、坂本はそこまでどうしようもない人間には見えなかった。
 おまえの言うことを疑いはしない。レオやミツルも、
 ここに来るまでにどんなことをして来たか、想像もつかない。
 七原や水銀燈だってきっと似たようなものだ」

桐山は両足を開き、闘いへ赴く構えをとった。
先ほどとは違う、確かな意志で相手と闘うポーズ。

「だが、共にヨキと闘ったあいつは非力でも必至に絶対の強者に立ち向かう奴だった。
 俺は、そんなあいつの姿も嘘だったとは思わない。
 あいつは自分よりも小さな薔薇乙女も必至で気遣う心を見せていた」

柿崎めぐは聞こえているのかいないのか剣をだらりと下げて。
おぼつかない足取りで桐山へと歩いてくる。

「おまえの見たものは坂本や俺たちのほんの側面だ。
 めぐ、おまえがこのバトルロワイアルで見たものから
 自分の中に殺し合いの像を描いても、それは雑なパロディでしかないんだ」

桐山の首筋へと一閃、剣が走った。

「だから、俺は、たとえ一緒にいたのが短い時間の奴でも。
 勝手な思い込みで誰かを否定するおまえに――――腹が立つんだ!!」

630だってその手は比類なき悪だから  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:58:49 ID:voCJyisY0



それよりも早く、桐山の拳がめぐの頬を打った。
だがその打撃は一瞬早く柿崎めぐの体を再度クリアの防護障壁が覆い始める。

「アリス・ゲームは守れなかった。
あいつの羽根は届けた。
あとはおまえを救けるだけ。だがその最良の方法は俺にはまだ掴めない」

「何を、言って――!!」

予想外の攻撃にめぐは顔を歪め、唇を震わせた。
攻撃にも暴力にも縁遠かった少女には突然の反撃が天地崩壊ほどの衝撃になっていた。

「だから、俺はおまえの檻を壊す。
おまえが閉じこもる塔を砕く。
騎士を殺す。森を焼き払う。俺はおまえのサウロンでもフェルナンデスでもいい」

柿崎めぐの手から消却光が放散した。
不規則な軌道で走る透明の光線は無数に反射し、桐山を狙う。

「チー!」

だがそんな桐山へと飛び込む小さな栗頭が一体。
金属音とともに桐山の顔へと抱きついたのは
柿崎めぐの背中に気配を殺して抱きついていたプラテリーナ8世。


プラテリーナは桐山の掌で勇猛な戦士のポーズを取ると、
桐山の指の動きに反応し、複雑に体を組み替えんとした。

「完成、第三作目『シリーズ・BTOOOM!』。
――――第一形態、爆縮BIM」

消却光がたちまちのうちにプラの産みだした小型ブラックホールに呑み込まれた。

「俺の手札は水と拳法と爆弾。
わかったのは傷つける勇気がなくては相手を救えないということ。
思い知ったのは俺たちの《世界(ワークワーク)》はまだまだ小さなものだということ」

桐山は右手の人差指で柿崎めぐを指し、宣言する。
彼女の奥深くまで、入る決意とともに。

「莫迦な俺が取る手段はひとつ。
世界を鎖し運命を呪う《薔薇の花嫁》。
俺は、おまえを、傷つけてやる」

少年は《薔薇の誇り》を胸に、救ける彼女へ剣を向ける。
取り巻くのは押しては引いて、押しては引いてを繰り返す闇。
踏みしめるのは闇に生気を吸い取られ、茫漠の荒野となった世界。

少年の心が頑なな少女の心の牙城へ挑もうとする。
騎士の誇りと魔王の悪逆さを備えて。

631  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/13(水) 17:58:59 ID:voCJyisY0
終了

632名無しさん:2013/03/13(水) 20:22:56 ID:91cb9GxoO
投下乙です。

めぐの幻想を打ち壊せ!

633名無しさん:2013/03/15(金) 16:03:57 ID:RizNpkxo0
集計お疲れ様です
ロワロワ. 148話(+ 10)  0/54 (- 4)  0 (- 7.4)
>>600の本編表記にあわせました。

634  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:34:31 ID:rWS98Kn20
投下します

635キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:35:22 ID:rWS98Kn20

柿崎めぐは四角い檻の中にいた。
数m四方で出来た狭い檻、死の匂いが立ち込める場所。
天井には不思議なシミがいくつか付いて。
そして彼女の領土はもっぱら更に小さなベッドの上。

柿崎めぐが足を伸ばしても端には届かないけれども、
思いっきり腕を広げれば、
崖から飛び出すみたいに簡単にはみ出てしまう。

いつもここにいた。
長くは生きられないと宣告され、
父親は母親に見捨てられても甲斐甲斐しく世話をして。
そうして少女は生きながらえてきた。

けれど、違う。
ただ閉じ込められているだけ、
狭い世界で出来損ないの心臓に苦しめられて。
死ぬような苦しみを毎日のように与えられて。
柿崎めぐはいつしか生きることそのものへの不快感を抱いて。

ずっとここにいるしかない。
ここにいて、周りからは運命に
見放された悲劇の少女として憐れまれる仕事をこなし。
死ねば、きっとこの子は生まれて幸せだった、ありがとうと感謝される。

柿崎めぐの意志なんて関係なく。
少女は死ぬために生かされていた。
笑っても、死ぬのだから、
泣いても、死ぬのだから。
この心は、どこにあるのか。

死は何よりも甘美な誘惑。
一度だけ味わえる最高のショー。
天使がある日、めぐの前に現れて、
彼女は天使に殺される日を待ち望んだ。

いつの日か。いつの日か。
あの子はオニキスのように真っ黒な羽根と
宝石のように美しい手で私を殺してくれる。連れて行ってくれる。
死体も残さず、腐りもせずに、眠るように安らかに。

そんな、夢は叶わなかった。
そもそも、それは夢だったのか、
彼女は何を求めていたのか。

636キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:37:16 ID:rWS98Kn20


沈むのではなく、上がるのでもなく。
落ちるのでもなく、ただそうなるだけ。
柿崎めぐはいつも怒り、いつも楽しんでいる。
発作的な感情の吐露もすれば、
深窓の令嬢、サナトリウムで弱々しく
木漏れ日に辛うじて触れられる少女にもなれる。

今は怒りの表情ではない。
無限にからみ合った一本の感情の紐は怒りと楽を地続きにした。
けれどもめぐの心は病室のベッドに縛り付けられて、
退屈な映画を観るのを強いられた観客のようにスクリーン越しに現実を捉える。

柿崎めぐが剣を振るう、
横薙ぎの斬撃は桐山の髪を一房切り落とすだけで。
桐山はすぐさま打撃を浴びせてきた。

「おまえと水銀燈の関係は知っている。
 ローザミスティカが俺の記憶へリンクしてくれた」

逆かまぼこ頭のプラが手裏剣を投げるように桐山の手から放たれた。
柿崎めぐの目の前で、プラが爆発し、爆風がめぐを守る結界を撫でた。

「だから? 私のことを知ったから
 私のことも理解できるとか思っちゃった?
 あなた、誰かのことを思いやれば救えるとか勘違いしちゃうタイプ?
 嫌になるわよね。
 王子様王子様王子様、お姫様のことなんて少しも考えない」

かぶる猫なんていくらでも飼っている。
心はずっと小さな病室、
今にも沈みそうな病院ベッドが変わらぬ少女の領土。

「俺は水銀燈のことを知って、おまえのことも知って。
 不思議に思った。俺は、なぜおまえたちの為に闘っているんだろう」

独り言のように語りかけてくる桐山に柿崎めぐは穏やかな表情を見せる。

「期待させられたんでしょ?
 ねえ、桐山くん、あなた、私の水銀燈を死なせて。
 償いができるとでも思った?
 私が涙をためた瞳でにっこり微笑んであなたの手を取ると思った?」

胸の中で渦巻く気分の悪いもの。
嵐でもなく、津波でもなく、淀んだ沼地のような。
沼が感情の沸騰でごぼごぼと泡を立てても
頭の何処かで枯れ果てた冷静な思考野がある。

突然に誰かを攻撃したい。
突然に誰かを抱きしめたい。
どちらもできない。
父はろくに病室に来もしない。
仕事が大変だから。
おまえを生かすために働いているから。
おまえがお荷物だから、
だからおまえはパパに攻撃しないでおくれ。

「あいつさえ、いなければ――――」

柿崎めぐは桐山ではなく、
ここにいない父を想った。
父もまた水晶世界で魂となって眠りについていたけれど。

「俺は、きっと今の俺なら水銀燈と会っても従うことはない。
 あいつは、あまりにも苛烈で、破滅的すぎる」

柿崎めぐは侮蔑とともに鼻で笑った。
少女の痩せ細った掌から消失光が撃たれたが
桐山の手に収まったプラが結界を作動する。

「でもあいつに従うと決めた、何も知らなかった
 俺は、ジャンクのようだった俺はあいつの死を見て――」

「いいわ。あなたもそうなのよね。
 わたしとあの子の間に入ることなんて烏滸がましい男。
 演じることに慣れきっていて、なのに演じる自分を自覚も出来ない。
 死んでしまえば? 知ってる? 自殺は神様が最も嫌うことなのよ?
 あなたたちにはぴったりじゃない…………死ね」

「話を聞け、柿崎めぐ。
 おまえが“柿崎めぐ”が何処にいるのか。
 俺にはまったくわからないが」

柿崎めぐは争いを知らない。
ただ与えられた力を暴れるために使っているだけ。
本能なんてわからない。あっても意識なんてしてやるか穢らわしいとすら想う。

637キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:38:19 ID:rWS98Kn20



「あいつは、笑って死んでいった。
 俺はあいつの死に顔を見て、
 きっと何処かに帰っていったんだと思った」

桐山の顔に一抹の寂しさがよぎった。
だが、柿崎めぐには関係ない。
興味もない。ただ他人事のように見つめているだけ。

桐山の命を奪おうと幾多の攻撃を仕掛けて。
雨のように消失光を落として。
彼女は自分の中にある攻撃意識が昂っていく。

「俺は、あいつが何処かへ帰っていくのを看て
 羨ましいと想ったんだ。俺も、そこに行ってみたいと想った。
 おまえが水銀燈に此処ではない、どこかへ連れて行って欲しかったように。
 俺も、遠くへ行ったあいつを追って行きたいと想った。
 だから、闘ったんだ。あいつの“願い”を叶えるために。
 あいつは俺の犬狼星だった」

柿崎めぐは勢いよく病室の壁を叩いた。
彼女が、ずっと留まっている檻の中、その壁へ拳を叩きつけた。
此処からは出られないとわかっている。
何処へ行っても彼女は病室の中で苦しみ続けるお荷物。

愛されることはない。
美しくなんてない。
壊れて、砕けて、葬儀の参列者から
おざなりのお悔やみの言葉を並べられるだけ。
忘れ去られるだけのエンターテイメント。


「気のせいなんじゃない?
 あの子……私の体を治そうとしていたみたいだけど。
 不思議よね。私はそんなこと頼んでいない。
 あの子の心に宿って、空高く飛ばしてくれれば満足なのにね」

「……なぜ水銀燈なんだ?」

「あの子は天使だから」

「あいつらが何をしてきたか忘れたのか?」

「姉妹の心臓を奪い合う闘いでしょう?
 不思議よね。まるで人間みたい」

くすり、と笑みを零して、
柿崎めぐは十字型の炎を掻い潜ると
桐山の胸を斬り裂く。
だが噴き出た血は地面に落ちることなく、空中で止まった。

638キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:39:37 ID:rWS98Kn20


「私の心臓も壊れているの。
 知ってるでしょ? 私の一部のくせに
 醜い赤ん坊みたいにいつも私の胸で泣き叫んでいる。
 殺してしまいたいわ……それとも、
 こんなのに生かされてもらっているのが私なのかしら?」

柿崎めぐの表情は変わらず、
しかし唐突に一撃一撃の威力が上がっていく。
前触れのない、本来ならばあり得ない変調に桐山の防御が乱された。

「健康な人の心臓を貰わなければいけない。
 でも、私はそんなの嫌。
 奪い取ったモノでのうのうと生きていくなんておぞましいわ」

「…………よくわかった」

肩の肉を大きく抉り取られた桐山は
柿崎めぐから距離をとって傷口を抑えた。

「おまえは……誰かの心に残りたいんだな。
 だから、水銀燈に絶望を与えようとした。
 それも、叶うことがなく、おまえは、悲しんでいるのか」

柿崎めぐの瞼が引き攣った。
口元が大きく戦慄いて、刹那だけれども柿崎めぐの瞳が揺らめいた。

「…………違う、違う、違う」

「だから、現実からは
最も遠く見えるローゼンメイデンに希望を見たのか。
あいつらなら、おまえを幻想の世界へと連れて行ってくれると夢見て、期待して」

錯乱したのか、激高したのか。
めぐは無茶苦茶な軌道で攻撃を繰り出していく。

「だが、俺が見たローゼンメイデンは違った。
 あいつらは、誰よりも人に深く関わっていた。
 幻想なんかじゃないんだ、めぐ。
 あいつらは、一番お伽話に遠い人形なんだ」

「あなたに、わからない!
 私が、あの子が、何なのかなんて!!
 ねえ、知ってる!? 私は水銀燈と結婚なんてする気はなかったのよ!?
 健やかなる時なんてないもの! 私はずっと病んでいるもの!!
 そうよ!! そうよ! 私は、私は――――!!」

柿崎めぐが大きく剣を掲げて振り下ろした。
膂力は魔物で例えればアースにも匹敵している。
速さなら上回っているかもしれない。

639キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:41:14 ID:rWS98Kn20



「想波の闘法は全てと一体化する己を意識することで。
 相手の攻撃も先読みできる。杉村には出来たが
 俺にはあの時、出来なかった」
 
影のようにするりと剣の下を抜けて
踊るように桐山は柿崎めぐの背後に立った。

「俺は、水銀燈を追いかけるまで何処にも存在しなかった。
 俺の心なんてものは認識と知覚の演算から浮き出ることはなく。
 “桐山和雄”という奴は何処にもいなかった」

柿崎めぐの背中に桐山は掌をあてた。
膜で覆われた柿崎めぐに接することは出来ない。
杉村弘樹やチャンがやるような攻撃はめぐの防御膜を貫くことはない。

「おまえの攻撃はいくら強くても誰のことも知らないモノだ。
 弱々しく、独善的で、どうしようもなくわかりやすい」

振り向きざまの右ストレート。
近すぎるから、無様な一撃で離すことしかできない。
桐山の頬をけたたましい音を立てて打つと、
二人の距離が数十m離れた。

めぐからは激昂の嵐は過ぎ去り
黒く長い髪と細い肩が上下するのみ。

「…………もう、いいわ。
 飽きちゃった。殺しなさいよ」

投げやりに桐山を横目で見やって、首を振る柿崎めぐ。

「そうだな。それもいいかもしれない」

柿崎めぐの背中に張り付いたプラの頭部が変形する。

「爆縮型BIM」

数㎜にも満たない近さにブラックホールが生まれた。
空間を呑み込み引き寄せる真空に柿崎めぐ、
ひいてはクリアの力に穴が開いた。

つむじ風が吹く。
吐瀉物と血と泥に汚れながらも、
辛うじて白地を残したワイシャツが目の端で駆けた。
白、病院の色。汚物に一番弱いのに
死者に合うからというくだらない理由で使われる色。

桐山和雄の手が赤い水で包まれて。
真紅の小刀になり、クリアの膜を突き破り、
柿崎めぐの心臓を貫いた。

天野雪輝に体験させられた無数の死。
あんなものはどうということはない。
子供の頃からずっと、死に近く生きていて
針の筵のように苛まれ続けていたから。

死に近づくときの痛みには慣れている。
ただ違うのは、赤い血が流れていくだけ。
めぐが身に着けていたセーラー服を赤い血が塗らしていく。

赤、血の色。
いつの間にか桐山の手は抜き取られていて。
仰向けに倒れた柿崎めぐは手足の末端から感覚が無くなっていく。

「…………あ」

そして、魂魄がひとつ飛んだ。

640キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:41:53 ID:rWS98Kn20



暗い、とても暗い。
瞼は開いていてか細い呼吸が断続的に残っているのに。
眼だけが何も視えずに柿崎めぐをひとりにする。
スポットライトは当たることがない。

桐山和雄がどうしているのかもわからない。

気がつくと柿崎めぐは病室の中にいた。
ベッドの上で力なく、横たわって、無気力に天井を眺めている。
水銀燈と出会うまではよくこうして時間が進むのを待っていた。

時間が進めばそれだけ死が近づくのに、
それ以外に何かをする理由が見つからず。
ため息をついて、髪をかきあげると柿崎めぐは起き上がった。

薄暗い照明、つまらなさそうに頬杖をかいて。
柿崎めぐは隣に置かれた花瓶に活けられた花を見やる。
開いた手で花びらに触れると、
切り取られて生気を失いゆく生け花の乾きがわかった。

「つまらない」

誰ともなしに呟いて、
柿崎めぐは決して出られない、この檻で暇を持て余す。

「迎えに来たわよ、めぐ」

声が聞こえた。
ぱっと柿崎めぐが振り向くと窓の向こうには
彼女の花嫁が待っていた。窓の外で、檻の外で
閉じ込められたラプンツェルを迎えに来た天使が、
不機嫌そうに口を曲げて浮かんでいた。

天使は、窓の外からめぐへ手を伸ばした。
待つ必要なんてない。伸ばされて、触れてくれるのを待たずに、
めぐは羽根が生えたように小さなベッドから飛び出して、水銀燈の手をとった。

「約束したものね」

「うん、私を、連れて行ってくれるんでしょう?」

「永遠へ。此処ではない何処かへ」

柿崎めぐと水銀燈の指が絡みあって、
二人は寄り添い合って空へと飛び立つ。
暗雲立ち込めていた雲を突き進んで。

天使の羽根はめぐを守って道を切り開く。

そうすれば水銀燈は少女を楽園へと導いて。

641キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:42:21 ID:rWS98Kn20


寄り添う二人が分けられる時も、
今はこうして右がわには水銀燈がいて。
天使の左がわには柿崎めぐがいて。

率先する天使が、先頭を進み。
花嫁達は、近くの小部屋に召され、 至福の楽園にはいる。

そこにはお伽話でしか見ない沢山の幻想達が踊り舞って、
終末の世界に生きた者はどこにもいない。
錦織の寝台の上に、 ふたりはむかいあって寄りかかる。

穢れ無き少年たちが、その周りを、
酒杯と、水差しと、泉から汲んだ満杯の杯などを献上して回り。
病むことはなく、永遠の酩酊で少女を楽しませ。
好みどおりの果物を選び、
食事も望みどおりのものを手に入れた。
秘められた真珠のように美しい色白の乙女がいて。

楽園の中、二人は、一切のくだらない話や罪な言葉を忘れ去り。
広々とした日陰と、湧きでる泉のそばにて、
果物は多く、 絶えることもなく、食べるのを禁じられることもない。

高くしつらえた寝台が、彼女らのために設えて。
楽園は、この乙女たちを、待っていた。


楽しい、幸せ、そんな言葉しか浮かばない。
柿崎めぐは愛する水銀燈とともに、
死して永遠の楽園へと辿り着いたのだ。

「…………パパ」

思いかげず口から零れ落ちた言葉。
はっと、慌てて口を抑えても、
聞き咎めた水銀燈は眠っているように
穏やかな顔でこちらへと微笑んだ。

「ごめんなさい、水銀燈。
ただね、少しだけ、おもったの。
私は今、とても幸せなのよ。でもね」

両手を膝の上に乗せて、目を伏せ気まずそうにめぐは言う。
彼女の楽園が、彼女の言葉によって時を止めたのには気づかず。

「――――パパも。
 ここにいてくれたらいいかもしれないのになって」

――――それが、おまえの“願い”か

水銀燈が煙のように消え失せた。
果実も川のせせらぎも、天人たちも宴の終わりのようにいなくなり。
柿崎めぐは、病室のベッドの上にいた。
初めから。ここにいた。

暗い右手が病院を壊していく。
軋み、崩れ。割れていって。
巨大な、太陽よりも巨大な右手が病室の床を砕き、
ベッドの上に座る柿崎めぐを掴んだ。

――――俺を赦すな、めぐ。

そして、彼女の居場所は壊された。

642キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:43:06 ID:rWS98Kn20






血の匂いがした。
鉄の匂いに似ていて、鼻孔を刺激し、
生ぬるい風が猥雑に柿崎めぐの体を触っていく。
空は底冷えする暗闇、夜じゃない、暴食の暗がり。

そして、何よりも耐え難いのが。

「クリアの魂魄を追い出し、
 ハルワタートを半分に割って、おまえの心臓を造った。
 これで俺とお前はリンクすることにはなるが、生きられる」

めぐの顔のすぐ横に跪き、瞳を覗きこんでいる桐山和雄。
血の匂いとドロの匂いとゲロの匂いが混ざり合って、
汗の刺激臭が悪臭をこれ以上ないものにしていた。

桐山和雄は立ち上がって柿崎めぐに背を向けた。

「俺の心臓はすでに喪われ、ハルワタートが俺を生かしていた。
 護神像が喰らう“願い”は人の魂を構成する上で最も重要なもの。
 先代所有者七原秋也の
 “願い”を高純度で喰らったそれは、七原秋也本人でもある」

桐山は心臓がある場所に手を当てた。

「今の俺は、果たして本当に“桐山和雄”なのかわからない。
 いや、そもそも本当の俺は十年前に死んでいたのかもしれない。
 おまえも、ひょっとしたら別人になってしまったのかもしれない」

柿崎めぐは茫然自失の体で空を見つめ、やがて絶叫した。
少女の絹を裂くような悲鳴。
桐山は振り向かずに立ち止まって耳を傾けている。

「どうして……どうして私を死なせなかった!?
 私が、何を求めているか知っているでしょう!!」

「だから、言っただろ」

桐山は蜘蛛の糸の残骸の山へと歩きはじめた。

「俺は、おまえを、傷つけると」

拳を強く握りしめ、めぐの瞳に憎悪と怨嗟の炎が煌々と燃え上がった。

643キルミーベイベー  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:45:06 ID:rWS98Kn20



「許さない!!」

人口の心臓がまだ馴染みきっておらず、柿崎めぐは立ち上がれない。
彼女のお腹の上でプラ周囲を警戒しているが、気にもせず。

「私の、最高の終わりを奪ったあなたを!
 あの娘との楽園を奪ったあなたを!
 絶対! 絶対!! 絶対!!!」

「なら何度でも殺しに来い。
おまえが死ぬには俺を殺すしかないからな。
自傷行為をしても、ハルワタートが欠損を埋めるようプログラミングした」

ありったけの憎しみをこめて柿崎めぐは桐山を睨みつける。

「なら、私が、あなたを、必ず――――!!」

恨みと殺意の罵倒を浴びせ、
めぐは自由にならない身で奪った者への復讐を誓う。
病んだ少女は生の道を歩みだし、
代わりに憎悪に心を狂わせていく。

未来永劫、彼の命を狙い続け、
奪われた者からの最悪の復讐を贈ると心に誓う。

こうして、ふたりの少年少女は憎しみと血で結ばれた。
永遠の憎しみの中で桐山は柿崎めぐを生かす。
救いはせずに、生かすだけで、けれども彼は無責任に言った。

「おまえにかける言葉はひとつだ」

《三銃士》にはなれず、
《鉄仮面》には戻らないと決めた世界の敵は言った。

「――――待て、然して希望せよ」


少年は永遠の憎しみに狙われ。
そして、未亡人は救われなかった。
少なくとも、今は。

644  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/21(木) 19:45:18 ID:rWS98Kn20
終わり

645 ◆W91cP0oKww:2013/03/21(木) 21:37:38 ID:2IB1sjPA0
投下乙です!
桐山の皮を被った世界の敵か、世界の敵を被った桐山か。
どちらにしろ、めぐを真正面から見るという救いは変わらず。
大変に盛り上がってきた!
ということで、投下します。

646ワイルドセブン ◆W91cP0oKww:2013/03/21(木) 21:38:41 ID:2IB1sjPA0

こつこつ。こつこつ。
透明な水晶で彩られた螺旋階段を、ワイルドセブンは段数を減らしていく。
登った先にあるのは本物の女神、デウスエクスマキナの居城。
本物の理想郷。“願い”が叶うであろう夢の場所。

「膨大な長さだな……かったるいと言いたくなっちまう」

そこに到達しようと、ワイルドセブンは消耗した力を振り絞って上へと登る。
それは、既にいない杉村達の為か。
それは、今も下界で闘っているであろう桐山の為か。
それは、亡霊の如くこの世界にとどまっている自分の為か。

既に、“七原秋也”としての自分は終わっているのだ。
どんな答えに達しても、それはワイルドセブンとしての自分だ。
桐山も、ワイルドセブンも。ほんの少しのロスタイムをもらって今を生きているだけなのだから。

「……はっ」

何をセンチメンタルに考えているのだ。
今は女神の居城へと早く至ることだけを考えねばならない。
“親友”が殿を務めてまで、自分を上へと押し上げてくれたのだ。ここでかっこ良く決めれないでロックスターは名乗れない。

「さぁ、アンコールの時間だ」

そして、彼は――頂上へと辿り着く。
夢の残骸、“願い”の欠片で創られた理想の城。
生存者無き世界で、彼は――前を向く。
そっと、彼は水晶のドアノブに手をかけて。

「はじめまして、女神様。いや、久し振りって言った方がいいかな? 典子」

ワイルドセブンは、思う。

きっと、俺の物語は――――ここで、終わる。

647ワイルドセブン ◆W91cP0oKww:2013/03/21(木) 21:39:44 ID:2IB1sjPA0



#########



「どうか、世界の理に絡め取られた彼に、憐れみを」



#########

648ワイルドセブン ◆W91cP0oKww:2013/03/21(木) 21:41:58 ID:2IB1sjPA0
そこは、理想の世界だった。
国信慶時が、杉村弘樹が、三村信史が、川田章吾が、桐山和雄が。

「よっ、何ボケーっと突っ立ってるんだよ」

「注意力散漫だぞ、七原。怪我でもしたらどうする」

「妄想に耽っていたんだろ〜。それよりも、学校サボってどっか行こうぜ」

「ははっ、いいんじゃねぇの? そういうのも青春だ」

「それならゲーセンに行きたい。エヌアインという格闘ゲームにハマっていてな」

肩を預けて、一緒に歩くことができる。

「ゲーセンはうるさいから嫌いだわ。優雅に紅茶を飲んでいる方が有意義ではなくて?」

「……どうでもいいが、俺を巻き込むな」

真紅が、秋山蓮が。
ふてくされた顔で、困ったような顔で。
そこには、皆欠けずに生きていて。

「ふふっ……楽しいね。とっても、賑やかだけど、なんだかすごく落ち着く」

最愛の彼女も変わりなく、笑っている。
ずっと続くとさえ思える永遠がそこにあった。
楽しすぎて。幸せすぎて。
だからこそ――――。

「あぁ、そうだな。幸せだよ。幸せすぎて――嘘だってわかる」

――――これは、夢なのだと気づくことができる。

「こんな幸せは今更なんだよ、女神様。いいから、とっとと御顔を拝顔させてもらえねぇかな?」

両手に生成したレミントンを強く握りしめ、ワイルドセブンは弾丸を放っていく。
かつてのクラスメイトを撃つ。新しくできた友達を撃つ。最愛の彼女を撃つ。
淡く輝いていた世界を撃つ。

649ワイルドセブン ◆W91cP0oKww:2013/03/21(木) 21:43:42 ID:2IB1sjPA0

「確かに、昔の弱かった俺なら負けていたかもしれない。“七原秋也”だった俺は、迷ったと思う」

確かに、この夢はワイルドセブンの――。
否、七原秋也の“願い”そのもの。
元々、七原は闘わざるをえないから。平穏な日常を過ごすことが自分には無理だとわかっているから。
だからこそ、争いがない、皆が笑える世界を望んだ。

「残念だったな。俺はもう“七原秋也”じゃねぇんだ。今の俺は、ワイルドセブン。その“願い”じゃあ、止められないんだよ」

だけど。七原の本当の“願い”は仲のいい友人達といつまでも、日常を続けることだった。
ちょっとしたことが楽しい毎日を胸に、生きること。
闘争とは無縁の一男子中学生として、彼が願ったのは――綺麗な幻想だった。

「綺麗すぎるんだ、それが嘘だってわかるくらいに」

だからこそ、わかってしまうのだ。
この世界は嘘で、本当の醜く、クソッタレな世界が本物だと。

「夢に溺れて、過去をなかったことになんかできねーよ。
 積み上げてきた絆も、死体も!! 俺の頭は覚えている!!!」

後悔はしても、忘れないと誓った。
“七原秋也”は、ワイルドセブンは――――そうして、走ってきた。

「ブレイブ・ストーリーじゃない、後悔だらけの不恰好な物語でもっ!
 それが俺の物語だ!! 辛かった昨日は苦しいけど、忘れない! その上で、幸せな明日を願う!」

だから、革命家になったのだろう。
世界を変えて、物語を紡いで。
いつか見た綺麗な幻想の夢を、他の誰かが願えるように。

650ワイルドセブン ◆W91cP0oKww:2013/03/21(木) 21:46:31 ID:2IB1sjPA0

「問うぜ、女神っ!!! アンタはそれだけの力を持っていながら何故、抗わない?
 俺が今まで出会ってきた奴等は形はどうであれ、抗っていた。“願い”に意志を乗せて、貫いていたんだ」

返答はない。返答はない。
女神はただ黙し、幸せな幻想を創造し続ける。

「夢は覚めるものなんだ! どんなに幸せでも、暖かくて心地よくても!
 いつかは、現実に還らないと駄目なんだよ!!!」

綺麗な水晶の夢を――ワイルドセブンは否定する。
夢は夢でしかない。自分達が生きるのは現実で、妄想の中ではない。
ワイルドセブンも、桐山も元の自分とは程遠い所まで来てしまったけれど。
それでも、現実を選んだのだ。

「幸せな世界が夢のなかにしか無くても! 今ここに居るのは現実だっ!!!!
 さぁ、女神! 始めようぜ、ラストゲームッ!」



【Last game “ブレイブ・ストーリー”】



『全ては、世界の理に従うのでしょう』



「その理を否定する為に、登ってきたんだよ」

651ワイルドセブン ◆W91cP0oKww:2013/03/21(木) 21:47:53 ID:2IB1sjPA0
投下終了です。

652名無しさん:2013/03/22(金) 15:24:40 ID:mQrJY61I0
溜まってた分追いついた―!
投下おつ!
遂にユッキーやめぐ決着かあ
ユッキーはユッキーなのに星のとことかデウスのとこでいちいち目頭熱くなってにくい
原作名言やタイトルもオンパレードで、桐山はめぐを傷つけ生かし、生きる目標まで与えたけど今は救わずか
しかして希望せよ。願いを認識してしまっためぐが救われるのは桐山の手によってではないのかもな
そして遂に始まるラストゲーム
どんでん返しにどんでん返しを重ねてきた終章だけど今度こそ本当にラストなんだよね!?
ってか女神って誰!? また思いもよらぬのが出てくるのか!?

653名無しさん:2013/03/22(金) 18:44:32 ID:FNBZYvn2O
投下乙です。

願いとは、生きる力だ。
願わなければ、生き残れない。

654名無しさん:2013/03/24(日) 12:28:58 ID:PrFAvRzE0
投下乙です

このロワもとうとうここまで来たなあ…

655  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:18:39 ID:4Kx/rSGA0
投下

656幕は対話篇にて降ろされる  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:19:34 ID:4Kx/rSGA0

歯車が天井を覆い、回ることなく、止まっている。
光を放つ女神は玉座に座り、穏やかな瞳で来訪者を迎え入れた。
無数の歯車は茨のように絡みあって天蓋を成し、
螺旋階段の中央に聳え立つ巨塔の内部は広大な機械じかけの森となっていた。

ここは、かつて薔薇乙女が過ごしていた空間。
ローゼンクロイツが生命の神秘を探求したアトリエ。
こんにちは、ワイルドセブン。我が子らの想いの果てに産まれたドール。
待っていましたよ、貴方のことを

光は少女の姿をしていた。
月の光で出来た絹によって織られたローブだけを着、
瀟洒なドレスとはまるで違う質素な姿なのに、圧倒される神々しさを持っていた。

これが、女神。
闇夜に光を与える存在。

「典子の姿をしてるのは俺を誘惑するためかい?
なら、悪いね。俺は一途なんだ」

ワイルドセブンの軽口に女神は柔らかな笑みを湛えて。
中川典子のかたちをとった女神は胸に手を当てた。

この姿は貴方の記憶を元に構成しています。
     私に明確な肉体はないのですから。

「そりゃ残念。絶世の美女でも拝めるのかと思ってた」

そう言ってワイルドセブンは笑った。

     それでは、ワイルドセブン。“願い”を私に。
     最も力ある高貴な魂を三柱に据え、
     私は神儀を執行しましょう。

「俺の“願い”――――」

657幕は対話篇にて降ろされる  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:20:21 ID:4Kx/rSGA0

静かに瞳を閉じてワイルドセブンはこれまでの出来事を想い出す。
死にゆく人達、自分に手を差し伸べてきた人達、
自分が手を差し伸べようとしてきた人達、
ともに歩いてきた人達。

「秋山に聞いたんだけどさ。
 日本っていう国があるんだ。
 俺の育った大東亜共和国とよく似ているけど、
 色んなところで違う国。
 そこではロックも何も禁止されていなくてさ。
 俺は想ったよ、羨ましいし、そんな国があったら
 俺も殺しあわなくてよかったかもなって」

瞳を開くとワイルドセブンは造り物の瞳に確かな意志を燃やし、
女神へと語りかける。

「俺はずっと日陰で蹲っている人達が
 光の道を歩けるようにしたかった。
 居場所を与えたかった。
 みんなの光を遮る木を少しだけ切り倒したかった」

女神は静寂を保ったまま、
どことなく楽しげにワイルドセブンに耳を傾けている。

「殺し合いに勝てば“願い”が叶う。
 確かにそういうのは凄いと想うよ。
 でも、もしも、ギター抱えて歌も歌えない奴が、
 そんな殺し合いに乗ったって“願い”は叶わないんだ。
 俺達に必要だったのは光へ歩ける道だった」

ワイルドセブンの手には剣が現れ、
女神へと向ける、口にするのは犯行の言葉。

「“願い”を告げるよ、女神様。
 “殺し合いなんてくっだらねえ、ハルネラはこれで打ち切りだ”」

658幕は対話篇にて降ろされる  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:22:10 ID:4Kx/rSGA0



     それでは、世界の壁はどうするのですか?
     三千年で壁はまた崩れる。ハルネラの必要性はまだ残るのですよ。

「さあね。なにせ三千年先の未来だ。
 我儘でガキなクソッタレの意見だけどさ。
 ユッキーだってかなり良い線打ってたんだし、
 きっと大丈夫だよ。俺達はもういいんだ。
 みんな、あんたが想うほど弱くはないんだよ。きっとね」

初めて女神はくすり、と人間によく似た笑みを零した。

      なんと傲慢なのでしょう

「かもね」

      沢山の人が貴方を憎むでしょうね

「テロリストってそんなもんじゃん」

      誰も貴方に感謝しないかもしれない

「そんなヤツの“願い”でも叶えるのがあんたなんだろ?
無意識の海で行われるハルネラは人の意識に確かに刻み込んじまう。
『俺達はこれでしか救われない』ってね。
だから、俺は世界に巻き返しの薇螺子を挿しこむ」

       本当にそれでいいのですね?

「くどいぜ、女神様。たしかにあんたは俺達の“お母様”だけどさ。
 ブルーハーツは一人じゃ結成できない。
 情熱の薔薇は一人じゃ咲かせられない。
 殺し合いで叶えられる“願い”なんて、たかが知れてるんだ!!
 さあ、どうするお母様!? これが俺達の選んだ道だ!」

声高く叫ぶワイルドセブン。
聞き入れる女神の表情は変わらず。
しかし、女神の手元には一冊の本が現れていた。

659幕は対話篇にて降ろされる  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:23:46 ID:4Kx/rSGA0




      ならば、私は、いいえ、運命は貴方に……
      抗い、解放を願う皆に最後の試練を与えましょう。

女神の手元で本がパラパラとめくれていく。
何度も聴かれたオルゴールと同じく想いと情熱を乗せて。

      これは運命の奔流の中に産まれた一人の人間の物語。
      一輪の花から産み落とされた世界の中心点。
      世界の真ん中で、帰る場所を守りきった戦士の。
      宇宙から、地底から、異空から、外宇宙から、
      そして、私の権限体のひとつからさえも守りきった。
      彼の意志と側で見守り続けた少女の想いと意志が篭められた物語、対話篇。

女神の言葉とともに、彼女の光が形を変えていく。

      我が光と我が子の物語を以って、
      いでよ、私のドール、我らの主人公。

はじめに肉体が作られる。
筋骨隆々の手足はたとえ星だろうと砕き、
苦境の荒野でも生き抜く活力を秘めていて。

      貴方の意志は私の意志。
      貴方の罪、あらゆる全ては私の罪。

嵐のように乱れ狂った鬣が産まれてくる
ドールの苛烈さを教える。
背中に生えた薇螺子が
薔薇乙女と同じく彼がドールだとわかる。

      私のドール、《怪物》サクラテツ。
      貴方の敵は貴方を育んだ運命を変えんとする
      不遜極まる革命家、ワイルドセブン、または七原秋也。

歯車が回り出す。
轟音生み出し濁流のように息吹が流れていく。
周囲をとりまく世界が日が昇るように変わっていく。

660幕は対話篇にて降ろされる  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:24:12 ID:4Kx/rSGA0




















      ――――――――――防衛せよ

661幕は対話篇にて降ろされる  ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:25:08 ID:4Kx/rSGA0

無数のビルディングが倒壊し、
砂漠が侵食し、削りとらんとする死の世界。
荒野の砂漠。水一滴もない世界。

《怪物》の背に生えた薇が巻かれていく。
キィキィとささやかな悲鳴とともに、
ドールに命が宿っていく。

      世界のメモリーに記された紛れもない最強のひとり。
      このドールには私の力も加わっています。
      今や彼が殺し合いの理そのもの。
      分離した力である以上、
      もはや私すら光にはなれません。

気がつくと女神はどこにもいない。
声は脳内に直接流れこみ、
問いかける、最後の意思を。

    LastQuestion、《勇気の物語》で《対話篇》を乗り越えてください。
              今ならまだ引き返せます。
             それでも――巻きますか、巻きませんか?

「わかりきったことを聞くなよ女神様!」

右手にはレオナルドの刀。
左手には川田の散弾銃。
ステージの中央でマイクに向かって叫ぶように、歌うように、
ワイルドセブンは言った。

「たとえ滅ぶしかない三千年でも!
 零から三千の間にブルーハーツが生まれんのなら。
 それは最高にロックンロールな三千年だ!!」

そしてサクラテツの拳がワイルドセブンの胸を強かに打ち。
ワイルドセブンは彼方の山へと吹き飛び、衝突した。


【会場:荒野の砂漠、水一滴もなし】

【最終試練開始】

662 ◆1yqnHVqBO6:2013/03/25(月) 17:25:23 ID:4Kx/rSGA0
終了

663名無しさん:2013/03/25(月) 19:10:51 ID:Zl2rYXAcO
最強主人公キタコレw

664 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:41:55 ID:bKKCyItk0
投下乙です!
いやあ、サクラテツとかもう何でもありですね!
でも、それに立ち向かうワイルドセブンかっこいい、素敵!
では、予約分を投下します。

665 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:43:27 ID:bKKCyItk0
「ねぇ、何処に行くのよ」

最高のフィナーレの先へと足を踏み入れたお姫様は、ふらふらになりながらもゆっくりと立ち上がる。
希望なんてあるはずがない。あったとしても、それは既に奪われている。
柿崎めぐは心中で吐き捨てて、囚われのヒロインというレッテルを踏み潰す。
“願い”は復讐。惜しみのない諦観の銃弾を解き放つ、血塗れのアリス。

「聞いてるの? 貴方、耳はちゃんと聞こえてる?」
「聞こえている。そう、答えを急がせるな」

その視線の先には、永遠を奪った王子様。
お姫様から花嫁を奪った――――世界の敵。
沢山の人を殺して、傷つけた殺人者、桐山和雄。

「俺は行く。いや、行かなくちゃいけない」
「何処に?」
「世界の果てだ」
「不条理だらけの物語を、正しに?」
「正しいかどうか、そんなのはそれぞれだ。人の数だけ、正義が在るのと同じだ」

不条理だらけの物語。継ぎ接ぎでボロボロの物語。
決して、ハッピーエンドには成り得ないラストゲームは誰かの自己満足によって、終わるだろう。
ワイルドセブンも、桐山も、めぐも。全員が全員、自分の意志を押し通そうと闘っているのだから。

「望もうが望まなかろうが。俺が俺じゃなくても。生きている以上、俺は誓おう。
 そこに、“願い”が在るなら。走り続ける。世界の果てが見えても、飛び越えよう。
 他の奴等と違えば、競合しかない。誰の“願い”も踏み潰さず進むことなど、不可能だ」
「……」
「だが、真実だ。全ての奴等が分かり合えるのは、幻想だ」

誰一人欠けることのない幸せの物語は、もう届かない。
だって、それは幻想に置いてきてしまったのだから。

666 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:44:26 ID:bKKCyItk0

「だからこそ、俺は――その幻想を殺そう。全ての“願い”をまっさらにして終わりにする」
「……最低」
「言っただろう、俺は」
「言わなくてもいいわ。知ってるわよ、全部。私の心臓には貴方が埋め込まれているもの。
 知りたくもないのに、流し込まれる気分って陵辱に近いわ。強姦魔の桐山君?」
「…………」
「あら、だんまり? 別にいいわ、反応なんて期待していなかったし」

幻想を殺すことが沢山の人の“願い”を殺すことを理解している。
成した結果が崩壊の序曲を奏でようとも、いつかは復活の終曲になると信じて。
故に彼は、悪の文字を手に刻む。
傷つける覚悟を背負って、手を伸ばす。

「きゃっ」

桐山は、無理矢理にめぐの身体を抱き起こし、両の手で胸元へと引き寄せる。
突然の行動に可愛い悲鳴が出てしまったのは一生の恥だと苦く思いながらも、めぐは口を歪めて嘲笑う。
未だに、王子様を気取るのか。口には出さないが、表情に不快を貼り付けた。

「黙っていろ。舌を噛むぞ」
「い・や・よ。早く降ろしてくれない?」

めぐがされているのはいわゆるお姫様抱っこ、身体を横に縦にと視界がふらふらと動く。
なんとも言えない振動に、めぐは吐き出しそうになる胃液を抑え、ゆっくりと飲み込んでいった。

667 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:45:28 ID:bKKCyItk0

「そういう訳にはいかない。それとも、此処に置いていって欲しいのか?」
「貴方に触れられるぐらいならそっちの方がましね」
「それじゃあ、断る」
「はぁ?」
「言っただろ、傷つけると」
「まさか、この行為も?」
「そうだ」
「貴方、馬鹿でしょ?」
「学校の成績は良かった」
「そういう意味じゃないわよ」

軽口を叩きながら、王子様とお姫様は螺旋階段の終焉へと向かっていく。
その果てにある理想の居城、“願い”の果て。
物語の終わりが、待っている。



#########



そして、彼らは辿り着く。



#########

668 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:46:29 ID:bKKCyItk0
「……最後の試練、それは俺にも課されるという訳か」
「……」

螺旋階段の頂上、女神の居城への入り口。
ワイルドセブンが確かにくぐったはずの水晶のドアは、消えている。

      ここから先は、最強のドールの一人舞台。
      扉はありませんよ、桐山和雄。

そして、聞こえてくる女性の声。
この声は、誰だったか。いつ聞いたのか。
桐山の曖昧な記憶は、即座に思い出すことはできない。

「お前が、女神か」

ただ、不思議と、この声の主が女神だとわかってしまう。
直感でもなく、視覚聴覚からわかったのではなく。
それが、当たり前だと定められているかのように。

      ええ。私が女神です。貴方の相棒であるワイルドセブン、七原秋也はこの先にいます。

「知っているなら、そこをどけ」

      それは不可能です。彼は、最終試練の最中なのですから。
      試練が終わるまでは如何なる者と言えども、通すことはできません。

女神の声は穏やかかつ、落ち着いていた。
平常であれば、何時までも聞いていたいと焦がれる程に、優しい声。
女神の名はやはり伊達ではない、と桐山は無表情の下でくるくると頭を回す。

「そうか。それが女神の理ならば、押し通る。俺は、俺の“願い”を叶える為にも、譲れない」
「……勝手にやっていなさいよ。私を巻き込まないで欲しいのだけれど」
「ここまで来たら、一蓮托生だ。俺とお前は繋がっているのだから」
「貴方がっ! 無理矢理っ! 繋いだんでしょうっ!」

未だ、抱き寄せられたままのめぐがぽかぽかと桐山の胸を叩く。
正直、全く痛くない。
されるがままの桐山はめぐを無視し、女神との応答を続ける。

669 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:47:30 ID:bKKCyItk0

      このまま、待っていれば貴方は無事に生き残れるのですよ。

「確かに、俺は死ねない。だが、与えられた安寧に浸り続け、意志を通せない方が許せない」

      貴方の傍らにいる少女のことはどうするのです?

「俺のわがままで連れてきただけだ。関係ない」

      傲慢ですね、先程のワイルドセブン、七原秋也と同じ。
      貴方が死ぬことでその少女はどうなるか知っての発言ですか?

「くどい。その程度で止まるやすい決意は持ち合わせていない」
「……すごく、嫌で嫌でたまらないけれど、私も同意見だわ。勝手に思いやられて、護られて。
 冗談じゃないわ、吐き気がする。上から目線で勝手に憐れまないで」

勝手ばかりの女神など、いらない。
憎しみでしか繋がれない二人は奇しくも、初めて気があってしまう。
そのことに、桐山は少しの疲れを。めぐはありったけの嫌悪感を。

      そうですか。それが貴方達が選んだ答えですね。

そうして、彼らの眼前で、光の本が突如現れる。
本は、勝手にめくり上がり、光速でページが進められる。
進んで、戻って。進んで、戻って。
それは時間で換算すると、数秒にも足らない時間だけど。
桐山達には永遠のように感じられる。

670 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:48:40 ID:bKKCyItk0

      これは運命の奔流の中に産まれた一人の《奇械》の物語。
      一つの悲劇から産み落とされた無数の明日の一つ。
      閉塞された都市の真ん中で、紡ぐ運命を守りきった医師の。
      歪みから、涙から、殺戮から、絶望から、
      そして、覆せない運命から少女の明日を護り抜いた。
      彼の意志を常に見続け少女の想いと意志が篭められた物語、インガノック。

それは、ワイルドセブンの時と同じように。
女神の言葉が紡がれていき、無から有へ。

      我が光と我が子の物語を以って、
      いでよ、私の《奇械》、我らの“終わってしまった”騎士。

唯一つ、違うのは。
対話篇とは違うインガノックが、桐山に牙をむく。

      貴方の勇気は私の勇気。
      貴方の運命、あらゆる全ては私の運命。
      
肉体と彼に相応しい武具、防具が顕現され。
それは、鋼の右手を煌めかせ。
それは、太陽の如く、溶かし。
それは、光の如く、切り裂き。

      鋼のきみ、《奇械》ポルシオン。
      貴方の敵は貴方を育んだ運命を変えんとする
      不遜極まる王子と姫、桐山和雄、または柿崎めぐ。

両の瞳に光が灯る。
光を生み出し濁流のように息吹が流れていく。
周囲をとりまく世界が日が落ちるように変わっていく。

671 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:49:15 ID:bKKCyItk0





















        ――――――――――立ち塞がれ

672 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:49:59 ID:bKKCyItk0
そこは、なくなったはずの螺旋階段。
幾つもの運命を紡ぐ。止まったはずの時間を記録する。
消滅の力によって消されたはずである、存在しない世界。


      世界のメモリーに記された紛れもない騎士のひとり。
      この《奇械》には貴方達が乗り越えるべき運命も加わっています。
      今や彼が運命そのもの。
      分離した力である以上、
      もはや私すら障害にはなれません。

同じ。同じ。ほとんどはワイルドセブンに告げた言葉と同じ。
ただ、ただ!
ワイルドセブンが乗り越えるの物語とは違って。
彼らが乗り越えるのは!
問いかけるのは、問い。
いつか、聞いた原初の質問。


 Another LastQuestion、《勇気の物語》で《インガノック》を乗り越えてください。
              今ならまだ引き返せます。
               それでも――右手を伸ばしますか、伸ばしませんか?


「乗り越えるさ、その為に――俺は、此処にいる!」
「暑苦して嫌になるわ。だけど、困るの。ねぇ、桐山君。
 こんな形で、死なせはしない。もっと、苦しんで、絶望して、涙して、その果てに死んでもらわないと」

右手を伸ばす。
伸ばした先に、明日がある。
止まってしまった未来が待っている。
だから、彼らは宣言する。
世界に、女神に。

「誰かが望んだ世界を! 俺はこの目で見る! 醜くとも、美しくとも!
 ありのままの明日に走っていく為にも!」
「私の最後は、私が決める。要らない世話はお終いにしましょう、“お母様”」


     【会場:とある都市の螺旋階段】

         【最終試練――Another 開始】

673 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:51:25 ID:bKKCyItk0
投下終了です。タイトルは「幕はインガノックにて降ろされる」です。

674 ◆W91cP0oKww:2013/03/31(日) 22:51:49 ID:bKKCyItk0
投下終了です。タイトルは「幕はインガノックにて降ろされる」です。

675名無しさん:2013/04/01(月) 01:43:40 ID:CKstPMl.0
投下乙。
もう何でもありだけど勢いがすごくて気にならん。

676名無しさん:2013/04/01(月) 21:46:06 ID:bNKD5hHA0
あ、あれ……めぐが可愛く見えてきたぞ……?

677 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:03:33 ID:Lox/LZQM0
投下します

678きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:05:19 ID:Lox/LZQM0


突き抜ける青空の下で、
雲ひとつとなく消滅した大気の中で、
砂を高く巻き上げてふたりのドールは闘う。

サクラテツの剛腕が唸りをあげてワイルドセブンの顔面に吸い込まれ、
とっさに前に出していた左手で軌道を逸らし、開いた右手で剣を突き刺す。
刀はサクラテツの鋼鉄の皮膚を破るには至らず。
胸ぐらを掴まれたワイルドセブンは頭突きをくらい視界に火花が走った。

「強い……ってか強すぎるだろ!!
 こんなヤツがいたのかよ!?
 どんな世界だよ。ドラゴンボールか!」

がむしゃらに暴れてサクラテツを突き飛ばした
ワイルドセブンは距離をとって策を練り上げようと考え。
そんな彼へと大きな影が不吉な予感とともに覆いかぶさった。
巨大なビル、根本で折られた30階建てはくだらない超高層のビルが
サクラテツに軽々と持ち上げられ、ワイルドセブンへ投げられた。

「いやいやいやいや!」

予想外の攻撃の仕方、
ならばと避けを選ばず
あえてビルを貫通して向こうに逃げようと考え。

しかし、ガラスのない窓と幾らかの柱をくぐり抜けた先には
もぐらたたきの要領で出を潰そうと
待ち構えていたサクラテツの大きな掌。

成すすべなく頭を万力のように掴み上げられたワイルドセブン。
徐々に篭められた力が上がっていき、
こめかみに痛みが走り、体に罅が入る音が出始める。

手に現出させた散弾銃、
《四宝の剣》で相手の存在確率に干渉する効果を秘めた弾を撃ちだす。
弾は銃身ごとはたき落とされ、意識が逸れた隙に相手の肘へ掌底を叩きこむ。

関節への攻撃でアイアンクローから解放されたワイルドセブン。
翻っての攻撃をサクラテツに繰り出すがどれも決定打には至らない。

679きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:06:01 ID:Lox/LZQM0




     これが最強の主人公の力。
     彼を突き動かすのは“家”とそれを守るための“金”への
     狂的執着心。“願い”は彼の肉体を比類なき頑健たらしめ。
     飽くなき想いは如何なる敵をも打ち砕く。


だから、試練を課された者はこれを超えねばならない。
変革を目指すなら、運命が産み出す最大の強者よりも高くあらねばならない。

ワイルドセブンの顔に焦りが生じる。
あまりにも高い壁。茨で出来た鳥の檻のように
脱出不可能に思える試練、難関。

サクラテツが宙に浮かんで、
虚空を握りつぶす動作をする。
その途端、サクラテツの体が何重にもぶれて
無数のサクラテツが現れる。

だがその異常現象はクシャスラのような
ただの分裂能力ではなく。

「ぐぅっ…………!」

刹那の時もなくワイルドセブンの腹部を
サクラテツの拳が大穴を開けた。
この程度で死にはしないが、
ダメージにより動作に支障が出始めた。

「因果律の乱れが、生じた……
 時間を止めたのか!?」

680きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:07:04 ID:Lox/LZQM0


女神の力も上乗せされているサクラテツが
時止めをも行使できることを悟り、腹部の修復を後回しにし、
自爆覚悟で諸共の因果律の崩壊を試みる。

止まった時間の中で唯一人、自在に動き回れる力。
動作の遅くなったPCでアイコンを動かせば
情報処理の不手際でアイコンが見た目だけ増殖するのと同じ現象。
違いがあるとすれば、敵にはアイコンを動かす手が観測できないところ。

再度、サクラテツが虚空を握りつぶす動作をした。
因果律が乱れ始める、ワイルドセブンを構成する
《四宝の剣》が警鐘を鳴らし始めて行く。

瞬きよりも早く、干渉不可能な事象が起きて、
次こそワイルドセブンは破壊されるだろう。

「使うぜ、ユッキー!!」

引き金を引くと、ワイルドセブンの周囲の因果律が大きく乱れる。
TVのノイズのような波紋が砂嵐にまで広がって、
ワイルドセブンの眼前にサクラテツの拳が現れた。

「おっしゃあ!」

頬を削ぎ落とされたが、
辛うじて避けたワイルドセブン。
彼の親指がピン、と小気味よい音を立ててある物を弾く。

陽光を反射してくるくると回転しながら
上昇するのは桐山の500円玉。

サクラテツの目前を横切ると、
サクラテツの注意が紛うことなく、
500円玉へと釘付けになった。

「こんな状況でも“金”への執着が消えないか。
 それとも俺がその程度だと思われているか。
 どっちにしても大したやつだよ、テツさん。
 そんだけ金がほしいか。ぶっちゃけドン引きだわ!!」

サクラテツの左手が500円玉をたしかに握りしめた。
そしてサクラテツの胸に川田の銃が当てられる。

681きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:07:45 ID:Lox/LZQM0



「こっからの攻撃は防ぎ用がないだろ。
 秋山相手と同じ手を使わせてもらうぜ!」
 
引鉄が引かれ、サクラテツを中心に
因果律の大きな乱れが生まれる。
超局地的小規模のブラックホールの如き渦が出来て。

女神のドール、《怪物》サクラテツの存在確率への干渉を行う。
世界を滅ぼす、寿命の力。逃れられる者などいない。

     無駄です


そう、無駄だった。
ワイルドセブンの手に握られた銃が
右腕ごと爆発四散する。

     運命のレベルで存在が揺るがないのが主人公

左胸にも穴が開いた。
人間だったのならば、ここで死んでいる。
起死回生の武器、世界再生の剣が消えた。
残るはどれもサクラテツには通用しないだろう武装のみ。

     どうしますか?

ワイルドセブンの意志は折れていない。
どれほどの打撃を受けようと、膝を地につければ
その時点で運命に追いつかれて喰い潰されるのだと知っているから。

彼が最も危うかったのは
このゲームに喚ばれて怯える無辜の少年を撃ってしまった時。
たとえば、今がその時と同じく、彼の“願い”を挫くものだとしても。

682きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:08:23 ID:Lox/LZQM0



――貴方の背には声がかけられているのだわ

彼は足を止めない。
ハードの旅人の杖を発動し、千銃によって弾幕を展開した。

――もう、無力な私達はあなたに何も出来ない。
   私たちは届かなかった。理想にも、愛にも。

仮面ライダーナイトの力を発動し、
一枚のカードを消費すると、
ワイルドセブンの体が7つに分かれた。

――それでも私たちは想うことをやめることだけは出来なかった。
   前へと走るあなた達の背中へ、狂おしいほどに、無力な想いを届けようと。
   きっと、人間はこれを祈りと呼ぶのでしょうね。

「なあ。女神様!
もしも俺が負けたらあんたはどうなるんだ!?」

    ハルネラは私にも行使不可能となりました。
    ならば、私も貴方と同じく、消滅を迎えるのでしょう。

――だから

ワイルドセブンは必死で抗う。
体の表面が幾つも剥がれ落ちて、
雪の結晶のように零れ落ちていっても。

――負けないで

「あんたは見たいと思わねえのかよ」

サクラテツの攻撃が彼岸の差を見せつけても。

――走って

「雛鳥が卵の殻を破ろうとしてんだぜ!?」

――どうか

「空が雛鳥で変わるかも」

――やっちまえですよ

「あんただって見る権利はあるだろ」

――あの子が守りたかった世界に光を

「だから。あんたも望んでみろよ」

――せめて、私の花嫁にだけでも、愛を

ひたすらに、ひたすらに。

683きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:09:24 ID:Lox/LZQM0
























     


      「          」
























か細い声だった。
微かな、それこそ砂漠の上に砂が落ちるように気づきにくい。
けれども、けれども、彼は確かに声を聞いた。

「オーケー! オーケー!
 聞こえてるぜ! みんなも、あんたからも!
 なら走る! 世界中が否定しても!
 アメリカじゃステージの真ん中で精魂尽き果てても!
 立ち上がれの一言で立ち上がって叫ぶのがロックスターとプロレスラーだ!
 ならギターを持った俺はロックスターとして走るしかない!!」

そして、走り続ける彼はもっと声をと求めるように、
背後へ、手だけを――――――

そして彼はあの言葉を叫んだ。

「完全合体だ! 桐山!!」


―――――――――――。

684きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:10:47 ID:Lox/LZQM0


複層都市インガノック。
無限の涙が焼け焦げた匂いがする
灰色空は今、夕暮れで赤く染まり。

桐山は炎の中で傷だらけになっていた。
一撃、ただの一撃でこうなった。
《奇械》ポルシオンは桐山の命までを取ることをせず。
それは誰かの“願い”によってそうさせられているのか。

わからないままに、桐山は攻撃を試みていた。
けれど、どれも当たらない。
どんな拳筋も見極めていたかのようにポルシオンは攻撃を避けて。

真紅の爪が桐山の命を刈り取る準備を進めているかの如く、
段階的に研ぎ澄まされていく。

桐山の背後では柿崎めぐがじっと佇みながらも桐山に剣を向け。
病的な笑みを崩さないまま、彼の命が尽きる直前を待つ。

「まだ、死なないの?」

彼女から流れてくる感情は憎悪と怒りのみ。
吐き出されるのは呪詛そのものの、死を待望する言葉。

「女神様はとても気に入らないけれど。
 へどが止まらないくらい気に入らないけれど。
 私はあなたのことが殺したいほどに憎いままなのよ?」

685きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:14:10 ID:Lox/LZQM0



どこにも味方がいないままに
彼は闘い続ける。
どうしてそうするのか。
何故、そうするのか。

約束したから、沢山の人と。
過去の己と。
ハルワタートから流れ続けていた七原秋也の想いへと。

己に一番近いところで、
心のすぐ隣で眼が焼けるほどの眩しさで叫び続ける
ひとりの革命家の“願い”。

ようやく恐る恐る歩きはじめた桐山の意識には
その光があまりにも遠く。
誰もが涙も怒りも抱えて走っていく中で。
桐山には七原秋也の背中だけが見えていた。

桐山の背にかけられるのは呪いの言葉だけ。
永遠に追いつけないとは言わなくても、
今はとても遠い背中。

炎が生き物のように這いずり、
桐山とめぐを焼き払おうとする。
炎はなけなしの彼の血の雨で
僅かながらもかき消して。

そして彼の心臓へと剣が疾走する。

「勝てないのなら、私が殺してあげる。
 私を、死なせなかった報いをね」

めぐの真意を桐山は掴み切れない。
死を求めているのだろうか。
桐山を憎んでいるのだ。
ならば、無垢を出発点に
ようやく歩き出した桐山はどうすべきか。

諦めてめぐの剣に討たれて
彼女諸共死ぬべきか。

686きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:14:43 ID:Lox/LZQM0



それとも、変わらずに走り続けるべきか。
彼の背中へと向かって。

巻き返すには遅すぎて遠すぎる友達への距離。
彼の近くには如何なる希望もなくて。

桐山は、だから、右手を、前に――
少しでも、七原秋也の背中に追いつけるように――

「完全合体だ。ワイルドセブン!」



―――――――。

687きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:16:33 ID:Lox/LZQM0




試練が融合していく。
白褐色の水と黒赫色の水が溶けていくように。
そして、世界は青も灰色もわからない深海の黒となって。

桐山和雄、ワイルドセブン。
ふたつがひとつになった“彼”は
《怪物》と《奇械》と向かい合う。

炎が押し開かれたポルシオンの胸部から渦巻いて流れだし。
サクラテツが止まる時間の中で動き出す。

必要なのは風を起こすかたちの武器。
無限のエネルギーをもった武器。
できれば剣のようなかたちが望ましい。

だから“彼”は両手でしかりと強く持ち。
それを、斧のように振り下ろした。
ギターを敵へと叩きつけた。

大音量で叫び果てたような風が生まれて。
何処までも直進し続けるような真っ直ぐで力強いエネルギーが場を支配した。

「さあ、お開きの時間だぜ女神様!
 試練? そんなの知るか。
 やれと言われたことをその通りやるほど行儀良くはないんだよ、俺達は!
 闘えといわれて闘う革命家とか意味わかんねーぜ!!」

688きっと誰もが日曜日よりの使者  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:17:56 ID:Lox/LZQM0



炎が晴れて、サクラテツも三十回回転してぶっ飛ばし。
“彼”は《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》を世界へと叩きつける!
何度も! 何度も! 何度も!

     何をするつもりですか?

「決まってるだろ!
 俺達だけじゃ勝てないから!
 フィールドを広げるんだよおおおおおおおお!!」

卵の殻が割れた音。
世界は壊れ、広がるのは無ガ意識の海。
万色の世界に落ちていき。

「俺の姿が誰かの光の姿なら。
 スプンタ・マンユは誰かの光を映す鏡にもなれるってことだ!」

そして、周りには無数の星が。
連続多次元宇宙に生きる全ての魂魄がそこにはあった。
杉村弘樹もかつて絶望する
《白色魔王》を救うために藻掻いた空間。

7つのローザミスティカが光り輝き
“彼”を守り通す。
魂魄が星の海となって瞬き。

「ローゼミスティカを取り込んで。
 たくさんの”願い”とぶつかって成長した
 かつては《人》の護神像スプンタ・マンユ。
 動力不足で出来なかったけれども、今なら!」

“彼”の姿が大きく変わる。
サクラテツが待つことなく殴りかかり。
けれども、壊れたはずの散弾銃、レミントンM780の銃弾で妨げられた。

「ま、予告通り、最後の最後だ。
 みんなで力を貸してやるよ」

桐村とレオで雪輝を世界の外に押し出した際、
手に入れた、正確に言うとくすねた一箱のタバコ。
口元に咥えた煙草に火をつけて。
無精髭を生やした老け顔の中学生は
苦笑とともに、遥か彼方へと指さした。

「悠久の年月を生きても、
 破滅と希望を目にして、最後の最後に俺たちへ祈った、女神。
 俺達が、あんたを、救ってやる」

689 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/03(水) 21:18:12 ID:Lox/LZQM0
終わり

690名無しさん:2013/04/04(木) 17:33:02 ID:Ym4ERwMIO
投下乙です。

人の世の護神像ワイルドセブン

それは、魂魄の器。

691 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/13(土) 01:49:50 ID:0Pmr07F20

お話に特に影響ない小話を投下

692カーテンが降ろされる間/ある人形師の物語  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/13(土) 01:52:18 ID:0Pmr07F20
 

  遥か昔。彼女にとっては光の早さの時間だが
  生きる者にとっては遠い過去の出来事。
  ハルネラを執行するために人柱となることを誓った人形遣いは”願い”を告げた。

     願わないことを願う。望むのは《女神》の束縛。
     永遠にこれを続けてくれ。
     望みのためにひた走る人々の前に手を差し伸べてくれ。
     《人形師》が最後の最後に究極を掴むまで。
     決して、この儀式をやめることなく、人々を導いて。

  女神は叶えた。
  彼はもしかすれば狂い果てて、瞳から涙すら無くした
  忘我のマリオネットであったかもしれないが。
  叶えるのが《女神》であるのだから。
  《黄金の瞳で望み統べたもう君》なのだから。
  玉座にて彼女は――――ローゼンクロイツの加担者となった。

  終わりのない”願い”の成就を乞われた輝きは、
  かつては人であった男の言葉に縛られ続ける。
  今も、昔も、破滅を超えた人々が卵の殻を打ち破る時、
  理貫く矛と理守る盾に挟まれて。女神は虚偽の闇へと、消えていく。

  ――イーニー・ミーニー・マイニーモー

  ほら、これが聞こえれば人形遣いは物語をつぶさに観察している証拠。

  でも、彼のことを正確に捉えることはできないよ。
  忘れられた存在なのだから、誰は彼どきの蜃気楼に包まれた影法師だなんて、
  幻や小妖精の口にも上らない。

693 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/13(土) 01:52:37 ID:0Pmr07F20
終わり

694 ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:13:59 ID:WwC5Lw260
投下します。

695きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:16:18 ID:WwC5Lw260

「本来なら、俺の出る幕はねぇんだよ」

“彼”は煙草をゆっくりと吸いながら、彼らの後ろにいる“彼女”に言葉を投げかける。
眼の前に立ち塞がる彼らが視界に映らないのか。
“彼”は未だに戦闘態勢は取っていない。

「だが、ロスタイム。終わり間近に交代のお呼ばれがかかった訳だ。
 ったく、あいつら……めんどくさいことを押し付けやがって」

言葉に呼応するかのように、口に咥えた煙草の煙がゆらりゆらりと風に吹かれ、宙に舞った。
戦場の荒野で、“彼”は悠々自適、荒れ狂う炎を物ともせず、気さくに笑う。
余裕。それとも、油断か。
どちらにせよ、眼前の二人は“彼”の目には適わない。

「で、女神さんよォ、そいつら……邪魔なんだが仕舞ってくれないか」

           なりません。彼らは、貴方達の壁。立ち塞がる、宿敵。

女神の言葉が終わるのと同時に、両者が荒野の大地を駆け走る。
サクラテツは土塊を撒き散らし、ポルシオンは赫炎を吹き焦がす。
それは、光速よりも鋭く、音速の壁を通り越した刹那の瞬。
口に咥えていた煙草が、灰燼へと散っていく。
両者の絶対の一撃に、“彼”はなすすべもなくやられるのみ。
だって、彼らは比類なき最強だから。
ただの、人の“願い”を溜め込んだだけの護神像と、人間、最高の偶像だけでは敵わない。
それは、世界の理として胸に刻み込まれているはずである。

696きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:17:41 ID:WwC5Lw260

「甘いなァ」

しかし、そんな道理を打ち砕くのが、革命家だ。
“彼”は《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》をかき鳴らし、衝撃波の壁を発生させる。
三百六十度、オールレンジで放たれた音の嵐は勢い良く迫っていた二人を遙か後方まで吹き飛ばした。

「オーケーオーケー。落ち着けっての。がっつく奴は女から嫌われちゃうぜ? 
 とりあえず、俺から贈れる言葉はこれだ。大人しく、未成年の主張を聞いてから動けよ、馬鹿野郎ってなあ!」

その音は世界の果てまで響き、聞くもの全てを熱狂させてしまうだろう。
キンキンと耳を振動させ、観客が思わず飛び上がってしまう程に。
どこまでも澄み切ったロック・ミュージックを奏で、“彼”を高みへと打ち上げる!

「救いの言葉は届いただろ! 反抗の歌声は世界に響いてるだろ!!
 諦めてんじゃねぇよ! 俯いてるんじゃねぇよっ!!! 世界はこんなにも広いんだぜ!!
 目を開けて、視界を広げてみなよ、女神さん!」

声を張り上げて、“彼”は拳を高く突き上げる。
それはたった一人、孤独に君臨し続ける女神に対して向けたもの。
多くの人々を救い続けた女神に差し伸べる救いの手。

「確かに世界は綺麗じゃねぇさ。汚ねぇとこも沢山だ。七原も、桐山も。
 クソッタレな世界を見続けてきた! それでも、案外強いんだぜ、人間は。
 “願い”におんぶに抱っこされる必要なんざねぇよ」

           なればこそ、ハルネラは必要なのです。

「確かにハルネラを望む奴等はいるさ。強いって言っても、人間は弱さも持ってやがるからな。
 だけどな、弱さを抱えながら前に進む奴等だってたくさんいるんだぜ」

起き上がり、再び炎と土塊を伴って迫る怪物と奇械。
それらを躱し、時には《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》を振り回すことで牽制し。
怪物を身体を削られながらも“彼”は叫ぶことを止めない。

697きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:18:50 ID:WwC5Lw260

「あんたもそれがわかっていたから!! 
 “願い”の為に誰かが泣くことが! 死ぬことが! それが嫌だって思っていたから! 
 小さな声だけど、ワイルドセブンの問いに答えたんじゃないのかァッッ!!!」

           ……戯言です

「戯言じゃねぇよ、真実さ! 心を読める魔法があるなら使ってみな、俺の本心からの言葉だってわかるからよ! 
 ワイルドセブンの言葉だけじゃわかんねぇか!
 なら、はっきり言ってやるよ! いいか、女神である前にあんただってっ!」

           私は女神、そのような言葉に揺れは

「血の通った一人の人間だろうが…………っ!!!!」

           ………………っ

その言葉は、“彼”の心の底から吐き出された弾丸。
どんなに硬い装甲も打ち砕く最高最強の一撃。
彼女の存在を否定する、救いの言葉。

「何、呆けてるんだよ。俺は当たり前の事を言っただけだぜ?」

“彼”の目には女神が見えない。
されど、わかる。今の女神は神としてではなく。
自分達と同じ、人として生きているのだと。

「あんただって俺達と同じモノ考えて生きてんだろ? なら、同類さ。お仲間なんだ、畏まることなんてありはしない」

           ……私は女神。幻想の存在であり人を超越せし神

「はっ! 神様でも同じ空気吸ってんだろうよ。何、すまし顔で神自称してんだ」

サクラテツの拳がそれ以上の速さで“彼”を押し潰す。
ポルシオンの腕が“彼”を光の如く切り裂く。
それでも、“彼”はニヤリと口角を釣り上げて、獰猛な笑みを見せる。
なんてことない、ちょっとしたじゃれ合いみたいなもんだと軽く受け流して。

698きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:19:58 ID:WwC5Lw260

「あんたは十分に頑張ったさ。賭けてもいい、クソッタレなハルネラを続けたその器量は俺達よりもでかい。
 救われぬものに救いの手を。壊れちまう世界に復活の夢を。誰もが持っている“願い”に煌めきを。
 沢山、沢山、伸ばした手を拒まれても。狂うことなく、間違えることなく」

拳の当たった腹部は消し飛び、切り裂かれた左目は灼熱の痛みを帯びて、表情を作ることを阻害する。
運命に護られた最強の怪物と、運命を乗り越えた最強の奇械。
その事実は、どれだけ時を巡っても変わらない絶対の定義。
巻き戻しを許さない、世界の理。

「もう、いいだろ。終わらせようぜ? 
 あんたを縛っている“願い”は賞味期限が切れてるんだ。ゴミ箱に捨てちまいな。
 腐ってるもんを大層な箱に入れておくのは衛生上よろしくねぇ」

膝を屈したくなる絶望を前にしても、“彼”は笑う。言葉を絶やすことをよしとしない。
自分はこんな喋らない木偶の坊を相手にしているのではないのだ。
女神という一人の人間と話をしている。
故に、目の前の二体の怪物など――眼中にあるものか!

「さぁ、女神さん! ライブの時間だぜ? 観客は無数の世界! ベースはワイルドセブン、ドラムは桐山っ!
 ギターは俺でボーカルはあんただ、女神さん! 叫べよ、本当に伝えたいことを! あんたにしか歌えないロックを!
 舞台は整ってんだ、好きなように来いよ!!!」

“彼”はそのまま横にずれて《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》を構える。
サクラテツ? ポルシオン? そんなもの知るか。
音の嵐に絡めて、遠くの遠くまで吹き飛ばした。

――イーニー・ミーニー・マイニーモー

そして、人形遣いの声が見え始めた女神の姿を覆い隠す。
終わりのない“願い”が、闇となりて“彼”を――。

699きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:21:46 ID:WwC5Lw260

「うるっせぇんだよ!!! テメエの“願い”で、いつまでも女の子を縛り付けてんじゃねぇ!!!
 重いもん勝手に背負わせやがって!! いい加減にしやがれってんだ!!」

彼女を隠す闇を《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》で裂いて、“彼”は真っ直ぐに立つ。
ローゼンクロイツ、ラプラスの使い魔。ローゼンメイデン。お父様。
かつて、人形遣いが願った永遠の“願い”――黒の闇が女神の中から現れる。

「テメエが元凶か? お前を叩けば、女神を救えるんだよな!!!
 上等だっ、ここいらでその永遠、ぶった斬ってやらァ!!!」

“彼”は《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》を大地へと、真っ直ぐに突き立てる。
それはさながら、ステージに立つロックシンガーの必殺の武器であるマイクスタンド!
世界そのものを観客にライブを巻き起こす革命の一歩を今此処に!

「女神さんよォ! バンドの第一声、あんたが始めてくれ! 俺らはいつでもいけるぜ!!
 大丈夫だ、あんたを縛り付けるもんなんて気にすんな! 俺が、俺達が! そいつを断ち切ってやっからよ!」

           …………す………………………………て

「聞こえねェぜ! もっとだ! もっと大きな声で叫べぇ! 俺達に、世界に! 皆があんたの声を待っているんだ!
 ワンモアプリーズ、女神さん!!!!」

           …………す………………け………………て

「そんなんじゃ観客には伝わんねぇよ! 思いっ切りだ! 貫け、走れ、前を向けっ!!
 右手を伸ばせ、その瞳に俺達を焼き付けろ! あんたを抱きしめる奴等の名をその心に刻め!!
 女神ぃぃぃぃぃいいいいいいいいっっっっっっっ!!!!!!!!!!」

700きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:22:27 ID:WwC5Lw260
              








女神は泣きそうな笑顔で。その嫋やかな手を。










           「救けて」









“彼ら”へと、伸ばした。

701きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:23:42 ID:WwC5Lw260
「……オーケー。ボーカルがやっと声を出したんだ。バックの俺達が気張らないでどうすんだ。
 桐山っ! 一瞬の隙も与えねーぞ!」

それは、かつて。七原秋也が護りたいと願った日常の光! 

「わかっている。感覚を合わせるまでもない。最初で最後、即席ロックバンドの形成だ!!!」

それは、かつて。桐山和雄が切り捨てた明日の光!

「そういうことだ。この闘いの決着、つけるとしようか!」

それは、かつて。“彼”が――――川田章吾が七原秋也に教えた明日への光!

「行こうぜ、皆。何、恐れることなんてないさ」
「俺達は勇気の物語を。いや、反抗の物語を紡ぐ革命家」
「革命家……いい響きだ。柄にもなく、燃えてくるね」

これらの光が合わさり、《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》の姿が大きな光を纏う。
反抗という二文字に込められた道筋が、この戦いの中で培ってきた“願い”が。
“彼ら”の掌の中でうねりを上げる!
闇を霧散させる希望の光、永遠の“願い”を解く武器へと顕現する!

「女の子が救けてって泣いているんだ。その涙を拭いに行かないのは駄目だよなあ」
「ユッキーだって掴めたんだ、女神さんに掴めない訳がねェよ」
「その右手、俺達が掴み取る。だから、諦めるな!」

           …………はい

世界の理を滅ぼす、革命家として。
明日の運命を追い抜き、世界を広げる勇者として。
今この時より“彼ら”は、世界の理を超越し、全ての運命を断ち切る剣とならん!

702きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:26:24 ID:WwC5Lw260

「■■■■■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!!」
「………………」

それを阻止せんと、二体の最強が叫び声を上げる。
最強の名が冠にある以上、どれだけの思いを重ねても揺らがない。
その程度で揺らがない、運命さえも変えられるからこそ、最強!
だけど。それでも、きっと“彼ら”は立ち向かう。
そこに、悲しみに暮れる女の子がいる限り。
陽の当たらない場所で泣いている人に、陽射しを届ける為に。

「幕引きの時間だぜ、テツさん。アンコールは勘弁な」
「お前の意志は響いた、ポルシオン。だが、その先へと俺は行かなくちゃならない」
「そして、人形遣い。テメエの永遠はここで途切れるんだ」

“彼ら”は《反抗の剣(ブレイブ・ブレード)》を振りかぶって、闇を斬る。
太陽の如く溶かす奇械の手を。
大切な場所を護り抜いた怪物の拳を。
人形遣いの“願い”ごと、纏めて光へと還していく。
この行為が正解かはわからない。それでも、“彼ら”は決断した。
少しずつでも、一人の少女の重りを減らしていこうと。
彼女の瞳から零れ落ちる涙を拭ってやろうと。

過去も未来も関係なく。全ては明日へ。
ゆっくりと動き始めた時計の針をゼロへと戻し、巻き返しの螺子を挿し込むことで。
ハルネラなんて関係なしに、世界は動き始めるのだから。
だから――後悔なんてしていない。

703きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:27:22 ID:WwC5Lw260










「迎えに来たぞ、女神」

「アンタが伸ばした手、掴ませてもらう」

「まっ、こんなぼろぼろな王子達でよければ、だがな

           良いのですか?

「いいに決まっている。だから、俺達はお前を救いに来た」

           ふふっ、ではこのような私の手でよければいくらでも。











【最終試練終了】

704きっと、その右手を掴むから ◆W91cP0oKww:2013/04/13(土) 21:28:03 ID:WwC5Lw260
投下終了です、ありがとうございました!

705 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/13(土) 21:33:32 ID:0Pmr07F20
投下乙なんじゃああああああ!!!
最高だったあああああああああ!!!!

706 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/13(土) 22:20:23 ID:0Pmr07F20
それじゃあ、最後への予告兼繋ぎ

707そして、僕たちは《三人》で乗り越える   ◆1yqnHVqBO6:2013/04/13(土) 22:23:13 ID:0Pmr07F20



――試練は終了しても。
  ローゼンクロイツの”願い”が敗れた証左にはならない。

さあ、終わりの幕を降ろそう。
誰かが何処かでそう言って、見えざる手が破砕音が奏で出す。
それは、ブリキの玩具、噛み砕く音のようでいて。

「ぐ……あっ……!!」

「えっ……!?」

”彼”の胸から七つの宝石が取り出された。
無垢の象徴にして、今なお変化と拡大を続ける無形なる石。
想いを溜め込み、想いに呼応する賢者の石。

それとともに見えざる手にて絡め取られてしまうのは。
プラの結界型BIMにて守られながら状況を固唾を飲んで見守っていた柿崎めぐ。

闇から騒々しい拍手とともに現われたのは
奇怪なる兎頭にジェントル然とした佇まいをするラプラスの魔。

闇の奥で誰かの手が本をめくる。
奥底の深淵にて、《女神》の代わりに宣言せんとする。

――ブラボー、ブラボー! 実に素晴らしい演奏でした。
   ですがまだ終点にはなりえません。これは失敗なのです。
   どうしてそう言い切れるか。何故ならば《儀式》を通じて告げられた言葉には、
   《女神》の赦しが付与し、絶対の呪いとなっているのです。
  

純白の手袋をした兎の指が翻弄するように振られる。


――閉ざされた女神。本来ならば宇宙をも創るその権能。
   その可憐なる口に毒リンゴを喰ませたのははたして真には何者か。
   さてさて、戯言は忙しい貴方達の苛立ちを紛らわせるため。
   長すぎては興ざめというものでしょう。まだ《究極》には程遠いのですから。
   理には時を刻んでいただかねばなりますまい。そのための緊急措置が今から行われんとしています。

無意識の海にて闇が侵食しだす。
汚染の波が、少しずつ、少しずつ。

――ローザミスティカを究極とは程遠くても、
   ハルネラを執行する依代には十分であり。
   弱々しき少女でも、人柱の資格は如何様にも押し上げられますれば。
   つまるところ、かつての《勝者》の”願い”はこれからも、終わらず。

老け顔の中学生も、ワイルドセブンも、
ローザミスティカの奪取によって霧散し。
遺るは、桐山と《女神》のみ。

ローザミスティカの力を借りて闇は徐々に勢力を増していく。
だが、《女神》はローゼンクロイツに抗う手を持つことができず。
”願い”の成就を果たすことで、矛により盾を完全に壊したのではないのだから。

闇に座するのは、物語に光を当てる《女神》を縛っていた、かつては人間だった何か。


――さあ、さあ、私達が愛して愉しんでやまない皆々様!
   お待ちかねの《機械仕掛けの神》が全てを台無しにする時間でございます。
   能動的なデウス・エクス・マキナは望めば舞台そのものを変えられるという教訓とともに。
   これにて、劇は終了と相成りますれば!
   終わりの形は、そう! ”あるがままを受け入れよ(Let It Be)”ということに。



      いいえ、私にもできることがあります。
      かつて私に願った貴方、ローゼンクロイツ。



”お父様”によって予め定められていたかの如く
掌中に収められた乙女達。彼女らは今、”父”の手に囚われて牙を剥き。
どこにも望みは存在せず。
そんな、無意識の海にて、ひとり揺蕩うだけだった
桐山の後ろで”彼”を支えるように現われたのは二人の少年。

それは――――人柱にくべられるはずだった《勇者》と《防人》


―――――To Be Continued to the Last Episode 『輪舞 〜revolution〜』

708 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/13(土) 22:23:51 ID:0Pmr07F20
終わり

709 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:03:00 ID:R2CUdOrY0
最終話投下

710輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:03:57 ID:R2CUdOrY0




















       人柱とは――
       世界を隔てる壁を創るために必要な魂。
       最も気高く、強い熱量を秘める必要がある。
       そして、《儀式(ハルネラ)》が執行された後は――
       世界から忘れられなければならない。
       魂は巡り、互いに強く影響し合い、その記憶を携えて、
       産まれ、還り、次へと続くものだから。
       強すぎる魂の永遠の欠落は、忘却によって埋められるようになっている。
       忘れ去られる魂。物語にも記されない無名の人物へとなるのだ。

711輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:04:30 ID:R2CUdOrY0




漆黒の闇によって形作られた森林が、大口を開けて。
潮騒の音のように静かに、されど力強く、見る者の怯懦を呼び起こす。
そして、対峙するは先にて敗れ、人柱として魂魄が昇ったかに見えたミツルとレオ。

桐山の周囲に浮遊しているのは
たしかに友達ふたりだった”彼”の器。
光の粒子は残滓となって儚く舞い散るのみに見える。

「これがローゼンメイデンの父の最期の手か。
 理が崩れ去るのと同時に残骸を拾い集め。
 キャンチョメ達の世界にて行われた殺し合いのルールを乗っ取り。
 魔本にてローゼンメイデンを縛り付ける。卑劣な策だ」

「おまえたち、どうして……?」

「元々、人柱になるみたいだったからな。
 俺たちは体の損傷も修復されて封ぜられてたんだよ。
 一度傷ついたけど女神が治してくれたってわけだ。」

「もっとも、おまえたちにやられていたのは朧気ながら覚えているがな」

ミツルが苦笑交じりに言ったのを聞き、
桐山は気まずげに俯き、爪先を凝視した。

「すまない。おもいっきり攻撃してしまったな」

「いいよ、謝んなよ。
 俺たち、天野以外には大して怒ってねえから。
 あいつはいつか絶対殴るわ。さすがにこればっかりは抑えられねえ」

「僕を一緒にするな。天野のことはもう気にしていない」

ミツルは不機嫌そうに横目で睨みつけ、
やがて眼を離すと広大な闇、茨でできた森林を三人で眺めた。

「桐山、おまえのドールは今なにができる?」

ミツルもレオも武装はそのままに召喚された。
それは共にある魂も寄り添い、やってきたということ。

「……大本はスプンタ・マンユだ。
 だから、もう、《千手》しか使えない」

「なら十分だ。なあ、《女神》」

そう言って、レオは三人を無意識の
海の干渉から守護している黄金へと話をふった。

「僕たちの周りには、まだ無数の魂魄がある。
 護神像は、魂魄の器だ。だから、最後の最後。
 言葉に縛られ、奴等を直接攻撃できない《女神》の力を間接的に借りる。
 《女神》の力をローザミスティカの代わりに注ぎ込めば――」

だが、それは、完全なワイルドセブンとの別れをも意味する。
ミツルとレオの提案はあくまで一度限りの大技。
受け皿である桐山のドールは果たしてどうなるか。

「…………決めるのは、おまえだ。
 他の方法がいいなら、僕たちもおまえと一緒に考える」

「気にすることはないぞ、
 いざとなったら俺たちで突っ込んで道を開いてみせるさ」

712輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:05:05 ID:R2CUdOrY0



桐山は周囲に浮かぶ欠片へと手を触れて、
ほんの少しだけ、瞳を閉じて別れを告げる儀式をした。

「やろう」

桐山は《神業級職人(マエストロ)》の指を巧みに自在に動かして、
彼の周りで力なく飛んでいる残滓全てを集めて。
そこに背後に浮かぶ黄金の女王《幼心の君》が光を注いでいく。

「みんな、聞いてくれ」

星々へと少年は語りかける。
無数の魂魄の中で、肉体を持つ三人は正に脆弱なる子供に過ぎないが。

「俺たちは、運命に見捨てられて、
 マイナスに転がり落ちるしかない状況だった。
 そこでは、すべてを受け入れた者にこそ栄光が与えられたんだ」

桐山の語りかけにレオも同調する。
千兆を優に超える魂魄が初めは無関心に素っ気なく光った。

「でも、そんな中でもさ。莫迦はいるんだよな。
 どうしようもない莫迦でさ。力尽きるまで走ってバテて、抵抗をやめないヤツ」

「僕たちは、全員、そんなどうしようもない状況に流されて。
 闘って、奪うだけだった。そうすれば、マイナスに望むものが与えられて、
 《0(チャラ)》になるから。それが、ただの卵の中の輪廻の仕組みだって知っても」

魂魄は少年達の、青く、悔恨に、満ちて、やるせない懺悔のような話を聞いて。
だんだんと光を強くしていく。点滅が、世界の果てまで伝播していく。

「俺は、ここで、マイナスの運命からべつのマイナスの運命に喚び出されて。
 ひとりの天使に出会い、心にようやく光の道標ができたんだ。
 俺は、その光を追って、走り続けて。
 何時しか、俺たちとは真逆の生き方をした奴等のように歩きたいと願った。」

闇が、彼らの頭上を覆い始めた。
空を偽りのプラネタリウムに書き換えて。
空に押し潰されるように彼らは深くへと沈み出す。

「俺たちは、あいつらみたいに輝きたいんだ」

レオナルド・エディアール。
壊れた心は記憶と赤き血で癒され、
親友との明日を取り戻し。
胸に抱くは翠の「安らぎ」と鉄の「勇気」。
雛は卵を割って祝福を運び。
蒼と白の装甲は暴食の顎、
背後に従えるのは神の武具の再現。
赫炎のジャバウォック、
スケアクロウは我武者羅に思いの丈をぶちまける。

「だから、お”願い”だ。
 俺たちと一緒に走ってくれ」

芦川ミツル。
星の数ほどの血に汚れ、
本当の笑顔を取り戻せないかもしれないけれど。
過去に捨てた輝きを拾い上げ、
魔王の祝福が雷電を纏わせる、
《魔導師》は白銀の剣士へと職を変え。
魔狂姫の尊き祈りが胸に宿り。
此処に勇者は人々を奮い立たせて、旗印を掲げる。


「マイナスとマイナスを乗り越えて。
 俺たちはようやくプラスへと――《0(卵)》の殻を破るんだ。
 考えて動くには遠すぎた。
 感じてからでもあいつらの背中には届かなかった。
 だから、だから――――!!」

桐山和雄。
人形のように虚ろだった心。
黒い羽の銀に導かれた《三銃士》とは遠すぎる身。
孤独に涙するカナリヤを抱きしめ、
紅の誇りが友の光と通じ合う。
《鉄仮面》は騎士の装甲、
炎の赤色は騎士の色彩。
彼は《岩窟王》であり、
《薔薇の誇り》を手放さず――――世界の敵は初めて歌うように叫んだ!!

「走れ、走れ!!
 転んでも、走れ!!
 踊れ! 回れ! 廻れ!! 輪れ!!! 
 その手を――――伸ばせえええええええ!!」

713輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:07:11 ID:R2CUdOrY0



沈みゆく明日へと続くはずの魂。
ついには、その魂が皆等しく目を焼く輝きを放ち。
桐山の手から産まれ出るは数えきれないほどの手。

「スプンタ・マンユ、モード《千手―サイコプラス―》
 ――9999兆の、行き場のない叫びの形!
 それが、貴様を打ち超える俺達の歌だ!!」

無限の手が、落ちるのではなく、
這い上がるように、絶望から、失意から、諦念から。
飛び出さんと脈動する生命の荒々しい源泉のように。

伸びる、伸びていく。
巨大な、膨れ上がり続ける光へ。
世界そのもの、宇宙そのものよりも
深く、高く、悍ましき彼方からの暗黒へ。
赫く、黒い薔薇の森へ――!!

――おやおや、これは予想外。
   これほどまでに多くの手が遵守を妨げますか。
   彼らを止めなくては世界は三千年の後、滅びるというのに。
   人の想いは己を焼きつくす情火にもなるのでしょうか。
   おやおや、これはいけません。焚き火は心凍えた旅人を癒すものなれど、
   《人形師》には我が娘を脅かす災害ともなりますゆえに。

闇の奥へと入っていく。
茨の嵐を何処までも突き進む。
列車のように、如何なる障害も跳ね除けて。
少年達が叫んで、歌って、訴えた通り。
天国も地獄も知ったことかと、足踏みするように。
波となって、幾千兆の手が進んでいく。

七つの《アリス》へと。消えていこうとしているめぐへと。
言葉を告げられないもどかしさを乗せて。
壁を超えられない悔しさをバネに。
この衝動は希望に酷似していた。

闇に敗けた誰かの手が落ちていく。
力尽きて、衰弱していく。
けれど、その手を乗り越えて。
背後に倒れた手を連れて行くかのように。
かえって勢いを増して進んでいった。

「ほんの短い間。
 数百年でも、数千年でもいい。
 俺達は……シオやみんなは薔薇乙女や《女神》と一緒に時を廻すんだ。
 明日を、無数の想いと息遣いの中で迎えていくんだ」

レオナルド・エディアールが訴える。
彼もまた、左手を伸ばし。
親友から受け継いだ暴食の顎を以って、
親友達が守りたいと”願”った七つの宝石、そしてそれを捉える父へと。

暗闇、深淵を這い進む。
押し寄せる津波。押しては引かず。
押しては引かず。暴走は終わらず。

「貴様は《女神》の声を聴かなかったのか!
 ヴェスナ・エスタ・ホリシア。
 待て、然して希望せよ。
 または、いつか再び会う君に。
 そういう意味だと解釈している。
 それは《女神》の言葉だ。これが僕たちを、導いたんだ。
 これはただの啓示なのか。そうじゃない。
 教典は、《女神》の”願い”そのものなんじゃないのか!
 貴様は《女神》の想いを無視したんだ!!」

闇の中で光り輝く黄金の魔本が頁を走らせて。
解読不可能な文字が踊り出す。だがここからでは見えない。
ローゼンクロイツの手の上で、たしかに、最後の言葉を告げる時を待ちわびて。

「僕やワタルはどうして貴女がチャンを招いたのかわからなかった。
 でも今ならわかる。貴女も、あの男と同じく、輝きの、
 人間の輝きによって開放されたかったんだ。
 貴様は、それを無視して、自分の娘を道具にしたんだ!!」

桐山の隣で手を伸ばすミツル。
白色魔王の雷電は気高く、彼の魂そのものの火花となって。

「聞こえるか。ローザミスティカ。柿崎めぐ。
 何度も言ったから大丈夫だと俺は確信している。
 大層なことをしろとは言わない、ただ、俺達を求めろ―――!!」

714輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:07:47 ID:R2CUdOrY0



誰もが願った。いつかほんの少しの輝きを、と。
この手に灯火を、と。風もない木もない、水もない。
風化していくこの魂に、決して枯れない想いが育てばいい。

誰もが願う。
この闇を踏破して。
少女たちを救ってみたいと。
そうして、明日を迎えてみたいと。

いつか、いっしょに輝いて。
桐山でもない、ミツルでもない、レオでもない。
プラスされた心の誰かがそう言った。
想い出と一緒に行こうと老爺が言う。
人の命も、明日も、重いけれど、と青年が励ます。
人と触れ合う痛みは俺に分けてみてくれ、と男が言った。

闇の最奥に、《人形師》がいた。
姿は見えずとも感覚で識った。
言葉は躱さない。
ただ、そこにいるのならやることは決まっている!!


「お前を打つのは一度だけだ。
 俺達の、この手で貫く一度だけだ!!」

手が七つのローザミスティカを掴みとった。柿崎めぐを助けた。
《薔薇乙女》の父、《薔薇魔王》。《黄金の女神》をも支配下にした
《黄金王》とさえ、呼べるだろう男を貫く――――には飽きたらず、無数の手が殴り飛ばした!!!!

「物語の外でこれからも見ているか《人形師》。
 《チェシャ猫》めいて俺達を嗤うかローゼン!
 おまえがいくら俺たちに望む道をひた走れと囁いても。
 その”願い”だけは叶わない。
 貴様の最後の束縛を俺達が引き離す、
 究極への道を捨ててともに卵を破る!
 残念だったな――――姿も知らないローゼンクロイツ!!」

《神業級職人》がようやく、初めて、
星星の力を借りて、己の意思を望みに変えて矢を放つ。
世界に薇の螺子を差し入れる!
サイコプラスが桐山の手に、黄金の魔本を手渡した!

715輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:08:44 ID:R2CUdOrY0



「これが俺たちの最後の術だ!!
 時計は午前零時からようやく分を刻み出す!!」

新たな人形師が、かつての《人形師》の形付けた薔薇乙女たちとともに
書割めいた脚本に大きな線を引く。
息を大きく吸って、勝鬨を告げんと桐山は声が嗄れるほど叫んだ!!

「ハルネラ――光よ、在れ――」
 
最後の術。
読み上げられると、七色のローザミスティカの光がめくるめき。
万華鏡の光が黄金よりも美しく闇に沈んだ世界を照らしていく。

    これにて理は覆され。
    世界は新たな道を歩み出します

桐山は金色の魔本を高く放り投げると。
悪なる右手、善なる左手、魔王の雷電を交差し、燃やし尽くした。

    そして私も、しばしの間は人とともに
    限り有る身でありながら、
    永遠の生命を繋いでいく営みを見ていくこととなります。    

曙光の奥深くで、女神は安らかに、眠るように瞳を閉じ。
その隣を真鍮色の魂魄がミツルより飛び出して。


    ヴェスナ・エスタ・ホリシア。


彼女の口から最後にそんな呟きが聴こえたような気がした。
七色の光は《女神》とオンバを魂魄と共に闇へと運び出し。
彼らをあんなにも眩しく照らした星々は、万華鏡のように多彩な七つの光と流れ落ちていった。

716輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:08:55 ID:R2CUdOrY0



魂が廻っていくのは、この世の真理。
故に、気高く強い魂の欠落を埋めるため、
無意識の海はそこに足を浸す者達に忘却を施す。


「終わったな」

「ああ」

「俺達も、頑張ったんじゃないか?」

「どうだかな」

「気づいてたか?
 俺達に協力しなかった奴等も相当いたって。
 どっちが多いかは数えられないけどな」

「そんなものだろう。
 それでも嬉しかった」

「いずれにせよ僕は、満足だ」

「俺はそうでもねえな」

「おい、それはないだろ」

ラプラスの魔とローゼンクロイツの気配は既にない。
死んだのか、何処へと消えたのかもわからない。
遺ったのは三人の人柱。
桐山和雄、芦川美鶴、レオナルド・エディアール。
一様に満足な表情を浮かべ、けれど後ろ髪を引かれる思いで光を見送る。

「ローザミスティカはどうなるんだ?」

「あいつらを縛りかねない魔本は理ごとこうして壊したんだ。
 きっと、これからも変わらず誰かと歩いて行く」

「僕たちはそれを見守っていくというわけか」

いいや、いいや、そうではない。
彼らの背中を優しく光の中へと押しやった誰かがいた。
うろたえた声を上げながら桐山達の視界が虹色に覆われて。
闇の空に浮かぶ光のシルエットがみっつ。

ひとりは、桐山と同じ学生服を着た《革命家》。
ひとりは、大きな服にフードを揺らす小さな《防人》。
最後の一人はずっと小さなアヒルの口をした《魔王》。

彼らは何かを言ったはずだ。
でも、わからない。
だって、覚えることができないのだから。
彼らも誰かに手を引かれて、光の流れへと融けていった。


【第9832436138392653回ロワイアル×ロワイアル終了】

【次回開催年 無し】

【人柱:七原秋也、シオ、キャンチョメ】

【次の滅亡まで残り三千年】

717輪舞 -revolution  ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:09:24 ID:R2CUdOrY0





………………………………………………………………………




…………………………………





………………





…………





……

718ヴェスナ・エスタ・ホリシア ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:10:13 ID:R2CUdOrY0








雑踏の騒がしさの中でひとりの少年が足を進める。
オールバックだった髪を最近下ろして、
何処に向かうという宛もなく少年はぶらぶらと放浪していた。

季節は冬に入ろうとする時期。
無遠慮にコートの隙間から入ってくる冷気に首を竦め。
日暮れとともにポツポツと彩られ始める街灯と広告灯があった。

ビルの森を多種多様な人々と擦れ違い。
すいすいと難なく人混みを進んでいく。
途中で光るような白い肌と真鍮の肌の、
瞳はどちらも金色をした双子とすれ違って。

少年はしばし天を振り仰いだ。

耳を澄ませば喧騒をも斬り裂くギターの音が聴こえた。
駅前のライブハウスから音が鈍く漏れていたようだ。
この音が少年の額に針を刺すような痛みを与えて。

指で痛みのもとを抑えた少年は、
自分がとめどない涙を流していたことに気づいた。

それでもいい、と誰かはいった。

  だって、おまえは前に忘れたとき、涙も置いていったしな。

通りがかった三人組の少年。
眼鏡をかけた黒髪の少年が
袖でいくら拭っても止まらない涙に戸惑う彼へと
ハンカチを差し出した。

「なんで泣くんだ?」

明るい髪の色をした少年が尋ねた。

「思い出したから」

「なにを?」

虎のような奇妙な痣を顔に縁取った鬣をした彼が首を傾げた。

「俺たちの道のりを」

レントゲンも誤魔化す水の心臓が新たな鼓動を紡いでいく。
天気は雲ひとつ無い青空から燃えるような夕暮れへ。
ウィンドウに展示されたTVは紛争を報道し続け、今日も誰かが泥の中、星を見上げる。


物語の扉は閉められて。
覗き見ていた少年達は安堵し、笑いあって無意識の海を歩きはじめた。

さあ、次はどこへ行こうか。
てくてく、てくてく、
彼らは今も昔も新たな道を歩きはじめていく。

719 ◆1yqnHVqBO6:2013/04/14(日) 15:10:50 ID:R2CUdOrY0
終わり

エピローグとか投下したい人は誰でもどうぞ

720 ◆W91cP0oKww:2013/04/14(日) 15:59:40 ID:ELmagQLo0
完結だあああああああ!
ありがとうございました! 楽しくやらせてもらいました!

721名無しさん:2013/04/14(日) 16:01:55 ID:JyaaYiXQ0
完結だああああああああああああ!!!!!!

722名無しさん:2013/04/14(日) 16:09:20 ID:XZqn6ELs0
完結おめでとうございます! 
凄く面白かった!

723名無しさん:2013/04/14(日) 19:43:20 ID:kmW5r4AcO
完結お疲れ様です!

724名無しさん:2013/04/14(日) 19:51:03 ID:V2ZOwK0c0
おおおおおおおおおお!
完結、おめでとうございます!
ローゼン登場から詰んでた分読了!
そうだよ、タスケテって言ってもらえなきゃ助けられない
それを言わせた、お前らの勝ちだ!
しかし熱かったなあ、合体川田も、最後にマイナスから始まった三人で戦い締めて、0な卵をぶち破ったのも!
そして全てが終わってからの再会も!
ヴェスナ・エスタ・ホリシア。
また、いつか!
おもしろかったああああ!

725名無しさん:2013/04/14(日) 19:51:09 ID:qe1upFpE0
完結お疲れ様です!

726名無しさん:2013/04/14(日) 20:06:49 ID:bYyJsUQA0
完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!

727名無しさん:2013/04/14(日) 20:58:13 ID:m1AuPOWU0
ついに……。・゚・(ノД`)・゚・。
ああちょっと言葉になんないな
とりあえずこれだけ、ありがとうございました!

728名無しさん:2013/04/14(日) 22:16:44 ID:c1Q3GjDY0
完結おめでとうございます!

729名無しさん:2013/04/14(日) 23:42:34 ID:9n2RKtt20
投下乙でした
完結おめでとうございます!

730名無しさん:2013/04/18(木) 21:46:52 ID:EvNlDvVU0
おおお…完結おめでとうございます!

731 ◆fuS6lqXhsk:2013/10/02(水) 12:10:16 ID:t5oOtgF60
真の最終回 予約します

732名無しさん:2013/10/02(水) 18:11:42 ID:4cWe1BOQ0
(荒らしが来るのはともかく、なんで終わってから随分経ったスレでやるのかが正直良く分からん)

733名無しさん:2013/10/11(金) 02:07:39 ID:8uVJDdqY0
投下するなら楽しみに待ってるっすよ―

734名無しさん:2013/11/04(月) 00:30:40 ID:FAKM7bRo0
投下はよう

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