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唯「澪ちゃん、PAといえば?」
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澪「え、ライブで音響機材を操作してくれる人…?」
唯「違うよ! パーキングエリアだよ!」
澪「えぇー……」
――ことの始まりは、仕事を終えて帰宅した週末の夜だった。
澪「ただいまー」
唯「おかえり澪ちゃん、明日暇?」
澪「えっ、うん、まあ普通に休みだけど……」
唯「そうじゃなくて、会社の用事とか入れてない?」
澪「いや、特には。こんなくたびれたオバサン誘う物好きもいないよ」
唯「澪ちゃんはまだまだいけるよー。他ならぬ私がいけるもん」
澪「……なんか雲行きの怪しい会話になってきた」
唯「ねね、じゃあ、私が澪ちゃんを誘う物好きになっていい?」
澪「どこか行きたいところでもあるのか?」
唯「うん! ねぇ澪ちゃん――」
――そして今に至る。うん、わざわざ遡るほど大した会話でもなかった。
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"
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澪「要するにパーキングエリアに行きたいと?」
唯「うん!」
澪「なんで?」
唯「なんかいいじゃん! 高速道路に走り疲れた人達が、車から降りてう〜〜ん!って身体を伸ばす場所でしょ?」
澪「まあ、間違ってはいないな、多分」
それなりに歳を重ねてきたけど、基本的に私達は車を使った遠出はしないので、確かにあまり縁のない場所ではある。
とはいえ、皆無と言うわけではない。
澪「でも高校3年の時にドライブイン寄ったじゃないか、夏フェスに行く途中に」
唯「あの時はバスの他のお客さん達にペース合わせてたから満喫できなかったの!」
澪「まあ確かに。それにそもそも目的も夏フェスだったからドライブイン自体をじっくり見て回りもしなかったな。唯は何か買ってたけど」
唯「そう! あの時はあまり考えてなかったけど、社会の荒波に揉まれた今ならわかるよ。ああいう癒しの場所ってやっぱり必要なんだ、って…!」
澪「そんな大袈裟な……」
とはいえ、「癒しの場所」という表現はなかなか面白い着眼点だと思う。
最初に唯が言ったとおり、「高速道路に走り疲れた人達が、車から降りてう〜〜ん!って身体を伸ばす(あれ、これ「羽を伸ばす」とかけてるのか?)場所」と見ると、そこはかけがえのない貴重な癒しの空間。
「なんかいいじゃん!」と憧れる気持ちもわからないわけではない。例えるなら砂漠の中のオアシスに憧れる気持ち、みたいな?
……そう考えると楽しそうに思えてくるかも。
唯「とにかく、行きたい!」
澪「…そうだな、私も行ってみたい、かも」
唯「さっすが澪ちゃん、話がわかる!」
澪「近くにあるのはどこだろう? ちょっと調べてみるよ」
唯に背を向け、机の上のノートパソコンを開く。そうすると唯はいつもすぐに私の背後に立ち、何の変哲もない起動画面からずーっと笑顔で眺めてる。何が面白いんだろう?
ちなみにこれは最近給料で買った新型だ。薄い! 早い! でも要らないソフトが最初からたっぷり入ってる。パソコンに詳しくはないのでそのままにしてるけど。
私にはエクセルとワードさえあればそれでいいや……
唯「そろそろ背景変える?」
澪「何かいい画像があるのか?」
唯「この間撮った澪ちゃんの――」
澪「却下」
こういう時の唯はどこかの誰かさんに非常に似ているので適当にあしらうに限る。後ろでなにやらぶーぶー言っているけどそれも無視するのが一番だ。
聴覚を遮断し、パパッと近くのパーキングエリアを探そうと文字を入力しようとした時、ふと気づく。
澪「あれ、っていうか唯、パーキングエリアでいいのか? サービスエリアじゃなくて」
唯「……どう違うの?」
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澪「広くて大きくていろいろあるほうがサービスエリアじゃないか? 多分」
パーキングはあくまで駐車場だし、名前にサービスって付いてるほうがいろいろ充実してそう、という印象。
その認識が正しいとしてだけど、賑やかなのが好きな唯は、きっとサービスエリアのほうが気に入るんじゃないか、と思って尋ねた。
もっとも、その分場所は限られるだろうから遠出になる可能性もあるけど、別に構わない。
そう思っていたのだが。
唯「ん、まあどっちでもいいよ、近くにあるほうで」
澪「そんな適当な……」
唯「適当じゃないよー。どっちでもきっと楽しいと思うもん。ワイワイしてそうなサービスエリアも、まったりしてそうなパーキングエリアも、どっちもオモムキがありそうで!」
……唯も歳を重ねているのでたまに難しい言葉を使いたがる。そこまで難しい言葉でもないけど。
でも、言う事は一理ある。どちらでもそれぞれその場の特有の空気は楽しめるんだ。どちらでも満足できるという確信があるからこその「どっちでもいい」なんだ。
この歳になっても、唯のなんでも楽しむ姿勢には学ばされるものがある。
唯「それに澪ちゃんもいるしね」
澪「そうだな、唯もいるんだしな」
唯「でも今度行く時は明日行ったほうじゃないほうに行くからね?」
澪「そう言うと思ったよ」
調べた結果、最寄りの場所にあるのはパーキングエリアのほうだと判明。そこまで遠くもないようだ。
サービスエリアには次の機会に行くと約束だけして、場所までは調べずにパソコンの電源を落とす。相変わらず唯はシャットダウンの最後の一瞬まで笑顔で画面を眺めていた。
……場所を調べずに軽い気持ちで約束だけしたことを未来の私が後悔するかどうかは、また別の話だ。
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――翌日。準備を終え、車に乗り込む……前に最終確認。
荷物はとにかく必要最低限。ただお金だけは別。パーキングエリアでそんなにお金を使うとも思えないけど、唯のことだから何があるかわからない。私は多めに持っておく。デジカメも忘れずに。
戸締りはちゃんとした。二人で二重に見回ったから完璧。鍵もかけたし元栓も締めたしコンセントも抜いた。その他諸々も完璧。
服装は、そこまで人目を気にするようなところに行くわけではない上、車を運転するわけだし、ということで動きやすさを重視。
免許証を確認し、今でも大事に取っておいている自動車学校の教本を片手に車の点検。異常なし。そういえばそろそろ車検が近かったっけ。
あとは……忘れ物はないよな。唯もちゃんといるし。言いだしっぺのくせに盛大に寝坊してくれたことはもういいや。
澪「問題なし。じゃあ行くか!」
唯「あいあいさー!」
私は運転席、唯は助手席へ、扉を開けていつものように乗り込む。
いつものように、とは言うが、唯も運転は普通に出来る。最初の頃こそ唯の運転で助手席に座るのは怖かったけど、今ではそんなことは全くない。
ただなんとなく、いつも最初はこの形。この後に唯が「運転したい」とか唐突に言い出したら、外に出て車の周りを半周回って交代。それだけ。今日はそんなことはなかったようだけど。
ちなみに私が替わって欲しい時とか唯の運転がいいなって気分の時は車に乗り込む前にちゃんと言います。
唯「どのくらいで着くの?」
澪「高速に乗ってから10分くらいかな」
唯「へぇー、結構近いんだね」
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澪「遠くはないけど、高速の速さで10分って考えるとそこまで近くもないはずだよ。だから変わった景色が見れるかも」
唯「わあ、楽しみー!」
澪「じゃあ、出発するか」
――ちなみに私は運転する時はとにかく運転に集中したいタイプだ。
まあ大半の人はそうだと思うけど、それを抜きにしても私は生来の臆病さが幸いしたのか災いしたのか車を運転するという行為自体にいまだに慣れない。
「車は便利だが使い方を間違えれば凶器となる」と教習所で何度も言われたし、それが正しいことだと知ってるし、前科持ちにもなりたくないし誰かの命を奪いたくもない。
と、そんなこんなで私は安全運転を必ず心がけている。それは普通だけど、それに加えて――
唯「わー、いい天気だねぇー」
澪「………」
唯「あ、可愛いワンちゃん。見て見て澪ちゃん」
澪「…………」
唯「っていうか着いたら何食べる? いきなりお昼にしちゃう?」
澪「……………」
それに加えて、なるべく喋りかけて欲しくない。気が散る。
まあ、それなりに長い付き合いだから唯もそのあたりはわかってくれてるけど、放置しっぱなしもさすがに可哀想な気もする。
唯「んー、やっぱり外はこの時期の、なんていうか季節を感じる空気だよね。キンモクセイの香り」
澪「……へえ、風流なこと言うんだな」
唯「ところでこの匂い、本当にキンモクセイの香りで合ってるの? なんとなく小さい頃からそう言われて育ってきたんだけど」
澪「風流なんてなかった」
唯「澪ちゃんがよりによってこのタイミングで拾うから……」
澪「あ、車線変更。……って、私が悪いのか!?」
唯「ツッコミのテンポも期待してないからいいけどねー」
澪「………」
なんか理不尽な感じの悔しさを抱えたまま、料金所でお金を払って高速に乗った。
〜〜〜〜
高速に乗ってしばらくすると、周囲の景色が変化してきたらしく唯が感嘆の声を上げる。
唯「うーん、遠目に海と山が見えてなんかおトクな感じー! 今どの辺りかな?」
澪「えーっと……」
何度か通り過ぎた距離標識から推測しようとしていると、横でゴソゴソ音がする。
唯が地図を探している音だろう。
澪「カーナビつけようか?」
唯「あ、あった! 大丈夫だよ、地図見つけたし」
澪「いや、唯酔うからさ」
唯「ま、毎回は酔ってないじゃん!」
確かに毎回は酔ってないが、それは私が気を配っているからだ。
件の夏フェスの時みたいに早起きから来る睡眠不足を避けるようにしたり、なるべく下を向かせないようにしたり、お腹一杯食べてすぐは車に乗らないようにしたり、そもそも酔い止め飲ませたり、とか。
まあ半分くらいは憂ちゃんのアドバイスもあるんだけど。
とりあえず、唯はすぐ酔うくせに車に乗るのは結構好きなタイプだから結構気を遣うんだ。もっとも、酔ってもすぐ治るからあまり過剰に気を遣う必要もないんだけど。
っとと、運転に集中集中。高速道路は教習で乗ったときもあまりの速さに恐怖して泣きかけたくらいだし。正直今も近くに車がいると恐いし。
唯「あ、今ちょうど半分くらいみたいだね」
……ま、まだ半分もあるのか……
唯「――あっ、鳥が飛んでる。ツバメかなぁ?」
澪「ソウデスネ」
唯「――トンネルはないのかな? トンネルってなんかワクワクするよね」
澪「ソウデスネ」
唯「――運転してる澪ちゃんってかっこいいよね」
澪「………」
〜〜〜〜〜〜
-
そんなこんなで。
唯「とうちゃーく!」
駐車するや否や唯が助手席のドアを開け、外に出て伸びをしながら大空を仰ぐ。
その光景は絵になる……けど、それをしたいのは運転してた私だ。
澪「んん〜〜〜っ。いい天気だなー」ノビ
まあ、私もやるんだけど。
唯「思ったより早かったねぇ」
澪「私は時間を気にする余裕なかったけどな」
言いながらも一応手首の腕時計で時間を確認する。
車内時計で見てたであろう唯の言葉を疑う意図はないんだけど、確かに想定してた時間より少しだけは早かったようだ。
唯「さて、絶好のパーキングエリア日和ですよ澪ちゃん!」
澪「なんだそれ……あ、そうだそうだ」
唯に釣られて早々に車外に出てしまったため、荷物を車内に置きっぱなしだったことを思い出す。
必要なもの、とりあえずはデジカメと財布と携帯電話を回収し、今度こそ鍵を閉める。
澪「さて……」
あらためてパーキングエリアを見渡してみる。
ほどほどの広さの駐車場と、そこから向かって右側のほうにトイレらしい白い建物。
トイレ以外は横に長い一つの建物になっていて、その中の一番左のほうが……簡単な食事施設かな? メニューの宣伝看板がかろうじて見える気がする。
ということは中央あたりがお土産屋などの買い物エリアなのだろう。ちなみに入り口が3つくらい見えて、右側2つの入り口の間には屋台?というか出店?のような感じでフランクフルトを焼いてる店もある。
あとは自販機とごみ箱、屋根付きのベンチ、電話ボックスや喫煙所がチラホラと見えるくらい。やっぱり中央のお店以外に大規模な施設はないようだ。
とはいえそれでも、
唯「おお、おっきなトラックが停まってる。バスは停まってないのかな」
澪「今はいないな、残念」
唯「でも、思ったより人はいるんだね」
唯の言葉に頷き、中央の建物を遠景で一枚カメラに収める。
あまり人が写らないように、と思っていたけど、どうやっても写る人が出てきてしまうほどには人が多い。
多いというか、入れ替わり立ち替わり人が訪れ、去っていく感じ。車の出入りも思っていたより多い。端っこのほうに停めておいてよかった。
澪「みんな、ここで軽く休憩して英気を養って、次の目的地へ向かうんだよな」
唯「そうだねぇ」
私たちの目的はそれじゃないけど、それじゃないからこそ一歩引いたところからそれらを眺めることが出来る。
トイレから出てきてすぐ、外で焼いているフランクフルトに釣られていく子供。自販機でお茶を買い、ベンチで飲む老人。タバコを吸い終わり、足早に車へと戻る男性。大きなお土産袋を抱えてお店から出てくる恰幅のいい女性。
……ここは確かに憩いの場所であり、安らぎの場所であり、そしてここから去りゆく人たちは確かに人としての活力に溢れていた。
澪「……いいなぁ、こういうのも」
唯「でしょ?」
澪「うん。唯の思いつきもたまには悪くない」
唯「えー、たまにー???」
澪「ふふっ。さて、私たちも入ろうか」
唯「おー!」
"
"
-
〜〜〜〜以下、細かい光景は自身のPA経験から脳内再生してください〜〜〜〜
唯「あ! 焼きおにぎりの自販機がある!」
澪「まだあったんだ、これ…」
唯「チラッ」
澪「向こうに食堂もあるけど」
唯「う〜ん、やっぱりそっちかなぁ……」
澪「こういうのは急ぎの人向けだろうな」
唯「澪ちゃん! 桜が丘特産お菓子コーナーがあるよ!」
澪「いやいや、地元民の私達が買ってどうするんだ」
唯「澪ちゃん澪ちゃん! 桜が丘ラーメンだって!食べようよ!」
澪「ラーメンか……ちょっと重いけど、そろそろお昼だし食べようか」
唯「桜が丘ラーメンおいしかったねぇ」
澪「何が桜が丘なのかはわからなかったけど……でもさっぱりめで美味しかったな。ちょっと値が張るけど」
唯「澪ちゃん!トイレ!」
澪「私はトイレじゃない」
唯「行ってくるね!」
澪「……………私も行っとこ」
唯「澪ちゃん! アイス食べよう!」
澪「えぇー、季節も季節だしちょっと冷えるかもしれないぞ?」
唯「それは私も思ったけど、ほらこれ、気にならない?」
澪「? えっと……『琴吹農場の特濃牛乳使用プレミアムソフトクリーム』? えっ、琴吹って……ムギのところ?農場経営してるのか??」
唯「すいませーん! プレミアムソフトクリームひとつくださーい!」
澪「買うのか……」
澪「………買ってしまった」
唯「おいしいねぇ」
澪「うん、今までにない美味しさだ。結局ムギが関係してるのかはわからないけど……今度聞いてみよう」
唯「そうだ澪ちゃん、帰る時に外のフランク買って行こうね」
澪「いいな。出入り口のそばであの匂いさせるのはズルいよなあ」
唯「だよねぇ」
唯「澪ちゃん澪ちゃん! これ懐かしい!」
澪「なんだこれ、動物のキーホルダー?」
唯「知らない? これこうやってお腹のあたりをギュッて押すとね」
澪「うわっ!?」
唯「うんち!」
澪「汚い!!」
澪「あっ、唯、スタンプがあるぞ」
唯「おお、ホントだ! 集めようかなぁ? 今度行くSAにもあるといいねぇ」スタンプペタン
澪「そうだな。あ、私も押したい」
唯「はい」
澪「……ふふっ、なんか、高速乗ったんだなぁって感じがする」ペタン
唯「だねぇ」
唯「澪ちゃん! 桜が丘特産お菓子コーナーがあるよ!」
澪「んー、桜が丘まんじゅうでも買って帰ろうかな」
唯「私も何か買おーっと」
〜〜〜〜〜〜
澪「すいません、フランクフルトください。2本」
おっちゃん「あいよー!」
澪「えーっと、財布……んしょっ……ちょっと唯、荷物持ってて」
唯「私の分も出してくれるの?」
澪「……まあ、いいか」
唯「やったぁ!」
澪「すいません、千円札で」
おっちゃん「まいど! お釣りと、ほれ、フランク2本だ。熱いから気をつけてな!」
澪「ありがとうございます」
唯「ありがとー!」
澪「……って、私いつの間に邪魔になるくらいくらい買ったんだ!?」
唯「さっきだよ」
唯のクールなツッコミの通りだけど、どうにもテンション上げすぎていつの間にかいろいろ買ってしまっていたらしい。
いつの間にか、という言葉の通り時間も忘れていたけど、腕時計を見て驚いた。
澪「結構時間経ってるな」
唯「楽しかったねぇ」
澪「……それは確かに。ん、ベンチは人が多いな」
唯「車の中で食べよっか」
澪「汚すなよ?」
唯「汚さないよぉ。たぶん」
澪「……自販機でお茶でも買って戻ろうか」
唯「選ばれたのは」
澪「このお茶でした」
唯「くすっ」
澪「さて、戻ろう」
唯「うん」
ケチャップとマスタードが綺麗に乗せられたフランクフルトはすぐに食べ終えてしまった。
備え付けのウエットティッシュで手を拭き、ゴミを纏めていると唯が珍しく殊勝なことを言い出す。
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唯「ゴミ捨ててくるよー」
澪「え、うん。ちゃんと分別しろよ?」
唯「当たり前だよー」
澪「車に気をつけろよー!」
唯「もー! 私もう子供じゃないよ!」
と、親に言うような文句をつけながら唯はゴミ箱の方へ走っていった。
確かに唯ももうとっくに大人なんだけど、年齢とかいろんな事情とかは関係なく、唯が唯なだけでそういうところが心配な私も間違ってないと思う。
もちろんそんな心配はいつも杞憂だし、杞憂であるべきなんだけど。……と、こちらへ戻ってくる唯の危なげない姿を見ながら思う。
唯「そうだ澪ちゃん、帰りは私が運転していい?」
澪「ん、そう? じゃあ交代するか」
唯「……ホッとした?」
澪「べ、別に」
ここに来るまでの道の時点で結構気を張ってたのはさすがに唯にもバレてるだろうから、変に言い訳はせずに足早に運転席から出て助手席に移った。
唯「じゃー出発進行ー!」
澪「帰るのに出発ってのもなんか変だけど」
唯「でもここから見れば出発じゃん?」
澪「まあ、そうなんだけどさ」
唯「じゃあ出立?」
澪「響きは似てるけどそれは違うと思う」
唯「じゃあ、帰宅進行ー!」
澪「もう何が何やら」
唯「……ところで澪ちゃん、どうやって帰るの? 高速だしUターンってわけにもいかないよね?」
澪「ああ、そうだった。もちろんUターンは禁止だから普通に進んで降りるしかないよ」
唯「……帰りのほうが遠くない?」
澪「そうだな、正確には高速降りたところで半分だもんな。……代わろうか?」
唯「がんばる……。あーあ、ほんの数メートル隣に戻る道があるのに……」
澪「仕方ないだろ、そういうものなんだから」
唯「……帰りのPAでも何か買ってくれる?」
澪「帰りも寄る気か!?」
唯「せっかくだし……」
澪「………」
別にこうなることを見越してたわけじゃないけど、お金は多めに持ってきてるし……まあいいか。
たまにはこういう、行き当たりばったりで贅沢なお金の使い方も悪くないんじゃないかな、きっと。
そう伝えれば、ふくれっ面の隣の運転手もちょっとはゴキゲンになってくれることだろう。
そう考えれば、多少のお金や時間の消費もどうということはなく思えてくる。そこには確かに価値があるのだから。
そう思えるあたり、なんだかんだで私も唯も、PAで癒され、活力を貰ったのかもしれない。
また一緒に行きたい、と、そう思ったことも後でちゃんと唯に伝えよう。あ、今度は皆で来るのもいいかもしれないな。
数時間を過ごした憩いの場所を振り返りながら、そう思った。
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おわり
ところで東京と京都にはサービスエリアは無いってwiki先生が言ってた
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