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和「Kissからはじまるミステリー」
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「えへへ、のんちゃんだいすきー」
「ありがとう、ゆいちゃん」
「これがたんじょうびプレゼントだよー」
「えっ……?」
重ね合わせられた唇。
唯と知り合ってから初めての私の誕生日、そうして私のファーストキスは唯に奪われた。
柔らかくて、ふわふわしていて、優しい気持ちになれるキスだった。
幼稚園には友達同士でキスしてる子達も多かったから、私はそのキスに何の疑問も抱かなかった。
触れていたのは五秒くらい。
その五秒がそれからの人生に強く影響する事になるなんて、その時の私達にはきっと分かっていなかった。
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☆
「和ちゃん、おめでとー!」
「ありがとう、唯。だけど……」
「だけど?」
「いつもの誕生日プレゼントはやめにしない?
私達も来年には高学年になるんだし、誕生日プレゼントにキスするなんてもう子供っぽいと思うわ」
「ええー、和ちゃん私とチューするの嫌になっちゃったの?」
「嫌ってわけじゃないんだけど……」
「だったらいいよね?
よそはよそ、うちはうち! でしょ?
子供っぽいかどうかなんて関係ないよー」
「もう……、唯ったらいつまでも子供なんだから……」
「和ちゃんとチュー出来なくなるくらいなら、子供でいいもーん。
ほら和ちゃん、誕生日プレゼントのチュー……」
「はいはい、んっ……」
幼稚園の頃のあの誕生日から習慣になったプレゼントのキス。
周囲で友達同士のキスを交わす幼馴染みはどんどん減っていたけれど、唯は気にしなかった。
毎年一度だけ、唯は私の誕生日に私と唇を重ねる。
触れるだけのキス。
小学四年生の時のキスはそれまでより少しだけ長かった。
キスの時間は多分十秒くらい。
唯の温かさと子供っぽさを感じるだけの幸せな接吻の時間。
そろそろこの習慣から卒業しなきゃ。
そう思ってはいたけれど、唯のキスの優しさから卒業するのは寂しかった。
小学生の頃の私の誕生日は、そんな風に短いキスを交わして過ぎて行った。
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☆
「和ちゃん、誕生日おめでとー!」
「ありがとう。
それで今年も誕生日プレゼントは同じなのかしら?」
「うんっ、そのつもりだよー!」
「本当、幼稚園の頃から変わらないわよね、唯は」
「えー、そんな事無いよー?
最近はおっぱいだって膨らんできたんだからー!」
「身体だけ成長しててもね」
「だったら成長した私のチューを見せちゃうもんね!
すっごいチューで和ちゃんをびっくりさせちゃうぞ!
あ、そうそう、そういうわけだから和ちゃん、ちょっと眼鏡を外してくれる?」
「どうして?」
「だって去年キスした時、眼鏡が顔に当たってチューしにくかったんだもん」
「そうだったわね……。
あれは私も結構痛かったわ……。
勢いよくキスし過ぎよ、唯」
「えへへ、一年に一回の大切なプレゼントだからつい」
「何か私じゃなくて唯のプレゼントになってない?」
「ソ、ソンナコトナイヨー?」
「まあ、いいけどね。
ほら、眼鏡を外したわよ。これでいいのかしら?」
「うんっ!
和ちゃん、大好きー!」
唯が私の胸の中に飛び込んで、私と視線を合わせる。
私は唯のキスを待つ。
唯も例年通り柔らかい笑顔で唇を重ねて来た。
私の十四回目の誕生日。
恒例の誕生日プレゼントを貰って、それで今年の誕生日も終わるものだと思っていた。
けれどその年の私達に小さなハプニングが起こった。
私達はいつも私の部屋でキスをしているのだけれど、部屋の外で突然大きな音がしたのよね。
後で知った事だけれど、お父さんが片付けをしていて日曜大工の金槌を落としてしまったらしい。
いいえ、そんな事は別にどうでもよかったのよね。
私達は急な物音に驚いて身体を震わせてしまった。
その拍子にいつの間にか私達の唇は普段より深く重なってしまっていた。
唇の隙間から出ていたお互いの舌と舌が重なって。
計らずも俗に言うディープキスみたいな状態になってしまっていて。
私と唯は慌てて唇と身体を離した。
「お……、驚いちゃったね……」
「そ、そうね……」
唯が視線を散漫とさせながら呟いて、私も応じた。
唯は顔を真っ赤に染めていて、私も多分顔中を赤面させていたと思う。
それくらい全身が熱かった。
「和ちゃん……?」
「な、何?」
「これって恋人の……、ううん、何でもない。
何でもないよ、和ちゃん……」
「そう……?」
それっきり唯は黙り込んでしまった。
私もその続きの言葉を促せなかった。
けれど聞けなくても、続きの言葉は何となく理解出来ていた。
『これって恋人のチューだよね?』
唯はきっと私にそう訊ねようとしていたんだと思う。
恋人のキス。
唯が私の誕生日にくれるキスとはまた意味の違ったキス。
恋人同士が交わすような深い深い……。
そこまで考えて、私の頭は別の事を考え始める。
本当にそう?
今日ほど深いキスではなかったけれど、今までの唯とのキスは恋人のキスではなかったの?
勿論恋人としてのキスのつもりがあったわけじゃない。
だけど友達同士としてのキスと違っていたのも確かなのよね。
唯とのキスの幸福さに自分を誤魔化していたけれど、もう目を逸らしているわけにもいかなかった。
友達としてのキスは頬にくらいはしたとしても、唇に重ねたりはしない。
プレゼントのキスなら頬にするのが自然だ。
だけど習慣とは言え、唇へのキスを拒絶しなかった私は……。
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☆
「ねえ、和ちゃん……」
「どうしたの、唯?」
「今日、和ちゃんのお部屋に遊びに行ってもいい?」
「何よ、改まって。
いつもは勝手に私の部屋に付いて来てるじゃないの」
「それはそうなんだけど……、えっとね、ほら、今日は……」
「今日は?」
「和ちゃんの誕生日でしょ?
だからね……」
唯が言葉を濁らせる。
私もどう返したらいいのか分からなかった。
十四歳の誕生日以来、私達はあの日のキスの事に触れないようにしていた。
触れてしまったら今までの私達のままではいられない。
そんな気がして、ずっとその話題を避けていた。
けれど私はその日十五歳の誕生日を迎えてしまっていた。
考えないようにしていても、触れないままで居ても、時の流れは止まらない。
私達の関係を止めたままでいるわけにもいかない。
そういう事が分かってしまうくらいには、私達は中学生だった。
ずっと用意していた言葉を、私は必死に喉の奥から絞り出す。
「いいわよ、ケーキも用意してるから一緒に食べましょう?」
「うん……、ありがとう……。
それで……、それでね、今年の誕生日プレゼントはね……」
「唯」
「うん……」
「今年の誕生日プレゼントは要らないわ」
「そっか……、あはは、そうだよね……。
私達も来年には高校生になるもんね……。
誕生日プレゼントのチューなんて子供っぽいよね……」
「そうね……、今だから言うわ、唯。
私ね、小学生の頃まではともかく、中学に上がってからは唯のキスが嬉しくなかったの。
誕生日プレゼントに唯がキスしてくる度に、何かが違うって思っていたのよ」
「そう……なんだ……」
不意に一筋の涙が唯の瞳から零れた。
唯の涙を見ているのは辛い。
だけどそれを伝えないわけにもいかなかった。
一年間、いいえ、唯と初めてキスしてからずっと考えていた事を、私は今日こそ唯に伝えなきゃいけない。
「ごめん……、ごめんね、私、にぶちんだから……。
にぶちんで和ちゃんの気持ちに気付けなくて……、ごめん……」
段々と嗚咽混じりの泣き声になり始める。
私も大声で泣き出したい気持ちだった。
だけど私は泣かない。
泣かずに唯の手を引いて、
胸の中に引き寄せて、
見つめ合って、
震える唯の唇に、
私の唇を重ねた。
今年こそは、私の方から。
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「……んんっ?」
驚いた顔の唯が私の胸の中で軽く暴れる。
だけど離さない、離したくない。
唯が胸の中で抵抗しなくなるまで私は唯と唇を重ね、舌を絡めた。
中学校の廊下だけれど、そんな事は気にしないし気にさせない。
隅だから誰にも見つからないだろうし、見つかったとしても構わないわ。
今日こそは唯に正直な想いを伝えたいと決めていたから。
「……はあっ」
二人の唇の間に透明な橋が架かった時、唯から静かな息が漏れた。
涙は止まっていなかったけれど、それは悲しみの涙というわけでもなさそうに見えた。
色んな気持ちが溢れての涙みたいだった。
「和ちゃん、どうして……?」
「どうしてって?」
「だって……、私とのチュー嫌だったんでしょ……?」
「嫌だったってわけじゃないわよ。
でもね、ちょっと違和感があって、少しだけ胸が痛かったのは本当よ。
だって唯が誕生日プレゼントとしてしか私にキスをしてくれなかったから」
「だ、だってチューは誕生日プレゼントだから……」
「分かってる、分かってるわよ、唯。
でもね、私はもっ違う意味のキスが欲しかったの。
去年たまたま唯と深いキスをしちゃって、気付いたの。
私は唯ともっと深いキスを、深い意味のキスをしたいって。
恋人としてのキスを」
「そ、それって……」
「好きだって事よ、唯。
私は唯の事が好き。唯ともっと深い関係になりたい。
さっきしたみたいな深いキスだって。
それが一年間ずっと悩んで私に出せた答えよ。
唯はどう?」
「分かんない……」
「ええ、分からないと思うわ。
突然過ぎるものね。
だけど一つだけ聞かせて。
唯は幼稚園の時、どうして私に誕生日プレゼントにキスをくれたの?」
「和ちゃんが好きだったから……。
うん、和ちゃんが好きだからキスしたかったんだ……。
でもね……、それが和ちゃんの恋人になりたかったからキスしてたのかは分かんないよ……。
和ちゃんと一年に一度チュー出来るのが楽しみで、毎年ドキドキしてたよ。
ずっとずっとチューしたかったけど、一年に一度だけにしなきゃって我慢してたの。
だって和ちゃんに迷惑掛けたくなかったから……。
この気持ち……、何なのかな?」
「私のは恋……だと思うわ。
だけど唯の気持ちが恋かまでは私には分からない。
それは唯自身の気持ちで、私に強制できる事じゃないものね。
だから……」
もう一度唯の唇に自分のそれを重ねる。
今度は唯も遠慮がちだけれど私と舌を重ねてくれた。
唯の涙を指先で拭ってから続ける。
「一緒に探しましょう?」
「探す?」
「ええ、今年、いいえ、正確には来年からね。
来年から私が唯に誕生日プレゼントにキスを贈るわ。
今まで唯から私にしてくれたキスのお返しをするの。
それ以外の日には私からはキスしないって約束する。
だけど誕生日の時にだけ考えてほしいの、唯の中にある気持ちが何なのかって」
「それで……いいの……?」
「ええ」
「私、のんびり屋さんだよ……?
和ちゃんの事、すっごく待たせちゃうと思うよ……?」
「構わないわ。
幸い志望校は同じじゃない。
同じ高校に通いながら、ちょっとずつ探してくれれば私は構わないわ」
「和ちゃん……」
「あ、でも、唯がちゃんと合格するかは不安ね」
「もーっ、和ちゃんったらー……!」
「受験頑張りましょうね」
「分かってるよー……!
和ちゃん……?」
「何?」
「ありがとう」
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☆
「唯、誕生日おめでとう」
「ありがとう、和ちゃーん!」
「じゃあ誕生日プレゼントを贈るわ」
「ちょ……、ちょっと待って……!」
「どうしたのよ」
「の、和ちゃんからチューされるのまだ慣れてなくて……」
「これまで有無を言わさずキスされてたのは私の方なんだけど?」
「それとこれとは違うよー……。
答えもまだ出せてなくて、私、それが和ちゃんに悪くて……」
「構わないわよ。
ねえ、唯」
「は、はいっ?」
「誕生日おめでとう、んっ……」
「んんっ……」
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☆
朝陽が目蓋をくすぐる。
眩しさを感じて目を開けると、私の隣で裸のままの唯が微笑んでいた。
勿論私も裸のままでベッドの中に居たんだけど。
「和ちゃん、おはよう」
「……おはよう、唯」
「えへへ、お寝坊さんだね、和ちゃん」
「昨日はクリスマスで唯が寝させてくれなかったからでしょ?」
「そうだっけ?」
「もう……、唯ったら……」
「それより和ちゃん?」
「どうしたの?」
「どんな夢を見てたの?
何かすっごく私の名前を呼んでくれてたけど」
「そんなに呼んでた?」
「うんっ!」
思い出せない。
唯の昔の夢を見ていた記憶はあるけれど、それ以上の事は分からない。
一体どんな夢を見ていたのかしら?
不意に目に写った唯の唇が強く印象に残った。
そう言えば夢の中で唯とキスをしていたような……。
考えてみればキスから始まったようなものだものね、私と唯のこの長い関係は。
「そうそう、和ちゃん」
「何?」
「お誕生日おめでとう」
「ええ、ありがとう、唯」
「それでね、和ちゃん。
お願いがあるんだけど、ねえ、チューしてもいい?」
「昨日たくさんしたじゃない」
「今日は特別だよー!
だって今日は和ちゃんと恋人になって、初めての和ちゃんの誕生日なんだもん!
今日こそ久し振りに私からチューしちゃうよー!」
「そうね……、そうだったわね……」
「恋人同士のキスでいいよね?」
「勿論よ、唯」
「えへへ、ありがとう、のんちゃん。
大好き」
「私もよ、ゆいちゃん」
何となく二人で昔の呼び方で呼んで、私達は飽きる事無く恋人のキスを交わした。
舌を絡めて、身体を絡めて、深く深く繋がっていく。
ずっとずっとこんな風に特別な誕生日を重ねていきたい。
そんな事を二人で考えながら。
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オワリデス
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ヽ| l l│<タンジョウビオメデトウ
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大人になってからの二人が、いつから自分たちの関係を意識しだしたのかを振り返るという珍しいSSだね。
中学生の時に既にできてたという設定も珍しい。
綺麗な和誕SS、ありがとうございました。
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乙乙
和誕オメ
2期のOPで唯が和にキスしてるの思いだしたわ
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