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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part15
1■■■■:2011/02/17(木) 05:27:14 ID:ex3vIQOg
上条さんと美琴のSSをじゃんじゃん投下していくスレです!
別に上条さんと美琴だけが出てくるスレじゃありません。
上条さんと美琴が最終的にいちゃいちゃしていればいいので、
ほかのキャラを出してもいいです。そこを勘違いしないようにお願いします!

◇このスレの心得
・原作の話は有りなのでアニメ組の人はネタバレに注意してください。
・美琴×俺の考えの人は戻るを押してください。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・レスする前に一度スレを更新してみましょう。誰かが投下中だったりすると被ります。
・次スレは>>970ぐらいの人にお願いします。

◇投稿時の注意
・フラゲネタはもちろんNG。
・キャラを必要以上に貶めるなど、あからさまに不快な表現は自重しましょう。
・自分が知らないキャラは出さないように(原作読んでないのに五和を出す等)。
・明らかにR-18なものは専用スレがあるみたいなのでそちらにどうぞ。
・流れが速い時は宣言してから書き込むと被ったりしないです。投稿終了の目印もあるとさらに◎。
・以前に投稿したことがある人は、その旨記述してあるとまとめの人が喜びます。
・ちなみに1レスの制限は4096byte、行数制限は無い模様。

◇その他の注意・参考
・基本マターリ進行で。特に作品及び職人への過度なツッコミや批判は止めましょう。
・クレクレ(こうゆうのを書いてください)等はやりすぎに注意。
・読んだらできれば職人にレスしてあげましょう。職人の投稿するモチベーションを維持できます。
・誰か投下した直後の投下はできれば控えめに。
・倫理的にグレーな動画サイト、共有関係の話題はもちろんNG。
・書きたいけど文才無いから書けないよ!
  →スレの趣旨的にそれでも構いません。妄想と勢いでカバー(ネタを提案する程度でも)。

◇初心者(書き手)大歓迎!◇

前スレ
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part14
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1294570263/

まとめページ
とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫 / 上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/81.html

まとめページの編集方針
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/213.html

スレのテンプレ
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/82.html

2■■■■:2011/02/17(木) 05:29:18 ID:ex3vIQOg
■過去スレ
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1256470292/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part2
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1262324574/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part3
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1264418842/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part4
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1265444488/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part5
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1266691337/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1268223546/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part7
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1269624588/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part8
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1271074384/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part9
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1272858535/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part10
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1274888702/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part11
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1278386624/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part12
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1281121326/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part13
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1287267786/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part14
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1294570263/

■関連ページ
とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/
とある魔術の禁書目録 Index
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/
御坂美琴まとめ Wiki
ttp://wikiwiki.jp/misakamikoto/

■関連スレ
上条当麻×御坂美琴 専用雑談スレ 追いかけっこ3日目(感想スレ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1295697925/
とある魔術の禁書目録 自作SS保管庫スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1263738759/
とあるSSの禁書目録 PART10
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1296310055/
上条さんと○○のいちゃいちSS
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1269574273/
【とある魔術の禁書目録】御坂美琴の想い輝け122
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1294484702/
【とある魔術の禁書目録】上条当麻の17い世界
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1294485422/

■関連スレ(R−18)
上条当麻×御坂美琴 いちゃエロスレ 2ふにゃー
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1279978000/
禁書でエロばなし
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1137215857/
【とある魔術の禁書目録】鎌池和馬総合 32フラグ目
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296966129/

3■■■■:2011/02/17(木) 05:38:37 ID:ex3vIQOg
しまった。キャラスレが更新されてないΣ
保管庫のテンプレ使ったから大丈夫だと油断してた……

以下誘導
【とある魔術の禁書目録】御坂美琴 鉄拳パンチ131kg
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1297680843/
【とある魔術の禁書目録】上条当麻は我が道を19
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1297310180/

41-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2011/02/17(木) 11:27:31 ID:sEipoZ3s
>>1
950位になったら、テンプレの更新しようと思っていたんだが……。

5■■■■:2011/02/17(木) 15:39:29 ID:eA9SHdTk
>>1乙ですの

6■■■■:2011/02/17(木) 15:51:27 ID:Z.q6IRXA
>>1


7■■■■:2011/02/17(木) 16:14:42 ID:uCwAqvCw
上琴「「お疲れさまです!」」

8■■■■:2011/02/17(木) 16:15:01 ID:ex3vIQOg
              , -‐-x
            /ィ'''¨¨¨''ヾ:、  _,,,,,,,,,_
           〃     ,. : :'ヘ´:, : -‐-: :` : .、
            i      /: : ,: :' :i : : : : : : : : : : : ヽ
                    , : : , '.:: : :.i: : : : : : : : : : : : : : : ,
                 /: :.,:' : : : : l: : : : : : : :i: : : : : : : : :,
           、 ,   .': : ,': : : : : :l: : : : : : : :.lミ: : : :.ヽ: : :.
          ` ○     ': : i : : : : : :|: : : : :,イ:.:.:lミミ: : : : :i: : :'.
        " `   ': :l |:.:l: : : : :|: : : :/ i: :l `ミ : : : l.: : :.,
            /,ィ::l l:.:l:ハ:l: : |: : :/‐- 」:l   `ミ: : :__l: : : :.
           / :l: l_l__l_ レヘ|: :/ 、   リ ̄ `//^i}: : : :'.     んゅ……おは上琴
              __/ヽヽ ヽ,__ レ'  i,,,,,,__    } ): /l:.: l: : ',
           //  ヽ_}_}_}ノ       ` ̄~...::::::r‐<_ l: :l.: :.lヘ
            /:::`ー‐‐^ーイ           ``` ソ / ̄¨ヽ」\N^ヽ
          八::::::::::::::::::::::ゝ._ ‐‐-    , イ/ -‐ー _ ヽ
           `  ー  ::::::::::::::l「ヌT     / , >''"¨ミト、l
                  `ヽ:::::iリ \ト、_ ィ>「l゙ l:::::::::::::::::::ハ
                   '//        |.l  l::::::::::::::::::::::i.
                  //           l.l  l:::::::::::::::::::::::i.
         _, -‐‐‐‐‐''゙゙三 ̄三¨マフ     |.l  l::::::::::::::::::::::::i.
¨三`ヽ,, x<::::::::><::::::::::::::::><::::::}ハ    卯  \::::::::::::::::::::i.
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::::::::: :::::<:::::::::::::::::::_三___;:x<_(:::::::::::::::::::::::::::::ヘ,    .l  ∨::::::::::〉‐‐ュ_
><______;;;>‐'''入__人,,ノ〜イ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヘ,   l   \_/  二}
丕、_人__入__ハ_ノ------‐''´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i  l    \y--‐''゙
   \ ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: i: '
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                     ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::i゙

9■■■■:2011/02/17(木) 16:18:42 ID:ex3vIQOg
誤爆ったwww

                                 ______
                             、______. . : ´: : : : : : : : : `: .、
                            > : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \
                          /:_/: : : : : : : :}: :}: : : : : : : : : : : \
                          /´/: : : :/: : ://: : : : : : : : : : : : : :ヽ
                        __彡/ : : /:/: /: '′: : : : : : : :_ノ: : : : : : : .
             /{/{.. イ        /:/: :/:厶: : : :/:/| : : : /⌒´: : : : : : : : i
         ト、/{/.:.:.:.:.:.:.:.厶___     /:/: :/7'ト: :/ : /: : : : /}\: : : : : : : : : |
        、_乂.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.‐<__  }/|: /:/ |/ |: 7T: !: /、 〉、 \ : : : : : : : !
         __>.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:-<    i/i/7'汽  j/ j/j/  ヽ \: : : : : : : : |
       >‐.:.:.:/.:/!.:.:.//.:/.:.:.:‐く     |{ ヒソ    ≦芹ミ、   〉、 : : : : : : : : |
       Ζ/./i/.:厶ト/./.厶!.:.:.:、ト-    ;// }    {:rv:炸  }/⌒i: : : : : : |
    __    }∧_}/{ 竹}/i/芹}∧「        {       `7//  /} },ハ: : : : : |
    ハ  ̄`'「 {ハ    { `'∧「           、ヽ        、_ イ: : |: : : : : : ,
   / ∧  八 \ ヽ.-‐‐」 ̄ \       /) 〉.    _.    -┴l: |: : :l: : : : : i: ′ >>1乙〜
.  /  { {  >\ `'ー≦」┌、  ‘,   // /: :i`TT ´}/    ,: :! : : : : : : : |: |    職人さん達いっぱい書いてね!
  {     }/./_    ̄`マ'‐'  〉-‐┴ //  'イ i |: :!_!/     ___/: : : : :/: : : : :ハ!
=厶__.  ∨〈 (____) こコr‐v' {    //\  j/|ハ:}   /   |/}/!: /:!: : i: /
「| }  \人 ∧   く\`7  _〉、\(/  } }     ∠..  く      j/|八 : |/
|.|′  {    、{     >、つ´//>、 \___,/   /     \        iヽl
|」--、´ ̄`'ー-  _/  ̄〕/(/ (\ ∧   /   __          /|
‐‐ 1    ___      }\___ 〉、` ヽ /   /   \         /ハ
|.l   | ̄ ̄ /\ `'ー┘ `'ー 、   /     /-‐‐‐ 、 ハ       ,〈  {       _
|」____|    }ヽ /`'ー<      \_i      i        |     〈   /  _.  -‐
‐‐ '′__/  __     \__    l     |       ∨   /   ,{-‐    _ -=ニ
   /  、  (77`T¬=- ..  \  l    |     \}   ハ  /\_  -=三三三
   `'ー<\{ ̄`^し/`'<ニヽ  } !      }/      ∨  {‐‐ァ/  /三三三三三
‐-     \_,二二´   \_}_/   !      |      {  / //  /三三三三三
        ‐-   ≧=-----'---l      〉、    ハ ∧.//  /三三三三三
‐-  、  ..__  _________l      {      }  }/  /三三三三三
/ \ \: : : __:.   -―ァ―‐‐‐―‐l       \___  イ   /  /三三三三三
  _.. -‐          i___. . . . . . 人       |    l  /  /三三三三三
/ ̄  ‐-  ..____ .∠. . . . . . . . ./{  \     ,’    !,   .'三三三三三
         / . . . . . \__. . イ  、        /     //  /三三三三三
           / . . . . . . . . /. . |   \     /    //  /三三三三ニ
        { . . . . . . . . . . . . ∧        /    //  /三三ニ=‐
'、    、   ∨. . . . . . -―. . . . .>、     /    ∠. /  /三ァ 7‐- __
.`,    '、`ヽ、〈. . /. . . . . . . ./ . . `'ーァ'   /. . /  /三7/
 〉,     `,__  ∨. . . . . . . /. . . . . . /  /. . . /  /三7
 { \    }_ `'く. . . . . ./._._._._._._/    .'. . . . /  /

10■■■■:2011/02/17(木) 16:19:22 ID:ex3vIQOg
自分に>>1乙してどうする……orz

11■■■■:2011/02/17(木) 17:19:45 ID:uCwAqvCw
パート14は埋まりました

12■■■■:2011/02/17(木) 17:47:34 ID:FU6RcqM6
埋めネタ見たかった

13■■■■:2011/02/17(木) 21:57:46 ID:hUsCFlaA
ふと、某動画の「行け行け!超電磁砲」的なノリのSSを見たいと思った。

14■■■■:2011/02/18(金) 00:08:18 ID:fZscVEaE
>>13
あの100万再生動画のか!?良いジャマイカ

15Mattari:2011/02/18(金) 00:50:17 ID:45eg3pr6
part14スレが埋まっちゃったので、コチラに返事を書かせて戴きます。

925さん
ありがとうございます。
ぜひ書いて下さい。

926さん
いえいえ、お気になさらずに。
仰るシーンは、結構気合いを入れた箇所でもあります。
佐天さんにどう言わせるか、かなり迷った箇所でもあるのですが……。
気に入って戴けたようで、嬉しく思います。

927さん
ありがとうございます。
そうですね、佐天さんは自分にとってもかなり動かしやすいキャラです。
だからこそ使い過ぎないように気をつけたいと思ってます。
上条さんの伝説はまだまだ続きますよ。w

956さん
ありがとうございます。
確かに二人の惚気は書いても楽しいんですが……
時々当てられすぎるのがねぇ……。w

957さん
ありがとうございます。
今回、佐天さんを引き立てるために美琴にはちょっとワガママになってもらいました。
ですが美琴も“根”は素直です。だから、すぐに謝れた訳ですし。
上条さんが説得されちゃったのは……アレですから。w

皆さんに楽しんで戴けて幸いです。
今後も精進して参りますので、よろしくお願いいたします。<(_ _)>

16■■■■:2011/02/18(金) 23:14:02 ID:RoZRlm4c
>>13-14
もう少し特定しやすいようにkwsk
(ぐぐってもわからなかったとか言えない
一週間遅れのバレンタインネタ完成したらチャレンジしてみるから

17Mattari:2011/02/19(土) 00:16:20 ID:iuTjQQ9g
お世話になっております。Mattariです。

先日書かせて戴いたように、「見知らぬ記憶2」の後半を投下させて戴きます。

それにしても今日は静かですね。やっぱり放送があるからかな?

私の住んでる地域では明日なんですけどね。^^;

(だからどうした……という突っ込みはナシで……)

それでは、この後すぐに8レス投下します。

今回も美琴が壊れてます……(^_^;)\(・_・) オイオイ。

18見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:17:26 ID:iuTjQQ9g

 美琴が起こした騒動にさすがの上条もかなりお冠である。
 それはそうだろう。身に覚えのないことで【雷撃の槍】は降らされるわ、【超電磁砲(レールガン)】は打たれるわでは、たまったものではない。
 美琴としては『エヘッ』でごまかしたかったようだが……さすがにそれは無理というものだ。
 とは言え、上条の弱点を知り尽くしている美琴のこと。
 必殺の“上目遣い”攻撃と“腕をギュッ”作戦を先程からずっと続けている。
 (こうして見ると、五和の「おしぼり作戦」は超控えめなんだなぁ……結構スキなんだが……)
 上条の怒りが解けるのも時間の問題であろう。

「分かった、分かった、分かったよ……もう……」

「ホントッ!?ホントに許してくれるのっ!?」

「ああ……元はといえば、オレが見た“夢”が原因だしな……」

「アレは……“夢”じゃ……ないもん……」

「まだ言ってんのかよ?」

「だって……」

「まぁ……美琴の言い分も分かんない訳じゃないけどさ……だからって……アレはなぁ……」

「そっ、それはだから……さっきから謝ってるじゃない……」

「分かった、分かったよ。だけど、今度やったら……」

 上条は隣に座っている美琴の首根っこを“ギュッ”と掴むと

「コレだかんな」

 と言った。

「ピギッ!!!」

 首根っこを右手で掴まれた美琴が変な声を出したかと思うといきなり固まった。
 つい先日、上条が偶然発見した美琴最大の弱点。
 美琴はうなじの生え際が弱点なのだ。
 どうやら、能力的にこの部分が後方の感覚センサーの役目をしているのだが、センサーなだけにかなり敏感に出来ているらしい。
 普段は能力でガードしている訳で、誰かが触れれば間違いなく感電するはずである。
 だが、上条の右手には【幻想殺し(イマジンブレーカー)】が宿っている。それらのガードが一切通用しない。
 それだけならまだ良いのだが、その右手が宿す“浄化の力”が美琴の能力を中和する際に、美琴の能力が逆流するらしいのだ。
 それは美琴が今までに味わったことのない感覚らしく、正に全身を電気が逆流するような感じだという。
 本来なら、発電系能力者として体内電気を自由自在に操る美琴なのだが、この逆流する電気には完全に翻弄されている。
 故に、上条に右手で首根っこを掴まれると、変な声を出して、正に首根っこを掴まれたネコの如くなってしまう。という訳である。
 因みに、右手で身体に触れられて能力を止められた状態で左手でそこを触られても、それほどの反応はない。電気が逆流しないからだ。
 やはり右手で……というところがミソらしい。
 さすが“神様より貸し与えられた浄化の力”を宿す右手はダテではないらしい。
 しかし……そんな大切なものを何に使ってるんだか……。

「み、みみ、み……みぃ……」

「ホント、ネコみたいになっておんもしれーぞ、美琴」

「みぃ……み、み、み、……みぃ」

「ダ〜メ、今止めたらお仕置きじゃねぇだろ?」

「み、みぃ……」

「ちょっと強めに……」

「みっ!!!みみみ、みっみ……みみっ、みぃ!」

「分かった、分かった。じゃあ、お終いだ。……だけど、またやったら……分かってるだろうな?」

「うう……、当麻の……意地悪……」

 と言って、“上目遣い”攻撃をするくらいしか抵抗出来ない美琴。
 上条、久々(と言うより初めて?)の完全勝利である。

「んじゃ、買い物に行くか?」

「うう……」

「ほら、行くぞ」

「うん……」

 上条が差し出した右手を掴み、右腕に“ギュッ”としがみつく。
 こうすれば、首筋への攻撃はない。
 美琴とすれば、安心して甘えられる。
 で、仲良くお買い物を済ませて、いつも通り上条の部屋へご到着である。

19見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:18:10 ID:iuTjQQ9g

「ぐわぁ〜、重かったァ〜」

「ちょっと買い過ぎちゃったかしら?」

「いくら何でも買い過ぎだろ?アイツがいるんならまだしも……」

「えっ!?“アイツ”って?」

「(あっ、ヤベッ)……」

「ちょっと、当麻。アンタ今何か隠そうとしたでしょ?」

「(ギクッ!!)……な、何のことでせう?……か、上条さんは別に疚しいことなどありませんのコトよ」

「ふ〜ん、そういう言い方するんだ……。誤魔化そうとする時に、その口調が出るって気付いてる?」

 知らず知らずのウチに地雷を自ら踏んでしまった(口が滑ったとも言う)上条。
 1発目に吹き飛ばされ、今は地雷原のど真ん中……。
 先程までの勢いはドコへやら。
 完全に形勢逆転である。

「みっみっみ……」

「何、さっきの私みたくなってんのよ!?」

 笑顔は笑顔なのだが、全身から電撃が迸り目が全然笑っていない美琴を見て上条は、自然と土下座モードに入ってしまう。

「ゴメンなさいゴメンなさい別に隠していた訳ではないのですがなかなか話をする機会がなかったというか機会を見て話させて戴こうとは考えていた訳でして洗い浚い全て話させて戴きますので何卒家電製品達をあの世に旅立たせるのだけは平に平にご容赦を〜」

「その潔さと土下座の美しさだけは、ホント天下一品よね……まぁ、いいわ。でも……」

「ヘッ!?……でも?」

「その“アイツ”ってヤツのこと、しっかり聞かせて貰うからね。もし例の『銀髪シスター』と同棲してました。何て言い出したら……」

「……(ダラダラ)……い、言い出したら……?」

「アンタの首根っこ掴んで、体内電気をしっかり逆流させてあげるから……覚悟なさい!!!」

「ひぇぇぇぇえええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 この後、事の次第を全て洗い浚い吐いた上条がどうなったのかは……ご想像にお任せします。
 えっ!?ちゃんと書けって?
 イヤですよ。美琴が「みっみみっみ」ってなってるシーンは可愛いからイイけど、上条がそうなってるシーンなんて……書きたくありませんから。

 【閑話休題(それはさておき)】

「ハァ……まさかホントにあの子と一緒に住んでたとは思わなかったわ……」

「まぁ、ホントに一緒に住んでただけだったけどな」

「ホンットに何にもなかったんでしょうね!?」

「あっある訳ねえだろ!?第一あんなツルペタロリシスターなんざオレの好みじゃねぇしっ!!!それにそういう関係どころは雰囲気になることすらなかったよ」

「何で“ツルペタ”だって知ってる訳?」

「そっそそそれはぁ……」

「と・う・ま・あ〜(バチバチバチバチッ)」

「やっ!やめろって!!言うッ、言うからッ……ハァ……不幸だ……」

「で、見たのね?」

「……ハイ……何度か……」

「何度か?何度かってどういう意味よっ!?まっ、まさかアンタたちって……」

「ばっバカ野郎!!そんなんじゃねぇよっ!!!全部事故だ、事故!!!」

「事故って何よ?」

「アイツの着てた修道服ってのが“歩く教会”って言う霊装でさ……。それをオレの右手で触ったら……全部吹っ飛んじまったんだよ」

「ふ〜ん……(バチバチ)」

「まっ、待てッ!美琴ッ!!落ち着け。落ち着こう。落ち着いて下さ〜い。お願いします〜〜〜」

「これは……ちゃんと説明してもらう必要がありそうね」

「せっ、説明ったって……何から話せばいいか……」

「洗い浚い全部って……さっき言ったわよね……」

「……はい……」

「全部よっ!分かったわね!!」

「はっはっはひぃぃぃいいいい!!!!!!!!!!」

 地雷を踏みまくった上条。
 結局、洗い浚い全部を話すハメに陥った……。

 「不幸だ……」

 と、代わりに言っといてやろう。

20見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:18:52 ID:iuTjQQ9g

「で……アイツと初めて会ったのが、この部屋のベランダなんだよ」

「ハァ?ベランダって……あそこ?」

「ああ……」

「何であんなとこに……?」

「布団を干そうと思って外に出たら……ベランダに引っ掛かって居やがってさ……」

「引っ掛かってたって、ココ7階よ?」

「分かってるよ。でも、ホントに引っ掛かってたんだから、しょうがねぇだろ?」

「そんな話を信じろと?」

「何だったら、インデックスに連絡取って直接聞いてみろよ?俺の言ってることは間違いないって分かるし、それにアイツは“完全記憶能力”の持ち主なんだから」

「え……何それ……その“完全記憶能力”って?」

「アイツは生まれついての“完全記憶能力”の持ち主でさ、つまり一度見た本や今オレたちがしているような会話まで、全てを完璧に記憶出来るんだよ」

「それってどういう能力なのよ?」

「この学園都市で言う“能力”じゃないよ。生まれついての持って生まれたモノらしい。で、その能力をアイツは悪用されててさ……」

「悪用?」

「そっ。アイツの頭ん中には103,000冊の魔道書の原典が記憶されてるんだよ」

「魔道書?原典?」

「オレだって良く分かってねぇんだ。どっちかって言うと単語を覚えてるってだけでさ……だから詳しくは説明出来ないんだけど……」

「ふーん」

「オレたちに取っちゃ何の意味もないらしいけど、持つヤツが持ったら大変なコトになるらしい。それこそ世界がひっくり返るようなことになるんだそうだ」

「何が何だか……訳が分かんないわ」

「だろうな。オレがインデックスから聞いた話によれば、魔道書ってのは普通の人間が呼んだら、それだけで発狂してしまうくらいに危険なモノらしい」

「えっ?……何それ?」

「だから、分からないんだよ。……とにかくそれくらい危険だってコトだけ覚えててくれたらいいよ」

「じゃあ、どうしてあの子はそれを記憶してても大丈夫な訳?」

「アイツは魔道書の記憶は出来るけど、魔術は使えないんだ。逆に言えば、魔術が使えないからこそ、魔道書の原典を記憶しても大丈夫だってコトらしい」

「ふ〜ん」

「話はちょっと変わるけどさ、この前の戦争でオレがロシアに行ったのは、アイツの遠隔操作霊装を奪い返して破壊するためだったんだ。戦争を起こしたヤツもインデックスの頭の中にある魔道書がどうしても必要だったらしい」

「えっ!?」

「さっき言ったろ。持つヤツが持ったら……って……」

「それを当麻が止めに行ったってコトなの?」

「ああ、オレの右手もそいつに狙われてたしな……」

「なっ、どういうコトよ?」

「どうもこうも、そのままだよ。美琴が来てくれた時には、もう其奴との闘いは終わってたんだけどな……」

「ふ〜ん……(バチバチ)」

「まっ、待てっ、待って下さい、美琴様ァ〜」

「土下座はもういいわよ……それよりあの子って……そんな力を持ってたんだ……」

「ん?ああ。……だけど、アイツはオレと会う前は1年ごとに記憶を消されていたらしい」

「ええっ!?なっ何よそれッ!?そっそんなことが許される訳ッ!?」

「何でもアイツが所属してる組織のトップ連中が、インデックスが裏切ったり浚われたりするのを怖れて施した魔術だったらしいんだけどさ」

「だとしても、人道的に許される訳じゃないわ」

「だよな。だからオレはその記憶が消されるのを何とかしようとして、何とかインデックスとその記憶は助けられたんだけど、自分は記憶喪失になっちまったって訳」

「!!!」

「どうしたんだ……美琴?」

「……当麻……アンタねぇ……」

「ん?どした?美琴」

「当麻にとってあの子って一体何なのよっ!?そりゃ今の話は私とつき合うずっと前のことだけどさ。だからって私じゃない女の子を助けるために当麻が命がけで闘ってる話なんて……そんなの……そんなの……」

「……美琴……」

「そんなの……私聞きたくない!!!!!」

 そう言い終わるかどうかという瞬間に美琴は部屋を駆け出そうとした。
 ところが……
 駆け出そうとする美琴の手を上条はしっかりと握っていた。

「ゴメンな……でも、美琴だから聞いて欲しかったんだよ。オレがどんな闘いをしてきたのか。何のために闘ってきたのかを」

「でもっ……でもっ……」

「インデックスはオレにとっちゃ、家族みたいなもんでさ。妹って言うか、変な言い方だけど娘?かな。お前が【妹達(シスターズ)】を助けようとしたのと同じ……って言えば分かるかな?」

21見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:19:29 ID:iuTjQQ9g

「えっ!?」

「そういう関係だったんだよ、アイツとはさ……」

「……当麻……ゴメン……」

「何でお前が謝るんだよ。謝らなきゃならないのはオレの方だ……お前の気持ちも考えずにこんな話してさ……この前佐天さんに言われたのに……ホント、オレって残酷だよな……」

「当麻……当麻……当麻……」

「泣くなよ……美琴……」

 そう言うと、上条は立っている美琴を“グイッ”と引き寄せ、美琴を自分の膝の上に載せて抱き締めた。

「お前にはオレの全てを知っておいて欲しいんだ。オレが何と闘い、何のために闘っているかを。それはオレのワガママなんだけど、今しっかりとお前に伝えておきたいんだよ。ずっとオレと一緒に歩むって言ってくれたお前だからこそ、知っていて欲しいんだ」

「うん……」

「ホントはもっとお前の気持ちを考えなきゃイケないんだろうけど……オレってバカだから……ゴメンな……美琴」

「ううん……私こそ、ゴメンね……」

「美琴……」

「当麻がそんな風に考えてるなんて、想いもしなかったし……それに……」

「それに……?」

「当麻が命がけであの子のことを救いに行ったなんて言われたら……そんなの……そんなの……」

「?」

「ヤキモチ妬くなんてコトで済む訳無いじゃない!!!」

「……美琴……」

「もう、当麻は私のなんだからっ!!!私の恋人なんだからっ!!!当麻は私にとって、世界で一番大切な人なんだよっ!!!ずっと一緒に歩んでいくって決めたんだもんっ!!!当麻を全部独り占めしたいって思ったって当たり前なんだからねっ!!!!!」

「……みこっ…ン?……」

「んんッ……渡さないっ……誰にも……あの子にも……当麻を……んっ……」

「んむっ……まっ……ん……」

「ん……んんっ……んっ……んふっ……んんっ……」

「……ん……んんっ!?(こ、コイツ!?……し、舌ッ……!?)ん〜……」

「……んん……ん〜っ……(ぴちゃ)……んふっ……んっ……ん〜っ……」

「……んはぁ……、ハァ、ハァ、ハァ……」

「……当麻……んっ!!……好きッ……愛してるの……んんッ……」

「んんっ!?(マジッ!?……やべえ……マジ、やべえ)……んっ〜〜……」

「ん……ん……ぷはぁっ……当麻……当麻ァ……いやっ……離さない!!」

「まっ……んむっ……んん〜……待てっ……やっ……やめ……んっ!!」

「いやっ……やめない……離さない……んんッ……」

「んっ……みこっ……とっ……やっ……ヤバイって……んぷっ……」

「んん……いいもん……当麻なら……んっ……んん……えっ!?」

 濃厚なキスをで美琴が上条を求め続ける。
 永遠にその時間が続くかと思われた時、上条は膝の上にのせていた美琴を抱きかかえると、そのままベッドまで運び、美琴をその上に乱暴に放り投げた。

「きゃっ!?」

「……美琴……悪ィ……スイッチ入っちまった……」

「えっ!?」

 上条の態度が豹変したことに“ビクッ”と全身を震わせ、上条を見つめる美琴。
 ベッドの上から逃げようと背を向けた瞬間……上条が覆い被さってきた。

「イヤッ!!……当麻……まっ……てっ!!!」

「何言ってんだっ!?お前がオレのスイッチ入れちまったんだろっ!!!」

「でも、だって……イヤッ!!……まだっ!!!!!」

「美琴……」

「えっ!?……うそっ!?」

22見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:20:09 ID:iuTjQQ9g

「ヤッ!!ヤダッ!!……待って……やめてよっ!!……当麻ッ……きゃっ!!!」

 上条は後ろから美琴に覆い被さり、両手でその肩を押さえる。

「お願いッ!!当麻ッ……お願いだからっ!!!……ヤッ、やめてッ、やめてよぉ……」

「……」

「と、当麻ッ……、……ピギッ!!!」

「美琴……さっきは良くもまぁ……オレの鉄壁の理性に……ヒビを入れてくれたなぁ〜!!」

 そう言うと、上条は美琴の弱点である首根っこを“キュッ”と掴んだ。

「みっみみみっみみっっみ、みぃ〜〜」

「美琴ォ……“お仕置き”を……す・る・ぞッ!!!」

「みぃ〜〜〜〜〜〜〜〜」

「マジで危なかったんだからな。それに、ホントは怖いクセに……あんなキスして来やがって……」

「みみみみみみみみぃ〜〜〜〜〜〜〜」

「ホントにスイッチ入っちまったら、どうするつもりだったんだ?……そうなったら、マジで止まらなかったんだからな……」

「み……みぃ……」

「お前が泣こうが喚こうが、オレは止まらなかったんだぞ。そんなのお前だってイヤだろう?」

「みぃ……」

「この前、お前を傷つけたくないって言ったの、もう忘れたのかよ。ったく……」

「みぃ……」

「……んじゃ、反省したみたいだし、これで“お仕置き”はお終いな」

 そう言うと、上条は美琴の首筋から手を離し、身体も同じように美琴から離して、ベッドの端に腰掛けた。

「我ながら、ホント良く保ったと思うよ。ホントもうちょっとでマジヤバかったからな……」

「……うう、……当麻の意地悪……ホントに……されるかと……」

「だから、それは自業自得だろう?」

「そ、それは……そう、だけど……でもっ……あんなに乱暴にすること無いじゃない!!!」

「悪いとは思ったけど、怖がらせないとお前が止まらないって思ったからな」

「うっ……」

「オレが言うのもなんだけどさ……もうちょっと後先考えようぜ。特にそっちの関係はさ……」

「うう……その言葉……当麻にだけは言われたくなかった……」

「ハハハッ……そりゃそうだ」

「うう……もう、当麻のバカ……バカ、馬鹿、莫迦〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 そう言うと美琴は上条の胸に飛び込み、その胸板を可愛くポカポカと叩きだした。

「怖かったんだよっ!怖かったんだからぁ〜!!」

「ハハッ、ゴメン、ゴメン。だけど、ああしないと美琴が止まらなかっただろ?」

「うう……だけど……だけどぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「ああ、分かった、分かったから……もう機嫌直そうな?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「ん?」

「……意地悪……」

「拗ねてる美琴も可愛いぜ……『チュッ』」

 そう言うと上条は美琴のほっぺに優しくキスをした。

「……バカ……」

 美琴はそう言って、顔を真っ赤に染めるのだった。



「はぁぁ〜〜〜〜〜……しかし、前回もだったけど、今回もオレの理性は良く保ったなぁ……うん、エラい、エラい」

「もう、言わないでよぉ〜。スッゴい恥ずかしいんだから……」

「ん〜?インデックスにヤキモチ妬いて……」

「言っちゃダメェ〜〜〜!!!!!」

 顔を真っ赤にして上条に抗議する美琴。
 そんなドタバタもかなり落ち着き、今は上条は勉強、美琴は夕食の準備に勤しんでいる。

「くわぁ〜……あんなドタバタの後だと、体力的にキツいなぁ……」

「もう……いい加減その話題から離れてよ……」

「ゴメン、ゴメン。だけどなぁ……」

「それに『体力的に』っていう言い訳は変なんじゃないの?」

「上条さんはおバカですから、勉強すると知力より体力を消費してしまうのでせう」

「またそんなコト言って……」

「……ん〜、いい匂いだ……」

「あ、今日はちょっと早めにするね。ドタバタしすぎてお腹も空いてるだろうし」

「そうだな……かなり減ってるよな……」

「もうちょっとで出来るから、それまではしっかり勉強してね」

「ヘイヘイっと」

「……もう……またそんな返事して……でも、当麻らしい……フフッ」

 と、こんな何気ない会話だが、それが美琴には一番嬉しかったりする訳で……。
 だからこそ、そんな日常を壊しかけた自分の行動をしっかり反省していた。

23見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:20:44 ID:iuTjQQ9g

 そんなこんなで、ちょっと早めの夕食を終えて、後片付けも終了。
 二人は食休みも兼ねて、ベッドにもたれながら肩を並べてのおしゃべりタイムである。

「今日はゴメンね、当麻」

「もうイイよ。ホント……ドタバタはあったけど……何とか収まったしな」

「……うん……」

「そ、それよりさ……ちょっと聞きにくいことなんだが、聞いてイイか?」

「聞きにくいコトって?」

「ああ、……“夢”の話……だよ」

「えっ!?」

「美琴が見たっていう“夢”なんだけどさ……ホントにオレが見たのと同じなのかなって」

「どういうコト?」

「……ああ、同じならいいなって言うか……同じじゃなきゃ……ヤダなって……思ってさ」

「あ……」

「美琴が見た“夢”がオレが見たのと同じ“夢”で、そしてそれが美琴のいうように同じ“記憶”であるなら……オレと美琴はホントに前世からの縁があって……ずっと繋がってて……」

「……当麻……」

「ホントにそうだったら、イイな……っていうかさ……そうじゃなきゃヤダなって、ガラにもなく思っちまった……」

「……うん……私もそう……」

「でもさ……それってやっぱり“過去”なんだよな……」

「えっ!?」

「それは“記憶”である以上“過去”の話でさ、その中味は変えられないんだよな。だけど、オレたちは“今”という時間を生きてる」

「……うん……」

「そして、オレたちは“今”を生きて“未来”を作っていくしかないんだよな」

「……」

「だったら……あんまり“過去”に囚われるのもどうかと思うんだ……」

「……あ……」

「美琴が知りたいと思うのは当然だと思う。でも……それに囚われちゃいけない……」

「……うん……」

「前にも言ったけど、俺は“今”の美琴が好きなんだ。だから、“今”の美琴と“未来”を作っていきたいんだ」

「……ありがと……当麻……」

「うん……。……た……たださ、どうしても気になることもあったりして……」

「……気になること?」

「あ、あのあのあのっ……あ、あの“夢”って、無茶苦茶リアルだったろ?」

「う……うん……(ポンッ!!!)」

「なんつーの、触れてる感覚とか……そういうのも結構あったりして……」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「で、でさ……その……」

「ぅ、うん……」

 なぜか二人きりの部屋なのに、上条は美琴の耳元に手を当て、ヒソヒソと話し出す。
 それを聞いていた美琴は、いきなり真っ赤になったかと思うと顔を伏せて、フルフルと震え出した。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「……美琴?」

「……と、当麻……」

「……ひゃっ、……ひゃいっ!!!」

「アンタは、デリカシーが無くって、鈍感だとは思ってたけどさぁ……」

「ガクガクブルブル(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」

「花も恥じらう乙女にそ〜ゆ〜コト聞くんだ?」

「いっ、いやっ、そのっ……かっかか上条さんも一応普通の男子高校生ですのでそういう事に興味が全くないという訳ではありませんのでちょっと聞いてみよ〜かなぁ〜何て思っちゃったりした訳でしてでも美琴がそんなに怒るなんて思ってもみなかったからゴメンナサイゴメンナサイだからビリビリしないで上条さん家の家電製品が全部あの世に旅立っちゃうしヘタをすると上条さんがココから追い出されて住むとこなくなっちゃうかも知れませんからお願いですからやめて下さい〜」

「別にこの部屋も家電製品も傷つけるつもりはないわ」

「ヘッ!?」

「その代わり……私がされた十倍のお仕置きを当麻にし・て・あ・げ・る!!!

「いやっ、待てっ……美琴……落ち着け、落ち着いて。落ち着こう……なっ」

「私は充分落ち着いてるわよ!!!!!」

24見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:21:29 ID:iuTjQQ9g

 そう言うが早いか、上条の左腕を掴むが早いか。
 掴んだ瞬間に美琴は、ちょっと強力なスタンガン並みの電流を上条に流し込む。

「あがッ!?」

 いつもの【雷撃の槍】や【超電磁砲(レールガン)】に比べれば大したことのない電撃だった訳だが……如何せん、左腕では防ぎようがない……。
 一瞬で全身が硬直し、身動きが取れなくなる上条。
 そのままの姿勢でベッドの端に倒れ込んで行く。

「シビシビ〜」

「そう言うギャグ漫画チックなコト言っても許さないからね」

「え゛っ!?」

「さっきのお返し、し・て・あ・げ・る」

 そう言って美琴は上条の首根っこを右手で掴むと、自分が味わっている感覚によく似た電撃を放出する。

「みっみみみみみみみみみっみみみみみみみみ……」

「カッコいいコト言って、思わず惚れ直したのに……その後に何?さっきのアレは!?」

「み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛」

「舌の根も乾かないうちに、ホンット信じられない!!!」

「み゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「当麻は大好きだけど、そう言うデリカシーのないところはお仕置きして直してやるんだからッ!!!!!」

「み゛み゛ィみ゛(不幸だぁ)ィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「当麻のバカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

 上条の悲鳴と美琴の叫びが重なり、夜の帳に吸い込まれて行く……。



「……ン……あ……うん……」

 美琴の電撃で気を失っていたのだろうか。
 どれ程の時間が経ったのだろう?
 そんなコトをボンヤリ考えながら、上条はようやく目を覚ました。

 頭が何か柔らかいモノの上に乗っている。
 そして、自分を心配そうに覗き込む顔がある。
 どうやら膝枕をされているらしい。

(心配するなら、やらなきゃイイのに……でも……らしいよな……)

 そんなコトを考えながら、安心した笑みを浮かべる。

「起きた……の?……当麻?」

「ああ……」

「ゴメンね……ちょっとやり過ぎちゃった……」

「ホント……効いたよ……」

「……バカ……」

「なぁ、美琴……」

「何?……当麻」

「今、……何時だ?」

「……門限……過ぎちゃった……」

「えっ!?」

「日付も……変わっちゃった……」

「えっ……ええっ!!!」

「起きちゃダメ……もうちょっとこのまま……」

「でもっ、もう門限も過ぎて、日付も変わってるんだろ?こんなトコに居てる場合じゃないよ。連絡して帰らないと!!!」

「お泊まり」

「えっ!?」

「お泊まりする」

「なっ!?」

「お・泊・ま・り・す・る・の」

「バカ言ってんじゃねぇ!!そっそそっそんなことさせられる訳ねぇだろうがッ!!!!!」

「ヤダ……」

「美琴、あのなぁ……」

「当麻と一緒に居る。当麻と一緒に寝るの」

「襲っちまうかも知れないぞ」

「いい……」

「強がるなよ……ホントは怖いクセに……」

「当麻ならいい……」

「バカ言ってんじゃねぇよ……オレだって、どうなるか分からねぇんだぞ」

「当麻になら……傷つけられたってイイの……」

「……美琴……」

「当麻を独り占めしたい。誰にも渡したくない。当麻に私だけを見て欲しい。だから……だから……」

「バカ……オレはもう、お前しか美琴しか見てないよ」

「でも、いつかまた、あの子を助けに行っちゃうかも知れない……」

「……そ、それは……」

「だから……今だけは、一緒に居られるのなら一緒に居たい。離れたくない。当麻が抱きたいって言うんなら抱かれたってイイ。当麻の傍に居たいの」

「……分かったよ……」

25見知らぬ記憶 2:2011/02/19(土) 00:22:15 ID:iuTjQQ9g

「えっ!?……イイの?」

「美琴にそこまで言わせて……それを『ダメだ』って言えると思うか?」

「……当麻……」

「それにもう、何もかも手遅れだし……」

「……あ……うん……」

「但し、寝るところは別々だ」

「……傍に居るって言った……」

「あのなぁ……美琴……」

「傍に居るって言ったもん」

「美琴……分かってくれよ」

「ヤダ……」

「襲うかも知れないぞ」

「いいもん……」

「怖がっても、泣き叫んでも、止まらないかも知れないぞ」

「いいもん……」

「お前が良くても、オレが良くねぇんだよ!!!」

「いいもん……」

「あ、あのなぁ……」

「当麻は……しないから……」

「えっ!?」

「当麻は優しいから、私を傷つけたくないから、当麻はしない」

「美琴……」

「私は当麻を信じてる」

「美琴……」

「だから、一緒に居て。傍に居て、私を抱き締めて。そして、私を安心させて……」

「そんなに美琴に信頼されてるんだったら、その期待は裏切れないよな……」

「信じてるもん、当麻を」

「ご期待に添えるよう、頑張ります」

「……好き、当麻……愛してる……」

「……美琴さん……あまり刺激しないで下さい。……上条さんの鉄壁の理性には……もうヒビが入ってますので……」

「……もう、バカ……」

 互いの温もりを感じながら、そして何度目かのキスを交わした後、二人はそのまま眠りに落ちていった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あなた……あなたったら……もう、こんなところで寝ちゃって……」

「ん……、ああ……。ミコトか?……お帰り」

「疲れてるのなら、寝室に行けばいいのに……」

「お前の居ない寝室なんて、行っても寒いだけだろう?」

「もう、またそんなことを……でも、しばらくはおあずけですよ」

「えっ!?」

「二ヶ月……ですって……」

「ホントかっ!?ホントにオレたちの子どもがッ!?」

「はい」

「お、オレが……父親に……」

「はい……あなた……私、幸せです。あなたの子どもが産めるのですから」

「ミコト……ありがとう」

「私こそ……トーマ、私、嬉しい……」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「……ま……当麻、朝よ……起きて……」

「ん……んぁ……アレ?……美琴?」

「お早よ……ん……」

「ん……刺激的な朝だな?」

「バカ……もう……」

「アハハ……」

「ねぇ……あのね……話したいことがあるんだけど……」

「えっ!?」

「大事なことなの……」

「大事なこと?」

「うん……あのね……」

「うん……」

「……あのね……」

「うん……」

「……出来ちゃった……」

「へっ!?」

「出来ちゃったの……」

「な……何が……?」

「……だから……出来ちゃった……」

「だから……何が?」

「……赤ちゃん……出来ちゃった……」

「え゛……」

「……赤ちゃん……出来ちゃったの……」

「みっみ、みみみ美琴さん?いいいいいきなり何を……?」

「……当麻の赤ちゃん……出来ちゃった……エヘッ……」

「そそそそそっそそそれって……夢……なんじゃ……」

「うん……でもね……私にも……それが伝わってきて……」

 そう言って、頬をうっすらと染めながら、愛おしそうにお腹を擦る美琴。

「い、いいいいや……だから……それは……夢だから……」

「でも、当麻と私の赤ちゃんなんだよ」

「それはそうだけどさ……でもそれは夢で……現実にはオレたちはまだ……」

「うん、でもね……私には……、……だから……」

「だから……?」

「うん……だから……」

「だから?」

「……責任……取ってね♪」

 『中学生に手を出した上に、結婚の約束までさせたスゴい人』は、ついに身に覚えの無いまま、『中学生に手を出した上に、結婚の約束までさせ、母にまでしたスゴい人』になったようだ。
 あくまでも『二人だけの秘密』ではあり、現実ではないのだが……。

 何にせよ、もうしばらく美琴の“夢”に翻弄される日々を上条は送らねばならないらしい……。

26Mattari:2011/02/19(土) 00:28:18 ID:iuTjQQ9g
いかがでしたでしょうか?

テーマは前回と同じですが、ちょっとエロ(?)要素も加えてみました。

スレ変えろ。と言われないようにギリギリの線を越えないようにしたつもりですが……。

それとオチですが、美琴と同じように電撃を撃つヒロインが出てくるあの映画です。^^

ではでは、お楽しみ頂けたら、幸いです。

27■■■■:2011/02/19(土) 00:54:12 ID:CoRd56NQ
>>26
エロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくないエロくない

ふー…
GJ

28■■■■:2011/02/19(土) 00:57:21 ID:LyHrMhtk
こりゃあ、これからの上条さんの生活が大変だw
これって不幸なのかもしれない(ソレハナイ
GJ!そして俺はそろそろ放送される禁書を見てきます!

29■■■■:2011/02/19(土) 06:01:22 ID:t3KOO5gc
>>16

「行け!行け!超電磁砲」を英語読みすると……?

30■■■■:2011/02/19(土) 06:51:31 ID:qWApuCFM
>>26
やべー、美琴が可愛すぎる。首根っこ掴まれると弱いって属性追加されてるし。なにこのかわいい生き物!

31■■■■:2011/02/19(土) 10:44:44 ID:gfa6RqlQ
この二人はラブラブすぎてもうだめだw
GJ!です!

32■■■■:2011/02/19(土) 11:07:36 ID:OdfoXDH6
この親属性いいですねw
流行るといいなー

33名無しさん:2011/02/19(土) 13:18:51 ID:P8vtET8s
僕も親属性が見たい!
ついでにアクセラレータを「義兄さん」呼ばわりを!

34■■■■:2011/02/19(土) 17:11:48 ID:yllI8/Ok


35■■■■:2011/02/19(土) 17:12:39 ID:TZ.CLPiQ
したらばは支援いらないよん

36■■■■:2011/02/19(土) 18:28:48 ID:5b04.R5k
ぐっじょぶ!

37■■■■:2011/02/19(土) 19:45:11 ID:NyTcpB.c
あの、俺妹のキャラが学園都市に来て上条さん、美琴とわいわいするのってダメですかね?

38■■■■:2011/02/19(土) 20:08:29 ID:TZ.CLPiQ
そういえば長らくスレが立ってるけどクロス系は一度も出たことなかったね
一応上条さんと美琴がいちゃいちゃすればテンプレ的には問題はないが……
ここは雑談が妙に出来ないところなのでしたらばのこのスレで議論するんだ

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1295697925/

39■■■■:2011/02/19(土) 20:40:52 ID:ZOBIpNH6
厳しいこと言うと、個人的には反対。
俺妹は好きな作品だから私はキャラもわかるけど、もし自分が知らない話が来たら
対応できない(以前あったカードバトルっぽい奴もその時点で意味不明だった、作品の善し悪し以前に)
せっかく投下してもらった作品で上琴であってもその時点で読めなくなってしまう。
それに知ってても嫌いな話もあるしね。
まあ所詮は二次創作なんだから気に入らない話は読まなければいいと言われればそれまでなんだけど。

せっかく書こうとしてる人に対してその気を削ぐようなレスをして申し訳ない。
念のために言っておくけど書くことに反対してるわけじゃないからね、ここに投下してもらってもってだけ。
他にも気を悪くした人がいたら先に謝っておきます、ごめんなさい

40■■■■:2011/02/19(土) 21:02:12 ID:73sxOD9Q
>>37
SS速報の方が向いているのでは?

41■■■■:2011/02/19(土) 21:28:18 ID:3XsijF3k
俺もSS速報での投稿を進める。
不毛な賛否でそうな危険を犯すよりは速報で落とした方が
書き手にも読み手にもいいと思うよ

42■■■■:2011/02/19(土) 22:05:41 ID:TZ.CLPiQ
そういや以前自分が遊戯王クロスここに落とした時も微妙な反応だったなぁ

43通りすがり:2011/02/19(土) 22:25:57 ID:evm7B4Yk
ー不幸な人間ー ーPART1ー

私こと上条当麻は今日はとっても機嫌が悪いのだが、
言わなくとも分かるであろうが一応言っておく。
いつもの事だが腹ぺこモードのシスターさんに噛み付かれ、
吹寄には頭突きをくらわされ、ビリビリ中学生には
追いかけ回され、今日は踏んだりけったりだ。
「さぁ〜て今日はシスターさんもいないことだし久々に」
外で食べるかぁ・・・・てあれ土御門ぉ」
隣人の土御門がドアの前で倒れていた。
「酷いにぁかみやん・・・何でそんなに思い切りドアを
開けるんだぜぃ・・・」
「す、すまん土御門」
「まぁそれはいいとして手短に言うぞかみやん
学園都市に魔術師が侵入した」
「まさか俺の所に来たのって・・・」
「ああそうだぜかみやん、力を貸して欲しい」
「「不幸だ」」って言ってる場合じぁないぜい」
「今回はかみやんもかかわってるんだぜぃ」
「どう言う事だ土御門」
「もぅかみやんも薄々感じてるんじゃないか」
「やっぱり右腕なのか?」
「当然!!、と言う訳でついて来てもらうぜぃ」
「ま、まて土御門俺が一緒に行って大丈夫なのか?」
「心配ないにゃ〜、かみやんは囮だ」
「お、囮って・・・何だかそれだけじゃすまない
気がするんですけど・・・」
「うだうだ言ってないで行くぞかみやん!!」
「お、おう」
そうして2つの影は夜の学園都市に消えて行った」

この続きはいつか書きます。
次は御坂を出そうと思います。

44通りすがり:2011/02/19(土) 22:34:25 ID:evm7B4Yk
間違えてしまった・・・
イチャイチャのスレだったのか・・・
仕方ないからイチャイチャで書こう・・・
初めて書くので余り期待しないでください。
まぁ誰も期待してないだろうけど・・・

45■■■■:2011/02/19(土) 22:58:08 ID:9zFM867.
今更>>1乙。そして職人様も乙。
やっぱり定期的に見に来ると、自分のモチベーションにもなりますなぁ。

>>29
あれか。でも、一応MADはグレー領域だからなぁ。
製速とかの方がノリはいいと思うが…。

>>37
このスレでは厳しいと思う。
自分が知らないキャラを名前だけ借りて出すのがダメなように、その逆になり得る要因も可能な限り消した方が良いかと。

>>44
>>1読んでもらったら分かると思うけど、sage進行のスレなのでメール欄にsageと入れるのをお忘れなく。

46■■■■:2011/02/19(土) 22:58:48 ID:cHhh/4EE
ぎゃあ!
仕事で立て込んでるうちにバレンタイン乗り遅れた…
ネットでもリアルでも乗り遅れるとか最悪…

今から書き始めても…大丈夫かなぁ…?

47■■■■:2011/02/19(土) 23:08:08 ID:9zFM867.
>>46
大丈夫だ、問題ない。
その分、甘さは通常の3510倍でw

48:2011/02/19(土) 23:17:48 ID:4hPZo4BY
コレを読んだら、1時間以内にどこかに貼る★★
投稿者:のん2008/11/17 14:04このレスを見た人はめっちゃ②幸運です○
えっと、このレスを、違う掲示板3つに貼り付けてください!
そうすると下記のよぅなことが起きますヨ♪
◆好きな人に告られる!!
◆告ったらOKもらえる!!
◆彼カノがいるコゎめっちゃLOVE②になれる!!
◆勉強、学年トップ!!
◆男女にモテる!!
◆5キロ痩せる!!
◆お小遣いが上がる!!
上記のことが起きます。
あたしの友達Mが、これをやったら、上記全て起きて、今は彼氏とめっちゃラブ×2です♡
先生からも好かれ、男子に8人から告られました。
女子も友達がたっくさんいます!!
この魔法のようなパヮーを信じて、貼り付けてください!!
コレを信じなくて、貼り付けなかったKは、3日後に彼氏にフられて、5日後に告ったらフられて、一週間後に家族が死にました。
そして一ヵ月後にはKが死んで、クラス全員でお葬式に出ています。
さぁ、あなたはMかKかどちらになりたいですか?
信じるか、信じないかは、あなた次第です。

あなたが回してくれるのを信じています。。。

49■■■■:2011/02/19(土) 23:25:04 ID:cHhh/4EE
>>47
甘く…が、頑張ってみます!



あとごめんなさい、Wikiの管理人の方、見てたらでいいんですけど
14-070 と 14-136 は同一人物(っていうか私。)なんで、統合しておいていただけるとありがたいです…

50■■■■:2011/02/20(日) 05:46:59 ID:QChRTf2E
何となく……

8月22日(一方通行戦、見舞い後)〜30日(偽デート前)までの美琴の心情を現した、
SSってなかったような気がする。



SS職人の皆様なら、どの様にします?

51■■■■:2011/02/20(日) 07:08:11 ID:1JpgdVvY
前スレ973ぐらい?で言ってた書ききれなかったバレンタインネタを
今から投下したいけどいいよね。
3分後から投下します。

52『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:14:51 ID:1JpgdVvY
「突撃!!」
「隣のバレンタイン!!」
「はぁ……」


4人が何かするのを決めたり、お茶したりするいつものファミレス。
突然テンションを上げて叫び始めた佐天涙子と初春飾利の前に
学園都市でも7人しか居ないレベル5の1人、御坂美琴は相槌を打った。

彼女の心境を表すならこんな感じだ。
『何言ってるんだ、この二人?』

隣の常盤台の後輩、白井黒子を見てみると我関せずとばかりにお茶を飲んでいる。
だから彼女も話をスルーしようとして

「だーかーらーっ、今日は2月14日バレンタインですよ御坂さん」
「そうですっ、バレンタインなんですよ」

どうやら目の前の2人は逃がしてくれなさそうだ。

「私達も去年までは小学生、今年は中学生、この差は大きいと思うんですよ」
「ちなみに私は佐天さんや御坂さん、白井さんに作ってきましたよ」

と言いつつ初春飾利が取り出した箱は4つ。


…………4つ?


「あれ?初春ー、箱が1個多いよ?」
可愛らしいラッピングの箱が3つにやけに立派な箱が1つ。
これはアレか、本命と呼ばれるチョコなのか、と白井黒子を除く2人が考えていると
「あぁ、これはですねぇ……じゃーん、自分へのご褒美用チョコレートなのです!!」
「あら?それは確か……」
「白井さんは知ってるんですね。そうです、あのベルギー王家御用達という」
「はい、初春すとぉーっぷ」
「えー、何でですか佐天さん。ここからが重要なとこなのに」
「言いたいことは色々あるけど、私らにチョコくれるんじゃなかったの?」
「そうでしたね、はいどうぞ」
「ありがとう、初春さん」
「初春、ありがとうですわ」
「ありがとねっ、初春」
「あ、でもちゃんとあとで聞いてくださいね。このチョコ手に入れるの苦労したんですから」
「「「あははははは」」」

初春飾利、どうやらこの件については諦めることを知らないらしい。

「ではお返し、というわけでもありませんが初春と佐天さんにわたくしからの手作りチョコレートですわ」
そう言いながらカバンから取り出した2つのチョコを佐天涙子と初春飾利の2人に渡し、
「ありがとうございます、白井さん」
「白井さんありがとー。………私達には手が出せないような高そうなチョコだね」
「あれ?黒子。私にはなしなの?」
肝心のお姉様。つまり御坂美琴の分はなかった。
「お姉さまには今日の夜お渡ししますわ、なにせ本命ですし準備にも時間がかかるんですのよ」
「……どう思う、初春」
「白井さんのことですから自分にチョコ塗って、私がプレゼントですわ、ってやりかねませんね」
「聞こえてますわよ、う〜い〜は〜る〜」
「あー、お花掴むのやめてください白井さーん」

あ、裸の白井黒子にチョコ塗ってこれが「ホントの黒(い)子ですの!!」とかやりませんよ。
わっふるわっふるって書きこんでもスレチですのでご了承を。

53『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:15:36 ID:1JpgdVvY
「じゃあこれが私から3人へのチョコレートよ」
なんだかんだ言って御坂美琴も女の子、バレンタインには興味があったりあったり。
冒頭であんな態度を取ってたにも関わらず友達に上げるチョコレートは用意してたらしい。
やはりレベル5、隙はないのか。
白井さん?白井さんはほら、お姉様に渡すための口実……いえ、なんでもないです。だからこっち(楽屋裏)見るな。
「っていっても黒子や初春さんみたいに手作りじゃなくて店で買ったやつで申し訳ないんだけどね」
「いいえお姉様。わたくしはお姉様からのプレゼントというだけで黒子は…黒子は…天にも」
「ありがとうございます、御坂さん。白井さんはほっときましょう」
「何か凄い高そうなチョコですね……ありがとうございます御坂さん」
そう、日本に輸入するときの税だけではなく学園都市の内部に商品を運び、
学園都市の利益が少しでも出るよう外と比べるとこういった嗜好品は高いのだ。
学園都市内のブランドなら輸送費が掛からない分もっと安かったりするのだが、
バレンタインで買うチョコとしては外と比べてランクが下がるらしい。

閑話休題

「じゃあ最後はあたしですね、どうぞ手作りチョコですよ!!」
トリの佐天涙子が取り出したのは、クリアケースに透明のフィルムをラッピングして、中の一口チョコが可愛く見えるよう工夫された箱。
「わぁ、凝ってますね佐天さん。どうしたんですかこれ」
「へっへーん、実はこの前インターネットのサイトで見つけたんだよ。作り方見たらそんな難しい物じゃなかったし」
「ラッピングも丁寧でお店のものだって言われても違和感ないわね。ありがとう佐天さん」
「ありがとうですわ。佐天さんは本当に器用ですのね」
白井黒子が思い浮かべるのはのは盛夏祭で佐天涙子が作ったステッチ。
あれは参加者の中でも出来が良かったので常盤台1年生の手本教材となっているのだ。
「そんなことないですよ、簡単ですから誰でも作れますって」


何はともあれ4人の友チョコ交換は終わったらしい。

54『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:16:21 ID:1JpgdVvY
「そしてここからが本番です!!」
この時の佐天涙子のテンションはさきほどまでの「やったーえへへ」ではなく、
「よっしゃぁ、いくぜぇぇぇぇ」みたいな感じである。
「そう、女の子がバレンタインといえばチョコレートと共に思いを伝える日!!皆さんも意中の人が居るでしょう、つまり!!」
「つまり皆本命の人に告白してきて明日報告会をやろうと言うことですか、佐天さん」
「そうだよ初春、初春だって中学生になったんだし本命の1人や2人ぐらいいるよね!!」
「本命が2人って時点でおかしいとは思いますけども……それより好きな男の人とかいないですよぉ。
 …………佐天さんがスカートめくるせいで変な評判ついちゃってますし」
哀しいかな、ところ構わず佐天涙子にスカートをめくられパンツを公衆の面前で晒してしまう初春飾利は、
都市伝説の『脱ぎ女』とまではいかなくても、『パンツ晒し女』という新たな都市伝説の元にまでなっていた。

「そ、そういう佐天さんはどうなんですか、本命あげる相手いるんですかっ」
初春飾利はいきたえだえだ、初春飾利のはんげき!!
「いるよ、しかも高校生の人」
だが佐天涙子にはこうかがなかった。
「へー高校生なんだぁ。そんな知り合いがいるなんて初めて聞いた気がするわ」
「わたくしもですわ。初春、アナタは何か知っていて?」
「いいえ、私も初耳です」
どうやら3人の知らない交友関係のようだ。
だがそれを言ってしまえば、各学校の知り合いや風紀委員の各支部同士での付き合いなどがあるため
知らない交友関係があるのも当然といえよう。

55『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:17:14 ID:1JpgdVvY
「以前に受けた特別講習で担当だった先生の教え子に同じ無能力者の人がいてですね、
 あたしも無能力者なんで何かと話が合うかもしれないって紹介してもらったんですよ」
「なるほど、わたくし達は講習を受けてないから知らないわけですわね」
「実はこの後、会ってチョコ渡してくる予定なんだ、えへへ」
「頑張ってください、佐天さん。御坂さんは男の人にあげないんですか?」
「へ、わ、私?いないわよそんなの。いるわけないじゃない」
顔を赤くしながら目を泳がせて言い訳をするが、当然そんな態度では誤魔化しきれるはずもなく
「あやしいーんだー。御坂さんそんなに慌ててると怪しいですよ」
「白井さんは何か知らないんですか」
「そうですわね、わたくしから言えるのはお姉様も高校生の殿方にチョコをあげる予定がある、ということですわ」
「くっ、黒子!!あんた何言っちゃってくりるれろ」
「呂律が回ってませんわよお姉様。あれだけチョコをあげた時の反応を想像する姿を見せつけられると、嫌がらせの1つも言いたくなりますわ」
「さすが御坂さん、木山先生からツンデレって評価されるだけはありますね」
「さ、佐天さん、どうしてそれを」
なぜそれを知っているのか、御坂美琴の秘めておきたいことランキングにランクインする出来事を佐天涙子が知っていることに
彼女は冷や汗を流しつつも戦慄した。

「この前に初春と春上さんと一緒に遊びに行ったときにちょっと」
「でも、チョコを用意したってことは御坂さんもこの後渡しに行くんですよね」
「……行かない」
「え?でも御坂さんあげるためにチョコ用意してたんじゃないんですか」
「お姉様、へたれるのも程々にしないと上条さんも他の方に取られてしまいますわよ」
「「え!?」」
白井黒子の発言に反応したのは2人。
御坂美琴だけでは足りないと思って白井黒子と初春飾利が周りを見てみると
「えぇぇぇ!?御坂さんの相手って上条さん?上条当麻さんなんですか!!」
やけに慌てた佐天涙子がそこにいた。

「お、落ち着いてください佐天さん。何でそんなに慌ててるんですか」
「まさか佐天さん、先程おっしゃっていた高校生というのは………」
「え、もしかしてアイツなの?」
「うぅ……、まさか御坂さんのお相手と同じ人だったなんて。どうしよう、勝ち目が薄くなってきたよ」
顔を真赤にさせながら佐天涙子はうめいた。
まさか同じ相手にチョコをあげるなんて想像もしていなかったのだろう。
だが彼女の冷静な部分はこう告げていた「御坂さんはチョコを渡さないから今なら勝てる」と。
「ってあああぁぁぁ!!??もうこんな時間だ。すみません、あたしもう行きますね」
3人が引き止める間もなくお金を置いてダッシュしていく佐天涙子。
勢い的にはダッシュの前にBがつくかもしれない、そう思わせるほど素晴らしい加速だった。
何故運動部に入ってないんだろう?

56『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:18:07 ID:1JpgdVvY
佐天涙子がいなくなったため本日は解散ということになり、白井黒子と初春飾利は風紀委員のお仕事に。
1人になった御坂美琴は悶々としながら街を歩いていた。

(アイツ、女の子にフラグ立て過ぎなのよ。鈍感だし馬鹿だし気障だしだらしないし)
どうやらご立腹の様子。
(人をいつもスルーするし……肝心な時に助けてくれるしカッコイイしアイツがこっちのこと考えてくれてるって凄く伝わってくるし)
途中からベクトルが変わってるのには気づいてない模様。
「あれ?御坂じゃないか」
「へぁっ!?ああああんた何でここに!?」
「何でって言われましても、ここ上条さんの通学ルートですよ?」
落ち着いて回りを見渡してみると、いつも御坂美琴がキックを入れて飲み物を手に入れる自販機前。
どうやら気づかないうちにここに移動していたらしい。
そして彼女の目についたのは、右手に持った紙袋の一番上に鎮座しているチョコレート。
クリアケースに入ったハート型のチョコレート。

「へえ、アンタモテるのねぇ」
「モテ……?いえいえ、不幸で可哀想な上条さんに皆義理でくれるだけですよ」
上条当麻にチョコレートをあげた女性のうち、1名の気持ちを知ってる御坂美琴は頭が痛くなった。
「アンタ、いつか刺されるわよ」
(言えねえ、既に今日そんな目に遭わされかけたとか言えねえ……)
「しかし、この流れだとひょっとして御坂も俺に義理チョコくれたりしてな、なーんつって……」
「ないわよ」
「即答ですか」
ばっさりと斬り捨てられ心のなかで落ち込む上条当麻。
だがそれも仕方ないだろう、御坂美琴は贔屓目で見てるとはいえ十分人目をひく美少女。
恋人ごっこや携帯のペア契約をして、果ては戦争中にロシアにまで助けに来てくれたような相手だ。
本命とまでは行かずともひょっとしたら義理ぐらいはくれるんじゃないか?と思ってもしょうがあるまい。
上条当麻だって青春真っ盛りの高校生なのだ。

一方、御坂美琴は憤慨していた。
(馬鹿!何で義理って決め付けるのよ。アンタに渡すんだったら本命しかないじゃない!!)
恋する乙女としては最初から本命が無いと決めつけているような上条当麻の発言は許せなかったらしい。
しかし彼女は素直になれないビリビリ中学生。
そんな気持ちを伝えられるぐらいなら普段から電撃を放ち追いかけたりなぞしない。
「でも、どうしてもっていうなら……チョコあげようか?」
「へ?」
先程義理チョコは無いと言われた以上、まさかチョコをくれる発言がでるとは思わなかった上条当麻。
これは何か新手のいじめなのか?と御坂美琴の顔を覗き込んでみると
「ちょっ、アンタ、ち、近っ…………ふにゃー」
「み、御坂、電撃漏れてる漏れてる!?」
漏電しながら気を失う御坂美琴、結構刺激が強かったらしい。

57『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:18:46 ID:1JpgdVvY
「……んっ」
「お、気がついたか。急に気を失うから驚いたじゃねーか」
「あ、ごめ……ん」
気がつけばベンチに座らされていた御坂美琴。
声をした方を見ると肩が触れ合うほどの距離に座っている上条当麻。
御坂美琴の頭が高速で弾きだした答えは
(えっ、アイツの肩にもたれ掛かって隣に近くてってかひょっとしてこの状態で支えていてくれた?ってことは何、ずっと密着したまま)
凄く嬉しい状況だったってこと以外はロクに頭が回らず分からないってことだけであった。

「疲れてたのか、今日バレンタインだもんな。お前妙に男前なところがあるから後輩とかから凄く渡されたりしたのか?」
「な、何よ男前って。女の子に言う台詞じゃないでしょ!!」
「何言ってるんですか。それだけ気が強くて行動力があって、並の男より男らしいですよ?」
「う、うるさいうるさーい」
御坂美琴はやはり上条当麻の言葉が受け入れられなかった。
何が悲しくて好きな男に「お前、男っぽいよな」って言われなければならないのだ。
彼女の女の子らしい一面もそれなりに見せているはずなのだが、
普段が憎まれ口叩いたり電撃浴びせたり、困った人を上条当麻と一緒に助けたりとイメージを上書きしていることに彼女は気づいていない。
例えば普段から彼の食事を手作りしてあげている、とか普段の会話も女の子らしいお淑やかな口調で行う、とか
そういった女の子らしさを前面に押し出して接していれば評価も変わっただろう。
もっとも、食事の手作りはともかく口調を変えて接した場合、それが彼女らしいか?と言われれば話は別なのだが。

「わ、私のことはいいのよ。それで……確かチョコがどうしてもっていうならあげるって話だったわよね」
「え?あ、ああそうだな。でも上条さんはこれだけチョコレート貰ってますので、ムリに用意してくれなくても」
プッツン、彼女の中でそう音がした。
この鈍感に仕返ししてやろう。そう決めた彼女の中ではある1つの方法が浮かび上がった。
普段の彼女からすれば顔を真赤にして悶絶するような行為なのだが、怒りで心を埋め尽くしている彼女は止まらなかった。
「えぇ、チョコあげるわ。だからアンタは軽く口を開けて目を瞑りなさい」
顔からも声からも怒りは感じない。それどころか目ですら微笑んでいる。
しかし上条当麻の中では「危険!危険!」と何かが警鐘を鳴らしていた。
「早く、しなさい………」
「はい、はいぃ」
だが彼女の見えない圧力に逆らうことは出来ず、要求通り目を瞑って口を開く事になった。
彼の耳に聞こえたのはカバンから何かを取り出す音。次に包装を破りチョコを割る音。
(あー、これは口の中にチョコを詰められて許可するまで食べるなって言う新手のいじめか?)

58『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:19:56 ID:1JpgdVvY
「いい、動くんじゃないわよ」
「は、はひ」
上条当麻が覚悟を決めて静かにすると……不意に口が柔らかいもので埋め尽くされたと思いきや口の中に甘いモノが満たされた。
「うっ……あっ…ふぅん」
「…………(え、柔け…え?なんだこれ、甘くていい匂い)」
「ぷぁっ……もういいわよ、目開けて」
目を開いた上条当麻が目にしたのは顔を真赤にした御坂美琴。
彼女の口元から垂れる涎と、自分の口元から垂れる涎。
そして口の中には甘いとしか味が分からなくなったチョコレート。

「こっ、こんなこと!!……アンタにしかしないんだから、勘違い…しないでよね」
視線を逸らしながらか細い声で呟く御坂美琴。
「へ……?勘違いって、俺だけって?」
「お、女の子に全部言わすな、バカァッ!!」
上条当麻の質問で我に帰ったのか、手に持っていたチョコを彼に投げつけ走って逃げていく御坂美琴。
残された上条当麻は口の中のチョコを噛みつつ
「本命、なのかな…………甘い、な」
残されたチョコレートなのか自らの考えなのか、何が甘いかもまともに考えずしばらくベンチでチョコを食べていた。

59『突撃!!○○のバレンタイン』:2011/02/20(日) 07:20:25 ID:1JpgdVvY
「はぁっはぁっはぁっ!!やっちゃった……とうとうやっちゃった」
公園から常盤台の寮まで走って帰ってきた御坂美琴はベッドに倒れこんで悶絶していた。
元々上条当麻にチョコなど渡すつもりはなかった。
彼女だって分かっているのだ、普段の自分の上条当麻に対する態度など。
一歩間違えば大怪我、大事故が起きてもおかしく無いような電撃を事あるごとに彼にぶつけ、
彼の好意の行動すら素直になりきれず、または嫉妬から糾弾を行い、
極めつけは2人は彼氏彼女の関係ではない、という。

行動に隠された気持ちに気付ける人が相手ならそれでもいいだろう。行動することで思いが伝わるのだから。
友人である佐天涙子のように自らの感情に正直に行動できるのもいいだろう。今ある自分が全てだと伝えて行動するのだから。
だが自分はどうだ?後ろめたい想像しかできなかった。
事あるごとに気に入らない相手に突っかかてくる相手。上条当麻にはそう認識されていると御坂美琴は思い込んでいる。
だから彼女はこう思うのだ。さっきの行動で完全に嫌われた。
命令で動けなくしてチョコ食べさせるために無理やりキスして事情説明はしないまま逃げ出してくるという。
これはもう完全に嫌われたに違いない

そんな彼女のもとに1通のメールと1本の電話が届いた。
友人からも電話を受けたあとにメールを見た彼女の顔は喜色満面の笑顔であった。

『御坂へ、夕方のチョコとても美味しかった。嬉しかったよありがとう。
 明日の夕方、いつもの自販機前でいいかな。俺から話したいことがあるんだ』

「ばーか……期待してるんだからね、と、当麻ぁ……ふみゃーー!!?!」
「ただいまですわお姉様って何何ですのこれー!?」

御坂美琴、及び白井黒子の能力使用による寮監の折檻と部屋の損害のため就寝時間AM4時
果たして御坂美琴の運命は?如何に?

60■■■■:2011/02/20(日) 07:23:11 ID:1JpgdVvY
バレンタイン終了のお知らせ(投下的な意味で
待ち合わせだとかもろもろは、作中で次の日「15」日なんでスルーの方向で

お目汚し失礼しました

61■■■■:2011/02/20(日) 08:06:30 ID:.TOq8ahQ
なんという甘甘な・・・!
で、15日の分はいつ投下予定ですか!

62■■■■:2011/02/20(日) 09:14:34 ID:qG3RpEMU
>>60
GJ!!
甘甘ですね。
御坂さん、だいた〜ん。w

63■■■■:2011/02/20(日) 11:06:36 ID:ou8dV5mI
これは....いいニヤニヤ!
GooDJoB

641-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2011/02/20(日) 11:11:59 ID:e/avWUaQ
>>44
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part13
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1287267786/877
↑同一人物でしょうか?

どこに投稿しようとしていたかわかりませんが……出来ればそちらに投稿した方がいいと思います。
その時は、3レス分位書き溜めた方がいいと思います。

>>49
> 14-070 と 14-136 は同一人物(っていうか私。)なんで、統合しておいていただけるとありがたいです…
修正しました。

>>60
(・∀・)甘イイ!!

65■■■■:2011/02/20(日) 14:55:51 ID:Hz5uvTaA
おぉふ、天井です

66■■■■:2011/02/20(日) 17:08:02 ID:ou8dV5mI
ぬおああああああああああああああああああああああああああああああああああ
天井、あまいよおおおおおおおおおおお

67■■■■:2011/02/20(日) 17:12:02 ID:0N2KgK02
>>60
GJ!甘ぇ…

68■■■■:2011/02/20(日) 19:11:21 ID:2K7O1u1k
>>60
甘い…甘いな…甘いよ…。

>>50
うーん。
・エツァリの存在感を示す
・上条さんと合流させない
・美琴→上条さんの心情がメイン
って所かな…?
今月の電撃大王が出てからで良ければ挑戦してみようかな…?

691-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2011/02/20(日) 19:58:29 ID:e/avWUaQ
まとめwikiの「砂場」を更新した人、わかりにくい指摘をしないで欲しい(^^;

「砂場」は表示結果などをテストする場で、修正して欲しい場所を指摘するところではありません。
ご意見ご要望は、まとめwikiの「評定所」又は、この板の「自作SS保管庫スレ」へどうぞ。

それから、長編「――ふたり――」の更新漏れを修正してくれた人、ありがとうございます。

70■■■■:2011/02/20(日) 21:44:42 ID:1SGY0ThE
>>60
甘いな…
でもちょうどいい甘さだ…
リンゴジュース的な

GJ!!うます

71■■■■:2011/02/20(日) 21:47:30 ID:SXNEJjbM
>>50
難関だけど、構想錬るだけでも面白そう。
時間かかりそうだけど、その時期に……って手もあるし。

問題はイチャイチャ要素だな。w

72■■■■:2011/02/20(日) 22:43:49 ID:bS9nkV4c
>>50
夏休み最後の日は私書きましたが、そうか…そういえばその辺のやつってまだでてませんね…

私なら、その間美琴は上条さんに会ってないので長い話にはせず、短めで美琴の悶々とした心情を追ってくかなぁ…
問題は>>71さんの言うとおり、いちゃいちゃですけどw
まあその辺は仕方ないので目をつむるかな?

73■■■■:2011/02/20(日) 23:15:25 ID:i3YsyaLQ
>>50
この人が一編だけ書いてる。
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/300.html

74■■■■:2011/02/21(月) 00:26:32 ID:P6eUWudk
まぁさすがにイチャスレ全体を把握してる人は少ないだろうな
いくらなんでも量が膨大すぎる

75■■■■:2011/02/21(月) 00:47:10 ID:zCY5HKJg
>>60
甘い!
そしてさりげなく佐天さんは失恋なんですね…うっ…

よく考えたらテーマに沿ってSS書くとか苦手だったなぁ
丸一日悩んで出だしすらまだ書けてない…

76■■■■:2011/02/21(月) 02:12:23 ID:vtZ8n.k.
すみません、こっから誰か続けてくれますか?



上条「…この俺の能力levelあげられるのか?」
  「う〜ん、ためしにビリビリに聞こう」


上条「お〜い、ビリビリ〜」
御坂「ビリビリじゃないって言ってんでしょうが!!!!」
上条「なぁ、お前の能力を出すときのイメージってどんな感じ?」
御坂「う〜ん、体の中を廻っていてそれをどこかの場所から出すみたいな感じかしら?」
上条「そうか、わかった」
上条「んじゃあさ、おれの能力のlevelあげ手伝ってくれ!!!!」
御坂「いいわよ、んじゃまず初めにイメージしてみよっか」
上条「おう、(体を廻っている感じ、、、、)!?」
御坂「?どうしたの?」
上条「いやなんだかわからんが変な感じになってさ」
上条「ためしに電撃打ってくれよ」
御坂「いいわよ」ッビリビリ!!!
御坂「!?なに今の!?」
上条「何だ今の!?体全部が幻想殺しの範囲になってる!?」

77■■■■:2011/02/21(月) 02:23:12 ID:pidNbSBM
>>76
ここはそういうスレじゃないから
テンプレ熟読して

78■■■■:2011/02/21(月) 20:57:49 ID:nHR/s.Mk
リレー方式で書くつもりなら此処じゃなくてVIPとか製作とかに
投下した方が良いよ。

79■■■■:2011/02/22(火) 00:07:56 ID:FDn9Kbeo
>>73 これは失念してました。感謝です。

80■■■■:2011/02/22(火) 00:48:37 ID:LKAgbTDw
>>64
編集ありがとうございます><


と、いうことで遅めのバレンタインSS投下します
人も少なそう…ですけど念の為50分から投下 2レス程の小ネタです…

8114-070:2011/02/22(火) 00:51:36 ID:LKAgbTDw
・何度目かのバレンタイン



「…………遅い」

今日は2月14日、バレンタインデー。
当然私も当麻にチョコをあげるつもりだ。
だから「放課後にいつもの公園で」とメールで待ち合わせの約束をしたのだけれど…

「そりゃ時間通りに来るとは思っちゃいないわよ…でももう1時間近く経つじゃない…」

流石に寒空の下、1時間近く待つのはつらい。
あったかい缶コーヒーでも飲もうか、でもトイレが近くなるからなー、なんて考えていると

「遅れてすんませんでしたぁー!」
「あ、やっと来た。いつも通りとはいえ、1時間は流石に待たせすぎよ」

とはいえ、今日の大遅刻の原因くらい私にも簡単に予想がつく。
大方、今必死で土下座に専念している当麻の横に置いてある紙袋の中身の所為だろう。

「ホラ、もうアンタの土下座は見飽きたから立ちなさいよ。寒いんだからさっさとアンタの部屋行きましょ」
「ゆ、許してくれんのか…?」
「どうせその紙袋の中身が原因で誰かに追いかけられてたんでしょ?私も似たようなもんだしね…」

と、私も手に持っていた紙袋を掲げて見せる。中身は当然チョコだ。
当麻はその紙袋の中をチラリと覗きこみ

「うわ…美琴お前…そのへんの男子学生より貰ってんぞ…」

なんて言ってきた。

「慕ってくれてるのは嬉しいけど…お返しが大変なのよねぇ…」
「だよなぁ…来月は金欠…か…」
「私は金欠になんかならないけどね」
「さいでっか…流石レベル5の財力は違うねぇ…」
「お金目当てでレベル5になったわけじゃないんだけど…あ!どうせならお返しは手作りにしたら安く上がるんじゃない?
 クッキーとかなら手間もそんなにかからないし。なんなら手伝うわよ?」
「…マジで?マジで手伝ってくれんのか?」
「ええ。大マジよ」
「お前…自分の分のお返しも一緒に作っちまえば楽だなー、なんて考えてないか?」
「か………考えてないわよ」
「露骨に目を逸らすな!考えてたな?考えてたよな今!?」
「私だって大量にお返し用意するの大変なのよ?便乗くらいしたっていいじゃない!
 …あれ?そんなことよりまっすぐ帰ってきちゃったけど、夕飯の買い物はしないの?」
「あぁ。昨日大量に買い物したから今日はいいやと思ってな。それに、俺もお前も今日は大荷物だろ?」
「それもそうね…っと着いた着いた」

そんな雑談をしているうちに、いつの間にか当麻の部屋に着いていた。

「夕飯は食ってくんだよな?」
「うん。デザート持参だもん。バレンタインだし」
「そりゃ楽しみだな。今年は何を作ってきたんだ?」
「食後のお楽しみよ。ということで私が夕食作るから」
「了解。あ、美琴。風呂はどうする?」
「んー……」

ちょっと悩むなぁ。折角だからこのまま泊まっていきたいけど…

「帰ってからにするわ。流石に明日も学校あるしね」

8214-070:2011/02/22(火) 00:51:58 ID:LKAgbTDw
〜夕食後〜



「「ごちそうさま」」
「どうする?すぐデザート持ってきたほうがいいかしら?」
「そうだな。美琴も門限無いとはいえ、あんまり遅くなると色々まずいだろ?」
「そ。んじゃすぐ持ってくるわね」

そう言って私は台所に行き、冷蔵庫に入れてあったチョコレートケーキを等分に切り分ける。
実はこれ、当麻からのリクエストである。
とは言っても、去年のバレンタイン直後に
「来年は何が欲しい?」「んーそうだな…チョコレートケーキなんていいんじゃないか?」
程度の会話で聞いただけなので、本人が覚えているかどうかはわからないけど。

「お待たせー。今年はチョコレートケーキよ」
「…へ?」

あれ?さっきまでの期待していた様子から一転して、驚いたような顔に変わってしまった。

「どうしたの?まさかチョコレートケーキ(これ)が嫌いなんて言い出さないでよ?」
「んなこと言わねぇよ…むしろすっげぇ嬉しいんだけど、もしかして美琴…」
「そうよね、去年食べたいって言ってたもんね?」
「やっぱりか…よく覚えてたな1年も前のことなんか…」
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってんのよ」
「決まってんだろ……」
「きゃ!?」

急に抱きしめられ、後ろを向かされる。
そのまま私は、あぐらをかいた当麻の脚の上に座らされてしまった。
そして



「美琴は、俺の大切な可愛い可愛い彼女だよ」



と、耳元で囁かれた。

「ととと、当麻、アンタ馬鹿じゃないの!?そんな恥ずかしい台詞よく言えるわね!?」

自分でもわかる。今、私の顔は真っ赤だろう。
漏電していないのは、当麻との触れ合いにだいぶ慣れてきたからか、
はたまた私を抱きしめている当麻の右手(幻想殺し)のおかげか…

「ふたりきりじゃなきゃこんなこと言わねぇよ…」

振り向けば、彼の顔も真っ赤だった。

「アンタ顔真っ赤…」
「お前もだろ…」
「さ、さっさと食べよっ!ホラ、あーん…」
「はむ…ん…」
「どう?おいしい…っん!」

いきなり唇を塞がれた。当麻の舌と共にケーキが私の口の中に入ってくる。

「ん…ちゅ…美琴…」
「はぁ…んっ…なぁに?当麻」
「今日、泊ってけ」
「え?でも明日…」
「いいから。泊ってけ」
「ふふ…当麻ったら甘えんぼなんだから…いいわよ、泊ってってあげる。その代わり――――」



――――たくさんキス、してね。



〜(終)〜

8314-070:2011/02/22(火) 00:56:02 ID:LKAgbTDw
以上です。

特に何も決めずに書いたら…もうこれ誰条さんに誰琴さんだよ…
次のイベントには遅れないように、来週あたりからホワイトデーSS書き始めよう…

84■■■■:2011/02/22(火) 01:11:19 ID:7S9g9hy.
乙ッス!

85■■■■:2011/02/22(火) 02:05:39 ID:7Q/WOwuQ
>>83
おつ〜!
この二人は付き合って何年目なのかしら
こういう親密で甘甘な雰囲気いいなぁ

86■■■■:2011/02/22(火) 11:51:43 ID:eI.HliDc
甘甘すぎて隣の住人考えて欲しいんだぜい…

87■■■■:2011/02/22(火) 12:09:31 ID:F4HzrbrY
>>83
乙です

たまには激甘もいいもんですね

88■■■■:2011/02/22(火) 15:00:52 ID:IDswrxhs
>>83gj

89■■■■:2011/02/22(火) 17:04:40 ID:hE1F3nMQ
イイ!イイ!イイヨ!
GJ!

90■■■■:2011/02/22(火) 17:51:45 ID:ZXtEt45Q
唐揚げ

91ソーサ:2011/02/22(火) 17:52:45 ID:qujY3HPM
久しぶりです
大変遅くなりましたが前に言ってたバレンタインネタです。
誰もいなければ8スレ使い投稿させていただきます!

92勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 17:56:40 ID:qujY3HPM

「バレンタイン!バレンタインには絶対素直になってアイツに告白しよう!!」

そう決意する1人の少女がいた。
少女の名は「超電磁砲」こと常盤台中学2年、御坂美琴。
これまで美琴は上条に何度も想いを伝えようとしてきたがことごとく失敗してきた。
ならばバレンタインにはストレートに「好き」と伝えようと決意したのだ。
断られれば今までの関係は壊れてしまうかもしれない。
だがそれ以上にこのままのずっと友達でいることが、
そして上条に自分以外の彼女ができることは絶対に嫌だった。

告白すると決意したのは1月15日、バレンタインのちょうど1ヶ月前。
せっかくの告白チョコをつまらない物にはしたくない。
この1ヶ月の期間を利用してとびっきりすごいチョコを作ろうと美琴は考えたのだ。
黒子の目を盗み舞夏に教えてもらい特訓して2月13日にはどこの一流レストランにだしても
絶賛されるであろうチョコが完成した。
……チョコを渡すことについて舞夏に盛大にからかわれたのは言うまでもない。


こうして美琴は2月14日をむかえることとなる。
朝から何度も告白のシュミレーションをする。
ここ1ヶ月何度もしてきたことだがいまだちゃんと言えるか不安はある。
勝負は放課後、今日だけは絶対に会わなければならないので上条の寮の前で待つつもりだ。
メールや電話で会う約束をするつもりだったが不幸が炸裂し、ついに上条の携帯は壊れてしまった。
だから連絡をとろうにもとれない状態だった。
ならばバレンタインまでに会って約束しておけばいい話なのだがチョコ作りが忙しい&探しても
会えない状況が続き最終手段の確実に会える寮で待ち伏せになったわけである。
当初は上条の学校まで行くことも考えた。
が、以前会いに行ったときは上条の愉快なクラスメート達によってとんでもないことになった事を思い出し却下した。
特に金髪と青髪の高校生はいろいろとすごかった。
美琴は思い出すだけで身震いするほどだ。
そのときの上条の悲惨さは各自でご想像ください。

「(…よし!準備完了!)」

放課後いったん常盤台の寮に戻った美琴はシャワーを浴び髪を整えその他準備を完了させる。
舞夏情報(土御門元春ルート)によれば今日も上条は補習があるのですぐには帰ってこないことがわかっていた。
そのため念入りに準備することができたのだ。

「絶対成功させるんだから!待ってなさいよ!」

そう言って勢いよく寮を飛び出していった。
まあ待つのは美琴になるわけだが


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ここは上条の寮の前、すでに日は暮れている。
そしてその場でチョコを渡され告白される上条の姿があった。
その告白に対する上条の返事は―――


「ごめん…おまえとは付き合えない…」

「!?……なんで?…どうして?」

「おまえのことは嫌いじゃない。でも他に好きなやつがいるんだ。」

断られたことかなりショックらしく目の前の少女は震えているようだ。
上条は何か声をかけようとしたがその前に女の子は黒髪をなびかせ走り去って行った。


…………黒髪?

そう、何を隠そう上条は美琴以外の女の子にも告白されていたのだ。
ちなみに少女を「おまえ」と呼んだのはここ数週間でそこそこ仲良くなったからだ。

そして告白された上条だが様子がおかしい。
何か疲れており少し悲しそうな表情だ。
悲しそう、というのは告白を断り女の子を悲しませてしまったからではないようだ。
それは上条の今日1日の生活を振り返ればわかることだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


朝上条が学校に着くとなにやらいつもと空気が違う。
男子も女子も落ち着きがないように思える。
その原因がわからないためとりあえずデルタフォースの2人に話しかける。

「どうしたんだ?お前ら?」

「どうしたもこうしたもないでカミやん!」

「今日がバレンタインだということを忘れたとは言わせないにゃー!」

「「チョコをもらえるかどうかで男の価値が決まるんだにゃー!!(やで!!)」」

「価値っておまえら…」

93勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 17:58:33 ID:qujY3HPM

そういや今日はバレンタインだったな、などと思いつつ土御門&青ピの「価値」発言に突っ込む上条。
記憶喪失である上条でもバレンタインがどういうイベントかは一応であるが知っている。

「まあ問題なのはカミやんがいくつチョコをもらうかってことなんだにゃー!」

「そうやでカミやん!1個もらうことに1発は殴らせてもらうで!?」

「なんでだよ!おかしいだろ!それにもらっても義理だろ!?本命ならともかく義理チョコで殴られてたまるか!!」

その発言に少しイラつく土御門と青ピ。
ブラグ建築士である上条に本命チョコをわたす女子はいくらでもいるのだ。
ただそれが本命だということにキング・オブ・ザ鈍感である上条が気づくはすがない。
気づくはずがなかったのだが……

「にしても今日姫神が休むってのは痛いにゃー…」

「え?姫神休みなの?なんで?」

「なんでもインフルエンザで40度も熱があるらしいで。ボクらの希望が…」

「チョコもらえないから落ち込んでるのか…少しは心配してやれよ…」

デルタフォースの3人がそんな会話をしていると教室に他のクラスの女子が入ってきた。
いつもなら誰も気になどしないが今日だけは違う。
その女子にはクラス中の視線が集まる。
と、その女の子は上条を見つけると表情を赤らめ上条のもとへやってきた。
そして…

「上条君…これ…」

その女子の手にはきれいにラッピングされたチョコがあった。

「え?ああチョコか。わざわざありがとな、義理でもうれしいよ。」

ほとんど面識がなかったためなんで俺に?、などと思ったがとりあえず受け取る上条。
この時点でクラス中から殺気が感じられる。
その殺気を感じ取った上条はこの後どんな目に遭うか予想でき、頭の中で「不幸だ…」とつぶやいた。
だが次に起きることは上条が予想もしていなかったことだった。

「……違う。」

「へ?」

「義理じゃない。私はあなたのことがずっと好きでした。付き合ってください!!」

「…………………はい?」

教室内は時間が止まった。
誰も動かない。
男子も、女子も、吹寄も、間近で告白を見ていた土御門と青ピも、告白した女子も、

そして告白された上条も

(ズットスキデシタ?ワタクシカミジョウハコクハクサレタノデスカ?イヤコレハユメデスカ?)

などと考えたまま動かない。
鈍感である上条もこれは流石に告白だとわかり脳内はパニックに陥っている。

普通ならこんなに人がいる教室ではなくどこか別の場所に呼び出して告白するだろう
と、教室にいた何人かは考えたがそれでころではない。
フラグメイカーであり鈍感王の上条に好きだという想いを伝えられた人間は今までいない
と、クラスメイトは思っていた。
その上条が告白されたのだ。
クラス中の興味は上条がどう答えるのか、ということに集中している。

「それで…返事は…?」

この空気を破ったのは告白した女の子。
完全に固まっている上条に尋ねた。
その言葉に我にかえった上条は落ち着いて今の状況を整理する。

「(これは…告白…だよな。)」

誰がどう見ても、どう聞いても告白である。

「(見た目は結構かわいいな…。)」

告白してきた女の子は髪はセミロングでおとなしそうな子だ。
胸はそこそこ、身長は上条の鼻くらいまではある。

「(他に俺を好きになってくれる子なんていないし…。断って悲しませるなら付き合うほうが―――)」

そこまで考え上条は自分の中に妙な感情がわいてきたを感じた。
それはなんともいえない感情でありこの子と付き合うことを拒むものだった。
なぜこんなこの感情が生まれたのかわからなかったが逆らってはいけないと本能的に感じた。

「こんな俺を好きになってくれてありがとな。嬉しいよ。でも…付き合うことはできない…」

結果上条は告白を断った。
そのよくわからない感情に従ったのだ。

「そうですか…でも、私あきらめません!」

そういい残しその女の子は去っていった。
悲しそうな顔をされたことに罪悪感が生まれる。

(やっぱ悲しませちまったな…それにしてもあの感情はいったいなんなんだ……)

罪悪感と共に若干の後悔、そして疑問が生まれる。
上条はあの感情が何なのか知らない。
そしてこの告白が上条の1日を大きく変えることになるとも―――

94勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 17:59:24 ID:qujY3HPM

この告白のあとにあったもの
まず土御門と青ピを筆頭とするクラスメイトの男子にいつも以上にフルボッコされる。
ボロボロになった上条をさらに吹寄の頭突きが襲う。
ここまでは上条にも予想はできた。
だがこの集団リンチのあとに起こることはまたしても上条が予想していなかったことだった。

それは―――

「上条くん!1時間目のあと2階の空き教室に来てくれる?」

女子達による上条への告白ラッシュが始まったことだ。


1時間目終了後まずクラスの女子が上条に特攻する。
さすがにクラス内ではなく空き教室に呼び出してからだ。

「上条くん!前に助けてくれた時から好きでした…付き合ってください!!」

本日2度目の告白をされた上条は再びパニック状態へ突入。

(またぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?今日はいったいどうなっているんでせうか!?なんか魔術でも発動してんのか!??)

しかし2度目なので少しは耐性がついたのか冷静さを取り戻し返事を考える。

(えーと…さっきは断っちゃったけど今回は…ん?)

そこまで考えたところで上条は自分の中に先ほどと同じ感情が芽生えてくることに気づく。
やはりそれがなぜ今生まれるのか、なぜ自分にとって嫌な感情なのかはわからない。
だがその感情は先ほどよりはっきりとしている。
はっきりとこの告白を断れといっている。

(くそっ!なんなんだよこれ!!こんなもんに従ってたまるか!)

そう思い上条は告白の返事をOKすることを決意する。
断れば相手を悲しませるのは明らかだ。
これ以上自分の都合で誰かを悲しませたくないという思いもある。
一息いれてから上条は待っている女の子に話し始める。

「待たせてごめん。それで返事なんだけど……あの…ごめん、付き合うことは…できない。」

上条が現実に出した言葉は先ほどまで考えていたこととは正反対の答えだった。
途切れ途切れではあったが断る意思を告げる上条。
自分自身でわけがわからなかった。

(な、なんで!?なんで俺は断ってんだ!?)

断りの返事を聞いた女の子はやはり悲しそな表情をしながら手に持っていた物を上条に渡す。

「そう…わかった…けどこれは受け取ってくれる?あの時のお礼でもあるから…」

そう言いチョコを渡すとその女の子はその場を去っていった。

(……いったいどうしたんだ俺は…)

受け取ったチョコを手に呆然とする上条。
なぜ自分は告白を断ったのか、どれだけ考えようと上条は答えを導き出すことはできなかった。
困惑した様子で自分の教室に戻ろうとすると先ほどとは別の女の子が入ってくる。

「あ、あの上条くん!これ受け取って!!…もちろん義理じゃ…ないから…!」

(………また告白…マジですか…)

本日3回目の告白にあう上条。
この告白も断ったがその後さらに2人に告白されることとなる。
休み時間は10分、実に10分間に4人に告白されることとなったが上条はそれをすべて断った。
どう考えようと「あの」感情に逆らうことは不可能だったのだ。
2時間目が始まるころには疲労困憊状態、頭から煙がでそうなほど考えたせいだ。

その後も上条への告白ラッシュは続いた。
休み時間ごとに行われる告白の嵐。
あまりの告白の多さに男子達も手がだせない。
昼休みにもなると告白事件は学校中に広がり、上条は学年問わず告白されるようになる。
上条はそれをすべて断っていたが意外と女子達が悲しそうな表情をしないということに気がついた。

そもそも女子達は今日上条に告白する気はなく、ただチョコを渡そうと考えていた者が多かった。
する気があったとしても告白に気づいてくれないと思っていた。
だが1人目の告白が今回の騒動の引き金となった。
女子達は本当に好きならはっきり告白しなければ何も始まらないと気づかされたのだ。
こうして告白ラッシュが始まったわけだが告白が成功する可能性が低いことは女子達もわかっていた。
ではなぜ告白するのか。

理由は簡単、上条に印象を残すためだ。
バレンタインにチョコは渡し告白すれば自分を印象付けることができる。
たとえ断られようとも上条が自分を意識してくれるようになればOKというわけだ。
さらにこの日告白しない、ということはした子より遅れをとるため告白をしないわけにはいかなくなる。
こうして告白の連鎖が生まれたのだった。

結局上条に対する告白ラッシュは放課後、されには補習が終わった後も続いた。
そしてその後待ち受けていたのは学校内の男子ほぼ全員との追いかけっこ。
こうしてこの日上条は壮絶な学校での生活を終え帰路につくのだった。

95勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 18:00:08 ID:qujY3HPM

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

現在の時刻は6時30分、美琴は上条の寮の近くでかれこれ1時間半以上も上条の帰りを待っていた。
なぜ寮の前ではなく近くで待っているかというと先客がいたからだ。
その黒髪の高校生と思われる少女は手に小さな箱を持ち誰かを待っているようだった。
その少女が上条を待っているとは思わなかったものの同じ場所にいれば気まずいし
告白を見ても見られても気まずいので少し離れたところで待つことにしたのだ。

「遅いな…アイツ…」

そうつぶやきながらため息をつく。
上条が告白ラッシュに会って帰るのがさらに遅れていることを美琴は知る余地もない。
あたりは暗くなりかなり寒くなってきたが美琴は待ち続ける。
体が冷え切ってしまったころ、ついに待ち人の姿が見えた。
暗いのではっきりは見えないがあのツンツン頭は上条に間違いない。
緊張はしたがやっと会えるという嬉しさに駆られ美琴は上条の元へ走っていく。
すると上条が誰かと話をしていることがわかった。
相手は寮の前にいた少女、上条がチョコをもらっていることがわかると美琴の表情は一気に暗くなった。

(え…まさか…あの人と付き合ってるの……?)

絶望が押し寄せようとする中、少女の「付き合って」という言葉を聞き一瞬だが安心する。
だがすぐに上条の返事が気になり今度は極度の不安に襲われる。

(まさか…OKしちゃう…とか……?)

悪い方向にばかり考えていたが上条が「ごめん」と言うのが聞こえると目の前が明るくなったような気がしたが
次に「好きな子がいる」という言葉は美琴を絶望の淵へ追いやった。
絶望に襲われた美琴はもはや告白しようという考えは消えていた。
上条には好きな子がいる。
それを考えると一刻も早くここを立ち去りたくなる。
だがふと先ほどの方向を向くとこちらに気づいたのか上条がやってくるのが見えた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


帰る途中でも上条への告白は止むことはなかった。
どこからか校外にも上条が告白されたという情報は伝わっており他の学校の生徒にも告白された、というわけだ。

「はぁ…今日は壮絶な1日だったな…。不幸ではないけど…別の意味では不幸だな…。」

大量のチョコレートをかかえようやく寮の入り口に着いた。
するとここでも上条は知り合いの高校生に声をかけられ告白される。
1日で告白に対する耐性がかなりついた上条は相手をキズつけないよう丁寧に断る。
だが理由を聞かれたためあの「好きな子がいる」と言う言い訳をしてその子が去るのを見届ける。
すると上条はその子が去っていった方向に美琴がいることに気づいた。
なんでこんなとこにいるんだ?と思ったが声をかけることにした。

「おーい御坂!どうしたんだよこんなところで。」

まさか声をかけられるとは思っていなかったためビクッとする美琴。
美琴にとっては今1番会いたくない相手だった。
だが近くまで来て見えた上条の表情がなにやら嬉しそうなことに少し気持ちが和らぐ。

「…別にいいでしょ。私がどこにいようと…ん?」

美琴は上条が持っている紙袋に入った大量のチョコに気がつく。
それらはどう見ても本命チョコにしか見えなかった。

「え?ああこれか。今日学校と帰り道にもらったんだよ。」

「ふーん…そうなんだ…(やっぱコイツもてるんだな…この中にこいつの好きな子のチョコもあるのかな…)」

大量のチョコを見ながらそんなことを考えている美琴。
嬉しそうな表情をしていたのはこのたくさんチョコのためかと落ち込む。
自分を見つけて嬉しそうな表情をしてくれたのかと思ったためガッカリ感は大きい。
すると今度は上条が美琴の持っている物に気がつく。

「ん?おまえ…その手に持ってるのは…」

「!?」

気づかれたくないことに気がつかれた美琴はかなり動揺する。
様々な想いが頭の中で渦巻くがばれてしまったものはしょうがない。
せっかくあれだけ苦労して作ったのだ。
先ほどまでは渡さないでおこうと考えていたが上条を前にして告白はできなくても
せめて食べてほしいと思い渡すことを決意する。

「ああ…これね、普段お世話になってるしアンタにあげようと思ってさ…」

そう言うと美琴はチョコを上条に手渡した。

「記憶喪失のアンタでもバレンタインくらい知ってるでしょ?美琴センセーの手作りチョコなんだから喜びなさいよ?」

本当はこんな言葉ではなく素直に好きと言って渡したかった。
それを考えると涙があふれそうになる。
だが泣く姿を見られるわけにはいかない。

「じゃ…私は帰るから…」

そう言うと美琴は寂しそうに自分の寮の方向に歩きだす。

96勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 18:00:37 ID:qujY3HPM

「待てよ!!」

立ち去ろうとする美琴を上条は腕をつかみ引き止める。

「え!?な、何よなんか用でもあるの?」

引き止められたことに驚くも早く立ち去りたい一心から少し強めの口調で聞く。

「ああ大ありだ!…その、な、チョコスッゲー嬉しいよ、ありがとな。」

上条の予想外の言葉に硬直する美琴、続けて上条が

「まさかお前がチョコくれると思わなかったよ、まあそれはいいとして…聞いてくれ。
御坂が俺のこと好きだと思ってるなんて全く気づかなかった。むしろ嫌われてると思ってたんだ。」

などと言い出すから美琴はわけがわからなかった。
なぜ自分が上条のことを好きだとバレているのか訊ねようかと思ったが黙って続きを聞くことにした。

「でもおれはお前と一緒にいることが楽しかった。嫌われていてもいいから一緒にいたかったんだ。
んで俺は今日初めて自分の気持ちに気がついた、遅いよな気づくのが。」

そこまで言うと上条は美琴を引き寄せ抱きしめる。
いきなり抱きしめられたことに美琴は真っ赤になりパニック状態になる。

(えーーーー!!??何これどうなってんの!?なんで!?なんで抱きしめられてんの私!!?)

だがここでふにゃー化するわけにはいかない。
なんとか耐え、続きの話を聞こうとする。
そして上条は力強く、はっきりとこう告げた。

「俺からも言わせてくれ。俺は御坂、いや美琴、お前が好きだ、大好きだ!俺と…付き合ってくれないか?」

最後まで聞いてもなぜこうなった全くわからなかった。
だが今はそんなことはどうでもよかった。
上条が自分に好きだと言い告白してくれた。
それだけわかれば今の美琴には十分だった。
美琴も上条をおもいっきり抱きしめ返事を告げる。

「うん…すっごい嬉しい…私も当麻のことが大好き…」

それだけ言うと美琴は恥ずかしさ&嬉しさMAXでついにふにゃー化し気絶してしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ん…ここは……ベッド?…なんだ…夢だったんだ…」

まだ完全に覚醒はしていないものの目を覚ました美琴はベッドの上で残念そうにつぶやいた。
もう一眠りしようとあの抱きしめられ告白されたことを思い出し幸せに浸る。

(そうよね…あんなわけのわからない展開夢に決まってるわ…でも現実では絶対に成功…)

そこまで考えたところで違和感に気づく。
ベッドの感触がいつもと違う。
それがわかると思いっきり上半身を起こし周りを見渡す。
美琴の目に映った光景は見たことのない部屋とベッドの近くに座っている上条の姿だった。

「……え?」

「お!やっと目が覚めたか美琴!もう大丈夫なのか?」

「大丈夫だけど…あの……なんで?」

「いや、なんでって何がだ?いきなり漏電するし気絶するからビックリしたんだからな。」

ここまで聞き美琴は告白された出来事が現実だったことを理解する。
同時についに上条と恋人同士になれたことを実感し天にも昇る気分になる。
というかもう昇っている。

「お〜い、どうしたんだよボーっとして。」

「あ、え、えと…ごめん…あのここって…アンタの部屋よね?」

「ああそうだぞ。そういや1度も来たことなかったっけ?」

美琴はここがいつか行きたいと思っていた場所ナンバー1の上条の部屋であることを認識し
心の中で激しくガッツポーズをする。
ちなみにインデックスはイギリスに帰っているので今はいない。
と、ここで意識が完全に戻ったため先ほどの告白での疑問を思い出す。

「そういやさ、あの告白のときなんかおかしくなかった?」

「え?俺なんか変なこといったか?」

「だってさ、と、当麻から告白してきたのに…なんていうか…なんかひっかかるっていうか…」

ここで勇気をだし上条を名前で呼ぶ。
名前はうまく呼べたがおかしかったところをうまく言い表せない。
その言葉に上条が反応する。

「は?俺はお前に告白されたからその返事をしたんじゃないか。」

「…………………はい?」

美琴はチョコを渡したとき同様わけがわからなくなる。
告白?そんなことをした記憶は微塵もない。

「告白って…私した記憶ないんだけど…」

「はぁ!?何言ってんだよ、チョコくれたじゃねーか。」

「…………………はい?」

97勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 18:01:04 ID:qujY3HPM

やはりわけがわからない。
なぜチョコを渡すだけで告白したことになっているのか。
混乱している美琴を前に上条はとんでもないことを言い出す。

「だってバレンタインにチョコ渡すってことは告白するってことなんだろ?」

これには美琴も叫ばずにはいられなかった。

「アンタはバレンタインに義理チョコがあることを知らんのかーーーーー!!」

叫びながら勢いよく立ち上がる。
上条は叫ばれたことに驚きながらも衝撃の一言を放つ。

「義理チョコ!?それって本当に存在すんのか!?今日俺は義理チョコなんてもらわなかったぞ!!」

その言葉に美琴はベッドの上で立ち上がったまま固まる。
義理チョコをもらわなかった?
あの量で?
そう思いベッドに座りそばに置いてあったチョコの入った紙袋を見る。
チョコは100個くらいありそうだった。

「ま、まさか…あのチョコの数だけ告白された……ってこと?」

「ああそうだぞ。……まさか上条さんがこんなにもてるとは思いませんでしたよ…」

美琴は唖然とした。
想像をはるかに超えるほど敵はいたのだとわかったからだ。
だがすぐにその中から自分を選んでくれことを理解しそれがたまらなく嬉しかった。

(やば…これはにやけちゃうわ……て、そうだ。)

にやけるのを抑えようとしていると話が若干それていることに気づき残っている疑問を追及する。

「で、なんで義理チョコの存在を知らないわけ?」

「え?だって俺記憶喪失だろ?バレンタインは初めてだからてっきり義理チョコは俺の思い違いだと思ってさ。」

「あ…」

この一言で美琴はすべて理解した。
つまりはこういうことである。
上条は記憶喪失であり今回のバレンタインが初めてだ。
だが上条にもバレンタインの知識は普通にありもちろん義理チョコのことも知っていた。
しかし今日の告白ラッシュにより上条は本命チョコしか貰わなかった。
これにより上条は義理チョコというの物は存在せず自分の間違いと認識した。
つまりチョコも貰う=告白される、と変換されたのだ。
だから美琴からチョコを渡されたということは告白されたと上条は勘違いしたというわけだ。

「なるほどね…それにしても当麻が私のこと好きだったなんて正直意外だわ。」

「……正直言うと俺も今日気づいたんだよ。」

「え?」

「今日何回も告白されたけどさ、そのたびに妙な感情が生まれたんだ。」

上条はすべてを説明する。

「その感情が何なのか最初は全くわからなかったけどな、何回も告白されるうちにだんだんわかってきたんだ。」
 俺には好きなやつがいる、そしてそれが御坂美琴だってな。
 だから誰か別のやつと付き合うことを考えると嫌な気分になったんだ。
 まあそれが完璧にわかったのは帰り道だったんだけどな。」

ちなみに上条が“好きな子がいる”という断り方を始めたのも帰り道からである。
最も一番最初にこのセリフを言ったのは帰り道にあまりにしつこく断った理由を聞いてくる子がいたからだ。
だがそれが上条にすべてを理解させたのだ。

美琴は上条の言葉を真剣に聞いていたが聞けば聞くほど顔が緩んでいく。

「―――それと美琴のことが好きだってわかったの時は嬉しかったけど同時に悲しかったな。」

その言葉に美琴はすばやく反応する。
顔の緩みも一瞬で元に戻った。

「か、悲しかったってどういうこと!?私のことを好きになることが嫌だったわけ!?」

「お、落ち着け!最後まで聞けよ!悲しかったってのは今日なかなか会えなかったからだ!」

「え?それって……?」

「いつもなら公園とかで会えるだろ?チョコをもらえるもらえないは別として今日は会いたかったんだ。」

「…なんで?」

「なんでって俺は初めて誰かを好きになったんだぜ?会いたくなるのも当然だろ?」

そう、上条は記憶喪失のため今まで人を好きになった経験はない。
記憶喪失以前に誰かを好きになったことはあったかもしれないが今の上条の初恋は美琴ということになる。
また美琴の顔は緩みはじめる。
そんな美琴を前に上条は続ける。

「会えずに寮に着いた時は不幸だと思ったし悲しかった。実際不幸だってつぶやいたしな。
 だから会えた時はスッゲー嬉しかった。チョコくれた時なんか飛び上がって喜びたかったんだぞ?
 なのにお前は渡すだけ渡してすぐ帰ろうとするから慌てて引き止めたんだよ。」

98勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 18:01:33 ID:qujY3HPM

「そうだったんだ…」

美琴は上条の言葉を夢見心地で聞いていた。
好きな人が自分のことをここまで想ってくれていたのだから嬉しいのは当たり前だ。
と、ここまで話し上条は少し表情を変える。

「それで俺のいろんな勘違いがわかったわけだが……美琴のあの言葉は本物なんだよな?」

「あの言葉?」

上条は聞き返されると顔が赤くなる。
そして少し恥ずかしそうに、不安そうに尋ねる。

「…ほら、お前の返事だよ。“私も当麻のことが大好き”って言葉は俺の勘違いじゃ…ないよな…?」

その言葉からは上条の不安がひしひしと伝わってきた。
先ほどまで盛大な勘違いをしていたのだ、
美琴の言葉も自分の勘違いだったのではないかと考えるのも不思議ではない。
美琴は上条にわからない程度に微笑む。

「ねぇ、まだ私のチョコ見てないでしょ?」

「見てないけど…俺の質問はスルーですか?」

「いいから見てみなさいって!」

そう言われとりあえず従う上条。
机の上に置いてあった他の物より大きめの箱を手に取り開けてみる。
中身は様々な種類のチョコがきれいに並べされていた。
ホワイトチョコもあり見栄えもすばらしい物となっている。

「おお…美味そうだな。」

店の物のように美味しそうなチョコを見て思わずつぶやく上条。
それを聞いた美琴は嬉しそうな顔をしたあとすぐにため息をつく。

「…わからないか、じゃ少し離れて見てみて。」

よくわからないままチョコから離れる上条、するとあることに気づく。
それはホワイトチョコレートだけを見るとある文字になっていることだ。
その文字とは


“I LOVE TOMA”


「これは…つまり…」

「そうよ、これであの言葉が勘違いじゃないってことはわかったでしょ?」

「ああ…ありがとう美琴。」

とびきりの笑顔で微笑む美琴を見て上条は少し涙目になる。
そんな姿を見られてはならないと慌ててチョコのほうを向く。

「そ、そうだ!これ食ってもいいか?」

「当麻のために作ったんだからいいに決まってるでしょ?」

それを聞くと上条は1つ手に取り口に放り込む。
そんな上条をドキドキしながら見つめている美琴。
上条の感想は

「なんだこれ!すげーうまいぞ!今まで食ったチョコの中で1番うまい!!」

そう言うと2個、3個と食べていく。
美琴は苦労した甲斐があったと小さくガッツポーズする。
ここで美琴はふと思い出す。
チョコを作っていたとき舞夏教えてもらったことと見せてもらったバレンタイン特集の本のことを。

「あ、あのさ…」

「どうした?」

「私が…食べさせてあげよっか?」

上条が固まる。
朝最初の告白をされた時より硬く固まる。

(食べさせる…というのはカップルの王道の“あーん”ってやつですね、わかります)

それをするのは恥ずかしい、しかし食べさせてもらいたい。
上条の中でそんな矛盾が生まれるも勝利したのは

「……お願いします。」

食べさせてもらうほうだった。
美琴は顔を赤く真っ赤にしながら1つチョコを取る。
よくよく見ると少し震えている。

「じゃ、じゃあいくわよ。」

なんでそんなに赤くなって震えてんだ?と上条が思った次の瞬間
目の前にあったものは真っ赤になった美琴の顔、口には柔らかいものが当たり甘い味がした。
美琴はチョコを口にすると間髪入れずに上条にキスしていた。
数秒この状況が続いたあと美琴のほうからゆっくりと離れる。

「み、み、み、美琴さん!?今…何をしたんでせうか?」

「何って…た、食べさせてあげたんだけど…本命チョコはこうやって食べさせるものなんでしょ?」

「……それどこで覚えた知識?」

「…友達に教えてもらったんだけど?……もしかして何か間違ってた?」

美琴は顔をさっきより真っ赤にしている。
そしてその言葉からは先ほどの上条のように不安が伝わってくる。
そんな美琴を前に上条が言えることは1つ。

「…いや何も間違ってません。」

99勘違いのバレンタイン:2011/02/22(火) 18:01:57 ID:qujY3HPM

今度は美琴の盛大な勘違い。
原因は舞夏にあった。
チョコを作っているときに教えこのチョコを食べさせる方法を教えたのだ。
美琴が疑わないように口移しで食べさせるという内容が載った本まで見せていた。
まあ舞夏は本当に実行するとは夢にも思ってなかったのだが…
今までバレンタインに本命チョコを渡したことはなくこの手のイベントに微塵も興味がなかった美琴は
あっさり舞夏の言うことを信じたわけである。
そしてその友達が舞夏だとは知らず上条が心の中で叫ぶ。

(間違ってるなんて言えるかぁーーー!!!そしてその友達GJ!)

美琴とキスができた嬉しさで実際に叫びそうになる。
だがこれを何回もすると理性が崩壊しかねないのでもうしないと心に誓う上条。
すると美琴が上条の服を軽くひっぱる。

「ねぇ……当麻からもしてほしいな…ダメ…かな?」

上条ノックアウト状態。
告白に耐性がついてもこういったことに耐性がないに等しい上条は恥ずかしがりながら上目使いで
お願いする美琴に逆らえるはずがなかった。
誓いは早くも消え去りこの後数回繰り返すこととなる。

こうして2人は勘違いのおかげで甘々のバレンタインを送ることができた。
上条の理性は崩壊しなかったのか――――――それは神のみぞ知る。






*おまけ

数日後上条の寮の前にて

「あの時ここで俺達カップルになったんだよな〜……そういやさ」

上条がふと何かに気づく。

「何?どうしたの?」

「お前チョコ渡してすぐどっか行こうとしたけどさ…」

「うん?」

「あのチョコ見たら確実に本命ってわかるだろ。」

「!!?」

上条の冷静なツッコミに美琴は思わず顔が赤くなる。
あの時は気が動転していてチョコを渡し、すぐに去ることしか考えられなかったため
そこまで頭が回らなかったのだ。
2人は顔を見合わせると大笑いした。

その笑顔は本当に幸せそうだった―――

100ソーサ:2011/02/22(火) 18:07:16 ID:qujY3HPM
以上となります
書き始めたのは2月5日くらいだったのに今になってしまったorz
せめて先週中にには…と思ったんですが矛盾がどんどんでてきて直してたら
今日になってしまいました…
まあ駄文ですがですが少しでも楽しんでもらえたら幸いです

101■■■■:2011/02/22(火) 18:56:16 ID:7uusjYp.
>>100乙!
本命を差し出されまくっても美琴を選んだ上条さんに拍手!
美琴が一月かけて作ったチョコ俺も食べてみたい…

102■■■■:2011/02/22(火) 18:59:01 ID:hE1F3nMQ
おお、これはニヤニヤニヤニヤ
ソーサさんGJ!

103■■■■:2011/02/22(火) 19:25:14 ID:x72YsX7.
ニヤニヤがとまんねえええ
美琴の勘違いは放置して甘受する上条さんもGJすぎるw

104■■■■:2011/02/22(火) 19:33:26 ID:a7AKVS.Q
もうこのスレはずっとバレンタインシーズンでいいよ。

ずっと虫歯になれ俺

105■■■■:2011/02/22(火) 19:43:45 ID:x72YsX7.
お前は1ヶ月後、もうこのスレはずっとホワイトデーシーズンでいいよ。と言う

106■■■■:2011/02/22(火) 19:44:44 ID:eI.HliDc
甘さが中和できないだと…

107■■■■:2011/02/22(火) 22:34:08 ID:ByYEt30g
GJです〜。

蕩けちゃいそ……。w

108■■■■:2011/02/22(火) 22:58:11 ID:0Ukhsfkg
>>100
乙でーす。甘いなぁ。
一つだけ、>>93でフラグがブラグになってたようですので、wiki掲載後にでも修正を…。

>>105
ホワイトデーか…空気読むしかないのかよ…。

10914-070:2011/02/23(水) 00:53:23 ID:dMPc8lDo
>>100
甘い〜!
ソーサさんにも舞夏ちゃんにもGJと言わざるを得ませんね!


>>84-89
ありがとうございます
>>85
私的には付き合って三年目くらいでしょうか
美琴ちゃん高校1年生(否上条高校)ってイメージです

110琴子:2011/02/23(水) 02:15:41 ID:hTHC6vM6
バレンタイン投下の感想下さった方々ありがとうございます。琴子です。

みなさん甘々で最高です!!
さすがバレンタインですね♪
ソーサさんの「義理チョコ!?それって本当に存在すんのか!?今日俺は義理チョコなんてもらわなかったぞ!!」ってセリフ、ツボに入りましたww

そんな甘々な雰囲気の中、ちょっとシリアスなの投下することをお許し下さい…。
新約出来たら投下出来ないかもって思ったので…
いちゃいちゃ♪って感じじゃないのですが、原作でこんな展開があると信じてる琴子の妄想を2レスで投下したいと思います。

111小ネタ とある決戦前:2011/02/23(水) 02:18:23 ID:hTHC6vM6
「待ちなさいよ」
 足を止めた上条が振り返ったそこには、よく知る少女が立っていた。
「御坂……」
「行くのね?」
 3メートルほど離れた位置に立ったまま、美琴は上条に問い掛けた。その瞳は真っ直ぐと上条を捉えている。
「ああ」
「そう……」
 ポツリと呟いて、美琴は上条から視線を外した。ゆっくりとした動作で空を見上げ、どこか遠くを見ているような御坂美琴が今何を思っているのか、上条にはわからない。
「アンタ覚えてる? 罰ゲームの時のこと」
「え?」
「アンタから言い出した勝負の罰ゲームなのにさ。色々あって結局うやむやになっちゃったのよね」
 上条からの答えは求めていないのか、美琴は独り言のように話し続ける。
「第二十二学区で会った時のことは覚えてる? アンタはボロボロな体のままどこか行っちゃって。結構思い切ったこと言ったのに、アンタにはいつも通りスルーされたわね」
 そして美琴は懐かしげに話しながら、上条の方へゆっくりと歩み寄る。
「あと、そうそう。ロシアの時も。アンタ、この私が一体どうしてあんな寒い国のあんな高い場所にいたと思ってんの? アンタを助けたくて学園都市抜け出して、やっとの思いであそこまで辿り着いたのよ。それなのにアンタ、そんな私の思いスルーしてまで『やるべき事がある』ですって? 冗談じゃないわよ」
 気がつけば美琴と上条の距離は1メートルほどに近付いていた。
「ね? 少しは反省してる? そんなわけでアンタはこの美琴さんに大きな大きな借りがあるわけよ」
 そう言って美琴はさらに上条に歩み寄る。
「土下座だけで許されるとか思ってんじゃないわよ? 乙女の気持ち踏みにじった罪は重いんだから」
 さらに美琴は歩み寄る。
「だからさ」
 そして。

 少女は少年の唇を奪った。

「罰ゲームよ」
 ゆっくりと顔を離して、御坂美琴は目の前で目を見開く少年に告げる。
「『必ず生きて戻ってくる』事!!」
「みさ、か……」
「学園都市に戻れとはもう言わない。でも私の元に戻って来なさい。生きて、絶対に」
「……、」
「それで今までのことは全部水に流してあげる。寛大な美琴センセーに感謝しなさい」
 御坂美琴は何かを吹っ切ったかのような清々しい笑顔でそう言い放つ。それは上条当麻が覚えている今までのどんな美琴の表情よりも印象強いものだった。
「……、わかった」
 上条当麻は右拳を固く握る。
「必ず守る。だからお前も絶対に死ぬなよ」
「もちろん。アンタには言いたいこと山程あるんだから。言うまで死ねないわよ」
 少女の行動や言葉にどのような意味が込められているのか、上条は何となく知った。だけど上条当麻が御坂美琴に今言うべきことは一つだけ。
「必ず守る!!」
 上条は美琴に笑顔と約束を残して走り去る。
また一つ死ねない理由が出来た少年は、一人戦地へと赴く。

112小ネタ とある決戦前:2011/02/23(水) 02:19:30 ID:hTHC6vM6
 少年の背中は見えなくなった。
 残された少女は背後を振り返り、誰もいないはずの場所に呼び掛ける。
「もういいわよ。出て来なさい」
 するとヒュンという風を切るような音と共に、一人の少女が美琴の前に現れる。
「お姉様、気付いて……」
「ったくアンタは。危ないからついてくんなって言ったでしょ?」
「しかし……」
 美琴の前に現れた白井黒子の腕に、彼女が誇りにしていた風紀委員の腕章はない。学園都市の風紀委員としてではなく、一人の人間として大切な人や街を守りたいという彼女の意思がそこにある。
「お姉様の言いつけを守らなかったアンタにも罰ゲームは必要ね」
「お、お姉様?」
「アンタへの罰ゲームは『絶対に死なない』事。あとは私から絶対に離れないことね」
「!! ではお姉様……!?」
「行くわよ黒子。一緒に、私たちの街を守るわよ」
「はい!!」
 そして少女もまた少年とは別の戦地へと赴く。
 今までとは違い、今度は信頼する最高の相棒と共に。

113琴子:2011/02/23(水) 02:23:09 ID:hTHC6vM6
以上!
こんな展開なら原作でもありそうかなーって。笑
もちろん戦いが終わった後は上琴誕生を妄想ww
甘々な中に駄文シリアスものを失礼しました。

114■■■■:2011/02/23(水) 08:05:37 ID:IVTyIhss
>>113
かわいい〜!
こうして信頼してくれるっていいなぁ
上条さんはきっと無事に帰ってきてくれるって信じてます。

115■■■■:2011/02/23(水) 11:44:47 ID:UjUCDpX6
いいねェ

116■■■■:2011/02/23(水) 12:26:56 ID:5D9SOipw
>>113
GJで〜す。
ヤッパリ、シリアスあっての甘甘だよね。
今書いてるのがそっちに行ききれなかったんだけど、コリャ見直す必要があるな。
勇気を貰えた。ありがとう。

117■■■■:2011/02/23(水) 13:39:07 ID:qUIiZpaU
>>113
カッコ(・∀・)イイ!!

118■■■■:2011/02/23(水) 19:47:01 ID:rtK1wVe6
前スレ
上条当麻×御坂美琴 いちゃエロスレ2ふにゃー
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1279978000/

上条当麻×御坂美琴 いちゃエロスレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1274715048/


■関連スレ

【とある魔術の禁書目録】御坂美琴のバイオリンレッスン133
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1298297866/

【とある魔術の禁書目録】上条当麻のねんぷち20個目
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1298120628/


上条当麻×御坂美琴 専用雑談スレ 追いかけっこ3日目(感想スレ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1295697925/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part15
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1297888034/
とあるSSの禁書目録 PART10
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1296310055/
上条さんと○○のいちゃいちSS
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1269574273/
禁書でエロばなし
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1137215857/
【とある魔術の禁書目録】鎌池和馬総合 32フラグ目
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296966129/

119■■■■:2011/02/23(水) 19:47:28 ID:rtK1wVe6
しまった
誤爆

120ソーサ:2011/02/23(水) 20:23:14 ID:gu33wQKo
皆さんコメントありがとうございました
>>108 ほんとだ…指摘ありがとうごさいます!

琴子さんGJです!
シリアスもいいですね〜

>>119 ドンマイっすww

では小ネタですが投稿します
かぶらなければすぐにでも投稿させていただきます

121ソーサ:2011/02/23(水) 20:24:59 ID:gu33wQKo
タイトル「上琴VS通行止め」

・セブンスミストにて

上条「一方通行じゃないか、どうしたんだこんなとこで?」

一方「あァ?なンだ三下かよ…クソガキに買い物に付き合わされてンだよ。」

打ち「あー!お姉様もいるー!!2人はデート中?ってミサカはミサカは興味深々に聞いてみる!」

美琴「あら打ち止め久しぶりね!そうよデート中よ!ね、当麻♪」ギュッ!!

打ち「!?」

一方「…しばらく見ねェうちになんか超電磁砲の性格変わってねェか?」

上条「そうか?美琴は前からこんな性格だったと思うけど。」

一方「いや明らかに変わってンだろうがよ。」

打ち「というか2人は付き合ってたんだね!ってミサカはミサカは驚いてみたり!」

美琴「あれ?結構前から付き合ってたけど知らなかったの?」

一方「ああ…つーか以前のてめェらからは想像できねェよ。」

上条「まあ前はお互いうまく気持ちを伝えられなかったからな。」

美琴「今は以心伝心だけどね♪」

一方「(これはからかうチャンスじゃねェか…おいちょっと耳貸せェ)」ヒソヒソ

打ち「(なになに…ええー!?そんな大胆なことを!?ってあなたの計画に驚愕してみたり!)」ヒソヒソ

一方「(いいからうまくやれよォ)それにしても付き合ってるなんて信じられねェなァ。」

美琴「じゃあどうすりゃ信じるのよ。」

一方「そりゃキスの1つでもすりゃ信じンだがねェ。」ニヤニヤ

上条「なんだそんなことでいいのかよ。じゃあ場所移そうぜ。」

一方「おいおいどこ行こうってンだ?ここでやりゃいいじゃねェか。」ニヤニヤ

上琴「「!!?」」

上条「お、お前ここ店ん中だぞ!?しかもこんな人が多いとこで!?」

美琴「そうよ何考えてんの!?人がいなきゃいくらでもするけどここではちょっと…」

一方「(人がいなきゃすンのかよ…しかもいくらでもってよォ……どンだけバカップルだよ…)」

上条「それに打ち止めもいるだろ……ってどこいった?」

美琴「え?そういやさっきまでいたのに…」

一方「(今だベクトル操作ァ!)」バッ!!

美琴「?きゃ!」グンッ!

上条「お、おい!何して…」ドカッ!

打ち「どーん!!ってミサカはミサカは思いっきり体当たりしてみたり!」

美琴「へ?―――ん!?」チュ

上条「って打ち―――ん」ムニ

打ち「作戦大・成・功ー!!ってミサカはミサカは叫んでみたり!」

上琴「「な…なな…」」

一方「いやーこれで信じたぜェ。なンたってこンな人の多いとこでキスして胸まで触ったンだからなァ。」ニヤニヤ

ザワザワ…ネェイマノミタ?…ミタミタ!!

美琴「うえ!?今の見られて!?」

ザワザワ…アレトキワダイノセイフクダゾ!…アイテダレダヨ!!

上条「(手に柔らかい感触が…)視線が痛いんですが…」

打ち「2人はラブラブだね!ってミサカはミサカは茶化してしてみたり!」

一方「ンじゃ俺らは邪魔にならねェように帰るとするかァ。おい行くぞォ。」

打ち「じゃーねー2人とも!お幸せに!ってミサカはミサカは王道的なセリフを言ってみたり!」

上条「ちょっと待てコラー!!!!!……って美琴さん…なんか帯電してません!?」

美琴「見られ…見られた…?」ビリ

上条「お、落ち着け美琴!キスはいつもしてるだろ?それが人前なだけだ!胸もたまにさわ…」

美琴「ふにゃー」ビリビリ

上条「だあぁぁぁぁぁあ!!やっぱ漏電すんのかー!!!!!」


WINNER:通行止め

122ソーサ:2011/02/23(水) 20:27:48 ID:gu33wQKo
以上です!
VS一方通行&打ち止めはだいぶ前にリクエストをもらったんですが
バレンタインネタで忙しく今になってしまいました…

123■■■■:2011/02/23(水) 21:08:30 ID:XCIx6VZk
ソーサさん、GJ。
でも、上琴の逆襲が怖い。w

124■■■■:2011/02/23(水) 21:23:16 ID:TTyTomDE
一通さんやるな〜ていうかやばいな、ベクトルって凄いw

125琴子:2011/02/23(水) 22:37:24 ID:9/3AmT/E
ソーサさんGJです!
この対決シリーズ大好きなので、続きも楽しみにしてます♪
もちろん最終的に上琴が勝ちますよね?w

そして琴子の駄文読んで下さった皆様に感謝を☆

>>114
今回書くにあたり参考にしたのですが、13巻の上琴の信頼関係とかいいですよね☆
戦う場所は違っても心は繋がってる、みたいなw

>>115
ありがとォ!笑

>>116
勇気だなんてそんな嬉しいことをっ!?恐縮です!!
ss楽しみにしてますね♪

>>117
美琴って恋愛ヒロインと戦闘ヒーローの素質両方ありますよね(。・ω・。)ノ+゚

みなさん本当にありがとうございました☆

126コタケン:2011/02/23(水) 23:26:23 ID:tm4hdEnk
半年近くぶりに投稿したいと思いますね。
アニメⅡの1話の舞台裏の小ネタです。

127Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:27:06 ID:tm4hdEnk
「あぁっ! もうっ! いったいどこを探せばいいんだよっ?!」
上条当麻は居候の白いシスターを求めて、夜の学園都市を疾走していた。
8月31日。
ファミレスで夏休みの宿題と格闘していた上条は、突如現れたゴリラのような魔術師にインデックスをさらわれた。
もうすぐ日が変わって2学期が始まる。
宿題はいまだにほとんど手つかずのままだ。
といってもインデックスとあのロリコン魔術師がどこにいるのか、皆目見当もつきやしない。
インデックスの飼い猫、スフィンクスもまったくの役立たず。猫の手も借りたい状況で、いつものごとく上条当麻は

まったくの孤立無援であった。
無人の学園都市の闇を走って走って走ってはしって・・・・・・
歩道橋の階段を駆け上がったところで、
「にょわぁっ!?」
妙にかわいらしい奇声をあげる通行人にぶつかりそうになってたたらを踏んだ。
「わ、わりぃっ!・・・・・・ってあれ? 御坂??」
「・・・・・・ふぇ?」
すんでのところで衝突を回避した通行人はどこぞのよく知る女子中学生で、詳しく言えば学園都市に7人しかいない

レベル5のうちの第三位、品行方正なるお嬢様中学のトンデモエース、超電磁砲の異名をもつ御坂美琴ご本人であっ

た。
その事実をコンマ2秒で確認したところで、
「悪ぃ御坂! 上条さんは急いでいるのでまた今度!」
猛ダッシュで離脱した。
とにかく今はロリコン魔術師にかっさらわれたインデックスの救助が心配だ・・・・・・とギアをトップレベルに入れた全

力疾走を再開し、地べたにこびりついたガムを掃除しているロボットを追い抜いたところで

128Mattari:2011/02/23(水) 23:27:18 ID:XCIx6VZk
お世話になっております。Mattariです。
返事が遅れまして申し訳ありません。マジでリアルが忙しくって……。
その上執筆も進まなくって……マジで落ち込んでたりします。

>>27
エロくなかったですか?
それでは次は……。w

>>28
当麻君はかなり大変でしょうね。w
その辺りも含めて、今構想中ですが……。
すすまなーい。(T.T)

>>30−32
ありがとうございます。
気に入って戴けて何よりです。
首根っこの親属性ですか……。
考えないとイカンな……コリャ。σ(^◇^;)

129Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:27:31 ID:tm4hdEnk

ズドン!!

と単価120万円を誇るお掃除ロボが突然爆散した。
爆風と爆煙と爆音とちょっぴり漂う焦げ臭さに、上条は思わずその場にヒザをついてしまう。
「ちょろっとーアンタ。人にぶつかりそうになっておきながらトンズラしようとしてるんじゃないわよ」
・・・・・・と、お掃除ロボを電撃の槍でド派手に破壊した品行方正なる(はずの)お嬢様は道でうずくまる少年に悠々と

追いついた。
「ったく散々人のこと無視してくれちゃって・・・・・・ってなんで泣きそうになってんのよアンタは??」
「急いでるんだよ! 夏休みの宿題とかファミレスの食い逃げとか人さらいとか! それで?! いったい上条さん

に何の用なんでせうか!?」
「ひ、ひゃぁっ?!」
美琴のまつげの本数まで数えられる距離まで上条は一気に距離を詰めると、そのお嬢様は
「〜〜っ!?!? きっ、きゃあぁぁっ!!!」
どっこぉぅむっっ!!
あろうことかなんとも壮絶な効果音とともに、右アッパーを上条のどてっ腹にたたき込んだ!
なにげに捻りこみを加えたストレートのため、地味にダメージが倍増している。
効果は抜群だ!
どごっしゃぁぁぁっ!!!
これまた聞いた者が身震いするような凄まじい音を立て、上条当麻は悲鳴のひとつもあげるマもなく、学園都市の冷

たい歩道にその身を投げ出した。
「あ、あれ?」
思わず口より先に手がでてしまった美琴は、愕然とした表情で目の前に横たわる少年に目を向ける。
ときおりヒクヒクと不気味に痙攣していて、誰がみてもヤバい状況だ。
(や・・・・・・やってしまった! ついうっかりちゃっかりやってしまったっ!!)
パニックに陥りかけながらも目の前の少年を抱き起こそうとしたところで、

130Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:28:14 ID:tm4hdEnk

「カットカットォォォッ!!!!!」

学園都市最強のレベル5の怒声が現場に響きわたった。

「なンだなンだなンですかァ? いつからレベル5の第3位は言われた簡単な演技もこなせない大根役者に落ちぶれ

たンですかァ?」
振り返ると、アクセラレータがパイプ椅子にふんぞり返り、いい感じのいらいら感を隠しもせずに台本を丸めて首の

チョーカーを叩いていた。
「何回やっても脚本通りに進まないこのもどかしさ、流石のミサカもうんざりです、とミサカはカメラをいったんス

トップさせます」
「ぁあ〜もぅ美琴ちゃんったら真っ赤になっちゃって可愛い〜! くはぁ〜っ!・・・・・・写メ写メ」
「・・・・・・くぅ(スヤスヤ)」
カメラに音響、照明担当はシスターズ、美鈴さんは今回ただの野次馬だ。最後の寝息はラストオーダーであった。
「アニメ2期の記念すべき1話の撮影だッてェのに、さっきからこのシーンより先にぜんぜん進まねェじゃねェかよ

ォ・・・・・・いったい何回取り直させりゃ気が済むンですかァ!!?」
「すでに取り直しは3桁の大台に乗りそうです。このまま朝日が昇ってしまえば撮影の続行は不可能になります、と

ミサカはあくびをかみ殺しながら目をしょぼしょぼこすります」
いいかげん撮影スタッフの集中力は限界であった。
美鈴「美琴ちゃんったら照れるのは可愛いんだけど、あんまり彼氏に愛の鞭でシバきまくってたら愛想尽かされちゃ

うぞ♪」
「いやまだ彼氏じゃないから・・・・・・ってそうじゃない! アンタもアンタでなに人の母に膝枕なんてされてるのよー

っ?!」
レバーへの直撃をはじめとして全身にダメージが蓄積した上条は、美鈴の太ももを枕にその身をぐったりと横たえて

いた。

131Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:28:39 ID:tm4hdEnk
美琴に反論する気力も残っていないようで、後頭部の感触を楽しむ余裕などこれっぽちも残っていないのがこの少年

の不幸である。
とはいえ目と鼻の先に迫る2つのたわわに実った果実にトキメクくらいには徐々に余裕を取り戻しつつある純情少年

であった。
「美琴ちゃん、押してダメだからって押し倒してばっかりじゃぁ、男の子は逃げちゃうぞー」
「で、でもでも! こいつときたらほかの女に色目ばかりつかいまくってて・・・・・・」
「相手がこちらにすり寄ってくるのを気長に待って、そっと抱きしめちゃうくらいの余裕をみせてみなさい

な。・・・・・・照れ隠しの美琴ちゃんもかわいいけれど、自分の本当の気持ちには素直にならなくちゃ」
「わっ私は別に裏表のある性格じゃないっつーのに・・・・・・こいつのときだけ何故か調子狂わされるだけなんだってば

!」
ふにゃーっ!とかなんとか言いつつ先ほどからバチバチ漏電している美琴に、いまだ指一本動かない上条はガクガク

ブルブルしっぱなしであった。
母性本能全開の美鈴が両手でぎゅっと上条の頭を抱きかかえると、体勢がより密着することになった。
ちなみに上条にとって、先ほどから聞こえてくる会話の意味はいまひとつわからない。
「〜〜ってだからそうじゃないわよ! アンタも馬鹿みたいに鼻の下なんかのばしてんじゃないっての!!・・・・・・て

か男の人ってホントに伸びるんだ・・・・・・」
「・・・・・・おい盛り上がってるとこ悪ィが、気にするとこはそこじゃねぇンじゃねぇのか? 第三位さんよォ?」
「うぅ・・・・・・」
「頼むぜ三下よォ。なんとか今晩中にこのシーンは撮り終えねェと、関係者の皆さんにどやされるってのに

よォ・・・・・・もうあんなに頭を下げるのはコリゴリだ。・・・・・・ちちくり合うのも大概にしろっての」
「にゅぅぅぅ・・・・・・」
「おい一方通行、あんまり美琴をいぢめんなよ」
「チッ・・・・・・カントクと言えカントクとよォ」
上条は生まれたての子鹿のようなおぼつかなさでヨロヨロと立ち上がると、
「なぁおい御坂、おまえ本当に大丈夫か? やっぱりどこか具合が悪いんだろ?」
「だっ、大丈夫に決まってるじゃない! 次こそ素敵に華麗にキめてやるわよ!?」
「でも顔がさっきから真っ赤じゃねえか。熱があるんじゃねーのか」
「えぇい、うるさいうるさーい! さりげなく人のおでこに手を当てようとするにゃ顔も近い!」
「ちょっなにもそんなに首をぶんぶん振らなくても。おい目が回ってねーか」

132Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:29:09 ID:tm4hdEnk
(なによバカ・・・・・・自分だってこんなにボロボロなのに人の心配しちゃってさ・・・・・・)
上条がボロボロなのは100%美琴が悪いのだが、心のどこかで美琴は沸き上がる歓喜を認めざるをえなかった。
しかしこれ以上自分のせいでみんなに迷惑はかけられない。
上条だってカラカラに乾いた気力という名のボロ雑巾を絞りに絞って立っているはずなのだ。
この少年に幻滅されたくない。絶対に。
美琴はほっぺたをパンパンッと両手で叩いて気合いを入れると、美琴は腕を組んで仁王立ちする。
「みんなごめん! 私は大丈夫だから次で終わりにしてみせるわ!」
瞬間、撮影現場の空気が確かに変わった。
常盤台の超電磁砲、学園都市最強のレベル5、顔を上げた美琴はいつも通りの凛々しさだった。

133Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:29:34 ID:tm4hdEnk


「どっかの大根役者サンがブッ壊しまくった掃除ロボの在庫はもうゼロなンだ。仕方がねェから次のシーンからいく

ぞ」
「それではええっと、何回目だったでしたか・・・・・・数えるのもうめんどいぜとミサカは投げやりにカチンコを鳴らし

ます。はいスタート」
(いやもう今回ばかりは失敗するわけにはいかない!)
昼間の工事現場での、上条とニセ海原とのやりとりが脳裏に浮かぶ。なぜか胸が痛みながらも、必死に頭の中から排

除する。
「あぁもぅ、夏休みの宿題とか人さらいとか!」
撮影のための演技に必要なものまで、頭の中から押し出してしまいそうになる心を、美琴は必死に制御を試みる。
「それで!? いったいなんの用なんでせうか?!」
トリップ状態で頭の中が真っ白な美琴の脳裏に、母の言葉がなぜかフラッシュバックする。
(自分の気持ちに素直に、スナオに、すなおに・・・・・・)
上条の顔がアップで目の前に迫る。
(あああああもうなにもわかんなくなる・・・・・・)

混乱の極みに陥り、ふにゃふにゃぐるぐると目を回す美琴は潤んだ瞳を閉じると、迫りくる上条にそっとその身を差

し出した。
「「っっっ!!!???」」
時間が止まる。何も聞こえない。
傍目から見れば重なっているかのぎりぎりの位置で。それでも確かに触れあった唇からは、目の前の少年の温もりが

伝わってくる。
上条当麻の感情が、直接伝わってくる。これまでに無いほど近い距離で。
そっと触れあうだけの、初めてのキス。
レベル5の超電磁砲だとか常盤台の電撃姫など、この瞬間だけは何の意味もない。
もう何もいらない。
ずっとずっと、いつまでもこうしていたい。

134Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:30:35 ID:tm4hdEnk

「・・・・・・・・・・・・おィ、そこのバカップルどもよォォォォォ・・・・・・・・・・・・」

よけいな音だし厳禁のロケ現場の空気が一方通行の一声で木っ端みじんに砕け散った。
「あーこれは放映出来ませんねーとミサカは・・・・・・ミサカ・・・・・・は・・・・・・ぐすっ」
「よけい悪化してるじゃねェかよおィィィィッ??!!」
「・・・・・・ふにゃぅぅぅぅ・・・・・・」
「・・・・・・はっ?! おい美琴ビリビリでてるぞ! ここで漏電するなよ高価な撮影機材が壊れるだろうがー!!」

まだまだ長い夜になりそうであった。

(挿絵)
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/5a/19fe3d8a6d185305b5bad469a85a3af4.jpg

135Ⅱ 1話舞台裏:2011/02/23(水) 23:30:53 ID:tm4hdEnk

「・・・・・・はい、カット! オーケーでェす!」

その後も性懲りもなく繰り返される怒濤の取り直しラッシュの後、ようやく一方通行、もとい監督のオーケーが言い

渡された。
これでようやく仮眠をとれると、現場スタッフ一同の緊張の糸がプッツンと途切れる。路上にひっくり返る者もいる

。そんなゆるみきった空気の中、
「す、すみません、と、ミサカは・・・・・・」
「「?」」
どんな状況でも冷静かつクールな御坂妹が、珍しくおそるおそる手を挙げた。
ひたいに汗が浮かんでいるように見えるのは気のせいか。
その場の面々はいぶかしみながらもカメラマンを振り返る。
「カメラのメモリ容量がいっぱいで、さっきのシーンは保存されませんでした、とミサカはドキドキしながらも状況

を冷静に報告してみます」
「「んなっ・・・・・・なんですとぉぉぉっ!!!???」」
とある魔術の禁書目録Ⅱの役者と撮影スタッフの、やけにハイテンションな悲鳴と怒号が交差する。

東の空は、うっすらと茜色に染まりつつあった。

今日も平和な学園都市の一日が始まる。

136コタケン:2011/02/23(水) 23:34:05 ID:tm4hdEnk
以上です。
アニメⅡの1話が放映されたときに、一気に8割がた完成させていたので、
いまさら感がハンパないですね!
正直読み直してみてもグダグダしてるなーとは思いましたが、
もったいないお化けが出てきそうなので投稿させていただきました。
もうさっさとこの2人結婚するといいよ!

去年の7月から書いてる長編もあるので、3月中に(できれば新約が出る前に)完成させたいなぁ・・・。

どうもありがとうございました。

137■■■■:2011/02/23(水) 23:35:36 ID:OlY2shKI
テンプレ読んでくださいな。

138■■■■:2011/02/23(水) 23:38:09 ID:tm4hdEnk
sage無しで失礼しました。

139■■■■:2011/02/23(水) 23:43:11 ID:XCIx6VZk
レスが重なってしまい、申し訳ありません。
リロードしたはずなのですが……。<(_ _)>

140■■■■:2011/02/23(水) 23:48:02 ID:tm4hdEnk
いえいえ気にしてませんよー。
sage忘れは多分はじめてかもですが、他にも何かテンプレ見逃してそうな・・・

141■■■■:2011/02/24(木) 02:37:46 ID:E0kzMS6M
てか挿絵いいなw


142■■■■:2011/02/24(木) 10:22:51 ID:rTntvFPQ
コタケンさんてあのコタケンさんだったのか。同名の他人だと思っとった。

>「・・・・・・くぅ(スヤスヤ)」
>カメラに音響、照明担当はシスターズ、美鈴さんは今回ただの野次馬だ。最後の寝息はラストオーダーであった。

上琴の感想じゃないけど、このシーン想像したらなんか泣きそうになった
原作じゃ絶対にこのシーンは見れないんだろうなぁ
妹達が御坂家に受け入れられれば良いんだけど…
まぁ美鈴さんのポジ次第ですね。

143■■■■:2011/02/24(木) 11:29:11 ID:iFGd1G6c
ほのぼのでいいな

144■■■■:2011/02/24(木) 13:42:57 ID:lJ6T46dw
gj。挿絵もいい

145ソーサ:2011/02/24(木) 20:13:40 ID:LHcMBLiY
>>123
>>124
コメントありがとうございました!

琴子さん
ありがとうございます!
勝つかどうかはお楽しみに(笑)

コタケンさんGJです!
挿絵すごいですね〜
長編も頑張ってください^^

今日も小ネタです
誰もいないようでしたらすぐにでも投稿させていただきます

146ソーサ:2011/02/24(木) 20:15:43 ID:LHcMBLiY
タイトル「上琴VS木山」

・とある夏のある日

美琴「へ〜今はあの子たちのためにそんな研究してるんだ。」

木山「ああ、君があの時助けてくれたからこそ今の研究ができているんだがね。」

上条「あの時ってやたら地震が起きたときですよね?美琴からいろいろ聞いてますよ。」

美琴「“ポルターガイスト”ね。まあすべて無事に終わったからいいじゃない。」

木山「本当、君には感謝してもしきれんよ…それにしても…」バサッ

上琴「「え!?」」

木山「やはり外は暑いな…」

美琴「だ〜か〜ら〜…脱ぐなって言ってんでしょうが!!」

木山「ああ…すまんね、これだけは治らなくて…」バッ(服着た)

美琴「いや治るとかじゃないでしょ!当麻も……ってあれ?」

上条「ん?なんだよ?」

美琴「全く見てないのが以外で…てっきり前みたいに手で目を隠すふりして指の間から覗いてるのかと…」

上条「おいおい、紳士上条さんがいつそんなことしたんだよ。」

美琴「駐車場探してたとき。」

上条「……あの時はまあ…な。でも今の俺は美琴一筋だぞ?美琴以外の女の人の下着姿なんて興味ないよ。」

美琴「…じゃあ私の下着姿には…興味あるってこと?///」

上条「!!?…………まあ…ある……かな…?///」

美琴「!!えへへ〜と〜う〜まぁ〜♪……ってそこ!!なんでまた脱いでんのよ!!」

木山「いや…君らのせいだよ…。」

美琴「?どういうことよ。」

木山「…わからなければ別にいいよ。じゃあ私はまだ研究があるから帰らせてもらうよ。」

美琴「そうなの?引き止めて悪かったわね。」

木山「気にすることはないよ…(君の恥ずかしがる顔でも見れるかと思ったのだがね…)」

上条「研究頑張ってくださいね。」

木山「ああ、じゃあまた…(アツアツだったな…あの辺り一帯の気温が上がったように感じたよ…)」


WINNER:上琴

147ソーサ:2011/02/24(木) 20:20:15 ID:LHcMBLiY
以上です!
また何かでき次第投稿させていただきます^^

148■■■■:2011/02/24(木) 20:48:09 ID:NVgIhyrc
書き手の皆さんGJです
ここに書き込むのは初めてですが、この浪人中の1年間で辛い時はここのSSを見て明るく楽しい気持ちにさせてもらっていました。
いよいよ明日は本命である京都大学の入試です。
すべての書き手さんたちのおかげでここまで頑張ってこられました。感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました。
では次に来る時は書き手として戻ってきます。
そのときは拙い作品でしょうが、是非読んでやってください

149■■■■:2011/02/24(木) 20:58:01 ID:YahcRr36
>>148
頑張れ。作品も待ってる。

150■■■■:2011/02/24(木) 23:10:31 ID:t3y2auhY
>>147
GJ

151ぬこぬこ教信者:2011/02/24(木) 23:58:02 ID:CWlZ0zsQ
とっても楽しめましたGJですよーだ

152■■■■:2011/02/25(金) 00:25:25 ID:Jv69vAgQ
>>147
おもしろかったです。また書いてくださいb

153■■■■:2011/02/25(金) 00:33:40 ID:BqCMTf9M
とりあえず皆テンプレ読んでsageようぜ

154琴子:2011/02/25(金) 01:34:11 ID:y7yFlc7U
>>148さんへ応援の気持ちを込めて受験ネタをw

小ネタ:上条さんが大学受験に挑みます☆


「当麻っ!!」
「あ、美琴……わざわざ会場まで応援に来てくれたのか?」
「当たり前でしょ。誰がアンタの受験勉強手伝ったと思ってんの? 美琴センセーとしても応援に来るのは当たり前よ。それに……」
「それに?」
「当麻の彼女としても、彼氏の人生にかかわる大切な受験を応援するのは当たり前でしょ」テレテレ
「ああ……そ、そうだな」カァ//
「自分に自信持って頑張ってきなさい。アンタは十分頑張ったわ。今日はその努力が実る日よ。自分を信じて、いってらっしゃい!」
「わかった! ありがとな美琴。いってくるよ」
「あ、ちょっと待って!!」アセアセ
「……ん?」ナンダナンダ
「お、お守りがまだ……」チュ!
「!!」
「私からのお守りね♪」カァ///
「お、おう」カァ///
「じゃあ、いってらっしゃい。鍵は郵便受けでしょ? 夕飯作って待ってるからね」ニコッ
「ああ。いってくる!」ニカッ


以上w
お粗末さまでしたー!!

155■■■■:2011/02/25(金) 08:40:22 ID:W5oko9J.
>>154
GJ!


兄妹パラレルあるなら年齢逆転パラレルもありだよな…

156■■■■:2011/02/25(金) 08:40:32 ID:W5oko9J.
>>154
GJ!


兄妹パラレルあるなら年齢逆転パラレルもありだよな…

157■■■■:2011/02/25(金) 08:50:37 ID:W5oko9J.
oh…2回も書いてしまった…

158■■■■:2011/02/25(金) 08:51:23 ID:XBdmlIzM
大事なことなんですね。分かります。
勿論有だろ。

159■■■■:2011/02/25(金) 16:12:29 ID:Z3R2clxM
ソーサさん、GJです。
木山先生とは……意表を突かれました。

琴子さん、GJです。
合格発表はどうなるんでしょう?w

それにしても、小ネタが書けないんだよな……なぜ?

160:2011/02/25(金) 19:27:54 ID:ovP71KM2
こんばんは。
新約の発売が近付いてますが、新作の長編の投下したいと思います。
冒頭はバレンタインネタと似てますが、悪しからずw
シリーズ全体を通してシリアスになる予定なので、苦手な人はスルーを。

では約5分後に6レス投下。

161【Presented to you】―promise―(1):2011/02/25(金) 19:31:09 ID:ovP71KM2
『御坂美琴と、その周りの世界を守る』

 8月31日夏休み最後の日。
 上条当麻は、ある男とそう約束を交わした。
 それはその約束の根幹をなす人物、御坂美琴と面向かって交わされたものではない。
 彼女が全く関与していない中で、交わされた約束。

(今でも、アンタがちゃんとそう言ったこと……はっきり覚えてるのよ…?)

 しかしその約束が交わされた瞬間を、美琴は確かにその耳で聞き取っていた。
 上条に恐らくその気はないだろうが、それはもう美琴本人にも交わしたと言ってもいい。
 にもかかわらず、その約束を交わした上条当麻本人は、あの日以来、美琴の前から完全に姿を消した。

(私には、アンタが側にいてくれる。ただそれだけでよかったのにな…)



【Presented to you】―promise―



 11月30日、17時頃、とある鉄橋

 二週間前、第三次世界大戦で開催が危ぶまれていた一端覧祭は、若干の延期などがあったものの無事に開催され、そして一週間ほど前に終幕を迎える。
 約一ヶ月前、第三次世界大戦の終結という緊迫した状況下から解放され、その解放された雰囲気の中で一端覧祭の開催の影響のためか、開催前の鬱憤を晴らさんばかりに、今年の一端覧祭は例年にないほどの盛り上がりを見せた。
 例年にないような気合いの入った出し物、その出し物を心の底からの笑顔で楽しむ学生達、ナイトパレードの派手さも一層の磨きがかかっていた。
 そしてその一端覧祭の熱は一週間では冷めることはなく、一端覧祭で終わってもなお、依然と浮き足立っていた学園都市全体だったが、それも一週間経って漸く収まりつつある状況にあった。

「…………」

 しかしその状況の中、一端覧祭の影響による熱が冷めてブルーになっている者とは違う方向で、悲しみに暮れている者がいた。
 学園都市第三位、御坂美琴。
 彼女は8月のとある日、“彼”によって絶望の淵から救い出された、ある意味思い出の場所と言えるこの場所で、一人佇んでいた。

「………なんで」

 彼女の悩みの種、それは他でもない、ある日を境に、彼女の想い人となってしまった、上条当麻のことについて。
 一端覧祭終わってから、いや、一ヶ月前のあの日以来、美琴は毎日毎日彼のことばかりを考えている。
 別に、美琴と上条との間にケンカなどのような諍いがあったわけではない。
 むしろ、恐らくそのようなことできる状況ならば、断然そちらのほうがましと言えるだろう。
 彼は、上条当麻はまだ一ヶ月前のあの日以来、学園都市に依然として姿を見せていなかった。
 あれから、ずっとだ。
 だからこそ、喧嘩などできるような状況であるなら、それは最早幸せと言えるかもしれない。
 たとえ彼といがみ合うようなことがあっても、たとえ彼に嫌われるようなことが起きてしまったとしても、彼がいなくなるよりは断然良い。
 もしいがみ合う、嫌われることがあっても、少なくともそれはまだ仲直りという選択が残されている。
 まして、絶対に会えないなどということはまず有り得ないのだ。

「どうしてよ…!」

 だがしかし彼がいないのでは、まるで意味がないのだ。
 彼がいないのでは、仲直りもへったくれもなく、そもそも会えないのだから。
 今なら美琴は言できる。
 彼は自分にとって、最早不可欠の存在。
 彼がいない、彼に会えない今のこの日々がひたすらに苦しい。
 彼の笑顔が見たい、彼の声が聞きたい、彼ともっと話がしたい、もっと触れたい、もっと彼という存在を側で感じていたい、もっと、もっと…
 ここまで思わせるほど、美琴の中の上条の存在は、もう計り知れないものとなってしまっていた。

162【Presented to you】―promise―(2):2011/02/25(金) 19:31:31 ID:ovP71KM2

「でも…」

 だがしかし、少なくとも今のままではダメなのだ。
 例え自分の感情をちゃんと認められるようになったとしても、例えどんなに強く相手を想えるようになったとしても、

(アンタがいないんじゃ、まるで意味がないじゃない…!)

 今のままでは、全てが無駄になってしまう。
 せっかく自分がこう思えるようになったのに、その想いを伝えるべき相手である肝心の彼がいなくては、意味がない。
 無論、もし彼が目の前に現れたとしても、すぐに自分の素直な気持ちを素直に伝えられるかどうかというのは全く別の問題ではある。
 これだけの強い想いを抱えていても、いざ彼の前に立ってみれば、全く思ってもみないことを言ってしまうかもしれない、ちゃんと想いを告げられないかもしれない。
 事実、今までがそうであった。
 美琴自身の本心は棚にあげ、自身の体裁を優先し、理不尽とも言える言動や態度の数々、ずっと素直になれないでいた。
 そんな肝心な時に素直になれない性格を、美琴は本当に恨めしく思っている。
 それでもやはり、彼がちゃんと学園都市にいるのであれば、自身の想いを伝えられるチャンスは少なからずやってくる可能性は大いに有り得るのだ。
 いなければ、そんなものは永遠にやってこないだろう。
 今彼が一体どこで、誰と、どうやって過ごしているのかは、美琴は全くわからない。
 いや、そもそもちゃんと生きているのかどうかさえ、わからない。
 誰かに見つけられていたらまだいいが、今もまだ冷たい海のどこかで沈んでいるかもしれない。
 運良く生きていたとしても、今後学園都市に帰ってこないかもしれない。
 それらの根本的なことさえわからないこの状況の中で、美琴はこの一ヶ月の日々を、その心配で神経をすり減らし続けてきた。
 手がかりは、彼が消えたあの日に北極海沿岸で拾ったゲコ太ストラップ。
 それは9月30日に二人で手に入れた記念のストラップ。
 これが意味するものは、彼の生か、死か。
 とにかく美琴は、これが彼の遺留品にならないことだけをひたすらに願う。
 初めて経験した、自覚したこの大きすぎる感情が、無為に終わるのはあまりに哀しすぎる。
 せめて、思いの丈を伝えたい。
 というより、彼としたいことはまだまだ山ほどあるのだ。
 それが成されないまま終わっていくのは、許さない。

(いい加減、帰ってきなさいよ……あのばか…)

 考えれば、ロシアでのあの出来事からはまだ1ヶ月ほどしか経っていない。
 たった1ヶ月、しかし美琴にはその1ヶ月が恐ろしく長く感じられた。
 それこそ、年単位で昔のことのような。
 この1ヶ月では彼のことを嫌というほど考えさせられ、美琴は自身の今までの感情を整理した。
 だからこそ、ちゃんと気持ちを整理できたからこそ、彼に会いたいという気持ちは日に日に積もり、強まっていく。
 それが結果として美琴に毎日を長く感じさせ、時の流れが遅く感じさせていた。

(アンタがいなかったら、誰が私を守ってくれるの…?アンタは私を守ってくれるんじゃなかったの…?)

 思い出されるのは、一つの約束。

(私には、アンタが側にいてくれる。ただそれだけでよかったのにな…)

 上条は美琴を、常盤台中学に通うお嬢様、それも学園都市に7人しかいない超能力者の第三位などという看板を全て無視し、一人の普通の女の子として美琴と対等に接することができる唯一の人物。
 彼という人物に出逢ってからの生活の楽しさ、充実感は、以前のそれとは比べることなどできないだろう。
 だからこそ美琴は思う。
 上条当麻がいてくれれば、それで、それだけでいい、と。

163【Presented to you】―promise―(3):2011/02/25(金) 19:31:54 ID:ovP71KM2

「……少し、冷えてきたかな」

 今日は11月30日。
 普通に考えて、昼間でさえ気温はもう完全に冬のそれに近いと言ってもいい。
 しかも、今はその昼間ではなく日没後である。
 さらに加えると、美琴の立つ場所は川の上に造られた鉄橋。
 高さはそれなりにあり、吹き抜ける風は否応なしに彼女の頬に切り裂くような痛みをもたらす。
 気づけば、気温はまだ普通に過ごせていた昼間のそれよりも、断然に寒い。
 生体電気を操っての体温調節など美琴には容易いことなのだが、ずっとそれを持続するのは流石に疲れる。
 能力とて、無限に行使できるわけではないのだ。

(星は、見えないか…)

 美琴はふと、空を見上げた。
 辺りは既に暗く、季節的にも空気は澄んでおり、いつもならば見えていてもおかしくないかもしれない。
 だが今日の天気は晴天とは言い難く、晴れない彼女の心を映し出すかのように、空は曇り、月や星は雲によってその姿を露わにしてない。
 その影響からか、美琴の辺りは普段のこの時間、この場所と比べても薄暗い。
 ここら一帯を照らすものは本来月の光や人工の光なのだが、彼女がたつ場所は鉄橋のほぼ真ん中。
 そして今日は生憎の曇天。
 今の美琴の周りは、両岸からの人工の光で薄く照らされているだけ。

(あいつは、また私が死のうとしてたら……来て、くれるかな…?)

 あまりの自分の彼への想いの強さから、そんな考えすら頭をよぎった。
 以前もこの場所で、同じようなことを考えていたら、考えられないタイミングで彼は自分の目の前に現れた。
 しかもその後日、私を守るという約束もしていた。
 ならば…、と思ったのも束の間。
 あの時と今では、絶対的に状況が違う。
 学園都市に、いるかいないか。
 いないのでは助けにこようにも、物理的に不可能。
 しかも、かつて彼に本当に命懸けで救われたこの命、簡単にまた捨てていいような代物ではない。
 一時の考えでやっていいはずもなく、それぐらいのことは美琴も百も承知。

「そろそろ、帰ろっかな…」

 ここ一ヶ月、美琴は気の済むまで一人で外をぶらつくことが日課となっている。
 ぶらつくと言っても、行き先はほぼ限られており、その行き先は決まって上条との思い出場所。
 こんなところにも、彼の面影を求めている自分。
 彼と会う前なら、とても考えられなかった自分。

(なんだかなぁ……なんか、弱くなっちゃったみたいな気がして、嫌だな)

 この感情は、意中の人に会えないとイライラしたり、よくわからない不安に駆られたりで、胸がしめつけられるような感触に襲われる。
 なる前と比べて随分迷惑している時も多々あった。
 しかし逆に、いざ自分の欲求が満たされると、何とも言えない心地よさで満たされる。
 その心地よさのあまり、漏電してしまうなどの問題が出てきたりもするわけだが…
 それはまだ許容範囲内と言える。
 重要なのは、彼と一緒にいることが、美琴にとって一番居心地が良いと思えること。
 それ以外の障害など、切って捨てられる。

「……帰ろ」

 美琴は止めていた歩みを再度進める。
 その行き先はもちろん、美琴の住まいである、常盤台女子寮。
 この場所は一人になれて、しかも彼との思い出でいっぱいの場所。
 彼がいない今では、時間をつぶすのに最適の場所と言える。
 なので今日に限らず、これまでの放課後の時間の大半を過ごしてきたこの場所を離れるのは少し名残惜しいが、また明日こればいい。
 最近は気温も低くなってきたためあまり長い間いることはできないが、それでも来たいとは思う。
 美琴は、今日も今までの上条とのやりとりを脳裏に浮かべながら、帰路についた。

164【Presented to you】―promise―(4):2011/02/25(金) 19:32:18 ID:ovP71KM2

 同日18時、常盤台女子寮

「ただいま……ってあれ…?黒子いないのか…」

 結局美琴はあの後真っ直ぐ帰ることはなく、彼がよく現れていた自販機前、スーパーなどなど、ぶらぶらと寄り道をしながら今ようやく寮へと着いた。
 しかしいつもならば、帰宅した美琴を嬉々として迎えるルームメイトの姿が見当たらない。
 今年は例年なく盛り上がった一端覧祭の影響で、騒ぎやらが多くなると予想されていたのだが、実際はそういった傾向は見られず、今のところは平和そのもの。
 戦争が起きたからという事も少なからずは絡んでいるのではないか、と評する者もいる。
 なので、今の学園都市がそのような状況であることもあり、風紀委員がさして忙しいということは特に美琴は聞いていない。

「……まあ、いくら黒子でもそれなりの付き合いはあるか」

 美琴は、第三次世界大戦の折りに学校に無断でロシアに渡った事が原因で、一端覧祭まで謹慎をくらい、今も罰として他の者達より門限を早められている。
 その影響と言ってはなんだが、ロシアから帰ってきてからは学校関係者とルームメイトの黒子としかまとも顔を合わせていない。
 しかしだからと言って、別にそれに関しては美琴にとってはそこまでの問題ではない。
 もし出歩けたとしても、今と同様に当てもなく彼を求めて外をふらつくだけ。
 謹慎はこれまでの出来事を整理するにはいい機会だったかもしれない。

「一人、か…」

 今寮の一室は確かに美琴一人しかいない。
 だが、美琴の呟いた一人とは、それだけの意味とは少しだけ異なる。
 今美琴は、例えいつどこで何をしていても、一人であるように感じる。
 実際に一人だけの時間は圧倒的に多いのだが、それは違うのだ。
 それは、美琴を対等に扱う人間がいなくなったという意味での、一人。
 学園都市に帰ってきてから、学校で周りを他の生徒達に囲まれても、一端覧祭をいつもの4人でまわっていた時も、一人であるということが美琴の頭から離れない。
 皆が皆、自分との間にどこかここまでという一線を引いているように感じる。
 それでも、美琴の力になれるからと主張するかのように、毎日美琴を慰め、元気づけようとしてくれている黒子にいたっては、少し違う。
 実際、彼女の励ましに美琴は何度か力をもらった。
 ふさぎ込んでいた美琴を、また立ち上がらせた。
 無論、その彼女でさえ戦時中の時のことについてはあまり詳細には話していない。
 だがそれも彼女は、変に詳しい事情を勘ぐったりもせず、ほぼいつも通りに接してきてくれる。
 勘の良い彼女のことだ、恐らく全てとは言わずとも、なんとなくの事情は気づいているのかもしれない。
 そういう意味で、黒子の存在は今の美琴にとっては有り難いものだった。
 だからこそ、寮内でも一人でいるのは少し寂しいものがある。

「夕食の時間は、まだ先か……寝てようかな…」

 起きていてもこれといってやることは特に思いつかない。
 ただただ呆然と時を過ごすのも悪くはないが、それにしては時間が長すぎる。
 あまり時間が長すぎると、思考が負の連鎖に陥ってしまうからだ。
 あの日、あの時、あの場所で、もし自分が…

(やめよう…)

 美琴は働きかけた思考を止め、腰掛けていたベッドに横になり、それに応じてギシギシとベッドは小さく悲鳴をあげながらも、美琴の身体を優しく受け止める。
 この身体を受け止めてくれるものが、彼だったらどれだけいいか。
 そんな馬鹿げたことをうっすらと考えながら、美琴は次第に訪れてきた微睡みに身を任せ、ゆっくりと瞼を閉じた。

165【Presented to you】―promise―(5):2011/02/25(金) 19:32:51 ID:ovP71KM2

「―――あれ?」

 美琴が目を開くと、そこは先ほどまで自分がいた場所とは全く異なった風景。
 そこは暖房器具で暖められた暖かい部屋の一室ではなく、凍てつく風が頬を容赦なく切り裂いていく空の上。
 眼下にはひたすらに真っ白い大地がただただ広がっており、足元はちゃんとした床や地面ではなく、飛行中でやや不安定なVTOL機の主翼。
 どこかで見たことのある風景、シチュエーションだった。

(これって、あの時の…?)

 美琴は記憶を探っていき、今のこの状況と似た状況がなかったかを検索にかける。
 そして弾き出された回答は、忘れもしない、ロシアでのある出来事の状況。
 そう、ここはロシア上空1万メートルを越す場所。
 美琴の目の前には、どういう理屈で浮かんでいるのか彼女にはさっぱりわからないが、とにかく巨大な空中要塞。
 さらには、こちらをやや困惑気味な表情で見つめる、ツンツン頭の―――

(そうだ……私アイツを助けないと…!)
 美琴は自身があの時ここにいた理由、そこまでをはっきりと思い出す。
 正体不明の巨大な空中要塞の上に佇む彼を、上条当麻を助け出し、無事に学園都市へと送り届けるため。
 そのために学校にも無断で、しかも学園都市の工作部隊を襲撃してまで学園都市を抜け出し、はるばるここまでやってきた。
 そして美琴の目の前には、その目的である彼がいる。
 美琴がとるべき行動は、ただ一つ。
 主翼の端に限界まで寄り、目一杯手を彼に伸ばすこと。
 それに呼応し、彼も戸惑いつつもゆっくりと手を伸ばす。

(あと、少し…!)

 あとほんの少しだけ近寄れば、もう彼の手を掴める距離にまで二人は近付いていた。
 捕まえたら何を言ってやろうか。
 まずは彼に罵倒を浴びせることはもう既に確定だろう。
 その後はここまで学園都市から遠路はるばる助けにきたのだから何やらと理由付け、一日ほど付き合ってもらうのもいいかもしれない。
 その時のことを考えると、思わず口元が緩んでしまう。
 とにかくもう少しで彼を捕まえられる、それがもうひたすらに嬉しい。
 そう美琴が思っていた時だった。

(えっ…?)

 突然、彼は伸ばしていた手を下げ、首を横に振る。
 そして、VTOL機の駆動音により彼の声は美琴には聞こえなかったが、

 まだ、やるべきことがある。

 彼の唇の動きは、確かにそう言っていた。

(ッ!?)

 もう美琴は無我夢中だった。
 ここまで来て引き下がれるわけがない、何のために自分はきたのだと美琴は自分自身を叱咤し、持てる力を総動員して何が何でも彼を引き上げる。
 何でもいい、何でもいいから彼の身に付けているものの中で、磁力で干渉できるものに対して力を加えていく。
 絶対に救う、そう思っていた。
 だがしかし、彼と美琴を繋いでいた最後の命綱は、無残にもブツリと切れてしまった。

(えっ…?な、何が…ッ!)

 美琴はまた、思い出した。
 あの時、自分は彼を助けられなかったことを。
 彼の能力を無効化する謎の力が磁力の糸を断ち切ってしまったことを。
 不意に、美琴の足元が大きく揺れる。
 その場での滞空飛行が難しくなったのだ。

「ま、待ってよ…行かないでよ!」

 その声が彼に聞こえたかはわからない、いや、恐らく聞こえていないだろう。
 だがそんな美琴の願い空しく、空中要塞に横づけされていたVTOL機は急速に動きを加速させ、その場を離れようとする中美琴は見た。
 彼の振り向き際の、彼の唇の動きを。

 悪い、サヨナラだ、御坂。

 この光景は、美琴の記憶にはなかった。
 そして上条はそれだけ言い残すと、今度こそ後ろに振り返り、空中要塞の中へと突き進む。
 今にも泣き出してしまいそうな美琴を残して。

「待てって言ってんでしょうが……ばかああああああああああああああああああああああああああ!!」

 しかし、その美琴の心の底から叫びも上条には届かず、その声は虚しくもその空間には響き渡っただけに終わった。

166【Presented to you】―promise―(6):2011/02/25(金) 19:33:13 ID:ovP71KM2

「―――お姉様!」
「っ!!」

 ガバッと、横になっていた美琴は起き上がる。
 起き上がった美琴の呼吸は乱れ、目は見開き、心臓はこれほどかというほどに早く脈打つ、そして額には若干の汗。
 さらにはキョロキョロと辺りを見回し、今の状況を確認する。
 そこは何度も見たことがある風景に、彼女の隣には心配そうな視線を向ける白井黒子の姿。
 先ほどまでの緊迫した出来事が嘘のように、美琴が今見渡す景色は、よく見知っている常盤台女子寮の一室だった。

「ゆ…ゆめ…?」
「はあ、やっと起きて下さいましたか……そろそろ夕食の時間ですわよ?お姉様」
「夕食…」

 黒子の言葉を聞き、そこからようやく美琴の意識が覚醒の方向へと向かう。
 額に浮かんでいた汗を拭い、やや虚ろだったその目には次第に光が帯びていく。

(そうだ……夕食までの時間がかなりあったからちょっと寝たんだっけ、私…)

 先ほどまで見ていた夢が夢であったことに、美琴はホッと一息つく。
 思いがけなく彼に会えてしまったわけだが、あれでは今生の別れのような気がしてならないからだ。
 あの状況でサヨナラと言われては、洒落にならない。
 しかも夢の中では美琴は特に不思議には感じていなかったが、思えばそもそも夢の中であの時の記憶があったこと自体がおかしい。
 なんで気付かなかったのだと美琴は少し恥ずかしい気分になるが、今となってはもう遅い。

(でも…)

 それでも、少し先ほどの夢には少し引っかかるものがあった。
 まず第一に状況があまりにリアルに再現されすぎていたこと。
 それは偶にはそういう夢も見るだろうということで片付けられるかもしれないが、特に引っかかることがもう一つ。
 それは夢が終わる直前のこと。
 そこまではほぼ全く一緒だったのに対して、唯一そこだけ違う。
 しかも極めつけは最後の彼の振り返り際のあの一言。
 あれではまるで、何らかのメッセージ。
 あの時伝えられなかったことを、夢で伝えたような。

(何を馬鹿なことを……たかが夢じゃない。考え過ぎよ、考え過ぎ)

 そこまで思考したところで、美琴は思考を止めた。

(最近はどうも考えが変な方向に行ってしまってダメね)

 あの日から、美琴はずっと悩んできた。
 あの時のこと、上条のこと、そして自分自身のこと。
 だからかもしれない、最近良い方向に物事を考えられなくなったのは。

「お姉様…?大丈夫ですの?」

 不意に黒子から声をかけられ、美琴の意識は黒子へと向けられた。
 彼女はほっとしたような、しかしながら少し心配そうな心配を向けている。

「だ、大丈夫って?そんなの、当たり前じゃない」
「でもお姉様、泣いてるじゃありませんの…」
「え…?」

 黒子からの指摘を受け、美琴は咄嗟に手で自分の顔を確認する。
 両目には涙が浮かんでおり、しかも右目からは既に涙が溢れていた。

「っ!こ、これは…そう!寝起き!寝起きだからよ!」
「……お姉様が寝起きで一々涙を流すなんて聞いたことありませんの」
「う、うっさいわね、偶にあるのよ!ほら、もう夕食なんでしょう?さっさと行きましょう」

 美琴はベッドから飛び下り、駆け足で部屋を出ていく。
 暗い表情の黒子を残して。

「……やはり私では…肝心なところでお姉様のお力になれませんの…?お姉様が今日に限らず、いつもあの殿方の名前を呟きながらうなされていること、私は知ってますのよ…?」

167:2011/02/25(金) 19:34:58 ID:ovP71KM2

以上です。
新約で美琴は何らかのアクションを起こすとは思いますが、まあこんな感じあるかなと。
執筆速度は最近いまいち上がりませんが、まったり書いていこうと思います。

では失礼します。
ご意見ご感想等お待ちしております。

168■■■■:2011/02/25(金) 19:57:21 ID:6.iMUqUY
>>167
美琴の心理描写がとても丁寧で、見ているこっちの心までズキズキきました。
これは続きに期待しちゃいます!

169■■■■:2011/02/25(金) 20:40:03 ID:zlW6vzRU
>>167
GJです。
新約で、美琴が学園都市に帰っていなくても、続けてねw

170■■■■:2011/02/25(金) 21:26:57 ID:Z3R2clxM
>>167
スゴすぎ……GJです。
こういう心理描写は大好きです。^^
続きを楽しみにしています。

171■■■■:2011/02/25(金) 22:24:09 ID:/5k.9juk
長作・・・だ・・・・・・・と?
激しく期待

172Mattari:2011/02/26(土) 00:04:24 ID:inQbaB0c
いつもお世話になっています。Mattariです。

『見知らぬ記憶』の続きが出来ましたので投下します。
まぁ、今回のは……ほとんどパクリなので、あまり期待しないで下さい。

どなたも居られなければ、この後すぐに7レスほど使用します。

173見知らぬ記憶 3:2011/02/26(土) 00:05:55 ID:inQbaB0c
【見知らぬ記憶3】


「キミ、可愛いねぇ。うっひょー、何?このドレス。もしかしてお姫様?」

「今からオレたちと遊びに行かない?」

「帰りはオレたちが送ってやっからさぁ」

「まぁ、いつ帰れっかわかんねぇけどぉ〜」

「「「「「ヒャッヒャッヒャ」」」」」

「ふぅー……」

(しっかし、私に声を掛けてくるなんてバカな連中よね。ま、あんまりしつっこいようならいつものように追っ払えばいいし……)

(それにしても、この町の連中と来たら……ホント、見て見ぬふり……だわね)

(別に彼らが薄情って訳じゃない。それは分かってる)

(実際、ココに割って入ってきても何かができる訳じゃないし、ケガをするだけ)

(誰だって自分が可愛いし、それが普通)

(見ず知らずの人間のためにそんなことをするヤツが居たとしたら、ソイツはただのバカか……)

「おー、居た居た!」

「こんなトコにいたのかー。ダメだろ、勝手にはぐれちゃー」

「へっ?」

「イヤー、ツレがお世話になりました。では、チョイと失礼……」

「ちょっと……誰よ、アンタ?」

「……ハイ?」

「『ハイ?』じゃなくってさ」

「おっ、おまっ……『知り合いのフリして自然にこの場から連れ出す作戦』が台無しだろっ!!空気読んで合わせろよっ!!!」

「何でそんなめんどくさいコトしなきゃなんないのよ?」

「オイ!!」

「なんだテメェ?ナメたマネしやがって。何かモンクでもあんのか?アアァン」

「ハァ……しゃーねぇーなぁ……ああ、そうだよ。恥ずかしくねーのかよ、お前ら」

「何だと、コノやろう」

「こんな大勢で女の子一人囲んで情けねぇー」

(へぇ〜……コイツ……)

「大体お前らが声かけた相手を良く見て見ろよ。まだ子供(ガキ)じゃねーか」

(ピクッ)『パリッ……』

「さっきの見ただろ?年上に敬意を払わないガサツな態度」

(ピクッピクッ)『バチッ!!』

「見た目はお姫様かお嬢様でも、まだ反抗期も抜けてねーじゃん」

(ピクッピクッピクッ)『バチバチバチッ!!!』

「お前らみたいな群れなきゃガキも相手に出来ねぇようなヤツらはムカつくんだよっ!!!」

「……私が……一番ムカつくのは……オマエだぁぁぁあああああ!!!!!!!!」

『バリバリバリッ、ズドォォォオオオオオン!!!!』

「「「「ギャッ、ぐわぁぁぁああああ!!!!!」」」」

「……ったく……アーア、こんなザコに『力』使っちゃって……」

「……っぶねぇ〜……な、何だ?今の……」

「……何で?」

「ヘッ!?」

「……何で、アンタは無事な訳?」

「ハァ?」

「何でアンタだけ無事な訳?って聞いてンのよっ!!!」

『バチバチバチィッ!!!』

『パキィィィン!!』

「何でオレまで攻撃する訳?助けに入っただけだけどっ?」

「んなもん頼んだ覚えはない!!!」

「……」

「……」

『バッチィィン!!!』

『パキィィィン!!』

(こ、コイツ……私の電撃を打ち消した?)

(こ、このままだともっとインネン付けられそうだ……とりあえず……逃げよう!!)

『バビューン』

「あっ、コラッ、待ちなさいよっ!!!……ああ、行っちゃった……」

「姫様ッ!!」

「ああ、クロコ。どしたの?」

「『どしたの?』ではありません。ちょっと目を離すとまたこの様に街をうろつかれて……クロコの身にもなって下さいまし」

「ハイハイ、分かりました」

「ハァ……姫様……もう少し、タビカケ城の姫様としての自覚をお持ち下さいませ!!」

「だから、こうして町に出て様子を見回っているんじゃない」

「それはそうでございますが……」

「それに、今はそんなコトに興味はないの。……それより、さっきのヤツ……」

「ハァ……さっ、姫様。まずお城にお戻り下さいませ」

「えっ!?何で?」

「今日は、『シン老師』がお見えになるとのこと。父上様からも必ず同席するようにと今朝からあれほど……」

「分かった、分かったわよ……とりあえず戻ればイイ訳ね」

「左様でございます。ささ、お早く」

(さっきのヤツ……今度見つけたら、タダじゃおかないんだから……)

 そんなことを思いながら、ミコトは用意された馬車に乗り込み、城への帰路につくのだった。

174見知らぬ記憶 3:2011/02/26(土) 00:06:46 ID:inQbaB0c

「コレはコレは『シン老師』長旅お疲れ様にございます。ささ、コチラに」

「いやいや、タビカケ殿にそのようなことまでして戴くなど……畏れ多い」

「何を仰います。先代王の時代の大戦ではこの国の勇者達を率い、大国『ロ』の国と闘い勝利に導かれた英雄であらせられますのに……」

「遠き昔のこと。今はタダの老いぼれにございますれば……どうぞ、お気遣い無く」

「イヤイヤ、コチラこそわざわざ私どもの土地にお越し下さるとは、恐悦至極に存じます。……して、今回はどのようなご用件で?」

「ホッホッホ。イヤイヤ古き友に会いたくなりましてな。年を取るとどうも堪え性が無くなりまして……思い立ったが吉日……という訳でして」

「それはそれは。……これ、何をしておる。歓迎の支度を早ようせぬか!」

「イヤイヤ、タビカケ殿。ホンに旅の途中に寄らせて戴いただけにござりますれば……どうぞ、お気遣い無く」

「イヤイヤ、そう言う訳には参りません。……ところでシン老師。コチラの少年は?」

「おお、紹介が遅れ申し訳ござりませぬ。これは今、わたくしが育てております弟子の一人で、トーマと申します。これ、トーマ。ご挨拶を」

「トーマにございます。以後お見知りおき下さいませ」

「うむ。良い目をされていますな」

「ありがとうございます」

「シン老師に仕えられるとは……また、この子もそれなりの『力』を?」

「確かに『力』もございますが、この者何よりも心根が好うございます。オツムの方は少々弱いところがあるのですが……真っ直ぐなところが気に入りましてな。今は弟子として鍛えておるトコロにございます」

「トーマ殿。シン老師の弟子になれるとは羨ましい限りだ。しっかり勤められよ」

「はいッ」

「うむ。良き返事だ……トコロで、姫はどうした?」

「そ、それが……」

「……ハァ……、また町に行ったのか……。困ったものだ」

「ホッホッホ、ミコト姫ですな。相変わらず……ですか……」

「お恥ずかしい限りで……。お転婆ぶりに手を焼いております。一度、シン老師からキツく言っていただかねばと思っていたところでして……」

「わたくしのような老いぼれの説教など、姫様には効きもしますまい。ホッホッホ」

「お、遅くなりました……」

「ミコト。また町に行っていたのだな。前にもあれほど申したのに……」

「も、申し訳ありません。でも……お城の中は……」

「ホッホッホ、お久しゅうございます。ミコト姫様」

「コチラこそ、ご無沙汰いたしております。シン老師。お元気そうで何よりです」

「有り難きお言葉、いたみいります。姫様もお元気そうで……」

「ありがとうございます。トコロで、そちらの方は?」

「あ、イヤイヤ、ご挨拶が遅れて申し訳ありませぬ。コチラに控えておりますのはわたくしの弟子の一人で……」

「トーマと申します」

「……あっ、アンタッ!!!」

「ヘッ!?……あっ、さっきのビリビリ娘!?」

「だっ、誰がビリビリ娘よっ!!!……でも、見つけたわよ。ココであったが百年目。さあ、勝負よ勝負!!!」

「百年目って、さっき会ったばかりだろうが!!」

「いちいち、そう言うトコ突っ込まない!!!」

「第一勝負、勝負って、さっき決着ついたじゃねぇか。オマエの電撃はオレには効かないって見せたろう?」

「……うっ、うっさいわねぇ。あたしだって一発も食らってないんだし、それにアンタは逃げたんだから、さっきのはせいぜい引き分けってトコよ」

「じゃ、じゃあ、どうすりゃ終わるんだよ?」

「そ、……そりゃ、もちろん……私が勝ったらよ!!!」

「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「そこッ!さっきより大きい溜息つかない!!!!!」

「コレッ、ミコト姫!!!」

「トーマも、タビカケ殿の御前じゃぞ!!!」

「でも、パパ……あっ!ヤバッ……」

「ジッちゃん、だってよぉ〜……あっ!イケねッ……」

「「ハァ……」」

「タビカケ殿、我が弟子トーマが大変失礼をいたしました」

「いえ、ウチのミコト姫こそ不躾なマネをいたしまして……」

「……とは言え、この二人……このままでは収まりそうにありませんな」

「ウーム、それは確かに……。何せミコト姫は大の負けず嫌いでして……城の兵士達を相手にするなど日常茶飯事で……」

「ホッホッホ、それはまた勇ましいことで」

「シン老師、笑い事ではござりませぬ」

「イヤイヤ、コレは失礼。ホッホッホ」

「フッ、フハハハハハ」

175見知らぬ記憶 3:2011/02/26(土) 00:07:37 ID:inQbaB0c

「……さて、ミコト姫様」

「ハッ、ハイ。シン老師」

「姫様は、我が弟子トーマとの勝負をお望みですかな?」

「エエ、もちろん!!」

「だそうじゃが……どうする?トーマ」

「どうするったって……勝負しなきゃ結局追いかけ回されそうだし……こんなガキ相手に本気になるつもりもねぇけどさ……」

「だっ誰がガキよっ!!!」

「……ハァ、まぁ、向こうが挑んで来るってんなら、受けてやってもイイぜ」

「コレ、トーマ。言葉遣いにはあれほど気をつけろと言うたではないか!」

「もう、イイじゃんか。どっちにしたってバレてんだしさ、あのまま喋ってたら、舌噛んじまうよ」

「しょうのないヤツじゃ……まったく。……申し訳ありません。タビカケ殿」

「イヤ、なかなか元気があって宜しいかと。ハハハハハ……ところで一つお尋ねしたいのですが……」

「ハイ、何なりと……」

「先程からずっと思っておったのですが、彼とは何処かで会ったように思うのですが……」

「ホッホッホ、さすがにお気付きになられましたか。この子はトーヤ殿とシーナ殿の子でしてな」

「何と!?あのトーヤ殿のご子息!?」

「先の『コ』の国との闘いの時には、共に闘われたとか。トーヤ殿よりお聞かせいただいております」

「ハイ。彼のお陰であの闘いに勝てたようなもの。本当に素晴らしい戦士です」

「トーヤ殿もタビカケ殿が居られなければ、あの闘いに勝利することはなかったと仰っておられましたぞ。良き友誼を結ばれておられるようですな」

「ありがとうございます。イヤ、それにしても世の中広いようで狭いものですな」

「ホッホッホ。この世は探すには広うござりまするが、偶然が起きるにはちと狭すぎるようでしてな……ホッホッホ」

「なるほど、なるほど……ハハハハハ」

「さて……タビカケ殿、申し訳ありませんが中庭の競技場をお貸し頂けませぬか?」

「ま、まさか……ミコトとトーマ殿を勝負させると?いくら何でもそれは……」

「ああ、ご心配には及びませぬ。トーマには一切の『力』の行使を禁じます故」

「ちょっと待て、ジッちゃん。そんなんでどーやって勝てってんだ!?」

「何を言って居る。ワシは一切の私闘は禁じて居るはずじゃが?」

「あっ!」

「だからコレは勝負ではなく、手合わせじゃ。またそうでなければ許可することは出来ん」

「エエ〜〜ッ!!!」

「ミコト姫様も聞き分けていただかねばなりませぬぞ。第一にトーマは既に実戦経験のある勇者にござりまする」

「うっ……」

「姫様が如何にお強くとも、《龍氣》を使いこなす勇者には敵いませぬ」

「そっ、そんな……私だって……」

「コレ、ミコト……」

「あ……ハイ……」

「《龍氣》とは、この世を創造された創造主がこの世界を安定・調和に導くために配された力のことにござります。見える者にはその力が形を持って見えまするが、多く者の眼にはそれが『龍』のように見えるため、《龍氣》と呼んでおります」

「『龍』の形をした力……」

「我ら《龍氣》を使う者は、その力を借り受け、自らの器を通して顕在化させまする。そこが姫様達が使われる『力』とは大きく異なります」

「なるほど、なるほど」

「皆様が使われる『力』に比べ、《龍氣》は創造主の『力』。故に『力』そのものの大きさが異なります。本来なら人がその全てを使うことなど到底出来ぬほどのモノなのです」

「……」

「その創造主の『力』の一部を借り受け、我が身を器として取り込み、自らの『力』と融合させ、顕在化させる。……と、口で言うのは容易きこと……なのですが、コレがなかなか……」

「そうでしょうなぁ……」

「皆様が使われる『力』と《龍氣》の一番の違いは、様々な『力』を行使することが出来ると言うことにございます」

「様々な『力』?」

「先程ご覧になられたでしょう。トーマの『力』を。姫様の電撃を打ち消したのも《龍氣》にございます」

「それって、……コレのコト?」

『バッチン!!』

『パキィィンッ』

「なっ!?……アッブねぇなぁ……いきなり何しやがる!!!」

「イイじゃない。どうせ打ち消せるんでしょ?」

「やっぱ、コイツ、可愛くねぇ!」

「何ですって!!!」

「何だよ!!!」

「コレコレ、二人とも……。ホッホッホ」

「「あ……スミマセン……」」

「今、トーマが見せたのは『浄化』の《龍氣》にござります。この『力』はなかなか使いこなせぬモノなのですが、トーマはこの『力』を使うのが得手のようでしてな」

176見知らぬ記憶 3:2011/02/26(土) 00:08:18 ID:inQbaB0c

「だったら、さっき私を助けようとした時も、『知り合いのフリしてこの場から自然に連れ出す作戦』なんてコトしなくても良かったんじゃない。その《龍氣》でパパッとやっつけちゃえば済んだのに……なによ、カッコ付けちゃってさ……」

「別にカッコ付けてる訳じゃねぇよ。この《龍氣》はジッちゃんが言ったようにこの世の安定と調和のためにある『力』なんだ。あんな程度のことにおいそれと使えるか!」

「コレ、トーマ……」

「あ……申し訳ありません」

「それに、姫様も……」

「あ……ご無礼、お許し下さい……」

「やれやれ、話の途中じゃが……ホンに収まりがつかんようじゃ。仕方無いのぉ……」

「じゃ、じゃあ、老師様。コイツと勝負させてくれるの?」

「ホッホッホ、但し、先程も申しました通り、コレは【勝負】ではなくあくまで【手合わせ】にござりまするぞ。勇者の私闘は絶対に認められませぬ故」

「どっちでも良いわ。とりあえずコイツをやっつけられるんだから!!」

「何で、オマエが勝つ前提になってんだよ!!!」

「当然じゃない。私が負ける訳無いもん」

「さっき負けたじゃねぇかよ……」

「何か言った!?」

「……い、いえ……何も……ハァ、不幸だ……」

「ホッホッホ、ところでトーマ……」

「はい?」

「姫様がいくらお強いとはいえ、オマエが《龍氣》を使ったのでは【手合わせ】にならぬ。そこでじゃ、使う《龍氣》は『浄化』の《龍氣》に限定する。よいな」

「ま、まぁ、コレがありゃあ何とかなるし……」

「先に言うておくが、基本の『加速』『神速』『縮地』も禁止じゃぞ。《力幅》や《龍覇氣》もじゃ」

「ええっ!?そんなんじゃ、使えるワザねぇじゃんか!?」

「そうでなくば勝負にならんわ。『気合い』で何とかせい。ホッホッホ」

「不幸だ……」

「では、タビカケ殿。中庭を拝借つかまつります」

「ハァ……仕方無いようですな……」

 何が何だか分からぬままに、決まってしまった【手合わせ】であったが……。
 ブツブツ言い続けているトーマと、コレからの勝負にやる気満々のミコトは中庭の闘技場にやってきた。
 闘技場は、一遍20メートルくらいの正方形の武舞台で、周囲より1メートルくらい盛り上がっている。
 ま、早い話が某鳥○明氏原作の龍玉に出てくる武闘会の武舞台だと思って下さい。w

「ルールは単純じゃ。『まいった』と言えば負け。カウント10で立ち上がれなければ負け。気絶もダメじゃ。そして、その武舞台から出たり落ちたりしても負けじゃ。良いな」

「ハイッ!!!」

「へーへー」

「なによぉ〜、そのやる気の無さは?」

「……あのなぁ、この状況でどーやってやる気を出せってんだよ!?第一、コレは勝負じゃなくって【手合わせ】だろ?」

「あたしに取っては、同じコトよ」

「……ハァ……不幸だ……」

「アーッ、お姉様が知らない男の方と勝負してるー。って、ラストはラストは叫んでみたり」

「あ……ラスト……それに、ママ」

「もう、ミコトちゃん、ママじゃないでしょ?ちゃんと『お母様』って呼ばなきゃダメじゃない……って、えっ!?シン老師!?……いつお越しになられたのですか!?」

「ホッホッホ、ご無沙汰いたしております。ミスズ殿。つい先程お伺いさせていただいたばかりなのですが、我が弟子が何やら姫様のご機嫌を損ねたようでして……」

「あー、老師様だー。ッてラストはラストは甘えてみたり」

「ホッホッホ、ラスト姫。大きゅうなられましたな」

「ねぇねぇ、また昔のお話を聴かせて欲しいなって、ラストはラストはねだってみたり」

「ラスト、今はそれどころじゃないのよ。さあ、老師様、始めて頂けます?」


「ミコトちゃん、始めるって何を?」

「コイツとの勝負に決まってんじゃない!!」

「勝負って……また、アンタ……」

「おお、ミスズ戻ったか?」

「あ、あなた……コレは一体……」

「……ああ……ミコトのヤツがまた……な……ハァ……」

「……ハァ……もう……もうちょっとお淑やかにって……いつも言ってるのに……」

「……ハァ……、ってラストもラストも付き合ってみたり」

「そこッ!!家族で変な溜息つかない!!!」

「……ハァ……、誰のせいでこーなったと思ってんだよ?」

「うっさいわねぇ……アンタはそこで黒こげになってりゃイイのよっ!!!」

『バチバチバチッ!!!』

177見知らぬ記憶 3:2011/02/26(土) 00:09:06 ID:inQbaB0c

「ほっ!」

『キュイン!!……パァアン!!!』

「姫様、コレはあくまでも【手合わせ】ですぞ。ちゃんと礼を尽くし、挨拶をしてからでなければ、手出しはなりませぬ」

「うっ……失礼しました……」

「この武舞台の周りに『護符』による『結界』を張りまする故、暫しお待ちを」

「『結界』?って、ラストはラストは首を傾げてみたり……」

「ホッホッホ。そうせねば、ミコト姫様の電撃がこの外に出てしまいますからな。トーマが出来る限り打ち消しはするでしょうが……ラスト姫様もお気を付け下さい」

「ちょっと待て、ジッちゃん。いつの間にかオレが電撃打ち消す役に回されてんだけどっ!?」

「ホッホッホ」

「笑ってゴマかすなっ!!!」

「さっきから、な〜に余裕ブッこいてくれてんのかしら……」

「……わーったよ、それで気が済むってんなら……相手になってやる」

「よーやく、やる気になったみたいね」

「さて、結界もこれで良し。……ではッ、始め!!!」

「いつでもイイぜ、かかって来な」

「言われなくてもコッチはずっとこの時を、……待ってたんだからっ!!!」

『バチバチッ!!!ドンッ!!!!!』

「クッ……」

『パキィーンッ!!』

「(やっぱ電撃は効かない……か)……ならっ!!」

『パリッパリッ、……ビビビビビッ』

「なっ……えっ!?」

『ザザザザザザザザザ……ザーーーーブンッ!!!』

「ちょっ……おまっ……エモノ使うのは、ズルいんじゃ無いッ!?」

「『力』で作ったもんだもん。問題なしよん♪」

「え゛え゛ッ……」

「砂鉄が高周波振動してるからね。触れるとちょーっと血が出たりするかもねっ!!!」

「って……どう考えても、それじゃ済まないと思うんですけどぉっ!?」

『ブンッ!』

「オッ」

『ブンッ!!』

「ドワッ!?」

「ちょこまか逃げ回ってたって、コイツには……」

「とはッ!!」

「……こんなことも出来るんだからっ!!!」

(けっ、剣が伸びたッ!?)

(入った!!躱せるタイミングじゃ無いッ!!!)

「くぉっ!!」

『パキィィン!!』

「えっ!?(……強制的に砂鉄に戻された?)」

「ふぉぉおおお……」

(でも、ココまでは予想通り……)

「しょ、勝負あったみたいだな……」

「さあ、それはどうかしらッ!?」

「ンなっ!?お……オマエッ、風に乗った砂鉄まで操って……」

『ブウゥゥン!!!』

「こんなこと、何度やったって同じじゃねぇかっ!!!」

『パキィィン!!』

『ガシッ!(取った!!!)』

「ヘッ!?」

「飛んでくる電撃は打ち消せても……」

「……」

(……えっ!?……電流が流れていかない!?……何なのよ、コイツ!?)

「ハッ!?」

「え……えーっと……」

『バッ!』

「ビクゥッ!?」

「はー……」

「うっ……」

「ギャァァァアアアア……」

「ひっ!?……ううっ……」

「ま、まいりましたぁ〜。……ガクッ……」

「……」

「……(チラッ)」

「ふ……」

「……(ン?)」

「ふ……ふ……」

「え゛……!?」

「ふ・ざ・け・ん・なぁ〜!!!!!」

『ズドドドドドドン!!!!!』

「どわぁぁぁあああああっ!?」

「マジメにやんなさいよっ!!!」

「だって、オマエ……ビビってんじゃん」

「ビビってなんかないわよッ!!!」

「ウソつけっ!こーんな感じで涙目になって……ビクってしてたら……え゛……」

「死ねぇー!!!」

『ズッドォォオオオン!!!』

「どわぁ!?」

「に、逃げんなぁー!!!」

「だあああっ……オッ、オマエッ……今の直撃してたら普通死ぬぞッ!!!」

「どうせ効かないんでしょうがッ!!!」

「効こうが効くまいが、そんな攻撃を躊躇なく他人に仕掛けるなんて……どんな神経……」

「私だって、こんな『力』を人に向けて使ったコトなんて無いわよッ!!!」

「何で、オレだけぇ〜っ!?」

「ちゃんと私の相手しろっ!!!」

「不幸だぁぁぁあああああ!!!!!!!」

178見知らぬ記憶 3:2011/02/26(土) 00:09:51 ID:inQbaB0c

「それまでッ!!!」

「「えっ!?」」

「トーマが武舞台から飛び出した時点で、ミコト姫様の勝ちじゃ。ホッホッホ」

「あ……」

「そ、そんなぁ……」

「この【手合わせ】はココまで。二人とも良いな!」

「……あ、ああ……」

「……うう、……(何か、納得いかないっ!!……でも……)ハイ……」

「ホッホッホ」

「お姉様が勝ったァ〜!ってラストはラストは喜んでみるぅ〜」

「しかし……ミコト姫様の実力、恐れ入りましたぞ。他の《龍氣》を使わせなかったとは言え、トーマに勝ってしまわれるのですから……」

「そ、そんな……」

「どうじゃな?トーマ」

「……ま、今日のところはオレの負けでイイよ。本気でやった訳じゃねぇしな」

「な……何ですってぇえええ!!!!!」

「コレコレ、二人とも……それにしてもタビカケ殿、ミスズ殿。お騒がせして申し訳ありませぬ。ホッホッホ」

「イヤイヤ、老師様だからこその采配。恐れ入りました」

「イヤイヤ、その場の流れに任せただけのこと。しかし、これ以上ご迷惑をおかけする訳にもまいりませぬので、今日のところはコレにて失礼をいたしまする」

「イヤ、それは困ります。せっかく老師様がお越し下さったのに、大した歓迎もせぬままお返しする訳には……」

「友と落ち合うのはこの町になっておりますので、しばらく滞在させていただきます。また機会をみて、伺わせていただきます故、今日のところは一先ずコレにて……では、トーマ。まいろうか?」

「あ……ハイ……」

「ココに滞在されると仰るのなら、ぜひこの城にお泊まり下さい。今、歓迎の支度もさせておりますし……」

「友と落ち合うのは町の宿と決めておりますので、お気持ちだけ有り難く頂戴させていただきます。では……」

 そう言ってシン老師とトーマは城を出て行った。

「行ってしまわれたか……それにしても……ミコト!!!」

「ハッ、ハイッ!?」

「後で、私の部屋に来なさい!!良いな」

「は……ハイ……」

「ワーイ、お姉様がお父様に怒られるー。ってラストはラストは喜んでみたりー」

「……ラスト……」

『ビクッ』

「アンタねぇ……」

「いやーん、お姉様コワいー。ってラストはラストはお母様に助けを求めてみたり」

「もう、ミコトちゃん。ラストちゃんを虐めないの!!」

「うう……」

「それにいつも、もう少しお淑やかにしなさいって言ってるでしょ?」

「だって……」

「それにしても……トーマ君だっけ?あの子。結構カッコ良かったんじゃない?……ン〜?もしかして……惚れちゃったとかぁ〜?」

「そ、そそそそそんなんじゃないわよッ!!!!!」

「あっれぇ〜?何、真っ赤になってんのかなぁ〜?」

「ホントだ、ホントだ。お姉様が真っ赤になってるー。ってラストはラストはお母様のツッコミに乗っかってみたりー」

「だあああ、もうっ!!ウルサい、ウルサいッ!!!アイツとはそんなんじゃないわよっ!!!!!」

「どーだかぁ〜……ミコトちゃんって基本『ツンデレ』だもんね」

「『ツンデレ』『ツンデレー』って、ラストはラストは繰り返してみたり」

「ラ・ス・トォー……」

「ヤバいっ……。って、ラストはラストはこの場から退散することにしてみたりー」

「あっ、コラッ、待ちなさいッ!!!」

───────────────────────────────────────────────────────────────────

「ヘッ!?……アレッ……」

(あ……ココ、当麻の部屋……そっか……昨夜……またお泊まりしたんだっけ……)

(こんな美少女が横で寝てるってのに……ホント、コイツの理性って……どんだけ鉄壁なのかしら……?)

(ホントは……さ、まだちょっと怖いけど……もうそろそろあっても……イイかな……何て……)

(夢の中じゃ、赤ちゃんまで……ん?アレ?……さっきの夢……)

「んん……ううん……うん……あ……」

「あ……当麻、起きたの?」

179見知らぬ記憶 3:2011/02/26(土) 00:10:34 ID:inQbaB0c

「ん……ワッ!?……ビリビリ姫ッ!?」

「え゛……」

「えっ……あっ……ハァ……何だ、美琴か……」

「……ちょろっと……当麻……今、何て言ったの?」

「あっ、……いやっ……だからさ……そのッ……」

「確か……『ビリビリ姫ッ!』……とか、言ったわよね……」

「あ……あの……そ、それはぁ……」

「どういうコトよ。それはさっき私が見てた夢じゃないの?」

「ヘッ!?お前が見てた夢って?」

「え……もしかして……当麻も……」

「ああ……そうみたいだ……な……」

「お父さんとお母さんがお城の城主で、【打ち止め(ラストオーダー)】が妹で……」

「オレは、【シン老師】って言う変な爺さんの弟子で……」

「確か《龍氣》だっけ?その力を使って、【幻想殺し(イマジンブレーカー)】と同じ力を持っていて……」

「お前と勝負することになって……結局、オレの負けってコトに……」

「「……エエ〜〜〜〜〜〜ッ!!!???」」

「そ、そう言えば、この前私が妊娠した時も……」

「その発言は控えて下さい。思いっ切り誤解を招きますから……」

「あの時も当麻は『それは夢だろっ!?』って、言ってたわよね?」

「ああ、だって夢の中で美琴がオレに『二ヶ月ですって』って言ったんだぞ。それをお前が勘違いして……」

「勘違いじゃないもん……アレは昔ホントにあった『現実』だもん……」

「だから……それはそうだけど、今にそれを当てはめようとするなって言ってんだよ」

「でもさ、当麻が私を妊娠させた事実は消えない訳でしょ?」

「だから〜、それは夢の中の話じゃないか!?今のオレたちはまだ……」

「何なら……今から……する?」

「バッ、バカ野郎!!あ……朝っぱらから何『トンでも発言』しちゃってるんですか?美琴さん!?」

「だってさ……さっきから……当麻の……当麻のが……(ゴニョゴニョ)」

「ヘッ!?……美琴さん……何を……何を見て……って、どわぁぁああ!!!」

「(ボンッ!!!)」

「こっ、こっ、こっコレはですね……男にとっては自然現象と言いますか……朝は必ずこうなっちゃうと言いますか……」

「当麻のえっち……」

「だぁぁぁあああああ!……不幸だぁぁぁあああ!!!!!」

(もう……当麻ったら……でも……この前といい、今日といい、当麻のところにお泊まりすると、同じ夢を見られる……ってコトは……)

「ねぇ……当麻?」

「うう……何ですか……美琴さん。上条さんは恥ずかしくて、そっちを向けないのですけれど……」

「そのネタはもういいわよ。今襲いかかってきても電撃浴びせてやるから……」

「ヘッ!?」

「それより、夢のコトよ、夢のこと」

「夢がどうしたんだよ?」

「前にも言ったけど、あの『夢』が『記憶』であるという仮説はほぼ間違いなさそうよね?」

「それはそうだろうな……コレだけオレたちが同じ『夢』を共有してるってコトは、そういうコトになるよな」

「この前も今日も、当麻のところにお泊まりしたら、二人で同じ夢が見られるってコトが分かったのよ」

「何だって?」

「この前に私が妊娠したことも、そして今日見た二人が出会った時のコトも……」

「二人で立場は違うけれど、同じ内容を見ている。……ってコトは……」

「当麻と一緒に寝たら、もっと昔の『記憶』が辿れるってコトじゃない!!!」

「ちょっと待て……今、もの凄い不安に駆られたんだけど……」

「ねぇ……当麻ぁ〜……(スリスリ)」

『ギクッ!!』

「今日はお休みでしょ?だ・か・ら……お買い物行って……色んなもの買わなきゃ……ねっ♪」

「買い物って……何を……?」

「決まってるじゃない。お泊まりがちゃんといつでも出来るように……パジャマとか……洗面用具とか……あと(下着とか……ゴニョゴニョ)……」

「バッ、バカ野郎……そんなに何度もお泊まりされてたまるかよっ!?それでなくったって、オレの理性はもう崩壊寸前なんだぞっ!!!」

「そっちはまだダメ……記憶の方が先よ。そのウチ、二人が初めて結ばれた時の記憶も出てくるかも知れないし……それを見た後でも……イイかなって……」

「お、お前なぁ……」

「だから、イイでしょぉ〜。お・ね・が・い……『チュッ』……」

「(ボムッ!!!)ふ……ふ……ふにゃぁ……」

「エヘヘ……当麻撃沈……ヤッタァ〜、コレでお買い物決定ねッ♪」

 今日も完全に美琴の尻に敷かれている上条であった。
 それにしても、この二人。過去も今も出会いはあまり変わらないようで……。

180Mattari:2011/02/26(土) 00:12:33 ID:inQbaB0c
という訳で、いかがでしたでしょうか?
今回は敢えて過去の『記憶』の話を中心にしてみました。
と言ってもほとんど原作(特に【超電磁砲(レールガン)】)のパクリですが……(;^_^A アセアセ…。
ただ、この方向性(オリキャラを出すことも含めて)で行こう。と決めるまでかなりの時間がかかりました。
出来れば次の新刊が出るまでに、この【見知らぬ記憶】を終えて、その後をどうするか読んでから考えたいと思っていたので、方向性を決めかねている時はかなり焦りました。
この後は、原作の流れに乗るか?それとも自分の中にあるストーリーで走るのか?その辺りはかまちー次第ですかね。w
新刊では今の上琴二人の鬱展開が終わるといーなーと思ってるんですけど……どうなりますことやら。
ではでは、お楽しみ頂ければ幸いです。

今回の反省点は……イチャイチャが少なかったな……。
上琴二人の喧嘩もイチャイチャだとすれば……別だけど……。w

181■■■■:2011/02/26(土) 01:31:33 ID:GKTfv81k
>>蒼さん
蒼さんのシリアスは好物です!この後の展開に期待してます!
>>Mattariさん
楽しんで書いてるのが伝わってきてよかったです!…「ラストはラストは」で吹きました!

182ソーサ:2011/02/26(土) 18:15:18 ID:TRmvx41A
蒼さん、Mattariさん、GJです!!
続き楽しみに待ってます^^
俺も長編書きたいけど長い文を書くのは苦手だな〜…

小ネタができたのでだれもいなければ投稿します!

183ソーサ:2011/02/26(土) 18:17:17 ID:TRmvx41A

タイトル「上琴VS寮監」

・常盤台の寮の前にて

寮監「御坂…ここ1ヶ月門限を破り続けていたが……この男が関係しているのか?」

美琴「い、いや…決してそんなことは…」

上条「(これが首を回すってうわさの寮監か…こえー…)」

寮監「ほう…では最近の門限破りの理由を聞かせてもらおうか。正直に話せ。」

美琴「(言えない…当麻と離れたくなくて遅くなったなんて…)友達とずっと遊んでて…」

寮監「ふむ…では1週間も寮に帰らずどこ何をしていた…?」

美琴「(だから言えないって…当麻と一緒に寝るのが心地よすぎて寮に帰りたくなかったなんて…)えーと…」

寮監「どうした御坂?…言えないのか?」

美琴「あー…そのですね…友達が泊まっていけって言うからつい…」

寮監「…それは本当のことだな?では今からその友達に電話しろ。私が直々に確認する。」

美琴「……当麻の…コイツの家に…泊まってました…(終わったな…私…)」

寮監「御坂…覚悟はできているだろうな…?門限破り、無断外泊、そして今の嘘。罰は重いぞ?」

上条「ちょっと待ってください!」

寮監「なんだ?少年?」

上条「美琴を誘ったのは俺なんです!だから…罰するなら俺にしてください!」

美琴「当麻!?だめよそんなの!いつも離れようとしなかったのは私なんだし…」

上条「それは関係ねーよ、泊まることを許可したのは俺だし…それに…」

美琴「それに?」

上条「俺の目の前で傷つく美琴を見たくないんだ!」

美琴「!!とぉ〜まぁ〜♪」ギュ!!

寮監「…よかろう。」

上琴「「へ?」」

寮監「………ふん!」ゴキャ!!

上条「ごおう!!?」ドサッ

美琴「!!?当麻!?当麻大丈夫!?ちょっといきな…」ゴキャ!!

寮監「…目の前でなければいいのだろう?だから先に少年の首を回させてもらった。」

美琴「……」ドサッ

寮監「聞こえていないか……貴様ら私の前でいちゃつきすぎだ。」


WINNER:寮監

184ソーサ:2011/02/26(土) 18:19:40 ID:TRmvx41A
以上です!
最近リアルが忙しすぎてなかなかSSが書けない…

185■■■■:2011/02/26(土) 18:54:21 ID:A8xtp1FU
笑ってしまった
GJ!

186■■■■:2011/02/26(土) 19:11:20 ID:KJOmPhDE
GJ!
寮監凄過ぎw

187■■■■:2011/02/26(土) 19:16:52 ID:3mWANo96
寮監様まじパネェっす

188■■■■:2011/02/26(土) 19:53:33 ID:Bfznp3/c
>>158
ですよねー
誰か書いてくれないかしら

189とある魔術の夢旅人:2011/02/26(土) 21:27:28 ID:BQRVYass
2011新作放送記念で、投下

とある魔術の夢旅人


「上条さんは藩士なので、今日は年貢を納めに行くのですよ」

「え、何?」

いつもの公園のいつもの自販機の前で、目の前を行き過ぎようとするツンツン頭の少年に声をかけた一人の少女。
常盤台中学2年、Lv.5のエレクトロマスター、超電磁砲こと御坂美琴は、少年の思わぬ返答に戸惑った。

「藩士?年貢?」
「ええ、そうですよ。上条さんはどうバカですからね。」
「どうバカ?」
「おうよ。日々の経費を削って、食いモンも減らして、やっと今日年貢を納めることができるんだぜっ!」
「ちょっと、アンタ。何か悪いものでも拾い食いしたの?」
「…食ってねえよ。つうかしらねぇのか?木曜どうでしょうって番組…」
「え?何それ…。そういえば初春さんと佐天さんから聞いたような…」
「毎週木曜日の深夜にやってるバラエティ番組だぜ。それがもう面白いのなんのって」
「へぇ、そうなんだ。で、藩士とか年貢とか、どうバカって何のことよ?」
「藩士やどうバカってのはその番組のファンの呼び方で、年貢ってのはその番組DVDを予約に行くことなのさ。今から角のコンビニで予約するんだ。だから、じゃ、な!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!」

彼女が追いかけたのは、上条当麻。その右手に「幻想殺し」の特殊能力を宿すLv.0であり、御坂美琴の想い人たる高校1年生。

「もう待ちなさいッたら!」(ビリビリビリ!!!)
「ひッ!?」(バシューーン)
「ちょっ!あぶねぇじゃないか!!…わかった、わかったから。そんな怖い顔するなって。この際、腹を割って話そう…」
「もう…。(!えっ!!ドキッ)…腹を割って話すって?…(やりすぎた…のかな……)」

「上条さんはいつもはかた号不幸行きに乗ってますからね。常に初陣のダメ人間なんですよ」

「………アンタ、何訳のわかんないこと言ってんのよ…。(ふぅ、ドキッとしたじゃないの、もう…)」
「だからさ、今からDVDの予約に行くんだって。貧乏な上条さんは必死の思いでこの金を貯めて来たんだからな」
「じゃ、私も一緒につきあってあげるからさ。…(ハッ!)…って、そんなヘンな意味じゃないんだからねッ!!/// …いや、うちの寮は部屋にテレビないし、深夜番組なんて見ないけど…。でも初春さんや佐天さんとの話題に必要だし、知っておいて損は無いなってことよ(当麻が、どんなの見てるのか知りたいし…)」
「おう、じゃ、今度DVD貸してやるよ。なにせ、知る人ぞ知るっていう番組なんだけど人気あるんだぜ」
「そうなんだ。そんなに面白い?」
「面白いのなんのって、とにかく見ればわかるよ。…って、え?調整中?あれ?」

コンビニまで来たものの、予約機にはベッタリと「調整中」の貼り紙が。

「不幸だー」



「ううう、ちくしょう。これまでの苦労が水の泡だ…」
「ねぇ、予約って、ここでしか出来ないの?」
「いや、そんなこと無いんだが、いつも通る道だとここしか知らねぇしな」
「じゃ、向こうの通りにもたしかあったわね。アンタの通り道からかなりそれるけど…」
「しゃぁねぇか。じゃそっち行くか…。ん、なんで御坂が俺の通り道知ってるんだ?」
「え、いやその(あわわ…)、いつもアンタとはこのあたりでしか見かけたことないから。(ドキドキ)そうかなって…(よく後をつけてたって言えない…)」
「ああ、そうか。よしならこれから時間とれるか?ちょっとそこまで…つきあわねぇか」
「(!!それって…もしかして…デートの…カァーッ)えっ、まぁ今日は特に用事もないし(ドキドキ)…。しょうがないから特別につきあってあげるわよ(///ホントは今日も待ってたのよ…)」
「よし、じゃ、行くか。トローリー!」
「………… バカじゃないの」
「お、御坂も知ってんじゃん」
「???」

次のコンビニへ向かう途中、上条は熱く美琴に番組の魅力を語り続けるの…だが、

「どうでしょうってのはな、やはりO泉さんが〜〜  ミスターは〜〜 ふじやんの〜〜 うれしーと〜〜」
「でなやっぱり一番なのは〜〜 パイ食わねぇか〜 ここをキャンプ地とする〜〜」

当の美琴はそんな上条の話など全く耳に入っておらず、ただ顔を赤らめつつ、彼の顔をただボーっと見つめながらついていくだけであった。

(もう、当麻ったらそんなに熱く語っちゃって…。そんなきらきらした笑顔を見せ付けられたら私…、それだけで幸せか…も…。当麻と一緒に楽しく過せたら…。ああ、もう……。うふ…、うふ…、うふふふふ……)

「おお、ここだな。よし着いた…って、あれ?御坂…?」
「ふにゃ〜〜〜〜」

-------------------------------------------------------------------------

190とある魔術の夢旅人:2011/02/26(土) 21:33:23 ID:BQRVYass
ついムラムラしてやった。反省はしていない…

初投稿ですが、続き、どうでしょう?

指摘、感想あればお願いします。

191■■■■:2011/02/26(土) 23:47:27 ID:yYfoafsA
>>183
吹いたw寮監様つええw

192■■■■:2011/02/27(日) 00:21:42 ID:A1BakzSE
>>183>>190共にGJ
小ネタも気軽に読めていい。

193Mattari:2011/02/27(日) 00:27:17 ID:0GtaBKqI
>>181
ありがとうございます。
私が執筆する時の基本姿勢は、仰る通りなんです。
自分が楽しめなきゃ、皆さんにも楽しんで貰えない。というスゴく自己中な感覚で書いてたりします。σ(^◇^;)
「ラストはラストは……」の部分はかなり悩んだんです。
でも、一番収まりが良かったので、コレにしました。気に入っていただけたようで嬉しいです。

>>182 >>184
ソーサさん、ありがとうございます。& GJです。
寮監さんか……。
ウーン、さすが学園都市……上琴でも勝てない相手がゴロゴロしてる。w

で、悩みに悩んだ末に書き上げたんですが……。
どうもその、ドタバタに終始しただけになっちゃった……『美琴の弱点』です。
小ネタ……と言えるかどうか……3レス使います。
このあと、すぐに投下します。

194小ネタ 『美琴の弱点』:2011/02/27(日) 00:28:59 ID:0GtaBKqI
美琴の弱点

 『おはつ三日』という言葉をご存知だろうか?
 関西、特に京都の囃子詞で、散髪したての子供の頭を軽く叩いて(漫画的擬音で現すのなら『ペシッ』程度の強さ『!』も付かない軽い感じ)言う言葉なのだが……。
 正確には『おはつ三日 盆三日』という。

 我らが主人公、上条当麻はこの風習をエセ関西人である青髪ピアスから知ることになるのだが、何せ元がエセなのだから、間違った知識をモロに教わることとなった。

「あっ、ナンや上やん。散髪行って来たんかいな?」

「何だよ、青ピ。確かに上条さんは貧乏ですがね、ヘアスタイルにはうるさい男なんですよ」

「そやない、そやない。関西では散髪してきたら「おはつ三日」って言うてなこうすんねん」

 と言って、いきなり青ピは上条のうなじをギュッと掴むとモミモミとその部分を揉み出した。

「オオッ……気持ちいいぞ、青ピ〜」

「そやろ、そやろ。で……この後……」

 首筋を揉み解され、気持ち良くなりかけたその場所にいきなり

「ふう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 と息を吹きかけられたのである。

「どわぁぁああ!!!コラッ!!青ピッ!!!テメエ何しやがる!!!!!」

「ヘッ!?何言うてんねん、関西やったらみんなやってるコトやで?」

(注:やってません!!!)

「ホントかよ……それ……」

「ホンマ、ホンマ。ウソやと思うんやったら、関西行って見てきたらエエがな」

 わざわざそんなコトを現地に行って調べる人間はいない。
 もし、本当にそんなコトをやっていたら、今頃は某番組で取り上げられて、この奇っ怪な風習は世間の話題を独占しているはずだ。
 だが、根が正直で、おバカな上条さんはその事をモロに信じ切ってしまった……。

 その日、御坂美琴はご機嫌だった。
 冬の間に伸びた髪を、常盤台中学指定の美容院に行って切り揃えてきたのだ。
 まだまだ寒い日が続く訳だが、季節は春に向かっている。
 少々重くなった髪を切って、スッキリし軽くなった気分を味わいたかった。
 そして、何となくウキウキした気持ちになっていた。
 美容院で毎回アフロを薦めてくる店長、坂島道端の相手をするのには少々疲れたが……。

 それに、少し期待するところがあった。
 恋人となった上条がその事に気付いてくれるかを確認したかったのである。
 まあ、過度の期待はしていないが……。
 鈍感だし……デリカシーもないからね……。誰かさんは……。

 で、いつものようにいつもの場所で待ち合わせ……である。

「待ったぁ〜?」

「イヤ、オレも今来たところ……だけど……」

「はい、良くできました。……って、どうしたの……当麻?」

「ん〜……美琴……オマエ、何か変わってない?」

「えっ!?(うそっ!?この超鈍感が髪を切ったのに気付いてる?……うそっ!?……そんなに私のこと、見ててくれてる……メチャクチャ嬉しい!!!)」

「ドコが変わったかってのはイマイチ分かんねぇんだけど……何か違う……」

(ハァ……髪を切ったって事までは気付いてないのか……でも、違うって事に気付いてくれただけでも、コイツにしてみれば大きな進歩よね!!!)

「なぁ……美琴……何か変えたのか?」

「ハァ……そういうことを直接聞くってトコは当麻らしいわ……」

「ヘッ!?」

「まあ、いいわ。髪が伸びたのでちょっと揃えてきたのよ」

「へぇ……そうなのか?それだけで変わるモンなんだなぁ……」

「アンタが気づかなさ過ぎだと思うんだけど……」

「なっ……何で怒っておられるんでせうか?」

「別に怒ってはいないけど……もうちょっと気づいて欲しかったかな……って……思ってさ……」

 そういって、ピトッと上条の横に寄り添い、肩の上に頭を載せる美琴。
 思わず『ドキッ!』とする上条さん。
 こういう女性の何気ない仕草ってのは、男心を刺激するもんなんですな。

195小ネタ 『美琴の弱点』:2011/02/27(日) 00:30:12 ID:0GtaBKqI

 ところが『ドキッ!』としちゃったことを変に誤魔化そうとしたコトが、この後二人を『不幸』へと導いてしまう。

「ん?……どしたの?当麻」

「い、イヤ……別に……」

「そう?……でも、何か顔……赤いわよ」

「そ、そうか?……あ、ところでさ」

「ん?なになに?」

「『おはつ三日』って知ってっか?」

「『オハツミッカ』……何それ?」

「チョット前に、クラスのヤツに教わったんだけど……散髪した後にこうするらしいぜ」

 そう言うと上条は、美琴のうなじを右手で『ギュッ』と掴んだ。
 その瞬間……

「ピギッ!!!」

 と、変な声を出して美琴が一瞬で固まった。

「ヘッ!?」

 上条は何が起こったのか、全く理解していない。
 一体何が起こったのか。
 詳しくは『長編』の『見知らぬ記憶』を読んで下さい。

 ……って……ダメ?
 そりゃ、そうですよね。^^;

 実は美琴の首筋、特にうなじの部分は能力的に後方の感覚センサーの役目をしていて。
 要するに電磁波を発信してソナーの役目を任せており、センサーなだけにかなり敏感に出来ているらしい。
 普段は能力でガードしている訳で、誰かが触れれば間違いなく感電するはず。
 だが、上条の右手には【幻想殺し(イマジンブレーカー)】が宿っており、それらのガードが一切通用しない。
 それだけならまだ良いのだが、その右手が宿す“浄化の力”が美琴の能力を中和する際に、美琴の能力が逆流するらしい。
 それは美琴が今までに味わったことのない感覚らしく、正に全身を電気が逆流し、全身が感電するような感じだという。
 その感覚を美琴は今、生まれて初めて体験している訳である。

「み……み……み……」

「ヘッ!?……美琴……どした?」

「み……み……み……」

「気持ちいいのか?」

 完全に勘違いして、首筋をモミモミし始める上条。
 だが、美琴にしてみたら堪ったものではない……。

「みみぃ!!みみみみみみみみみ……」

「何か良く分かんねぇんだけど……しゃぁねぇなぁ……」

 と言って、何も考えずに首筋に息を吹きかけた。

「ふう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 あのね、上条さん?自分がされてイヤだったんでしょ?
 それを恋人にしちゃうって、もうちょっと考えた方が良くありません?
 ホンット、デリカシーのカケラもないんだから……。

 全身を電気が逆流し、感電したような状態で、しかも敏感なセンサーであるその部分に息を吹きかけられたら……。
 誰だって、そりゃ怒りますって……。

「※∞≦≠⊇〓£ΣΨΩΛ§@#〜〜〜〜〜!!!!!」

 この世のモノとは思えない叫び声を美琴があげたと思ったら、全身を震わせ上条の右手を振り解く。
 そして、完全に戦闘状態へと移行する。(BGMはもちろん『逆転(御坂美琴Version)』!!)

196小ネタ 『美琴の弱点』:2011/02/27(日) 00:31:01 ID:0GtaBKqI

「と・う・ま・ぁ〜」

「ひゃっ……ひゃいっ!!!」

「あ・ん・た・って・や・つ・は・ぁ〜〜〜〜」

「ひっ……ひぃぃぃぃいいいい!!!!!!!」

「白昼堂々、往来のど真ん中で、乙女の一番敏感な部分にィ……何しちゃってくれてんのよぉ〜〜〜!!!!!!!」

「いっ、いやっ……コレはっ……オレがクラスメイトに教わったことで……関西じゃあ、みんなやってるらしいって……」

(だから、やってませんって!!!)

「そんなバカなこと、する訳がないでしょう!!!!!」

「ひぃぃぃぃいいいい!!!!!」

「覚悟はイイわね!?」

「はひっ!?」

「か・く・ご・は・イ・イ・わ・ね・!?」

「ガクガク(((( ;゚Д゚)))ガクガク(((( ;゚Д゚)))ガクガク」

 余りの美琴の迫力に、上条は言葉もなく、クビをブルブルと横に振ることしかできない。
 その時、いきなり空が暗くなってきたのが分かった。
 ふと空を見上げると……そこには季節外れの雷雲がモクモクと……。

「今日という今日は……もう……勘弁出来ないわ……」

「み、み、み、み……」

「前に一度だけやったけど、あの時とはちょろっとばかし訳が違うわよ……」

「ガクガク(((( ;゚Д゚)))ガクガク(((( ;゚Д゚)))ガクガク」

「私の全身全霊の攻撃に……」

「ブルブル(((( ;゚Д゚)))ブルブル(((( ;゚Д゚)))ブルブル」

「……乙女の怒りを掛け合わせた、【常盤台の超電磁砲(レールガン)】最大出力の攻撃……」

「ガクガク(((( ;゚Д゚)))ガクガク(((( ;゚Д゚)))ガクガク」

「止められるもんなら止めてみなさいよっ!!!!!!!」

「ブルブル(((( ;゚Д゚)))ブルブル(((( ;゚Д゚)))ブルブル」

「当麻のバカァァァァァアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『カッ!!!!!!ッズッドォォォオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!』

「不幸だぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」

 この恐怖の体験のあと上条は、美琴にこっぴどく怒られることになる。(そりゃそうだ……)

 そしてこの翌日、学園都市は季節外れの落雷により、大規模な停電に見舞われ、【風紀委員(ジャッジメント)】や【警備員(アンチスキル)】を始め、アレイスター統括理事長までがその対策に終われることになった……らしい。

 因みに……青ピがこの日、どんな目に遭ったのかは、皆さんの想像にお任せします……。

197Mattari:2011/02/27(日) 00:35:37 ID:0GtaBKqI
ということで、如何でしたでしょうか?

もう、何も言うことはありません。
親属性ということで書いてはみた訳ですが……ドタバタ劇以外に何も思いつきませんでした。(´ヘ`;)ハァ

ではでは、お楽しみ頂ければ幸いです。<(_ _)>

198■■■■:2011/02/27(日) 01:09:09 ID:a2BcsuW2
>>194
GJ! 夜に、ふたりっきりならいいのかな〜 とか思いながらにやにやと読ませてもらいました。

おはつ三日やられたことないなぁ。

199■■■■:2011/02/27(日) 01:47:27 ID:pAsDmtUE
>>197
GJです!
首筋に息吹きかけられて悶えちゃう美琴ちゃんかわいい…w

200■■■■:2011/02/27(日) 01:51:35 ID:rwY.c/jY
>>197
GJです!
随分と久しぶりに『おはつ』聞きましたw

201すかびおじ:2011/02/27(日) 02:00:02 ID:a2BcsuW2
初めてSS投稿しようかと思って書いたら、無駄に重くて甘くなさ気なもんが出来上がった……。
しかも原作も禁書二期も見てないからひょっとしたら変なとこあるかも知れない。
そんなものでも、投下した方がいいかな?

202■■■■:2011/02/27(日) 02:05:44 ID:q1cehHAg
Go!

203行きはよいよい帰りは……:2011/02/27(日) 02:10:45 ID:a2BcsuW2
行きはよいよい帰りは……

「不幸だ……」
 二月の二十五日。上条当麻は今にも消えてしまいそうな表情で、帰路を独りとぼとぼと歩いていた。
 彼には犬に噛まれたような痕もなければ、空缶で転んだ際にできるたんこぶもない。では、何が彼を不幸たらしめているのか?
 今日という日を考えれば答えは簡単。二月二十五日――そう、国公立大学の前期試験が行われる日である。
「っと、あいつにメールしとかなきゃな」
 あいつとは学園都市第三位、レールガン、電撃姫、そして今では上条の恋人である御坂美琴のことだ。
 彼は携帯電話を取り出すと、かじかんで震える手で新規メールを作成する。
 彼は受験に望むに当たって、美琴に勉強を教えてもらいっていた。彼女の教え方は、上条にはそこらの教師よりも分かりやすく感じた。そして彼の成績も徐々に上がっていき、絶対に無理だろうと思っていた憧れの大学でさえ、模試でB判定がつく程度にまでなった。そのときには、ふたりでハイタッチを交わした。
 それなのに――それにもかかわらず、今日の本試験で彼の不合格は明確なものとなった。いくつか理由はある。
 まず、バスが並んでいて十分遅刻したこと。やたらと鉛筆が折れたこと。マナーモードにしたはずの携帯電話がいきなり鳴り出したことなど。
「結局、言い訳だけどな」
 最も悪かったのは、簡単な公式をひとつ、忘れていたことだった。
 今年の問題は比較的難しかったようで、その問題以外は壊滅的な状態だった。逆に言えば、その問題さえ解ければ後は天命を待つのみだ。
 しかし、その問題も、彼は公式を忘れて芋蔓式に間違えたのである。
 これで、少なくとも彼の中では、どう客観的に見ても合格はなくなった。
 メールの内容は、試験が終わったことと、感謝の言葉。
 彼自身も、身が裂けそうな程悔しくはある。しかしそれ以上に、このことを報告する時の彼女の顔を想像すると、申し訳なさで胸が締め付けられるのだった。
 震える指でメールを送信。
 返信を待つうちに、男子寮に着いてしまった。
 不幸に見舞われないように注意しつつ階段を上るり――手摺で指に棘が刺さったものの――部屋の前まで来た。
 そこで違和感。鍵が開いている。
(ま、泥棒に入られたところでインデックスは二月いっぱい小萌先生が預かってくれてるし、上条さんちには金目のものなんて何もないからいいんですけどねー)
 そんな軽い気持ちでドアを開けるとそこにいたのは、今は泥棒よりももっと会いたくない人だった。
「おかえり、当麻。お疲れ様」
「ただいま……って、どうして上条さんのお宅に美琴センセーがいらっしゃるのでせうか?」
「アンタが落ち込んでないかって見にきてあげたのよ」
「……それはどーもありがとうございます」
 不幸だ。心で呟いたが、流石の上条も口には出さない。
「……その様子だと、駄目だったみたいね」
 バレたのは上条が目に見えて落ち込んでいたからなのか、それとも美琴が彼をよく見ているからなのか。恐らく両方だろう。
 無言の肯定を上条が返すと、美琴はちょいちょいと手で自分の前に座るよう促した。
 重い足を引き摺って、上条は美琴と対面になるように腰を下ろした。
「お疲れ様」
「……多分、落ちたけどな」
「……ぷっ」

204行きはよいよい帰りは……:2011/02/27(日) 02:12:03 ID:a2BcsuW2
 ぷっ? 上条が訝しげに視線を上げると、笑いを堪えて肩をひくひくさせている美琴が目に入った。
「……えっと、流石にそれは酷くないか?」
「ふふ、ごめんごめん。でもさ、不謹慎で悪いけど、ちょっと嬉しいなって」
「はい? 何で俺が大学落ちてお前が喜ぶんだ?」
「だって……浪人するんでしょ?」
「両親と相談してからじゃないとなんともいえないけど、したいとは思う」
「なら、私とアンタはひとつ学年差が縮まるわけでしょ? 嬉しくないわけないじゃない」
「さいですか……」
 上条は、とりあえず美琴が笑顔なのでいっかと思えた。
 ただ、それでもやはり一度手の届きそうになった夢が遠ざかっていくのは、非情で辛いものだったのだ。
 知らずに、彼の心には擦り傷ができていた。
「でもアンタはさ」
 それまでのからかうような声とは一変、優しく諭すような声色で彼女は上条に語りかけた。
「当麻は悔しくて、情けなくて、辛いわよね? なんで無理やり平静を装うとするのよ。私はアンタの、上条当麻の彼女なのよ? もっと頼ってくれたっていいじゃない」
 上条は一瞬呆けたような顔をして、それから徐々に手が震えだした。
「……俺はさ、正直一年前までは大学なんてどうでもいいと思ってた」
「うん」
「だけどさ、美琴に言われて勉強をし始めたら結構興味が湧いてきて、行きたいって思った大学があったんだ」
「うん」
「そこなら学園都市内だし、判定も問題なかったはずだった。だけど、今日受けてきて、終わった瞬間に駄目だって分かった」
「うん」
「美琴に申し訳ないってのもあったけどさ、それ以上に、自分が情けなくって、悲しくて」
 そこまで言い切って、上条は美琴に抱きしめられた。
 彼は黙って美琴に抱かれ、静かに嗚咽を上げていた。
 美琴が抱きしめる力を強くすると、堰を切ったかのように涙が流れた。上条は、恥ずかしさなど一欠片も感じなかった。
 美琴は、そんな彼を強く強く抱きしめて好きな人を感じていた。



「悪いな、みっともない姿見せちゃって」
「全然。アンタが他の女に媚び諂っているときよりもよっぽど格好良かったわよ」
「どんな認識してんだ!」
「そんなに元気ならもう大丈夫ね」
「……ありがとな、美琴」
「ん」
「それと、他の人に移り気したことはないからな。俺はおまえ一筋だっての」
 彼は感謝の意も込めてギュッっと彼女を抱きしめた。
「ふ」
「え?」
「ふにゃー」
「え、ちょ、もしかして漏電!?」
 結果的に、彼は彼女を抱き続けなくてはいけなくなった。
(不幸だ、なんて言えないよな。幸福だー!)
 上条には、浪人生活も楽しいものになるなんていうあてのない予感がした。

205すかびおじ:2011/02/27(日) 02:15:08 ID:a2BcsuW2
以上でした。二時間もかけないとこんなものなのかな……文才ある人が羨ましい!
あと、前半の不幸部分は先日の国公立前期での実体験を元にしています。
こんな風に慰めてくれる彼女がいれば……(泣)

206■■■■:2011/02/27(日) 02:24:58 ID:q1cehHAg
GJ!
そしてドンマイ…

207とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 04:15:14 ID:MV9kKtVg
とある魔術の夢旅人 続き投下

「よし、今度は大丈夫だ。予約予約…っと」

アリガトウゴザイマシター

「御坂、おかげで助かったぜ。無事予約も出来たしな。」
「よかったじゃない。私のおかげよね。感謝しなさいよ。」
「へへぇ。御坂様のおかげで、上条さんは一生どうでしょうしますよ。」
「(えへへ、私も一生当麻していたい…。当麻も一生私のこと…)///」
「実はもう1つ御坂に頼みがあるんだが、いいかな」
「(ビクッ)…何よ。まだあるの?言ってみなさいよ(アセッ)」
「上条さんの周りはいつも、風と寒さと匂いと危険が一杯な訳じゃないですか。」
「というか、アンタはいつも自分から突っ込んで行くのでしょうが」
「それでだな、この予約券を御坂、お前に預かってもらえないかな」
「えっ?」
「いや俺の不幸体質で、もし落としたりなくしたりしたら大変だしな。俺の命から3番目に大切なものだし」
「なんで私がそんなこと…って3番目って何よ。2番目は何なのよ。というかこんなのがなんでそんなに大切なのよ」
「いやいやいや、もう自然とハンガーストライキな生活してるとさぁ、どうしてもそんな感じになっちまうんだよ。
 俺にとっては本当に大事なんだぜ…」
「あ〜わかった、わかったから(私、当麻にお願いされちゃった…)///」
「よし、じゃぁ、今から何かお礼するよ」
「え、じゃ、それなら…」

と言いかけてコンビニを出た二人の背後から声が掛かる。

「「あ、御坂さん!」」
「ん!あら、初春さんと佐天さんじゃない。どうしたの?こんなところで」

声をかけてきたのは初春 飾利と佐天涙子の2人。

「どうもー、これから初春と2人でちょっとカラオケでもいこうかって言ってたんです」
「あら、上条さんもご一緒でしたか? ちょっとお邪魔だったかしら」
「あああ、い、いや初春さん。そんなんじゃないから/// 気にしなくていいのよ」
「やあ、初春さんに佐天さん。ん、そういや今日は白井はどうしたんだ?」
「白井さんなら今日は支部で残業ですよ。もうたぁくさん書類をお願いしてきたので。てへっ」
「(初春さん…黒いよ)」
「そうだ、お邪魔でなければ御坂さんも上条さんも一緒にカラオケ行きませんか?」
「えっいや、私達はこれから(う〜〜、何で邪魔するのよぉ)…」
「よしっ、今日は気分がいいから、上条さんもカラオケ参加しちゃおうかな。どうだ、御坂も。たまにはいいんじゃねぇか?」
「…初春さんと佐天さんなら全く構わないわよ。(ちぇっ、しょうがないか…)」


------------------------------------------------------------------

近くのカラオケボックスにて

「そういえばお二人は、なぜあのコンビニにいらしたんですか?」

歌の合間のおやつタイム。
特製大盛りスペシャルパフェを食べながら、初春が聞いてきた。

「ああ、上条さんは今日年貢を納めてきたんですよ」
「え、もしかして上条さんて藩士なんですか?」

すかさず食いつく佐天。

「上条さんはどれが一番好きですか?」
「俺はやっぱりサイコロシリーズかな」
「へぇー。初春は原付東日本…だっけ」
「やっぱり『ギアいじったっけ ロー入っちゃって もうウィリーさ』なんて最高ですよね」

わいわいと盛り上がる3人から取り残されてしまった美琴。関係ないという素振りを見せつつ、曲名リストを1人寂しくめくっていく。

「(寂しい…。私はこの話題に入れないんだ…。聞いてても何の事だかわかんないし。アイツは私のことなんか見てないし…
こんな思いするのだったら来なきゃよかった…)」

美琴の思考はネガティブにベクトル変換しつつあった…

-------------------------------------------------------------------------------------

208とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 04:47:19 ID:MV9kKtVg
とある魔術の夢旅人 続々


「よしっ、こうなったら上条さんは歌うですよ。御坂も一緒に歌わないか?」

と言いつつ曲名コードを入力していく。

「え?私?」
「おう、俺の今一番好きな歌さ」
「(当麻の一番好きな歌…)」

モニター上の曲名…『1/6の夢旅人』

「え、知らないわよ。こんな歌」
「いいからいいから。そこじゃモニターうまく見えないだろ。歌えなくてもいいから、俺の横へ来いよ」

意識するかのように、わざと距離を開いていたのを、たちまち手を取られ、身体を密着させ…

「ちょっ、なっ…(カァーッ)」
「佐天さんも初春さんも、藩士なら歌えるよね」
「もちろん」
「もちろんですわ」
「よしみんなで歌うぞ」
「………」

まわる まわるよ 地球は まわる
何も無かった 頃から同じように
いつも いつでも 飛び出せるように
ダイスのように 転がっていたいから

「(この歌詞…)」

歌を知らない美琴は、半ば冷ややかに、モニター上の歌詞を見ている。

泣きたくなるような時も 君に会いに行きたくなっても
強がるだけ 今は何も 何もわからない

「(なんか…)」

世界じゅうを 僕らの涙で埋め尽くして
やりきれない こんな思いが 今日の雨を降らせても
新しい朝が いつものように始まる
そんな風に そんな風に 僕は生きたいんだ

「(いい感じかも)」

一人きりでは できない事も
タフな笑顔の 仲間となら乗りきれる
たどり着いたら そこがスタート
ゴールを決める  余裕なんて今はない

{(え…)」

誰かを愛することが 何かを信じつづけることが
なにより今 この体を 支えてくれるんだ

「(!!)」

世界じゅうを 僕らの涙で埋め尽くして
疲れきった足元から すべて凍り尽くしても
いつの日にか 南風がまた歌いだす
そんな風に そんな風に 僕は笑いたいんだ

世界じゅうを 僕らの涙で埋め尽くして
やりきれない こんな思いが 今日の雨を降らせても
新しい朝が いつものように始まる
そんな風に そんな風に 僕は生きたいんだ
生きていきたいんだ

「(当麻の事…歌ってるみたいに…)」
「(それに夢中で歌ってる当麻の顔…なんか素敵…)」

「(ハッ!!)」

気が付けば、上条当麻の右手は、御坂美琴の右肩を抱えていた。

「(私も…一緒に…当麻と一緒に歌いたい!)」

---------------------------------------------------------------

209とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 05:13:44 ID:MV9kKtVg
とある魔術の夢旅人  続々々

「…ねぇ、で、さ。アンタ、私へのお礼はどうなったのよ!」
「ああ、わりぃ御坂。つい調子乗っちゃって。今度また、な!」
「わかったわよ。じゃぁ次は私の言うことに従うのねっ!」
「しかしあれからあの曲、10回も繰り返すとはな…」
「いいじゃない。なんか気に入ったんだから」
「へぇ、御坂もいよいよどうバカってか」
「んー、なんでアタシは藩士じゃなくてどうバカなのよ。ゴラァ!!」
「ひっ…いや、上条さんは決してそんなつもりじゃ…」
「うるさーーーい!!!!」

---------------------------------------------------------------

それからまもなく、アイツの姿は学園都市から消えた…

ロシアの雪原の中で…

そしてあの巨大な要塞の中で…

最後に見たアイツは…

上条当麻は…

「まだやらなければならないことがある」

私の伸ばした手を振り払い、そう言って行ってしまった…

バカ…バカ…バカバカバカァァァァ……………

こうなると知っていたら、無理矢理にでもつかまえておくんだった…

私はね、まだアンタに言いたい事がたくさんあるのよ…

あの時、私の右肩に置かれた手の温もり…

まだ忘れられないんだからぁ…

あの日の約束…

まだ残ってるんだからね…

私とその周りの世界を守るって約束はどうするのよッ!!

当麻の大バカ野郎のスットコドッコイ!!!!


もう…知らない………

だから…………帰ってきて…………お願い…………信じてるから…………

あの時の歌のように……………

「誰かを愛することが 何かを信じつづけることが
なにより今 この体を 支えてくれるんだ」

そう。私、信じてるから。

当麻を信じてるから…

だから…負けない。

当麻の帰ってくるところは…

私の所だと…信じてるから。



そうだ、当麻から預かってた予約券。

DVD、ちゃんと受け取ってきたから。

帰ってきたら、一緒に見ようね。

だから…………………………………

--------------------------------------------------------

210とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 05:38:23 ID:MV9kKtVg
とある魔術の夢旅人 最終行


「ねぇ、何か忘れてない?」
「え?後なんかあったっけ?」
「アンタ、私に預けたものあるんじゃなかったっけ?」
「えーと…、あ、DVD予約券!あれ、発売後一ヶ月以内に取りに行かないと…」
「もう。ちゃんと貰ってきてあるわよ」
「おお、さすがは俺の美琴タンだぁ」
「当たり前じゃないの。私が当麻との約束、忘れるなんて絶対無いに決まってるじゃない」

「そうだよな。なんせ、俺の美琴は、俺の命の次に大切な人なんだからな」

「え?それって、2番…目?1番…じゃないって…こと?」

「1番は俺の命。でないと俺は、御坂美琴と、その周りの世界を守るなんて約束、守れないもんな」

「(!)…そうね、私も…当麻の命が1番大事かな。でないと私と、私の周りの世界を守ってもらうこと出来ないもの」

「ねぇ、当麻、私、信じてるから。これから何があっても負けないからね。貴方の命を守るためなら…私も…」

「美琴…」

---------------------------------------------- THE END----------

211とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 05:43:02 ID:MV9kKtVg
なんとかラストまで投下しました。

まぁ、駄作ではありますが、

ご勘弁の程を。

もう反省も後悔もしていない。

ちなみに最終行のシチュ描写も考えてあるんですけど。

どうしようか…

212sage:2011/02/27(日) 07:58:42 ID:uEJmfC.o
ぜひお願いします

213■■■■:2011/02/27(日) 09:26:32 ID:8rDuKFxs
お願いします

214■■■■:2011/02/27(日) 09:51:46 ID:WlC0p4aI
> そんなものでも、投下した方がいいかな?
> 考えてあるんですけど。どうしようか…
いい加減、こういうのはやめて欲しい。
本当は投稿したくてしょうがないんでしょう?w
だったら、ウダウダ言わずに投稿しなさい。

>>211
ほかの人とかぶる可能性があるので、投稿宣言してくれ。
>>1にそう書いてあるはずだ。

215■■■■:2011/02/27(日) 10:02:21 ID:JDxpuVG6
投稿感覚長すぎじゃね?
他の人の為にも書き終えてから投稿するのがマナーだよー

216■■■■:2011/02/27(日) 10:03:18 ID:JDxpuVG6
ちょっと吊ってくる

217■■■■:2011/02/27(日) 10:22:11 ID:ajS.tPuo
イイね!
GJです!

218とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 11:20:30 ID:MV9kKtVg
>>214
最初、そこまで考えてなっかたんだが、
書いているうちにいろいろと出てきてねぇ。
大筋の構想は出来てるんだが、細部が詰っていない。

>本当は投稿したくてしょうがないんでしょう?w
あ…ん…、そ…んな…、くや…しい…、でも…あぁん…、ビクンビクン!

よし投稿してやるw

>>215
すまねぇ。これから書く。ちゃんと書き上げて集中投下、努力する。
書いているうちに、いろいろ派生編が出てきたらどうするべ?

他の皆様、ありがとうございまする。
もう少々お待ちを。

219■■■■:2011/02/27(日) 12:15:23 ID:lgGcCZR2
>>205
うまい人の書き方をよく見てますねえ
今年、自分が上条さんと同じ立場の人だったので引き込まれました。
しかし禁書二期どころか原作すら読んでないのにSSを書くとは…

220すかびおじ:2011/02/27(日) 13:53:50 ID:a2BcsuW2
>>214
>本当は投稿したくてしょうがないんでしょう?w
書く→葛藤→投稿   書いてから投稿するまでにクッションがw

>>219
ありがとうございます。まとめサイトとレスは前々から見てました。

今再度>>1を熟読してきましたが、原作も二期も知らないのに投稿は出しゃばりかもですね。
受験後のやりようのない気持ちをぶつけてしまいました。なんかごめんなさい。

221■■■■:2011/02/27(日) 21:17:05 ID:C0Y4g4hU
>>205
受験は個人的にはろくな思い出がないんで他人事とは思えない話でした(あまりにもふがいない
自分に、私なんて泣きながら答案書いたくらいです)
上条さん、来年は頑張れ!
そしてすがびおじさん、後期頑張れ!

222とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 21:59:47 ID:MV9kKtVg
いまから2レス投下します。

223とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 22:02:17 ID:MV9kKtVg

とある魔術の夢旅人 外伝 「起きないあいつ」1


英国 ロンドン
とある大聖堂の中、その祭壇の前にただ1人、銀髪の少女がいた。
その姿は白地に金の飾り縫いをつけた修道服に身を包んでおり、ただ一心に祈り続けている。
バタン!!
扉が開く大きな音と共に、聖堂内に大きく響く声
「…○×△■#%…」
祈りの少女の耳に飛び込んできたのは、彼女には聞きなれた、懐かしい、そして愛しい声だった。
少女は思わず振り向き、その姿を認めるや声を上げて駆け寄り、そして思いっきりその胸に飛び込んだ。
「とうま!!とうまなんだね!!とうまとうまとうまぁ!!!」
息を切らせ、扉から走りこんできたのはツンツン頭の少年。名前は上条当麻。
「インデックス!!」
「とうまぁ!!無事だったんだね!!足、ちゃんとあるんだよね!!」
「…足って、こっちでも幽霊は足、無いのか?」
「とうま、感動の再会シーンで、そのセリフはどうかと思うんだよ」

-----------------------------------------------------

224とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 22:03:40 ID:MV9kKtVg
「起きないあいつ」2

感動の再会と、その後のやり取りも収まった後。
少年は少女に向き合い、しばらく何も言わずにもじもじしていたが、
やがて意を決したように口を開いた。
「インデックス、実は俺、お前にどうしても言わなければ…」
「待って、とうま。私は何も言わないよ」
「インデックス…」
「とうま。私は確かにとうまのことが大好きだよ。愛してるよ」
「でも私はシスターなんだよ。私が本当に愛するのはとうまだけじゃないんだよ」
その言葉に思わず動揺を見せる少年。
「私はね、私を必要とする全ての人を愛するのが願いなんだよ。だからとうまを愛しているんだよ。
そしてとうまにもとうまを必要とする人を愛してほしいんだよ」
「それは…」
「だから、とうまは短髪…みことのトコへ帰ってあげてほしいんだよ」
「インデックス…」
「気にしないで、とうま。とうまの他にも、私のこと、待ってくれている人はいるんだよ」
「え、それって…」
「ん、待って」
少女は少年を止め、少し離れた大きな柱に向かって話しかけた。
「…ステイル、男女の会話を立ち聞きするのは野暮ってもんなんだよ」
赤毛の長髪にピアスをし、目の下にバーコードを彫った一人の男がその柱の陰から姿を見せた。
「…気づいていたのか、インデックス…」
「ステイル!お前…今の聞いて…」
少女は再び少年に向き合って言葉を続ける。
「とうま。私もね、ここに帰ってきて、いろいろ知ったんだよ。もちろん記憶には無いけれど…」
「インデックス…」
「とうま、さっきも言ったよね、とうまを必要とする人を愛してあげてほしいって」
「インデックス、すまない…」
「なぜ謝るの?とうま。とうまの悪い癖だよね。そこはありがとうじゃないの?とうまは感謝の気持ちが足らないんだよ」
「え…」
「とうまのまわりには沢山の仲間がいるんだよ。いっぱい支えてくれている人がいるんだよ。どうしてそれに気づかないのかなぁ」
「うっ…」
「だからとうまはバカだと言われるんだよ。すぐ何もかも1人で背負おうとする。それはね絶対直した方がいいと思うんだよ」
「ごめ…!いや、ありがとう。インデ…え?、ん!、んグ!、」
少女は、少年の両頬をその手で挟み、唇を重ねた。
「…でもそれがいつものとうまなんだよ」
「イ…ンデックス…」
「さぁ、とうま。これでお別れじゃないんだよ。私はとうまを必要とする時は、またとうまのところへ…行くから」
「だから、みことの所へ帰ってあげるんだよ」
「…いいのか、インデックス」
「あぁっ…もうっ。とうまは女に恥をかかせるつもりなのかよ!だからとうまはバカで鈍感なんだよ!!
そんなとうまにはお仕置きが必要なんだよ!!!」
「え、あ…、インデックスさん?その歯は…もしかして…ひぃっ!?」
ガウガウガウガウガブゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

そうしてその後、少年は少女から離れていった…

再び無言で祭壇に向おうとする少女に向って、赤毛の男が口を開いた
「それで、よかったのか?インデックス」
少女は祭壇に向ったまま、答えた。
「いいんだよ、ステイル…」
涙交じりの声だった。
そしてじっと立ち止まったまま、2人の間に沈黙が流れる。
先に口を開いたのは少女の方。
「ステイル、さっきの話しのこと…」
男に動揺が走る。
「ありがとうなんだよ、ステイル…」
「インデックス…、お前…わかって…」
少女は涙を流しながら、男に向き合った。
「…ステイル、とうまは本当にわかっているのかな」
「何をだ…」
男はそんな少女から目が離せなかった
「帰るって意味を」
「さぁ、どうかな。でも、多分…大丈夫だと信じてやろう」
そのままお互いの目を見つめ続けていた。

------------------------------------------------------------------------------

225とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 22:08:02 ID:MV9kKtVg
計算違いでもう1レス

「起きないあいつ」3

日本 学園都市

宵闇が迫る、とある鉄橋に、もう一人の少女がいた。
何も言わず、ただ月をながめながらぼんやりと立っていた。
少女の名前は御坂美琴。

そこは忘れもしないあの夏の夜、その少女が、ある少年に初めて助けを求めた場所だった。
周りの季節は既に変わり、風は冷たく、暗くなるのも早い。
澄み渡った空には、暖色と暗色のグラディエーションが滲んだように塗られていた。
橋の欄干にもたれるように佇む少女の、視線の先にあるのは、青白く輝く十六夜月。
彼女はここに来るといつも、あの時の少年、上条当麻の顔とその声を鮮明に思い出す。
自分の中の上条の顔と声が、少しでも色褪せるように思えた時、彼女は必ずここに来ていたのだった。
あの時の、どうしようもない絶望と無力感の中から、救い出してくれた上条はもう自分の横にはいない。
ただ彼が残してくれた希望と願いだけは、確かに自分の中に存在することだけが、
ともすれば崩れそうな自分の支えになっているのがわかっているからだ。

たまに起きる、どうしようもなくどす黒く、重苦しいあの気持ちを除けば、彼女は周囲が心配せずにすむほど、
表面的には安定していた。彼女はその類まれなる精神力によって、RSPK症候群さえも押さえ込んでいたのである。
しかし、それはわずかなバランスの狂いによって、簡単に覆されかねない危うい状況でもあるのだ。
そのバランスが狂わぬよう、彼女は定期的にここに来ていたのだった。
しかし高位能力者とはいえ、まだ10代半ばの少女である。
このような日が続けば、いつかは破綻することが目に見えているにも関わらず、だ。

御坂美琴はいつものように、上条当麻の顔と声を思い出すように、月の光を浴びていた。
だがその日に限り、上条の顔も、声も、彼女の中に浮かんではこなかった。
しかし不思議と焦りも不安感もない。そのような時に沸き起こる、どす黒く、重苦しいどうしようもない気持ちさえ出てこない。
美琴は心静かに、全てが終わった時のような何か清々しい気持ちでいた。
何かに誘われるよう、橋の向こうへ続く道の先に視線をを向けた時、そこに人影を見つけた。
その瞬間、美琴は大きな衝撃を受けた。胸の鼓動は早くなり、目は大きく見開き、口の中がからからに乾く。
月の明かりに照らされたその人影は徐々に近づき大きくなる。
永遠にも思われた時が過ぎ、その人影は美琴の傍に立つと、口を開いた。
「ただいま、美琴…」
青白い月の光を浴びているその顔は、紛れもない上条当麻その人だった。
「お…か…え…り…、と……う……」
その瞬間、美琴の視界は、あたかも水面下にあるがごとく、なにもかも滲んで見えなくなった。
声にならない声を出しながら、彼女は上条当麻の胸に飛び込んでいった…

----------------------------------------------------------------------
続く

226とある魔術の夢旅人:2011/02/27(日) 22:14:19 ID:MV9kKtVg
ええて、次回の投下はまだ未定。ちょっと仕事が立て込んでて。

ちょっとアダルティになりそうなのだ。このままだと。
エロは掛けないけど、リアリティは出したいなっと。

227ぬこぬこ教信者:2011/02/27(日) 23:43:12 ID:oCcRvPAY
楽しみにしてます

228■■■■:2011/02/28(月) 00:11:55 ID:FHxB6rno
>>227
書き手以外はコテハンつけない方が良いよー
あとメール欄に半角でsageって入れてね

229■■■■:2011/02/28(月) 00:15:29 ID:AUm3oEgE
>>226
だいぶ雰囲気かわりましたね。インデックスとのからみや御坂の内面描写良かったです!続き期待してます!

230ぬこぬこ教信者:2011/02/28(月) 00:40:13 ID:PmZadXI6
分かりました
以後そうします

231■■■■:2011/02/28(月) 00:44:38 ID:PmZadXI6
とてつもなくかあいいよー
つぎ気になりますよー

232原作知らず:2011/02/28(月) 01:26:57 ID:z4a7PhIQ
「上条さんと美琴に子供がいたら……」って妄想したら親大好きっ子になりました。原作知らずです。

スレの話の流れにあった「年齢逆転パラレル」のネタを使わせてもらいました。
そのネタで小ネタを作ったので今から5分後に投下したいと思います。

タイトルは「○○○疑惑」
計2レス消費予定です。

233○○○疑惑:2011/02/28(月) 01:30:44 ID:z4a7PhIQ
「おっねっえっさまー!!」
「わっ!?」

 名前を呼ばれ振り向こうとした瞬間、黒子が空間移動してきて背中にのしかかってきた。
 もう高一になったんだから、人前で抱きついてくるのはいい加減やめてほしい。

「今日は風紀委員は非番なんですの! ですからお姉さま! 黒子と愛を深めに参りましょう!」
「あ、ごめん。今日は予定があるの」
「予定!? もしやまたもやあのガキンチョでは!?」
「そっ。だからアンタとの愛は深めないし深めるつもりも毛頭ないわ」
「そんな!? お姉さまは私よりもそのガキンチョを選ぶんですの!?」
(そりゃ誰だって騒がしい変態よりも騒がしい子供の方を選ぶでしょ)

 などとは言葉には出さず、携帯で時間を確認しつつ黒子を振りほどいて美琴は歩を進める。そろそろその『ガキンチョ』との待ち合わせの時間だ。
 後ろでは、まるで顔をどこかに打ち付けている様な重い音がテンポよく聞こえたが、大方発信源は黒子なので気にしない。

 気持ち早足になりながら美琴はいつもの自販機の前へ向かった。
 10分と経たずに到着したのだが、案の定、あの『ガキンチョ』の姿はなかった。
 自販機に蹴りをかましヤシの実サイダーを献上させてから、どこに居るか聞こうと携帯のメール画面を開いた。
 まぁどうせ、なんだかんだと地味な不幸に巻き込まれているんだろう。
 
「不幸だーーーーーーーー!!!!」
「そうそう、こんな感じに。……って、え?」

 声の方に顔を向ければガラの悪そうな人達に追われている、ウニヘッドが特徴の中学生がいた。

「ったく……。あのバカはまた首を突っ込んだのね」

 呆れて呟きながら意識を前髪へ向ける。
 狙うは不良たち。
 威力を調節し狙いを定め発射する。

『おおおおおおお!?』

『雷撃の槍』は不良たちへと突き刺さり、彼らを程よく焦げさせて気絶させた。
 その光景を「おお!」と感心したような顔で見てから、笑顔でこちらを向いた。

「ありがとなー! ビリビリ姉ちゃーん!」

 ピクっと美琴のこめかみが引くつき、美琴の前髪から再び不穏な音が鳴り始める。
 そして狙うはこっちに手を振っているあのガキンチョ。

「おわ!?」

 雷撃は少年を黒焦げにすることなく、少年の右手に吸い込まれるように消えていった。
 驚いている少年に美琴は歩み寄り、少し怖さを覗かせる様な口調で話しかけた。

「あぶねーだろ! ビリビリ姉ちゃん!」
「おいこらガキンチョ。ビリビリ言うなって前も言わなかったっけ?」
「そっちこそガキンチョ言うな! 俺には上条当麻って名前があるんだ!」
「アンタが私を名前で呼べばちゃんと呼んでやるわよ?」
「ぐっ……!」

 美琴のその言葉に詰まり少年、上条はブツブツと「ビリビリ姉ちゃんはビリビリ姉ちゃんだろ……」とどこか恥ずかしそうな、そして照れたような表情で呟いた。

234○○○疑惑:2011/02/28(月) 01:30:57 ID:z4a7PhIQ
「聞こえてるわよガキンチョ」
「げっ!? この地獄耳!」
「ほほぅ? って事は聞かれたくない事を言っていたのね?」
「ハッ! この騙したなー!!」
「ま、そこんとこは後でゆっくり聞くとして、ほら行くわよガキンチョ。試験近いんでしょ?」
「そうだった! 急ぐぞ姉ちゃん!」
「こら、急に走り出さないの。転ぶわよ」

 ハッとした表情で美琴の手を取り急いで走り去っていく上条。
 手を引かれながら美琴は「相変わらず手のかかるガキンチョね」と僅かに呆れを滲ませた優しい表情で、全力疾走している上条の頭を見下ろしていた。




「はい、今日はこれで終わり」
「うがー……。疲れたよぉ……」
「アンタが普段から勉強してないのが悪いのよ」

 テーブルに手を投げだし突っ伏しながらぼやく上条に、美琴は使ったテキストを片付けながら返した。
 勉強場所は決まってこの少年の部屋だ。最初の頃は広い美琴の部屋や図書館でやっていたのだが、いつだったか自分の部屋でやろうと上条が強く言ってきたのでこの場所になった。
 そこは少年なりのプライドなのだが、その辺りは美琴にはわかっていない。

「姉ちゃーん……。腹減った〜……」

 言われて時計を確認する。針は既に6時を差しており、外もすっかり真っ暗だ。
 その直後に「グゥ〜」と腹の虫が激しい自己主張をしていた。
 そのまま帰ろうとしたのだが、そうまで訴えられたら帰りにくい。
 小さく息をつきながら美琴は立ち上がりキッチンに向かい、同時に上条は期待に満ちた眼差しを送っていた。

「……、仕方ない。なんか作ってあげるわよ」
「おーっ!! ありがと美琴姉ちゃん!」

 腰に衝撃。上条が後ろから抱きついてきたのだ。
 何とかそのまま身体を回し、上条と向き合う形になる。そして見えたのは、眩しいまでの笑顔だった。

「っ!? ……コホン。こらっ! 危ないから急に抱きつかない! ほら、ご飯出来るまでテーブル片付けてなさい」

 コツンと小さなげんこつと共に上条を叱る。上機嫌な上条も素直に「はーい」と言いながらテーブルの上を片付けに行った。
 その音を聞きながら美琴はエプロンを身につける。

(こんな時ばっかり『美琴姉ちゃん』って呼んで……。……………あれ? なんか、変な感じがする。あれ?)

 その変な感じを抱きながら美琴は冷蔵庫の中を物色する。
 中から料を取り出し準備を始める。今日は男の子なら皆大好きカレーライスだ。
 今日は勉強頑張ったし、ちょっとお肉多めにしてあげようかな。とか何とか思っていると本当に肉を多めに切っていく。

(ついでに旗でも建ててあげようかしら)

 多分、上条は喜ぶだろう。
 いくら大人ぶっていてもまだまだ子供だ。
 トントンとリズムよく材料を切っていく音と、リビングから聞こえるテレビの音の中、美琴は先ほどの変な感じに襲われていた。

 上条に笑顔で抱きつかれてからなんかおかしい。
 別に笑顔なんて初めて見る訳でもないのに。
 さっきからなんだか顔が熱い。耳の奥でドクンドクン! とうるさい。
 そこで「あれ? ちょっと待って。この感じって……」と発見しなくてもいい物を発見した時のような感覚に襲われた。

(私ってまさか、ショタコンだったの!?)

235原作知らず:2011/02/28(月) 01:31:10 ID:z4a7PhIQ
以上となります。

続き? やだなぁ、続きは皆さんの心の中にあるんですよ(遠い目
他の人が同じネタで書いてくれる日を待ちましょう。自分は既に渇望しています。

最後になってしまいましたが、ネタを勝手に使った形になってすいません。
不快に感じたら申し訳ありません。

では、これで失礼します。少しでも皆様のお暇を潰す事が出来れば幸いです。

236■■■■:2011/02/28(月) 11:36:37 ID:qLk8FxbU
>>235
GJです。
上条さん、いろいろとやんちゃすぎるw
ところで、続きは?

> ネタ使用
誰も怒らないと思うぞ。むしろ喜ぶと思うw

237■■■■:2011/02/28(月) 14:19:11 ID:ou38WWeM
>>235
原作知らず氏のssは読んでてホンワカする
なんかss独自の嫌な癖がなくて読みやすい

solosolo原作嫁場?

238とある魔術の夢旅人:2011/02/28(月) 14:54:33 ID:A5WXTQds
手が空いたので投下する。
クライマックスに続く前段階。
書きたい描写が次々出てくる。
うまく文字表現出来ないのも沢山。
感情表現・内面描写って難しい。

239とある魔術の夢旅人:2011/02/28(月) 14:56:15 ID:A5WXTQds
「起きないあいつ」4

その日夕方近く、白井黒子は書類作成のため、いつもの支部にいた。
ロシアとの戦争が終結して以来、管内に不穏な出来事もなく、いつもの風紀委員活動に戻っている。
同僚の初春飾利は、監視システムをチェックしつつ、画面に映る人の流れを漫然と、
それでいて細心の注意を払いながら眺めていた…とその時。
「白井さん、ちょっとこの人…」
その声に反応し、白井の意識に緊張が走る。
「これ…は…」
モニターに映った人物を見て、白井の身体に鳥肌が立った。
「上条さん…」
初春がその名を口にする。
「あの類人猿…戻って…来やがりましたの…」
「し、白井さんってば」
白井の相変わらずの言葉に、初春は思わず笑みを浮かべた。
「(よかった…。上条さん、戻ってらしたのね…)」
白井はしばらくの間、何か考えるような顔をしていたが、やがて何か決意を秘めた表情に変わった。
「初春さん、ちょっと出かけてきますの」
その時の白井の表情を見なかった初春は、暢気に答えた。
「はぁい、いってらっしゃい。上条さんによろしく…」
その言葉も終わらないうちに、白井はテレポートに移った。

---------------------------------------------------------------------

上条当麻がロンドンから、学園都市第7学区にある自宅たる学生寮に戻ったのは、その日のお昼前だった。
食料品など買い物をしつつ、街の喧騒に包まれていることは、彼にとって懐かしく、快く感じられ、気分も良かった。
久しぶりに開けられた自室の窓からは、新鮮な空気が入れられ、湿気た臭いは外に吐き出された。
痛んだ食料品や埃の積もった床を掃除し、ベッドのシーツも取り替えられ、
最高とはいえないものの、良好な居住空間へと復活した。
しかし、そこには何か大事なものが消えたような、ポッカリとした喪失感と共に、寒々した空気だけが残されている。
上条は、そこにいるはずだった者の名を思わず呟きそうになり、あわてて頭を振る。
人は、前に進むしかないのだ。

「さて、片付けも終わったし、次は…」
彼は戦地で携帯電話を無くしていた。
「せめてあのゲコ太ストラップだけでも残ってればよかったんだがな…」
彼はまた別な喪失感を感じつつ、そうぼやいて、街へ手続きに出かけた。

新しい携帯はすぐに手に入ったが、それまで蓄積した電話番号などは当然覚えてなどおらず、
せっかく学園都市に帰ってきたものの、未だ誰とも連絡をつけられなかった。

「しゃあねぇ、本日のメインイベント、始めるとすっか…」
上条はこの後、よく利用していた公園の自販機前に行くことにした。
御坂美琴を探すために。

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240とある魔術の夢旅人:2011/02/28(月) 14:57:31 ID:A5WXTQds
「起きないあいつ」5

いつもなら、この公園のこの自販機の前に、あの少女はいるはずだった。
いや、自分がここにいれば、必ず向こうから何かのアプローチがあるはずだった。
しかしその日、下校時間を過ぎても、あの怒ったような、笑ったような、なんともいえない愛らしい表情の少女はいなかった。
上条当麻はちょっといやな気持ちがした。

あのロシア上空で見た御坂美琴の顔は、それまで見た中で一番美しかった。一番凛々しかった。
しかしその彼女を突っぱねたのは上条自身であった。わざわざこんな激戦地まで、一人の少年を追いかけて、
たとえ高位能力者といえども、たった一人でやってくるのは至難なことである。
ましてや10代半ばの少女。そんな少女が、少年を救いにやってきたのだ。
如何に鈍感で、バカな上条当麻でさえ、その意味は十分にわかる。御坂美琴は、愛する男性を助けに来たのだ。

しかし上条当麻はそんな御坂美琴の必死の願いを、その目の前で『ぶち壊して』しまったのだ。

かつて上条は、御坂美琴とその周りの世界を守るという約束をした。
だからこそ、上条は必死で彼女のために『も』戦い、いつも生還してきた。
しかし今回ばかりは、上条の負けであった。いや生きている以上、試合には勝った。
でも勝負には負けたのだ。その理由が、上条にはなんとなく理解出来つつあった。

「あの時、最後に見た美琴の顔、泣いていたよな。俺が泣かせたんだよな」
「俺は、あの約束、守れなかったんだよな。美琴は、許してくれるのかな」

ベンチに腰を掛け、俯いて両手で頭を抱えた状態の上条に、衝撃が襲った。

「な、なんだ」
一瞬美琴の電撃かと期待したが、すぐにそれは失望に変わった。
「なんだ白井か」
「なんだとは、たいがいですの、この類人猿さん」
「これまでどちらかにお出かけでしたの。しばらく顔を見なくて清々してましたのに」
相変わらずの挑発に、いささか辟易しながらも、上条はその問いに答えた。
「いや、ちょっと遠出したんでね。おまけにアッチコッチでトラブっちゃってさ」
「ほう、ロシアあたりにでもお出かけだったのかしら」
「いや、ま、そのね…」
「まぁそれはよろしいの。むしろここからが本題ですの…。上条当麻!」
そう言い放った白井の表情は、上条がこれまで目にしたことがなかった。

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241とある魔術の夢旅人:2011/02/28(月) 15:03:26 ID:A5WXTQds
「起きないあいつ」6

白井黒子は、いつになく真剣な面持ちで上条当麻に向き合った。
「貴方、わたくしのお姉さまに何をされましたの…」
半ば予想していたとはいえ、さすがに面と向って言われると堪える。
しかも自分が御坂美琴にしたことを理解した上は、何も言葉に出来ない。
「黙っておられては、何もわかりませんの…」
「でもなんとなくわかりますの…」
「貴方は、お姉さまの大切にしておられたものを壊してしまわれたようですわね!」
白井の言葉が、容赦なく上条に突き刺さる。
「…どうやら図星のようですのね」
「お姉さまが戻られた時、表面的には何の変化も見られませんでしたの」
「でも夜毎、うわ言のように貴方の名前をつぶやかれるお姉さまの姿は痛々しくて…見ていられませんでしたわ」
「お姉さまは貴方と違って、高位能力者ですの…」
「ですから自らを律する事に関しましては、他の何方にも負けませんわ」
「ですが睡眠中は別…。真夜中にうなされては飛び起き、ため息をつきながら携帯電話を眺めているお姉さま…」
「それがどういうことか、貴方、理解されてますの?」
「黙ってなくてなにかおっしゃったら?上条当麻さん!」
重苦しい沈黙が流れる…
上条のあまりの反応の無さに大きく失望した白井黒子が、ある決断をしようとした時、上条の口から想定外の言葉を聞いた。
「白井、今までありがとうな」
「えっ…」
「俺さ、バカだから今まで全然気がつかなくてさ…」
「こんな俺を助けてくれる人がいっぱいいるのにさ…」
「これまでのことを、みんなに感謝しなくちゃな。俺、本当に助けてもらってたんだって」
「今まで不幸だーなんて口癖になってたけどさ。俺は本当は不幸じゃなかったんだって」
「だから、本当に、今までありがとうな。白井!」
「い、いきなりなにをおっしゃられますの。それとお姉さまのこととは別でしょうが…」
「俺、まだ誰にも言ったことが無いんだが、ある奴と約束しててさ…」
「御坂美琴と、彼女の周りの世界を守るって」
「貴方、それ、どういう…ことか…わかって…」
今度は白井が動揺する番だった。
「恥ずかしい話だが、実はこれまで解ってなかったんだ」
上条はいつもの笑顔になったが、目だけは真剣だった。
「その約束の意味ってものをさ…。でも今ははっきりとわかったんだよ」
「俺、その約束を守れなかったんだ。それを美琴に謝りに来たんだ」
「貴方…」
白井がいつもの顔に戻った。
「やはり貴方は類人猿以下、ですわね」
「そのお猿さん以下の脳みそで、わたくしの大切なお姉さまを傷付けてしまうのは…」
「許されるべきことではございませんの!」
「わたくし、今日はある決断をしてまいりましたの」
「貴方のお返事しだいでは、本当に貴方をこの世から消して…」
「お姉さまをわたくしの手で楽にしてさしあげようかと」
「白井…」
「ええ、ジャッジメント失格、いや人間として失格ですわね」
「でも、感謝いたしますの。上条さん」
「おかげでわたくしは罪を犯さなくてすみましたの…」

何か言おうとした上条に、白井はそれを遮るように畳み掛ける

「まだわたくしのお話は終わっておりませんの!」

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242とある魔術の夢旅人:2011/02/28(月) 15:06:53 ID:A5WXTQds
「起きないあいつ」7


キッと表情を引き締めた白井が、上条に放った言葉は強烈だった。
「今夜、お姉さまを一人にさせていらしたら、わたくし、この鉄針を貴方の心臓にテレポートしてさしあげますの」
そう言い放った白井の両目に光るものが見えた。
「わたくしも貴方にはいろいろ借りがございますの。でもこれで貸し借りなし、でございますの」
「お前…」
「もう一つ。今夜、お姉さまが帰る場所はわたくしのお部屋ではございませんの」
「え、おいっ…」
「もちろんお姉さまの2回目は、わたくしが頂戴しますから誤解のないように」
「お前、どんな誤解だよ。っていうかそれは…」
「お姉さまを支えることが出来るのは、わたくしだけではないということですの」
「白井、本当に、ありがとうな。感謝するよ。でもそれについては美琴の気持ちが…」
「ああ、もう本当にお猿さん以下ですのね。女性に恥をかかせる殿方なぞ、最低最悪ですの」
そう言い放つと、彼女はこれまで誰にも見せたことがない顔を、目の前の少年に見せた
「…お姉さまは多分今夜も、いつもの鉄橋のところですの。どうか行ってさしあげてくださいませ。」


「行ってしまわれましたわね…」
走り去る上条の背中を眺め、白井はそうつぶやくと、くるりときびすを返した。
両の目からこぼれる滴の、本当の意味を白井はまだ、誰にも言ったことはなかった。
あふれ出る感情を押しとどめようとすればするほど、視界が滲んで見えなくなってしまう。
傍のベンチに腰を下ろすと、彼女の肩は細かく震え始めた。嗚咽を漏らしつつ、それでも彼女の顔には笑みがあった。
彼女もまた、一人の恋する少女であった。

------------------------------------------------------------------------------
続く

243とある魔術の夢旅人:2011/02/28(月) 15:16:03 ID:A5WXTQds
書いているうちに、女性に恥をかかせるという不幸を振りまいている上条がw

244■■■■:2011/02/28(月) 18:28:16 ID:ntuMLmD2
黒子にもフラグを立てちゃう上条さんか
でも美琴と一緒にいるときに上条さんに蹴りをいれるから
実は美琴に嫉妬している可能性もありそうだw
上条さん以外の男が美琴に近寄っても黒子がこない理由にもなりそうだ
実は上条さんを黒子がつけているから偶然にもタイミングよく邪魔が入る
そういう伏線にするとありえそうな内容のSSですね

245とある魔術の夢旅人:2011/02/28(月) 20:29:22 ID:A5WXTQds
ううむ、外伝とか言ってるが、もはや別物語になりつつあるな。
というわけで、外伝ってのは抜きで、全くの別ストーリーとして見てください。

>>244
上条さん的には、黒子が出動する現場で、結構な割合で遭遇してそうですからね。
その中でそういうフラグが立つ可能性も無きにしもあらずということで。

246■■■■:2011/02/28(月) 21:09:54 ID:60dwO/iM
う〜ん、最近少し自分語りが多いような気が…。
作者は必要最低限の補足をするだけのほうがスマートではないかな?
ちょっと気になりました。感想でなくて申し訳ない。

2471-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2011/02/28(月) 21:53:00 ID:qLk8FxbU
>>245
それなら名前欄をどうにかして欲しい。
作品名なのか、投稿者名なのか、どちらかはっきりしてください。

248■■■■:2011/02/28(月) 22:22:38 ID:2HtSdM0U
>>235
ぶはっ(鼻血
ちっこい当麻君と美琴お姉ちゃんか…
可愛過ぎます><

249夢旅人:2011/02/28(月) 22:27:21 ID:A5WXTQds
>>247
了解しました。では投稿者名、夢旅人でお願いします。

250■■■■:2011/02/28(月) 23:30:51 ID:RWReGGGw
やべぇ〜やっぱり美琴たんかあいいーよー

251Mattari:2011/03/01(火) 00:53:34 ID:JJHNNnYc
>>198
ありがとうございます。
夜は……本編で……考えてたりします。w

>>199
ありがとうございます。
でもアレは……悶えてる……というのだろうか?w

>>200
ありがとうございます。
でも……歳がバレそうで……ヒヤヒヤしてます。w

>>235
GJです!
年下の上条さん……か。
面白いかも……何か考えてみようかな?w

>>243
GJです!
捉え方が違うと、こういう作風になるんだろうな。^^


さて、『見知らぬ記憶3』の続きを投下させていただきます。
どなたも居られなければ、1:00より、11レス使用します。

252見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:00:32 ID:JJHNNnYc

「あーッ!?……居た居た。コイツ!!……って、ちょっと待ちなさいよっ!!!」

「……えっと……」

「待ちなさいって言ってんのよっ!!待ちなさいってばっ!!!」

「……コッチがこうで……」

「アンタよ、アンタ!!止まりなさいってばっ!!!」

「……アレ?……コッチが……アレ?……」

「待てッつってんだろうが!!無視すんなやゴルァ〜!!!!!」

『バリバリバリッ……ズドンッ!!!』

『パキィィン』

「どわぁぁああ!!!あッ……アッブねぇなぁ……って、昨日のビリビリお姫様じゃねぇか……?」

「ビリビリ言うな!!私にはちゃんとミコトって名前があるんだからねっ!!!」

「へーへー、で、そのお姫様が何の用だよ?」

「何って……それは……勝負よ、勝負!!今日こそ決着を付けてやるんだから!!!」

「決着なら昨日着いたじゃねぇかよ……オマエの勝ちでさ」

「あんなのアンタの実力を全然出してないんでしょ?私は全力のアンタをブチのめしたいのよっ!!!」

「勇者の私闘は禁じられております」

「んなこと、聞いてんじゃないわよっ!!!」

「……ハァ……不幸だ……!!」

 いつもの(?)口癖を呟いたかと思ったその瞬間、トーマはいきなりミコトを抱き抱え(お姫様ダッコ)て横っ飛びに飛んだ。
 すると、トーマがそれまで居た空間にいきなり金属矢が出現し、ポトリと落ちた。

『カシャーン……』

「えっ!?えっ!?な……なにっ?」

「出て来いよ……空間転移だろ?」

 トーマは金属矢を飛ばした『力』を持つ者の位置が分かっているように、後ろを振り向き、細い路地の入り口を睨み付けた。

「別に姫様を狙った訳ではありませんでしたが、姫様を守って飛ぶ辺りはさすがに勇者殿……といったところでしょうか?」

「クロコ!?」

「何だ……知り合いか?」

「ミコト姫様付の守り役。クロコにございます。以後お見知りおきを」

「へぇ……守り役なんてもんまで持ってんのか……ホントにお姫様なんだな」

「なっ、アンタねぇ……私を何だと思ってた訳!?」

「ビリビリワガママ娘」

「なんですってぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!」

「こっ、コラッ。ダッコされたまま暴れんじゃねぇ!!!」

「ヘッ!?」

「フウ……大人しくしてりゃぁ、結構カワイイのによ……」

「えっ!?……なにっ!?……か、か、か、かかかかかか可愛いって……」

「ん?どした?」

(わ……私……こ、こ、コイツにダッコされてる……。しかも、お姫様ダッコ。そりゃ私だってお姫様だけど……されるのは初めてだし……ちょっと……嬉しい……かも……)

「何、赤くなってんだよ?熱でもあんのか?」

 そう言うと、トーマはミコトをそっと降ろし、額に手を当てて自分の額と比べてみる。

「別に……熱は無さそうだけど……そんな赤い顔してんなら、サッサと城に帰って寝ちまえよ。じゃな……」

「……ない……」

「ヘッ!?」

「……けない……」

「な……なにっ?」

「……歩けない……って言ってんの!!」

「歩けないって、オマエなぁ……そんな体調で何でこんなトコに出て来てんだよ……」

「イイから……」

「ハァ?」

「お城に帰るから……」

「帰ればいいじゃねぇか?」

「歩けないのっ!!!」

「じゃあ、どうすりゃいいんだよっ!?」

「……ダッコ」

「ヘッ!?」

「もっかい……ダッコ……」

「あ、あのなぁ……さっきは……」

「イイから、私をダッコしてお城まで送りなさいよっ。こっ、こっ、ここここ、コレは姫としての命令です!!!」

「……ハァ……不幸だ……」

「ひっ、姫様っ……そ、それは……なりません!!」

「控えなさいッ!クロコっ!!」

「えっ!?」

「い、いやっ……しかし……今、迎えの者を呼んで参ります故……暫しお待ちを……」

「……ヤダ……」

「「ヘッ!?」」

「……ダッコがイイ……」

「……ハァ……ったく、しゃーねーなー……、ほらよっ!」

「キャッ!?」

「だがな……先に言っておく。オレは勇者だが、お姫様付の騎士じゃねぇんだ。そこんとこ勘違いすんじゃねぇぞっ!!!」

「えっ!?」

「しっかり掴まってろよ、飛ばすぞ。オイ、守り役!!」

「ハッ、はい!?」

「ちゃんと着いて来いよ。お姫様が攫われても知らねぇぞ。ヘッ!!」

「なっ!!」

「行くぞっ!!!」

253見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:01:19 ID:JJHNNnYc

『ズドンッ!!!』

 言うが早いか、トーマは一気に城までをジャンプするように地を蹴る。

「えっ!?……なにコレ?」

「コイツは《龍氣》による跳躍、オレたちは【舞空】って呼んでる。結構気持ちイイだろ?」

「す、スゴい……スゴい!!スゴいよ、コレ!!!」

「オレはまだ完璧にこなせてないけど、飛べるヤツはホントに空を飛べるんだぜ」

「そんなコト無いよ。……飛んでる……トーマ……コレ飛んでるもんっ!!!」

「どうだ!?気に入ったか?」

「うんっ!!」

「気が向いたら、またやってやるよ。ミコト姫様っ!!」

「うんっ!絶対!!約束だよっ!!!トーマ!!!!」

「ああ、約束だっ。……おっと……せいっ!」

『ドンッ!!!』

(クッ……何てスピードですの?……連続の空間転移ですら、追うのがやっとですわ……)

 空間転移者(テレポーター)を置き去りにしかねないほどのスピードで、空を疾駆するトーマ。
 そして、そのトーマに抱き抱えられ、未知の体験をして興奮気味のミコト姫。
 それにしても……トーマ君、少々カッコ良すぎやしませんか?

「ホイっと……とうちゃーく……って、何してんだよ?」

「えっ!?」

「着いたって言ってんだろ?降りろよ」

「あ……うん……」

 トーマはミコト姫を優しく降ろすと、そのまま振り返り……

「じゃあな……えっ!?」

 帰ろうとしたのだが……、そのトーマの袖をミコト姫が掴んでいた。

「……ねぇ……もう一回……」

「ハァ?」

「……もう一回……」

「あのなぁ……オレもそれなりに忙しいんだよ。お姫様のワガママに付き合ってる時間はねぇんだ」

「もう一回!!!」

「ッたく……ガキじゃあるまいし……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「むくれてんじゃねぇよっ!!!」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

「あのなぁ……お姫様……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

「……ハァ……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

「……しょうがねぇなぁ……」

「えっ!?」

「もう一回だけだぞ」

「ほっ、ホントにっ!?」

「ホントにもう一回だけだぞっ!」

「うんっ!!!」

「お待ち下さい!!」

「よう、守り役。早かったな?」

「く、クロコ?」

「(……嫌味ですの?……まったく……)さすが勇者様。わたくしの『力』を持ってしても、追い付くのがやっとでしたわ」

「そりゃ、どうも……」

「姫様!!」

「ひゃっ……ひゃいっ!!」

「先程は、お城までの帰路と言うことで大目に見させていただきましたが、今度はそう言う訳には参りません!!!」

「……なっ……何でよっ……」

「先程のことを誰かに見られたとしても、緊急時故に勇者殿にお城まで送っていただいたと言い訳が立ちます。ですが!!!」

『ビクッ!!』

「姫様のワガママで遊覧飛行に洒落込んだ。などと噂を立てられたら如何なされますっ!?」

「……うう……」

「それでなくても姫様のお転婆ぶりは、町民達の噂に上りやすいのですよ!?ですから、努めて目立たぬようにと、わたくし口を酸っぱくして……」

「……う、う……うるさい……」

「……プッ……クッ……ハハッ……ハハハハハ……」

「なっ、何よっ!?……そんなに笑わなくたってイイじゃない!!!」

「イヤ、悪い……でもさ、オマエらしいなって思ってさ……」

「えっ!?」

「お姫様のクセして、お姫様らしくねぇっつーか……」

「えっ!?……えっ!?」

「負けん気強ぇし、すぐビリビリして来やがるし……」

「うっ……うるさいわよっ!!」

「ま……守り役のヤツが言ってることも尤もだし、オレも色々しなきゃならないことがあるから、『もう一回』はまた今度な」

「……む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「むくれるなって……」

「だって……だって……」

 トーマはむくれるミコト姫の耳元にそっと近寄り

「(飛んでる時のお前の笑ってる顔、可愛かったぜ。また見せてくれよな)」

 と囁いた。

「えっ!?……(かっ……かわっ……可愛いっ!?……それに……また……って……?)」

「んじゃ。またな、ミコト」

254見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:02:08 ID:JJHNNnYc

(ヘッ!?……名前……呼び捨て……えっ!?……)

 名前を呼び捨てにされ、混乱しているミコト姫を尻目にトーマは城のテラスを飛び立ち【舞空】に移る。

『ドンッ!!!』

「あっ……(それに……『またな』……って……)」

 その飛翔は先程ミコト姫を抱えて飛んだ時の数倍の速度だった。

「……な……何とっ!?」

 思わずクロコが驚嘆の声を上げる……。

(アイツ……さっきは……私が居るから……速度を抑えてくれてた……の?……)

 飛び去るトーマの背中を見ながら、ミコト姫はそんなコトを考えていたが……

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜カッコ付けてんじゃないわよ……あのバカ……」

 強がってそう言い放った美琴姫の顔は、真っ赤になっていた。

 一方、そのミコト姫にしっかりフラグを立てたトーマは……

「……ったく、あのお姫様のワガママにも困ったもんだ……サッサと用事をすまさねぇと、またジッちゃんにどやされるぞ……」

 と、自分がフラグを立てたことに全く無自覚だった。
 オートフラグメイカー体質とその鈍感さは、今も昔も変わらないらしい。
 天然スケこまし……女の敵だな……コイツ……。

「よう、トーマ。お楽しみだったようだな?」

 空を疾駆するトーマの横に、一人の男が並び駆けてきた。

「ヘッ!?……あっ!ミノル師範!?」

「全部見てたぜ……この天然スケこましが……ミコト姫様にフラグ立てるって……どう言うつもりだ?」

「ハァ?……何すか?フラグって……」

「……(もしかして……コイツ……自覚なし?)……オマエなぁ……」

「それより、ミノル師範が見つかって良かったですよ。ジッちゃんが……老師様がお待ちです」

「ああ、昨日この町に入られたそうだな」

「ええ」

「ご報告しときたいコトがあるからな……急ごう」

「ハイッ!!」

 二人はシン老師の待つ宿に向かって《加速》した。



「そうか……『ア』の国が動き出しておるのか……」

「ええ、それも何かの実験をしているようで……」

「実験?」

「何でも、我ら【勇者】に匹敵する戦士を育てる実験だとか……詳細はまだ調査中なので、その内容までは分かりかねますが……」

「我ら【勇者】と同等の戦士とな?」

「はい。どのような経緯でそのような者を開発するに至ったのかは皆目分かりませんが……その意図は簡単に推察出来ますから……」

「フム……」

「……」

「多分、『力』の強大化で対抗しようとしておるのだろうが……それでは『闇』に呑まれてしまうぞ」

「だけど、ヤツらにはそれが分からない……『闇』に呑まれた結末を知らない……」

「今しばらく様子を見てくれんか……人手が足らんとは思うが……」

「いえ……グンハとハマヅラが成長してきましたからね。当面は行けるでしょう」

「しかし……北の『ラウ』の国に続いて、東の『ア』の国までが……」

「わが国の進める合議制の共和国家建設……最初は賛成していた国々が、この頃は……」

「確かに『あの男』のやり方には強引な面もある。だが……それも『あの男』なりの理想があってのこと。決して間違ってはいない……と思っておるのじゃがな……」

「ですが……『あの男』が教皇になってからですよ。各国の離反が始まったのは……それまでは……」

「我らにも見えぬ動きが何処かにある……と考えるべきなのかも知れん……だが、ワシは『あの男』を信じたい……。同じ師に学んだ『あの男』を……」

「老師のお気持ちは一同皆理解しております。しかし……」

「ミノル……お主の言いたいことは分かっておる。……じゃが……もう少し時間が欲しい。『あの男』はワシにとって掛け替えのない友じゃ」

「……はい……」

「……すまぬ……」

「そんなっ……老師様……老師様がお気になさることではありません!!!」

「我ら【勇者】は、本来政に関わってはならん。本来ならばどの勢力にも属さず、創造主の導きに従うことを第一とすべき者……。それをねじ曲げたのは……ワシじゃ……」

「そんなコトはありません!!老師様が『新しき国家の建設』の呼びかけに応えられ、立ち上がられたこと。我らは本当に誇りに思っております!!!」

「ミノル……」

「老師様が創造主の意に従われるように、我らは老師様の意に従いまする。その決意だけは決して、決して……」

「すまぬ……すまぬ……」

 師と弟子は共に涙しながら、己の決意を今一度確かめ、共に目指す道を歩むのだと誓っていた。

255見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:02:54 ID:JJHNNnYc

(全く、何なのよ。アイツは!!!)

(あの後、『老師様のお使いがあるから』とか何とか言っちゃってさ、結局私との約束を果たさないまま、都に帰っちゃって……)

(せっかく見送りに行ってやったっていうのに、お別れの時に『またな〜、ビリビリ姫』ですってぇ〜〜〜〜(ムカムカ……))

(あの後、半年近くも経つのにさ……約束果たしてくれる気配なんてまるでないし……)

(でも……アイツに抱っこされて、空を一緒に飛んで……スゴく気持ち良かったなぁ……)

(空を飛べたのもそうだけど……、アイツがしっかり私のことを抱き抱えてくれてて……スッゴい安心感があって……)

(その上……ちゃんと私が怖くないように、速度も抑えててくれてさ……キャッ♪)

(また飛びたい……アイツに抱っこされて飛んでみたいな……『約束』守ってくれたら、お返しにキスしてやろうかな……(ポンッ!)……えっ!?……ええっ!?……あ、あ、あ、アイツに『キス』!?……私ったら、なに考えてんのよっ!!!)

(あの後……聞き間違いじゃなかったら……ううん、間違いじゃないわ。絶対に『名前』で呼んでくれた……『ミコト』って……。なぜか分からないけど……スッゴいドキドキしちゃった……)

(でも……都に帰ってからの、アイツの活躍を幾つか知ったけど……全部女絡みじゃない!!!)

(都のインデックス姫の救出に、アイサ姫だっけ?確か黒髪のロングヘアがスッゴい似合う美人だったな……)

(それにヒョウカ姫だっけ?インデックス姫の友だちとらしいけどさ……胸が大きくって、メガネッ子で……可愛らしい娘だったな)

(それにアイツと良く一緒に映ってるロングヘアの【勇者】も……胸が大っきいし……スッゴい美人だし……)

(他にも二重まぶたの巨乳のことか……アイツってまさか『巨乳好き』なの?)

(わ、私だって……今はまだ、そんなに大っきくないけど……ママ……じゃない、『お母様』は抜群のプロポーションなんだから……。私もそれに似るはずなんだ……だから、あの子達には負けない……はずなんだけどな……)

(北の『ラウ』の国との戦闘でも、あいつ一人で勝っちゃったみたいなモノらしいし……でも、褒美はいらないって。褒美のために闘ってるんじゃないってカッコ付けちゃってさ……すごいよね……カッコいい……な)

(……って、どうして私ったら、ずっとあのバカのことばっかり考えてんのよッ!!!)

(私は、一度アイツと勝負して勝ってるんだからねっ!!!……例え【手合わせ】の特別ルールだったとしても……勝ってるんだもん……)

(ホントは気にする事ないんだ……ないはずなのに……何でアイツがこんなに気になるんだろう?)

「私ったら、一体どうしちゃったっていうのよぉ〜〜〜〜〜!!!????」

「お姉様ったら一体何を悩んでるの?って、ラストはラストは聞いてみる」

「ヘッ!?」

「ん?」

「……あ、あの……ラストちゃん?」

「なに?なに?お姉様?って、ラストはラストは答えてみる」

「……一体……何時から、……そこに居たのかな?」

 全身にイヤな汗をかきながら、ミコト姫は妹のラスト姫に問いかける。

「お姉様がこの部屋に入ってきて……ウロウロし出して……その後急にお顔を真っ赤にさせて……で、何か怒ったような感じで、身体から電気が出て来たので……ラストはラストは部屋の隅に避難したんだけど……」

(……それって……ほとんど最初っからってコト……よね……)

「その後また、ほっぺたを赤くして『ポーッ』となってて……そしたら急に頭を抱えて『私ったら、一体どうしちゃったっていうのよぉ〜〜〜〜〜!!!????』って叫んだところまでしっかり見てたよって、ラストはラストは報告してみる」

「……(ポンッ!!!)……」

「どうせ、トーマお兄ちゃんのことを考えてたんじゃないかな〜って、ラストはラストは推察してみたり」

「……(ポポンッ!!!)……」

256見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:03:25 ID:JJHNNnYc

「あー、お姉様ったら赤くなった。赤くなったぁ〜。って、ラストはラストはお姉様をからかってみたり」

「(ピクッ!)……ラ・ス・ト・ォ〜……」

「(ビクッ!?)し、しまった。調子に乗りすぎてしまったって、ラストはラストは反省してみたり……」

「イイから、そこ動いちゃダメよ。今日という今日は、その生意気な口を……」

「こっ、この口をどうするっていうのかな?って、ラストはラストは答えを聞きたくないけど、余りの恐怖に聞いてみるしかなかったり……」

「その生意気な口をぉ〜〜〜〜〜……」

「それより、お姉様はトーマお兄ちゃんのことが好きなんでしょ?って、ラストはラストはこの事態を回避するために問題の本質に迫ってみたり」

「ヘッ……ゎ、ゎ、わたっ、わたっ……私が……あ、あ、あ、あ、アイツの事……す、す、すすすすすす『好きッ!?』……?……」

「そうじゃないの?お姉様?って、ラストはラストはトドメを刺してみる」

「好きッ!?……す、す、すすすすす好きッてコトは……き、き、き、きききキスしたり……、こっ、こっ、ここここここ恋人になっちゃったりして……で……けっけっけけけけけ結婚しちゃったり……で、……結ばれて……あ、あか、あか、あああ赤ちゃん何かまで出来ちゃったり……って……」

「お姉様の思考の飛躍が余りに激しすぎるって、ラストはラストは突っ込んでみたり……」

「ふ……」

「ヤバいっ!!、こっ、コレは……ま、まさか……って、緊急待避のため、ラストはラストはこの部屋から脱出してみたり!!!」

「ふ……ふ……ふ……ふ……ふにゃぁぁぁぁあああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜(バリバリバリバリバリバリ)」

 ラストのイタズラによるミコト姫の漏電で、この後、クロコ、カザリ、ルイコの3人のメイド達はマイカメイド長の指導の下、ミコト姫の部屋の模様替えをするハメになった。
 その後、カザリとルイコに問い詰められ、マイカにはからかわれて、一緒に部屋の模様替えをしながら、真っ赤になっているミコト姫を目撃した者は少なくなかったという。



 一方、ミコト姫がそんなコトになっているなど、露ほども知らない【勇者】トーマは……。
 この半年の間続いた闘いの疲れを癒すべく、『勇者の里』に戻り定期検診を受けていた。

「うん、別にドコも異常はないね」

「ホントにっ!?ドクトルゲコタ……じゃあ、しばらくはここでゆっくりしていってもイイんだな」

「構わないよ。しかしキミは【勇者】の中でも、とびきり回復力がすごいね」

「老師様が言ってたんだけど、『浄化』の《龍氣》を構築する際に、必ず『再生』の《龍氣》も構築されるらしいんだ。でも、それは闘いに使わないから、その闘いの後に、肉体再生に回ってるんじゃないか?って」

「なるほどね。面白い考え方だけど、理に適っているね。老師様が仰るのなら、多分そうなんだろうな」

「まあ、オレにしてみりゃ、そんな理屈はどうでもイイんだけどな。はやく治ってくれるに越したことはないしさ」

「それはそうだね……時にトーマ……最近老師様のご様子はどうだい?」

「別に変わったトコロはなかったぜ。いつも通り元気だったし……」

「そうか……ならイイんだ。でも、老師様もお年だしね。医者の立場のボクからすると、もう少しご自分のお身体を労って欲しいんだけど……お忙しいしからね……」

「そうだよなぁ……オレたちはこうやって、闘いが終わった後に休ませて貰えるけど……老師様は何かある度に、そこに出掛けて行かれるから、休む間なんてないよな……」

「ああ……でも、トーマ。最近は老師様のことを『ジッちゃん』って言わなくなったね。ナゼだい?」

「別に……周りがウルサいってのもあったんだけどさ……それだけじゃなくって、ホントに老師様ってスゴいんだなって……思えることがあってさ……」

「ほう……」

「それ見てから……「ジッちゃん」なんて気安く呼べなくなっちまった……」

「何があったんだい?」

「……言いたくねぇ……」

「えっ!?」

「言ったら、泣いちまうから……言いたくねぇ……」

「……そうか……」

「えっ!?」

「だったら、それを自分の一番大事なところに仕舞っておくことだね。そして、決して忘れないことだ」

「ドクトル……」

「私と老師様の間にもね、そういう想い出があるから……少し、分かるんだよ……」

「ありがと……ドクトル……」

「なに……礼を言われるようなことはしていないよ」

257見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:04:02 ID:JJHNNnYc

『ドタドタドタドタ……』

「な、何だね。騒がしいなぁ……ここは病院だよ。もう少し静かに出来ないのかい?」

「トーマ!……トーマは!?」

「オレならここだぜ、イツワ」

「あっ!トーマ……大変!!大変なのっ!!!」

「大変って……何かあったのか!?」

「タビカケ城が……タビカケ城が……」

「なっ……なにっ!?」

「タビカケ城が……『ア』の国の襲撃を受けて……何とか持ち堪えてはいるそうだけど……もう、落城寸前だって……」

「……う、ウソだ……ろ?」

「ウソじゃないわよ。ついさっき、ミノル師範から連絡が入ったのよ!!!」

「……ミコト……アイツ……無事だろうな……」

「何でも、普通じゃ考えられない『力』を持った戦士が居るらしくって……通常攻撃や『力』による攻撃はおろか……《龍氣》の攻撃さえ跳ね返すんだって……」

「そっ、そんなバカなっ!?」

「ミノル師範からの連絡だから間違いないよっ!!……それに……」

「何だよっ!まだ何かあるのかっ!?」

「ミコト姫様の……」

「なっ、何だって!?」

「ミコト姫様の『複製人間』が多数連れられてて……それを、その最強の兵士が殺しまくってるらしいのよ。そんな実験を重ねて……その兵士を育てて来たんだって……」

「何でそんなもんが……アイツの『複製人間』なんてモノが敵の手にあるんだよ!?」

「数年前に我が国で、秘密裏にそういう実験を繰り返していた組織があったらしいんだけど、その組織の科学者の一人が……『ア』の国に逃げ延びたらしくって……その時に、ミコト姫様の遺伝子情報を一緒に持っていったらしいって……」

「何でアイツの遺伝子情報なんてモノがそこにあったんだよ!?」

「姫様は体内電気を扱える『力』をお持ちだから、身体の不自由な人のためにそれが役立つのならってコトで、提供されたんだって……。それが今……悪用されてて……」

「……冗談じゃねぇぞ!!!……アイツは、……アイツは……普通のお姫様で……普通の女の子なんだ……」

「トーマ?」

「ちょっとだけ気が強くって……ワガママで……だけど……笑うとスゴく可愛くって……ホントに……ホントに普通の……ただの女の子なのに……」

「……トーマ?……」

「アイツ……今頃……絶対に泣いてるはずだ……こんなことされて、泣かないヤツなんて居る訳がない……」

「アイツ、ホントはスゴい泣き虫だからな……泣いて、泣いて、泣いて……」

「……まさか、アイツ……頭に血が上って……その戦士とやらに向かって行ってんじゃねぇだろうな!?」

「ゆ・る・さ・ね・え……」

「あいつを泣かせるヤツは、絶対に許さねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『ズッドォォオオオンンン!!!!!』

「トーマッ!!!!!」

 一方、その時のタビカケ城では……

(……ウソ……ウソでしょ?……なによ……何なのよ……アレは?)

(……私の……私の『複製人間』……って……何でそんなモノが……)

(あ……あそこにいるのは……私……私なの?……ううん……違う……私は……私だけ……でもっ!!!)

(あの子達は……あの子達は……私の細胞情報から生まれた……言わば……私の『妹達』……)

(それを実験に使って……殺しまくって……『最強の戦士』を……作る?……)

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「冗談じゃないわ!!!」

「許せる訳がないでしょう!!!!!」

「何の権利があって、アンタは私の『妹達』を殺し続けているのよっ!!!!!!!」

「『最強の戦士』を作る?たった……たった……たったそれだけのために……何で私の「妹達」が殺されなきゃならないのよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ひっ、姫様ッ……落ち着いて、落ち着いて下さいましっ」

「どきなさい、クロコ!!!コレが落ち着いていられる訳がないでしょう!!!!!!!!!!!!!」

「はっ、早くッ……早くッ、姫様を奥にっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

『バリバリバリバリバリバリッ』

「キャアッ!!!!!」

「殺す……ころす……コロス……『妹達』が味わった痛みを、全部アンタに返して……そしてアンタを……私が殺す!!!!!!!!」

258見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:04:38 ID:JJHNNnYc

「待ちなさいッ!!!ミコトッ!!!!!!!」

 父、タビカケの声もミコトの耳には届かない。

「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 あの細い身体の何処に、この様な声を発する器官があるのだろう?
 大地を揺るがすかのような雄叫びを上げ、全身に雷撃の鎧を纏い、ミコトは大地を疾駆する。

『ドンッ!!!!!!!!』

 右足を地に叩き付け、その反動と磁力を利用して、地中より砂鉄を大量に地上に呼び出す。
 そしてその砂鉄を一匹の龍のようにして、『最強の戦士』である白髪の少年へと叩き付ける。

「へェ……すげェ、すげェ……」

 砂鉄の龍が襲いかかってくるのを気にも止めず、歩を進める『最強の戦士』

「がぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 美琴の叫びと共に、砂鉄の龍が少年に襲いかかり、ぶつかったかと思ったその瞬間に渦を巻き、四方八方から少年を押し潰そうとする。
 ……が。

「へェ……磁力を使って、砂鉄を操ってンのか……。おンもしれェワザだ……」

 砂鉄の渦は、ジリジリと少年に詰め寄り、触れた瞬間に少年の肌をズタズタに切り刻む。
 ……はずだった。

『ズバァァアアアアン!!!!』

 渦を引き裂く音と共に、中の『最強の戦士』は全く無傷のまま、砂鉄の龍すら居なかったかのように渦を振り解き、その姿を現した。

「なかなか面白ェワザだったンだけどな……ネタが割れちャあ……どうしようもねェな……」

(えっ!?……そんなっ!?……アレを喰らって、全くの無傷だなんて……そんな……バカなっ!!!!!!!!!!!!!!!!)

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 十数本の雷撃の槍が、『最強の戦士』に押し寄せる。
 当たった。
 そう思った瞬間……。

「「「「「「グワアアアアアアァァァァァァァッ……」」」」」」

 美琴の周りに居た兵士達が、雷撃の槍に灼かれていた。

(えっ!?……なに?……コイツ……今……何をしたの?……)

「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 ミコトは奇声を発しながら、磁力を操り、周囲に落ちた武器や金属などを寄せ集める。
 そしてそれを一斉に『最強の戦士』に向けて投げ放つ。

『ダンダンダンダンダン……』

 それらの金属は『最強の戦士』の数メートル前から地面に突き刺さり始め、距離を確かめるように徐々に近づいていく。
 そしてそのウチの一本が『最強の戦士』の身体に当たった。
 ……その瞬間……。

『ガイィィィイイイイインンンン!!!!!』

 と、はじき返される音と共に、一片の巨大な金属物がミコト目掛けて飛んでくる。
 慌てて飛び退くミコト。

(なに……?……何が起こってるっていうの?……私の攻撃を、こんなに簡単にあしらうなんて……そんなコトが出来るのは……あのバカ以外に……居るはずがない……のに……)

「さすがオリジナルだなァ」

 その声を聞いた時、ミコトは全身が凍るのではないか……と思った。

「オマエの『模造品』には、世話になってンぜ。オレが『ア』の国の『最強の戦士』って呼ばれてる『アクセラ』だ……ヨロシクな」

 『ニイ』と口を禍々しく開き、その白い歯を見せつける。

「さすがにオリジナル。『模造品』共とは段違いのパワーだな。だがよ、こンなモンなのか?オマエの本気ってヤツぁぁぁよぉぉぉ〜」

『ドンッ!!!』

 『最強の戦士・アクセラ』が、大地を軽く蹴った。
 ……と思った瞬間、大地は裂け、その地割れが一直線にミコトに向かってくる。
 その光景に呆然としているミコトは動こうとしない。

「姫様ッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 一人の戦士がそう叫んで、ミコトに体当たりをした。
 突き飛ばされたミコトはそのまま大地を転がる。
 フラフラになりながら、何とか身体を支え、自分を突き飛ばしてくれた戦士を捜す。
 そして……その戦士は……地割れの衝撃波で吹き飛んだ岩に飛ばされ……壁に叩き付けられていた。

「ヒッ……!!!!!!!!!!!!!!!!」

 その光景を見た瞬間、生まれて初めて『死』の恐怖がミコトを圧し包む。

259見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:05:26 ID:JJHNNnYc

「『模造品』の相手には、飽き飽きしてたところなンだよな。かッたりィつーかよォ……いくら脳波でネットワークが出来てて、記憶が共有されるッてもよォ、『力』が弱けりャどうにもならねェもンなァ〜」

(えっ!?……なにっ!?)

「だからよォ、オリジナルさンよォ……ここらで一発、オリジナルの本気ッてヤツを見せてくンねェかなァ〜……ヒャハハハハハハハハハハ」

(こ、コイツ……一体……なに?)

「何だ、何だよ、何ですかァ〜。オリジナルも所詮はお姫様か。この『最強の戦士』を目の前にして、初めて自分の愚かさに気づいたってトコロかァ〜……?」

(……わ、私……死ぬの?……コイツに殺されて……あの『妹達』と同じように……死ぬの?)

「オイ、オイ。さっきの勢いはどうしたンだよッ!?もう、かかって来ねェのかァ〜?」

(イヤ……死ぬのはイヤ……アイツに……アイツに会って……アイツと一緒に……もう一回空を飛ぶ!!!……だから絶対……死ぬのはイヤッ!!!)

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 ミコトは雄叫びと共に大地を転がり、傍にあった金属片を拾って【超電磁砲(レールガン)】を撃つ。

『ドオォォン!!!』

 だが……。
 その金属片は、『アクセラ』の身体に触れた途端……まるで鏡に反射された光のように、自分に向かって飛んでくるのが……見えた。

(ああ、もう……ダメなんだ……。死んじゃうんだな……私……。……最後に……最後にアイツの顔が……見たかったな……)

『パキィィン!!!』

 『もうダメだ』そう思ったミコトの耳に、聞いたことのある音が響いた。
 そして、『もう一度見たかったな』と思った男の声が、その耳に届く。

「なにやってんだよ、オマエ!!!」

「えっ!?」

「なにやってんだって聞いてんだよォっ!!!!!!!!!」

「!!!」

「オマエは、お姫様だろう!!!そのお姫様が、戦場のど真ん中で何してんだよっ!!!!!!!」

「あ……」

「オマエの役目は、それじゃあねぇだろうがっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「と……」

「オマエの役目は、オレたちが闘って帰って来た時に、笑顔で迎えるのが役目だろうがよっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「……ま」

「その役目をおっぽり出して、こんなところでなにやってやがる!!!!!!!!!!!!!!!!」

「トーマッ!!!!!!!!!!!!!!」

「バカ野郎!!!!!!!!!!!!!!!!」

『パンッ!!』

 乾いた音が戦場に響く。
 叩かれた頬を抑え、ミコトがトーマを見つめる。
 トーマの目に溜まった涙を見て、ミコトは初めて自分が何をしていたのかを悟った。

「……ゴメン」

「ああ……分かったんなら、城に戻れ」

「えっ!?」

「分かったんなら、城に戻れって言ってんだ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「あ……」

「こっから先は、オレたちの役目だ。オマエが手を出してイイ場所じゃあねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うん……」

「……」

「……」

「ミコト」

「え……」

「必ず帰る」

「えっ!?」

「必ず、勝って帰る」

「……」

「必ず、勝って帰るから……」

「あ……」

「最ッ高の笑顔で迎えてくれよっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うんっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

260見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:06:13 ID:JJHNNnYc

「姫様ッ!!!」

「ミコトッ!!!!!」

「ミコトちゃんッ!!!!!」

「お姉様ッ!!!!!」

 たった、数分間の出来事だった。
 なのに……とてつもなく長い時間、家族と、懐かしい人々と、離れてしまっていたような感じがした。
 そして、自分がしてしまったことの意味を、イヤと言うほど教えられた。
 それを教えてくれた、頬の痛みが温かい。

「みんな……ゴメンナサイ……」

 ミコト姫は素直に全てを詫びた。
 そして、今闘ってくれている【勇者】の方を向いて

「トーマは必ず、勝って帰ってきます。だから、ちゃんと笑顔で迎えられるようにならなければ……」

 その目に一杯の涙を溜めて、でもその目はトーマの勝利を確信していた。



「ミノル!!」

「おおっ!老師様。お待ち申しておりました」

「トーマのヤツが飛んできたじゃと!?」

「ええ、あそこに……」

「……」

「さっき、私に【念氣波】で『最強の戦士の情報を寄こせ』と言って来まして……」

「フム……」

「アイツには全ての情報を伝えましたが……それでも闘うとは……」

「あの『最強の戦士』には我らの《龍氣》すら通用せん……ということじゃったな……」

「は……ハイ……」

「……フッ……」

「ろ、老師様?」

「心配なさそうじゃな……」

「えっ!?」

「見てみよ、ミノル。トーマの姿を」

「あっ……アレは!?……一体……」

 ミノル師範がトーマを見た瞬間だった。

『ドンッ!!!!!』

 大地を揺るがす地響きと共に、それまで放出されていた『氣』が変化し、トーマの身体が炎に包まれる。
 その炎は様々に色を変え、形を変え、やがてゆっくりと黄金色の炎へと変わり、その中から黄金の龍が姿を現した。

「【龍氣炎】……ワシの師匠が2度。ワシでもまだ数えるほどしか纏ったことのない【龍氣炎】を、あの若さで纏うとは!!!」

「【龍氣炎】?」

「そうじゃ。【勇者】の最強の戦闘状態と言って良いじゃろう。己が身の内に《龍氣》が充満し、その『力』を使うに当たっての『構築』すら必要としない状態。《龍氣》と一体化した状態になった時、始めて現れるのがあの【龍氣炎】じゃ」

「なっ……何とっ!!!」

「今のトーマは、創造主が如き存在になったに等しい。ワシも幾度か経験したから分かるが……あの《龍氣》との一体感は……創造主の意が我が身の内に流れ込み……その意に従い、我が身を揮う……得も言われぬ創造主との一体感……それをあの若さで経験出来るとは……」

 恍惚とした表情で【龍氣炎】を語る老師を、ミノルは羨望の眼差しで見つめる。

「じゃが……アレは、あの【龍氣炎】は出そうと思って出せるものではない。己を研ぎ澄ませ、真っ直ぐのせねばならん。トーマはミコト姫があの場にいることに対する怒りで【龍氣炎】を発動させることが出来たようじゃな」

「えっ!?【龍氣炎】は『怒り』発動するのですか?」

「イヤ、違う。『怒り』は『闇』につながる。それが普通じゃ。だが、トーマは戦場にミコト姫が居たことを怒っておった。じゃがな、同時にミコト姫をそんな状況に追い込んでしまった自分に対する怒りもあったのじゃろう。自他を区切った『怒り』ではなく、自他を一如とした『怒り』だったのじゃろうな。稀有なることじゃが……だからこそ、《龍氣》はそのトーマの意志に応え、【龍氣炎】を発動させたのじゃ」

「自他を一如とした『怒り』……」

「良く見ておけよ、ミノル!!!アレぞ【勇者】のあり得べき姿ぞ!!!!!」

「はいッ!!!!!!!」

 シン老師。そしてミノル師範も、二人の闘いに目をこらす。
 その一挙手、一頭足を見逃すまいと。
 そして、二人の目にはトーマの勝利を確信する光が宿っていた。

261見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:07:24 ID:JJHNNnYc

「待たせたな『最強の戦士』さんよ」

「オマエが【勇者】ってヤツか?」

「そうなるかな?」

「なンだよ、その曖昧な言い方は?」

「別に……三下相手にわざわざ気張るほどのこともないと思ってな」

「その割にはご大層な格好じャねェかよ」

「そうか?……気が付いたらこうなってただけなんでな……」

「ヘッ……気が付いただけで、そんな格好になれるンだな。【勇者】ってェのは……」

「別に……そんなつもりもないんだが……『三下』相手にゃ、こういう派手な格好のほうが似合うだろうからな」

「何だとぉ〜……このオレを二度も『三下』呼ばわりしたのは……」

「……もしかして……オレが初めてか?……オマエ、大したヤツとやってねぇな」

「てンめぇ〜〜〜〜〜〜〜〜このオレを怒らせるとどうなるか、分かってンだろうな」

「そりゃ、コッチのセリフだ。オマエがアイツと、アイツの『妹達』にしたことを考えるとな……」

「『妹達』だァ〜?そういやあのお姫様もそんなコト言ってやがったよなァ」

「……」

「アレは必要な機材と薬品があればボタン一つで量産出来るンだぜ。作り物の身体に、借り物の心。知識は洗脳装置を使って強制入力すれば、アソコに居る『模造品』の出来上がりって訳だ。どうだ、おンもしれぇだろう?ギャハハハハハハハ」

「何が……何が、そんなに面白ぇんだ?」

「だって、面白いじャねェか。ボタン一つで人間様の『模造品』が作れるンだぜ。しかも、それを2万体ぶっ殺したら、オレは『絶対無敵』『世界最強』になれるってンだから、コリャやらねェ訳にはいかねェよなァ」

「……そんなことのために……そんなことのために……こんなことをしたって言うのか!!!!!!!!!!!!!!!!」

「オレが『絶対無敵』『世界最強』になるためだ。他人がどうなろうと知ったことじャあねェよ。第一アレは『人間』じャねェ。『模造品』だ」

「……」

「オット、オレに手を出さねェ方が身のタメだぜェ。オレはこの世界の『ベクトル』ってヤツを全部操れるンだ。どンな攻撃だろうが、どンな『力』だろうが、物理的にオレに及ぶ『ベクトル』をオレは操れる。それはオマエら【勇者】が使う《龍氣》ってヤツでも一緒なンだよ」

「それがどうした?」

「ハァ?」

「それがどうした?って言ってんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「オマエ……バカか?」

「……」

「オレが言ってることが理解出来てねェようだな?」

「……」

「しょうがねェなァ……まぁ、この『最強の戦士』様を目の前にして、呼吸していられるだけでも贅沢ってもンだ」

「……」

「だから……いい加減楽になれっ!!!」

『ダンッ!!!!!!!』

 アクセラが軽く地を蹴る。だが……ベクトル変換されたそれは、トーマとの距離を一気に詰める。
 そして、アクセラはその右拳を突き出し、トーマの顔面を殴り付ける。

『ゴキンッ!!!!!!!!!』

 鈍い音がした。
 アクセラは笑っていた。トーマはもうその場には居らず、自分が突き出した一撃に吹き飛ばされ、無様にその屍を晒しているはずだ。
 だが……。
 右拳に……感じたことがない感覚があった。
 脳が『痛い』と言っている。右拳が『痛い』と言っている。
 その痛みを感じながら、正面を見据えた時、アクセラは信じられない光景を目にする。
 表情一つ変えず、アクセラの放った悪魔の一撃を避けもせずに真正面から受けとめ、何もなかったかのように平然として、アクセラを見下ろすトーマの眼を。

「この程度か……」

「グッ……」

「オマエの必殺の一撃ってのはこの程度なのか?」

「何だとォ〜〜〜!!!!!!」

『ダンッ!!!!!!!!』

 アクセラが地面に足を叩き付ける。
 大地は一瞬で裂け、土の中から大量の土砂が吹き出し、石は飛礫となってトーマに襲いかかる。
 だが……アクセラが地面に足を叩き付けた時には、トーマは既にそこに居なかった。

「どうした。それが『最強の戦士』さんの攻撃かい?」

 その声がしたのと同時に『最強の戦士』の頭に『ズシッ!』とした重みが加わる。

「なッ!?」

「どうした?その程度か?」

 自分の頭の上から、さっきまで目の前にいた【勇者】の声が聞こえる。

「〜〜〜〜〜こ、コノ野郎ォ〜〜〜〜〜」

 両手を振り上げ、頭上の敵を掴まえようとする『最強の戦士』……。
 ……そのがら空きになった鳩尾にトーマは右拳をめり込ませる。

『ズドンッ!!!!』

「ガッ……」

262見知らぬ記憶 3:2011/03/01(火) 01:08:10 ID:JJHNNnYc

「ココに来る途中に、師範から聞いたよ。オマエが『ベクトル』ってヤツを操るってコトはな」

「ガハッ……ゴフッ……」

「だが……オレたち【勇者】の攻撃も、跳ね返せるように見せられる『ベクトル変換』にも穴はある!!!」

「なっ!?」

「分かってんだろ!?」

「グッ……」

「オマエが跳ね返せる『ベクトル』ってヤツは、物理的な衝撃を伴った『ベクトル』に限られるってコトをよっ!!!」

「クゥゥゥウウウウウウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!」

「《龍氣》や『力』を使って起こした物理現象は跳ね返せるが、直接《龍氣》を叩き付けられる攻撃は避けられない」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「さっき俺がオマエの頭の上に乗っただろ?アレは【舞空】って言ってな。《龍氣》を使ったワザだ」

「クッ……」

「オマエは《龍氣》を理解していない。《龍氣》が何だか分からない。だから、その分からない理解出来ていない『未知のベクトル』を反射することは出来ないんだ!!!!!」

「うぅぅぅぅぅガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「『最強の戦士』が聞いて呆れるぜ」

「なッ、何をッ!?」

「オマエさん、ずっとその『ベクトル変換』で勝ち続けてきたらしいじゃないか?」

「……」

「そりゃそうだよな。どんな『力』を持っていたって、相手にそれが当たらなきゃ、どうにもならねぇ。全ての『力』のベクトルを変換して、常に相手の力を利用して、相手を一撃で倒す。そんな闘い方しかしたことがないヤツが、本当の闘い方を知っている訳ねェよなァ……」

「何だとォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「教えておいてやるよ、三下。本当の【勇者】の闘い方ってヤツをなァ!!!!!!!!」

『ドンッ!!!』



「なるほどな……だから【龍氣炎】という訳か……」

「はい……そうですね……」

「物理的な攻撃の『ベクトル』は全て跳ね返されてしまう。それは元が『力』であろうが《龍氣》であろうが関係がない。現れが同じなのだから、そこに違いはない」

「はい……」

「じゃが……《龍氣》を纏う【龍氣炎】ならば話は別じゃ。【龍氣炎】の炎が相手の『ベクトル変換』に穴を開け、そこに物理的な攻撃を叩き込めば……」

「はい……」

「多分、トーマは考えてやっている訳ではあるまい……」

「でしょうね……おそらく……【勇者】としてのカン……って奴でしょう」

「ホッホッホ……末恐ろしい奴じゃワイ……ホッホッホ」



 瞬時にアクセラの懐に飛び込むトーマ。
 飛び込んでくるトーマを掴まえようと手を出すアクセラ。
 身体を小さくたたみ、その手を避けた次の瞬間……一気に身体を伸び切らせて、再びアクセラの鳩尾に右拳の一撃をめり込ませる。
 そしてその拳を突き上げ、アクセラを空中に放り出す。

「ガハァッ……」

 その強烈な一撃に、呼吸困難に陥るアクセラ。
 身体は『く』の字に折れ曲がりながら、空へと上昇して行く。
 呼吸困難に陥り、余りの苦しさに見開かれた眼で地上を見た時、そこにトーマの姿は見えなかった。

(や……ヤツが……居ない?)

 そう思った瞬間……

『ゴキッ!!!』

 後頭部に味わったことのない『痛み』が走った。
 トーマは、空中に放り出したアクセラを【舞空】で追い越し、後頭部に踵落としを浴びせる。
 上昇する数倍の速度で、落下に移らされた自らの身体を守るため、アクセラは地上に叩き付けられる瞬間に『ベクトル変換』を行おうとする。
 が……

「歯を食い縛れよ『最強(さいじゃく)』オレの『最弱(さいきょう)』は、ちっとばっかし響くぜっ!!!!!!!」

 そう叫びながら、トーマはアクセラの顔面に、渾身の右ストレートを叩き込む!!!

『バキッ!!!!!!!!!!』

『ドンッ!ゴンッ!!グシャッ!!!ゴキッ!!!!ズザザザザザザザザアアアァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

 その一撃に完全にのされ、数百メートルもの距離を吹き飛ばされ、地を舐め転がり這いつくばる『最強の戦士』アクセラ。
 その光景を目の当たりにした『ア』の国の兵士達は、我先に逃げ出すのであった。

263Mattari:2011/03/01(火) 01:14:32 ID:JJHNNnYc
という訳で、如何でしたでしょうか?

前回に引き続き、過去の話に終始しました。
当麻と美琴も今回は敢えて出しませんでした。
このスレの主旨に外れているとは思うのですが、その点はお許し下さい。

今回のテーマは『ヒーロー』です。
トーマを如何にカッコ良く描くか。それに注力しました。
インデックスのエピソードも入れようかと思ったんですが、長くなりすぎるのでボツにしました。

ではでは、お楽しみ頂ければ幸いです。<(_ _)>

264■■■■:2011/03/01(火) 10:13:10 ID:71skwexM
>>263
えっ?
続くよね?

GJ

265:2011/03/01(火) 12:21:52 ID:diR0xK1.
絶対続くね
GJ!

266■■■■:2011/03/01(火) 13:01:45 ID:Csq/MsBU
>>263
最初、全然別の話読んでるのかと焦ったw
「ア」の国とかいったら昔のアニメ、ダンバインを思い出すなー(記憶違いだったらごめん)

267■■■■:2011/03/01(火) 15:55:37 ID:oFdZzx12
>>263
GJです!
アとかラウの国だからやはりダンバインですねw

…いずれ『ナの国』が出ると予想←

268原作知らず:2011/03/01(火) 17:07:10 ID:iqdeMIbA
>>236
やんちゃな上条さんは書いていたら自然に現れました。そんな自分の頭が不思議。
続き、ですかぁ……。書いてて面白かったので機械があればまた書きたいですね。

>ネタ使用
自分が考えたネタではないので、改まってしまうというか……。たとえ事後報告でも一応、断わった方がいいのかなぁと思って。
喜んでくれているのなら、それこそ自分にとってとても喜ばしいことです!


>>237
自分は平和な感じを目指して書いているのでホンワカさが伝わっていれば自分的には成功です。
読みやすいと言っていただけるとは感激です!

自分の名前がややこしくて申し訳ないですが、原作は全部読みました。
ただ、名前って変えていいものなのかわからなかったので、ずっとこの名前にしてたんです。


>>245
とらえ方も作風も自分と違うので、一書き手として色々と感じるところがあります。
話も面白いですし、続きを期待してます!


>>248
はっ鼻血!? え、あとその、と、とりあえずティッシュをどうぞ(汗
そのちっこい当麻君と美琴お姉ちゃんなんですが

「おーい、ガキンチョー」
「ガキンチョって呼ぶなよ!」
「私を美琴お姉ちゃんって呼べば名前で呼んであげるわよ?」
「なっ!? ずりぃぞ!」
「さ、どうする?」
「ぅ〜…………み、みこ、と…お姉…ちゃん……」
「(何この子……! 顔真っ赤にして……。……かわいいじゃないのよ!)」



「へ〜! ビリビリ姉ちゃんって子供っぽいの好きなんだー」
「わぁっ!? ちょっこら!? 人の携帯のストラップ勝手にみるな!」
「ゲコ太、だっけ? 姉ちゃんって意外と子供っぽいんだな」
「っ! べ、別にいいでしょ! 何か文句でもあるの!?」
「そんな怒んないでよ……。ただ、姉ちゃんも結構かわいいんだなぁって思っただけだよ」
「なっ!? (何言ってるのよ! ガキンチョのくせに生意気よ! ……ガキンチョのくせに…!)」
「ん? 姉ちゃん、なんか顔赤いぞ?」

っていう、入れられなかったシーンがあったりなかったり。


>>268
GJ! そして感想ありがとうございます!
原作とは違う雰囲気もまた惹かれて面白いです!
続き待ってます!

269■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■:2011/03/01(火) 19:00:15 ID:71skwexM
もふもふ

270■■■■:2011/03/01(火) 20:07:15 ID:dlRV4Z1Q
>>263
自分はこの作品を読んでいて、何故かAIRというアニメを思い出しました。何故だろう。

271■■■■:2011/03/02(水) 00:54:14 ID:peAab8ek
もふもふにゃ

272■■■■:2011/03/02(水) 20:14:51 ID:0qyL7Q4Q
あげ

273■■■■:2011/03/02(水) 20:27:01 ID:IIQY/.Uk
皆様乙乙。じっくりまったり読ませてもらってます。

>>272
>>1より
>・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
というわけで、ageなくても大丈夫ですよー。

274■■■■:2011/03/02(水) 21:24:42 ID:whb4dlME
ageないと過疎るって思う人が定期的に来るふしぎ

275ぬこぬこ教信者:2011/03/02(水) 23:13:58 ID:kn9BEOaI
何となくで、ちょっとSSを書いて見ました。
題名は無いので、だれかつけてください

ある日、上条当麻は嘆いていた
「あゝ、今日はなんて…不幸なだァぁァぁァーー!?」
そうだ、上条当麻はいつにもまして不幸であった。
朝起きて、暗く電気を着けようとすると、ブレーカーが落ちるは、ポッキーを買うと全部折れてるは、ビリビリ中学生に追いかけられるわ、それを白井黒子に見つかり、勘違いされまた追いかけられるわ、逃げ切って卵の特売に間に合わないわ、本当にもう不幸である。
そして只今、インデックスの噛み付き攻撃を無限回路のごとく受けている始末…
「どーしていつもいつも、とうまはそんなに冷たくあしらうの*?こんなにわたしがお腹を透かしているというのに!!」
この銀髪シスターは噛みついた後に、どうしようもないことばかり、俺に八つ当たっては憤慨を繰り返している所存。
「あーもう解りました、解りましたよ。ファミレスにでもいって、今日のところは許してくれよ。な、インデックス」
「むぅ〜〜〜」
「な?お願いしますよ、インデックスさん」
「一番高いの頼んでいい…?」
「それはダメだ、最高900円までだ」
「ケチ!とうまのケチ!ケチケチケチケチケチーーー!!!」
「だぁ〜〜!!ほら、さっさとしないと置いてくぞ?!」
「待ってよとうま」
「なんだよ、インデックス?」
インデックスの人差し指が向けた方に目をやった、みれば…
超高級焼肉があるではないでしょうか。しかも、食ってる奴は…あれ?白髪の男とミサカ妹の妹か?
「ねえ、とうま」
「ダメ!!ダメだ!断固として拒絶する。あれは絶対にダメだ!」
「ケチだよ、やっぱりとうまはケチだよ!!」
「だって見てみろ!!一人前5000円ってなんだよ!!
上条家の一週間分の食費よりたけーぞ!!あれを今食べたら一週間もやし料理になるぞ!!
それでもいいか?!いいなら、
連れてってやる。どうする?」
「う…もやしはいいかも」
「ならダメだな」
「わかったよ、とうま…」
(ん?なんかいつもより大人しいぞ)
俺は妙な違和感を抱いていると
「とうま、我慢したから撫でて」
「ん?こうか?」
「とぉ〜〜まぁ〜〜!!」
今にも『ガブリ』と言う効果音が聞こえて来そうな噛み付きと同時に俺は絶叫した
「ウギャァァァァァァ!!ふこ〜〜だァ〜〜」
** * * * * * * ー15分後ー
「あれ?あんたじゃない?」
(ふふふふ不幸、だあ〜〜)
第二の不幸が俺の目の前に現れる。
そう、アレ、アレなんですよ、アレなんだってんですよ、そう…そう、ビリビリだ。
「どうしたの?突然不幸が目の前に現れたような顔して?」
「どうして、と言いますと、
かくかくしかじかなんですよ」
「あっはっはっ、なに、そんな事でもめたわけ?ホントにアンタバカじゃない?」
「・・・・そうですよ、どーせ俺は馬鹿ですよ。あるといえばこ
の右手だけ。」
ハァっと溜息。
不幸だ、本当に不幸だ。この右手は確かに、どんな異能の力も打ち消せるし、かなり世話になっているが、インデックスによると、幸運やら運命の赤い糸も消すって言うし・・・本当に何もかもご不幸だ。
「ところで、アンタ暇?どーしても暇って言うなら、この美琴様が付き合ってあげるわよ」
「・・・すまん、俺には成せばならん用事があるんですよ、御坂さん」
「私にそんな言い訳通じると思った?いいから付き合いなさい!!来ないと殺すわよ!」
「…わかったよ…」
「!本当!?」
「ああ、行くよ、行けばいいんだろう?」
「言ったわね!?確かに言ったわね!!さぁ、ならさっそくレッツゴー!」
俺は袖を掴まれて引きずられながらつぶやく。
「あゝ、不幸だ…」
で行き着いたのはデパートの屋上にある小さな遊園地、周りを見渡すと、ドアにゲコ太ショーと書いてあった。
「・・・・・」
『はぁ〜ゲコ太〜*』と、横で目を光らせているビリビリを見て俺は呆れていた。
「そんなに見たかったのか?周りガキばっかじゃねーか」
「うっさいわね!アンタは黙って見てりゃいいのよ!」
「・・・そうかよ・・・」
何だってんだよ、俺は何でいつもこんな目に…
「なぁ」
「話しかけないで」
「・・・・」
** *ーしばらくお待ちくださいー
「あー楽しかった!」
「眠い…」
「次、どこいく?」
「またどっか行くのかよ!」
「何、異論があるなら言ってみ…ハッ!」
「?」
俺はビリビリの見た方に視線をやった。そこには…

まだ続きを考えて無いので、
少し待ってください

276■■■■:2011/03/03(木) 17:28:48 ID:JiN..yTA
どっかで2月15日の後日談が見たいとリクエストがあったので、後日談作ってきました。
一応『突撃!!◯◯のバレンタイン』の続きです

投下かぶらなければ数分後に3レスほど投下します

277『突撃!?◯◯の2月16日』:2011/03/03(木) 17:31:27 ID:JiN..yTA
「さて、全員集まりましたわね」
「「…………」」
時は2月16日の夕方、いつものようにいつものファミレスに呼び出されたメンバーは、
自分たちが呼ばれた理由を告げられるのを待っていた。
「それではこれより……」



「『バカップル』となったお姉様を元に戻す対策会議を始めますわ!!」



大層な理由を想像していた初春飾利は盛大にずっこけたという。

278『突撃!?◯◯の2月16日』:2011/03/03(木) 17:32:06 ID:JiN..yTA
時を少し遡り2月16日の朝、白井黒子はこの時を迎えたくないという表情で通学路を愛しのお姉様と歩いていた。
「ねえ黒子、どうこのヘアピン。似合ってるかしら」
「えぇ似合ってますわよ、お姉様。しかし前をきちんと見て歩かないと危ないですわ」
「大丈夫よ、この時間にこの公園を通る人なんてほとんど居ないし」
「それでもですわ、お姉様。どこで足を滑らせるか分からないのですから」
「黒子は心配性ね、そんなんじゃ好きな男性(ヒト)が出来た時に口煩く思われるわよ」
またか、と白井黒子はひっそりと溜息をついた。

昨日の夜、寮の門限を気にして迎えに行こうかと彼女が悩んでいたところに御坂美琴が帰ってきた。
門限破りで寮監にお仕置きを食らうのではないか、と心配していたが杞憂だったようだ。
もっとも、一目見たときにはあまりの浮かれっぷりで精神状態を疑ったのだが。


(はぁ、何でわたくしが付き添わないといけませんの)
本日何度目か数えるのも馬鹿らしいほどの溜息をつくと、白井黒子は斜め前を歩く御坂美琴を見た。
なんでも愛しのお姉様によると、
「聞いてよ黒子、今日アイツに会ってきたんだけど、私のこと好きだって…好きだって…ふにゃー」
「黒子、聞いてる?それでね、明日から毎日朝一緒に登校しようって誘われたのよ!!」
「あ、でも身だしなみ崩れててアイツにだらしないって思われないかな……そうだ黒子、貴女も一緒に行かない?」
「うー、緊張する……もう待ってるのかな、それとも私が待つのかな。そうだ、後からいけばあの伝説の『ごめーん、待ったー?』ができるんじゃないかしら」
といった感じで白井黒子の宿敵、上条当麻に関することを延々と惚気けてくるのだ。
お姉様大好き!!な白井黒子からしてみれば本当にたまったものではない。
朝一緒に登校するのも本当は断りたかったのだ。
しかし、このような状態のお姉様を送り出すのも彼女には躊躇われた。
彼女の出した結論は『様子見のために一緒に登校してみて、問題があれば今後のことも考えよう』ということだった。

ある公園の自動販売機前、白井黒子と御坂美琴がやってくるとツンツン頭の少年がベンチに座ってぐったりしていた。
「とととと当麻っ、どうしたの?私が待たせちゃって愛想尽かしたの?やだ、やだよう……グスッ」
「美琴っ!!大丈夫だ、俺がお前に愛想を尽かすなんて有り得ない。そんな幻想俺がぶち殺してやるから安心しろ!!」
「ほんと?ほんとに私のこと嫌いになってるんじゃない?」
「あぁ、当たり前だ。なんなら今すぐ証拠を見せてやるよ」
「当麻……んぅ…はぁ……ばかぁ、こんな人のいるところで」
「いいじゃないか、見せつけてやろうぜ。御坂美琴は俺のものだってな」
「当麻ぁ……好き!!」

(何ですの、この茶番……)
御坂美琴が泣いたと思えば上条当麻が惚気けていきなりキスシーンに突入。
白井黒子の頭は目の前で起きていることを理解しつつも、どこかで目の前の出来事は別世界の出来事だと言い聞かせていた。
出来れば今目の前で桃色空間を発生させている二人には関わりたくない。
だが声を掛けなければ2人は延々と同じことをしていそうなため、彼女は行動に移すしかなかった。
「お姉様、上条さん、お二人ともその辺にしておきませんと」
「おう、白井おはよう」
「何よ黒子、私達が何したって言うのよ」
陽気に挨拶をしてくる上条当麻と、彼の服をギュッと掴みながら邪魔されたことを不満に思ってるかのように睨んでくる御坂美琴。
対照的な2人の態度をなんとか受け流しつつも、白井黒子は無情の一言を放った。
「おはようございます上条さん。お姉様、もう時間に余裕が無いですわよ?」
そう言いながら公園に設置された時計を指差す。
そこにはもう15分ぐらいで学校が始まると示す事実のみがあった。
「く、黒子っ、もうちょっと早く言いなさいよ。どうしよう当麻、一緒に登校できないかもしれない」
「美琴……そうだな、一緒に居られないって言うなら学校なんて遅刻しちまえばいいんだ」
「当麻ぁ、そうだよね。私も当麻と一緒がいい!!」
白井黒子は溜息をついた。
昨日の夕方になるまでのお姉様は何処に行ってしまったのかと。

279『突撃!?◯◯の2月16日』:2011/03/03(木) 17:32:42 ID:JiN..yTA
「というわけですの!!」
時を戻して冒頭のファミレス。
今朝見た出来事、昼食を共に摂った時の御坂美琴の態度。
余す所無く話した白井黒子は、もうこの事には触りたくないと態度で示していた。
「御坂さんも彼氏ができてきっと舞い上がってるんですよ。ね、佐天さん。…佐天さん?」
返事がないので初春飾利が隣を見ると、ぶつぶつと呟いて落ち込んでる佐天涙子の姿があった。
「佐天さん、佐天さん!!どうしましょう白井さん、佐天さんが反応しません」
「確か佐天さんの想い人も上条さん、でしたわね。さっきの話になにか思うところがあったのではなくて?」
「佐天さん、そうですよね。失恋して好きな人の惚気話聞かされて……白井さんは鬼です!!」
「初春、私はそこを配慮して貴女だけを呼んだんですのよ。佐天さん連れてきたのは貴女でしょう」
「わ、私は佐天さんが落ち込んでたから元気を出して欲しくてここに……」
白井黒子と初春飾利の責任の押し付け合いが始まると、それまで会話に参加してこなかった佐天涙子が顔を上げた。
「よし、決めた!!」
「わっ、どうしたんですか佐天さん」
「決めたよ初春、私諦めない!!」
「佐天さん、先程のわたくしの話は聞いてらしたのですか?」
「ええ、聞きましたよ。でもまだ二人は高校生と中学生じゃないですか」
「え、えぇ、そうですわね」
「ということは一時の過ちって別れるかもしれないじゃないですか。最後に上条さんの隣にいるのが私ならいいんです!!」
「さ、佐天さん……それはなんというか」
「止めるな初春、あたしはもう決めたんだ。ということで少しでも印象よくするために私も上条さんのところに行ってきます!!」
そう言うやいなや、お金だけ置いてすごい勢いで佐天涙子は飛び出していった。
それを見てるしかなかった二人は、
「どどどどうしましょう白井さん、佐天さんがとんでもないこと言って行っちゃいましたよ」
「落ち着きなさい初春。明日には諦めてますわ」
「へ、どういうことですか白井さん」
「人に聞くより直接見たほうが早い、そういうことですわ」
後を追っかけずにこの後30分ほどお茶を飲んで風紀委員の仕事に向かったらしい。


なお、後日泣いて諦めた佐天涙子の姿があったとかなかったとか。

280■■■■:2011/03/03(木) 17:34:20 ID:JiN..yTA
投下終了

え?15日じゃない?
そう言われても…………

ネタが尽きたので、多分自発的に書くことはもうないはず
リクエストみたいなので刺激されれば書くんだろうけど……

では失礼します

281■■■■:2011/03/03(木) 18:09:35 ID:TZgD2/nc
GJ!

282■■■■:2011/03/03(木) 21:34:20 ID:JsHRJ/VE
>>275
長いのは、1レス毎投稿するよりは、3・4レス位毎投稿して欲しいのと、
投稿前に、自分の書いた物を読み返して欲しい。
出来れば声に出して、読んでみて欲しい。
誤字とか、見つけやすくなると思うよ。

>>280
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从     n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

283ぬこぬこ教信者:2011/03/03(木) 21:54:51 ID:vKQNgai.
アドバイスありがとうございます。初めてなもので、次は2・3スレぐらいにします。

284Mattari:2011/03/03(木) 23:07:18 ID:Gbkjfkhw
いつもお世話になっています。Mattariです。

>>264
ありがとうございます。
続きますよ。続けるなと言われても、続けるつもりです。w

>>265
ありがとうございます。
ハイ、続きます。

>>266
ありがとうございます。
ネタ晴らしをすると、『あのくに(あの国)』と打って変換したら『アのくに』と変換されまして……。
その時に、コレは使っちゃえ……ということで使うことにしまして……。
ラウの国を出した時は『ダンバイン』から……という訳です。

>>267
ありがとうございます。
……うう、出しにくくなった……でも、出します。^^

>>270
ありがとうございます。
AIRのアニメは、見たことが無いはず。ゲームはしたかも?……ですが。
記憶があやふやでスミマセン。<(_ _)>

>>280
GJです。
帰りの電車の中で読んだのですが……2828しっぱなしでした。w


さて、今日は3月3日ということで、短編を一本書いてみました。
特別にオチがある……という訳ではないのですが、ほのぼのして戴ければ……ということで。

この後すぐ、3レス使用します。

285ひな祭り:2011/03/03(木) 23:08:33 ID:Gbkjfkhw
ひな祭り

to御坂さん from佐天

 御坂さんと上条さんに
 お聞きしたいことがあ
 ります。
いつものファミレスで
 待ってます。

 ある日、涙子から美琴の元にメールが届いた。

(聞きたいこと?聞きたいコトって何だろう?)

 と疑問に思いながら、いつもの待ち合わせ場所に向かう美琴だったが……。
 一抹の不安がない訳ではない。
 何せ、あの佐天涙子が『お聞きしたいことがあります』と言っているのだ。
 生半可なことではあるまい。

 確かに、最近は……特に『夢』が共有出来るということが分かってからは、週末は必ず上条の部屋から帰らずにいる。
 『お泊まり』が当然になっているのである。
 別にやましいことは何もない(私としてはあってもイイんだけど……ふにゃぁ〜)のだが、いざ聞かれるとなると……。
 それに『夢』のことは二人だけの秘密だ。
 誰かに知られた途端、見られなくなってしまった。ではシャレにならない。
 だから、美琴はこの件に関しては、上条に

「絶対、誰にも言っちゃダメなんだからねっ!!!!!!」

 と、キツ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い、お達しをコインの音と共にしてある。
 だから、その件に関して上条が口を割る心配はないはずなのだが……それでも一抹の不安がない訳ではない。

 それに、最近かなり疎遠になっている佐天からの呼び出しを無視する訳にもいかない。
 そんなことをしたら……背筋が一瞬にして寒くなり、ゾクゾクッと身震いをする美琴。
 出来るはずがない……。その方がもっと怖い……。

(コレはもう……腹を括るしか無さそうね……ハァ……)

 いつもの自販機の前に着いた美琴は、溜息と共に『俎板の上の鯉』の気分を味わうのだった。

 しばらくすると上条がやってきた。

「オーイ、美琴。悪い、悪い。ちょっと遅れちまった」

 と言い訳する上条の右腕に抱きつきながら、上目遣いに

「んもう……何が『悪い、悪い』よ。こんな美少女を待たせるなんて、アンタ罰が当たっても知らないわよ」

 と言って可愛くむくれる。

「み、みみみ、美琴さん?そんなカワイイ顔で怒られても……上条さんはどーしてイイか分からないんでせうが……」

 美琴の攻撃に、もうメロメロの上条。
 もう……サッサと結婚しちまえよ、オマエら……。

「……まぁ……罰って言うか……もう当たってるのがあるんだけどね……」

 と切り出す美琴。

「ヘッ!?」

 上条さん、何が何だか判らない。

「あの……これ……」

 と言って、先程のメールを見せる美琴……。
 上条は血の気が一気に引くのを感じた。
 そして、真剣な表情で……

「美琴……二人で逃げよう」

「なに昨夜見た、ドラマのセリフをこんなトコで使ってんのよ。……そりゃあ、当麻と二人なら……ドコに行ったってイイし……逃避行も悪くはないな……何て思ったりもするけど……その逃避行の途中で……二人っきりになれたなら……っていうか、逃避行なんだからずっと二人っきりな訳で……夜になったら……あんなことや……こんなことされたりして……(別に私は当麻がしたいなら構わないんだけど)……。確かに……まだ、ちょっと怖いかなぁ……恥ずかしくてふにゃ〜にならないかなぁ……何て想像する時もあるけど……当麻にだったら……当麻だったら……いいよ……」

「あのー、美琴さん……何がいいんでせうか?もしかして佐天さんに呼び出されたのがそんなにイイと?いつの間に『ツンデレ』美琴さんが美琴Mに……」

「だっ、誰が『ツンデレ』よっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

(無自覚かい!!!それともそれが『素』なのか?)

 と、心の中で美琴にツッコミを入れる上条だった。
 (決して口には出さない……というか出せないが……)
 そんな楽しい夫婦漫才の時間は瞬く間に過ぎ……いつものファミレスに向けてトボトボと歩く二人の姿があった。

286ひな祭り:2011/03/03(木) 23:09:24 ID:Gbkjfkhw

「あっ、やっと来た〜。遅いですよ〜、御坂さん、上条さん」

「アハハ……ゴメン、ゴメン。ちょっと当麻が遅れちゃって……」

「な……何でオレのせいな訳……、まぁ確かに遅れたけど……」

「相変わらずのラブラブぶりですねぇ〜」

「い……イイじゃない。わ、わ、私たちは、こ、こここ恋人同士なんだから……」

(今の会話の何処が『ラブラブ』何でせう?美琴のヤツ、それに全然気づいてない……完全にお釈迦様にやられてる孫悟空だな……)

「そんなに照れなくってもイイじゃないですか。実は今日お呼び立てしたのは……ちょっと付き合って欲しいところがあったからなんですよ」

「「付き合って欲しいところ?」」

「ホントはそう書くつもりだったんですが、初春が『それだと呼び出せません。『聞きたいことがある』といった方がイイです』と言うもんですから……」

(さすが……ブラック初春さん……こちらの行動はお見通しって訳ね……)

「もう初春も白井さんも行ってるはずですから。早速行きましょう」

「えっ!?黒子も来てるの?」

「……悪い……オレ、用事を思い出した……」

「あ、上条さん、逃げちゃダメですって……今日は金属矢を打ち込まないように言ってありますから大丈夫です!!!」

「ホントに……?」

「ウーン、多分……」

「不幸だ……」

「私が見張ってるから大丈夫よ。じゃあ……とりあえず行きましょうか?」

 ということで佐天に案内されたのは、ごくごく普通のゲーセンだった。

「こんなところに何があるって言うの、佐天さん?」

「まあ、イイから、イイから。とりあえず入ってみましょうよ」

「あ……御坂さん、上条さん、佐天さん、コッチですよ〜」

(チッ……やっぱりあの類人猿も一緒ですの……)

「白井さん、どうかしたんですか?」

「何でもありませんの……お姉様ァ〜ん、お待ち申し上げておりましたのぉ〜……あ゛あ゛ッ!!」

「いきなり抱きつくなっていつも言ってるでしょっ!!!ハァ、ハァ」

「お、オイ……美琴、ちょっとやり過ぎなんじゃ……」

「この子にはこれくらいでちょうどいいのよ。これだけやっても全ッ然懲りないんだから……」

「一度や二度の失敗で黒子はめげませんわ!類人猿からお姉様の操を守るためにも、まずわたくしが……グヘッ!?」

「だからやめなさいっつってんでしょうがぁ〜、このど変態がぁ〜〜〜!!!!!」

「あ゛あ゛ッ、お姉様の愛のムチッ……あ゛あ゛〜……イイですわぁ〜〜〜」

「「「アハ、アハハ、アハハハハハ……ハァ……」」」

 とまあ、いつものドタバタ劇がそこで展開される訳だが……店にとってはイイ迷惑だろうなぁ……。

 まあ、そんなドタバタ劇も何とか治まり……

「実は、このメンバーでないと撮れない写真があるんですけど、それが今日までなんですよね」

「えっ!?今日までって……何で?」

「だって、今日はひな祭りじゃないですか?御坂さん」

「そう言えば……」

「ひな祭りって、女の子の日なのにイベント感が無いんですよね」

「言われてみれば……そうだよなぁ……」

「バレンタインが近くにあるから……ですかね?」

「学園都市だと、親元を離れていますから、ひな人形を飾るなんてコトもしませんわね」

「確かに……」

「だから、少し気分だけでも味わいたいってコトで、今日お二人に来て戴いたんですよ」

「「ヘッ!?」」

287ひな祭り:2011/03/03(木) 23:10:26 ID:Gbkjfkhw

「まあまあ、イイからイイから。じゃあ、上条さんはコッチ。御坂さんはコッチに座って下さいね」

「え?……え?」

「で……私たちはここに3人並んで……」

「じゃあ、行きますよ〜。それッ!」

『パシャッ!!!』

「もう一回、行きますよ〜」

『パシャッ!!!』

「……ねぇ、佐天さん。何をしたの?」

「もうちょっと待って下さいね。……ねぇ、初春。このアドレスでイイんだよね?」

「はい、合ってますよ。……でも、佐天さん……何をするつもりなんですか?」

「まあ、イイからイイから……っと……コレでヨシッ……送信っと」

「いい加減教えて下さいません?佐天さん」

「もうすぐ、分かりますから……待ってて下さいね」

「……なるほどね」

「えっ!?当麻は佐天さんが何をしようとしているのか判ったの?」

「ハッキリと判った訳じゃないけど、大体の予想は立つだろ?第一このメンバーなんだからさ」

「今日の上条さん、冴えてる〜♪」

「「「???」」」

 そうこうしている内に、各自の携帯にメールが届いた。

 何やら、写真が添付されているようだ……。

 添付ファイルを開いてみると……

「えっ!?」

「何ですの!?」

「カワイイですっ!!」

「やっぱりな」

「イイでしょう?」

 その写真には、上条のお内裏様、美琴のお雛様と、白井・佐天・初春の三人官女が写っていた。


 その後、この写真を見た美琴と上条がイチャイチャし出したり、佐天と初春の質問攻めに遭ったり、黒子が美琴と並んで写真を撮ろうとして、美琴からキツ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い愛のムチを頂戴したのは……また別の話。

288Mattari:2011/03/03(木) 23:13:20 ID:Gbkjfkhw
ということで、如何でしたでしょうか?

ホントは2レス程度に納めたかったんですが……ドタバタさせすぎました。^^;

作中で佐天さんに言わせてますけど、
バレンタインに比べるとイベント感に欠けるひな祭りですが……やはり季節の風物詩として、大切にしたいな。と思ったのがはじまりです。

ではでは、お楽しみ頂ければ幸いです。<(_ _)>

289■■■■:2011/03/03(木) 23:24:57 ID:JsHRJ/VE
>>288
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从     n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

ひな祭りネタ、来ないのかと思ったよw

290■■■■:2011/03/04(金) 03:20:11 ID:w1muL/2I
>>280
あの伝説の『ごめーん、待ったー?』はワロタw
GJ!

>>288
デレのタインミグが程よすGJ













そろそろ王道の看病系SSが読みたい

291■■■■:2011/03/04(金) 08:41:53 ID:sF8fmPbI
ひな祭りSS、GJ!!
ただこれが此処ではなかったらお雛様のポジションをインデクス・五和・姫神・神崎・御坂妹・・・と
争うだなと感じます。

292■■■■:2011/03/04(金) 18:41:28 ID:ce/.16cY
3Dカメラで撮ったおっぱいエロすぎw
すれ違いおっぱい@ともも
ttp://oppai.upper.jp

293:2011/03/04(金) 20:22:17 ID:nB5D4fQM
292>> デルターフォースのスレにも現れたな

294■■■■:2011/03/04(金) 20:23:31 ID:0u2jCKTw
ほぼ全スレに来てるマルチ

295:2011/03/04(金) 20:26:26 ID:nB5D4fQM
たしかにww

296■■■■:2011/03/04(金) 20:48:15 ID:0YJJmnn.
小ネタいいかな?

297チョコレートのお返しは:2011/03/04(金) 21:18:22 ID:0YJJmnn.
「不幸だ」ハァ-
  
ツンツン頭の少年[上条当麻]は悩んでいた
それも電撃姫[御坂美琴]がバレンタインにくれた[心の込もった]チョコのお返しで
   
上「三倍返しってどうしろというんだ」
   
そのチョコはハート型で「だ〜い好きなとうまへ 美琴より愛を込めて」などと書かれていた
  
上「こうなったら、もう御板には指輪しかない!」
御「私がどうしたの?」
上「」
そうだった……最近は土日はお昼を作りにきてるんだったっけ
   
上「あの、えっとだな……御坂は可愛いなって言ったんだよ」
御「もう、とうまったら」
   
ちなみに当日に不幸にもプレゼントを無くして土下座するのだが、それは別の話

298■■■■:2011/03/04(金) 23:18:42 ID:iqh6uuAw
>>296
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从     n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

> 小ネタいいかな?
誰かが駄目といったら、投稿しないつもりだったのかい?
「小ネタ投稿します」で、すぐ投稿していいんだよ?

299ソーサ:2011/03/05(土) 00:45:35 ID:FJTxxrFc
Mattariさん
>>296
GJです!

久しぶりに投稿します。
だれもいなければ3スレ使わせていただきます。

300とある部屋のひな祭り:2011/03/05(土) 00:47:13 ID:FJTxxrFc

今日は3月3日、雛祭りだ。
当日にもかかわらず仲むつまじく雛人形を飾りつけている2人組がいる。

「だ〜か〜ら〜そこじゃないって言ってんでしょ!」

「もうこの際どこでもいいだろ!」

ここは上条の部屋。
美琴が持ってきた(実際は配達してもらった)雛人形を飾りつけようと悪戦苦闘している。
なぜ美琴の部屋ではないのかというと規則の厳しい寮であるということと相部屋ということが理由だ。
まあ常盤台の寮だと上条が入れず2人で作業ができないというのが1番の理由だが…

飾ろうと言い出したのはもちろん美琴。
だが飾ることは建て前で本音は誰にも邪魔されずに上条とすごしたいだけである。
もっとぶっちゃければいちゃいちゃしたいだけだ。

バレンタインで付き合い始めて早数週間。
2人の仲はそれほど進展していなかった。
これまで何度かデートをしたが黒子の妨害や上条のフラグ体質のため2人でゆっくり過ごせたことはほぼない。
また上条は美琴がまだ中学生だという理由で消極的になりがちだった。
だから雛人形を飾りひな祭りということでいい雰囲気をもっと距離を縮めようという作戦である。

もう日が暮れようとしている時間になりようやく完成。

「やっとできたわね…予想以上に時間かかったわ…」

「だからやめようって言ったのに…」

「なによかわいい彼女のお願いがいやだったってわけ?」

「いやそういうわけじゃないけどこれすぐ片付けるとなるとなんかむなしいっていうか…」

などと言い争いを始める2人。
しかし疲れていたのかすぐに静かになった。
上条は完成したばかりの雛人形に目をやる。

「しっかしほんといろんな種類があんだなこれ。」

「まあね。…こうやって2人して並んで見てると私達もお内裏様とお雛様みたいね///」

「…お前かわいいこと言うな…」

先ほどの雰囲気が嘘のように一気に桃色空間に切り替わる。
2人の顔はどんどん赤くなっていく。
いい雰囲気になったのにもかかわらずさっきの発言の恥ずかしさのあまり美琴は慌てて話題を変える。

「じゃ、じゃあさ!五人囃子を誰かにたとえると?」

「五人囃子か………五人囃子って男だよな?」

「一応現代で言う美少年って設定らしいわよ。」

「っていうと…………土御門とか青ピ?」

「あの2人か……ってか5人言いなさいよ。」

「5人…」

上条は考える。
しかし意外と思いつかない。
思いつかないためあれ?おれって男子の友達少ない?とか考えて少し落ち込む。
そこで学校内以外の人物もいれて考えてみる。
そこでまず思いついたのが

「そうだ!一方通行!」

「…なんだかお内裏様とお雛様を攻撃しそうなんだけど…楽器持ってる姿も想像できないし。」

そこで上条は一方通行の五人囃子姿を想像してみる。
…いろんな意味で恐ろしい……

次に思いついたのが

「天草式のメンバーだ!建宮とかぴったりだろ!」

「あのクワガタか…服装は似合うかもしれないけど少年じゃなくない?」

「そういわれるとそうか…他の天草式もほとんど少年ではないな…」

「一応聞くけど他には?」

う〜ん、と唸る上条。
イギリス精教でだれか考えてみる。
すぐに思いついたのが不良神父ステイル=マグヌス

(あいつ年齢的には少年だしな…意外といけるかも)

イギリス精教ではステイルしか思いつかなかったため次にローマ正教を考える。
ローマ正教で男といえば“神の右席”の三人。
テッラ、アックア、フィアンマを思い浮かべる。

(あいつらが五人囃子だったら怖すぎるだろ…)

もっともな意見である。
まあそれ以前に少年ですらないのだが。

301とある部屋のひな祭り:2011/03/05(土) 00:47:52 ID:FJTxxrFc

「つーか何が楽しくてひな祭りに“神の右席”を思い出さにゃならんのだ…」

「誰か思いついたの?」

「いや…あんまり…てか美琴は誰か思いつかないのかよ。」

「え?えーと…」

一応先ほどから考えていたがあまり思いつかない。
男の知り合いはやはり少ない。
しいて言うならば

「……海原光貴?」

「あいつか…まあなくもないような…って美琴だって1人しか言えないじゃないか!」

「だって男子の知り合いなんてあんまりいないし…それに…」

「それに?」

「男子の知り合いは当麻さえいれば私は満足だし…ね…///」

再び桃色空間に突入。
顔を赤くしモジモジしながら話す美琴。
最後のほうは声が小さくなり聞き取りずらかった。
だがそれがたまらなくかわいい。
上条にとってストライクだった。

「確かに…美琴が俺以外の男と話してるのはいやだな…」

「と、当麻ったら意外と独占欲が強いのね。///」

「そ、そりゃお前は俺の彼女なんだから独占したくもなるさ。///」

「当麻…」

「美琴…」

2人は見つめあう。
そして徐々に近づき、距離はゼロに―――

「上やーん!!ちょっと飯わけてくれないかにゃー!!」

ならなかった。
突如部屋に入ってきたのは隣の部屋の土御門。
インターホンすら鳴らさず突撃してきた。
いい雰囲気を邪魔されたことに対し怒りのドロップキックをくらわす上条。
くらった土御門はそのまま通路へ吹っ飛んでいく。
いきなり何するんだにゃー!とか叫ばれたがそんなことは気にしない。
さらに数発けりをいれ思いっ切りドアを閉め鍵をかける。
なぜ鍵をかけなかったと悔やむがいくら悔やんでも時間は戻らない。
当然のごとく桃色空間は消滅。
むしろ気まずい空間が生まれる。

「……え〜と…そ、そうだ!三人官女を誰かにたとえると!?」

あまりの気まずさに上条が強引に話題をふる。

「さ、三人官女ね…やっぱ黒子、初春さん、佐天さんかな。」

「おー、あの3人か。」

なんとか気まずい雰囲気は消え去った。
上条はほっとするがこの話題は致命的な弱点があるということに気がつかない。

「固法先輩もいいと思うけどね。当麻は誰か思い浮ぶ?」

「3人っていうと…姫神、吹寄、雲川先輩あたりか?」

「なるほどね〜。」

「天草式だと神裂、五和と対馬?だっけ。この3人とかいいんじゃね?」

五人囃子の時と違いどんどん名前を挙げていく上条。
その勢いはとどまるところを知らない。

「あとは…子萌先生、黄泉川先生、親船先生の先生による三人官女もありか。」

「え?ねえちょっと…」

「風斬も似合いそうだよな〜。」

「お〜い…」

「日本以外だとアニェーゼ、ルチア、アンジェレネの3人とかもありだろ。」

「……」

「イギリス精教ならオルソラ、シェリー、インデックスがいるな。」

「あの、さ…」

「リメエア、キャーリサ、ヴィリアンの王女の三人官女なんてのは豪華だな。」

「いいかげんに…」

「あ!御坂妹、番外固体、打ち止めの三人官女もいいんじゃ―――」

「せんかコラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

302とある部屋のひな祭り:2011/03/05(土) 00:48:46 ID:FJTxxrFc
そう叫ぶと同時に大覇星祭の時のような鉄拳を放つ。
今回は横腹にだが。
ちなみに電撃ではないのは電化製品を考慮してのことだ。…たぶん
上条に物理的ダメージを与えたかったわけではない…はずだ。
そしてその場にうずくまる上条。

「アンタね…なんで五人囃子の時と違ってスラスラと名前が出てくんのよ…」

「ちょ…今のは……きついって…」

「5、6人ならともかく多すぎるでしょ!それにまだまだ言えそうだったじゃない!!!」

「ゴホッゴホッ……あ、いや、すいません…」

「なにが先生とか王女による三人官女よ!挙句の果てに妹達までもってくるし!!!!」

「み、美琴…ちょっと落ち着いて…」

「こ・れ・が……落ち着いていられるかぁぁぁぁぁああーーーーーー!!!!!!!」

「だぁーーー!!!電撃は止めて!家電が死んじゃう!!」

「アンタが死んでその女癖を治してこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」

美琴は帯電しながら暴れようとする。
上条はそれを決死の覚悟で止める。
さっきじゃなくて今こいよ土御門、とか思ったがくる気配はない。
もはやどうしようもないのでとりあえず右手で美琴の腕をつかむ。
帯電していた電気は一瞬で消え去り怒りくるっている美琴が残る。
そして上条はその怒りをも消す。
方法は簡単、そのまま抱きしめたのだ。

「ふえ!?ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと当麻!?」

“幻想殺し”もビックリなくらい瞬時に美琴の怒りは消え去る。
抱きしめたまま数分が経過。
美琴はさっきまで怒っていたのが嘘のようにおとなしくなり目はトロンとしている。

「…落ち着いたか?」

「うん……ふにゅ…」

「じゃ、いつまでも立ってるのもなんだし座ろうぜ。」

そう言うと上条は抱きしめている美琴と共にベッドに腰を掛ける。
美琴の顔は緩みきっていた。
上条は抱きしめるのをやめていたが美琴が抱きついている。
この状況が数分続いたあと、完全に落ち着いたためか美琴の表情が悲しげなものに変わる。

「当麻…ごめんね、殴ったり死ねなんて言っちゃったりして…彼女失格だよね…」

不安なのか抱きつく力が強くなる。

「そのうえ暴れようとして…嫌われても当然…うう…ほんとにごめんね…」

美琴は今にも泣き出しそうだった。
それを見た上条は美琴の頭をなでる。

「嫌いになんかなるわけないだろ?俺は美琴にデレデレなんだからさ。」

「…ほんとに?今日も無理やり手伝わせたのに?」

「全然気にしてないって、俺はお前といるだけで楽しいしな。」

「そっか…楽しいんだ……よかった。」

「それと…さっきはごめんな、お前の気持ちを考えてなくて。」

「ううん、いいのよ。あれは当麻には女の人の知り合いが以上に多いからちょっと不安だったから…」

「まあ確かに多いな……でも安心してくれ。」

「?」

「たとえどれだけ多くの女の人と知り合いになろうと俺のお雛様は美琴だけだからさ。」

「!!…えへへ、嬉しいな〜。も、もちろん私にとってのお内裏様は当麻だけだからね!」

お互い顔が赤くなっていることがわかる。
恥ずかしいため2人は少しは離れたが今この2人を邪魔するものは何もない。
部屋には西日が射しており壁に2人の影が映し出されている。
その影の距離は近くなり、そして

―――1つになった。

数秒後影は2つに戻った。
美琴はゆっくり上条に寄り添う。
西日が射しているためベッドは赤く染まって見える。
そのベッドの上に座っている2人はお雛様とお内裏様のようだった。

303ソーサ:2011/03/05(土) 00:51:10 ID:FJTxxrFc
以上です!
ほんとは3日に間に合わせたかったんですけど間に合いませんでしたorz
やはり短編は難しい…

304■■■■:2011/03/05(土) 01:35:45 ID:Vh.IBdLM
>>303
ソーサさんGJ!
神の右席と三人官女候補の多さに笑ったw
いちゃいちゃ分も堪能できてごちそうさまです

305■■■■:2011/03/05(土) 05:08:29 ID:MMoVZwzQ
書かないって言った側からなんか書いちゃったよ。
多分誰かと投下被ることはないでしょうがとりあえず3分後ぐらいから投下すると予告いれておきます。

時系列は「突撃!!〜〜」系じゃないよ!!

306『貴方の為に』:2011/03/05(土) 05:11:03 ID:MMoVZwzQ
「あ、起きたわね。台所使わせてもらってるわよ」
「……美琴?」
上条当麻がベッドで目を覚ますと台所に立っていた御坂美琴が振り向いた。
「驚いたわよ。約束の時間を1時間過ぎても当麻が来ないどころか連絡がないんだもの」
「あー、わりぃ。体がだるくて……」
「汗かいてたしうなされてたし、さっき熱測ったら38度もあったじゃない。もっと体をいたわりなさいよ」
軽く頬を染めながら「あ、あんただけの体じゃないんだし……」と小さな声で呟いていたが、
意識の朦朧としている上条当麻はそれには気づかなかった。
「あ、起き上がらなくてもいいから当麻は寝てなさい。この美琴さんがお世話してあげる」


日差しが少しずつ暖かくなり始めてきた3月初めの日曜、御坂美琴は恋人である上条当麻とのデートのため待ち合わせ場所である公園にいた。
「んー、暖かくなり始めてきたって言ってもまだ少し寒いわねぇ。もう少し厚着してくるべきだったかしら」
校則で決められた常盤台の制服、ではなく高校一年生ももう終わりという時期に入った御坂美琴は
(少し薄着過ぎたかな?)と反省していた。
中学3年間も私服については考える必要も薄かったため、彼女にとってこの時期の最適な格好というのはまだ模索中のようだ。
「それにしても当麻遅いなぁ……約束の時間30分も過ぎてるわよ。遅刻はともかく……愛しの彼女に連絡の1つもないってのはどういうことよ」
2人が付き合い始めて1年半ほど経つが、どうも好きだ、とか、愛してる、という言葉は彼女にとっては未だに恥ずかしいらしい。
「ったく、少しは、私の気持ちも、考えなさいよっ!!」
と気合一閃。彼女のキックが自動販売機に吸い込まれ
「あー、肌寒いのに『氷結!!レインボーマンゴー』とかどんなイジメよ。…不幸ね」
出てきた飲み物を見て、彼女は恋人の口癖を呟いた。

更に30分後

(おかしい、いくらなんでもおかしいわ。当麻が私のことをここまで蔑ろにするわけがないし、いつもの不幸に巻き込まれたとしても連絡ぐらいは……)
約束の時間から1時間。
ようやく彼女もおかしな事態になっていると認識し始めたようだ。
むしろここまで時間が経つまで、おかしな事態だと思い至らないのに普段彼女の恋人がどんな目にあっているのかが伺える。
「……電話にも反応はなし。呼び出し自体はされるから携帯が壊されるような事態には陥ってないわね」
そう彼女は冷静に分析すると、彼女の恋人の部屋の合鍵が財布に挟んであることを確認して恋人の部屋へと向かった。
(これで何もなかったら、レールガンの1発や2発じゃ済まさないんだから!!)

307『貴方の為に』:2011/03/05(土) 05:11:37 ID:MMoVZwzQ

「で、部屋に上がってみたら当麻の様子がおかしかったから、看病してあげたのよ。分かった?」
「済まんのう美琴さんや。上条さんが不甲斐ないせいで迷惑かけちまって」
「何よそのえらく白々しい台詞は」
ギロッと御坂美琴に睨まれると、上条当麻は形勢不利と見て布団の中に隠れた。
愛する恋人に心配をかけてしまったので場を和ませるために冗談交じりで言ってみたのだが、どうやら御坂美琴には不評だったらしい。

もっとも、部屋に上がった御坂美琴が上条を最初見たときは大泣きして
「やだっ、当麻どうしたのっ!?だめ、当麻が死んじゃったら私どうしたらいいの!!」
と、取り乱した挙句
「やだよぅ…当麻ぁ、起きてよぅ…グスッ」
恥も外聞も捨てて大泣きし始めて10分ほど彼が熱でうなされていることに気付かなかったのだが。

「はい、タオル。もう動かないでよ。ほらタオルが落ちたじゃない」
上条当麻が少し状況を把握しようとしてみると、意識がハッキリとしてなかった間に感じていた体の不快感が消えていたのが分かった。
「美琴、ひょっとして着替えさせてくれたのか…?」
「さすがに下着は替えなかったけど、寝間着を交換するついでに体も出来る限り拭いといてあげたわ」
どうやら意識がない間にあんな姿やこんな姿を彼女に見られたらしい。
「…うぅ、上条さんは穢されてしまいました」
「ばっ、な、何言ってんのよ!!あああアンタの裸なんて見慣れてりゅっ!?」
焦ってしまい墓穴を掘った上に噛んでしまう御坂美琴。
涙目になりながら顔を真赤にして口を抑えてる彼女を見て、
(やはりコイツは可愛いなぁ)
と上条当麻は思っていた。
「しかし上条さんとしては、そんな大声出さなくてもいいと思うのですよ。隣に土御門いたら大変だし」
「あー、ごめん……」
上条当麻の隣人、土御門元春。その妹土御門舞夏。
この二人には上条当麻も御坂美琴もやり込められることが多く、
恋人同士の二人の間で秘めておきたいことも気付けば隣人たちに筒抜けという、上条家の誇る素晴らしい防音能力の前では無駄な努力であった。

308『貴方の為に』:2011/03/05(土) 05:12:17 ID:MMoVZwzQ
「そ、それよりもさ、当麻…お腹空いてない?」
時計を見ればもう15時過ぎ。
昨晩に夕食を摂ってから体もろくに動かせない状態で半日以上寝たきりの上条当麻の体は、腹の音が自己主張をするほど栄養を欲していた。
「減ってる……けど食材もロクになかっただろ。悪いけど缶詰とか買ってきてくれないか?」
「馬鹿っ!!何言ってるのよ。そんな体でちゃんと栄養取らない気?ふざけたこと言ってんじゃないわよ」
と一喝され再び上条当麻は布団の中へ。
御坂美琴の一喝で反抗心を失うとは、どうやら上条当麻は彼女に逆らえない体になっているらしい。
台所に向かった御坂美琴が何かを持ち上げると、そのままベッドの横の机まで運んできてこう言った。
「ほら、当麻のために卵粥作ってあげたわよ」
どうやら先程台所にいたのはこれを作っていたかららしい。
上条当麻が食べるために器を受け取ろうとすると、御坂美琴は彼から器を遠ざけた。
「あの美琴?レンゲと取り分けた小皿がないと俺食べれないんだが……」
「え、何言ってるのよ。まさかこのシチュエーションで自分で食べる気なの?」
早く食事をしたい上条当麻を、御坂美琴はコイツ正気か?というような目で見つめていた。
「こういう彼女が彼氏の看病をしてる時は…その、あ、アレに決まってるでしょ!!」
自分の発言に照れながらレンゲに掬った粥を、口で息を吹きかけて少し冷ますと上条当麻に向き直り
「はい、当麻。あ、あーん」
「あ、あぁ…あーん」
上条当麻は差し出されたお粥を頬張り、しっかりと味わった。
「うめえ、うめえよ美琴!!……そのもっと食べたいから、食べさせてもらっていいか?」
「あ、当たり前じゃない」
そう言うと御坂美琴はレンゲで粥を掬い、生涯目の前の恋人にしか見せない満面の笑みで


「当麻、私の…その……愛情いっぱいのお粥食べて早く元気になってね」


愛しの恋人の口元へとレンゲを運んだ。

309■■■■:2011/03/05(土) 05:24:20 ID:MMoVZwzQ
以上でどっかで読みたいって書いてあった看病系SSの投下を終了
この投下ペースだと……なんか名前付けておいたほうが皆様に識別されやすくていいですかね?

次回投下も考えてはいるんですが、ぶっちゃけ今年になってからこのスレ来たのでネタがスレの趣旨に噛み合ってるか分からないというジレンマ

案1.>>235の原作知らずさんがやった当麻と美琴の年齢逆転ネタ
  欠点:背景書こうとするとイチャイチャにたどり着くまでの時間がどれだけ
     というかそもそも年齢逆転ネタってポンポン出していいの?

案2.超電磁砲06巻を読んでて、あまりにも美琴が病んでる表情だらけだったので
   心が壊れた後の美琴が当麻と再開したら、ネタ
   欠点:イチャイチャ行くまでのじかんが(ry + 病ンデレールガンネタ多数という下手したら鬱展開もの?
案3.きっかけがあれば即興でいちゃらぶ投下


まあ、今はこの3つなんですが……どうなんですかね?
他の皆さん方の意見を受けて制作していきます。

さて、お騒がせしました。これにておやすみなさい

310■■■■:2011/03/05(土) 10:57:41 ID:Ub7hfG9c
GJです!

311■■■■:2011/03/05(土) 12:46:23 ID:PHf0isl.
>>303
女の名前はスラスラ出てくる上条さんwww

>>309
上条さん、受験は大丈夫だったのかしら。
> ジレンマ
皆雑食だから、注意書きがあれば、たぶん大丈夫。
駄目なら、誰かが駄目だしするはず。

        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄ ノ   Good Job !!
     /    /

312まずみ:2011/03/05(土) 15:23:01 ID:Y7vrHGzI
はじめまして。まずみと申します。
『貴方の為に』を読んで逆パターンを思いついたので、SS投下させて頂きますね。
初めての投稿なので、おかしな点とかあると思いますが、どうか長い目で見て頂ければありがたいです。

313まずみ:2011/03/05(土) 15:25:00 ID:Y7vrHGzI
『風邪ひき美琴のお見舞い事情』


「……ごめんね、黒子」

 御坂美琴はベッドの上で横になったまま、少し赤い顔をルームメイトである白井黒子に向け、謝罪の言葉を口にする。

「何をおっしゃいますやら。私、白井黒子はお姉さまの唯一無二のパートナーですのよ。こういう時こそ頼って頂かないと、パートナー失格になってしまいますですわ」

 そう言って、美琴のベッドの傍に立つ白井黒子は、美琴の額に当てていたぬるくなったタオルを水に浸し、水分を絞り取ると再度額に置き直す。
 状況的に既に理解しているとは思うが、学園都市7人のレベル5が第3位『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴は現在風邪をひき、床に伏せていた。

『うー、なんでこんな事に……』

 美琴は自分の現状に不服を感じ、思い返してみたが、どう考えてもあの日無理したのがいけなかったようだった。



 それは2日前の事、いつものように美琴はいつもの公園で上条当麻とばったり出くわした。
 まあ、本当は30分以上待ちぼうけをした末でのことなので、”ばったり”というには無理があるのだが、それでも美琴曰く”ばったり”出会ったと言う事になっている。

「……それで、毎日こうして出会っているわけですが、流石に上条さんも同じ台詞しか出てきませんの事よ――あぁ、不幸だ……」

 当麻はそういって自分のツンツンした無造作ヘアーの頭を掻く。

「アンタが私の相手しないのが悪いんでしょうが!!」

 手加減しているとはいえ一般人なら大怪我になりそうな高圧電流を美琴は当麻に向けて発生させる。
 それに対し、当麻は右手を電流に向けて防御の姿勢を取る。

パリンッ!電流が当麻の右手に触れた瞬間、嘘のように跡形もなく消え去る。

「チッ!」

 美琴は舌打ちするが、毎度のことなのでもう驚きはない。

「なあ、御坂。もういい加減止めようぜ。こんな事繰り返したって仕方ない事だろ」
「うるさいっ!アンタは勝ち続けてるから良いんだろうけど、私はまだアンタに勝ったことないんだから、私が勝つまで勝負し続けなさいよ!!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ美琴に対して、当麻は既に呆れ顔になっている。
 こうして、美琴は当麻と毎日顔を合わせるたびに勝負を吹っかけているが、勝敗的にいえば美琴の全戦全敗(本当はとある一件で一度は当麻に勝っているのだが、当麻自身が攻撃も防御も行わず、美琴の攻撃を受けるだけの状態であったため、美琴的にこの勝負は無かった事になっている)である。なので、冷静に考えれば何度やっても同じ事になるのはわかってはいるのだが、美琴にとってこれは既に勝敗ではなく、単に上条当麻と会うための口実になっていた。

「いや、御坂。勝負は良いけど。今日みたいな雨の日にまでって実際どうよ?」

 当麻は傘を少しずらし、雨が降りしきる黒雲の覆う空を見上げる。

「う、うるさいわね。雨だろうが雪だろうが、私達の勝負に関係ないでしょ!さあ、勝負よ!勝負!」
「はあ、不幸だ」

 本日何度目かになる台詞を溜息とともに吐き出し、当麻はゆっくりと身構える。

「いいぜ。そんなに俺と戦いたいって言うならその望み叶えてやるよ。でもな、この雨がお前に味方するって思っているなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺してやるぜ」
「やっとその気になったわね」

 上条当麻が構えに入った瞬間、美琴の背に冷たい汗が流れおちる。
 今まで何度となく戦ってきたが、いつものらりくらりかわすだけで、本気で相手されてなかったのだから、構えをするという事で相手の本気度を察知し、緊張が全身をめぐっている事を美琴は感じていた。

『さあ、来なさい。今度こそ勝ってやるんだから』

 美琴は当麻の行動を一瞬たりとも見逃さないように視線を向ける。
 公園に緊張が走る。そして、当麻の右手がゆっくりと持ちあがり

「あー、あんなところに等身大ゲコ太人形が!!」
「え?どこ?どこにゲコ太が!?」

 当麻の指さす方向につい顔を向けてしまう。
 もちろん、その視線の先にゲコ太どころか人形などある訳がなく。再び視線を元に戻したところ、その先にも上条当麻の姿は無かった。

「え?なに!?」

 一瞬の思考の停止の後、公園の出口に目を向けるとそこには走って逃げる当麻の姿があった。

「あ、あんにゃろめー!!待てや、ゴラァ!!」

 それを確認すると、とてもお嬢様学校である常盤台中学在籍とは思えない台詞を口に出しながら、美琴は当麻を追跡し始める。
 こうして雨の中を朝まで当麻を追いかけていれば、風邪の一つや二つひいて当然と言えば当然の結果であった。

314まずみ:2011/03/05(土) 15:27:51 ID:Y7vrHGzI
 黒子は美琴の差しだした体温計を見る。体温計が表示する数値は37度2分、風邪の症状としてはかなり落ち着いてきたようだった。むしろ、先ほどまで美琴が咥えていたその体温計を持っている黒子の方が落ち着きが無くなり、体温が上昇しているようにも思えたが、気の性と言う事にしておこう。

「昨日に比べると熱は下がったとは言え、まだ無理してはいけませんの。まだ今日一日は安静にしておく事。良いですわね?お姉さま」

 体調が戻ったことですぐにでも動き出そうとする美琴に対し、何とか平静を取り戻した黒子は釘をさすかのように厳しく言い詰める。
 実際、黒子がいなければ美琴は直ぐにでも動いていただろう。どうしても行きたいところがあったのだから。しかし、それでまたぶり返しては折角看病してくれた黒子に申し訳ないので

「……わかったわよ。今日”も”おとなしくしておくわよ」

 と少しだけ頬を膨らませて、拗ねたように返答をする。
 その態度は普段の美琴からは考えられないような幼稚な態度だったのだが、黒子はただ「そうして頂けますと、ありがたいですの」とだけ返答した。もっとも心の中では『ウハァッ!お姉さまの子供のような態度!普段見られないだけあってプレミアものですわ!!この表情写真に撮って、いえいえ、360度全方位からの動画撮影をしなくてはいけませんのに、あー、もうどうしてこういう時に限って撮影機材をメンテナンスに出してしまったのでしょう!?口惜しい、神様を呪いたくなりますの!!』などとどす黒い感情が渦巻いていた事はここだけの秘密だ。

『あーあ、これで2日も会えなかったな……折角、このところ毎日顔を会わせることが出来てたのに』

 もちろん、誰の事とは言わないが、胸の内で大きな溜息をつく。その時だった

――コンコン

 美琴の耳に部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「はいですの」

 黒子が扉に向かうために席を立つ。

『だれか見舞いにでも来てくれたのかな……もしかして、アイツ?そ、そんな訳ないよね……でも、アイツだったら嬉しいな』

 などと少し顔を赤らめながら、期待するあたりまだまだ少女の域を出られない美琴だった。

315まずみ:2011/03/05(土) 15:28:33 ID:Y7vrHGzI
 しかし、現実は

「御坂、身体の具合はどうだ?」

 女子寮の寮長が部屋に入ってきただけだった。

「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました。明日には復帰できると思います」

 まあ、そううまくいかないとは思いつつも、やはり期待していた分多少の落胆はあった。決して表情には出さないが。

「どうやらそのようだな。何故風邪をひいたのかの原因は後日聞くとして、お見舞いだ」

 そう言って美琴に紙袋を手渡す。

「あ、ありがとうございます」
「あらあら、わざわざ有難うございますですの」

 美琴は受取った紙袋の中身を確認すると、市販の栄養ドリンクが数本と桃の缶詰が2個入っていた。
 いくら寮監が男勝りとはいえ、流石にこの取り合わせは男前過ぎないだろうか。と、首をかしげていると

「勘違いするな、御坂。それは私からのお見舞いではない。先ほど寮の前でウロウロしていた少年がいてな。訳を聞いてみると、御坂を昨日見掛けなかったことから風邪をひいたんではないかと思ってお見舞いを持ってきたのだが、どうすれば良いか迷っていた。とのことでな、私が代わりに受け取っただけのことだ」

 え?それって……

「りょ、寮監様、もしやその男性とは……」
「ああ、高校生くらいの髪がツンツンとしていた独特なヘアスタイルの少年だったぞ。御坂、その少年との関係も後日改めて聞くが、とにかく今日はゆっくり休め」

 そう言って寮監は部屋を後にした。
 黒子は美琴に背を向け、扉に向かい固まったままになった。そして、部屋に流れる沈黙。
 しかし、それを打ち破ったのもやはり黒子だった。

「お、お姉さま……そのような見舞いの品はお姉さまにふさわしくございません。ですから、こちらにお渡しいただギョォ!!」

 ゆっくりとギギギというまるで錆びついたような擬音と共に振り向いた黒子が見たのは、ベッドの上で紙袋を抱えたまままるで天上の楽園を見たかのような幸せそうな微笑みを浮かべた美琴の姿だった。

「お、お姉さま!!何故黒子の看病では見せた事の無いような極上の笑みを浮かべておられるのですか!?
 あんの類人猿、今度会ったら体中串刺しにして学園内を引廻しにして差し上げますわ!!ですから、お姉さま、現実に戻ってきて下さいませ!黒子を見て下さいですのー!!」

 しかし、寮内に響き渡る黒子の絶叫は美琴の耳には届かなかった。もちろん、寮監の耳には届き、その日黒子はかつてないお仕置きを受けたのは言うまでもない。

 なお、余談であるが、紙袋を抱えたまま眠った美琴はよほど良い夢を見たのか、朝からにやけっぱなしで、公園で2日ぶりに会った当麻に対して顔を真っ赤にしたまま、視線を合わせる事が無かったという。

Fin

316■■■■:2011/03/05(土) 15:34:33 ID:eY00b4JA
>>309
リクエスト本当にありがとうございます!!
楽しく読ませていただきました!
GJ!!

317■■■■:2011/03/05(土) 15:36:45 ID:eY00b4JA
>>315
すいませんリロードしたんですか…投下途中ですか?
とりあえずGJを

318まずみ:2011/03/05(土) 15:51:09 ID:Y7vrHGzI
>>317
済みません。投下終了宣言忘れていました。
315で終了です。
2レス目で段落替えしてるのですが、1レス目の最後に改行3行入れてたんですが消えてますね。

まとめでは申し訳ないのですが、1レスと2レスの間3行入れてもらえますでしょうか。
よろしくお願い致します。

319■■■■:2011/03/05(土) 17:09:32 ID:DSg3E/KI
まずみさんGJ!
素直になれない美琴や、下心満載で看病する黒子の様子が凄く良かったです!
あと上条さんの見舞いの中身www。

320■■■■:2011/03/05(土) 19:44:44 ID:PHf0isl.
>>318
お見舞いは「新鮮フルーツいっぱいゼリー」じゃないのかw

    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从     n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

321ツキサカ:2011/03/05(土) 21:55:43 ID:mvKUBXfk
みなさまはじめまして、ツキサカと申します。

スレが1のころからずっと読者側だったのですが、
いつか自分でもSSを書いてみたいと思っていました。

SSを書くことは初めてなので、お見苦しいところがあるかとは思いますが、
ご容赦のほどを、よろしくおねがいします。

誰かとかぶらないようでしたら、5分後から投下します。

322■■■■:2011/03/05(土) 22:00:22 ID:mvKUBXfk
『切れた糸を繋いで』 前編

ある休日の朝、御坂美琴はベッドに腰掛けたまま携帯電話とにらめっこをしていた。

(あーもう、なんで電話くらいでこんなに悩まなくちゃいけないのよ!)

昨日、美琴はなんとなく上条当麻に会えそうな気がしたので、町をぶらついていた。
このような直感があった時には、高確率で遭遇することができていたからだ。
しかし、昨日は珍しくあてが外れ、上条に会うことはできなかった。
そのせいもあってか、昨日からずっと、胸にモヤモヤしたものが残っている。

(休みだから遊びに行こうって言うだけじゃない。それだけなのに、なんでこんなに緊張してんのよ、私……)

美琴はいまだに最後のボタンが押せないでいた。



上条当麻はいつものようにバスタブの中で目を覚ました。
起き上がろうとして腕に力を込めるが、体が持ち上がらない。加えて頭がフラフラする。

(風邪でも引いたかな、体が重い……)

気力を振り絞って立ち上がる。
風呂場から出た後、同居人に風邪を移さないために、なんとかして小萌先生の家に誘導する。
……本音は静かに休みたいからだったが。
誘導に成功した後、上条は空いたベッドで休もうとした。
しかし、ベッドにたどり着く前に目の前の景色が白くぼやけていく。

(……こりゃ思ったよりヤバイかもな)

上条の体から力が抜けていき、体勢が崩れそうになる。そのとき、携帯電話が鳴った。
着信音のおかげで上条は意識を取り戻す。携帯電話の画面を見ると、電話をかけてきたのは御坂美琴だった。

「もしもし、なんか用か?」
「い、いや、と、特に用があるわけじゃないんだけど……そうだ!アンタって今日暇だったりしない?」
「暇ではあるんだが、ちょっと……」
「ちょっと?」
「悪い、ちょっと体調がよくないんで今日は寝て……ようと思うんだ」

途中で一瞬、意識が飛びそうになり言葉が詰まってしまう。

「そ、そう……」

話している間に意識がだんだんと遠くなっていく。そしてついに、上条は意識を失い床に倒れた。

「もしもし? 今大きな音が聞こえたけど平気? ……ねえ、聞いてる?」

上条の返事はない。

「……今からそっち行くから!」

美琴はそれだけ言うと、電話を切った。

323■■■■:2011/03/05(土) 22:01:21 ID:mvKUBXfk
バタン! と音を立て勢いよく扉が開く。美琴は部屋に飛び込むと、上条の姿を探す。
上条は床に倒れていた。それを見た美琴は心臓が止まりそうになる。

「ちょっとアンタ! 大丈夫!?」

美琴は上条を揺さぶりながら呼びかける。

「う……御坂……か……?」
「馬鹿! なんでそんなところで倒れてんのよ! 寝るなら布団で寝なさい!」
「はは、そりゃそうだな……」
「ほら、いいからつかまって」

美琴は上条を起こして、肩を貸しながらベッドへ運ぶ。
上条をベッドに寝かせ、美琴は上条の横に腰掛けた。

「すっごく具合が悪そうだけど……風邪?」
「わかんねえ……今日起きたらいきなりこんなだった」
「そう……。きっとアンタがいつも無茶してるから、体が悲鳴をあげたのよ。
 今日は1日大人しくしてることね。……あ、そうだ。食欲はある?」
「あるにはあるけど……そこまで気を使わなくてもいいぞ」
「黙りなさい。今から何か作るわ。できるまでアンタは寝てて」

上条は何か言いたそうにしていたが、やがて目を閉じて大人しくなった。

(さて、やっぱり病気のときはお粥かしらね。
 でもあいつ大したもの食べてなさそうだし何か入れたほうがいいわね……)

美琴は、食材を勝手に使っていいものだろうかと一瞬悩んだが、
上条が食べるのだし問題ないと判断する。

「って、何もないじゃない。お米すら……。こりゃ風邪引いても仕方ないわね」

ベッドの方を見ると、上条は大人しく寝ているようだ。

「今から買い物行って来るから、大人しくしてるのよ」

おそらくは聞こえてはいないだろうとは思いつつ、美琴は部屋を出た。

324■■■■:2011/03/05(土) 22:02:20 ID:mvKUBXfk
上条が目を覚ますと、どこからか、いい匂いが漂ってきた。

「あ、起きた?」
「御坂? なんでここに……ってああそうだった」
「アンタには食材を買い置くって概念はないの?」
「いや、昨日使い果たしちまって」

そこまで言ったところで上条は激しく咳き込んだ。

「あっ、ごめん! あんまり話すと体に良くないわよね。……雑炊作ってあるんだけど、食べれる?」

(そういえば朝から何も食べてねえな……)

上条がそう思っていると、急に腹の虫が鳴いた。

「クスッ、大丈夫みたいね。すぐ持ってくるから」

準備はできていたのか、美琴はすぐに料理を持ってきた。

「は、はい。あーん」

美琴は顔を真っ赤にして、手を震えさせながらレンゲを上条の前に差し出す。

「い、いや、自分で食べれるから無理すんなって」

そう言って美琴からレンゲを奪おうとする上条。しかし上条の右手は一度上げられた後、力を失ったように下がってしまった。

「あ、あれ? 力が全然入らねえ」
「ほら、そんなんじゃ食べるの難しいでしょ。いいから大人しくしてなさい」
「でも、レンゲがめちゃくちゃが震えてて非常に怖いのですが……」

上条がそう言うと、美琴はいったんレンゲを引き、深呼吸する。

「……ふう。もう震えてないでしょ」
「(なんか気合入ってるな……)」
「ほ……ほら、早く口開けなさいよ……」
「……あーん」

美琴は上条の口へ恐る恐るレンゲを運ぶ。

「……どう?」
「……うまい」
「ほ、本当?よかった……」

よほど嬉しかったのか、美琴は満面の笑みを浮かべる。それを見た上条は、意外な事実に気付いた。

(御坂と付き合ってけっこうたつけど、こんなに喜んでるところは初めて見たな……
 ってかこいつ、普通に笑うと……こんなに……)

急に美琴を意識してしまった上条は、美琴を直視できずに目をそらす。
なんだか気まずくなってしまったような気がして、それを打ち破ろうと、軽口を叩くことにする。

「ほんとにうめーよ。御坂さんはいいお嫁さんになれますなー」
「お、お嫁さ……」

何かを想像したのか、美琴の顔が再び真っ赤になる。それに加えてバチバチと音を鳴らし、青白いものを帯び始めた。

325■■■■:2011/03/05(土) 22:03:27 ID:mvKUBXfk
「御坂、落ち着け! 漏電してるぞ!」

上条は右手を美琴の頭に向かって伸ばす。相変わらず力が入りにくいが、今回は無理にでも動した。

「痛っ」

しかし、右手は美琴の電気を打ち消さず、代わりに痛みを伝えてきた。

「えっ?」

美琴は上条の反応に驚くと共に、自分の状況を把握し、すぐに漏電を収めた。

「ご、ごめんなさい!」

上条に電気が通ったことに驚いたが、謝るほうが先だった。

「気にすんな、ちょっと痺れただけだ。電気は収まってみてえだな」
「うん、ごめんね……」
「いいって。それにしても、なんで消せなかったんだ……?」

上条は自分の右手を眺める。全ての超常現象を無効化する『幻想殺し』がそこにはあるはずだった。

「なあ御坂、ちょっと電気出してみてくれねえか?俺の右手がちゃんと働くか確かめたいんだ」
「う、うん」

美琴は漏電で上条にダメージを与えてしまったことのショックで落ち込んでいたが、
上条に促されて弱めの電気を出した。無理に右手を動かさせるわけにはいかないので直接右手を狙う。

「ッ! やっぱり……」
「ごめん! 痛かった?」

美琴は電気をすぐに収めた。そして上条の右手を両手で包む。

「え……み、御坂?」
「あ……」

上条の驚いたような声で、美琴は自分の状況を理解した。

(き、急になにしてんのよ私……)
(御坂の手、やわらけえな……)

お互いに硬直して動けなくなっていた。
そのまましばらくした後、上条の方から沈黙を破った。

「そ、そういやまだ食事の途中だったよな。冷めちまう前に食べたいなー」

思いっきり棒読みになっていた。しかし美琴はこれに反応したのか上条の右手を離した。
そして再びレンゲを上条の目の前に持ってくる。

「ん、少し冷めちまったけど、やっぱうめえな」
「あ、ありがと……」

その後はお互い無言で食事が進んだ。

326■■■■:2011/03/05(土) 22:04:25 ID:mvKUBXfk
食事が終わり、上条はベッドで横になっている。
美琴はベッドの前に座りながら、上条を見ていた。

「あのさ」
「ん?どうした」
「私、アンタに……アンタの右手に甘えてたんだと思う。いつもなら絶対漏電なんかしないのに」
「まだ気にしてたのかよ。もういいって」
「よくない! ちゃんと謝りたいの! ……ごめんなさい」
「ま、俺は別に構わないけどな」
「?」
「お前の漏電くらいなら可愛いもんだってことだよ、今はちょっときついけどな」

そう言って上条は笑った。

「だからお前はいつも通りでいいんだよ」
「うん……」

二人の間にしばし沈黙が訪れる。

「ね、ねえ。何かしてほしいことある? することなくなって暇になっちゃった」
「うーん、いきなり言われてもな……。そうだ、お前の事聞かせてくれないか?
 よく考えたら、御坂が普段何してるかとか全然知らないんだよな、俺」

その瞬間、美琴の顔が真っ赤になった。
(こ、これって「お前の事がもっと知りたい」ってことよね? うわぁぁ、どうしよう)
油断してまた能力を暴走させないように、深呼吸を行う。

「御坂?」
「そ、そ、そうね。別にいいわよ。でも何から話せばいいかしら」
「なんでもいいって」
「うーん、じゃあさ、初めて能力が使えるようになったときの話とか」
「アンタ……。そうね、アンタにとって、なにかヒントになるようなことがあればいいんだけど」

美琴は、能力が使えるようになったときの話や、そのころからの夢の話などをした。

「それでね……、あ、ごめん。ずっと私が話してたから眠くなっちゃった?」
「悪い、なんだかお前の声聞いてたら心地よくなってきて、気がついたらウトウトしてた」
「(声って、うああ……)あ、アンタは体壊してるんだから、無理しちゃだめよ。無理せず寝ときなさい」

そう言いながら、美琴は上条の頭をなでる。上条は最初驚いていたが、そのまま身を任せ、すぐに眠りに落ちた。
美琴はそのまま頭を撫でていたが、やがて手を離す。

「今度はアンタの話を聞かせてよね」

327■■■■:2011/03/05(土) 22:05:45 ID:mvKUBXfk
まどろみの中、上条は目を覚ました。胸のあたりに何かが乗っているような違和感を感じる。
首を動かして確認してみると、美琴が上条の胸の上に頭を乗せながら寝ていた。

(み、御坂が俺の胸の上に……)

上条の鼓動が次第に早くなる。それに反応したのか、美琴が軽く寝返りを打つ。
動いたことにより、美琴の感触がより強力に上条に伝わってくる。

(うおおお、このままじゃいろいろとヤバイ! どうする、御坂を起こすか? でももうちょっとこのままでも……)

上条が悩んでいると、タイミングよく美琴が目を覚ました。ちょうど美琴の視線の先には上条の顔があった。
そのまましばらく見つめ合う2人。しばらくしてガバァ!と勢いよく美琴は体を離す。

「え、えっとね、これは、その……」

美琴は必死で言い訳を考えている。まさか「試しに上条の胸の上に頭を置いてみたら、あまりの心地よさに離れられなくなりました」
という事実をそのまま言えるわけがない。
上条は気恥ずかしくなって視線を横にそらす。その先には時計があり、短針は5時を指していた。

「げ、もう5時じゃねえか! どんだけ寝てたんだ俺」

美琴の思考は上条の叫びによって中断される。

「アンタが寝たのが2時くらいだったから、大体3時間くらいね」
「そんなに……。御坂、悪かったな。お前の休日を丸々無駄にしちまった」

(無駄なわけないでしょうが……)

もともと今日は上条に会うつもりでいたのだ。最初は一緒にどこかに出かけられたら、と思っていたが、
上条が倒れたので看病をすることになった。美琴にとって重要なのは「上条と一緒にいる」ということだったので、
なんら問題はなかった。結果として1日のうちの長い時間を上条と過ごせすことに成功したのだから。
こんなに長い時間話していたことはこれまでにはなかったため、美琴は上条との距離が縮まったような気がしていた。
しかし、上条の今の言葉によって、結局は自分一人の思い込みであったのだと思い知らされた。

(そりゃ、感謝してもらうためにきたわけじゃないけど……)

美琴は俯いたまま何も言わなくなった。
上条はその様子を見て不思議に思っていたが、やがてあることに気付いた。

「悪い、こういうときは『ごめん』じゃなくて『ありがとう』だよな。
 御坂、ほんとサンキューな。御坂が来てくれて、その、嬉しかった」

照れくさそうに上条は言う。

「あ……うん……どういたしまして」

最後の方はほとんど声になっていなかった。美琴は上条に感謝されたということに加え、
自分の思いを上条に気付いてもらえたのではないかという期待が相まって、胸がいっぱいになっていた。

(今日のコイツはいつものコイツじゃないみたい……)

「なあ御坂、もちろんお礼はするからさ、何でも言ってくれよ」
「へ? わ、私は別にそんなつもりじゃ……」
「いいって。ああそれとも、常盤台のお嬢様はそのくらい自分で考えろと仰りたいわけですか?
 OKOK、上条さんに任せなさい」
「な、何勝手に話を進めてるのよ……」

呆れたように装いつつも、美琴は内心で物凄く喜んでいた。

(コイツからこんなこと言ってくれるなんて、夢じゃないよね……)

「……い、おーい、御坂?」
「ふにゃっ!」
「大丈夫か?さっきからボーッとしてるけど」
「大丈夫! 何でもないから!」
「そ、そうか……」
「わ、私、晩御飯作ってくるわね。アンタ、その調子じゃ自分で作るの無理だろうし!」

そう言って、美琴は逃げるように台所へと走っていった。

328■■■■:2011/03/05(土) 22:06:34 ID:mvKUBXfk
「お前の分も作ればよかったのに。腹へらねえのか?」

美琴が持ってきた料理は1人分だった。

「私は帰ってから食べるからいいわよ」
「俺ばっかり食べてて、なんか申し訳ない気がするんだよな」
「病人が強がり言わないの。気にしてないでさっさと食べなさい」
「へいへい」

上条が料理を食べ始めると、美琴は急に黙って上条の方をじっと見始めた。

「ん?やっぱりお前も食うか?」
「い、いや、そうじゃなくて……味はどうかな……って思って」
「ああ、物凄くうめえぞ。昼間のもうまかったけど、今回ははさらにうめえよ。」
「そ、そっか……」

美琴は安堵したような表情を浮かべる。しかしその直後

くぅぅ〜

美琴のお腹から可愛らしい音が鳴った。

「……」

美琴は黙って俯いている。あまりに恥ずかしかったのか、体が小刻みに震えていた。

「……ぷっ」
「わ、笑うなぁっ!」

美琴は顔を上げて叫んだ。

「やっぱり腹へってるんじゃねーか。無理すんなって、ほれ」

そういって、上条はスプーンを美琴の目の前に持ってくる。

「……へ?」
「ほら、あーん」
「でででで、でも、これはアンタの――」
「また腹が鳴っちまってもしらねーぞ?」

上条にそう言われて、美琴は黙ってしまった。

(でも、このスプーン使ったら、コイツと……)

やがて意を決したように、美琴は目を閉じて口を開ける。上条は美琴の口の中に料理を運ぶ

329■■■■:2011/03/05(土) 22:07:17 ID:mvKUBXfk
「どうだ? うまいだろ?」
「ま、まあまあね……」

実際のところ、美琴は料理の味はほとんどわからなかった。
味以外の、もっと別の何かの刺激が強すぎたからだ。

「自分で作った料理とはいえ、手厳しいな」

そういって上条は再び自分の口の中に料理を運ぶ。

「あ……」

その様子を、美琴はじっと見つめていた。上条の口の中にスプーンが入ると、美琴の顔は真っ赤になる。
その美琴の様子を見ていて、上条は、ふとあることに気付いた。

(これって間接キスじゃねえか!)

スプーンを咥えたま上条は固まる。頬が少し赤くなっていた。
そして、上条はスプーンを口から出さずに、なにやら口の中をモゴモゴ動かしていた。

「ちょ、ちょっとアンタ、何して……」
「い、いや……えーと、そうだ! すげえうまかったから、つい……」

上条は目をそらしながら答える。

(や、やべえ、間接キスに気付いた上でスプーン舐め回してたなんて……ばれたら変態扱い確定だな)

美琴は追求しようとしていたが、何も言い出せなかった。
お互いに沈黙を続けていたところ、美琴の携帯電話が鳴った。

「げっ、黒子……」

美琴は嫌な予感がしつつも電話に出る。

「もしもし……い、今? えっと、特に何もしてないわよ。
 町をブラブラしてるだけ……うん、もうすぐ帰るから」

美琴は電話を切った後でため息をつく。

330■■■■:2011/03/05(土) 22:08:04 ID:mvKUBXfk
「帰るのか?」
「ええ」
「じゃあ送っていくよ」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ。病人は大人しく寝ていなさい」
「う……」

(でも、もうちょっとコイツと一緒にいたかったな……)

美琴は名残惜しそうに帰り支度を整える。

「そうだ、一応明日の朝ご飯にも使えるように、多めに作っておいたから」
「まじですか」
「暖めなおすだけで食べれるはずよ。そのころには元気になってるかもしれないけど、一応ね」
「ほんと、何から何までありがとな」
「……うん。……それじゃ、そろそろ帰るわね。また……ね」
「おう。またな、御坂」

美琴が帰った後、上条はベットに横たわったまま、今日1日のことを思い返していた。

「急に静かになっちまったな……」

急に言いようのない孤独感が上条に押し寄せてきた。

(御坂の手、柔らかかったな……あいつの頭の感触もまだ残ってる……)

上条は頭の中で何度も今日の事を思い返していた。
美琴の顔を思い出すたびに、上条の胸に熱いものがこみ上げてくる。

(どうしちまったんだ俺……)

上条はこの日、当分寝付くことができなかった。



寮に帰った美琴は、ベッドに寝転がりながら今日のことを思い出していた。

(なんだか、今日のアイツは優しかったな……)

話していた時間こそ長くはなかったが、今日はほぼ1日中上条と過ごすことができた。
そのことが嬉しくて、美琴はつい頬を緩ませてしまう。
自分の中で上条の存在がさらに大きくなることを美琴は感じていた。

(明日も、会えるといいな……)

そう考えながら、美琴は眠りについた。

331ツキサカ:2011/03/05(土) 22:09:40 ID:mvKUBXfk
以上で投下終了です。

3人称視点のつもりで書いていますが、ちゃんとできているか非常に不安だったりします。

感想やご意見・ご指摘などいただけると非常に喜びます。

それでは。

332■■■■:2011/03/05(土) 23:15:51 ID:MQGeDJ5.
読んでる間ずっとニヤニヤしながら読んでいました
しかもこれは前編で続きを書いてくれることに気付いたら、さらに
ニヤニヤが止まらなくなりましたw
ほんとに初めてSSを書いたとは思えないです〜すごく楽しめました!

333夢旅人:2011/03/05(土) 23:37:43 ID:ppp9fW..
2レス投下します。

334夢旅人:2011/03/05(土) 23:38:44 ID:ppp9fW..
「起きないあいつ」8


上条当麻は走っていた。
向っていた。あの日と同じように。
そこに居るであろう、女の子の元へ。

人通りが途切れつつあった通りの物陰から目に前に飛び出した人影。
一瞬身体が構えを見せたが、すぐに警戒を解いた。

「かみやん、お疲れさんだったぜい」
「土御門…」
「今から行くのかにゃ?」
「…そうだ」
「で、かみやんはこちらを選ぶと?」
「…許してもらえるかどうかも含めて」
「んにゃ?」
「俺に選択の余地は無い…しな」
「フラグメイカーの名は伊達じゃなかった、ってとこかにゃ」
「それはどういう意味…」
「ま、言葉通りだぜい。最近は女の子だけじゃないみたいだしにゃ…」
「え?」
「北極からのお帰りがバージニア級で、こっそりポーツマスへ上がるたぁ、ちょっと演出がきついぜい…」
「うっ…」
土御門の目が一瞬細くなったように見えた。
(何があったかはわからねぇが、ま、しょうがないか。いずれは、ということか…)
土御門が言葉を繋ぐ。
「ところで、かみやん」
「なんだ…」
「今夜、ご入用のものは、新聞受けにでも入れておくからにゃ。」
「何のことだ?」
「まぁまぁ、俺とかみやんの仲だぜい。まかしとけって」
「お前一体何を…」
「さーさー、王子様はお姫様をお迎えに行くんだぜい。がんばれ、かみやん」
「…ありがとうな、土御門」
「さっさと行けってぇの。彼女に恥かかすんじゃないぜい」

上条はさっと右手を上げると、再び駆け出した。

----------------------------------------------------------------------

335夢旅人:2011/03/05(土) 23:39:19 ID:ppp9fW..
「起きないあいつ」9


十六夜の月は、学園都市の上にかかりつつあった。
川面に映るその光は、満月のようにも見える。
しかしそれは満ちていく月ではなく、これから闇に向って欠けていく月なのだ。

ときおり川風が美琴の顔を撫ぜていく。

あの日の川風は、まとわりつくような、ねっとりとした湿り気をはらんでいたが、今日のそれは熱気は無く、鋭く透明感のあるナイフのような冷たさに変わっていた。

美琴にはその冷たさが、自分の心の表面に傷をつけていくように感じていた。
なのに今日は不思議とこれまでのようにチクリとした痛みや、ザラリとした苦さを感じることも無かった

―アイツがいなくなってどのくらいたつのかな
―もう昔のような気もするし、でもついこの間だったような気もする…
―最後に見たアイツの顔、ぼんやりとしか思い出せなくなっちゃったな
―アイツ、きっと帰ってくるよね。でないと私…

―でもなぜかな。今日はいつもより気持ちが楽になってる…
―もしかして、アイツ、私の傍に帰ってきてるのかな
―それって、もしかして…ううん、気のせい?
―でもなんとなくそうじゃないかって気もしてる…

―アイツ、バカだから、多分自分が今どこにいるかわかってないんだと思うな
―もしかすると帰る先さえわかっていないのかも
―私、アンタが帰ってくるまでいつまでも待っているから
―さっさとやらなきゃならないこと、すませてしまってよね

―もし本当に帰る場所がわからないのなら、私、アンタを見つけに行くから。
―うん、きっと大丈夫。今夜はアイツのこと、信じていられる。


風に乗って、人が駆ける足音が聞こえてきた。

過去に何度も聞いた覚えのある懐かしい音…

御坂美琴がその方向に目を向けた瞬間…思わず息を呑んだ。頭の中が真っ白になる。

手が震え、口が渇き、喉がつまり、胸のドキドキが一気に早くなる。

遠くの街の明かりに照らされたシルエットは、ツンツン頭の少年。

愛しい気持ちと、なんとも言えない安堵感と、爽やかな高揚感がこみ上げてきて、

少女は、まるで何かに縛られたように動けなくなった。

少女の前まで駆け寄ってきた少年は、しばらくの間、下を向いてはあはあと息を整えていたが、大きく息をしたかと思うと少女に向かい、口を開いた。

「ただいま、美琴」

「お…か…え…り…、と…う……まあああぁぁぁぁ」

青白い月に照らされた少年の顔は、紛れも無く上条当麻だった。
彼の声を聞き、その顔をみた美琴の視界はぼやけた。
その瞬間、彼女の感情は一気に弾け、唸るような、泣くような、声にならない声を上げて上条の胸の中に飛び込んでいった。
美琴は溢れる涙を拭おうともせず、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくった。
まるで身体中の水分が全て出てしまうかと思われるほどに。
頭の中は相変わらず真っ白なままであったが、それでも喜びが心から湧き続ける。
美琴は胸の奥に秘めていたものを、上条に向って全て吐き出していた。

--------------------------------------------------------------------------------
続く

336■■■■:2011/03/05(土) 23:55:09 ID:PHf0isl.
>>331
初めてとは思えないです。
美琴が使ったスプーンを舐め回す、変態上条さんは新鮮ですねw

>>333
ここで止めるとは……続き待ってます。

        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄ ノ   Good Job !!
     /    /

337■■■■:2011/03/06(日) 00:31:58 ID:LnKbE4rk
ソーサさん
つっちーにキレる上条さんに2828です。

>>309
看病系は王道ですから。w

まずみさん
ホントに初めてなんですか?美琴の感情表現がイイです。

ツキサカさん
こちらも初めてだとか……、信じられません。

夢旅人さん
続けて下さい。楽しみに待ってます。

皆さんマジで、GJ!!

今夜は投下ラッシュだ。w
皆さんそれぞれ切り口が違ってて、新鮮でイイなあ。

私も頑張らねば……。(;^_^A アセアセ…

338■■■■:2011/03/06(日) 01:00:17 ID:W/1B9Qhw
>>331
スプーン舐める上条さんでむせたww
GJ

339eL:2011/03/06(日) 01:25:10 ID:u9j7ZDJY
みなさん、こんばんわ&御無沙汰しております。

投稿される方が多々いらっしゃる中で申し訳ないですが
一つ読み切りの話が出来ましたので、投下させて頂きます。

今回の作品タイトルは、『 陽溜まりで2人 』です。

他の方と被らないようであれば、01時30分から11レス程消費させて頂きたいと思います。
少し長くなりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

340陽溜まりで2人 01:2011/03/06(日) 01:30:03 ID:u9j7ZDJY
常盤台中学学生寮、208号室―――

「はぁ〜…」
とある雨の日の夕方、自室で深い溜め息をつく少女が1人。
机に向かい、片手で頬杖をついて外を見るその姿はどこか寂しげでもある。
「明日から久しぶりに晴れるって言うのに、なんで今日も会えないのよ〜…あのバカ…」
そうボヤきつつ、美琴は窓越しに見える雨模様の街並みから机の端へと視線を移す。
視線を移した先には、期間限定で発売された2体のゲコ太ぬいぐるみが置かれていた。 2体とも同じゲコ太なのだが、片方は良い具合に焦げている。
あれから何度かチャンスはあったのだが、まさかもう一度「ゲコ太ぬいぐるみを1日中抱きしめてなさい」とは言い出せなかった。 色々な意味で。
結局、機械を逃し続けたまま試験期間へと突入。 そして試験期間が終わったというのに、そのまま上条当麻(あのバカ)とは今も連絡を取れていない。

最初は余り気にしていなかったが、試験後一週間を過ぎても街中でその姿を見なくなった。
気になって、放課後の街中を時間の許す限り探す。 だが、上条が居そうな場所、寄りそうな場所のどこを探しても居ない。
学生寮を訪ねてみたが、上条が帰っては来る事は無かった。 ポストを確認すると、チラシが溜まっていてしばらくの間取り出した形跡も見受けられない。
不安になった美琴は、「それならば」と久しぶりに上条の学校からデータを参照する。 出席簿データを見ると、ちゃんと学校には登校しているようだ。
そして関連するデータを総合するに、上条は今回のテストで赤点を量産したらしい。
試験後、上条の放課後は補修でギッシリと埋まっていて、レポート提出にも追われている事が分かる。
『学園都市内に居る』というのが分かった安堵感と、『見かけなくなったのは、補修が原因』という見事なオチに思わずガックリと来た。
しかし、心の奥底ではどこか安心しきれていない。 補修後も寮に帰っていないのは、何か事件にでも巻き込まれているのではないか?
ついつい、良くない方向へと考えが独り歩きしてしまう。
結局、あの日のあの時以来、上条当麻の姿を実際に自身の目で見て確認しない限り、安心出来なくなってしまっているのだ。

341陽溜まりで2人 02:2011/03/06(日) 01:31:02 ID:u9j7ZDJY

寮に様子を見に行った日以降、「そんなに心配になる位なら直接連絡取れば良いのよ」と何度も連絡を取ろうとはした。
だが、いざ上条の登録番号を入力しても、最後に通話ボタンを押す所で緊張してしまい、電話掛けられずに終わる。
メールにしても、途中まで書いてはみたものの結局送信出来ずに保存。 と、送れないままのものが結構な数が溜まっていた。
(前はもう少し気軽にメールしてたハズなのになぁ…何でこんなになっちゃったんだろ…)
私も変わったわよね、と付けたしながら改めて焦げたゲコ太を見やる。
焦げた事で当初あった『良さ』は失われたものの、何となく上条の分身な気がして捨てられずにいるのだ。
思うように会えない、連絡できない今の想いをぶつけるかのように、焦げゲコ太の額を軽く指先で弾く。
(当麻から連絡してきてくれれば、こんなに悶々としなくて済むんだけどな〜。 そんな都合の良い事、起こる訳無いわよね?)
久しぶりに晴れてスッキリとする週末。 二人でどこかに出かけられれば、と思っていたがこのままでは実現はしそうにない。
諦めて「気分転換に黒子達とウィンドウショッピングにでも出かけるか」と、考え直した所で―――

♪♪〜♪〜

突然携帯から着信音が鳴り出した。 それは聞き間違えようのない着信音である。
もともとは着信音に何を設定しようか迷っていた時、たまたま耳にしたBGMだった。
時間にして3分14秒と設定するには少し長い気はしたが、その曲調は聴けば聴く程上条のイメージにピッタリだと思い設定した。
電話が切れないうちに、と慌てて携帯を取る。 途中落としそうになったが、何とか電話に出る事が出来た。
「は、はひ!御坂です?」
か、噛んでしまった。 しかも、声もうわずっている上に、慌て過ぎて何故か疑問形に。
恥ずかしさで耳まで真っ赤になるのを感じつつ、上条の声を待つ。
「御坂です?って俺に聞かれても困るんだが…お前、美琴で合ってるよな?」
穴があったら入りたい、とはこんな状況を言うんだろうなと思いつつ返事をする。
「あ、当たり前じゃない! …んで、かなり久しぶりな訳だけど、何の用?」
「あぁ、そうそう! 週末、って言うか明日の事なんだけどさ。
 …急で申し訳ないんだが、ちょっと付き合ってもらいたいんけど、空いてるか?」
実はアイツも、この週末は一緒にどこかに出掛けたかったんだろうか。 週末に併せて課題を急いで終わらせて、2人でどこかへ外出。
そしてその先、もしかすると、もしかして――― 美琴はこの先の展開に心躍らせた。

342陽溜まりで2人 03:2011/03/06(日) 01:32:05 ID:u9j7ZDJY
◆ ◇ ◆ ◇ ◆

翌日朝
とある学生寮―――

結局、上条の要件は「どこかへ二人で出かけないか?」といった美琴が期待した内容ではなく、出された課題のヘルプだった。
何処に誘ってくれるんだろう?と少しでも期待した自分が甘かったらしい。
それでも、「久しぶりに会えなら」と思い直して引き受ける事にした。 今までどうしてたのか?など本人から聞きいておきたい事も色々とある。
明けて今日、逸る気持ちを抑えきれず常盤台学生寮を早めに出る事にした。
昨日までは憂鬱に感じられた水溜りも、濡れたアスファルトも、今日は気のせいかキラキラと輝いて見える。
途中、水溜りで遊ぶ2匹の雀を見たが微笑ましく感じた。 こんな風に感じられるのも、心に余裕が出来たからなのかもしれない。
あれこれと考えているうちに、あっという間に上条の部屋へと到着してしまった。 少し緊張しつつ、インターホンを鳴らす。
インターホンが鳴り、少しして中からドタバタと何か慌てている音と「ハ〜イ」と言う返事が聞こえてきた。
(そう言えば、第一声は何て声を掛ければ良いかしら。 考えて無かったな〜…)
ここはやはり、「テヘッ。 来ちゃった♪」とでも言うのが定番か… でも、そんな仲まで進んでないし…
さて、どうしよう?と今更ながらに悩んでいる内にも足音はドアへと近付いて来る。 マズい、まだ切り出しを考えて無い。
ガチャリ、とドアが開き、上条が顔を出した。
「…テヘッ。 来ちゃ―――」
「お待たせしちゃってすみま――― って… ゲッ!美琴!?」
「ア〜ン〜タ〜は〜… せっかく人が手伝いに来てやったってのに、『ゲッ!』ってのは何よ!? 『ゲッ!』ってのは!!」
対応のヒドさに1発お見舞いしてやろうかと思ったが、いつもの様に上条の右手で抑え込まれてしまう。
とりあえず文句だけでも言ってやろうとした所で
「お願いだから玄関先でビリビリは止めてくれ! 昨日カギを交換したばかりで、今日またドアごと交換なんて事になると上条さんが更に居づらくなるから!!」
必死の懇願(少し泣きそうだったのは気のせいだろうか?)にしぶしぶと頷き、とりあえず部屋へと上がる事にした。

343陽溜まりで2人 04:2011/03/06(日) 01:33:10 ID:u9j7ZDJY

リビングに案内され、上条が飲み物を取りに台所に戻った所でコタツに入る。 程なくして、美琴専用マグカップで紅茶が出された。
自分のコップを美琴の向かい側に置き、上条もコタツに入る。 落ち着いた所で早速話を切り出した。
「んで? 手伝いに来てくれた人に対して『ゲッ!』ってのは失礼だと思わない?」
「いや、あれはだな… 普通、驚くだろ。 10時から約束してる相手が、まさか8時前に来るとは思わないし。」
「う゛…… うるさいわねっ! どうせアンタの事だから、寝坊でもするんじゃないかと思って、お越しに来てあげただけよ!」
「寝坊なんてする訳ないだろう? そんな事してたら、一人暮らしなんて出来ませんの事よ〜。」
「ま、他にも最近見かけなかったから気になってたしね…」
「ん? 上条さんの姿を見かけないのがそんなに気になったのか?」
「も、もちろん気になるに決まってるじゃない! 確かまだ、アンタに罰ゲームの貸しがまだ残ってたハズだし。」
「どんだけ俺に罰ゲームをさせたいんだよ… 美琴は……」
ポロリと口から出てしまった本音を何とか別の方向で誤魔化した。 何とか誤魔化せはしたが、これでまた想いが伝わるのが少し遠のいた気がして悲しくなる。
「とりあえず、イヤでも毎日顔合わせてたのが見かけなくなったら、気になるもんでしょうが。
 それにさっき、『昨日カギを交換したばかり』とか更に気になる事もチラっと言ってたしさ。 カギを交換って、最近また何かあったの?」
実際は偶然でもなく、美琴が毎日上条を待ち伏せしてたのだが、それは勿論言わない。
先程の上条の気になる発言と、ここ最近どうしてたのかを聞く事にした。

「あ〜… 別に何か事件に巻き込まれた、とかじゃないから安心してくれ。 実はさ―――」
上条の話をまとめてみればこうだった。
今回の試験で赤点を順調に大量生産してしまった上条は、放課後は補修三昧。 と、ここまでは調べた通りである。
そんなある日、補修後に玄関のカギを無くしている事に気が付いた。 気が付いてはみたものの、既に時間は夕方で陽は落ちかけている。
いつ、どこで落としたかも分からず教室で途方に暮れた末、無理を言ってクラスメイトの部屋を転々としていたらしい。
転々とする間、何とか管理人に話を付けてドアの鍵を交換してもらい、やっと新しい鍵を受け取ったのが昨日だったという訳だ。
相変わらずの不幸っぷりに呆れると同時に、あれだけ心配していた自身がバカらしくなる。
とりあえず、すぐに自分を頼らなかった事とせっかく考えていた週末の予定を潰される事に対して怒るべきだろうか。
と言う訳で、そこから上条を正座させての説教が少しの間あったのは言うまでもない。

344陽溜まりで2人 05:2011/03/06(日) 01:34:05 ID:u9j7ZDJY
◆ ◇ ◆ ◇ ◆

同日昼前―――

リビングにあるコタツに向かい、暇つぶしがてらに参考書をめくる美琴の姿がそこにあった。
大分落ち着いたものの、まだ怒りは収まりきっていない。
向かいには、少しビクつきながら課題を黙々とこなす上条の姿もある。
説教ついでに今度カギを無くした場合は真っ先に自分を頼る事。 その際は予備として自分もカギを1つ預かる事を勢いで了承させた。
今度同じ事があったら、合鍵ゲット!の確約を取り付け、美琴自身少し落ち着いた所で今日の本題へと入った。
いつものように今回の課題と、上条が詰まっているという部分を確認。 その上で上条の理解が進むように解説をする。
最初こそ真剣に話を聞き、課題に取り組むのだが、決まって最後まで集中力が続かない。
事件などの中心に居る時は凄い集中力と機転の速さを見せるのだが、それも普段はどこ吹く風である。
そろそろ飽きる頃だと思っていると、案の定声が掛けられた。
「今日は久しぶりに晴れて外も暖かいみたいデスヨネ…」
「そうね〜。」
「こんな暖かい日はどこかにでも出掛けて、ポカポカ陽気でも堪能しませんか?」
「…アンタの部屋(ここ)に来るまでに、少しだけど堪能して来たから。」
「………」
こんな時は冷たく接するに限る。 話に乗ると、調子に乗っていつまでも課題が終わらない。
「たまにはどこかに出掛けて気分転換でもしませんか、と上条さんは恐る恐る提案してみます…」
「………」
「あの〜、ミコトさん?」
「………」
「もしも〜し?」
「ったく、少しは集中しなさいっ!! 私だって、久しぶりの良い天気なんだからどこかに出掛けて気分転換したいわよ。
 でも昨日電話で、『課題が終わらないんで、また助けてくれませんか?』って泣きついてきたのはどこの誰だったかしら?」
「うぅ… それを言われてしまうとごめんなさいとしか、と上条さんは困ってしまいます。」
「ったく、もう少し頑張れば終わりも見えるんだから集中しなさいよね。 そ・れ・と、その妹口調も止めなさい。」
「はい。」

345陽溜まりで2人 06:2011/03/06(日) 01:35:10 ID:u9j7ZDJY
集中力が切れだした上条を今一度引き締める。 こうなった場合、もう少し頑張れば課題が終わるという事も示していた。
何でそんな事が分かるのか?と言えば単純明快。 経験の積み重ね、以外の何物でもない。
以前街中で途方に暮れている姿を見かけた際、声をかけてみれば課題が間に合わないとの事でヘルプを頼まれた。
上条と一緒に居る公式(オフィシャル)な理由が出来る、という事で協力を名乗り出たのがきっかけだが、ヘルプを頼まれる頻度が多いというのもどうだろう?
そこまで考えた所でふと見れば、上条も何か別の事を考えているのか手が止まっている。
「ほら、そこ〜。 上の空になってないで、さっさと集中する! もう少しで終わりも見えてくるんだから。」
「へ〜い。」
もう一度上条が集中してくれれば、昼食を家で済ませて午後から出掛けられる。
そうすれば、当初二人で出掛けたかったイベントにも十分間に合うだろう。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

同日昼過ぎ―――

「さて、っと。 課題も無事終わった事だし、どっかに出掛けない? さっきアンタも出掛けたがってたみたいだし。」
食事を終え、一段落着いた所で提案してみた。 上条もどこかに出かけたそうな雰囲気だったので話には乗ってくるハズだ。
「お、良いな。 それじゃ適当にぶらつきながらウィンドウショッピングとかどうだ? その帰りに、久しぶりにゲーセンで勝負もできるだろうし。」
「ん〜… 今日は『Seventh mist』が良いかな〜。」
「『Seventh mist』は雨の日でも行けるだろ?」
「晴れの日だからこそ、行ってもいいじゃない。 とにかく、今日は『Seventh mist』に行きたい気分なんだから!」
当初の目的を達成する為にも、是が非でも今日は『Seventh mist』に出掛けたい。
さて、何と言えば納得させられるか?と考えていた所、上条も何か考えていたらしい。
頭に「ピコーン!」と電球に光が灯ったかのように、何かに気が付いた素振りを見せる。
何故にこう、妙な所で気付いて欲しく無い事にはすぐ気が付くのだろう。 気付いて欲しい事には未だ気付いてくれてないというのに。

346陽溜まりで2人 07:2011/03/06(日) 01:36:05 ID:u9j7ZDJY
「オイ、まさかゲコ―――」
「そ、そんな訳無いでしょ! アンタとイベント観覧して、限定アイテム2個ゲット♪、なんて考えてるハズ無いじゃない!!」
……あ゛… 思わず言ってしまった。
「とりあえず、『Seventh mist』は却下で。」
「イヤ! どうしても行きたくない、って言うなら勝負よ。 負けた方が勝った方が行きたい所に絶対付き合うの。」
「ま、このまま話してても平行線だろうからな。 勝負でOKだよ。 んで? 勝負は何にする?」
「ん〜。 ジャンケン、ってのもつまらないし…」
一瞬、罰ゲームで上条が負けている分の貸しを使おうかと考える。 確か1回分の権利をまだ履行していない。
権利行使の誘惑に駆られたものの、イベント後の本当の目的の為に取っておこう。 今ここで使ってしまうと、後々の重要な場面で泣きを見る。
「ネタはちょっと古いけど、『10回クイズ』で勝負なんてどうだ?」
「古いけど、他に浮かばないしそれで良いわ。
 それじゃルールは… 10回繰り返すのを言い間違えたらアウト。
 すぐに答えを言えなかったり、答えを間違えた場合もアウト。 っていうのでどう?」
他にパッと思いつく良い勝負の案も無い。 ここは上条の提案に素直に乗る事にした。
「分かった。 それで受けて立とうじゃねえか。」
「オーケー。 開始は提案したアンタからで良いわ。」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

しばしの沈黙の後、上条が出題する。
「それじゃあまず、『that』って10回言ってくれ。」
「that、that、that、that、that、…that!」
「『これはペンです』って言ってみてくれないか?」
「そんなの簡単よ。 『This is a pen』!」
「ん〜。 日本語でそのまま『これはペンです』って言えば良いんだけどな。」
「くっ… い、今のはアナタにハンデをあげただけよ。」

347陽溜まりで2人 08:2011/03/06(日) 01:37:10 ID:u9j7ZDJY

迂闊だった。 変に余裕を出していると足元をすくわれるかもしれない。
(確か、目的のモノと似たモノを最初に印象付けて、それで間違わせるんだっけ… それなら…)
「よし、決めたわ。 『シカ』って10回言ってみて?」
「シカ、シカ、シカ、シカ、シカ、…シカ。」
「それじゃ、サンタクロースが乗ってくるのは?」
「ふっ、引っかかるかよ! 正解は『トナカイ』だ!」
「ぶー! 正解は『ソリ』でした〜♪ トナカイに乗ってくるワイルドなサンタクロースなんて、初めて聞いたな〜。」
「くっ…」

見事に引っかかってくれた。
これで1対1のドローである。 勝負はまだ始まったばかりで、後は次に上条がどのように仕掛けてくるかだ。
「次、いくぞ。 『ヒマラヤ』って10回言ってみてくれ。」
「ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒラマヤ…
 !? ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラャ、ヒマラャ、ヒマラにゃっ!」
途中、言い間違えたが何とか持ち直し、そのままラストスパート! と行きたい所だったが、噛んでしまう。
上条が少しニヤけそうなのを我慢してるのが分かるのが気に食わない。
「……世界一、高い山は?」
「エベレスト!!」
「正解。 …でも途中で『ヒラマヤ』って、言ってませんでした?」
「うっ! い、言ってないもん…」
「それじゃ、それでも良いや。 でも、勢いで答えてゴマかそうとしてたけど、最後確実に『にゃ!』って言ったよな?」
「…ズルい!」
「ズルいも何も、美琴が『繰り返しも言い間違えたらアウト』って自分から言ったんだろ。」
「うぅ…」

348陽溜まりで2人 09:2011/03/06(日) 01:38:05 ID:u9j7ZDJY

自分で追加したルールに、自分で引っかかってしまうとは少し自分が情けなくなる。
そして、このまま負けては夢の『上条ゲコ太再び!』が再び遠のいてしまう。 それだけは何としても避けたい。
ヒマラヤのように一見聞いただけでは、繰り返しの言いにくさに気が付かないもの。 どんな言葉をチョイスすれば良いだろうか。
ここまで考えた所で一つの事に、改めて気付いた。
『回答者は、出題者が言う言葉を必ず繰り返して言わなければならない。』
当たり前と言えば当たり前、このゲームの根幹的なルールである。
と言う事は、私が「愛してるを10回言って」と言えば上条は言わなければならない。 こ、これはひょっとして…。
思わずすぐに出題しそうになったが、それに続く肝心な問題部分が思い浮かばない。
ならば他には?と考えだそうとするが、一回意識してしまうとその良案が気になって仕方ない。 気になるというよりも、是非一度言わせてみたい。
ええいっ!後は、言い終った後に何とか誤魔化せれば!と、結局採用する事にした。
「今度は私の番よ〜。 アンタなんか、言い間違えちゃうかもしれないんだから。」
これからアイツが「愛してる」と言うかと思うと、止めようと思っても自然と口元が緩んでしまう。
もちろん、出題前にポケットに入れている携帯を録音モードにしておく事も忘れない。 後は上手くアイツの声を録音してくれますように祈るのみとなった。
「やってみなきゃ分からないだろ? で、問題は何だ?」
「まず、『愛してる』って10回言ってみて…」
「ハッ… そんな言葉、俺が言い間違える訳無いだろ。」
ドキドキが止まらない。 アイツも何を出題されるのかと、緊張していたのだろうか。 深呼吸している。
落ち着いたらしい所で、上条が「愛してる」を10回繰り返し言い始めた。
「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる…」
繰り返している口調に、いつだか見たような真剣な眼差し。
自分に向けて言ってくれていないのは残念だが、いつかこんな形ではなく自然に言ってくれる日がくるだろうか。

349陽溜まりで2人 10:2011/03/06(日) 01:39:10 ID:u9j7ZDJY
そんな事を思いつつアイツを見ていると、ふと視線が合った。
すると、何を思ったのかアイツはこちらをジッとみたまま言葉を更に続ける。
「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる!」
「………、」
(ズ、ズルイ! そ、そんな眼差しで私を見つめて言ってくるにゃんて、今日予定してた事が狂ったのとか怒れなくにゃっちゃうじゃにゃいの〜…)
今日は目的を達成するまでは、そしてまずはこの勝負に勝つまでは気を抜けないと身構えていた。
が、あっさりとそれを乗り越えられた。 アイツの訳の分からない能力は、心にまでも有効なのだったのか。
言い終わっても尚、自分の心に染み込んで来るアイツの眼差しと言葉に、凄い速さで自分の思考が回らなくなってくるのが分かる。
「よっし! 問題は!?」
「ふ…」
「ふ?」
「ふにゃ〜♪」
「ふにゃ〜、じゃねぇぞぉぉぉぉぉぉ!!」
(あぁ、また能力を暴走させちゃったな… でも、アイツが居てくれるなら… 安心だよね?)
遠のく意識の中で近付くアイツの気配を感じつつ、美琴は身を委ねる事にした―――

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

少しして―――

自分の頭に感じる、妙な感じ。
(ん〜? 何かしら、今の感じ… あれ? 今はどこに?)
普段寝ている時には無い感覚で、目が覚める。 
目が覚めると言っても、怖くて目はすぐに開けない。 と、頭の上辺りから聞きなれた声が聞こえてくる。

350陽溜まりで2人 11:2011/03/06(日) 01:40:05 ID:u9j7ZDJY
「よ〜し… 気付いて無い、気付いて無い。 もう少しそのまま寝ててくれよ〜…」
その言葉の後に、自分の頭が微妙な力加減で持ち上げられる感覚。 と、そこまで何があったかを思い出した。
(そっか… 当麻の家に来てから、途中でまた能力を暴走させちゃったんだっけ…)
バレないように片方の目をうっすらと開けると、当麻のものと思しき脚が見えた。
どうやら、能力を暴走させて倒れた私を当麻は膝枕してくれていたらしい。 今は、起きる前に枕辺りにでもすり替えておこう。 という辺りだろうか。
気が利いているような、気が利いていないような。
そんな複雑な思いにさせられると同時に、「膝枕をしてもらっている」という事をどうしても意識してしまう。
目をつぶっている分、今回は何とか暴走は抑えられそうだ。 当麻が頭に右手を添えてくれてる、というのもあるだろう。
枕にすり替える難しさを痛感したのだろうか。 しばらくして、頭に当麻の脚の感触が再び戻ってきた。
直後、当麻が何かをしているのか頭が微妙に揺れる。 揺れが収まった所で、自分の身体に何かがかけられた。
フワっとした肌触りと、いつか感じた当麻の香りが自分を包む。 毛布を掛けてくれたらしい。
暖かく自分を包み込む毛布はまるで、当麻に抱きしめられているようでもある。
(私、何考えちゃってるんだろ…)
自然と口元が緩んでしまうのが分かる。 が、分かっても止められそうに無い。
(起きてるの、バレちゃうかな?)
そう思った所で、
「ったく… そんなに嬉しそうに寝てたら、起こせないじゃないかよ。」
当麻の独り言が聞こえてきた。
一見呆れているようなそぶりだが、いつもより更に優しさを帯びているのを気のせいだとは思いたくない。
(いつもはふざけあってばかりで、意味もなく攻撃しちゃったりするけど… たまには、こうやって甘えても良いよね? 当麻…)

今日はもうイベントに間に合わないだろう。
が、たまにはこんなゆったりとした時間を2人だけで過ごすのも良いのかもしれない。
そう思い直し、身体だけでなく心も温まりそうなこの遑(いとま)に身をゆだねる事にした。

351eL:2011/03/06(日) 01:41:15 ID:u9j7ZDJY
このお話は、以上となります。
美琴視点で色々と書きたい事を書いていたら、長くなってしまいました。
何気なく別作品の続編、そして別作品の美琴視点となってもいます。
その辺りも楽しんで頂けると幸いです。

と、いう訳で…今作も至らぬ点が多々あるかと思います。
皆様からの御指摘&御指南や感想など頂ければ嬉しいです。

352■■■■:2011/03/06(日) 04:24:11 ID:4omfsLBg
eLさんGJです!
長編の続きも楽しみにしています。

353297の人:2011/03/06(日) 06:09:11 ID:gUcgsMEI
小ネタ行きますというか続き?です多分2レスで

354297の人:2011/03/06(日) 06:18:46 ID:gUcgsMEI
上「」土下座
御「」仁王様
御「それで何を買った訳?」
御坂が少し放電しながらそう聞いた
上「あ、お前が好きなカエル型のロケットペンダント」
俺がそう言うと
御坂「探しなさい、全力で」ニコッ
ああ、目が笑って無い
上「えっとですね御坂さん?今日は三軒スーパーをハシゴしてしかも敵(クラスの男子)から逃げながら「さ、が、す、の」
不幸だ

355ホワイトデーの不幸さん:2011/03/06(日) 06:35:30 ID:gUcgsMEI
二時間後……
上「駄目だ、見つかりっこねぇよ」
俺が一人愚痴っていると
「おや上条さんじゃないですか」
     
上「海原?本物?」
海「いいえ、魔術師の方です、そうそうこれ」つ[ロケットペンダント]
そこには俺が落とした物と同じ物があった
海「今朝、あなたの寮の近くで、拾ったので不幸なあなたのでは?と探していたんですよ」

上「ありがとう、じゃ俺行くから」ピュ-
   
海原「今回だけですよ、助けるのは」
    
〜公園〜
上「お待たせ、はいこれ」
   
御「………ふ〜ん、なるほど」ボソッ
上「今、なんか言ったか?」
御「ううん、別に大したことじゃないわよ」
上「そっか、ごめ「待って」」
   
御坂「ありがとう、これからもよろしく」
   
上条「こちらこそ、よろしく」

356ホワイトデーの不幸さん:2011/03/06(日) 06:37:07 ID:gUcgsMEI
海原難しいな
ということで「完」

357■■■■:2011/03/06(日) 07:20:17 ID:W/1B9Qhw
テンプレ読んでくださいね

358■■■■:2011/03/06(日) 10:47:53 ID:YuZrPvec
>>351
上琴もっふもふ〜♥

>>356
美琴さんDVですよw

        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄ ノ   Good Job !!
     /    /

359■■■■:2011/03/06(日) 11:14:22 ID:LnKbE4rk
>>351
elさん、GJです。
「愛してる」って言わせる美琴に……2828です。

360■■■■:2011/03/06(日) 15:28:52 ID:LnKbE4rk
>>356
敢えて言わせて貰えば……。
投下する前に、原稿をもう一度読み直してみましょうよ。
カッコの位置がずれてたりするだけで、読む方は何が言いたいのか分からなくなる。
自分も人のことは言えないけど……。
ちょっとしたミスで折角の作品が台無しになることもあるのだから……。

361■■■■:2011/03/06(日) 16:16:30 ID:mAtcbcIc
>>357
>>360
おまいらあんまり初投稿者(?)いじめんなよ
仲良くいくべぇ


書き手達投下乙

362■■■■:2011/03/06(日) 18:07:52 ID:10Vt0z/c
ふぅ…

363夢旅人:2011/03/06(日) 19:18:41 ID:37LRlEfU
表現に行き詰ってるので、気分転換に4レス投下。

ノンエロ目指した、アダルティ作品です。

マズかったら、ごめんなさいです。

364夢旅人:2011/03/06(日) 19:21:29 ID:37LRlEfU
Sortie time 1


学園都市内、第23学区にある空港に隣接するホテルの最上階スイートルーム。
窓のカーテンの隙間から、わずかに朝の光が差し込み、一つのベッドで眠る一組の男女を照らす。
乱れたシーツと、二人の生まれたままの姿が昨夜の出来事を物語る。

ぼんやり目を開けた男は、首筋に巻かれた女の腕を右手で緩め、ベッドサイドの時計に目をやる。
(ああ、もうこんな時間か…)
(夕べはちょっと調子に乗ってしまったかな…)
そう思いながら、男の胸に顔を埋めて眠る女の耳元で囁いた。
「み・こ・と…」
女はピクリとした後、細く目を開けると、男の首にまわしていた腕を外し、自分の顔の前に男を引き寄せた。
潤んだ目で男を見つめ、濡れた唇で呟く。
「と・う・ま…、ねぇ、キ・ス・してぇ…」
男は黙って女に唇を重ねる。
一度離れた男の唇を、女の唇がなぞるように、啄むように、刺激していく。
起きぬけのぼんやりした思考が徐々に形を変える。
やがて互いの唇を貪り合い、絡み合い、啜り合い、求め合う。
男女の官能部分が熱くトロリと溶け、互いの身体の奥底から湧き上がる欲求に応える。
やがて離れた、二人の唇の間に猥らな糸が引かれる。
「ねぇ、もう一度…いいでしょう…」
薄赤く上気したような女の口元から甘い囁きが零れる。
「…夕べの事は覚えているのかい?」
男が囁き返す。
「ん、ぁん、あれ・は…、ゆ・め・でしょう…」
「あの夢では、見足りないとでも?」
「ん…、ぁん、もう、とうまのい・じ・わ・る・ぅ…」
「みことは…ん…」
女がその唇で、また男の口を塞ぐ。
「みことは、すっかり…」
男がその唇を離し、また女の口を塞ぐ。
「いや…、言わないで…、ん、んぁん…」
男の手が、いつしか女を弄りだす。その手の動きにあわせて、女の身体が開かれていく。
女は喘ぎながら、ますます潤んだ目で男を見つめる。
「あ…あん…、だって、はぁ…ん…っ、私…、もう…と・う・ま・の……だ…から…」
「かわいいよ、みこと…」

prrrr♪、prrrr♪〜
携帯電話が鳴った…。

------------------------------------------------------------------------

365夢旅人:2011/03/06(日) 19:28:55 ID:37LRlEfU
Sortie time 2


男は動きを止め、ベッドサイドの電話に手を伸ばした。着信にはいつも見慣れた名前が表示されている。
「ねぇ、とうまぁ、そんなの放っておいて…、ねぇ…」
女が男を、もう一度取り込もうとする。
「まて、美琴。ちょっと待てって」
男はそう女に告げると電話に出た。
「土御門か、どうした」
「かみやん、朝からお楽しみのようだにゃ」
「なんだぁ?わかってんなら邪魔すんなよ。で、何が起きた?」
「ねーちんから緊急連絡だ。連中、しびれを切らしたらしい」
「何?じゃ、作戦開始が早まったのか?」
「いや、一部の過激派共が勝手に動き始めただけだが、予断を許さねぇ。念のため、午後には現地へ入ってくれ」
「わかった。すぐ支度する。1時間後に出る」
「了解ぜよ、かみやん。超電磁砲(レールガン)には邪魔したなと伝えてくれ」
上条当麻が傍らに目をやると、そこに美琴は居らず、すでにシャワールームに明かりが点いていた。
「おう、伝えとくよ。あとで電撃喰らっても知らねぇけどな」
「そいつはかみやんの役目だにゃ。じゃ、1時間後だぜぇ」
上条は電話を切ると、別のところへ電話を掛けた。
「…あーもしもし上条だ。今日は誰がいる?あぁ、佐天くんか。では彼女に繋いでくれないか…」
「…もしもし、佐天さん?上条さんですよ。1時間後に出ることになったんで、今日の予定は全てキャンセルしといてくんねぇかな…」
「…それと理事会への連絡も頼めるかな。後、初春さんにも、何か新しい情報が出たら、統合作戦本部の土御門に回してくれって…」
「…ああ、白井は今回インデックスのトコだ。荒事はこっちだけじゃないし。ま、実際動くのは必要悪の連中だがな…」
「…もう一つだけ。何でもいいから朝食の用意を頼めないかな。2人分。機内で食べるから。今朝はまだ何も口にしてないんだ…」
「…あー、はいはい、その分昨夜たっぷり頂きましたよ。美琴たんはそれでもまだ足りねぇって、今朝もおねだりされましたがね…」
「…いやいや、もうね、これ以上バラすとね、上条さんの命に危険が…」
「…じゃ、そんなわけで、手配頼むわ。またお土産、買って来るからな」

電話を切ったとたん、背後から何やらバチバチと音がする…

「おぅわっ!まてまて美琴センセー。上条さんは何も言ってにゃいですよ。だからここでそれは…」
「当麻のバカアアアアアアー!!!!!!!!!!」
バシン!!!
上条は右手で美琴が放った電撃を受けるとそれを消した。
「アブねぇって、美琴センセ。この部屋、電撃対策されてるっつても、やっぱまずいって…」
濡れた髪にタオルを巻き、バスローブを纏った美琴が、顔を赤くして仁王立ちになっていた。
「なに佐天さんにしゃべってんのよ。恥ずかしいじゃないの、まったく。もう、早くシャワー浴びてきなさいよ。時間ないんでしょ」
「1時間後にジェットで現地へ向かう。装備はもう積んである。朝食は機内で。詳しい情報は土御門から来るはずだ」
「わかったわ。すぐ支度するから。でももう少しゆっくりしたかったわ…。これからしばらくは…だから」
「ん…、そうだな。しばらくはお預けか。まぁ、帰ってきたら続きはゆっくり、な」
「そうよ。この火照った身体、どうしてくれんのよって、もう…」
美琴は上条の首に腕を巻きつけ、ゆっくり唇を寄せた。
「片付いたら、その日のうちに、今朝の分とあわせていっぱい可愛がってもらうからね」
「わかってるよ。じゃ、シャワー浴びてくるから…」
上条当麻は軽く美琴と唇を合わせた後、彼女の手を解き、シャワールームに向かう。
上条美琴は当麻から手を離し、気持ちを切り替えると、ドレッサーに向かい化粧を始めた。

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366夢旅人:2011/03/06(日) 19:32:25 ID:37LRlEfU
Sortie time 3

熱いシャワーを浴びながら、上条は思い出に浸っていた。

それは上条当麻と御坂美琴が初めて結ばれ、同じ朝を迎えた日のことを。

「…ん…」
「ごめん、起しちゃったか…」
「おはよう…、当麻…」
「おはよう…、俺の美琴」
美琴は顔を赤くして言った。
「…ありがとう」
「何が?」
「…なんでも無いの…。ただなんとなくだけど…」
「そっか…。まだ時間早いし、寝てて良いよ。朝食用意するから」
「大丈夫…、私も手伝うから」
そう言うと、美琴はベッドから出ようとして…、固まってしまった。
「どうした?」
「まだ…、はいってるみたいで…、ちょっと…」
「あ…。そ、そう…」
「…ちょっと歩きにくい…、かな?」
「無理するなって。寝てたらいいよ」
「当麻…」
「ん?」
「一緒に…居て…」
「朝食は」
「だから…一緒に用意するの…」
「じゃ、無理しないようにな」
「ありがと…」
「ま、その前にシャワーでも浴びておこう」
そう言いつつ上条は、未だにベッドの上にしゃがみ込んでいた全裸の美琴を抱き上げる。
「あっ…///」
「じゃあ、風呂場にご案内しましょうかね」
「まって…」
「ん?」
「シーツ///…、洗濯機に…。血…、染みてないと良いけど…」
「なんか妙に生活感感じるセリフだな」
美琴は顔を赤くしながら、上目遣いに上条に言った。
「私、当麻のお嫁さんだから…ね」
「あああ、もうそんな顔で言われたら、上条さんの理性は残骸すら残らないですよ。すっごく可愛いなって」
「…ふにゃ〜」
「こら、漏電すんなって」


「あれからもう10年たつんだよな…」

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367夢旅人:2011/03/06(日) 19:33:58 ID:37LRlEfU
Sortie time 4


この10年の間に、科学と魔術のハルマゲドンが起こり、科学界、宗教界ともに大きく変化した。
学園都市もその内実が明らかにされ、大きな戦いと、変革が起こり、統括理事会もメンバーが一新された。
窓の無いビルが消え、アレイスターの姿も、以後誰も見ていない。
今や上条当麻は統括理事会の一員として、学園都市を率いるメンバーの一人であった。
上条勢力と言われる一派が、科学界、宗教界の重要なポストを占めるに至ることで、互いの交流が活発になり、コミュニケーションが図られた。
その結果、互いの立場、利益が尊重されるようになり、科学と魔術の争いは無くなりつつあった。
だがなまじ科学と魔術が世界に並列するようになったために、テロリストや反対勢力などは、能力者と魔術師が手を組んで、事件を起こす事も増えていた。
学園都市と魔術勢力は、上条当麻を中心に、状況に応じて共同で事件を解決するようになった。
学園都市統括理事会は、科学側実戦部隊を統括しており、かつて暗部と呼ばれた組織は、現在はデルタフォースと呼ばれている。
現在の統括理事長たる上条当麻が指揮する「スマイル」の他に、「アイテム」「グループ」「スクール」などと呼ばれるいくつかの機動部隊が存在している。
これらの機動部隊は、宗教側実働部隊、「必要悪」「アニェーゼ」「天草式」などと共同作戦を取ることも多いため、より双方の理解、交流が進められる効果もあった。

この世界の中心たる二人の少年少女も大きく成長した。
御坂美琴は、上条当麻のパートナーとして同じ戦場に立つようになった。
美琴の身体は、出るところは大きく出、引っ込むところはきれいに引っ込み、それはもう見ただけでむしゃぶりつきたくなるような、イイ女になっている。
もちろん苗字も御坂から上条に変わった。今ではもちろん上条当麻にとって公私共に、一番重要なパートナーである。
上条当麻はがっしりとした体付きになり、イイ男になってはいるものの、ツンツン頭の髪型だけはなぜか変わらない。
彼の不幸体質は続いているものの、あくまでプライベートな不幸、むしろ不運ともいえる程度のことに過ぎなくなっていた。
もっとも上条当麻本人は、その都度「不幸だ〜」と呟いてはいるが。
この一組の男女は、デルタフォース実戦部隊「スマイル」のメンバーとして、最前線で戦っていた。特に鎮圧時の白兵戦では無敵を誇る。
学園都市第3位『超電磁砲』の援護下で、学園都市最弱にして最強と呼ばれる『幻想殺し』が突入、制圧する戦術に敵う者はどこにもいなかった。
上条夫妻は、今回の戦いを最後に、この仕事から身を引き、表の仕事たる学園都市の運営に重点を置くことを決めている。
プライベートでは、子作りを始めることにもしたからだ。
彼と彼女は、これから最後の戦いを迎えるため、互いに手を携えて出撃する。

当麻と美琴の、そしてみんなの笑顔を守るために。

----------------------------------------------------------------------------
THE END

368夢旅人:2011/03/06(日) 20:11:07 ID:37LRlEfU
いかがでしたでしょうか。

こういった表現はこのスレだと、どこまでOKなのかわかりません。

あくまでエロでなく、官能系で行きたいもんです。

369■■■■:2011/03/06(日) 22:31:14 ID:7hNDg/Vs
>>368GJ!
上琴の未来予想の一つとして楽しめました。あと設定が面白かったです。
上琴がデルタフォースとか佐天さんが秘書?とかwww。

370■■■■:2011/03/06(日) 23:20:58 ID:LnKbE4rk
>>368
GJです。
なにか……自分が今書いてる長編のラストの設定に……ちょっと似てる……かも?w
エロと官能系の境界線は……ムズい……ですよね。^^;

371■■■■:2011/03/06(日) 23:23:03 ID:P7kiQiHw
どうでもいいけど、よく「ほしゅう」という単語を使う人をたくさんみるけど、何故か「補習」ではなく「補修」を使う人が最近増えてる気がする。
上条さんがよくするのは「補習」であって、「補修」じゃないはず。
「補修」だと建物なんかを直したりする意味になって、全く意味が違うのだが…
最近多くて気になったから言ってみた。

372■■■■:2011/03/06(日) 23:51:43 ID:YuZrPvec
>>368
R15位? までならOKじゃない? @Wiki的に。
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从     n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

>>371
まとめに入れるときに、「小萌」や「補修」は修正してるつもりだけど、
漏れがあるかもなので、気付いた人は対応してください。

373eL:2011/03/07(月) 00:00:01 ID:GPJF6Lzs
読んで頂いた皆様、そして更に感想を書いて頂いた皆様、ありがとうございます。
それでは頂いた感想と御指摘にレスを。

>>352 さん
GJありがとうございます。
はぅ!長編、覚えてらっしゃいましたか。というのはさておき…。
長編の方も、合間をみては少〜しずつですが書いてます。もうしばしお待ちを。

>>358 さん
GJありがとうございます。
上条さんの布団は果たして羽毛布団のフワフワなのか、それとも薄めなのか…。
その辺りも突き詰めると、面白くなりそうですね。

>>359 さん
GJありがとうございます。
「愛してる」と思いついてしまった美琴を書きたかったんですが、楽しんで頂けたようで嬉しいです。

>>371 さん
言われてみれば、おっしゃる通りです。
何回も推敲はしたんですが、見落としてました。まだまだですね。
こちらのwikiの方はまだですが、自分ですぐに直せる某所は早速修正させて頂きましたのでご容赦下さい。

>>372 さん
当方のも既に修正して頂いてるのですかね。
だとしたら、ありがとうございます&お手数おかけしてます。

374Mattari:2011/03/07(月) 00:06:25 ID:ypJALfB.
いつもお世話になっています。Mattariです。

まとめをして下さっている方たちへ。
本当にありがとうございます。
最近はこちらの現行スレしか見ていなかったもので、あのように「右手」と「記憶」の間に「素直」を挟んでまとめて下さっているとは……。
思いもしませんでした。お手数をおかけして申し訳ありません。

さて、「見知らぬ記憶3」の続編ですが、コレから投下させて戴こうと思います。
最近の投下ラッシュで、少し控えた方がイイかな……などと、思ったりもしましたが……。
「新約」の発売も近づいていますし、ある程度書き上げておきたいというのもありまして……。
投下させて戴くことにしました。

どなたも居られなければ、この後14レス使用で投下します。

375見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:08:21 ID:ypJALfB.

「……ウッ……ウウッ……ヒック……ウッ……」

「……美琴……泣いてんのか?……」

「と……ま……わ……私……私……うわああああああああ……」

「なに泣いてんだよ……みんな、無事だったろ?」

「……違う……違うの……」

「何が違うんだよ?」

「……当麻を追って、ロシアに行った時……『私も闘える』と思ってた。……そして本当に闘って、当麻に会いに行ったけど……」

「……」

「それは、本当は……間違ってたんじゃなかったのかな?……って……」

「……」

「夢の中で当麻が言ったコト……『こんなところでなにしてんだよっ』って言われンッ!!……」

 美琴の言葉を聞いていた当麻がいきなりその唇を唇で塞ぎ、美琴の身体を『ギュッ』と抱き締めた。
 その強引なキスと抱擁に身を任せる美琴。

 やがて当麻はその唇を離すと……

「オマエは正しいことをしたんだ。それは間違っちゃいない。だから泣くな」

 そう優しく耳元で呟いた。

「……うん……」

 そう言うと美琴は当麻の胸に顔を埋め、再び眠りにつくのだった。



「ワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」

「トーマ!トーマ!トーマ!トーマ!」

 勝利の歓声と、トーマコールがタビカケ城に響き渡る。
 トーマはその歓声の中、ゆっくりとタビカケ城に向かって歩いて行く。

 城の庭園は多くの人で溢れていた。
 その庭園の一番奥には、新たに設えられた玉座があった。
 戦闘で荒れた城内を避け、質素ではあるものの威厳を讃えた謁見の場がそこにはあった。

「【勇者】トーマ。こちらへ!!!」

 謁見の場に、よく通る声が響き渡る。
 それまで騒がしかった観衆が、水を打ったように静まりかえる。

『コツッ、コツッ、コツッ、コツッ』

 謁見の場に近づくトーマの靴音だけが、庭園内に響く。
 謁見の場の中央にまで進むと、トーマは膝をつき傅いた。

「領主、タビカケ様よりお言葉がある。心して聴くように」

 この場を取り仕切るのは、師範ミノルである。

「はっ!!!」

 静寂の中、庭園を揺るがすような声でトーマが答える。
 そして、タビカケが立ち上がり、トーマに語りかける。

「【勇者】トーマどの。本当にありがとう。君のお陰でこの地に平穏が戻った。心から礼を言う」

「はっ!!!」

「今、どれ程の言葉を紡ごうと、そなたへの感謝の想いを表せるとは思えぬ。また、いかなる褒美を与えてもそなたのはたらきに報いられるとも思えぬが……、欲するものがあれば言うが良い。この地の民を代表し、出来る限りのことをさせて欲しい」

「お褒めの言葉を戴き、恐悦至極。されど、我ら【勇者】はこの国のために働くと決意し、創造主の意志に報いんとする者にて、この国の安寧が何よりの褒美にございます」

「よくぞ言われた。だが、それでは私の気持ちが済まぬ。本当に何かないか?」

「……」

「ウーム……しかし、困った。これほどのはたらきをした【勇者】に何の褒美も与えぬままにする訳には行かぬし……、かといってトーマ殿自身が何も言わぬのでは……」

「されば……トーマに成り代わり【勇者】の里を治める長として、お願いの儀が御座りますれば、お聞き届けいただけますでしょうか?」

 とシン老師が言葉を挟む。

「おお!シン老師。今日のトーマ殿のはたらきもシン老師のお導きがあってのこと。何なりと仰って下さりませ」

「では……遠慮無く……」

「ウム」

「ご領地の西側、『ア』の国との国境近くに未開の土地があると聞き及んでおります。その土地を『勇者の里』として頂戴したい」

「なっ……なんとっ……。あの地は、人が住むには険しき土地。多くの猛獣や怪物も居ると聞いております。そのような場所を『勇者の里』にとは……」

「だからこそに御座います。我ら【勇者】の修行の地として、最適の場所と心得まする。それ故の願いにて、ぜひにもお聞き届け戴きたい」

「シン老師がそこまで仰られるのであれば……是非もないが……トーマ殿、今のシン老師のお申し出、異存有りや無きや」

「我が師の意に従うは、弟子の務めにございます。異存などあろうはずがございません!!!」

「判った。では、シン老師、トーマ殿。此度の勝利の褒美として、その地をそなた達に与えよう!!!!!」

「「ははっ!!!!!有り難き幸せ!!!!!」」

376見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:09:12 ID:ypJALfB.

「トーマ殿」

「はっ!!!」

「そなたには、この地の領主としてではなく、一人の親として、全く別に礼を言わねばならん。……我が娘の命、救ってくだされたこと……いかなる礼を尽くそうとも、表せるものではないが……。本当に……本当に心から礼を言う。よくぞ、我が娘を救って下さった。ありがとう、本当にありがとう……」

 そう言って、涙を流しながらトーマの手を取り、頭を下げるタビカケ。

「何と勿体ない。お手をお上げ下さい、タビカケ様」

「トーマ……」

「ミコト……姫様……」

「あなたには、本当に大切なことを教えて戴きました。心からお礼を申し上げます。本当にありがとう」

「勿体なきお言葉、いたみいります」

「あなたの言葉、胸に、心に、魂に、深く深く刻ませて戴きます」

「ありがとうございます」

「あなたに助けて戴いたこの命、決してムダにはいたしません。私は私の成すべき事を成して行きたいと思います。そして、その為の努力を惜しまぬよう、日々努めて参ります」

「はっ!!!」

「……(どう?トーマ)……」

「……(やるじゃねぇか、お姫様。いい顔してるぜ)……」

「……(当然よ。なんてったって私は生まれながらのお姫様なんですからね)……」

「……(ヘッ、言うねぇ)……」

 他の者には聞こえぬほどの声で、二人だけの会話をするトーマとミコト。

「父上からのご褒美がありましたが、わたくしからも【勇者】殿にご褒美を差し上げたいと思います……受け取って下さいますか?」

「はッ!!ありがたき幸せ!!!」

「では……トーマ、顔を上げて戴けます?」

「はっ?……こうですか?」

 と、傅くトーマが顔を上げミコト姫を見つめたたその瞬間……

「えっ!?」

「ミコト……」

「ミコトちゃん、やるぅ〜」

「お姉様ったら、大胆……って、ラストはラストは吃驚(ビックリ)してみたり」

「お……お姫様……ウ〜ン……」

「わぁ〜、クロコさんが、クロコさんが……って、ルイコさん?」

「……(ポンッ!!)……」

「アララ……」

「コレはコレは、ホッホッホ」

 その周囲に居た者たちが一斉に驚きの声を上げる。
 周囲の者たちが驚いたその理由。
 それは、ミコト姫は顔を上げたトーマに抱きつくと、彼の唇に自分の唇を重ねたのだ。
 そして……その唇を離すと、トーマに向かってこう言った。

「私は貴方が好き。トーマが好き。大好きッ!!!」

 一方トーマは……。
 今起こったことが全く理解出来ず、ただただ呆然とするのみだった。
 ……と思った途端、トーマは糸が切れたマリオネットのように、その場に倒れてしまった。

「えっ!?……トーマ?……トーマ!?……ねぇ……どうしたの?……えっ!?ヒドい熱……だ、誰か早く……早く医者を……トーマ!トーマ!!しっかりして……トーマ!?……」

 ミコト姫が絶叫に近い声を上げ、トーマに呼びかけている。
 周囲の者たちは皆、その様子を見守るしかなかった。

 しばらくして、トーマが運ばれた病室の前。

「多分……【龍氣炎】の影響でしょうね……。相当に『氣』が減ってます」

「やはりの……」

「老師様も……そうだったのですか?」

「うむ……初めて【龍氣炎】を纏った後は……三日三晩寝込んだわ……ホッホッホ……もう昔のことで忘れておったがの……」

「そんな呑気な……ミコト姫様に聞かれたら、どれだけ怒られるか判りませんよ」

「そりゃイカン……ホッホッホ」

「しかし、やはり『諸刃の剣』なのですね。【龍氣炎】も……」

「当然じゃ。何より創造主の力をそのまま使えるようになる訳じゃからな。我らの器では……その全てを受けきれん」

「はい……」

「その反動は必ずくる。まあ、回を重ねる毎に慣れもするがな……」

「……ウーム」

「今日、トーマが【龍氣炎】を纏っていた時間はまだ短い方じゃろう。元々回復力もある方じゃから、そう心配せんでもイイとは思う」

「はい……」

「それに……」

「は?……それに……とは?」

「倒れたのはそれだけじゃあ無さそうじゃからの……ホッホッホ」

「?」

 シン老師の言う通り、トーマは三日三晩寝込んでしまった。
 そのトーマを甲斐甲斐しく世話するミコト姫。
 ほとんどトーマの傍を離れようとはせず、不眠不休での看病が続いた。
 そんなトーマが倒れてから四日目の朝……

377見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:10:07 ID:ypJALfB.

「……ぅ……ん……」

「……あ、……トーマ?……大丈夫?……気が付いたの?トーマ……」

「う……あ……うん……、……えっ!?……えっ!?……み、みっ……みこっ……ミコトッ!?……あっ……姫様……」

「トーマッ!!」

 そう叫んでトーマの胸に飛び込むミコト姫。

「……良かった……急に倒れるから、心配で心配で……」

 一方、抱きつかれたトーマは……

(ヘッ!?……な、何が起きてるんだ?……ミコトのヤツがオレに抱きついてて……何か、柔らかいモノまで当たってて……そう言えば……オレが倒れたって……あの謁見の場で、急に意識が遠のいて……その前に……ミコトがオレに……き、き、き、き、ききききききキスゥ〜〜〜〜!!!!!!)

「(ボムッ!!!!!)……ウーン……」

『バタッ!』

「えっ!?えっ!?トーマ!?どうしちゃったの?急に顔を真っ赤にしたと思ったら、また倒れちゃって……。……トーマ!?トーマ!?ねぇ、トーマったら……?……えっ!?イヤッ……トーマ、しっかりしてっ!!……ドクトル!!ドクトル!?……誰か!?誰か……ドクトルを呼んで!!!」

 再び倒れてしまった。
 今度は別の理由で倒れたようだが……。

「うん……まあ……心配はないようだね。脈拍も血圧も正常だし……」

 とドクトルが言う。

「そうですね、『氣』の状態も正常に戻ってます。もう大丈夫ですね」

 とイツワが応える。

「……良かった……グスッ……ホントに……一時は……ウッ……ヒクッ……どうなるかと……ウウッ……」

 半分泣きベソをかきながら、それでも寝ているトーマから目を離そうとしないミコト姫。
 そのミコト姫を後ろから見つめている……というより睨んでいるイツワ。

「じゃあ、ボクはコレで……。姫様もあまり根を詰めると、お体に障りますからね。お気をつけ下さい。では……イツワ、行くよ。……イツワ?」

「……えっ!?……あっ、はい。……ドクトル……」

 ドクトルに呼びかけられていることにやっと気づいたイツワは、慌てて一緒に病室を出て行くのだった。
 二人が出て行った病室で、ミコト姫はトーマの手を握り、愛おしそうにその手に頬を寄せるのだった。
 看病の疲れもあって、トーマの手に頬を当てたミコト姫が眠りに墜ちるまで、時間はほとんどかからなかった。

「ん……ぅ……うん……」

(何か……右手が……重いな……アレ?)

(えっ!?……ええっ!?……みっ、みっ……ミコトッ!?……おっ、おまっ……オマエッ……!?)

 再び倒れたトーマがやっと目を覚ました。
 だが、ミコト姫が自分の右手を握って頬を当てて寝ている姿を見て、慌ててしまう。
 が……その寝顔を見つめて……

(コイツもこうしてると普通の女の子なんだよな。……でも、……コイツは……お姫様で……綺麗で……凛々しくて……輝いてて……)

(オレのことを「好きだ」って言ってくれたけど……オレは……オレは……)

「……ん……ムニャ……トーマ……好き……だよ……ふにゃぁ〜……」

「ミコト……」

(そう言ってくれるのは……ホントに嬉しいよ。でもな……オレにとって、オマエは素敵すぎる……眩しすぎるんだ……)

(コイツには……オマエには、オレより……オレなんかよりもっと相応しいヤツが居る……オレなんか……オレなんか……)

(でも……そう思うのに……何でオレは……こんなにイライラするんだろう?)

(オマエのことは……守ってやりたい……と思う。……オレの命を賭けてもイイ。それだけの価値がある……と思う。……でも、……オマエの気持ちに応えることは……オレには……オレには……できそうにないよ……)

(オマエはお姫様で……ホントに眩しくって……でも……オレはタダの……ただの【勇者】でしかない……)

(オレなんか……オマエの足元にも及ばない……でも、……何でオレは……この胸の中のモヤモヤは……オレの胸が……こんなに締めつけられるように苦しいのは……何でだろう?)

「オマエがお姫様じゃなかったら……な……」

 自分の手を握り、安心しきった顔で気持ちよさそうに眠るミコト姫に向かって、トーマは手を握り替えし、そんな独り言を呟くことしかできなかった。

378見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:11:07 ID:ypJALfB.

「タビカケ殿、此度の褒美。誠にありがとうございます。……ただ……」

「はい、中央には必ず報告を入れます。でなければ色々と難癖を付けてくるでしょうし……」

「ワシからも報告しておきます故……。特にワシらから願い出たと言うことを強調して下され。しかし……中央にも困ったものじゃて……」

「皆さんは『この国を守る』事を第一としておられるのに……、奴らは『自分たちを守る』事を優先させようとする……」

「その通りです。ワシがこの『ワ』の国に居を移したのも、そして『新しい国作り』に協力すると決めたのも、先帝の志に呼応したからこそ……。じゃが……今中央に居るのは……」

「仰る通りです。……先帝が急逝され、跡目争いが起こり……、今はもう……」

「幼きインデックス姫を押し立てる一派が幅をきかせておりますな……。しかも……その中心には『あの男』が……」

「教皇・アレイスター……ですな。老師様とは旧知の仲とお聞きしていますが……」

「同じ師に学んだ同志にござります。先帝の志に呼応し、アレイスターの呼びかけがあったからこそ……我らは……。……ですが……今は……」

「老師様はあの男をどう見ておられますか?」

「変わった……とは思いたくない……というのが本音ではあるのですが……今のやり方を見ていると、師の教えを忘れてしまっているように見えます」

「今でもまだあの男のことを……」

「信じたい。……そう思ってはおります。……長年『友』として過ごしてきた訳ですし……それに、同じ師に学んだとは言え、ワシは『武』であり、ヤツは『文』であった。本来なら国の両輪であらねばならぬ間柄なのですが……、どうも……最近は疎遠になっておりましてな……」

「実は……同盟国である『ナ』の国から、幾つかの情報が寄せられておりまして……」

「おお……『ナ』の国と言えば、女王ながら名君と誉れ高きエリザード女王が治めておられる国ですな」

「はい。……でその中でも気になるのが、『ナ』の国の古文書が最近かなり盗難に遭っていると……」

「ほう……」

「しかもその古文書は、どうやら『術』に関する資料が大半のようで……」

「何ですとっ!?」

「やはり『術』のことはご存知でしたか……」

「それほど詳しく知っている訳ではありませぬが……『術』はとうの昔に廃れた『邪法』であると、師から聞かされております」

「『ナ』の国にはその『術』を記した古文書が残されて居るようでして、その『術』を専門とした勢力も未だにあるそうです」

「むう……」

「この国では『邪法』として伝えられておりますが、『ナ』の国では『力』では成せないところを補うために、長く伝えられてきたようです」

「ウーム……」

「ですが、あくまでも脇役としての位置付けであり、本来主役にはなれない影の存在……。だったのですが……」

「それを前面に押し出そうとする者たちが居る……と?」

「はい……。しかも、その盗難事件の裏側にあの男、教皇・アレイスターの影が見え隠れしていると……そのような連絡が……」

「如何にあの男が変わったとは言え、『術』にまで手を伸ばすとは考えられぬ。師より『忌むべきモノ』として教えられたモノに手を出すなぞ……」

「まだ確証が掴めた訳ではありません。ですが『火のない所に煙は立たぬ』と申しますから……」

「ウーム。……我らも独自で動いてみましょう。もし事実ならば……」

「……事実ならば……どう為されるおつもりですか?」

「あの男との縁を……考え直さねばならんでしょうな……。……そうならなければ……良いのですが……」

「……」

 遠い目をして、昔のことを懐かしむように物思いに耽るシン老師を見守るタビカケの眼には、寂しさと共に厳しい光が秘められていた。

「トコロで老師様、話は変わりますが……『里』の件ですが……」

「おお、その件については早速取り掛からせていただこうと思っております」

「私どもも協力出来ることがありましたら……」

「いやいや、ご心配には及びませぬ。それに中央に要らぬ気遣いをさせたくありませぬからな。お気持ちだけ戴いておきまする。ホッホッホ」

「なるほど……では、そのように……」

「タビカケ殿……ワシも一つ、お聞きしたいことがあるのですが……」

「はい、何なりと……」

「実は……ミコト姫様のことなのですが……」

「あ……はい……」

379見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:11:46 ID:ypJALfB.

「ミコト姫様のトーマに対するお気持ち……ワシには本気に見えるのですが……」

「父親の眼から見ても、アレは本気でしょう。いざとなれば『姫』という地位を捨てることも厭わぬ気で居ると思っています」

「ウーム……そこまでのお覚悟があると……」

「はい。父親としては少々寂しいのですが、いつかは嫁にやらねばならぬのですから……それに……娘の幸せを願うのは、どの親も変わりはありません。ミコトにとっては彼の傍に居るのが一番の幸せだと……私は思っております」

「そうですか……ならば、お話しさせて戴きまする」

「はい」

「我ら【勇者】は、本来『無縁』の者にて、住むべき土地を持たず、諸国往来勝手を許された『道々の輩』にございます。故に、我ら一族の中に入る。ということは、俗世との『縁』を切り『無縁』にならねばならぬ。と言うことでもあるのです」

「ム……」

「我らには、創造主の意に倣う。という絶対の目的がございます。その為、血縁の『血』に縛られず、土地の『地』に縛られず、そして時代の『知』に縛られぬよう、全てから『自由』であることが大事とそのような生き方を続けて参りました」

「……」

「今はこの『ワ』の国に居を構えてはおりまするが、いつ何時、ここを離れるやも判りません」

「むう……」

「もし、ミコト姫様がトーマと共に居たいと仰るのであれば……タビカケ様達との『縁』を切らねばならぬコトになること、お伝え願えますでしょうか?」

「また……厳しいことを……」

「はい……確かに厳しゅうございます。また、今の時代にそぐわぬ習わしであるのも事実です。ですが……もし、タビカケ殿が何らかの形で立たれたとしても、それが創造主の意に沿わぬモノであると見た時には……」

「協力はできぬ……と?」

「はい。例え大事な姫様が我ら一族にお入りになられたとしても、それだけは変える訳には参りません。我らは創造主の意を第一とする者。その事を姫様にも、そしてタビカケ殿にも知っておいて戴きたいと思い、お話しさせて戴いた次第です」

「判りました。その事、私よりミコトに伝えておきましょう。……ですが……ミコトはそれを受け入れるでしょう……」

「ほう……」

「あの子の目を見た時、私はそれを直感しました。あの子は全てを捨ててでも彼を選ぶだろうと。それだけの覚悟があると、私は思っております」

「タビカケ殿……」

「ハハハ……父親としては寂しい限りですが……。実は、ミスズをもらい受ける時に、アレの父親から言われましてな」

「ほうほう……」

「『お前にもいつかワシの気持ちが分かる時が来るだろう』と……。それはこう言うことなのですなぁ……」

「なるほど……なるほど……ワシには子が居りませぬので……判りかねる想いでもありますが……」

「……老師様……今宵は一献、お付き合い願えますかな?」

「ホッホッホ、この様な老人が相手で宜しいのですかな?せいぜい愚痴を聴くくらいの役しかできませんぞ」

「構いません。老師様の武勇伝もお聞かせ戴ければ、気も紛れましょう」

「判りました。是非ともお付き合いをさせていただきましょう。ですが、年寄りの話は長くなりますぞ。ホッホッホ」

「ハハハハハ、お手柔らかにお願いいたしまする。ハハハハハ……」

 二人の笑い声が王宮に響き、長い酒宴が始まろうとしていた。



「……ん?……起きたのか?……美琴」

「……当麻……おはよう……」

「もう……昼近いけどな……おはよう」

「……ねぇ……キス……して……」

「ん?……ああ……ン……」

「ン……んん……うん……んんッ……ん……好きよ……当麻……」

「何か、改まって言われると……恥ずかしいな……」

「……バカ……」

「……アハハ……ゴメン……」

「フフッ……でも……」

「ん?……どうしたんだ?」

「また、当麻に助けられちゃった」

「オイオイ……」

「ホントに……当麻が助けてくれなかったら……どうなっていたんだろう?って……」

「オレが美琴を助けない訳がないだろ?……そんなの考える必要なんて無いよ……まぁ、助けたのは昔のオレであって、今のオレじゃないけどな」

「もう……ムードが台無しじゃない……」

「そうか?」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「……美琴は、怒った顔も可愛いな……チュッ」

「ふにゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……エヘヘ〜」

380見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:12:18 ID:ypJALfB.

「それにしても……あの『夢』……アレって本当に記憶なのかな?」

「うん……」

「どう考えてもおかしいよな……」

「うん……そう……。何処か現実と混同しちゃってるのかしら?」

「あの『妹達(シスターズ)』の件だろ?」

「そう……過去にあんな同じようなことがあったって言うのもショックだけど……。軍用クローンなんて技術、今でもほとんどトップテクノロジーよ。過去にある技術じゃない……」

「それ以外にも、今の学園都市よりも進んだ科学水準な気がするモノが……」

「あの小さな小箱から通信出来るディスプレイが投影されるなんて……SFやアニメなら良くあるけど……」

「そうだよな……」

「『能力』に関しても……闘いの中で、普通に使っていたのを見たわ」

「レベル3から4ってトコロだったよな?」

「それも……多分……開発されたものじゃない……もっと自然な……」

「『持って生まれた能力』……って感じだったな……」

「うん……」

「過去にあったことと言うには、余りに変だし……」

「つじつまが合わないところが多過ぎるわよね……」

「……」

「……」

「でも、オレたちが見ている内容な同じ……だよな?……何でだ?」

「そこはやっぱり『記憶』なのかな?」

「……無理です。上条さんのおバカな頭では、何が何やら分かりません……ふにゃー……」

「キャッ……当麻ったら……どこ触ってんのよっ!?……ダメッ!……そこはっ……ああんっ……みみみ……み……んっ……んんッ……」

「んんッ……んあっ……トコロで、……美琴姫様は、本気でこの当麻に嫁ぐおつもりですか?」

「えっ!?……なっ、なによ、いきなり!?……それに、ビリビリした状態でキスするなんて……当麻の意地悪……(おかしくなっちゃうじゃない……)」

「オレもそろそろ限界なんだ……マジで、こんな状況が続いたら……。それに『夢』の中の美琴がスゴく綺麗で……素直で、『好き』って言ってくれたから……」

「そっ、そんな急に……言われたって……確かに当麻のことは……大好きだし……もう、プロポーズもした仲だし……」

「美琴の答えが聞きたい。怖いって言うなら……我慢する……から……」

「(えっ!?なにッ!?当麻……スゴい真剣な表情……。もしかして……そんなっ……でも……こんなに明るいのに……そりゃあ……イヤじゃないけど……やっぱり恥ずかしいじゃない……全部見られちゃう訳だし……、胸も……そんなに自信ないし……。でも……当麻が望むなら……)……優しくしてね……当麻……」

「……イイのか?……それが美琴の答えなのか?」

「うん……そうだよ。……当麻が望むなら……イイよ……///」

「美琴……好きだ……」

「うん……私も……当麻のことが……す『どっばーーーーーん』……キャアッ!!!なに!?なにッ!?」

「オジャマするぞ〜上条当麻。御坂、御坂〜、すまないけどオリーブオイルが切れたので、少し貸して貰えないか……って……あ……。ホントにオジャマしちゃったみたいだな〜……」

「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜舞夏ァ〜!!!!!!」」

「気にするな〜。私はすぐに退散するから、気兼ねなく続きをやってくれたらいいぞ〜。じゃあ、コレは借りてくからな〜」

「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」

(舞夏のヤロウ……せっかく良い雰囲気だったのに……後、もうちょっとだったのに……)

(どうやってやり直せって言うのよ。続きなんて出来る訳無いじゃない!!!)

(美琴は……どうするんだ?)

(当麻は……もしかして、まだ……)

(美琴もまだ……期待してる?)

(当麻も……止まれないの?……それなら……まだ……)

「……美琴……あの……さ……」

「ぅ……うん……なに?」

「もう少しだけ……イイかな?」

「えっ!?……当麻が……そう言うなら……私は……その……イイ『ガチャッ!!』……よ?」

「フッフッフ……それにしてもお二人さん、昼間っから……お盛んですな〜」

「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」

「じゃあなぁ〜」

「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜二度と来るなぁッ!!!舞夏のバカァ〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!」」

 ……不幸だ……。

381見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:12:53 ID:ypJALfB.

 『ア』の国の侵攻を撃退してから、半年の月日が過ぎようとしていた。
 タビカケの領地に新たな『勇者の里』を築くべく、ミノル師範を初めとした者たちが集まり、その地の開拓に精を出していた。
 その中には、トーマの姿もあり、そしてミコト姫も当然のようにその場に足を運んでいた。
 また、『ア』の国との戦闘でトーマに倒され、残された『最強の戦士・アクセラ』の姿もそこにあった。

 だが、この半年の間はミコト姫にとって決して充実した時間ではなかった。
 あの看病の日以来、トーマのミコト姫に対する態度は余所余所しいモノに変わっていた。
 共に居られる時間はあるモノの、それは彼女が望むモノからすれば程遠いモノになっていた。
 そんなある日のこと……。

「オイ、ヒーロー。ここはこンなモンでイイのか?」

「オイ、アクセラ。オレにはトーマって名前があるって何度言ったら分かるんだよ。その『ヒーロー』って呼び方、やめろよ……」

「何照れてやがる。毎日来てくれてるお姫様を邪険に扱いやがってよォ。「好きだ」って言われてンだろうが。サッサとモノにしちまえよ」

「ばっ、バカ野郎!!そんなコトが出来る訳ねぇだろう!!!アイツはお姫様なんだぞッ!!!!!」

「へーへー、ヒーロー様はそンなコトに拘ってンのかよ……ッたく……」

「そう言うお前こそ、ラスト姫様にエラく懐かれてるじゃねぇか?」

「あっ、アレは……森の中をウロウロしやがって、それで猛獣に襲われそうになってやがったのを、助けてやっただけで……」

「何だァ〜……白が赤に変わってんじゃねぇか?お前……もしかして……」

「ばっ、バカ野郎!そンなンじャねェ!!!」

「へヘッ……そう言うことにしといてやるよ。『最強の戦士』さん」

「てンめェ〜〜〜、何だったらもう一回、この場で勝負してやったってイインだぜぇ〜」

「やめとけ、やめとけ。まず体術を習得しねぇと、今のお前じゃあ軽くあしらわれるだけだぜ。何せ、得意の『ベクトル変換』はその腕輪で封印されてんだからよ」

「グッ……」

「《龍氣》の習得もソコソコ行けてるみたいだけど、……そういやミノル師父が言ってたな。《龍氣》そのものを『ベクトル変換』するのは不可能だったって……」

「あのクソオヤジ……要らねえことをベラベラと……」

「知らねえぞ、ミノル師父を『クソオヤジ』なんて言ったってバレたら……タダじゃすまねぇぞ」

「ヘッ、こンな会話が聞こえる訳が……」

「……それが、ちゃんと聞こえてたりするから、世の中ってのは面白いんだよな。なァ……アクセラ?」

「ゲッ!?……い、いつの間に……まさか……トーマ……テメエ!!!」

「『氣』が読めないお前が悪い」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「アクセラ、ここが終わったらオレのトコロに来い。可愛がってやる……フッフッフ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「あ、そうだ。トーマ、ミコト姫様が来ておられるぞ。お前もここが終わったら、戻って来いよ」

「えっ!?……あ、……ああ」

「何だ……まだ迷ってるのか?」

「そ、そんなんじゃ……でも、アイツはお姫様で……オレは……」

「シン老師様から聞いただろう?姫様はそれを捨てる覚悟さえして居られると……。それほどのお気持ちを……」

「だからだよっ!!!オレには……オレには……アイツに姫を捨てさせるような価値は……、……無いよ……」

「トーマ……」

「ミコトほど綺麗で、凛々しくて、眩しくて、輝いてるお姫様をオレは知らない……。都のインデックス姫なんて……アイツの前だったら……誰が見たって翳んじまうに決まってる……そんな姫様に、姫を捨てさせるなんて……オレには……オレには……」

「……ハァ……ッたく、下らねェな」

「何だよ!?お前に何が判るってんだよっ!?アクセラッ!!!!!」

「要するに……ヒーロー様は、自分に自信がないから、拗ねてるだけだ。ッてコトじャねェか……」

「何だとっ!!!」

「……アクセラの言うことも、半分は当たってる……って感じだな」

「ミノル師父まで……」

「己の気持ちをしっかりと見取ることだ。逃げた分だけ、闇が近づいてくるぞ。……忘れるなよ」

「ウッ……」

「じゃあ、俺は一度戻るから……サッサと終わらせて戻って来いよ。特にアクセラ……逃げるなよ(ニタァ〜)」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ダラダラ)」

382見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:13:20 ID:ypJALfB.

「ッたく……よう、トーマ。サッサと終わらせちまおうぜ。……オイ、トーマ?」

「……クソッ……(自分の気持ちが分からねぇから困ってんじゃねぇか……)」

「ヘッ……クソッたれが……」

「……ぅ、うるせぇ……」



 そんなトーマの気持ちを知ってか、知らずか。ミコト姫は毎日のようにここに通ってきていた。

「コレはコレは、ミコト姫様。わざわざのお越し、痛み入ります」

「そのように畏まらないで下さい。わたくしはただ……(ポッ……/////)」

「トーマなら、おっつけ戻ってくると思います。それまで暫しお待ちいただけますか?」

「あっ……は、はい……(カァアアア……//////////)」

(ミコト姫様にこんな表情をさせるなんて……オレ、トーマさんを殴りたくなりますよ……)

(言うなよ、グンハ。オレだってブン殴りたくなってんだからさ……)

(えっ!?ハマヅラさんも?だよな……。こんな人に想われてるってのに……トーマさん、何考えてんだか……)

(だろ、だろ。オレもなァ……あんな姫様とお知り合いになりたい……)

「二人とも何をボソボソ言ってるの?」

「「ビクゥッ!!!」」

「なっ、……何だ……リコか……。脅かすなよ……」

「リコか……じゃない。はまづらはお姫様も好きなの?」

「ヘッ!?……『も』って何だよ……『も』って?」

「この前、私に送りつけた『ウサギさんスタイルのお姉さん』の写真。アレが趣味だと思ってた……」

「イッ……あ、アレは……その……」

「大丈夫、して欲しいのなら、してあげてもイイ。はまづらになら……(ポッ……/////)」

「い、イヤ……リコは、今のままで……充分可愛いし……/////」

(オイオイ、誰だよ……さっき『あんなお姫様とお知り合いになりたい』って言ってたのは……。その舌の根が乾かないウチにこれ……?)

「リコ……/////」

「はまづら……/////」

(ああ〜……もう……何でオレだけ、一人な訳?……もしかして……オレって……メチャ不幸?)

「クッソー、女なんか!……女なんか!!……男は気合いだ!!根性だぁぁぁあああああ!!!!!」

 グンハ、それは負け犬の遠吠えって言うんだよ。(インデックス風に……トドメ。w)

 【閑話休題】(チョイと一休みしゅーりょー)

「姫様、トーマ殿はまだお戻りになられないのでしょうか?せっかく姫様がわざわざ来ておられるというのに……」

「控えなさい、クロコ。ここにわたくしが来ているのはわたくしのワガママです。わたくしが……トーマに……会いたいだけ……(ゴニョゴニョ……/////)」

(キィィィイイイイイイイ〜〜〜〜〜〜〜〜、姫様に、姫様に……こ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んな表情(おかお)をさせるなんて……、あの腐れ勇者めぇ……ハァ、ハァ、……羨ましすぎますわッ)

「ハァ、ハァ……」

「クロコ?どうしたのです?さっきから息が荒いようですが……」

「あっ、いゑ……ご心配には及びませんの……オホホホホホ」

「???」

「あっ、あの……イツワさん?」

「はいッ!?……ミコト姫様。何かご用でしょうか?」

「あっ……いえ……その、……わたくしのようなものでも、何かお手伝い出来ることはないかな……と……」

「姫様、なりません!!」

「お下がりなさい、クロコ。ここは『勇者の里』です。ここに居る間はわたくしは『姫』ではありません!!!」

「ウッ……」

「……」

「イツワさん、何か……何でもイイんです。お掃除でも、お洗濯でも、炊事でも……」

「そっ、そんなことを……姫様に……」

「先程も申しましたように、ここに居る間はわたくしは『姫』ではなく、一人の女です。トーマに会いに押し掛けて来た一人の女なのです。ですから……」

 その頬を染め、それでも真っ直ぐにトーマを想うミコト姫の表情は、同じ女であるはずのイツワでさえ、『ドキッ!!』とさせ、惚れ惚れしてしまうモノだった。
 だが……イツワの内側に、『ドキッ!!』とし惚れ惚れしてしまうと同時に……小さな『闇』が渦を巻く。

「……でしたら、コレから「キコの実」を取りに行くのですけれど……ご一緒されますか?」

「はいッ。喜んで!!!」

 パッと明るくなったミコト姫の表情を見つめ、イツワは内に渦巻く『闇』が大きくなるのを抑えられなくなっていた。

383見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:13:47 ID:ypJALfB.

「ハァ、ハァ……あ、あの……イツワさん……ハァ、ハァ……も、もう少し……ゆっくり……お願い出来ませんか……ハァ、ハァ……」

「あ……申し訳ありません……『姫様』には少々険しかったでしょうか?」

「そ、そんなことは……ハァ、ハァ……」

「ほら、もうすぐですので……お手を……」

「あ……ハイ。ん……っと……」

 イツワはミコトの手を取ると、グイッと引き上げた。
 その瞬間、ミコトのドレスの裾が音を立てる。

『ビリビリリィィーーーーーーー』

「キャッ……!?」

「あっ……コレは……とんだことを……申し訳ありません。すぐに戻って……」

「いえ、大丈夫です。それに……この様な格好でココに来てしまうこと自体が間違いでした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「そ、そんな……(クッ……)」

「あ……ココが……?」

「あ……ハイ。そうです。『キコの実』がなっているところです。カワイいでしょう?」

「ええ、ええ。カワイいですし、それに綺麗ですね」

「はい。トーマの好物でもあるんです」

「トーマの……好物……」

「赤くなっている実だけを取って下さい。ミコト姫様の手の届く範囲で結構ですから……」

「はい、分かりました……あの……イツワさん……」

「はい?何でしょう。姫様?」

「あの……その『姫様』というのは……やめていただけませんか?……ミコトと呼び捨てにして下さって構いませんから……」

「そっ……そんな畏れ多い……(なんて表情をするのっ!?そんな顔をされたら……私は……私は……クッ……)」

 キコの実がなっている樹はそれほど背が高くなく、ミコトの手が届く範囲にも充分実がなっており、収穫出来るモノだった。
 だが……高くはないと言っても、それなりの高さはある。
 イツワはミコトの手の届かない高さにまで樹に登り、そちらに多くなっているキコの実を手際よく取っていく。
 それを見たミコトは、思わずいつもの『負けん気』が顔を出してしまう。
 それに『トーマの好物』と聞いて、ミコトはその実を取る事に夢中になっていた。

 そんなキコの実を取る事に夢中になっているミコトを見て、イツワは内側に広がる『闇』の渦に呑まれて行く。

(この辺りならそんなに危険じゃないし……ホンのちょっと置き去りにして、ホンのちょっとだけ迷ってもらって……ホンのチョット懲らしめるだけ……)

(トーマのことを真っ直ぐに想っていて、本当に羨ましい。私もあんな風に自分の気持ちを表に出せたなら……)

(自分の気持ちを正直に出せるアナタが羨ましい。私には逆立ちしたって出来ないことを……アナタは素直にやってしまう……)

(トーマはまだ気が付いていないけれど……あの人がアナタを見る目を見ていれば……分かる……)

(トーマはいつか気が付く。トーマの眼にはアナタしか映っていないことを……そして、私の居場所はそこにはないってコトを……)

(そうなったら……私は……私の想いは……私だって、アナタに負けないくらいトーマのことが好きなのにッ!!!)

 自らの内に渦巻く『闇』に呑まれたイツワは、自分の想いをコントロールすることが出来なくなっていた。
 そして……感情の高ぶりと共に……音もなく『フッ』と姿を消してしまった。

「……フウ……想ったより、沢山取れた……かな?……アレ?……イツワさん……イツワさん?……ドコに行っちゃったんだろう?」

 イツワの計画通り、イツワの姿を探してミコトは「キコの実」がなる場所を離れ、あちこちを探し始めるのだった。
 その頃、トーマはやっと里に戻ってきていた。

「……ミコト姫が来てるって言われて、戻ってきてみたら……居やがらねぇ……ん?……アレは……クロコ?」

「あっ、腐れ勇者殿……」

「その呼び方は……ちょっと勘弁しろよ……で、お姫様は何処行ったんだ?」

「さっき、イツワさんという方と共に……わたくしはココで待つようにと……」

「ヘッ!?イツワと……って、……アレ?……イツワ?……オマエ、ミコト姫と一緒だったんじゃ……?」

「えっ!?……と、トーマ!?……いつ帰って来たの?」

「今さっきだよ。……ミコト姫と一緒じゃなかったのか?」

「あ……えっと……その、途中ではぐれちゃって……戻ってないかと思って……」

「オイオイ、はぐれたって……どの辺りだよ?」

「え、ああ、あの……キコの実がある辺り……」

384見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:15:18 ID:ypJALfB.

「何だって!?……アソコには……」

「大丈夫よ、あの辺りにはもう猛獣も危険な動物も居ないから……」

「バカ野郎!!……あの辺りは……この前『バシリスク』が巣を作ったって……」

「えっ!?……『バシリスク』ってあの……大型の人喰い鳥のっ!?」

「まさか……アイツ……ミコトッ!!!」

『ズドンッ!!!』

「あっ、トーマ!!!」

 トーマはミコトの身を案じ、慌てて里を飛び出し、キコの実のなっている林に向かう。
 と、その時……。

「キャアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ミコトの悲鳴がトーマの耳に届く。

「ミコトッ!!!!!!!」

 ミコトの名前を呼んだその時、トーマの眼に入ったのは、バシリスクに追われて崖まで追い詰められているミコトの姿だった。
 バシリスクは追い詰めた獲物を、今正に食べようとしている。
 それを見た瞬間、トーマの中で何かが弾けた。

『ガオンッ!!!!!!!!!』

 トーマの速度が一気に上がる。

「ミコトから離れろぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 トーマの叫びと共に、気合いと《龍氣》が一体となって、その拳より放たれる。

『ドンッ!!!!』

 その強烈な一撃は、バシリスクを簡単に吹き飛ばし、崖下へと突き落とす。

「ミコト!!!無事かっ!?」

 ミコトの無事を確認するためにトーマが地に降りる。

「あ……と、トーマ……。……ああ……」

 死の恐怖から解放され、安心して緊張が解け、気を失うミコト。

「オイ、ミコトッ!!……えっ……血……血が……オイッ!?しっかりしろ!!!しっかりしろ、ミコトォォォオオオオオ!!!!!!!」

 トーマはミコトを抱き抱え、必死に呼びかけ続けるのだった。

「ふう……もう、問題はないだろうね。ケガも大したことは無いし……、後は安静にしていることだ」

「ありがとうございます。ドクトル……」

「うん、お大事にね……」

 ケガをしたミコトを急いで里に連れ帰ったトーマは、すぐにドクトルにミコトを診てもらい、今その治療が終わったところだった。

「……ミコト……良かった……無事で……ホントに……良かった……」

「スースー」

「……ミコト……」

 薬のお陰もあって、美琴は静かに眠っている。
 安堵の表情で、優しくミコトを見つめるトーマ。
 その横で、イツワは身体を震わせていた。

「……ゴメン……ゴメンなさい……トーマ……」

「……」

「ゴメン、トーマ……。ホントにゴメンなさい……」

「オレに謝ったって仕方がないだろう?……お前が本当に謝らなきゃならない相手は……ミコト……姫様だ……」

「うっ……グスッ……ううっ……」

「……何でだ?」

「えっ!?」

「何で……あんなことをしたんだ?」

「そっ……それはっ……」

「探査系もできて、後方支援にも入れるお前が……ミコトを……姫を見失う訳がない。……違うかっ!!!!」

『ビクッ!!!』

「何で、あんなことをした!!!……なぜミコトを森に置き去りにしたんだ!?……事と次第によっちゃあ、お前といえど……」

「……殴ってよ……私を……足腰立たなくなるまで……殴り続けてよっ!!!!!」

「なっ!?……イツワ……」

「こんなコトになるなんて……思っても居なかった。……ただ、ちょっとだけ、ホンのチョットだけ……意地悪するつもりで……」

「何で!?何でそんなことを……」

「私が……私が……私がアナタを、……トーマを好きだからよっ!!!!」

「えっ!?」

「分かってた……『闇』に呑まれているのは……分かってた。『嫉妬』だって分かってた……。でも……でも、……自分をどうする事も出来なかったのよっ!!!!!」

「……イツワ」

「この人が羨ましかった。ミコト姫様が羨ましかった。……アナタに向かって真っ直ぐに想いを伝えられて……「好き」って言えて……」

「……」

「私にはそんなコト出来ない。逆立ちしたって出来ないことを、この人は普通にやってしまって……。それが……、それが、どうしようも無く羨ましくって……どうしようも無く、妬ましかった……」

「……」

「アナタを好きだって言う気持ちなら、私はこの人に負けない……。それに……アナタの好物だって、好きな花や、樹や、得意な技や、それから、それから……」

「……イツワ……」

「私の方が、沢山知ってる……アナタのことを……この人より沢山知ってる……けど……」

385見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:16:20 ID:ypJALfB.

「……けど?……」

「アナタの眼は……トーマの眼は……ミコト姫様しか……見ていない……」

「えっ!?」

「アナタの眼は、ミコト姫様しか見ていない。アナタの瞳には、ミコト姫様しか映って無いのよっ!!!」

「ばっ……バカなっ……」

「分かるのよっ……アナタしか見てない私だからこそ、アナタが何を見て、その瞳に何を映しているのかが……分かってしまうのよっ!!!」

「そ、そんな……そんなはずは……」

「トーマは気づいていないだけ……。自分の気持ちを分かっていないだけ……。でも……その内に気付く……。アナタはミコト姫様のことが……」

「やめろっ!!!」

「……トーマ……」

「……もうイイ、……もうイイよ……イツワ……」

「トーマ……私はっ……私はっ……」

「出て行ってくれ……」

「えっ!?」

「この部屋から……出て行ってくれッ!!!!!」

『ビクッ!!!』

 トーマの一言に、何も言えず、顔を伏せたまま部屋を出ていくイツワ……。
 その瞳からは、ポロポロと大粒の滴がこぼれ落ちていた。

 トーマは、スヤスヤと眠っているミコトの顔を見つめる……。
 そして、自問自答する。

(オレが、ミコトしか見ていない?)

(オレの瞳は、ミコトしか映していないだって?)

(そんなバカな……確かに、ミコトのことを想うことは多いけど……)

(オレは……オレは……ただ、コイツを……守りたい……守ってやりたいだけだ……)

(コイツは笑うとカワイくて、怒らせると面倒だけど、面白くって、ビリビリしてくるけど……それは別にどうってコト無くて……こいつの泣いてる顔だけは……絶対に見たくない……)

(ただ……ただ……それだけなのに……)

(それに……コイツは本当に『お姫様』で……オレは……オレは、ただの【勇者】でしか……無い……)

(『トーマは気づいていないだけ……。自分の気持ちを分かっていないだけ……。でも……その内に気付く……。アナタはミコト姫様のことが……』)

(自分の気持ちを分かっていない……?)

(オレは……オレは……ミコトのことをどう思っているんだ?)

(ミコトには……ミコトには……もっと相応しい相手が……)

(オレ何かより……ずっと相応しい……ヤツが……)

(コイツが……別の男と……オレ以外の男と……一緒に居る?)

『ドキッ!!!』

(うあッ……なっ……何だ?……胸の奥が……急に……締めつけられるような……)

(コイツが……ミコトが……オレ以外の男に……笑いかけている……)

(イヤだ……イヤだ……イヤだ!イヤだ!!イヤだ!!!そんなの、絶対にイヤだ!!!!!!!!)

「ヘッ……へヘッ……何だよ……何なんだよっ!?……コレはっ……この、この……訳の分からない感情はよっ!!!!!」

「ぅ……ん……トーマ……」

「えっ!?ミコトッ!?」

「えっ!?……あ……トーマ……トーマ……」

 目を覚まし、トーマの名を呼び続けてその両の手をトーマに向けてのばしながら、ポロポロと大粒の涙を流すミコト。
 どうしてイイか分からず、でもその涙だけは拭ってやりたいと、思わずミコトを抱き締めるトーマ。

「と、と、ととととトーマ?(トーマに抱き締められてるッ!?トーマが私を抱き締めてるッ!?……(ポンッ!!!)/////)」

「だ、大丈夫か?ミコトッ……ドコか痛いところとか、……無いのか?」

「……うん……大丈夫……」

「そうか……」

「うん……」

「……」

「……トーマの胸……大きくて、広くて……温かい……」

「あっ……ゴメン……」

「ダメ……ヤダ……放しちゃ……ヤダ。もっと……ずっと……このまま……このままがイイ」

「ミコト……姫様……」

「ヤダッ……『姫様』なんて呼ばないで。アナタの前では……私は……ただの女の子で居たい。一人の女の子で……居たいの……」

「そんな……そんなコト……」

「私はあなたが好き。アナタが、トーマが大好き。トーマでなきゃ、私はもう……私は……」

「でも……オマエは、ミコトは……ミコト姫様は……」

「……どうしてっ!?……どうして……そんな風にしか言ってくれないのっ!?……アナタが望むなら、私は……私は……」

「オレにそんな価値はないよ。オレは闘うことしか知らない……。ただの【勇者】でしかない……。オレなんかオマエに……相応しく……無い」

「相応しいとか、相応しくないとか、そんなの……そんなの関係無いッ!!!!!」

「ミコト……」

386見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:17:12 ID:ypJALfB.

「そんなコト言ったら、アナタはこの国を救った【勇者】なのよっ!!大国の『ア』の国や『ラウ』の国の侵攻を退けて国を守った英雄なのよっ!!!そんな人に私なんか……こんな辺境の土地の領主の娘でしかない……私なんて……全然相応しく……無い……」

「ばっ、バカ野郎!何言ってんだよっ!?オマエ以上のお姫様なんて、この世界中探したって何処にだって居やしねぇぞ!!!」

「えっ!?」

「都のインデックス姫なんてなァな、あんなのタダの大メシ喰らいだし、アイサ姫だって影が薄いっつーか、姫様って言うより巫女さんみたいな感じだし……、ヒョウカ姫は……アレはインデックス姫の友だちでしかないし、それから……それから……姫じゃないけど……オルソラとか、……カオリとか……、イツワとか……アニェーゼとか……シェリーとか……オリアナとか……他にも……えっと……」

「トーマ?(何か……ムカつく……む〜〜〜〜〜〜〜ッ)」

「とっ、とにかく……オレは、オマエ以上の女の子なんて、オマエ以上のお姫様なんて知らないんだよっ。オレにとっちゃ、オマエは『世界一』の女の子でお姫様なんだ!!!世界で一番大事で、世界で一番大切なヤツなんだよっ!!!!!!!!!」

「えっ!?」

「そんな『世界一』を、オレが独占してイイ訳がないだろう!?」

「……トーマ……あの……今、自分が何言ってるか……分かってる?(ポッ……/////)」

「ヘッ!?」

「それって、……私は世界一の女の子で、お姫様で……私が世界一大事で……世界一大切で……私を独占したいって言ってるのと……同じ……だよ?(ポンッ!!!……//////////)」

「えっ!?えっ!?えっ!?〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ええェェェェェェェっ!?」

「トーマって、……トーマって……ホントに……鈍感なんだね……。自分のことも……それ以外のことも……」

「オレは……オレは……ミコトが世界一の女の子で、世界一のお姫様で……世界委一大事で、世界一大切で……それを独占したい?」

「今、そう言ったんだよ?……分かってるの?……トーマ」

「オレが……ミコトが世界一のお姫様で……、世界一の女の子で……」

「うん……」

「オレ……が……?ミコトのことが世界一大事で、大切だ……って?」

「うんっ!!」

「そして……ミコトを独占したいって……オレが……そんなこと……言ったのか?」

「うんっ!!!!!」

「それって……オレが……ミコトのことを……『好き』ってコトじゃねぇか!?」

「うんっ!!!!!そうだよっ!!!!!!!!!!」

「ヘッ!?……えっ!?……アレ?……ミコトッ!?……えっ!……えっ!?……ええっ!!??……ウーン……」

「トーマ、えっ!?どうしちゃったの……?そんな、……急に押し倒すなんて……、ま、ま、まだ、告白もされてないのに……そりゃあトーマなら……イイけど……アレ?……トーマ?……トーマったら?……って、何でトーマが気絶してるのよっ!!!!!」

「ふ……ふ……ふにゃぁあぁぁぁぁああぁあぁぁあぁぁぁぁぁ……」

「ふにゃぁあぁぁ……じゃないわよっ……なんで、こんな……せっかくの告白なのに……。この後、優しくキスしてもらって……、永遠の誓いを一緒にして……、それで……それで……結ばれちゃったり何かしたりして……っていう予定だったのにぃ〜〜〜〜……トーマのバカァ〜〜〜〜!!!!!!!!!」

 必死に『お姫様』しようと頑張ってきたミコトだったが……最後の最後に『素』が出て……暴走気味のご様子。
 それにしても、最後の最後でツメを誤るところは……今も昔も変わってないようで……。
 でも、こんな告白って……アリなんですかね?

387見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:17:52 ID:ypJALfB.

(ん……?アレ?……オレ、どうしたんだっけ?)

(何か……柔らかいモノの上に……寝てるよーな……抱き締められてるよーな……)

(そう言えば……さっき……オレは……ミコトが……ミコトのことが『世界一』大事で……大切で……好きだって……)

(それに気が付いて……その……それを横で……ミコトが聞いてて……ええっ!?)

「あ……トーマ……起きた?」

「ヘッ……アレ……オレ……ワッ!?……わ、ワワッ……。あ……あの……ミコトッ!?」

「ダーメ、動いちゃ……、もうちょっとこのまま……ね♪」

「だって、オマエ……コレって……オレ、オマエの胸の上で……寝てる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「エヘヘ……放さないよ〜だ」

「ばっ、バカ野郎!……こんなの、誰かに見られたら……どうすんだよっ!?」

「イイよ……別に……トーマに襲われちゃったって……言っちゃうもん……(ポンッ!!!)/////」

「おっ、おまっ……オマエッ……言うに事欠いて、なんてコトをっ!?」

「だって、さっき……私のこと……『好き』って……言ってくれたんだもん……もう、嬉しくって……」

「あ……イヤ、そのッ……それはっ……えっと……だから……あの……うん……(ゴニョゴニョ)」

「トーマ?」

「えっ!?……何だよ?」

「まさか……さっきの……ウソ……とか言うんじゃ……」

「……うっ……い、……言わねぇよっ!!!……ミコトのことは……ホントに……好きだ……」

「……//////////」

「……ただ……」

「えっ!?」

「ただ……オレにとって、オマエが眩しすぎるって言うのも……本当なんだよ……」

「トーマ……」

「オレは、出来るなら……オマエと一緒に居たい。それは間違いない……と思う」

「トーマ……嬉しい」

「でもな……オレは【勇者】なんだよな。……いつ、闘いの中で死ぬか分からないんだ……」

「ッ!!!」

「そんな男と一緒に居てくれ。なんて……オレは……言えない……」

「でも……それでもっ……私は……アナタの傍に……居たい」

「ありがとう……ミコト……」

「トーマ……」

「だけど、オレ……オマエが泣くところを見たくないんだよな。オマエが泣いてたら……オレは……本当にどうしてイイか分からなくなるから……」

「私だって……私だって……トーマが死ぬなんて……考えても……居なかった……。でも……アナタは、世界を守る【勇者】なんだもんね……」

「だからさ……オマエのことは好きだけど……もう少し、待ってくれないか?」

「えっ!?」

「オレはもっともっと強くなるよ。強くならなきゃいけないんだ。オマエが泣かなくてすむように。オマエを泣かすことがないくらいに……オレは強くなってみせるよ。……だから……」

「……だから……?」

「それまで、オレが強くなるまで待ってて欲しい。必ず迎えに行くから。タビカケ様に「オマエをくれ」って言いに行くから。それまで待っていてくれないか?」

「トーマ……」

「必ず、必ず迎えに行く。絶対に、周りの誰からも文句が出ないくらい強くなって、必ずオマエを迎えに行くから……それまで待っていてくれ」

「トーマ……あの……それって?……もしかして……プロポーズ?」

「ヘッ!?……アレッ!?……オレ……テンパってて……何言ってたんだ?」

「……ホントに……トーマは、トーマなんだね……」

「へっ!?」

「自分の気持ちにも、相手の気持ちにも鈍感で……、何も考えてないクセに、要らないところには気が回って……、バカなクセに鋭くって……」

「オイ……」

「でも、いつも真っ直ぐで、いつも真剣で……、私を守ってくれる……世界で一番大切な……【勇者】様なんだね」

「ミコト……」

「私……待つ」

「えっ!?」

「トーマが私を迎えに来てくれるまで……待つね……」

「……ミコト……ありがとう……」

388見知らぬ記憶 3:2011/03/07(月) 00:18:43 ID:ypJALfB.

「でも……」

「えっ!?……『でも』ってなんだよ……『でも』って……」

「トーマって、約束守らないからなぁ……私がおばあさんになるまで、待たされたりして……」

「なっ!?何だとっ!?……おっ、オレが……オレがいつ『約束』を守らなかったって言うんだよっ!?」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ……ホントに忘れてるんだ……」

「ハァ?」

「ホンットに……忘れてるんだねっ!!!!!」

「だから……何のコトだよッ!?」

「……もう一回……」

「ヘッ!?」

「もう一回……飛んでくれるって……」

「ハァ?」

「もう一回……私をダッコして……空を飛んでくれるって……言った……」

「えっ!?……ああっ!!!」

「トーマは『またな』って言ったのに……その後……約束果たしに来てくれてないもん……」

「あっ……イヤッ……それはそのッ……だから……えっと……ううっ……ゴメン……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

「お、怒るなよ……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

「分かったよ、分かったって……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

「ケガが治ったら、すぐにしてやるから……なっ!?」

「一回じゃヤダ……」

「ヘッ!?」

「一回じゃ……ヤダもん……」

「……もう……分かったよ!」

「えっ!?」

「分かったって言ってるんだよっ!!」

「ホントに……?」

「ああ、……ミコトがイイって言うまで……してやるよ。ダッコして、空を飛んでやる」

「ホントにっ!?」

「ああ、ホントだ」

「ホントにホントだねっ!?」

「ああ、ホントにホントだ」

「ホントにホントにホントだねっ!?」

「ああ、ホントにホントにホントだよ」

「ホントにホントに……」

「オイ……しつこいと嫌われっぞ」

「うっ……む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「まあ、そこがミコトらしいっちゃミコトらしいけどな……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

「……で、……あの……あの……さ……ミコト……」

「何よ……」

「あの……いつまで、オレは……ミコトに抱き締められてれば……イイのかなって……?」

「あっ……ああっ……//////////」

「アレッ!?……オイ……離せよ……」

「ヤダ……」

「オイ……ミコト……」

「ヤダ……離したくない……離れたくない……」

「で、でもさ……重いだろ?」

「イイの……今は……トーマの重さを感じていたいから……」

「襲っちまっても知らねぇぞ……」

「イイよ……トーマなら……」

「本気にするなよ……出来る訳ねぇだろ……」

「だったら、してくれるまで離さない……」

「バカ……何言ってんだよ?」

「アナタに抱かれたい。私をアナタのモノにして欲しい」

「バカ言ってんじゃねぇよ……オレたちは今……約束したばかりじゃねぇか……」

「だから……だからこそ……今は……私に、アナタを……刻みつけて欲しい」

「ミコト……?」

「私を抱いて……アナタの印を私に刻んで欲しい」

「おっ……オイッ」

「私が、……私がアナタを待てるように……そして、アナタが私を忘れないように……」

「そんなことしなくったって……オレは……」

「私を安心させて欲しいの……お願い……」

「ミコト……」

「トーマ……あっ……ンッ……」



「……当麻……」

「……美琴……」

 『夢』から目覚めた二人に言葉など不要だった。
 ただ『夢』の中と同じように、互いを求め合い、互いを貪り、互いに互いを刻みつけて……、そして互いを愛しみ、互いを慈しんだ。
 今、二人は初めて結ばれ、一つになった。

389Mattari:2011/03/07(月) 00:25:15 ID:ypJALfB.
ということで、如何でしたでしょうか?

先に申し上げておきますが、まだまだ続きますんで……。^^;
それと、かなり前に次の刊が出るまでに云々……と言ってましたが、どうやら間に合いそうにありません。(;^_^A アセアセ…
基本ストーリーは出来ているのですが、その中間……というか「つなぎ」の部分にどうしても時間が……。

ただ、今回はどうしても、当麻と美琴が結ばれるところまで(と、そこに至るトーマ=当麻の心情)は書いておきたかったので……。
長くなりましたが、投下させて戴きました。

ではでは、お楽しみ頂ければ幸いです。<(_ _)>

390■■■■:2011/03/07(月) 00:32:55 ID:O0PgP3To
>>389
当麻の心情、完璧でしたよ。
とりあえず特濃コーヒーを用意して頂けませんか?

391■■■■:2011/03/07(月) 04:22:37 ID:Q7Zes0Vw
>>389
GJ、だから苦いコーヒーを(ry
これでまだ続くとか終着点が何処にあるのか楽しみですね

392■■■■:2011/03/07(月) 11:18:59 ID:aTLlo9xc
>>371 >>373
「補修」でwiki検索したら、意外とあって_| ̄|○
ぼちぼちと修正していきます。

>>389
そんなに急がなくても、自分のペースで頑張って!
        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

393まずみ:2011/03/07(月) 12:55:30 ID:rhjpclCo
皆様、こんにちは。
再びまずみです。
私のつたないSSに感想ありがとうございます。
以下、レスになります。

>>319
このお話はいかに美琴を可愛く書くかに全力を注ぎました。
やっぱ、美琴は当麻の前ではツン状態のほうが可愛いですよねw

>>320
とにかく男っぽいお見舞いということでああなりましたw
最初はフルーツ盛り合わせにしようかと思ったのですが、
それもどうかと思いまして^^;;;

>>337
「禁書SS」及び投稿は初めてになります。
とにかく、美琴を可愛く。がメインになりますw

さて、またSSが出来たので、投下させて頂きます。
前回の「風邪ひき美琴の見舞い事情」の続きとなります。

394『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 12:56:29 ID:rhjpclCo
「……んん〜」
「お、目が覚めたか」

 私は小さく背伸びをし、少し気だるさを感じながらもベッドから身を起こした。

「身体の調子はどうだ、美琴?」

 そう言って彼、上条当麻はベッドの上に腰かけ、私の顔を覗き込む。

「心配掛けてごめんね。もう、大丈夫だから。すっかり回復したか……」

 私の言葉が終わる前に、当麻が右手で私の前髪を掬いあげ、露わになった額に自分の額をくっつけてきた。

「……昨日よりは熱は下がったようだけど、まだ少し熱いな」

 そんなの当たり前だ。だって、私の目の前に当麻の顔があるんだもん。体温が上昇するのは仕方ないと思う



「まあ、とりあえず今日一日はゆっくりと休養することだ」

 そう言って、額を離す当麻。うう、もうちょっとだけくっつけていたって良いじゃない。昨日は風邪のせい

でキスさえできなかったんだから。
 当麻はそんな私の心を察知してかもう一度顔を近づけてくる。

「お姫様、何かして欲しい事はありませんか?」

 微笑みを浮かべたまま当麻が私に問いかける。そんなの決まってるのにわざわざ聞くなんて当麻は意地悪だ



「………………キス」

 私は顔を真っ赤にし、当麻と顔を合わせられなくなり、当麻から視線を外しながら今私がいちばんして欲し

い事を告げる。でも、恥ずかしさからちょっと小声になってしまった。

「よく聞こえないぞ、美琴。俺にわかるようにはっきりと大きな声で言ってごらん」

 やっぱり当麻は意地悪だ。私を苛めて喜んでる。顔は見えないけどきっと私が困る様を見てニヤニヤしてる

に違いない。

「…………キス」
「まだ聞こえないぞ」
「……キス」
「ほら、もう少し」
「当麻にキスしてほしい!!んっ!!」

 私が願望を声を大にして叫んだ瞬間、当麻はまるでぶつけるかのように唇を合わせてきた。それはとても激

しい情熱的なキスだった。あまりの激しさに私は意識を失いそうになる。

「と、うま……んっ……」

 唇を通して私の気持ちが、当麻の気持ちが、さらに絡み合う舌が情報ケーブルのようにお互いの深い愛情を

教えてくれる。

「好き!あっ、大好き!んあっ、当麻、大好きだよ!!」

 もう私は感情の制御なんて出来なかった。私の全てを当麻に知ってほしかった。だから、能力の制御なんて

今の私には不可能だった。


       *********

395『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 12:57:15 ID:rhjpclCo


「ん@げ!はんpそtfおい!?あdなのpjだお!!いhcヴぃおんvpqv!!!」

 御坂美琴の意識を現実に戻してのは、そんな意味不明の叫び声だった。

「……ん〜、夢か」

 美琴はゆっくりと背伸びをし、半覚醒状態の意識を朝の清々しい空気を胸一杯に吸い込む事によって覚醒さ

せる。

「それにしても、なんて夢を見てるのよ、私……」

 夢の中で上条当麻と現実ではあり得ない行為を行ってしまっている。それ自体に嫌悪感はない。いや、むし

ろ、可能ならばその段階まで進みたいと思わなくもない。
 そして、枕元に視線を移すと、そこには紙袋が一つ。昨日、上条当麻が風邪をひいた美琴の為にくれたお見

舞いの品が入っている。

「ふ、ふふふ、ふへぇ〜〜〜」

 紙袋を見た途端、夢の中身を思い出して顔の筋肉が弛緩し、すっかりだらしのない顔になってしまう。しか

も、漏電付きで。もっとも美琴の部屋はエレクトロマスターである美琴への対策として、部屋中に電撃対策が

施されているのでちょっとやそっとの漏電くらいでは問題ない構造になっている。あくまで、部屋は……だが



「お゛、お゛ね゛えざま……よ゛うやぐ、め゛をざまざれまじだが……」

 美琴は声のした方向に視線を向けると、そこには床の上で何故か黒焦げになって倒れている白井黒子の姿が

あった。

「黒子、あんた……何してるのよ?」
「な゛、な゛にも゛じでおりまぜんば……」

 弁明するかのような台詞の黒子に訝しげな視線を向ける。
 黒焦げになった理由は良く分からないが、おそらく黒子が美琴のベッドの中に潜り込もうとして無意識のう

ちに防御してしまったに違いないと推測する。なにせ、過去に黒子が美琴のベッドに潜り込み添い寝をしよう

としたのは一度や二度ではない。

「あんたも少しは懲りるという事を学びなさいよ」

 そう言いながら、美琴はバスルームへと消えていく。目覚ましの為のシャワーだろう。少しするとバスルー

ムから水音が聞こえてきた。

『お、お姉さまのシャワー……なのに、身体が言う事をききませんの……口惜しやですの……』

 未だ黒焦げ状態の黒子はシャワー室へのテレポートを夢見たまま、意識を失った。
 なお、すでに判っていると思うが、黒子が黒焦げになったのはベッドの中の美琴の悩ましい声で目を覚まし

、さらに「当麻、大好き」などとこれ以上ないくらいの微笑みを浮かべた寝言に対し逆上した黒子が美琴のベ

ッドに近づいた途端、夢と連動した美琴の能力が黒子を襲った為であった。実に恐ろしきはデレ美琴なり……


       *********

396『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 12:58:07 ID:rhjpclCo
 
 
 時は過ぎ、放課後の時間。
 美琴は再びいつもの公園で上条当麻を待っていた。

「うん。今日はちゃんとお見舞いの礼っていう口実があるし、べ、別に待ってても問題は無いわよね」

 顔を真っ赤にし、一人呟く美琴。
 今日は風邪からも回復し、学校へは普段通り登校したのだが、お見舞いの事、そして夢の事を思い出すたび

顔がにやけてしまい、周りの生徒から別の意味で心配されていたのは言うまでもない。

「今日はちゃんと素直に礼を言うのよ、美琴。もしかしたら、運が良ければ、二人の関係も進むかもしれない

し……」ニヘラ。

 何を想像したのか、とりあえず顔の筋肉が弛緩しっぱなしで、傍を通った子供が怖がって速足で遠ざかるよ

うな表情を浮かべていた。

「お、ビリビリ。久しぶりだな、身体はもういいのか?」

 懐かしい声に美琴は現実に引き戻される。
 たった2日なのにもう何ヶ月もこの声を聞いてなかったような錯覚を覚えてしまう。それくらいに待ち望ん

だ声だった。

「ビリビリじゃない!私の名前は御坂美こ…と……(プシュウ)」

 声のする方向に身体を向けていつものように対応しようとしたが、夢の中身を思い出してしまい、急に恥ず

かしくなり、顔を真っ赤にして、視線を外し、いつもの台詞が尻すぼみになってしまう。

「ん?なんだぁ?まだ身体の調子が悪いのか?」

 そんな美琴の態度に当麻は心配そうに顔を覗き込む。

「ふぎゃっ!な、なんでもないわよ!?別にどこも悪くなんてないわよ!!」

 目の前に当麻の顔が近づいた事により、さらに顔を真っ赤にする美琴。もちろん、視線を合わせる事なんて

出来ない。

「んー、どうみても熱があるようにしか見えないな……どれ?」

 そう言って当麻は右手で美琴の額の髪を掬いあげると、自分の額と美琴の額をくっつけた。

「っ!!!」

 その瞬間。美琴の脳内で今朝の夢がフラッシュバックする。

「……ん〜、大して熱はないようだけど、まだ少し熱いな。ほら、送ってやるから今日は大人しくしてろ」

 当麻は額を離し、美琴の手を取ろうとした。

「……………………て」
「なんだ?」

 美琴がなにかを呟いているのが聞こえた。

「…………………して」
「御坂さん?」
「………………スして?」
「ええと、何をすれば良いのでしょう?」

 美琴の言葉がうまく聞き取れない当麻は再度顔を近づける。

「……………キうにゃあぁぁぁ!!」

 その瞬間、完全に感情の制御を失った美琴は能力のコントロールも失い、全方位へと電撃を放つ。

「また、このパターンかよ!?不幸だぁーーーー!!!」

 そして、また上条当麻の叫びが公園に響き渡るのだった。


       *********

397『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 12:58:49 ID:rhjpclCo
 
 
「……あれ?私、なんで?」

 美琴が目を覚ますと視界に入ったのは、見慣れた部屋だった。

「ようやくお目覚めですの、お姉さま」

 そして、聞きなれた声。

「黒子、私なんで部屋に?」

 はっきりしない頭を振りながら、反対側のベッドに座っている黒子に問いかける。
 確か公園でアイツと会って……そこまでは思い出せるのにそれ以降の記憶がはっきりしない。いつ部屋に帰

ってきたのか全く覚えていなかった。

「ジャッジメントの業務を終えて帰宅の途中に見覚えのある顔の類人猿がお姉さまを抱えて走ってまして。て

っきり誘拐かと思って声(鉄矢)をかけた(打ち込んだ)ところ、お姉さまが急に倒れたため病院に運ばれて

る最中とのことでした。なので、私が代わりにお部屋までテレポートしてさしあげましたの」

 まあ、本当は当麻の腕の中にいる美琴があまりにも幸せそうな顔をして、しかも当麻の服を離そうとしなか

ったため、寮の前まで運ばせたのだが、悔しいので黒子はその事は黙っている事にした。

「そっか……また、迷惑かけちゃったな……」

 ベッドの上で神妙になる美琴。しかし、その口元に嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

『そっか、当麻が私を抱っこしてくれたんだ。お姫様だっこ。嬉しいよ。ふふ』

「お姉さま?また、なにか良からぬ事考えておられません?考えるなら、是非、私白井黒子の事だけを考えて

下さいまし!って、聞いておられますの!?お姉さま!?私を見て下さいませですの―!!!」

そして、また黒子の絶叫が寮内に響き渡るのだった。

398まずみ:2011/03/07(月) 13:03:37 ID:rhjpclCo
以上になります。

メモ帳からコピペしたのですが、なんか変なところで改行されてますね・・・
これって、もう一度投稿し直した方がいいのでしょうか?

もし、まとめの方で直して頂けるなら、すみません、
文章の間で改行されているところは続けて頂けますようお願い致します。

399まずみ:2011/03/07(月) 15:03:52 ID:rhjpclCo
何度も申し訳ありません。
『夢見る美琴のキス事情』ですが、やはり現在の状態では読みにくいので、修正版を再度投稿させて頂きます。
管理者様には申し訳ないのですが、394-397は削除して頂けますでしょうか。
お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

以下、再投稿となります。

400『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 15:04:29 ID:rhjpclCo
「……んん〜」
「お、目が覚めたか」

 私は小さく背伸びをし、少し気だるさを感じながらもベッドから身を起こした。

「身体の調子はどうだ、美琴?」

 そう言って彼、上条当麻はベッドの上に腰かけ、私の顔を覗き込む。

「心配掛けてごめんね。もう、大丈夫だから。すっかり回復したか……」

 私の言葉が終わる前に、当麻が右手で私の前髪を掬いあげ、露わになった額に自分の額をくっつけてきた。

「……昨日よりは熱は下がったようだけど、まだ少し熱いな」

 そんなの当たり前だ。だって、私の目の前に当麻の顔があるんだもん。体温が上昇するのは仕方ないと思う。

「まあ、とりあえず今日一日はゆっくりと休養することだ」

 そう言って、額を離す当麻。うう、もうちょっとだけくっつけていたって良いじゃない。昨日は風邪のせいでキスさえできなかったんだから。
 当麻はそんな私の心を察知してかもう一度顔を近づけてくる。

「お姫様、何かして欲しい事はありませんか?」

 微笑みを浮かべたまま当麻が私に問いかける。そんなの決まってるのにわざわざ聞くなんて当麻は意地悪だ。

「………………キス」

 私は顔を真っ赤にし、当麻と顔を合わせられなくなり、当麻から視線を外しながら今私がいちばんして欲しい事を告げる。でも、恥ずかしさからちょっと小声になってしまった。

「よく聞こえないぞ、美琴。俺にわかるようにはっきりと大きな声で言ってごらん」

 やっぱり当麻は意地悪だ。私を苛めて喜んでる。顔は見えないけどきっと私が困る様を見てニヤニヤしてるに違いない。

「…………キス」
「まだ聞こえないぞ」
「……キス」
「ほら、もう少し」
「当麻にキスしてほしい!!んっ!!」

 私が願望を声を大にして叫んだ瞬間、当麻はまるでぶつけるかのように唇を合わせてきた。それはとても激しい情熱的なキスだった。あまりの激しさに私は意識を失いそうになる。

「と、うま……んっ……」

 唇を通して私の気持ちが、当麻の気持ちが、さらに絡み合う舌が情報ケーブルのようにお互いの深い愛情を教えてくれる。

「好き!あっ、大好き!んあっ、当麻、大好きだよ!!」

 もう私は感情の制御なんて出来なかった。私の全てを当麻に知ってほしかった。だから、能力の制御なんて今の私には不可能だった。


       *********

401『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 15:05:19 ID:rhjpclCo
 
 
「ん@げ!はんpそtfおい!?あdなのpjだお!!いhcヴぃおんvpqv!!!」

 御坂美琴の意識を現実に戻したのは、そんな意味不明の叫び声だった。

「……ん〜、夢か」

 美琴はゆっくりと背伸びをし、半覚醒状態の意識を朝の清々しい空気を胸一杯に吸い込む事によって覚醒させる。

「それにしても、なんて夢を見てるのよ、私……」

 夢の中で上条当麻と現実ではあり得ない行為を行ってしまっている。それ自体に嫌悪感はない。いや、むしろ、可能ならばその段階まで進みたいと思わなくもない。
 そして、枕元に視線を移すと、そこには紙袋が一つ。昨日、上条当麻が風邪をひいた美琴の為にくれたお見舞いの品が入っている。

「ふ、ふふふ、ふへぇ〜〜〜」

 紙袋を見た途端、夢の中身を思い出して顔の筋肉が弛緩し、すっかりだらしのない顔になってしまう。しかも、漏電付きで。もっとも美琴の部屋はエレクトロマスターである美琴への対策として、部屋中に電撃対策が施されているのでちょっとやそっとの漏電くらいでは問題ない構造になっている。あくまで、部屋は……だが。

「お゛、お゛ね゛えざま……よ゛うやぐ、め゛をざまざれまじだが……」

 美琴は声のした方向に視線を向けると、そこには床の上で何故か黒焦げになって倒れている白井黒子の姿があった。

「黒子、あんた……何してるのよ?」
「な゛、な゛にも゛じでおりまぜんば……」

 弁明するかのような台詞の黒子に訝しげな視線を向ける。
 黒焦げになった理由は良く分からないが、おそらく黒子が美琴のベッドの中に潜り込もうとして無意識のうちに防御してしまったに違いないと推測する。なにせ、過去に黒子が美琴のベッドに潜り込み添い寝をしようとしたのは一度や二度ではない。

「あんたも少しは懲りるという事を学びなさいよ」

 そう言いながら、美琴はバスルームへと消えていく。目覚ましの為のシャワーだろう。少しするとバスルームから水音が聞こえてきた。

『お、お姉さまのシャワー……なのに、身体が言う事をききませんの……口惜しやですの……』

 未だ黒焦げ状態の黒子はシャワー室へのテレポートを夢見たまま、意識を失った。
 なお、すでに判っていると思うが、黒子が黒焦げになったのはベッドの中の美琴の悩ましい声で目を覚まし、さらに「当麻、大好き」などとこれ以上ないくらいの微笑みを浮かべた寝言に対し逆上した黒子が美琴のベッドに近づいた途端、夢と連動した美琴の能力が黒子を襲った為であった。実に恐ろしきはデレ美琴なり……


       *********

402『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 15:06:13 ID:rhjpclCo
 
 
 時は過ぎ、放課後の時間。
 美琴は再びいつもの公園で上条当麻を待っていた。

「うん。今日はちゃんとお見舞いの礼っていう口実があるし、べ、別に待ってても問題は無いわよね」

 顔を真っ赤にし、一人呟く美琴。
 今日は風邪からも回復し、学校へは普段通り登校したのだが、お見舞いの事、そして夢の事を思い出すたび顔がにやけてしまい、周りの生徒から別の意味で心配されていたのは言うまでもない。

「今日はちゃんと素直に礼を言うのよ、美琴。もしかしたら、運が良ければ、二人の関係も進むかもしれないし……」ニヘラ。

 何を想像したのか、とりあえず顔の筋肉が弛緩しっぱなしで、傍を通った子供が怖がって速足で遠ざかるような表情を浮かべていた。

「お、ビリビリ。久しぶりだな、身体はもういいのか?」

 懐かしい声に美琴は現実に引き戻される。
 たった2日なのにもう何ヶ月もこの声を聞いてなかったような錯覚を覚えてしまう。それくらいに待ち望んだ声だった。

「ビリビリじゃない!私の名前は御坂美こ…と……(プシュウ)」

 声のする方向に身体を向けていつものように対応しようとしたが、夢の中身を思い出してしまい、急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして、視線を外し、いつもの台詞が尻すぼみになってしまう。

「ん?なんだぁ?まだ身体の調子が悪いのか?」

 そんな美琴の態度に当麻は心配そうに顔を覗き込む。

「ふぎゃっ!な、なんでもないわよ!?別にどこも悪くなんてないわよ!!」

 目の前に当麻の顔が近づいた事により、さらに顔を真っ赤にする美琴。もちろん、視線を合わせる事なんて出来ない。

「んー、どうみても熱があるようにしか見えないな……どれ?」

 そう言って当麻は右手で美琴の額の髪を掬いあげると、自分の額と美琴の額をくっつけた。

「っ!!!」

 その瞬間。美琴の脳内で今朝の夢がフラッシュバックする。

「……ん〜、大して熱はないようだけど、まだ少し熱いな。ほら、送ってやるから今日は大人しくしてろ」

 当麻は額を離し、美琴の手を取ろうとした。

「……………………て」
「なんだ?」

 美琴がなにかを呟いているのが聞こえた。

「…………………して」
「御坂さん?」
「………………スして?」
「ええと、何をすれば良いのでしょう?」

 美琴の言葉がうまく聞き取れない当麻は再度顔を近づける。

「……………キうにゃあぁぁぁ!!」

 その瞬間、完全に感情の制御を失った美琴は能力のコントロールも失い、全方位へと電撃を放つ。

「また、このパターンかよ!?不幸だぁーーーー!!!」

 そしてまた上条当麻の叫びが公園に響き渡るのだった。


       *********

403『夢見る美琴のキス事情』:2011/03/07(月) 15:07:08 ID:rhjpclCo
 
 
「……あれ?私、なんで?」

 美琴が目を覚ますと視界に入ったのは、見慣れた部屋だった。

「ようやくお目覚めですの、お姉さま」

 そして、聞きなれた声。

「黒子、私なんで部屋に?」

 はっきりしない頭を振りながら、反対側のベッドに座っている黒子に問いかける。
 確か公園でアイツと会って……そこまでは思い出せるのにそれ以降の記憶がはっきりしない。いつ部屋に帰ってきたのか全く覚えていなかった。

「ジャッジメントの業務を終えて帰宅の途中に見覚えのある顔の類人猿がお姉さまを抱えて走ってまして。てっきり誘拐かと思って声(鉄矢)をかけた(打ち込んだ)ところ、お姉さまが急に倒れたため病院に運ばれてる最中とのことでした。なので、私が代わりにお部屋までテレポートしてさしあげましたの」

 まあ、本当は当麻の腕の中にいる美琴があまりにも幸せそうな顔をして、しかも当麻の服を離そうとしなかったため、寮の前まで運ばせたのだが、悔しいので黒子はその事は黙っている事にした。

「そっか……また、迷惑かけちゃったな……」

 ベッドの上で神妙になる美琴。しかし、その口元に嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

『そっか、当麻が私を抱っこしてくれたんだ。お姫様だっこ。嬉しいよ。ふふ』

「お姉さま?また、なにか良からぬ事考えておられません?考えるなら、是非、私白井黒子の事だけを考えて下さいまし!って、聞いておられますの!?お姉さま!?私を見て下さいませですの―!!!」

そして、また黒子の絶叫が寮内に響き渡るのだった。

404まずみ:2011/03/07(月) 15:11:49 ID:rhjpclCo
以上になります。

同じ作品の連投になってしまい、申し訳ありませんでした。
今後は注意し、投稿させて頂きます。

次の作品に関して考えているのですが、このままこのシリーズを書いていくか、
全く新しい話を書くかで思案中です。

それでは、次の作品をお見せできるよう頑張ります。

405■■■■:2011/03/07(月) 15:27:32 ID:IDO5DKwk
GJ!
美琴相変わらず可愛いな

406■■■■:2011/03/07(月) 15:59:38 ID:aTLlo9xc
>>404
黒子www

改行とか、次から気をつければいいと思うよ。

    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

407■■■■:2011/03/07(月) 17:14:07 ID:Q7Zes0Vw
>>404
GJ
しかしなんて夢見てるんだ……健全じゃないか!!

いつも自分で書いてる分と他の人の分を見て思うことは
僕って文章量少ないなぁ、というところ

そんなわけで明後日ぐらいに投下します。多分

408:2011/03/07(月) 18:38:53 ID:Pgjqz16U
よし!誰かコーヒー(激苦)持ってきてくれ

GJ!

409■■■■:2011/03/07(月) 23:41:33 ID:TirFmdYc
404gJ乙

410■■■■:2011/03/08(火) 19:34:36 ID:QxmN7F/U
GJ!

411■■■■:2011/03/09(水) 00:41:43 ID:X7DpHenk
>>404
GJ!
ぶっちゃけると文章うまい人って改行とか気にしなくてもそんなにグダグダしないから俺は普通に読めます!

>>389
本当にGJです!
普通の上琴でも十二分なんですが、こういう話を書いてくれる書き手はなかなかいないので尊敬します!


ところでMattari氏はPS3から書き込んでたりしたりして
ってないか

412まずみ:2011/03/09(水) 16:24:39 ID:IWnA1NOA
皆様、こんにちは。まずみです。

またもSSに感想ありがとうございます。
皆様の感想が私の創作の力になります。

以下、レスになります。

>>405
美琴可愛よ、美琴。が私のSSの全てですw

>>406
私のSSでは何気に黒子が良いところを占めてます。
なので、今後も黒子の活躍をお楽しみくださいw

>>407
恐らく過去のいちゃいちゃSSのなかではこの話の夢なんかは
大人しい部類だとはおもうのですが、どうでしょうw

>>408
 つ(黒子入りコーヒー) 美琴以外には苦いはずですw

>>409,410
 ありがとうございます

>>411
 文章に関しては毎回試行錯誤ですので、自分なりに頑張ってはいるつもりです^^;;;
 でも、まだまだつたない部分や誤字脱字の多さが目につくので、その辺はご容赦をw

さて、またSSが出来たので、投下させて頂きます。
引き続き続編です。
ということで、このシリーズ
「恋する美琴の恋愛事情」としてシリーズ化とします。

それでは『目撃美琴の嫉妬事情』をお楽しみください。

413『目撃美琴の嫉妬事情』:2011/03/09(水) 16:25:35 ID:IWnA1NOA

 御坂美琴にとって上条当麻と言う少年は様々な意味で特別な存在である。
 ひとつに、学園都市最高の7人の超能力者(レベル5)第3位である美琴に対し、分け隔てなく(むしろ無遠慮なくらい)接してくれる人間である事。
 ひとつに、美琴のDNAマップを使い量産されたクローン"妹達(シスターズ)"を絶対能力進化(レベル6シフト)実験と言う名の殺戮から救い出してくれた命の恩人である事。
 そして、ひとつに、美琴自身は知らない事になっている「御坂美琴とその周囲の世界を守る」という約束をしてくれた美琴にとってのヒーローである事。
 それ以外にも要因を挙げればきりがない程に美琴の心に上条当麻と言う存在が占める割合は非常に高い。
 そのためか、美琴の感情は彼の一挙一動に激しく掻き乱され、気が付けば彼を想い時間の経過を忘れると言う事も珍しくもない状態であった。

「べ、別にあんな奴の事なんて何とも思ってないわよ!」

 とは、本人の弁だが、そのセリフを顔を真っ赤にして、視線をうろたえさせ、しかも、その台詞の後に部屋に帰ってから後悔してベッドに突っ伏すような状態から、美琴を知る人間なら誰もが恋している事に気付くだろう。まあ、本人も自覚しているようなので、そこに突っ込むような野暮な人間は当麻を目の敵にしている白井黒子以外いないのだが。

 さて、そんな御坂美琴だが、毎日のように上条当麻を探して彼の登下校経路となる公園に待機していたり、偶然出会えれば、嬉しさのあまり「勝負しなさい!」などと声をかけたりはするが、全くと言っていい程素直に自分の気持ちを伝える事は出来ていない。
 そんな様子が御坂美琴を知る友人の一人である佐天涙子に言わせれば「かわいいのぅ…」とのことなのだが、進展の無さに美琴自身凹んでしまっていたりもする。

「アイツにとって私ってどんな存在なんだろう……」

 詰る所、美琴の悩みはそこに集約される。
 今まで美琴にとって他人とはある程度の距離を取って当たり前の存在であり、近づきすぎる事は無かった(白井黒子や初春飾利、佐天涙子という例外はいるが)。そのためか、ここまで他人の気持ちを知りたいと思わなかったし、知る事に対する恐怖を抱く事は無かった。
 つまり、初めての例外が上条当麻と言う存在であり、初めて異性として気になる男性なのだ。

 そして、今日も今日とて御坂美琴は自分の気持ちを欺きつつも、己が欲望に忠実に行動を開始するのであった。


      ********

414『目撃美琴の嫉妬事情』:2011/03/09(水) 16:26:13 ID:IWnA1NOA
 
 
「そろそろ通るころよね……」

 美琴は腕時計の時間を確認しつつ、公園の入り口に視線を合わせる。普段なら大体このくらいの時間に目的の人物はここを通るのだが、残念ながらまだその気配はない。

「〜〜〜♪」

 美琴の形の整った小さな鼻からアップテンポのリズムが刻まれる。
 昔では考えられなかったことだが、上条当麻への恋心を自覚して以来、こうして待つ時間さえも楽しく感じられるようになった。なんだか小さな事に悩んでいた自分が馬鹿らしくなるなぁ、と美琴は自分の変化に嬉しさを感じてしまう。そんな変化を察知した黒子が壁に向かって「あの類人猿がぁ!!」とヘッドバッドしていたのはここだけの秘密だ。

「あっ」

 そうこうしているうちに公園の入口に見覚えのあるシルエットが目に入る。特徴あるツンツン頭をしている学生などお目当ての人物以外にはいまい。

「このぉ、遅い…ぞ……」

 いつものように照れ隠しの憎まれ口を叩きながら、電撃を浴びせようとした瞬間、当麻の隣にもう一つ別の影を見つける。しかも、それは美琴のよく知る修道服を着たシスターとは別人だ。

「え?誰?」

 何も悪い事はしていないのだが、美琴は二人に見つからないように自販機の裏に隠れた。

「……また違う女性……」

 当麻に女性の影が付きまとうのは今回に限った話ではない。ある時は大人しそうな胸の大きな年上女性が、ある時は際どい恰好をした胸の大きなやはり年上女性が、ある時は大覇星祭の実行委員をしていたやはり胸の大きな女性が当麻の傍にいた事を知っている。

『……考えてみたらみんな胸の大きな人ばかりじゃないのよ……』

 と、自分の胸を見てみるが、見たところで変化は無いので、とりあえず棚上げしておく。そんなことより今は当麻とその連れの女性である。

「……そしたら、青ピのやつが……」
「そうなんだ……」

 仲良く並ぶ二人は楽しそうに会話している。連れの女性、日本人形のように長い黒髪を揺らす同級生と思われるその女生徒は表情に乏しいのか、美琴のように感情の変化はあまり感じられないが、恋する乙女として、彼女も当麻と会話する事が非常に嬉しく感じている事は解ってしまう。
 そして、その光景を眺める美琴は、ズキリと胸の奥に謎の痛みを感じてしまう。

「やだなぁ、なんでこんな気持ちになるんだろ……」

 今すぐ飛び出して二人の会話の邪魔をしたい。そして、当麻をあの女性から引き離したい。そんな欲望が美琴の心を支配しそうになる。

『でも出来ないよね……』

 そんな事をすればあの女性が悲しむのが判ってしまう。自分が同じことをされれば、どれだけ辛いか、理解できてしまう。

『・・・・・・』

 だから今の美琴に出来る事は黙ってこの場を後にする事だった。
 胸の奥の痛みがさらに増した気がしたが、それでもなんとかそれを誤魔化しながら美琴は公園を後にした。

「……?」
「どうしたの、上条君?」

 何故か急にその場に立ち止まり辺りを見回す当麻に、連れの女性、姫神愛沙は不思議そうに首をかしげる。

「いや、普段ならこの辺でビリビリーっと電撃が飛んでくるはずなんだけどな……」
「……何の話?」

 姫神には言葉の意味は理解できなかったが、なんとなく女性の影がちらついた気がしたので、「天罰」と称して鞄の角で当麻のお尻を叩いておいた。

「何するんだよ、姫神ぃ……」

 理不尽な暴力に抗議を示すが、姫神は我関せずといった様子で先を進んでいく。
 なにか悪い事をしたのか?と当麻は頭上に?マークを浮かべながらいつもの口癖を呟く。

「ふ、不幸だ……」


      ********

415『目撃美琴の嫉妬事情』:2011/03/09(水) 16:27:03 ID:IWnA1NOA
 
 
「・・・・・・」

 寮に戻ってからも美琴は自分の気持ちに悩まされていた。
 部屋に戻った時、白井黒子の姿は無かった。それが美琴にはとてもありがたかった。今の美琴の顔を見ればきっと黒子の事だから心配して色々と立ち回るだろう。それが解るだけに余計に今の表情は見せられない。
 美琴はさっさとシャワーを浴びて、パジャマに着替えると、ベッドの中に入る。体調不良だという事にすれば黒子に表情を見られずに済むからだ。

「当麻の隣にいた女性……」

 美琴ですら男性的にみてあの子が可愛いと感じずにはいられない女性であることは判った。だからこそ、美琴の中にある種の感情が湧きあがるのが止められなかった。
 あのとき感じた気持ち。上条当麻の隣にいる女性に向けたどす黒い気持ち。その正体が何なのか、美琴には理解できている。だからこそ自分が許せなかった。

『私って嫌な女なのかな……』

 思い返せば「幻想御手(レベルアッパー)事件」において無能力に苦しむ佐天涙子の気持ちを汲むことが出来なかった。また、「乱雑開放(ポルターガイスト)事件」でも、自分の生徒たちの解放に奔走する木山春生の想いも汲みとる事が出来なかった。そう考えれば、自分がいかに他人を理解せず、独りよがりな性格をしているのかを痛感してしまう。

「当麻ぁ……」

 それでもやはり美琴は諦められなかった。
 今までどんな困難にも立ち向かい、勝利を勝ち取ってきた彼女にとって、自分の想いを裏切るような事は出来なかった。だから決意する。

「明日、私の想いを告白する」

 その決心に揺らぎはない。
 確かに、彼に既に好きな人がいて、自分の出番などが無い状態であっても、立ち止まれない。それが御坂美琴という人間なのだから。

「ただいまですの」

 部屋の扉が開く音がして、部屋の中に白井黒子が入ってくる。そして、美琴のベッドの盛り上がりを見て黒子は心配そうに声をかけた。

「お、お姉さま、何かありましたのでしょうか?も、もしや、あの類人猿めがお姉さまに何かしやがりましたのでしょうか!?ゆ、許すまじ、類人猿!!」

 と、勝手に事件を想像し一人盛り上がる黒子。まあ、何もできなかったから今の状態なんだけどね……とは、流石に口が裂けても言えなかった。

「大丈夫よ、黒子。ちょっと体調がすぐれないだけ。一晩寝て、回復するから、今日は休ませてね」

 布団から顔を出さずにそんな事を言う美琴に何か思うところがあるのか、黒子はしばらく立ち止まっていたが、表情を崩すと

「判りましたわ。ではお姉さま、明日の朝はまたいつもの笑顔をお見せくださいませ」

と、自分の机に戻っていった。

『うん。必ず』

 パートナーの心遣いに美琴は荒れる心が落ち着き、安らかな眠りにつく事が出来た。


      ********

416『目撃美琴の嫉妬事情』:2011/03/09(水) 16:28:34 ID:IWnA1NOA
 
 
 そして、朝。
 普段よりも早くに起きた美琴は制服に着替えると、慌ただしく部屋を出て行った。同室の黒子を起こさないようにと気を配ってはいたためか、黒子が起き出す気配はなかった。実際、黒子は既に目を覚ましていたのだが、美琴に余計な気配りをさせないために寝た振りを続けていたのだが。

「行ってらっしゃいませ、お姉さま」

 美琴が出て行き、扉が閉まった後、黒子はそっと呟いた。

 数十分後、美琴の姿はいつもの公園にあった。
 早朝とだけあって、人影はなく、空気は冷たかったが、おかげで美琴の思考はよりはっきりとする事が出来た。

「さて、本当の勝負はこれからよ、御坂美琴」

 上条当麻の出没は運任せだ。
 どこにでも現れるし、どこにもいない場合もある。
 世界中飛びまわってたかと思えば、学園都市のふとしたところで出会う事もある。
 それでも、この公園が美琴と当麻にとっては馴染み深い場所である限りは、ここで待つべきなのだ。

「今日こそ」

 昨日の決断は未だに揺らぐ事は無い。
 そして、先に延ばしていい事でもない。
 だからこそ、こんな朝早くから美琴はスタンバっている。嫌なことから逃げない美琴らしい作戦なのだ。

「普段のアイツの行動からいえば学校に間に合わせるために通る時刻が朝8時。遅刻ギリギリ通るとしても30分の遅れ程度。そうなるとまだまだ時間はあるわね」

 例外的に早く出る場合を考えての今の時間だが、やはり心を落ち着かせる事も目的である。余裕の無い状態で告白での失敗は許されない。

スー ハー スー ハー

 深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
 そうだ、自分はレベル5。超電磁砲の御坂美琴なんだ。怖いものなんてない。
 そう言い聞かせるが、それでも怖い物は怖い。特に「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」すら凌駕するこの気持ちは第1位と対峙したときよりも恐怖感を与えてくれる。だから

417『目撃美琴の嫉妬事情』:2011/03/09(水) 16:29:02 ID:IWnA1NOA
「(ポンッ)何してるんだ、こんな時間にビリビリ」

 と、背後から肩を叩かれたときには飛び上るほど驚いてしまった。

「!!?っ!! !? !!!」

 しかも、驚きすぎて声にすらならない状態で、振り返るとそこには目的の少年がいた。

「あー、スマン。驚かせたか。って、落ち着けよ、御坂……」

 美琴のあまりのパニック状態に流石の当麻も罪悪感を感じたか、美琴の目線に合わせて両肩を掴み落ち着かせようとする。

「!!な、なんで!?」

 ようやく声を出せた美琴が言えた言葉はその疑問詞だけだった。

「あー。ほら、昨日御坂と会わなかっただろ。なんか毎日会ってたのに、昨日は会えなかったからさ、なんか物足りなくてな。で、今日は朝早く出れば会えるような気がして」

 当麻は照れくさそうに髪をいじる。

「昨日はあれだったんだぞ。御坂がいない珍しい状況だったから、公園で2時間も待ってしまって風邪ひくかと思ったんだぞ」

 自分を待ってくれてた。
 当麻のその台詞に美琴は感極まりそうになった。もちろん表情は変えずに、あくまで冷静な態度を取り続けている。

「ふーん、アンタはそんなに私に会うのが楽しみだったんだ?」

 そうだ、私はそれを楽しみにしてたんだ。
 二人だけの時間。そこにそれを求めて、私はいつも楽しみに待ってたんだ。

「はは。まあ、上条さん的には御坂に追い回されるのはご免こうむりたいんだけどな。それでも、やっぱりあの時間が楽しかったみたいだ。おかげで姫神には怒られたけどな」

 恐らく、その姫神ってのが昨日の女性の名前だろう。
 そして、怒られて当然の行為を当麻はしたのだ。でも、そのことがとても嬉しく思えてくるからどうしようもない。

「じゃあ、これからも追い回していいのね?」

 ううん。追いかけるだけじゃない。叶うなら二人並んで歩きたい。同じ速度で歩みたい。

「いや、追いかけまわされるのはもうご免だけど。でも、御坂と同じ時を過ごすのは悪い気はしないし、これからもお願いしたいかな」

 あー、もう。この男は判っていってるのだろうか。いや、理解しろって方が無理なのだろうけど、その台詞はプロポーズなんだぞと言いたくなる。だから、顔の筋肉が弛緩してもう表情を作る事なんて出来そうになかった。

「御坂?」

 もちろん、顔だけじゃない。体中の筋肉が、精神が、魂が弛緩する。

「う……」
「う?」
「……うにゃあああぁぁぁぁ!!!!」
「って、またかよー!!」

 そしてその結果は相変わらずの電撃漏電となり、当麻はしばらく漏電対策の為、美琴の頭に右手を置いたまま過ごす事になった。

「……ああ、不幸だ……」

 結局、こうして美琴の告白はうやむやになってしまうのだが、なんとなく美琴はそれでいい気がしていた。
なにせ、こうやって当麻は自分を見ててくれる。心配してくれる。甘えさせてくれる。今はその幸せに浸るだけで良いような気がした。

「ふふふ、とうみゃぁ〜〜……」
「何故に猫語なんですか、美琴さん……」

 根本的な解決になってないけど、もし今後この関係に変化が現れた時こそ自分の気持ちを伝えるべきだろう。だからもうしばらくの間だけ、私のわがままに応えなさい。大好きな当麻。

418まずみ:2011/03/09(水) 16:33:16 ID:IWnA1NOA
以上になります。

さて、今回の話、美琴にとってはつらい話になってしまいました。
しかし、恋愛の成長って意味ではどうしても避けて通れない道だろうな、と思い書く事にしました。

恐らく読む人によって様々な感想を持つと思います。
特に告白を決意しておいて結局していない美琴には賛否あると思います。
でも、急に成長させるよりは木々をはぐくむようにゆっくりと成長させる必要があるのではないかと思ったりします。

ということで、今後の二人の成長を見守って頂ければなと思っています。
よろしければ、感想など頂けますれば大喜びしますので、よろしくお願いいたします^^

419■■■■:2011/03/09(水) 17:07:56 ID:FboB6Cxg
>>418
シリーズ化した・・・・・・だと?
素晴らしいです、GJ

420:2011/03/09(水) 17:25:49 ID:XG/LYsKY
これは...いい! GJ!

421■■■■:2011/03/09(水) 23:21:08 ID:jyrQmMk6
>>418
最終的にはくっついてほしいけど
なぜかくっつく寸前までいく話の方が面白いですね
上条さんはやはり最強に鈍いから魅力的なのだ

422■■■■:2011/03/10(木) 00:54:05 ID:a1dAsSJ.
>>418
美琴の乙女心すごく共感できました♪
シリーズ化とかすごく嬉しいです。
続き楽しみにしてます!

423■■■■:2011/03/10(木) 01:12:21 ID:FT/6wMGI
嫉妬って自分じゃどうしようもなくて苦しいよね
自分が嫌になる感じとか共感しちゃう///

乙でした

424■■■■:2011/03/10(木) 12:30:53 ID:.vbevg2Y
>>418
まずみさんGJです〜。
当麻君優し過ぎですね〜。w

次が楽しみなのです〜。

425■■■■:2011/03/10(木) 15:47:24 ID:uQ9hpB5A
ジレンマに悩んだ挙句結局作品を書き上げてしまったので投下します

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆注意!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
年齢逆転っていう壮大なIfストーリーです。
普通の上琴が見たいという方は6レスほどスルー推奨。

Ifストーリーなので一部設定が改変されてます。
そういうの苦手な人もスルー推奨。

この注意書きを読んだ上で作品を読んで上記の事項に該当して文句言われても困ります。
ダメだと思ったら本気でスルー推奨。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆注意!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

誰かと投下タイミングかぶってなければ、2分後ぐらいから投下します

426『もし年齢が逆転してたら?お試し版』:2011/03/10(木) 15:49:27 ID:uQ9hpB5A

6月某日

「あぁん、聞いてんのか?」
-----別に彼ら(通行人)が薄情なわけじゃない
「おいおい、脅かすなって、怖がってんだろこいつ。ははは」
-----如何にレベル0とはいえ相手は7人もいるのだ
「てめえ、さっきから黙って、スカしてんのかぁ!!」
-----いくら能力が使えてもこの人数を相手にするなど難しいだろう
「ねえねえ、君常盤台でしょ。お金沢山持ってるんだろうねぇ」
-----知らない人間の不幸のために割り込んでくる人間なんていやしない
「ってか反応ないならちゃっちゃとやっちまおうぜ」
-----普段から慕ってくれている後輩ならこういう時は『何故か』時間を置かずに駆けつけてくれる
「おっ、それサンセー」
-----恐らく今回も気付いてくれるだろう。だから今やることは後輩が来るまでの時間を……

「アンタ達、なにやってんの」

それが常盤台中学校に所属する異色の無能力者『上条当麻』と学園都市で7人しかいないレベル5『御坂美琴』の出会いだった。

427『もし年齢が逆転してたら?お試し版』:2011/03/10(木) 15:49:54 ID:uQ9hpB5A

「アンタ達何やってんの?」
御坂美琴は不機嫌そうな顔で周りを見渡しそう言い放った。
たまたま今回は友人達との付き合いで遅くなったためにこの現場に居合わせたが、
そうでなかったらと考えると彼女はこの時間まで引っ張りまわした友人達に少しだけ感謝をした。
「なんだお嬢ちゃん。お嬢ちゃんが坊主の代わりに相手をしてくれるのかぁ?」
「お、そりゃいいねぇ。この子スタイルいいし可愛いし。満足させてくれそうじゃないか」
(ふんっ、下卑た発想ね。男って何でそんな事しか考えないのかしら)
助けに入ったのはいいが、早くも少年を囲んでいた男達に対して嫌悪感しか感じない御坂美琴は毅然と言い放った。
「くだらないわね。中学生の子どもを7人で囲むことしかできなくてその次は自分達の欲望を満たすために女の子を変な目で見る」
「何だとてめえっ。人が下手に出てればぬけぬけと。少し顔がいいからって調子にのってんじゃねえぞ!!」
「怒鳴れば相手を萎縮させることができると思ってるの?私はね、アンタ達みたいな輩が嫌いなのよ!!」
御坂美琴と7人の不良、どちらも剣呑な空気を出し始めたところに忘れ去られていた人物から声が掛けられた。
「あー、お兄さんお姉さん方や。喧嘩はよくありませんよ。ここは話し合いでですね……」
「「てめえ(アンタ)は黙ってろ!!」」
0.2秒で却下されたため、上条当麻は「俺、当事者だよな?」と呟きつつ、後輩が早く来てくれることを祈った。

「口で言っても分からないガキには身体で分からせてやるしかないようだな」
「ひゃはは、朝まで帰れないかもしれないけど気にしないでね」
「朝どころかいつ帰れるか分かんないけどなー」
男達の言葉を聞いてる御坂美琴のこめかみはヒクヒクとしていた。
子供を複数の大人で取り囲むようなのは嫌いな上、普段から近づいてくる下品な輩に辟易しているため我慢ももう限界なのだ。
「そう……アンタ達はいつ帰れるか分からない状態にしてあげるわ」
「お、その気になったか。最初からそうしてればいいんだよ」
リーダー格と思わしき金髪の男が御坂美琴の肩を抱き寄せて歩こうと動いた瞬間
「アンタら全員病院行きだぁーーー!!」
激しい電撃が男達を襲った。

428『もし年齢が逆転してたら?お試し版』:2011/03/10(木) 15:50:28 ID:uQ9hpB5A

「はぁ、はぁ……あーもー最悪。こんな奴らに能力使っちゃうなんて」
回りを見渡すと、白目を向いて気絶している男達。
それを尻目に「何でこんなことになってたんだっけ?」と考えたところで
「あっ、やばっ!?ねえ、ちょっと大丈夫?」
助けるはずの少年をも巻き込んでしまったと慌てた彼女が見たのは
「……あ、あっぶねー。何だ今の。発電能力者か?」
右腕を突き出し、無傷で立っている上条当麻の姿だった。
「えっ嘘、今ので無傷なの?」
目の前で起きていることが信じられないのであろう。
大人ですら気絶するほどの電撃を放ったというのに自分より年下である少年は全くの無傷なのだ。
「なぁ……ビリビリ姉ちゃん。こんなことしてたら風紀委員に睨まれるぜ」
今まで15年間彼女が生きてきた中で、彼女の電撃をこうまで防いだ相手はいない。
「おーい、ビリビリ姉ちゃーん?」
それを目の前の少年はやってのけたのだ。
初めて遭遇する現象に、今まで御坂美琴が積みあげてきた自信は崩れようとしていた。
「…んで……」
「え?」
「なんでアンタには効かないのよっ!!」
そう言うやいなや、御坂美琴から放たれた電撃は上条当麻の突き出した右腕に向かって伸び……
「……嘘」
そのまま吸い込まれるように消えてしまった。


「……アンタ、常盤台よね」
「え、あぁ。常盤台普通科の2年だ」
(普通科……レベル3以上は特進に入れられるってことはレベル2以下ってこと?でもレベル2以下で私の電撃をああも防げるものなの)
彼の返答を聞いて考え込む御坂美琴。
イラッと来てつい電撃を出してしまったとはいえ、彼女にもレベル5としてのプライドがある。
そこらに転がっているような能力者にそうそう防がれてはたまらない。
意を決して彼女は次の質問を放った。
「アンタ、レベルは?能力名は?」
「俺?俺はその……システムスキャンじゃレベル0って判定なんだけども」
「………………え?」

429『もし年齢が逆転してたら?お試し版』:2011/03/10(木) 15:51:13 ID:uQ9hpB5A

ここで1つ補足を入れよう。
常盤台中学は2年前までは、卒業後にあらゆる分野で通用する人材を育成する超お嬢様学校だった。
だがそれも過去形、あくまで『だった』に過ぎない。
ここ6,7年、常盤台の成績(大覇星祭や統一模試など)は急激に落ち込んでいた。
学校側は躍起になってレベル5を迎え入れたり、特待生を増やし成績の底上げをしようと頑張ってみたものの結果は芳しくなく、
とうとう保護者達の声を受けて動いた統括理事会から、『お嬢様学校』の看板を取り外すように通達が出たのだ。
最初は学校側も反対したものの、常盤台の英才教育を残し復権を狙うために教育水準が以前と変わらない『特進科』(学び舎の園本校)と、
一般の生徒を受け入れる『普通科』の2つの科の設立、学び舎の園の外に普通科用の校舎を作ることを統括理事会に認めさせることに成功した。
今も尚『特進科』にはレベル3以上の女子が優先的に振り分けられ、成績優秀かつ高レベルの一部の男子を除いてほぼ全ての男子が『普通科』へと振り分けられることになった。
もっとも、元女子中学校ということもあり成績優秀かつ高レベルに振り分けられる男子は常盤台に来ないため、学び舎の園の中の『特進科』は共学化前と変わっていないのだが。

御坂美琴もレベル5というレベルの高さ故に3年前に常盤台へ迎え入れられ、3月に卒業したのだ。
だが目の前の少年は何と言った?
中学2年の時に特進科に振り分けられた後に新設された普通科の噂も聞いたことはあった。
だが御坂美琴の知る限りレベル0、無能力者が常盤台に入学したと聞いたことはない。
彼は2年と言ったがそれが本当なら自分が在籍していた3年の時に何かしら話題に挙がっていたはずだ。
そのように御坂美琴が頭を回転させていると
「じゃあなビリビリ姉ちゃん。姉ちゃんも早く帰ったほうがいいぜ。あと助けてくれてサンキューな」
と、上条当麻が遠くから声を掛けながら走って帰っていった。
「ま、待ちなさいよアンタ!!」
御坂美琴は逃がすまいと追いかけようとするが時既に遅し、上条当麻を見失った彼女はその場で地団駄を踏み周りの通行人を怯えさせていた。

430『もし年齢が逆転してたら?お試し版』:2011/03/10(木) 15:51:47 ID:uQ9hpB5A

そして時は流れ7月17日の夜。

「待てって言ってんでしょがぁー!!」
「か、勘弁してくれよビリビリ姉ちゃん」
「ビリビリじゃない、私には御坂美琴って名前があるって言ってるでしょ!!」
待ちで上条当麻を見つけた御坂美琴は、ここ最近日課にもなりつつある上条当麻との勝負のために追いかけまわしていた。
「そんなに電撃まき散らしてるんだ、ビリビリ姉ちゃんで十分じゃないか」
「だ、黙れこのガキィー」
中学生の言葉に簡単に挑発される御坂美琴。
日中に普段の彼女を見ている知り合い達がこの姿を見たら、本当に同一人物なのか疑うほど驚くだろう。
「大体姉ちゃんいつまで追っかけて来る気なんだよ」
「決まってるじゃない!!私がっ、アンタにっ、勝つまでよっ!!」
「ふ、不幸だあー!!」


二人が追いかけっこを始めて約30分。
巻き込まないために人の居ないところを目指して走ってきた上条当麻は、川辺に寝転がっていた。
「はぁ、はぁ……しつこすぎるぜ……」
如何に夜とは言えども、夏が本格的に始まってきているため気温は高い。
そんな時期に全力で走り続けていた上条当麻は、全身汗だくで今にも意識を手放して寝てしまえそうなほど疲れていた。
さすがにこんなところで寝るわけにもいかないので周りを見てもう誰も居ないことを確認して帰ろうとした矢先
「見つけたわよ!!さあ、勝負しなさい」
やっと追いついてきた御坂美琴に発見されてしまった。

「まだ諦めてなかったんかよビリビリ姉ちゃん」
「だからビリビリ言うなぁっ!!」
「うぉわっ、あぶねっ」
急に御坂美琴から放たれた電撃も右腕のガードが間に合い難を逃れる上条当麻。
しかしそれを見た御坂美琴はより不機嫌になっていった。
「なんなのよそれ……電撃を何の苦も無く打ち消せるとかふざけてるってレベルじゃないわ……」
中学生である上条当麻としては、明日も学校なので早めに家に帰りたいところ。
だが目の前の御坂美琴をどうにかしない限り今日は帰れそうにもない。
意を決して上条当麻は疑問を口にした。
「で、どうなったら終わるんだ、ビリビリ姉ちゃん」
「人の話を聞けぇっ!!……どうしたら終わるかって?そりゃ勿論私が勝ったらよ!!」
勝つまでやめない。
余りにも分かりやすい答えが帰ってきたため上条当麻はいい加減腹を括るべきだと観念した。
「分かった、分かったよビリビリ姉ちゃん。ちゃんとやればいいんだろ」
「っ!?そうよ、やっとやる気になったのね」
今までの追いかけっこで分かったことといえば目の前の少女がとんでもない能力者だってことだったが、
勝負するという手以外にこの状況を切り抜ける術を思いつかなかった上条当麻は、やる気満々の御坂美琴を見て早くも後悔し始めた。

431『もし年齢が逆転してたら?お試し版』:2011/03/10(木) 15:53:38 ID:uQ9hpB5A

「準備はいいかしら、行くわよ」
「いいぜ、来いよビリビリ姉ちゃん」
その言葉が発端となり御坂美琴から数多の電撃が上条当麻に向かって伸びるが、上条当麻の突き出した右腕にかき消されてしまう。
(やはり飛ぶ電撃は効かない。もしこれもダメならひょっとしてコイツの能力は……)
「やっぱ電撃は効かないじゃんかよ。もうこの辺りでやめにしねえ?」
「何言ってるのよ。私はまだ力を使ってないわよっ!!」
そう言いながら駆け出した御坂美琴の手には、黒い剣がいつの間にか握られていた。
「ちょっ、獲物は反則じゃねーのかよビリビリ姉ちゃん」
「残念、これは私の能力を使って作った砂鉄の剣よ。触れるとちょっと血が出て痛いかもしれないけど……ねっ!!」
相手が中学生でも今は敵だと1回、2回、と容赦なく剣を振るう御坂美琴。
しかし上条当麻はどんな体勢からも紙一重で避けていく。
「このちょこまかと……当たりなさいよっ」
「無茶言うなっ!!」
横薙ぎの一撃を前転で避けると、そんな攻撃には付き合ってられないと距離を離す上条当麻。
「(後ろを向いた、今だっ)…逃げても無駄よ。こいつにはこういう使い方もあるのよっ!!」
「なっ、伸びたっ!?」
ここぞとばかりに伸ばした剣を鞭のようにしならせて叩きつけるが、振り向いた上条当麻の右腕に無効化された剣はただの砂鉄となり大気中へと拡散してしまった。
(ここまでは予想通り……欲を言えば今ので決まってて欲しかったけど、でもこれで布石は打った)
「あ、あぶねー……ビリビリ姉ちゃん、もう今ので勝負あっただろ」
「さあ、それはどうかしらっ!!」
「大気中の砂鉄まで操る!?ビリビリ姉ちゃんどんな出鱈目な能力してんだよ」
御坂美琴から電気が走ると流された砂鉄を上空に集まり上条当麻に向かって叩きつけられる。
「こんなこと、何度やったって同じ結果じゃねえかっ」
砂鉄に向かって右手を薙ぐことによって難を逃れる上条当麻。
コントロールを失った砂鉄で一瞬視界が閉ざされるが、すぐに拡散したため御坂美琴の位置を把握しようと前を見る。
「いないっ、何処へ」
次の瞬間、後ろで泳いでる右手に柔らかいものが触れたため上条当麻が後ろを見るとすぐ側に御坂美琴がいた。
「飛んでくる能力は防げても、ゼロ距離からの能力は防げないでしょ!!」
「……ぁ」
(嘘っ!?電撃が流れていかない。ううん、能力自体が使えない)
電撃を流そうと力を込めるが、握った手から先に電撃が流れていかない。
それどころか能力自体の発動がしないことに戦慄を覚える御坂美琴。
すぐに致命的な隙を見せていることに気付き距離をとろうとするが、彼女が見たのは拳を振りかぶった上条当麻ではなく顔を真赤にして硬直している彼の姿だった。

432『もし年齢が逆転してたら?お試し版』:2011/03/10(木) 15:54:41 ID:uQ9hpB5A
「ア、アンタ何止まってんのよ。私のこと舐めてんの!!」
「……だよ」
「は?何よ?」
「だから!!……ゴニョゴニョだったんだよ」
「聞こえないのよ、もっとハッキリ言いなさい!!」
「あーもー、姉ちゃんみたいな綺麗な人に手繋がれたのも、こんな近くで顔見たのも初めてだったんだよ!!」
「へ……え、綺麗?初めて?」
自ら認めざるを得ないような隙を見せても彼が何もしてこなかったことに御坂美琴は憤りを覚えるが、彼の口から放たれた言葉は彼女の予想の斜め上を行くものだった。
上条当麻の言葉を聞いて今の状況をよく見てみると少し手を引くだけで彼の体が自分に密着しそうなほど近づいており、夜の川原で男女2人きりで手を繋いでるというシチュエーションは
今まで男性と付き合ったことのない御坂美琴にとっても少々刺激の強いもので、彼女の顔が真っ赤に染まるのに時間はかからなかった。
「えと……これはその……そう、勝負よ勝負。だから仕方ないのよ!!」
そう言い訳しながら御坂美琴は手を離して離れるが、少し寂しそうな顔をする上条当麻を見てわずかに胸が痛んだ気がした。
(何よその顔……なんかこっちが悪いことしてるみたいじゃない!!……年下っぽくてちょっとかわいいって何考えてんのよ私は)
うあーと髪を掻きむしり顔の火照りが取れないことに御坂美琴は苛立つが、すぐさま気を落ち着けて上条当麻の方を向く。
「さ、さあ、勝負の続きを始めるわよ!!」
「か、勘弁してくれよ。なんかそういう空気じゃなくなってるしさ」
まだ勝負はついてないと言いたげに再開を唱える御坂美琴だが、上条当麻の言葉を聞いて先程まで滾っていた戦意が消えていることに気付く。
彼の方も同じなのだろう。
先程までの真剣な表情ではなく酷く疲れた顔を見せたため心配して近寄った御坂美琴だが、急に倒れてきた上条当麻に巻き込まれて一緒に転んでしまった。
「ちょ、ちょっと!!急にもたれ掛かってきてセクハラ…よ……って寝てるわね」
御坂美琴の胸に顔をうずめた上条当麻に文句を言おうとしたが歳相応の寝顔を見てしまった彼女は起こすに起こせず、
彼の頭がずり落ちないように軽く抱きしめると先程までの能力の行使による疲れと背中から感じる原っぱの心地良い感触から少しの間だけ意識を手放した。

433■■■■:2011/03/10(木) 15:56:22 ID:uQ9hpB5A
以上で投下終了です

戦闘描写とか初めて書いた気がするけど、慣れるまで相当かかりそう……
お試し版ですが続編はありません。本当にありません。

434■■■■:2011/03/10(木) 16:28:15 ID:uvAmRMTw
>>418
GJです。
別に辛くも何ともないよな〜、恋愛だもん、相手がいるんだもん、この程度の波瀾万丈
いくらでもかかって来いや! てなもんです。
告白の是非だって、するのも美琴、しないのも美琴。どっちもあり、否定なんていたしません。
続きがあるということなんで、もっともっと読むこちらをハラハラドキドキニヤニヤさせていただきたいと思います。
それはそうと書くの早いですね、二ヶ月に一本上げるのが精一杯な自分にはとてもマネできん……。

んにしても最近スレのスピードが上がってきましたね、全盛期には到達するわけありませんが、一時期の停滞が
嘘のよう。
それもこれも、新規の書き手さんのおかげですね、本当。足向けて寝られません

435■■■■:2011/03/10(木) 17:25:09 ID:dmMF/4QA
全盛期はすごかったなぁ
1スレを半月もしないうちに消費してたからなwww
ロシア編・新約に入ってSSが書きにくい状況になってるのが影響してるのは歯がゆいけど、
上琴が成熟してくれればSSも職人も本望だろうし、これからの禁書に期待ってことですな

436■■■■:2011/03/10(木) 19:14:42 ID:Bcvlyz16
>>433
> お試し版ですが続編はありません。本当にありません。
えー

    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

437■■■■:2011/03/10(木) 20:45:20 ID:rKUDPV/6
>>433
お試し版じゃなくて正式版を書け。










書いてください、お願いします(土下座)

438夢旅人:2011/03/10(木) 21:20:54 ID:JWTyc8os
2レス投下します。

439夢旅人:2011/03/10(木) 21:22:03 ID:JWTyc8os
「起きないあいつ」10


 御坂美琴は、上条当麻の胸に飛び込み、ありとあらゆる言葉と涙を,、感情のまま叩きつけた。
「………」
 上条は何も言わず、左手で美琴をきつく抱き締め、右手で彼女の頭に触れたまま、黙ってその衝撃を受け続けていた。
 美琴は、上条に抱きついた時から漏電を起こし、バチバチと放電していたのだが、上条の右手のおかげで周りには出ていない。
「美琴…」
 もはや美琴が何を言っているのか、何と言っているのかは問題ではなかった。
 彼女の叩きつけるような感情の波が、上条の首を絞めるように巻きついて来る。
―このまま縊り殺されても文句は言えねぇよな。
 ただ彼女の想いだけを感じ、受け止めていることだけが、その時上条が出来るただ一つのことだった。

 どれ程時間がたったのか、やがて上条は口を開いた。
「美琴…、ごめんな…」 
 泣いている美琴の肩がビクリとした。
「それと…ありがとう…」
 その一言で、美琴の嗚咽が止まった。
「…えっく…、えっえっ…く…、…えっく…、…ふぅ…」
 美琴はまだ俯いたままではあるが、肩の震えも少しずつ治まっているようだ。
 やがて…
「当…麻…の…」 
 美琴はそれだけ言うと、上条の顔を見た。
 美琴の泣き顔が上条の胸に突き刺さる。かつて、守ると約束した少女が流す涙が、上条の心を痛めつける。
 上条を見つめる美琴の目がキッと強くなった瞬間…
「馬鹿ッ!」
 パシィ!と乾いた音が響く。
 上条は左頬に熱い痛みを感じ、思わず美琴を抱いていた手を離した。
 上条は左手をその熱さを感じるかのように、頬に当て、真剣な面持ちで美琴の顔を見た。
「何で…、何であの時…、私の手を振り払ったのよ…」
―わかっていたさ。俺だって、本当は一緒に逃げたかったよ
「アンタ、何でいつも一人で抱え込もうとするのよ…」
―でもそれが、俺が知っているたった一つの生き方
「いつもいつもボロボロになって…
アンタは…それで満足かもしれない…
でもね…」
 美琴の言葉が上条の首を更に締め付ける。
「そんなアンタを見ている私はどうしたらいいのよ…」
―………
「いやよ…
私、アンタが傷付いて、苦しんで、それでも…
笑っている顔なんて見たくないのよ!」
「美琴…」
「私はアンタに救われた。絶望の中から引っ張りあげてくれた。
そしてアンタに居場所を教えてもらったの。
生きててもいいって言われたの。
今のアンタによ!
昔のアンタじゃない。記憶をなくした後の上条当麻によ!
私はそんなアンタが好き。今の上条当麻が大好きなの…
当麻の笑った顔が大好きなの…
ううん、そうじゃない。記憶なんて関係ない。
アンタがいつ記憶を無くしたかはっきりとは知らない。
でも多分、私は記憶をなくす前のアンタを知ってる。
だから…今も昔も…上条当麻のことが大好きなの。
私はアンタの知らない上条当麻を知ってるのよ。
この嘘つき!偽善者!
わかってるわよ…。
アンタがどうして、どこで、誰と戦ってるかってことぐらい…。
今の私じゃ、アンタの力になれないことぐらいわかってる。
でもアンタの傍にいて…話を聞いてあげることなら…私にも出来るんだから…
なのに…どうして…いつもアンタはそうやって…
いつも本当の気持ちを隠し続けるのよ!
何もかも全部、ぶちまけて見なさいよ!
泥くそだろうがなんだろうが、アンタの汚いものも、何もかも全部受け止めてやるから!」
美琴の言葉が、上条の壁に突き刺さる。こじ開ける。叩き潰す。その強固な扉を。
美琴は再び涙を流しながら、上条の目を見つめ続けた。
「だから逃げるな!誤魔化すな!私の目を見なさいよ!」
御坂美琴が、上条当麻の奥底にある『何か』を叩き壊した瞬間だった。

―もう…だめだ…

--------------------------------------------------------------------

440夢旅人:2011/03/10(木) 21:26:46 ID:JWTyc8os
「起きないあいつ」11


―怖い…
―いやだ…
―見るな…そんな目で…
―もうだめだ…
―苦しい…
―やめろおおおおお…
―いやだあああああ…
 上条当麻の胃の底から、何かこみ上げてくるものがある。
 胸がムカムカする。吐きそうだ。
 頭の中が真っ白になる。
 そして扉が開く。
「なんでそんなこと言うんだよ…」
上条が搾り出すように口にした言葉に、美琴は一瞬立ちすくんだ。
「わかんねぇんだよ!俺にだって!」
上条の両目から涙がこぼれだした。
「俺だって…。俺だって…言いたいけど…
―なんて言ったらいいかわかんねぇんだよ!」
 奔流のように流れ出したものに、上条は翻弄される。
 膝を折り、泣き崩れた上条を、美琴は何も言わず優しく抱き締めた。
 上条はただ泣くしかなかった。美琴の胸に抱かれながら。
 何も言葉にならず、ただ声にならない声を上げながら。
 さながら聖母マリアに抱かれた赤子のようでもあった。

 やがて上条は少しずつ、美琴に話をはじめた。
 自分の記憶をなくした日からのことを。
 流れる涙を止めようともせず。
 美琴は何も言わず、同じように涙を流しながら、それでいてやさしく、微笑みをうかべて上条の話を聞いていた。
「ありがとう当麻。話してくれて。
本当につらかったんだよね。
ずっと言いたかったんだよね」
「ああ…、やっと…言えた…気がする。たぶん…」
「今は全てじゃなくてもいいのよ。また言いたくなった時に言えばいいから。
私なら、いつでも聞いてあげるし、アンタの全てをいつでも受け止めてあげる。
言えない時は、また今日みたいに手伝ってあげるから。
でも当麻。今ほんとにすっきりした…いい顔…してるわ…
私しか知らない当麻の、本当の顔…よね」
「美琴…ありがと…。
でさ…俺…、もう一つ、謝らなければならないことがあるんだ…」
「知ってる。約束のこと、でしょ…」
「―知ってたのか…お前」
「『御坂美琴とその周りの世界を守る』だったよね」
「…ごめん」
「そんな約束、捨てちゃえば?」
「えっ」
「アンタが勝手に他人とした約束が、私を傷付けたらどうするの?」
―!
「そんなの勝手じゃない。
私の世界は私のものよ。
アンタのものでもソイツのものでもないわ。
そんな勝手にされた約束が、本当に私と私の周りの世界を守れるって思うの?」
「しかし…」
「しかしもくそも無いわよ…」
 美琴は笑いながら言った。
「残酷なようだけど、私の世界は、ソイツとは何の関係も無いわ。
思ってくれる気持ちはありがたいけど、自分勝手な想いの押し付けは、私にとっては迷惑なだけ。
私の世界なんて、一体どれだけ知ってるっていうのよ、ソイツが。
ならアンタとじゃなくて、直接私とするべきじゃない。
勝手に人の世界を決めてくれるなってのよ」
「美琴…」
「だったらアンタが私としなさい。ソイツとじゃなくて。
私との約束は、厳しいわよ。
私の世界は、私の大好きな上条当麻が中心にいるの。
上条当麻が今のような笑顔で、私の前にいてくれることが、今の私の世界なの。
その世界を、本当にアンタ、守れる?」
「ああ、守るとも。必ず…」
 パシン!
「嘘つき!」
 美琴の手が再び上条の左頬に飛んだ。


------------------------------------------------------------------------------
続く

441■■■■:2011/03/10(木) 23:30:15 ID:Bcvlyz16
>>438
一応、投稿終了宣言しようぜ。

    _
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442夢旅人:2011/03/10(木) 23:47:05 ID:JWTyc8os
>441
失礼しました。

なんか、流れが予想外の方向へ行ってます。
終着点はあるんだけど、本当にそこへ行き着くのか?
上条さん、ええかっこしで帰ってきたら、ガンガンにやられてしまってるし…

443■■■■:2011/03/11(金) 00:38:47 ID:XzCTU286
このスレはスバラシイ!

444Mattari:2011/03/11(金) 02:18:28 ID:bCoc.DZY
いつもお世話になっています。Mattariです。

まず、レスの返事から。

>>390
ありがとうございます。
『右手』の時に、美琴の心情をメインに辿ったので、今回は当麻をメインにしました。
完璧と言って戴けるほど満足はしていないのですが……(;^_^A アセアセ…

>>391
ありがとうございます。
終着点は一応決めてあります。ただ、そこまで行き着けるかどうか……。
途中で、かなり鬱な展開が必要になりそうなので……そこが書けるかどうかがカギになりそう。

>>392
そうですね。かなり焦ってました。
『新約』を読みましたが、逆に書きやすくなったかも?
それにしても……かまちーHOを出すか?w

>411
ありがとうございます。と言うか……穴があったら入りたいです。
逆に、こんなに原作から外れてるのによく容認されてるなぁ……と思ってます。

>ところでMattari氏はPS3から書き込んでたりしたりして

何で知ってるんですか?www


それにしても、他の方の作品を読む度に、自分の文才の無さを痛感しています。
でも、その分励みにもなりますので、非常に楽しみにしています。
特に年齢逆転ネタ……いつかは挑戦してみたいですね。

今回『自分のペースで』と言って下さった方があったように、じっくりと二人の心情などを一緒に辿らないとどうも自分は書けないようです。
ですので、今後は『自分のペース』を守りながら投下したいと思います。
(と、本編の筆が進まない、言い訳をしてたりします……σ(^◇^;))

さて、今回ですが『番外編』と言うことで投下させて戴きます。
実は、自分の長編に拘りすぎてて、もっと自由に上琴を動かしたいと思っても動かせない自分に気付きまして……。
そこでもっと自由に動かせる設定が出来ないものかと考えたのが、今回の『番外編』です。

さすがに深夜ですので、どなたも居られないと思いますが……この後4レス使用ですぐに投下します。

445とある右手の番外編:2011/03/11(金) 02:19:57 ID:bCoc.DZY

『とある右手の番外編(パラレルワールドストーリー)』

 ドモ。右手です。

 えっ!?何でオマエが出てくるんだって?……イイじゃないですか……タマには……。
 別にこの前出たことで味を占めた訳じゃありません。
 何か前回より腰が低い?
 前回は後ろ盾があったから、ちょっと大きな顔が出来ただけですってば。
 元の私はこんなのです。
 ゑっ!?オマエなんか出なくてイイから……早く、やっちゃった後のイチャイチャな美琴と当麻を書け?
 イヤ、私が書いてる訳じゃないんですけど……。

 今回はちょっと事情がありまして、その説明というか……何というか……。この低姿勢もその現れでして……。
 まぁ、私にも色々あるってコトで、その辺りはお許しいただきたいな……と。

 実はですね……この前私どもの会合がありましてね。
 何だよ?会合って……?……そりゃ、そうですよね。その反応が普通。

 ええっとですね……何から話せばイイかな……?

 皆さん、並行世界(パラレルワールド)ってご存知ですか?
 並行世界(パラレルワールド)って言うのは……ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す訳ですが、今私が居るこの世界でも色んな世界が並行して存在してるって訳です。
 で、その並行世界の右手が集まって(変な想像しないで下さいね。異様な光景ですから……)今の上琴の現状ってヤツを話し合った訳ですよ。
 そしたらまぁ……出るわ、出るわ。秘守義務ってヤツがあるんで詳しくお話は出来ないんですけど……ココのエピソードの比じゃないですから。
 とてもココじゃあ書けないような泥沼化したのもあれば、もう桃色空間全開過ぎて18歳未満はヤバイのまで……中にはかなりな鬱展開まっしぐらなのもあったりしましたが……。
 で、話がどんどん進んでいって、結局行き着く先は、美琴さんの電撃を消すのは結構骨なんだよなぁ……っていう、話になっちゃったんですよ。

 私としましては、最近美琴さんの電撃は……あんまり消してないかな?
 この前、スンゴイのを一発喰らいそう(実際に喰らいましたっけ……)になったんで……さすがにあの時は慌てましたけどね……。ハハハハハ……ハァ……。
 今はどちらかと言うと、電撃より、漏電を止めてる方が多いですね。

 えっ!?
 あの首筋の件はどうなんだって?
 そ……そんなコトもありましたっけかねぇ……。どうだったけかなぁ……。(遠い目……)

 で、ですね……さっきの会合の話に戻すと、その中の一人(と言うとおかしな話かも知れませんが……)がですね、かなり落ち込んでる訳ですよ。

 『もう、毎日毎日が辛くって……。だって、美琴さんと来たら、顔を合わせる度に『バチバチ。ビリビリ。ドッシーン。ズッシーン。バッシャーン。ビビューン』と、やりたい放題で……しかもそのパワーがハンパない訳ですよ……正直、カラダが保ちません。少しお休みが欲しい訳で……一日でイイから、どなたか変わっていただけませんかねぇ……』

 てな話が出て来ましてね。……で、誰が行くか?ってコトになって、なぜか満場一致で私に決まっちゃったんですよ……。
 他の連中が言うには……『オマエが一番美味しい想いしてんだから……』って言うんですが……。
 心当たり……無いんですよね……。

 今までは、イマイチ『不幸』ってコトが分からなかった訳ですけど……今回は身に染みましたね。
 ああ、『不幸』ってこういうことを言うんだ(遠い目……って目は付いてないんですけど……)……って。

 だから言わせて下さい……。
 不幸だ……。

 ただ、私だけが行ったってどうにかなる訳じゃあないので……だって、私が力を揮えるのは上条さんのカラダの中に居る時だけなんですから……。
 ということで、今回は上条さんと一緒に一日だけ、並行世界(パラレルワールド)に行って来ます。

446とある右手の番外編:2011/03/11(金) 02:21:04 ID:bCoc.DZY

 それにしても……アッチの世界の私が、今日入れ替わるって言ってたけど……一体いつ入れ替わるつもりなんだろう?

 変な時間に入れ替わられるとなァ……ホントは上条さんにちょっと説明した方が良いんだろうけど……

 言う時間もないし……言っても信じて貰えるかどうか……

 実際のトコロ、なるようにしかならない……と投げやりになっちゃいけないんだけど……ハァ、不幸だ……

「ン〜……何だ?誰かが独り言をボソボソ言ってるよーな気がするんですけど……気のせいでせうか?……ん〜……第一オレしか居ねえもんな」

 などと独り言を言いながら、朝の準備を始めてる上条さん。
 最近は美琴さんからのモーニングコール前に起きて、3コール以内には電話に出るように心掛けておられます。
 美琴さんもその事がエラくお気に入りのご様子で、もう朝からイチャラブ全開です。
 時々、電話の向こう側で白井黒子さんの叫び声が聞こえる時があるんですけど……、大体美琴さんの電撃でやられてます。

 学校の成績の方も、さすがにうなぎ上りとは行かないモノの、もう補習や追試とは無縁の生活が当たり前になっておられますよ。
 人間、変われば変わるというか……変われるモノなんですねぇ……。

『ピンポーン』

「さすが美琴。定刻通りだな」

「おはよう、当麻。んっ」

 玄関に入ってドアを閉めたら、もう朝のキスの催促ですか?

「ハイハイ。好きだよ、美琴。んっ……」

 上条さんったら、おはようの代わりの『好きだよ』なんて言っちゃって……もう……。

「ウン……私も、当麻が好き。エヘへへ〜……」

 スイマセン……ストロングブレンド、プレスで煎れて戴けません?
 あ……砂糖いらないんで……。ハイ……。

「あ、そうそう、昨日出しといてくれた課題でさ、分かんないところがあるんだよな。まずそこを教えてくれないか?」

「え……ちょっと難しすぎたかな?今の当麻ならイケると思ったんだけど……」

「期待してくれるのは嬉しいけどさ、基本的にはまだまだなんだから……」

「そんなコト無いよ。かなり頑張ってると思うよ……当麻は」

「そうか?でも、美琴が居なかったら、オレはこんなに変われてないぞ。全部美琴のお陰だよ」

「そんな……でも、お世辞でもそう言って貰えるのは嬉しいな」

「お世辞な訳無いだろ。本気でそう思ってるよ。今のオレがあるのは美琴のお陰だ」

「エヘヘ〜……ねぇ、当麻。そこまで言ってくれるなら……何かご褒美が欲しいな♪」

「ご褒美か……何がイイんだ?」

「……あのね……また……お泊まり……がイイな」

「オイオイ、ここんとこ連続過ぎないか?……そりゃ、オレだってずっと美琴と一緒に居られるのは嬉しいけど……」

「お泊まりがイぃイ〜〜〜〜」

「分かった、分かったよ。もう……ワガママなお姫様だ……」

「そのお姫様を強引に押し倒した勇者様はドコのどなたでしたっけ?」

「……んなこと言ってると、今朝の朝食は美琴になっちまうんだけど……」

「……ポンッ!……//////////……バカ……」

「……美琴……カワイ過ぎだ……」

「……今はダ〜メ……続きは……んっ!!……もう……」

「続きは……お泊まりで……。……今は……キスだけ……だろ?」

「……む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ……」

「怒った美琴も可愛いぜ」

「ゴニョゴニョ……ふにゃあぁぁあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜……当麻……ゴロニャン……」

「ハイハイ、撫で撫でな……」

「うん……エヘへへ〜……しあわせ……」

 すいませ〜ん、冷房にしてもらえますぅ〜。
 それと、ストロングのアイスコーヒー下さ〜い。

 もう……朝っぱらから、桃色空間全開じゃないですか……。
 でも……、コレで向こうに行ったらどうなっちゃうんだろう?

447とある右手の番外編:2011/03/11(金) 02:21:45 ID:bCoc.DZY

 そんなこんなで、上条さんは美琴さんに分からないところを教えてもらった後も続けて勉強。美琴さんは朝食とお弁当を作り始めてます。
 最近は二人一緒に朝食を食べて、一緒に学校に登校。
 といっても、途中の交差点で分かれるんですけどね……。
 さすがに外では『バイバイのチュッ』はしませんけど……出掛ける時の『行って来ますのチュウ』は……ねぇ……。
 まだ3月だって言うのに……ああ……暑い、熱い。

 それにしても、アイツ……一体いつになったら……。

『キーンコーンカーンコーン』

 アララ……授業開始しちゃったよ……。
 どうするつもりなんだろ?……ホントに……。

 ん?……あ……始めたな……。

(えっ!?……何だ!?……何か景色がエラく揺らいでる……もしかして……オレ……おかしくなってきた?)

(イヤ……違う……おかしいのは周りの方……?)

(アレッ!?……何だ……どっちが上で、どっちが下かも……分からなくなって来やがった……)

『(パキィィィィン)』

(えっ!?、今……幻想殺し(イマジンブレーカー)の音がしたような……周りの揺れも収まってる……一体何が……起こったんだ?)

「……じょうちゃん……み…うちゃん……上条ちゃん!!!」

「ヘッ!?……あっ……ハイッ!!!」

「さっきまで寝てたと思ったら、急にキョロキョロし出して……もっと授業に集中しないと、また補習ですよ〜」

「「「「「ワハハハハハハ……」」」」」

「???」

「どうしたんです?上条ちゃん。変な顔して……」

「い、イヤ……あの小萌先生……今、地震みたいなモノが起きませんでしたか?」

「何を寝ボケているんですか、上条ちゃん……。もう……目覚まし代わりに前に書いたこの問題を解いてみなさいなのです〜」

「あ……ハイ」

「えっ!?」

「「「「「ザワザワザワザワ……」」」」」

『カッカッカッカカッカカッカッカッカッカカ……』

「ハイ……出来ました」

「「「「「「「「「「ええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」」」」」」」」」

「ウソやっ!?上やんがあんな問題を解けるはずがない!!!」

「明日は大地震で学園都市が滅ぶかも知れないぜよ!!!」

「上条、貴様……どんな不正をしたっ!?」

「上条君、変なモノでも食べた?」

「こんな日が……こんな日が来るなんて……先生は……先生は……今、猛烈に感動しているのです〜〜〜〜!!!」

「……オマエら、何言ってんだよ。……チョット前までならダメだったろうけど、上条さんはレベルアップしたんですのコトよ」

「この一週間、補習を受け続けてるヤツのセリフじゃないにゃー」

「ヘッ!?」

「そーや、そーや。昨日も一昨日も僕らと一緒に補習を受けとったクセに、何がレベルアップや!?」

「ちょっと待て……オレ、最近補習なんて受けてないぞ?」

「「「「「ハァ?」」」」」

「美琴と一緒に過ごす時間が無くなるから、頑張って補習や追試を受けなくても済むように……」

「『美琴』って誰や!?」

「まさか『常盤台の超電磁砲(レールガン)』こと、御坂美琴のことじゃないだろうにゃー!?」

「上条、貴様!!いつ、中学生を拐かしたっ!?」

「恋人呼び……|||||」

「やっぱり、デルタフォースはロリコンだったのね!!!」

「私のことは遊びだったって言うの!?上条君!!!」

「私の時はあんなに激しかったじゃない!?(階段から落ちそうになったのを抱き留めてもらっただけだけど……)」

「私の時はあんなに強引だったじゃない!?(不良に絡まれたのから一緒に逃げただけだけど……)」

「私の時はあんなに優しかったのに!?(転んだ時に絆創膏を貼ってもらっただけだけど……)」

「私の時も優しかったじゃない!?(買い物袋を持ってもらっただけだけど……)」

「あたしなんか……」

「私だって……」

「私も……」

「オノレはどんだけフラグを立てたら気が済むんじゃい!?」

「「「「「「「「「「ギロッ!!!!!」」」」」」」」」」(クラス男子全員の視線)

「まっ、待てッ……はっ……話せば分かる……なっ……ってか、……オマエら……何でそんなに怒ってるんだぁ〜〜〜!?」

「良いか!!上条、そこに直れ!!!!!」

「はヒッ!?」

「コレより、上条当麻を詰問する!!!!!!!!」

「「「「「「「「「「「「「「「オオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

「不幸だァ〜〜〜〜ッ!!!!!」

448とある右手の番外編:2011/03/11(金) 02:22:17 ID:bCoc.DZY

「ああ〜……もう、散々な目に遭った……」

 あの後、クラス全員vs上条当麻の詰問委員会が開かれ、吊し上げを喰らうわ。
 災誤先生の授業の小テストで、満点を取ったらカンニングを疑われるわ。
 お昼に美琴の作ってくれたお弁当で傷ついた心を癒そうと思ったら、なぜか弁当箱まで変わってて、ご飯と梅干し(多分神裂のお手製)とタクアンが二キレしか入ってないわ。
 その上、帰り際に補習を言い渡されて、延々二時間残されるハメになるわ。
 ホントにもう……散々である。

「美琴のヤツ、怒ってんだろうなぁ……。一応メールはしといたけど……。絶対怒られるよ……。……ああ、不幸だ……」

「『超電磁砲(レールガン)連発の刑』かなぁ……『雷撃の槍乱れ打ちの刑』かなぁ……。ま、まさか……『砂鉄剣・頭上リンゴ皮むきの刑』じゃないだろうな……」

「あ……アレだけは……マジで勘弁して欲しいよなぁ……」

 そんなコトを呟きながら、トボトボといつもの道を歩く上条さん。
 ホント、スミマセンねぇ……。

 一方、その頃。いつもの自販機の前には……この世界の御坂美琴が立っていた。
 彼女は今、混乱している。大混乱していると言ってイイ。
 その原因は昼過ぎに上条から送られてきた一通のメールだ。

 to 美琴 from 上条

 sub ゴメン

 美琴。ホントにゴメン。なぜか
 判らないんだけど、急に補習を
 言い渡された。
 補習を受けなきゃならないよう
 なことはしてないはずなのに。
 2時間ぐらい遅れるから、先に
 買い物して部屋で待っててくれ。
 埋め合わせは必ずするから。ホ
 ントゴメンな。

 このメールを受け取った時、美琴は……

「何なのよ、このメールはぁ〜〜〜〜ッ!?」

 と、学校中に響き渡るのではないか?というくらいの大声で叫んでしまった。
 しかも、メールの内容が問題だ。
 メールに書かれている内容は、それほど大したことではない。補習を受けなければならなくなったので、待ち合わせに遅れる。というコトだ。
 だが……なぜ、そのような内容のメールをわざわざ自分に送りつけてくるのか?
 自分が上条を待ち伏せしているのが判っている……のではなく、約束して待ち合わせをしていることが前提……としか考えられない。
 それに、メールはいきなり名前呼びで始まっている。コレではまるで、恋人同士のメールではないか?
 しかも『先に買い物をして部屋で待っててくれ』とまであるのだ。
 『先に買い物をして』と言われても、何を買えばいいのか皆目見当がつかない。第一、上条と買い物になど行ったことすらないのだ。
 そして、美琴を一番混乱させているのが『部屋で待っててくれ』の一文である。メールで言っている『部屋』とは多分、学生寮の上条の部屋のことだろう。
 こちらの美琴は、上条の学生寮がドコにあるかは知ってはいるが、それは上条を尾行して知ったのであって、彼から教えてもらった訳ではない。
 それに、『寮の前で待っててくれ』でも『部屋の前で待っててくれ』ではなく『部屋で待っててくれ』とある。
 この内容から推察するならば、自分はもう既に上条の寮の合い鍵を持っている。
 ……ということになる……のだが……。

 実際には、そんなコトがあろうはずがない。
 顔を合わせれば『勝負よ、勝負!!』と言うのが当たり前になってしまっているし、『上条に対する想い』があることは自覚しているが、それ以上に勝負に拘ってしまっている日常の方が、既に長くなってしまっている。
 ある時までは『素直になって想いを伝えよう』としたこともあった。だが、そんなコトが思い出し難くなるほど、今は……。
 そんな日々を繰り返しているのに……今日、アイツから来たメールは……まるで恋人に送るような……相手を気遣ったとても優しいメールだった。

「……あのバカ……、何でこんなメールを……」

 上条の真意を測りかね、この世界の御坂美琴は混乱を抱えつつ、いつもの自販機の前で上条が通るのを待つのだった。

449Mattari:2011/03/11(金) 02:29:31 ID:bCoc.DZY
ということで、今回はココまでになります。如何でしたでしょうか?

投下前にも書きましたが、もっと二人を自由に動かしたい。というのが狙いです。
よくあるパラレルワールドネタですが、その分、設定を自由に出来ると考えてます。
並行世界では、年齢だけじゃなく性別まで逆転が可能(受け入れられるかどうかは別ですが……)になりますから。w

ではでは、お楽しみいただければ幸いです。<(_ _)>

450■■■■:2011/03/11(金) 03:19:44 ID:31R9WREg
今後の展開が楽しみすぎます
流石Mattariさんや!
楽しみにしてます!!

451■■■■:2011/03/11(金) 11:09:13 ID:NdDI1nnE
これ面白いなー!
乙です。

別ベクトルで戸惑う2人に期待。

452■■■■:2011/03/11(金) 13:31:05 ID:b9W6kg5c
>>449
本体も道連れかよwww

    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

453■■■■:2011/03/11(金) 15:48:14 ID:SI.ZbbWs
続きが凄く気になってしょうがないっです!
パラレルワールドネタっていいな〜かなりイイ!
続き待ってます!

454■■■■:2011/03/11(金) 16:22:53 ID:MmI8BI0Y
パラレルネタいいですね!
かなり楽しみにしてます!

455411:2011/03/11(金) 23:49:23 ID:XzCTU286
>>449
短編GJ乙です。

まさかの図星でしたか…このAA結構自分も愛用してるんでなんとなくそう思っただけです→(;^_^A アセアセ…
ちなみに自分もよくPS3で書き込んでいます。

(;゜)ワーッ!たー

456Mattari:2011/03/12(土) 08:55:16 ID:tMslNNxA
お世話になってます。Mattariです。

なにか……スゴい受けてる?……σ(^◇^;)。
期待されると……プレッシャーが……。(;^_^A アセアセ…

>>450
ありがとうございます。
『流石』だなんて、行って戴いて恐縮です……。
ご期待に添えるよう、頑張ります。

>>451
ありがとうございます。
面白いですか?私も書きながら、楽しんでたりします。^^;
確かにコレだと色んなバリエーションが増やせそうです。

>>452
ありがとうございます。

>本体も道連れかよwww

イヤ……右手だけ行っても……。www
それに、それってかなり不気味……。

>>453 >>454 >>455
ありがとうございます。
ご期待に添えますかどうか……。(;^_^A アセアセ…

ということで、続きを投下したいと思います。
この後すぐ、4レス使用します。

457とある右手の番外編:2011/03/12(土) 08:56:37 ID:tMslNNxA

「しかし、……一体何で、どうして補習なんか……。しかもあの補習の内容……。この前のテストで出たトコロじゃねぇか……」

「この前のテストって、オレ……平均点はクリアしてたはずなんだけどなぁ……」

「確かに、ちょっとヤバかったのがあって、美琴にかなり怒られたけどさ……。でも、補習を受けなきゃならないような点は取ってないはずだ」

「なのに……何でなんだ?今日は勢いに流されちまったけど……明日は小萌先生にこの前のテストの点数聞かないとな」

「それにしても……美琴のヤツ……怒ってんだろうなぁ……。……アレ?……アレは……美琴?なんでこんなトコロに居るんだ?」

「ま……まさか、部屋に戻ったらお仕置きが出来ないからって……ココで待ち伏せしてるとか……ガクガク(((( ;゚Д゚)))ブルブル……」

「……逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!!逃げちゃダメだ!!!!……」

「ココで逃げたら、もっとキツいお仕置きが待っている。ココはキチンと謝るしかない……。でもなァ……怖いモノは怖いよなぁ……」

「あっ……コッチに気が付いたぞ……どうしよう……でも、逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!!逃げちゃダメだ!!!……」

「ちょっと、アンタ……あのメール、何考えてんのよっ!?」

「美琴ッ!!ゴメンッ!!!!!」

 そう言って、即座に土下座モードに入る上条さん。
 相変わらずお美しいですなぁ……土下座が。

「ヘッ!?」

「オレだって、訳が分からないんだよっ。この前のテストでは平均点をクリアしてたはずだし、確かに美琴に怒られたところもあったけど、補習を受けなきゃならないような点数は取ってないはずなんだよ。だから……何かの間違いだとは思うんだけど……。明日、小萌先生にもう一度聞いてみるから。だけど、今日は遅れて……本当にゴメンナサイ」

「あ……あの……」

「あ……あの〜……美琴さん?」

「ヘッ!?(な、名前呼びッ!?……ま、まるで恋人同士……みたいじゃないっ!?)」

「一体、どんなお仕置きをお考えなのでせうか?」

(お、お仕置きって……何ッ!?ゎ、私……コイツにお仕置きするくらい、コイツのことを尻に敷いているってコトなのっ!?)

「アレッ!?……美琴さん?……なあ……どうしたんだ……美琴?」

(エエッ!?また名前で呼ばれたっ!?しかも今度は呼び捨てっ!?……それもスゴい自然な感じで……なにか……嬉しい……)

「どうしたんだよ?……今日のオマエ、なんか変だぞ?」

(コイツ、さっきから全然『ビリビリ』って言わないし、私を全然無視しない……。その上、恋人みたいな感じで……私を呼んでくれてる……//////////)

「アレッ!?……エラく顔が赤いじゃないか?……熱でもあるのか?……どれどれ……」

 そう言って、額と額を合わせる上条さん。

(ヘッ!?……な、な、な、ななななな何?なんでいきなりこんなに顔が密着してる訳?も、も、も、も、ももももももうもうちょっとで、キス……出来ちゃう〜〜〜〜〜〜〜〜ッ)

「大したことは無さそうだけど……もしかして、オレをずっと待っててくれたとか?」

「(コクン……)」

「そっか……ありがとな……美琴。……ゴメンな……待たせて……(ナデナデ)」

(ななななな何?きょきょきょきょ今日のコイツ、メチャクチャ優しい。……それに……こいつの手が……スゴく気持ちイイ……)

「それじゃあ、買い物に行こうか?」

「……もうちょっと」

「ヘッ!?」

「もうちょっとだけ……ナデナデ……して……」

「ハイハイ……フッ、可愛いな。美琴は……」

(なっなっなっなっなんて笑顔をスルのよっ!?そんなスゴい優しい笑顔初めて見たっ!!!それが私に向けられてるなんて……信じられないっ!!!)

「じゃあ、早く行こうぜ。補習で遅くなってんだから、一緒に居られる時間が減っちまうだろ?」

「えっ!?」

「ほら?行くぞ」

 そう言って、右手(私)を差し出す上条さん。
 それを見た瞬間、美琴さんは完全にパニックに陥ったご様子。
 上条さんの顔と右手を交互に見て、オロオロするばかり。

「なにやってんだよ……いつもなら、腕に抱きついてくるクセに。『ちゃんとエスコートしないとダメなんだからねっ』っていつも言ってるじゃないか?」

 そう言われて、おずおずと上条さんの腕を取る美琴さん。
 でも……いつものような『ギュッ』はありません。(当然でしょうけど……)

458とある右手の番外編:2011/03/12(土) 08:58:02 ID:tMslNNxA

「???」

 その様子に首を傾げながらも、いつものスーパーに向けて歩いて行く上条さん。
 美琴さん、かなりギクシャクしながら付いて来ますね……。ああ、手と足が一緒に出てますよ……。なんか壊れたロボットみたいです。

(こんな……こんなの……夢じゃないよねっ!?……もし、夢だったら……絶対に覚めないで欲しいッ!!!)

「なァ、美琴?今日のオマエ、やっぱり変だぞ?……も、もしかして……やっぱり怒ってる?」

「えっ!?……ううん、そ、そ、そそそんなこと……ない……」

「さっきから全然喋らないし……俯いて黙ったままだし……ドコか具合でも悪いのか?」

「あっ、えっと……だ、だ、大丈……夫……だよ。……(当麻)……」

(名前……言えない……言いたいけど……言えないよォ……)

「それならイイけど……具合が悪くなったら、ちゃんと言えよ。寮まで送ってやるからさ」

「ヘッ!?」

「当たり前だろ?具合の悪い彼女をそのまま一人で帰らせる訳にはいかないからな」

(か……か……か……彼女ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!?)

「ふんにゃぁぁぁぁぁあああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「ワワワッ……『バキィィイン』……って、何こんなトコで漏電してんだよっ!?」

 やっぱり最近は漏電を止める役が多いんだよなぁ……。
 あ……だからって、電撃を止めたいって訳じゃありませんからねっ!!!

「もう……しょうがねぇなぁ……無理してんじゃねぇよ。ほら、寮まで送ってやるから……シャッキリしろ」

「えッ!?……寮?……送る?……ヤダッ!ヤダッ!!……このまま、このままがイイッ!!!!!」

「ヘッ!?」

(ヤダッ!ヤダよォ……!!終わるのなんて、絶対にヤダッ!!!こんなに楽しいの知らない。こんなに嬉しいの……私、知らないッ!!!!!)

「だ、大丈夫、……大丈夫だから……。と、と、当麻と一緒に……一緒に居たいのッ!!!」

(な、名前で……呼んじゃった……恥ずかしい……でも、嬉しい!!!)

「分かった、分かったよ。でも、無理はするなよ」

「う……うん……」

(スッゴい優しい……。こんな当麻知らないッ。こんな当麻と一緒に居られるなんて……ホントに夢みたい……だから、終わりたくない。終わらせたくない!!!)

 上条さんの腕を『ギュッ』と掴んで離さない美琴さん。
 よほど嬉しかったんでしょうねぇ……。
 でも、この当麻さんはアナタの知ってる当麻さんじゃないんですよ……。

「でもさ、美琴は今日具合が悪そうだし、オレが晩メシ作るよ」

「えっ!?」

「さすがに美琴には敵わないけどな」

「そ、そ、そんな……」

「ハハッ……でもさ、オレの腕もそんなに悪くはないはずだぜ。で、何がイイ?」

「えっ!?」

「美琴は何が食べたいんだ?」

「な、なんでも……イイ……」

「何言ってんだよ。オレがそれ言ったら、すぐ怒るクセに……」

「と……当麻……イイ……」

「へっ!?」

「当麻が……イイ……」

「(ボンッ!!!)……そ、そ、それはぁ……/////」

「当麻が作ってくれるなら、何でもイイ……」

「あ、……ああ……(あー、吃驚した。オレをお買い上げかと思ったぜ……)そ、そうか?……ハハハ……」

(でも、やっぱり何か変だぞ、今日の美琴……。体調が悪いって訳では無さそうだけど……。ちょっと震えてる?何か緊張してる……?)

「ど、どう……したの?」

「あ、イヤ……別に……」

「うん……そう……」

459とある右手の番外編:2011/03/12(土) 08:59:07 ID:tMslNNxA

(一緒に居られるって、こんなに嬉しいんだ……。こんなに楽しいんだ……。コイツってこんなに優しいんだ……。知らなかった……何にも知らなかったよォ……。だから、……このままがイイ。ずっとこのままで居たい。終わらせたくないッ!!!)

(お願いッ!!夢なら絶対に覚めないで!!!……もう、こんな世界があるって知ったら、昨日には戻れない。……戻りたくないっ!!!)

(もう、あんなのはイヤッ!!……ケンカ腰で、ビリビリして……、嫌われてると思ってた……。ホントは、私を見て欲しくて……でも……素直にはなれなくて……)

(私は……私は、この人が好き。上条当麻が好き。……ずっと忘れてた……毎日、毎日ケンカして……嫌われてると思ったから……考えないようにしてた……)

「おっ、今日の特売品は『鮭の切り身』か……。そのまま焼いてもイイけど……、それだけってのもなァ……。時間がないから、パパッと作れるもの……」

(今のコイツになら……素直になれる。……こんなに優しいんだもん……。告白して……『好き』って言って……ずっと一緒に……)

「ネギ……高ぇなァ……。おっ、大葉はお買い得……だな。ん〜……」

(今なら言える……ううん、言わなきゃ!!……でも……でも……今でもこんなに優しいんなら……もし、もし告白して……断られたら……)

「そう言えば……パスタが残ってたはず……だよな。簡単にスパゲッティーにするか?……スープか何か付けたら……大丈夫そうだしな」

(断られて、今の関係が壊れるのなら……今のままがイイ。だって、……コイツは……当麻は……こんなに優しいんだもん……)

「卵は昨日の特売で買ってあるし……、中華スープのダシはまだあったよな……。うんっ……よしっ」

(ダメッ!……言わないと……もっと、ちゃんと恋人になりたいッ!!!……でも、……もし……断られたら……どうしよう……)

「後は……サラダか何かがあれば……おっ、100円引きゲットだぜ!!」

(断られたら……、そんなのヤダッ!!……だったら、今のままで……)

「あっ、オイ……美琴。ボーッとしてたら、他の人が通れないだろ?……あ、スミマセン」

(もう少し、今のままで……甘えてても……イイ……よね……)

「じゃあ、メニューもほぼ決まったし……レジ行って、部屋に戻るか?……美琴、……オイ、美琴?」

「えっ!?……えっ!?……な、なななな何ッ!?……と、と、ととと当麻……?」

「何、ボーッとしてんだよ?……ほら、行くぞ」

「あ……ぅ、うん……」

(でも……でも……ホントは言いたい。……『好き』って……『アナタが好きです』って……ちゃんと……言いたい……)

(……でも、……でも、もし……断られたら……怖い……怖いよォ……)

『ありがとうございましたー』

(言いたい……けど……断られたら……って考えたら……怖い……。どうしたら……私……どうしたら……どうしたらいいの?)

「……うっ……えぐっ……ヒクッ……うっ……ううっ……」

「ヘッ!?……エエッ!?……みっ、みっみみ美琴ッ!?」

 ふと上条さんが美琴さんを見ると、美琴さんは俯いたままポロポロと大粒の涙をこぼしてます。そして……

「うわぁぁぁぁああああああああん」

 スーパーから出た途端……美琴さんがいきなり泣き出してしまいました。
 上条さんは、何が何やら分かりません。
 そりゃそうですよね。

「お、オオオオオイ、み、みみみ美琴ッ……ど、どどどどどどうしたんだっ!?ドコか痛いのか?具合でも悪くなったのか?」

「うぇぇぇぇぇええええええええええええん……」

「どうしたって言うんだよ……一体!?……どうして泣いてるんだ?」

「当麻……当麻……当麻……当麻……うわぁぁぁぁあああああん」

 泣きながら、上条さんに抱きついてくる美琴さん。
 上条さんは事態に困惑しながらも、優しく美琴さんを抱き締めてあげてます。

「……」

「うわぁぁぁぁあああああん」

「……何か……良く分からないけど……何かあったのか?」

「(フルフル)」

 泣きながら、クビを横に振る美琴さん。

「そっか……まだ、言えないのか?」

「(ビクッ!)」

「そうか……そうか……だったら、思いっ切り……泣いてイイよ……美琴」

「うぇぇぇぇぇええええええええええええん……」

「気が済むまで……泣いてイイからな……」

「ううぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「話せる時が来たら、ちゃんと話してくれよ。な……」

「(コクン)」

「オレは待つから……な」

「(コクン)」

460とある右手の番外編:2011/03/12(土) 08:59:54 ID:tMslNNxA

 美琴さん、本当は『こうしたかった』『こうして欲しかった』という現実が、目の前にいきなり現れて……。
 でも、こちらの世界では、まだお二人はそういう関係じゃないんですよね……。
 毎日毎日、ビリビリ追いかけっこにケンカ三昧。
 そんな想いがあることすら、忘れていたような感じですね。
 そこに、この上条さんが現れて……。

「じゃあ、そろそろ……イイか?」

「(コクン)」

「ん……じゃあ、行くか?」

「あ……、あ……うんっ!!!!!!」

(嬉しい、優しい。嬉しい、優しい。嬉しい!優しい!!……私、嬉しい!!!!当麻が優しいよォ!!!!!)

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、でも……精一杯の笑顔で上条さんに微笑みかける美琴さん。
 その泣き笑顔を、優しく見つめる上条さん。
 どうしよう……上条さんったら、……コッチの世界の美琴さんに、フラグ……立てちゃったよ……。

461Mattari:2011/03/12(土) 09:06:18 ID:tMslNNxA
ということで、今回は以上です。如何でしたでしょうか?

今回は『起承転結』で分けるなら、『承』ですね。
事態はどんどん進んでますけど、実際には何も問題は解決してません。^^;
次をどうまとめるか……?
かなり苦しんでたりします。(;^_^A アセアセ…

ではでは、お楽しみいただければ幸いです。<(_ _)>

462■■■■:2011/03/12(土) 09:13:08 ID:fgmOzFtk
リアルタイムGJ!
続き期待してます!!!

463■■■■:2011/03/12(土) 10:56:12 ID:XRrJnBtU
>>461
> フラグ……立てちゃったよ……
しらじらしいw
最初からそのつもりだったくせにw
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

464かぺら:2011/03/12(土) 16:40:34 ID:0dzzgDE2
どうも、新約ネタってもう使っても大丈夫ですよね?
1レスで足りると思うのでちょっとお借りしますね。

バレって言うほどじゃないとは思うけど、新約未読の方はご注意。

465再会:2011/03/12(土) 16:41:10 ID:0dzzgDE2

 何をしてるのだろうか。

 自分でもよく分からなかった。

 今まで何をしてきたのかも、ここが何処なのかも、自分が何者なのかも。

 それさえよく分からないような状態だった。

 フラフラと、目的もなく歩いていた。

 ただひたすらに、何かを求めるように。

 いつの間にか一緒にいた白いシスターとも、喋ることはなかった。

 今まで会うたびに何かと言い合っていた気はするが、そんな事はどうでもよかった。

 なんとなく、他人のような気がしなかった。

 彼女も自分と同じなのだろう。

 同情するわけじゃないけど。

 仲間意識が芽生えたわけじゃないけど。

 二人で、ふらふらとしていたときだった。

 ちょうど、日付も分からなくなったくらいだった。

 ふと、視界に一つの影が飛び込んでくる。

 まるで何かに操られるようにして、私は顔を上げる。

 人とぶつかっても、声を掛けられても、気にしなかったというのに。

「よう……久しぶり」

 そんな声が聞こえた。

 軽い声だった。

 馴れ馴れしい声だった。

 そして―――。

 聞きたくてたまらない声だった。

「心配かけたな」

 自分の頬に、何かが流れるのを感じた。

 鼻をすする音が聞こえて、自分が泣いているのだと気づく。

 もう涙など枯れ果てたと思っていたのに。

 ふと、隣を見る。

 身体を震わせ、顔をくしゃくしゃにした女の子と目があう。

 良く分からない感情の渦に戸惑うような、そんな顔をしていた。

 多分、私も同じような顔をしているだろう。

「え、ちょ、だ、だいじょうぶでせうか?」

 間抜けな声が聞こえた頃。私とあの子は、目の前の影に向かって飛んでいた。

 もう泣くことなんてないと思っていた。

 もう声なんて出ないと思っていた。

 もう喜ぶことなんてないと思っていた。

 もう嬉しいことなんてないと思っていた。

 もう―――笑うことなんてないと思っていた。

「え、ええ!?」

 三人で地面を転がる。

 恥も外聞もプライドも、そんなものはどうでもよかった。

 止めどなく溢れる感情に身を任せる。

 何も言えなかった。

 ただひたすらに、嗚咽するだけだった。

 白いあの子と一緒に、生まれたての子供のように、ただ泣くだけしか出来なかった。

「…………ごめんな」

 ぽんと、頭の上に手が乗せられるのを感じた。

「ただいま」

 その声に、答えられなかったけど。

 隣にいるあの子も何も言えそうになかったけど。


 おかえり。


 と、それだけ。

 ただ一言だけを胸に秘めて。

 すぐ近くに感じるアイツの身体を思い切り抱きしめた。

466かぺら:2011/03/12(土) 16:43:05 ID:0dzzgDE2
以上。

東北関東の方はご無事でしょうか?
ここまで見に来れるような状態じゃねー!って怒られるかもしれませんが、少しでも気分転換になれば。

ではでは、失礼したします。

467■■■■:2011/03/12(土) 17:46:47 ID:VTpVeA7M
埼玉の方は其処まで被害は無かったのですが東北、特に福島・茨城の方はかなりヤバイみたいですね。

468■■■■:2011/03/12(土) 19:47:16 ID:krmOqANs
>>466
新約2巻で、再会して欲しいよね。
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

4699-452:2011/03/12(土) 23:15:14 ID:ttKaID12
皆様乙でーす。どうも、>>9-452です。
もうすぐホワイトデーですよ、ホワイトデー!
というわけで、一作投下します。

題名:とあるカップルのホワイトデー

注意:
・拙作『こんな上琴の交際開始〜バレンタインが近いから便乗しちゃいました〜』の設定を引き継いでます。読まなくても大丈夫ですが。
・誤字脱字、キャラ構成には気を遣ったつもりですが…いつも以上に半端に壊れてるかも。
・説明文長すぎ。会話が見たいという方にはお勧めしません。
・ほんのちょびっとだけ新約・とある魔術のネタバレを挟みます。ご注意を。
・蒼さんの最新作に似ているシーンが若干ありますが、全くの偶然です。

投下予定時刻:23:20 投下予定レス数:7

4709-452:2011/03/12(土) 23:20:08 ID:ttKaID12
3月13日。学園都市に射していた光が既に沈み始め、街灯があちこちで点き始めた頃。とある学生寮の一室では、ある少年がお菓子作りに奔走していた。

「うーん、と。こんなものかなー」
とある高校に通うしがない一高校生・上条当麻は、目の前にある大量のラッピングされた箱を見て、軽く伸びをした。その箱の中には数個ずつのクッキーが入れられている。
−バレンタインに貰った分はホワイトデーにお返しをしなければいけない−
人伝ではあるがそれを情報として認識していた上条は、律儀にも3月14日に届くようにホワイトデーの準備をしていたのだ。

バレンタインデーに贈られた大量のチョコレート。
その数は数百個を数えており、普段から節制・節約に努めている上条とはいえ、差出人が分からないなどを除いても、全部にお返しをすることは容易ではなかった。
それでも、海外組、国内学園都市外組、国内学園都市内組…と区分けし、更にその中で優先度を決めるなど用意を周到にした上で準備をし、きっちりと仕上げることが出来たのだ。
後は配達会社の人にこれを引き取ってもらえば、それでお仕事は完了である。
幸いにも土御門舞夏の手が空いていたことがあり、ここから先の事は舞夏にお任せである。

何かと普段は茶化したりすることの多い舞夏ではあるが、こういう時は流石にメイド見習いである。
バレンタインにくれた人のリスト作成から材料や配達会社の手配、更には3月14日到着を叶えるための期日の設定。
そういった『上条からの義理』の部分での全面的なサポートを一手に引き受け、作り手の上条の尻を叩き、きっちりと仕上げさせる。
そんじょそこいらの家政婦でも難しいような難問をいとも簡単にやってのける彼女の手腕は、もはや秘書レベルなのかもしれない。

「上条当麻ー。贈り物は出来たかー」
「ああ、出来たぞ。これで全部だ」
「了解したー。じゃあこれは全部引き取っていくぞー。後はみさかの分だなー」
「それは分かってる。今から頑張るよ」
「そうかー。頑張れよー」

そんなやり取りをして、上条は舞夏に箱を全て渡すと、一息ついた。
「しかし、何つーか、大変だったな。量が多すぎて何が何だか訳が分からなくなりかけてたし」
10分程だろうか、テーブルで少し身体を休めた上条は、お茶を一杯グイッと飲むと、まだ片付いていないキッチンを見ながら、誰に言うでもなく
「ま、ここからが上条さんの大勝負なのですが」
と、呟いた。

4719-452:2011/03/12(土) 23:20:24 ID:ttKaID12
所変わって、とあるデパート。
「さーてと。明日の準備は全部終わったし、後は…」
そう言うと、往来のど真ん中で突如顔を真っ赤にしながら立ち止まり、両手を頬に当てて首を左右に振るという謎の行動を取る、常盤台の制服を着た少女が居た。
その名は御坂美琴。
超電磁砲の異名を持ち、泣く子も黙る超能力者であり、学園都市・その表の顔(象徴)である。
決して不審者などではない。ないのだが…。

(明日はホワイトデー。幾ら当麻とはいえ、大事な彼女をすっぽかすなんてないわよね?明日はお休みだし、朝からちょっとお出かけなんかしちゃって、歩く時は常に腕組みで、ちょっと照れた感じの当麻の顔を見ながら色んな話をして、それで二人でゴハン食べて、何ならデザートをあーんで食べさせちゃったりして、『当麻、口元汚れてる』なんて言って『え?』って当麻が戸惑ってる間に舌で口元拭ってみちゃったり、何ならちょっと景色の良い二人っきりになれる場所に行って沈む夕陽をバックにキスなんかしちゃったり…って、私ったら何考えてるのよ!そんな事ありえないんだから!でも、でも、ちょっと強気で押しつつ、おねだりしてみたら当麻が野獣になっちゃったりして…キャー!)

…というわけである。実に平和である(頭にお花畑が出来ているような気がするが気にしない)。

それもそのはず、先だってのバレンタイン当日、美琴は念願叶い、上条と恋人同士になれたのだから。
詳しい事は省くが、
「最近じゃ、御坂が居ない生活が、考えられないしな…」とか、
「好きだ。どんな事があっても絶対に手放したくない、いや、手放さない」
なんて嬉しいことを言われた上に、
「こんなにも可愛くて、愛しい女の子が彼女なんだ」
なんて言われて、唯でさえ幸せの絶頂に居るところに、
「俺、上条当麻は、御坂美琴とその周りの世界を守る。そして、御坂美琴と共に歩き続ける、ってな」
などと言われてしまったのだ。最早卒倒モノである。

そんなわけで、その日以来、美琴は変わってしまった。
見る人が見れば幸せ真っ只中なのは一目瞭然なのだが、
・明らかに焦点の定まっていない視線
・ニヤけた口元から今にも零れ落ちんとする涎
・常に上の空で話しかけてもスルーされる
など、かつて「お姉さま」「御坂様」などと呼ばれ、慕われていた姿はなく、「だらしない一人の女子中学生」がそこに居た。
気がつけば、周囲も美琴を纏う空気の異変に気付くようになり、誰も関わらなくなっていき、美琴の幸せ浮かれモードに歯止めが掛からなくなっていくのだが、それはまた別のお話。

4729-452:2011/03/12(土) 23:20:52 ID:ttKaID12
放課後は基本的に毎日、上条とのデートである。
待ち合わせ時間は午後四時、場所はいつもの公園。
どちらがそうと言い出したわけでもなく、二人の初めての放課後デートがたまたまその状況で始まったが故に、次の日にはもうそれが習慣になってしまっていたわけである。

付き合い始めて数日は腕を組むことすらままならなかった。
美琴は美琴で頭が常に漏電一歩手前の状態であったし、上条は元々そんな事に気付く人間ではない。
結局美琴は寮に帰ってから、自分の思い通りに行かなかった事に頭を抱えつつ、それでも何だかフワフワとした幸せな気持ちで佇んでいるしかなかったのだ、

だが、天が美琴に味方をした。
異常気象と言うわけではないのだが、学園都市にしては珍しく、気温が上がったり下がったりを繰り返していたこともあり、たまたま雪がチラつくほど寒くなったバレンタイン数日後のある日。
日直やらで上条がやや遅れてきたこともあり、結構な寒さに耐えかねていた美琴が、
「ねぇ当麻、寒いから、腕組み、しよ?」
とおねだりをした事により、上条はあっさりと陥落。
それ以来、何かと理由をつけては腕組みを強要しているうちに、気付けば上条の方が最初から腕組みようのスペースを空けてくれるまでに進展したのである。
もっとも、当初は『スペースを用意していなければビリビリが来るかも』などと内心怯えていた上条も、最近では『美琴の身体は柔らかいなー』くらいにしか思わなくなっており、こちらもこちらで何だか危険ではあるが。

そんなわけで、美琴と上条の放課後デートは午後四時からの数時間をメインに行われるわけだ。
基本的にはセブンスミストや地下街でのいウィンドウショッピングがメインなのだが、たまにはちゃんと買い物をしたり、ゲームセンターで対戦する日があり、毎日充実した放課後を過ごしている。
もっとも、上条はといえば、第三次世界大戦の口封じ金や元同居人・インデックスが上条の元を離れるまでの扶養費用(推定)が口座に送られているとはいえ、生来の不幸体質である身の上条がそんな大金を使うわけがなく、相変わらずの極貧生活をしている、という事情もあり、週に1,2日は近くのスーパーに寄り、美琴が「安く済んで材料を節約出来る」レシピを教えたり、上条の手料理を二人味わったり、週末に上条が補習につかまらないように上条の宿題を一緒に解く、と言うようなどことなく家庭的な日を過ごす事もある。

そして、美琴は門限数分前に寮に戻ると、そのままその思い出を胸に焼き付けようとして夢の世界へと落ちていくのだ。

4739-452:2011/03/12(土) 23:21:28 ID:ttKaID12
そんな美琴であるから、休日ともなれば朝からテンションはMAXである。
傍からは気付かれない程度におめかしをして、身嗜みを整えるとはやる気持ちを抑えるようにゆっくりといつもの公園へ向かう。
二人のデートの待ち合わせ時間は決まって午前九時。美琴の到着は溯る事一時間前。
三十分もしたら上条が到着するので、一緒に行動する時間はその分増える。
やっている事はと言えば、市街地から離れたところにある大型のレジャー施設に行く事が増えるくらいで、基本やっている事は放課後デートのそれと変わらないのだが、一分一秒でも上条と一緒に居たい、ほんの少しでも長く上条を独占したいという美琴の乙女心は止まることを知らない(ちなみに、先ほどの美琴の妄想は今の二人の関係よりも少しだけ進んでいる。まだまだ二人は初心なカップルなのだ)。
そんな訳で、お休みの日に家族と出かける子供の様に、上条と会う前の美琴の心はいつも浮かれていたりして、同居人の白井黒子はそんな美琴を見てはマットを歯で引き裂かんとするのであるが、それはまた別のお話。

閑話休題

さて、めくるめく妄想の世界から復帰した美琴。
ふとゲコ太仕様の携帯に目をやると、着信が入っていた。発信主は『上条当麻』となっている。
(もしかして、私が電話に出ないから嫌われたと思ってるんじゃ…)
などと、無駄に妄想をしつつ、一分一秒を急かす様に(ちょっとベソをかきながら)電話を掛けてみると、

「あーもしもし?」

上条は落ち着いた調子で電話に出た。美琴がホッと胸を撫で下ろしつつ、

「良かったー。当麻に嫌われてなかったー」

と呟くと、上条がそれを聞き逃すはずもなく、

「俺が美琴を嫌うわけないだろ?」

と言うものだから、「…ふ、ふにゃ…」と、美琴はなんだか心がフワッと浮いてしまった。
美琴の異変に気付いた上条は慌てて、
「ちょ、ちょっとストッープ!落ちついてください美琴センセー!というか、何でこれだけでー!?」
と声を掛けるが、そう言い切るかどうかのうちに、上条には電話越しにビリビリビリというスパーク音が聞こえた(ような)気がして、通話が途切れたので、取りあえず書きかけだった美琴へのメールをさっさと書き終えて送信すると、その後は深くは気にしないことにした。

美琴は実際にスパークを出したわけではなかった。
ただ、生体電流がちょっとばかり暴走したため、携帯は故障しかけているし、無意識のうちに能力が外に出つつあった事もあり、少しだけ恥ずかしく思った美琴は、デパートを出て家路を急ぐことにした。
デパートを出て2,3分歩いたところで、上条からのメールが届いた。

From:当麻(はーと)
件名:明日は
本文:もう付き合いはじめて一ヶ月になるんだな。
上条さんにとってはあっという間に感じますよ。
凄く毎日が楽しいし、幸せに感じる。
そんな訳で、美琴に贈り物をしたいと思うから、楽しみに待ってろよ!

『シンプルなのが当麻らしい』、と美琴は思いつつ、翌日のデートを楽しみに待つことにした。
「当麻と一緒に入れるだけで幸せなんだけど、その当麻がそう言うなら楽しみにしてる」と返信をして。

4749-452:2011/03/12(土) 23:22:07 ID:ttKaID12

翌日、雲一つ無い晴れ間の中、美琴が準備を済ませていつもの場所へ向かうと、そこには既に上条が居た。

「おはよう、当麻」
「おはよう、美琴」
「今日は早いのね。もしかして、待った?」
「いや、全然。まあ、自分から呼び出してるし、待ち合わせに遅刻するのだけは避けたかったしな。普段の美琴の行動とかを考えて、こんなものかな、と」
その言葉に、美琴の心は一気に満たされた。胸がジーンと来て、思わず泣きそうになり、照れ隠しや恥ずかしさもあって、美琴は上条の胸元に顔を埋めた。
「当麻…」
「うん…」
上条は胸元に飛び込んできた美琴の背に手を回し、力強く、けれど優しく抱きしめる。
その上条の体が少し冷たいのを感じ、美琴は頭を走らせる。

常盤台外部学生寮に住む生徒の行動時間は平日、休日問わず制限が加えられている。
流石に休日は平日ほどは制限は厳しくないが、それでもそれなりに制約がある。
日頃のデートで門限の時間は知っていた上条だが、朝については知らなかったという事情もあり、常盤台寮の内情をも知る舞夏からその時間を聞き出し、上条自身にやってくるであろう『不幸』による時間のロスや美琴の移動時間などを勘案した上で、「確実に美琴より早く待ち合わせ場所に着ける時間」を決めていたのだ。
ちなみに、上条の自宅出発は午前7時である。そして、こういう時に限って『不幸』に遭遇することがないため、上条はこの場所で1時間以上待っていた、という事になる。

「当麻、ちょっと冷たいよ?大丈夫?」
「大丈夫だよ、美琴。上条さんはそんなにヤワな身体じゃないし、待ってる間に体を少し動かしてたから、意外と中身は暖かいんだな
「そう…良かった…」

上条は「ちょっと心配させたかな?」と思う。
と言うのも、朝方は放射冷却の影響からか少し冷え込んでいたからだ。
また、美琴が上条の体が冷える、という行為自体に抵抗感を持っていることも大きい。
彼氏彼女の関係になってすぐの週末、急な雨で体が冷えてしまった時も、美琴は異常に動揺していた。
上条にはその原因は分からないのだが、とにかく美琴の端正な顔立ちからは表情が消え、まるで妹達の一件で鉄橋の上で会った時やロシアから帰ってきた後初めて再会した時と同じような絶望の顔が自分の眼の中に映し出されたのを、上条は今でもはっきりと覚えている。

美琴は、上条に抱きしめられ、能力を上手く上条に活かせてやれない自分が恨めしかった。
上条の体が冷えていたり、傷ついていたりすると、美琴は自分のことを放り出してでも上条のことを何とかしたいと願うようになっていた。
いつからその思いが自分にあったのかは分からないが、こと「上条の体が冷える」事への抵抗については、今でもそのきっかけを鮮明に覚えている。

去年の10月31日、舞台は極寒のロシア。

4759-452:2011/03/12(土) 23:22:44 ID:ttKaID12

美琴は、肌を切り裂くような寒さの中、後少しの所で掴むことが出来なかった上条の手のことを思い出す。
何故、どうして?という戸惑いと困惑。
ブツッと切れた磁力線に悟った、今宵の別れを思わせる感情。
手掛かりを求めて彷徨った果てに見つけた、千切れたゲコ太のストラップ。
一縷の望みを持って繋いだPDAに表示された、該当データなしの記述。
あの時味わった絶望感は、妹達の一件にも匹敵するものだった。
必死に手掛かりを求めて学園都市に戻ってきても何も得られず、ただ時間のみが過ぎていく。
夢の中で魘されたことも一度や二度ではない。
それは、ロシアの舞台そのままに、「さよなら、美琴」と声付きで付加される、文字通りの悪夢。
または、手を繋ぐことが出来ても、その手の冷たさに、上空数千メートルで流れる風の冷たさに、繋いだ手を引きちぎられる、そんな夢。

上条は帰ってきた。帰ってきたことに泣きもしたし、失った時間を、忘れていた感情を、芽生え始めていた思いを取り戻すために、事ある毎に上条と行動を共にした。上条が北極海に沈んでいた事も聞いたし、その過程で上条の周りで起こるトラブルが全世界を巻き込んだものになっている事を知った。

それだけに、あの悪夢だけは未だに忘れられない。
上条は帰ってきた。色々あって、美琴は上条の彼女となり、上条は美琴の彼氏になった。
それなのに、その夢に自分が縛られ続けている。美琴は自覚しながらも、何も出来ないでいる。
だからこそ、今の美琴は『次』があるのではないかと不安に駆られる。付き合い始めて最初に上条に抱きしめられた時、上条の体は暖かく感じた。だからこそ、暖と冷の対比が美琴には重く感じられる。

上条の傍に自分が居ることを示すために、また何処か、自分の力の届かないどこかに行き、体を冷たくしながら、全身傷だらけでボロボロにしながら、それでも戦う事の無いように。


上条当麻という存在が、何でもない普通の一学生として日常生活を歩んでいる証として、美琴は上条の身体は暖かくなければいけないと思うのだ。

4769-452:2011/03/12(土) 23:23:04 ID:ttKaID12

どれ程の時間抱き合っていただろうか。
日差しが高くなり始め、お互いがお互いの暖かさに少しだけ満足しだした頃。
上条は本日の目的を思い出した。

「そうだ、美琴」
「うんにゃ?にゃに?」

そういうと、上条は少し美琴を引き離し、徐にポケットから小さな袋を取り出した。
引き離された美琴は少し不満そうだったが、袋を見ると頭に?マークを浮かべる。

「バレンタインのお返し。今渡しておかないと、いつもの不幸で途中で失くしたりするかもしれないからな」
そう言って美琴に袋を渡す。

一方の美琴は、「そういえば…」と昨日のやり取りを逡巡しながら、手に持たされた袋を見つめる。
細かな所に見受けられる荒っぽさ、それがその包みが既製品のそれではない事を表していた。
大きさの割に中身は重みがあるようなので、何だろうと思いつつ、袋を開けてみる。

そこには、ネックレスと袋詰めにされたクッキーが入っていた。
当然ながら、ネックレスとクッキーにはそれぞれ理由がある。

ネックレスは御坂妹のときと同様に地下街の露天で売られていた安物ではあるのだが、二人で放課後デートをしていた時に見つけた物でもあるのだ。
美琴がほんのちょっとの間眼を奪われていたのを見逃さなかった上条は、その後美琴と分かれた後で一人地下街に戻り、そのネックレスを購入していたのだ。

クッキーはといえば、その作り方の自由度に意味がある。
勿論、他にも作り方に自由度があるものは多くあるが、型を意識すると意外とそうでもない。
美琴のチョコレートがやや凝っていたもの(ちょっと苦めのトリュフ仕立て)という事もあり、平凡なものしか作れない上条は形で勝負に出たわけである。
クッキーの枚数は全部で12枚。アルファベットが7種類11枚、記号が1枚。全て綺麗に形作られており、型崩れ等もしていなかった。

「んー、まあ、結構失敗もしましたけどね。お陰でクッキー作りだけは上達したよ。後はネックレスににおいが移ってなければ良いけど…」
上条はそういうと髪の毛をポリポリとかく。美琴の心は嬉しさや喜びで一杯だった。

「嬉しい…ありがとう…」
「どういたしまして」
「ねえ当麻、これ…私に付けて?」

そう言うと、美琴は袋からネックレスを取り出して、上条の前にかざす。
上条はそれを受け取ると、美琴に近づき、慣れない手つきで慎重に、美琴の首にそれを通した。
上条が離れると、美琴は首に掛かったネックレスを手に取り、上条の方を見た。
お互いの眼と眼が合った瞬間、美琴が口を開いた。

「ありがとう。当麻、私、一生大事にするね」
そう言って微笑んだ美琴の顔は、今までで一番美しかった。
そして、その笑顔に含まれた妙な愛らしさと色っぽさに、上条は少しドキリとする。

「俺も、美琴が喜んでくれて嬉しいな」
「だって、当麻からのプレゼントだもの。当たり前でしょ?」

それもそっか、と上条は苦笑いをする。
美琴はそんな上条を見て、「ああ、やっぱり当麻は当麻だな。まあ、そんな当麻が好きなんだけれど」と思いながら、空を見上げた。

先ほどよりもまた少し日が高くなった青空は、綺麗に澄み切っていた。

美琴は「今日もいい天気だな」と思いながら、ふと思い立ったように上条の手を取り、飛び出すように動き出した。
「え、ちょ、美琴!?」
「さあ、当麻、今日は何処に行こっか?」

4779-452:2011/03/12(土) 23:24:13 ID:ttKaID12
以上です。
はて、何の話だったんだろう?w
まあ、クッキーの形についてはご想像にお任せします。

個人的な教訓1:ベタ甘は難しい。他の作者様のベタ甘作品の中和用となる、ちょいと苦めの作品が一番書きやすい。
個人的な教訓2:リアルに合わせた時期物も難問。中々時間が取れないし、構想も不十分で書く必要が出てくる。
まあ、そんな所ですかね。はい。
意見や批評コメも大歓迎ですので、色んな忌憚の無い意見をよろしくお願いします。

今後の予定(書けるかな?)
・いつぞや話に上がってた「妹達編after空白の一週間」 (4月上旬までには仕上げたい)
・22巻アフター〜上条さんとの再会まで (構想中。長くなりそう。つーか○○氏と被りそうw)
・See visionSを元ネタにした作品(処女作に近い路線かも、wikiの処女作閲覧1万HIT記念位で予定)
他、スレに投げっぱなしになってるプロットを随時回収して冒険していきますので、もしご要望があればどうぞ。

4789-452:2011/03/12(土) 23:28:25 ID:ttKaID12
ぎゃあ、○○氏って書き直そうと思って放置してたままだったーw
蒼さんすみませんorz

479■■■■:2011/03/13(日) 00:07:16 ID:Bzyc04bc
>>477
湯たんぽ美琴がいれば、上条さんは冷たくならないと思うよw

> ・22巻アフター〜上条さんとの再会まで
SS速報の某スレのことかと思ったw


リアルのホワイトデーは、残念なことになりそうだけど、
SSでは盛り上がって欲しい。

480■■■■:2011/03/13(日) 00:09:38 ID:Nam.TTEY
>>477
GJです。
初々しい、上琴がイイですねぇ。

そっか、ホワイトデーか……。
リアルで縁がないから、忘れてたな……。(^_^;)\(・_・) オイオイ

481■■■■:2011/03/13(日) 09:02:58 ID:3jC5o.Ls
>>477
GJです!
幸せをかみしめている美琴がこの上なくかわいい…w

> ・22巻アフター〜上条さんとの再会まで
別にこちらは気にしてないので大丈夫ですよ〜
むしろ私のは個人的趣向により少しあれなのでやってもらったほうが…w

あお

482とある通気管:2011/03/13(日) 09:53:43 ID:rNv2hzXQ
生存報告なり
みんなー!生きてるか!?

483まずみ:2011/03/13(日) 14:09:14 ID:33EnOqBc
皆様、こんにちは。まずみです。

SSにいつも感想ありがとうございます。
特に今回は皆様の受けが良く、多くの感想を頂けました。
本当に有難うございます。
皆様の感想が私の創作の力になりますので、
引き続き応援よろしくお願いします。

以下、レスになります。

>>419
シリーズになりましたw
あまりいちゃいちゃになっていないと思いますが、
こういうパターンもありだと思いますので、応援よろしくお願います。

>>420
ありがとうございます^^

>>421
上条さんの愚鈍さは最強です。
あれが無ければ私のSSは成立しませんw

>>422
乙女心の表現は非常に難しかったです。
でも、これがしばらく続きますので、応援宜しくお願いします。

>>423
嫉妬はどうしようもない感情ですからね。
人を好きになる難しさが表現できているか、挑戦中ですw

>>424
いちゃいちゃSSだけに当麻の鈍感さはさらに進んでいますが、
優しさも大きくしたいと思ってますので、当麻への応援もよろしくお願いします^^

>>434
自分的にはそんなに早くないと思ってるのですが、とにかくネタが確定すれば
3時間ほどで1本仕上げるようにしてます。なので、ネタが確立できるか勝負ですw

さて、以下久々の投稿です。
「恋する美琴の恋愛事情4『修羅場美琴の告白事情』」をお楽しみください。

484『修羅場美琴の告白事情』:2011/03/13(日) 14:10:11 ID:33EnOqBc
「不幸だ……」

 いつものようにお決まりの台詞を呟きながら、上条当麻は己が立場を呪うしかなかった。

「トウマ、トウマ。色んなオカズが沢山あるんだよ!これほど豪華なお弁当は初めてなんだよ!!」

 隣に座るインデックスはそんな当麻の心情に気付くことなく目の前のお弁当に心奪われはしゃいでいる。
 そう、目の前には和洋中幾種もの色とりどりのオカズが入ったお弁当が拡げられていた。

「日本人なら和の心。誰かの為にお弁当を作ったのは初めて。上条君、食べてくれる?」
「医食同源。中華には食事にも健康に気を配るという非常にありがたい心構えがある。上条当麻、心して食べるように」 
「べ、別にアンタの為に作ったわけじゃないけど、せっかく作ったのに食べないともったいないでしょ。アンタもボーっとしてないで食べなさいよ」

 そして、上条当麻の目の前にはまるで『私の弁当を食べないとわかってるわよね?』とでも言いたげな視線で睨みつけてくる3人の美少女がいた。
 一人一人がそれぞれの美しさを持つ美少女であり、それぞれが確固たる意志を持った瞳で当麻を睨みつける。
「おかしい」と、当麻は首を傾げるしかなかった。昨日まで3人が3人とも嬉しそうにしていたはずだ。それなのに、どうして自分はまるで釜茹でされる直前の石川五右衛門のような気持ちにならなければいけないのか、当麻には全くもって理解不能だった。

「どうしてこうなった……」

 白洲に座る罪人の如くその身体を委縮させながら、当麻はここに至る過程を思い出していた。


      ********

485『修羅場美琴の告白事情』:2011/03/13(日) 14:11:16 ID:33EnOqBc
 
 
「……遊園地?」

 御坂美琴は上条当麻の台詞に意外そうな表情で聞き直した。

「そ、今度新しく出来た室内型遊園設備への招待状ですよ」

 そう言って自慢気に2枚のチケットを見せつける。確かにチケットには今度新しく開園する室内型遊園地の招待券と書いてあった。

 いつものように学校の帰りに本来の通学路からは遠回りして、いつもの公園で上条当麻と会っていた美琴だったが、「そういえば」と当麻が取りだしてきたのがこのチケットだった。

「で、それを誰と行くのよ?」

 自慢気に見せつけるそれを見ながらなんとなく不機嫌になる美琴。2枚のチケットのうち1枚は当麻が使用するとしてもう一枚の行方が気になる。まあどうせあのちびっこシスターなんだろうと予想が付いてしまうだけにどす黒い感情が表面化しそうになってしまう。

「ん、そんなの御坂に決まってるだろ」

 しかし、予想外の台詞に美琴の心拍数が跳ね上がる。

「いやあ、小萌先生からこのチケットを貰った時はどうしようかと思いましたが、普段お世話になっている人へのお返しをしなさいと言われて、やっぱ御坂にも渡さないとなと思ったわけですよ」
「へ、へえ……」

 なにか重要な事を言ったような気がしたが、すでに美琴の心拍数は跳ね上がり、血圧は上昇、まともな思考は働いていない。

「御坂を誘うなら白井とかも誘うべきなんだろうが、枚数的に御坂一人になっちまうのは申し訳なかったけどな」
「う、ううん!大丈夫よ!黒子の事なら問題ないから!!あの子はうん。全然まったく関係ないから!!」

 もし白井黒子が聞いていたらショックのあまり卒倒するような台詞を吐くあたり美琴のテンパリ具合が尋常ではないのが見て取れる。当麻は当麻でいつもの如く超鈍感ぶりを発揮し、美琴が喜んでくれていると思い込み話を続ける。(まあ、実際、大喜びはしているのだが)

「それなら良いんだけどな。そういうわけで、次の日曜に行くからあけておいてくれよ」
「う、うん!絶対にあけるから!!予定なんか入れない!!」

 折角の初デートなのだから、例え予定があってもキャンセルする。完全に美琴の心は舞い上がっていた。

「ふう、これで上条さんも一安心ですよ。皆楽しんでくれれば本当にチケットを配った甲斐があるというものですよ」

 と、これまた意味深な発言を繰り返すのだが、やはり舞い上がった美琴の心はもう何も聞いていなかった。

 そして、寮に帰っても喜びを隠せない美琴は黒子の前で当麻とのデート予定を激白(もちろん黒子用のチケットなどなく、二人っきりのデートである事も全て)。黒子がその場で真っ白に燃え尽きていたが、それさえも気にならない程に美琴は舞い上がりっぱなしだった。

「ふふん〜♪何を着て行こうかな〜」

 などと制服着用義務さえ忘れている美琴の姿を見て、燃え尽きた黒子の灰はさらに風に吹き飛ばされていくのであった。可哀想に……

 しかし、当日になって浮かれた美琴の心は急転直下し、地獄の底へと叩きつけられる事になる。何故なら……

「トウマ、秋沙は判るとしても、なんで短髪がここにいるのかな?それにまた別の女性も……」
「上条君、どういうことなの?」
「上条当麻、どういうことか説明してもらえるか?」

 待ち合わせした遊園地の入り口前で美琴が見たのは、上条当麻の姿だけでなく、白い修道服を着た少女、前に公園で見掛けた日本人形のような黒髪の少女、さらに大覇星祭で当麻の前で倒れた巨乳の少女達の姿だった。

「え?いや、だから、普段からお世話になっている人たちへの感謝の気持ちだって言ったじゃないですか」

 自分のやった事の重大さが全く理解できていない当麻はあっさりとそう答えたが、その瞬間、吹寄のヘッドバッドが当麻の脳天へと、姫神のアッパーがみぞおちへと突き刺さり、とどめに美琴の電撃が全身に落ちる。

「な、なんで……不幸だ……」

 パタリと崩れ落ちる当麻。もちろん、いつもの口癖は忘れなかった。

「自業自得なんだよ、トウマ。そして、まだ私の罰が残っている事を忘れないでよね」

 そして、その言葉通り、数秒後意識を取り戻した上条はインデックスに頭から噛みつかれることとなった。まさに自業自得……


      ********

486『修羅場美琴の告白事情』:2011/03/13(日) 14:15:05 ID:33EnOqBc
      ********
 
 
「ところでその制服、常盤台中学のものよね?なんで貴方みたいなお嬢様学校の子があんなバカと知り合いなの?」

 前を歩く巨乳の少女が美琴に話しかけてきた。

『確か、吹寄制理さんだったっけ?』

 見た目からかなり気の強そうな顔をし、当麻が好みそうなほど巨大な胸をした少女を見ながら、それはズルイな……などと美琴は心の中で溜息をつく。
 結局、あれから解散するわけにもいかず、お互い自己紹介の後、5人で遊園地に入ったものの、気まずい空気は払拭されず沈黙がその場を支配していた。しかし、もともと吹寄制理と姫神秋沙の二人は同級生、しかも友達同士という事もあり、すぐに二人は会話を始めるのだが、どうしても年下であり、学校すら違う美琴にとってとても居づらいものであった。

「大丈夫よ。別に貴方が悪いわけではないから。どちらかと言えば乙女心を理解せずにこういう事をするあのバカに責任があるんだから、気にしないで」
「は、はあ……」

 とはいえ、気易く当麻の事を「あのバカ」と呼んでいることが美琴にはなんとなく気に入らなかったりもする。

「彼は私と私の妹の命を救ってくれた命の恩人だから。全身全霊を賭けて私たちを守ってくれた人だから」

 と、特別な関係である事を示すような言い方をしてしまう。

「ふうん」

 しかし、吹寄はさほど気にする様子もない。まるで「そんなことは判っている」とでも言っているように美琴には感じてしまう。

「やっぱ、あのバカ無茶やってたのか」と悔しがるような呟きが吹寄の口から聞こえた。

「確か、御坂美琴さんよね」

 今度はもう一人の黒髪の少女から話しかけられる。

「え、ええ」

 一応返事はしたが、その少女−姫神秋沙は何かを考えるかのようにしばらく無言が続く。そして、数秒の後、彼女の口からは核心をつく台詞が美琴に向けて放たれる。

「上条君は目の前に苦しんでいる人がいたら助けずにはいられない人。私だってその一人。だから、それが特別にならない事は知っている」
 そう、上条当麻と言う人間はそういう人間だ。それは美琴も理解している。
 だからと言って、それを認めてしまえば、自分の存在さえも消えてしまうような不安感を感じてしまうのも事実だ。だから、いままで見て見ぬふりをしてきたのだ。彼の傍にいるインデックスという少女も同じく救われた側であろうという事実ですらも。

「まあ待て姫神。彼女はまだ中学生だ。自分の感情に戸惑いを覚えても仕方のない年齢だ。そう責めるものではない」

 恐らく吹寄も悪気があったわけではない。そんなことは美琴も理解している。しかし、美琴にはどうにも我慢できなかった。当麻が高校生で自分が中学生であるという現実。この年の差のせいで美琴が当麻にまともに相手してもらえてないことを理解しているから、第三者にその現実を突きつけられた事に無性に腹が立った。

「そんな事!わかってるわよ!!でも、自分の気持ちに嘘なんかない!!私は本当に!!」

 しかし、美琴はそこで言葉を止めてしまう。ここから先はこの場で言うべきではないのだと、判ってるから。
 そして、それは他の二人にも理解できてしまったのだろう。最初に謝ってきたのは吹寄だった。

「すまない。その事を責めたつもりではなかったのだ。君に不快な思いをさせたのであったならば謝ろう。申し訳なかった」

 そして、姫神もそれに続く。

「ごめんなさい。私も焦ってしまって、貴方を傷つけてしまった。本当にごめんなさい」

 そんな二人の態度に美琴は自分を恥じることになってしまう。これが中学生の自分との違い。学園都市最強の7人のレベル5の第3位と言われても、結局自分は単なる子供なんだと痛感させられてしまう。

487『修羅場美琴の告白事情』:2011/03/13(日) 14:15:49 ID:33EnOqBc

「おいおい、何があった?」

 そして、このタイミングで当麻が割り込んでくる。

「吹寄、姫神、何があったんだ?御坂もなんでそんな表情してるんだ?」

 そう、こいつはこういう奴だ。普段は全く自分たちの事を気にも留めないのに、苦しんだり、悲しんだりすると直ぐに来てくれる。それが有難くもあり、辛くもあった。

「上条、申し訳ないが、そこのシスターとちょっと先に行ってお弁当を食べれるような場所を確保しててくれないか。私達はちょっと話し合う必要があるようなのでな」
「ゴメン、上条君。私も吹寄さんと同じ。先に行っててくれないかな。すぐに追いつくから」

 二人の真剣な表情に当麻は困ったような顔をしたが、「御坂もそれでいいのか?」と尋ね、頷くのを確認すると「わかった」と言って、その場を離れて行った。
 インデックスだけは「なんで私を入れてくれないかは聞かないけど、シスターは迷える子羊には優しいんだよ」と、わかったようなわからないような言葉を残して去って行った。

「さて、では少しばかり本音で話をしようか」

 吹寄のその台詞に美琴は力強く頷いた。


      ********

488『修羅場美琴の告白事情』:2011/03/13(日) 14:17:07 ID:33EnOqBc
 
 
 そして、20分後、3人はお互いにすっきりした表情で当麻達のもとにやってきた。
 心配していたようなことにはなっておらず一安心した当麻だったが、しかし、お弁当を広げた瞬間今度は当麻が困ることになった。

「ええと、どれから食べればいいでしょうか。上条さんは非常に迷います」

 と、嫌な汗を大量に掻きながら、当麻は箸を持ったまま固まってしまう。
 美琴の作った洋食も、姫神の作った和食も、吹寄の作った中華も、どれもが非常に美味しそうでどれから食べようか迷ってしまうのも事実なのだが、それ以上に”誰の”お弁当から手をつけるのか、それが問題になってしまっていた。

「上条当麻。まさか私の作ったものが食べられないというのではないだろうな?」

 と吹寄が氷の瞳で睨みつけているかと思えば、

「上条君は和食が似合うと思う。是非食べるべき」

 と姫神が真剣な瞳で見つめてくるし、

「ど、どれから食べても構わないけど、折角私が作ったんだから、ちゃんと食べなさいよ」

 と真っ赤な顔で上目遣いに睨んでくる。

『3人とももしかして上条さんを苛める相談でもしてたんでしょうか?なんでこんなに心臓に悪いんでしょう?』

 当麻はまるで蛇に睨まれた蛙の如く動けずにいた。

「トウマは、やっぱりトウマなんだよ。というか、トウマが食べないんだったら私が全部食べちゃって良いのかな」

 などと相変わらず食欲魔人の如くな台詞を口にする。KYって言葉知ってますか?

「ええい!悩んでいても仕方ない!ここはこうすればいいんだ!!」

 もう形振り構っていられないと判断し、完全に吹っ切れた当麻はあろうことかそれぞれの弁当から一品ずつを抜き取り一度に口の中に放り込んだ。

「バカなのか上条当麻!そんな事をすれば味も何も分からなくなるだろ!!」
「やりやがった、この野郎」
「あ、アンタってば本気でバカなの!?」

 と、三者三様の反応を示すが、「美味い!美味いぞ、これ!!今まで食べた事の無い美味さだ!!」と当麻が涙を流して喜ぶと、3人とも顔を真っ赤にして、

「あ、当たり前だ。そのために作ったのだから」
「喜んでもらえたなら、嬉しい」
「ば、バカ。そんなに大喜びすんな」

 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな顔をする。
 逆にそれに対し機嫌が悪くなったのが一人。インデックスである。
 インデックスは自分で調理などしないから同じ土俵には立てないが、蚊帳の外にいる現状に納得がいかなかった。だから、インデックスが取る手は一つしかなかった。

「トウマばっかりずるいんだよ!私も食べるんだよ!!」

 と、当麻の先手を取りお弁当を食べつくす蹂躙作戦に打って出たのだった。
 そして、自分たちの食べる分が無くなる事に慌てた、美琴、吹寄、姫神もお弁当争奪戦に参加。こうして賑やかな昼食は瞬く間に過ぎて行った。


      ********

489『修羅場美琴の告白事情』:2011/03/13(日) 14:17:53 ID:33EnOqBc
 
 
「ねぇ、楽しかった?」

 夕陽の差しこむゴンドラの中で、美琴は目の前に座る当麻に楽しそうに話しかける。

「そうだな。たまにはこういうのも悪くないよな」

 当麻はそんな美琴を見て、やはり嬉しそうに答えた。
 昼食の後、それぞれの希望するアトラクションを巡る事になり、吹寄の希望するジェットコースター、姫神の希望するお化け屋敷、インデックスの希望する屋台めぐりをそれぞれの希望者と当麻のツーショットで回る事になった。そして、最後が美琴の希望した観覧者だった。
 これも希望者と当麻のツーショットで乗る事になり、今ゴンドラの中は美琴と当麻の二人しかいない。残りの3人は気を利かせて別のゴンドラに乗っている。

「なあ、3人で何を話してたんだ?」

 当麻は気になっていた事を美琴に尋ねた。
 実は他の二人にも同じことを尋ねようと思ったのだが、何故か口にする事が出来なかった。だから、美琴に聞くことにしたのだが、何故美琴には聞く事が出来たのか、当麻自身気が付いていない。

「大したことじゃないよ。ただ、自分たちの気持ちに向き合えてるかどうかの確認」

 そう言って、それ以上の事は話そうとはしなかった。
 そして、沈黙に支配されたゴンドラが丁度頂上に差し掛かった時、再び美琴は口を開く。

「ねえ」

 ゴンドラに差し込む夕日が背後から美琴を光輝かせる。
 それはまるで妖精のような美しさだと当麻は素直に感じる事が出来た。

「私がアンタの事好きだって言ったら信じる?」

 そして、その言葉は魔法のように二人だけの時間を示す時計を止めることになった。

490まずみ:2011/03/13(日) 14:22:22 ID:33EnOqBc
以上になります。

ようやく美琴が告白らしい事を発言しましたが、これがどう動くのか、その結末はもう少しお待ちください。

さて、現状報告になりますが、
3/11地震発生し避難勧告が発生。職場から避難していました。
既に次のSSは出来上がっていたのですが投稿が出来ない状態になってしまいました。
結局、職場にも戻れず、家に帰ろうにも電車等交通網は完全停止しており、徒歩で家まで帰ることに。結局、家に帰れたのは翌日の12日夕方でした。
しかも、家の中はもう全てひっくり返っており、やはり投稿できる状態ではありませんでした。そのため、11日に投稿するつもりが本日になってしまいました。遅くなりましたこと、お許しください。

まだ家の片付けも終わっておらず、正直次の投稿がいつになるかもわからない状態です。
出来ている分だけでも皆様に楽しんでもらおうと投稿させていただきました。
よろしければ、感想等聞かせていただけますとありがたいです。

それでは次回SSでお会い出来るよう頑張ります。

491■■■■:2011/03/13(日) 16:13:26 ID:Nam.TTEY
>>490
まずみさん、GJです!!

美琴の最後の告白っぽいの……。
男からすると、アレって『ズルい』んだよなぁ……。^^;

492■■■■:2011/03/13(日) 16:37:12 ID:Bzyc04bc
>>490
吹寄、姫神、禁書さんの口調に違和感が……。
今は難しいかも知れないが、原作を確認して欲しい。

> 家の片付けも終わっておらず、次の投稿がいつになるか
創作活動よりも、家の片付けを優先してくださいw

493Mattari:2011/03/13(日) 17:27:47 ID:Nam.TTEY
いつもありがとうございます。Mattariです。

>>462
ありがとうございます。
ご期待に添えるように頑張ります。

>>463
ありがとうございます。
……でも、何でバレたんだろう?w

今回の地震で被害に遭われた皆さんにお見舞い申し上げます。
また、犠牲になられた方々のご冥福をお祈りいたします。

さて、やはり土日は投下が多いですね。
もう少し時間を遅くしようかとも思ったのですが、他にちょっと用事がありまして……。
先に投下された方には申し訳ないのですが、続けての投下となりますことをお許し願います。

と言うことで『番外編』の投下です。
今回は結末まで書かせて戴きました。

で、一部……かなり宗教的な箇所がありますので、苦手な方はスルー願います。
同じく、今回の挑戦で『禁書目録』を出してみたのですが、どうもうまく動かせませんでした。
魔術に対する解釈もありますが、あくまでも私個人の考えです。
その辺りも出来れば、お目こぼし戴ければ……と思います。

では、この後8レス消化で投下します。

494とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:29:09 ID:Nam.TTEY

『チーン』

 学生寮のオンボロエレベーターが7階に着いたことを示す音を鳴らし、扉がゴトゴトと音を立てながら開く。

「ホント、メンテしてるのかよ……」

 上条さん、毒突いてますなぁ……。

「じゃあ、オレが飯の支度するから、美琴は部屋の片付けをしてくれな」

「う……うん……」

 まだちょっと辿々しい美琴さん。
 緊張してます。
 そりゃそうですよね。ココに入るのは初めてなんですから……。

「あ……アレ?」

「どうしたの?」

「カギが……開かない……」

「えっ!?」

「なんで……?そんなバカな……?」

「どうして?」

「オレだって分かんねぇよ……朝はちゃんと……ダメだ……」

「どうする?」

「管理人のオッサンに言って……アレ?」

「どうしたの?と、当麻……?」

「空いてる?」

「ヘッ!?」

「カギが開いてる……?」

「えっ!?」

「なっ、なんだ!?中からチェーンが……?一体どうなってるんだ?」

「とうま?帰って来たの?」

「「え゛……?」」

「ちょっと待ってなんだよ。……お帰り、とうま……って、……なんで短髪まで居るの?」

「いっ、インデックス?……おっ、オマエ……いつコッチに戻って来たんだよ!?」

「何言ってるの?とうま。私はずっとここに居るんだよ?」

「ハァ?……何言ってんだよ。この前の戦争で、フィアンマに首輪の遠隔操作霊装を使われて、身体に負担がかかり過ぎたからって、イギリスで療養してたじゃねぇかよ?」

「戦争?フィアンマ?首輪?」

「まぁ、別に帰って来たんならそれでも良いけどさ、帰って来るなら帰って来るで、ちゃんと連絡入れろよな」

「何を訳の分からないことを言ってるのかな……とうまは?(ガチガチ……)」

「そりゃ、コッチのセリフだ……あ、美琴。入れよ」

「……」

「第一、なんで短髪と一緒なの!?」

「あのなぁ……この前、イギリスに連絡入れたろう。オレは美琴と付き合うことにしたって……。オマエも納得してくれたじゃねぇか……」

「だ〜か〜ら〜、私はずっと、ここに居るって言ってるんだよ〜〜〜ッ(ガブッ!!!)」

「ぎぃいゃぁぁぁああああああ……久々の噛み付き……これは……懐かしい痛み……じゃなくって……不幸だァ〜〜〜!!!!!」

「……な、何よ……これ……」

「ヘッ!?……あ、美琴……」

『ガジガジガジガジ』

「一体……何なのよッ!?」

「えっ!?……痛ぇっ、はっ。離せよッ。インデックスっ……」

『ガジガジガジガジ』

「さっきまで……あんなに優しくって……笑いかけてくれてたのに……何なのよっ!?コレはっ!!!!」

「「ヘッ!?」」

「一体何がしたいのよっ……アンタはっ!?」

「美琴……?」

「さっきまであんなに優しくって、見たことのない笑顔で笑いかけてくれて……人に一杯期待させといて……。それで何ッ!?コレは一体何なのよっ!?」

「短髪?」

「アンタ、一体何様のつもりなのよっ!?この部屋に居候させて貰ってるみたいだけど……何なのよ、この散らかりようはっ!?」

「うっ……」

「少しくらい片付けたらどうなのよっ!?一緒に住んでるんでしょ?部屋を片付けるとか、掃除するとか、洗濯物を片付けるとか、それくらい出来るでしょうがッ!?」

「うぐッ……」

「どうせ全部やって貰ってるんでしょ?それくらい見たら分かるわよ。全部コイツに依存して、甘えて……それで……それで……恋人って言えると思ってる訳!?」

「あ……あの、……美琴……」

「アンタは黙ってて!!!!!」

「はっ……はヒッ……!?」

「アンタには別に言いたい事があるんだからっ!!!!!」

「ヘッ!?」

「その上、自分の思い通りにならないからって、コイツに噛み付いて!!!アンタ、シスターなんでしょっ!?シスターがそんなコトしててイイ訳!?」

「ううっ……と、とうま……」

「み、美琴……落ち着け……落ち着けよ……なっ……」

「アンタもアンタよっ!!!どうして何にも言わないのよっ!?」

「あ……う……い、イヤ……それは……」

「ただ甘やかしてるだけじゃないっ!?恋人ごっこしてるだけじゃない!!それで一緒に住んでるところを私に見せつけるってどう言うつもりよっ!?」

「なっ……何を言ってるんだよ?」

495とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:29:40 ID:Nam.TTEY

「何って、今……ココで……アンタとこの銀髪シスターがイチャついてたじゃないっ!?」

「お……オマエには……アレがイチャついてるように見えるのかっ!?」

「だってそうじゃない!!!あんな風に普通に会話して、普通に噛み付かれて……それを受け入れて……今だって、その子を庇ってるじゃないっ!!!」

「別にそう言う訳じゃないよ……」

「さっきまで、あんなに優しかったのに……」

「えっ!?」

「あんなに優しくって、一杯笑いかけてくれて……。今までの毎日がウソのようで……。思わず期待しちゃったわよ……。アンタと一緒に過ごせたら……って……。なのに……なのに……」

「おっ、オイ……美琴ッ」

「何よ……コレは……何なのよっ!?……こんな、何にも出来ない……銀髪シスターとの恋人ごっこを見せつけて……、こんな手の込んだことして……、最初っから……私のことがキライなら……キライならキライだって言えばイイじゃないっ!!!!!」

「待てッ!!美琴ッ!!!!!」

「とうまっ!!待って!!!」

「オマエはここに居ろっ!!ドコにも勝手に行くんじゃねぇぞっ!!!」

「えっ!?」

「オレは美琴を連れ戻してくる。それまでに勝手にどっか行ってやがったら……オマエといえど、ぶっ飛ばすからなっ!!!!!」

「ヒッ……」

「イイなっ!!分かったなっ!!!!!」

「う……うん……」

 インデックスさんの返事を聞いた途端、上条さんは美琴さんを追ってダッシュしました。
 何か……ヤバイ展開だなぁ……。
 困ったなぁ……。

(エレベーターは……まだ1階までは降りてない)

(先回りするには……コレしかない……か)

「せいっ!!!」

 わ……わ……上条さん、無茶しちゃダメですって。
 樹に飛び移って、下に降りるなんて……。

「クッ……よっと……」

 え……ぅ、上手い……。
 な……何で……?

「っと……ハッ……よしっ!!!!!」

『ダンッ!!!』

 ど、どうして……こんなことが……?

「ヘッ……、夢の中の勇者様の修行ってのも、結構役に立つもんだな……」

 エエッ!?そ、そんなの……アリですかっ!?

「美琴……居たッ!!……待てよっ!!!美琴ッ!!!!!」

「こ、来ないでよっ!!!……私のことがキライだから、あんなことしたんでしょっ!?」

「何言ってんだよっ!!オマエのことをキライになる訳なんかねぇじゃねぇかっ!!!!!」

「えっ!?」

「ずっと一緒に居るって誓ったじゃねぇか!?一緒に歩いてくって誓ったじゃねぇかよ!?」

「……知らない……」

「何言ってんだよっ!?アレを忘れたって言うのか!?」

「……私……知らない……」

「オレが、オマエの電撃を受け止め損ねて……病院で、オマエがスッゴい素直になってくれて……だから、オレはオマエに『好きだ』って言って……オマエもオレのこと『好きだ』って言ってくれたじゃねぇかよっ!?……アレを……アレを忘れたって言うのかっ!!!!!!」

「し、知らない……私、……そんなこと……知らないッ!!!!!」

「……何だって……?」

「ホント……ホントに知らないの……」

「ば……バカな……そ、そんなバカなっ!?」

「アンタと私は……この数ヶ月……ケンカしかしていない……。出会ったら……『勝負よ』って私が言って……その後は……ビリビリ追いかけっこか……ケンカするか……。そんなことしか……していない……」

「な……何だよ……それ……?」

「なのに……今日のアンタは……、あのメールはまるで、恋人に送ってくるような優しいメールで……。会ったら、優しくって……温かくって……楽しくって……私……私……あんなに嬉しいの……知らない……」

「どうなってんだよ……一体……」

「今日のアンタは、いつものアンタとはまるで別人……。全然違う人みたいだった。でも、それでも……最後は……あのシスターと……」

「あっ……アレは違うッ!!!!!」

「えっ!?」

「オレの部屋にインデックスは居ない。居ないはずだった。確かに以前は一緒に住んでたこともあった。だけどそれは、恋人とかそんな関係じゃなくって……ほとんど家族みたいな関係で……」

「……ウソ……」

「ウソじゃねぇよっ!!!……オマエも見たろう、あの部屋の中を。アレが一緒に歩いて行こうって決めた恋人同士の部屋かよっ!?」

「……あ……」

「アイツは、インデックスはオレにとっちゃ、妹って言うか……娘みたいな存在なんだ。家族みたいなモンだったんだよ」

496とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:30:30 ID:Nam.TTEY

「えっ……だった?」

「そうだよっ!!!分かってないようだから言うけどさ……今のオレにとっては、オマエと一緒に居ること以上に大事なことなんて無いんだよっ!!!!!」

「……えっ……//////////」

「オマエと……御坂美琴と一緒に歩む。御坂美琴とその周りの世界を御坂美琴と一緒に守る。そして二人で幸せになる。オレは、オレたちはそう誓ったんだよ」

「……そんなこと……(は……恥ずかしい……でも、スッゴい嬉しい……)」

「でも……何で……あの誓いを忘れるなんて……美琴が、あの誓いを忘れるなんて……絶対にあり得ない……」

「……当麻……」

「一体……何が起こってるっていうんだ?」

「ご、ゴメンナサイ……私……私……」

「美琴は悪くないよ……でも……ホントにあの誓いを覚えてないのか?」

「うん……知らない……というより、そんな風に出会ってないの……」

「そ、そんな……じゃあ……一体……ココは……」

 どうしよう……どうしよう……どうしよう……どうしよう……

「ん……アレ?」

「どうしたの?」

「右手がさ……何か……震えてるんだよ……?」

「えっ!?……ホントだ……」

 どうしよう……どうしよう……どうしよう……どうしよう……
 ヤバい……マズい……ヤバい……マズい……

「……まさか……」

「どうかしたの?」

「ん?……ああ、まあな……ちょっと心当たりがあってさ……」

 ギクッ!!!

「美琴……頼みがあるんだけど……」

「えっ!?……何?」

「超電磁砲(レールガン)を2〜3発……この右手にぶち込んでくれないか……それも、とびきり出力(パワー)のあるヤツで……」

 ギクッ!!!ギクッ!!!

「エエッ!?何言ってるのよっ……そんなことしたらッ……」

「オレにじゃないよ……この『右手』にぶち込んでくれって言ってるんだよ」

 ギクッ!!!ギクッ!!!ギクッ!!!

「それなら……でも……幻想殺し(イマジンブレーカー)がはたらいて……」

「その幻想殺し(イマジンブレーカー)にお仕置きしたいんだよ……多分、今回の事件の張本人だからな……」

 ドキィッ!!!!!!!!

「幻想殺し(イマジンブレーカー)が張本人?……何それ?」

「説明は後でするからさ……とにかくやってくれよ」

「イイけど……右手の震えが……すごいよ……ほら」

「……やっぱりな……」

 うわぁぁぁぁああああああ……バレた……バレちゃった……どうしよ……どうしよ……どうしよう……。

「……オイ、右手……」

 ドキィッ!!!!

「テメエ……何しやがった……オレを何に巻き込ンだンだァ!?」

 上条さん、アクセラさんが入ってる……一方通行さんが入ってるぅ〜〜〜〜。ガクガク(((( ;゚Д゚)))ブルブル

「今出て来たら許してやってもイイ……だがよ……隠し通そうってンなら、コッチにも考えがあるンだよなァ……」

 ヒッ……ひぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!

「美琴にさ、至近距離からレールガン2〜3発ぶっ放して貰っちゃおうかなァ……」

 イッ……イヤぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!

「それとも……雷雲でも呼び出して貰おうか?」

 ダラダラダラダラダラダラダラダラ……

「当麻……右手……汗が……」

「オイッ!!いつまでも隠せると思ったら大間違いだぞっ!!!!!オマエが今回の犯人だってのはネタが割れてんだよっ!!!!!!!」

『ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!!ゴメンナサイ!!!!』

「エエッ!?……み、右手が……喋ってるぅ〜!?」

「やっと出て来やがったな……コノ野郎……」

『ヒェェェエエ……。お、お願いですから……お願いですから……レールガンの連発だけは……それだけは勘弁して下さいィィ〜〜〜〜』

「ンじゃあ、洗い浚い……全部吐くってんだな……」

『はっ……ハイッ!!……全部お話しさせて戴きますんで……どうか……どうか……』

「分かった……だが……ちょっとでも変なウソでごまかそうとしたら……」

『分かってます……分かってますから……ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!!ゴメンナサイ〜!!!!……』

 ああ……とうとうバレちゃったよォ〜……。
 許して貰えるかなぁ……。
 困ったなぁ……。
 ああ……不幸だ……。

497とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:31:25 ID:Nam.TTEY

『……で、かくかくしかじか……という訳でして……』

「信じられない……幻想殺し(イマジンブレーカー)が喋るなんて……」

「そこかよ……突っ込むところが違うだろ?」

「えっ?……ああ、そうね……エヘッ……」

「『エヘッ』じゃねぇだろ……何か……美琴のイメージが……」

「私も聞きたいことがあるんだよ?」

『ハイ、インデックスさん……何でしょう?』

「幻想殺し(イマジンブレーカー)は一体どの魔術に属するのかな?」

『申し訳ないんですが……魔術には属しません。というより、魔術と一緒にされるのは心外です』

「えっ!?」

『魔術は本来、神の理から外れた力です。私は『神様の力の一部』ですから、根本的に違います。一緒にしないで戴きたいです』

「魔術が神様の理から外れてる?……そんなコトはあり得ないんだよっ!!!」

『そう思っているのはあなた方魔術師だけです。我々から見たら、とんでもない思い違いなのですよ。多分、どれだけ言っても理解はされないでしょうけれど……』

「だって、魔術は神様の力を使っているんだよ?それが神様の理から外れてる訳がないんだよっ!!!」

『あなた方魔術師がその理を自分たちの都合の良いように歪めて……ですよね。自分たちの都合で神様の理を歪めている。それが神様の理から外れていないとどうして言えるのですか?』

「ううっ……」

「じゃあさ、どうして魔術が存在できるわけ?」

『そんなの簡単ですよ、美琴さん』

「えっ!?」

『それが神様の懐の深さ、慈愛の大きさの現れなのです。それに神様の理から外れているのは、別に魔術だけに限ったことではありません。他にも沢山あるんですよ。それらを全て除外してしまったら……この世は存在出来なくなってしまいます』

「「……へェ……」」

「何となく……」

「分かったような……分からないような……」

『宗教的な話になってしまいますが……神の子は、何と説かれたのですか?』

「「「えっ!?」」」

「『神の子』って……イエス・キリストのコトよね?」

「だろうな……この場合……」

「『神の子』が説いたこと……」

『『汝の敵を愛せよ』ですよね』

「「「あっ……」」」

『汝の敵を愛するのに、魔術が必要ですか?相手を傷つけるだけの魔術が必要なのですか?』

「だけど、魔術は神の奇跡を……」

『だから、それを歪めていると言っているのです』

「何か……スゲえこと聞いた気がする……」

「そうよね……」

「うう……」

「でもさ、それと今回のこととは……」

『ギクッ!!!』

「別だよねェ〜……」

『ギクッ!!!ギクッ!!!』

 インデックスさんが来た時は『しめたッ』と思ったんだけどなぁ……。

「そういうコトだな」

『(ふ、不幸だ……)』

「「「オマエが言うなっ!!!」」」

『(す、スミマセ〜ン……)』



「……つまり、この世界は並行世界(パラレルワールド)で、オレにとってはココは別世界って訳か……」

『そうなります……ハイ』

「ココでは、第3次世界大戦も起こっていない。イギリスのクーデターもない。だからオレが学園都市から姿を消した訳でもない……」

「うん……そう……」

「インデックスや、妹達(シスターズ)の事件は起こってるらしいけど……『神の右席』の事件そのものが起こっていない……ということか……」

『多分……この世界の上条さんは、アナタよりもまだ成長していないのでしょうね』

「えっ!?……どういうコトだよ?」

『神様は超えられない試練をお与えになることはありません。今のこの世界の上条さんでは、『神の右席』や『第3次世界大戦』を超えられないと判断されているのだと思います』

「だから、そう言った事件は起きない……ってコトなのか?」

『ハイ、そうなります……』

「たった一人のために、世界の出来事が変わっちゃうなんて……」

『でも、それが世界の成り立ちでもあるんですよ。だから、この世界に必要ない人なんて存在しないんです。皆さんがどう思われるかは別ですけど……』

「「「へェ……」」」

「だったら、今回のことも『神様が与えた試練』ってコトになるのかよ?」

『コトを起こしたのは私たちですけど……、神様がそれを容認なさっているということは……そういうコトになります』

「うーん……」

『ただ、神様が容認なさったということは……アナタなら超えられる試練だと判断されたということになります』

498とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:32:06 ID:Nam.TTEY

「……へェ……そういう風に考えればいいのか?」

『そうですね。そう考えた方がイイというか……、そう考えることが大事だと思います』

「なるほどなァ……」

「……そうだよね……」

「えっ……美琴……じゃなくって……御坂……だよな……」

「えっ?……ううっ……」

「そんなに寂しそうな顔するなよ……でも、やっぱりオマエはオレにとっちゃ『美琴』じゃないんだよな……」

「ううっ……グスッ……」

「泣くなよ……オイ、右手……どうすんだよ?」

『私に言われましても……』

「……グスッ……ご、ゴメンね……。でも……それだけアナタとの出会いが素晴らしかったんだ……私にとっては……」

「えっ!?」

「それに……コレは私にとっても『試練』なんだよね?」

『ハイ、そうなりますね』

「だったら、私もこの『試練』を超えられるようにならなきゃイケないって事よね?」

『そういうコトですね』

「うん、分かった……」

「……御坂……」

「それに……スゴく素晴らしい想い出を貰えたんだもん……。自分が何をしたかったを教えて貰えた。自分が何を忘れていたかを思い出させて貰えた。大切な『願い』を思い出せた。だったら……それに向かって歩んでいくことが大事……ってコトだよね」

『その通りです』

「私は、この世界の上条当麻と一緒に歩めるようにならなきゃいけないって事なんだ……。コレはそういう事に気付くための『試練』なんだな……」

『美琴さん、多分それが正解だと思いますよ。……ただ、それだけじゃない……とも思います』

「えっ!?……それだけじゃない?」

『アナタだけじゃないってコトですよ。この世界の上条さんにとっても同じく『試練』な訳ですからね』

「そういや、コッチの世界のオレって……ドコに行ってるんだ?」

『もちろん……上条さんが元居た世界ですが……』

「えっ!?……あ……そ、そうか……」

「あの……上条さん……」

「何か……変な感じがするけど……オレのことだよな?」

「ぅ、うん……私も変な感じがするけど……」

「ハハハ……で、何だ?」

「アナタの世界にいるアナタの世界の私のこと、心配じゃないの?」

「そりゃあ、心配だけど……多分、大丈夫だと思う……アイツなら『美琴』なら気が付いてると思うよ」

「何でッ!?……何でそんな風に信じられるの?どうやったらそんな絆が結べるのっ!?」

「一緒に歩むって決めたからな。一緒に幸せになるって誓ったから」

「あ……」

「信じてるって言うと、軽いかも知れないけど……。でもそう、やっぱり信じられるんだよな……大丈夫だって……オレが大丈夫だったようにさ」

「そ、そんな……でも……スゴい……スゴいな……私も……そんな風になりたい……」

「なれるよ。オレがなれたんだからさ」

「そんな……そんなの……無理だよ……」

「今のオレがずっと前から居た訳じゃない。今のオレは『美琴』と一緒に歩いてきたから、そのお陰で成長出来てるんだよ」

「えっ!?」

「その一緒に歩いてきた経験がなかったら、今のオレは無かったんだ。今のオレは居ないんだよな。だからこそ、一緒に歩いてきたからこそ、信じられるんだ」

「一緒に歩いたからこそ……信じられる……」

「御坂美琴に相応しい男になる。って決めたからな。だから、そうなれるようにオレはオレが出来ることをやってるだけだ」

「簡単に言うけど……そんなに簡単に言うけど……」

「やる前に悩んでたって、どうにもならないぜ」

「えっ!?」

「やらなきゃ分からないことがあるんだよ。前に進まなきゃ分からないことがあるんだ」

「……」

「超えたヤツには分かるんだけどな。超えられないヤツには絶対に分からないんだ。超えないと分からないことがあるってコトはさ」

「超えないと……分からない?」

「ああ、そして超えられないヤツに限って、そう言うと『イジメ』だとか、『出来たから言える』とか言うんだよ。でも、ホントは違うんだよな」

「違うって?」

「本当は誰にでも超えられるのさ。そして、後は『やる』か、『やらない』かのどちらかを選択するだけなんだけどな。大体が『やらない』を選んで、その言い訳を並べ立てるのさ」

「でも……超えられるかどうかなんて……」

499とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:32:53 ID:Nam.TTEY

「さっき、右手が言ったはずだぜ。『神様は超えられない試練を与えられることはない』ってな」

「あっ!!!」

「だから、超えられるんだよ。後は『やる』か『やらない』かだけだ。そのどちらを選ぶかは、全部自分次第なんだよ」

「あ……そうか……」

「目の前にハードルがあったら飛び越えないと気が済まない誰かさんが、何でこんなことに尻込みしているのかは知らないけどな……レベル5になった経験からも分かるはずだぜ」

「うっ……」

「そしてコレは……、そこでイジけてるシスターにも言えることだよな?」

「……何で、そこで私に振るのかな?」

「今日、御坂から結構キツいことを言われたみたいだけどな……アレって、ほとんどその通りだと思うぜ」

「エエッ!?」

「オマエはその頭の中に10万3千冊の魔道書を蓄えてる訳だけど……じゃあ、それをどうするってコトを考えたことがあるのか?」

「えっ!?」

「闇坂のオッサンの時にオマエ言ったよな。『こんな薄汚れた魔道書に頼っちゃいけないんだよっ』ってさ」

「あ……うん……」

「その薄汚れた魔道書をお前自身がどうするのかを、お前自身が考えなきゃいけないんじゃないのか?」

「ううっ……」

「その事から目を逸らしてる毎日を送ってちゃ、ダメなんじゃないのか?」

「そ、そんなコト言われたって……どうしたらいいか……分からないんだよ……」

「だから、それを探すことを『やる』しかないんじゃねぇの?それがインデックスに与えられた『試練』なんじゃねぇの?」

「私に与えられた……『試練』?」

「そうだよ。それをオマエはオマエ自身で考えなきゃいけないんだよ。だって『完全記憶能力』を持っているオマエでなきゃ、それは解決出来ないことなんだと思うからさ」

『上条さんの仰る通りですね。アナタが『完全記憶能力』を宿している意味をアナタは考える必要があるのだと思いますね』

「『完全記憶能力』を持っている意味……?」

『そうです。そして……それはアナタでなければ見つけられない。アナタ自身が解決しなければならない、アナタ自身の問題なのですから』

「私自身の問題……」

「それにしてもさ……オイ、右手……」

『あ……ハイ……』

「何となくだけど……上手く誤魔化そうとしてねぇか……オマエ?」

『えっ!?……イヤ……そ、そんなことは……』

「まあ、こうやってみんなでこの事態がどうしてこうなったかも分かったし、コレから進むべき道もボンヤリと見えてきたんだから……イイんだけどな……」

『あ……ハイ……』

「オレにとっての一番の問題は……オレはちゃんと元の世界に戻れるんだろうな?」

『あ……その件に関しては……大丈夫です』

「えっ!?そうなの?」

『今日、入れ替わった時間から24時間後に、またもう一度入れ替わりが起こります。それ以前には無理ですけど……』

「じゃあ、明日の9時頃には俺は元の世界に戻れるって訳だな?」

『ハイ……そうなります……』

「ハァ……良かったァ〜……もしかしたら、ずっとコッチで過ごさなきゃならないのかと思っててさぁ……それだけが不安だったんだよな……」

『申し訳ありません。私たちの勝手で、こんなことをしてしまって……』

「その件に関しちゃあキッチリ落とし前付けて貰わないとな……」

『あ……あのう……一体、どうすれば……?』

「それはオマエに与えられた『試練』なんだろう?」

『あ……』

「「「プッ……、アハハハハハハ」」」

『う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ……』

500とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:33:45 ID:Nam.TTEY

「それじゃあ、私は帰ります」

「んじゃ、送っていくよ。インデックスは留守番な」

「分かったんだよ。とうま」

「え……でも……」

「遠慮すんなって。それに……変なことに巻き込んじまったお詫びも兼ねてるんだしさ……」

「ハイ……じゃあ、遠慮なく……」

「じゃあな、インデックス。帰ったらメシ作ってやるからな」

「うん、待ってるから早く帰ってきて欲しいんだよ……お腹減った……」

「んじゃ……行くか?……御坂」

「あ……ハイ……」

「スルーしないで欲しいかもっ!!!(やっぱり後で噛み付いてやる……ガチガチ)」

『あ、あのう……私ちょっと、神様から呼び出されたみたいで……しばらく外しますんで……一応力は残しておきますから……大丈夫だとは思うのですが……』

「へェ……神様からの呼び出し……ねぇ……。怒られんじゃねぇの?」

『ヒッ!?……おっ、脅かさないで下さいよォ〜……』

「まぁ、それだけのことをしたってコトだろう?」

『あ……ハイ……本当に申し訳ありませんでした……じゃあ、ちょっと行って来ます……』

「ああ……ハァ……しかしなぁ……ホントに散々だったなぁ……」

「フフッ……そうですね……あ、あの……上条さん?」

「ん?……どうした?」

「お願いがあるんですけど……」

「なんだ?言ってみろよ」

「(モジモジ)」

「???」

「あ、……あの……」

「ああ……」

「あの……」

「うん?」

「あっ!……あのッ!!」

「ああ」

「いっ、今だけでイイんですっ!!……もう一度だけ……『美琴』って……呼んで貰えませんか……?」

「……」

「今だけで、一度だけでもイイから……お願い……『美琴』って……呼んで……欲しいの……アナタに……」

「……」

「上条さん……?」

「……ゴメン……それは出来ないよ。……というか、しちゃいけないことだと思う……」

「えっ!?……あ……」

「御坂はこの世界のオレと、そういう関係を結んでいかなきゃいけないんだと思う……。……だから、ココでオレが御坂をそう呼ぶのは……やっちゃいけないコトだよ。確証はないけど……そんな気がする」

「……ハイ……」

「ホントは呼んでやりたい……んだけどな……。それをしたら、元の世界に戻った時に、アイツに『美琴』に怒られそうでさ……」

「……上条さん……それって……惚気……ですか?」

「そっ、そんなんじゃねぇよっ!!!」

「プッ……フフフッ……」

「……プッ……アハハハハハハ……」

「……じゃぁ……ココで……イイです……」

「そうか?……もうちょっとあるけど……」

「大丈夫ですから……。……本当にありがとうございました。とても楽しかったです」

「そうか?お礼を言われるようなことは何にもしてないんだけどな……」

「ううん。大切なものをいっぱい、いっぱい……教えて……貰った……から……」

「そっか……」

「あ……あの……」

「何だ?」

「最後に……もう一つだけ……お願いがあるんですけど……」

「ん〜……名前呼び以外なら……」

「あの……アイツが……この世界の上条当麻が帰って来た時の……予行演習を……させて……欲しいな……って」

「ヘッ!?」

「アイツに……と、当麻に……素直に想いを伝える……予行演習が出来たら……って……」

「それくらいなら……イイかな?」

「ホントにっ!?」

「……ああ、イイぜ……」

「じゃ……じゃあ……」

「ああ……」

「ゎ……私……私は……私はっ!!……私は、アナタが好きッ!!!アナタが好きですッ!!!!……上条当麻さんが大好きですっ!!!!!」

「ああ……オレも御坂が好きだぜ」

「う……ううっ……うっ……。……あっ……ありがとうございましたっ!!!」

「あっ……御坂……」

 オレが御坂を呼び止めようと思った時には、アイツは寮の方に向かって駆け出していった後だった。
 オレはその背中に向かって……

「ガンバレよ、御坂……美琴……」

 と言って、インデックスの待つ寮に足を向けた。

501とある右手の番外編:2011/03/13(日) 17:35:25 ID:Nam.TTEY

「学校も休みだし、帰るとしたら……ココだよな……」

 そう言ってオレは、いつもの自販機のある公園に立っていた。
 インデックスは見送りに来ると行ったが、丁重にお断りをした。
 昨夜、御坂を送った後インデックスとも話をしたが、どうやらイギリスに帰って、もう一度一から魔術の勉強をするつもりらしい。
 コッチの世界の上条当麻はどう思うかな?
 そんなコトがふと頭を過ぎったが……すぐに消えていった。

『ココを選ぶなんて……上条さんらしいと言うか……』

「まあな……トコロで、オマエ。昨夜はどうだったんだよ?」

『あ……アハハ……ハア……、神様からは……かなり……ハイ……』

「でさ、コレからもこんな風に出てこれる訳?」

『そ、それは……さすがに……』

「そりゃそうだろうな……何処かの魔術師と対戦してる時に喋られたんじゃぁ……コッチがおかしくなっちまう」

『わ、私としては、そういうのは出来るだけ避けて戴きたいんですけど……』

「だけど、オマエの本来の役目は……」

『それを昨夜、神様からこっぴどく言われまして……アハハ……だから、しばらくはこうやってお話しすることも禁止になりましたし……今の意識も少しの間、休眠して『力』のみの存在に……』

「そっか……ま、しゃーねーな……ちょっと可哀相な気もするけど……」

『そんな……あ……そろそろ時間ですよ……』

「おっ……来た来た……」

(二度目だけど……何度やられても……あんまり気持ちの良いもんじゃねぇな……)

「ん?……元に戻れたのか?」

「お帰り……当麻」

「あ……アレッ!?……美琴?」

「そっちも大変だったんじゃない?」

「ああ、ソコソコな……オマエこそ、どうだったんだよ?」

「うん……、それなりにね……」

「そっか……しかし……お騒がせな右手だぜ……まったく」

「ホントよ……お泊まり……一日損しちゃった……」

「あ……そうか……そうなるのか……」

「ね……今夜は……イイでしょ?」

「ああ、オレも一緒に居たい気分なんだよな……」

「エヘッ……嬉しい……」

「ただいま……美琴」

「うんっ!!!!!お帰りッ!!!!!……チュッ♪」

502Mattari:2011/03/13(日) 17:50:48 ID:Nam.TTEY
ということで、以上になります。如何でしたでしょうか?

禁書目録を含め、『聖書』を題材にした物語(有名ドコロではエヴァですかね?)は多くありますが、
『聖書』の特異性のみが浮き彫りにされ、本来伝えようとしているところが蔑ろにされている。
そんな想いが自分の中にあって、そこを中心に据えてみたらどうなるか?
ということに敢えて挑戦してみました。

ですので、かなり『異質』なモノになってしまったな……と思います。
『禁書』さんに対する辛辣な言葉もその現れからですかね。
ですので、苦手な方は……マジでスルーして下さい。(;^_^A アセアセ…

長くなりますが、この物語を書いていて、頭に浮かんでくるのはこの裏の話だったりします。
つまり、美琴Versionが……出来上がりつつある訳でして……。
機会があったら、書いてみようかな……と思います。

次回の投下がいつになるかは分かりませんが、次回は本編を進めたいと思っています。

ではでは、お楽しみいただけたら幸いです。<(_ _)>

503名無し:2011/03/13(日) 18:42:40 ID:BRVNfLRw
GJ!
>『聖書』の特異性のみが浮き彫りにされ、本来伝えようとしているところが蔑ろにされている。
それは、そのとおりだと思います!
聖書が何故廃れることなく読み次がれてきたか。
それを知らないでいては世の中を渡る有力なツールを1つ失うことになります。
イマジンブレイカーえらい!

504■■■■:2011/03/13(日) 21:25:33 ID:yHg3vqac
聖書に深く突っ込むとはなかなかやるではないですか。
確かに聖書が出てくる作品は多々あれど、その重要な中身を伝える作品って
あんまり見たこと無いですよね。そういう意味ではなかなか興味深かったです。
(´・ω・)b  作者さんGj!

505■■■■:2011/03/13(日) 21:25:42 ID:IrTvRRq6
初めまして。素晴らしいSS達の後で誠に申し訳ないですが私も$$を書いてみました。
分かり辛い所、変な所、多々有ると思いますが、もし宜しければ御一読下さいませm(__)m

タイトル とある少年少女の衝撃発言(サドンインパクト)

誰も居られなければすぐ投下させて頂きたいと思います。

506■■■■:2011/03/13(日) 21:28:15 ID:IrTvRRq6
学園都市の第七学区のとある公園で最早日常と化したやり取りを一組の少年少女が繰り広げていた。
一方はツンツンとした黒髪が特徴的で少し疲れた顔をしていた。もう一方は前髪にバチバチと火花を纏いながらを少年睨み付けていた。

少年は心底疲れたという声で少女に尋ねた。
「で?今日は一体何の用だ御坂」

御坂美琴。名門常盤台の超電磁砲(レールガン)。学園都市に七人しか居ない超能力者(レベル5)の第三位。最強の電撃使い(エレクトロマスター)。それが少女の肩書きである。

「上条さんは忙しいので、あまり構ってあげられないんですよってどわぁ!!?」
「だっ誰が!!構ってって言ったのよ!?」

尤も、少年の前では只の少女(時々電撃付き)でしか無かったが。

「アンタが!私が声を掛けてるのに気付かずスルーするからでしょ!!」

肩でゼーハーと息をしながら美琴は叫んだ。それに対して上条は右手を前に突き出して叫び返した(ちょっぴり涙目)。
「だからっていきなり雷撃の槍(ぶっそうなモン)を人に向けて放つヤツが在るか!!何度も受け止める俺の身にもなれ!!」
「何よ!どうせ効かないんでしょ!!」
「そういう問題じゃねえ!」

自身を上条さんと呼ぶ少年、上条当麻の右手には異能の力なら神様の奇跡すら打ち消す幻想殺し(イマジンブレーカー)が宿っている。先程から美琴の電撃を喰らわずに済んでいるのもそのお陰である。ところが、美琴にしてみればそれが気に食わないらしく、何かある度こうして電撃を放たれている。(と上条は思っている)。
実際は気になるアイツと一緒に居たいという乙女心全開な美琴が上条に近付く為の口実に過ぎなかったりする。だが、乙女心など知る由もない鈍感な上条には美琴の想いが伝わるはずもない。




筈だった。



美琴との言い合いに時間を大幅にロスしてしまった上条は、用事(タイムセール)に間に合うよう強引に話を切り上げるために、

「なぁ、毎日々々俺を追いかけ回して、そんなに俺が好きなのかよ?」
言ってしまった。

507■■■■:2011/03/13(日) 21:29:29 ID:IrTvRRq6
上条としては嫌いな相手に「好きか?」等と問われれば、美琴は怒って帰るだろうと考えて、少々のからかいも含めての発言だった。故に電撃の一つでも来るかと覚悟して右手を構えていたのだが、何時まで経っても電撃はおろか罵声一つ飛んで来ない。
恐る恐る美琴へと視線を向けてみるとそこには、

上条が抱いているイメージとはかけ離れた、

顔真っ赤にして、両手を胸の前で組み、

潤んだ瞳で見つめてくる、

上条の知らない御坂美琴(オンナノコ)の姿がそこに在った。

508■■■■:2011/03/13(日) 21:33:05 ID:IrTvRRq6
美琴と目があった瞬間、上条の心臓が大きく一つ跳ねた。抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。無理矢理それを押さえ込んで上条は声を絞り出した。確かめなければならない、否、確かめたい事がある。

「…なあ…………御坂」
美琴がビクン!と反応した。

「あ……え、と…そう、なの…か?」
美琴は俯いたまま反応しない。

「違うなら違うって言ってくれ。馬鹿な男が勝手に勘違いしたってだけなんだから」
そう言って上条が美琴に一歩近づいた。

「……!」
ビクン!と美琴が再び反応して上条から一歩遠ざかった。

その反応を見て上条は胸が締め付けられた気がした。やはり自分の勝手な勘違いなのだと。美琴は自分が嫌いなのだと。こみ上げてくる何かに耐えながら上条は

「ごめんな。勝手に勘違いして。嫌いな男に好きか?なんて聞かれて不愉快だったろ?俺はもう帰りるから。さっきことは忘れてくれ。じゃあな」
そう言って公園の出口へ向かおうとした時、

「……………………じゃない」
美琴が言った。

「……え……?…」
「……じゃない…!」
「御坂…?」
「だから!勘違いじゃないって言ってんの!!何で分かんないのよ馬鹿!!」
そう叫ぶ美琴の顔はさっき以上に赤かった。

509■■■■:2011/03/13(日) 21:34:28 ID:IrTvRRq6
「勘違いじゃないって事は、その、俺の事…?」
「はあ…そうよ。私は、御坂美琴は、アンタが、上条当麻がすっすっすすっ好きなのよ。毎日々々アンタを追いかけ回してしまう位にね。」
美琴が落ち着いてから、二人は公園のベンチに腰掛けていた。それぞれの手には「ヤシの実サイダー」と「アポロドトキCン」が握られていた。無論上条が「アボロ〜」(ビタミンCと秘密の成分を配合しているらしい。詳しくは知らない。知りたくもない)

上条は今まで見たことのない女の子な一面を知ってしまってから、妙に美琴を意識してしまう自分に困惑していた。自分を好きと言ってくれる。そんな美琴を上条は、「抱き締めたい」そう思ってしまった。

「え…?」
知らず言葉にしていたらしい。美琴が驚くのも無理はない。意中の男に突然そんな事を言われて驚くなと言う方が無理である。一方上条はと言うと美琴を抱き締めたいという衝動が押さえ切れなくなっていた。美琴の両手を優しく握ると、美琴を見つめて

「抱き締めたい。良いか?美琴」
と言い出した。美琴に拒否できる筈もなく、上条当麻による御坂美琴抱き締めタイムが始まろうとしていた。

510■■■■:2011/03/13(日) 21:36:48 ID:IrTvRRq6
二人は今ベンチでお互いに向かい合って座っている
「じゃ、じゃあ、い、今から抱き締めるけど。良いか?良いのか?なあ、本当に良いのか?」
そう聞く上条の声は震えていて、
「一々確認するな!良いから!さっさとやんなさい!」
答える美琴は緊張からか体が震えていた。

ゆっくりと美琴の肩に手を伸ばす上条。肩に手が触れた瞬間美琴がピクッと反応した。だが上条に最早美琴に気を使う余裕はない。
両肩から背中へ手を回し美琴をいざ抱き締めようとした時

「や、やっぱり駄目ーーーーーーーーー!!!!」
「痛ってぇぇぇえーーーーーーーーーー!!!!」
目に映るものが美琴の顔からすっかり日が沈んだ夜空へ。茫然としている上条の耳に「ごめん、また次の機会に!!その時までには心の準備をしておくから!!」と美琴の声。
美琴の走り去った方を見つめながら
「次の機会、か。待ってろよ美琴。我慢出来なくなったらこっちから行くからな」
そう呟いた。
尤も、タイムセールに間に合わず、寮に帰って頭蓋骨に穴が空きそうになったり、公園での出来事を巡回中の風紀委員に見られていたせいで鬼のような形相の風紀委員に鉄矢を持って追いかけ回されたり、尋常じゃない腹痛に苛まれたりして、結局御坂美琴を抱き締めることができたのはそれから約一月後の話。



511■■■■:2011/03/13(日) 21:43:57 ID:IrTvRRq6
以上です
なんか色々おかしくて申し訳御座いません(キャラとか色々というか全てに於いて)

ただ上条さんが美琴にもしこういうことを言ったらどうなるのかって考えてた時にこのお話を書いてみたくなりました

読んで頂いた方に感謝極まりないです
おじゃまいたしました

5129-452:2011/03/13(日) 21:52:32 ID:a3EJR6rQ
>>479
ですよねー。まあ、ウチの美琴は心配性で寂しがりなんです。

>>480
あざーっす。

>>481
おお、蒼さん直々にありがとうございます。
自分も暗黒面一直線な気がしますが、作れる範囲でやっていきますよ!

>>490
乙です。が、まずは自宅の方をお片づけされてください。
待つことは何時まででも出来ますし。

>>502
乙です。美琴sideにも期待。

>>511
乙です。ああ美琴さん、もうちょっと我慢してれば至福の時を味わえたのに…w

513■■■■:2011/03/13(日) 23:33:46 ID:Bzyc04bc
>>502
禁書目録では、あくまで「十字教」であって、「神の子」=JESUSさんとは限らないんだぜ。

>>511
ふにゃってなれば、ハグしてもらえたのに。 残念!w

> アポロドトキCン
バーローw

514■■■■:2011/03/14(月) 23:00:31 ID:nxXSbuPk
ども、ぐちゅ玉です。5分後にホワイトデーネタを。

・既に昨晩pixivで上げたネタなので、既読の方はまわれ右でOK。
・お馬鹿系なので、2828とかしっかりしたストーリーを求める方もまわれ右。
・バレンタインネタの「それでも舞夏は廻っている」の続きみたいにしてますが、読まなくても大丈夫です。
(ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1545.html)

ということで。

515■■■■:2011/03/14(月) 23:05:08 ID:nxXSbuPk
【もふもふこう(1/5)】

「連絡がない……スルーする気かしらアイツ」

 とある日曜日。明日はホワイトデーである。
 色々と不本意な点はあったが、1ヶ月前、「アイツ」にチョコを渡すことはできた。
 そうして数日前から期待に満ち溢れていた御坂美琴の心は、……今や焦り一色に染まっていた。

 もちろん本番は明日なのだから、焦る必要はない。しかし、明日が平日である以上、今日それなりのアクションはあって然るべきと思うのだ。
(くっそー……アイツだけはホント思い通りになんない……)
 美琴は、ぐるっと部屋の中を見渡した。
 後ほど、佐天涙子と初春飾利がお茶会という名目で遊びにやってくる。そのために掃除をしていたのだが、元々片付いた部屋なので、掃除といっても大した手間もかからなかった。
 白井黒子は仕事中だがもうじき終わる予定で、二人と合流し、飲み物など買って帰ってくるとの事だ。

 実際のところ、今日の遊びは断りたかったところである。「アイツ」から今日連絡が来るかもしれないと思うと、とても集中して遊べないし、呼び出されたらマズイことになる。
 だが断る理由が見つからず、ズルズルとこの部屋で遊ぶことを了解してしまった。
 ただこうやって掃除をしている分には、落ち着かない気分が紛れるというメリットはあるわね、と美琴は結構大掛かりに掃除を行っていた。


(ラストは足元、っと)
 ベッドの下から「きるぐまー」を引っ張り出し、埃を落とすべくぱんぱんと叩く。
「……うーん……、」
 このぬいぐるみには隠しポケットが多数付いており、香水などを美琴はここへ隠して仕舞いこんでいる。
(そろそろ、限界ね、これ)

 少なくとも、一緒に抱いて寝る事はできなくなっていた。中の固形物で、むしろ抱くと痛いぬいぐるみになってしまっている。
 もちろん、捨てるとかそういう選択肢は無い。
 あらゆる偶然や奇跡が重なって、あの呪われた実験から救われた自分。救い出してくれた「アイツ」は、このぬいぐるみに隠していたレポートを見つけ、駆けつけてくれた。
 そんな重要な役割を担ってくれた「きるぐまー」だが、抱きつく対象として引退の時期が来ている気がする。

(かといって、ねえ……)
 新しいものを買うのは、「きるぐまー」に申し訳ない気分になってくる。
 また、いい加減そういう事から卒業しなきゃ、という思いもある。オトナになりたいという思いと少女趣味が矛盾してますわよ? と何かの拍子に黒子から指摘されてグサッと心に刺さったのを思い出す。

(……まあ今考える話じゃないわよね。さて! 他にやり忘れたことは……)
 ベッドの下を掃除機で吸込み、また「きるぐまー」をしまい直した。
 黒子側のベッドの下も掃除し、今度こそやることが無くなったかな、ともう一度見渡す。

 そこで美琴は一つ、思い出した。
「あっ、アレ返さないと」
 そうつぶやいた美琴は、本棚から一冊の本を抜き出した。
 前回、初春が持ってきた本で、そのまま美琴が借りたのだ。

『好きな人の顔を思い浮かべながらティッシュを裂いてひもが100本出来たら100%願いが叶う』
 こういったような事が延々と書き連ねられている、おまじないの本であった、が。
 借りてはみたが、いくら『「起こりえない」ことを「起こる」と信じて』レベル5に到達した美琴でもお手上げの内容であった。あまりに根拠がなさすぎた。
(好きな人の髪の毛を、イニシャルの形に組んで白い紙に挟んで、枕の下にしいて、その人の夢を見たら両思いになる……とかさ。完全にオカルトだわねえ……)

 まあ初春飾利もあれだけデジタルに近い人間だ、ほとんどネタのつもりで貸してくれたのだろう。
 返す前にもう一度、とばかりにパラパラッとページをめくる。
「これなんて凄いわよね。『携帯の裏を上に置いて置けば、好きな人から電話が掛かってくる』なんて。これで掛かってくるなら苦労しないわよ」
 美琴は苦笑いしながらつぶやき、本を閉じた。……そしておもむろに机の上の、表向きに置いてあった携帯をひっくり返した。

「よし、掃除機返してこよっと。あとは軽く拭き掃除して……」
 掃除機をえいやっと担ぎ、ドアノブに手を掛けた、その時。

――ゲコゲコッ ゲコゲコッ


 机の上の携帯が、鳴り出した。

 ◇ ◇ ◇

516■■■■:2011/03/14(月) 23:05:35 ID:nxXSbuPk
【もふもふこう(2/5)】

 上条当麻は、悩んでいた。
 ものっすごく、悩んでいた。

 ホワイトデーのお返し、これは結構悩むものである。……贅沢な悩みとも言えるが。
 上条はバレンタインデーに結構収穫があり、当然そのお返しはそれなりの量となっていた。

 クラスの女の子たちへは、返しやすいと言える。大仰なものはなかったので、気軽に返せば問題ない。
 問題は2つあり、吹寄制理&姫神秋沙の合同チョコと、御坂美琴の高級チョコ、これの返し方が難しい。
 だが、前者は昨日解決した。
 土御門元春と青髪ピアスとで相談し、3人合同でお返しすることとし、相当不安はあったが青髪ピアスが選んでくることとなったのだ。

 そして、後者。美琴のチョコが、上条をずっと悩ませていた。
 彼女の喜ぶものが、思いつかない。
(財力が違いすぎる……)
 こっちが頑張っても、「ふ〜ん、こんなのか」で済まされそうな。もちろん、表面上でそう言うとは思ってないが、本心から納得して貰わないと意味が無い。
 下着などのネタ系で攻める手もあるが、……普段の関係から考えられないほどに、貰ったチョコが正統派チョコであったがために、真面目に返さざるを得ない雰囲気なのである。


 そうして、悩みあぐねた結果、上条は。
 スーパーの前で、一日張っていた。入り口を、じっと見据える。

 そこでは、福引の抽選会が行われていた。
 上条も買い物をしてやってはみたが、前のイタリア行きのようには行かず、ポケットティッシュが貰えたのみだった。不幸属性では当たるはずもなかった。
 ならば、とばかりに上条は物陰でじっと待つ。

 1時間半ほどが経過した、正午ごろ。
 ガランガラン鳴り響くハンドベルの音に、上条当麻は意識を集中する。
「おめでとうございますっ! 2等大当たりです!」
 大きなナイロン袋を下げた女の子が、ガッツポーズをとっていた。


 その女の子は、肩をチョンチョンと叩かれて、振り向いた。
 振り向くと、ツンツン頭の高校生らしき少年が、両手を合わせている。
「はい……?」
 福引のおねーさんから景品を貰い、両手にばかでかい袋を持つことになった少女は、首を傾げる。

「すみませんっ! その景品を売ってもらえませんかっ! お願いしますっ!!」


 ◇ ◇ ◇

「ふ〜〜っ」

 第一関門をクリアし、上条は一息ついた。
 簡単に事情を話すと、女の子は快く譲ってくれ、それどころかスーパーの中に入りなおし、プレゼント用に再包装する所までつきあってくれた。
「いいなあ、プレゼントだなんて、うらやましい……」
「こういう手に入りにくいものなら、と思ってさ。本当に助かったよ、サンキュー! 本当に3000円でいいのか?」
「当てた時は嬉しかったですけど、正直ぬいぐるみだと知ってガクッときてましたし。喜んでもらえるなら、タダでもいいぐらいですよー。ま、でもタダだとプレゼントの気分も変わってくるでしょうし、あえていただきます」
 ……といったやりとりもあって、何とか手に入れたのである。

 次の関門は、当の相手だ。
 どういうシチュエーションがいいか、しばし悩む。

 が、別に改まるほどの関係でなし、呼びつけて渡せばいいかと結論づける。
 上条は携帯をピピッと操作して、耳に当てた。

 8回ほどのコールで、ようやく相手は出てくれた。
『も……もしもし』
 なぜか彼女は出るのが遅い。いつも忙しいタイミングなのかもしれないが。
「おー、御坂。ちょっといいか?」
『な、何よ。私これから友達と遊ぶ約束あるんだけど?』
「あ、そうなのか。じゃあ、いいかな……」
『何よ、とりあえず言いなさいよ』
「いやさ、バレンタインデーでお前、チョコくれたじゃん? 一日早いけどお返ししようと思ってさ、今出てこれるかな、てな」
『――――!』
「荷物でかいから、明日の学校帰りはつらいかなと思ったんだよ。でもまあ約束あるなら――」
『ま、ままま待って! え、えーと。すぐ行くから、どこ行けばいい?』
「……友達はどうすんだよ」
『あと1時間ぐらい後に部屋に来る約束だから、それまでにケリつけりゃいいだけよ。だから場所どこ!?』

 携帯を閉じ、包装されたプレゼントに視線をやった上条は、ため息をついた。――こんなの喜ぶのは、アイツだけかもしれん、と思いながら。

 ◇ ◇ ◇

517■■■■:2011/03/14(月) 23:05:51 ID:nxXSbuPk
【もふもふこう(3/5)】

 上条当麻はベンチに座りながら、なかば呆れた目で、目の前の少女を見つめていた。

「はーっ、はーっ、……」
 美琴は思いっきり駆けてきたらしく、肩で息をしている。
「ま、とりあえず落ち着いて、座れ」
 上条がうながすと、美琴はベンチの端っこに座り、息を整えるべく深呼吸などし始めた。

「……時間ないとこに、悪かったな、じゃあ手短に」
 上条は紙袋からプレゼントを取り出し、両手で美琴に差し出した。
「チョコありがとな。ホワイトデーには一日早いけど、これ……」
「…………、」
 美琴は隣に座った上条から、おずおずとそのプレゼントを受け取った。

「……ぬいぐるみ?」
「ああ。気に入ってくれりゃーいいけど」
 美琴は唾を飲み込みながら、包装の紐を外し、テープを外して紙の包装を丁寧に剥がし始めた。そうしてビニールに包まれたそのブツが姿を現し、美琴は目を見開きながら、それを取り出した。


「ひ、非売品の……プライズ『もふもふゲコ太』……!」
 美琴の変化は明らかだった。目がキラキラと輝き、口元がどう見てもニヤけている。
「ど、どうしたのよコレ! これゲーセンでも超難度モノで、何千円かけても無理だったのに!?」
「まあ、色々とな。……その様子なら、受け取ってもらえるようですね?」
「きゃああ、ゲコ太〜〜〜!」
「…………、」
 まあ喜んでるのは一目で分かるし、とりあえず選択は間違ってなかったようだと、上条は安堵のため息をついた。

「……しかし、そんなにいいものなのか?」
「『もふもふ』がポイントなのよ。すっごい肌触り良くて、抱き心地いいんだって。……うわあ、まさか手に入るなんて……」
 カエルの肌触りがいいってものすごく抵抗感あるんですが、というツッコミを口には出せなかった上条である。

 美琴はビニールの口を丁寧に開き、ゲコ太をひっぱりあげた。
 そしてすぐさま、ゲコ太を抱きしめて、もふっと胴のあたりに顔をうずめる。
「……………………」
「……………………」
 美琴の無言は恍惚中、上条の無言はこの子どうしよう? 俺帰っていい? 状態である。

 美琴はちょっと顔を離すと、幸せそうにつぶやいた。
「はあー、こりゃいいわあ……」
「ふーん、……ちょっと貸してくれ」

 上条はゲコ太の両脇に手を差し込んで、美琴から受け取った。全長は50センチほどか。重さも適度だ。
「ああ、確かに肌触りいいな」
「でしょ」

 上条はゲコ太の背中あたりに顔を当てて、スリスリしてみた。
(ああ……、こりゃいいな。抱き枕ってこういう世界なのかね?)
 もふもふっ、もふもふっと感触を確かめて、美琴にゲコ太を返した。……いや、返そうとしたのだが。

 何故か御坂美琴が、頬を赤らめて固まっている。
「ん、どした……おい、御坂?」
「え? あー、あ、はいはい」
 美琴はようやくゲコ太を受け取ると、そのまま元のビニールに包みこみ、包装はせずに足元にあった紙袋に戻した。

「友達と約束あるんだろ? わざわざ来てもらってすまなかったな。んじゃ帰るか」
「ま、まだ時間は余裕あるけどね……じゃ、じゃあね。ま、またね」
「ああ」
 視線を合わせず、美琴は紙袋をひっつかんで走り去ってしまった。

「何だアイツ? 急にヨソヨソしく……?」
 上条は美琴の態度が少し変わった事に首を傾げる。
「ま、いいや。俺も帰ろう……インデックスも腹減らしてるだろうし、よく考えたら俺も朝からろくに食ってねえや」
 つぶやきながら帰途についた。

(ふー、しかし肩の荷が降りたな。アイツにああいう趣味があって助かった……喜んでたよ、な?)


 ◇ ◇ ◇

518■■■■:2011/03/14(月) 23:06:05 ID:nxXSbuPk
【もふもふこう(4/5)】

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!)

 顔を赤らめながら、御坂美琴はずんずん歩いていた。

 欲しかった『もふもふゲコ太』が手に入ったこと。
 そして、初めて上条からプレゼントを貰ったこと。

 本来、この2点だけでも、舞い上がるには十分な条件であった、が。

(〜〜〜! はやく、早く、部屋へ……!)


 ◇ ◇ ◇

 脇目もふらず自分の部屋に飛び込んだ美琴は、早速ゲコ太ぬいぐるみを紙袋からひっぱりあげ、もどかしげにビニールをベリッと剥がしてしまった。
 ぬいぐるみを両手に持ち、自分のベッドに乗り込むと、ぬいぐるみをうつ伏せに――ゲコ太の顔が下方向に、美琴の枕の上になるようにセットし。
 美琴自身は、ベッドの上で正座した。

(あ、アイツが、ココを、もふもふしてたよね……)
 もし、ここで。
 このゲコ太の背中をもふもふすれば、必然的に、間接的に、上条と……

(お、落ち着け。く、黒子じゃあるまいし、私がそんな……)
 美琴はブンブンと首を振った。
「そ、そうよ、そういう意味じゃない。あ、アイツやっぱデリカシーないわね。普段抱きつくものに、顔くっつけるなんてさ。ほんと、困ったヤツだわ、まったく!」
 頭の中で考えていると暴走しかけてるような気分になって、美琴は小さくつぶやきだした。
「だ、だから、今のうちに、あ、アイツが触っちゃった部分をなんていうか上書きしないと、気分的に使いにくくなるから! 今、やっとかないといけないことなのよ! やましい気持ちなんてこれっぽっちもない! うんうん!」

 ごくっと生唾を飲み込む。
「あー……、顔洗ってこよ」
 美琴は洗面所に向かい、蛇口を捻ってばしゃばしゃと冷たい水で顔をしっかり洗った。
 タオルで押さえるように飛沫をぬぐい、鏡をちらりと見る。
 どうみても、鏡の中の少女は、口元がニヤケている。
「な、何笑ってんのよ私。ま、まあプレゼント貰って嬉しくないわけないか、あははは……」
 言い訳するようにつぶやきながら、改めてベッドの上に戻る。

 あれ? ゲコ太をじっと見つめた美琴は、あるものに気づいた。
(あ、髪の毛が……)
 自分の地毛ではない、黒い毛が2本、ゲコ太にくっついていた。上条のものだろう。

『好きな人の髪の毛を、イニシャルの形に組んで白い紙に挟んで、枕の下にしいて、その人の夢を見たら両思いになる』
 あのおまじない。
 美琴はそれをつまむと、机の上の白いメモ用紙を二つ折りにし、上条の髪の毛を挟み、机の上に置いた。紙が飛ばないよう、携帯を上に乗せて。
(す、捨てるのはいつだってできるわけで……そ、それよりも!)

 これでもう、阻むものは、ない。顔も清めた。時間も確認して……大丈夫だ、約束の時間まで20分ほどある。
(で、では……)
 ごくり。
 禁断の果実を食べるとはこういうことか。
(い、いや! こんな事考えてる時点でおかしいのよ! 普通に、普通に扱うだけ! た、ためらう必要なんかない!)
 正座をやや崩した格好で。目を瞑り、口を引き結ぶ。
(わ、私は単に、もふもふするだけ。そう、ゲコ太にもふもふするだけよ!)

 美琴は、ゲコ太を持ち上げ……もふっと顔を押し付けた!


「……………………、」
 美琴は、そのままベッドの上で仰向けにぶっ倒れた。ばふっ、と羽毛布団に包まれる。
 そのまま強く、強くゲコ太を抱きしめ、顔をすりつける。
(ふにゃあ〜〜〜)
 頭の後ろあたりがジンジンする。
 脳内麻薬が出まくっているのが、分かる。
(こ、こんな……!)

 念願のゲコ太、彼からのプレゼント、そして彼のささやかな残滓。
 加えて抱き枕的な接触部分の心地良さと、羽毛布団に包まれて、……幸せ要素が詰まりまくったこの状況に、美琴は完全にトリップしてしまっていた。
 自分のやっていることに恥ずかしくなり、一層強く顔を押し付ける。そうするとまるで彼に顔を押し付けてるような気分になって、耐えられなくなって顔を離したくなる。するとまた真っ赤な顔が晒けだされて、恥ずかしいので押し付けて……の無限ループである。


 そんな、トリップ状態の常盤台のエースを、……呆然と見下ろしている3人娘がいた。

 ◇ ◇ ◇

519■■■■:2011/03/14(月) 23:06:21 ID:nxXSbuPk
【もふもふこう(5/5)】

「この分だと、15分ほど早く着きそうですわね」
 白井黒子は時計をみながらつぶやいた。
「佐天さん、それにしてもいっぱい買って来ましたねえ〜」
「へっへーん。新商品ばっかりだよー!」
 佐天涙子は初春飾利に大きなナイロン袋を見せつける。
 初春は佐天からナイロン袋を受け取り、軽いですねえ、これなら持ちますよー、とそのまま握りしめてしまった。

「それでさー、今話すともったいないから後で御坂さんも揃ってから話すけど、スーパーでいい事あったんだよねー」
「へえ〜」
「ほんと羨ましい話。やっぱホワイトデーを楽しむためには、事前にバレンタインで仕込んでおかないとなあ、って思っちゃった」
「そういえばお姉様はお返しどうなさるのかしら?」
 等と話しながら、常盤台寮へむかう。

 そうして黒子を先頭に、寮に入って2階の部屋へ。
「お姉様の性格でしたら、掃除はとっくに終わらせて、ご本でも読んでいらっしゃるでしょうねえ」
 勝手知ったる自分の部屋、黒子は普通にドアを開けた。

 黒子は固まった。
 緑色のカタマリ……それが巨大ゲコ太であることはすぐわかったが、それがベッドの上で仰向けで、頭部がこちらに向いている。
「おじゃましま〜〜、す!?」
 佐天と初春も固まった。

 いち早く立ち直った初春が、黒子に小声でささやく。
「み、御坂さんは……なにをしていらっしゃるんですか?」
 一歩ふみ出せば、そのゲコ太の下に、美琴がいるのはすぐわかった。しかし、ぬいぐるみにヒップアタックを食らって倒れているように見える状況の、意味が分からない。
「分かりませんし、あんなぬいぐるみ、今朝の今朝までお姉様は持っていなかったはず……」

 しかし3人は何となく感じ取っていた。別に声も匂いも何もないのだが……その、フェロモンと名付けるしか無いような、何かが。
 自分に向けられたものではない、その気配に黒子は怒りを覚えた!
「お姉様! 何をしてらっしゃるですの!?」

 ビクッ! とゲコ太が震えた。
 ゆっくりとゲコ太ぬいぐるみが持ち上がり、……やや身を起こして真っ赤な美琴の顔が、3人娘に向けられる。
 次の瞬間、美琴は羽毛布団の下に潜り込んで、ゲコ太ごと隠れてしまった!

「ちょ、ちょっとお姉様!? 何隠れてるんですの! そのぬいぐるみは一体!?」
「いやああぁぁぁぁ! 何も聞くなああああああ!」
 ひっぺがそうとする黒子と、そうはさせまいとブロックする美琴の後ろで。

 佐天涙子はニタアと笑っていた。

(そーゆーことですか、御坂さん……!)
 あのぬいぐるみで全て繋がった。
 スーパーで出会ったあの少年。無我夢中で抱きしめられたゲコ太ぬいぐるみ。……まあ何故後ろ向きだったのかは謎だが。
(今日のお茶会は、楽しくなりそう……うっふっふー)


 初春飾利は、この展開に戸惑いながら、キョロキョロ見回し、お菓子の詰まったナイロン袋を黒子の机に乗せた。
(何でしょう、この状況は……あら?)
 何の気なしに美琴の机の上を見ると、貸していたおまじないの本があった。
 その横にある、二つ折りの白い紙。

 おまじない。白い紙。……あの本の内容を全部そらんじている初春は、まさかという思いで、その紙を覗き込む。
 そこには、ここにいる面子ではない長さの、黒い髪が二本。

 初春飾利も、ニタアと笑う。
(そーゆーことですか、御坂さん……!)


――御坂美琴が、上条当麻から貰ったプレゼント。それは、「もふもふゲコ太」だけでなく「不幸の星」も付いてきていたのかも、しれない。

fin.


<という訳で美琴のもふもふ不幸話デシタ! ホワイトデーがほとんど意味ないのは、気にしたら負けです>

520■■■■:2011/03/14(月) 23:25:38 ID:qCRQwbb.
>>519
やっぱあんた上手いわぐちゅ玉さん!
誰もいないっぽいんで私も投下しようかと思ってたんですがちょっと様子見ててよかった。
赤っ恥かくとこでしたよ、ほんと。

鈍感だからこそ意外と大胆なことする上条さんの仕草にメロメロになってる美琴が可愛すぎます。
ただこの後、佐天&初春のヘルミッショネルズと戦わなければならない超電磁砲のその後を考えると
美琴が不憫でなりません、考えるだけでニヤついてきて。
おもしろかったー

521■■■■:2011/03/14(月) 23:53:18 ID:bEONG0p2
sageとくのに惜しいやこのスレ

522■■■■:2011/03/14(月) 23:58:43 ID:pwaWfPW2
sage進行ですよー

523■■■■:2011/03/15(火) 00:01:49 ID:S4qNDgzs
>>520
いつかは使われると思ってたもふもふ
それをホワイトデーネタに絡めてくるとはさすがです
上条さんの美琴への感情も強すぎず弱すぎずで俺得ですた
ああもう サ イ ン くんねえかな!?

524523:2011/03/15(火) 00:03:26 ID:S4qNDgzs
しまった520ちゃう519や
つかぐちゅ玉さんですね
改めてGJだすよ

525■■■■:2011/03/15(火) 00:12:38 ID:JmlB2WvM
>>519
乙でしたー。ああ、美琴さん可愛すぎるw2828が止まらんw

>>521
気持ちは分かるけど、>>1にも書いてある通りsage進行なのでsageでよろしく。
ローカルルールを守って2828しましょうや。

526■■■■:2011/03/15(火) 00:25:49 ID:Ki/hjVeI
ぐちゅ玉氏はこのスレ初期からいる人だからか格が違うね
GJ

527■■■■:2011/03/15(火) 00:35:46 ID:FJkYiD26
乙です!
待ってましたよ〜、うん。
やはり(不覚にも)にやにやして、楽しかったです♪
これからもよろしくです(笑)

528■■■■:2011/03/15(火) 02:26:11 ID:NZU06gPI
いや、マジこれなんだよ。キュンキュンしたじゃねえか。

くそ〜羨まs・・・げふんげふん。
GJです

529■■■■:2011/03/15(火) 03:10:33 ID:egvxm/0g
ニヤニヤが止まらない…
GJです!

530■■■■:2011/03/15(火) 10:04:12 ID:dj8Pifz2
>>518頭の後ろがジンジン

なるほど…

今このSSを読んでる俺も同じ症状なんだが…

531■■■■:2011/03/15(火) 15:18:16 ID:5mdACShQ
おおGJGJ

532つばさ:2011/03/15(火) 20:00:43 ID:PdWCyCQI
みなさんこんばんは&お久しぶりです。
……本当にお久しぶりです。

被らなければ5分後に拙作を投下。

内容は、いちゃスレpart14「いざ、尋常に!」ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1477.html
の続き。
シリーズタイトル「素敵な恋のかなえかた」ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1494.html
の第4話という位置づけになります。

前の話を読み返すのは面倒かもしれませんが、よろしければお暇なときにでも今回の話共々
読んでみていただければ、私は小躍りすると思います(読まなくても大丈夫ですが)

それでは「素敵な恋のかなえかた第4話:『愛妻弁当はまだ早い』」です。

533愛妻弁当はまだ早い(1):2011/03/15(火) 20:06:02 ID:PdWCyCQI
 ある日の放課後、柵川中学の一年生、初春飾利と佐天涙子は街中でよく見知った人物の姿を視界の端に捉えた。
「ねえ、初春。あれって御坂さんだよね」
「へ? あ、そうですね、御坂さんです」
 佐天の指摘に初春も相づちを打つ。
 二人の視線の先には本屋で立ち読みする御坂美琴の姿があった。その真剣な表情は二人があまり見たことのない物である。
「何やってるんだろう?」
「それは立ち読みでしょう、やはり」
「だよね。でもお嬢様も立ち読みするんだ」
「佐天さん、知らないんですか? 御坂さんって結構立ち読みとかするんですよ」
「ふーん、まあ御坂さんらしいっちゃ、らしいか」
「はい。でも妙ですね」
「何が?」
「御坂さんの読んでる本です、ほら」
「ん? どれどれ?」
 佐天は初春の指示通り、美琴の読む本のタイトルに視線を動かした。
 けれど佐天は何が妙なのかわからず首を傾げる。
「普通の本でしょ」
「佐天さんにとっては普通の本ですけどね。けど御坂さんって立ち読みするのは漫画ばっかりで、ああいう本に興味はないはずなんですよ。あくまで白井さん情報ですが」
「ふーん」
 初春に言われて佐天は改めて美琴の読んでいる雑誌のタイトルを目で追ってみる。
 それはごくありふれたティーンズ向けの雑誌、女子中学生にとっては本当に極当たり前、普通の本であった。
「そんなもんなんだ」



 一方、自分の行動が初春達に監視されていることなど露ほども知らない美琴は、真剣な表情で雑誌を読み進めていた。
「ふむふむ、なるほどね。お菓子をプレゼント、うん、こういうのもありかな。でもアイツの好みからすると、あっちの方が合ってるのよね。おやつなんかよりまず三食きっちり食べることの方が重要そうだし」
 そう呟きながら美琴は雑誌を棚に戻すと、家庭料理を扱った本のコーナーに移動した。

「うんうん。凝った物もいいけど、やっぱり基本は家庭料理よね」
 美琴は家庭料理のレシピ本をパラパラとめくり始めた。
「まあ、基本的なことはできるから別に気にすることもないんだけど、やるからにはやっぱり徹底的にやらないと。それにアイツ、一人暮らし長いくせにあんまり料理得意じゃないって言ってたし。こういうのって結構効果的になったりするのよね」
 何に対してどう効果的なのか、という肝心な部分を深く考えないまま、美琴は先日、上条にお好み焼きを振る舞った時のことを思い出していた。



『別にそんな大げさに美味しいって言わなくてもいいわよ。私だってしょせん素人なんだし』
『いやいや、本当にすげー美味かったって。恥ずかしい話、俺って一人暮らし長いけど料理なんてあんまり上手くなくってさ。こういうまともな料理食えたの、久しぶりなんだ』
『へ、へえー。そうなん、だ……。で、でも私だってそんな慣れてるわけじゃないし』
『それでも俺より絶対に上手い、保証する。それにしても慣れてない、ね……。うーん、慣れてなくてこれって言うんなら、本当にお前って凄い奴なんだな。うん、なんだかよくわかんなかったけど、こういう勝負ならまたいつだって受けて立つぜ。今日はサンキューな、御坂』
『え? ……ま、またって、その、アンタ、私のて、手料理、食べたいって、事、なの?』
『ああ、御坂が迷惑じゃなければな。上条さんはいつでも大歓迎いたしますですよ。あくまで食べる専門だけど』
『そう、なんだ……』
『?』

 その後しばらく上条と会話した結果、料理をあまり得意としない上条は、安くて一見凝っているように見えて実は簡単な上にお腹もふくれる、ある意味における三拍子揃った料理を家では主に作っていること、更に言うなら簡単なように見えて意外と手間のかかる家庭料理という物への強い憧れを持っている、ということまでを美琴は聞き出した。
 もっともこの上条の発言の裏には、インデックスという上条家のエンゲル係数を極限まで押し上げるブラックホールの胃を持つ少女と上条が同居している、という事情が大いに関係しているのだが、美琴がそんな事情を知るはずもない。
 とにかく美琴は上条の舌と胃袋を虜にする手段を手に入れた、そう考えていた。
 上条の周りの女性でこういう事情を知る者はいないはず。
 だからこの路線で攻めれば、また上条との関係を良い方向に変えることができる、そう思ったのだ。

534愛妻弁当はまだ早い(2):2011/03/15(火) 20:07:22 ID:PdWCyCQI



「料理のことがあるから私を邪険にすることはできない、そう思わせられればまた私の勝ちよね。これで二連勝!」
 二、三度瞬きした美琴は小さくうなずいた。
「うん、大丈夫。アイツ、私の手料理、好きって言ってくれたんだもん。また作って上げたら、きっと喜んでくれるわよね」
 手に持った家庭料理のレシピ本を閉じた美琴は頬を染め、はにかんだような笑みを浮かべる。
 本人がどれだけ否定しようともそれはもう、常盤台の超電磁砲でも、学園都市最強のレベル5の顔でもなかった。
 今の美琴の表情。それは紛れもなく一人の女子中学生、恋する乙女、のそれだった。



 そんな美琴の様子を見た佐天は、美琴に聞こえないよう小声で歓声をを上げた。
「うわー、御坂さん、かわいい。ねえ初春、あの御坂さんってめちゃくちゃかわいすぎ……って、何やってるの?」
「はい? ただの隠し撮りですけど、それが何か?」
 声をかけられた初春だったが、彼女は佐天の方を見もせず黙々と作業を続けていく。
 その様子に佐天は若干顔を引きつらせた。
「いや何かって、そんな真顔で聞かれても」
「何がそんなに不思議なんですか、佐天さん?」
「えと、そりゃ、普通に不思議だと思うけど」
「はぁ、そうですか」
 しかしやはり佐天の方を向くこともなく、真顔の初春は手に持った高性能デジカメで美琴の写真を撮り続けていた。

 やがて写真を撮り終えた初春は、ようやくカメラから手を離して佐天の方を向いた。
「ふぅ、これくらい撮れば十分ですね。佐天さん、お待たせしました。ん? どうしたんですか?」
「え、ええっと、その、なんて言うか、終わったの?」
「はい、撮影終了です。これだけあれば白井さんも満足すると思いますから」
「え? 白井さんって……この写真、白井さんのために?」
 きょとんとした佐天の質問に初春はこくりとうなずいた。
「ええ。白井さん、すごく喜ぶんですよ、御坂さんのベストショットをプレゼントしてあげたら。あの頬を染めた御坂さんの写真なんか、きっと大喜びしますよ」
「確かにそれは喜びそうだろうだけど、でもどうして初春がそんなことをしてあげるの? 頼まれてるとか?」
「いいえ、あくまで私が勝手にやってるんですよ。白井さんは大切なお友達ですから。お友達が喜ぶことをするのは当然です」
「はぁ……。ねえ初春、まさか、とは思うけど、プレゼントなんて言いながら、白井さんにその写真を売ったりしてないわよね?」
 訝しげに質問する佐天に、初春は憮然とした表情になった。
「佐天さん、それはいくらなんでも失礼じゃないですか? 大切な友達の御坂さんの写真を、同じく大切な友達の白井さんに売るなんてマネ、私がすると思ってるんですか? あくまでプレゼントするだけです。一円ももらってません」
 静かだが凛とした声で断言する初春。
 その口調に佐天の頭は自然に垂れた。
「ご、ごめん初春。そうだよね、いくらなんでもそんなマネ、あたし達の間で――」
「だけど、御坂さんの写真をプレゼントしてあげたら、なぜか白井さん、常盤台の実習なんかで使うすごく上等なお茶やお菓子をごちそうしてくれるんですよね。それもたくさん写真をあげればあげるほど」
「…………」
「佐天さん、どうして黙るんですか?」
「……ごめん、初春。本当になんかもう、ものすごくごめん。スカートめくる回数、今まで一日十回だったの、七回までに減らすから。だからね、私の知ってる純粋な初春に戻って、お願いだから」
「はい? 何を言ってるんですか、佐天さん?」
 心の底から残念そうな表情で自分の肩に手を置いてくる佐天の顔を見ながら、初春は小首を傾げた。
「…………」
 そんな初春に対して、もはや佐天は何も声をかけることができなかった。
 今の佐天にできることは心の中でさめざめと泣くこと、ただそれだけだった。

535愛妻弁当はまだ早い(3):2011/03/15(火) 20:10:51 ID:PdWCyCQI



 初春達がそんな珍妙なやりとりを続けている事をまったく知らない美琴は、嬉しそうな顔をしたまま本屋を後にした。その手にはもちろん、先程購入したレシピ本が入った紙袋がある。
「佐天さん、御坂さんが出てきましたよ」
「え?」
 美琴が本屋を出たことに気づいた初春が、小声で佐天に声をかけた。
「どうします?」
「どうするって……とりあえず、追いかけようか」
「ですね、また写真のネタがあるかもしれませんし」
「それはもういいって……」



 美琴はブツブツと呟きながら常盤台の寮への家路を急いでいた。
「そうね、ぶっつけ本番でいきなりアイツに食べさせるっていうのもいいんだけど、まずはこの本に載ってる料理を片っ端から練習して、その上でアイツに食べてもらうってのがセオリーよね」

 美琴は上条とよく会う公園の入り口に来たとき、ぴたりと足を止めた。
「ということはやっぱり寮の調理室で練習するしかないわよね。黒子にばれなきゃいいけど」
 それだけは避けないと、と美琴は独りごちた。

 なぜかはわからないが、白井は上条と自分がいっしょにいることを快く思っていない。この間など少し上条と話していただけで、彼女は上条を攻撃したくらいだ。
 そんな白井にもし自分が今やろうとしていることがばれた日には、彼女がどんな行動を取るか想像もできない、そう美琴は考えていた。
 したがって白井にばれることだけは絶対に避けなければならないのである。

「黒子にばれないように練習するんだったら、初春さんや佐天さんの部屋で練習させてもらうのも一つの選択肢なんだけど……。でもあの二人がこのこと知ったら、また私をからかおうとするだろうしなあ。別にあの馬鹿とはなんでもないって言ってるのに、どうしてあの子たちって妙な誤解するのかしら」
 美琴は顎に指を当てるとうーんと唸った。
「やっぱり言わない方がいいか、妙なネタを提供するだけだろうし……。うん、やっぱり内緒にしておこう」
 美琴は一人納得したようにうんうんとうなずいた。



 そんな美琴を近くの物陰に隠れながら見ていた佐天と初春は、小さく、それでいて盛大なため息をついていた。
「御坂さん、もう完全にばれてますから……。それに誤解じゃないでしょう、あんな嬉しそうな顔して。だいたいなんでもない相手なら、どうしてわざわざ本まで買って、練習してまでご飯を作ってあげるんですか……」
「ですよね。お好み焼き屋デートの話だってこっちはもう掴んでいるっていうのに、何を今さら。佐天さん、もしかして御坂さんって、カミジョウさんが絡むとドジッ子になるんでしょうか?」
「かもね。あんな大声で独り言言ってて周りに気を遣いもしないし。そもそもあたし達が常連になってるお好み焼き屋でデートする事自体がうかつだよね」
「はい、情報ダダ漏れです」
「まあとにかく、恋愛ごとに関して言えばあの『常盤台の超電磁砲』も」
「ただの女の子って事ですね」
 初春達はやや困ったように互いに顔を見合わせた。
 しかしその表情には、友人である美琴の新たな一面を知ることができた喜びも含まれていた。

536愛妻弁当はまだ早い(4):2011/03/15(火) 20:13:28 ID:PdWCyCQI

「ところでさ、初春」
「はい?」
「あれ、なんだと思う?」
「あれとは?」
「あれ」
「はあ」
 初春は佐天の指差した方向、公園の中の方へ目を向けた。
 確かに公園の中の方に何か、いや誰かがいるのが見えた。しかもその人影は徐々に大きくなっている。こちらに向かってきているのは間違いない。

 初春は無意識にかわいらしく小首を傾げていた。
「誰かがこっちに向かってきてますね。いったい誰でしょう?」
「うーん。あ、あたし正解わかったかも」
「え、まだ顔もよく見えないくらい遠いのに、わかったんですか佐天さん?」
「たぶんね、ほら」
「ほへ?」
 佐天は公園の中ではなく、その入り口に立っている美琴を指差した。
「どうして御坂さんを?」
「ほら、よーく見てみ初春、御坂さんの様子」
 佐天に促されるように初春は美琴の様子を観察してみた。
 しかし美琴の様子にこれといって特筆すべきところはないように思えた。彼女はただじいっと公園の中を見ているだけだったのだから。
「ただ公園の中を見ているだけみたいですけど」
 初春は不思議そうに佐天を見た。
「ノン、ノン、初春。もう一度よーっく見てみなさい」
 初春はもう一度美琴の様子を見てみた。そして美琴の表情を注意深く見たときに、ようやく自分が思い違いをしていることを理解した。
 美琴はただ見ているのではなかった。彼女はこちらに向かってくる人物を、頬を染め熱心に見つめていたのだ。
「…………!? なるほど!」
「そういうこと」
 佐天は嬉しそうにうなずいた。

 あの現在進行形で恋する乙女、御坂美琴が見つめるような相手はこの世にたった一人しかいない。
 しかもその美琴の目がほんの少し潤んでいるのだから、これはもう間違えようがないのだ。
 美琴が熱を帯びた視線で見つめる相手。
 それは、

「だあ――っ! もう間に合あわね――! 上条さんちの食卓が大ピンチですよ――!!」

 学園都市で最も有名なレベル0、伝説のフラグ男、上条当麻である。



 上条は必死の形相でこちら、というより公園の出口に向けて全力疾走していた。
 その様を見ながら美琴はぎこちない様子で片手を上げた。
「あ、あら、奇遇じゃない、ど、どうしたの、こんなとこ――」
 しかし美琴の挨拶はここで終わってしまう。
 上条がびゅんっという効果音を付けられるほどの勢いで美琴の側を駆け抜けてしまったからだ。
「とこ、ところ……で、ででで……?」
 上条が駆け抜けたあと、そこにはぽつんと一人、美琴が立ちつくすのみだった。

537愛妻弁当はまだ早い(5):2011/03/15(火) 20:15:01 ID:PdWCyCQI



「何あれ……」
「あっさりスルーでしたね……」
 呆然と美琴達の様子を見ていた佐天だったが、急にはっと息を呑むと自分と同じように呆然としていた初春の腕をぎゅっと掴んだ。
 そしてそのまま初春に小声で、けれど真剣な口調で話しかけた。
「何してるの初春? 速く逃げるよ!」
「え?」
「だから危ないから、ほら、逃げなきゃ!」
 再度、佐天は初春を促す。
 しかし初春は未だぼうっと美琴の様子を見たまま動こうとしなかった。
 その様子にイライラした佐天は、ややきつめの調子で初春に声をかけた。
「何やってるのよ!? 初春は知らないだろうけどカミジョウさんが絡んだときの御坂さんって、いつもと比べものにならないほど沸点低いんだよ! このままだと電撃であたし達も巻き添え食らうかもしれないんだから速く逃げな――」
「でも」
「何!?」
 なおも動こうとしない初春を佐天はキッとにらみつける。
「御坂さん、電撃出さないみたいですよ」
「へ? 嘘!?」
 思わずまぬけな声を出した佐天は初春の指差した先、美琴の様子をまじまじと見つめた。
「ほんとだ……」

 確かに初春の言う通り、美琴の周りにはまったく電撃が漂ってはいなかった。これなら自分達が電撃の余波で被害を受けることはないだろう。
 けれど、
「でも御坂さん、とんでもなく怖い顔してるじゃない……。子供が見たら泣くわよ、あれ……」
 美琴は確かに電撃自体は出していなかった。しかし上条をにらみつけるその表情は正に般若のようであり冗談抜きで怖い。
 いや、怖いと言うよりむしろ恐ろしい。そう、いつぞや上条が女性を押し倒す様を目撃したあのときと同じくらい、それくらい恐ろしい表情だった。
 電撃は確かにないかもしれない、しかし上条が無事で済むとも佐天にはとても思えなかった。
「カミジョウさん。身から出た錆とはいえ、ご愁傷さまです……」
 佐天は走り去る上条に心の中でそっと黙祷を捧げた。



 一方、当の美琴は般若の表情のまま上条をにらみつけていた。
「何よ、あの馬鹿……いくらなんでもスルーって事はないでしょう? 私はアンタにとって未だにその程度の存在なわけ? デートだってしたし、手料理だって作ってあげたし、これからだって……。なのにその態度……。そんなこと、許されると思ってるの……? ううん、許される訳ないでしょう……」
 すっと表情を消した美琴は側にある空き缶を掴んだ。彼女はそのまま野球の投球フォームを取ったかと思うと、
「いっけ――!」
 上条に向かって思い切り空き缶を投げつけた。狙いは寸分違わず上条の頭。
「ぐげ!」
 そして空き缶は見事に上条の頭を強襲。彼は綺麗な放物線を描いて地面に倒れることになった。
「やった! 大当たり!」
 ぐっと拳を握った美琴は嬉々として上条の元に駆けていった。



「…………」
 地面に倒れた上条はピクリとも動かなかった。
 そんな上条の側に、ぶちぶちと文句を言いながら美琴が走り寄ってきた。
「アンタね、いくらなんでも私をスルーするってのはどういう了見なのよ。ていうか、どうしていつまで経ってもアンタの検索件数の中で私はゼロ件のままなのよ。ほら、なんとか言ってみなさいよ、ねえ!」
 しかし上条は美琴の声に何の反応も示さず目も覚まさない。よほど当たり所が悪かったのだろうか。
 美琴は顔をほんのわずか引きつらせて地面に座り込むと、上条の体を揺すった。
「ね、ねえ、ちょっと、いい加減に起きなさいよ」
「…………」
 しかし上条が目覚める様子は見られない。
 美琴はごくりとつばを飲み込むと、今度は上条の体を強く揺すってみた。
「ねえ、ねえってば!」
「…………」
 けれど上条は無反応。
「嘘、でしょ……。たったあれくらいで……」
 唇をぎゅっと噛んだ美琴は更に強く上条を揺すった。
「ねえ、ねえ! 起きてよ! 冗談なんでしょ! ねえ! ねえ!!」
 美琴はひときわ大きな声を出した。
 だが上条が未だ何の反応も示さないのを知ると、美琴は地面にうつぶしたままの上条の体をゆっくりと仰向けにし、彼の頭を自分の膝の上に乗せた。

538愛妻弁当はまだ早い(6):2011/03/15(火) 20:17:15 ID:PdWCyCQI

「…………」
 美琴はそっと上条の頭、缶がぶつかったであろう部分を撫でた。
「ねえ、本当に打ち所、悪かったの……? ごめ、ごめんなさい、本当に、ごめんなさい……」
 ぽつりぽつりと呟きながらなおも上条の髪をなで続ける美琴。その瞳には徐々に涙がたまり始めていた。
「ちゃんと謝るから、ねえ、起きてよ。ねえ、とう……まぁあ――――!?」
 突然、目を開いた上条ががばっと跳ね起きた。

 上条はきょろきょろと辺りを見回すと、思い出したかのように顔をしかめ、後頭部をさすりだした。
「いてててて……」
「ち、ちょっとアンタ、大丈夫なの?」
 慌てて美琴は心配そうに上条に顔を寄せた。
 無意識に上条も美琴の方を向く。
「えと、御坂、か……!」
「…………!」
 瞬間、互いの吐息が感じられるほどに顔を寄せ合っていることに気づいた二人は、顔を真っ赤にしてぱっと離れた。

「…………」
「…………」
 気まずい緊張を含んだ空気が二人の間に流れる。
 二人とも無言。しかしお互い相手のことが気になるようで、ちろちろと目だけは相手の方を見ていた。

 やがて意を決したかのように上条は小さくうなずくと、キッと美琴の方を向いた。
「御坂」
 上条の声に美琴は声を裏返しながら応えた。
「は、ハイ?」
「えーと、さっきの、顔が近かったの、とか、そんなのはこの際どうでもいい。えーと、お前なのか、俺に何かぶつけたのは?」
「あ」
 上条の質問に、美琴は途端にばつが悪そうな表情になって露骨に顔を背けた。
「……お前なんだな。何をぶつけた?」
「空き缶……。その、ごめん……」
「ったく……。なんで俺がそんなことをされなきゃいけないんだよ」
「だって……アンタが、私をスルーするから……」
「スルーってなんだよ。そんなことで空き缶ぶつけるか、普通? こっちだってわざとやってるわけじゃないし、だいたい上条さんは急いでたんだから……って、急いで、た……!? み、御坂! 今何時だ!」
「今? えっと、四時過ぎだけど」
「やばい!」
 ばっと立ち上がった上条は、きょろきょろと辺りを見渡すと、地面に落ちていた自分の鞄をあわてて拾った。
「ちょっとどうしたのよ、急に慌てだして?」
「タイムセールだよ、タイムセール! 今日は鶏肉がめちゃくちゃ安いんだ! 今日を逃せば、上条さんちではまた当分の間、動物性タンパク質を取るのが困難になるんだよ! なのにこんなときに限ってタイムセールが一時間早く始まるし……。あー、こんなこと話してる時間もねー! じゃあな、御坂!」
 上条は片手を上げて美琴に挨拶すると、先程以上の勢いで走り出した。逃げんじゃねーぞ俺のチキンちゃん、といったかなりまぬけな叫び声を上げながら。



 美琴は去っていく上条に手を振りながら、ぽつりと声を出した。
「悪いことしたわね……」
 美琴は少しうつむくと、きゅっと口を結んだ。

 また、であった。
 また、自分は上条の事を何も考えずに自分の気持ちだけをぶつけてしまっていた。
 上条は決して美琴をないがしろにしているわけではない。
 ただ今の上条にとってはお腹がふくれるわけでもない自分との語らいよりも、今晩の栄養源を手に入れる方が大切、ただそれだけなのだ。
 そこに悪意はない。ただ衣食住が保証されているエリートお嬢様と貧乏高校生の住む世界の違い、それだけなのだ。
 なのにまた自分はそんな上条の事情を考えることもなく、自分の想いや都合だけを押しつけてしまい、結果として上条に迷惑をかけてしまった。
 美琴はそんな自分が嫌になっていた。

539愛妻弁当はまだ早い(7):2011/03/15(火) 20:18:57 ID:PdWCyCQI

「ちゃんと謝って、お詫び、しないと……」
 無意識に美琴の口から言葉が漏れていた。
「お詫び……」
 もう一度つぶやいて美琴はごくりとつばを飲み込む。

 美琴は今、上条に申し訳ないと思った。
 何かで罪滅ぼしをしたいと思った。
 そうしなければ上条に嫌われると思った。
 上条に相手にされなくなると思った。
 それだけは、絶対に、嫌だった。
 だから上条に嫌われないようお詫びをしなければいけないと思った。
 上条に嫌われないような、さらに上条に喜んでもらえるようなお詫び。

「そうだ、ご飯」
 美琴はばっと顔を上げた。
「ねえ! アンタ、よかったら今日の晩ご飯――」
 思わず上条に声をかけた美琴だったが既に上条は遥か遠くにおり、美琴の声が届くはずもなかった。
「…………」
 美琴は再びうつむいてしまった。

「……馬鹿」
 美琴は自分の頬を軽くはたく。ぺちっという弱々しい音が鳴った。
「どうしてこう、私はタイミングが悪いのよ。ちゃんと謝ることもできないなんて。お詫びだって……。私、アイツの家知らないし、携帯の番号すら知らないのに。こんなんじゃ私、アイツにお詫び一つできない……。馬鹿、本当に私、馬鹿……」
 美琴は再び自分の頬をはたいた。

「?」
 ふいに美琴は足下に何かがあることに気づいた。
「これって」
 足下にあるその物体を拾った美琴は、それを眺めてみる。
「鍵、よね。それも家の……」
 確かにそれは鍵、どこかの家の鍵だった。しかも足下付近にある砂埃でほとんど汚れていないことから、落ちたばかりの鍵だとわかる。
 さらに言うなら鍵が落ちていたのはちょうど上条が倒れていた場所、まさにそこだった。

「…………」
 美琴は小さくうなずいた。
「やっぱりそうよね」
 美琴は確信した、これは上条の家の鍵だと。他にも可能性はあるだろうが、上条の家以外の家の鍵だとは美琴にはどうしても思えなかった。
 根拠はないが、これは神様が与えてくれた上条にきちんとお詫びをするチャンスだと、そう美琴には思えた。
 ならば自分はそのチャンスをちゃんと生かさなければならない、そう思った美琴は携帯を操作するとある番号を呼び出した。

540愛妻弁当はまだ早い(8):2011/03/15(火) 20:20:19 ID:PdWCyCQI



「え? え?」
 美琴が携帯を操作した途端、初春の携帯が着信音を鳴らし始めた。
 ばっと初春の方を向いた佐天は大声を出した。
「ちょっと何やってるのよ初春! こういう時は携帯の電源は切っておくかマナーモードにするのが常識でしょ!」
「ご、ごめんなさい佐天さん! つい!」
 わたわたと慌てながら初春は携帯を取りだした。
「もう、いいから早く音消して!」
「は、はい!」
 ひときわ大きな声で返事をしながら、初春はようやく携帯の電源を切った。
「ふぅ」
 初春の携帯の音が止んだことで、佐天は安堵の息をついた。

「もう、どうするのよ初春、もし御坂さんに見つかりでもしたら」
 しかし初春は佐天に返事をすることはなかった。ただ残念そうに頭を振るのみだった。
「ん? どうしたのよ、初春?」
 その態度に疑問を持った佐天だったが、初春はやはり返事をすることはなかった。ただ諦めきったような表情で、佐天に後ろを見るよう促していた。
 やがてその行動が意味することに気づいた佐天はさあっと表情を青ざめさせた。彼女はそのままそうっと後ろを振り向く。
「……お約束」
「ですね」
 彼女達の背後には穏やかな笑みを浮かべた美琴がいた。
「ねえ佐天さん、初春さん、そんな所で何してるの?」
 美琴が口にしたのはごく当然の疑問。そのまま彼女は笑顔を佐天達に近づける。
「え、えっと、その、あの……」
「別に脅してるわけじゃないけど、説明は、してくれるわよね?」
 穏やかな口調だったが、美琴のその言葉は言霊のように佐天達を怯えさせるのだった。



 物陰から美琴に促される形で出てきた初春と佐天は、諦めたような表情でがっくりと肩を落としていた。
「あ、あのですね御坂さん。これは、その……」
 チラと上目遣いで美琴を見た佐天は、おずおずと言い訳をしようとした。
 だが、美琴は別段気にした風もない。先程と同様の穏やかな表情のままだった。
「ん? どうしたの、なんか怯えてるみたいだけど?」
「は、はい。そりゃあ、ねえ?」
「はい」
 美琴の問いに対して佐天と初春は互いに顔を見合わせてうなずきあった。
「もしかして」
 美琴は初春に顔を近づけて小首を傾げた。
「私の様子をずっと観察してたことに負い目を感じてるとか?」
「…………!」
 美琴の言葉に初春と佐天ははっと息を呑み、助けを求めるように互いを見た。
「うーん……」
 二人のそんな様子を見て美琴は困ったような表情を浮かべる。
「ねえ、なんでそんなに怖がるの? 私、なんにも言ってないじゃない」
「でも……」
「本当に気にしてないんだし、別にいいわよ。ね?」
「は、はあ……」
 なんとか自分達を安心させようと言葉を続ける美琴に、ようやく佐天達の心は少しずつ落ち着き始めた。
 そんな二人の様子を見て取った美琴は、表情をほんの少しだけ変えて本題を話し始めた。
「むしろラッキーだったと思ってるんだから、こっちは」
「へ? それって……?」
「うん、ちょっと二人にお願いがあってね、だから電話したのよ」
「お願い、ですか?」
「そう、お願い。聞いてもらえるかしら?」
 美琴の様子が変わったことがわかった佐天は、チラと初春を見た。
「内容によりますけど。ねえ、初春」
「はい。まあ、私達でできることでしたら」
「もちろんできるわよ。たぶん、私が知ってる中であなた達以上の適任者はいないわ」
「はあ。それで、お願いっていうのは?」
「うん。ああ、その前に確認したいんだけど、確か風紀委員の一七七支部ってキッチンあったわよね?」
「はい、もちろんありますよ。いつもお茶を入れるのに使ってますし、普通の料理くらいなら作れますよ」
「そう。じゃああともう一つ、黒子は本当に今日は風紀委員の会議で支部にはいないのよね?」
「はい。白井さん、昨日からブツブツ言ってましたから間違いありません」
 初春の答えを聞いた美琴は、満足そうにうなずくと相好を崩した。
「うんうん。よし、じゃあ問題なしね!」
「は、はい? 御坂さん、いったい何を?」
「ふふん。じゃあ二人とも、ちょっと付き合って。スーパーに寄ってから、一七七支部に行くわよ」
「へ?」
 やたら嬉しそうな美琴の様子に、佐天達は嫌な予感が脳裏をよぎるのを感じるのだった。

541つばさ:2011/03/15(火) 20:26:47 ID:PdWCyCQI
今日の投下分はここまでになります。
校正が終了次第また投下にお邪魔しようと思っております。

えと、続きの内容に関してはあまりタイトルとシリーズタイトルを信用なさらないように、とだけ(意味ないじゃん!)

では

542つばさ:2011/03/15(火) 20:34:15 ID:PdWCyCQI
改めて投下分読み直すと読みにくいなー、自分。
もうちょっと文と文の間開けるか? それで読みやすくなるかな? うーん…。

543■■■■:2011/03/15(火) 20:53:13 ID:e716YqLw
GJです!
続きが気になってたので楽しめました!
けどまた続きが気になる・・・
待ってます!

544■■■■:2011/03/15(火) 22:18:22 ID:PmQ.NjBw
もう書き手に順位つけられねぇな…
つける必要もないけど…
本当にこういうスレは貴重で素晴らしいと思う

改めて書き手の人達にgjを送りたい

545■■■■:2011/03/15(火) 22:47:47 ID:QFlkZT9M
>>519
この美琴さん、ダメすぎるwww

>>541
一体何が始まるんです?

        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

546■■■■:2011/03/15(火) 22:53:23 ID:S4qNDgzs
いいですなぁー。
原作の美琴にもこれくらい素直になって欲しいです(恋を自覚してから素直になれる機会がないのが問題ですがっ)。
ところでまだということは作内でけry)
楽しみにしておりますw

見やすさは程良いと思います。地の文と会話文の間に一つ改行を入れるか入れないかで
なかなか作品の質が変わると思いますが私は多少見づらくとも、原作風にした方が良いかなと。
でないとプリントアウトする時に色々面倒ry)
まあそこら辺は作者の自由ですね

547■■■■:2011/03/16(水) 00:36:54 ID:gvO3MSJI
つばささんGJです。
性別を突き止めてる訳ではないのですが、つばささんのSSにはどことなく女性らしさがあって俺得です。
ちなみに私はマロンの話が一番好きですた。

つばささんの後でかな〜り恐縮ですが誰もいなければ投下します。
タイトルは『三月って地味に寒いですわよね? ね?』
かる〜く書いたものなんで、かる〜く読んでくだされば幸いです。っつかちょっとぶっ飛んでるかも。

548■■■■:2011/03/16(水) 00:42:31 ID:/JBzr1xI
>>547
待ってますんで投下よろしく

549■■■■:2011/03/16(水) 00:44:27 ID:gvO3MSJI
「うぅ……寒ぃ」
 毛布に身を包む上条当麻は自分の寝床(ふろば)で身を縮めながら震えていた。
(も、もう三月なのに何でこんな寒いのですかぁ)
 寒いなら暖房を付ければ良いじゃないか、という至極真当な理屈は上条に通用しない。何故なら彼は貧乏学生だからだ。
 せめてベッドの上で寝かせてくれ、という儚い願いも叶わない。何故なら同居人・インデックスがそこを占領しているからだ。
(うう、せめて風呂場にコタツを持ってこれたら。姿勢が悪くなっちまうけど温もりには変えられねぇ)
 などと愚痴っても体温が上がる訳ではない。
 上条は毛布の中の熱を逃さぬようにうまく毛布を密閉状態にした後、ぐっと力強く目を瞑った。


 目が醒めたら足が凄く冷たかった。
「うっぅぅううううううう、さっみぃ〜!」
 三月なのにこの寒さは異常だと上条は何となく思う。毛布を重ね込むにも薄いもの一枚しか上条家にはないのだ。
 彼はインデックスのご飯を作った後、学園都市には似つかないおんぼろノートパソコンをガシ!! と開いて起動ボタンを押した。
(ダメだ寒い。もうこの寒さには耐えられねえ。……最近のネット通販はポイント制もあるみてえだし、毛布の一枚でも買っちまうか)
 予算は二〇〇〇円前後だ。二〇〇〇円もあれば服を重ね着するほうが幾分効率が良いのでは? という意見もあるが、上条はそれは無効だと思う。
 何故ならば。
(重ね着するとするとで息苦しいし、ちっとばかし暑くなりすぎんだよな)
 そこらの調整はその日の気温にもよるので本当に難しいものだ。靴下を履くのには大賛成であるが、重ね着すると深夜に目が覚めたり、翌朝汗を掻いていたり、色々面倒である。
 パソコンが立ち上がった所で上条はインターネットのショートカットをトントンとクリックして、
(毛布毛布。安いのでいい。……できれば一五〇〇円くらいで布地が分厚いのが欲しい。そうなると、)
 差し当たって、まず『毛布』。
 パチパチパチ、カンカンとリズミカルな音を立てながらキーボードにワードを入力して検索する上条。
 しかし、
「あれ? タイピングミスったか。検索ワードがうまく変換されてねーな」
 素早く打とうとしたせいか、そこには誤ったワードがこう表示されていた。

 もふもふ、と。

「……。自分で打っといてなんだけど、なんか優しいイメージの単語だな。聞いただけで暖かくなってきた」
 もちろん、気分だけ暖かくなっても仕方ない。
 上条は誤った検索ワードを一度削除して『毛布』と今度は正確に打ち込んだ。その後その手のサイトへ突撃し、サイト内を徘徊する。
(んー、どれも一五〇〇円はすんのか。最悪、キャンプ用の寝袋でも良かったんだけど意外と高い―――って、ん?)
 目に付く項目が一つあった。
 それは、
「湯たんぽ? なんだそりゃ」
 ボトルなどの中にお湯を入れて布団の中でそれを抱きしめてぬくぬくする商品だ。紀伝が古いレトロな物であり、外の世界より一歩も二歩も技術が進んでいる学園都市ではさほど必要のない物である。
 と、その辺の事情と、そもそも湯たんぽという単語を上条は知らない。記憶喪失の件もあるが何だかんだで都会育ちなのだ。
(湯たんぽ、か……。お湯を入れてぬくぬくする感じか?)
 なかなか良い線をズバリ当てる上条。

550■■■■:2011/03/16(水) 00:50:17 ID:gvO3MSJI
 彼は左手で机をトントンと叩きながら、
(……、これは俺の直感だが、この商品は安くてかなり実用性があると見た)
 カチカチ、と『湯たんぽ』をダブルクリック。
 そこにあった湯たんぽこそ、上条の人生のターニングポイントだった。
 それは―――――――。



ttp://2d.moe.hm/index/img/index4097.jpg




 数年後の一二月某日。
 今年の冬は日本史上を記録するほどの寒さだそうだ。
 外を見れば……雪が横薙ぎに降っていた。
 小さな会社に就職した穿つ上がらぬサラリーマン上条当麻はかつて御坂美琴と呼ばれていた妻をベッドの中で後ろから抱きしめながら、
「うぅ……寒ぃ〜!」
「そ、そうね。き、きききき、今日はちょろーっと寒いわねっ」
「つ、強がってんじゃねぇよ。ち、ちくしょー、お前が漏電さえしなければエアコンもストーブも壊れる事もなかったのにガチガチガチ」
 美琴は『自分の股から胸の下辺りにあるもの』を抱き締めながら、
「うっ、うるさいわね。アンタがいきなり、そ、その、チュウしてくるから悪いんでしょうがガチガチガチガチ」
「それはこっちの落ち度だけどオメェもいい加減あんくらい慣れてくれよ」
 わっ、悪かったわねと返事は返ってきた。
 寒さに耐え切れず、上条は美琴をさらにぐっと引き寄せて、
「……こうしてると思い出すよ。数年前までは『お目覚め美琴柄 もふもふミニ湯たんぽセット』を使ってたのに今は本物のお前と抱き合えてる」
「どうしたのよ急に。走馬灯?」
 な訳ねぇだろーがと否定する上条。
 そんな上条へ、美琴は訝しげにしながら『自分の股から胸の下辺りにあるもの』に身を擦り合わせて夫の体温を求めてゆっくり後退する。

 ―――数年前のある日の事だった。
 美琴柄のもふもふ湯たんぽセットを購入して充実した睡眠ライフを送っていた上条はその数日後に空き巣に入られた。
 元々金目の物など皆無だったので大した被害もなく、特に何も盗まれなかったが何分部屋が散らかって酷い有様だった。
 何人かの友人に協力を要請して部屋の整理を手伝ってもらう事に。
 それがまずかったのである。
(……、まさか土御門のヤツに湯たんぽセットを発見されるとはなぁ。風呂場は何ともなかったし、そのまま放置してた訳だけどさ)
 その後土御門が『カミやんこれは何かにゃ〜ん?』と湯たんぽをリビングへ持って行き、御坂美琴を始め、多くの人に上条の寝具事情を暴露した。
 美琴は美琴で上条に意識されてると思い込み、その場の勢いで上条を享受。
 上条としても特に断る理由もなかったので二人は付き合う事になった。
 今となっては良い思い出である。
 お目覚め美琴柄 もふもふミニ湯たんぽセットは上条家の思い出の品だ。

 怪訝な美琴へ、上条は少々意地の悪い笑みを浮かべてこう言う。
「なぁ美琴。今夜は寒いしさ……熱くなる事、しねえか?」
「ぶぼぉ!?!?!? あ、アンタねぇ! いつも唐突すぎんのよ! だいたい、」
 ―――しかし。
 しかし、なのだ。
 美琴と上条が大切にしている湯たんぽは現在彼らに使用されていない。
 ならば、美琴が抱きしめているものはなんなのか?
 心地良い温度を放出し、なおかつ柔らかく、美琴の眠りを穏やかにするものとは一体なんなのか?
 そう、
「美鼓(みこ)がいるじゃないのよ。起きちゃったらどうするわけ?」
 結婚して一年後に生まれた上条家の一人娘だ。
 かつて上条と美琴が使用していた湯たんぽは美鼓の物となり、現在彼女に抱き締められている。
「んー、パパとママはラヴラヴです、でいいんじゃねぇの?」
 馬鹿、と美琴に一括を食らう上条。
 そんなご機嫌な夫へ、しっかり者の妻は頬を染めてこう告げる。
「……あのさ、今日産婦人科行ってきたんだ」
「また随分話がトリップしたなオイ」
「いいから黙って聞いてなさいよ。……そ、それでね、今三ヶ月目だった」
「……。っつー事はあん時の汗だくプレごぶ!?」
「アンタの頭の中はそればっかかぁ!?」
 魂の肘鉄を食らった上条は割とマジで呼吸困難に陥るがすぐに回復する。
 その後上条は今後の事と、それから感謝の意を美琴に伝えた。
「差し当たって、名前どうすっか」
「まだ気が早いんじゃない? でも……そうね。女の子だったら楽器ネタがあまり思い浮かばないから困るわね。別に執着してる訳じゃないんだけどさ」
「美鈴、美琴、美鼓、だからな。俺としてもここまで来たら一貫してーよ」

551■■■■:2011/03/16(水) 00:50:57 ID:gvO3MSJI
「男の子だったら『トウ〜』シリーズかしら? アンタ、なんか候補ある?」
 上条はシリーズって何だよと笑いつつ、
「刀夜、当麻……。トウミだと女の子みてーだし、トウコトは語呂が悪ぃし、トウキンはなんかの菌みたいだろ?」
「何で私の名前から無理に引っ張ってくんのよ?」
「子供に名前を付ける時、大体の夫婦は最初に自分達の名前をくっつけようとするらしいぞ」
 へぇと感嘆を上げる美琴を抱き締めて上条は美鼓が抱き締めてる湯たんぽをそっと触る。
「名前はじっくり考えるとして、湯たんぽはどうすっか。美鼓がこれ気に入ってるから、産まれてくる子用に新しいの買うか? それとも俺が美琴を抱いて、お前は美鼓は抱いて、今湯たんぽを抱いてる美鼓は産まれてくる子にそれを譲って、」
「……アンタの中で湯たんぽがどんな物になってんのか問い質したいわね。何でベビー用品並に重要視してんのよ」
「上条家を語るのに湯たんぽは避けて通れぬ一品だと思うのですがぁ?」
「そりゃそうだけど……。あーこの話はめんど臭いからもうおしまい! おやすみ!」
 俺のピュアな心をメンドクサイで片付けられたッ! と上条がショックを受けていると美琴は最後に、
「……。ねえ、おやすみのあれ……やって」
 そう言った。
 私達がいつまでも仲良くいられるようにと、美琴が取り決めた上条家の挨拶みたいなものである。
 上条は慣れた様子で、
「わーったよ。今日は寒ぃから一晩中やらせてもらうぜ」
「……好きにしなさいよ」
 上条は美琴に言われた通り、それを実行に移す。
 まず彼は、美琴と自分の娘をきつく抱き締めた。
 その後己の腕に強弱をつけて、何度か、ぎゅ、ぎゅっ、といつもより力強く愛を表現する。
 そして、
 上条当麻はにっこり笑って、

 もふもふ、と。
 美琴の耳元で囁いた。







       劇中に使用された『お目覚め美琴柄 もふもふミニ湯たんぽセット』を完全再現!!



       ――――快適な眠りを貴方にお送りする―――



                     ――――肌寒い三月の風にこの一品―――
 



            ――――湯たんぽは、一生ものだから――――




                   予約はもう始まっています!!



                      詳しくはこちら!

                         ↓↓

           ttp://www.amiami.jp/shop/ProductInfo/product_id/193337

552■■■■:2011/03/16(水) 00:54:03 ID:gvO3MSJI
以上です。
宮城の人達にこれを贈れたら、とか思っております。
自分でも嫌悪するほどぶっ飛んだSSなのでゆる〜く眺めてください。
ではでは。

553■■■■:2011/03/16(水) 01:41:10 ID:1MKRf1IY
>>552
おつ
とりあえずポチッといた

554■■■■:2011/03/16(水) 02:30:53 ID:/JBzr1xI
>>552
乙です
確かにちょっとぶっ飛んでたな

555■■■■:2011/03/16(水) 03:04:00 ID:.9ozRbi6
なんという高クオリティ宣伝SSwww
乙です!

556夢旅人:2011/03/16(水) 12:46:35 ID:kZ4AQYOk
投下します。

もう後少しで終わりになるかなぁ。

557夢旅人:2011/03/16(水) 12:47:13 ID:kZ4AQYOk
「起きないあいつ」12


「嘘つき!」
 そう言った御坂美琴は真剣な眼差しで、上条当麻を睨みつける。
「何でだよ。いきなり嘘つき呼ばわりかよ」
 上条は憮然とした顔をして返した。
「アンタ、本気で言ってんの?」
 美琴の声に更に険しさが混じる。
「ああ、本気さ。本気だとも」
 上条の声が負けじと大きくなる。
「なら聞かせてちょうだい。
世界を救うか、私を救うか選べってなったら、アンタ、どっち選ぶの?」
 美琴がズバリと上条に斬り込む。
 斬り込まれた上条は、予想はしていたものの、その迫力に思わずたじろぐ。
「俺は…もちろん、両方選ぶ!」
「嘘よ!」
 美琴が言い放つ。
「私はロシアでアンタを救えなかった。
私じゃどうしようもなかった。
私の手を振り払って、アンタは世界を救いに行ったのよ―」
 美琴の両目からまた涙がこぼれ始めた。あの時の絶望感が蘇り、心が悲鳴を上げる。
 絶望を浮かべたあの時の美琴の顔を、上条は再び今、この場所で目にすることになろうとは思っていなかった。
 あの時と違うのは、今回の原因が上条自身であったことだ。
 そのことが、上条の精神を大きく打ちのめす。
 分かっていたとはいえ、いや、本当は全く分かっていなかった。
 自分がどれ程、美琴の中で大きな部分を占めていたかを、今改めて、目の前で思い知らされいるのだった。
 美琴は泣きながら、上条に向かって叫んでいた。
「―もう、いやよ。絶対いや。
もうあんな思い、したくない。
アンタが私の目の前から消えた時の気持ちなんて…、アンタわかんないでしょ!
あんな思いするくらいなら、死んだ方がましだわ…。
アンタのこと、こんなに好きにならなけりゃ良かった!」
 さっきまでの安らぎも、幸福感も全て吹き飛ばされ、上条は惨めな敗北感と、大きな喪失感に苛まれていた。
「―美琴…、スマン、俺は…、お前に…」
 そう呟くので精一杯だった。
 美琴はそんな上条を見て、流れる涙を拭おうともせず、わざと明るい表情を作った。
―結局、私の手には余っちゃうってことよね。
―今の私は、当麻の邪魔にしかならない。
―なら、結論は決まってる。
―当麻の為…ならしょうがない…か。
―これが惚れた弱みってやつかな。
 美琴は目を伏せ、ため息をついた。
 自分の気持ちを見ないようにし、それを無かったことの様に振舞うために。
 彼女も上条同様、自分より、相手を思い遣ることを良しとする人間だった。
「ごめん、当麻。言い過ぎちゃったね。
大丈夫、アンタは何も悪くない。全部私のわがままだってこと。
私のわがままで、アンタを縛りつけたくない。
私のためにアンタの生き方は曲げてほしくない。
でも私は黙ってアンタを見送るなんて、したくないの。
アンタの帰りを、心配しながら待つなんて、二度としたくない。
約束なんて、どうだっていい。
アンタは生きて、この学園都市に帰ってきてさえくれればいいから」
―結局私とアンタの道は、交わらなかったってことよね。
―はは、そう思ったらなんかすっきりしちゃった。
 流れる涙を手のひらで拭い、美琴は明るく振舞おうとする。
「私のことは、気にしなくて大丈夫だから。
私はレベル5学園都市第三位よ。
何があっても乗り越えていく自信はあるわ。
私の『自分だけの現実』を、もう一度確立することぐらい、どうってこと無いから。
美琴さんをなめるなって、ことよ」
 美琴はそういうと、黙ったままの上条を抱き締めた。
 やがて両手を上条の頭に回すと、引き寄せ、ちょっと背伸びをする。
 上条の顔に、目を瞑った美琴の顔が近付いたと思ったら、唇に柔らかく触れた。
 美琴はそれまでの思いを伝えるかのように、ゆっくりと上条の唇の感触を味わった。
 やがて、思い残すことはないかのように顔を離し、やさしくささやいた。
「いままでありがとう。これが私の最初で最後の、当麻への気持ち。
この気持ちは今夜で終わり…。
ただこれだけは忘れないで。
私、御坂美琴は、いつも上条当麻の味方よ。
何があっても、私は当麻の支えになるってことだけはね」
 これだけ言うと、涙を手のひらで拭い、走り出した。

--------------------------------------------------------------------

558夢旅人:2011/03/16(水) 12:52:27 ID:kZ4AQYOk

「待てよ!」
 上条は、走り出した美琴の腕をつかむ。
「もう終わったの!離して!」
「待てってば!」
 振り払おうとする美琴を、上条はその手を離さまいと力を込める。
「終わってない!まだ終わってない!」
「痛い!離して!これ以上!私だって…」
「いやだ!俺だっていやだ!」
「見ないで、お願い…。そんな目で…。余計につらくなるから…」
 顔を背け、抗う美琴の肩を、上条の手ががしっと捕まえた。
―ここで離したら、間違いなく後悔する。
―上条当麻、お前はあれを繰り返してはいけないんだ。
―お前はそれでいいのか?
―お前は…本当にそれでいいのか?
 そう自分に言い聞かせた上条の脳裏にあるのは、あのロシア上空で見た美琴の泣き顔だった。
「こっちを向け!美琴!こっちを向くんだ!」
「いや…。いやよ…。離して…」
「だめだ!今度は離さない!何があろうと絶対に離さない!」
 上条はそう叫ぶと美琴をその胸に抱き締めた。
「絶対にお前を逃がさない!今度こそは離さない!
頼む、俺から離れないでくれ!お願いだから!頼む!
俺は…失いたくないんだ!お前のことを!
だからお願いだ…。俺から離れないでくれ…」
 上条の声が泣いていた。
「わかってるさ…。わかってるよ!俺のわがままだってのは!
でも失いたくないんだよ…。
こんな俺にだって…、失いたくないものがあるんだよ!
頼むから…、もうこれ以上不幸にはなりたくないんだ!」

----------------------------------------------------------------------------

559夢旅人:2011/03/16(水) 12:54:49 ID:kZ4AQYOk

 美琴は上条の言葉を聞き、彼の背中に手を回した。やがてその顔を上げ、上条の泣き顔を見た。
 上条をあきらめられない気持ちが、愛おしさに変わり、思わず言葉が口をついた。
「私だって、アンタを…不幸にはしたくない…。
アンタが幸せになるなら、私が不幸になってもいい。
ううん、私がアンタを幸せにする。アンタを不幸のどん底から引っ張りあげてあげる。
アンタが離れられないなら、ずっと一緒に居てあげるから。
アンタはもう、失うものなんて…何も無いんだからぁ!」
 そうして美琴は上条にぐっと抱きつき、再び顔を彼の胸に埋めて呟いていた。
―バカ…、バカ…、ほんとにバカなんだから。
―アンタにそんなこと言われたら、私が離れられるわけないじゃない。
―アンタが苦しむ方が、私には耐えられない。
―アンタが苦しむくらいなら…、私が代わってあげるから。
 やがて上条が、涙を拭い、ポツリと語りだした。
「…ありがとう。美琴。
わがままだって分かってるけど、言わずにいられなかった。
それに…」
 美琴が上条の顔を見上げる。
「何?」
 その顔を見ながら、上条が語りかける。
「俺さ、記憶喪失だろ。
だから好きとか、愛してるってのが、どんなものかわからないんだ。
なんにも無くてからっぽなんだよ。
でもなぜかお前と離れたくないって気持ちだけはわかったんだ―。
―正直、お前に好きって言われても、どうしたらいいのかわからないんだ。
でも一緒に居たい、離れたくないって気持ちだけはある。
この気持ちだけでは、ダメか?」
 それを聞いた美琴は、上条の心がなんとなく分かった気がした。
―そうか、コイツは赤ちゃんと同じなんだ。
―記憶を失って、昔の自分を失って、何もわからなくて、何も知らなくて…
―自分の気持ちさえもわからない…
―そんなコイツに答えを求めるのは酷、なんだよね…
「居たいって気持ちに嘘は無いのでしょ?」
「ああ、嘘じゃねぇ」
「じゃ、なんで一緒に居たいって思うの?」
「―それがよくわからないんだ。何か胸の中がもやもやしているんだけど、それが何かわからない」
 上条の気持ちの先に、何かがあるのはわかった。
 美琴はおそらく、自分が経験してきた事と同じなんだろうと思う。
「私には多分、わかるわ…」
「わかったんなら教えてくれよ」
「ううん、だめ。教えられない。それはこれからアンタが自分で気づかなければいけないこと、だから」
 上条はその言葉に、一瞬何か言いかけたが、結局やめた。
「―そうか、わかった…。で、さっきのお願いは…」
 美琴はまた涙がこぼれそうになる。
「もちろんよ。ずっと一緒に居てあげる。ただし、条件があるわ…」
―私、ズルイ女。でも、これくらいのことは許されるわよね。
 美琴は笑顔で上条に向かい合った。
「まずアンタは必ず、私の元へ生きて帰ってくること。何があってもね。
そして必ず私に向かって『ただいま』を言うこと。
後は、アンタがその約束を守れるような、何か証しをもらうわ」
「なんだ、そりゃ?」
 戸惑いを隠せない上条。
「何をすればいいんだ?」
「そうね。とりあえず、帰りましょ」
 美琴は上条の手を引っ張った。
「アンタのおかげですっかり冷えちゃった。
もっと暖かいとこ、行きましょ」
 そんな美琴の笑顔は、やっぱり最高だ、上条は思った。
―そんな美琴の笑顔が、俺は…、好きなんだ。
 手を引かれた上条は、それを認識した。
「で、どこへ行きたいのでせうか?」
「決まってるじゃない。アンタの部屋よ!」
「美琴…、お前…」
「こんな状況で、女の子を一人帰すなんてこと、するはず無いわよね。
それとも何?アンタ、私に恥かかせようってわけ?」
 美琴が口を尖らせる。
「ええと…、美琴サン、それは…って…」
 上条の心臓の鼓動が早くなった。
―お姉さまが帰る場所はわたくしのお部屋ではございませんの
 白井の言葉が、上条の脳裏に甦る。
 その時、美琴が上条の胸に飛び込んできた。
「帰りたくない。ずっと一緒に居て…」
 ぎゅっと抱きついてきた美琴の背中に、上条はやさしく手を回した。
「俺も帰したくない。ずっと一緒に居たい…」
 上条はそんな美琴の顎に指を添え、そうっと顔を持ち上げると、やさしく唇を重ねた。


--------------------------------------------------------------------
続く

560夢旅人:2011/03/16(水) 12:57:42 ID:kZ4AQYOk
本日は以上です。
2レスかと思ったら3レスでないと入らなかった。
なんか中途半端です。

当初の予定の流れから変わってきたのがなんとも…。

561■■■■:2011/03/16(水) 19:02:20 ID:69PSvaaE
>>560
GJ!

562ソーサ:2011/03/16(水) 19:12:26 ID:WHe0r6E2
皆さんすばらしいですね!
短編や長編をそこまで書けるのがすごい…

久しぶりに投稿します。
小ネタなんで1レス消費です
誰もいなければすぐに投稿します!

563ソーサ:2011/03/16(水) 19:15:16 ID:WHe0r6E2

タイトル「いちゃいちゃしようぜ!〜ホワイトデー〜」

・退院した帰り道

*今回の入院は検査が多かったのでしばらく上条と美琴はしばらく会えてなかったって設定です。

PM1:00 商店街して

上条「今日はホワイトデーか…やばいな入院してて美琴にお返しの準備ができてない…」

上条「驚かすために美琴には明日退院って言ってあるけどどうするかなー。」

上条「やっぱお返しはクッキーとかか?」

上条「いやダメだ…今からだと間に合わない…市販の物になっちまう…」

上条「バレンタインの3倍返しってよくいうけど……一体どうすりゃいいんだー!!」

浜面「よう上条!何叫んでんだ?」

上条「ん?浜面か、いやバレンタインのお返しをどうしようかと…」

浜面「まだ悩んでんのか?遅すぎるだろ。俺なんかほらこれ。」

上条「……これは…まさか?」

浜面「そう指輪だよ、指輪!もちろん滝壺にな。俺は急ぐからもう行くわ、じゃーな!」ダダダ…

上条「おうまたな。…指輪か、それいいな!見に行ってみるか。」

→PM2:00 宝石店前にて

上条「…想像を絶する高さだった…入院で金がなくなったしとても買えねぇ…」

半蔵「あれ?上条じゃん。」

上条「今度は半蔵か…ってそのどでかい花束はなんなんだ!郭ちゃんにでもプレゼントすんのか?」

半蔵「ばか!なんで郭だよ。愛穂さんに渡すに決まってるだろ!」

上条「お前まだ黄泉川先生のこと諦めてなかったのかよ!つーかバレンタインにチョコもらったのか!?」

半蔵「もらってねぇ…もらってねぇけどよ、でも別にいいだろ!?ってあれは愛穂さん!?愛穂さーん!!」ダダダ…

上条「あ、おい!…花束か、よし俺もそうするか!!」

→PM5:00 花屋へ到着

上条「……ここも閉まってる…7軒も回ったのに…不幸だ……ん?」

番外「やっほう!今日は珍しくお姉さまと一緒じゃないんだね。というかこんなとこでどうしたの?」

上条「いや…ちょっとな…バレンタインのお返しで悩んでて。」

番外「今更?ミサカはもうもらったよ。ほら。」

上条「これは…ゲコ太のストラップ?てか誰にもらったんだ?」

番外「一方通行。」

上条「はぁ!?なんであいつが!?それ以前にお前あいつにチョコあげたのか!?」

番外「打ち止めとチョコ作り勝負してた成り行きでね。」

上条「(一方通行には負けてられねぇ!そうだゲコ太だ!)ありがとな番外固体!」ダダダ…

番外「え?ありがとって言われてもミサカは何もしてないんだけどなぁ…」

→PM7:45 ショップへ到着

上条「…なぜゲコ太関連の商品だけほとんど完売してるんでせうか?…ん?」

美琴「当麻!?なんでここに?退院は明日じゃなかったの!?」

上条「み、美琴!?その、いろいろあってだな…ってその大量のゲコ太はどうしたんだよ…」

美琴「ああこれね。今ゲコ太フェアやってて高額のゲコ太は半額になるからつい買っちゃった♪」

上条「(だから安物しか残ってないのか…やばい手詰まりだ…)」

美琴「当麻?どうかしたの?」

上条「い、いやなんでもない!そ、そうだ1回うちに来いよ!」

美琴「え、あ、うん!」

→PM8:30 上条の寮へ到着

上条「(ついその場のノリで連れてきてしまった……)」

上条「(残された道は謝るしかないか…でも美琴ガッカリしないかな…)」

上条「(いや、もうそれしか残されてないんだ、覚悟を決めろ俺!)あ、あのさ…」

美琴「ん?なーに当麻?」

上条「その…ホワイトデーなんだけどさ、入院してたせいで何も用意できてなくて…」

上条「ごめん!だからこの上条さんを煮るなり焼くなり好きにしてくださいー!!」ドゲザッ

美琴「!!?……じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」ギュッ

上条「え」

美琴「しばらく会えなかった分当麻を堪能させてもらおうじゃない。///」スリスリ

上条「ちょ、ちょっと美琴…(ほおずりはヤバい!それに胸があたってる!り、理性が崩壊する!)」

美琴「もちろん今日は泊まっていくわよ!一緒にお風呂に入って、一緒にベッドで寝るからね♪」

上条「!!?いやそういうつもりで言ったわけじゃないぞ!」

美琴「あ…私ほしいものがあるんだけどなぁ〜…///」

上条「な、なんだ?なんでも言ってみろ!指輪か!?花束か!?それともゲコ太か!?」

美琴「その…当麻との…赤ちゃんがほしい…//////」マッカッカ

上条「……(もう…ダメだ…美琴が可愛すぎる。このままでは理性がもたん…)」プシュー


 − fin −

564ソーサ:2011/03/16(水) 19:26:40 ID:WHe0r6E2
以上です!
東北のほうは大変みたいですね…
俺は東海住まいなので大丈夫でしたが1人でも多くの生存を祈ってます
まあ昨晩の地震にはビックリしましたが…

新約が発売しましたしこれから活躍しそうな浜面、半蔵、番外固体を出してみました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。

565■■■■:2011/03/16(水) 22:55:26 ID:m9AWUxkc
つばささん、>>552さん、夢旅人さん、ソーサさん。
皆さん、GJです。

愉しすぎる。^^
それぞれに味があって、面白いです〜。

566■■■■:2011/03/16(水) 23:33:25 ID:dCfJO8Mw
正直、このスレのSSの感想を書く人は少ないと思うけど、見てる人はかなりいると思うので書き手さん頑張って下さい(と言う自分もあまり感想書かない人なんだけど…)

567■■■■:2011/03/17(木) 00:19:52 ID:OnYi9DAE
>>560
終盤だと……超期待です!
>>564
GJ!
赤ちゃんあbbbbb

568■■■■:2011/03/17(木) 01:21:49 ID:eDGQDe4Q
皆さん乙ッス!

569■■■■:2011/03/17(木) 12:58:44 ID:3l6CqXoI
この後ナニがあった!?
上条!ナニをしたんだああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

GJJJJJJJJJ

570夢旅人:2011/03/17(木) 18:09:05 ID:8H1pyOVU
ちょっと気分転換なのを投下。

オリキャラメインなんですが、サブが上琴いちゃいちゃなんで、ここでもいいかなと。

今回多分3レスかな?

571夢旅人:2011/03/17(木) 18:09:53 ID:8H1pyOVU
とある幼馴染の星間旅行 前編

1 レベル1「粒子操作」

 少年の名前は『朝凪星海(あさなぎせいかい)』。
 学園都市のとある高校の1年7組。その能力は「粒子操作」で、ある物質の操作が可能である。
 彼が操作可能なのは「タキオン粒子」、すなわち「超光速粒子」のこと。それを操作することで、彼は宇宙空間を超光速で移動できる能力があるという。
 彼の能力名は『ワープドライバー』。所謂ワープ航法が可能なのであった。
 もっとも実際に、タキオン粒子が操作されているのかは確認されていない。現在の能力測定装置では、AIM拡散力場以外は計測不能なため、現在の彼の能力レベルは1。
 彼の今の能力レベルで可能なのは、質量を伴う物ではなく、意識のみが超光速移動が可能らしいのだが、今の所、彼以外にそれを確認できた者はいない。
 少年は、年少の頃よりSF小説を嗜み、やがては中学生の頃よりここ、学園都市の学生として現在に至っている。
 将来は宇宙飛行士という夢があったが、現実にはあまり出来がよろしくないため、学園都市でも無名の高校に在籍していた。

「んーったく、相変わらずうるさい連中だな。おちおち読書もできねぇ」

 そう教室で一人ごちた彼の目前で騒いでいるのは、上条当麻、土御門元春、そして青髪ピアスの3人組。

「―だーっ!だから俺のせいじゃないんだって」
 上条が叫ぶ。
「―うるさいんだにゃー。てめぇだけは許さんぜよ」
 土御門が返す。
「―カミやんのおかげで、ワイらはえらい迷惑やねんで」
 青髪ピアスがぶちまける。
―上条のヤツ、またどっかでフラグ立てやがったのか。うらやましい限りだぜ。けっ…
 そう思う朝凪に、横の机に腰掛けていた少女が話しかけた。
 外見は黒髪ショートヘアが似合う、ちょっと可憐系の女の子だった。
「ねえ、星海。今日読んでるのは何?」
「ロバート・ハインライン」
「ふうん。なんてタイトル?」
「スターマン・ジョーンズ。昨日古本屋の100均で見つけた」
「面白い?」
「やっと見つけてな。これでハインラインはコンプリート…、って、睦月、お前今日も来てるのかよ」

 そう朝凪に言われた少女の名は『大神睦月(おおがみむつき)』という。


2 レベル1「心理回復」

 大神睦月はレベル1「心理回復」の能力を持つ。能力名は「メンタルリカバー」。
 過去にもっていた心理状態を回復させるものなのだが、そのレベル強度では、親しい人間の、一部の心理状態をわずかに回復させるのが精一杯という程度である。
 彼女は、朝凪星海の幼馴染であり、小、中、高とずっと彼と同じ学校であった。彼女の今のクラスは隣の1年6組。
 なぜ彼女がこのクラスにいるのかというと、おそらく「カミジョー属性」なのだろう。
 おかげで上条当麻は、隣のクラスの一部男子からも妬まれているとかいないとか。
 その割りに、彼女はなぜかいつも朝凪の横にいた。腐れ縁だから、というのが、二人のいつもの理由付けであるのだが。

 その日、大神は朝凪の隣で三馬鹿トリオの騒動をあきれたように眺めていた。
「上条君は相変わらずね」
 朝凪は本から目を外すことなく会話を続ける。
「なんだ、睦月。気になるのか?」
 そんな朝凪を、大神はチラリと見て、小さくため息をついた。
「いや、別に…なんだけどね」
「上条と違って、俺みたいなSFオタクにはそんな縁なんてねぇよな」
「そんなことないって。星海のこと好きになる子、世界のどっかに必ずいるって」
「はいはい、どっかね。で、どっかってどこよ」
「さぁね?どこでしょうね…」
 大神の表情がわずかに曇っていることに、朝凪は全く気付いていない。
「おめーは昔からそうだよな。俺のことおもちゃか何かとカン違いしてねぇ?」
「カン違いじゃないわよ。はっきり言って、おもちゃそのものね」
「ちぇっ。わかりましたよっと。お前そろそろ授業始まるから戻れよな」
 結局最後まで、朝凪は本から目を上げることは無かった。
「うん。じゃね。上条君によろしく言っといて」
 そう言って大神睦月は、朝凪を意味ありげに見て、教室を出て行った。

572夢旅人:2011/03/17(木) 18:10:32 ID:8H1pyOVU
3 姫神秋沙・朝凪星海

 その日、朝凪は空き時間は、ほとんど読書に費やした。
 休み時間中、横に大神の気配を感じることもあったが、そのまま無視して読書に熱中していた。
 もっとも大神自身は、そんな朝凪に何も言わず、デルタフォースの馬鹿ッぷりを見ているだけだったようだが。
 その日の放課後に限って、なぜか朝凪はクラスメートの姫神秋沙に声を掛けられた。
 実のところ、姫神は、先程の朝凪と大神の様子を、何とはなしに見ていたのだった。
「朝凪君。いつも。本読んでる。今日は何。読んでるの」
 朝凪は、読んでいた本を鞄に入れながら、姫神に顔を向けた。
「ああ、姫神さん。ハインラインの小説」
「それは。SFね。私も。嫌いじゃない」
 朝凪は、その答えに意外そうな表情を向けた。
「え、姫神さん知ってんだ」
「ハインラインなら。本当に少しだけど」
「へぇ。意外だね。女の子でハインライン知ってるって、滅多にいないよ。あ、姫神さん。時間あるなら本屋付き合わない?
今日、雑誌の発売日なんで」
 大神以外の女の子と、SFの話が出来ることに、朝凪はちょっとテンションが上がっていた。
「私は。時間あるから。大丈夫だけど」
「おし、決まり。なんだったら何か奢るよ」
「でも。いつも大神さん。いるじゃない」
「ああ、睦月なら平気だよ。単に腐れ縁ってだけのことだし。それにアイツはカミジョー属性みたいだし」
「それを。言ったら。私も…」
「チッ、上条の野郎…、ブチコロス」
「その時は。私も」
―これで、と言いながら、魔法のステッキを取り出した。
―どこかで不幸だ―という声が聞こえた気がするが、朝凪も姫神も特に気にしない。


4 上条当麻・大神睦月

 夕方近く、大神睦月は7組の教室を覗いた。
「―ええと、星海、いない…か?あ、上条君、補習中だった?」
 大神が見たのは、教室で一人補習中だった上条当麻だった。
 そう呼ばれた上条が、教室の入口に目を向けた。
「ん、あれ、大神さん、ひとり?」
 大神はちょっと残念そうな表情をしていた。
「うん、ちょっと遅くなっちゃって。上条君。星海知らない?」
 そういや、といった表情で上条が言葉を継いだ。
「朝凪なら、姫神と帰ったみたいだぜ」
「あ、そう…なんだ」
 ありありと表情を曇らせた大神に、上条が反応した。
「あれ?お前ら、付き合ってんじゃないの?」
「あ、いやいや、単に腐れ縁ってだけで、別に付き合ってるわけでもないし、なぜ?」
 あわてたように大神が言う。
「いや、お前ら、いつも一緒に居るじゃん。だからてっきり…」
「んー、ホント昔からの腐れ縁ってだけだし。それに星海の方はね」
 大神がわずかにため息をつく。
「―縁すらない上条さんにはうらやましい限りですよ」
 突然大神が上条の横へ近付き、小さな声で言った。
「上条君。常盤台のエースと付き合ってるんじゃないの?」
 突然のことに、上条の余裕が吹き飛んだ。
「ぶふぉっ。だ…、誰からそんな。か…、上条さんにそんなボーナスステージみたいなものは一切無いですよ」
「えー?この前、見たわよ。常盤台のお嬢さんとお手手つないで、いちゃいちゃ楽しそうにデート中なのを…」
「ははは…、それは何の事でせう…」
 とぼけた上条に大神がたたみかけた。
「学園都市第三位のお嬢さんが、上条君と腕組んでさ。ふたりともすっごい笑顔で楽しそうに通りを歩いてたんだよね…」
「げ…」
「で、二人とも『当麻』『美琴』って呼び合って、どう見たってカップルそのものじゃないの。いいなぁ…」
 考えてみれば、大通りをカップルで歩けば当然目立つわけであるし、ましてや相手が常盤台の女の子で、しかも有名人となれば尚更なのだが。
「えええ、アレ、見られ…て…た?お、お、大神サン。頼むから、内密で!お願いだから。でないと上条さんは命の危険が…」
「…ということは認めるってことね」
「ええと………ハイ…」
 ガックリと上条は肩を落とした。
「へへへ、じゃ後で聞きたいことがあるから、ちょっとだけ付き合ってくれる?」
「わかりましたから…、なにとぞお手柔らかに…」
 上条が不幸だーとつぶやいていた。
「大丈夫。そういうことじゃないから。じゃ校門前で待ってるからね」
 そう言って大神は教室を出ていった。

573夢旅人:2011/03/17(木) 18:10:59 ID:8H1pyOVU
5 幻想殺し・超電磁砲

 校門前で待つ大神睦月の前に、上条当麻が声をかけた。
「すまん、大神さん。待たせちゃって」
「大丈夫よ。それより補習は終わったの?」
「おう。後は買い物して帰るだけだ」
「そう、実はちょっと相談したいことがあるんだけど…」
「こんな上条さんで良ければ、いくらでも力になりますことよ。ま、ここじゃなんだし、この先の公園にでも行くか…」
 二人はとある上条馴染みの公園に向かっていった。
 上条はいつもの自販機でやしの実サイダーを買い、傍のベンチに腰掛けている大神に渡した。
「大神さん、はいこれどうぞ」
「え、あ…ありがとう。…もしかしてこのジュース、彼女のお気に入り?」
「へっ…、あ…ごめん。ついいつもの癖で…」
「いいなぁ、上条君の彼女。うらやましいなぁ。愛されてるんだぁ。星海なんてさ、ぜんぜん振り向いてもくれないし…」
「大神さん、もしかして、朝凪のこと?」
「…うん、内緒だからね。でも星海さ、私のこと眼中にないみたいだし。腐れ縁すぎて、恋愛感情なんて無いみたいなのね」
「うーん、上条さんに恋愛相談はちょっと荷が重い…のですが」
「あ、ごめんね。今日はそれじゃなくて、能力のことなんだけど…」
そう言って、大神は上条に向かい合った。

「上条君、知ってるかどうかわかんないけど、私の能力って、心理系なの。
もっともレベルがレベルなんで、私に悪意があるか、好意があるか程度しか判断つかないんだけどね。
で、7組の子、ほぼ全員、判別できるんだけど、上条君だけ、どうしてもわからないのよ。
それで、ちょっと理由を聞いてみようかなって思ったんだけど、迷惑…かな?」

「ああ、そういうことね…。
んーなんて言うか…、俺の右手、実はちょっとした特殊な能力があってだな…。
あらゆる能力を消してしまうんで、俺には能力、効かないんだ」

「え、そんなのあるんだ…。というと、もしかして都市伝説の『あらゆる能力を打ち消す力』ってこと?」
「ああ、多分な…」
「だったら『第一位を倒した無能力者』って…」
「否定はしねぇが肯定もしねぇ…。ま、訳あって詳しいことは言えねぇがな。ここだけの話って事で、忘れてくれると助かる」
「うん、わかったわ…。でも…そうなんだ。なんとなくっていうか、上条君らしいというか…」
「ま、どこへでも首を突っ込む不幸体質てのは…」

 その時、突然二人の目の前に立ちはだかる影があった。
「ちょっと、アンタ!よその女とここで何してんのよっ!!!!」
 学園都市第三位『超電磁砲』こと御坂美琴であった。
「ひっ!?み、美琴!!ちょ、ちょっと待てって!!落ち着けって!!誤解だって!!」
 上条があわてたように手を振る。
「なによ、人のこと放っておいて。アンタ、説明してもらおうじゃないの!」
 指先からバチバチと放電しながら、美琴が上条の前で仁王立ちになる。
 さすがに一般人がいるところで、電撃を放たないだけの理性はあるようだ。
「だから説明しますから、美琴センセー。ちょっとその電撃は…」
 上条が言いかけたところへ、横にいた大神が美琴に声をかけた。
「あの、上条君の彼女さん…ですよね。はじめまして、私、上条君の隣のクラスの大神睦月といいます」
 上条の彼女と言われたとたん、美琴の顔が赤くなり、電撃を引っ込めてモジモジしだした。
「は、はじめまして。御坂美琴です。あ、あの何かコイツが失礼なことでも…」
 すかさず上条がツッコミを入れる。
「だーかーらー、いくら俺が不幸体質でも、そうそう人をトラブルに巻き込まないって…」
 そんな二人を見た大神がクスリと笑った。
「ごめんなさいね。私、上条君に能力のことで聞きたいことがあったの…。あ、大丈夫よ、私、別に好きな人いるから。安心して」
 カミジョー属性を良く知ってる大神は、美琴へのフォローを忘れない。
「そうだったんですか。ごめんなさい。コイツ、よくきれいな女の人と一緒にいるもので、つい…」
 美琴は赤い顔のまま、大神に向かって頭を下げた。
「ううん、誤解させちゃったのは私のほうだから、御坂さんは気にしないで。
じゃ、デートのお邪魔になるから、私、行くわね。上条君、相談に乗ってくれて、ありがとう」

 そう言って、大神は二人に手を振ってその場を離れた。

―いいなぁ。私も星海とあんな風になれたら…

 振り返った大神が見たのは、楽しそうに手をつないだカップルの後姿だった。

-------------------------------------------------------------------
続く

574夢旅人:2011/03/17(木) 18:13:19 ID:8H1pyOVU
以上です。

後編は上琴大活躍な予定。

575夢旅人:2011/03/17(木) 18:26:57 ID:8H1pyOVU
>>561、565、566、567ほか各皆さん。

ありがとうございます。

SSなんて、今まで滅多にやったことないんで、励みになります。

576:2011/03/17(木) 19:38:35 ID:JWTnSeqk

どうも、蒼です。
今回は【Presented to you】の続きを投下しにきました。
シリアスが苦手な方はスルー推奨。

では約5分後に投下。
消費レスは6の予定です。

577【Presented to you】―promise―(7):2011/03/17(木) 19:41:23 ID:JWTnSeqk
 12月1日16時、地下街

 美琴は学校が終わると、いつも通り一人で、これといったあてもなく辺りを、今日に関しては地下街をブラついていた。
 あの後、黒子からのあれ以上の言及は結果としてなかった。
 だがそれは言葉による言及がなかっただけであり、彼女の視線、雰囲気は明らかに話してほしいということを訴えかけていた。
 美琴だって、わかっている。
 この手の問題は全部一人で抱え込むよりは、いっそ話してしまった方がずっと楽だということは。
 だがそれでも、少なくとも今美琴は話す気になれない。
 別に美琴が黒子のことを信頼していないとか、そういう類のことが問題なのではない。
 むしろ美琴は黒子のことを、今の学園都市の全て人の中では一番信頼していると言っても過言ではないだろう。
 それなのに、それほど信頼はしていても、今美琴はどうしても話す気になれなかった。

「あーあ、何か、面白いことないかなー」

 嘘だった。
 本当にそんなことなどを心から考えてはいなかった。
 それに例え、その面白いことが起きたとしても、今の美琴の心理状態で心の底から楽しめるわけがない。
 美琴のその言葉の真意は変化。
 変化が全くないまま、ずっと悩むのは些か疲れた。
 何でもいいから、今の状況が早く変わってほしい。
 どんな情報でもいいから、彼に関する情報が欲しい。
 そう考え、学園都市の上層部のサーバーに何度ハッキングを仕掛けたかわからない。
 他にも海外のニュースや学園都市に入ってくる者達のデータなど、美琴は様々な方面から余すことなく調べまわっているが、やはり一番欲しい情報だけは何も見つからない。

(あ…)

 不意に美琴の目に入ったのは、ある携帯ショップの店頭にでかでかと張られているハンディアンテナサービスについての広告。
 それは個人の携帯電話をアンテナ基地の代わりとし、他のそのサービスに加入している携帯とのネットワークを構築して、本来電波が届かないところでも電波を届かせることができるというものなのだが…

(アイツは、大丈夫なのかな…)

 そのサービスは、大覇星祭での勝負による罰ゲームと称して彼と一緒に入ったもの。
 しかも、彼と二人でペア登録をしてまで入った。
 そして美琴の目の前のその携帯ショップは、奇しくもあの時と同じの携帯ショップ。
 別に意識して、来ようと思って来たわけではない、全くの偶然だった。
 美琴は、その携帯ショップにでかでかと貼られている広告を今一度眺めた。
 どうやらあの時のサービスは依然として続いているらしく、ペア登録をするとやはりもれなくゲコ太ストラップがついてくるらしい。

「―――つかさ、こんなの貰ってもあまり嬉しくないよな」
「……私はかわいいと思う。ねえ、それよりはまづら―――」

 さらに加えて、たった今ペア登録を済ませたのか、その携帯ショップの中からカップルと思しきある二人組がそんな会話をしていた。
 一人は野暮ったいジャージを着たいかにも不良っぽい金髪の男に、もう一人はモコモコしたニット帽を被り、ピンクのジャージを着た眠そうな表情をした少女。
 その二人はまだ付き合って間もないのか、腕をとり先に進もうする彼女に対して、男の方は少しおどおどしていた。
 あの男の方はともかく、彼女の方はゲコ太のかわいさがわかるところをみると、話せば仲良くなれるかもしれない。
 そんな馬鹿げたことを美琴は考えていた。
 しかし美琴があの二人を見て抱いた感情は、何よりも羨望。
 幸せそうに腕を組み、地下街の中へと消えていった二人の姿が、美琴にはどうしようもなく羨ましく思えた。
 自分と彼との関係、状態があの二人のようであればどれだけ良いか。
 しかし現状はそれとは程遠い。
 彼はいない、告白もまだ、何もかもがあの二人とは違う。

578【Presented to you】―promise―(8):2011/03/17(木) 19:41:44 ID:JWTnSeqk

(私は…)

 美琴は、嘗て彼とペア登録のための写真を撮った場所に立ち、壁に寄りかかる。
 そしてふう、と一息つくと、ポケットにしまっていた携帯へと手を伸ばした。
 開かれた携帯に表示されたのは、ペア登録の時に撮った彼とのツーショット。
 あの時は合計3枚の写真を撮っており、待ち受けとされているのはその中でも一番マシであった1回目のもの。
 写真上の彼の目線はカメラに向けられておらず、表情も笑顔とは程遠く、感情に乏しい表情をしている。
 対する美琴も美琴で、彼との急接近によるものとツーショットを撮るという緊張から、やたらと強張っている表情をしている。

(全く、一体どんな顔してるのよ、あの時の私は)

 あの時の美琴は彼を気にはしていても、それが恋だということは全く認めようとはしていなかった。
 この私が、あんな鈍感で無神経で馬鹿なやつを好きになるわけがない、そう自分に言い聞かせて。
 ただ単に超能力者である自分が無能力者である彼に勝てないことが気に食わないから、気になっているだけだと結論づけていた。
 だから、そんな理性と本当は嬉しく思っていた本能との矛盾から、素直に笑えなかったのかもしれない。
 しかしあれから美琴は彼の記憶喪失のことについて触れ、上条のことについて色々悩まされた。
 その後、第二十二学区でボロボロになっている上条に会い、記憶喪失のことなど知っていると彼に打ち明け、上条の芯の強さに嫌と言うほど触れた。
 そのあまりの彼の芯の強さは美琴の心に精神に大きな衝撃を与え、自身の中に眠る莫大な感情を呼び覚ました。
 その感情の名は、美琴はその時点ではまだ気づいていない。
 しかしその感情は、つまり上条のことについては、確実に美琴の心の中で最も大きなウェイトを占めていたと言える。
 事実その日以降、時間が空いている時、手持ち無沙汰な時、授業中問わず、何かにつけて彼の顔が美琴の脳裏に浮かんでは、彼のことばかり考えていた。
 彼に会おうと、彼がよく出没する場所へ来る日も来る日も足を運んだ。
 会えた日はその一日を楽しく過ごせ、会えなかった日はため息ばかりついていた。
 それを美琴は毎日続けていた。
 ルームメイトである黒子は、さぞたまらなかったであろう。
 何しろ彼女はそんな美琴を見ては奇声をあげて身悶えていたのだから。
 続いて携帯の画面に表示されたのは、2枚目。

(アイツは、私のことどう思ってたのかな?)

 その写真の上条は、何故か重心を美琴がいる方とは反対方向に遠ざけ、美琴は1枚目と同様に表情がこの上なくかたく、強張っている。
 そんな一つの写真を見て、美琴はふとそう思った。
 きっと、あの日の彼がここまでしてくれたのは、大覇星祭の罰ゲームという義務感があってのことだろう。
 彼とて、好きでこの写真を撮ったわけではないはず。
 面倒だと思っていたかもしれない。
 ならば、本心はどう思っていたのだろうか。
 本当に罰ゲームだから仕方なく、嫌々ながらあの日を過ごし、この写真を撮ったのか。
 それとも、自分のことなどどうとも思っていなかったのか。
 それとも、自分のことを少しは意識してくれていたのか。
 その上で恥ずかしがって、少し距離をおいたのだろうか。

(わかんない…)

 それも未だ彼が帰ってこない今では、闇の中。
 知る手だてなど、何一つとしてない。

(わかんないわよ…!)

 今二人を隔てる距離は、とてつもなくあいている。
 たとえ美琴がその距離を縮めようとどれだけ足掻いても、どうしようもないくらいにまで。
 写真の二人のような、近いようで決して近くない、そんな微妙な距離などではないのだ。
 絶対的な距離が、今二人を隔てている。

579【Presented to you】―promise―(9):2011/03/17(木) 19:42:05 ID:JWTnSeqk

(これは…)

 続いて美琴が携帯を操作して画面上に表れたものは、3回目の写真。
 とは言え、これはそれまでの2枚の写真とは異なり、写っているのは二人のツーショットではない。
 写っているのは、いきなり上条を後頭部からドロップキックをかます白井黒子のパンツ、急な出来事でとんでもない表情をしている上条の顔、そして脇でその状況に本当に驚いていた美琴。
 恐らくあの時黒子の邪魔さえはいっていなければ、この3枚目が最高のツーショットとなっていたことだろう。
 しかし実際に蓋を開けてみれば、このようなドタバタの愉快極まりない写真。
 いつも美琴はこれを見ると、その愉快さに半分笑いが、もう半分は黒子の寸分狂わないタイミングの邪魔をした彼女に怒りを覚える。
 せっかくあと少しで最高のツーショットが撮れていたところだったのだから。

(………)

 そして今、美琴の思考が、止まった。
 周囲で何かが起きたためではない、周囲では今まで通り見渡す限りの人でごった返している。
 むしろ、何も起きない、何も変わっていないことが美琴の思考を停止させたと言っていい。

(会いたい…)

 それは偽りでもなんでもない、今の美琴の心からの本心。
 恥ずかしさとか、抵抗は一切なく言える、今の美琴の素直な気持ち。

(会いたいよ…!)

 嘗て彼と同じ時を過ごし、そしてその過ごした瞬間を形に収めた写真をまじまじと見て、考え、美琴は手の中の携帯を握りしめ、強くそう思った。
 だが、美琴がどれほどの強さで彼を想ったところで、どれほど強く会いたいと願ったところで、当の上条は隣にはいない。
 いないものはいない、いない者には会えない。
 だから、今美琴は上条には会えない。
 会いたくても、会えないのだ。
 突然、美琴の世界が滲んだ。
 それまではっきりしていた美琴の世界が、突然何かもがぼやけた。
 それと同時に、美琴の周囲を歩く人々がギョッとした目で美琴を見やり、さらに少しざわめく。
 さらには、美琴の頬を一筋の水滴が流れていた。
 その一滴の水滴は次第に重力に従い、頬と顎を伝って地面へと流れ落ちる。
 美琴は、泣いていた。

(あ、やばっ…)

 今の自身の状態に気付いた美琴は、慌てて携帯をスカートの中のポケットへとしまい込み、溢れ出る涙をせき止めようと両手を目元へともっていく。
 しかし美琴の涙はそれでも止まらない。
 涙を止めようと一度落ち着こうとしてみるが、やはり止まらない。
 どれだけ涙を流しても、次から次へと溢れ出ていく。
 思いのままのはずの感情のコントロールが、いつものように上手く出来ていない。

(どうしよう、止まんない)

 涙が止まらないことに困っている美琴をよそに、道端で常盤台中学の女の子が泣いているということが話題をよんだのか、美琴の周りに野次馬が群がってきていた。
 美琴を心配そうな目で見やる者、美琴の容姿がきれいだのと関係ないことを呟く者、よからぬことを考える者と、多種多様な人々が寄ってくるが、現時点で美琴のすぐ側に近寄る者はいない。
 ましてや、美琴が困り果てていてもすぐに駆けつけてくれるヒーローなど、いない。

(移動しなきゃ…)

 自身のことを何も知らない群集がざわざわと騒ぐことが目障り、何も知らないくせに変に自身を勘ぐるような言葉が耳障り。 美琴は涙が止まらなくても、それらの群集を遠ざけたくて仕方がなかった。
 一刻も早くこの場を離れたかった。
 美琴は止めていた歩みを再び進める。
 行き先は、わからない。
 ただただ美琴自身の気持ちが赴くままに、前に進むだけ。

580【Presented to you】―promise―(10):2011/03/17(木) 19:42:45 ID:JWTnSeqk

「―――はあ、はあ…」

 あの場を離れるために歩きだした美琴だったが、その歩調は始めは徒歩程度のもので始まり、次第に駆け足のものへと変わっていた。
 美琴は涙を隠すために俯きながら走っていたため、道中何人の人とぶつかったかはわからない。
 肩をぶつけられたことに対して腹を立てているような輩も少なからずいたような気はする。
 しかしそれらの人々全てを美琴は無視し、ただひたすらに走った。
 走って、走って、気づいた時には美琴の涙は既に枯れていた。
 枯れた涙の代わりに、息があがっていた。
 本当に息が苦しくなり歩みを止めた時、美琴が立っていた場所、それはいつもの自販機前。
 意図して来たわけではない、美琴は確かに闇雲に走っただけ。
 それでも美琴の身体は、足は、意図などせずとも何度も来慣れたこの場所に美琴を導いた。
 彼との、思い出の場所に。

(会いたいと、思ったから…?)

 違う、今ここに来ても上条には会えないことなど、わかりきっている。
 彼は今学園都市にはいないはずなのだから。

(アイツとの思い出に、縋りたいだけか…)

 例え会えないとわかっていても、身体は、心は彼を求めている。
 理性の問題ではない、本能の問題。

(バカ、じゃないの…)

 彼はいない。
 頭では嫌というほどわかっていることのはずなのに、本能は中々認めようとはしない。
 いつから、自分はここまで弱くなってしまったのか。
 今の美琴には、そんな考えすら浮かんだ。
 少なくとも上条に会うまでの以前美琴は、独りでもしっかりと立って生きていけた。
 誰にも頼らず、何か一つのことに縋っていないと立っていられないほど、弱くはなかったはず。
 以前は、確かに…
 しかし上条当麻という人間に会い、それまでの生活にはなかった楽しさを知り、美琴一人では到底立ち向かえない問題とぶつかり、いつの日からか、美琴の心に大きな変化が訪れていた。

(いつから…)

 二人の距離はこれだけ離れてしまったのだろうか。
 10月の時点ではまだそんなことはなかったはずなのだ。
 会う回数はそれほどでもなかったが、何よりもまだ連絡がとれていた。
 物理的な距離はあっても、精神的な距離はさほど感じてはいなかった。
 しかし今では、完全に距離が離れてしまっている。
 物理的な距離はもちろん、精神的な距離においても。
 唯一の繋がり、拠り所はやはり彼のものと思しきゲコ太ストラップ。
 今なお壊れたゲコ太ストラップを大事に保管し、肌身離さず持ち歩いているのは理由がある。
 もちろんこれが上条の行方の手がかりになりうるからというのも理由の一つ。
 しかしそれよりも、どんな形でもいいから、彼と何らかの形で繋がっていたいから。
 その気持ちの方が断然強かった。

(ほんの少し前までは、まだ…)

 彼と出会い、彼を一日中追いかけ回していた日常が、つい先日まで行われていたように思える。
 妹達の問題を解決したのも、ある約束を交わしてくれたのも、大覇星祭の罰ゲームで二人で地下街を歩いていたのも、それら全てがまだ最近の記憶に感じられる。
 それこそ彼が、実は学園都市にいるのではないかと錯覚してしまうほど。

(期待しててもしょうがないなんて、わかってるつもりなんだけどな…)

 どれだけ期待しようが、今の現実が変わるわけではない。
 そんな当たり前で当然なことくらい美琴もわかっている。
 だがそれでも記憶は、例え現実の世界の上条当麻という存在が薄れていこうとも美琴の記憶は、彼女の胸に鮮明に残っている。
 それまでの生活にはなかったような、充足感で満ち足りていた上条と共に過ごした、あの日々のことを。

581【Presented to you】―promise―(11):2011/03/17(木) 19:43:09 ID:JWTnSeqk

(やっぱり、あの毎日を楽しいと感じていたのは、私だけ…だったのかな…)

 美琴は記憶を遡り、上条との日々を思い出す。
 思えば、彼は自分と一緒にいるとき大抵面倒そうな顔をしていた。
 声をかけてもスルーされたり、出会い頭に不幸だと呟かれたり。
 あまり良い印象をもたれていないのかもしれない。
 そう思うと、美琴は胸が痛んだ。
 それはチクりといった感じの軽い痛みなどではなく、胸がズキズキするほどの痛み。
 美琴は、不安で仕方がなかった。

(こんなの……私らしく、ない…!)

 ズキズキと痛む胸を片手で押さえ、美琴は自販機の前に立つ。
 どの道いつまでもズルズルとこのことを引きずっていては、生活に支障がでる。
 どこかで、けじめをつけなければならないのだ。
 そして、いつまでたっても晴れない心の闇をきれいさっぱり払拭するかのように、

「ちぇいさー!!」

 常盤台中学内伝おばーちゃん式ナナメ45度からの打撃による故障機械再生法、つまる話が回し蹴りを自販機にぶち込んだ。
 ゴトン、という音をたてて自販機が吐き出したものは、ヤシの実サイダーだった。

「はあ、はあ…」

 しかし美琴の心の闇は、晴れなかった。
 晴れるどころかむしろ、美琴の心により一層の虚無感が居ついた。
 こんなことをしても、状況は変わらないし、上条が現れるわけでもないのだから。

(……前みたいに、来てよ)

 それは懇願。
 以前美琴は、上条にこの自販機に対して回し蹴りをしてジュースを手に入れるなと注意を受けた。
 その上条からの言い付けを破り、美琴は自販機に回し蹴りをいれた。
 別に破ったからどうということはない。
 それはあくまでも一般人である上条からの注意であり、絶対に守らなければならないという決まりなどでは決してない。

(怒ってても、説教するためでも、何でもいいから…)

 いつからか、自販機の前に立っていた美琴は、自販機が吐き出したヤシの実サイダーもとらず、自販機に寄りかかる。
 その挙動はどこか頼りなく、また足取りもふらついていた。

(また……私の目の前に、来てよ…!)

 美琴には今、それしか言えなかった。
 どんな状況だろうとも、上条が美琴に対して何を思っていようとも、会いたい。
 それは決して揺るがない美琴の本音。
 しかし、今は会えない。
 今上条は隣にはいない。
 それは揺るがない事実。
 今のこの状況を変えるために、そして彼に会うためにあの日に戻ることはもちろん、あの写真の中の二人の間の微妙に開いた距離を埋めることなど、決してできない。
 過去には二度と戻れない、それもまた変えようのない事実。
 そうしたい思うことは甘い幻想でしか、ない。

(ばか……ばか…!)

 今の今まで、美琴の感情の荒波をせき止めていた堤防が、決壊する。
 今までほぼ限界点を迎えながらも、永らく美琴の感情を抑えこんでいたものが、とうとう壊れた。
 この瞬間に押し寄せてきた激情には、耐えることができなかったのだ。
 それに呼応し、一度は枯れたはずの涙が、再び溢れ出す。
 次から次へと、まるで限りなどないかのように、溢れ出す。
 美琴の心叫びは悲痛なまでに大きく、響き渡る。
 実際に声をだして泣いているわけではない、しかし美琴は確かに叫んでいた。
 美琴がどこかにいると信じる、上条当麻への魂の叫び。
 ……だがその叫びが、美琴が想う上条に届くことはなかった。

582【Presented to you】―promise―(12):2011/03/17(木) 19:43:40 ID:JWTnSeqk

 同日17時

(―――私、どれくらい泣いてたんだろ…)

 未だはっきりしてこない頭でぼんやりしながら、美琴はふとそんなことを思った。
 美琴はスカートのポケットにしまってある携帯を開き、現在の時刻を確認する。
 現在の時刻は17時を少しまわったところ。
 空が段々と黒に染められていき、応じて辺りも闇に包まれてくる時間。
 美琴には具体的に何時にこの場所に着き、何時くらいから泣いていたのかはわからないが、少なくとも着いて30分ほどの時間は経っている。
 故に、数十分は泣いていたことになる。
 そして美琴の心に押し寄せていた激情の波は、今は既に落ち着いていた。
 幸いなことに美琴が泣き崩れている間は誰もその場を通るなどようなことはなく、誰の目にもふれられことはなかったが、それが本当に幸いだったのかどうかは、判断が難しいところだろう。

(アイツって、普段は一番どこにいたんだっけ…)

 また美琴は、泣きつかれ、依然としてぼんやりとした頭でふとそんなことも考えた。
 今まで美琴は上条と会ったことのある場所には何度も足を運んだ。
 この自販機の前、鉄橋、地下街などなど、思いつく限り彼と会った場所には幾度となく行った。
 唯一、上条と会った場所で何度も通っていない場所と言えば、

(病院、行ってみようかな…)

 本当は、病院は美琴が一番始めに疑った場所だった。
 彼は何かあったとき、大抵なにかしらのケガをしている。
 以前、初めて自分の中に莫大な感情、つまり今も美琴を苦しめ続けている大きな想いが存在していたということに気付いた時も、そうだった。
 あのロシアの時でも、彼はまだやることがあるから、と言ってあの場に残ることを選択した。
 まず間違いなくケガをして帰ってくるということを考えても、何ら不思議ではない
 そう思い、美琴は謹慎が解けてからいの一番に彼がよく搬入される病院を訪れたが、やはり上条が入院したという形跡はなかった。
 流石に何度も入院患者のことを聞きに行くわけにもいかず、結局病院を訪れたのはその一回だけ。

(別に、あれから一週間ちょっと経ってるし……また、いってもいいのかな…?)

 誰かに言い訳をしているわけでもなし、ましてや考えることが他人に聞かれているなどということはないのに、頭の中でもついつい疑問系。
 だが美琴の足は、頭の中でした質問の回答を待たずして、いつも彼が入院している病院の方へと向きを変える。
 例え頭は働かなくとも、体はまだ動く。
 例え頭は諦めても、体は諦めない。
 だがそこに上条がいるという保証など、どこにもない。
 むしろ美琴が躍起になって情報を調べているにもかかわらず見つからない時点で、病院にいる確率なんて限りなくゼロに近い。
 それでも、何故だか美琴の足取りはどこか軽かった。
 恐らく本調子の彼女を知る者ならその足取りを見て軽いと言う者はいないだろう。
 確かにいつもの足取りに比べればそれはまだ重く、ふらふらとしている。
 しかしそれでも、最近に比べれば幾分もマシ。
 はっきりとした目的地があり、そこには上条がいるかもしれないという可能性が少しでもあれば、ほんの少しだけだが希望が湧く。
 その極少の希望の積み重ねが、今の美琴を支えている。
 だからこそ、気分まではいつも通りとは言わずとも、足取り軽く、前へと進んだ。
 それがよかったのかもしれない。

(……?あ、れ…?)

 しかし美琴は、進路の先にあるものを見て、進め始めたばかりの歩みを再度止める。

 ―――あの白い修道服着た銀髪シスターを隣において、此方に歩いて来るツンツン頭の高校生は、誰だっけ…?

583:2011/03/17(木) 19:45:18 ID:JWTnSeqk
以上です。
―promise―はこれで終了。
美琴には是が非でも幸せになってほしいものですよね…

では失礼します。
ご意見ご感想等お待ちしております。

584■■■■:2011/03/18(金) 00:36:49 ID:xRTOC7TE
夢旅人さん
珍しいシチュエーションで面白いです!
蒼さん
あれ……画面がうるうるしてみえないぞ……
うわわわわGJ!

585■■■■:2011/03/18(金) 00:59:53 ID:n0wJrWpY
>>574
タキオンか……。
メルヘンな人なら、生成・観測出来そうかな?

細かいけど、「―」「…」は二つ重ねて使う物らしいよ。

――いいなぁ。私も星海とあんな風になれたら……

みたいに。

>>583
上条さんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

586■■■■:2011/03/18(金) 03:12:56 ID:q3v6xQ1.
>>583
GJです!
続きが気になって仕方がない…
続き楽しみに待ってます!

587小ネタ>>15-296の人:2011/03/18(金) 06:44:18 ID:z0j8r476
ある春の日、佐天と白井は用事でいないいつものファミレス
     

美琴「好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、きら……」
   
初春「あの〜御坂さん?」
    

美琴「な〜に?……好き、嫌い、好き、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き………きら……はぁー」
   

初春「私の頭の花飾りで恋占いしないでくれませんか?」
     
美琴「えっ…あ、ごめんつい」
      

初春「そんなに気になるんなら、いっそのこと~告白~してみればいいじゃないですか」 
      

美琴「こっ、こくこくははははははははははははははくこくこくはくむむりむりりりむりむりむりりりむりむりりむるむりむりむむ無理よ絶対」  
      

初春「御坂さん、……呼吸してくださいね」
     
上条「お〜い、美琴!」
      
美琴「アンナ、はにやってんのひょ」
    
上条「お前、言えて……」
     

美琴「うるさいっ」ビリビリ
    
上条「ちょっお前な…やめろ」ナデナデ
    

美琴「ふにゃふにゃあ〜」 
     
その後、一人のこされた初春が白井に頼んで美琴の分を清算してもらった事は秘密である

588小ネタ>>15-296の人:2011/03/18(金) 06:46:15 ID:z0j8r476
下げ忘れました、すいません

589■■■■:2011/03/18(金) 14:51:17 ID:n0wJrWpY
>>588
乙。
次は忘れないでね。

590■■■■:2011/03/18(金) 15:08:23 ID:jHUelVvc
>>583
乙です
インデックスがいるってことはそっちともちゃんと決着つけるってことですよね?

>>588
乙です
初春が頭の花飾りを認識しているなんて…

591■■■■:2011/03/18(金) 17:19:44 ID:.IVkYrGc
>>583
ん? これってpromise編が終了ってことですよね?
ここまで落としてるんですから上条さんには美琴をちゃんと幸せにしてあげて欲しいな、と思います。
けど暴食シスターさんの影がちらついてるのが気になりますが。
続きをお待ちしてます

592ソーサ:2011/03/18(金) 18:28:07 ID:VUx.MpjY
皆さんGJです!

こないだコメントくれた方ありがとうございました!
では1レス消費で小ネタ投稿します!

593ソーサ:2011/03/18(金) 18:29:20 ID:VUx.MpjY
・いつもの公園にて

建宮「おー上条、久しぶりなのよな!」

上条「あれ?建宮?なんで学園都市に?」

建宮「まあそんなことはどうでもいいじゃねぇか。それよりその子はなんなのよな?彼女か?」

上条「ああそうだぞ。美琴、建宮のことは前に話しただろ?天草式の教皇代理をやってたやつだ。」

美琴「始めまして、御坂美琴です。(コイツ前に街中でフリーキックしてたやつよね。)」

建宮「ああ始めましてなのよな。俺は建宮斎字っていうのよ。」

建宮「(付き合っているという噂は本当だったか…。問題はどこまで関係が進んでいるかってことよな…)」

建宮「(まだ五和で対抗できるくらいの関係か?少し揺さぶってみるのよな。)」

上条「何ぶつぶつ言ってんだ?」

建宮「いやなんでもないのよ。ただお前の側にはいつも女の子がいるから誰が彼女かわからんのよな。」

上琴「「!?」」

美琴「いつも…?」

上条「お、おい!いきなり何言い出すんだ!」

建宮「ロシアではレッサーとずっと一緒にいたって報告を受けてるのよ。」

美琴「当麻…それ本当のことなの?」ゴゴゴゴ…

上条「え、いや、それは、あの…」

建宮「イギリスでは金髪美女のオリアナとドライブしてなかったか?」

美琴「金髪美女ですって…?」ゴゴゴゴ…

上条「あれはドライブじゃねぇだろ!レッサーを追いかけるために…」

建宮「(ふむ…意外ともろそうな関係なのよ。)あとインデックスとはイタリア旅行に行ってたのよな。」

上条「建宮!お前もうしゃべるな!!」アセアセ

美琴「旅行…とりあえず超電磁砲1発くらっとく?」バチバチ

上条「待て美琴、誤解だ誤解!!」アセアセ

美琴「誤解ねぇ…じゃあ当麻…どういうことか説明してもらおうかしら?」ゴゴゴゴ…

上条「(…これはもう本当のことを言うしかない…)建宮の言ってることは…本当だ。」

美琴「そう…覚悟はできてるわね…?」バチバチ

上条「でもそれにはわけがあったんだ!恋人として俺の側にいてほしいのは美琴だけだ!」

美琴「!?私…だけ?…く、口だけでならなんとでも言えるわよ!!///」ドキドキ

建宮「(くっ…まずい流れなのよ。もう1度さっきの雰囲気に戻さなくちゃならんのよな。)」

建宮「それだけじゃなく頭にサッカーボールが当たったって理由で五和の胸に顔を埋めたりもしてたの…」

美琴「そ・れ・は・アンタのせいでしょうがー!!!!!」バリバリー

建宮「よななななななななーーーーー!!?」バタッ

美琴「あの時アンタらに電撃は放ったのが私よ!」

建宮「き、気づかなったのよ…」ピクピク

美琴「それで当麻、さっきのことは…本当?」ドキドキ

上条「(少し恥ずかしいが…美琴のためだ!)…これが証拠だ。」チュ

美琴「!!?キス……で、でも証拠っていってもキスならいつもしてるじゃない!」

上条「いつもしてるのを含めて証拠ってことだよ。恋人として側にいてほしいからこそキスするんじゃないか。///」

美琴「あ…そうか…えへへ〜嬉しいな……ねえ当麻…もう1回キス…して?//////」

建宮「(ここまでとは…これは…もう…五和では…大精霊チラメイドを使っても…対抗できんの…よな…)」ガクッ


WINNER:上琴

594ソーサ:2011/03/18(金) 18:31:35 ID:VUx.MpjY
以上です!
久しぶりのVSシリーズでしたが今回は最後をまとめるのに苦労しました…

595つばさ:2011/03/18(金) 20:23:24 ID:.IVkYrGc
こんばんは、です。
遅くなりましたが 「愛妻弁当はまだ早い」>>533-540 の続きを5分後に投下したいと思います。

蒼さんのマネじゃないんですが、シリアス注意です。少なくともいちゃラブとは言えません(でもスルー推奨と言えない私はチキン)
他にも遅くなった言い訳があるのですが、それはまた後で……。

以下はいただいた感想への返事です。
本当にありがとうございます。
>>543
楽しみにしていただいて本当に嬉しいです、けど今日の展開で見捨てられないか心配ですが。
>>545
一応は美琴の上条さん攻略作戦の続きだったはずなんですが……あははは。
>>546
はうっ!プリントアウトは、プリントアウトはマジで恥ずかしいですよ!私は元々原作風というか、文豪作品の
書き方のパクリからSS書くのを始めたんで、今さら掲示板対応には変えにくい所があったりするんですよね、
臨機応変さが足りないと言えばそうなのですが。試行錯誤。
>>547
マロンの話は書いた自分でもお気に入りの一つ、気に入っていただけて本当に嬉しいです、はい。

596愛妻弁当はまだ早い(9):2011/03/18(金) 20:38:10 ID:.IVkYrGc
「御坂さん、こうすればあまり油を使わないで調理できますよ。やっぱりカミジョウさんの体のことを考えたら、油は減らした方がいいと思いますから」
「ふむふむ、なるほどなるほど」
「それから、同じ汁物を作るならお吸い物より豚汁なんかにした方が野菜もいっぱい入れられて体にいいですし、おかずにもなりやすいですよね」
「うーん、さすが佐天さん、まるで家庭料理のプロね。やっぱりお願いしてよかったわ」
「おやすい御用ですよ。それに御坂さんって、基本ができてるからあたしとしても教え甲斐があるんです」
「そう? ありがとう」
「さあ、この本に載ってなかったようなちょっとした裏技的なことは、大体こんな感じですね。あとは本通りにしていけば大丈夫ですよ、きっとカミジョウさんも大喜びです!」
「ほ、本当? 本当にそう思う?」
「はい、絶対喜びますよ、間違いないです」
「そっか、フフ。アイツ、喜んでくれるんだ……ん? どうしたの、佐天さん、ニヤニヤして?」
「御坂さんってさっきからあっさりスルーしてますけど、もしかして気づいてないんですか? カミジョウさんに料理を作ってあげる、なんてことは御坂さんは一言も言ってないんですよ。御坂さんがあたし達に言ったのは家庭料理を教えて欲しいってことだけ。カミジョウさんの名前はあたしが勝手にカマをかけてただけ、なんですよ」
「…………!」
「ようやく気づきました? もう、御坂さんってほんとかわいい!」
「あ、あアウう、あうあうウア……」

「向こうはなんだか楽しそう……。それに引き替え私はひとりぼっちで……ハァ」
 佐天達が美琴と上条のケンカを目撃してから一時間後の風紀委員第一七七支部。
 支部備え付けのキッチンで楽しそうに料理を作る美琴と佐天の会話を聞きながら、初春はため息をつきつつ一人、書庫のデータを検索し続けていた。美琴の依頼に応えるためである。



 先程、美琴が初春達にした頼み事は二つ。
 一つはより美味しい家庭料理の作り方を教えてもらうこと。
 本に載っているようなことは美琴一人でも普通に学べる。けれど美琴は上条の心を掴むため、それ以上のことを知りたかったのだ。
 そしてもう一つは美琴が拾った鍵の持ち主を割り出し、更にその家の場所を調べること。これは言うまでもなく上条当麻の家を探し当てるということと同義。
 これら二つの美琴の頼みを叶えるために、佐天、そして初春は奮闘しているのである。佐天は前者、初春は後者において。
 二人とも、先程美琴の様子を観察していたという負い目があるし、何より共通の友人である美琴の役に立ちたいと思ったからだ。
 ただ、文字通り女の子二人の姦しい空間となっている佐天の方に比べて、初春の作業はどうにも華やかさがないのが玉に瑕ではあるのだが。



 検索を続けながら初春は再度ため息をついた。
「まあ風紀委員の活動としては、鍵の落とし物からその落とし主をこうして捜すということになんの問題もないんですが、なぜか良心の呵責が……」

597愛妻弁当はまだ早い(10):2011/03/18(金) 20:39:14 ID:.IVkYrGc

 住人全てが管理されている学園都市。
 その管理の範囲はもちろん、人間だけでなく彼らが関わる建物にまで及ぶ。
 特に学生が住む寮などは完全管理されている。
 どの鍵がどの扉に使われていて、その扉がどの家に使われているか。そしてその家の契約者は誰なのか。
 これら全てを学園都市側は完璧に把握しているのだ。
 したがって一つの鍵があればその持ち主はわかるし、その持ち主が住んでいる所だってわかることになる。
 もちろん、通常そのような個人情報を簡単に知ることはできない。
 今回の美琴のケースのように拾った鍵の落とし主を捜す、などといった特別な事情の元で、風紀委員のような公的機関が所定の手続きを踏んで書庫にアクセスする必要がある。
 よって美琴の依頼は極めて正当な物であり、初春が良心の呵責を感じる必要は本来ない。
 しかし初春はそれでも後ろめたいものを感じている。

 それはやはり、
「普通こういう時って、私達のような風紀委員が鍵を落とし主に届けるのが正当で、拾い主に落とし主の個人情報を教えた上で、その拾い主に鍵を届けてもらうっていうのはちょっと、というか、大分違うと思うんですが……」
 倫理観の問題だろう。

 とはいえ初春とて人の子、友人の頼みを無碍に断ることはしたくないし、何よりその友人の恋路に大手を振って介入できるのだからこんなに面白いことはない。
「まあそれはそれとして、カミジョウさんの家がわかればまたまた恋愛イベント発生ですよね。しかも今回は夕飯を作りに行ってあげるなんて、もう通い妻じゃないですか。うふふ、結果が聞ける明日が楽しみですね」
 結局のところ初春本人も楽しんでいる節がかなりあるのだから、倫理観をどうこう言うのは既にもう意味がないのかもしれない。



 そうこうしているうちに佐天からの一通りの指導を受け終わった美琴は、復習としていくつか料理を作り始めていた。
 そんな美琴からすっと離れた佐天は初春に近づくと、テーブルに紅茶を置いて声をかけた。
「はい、紅茶。ねえ、こっちは大体終わったけど、初春の方はどう?」
「あ、はい。こっちも、もうそろそろわかりそうです」
「そう! で、どうなの初春? 期待通りになりそう?」
「それはまだわかりませんが、たぶん大丈夫じゃないかなと……あ、結果出ました」
「本当?」
 初春の体をやや押しのけるような体勢になって佐天はパソコン画面をのぞき込んだ。

「どれどれ……やったじゃん、初春。大当たり!」
 パソコン画面が示す鍵の持ち主は正に「上条当麻」その人であった。
 さらにその鍵の扉が使われている部屋の住所も既に検索結果として表示されている。
 やはり美琴の確信は正しかったのだ。

 佐天は大声でキッチンの美琴に声をかけた。
「御坂さーん! カミジョウさんの家、わかりましたよ! 初春がバッチリ調べてくれました!」
「本当!?」
 佐天の声が届いた途端、美琴がキッチンから大慌てでやって来た。
「はい、本当です! 初春がやってくれました!」
 得意そうに言う佐天の横から美琴はパソコンの画面を覗いた。画面の中の情報を読んだ美琴の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「ほんとだ。ありがとう、初春さん!」
 美琴は思わず初春に抱きついた。
「ど、どういたしまして」
 初春も照れくさそうな笑みを浮かべる。
「よかったですね、御坂さん」
「佐天さんもありがとう」
 美琴は佐天にも笑顔を向ける。
「いえいえ」
 佐天は軽く首を横に振ると、ぱちんと手を叩いた。
「さあ、というわけで御坂さん! カミジョウさんの家がわかった以上、ここでのんびりしてる暇なんてありませんよ。早く行って下さい!」
「あ、そうね、うん。わかった。本当にありがとうね、二人とも!」
 そう言うが早いか、美琴は身につけていたエプロンを外し手早く身支度を済ませると、一七七支部に来る前にスーパーで買っておいた食材が入った買い物袋を手に持ち、部屋のドアに手をかけた。

598愛妻弁当はまだ早い(11):2011/03/18(金) 20:40:11 ID:.IVkYrGc

「あ、御坂さん、待って下さい!」
「え、どうしたの初春さん?」
 部屋を出ようとした美琴の側に、急に席を立った初春が走り寄った。
「?」
 初春は不思議そうな表情をする美琴にそっと耳打ちした。
「…………!」
 その途端、ボンという音がするほど美琴の顔は真っ赤に染まった。
 そんな美琴の様子を見ながら初春はぐっと拳を握りしめる。
「ファイトです、御坂さん!」
「あ、ああ、ああり、が、と……って、そん、そんなじゃにゃないんだから、愛、とか、その、つ、妻、とか、だから、そんなじゃなくて、これはその、お詫びだから! あの状況だったらアイツ、たぶん、その、タイムセールにも間に合ってないだろうし、だから、お詫びなの!」
「ファイトです、御坂さん!」
「だから違うって言ってるのに……もう!」
 美琴は顔を真っ赤にしたまま、部屋から飛び出していった。



 美琴の気配が完全に部屋から消えたのを確認して、佐天が口を開いた。
「初春、御坂さんに何て言ったの?」
「別に大したことは言ってませんよ。風紀委員の支部は基本的に二十四時間開いてますから、カミジョウさんのためにお弁当を作るんだったらいつでもキッチンを使っていいですよって言っただけです」
「それだけ?」
「それだけですよ。……あ」
 初春はしまった、といった表情をして口に手を当てた。
 佐天はそんな初春にジト目を向ける。
「……アンタ、本当は何て言ったの?」
「お弁当ではなく、愛妻弁当って言ったかもしれませんね、そういえば」
「あ、愛妻って、アンタね……。そりゃ御坂さんも爆発するわ……」
「えへへへへ」
「…………」
 失敗、失敗と呟きながらちろりと舌を出す初春を見ながら、佐天は初春のスカートをめくる回数を一日五回までに減らそうかと、心の中で真剣に検討するのだった。

599愛妻弁当はまだ早い(12):2011/03/18(金) 20:41:27 ID:.IVkYrGc



 一七七支部を出てしばらくした後、上条のような不幸に遭うこともなく美琴は無事上条の住む寮にたどり着いていた。
 既に落ち始めている夕日をその身に浴びながら、美琴は上条の住む寮をぐるっと見渡す。
「アイツが、ここに……」
 美琴は静かに目を閉じると、大きく深呼吸をした。

「今回は私が悪い。アイツが鍵を落としたのも、タイムセールに間に合わなくなったのも、私が勘違いしたせい。だから意地なんて張らないで素直に謝る。謝って、お詫びをして、夕飯を作ってあげて、これからも時々作ってあげることを約束して、できたらお弁当なんかも約束、して……。お弁当……愛妻、弁当……」
 そう呟いた瞬間、美琴の顔はあっという間に真っ赤になった。
「ないないない! そんなわけないでしょ! これはお詫び、ただのお詫びなの! お詫びで作るのよ! 愛なんて、そんなの絶対ないんだから!!」
 熱くなった頬に手を当て頭をブンブンと振りながら、美琴は誰に聞かせるでもない言い訳を始めた。

「…………」
 ひとしきり言い訳を続けようやく落ち着きを取り戻した美琴は、仕上げとばかりに三度深呼吸をした。そして三回目の深呼吸を終えた美琴はかっと目を見開くと、まっすぐに上条の寮の入り口を見つめた。
「行くわよ、御坂美琴!」
 美琴は小さくうなずいて自らを奮い立たせ、上条の住む寮の中へ歩を進めた。



「えっと、ここで間違いない、わよね……」
 上条の部屋の前に立った美琴は、手元の携帯に表示した上条の部屋の住所と、目の前の部屋の番号を何度も何度も見比べていた。
「うん、間違いないわ。ここがアイツの住んでいる、部屋」
 美琴はごくりとつばを飲み込んだ。

 ここに、このドアの向こうに、上条がいる。
 今、自分の心の中で一番大きな部分を占める男性、上条当麻がいる。
 誰よりも会いたい、誰よりもその声を聞きたい男性。
 ずっといっしょにいたい、同じ空気をずっと味わっていたい男性が。
 そう思いながら美琴は目を閉じ、そっと自分の胸に手を当てた。
 とくん、とくん、と心臓は早鐘を打っている。
 自分が今、確実に緊張しているのがわかった。
 でも嫌じゃない。
 むしろその緊張は心地いいくらいだ。
 だって、これからアイツに、上条当麻に会えるのだから。
 目を閉じたままでも、鏡を見なくとも、美琴にはわかる。
 自分の顔には今、ほのかに笑みが浮かんでいることが。

 アイツは突然やって来た自分を見てなんと言うだろう、そう美琴は考えた。
 「なぜ」だろうか、それとも「何にしに来たんだ」とでも言うのだろうか。
 少なくとも歓迎されるとは思えない。
 自分はあまり彼には好かれていないだろうから。
 美琴はそのことが少し哀しかった。
 自業自得、身から出た錆。とはいえ、上条にそう思われる行動しか取ることができない自分が、素直になれない自分が、哀しかった。
 けれどそんな自分を変えていこうと誓ったのだ。
 電撃を使わないで、笑顔で、アイツに接しようと。
 「レベル5ではない普通の女の子、御坂美琴」としてアイツに接していこうと、そう誓ったのだ。
 今日の行動もその誓いから派生した行動だ。
 だからアイツにどう思われたって構わない。
 アイツが自分のことを好きではないのであれば、アイツの自分への好感度が最低なのであれば、これからは良くしていく一方だ。

 自分達の関係は終わったわけではない、これから始まっていくのだ。
 アイツがこれから何を言ってきても大丈夫、きっと、大丈夫。
 私は、御坂美琴だ。
 御坂旅掛と御坂美鈴の、両親の自慢の娘だ。
 大丈夫。
 素直に接していけば、きっとアイツは喜んでくれる。
 今はダメでも、いつかきっとアイツは私を、御坂美琴を、一人の女の子として、見てくれる!

600愛妻弁当はまだ早い(13):2011/03/18(金) 20:42:31 ID:.IVkYrGc



 すっと目を開いた美琴はポケットから上条の部屋の鍵を出すと、ゆっくりとうなずいてインターホンを押した。無機質なベルの音が部屋の中から聞こえてくる。
 根拠はないが部屋の中に人がいる、アイツがいる、美琴はそう思ったのだ。
 普通に考えれば美琴が部屋の鍵を持っている以上、上条が部屋に入ることはできない。
 だが管理人は合い鍵を持っているだろうし、何よりいい加減な性格の上条のことだ、部屋の鍵をかけ忘れていることだってあり得る。
 だから鍵がなくてもなんらかの方法で上条はこの部屋に入ることができるはずなのだ。
 とにかく上条は部屋にいる、美琴はそう確信していた。
 しかし部屋の中からは何の反応もない。
 美琴は小首を傾げながらもう一度インターホンを押した。
 しかしやはり反応はない。

「アイツ、まだ帰ってないのかな?」
 そう呟いた美琴は、左手に持った買い物袋を見た。
「もしかして」
 タイムセールに間に合わなかった上条は、どこか別のスーパーでなんとか安い食材を手に入れようとこんな時間までかけずり回っているのかもしれない。
 もしそうなら、自分は上条にそんなことをさせる原因を作ったということになってしまう。そう考えた美琴の表情は自然と曇る。
「…………」
 その表情のまま買い物袋を握り直した美琴は、小さくうなずいた。
「よし」
 ならば自分は今すぐ上条の部屋で夕飯を作ってあげるべきだ、そう考えたのだ。
 疲れて帰って来るであろう上条に少しでもお詫びの気持ちを示したい、少しでも上条に喜んでもらいたい、と。
 美琴はぎゅっと鍵を握ると上条の部屋の鍵をゆっくりと開けていった。
 誰もいない上条の部屋で、彼の帰りを、夕飯を作りながら待つために。



 がちゃり、と音を立てて美琴は上条の部屋のドアを開け、中に入った。
「おじゃましまーすって言っても誰もいないんだろうけどさ……え?」
「あ、とうま、お帰り! いったいどうしたの、インターホンなんか鳴らして? でもちゃんととうまの言いつけ通り、インターホンが鳴ったって部屋を開けたりしなかった、よ……へ?」
「…………」
 上条が帰ってきたと思って部屋の奥からぱたぱたと足音を立てて出てきたインデックスを見て、美琴は言葉を失っていた。
 その手にあった買い物袋は、既にばさっと音を立てて玄関に落ちている。
「…………」
 一方のインデックスも、上条が帰ってきたと思って玄関に出てみれば目の前にいるのが美琴だったので、同じように言葉を失っていた。
 しばらくの間、沈黙が二人の間に流れた。

 やがてその沈黙の空気を切り裂いたのは、やや心理的ダメージの少ないインデックスの方だった。
 しばらくぱちぱちと何度か瞬きをしたあと、インデックスはゆっくりと口を開き始める。
「……こんなところで、何してるの、短髪?」
「…………」
 しかし美琴は未だ何も答えない。口をぱくぱくとさせるのみで声が出ないのだ。
 その様子にいらだったかのように、インデックスが先程よりややきつい口調で口を開いた。
「だから、どうして短髪がここにいるの?」
 その声でようやく我に返った美琴は、はっと息を呑んだ。
 美琴は詰まりながら必死で言葉を続けていく。
「……あ、アンタこそ、こんなとこで何してんのよ? ここは、アイツの、上条当麻の家じゃ、ないの?」
「……そうだよ、ここはとうまの家だよ」
 インデックスはきつい口調を変えないまま、表情まできつくして美琴に返事を返した。
 インデックスのそのケンカ腰の態度に影響され、美琴の口調にも熱がこもり始めていく。
「そうだよって、当麻の家だよって、じゃあなんでアンタがここにいるのよ! アイツの家に、なんでアンタがいるのよ!」
「……なんでそんなことを短髪に答えなきゃいけないのかな? 私は答えないよ、とうまが答えていいって言わない限り、私は答えないんだよ」
 インデックスは美琴をじっとにらみつけた。
 美琴も負けじとインデックスをにらみ返した。
「なんですって!」
「…………」
「…………」
 美琴とインデックス、二人の無言のにらみ合いはまるで永遠の時を刻むかのように続いた。

601愛妻弁当はまだ早い(14):2011/03/18(金) 20:44:20 ID:.IVkYrGc



 そんなとき、空気をまったく読めない男、かつ騒ぎの元凶が場違いな空気を漂わせながら現れた。
「おーい、インデックスー、ただいまー。何やってんだよお前、戸締まりはちゃんとしておけって言ったろ?」
 ようやく帰宅したこの部屋の主、上条がのんびりした口調で部屋のドアを開けたのだ。
「まったく、結局タイムセールに間に合わなかったから、遠出しちまったよ。でもおかげで結構安い食材買えたんだぜ、ほら。鶏肉の予定が魚肉ソーセージになっちまったのが残念だけど、これでも結構悪くない、よ、な……な? あれ、な、なんで、御坂さんが、ここにいらっしゃ、るんで、すか……?」
 玄関でインデックスとにらみ合いを続ける美琴をようやく視界に捉えた上条は、頭の中に大量の疑問符を浮かべながら質問を口にするのだった。

「とうま」
 上条の登場にいち早く反応したのはインデックスだった。やはり上条の存在に慣れているのが大きいのだろう。
 インデックスは低い声で上条を威嚇した。
「は、はい!」
 インデックスの威嚇に対して、上条は直立不動の体勢を取る。
「説明、してくれると嬉しいかも。どうして短髪がここにいるのかな?」
「さ、さあ。それは、上条さんにも何がなんだか、さっぱり」
 上条は直立不動のまま早口で返事をする。
 インデックスはなおも上条を詰問する。
「とうまは知らないの?」
「は、はい、上条さんはまったくもってあずかり知りませんことなのでございますのことよ!」
「ふうん、そう。とうまは短髪をこの家に案内してないんだ。でも短髪は今ここにいる。そうなんだ、やっぱり何があっても、とうまはとうまなんだね」
 そう言うとインデックスはぎらりと歯を光らせた。
「ひぃっ!」
 インデックスの様子に上条は顔を引きつらせた。

「ねえ、アンタ」
 ここへ来てようやく再起動を始めた美琴が上条に向かって口を開いた。
「は、はいです! なんでしょうか、御坂美琴さん!」
 ドスのきいた美琴の声に反応して再び上条は直立不動の体勢を取る。
「説明、して、くれないかしら? どうして、このシスターがアンタの家に、いるのか……」
「え」
「ここ、アンタの家なんでしょ? なんでこのシスターが、女の子がいるのか、教えて欲しいのよ」
 上条はごくりとつばを飲み込むと、ダラダラと冷や汗を流しながら天井を見た。まるで美琴とインデックスの視線から逃れるかのように。
「ですから、それは、その……えと……」

「私ととうまは、ここでいっしょに暮らしてるんだよ」
 上条と美琴の間に流れている険呑な空気を破壊したのはインデックスの言葉だった。
 インデックスは一瞬視線を美琴の落とした買い物袋に向けた後、すぐにそれを鋭い物に変え美琴にぶつけていた。
「…………!」
 インデックスの言葉と鋭い視線に思わず息を呑む美琴。
「い、インデックス!」
 対して大声を出す上条。
 そして言葉を続けたのは美琴だった。決して大声ではないが、凛とした威圧感のある声で上条に問いかけていた。

「どういう、こと。それ、本当なの……?」
「それは、その……」
 じっと自分を見つめてくる美琴から上条はすっと目を逸らす。
「答えて」
「だから……」
「答え、られないの……?」
「…………」
「本当、なんだ。じゃあもしかしてアンタ達二人って、その、男と、女の、そういう、関係なの……?」
「そ、それは違う!」
 上条は思わず大声を出した。
「どう違うのよ。だって、どう考えたって……年頃の、男女が、そんな、いっしょに……」
「だから、俺とインデックスは……」
「俺と、インデックスは……?」
 美琴は上条と同じ言葉を繰り返すことで上条に続きを促した。

 しかし続きを答えたのは上条ではなかった。
「ここでいっしょに暮らしてるんだよ。それ以上、短髪に説明する必要、あるのかな? それに私ととうまの関係を、どうして全然関係のない短髪に説明する必要があるのかな? 私としては、その理由の方が聞きたいかも」
 美琴に対してきつい口調で返答したのはインデックスだった。彼女は相変わらず美琴をにらみつけている。
「え? ど、どうしてって……」
 今度は美琴が答えに窮する番だった。美琴はインデックスに上手く返答することができずにうつむいてしまう。
 けれどインデックスはさらに続けて美琴を詰問していく。
「それから短髪、短髪はさっきの私の質問にも答えてないよね。どうして短髪がここにいるの? それにどうしてとうまじゃないのにこの家の鍵を開けられたの? とうまは短髪をこの家には招待していないのに。短髪は、とうまといっしょに住んでるわけじゃないのに。とうまといっしょにここに住んでいるのは、私なのに」

602愛妻弁当はまだ早い(15):2011/03/18(金) 20:45:07 ID:.IVkYrGc

「インデックス、お前!!」
 インデックスの美琴に対する物言いのあまりの酷さに、ようやく上条はインデックスをたしなめだした。
 本来ならばもっと早く注意すべきだったのだが、インデックスの普段とはあまりにもかけ離れた雰囲気に呑まれてしまった上条は、そのタイミングを失してしまっていたのだ。
「いい加減にしろ、インデックス! 言い過ぎだ!」
 しかしインデックスは上条をチラと一瞥しただけで、美琴への追及の手を緩めようとはしなかった。
「どうしたのかな、短髪。答えて欲しいかも。ううん、答えて。私は、とうまといっしょに暮らしているからここにいる。じゃあ短髪は、とうまといっしょに暮らしているわけでもない短髪は、どうしてここにいるの? ここに、何をしに来たの?」

「…………」
「答えて、短髪」
「その、私は……」
「私は、何?」
「……だ、か……突然……訪……て……、ご、ごめ、ん、なさい……」
 しばし逡巡したあと、美琴はようやくそれだけを言うと、うつむいたまま手に持っていた鍵を上条に押しつけた。
「それから、これ……ひろ、拾った……ら、届け……!」
 絞り出すように言葉を続けた美琴は、だっと玄関から飛び出していった。
「御坂!!」
 あとに残された上条の声が、寮の廊下に虚しく響いた。



「…………」
 上条はじっと美琴から渡された鍵を見つめていた。
「くっ!」
 やがてそれをポケットに押し込んだ上条はギリッと奥歯を噛みしめると、美琴を追って玄関を出ようとした。
「…………!」
 しかしインデックスがぎゅっと上条の服の袖を握りしめたため動くことができなかった。

 上条は振り返ることなく口を開いた。
「インデックス、離せ」
 けれどインデックスは袖を離すことなく、抑揚のない声で答えた。
「短髪は帰ったんだよ」
「違う。追い返したんだ」
「追い返してなんかいないんだよ。私はただ短髪に質問しただけ。それに答えなくて帰ったのは短髪自身なんだよ。短髪自身が帰るってことを選んだんだよ」
「それはそうだけど、でも」
「短髪自身が帰ることを選んだのに、どうしてとうまはそれを邪魔するのかな?」
「でも、アイツ……」
「…………」
「……アイツ、泣いてたから」
 上条は玄関を出る寸前の美琴の表情を思い出していた。
 上条の脳裏に残る美琴の表情、玄関を飛び出る寸前の美琴の表情は、例えようもなく哀しい物だったのだ。
 インデックスはそんな上条に冷たく言い放った。
「私は覚えてるよ。短髪は、涙なんて流していなかった」
「そうだな」
 確かに上条の記憶でも美琴は涙を流していなかった。だがそれは表面だけのこと。
 走り去るときに一瞬だけ見えた美琴の大きく綺麗な瞳、その瞳の奥に見えた美琴の心は絶対に泣いていた。
 美琴の心が流す涙を、上条は感じていた。
 誰がなんと言おうと、それは間違いではなかった。

603愛妻弁当はまだ早い(16):2011/03/18(金) 20:45:52 ID:.IVkYrGc

「けど、やっぱり御坂は泣いてた。間違いない。だから離せ、インデックス……!」
 上条は強い口調で言った。
 しかしやはりインデックスが上条の袖を離すことはなかった。
「とうまは、短髪が泣いていたと思うんだね」
「ああ」
「わかったよ。でも、それじゃあどうして短髪が泣いていたら、とうまが短髪を追いかけなきゃいけないの?」
「そんなの決まってるだろう、俺は――」
「誰の涙も見たくないって、そう言いたいの?」
「そうだ。誰かが泣いてるんなら、俺はその人のところに行かなきゃいけない。俺に何ができるかなんてわからない。けど、ただじっとしてることなんて俺にはできない!」
「…………」
 インデックスは黙って上条の話を聞き続けていた。
「だから、離してくれ、インデックス。御坂は今、泣いてるんだ」

「…………」
 インデックスは無言で上条の袖を離した。
 上条はほっと安堵の息を吐いた。
「ありがとう。ごめんな、インデックス。晩飯は帰ってから、だ……」
 ここでようやくインデックスの方を向いた上条は声を詰まらせた。
 インデックスは上条を無言で、そして無表情で見つめていたからだ。それは今まで上条が見たことのないインデックスだった。

「インデックス、お前……」
「とうま」
 インデックスは口を開いた。まったく感情のこもらない声だ。
 上条はその声に背筋が凍る自分を感じていた。
「とうまは泣いている人がいたら誰だって助けるんだよね?」
 上条は黙ってうなずいた。
「でも、泣いている人が二人いたらどうするの?」
「そりゃ二人とも――」
「一人しか助けられないときは、どうするの?」
「そ、それは……。それでも、俺はどんなことをしてでも二人とも……」
「それでも、無理なときも、あるんだよ。どんなにとうまが頑張っても、絶対に無理なときも、あるんだよ。とうまの手が、たった一人の涙しか拭えないときも、あるんだよ。今はそうじゃなくても、そうなるときが、いつか必ず来るんだよ」
「…………」
「そんなとき、とうまはどうするの? とうまは、誰を選ぶの?」

 上条は無表情なインデックスの瞳をじっと見つめた。まるでその奥の感情を探るかのように。
「……それは、お前が今、泣いてるってことか?」
 しかしインデックスは首を横に振った。
「私は泣いてなんかいないよ。だって私はシスターだから、自分の感情をコントロールできるんだよ。それに仮に私は泣いていたって大丈夫。とうまは必ずここに戻ってくるって私は信じているから。短髪の涙を拭ったあと、とうまは必ずここに帰ってきてくれるから」
「インデックス……」
「だから私は手を離した。でもねとうま、今日は、なるべく早く帰ってきて欲しいかも」
 上条はもう一度じっとインデックスの瞳を見つめた。
 そこにあったのはただ一つの感情、上条が必ずこの家に帰ってくることを信じているという、純粋な信頼だった。
「ごめん、行ってくる……」
 上条は絞り出すようにそれだけを言うと、夜の闇の中へ駆けだしていった。

604愛妻弁当はまだ早い(17):2011/03/18(金) 20:46:29 ID:.IVkYrGc



「いってらっしゃい、とうま……」
 上条の姿が完全に視界から消えたあと、うつむいたインデックスはぽつりと呟く。
「結局、とうまは一度も私を責めなかったね。短髪にあんなに酷いことを言ったのに」

 インデックスはちゃんとわかっていたのだ、自分が美琴に対してどれほど酷いことを言ったのかを。
 美琴自身が未だ気づいていない、美琴の上条への想いも。
 もちろん、買い物袋とそこから見える中身から、美琴が今日何をしに来たのかだって。
 全部、わかっていた。
 けれどインデックスはそれら全てを理解した上で、その上で美琴の心を踏みにじる言葉を彼女にぶつけたのだ。
 美琴に、これ以上上条の側に近づいて欲しくなかったから。
 これ以上、上条の心に触れて欲しくなかったから。
 誰よりも馬鹿で、誰よりもお人好しで、誰よりも、優しい男性。
 自分にとって、世界中の誰よりも大切な男性。

 上条当麻。

 彼の心に、自分以外の誰も入り込んで欲しくなかったから。
 だからインデックスは美琴を、自分以外の女性で既に上条の心に居場所を作っている人間を、排除したかったのだ。
 例えどんなに卑怯な手を使ってでも。

 だからインデックスは決して後悔していなかった。
 自分が先程美琴に抱いた感情を否定するつもりは決してなかったから。
 自分と上条が住む、自分達だけのこの家に突然現れた美琴を拒絶したいという気持ちは、今だって全く変わっていないのだから。
 自分がやったことが、どれだけ人の心を傷つけることかわかっていたけど、それでも。
 敬虔なシスターである以前に、一人の少女として。
 インデックスは、自分の行為を後ろめたいとは思わなかった。

 ただ上条にだけは、自分を責めて欲しかった。
 どこまでもまっすぐな彼にだけは、自分の嫌らしい部分を責めて欲しかった。
 そうすれば、少しは贖罪になるかもしれない、そう思ったから。

 しかし上条は決してインデックスを責めようとはしなかった。
 そのことが、美琴を貶めた行為よりも何よりも、インデックスには痛かった。

「ほんとにとうまは、いつだってとうまなんだね」
 再びインデックスは呟く。
 そんな彼女の足下にはいつの間にか、いくつかの水滴が落ちていた。そしてその水滴は、誰にも気づかれることなく少しずつ乾いていくのだった。
「早く帰ってきてね、とうま」

605つばさ:2011/03/18(金) 20:55:25 ID:.IVkYrGc
今日の投下分は以上です。続きはまた後日。


んで……すんませんでした――!(土下座)
インデックスファンの人、本当にごめんなさいです!ただ、これでも私なりのフォロー描写は入れたつもり
なんです。投下が遅れたのはその修正のせいです。

けどやっぱりマズいでしょうか、インデックスをここまで根性悪い娘に描いちゃ……。
でもね、人間って、やっぱり譲れない物があると思うんです、だから人間じゃないかと。
ですからこういうインデックスの描写もありなんじゃないかな、別に彼女が聖女でシスターである必要は
ないんじゃないかな、と私は思っています(一応まだ原作でもその辺の描写はかろうじてされてないので言い訳もきくかな?)

というわけでインデックスの描写に違和感を覚えた方には全面的に土下座をします。
でもこれが今回私が描いた、そして描きたかった「人間の女の子」インデックスです。(彼女をまともにSS
に出したのは初めてなのでその辺も違和感あるやもしれませんが)

この辺のことも含めてご意見、御批評をいただければ嬉しいです。

では

606■■■■:2011/03/18(金) 22:41:31 ID:inzrdH/s
>>605

良かったですよ

インデックスはシスターである前に女の子
美琴だって超能力者である前に同じ女の子

嫌な部分、醜い部分は誰にでもあるはず。そして上条さんにも言える事ですが…
口にして相手に伝えないと分からない事はありますから

とにかくGJです

607■■■■:2011/03/18(金) 23:44:49 ID:pymz85iY
>>605
そこまで気を配って書けるなんて流石だと思いますよ
違和感もないですし
GJです

608■■■■:2011/03/18(金) 23:55:49 ID:lkfXaA9g
乙乙
逆にそこまでインデックスの内面描写に行を割いてる事がインデックスへの心遣いとも言えるのではないでしょうか
女の子としてのリアルなインデックスを描き切るのはそれだけ労力のかかる事だろうし思い入れが無きゃ出来ないとも思います
続き全力で期待!

609■■■■:2011/03/19(土) 00:04:30 ID:Yiu4C/vE
>>605
十分だと思いまする
出さない方がストーリー作りづらいところあるけど
出したら原作踏襲する部分でてきて今までにないシチュででてくるかと
あまりインデックスの描写に違和感なかったような…

要するにその方向性好きなので続けて欲しいですたい

6101-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2011/03/19(土) 00:10:23 ID:RB.9zE86
>>594
今回の投稿で、VSシリーズも「長編」になるので、シリーズタイトルを教えてください。
それと今回の投稿分のタイトルもお願いします。

>>605
美琴の落差がすごい……。
続き待ってます。

611■■■■:2011/03/19(土) 04:06:41 ID:JVrhSQCM
>>605
GJです
最初のシリアス発言や読んでる途中からある程度は予測出来たけどキツい…
続き待ってます!

612■■■■:2011/03/19(土) 08:59:46 ID:qleV4a02
>>605
個人的には、少女としての感情と、シスターとしての信念のギャップに悩むインデックスの姿もあればもっと深みが出たかなとも。
そして上条さんがそれをどうするのかもあると、広がりが出るかなと私は思います。

二人の少女の揺れる心と、それを受け止める少年の覚悟を描く作品が書きたくなりますね。

613■■■■:2011/03/19(土) 11:27:59 ID:2OeOfn9o
皆さん、本当にGJです。

蒼さんの『Side by Side』とつばささんの『こいぬのおくりもの』は、私にとってもここでの一番のお気に入りでして……。
そのお二人が書かれた作品には……見習わねばならないところが多々あります。
といっても私の実力の無さではどうにもなりませんが……。(;^_^A アセアセ…

蒼さんの作品の特徴として、美琴の一人称での感情のトレースが素晴らしい。私には到底真似出来ません。
微に入り、細に入りというのが正しいと思いますが、ホンのチョットした感情の動きを
見事なまでに捉えられているのが、何とも言えません。
今回の作品も正にそういうトコロが前面に出ていて、もう……ゾクゾクしっぱなしでした。^^

つばささんのインデックスの件ですが……。
実は私はインデックスを少女として見たことがまだありません。(もちろん原作でも……です)
美琴は一人の(大人と子どもの狭間に揺れる)少女として見られるのですが……インデックスはどうしても『子ども』にしか見えないのです。
今回のインデックスの行動も、私から見ると『嫉妬』ではなく『甘え』に見えてしまいます。
ただ、その視点から見ても、今回のインデックスの行動に違和感を感じはしませんでした。
というより、インデックスらしいな。と思いましたよ。^^

夢旅人さんもソーサさんも、>>588の人も皆さんの作品も本当に素晴らしいです。
しかし『ワープ』というと『コスモス・エンド』のパルスワープを思い出す私って……どうよ?w

614■■■■:2011/03/19(土) 12:50:00 ID:phDI1qaM
私もインデックスは子供だと思いますね。(原作、アニメ両方とも)

知識や絶対記憶能力と言う力もあるのに、今の現状(養ってくれる人に甘える)。

これがインデックスさんの人気が上がらない原因なのでしょうね〜

615Mattari:2011/03/19(土) 13:03:15 ID:2OeOfn9o
いつもお世話になっています。Mattariです。

先週予告しました通り、本編「見知らぬ記憶3」の続編を投下します。

この後すぐに投下、8レスほどになると思います。

616見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:05:08 ID:2OeOfn9o

「……ん……うん……あ……」

 美琴が目を覚ますと、隣には愛しい人の寝顔があった。
 思わず、昨夜の行為を思い出し、頬を染める。

「とうとう……しちゃったんだ……。本当に……結ばれたのね……私たち……」

「……ん?……おはよう……美琴……」

「……当麻……んっ……おはよう……愛してる……」

「オレもだよ……んっ……チュッ……昨夜は素敵だった……」

「……もう……ドコでそんなセリフを覚えてくるの?……嬉しいけどさ……」

「……ダメか?……」

「……一応、合格ね……あっ!?……やンッ……」

「合格……貰えたからな……」

「……バカッ!……そういう……意味じゃ……あんっ!……」

「……愛してるよ……美琴……」

「……もう……ね……ギュッてして……」

「……ハイハイ……カワイいぜ……美琴……」

「……バカ……んっ!……ああんっ!」

 上条さん、理性のタガが外れてしまっている模様……。
 ヤバい、ヤバい……。



「……ン……ん〜……あ……あ……アレ?……ミコト?」

 隣で寝ているはずのミコトの姿がない。
 トーマは慌てて飛び起きて、辺りを探す。

「ミコト?……ミコト?……」

『ガチャッ』

「あ……トーマ……おはよう……」

「……おはよう……ミコト……居ないからビックリしたよ……どこかに行ったのかと……」

「行く訳ないじゃない……ただ、ちょっと外が見たかっただけ……」

「……そ、そうか……」

「湖が見える……綺麗……」

「あ……そ、そうだな……」

「ねぇ……トーマ……そばに来て……」

「あ、ああ……」

「ありがとう……私のワガママを叶えてくれて……」

「そんな……オレこそ……強引すぎたんじゃないか?……その……初めてだったし……/////」

「うん……すごかった……/////」

「えっ!?……ご、ゴメン……」

「謝ることない……素敵だった……アナタで良かった……。トーマ……好きよ……んっ……」

「ンムッ……ミコト……オレも、オマエで良かった。……好きだよ……」

 愛を確かめ合い、キスを交わす二人。
 唇を離し、ミコトを見つめた時、トーマは思わず『ドキッ』とする。

(ミコト……だよな?……間違いない……よな?……でも、何か……何かが違う?……スゴい……綺麗だ……)

「どうかしたの?」

「あ……イヤ……別に……」

「変なトーマ……フフッ……」

(ミコトを泣かせない。ミコトを絶対に泣かせるようなことをしてはいけない。オレは死んじゃいけないんだ。その為には……オレは……強くならなきゃいけない!!!)

(ミコトを守る。オレの命を賭けて守る。そしてオレも生き残る。難しいけど……でも、絶対にあの約束を果たすんだ!!!)

 心の中で『約束を果たす』と再び誓うトーマは、思わず力が入り、傍に居るミコトをグッと引き寄せ右腕でギュッと抱き締める。
 その力に全てを委ねるように、トーマの肩に頭を乗せるミコト。
 二人の絆は、一夜を経て、より確かなものへと変わっていった。



「だぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

「って……テメッ……コノッ……グッ……グハッ……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……ッたく、少しは手加減しろッてンだ……ットォ……」

「だだだだだだだだだだだだだ……ダァッ!!!!!!!」

「(グッ……『ベクトル変換』を使っているって言うのに……正面から受け止めきれねェ……あり得ねェ……トーマのヤロウ……すげェ……)」

「……『双頭・九頭竜閃』……」

 ……ズドンッ!!!

「……ウッ……」

「……ハァッ……よしッ……」

「……そ、それまでッ……ウ〜ム……」

「ありがとうございましたっ!……サンキューな、アクセラ。……ハァ……疲れたぁ〜……。先にシャワー浴びてくらぁ……じゃな……」

「……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

「……凄まじいな……」

「凄まじい……なンてモンじャねェぞ……アリャ……」

「……ああ、そう……だろうな……」

「オレの『ベクトル変換』が通常攻撃でも通じねェ……。別に《龍氣》が混じッてる訳じャねェ……。『変換』が間に合わねェくらい早ェンだ……」

「最後の『九頭竜閃』……オレの目にも見えなかった……」

「……師父のアンタが見えねェンじャ……オレが見えねェのも当然……か……」

「寸止めだから良かったが……」

「……クソッたれが……」

617見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:05:57 ID:2OeOfn9o

「……(アクセラは強くなってる。元々『最強の戦士』として名を馳せ、『ベクトル変換』を使いこなせる『力』を持っていた。その上に【勇者】としての力と技を足し、トーマと共に将来を担える一人としていこうと考えた。本格的な修行に入ってもう2年近い。今では《龍氣》もかなりのレベルまで使いこなせている。普通に考えれば、トーマよりも実力は上になる……はずだったのだが……)……うーん……」

「何、唸ってンだ?……師父」

「オマエでも、トーマの組み手の相手にならんとなると……」

「ばっ、バカ言うンじャねェッ!!!……ちょっと、ちょっと押されただけだ……。次は……次は……勝つッ!!!!!」

「本気でそう言っているのか?」

「ぐっ……」

「今の『ベクトル変換』に頼った闘い方じゃあ、トーマには勝てん。もっと《龍氣》を錬らねば……な」

「……わ、分かっている……」

「……そうか……ならイイ……」

「しっかしよォ……トーマのヤツ……ドコまで強くなるつもりなンだ?この1年の成長ッぷりは尋常じゃねェぞ……。オレだって強くなってるつもりだが……ヤツはその上を行ってやがる」

「確かに、今のオマエはこの国に来た時とは比べものにならんほど強くなっている。だが……トーマはそれ以上に成長している」

「師父……アンタより強いのか?」

「……さあな……だが、更なる高みを目指す……か……ワシも負けられんな……」

「オイオイ……マジかよ……(だが……だったら……オレもだ……な)」

 だが、そんなことを言っている二人の顔はどこか嬉しそうだった。



 時代は動き始めていた。
 賢帝・名君の誉れ高き『ワ』の国王が提唱し、推し進め始めたこの大陸を一つの『国家』としてまとめるという一大事業は、今一つの転機を迎えようとしていた。
 『ワ』の国は西の隣国『ナ』の国と同盟を結び、両国の周辺の小国とともに、その事業を推し進めてきた。
 大国として名を馳せており、以前からこの大陸の覇権を争ってきた『ア』の国と『ラウ』の国も、『ワ』の国王の説得に応じ、一時は同盟を結ぶまでに至っていた。
 後はもう一つの大国『ロ』の国を残すのみ……となったその時、『ワ』の国王が若くして急逝する。
 『ワ』の国王は、子を為しては居たが全て女の子であり、しかも皆幼かった。
 その為、国内では跡目争いが起き、国そのものを二分しかねない内乱にまで発展するところだった。

 その事態を収拾したのが、『ワ』の国で【智の人】と呼ばれる現教皇『アレイスター』と、【武の人】と呼ばれる【勇者】の長『シン老師』であった。
 【智の人】であるアレイスターは元々先に記した国王の右腕であり、先代の国王の時代より文官として『ワ』の国に仕えていた。
 亡くなった国王が即位する際、アレイスターに請われ呼び出されたのが【武の人】シン老師である。
 以前シン老師がタビカケに説明した通り、【勇者】は『漂白の民』『道々の輩』と呼ばれる人々であり、国家権力とは一切の関わりを持たず、自由に生きる『無縁』をその基としてきた。彼らがその根とするのは、この世界を作った『創造主』であり、その意志である。
 始めは渋っていたシン老師であったが、新国王の志の高さと、『この地に住む全ての人々に平和をもたらしたい』という願いに『創造主』の意志を感じた彼は、アレイスターとの友誼もあって『ワ』の国の一員として、この事業に参加することを約束した。
 その後、二人は国王の両輪となり事業を推し進めた。国王の急逝と共に起こった国内の内乱を未然に収拾出来たのも二人の働きがあってのことだ。特にこの機に乗じて『ワ』の国を攻め滅ぼそうとした『ロ』の国の大軍を、自らが率いる【勇者】達と共に瞬く間に薙ぎ払い、周辺各国に『『ワ』の国に【勇者・シン】その人有り』と知らしめることになったのである。

 その後、『ロ』の国は『ワ』の国と『ナ』の国の連合軍(【勇者】達は参加していない)によって攻め滅ぼされ、大陸の統一は成ったかに思われた。
 だが、この大陸の覇権を狙う【ア】の国、【ラウ】の国の両国が、最終的には同盟より離脱し、大陸は再び争いの日々に戻ってしまう。
 今は三つの勢力の力が均衡し、三竦みの状態になっている。

 教皇アレイスターはこの状況を打破すべく、最後の切り札を切る覚悟を決めた。



「コイツは一体何なんだ!?」

 中央府からタビカケ城に送りつけられた一通の手紙。
 それを見て一番憤っているのは、師父であるミノルだった。

618見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:06:39 ID:2OeOfn9o

「中央府は一体……何を考えている?」

 城主であるタビカケも不安と憤りを隠せずにいた。

「我ら【勇者】に対する呼出状……いや、召集令状といったところ……じゃな」

「しかし老師様、我ら【勇者】には先の国王より戴いた『拒否権』があります。その闘いが『創造主』の意に沿うものかどうかを見極める『拒否権』が!!」

「……ああ、そうじゃな……」

「だが、この『呼出状』はそれを完全に無視して居るではありませんか!?」

「……うむ……」

「どうなされますか?老師様?」

「もはや、一線を引いたワシが決めることではない。コレを決めるのは、『師父』であるお主じゃよ……ミノル」

「それは出来ません。『師』である老師様を差し置いて、そのようなことは……」

「それに関しては私も同感です。この中央府からの書状の内容は皆様の立場を完全に無視している。特に先の国王と老師様が結ばれた約束すら反故にするつもりですぞ!老師様が前に出なければ収まりますまい」

「……むう……」

「とりあえず、皆を集めましょう。そして皆にこのことを伝え、皆で話し合って、そこで出た意見を老師様がおまとめになる。そうしなければ、皆の気持ちがバラバラになってしまいます」

「……分かった……では、そのように致そう……」

「では、直ちに……」

「老師様。その席に私も同席させていただくことは出来ませんか?」

「タビカケ殿……それは……いや、是非お願い致そう。この地の領主であるタビカケ殿に同席して戴く事で、中央府にも話が通しやすくなるでしょうからな」

「ありがとうございます。では日取りは……」

「うむ……明日の正午に……里で……と致しましょう」

「心得ました」

「では、お待ちしておりまする」

「はい、必ず」

 中央府から送られてきた書状には、『ア』の国と『ラウ』の国に侵攻するので、その先鋒として【勇者】軍を編制せよ。という内容が書かれていた。
 【勇者】達にとって、中央府からのこの様な命令は決して珍しいものではない。
 だが、彼らはこの中央府からの命令に対する『特例』を有していた。
 先王の時代にその呼びかけに応じたシン老師は、協力するに際して一つの条件を提示した。
 それは、いかなる命令であろうと、【勇者】達はそれに対する『拒否権』を持たせて欲しい。というものであった。
 『創造主』の意志を第一とする【勇者】にとっては、その闘いが『創造主』の意に適うモノなのかを見極める必要があるとシン老師が主張したからである。
 先王はそれを快く受け入れ、【勇者】達は特例として『拒否権』を持つことが認められることとなった。
 シン老師もその約束があればこそ、自由人である『道々の輩』として『ワ』の国に協力することが出来るようになった訳である。
 また、そうしなければ絶対的な力を誇る【勇者】達を武力・戦力として使うことに対する歯止めがかけられない。
 だからこそ、この先王との約束は【勇者】達にとっては、絶対不可侵の『条約』で有り『契約』であった。
 だが今回、中央府から届いた書状には、『この命令に対して如何なる『拒否』も認めない』という一文が最後に記されていたのだ。
 コレは正に先王との約束を反故にする『条約違反』『契約違反』そのものだった。

「以上が、中央府からこちらに届けられた書状の内容だ」

「「「「「「「「「ザワザワザワザワ」」」」」」」」」」

「本来なら、一蹴すべき内容だ。だが、今回中央府は『拒否権』を認めないと言って来た。そこが問題となる」

「「「「「「「「「ザワザワザワザワ」」」」」」」」」」

「だから、皆の意見を聞かせて欲しい。ここに集まっているのは第一戦で実際に闘ってきた者たちばかりだ。忌憚なき意見を聞かせてくれ」

「お聞きしたいことがあります」

「何だ?カオリ」

「今回中央府は、なぜ『拒否権』を認めないと言って来たのですか?」

「そンなのァ、簡単なことじゃねェか」

「オイ、アクセラ……」

「イイじゃねェかよ、トーマ」

「何が言いたい?……アクセラ」

「聞くまでもねェ事を聞くんじゃねェッつッてンだよ、カオリ」

「どういう意味だ?」

「中央府としちゃあ、サッサとこの大陸を支配してェンだろう。だから俺たちを使いたいンだろうな。その方が手っ取り早くコトが進む」

「だから『拒否権』を剥奪し、我らの意志に関係なく……戦力として戦場に送り込む……と言うことか?」

「分かってンなら、聞くまでもねェだろうがよ」

「でもそれでは、『創造主』のご意志に反することになります!」

619見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:07:53 ID:2OeOfn9o

「おーおー、よい子のイツワか……」

「他国に侵攻するなど、『創造主』が望まれることではありません!」

「私もそう思います!」

「わたくしも!!」

「オレもだ!!」

「ワシもだ!!!」

「オレも!!」

「師父である私も、そして老師様も同じ意見だ。だが……中央府は今回、老師様が先王となさった約束を反故にして『拒否権』を剥奪してきた。コレは間違いなく『契約違反』だ。コレが『契約違反』である以上、我らとしては中央府の命令に従う必要はない。と判断する」

「……ちょっと、待ってくれねぇか?」

「ん?……何だ、トーマ」

「オレはちょっと違うんだけどな……」

「えっ!?」

「ほほう……言うてみよ、トーマ」

「結論から言っちまえば、オレは中央府がどうしようがどうだってイイんだ。『契約違反』だろうが何だろうがどうだっていい。それより……いい加減、この下らない闘いを終わらせたいんだ」

「……む……」

「『ア』の国も、『ラウ』の国も一度は同盟に加盟して、この大陸を一つの国家にするって言う先王の理想に同調した。なのに今はそうじゃない。それは何でなんだろうな?」

「オレが居た『ア』の国じゃあ、同盟に賛成する者は少なくねェ。だが、その意見を抑えてるのが今の『大老』らしい。ソイツが実権を握ってる限り『ア』の国は折れねェな」

「……アクセラ」

「オレが掴んだ情報だと『ラウ』の国も同じようなモンらしい。先代の王が『上皇』って言う地位に収まってるんだが、ソイツが実権を握ってるって噂だ。今の国王は傀儡に過ぎないんだそうだ。ただ……今の国王一派は同盟に参加したいらしいぜ」

「ハンゾウ?」

「大国って言ってもな、この争いが長引いてるから『ラウ』の国も相当に疲弊しているらしい。今の国王一派は何とか争いを止めて、国を立て直したいらしいが、『上皇』一派が頑なになってるって訳さ」

「ってコトは……『ア』の国も『ラウ』の国も同盟に加盟する可能性が全くないって訳じゃないんだよな?」

「「ああ」」

「老師様が先王の理想に協力するって決めたのは、この大陸を一つの国家としてまとめ、ここから争いを無くすことが、『創造主』の意志に倣ってるって思ったからだろ?」

「……」

「だったら、中央府が言って来た『拒否権』の剥奪なんて、小せえ問題なんじゃねェの?」

「オイ……トーマ?」

「そんなのどうでもイイじゃんか?オレたちが本当にやりたいのは、この大陸から争いを無くすことじゃねェの?」

「……」

「中央府の意向なんて無視すりゃイイよ。オレたちはオレたちで動けばいい。『拒否権』がどうこう言う前に、やるべきコトがあるんじゃねェの?」

「……トーマ……」

「……」

「……ろ、老師様?」

 皆がトーマに注目していた時、トーマの意見をシン老師がどのように思っているのかを聞こうとしてそちらに向いたミノルは驚いた。
 シン老師は声もなく、ただただ涙を流していたのだ。

「……トーマよ……」

「はいッ!」

「そなたの言う通りじゃ……。ワシは大切なことを忘れておったようだ……。ワシがなぜ先王の志に共感したのか?先王の中に何を見たのかを」

「老師様……」

「オマエが言うように、『拒否権』の問題なぞ小さなコトじゃ。そのようなもの、反故にされようとも構わんわ」

「老師様?」

「ミノルよ、我らは我らで動こうぞ!!!」

「……と、仰いますと?」

「中央府はおそらく、我らを先陣に押し立てて両国に侵攻し、その国の政府そのものを壊滅させる目論見じゃろう。そうすることでこの大陸の覇権を一手に握るつもりじゃ」

「それは……おそらく……間違いないかと……」

「ウム。……じゃが我らはこの国から争いが無くなればそれでよい。同盟に加盟し、共にこの大陸の平和を望む者であれば、協力して行けよう」

「はいッ!」

「同盟が結ばれた後も、中央府の抑止力となる勢力を残しておかねばならん。そうしなければ、中央府は増長し独走しかねんからな」

「確かに……」

「ならば……我らは我らの目的のために動こうではないか?」

「おお……」

「中央府に返書を送れ。此度の闘いに参加すると!!!」

「はっ!!!」

「但し、『拒否権』を剥奪する以上、我らは我らで動くとな!!!」

「心得ました!!!」

「皆も異存はないな!!!!!」

「「「「「「「「「「はいッ!!老師様っ!!!!!」」」」」」」」」」

620見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:08:51 ID:2OeOfn9o

 その会議の席に参加していたタビカケは、会議が一旦休憩に入った時にトーマに声をかけた。

「トーマ殿、少し良いかな?」

「タビカケ様……。オレもタビカケ様に……お話しが……」

「ミコトのことか?」

「あ……、は、はい……」

「構わんよ。連れて行きたまえ」

「えっ!?……エエッ!?」

「君ほどの男の嫁になれるのだ。何の文句があろうか?」

「い、イヤッ……あの、……そのッ……」

「何だ?いらんのか?」

「あっ……イヤッ……そういうコトじゃなく……」

「『一発殴らせろ』とでも言われると思っていたのかい?」

「そこまでは……思ってませんでしたが……」

「だったら、イイじゃないか?連れて行きたまえ。……但し……」

「うっ……」

「必ず、生きて帰って来い!!……そして、ミコトを幸せにしてやってくれ。私に言えるのはそれだけだ」

「た、タビカケ様……」

「ミコトは君に命を救われている。君が居なければ今のミコトはない。もう、あの時からミコトは君のものだ」

「あ……いや、そんな……」

「老師様も、ミノル師父も、そして私自身も、中央府からの『拒否権』剥奪に眼を奪われ、大切なことを見失っていた」

「……」

「だが、君は違った。皆が眼を奪われていたことを「小さなコト」と言い捨てて、本来の目的を真っ直ぐに見据えていた」

「そんな……オレはただ……」

「それほどの男を認めぬ訳には行かないだろう?それに、そんなコトをしたらミコトは私を捨ててサッサと君の元に行ってしまいかねんよ。ハッハッハ」

「そ、そんな……」

「それに『無縁』となり親子の縁が切れるとしても、ミコトがこの世から消えてしまう訳ではない。里がこの地にある限り、会うことも出来るだろう」

「タビカケ様……」

「この世界から争いを無くせば、君たちももう闘わずに済むだろう。そうすればずっとミコトと一緒に居られる。ミコトもそれを望んでいるはずだ」

「はい……」

「ならば……我らが成すべき事は一つだ。私も出来る限りの協力をさせて貰おう」

「いや、しかし……」

「トーマ殿……ミコトを頼む。君になら、安心して任せられる」

「で、では……」

「ああ。喜んで君にミコトを差し上げよう」

「ほ、本当に……本当に……イイんですか?」

「何だ?物分かりの良い父親というのは、調子が狂うかね?」

「あ……その……『オマエになぞ、娘はやれん!!』と言われるだろうと……ミコトから……脅されまして……」

「アイツめ……」

「あ……言っちゃダメですよっ!!そんなコト言われたら……後でどんなに怒られるか……」

「オイオイ……何だ?……もう尻に敷かれてるのか?」

『ギクッ!!!』

「君はそっちをもう少し勉強した方がイイかもな?……ハッハッハッハッハ」

「……そ、そんなァ……」

「歴戦の勇者も形無しだな。ハッハッハッハッハ」

「……うう……不幸じゃないけど……不幸じゃないけど……何か……不幸……っぽいなぁ……」

「それじゃあな」

「えっ!?……あっ、あのッ……?」

「ん?何かね?」

「オレに何かお話しが……」

「ああ、もう済んだよ。……じゃあ、次に会う時は『婿殿』と呼ばせて貰うよ。トーマ殿」

「タビカケ様……」

「オイオイ、今はそれでも良いが……次に会う時は『父上』と呼んで欲しいものだな」

「えっ!?」

「だってそうだろう?」

「あ……それは……その……えっと……はい……」

「じゃあ、吉報を待っている。……この国の未来を頼むぞ!!!」

「はいッ!!!!!」

621見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:10:52 ID:2OeOfn9o

 動くと決めた【勇者】達の動きは早かった。
 翌日の正午には『ア』の国と『ラウ』の国に対して、敢えて『ワ』の国の名は使わず『創造主の意志に従い、人々が幸せに暮らせる争いのない世界を築くため、この大陸を統一する』とミノル師父が宣言し、【勇者】軍として両国に宣戦を布告。と同時に『ア』の国の『大老』一派の拠点をトーマとアクセラが強襲した。
 『ア』の国の『最強の戦士』と怖れられたアクセラと、そのアクセラを倒したトーマの二人にいきなり強襲された『大老』一派は抵抗らしい抵抗も出来ず、そのほとんどが壊滅した。
 その後、間を置かず同盟推進派の新政権を発足させ、『ア』の国の全権を掌握させた。

 この事態を見守っていた『ナ』の国は、機を見るに敏であった。
 【勇者】軍が『ア』の国に侵攻したと見ると、直ぐさま軍勢を『ラウ』の国に向けて派兵した。
 そして、全軍の指揮をミノル師父に委譲し、一国の軍隊が【勇者】の指揮下に入るという、前代未聞のことをやってのけた。
 この行為によって、『ナ』の国は『【勇者】と共に創造主の意志に従う』という『錦の御旗』を手に入れた事になる。
 実は、この『ナ』の国の機敏な動きの裏には、タビカケとエリザード女王のホットラインが存在したからなのだが、【勇者】達はそれをも計算に入れて動いていた。

 一方、『ラウ』の国の『上皇』一派は突然の【勇者】達の侵攻に対し、全軍をあげて抵抗する姿勢を見せていた。
 『ラウ』の国は宣戦布告があったのと同時に『ワ』の国の国境線に戦力を集中させ、【勇者】に対する備えを固めた。
 だが事態は思わぬ方向に向かう。
 『上皇』一派が派兵した直後、首都で現国王が『上皇』派に対するクーデターを決行。
 それを支援する形で『ナ』の国軍が『ラウ』に侵攻した。
 現国王は信仰心に厚い人柄で、ハンゾウの報告にもあったように、一刻も早く争いを止め疲弊した国の立て直しをしたいと常に願っていたのだ。
 彼もまた『機を見るに敏なり』であり、何よりも民の平和を望む名君の要素を持った人だった。
 『上皇』軍は前方に【勇者】軍、後方に『国王』軍と『ナ』の国軍に挟まれ、その上『ア』の国を制圧したトーマとアクセラに側面を突かれる格好になった。
 結果、『上皇』軍は四分五裂し、【勇者】軍は大した戦闘もなくそれを制圧。『上皇』は『ナ』の国で幽閉されることとなり、こうして大陸の統一は本当にあっという間になされたのだった。

 大陸の統一がなった。平和の時代が来る。
 多くの民が待ち望んだ時代が来たのだ。
 大陸中が希望に満ちあふれ、新しい時代の幕開けを人々は喜んだ。

 この新たな時代を切り拓いた【勇者】達は、統一国家を築いた英雄として人々に迎えられることになる。
 『ワ』の国は沸き立っていた。長年の夢でもあった先王の願いがついに果たされたのである。
 凱旋パレードでは【勇者】達が一人ひとり紹介され、全国民からの圧倒的な支持を得るに至ったのである。中でもトーマとアクセラの人気は凄まじかった。
 特に『天然フラグメイカー』であるトーマは、パレードの最中もあちこちでフラグを立てまくっていたようだし、女性ファンに揉みくちゃにされるといった事態に陥ってしまうこともあったようだ。
 アクセラはその無愛想な表情が幸いしたのか、それほどのコトはなかったようだが……。

 そんな凱旋パレードも終わり、【勇者】達は里に戻って仲間達と共に、改めて統一の喜びを噛み締めることが出来るのだった。

 そしてトーマは……タビカケ城を訪れていた。
 理由はもちろん、ミコト姫を妻として迎えるためである。
 だが……

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「だからさぁ、いい加減機嫌直してくれよ……ミコト」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「だから……アレは事故なんだって……オレはそんなつもりは……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「オレはオマエ以外の女には興味がないんだからさ……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

 ミコトが不機嫌な理由……それは、パレードの最中にトーマが女性ファン達に揉みくちゃにされていたのを、中継で見たことが原因なのだ。
 しかも悪いことに、女性ファンの一人に抱き締められ、その大きな胸に顔を埋めながらニヤけているトーマの顔がアップになっていたのをミコトはシッカリ見てしまった。
 どれ程トーマが言い訳をしようが、ミコトとしては聞き入れる訳にはいかない。
 例え自分を妻として迎えに来てくれたとしても、その直前に浮気まがいの行為をしていた男をそう簡単に許せる訳はない。

622見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:11:56 ID:2OeOfn9o

「ハァ……不幸だ……」

「……何が不幸よ……あんなに嬉しそうにニヤけてたクセに……」

「いや、だから……アレはホントに事故で……」

「事故、事故って、トーマがパレードでイイ気になってるから……あんなコトになるんじゃない……」

「あ……アレは、ファンサービスじゃないか。そういうのも必要なんだよ……」

「何がファンサービスよ……。このニヤけた顔は何なのよッ!!!!!」

「ゲッ!?……オマエッ……こんなモン録画してたのか!?」

「当たり前じゃない。将来の旦那様の晴れ姿なんだもん。妻としては当然の務めなのよ。……それなのに……それなのに……トーマったらさ……」

(だ……旦那様って……オレのこと?/////……んでもって……妻としてって……//////////)

「何、一人でデレてんのよ!?……私の機嫌はまだ直ってないんだからねっ!!!!!」

「分かった、分かった。オレが悪かった。なっ、なっ。……ミコトのお願いなら何でも聞くから……頼むから許してくれよ……これこの通り……」

 ミコトの前で手を合わせて頭を下げまくるトーマ。
 歴戦の【勇者】形無しである。

「ホントに何でも言うこと聞いてくれる?」

「ああ、ミコトの言うことなら何でも聞いてやるから……」

「ホントに?」

「ホントだって」

「ホントのホントに?」

「ああ、ホントにホントだ」

「ホントのホントのホントに?」

「ホントのホントのホントだってば……」

「ホントのホントのホントのホントに?」

「……オイ、しつこいと……」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「ああっ!?ごっ、ゴメン、ゴメン……ホント、ホントのホントのホントのホントのホントだからっ……なっ、だから……機嫌直してくれよ……ミコト」

「もう、ミコトちゃん、それくらいにしておいてあげなさいな」

「あっ……ママ……でもさ……トーマったらさ……」

「あらあら、申し訳ありません、ミコト姫様……まったくトーマさんと来たら、一体誰に似たのかしら……」

「えっ!?……あっ……母さん!?」

「えっ!?……トーマのお母様っ!?」

「お初にお目にかかります。トーマの母、シーナと申します」

「はっ……初めまして……ミコトです……トーマとは……その……」

「トーマから聞いていますよ。といってもこの前いきなり「オレ、結婚するから」って言って来ただけですけど……」

「えっ!?……(ポンッ!……//////////)」

「こんな美しいお姫様の心を射止めちゃうんだから……我が子ながら……」

「ホント……ミコトちゃんをここまで惚れさせちゃうなんてねェ……(ニヤニヤ)」

「それより……どうして?……何で母さんがここに居るんだ?」

「あらあら……トーマさんとミコト姫の結婚式のためじゃないの。当事者のアナタが何を言ってるの?」

「ヘッ!?……結婚式……?」

「今日はウチのダンナに「ミコトを下さい」って言いに来たんでしょ?」

「えっ……あっ……あのッ……それは……そうなんですけど……」

「えっ!?……ホントなのっ!?……トーマ?」

「あ……うん……今度の闘いが終わったら、ミコトを迎えに行くって……前に……。オマエには言ってなかったけど……ビックリさせようと思って……」

「……と言うより、私が「サッサと連れて行け」と言ったんだがな……」

「た……タビカケ様っ!?」

「オイオイ、婿殿……呼び方が違うだろう?」

「あ……その……ち……父上様……(ゴニョゴニョ)」

(パパがトーマを『婿殿』って……。それにトーマがパパを『父上様』って……//////////)

「【勇者】になった時から、オマエとの『縁』が切れたとは言え、オマエが私たちの息子であることに代わりはないんだからな」

「とっ……父さん!?」

「お久しぶりですな、タビカケ殿。今回の闘いもタビカケ殿の手際、おみごとの一語に尽きます」

「こちらこそお久しぶりです。トーヤ殿。私の働きなど微々たるもの。前線での婿殿の活躍がなければ、ここまでのことは成せませんでした」

「おやおや、もうトーマは『婿殿』ですか……?ならば我らもミコト姫様の呼び方を考えねばなりませんなぁ」

「あらあら、ミコト姫様はトーマのお嫁さんですよね?」

「ああ、そうか……ハッハッハッハッハ」

(お、お、お、お、おおおおお嫁さんっ!?……私が……トーマの……お嫁さんっ!?)

623見知らぬ記憶 3:2011/03/19(土) 13:12:31 ID:2OeOfn9o

「あ……あの……このいきなりの展開は……一体……」

「善は急げと言うだろう?だから、君たち二人の結婚式をやってしまおうという訳だ」

「「エエッ!?」」

「そっ、そんな、いきなりっ!?」

「こっ、心の準備が……」

「二人とも何を言ってるんだ?もう、将来を誓い合っているんだろう?」

「そっ、それは……その……」

「……ぅ、うん……(ゴニョゴニョ)」

「だったらもう、周りを待たせる必要もないでしょ?」

「ママ……」

「ミスズ様……」

「アラッ?ウチのダンナは「お父様」って呼ぶクセに、私は「ミスス様」なの?『婿殿』?」

「……何か……ミスズさんから『婿殿』って呼ばれると……違う意味で怖いよーな……」

「へェ……そーゆーコト、言うんだ……」

『ギクゥッ!!!』

「アハハ、ジョークよ、ジョーク」

(ジョークに聞こえねぇんだよなぁ……この人の場合……)

「何か言った?」

「い、いえ……別に……」

「そう……なら良いわ。……それじゃあ、始めちゃいましょうか?」

「えっ……もう?」

「ハイハイ、ミコトちゃんはコッチ、トーマ君はアッチね」

「「えっ?……えっ?……えっ?」」

 二人は訳も判らぬまま、それぞれに準備した部屋に連れて行かれ、そこで着替えをさせられる。
 そして、タビカケ城にある、聖堂へと連れて行かれるのであった。
 聖堂には、二人を祝うために多くの仲間が集まっていた。

「これより、【勇者】トーマとタビカケ城城主の姫君ミコト姫の婚儀を行う」

「新郎トーマ、これへ!」

 進行役は、師父ミノル。祭壇に立つ司祭はシン老師である。

「はっ……はいっ!!」

 トーマが純白の【勇者】の正装で祭壇の前に立つ。

「新婦ミコト、これへ!」

「……」

 静々と、純白のウェディングドレスに身を包んだミコトがゆっくりと歩を進めトーマの横に並ぶ。
 その姿は、見る者に息を呑ませるほどの美しさであった。
 特に、新郎のトーマはそのミコトの晴れ姿を見て、呆然としている。

 その時、シン老師が言葉を紡ぎ始める。

「創造主よ、今、貴方の前に揃いましたるこの二人は、これよりの人生を共に歩むと誓う二人であります」

 嗄れた、しかし『凛』としたその声に聖堂内は静寂に包まれる。

「別々に生を享けた二つの命は、多くの愛に支えられながら、自らの人生を切り拓き、そして出会い、小さき二筋の流れが一つになるように、今日、新たな門出を迎えております」

「この二人の契りが、真に貴方に応える約束かを証すのは、他の誰でもなく、これからの二人によってなされます」

「苦しい時も、辛い時も、嬉しい時も、いつどんな時であっても、二人で共に歩んで行くこと。二人で共に背負って行くこと。二人で共に支え合って行くこと。二人で共に生きてゆくことが、貴方との約束を果たす、何よりの証しとなります」

「不安の嵐の中に飛び込もうとも、退屈な凪に出会おうとも、如何なる時と場に於いても、一番大切にしなければならないものを、この二人が心を一にして見失うことがないように、お導き下さい」

「違いを含めた相手の全てを認め受けとめられますように……」

「成り行く者としての命を愛し続けられますように……。そして、この二人に創造主のお導きがありますように……」

 シン司祭の創造主への祈りが捧げられる。
 そして……

「トーマよ」

「はっ……はいっ!」

「そなたは、このミコトを生涯の妻とし、病める時も、健やかなる時も、共に道を歩む伴侶として、生涯の愛をここに誓うか?」

「ちっ、誓いますっ!!」

「ミコトよ」

「はい……」

「そなたはこのトーマを生涯の夫とすることで、全ての『縁』から『無縁』とならねばならん。それを引き受けられるか?」

「はい」

「ウム。ではその上で、このトーマを生涯の夫とし、病める時も、健やかなる時も、共に道を歩む伴侶として、生涯の愛をここに誓うか?」

「はい……誓います」

「二人に創造主の光あらんことを!!!」

「「「「「「「「「「「トーマ、ミコト。おめでとう!!!」」」」」」」」」」」

 万雷の拍手と祝福の言葉が聖堂を満たす。
 トーマとミコト、二人は今不壊の絆に結ばれ、永久の誓いを創造主の元に捧げたのだった。

624Mattari:2011/03/19(土) 13:20:33 ID:2OeOfn9o
ということで、今回は以上になります。如何でしたでしょうか?

最近はシリアスな作品の投下が多かったので、イチャイチャは少ないモノの、
幸せな雰囲気を味わって戴けたらと想い、トーマとミコトをゴールインさせました。
でも、これで終わりじゃありませんので。念のため……。^^;

さて、次回の予告じゃありませんけれど、多分次でこの「見知らぬ記憶編」は最後になると思います。
全ての謎解きと共に、トーマとミコトから当麻と美琴へと、時代を移していきたいと思っています。

ただ……シリアス、ではなく『鬱』な展開に……なるかも……です。

ではでは、お楽しみいただければ幸いです。<(_ _)>

625夢旅人:2011/03/19(土) 14:16:35 ID:qleV4a02
とある幼馴染の星間旅行中編投下します。

前後編かと思いきや、膨らんじゃって中編が入ります。
今回上琴は少しだけです。

626夢旅人:2011/03/19(土) 14:17:43 ID:qleV4a02
とある幼馴染の星間旅行 中編

6 朝凪星海・姫神秋沙

「俺、ミルクティ、茶葉はウヴァで。姫神さん、何にする?」
「私も。同じで」
 ここは大通りに一角にある紅茶専門店。茶葉の香りと静かなBGMが、ゆったりとした時間を演出している。
「すみません。ミルクティ。ウヴァで2つ下さい」
 そう朝凪は店員に声をかけた後、姫神に向かって言った。
「今日はわざわざ付き合って、もらってありがとう」
 はにかんだ表情の朝凪の顔に、姫神は少し後ろめたさを意識した。
「ううん。そのくらい。なんでもないの」
 今日教室で見た、大神睦月の少し陰った表情が思い出しながら。
 朝凪は、そんな姫神の気持ちに気付くことなく会話を続ける。
「いや、なかなか女の子と本屋めぐりなんて出来ないし……」
 姫神に見つめられ、照れたように視線を泳がせる朝凪に、姫神は少しドキリとした。
――朝凪君。結構。いい人。でも……
「朝凪君。大神さんが。いるじゃない」
 はっとしたように表情を変えた朝凪が、あわててとってつけたような口振りになる。
「だからさ、みんな誤解してるんだって。睦月は単に幼馴染の腐れ縁だからさ。
そういうの全然関係ないし。そもそも睦月、俺のことおもちゃぐらいにしか思ってねぇみたいだから」
「でも。気が付けば。いつもウチのクラスに。いる」
「ああ、睦月もカミジョー属性じゃないのかな」
「それは。ちょっと。違うかも」
「え?違うのか?」
 少し期待するような、それでいて怖いような気持ちになる朝凪。
「大神さんが。上条君を見てる目と。朝凪君を。見てる目は違う。と思う」
「どう違うんだ?」
「――上条君には。珍獣を見るような目。朝凪君には。生暖かい目」
 姫神の思いも寄らぬ答えに、朝凪はぶっと吹き出した。
「なんだいそりゃ。まぁ、俺の趣味を知ってたら、生暖かい目ってのは当然だけどな……。
ま、確かに俺、能力使う時はいつも睦月と一緒だけども」
 朝凪の、ちょっとトーンの落ちた言葉に、姫神は話題を変えるように聞いた。
「朝凪君の能力。たしか『粒子操作』。それどんな能力?」
 んー、と言葉を捜すように朝凪が口ごもる。
「なんて言えばいいのかな。『ワープドライバー』って言うのかな。
要するに超光速移動なんだけれど、レベルが低いんで、質量のあるものは無理。
せいぜい意識だけで、それも自分のは出来るけど、他人のは無理。
だからそれが本当かどうかは検証できないんだけど……」
「単に。妄想かも。ってことね」
「そう。だからあまり人には言ってないんだけどね。あまり信じちゃもらえないから」
「大神さんは。知ってるの」
「もちろん。能力使う時は昏睡状態つうか無意識に近いし、障害物の無い場所でするからね。
その時は睦月に付き添ってもらってるからな」
「なら。ますます。彼女と同じ」
「んー、見た目はそうかもしれないけど、告白とかそんなのも今まで無かったし。俺のこと、恋愛感情ナッシングじゃないのかな」
「その言葉は。ある意味。ひどいかも」
「そうか?俺はまぁ…ともかくとして、睦月はそうだと思うよ」
「……朝凪君は。やっぱり。朝凪君」
 姫神はホッとしながらも、どこか少し残念な気持ちがした。

――お待たせしました。ミルクティ、ウヴァでお二つですね……

 注文が届いたのを期に、いつしか二人の話題は、小説へと切り替わっていった。

627夢旅人:2011/03/19(土) 14:19:36 ID:qleV4a02
7 大神睦月・朝凪星海

「睦月、今度の日曜日、空いてる?」
 それから何日たったか、ある日の1年7組。
 珍しく読書をしていない朝凪が、相変わらず今日も横に来ている大神に声をかけた。
「うん空いてるよ。もしかしていつもの?」
 大神が嬉しそうな顔で答える。 
「ああ、今回はちょっと遠くまで行ってこようかと思って」
「遠くって、どこ?」
「そうだな。できれば火星ぐらいまで行ければと」
「どのくらいの時間?」
「そうだな、加速と巡航合わせて、1時間ぐらいかな」
「今まで月から向こうへ出たことないんだよね。大丈夫?」
 心配そうな顔をする大神に大丈夫と言いながら、朝凪は言葉を続けた。
「それとさ。今回、姫神さんも誘おうと思うんだけど、どうかな?」
「え、そうなんだ……」
 残念そうに答えた大神が、朝凪に小声で囁いた。
「星海、もしかして姫神さんのこと……」
 あわてたように否定する朝凪。
「え、あ…、違う違う。この前、一緒に本屋周りした時に、能力の話しをしてさ。
今度機会があれば、その現場を見せるって言っただけだから…」
「そう……、うん、別に私はかまわないわ。時間、決まったら連絡ちょうだい……」
 そういうと、なぜか大神はうつむき加減に、そそくさと教室を出て行った。
――そうか……いつのまにか、デートしてたんだ……
 そんな大神の目に小さく光るものがあったことに、朝凪は気付いていなかった。
「なんだい?睦月のやつ……。ま、いいか」
 朝凪はブツブツつぶやきながら、姫神に目を向けた。
「姫神さん、今度の日曜日……」
 姫神はその一部始終を見ていたようだった。

628夢旅人:2011/03/19(土) 14:19:54 ID:qleV4a02
8 朝凪星海・大神睦月・姫神秋沙

 晴れて風のない暖かな日曜午後、三人は土手沿いの公園に来ていた。
「睦月、この辺でいいよな」
 朝凪がそう大神に言った。
「ここなら、1時間ぐらい大丈夫かしら」
 そう答えた大神が、見晴らしのよい、緩やかな土手の斜面に腰掛けた。
「星海、いつものようにでいいのかな?」
 朝凪の顔を見て、そう聞き返した大神は、いつも以上にはにかんでいるように見えた。
「ああ、頼むわ。姫神さんは横で座ってみてたらいいよ。睦月もいるから退屈はしないと思うけど」
 そう言って、大神の腿に頭を乗せた。いわゆる膝枕というやつだ。
 その様子をみた姫神の顔が少し赤くなった。
「いつも。そんな風に。してるんだ」
 そう言われた大神が、照れたように答えた。
「そうなの。能力使ってる時は、睡眠中と同じ状態だから。こうすれば星海の心理状態がわかるし、ぱっと見、何してるかわかんないでしょ」
「それは。ただいちゃいちゃ。してるだけ」
 ちょっとあきれたように、姫神がつぶやいた。
「じゃ、行ってくるわ……」
 そう言って朝凪は目を閉じた。やがて頭の周りが少し光ったように見えた途端、朝凪の身体から力が抜け、意識が無くなった。

「行ったみたいね……」
 朝凪の顔を見ながら、大神がポツリと話し出した。
「星海が行ってる間はね、こうしてじっとしていないと、心配なの。
寝てるようなもんだから、大丈夫だって言ってくれるんだけどね。
すぐに意識が戻るようなものでもないし……。
なにかあったら、星海がここに帰ってこれなくなるような気がして。
ごめんね。こんな話して。でももし星海がいなくなったらって思うと、ものすごく怖いの。
別に私を見てくれてなくてもいいから、傍にじゃなくてもいいから、ただ居てくれればいいって思う」
 姫神は黙って、朝凪の顔を見ながら大神の話を聞いていた。
「こうやって星海の帰りを待っている間ね、ものすごく不安に思う時があるの。
ずっと一人で星海の顔を見てるとね、このまま眺めていたい、でもこのままなら、いやだって思うこともあるわ」
 姫神は、大神の手にこぼれる滴に気が付いた。
「大神さん…」
「こんな私じゃ、星海の足手まといだもんね」
 そのままかける言葉も無く、ただ大神の顔を見つめていた。
 そんな姫神の視線に気が付いたように、大神は涙を拭い、照れたように笑顔を作った。
「あ、ごめん。こんなの言うつもりじゃなかったんだけど、姫神さんには、つい言わずにいられなかったの……」
 大神の話を聞いているうちに、姫神はなんとなく、自分が人から必要とされているような気がして、気持ちが暖かくなるように感じた。
 こうして頼られるというのは、姫神にとっても、これまであまり無い事だった。
「大神さん。私こそ。ありがとう」
 思いもよらぬ言葉をかけられた大神は、びっくりした顔で、姫神の顔をまじまじと見た。
「私。こうして。話してくれる人。あまりいなくて」
「姫神さん。私でよければ、いつでも」
 大神の笑顔が、姫神には眩しく写った。
「そうしてくれると。私も嬉しい」
 姫神も笑顔で返した。

629夢旅人:2011/03/19(土) 14:20:51 ID:qleV4a02
9 姫神秋沙・大神睦月

「あ、今日ね、姫神さんも来るっていうんで、おやつ持ってきたのよ」
 話題を変えるように、大神が持ってきたバスケットから、水筒とお菓子を取り出した。
「これ、紅茶とクッキーもってきたんだ。良かったらどうぞ」
 水筒から紅茶を注ぎ、カップを姫神に渡す。
「ありがとう。いい香り」
 大神も自分のカップに口をつけながら聞いた。
「姫神さん、この間、星海とデートしたんだって?」
 突然の話題に姫神がびくっとした。
「デート。じゃないの。ちょっと本屋に。付き合っただけ」
 どぎまぎして、暇神の顔が赤くなる。
「…でも、それってデートでしょ。星海の趣味に付き合える女の人って、そうはいないし」
「確かに。朝凪君の趣味。ディープすぎ」
「でも話してて、不思議と退屈はしないのよね」
「退屈は。しなかった」
「そう……」
 大神が何か考えるように、少し俯き加減に沈黙した。 
「なら私、姫神さんと星海との仲、取り持ってもいいかな?」
 大神からの突然の思いも寄らぬ提案に、姫神は驚いた。
「――大神さん。いきなりそれは。どういうこと」
「ん、姫神さんと星海となら、いいかなって思ったの。コイツ結構いい奴だし。顔だってそう悪くないと思うの」
「でも……」
 大神の屈託の無い笑顔に、姫神は言葉が出ない。
「私のことなら気にしないで。姫神さんならお似合いだと思うんだけど…」
「……」

 その時、背後から聞きなれない声がした。
「おう、そこのねぇちゃんたち!ちょっと俺たちとつきあわねぇか!!」
 柄の悪そうな男達が数人が、3人の目の前に出てきた。どうやらスキルアウトらしい。
「おう、見せ付けてくれるじゃねえの!」
「寝てるヤツなんかほっといて、俺たちと遊ぼうぜ!」

「何よ、あんた達に用はないわよ!」
 大神がキッと男らを睨みつける。
 姫神が『学園都市特製魔法のステッキ』に手をやる。
 大神が小声で姫神に囁いた。
「私、ここを離れられないから、姫神さん、助けを呼んできて。お願い」
「でも。大神さん」
「いいから。それがあるなら突破できるでしょ。早く」
「……わかった。通りへ出たら。アンチスキルか。ジャッジメントに」
「お願い……」

「ねぇ、あんた達……」
 大神が男達の注意を引きつける。
 それを逃さず姫神は、手に持っていたカップを、中身ごと目の前の男の顔めがけて投げつけた。
「アチチチ!イテテッ!!」
 熱さに怯んだところを、立ち上がりざま魔法のステッキ(スタンガン)で電撃をあて、脱兎のごとく駆け出した。
 とっさのことで男達は反応が遅れる。
 そこへ大神が同じくコップと、水筒を、一番反応が早かった男に投げつけた。
 男達の注意がそがれ、気が付いた時は、姫神の姿はかなり離れていた。
「てめえ……」
 彼らの怒りの矛先が、残された二人に向かう。
「舐めたまねしてくれるじゃねぇか……」


10 上条当麻・御坂美琴

 日曜午後、気持ちの良い暖かさに誘われるように、腕を組んで歩くカップルがいた。
「天気が良いから、どこかでのんびりしない?当麻」
「美琴と一緒なら、どこでもいいぞ」
「もう、当麻が決めてよ」
「土手の横の公園はどうだ。すぐそこだし」
「うん、当麻と一緒なら」
 桃色空間全開な上条当麻、御坂美琴の二人。
 そこへ飛びついてきた人影があった。
「か、上条君。助けて」
 姫神が、息を切らせて倒れこんできた。
「どうした、姫神!なにがあった!!」
 上条が、姫神を両手で支える。
 美琴は一瞬ムッとするが、姫神のただならぬ様子に、すぐ真剣な顔付きになる。
「そこの。公園で。朝凪君と。大神さんが。スキルアウトに」
 それだけ言うと、へなへなと道端に座り込んでしまった。
「姫神、通報たのむ!。美琴いくぞ!!」
 上条が傍らに目をやった時、美琴はすでに走り出していた。
「姫神さん。任せといて!」
 美琴が振り返りながら、姫神に声をかける。
「当麻!先行くわよ!!」
 既にギアがトップに入っている。
「おう!!」
 上条も同じく駆け出していく。
 『学園都市の最強カップル』の名に恥じないコンビネーション。
 残された姫神は、そんな二人の後姿に言いようの無い安堵感を覚えていた。

-------------------------------------------------------------------
続く

630夢旅人:2011/03/19(土) 14:23:54 ID:qleV4a02
以上です。

次回、後編をどうまとめようかと。
ちょっと違った上琴ラブにしたいなと。

631■■■■:2011/03/19(土) 23:30:41 ID:bKwIaMqw
>>624
>>630
        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

632ソーサ:2011/03/20(日) 00:47:36 ID:I2PZucjw
Mattariさん、夢旅人さん、GJです!

まとめ人さん
返事が遅れてすいません…
マ、マジですか…小ネタを長編にしちゃっていいんですか?
そんなことになると思ってもみなかったので時系列がめちゃくちゃなんですが……^^:
私としては長編扱いにしてもらってもしなくてもどちらでもいいのですが
もし長編扱いになるのなら『上琴の戦い』でお願いします
……本当にいいのだろうか
それと前の小ネタは『上琴VS建宮』です。書き忘れすいませんでした

では寝る前に小ネタを1つ投稿します!

633ソーサ:2011/03/20(日) 00:51:02 ID:I2PZucjw

・病院にて

御坂妹「率直に言います。デートしてください、とミサカはお願いをします。」

上琴「「!!?」」

上条「お、俺と…!?」

美琴「アンタねぇ…当麻は私と付き合ってるのよ!?ダメに決まってるでしょ!」

御坂妹「お姉様ばかりずるいじゃないですか、とミサカ不満を口にします。」

美琴「私は彼女なんだからデートするのは当たり前でしょ!」

上条「そうだぞ御坂妹。デートはちょっとな……」

御坂妹「仕方ありません。それでは奥の手を使用しましょう、とミサカはあなたの腕にくっつきます。」ギュ

上条「え!?お、おい…(む、胸が当たってるんですがー!!)」

美琴「ちょ、ちょっと当麻から離れなさいよ!!それが奥の手だっていうの!?」

御坂妹「そんなわけないじゃないですか。それではいきますよ、とミサカは意気込みます。」

上琴「「?」」

御坂妹「デート…ダメ…かな?とミサカは上目使いでお願いします。」

上条「!!?(こ、こ、こ、これは美琴!?やばいヤバイYABAIーーー!!)あ、えーと、その、だな……」

御坂妹「ミサカとデートするのは……嫌?とミサカは目をウルウルさせながら尋ねます。」ウルウル

上条「(美琴の顔で…このコンボは……反則…)べ、別に嫌じゃ「ダメ!!!」な……?」

美琴「私以外の女の子とデートなんてダメよ!そんなのダメったらダメ!!当麻は…当麻は私のものなんだから!!」

上条「!?」

御坂妹「…確かに2人は付き合っていますが、この方がお姉様だけのものというのはおかしいのでは?とミサカは指摘します。」

美琴「うぅー……でも当麻は…当麻は…」

上条「いや……美琴は間違ってない。俺は美琴のものだ。」

美&妹「「!?」」

上条「悪かった美琴、俺は身も心もすべて美琴のものだから安心してくれ。」

美琴「すべて……えへ、えへへ……///」

御坂妹「…それでデートの誘いの答えは?とミサカはあなたに尋ね返答を待ちます。」

上条「……お前には悪いが……デートは無理だ。俺は美琴の彼氏で美琴のものだからな。」

御坂妹「そうですか……。ではこれから検査があるので失礼します、とミサカは一礼してから立ち去ります。」

上条「ああ、じゃあな。……ん?どうした美琴?(や、やっぱり怒ってるのか!?)」

美琴「あ、あのね……わ、私はもちろん当麻のもの…だからね?//////」テレテレ

上条「!!?あ、ああ…///(か、可愛すぎる…しかし今回はこの可愛さを逆手にとられるとは……危なかったな。)」


WINNER:上琴

634ソーサ:2011/03/20(日) 00:53:15 ID:I2PZucjw
以上です!
書き忘れましたがタイトルは『上琴VS御坂妹』です。

635Mattari:2011/03/20(日) 14:51:05 ID:nmUO1.go
ソーサさん、GJです。

それにしても、御坂妹役のささきのぞみさん。
あれだけの人数を良く一人でやってるなぁ……。^^;

さて……『番外編(パラレルワールドストーリー)』の美琴編を投下させて戴きます。
と言っても、プロローグで1レスだけですけど……。

今回はちょっとシリアスに攻めてみました。この後すぐに投下します。

636とある右手の番外編 2:2011/03/20(日) 14:52:20 ID:nmUO1.go

とある右手の番外編(パラレルワールドストーリー)2

プロローグ

 to 美琴 from 上条

 sub ゴメン

 美琴。ホントにゴメン。なぜか
 判らないんだけど、急に補習を
 言い渡された。
 補習を受けなきゃならないよう
 なことはしてないはずなのに。
 2時間ぐらい遅れるから、先に
 買い物して部屋で待っててくれ。
 埋め合わせは必ずするから。ホ
 ントゴメンな。

 あの日のメール。
 私の大切な宝物……。
 もう、二度と会えないと分かっていても……やっぱり……会いたい。……って思っちゃう。

 別の世界から来た『上条当麻』さん。
 この世界のアイツとは比べものにならないくらい……。
 ううん……『くらい』じゃない……全然違う……。
 本当に優しかったし……本当に強い人……だった。

 あの出会い以来、アイツを見てもときめかない。
 どうしてもあの『上条さん』と比べてしまう。
 ズルい女だってのは分かってる。
 でも……知ってしまったら……誰だってそうなるよね。

「おーい、御坂ァー」

 アイツはあの日以来、私に良く声をかけてくるようになった。
 なぜかは分からないけれど……。
 でも、正直……嬉しくない。

「何だ、アンタか……。何か用?」

「あ……いや、別に用って程じゃ……」

「じゃあ、今度にしてくれる?……じゃね」

「あ……オイ?……行っちまいやがった……」

 足早にその場を離れる。
 アイツじゃダメ。
 アイツなんかじゃダメなんだ。
 私は知ってしまった。
 私の理想は、あの『上条当麻さん』なんだ。
 あの人じゃなきゃ、私はもう……。

 寮まで送って貰った時に、もう一度名前を呼んで欲しいとお願いした。
 だけどあの人は『それは出来ない』と言った。それは『しちゃいけないコト』だと言った。
 そう言われた時、心の奥が「ズキッ」と痛んだ……。
 今まで感じたことがない程の痛み。
 その瞬間に私は理解してしまった。
 私はこの人のことを好きになってしまった……。アイツの何倍も、何十倍も、何百倍も……。

 だから……アイツへの『予行演習』と称して……あの人に言った。

『アナタが好きです。上条当麻さんが大好きです』

 と……。
 多分、あの人は気付いてはいないだろうな……。
 私の本当の気持ちを……。

「会いたいよォ……上条さん……」

 この気持ちをどうしたらイイんだろう?
 私は……私は……どうしたらイイの?

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

『何やってんだよ?御坂』

「えっ!?……あっ……あのッ……もしかして……上条さん?」

『変な呼び方すんなって……まぁ、オマエの世界のオレと間違わないようにするにはそうするしかないか……』

「まさか……会いに来てくれたの!?」

『まぁ……そんなところかな?』

「会いたかった……会いたかったよォ……うわぁぁぁあああん……」

 私は泣きながらあの人の胸に飛び込んだ。
 あの人は優しく抱き締めてくれた。

『御坂……』

「イヤッ……『美琴』って呼んでっ……。アナタにはそう呼んで欲しいの!」

 私の顔は涙でくしゃくしゃになっているだろう。
 でも、この人だからこんな顔でも見せられる。
 この人なら、優しく包み込んでくれる。
 だから、私はワガママになる。

「私はアナタが好きなの。この世界のアイツより私はアナタが好きッ!!!」

『御坂……』

「どうしてッ!?……どうして呼んでくれないのっ!?……どうして『美琴』って呼んでくれないの!?」

『それに気付かなきゃいけないんだよ……御坂……オマエは……』

「えっ!?……どういう……コト……?」

『……じゃあな……御坂……』

「待ってッ!!行かないでッ!!上条さんっ!!……お願いッ!!待ってよォ……」

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

637Mattari:2011/03/20(日) 14:55:42 ID:nmUO1.go
以上です。

今続きを書いているのですが、なかなか……コッチの上琴はまだ引っ付いてませんから。
楽しめそうです。^^

ではでは、お楽しみいただけたら幸いです。<(_ _)>

638■■■■:2011/03/20(日) 16:32:05 ID:73aFIxto
だー*
つづきが気になりすぎるorz
MattariさんGJ

639■■■■:2011/03/20(日) 17:17:02 ID:xP8exP5g
>>637
Oh...続きが気になります。
GJ!

640■■■■:2011/03/20(日) 17:51:37 ID:hZGXY93o
ソーサさん、MattariさんGJ!
続き待ってます!

641■■■■:2011/03/21(月) 00:02:47 ID:NR4O5kR2
>>634
現在生存している禁書キャラ全員と戦わせてくださいw

>>637
(´-`).。oO(またか、あの野郎)

    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

642■■■■:2011/03/21(月) 00:46:39 ID:6JwXXjlc
>>637
うーん、なるほどね。
理想と現実のギャップ、みたいなものなんでしょうか。
こっちの美琴の中の「上条にこうあって欲しい」が全てつまった向こうの上条さんと、「まだ」その域に達してない
こっちの上条さん。
比べちゃうのも仕方ないんですが(憧れのお兄さん、みたいな感じかな?)それは本当に違うんですよね。
過程をすっ飛ばして答えのみ、結果のみを求めてるような。過程も含めて恋愛なんだよーと。
ちゃんと向こうの上条さんはヒントというかモロ答えを教えてくれてたのに、美琴はそれにいつ気づくんでしょうねー。
続き、お待ちしてます。

てか、こっちの上条さんはどんな経験と決意をしてきたんだ?その内容によっては結構こっちの美琴、酷いぞw

643■■■■:2011/03/21(月) 10:11:11 ID:0JMvPv8k
なんか上の書き手が空気に(ry
皆さんGJです

644夢旅人:2011/03/21(月) 11:58:59 ID:aai5iaU2
とある幼馴染の星間旅行後編、投下します。

2レスかな。3レス行かないと思います。

645夢旅人:2011/03/21(月) 12:06:20 ID:aai5iaU2
11 超電磁砲・幻想殺し

 上条と美琴が公園に駆けつけたとき、朝凪は無意識の状態で、男達に弄られていた。
「なんだぁ、こいつ、全然起きねぇじゃねえか!」
「このまま簀巻きにしちまうかぁ!」 
 横では大神が、男2人に両腕をつかまれ、悲鳴を上げている。
「いやぁ!やめてぇ!やめてぇ!星海が!星海が!お願い!お願いだから!!」
 泣き叫び、飛び出そうとする大神を押さえつけ、男達が不遜な笑みを浮かべている。
 こちらに背中を向けているリーダー格らしき男が、さらにその様子を残忍な目つきで眺めていた。
 あたかも獲物の品定めをする野獣のように。
 上条は、この状況を見た時、このまま突っ込むのはリスクが大きいと感じた。
 姿を隠すように、手前の茂みに姿を隠すと、その先を窺う。
 こちらは奇襲要素があるとはいえ、人質が二人いる。うち一人は全く動けない状態にある。
 まして相手の方が人数も多い。
 ――なら、方法は……。
 目的は朝凪と大神を無事に取り戻すこと。隠れ場所から人質までの距離はおよそ20m。
 傍にいる美琴に目をやると、隣の茂みに隠れ、上条の方を見ていた。
 その目がいつでも行けると言っている。
 上条は無言で自分を親指で指差し、次に大神を指差す。更に美琴を指差した。
 美琴はうなづくと、表情を引き締め、視線を彼らに向けた。
 上条も視線を戻すと、呼吸を整えた。美琴も同様だ。
 2人の息が合ったとき、上条が茂みから飛び出した。
 
 戦闘そのものはあっという間に終わった。
 最初は大神の奪還だ。
 上条が茂みから出ると同時に、美琴が立ち上がる。
 男達からの至近距離で、かつ二人の人質に直接被害が及ばぬ場所に超電磁砲が着弾する。
 閃光と爆発音は、さしずめスタングレネードのようだ。
 男達の注意がそちらに向いた瞬間、背を向けた男に電撃を放ち、美琴は茂みから駆け出す。
 何が起こっているのかわからず、男達が混乱する中、上条は大神の手をつかんでいる男の頬に拳を叩き込む。
 怯んだ男が大神から手を離す。
 すぐさまもう一人の男に蹴りを入れ、その手から大神を引き剥がす。
 そのときすでに美琴が大神に駆け寄っており、手を引き男達から距離をとった。。
 同時に大神を押さえていた男2人に電撃を食らわせ、失神させた。
 こういった作戦に、格闘戦など、時間の無駄でしかない。
 上条は既に朝凪の確保に向かっていた。
 幸い、朝凪は地面に倒れており、美琴が男達の頭上めがけて電撃を打ち込んでいる。
 上条は右手で、流れ弾を防ぎつつ、左手で朝凪を抱え込み、引きずり出した。
 意識を持たない身体というのは、重いものだ。されどその場所から動かさないと、朝凪も電撃の影響を受けてしまう。
 上条がなんとか距離をとったときには、全てが終わっていた。
 男達は戦意喪失して逃亡するか、倒れていた。

646夢旅人:2011/03/21(月) 12:07:57 ID:aai5iaU2
12 朝凪星海・大神睦月

 上条はぐったりと動かない朝凪を、脇の芝生の上に横たえることができた。
 相当やられたのか、服のあちこちに土や蹴られた痕が付いている。
 ――服の下にも傷があるか……。
「美琴!救急車!!」
「あ、はい!『――もしもし……』」
  救急車という言葉に、我に返った大神が、駆け寄ってきた。
「星海!星海!大丈夫……?大丈夫……?」
 動かない朝凪の身体にしがみついて泣き喚く。
「死んじゃやだ……死んじゃやだよぉ……」
「大神さん、大丈夫だから。気を失ってるだけだし、頭はやられてないようだから……」
 上条の言葉にほっとしつつも、大神の気持ちは止まらない。
「ねぇ…、返事してよぉ……、早く帰ってきてよぉ……、おいてっちゃやだよぉ……、お願いだからぁ……」
 追いついてきた姫神が大神に駆け寄り、
「大丈夫だから。朝凪君。大丈夫だから。大神さんのこと。大丈夫だから」
 大神の背中を抱くように勇気付けている。
「ふえぇぇん……姫神さぁん……」
 その様子を心配そうに見ていた美琴が、上条に抱きついて来た。
 上条は、美琴がつらそうな顔をし、涙を流していたことに気が付いた。
「どうした?美琴……」
「私、大神さんの気持ち、わかりすぎて本当につらいの。
あの時の私と同じ……だから。
当麻はいつも待たせる側だったから、分からないだろうけど……」
 そう言って涙を拭き、大神に声をかけた。
「大神さん、彼のこと、信じてあげて。
絶対大丈夫だから。
私も同じような経験あるからわかるの。
こういうときこそ大神さんが信じてあげないとね……」
 そんな美琴の言葉に、大神は泣きながらただうなづくだけだった。
 その時朝凪の表情がピクリと動き、ぐったりとした身体に力が戻ってきた。
「う……う……ん……!!痛てててぇぇぇ!!」
 意識が戻った途端、身体中の激痛に襲われた朝凪が叫んだ。
「うぎゃぁぁぁ、痛い痛い痛い……!!!」
 その様子に4人とも、ほっとしたと同時に笑いがこみ上げてきた。
「「「「ぷっ……くっ……ぷはははは」」」」
「なんだよ……てめえら、人が苦しんでるのに」
 朝凪が痛みに顔をしかめながら、むくれる。
「い、痛くて、身体が動かねぇ。なんでこんな怪我してんだよ?
それに睦月、お前なんでそんな顔してんだ?」
 上条が笑いながら答えた。
「こちらのお姫様が、王子様を助けたんだよ」
「え?なんじゃそりゃ」
 こいつも上条なみに鈍感体質のようだ。
「朝凪君の。鈍感」
 姫神があきれたように言い放つ。
「大神さんは。朝凪君を。いつも守ってたの。いつも待ってたの」
 朝凪が大神に改めて目を向けた。
「睦月……お前……」
 そう言うと震える手を大神に差し出した。
 その手をぎゅっとつかみ、顔を赤くした大神が言った。
「私、星海のことが…『睦月、言うな』」
 朝凪が大神の言葉を遮った。
「やっぱり……俺から言わないとダメなんだろうな。
待たせてごめんな、睦月。こんな……しょうもない……オタクな王子様でよければ……ん…ん!?」

――ん……ちゅっ……

 朝凪の口が、大神の唇でふさがれた。

647夢旅人:2011/03/21(月) 12:08:33 ID:aai5iaU2
13 上条当麻・御坂美琴

スキルアウトどもは警備員(アンチスキル)に引き渡した。
朝凪と大神を乗せた救急車を見送り、姫神は1人で帰るとのことで、ここで別れた。

上条と美琴は先程の公園のベンチに並んで座っていた。
「――美琴、いろいろ助かったぜ」
「何よ、いつものことじゃない」
「いや今日は特にうまく連携がとれたなって」
「当然じゃない。私と当麻の仲だもの。これからもよろしくね」
「こちらこそだ。しかし……」
「ん?」
「あらためて……ごめんな、美琴」
「何よ、いきなり……」
「ん、朝凪と大神の姿がさ、俺とお前に重なって見えたんだ……」
 そう言うと、上条は美琴の肩を抱き寄せた。
「俺がいない間、お前はあんな顔で待ってたんだろうなと思うとな」
「……もういいの。当麻はこうして私のところに帰ってきてくれてるから」
 美琴は上条の肩に頭を乗せ、目を閉じた。
「こうして、一緒に居られるだけで、私は充分幸せよ、当麻……」
「美琴……」
 傾きかけた柔らかな陽が、2人の影を長く引いている。

――やがて影は1つになった。


14 姫神秋沙

 公園からの帰り道、姫神は高揚した気分でいた。
 あの時のドキドキはまだ治まってはいない。
――今日は。いろいろあったけど。よかったかも。
 あの瞬間の朝凪の赤くなった顔と、大神の恥ずかしげな笑顔が脳裏に焼きついている。
――2人とも。幸せそうだった。
――ああ私も。上条君みたいに。人の笑顔を守るって。好きかも。
 『魔法のステッキ』を取り出すと、ちょっと振り回してみた。
――私も。なれるかな。
――そうだ。帰りに病院へ寄って。2人に会っていこう。
 ただ、朝凪のことを思い出したとき、胸の中にかすかな痛みを感じた。
――そういえば。『スターマン・ジョーンズ』って小説。
――主人公は。ヒロインと。結ばれないんだよね。
――今度。朝凪君に。感想を聞いてみよう。
 自分がそのヒロインになったような気分で、姫神は病院へ足を向けた。

---------------------------------------  THE END

648夢旅人:2011/03/21(月) 12:13:41 ID:aai5iaU2
以上です。

ソーサさん、MattariさんもGJです。

649■■■■:2011/03/21(月) 14:21:42 ID:C9QXq9zM
>>648
二人がキューピッド役とは珍しいw
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

650Mattari:2011/03/21(月) 16:03:48 ID:WAI8tfPM
お世話になっております。Mattariです。

レス下さった皆さん、ありがとうございます。何とかご期待の添えるよう頑張ってみました。

本来ならば、お一人ずつお礼申し上げるべきなのでしょうが
……あまりやり過ぎるとネタバレもしそうなので……。(;^_^A アセアセ…

夢旅人さん、GJです。
姫神のポジションが、らしくてイイですねぇ。

さて、『とある右手の番外編 2(パラレルワールドストーリー)』の続編を投下します。

かなり美琴を『イヤな女』に書いてみました。
『ちょっと……いい加減にしろよ……』って言われるくらい……かな?
美琴を貶めるつもりはありませんが、彼女の心情を考えると……
そうなるだろうな……。と言うことで……敢えて挑戦してみました。
ですので、そういうのがお嫌いな方はスルー願います。

この後すぐに、7レス使用の予定です。

651とある右手の番外編 2:2011/03/21(月) 16:05:36 ID:WAI8tfPM

「待って……、待ってよォ……。ううっ……グスッ……うっ……」

「ん……あ……夢?……でも……どうして……どうして……うっ……クスン……」

 時々見る「あの人」の夢。
 でも、夢の中のあの人は私を絶対に『美琴』と呼んではくれない。
 自分の夢なのに……。どうしてなの?
 私が気付かなきゃいけないコトって何?……教えてよ……私の大好きな上条さん……。

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

「あ、居た居た、おーい、御坂ァ〜」

「ハァ……また……」

 また……アイツだ……。
 ここんトコ、顔を合わせる度に声をかけてくる。
 最近、ちょっとウザく感じるようになってる……。

「ハァ、ハァ……あ、あのさ……」

「……毎日毎日、何の用なのよ!?……これで大したことじゃなかったら……(バチバチバチッ)」

「うっ……い、いや……あの……そのッ……」

「サッサと言いなさいよッ!!!(バチバチバチバチバチッ)」

「ちょっと……聞きたいことがあってだな……」

「ふーん……(パチッ……)」

「ちょっとだけ……付き合ってくれないか?」

「ちょっとだけよ。……私も忙しいんだから……」

「あ、ああ……分かった……」



「それで、聞きたいコトって何なのよ?」

「実はさ……あの……その……さ……」

「何よ、もう!!男ならハッキリしなさいよッ!!!」

「うっ……」

「ホントにもう……。これじゃ、話にならないわ。私、帰る!!」

「えっ!?……あっ……ちょっと待ってくれよ!?」

「だったら、ハッキリ言うのね。今のアンタを見てると、イライラしてくるわ!!!」

「ぐっ……」

「何よ!?……何も言い返せないの?……ハァ……ホント、どうしようも無いヤツよね……アンタって……」

「……」

「(ホント……『あの人』に比べたら……。私……こんなのが好きだったのか……。何か自己嫌悪に陥りそうだわ……)」

「……なァ……」

「えっ!?」

「なァ……オレって……そんなにダメなのか?」

「ハァ?」

「あ……いや……今のオレって……そんなにダメなのか?……って……」

「ハァ〜〜〜〜〜〜」

「なっ……何だよッ!?……そのスゲェ溜息は……」

「アンタって……ホンットに……バカね!!!」

「うっ……」

「自分が一番分かってるんじゃないの!?それをわざわざ人に聞いて確かめるなんて……。ホンットに、信じられないくらいの大バカよッ!!」

「クッ……」

「じゃ、もう良いわよね?」

「ううっ……」

「そうそう……ついでだから言っとくわ。しばらく私には声をかけないで」

「えっ!?」

「正直、今のアンタは『ウザい』のよ!……分かった!?」

「うっ……ううっ……」

「……じゃあね」

「……クッ……ううっ……そっ……」

「えっ!?」

「……そっ、そんなに違うってのかよッ!?……そんなに今のオレは、違う世界のオレとは比べものにならないくらいダメだって言うのかっ!?」

「……フッ……」

「なっ……何だよッ!?……今、鼻で笑いやがったなっ!?」

「そりゃ、笑うわよ。……アンタがあの『上条さん』と比べものにならないくらいダメなのか?ですって。……冗談じゃないわッ!!!!!」

「えっ!?(ギクッ!!)」

「比べものなんかになる訳無いじゃない!!!……いいえ、比べること自体が『上条さん』に失礼よッ!!!!!」

「なっ……何だとっ!?」

「『あの人』は本当に優しかった。……混乱しまくって、泣き出してしまった私を……何にも言わずに、優しく抱き締めてくれて……『待ってるからな』って言ってくれた……。……逃げ出そうとした私を、全力で止めてくれた。そんな『優しさ』と『強さ』が同居してた。……そして……私や……あの銀髪シスターに、これから進む道を教えてくれた……。そんなことが……今のアンタに出来ると思ってんのッ!?」

「うっ……ううっ……」

「お笑い種ね……どうせ、アッチの世界でも、アッチの世界の私に散々言われ続けて来たんでしょ?」

「あ……う……」

「で、帰って来てみたら……全部、変えられてた……。今の自分がどれだけダメなのか?ってコトを思い知らされるほどに……ね」

652とある右手の番外編 2:2011/03/21(月) 16:07:04 ID:WAI8tfPM

「う……うるせえ……」

「その顔じゃあ、銀髪シスターにまで愛想尽かされた……かな?」

「おっ……オマエッ……どうして、それをっ!?」

「へェ……ホントに愛想尽かされたんだ……そりゃ、そうよね。『あの人』が相手じゃ、そうなるわよね……」

「ぐぅっ……」

「悪いけど、何がそんなに違うのかってのは、自分で考えなさい。今の私はそれをアンタに教えるほど、アンタに期待してないから……じゃね」

 私はそう言うと、その場を足早に立ち去った。
 ああ……もう……イライラする!!!
 何でアイツはあんなにバカなのよッ!!!!!

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

「あー、居た居た。やっと見つけたんだよ。短髪〜」

「アンタねぇ……私には御坂美琴って名前があるって何度言えば分かるのよ。あのバカはすぐに『ビリビリ』って言うし……」

「それはいいから、……ハイ、これ」

「えっ!?……何これ?……カギじゃない?」

「そうだよ。とうまの部屋のカギ。私はもう必要ないから、短髪が持ってて」

「必要ないって……?」

「私はイギリスに帰ることにしたんだよ。もう一度魔術の勉強をしたいから……。『あの人』が言ってくれたように……」

「あ……でも……だからって、私に渡すこと無いじゃない!?」

「そうかな?短髪にはこれからそれが必要になると思うけど?」

「何でそうなるのよッ!?」

「……とうまのこと……頼めないかな?」

「えっ!?……でも……私は……」

「うん……。でも……でもね……今のとうまが悪い訳じゃない……『あの人』が凄すぎたんだよ……」

「それは……分かる気もする……『あの人』は……」

「でも……短髪は、コッチの世界のとうまと『あの人』達のような関係を築かなきゃいけないんでしょ?」

「あ……それは……でも……無理よ……私は……」

「短髪……」

「私は……アイツなんかより……『あの人』を……」

「うん……分かるよ……私もそうだから……。……でも、……でもね……」

「え?」

「でも……だからこそ、私は『あの人』に応えたいんだよ。私が成長することで……応えたい……そう思うんだよ……」

「アンタ……」

「短髪が帰った後、一杯『あの人』と話をしたの。全部は話してくれなかったけど……」

「そ、そうなんだ……羨ましいな……」

「短髪?……」

「私も、もっと話がしたかったな……うっ……ううっ……」

「……短髪……そうだよね……。そうなっちゃうんだよね……でも……」

「え?……でも……?」

「ずっと言ってたよ。最初っから今のオレじゃないんだって。成長したから今のオレになれたんだって」

「成長したから……なれた……か……」

「そこを勘違いしちゃいけないんだよ……。この世界のとうまはまだ成長してないんだって……それを分かってあげないとダメなんだよ……」

「それは……そうだけど……でも……」

「うん……分かるよ……分かるんだよ……短髪の気持ち。私もそうだから……」

「……アンタも……『あの人』のこと……」

「うん……好きだよ。……でも、……それを超えなきゃいけないんじゃないのかな?……それが私と短髪の『試練』なんだから……」

「あ……でも、……私は……私の気持ちは……もう、『あの人』にしか……」

「私だってそうだよッ!……会えるなら……今すぐにでも……会いたいよ……」

「……それは……私だってっ!!……私……だって……でも……」

「『あの人』と、『右手』が言ってた……。『神様は超えられない試練をお与えになることはない』って……」

「……うん……でも……今の私には……まだ……その言葉は……重いよ……」

「……そう……私にとっても……そう……重いんだよ……」

「……でも……」

「……そう……でも……なんだよ……」

「……超えなきゃ……いけないんだな……」

「……超えないと……分からないことが……あるから……」

「……うん……」

「……」

「……」

「ね……短髪……短髪のこと……みことって呼んでイイ?」

「……うん……じゃあ、私もアンタのこと……インデックスって呼ぶね……」

653とある右手の番外編 2:2011/03/21(月) 16:08:34 ID:WAI8tfPM

「じゃあ……行くね……」

「うん。……元気でね……インデックス……カギ……ありがと……」

「またね……、みこと……。とうまのこと……お願いだよ……」

「出来るかどうか……分からないけど……やってみるね……」

「……ありがとう……じゃあ」

「私……頑張ってみる……ね……」

「うん……私も……頑張るんだよ……」

「うん……またね……また……会おうね……」

「うん……必ずだよ……」

 そう言うと、インデックスはポニーテールを無造作に束ねた際どい格好をしたサムライガールと一緒に歩いて行った。
 私は、インデックスの背中を見送った後、いつもの自動販売機に向かって駆け出していた。

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

 走りながら私は考える。
 私がしなきゃならないコトって何だろう?
 私が今やらなきゃならないコトって、一体何だろう?
 今は、全然分からない。

 でも……、立ち止まってる訳にはいかない。
 答えが分からないのなら、探さなきゃダメ。
 きっかけでもイイ。ヒントでもイイ。
 それを探さなきゃダメ。
 その為には……私はアイツに会わなきゃいけない。
 会って話をしないといけない。
 それだけは分かった。
 ただ……何を話さなきゃならないかまでは分からないけれど……。

 アイツのためなんかじゃない。
 私のため。私が『あの人』に応えるために……私は前に進む。
 今の私がしなきゃならないコトがなんなのかは分からないけれど……。
 目の前にハードルがあることだけは間違いない。
 なら……それを飛び越えるだけ。
 今までそうしてきたように……。それはこれからも変わらない!!!

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

「ハァ……不幸だ……」

「何がそんなに不幸なのかしら?」

「え゛!?」

『バリバリバリバリッ……バッチーン』

『パキィィィイン』

「くぉっ……」

「へェ……そっちは一応健在なんだ……」

「てっ、……テメェ……いきなり何しやがるッ!?」

「な〜によォ〜、いつもやってることじゃない?……それとも久しぶりに美琴様から攻撃して貰って、感激してるのかしら〜?」

「だっ……誰が感激なんかするかよッ!?……第一、オレにはもう関わらないんじゃなかったのか?」

「アンタから声をかけるのをやめてって言っただけよ。別にアンタに関わらないって言った訳じゃないわ」

「オマエ……何か嫌味が倍増してないか?」

「アンタ見てるとムカつくんだもん。しょうがないじゃない」

「どーせ、オレはダメダメですよ……。向こうの世界の『上条さん』とやらに比べたらな」

「あ〜らら〜……ちょろ〜ッと見ない間に、随分イジケたものね……ホント情け無いわ」

「うっ……うるせぇ……。クソッ……何の因果でこんな目に……」

「あ〜ヤダヤダ……。イジケた男なんて、ホンット関わるもんじゃないわね」

「だったら……関わらなきゃイイだろうがよッ!?」

「んなこと言ってるから、アンタはいつまで経ってもダメダメなのよッ!!!いい加減気付け、このドバカァ〜〜〜ッ!!!!!」

『バチバチバチッ……ドォオオンッ!!!』

『パキィィィイン』

「ぐわっ……」

「何やってんのよ〜。これくらいの電撃なら、今まで余裕でかわしてきたはずじゃない?……それが何?……今の必死の形相は……?いつもの余裕はドコに行ったのかしらねぇ〜?」

「て……ッテンメェ……人が下手に出てりゃあ……付け上がりやがってぇ……」

「アラ〜?……やっと本気になったのかしら?……それじゃあ、その『本気』って奴を見せて貰おうかしら?」

「ああ、見せてやるよッ!!オレの本気って奴をなっ!!!」

「それじゃあ、コッチもそろそろ本気で行かせて貰うゎよッ!!!」

「えっ!?」

『バリバリバリッ……ズッドォォオオオンッ!!!』

『パキィィィイン』

「くぁっ……」

「まだまだァッ!!!」

「イイッ!?」

654とある右手の番外編 2:2011/03/21(月) 16:09:48 ID:WAI8tfPM

『バリバリバリッ……バッチィィイイインッ!!!』

『パキィィィイン』

「ヘッ……この程度かよッ!?」

「なっ……何ですってぇ〜!?」

「アッチの御坂は……オレに当てたぜ」

「えっ!?」

「アッチの世界の御坂はな、オレに電撃を当てたって言ってんだよッ!!!」

「クッ……」

『ダンッ!!!(動揺した!?……このスキに右手で掴んじまえば……)』

「……ホント……バカよね……(パリパリッ……ビビビビビビ)」

「えっ!?」

『ジャキィィイインッ!!!』

「ううッ……」

「動けば……串刺しになるわよ」

「クッ……」

「多方向からの砂鉄剣……。簡単なコトよね。防御も右手、攻撃……と言うには無理があるけど、私の能力を止められるのも右手。だったら、その右手の動きだけを見ていればイイ。その右手で捌き切れない攻撃を仕掛ければイイ。単純よね……」

「う……ううっ……」

「今までは、頭に血が上っていたから分からなかった。冷静じゃないから対応出来なかった。アンタが私の電撃を簡単に消してしまうのが悔しかったから……だから、アンタに電撃を当てることしか考えてなかった……」

「クッ……クソッ……」

「動かないでッ!!!……動いたら、ホントに刺すわよッ!!!!!」

「う……あっ……」

「分かった?……これが、今のアンタと私の実力の差ってヤツよ。……ホント、バカよ……真っ正面から……うっ……突っ込んでくることしか……えっ……知らない……なんて……えくッ……」

「えっ!?……御坂?」

「動くなって言ってんでしょうがッ!!!……ヒック……何で……ヒック……何でよォ……ううっ……ヒック……何でアンタはそんなに大バカなのよッ!?」

「御坂……オマエ……泣いて……」

「当たり前じゃないっ!!……泣きたくもなるわよッ!!!……ううっ……ヤダ……涙が止まらない……」

「み……御坂……さん?」

『ザアアアァァァァァ……』

(あ……砂鉄剣が……)

「何でよォ……何でアンタは……何で『あの人』じゃないのよォッ!!!!!」

「お……オイ……」

「何でそんなにバカなのよッ!?……何でそんなに鈍感なのよッ!?……人を助けておいて……うっ……後は全然知らん顔……えくッ……だなんて……ヒクッ……助けられた方の身にもなってみなさいよッ!!!!!……うっ……ううっ……うわぁぁぁああああああん……」

「お、オイ……御坂……」

「うわぁぁぁぁあああああ……」

「……お……同じコトを……言われたよ……」

「ひっ……ヒクッ……えっ……えくっ……」

「アッチの御坂にも……同じコトを言われた……。『どうせ、責任取ってないんでしょ?』って……」

「う……ううっ……えっ……えくッ……ヒクッ……うっ……」

「なァ……それって……そんなにヒドいことなのか?」

「(……えっ!?……)」

「それって、そんなにヒドいことなのかなって?……オレは……ただ目の前で泣いている人を助けたかっただけなんだけどな……」

「(……こっ、……コイツはぁ……)」

「目の前で泣いている人の『不幸』を消してあげたら……それでイイんじゃないのかよ?」

「(プルプル)……あ……アンタは……アンタってヤツは……(プルプル)」

「ヘッ!?……あ……あの……み、……御坂さんっ!?」

「(プルプル)……だ〜か〜ら〜……(プルプル)……それに気付けって言ってんでしょうがぁぁぁああああ!!!……コノッ、ドバカァ〜〜〜!!!!!」

 私はそう叫びながら『常盤台中学内伝 おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機械再生法』をこのバカの頭に叩き込む。

『バキィィィッ!!!!!』

「ゴガァァッ!?」

『ゴロゴロゴロゴロ……ゴンッ!!!』

『ガタガタッ……ガチャンッ!』

 私に『ちぇいさーキック(略称)』を叩き込まれたこのバカは、そのまま転がっていつもの自販機に頭から突っ込んだ。
 そのショックで何か出て来たみたい……。
 後で拾っとこ。

「……ッたく……どうしようも無いバカで……、どうしようも無い鈍感で……、いつもスルースキルが『レベル5』で……、『不幸だー』って言ってる割には自分勝手に色んな事件に首突っ込んで……、その度に入院して、人に心配させて……、その度に関わった女にフラグ立てて……、そのくせ一切回収しようとしないし……、助けた相手の気持ちにだって気付きもしない……」

「イテテテテ……」

「何でこんなバカのことを、私は好きになっちゃったのよぉぉぉおおおおお〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!」

655とある右手の番外編 2:2011/03/21(月) 16:10:46 ID:WAI8tfPM

「イテテ……ヘッ!?……おっ……おまっ……オマエッ……今……何て……?」

「あっ……!!!……(ポンッ!!……//////////)」

「おっ……オレのことが……好きッ!?」

「言うなっ……バカァ〜〜〜ッ!!!」

『バチバチバチッ……ドォォオオオオンッ』

『パキィィィイン』

「うっ……うわぁ……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……何なんだよッ、一体!?」

「……ううっ……悪い?」

「ヘッ!?」

「……私が……アンタのこと……好きになっちゃ……悪い訳?」

「えっ!?……あ……あの……いや……その……そういうコトじゃなくて……」

「だったら何なのよッ!?その反応はッ!!!」

『バリバリバリバリッ……ズドォォオオオオオンッ』

『パキィィィイン』

「おっ……落ち着けッ……御坂ッ……たっ……頼むから……」

「ハア、ハア、ゼー、ゼー、ハア、ハア……」

「……しっかし、……どんな告白だよ?……電撃と共に『好きだ』なんて……」

「だからっ……それを言うなっつってんでしょうがぁぁぁあああああ!!!!!」

『バリバリバリバリッ……ドゥォォオオオオオンッ』

『パキィィィイン』

「ヒッ……ヒエエエエエエ……たっ……頼むから……電撃と共に……告白するのだけはやめて……。オレ……死んじゃうから……当たったら……マジ死んじゃうから……」

「べっ……別に……告白してる訳じゃないわよ……。ただ……ちょっと……本音が漏れちゃっただけで……(ゴニョゴニョ)」

「ヘッ!?……本音って?……オレのことを……『好き』……って言うのが……本音?」

「だからっ……それを言うなって言ってんのよッ!!この、ドバカァァァアアアアア!!!!!」

『バリバリバリバリッ……ドゥォォオオオオオンッ』

『パキィィィイン』

「ヒッ……ヒエエエエエエ……(一体、どうすりゃイイんだよ……オレ……?)」

「そっ……それに……今の私には……アンタより、もっと好きな人が……出来たから……」

「えっ!?……オレより……もっと……好きな人?」

「……うん……」

「だっ……誰だよッ……それっ!?」

「……何で……なんでアンタに……そんなコト言わなきゃならない訳?」

「……きっ……気になるじゃねェかよ……。今さっき『好きだ』って言われたのに……それ以上に『好き』な人が居るなんて……」

「フンッ……べっ……別に……アンタに告白した訳じゃないって言ってるでしょう!?……なんなら……もう一発……(バチバチバチッ)」

「わぁぁあああ……待った、待った、待った、待って下さい、お願いします〜。もう言いません、言いませんから……」

「わっ……分かればいいのよッ!……(//////////)」

「ふ……不幸だ……」

「……」

「……ハァ……」

「……」

「……」

「……ゎ……」

「……ヘッ!?」

「私がアンタ以上に好きになった人って言うのは……別の世界から来た『上条当麻』さん……。私やインデックスが『あの人』って呼んでる人よ……」

「……あ……」

「インデックス……イギリスに帰るそうね。……さっき……会ったわ……」

「……あっ、ああ……」

「……『あの人』に影響されて……『あの人』に応えるために……」

「えっ!?」

「あんな……ただ自分を守ってくれる人に……甘えることしか知らなかった子を……あんな風に変えちゃうなんて……自分から一歩前に進もう……なんて選択をさせちゃうなんて……」

「……あ……う……」

「アンタに出来るのっ!?」

「ううっ……」

「出来る訳無いわよね……ううん、アンタだけじゃない……私にだって出来ないわよ……。でも……『あの人』は……それを普通にやっちゃう人なのよッ!!」

「ぐっ……」

「それが、アンタと『あの人』の差。……それが、アンタと『あの人』の違いなのよ……」

「……う……ううっ……」

「分かるでしょ?……今のアンタがどれだけダメダメで……どれだけ不甲斐ないか……」

「……」

「……『あの人』と比べたら……アンタなんて……アンタなんて……」

「……」

「でもさ……」

「えっ!?」

「言われちゃったんだ……私……『あの人』に……」

「……言われたって……何を?……」

「寮まで送って貰う時に『美琴』って呼んでって……甘えたのよ……。そしたら……」

「……そしたら……?」

「……『呼べない』って……『呼んじゃいけない』って……言われちゃった……ううっ……うっ……」

656とある右手の番外編 2:2011/03/21(月) 16:12:35 ID:WAI8tfPM

「お……オレなら……」

「えっ!?」

「オレなら……呼んでやるけどな……」

「……バカ……」

「ヘッ!?」

「ホンットに何にも分かってないのね……アンタってバカは……」

「そっ……そんなに……そんなにバカバカって連呼しなくったってイイだろっ!?」

「バカだから、バカだって言ってんでしょうが……ホンットにバカなんだから……ホント……こんなのが『あの人』みたいに成長するのかしら?……ハァ……」

「どうせ、上条さんはおバカですよォ〜だ……」

「ホントに、どうしようも無いわね。この期に及んで、これだけ言われて……まだそんな風にしか言えないなんて……。……『あの人』はね……『オマエはコッチの世界でコッチのオレとそういう関係を結んでいかなきゃダメなんだ』……って、言ってくれたのよ……」

「えっ!?」

「辛かったわよ……苦しかったわよ……本気で泣きそうになったわよッ!!!……『あの人』に名前で呼んで欲しくって!!……『美琴』って呼んで欲しくって!!!……でも……それは、絶対に叶わない夢なんだって……教えられて……。……その上、私が進まなきゃならない道まで……教えてくれて……」

「あ……うう……」

「アンタみたいに、その場の優しさだけで人が救えると思ったら……大間違いよッ!!!」

「くうッ……」

「……ア〜ア……ホントに……もう会えないのかなぁ……『あの人』に……」

「……御坂……」

「……会いたい……うっ……会いたいよォ……くっ……上条さん……会いたいよォ〜〜……うわぁぁぁぁあああああん……」

「……あ……お……オイ……御坂……」

「うぇぇぇぇぇええええええええええええん……」

「……くっ……うっ……御坂ッ!!!」

「キャッ!?」

(えっ!?……なっ、なっ、何ッ!?……何が……起こったのっ!?……あ……私……コイツに……抱き締められてる……?)

「ゴメン……こんなことしか出来なくて……こんなことしか思いつかない……バカだから……オレ……」

「……ホント……バカよ……」

「……だけど……だけどさ……オマエに泣かれたら……オレ……どうしてイイか……分かんないんだよ……」

「えっ!?」

「オマエの涙は見たくないんだ……オマエには……御坂にはいつも……笑っていて欲しいんだ……」

「……」

「オマエの笑顔をみると……オレ……ホッとするって言うか……嬉しいって言うか……さ……」

「……バカ……」

「ああ……バカでイイよ。オレはどうしようも無い大バカ野郎さ……。でもな……そんなバカでも『オマエの笑顔を守ってやりたい』って思っちゃ……ダメか?」

「えっ!?(ドキッ!!)」

「オマエの笑顔を守りたい……って、そう思っちゃ……ダメか?」

「……アンタ……」

「……御坂……」

「……あ……」

「……みさ……あ?……」

「ちょろっと〜……アンタ……何しようとしてんのよ?」

「ふえッ!?」

「どさくさに紛れて……何しようとしてんのかって……聞いてんのよッ!!!!!」

「あ……あの……そ……それはぁ……」

「キス……しようとしたでしょ?」

「えっ!?(ギクッ!!!)」

「私のファーストキスを……奪おうとしたでしょっ!!!」

「……めっめめっめっ滅相もない……。こっここっここここ硬派の上条さんが……そっそそっそんなこと……」

「じゃあ何?……私を抱き締めて……顔をこれだけ近づけて……ゆっくり目を閉じてさあ……」

「あっ……いや……だから……ですね……その……(ダラダラダラダラ……)」

「イイ雰囲気になったからって……調子に乗ってんじゃないわよッ……このドバカァァァアアアアア!!!!!!!」

『パッチィィィイイイイイン!!!!』



「ホンットに……いくらイイ雰囲気になったからって……いきなりキスしようとするっ!?……そっ……そりゃあ……私もちょっとは……イイかな……って……思っちゃったりもした……けどさ……(ゴニョゴニョ)……」

「……そう思ったんなら……この一発は……無いんじゃないでせうか?」

(アイツが指差したほっぺには、私の赤い手形がシッカリとついている……ホンットに……バカなんだからッ!!!)

「あのねぇ……女の子にとって……キスは……特にファーストキスって言うのは……本ッ当に神聖なモンなんだからねっ!!!……告白もされないまま、許すと思ったら……大間違いなんだからねっ!!!」

「あ……うう……」

657とある右手の番外編 2:2011/03/21(月) 16:14:34 ID:WAI8tfPM

「……」

「……いたひ……」

「……バカ……」

「……うっ……ううっ……」

「……でも……」

「ヘッ!?……でも……って?」

「一応……私の笑顔を守りたい……って言ってくれたんだし……泣いてる私を抱き締めて……止めてくれたのは……認めなきゃ……ね……」

「お……オイ……御坂……?」

「ギリギリ……合格よ……。但し……ホントにギリギリだけど……ね」

「なっ……何のコトだよッ!?」

「アンタを『あの人』並に鍛え直すってコト。……その素材としちゃあ……まだまだ不満が残るけど……一応ギリギリ合格。ってコトよ……」

「えっ!?……そっ、それって……どういう?」

「そのままよ。……アンタをもう一度一から鍛え直して……私が満足出来る『あの人』並にアンタを教育し直してあ・げ・る♪」

「なっ……何ィィイイイッ!?」

「ねっ……イイでしょっ!?」

「なっ……なっなななななっ何勝手に決めてんだよッ!?……第一オレは、オマエのことを……」

「あッらぁ〜……どさくさに紛れて、学園都市に7人しかいないレベル5の第3位……御坂美琴様のファーストキッスを奪おうとしたのは……ドコのどなたでしたっけぇ〜?」

「うぐっ……」

「アンタは……私の笑顔を守りたいのよねッ!?」

「あ……あ……ハイ……」

「私の泣き顔は見たく無いのよねっ!?」

「……ハイ……」

「さっき、どさくさに紛れて……私のファーストキスを奪おうとしたわよねっ!?」

「……ううっ……ハイ……」

「これだけのことをしておいて……まさか……私の言うことが聴けない……何て言わないわよねぇ〜……」

「……あ……その……だから……それとこれとは……」

(バチバチバチバチッ……ジャラジャラジャラジャラ……)

「ハイ……仰る通りに……させて戴きます……です……」

「んっ……宜しい……エヘッ♪」

「エヘッ♪……じゃねェだろ……はぁ……不幸だ……」

「な〜によォ〜……何か文句でもある訳?」

「めっめめっめっ滅相もない……」

「イイじゃない?こんな美少女がアンタのことを鍛え直してあげるって言ってるんだから。有り難く受けとけばイイのよッ!」

「美少女って……自分で言うか?」

「な〜によォ〜……何か文句があるの?」

「い……いやぁ〜……オマエの……御坂のことは……確かに……カワイいと……思うけどさ……」

「ヘッ……!?(ポンッ!!!……//////////)」

「ん?……どうした?……熱でもあるのか?……顔……真っ赤だぞ?」

「……このバカは……こっから……ココから……鍛え直さなきゃ……いけないのか……?」

「あ……あの……御坂さん?……何をそんなに……震えておられるんでせうか?」

「アンタはねェ……まず、その鈍感さとォ……フラグ体質をどうにかしなさいよッ!!!!!……このドバカァァァアアアアア!!!!!!!」

『バチバチバチッ……ドドドドドォォオオオオンッ!!!!!』

「ふっ……不幸だァ〜〜〜ッ!!!!!」

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

(……もう……ホンットに苦労させられそう……)

(ねェ……インデックス……今は、本当にどうしたらイイのか分からないけれど……とりあえずは……これでもイイよね?)

(今度……もし……『あの人』に会える時が来たら……その時、私は……どんな顔で会うことが出来るのかな?)

(インデックス……アンタは、その時……どんな顔をして『あの人』に会うのかな?)

(私とコイツの時間はまだ始まったばかり……だもんね……)

(第一、告白も何もしていないんだし……『好きだ』とは言っちゃったけど……アレは……ちょっと違うし……)

(上条さん……私の一番好きな人……それはまだ……変わりそうにありません……)

(でも……貴方に応えたいから……今度会う時に……貴方の目を真っ直ぐに見たいから……私は前に進みます)

(見守っていて下さいね……上条さん……あのメールが……消せるように……なるまでは……私が世界で一番好きな人……)



 to be Continue...?

658Mattari:2011/03/21(月) 16:24:43 ID:WAI8tfPM
ということで、以上になります。

最後の『to be Continue...』に「?」を付けたように、続けるかどうかはまだ分かりません。
続けたい気もするし……このまま一度終わらせてもいいな……とも思うし……。
ストーリー的に長編と被ったりもしそうだし……。というのが正直なところです。
ですので今は、……機会があったら……ということにさせて下さい。

でも……引っ付いてないんですよね……この二人……。エヘッ♪

ではでは、お楽しみいただけたら幸いです。<(_ _)>

659夢旅人:2011/03/21(月) 16:52:27 ID:aai5iaU2
>>658
GJです。
私的には、今後の展開が鬱方向に行く気がして切ないですね。
美琴が「知ってしまった」分、上条さん側によっぽどの成長機会がないと、
これからの関係維持が出来ない気がします。
あっちの「上条当麻」とは違う魅力がないと、美琴の気持ちが上書きされないように思えて。
上条さんがどっかで一気に一皮向ける経験がないと、美琴の気持ちが全て向くことが無い。
美琴の心の中に、違う恋愛対象を持ってしまうことで、
いつまでたっても上条さんが「上条当麻」の代わりでしかならないことが続いてしまうかと。
あくまで私見ですが。
もちろんこれは良い作品には変わりないと思います。

660■■■■:2011/03/21(月) 16:57:22 ID:tZPyPhuU
おお・・・続きが来てた
>>648
上条さん達ふつうにラブラブだ!
>>657
上条さん・・・これは怒っていい
こっちの上条さんが可哀想すぎる・・・

661■■■■:2011/03/21(月) 17:03:19 ID:Xa9Lq5rs
幻想を押し付けられても正直迷惑だよなあ
現実逃避してるだけにしか見えません

662■■■■:2011/03/21(月) 19:02:46 ID:ftXieugU
きっと、きっと御坂妹がガツンといってくれるはず・・・
御坂妹ならこの上条さんの苦しみがわかるはず。
・・・あれ?御坂妹ルートががが

663■■■■:2011/03/21(月) 19:14:29 ID:emXpF9kU
Mattariさんの投下見ていつも思うけどハイペースすぎw
その速筆っぷりには尊敬します

664■■■■:2011/03/21(月) 19:16:05 ID:0JMvPv8k
 
ラッシュパネェ!!

665■■■■:2011/03/21(月) 19:46:14 ID:6JwXXjlc
>>658
>>659
まあ今のままだとあくまで美琴が好きなのはむこうの世界の上条さんであってこっちの世界の上条さん
じゃありませんからね。
こっちの上条さんはこっちの上条さんであって、それをむこうの上条さんに近づけようとするなんてこっちの
上条さんの人権を無視した本来言語道断な行為なんであります。
じゃあこっちの上条さんはいったいなんなんだ、と(ああややこしい)

鬱方向になるかどうかまではわかりませんが、普通に考えたら美琴が意識変革をしない限り自然消滅
しますね、このカップルは。
こっちの上条さんをこっちの上条さんとして好きになって、いっしょに人生を歩いていこうとする、美琴では
ない別のパートナーを選んだ方が上条さんにとってプラスになりますから、今のままだと。
もちろん美琴にとっても同じ。
むこうの上条さんの影をずっと追い続けているなんてかわいそうすぎますよ。
なんかね、上条さん、その辺を考えて自分から身を引きそうなんですよ。自分がいる限り美琴はむこうの
上条さんの影に縛られ続ける、だから自分は消えよう、なんて考えて。

美琴自身、上条さんの何に惹かれたのか、という所からもう一度見つめ直して本当の意味でゼロから
二人の関係を構築し直さないといけないんですが……さすがに中学生にそこまで求めるのは厳しい
ですしね……。
唯一の救いは「神は乗り越えられない試練は与えない」という一文でしょうか。
なんとかなる、んでしょうか?


……結局あの右手は何がしたかったんだよ。お前が不幸の元凶じゃねーか!

長文申し訳ありません。
あと、Mattariさんの作品自体を批判してるわけでもないんですよ、本当。面白くなければわざわざ感想書きません。
けど、気に障ったらごめんなさいです

666Mattari:2011/03/21(月) 20:12:56 ID:WAI8tfPM
いやぁ……色々な意見が出てるなぁ……。
様々なご意見、本当にありがとうございます。
ココはそう言う議論をするトコロじゃないと聞いているので、敢えて話はしませんが……。

これだけ反響があると……続けざるを得ませんねぇ……。
ある意味、皆さんに対する反論は作品のでき次第……になるかな?

でも、本当に嬉しいです。これだけ色々言って戴けるなんて……。
落ち込むよりも、逆に創作意欲をかき立てられてたりします。^^;

そういう意味では楽しんで戴けている……と解釈してイイのかな?(^_^;)\(・_・) オイオイ

667■■■■:2011/03/21(月) 20:28:40 ID:1CdUnZ5Y
GJです!
これって>>659>>665で書かれてた琴を上手くまとめて書いてけば凄い良い作品になる気が…
続き(あればですが)期待してます

668■■■■:2011/03/21(月) 20:28:59 ID:HhCNoPB6
その後、上条は、美琴と一緒にいると、辛そうな顔になる。
美琴が指摘すると、上条に、お前は俺に何を求めるのか?俺ではなく、向こうの上条の代わりを求めているんだろう言われ、自分が上条を傷付けていたことに気付く。
上条は約束があるから、美琴の前からいなくなることはないが、美琴との恋愛感情は消滅し、他の女性といい関係になる。
それを見た美琴が、あらためて、上条を意識し直し、自らの行いを上条にざんげ。あちらの上条への想いをリセットし、また一からやり直そうと提案。
しかし上条の外行き騒動、ロシア行き等が発生し、上条不在になる。
行方不明騒動で、美琴は自分の気持ちを再確認させられ、よりこちらの上条を恋しくなり、上条帰還後は、ベタ甘に。上条も一皮剥けて、また違った魅力で美琴の心を上書きし、あちらの上条は、美琴の中では単なる過去の思い出の一つになりました、ちゃんちゃん。
と妄想した。

669■■■■:2011/03/21(月) 20:57:32 ID:1CdUnZ5Y
>>668
完璧だな
あとはこれをちゃんとした作品にするだけだ

これとはちょっと違うけどインデックスを悲しませないために記憶喪失を隠して今までと同じ上条当麻を演じてたのと似てるよね

670■■■■:2011/03/21(月) 21:44:43 ID:HhCNoPB6
上条が、御坂妹の前で、
「俺は、俺なのに、こんな俺では駄目なのか?」と言わせた後、
「でも美琴が望むなら、美琴の笑顔のためなら、俺は、美琴の望む俺を演じてやるよ」と言う。
それで御坂妹が美琴に宣戦布告する。
私達の大切な人にそこまでさせるのは許せない。例え理想的でなくてもいい。私達は、そのままの上条を受け入れると。
その言葉に愕然とし、上条から身を引こうとするが、上条にお前はそれでいいのか、それで気が済むのかと言われ、迷う。
俺は美琴の気持ちが決まるまで待つよと言われ、自分の中のあちらの上条を精算しようと決断。
その間に上条が外へ行ってしまう。その時、自分にとって上条はなんなのか自問自答。
自分の中の幻想に気付き、待つと言ってくれた上条の愛を理解する。
というのもありかな。

671■■■■:2011/03/21(月) 21:58:25 ID:MsjO5xTw
妄想で変にハードルを上げてやるなよ…

>>669
でもあっちは記憶ある振りしてるだけで基本自然体だったんだよな

672■■■■:2011/03/21(月) 22:03:56 ID:HhCNoPB6
ついでに、現れたあちらの上条に、美琴は、
アンタのおかげで、こちらの上条も、私も不幸になった。アンタにその気はなかったかもしれないが、アンタの存在そのものが今は憎い。そんな幻想をばらまかれるのは迷惑だ、二度とこちらに来るなと拒否する。
あちらの上条も思わぬ結果にショック。
成長は、それぞれの歩みでしていくもので、例えゆっくりでも構わない、成長しているつもりでも、気付かない事はたくさんあるというのを理解する。
というエピソードを入れたら私的にOKかな。

673■■■■:2011/03/21(月) 22:08:17 ID:HhCNoPB6
>>671
すんません。自重します。

674■■■■:2011/03/21(月) 22:11:17 ID:Va3EXJso
「あんたよりずっと好きな人がいるけど、あんたも好きだから私の理想に近付けてあげる」って言われてムカっとしない男の子はいないよね‥しかもコッチの上条さんまだ美琴を好きって段階までいってないし‥
しかし、インさんと美琴の鍵のやりとりは、正直イラッときた。
散々甘えといてアッチがいいって‥
ココまで感情を揺さぶる作品を書いたmattariさんGJ

675■■■■:2011/03/21(月) 22:27:07 ID:C9QXq9zM
>>658
引っ付くまでやるって事で、OK?w
        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

676■■■■:2011/03/21(月) 23:32:23 ID:L1ySYj6Q
>>666
うーん…
さすがにちょっと、私は好きになれないですね、この美琴のキャラ。
こんな風になる美琴を想像出来ないというか…
この美琴が、最終的に上条さんとくっつくことを希望するようになっても、応援する気になれない感じがしますね…
アクの強い作品にするにしても、別のやり方があったんじゃ?と思ってしまいます。
上条さんも、原作にもある「情けなさ」とはちょっと種類が異なり、かけ離れ過ぎてると言いますか…

二次創作とはいえ、そのキャラの「根っこ」や「芯」といった、変えない方がいい部分を変えてしまっているように思いました。


あくまで個人的な感想です。

677■■■■:2011/03/21(月) 23:59:06 ID:MsjO5xTw
>>676
まあ神の右席と戦うことのない原作よりも未熟な上条だろうしな

678■■■■:2011/03/22(火) 00:20:59 ID:xRLHPTGI
>>666
なんか深いな…
二次作ssでキャラ崩れしておかしいと思うssは結構あるけど、この作品はなんかおかしいようなおかしくないような…(作品否定はしてません
>>676の言うとおり根を曲げるのはよくないけどこういうssで美琴みたいな傲慢キャラを好きになるにはこういう嫌なところも知らなきゃいけないって再認識させられた

関係ないけどアンチってのはこういうところを知って諦める人なのかとかも…

でもまた上琴に感心が持てましたよ。サンクス

679■■■■:2011/03/22(火) 00:21:42 ID:xRLHPTGI
>>666
なんか深いな…
二次作ssでキャラ崩れしておかしいと思うssは結構あるけど、この作品はなんかおかしいようなおかしくないような…(作品否定はしてません
>>676の言うとおり根を曲げるのはよくないけどこういうssで美琴みたいな傲慢キャラを好きになるにはこういう嫌なところも知らなきゃいけないって再認識させられた

関係ないけどアンチってのはこういうところを知って諦める人なのかとかも…

でもまた上琴に感心が持てましたよ。サンクス

680■■■■:2011/03/22(火) 00:22:15 ID:xRLHPTGI
2連ごめん

681■■■■:2011/03/22(火) 00:36:33 ID:q8QNjPXs
傲慢キャラ……?

682■■■■:2011/03/22(火) 00:46:47 ID:GfvCcMQo
>>679
いつから原作の美琴が傲慢キャラになったんだよ…SSとごっちゃにしちゃいけない。後アンチについては理解しようとしたりするのは無駄かと思うよ、正直あの人らの言ってること滅茶苦茶

683■■■■:2011/03/22(火) 01:04:23 ID:3Fb7UrTc
ss読んで特定キャラアンチになるって…

684■■■■:2011/03/22(火) 03:13:26 ID:9Vfx7gxg
>>666
GJです、すごく面白かったです。

皆が言っているように、理想を押しつけられたら別れ√になるのかなぁ・・・
鬱でもハッピーでもいける雑食の自分はwktkしながら待っています!!!

685■■■■:2011/03/22(火) 03:54:36 ID:almTZ1C2
最初から最後まで美琴が下種すぎて辛い・・・もっと好きな人がいるのに随所でイチャついちゃう
のが更に醜悪さを際立たせてる、正直この美琴は好きになれそうにないなぁ。
他の人の変わりを求められて好きとか言われても・・・100年の恋も冷めるLV。
一度別れないとこっちの上条さんの大切さには気づけないんじゃないのかな?
>>668さんのは凄く自然でいいね。

686■■■■:2011/03/22(火) 03:55:19 ID:ke.E.CT6
>>666
GJです
上条が美琴の幻想を壊せるようになることを祈っています

にしてもこれ右手の責任重大だよね…

687■■■■:2011/03/22(火) 06:56:26 ID:qVUDzBqs
上条さんと美琴たちの、若くて未熟な恋愛模様があって良いと思う。
恋に恋する美琴が、本物の恋に気付くまでに、紆余曲折があった方が、リアルでいい。
たくさんの障害を乗り越えて結ばれる方が、より絆が強くなるものだし。

688■■■■:2011/03/22(火) 09:46:37 ID:Iq3LCGeA
>>666
最後の美琴の独白が酷過ぎる。
美琴がゲスすぎないか?

689■■■■:2011/03/22(火) 10:07:51 ID:Hbn55rvc
あっちの世界の上条さんを物語スタート時にヒロインが片思いしてる完璧野郎に置き換えたら
別におかしくも何ともない物語なんだよね、この話って。
そういうヒロインならいくらでもいる。軒並み読者人気はないけどw

ラブひななんかもそんな感じじゃないかな?
ただみんなも言ってるようにこのままじゃ美琴がただの嫌な女なんで、上手く調理してもらえることを期待してます。
てかホント、お願いします……。
てかね美琴さん、「ウザイ」とまで思った(つまり本心)相手にすぐ「好き」だと言っちゃまずいでしょ、人として。

そういえばあっちの上条さんもなんだかんだ言って行動失敗したんだよね。
相手の心の成長度合いやなんやらを考慮せずに正解を教えちゃった。
で、美琴もインデックスもその正解に従って(判断したのは自分とはいえ)行動している。そこには自らの経験や
気づきによる考えはない、だから上条さんだけ取り残された感がある。
皆が感じた美琴やインデックスに対する嫌悪感はその辺りから来てるんじゃないかな?
そう考えればあっちの美琴は上手くやったんだな、と。あくまで上条さん自身の成長を促そうとした。
だからこそこちらの上条さんはまだ美琴に恋すらしてない。
そこも含めて自分でやりなさいと持っていったっぽい(あくまで予想ですが)

ダラダラ言いましたが、まあ、なんつーか……コラ、右手! 元はといえばお前達がいたずらで始めた行為
からこんな大変なことになったんだぞ!
笑って済ませられっか!上条、美琴、インデックス、三人の心や人生弄んでんじゃねー!
そんな貴様らの勝手な幻想をブチ……殺せねー!

690■■■■:2011/03/22(火) 10:19:03 ID:76y26Apg
まあ>>666は製速向きだったんだろうね・・・
いちゃスレは原作設定を上手に使う人の支持が高いから、
今回は拒否反応が多く出ちゃってる感じ

691まずみ:2011/03/22(火) 14:15:34 ID:4BSxnbGY
こんにちは。
お久しぶりです。まずみです。
久々に投稿に参りました。

以下レスです
>>491
ズルイとは思いますwでも、素直になれない美琴ではあれで精一杯なのですw
しかも、今回、前回の事の顛末が明らかになったので、何ともなんですけどねw

>>492
口調に関しては毎度悩みながら書いてます。特にインデックスについては自分でも違和感感じるほどでした。
ただ、吹寄、姫神についてはここまで恋愛感情をストレートに表現するキャラではないので、アニメ版の声で馴染むかどうかを基準に作りました。
一応、今回口調気にしながら作ってみたんですが、余計に違和感出た気がしたりもしますね・・・
困ったものです・・・

それでは、『恋する美琴の恋愛事情』その5『戸惑う美琴の放課後事情』をお楽しみください。

692『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:16:16 ID:4BSxnbGY
「……はぁ」

 常盤台からの帰り道、放課後にクラブ活動といった用事のない御坂美琴はいつもの帰り道を一人で歩いてい

た。しかも、その足取りは重い。普段ならば、自分を慕う白井黒子や初春飾利と言った面々が傍にいるのだが

、残念ながら本日はジャッジメントの業務のためその姿はなかった。
 しかし、足取りが重い理由はそれではない。先日の件が未だ尾を引いているのである。

「……なんで……なんであんな事言っちゃったんだろ……」

 美琴は先日の遊園地での出来事を思い出す。

『私がアンタの事好きだって言ったら信じる?』

 それはする予定がなかった筈の告白。恐らく、自分以外の人間が彼に想いを寄せていることが明らかになっ

たがための焦りであり、美琴の中にある不明確な感情が生み出した結果。
 だから、その時のことを思い出すと美琴の足取りは重く、気分は沈んでしまう。

「……はあ…私ってバカだ……」

 何度目かになる後悔。そして、溜息。
 いくつ重ねようが進展がないのに、何度つこうが目に進めないのに、美琴はそこに逗まる以外の手段を持ち

合わせていなかった。


      ********

693『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:17:22 ID:4BSxnbGY
「アナタは上条当麻のことが好きなの?」

 あの日、上条当麻とインデックスの二人を場所取りという名目で追いやり、3人で話し合いを持ったとき、

胸の大きな少女――吹寄制理は開口一番、美琴にそう訊いてきた。

「……う、うん……ううん、違う」

 一瞬の戸惑い。今の自分の上条当麻への気持ちを誰かに聞かせた事はない。だから、第三者である彼女たち

に言うのも気が引けたし、それに美琴を見つめる吹寄の迫力に飲み込まれそうになったため、生返事になりそ

うになった。だけど、美琴の心に生まれたのは『負けられない!』という想い。目の前にいる彼女達と対等以

上に渡り合ってやると、正面から睨み返し、はっきりと自分の心を告げる。

「私は……私は上条当麻が好き!」

 そんな美琴の態度に吹寄はただ柔らかい笑顔を浮かべただけだった。

「そう。それは羨ましい事ね」

 そして、次に長い黒髪の少女――姫神に向き直る。

「姫神さんは……聞くまでもないわね。同じく上条の事を――」
「うん。好き」

 はっきりと言いきった。これに対して吹寄は苦笑いを浮かべる。知っていたこととはいえ、いや、それ以上

に断言されてしまったのだから。

694まずみ:2011/03/22(火) 14:18:31 ID:4BSxnbGY
スミマセン。
またやってしまいました。

再度、投稿し直します。
お手数をおかけし申し訳ありません。

695『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:19:07 ID:4BSxnbGY
「……はぁ」

 常盤台からの帰り道、放課後にクラブ活動といった用事のない御坂美琴はいつもの帰り道を一人で歩いていた。しかも、その足取りは重い。普段ならば、自分を慕う白井黒子や初春飾利と言った面々が傍にいるのだが、残念ながら本日はジャッジメントの業務のためその姿はなかった。
 しかし、足取りが重い理由はそれではない。先日の件が未だ尾を引いているのである。

「……なんで……なんであんな事言っちゃったんだろ……」

 美琴は先日の遊園地での出来事を思い出す。

『私がアンタの事好きだって言ったら信じる?』

 それはする予定がなかった筈の告白。恐らく、自分以外の人間が彼に想いを寄せていることが明らかになったがための焦りであり、美琴の中にある不明確な感情が生み出した結果。
 だから、その時のことを思い出すと美琴の足取りは重く、気分は沈んでしまう。

「……はあ…私ってバカだ……」

 何度目かになる後悔。そして、溜息。
 いくつ重ねようが進展がないのに、何度つこうが目に進めないのに、美琴はそこに逗まる以外の手段を持ち合わせていなかった。


      ********

696『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:20:17 ID:4BSxnbGY
「アナタは上条当麻のことが好きなの?」

 あの日、上条当麻とインデックスの二人を場所取りという名目で追いやり、3人で話し合いを持ったとき、胸の大きな少女――吹寄制理は開口一番、美琴にそう訊いてきた。

「……う、うん……ううん、違う」

 一瞬の戸惑い。今の自分の上条当麻への気持ちを誰かに聞かせた事はない。だから、第三者である彼女たちに言うのも気が引けたし、それに美琴を見つめる吹寄の迫力に飲み込まれそうになったため、生返事になりそうになった。だけど、美琴の心に生まれたのは『負けられない!』という想い。目の前にいる彼女達と対等以上に渡り合ってやると、正面から睨み返し、はっきりと自分の心を告げる。

「私は……私は上条当麻が好き!」

 そんな美琴の態度に吹寄はただ柔らかい笑顔を浮かべただけだった。

「そう。それは羨ましい事ね」

 そして、次に長い黒髪の少女――姫神に向き直る。

「姫神さんは……聞くまでもないわね。同じく上条の事を――」
「うん。好き」

 はっきりと言いきった。これに対して吹寄は苦笑いを浮かべる。知っていたこととはいえ、いや、それ以上に断言されてしまったのだから。

697『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:21:10 ID:4BSxnbGY

「貴女はどうなんですか?」

 今度は美琴が聞く番だった。先ほどの様子から察すれば、この吹寄と言う少女も上条当麻の事を……

「そうね。正直にいえば『わからない』かな」

 しかし、予想外な答えが返ってきた。

「……バカにしてるの?」

 今度は美琴が睨みつける番だった。自分は気持ちに正直に答えた。なのに、はぐらかすようなその回答に美琴の心に怒りが湧き上がる。好きなら好きと言えばいい。目の前の黒髪の少女のように。それを誤魔化すなんて信じられなかった。

「申し訳ない。バカにしているわけではないの。だけど、私には好きかどうかの判断が出来ない」

 その言葉に嘘は無い。だから吹寄はまっすぐに美琴を見つめる。

「でも、上条に遊園地に誘われて嬉しかったことは事実だし、そしてそのことに浮かれてた事も認めるわ。だけど、これが恋かどうかは私にはわからないのよ」

 先ほどまでと違って不安そうな表情。それを見て美琴は『ああ、昔の自分と同じなんだ』と理解する。
 あの日、病院を抜け出し誰かのために戦おうとしているアイツを見て、それを止める事が出来なかった自分に残された感情が恋だと気づくまではわからなかったあの日の自分と同じ。恋を恋として自覚できない不安定な気持ちを抱えた状態。本当にアイツは何人の女性を苦しめる気なんだろう。

「……それを恋って言うんだと思うけど」

 姫神がボソリと呟く。しかし、その呟きに美琴は目を見張る。それは自分の感情に戸惑った経験のある美琴にとって簡単に言える言葉ではない。
 ああ、この人は強いんだな、と美琴は思う。外見がしっかりしている吹寄は恋に迷い、儚げな雰囲気の姫神は恋に突き進む。なんと対照的な構図だろ。こんな人が敵になるんだと思うと美琴は不安と同時に楽しみを感じた。

「それで?私達3人で集まって何をするつもりだったんですか?」

 吹っ切れた表情で美琴が吹寄に問う。今更迷う事が馬鹿らしく思え、自分も負けたくないという美琴本来の気性が戻ってきていた。そう、負けない気持ちとそれを支える心の強さが美琴の武器なのだ。

「それが貴方の本性なのね。常盤台のエースさん」

 なんだか嬉しそうに吹寄は美琴に微笑んでいる。どうやら吹寄は美琴の正体に気付いていたらしい。だからと言ってそれに対して後に下がるような吹寄ではない。むしろそんな人間が全力で向かってきてくれる事が嬉しいのだろう。

「それで、何をするの?」

 姫神の表情は変わらないが、彼女もまた前に進むタイプなのだろう。全く動じる様子はない。

「多分、二人とも私と同じように上条の為にお弁当を作ってきたのでしょ?」

 ニヤリと笑う吹寄に対し、ズバリ当てられた二人は顔を真っ赤にする。

「アイツにこのまま振り回されるのは私の性にあわないから、こっちから攻めてあげましょう」

 どうやって?と美琴と姫神の頭上に?マークが浮かぶ。

「こちらがお弁当持って強気に出てやればアイツの事だ、勝手に自爆し、大慌てするだろうよ」

 と、なんだか嬉しそう答える吹寄。その態度でさえ幸せそうに見えるのは気のせいか。
 しかし、吹寄のその言葉通り、3人がお弁当を差しだし強気で迫った結果、上条当麻は混乱の極みになってしまい慌てるその姿を見て3人とも胸がすく思いだった。

 食事の後「上条当麻、私たちを戸惑わせた罰だ。私達4人それぞれのための時間を作れ」という吹寄の命令により、当麻は吹寄、姫神、インデックス、美琴の順でそれぞれの乗りたい乗り物にペアとなって乗る事になった。そこで告白するも自由だったのだが、吹寄も姫神も告白しなかったようだった。だから、美琴の番となった観覧車でも同じようにただ同じ時間を過ごすだけにするつもりだった。なのに……


      ********

698『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:21:45 ID:4BSxnbGY
「あんな事言うつもりじゃなかったのに……」

 自分の気持ちを吐露してしまった。他の二人はしなかったのに、自分だけが行ってしまった、まるで裏切りの気分だった。足取りが重くなるのも仕方がない事だろう。

「それに、結局……」

 観覧車の中で自分が口にした台詞に驚いて慌てて口をふさいだが、既に後の祭り。当麻は驚きの表情のまま固まっていた。

「………」
「……は、ははは……冗談よ。冗談に決まってるじゃない。なに驚いた顔してるのよ?…それとも何?美琴さんがアンタを好きだって本気で思ったの?…はは…そんなわけ……ある訳ないじゃない……」

 結局自分の気持ちを自分の言葉で押し潰してしまった。しかも、本心ではない言葉で。
 美琴と当麻を載せたゴンドラが一番下につくまで、美琴は一人喋り続けた。会話の内容なんか覚えていない。もしかしたら、支離滅裂な会話だったかもしれない。それほどに美琴は自分の行動に慌て、消し去りたかった。

「……私って最低だな……」

 その時の当麻の表情を美琴は見ていない。おそらく見ていたら、何も言えなくなっていただろうから。だから知らない――上条当麻がそんな美琴を辛そうな表情でい見ていた事を。

「……あれ、御坂さん?」

 そんな、この世に絶望したような悲壮感を漂わせた美琴を背後から呼び止める声があった。

「……どうすればいいのかな……」
「…御坂さん?」
「……私、もう駄目なのかな……」

 しかし、自分の迷いの中にいる美琴にはその声は届いていなかった。

「御坂さんっ!!」

 だから、迷わず少女は声を張り上げた。

「えっ!?…え?何?……佐天さん?」

 美琴は驚いて声のした方向に振り返る。そこにいたのは今の美琴とは正反対のように身体中から生きる活力を漲らせた黒髪の少女――佐天涙子がいた。

「ん?どうしたの佐天さん」

 美琴は悟られぬよう表情を作り、普段と同じ笑顔を佐天に向ける。

「むっ」

 しかし、佐天はそんな美琴の態度に納得いかないのか顔をしかめる。
 佐天にとって美琴は憧れてやまない超能力者(レベル5)、だから無能力者(レベル0)の自分には判らない悩みがある事など重々承知だ。しかも、それこそ能力がらみの悩みなら自分にはどうしようもない事は良く分かっている。だとしても、そんな自分にも出来る事がある、ほんの僅かでも美琴の力になれる事がある、と佐天は考えている。だから、佐天は少々強引な手段をとる事にした。

「御坂さん、ついてきて下さい!」
「え!?佐天さん、何処に!?」

 美琴の手を強引に取り、引っ張るように歩き出した。


      ********

699『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:22:24 ID:4BSxnbGY
「御坂さん、洗いざらい吐いてもらいますよ」

 佐天が連れてきたのはどこにでもあるチェーン店のコーヒーショップ。常盤台の学生が来るようなお店ではないが、リーズナブルさで佐天達一般学生には縁のあるお店だ。

「洗いざらいって、私何も隠し事なんてしてないわよ」

 美琴は佐天の前で笑顔を作ったまま崩そうとはしない。佐天もそれが判っているから追求を止めようとしなかった。

「そうですか。御坂さんがそうおっしゃるなら、そう信じたいところなんですが。あの時の質問をここでもう一度させて頂きますね」
「質問?」
「はい、質問です」

 美琴には佐天が何を言おうとしているのかわからなかった。だけど、真剣なその瞳に視線をそらす事が出来なかった。

「御坂さん。いま、あなたの目には何が見えてますか?」
「っ!?」

 その質問には覚えがあった。<乱雑開放(ポルターガイスト)事件>でテレスティーナ・木原・ライフラインに苦しめられ、自分一人で全てを解決しようと焦っていたときに言われた言葉だった。

「私が御坂さんの力になれるとか、役に立つとは決して言えません。でも、御坂さんが苦しんでいる事は私にだってわかるんです。もし、話すことで少しでもその苦しみを軽くする事が出来るなら、聞くだけしかできない私に話してもらえないですか?」

 ああまただ――美琴は何度目の前の少女に思い知らされるのだろう。自分は一人じゃないと。
 確かに、当麻の事は話し難い。でも、こんな真摯な瞳を向けてくる友達が信用できないほど自分は人を信じれないと思いたくなかった。

「黒子には秘密にしてね」

 そう言って、美琴はその笑みを崩し、その眼に哀しみを湛えた、一人でいたときの表情が浮かびあがる。そして、ゆっくりとあの日の出来事を話し始めた。

700『戸惑う美琴の放課後事情』:2011/03/22(火) 14:23:00 ID:4BSxnbGY
「御坂さんは本当にその人の事が好きなんですね」

 話を聞き終わった佐天は優しい微笑みを浮かべて美琴を見つめた。

「……うん」

 恥ずかしげに、でもしっかりと美琴は頷く。親友に嘘はつきたくないから。

「ねえ御坂さん、誤魔化したのは本当はその人たちに遠慮したって訳じゃないんじゃないですか?」
「え?」
「これは私の予想、というか思いつきでしかないんですけど、御坂さん、その人が自分の事をどう思ってるか知るのが怖くなっちゃったんじゃないんですか?」

 それは予想外な言葉だった。

「……私がアイツの事を知りたくない?」

 何か自分の存在を否定されたかのような言葉だった。自分でも血の気が引くのが解る。

「ち、違います!」

 そんな美琴の様子に慌てて佐天は否定の言葉を重ねる。

「御坂さんはその上条当麻さんのことを知りたいって思ってるのは確かなんですよ。でも、これは私にも思い当たる事ですけど、人を好きになった時、相手が自分の事をどう思ってるのか知りたいって思うと同時に、相手の気持ちが自分と異なっている可能性を考えてしまって、知りたくないとも思ってしまうんですよ」
「………」
「だから、その誤魔化した時の御坂さんの心情って恐らくその知りたくないって気持ちが強くなっちゃったんじゃないかと思うんですよ」

 自分はなんて弱いんだろう。つくづく美琴は思い知らされる。
 能力レベルは"自分だけの現実(パーソナルリアリティ)"の確立の差だと人は言う。だけど、そんなものでは自分の気持ちさえ判らないではないか。

「……で、でもアイツは何も言ってくれなかった。私に一言も言葉をかけてくれなかった」

 そう、何よりも悲しかったのはその事。自分で誤魔化したこととはいえ、何か言ってほしかった。例えそれが美琴の我が儘だとしても。

「恐らく、上条さんも戸惑ったんだと思いますよ。何を言うべきなのか。だから、御坂さんは今度こそ上条さんに自分の気持ちをぶつけるべきだと思いますよ」
「で、でも!?」

 美琴は焦る。そう、さっき佐天が言った通りだ。自分はアイツの気持ちを知るのを怖がっている。アイツがもし自分の事を何とも思ってなかったとしたら……

「御坂さん、真実を知るのは怖いと思いますよ。でも、今のままでいいんですか?」
「そ、それは……」
「ほら、良いとは思ってないじゃないですか。だったら、もうアタックするしかないと思いますよ」

 佐天は少し意地悪な表情を浮かべて、台詞を続けた。

「それとも、上条さんはそんな御坂さんの気持ちも考えずいい加減なことしかできないような男性なんですか?」
「そんなことない!アイツはそんな奴じゃない!どんな事だって真面目に正面から受け止めてくれる!!」

 美琴は真っ赤な顔で反論する。そして、にやけた表情の佐天を見て"言わされた"事を認識した。

「……ふ、ふにゃぁ」
「うわぁ、御坂さん!止めて下さい!こんなところで漏電は駄目ですよ!!」

 流石に幻想殺しの能力を持たない少女には美琴の漏電はどうしようもないのだが、それでも佐天の表情からは微笑みが消えなかった。憧れる「レベル5」の少女が素直に自分に相談してくれた事。それがとてつもなく嬉しかったから。

 そして、心から溢れだす想いを止められない事は自覚した少女は決意する。

――今度こそ私の想いを伝えてみせる!

701まずみ:2011/03/22(火) 14:31:08 ID:4BSxnbGY
以上となります。

またしてもスミマセン。
無駄レス3つも作ってしまいました。
本当になんとお詫びしていいものやら……申し訳ありませんでした。

さて、上でも書いてますが、吹寄、姫神の口調に関して、ちょっと変えてみました。
これでどうかな・・・と不安ではあるのですが、如何でしょう?

今回美琴が窮地に立たされます。というか、自分で自分を追い込んだだけですが。
そこに登場する佐天さん。やっぱ、彼女は良いキャラだとつくづく認識。
例え相手が自分より年上でも、例え相手がレベル5でも、怯まずに真正面からぶつかれる。

今回アニメ版超電磁砲の例の台詞を引用させてもらったんですが、如何でしょうか?
恐らく、ここまで佐天さんは強くないよと思われる方がいるかもしれませんが、
自分的に恋の相談役としては彼女が一番心強いかなと思っているので、強い立場にさせて頂きました。

ということで、次回はついに告白編!
この物語も告白で終わるのか、それとも続けるのか未定ですが、
皆様の感想をお待ちしております。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

702■■■■:2011/03/22(火) 18:44:33 ID:4p.MaOo.
FJ!

703■■■■:2011/03/22(火) 19:50:16 ID:uqNSrOyY
>>701
> 「申し訳ない。
> 大慌てするだろうよ」
俺の吹寄がこんなに男前なわけがない!w

    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

704つばさ:2011/03/22(火) 20:03:01 ID:44rbrk6A
こんばんは。
本当の本当に遅くなりましたが「愛妻弁当はまだ早い」>>533-540>>596-604の続きを5分後に投下したいと
思います。読んでいただければ幸いです。
ただあまり期待はしないで下さい、そんな明るい話にもなってませんし。


感想くださった方、ありがとうございます。簡単ですが返事です。
>>606
なるべく恋する女の子なら仕方ない嫌さを心掛けてみましたが、そう言っていただけて安心しました。
>>607
結局は二次創作ですから、必要以上にキャラを貶める行為は作者にもファンにも失礼だと思ってますんで
(除ギャグ作品)。だからそんなに気を配ってるわけでもないですよ。
>>608
最初はインデックスの心情描写はほとんどなかったんですが、読み直してる内にさすがに不憫になって
しまいまして。インデックスだって女の子なんだよな、と。
>>609
違和感なかったですか、よかったー!
>>610
落差はまあ、エンタテインメントの基本ですから!……美琴さん、ごめんなさい。
>>611
きついですよね、軽い話を書くはずがどうしてこうなったんだろう?

>>612>>夢旅人さん
なるほど、そういう考えもありますね。
いや、いやいやいやいや。面白い!今回は無理でしたがインデックスとの決着編の時にはそのアイディアを
使わせて……嘘です、ごめんなさい(今回のインデックスはそのギャップを振り切っちゃってるんで悩めない
&悩んでしまうと、話の展開まで変わってしまう)
うーん、でもそっちのネタの方が確かに面白いなー。やっぱ急ごしらえのインデックス言い訳は厳しかった
か……。
こんな意見が聞けてホント嬉しかったです。ありがとうございます。
後半のご意見に関しては、私は基本的にヒロインを固定させてしまう傾向にあるので、機会があれば私も
挑戦してみたいですね。

>>613>>Mattariさん
甘えか……書いてる本人が気づいてなかった視点だなー。確かにその視点で読み直してみるとそうも読め
ますね。書いた当人のくせに何言ってるんでしょ、私w
私自身気づかなかった読み方をしていただけて、お恥ずかしいですが作者冥利に尽きました。

それでは『愛妻弁当はまだ早い』です。

705■■■■:2011/03/22(火) 20:03:37 ID:ke.E.CT6
>>689
>そういえばあっちの上条さんもなんだかんだ言って行動失敗したんだよね。
>相手の心の成長度合いやなんやらを考慮せずに正解を教えちゃった。
右手も本来なら知るべきじゃないことを教えすぎてるよね
魔術と幻想殺しにしても神様の試練にしても
向こうの右手はどうしてたんだろうか

>>701
GJ
次回も楽しみにしてます
ネタ思いつけば告白後の話も書いて欲しいです

>>702
FJだと…

706愛妻弁当はまだ早い(18):2011/03/22(火) 20:08:37 ID:44rbrk6A



 上条の部屋を飛び出した美琴は、日が落ちたために誰もいなくなった公園のブランコに腰掛けていた。
 静かな公園にブランコの鎖がわずかに軋む音だけが響く。

「もういい、よ、ね……」
 小さく呟くと、美琴はぐっと奥歯を噛みしめた。
 それと同時に徐々に歪み始める美琴の視界。
「馬鹿……」
 美琴は指でそっと右目を拭う。
「馬鹿、上条当麻の、馬鹿。インデックスの、馬鹿……」
 次に左目を拭う。
 しかしその瞳にたまっていく涙は止まる所を知らない。
「……ううん、違う。馬鹿なのは、私」
 そして指などでは拭いきれなくなり始めた涙を、今度は右手の甲で拭う。
「一番馬鹿なのは、私」
 次に左手の甲で。
「私が……私が……一番、馬鹿……馬鹿だ、大馬鹿だ……」
 右手、そして左手で。
 美琴は頬を伝う涙を両手で拭い続けた。
 けれど、どれだけ拭おうが一度流れ始めた涙は止まらない。
 しゃくり上げながら、美琴は何度も何度も涙を拭い続ける。
「馬鹿……馬鹿……」
 そのうち美琴は涙を拭うことを止めてしまった。
 阻む物がなくなった涙は美琴の頬を伝い、少しずつ少しずつ彼女の服や足下を濡らしていく。
 やがて美琴の涙が彼女の服に大きな染みを作るほどに流れた頃。
「う、わ……ぅわぁああぁあぁ……!」
 とうとう美琴は誰はばかることなく、言葉にならない声を上げた。

 自分はいったい何をやっていたのだろうか。
 なんと滑稽なことをしていたのだろうか。
 上条にはいっしょに住んでいる相手がいた。
 それは以前、上条は自分のところに帰ってくる、そう断言していたあのシスターだ。
 彼女は客観的に見て、とてもかわいらしい女の子。
 素直になれず己の感情すら自覚しきれていない自分と違い、自分が見てもわかるほどの上条への好意を素直に示す彼女は、上条と本当にお似合いだ。
 上条自身は彼女を家族のような存在だからとして否定していたが、本当はきっと男女の関係なのだろう。
 年頃の男女が一つ屋根の下に住んでいて何もないはずがない。
 しかもインデックスは上条に明確な好意を持っているのだ。
 むしろ何もない方がおかしい。
 そうだ。
 上条当麻とインデックス、二人は付き合っているのだ。
 そんな相手がいる男性相手に、自分はいったい何をしようとしていたのだろう。
 素直に接する?
 食事を作ってあげる?
 馬鹿馬鹿しい。
 好きな相手がいる男性に一人の女の子として見てもらって、そこにいったい何の意味があるというのだろう。
 いったい何を期待していたのだろう。
 期待しても仕方がないではないか。
 いや、それどころかむしろ、期待することそのものが罪深いことではないか。
 なぜならそれは好きな相手を裏切れと言っているのと同義なのだから。
 そんなこと、あの上条がするわけがない。
 絶対にするはずがないのだ。
 つまり、自分の期待は最初から、おそらく上条と仲良くなりたい、友達になりたいと思ったあの日から、既に意味のない物だったに違いない。
 なのに自分はそんなことにも気づかないで今日まで色々悩み、苦しみ、行動してきていた。
 今日だって上条に会えるからと、彼の家に行けるからと、愚かしくも浮かれていた。

 私は馬鹿だ。
 馬鹿で滑稽だ。
 本当に滑稽だ。
 ノーベル滑稽賞があれば満場一致で文句なく受賞できる、それくらい滑稽だ。
 嫌だ。
 もう上条のことなど考えたくない。

――だから神様、お願いです、アイツのことを忘れさせて下さい。

 今この胸の中にある想いを全て捨ててしまいたい。

――今から流せるだけの涙を流して泣きますから、その涙といっしょに私の中のアイツへの気持ちを全て流して下さい。

 思い切り泣くことによって、今までの想いを全てなかったことにしてしまいたい。

――私の、御坂美琴の心の中から、上条当麻を、消して下さい!

 悲痛な思いを胸に抱くと、美琴は顔を覆いひときわ大きな声を出して叫んだ。
「ぁあああああ…………!」

707愛妻弁当はまだ早い(19):2011/03/22(火) 20:14:19 ID:44rbrk6A



「馬鹿野郎、それ以上泣くんじゃねえ!」
「……え?」
 美琴は聞き覚えのある声に、はっと顔を上げた。
「馬鹿野郎が」
「アンタ、どうして……」
 美琴の目の前にいるのはもちろん、上条当麻だった。

「言っただろう、お前は泣いちゃいけないって。笑ってなきゃいけないって。なのになんでそんな哀しそうに泣いてるんだ」
 走っていたのだろうか、上条は額から流れる汗を拭いながら荒い呼吸をついていた。
 そんな上条を美琴はしゃくり上げながら、キッとにらみつけ大声を出した。
「な……泣いちゃいけないって、そんなの、私の勝手でしょ! 何偉そうに説教してんのよ! 私がどこで何してようがアンタに関係ないでしょ! だいたいアンタ、なんでここにいるのよ!」

――早くどこかに行ってよ!

 しかし上条も負けていない。同じように美琴をにらみつけると大声で反撃する。
「お前を捜しに来たに決まってるだろう! それ以外何があるってんだ!」
「さ、捜しに!? ば、馬鹿! アンタ馬鹿じゃないの!? あのシスターほったらかしにして何してんのよ! 私なんか無視してさっさと帰りなさいよ!」

――これ以上、私の側にいないで!

「ああ、帰るさ! お前が泣き止んで、大丈夫だってわかったらな! でも大丈夫だってわかるまでは絶対帰らないからな! ずっとお前の側にいるからな!」
「側にって……ふ、ふざけんじゃないわよ! 私は、アンタなんかに側にいてほしくないわよ! 私は好きでここに一人でいるの! アンタなんかに心配される覚えはないのよ! いいからさっさとあのシスターのところに帰りなさいよ! ちゃんと自分の彼女を大切にしなさいよ!」

――そうじゃないと、どれだけ泣いたって、

「は? ふざけてんのはお前じゃねーか! こないだも言ったろうが! インデックスは俺の妹みたいなもんだ! 彼女じゃねーって、何度言やわかるんだ! 勝手な勘違いしてんじゃねーよ! それにお前に覚えがあろうとなかろうと俺は絶対にお前を心配するからな! 嫌だって言ってもするからな! 無視なんか絶対にしてやらねーからな!」
「それでも無視しなさいって言ってんでしょうが! それに妹みたいって言ったって、あの娘がアンタにとって他人なのは変わりないじゃない! アンタは家族じゃない女の子といっしょに住んでるのよ! ならアンタ達が付き合ってるって普通に考えるでしょうが! どこが勘違いなのよ! これが勘違いって言うんなら、どうして一つ屋根の下に住んでるのよ! 理由言ってみなさいよ!」

――どれだけ忘れたって、

「…………!」
 勢いに任せて怒鳴り合っていた二人だったが、ここで上条が一瞬言葉につまった。しかしブンブンと頭を振ると、すぐにまた怒鳴りだした。
「い、いっしょに住んでる理由は……! 今は言えねえ!」
「なんでよ!」

――どんどん気持ちが溢れて来ちゃうじゃない!

「言えねーもんは、言えねーんだ! 誰にだってあるだろうが、どうしても言えないことが! けど、絶対に後ろめたい理由じゃねーし、俺達が付き合ってないってのも本当だ! 俺達は絶対にそういう関係じゃねーんだ!」
「何よそれ! 肝心なことは隠したまんまの、そんないい加減な言葉を信じろって言うの? アンタ虫が良すぎんのよ! 信じられるわけないでしょ!」
「それでも信じろ! 無理矢理にでも信じろ!」
「なんでそこまでしてアンタを信じなきゃいけないのよ!」
「そうでないとお前が泣き止まないだろう!」
「私が泣き止んだらアンタに何があるってのよ! はぁ? それってもしかしていつもの偽善なの!? ハン! アンタの偽善はもうウンザリよ!」

――このままじゃアンタのこと、絶対忘れられないじゃない!

「……偽善、じゃねえ。偽善なんかじゃねーよ!」
「偽善でしょうが! 私が泣いちゃいけないとかなんとか、そんなのただのアンタの自己満足に過ぎないでしょう! そんな物に私を巻き込まないでよ! 私が泣こうがわめこうがアンタになんの関係もないんだから、いい加減ほっといてよ! そんなに私が泣いてるのが気に入らないってんなら、アンタが私の目の前から消えたらいいだけでしょうが! そうよ、消えればいいのよ。消えてよ! 消えてよ!!」

――アンタのこと、キライになれないじゃない!

708愛妻弁当はまだ早い(20):2011/03/22(火) 20:15:07 ID:44rbrk6A

「消えねーよ!」
「消えなさいよ!」
「うるせえ! それに関係ならある! お前が泣いてることは俺に関係ある! お前が笑ってることは俺に関係ある! 他の奴なら偽善かもしれねーけど、お前のことだけは、俺には関係あるんだ!!」
「…………!」

 美琴のこと「だけ」は自分に関係がある。

 上条がそう言った瞬間、美琴は目を見開きはっと息を呑んでいた。
 そのまま美琴は怒鳴るのを止め、途切れ途切れに呟いた。
「何、それ……。わた、し、のこと、だけって……」

「…………」
 しかし上条は何も答えない。
 自らが発した言葉に動揺しているのか、にらみつけていたはずの美琴からも目を逸らせ、苦虫を噛み潰したような表情になっていた。

「言ってよ」
 美琴は上条を見つめ、絞り出すような声で訴える。

「…………」
 けれどやはり上条は何も言わない。

「言ってよ。なんなのよ、それ。お願いだから言ってよ……ねえ、もう一度ちゃんと言ってよ、お願い、だから……!」
 絞り出すような声で、美琴の心が、叫んだ。

 その声に促されるかのようにぽつりぽつりとようやく上条は話しだした。
「誰の涙も見たくない。俺、いつもこんなこと言ってるよな」
 美琴は上条の目を見てうなずいた。
「これを、他の奴に言ってるんなら、俺は確かにお前の言う通り、相手の都合を無視して上っ面だけで言ってる、偽善者なのかもしれない……。けどお前にだけは、俺、違うみたいなんだ」
「みたいって、どういうことよ。アンタ自身のことでしょ」
 美琴の疑問を受け、上条はイライラしたように頭をかいた。
「よくわかんねえ。よくわかんねーんだよ、俺だって! なんでこんなこと思ったのかも、そもそもいつから思ってたのかも。でも、偽善とかそんなんじゃなくて、本当に俺、お前の泣いてる所だけは、見たくないんだ。お前にだけは……ずっと、笑っててほしいんだ。これだけは本当だって、言えるんだ」
 上条はそこまで言うと、大きく息を吐いた。
「…………」
 美琴は無言で、そんな上条に続きを促す。
「だから俺の言葉を信じてくれ。もう泣かないでくれ。頼む、御坂」
「…………」
「それで、涙が止まったら、できたら笑ってほしい。これは……お願いだ」
 上条は深々と頭を下げた。
「…………」
 それに対してやはり美琴は何も言わない。
 だがその瞳からは、既に涙は流れていなかった。

709愛妻弁当はまだ早い(21):2011/03/22(火) 20:15:53 ID:44rbrk6A



「…………」
「…………」
 美琴も上条は何も言わなくなった。
 ただお互い、じっと相手を見つめ続けている。
「なんでよ」
 やがて口を開いたのは美琴だった。

「なんで、なんでそんなこと言うのよ……」
「なんでって」
「なんで、そんな優しいこと言うのよ。いっつも、私をスルーしてるくせに……。スルーして、無視して、私のことなんか気にもしないくせに……」
「そんなこと、俺は別に……」
「なんでこんなときばっかり優しくするのよ。なんで笑えってお願いするのよ。信じろっていうのは命令だったのに、なんで笑えっていうのはお願いなのよ」
「……だって、俺はお前に、本当に笑ってほしいから。そんなの、お願いじゃないとおかしいだろう」
「だから、なんでそんなに優しいこと言うのよ」

――止めてよ。

「優しいこと、なんかじゃない。俺が、したいだけだ」
「アンタの場合、ただ、したいだけのことが優しいって、言ってるのよ」

――甘えたくなるじゃない。

「俺はそんな優しい奴じゃない。これだってお前にわがまま言ってるだけだろう」
「何よそれ。わがままが優しいなんて、反則よ」

――信じたくなるじゃない。

「今のアンタはあのシスターを放り出してここにいるんでしょ? いっしょに住んでる女の子を放り出して? そんなことした後で、私に笑ってほしいなんて、そんなこと言っていいの? あの娘に対して後ろめたくないの?」
「そんなこと思うぐらいなら、最初から言わねーよ」
「…………」

――アンタ知ってるの? 私、そんなに強くないんだよ。

「……本当に、いいの? 私、本当に、アンタの言葉、信じて、いいの?」
「だからそう言ってるだろう」
「本当に、私……」

――そんな真剣な目で見つめられたら、言われたら……。

「笑ってくれよ」
「それがアンタの、わがまま?」
「お前の笑った顔が見たいんだ。俺、お前の笑った顔、好きなんだよ。だから、お願いだ……!」
「……馬鹿」

――アンタのこと、信じちゃうん、だからね……。

 美琴はその瞳から再びポロポロと涙を流しながら上条を見つめた。
 しかしそこに浮かんでいたのは泣いた顔ではない。
 上条を見つめる美琴に浮かんだ顔、それは紛れもなく上条が求める、上条が好きだという、笑顔だった。

「これで、いい?」
「……ああ」

710愛妻弁当はまだ早い(22):2011/03/22(火) 20:16:33 ID:44rbrk6A



 美琴がようやく見せてくれた笑顔を見た上条は、大きく息を吐くとそのまま美琴の隣のブランコに腰掛けた。
「隣、座ってもいいか? 走り回って、ちょっと疲れちまった」
「もう座ってるじゃない。ま、まあ別にいいけど……」
 美琴は上条から視線を逸らせる。
「悪いな」
 上条はほんの少し笑みを浮かべ目を閉じ、ブランコの鎖に寄りかかった。



「ね、ねえ」
 目を閉じたまま動かない上条に、美琴は遠慮がちに声をかけた。
 その声に反応して、上条はゆっくりと目を開けていく。
「ん? どうした、御坂?」
 上条は眠そうな声で美琴に話しかけた。
「アンタ、何寝てんのよ。もう帰れば? アンタの目的は達成できたんでしょ、私はもう泣いてないわよ」
「別に寝てねーよ、ちょっと疲れただけだって……。まあお前がそこまで言うなら帰るけど」
 上条はうん、と伸びをすると何度かブランコを揺らし、勢いよく前に飛び出した。
「よっと」
 大きく弧を描いて地面に着地した上条は、くるっと美琴の方を向いてニカッと笑った。
「じゃ、帰ろうぜ御坂」
 その言葉に美琴はきょとんとした表情を浮かべる。
「ぜって、何それ?」
「お前も帰るんだろ? もう遅いし、寮まで送っていくぞ」
「…………」
 美琴は黙って辺りを見回した。

 確かに辺りはすっかり夜の帳に包まれており、その様子から現在の時刻がずいぶん遅いだろうことは容易にわかった。
 夕日が落ちる頃に上条の家に行ったことを考えると、この公園でかなりの時間を過ごしたことになる。
 上条の言う通り、そろそろ寮に帰るべきだろう。

 何かの理由で美琴が帰るのをためらっている、そう思った上条は美琴に対してすっと右手を差し出した。
「帰ろうぜ御坂。送っていくから、な」
「…………」
 美琴は上条の差し出す手を自然な動きで握ろうとした。

 だが、
「…………!」
 美琴が上条の手を握ろうとした途端、彼の隣にある人物の姿が現れたのに美琴は気づいた。
 その人物の正体を認識した美琴はすっと手を引っ込める。そしてそのままごくりとつばを飲み込んだ。

 上条の隣にいた人物、それは紛れもなくインデックス、いや正確にはインデックスの幻だった。
 その証拠に、既にインデックスの姿は影も形もなくなってしまっている。
 美琴が上条の手を握ろうとした瞬間、ほんの一瞬だけ現れてすぐに消えたのだ。
 それはインデックスの上条への想いが産んだ幻だったのかもしれない。美琴のインデックスに対するある種の恐怖が産みだした幻だったのかもしれない。
 ただはっきりしていることは、その一瞬が美琴にとって衝撃だったということだ。
 そのたった一瞬で、美琴は上条の手を握るのをためらってしまったのだから。

711愛妻弁当はまだ早い(23):2011/03/22(火) 20:17:09 ID:44rbrk6A

「ん? どうした、御坂?」
 美琴の態度が妙だったので、上条の表情は怪訝そうなそれに変わる。
「…………」
 しかし美琴は上条の質問には何も答えなかった。握ったり開いたりを繰り返す自分の手をチラと見ると、すっと目を閉じた。

 ゆっくり一度深呼吸をした美琴は目を開けると、さっき一瞬だけ現れたインデックスの立っていた場所と、自分が今座っている場所、そして上条の立っている場所を見比べた。
 インデックスが立っていた場所は上条のすぐ隣。インデックスが手を伸ばせば容易に上条の手を握れる場所だ。

――コイツとあのシスターの距離が、今のコイツらの距離。

 そんなインデックスに対して自分と上条の距離は、いくら美琴が手を伸ばしても上条には決して届かない距離。

――そして、これが私とアンタの距離。絶対にアンタには届かない。これが私と、あのシスターとの決定的な差。でも、アンタが手を差し出してくれれば、

 美琴は目の前に差し出された上条の右手を見た。
 怪訝な顔をしながらでも、上条は美琴に差し出した右手を決して引っ込めようとはしていない。美琴が自分の手を握るのを待ってくれている。
 そう、今なら、上条が自分に手を差し出している今なら、美琴の手は上条に届くのだ。
 美琴は心の中だけで小さくうなずいた。

――今だけは、私の手はアンタに届く。アンタに甘えることになるけど、それでも今は構わない。アンタに届くことが、私にとっては今、一番大事だから。

 美琴は再びゆっくりと手を差し出し、上条の手をしっかりと握る。
 そのまま美琴は静かに立ち上がった。
「ありがとう」
 立ち上がった美琴は上条をじっと見つめた。
「な、なんだよ……」
 美琴に見つめられてなんとなく居心地が悪くなった上条は、頬をぽりぽりとかきながら言葉を濁す。
 そんな上条の様子を見た美琴は、満足そうな微笑を浮かべるとぱっと上条から手を離した。
「ありがとう、でもあんたはまっすぐ家に帰って」
「いや、遠慮すんなって」
「遠慮じゃないわよ、私は一人で帰れるから。それに――」
「それに?」
「いい加減アンタを帰して、少しは借りを返さないといけないしね」
「借りって、俺にか?」
「違うわよ。どうせアンタにはわかんないことよ。もういいから、さっさと帰りなさい」
「……まあお前がそこまで言うなら仕方ないか。じゃあまたな、御坂」
 上条は釈然としない表情で渋々うなずいた。
「またね。……あ、そうだ。ねえ」
「ん? なんだ?」
「あのね、アンタ、私を送らないことを申し訳ないと思ってるのよね。なら、一つ頼みがあるんだけど――」
 美琴は表情を未だ戻していない上条にそっと耳打ちした。
 その内容に、上条の表情は不思議そうなそれに変わった。
「ねえ、いい? わかった?」
「…………」
 美琴の言葉に上条は黙ってこくりとうなずいた。

712愛妻弁当はまだ早い(24):2011/03/22(火) 20:19:32 ID:44rbrk6A



 翌日の早朝、上条は大きく伸びをしながらいつもの自販機前にやってきた。いつもより一時間近く早く家を出たためにまだ眠いのか、大あくびなどをしている。
 上条は携帯で時間を確認すると、眠そうに目をこすった。
「時間は、合ってるな。でも御坂の奴、いったいなんだってんだ? 時間も場所も指定してわざわざ人をこんなところに呼び出すなんて? 上条さんは、まだ眠いんですよっと」
 そう言うと上条はぐるっと辺りを見回した。
 早朝のためだろうか、まだ辺りには誰もいない。本当に静かな空間が広がっていた。
 しんと静まりかえった早朝の冷たい空気を気持ちよさそうに吸いながら、上条はまた大あくび。

 そのとき、そんな静けさを切り裂くような甲高い声が聞こえた。
「受け取りなさい!」
「?」
 上条は慌ててあくびをかみ殺すと、声のした方を向いた。
 するとその方向から、何かがぽんと飛んできた。
「おっとっとっと」
 上条は半ば反射的に飛んできた物を受け止めた。
「あっぶねえ。で、これいったい、何……?」
 上条は額からじんわりとにじんでいる冷や汗を拭うと、まじまじと手の中にある物体を見た。

 それはブルーの綺麗なハンカチに包まれた、小さな直方体の箱だった。それになぜか温かい。
 上条は箱を顔に寄せて、くんくんと鼻を動かした。
 箱からは美味しそうな匂いが漂っている。
 上条は訝しげに呟いた。
「この形、匂い、弁当か……?」
「正解」
 上条の背後から声をかけたのは、朱い顔をした美琴だった。

 上条は弁当と美琴の顔を交互に見比べた。
 その様子に美琴は憮然な表情になる。
「何よその顔。文句あるの?」
「いや、文句っつーか、単純な疑問。なんで弁当が俺の手に?」
 美琴は上条からやや視線を逸らした。
「それは、その……いろんな意味があってね……」
「いろんな意味って?」
「だから、まずは、昨日の、お詫び。私が公園でその、アンタに空き缶をぶつけたから、アンタどうせタイムセールに間に合わなかったんでしょ? だから、そのお詫び」
「なるほど。まあ別にそこまで気にするほどのこともないと思うが……。ん? ということは、お前が昨日うちに来た理由って、もしかしてそのお詫び、か?」
 上条の言葉に美琴はこくりとうなずいた。
「晩ご飯、作ってあげようと思って。だから、材料買って……それで……」
「あ、だから昨日あんな材料が玄関に。なのに俺は追い出すようなまねを……。本当に悪かったな、インデックスには帰ったらまたちゃんと言っておくから。それとも、インデックスにも直接謝らせた方がいいか?」
 美琴は今度はふるふると首を横に振った。
「あのシスターには、まだしばらく会えない。会わない方が、いいわ。それにあのシスターの気持ち、私は、よくわかるから……」
「そう、そうかも、しれないな。本当、悪い。気、遣わせて」
 美琴はもう一度首を横に振った。
「それでね、その代わりとして、お弁当作ったからアンタに食べてほしくて」
「そうだったのか。でも悪かったな、あの程度のことでここまでしてもらうなんて。材料費だって馬鹿にならないだろうに」
 申し訳なさそうな顔になった上条に、美琴は慌てて手を振った。
「気にしないでよ、私が勝手にやってるんだから。それにほら、こないだも言ったでしょ、最近料理に凝ってるって。けど、うちの学校って高級な料理の作り方なんかは実習とかするんだけど、お弁当とかそういう普通の物ってのからはほど遠い所でね。私としては独学するしかないのよ。それで、これがその成果。だからそんなに気にするほどのことじゃないわよ。実験結果を食べてもらうんだから、こっちからするとむしろ感謝したいくらいなのよ。材料だって気にしなくていいわよ、勉強のためですって言えば寮の食堂から無料で分けてもらえるんだから」

713愛妻弁当はまだ早い(25):2011/03/22(火) 20:20:11 ID:44rbrk6A
「材料はそれでいいとして、肝心の弁当が実験なんて言われると、ちょっと食欲がなくなるな……。でも御坂、お前俺なんかじゃなくて白井あたりに食べてもらえばいいんじゃないのか? アイツがお前の申し出を拒否するとも思えないんだが」
「アンタが食べなきゃ意味ないでしょ!」
「へ?」
 突然大声を出した美琴に、上条は目を丸くした。
「……あ? あ、ああ、そうじゃなくて。ほら、黒子はさ、私が作った物ならどんな物でも文句言わずに食べちゃうから意味ないのよ。こっちとしては正直な意見が聞きたいんだから」
「なるほど。でも上条さんの意見もあまりあてにならないかもしれませんよ」
「どうして?」
「こないだのお好み焼きで御坂の料理が美味いことはわかってるし、貧乏かつ万年欠食児童の上条さんが料理を粗末に扱うわけがないんですよ」
「……それでいいわよ、私はアンタが美味しいって言ってくれさえすれば」
「はい?」
 美琴が小声で呟いた言葉が聞こえなかった上条は、無意識的に聞き返した。
 けれど美琴は頬を朱くして上条から視線を逸らせる。
「……なんでもない」
「……そうか。まあ、とにかく悪いな、御坂。そういうことなら今日はこれ、ありがたくいただくよ」
「うん。じゃあ今日の夕方、そのお弁当箱返してもらうときに感想聞くから、よろしくね。四時にここで待ち合わせ。遅れるんじゃないわよ」
「わかった」
「あと、評判が良かったらまた暇見つけて作ってあげるから、そのときもよろしくね」
「それは個人的には歓迎したいんだが、もしかして、そのときも俺は朝早くからここでお前から弁当を受け取らなきゃいけないのか?」
「当然でしょ。アンタだって遅刻を防げて一石二鳥じゃない」
 美琴はうなずくと、上条に気づかれないようにそっと視線を上条の家の方向に向けた。
 いや、正確には今も間違いなくそこにいるであろう、インデックスに向けたのだ。
 脳裏に浮かぶ昨日の光景。それと同時に、ほんの少し美琴の眼は鋭くなる。

――今はまだ、アンタの方がコイツの近くにいる。アンタと私じゃ、確かな差がある。でも、そんな差なんてすぐに埋めてやるんだから。

 困ったような、それでいて嬉しそうな顔で弁当を色々な方向から見たり匂いを嗅いだりしている上条の方に、美琴は視線を動かした。
 今度は美琴の瞳に優しい色が浮かぶ。

――今だってコイツが手を差し出してくれれば、私の手だってコイツに届くんだから。それに今なら、今だけなら、

 美琴は心の中で上条に手を伸ばした。上条自身の体にはやはり届かないが、上条が手に持っている弁当箱になら、なんとか手が届きそうだった。

――私の手だってコイツに届くんだから。だから、私は絶対負けない。アンタとコイツの間に何があろうと、絶対。

 美琴は昨日、風紀委員の支部で初春が自分にささやいた言葉を思い出した。
 それは甘美な言葉。上条の家の玄関を開けるまでは、心の中を幸せな気持ちで満たしていてくれた言葉。
 美琴は心の中だけで小さく首を横に振って、その言葉を頭から消した。

――愛妻、弁当なんか、じゃない。そんなのじゃない。私達はまだ、そんなのにはなれない。ないけど。けど、それでも、いつの日か、きっと……!

 いつの間にか美琴の瞳の中には、小さな決意の炎が灯っていた。
 それはまだ小さな小さな炎。けれどどんなことがあっても決して揺るがない、消えることのない炎である。
 美琴自身が未だ自覚しきれていない、強い、確かな気持ちが実を結ぶその日まで。



 今日この日を境に、貧乏高校生、上条当麻の昼食のラインナップに美琴の弁当が加わることになる。
 もちろん、毎日ではない。
 白井の目を盗んで毎日風紀委員の支部で弁当を作ることはさすがに美琴にはできないし、上条の方だって寝坊をしたり不幸に巻き込まれることが多々ある。
 割合としては多く見積もっても一週間に二、三日。それが上条が美琴の弁当を食べることができる日である。
 それでも。
 美琴の決意が、行動が、上条の中の何かを確実に変えていくのは間違いないのだ。
 だから。
 それは、遠くない日のことなのかもしれない。
 上条が毎日美琴に会い、弁当を受け取るようになる日は。
 上条が自らの意思で美琴に会おうと思うようになる日は。
 美琴の伸ばした手が、上条に届くようになる日は。

 そう。
 そんな日は、そう遠くないときに、きっと、やって来るに違いない。



おしまい

714つばさ:2011/03/22(火) 20:22:07 ID:44rbrk6A
以上で「素敵な恋のかなえかた第4話:『愛妻弁当はまだ早い』」は終わりです。
いかがでしたでしょうか。長くなってしまい申し訳ありません。

ややスッキリしない終わり方になってしまった面もあるのですが、その辺はまた続きを書ければと思います。
というか、今回の内容を完璧に終わらせたらシリーズ終了ですしw
でもなんでこんなシリアス話になっちゃったんでしょうか、アウトラインは「美琴が上条の弁当を作るきっかけ
になる話」としかなってなかったんですが。

あと突っ込まれるかもしれないので一応言い訳。
二人とも、特に美琴は「ある事柄」を気にすることなくあえてスルーしています。
それには二つ理由がありまして、一つは美琴自身気が動転していたため気づきにくかった。
もう一つはそれを聞くことを深層心理下で拒絶していたということです。聞くのが怖い、ということですね。
一方の上条さんはただ鈍感なだけで気づいてないだけかもしれませんが。
けどいつかは書かなきゃいけないんですよ。そこを掘り下げたら二人の関係は大きく変わっちゃうんで個人
的に凄くめんど……いえ、難しいんですが。
ただ気にしなくても今回の話としては本当は大して影響がありませんがw

い、言っておきますが書くのが面倒だから今回あえて書かなかったわけじゃないんですよ、ちゃんとした
理由があるんですよ、勘違いなんてしないでよね!
まあそこまで真剣に読んでくださった方がどれほどいたかはわかりませんが……ああ、そんな風に読ん
でもらえる筆力がほしい。

こんな作品ですが何かしらご意見を聞かせていただければ。
では

715■■■■:2011/03/22(火) 21:41:12 ID:Z7H.TBK.
>>714

自分とインデックスの今の上条との立ち位置を朧げながらも知って
差し出してくれた手にも甘えてはしまったけど
そのままでは終わらずに今度は自分から…
美琴らしくて良かったです

敢えて…なのかは知りませんが、今回インデックスを出さなかったのも個人的には良かったと思います。
出してしまうと
優しさに対する甘えかた、をどうしても比べて見てしまいますから


ある事柄…単純にみえて、見えにくく、分かりにくいモノの事ですかね…違うかなぁ

ともかくGJでした

716■■■■:2011/03/22(火) 21:50:07 ID:DBP.viCc
>>701
もう告白かぁ……待ち遠しいです!
>>714
夕焼けの中ブランコに乗って泣いている美琴が脳内再生されてブワッ;;

717夢旅人:2011/03/22(火) 22:43:09 ID:1358bkH6
「起きないあいつ」最終話、投下します。

718夢旅人:2011/03/22(火) 22:44:35 ID:1358bkH6
「起きないあいつ」13


 上条は、美琴の肩を抱き、寮へ向かっていた。
 お互い何も言わず、ただ月明かりに照らされた、2人の影だけが揺れている。
 
 上条は内心、これから起こるであろうことを想像するが、どこか実感が湧かない。
 だが照れとか懼れとかは無い。
 自分の気持ちがどこへ向かっているのか、それだけを考えていた。
 今夜、美琴の想いを受け入れることが、果たして自分の、そして彼女の気持ちの行き着く先なのだろうかと。
 このまま彼女を抱くことが、これからの自分の生き方に適うものなのかと。
 あれこれ考えても、結局答えは出ない。

――お前は、どうなんだ……

 上条が美琴を抱くことは、本当に彼女が本心から望むことなのか。
 その場の雰囲気で、その場の流れで彼女を抱くようなことはしたくない。
 なら、自分はどうしたら彼女を抱こうと思うのか。
 一緒にいてほしいからだけなのか。
 相変わらず答えは出ない。

 やがて上条の部屋の前に着いた。
 無言のまま、部屋の鍵を開け、ドアを開ける。
 何も言わず、そっと美琴の背中を押し、部屋の中へ迎え入れる。
 美琴は小さく「お邪魔します」と言っただけだった。

「とりあえず、そこ、座れよ」
「……」

 黙って壁を背にして、ガラステーブルの前に座る美琴。

「何か飲むか?といっても…紅茶にするか」

 そう言いながらコンロにやかんをかけた。

「ええ、なんでもいいわ……」

 美琴は俯いて、ただ床に目をやっている。
 その表情は、無表情のようにも見えたが、これから起こるであろうことを考えているのか、ほんのり赤みが差していた。
 上条は視線を逸らしたまま、黙って美琴の反対側に座った。

「……」
「……」

 照れなのか、意識しているのか、2人とも何も言わない。
 ただやかんの沸き立つ音だけが聞こえてくる。
 それでも2人の間に重苦しい雰囲気はない。
 ただ時だけが過ぎていく。

719夢旅人:2011/03/22(火) 22:46:01 ID:1358bkH6
――やがて沸騰する音に急き立てられるように上条が席を立つ。
 その動きを美琴は目で追うだけだ。

 やがて上条は、紅茶を入れたマグカップを2つ、ガラステーブルに置いた。

「ミルクティーだけどいいか」
「ありがと……」

 美琴はカップを両手で持ち、そっと口をつける。
 冷えた身体に、その暖かさが染み渡る。
 ほのかな甘味と、ふくよかな茶葉の香り、ミルクのコクが相まって美味しく感じる。

「おいしい……」

――美琴が気に入ってくれてよかった……

「これでも英国製ブレンドだぜ。貰い物だけどな」
「へぇ、なんて銘柄なの?」
「なんていったかな。プリンス…?」
「プリンス・オブ・ウェールズね」
「さすがお嬢様は違いますね。上条さんなんて飲めれば何でもってやつで」

 ちょっとした軽口が場を和ませる。
 クスリ、と笑った美琴の笑みを眩しく思った。

――やっぱりコイツの笑った顔を眺めているのが好き……なんだ……。
――好き……か。
――そうなんだ。
――多分、いや間違いなく俺は美琴のことが好きなんだ。
――でも……

「俺、ちょっと風呂の準備してくるわ」

 いきなりそう言うと、上条は顔を赤くして立ち上がり、風呂場へ行った。

「そう……」

 どぎまぎしたように美琴がつぶやいた。
 再び顔が赤くなる。

「先、シャワー浴びろよ」
「うん、そうさせてもらうわ」
「これ、着替えの代わりだ」

 そう言って上条が洗いざらしのワイシャツを渡す。

「タオルは適当に使ってもらっていいから」
「ありがと……」

 そして美琴は脱衣場へ行った。

――そういえば、土御門が入用なものを入れておくと言ってたな。

 マグカップを台所に片付けながら、ドアについている新聞受けを見た。
 小振りな紙袋が1つ。
 ベッドに腰掛け、紙袋を開けてみると、入っていたのは1箱の男性用避妊具。

――あんにゃろう……

 その生々しさが余計に本能を刺激する。
 外堀を埋められ、ついには内堀までも埋められたような心地が、なんとも不本意な気がした。
 そのまま箱ごと枕元に放り出し、ベッドに背中から倒れこむ。
 天井の模様と、照明の光をぼんやり眺めながら、再び自意識の海へ潜ろうとするが、結局出来なかった。

720夢旅人:2011/03/22(火) 22:48:14 ID:1358bkH6
「シャワー、ありがとうね」

 美琴の声がした。
 顔を上げると、シャツを羽織った美琴の姿が目に飛び込んできた。
 シャツのボタンは留めていない。
 前が開いたシャツから、見える胸の谷間が刺激的だ。
 ショーツをつけているが、その姿に劣情を覚える。
 湯上りなのか、緊張しているのか、顔が赤い。
 その顔を見た瞬間、からみつくような視線を投げつけて来た。

「――俺もシャワー浴びるわ」

 美琴の視線を外すように、上条は目を伏せベッドから体を起こした。 

「待って……」

 美琴はベッドに近寄り、そのまま上条の身体を押し倒した。
 上条の両腕を押さえつけ、馬乗りになり、のぞきこむように顔を見下ろしてくる。
 はだけたシャツから2つのふくらみがこぼれる。

「美琴……」
「黙って……」

上条は魅入られたように、美琴の目を見た。

――お前の目は誰を見ている?
――何を見たいんだ?
――何が欲しいんだ?

「私が欲しいものは……当麻の全て……もうどこへもやらない……誰にも邪魔はさせない……」

――そうか……

「当麻の身体の中にも外にも、私の全てを刻み込んであげる」

――なら……

「そうすれば……当麻は……死ねないのよ」

――!

「死なないのじゃない……死ねないのよ!」

 そういうと上条の顔に、美琴の顔が被さってきた。
 美琴の唇が、上条の唇を蹂躙していく。
 目を、鼻を、耳を、頬を、顎を、首筋を、嬲りつくしていく。
 唇で、舌で、歯で。

「私は当麻を……私の中にも外にも、刻み込んでおくの……。
当麻の傍にずっと居られるように……
前に言ったこと、覚えてる?
それでも私は…アンタに生きて欲しいんだと思うって」

 それはあの夏の日、妹達(シスターズ)を助けるため、一方通行を倒した時に言われた言葉。

「ああ、覚えているさ」
「だから今夜は……私の好きにさせてもらうわ……
アンタに拒否権は……ない!」

 上条は美琴が押さえつけた手を跳ね除け、彼女の身体を抱き締めるや、体を入れ替え組み敷いた。
 再び互いの目を見合う。

「覚悟は出来てるんだな……」
「今更……」
「俺の気持ちを知った上で?」
「後悔なんてしないわ……」
「なら……カラダから始まる恋っていうのもありかもな……」

 上条の唇が、美琴の唇を蹂躙する。
 腕を上条の首に巻きつけ、目を閉じた。
 さっきとお返しとばかり、目を、鼻を、耳を、頬を、顎を、首筋を、嬲りつくしていく。
 唇で、舌で、歯で。
 
「――ん……うそつき……」

 美琴の首筋に、きつく印を付けた。
 美琴は小さく喘ぎ、全てを受け入れた。

 少年が少女を貫いた時、少女は少年の背に腕を回した。
 少年が動きだした時、少女は少年の背に爪を立てた。
 少年の動きが激しくなる時、少女の爪は、少年の背に深く食い込んだ。
 やがて少年は男になり、少女は女になった。
 互いに流した血の跡が、2人が刻み込んだ絆となる。

721夢旅人:2011/03/22(火) 22:48:50 ID:1358bkH6
濃紺のベールを少しずつ剥がすように、やがて白い空に変わる夜明け。
 冷えた空気が、窓の内側に湿ったカーテンを作る。
 生まれたままの姿で寄り添う男女は、暖かなベッドの中。

 栗色の頭が寄り添い、ほのかな甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 右腕の心地よいしびれが、今の決意を鈍らせる。
 腕の中で眠る美琴は、未だ静かな寝息を立てていた。
 上条はその横顔を見ながら、過ぎてきた日々を思い返していた。

――離れていた時間も、つらい時間もいつか癒えるだろうか。
――俺はお前の想う場所を守れるか?
――お前は俺の想う場所を守れるか?
――これからお前と同じ道を歩いていけるか?
――これから同じ夢を見て行けるか?
――ああ、地獄の果てでも、お前となら行けるだろうな。
――なら……
――今はこうしてお前の横顔を見ていたい。 
――お前のぬくもりを感じていたい。

 そっと美琴の頬に手を触れた。

「――ん……」
「ごめん、起しちゃったか……」
「おはよう…、当麻……」
「おはよう……、俺の美琴」
美琴は顔を赤くして言った。
「――ありがとう」
「何が?」
「――なんでも無いの……。ただなんとなくだけど……」
「そっか……。まだ時間早いし、寝てて良いよ。朝食用意するから」
「大丈夫……、私も手伝うから」

 そう言うと、美琴はベッドから出ようとして……、固まってしまった。

「どうした?」
「まだ……、はいってるみたいで……、ちょっと……」
「あ……。そ、そうか」
「――ちょっと歩きにくい……、かな?」
「無理するなって。寝てたらいいよ」
「当麻……」
「ん?」
「一緒に……居て……」
「朝食は?」
「だから……一緒に用意するの……」
「じゃ、無理しないようにな」
「ありがと……」
「ま、その前にシャワーでも浴びておこう」

 そう言いながら上条は、未だにベッドの上にしゃがみ込んでいた全裸の美琴を抱き上げる。

「あっ……」
「じゃあ、風呂場にご案内しましょうかね」
「まって……」
「ん?」
「シーツ…、ついでに洗濯機に…。血…、染みてないと良いけど…」
「なんか妙に生活感感じるセリフだな」

 美琴は顔を赤くしながら、上目遣いに上条に言った。

「私、当麻のお嫁さんだから…ね」
「あああ、もうそんな顔で言われたら、上条さんの理性は残骸すら残らないですよ。すっごく可愛いなって」
「そんな可愛いって…ふにゃ〜」
「こら、漏電すんなって」
「ごめん……」

 なら、といいかけて、上条が美琴を下に降ろす。

「――おはようのキスはどうかな?美琴」


 2人で浴びる熱いシャワーが心地好い。
 上条の背中の傷に、美琴がそっと触れた。

「この傷、もしかして……」
「そうさ。お前がたてた爪の痕」
「ごめんね。こんな傷付けちゃって。痛かった?」
「ん?これが俺に刻み込まれた美琴の証しだろ」
「――んふ。そうね」 笑った美琴の顔が何かを物語る。

――昨夜の覚悟は、もう刻み込まれた……か。
――なら、後は進むだけ……

「お前となら、手をつないで行けるか?」

 ふと口から出た言葉に、美琴が真直ぐ上条の目を見て答えた。

「地獄の底までもね。よろしく私の当麻」
「そうだな。よろしく俺の美琴」

――抱き合い、また唇を重ねた。

---------------------------------------------------- THE END

722680:2011/03/22(火) 22:56:39 ID:G0Vo0DZU
>>681-682
引っ張るようでごめん
美琴が傲慢ってのは(年上の)上条さんのみに対して敬意を払わないことをいいたかった。(要するにワガママ)
表現がおかしかったですね…ごめ

別に嫌いってことじゃない


あと書き手さん方はGJです

723夢旅人:2011/03/22(火) 22:56:50 ID:1358bkH6
以上です。
なんとか着地しました。

当初の展開とは違った部分もたくさん出ましたが。
あらためて、文章表現って難しい。

>>つばささん
インデックスのギャップ、使って頂いて構いません。
むしろ光栄に思います。

724680:2011/03/22(火) 23:02:59 ID:G0Vo0DZU
>>723
またやってしまった…
リロッたのに…PSの不調なのか…?


とりあえず上条さんに殴られて来ます&GJです

725夢旅人:2011/03/22(火) 23:16:37 ID:1358bkH6
>>680

どうぞお気になさらずに。

726■■■■:2011/03/22(火) 23:39:02 ID:vpKoETxQ
>>714 >>723 グッジョブです!
やっぱ美琴にとっての上条さんは、ピンチのとき、いつでもどこでも駆けつけるヒーローであって欲しいと、
冬川さんの妹編読んでからさらに思うようになりました。

727■■■■:2011/03/23(水) 00:04:10 ID:Y9WNHQSw
>>714
乙です。
美琴弁当か……上条さんが学校で大変なことになるようなw

>>723
連続で作品完結乙です。
きわどいなwR-15位?
エログロ描写があるときは、投稿時に注意書きした方がいいですよ。

728■■■■:2011/03/23(水) 00:32:05 ID:Xw9c06vc
>>701
まずみさん、GJです!
佐天さんが心強いですね。超電磁砲原作でもウブな美琴をそっと後押ししてくれる
存在になるんじゃないかと期待してます。何気に姫神の凛とした強さがよかったです。
続き待ってます。

>>714
つばささん
美琴インデックス上条さんの関係が絶妙でした!
もやっとする所を敢えて残しつつも、前向きな終わり方なのがいい
登場人物の内面描写がいつも細やかで惹き込まれます。GJ!

>>723
夢旅人さん
完結おつでした!
いや〜甘くてドキドキして、いいもの読ませて頂いたw
作品の雰囲気にあてられてぽ〜っとなるのは、文章がうまいからだろうな〜
次回作も楽しみにしてます。

729夢旅人:2011/03/23(水) 12:29:18 ID:hENRYyfE
>>726、727、728さん

ありがとうございます。
エロにはしたくないけど、流れ的に官能的なのは、という趣旨でした。
最初の投下のときに、そういった部分もあるとは明記したんですが、
不充分だったかもしれません。
>>1には抵触しないように気をつけるようにはしたつもりですが、
もう少しソフトな表現のが良かったかと想う箇所も。
かといって、リアルさを損ねたくないし。

本編は完結ですが、後日談的な番外編というか、
おまけの短編をいくつか書きたいなとは思います。

730■■■■:2011/03/23(水) 18:59:02 ID:j3TAFRjA
つばささん、「愛妻弁当〜」、久々に読み応えのある作品でした。ナイスです。
ただ、ラストは上条さんが美琴に対し自発的に異性として意識しだすという描写が入ったほうが作品テーマ的には美しかったかも。

731まよらー:2011/03/23(水) 22:24:56 ID:LQLe8Gyk
初めまして新人のまよらーと申します。
いつも皆さんのかくSSを楽しく読ませてもらってます。
早速ですが、一つ投下します。
タイトルは【とある一行の温泉旅行】です。

732とある一行の温泉旅行:2011/03/23(水) 22:27:43 ID:LQLe8Gyk
上条当麻は悩んでいた。
なぜ悩んでいるかというとそれは
二日前に遡る。

上条当麻はタイムセールをやっている近所のスーパーにやってきていた、
上条「ふむ。鶏肉100gで74円か・・・。しかしこっちの豚肉も捨てがたい。どうする上条さん!」

など言いながら買い物をしていた上条当麻であったが、買い物が終わり帰ろうとしていた時だった。
上条「福引?」
そう、福引をやっていたのであった。なにやら《お買いもの500円につき一回できます!》というものだった。
上条「福引ねぇ。じゃ、いっちょやってみますか!」

上条は2000円ぶんの買い物をしたので4回できた。

一回目・特賞 景品:4名様で行く3泊4日温泉旅行

二回目・特賞 景品:4名様で行く3泊4日温泉旅行

三回目・特賞 景品:4名様で行く3泊4日温泉旅行

四回目・特賞 景品:4名様で行く3泊4日温泉旅行

店員「大当たり〜!!お客さんラッキーですね!実はこの特賞5つしかなかったんですけど
   4つも当てちゃうなんてすごいですよ!」
上条「・・・・・・・・・へ?」

なんと上条さんは5つしかない特賞を4つもGETしたのだ。
上条「・・・これは夢でせうか?」
頬をつねってみる。痛い。夢ではないようだ。
上条「つまりこれは現実か・・・・・・・。やったぞ!ついにこの不幸な上条さんにも
    運が巡ってきたぞ!」
ということを一人呟きながら帰っていった。
さて、時は戻り今はというと。
上条「どうしよう・・・。誰を誘えばいいのか全く分からない。」
そう、これが上条当麻が悩んでいる理由だった。
誰を誘えばいいのか検討がついていなかったのだ。
上条「とりあえず。まずは御坂だろ、それにインデックスに土御門、小萌先生に吹寄、姫神、青ピに   白井、一方通行に打ち止めに番外個体に父さん母さん。後は御坂の友達でも呼ぶか。」
適当に誘う人を決め電話をかけることにした。

   ********

733とある一行の温泉旅行:2011/03/23(水) 22:29:29 ID:LQLe8Gyk
その頃一方、御坂はというと。
御坂(あ〜あ、今日もアイツに会えなかったな。)
など思いながら自室で休んでいた。
御坂(もう3日間も会ってない・・・。って何アイツに会いたいみたいなこと思ってんのよ!
   別にアイツのことなんて何とも思ってないし、あーもう!なんなのよ!ムシャクシャするぅ、
   って、にょわっ!?)
突如、携帯がなったので、画面を見るとあのツンツン頭の馬鹿からの電話だった。
御坂(何!?アイツから電話してくるなんてめったにないのに。また、事件にでも
   巻き込まれてるのかしら?)
そんなことを思いつつ電話に出る。
上条『もしもし?御坂か?』
御坂「あのねぇ?私の携帯で私以外に誰が出るっていうのかしら?」
上条『そりゃそうか。ところで今度の連休って予定あるか?」
御坂「特にないけど、どうかしたの?」
上条『いやぁ、あのな?スーパーの福引でたまたま温泉旅行当てたから一緒に行く人
   探してたんだけど良かったら一緒にいかないか?お前の友達とかも誘ってさ。』
御坂「行く行く!絶対に行く!」
上条『そうか、なら今度の月曜日に第七学区の駅前に集合な、後お前と白井の他に
   友達を二人まで誘っていいからな。他に俺の親や友達に先生も行くけどいいか?』
御坂「分かったわ、今度の月曜に駅前ね。ところで時間は?」
上条『じゃあ、10時で。』
御坂「OK10時ね。じゃ、今度の月曜にね。またね。」
上条『ああ、またな。』

御坂(やった!アイツと一緒に温泉旅行だ!すごく楽しみ!早く月曜にならないかなぁ。
   そういえば二人までなら誘っていいて言ってたけ?初春さんと佐天さんも誘おっと。)
そんなことを思いながら御坂美琴は一人はしゃいでいた。その後、ルームメイトである
白井黒子にその様子を見られ色々と問題が起きたのはまた別の話し。

734まよらー:2011/03/23(水) 22:32:11 ID:LQLe8Gyk
はい。まあ
出来てる部分をあげました続きはできしだいという事で
じゃあ、またお会いしましょう。
さよなら。

735■■■■:2011/03/23(水) 22:42:59 ID:Rg28nEr6
テンプレ読んでね

736■■■■:2011/03/23(水) 22:59:19 ID:2aAAzikg
>>734
>>1読もうぜ。

初心者なのに、そんな大勢出して大丈夫か?
このスレ的には、美琴と二人きりで15泊16日の温泉旅行をして欲しいんだがw

737まよらー:2011/03/23(水) 23:06:13 ID:LQLe8Gyk
一応予定としては
上条さんと御坂を一緒の部屋にして
いちゃいちゃさせるつもりです
御坂を酔っ払わせたりもする
つもりです。

738■■■■:2011/03/23(水) 23:31:19 ID:vn7OqHHc
>>737
sageような

739ソーサ:2011/03/23(水) 23:55:33 ID:dDrxBC7Q
こんばんは
前にコメントくれた方ありがとうございました

VSシリーズ投稿します!

740ソーサ:2011/03/23(水) 23:57:33 ID:dDrxBC7Q

タイトル『上琴VS土御門&青ピ 2回戦』

・ホットドック屋のベンチにて

上条「おうお前ら、こんなとこで何してんだよ。」

青ピ「何ってナンパ…って上やん…またか…」

上条「またかって何がだ?」

土御門「何って…またデートかってことだにゃー!!」

青ピ「前会った時もデートしてたやないか!!」

上条「そりゃ俺らは付き合ってるんだから当たり前だろ?な、美琴?…ってあれ?」

美琴「スー…スー…」スヤスヤ

上条「寝てる…(やっぱ寝顔も超かわいい…)」

土御門「(これは…前回の屈辱を晴らすチャンスじゃないかにゃー?)」ヒソヒソ

上条「(これは…チャンスだな…)」

青ピ「(チャンス…っていうと美琴ちゃんが寝てる間に上やんをフルボッコするってわけやな!)」ヒソヒソ

上条「(パシャっとな)」パシャ!

土御門「(そんなことしたら後で超電磁砲に消炭にされるだけぜよ)」ヒソヒソ

上条「(よし!寝顔写真ゲット!!またコレクションが増えたな。)」

青ピ「(じゃあどうするっていうんや?)」ヒソヒソ

上条「(外で寝てる美琴も新鮮だなー…)」

土御門「(つまり精神的ダメージを与えるってわけだにゃー。そんな彼女羨ましくないみたいなこと言ってだな。)」ヒソヒソ

上条「(…別アングルでも撮るか)」

青ピ「(それいけるんとちゃうか!!)……って上やん、さっきから何してんの?」

上条「何って…美琴の寝顔撮ってるんだよ。ほしいって言ってもやらねーからな。」

土御門「…別にほしくないにゃー。(せめるぜよ青ピ!)」

青ピ「(合点や!)そやな〜全くほしないわ。」

上条「…なんかいつもと反応が違わねーか?」

土御門「いやいや舞夏に比べたら超電磁砲なんてたいしたことないって気づいただけぜよ。」

上条「……何?」

青ピ「ボクも同じやで〜小萌先生のが断然上ってことや!」

美琴「スー…スー…(なんか起きたらおかしなことになってるし…とりあえず寝てるふりしとこ。)」

土御門「まずあの性格はないぜよ。」

美琴「!?(それって…?)」

青ピ「そやそや!普段は偉そうにしてて上やんの前でだけデレるなんて最悪やないか。」

上条「おい…美琴はそんなやつじゃ…」

土御門「それに電撃なんて物騒なもんもってる女の子なんて嫌だにゃー。」

上条「………」

美琴「……(当麻も同じこと思ってるのかな…電撃なんて使える女の子は…嫌なの…かな…)」

土御門「(…ちょっと言い過ぎたか?それに上やんにダメージ与えるためとはいえ悪口言うのはいい気分じゃないにゃー。)」

青ピ「(そやな〜。嘘でも女の子の悪口なんて今回きりにしたいわ…許すんや美琴ちゃん…。って上やん黙ってまったで。)」

土御門「(ん?なんか震えてるような…?)」

上条「……お前ら…言いたいことはそれだけか?」ゴゴゴゴ…

土&青「「え?」」

上条「舞夏や小萌先生が悪いとは言わねぇ…でもな…」ゴゴゴゴ…

美琴「(…当麻?)」

上条「美琴の悪口を少しでも言うやつはぶっ殺す!!!!!!」

美琴「(!!)」

土御門「ちょ、上やん!?なんかいつもとオーラがちが…ぐほぉあ!!」ドシャ!

上条「俺は美琴のすべてが好きなんだ!性格も、電撃もだ!それを馬鹿にするやつは許さん!!」

青ピ「ま、待つんや!あれは本心じゃな…ごっはぁ!!」ドシャ!

上条「ったく…あ、美琴起きたのか?」

美琴「うん!えへへ〜当麻だ〜い好き!!」ギュ!!

上条「うお!どうしたんだ?いきなり?」

美琴「なんでもないよ♪(私も当麻のすべてが好きだよ!)」


WINNER:上琴

741ソーサ:2011/03/24(木) 00:00:22 ID:GfsX9042
以上です!
自分で言うのもなんですがそろそろマンネリ化してきたかな…
面白い展開を書けるよう頑張ります…

742■■■■:2011/03/24(木) 00:34:16 ID:OWKK9qP.
問題ない、大好物ですはぁはぁ
乙でした!

743■■■■:2011/03/24(木) 02:36:38 ID:x4QzMVrw
甘い…甘くて美味い(o^〜^o)

乙です!

744夢旅人:2011/03/24(木) 03:11:38 ID:X5muHbJo
起きないあいつ番外編

「本日のスープ」

投下します。

745夢旅人:2011/03/24(木) 03:12:54 ID:X5muHbJo
「本日のスープ」


「ねぇ、当麻。今度の日曜日、デパートに買い物に行きましょうよ」

 そろそろ本格的な寒さが来ようかという冬の午後、自室で課題に取り組んでいる上条当麻は、自身の彼女、御坂美琴にそう言って誘われた。
 無事にロシアから帰ったものの、欠席中の課題が、小萌先生からたっぷりと渡された。
 上条ちゃんはこれを全てやらないと進級させません、などと言われたら、とにかくやるしかないのだ。
 そして上条の横で課題を手伝っている美琴は、もはや押しかけ女房同然に、他もいろいろ彼の面倒を見ている。

「そうだな、美琴のおかげでこの課題も片付きそうだしな」
「実はね、この間、当麻にお似合いの可愛いセーター見つけたの」
「上条さんにはそんなお金、ありませんよ」
「いいのよ。ちょっと早いけど、当麻へのクリスマスプレゼントにするから。サイズも見たかったし」
 なにより、とちょっとお世話焼きモードな美琴。
「学生服の下に着るセーターが必要な季節でしょ。コートとかはあるの?」
「ん、確かトレンチがあったはず」
「じゃ、とりあえず中に着る分があればいいわね」
「ありがとうよ。しかし男に可愛いセーターって」
「なによ!彼女の見立てに不満があるの?」
「いえ、何もありません」
「それとね、ランチにいいお店があるの。お昼はそこでどうかな」
「そうだな。しばらく課題漬けで、お前にも迷惑かけたしな」
「そんなのはいいのよ。私は……、当麻と一緒に居られたら、それだけで幸せなんだからぁ」

 ちょっと甘えたような口ぶりで、モジモジと上目遣いをする美琴の顔がほんのり赤い。
 それを見た上条は、――まったくコイツは、と呟きながら、美琴の肩を引き寄せ、そっとキスをした。
 素直に応じた美琴は、そのまま上条の肩にもたれた。
 上条が学園都市に帰った夜、壮絶なカタルシスの後、2人は恋人として結ばれた。
 ただ、通常のお付き合いをすっ飛ばした、最終段階から始まった関係が、甘ったれた照れやうわつきを見せない。
 あれから何度か肌を重ねるたび、素直にお互いをさらけ出せるようになってきたからだろう。
 彼らにとって男女の交わりとは、それぞれの心を見せ合う行為に他ならないからだ。

「ならランチ代ぐらいは、この上条さんが出しましょうとも」
「じゃ、決まりね」
――だったら、と言いかけた美琴を、上条が遮る。
「土曜日のお泊りはだめだ」

 不満そうな顔をする美琴に上条が諭すように言う。

「そうそう外泊もしてられないだろう。これでも俺たちは高校生と中学生だぜ。もう少し節度ッつうものをだな……」
「その中学生と淫らなことをしている高校生はどうなのよ?」
「いや、ま、それはその、だな……」

 今度は上条の顔が赤くなる番だ。

「中学生に手を出したすごい人って言われるんでしょ?」

 美琴がニヤリとしてからかう。

「学園都市第三位の超能力者が、無能力者の男子高校生と爛れた関係にって、噂になるんだぜ」

 ムッとした上条が、負けじと言い返す。
 だが腹を括った女ほど手強い者はいない。

「平気だもん」

――それに、と言いながら、上条の手を自分の胸の前で抱きしめる。

「私は地獄だろうとどこだろうと、当麻と一緒なら怖くないわ」

746夢旅人:2011/03/24(木) 03:14:00 ID:X5muHbJo
日曜日、クリスマスセール真っ最中のデパートは混んでいた。
 美琴は前日土曜日に、門限通り寮へ帰らされたためか、その日はいつもより積極的だった。
 人目をさほど気にすることも無く、べたべたと上条にまとわり付く。
 とはいえ、気恥ずかしさを紙一重のところで回避しているのは、外にいるという意識があるからだろう。
 その姿は初々しさの残る学生カップルのそれではなく、より大人びた雰囲気を醸し出していた。
 だからなのか、今の美琴に、漏電や失神といったことはほとんど無い。
 もはや新たな『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を確立しつつあるようだ。
 その中に『上条当麻』という存在が組み込まれているのは間違いないのだろう。

 久しぶりのデートにはしゃぎ、美琴は満面の笑顔で上条の手を引いていく。
 お目当てのセーターを買い、更にデパートの中をあちこち巡り歩いたのち、美琴が上条に提案した。

「お腹空いちゃった。そろそろお昼にしない?」
「そうだな。よし行くか」

 デパートを出て、通りを2人して歩いていった。
 冬の空はどんよりして、寒風強く、一段と冷たく感じる。
 たとえ数ブロック先へ行くのでも、その真冬のような冷たさに震えが来そうだった。
 美琴はいつもの常盤台中の制服の上に、ダッフルコートにマフラー、手袋と完全装備でいる。
 一方で上条は、トレンチコートの下に、ウールのシャツとデニムのパンツと少し肌寒そうだ。
 その店に着いたときには、上条の体はすっかり冷えていた。
 入口を入ってからの暖かさが、こわばった体をほぐしてくれる。
 と同時に、心まで解されていくのは、向かいに座った彼女の微笑の所為でもあるのだろう。

「何にしよっか?」

 メニューを見ながら、美琴が上条へ問いかけた。
 
「そうだな、この『本日のスープ・デザート付カップルランチセット』なんてどうだ?」
「あ、私もそう思った」

――それじゃ、と言って上条がオーダーを入れる。

 窓から見える空は、暗くくすんだ灰色で、今にも何か降りそうな様相だ。
 そんな景色をぼんやり眺めている美琴を、上条はただじっと眺めていた。
 何もしなくても、何も言わなくても、ただそこに居てくれるだけで満たされる。
 そんな彼女の姿を、テーブルに頬杖ついて、じっと眺めていた。
 先程のデパートでの笑顔の美琴と、今のぼんやり景色を眺める美琴。
 昨夜、常盤台の寮の前で別れたときの少し悲しそうな顔の美琴。
 どの美琴も切なくて、ますますいとおしく感じてしまう。
 美琴は、これまで周りの人にどんな顔を見せてきたんだろうと上条は思った。
 今まで2人が別々の道を、違う速さで歩いてきたことが残念で仕方がなかった。

――お待たせしました。こちら本日のスープは、オニオングラタンスープです。

 ウェイトレスの言葉に2人の意識が戻ってきた。
 出されたオニオングラタンスープは、大振りのカップにたっぷりのグリュイエールとエメンタールチーズがかけられ、フツフツと煮立っていた。
 焼けたチーズの香ばしい香りと、たっぷりのブイヨンに、炒めたたまねぎの甘い香りが食欲を刺激する。
 2人とも目の前のご馳走に、思わず我を忘れるほど、空腹だった。

「「いただきます」」

 そう言って、カップにスプーンを突き立てた。

「熱ーい。やけどしそう。でもおいしい」
「うん、うまいな。猫舌の人はかわいそうだな」

カップから立ち上る湯気に、美琴の笑顔が溶ける。

――ああ、こうして美琴の笑顔を見ていたい。
――いつのまにか、もっと好きになったな。
――お前は今、何を思うのだろう?

「ねぇ。この後、どうする?」

 美琴が、スプーンを口に運びながら聞いてきた。

「そうだな。天気も崩れそうだし、寒いから、ちょっと早いけど一旦帰ろうか」
「そうね。買ったセーター、着てみて欲しいし」
「じゃ、帰ったら、時間までまったりしようか」

――昨夜の分もね、と呟いた美琴の言葉は聞かなかったことにした。

747夢旅人:2011/03/24(木) 03:16:37 ID:X5muHbJo
以上です。

次回、この続編を投下予定。

748■■■■:2011/03/24(木) 03:22:03 ID:mS5WnSFE
GJ!
読んでてなんか心暖まるな
続き待ってます!

749琴子:2011/03/24(木) 08:20:29 ID:1yoeRYQo
こんにちは!
久しぶりにきたらたくさん更新されてて、読む楽しみも倍増ですごく嬉しいです♪
書き手さんもたくさん増え、みなさんの良作投稿ラッシュ中で大変恐縮ですが…

相変わらずの駄文が出来ましたので今から投下しちゃいますw

今回は前文1レス+【ツンデレ上条ver.】1レス/【ツンデレ美琴ver.】1レスといった感じの小ネタです。
お題はズバリ「薄着な彼女に上着を掛けてあげましょう☆」です←

750小ネタ 寒そうな彼女に上着を…:2011/03/24(木) 08:23:54 ID:1yoeRYQo
【共通前文】

 季節は春となった3月。この4月より高校2年生となる御坂美琴は、今朝の自分を呪っていた。
(あーもう、失敗した! まさかこんなに寒いなんてっ!! 不幸だわ…)
 常盤台中学の時とは違い、今は制服の着用義務がない。それ故、美琴も美琴なりのオシャレを楽しめて嬉しいのは事実なのだが、
(こういう『春なのに冬みたいに寒い』っていう微妙な日が多い時期は、私服選びが色々と大変なのよねぇ…)
 つまり、今朝の美琴は「暖かいから上着はらない」という判断で外に出たのだが、現在実際に外を歩く美琴にとって、その判断は大いなる間違えだったというわけだ。こういう時期によくある事ではないだろうか?

「ん? どうした美琴。なんか元気なさそうだけど」
 隣を歩く上条当麻が、眉間に小さくしわを寄せている美琴に声を掛ける。
「……何でもないわよ? 別に、何でも」
「ならいいけど」
 とは言っても、実際に彼女がデート中に不機嫌そうで気にしない彼氏がいるはずもなく、(もっとも、付き合い始めた頃の上条は今と違って超がたくさん付くほど鈍感な彼氏だった為、そんな事は本人が無自覚なだけで日常茶飯事だった。)今日のこれまでのデートを思い返してその原因を考えてみる。
(えーっと……、今日はちゃんと美琴よりも早く公園に行ったよな俺……)
昼前に公園で待ち合わせをし、それからレストランでランチ、その後は映画館へ行った。その間の美琴はかなり上機嫌だったし、不満がある様子はなかった。少なくとも上条の知る限り、美琴の不機嫌そうな顔を見るのは、映画館を出てからしばらく歩いている今が今日初めてのことである。
(やっぱり美琴の言う通り何でもないのか? いやでも……)
 と、反対側の歩道を歩く一組のカップルが視界の端に映った。美琴という素晴らしい彼女が出来てからというもの、カップルを見て羨ましいと思う事はなくなった。しかし、それでも何となく見てしまう事はたまにある。
(あちらもデート中かぁ。でも彼女の方はなんか不機嫌そうだな……)
 すると突然、反対側の車道側を歩く少年がジャケットを脱いだ。上条が不思議に思っていると、少年は隣を歩く少女の肩にそっとそれを掛けた。ジャケットの温もりに包まれた瞬間、上条から見える少女の顔が愛らしい笑顔に変わった。ジャケットの袖に手を通す少女は、とても嬉しそうに微笑んでいた。
(……!!)
 そして上条は悟った。自分の隣を歩く少女が不機嫌そうで、少し悲しそうな顔をしている理由を。愛する彼女の笑顔を守る為に、今の自分に出来る行為が何であるかを。


⇒【ツンデレ上条ver.】
  or
⇒【ツンデレ美琴ver.】

751【ツンデレ上条ver.】:2011/03/24(木) 08:25:48 ID:1yoeRYQo
 しかし、当たり前だが上条と反対側の少年は別人である。あんな爽やかな好青年、上条はとても見習えない。(いや、無自覚なだけで女子に対しては極めて好青年であるが、一部例外がある。)
とは言っても、美琴が不機嫌な理由を知ってしまった以上、上条が今やるべき事は一つしかないのだ。恥ずかしくてもやるしかない。
 だから、上条は着ていたジャケットを脱ぐ。何やら考え事をしているらしい美琴は、上条の動きに気付かない。
「美琴」
「何よ?」
「ほれ」
「わっ!?」
 上条は脱いだジャケットを、無造作に美琴の頭の上へと放った。
「何すんのよ!? ……ってこれアンタのジャケット?」
「持ってろ」
「へ?」
「俺暑いし、でも手に持っとくのは面倒だし」
「……、」
「だからそれ、お前が持ってろ」

 何て言い草だ、と美琴は思う。面倒だからって彼女に荷物持ちをさせようなんて酷過ぎる。
 でも、もちろん美琴は気付いている。そっぽを向いた上条の頬が紅潮しているのにも、ジャケットを脱いだ上条の手が少し震えているのにも。
「……いいわ。仕方ないから、優しい美琴センセーが持っててあげる」
 だから感謝しなさい♪ と美琴は上条の左腕に抱き付く。ね? これで少しはアンタも寒くないでしょ?
 慌てる上条が可愛くて仕方がない。ファーストキスは付き合い始めて10ヶ月ほど過ぎた去年のクリスマス。しかし未だにこんなことで慌ててくれる純情な上条が愛しくてたまらない。
「どこか暖かい喫茶店にでも入りましょ」
「お、おう」

 優しくて不器用でまだちょっぴり鈍感な彼氏、上条当麻。
 まだまだ肌寒い3月下旬、今日も美琴は大好きな当麻とのデートを楽しんでいる。


【ツンデレ上条ver.終】

752【ツンデレ美琴ver.】:2011/03/24(木) 08:27:02 ID:1yoeRYQo
 美琴の方に視線を戻した上条は、ある事に気が付いた。
(見てる……)
 そう、美琴もたった今反対側で起きた事を見ていたのだ。いや、釘付けになっていると言った方が正しいのかもしれない。そう言えば今のあれは確かに、美琴が好きそうなシチュエーションの一つのような気がする。美琴と付き合い始めて1年が過ぎた今、上条は美琴の思考をかなり理解出来るようになっている。
「……、美琴」
「ふぇ!? ななな何よ?」
「ほれ」
「へ!?」
 脱いだジャケットを、上条は優しく美琴の肩に掛けてやる。
「寒いんだろ? これ着とけって」
 美琴にとって予想外の展開だったのだろう。口をパクパクさせて、言葉が出てこないようだ。こういうちょっぴり間抜けな表情すら可愛いと思えるようになった自分は、付き合い始めた当初では考えもしなかったくらい御坂美琴に惚れているのだろう。
「ななな何言っちゃってんのアンタ!? そんわ訳ないじゃない!!」
 何と格闘しているのだろう? おそらくある種の彼女自身が持つプライドだとは思うが、なかなか素直になれない美琴のツンツンタイムが始まった。こうなると少し意地悪したくなってしまうのは、最近気付いた上条の悪い癖だ。
「いや、よく見たらお前震えてるし……てか手先もこんなに冷たくなってたのか」
「ちょっとアンタ何勝手に触ってんのよ!?」
「いや彼氏がデート中に彼女の手を握るくらい普通だろ」
「ッ!?」 
 実際に普段は気恥ずかしくてなかなか握れないのだが、こういう風に相手をからかう時だけは平気で握れたりするのだから不思議である。ちなみに頬の方は正直で、慣れない行為と言葉のせいで真っ赤だ。
「し、仕方ないわね。わざわざ脱いだジャケットを着るのは面倒だろうから、代わりに私が着といてあげるわよ」
 一方の美琴もリンゴのように真っ赤になっている。言葉はツンツンしているが、頬の筋肉はかなり緩んでいるようだ。でもそれを言ったらビリビリ間違いなしだから絶対に言わない。これまでの経験則で上条当麻は知っている。ただ、
「お前、可愛いな」
 思わず本音が、ポロリとこぼれた。

「なっ!?」
見上げれば嬉しそうなアイツの顔。やっぱり恥ずかしさはあるらしく、頬はこれ以上ないほどに紅潮している。いや、ファーストキスを時はこれ以上だったかも……/////
「……、」
 そこまで身長差はないはずなのに、こうしてジャケットを着てみると当麻が男の人なんだと実感する。大きくて温かくて、ジャケットに染み付いた当麻の匂いを感じて頭がくらくらする。それに加えて、繋がれた手。もう漏電寸前。辺り一帯の電気製品をダメにしちゃいそう。
 そんなことを頭の中でぐるぐる考え、恥ずかしさゆえに俯いていると、
「どうした美琴? 顔赤いぞ」
 鈍感なのか意地悪なのか。どちらにせよ黒子の変態行為に対する制裁と違って、簡単に電撃をぶっ放せないだけに性質が悪い。照れ隠しでの電撃はしないと以前約束したのだ。
 だから、これが美琴のせめてもの反抗。
「アンタのジャケットが暑いのよ!!」
 おそらく真っ赤であろう自分の顔が、こんな小さな反抗すら台無しにしているかもしれないけれど。ありがとうの言葉だけは絶対に言わない。いつもいつも当麻に負けてばかりみたいで、何だか悔しいもの。まぁ、先に惚れた方が負けって言うらしいから仕方ないんだけどね。

 やっぱり素直になれない、御坂美琴。それでも。
まだまだ肌寒い3月下旬、今日も美琴は大好きな当麻とのデートを楽しんでいる。



【ツンデレ美琴ver.終】

753琴子:2011/03/24(木) 08:30:49 ID:1yoeRYQo
以上☆
琴子の理想と妄想を上琴に転換した駄文でした←
どちらが皆様のお好みでしょうか??w

実はしばらく海外滞在で新約2巻読めるか不安だったりしますが、おかげさまでネット環境はありますので皆様の上琴ssを楽しみに頑張ろうと思います!!

ネット社会万歳!!
すべての作者様万歳!!

754■■■■:2011/03/24(木) 08:58:10 ID:Ocp1SO62
GJ!
なんだこれ…ニヤニヤ止まらない…

755■■■■:2011/03/24(木) 09:44:53 ID:.Fw1kDBk
皆さん素敵な話を書くんですね♪
もう2828がとまりませんww

756■■■■:2011/03/24(木) 10:00:06 ID:.0iC/KPs
>>753
琴子さんGJ
どちらもいい…どちらもいいぞw
美琴のツンデレが可愛くて意地悪したくなっちゃう上条さんに萌えました
原作上条さんも見習うべき!w

757■■■■:2011/03/24(木) 10:47:40 ID:xokRVXfY
>>741
>>747
>>753
        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

758■■■■:2011/03/24(木) 11:40:17 ID:BFTBCalg
人工地震ですよ
東京湾、静岡県東部、新潟県中越地方の余震は、いつも同じ震源地(笑)
ttp://megalodon.jp/2011-0322-1805-09/jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/school/21200/1278853677/8928-8930

なぜ東京湾は同じ場所でしか余震が起きないのですか?w

理系の人・・・答えられますか?

759夢旅人:2011/03/24(木) 18:15:52 ID:X5muHbJo
起きないあいつ番外編 第2弾

「それさえもおそらくは平穏な日々」

投下します。

760夢旅人:2011/03/24(木) 18:19:08 ID:X5muHbJo
「それさえもおそらくは平穏な日々」


 デザートまで堪能した2人は、満ち足りた気分だった。
 食後のコーヒーの香りが、幸福感を倍増させる。

 上条はいつの頃からか、紅茶党だった。
 おそらくは保護していたシスターと、その仲間達の影響もあったのだろう。
 美琴と付き合うようになり、飲み物の嗜好も、彼女のそれに上書きされつつあった。
 美琴はどちらかと言えば、コーヒー党だった。
 大人びた志向と、子供じみた嗜好を持つ彼女としては、大人へのステップとして、コーヒーという嗜好品の位置づけは重要だった。
 それだけに『夜明けのコーヒー』というシチュエーションに、『幻想的な憧れ』を持っていたらしい。
 2人で迎えた何度目かの夜明け、かつてピロートークで聞いた美琴のささやかな願いに、上条は応えたことがあった。
 薄明るい夜明けの光の中、無言でベッドの上に座り、儚げにコーヒーカップを両手で抱える美琴の姿に、上条は微動だにしなかった。
 上条はこの時ほど美琴をいとおしく、切なく、そして身を裂くような自己嫌悪を『感じた』ことは無かった。
 上条が背負い、拠って立つその場所で、美琴が占める割合はかなりのものだ。
 しかしその場所は、彼女が独占しているわけではないことを、美琴は知っている。
 その苦しみを、彼女はこうした一時の安らぎの中でしか消すことが出来ない。
 上条もそれを知っているだけに、美琴の想いに少しでも応えようとしている。
 2人は何かに溺れるように、いつも手持ちのカードを全て、ぶつけ合う。
 未来が約束されている年齢にも関わらず、残された時間が限られているかのように。
 彼らの将来を思えば、若気の至りとして切り捨てることなど誰にも出来やしない。
 彼らの背負っているものの重さと、責任を思えばなおさらだ。
 いつかはそれが許されぬ時が来るかもしれない。
 自らの拠って立つ『幻想』を、自らの手で『殺す』時が来るかもしれない。
 それが今ではないことが彼らにとっての救いである。
 たとえ問題の先送りにすぎないのだとしても、彼らを責めることは出来ない。
 いったいだれがそれを、この15歳の少年と14歳の少女に背負わせたのだろう。
 もしこの世に救いがあるならば、せめてその残酷な結末を、彼らが自らの手で覆す時が来るよう願うしかない。


「このお店、良かったわね。次もここでランチしよっか」
「そうだな。値段も手頃だし、雰囲気も良いし」
「当麻、コーヒー、おかわりもらう?」
「そうだな。美琴はどうする?」

 その答えは、2人の少女の問いかけに遮られた。

「「み・さ・か・さん!」」
「え……あ!?」
「……?」

 初春飾利と佐天涙子だった。
 2人は、上条と美琴のテーブルの前に立ち、自己紹介を始めた。

761夢旅人:2011/03/24(木) 18:19:47 ID:X5muHbJo


「はじめまして、佐天涙子です。そちらの男性は、御坂さんの彼氏さんですか?」
「はじめまして、初春飾利です。あのお邪魔でなければご一緒させていただいていいですか?」
「あ、はじめまして、かな?上条当麻です。美琴の友達なら、俺は別に構わないが」
「あー、もうしょうがないわねぇ。はい、席移るから2人ともここ座りなさいよ」
 
 そういって美琴は上条の横に移り、ありがとうございます、と言いながら初春と佐天はその向かいに座った。
 佐天と初春はオレンジジュースを注文し、上条と美琴はコーヒーをおかわりした。

「今、前通ったら、お二人の姿が見えたもので」
「せっかくだから、ちょっとお話を聞きたいなって思って……」

 そう言うと上条と美琴の顔を交互に見遣る。

「お話ってなんでせう」
「さっきの質問ですけど、上条さんって御坂さんの彼氏なんですよね?」
「ええと、言っちゃっていいのか?美琴」
「どうせいつかはバレるんだし、構わないわよ」
「と、いうことだ。お2人さん」
「いつからお付き合いをはじめたんですか?」
「それは…戦争が終わってしばらくしてからだな」

 その答えを聞いた時、初春が何かを探るような顔になった。

「御坂さん。たしか第3次世界大戦の終わった後、すごく落ち込んでいた時がありましたよね」
「しかも、戦争中、全く寮で姿を見かけなかったというし……」
「寮に帰ってきてからは、精神的にものすごく不安定だったし……」
「ぱっと見は普段どおりだったけど、白井さんなんてものすごく心配してて」
「そうだったわね……」
「ということは、その頃上条さんと何かあったってことですよね?」
「もしかして上条さんも、御坂さんと同じように、何か戦争に関係してました?」

 2人の質問の鋭さに、上条はたじろいだ。
 美琴の顔を見たが、彼女も複雑な顔をして黙ったままだ。
 やがて上条はガシガシと頭をかいて言った。

「俺と美琴の関係についてなら何でも答えるが、その件に関してはノーコメントだ。
その質問についても忘れてくれ。それだけだ」

 その時の上条の真剣な顔に、2人は引き下がらざるを得なかった。

――この学園都市には謎が多すぎる……

 初春には何か思い当たる節があるようだった。


 上条と美琴は、初春と佐天から散々2人のそれまでの関係について尋問を受けた後、ようやく解放された。
 多分上条と美琴の関係について、目下、一番の情報量を持っているのがあの2人ということになろう。
 時間は既に、夕方近くになっていた。

「「もう今日は帰ろうか……」」

 どちらからとも無く、力ない言葉が聞こえてきた。

762夢旅人:2011/03/24(木) 18:20:21 ID:X5muHbJo


 腕を組んで、上条の寮へ向かう二人。
 その時、暗くなった空から一陣の風と共に、冷たい雨が降ってきた。

「うわ、いきなり時雨れてきやがった!」
「あと少しだから、このまま走りましょ!」

 手をつなぎ、駆け出す2人の熱気を冷やすように、雨が強くなる。
 上条の部屋に着いたときは、スープで暖まった身体もすっかり冷えていた。
 濡れたコートを拭き、玄関の横に並べて掛ける。
 部屋の暖房を入れ、コタツのスイッチも入れた。
 

「うう。もうすっかり冷えちまったな」
「そうね。お風呂借りていいかしら?それと着替えがないから、今日買った当麻のセーター借りていい?」
「いいよ。俺も後から入るわ」

 美琴が上条に抱きつき、背中に手を回す。

「だったら……ね、一緒に……だめ?」
「しゃあねえな。昨夜の分も合わせて……な」
「ありがと……ん……愛してるわ……とうま」
「ん……俺もだ……愛してるぜ……みこと」

 心の中に、満たされないなにかがある2人は、互いのからだを求めることでしか、それを埋めることを知らない。
 貪るように唇を重ねることで、きつく抱き締めあうことで、激しく交じり合うことで、そのなにかを満たしているのだ。
 

 今日買った上条のセーターを着た美琴が、嬉しそうに言った。

「やっぱり当麻のセーター、大きいのね」
「そうか?俺にはぴったりだぜ」

 上条はそういって、美琴を引き寄せ、軽く口付けた。

「ありがとうな。最高のプレゼントだよ」
「当麻にそう言ってもらうと嬉しいな。でもクリスマスのプレゼントはこれだけじゃないからね」
「あまり、無理すんじゃねえぞ」
「無理なんてしないわ。私のしたいようにしてるだけだもの」
「そうか……。しかし今日も相変わらずいろいろあったな」
「でも、あの2人から戦争についての話が出るなんて」
「ああ。もしかすると……」
「いや。今はそんなことは考えないで。つらくなるだけだから」
「……すまない、美琴。だがその時はお前を1人にしておくつもりはないさ」
「ありがとう、当麻。でも私もいつか、こんな日でも懐かしく思える時が来るかもしれないという覚悟はあるわ」
「それさえも、おそらくは平穏な日々だった、ってことか……」
「そうね。でも当麻と同じ道を歩いていけるのなら……」
「美琴と同じ速さでな……」

――今はもうすこし、このままでいたい。

 ふたりして寄り添いながら、同じ思いをかみしめていた。

763夢旅人:2011/03/24(木) 18:24:43 ID:X5muHbJo
以上で番外編第2弾終了です。

初春&佐天のコンビがうまく書けない…。
今回は内容の吟味が不充分です。

なんか、先がものすごく不透明な2人の恋愛物語になってます。
ひとつ間違えれば、悲劇が待ち受けているような感じになってしまいました。

764■■■■:2011/03/24(木) 21:44:21 ID:xokRVXfY
>>763
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

765■■■■:2011/03/25(金) 03:00:34 ID:DK3MDwXI
>>763
GJです!
たとえこの先なにがあろうと2人ならきっと乗り越えられるよね

766小ネタ人(15-296):2011/03/25(金) 08:34:38 ID:QR47sHaQ
巫女服を着た美琴と常磐台の制服を着た■■が上条の前に立っている
   
上「え〜っと、なにやってんだ?御坂も■■も」

      
美「あ、えっとその」
      
■「イメチェン、上条君に見せようと思って」
       
美「似合ってるかな?」
      

上「GJ……じゃ無くて、お前ら知り合いだったっけ?」
      
■「この前、知り合って意気投合」
    
禁「あいさ〜」
    
■「友達が呼んでいるから、私はここで」
    
上「おう、明日な」
    
■(それじゃ、頑張ってね)ボソッ
      
上「しかし、可愛いな巫女の美琴は好きになりそうだ」
    
美「うん、私はアンタが好きなの」
   
上「……………へ、御坂さん今なんっ(キっキス……!!!ヤバい意識が……)」

    
美「……(とうま、大好き)……」
    
その後、真っ青になった上条が入院したのは内緒だ

767■■■■:2011/03/25(金) 09:30:25 ID:ROZekL4Y
>>766
■■って誰だよ?
上琴以外の他キャラを貶す様な内容の投稿は、やめてもらいたい。

768琴子:2011/03/25(金) 10:22:49 ID:3idtvcU2
>>763夢旅人さん
GJです☆
頬筋下がらなくて困りますw

>>766
姫神ですよね?
姫神と美琴って何か新鮮でGJです!
でも名前は出してあげて下さいね☆

そして小ネタ読んで下さった方々ありがとうございました!!

>>754>>755
上琴読むと頬筋上がりっぱなしで困る時ありますよねw

>>756
ホントに見習って欲しいものです!!

>>757
わぁぃ♪その絵可愛いですよねw

769まずみ:2011/03/25(金) 18:55:19 ID:hqiXHtHg
こんばんは、まずみです。
さて、「恋する美琴の恋愛事情」も山場を迎えました。
この先どう決着がつくのか。
果たして、告白を決意した美琴の恋の行方は……
是非お楽しみください。

さて、レスです。

>>702
FJってなんの略なんでしょう…Fantastic Job?w

>>703
なんか、男前になってしまいましたw
実際の話、実は美琴の次に吹寄は大好きなんですけどねw
あの胸にうもれてみたいw

>>705
さて、今回のお話どう思われるのでしょう・・・
ネタ的には色々やりたいのですが、今回もいちゃいちゃとはなんかかけ離れてる気がしますし^^;;;

>>716
ついに告白です。とりあえず、私のSSでは他の人のような甘い展開にはなりませんでしたw
甘いお菓子のような展開も書いてみたいとは思うんですけどねw

>>728
佐天さんはいい娘です。苦しみを味わいながら、挫折を味わいながらもそれでも前に進む強さ。
美琴の精神的な味方としてこれほど頼もしい子はいないと思います。
姫神も強いんですが一応当麻サイドなのでw

ということで、遂に美琴さんの告白です。
萌えません。むしろ燃えてくださいw

『恋する美琴の恋愛事情』その6「恋する美琴の最終決戦」どうぞお楽しみください。

770『恋する美琴の最終決戦』:2011/03/25(金) 18:56:09 ID:hqiXHtHg
 風が吹いていた――

 川面に吹く風が鉄橋の上の二人にも容赦なく吹き付ける。
 既に日も沈み、町を夜の闇が覆っていた。住人のほとんどが学生であるこの街ではこの時間ともなると人の気配は少なくなる。特に商店街や学生寮から離れたこの鉄橋の上では人の姿を見かけるほうが稀である。
 それでも、この時間、この場所に二つの人影があった。

「……よく逃げないで現れたわね」

 一人は少女。投げかけた言葉の先にいる者に対して視線を外そうとはしない。

「……ああ」

 一人は少年。しかし、その言葉に一言そう答えただけだった。

「こうしてこの場所でアンタと対峙するなんて、何日ぶりかしらね」
「………」
「あの時、アンタはいつもの力で私の電撃を打ち消す事も、避ける事もせず、ずっと受け続けた。ボロボロになってまで、もしかしたら死んでたかもしれないのに。アンタは私の荒れ狂った心をずっと受け止め続けてくれた。そして、私に代わって『一方通行(アクセラレーター)』と戦って、あの子達を解放してくれた」
「なあ、御坂――」
「ううん。その事には感謝してるし、恐らくどうあっても私にはあの借りを返す事なんてできないと思ってる」

 少女は少年の言葉を遮り、さらに言葉を重ねる。

「今日の事は本当に私の我が儘。アンタが付き合う義理は無いんだけど、でもね、やっぱりこれはアンタでないと駄目な事だから」
「御坂……」
「だから、お願い。私と本気で戦って。アンタの全力で私と戦ってほしいの」

 少女――御坂美琴はニコリと微笑んだ後、全身から電撃を発生させる。そこに悲壮感はない。そこに哀愁は無い。ただ、決意に満ちたその瞳と闇の中で光るその姿はヴィーナスを想わせる輝きを放っていた。

「……あー」

 少年――上条当麻は特徴的なそのヘアスタイルの髪を掻き上げると、今度こそ美琴に視線を向ける。

「御坂。手加減できないぞ?それでいいか?」

 当麻の瞳に揺らぎはなかった。その瞳からは決して嘘や誤魔化しの無い強い意思を感じられた。

「ええ、お願い。恐らくこれがアンタと最後の勝負になると思うから。上条当麻」
「そっか。結構楽しかったんだけどな、お前との追いかけっこは……わかった、やってやるよ」

 そして、少年と少女、二人の想いを懸けた戦いの幕が今切って落とされた。


      ********

771『恋する美琴の最終決戦』:2011/03/25(金) 18:57:17 ID:hqiXHtHg
 さて、二人の戦いの前にほんの少しだけ時計の針を戻そう。

 今度こそ告白を決意した翌日、美琴は当麻に会うべく、久しぶりにいつもの公園に来ていた。本当は彼の学校や寮を知っていたなら直接そこに出向きたかったのだが、残念ながら美琴はその情報を知らなかった。(もちろんデーターバンクにハッキングすればその程度の情報はすぐにわかるのだが、何故か美琴はそれを躊躇った)

 そして、どれくらい時間が経っただろうか、普段なら姿を現す時間になっても当麻は現れず、さらに時間が経ち、空は真っ赤な夕焼色に染まり始めていた。既に公園内だけでなくその周りの歩道からも人の気配は少なくなっている。

「………」

 やはり、しばらく顔を出さなかったのがまずかったのだろうか。もう彼はこの道を通らなくなったのではないか。美琴の心に不安が渦巻く。

「……ばぁか……」

 誰に向かってか小さく呟いた美琴は、普段蹴り上げることしかしなかった自動販売機の側面に身体を預け、膝を抱えて俯く。
 もしこれで会えなかったら、彼との縁はここまでと言う事なのだろうか。そう思うと身体中が引き裂かれたような気持ちになる。

――まだ始まってもないのに終わってたまるか!

 崩れ落ちそうになる気持ちをその一心で奮い立たせる。まだ終わりと決まったわけではない。

「ビリビリ、何やってんだこんなところで?」

 だからその言葉を聞いた時、待ち望んだその声を聞いた時、不覚にも涙がこぼれ落ちそうになってしまった。

「私の名前は御坂美琴っていちゅも言ってりゅでしょ!ヴィリビリいうな!」

 その場で立ち上がり、なんとか体裁を整えるため、普段と同じ言葉使いをしたが、熱くなった眼頭と緩みきった頬でうまく言えたかどうかの自信は無い。

「今日は電撃を飛ばさないんだな?」

 普段と違う態度に当麻は違和感を感じていたようだが、どうやら気付かれなかった様子に美琴は安堵と共に不快感を感じてしまう。まあ、これが上条当麻の上条当麻たる所以なのだが……

「で、その御坂美琴様は上条さんに何かご用でも?」

 と、当麻は相変わらずの態度を貫いている。腹は立ったが、話がこじれても困るのでさっさと用件を伝える事にする。

「今晩7時、あの鉄橋の上で待ってるから。決着をつけましょう」

 まっすぐに当麻を見つめる美琴。これをいつものようにのらりくらりとかわされたら困る。だから、逃げられないよう、視線に強い意思を込める。

「決着って御坂……」

 当麻はいつものように誤魔化そうとしたが、そのまっすぐな瞳に圧倒されたかのように続きを言えなくなってしまった。

「……本気なんだな?」
「ええ、そう。言ったでしょ、決着をつけるって。それはそのままの意味」

 だから当麻もまっすぐに美琴を見つめ返す。そして二人の視線が交差し、先に目をそらしたのは当麻だった。

「わかった。今夜7時だな」
「ええ、必ず来てよね」

 当麻はそのまま踵を返し、公園を出て行く。そして、完全に姿が見えなくなるまで美琴は当麻に視線を向けたままでいた。

「……うっ……ひぐっ……ばかぁ……ふぐっ……上条当麻のばか……」

 当麻の姿が見えなくなり、周りに誰も居ない事が判ると、美琴はほんの少しだけ泣いた。もう、後には引けないんだと、自分の心に納得させるためにも。


      ********

772『恋する美琴の最終決戦』:2011/03/25(金) 18:58:52 ID:hqiXHtHg
 そして、時計の針は再び戻り、決戦の時となる。

「このぉ!!」

 美琴の放った電撃は、当麻の右手によって払われ、誘導されたかのように全く別な場所へと落とされる。今まで右手で打ち消すしかしてこなかった当麻しか知らない美琴にとってそれは驚愕の事実だった。

『打ち消すだけならそのタイムラグをつけると思ったのに、いつの間にこんな戦い方を覚えたのよ!?』

 美琴も上条当麻がいつも誰かを助けるために戦いに身を投じていることは感じていたし、この間の病院逃走劇からも判っていた事ではあったが、それにしてもここまで戦い慣れしているとは思いもよらなかった。

「それならっ!」

 今度は電撃を分散し、三方向から狙う。能力を打ち消す力は右手にしか宿っていない事は知っている。だから、多方向からの同時攻撃には対処しようがない。

「甘いっ!」

 当麻は落ちていたスチール片を電撃に向け投げる。その瞬間、スチール片が避雷針となり、電撃が1箇所にまとまる。そして、それを右手で払うと、当麻は美琴に接近すべく、一歩前に踏み出した。

――ジャキン!

 その瞬間、黒い影が当麻を狙い迫ってくる。当麻はそれをギリギリで躱す。

「ちっ!」

 勢いを殺し、その場で立ち止まる当麻。電撃を躱した先に見た美琴の手にはいつか見た砂鉄の剣が握られていた。

「アレすらもフェイクかよ」
「言ったでしょ。全力をだすって」

 不敵に笑う美琴。もちろんさっきの電撃が効果ないことなどわかっていた。だから、当麻の接近は予測できていたし、接近のために右手を使うその瞬間を狙ったわけだが、そう簡単には行かなかった。

「そういえば、初めてだな」

 当麻は何か感慨深げに言葉を漏らす。その瞳にはどこか嬉しそうな優しい光が浮かんでいた。

「何が?」
「俺と御坂がこうやって誰かのためじゃなく自分の為に真正面からぶつかるのって」

 その言葉に御坂もようやく笑みを零す。

「そうね。……ね、だったらこれもいい機会だし、賭けない?」
「何を?」
「この勝負、勝った方が負けた方に何でもひとつだけ言うことを聞かせられるって」
「はは、どこかで聞いたことある賭けだな」
「そうね。あの時のは有耶無耶になっちゃったから、今度こそきちんとするってことで」

 美琴は片目をつむり、当麻に不器用なウィンクを投げる。それを見た当麻は苦笑を浮かべ――

「いいぜ、御坂がこの勝負に勝てるって言うのなら、俺の全力でおまえのその勝利の幻想をぶち壊す!」

 美琴へ勝利の宣言する。

773『恋する美琴の最終決戦』:2011/03/25(金) 18:59:59 ID:hqiXHtHg
「言ってなさい!」

 再び、美琴は当麻の周りに電撃を放つ。もちろん効果は期待しないが、目隠し代わりにはなる。

「このぉっ!!」

 当麻が右手で電撃を打ち消した瞬間、今度は全方位からの砂鉄攻撃。もちろんこれも囮、目的は美琴が狙う距離まで当麻を誘導すること。

「同じ手は通用しないぞ、御坂!」

 やはり、前方の砂鉄を打ち消し真正面からの攻撃を仕掛ける当麻、しかし、それこそが美琴の狙い。

「これで!」

 美琴は更に今度は砂鉄の弾丸を当麻に向け打ち出し、そして、それと同時に砂鉄の剣を一気に伸ばす。これだけの近距離ならば、弾丸を打ち消したとしても砂鉄の剣は当麻に命中する。

「ふっ」

 しかし、当麻はそれを読んでいたかのように、弾丸を打ち消した後、砂鉄の剣を軽く握り、自分の方に引き寄せた。

「え!?」

 驚いたのは美琴の方だった。先程の電撃を逸らしただけでも初めて見た戦法なのに、まさか掴むことが出来るなんて。そして、剣を掴んでいた右手ごと当麻の方に引っ張られてしまう。

「きゃっ!」

 体ごと当麻に引っ張られる美琴。当麻は既に左手を振りかぶり、美琴へと打ち下ろす準備をしている。そして――美琴の驚愕の表情は"勝利の笑み"に変化する。

「これを待ってたのよ!」

 美琴は引っ張られた瞬間、自らの脚力で当麻の方へ飛び込む。そう、これこそが美琴の考えた勝利の距離。本当の意味での美琴の全身全霊をかけた一撃。既に当麻の左手が打ち下ろすには遅い距離。

「とうまぁ!!」
「えっ!?」

 だから、当麻も驚きのまま何も出来なかった。
 そして、美琴は作戦通りにそれを実行する。
 その瞬間、時が止まったように静寂があたりを包んだ。

「「!!」」

 それは美琴の気持ちを、当麻に対する想いを込めた最強の一撃。

 美琴の唇が当麻の唇があわさり、美琴の柔らかい唇の感触が当麻の唇を包みこんでいた。

774『恋する美琴の最終決戦』:2011/03/25(金) 19:00:46 ID:hqiXHtHg
 ドサッ! そして、その勢いを殺せぬまま、二人は縺れるように倒れこむ。もちろん、当麻はその行為に驚きながらも、美琴が怪我しないように両手でかばうことを忘れない。

「「……」」

 しばらく無言の状態が続く。当麻は美琴をその胸に抱きながら、美琴は大人しく抱かれ続けながら

「あ、あのな、御坂」

 それでも先に声を出したのは当麻だった。

「なんで、あんな事を?……」

 そのセリフに反応したかのように美琴は顔を上げる。自分のやったことの大胆さに恥ずかしいのか、顔中真っ赤にしている。

「わからないの?」
「え、いや……その……」

 当麻も顔を真赤にしながら、美琴の視線から逃れるように顔をそらす。

「ね、当麻。私言ったよね。全力で戦うって。これが私の全て。私の気持ちの全部だよ。それでもわからないなら、私は何度だって言うよ、私は当麻が――きゃっ!」

 しかし、その先は言葉にできなかった。当麻は美琴ごと身体を起こすと、更に力強く抱きしめる。

「そこから先は俺に言わせろよ」

 当麻は抱きしめる力を緩めると、美琴の顔をまっすぐに見つめる。

「……御坂、お前のことが好きだ……俺の彼女になってほしい……ダメか?」

 しかし、美琴は

「駄目じゃない!駄目じゃないよ!!ヴァカァ!!」

 涙を流し、顔をくしゃくしゃにしながらも受け入れた。

「バカはどっちだよ。あの時の話、やっぱ嘘じゃなかったんじゃねぇか。誤魔化すのが下手すぎるぞ」
「ヴァカッ!ヴァッカ!どうまのヴァカッ!」

 そう言って泣きじゃくる美琴を当麻は再び美琴を優しく抱きしめた。

「そうだな、馬鹿だよな、俺」
「そうだよ、当麻のせいなんだからね!ヴァカッ!!」

 そして、美琴が泣き止むまでそのばで二人はずっと抱き合ったままだった。

「ね、当麻……」
「ん?なんだ、御坂?」
「私まだ肝心の言葉を聞いてないよ」

 ようやく泣き止んだ美琴のその台詞に当麻は苦笑する。やっぱり、美琴は美琴なのだと。

「そうだな。わかったよ」

 それでも、確かにこれはケジメだから、決着をつけないといけないだろう。当麻は嬉しそうな美琴の視線を受けながら、ゆっくりと口を開く。

「参りました。俺の負けですよ、美琴」

 そして、その言葉と同時に美琴に口付けする当麻。それこそが、当麻の敗北の証として。そして――

――美琴の本当の意味での勝利の味だった。

775『恋する美琴の最終決戦』:2011/03/25(金) 19:07:56 ID:hqiXHtHg
以上になります。

さて、普通に告白と思いきや、やっぱりこうなる素直じゃない二人。
この展開の何処がいちゃいちゃなのだとご不満の方もいらっしゃるとは思いますが、お赦しください。
なんせ、美琴が素直に告白するシュチエーションって他の方々が沢山されているので、やっぱひと味違う告白を、と思うと決闘しかないだろうなとw
一応最後の最後はちょっとだけイチャイチャさせましたので、それで許してもらえたらと思います。

さて、次回で『恋する美琴の恋愛事情』も一段落着きます。
恋人になった二人の前に立ち塞がる問題とは……
『恋する美琴の恋愛事情』その7「恋する二人の恋愛事情」をお待ちください。

776小ネタ「人」(15-296):2011/03/25(金) 19:39:05 ID:QR47sHaQ
>>767
ごめんなさい
他に知っているキャラいないんで以下、訂正です

      
目の前に巫女姿の美琴と常磐台の制服姿の姫神がいる
   
上「え〜っと何やっているだ?」
   
姫「イメチェン、似合う?」
     
上「つーか、知り合いだったのか」
     
美「へ?うん、まぁね、ははは」
    
禁「あいさ〜」
      
姫「……友達が呼んでる、じゃ」
     
上「じゃあな〜」
     
美「………あ、制服!」
    
上「いいじゃねぇか、巫女服好きだぜ」


      
美「………(上「いいじゃねぇか美琴好きだぜ」)……うん、私もアンタが好き」
    
上「へぇ〜……へ?今なんっ(キっキス!?息が………つづか………な………)」
     
美「………(大好き、とうま)……」
     
その後、真っ青になったツンツン頭の少年を、担いで走る茶髪の少女がいたらしい

777つばさ:2011/03/25(金) 19:56:14 ID:ZSbA0wy6
「愛妻弁当はまだ早い」を読んでくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございます。
書く気力が減退したときなど、いただいた感想を読み直すだけで励みなります、本当に嬉しいです。

簡単ですが返事です。

>>714
元々インデックスは「上条との恋愛が順風満帆に進む」という美琴の恋愛観をぶち壊すために出てきて
もらったので、そこまで出張ってもらう気はありませんでした。
……初期案では出てきたのですが、嫉妬に囚われた女の子が敵に塩を送るとも思えませんでしたので
>>716
泣いてる女の子はブランコに座ると絵になるんですw
>>726
上条さんは美琴のためのヒーローなんです!
>>727
次の話ではその辺あっさり流してましたが、それだけで一本書けそうw
>>728
とことん美琴を凹ませましたから、せめて前向きな終わりにだけは、と思って仕上げました
>>730
なるほど、確かにその方がこの話として見たらキレイですね。拙作ではあまりにも美琴の方にばかり
比重が寄ってますから。
その辺は一応次で少しは……いや、次の次かな?
ご意見を参考にして次の話を現在再構成中です、はい(書き上がり、いつになるんだろう……)



「ある事柄」は、まあ大したことないんで答え言っちゃうと、「美琴が泣いている理由を上条はどう理解し
ているのか」ということです。
インデックスと上条との関係を美琴は誤解して泣いてるわけですが、その理由を上条はわかってない
はずなのです。理由がわかることはイコール美琴の想いを理解することですからね。
美琴だってそのことを自分自身に対して確認していないんです、なぜ哀しいのか、と。確認してしまえば
美琴は自身の思いを理解することになるのですが、その辺を二人の怒鳴り合いに組み込んでしまうと
収集つかなくなっちゃって……。
あの流れで一気に二人が互いの想いを理解するのも不自然だと思いましたので。
んでもって後書きで書いたような理由でスルーしました。あの頭の良い美琴が本当にスルーしてくれる
のかどうかは怪しいのですが。
その辺はまたきちんと書こうと思い、ます……ます……?


感想。
>>775
GJです。
最後の攻撃がアレですか。そりゃ上条さんも堕ちるわな〜。
全てを懸けた攻撃が決まってよかったね美琴、というわけで続きをお待ちしております。


ではまた次の話で

778■■■■:2011/03/25(金) 22:57:08 ID:ROZekL4Y
>>775
>>776
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

779■■■■:2011/03/26(土) 01:11:10 ID:8jbWpfNU
>>763
ちょっとビターな二人の関係が素敵です!
>>775
決闘型告白って斬新ですね
次回も楽しみ!
>>776
聞き間違いネタ面白いGJ!

780ソーサ:2011/03/26(土) 17:08:38 ID:93Asf.x.
前回コメントくれた方ありがとうございました!

短編ができたので9レス消費で投稿します!

781笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:13:04 ID:93Asf.x.

今日は3月12日、すでに中学を卒業した御坂美琴は有名新学校に受験にきていた
美琴の恋人となった上条は高校2年生、4月からは無事3年になれそうだ。

この高校は超が何個もつくほどの難関高校だが美琴にとって受かることはたやすい。
だが自分の席につきテストの開始を待つ美琴はなんともいえない表情をしている。
原因は簡単なこと。
本当は上条と同じ高校に行きたかったのだ
しかし学校や親からはもちろん、上条にまで反対されてしまった。
それでしかたなくこの高校を受験することにしたのだ。
しかたなく受けるレベルの高校ではないのだが…

(なんでよ…当麻のばか…)

上条と同じ高校に入ってもたった1年しか一緒にはいられない
それでも、1年だけでもいいから上条と一緒に学校生活を送りたかった。
その理由を上条に告げてもかたくなに断られたのだから不機嫌になるのは当たり前だ。
だが美琴の機嫌が悪いのは受験のことだけではない。
それは最近上条の様子がおかしいのだ。
明らかに何かを隠している。
受験だから、という理由でなかなか会ってくれないし、上条の寮に行こうとしても断られることも多かった。
また2週間ほど前、上条の寮へ行った時に上条の携帯に電話がかかってきた。
なにやらとても嬉しそうに話していたので美琴は電話が終わったあとに誰からの電話か尋ねた。
上条は「学校の友達だ」と言っていたがそのときの嬉しそうな表情が何かひっかかった。

1時間目のテストが始まったあともいろいろ思い悩んでいたが問題は完璧に解いていく。
50分間のテストだったが20分も余った。
流石は名門常盤台生だ。

(もうあとは適当にやろうかな……)

1時間目が終わったあと美琴はそんなことを考えていた。
残りの教科でわざと低い点をとれば落ちることは確実だ。
落ちれば上条の通う高校に行けるかもしれない。
そんな考えが美琴の頭をよぎったときマナーモードにしてあった携帯が震えた。
そこに表示されていた名前は上条。

(当麻から!?)

超電磁砲もビックリのスピードで携帯を開けメールを見る。
メールを見た美琴の表情は先ほどと打って変わって穏やかになった。

『そろそろ1時間目が終わったところか?美琴なら絶対に受かる。ガンバれよ!!』

たったこれだけのメールだったが美琴には十分だった。
先ほどまでの不安やわざと落ちようなどという考えはすっかり消えていた。

(そうだよね…当麻は私のことを考えて反対してくれたんだもん…頑張らなきゃ!!)

こうして残りの教科はリラックスして受けることができた。
休み時間ごとに送られてくる上条からのメールはより一層美琴を元気づけたのだ。

「あ〜疲れた!でも当麻のおかげで頑張れたわね…そうだ何かお礼しなきゃ!」

そう思いついたのは4時間目の休み時間。
美琴は早速上条に『受験終わったあと会えない?』、とメールする。
上条に話したいこともたくさんあるしとりあえず会おうと考えたわけである。

その後の5時間目のテストも難なく解答し、美琴は受験を終えた。
現在は16時を回っておりあたりも薄暗くなり始めている。

「よし完璧!これで受からないはずがないわ。さて、当麻からのメールは…あれ?」

なんて返信がきているだろうと思い携帯を見てみるがこの1時間の間に受信したメールは
黒子22通、美鈴1通だけで肝心の上条からのメールはなかった。
いつもならすぐに返事をくれるはずだが1時間以上も時間が経っているのになんの返事もないことに不思議に思いとりあえず電話をかける。
しかし電話にも全くでないので美琴は徐々に不安になってきた。
もしかしてまた何か事件に巻き込まれたのではないか。
そう考えた美琴は急いでバスに乗り込み上条の寮へむかった。
寮にいるとは限らないが何もしないわけにはいかないのでとりあえず行ってみようと考えたわけだ。

782笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:13:42 ID:93Asf.x.
「当麻…無事でいてよね……」

上条の寮の最寄り駅で降り、そこから猛スピードで走ろうとしたとき美琴の携帯が鳴った。
この音は上条からのメール、急いで携帯を開けメールを見る。

『悪い気づかなかった!なんだか電話が通じないからメールで済ます。
 俺も会いたいから5時にいつもの公園に来てくれ。大事な話がある。』

それを読んだ美琴は事件ではなかったと安心し胸をなでおろした。

「あ〜よかったなんともなくて。それにしても大事な話ってなんだろな…。」

公園に着くまでの間は“大事な話”について考えながら歩いていく。、
バス停から公園までは近かったのですぐに到着した。
まだ5時にはなっておらず見渡す限り上条の姿も確認できない。

「なんだ…まだ来てないのか…」

残念そうにつぶやくと側にある電灯にもたれる。
そして“大事な話”について再び考え始める。
これだけ心配させておいて課題が終わらないので手伝ってくださいとか言いだしたら
無意識のうちに超電磁砲を打ってしまいそうだ。

(いったいなんの話なのかしらね……まさかプロポーズとか!?…ないない!…でももしそうだったら…)

などとありったけ幸福なことを妄想し顔を赤くする。
そんなことを考えドキドキしながら待っていると待ち人の姿が見えた。
向こうはまだ気づいてないらしくキョロキョロと辺りを見渡している。

「ま、この位置じゃ見えないか。さて、と!大事な話とやらを聞かせてもらお―――」

そこまで言って言葉が途切れ、上条がいる方向へ歩き出したはずの足も止まる。
なぜならば上条の隣には見知らぬ女性がいたからだ。
別にただいるだけなら何も問題はないのだがやけに親しそうだ。
それに何を話しているかはわからないが楽しそうに会話をしている。

(あ、あんなのただの知り合いに決まってるじゃない!早く当麻の見えるところへ行かないと…)

そう頭では考えられるが最近の上条の行動に対する不安感からか体は上条の方向へ動いてくれない。
しかたがないのでとりあえず物陰に隠れ、2人がこっちへ来るのを待つことにした。
上条は辺りを見回しながら美琴が隠れている場所のすぐ側までやってきた。

(とりあえず2人の会話を聞こう!それから出て行っても遅くはないし…。)

そういうわけで美琴は2人の会話を聞くことにした。
だが盗聴系の能力者でもなくそういった機械ももちろん美琴は持ち合わせていないわけで会話はところどころしか聞こえない。

(う〜ん…うまく聞こえないな…私がいないみたいなことを話してるみたいなんだけど…)

それでも聞き続けると話題が変わりいくつかの単語が聞こえた。
その単語というのが、別れる、飽きた、めんどくさい、などといったものだった。

(うそ―――)

それを聞いた美琴は絶句する。

(うそ、うそ、うそ、よね、当麻…そんなわけ…)

「まあアイツも高校生になったし調度いいかと思いましてね。」

上条達は美琴の近くまできたためその言葉だけははっきりと聞こえた。
大事な話とは別れ話だった、それがわかった瞬間美琴の目の前は真っ暗になった。
この状況で自分の姿を見られるわけにはいかない。
そう考えると美琴は常盤台の寮へと走っていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


寮に帰ってくると美琴はすぐにベッドに倒れこんだ。
ここまで全力で走ってきたのだから疲れているのは当たり前だ。
だがベッドに倒れこんだ原因はそれだけではない。
上条と別れる、その闇に支配された美琴はうつぶせのまま泣き始める。

「う…うう…なんで…当麻…なんでよ…ヒック…どうして……やだ、やだよ…うう…」

汗をかいていることや足がつりかけていることなどもはやどうでもいい。
なぜ別れなければならないのか、美琴の頭の中はその疑問で埋め尽くされた。
するとふいに携帯電話が鳴る。
この着信音は上条、それも電話のようだ。
今の美琴が電話にでられるはずもなく1分ほど鳴り続いたあとその音は消えた。
すると今度は別の着信音、これは上条のメールの音だ。
美琴は携帯を手に取りおそるおそるメールを見てみる。

『もう5時半だけどどうした?何かあったのか?連絡をくれ。』

このメールが別れ話ではないことに少しほっとする。
しかしもう今日会うわけにはいかない。
この状態で会ってもろくに話しなどできないだろう。
だが連絡しないわけにもいかないのでメールを送る。

『心配かけてごめんね。今日は入試のことを学校に報告しないといけないから行けそうにないわ。
 こっちから誘ったのに本当にごめんね。』

783笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:14:39 ID:93Asf.x.

真っ赤な嘘だがこの際しかたない。
あの会話を聞いていて走って寮に戻ったなどと本当のことを話すわけにもいかない。
震える手でなんとか送信を完了する。
するとすぐに返信がきた。
美琴は先ほどと同じくおそるおそるメールを見る。

『そうか…残念だな。まあ何かあったのかと思ってたから無事でよかったよ。また明日にでも連絡する。受験お疲れ。』

このメールを見て美琴は少し冷静になった。
このメールを見る限り別れ話をしようという感じではなく、ただ純粋に心配してくれているだけだ。
美琴は体を起こしベッドに座り公園での出来事を思い出す。
先ほどは上条の言葉を聞き気が動転してしまい悪い方向にばかり思考が進んでいた。
しかし冷静になってからあの公園での出来事を考えるとまだ別れ話だと決まったわけではないと思うようになった。

だいたい別れるからといってあの上条が“飽きた”や“めんどくさい”などと他人に漏らすだろうか。
冷静に考えればそれはありえない。
それにはっきり聞こえた上条の言葉では『美琴』ではなく『アイツ』と言っていた。
ならば先ほどのことは自分の勘違いで本当は別の話ではないか、と美琴は考えた。

しかしすべての不安が消えたわけではない。
別れ話でなくても最近上条が自分に何かを隠していることは明らかだ。
今日上条の隣にいた女性やその前の電話など不審なところが多すぎる。
…まあ女性関連についてはそれ以前、ずっと前からいろいろと問題があるのだが。

気分は落ち着いたため美琴は上条に電話をかけようとする。
“大事な話”や最近のことについていろいろと聞くためだ。
だがあとボタン1つで電話がかかる、というところで美琴の指が止まる。
上条があのようなことを言うなどありえない、
だがもし上条に心境の変化があってそれがありえたとしたら?
電話で理由もわからないまま一方的に別れ話をされたら?
そしてそのまま上条と会えなくなったら?
美琴はまた悪い方向へと考えてしまった。
この指があと少し下に動くだけですべてがわかるのに、美琴には電話をかけることができなかった。
結局この後美琴は不安のため上条に電話もメールもしなかった。

(明日会えば…すべてわかる……)

こうして美琴は再度気持ちを落ち着かせる。
もうすぐ帰ってくる黒子に今の心境を悟られないためにも。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


翌朝目を覚ますとなくなりはしていないものの昨日ほどの不安はなかった。
この日は休日、まあ卒業した美琴にとって3月はすべて休みということになるのだが。
部屋に黒子の姿が見えないのは風紀委員の仕事へ行ったからのようだ。
顔を洗い着替えをしてから携帯を見ると上条からメールがきていた。
送られてきた時間は今から1時間前。
その内容は

『悪いけど急に1日中補習があることになって今日は会えない。また夜に電話かメールするよ。』

上条に会えないとわかると残念だと思った反面少し安心した。
安心したというのは別れ話をされるのではないかという不安がまだ完全には消えていないからだ。

美琴は上条と会う予定がなくなったので朝食を摂った後、引越しの準備をすることにした。
3月の終わりには新入生が寮に入ってくる。
それまでに卒業生は退寮し新しい下宿先を見つけなければならないが
下宿先については美琴は受かった高校の寮に入る予定なのでなんの問題もない。
だが本当は寮などではなく上条と一緒に住みたかった。
実際美琴は上条に高校生になったら一緒に住みたいと言ったことがある。
上条の寮は男子寮なのでもちろんそこに住むわけにはいかない。
だから他に部屋を借りて住みその費用は私が負担するから、などと説得を試みた。
しかし上条からはお前にお金を払わせるわけにはいかない、とあっさり断られていた。

数時間後、片付けを終えベッドへ倒れこむ。
片付けといってもあと数日はここにいるためすべて片付けてしまうわけではない。
今日行ったのは不要なものの処分と簡単な荷造りだ。

「あらかた片付いたわね……立ち読みでもしてこよっかな。」

片づけを終えた美琴は寮にいても暇なので立ち読みをするためコンビニに行くことにした。
だが今日は運が悪くいつものコンビニに読みたい雑誌がなかった。

784笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:16:22 ID:93Asf.x.
「あーもう!なんでないのよ…」

愚痴を言いながら少し遠めのコンビニに到着し目当ての雑誌があったため早速立ち読みを開始。
こうしている間だけは不安から逃れることができた。

立ち読みを始めて20分、読みたいものはすべて読み終わった。
移動時間と合わせて1時間ほど時間が経っておりもう昼時であるため昼食を摂るため移動しようとする。

「さてと…次はファミレスにでも……え?」

美琴がコンビニの中から見たもの、それは補習があるといって学校に行っているはずの上条だった。
時刻は12時を少し回ったところ、補習ならまだやっているはずだ。
昼食を食べに来たとしても上条の学校からは離れすぎている。

(なんで…ここに?急に補習がなくなったとか?…いやそれなら連絡をくれるはず…)

不振に思った美琴は上条の後をつけることにした。
話しかけることも考えたが昨日のことと朝のメールのこともあり話しかけずらかった。
上条は全く美琴に気づいていない。

(何を隠してるのかは知らないけど絶対に暴いてやるんだから!)

こうして尾行を始めて30分、すでに美琴のイライラはMAXに近くなっていた。
それもそのはず、この30分の間に上条はフラグを立てまくっていたからだ。
まさに歩くフラグメイカーである。

そこからさらに30分が経過。
フラグを立てまくる以外には特に何も変わったことはなかった。
強いていうならば上条の不幸さが改めてわかったくらいだ。
尾行を始めて1時間近く経ったのにただ第7学区を歩き回るだけの上条。
何件か店に入っていったがそれは食料品の安さを調べているだけで事意外本当に何も起こらない。

(はぁ…何もなさそうだし帰ろうかな…それともここで声をかけようかな……)

あまりの何もなさにいい加減飽きてきた美琴は悩み始めた。
帰るか、声をかけるか、美琴が迷っているときについに上条が動いた。
上条はポケットから取り出した携帯を見てそれに従い歩いていく。
美琴は先ほどまで帰るか、話しかけるかなどと考えていたがもはやそんなことはどうでもよくなっていた。
上条に気づかれないように今まで以上に慎重につけていく。
美琴は自分の鼓動が少し早くなるのを感じた。
するとたどり着いたのはそこそこ大きなマンション。
上条はそのマンションに入っていった。

(まずい!エレベーターを使われたら見失う!)

そう思った美琴は何か策を練ろうとしたが必要なかった。
なぜかエレベーターがこない。
故障中でもないのにだ。
上条はただ一言「不幸だ…」と言うと階段を上っていった。
美琴はそれを見てどう反応していいか困った。

(初めて当麻が不幸でよかったと思っちゃったわ…ごめんね当麻…)

などと心の中で一応謝る。
そんなこんなで目的の階らしい5階に到着。
上条がインターホンを押して誰かが出てくるのを待っているのを美琴は隠れて見ていた。
鼓動は先ほどより早くなっており冷や汗がにじむ。
嫌な予感がする。
美琴はその予感が当たってほしくないと願った。
しかしその願いは叶ってはくれなかった。
出てきたのは昨日の若い女性。
美琴は目の前の現実を信じたくはなかったがその光景は変わらない。
さらに聞こえてきた会話が追い討ちをかける。

『あら、遅かったわね。』
『すいません、まだこの辺の道よくわからなくて……』
『ところで本当に彼女さんに内緒でこんなことしていいの?』
『本当は昨日言う予定だったんですけどね、ここまできたら内緒にしとこうと思いまして。』
『そうなんだ。まあ私が口出しすることじゃないわね。さ、早く上がって。』

そうして上条はその部屋に入っていった。
昨日と違いこの会話ははっきりと聞こえた。
そして美琴は静かにその場を去った。
昨日のように走るのではなく、泣くこともなく、ゆっくりとマンションをあとにした。

785笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:18:37 ID:93Asf.x.
美琴は気がつけば常盤台の寮に戻ってきていた。
どうやって帰ってきたかなど覚えていない。
無意識のうちに帰ってきたようだ。

今日の出来事はあまりにもショックが強すぎた。
昨日をはるかに上回る絶望感。
顔は真っ青で全身の震えが止まらない。
昨日はまだ自分の勘違い、ということも十分ありえた。
しかし今日は違う。
上条は自分を捨てた、もう別の女のところへいってしまった。
それがはっきりとわかった、わかってしまった。

ここで今朝の上条のメールを思い出した。
夜には電話かメールをすると書いてあったはずがそのときに別れ話をされるかもしれない。
上条はあの女との会話で内緒にしておくと言っていたが本当に内緒にするとは限らない。
まだ別れたくない、その一心から美琴はポケットから携帯を取り出し電源を切った。


こうして美琴は上条との連絡を絶った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


それから3日後の16日合格発表の日の朝、なんともいえない疲労感と喪失感に見舞われながら美琴は目を覚ました。
上条に捨てられたショックで寝込みこの4日間は1度も部屋から出ていない。
黒子や寮監は何があったのかと心配してくれたが体調が悪いと言ってごまかしていた。
本当に体調は悪かったがその原因を言うわけにもいかないし、もし言えば黒子は上条に危害を加えるからだ。
たとえ上条が自分を捨てたとしても上条が傷つくのは絶対に嫌だった。

あれから数日間いろいろなことを考えた。
あのときの電話相手はマンションの女性だったのか。
最近付き合いが悪かったのはあの女性と会うためだったのか。
受験を頑張れとメールしてくれたのは同じ学校に入らせず自分を遠ざけるためだったのだろうか。
悪い方向に思考が進むことが多かった。

しかし1番多く考えたことは上条との楽しかった日々だった。
学校が終わると毎日のようにデートし、土日はいろいろなところへ遊びに行った。
遊園地や映画館、ゲームセンター、水族館にプール、劇場や旅行にも行った。
もうあの楽しかった日々は戻ってこない。
最終的にはそう考えてしまい毛布に包まって泣く、そんな繰り返しだった。

この日もずっと寮にいたかったが合格発表に行かないわけにはいかない。
風邪は治っておりいるが重い足取りで受験した高校に向かう。
結果は

「合格……か。」

周りでは受かって騒いでいる子や落ちて落ち込んでいる子がいる。
だが美琴はそのどちらでもなかった。
受かって落ち込んでいるのだ。
理由はもちろん上条の存在。

「受けてる時は楽しみだったんだけどな…4月からの生活…」

頼もしい存在であった上条はもう自分のもとにはいてくれない。
だが受かったことで逆に踏ん切りがついた。

上条に会おう。
会ってすべてを終わらせてこよう。
そうして4月からの新しい生活をむかえよう。
そう決意した。
そして美琴は受付でいくつかの書類をもらうとその学校を後にした。
いや正確には後にしようとした。

「よ、久しぶりだな。その書類を見る限り受かったみたいだな。」

その声の主は上条、いくら会おうと決意したといえどこれは早すぎる。
ついつい書類を落っことしそうになる。
美琴は会っていろいろな話がしたかったが何もでてこなかった。
でてきたのは単純な質問だけだった。

「な…んで…ここに…?」

「なんでって彼女の合格発表の日だぞ?しばらく連絡つかなくて心配だったしここに来るのも当たり前だろ?。」

上条が来たことがありえない、という表情をしている美琴を見て上条はため息をつく。

「はぁ…なんて表情してんだよ…そんなに俺が来たことが嫌だったか?」

「い、嫌なんかじゃない!でも…」

思わず美琴は叫んだ。
周りの視線が2人に集まる。

「でも…なんだよ。まあいいや、俺も話したいことあるしちょっと移動しようぜ。」

話したいこと、その言葉を聞いて美琴は上条から離れたくなった。
しかしこれ以上上条に迷惑をかけるわけにもいかない。
歩き出した上条にとりあえずついていくことにした。


◇ ◇ ◇


歩くこと数分、やってきたのはあのマンションだった。
この時点で美琴は泣きそうになった。
ひょっとしたらもう涙目になっているかもしれない。
だが前を歩く上条はそんなことに気づかない。

(今までなら絶対隣を歩いてくれたのに…)

明らかに今日の上条は歩くペースが速かった。
だから何回追いついても美琴は上条から数歩遅れてしまう。
また手をつなごうにも上条は両手に荷物を持っていてつなぐことができなかった。
上条はマンションのエレベーターの手前まで来てようやく歩くのが速かったことに気づいたようだ。

786笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:20:03 ID:93Asf.x.
「悪い!少しでも早くここに来たくてさ。」

「別に…それだけ大事なことだもんね…」

上条の言葉に美琴は自分の中にどす黒い感情が生まれたのがわかった。
自分から上条を奪い取ったあの女が憎い。
そしてその感情は1分でも、1秒でも時間が経てばどんどん膨れ上がっていくこともわかった。

(あの女に会ったら速攻で電撃をくらわせてやる)

部屋に着くまで上条が何か話しているようだったが美琴はそれを一切聞いていなかった。
電撃をくらわせるなどと物騒なことを考えているうちにあの部屋の前にたどり着いた。
インターホンを鳴らすのかと思いきや上条は鍵を取り出すとそれを使いドアを開ける。
この時点で美琴はかなり帯電していた。
しかし上条が右手で美琴の腕をつかんだため帯電していた電気は消える。

「さ、入ろうぜ。」

「え?ちょ、ちょっと!!」

上条はドアを開けると美琴の腕をつかみ強引に引っ張って中へと入る。
美琴はそれを振り払おうとしたが玄関を上がったところで上条のほうから離した。
再び帯電しかけたがそこで美琴はあることに気づく。

(あの女は…いない…?)

中に人の気配はなかった。
美琴の能力でも誰もいないということがわかる。
そして通路の先の部屋に入ってみても女の人が生活しているような様子はなかった。
それ以前に置いてある物がやけに少ない。
まるで引越ししたてのようだ。
そこでふと上条のほうを見ると顔を少し赤くし何か言いたそうだった。

「まあ言いたいことはいろいろあるけどまずは美琴、合格おめでとう!お前なら絶対受かると思ってたよ。」

「あ、ありがと……で、この部屋なんなの?」

「ああ今から説明する。と、その前にこれ受け取ってくれ。ちょっと遅くなったけどバレンタインのお返しだ。」

そういって手渡されたのは小さな四角い箱。
きれいに包装されておりどう見てもどこかの店で買ってきたものだ。

「(今年は手作りじゃないんだ…)わざわざ悪いわね。」

お返しをもらえたことはもちろん嬉しい。
だが去年は手作りだったことを考えるとやはり自分はこの程度の存在なのかと思ってしまう。
まあずっと手に持っているわけにもいかないのでその箱を持っていたカバンにしまおうとすると

「あ、あのさ…それ今開けてみてくれないか?」

美琴はなぜ今?と思ったが別に断る理由などないので開けることにした。
結構頑丈な包装ほどくと出てきたのは何やら立派な箱。

(お菓子にしてはえらい豪華な箱ね―――え!?これは…)

美琴の予想に反しその中身は――――――――――――指輪
美琴が驚きのあまり固まっていると指輪を上条が手に取る。
そして無言のままその指輪を美琴の薬指にはめる。
上条は美琴の指のサイズなど知っているはずがないのだがなぜかぴったりだった。
さらによく見てみるとその指輪には

『KAMIJOU TOUMA & KAMIJOU MIKOTO 』

と刻印があった。
さすがは学園都市製、小さな指輪だが文字ははっきりと見えるよう刻印されている。

「それでだな、美琴も4月から高校生になって常盤台の寮を出ることになるしさ」

そこでいったん言葉を区切り上条は美琴に優しく微笑みかける。

「ここで俺と一緒に暮らさないか?」

美琴はまだ目の前の状況が理解できなかった。
ここはあの女の部屋ではなかったのか、上条は私を捨てたのではなかったのか。
その他にも膨大な疑問が浮かんできたが、今はそんなことはどうでもよかった。
嬉しさとともに涙がこぼれた。
1粒、2粒とこぼれるともう止まらない。
目の前で焦っている様子の上条の姿が歪んでいく。

「え!?なんで!?ひょっとして嫌だったのか!!?指輪か!?一緒に暮らすってことか!?」

それを言葉で否定しようとしたが泣いているためうまくしゃべれない。
首を小さく横に振ると美琴は上条に抱きついた。
上条はそんな美琴に驚いたようだったがすぐに腕をまわし優しく抱きしめる。
久しぶりの彼の体温、久しぶりの彼の匂い、久しぶりの彼の抱擁。
すべてが懐かしく、そして恋しかった。

787笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:23:04 ID:93Asf.x.
それから何分経ったのだろうか。
美琴としてはもっとこうしていたかったが気分は落ち着いたし言わなければならないことがある。
美琴は名残惜しそうに上条からそっと離れる。
数分間立ちっぱなしだったため2人はとりあえずその場に座ることにした。
それから少しの沈黙の後美琴が口を開く。

「ありがとう、当麻…指輪も、一緒に住もうって言ってくれたこともすごく嬉しい…覚えててくれたんだ。」

公園のことやあの女のことなど多くの疑問があったが美琴はとにかくお礼を言いたかった。

「そんな大事なこと忘れるわけないだろ?前は美琴がお金を払うって言ったから断っただけだったしな。」

美琴は手に目をやり薬指に指輪がはめられているのを確認する。
しっかりと感触がある、夢ではない。
と、ここで美琴は重大な問題に気がついた。

「……あ…でも一緒に住むって言ったらうちの親がなんて言うかな…」

それは両親が許可してくれるかどうか、ということだ。
美琴としては一緒に暮らすのはもちろんOKだ。
しかし美鈴はともかく旅掛はこういうことに厳しい。
なんて説得しようかと美琴が迷っていると

「それなら問題ないぞ。もう許可もらってるからな。」

またしても上条に驚かされた。

「受験の少し前だったかな、ほら美琴がうちに来てた時に電話かかってきたことあっただろ?
 あの電話の相手は美鈴さんで許可がおりたとこだったんだよ。
 まあ一緒に住ませてくれって最初に頼んだのはもっと前だったけどな。」

「そんなに前から……じゃ、じゃあ受験の前あんまり会ってくれなかったのは私の親を説得するため…?」

「あー…いや、それはまた別のことでだな……」

上条が言葉を濁す。
と、ここで美琴は上条の変化に気づいた。
今日はまだ上条の顔をしっかり見たことがなかったので気がつかなかったが前よりも痩せた気がする、
というか明らかに痩せた。
目元に隈もできており疲れがみえる。
そこから導き出された答えは1つ。

「ねえ……マンションと指輪のお金って…どうしたの?」

「え!?……こ、これくらい上条さんにとって支払うのはたやすいことですよ?」

明らかに嘘だった。
片方でもかなりお金がかかりそうなのに貧乏学生である上条が簡単に両方支払えるわけがない。
バイトをしていたに決まっている。
それもかなりの時間を。

「……バイトしてたんでしょ?」

その言葉に上条はビクッっとする。
図星のようで美琴を見てはいるが目は合わせていない。

「し、してたけどほんの少しだぞ?1週間…いや4日くらいだったかな〜……。」

「ねぇ……本当のことを話して……。」

美琴は上条をじっと見つめる。
それに対し上条はしばらく考えたあと口を開く。

「……わかったよ。話すからそんな悲しそうな顔するなって。」

どうやら隠しても無駄と思ったようだ。

「俺はここ2ヶ月くらいバイトしてた。お前も受験勉強で忙しくて会えないだろうから調度いいと思ってさ。
 そんでそのバイトのお金で指輪買ったんだ。ま、そんな疲れるバイトじゃなかったから心配すんなよ。
 欲をいえば受験の日にマンションのことを話してホワイトデーに指輪を渡したかったんだけどな、まあ風邪ひいてたならしょうがないよな。」

「え?」

美琴は上条の言葉に耳を疑った。
今上条はなんと言った?
受験の日にマンションのことを話してホワイトデーに指輪を渡したかった?

「あ、のさ……まさか…受験の日の“大事な話”って…この部屋のことだったの…?」

「ん?ああ。俺としては12日に一緒に住もうって言って13日に引越しの準備、
 んで14日に引っ越して指輪を渡すって予定だったからな。」

上条はまあ今日同時にプレゼントできたから結果オーライだけど、と言っていたが美琴の耳にははいっていかない。
上条を尾行したときのような冷や汗が流れる。

「それと……なんで風邪のこと知ってるの?」

風邪をひいたということを上条が知っているのはおかしい。
風邪だと言って部屋にこもり始めたのは13日からでそれから今日まで上条とは1度会っていない。
町で黒子に会い聞いたのだろうか、と思ったがその答えは予想外のものだった。

「なんでって…13日の夜に常盤台の寮まで行って寮監から聞いたからじゃないか。
 ていうか最近は毎日行ってたんだけど寮監から俺のこと聞いてないのか?」

「え……あ―――――」

788笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:23:34 ID:93Asf.x.
上条の言葉を聞いて美琴は思い出した。
確かに13日の夜に寮監は美琴の部屋に来て何か話そうとしていた。
しかし美琴は体調が悪いことを理由にそれを聞かなかった。
そしてそれ以降も同じように寮監が来ても話を聞こうとはしなかった。
上条が来てくれていたということに驚いている美琴を見て上条は不思議そうな表情を浮かべる。

「まさか知らなかったのか?おかしいな…寮監に伝えてくれって頼んだのに。」

対する美琴は今上条が言っていることが信じられないというような表情だった。
だがそれは紛れもない事実、すべては美琴の勘違いだったのだから。

「そ、そんな…バイトも大変だったはずなのに…わざわざ来てくれてたの…?」

とんでもない勘違いをしてしまった、という思いから顔が青ざめていく美琴。
だが上条は自分がバイトのことを話したことが原因だと思い慌てて弁解する。

「い、いやだから別に大変ってことはないぞ!?さっきも言ったけど疲れるバイトじゃなかったし
 美琴の笑顔が見れることを考えれば楽しいくらいだったしな!」

「ッ―――――」

大変でないはずがない。疲れないわけがない。
上条の姿を見ればわかることだ。
毎日のようにきついバイトをして食事なども削っていたに違いない。
それなのに心配をかけないようバイトをしていたことを隠そうとしていた。
それだけ苦労してホワイトデーことを計画してくれていたのに自分の勘違いで台無しにしてしまった。

(最低だな……私……)

美琴は謝らずにはいられなくなった。

「……ごめんね…」

「へ?何がだ?」

「実はね…私こないだ当麻を尾行してたの…」

それを聞いた上条は驚いたようだったが何も聞き返さず黙って話の続きを聞いていた。
美琴は受験の日からのことをずべて上条に話す。

「その前の日に公園で女の人といるのを見て…不安になって…それで次の日たまたま外で当麻を見かけてここまでつけてたのよ…」

美琴の声が涙声になる。
目からは先ほどと別の涙があふれそうになる。
美琴は自分を責めた。
なぜ上条を信じることができなかったのか。
そんな自分が心底嫌になった。

「その時この部屋から女の人がでてきたからてっきり浮気してるのかと思って…それで…連絡もしなくて…」
 
「美琴…」

「部屋にこもってて…当麻がきてくれてたのに……気づかずに自分の都合で追い返して…」

上条はそこまで聞くと美琴を抱き寄せた。

「まさか不安にさせてたなんてな……でも安心してくれ。あの人はここの管理人さんなんだ。
 受験の日はたまたま会っただけだったしその次の日はちょっとした用事でここに来てたんだ。
 本当ごめんな美琴……。」

「と、当麻が謝る必要なんてないわよ!私の勘違いが全部悪いんだから!」

上条に謝られたため美琴は慌てて反論する。

「当麻は…私のこと考えてくれてたのに…私は…私は勝手に勘違いして落ち込んで…勝手にいらついて……それに―――」

そこまで言って美琴の言葉が途切れる。
上条がキスをしたためだ。

「ん…それ以上は言わなくてもいい。そんなことより笑ってくれよ。」

「え?」

「俺は美琴の笑顔が見たくて指輪とこの部屋を用意したんだ。美琴が笑ってくれないと意味ないだろ?」

「あ……」 

上条の言葉通りこの日美琴は1度も笑っていなかった。
それどころか上条を尾行した日からずっと笑ったことがなかった。
今朝まではもうこれから先は笑うことができないかもしれないとさえも美琴は思っていた。
だが上条はこれからも自分の側にいてくれる。
また笑うことができるのだ。
上条から離れた美琴は泣きかけていたため目をふき顔を上げる。

「ありがとう当麻」

2度目のお礼の言葉とともに最高の笑顔を上条にみせる。
それは作られたものではなく嬉しいという気持ちが心の底から現れたものだった。

789笑顔を求めて:2011/03/26(土) 17:24:22 ID:93Asf.x.

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


そしてあれから1カ月後、新学期が始まり、とあるマンションで暮らす2人の姿があった。

「ほら当麻起きて!朝ごはんできてるわよ。」

「んー……」

美琴に起こされると上条は寝むたそうに洗面所へと向う。
上条が顔を洗っている間に美琴は朝ごはんをテーブルへと運ぶ。

「おー……今日は普通だな。」

「え?いつもと変わらないじゃない。」

美琴が用意した朝食はパンとちょっとしたおかず、いつものメニューだ。

「いや…美琴の格好がさ。」

その言葉に美琴の顔は真っ赤になる。
今の美琴の服装はパジャマにエプロンをしている。
が、昨日はパジャマを着ていなかった。
つまり…裸エプロンである。
それを見た上条は暴走、ことが終わるころにはとっくに学校は始まっており2人とも休むはめになった。

「……ま、まあ…あれは休みの日だけにしておくわ。毎日してたら学校に行けそうにないし……」

休みの日はするのか、と上条は思った。

「それにしても…毎日メシ作ってもらって悪いな…他の家事もまかせっきりだし…」

上条の言葉通りこの部屋で暮らすようになってから家事はすべて美琴が行っていた。
上条も手伝うと言ってくれたが美琴は断っていた。
上条には指輪とマンションのお礼、という理由にしていたが本当は上条を疑ってしまった償いでもあった。
また家事以外にも上条のためにできることはなんでもしようとしていた。
ちなみに裸エプロンも償いの1つである。
それからもう1つの美琴が家事をする理由、それは

「何言ってるのよ!私は当麻のお、お嫁さんなんだから当たり前でしょ。」

家の中では美琴は完全に『上条美琴』モードであるからでもあった。
そして2人で朝食を食べ学校へ行く準備をする。

「美琴ーもう行くぞー。」

「ちょっと待ってー…ってお弁当忘れてるわよ!」

「何ぃ!?美琴の愛妻弁当を忘れるとはなんたる不覚!!」

「愛妻って…まあその通りだけど…///」

「悪い悪い、じゃ行くか!」

そして2人は途中までだが一緒に登校していく。
初めてマンションに来たときと違い上条は美琴の隣を歩き手をつないでいる。
その指には指輪があり今の美琴に不安は一切ない。

「それにしても……美琴といると幸せだな。」

「い、いきなり何よ。」

突然の上条の言葉に美琴の顔は少し赤くなる。
そんな美琴を見て上条は笑いながら答える。

「いや〜好きな子と一緒に住んで毎日その笑顔が見れるんだからな、この上ない幸せ者だよ俺は。」

それを聞いた美琴は立ち止まり上条もつられて止まる。
そして美琴は笑顔で上条に問いかける。

「ねぇ当麻……これからも一生私の側にいて私の笑顔を見続けてくれる?」

上条はすぐに美琴の問いかけに答えた。
その答えは言わずともわかるだろう―――――

790ソーサ:2011/03/26(土) 17:26:38 ID:93Asf.x.
以上です!
まあ一応季節に合わせたネタにしてみました。
書いてから思ったんですが最後のほうしかいちゃいちゃしてませんね…
駄文ですが楽しんでいただければ幸いです。

791■■■■:2011/03/26(土) 17:27:17 ID:3z6q27IA
オオオオオオオオオオオオオオオ GJJJJJJJJJJJJJJJJJJ!!!!!!!!!!

792■■■■:2011/03/26(土) 18:28:21 ID:p9pTT5C.
>>790

原作の上条さんの出席状況を見る度に「留年」の二文字がちらついてニヤニヤしてしまう自分としては
出来れば高校生活は一緒にしてあげれたら…と思った

けど、上条さんは更に上を行ってくれたので安心しました(笑)
二人のいちゃいちゃはこれからですよー

GJでした

793Mattari:2011/03/26(土) 18:33:19 ID:v.qTRtUE
つばささん、琴子さん、夢旅人さん、ソーサさん。

皆さん、GJです〜。
マジで2828が止まりません。

あ……ご挨拶が遅れました。お世話になっております。Mattariです。

前回投下した「とある右手の番外編 2(パラレルワールドストーリー)」ですが、
続編である「3」を……投下致します。

正直、かなり悩みました。
自分が考えていたのと、皆さんの受け止め方に余りにも差があり過ぎるので……。
確かにやり過ぎた感は自分の中にもあったのですが……。
ただ、これも自分に与えられた『試練』と思い、取り組んでみました。

とにかく、一度見て戴くしかありませんね。
その後で少々語らせて下さいませませ……。

この後一度リロードして、更新がなければ即投下します。(ソーサさん、連続になってゴメンなさい)
8レス使用となります。

794とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:35:21 ID:v.qTRtUE

とある右手の番外編(パラレルワールドストーリー)3


 オレを鍛え直すと御坂は言った。
 だから、絶対に何かをやらされると思っていた。
 ところが……アレからオレは御坂と会ってない。
 メールも無いし、電話なんてもちろんかかってこない。
 もう1週間にもなるってのに……アイツは何を考えているんだ?

「鎖に繋がれた……と思ったら……いきなり放置プレーですか?……ハァ……不幸だ……」

 ホントに……アイツはオレをどうしたいんだ?
 何か、思いっ切り引っかき回されてんな……オレ……。

「ハァ……不幸だ……」

「と言ってもなぁ……何かのアクションが有ったら有ったで……それは、それで……不幸……なんだろうなぁ……」

(なァ……御坂……オマエ、結局……何がしたいんだよ?)

 連絡がない携帯を見つめながら、オレはそんなコトを考えていた。

「まぁ……なるようになるか……それに……決めた事だしな……」

 そう言ってオレは、ウーンと伸びをした。

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

「どうしよう……」

 御坂美琴は悩んでいた。
 確かに1週間前に、上条当麻から『私の言う事を何でも聴く』と約束させる事は出来た。
 『私がアンタを鍛え直してあげる』
 とまで言ったのだ。それなりの決意と覚悟がその時にはあった。

 だが……冷静になって振り返ってみると……とんでもないことをしてしまったことが分かる。

 『あの人に応えたい』

 その一念で突っ走ってしまった。
 何をすればいいのかなんて、全然考えていなかった。
 ただただ突っ走ってしまったのだ。
 前に進む事だけしか考えていなかったのだ。
 自分が何を大切にしたかったのか?
 自分は一体どうしたかったのか?
 そこに考えが及んでいなかった事が、冷静になった今なら分かる……。

 その夜は『やった!!』と思っていた。
 何せあの上条当麻から『言う事を聴く』と約束させる事が出来たのだから……。
 頬の筋肉が緩んでしまうのを抑えられなかった。
 『あんなことや……こんなことや……もしかしたら……もしかしたら……スゴい事になっちゃったりして……』
 などと要らぬ妄想に囚われて、マトモに寝られるかどうかも怪しいほどだった。

 だが、一夜明けて……冷静に考えてみたら……とんでもない事をしでかした事に気が付いてしまった。
 相手の気持ちなど完全に無視している。
 自分のワガママだけを押し付けている。
 第一、自分と上条は恋人でも何でもない。今の状況では友だちですらないのだ……。
 自分が築こうとしていたモノが、砂上の楼閣であった事を御坂美琴は思い知ったのである。

 自分が本当に大切にしたかったもの……。
 『この世界の上条当麻と一緒に歩めるようにならなきゃいけない』
 だけど、それは……本当に大切にしたかったものだったのだろうか?
 そう考えた瞬間、彼女の思考は完全に停止してしまった。

 確かに、『この世界の上条当麻と一緒に歩めるようになりたい』とは思っている。
 彼に対する『特別な感情』があることも自覚している。
 だが……それを遙かに凌駕する『想い』が自分の中にある事も知ってしまった。
 『あの人への想い』
 それが1週間前に、自分を突き動かした激情。

 どうすれば良いのか?
 その問いに対する答えを考える事が出来なくなってしまった。
 『あの人への想い』と『上条当麻への想い』の狭間に揺れる自分が居る。
 そして彼女は、上条に会う事はおろか、連絡を取る事すら出来なくなってしまった……という訳である。

「私って……何てバカなのよ……」

 そんなコトを呟きながら、寮のベッドに突っ伏しているしかない。
 彼女は今、自分が起こしてしまった出来事という『試練』の前で、ただ立ち尽くすしかなかった。

.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

795とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:36:27 ID:v.qTRtUE

 『あの人』とその『右手』が教えてくれた事。
 『神様は超えられない試練を与える事はない』という真実。
 それは一つの答えだと思っていた。
 だから、それを信じて前に進む事を選んだ。
 でも今、自分が起こしてしまった現実を目の前にした時、それが単なる答えではない事を御坂美琴は知った。

 自分の中にある『あの人への想い』が一番大きいのは自分でも良く分かっている。
 だが『上条当麻への想い』が決して無視出来るほど小さくはないのだ。
 『あの人への想い』が募れば募るほど『その関係を上条当麻と築く事が出来たなら……』という想いが大きくなってくる。

 あり得ない事だった。
 まるで自分の中に『もう一人の自分』が居て、私は『あの人』を求めているのに、『もう一人の私』は『上条当麻』を求めているかのように……。

 そして何より、今の御坂美琴にとっての一番の衝撃は、『あの人』が教えてくれたそれを信じられなくなっている自分が居る。という事だ。

 『あの人』は言う。『神様は超えられない試練をお与えになる事はない』『超えなければ分からない事がある』と……。
 でも、今の自分にとって、それはとてつもなく重い言葉になっている。

「アナタはそう言うけど……今の私じゃ……超えられそうにないよ……」

 答えだと思っていたものが、答えではないと分かった時……。
 それまでは答えだと思っていたものが、今は自分の足枷になっている……と感じた時。
 『あの人』を信じて前に進んだのに……そこに現れたのは、想像もしていなかった現実。
 『もう一人の自分』が大切にしたいと願っている人を、傷つけてしまったという事実。
 自分で自分を裏切ってしまった。
 その事実を目の前にした時、御坂美琴は立ち止まってしまった。足が竦んで前に進めなくなってしまった。

「今の私には……何もない……から……」

 前に進むと決めたのに……。
 折角一歩が踏み出せたのに……。
 その次の一歩が踏み出せない。
 目の前にある壁はとてつもなく巨大な壁……。
 その壁を見て、自分の足は竦んでいる。
 自分はこんなに弱い人間だったのか……。
 それを改めて教えられた気分だった。
 自分だけが独り取り残されてしまったかのような……とてつもない孤独感がそこにはあった。

 前に進む事で生み出した現実。
 それが今は、自分の足を竦ませている。
 そこにあるのは……後悔……。

 傷つけてしまった。
 本当は誰よりも大切にしたかったあの人を、自分が傷つけてしまった。
 もう一人の『あの人』が教えてくれたからこそ、『上条当麻』に向かえると思った。
 そして、正面から向かっていった。
 でも……その時は、何も考えていなかった。
 無我夢中で、自分勝手に突っ走って、無手勝流に突っ込んでいった。
 その結果が……これだ。

「もう……会えない……会える訳がない……どんな顔して会えばいいのよ……」

 そう呟いた瞬間だった……。ゲコ太携帯から、お気に入りの曲が流れてきた。

♪〜(fu woo.. fu woo.. Try to be glorious believer. Just to.. go on.. realize soulful heart) Let's fly faraway! 届きたい 君と約束した未来
躊躇(ためら)いも 踏み越えて 飛び立てる 胸に 響く 夢があるから〜♪

(うそっ……これって……!?)

 慌てて携帯に飛びついて画面を見る。
 そこに表示されている名前は……
 『上条当麻』

「!!!」

 思わず息を呑む。
 通話ボタンを押す指が震える。
 『押したい』……でも……『押せない』
 そんな葛藤のウチに、留守電機能がはたらいてしまう……。

 そして、メッセージが聞こえてくる。

『ああ、御坂か?上条だけど……。……ちょっと話したい事があるから……悪いんだけど、いつもの場所に来てくれないか?渡したいものもあるし……。来てくれるまで待つから……。じゃあ……』

 彼らしい、素っ気ない中にも、優しさが溢れるメッセージ。
 そのメッセージを聴いた途端……美琴の中に溜まっていたものが、一気に溢れ出した。

「……どうして?……どうしてそんなコト言うのよ……私はアンタを……アンタを傷つけたのよ……。自分だけが勝手に突っ走って……自分のワガママだけを押し付けて……アンタを『あの人』と勘違いして……。そんな私が……どうやったら、アンタに会えるって言うのよ……。……うっ……ううぅっ……うゎぁぁぁあああああああああ……」

796とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:37:38 ID:v.qTRtUE

『You Get a Mail…… You Get a Mail……』

 いつもの自販機のある公園で、待ち惚けを喰らっているオレの携帯が言葉を吐き出す。
 画面を開き、差出人を確認する。

「御坂……」

 ゆっくりと届いたメールの中味を確認する。


 to 上条  from 御坂

 sub ゴメンなさい

 私は行けません。
 今の私は、アナタに会う資
 格がないから。
 ゴメンなさい。
 しばらく、会わない方がイ
 イと思う。


「……バカ野郎が……」

「何で、オマエが苦しむんだよ?……何で自分だけで苦しむんだよ?……オレはまた……またやっちまったのか?」

「……でも……ココで止まったら……」

 そう呟いたオレは、すぐに返信を打つ。


 to 御坂  from 上条

 sub いいから来い!

 資格とかそんな話をしてる
 んじゃない。
 今会わなきゃいけないと思
 うから、出て来てるんだ。
 いいから来い!!
 来なきゃ、寮まで押し掛け
 るぞ!!!


「脅し文句じゃねェからな……っと。……来ねぇんなら、マジで押し掛けてやる……」

 そう言って俺は送信ボタンを押す。
 そして、心の中で呟く。

(オマエだけじゃねぇんだよ……あの不思議な体験をしたのは。……オレはオレで……大切なものを貰ってるんだからな……)

『You Get a Mail…… You Get a Mail……』

 返信はすぐに来た。


 to 上条  from 御坂

 sub 本気?

 寮にまで押し掛けてくるっ
 て……。本気なの?

 お願い。そっとしておいて


 メールを見た途端『ムッ!』と来た。
 急いで返事を打って送る。


 to 御坂  from 上条

 sub 本気だよ!!

 これからそっちに行く。
 クビを洗って待ってろ!!


 『送信完了』のメッセージが画面に出たのを確認して、携帯を畳んでコートのポケットに押し込み、すぐに常盤台の寮に向かって走り出す。

(また、泣かせちまう……かもな……。でも……今行かなきゃ……、今伝えなきゃ……、今渡さなきゃ……絶対に後悔するから……)

『You Get a Mail…… You Get a Mail……』

 走り出したオレのコートの中で携帯が叫ぶ。
 それはまるで、アイツの……御坂の悲鳴のような気がした……。
 オレは立ち止まって、メールを確認する。


 to 上条  from 御坂

 sub 来るな、バカ!!!

 そっとしておいてって言っ
 てるでしょ?
 お願い。来ないで。


「……あの……バカが……。だから独りで抱え込むなって言ってんだろうがッ!!!!!」

 携帯の画面を見たオレは、そう叫ばずにはいられなかった。
 そして、アイツの携帯に電話をかける。

『トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……』

(今のアイツが出る訳はない……。それは分かっている。でも……オレはアイツに会わなきゃいけないんだ……。オマエがオレにワガママを押し付けたように……今度はオレの番だ……。オレの番なんだよ……御坂……)

『トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……ピッ……も、もしもし……』

「あ……み……御坂か?上条だけど……」

『……何で……何でよ……何でなのよォ……。……来ないでって言ってるじゃない……来てくれたって……私……どんな顔してアンタに会えばイイのよォ……』

「いいから出て来いよ!……オレはお前に話さなきゃならないコトがあるんだからっ!!!」

『話せる訳無いじゃない……私はアンタを傷つけた……私のワガママだけを押し付けたのよ……。そんな私が……アンタに会う資格なんて……』

「誰も資格がどうとか、そんな話がしたいんじゃない!!!会って伝えなきゃいけないコトがあるんだよッ!!!何で独りで抱え込むんだよ……。このままじゃあ……このままじゃ……オレはまた……」

797とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:38:21 ID:v.qTRtUE

『何で……何で……そっとしておいてくれないの……?……どうして……どうして……こんなコトになっちゃったのよ……ううッ……』

「今回だけは、オマエが泣こうが喚こうが……オレは行くからな。お前に会いに行くからなっ!!!……オマエがオレにワガママを押し付けたって言うんなら、今度はオレがオマエにワガママを押し付けてやる。……それでアイコだ……。だったら……文句ねェだろう!!!」

『……でも……でも……だって……だって……』

「もうすぐ……着くぞ!!」

『!!!』

「ハア……ハア……ハア……ハア……着いたぜ……御坂……」

『……バカ……どうして……どうして……』

「ハア……ハア……ハア……最後通告だ……5分待つ……その間に出て来い。……もし出て来なかったら……」

『出て行かなかったら……?』

「ココで大声で叫んでやるよ。……『お前が好きだ。御坂美琴が大好きだ!!!』ってな……。大声で叫んでやる!!!」

『えっ……?』

「風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)を呼ばれたって構わない。変質者扱いされたってイイんだよ。それだけの覚悟があって、今日会おうって決めたんだから……」

『……アンタ……バカよ……』

「知ってるよ……。誰よりも自分が一番知ってる……。だから来たんだ!!!」

『……本気……なの?……』

「ああ……あと4分……」

『まだ1分も経ってないわよ……バカ……』

「オレの中じゃ、経ってるんだよ……。いいから早く出て来いよッ!!!」

『……グスッ……このまま待って……アンタを変質者として……黒子に捕まえて貰うっていう手もあるわよ……』

「構わねぇよ……それならそれで……白井に金属矢を打ち込まれたって……オレはココを動かないからな」

『アンタって……ホントに……バカ……』

「何度も言うんじゃねェ……。……あと3分……」

『……分かったわよ……でも、ちょっとだけ待って……。支度するから……』

「ダメだ……。一度顔を合わせてからでなきゃ、信じられねぇ」

『わ……分かったわよ……』

「早くしろよ……。……あと2分……」

『……バッ……バカ……ピッ』

「来なかったら……ホントに叫んでやるからな……御坂……ピッ」

 とは言え、さすがに恥ずかしいので……最初に宣言したトコから5分キッチリ待つ事にした。
 時計を見ながら、御坂を待つ。
 だけど……アイツ、ホントに出て来ねぇぞ……?

 まさか……マジで……オレを変質者扱いにするつもりか?
 この前のアイツだったら……やりかねねぇな……。

 だが、コッチだって引き下がれるか……。
 やると決めたんだ。絶対にやってやるよ……。……男だからな……うん……。

 でも……ちょっと……な……。
 あと2分……。
 マジですかァ〜……御坂さ〜ん。
 アンタは鎖につなげた愛玩奴隷を、1週間も放置したあげく、変質者扱いさせて……ポイッ……するおつもりですかぁ……?
 ポイ捨てはダメですよォ〜……。

 あと1分……。
 オイオイ……マジで、出て来ねぇぞ……。

 あと45秒……。
 気配のカケラもねェ……。マジかよ……?

 あと30秒……。
 出て来るよね……出て来てくれるよね……御坂さん……。(ダラダラダラダラ……)

 あと20秒……。
 ま……マジで……かよ?

 あと10秒……。
 しょうがねぇ……覚悟……決めたんだからな……。

 9……8……7……6……5……4……3……2……1……

 ゼロッ!!

「すぅぅぅううううう……」

「わぁぁぁあああああっ……待って!待って!!待って!!!待ってぇ〜!!!!!」

「……オレは……モガッ!?……」

「だから待ってって言ってんでしょうがッ……このバカっ!!!!!」

「モガッ?……モゴモゴ……」

「い……言わない?」

「……(コクリ)……」

「ホントにもう……言わない?」

「……(コクコク)……」

「ホントよね?……ホントにホント……よね!?」

「(コクコクコクコク)」

「じゃあ……手……離すわよ……」

「みさッ……モガッ!!!!!」

「言わないって言ったでしょうッ!?」

 俺は御坂の手をつかんで口から離すと……

「ジョーダンだよッ……へヘッ……1週間前のお返しだ」

 と舌を出して言ってやった。

798とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:39:23 ID:v.qTRtUE

「じょっ……冗談って……あ……アンタねぇ……」

「今のが冗談だって言う意味だよ……。出て来なかったら、マジで叫んでたぜ」

「ッ!?……バカ……」

「バカで結構。……さあ、行こうぜ……」

「い……行くって……ドコへ?」

「二人っきりで話が出来るなら、ドコでもイイよ……。ただ……さすがにココに長居するのは……マズいだろ?」

「ヘッ!?」

「ほら……上」

 そう言ってオレは寮の方を指差した。
 そこには……あの、夏休み最後の一日を思い出させるような光景が再現されていた。

「あ……/////」

 それを見た途端、御坂は真っ赤になって俯いた。
 オレはその御坂の手を取って、その場を離れようとした。

「あ……えっ……あ……あの……」

「ほら……行くぞ。……もしアイツにでも見つかったら……」

「アイツとは誰の事ですの?……類人猿さん?」

「ただじゃァ……あ……ゲッ!?……し、白井……」

「風紀委員(ジャッジメント)ですのっ!!!お姉様、誘拐の現行犯で逮捕しますッ!!!!!」

「だっ……誰が、誘拐犯なんだよッ!?」

「この期に及んでシラを切るおつもりですか?……何なら……この場で死刑執行まで代行して差し上げても宜しいんですのよッ!!!」

「じょ……冗談じゃねェ……逃げるぞっ!!!御坂ッ!!!」

 そう言ってオレは白井と反対方向に御坂を引っぱる。

「えっ!?……アッ……うんっ!!!」

 顔は赤いままだが、俯いてた御坂が慌てて着いてくる。

「ヘッ!?……おっ……お姉……様?」

 その様子に白井が一瞬呆気に取られた。

「くっ……黒子……ゴメン……後でチャンと話すからぁ〜……」

「お……お姉様?」

 御坂が走りながら白井にそう叫ぶと……白井はオレたちを追うのを諦めたようだった。



「ハア……ハア……ハア……ハア……ココまで来れば……ハア……ハア……大丈夫だろ……ハア……ハア……」

「ハア……ハア……ハア……ハア……いきなり……ハア……ハア……走り出すんだもん……ハア……ハア……」

「だって……ハア……ハア……しょうがねぇだろ?……ハア……ハア……アイツに見つかっちまったんだから……ハア〜……」

「もう……ハア……ハア……回復したの……ハア……ハア……どんな……ハア……ハア……スタミナしてんのよ……ハア〜……」

「そんなオレと一晩中、追いかけっこ出来るのを一人知ってるけど……」

「うっさいわねぇ……このバカ……」

「……コイツ……また『バカ』って言いやがったな……でも……何とか連れ出せたぜ……」

「あ……えっ……えっと……その……」

「とりあえず……座らねえか?」

「あ……うん……」

 御坂は怖ず怖ずとオレの横に少し距離を取って座る。
 この距離が……オレと御坂の距離……なのかもな……。

「まず、とりあえず謝っとく。今日は無理に引っ張り出してすまなかった。ゴメン!!」

「そっ……そんな……。……だって……先週に……私が……あの……」

「その事なんだけど……あの……これ……」

「え?……何これ?……USBメモリー?」

「向こうの世界のオマエからのメッセージだそうだ。預かってきた」

「エエッ!?……『あの人』が居る世界の私からの……メッセージ……?」

「ああ、らしいぜ……」

「一体……何て?」

「知らねぇ……。どうしようも無くなったら、オマエに渡せって。そう言われたから……」

「どうしようも無くなったら……って……」

「マジで、どうしようも無くなってんじゃねぇの?……今?」

「あ……うう……」

「もしかしたら、そういう意味じゃないのかも知れないけど……オレにはそう見えたから……」

「うっ……ううっ……」

「アッ……ごっ……ごめんっ……そういうつもりじゃなかったんだけど……」

「だって……だって……全部……私が……アンタを……傷つけて……」

「イイんだ……」

「なっ……何でよッ!?……他に好きな人が居るって言ったのに……アンタを『あの人』みたいにするって言ったのに……何で……」

「ソイツと直接会った訳じゃねェからさ……良く分からねぇところもあるんだけど……な……ホントにスゲェヤツなんだってコトは……分かるよ……」

「えっ!?」

「今のオレじゃあ……敵いっこないよ……」

「……どうして……どうして……そんなコトが言えるの?」

799とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:40:21 ID:v.qTRtUE

「向こうの御坂を見れば……分かるよ。あんなのと対等に付き合ってるんだぜ……。お互いを支え合いながら……。オレなんか……足元にも及ばねぇよ……」

「そんな……」

「闘う前から……『負けた』と思ったのは……ホント初めてだけど……納得しちまった……」

「あの……」

「ん……何だ?」

「そんなに……凄いの……向こうの私って?」

「ああ。……オマエなんか、霞んじまうくらいにな」

「うっ……」

「ショックか?」

「……そう……だよね……『あの人』と一緒に歩める人なんて……私が……どんなに頑張っても……敵う訳ないよ……ね……」

「詳しい事は分からねぇけど……多分、ソイツに入ってんだろうから……聞いてみればいいよ」

「そう……ありがと……」

「あ……後さ……その……インデックスの事なんだけど……」

「あ……うん……」

「アイツ……オマエにオレの部屋のカギ……渡したろ?」

「え?……うん……」

「アイツ……ホントに渡しやがったのかよ……」

「えっ!?……知ってたの?」

「ああ、かなりその事で話したからな……」

「えっ!?……じゃあ、何にも言わずに出て行った訳じゃ……」

「今のアイツはそんなコト……しないよ……」

「そう……なんだ……」

「あっちと入れ替わって、コッチに戻ってきて……部屋に戻った時に、アイツが居るのを見て……何か『ホッ』とした自分が居たのは間違いないよ」

「う……うう……」

「だけど……同時にビックリしたのも間違いないんだ。だってアイツ……インデックスが全然変わっちまってたから……」

「変わってたって?」

「オマエが言ったんじゃねェかよ……あんな子どもをあんな風に決心させられるなんてってさ……」

「あ……そう……だっけ?」

「あのなぁ……まあ、イイや。……そうなんだよな、オマエが言ったように、アイツをあんな風に変えられるなんて……たった一晩一緒に居ただけでさ……」

「インデックスが言ってた……いっぱい話をしたって……」

「ああ、聴いたよ……」

「全部……話してから……行ったんだね……インデックス」

「ああ、そうだよ。アイツはさ……『私がやらなきゃならないコトが見つかったんだよッ』ってすんげー嬉しそうに言うんだよな……」

「あ……」

「オレと、向こうのオレを比べたからじゃない。『自分がやらなきゃならないコト』が見つかったから、イギリスに帰るんだ……ってな……」

「そう……そうなんだ……」

「思い知ったよ……オレと……向こうのオレの『力』の差って奴を……」

「……うん……分かる……分かるよ……」

「嬉しそうに言うな……バカ……」

「あ……アンタにバカ呼ばわりされるなんて……ショック……」

「ざまあ見ろ……いつも言われてるオレの気持ちが少しは分かったか……へヘッ……」

「アッ……アンタねぇ……」

「なんだよ?」

「今日の……今日の……アンタは……優しくない……」

「ハァ?」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

「何、カワイくむくれてんだよ!?……似合わねぇぞ……」

「ぶ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

「ハイハイ……カワイい、カワイい」

 そう言ってオレは御坂の頭を撫でてやる。

「あ……(ポンッ!!!)//////////」

「久しぶりに見たな……その顔……」

「えっ!?」

「いつも怒ってばかりの顔しか見てなかったからさ……なんか……懐かしい」

「……うう……バカ……(ゴニョゴニョ)」

「インデックスが最後にオレに言ったのは……二人のとうまを比べたからじゃない。私は私がやらなきゃならないコトを見つけさせて貰えた。だからイギリスに戻って、勉強したい。オレと離れるのは寂しいけれど、その為に自分のやりたい事を犠牲にはしたくない。だから帰るんだ……ってな」

「そう……」

「そしてさ……『どっちが好きだなんて決められないんだよ』……だってさ。んで、あのヤロウ言うに事欠いて『私は敬虔なるシスターなんだから、みんなに平等に愛を与えなきゃいけないんだよ』……何て言いやがってさ……」

「……何か……一番似合わない……台詞よね?」

「だろ……それを平然と言いやがったんだよ……アイツ……ッたく……アイツをあんな風に変えるなんてさ……アイツに道を示してやれるなんて……ホントにスゲェよ……」

「うん……」

800■■■■:2011/03/26(土) 18:41:01 ID:iC5BOjx6
俺の求めていた地獄の底から引きずり上げるハッピーエンドだぜぇ!
もうごちそうさま

801とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:42:16 ID:v.qTRtUE

「だから……オマエの気持ちが分からない訳じゃないんだよ……」

「えっ!?……」

「あっちのオレに憧れちまったオマエが、オレをあんな風にしたいって思ったって仕方がない……そう言ってるんだよ……」

「えっ……うそ……」

「うそじゃねぇよ……オマエがそうなったっておかしくないって言ってるだけだぞ。……オレがそうなるって言ってる訳じゃねェからな……」

「あ……そうか……ゴメン……」

「ただ……たださ……負けっ放しは……その……やっぱり……イヤかなぁ……って……」

「えっ!?」

「出来れば、ちょっとは追い付けたらって……思うんだよな……」

「うそっ……アンタの口からそんなコト……」

「うっせぇ!!……オレだって、こんなこと言いたかねぇよ……だけど……そう思っちまったんだから……しょうがねぇだろ……うがよ……」

「でも……だからって……私がやっちゃった事が……」

「ああ、正しいとは言わない……だけど、それほど間違ってるってコトでもないんだよな……オレにとっちゃ……」

「えっ!?……どういうコト……?」

「凄いズルい事をこれから言うんだけど……イイか?」

「ズルい事?」

「ああ。……あのさ、この前の事でオマエがオレにワガママ言って、無理矢理オレに言う事を聴かせようとした事を後悔してくれてるんなら、今日ここに引っぱってきたワガママと一緒にもう一つ、オレのワガママを聴いて貰えないか?」

「えっ!?……アンタのワガママって?」

「すっ……好きとかっ……キライとかっ……そんなのを抜きにして、オレが……オレが向こうのオレにせめて並べるくらいになるまで……サポートして貰えねぇかな……(ゴニョゴニョ)」

「えっ……エエッ!?」

「恋人とかさ、友だちとか……そういう関係は抜きでさ……ある意味パートナーとして、サポートして貰えねぇかな……って……」

「そ……そんな……ズルいよ……」

「分かってるよッ!!!どれだけズルい事を頼んでるかってコトくらい……分かってるけど……今のオレたちじゃあ……そうしないと……前に……進めない……だろ?」

「あ……そ……それは……うん……」

「だっ……だから、そういうのを全部一度棚上げにして、……もう一度、一から始められねぇかなって……思うんだけど……どうかな?」

「ホント……ズルいよ……それ……」

「ああ……分かってるって……」

「でも……アンタの言う事も……分かる……な……」

「御坂……」

「……いいわよ……」

「ヘッ!?」

「イイわよッて言ってるの」

「いっ……イイのか?……ホントにっ!?」

「ええ……但し、交換条件があるわ」

「交換条件?」

「うん……恋人じゃないけど……名前で呼び合うって言うのは……ダメ?」

「う……うう……ダメ……じゃ……ない……」

「ホントにっ!?」

「あ……ああ……イイぜ……みっ……美琴……」

「(ドキッ!!)……うう……もう一回……」

「ヘッ!?」

「もう一回ッ!!!」

「みっ……美琴……」

「とっ……ととっ……当麻……」

「(ドキッ!!)……うっ……」

「……当麻……」

「……美琴……」

「当麻ッ!!」

「美琴ッ!!」

「当麻ッ!!」

「美琴ッ!!」

「当麻ッ!!」

「美琴ッ!!」

「「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」」

「じゃあ……イイんだな……これで……」

「うん……イイよ……当麻……」

「分かったよ……美琴……」

「じゃあ、とりあえず……明日から勉強でも見てあげようかな……」

「え゛……。あの……美琴さん……いきなり……それですか?」

「もちろん、『あの人』に追い付きたいんでしょ?」

「あ……ああ……そうだ……けど……」

「だったら……せめて……追試や補習は受けないようにしないとね」

「……ああ……不幸だ……」

「そういう関係を望んだのは……とっ……当麻……何だからねっ……。今更『不幸だ』なんて言わないの」

「ヘイヘイ、分かりましたよ……パートナーの美琴様……」

「プッ……」

「ククッ……プッ……」

「「アハハハハハハ……」」

「じゃあ、明日から頼むぜ」

「ううん、今からよ」

「えっ!?」

「晩ご飯……作ったげる……」

「マジッ!?……ホントにっ!?」

「だって……パートナーなんでしょ?健康管理も私の仕事になるんじゃないの?」

「あ……そうか……」

「じゃ、行きましょ?」

「あ……オイッ!!……引っぱるなよッ」

802とある右手の番外編 3:2011/03/26(土) 18:43:49 ID:v.qTRtUE

     .*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

(なあ……御坂……今日はとりあえず、美琴を泣かせずにすんだよ……。明日は大丈夫って言う保証は何もないんだけどな……)

(オマエが教えてくれた事はまだまだだけど……とりあえずは、前に進めた……と思う)

(なんか……凄くズルいやり方しかできなかったけど……今のオレたちには……これが精一杯なんだよな……)

(こんな風に、少しゆっくり考えるやり方も……アリなんじゃないかな……)

(でも……必ず見つけてみせるよ……オマエが教えてくれたあのやり方で……必ず……オレが一番大切にしたい想いを……)

(ありがとな……御坂……アンタに会えて、ホントに良かったよ……。ありがとう……向こうの世界の御坂美琴……)

803Mattari:2011/03/26(土) 18:59:22 ID:v.qTRtUE
という事で、今回は以上になります。

しかし、なんかグダグダになってますね。
当麻に言わせてますがホントズルい展開にしちゃいました。

ただ、今回一番に感じた事は、書き手の想いをドコまで伝えられているのか?
という事でした。
書いている最中は、主導権は書き手が握っていますが、投下した途端にその主導権が読み手の皆さんに行く……。
そんな当たり前の現実を認識していなかった自分が居ました。
それに、色々な意見と共に今後の展開予測があったのも悩みのタネでしたね。

だけど、改めてココに来て居られる方の多さに驚いたのもあります。
こんなに沢山の方が呼んで居られたんだ。という想いを改めてしました。
だから出来る限り恥ずかしくない作品を……とは思うのですが、自分の実力の無さに(;^_^A アセアセ…の毎日です。

実は、前回投下した後のご意見の中に、今回書いたもう一人の上条当麻が、長編の御坂美琴と会っている。
という認識をされている方がほとんど居られなかったように見受けられたのが、かなりショックでした。
『オマエが書かないんだから当然だろう?』
と言われたらそれまでなんですが……。

なんにせよ、自分の文才の無さに日々精進を誓う毎日です。ああ……情け無い。
ではでは、お楽しみいただけたら(無理かなぁ……)幸いです。<(_ _)>

804■■■■:2011/03/26(土) 19:27:40 ID:iC5BOjx6
なるほど。GJです。
5分後に小ネタ投下します。

「PSPとある魔術の禁書目録にて」です

805■■■■:2011/03/26(土) 19:32:13 ID:iC5BOjx6
上条、御坂編

「アンタってどのキャラ使うの?やっぱり自分?」
「いや、色んなキャラ使っているけど?」
「ほほう?じゃああの変な格好した女侍や母性の塊女も使うと・・・」
「え?何故そこに怒るのです?」
「見せなさい!!」
「おわ!ちょっと!!」
「・・・・・アンタ」
「は、はい!!」
「アンタとちびっこシスターのパートナーレベルが5なのは100歩許すわ。あのにゃーにゃー言っている
金髪の人ともパートナーレベル4。一方通行ともパートナーレベル4。なんとなくここまではわかるわ。でも・・・」
「でも?」
「何で妹達と打ち止めはパートナーレベル5なのに私とは3なのよ!!ていうか一回も私をパートナーに選んでないでしょ!?」
「いや、これはその・・・・」
「何?私の見間違い?3は5なの?私が数字の読み方から勉強し直さなきゃいけないのかしら?」
「違う違う!理由はちゃんとあるんだ!」
「ほう、納得する理由を求めるわ」
「え〜っと、あ〜・・・・!!!!ほら、俺たちもうとっくにパートナーレベル5だろ?」
「え//////」
「そうだよ!俺はしょっちゅう御坂に追いかけ回されてお前の事を知り尽くしているわけだ!
だからゲームの中のパートナーレベルに拘る必要なんてないんだよ!あは、あははは」
「さ、最初からそう言えばいいのよ!怒り損だわ。ふん!!」

(助かった。これ実はインデックスがやっているデータですなんて言えねえよ)

「ところでさ、アンタはもちろん初回限定版買ったわよね?」
「え・・・?」
「だって、パートナーレベル5の私の限定フィギュア付きよ?」
「・・・・金銭的な問題で中古屋で買いました」
「ということは?」
「フィギュアは・・・」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」バリバリ
「不幸だあぁぁぁぁ!!!」
「何が不幸よ!自業自得じゃないの!!」



御坂、白井編

「ふふふ・・・うっへっへっへ」
「お姉さま、どうなさいましたの?」
「え?いや、今サバイバルモードをやってるだけよ」
「そうです・・・んの!!んまぁ!またお姉さま、類人猿でプレイしてますの?それにパートナーがお姉さまなんて」
「べ、別にいいじゃない!アイツいつもはあんなだけど使いやすいの!!」
「ま、別にいいですけども・・・ところでお姉さま、『とある科学の超電磁砲』と連携できる事をご存知ですか?」
「うん、もうそれも回収した」
「何を言ってますの?フラゲするには早すぎますわよ?」
「私の電気能力ナメんじゃないわよ?ほら、見なさい」
「サバイバルモードの途中ですわ。これがどうしましたの?」
「やってみたほうが早いかもね。ほら、これを続けてみて」
「わかりました・・・」ピコピコ

ビシバシ!打ち上げ!L,Rボタン同時押し。

『美琴!!』
『吹っ飛べぇ!!』ドカーン!!

「なんですのこれ・・・」
「えへ、ちょっといじって名前で呼ばれるようにしたんだ〜」
「・・・・・・・・・・・・・」
「うふふ、私も当麻って呼んじゃおうかな〜・・・うへへへへ」
「これはもうダメですの・・・」


ようこは絶対まねしないでね。ちなみに俺はやりたくでもやり方わからないので・・・

806■■■■:2011/03/26(土) 20:51:04 ID:p9pTT5C.
>>803

確かにずるい…とは思いましたが
自分で考え選択して、相手に応える(パートナーになる)
これだけでも大事な第一歩かなぁ、と

…展開予想みたいな感想は自分もしがちなので気をつけたいですね


>>805

とある動画で幾つか見ましたけど、美琴って呼んでましたね…あれは良い

やり方は簡単だったはずですよ。けどグレーゾーンに入りそうですから…

そして、パートナーレベルどころかソフトさえ買えてない自分

807夢旅人:2011/03/26(土) 21:50:08 ID:wgvTpTio
>>766
GJです。

>>775
告白方法が美琴らしくて実に良いかと思います。
なかなか心理描写がうまく表現できないのでうらやましい。


>>790
美琴の恋愛の中の不安というものが、よく表現されてると感心します。
恋すればこその疑心暗鬼とか、危ういバランスが出てて、なんか良いですね。

>>803
外野の勝手な思いをよい意味でスルーして頂いた様で、実に良く出来ていると思いますよ。
これは充分ありだと思います。
>もう一人の上条当麻が、長編の御坂美琴と会っている
認識はしてたんですが、それ以上にインパクトがありすぎて、
こちらの上条さんがどんな影響を受けたかまで考えられなかったですね。
ちょっと読みが浅かったです…。

>>805
GJです。

808がんばろう日本(15-296):2011/03/26(土) 22:30:58 ID:p7u/xcBk
美「頑固ね、アンタ」
    
上「バカにも意地があるのですよ」
    
美「ロースペック」ボソッ
     
上「う、うるせぇな」
    
美「日が沈むわ!」
    
上「本当だな」
     
頑バロう日本

809つばさ:2011/03/26(土) 23:05:25 ID:5Jn4774g
勝手な予想展開を書いた身として反省と謝罪の気持ちを込めて今回は名前さらして感想書きます。
ちなみに>>665>>689が私の書き込みです。

本当はこのエピソードの完結まで書くのを待とうかとも思ったのですが、やはり予想展開で余計な
心労をおかけしたことのお詫びがしたくて。
今回の話の感想ですが、なるほどな、というのが率直な思いです。
前回に比べて人物の思考のテンポがゆっくりになっていますが、結構人間関係がぐちゃぐちゃになって
しまっている現状を鑑みるに、その修正にはやはりこのくらいのペースがちょうどいいのではないかと
思うのです、個人的には。
美琴はようやく立ち止まって冷静さを取り戻した、上条さんも具体的に行動を始めた。さあ、次はどう料理
してもらえるんだろう、と楽しみにしてます。


で、これは言い訳、というわけではないんですが、展開予想はそんなに気にしなくてもいいんじゃないかと思うんです。
ぶっちゃけ素無視でも。
何を言われようがMattariさんのお話はMattariさんのものですから。
まあ展開予測で迷惑をかけた事実は消えないんですが…申し訳ない。

とにもかくにも続き、お待ちしております

810つばさ:2011/03/26(土) 23:06:37 ID:5Jn4774g
……あ、もちろん上のは>>803、Mattariさんの作品への感想です

811■■■■:2011/03/26(土) 23:09:23 ID:Ny7nr6Fc
>>790
昔それと全く同じ話を書いてて頓挫したのがすげぇデジャヴったw
読んでてあれ、俺投下したっけ?ってなったくらいでビックリしたw
何が言いたいかというとGJ!

812■■■■:2011/03/26(土) 23:44:19 ID:jXBO2PrQ
>>790
賃貸? 分譲? 部屋の値段がなんか気になるw

>>803
> もう一人の上条当麻が、長編の御坂美琴と会っている。
みんなわかってるから、黙っていたんだと思うよ!

>>805
ゲームキャラにまで嫉妬するとかw

>>808
乙!

        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

813Mattari:2011/03/27(日) 03:26:40 ID:If.YGi92
>>806さん、夢旅人さん、つばささん、>>812さん。感想ありがとうございます。Mattariです。

先に、愚痴っぽい事を書いてしまい申し訳ありません。
ただ、今回それが非常に勉強になったというのも事実でして……。
キャラが成長するのと同じように、自分も成長しなければ……と思った次第です。

で、裏話を少々。
実は今回の番外編3を書くに当たって、先にもう2つの番外編を書いています。
1つは番外編の当麻と長編の美琴が出会っている番外編1の逆パターン。
もう1つは、長編の美琴のメッセージを番外編の美琴が聴いて(ああややこしい……)大きく変化(成長?)していく。というものです。
この2つを先に書いておかないと、今回投下した番外編3に向かえなかった。というのが本当のトコロです。σ(^◇^;)
ただ、この2つの話を投下するか否かはまだ決めていません。
あくまでも自分の中でバックボーンとして書いたモノでして……。
作品として、かなり未熟(すっ飛ばしが多い等)だったりしますので……。
特に、二人の美琴の話はかなりの加筆が必要だと思ってます。
あ、出し惜しみしてるんじゃないですよ。ホントに……。

>、展開予想はそんなに気にしなくてもいいんじゃないかと思うんです。ぶっちゃけ素無視でも。

今回そのようにさせて戴いたつもりだったのですが、ダメですね。愚痴を出すようじゃ……σ(^◇^;)
コチラこそお気を使わせてしまったようで、申し訳ありません。
今後も頑張りますので、ヨロシクお願いします。

814■■■■:2011/03/27(日) 10:18:23 ID:mSUh//l6
なにこの聖域…

815■■■■:2011/03/27(日) 10:33:13 ID:0IlbSIBw
雑談スレ>>491で小ネタ。
新約無視、設定適当ですので、深く考えずに流し読みしてください。
被らなければ5分後から投稿。全13レス予定。

816プロローグ:2011/03/27(日) 10:38:33 ID:0IlbSIBw
本当にいいのか、としつこく聞き返すいけ好かないあいつの言葉を、約束は約束だから、と突っぱね返す。
そう、――と、呆れたように短く返されたあとは、もう何も言われなかった。

穏やかな冬晴れの日、第三次世界大戦が終わり、みんなの関心が一端覧祭に戻りだした頃。
――私は、アイツのことを忘れた。

817上条SIDE:2011/03/27(日) 10:39:57 ID:0IlbSIBw
ロシアから帰国して、真っ先にインデックスに謝った。
色々あったが、彼女は結局前と同じように今も居候として自分の学生寮にいる。
そう、色々あった。変わったこともあったが、変わらずに残ったものも多くて、肩の荷が下りた……そう思って一息つくと、別のことが気になりだした。
ロシアまで、自分を助けに来たらしい、少女。
「まだ、やるべき事がある」と、彼女の伸ばした手を握り返すことなく、磁力の糸も断ち切った。空に消え行く彼女が最後にどんな顔をしたのか、見ることすらしなかった。

自販機を蹴り飛ばす、ところかまわず電撃を飛ばすなど、ガサツな面も多い。しかし、その本質はものすごく優しくて、自身の考えた理想に突っ走る、まっすぐな、それでもただのちっぽけな一人の女の子だと、知っている。
そんな彼女だから、ロシアまで来たのも馬鹿げた戦争を終わらせるためだったのだろう。しかし、たとえそのついでだったとしても。
彼女が自分を助けてくれようとしたことには変わりはなく、きっと自身の思いに素直に突っ走る彼女には「上条当麻を助けることができなかった」という事実は、重荷のようのしかかっているに違いなかった。
思えば、それまでにも彼女の思いを無視してきている。そのまっすぐな信念を折ってきている。そろそろ、殴られても文句は言えないのかもしれなかった。
情報網の発達した学園都市だから、どこかから「上条当麻が戻ってきた」という情報が入ることもあるかもしれない。
それでも、そんな人伝いの情報などではなく、自分できちんと帰還を報告したいと思った。というわけで、大絶賛彼女を探しているわけだが。

(うだー。忙しいときとかどうでもいいときは絡んでくるくせに、どうして見つかりませんかね……)

正直に言えば、会おうと思えばすぐに会えると思っていた。
思えば、約束も、連絡すらもとっていない状況で何度も出会っていた今までのほうが異常だったのかもしれない。頼みの携帯電話はロシアで無くしたきりで、戻ってきたとしても使い物にはならないだろう。
「自分」がはじめて顔を合わせた自販機の前まで行って、会えなかったら今日は諦めよう、と。夕暮れ時、そろそろ同居人の機嫌が悪くなり出す頃に、見慣れた茶色の頭が通り過ぎた――

818御坂SIDE:2011/03/27(日) 10:40:39 ID:0IlbSIBw
思えば変な一日だった。
今までの遅れを取り戻すかのように忙しくなった一端覧祭の準備。つかの間の休みに、すっかりお馴染みになった4人組でお茶に行ったところ、やたらとそちら方面の探りを入れられる。白井黒子とは相部屋であるし、男っ気の無いことも知っているはずである。それなのに、今日はやたらと崩壊していた。なんにもないから、女子校だし、と返すと、妙に微妙な空気が流れた。
ジャッジメントの活動がある、という二人を送り出したあと、別れ際に佐天涙子に言われた一言も、ひっかかった。

(「彼氏さんと喧嘩でもしたんですか? 白井さんはああですけど、でも心配してるんですよ。私たちでよければ、相談に乗りますから!」……ね、)
「よお」

そんなことを言われる身に覚えは無かった。身に覚えはない、が、心当たりはあった。それは、一つの可能性。

(妹達、か――)
「おーい」

妹達の誰かが、誰かとデートでもしていた――想像もできないが。
もしそうなら、これほど嬉しいことはない。彼女たちも一人の人間として、受け入れだされたということだから。生きる意味を、その糸口をようやく見つけ出せたのであろうから。

(姉離れ……は、少し寂しいかなー)
「……御坂さーん」

……そこで、気づく。先ほどから視界にちらちら見えるソイツは、私に用があるらしい。頭の中を検索する。――検索結果、0件。うん。知らないやつだ。知っていたとしても、碌な関わりではないだろう。

「なあ、」

「アンタ誰よ?」

「……いくら久しぶりだからって、それはあんまりじゃないでせうか」

知り合い……? まずったか、と思うが、やっぱり見覚えが無かった。やっぱり怒ってますよねそうですよね、とブツブツつぶやくソイツは、うだつのあがらなさそうな、なんとも間の抜けた顔をしていて。

(こちらに覚えがない、ということはスキルアウト?……こんなのがやっていける世界なのか)

世も末ねー、とつぶやいて。
こちらの反応を見ても立ち去る気配のないソイツに、言う。

「ふーん。今日は一人できたんだ? 多勢に無勢じゃなくなったとこは褒めてあげるわ」
「でも、今日は機嫌が悪いから、デートは無理よん。大人しく帰りなさい」

「ああ? 何言ってんだよ、御坂。……どうしたんだ?」

カチンときた。ただでさえ今日は訳が分からないことがあり、イライラしていた。ソイツの馴れ馴れしい態度も、かみ合わない会話も気に食わなかった。周りからばちんばちんと音が聞こえる。煩い。
それが自分から発せられた音だと気づいたときには、ソイツに電撃を浴びせた後だった。私が帰るくらいまで痺れて動けなくなる程度。でも。

「うおっ!? 突然びりびりするのやめろって、」

「う、そ……。なんで、私の電撃が効かないのよ!」

確かに電撃を放った。それにも関わらず、何かに当たった手ごたえは無かった。

(能力……? それとも新手の兵器、か)

そこで、ふと一つの可能性に思い至る。
やたらと男関係を気にする友人。妹達。能力の効かない、不気味な相手――
ぞくり、と。背筋に冷たいものが走るのを感じた。もしかすると。それは嫌な想像だった。
相手から、間合いを取る。戦うにしても、情報が少なすぎる。
実験が再開されたのか、はたまた別の実験が始まったのか……別の何か、なのか。
どちらにしても分が悪すぎる。逃げ出して見ない振りをするわけにはいかない。知ってしまったから。しかし、時には一度撤退して体勢を立て直すことも必要だ。

そう判断した美琴の行動は速かった。
走って走って、相手をまく。寮を知っている可能性は高かったが、追ってくる気配はないし、第一“裏”の人間なら、表に干渉してくる可能性は低いだろう。

(まずは、何が起こってるのか調べないと、ね)

819上条SIDE:2011/03/27(日) 10:41:19 ID:0IlbSIBw
美琴の様子がおかしかった。
はじめは自分に対して怒っているのかと思った。
しかし、かみ合わない会話、よそよそしい態度、そして。

(電撃を打ち消されたときの、あの反応……)

自分の能力が効かず、驚き、怯え。あれでは、まるで。そう、まるで――

(……記憶、喪失)

考えた瞬間、背筋に、得体の知れない何かが走る。もしそうだったとして、どの程度のものなのか。
話した感じからすると、普通の生活は過ごせているようだった。とりあえず、今すぐにどうにかしなければまずい状況ではなさそうであった。

では、なぜ。
能力か、――魔術、か。
ロシアまで自力で来た彼女だ。何か掴んでしまったとしてもおかしくは無かった。
その場合、十中八九自分のせいだ。

(この右手で、なんとかできる範囲なら、いいんだけどな)

目の前でご飯を頬張るインデックスを見る。なるべく、巻き込みたくは無い。
どっちにしろ、また会ってから考えよう、と。もしかしたら、単なる勘違いかもしれないし、簡単にどうにかなる話かもしれない。

820御坂SIDE:2011/03/27(日) 10:42:02 ID:0IlbSIBw
結論から言うと、なにも「なかった」
様子を見に行くがてら、妹の様子を探ったが、こちらも「シロ」
アイツに関しては、能力に関して不明なことが多すぎるせいもあり、完全にお手上げだった。

(こうなるんだったら、あそこでの撤退は失敗だったか)

ため息をつく。妹達絡みでなければ、しばらく様子見でもいいかもしれない。
病院からの帰り道。また、あの公園で、ツンツン頭の少年に声を掛けられた――

少し警戒しつつ、話を聞く。
驚くことに、自分がロシアに行ったことも知っていた。
黒子達に何度問い詰められても、言わなかったそれ。情報統制が敷かれ、どこにも漏れていないはずだった。

(話が、かみ合わない……)

それとなく、情報を引っ張り出そうとするが、ほとんど世間話しかしてこない。その中にも、いくつか気になるキーワードはあった。たとえば、マジュツ。
しかし、振った話は絶妙に曲げられ、曖昧になり、真実には辿り着かない。
ぎりっと、歯噛みしたくなる気持ちを抑え話に付き合ってきたが、埒が明かない。
私、こっちだから、と話を切り上げ、踵を返す。
ソイツは何か言いたそうにこちらに手を伸ばし、それは空を切って、下ろされた――

821上条SIDE:2011/03/27(日) 10:42:39 ID:0IlbSIBw
どうやら美琴が無くした記憶は、とりあえずは、上条当麻――自分、に関わることだけらしいということが分かった。
いくつか探りを入れてみたが、目ぼしい反応は得られなかった。
しかし、ピンポイントで自分に関しての記憶だけが、ない。魔術絡みの可能性は高い気がした。
しかし、情報が少なすぎる。一瞬同居人の少女の顔が過ぎるが、頭を振って打ち消す。彼女に頼るとしても、もっと後だ。こんな状態で彼女に頼っても、いたずらに混乱させるだけになってしまう。

(一度、右手で触れてみて――)

そう思うが、手を出せない。
気さくそうな、人見知りしない態度は変わらないが、どこか距離をとっているのが感じられる。――彼女にそんな態度はとって欲しくなかった。
なんとなく、胸の辺りがもやもやとする。他愛も無い会話をして。時々怒らせて。それでも彼女が記憶をなくす前は、一種の信頼はあった気がしていた。
どうしようか、と焦れていると、唐突に現実に引き戻される。

「私、こっちだから」

とっさに手を伸ばし、固まる。
彼女の、怯えた表情が脳裏を過ぎった。
もし、この右手で触れて、何も起こらなかったら――
目の前の少女に、拒絶されたくなかった。冷静に考えれば、ごめんと一言謝ればすむ話なのかもしれなかった。それでも、動けなかった。

「ああ。じゃあ、またな」

不思議そうな顔をする美琴に、なるべく軽く聞こえるように、返す。
伸ばした手は、彼女の腕を掴むことなく、下ろされた――

822御坂SIDE:2011/03/27(日) 10:43:16 ID:0IlbSIBw
その後も、毎日のようにソイツに声を掛けられた。
帰り道も下校時間も近いのかもしれないが、待ち伏せされていることは明らかだった。
避けようと思えば避けられるけれど、足りないピースを埋めるためにあえてしない。

最近、黒子達に言われたこと。何か雰囲気が硬くなった、と。悩み事があるなら話して欲しい、と。
心当たりといえば、ソイツのことしかなくて。

(……記憶が、たりない?)

ここ数日で、感じたこと。考えようとするばするほど、正解から遠のいていくような、するりと手のひらから零れ落ちていくような、そんなもどかしい感覚。
袋小路に陥った自分の思考の、唯一の解決の糸口であるように思われるソイツは、二度目に会ったときによく判らないことを聞かれた以外は、ただの世間話しかしてこない。これ以上の情報は手に入りそうに無いのだから、切ってしまってもいいはずだった。
それなのに、……それなのに。別れ際、ソイツはいつも何か言いたげに手を伸ばすから。
ほうっておけなくて。ううん、それ以前に、と。
――コイツとの会話に、一緒にいる時間に、心地よさを感じている自分がいた。
思えば、年上の友人というのは、今までにいなかった。
黒子達は仲間だし、かけがえの無い友人たちであるが、その前に守るべき“後輩”でもある。もっと大人になれば変わってくるのもしれないが、どうしても越えられない一線というものはあるのだ。
気兼ねの無い友人。――そんな言葉を思い浮かべたとき、なぜか小さな違和感を覚えた。
お馴染みになった、いつもの分かれ道。

「じゃあね」

いつものように声を掛けた。
でも、いつものように伸ばされた手は、下ろされることはなく、私の腕を掴んで。

「な、なに?」

驚いて、ソイツの顔を見る。苦虫を噛み潰したような、痛々しい表情。
どうしたの、と声を掛ける暇もなく。

「ごめん」

ソイツは走り去っていった。

823上条SIDE:2011/03/27(日) 10:43:55 ID:0IlbSIBw
解決の糸口も無いまま、毎日のように美琴を探した。
彼女もこちらを避けるわけでもなく、会えば苦笑いしながらも、他愛もない話に笑い、突っ込み。記憶が無くても、友人といってもいいくらいには、認識されたのかもしれない。
それでも、と思う。以前との彼女の関係とは違った。うまくは言えないが、どこかに壁があった。
ふと、夏休みの最後の日の、アステカの魔術師との会話を思い出す。彼女は、誰に対しても演技が入る、と。

たとえば、よくわからないことですぐに怒る。子供っぽいものが好き。実は涙腺が弱い。
そんな、当たり前のように思っていた些細な一面を、今の彼女は見せてくれない。
そういえば、びりびりと電撃を放ってきたのも、初日だけであった。

(出会い方一つで、人の関係はこんなにも変わるんだな……)

上条の学校の話にくすくすと笑う美琴を見る。
友人としての地位は変わっていない。それなのに、物足りなく感じてしまう自分。
いつだったか、白井黒子に言われた言葉を思い出す。「まるで、そこだけが世界で唯一自分の居場所みたいな」――
このまま記憶を取り戻さなければ、どうなるのだろうか。
そのような人物は現れるのだろうか。
それは自分か、白井黒子か、はたまた全く別の人物か――

それは、嫌だった。この少女が、自分以外に、……自分、以外に?

「じゃあね」

聞こえた声にはっとして、思わず右手を出していた。
ずっと怖くて触れられなかったその腕に、あっさり届く。――届いてしまう。

「どうしたの?」

怪訝そうな彼女は、特に変化もなく。
怯えた顔は、されなかった。
それでも、取り戻されることのない彼女の記憶に、何も考えられなくなって。

「ごめん」

と。突然こんなことをした言い訳もなく、逃げ出していた。

824御坂SIDE:2011/03/27(日) 10:44:26 ID:0IlbSIBw
あんなことがあったのだから、流石に今日はいないかもしれない。
いくら良く分からないやつでも、あんな別れ方をしたのでは気分が悪い。しかし、問い詰めようにも、ソイツがどこの誰かすら知らなかった。
いつも待ち伏せされている公園。自販機の前にソイツがいて。
そのことに、なぜかほっとする自分がいた。ソイツはこちらが話しかけようとする声を遮って、一言ぽつりと。

「今日の夜、8時に鉄橋まで来てくれないか」

なんで?という私の言葉には答えずに去っていくソイツ。
本当に意味が分からない。


行く必要なんて無いのに、気がついたら黒子にアリバイ工作を頼んで私は寮を抜け出していた。
なにか言いたそうにしている黒子に、すぐ帰るから、と声を掛ける。
まだ8時前だというのに、ソイツはもうそこにいて、川を見ていた。
――夜の鉄橋?
不気味なほど覚えた既視感を無理やり無視して、ソイツに話しかける。

「ちょろっとー。女子中学生こんな時間に呼び出して、なんのつもり?」

茶化した言葉に、振り返るアイツは真剣な表情で。

「御坂……俺と勝負してくれ」

825上条SIDE:2011/03/27(日) 10:44:59 ID:0IlbSIBw
「御坂……俺と勝負してくれ」

精一杯悩んだ末に出した答えだった。
驚いた顔をする美琴の前に立ちふさがる。
右手で触れても戻らなかったのだから、異能の力が原因ではない可能性が高い。
日常生活に支障はないし、今のままでも友人としてリスタートは切れるはずだった。
それでも。

(理不尽なわがままに振り回されても、よく分からないことに振り回されても――それもひっくるめて御坂だから)

だから、前の関係に戻りたい、と。
それは御坂美琴のためではなく、自分のためなのかもしれない。そんなこと、今更だ。いつだって自分のために行動してきたじゃないか。
必死で挑発した。前は平気で放ってきた電撃を撃たせることすら、今の関係では難しい。

「しつこいって言ってんでしょ!!」

ついに落とされる電撃に、出しそうになる右手を寸前で止め、歯を食いしばる。瞬間、吹き飛ぶ身体。
ブラックアウトしていく意識の狭間で、呆然とした顔をした美琴を見た気がした。


目を覚ますと、頭の下になんだか懐かしい感触を感じた。ぽたぽたと頬に温かい何か。
見上げると、顔をくしゃくしゃにした美琴が覗き込んでいて。自分のエゴで、また泣かせちまったな、となんとはなしに考える。

「なに、やってんのよ。アンタ」

ふと。いつかの焼き直しのようなせりふが聞こえて。

「こんな……、どうでもいいようなことに、」

言葉に詰まってしまう美琴の頭を撫でる。
ごめんとか、ほかにも言うべき言葉はある気がしたけれど。

「ただいま」

826御坂SIDE:2011/03/27(日) 10:45:43 ID:0IlbSIBw
「しつこいって言ってんでしょ!!」

威嚇のためだったはずだった。
それでも、どこかに「打ち消せるはず」という甘えがあったのかもしれなかった。
予想外に強くなってしまった電撃に、一瞬上げかけた右手を下ろし、何もせずに吹っ飛ばされるアイツ。

その姿に、いつかの記憶が、重なった――


学園都市に帰る。そう決意するのは容易いことではなかった。
見つからないなんて、認められない。探して、探して、探して――憔悴しきった私を、妹達が心配するのも気に留められないくらいに。
どうしようもない袋小路に追い込まれた私が最後に頼ったのは、あのストラップ。

心配しているであろう黒子達よりも、大騒ぎしているであろう常盤台の教師たちよりも真っ先に、いけ好かないあいつに会いに行く。それしか、もう頼れるものは無かったから。
迷惑そうにするあいつに土下座し、むちゃくちゃな条件も飲み、唯一の手がかりであるストラップをサイコメトリーしてもらう。
答えは、拍子抜けするほどあっさりしていた。
帰ってきている、と。絶対果たさなきゃいけないという強い思い。約束。
――聞いたときは、胸がざわめいた。
自分に関することでは、ない。思い当たる節は無かった。アイツの事だから、また世界のためかもしれないし、誰かのためかもしれなかった。……そっと目を閉じる。
これでいいのか、と聞くあいつに、うなずく。

心理掌握が力を貸す代わりに出した条件。「あなたの中の一番強い思いを消させてもらう」
自分の一番強い『思い』――真っ先に浮かぶのは、やはり『自分だけの現実』
能力を失ったら、と考える。
学園都市第3位。常盤台の電撃姫。きっと周りは混乱するし、ここぞとばかりに襲い掛かってくる不届きなやつらも多いだろう。どういうことになるかは、予想もできなかった。
それでも。それでも、そんなちっぽけなことはどうでも良かった。そんなことで自分は折れない。ただ、ひとつ、アイツに『借り』を返せなくことが怖かった。

ふといつかアイツと一緒にいたシスターを思い出す。9月30日に起こった、あの事件。学園都市を救ったのは、おそらくアイツとあのシスターだろう。よく分からず、蚊帳の外から協力した。それでも、分かる。あのシスターは自分よりももっとアイツに近い位置にいるのだろう、と。
アイツの背中、任せたわよ、心の中で勝手に押し付ける。自分は、自分にできることを探そうと。別の方法でも、『借り』は返せるはず――


「ただいま」

久方ぶりに聞いた気がする、声。言いたいことも聞きたいことも色々あったはずなのに、全部吹き飛んでしまって。

「おかえり」

そういう私の頭を、ただ苦笑いしながら撫でてくれた。

827上条SIDE:2011/03/27(日) 10:46:27 ID:0IlbSIBw
ただいま、久方ぶりに聞いた「御坂」の声がくすぐったくて、頭を撫でることでごまかした。しばらくぼーっとしていた美琴が、急に難しい顔になり、赤くなり、立ち上がる。

「痛っ!?」

当然、そこに乗っていた自分の頭は投げ出され、落下する。
怪我人はもっと大事にしくれないでせうか……という泣き言にも、なにやらテンパっている美琴には伝わらない。忙しく変わる彼女の表情に、日常に帰ってきたこと強く意識する。
「御坂美琴と彼女の周りの世界を守る」――その約束を、守れているつもりだった。ただ、「周りの世界」に自分も含まれているということに、気づかなかった。自分を含まない彼女の「周りの世界」は、なぜかとても面白くないもののように感じた。

落ち着いたタイミングを見計らって、何があったかを聞いてみたが、曖昧にはぐらかされてしまった。美琴の様子からすると特に重大なことではないようなので、それ以上の追求は控える。それでも、何かやっかいなことに巻き込まれていたことには変わりが無い。思えば、彼女も結構色々なことに首を突っ込んでいる。巻き込まれている。
猪突猛進で、自分の思い描く世界を夢見る彼女は、一度巻き込まれてしまえば、解決するまでは食いついて離さないだろう。

ふと、今度ある学園都市での一大イベントを思い出す。一端覧祭。
大掛かりなイベントだ。もしかしたら、また裏でややこしい事件が起こるかもしれない。
――美琴がまたやっかいごとに巻き込まれないように、首輪をつけておく必要を認識する。

大掛かりな、普通の学生であれば何も気にすることもなく楽しむであろうイベントを、ただ美琴と一緒に回ってみたいという思いを、どうせ巻き込まれるなら、事件が起こってからよりその場にいたほうが対処も楽であるからと、誰に聞かせるわけでもなく言い訳をする。
とりあえず、予定を取り付けよう。また何か慌てだしている美琴に切り出す。

「なあ、御坂」

828エピローグ:2011/03/27(日) 10:47:06 ID:0IlbSIBw
記憶を取り戻した後、アイツに一端覧祭に誘われた。
こちらがあんなに必死になって誘おうとしたものを、いともたやすく。
なんでかと尋ねたら、アイツはしばらく考えた後、御坂となら楽しそうだしな、となぜか目を逸らしながら答えた。
あとで連絡するから、という言葉に、携帯なくしたんだ……と情けない顔で返事をされた。

翌日、中学生に金を借りたくないと駄々をこねるアイツを押し切り、携帯ショップへ行く。
もちろん、ハンディアンテナサービスにペア登録もつけさせる。
真っ先に私の番号が登録されたその携帯を渡す前に、ストラップをつける。今度こそ失くさないでよ、と。
ものすごく微妙そうな顔で、キャンペーンまだ終わってなかったんですね……とつぶやくアイツ。
まさかロシアで拾ったとも、未練がましく修理して持っていたとも言えるわけが無いし、信じてももらえないだろう。
――アイツがロシアにいることを知らせ、探す希望となり、帰還を教えてくれたものだから。アイツに、持っていてほしかった。

それから、もうひとつ。
どうしても外せない用事で、またいけ好かないあいつと話す機会があった。
どうせ全てを知っているのだろうと思い、世間話のような軽いノリで、尋ねた。
なぜ一番大きな思いを「消す」のではなく、「忘れさせた」のか、と。
返事はやっぱりいけ好かなくて、一生に一度作れるか作れないかの借りを、消してしまうのはもったいないでしょう、と。
思い出さなかったらどうするつもりだったのか……と考えていたら、勝手に心を読んだあいつが、ニヤニヤした笑みで返してきた。それは、貴方の「一番」だという思いがその程度だったということでしょう。その程度の人間に作った借りならば惜しくない、と。
やっぱりこいつだけは好きになれそうに無い。しかし、そのおかげで得たものもあったし、『借り』はいつか必ず返さなくてはいけないだろう。そう、『借り』は。

アイツに対して、「恩人」に対して抱くにも、「友達」に対して抱くにも、少し違った思い。今の自分には、よく分からないし、これ以上考えても答えは出ないだろう。
それでも、もし。
もしきちんと、アイツに『借り』を返せたなら。
本当の意味でアイツと肩を並べられるようになったら、そのときは、もう一度きちんとこの思いについて考え直してみよう、と思う。
それまでは、もう少し、今のままで。

829■■■■:2011/03/27(日) 10:47:47 ID:0IlbSIBw
以上です。
スレ汚し失礼いたしました。

830■■■■:2011/03/27(日) 10:52:01 ID:cU2E3686
最後はハッピーエンド!まあ結局はよかったんじゃないですかね?
GJ!

831■■■■:2011/03/27(日) 11:45:55 ID:kWfmkEt2
おお…ここまでやっておいてこの距離感
素晴らしい

832■■■■:2011/03/27(日) 12:56:54 ID:patO5vuk
GJです!

8331-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2011/03/27(日) 13:20:49 ID:dKdoYCDY
>>829
> 「御坂……俺と勝負してくれ」
「結婚してくれ」に見えた。

後、タイトル教えてください。

834■■■■:2011/03/27(日) 16:39:17 ID:MLNKAK2o
>>790
ラストの美琴の台詞にすごいデジャヴを感じた…
まあニヤニヤできたので問題ないw

>>829
GJです。
こういうシリアスが入ってるネタは大好きなので、すごいよかったです。
あと、このネタ読んでみたかったのですごい楽しかったです〜

835■■■■:2011/03/27(日) 16:50:09 ID:.5ZNzqqQ
>>803
上条の未来の可能性という分かれ道がある場所に立っていた美琴が
アッチの上条さんという眩しい光で目が眩み自分の立っている場所を見失い
誤った道を選択してしまい進み始めたけど客観的になって冷静に考え
その道が間違っている事に気付いたのは良いけれど
引き返すことも出来ずにその場所に座り込んでしまい絶望的になってる時に
コッチの上条当麻が自分の得ている情報から色々考えて
そのなかで最善であると思える美琴を分かれ道の場所まで連れ戻して
そこから正しいと思える道を模索して二人で歩んでいこう考えを選択してて
とても最高です
きっとコッチの上条当麻はアッチの上条さんとは
別の違った感じの素敵な男になっていくんだろうなと想像しました

文章力が無いから支離滅裂な感想でゴメンなさい

836■■■■:2011/03/27(日) 20:16:38 ID:0IlbSIBw
>>830-834 感想ありがとうございました。
書いた物に何かしらの反応があるっていうのは嬉しいですね。

>>833
ショック療法としては、そっちでもいいかもしれませんねw「ふざけんな!」か「ふにゃー」の二択になりそうですが。
小ネタにもタイトル必要とは知らず…お手数かけてすみません。
『結論はまた来週』でお願いします。

837■■■■:2011/03/27(日) 22:41:09 ID:lw6J5qOY
>>829
すごいおもしろかったです。
いちゃいちゃしまくってるのも好きだけど
こういう距離感もいいなと再認識しました。

心理掌握いい味でてますね!!

838■■■■:2011/03/28(月) 06:23:03 ID:QH484kCA
>>829
良かったです!
最初は美琴が自分で記憶を消したと思ったら、心理掌握が絡んでたんですね。
あと、殆どお互いの内面描写だけで話を進めるってのも新鮮に感じました!

839とある家族の日常(15-296):2011/03/28(月) 06:26:21 ID:EH50t3jQ
はじめて長編に挑戦します

840とある家族の日常(15-296):2011/03/28(月) 06:42:50 ID:EH50t3jQ
当麻「み、美琴ネクタイ知らにゃいか?」
そう言ったのは大黒柱で喫茶店のマスターでもある上条当麻
美琴「にゃんちゃ、きょうひゅんししゅぎひょ(アンタ、興奮しすぎよ)」
カミカミなのは学者、御坂いや、上条美琴
    
今日は大事な娘、上条麻美の小学校入学なのだ
しかし当の本人は準備を終えているのに、父親がまだ着替え中
麻美「ぱぱ、まま、はやくしないと」
      
当麻「げ、ポケット破れてる……不幸だ」
美琴「帰ってから縫ったげるから、さっさと行くわよ」

841とある家族の日常(15-296):2011/03/28(月) 07:01:02 ID:EH50t3jQ
麻美「はぁ〜ぱぱじゃないけど、ふこうだ」
      
当麻「おぉーうはー最新のカメラは出来が違うなぁ」
ぱぱはそう言ってカメラと睨めっこ
美琴「……大丈夫、大丈夫よ黒子はもう立派な教師……いやしかし抱きついてきたし……」
ままは下を向いて考え事
     
??「お姉さま〜」
そういいながら、高校生ぐらいのままのくーろんが……あれ?くろーんだっけ
??「こんにちはお姉さま、麻琴ちゃん、お義兄さま」
    
この人は打ち止め現在は鈴科美鐘(すずしなみか)おばさんにあたる
美鐘「いいなぁ、うちはあの人が厳しいからね」
     
一方通行(あくせられーた)それが美鐘お姉ちゃんの旦那さんだ

842とある家族の日常(15-296):2011/03/28(月) 07:16:43 ID:EH50t3jQ
美琴「アイツ守ってんのよ、私たちとの約束を」
美鐘「約束?」
当麻「あぁ、打ち止……じゃなくて美鐘が大学卒業するまで手を出さないって約束だ」
     
あれ?私いていいの?この場に
美鐘「あの人はやっぱりいつも通りなんだ……安心したよ、じゃね!お姉さま」


     
へー知らなかった、あくせらおじさまって優しいんだ
美琴「ねぇアナタ、私たちの約束覚えてる?」
当麻「あぁ、もちろんだ、俺は[御坂美琴とその周りを護る]」
美琴「私は[上条当麻とこの家族を護る]わ」
もう、ぱぱとままったら自分達の世界に浸ったよ……まぁしばらくしたら戻ってくるでしょ
    
続く

843とある家族の日常(15-296):2011/03/28(月) 07:19:22 ID:EH50t3jQ
あれ?上琴があんまりいちゃいちゃして無い気がする
今回はここまで続きはまた今度です

844■■■■:2011/03/28(月) 12:18:46 ID:k5Ed.TFs
>>843
投稿間隔から書き溜めしてないみたいだけど……
次からは書き溜めしてから投稿して欲しい

> ??「こんにちはお姉さま、麻琴ちゃん、お義兄さま」
麻琴ちゃんいないよね?

845まずみ:2011/03/28(月) 13:40:45 ID:bwnHzq36
こんにちは。まずみ光輝です。

いちゃいちゃSSなのになかなかいちゃいちゃ出来ない状況が続きましたが、
ようやくいちゃいちゃするSSが書けました。
と言っても本当に最後の最後ですがw
さて、レスです。

>>777
 普通に告白して付き合うってのが王道だとは思うんですけど、
 美琴らしい告白の仕方と考えたときにこれが出てきました。
 実はこの告白方法はシリーズ化を決定した時に考えたものでした。

 つばさ様の『素敵な恋のかなえかた』シリーズのような
 恋人として甘酸っぱいお話が書けたらとは思うのですが、
 文才がないので、追いつけるよう頑張りたいと思います。
 有難うございました。

>>778
 いつもありがとうございます。

>>779
 上でも書きましたが、美琴らしい告白って考えると、やはりこうなるかなとw
 今回は一転して普通の会話劇になりますが、如何でしょうか?

>>807
 やはり、今回の肝は告白方法ということで、美琴らしいと思って頂けただけでも
 嬉しいです^^

 あと、心理描写は毎回苦労しています。
 あまり書き過ぎてもグダグダになってしまうので。
 夢旅人様の風景描写の中にある心理描写の表現が素晴らしく、
 その域に行きたいとは思うのですが未熟なものでまだまだ努力の必要があるなと
 毎回痛感させられます。有難うございました。
 
さて、というわけで『恋する美琴の恋愛事情』もクライマックス。
その7「恋する二人の恋愛事情」を投稿です。

846「恋する二人の恋愛事情」:2011/03/28(月) 13:42:09 ID:bwnHzq36
「それでお二人は晴れて恋人同士になれたってことですよね?」

 御坂美琴は親友の佐天涙子とオープンカフェのラウンジで放課後のひと時を過ごしていた。雲ひとつない晴天の下、涼やかに感じる程度の風が心地よく吹き抜けて行く。
 その日、佐天涙子は美琴に友人の初春飾莉や白井黒子ではなく自分一人だけ呼び出された事におおよその検討は付けていた。そして、実際に目的のカフェで美琴から予想通りの結末を聞いたときに「おめでとう」の言葉と同時に出た台詞がこれだった。

「うん、それがね……」

 しかし、佐天の予想とは異なり、美琴の顔には少し苦笑が浮かんでいた。

「当麻の事が好きな女の子って私以外にもいるわけでしょ……それでも私を選んでくれたんだけどね……でも、やっぱりそう言った人たちに申し訳ないというか、少なくとも自分に好意を向けてくれた人は無碍にできないから頭を下げてくるって彼がね……」

 既に会話の中身にお惚気が入っていますが気が付いているんでしょうか?と佐天は心の中で呟きながらも表情には出さないように我慢する。

「へえ、でも、凄いですね。自分の彼女は御坂さん一人だってちゃんと伝えるわけでしょ。格好良いな」
「うん。本当はね、私も一緒に謝るって言ったんだけど、『これは俺の責任だから』って言ってね」

 まるで自分が褒められたかのように真っ赤な顔でモジモジする美琴に『やっぱかわええのぉ』と佐天は思う。ああ、もう、こんな御坂さんだったら私が欲しかった!と、少しばかりの嫉妬を感じても仕方なかろう。

「しかし、御坂さんに好きな人が出来た事は気付いてましたけど、ここまで想わせるなんて、どれだけ凄い人なんですか……」

 実際、美琴が手作りクッキーを作りたいと佐天に相談した時から、その存在に気がついてはいたが、天下のレベル5第3位をメロメロにする男性ということで、佐天の想像の中の上条当麻はとんでもなく凄い英雄像が出来上がりつつあった。

「ふふ、と言っても彼は無能力者(レベル0)なんだけどね」
「え!?」

 美琴の言葉に佐天のイメージ内の英雄像が瓦解していく。え?レベル5のお相手がレベル0!?

847「恋する二人の恋愛事情」:2011/03/28(月) 13:43:52 ID:bwnHzq36
 
「だ、だって、御坂さんが挑んで一度も勝てなかった相手なんですよね?」
「そうよ。勝ったのは今回の1回きり。それ以外は全く手も足も出なかったわ」

 既に当麻との勝負の勝敗に拘りが無くなったせいか、美琴は敗北の歴史も楽しげに語る。まあ、好きになった男の凄さを自慢したいという乙女心も働いた結果ではあるのだが。

「レベル5がレベル0に手も足も出ないって、おかしいじゃないですか!?」

 未だ能力については多少のこだわりがある佐天にとって、その事実は受け入れがたい物があった。

「そうね。確かにおかしいわね。学園都市において能力値の差が強さの優劣じゃないって」

 そんな佐天にむけて美琴は優しい笑みを向ける。それは過去の呪縛から解き放たれたものだけが見せる事の出来る笑みかもしれなかった。

「でもね、今ならわかる。どうして私がアイツに勝てなかったのかって」

 佐天は美琴から視線をそらす事が出来なかった。次に話す事が話の核心であり、恐らく自分に伝えたい事だとわかったから。

「アイツ、当麻はね、決して自分の為に戦わない。でも、自分の夢の為には戦うの」
「……どういうことですか?」
「佐天さん達と知り合って少し経った頃の事かな。私ね、ある事件に巻き込まれてどうしようもない状態だったの。発端は私が招いた事だってわかってるから、解決するには私が死ぬしかないって思ったほどに」

 美琴がそんな事件に巻き込まれていた事を知らない佐天は、その告白に驚きを禁じ得なかった。

「あ、もちろん。私はここにいるから死ぬ事は無かったんだけど。そんなときに私の前に現れたのが彼だった……」

 瞳を閉じれば今でも思いだせるあの鉄橋の上での出来事。死ぬつもりだった自分に、それでは誰も救われないと語りかけてくる当麻。そして、自分の電撃を打ち消す事も、避ける事もせずただ受け止める当麻。

「彼はね、私が死んでも誰も感謝しない。そして、私自身が救われないって。だから、私の代わりに自分が戦うって、何ひとつ失う事なく皆で笑って帰る事が自分の夢だから戦うって……本当にバカでしょ」

 佐天が見た美琴の顔には嬉しそうな、悲しそうな、そして怒ってそうなそんな複雑な表情が浮かんでいた。

「相手は私でも万に一つも勝ち目のない相手なのに、そんな相手に立ち向かうなんて、絶対無理だと思った。でもね、何故か止められなかった。恐らく心のどこかでこの人なら勝てるんじゃないかって思ってしまったのかもしれない。だって、彼が……ヒーローに見えたんだもの」

 そして、美琴の表情は迷いの無い笑顔に変わる。それは信じている者にしか見せられないような極上の笑みだった。

「と言っても、そう簡単なものじゃなかったんだけどね。相手が相手だったから。それでも彼は何度も立ち上がって、そして、最後に勝ったわ。学園都市最強のレベル5第1位"一方通行(アクセラレーター)"に」

 美琴の口からシレっととんでもない言葉が出てきたことに佐天はまたしても驚く。学園都市7人の超能力者―レベル5―の第3位だけでなく、第1位まで……

「あ、そういえば噂で聞いたことがあります。レベル5第1位が無能力者に負けたって……あれ、本当だったんですか!?」

 その言葉に美琴は苦笑を浮かべながら「一応それは噂ってことにしておいてね。アイツ、注目されたりするの嫌みたいだから」と念を押しておく。
 しかし、と佐天は思う。どんな手を使ったのか知らないが、レベル0がレベル5に勝つなんて、奇跡に近い出来事だ。それをやってのける美琴の彼氏って……正直イメージは出来なかった。

848「恋する二人の恋愛事情」:2011/03/28(月) 13:44:47 ID:bwnHzq36
 
「まあ、その後もアイツは色々あったみたいで、誰かの為に戦い続けてたみたい……」

 そう、その時偶然美琴は当麻が記憶喪失である事を知り、さらに絶対能力進化(レベル6シフト)実験阻止のような誰かを守るための戦いが続いていた事を知った。その時になって初めて美琴は上条当麻に恋をしている事を知り、彼と共にありたいと心から強く願うようになった。

「そして、その時になって初めてわかったの。アイツの強さは腕力や能力なんてものじゃない、アイツの強さは心の強さなんだって。アイツは自分を取り巻く人々の笑顔を守るためなら、絶対に負けないんだって」

 その言葉には力があった。その言葉には真実があった。だから、佐天にはその言葉は苦しくもあった。同じ無能力者でありながら自分がどれだけ挫折し、他人を呪っただろうと。しかし、美琴の言葉は止まらない。

「でもね、そう思えるようになったのは、佐天さんのおかげでもあるのよ」
「え?」

 美琴の言葉に驚く佐天。自分が美琴に何が出来たというのか。少なくとも思い当たる節は無い。

「だって、佐天さんは私を叱咤してくれたじゃない、私が一人で突っ走ろうとした時に。乱雑開放(ポルターガイスト)事件でも、今回の件でもね」
「あ、あれは……だって……」

 美琴の言葉に戸惑いを隠せない佐天。そう、単にあれは自分以外を信じようとしない美琴の力になりたくて、自分を見てほしくて言った事。そんな風に言われる事じゃない。

「ううん。あれは黒子や初春さんでは出来ない事だと思うの。佐天さんだから、心の強さを持つ貴女だから私の心に響いた言葉なの」
「み…さか…さん」

 佐天の瞳が涙にぬれる。自分のあこがれの人からそんな風に言われるとは思いもしなかった。自分のやってきた事に毎回迷いはあった。それでも、美琴のその言葉で救われた気がした。

「だから佐天さん、貴女にお礼を言わせてね」

 美琴は微笑みを浮かべ佐天涙子に心からの感謝の言葉を告げる。

「ありがとう、貴女のおかげで私は幸せになれました」
「はいっ!」

 そして、佐天もまた御坂美琴に心からの微笑みを浮かべるのだった。


      ********

849「恋する二人の恋愛事情」:2011/03/28(月) 13:46:04 ID:bwnHzq36
「へえ、そんな事があったんだ」

 もう日も暮れかかり、真っ赤な夕焼けぞらに世界が赤く染められた時間。いつもの公園で美琴は上条当麻と肩を並べて歩いていた。

「うん。佐天さんには色々相談に乗ってもらってたから、どうしても話しておきたくて」

 二人の距離は以前とほぼ変わらない。ただ、前後だったものが横に並んでいるだけ。それでも進歩だと美琴には素直に思えた。

「それとね、佐天さんにあった後にあの子たちにも会ってきた」
「うん?」

 佐天涙子と別れた後、カエル顔の医者のいる病院に寄り御坂美琴そっくりの顔をした妹達(シスターズ)に会ってきた。その理由は簡単である、絶対能力進化実験阻止により助けられた彼女達の中には10032号のように上条当麻に恋心を抱いた者たちがいたからだ。

「当麻だって気付いていたんでしょ?あの子がアンタに好意を持っていたってこと」
「……ああ、御坂妹な」

 実際気付いていたかどうかと言われると、実は全く気が付いていなかった。ただ、今回の美琴との事であれはそういうことだったのかと思いついただけだ。鈍感フラグメーカーの面目躍如である。

「当麻があの人たちに謝りに行くっていうなら、私もあの子達に謝るべきだと思ったから……」

 しかし、病院にいたのは10032号のみであったが、「大丈夫です。ミサカネットワークによりお姉さまの伝言は即座に全てのミサカに伝わりますので、安心して何でもおっしゃってください、とミサカは何か嫌な予感がしますと心の不安を隠しながら返答します」と言ってくれたので、10032号に代表して謝る事にした。まあ、妹達の中でもっとも当麻に対する恋心が顕著だったのは10032号なので好都合と言えば好都合だったのだが……

「ゴメン!」そう切り出した美琴は事の顛末を話し、当麻と恋人になった事を告げた。その時の10032号の表情を美琴は忘れる事が出来ないだろう。もし、当麻に選ばれなかったらその表情を浮かべていたのは自分なのだから。
 それでも「おめでとうございます、お姉さま。お姉さまが幸せが私達、クローン体である妹達の幸せです。とミサカは胸の内の痛みを誤魔化しながらお姉さまをお祝いします」と言ってくれた。それだけで涙があふれそうだった。……もっとも、その後に「ですが、お姉さま方が破局した際には、次の恋人候補は私が立候補します。とミサカは心の内を暴露します」という台詞がなければ、本当に泣けていただろうに、全てが台無しである。

「それでもやっぱりあの子達に祝えてもらったのは本当に嬉しかったわ」
「そうか、良かったな、美琴」

 そう言って美琴の頭をなでる当麻。優しさよりも力強さを感じるような不器用ななで方であったが、その掌から当麻の優しさと温かさを感じ、美琴は心地よさを感じていた。

850「恋する二人の恋愛事情」:2011/03/28(月) 13:50:37 ID:bwnHzq36
 
「それより、そっちはどうだったのよ」

 美琴はなでられながらも上目遣いに当麻に尋ねる。もちろん、例の彼女達に当麻が謝った件についてだ。詮索はしたくないが、それでも自分のせいなのだから、どうであったかは知りたいのが本心。

「ん、ああ。ちゃんと美琴と彼女になったって言ったらわかってくれたよ」

 そのとき吹寄は「そうか。ならばその彼女をしっかりと守って、手放したりしないように」と言ってくれたし、姫神は「うん。わかった。幸せになってね」と言ってくれた。二人とも目には涙が浮かんでいたが、それでもそんな風に言ってくれる事が嬉しかったし、男としてきちんと謝るべきだと思い、深く頭を下げた。
 ただ……姫神も吹寄も「「もし、駄目になったら真っ先に言って。待てる間は待ってるから」」とこちらでも同じような事を言わなければすべて解決だったのだが、流石にそれは美琴に言えなかった。

「そっか。私達認めてもらえたんだね」
「そうだな」

 もうなでる行為は止まっているが、頭上の手のの温もりを感じながら美琴は嬉しそうに微笑む。

「もう怖いものなんてないんだね」
「そうだな」
「ね、当麻」
「ん?」
「手を繋いでもいい?」
「あ、ああ、いいぞ。ほら」

 当麻はその提案に顔を真っ赤にしながら美琴の頭上にあった右手を差し出す。これまで、超能力や魔術と言った超常的な力を打ち消してきた右手であったが、これが縁で美琴とは知り合えたのだ。手を繋ぐなら右手であるべきだと当麻には思えた。

「うん!」

 美琴は差しだされた手に自分の手を差し出し、指と指を絡める所謂"恋人繋ぎ"をする。

「ね、当麻」
「なんだよ?」
「なんでもない」
「おいおい」
「当麻……」
「ん?」
「呼んでみただけよ」
「……美琴」
「なあに?」
「あー!幸せだぞ!!」
「……うん!!」

 二人の歩く道に明かりがともる。それは未来を示す幸福の道しるべ。二人の行く末に幸多き事を暗示するかのような光の道。 これから先、二人が恋人として歩むには障害が沢山あるのだが、今はこの幸せを噛み締めていたかった。
 だから、恋する二人の恋愛事情はこれにてひとまず幕が降りる。そして次の幕が上がった時、二人の前に試練が訪れるかもしれない。しかし、二人ならば、お互いを信頼し、愛し合う、恋する二人ならば再び幸せが降り注ぐだろう。
 決してそれは奇跡ではない。それは必然。

 ただ今は二人の幸せを祈って――

851「恋する二人の恋愛事情」:2011/03/28(月) 14:09:56 ID:bwnHzq36
以上となります。

いかがでしたでしょうか?
今回の話ですが、二人の距離は今までと実は変わっていません。
ですが、立ち位置が変わっています。
対峙する縦の位置から、信頼し合う隣同士の横の位置へ。
まだ、ほんのわずかな変化なのであまりいちゃいちゃは出来ないと思ったのですが、
美琴の事を考えると最後の最後くらいいちゃいちゃさせてあげたくなり、
あの会話となりました。実際に目の前にいたら殺意湧くよなあの会話w

今回も佐天さん大活躍です。
以前の話にもありましたが、今回の話は電撃大王先月号の超電磁砲が元ネタです。
なので、恋の相談は佐天さんしかいないだろうとw

さて、この話で『恋する美琴の恋愛事情』は第1幕閉幕です。
予定では番外編を挟んで第2幕になると思います。
番外編は上条視点になると思うのですが上琴にならないかも……
その場合はここへの投稿できないなorz

第2幕については今回科学サイドには納得してもらいましたが、
いまだ納得していない魔術サイドがメインになると思います。

ということで、次回お会いできる様頑張りたいと思います。
よろしければ感想等お待ちしておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

852■■■■:2011/03/28(月) 14:32:10 ID:hTlHIqI.
めっちゃいい作品だにゃー!GJ!だぜい!

853■■■■:2011/03/28(月) 15:21:24 ID:8zvoCgWg
GJです!

854■■■■:2011/03/28(月) 16:12:25 ID:ayD4zsJU
面白かったです!!
GJ!!

855■■■■:2011/03/28(月) 18:35:15 ID:WSm7HxH6
sageような

856■■■■:2011/03/28(月) 18:52:56 ID:Gw4mwoR6
GK!

857■■■■:2011/03/28(月) 19:55:12 ID:k5Ed.TFs
>>851
> その場合はここへの投稿できないなorz
連続物の一部なんだから、ここに投稿して問題無いと思うよ。
ここに投稿したくないのなら止めないけどね。
    _
  .'´  `ヽ
  | 8レノノノ゙i.}
 州(l*゚ ヮ゚从      n
  ̄     \    ( E) Good Job !!
 フ     /ヽ ヽ_//

858■■■■:2011/03/28(月) 22:53:06 ID:GCBz13go
誰もいないようであれば5分後に投下します。

いちゃ成分は少ないかもしれないですが・・・
タイトルは「狙われたカップル」です

859■■■■:2011/03/28(月) 22:58:12 ID:GCBz13go
学園都市に平和が来てある日のとある広場。辺りは夜に包まれている。そこに4人の新生アイテムがいた。会議ではない。
ただ集まっているだけのようだ。

が。


「はーまーづーらー。どうやら本当に私に殺されたいみたいだね〜」
「麦野が怒るのも超同意です。麦野が普通の鮭弁を頼んだのに浜面が大きい鮭弁を超頼むからです」
「だからこっちをあげるって言ってるじゃないか!!ひい!滝壺!助けて!!」
「無理。私じゃ麦野には敵わない」
「そうじゃなくて説得なり言い訳を!!」
「ほぉら、逃げろ逃げろー!!」

麦野は浜面軽く砲撃する。浜面はギリギリ避けるが腰が抜けたようにヘナヘナとしか動けない。
あちらは子猫とじゃれあうように遊んでいるかもしれないが浜面にとっては生きるか死ぬかだ。

「はまづらぁ、そんな逃げ方じゃ本当に死んでしまうぜぇ?」

ニヤニヤしながら麦野はゆっくりと歩み寄る。

「大丈夫、私が本当に浜面を殺すと思う?私が滝壺に殺されちゃうわ。でもお仕置きは決定〜〜」

死は免れても怪我は免れない。そう覚悟して浜面は咄嗟に目を瞑り顔を腕で隠す。


バキィィン!

突然何かが壊れた音が聞こえた。でも浜面は見ていなかったのでわからない。目を開けると
一人の少年が浜面を守るように立っており、右手を麦野の方に突き出していた。
浜面はこの少年を知っている。かつて拳を交えた相手。

「何やってんだよ、テメエ」

少年の言葉は浜面ではなく麦野に向けて放たれた。

「無能力者を弄んで楽しいか?」
「弄んでなんかいねえよ。ただコイツにお仕置き・・・」
「うるせえ!!!」

夜の広場に少年の声が響き渡る。

「お仕置きだからって何で能力を使う必要があるんだよ?そもそも怪我させないといけない理由があるのか?
コイツは人を傷つけたのか?」

そうだ、コイツは無駄に説教するやつだった。浜面は少しずつ前に少年と会った事を思い出していた。
それに珍しく麦野が何も言い返さずただ説教を受ける形となっている。

「わかったならさっさと帰りやがれ!!」

いや、お前こそこんな時間に一人で何やってたんだよと突っ込みたい所だったがあまりの形相にみんな何も言えなかった。

860■■■■:2011/03/28(月) 22:58:26 ID:GCBz13go
「・・・行くよ」
「え?う、うん、超わかった」
「・・・はまづら」

麦野は何も言わず少年と目を離し広場から出て行き、それに絹旗が続く。滝壺だけが浜面に近づいて寄り添った。




「怪我はない?」
「ああ。コイツが守ってくれたおかげでな。助かったぜ、説教男」
「説教男って言うな。ところで・・・」
「何だよ説教男」
「この子はお前の・・・」
「ふふん、よく聞いてくれた。俺の恋人、滝壺理后!可愛いだろ?」
「はまづら、キモい」

自慢気に滝壺を紹介した浜面だが滝壺の突っ込みに撃沈する。


「でもそれは本当みたいだな。2人共仲良しみたいだし。さっきの強そうな能力者もお前の仲間なんだろ?」
「ああ、ちょっと気難しいヤツなんだ。ところでお前はこんな時間に一人で何やってたんだよ」
「ん?ちょっと彼女を寮まで送ってその帰りでそこにお前たちがいた訳だ」
「ほほぅ、お前にも彼女がいるとは。でもお前の彼女なら滝壺よりランクは遥か下だろ」
「ふふん、滝壺ちゃんも可愛いが俺の彼女の名前を聞いたらビックリするぜ?」
「ならもったいぶらないで早く教えろよ〜」
「はまづら、さっきからキモい」
「ぐぬ・・・」
「いいか?一回しか言わないからな。俺の彼女は御坂美琴!あの常盤台の超電磁砲だ!!」


どうぞ聞いてください!と言わんばかりに少年は彼女の名前を告げるのだが


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

2人は顔を少し青くしただけだ。

「お?驚いて声も出ないようだな二人共。今度は俺がふふんと言う番だ」
「お前に言っておく、麦野がここにいなかったことを幸せに思え」
「麦野?あぁ、さっきお前に攻撃してた・・・」
「アイツはレベル5の第4位。第3位のお前の彼女を目の敵にしてるんだ」
「・・・・・・・・・・・え?」

上条と浜面、滝壺の空気が一気に固まった。



その頃、麦野と絹旗は

「珍しいですね。麦野が超何も言い返ず、何も反撃しないでさっさと言うとおりに帰るなんて」
「・・・・・・・・・・・・」
「一回能力を消されただけですよ。また会った時に超やり返せばいいですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「あの〜麦野?浜面と滝壺がまだあっちに残っているハズですけど・・・」
「絹旗、さっきの男を調べて」
「?もしかして超消すんですか?」

この後、絹旗はこの人物は麦野でないのではないかと疑う一言を聞いてしまった

「消さないよ。私のモノにするんだよ。私に説教できる男がいるなんて・・・////」

あの麦野が頬を染めて乙女の顔になっていた。両手を頬に当ててトロンとした目で。どうやら
先ほどの少年を思い返しているのだろうか?

「わ、わかった。超調べます・・・・・」

絹旗はこれしか言えなかった。

861■■■■:2011/03/28(月) 22:59:05 ID:GCBz13go
翌日の放課後

絹旗はとある高校の門の前にいた。

(浜面に名前を超教えてもらっただけでなんとか高校までは突き止めましたがまだ超情報不足です。
どこに住んでいるのかさえわかれば超進歩するハズですが・・・)

とそこに

「にゃ〜、こんな所で何をやろうと思っているのかにゃ?高校を爆発とかやめてくれよ?」

金髪でサングラス、アロハシャツを着た男、「アイテム」の敵、「グループ」のメンバーの土御門元春がいた。

「そんな物騒なことでは超ありません。上条当麻を調べているだけです」
「カミやんは俺の友人だから手を出すことは許さないぜい?」
「超違います。麦野が上条当麻を超気になるらしくその下調べなだけです・・・って超どうしました?」

土御門の表情がこれ以上にない程ニタァ~と笑っていた。

「そんな面白い情報を俺に提供してくれてありがとうぜよ」
「な!つい口が超滑ってしまいました!この話は超忘れてください」
「いいや、もしよかったら俺が協力してあげてもいいぜい?」
「グループの協力は超必要ありません。これ以上話すと麦野のプライバシーの超侵害ですから」
「俺が住んでいる寮の隣の部屋はカミやんが住んでいるんだけどにゃ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・!」
「でもさすがにアイテムの一人に俺の住処を教えるのも気が引けると言いますか。でもこれは
滅多にないチャンスだと思うぜい?」
「何が望みですか?」
「本当のところ麦野やアイテムの連中に一日俺のメイドさんになってほしい所だが最近浮かれたカミやんを虐めてほしいだけでいいぜい」
「こちらとしては超好条件だけですね。その話、超乗りましょう」
「オッケー。じゃあカミやんの行動パターンから考えるとまず行く場所は・・・」



一方、既に学校を出て公園にいた上条当麻は

「ということが昨日お前を送った後にあったんだよ」
「ふ〜ん。当麻その滝壺って子、可愛いって言ったんだ〜」

昨日の出来事を恋人の美琴に報告する上条。だが肝心の彼女は可愛くない反応をする。

「そこかよ!そりゃ可愛いって言ったけど俺は美琴一筋ですよ?麦野ってヤツのことだよ!」
「大丈夫だって。私一回戦ったことあるしそれに・・・当麻がいてくれるから・・・」
「何だそれ。ま、一応気をつけてくれよ。怪我されちゃたまったもんじゃないから」
「うん、それじゃ今日もスーパーに寄るんでしょ?」
「今日はいいんだよ。まだ食材残っているし」
「そう?じゃ当麻の部屋に行こっ♪」

こうして2人は寮へ帰って行った。



その頃、本当は上条たちが行く予定だったスーパーでは


「ここは超どこですか?」
「カミやん行き着けのスーパーだぜい?この時間なら15分以内に必ず来るにゃ〜」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「もう15分超経過しましたよ?もしかして超騙しました?」
「おかしいにゃ〜。もしかしてもう買い物が終わったのか?でももう寮に戻ったとは思えないにゃ〜・・・」
「なら寮で待機しておくことを超求めますが」
「仕方ないにゃ〜。じゃあこっち来るぜよ」



そしてこちらは浜面、滝壺、麦野がいるファミレス。

「そういえば絹旗は?」
「ちょっと調べ物をさせていてね。なあ浜面、昨日の男の名前は知ってんだろ?」
「え?あ、まぁ・・・珍しいな。麦野が男のことを聞いてくるなんて」
「ぁあ!?何か文句あんのか?」
「・・・・・・・いえ、何も・・・」
「はまづら、麦野はあの人が超電磁砲の彼氏だなんて知らないから名前を教えるくらいいいんじゃない?」ヒソヒソ
「そうだな。麦野のことだから恐らく仕返しするだけだろうしそもそもアイツには通用しねえから・・・大丈夫か」ヒソヒソ
「おい浜面、名前すら教えてくれねえのかよ?」
「ああ、アイツの名前は上条だよ。下の名前は・・・何だったっけ?」
「チッ、使えねえなぁおい・・・でも上条っていうのか〜あの男・・・///」
「・・・・・・・・・・は?おい麦野?」
「はまづら、どうやらあの人、麦野にフラグ立てたみたい・・・」
「え?・・・・・・」
「あ〜、早く絹旗戻って来ないかな〜///」
「マジかよ・・・」

862■■■■:2011/03/28(月) 22:59:39 ID:GCBz13go


「ただいま〜」
「ここは俺の部屋だっつの。決して美琴の部屋ではないぞ?」
「いいじゃない!これくらいでケチつけないで!」
「悪うございましたよ〜」


上条と美琴は寮に到着。買い物に行かなかったため夕食を作り始めるのもまだ早い。上条はベッドに胡坐をかき、テレビを付ける。そこに美琴が上条の股の間にちょこんと座って来る。


「・・・・・・」
「何?」
「いや、美琴っていい匂いするな〜と思って」
「本当?ありがとう。えへへ」
「お前、付き合ってから俺に素直になったよな」
「当麻も少しは私の気持ちわかるようになったのと同じよ?」
「そうか?まだ美琴の知らない所たくさんある気がするけど」
「じゃあこれからもっと私を知って行ってね。うふふ・・・ねえ、ギュってして?」
「はいはい、これでいいか?苦しくないか?」
「うん、暖か〜い・・・・ふにゅ・・・」


こんな幸せ空間の部屋の隣、土御門の部屋では・・・


「超何ですかこれ・・・」
「だろ〜?この現実がお前に協力した訳だぜい」


土御門と絹旗の2人は今・・・かつてステイルと神裂がしたようにコップグラスを壁に当てて隣の音を盗聴している。(ドラマCD参照)


「超どういうことですか?上条当麻が超電磁砲と恋人だなんて」
「俺だって聞きたいぜよ。ある日突然超電磁砲が高校まで来てカミやんを迎えに来て腕組んで消えて行きやがってにゃー。
それ以来カミやんの予定には全部超電磁砲が補修よりも最優先されちまってにゃ〜。俺は結構寂しい訳ぜよ」
「なるほど。アナタの理由は超どうでもいいですがとりあえず二人はラブラブなんですね。
これは麦野に超どう伝えればいいのでしょうか・・・」
「にゃ〜お前はそっちがネックになってる訳だよにゃ〜・・・ん?ちょっと静かに」
「はい・・・」

2人は耳を澄まして隣の部屋の音を必死で拾おうとする。

『あ・・・あぁ〜〜〜いいよ当麻ぁ』
『うお、凄いなここ・・・こんなになるまで俺に黙ってたのかよ。早く教えてくれればよかったのに』
『だってぇ、いくら恋人になったからって恥ずかしいもん』


「・・・・・・・・これはもう全部麦野に超報告するしかないですね」
「・・・・・・・・カミやん・・・許さんぜよ」
「麦野が超怒ってもこれは仕方ないことです。包み隠さず教えるのも友としての超勤め」
「全く言うとおりだぜい。まずはイギリス清教、学校の連中にも教えてやるかにゃ〜」



その頃、隣の部屋の2人は

「あぁ〜、そこ!気持ちいい!」
「おっ、ここも凄いよ?」
「当麻ってマッサージ上手だね〜」
「美琴・・・その年でマッサージを求めるとかヤバイんじゃないですか?」
「いいじゃない、触れてもらってるだけで私幸せだもん」
「マッサージだけどな・・・」



「好き、嫌い、好き、嫌い、好き・・・嫌い・・・あーもう!!」
「滝壺、ついに花占いまで始めたぞ・・・」
「もう誰も麦野を止められない・・・」

863■■■■:2011/03/28(月) 23:00:32 ID:GCBz13go
とりあえずここまでです。続きは後ほど。
今気付きましたが誤字、脱字が多いですね。申し訳ない

864■■■■:2011/03/28(月) 23:27:09 ID:ohRkiuVY
まさか麦のんまで上条さんに恋をするなんて……

続きも楽しみにしています

865■■■■:2011/03/28(月) 23:34:32 ID:k5Ed.TFs
>>863
(´-`).。oO(またか、あの野郎)

866■■■■:2011/03/28(月) 23:34:46 ID:ksjICruQ
花占いしてるむぎのんハァハァ

867■■■■:2011/03/28(月) 23:43:04 ID:YUEUPTdg
皆さん面白いですねGJです。

個人的に誰か>>668の内容書いてくれる人いたらぜひ見てみたいです。
Mattariさんの作品のifルートになってしまうから無理かな・・・

868■■■■:2011/03/29(火) 03:26:12 ID:B6iALiTQ
戦争が始まるな
GJです!

869■■■■:2011/03/29(火) 04:24:09 ID:5LxjJGaA
麦のんすらフラグをたてる上条さんやばい...
GJです!

87015-296:2011/03/29(火) 07:00:30 ID:8Ubncdic
>>844
そうですね麻琴ちゃんじゃなくて麻美ちゃんですね
すいませんでした

??「こんにちは、お姉様、麻美ちゃん、お義兄さま」

が正解です
気付かんかった

87115-296:2011/03/29(火) 07:06:55 ID:8Ubncdic
>>844
書き貯め=わかりました

872■■■■:2011/03/29(火) 10:44:40 ID:bTbULjp.
>>871
名前欄に入力したついでに、メール欄に「sage」と入力してくれ。

873■■■■:2011/03/29(火) 12:46:23 ID:Cc7BQERk
次のテンプレに書き溜めてから投稿してって加えようぜ
sageてない辺り読んで無いんだろうけど

874■■■■:2011/03/29(火) 15:04:05 ID:N1BZUYUc
というより、2chを始めネット上の掲示板を全く知らなくて勝手が分からない人が多いんだろうな
ここの誘導から初めて2chに足突っ込んだ俺とかいるくらいだし

875■■■■:2011/03/29(火) 16:12:50 ID:J9U0Vpnc
まぁ説明書から入るつわものが珍しすぎる時代だからな〜

876■■■■:2011/03/29(火) 18:43:09 ID:r7DqBP6A
みなさんの素晴らしいSSを読んで自分も書いてみました!
初投稿ですので、生暖かい目で見てもらえれば幸いです。

877■■■■:2011/03/29(火) 18:45:45 ID:r7DqBP6A
東京西部を開発して作られた街、学園都市。
人口のおよそ八割を学生で占め、外とは20年以上差があると言われる科学技術を用いて、超能力開発などというものも行っている極めて変わった街だ。
外ではバケツのような清掃ロボットが徘徊し、風力発電のための風車がやたら多くあり、さらに自販機はゲテモノだらけと色々と外とは違っている。
しかしそんな街でも高い壁で区切られた外と同じく、少しずつ昇り始めた太陽の恩恵を受け、穏やかな朝の時間が過ぎていた。

「…………はぁ」

ここはそんな朝日が差し込む常盤台寮の208号室。
その住人のうちの一人、御坂美琴はカエルのパジャマを着たまま枕を抱き締め、重い溜め息をついていた。

「お姉様……こんな良い朝ですのに、そんな溜め息はやめてくださいまし」

「だ、だって……」

そんな美琴をやれやれといった感じで注意するのは同居人の白井黒子。
まだ朝早い時間という事もあってか、髪型はいつものツインテールではなく全て下ろしている。
いつもと違って少し大人っぽく見えるというのは美琴も気付いていたが、何か癪なので口には出さないようにしている。

「大方、例の殿方……上条さんと一端覧祭をまわりたい、という事でしょう?」

「う、うん……」

「それなら電話かメールで約束を取り付ければ良いだけでしょう。
 そんなモジモジ悩んでいなくても……お姉様らしくないですわ」

美琴はまだパジャマのままだが、白井は朝の準備を整えながら会話をしている。
今日は土日でもなければ祝日でもない。学校もあるいたって普通の平日だった。

「そんな簡単にはいかないわよ! それに私ほら……フラれちゃったし」

「お姉様……」

急に少し暗くなった美琴の声に、白井は一旦朝の準備を中断し美琴の方を見る。
美琴は少し俯いて、枕を抱き締める力を強くしていた。
その様子はどこか父親が帰ってこなくて寂しがっている子供のようだ。

そう、御坂美琴はつい最近上条当麻に告白し、そしてフラれていた。

878一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 18:46:33 ID:r7DqBP6A


数日前、上条の事で脱け殻のようになってしまった美琴は学校帰りにフラフラと学園都市をさ迷うのが日課になっていた。
そしていつも辿り着くのはあの鉄橋。
自分はこんなにも上条に依存していたのかと我ながら呆れる美琴だったが、それを自嘲できる気力も起きない。
その日はいつも通り鉄橋から川の先……夕焼けに染まる海の方をしばらく眺めていた。そしてもう少ししたら寮へ戻ろう、そう思っていた。
周りの人間はそんな美琴の変化に皆心配していたが、それが上条のいない世界の美琴の『日常』だった。

そしてそれは美琴の『日常』を壊すようにやってきた。
美琴の後ろから聞こえてきた足音……誰のものかなんとなく分かった。
いや、というよりはそうあって欲しいという美琴の願望だったのかもしれない。
だがその後すぐ聞こえてきた声……それは聞き間違えようのないずっと想っていた者のものだった。

「何やってんだよ、お前」

上条当麻だった。
以前に自分を絶望の中から救いだしてくれた時と同じ台詞で現れ、また自分を救ってくれる。
美琴はそれがあまりに嬉しく、思わず泣き出しそうになってしまうのを懸命にこらえる。

しかし対する上条はというと、あの時と比べて心底驚いているようだった。
おそらくこんないつもの美琴を知っているからだろう。
上条はあたふたと「あの時はホントゴメン!」やら「わざわざロシアまで来てくれたっていうのに……」やら謝罪の言葉を並べ始めたが、美琴にはあまり聞こえていなかった。

美琴にはずっと言いたかった言葉があった。

それは「べ、別にたまたまアンタを見つけただけで……」などといういつもの素直になれない言葉ではなく……。
「このバカ!!」などという自分をここまで心配させた事に対する怒りでもない。
上条がいつもトラブルに巻き込まれるのは知っていたが、心のどこかでは最後には帰ってくる、そう思っていた。
しかしそれは間違っていた。上条は本当にギリギリの世界で生きていて、一歩間違えばいなくなってしまう。そう思い知らされた。
だから美琴は絶対に後悔しないように少しだけ自分に素直になることにした。
こうやって学園都市で上条と話す、そんな日常がかけがえのないものなんだと気付いたのだから。

美琴はうっすらと涙を浮かべながら上条を見つめた。
夕日に照らされたその顔は困惑の表情を受けべていたが、目の前にいるのは幻想でも何でもない上条当麻だった。
その事を再認識し、以前までの自分の『日常』が戻ってきた事を感じ、さらに涙が溢れだした。
美琴は止めようのない涙を隠すように少し俯き、そして……。

上条の胸に飛び込み、「愛してる」と一言告げた。

上条は抱きつかれた瞬間は「ぜ、零距離ビリビリだけはご勘弁を!!」などと見当外れなことを言っていたが、その後に続いた美琴の言葉に「……はい??」と固まった。
美琴は上条の胸に顔を埋めたまま状態のまま返事を待っていた。
というのも今の美琴は涙を浮かべている上に顔も真っ赤でとても上条に見せられるものではなかったからだ。
しかし上条が「え~と、ドッキリ成功!の看板はどこかな~」やら「ま、まさか精神系の能力者の仕業か!? そういえば常盤台には心を操るレベル5が……」などと言い始めたのを聞き、そうも言ってられなくなった。
美琴は恥ずかしさをこらえ顔を上げると、上条をじっと見つめて自分は本気だと怒った。
それを聞いた上条はここで一番の驚きの表情を浮かべたが、やがて目を閉じると「う~ん、う~ん」と唸り始め、なにやら必死に考え始めた。
そして返ってきた答えは……。

「えーと、悪い俺お前の事そういう風に考えた事なかったから……」


あぁ、やっぱり。それが美琴の心の反応。美琴はある程度その答えは予想していた。
今までの上条の行動を見れば、こんな言葉が返ってくるのはごく自然なことだろう。
後悔はしていない、してはいないのだが……。
やはりそれを直接言われると、やはりなにか苦いものが心に広がるのを感じた。
それでもそんな上条の申し訳なさそうな顔を見ていると、どこか暖かい気持ちにもなるのが不思議だった。
美琴は上条から離れ、涙をぬぐい

「じゃあこれからアンタを振り向かせていくからヨロシク!!」

と力強く宣言すると、一番の笑顔を見せつけた。
美琴としては諦めるなんて選択肢はまったくない。
それこそレベル1からここまで上り詰めたときのように、目の前に壁があるなら乗り越えればいいのだ。
上条はそんな美琴に圧されながらも「お、おう……」とだけ答えた。
美琴は上条のその中途半端な反応に不満を見せる様子もなく満足げにしていた。

その日の夕焼けに負けないくらい美琴の心は明るく、その表情は綺麗なものだった。

879一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 18:48:26 ID:r7DqBP6A
(そうは言ったものの……)

時は戻って朝の常盤台寮。
美琴は朝食のために白井が出ていった後も、部屋でうじうじとしていた。
そろそろ準備を始めなければ遅刻してしまうのだが……。

(冷静なってみると、『そういう風に見た事ない』ってのは大問題よね……。
 振り向かせるとか言っておいて、どんな顔して会えばいいのか分からないってどうなのよ)

美琴はあの告白以来、上条に会っていなかった。
というより美琴が上条の通りそうな道を避けていた。以前までとはまったく逆の行動だ。
しかしこのままではいけない、それは美琴自身が良く分かっていた。

(だ~やっぱりこんなの黒子の言う通り私らしくないわ! とにかく今日アイツを誘う、それでいいわ!!)

美琴はバチン!と一発両頬を叩くと、勢い良く立ち上がり学校の支度を始めた。
良く晴れた穏やかな朝。美琴の勝負の日が始まる。


「またモヤシ!? そうめんといいモヤシといい、やっぱりなんかの魔術の一種!?」

「うるさいうるさい! 上条家の家計簿は火の車なんです!!」

とある学生寮の一室。
そこでは朝っぱらから食卓を巡ってちょっとした騒ぎが起こっていた。
主に文句を言っているのは、白いティーカップのような修道服(安全ピン付き)を着た銀髪碧眼の外国人シスター。
イギリス清教の誇る魔道書図書館、禁書目録(インデックス)だ。
しかし一般的には『美少女』というカテゴリに入るであろう、その良く整った顔立ちは今は不満げにむくれている。

そしてそのシスター相手に軽く涙目になりながら反論しているのがこの部屋の主であるいたって普通のレベル0の高校生上条当麻。
今まさに美琴を悩ませている張本人なのだが、本人もまた悩み多き学生のようだ。

「まったく、インデックスといい御坂といいどうしてこうも上条さんを困らせるんですか!」

「むっ、短髪が何!? ちょっと詳しく聞きたいかも!!」

「だ~なんか変なとこに飛び火したああああ!!」

思わず美琴の名前を出してしまい、さらにややこしい事にしてしまった上条。
もちろんあの事をインデックスに言うつもりはない。
告白なんか他の人に言うべきものではないだろうし、何よりそれでインデックスに丸かじりにされるのは目に見えている。

(そういやあれ以来御坂と会ってねーな……)

実は顔を合わせにくいのは美琴だけではなく、上条も同じだった。
いくら超鈍感男であってもあれだけ真正面から告白されれば意識せざるを得ない。
学校の帰り道もバッタリ出会せたりしたらどうする、今まで通り普通に話せるのか、などと少しそわそわしていたり。
そんな自分に「中学生かよ……」と呆れたりもするが、今までこんなことがなかったのだから仕方ないなどと勝手に結論付けたりもしていた。

「ちょっととうま! 聞いてるの!?」

「えっ、あぁ聞いてるぞ!! いいか、だからモヤシはだな……」

「今はモヤシじゃなくて短髪についてなんだけど!?」

「えぇ……まだ続いてたんですかそれ……」

「だいたいとうまはいつもいつも……」

なおも追及するインデックスに曖昧にはぐらかす上条。
徐々にインデックスの怒りのボルテージが上がっていくのは目に見えていたが、上条としてもあの事を言うつもりはない。
さてこれはどうしたものか、食べ物で釣ろうにも金が……などと困っていると、

ピンポーン!と突然上条家にチャイムの音が鳴り響いた。

「おぉ! 誰か来たみたいだぞインデックス! じゃあこの話はまた今度な!」

「あっ、ちょっととうま!?」

助かったとばかりに上条は学生鞄を掴み、慌てて玄関先まで走っていく。
後ろで「帰ったらじっくり話してもらうんだよ!」などと聞こえてきたような気がしたが、空耳だということで処理した。

(しっかしこんな朝っぱらから誰だ?)

このナイスタイミングにチャイムの主には感謝している上条だが、ふとそんな事を疑問に思った。
こんな朝っぱらからうさんくさい訪問販売なんてものもないだろうし、いつも一人で登校しているので、「一緒に学校いこ!」などと女の子が訪ねてくるなどというステキイベントもない。
そんな事を考えた上条は扉の向こうの未知の存在に多少ワクワクしてきたのだが、

「おーす、カミやん。ちょっと話いいかにゃー?」

そこにいたのは隣人の土御門元春という、なんともひねりのない結果だった。

880一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 18:52:18 ID:r7DqBP6A
「なんだ土御門か」

「親友に対して何だとは酷いぜい」

上条はなんだか拍子抜けして溜め息をつくが、土御門はいつも通りヘラヘラしている。
上条と同じく土御門の方も既に制服姿で、アロハシャツの上に直接学ランを着ているのだが、さすがにそろそろ寒いんじゃないかと上条は思っていた。

「それで、一緒に学校いこうってか?
 どうせもう舞夏の手料理を分けてくれるなんてビッグイベントもないだろうし」

「ははは、前にあんな事になってさすがに俺も同じ過ちは犯さないぜよ。
 今日はちょっとした『お仕事』の話だ」

「………………」

「いや~そんなあからさまに嫌な顔をしても向こうは待ってくれないぜい?」

土御門が言う『お仕事』。
わざわざ上条に言ってくるという事はそれはほぼ確実に魔術関連であり、さらに危険な可能性も高い。
大覇星祭の件やフランスの件など、上条は今までの経験からその事を良く分かっていた。

「……で? 今度はどんな魔術師が攻め込んできて世界の危機なんだ?」

「分からない」

「は?」

それでも放っておけないのが上条であったが、土御門のなんとも間抜けな返答に目を丸くして固まる。
二重スパイの情報通である男がこんなにあっさり分からないなどと言うのは珍しかった。

「今回は情報が少なすぎて、向こうの素性も目的もさっぱりなんだにゃー。
 ただ何らかの方法で学園都市に侵入したっぽい……てとこだ」

「おいおいおい! アバウトすぎ!!
 てかいい加減ここも魔術師侵入しすぎだろ! セキュリティはどうなってんだよ!」

インデックスから始まり神の右席まで多種多様な魔術師の侵入を受けてきた学園都市を本気で心配してみる上条。
確かにどの魔術師も一癖も二癖もある者ばかりだったが、インデックスは意図せずに入ってしまった事や、テルノアが「甘い」などと言っていた事からどうしてもここの安全面を疑ってしまう。

「まぁまぁ、なんだかんだこの街とオカルトは対極の位置にあるにゃー。
 だから対策もしにくい……てのがあちらさんの言い分みたいだが、うさんくさいもんだ」

土御門は首を少し動かし、何やら遠くの方を見るようにするが上条には何をしているのか良く分からないようだ。
実は土御門の見ているのは「窓のないビル」なのだが、一般人にはあまり理解することもできないだろう。

「……? まぁとにかくそのお仕事ってのは侵入者の魔術師を探すのを手伝ってくれって事か?
 けどこの右手は人探しにはなんにも役に立たねえだろ」

「いやいや、そうでもないぜい。カミやんはそれの価値を軽く見てるにゃー。
 つまりそれがここに存在している、それだけで十分役に立つって事だ」

「はい? どゆこと?」

「カミやん、あの戦争の裏話ってのはこっちの世界じゃ意外と広まってるんだぜい?
 つまり神の右席のトップがあんな事をしてまで手に入れたかったモノがここにあるって事は……」

「……狙いは俺。つまりエサになれってか」

土御門の言葉を引き継ぎ溜め息混じりに答える上条。
確かに今までの侵入者達を思い出してみても、狙いは俺もしくは禁書目録(インデックス)というのが多かった。
つまりわざわざこちらから探さなくても向こうから勝手に現れる。そこを狙うということだろう。

「……ん、まてまて。それってインデックスのやつも危ないんじゃないか?
 俺アイツ置いて普通に学校なんて行っちゃっていいのかよ?」

「禁書目録はイギリス清教の人間だ。そっちの方で護衛がつきますたい。
 心配すべきはむしろ科学サイドの人間の方ぜよ」

881一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 18:52:33 ID:r7DqBP6A

「なっ、そっちの人間にも手を出すつもりかよ!!」

戦争というものは起きてしまったが、これまではそれを回避するために科学と魔術の交戦は避けられていた。
それが今ではこうも変わってしまったのか、と上条は焦りを隠せなかった。

「向こうの狙いはいわゆる『上条サイド』全体にあると見ていいと思うぜい。
 こっちの世界でも今まで以上に危険な存在として警戒さているからな。
 それで、カミやんの周りの科学サイドで力を持っているのは誰かにゃー? 一番に狙われるとしたらそこぜよ」

「そりゃこっちで力を持った知り合いっていったら、レベル5の一方通行や御坂……っておいまさか」

ここで上条は土御門の言わんとする事が予想でき、固まる。
考えてみればそれは十分あり得ることだ。何より『前例』がある。
そしてそんな上条の様子を見て、土御門は珍しく真剣な表情になる。

「一方通行は問題ないだろう。バードウェイから話を聞き、今や魔術にも理解がある。実際に魔術師と戦った経験もあるしな。
 しかし超電磁砲の方はどうだ? 確かに魔術との接触がなかった訳ではないが、本人はその存在をまるで知らない」

「つまり……危ねえのは御坂」

「そうだ。だが彼女に魔術の話をしてこちらの世界に引き込むのは、カミやんとしても避けたいだろう?
 だからカミやん…………一端覧祭は彼女と一緒にいろ」

「…………は??」

土御門の最後の言葉に上条は思わず真剣な顔を崩し、なんとも間抜けな声をあげてしまった。
しかし今まで魔術やら侵入者やらの話をしていて、結論が「女の子と一緒に一端覧祭を回れ」だったらそんな反応も仕方ないのかもしれない。
その一方、相変わらず土御門は真剣な表情なのでなんとも奇妙な空気が漂っているような気がした。

「え、いや、なんでそうなる??」

「恐らく向こうが狙ってくるのは、警戒が一番薄くなる一端覧祭中だ。大覇星祭の時のようにな。
 そしてそんな中彼女と一緒にいて一番違和感がないのはカミやんだ」

「そ、そうかもしれないけどよ……」

「ん? 何か問題でも……ハハーン」

すると上条の動揺に土御門は何かに気付いたらしく、真剣な表情を崩してニヤニヤし始める。
上条はそんな土御門を見てかなり嫌な予感がした。
土御門はプロのスパイで、禁書目録争奪戦、三沢塾、絶対能力進化実験など様々な事件を知る人物だ。
それならばひょっとしたら先日の御坂との一件も既に知っているのではないか……と思ったのだ。

「あれか、常盤台のお嬢様と一端覧祭デートなんてクラスの奴らに知られたら……なんて考えてるのかにゃー?
 まぁそこは諦めるしかないぜよ。大人しく制裁と『中学生に手を出したスゴい人』の称号を受ける事だぜい」

「え、あぁ……ってその心配もあるのかぁぁぁあああああ!!!」

一瞬あの事までは知られていない事にほっと安堵する上条だったが、新たに判明した障害に頭を抱え込む。
そして瞬間的に上条は、一端覧祭後の上条裁判における裁判長の吹寄制理の冷ややかな表情に男共の恨みの視線、姫神の魔法のステッキまで鮮明に想像する。

「……不幸だ」

「まぁまぁ、女の子のために体張るのは男の役目だぜい?
 わざわざ遠回りして説明したんだから、『嫌です』は通用しないのは分かってるだろ?」

「はいはい……この上条、姫を守るためにその身も削る覚悟ですよっと……」

「その息だにゃー!」

上手く話をつけられた土御門に、問題山積み状態な上条。
学校へ行こうとエレベーターに向かうその足取りは対照的なものだった。

882一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 18:54:24 ID:r7DqBP6A
太陽も高く昇ったお昼頃。
学園都市にしては珍しく既に多くの学生が街に繰り出している。そして木材などを持っている者が多い。
今は戦争関係で延期になった一端覧祭の準備期間だった。

「はぁ……やはりこれは念動力者(テレキネシスト)の方が適任でしょう……」

そんな昼間から学生で賑わう大通りで大能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)、白井黒子は一人ぼやいた。
その両手は様々な木材やら工具やら入った大きめの袋で塞がれており、疲労によりその端正な顔立ちも歪んでいる。
学園都市の有名校、通称「五本指」の内の一角である常盤台中学もまた、これから始まる一端覧祭の準備に追われていた。

(さすがに疲れましたわ……ちょっと休憩しましょう)

白井は近場にあったベンチに腰かけると、袋を脇に置く。
そして高級そうなハンカチを取り出すと、額の汗を拭い始めた。
こんな普通の動作でもどこか上品に見える所はやはり常盤台生といった感じか。

常盤台は強能力者(レベル3)以上から成る高位能力者達の集まりだ。
買い出し一つにしても、いくらでも効率良く済ませる事ができる能力者はいるのだが、任されたのはテレポーターの白井だった。
その理由としてはやはり、重いものを持っていても高速で移動できる事にあった。
白井の連続テレポートはタイムラグ込みにしても、時速200kmを超える……だが。

(さすがにこんなに何度も連続テレポートしていると堪えますわ……)

買い出しも一回では済まなく、白井はもう何回も第七学区中の店と学校を往復していた。
そして疲れというのも、走った後に直接肉体にくるものではなく、頭からくるものだ。
11次元を扱うテレポートは、普通の能力よりも演算付加が大きく、外部からのちょっとした衝撃により演算不能にもなってしまうデリケートなものである。
試験勉強などで長時間集中した後の疲れ……そんなものに似ていた。

(というか仮にもそこそこ名の知れた学校のはずですのに、何でテレポーターがわたくししかいないんですの)

他に同じテレポーターがいれば白井の負担も減るだろう。
しかし超能力者(レベル5)を二人も抱える常盤台であっても、テレポーターは白井黒子ただ一人。
まぁ学園都市に58人しかいない珍しい能力なので、どちらかというとポピュラーな能力を伸ばす常盤台タイプではないのだが……。
白井本人は別にそれを誇りとも思っていなく、むしろ能力について話す相手がいないと不便に思っていた。
9月には珍しく同系統の能力者とも会う機会があったのだが、危うく殺されかけた事からあまり良い相談相手にはならなそうだ。

(それにしてもさすが第七学区。人の数が凄いですの)

ふと顔を上げて道行く人々の顔を眺め始める白井。
去年までは第十三学区の小学校に通っていたので、ここまで多くの学生が街に出ている光景はまだ珍しいものがあった。
制服もそれぞれ違ったものばかりで、存在する学校の数も相当のものだという事が分かる。
そして白井本人はあまり気付いていないようだが、その中でも常盤台の制服というものは目立つらしく、チラチラと白井を見ている者も多かった。

(お姉様……ちゃんと上条さんをお誘いになれたのでしょうか)

道行く人の中に学生カップルらしき者達が目につき、ふとそんな事を考える白井。
朝の美琴の様子はまさに乙女といった感じで、そこらの男なら即落ちてしまう、そう思うほどだった。
以前までの白井ならそんな美琴のそんな様子を見ようものなら、ハンカチを噛みちぎり、上条への恨み辛みを延々と口にしていただろう。
しかし今はそんな事もない。

あの戦争が終結してから美琴は目に見えて生気を失っていた。
白井がどうしたのかと尋ねても、ただ首を振るだけ。
それでもしつこく問い質した結果、原因は上条の不在である事。そして美琴が心に秘めた想い。それを知る事ができた。
美琴の上条に対する想いは以前からうっすらとだが気付いていた。
しかしいつかそれを美琴本人の口から告げられた時、自分はどんな行動をとってしまうのか白井は少し不安にも思っていた。
だが実際は、意外にも冷静に相槌を打っている自分がいた。

いや実は心の内では上条に対する怒りが渦巻いていた。
しかしそれは美琴を取られたという嫉妬からくるものではなく、こんなにまで美琴を悲しませた事に対するものだった。
白井は改めてハッキリと、自分は御坂美琴の事が大好きなんだと知る事ができた。
だからこそ美琴が想いを寄せる上条にはその隣に立っていて欲しい……つまりはそういう事だった。

883一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 18:57:02 ID:r7DqBP6A
「うだー。ジャンケンなんてこの世から滅びちまえばいいんだー」

同じ頃の第七学区。
どよーんとした目をしながら、そんな事を天に向かって呟くのは超絶不幸少年上条当麻だった。
その手には大量の袋がぶら下がっており、歩く度にガチャガチャという、いかにも重いですよとアピールしているような音が鳴っている。
そう、上条のクラスではあくまで『公平』にジャンケンで買い出し役を決めた結果、『偶然』にもこの少年が当選したのだった。

そして朝からいつも以上の不幸の連続で半ばヤケクソ気味になっている上条の目にふと飛び込んできたのは、足元に転がった一つのスチール缶。
上条は立ち止まると、まるで魚の死んだような目をしてその缶をじっと見つめ、終いには「ふふふふふふふふふ」と怪しく笑い始める。
周りを歩く学生達はそんな上条にドン引き状態だったが、そんなものは今の上条の目には入らない。

(オーケー、オーケー。大量の荷物にスチール缶、このシチュエーションは経験済みだ。
 つまりアレだろ、前みたいに缶を避けようとすればまた風で転がって……って事だろ?
 まったく、あまく見られたもんだ……俺が同じ過ちを犯すと思うかぁぁぁあああああああ!!!)

すると上条は完全勝利の表情を浮かべると、足を大きく上げて力強くそのスチール缶目掛けて踏み出した。
…………当然と言うべきか、缶は動かなかった。その結果、上条は本当にキレイに缶に足を取られていた。

「ですよねええええええ!!!!!」

なんとも間抜けな断末魔と共に後ろへ倒れ込んでいく上条。
もう既に頭の中では袋の中身が盛大に散らばるところまで想像できており、袋の口を縛っておかなかった自分を恨んでいたのだが……。

「……ってあれ?」

背中が地面にぶつかる痛みもなければ、ガッチャーン!という物が散乱する音も聞こえない。
気付けば上条はごく普通の木製のベンチに座っていた。

「へっ、ベンチ?? こんなとこに?? なんで??」

倒れる瞬間に都合良くベンチが現れるなんてそうそうある事ではない。特に上条の場合は。
しかし現実にベンチはあった。
上条の危機を救って、どうだと言わんばかりに堂々と存在していた。

「まったく……あなたは何をやっていますの?」

その時、すぐ隣から聞こえた声に上条は思わずビクッと肩を震わせる。
そしてバッと勢い良くそちらを向いた時、全ての謎は解けた。

そこにいたのは大能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)、白井黒子だった。


「いやーそれにしても助かったぜ、サンキューな」

「構いませんわ。それにあんな所で荷物をばらまくのも周りの迷惑になりますので」

数分後、ベンチは元の場所に戻され、上条と白井はそこに並んで座っていた。
ちなみに二人の間にはお互いの荷物が置いてあり、どこか距離感がある。
しかしそれでも美琴やインデックスがこんな光景を見たら、たちまち不機嫌にもなりそうだが。

「それにしてもそんな大量の買い出し、なぜ念動力者ではなくあなたがやっていますの?
 無能力者では効率が悪いでしょう」

「あのな、どの学校も常盤台みてーにレベル3以上ばっかってわけじゃねーの。
 こんな大荷物をどうにか出来る念動力者なんてのはウチの学校じゃ珍しいし、そういう奴は学校でもっと重要な仕事やってんだよ」

「あぁ、そういうことですの」

上条の高校は常盤台なんていう有名校とは違い、いたって平凡な学校だ。
そんな普通の学校にはレベル3なんていう優等生は少なく、学校トップである事も多い。
それだけレベル4、レベル5なんていうものは別次元の存在なのだ。

「あ~ところで……さ。えっと、御坂はやっぱまだ一端覧祭の準備か?」

「えぇ、おそらくそうでしょう。
 二年生の方々も確かまだ準備に追われていたと思いますわ」

「そ、そっかそっか。ならいいんだ、うん」

「?? 何をそんなに挙動不審になっていますの?
 お姉様にどういったご用件で?」

上条の態度に白井は不審そうに眉をひそめて尋ねる。
対する上条はどう答えようか悩んでいた。
今までの白井の行動から考えても、真正直に御坂を誘うなどと言えば鉄矢が飛んできてもおかしくない。
かといって細かい事情を説明しようにも、魔術なんてものの事を話すわけにはいかないし、事を大きくもしたくない。

(適当な事言って誤魔化そうにも相手は白井。たぶん上手くいかないだろうな……。あーもうしょうがねえ!)

884一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 19:00:46 ID:r7DqBP6A
「え~とだな、一端覧祭を一緒にまわって欲しいんです、はい」

「…………それでフった手前、なかなか話し出しづらいと」

「あ~やっぱりあれってフった事になるのか……そうだよな……。
 ……って、え!? 白井お前何故それを!?」

申し訳なさそうにガシガシと頭をかいていた上条だったが、白井の思わぬ言葉に硬直する。
白井の方はなんともいえない表情……いやどちらかというと呆れているような表情を浮かべていた。
そして白井は小さく溜め息をつき、口を開く。

「もう既にお姉様から聞いていますわ。
 ですが今はその話よりも……って何をやっていますの?」

今度こそ呆れ果てた声をだす白井。
そんな白井の目の前には両腕で頭をかばって縮こまっている上条の姿があった。

「い、いやきっと鉄矢やらドロップキックやらが飛んでくるかと……」

「……はぁ。そんな事しませんわ。
 むしろあなたが中途半端な気持ちで告白を受けたりなんかしてたらやっていましたの」

白井はかなり大袈裟に溜め息をつくと、やれやれと頭を小さく振る。
そして上条はそんな白井に驚き、目を見開いて顔を上げる。
今までの白井の行動から見ても、上条の返事云々以前に、美琴が上条に告白した。その事実だけで嫉妬による怒りに身をまかせて襲いかかってくると思っていたからだ。

「えーと、御坂が俺に告白したって事に対しては何もなし……?」

「まぁ妬いていないと言えば嘘になりますわね。でもお姉様の笑顔のためならばそれくらい我慢する事に決めましたの。
 それにお姉様が誰を想っていようとも、黒子がお姉様を想い続ける事は変わりませんので」

「そ、そうか……」

上条はこの目の前の中学一年生の大人ぶりに内心舌を巻いていた。
自分がこのくらいの時は絶対にこんな考え方はできないし、それは他の大多数と比べてもそうだろう。
そして目の前の少女にここまで言わせるのは、やはりそれだけ美琴の人格にそれだけ惹かれるものがあるということだ。

(そんなやつが何で俺なんか選ぶのかねえ……)

途端に美琴を尊敬する者達に申し訳なく思ってしまう上条。
相手はレベル5のお嬢様で、後輩にここまで尊敬されているほどの人望もある凄いヤツ。
一方こちらは万年レベル0の上に勉強までダメで補修常習者の典型的落ちこぼれ。クラスの奴等とは上手くいっているが、それもただバカやって騒いでいるだけだ。
そんな二人が仮にいくとこまでいったとしても、その一生を出来る女に支えられていく惨めな光景が浮かび上がる。

885一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 19:01:08 ID:r7DqBP6A
「それで……なぜ急にお姉様をお誘いすることにしましたの?」

「え、あ~それはだな……」

突然の白井の声に現実に引き戻された上条は、こんどこそ言いづらいところを突かれ言葉を濁す。
考えてみれば『そういう風に見た事ない』とまで言った相手をわざわざ期待させるてからかっているようにも思える。
上条はそんな誤解だけは避けたい、と口を開き始めるが……。

「べ、別に御坂をからかっている訳じゃねえんだ!
 ただそのなんつーか、色々と複雑な事情がありまして……」

「………………」

やはりどうしても曖昧な言い方をしてしまう上条。
対する白井はまさに無表情といった感じでじっと相手の顔を見つめていた。
そんな白井に恐怖を覚えた上条は、こんどこそ鉄矢が飛んでくると思っていたが、

「……まぁいいですの。言いづらいようですし深くは聞きませんわ」

「え、それでいいの??」

「なんですの? ここから根掘り葉掘り追求されて答えなければ攻撃開始。そんなものをお望みですの?」

「い、いやいやいや! 上条さん決してそのようなドM人間ではありませんのことよ!?」

案外あっさりと引いてくれたことにまたもや驚く上条。
ここまで前の印象と違うと、もはや別人のようにも思えてくる。

「これでも少しは信用していますのよ。
 仮にもお姉様のお選びになられた男性なのですから、わざわざお姉様を悲しませるような事をしようとはしないだろうと」

「あぁ、そんな事は絶対にしない。それは約束する」

そこはハッキリと力強く宣言する上条。
何か買い被られ過ぎている感じもしたが、美琴を悲しませるようなことはしない。それだけは堂々と言うことが出来る。
そしてそれを聞いた白井は口元を緩め、小さく頷く。

「あなたからのお誘いならばお姉様は必ずお喜びになりますわ。
 早くお誘いになってくださいな」

「そっか、それならいいんだけどな」

「……ではわたくしはそろそろ失礼しますわ」

一通り話したいことは話したのか、白井は再び荷物を持ってベンチから腰を上げる。
一瞬再び両腕にかかったその重さに少し顔をしかめる白井だったが、気を取り直して常盤台の方向へ体を向ける。
だがそこでふと何かを思い出したように動きを止めると、クルリと振り返って再び上条の方を向いた。
上条の方はまだベンチに座っている状態のままだったので、白井が見下ろす形になる。

「そうそう、言い忘れていましたが、あなたももう『御坂美琴の周りの世界』の一員なのですよ? ですからそれを守ると言うならば少しはご自分の事も大事になさってくださいな。
 まぁ人の為に後先考えずに突っ込むあなたですし、きっとお姉様もあなたのそういった所もお好きなんでしょうから強くは言えませんが」

「あ~善処します……」

「それに一応わたくしもあなたには命を救われた身。
 お姉様を抜きにしてもほんの少しは心配しているかもしれませんわよ?」

「ははは、そりゃどうも」

白井は最後に不敵に笑ってそんな事を言うと、今度こそヒュンという音と共にお得意のテレポートで上条の前から姿を消してしまった。
残された上条はしばらくぼーっと白井がいた所を眺めていたが、「よしっ」と小さく呟くとポケットから携帯電話を取り出した。
そのまま開いてカチカチと手早く操作する上条。
画面にはアドレス帳から呼び出した御坂美琴の連絡先が浮かび上がっていた。

886一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 19:04:00 ID:r7DqBP6A
大分日も落ちてきた第七学区。
昼間は多くの学生で賑わっていたが、完全下校時刻も近くなった今では道行く人達も少なくなっている。
そんな中、とある自販機前で一人の女子生徒が特に何も買うこともせずに、ただ立ち止まっているのはそれなりに変わった光景だった。
しかもその服装はベージュのブレザーに紺系のチェック柄スカート。どこにいても気品爆発な常盤台中学の制服なのだからなおさらである。
しかし当の本人はそんな事に気を止めている余裕はないらしく、なにやら真っ赤な顔をしてブツブツと延々と独り言を呟いていた。

「どどどうしよう、そろそろ来るわよね……! ま、まったくこんな時間に何の話かしら!! ま、まぁ私にも話はあるんだけども!!」

そわそわと時計を見ながら手をモジモジと絡ませる常盤台のエース、御坂美琴。
時計を見るのもこれで何度目かもわからない程だった。確か最初見たときは長針は今と同じぐらいの位置だったが、短針が一つ前の数字を指していた気がする。
昼間に突然の上条からのメールが来た時、美琴はその他大勢の生徒と一緒に学校で一端覧祭の準備中だった。
やはりというべきか、上条の着信音は特別なものにしてあるのだが、作業中はマナーモードに設定していた。
その結果、「黒子あたりからかな~」などと開いた美琴はその送り主を見て思わず「ふにゃ!?」などと可愛らしい声をあげ、周りの生徒に驚かれたのだがこれはまだいい方だった。
次に震える指先でそのメールの中身を開いたとき、ついに美琴はプルプル震えて真っ赤になった上に漏電し、割と大騒ぎになってしまったのだった。

「そそそれにしても急にあんなメール……私にもこ、心の準備ってもんが……!!」

上条が送ったメールは『話があるから会いたい。放課後に例の自販機前とか大丈夫か?』といったものだった。
これは上条の書き方にも問題があったのかもしれないが、それにしても美琴には効果抜群だった。
ちなみに上条にはそのままメールで誘うという方法もあったはずだが、それは土御門の「そういう事は直接言わないとダメにゃー」という言葉により選択肢から消えていた。

「え、えっと……アイツが来たらなんて話だそう……。
 私のキャラ的には『遅い! どんだけ待たせんのよ!!』……とか?
 ダ、ダメよ! そんなんじゃいつまで経っても今までの関係のままじゃない!」

なおも真っ赤な顔のままブツブツとそんな事を呟き続ける美琴。
幸い人通りは少ないのだが、こんな姿を知り合いに……特に佐天あたりにでも見られでもしたら、そのネタで一月はからかわれることだろう。
だが今の美琴にそんな事を考えられる余裕なんてなかった。
レベル5のハイスペックな頭脳は既に稼働率100%で、その全てを上条の事に使っていた。

「じゃあ普通に『話って何かな……当麻』で!!
 ……む、無理!! 私アイツを直接名前で呼んだ事ないじゃない!!!」

上条を名前で呼んだ事がない事に気付いたのは少し前の事だった。
美琴はそれからどうするかはずいぶん悩んだ。
呼び方はより距離を縮めるためにも下の名前にするとすぐ決めたのだが、問題はシチュエーションだった。
出会ってまもないのならまだしも、なんだかんだ半年近い付き合いになる。
それまでずっと『アンタ』やら『この馬鹿』などと呼んできたので、いきなり下の名前で呼び捨てにするのはなんだが気まずいのだった。

「れ、練習よ練習! えーと、アイツが目の前にいると想像して……」

そう言って目を閉じる美琴。
そしてレベル5の強力な自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を構築しているその想像力で、鮮明な上条の像を浮かび上がらせる。
だがその鮮明さが美琴を追い詰める。

「え、えっと! と、とととと……とう……」

「何やってんだお前?」

「みゃあ!!!!!!」

887一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 19:05:55 ID:r7DqBP6A
想像ではない、現実での突然の上条の声に奇妙な声を上げる美琴。
真っ赤な顔をして振り返れば、やはりそこにいたのはさっきまで頭の中に作り上げていた上条当麻、その人だった。
どうやら美琴の反応に相当驚いたらしく目を丸くして固まっている。

「わ、悪い。そんな驚かせるつもりはなかったんだけどよ……」

「べ、別にいいわよ! 私が勝手に驚いただけだし!!
 それより話って何よ!! …………あ」

今や恥ずかしさのあまりリンゴのように真っ赤になっている美琴だが、勢いで言った自分の言葉に固まる。
さんざんシミュレーションしたのにも関わらず、結局今まで通りの言い方になってしまったからだ。

「あ、あぁ。話ってのはな……」

「ちょ、ちょっと待って!! 今のナシ!!」

「はい??」

慌てて遮る美琴にキョトンとする上条。
しかし美琴はそんな上条などお構いなしに何度も深呼吸すると、キッと何故かキツい目付きで上条を見つめる。
そんな目付きに思わず上条は一歩後ろに下がってしまうのだが、美琴にそんな事を気にする余裕はない。

「え、えっと、話って何かな……と、ととととう……と、とう……まぁ」

「…………えーとそんなに呼びづらいなら別に無理して名前で呼ばなくても……」

「そ、そんな事ないわよ!! とうまとうま当麻当麻!!!」

「分かった分かった! だからあんまり人の名前連呼すんなって!!」

もはや勢いだけで名前を呼びまくる美琴に慌て始める上条。
実は本人が意識しているわけではないのだが、今の美琴は涙目に上目使いという、男なら誰しもが思わず怯んでしまう状態だった。
そんな状態で名前を連呼され、さすがの上条もたじろぐしかなかったのだ。

「それで話っていうのは何……?
 あ、私にもと、当麻に話したい事あるから、なんなら私からでも……」

「あ~いやいや今言うって。
 えっとだな……その一緒に一端覧祭まわらないかっていう話なんだけど……」

「…………え?」

美琴は上条のその言葉を聞いた瞬間、周りの全てが停止したような感覚を覚えた。
これは夢、もしくは自分の妄想だとも思った。それだけ上条の言葉は現実味がないものだった。

「…………えっと、もう一回言って?」

「あ~一端覧祭を一緒にまわらねえか?
 まぁもう他に友達とかと約束があるならそれでも……ってうおっ!?」

頭をかきながら上条は歯切れの悪い言葉を並べていたが、急に中断された。
美琴が自分の胸に飛び込んできたからだ。

888一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 19:07:50 ID:r7DqBP6A
「え~と、御坂さん?」

「誘ってくれてありがと。凄く嬉しい」

「う、嬉しい?」

「好きな人が相手なんだから当たり前でしょ」

そう言って美琴はギュッと抱き締める力を強める。
その顔はやはり真っ赤だったが、嬉しさのあまり緩みきっている。
一方上条はあたふたしながら、周りに誰もいないかを確認していた。

「な、なんか、キャラ変わってねーか?」

「前のままじゃいつまでも私の事、女の子として見てくれないじゃない。
 それより……さ。当麻にもその……ギュッってしてもらいたいな……」

「いっ!?」

美琴は上条の胸から頭を離し、じっと見つめる。その体勢の関係でやはり上目使いだ。
それにより上条は思わず少しのけ反ってしまうのだが、美琴はそんなのはお構いなしである。
少しの間、二人の間にはなんとも言えない微妙な雰囲気が漂っていたが、やがて上条はその空いた両腕を微かに動かし始めた。

「…………み、御坂!!」

「ふぇ!?」

しかし上条のその両腕は、美琴を抱き締める事なく両肩を掴んでいた。
それにビックリした美琴は思わず声をあげ、目を丸くして上条の顔を見つめる。

「た、たぶんお前何か勘違いしてんだよ!ほら御坂ってまだ中学生だし、まだ恋愛とかよく分かんねーだろ?
 お前ってやたら貸し借りとか気にするやつだし、今までの事もあってそういうのを恋かなんかと思い込んでるんだって!」

「………………」

「それにさ! お前もお嬢様だし、まだ男をそんなに見てきてないだろ!
 ちゃんと探せば俺なんかより良い男なんていくらでもいるし、わざわざこんなレベル0の馬鹿高校生選ばなくても……って何かバチバチいってますよ!?」

「もういいわ」

889一端覧祭大騒動:2011/03/29(火) 19:11:48 ID:r7DqBP6A
上条の言葉を聞いた美琴はそれだけ言うと、静かに上条から離れた。
もう辺りは大分暗くなっているので、美琴が纏っている青白い電気が良く見える。
上条はそんな美琴の様子にビクビクしていたが、そんな事は気にならないほど美琴は怒っていた。
その怒りはいつもの無視された時以上のもので、漂う電気量もかなり多い。上条の前でここまで強烈な電気を纏ったのは、おそらくあの鉄橋の一件以来だろう。
そしてそんな絶賛大激怒中の美琴がバチバチと電気を帯びる腕をゆっくりと上げると、上条はその防衛反応ですぐさま右手を構える。

「それなら私がどんだけアンタの事が好きなのか分からせてやるわ!!」

「…………は、はい!?」

強烈な電撃が飛んでくると思っていた上条だったが、変わりに飛んできた美琴の言葉に思わず間抜けな声を上げる。
一方美琴は怒りの表情のままその腕でビシッと上条を指し示していた。
いつの間にか口調もいつも通りに戻っており、呼び方も『当麻』から『アンタ』に戻っていた。

「そうね、そうよね! 私が甘かったわ!!
 アンタ相手だとまずそこから始めないといけなかったのね!!」

「ま、待て待て! お前何でそんなに怒って……」

「じゃあとりあえず一端覧祭中はアンタの腕から離れないから!
 それに事あるごとに抱きつくし、隙あらばキスして舌も入れるけどいいわよね!?」

「おい!!!! お前は俺を社会的に抹殺する気ですか!?」

「うっさいわよ!! アンタが悪いんだから、覚悟しておきなさい!!」

そこまで言った美琴はフン!と背を向けると、肩を怒らせてそのまま歩き去っていく。
一方上条はというと、あまりにも強烈すぎる美琴の宣言に口をパクパクさせて呆然としており、いつもの「不幸だああああ」という台詞も出てこないでいた。

だが少し歩いた後、美琴は急に足を止めて再び上条の方を向いた。

「あ、そうそう、言い忘れてたけど」

「まだ何か!?」

もはや美琴の一言一言に恐怖を覚えていた上条は、軽く涙目になりながら尋ねる。
しかしそんな上条と対照的に、振り返った美琴は怒りの表情から満面の笑みに変わっていた。

「一端覧祭デート、楽しみにしてるから!」


一方同じ頃、第七学区のとあるビルにおいて男にも女にも、子供にも老人にも、囚人にも聖人にも見える者はいつも通り静かに弱アルカリ性培養液の中に逆さまになって浮かんでいた。
学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。
しかしその者は一つ、普段とは違ったものを見せていた。口元が小さく緩んでいたのだ。

「………………」

その逆さまの視界にあるのは一つのモニター。
学園都市に5000万機ほどばらまかれているナノデバイス、滞空回線(アンダーライン)から得た映像だ。
そしてそこに写っているものは、一方通行や浜面仕上などという『プラン』に影響を与えるものの情報でもなければ、先程の上条と美琴の微笑ましい光景でもない。
それは様々な最先端科学が集まる学園都市において、一際目立つ奇妙なものだった。

「なるほど、なるほど。『Mixcoatl』……か」

ピッ、ピッという電子音とコポコポという培養液が循環する音だけが支配する奇妙な世界に、どこか楽しげな声が響き渡った。


そういった様々な想いが交差する一端覧祭。
そんな学園都市でもいくつもない大イベントは数日後にまで迫っていた。

890■■■■:2011/03/29(火) 19:14:24 ID:r7DqBP6A
書き溜めはここまでです!
読んでくださった方はありがとうございました!!

891■■■■:2011/03/29(火) 19:53:13 ID:eBgszQ/2
>>890
GJです!
しかしひとつだけ、上条さんは幻想殺しの影響で瞬間移動できなかったと思います。

892■■■■:2011/03/29(火) 19:59:08 ID:yY4nBogI
>>891
上条さんを瞬間移動させたんじゃなくてベンチを瞬間移動させたと書いてあるぜい。
幻想殺し以前に黒子は自分が触れたものでないと動かせないし。

893■■■■:2011/03/29(火) 20:24:23 ID:HKjiutgI
>>876

話の持って行き方が上手いなぁ…
今は少ないですが、キャラそれぞれの特徴もちゃんと捉えてますし

あと名前無し、という事は多分初投稿…ですかね?
自分はまだした事ないですが、あまりの自分との差にしょんぼりしてしまった…

GJでした

894■■■■:2011/03/29(火) 20:49:04 ID:A0Xt8cTc
>>890
良作の匂いがプンプンするぜよ。
シリアス上琴に飢えてる俺としては期待大。

895■■■■:2011/03/29(火) 21:01:55 ID:ivYVTlhs
>890
GJです〜。
いや、すごいッスねぇ。

鈍感が倍加してる上ヤンがイイ。w

896■■■■:2011/03/29(火) 23:39:36 ID:4XmxvelI
>>891
黒子と上条さんのところは>>892の方が言う通り、ベンチごと白井がテレポートしました^^;
分かりにくくてスイマセン……m(__)m

あとみなさん感想どうもです!
新約禁書、超電磁砲最新話、あとは超電磁砲SSのネタバレとかあるんでまだ読んでいない人は注意してください(・・;)

897夢旅人:2011/03/30(水) 00:34:09 ID:QKahPASc
>>829
なんとも言えない距離感と、失うことへの想いがよく書けていて良いですね。

>>843
GJです。続きを楽しみにしてます。

>>851
締めの物語り、良いですね。立ち位置の変化でも充分甘甘だと思いますよ。

>>863
GJです。上琴だけでなく、上麦ってのも救いがあって好きですね。

>>867
カミングアウトします。あれは私でした。
でも今の所書く予定ありません。
というか、Mattariさんの作品の方が良いと思うので、私は書けません。

>>890
すごい。
すごすぎて、一端覧祭ネタが書けなくなってしまう…

898■■■■:2011/03/30(水) 00:51:20 ID:onKkekOY
>>896
GJ! 続きは次スレかな?

ところで専ブラ(Jane View)・IE8で見ると文字化けするのだが……。
FireFoxだとちゃんと見れる。
>>888の1行目とか「〜」が入っているところが文字化けする。
何か変わった文字使ってない?

899■■■■:2011/03/30(水) 01:08:21 ID:Mppjq1W.
>>898
たぶんスマホで書いてるのが原因ですかね……^^;

900■■■■:2011/03/30(水) 03:44:49 ID:1mEftga6
iPhone+BB2Cでも化けてるな

901■■■■:2011/03/30(水) 09:24:33 ID:vDomDL2U
ipod touchのsafariで見てるけど
文字化けたまにある
あんまり気にしないけど・・・

902マンボ:2011/03/30(水) 11:47:17 ID:vDomDL2U
こんにちわ
マンボと申します
初投下させて頂きます。
1レス消費します

903マンボ:2011/03/30(水) 11:47:54 ID:vDomDL2U
とある第7学区裏路地
一人の女の子が
不良に絡まていた。

少女「こ、来ないでください!」

不良A「大丈夫だよお嬢ちゃん」
不良B「悪い様にはしないよ」

少女「誰か助けて!」
少女はあまりの恐怖に
尻餅をついた

とここで一人のツンツン頭の
少年が現れた.....

当麻「おい!お前ら待てよ!」

不良A・B「「あぁ?」」

当麻「情けねえなぁ...女の子を囲んで何が楽しいんだ?」

不良A「かっこつけてんじゃねぇぞ!クソガキ!!」

とここで...
不良は当麻に飛び込み拳を向ける
当麻は不良の拳を避け
最弱(さいきょう)のパンチを喰らわせた

不良A「クソっ!次あったら覚えておけよ!」
不良B「ひぃぃっ」

不良二人はその場を立ち去った

当麻は少女の方を向き
手を差し伸ばして声を掛けた

当麻「大丈夫か?(この制服は常盤台の子か?)」
少女「あ、ありがとうございました!」
当麻「怪我はしてないですか?」
少女「だ、大丈夫です」
当麻「それなら良かった」
と言いながら笑顔を見せた
少女「あ、あの〜」
当麻「ん?」
少女「お名前を教えてくれませんか?」
当麻「俺の名前は上条当麻だ...君の名前は?」
国分「わ、私の名前は国分と言います!」

904マンボ:2011/03/30(水) 11:48:36 ID:vDomDL2U
以上になります
もし、続くなら
美琴がヤキモチやくシーンなどなど
最終的にはいちゃいちゃして行きます

905■■■■:2011/03/30(水) 14:52:54 ID:EnXoZwYY
>>901
> その結果、「黒子あたりからかなxA掘廚覆匹罰・い身・廚呂修料・蠎腓鮓・道廚錣此屬佞砲磧・・廚覆匹伐聴Δ蕕靴だ爾鬚△押⊆・蠅寮古未剖辰・譴燭里世・海譴呂泙世いな・世辰拭・br>次に震える指先でそのメールの中身を開いたとき、ついに美琴はプルプル震えて真っ赤になった上に漏電し、割と大騒ぎになってしまったのだった。
こんな風になったら、無視できないだろwww

>>904
> 美琴がヤキモチやくシーンなどなど
できればこの辺まで書いてから、投稿して欲しいと思った。

906877-899:2011/03/30(水) 18:19:40 ID:5L.vcYhs
文字化けはどうしたらいいですかね……。とりあえず『~』は化けてしまうみたいなので、次の書き溜めには使わないようにはしてるんですが……。
PCで書ければ一番なんですが、今ちょっと使えない状態で^^;

907■■■■:2011/03/30(水) 20:08:52 ID:EnXoZwYY
>>906
その書き込みがすでに化けているんですがwww
>>905みたいになってます。

> 次の書き溜めには使わないようにはしてるんですが……。
ありがとうございます。 気を使わせてしまって、すいません。

908夢旅人:2011/03/31(木) 00:56:48 ID:pN6eCbA2
軽く3レスほどの短編を。

909夢旅人:2011/03/31(木) 00:57:20 ID:pN6eCbA2
「Propose encore une fois」


「久しぶりね、アンタからの呼び出しなんて」

 ここはとあるホテルのメインバー。
 その日、カウンターに1人、空のグラスを目の前に、その女は腰掛けていた。
 ほのかに薄暗い店内の、微かにただよう紫煙の香りと、テーブル毎のキャンドルの光。
 女は、目の前にあるひとつに目を向けたまま、身じろぎもしていない。
 シェイカーとグラスが響く甲高い音や、店内のさざめきも、彼女の耳には届かないようだ。
 茶色の長い髪に、整った顔立ち、魅力的なボディ。
 その表情は、少し赤みが差しているように見える。

「悪りぃ、今日も待たせちまったようだな」

 そう言いつつ、男は女の隣に座る。――いらっしゃいませ、とバーテンがおしぼりと、メニューを置いた。
 男は黙って出されたお絞りで手を拭い、メニューに目もくれず、女の顔を見た。
 女はそんな男に目も合わさず、そのままキャンドルの揺らぎを見つめながら口を開いた。

「――いつものことね。ちっとも変わってない」
「ああ、相変わらずさ……待たせてばかりだがな」
「――何年振り、かな」
「そうだな、前に会ったときから2年、あれから5年……か」
「今、何やってんの……」
「ん、ま、いろいろとね……」

 そう言うと、男は目の前のバーテンに顔を向けた。
――俺はウオッカマティーニ。ウオッカはストロヴァヤ。4対1でレモンピール抜き。

「アンタの最初の1杯、いつもそれね」
「ああ、もう昔からずっとなんでな。お前は、何にする?」
「そうね、じゃ……ギムレットをタンカレーで」

 かしこまりました、といってバーテンがカウンターの奥へ引っ込んだ。

「で、話って何?」
「ん、ああ……、その前に。食事は済ませたのか?」
「軽くね。アンタは」
「俺も同じさ……」

 はぐらかすように男が話題を変えた。

「――5年前の最後の会話、覚えてるか?」
「ええ、忘れようったって忘れられないわ……。あんな目に遭わされたんだもの」

―――5年前

「ねえ、当麻。まだインデックスのこと……」
「――悪りぃ、美琴……」
「ううん、いいの、気にしないで。私、それを承知でこうして当麻の側にいるんだもの」
「……悪りぃ」

 御坂美琴は上条当麻の腕の中に抱かれたまま、そう小さな声でつぶやくように会話していた。
 2人はほんの今しがたまで、本能の赴くままに、激情をぶつけあったままの姿だった。
 恋人のピロートークにしては、そこに甘さはなく、ただひりりとしたかすかな痛みが伴うような違和感が残る。
 美琴は、当麻がクライマックスを迎えたとき、かすかに――インデックスとつぶやいたのを、自らの喘ぎの中で、確かに耳にしていた。

 かつて上条当麻が、自分の気持ちをインデックスに告白した時のこと。
 インデックスはあの日、上条の告白を受け入れ、そして……彼を振った。

――私もとうまのことが大好きなんだよ……。
――インデックスも、出来ればとうまとはずっとずっと一緒にいたいかも……。
――でもねとうま。私の隣にずっと一緒にいられるのは、神様だけなんだよ……。
――例えとうまがその右手を使おうとも、これが私の生きる道だから譲れないかも……。
――私が大好きなとうま。そんなとうまが望んだって、そこには入れてあげられないんだよ……。
――だから……、だから……、ごめんね……。とうまとは……、ごめんなさいなんだよ……。

 やがてインデックスが彼の元を離れた日から、彼は絶望の淵を彷徨った。.
 そんな上条をやさしく、暖かく包んだのは御坂美琴だった。
 上条の心が自分の方へ向いていないことを承知の上で、彼女は彼の手をとった。
 上条が悲しみに狂った挙句、美琴を蹂躙した時も、彼女は黙って彼を受け入れた。
 美琴は、彼を支えるために、自らの全てを捧げた。
 彼に何を求めるでもなく、ただかつて彼女が彼によって、絶望から救われた時のように。

 いつしか上条の心が、絶望から引き上げられた時、彼は彼女の気持ちに気が付くのだろうか。
 いや、美琴はかつて、自らが上条に救われたように、彼を絶望から救おうとしただけのこと。
 そして上条は、美琴によって絶望から救われる……、はずだった。
 
「悪りぃ、美琴。やっぱり俺……」
「うん、わかってた。当麻の心の中には、やっぱり今でもあの子がいるのよね」
「……悪りぃ。あの約束……今の俺は……守れねぇんだ……」


――そうして上条は美琴の元から去って行った。

910夢旅人:2011/03/31(木) 00:57:57 ID:pN6eCbA2


「――そうだったな」
「ええそうよ。あれだけ弄ばれて、ポイ捨てされるとは夢にも思わなかったわ」
「人聞きの悪いこと、言うなよ」
「でもそうでしょ、昔の女が忘れらなくて、未練がましく追っかけて行ったのはどちらさんでしたっけ?」
「ああ俺だよ俺なんだよ俺なんですよねの三段活用だ」
「まったく、弱みに付け込まれて、好き放題されちゃったわね。
私の初めて、何もかも全部アンタに奪われちゃってさ」
「俺の初めてはどうなんだ?」

 ガスッと拳が上条の頬に飛んだ。

「乙女の純潔とアンタのを一緒にすんな」

 頬を押さえた上条の顔を美琴が覗き込んだ。

「で、あれからちょっとは変わったの?」

 美琴の視線を逸らさずに、上条が笑顔で答える。

「はははっ、相変わらず変わんねえな、お前は」
「うるさい。黙れ。この馬鹿」

 そう言った美琴の顔に、今日一番の笑顔が見えた。

「ちょっとは、変わったようね。うんうん」
「いっぱしの男捕まえて、ガキ扱いするんじゃねぇ」
「ガキだからガキ扱いしてるんでしょうが。まったくもう……」

――当麻はあの時の約束、覚えているのかな……

――美琴はあの時の約束、覚えているだろうか……

 ふたりの前のグラスは、いつしか空になっていた。

――お客様、なにかお作りしましょうか

「そうね。もう1杯なにかもらおうかしら」
「俺のお勧めがあるんだが……」
「じゃ、それにするわ」

――『Kiss In The Dark』を彼女に。

「俺はどうしようかな」
「私からのお勧めはいかが?」
「ああいいぜ。それでいこう」

――『Between The Sheets』を彼に。

「なぁ、どうやら俺たち、同じことを考えてるようだな」
「……どうもそのようね」

――2人の時が、再び動き出した。

911夢旅人:2011/03/31(木) 00:58:45 ID:pN6eCbA2



「よし、本題に入るとすっか」

 突然上条がにやりとした。

「何よ、いきなり」
「今日の話さ」

――美琴。お前、あの時の約束、覚えているか

――もちろんよ、当麻。今でもはっきり覚えているわ

――――あの時…………

――「もう俺には、『御坂美琴と彼女の周りの世界を守る』って約束、守れねぇ……」
――「いいのよ、そんなもの……。
――ね、だったらその代わりに、1つだけ約束して。
――もし当麻が、あの子のことを思い出に出来る時が来たなら、その時、当麻の隣に私を呼んで欲しいの。
――別に一緒になれなくてもいいから。
――ただ当麻の笑った顔が見たいから。
――それまで、私、当麻のこと、いつまでも待ってるから」
――「――わかった。その時が来たら、必ず連絡する。それまで、待っててくれるか?」
――「ええ、いつまでも待ってるから……」


「俺、今日ちょっとお前に渡したいものがあってさ……」
「何?」
「これ……」

 そう言って上条が取り出したのは小さな紙包み。

「!……これ開けてもいい?」
「ああ、開けてくれ」

 そこにあったのは、キラリと輝く指輪。

「今更なんだが、約束、果たしに来たぜ」
「――もう、いったいいつまで待たせんのよ……」
「ああ、悪りぃ。それと……」

――今夜は、このホテルに部屋、とってあるんだ。

 指輪の横に、ホテルの部屋のキーを置いた。
 
「今夜は帰さないぜ」
「――アンタ、私が拒否するってことは考えたことないの」
「ああん?俺、馬鹿だからそんなの考えたことねぇな」
「――もう、馬鹿。この馬鹿当麻……」

――ああ、肝心のこと忘れてた、と言って彼は彼女の耳元で囁いた。

『ただいま、美琴。これからずっと一緒にいるよ』

『おかえり、当麻。ずっと一緒にいて』

 美琴はそう囁き返し、そっと上条と唇を重ねた。

「ねぇ、ここ、暗くて、当麻の顔、よく見えないから……」
「そうだな。部屋、行くか……」
「優しくしてくれる?」
「俺はいつも優しいさ」

 美琴が指先からビリリと電撃を出した。
 上条はそれを右手でやさしく触れて消した。

「まったく。どっからそんなセリフが出てくんのよ。あー不幸だ……」
「だから前に言ったろ。俺なんかと関わると不幸になるって……」
「そうね。もうすっごく不幸だわ。こんな男を好きになるなんて……」

――でも、と言って、美琴は上条の顔を見た。

『当麻の今の顔、すっごく幸せそうね』

------------------------------------------------------Fin

912夢旅人:2011/03/31(木) 01:00:47 ID:pN6eCbA2
以上です。

>>904
GJです。

913■■■■:2011/03/31(木) 02:11:21 ID:vz3KXsJg
今カレー食ってるのにタンカレーだと・・・

914■■■■:2011/03/31(木) 02:12:41 ID:3SSZltOM
当麻ェ‥
最低だぜ‥‥

915■■■■:2011/03/31(木) 03:04:58 ID:.XHWHeTk
>>912
なんというオトナな雰囲気…!
上条さんはあちゃーって感じだったけど、美琴の元に帰って来たし
これからめちゃくちゃ幸せにしてやりなさい
GJです

916■■■■:2011/03/31(木) 05:17:36 ID:YJ7frPnM
もう900かよwww
すげえな

917■■■■:2011/03/31(木) 08:38:03 ID:ZcMFDKfU
SS速報にある某スレのインスパイヤかな。あれは面白かったけど上琴好きには身を切られるような辛さだった・・・
あれを読んだ上琴好きなら一度は妄想したifストーリーだと思う、よく書いてくれた。

勘違いで完全オリジナルならほんと御免なさい。

918夢旅人:2011/03/31(木) 11:03:47 ID:pN6eCbA2
>>913
「タンカレー(Tanqueray)」はジンの銘柄。
これに嵌ると他のジンでは物足りなくなります。
実際、ギムレットはベースのジンをタンカレーにするとこれが実に…なので。

>>914
ホントに最低男だと。
持ってしまった感情は、取り消すことも出来ないというのが私の考えなので。

>>915
単にバーでの大人なデートを書くつもりが、どうしてこうなった!?
尚、参考として、実体験ちょこっと入ってます。

>>917
はい。某スレ、読みました。
辛い展開ですが、自分の中では、あれはあれで「ありうる世界」だと思ってます。
とてもよい出来なだけに、読後は胸が痛みますが、実社会でも「仕方がない」ことだと思えば、納得できるんですよね。
ただ彼らを描くには、設定年齢が幼いことが辛いですね。ラノベだし。
とはいえ、インスパイアという程のモノは無いと自分では思ってます。
あれほどの傑作長編、構成力も文章力もないし。
でもシリアス入った上琴書くには、どうしてもインデックスの立ち位置を抜きにすることに無理があると思います。
だからこそ、それを上回る上琴の絆というか、思いを描けないと納得できる作品にならないなと。
ああ、とあるシリーズに嵌ってしまうなんて、不幸だ…

919■■■■:2011/03/31(木) 11:17:41 ID:tvZxP.lE
>>890
GJ!!

920■■■■:2011/03/31(木) 11:40:06 ID:MYOrGdew
原作で美琴と上条さんがくっついても
上条さんはやっぱりインデックスのことが忘れないでいるとおもうんだ

921■■■■:2011/03/31(木) 12:31:18 ID:cPa/q3T2
インなんとかさんが…邪魔

922■■■■:2011/03/31(木) 12:44:31 ID:ei1rAWNE
最近、無理にシリアス展開入れようとしてる人多い気がするんだけど気のせいかね。
イチャスレなのにイチャよりシリアスメインだったりするし、なんだかなーとか思ったり

923■■■■:2011/03/31(木) 13:43:29 ID:.XHWHeTk
>>917
ちょいスレチだけど、某スレってどれのこと?

確かにここはいちゃスレだけど上琴ものならいちゃいちゃメインじゃない話でも個人的にはいいと思う
長く続いているスレだし、みんながいちゃいちゃを主軸に置いて作品を書くと話のバリエーションが…
あくまで個人的な意見っす

924■■■■:2011/03/31(木) 14:13:27 ID:ZcMFDKfU
>>917
話自身は夢旅人さんが書いてるように凄く良い出来なんだが上琴好きには軽くトラウマになるぐらい救いようのない話だぞ。
>>909の話の内容で美琴が捨てられたままになるって物語だから。
これは褒め言葉として言うんだがあのスレは読まなければよかった、と思ってる。
ちょい興味ある程度でなら絶対に回避推奨。

上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」
でググってくれ。

925■■■■:2011/03/31(木) 14:14:21 ID:ZcMFDKfU
うわー >>917じゃなくて>>923でした。
はずかしい。

926夢旅人:2011/03/31(木) 14:45:19 ID:pN6eCbA2
>>924
軽くどころか、出来が良い分、上琴SS書きにとっちゃ、
マジモンのトラウマに成りかねないほどの破壊力だった。
でも続編のシリーズのおかげで、救いというか、希望だけは残されている。
ほんと、パンドラの箱同然だわ。

よし、決めた。

あの作品読んだ上琴派のトラウマ、今回の続編書いて、俺が全部まとめてブッつぶす!

なんちゃってw。
でも期待はしないでおくれ。

927■■■■:2011/03/31(木) 15:14:13 ID:/n8.g21g
夢旅人さん、ぶっつぶしてくれ!
今だに思いだすと、心臓が痛いんだ‥‥

928■■■■:2011/03/31(木) 16:37:10 ID:nO2/xDv6
夢旅人さん
GJです!!
最後に二人が結ばれているので個人的には問題ないと思います。

929877-899:2011/03/31(木) 17:25:19 ID:lsXgVa22
夢旅人さん、GJです!
自分にはあんな大人の雰囲気なんてとても書けません……尊敬します!
でも自分との差が大きすぎてちょっとダメージが……w
もう結構書き溜めて今投稿しようとしましたが、ちょっと手直しすることにしましたw

930■■■■:2011/03/31(木) 17:43:31 ID:dUVc0Je2
>>922
>>1に「上条さんと美琴が最終的にいちゃいちゃしていればいいので」って書いてあるから
まったく問題無いと都合良く解釈すればいいのさ

931■■■■:2011/03/31(木) 18:41:10 ID:VYAA8ea6
>>924
なるほど・・・じゃあやめとこ。

932■■■■:2011/03/31(木) 20:05:57 ID:.XHWHeTk
>>924
そ、そうなんか。ありがとう

なんていうか、もしも原作で上条さんがインデックスを忘れられないまま
美琴と付き合うとかいう鬱展開になったら、最終的には美琴と幸せになるっていう
フラグだよ。何せ、かまちー禁書はハッピーエンドって決まってるんだから!
とはいえ出来のいいSSで美琴の鬱展開はかなり堪えるよな…

夢旅人さんに期待!w

933Mattari:2011/03/31(木) 22:04:03 ID:pQM2bJnw
お世話になってます。Mattariです。

>>813でバラしてますが、裏話として作った1の逆パターンの話を投下します。
ただ、バックグラウンドとして作ったので、あまり良い出来ではないのですが……。
今後のストーリーを読んでいただく上で、この話は知っていていただきたいなと思ったので。

この後すぐ投下で、9レスほどになります。

934とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:05:07 ID:pQM2bJnw

とある右手の番外編(パラレルワールドストーリー)3*


「アンタ……誰?」

 御坂がオレに向かって聞いてくる。

「何言ってんだよッ!?……オレだよッ!!上条当麻だよッ!!!……ったく、何当たり前のことを聞いてくるんだよッ!?」

「アンタは上条当麻じゃないわ。少なくとも、私が知ってる上条当麻じゃない!!!」

「なっ!?……何だよッ……それッ!?」

「私が知ってる上条当麻なら、絶対に私を『ビリビリ女』なんて呼ばないわ」

「ヘッ!?」

「私が知ってる当麻なら、私を『美琴』って呼ぶもの」

「さっきから一体何なんだよッ!?……今日は朝から……何が何だか……訳の分からないことばっかりだ……」

「訳の分からないこと?」

「朝、授業中にウトウトしてたら、いきなり周りがユラユラ揺れだして、地震か!?と思って慌てて教室を飛び出そうとしたらクラスの奴らから笑われるわ。青ピの野郎は『宿題写させろ』ってウルセえし……」

「ふーん……」

「『そんなもんやってねェよ』って言ったのに、ノートを開いたらやってあるし……。持ってきた弁当は全然違うし、来週末まで言い渡されてたはずの補習は受けなくて済んでるし……。その上、ココを歩いてたら……いきなりオマエが抱きついて来やがるから……ホント……訳が分からねぇよ……」

「なるほどねぇ……」

「何が『なるほどねぇ……』なんだよ?」

「良くは分からないけれど……多分、アンタのその右手が関係してると思うわ」

「オレの右手が?」

「そっ。アンタの右手……【幻想殺し(イマジンブレーカー)】がこの騒動の原因だと思って間違いないでしょうね」

「何だよ……それ!?」

「説明するととんでもなく長くなるからしないけど、多分アンタはどこか別の世界から来た上条当麻で、コッチの世界の当麻と入れ替わっちゃったのよ」

「い……入れ替わったァ〜?……どうして?……何でそんなコトになったんだ?」

「知らないわよ。でも……ほぼ正解みたいね。アンタの右手を見てれば……分かるわ」

「ヘッ!?」

 マヌケた声を出して、自分の右手を見たオレは、余計に訳が分からなくなった。
 右手だけが震えてやがる。しかも、震えている感覚がオレにはない。
 しばらく見ていたら、今度は汗までかき始めやがった。それも……滝のような汗を……。

「これ……一体……何がどうなってるって言うんだ?」

「だから、そこまでは分からないって言ってるでしょ?……聞きたきゃ、その右手に聞いてみたら?」

「ハァ?……何バカなこと言ってんだよッ!?右手が喋る訳ねェだろ!!」

「まぁ、そう考えるのが普通よね。(さすがにあのコトは話せない……か……)」

「当然だろっ!!」

「……それにしても……アンタ……ちょっとヒドくない?」

「ヒドいって……何がだよ!?」

「コッチも何にも知らないから、いきなり腕に抱きついちゃったのは悪いと思うけどさ……それ見て『何しやがるッ!?このビリビリ女がッ!!』って……アレってちょっとヒドくない?」

「しょうがねェだろ?……オマエがコッチの世界でオレとどういう関係にあるかは知らないけど、オレが居る世界じゃオレとオマエは毎日ケンカ三昧だよ」

「えっ!?」

「向こうじゃオマエはオレの顔を見れば『勝負よ!!勝負!!!』って言って、電撃浴びせて来やがる。オレもいい加減ムカついてるから……言葉遣いも荒くなってるんだよ」

「へェ〜……『御坂美琴とその世界を守る』って約束してるのに?」

「何だ……それ?」

「ハァ?……何言ってんのよッ!?……アステカの魔術師とアンタが、夏休み最後の日に……」

「……そんなコトあったっけ?……忘れちまったよ……」

「何ですってぇ〜!?……アンタそれでもホントに上条当麻なのっ!?(バチバチバチバチッ)」

「なっ……何でそんなに怒ってんだよっ!?……第一オマエには関係ねぇじゃねぇか!?」

「アンタねぇ……それ本気で言ってるの?」

「当然だろ!?……そんな約束なんて……第一、オマエとした訳じゃないんだし……」

「信じられない……アンタ……ホントに上条当麻なの?」

「何回同じコトを聞くんだよッ!?それに、それってそんなに重要なことなのか?」

「ハァ……アンタって……昔の当麻よりヒドいわね……」

「えっ!?……どういうコトだよッ!?」

「コッチの当麻は、その約束を忘れるなんてコトはなかったわ。確かに、その約束を守ることは出来なかったけれど……」

935とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:05:54 ID:pQM2bJnw

「だったら、一緒じゃねェか?」

「何ですってぇ!?」

「結局、守れなかったんだろ?……それなら忘れてたって一緒じゃねェか?」

「本気で言ってんの?」

「ハァ……どうでもイイだろ?……そんなコト」

 オレがそう言った瞬間に、コッチの世界の御坂の目が『スッ』と細くなった。
 と思ったら……

『パッチィィィィイイイインッ!!!!!』

 平手が飛んできた。

「なっ……何しやがるッ!?」

「……これくらいで済んだことを感謝するコトね。……当麻がもし今のを聞いたら、殺されるかも知れないわよ。少なくとも、今の10倍じゃあ済まないわ」

「えっ!?」

「コッチの世界の上条当麻は、誰かとした約束を果たすために必死になってる。例え果たせなかったとしても、ギリギリまでそれを守ろうと必死になっていた。それだけは間違いないわ。約束を忘れるなんてことは決してない。アンタのようにね……」

「くっ……」

「アンタはこの世界の上条当麻の足元にも及ばない。いいえ、私と付き合う前の上条当麻の足元にさえ及ばないわ」

 全く抑揚のない声は、その奥に有無を言わせない迫力があった。
 オレを睨み付ける御坂の目を、オレは正視することが出来なかった。
 その目は、オレが見ていない何かを見据えているような気がして、その目から逃げることしか考えられなかった。
 その時オレは、自分が記憶だけじゃなく、何か大切なものを失ってしまっていることを教えられたような気がした。

「ご……ゴメン……」

「へェ……謝れるんだ?」

「どっ……どういう意味だよッ!?」

「そのままよ。今のアンタが謝れるなんて……思いもしなかったから……」

「じゃあ、どう思ってたんだよ?」

「うーん……拗ねる?」

「オイ……」

「じゃあ……イジける」

「あ……あのなぁ……」

「不幸だーって言う」

「……それは……言いそうになった……」

「アハハハハハハ……そこはやっぱり上条当麻なんだ」

「クッソー……」

「まぁイイわ。今日はちょっとだけ付き合ってあげる。聞きたい事もあるし、それにコッチの世界の雰囲気だけでも味わってみたら?」

「オイ……それより、オレとそのもう一人が元の世界に戻れるっていう保証があるのかよ?」

「ん〜……多分、大丈夫でしょ?確証はないけど……無理なら無理で、当麻なら何とかするわよ」

「エエッ!?……なっ……何だよそれッ!?そんな簡単に……」

「信じてるもん」

「えっ!?」

「私は当麻を信じてる」

「……」

「何があっても当麻は帰ってくる。私の元に帰ってくるわ。そう約束したから」

「約束したって……そんな簡単に……そんな簡単に、言いきれるモノなのか?」

「そういう絆がもう……私たちの間にはあるのよ」

「……う……うう……」

「信じる。信じないはアンタの勝手よ……じゃ、行きましょうか?」

「行くってドコへだよ?」

「買い物よ……その後、アンタの部屋にいって……晩ご飯作ってあげる」

「なっ……何でそんなことを……」

「だって……私たち、恋人だもん」

「え゛え゛ッ!?……マジで?……オレと……御坂が……恋人ぉ〜ッ!?」

「そうよ」

「そ、そんな……サラッと……」

「じゃあ、どう言えばいいのよ?」

「そ……それは……その……」

「ま……アンタたちがそういう関係なら、驚くのも無理ないと思うけど……」

「今のが一番ビックリした……」

「そんなに拗れてるんだ……そっちの世界の私たちって……」

「大体オマエ……じゃなくて……御坂のヤツが悪いんだよ……そんなにキライなら関わらなきゃイイのに……」

「ハァ……鈍感なのは一緒なのね……」

「ヘッ?」

「わざわざキライな奴に関わる訳ないじゃない。……アンタに振り向いて欲しいから、アンタに私だけを見て欲しいから、突っかかって行ってるのよ」

「……まさか……」

「……ハァ……ホンットに……筋金入りの鈍感だわ。……アンタの世界の私がどんな経験をしたかまでは分からないけれど、私はこの世界で当麻を一度失っているの」

「えっ!?……失っているって?」

「当麻は戦争を止めるために、この世界を救うために、私が差し伸べた救いの手を自分で断ち切ったのよ。そして……消息不明になった……」

「……戦争?……そんなコトが……」

「その時に思い知ったわ……。上条当麻の事がどれ程好きなのかってコトをね……」

936とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:06:24 ID:pQM2bJnw

「おっ……オレの事を……好きッ!?」

「アンタじゃないわよ」

「うっ……」

「この世界の上条当麻の事。……あの人をどれだけ自分が好きなのか……それまでは分かってなかった……。第22学区でボロボロのアンタを見た時以上に、思い知ったわよ。……でも、北極海で……あのゲコ太のストラップを見つけた時は……もう……アンタは死んじゃったかもって……」

「……御坂……」

「泣いて……泣いて……泣きまくって……でも、それでも……アンタが生きてくれてたら……って……そう願わずにはいられなかった……」

「……それが……あの約束を……」

「そう……守れなかったってコト……。でもね……」

「えっ!?……でも?」

「その後しばらくして当麻は帰って来てくれて……、でも私は素直に自分の気持ちが言えなくて……そんな時、ちょっと変わった体験があってね……それまでは素直になれなかったんだけど、素直になろうと思って、変わろうと思ってたら……当麻が告白してくれたの……『好きだ』って……」

「おっ……オレがッ!?……オレが告白したって言うのかっ!?」

「だから……アンタじゃないってば」

「あっ……そうか……」

「そして、改めて約束して貰った……ううん、違う。二人で誓ったのよ。私と私の周りの世界を一緒に守るって。そして二人で幸せになるんだ。ってね」

「……そんな……約束を……」

「どう?羨ましいでしょ?」

「……ああ……そんな約束が出来るなんて……スゴいな……この世界のオレって……」

「エヘヘ……」

「何で、オマエが嬉しそうにするんだよ?」

「バカね……恋人の事を褒められて嬉しくない訳がないじゃない」

「……ウワッ……惚気かよッ……!?」

「悔しかったら、アンタたちもそういう関係を築いてみるコトね。……ホント、愉しいわよ」

「……そりゃそうだよな……毎日毎日、顔を合わせばケンカばかり……なんて……不幸……だよな……」

「ねェ……ひとつ聞いてイイ?」

「あ……何だ?」

「向こうの世界の私のコト……好きなの?」

「いっ……いきなり何をっ!?」

「ちょっと聞いてみたくなったからね。……ホントは何であの約束を忘れたの?って聞きたかったんだけど……」

「じゃあ、何で聞かなかったんだよ?」

「うーん……どうも、向こうの世界の私が原因してる気がしたから……」

「……う……」

「さっきケンカ三昧だって言ったでしょ?……そこが気になっちゃって……」

「当たり……かな……」

「えっ!?」

「忘れた理由……半分だけどな……」

「……そう……」

「……ある時にさ……ホントにしつっこくて……キレちまったんだよ……『そんなにオレの事がキライならもう関わるなっ!!』……ってさ……」

「……そうなんだ……」

「言った瞬間に『しまった』って思ったよ……でも……もう遅かった……」

「……」

「目に涙を一杯溜めて……何も言わずに逃げるように走っていくアイツの背中は……忘れられなかった……」

「……」

「だから……逃げちまった……」

「えっ!?」

「その背中を忘れるために……約束からも……アイツへの感情からも……全部……逃げたんだ……」

「……アンタ……」

「情けねぇよな……ホント……」

「……ホント……情け無いわね……」

「……言ってくれるぜ……」

「……アンタだけじゃないわ……向こうの世界の私もよ……」

「えっ!?」

「その後だって、突っかかって行ってるんでしょ?……向こうの私……」

「あ……ああ……しばらくしてからだけど……」

「甘えてるのよね……。今の私だから言える事だけど……」

「甘えてる?」

「そっ……アンタの優しさにね……」

「オレは優しくなんかないよ……」

「そうかな?……でも……良かったんじゃない?」

「えっ!?……何がだよ?」

「今ココで話せた事……そして、気がつけたじゃない……逃げてる事に……」

「あ……」

「逃げてる事を忘れてた……だったら、今ココから逃げなければイイ。そうは思わない?」

「今更……やり直せねぇよ……」

「そうかな?」

「そりゃそうだろ?……そんな格好悪い事……出来るかよ?」

「逃げ続けるよりはマシだと思うけど?」

「うっ……」

「まぁ、アンタがアンタの世界の私の事を何とも思ってないなら別だけど……」

937とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:06:55 ID:pQM2bJnw

「そ……それは……」

「ンフフ……脈アリ?」

「なっ……まっ……まあ……キライじゃ……ねえけど……/////」

「へェ〜(ニヤニヤ)」

「ニヤニヤすんじゃねえッ!!」

「……でも……素直になれない……かな?」

「……違う……と思う。……傷つけちまったから……」

「……そうか……そうよね……」

「アイツの背中を思い出しちまうと……何にも言えなくなるんだよな……だから……」

「だから?」

「喧嘩腰になって……言葉も荒くなって……そんな繰り返しをしてる間に……全部、忘れちまってた……」

「……なるほどね……」

「……だから……もう……」

「それが、アンタ達が抜け出せない『いつもと同じ』日常って訳ね」

「ヘッ!?……何だそれ?」

「さっき言ったでしょ?『ちょっと変わった体験』をしたって」

「あ、……そう言えば……」

「そこで教えて貰ったのよ。今言った『いつもと同じ』日常を超えるコトをね」

「いつもと同じ日常?」

「アンタたちが繰り返しているコトよ。振り返ってみれば分かるわ」

「……何言ってんだか、良く分かんねえんだけど……」

「今はまだ無理よ。じゃあ、行くわね」

「あ、ああ……」

「向こうの世界の私がアンタに突っかかっていったら、アンタはんどんな気持ちになるの?」

「どんな気持ちって……そりゃ、毎日毎日突っかかって来やがって……って、ムカつくに決まってるだろう?」

「それは『いつもと同じ気持ち』ってコトよね?」

「何だよ……それ?」

「だってそうでしょ?突っかかられたら、いつでもそういう気持ちになるんだから……」

「ああ、それで『いつもと同じ気持ち』なのか……」

「そういうコト。じゃあ次ね……」

「お、おう……」

「その『いつもと同じ気持ち』になったら、アンタは向こうの私にどう言うの?」

「どう言うって……そりゃ……『またかよ……いい加減にしろよ!』とか……『負け続けてるクセに』とか、結構乱暴なコト言ってるな……」

「つまりそういう関わりになっちゃってるってコトよね?」

「ああ、そうなるな……」

「だったらそれが、『いつもと同じ関わり』ってコトになるのよ」

「ああ……、なるほど」

「そうなると、結果は……どうなるの?」

「どうなるって……そりゃ……もうケンカになるに決まってるじゃねぇか……毎日がその繰り返し……えっ!?」

「分かった?……つまりそれが『いつもと同じ結果』って訳よね」

「ああ……」

「つまり、『いつもと同じ気持ち』で居ると、『いつもと同じ関わり』にしかならなくて、『いつもと同じ結果』しか生まない……ってコトを教えて貰ったのよ」

「へェ……面白いな……それ」

「でも……アンタは一度だけ、『いつもと違う関わり』をしてしまった。ある意味悪い方に……」

「あ……」

「『そんなにキライなら関わるな』って言っちゃった……。でもさ、それってその後の結果が分かってたら……言えたかしら?」

「結果が分かってたら……アイツがあんなに悲しむって分かってたら……言える訳ねぇよ……」

「つまり……ブレーキがかからなかった……ってコトよね。それって」

「あ……ああ……そうなるな……」

「じゃあ、どうすれば良いと思う?」

「どうすればって……うーん……」

「そこを見つけないといけないのよ……でもそれが一番難しい事でもあるんだけどね……」

「……うーん……無視するとか?……」

「電撃で攻撃されるわよ……」

「……そうか……うーん……ムカつかないようにする……とか?」

「出来ると思う?」

「無理だな……うーん……ダメだ……思いつかねぇ……」

「ねェ……本当はどうしたの?」

「えっ!?」

「アンタは本当は、どうしたいのよ?」

「どうしたいって……そりゃ、ケンカせずに済めば、それが一番イイに決まってるじゃないか?……怒ってる顔じゃなく、笑ってる顔なら……オレも変われるんだろうけど……」

「つまりアンタは、向こうの私に笑っていて欲しい。……ってコトよね」

「ああ、そうなるな……あっ、そうか!」

「えっ?……何?」

「だから、オレが御坂には笑っていて欲しいって思えばいいんだ。そうすれば、『いつもと同じ気持ち』が変わるから……」

「果たしてそう簡単にいくかしらね?」

938とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:07:24 ID:pQM2bJnw

「えっ!?……どういうコトだよ?」

「こういう話をすると、それが『解答』だって思いがちだけど……それって大きな間違いなのよ……」

「間違い……?」

「ただ単純に、今の『いつもと同じ気持ち』をひっくり返せばイイっていう訳じゃない。『いつもと同じ気持ち』から抜け出すためには、自分がどうしたいかを探さなきゃいけないの。でも……そこに気付かないのよ……」

「自分がどうしたいのかを……探す?」

「本当は自分がどうしたいのか……って言うのは、自分の本心につながる事だと思うの。でも……そこに到達するのはかなり難しいのよ……」

「難しいって?」

「私の時は、『素直になりたい。素直になって自分の想いを伝えたい』っていう想いがそれだったんだけど……それが、すぐに出てきたのはそれまで何度も失敗を繰り返してきたからなの……」

「何だよ……失敗って?」

「素直になろうっていつも思ってた。……でも、その度に『いつもと同じ気持ち』に巻き込まれちゃって……素直になれなかった。その経験を積み重ねていて、そこにこのことを教えて貰ったから、自分が本当にどうしたいのかとすぐにつなげる事が出来たのよ」

「へェ……」

「でも、今のアンタは……自分が本当にどうしたいのかが分からない……。さっきも聞いたけど答える事が出来なかった。だからまずそこを探す事から始めなきゃいけない……」

「あ……でも、御坂に笑っていて欲しいって……」

「それは自分がどうしたいのかってコトじゃなくって、相手にどうなって欲しいかってコトじゃない。それじゃあ、自分が本当にどうしたいのかってコトにはつながらないのよ」

「あっ……そうか……」

「『いつもと同じ気持ち』が『いつもと同じ関わり』を生み『いつもと同じ結果』になる。だから問題を解決するためには、この無限ループから抜け出せばいいって思っちゃうのよ」

「ああ……そうだな……」

「でもさ、どうやって抜け出せばいいのかってコトは、教えて貰ってない訳じゃない?」

「そうか……そうだよな……」

「間違えちゃいけないのは、解答が与えられた訳じゃないってコト。問題を解決するためには、自分自身で探さなきゃならないモノがあるってコトなのよ」

「……ハァ……オレには無理だよ……そんな難しいコト……」

「また逃げるの?」

「うっ……き……キツいな……オマエ……」

「ある意味、アンタの世界の私以上だと思うわよン♪」

「(カワイく言ってるように見えるけど……こ……怖えぇぇぇ……)」

「何か言った?」

「……いえ……何も言っていませんでせうよ……」

「ハァ……そういうとこは当麻ソックリね」

「……どういう意味だよ?」

「誤魔化そうとすると、その口調になるの。……気が付いてる?」

「(ギクッ!!!)」

「他の世界でもこれは変わんないのね……ハァ……苦労させられる訳だわ……」

「うう……不幸だ……」

「出たッ!」

「ぅ、うるせえ……」

「アハハハハハハ……じゃあ、話を元に戻しましょうか?」

「だから、オレには難しすぎて無理だって……」

「そうかもね……でも、手掛かりが全く無い訳じゃないのよ?」

「えっ……手掛かりって?」

「アンタは向こうの私に『笑っていて欲しい』っていう願いがある」

「あ……ああ……」

「じゃあ、その願いを現実のものにするためには……何をすればいいと思う?」

「え?……それは……」

「それを見つける事が出来たら、多分『いつもと同じ』ループから抜け出せると思うわ」

「そうか……そうだよな……」

「どしたの?」

「そうだよ……オレが傷つけてしまったアイツに……もう一度笑って欲しいとオレが思うなら……」

「……」

「オレは……オレは……」

「……」

「オレは……アイツに償わなきゃいけない……アイツを傷つけた事を償わなきゃいけないんだ……」

「……フフフ……」

「あ……何だよ?」

「少し……見えてきたみたいね」

「えっ……そう……なのかな?」

「そうやって一つずつ見つけていくの。そうすれば見つかるわ」

「そうか……やってみるもんだな……」

「フフフ……アンタが逃げなかったからよ……」

「えっ!?」

「逃げなかったから、見つけられたのよ。逃げてたら……見つけられなかったわ」

「あ……」

「まずは一歩……ね」

「ああ……そうだな……」

939とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:08:05 ID:pQM2bJnw

「あっ……アレ?……」

「どうかしたの?」

「開かねぇんだよ……おかしいな……」

「何やってんのよ?」

「カギが……開かない……」

「どれどれ……アレ?……形が……」

「ちょっと待て!?何でオマエがオレの部屋のカギを持ってるんだ?」

「だから言ったじゃない。恋人同士なんだから……当然でしょ?」

「あ……そうか……」

『ガチャッ』

「ハイ、どうぞ」

「……なんか……変な気分だな……えっ!?……ちょっと待てよッ……アレッ!?……居ない……」

「えっ!?……居ないって……誰が?」

「あ……うう……その……」

「ああ、銀髪シスターならここには居ないわよ」

「えっ!?……エエッ!?……何でそれを知ってるんだよッ!?」

「話して貰ったから……当麻に」

「そこまで……話してるのか?」

「まあね」

「ある意味……とんでもねぇヤツだな……コッチの世界のオレって……」

「……けど、別に何でも無かったんでしょ?」

「あ、……ああ……そりゃそうだけど……でも……」

「そりゃ、教えて貰った時はショックだったけど……」

「そうだろうな……アレ?……何か忘れてるような……」

「銀髪シスターなら……イギリスよ」

「エエッ!?……あっ、アイツ帰ったのか?」

「帰った……と言うより、呼び戻されたってコトらしいわ」

「そうか……」

「寂しい?」

「そりゃあな……何だかんだ言っても一緒に住んでんだから……居ないと変な感じだよ……」

「そう……えっ!?……ちょっと待ってよ……ってコトは……今も一緒に住んでるの?」

「ああ……そうだけど?」

「そうか……じゃあ、向こうの世界じゃ一悶着起こってるかも知れないわね……」

「えっ!?」

「多分、当麻は向こうの私を連れて部屋に帰るだろうから……」

「ゲッ……マジかよッ!?」

「そうなったら……鉢合わせは……絶対よね……ハァ……」

「不幸だ……帰ったら御坂のビリビリと……インデックスの噛み付きが……」

「ん〜……多分……大丈夫なんじゃないかな?」

「ヘッ?……何で?」

「当麻が何とかすると思うから……でもなぁ……」

「でも……なんだよ……」

「向こうの私やあのシスターにフラグを立てちゃうかも……?」

「フラグって何だよ?……土御門や青ピが良く言うけど……」

「ハァ……鈍感……なのは同じか……」

「へっ?」

「……アンタ、どうせ責任取ってないんでしょ?」

「せっ……責任って何だよ!?」

「助けた責任よ」

「助けた責任?」

「【絶対能力進化(レベル6シフト)】計画から、私と妹達(シスターズ)を助けたんでしょ?」

「ああ、それは……まあ……」

「助けた後……どうしたの?」

「助けた後って……そのままだけど……」

「ハァ……やっぱり……ね」

「……?」

「アンタ……助けられた側の気持ち……考えた事無いでしょ?……まぁ……当麻もそうだったけど……」

「助けられた側の気持ち?」

「そうよ……助けられた方は、どんな気持ちになると思う?」

「どんな気持ちって……そりゃ……良かったなぁ……って……」

「……単純……」

「……バカって言われた方が……気が楽だぞ……それ……」

「じゃあ……バカ……」

「わざわざ言うなっ!!!」

「本気で言ってるんだけどね……自分の命を助けてくれた相手なのよ……普通の感情で居られる訳がないでしょ?」

「えっ……そう……なのかな?」

「あ……アンタねぇ……」

「……?」

「自分に置き換えてみなさいよ………自分だったらどう思うかを考えなさい」

「オレだったら……ありがとう……」

「……本気で言ってんのか?……アンタは……(バチバチバチッ)」

「なっ……何をそんなに怒っておられるんでせう?」

「命を助けて貰ったんだから、どうにかしてその恩を返したいって思わないの?」

「そりゃあ、思うさ」

「でも、その恩を返そうとした相手が、『別にイイよ』って言って自分の事を無視し続けたらどう思う?」

「そんなヤツ、居るのか?」

「(プチッ)……アンタでしょうがッ!!!(バチバチバチバチバチバチッ)」

「わっ、わっ、わっ、やめて、やめて……上条さん家の家電製品が全部おシャカになっちゃう〜……」

「……ったく……コイツはぁ……(バチッ…パチッ……)」

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……不幸だ……」

940とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:08:42 ID:pQM2bJnw

「アンタねぇ……自分の命を助けて貰ったのよ。それってそんなに軽いコトじゃないコトくらい分からないの?自分じゃどうしようも無かった事を、その人が命を賭けて解決して助けてくれたのよ?それを何とも思わない人間が居る訳無いじゃない?何でそんなに簡単なコトが分からないのよッ!?」

「でも……それは、オレがそうしたかっただけで……。別に頼まれたわけでもないし、オレが勝手に首突っ込んだだけなんだし……」

「鈍感もココまで来ると……もう罪ね……」

「ヘッ!?」

「何でそんなに簡単に自己完結できるのよ?あり得ないわ……」

「オレは誰かが泣いてたら、その涙を拭ってやりたいと思うヤツだから……。誰かが助けを求めていたら、ソイツを助けてやりたいと思うヤツだから……」

「あのねぇ……どうして自分の事をそういう風に他人事みたいに言うのよ?」

「えッ!?」

「まるで自分が自分じゃないみたいな言い方をしてるのよ……それに気が付いてるの?」

「そ……そうかな?」

「まるで自分じゃない誰かに突き動かされているような感じ……なのよ……」

「そうだな……そうかも知れない……」

「え?……」

「オレの中に『もう一人の自分』みたいなのが棲んでて、ソイツが誰かの涙を見た途端、誰かが助けを呼んでる声を聞いた途端に出てくるんだよな……。そうなるともう……止まれなくなる……」

「……そう……なんだ……」

「……ああ……」

「でも……だからって、アンタが責任を取らずに済ませてイイってコトじゃない」

「えっ!?」

「今のアンタともう一人のアンタ……そのどちらもが『上条当麻』であることに代わりはないわ」

「そっ……それは……」

「例え、アンタにその自覚が無くても、アンタの中では二人でも、外から見たら、それは一人の『上条当麻』なのよ。だから、アンタはその事をもっと自覚しなきゃいけない」

「オレの中では二人だけど……外から見たら……一人……」

「とは言え、これ以上は言ってもムダね。……それにここから先はアンタ自身が見つけなきゃいけない。アンタ自身が気付かなきゃいけない問題だから」

「そんな……ココまで来て……後は自分でって言われても……」

「アンタの中の問題なのよ……他人がどうこう出来るコトじゃないわ」

「うっ……そ……それは……」

「さっき言った『いつもと同じ』ループと一緒。アンタが探さなきゃ、答えは見つからない。だってそれは……」

「俺自身の問題だから……だな……」

「そういうコト♪……じゃあ、これで難しい話はお終い」

「……ハァ……助かった……」

「晩ご飯作ったげる。……特別サービスよ。アンタは私の当麻じゃないんだから……」

「あ……アハハ……」

「何照れてんのよ?……じゃあ、私は支度するから、アンタはその間勉強でもしてなさい」

「え゛っ……そっ……そんな……」

「コッチの当麻はもう当たり前になってるわよ。補習や追試なんてもう受けてないんだから……」

「まっ……マジかよッ!?」

「当然♪……私がキッチリ教育したからね。当麻もそれに応えてくれたし……」

「なァ……さっき言ってた事も、コッチのオレは知ってるのか?」

「もちろんよ。二人で一緒にそういう経験を積み重ねてきたのよ。二人で頑張って、二人で成長してる……胸を張ってそう言えるわ」

「……羨ましいな……オレも……そんな風になれたら……」

「その為には『答え』を探さなきゃ……ね」

「……ああ……そうだな……『答え』か……」



「もうすぐ出来るわ……よ?……アレ?……寝ちゃってるじゃない……」

「くー、くー……」

「ホントにもう……でも……うん……疲れたのよね……」

「くー、くー……」

「フフッ……やっぱり寝顔は当麻と一緒ね……」

「くー……う……あ……み……か……ごめ……」

「えっ!?」

「ご……ん……さか……オレ……くそ……れない……」

(寝言……だけど……これって……)

「……れは……かだ……お……を……つけ……かせ……まった……」

(泣いてる……?)

「……えを……せ……て……った……うは……いた……い……くせ……たい……に……」

(何を言っているかは分からないけれど……)

「……して……れ……ゆ……てく……」

(誰かに謝ってる?)

「ご……ん……めん……ごめ……ゴメン……か……」

(まさか……向こうの……私?)

「う……うう……み……か……ご……め……」

941とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:09:44 ID:pQM2bJnw

(ちょっと……これ以上聞いちゃうのは……さすがに……)

「くーくー」

(仕方無いな……今日は……帰ろ……)

「くーくー……」



「んぁ……あ〜……アレッ?……あっ……オレ、ねちまったのか?」

「ん?……アレッ?……御坂が……居ない……ん?」

「置き手紙……?」

『よく寝てたので起こさずに帰るね。
 夕飯は作ってあるから、適当に温めて食べなさい。
 外に出る時用に、私の合い鍵を置いていきます。
 但し、持って帰っちゃダメよ。

 今日は疲れただろうから、シッカリ休みなさい。
 それと、少しは元の世界に戻った時の事。
 考えないとダメよ。

 じゃあね。
          御坂 美琴』

「イイヤツだな……アイツ。……それに……この世界のオレも……あんなのと胸張って付き合ってるのか……スゲェよな……」

(戻った時の事……か……)

(オレは……どうすればイイんだろう……)

(オレは……アイツを……傷つける事しか……出来ない……)

(オレは……アイツを……泣かせる事しか……出来ない……)

(オレは……アイツを……守れない……)

(今更……やり直すなんて……そんな都合の良い事……出来る訳……ねぇよな……)

(でも……オレは……オレは……本当は……どうしたいのだろう?)

(オレは……アイツを……傷つける事しか……出来ない……)

(『……アンタ、どうせ責任取ってないんでしょ?』)

(責任……か……)

(『自分の命を助けてくれた相手なのよ……普通の感情で居られる訳がないでしょ?』)

(何だよ……それ……)

(『ここから先はアンタ自身が見つけなきゃいけない。アンタ自身が気付かなきゃいけない問題だから』)

(オレが見つけなきゃいけない……。オレが気付かなきゃいけない……問題……か……)

(それって……なんなんだろうな……)

(でも……もし……見つけられたら……オレは……変われるんだろうか?)

(変われたら……アイツの笑顔を……取り戻せるんだろうか……?)

(アイツの笑顔が……取り戻せるのなら……もう……アイツの泣き顔を……見ずに済むのなら……)

(どんなことがあっても……それを……見つけたい……見つけたいんだっ!!!)

(もう……絶対に……アイツを泣かせたくない……)

(あんな想いは……二度と……したくない……)

(御坂……オレは……何が出来るんだろうな?)

(オレは……オマエの……笑顔を……取り戻せるんだろうか……?)

(オレは……オレは……)

「……ハァ……これ以上は……無理だ……」

「ハァ……飯……食お……」

「しかし……御坂の手料理ねぇ……食えるのか?」

「……パクッ……モグモグ……う……美味い……美味いぞっ!!……コレッ!!!!!」

『ガツガツガツガツ……モグモグモグモグ……ガツガツガツガツ……モグモグモグモグ……ゴキュゴキュ……』

「プハァ……食った、食った……」

「コッチの世界のオレって……毎日こんなイイモン食ってんのか?」

「これで『不幸だ』なんて言いやがったら、タコ殴りの刑だな……うん」

(御坂……ありがとう……ちょっとだけ……勇気が出た)

(いつ帰れるか分からねぇけど……帰ったら……絶対に……アイツの笑顔を……取り戻すんだ!)

(その為なら……どんな事でも……耐えてやるさ……ああ……耐えてみせるぜ!!)

(コッチの二人にゃ……負けられねェもんな……)

「う〜〜〜ッ……アッ……何か……吹っ切れそうな……気がしてきたぜ……」

「あ……そうだ……メール、メール」



「ん?……当麻……じゃないか……アイツから?」


 to 御坂 from 上条

 sub サンキューな

 御坂へ、飯美味かった。
 ありがとな。
 明日、カギを返したいんで、例
 の自動販売機の前で待ってる。
 時間は8時半頃な。遅れたらゴ
 メン。
 じゃあな。


「……あのバカ……」

「おっ……返信が来たな……」


 to 上条 from 御坂

 sub Re:サンキューな

 何で遅れる事が前提なの?
 遅れたら、電撃してあげるから、
 覚悟しときなさい。


「ヘッ……出来るもんならやってみろってんだ」

 翌朝、久しぶりのベッドを堪能したオレはシッカリ寝坊して、10分遅れで公園に着いたら、コッチの御坂に思いっ切り電撃を浴びせられる事になった……。

 不幸だ……。

942とある右手の番外編 3:2011/03/31(木) 22:10:19 ID:pQM2bJnw

「まったく……ホントに遅れてくるなんて……何考えてんのよ!?」

「……面目ない……」

「で、どうだった?私の電撃の味は……?」

「まさか……ホントに浴びせられるとは思わなかった……」

「あのねぇ……あれくらい、私の当麻なら平気で躱すわよ?」

「『私の当麻』って……オイオイ……」

「何よ?文句でもあるの?」

「い、いえ……何もないです……」

「もう……まぁイイわ……ハイ、これ」

「何だ?……これ……」

「この中には、私からアンタの世界の私へのメッセージが入ってるわ。アンタがどうしようも無くなった時に、これをアンタの世界の私に聴かせなさい」

「えっ!?」

「今のままなら、そういう時が来てしまいそうだから……。そうならない方が良いんだけどね……」

「どうしてそんなコトが分かるんだよッ!?」

「アンタが元の世界に戻った時、多分アンタの周りは当麻に変えられている。今の当麻はそれだけの『力』を持っているから」

「……『力』……?」

「人に影響を与える『力』を持ってるってコト。元々フラグ体質だし、向こうの私やあの銀髪シスターにフラグを立ててもおかしくないわ」

「どういうコトだよ?」

「アンタの世界の私や銀髪シスターが、当麻に惚れちゃうってコトよ。特にアンタの世界の私にとって、今の当麻は刺激が強すぎるわ」

「刺激が強すぎる?」

「完全に理想形だもん……今の当麻は……昔の私のね……」

「そ、……そうなんだ……」

「そんな当麻を知った後に、ヘタレのアンタが戻ってくるのよ。相手にされなくなったっておかしくないわ」

「ヘタレって……それはないんじゃないか?」

「そう見えちゃうってコトよ。まぁ……外れてもないだろうけど?」

「おい……」

「じゃあ……頑張りなさい……」

「な……何だよ?何か俺ともう会えないような言い方じゃないか?」

「もう、多分会う事はないわ」

「どういう……えっ!?」

「じゃあね……頑張ってね……」

「オイッ……アレッ!?……何だ……コレッ!?」

(何だっ!?……何がどうなってるんだよッ!?)

「あ……収まった……のか?」

(教室で寝ている時に感じた感覚と一緒だ……)

「ってコトは……戻ってきたのか?……オレ」

「本当に戻ってきたのかは分からないけど……それを確かめるには……部屋に戻るしかないだろうな……」

「何が起こるか分からないけど……とりあえず……行ってみますか?」

 そう言って、オレは自分の部屋へと足を向けた。

     .*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*.*・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*

「ん?……元に戻れたのか?」

「お帰り……当麻」

「あ……アレッ!?……美琴?」

「そっちも大変だったんじゃない?」

「ああ、ソコソコな……オマエこそ、どうだったんだよ?」

「うん……、それなりにね……」

「そっか……しかし……お騒がせな右手だぜ……まったく」

「ホントよ……お泊まり……一日損しちゃった……」

「あ……そうか……そうなるのか……」

「ね……今夜は……イイでしょ?」

「ああ、オレも一緒に居たい気分なんだよな……」

「エヘッ……嬉しい……」

「ただいま……美琴」

「うんっ!!!!!お帰りッ!!!!!……チュッ♪」

943Mattari:2011/03/31(木) 22:21:18 ID:pQM2bJnw
という事で、以上です。

あくまでもバックグラウンドです。ですので若干辻褄が合わない部分もあります……σ(^◇^;)。
ただ、あちらの当麻が折れていた。という事実を受け入れがたい方も居られるでしょう。
ですが、そこがパラレルワールド編を作り始めた理由でもあります。

敢えて、こういう上条当麻や御坂美琴が居ても良いんじゃないか?
というのがスタートになっています。

ですので、原作の「根」は曲げていないつもりですが、背負っている「条件」は変えています。
今後は長編とは違った形で進めたいと思っています。
が同じ「一本の白き道」である。という進め方でやって行きたいな……と思っております。

ではでは、お楽しみいただけたら幸いです。<(_ _)>

944■■■■:2011/03/31(木) 23:32:27 ID:GzKBEnKw
>>943
        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

945■■■■:2011/03/31(木) 23:54:22 ID:9mWqoyds
お疲れさまでした。イチャイチャの上琴大好きな自分ですが、
向こうの?すれ違ってる上琴が凄く可愛いと思っています。
続きが楽しみです。

946■■■■:2011/04/01(金) 02:15:56 ID:nWd931LU
>>863の続きを投下します。よろしければ五分後に

947■■■■:2011/04/01(金) 02:20:45 ID:nWd931LU
その日の夜、絹旗はアイテムがいるホテルに戻った。絹旗の姿を真っ先に見つけたのは麦野。
当然麦野は本日絹旗が得た情報を求めようと近づくが・・・

「あっ、絹はt・・・」
「お!!絹旗おかえりー!!」

麦野を遮って前に出てきたのは浜面だった。

「悪い麦野。俺絹旗と大事な話があるから先に絹旗を借りるぜ?」

見事なスピードで絹旗を別部屋に連れて行く浜面を見て麦野はポカーンとしかできなかった。

「・・・・・まぁ、いっか。楽しみは後にとっておくものだしね」


浜面が絹旗を連れて行った部屋には滝壺もいた。絹旗はこの2人が何を言いたいのかすぐにわかった。


「絹旗、上条のことを調べたんだろ?」
「ええ・・・」
「その反応はまさか・・・」
「その超まさかです。超電磁砲のこと、2人は超知っていたんですね?」
「隠していたつもりではないんだが俺も麦野がそうだってことさっき知って・・・」
「私は麦野にわかった事をそのまま超伝えます」
「おい!それはヤバイだろ?アイツ今度こそ超電磁砲の事殺すぞ?」
「それでも構いません。私が麦野なら超殺しに行くでしょう」
「え?何かあったのか?」
「それはもう・・・声しか聞きませんでしたが超興味ない私でも超腹が立ちました」
「どんな事があったんだ?」
「浜面と滝壺にはまだ超早い事です。では私は麦野の所へ・・・」


マズイ。このままでは超マズイ。浜面は直感した。別に超電磁砲がどうなってもいいがあの男は別だ。
あの男は自分を、世界を救ってくれた男。そいつを何故か見捨てることができなかった。
でも解決策が浮かばない。麦野は手段を選ばずおの男に近づくだろう。もしかしたら超電磁砲を・・・
それだけはさせたくない!でもどうすれば・・・・

(そうだ!!!)
浜面の逆転の発想が浮かんだ。


「絹旗、お前は麦野に報告しないでいい」
「浜面に口出しをする資格は超ありません。これは麦野が行動を取ることなので」
「そうだ。だから報告しないでいい。俺に任せてくれ」
「・・・・・?」

それだけ言い残すと浜面は麦野の部屋に入って行った。滝壺と絹旗もこっそりとそれに続く。

948■■■■:2011/04/01(金) 02:20:58 ID:nWd931LU
部屋に入ると麦野は相変わらずボーっとしていた。

「麦野、聞きたいことがある」
「ん?何だよ」
「お前・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・上条に惚れただろ」


その瞬間麦野の蹴りが浜面の腹にヒットした。

「ぐぼぁ!!」
「本当に浜面は私に殺されたいようだね・・・」

いつもの死を恐れてしまう言葉。だがその言葉にはいつもの威圧感がない。浜面の言葉に
麦野が耳まで赤くしていた。


「へっ、顔は正直みたいだぞ麦野?」
「ば!・・・違う、さっき酒を少し飲んだから・・・」
「・・・にしては空き缶もグラスもボトルも見当たらないな、この部屋」
「・・・・殺す」
「だぁーー!!待て!!俺はお前を冷やかすつもりは全くない!少しアドバイスをしてあげようと思っただけだ!!」
「アドバイスだぁ?浜面がこの私に?」
「そうだ。俺はお前より上条のことを知っているんだぜ?」
「・・・・・聞くだけ聞いてやんよ」
「まず・・・そうだな。あいつは・・・バカだ」
「・・・・・・・・は?」
「そう、上条はバカなんだ!だから安直な作戦や行動より直球アピールじゃないとダメなんだよ!」
「どういうことだ?」
「お前、絹旗に上条のこと調べさせただろ?それじゃダメなんだよ。裏でコソコソ行動を取るよりも
バカなアイツには直接ハッキリと言わないとお前の気持ちには気付いてくれないぞ!?それに
お前はレベル5の第4位の前に一人の・・・・・・女の子だから」
「・・・・・・・・・・・・・ふん」
「だからお前の口から直接伝えないといけないぞ?能力で思いを伝えるとかいうのはナシだからな?
アイツも一応無能力者なんだから」
「うるせえなぁ。浜面もあの男みたいに説教まがいな事してんじゃねぇよ」
「俺だって無能力者だ」
「その私を何回も打ち負かしたのによく言うよ・・・」
「へっ・・・・・・・・」
「んじゃ、早速明日から行動しちゃおっかな〜。あ、浜面には悪いけど絹旗の情報は少しだけもらうから」
「え・・・?」
「絹旗―!どうせ聞き耳立ててんだろ!?上条が通っている学校教えてよー」
「そ、それだけでいいのか麦野・・・」
「あん?確実に会うための情報だけでいいさ。それに浜面がさっき言ってたじゃん」
「・・・・・・・そか、頑張れよ」


ここで初めて浜面は自分の行動を後悔した。はっきり言って自分が麦野にこれから取らせる行動は
「当たって砕けろ」だ。麦野は上条が超電磁砲と付き合っていることは知らない。
だけど自分たちだけが砕けるとわかっている結末なのに背中を押すという人道的に反していると思った。
でもこれも麦野の為。もっと麦野が素晴らしい能力者、人間、いや、一人の女性になってほしいという
自分のエゴだけが浜面の頭の中を支配してしまっていた。

949■■■■:2011/04/01(金) 02:21:28 ID:nWd931LU
翌日

毎朝途中まで上条と登校する美琴。待ち合わせはいつもの公園。いつもの癖で時間の30分前には
到着しているのだが、珍しく公園に人影が見えた。
もちろん相手は上条当麻・・・ではない。レベル5の第4位の麦野だった。
第4位は美琴御用達の自販機に体を預けて誰かを待っているような様子だ。

(何であの人がここに・・・)
美琴が思い返したのは上条から教えてもらった先日の夜の出来事・・・

もしかしたら当麻を狙っている?このままだと当麻が危ない。そう思った美琴は咄嗟に上条にメールを送る。

『今日は待ち合わせて学校に行くのやめよう!公園は今日危ないと思う!』

自分でもなんて意味深なメールだろうと思ったがそこまで考えきれなかった。だが上条からすぐ返信が来た。

『あと30歩程度で着く距離ですよ?』

ということはもう・・・

いつも登場してくる所を見ると・・・ちょうど現れてきた。終わった。美琴はそう思った。
美琴しかいないだろうと警戒心ゼロの上条。麦野の存在には全く気付かずあくびをしながら
公園に入ってくるのが見えた。
麦野が上条の姿を見つけると臨戦態勢を取るのが見えた。美琴はいつでも飛び出せるように準備する。



上条は公園の中をキョロキョロと見渡す。「あれ?美琴は?」というような顔をしながら。
すると視界に一人の女性が目に入る。

「あれ?お前は・・・」
「この前のことを謝りたくて色々調べさせてもらったんだよ、すまなかった」
「いや、いいんだ。俺もつい熱くなってしまって・・・」
「アンタ、なかなか男らしい所があるのね?浜面に聞いたよ。無能力者なんですって?」
「アイツのほうが男気あると思うけどな。ていうかそれを言うためだけにこんな早くから待っていたのか?」
「いや、ち、違う!もっと別の用事があって・・・・・////」
「・・・・?」

この人妙に顔赤いな〜と思いながら次の言葉を待つ上条。美琴以外の女性にはまだまだ鈍いのだ。

「あー!!ここで話すのはなんだからお茶するかこの野郎!!」
「はい?」

一瞬の静寂。上条の目の前の女性は茹ダコのように赤くなっていた。

「あ・・・あ・・・だ、だから・・・どっか行こうって言ってんだよ!!ほら、行くよ!」
「ておい!俺はこれから学校・・・美琴が・・・」
「どこがいい?朝からステーキってのもいいねぇ〜」
「聞いてね〜〜〜!!!」


(あんの第4位〜〜・・・私がいるってのに当麻に手を出すなんていい度胸じゃない・・・
ていうか当麻も何?悪くない顔しちゃってさ。こうなったらとことん私が当麻にふさわしい女
ということを証明してやろうじゃない)

美琴はダッシュかつこっそりと2人の後をつけた。

一方、

「麦野にしては超頑張りましたけどタイミングってのが超悪かったですね」
「そして超電磁砲が追いかけて行った・・・これは・・・」
「滝壺、今超電磁砲怒ってたよな?」
「多分。これから血が流れる」
「私はこっちのほうが超燃えますね」
「・・・・平和的に解決できないのか」

950■■■■:2011/04/01(金) 02:21:58 ID:nWd931LU
「さあ、何が食べたい?」
「いや、学校に行かないといけないのですが・・・」

麦野御用達のお店に入り、麦野はルンルンと楽しそうだが上条はそうでもない。

「私はこの鮭弁がお勧めだけどぉ〜?」
「あの、学校・・・」
「あん?この時間ならもうとっくに遅刻決定だろ?ほら、気にせず何でも選んで」
「・・・・・・・不幸だ」

上条は根負けして麦野がゴリ押しする鮭弁を頼むことに。しかしこの光景を誰かに見られていたら?
土御門、青髪、吹寄、他のクラスメイト、小萌先生、そして美琴。絶対にバレてはいけない気がしてならなかった。

「どうした?顔が青いよ?」

ダラダラと冷や汗をかきながら考えている上条を見て麦野が気を配る。

「あ、いや・・・ちょっと体調悪いみたいで。熱あるかもしれないから帰るわ」
「んん〜?どれどれ?」


麦野は自分のおでこと上条のおでこを合わせた。


「っ!!!!!////」
「ん〜熱はないみたいだぞ?」
「いや、そう、腹が痛いんだ!上条さんはとてもではないが鮭弁を食べる腹じゃないんだよ!あはは・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?」

麦野が固まってジッとしている。というより睨んでいる。

「あの〜・・・不謹慎な発言をしたなら謝ります・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

だが麦野は微動だにしない。上条を睨みつけていると思っていたが視線の先は上条の頭の上、
上条の後ろにいつの間にか立っている人物のようだ。上条が振り返ると一番恐れていた人物がいた。

「おはよう当麻。楽しそうね?」

ジッと観察していたが我慢ならず飛び出して来た美琴がバチバチと電気を鳴らしながら立っていた。




「な・・・美・・・・・琴?何故ここに?」
「アンタはた〜っぷり話したいことあるから後でね。その前に・・・そこの泥棒猫!!」


美琴がビシ!!と麦野に指をさす。どこからかゴングが鳴る音が聞こえてきた。

「ああ?誰が泥棒猫だって?」
「アンタよアンタ!!私の当麻に手を出すのはやめてもらえるかしら?」
「あぁ?誰の当麻だってぇ?寝言は寝て言え小娘が」
「あ〜はいはい。それじゃおでこをくっつけあうよりももっと証拠になる所を見せてあげる」


すると美琴は上条の肩に顔を置いて

「あむっ」
「ひっ・・・・・・・・・・」

上条の耳を甘噛みした。

「ふん!こ・・・これでどう?私たちが付き合っているってことよ〜くおわかり?」
「あはははは!第3位、アンタのほうが顔真っ赤だっての!!」
「そ、そんなことにゃい!!」
「ほらお兄さん、こんな子供といるより大人な私といるほうが楽しいぜ〜?夜もコイツより楽しませる自身はあるよ〜?」
「ちょ・・・2人共、ここお店です。ちょっと話が卑猥ですことよ?」
「何当麻、私の体あれだけ楽しんでいるくせにその言い方は何?」
「う・・・・・・・・」
「ほら!これで当麻は私にメロメロだってこと証明できたわよ?諦めてさっさと帰りなさい!!」
「それじゃどうして子供ができてないのかにゃ〜?所詮はごっこ遊びなんだよ!」
「ちょっと!話の内容がズレていることに気付いているの俺だけですか!?」
「・・・・・・・・・・・」
「ほぅら、何も言い返せない!早く尻尾巻いて帰れっつうの第3位が」
「・・・・・・・・・もん」
「「・・・・・・・・・・・・・・え?」」
「私・・・・・・が・・・・・・るもん」
「言いたいことがるならはっきり言えよはっきりぃ!」
「悪い美琴、俺もよく聞こえなかった」
「それじゃ後悔しないように耳の穴かっぽじって聞いてなさい」


美琴は顔を真っ赤にした常態でゆっくりと息を吸った。そして大きい声でしっかりと発言した。

ここがお店だということも忘れて。

「私のお腹の中に当麻との赤ちゃんがいるもん!!!!!!」



「・・・・・え?美・・・・・」

一番動揺したのは上条だった。

951■■■■:2011/04/01(金) 02:23:04 ID:nWd931LU
とりあえずここまでです。ネタ切れ、進んでも下ネタにしかならないという自分のふがいなさに苦労してます

952■■■■:2011/04/01(金) 02:33:59 ID:LMxnXPuw
あースクイズだこれー 中に誰もいませんよー

953■■■■:2011/04/01(金) 04:36:31 ID:efS5p02M
もう950超えてるのか……このスレの間に後2本書こうと思ってたけど次スレ行きかな

>>951
ちゅうがくせーにてをだしたすごいひとかっこかり
上条さんはそんな茨の道を進んでいくんですね……

954■■■■:2011/04/01(金) 08:47:01 ID:TF3ltLto
乙です!!
美琴やっちまったなwww

955■■■■:2011/04/01(金) 09:15:18 ID:J3fphqLQ
乙!

956■■■■:2011/04/01(金) 10:44:13 ID:i5CcutOc
>>951
美琴センセー……。

957■■■■:2011/04/01(金) 10:45:42 ID:HpXK59zs
いや、待てよ・・・
今日はエイプリルフール・・・

958■■■■:2011/04/01(金) 10:58:08 ID:Y.qYjWJc
そ、そうだよな...今日は...エ、エイプリルフールだから...ああああああああああああああああ

959■■■■:2011/04/01(金) 15:49:35 ID:efS5p02M
そう、エイプリルフールだから小ネタを一本投下します
今までに何本か投下したけど時間軸は一緒じゃないです、ほんとだよ

2,3分後に投下します

960ちょうどいい甘さで?:2011/04/01(金) 15:52:44 ID:efS5p02M
「アンタ、ブラックだなんてよく飲めるわね」
「そういう美琴だって砂糖入れ過ぎじゃないか。胸やけしそうだぞ、これ」

四月のある休日、無事に進級した上条当麻と御坂美琴はデートの度にいつも立ち寄る喫茶店にいた。
上条当麻が頼んだのはごく普通のレギュラーコーヒー。
それに対して御坂美琴が頼んだのはカフェ・オレ。
お互いがいつも美味しそうに飲んでるので、たまには交換しようという流れになったのだが

「この甘さは凶器だろ……」
「こんな苦いだけのもの、飲んでたって美味しくないじゃない」
「おやおやぁ、美琴さんはやっぱり舌が子供なんですね」
「な、何よその顔は。ちょっと苦いのが苦手なだけで子供じゃないわよ!!」
「……へー」
「くっ、むかつく……」

喫茶店の中ということもありさすがに電撃を出すのは堪えているが、
「私怒ってます」と言わんばかりにこめかみを引きつらせている御坂美琴をよそに上条当麻は窓の外を見ていた。

上条当麻と御坂美琴の全力の追いかけっこが始まるまであと五分。




「はぁ…はぁ……つ、疲れた」
「ただいまー。アンタが悪いんだからね」

口ではそういうが、追いかけっこを堪能したのか「私、楽しくて幸せです」といった顔の御坂美琴。
未だに素直になりきれない自分の彼女から、満足してますという感情を読み取った上条当麻は苦笑を浮かべると御坂美琴に座って待つように伝え飲み物の準備を始めた。

「で、アンタはブラックを用意して私への嫌がらせをしたいの?」
「今日のことで考えてたんだけどな、苦すぎず甘すぎずちょうどいい甘さに出来ればと思ったんだよ」
「まあそうね……私もアンタと同じ物飲みたいし、ふ、深い意味なんてないのよ!!」
「分かってるって、俺も美琴と同じ気持ちだしな」
「あ……と、当麻」

気持ちが同じ、通じ合ってるということに夢ごこちになる御坂美琴だったが、ようやくおかしなところに気づいた。

「あれ?そういえば何で一つしかカップがないの?」
「あぁ、それか。言ったろ、ちょうどいい甘さにしたい、一緒のもの飲みたいって」
「え…え……え?それって」
「こういうことだよ」
「ぅん……」

御坂美琴が感じたのは唇に感じる愛しい人の温もり、愛しい人の匂い、口の中に溢れてくるコーヒーの程よい苦味。

「と、とうまぁ……もう一回、ダメ、かな」
「ダメじゃないけど、そのあとは美琴が俺に飲ませてくれよな」
「う、うん……頑張る」

あまりの幸せに意識を手放しそうになるのを堪えて、目の前の彼の為に御坂美琴は微笑むのだった。

961■■■■:2011/04/01(金) 15:56:10 ID:efS5p02M
小ネタなんで1レスで投下終了です
エイプリルフールらしく(?)ネタを嘘宣言してみました
なんか上手く書けませんでしたので1000埋めネタおとなしく書いてます

///心の声///
(突撃〇〇の〜とか逆転お試し版と同一人物が書いてるとか言わなきゃバレないはず)

962■■■■:2011/04/01(金) 17:46:10 ID:J3fphqLQ
あまりの甘さに俺の意識は手放されました
乙です!

963■■■■:2011/04/01(金) 18:03:30 ID:Y5zexpus
>>961
GJです〜〜。
しかしながらコーヒーネタで先を超されるとは・・・(-.-;)ブツブツ。
ウーン・・・(´〜`;)なんか考えねば・・・。

964■■■■:2011/04/01(金) 18:04:31 ID:GmAXhuIg
くはあああ・・・!
どうせなら口写ししてる描写も欲しかった!
でも甘いのでGJ

965■■■■:2011/04/01(金) 21:03:40 ID:3UUSHdOA
GJ!! 甘い上琴ごちそうさまでした。

それでは自分も一つ短編を。
今誰もいないですよね……?

966どこまでが嘘?:2011/04/01(金) 21:05:38 ID:3UUSHdOA
日も傾き、明るいオレンジ色に染められた学園都市。
そんな中第七学区では完全下校時刻も近いということで、学生達が各々の帰路についていた。
ここはとある自販機の前。
普通はあまり待ち合わせの場所にはしないが、そこで誰かを待ち続ける少女がいた。
服装はベージュのブレザーに紺系のチェックのスカート、サラサラとした茶色い髪には花のヘアピンが付けられている。
彼女の名前は御坂美琴。学園都市でも五本の指にはいる名門校、常盤台中学のエースである。

そんなスーパーお嬢様な彼女だが、現在はいつもの堂々とした立ち振舞いは見られない。
代わりに顔全体をほんのりと赤く染めて、どこかモジモジとしているようだ。

「お、落ち着け私! 今日はエイプリルフールよ!!」

そう、今日は四月一日。世間一般では『嘘をついても良い日』だ。
そして美琴はこの日を利用してあのツンツン頭の高校生、上条当麻に『嘘の告白』をしようとしていた。
しかし美琴の上条への想いは決して嘘なんかではない。あくまでこれは本番に向けての予行練習という事にしていた。
だからもし仮にオーケーの返事が返ってきたとしても、嘘であることは言うつもりだ。
そんなもので告白が成功したとしても、初めから逃げ道を作っている様なものなので、美琴自身が許せないからだ。

そしてその時、向こう側からやたらと幸薄そうな表情をした高校生が、鞄を肩に担いで現れた。
万年補習まみれの無能力者、上条当麻である。

(き、きた……!! よし、言うわよ!!)

美琴はそれを確認すると、ぐっと拳を握りしめ覚悟を決める。
そして軽く小走りで正面から近づくと、無視できないように大声で呼び止める。

「ちょ、ちょっと! アンタその……にゃにしてんの!?」

(噛んだ………………)

散々心を落ち着かせようとした努力も空しく、恥ずかしさで顔を真っ赤にする美琴。
端から見れば可愛らしいものだが、本人としては大失態のようだ。

「は、はい? あぁ御坂か、どした?」

「えっ? え、あの……ね」

上条は美琴が噛んだことに気付かなかったのか、それともあえてスルーしているのかは分からないが、そのままいつもの調子で答える。
その事に逆に面食らった美琴は、思わず口ごもってしまう。
しかしここで何も言わないわけにはいかない。
美琴は一、二回大きく深呼吸をすると、じっと上条の顔を見つめ口を開く。

「ずっと前からアンタの事が好きでした!!!!!」

967どこまでが嘘?:2011/04/01(金) 21:07:56 ID:3UUSHdOA

言ってしまった。
これは嘘だというのに、美琴の心臓はこれでもかという程高鳴り、顔は真っ赤である。
実は能力の方も暴走しかけで、必死に漏電しないように抑えていた。
予行演習でこんなだったら本番ではどうなってしまうのだろうか、と不安にもなる。

一方上条はというと、まさにポカンといった様子で呆然としていた。
しかしふと我に帰ると、上条は美琴にとって予想外な行動に出た。
なんと笑いだしたのだ。

「はははっ!! 御坂お前なーいくらエイプリルフールだからって、どうせ嘘つくならもっと現実味のある嘘つかねーと誰も騙せねえぞ?」

「なっ!!」

そう、上条は今日がエイプリルフールで、美琴の言葉も嘘であると見抜いていた。
というのも朝から色々な人達から嘘をつかれまくったというのが大きかった。
朝から茶碗一杯のご飯を食べただけのインデックスが「お腹一杯なんだよ」と言ったり、小萌先生には「上条ちゃん、留年決定です♪」などと言われたり……。
最初は騙されまくりでその度に驚かされていたのだが、今はそんな事もない。
さらに美琴がついた嘘なんていうのは、青髪ピアスのついた「三次元の彼女ができたんや!!」という嘘と同じくらい分かりやすいものだった。

「しっかし御坂が俺の事が好きとか……くくくっ!!
 お前それなら、『白井黒子に彼氏が出来た』の方がまだマシだぜ? あー腹いてー」

「……………………」

なおも笑い続ける上条。終いには腹を押さえて、目にはうっすらと涙を浮かべている。
そんな上条の様子がとてつもなく気に入らないのは美琴だ。
今や明らかに不機嫌になっており、上条を睨んでいるのだが、本人は笑うのに忙しくてまったく気付かない。
しかし美琴としても怒ろうにも怒れず、ただ拳を握りしめてプルプルする事しか出来ない。

「あはははは、じゃあそろそろ俺は帰るな! エイプリルフールは色々散々だったけど、最後に笑わせてもらったよ、サンキュー!
 でも来年はもっとマシな嘘考えとけよー」

未だに笑いが止まらない様子の上条は、そんな事を言いながら美琴に背を向ける。
だがその言葉についに美琴の中で何かが切れた。

968どこまでが嘘?:2011/04/01(金) 21:09:09 ID:3UUSHdOA
「…………じゃないわよ」

「ん?」

上条の背に向かって低い声をあげる美琴。
あまり大きな声ではなかったが、その重さが伝わったのか、上条も立ち止まり美琴の方を見る。
そこで美琴は大きめに息を吸い込んだ。不思議と最初の告白の時ほどの緊張はないが、それでもどうしても頬は染まってしまう。

「嘘じゃないって言ってんのよ!!!!!」

今度こそ言ってしまった。
美琴はこんな形で言うつもりはなかったのに、と少し後悔する。
しかし仕方がなかった。自分の事をちっとも女として扱わない上条にどうしようもなく腹がたったのだ。
そして次第に美琴の中に別の感情が渦巻いてくるのも感じていた。
それは恐怖。ここでもし拒絶されたら、もう今までの関係には戻れないんじゃないかと思うとどうしようもなく怖かった。
そんな感情が芽生え、美琴はその言葉とは裏腹にビクビクしながら返事を待っていた。

しかし上条の反応はというと…………。

「……ん? えーと、今度は嘘じゃないってのが嘘って事か? おいおい、上条さんはバカなんですから、もうちょっと分かりやすいので頼みますよ美琴センセー」

「ち、ちがっ!!」

「じゃあそろそろ帰らないとうるさいのがいるからさ。またなー」

今度の美琴の言葉は届かずに、さっさと立ち去っていく上条。
二回目の告白も嘘だと思ってくれたのは美琴にとって幸か不幸か。
それでもあそこまで言ったのに嘘だと処理されてしまうのは、上条の鈍感によるものもあるだろうが、エイプリルフールの魔力によるものも大きいだろう。
それならば…………。

(明日から……四月一日以外の日に毎日告白しまくる!! これならさすがに嘘だとは思わないでしょ!!! 覚悟しなさい!!!)

そんな事を決心した美琴は、上条が歩いていった方向を鋭い目でキッと睨む。
そしてその後、常盤台の寮へ向けて歩き出す。
その足取りはいつもよりしっかりとしていて、どこか力強くも感じることが出来た。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


一方そんな超鈍感男上条当麻は既に学生寮近くまで来ていた。
頭の中では、最近作ったものと被らない献立の内容を考えていた。同居人に飽きたなどと文句を言わせないためだ。
しかしそんな思考の中に、ふと先程の美琴の『嘘』が入り込んでくる。

『嘘じゃないって言ってんのよ!!!!!』

今思えばあの剣幕に、少々赤く染まった頬。
鈍感な上条の頭の中にも、「もしかしたら……」などという考えも浮かぶ。
しかしその瞬間、ぶんぶんと頭を振って無理矢理その考えを消去する。

(なーに考えてんだか俺は。だいたいアイツは中学生中学生)

数分後、上条の頭の中は再び今日の献立で一杯になっていた。
この時はまだ、明日から起きる不幸?には微塵も気付かずにいた上条当麻だった。

969■■■■:2011/04/01(金) 21:11:59 ID:3UUSHdOA
以上です。読んでくださった方はありがとうございます!

一応長編の「一端覧祭大騒動」は書き溜めが収まりきらないと思うので、次スレに投稿します!

970夢旅人:2011/04/01(金) 22:35:00 ID:7GxtzA2M
投下します。

大見得きったはいいけれど、敵はあまりに強大でした。
しかし負けるとわかっていても、男には戦わなければ(ry
ほう、もう勝ったと思っているな。
では教育してやろうではないか。

971夢旅人:2011/04/01(金) 22:35:33 ID:7GxtzA2M
『Time enough for Love』

0. 「In the door back」

 2人きりのエレベーター。
 やがてチャイムが聞こえ、軽い眩暈のような感覚とともに、扉が開く。
 女は男にそっと肩を抱かれ、柔らかな絨毯が敷かれた、静かな空間を行く。
 女にとって、長いような、それでいて短い時の流れが、この先に待つものを思わせる。
 ここまで来たなら、もう戻れない。

 「――もう戻ることはない……」

 そう微かに呟いたのは、男なのか、それとも女なのか。

 やがて部屋の前に着くと、男は鍵を開け、中へ女を導いた。
 男は後ろ手にドアを閉めた。
 その時、まるで飛び込むように、女が男に抱きついてきた。
 その勢いに押され、ドアに背を預けた男は、黙って女を抱き締めた。
 
 「ね……お願い……もう少し……このままでいさせて……」

 そのまま女は、男の胸で涙を流し続けた。

 「ここでしか……私……泣けないから……当麻……」
 「――美琴……」

972夢旅人:2011/04/01(金) 22:36:16 ID:7GxtzA2M
1. 「Tears for Fears」

 上条当麻が、彼の同居人であり、被保護者たる銀髪の美少女への気持ちを意識し始めたのはいつ頃からだろう。
 それはおそらく上条自身にも、わからない。
 ただ、上条が病院のベッドで目を覚ました時、『禁書目録−インデックス』と名乗る少女を悲しませたくないという思いが残っていた。
 記憶を失った彼にとって、その感情がなにかはわからなかったが、大切なもののように思えた。
 後にして思えば、多分、彼ら2人の一番の不幸は、おそらくこの時に、決定的になったのだろう。
 そしてこの上条当麻に関わる、もう一人の少女、御坂美琴にとってもそれは同じだった。

 学園都市とその世界にとって、平穏な日々、激動の日々が過ぎた。
 上条、インデックス、美琴も、ともに同じ年月を経ることで、彼らは成長していった。
 上条は大学入試を翌日に控え、もはや抑えきれなくなった自らの気持ちを、インデックスに打ち明けた。

 「インデックス。俺はお前が好きだ。一人の女の子として、もうどうしようもないくらい愛している。
俺は一生お前とともに生きていたい。
俺にとって、この試験はお前と一緒にいるために、大切なものだと思っている。
でもこの気持ちを隠したまま、試験に臨むのは今の俺には無理だ。
だからこそ、今この気持ちを打ち明けて、明日の試験は全力で臨もうと思う。
だから返事は、今じゃなくていい。合格発表の時に聞かせてもらえたらいいと思っている」

 その言葉に驚いたインデックスが見た当麻の顔は、それまで見たことが無いほど、彼女の心を大きく震わせた。
 一方で、インデックスの赤くなった顔の、僅かな陰に、上条は気付かなかった。
 お互い一緒に暮らし始めてより、意識しない日がないはずはなく、いつかはこの日が来ることは、分かっていたはずだった。
 いや、解っていなかったのは上条の方かもしれない。
 インデックスは解っていた。
 かつて1年ごとに記憶を消されていた年月があったとしても、『修道女』とはこれまでの彼女の全てだ。
 たとえ頭のなかに、10万3千冊の魔道書があろうとも、それは知識としての記憶でしかなく、彼女が生きるうえでの道具に他ならない。
 『修道女』とは、自らの全てで持って、神に仕え、神を伴侶として、その教えに沿い生涯を送ること。
 家族や恋愛さえも越えた、『愛』でもって、全てを捨て、全てを生かすように生きる。
 インデックスの矜持を、上条は本当に解っていなかった。
 そして合格発表の日、合格通知を手にした上条は、インデックスの元に飛び込んできたが、現実は残酷だった。

――私もとうまのことが大好きなんだよ……。
――インデックスも、出来ればとうまとはずっとずっと一緒にいたいかも……。
――でもねとうま。私の隣にずっと一緒にいられるのは、神様だけなんだよ……。
――例えとうまがその右手を使おうとも、これが私の生きる道だから譲れないかも……。
――私が大好きなとうま。そんなとうまが望んだって、そこには入れてあげられないんだよ……。
――だから……、だから……、ごめんね……。とうまとは……、ごめんなさいなんだよ……。

 それはまるで上条の右手のように、自身の『幻想』をぶち壊した。

「―――――あああああああああああ………………」

 上条の心が悲鳴をあげる。
 ひざから崩れ落ちた上条の身体が震え、もはや目には何も映らず、耳は何も聞こえず、口からは声にならない叫びが漏れるだけであった。
 一生に一度の恋か、などと一人ごちた時が懐かしく感じるほどに、彼はその重さに潰れてしまった。

 もし、上条がその愛をインデックスに告白することが無かったら、また違った道が現れたかもしれない。
 ここで今言えることは、これからの上条と美琴の運命を、大きく変えていく、ということだけだ。

 やがて、上条が大学に入学する日、インデックスは自身の道を進むため、彼の元を離れた。

973夢旅人:2011/04/01(金) 22:37:21 ID:7GxtzA2M


 御坂美琴の恋は一途である。
 彼女の片思いは、彼女が高校生になっても変わっていない。
 ただ、彼女は家庭教師として、彼女の想い人とその同居人との間に、良好な関係を築いていた。
 美琴は、上条の気持ちが向かう先に気付いている。
 同じようにインデックスも美琴の気持ちが向かう先に気付いている。
 それぞれの想いの報われなさに、何がしかの共感を覚えていた彼女らは、一度打ち解けてしまえば、まるで昔からの親友か姉妹のようになった。

 上条の入試が近付いた頃から、インデックスは美琴の部屋で寝食をともにしていた。
 彼の勉強の妨げにならぬよう、彼女らが相談した上でのことだ。
 この入試に、上条が並々ならぬ決意で臨んでいることは、美琴にも分かっていた。
 もちろんその理由についてもだ。
 しかし彼女は、上条の助けとなるために、自分の想いを抑え、ひたすら彼のために尽くそうと決めていた。
 そんな美琴の決意に気付いていたインデックスは、他に何も言わず、ただ感謝の気持ちだけを伝えるだけだった。

 インデックスが上条から告白された日、美琴はその事を冷静に受け止めることが出来た。
 以前の彼女であれば、とても耐えられないであろうが、成長した彼女には、それは悲しくはあっても、覚悟をしていたこともあって、黙ってインデックスの話を聞くことが出来た。
 しかしインデックスの口からは、彼女が予想だにしないことを聞かされた。

「みこと、私はどうしようもない罪びとになるんだよ……」
「え……?」
「みことも知っている通り、私はシスターなんだよ。
だから、とうまと一緒になることは出来ないんだよ」
「なんでよっ!アンタ、アイツの気持ち知ってるんでしょ!!
それにアンタだって、アイツのこと好きなんでしょ!!
アイツがアンタのためにどんな目に合ったか知ってて言ってるの!!」
「もちろんなんだよ……。私の為なら、とうまが全てを捨てても愛してくれるってことも含めて……。
それに私だってとうまのためならって思うこともあるんだよ。
でもね、みこと。私はとうまと出会う前からシスターなんだよ。
記憶を消される前からずっとシスターなんだよ。
私の心の中にはね、多分とうまだけじゃない他の人の思いが、残っているのかも。
とうまと一緒に、なにもかも捨ててしまったら、その人たちの思いは救われないんだよ。
私が、私であるためには、私が覚えていない、これまで一緒だった人も愛し、祈り、その思いと共に救うんだよ。
とうまだけを愛することは、私のシスターとしての矜持が許さない……。
これは悲しいけれど、私の宿命であり、運命であり、唯一進むべき道なの。
私も、とうまもみことも、背負っているものはとても重いんだよ……。
だからこそ、自分の道を信じて進むしかできないと思うのかも……」

 美琴は、インデックスの覚悟に愕然とした。
 この少女は、いったいどれ程の覚悟と、矜持を持っているのだろうか。
 自分は、果たしてこれまで、彼女と並び立つだけの覚悟が出来ていたのかと。
 彼女の矜持を、どれほど理解していたのかと。
 自分の決めた生き方を貫くために、自分さえも捨てていく。
 そんな生き方が出来るインデックスという名の少女に、美琴はあらためて凄いと思った。

974夢旅人:2011/04/01(金) 22:37:46 ID:7GxtzA2M

「インデックス、あなた本当にそれでいいの?
本当にそれがあなたの進むべき道なの?」
「多分……としか今は言えないかも。
本当ならもっと早くに、こうなる前に、とうまとさよならするべきだったかも……。
今更遅いんだけれど、これは私の弱さが招いた罪なんだよ……。
とうまのやさしさに甘えて、神様に嫌われちゃったかも……」
「ううん、違うわ……。
アンタは……アイツを救うためにここにいるのよ……。
あの不幸で、どうしようもない馬鹿で、女心もわからない朴念仁だけれど……、アイツだけが傷付く世界なんて、私だって耐えられないの……。
アイツだけが救われないなんて、そんな神様だったら、この世に必要ない……わ……。
だから……アンタはアイツを救って……あげてよ……お願いだから……」

 敗北感と、喪失感と、上条への想いが綯い交ぜとなり、美琴は涙が止まらなかった。
 そんな美琴を、慰めるようにインデックスは言った。

「私ね、とうまに聞いたことがあるの……。
とうまとはじめて会ったときにね、地獄の底までついてきてくれるかって……。
でも返事は聞かなかった……。ううん、聞けなかった……。
とうまは生まれ付いての不幸だから、これ以上不幸にするわけにいかないの」

――それに、といって、インデックスは美琴の手をとった。

「とうまを、本当の意味で幸せに出来るのは、私じゃないんだよ。
みこと、あなたならそれが出来るかも」

 美琴は涙の流れる顔を上げ、インデックスの顔を見た。
 インデックスの笑顔は、まるで聖母のようなやさしさと、思いやりに溢れていた。

「とうまはね、自分の事を置いておいて、みんなの笑顔を守るために戦っているの。
そんなとうまを、私が独り占めするわけにはいかないんだよ。
とうまは我が侭さえ許されないのが、とうまの不幸なのかも。
みことなら、そんなとうまを支えることが出来るのかも。
私はとうまの帰りを待つことしか出来ないから……。
でもみことなら、とうまの夢のために、一緒に戦えると思うんだよ。
だからこれはインデックスからのお願いなんだよ。
みことには、とうまと一緒にいて欲しいの……」

 美琴はインデックスを抱き締めて、ただ泣くだけしか出来なかった。
 インデックスもそんな美琴と抱き合って、涙を流していた。

「みこと、私はね、来月イギリスに戻ろうと思う。
これ以上とうまに甘えていると、私もとうまも進むべき道から外れてしまうかも……」
「インデックス……あなた……」
「私がいなくなることで、当麻はかなり苦しむかも……。
でもそれは仕方の無いことなんだよ……。
ただ私達のツケを、みことに押し付けてしまうことだけが心残りなんだよ……。
でもみことは、私達を救うことが出来ると思うんだよ……。
それはみことにとってはとてもつらい道になるかも……。
だから私はみことにお願いするしか出来ないんだよ……。
お願い……とうまを……助けてあげて……お願い……」

 その日、2人の少女は、1人の少年のために、涙を流し続けていた。

-----------------------------------------続く

975夢旅人:2011/04/01(金) 22:40:14 ID:7GxtzA2M
以上です。
終わりが見えてません。
見切り発車です。
あのスレの全くのインスパイアな部分もあります。

だけど、アレに立ち向かわなければ、トラウマ解消にならないので、
もがけるだけもがいて見せますよ。

ついでに次スレ立ててきます。

976夢旅人:2011/04/01(金) 22:57:18 ID:7GxtzA2M
スレ、立ててきました。

>>943
GJです。
多元世界(パラレルワールド)モノ、いいですね。

>>951
GJです。
うわわわわwなのが実に良いかも。
やっちまった感な美琴がなんともで。

>>961
GJです。
うんうん、やはりキスシーンは(ry

>>969
GJです。
「一端覧祭大騒動」も楽しみにしてます。

977■■■■:2011/04/01(金) 23:21:44 ID:bX2ylg52
最後に上琴になれば良いってもんなのかなあ。
ここっていちゃスレだよなあ。

978■■■■:2011/04/01(金) 23:21:51 ID:Jzsq4eYY
>>969
4月1日に補習を受けてるって留年ってあながち嘘に思えなかったりして…
現実味の無い嘘って言われて怒って明日から毎日告白し続けると決意する美琴可愛い
乙です

>>夢旅人
次スレ立て乙です
美琴が健気で成長し心が強くなってて最高です
上条は私が勝手に予想するイメージに向かわずに
ちゃんと美琴の関係の答えを導き出せるといいなと思いました
乙です

979■■■■:2011/04/01(金) 23:36:03 ID:i5CcutOc
>>969
>>976
        __
 _n    .'´  `ヽ
( l    8レノノノ゙i  }
 \ \ 从゚ヮ ゚*l)从
   ヽ___ ̄ ̄  )   Good Job !!
     /    /

誘導
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part16
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1301665322/

980■■■■:2011/04/01(金) 23:43:26 ID:Jzsq4eYY
>>977
一理あるとは思うがスレの方針みたいのは1スレ目から変わってないだから今更とは思う…
そんな貴方に「上条さんと美琴の”最後は必ず”いちゃいちゃSS」と脳内補完するという案を提示してみる

981■■■■:2011/04/02(土) 01:05:47 ID:9FXh7mag
>>976
GJです! シリアスいいですね!
あとスレ立て乙です

982■■■■:2011/04/02(土) 01:20:07 ID:tTo.1GvU
書き手には(最終的にスレに添った内容になるのなら)好きに書いてもらえば良いんだよ
上条さんがクズすぎて読み飛ばしてる俺みたいのもいるし取捨選択はこっちで好きにやれば良いだけ

983■■■■:2011/04/02(土) 01:50:13 ID:siosqgJo
そうそう、いろんな上琴があるから面白いんだし。


普段があれだから、上条さんには幸せになって欲しいけど。

984■■■■:2011/04/02(土) 04:40:47 ID:7RUoK/uk
上条さんと美琴は幸せになるべきだな

985GM051:2011/04/02(土) 06:49:12 ID:tdljr2zM
昨日コーヒー書いたものですがっていい加減名前つけろよってことで命名しときました。
突撃・◯◯の〜〜 2本と
貴方の為に    1本と
年齢逆転お試し版 1本と
ちょうどいい甘さで? の1本+書きかけの裏1本

公開済み5本+994ぐらいまでに公開予定1本と1000埋めネタ(?)SS製作中です

なんか色々言いましたがつまりは、上記の作品は「GM051」という作者名でまとめお願いします。ということです

986■■■■:2011/04/02(土) 11:33:02 ID:zEkb7x2I
なんかもう早いもんでもうパート16なんだよな〜

987■■■■:2011/04/02(土) 12:58:45 ID:LgALZKMk
ここ数日、シリアス否定派の方の意見が見られるけどそれってどうなのかなと思う。
だってここってSSスレでしょ。物語である以上山も谷もあるのは当たり前なんだし。そのギャップで萌えること
だってある。
確かに>>975夢旅人さんの作品なんか、投下分だけでは心臓がきゅっとなるけど最後は上琴って決まってる
以上、余計な心配をせずに物語として楽しめるから俺としてはウェルカム。
これがヒロインが決まってない物語なんかだったら、主人公がどっちに行くのかなんて心配までしなくちゃ
いけないから。

まあ書き手のわがままとしてはシリアス描写否定されると話が書きにくくなるから困るってことなんだけど。
今まで純粋ないちゃいちゃSS書いたことないし、ドタバタラブコメも書いたことないから書いてみたいんだけど
ねー本音としては。

すいません、実力不足で美琴が悲しむような描写入れないと話をまとめられない下手くその戯れ言です

988■■■■:2011/04/02(土) 13:23:03 ID:tTo.1GvU
今回に関してはシリアスが否定されてるんじゃなく上条さんの言動に拒絶反応だと思うんだが(俺含め)
シリアス否定は誰もしてなくね?

989■■■■:2011/04/02(土) 13:27:54 ID:tTo.1GvU
と思ったら>>922のことかすまん
でも他にフォロー入ってんだしひとりふたりのぼやきぐらいスルーで良いんじゃないかな

990■■■■:2011/04/02(土) 20:13:02 ID:YVQNyEvE
個人的にシリアス展開はキャラ崩壊も少なくて原作の距離感
に近くてすごく好きです。
好き好きは人それぞれだと思いますが、シリアス展開を
排除するのはやめてほしい

991■■■■:2011/04/02(土) 20:18:12 ID:3lCJ7F7A
拒絶反応をここで語らなくていいんだよ

992■■■■:2011/04/02(土) 22:01:32 ID:5XenwWXo
埋めるか

993■■■■:2011/04/02(土) 22:02:19 ID:5XenwWXo


994■■■■:2011/04/02(土) 22:24:17 ID:3lCJ7F7A


995■■■■:2011/04/02(土) 22:25:04 ID:vFVYPdhQ
好みじゃない作品なら黙ってスルーしとけばいいのよ
ここの書き手さんは前書きか後書きにシリアスならシリアスって書いてくれてるし
シリアスが多いからいちゃがなくなるってわけでもないし梅

996■■■■:2011/04/02(土) 22:34:02 ID:AsmdEbQE
最終的に美琴が幸せになるんだったらどんな展開の作品でも嬉しい♪

997■■■■:2011/04/02(土) 22:34:15 ID:AJgEzIJc


998■■■■:2011/04/02(土) 22:35:19 ID:KfzBjfrU


999■■■■:2011/04/02(土) 22:37:33 ID:AJgEzIJc


1000■■■■:2011/04/02(土) 22:38:16 ID:AsmdEbQE
>>1000だったら長い期間続きが投下されてない未完の作品の続きが投下される

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