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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part6
1■■■■:2010/03/10(水) 21:19:06 ID:2CvqfZPA
上条さんと美琴のSSをじゃんじゃん投下していくスレです!
別に上条さんと美琴だけが出てくるスレじゃありません。
上条さんと美琴が最終的にいちゃいちゃしていればいいので、
ほかのキャラを出してもいいです。そこを勘違いしないようにお願いします!

◇このスレの心得
・原作の話は有りなのでアニメ組の人はネタバレに注意してください。
・美琴×俺の考えの人は戻るを押してください。
・このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
・レスする前に一度スレを更新してみましょう。誰かが投下中だったりすると被ります。
・次スレは>>970ぐらいの人にお願いします。

◇投稿時の注意
・フラゲネタはもちろんNG。
・キャラを必要以上に貶めるなど、あからさまに不快な表現は自重しましょう。
・自分が知らないキャラは出さないように(原作読んでないのに五和を出す等)。
・明らかにR-18なものは専用スレがあるみたいなのでそちらにどうぞ。
・流れが速い時は宣言してから書き込むと被ったりしないです。投稿終了の目印もあるとさらに◎。
・ちなみに1レスの制限は4096byte、行数制限は無い模様。

◇その他の注意・参考
・基本マターリ進行で。特に作品及び職人への過度なツッコミや批判は止めましょう。
・クレクレ(こうゆうのを書いてください)等はやりすぎに注意。
・読んだらできれば職人にレスしてあげましょう。職人の投稿するモチベーションを維持できます。
・誰か投下した直後の投下はできれば控えめに。
・倫理的にグレーな動画サイト、共有関係の話題はもちろんNG。
・書きたいけど文才無いから書けないよ!
  →スレの趣旨的にそれでも構いません。妄想と勢いでカバー(ネタを提案する程度でも)。

◇初心者(書き手)大歓迎!◇

前スレ
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part5
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1266691337/

※ 参 考 ※
禁書風味SSの書き方
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/pages/1682.html
※当スレはSSの形式に基本的に制限はなく台本型等なんでも歓迎です。

まとめページ
とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫 / 上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/81.html

スレのテンプレ
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/82.html

2■■■■:2010/03/10(水) 21:19:54 ID:2CvqfZPA
■過去スレ
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1256470292/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part2
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1262324574/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part3
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1264418842/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part4
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1265444488/
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part5
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1266691337/

■関連ページ
とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/
まとめページの編集方針
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/213.html

■関連スレ
とある魔術の禁書目録 自作SS保管庫スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1263738759/
とあるSSの禁書目録 PART7
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1262619009/
【とある科学の超電磁砲】御坂美琴 ケロヨンシャンプー44本
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1267930513/
【とある魔術の禁書目録】上条当麻のラッキースケベ7
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1267824895/
とある魔術の禁書目録 24フラグ目 (R-18などはこちら)
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1265879380/

3■■■■:2010/03/10(水) 21:39:45 ID:22h6Y61Q
>>1
スレ立て乙

4■■■■:2010/03/10(水) 23:01:27 ID:4FJW1If6
>>1
スレ立てお疲れさまです。
それで、ss投稿はもうこっちでいいのでしょうか?

5■■■■:2010/03/10(水) 23:10:25 ID:QR9mzghM
>>4
向こうのスレがまだ生きてるから向こうで
向こうの残り全部使い切りそうなら埋まってからこっちかな

6D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/11(木) 00:48:52 ID:Qppu.lC6
 お邪魔します。
どなたもいらっしゃらないようでしたら、10分後にネタを1つ投下します。
「たった一つの思い」11レス消費予定。
話としては
「スケッチブックを持ったまま」の次に当たります。
スケッチブックを持ったままは
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1266691337/604-611
です。


※通しタイトル「Equinox」は
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/474.html
です。

7たった一つの思い(1):2010/03/11(木) 01:00:26 ID:Qppu.lC6
 常盤台中学『学外』学生寮の二〇八号室に戻ってから、ずっと御坂美琴はそわそわしていた。
 いつもならルームメイトにして後輩の白井黒子が、美琴に先にユニットバスを使うよう譲っていたのだが、今日は美琴が『黒子、お風呂なら先に入っちゃいなさいよ。私ちょっとやることあるから』と言って白井が口を開く前に勧めてきたのだ。そして白井がバスルームに足を踏み入れる直前も、美琴は携帯電話を片手にずっとそわそわしていた。
 美琴が寮に戻ってきた時、少なくとも何の変化も兆しも見られなかった。……あくまでも上辺では。
 それでも美琴が心ここにあらずなのは、白井でなくとも容易に気がついただろう。白井が何を話しかけても美琴は上の空で、ポケットの中から携帯電話を取りだしてはしまい、パジャマに着替えてからも手の中でカエル型のそれをもてあそんでいた。
 美琴の携帯電話は機能こそ一通り揃っているものの、お世辞にも中学生以上の年齢を対象とした機種とは言えない。白井も過去に携帯電話のサービス店まで足を運んだが、店員から『大変申し訳ありませんがこちらは小学生向けの機種でして』と苦笑された覚えがある。美琴があの携帯電話を選んだ時、店員はどんな顔で対応したのだろうと思うと白井は何とも言えない複雑な気分になった。
 ともかく、美琴はあの携帯電話をたいそう気に入っていて、白井が最新機種を薦めても頑として機種変更には応じなかった。『ケータイなんて使えれば何だって良いじゃない』と美琴は嘯くが、あのカエル型のデザインが美琴の好みであることは周知の事実だ。
 しかし、今日は違う。
 美琴は『お気に入りのケータイ』で遊んでいるのではなく、携帯電話に届く何かを待っていた。メールか通話かは分からないが、とにかく何かを一日千秋の思いで待っているだろうと言うことはいつになく落ち着きのない美琴の様子で窺い知れた。
 そして白井も気になっていた。
 メールの文面でも通話の内容でもない。美琴を待たせる『相手』は誰なのか。
 このところ、白井は複数の方面からとある噂を耳にしていた。いわく、美琴が異性と手をつないで幸せそうに笑って街を歩いている、と言う噂だ。最初は根も葉もない話と白井は歯牙にもかけなかったが、だんだん噂の内容は詳しく、そこから垣間見える相手の姿も明確になった。噂話を総合すると美琴が手をつないでいる相手は年上で、黒髪をツンツンさせているという。
 黒い髪のツンツン頭で年上と言えば、白井の心当たりには一人しかいない。かつて文字通り体を張って白井の命を救ったツンツン頭のあの少年だ。少年については美琴の言葉を借りるなら『あの馬鹿』、白井は『類人猿』と呼んでいる。
(お相手は……あの殿方ですの?)
 美琴の存在を背中に感じて、『あの殿方』を引き合いに出した白井の心を占めているのは、いつもの激発じみた怒りや熱情ではない。
 ここで彼のことを口に出したくはない。彼の名を出して美琴を喜ばせたくない。
 美琴の様子がいつ激変するかを伺う、張り詰めた糸のような緊張と強情にも似た自負で、白井は口を閉ざす。
 普段なら一方的に話し続ける美琴も、心をどこかへ置いてきたように口を開かない。
 夜の帳が静かに二〇八号室を包む。

8たった一つの思い(2):2010/03/11(木) 01:00:47 ID:Qppu.lC6
 白井が敬愛するお姉様、御坂美琴はさっぱりした気性と胸に秘めた気高さ、誰にでも分け隔てなく接する優しさ、そして時折垣間見える愛らしさで白井以下常盤台中学の生徒から羨望と尊敬と憧れの眼差しを一心に浴びていたが、ここに来てその美琴に変化が見られるようになった。
 熱烈な信奉者の白井でさえ目を覆いたくなるようなガサツさが徐々に減り、身に纏う雰囲気がやや丸みを帯びてきたのだ。手っ取り早く言えば女の子らしくなったというか、艶のようなものが美琴の内部から滲み出てきた。
 もう分かっている。美琴に聞かなくても分かる。
 恋は女を変えるのだ。
 人前では決して顔に出さない、白井に対して困ったり悩んだりと言ったそぶりを一切見せない美琴が、二〇八号室で一人沈鬱な表情を浮かべていたのを白井は密かに見かけている。その時の美琴があまりにも痛々しく思えて、白井はかける言葉が見つからず、そのまま部屋のドアを閉めて外へ出てしまった。
 美琴が表情を歪めるほどつらい恋だからこそ、美琴ととある殿方が並ぶ姿を見た生徒は一様に『美琴が幸せそうに笑っている』と噂するのだろう。
 美琴が世界でたった一つの居場所と心に決めた少年の隣で幸せに笑っているのなら、それはそれでいい。それを耳にした白井の心が引き裂かれるように痛んでも、美琴が誰かを愛することと、白井が美琴を愛することは別問題だ。
 そして美琴の苦しさも、白井には手に取るように分かる。自分も同じ思いを胸に秘めているのだから。
 自分にとってたった一人の誰かのことで悩んでいる時、他の誰かに慰めの言葉なんてかけて欲しくない。言葉で心の重荷を減らすことなどできない。女にとって望む答えはいつだってたった一つだけだ。
 たった一つの答えが美琴から得られない白井は、たった一つの答えを携帯電話の向こうに待ち続ける美琴を見つめて、苦笑しながら口を開く。
「お姉様。そのようにケータイで遊んでいらっしゃいますと、そのうち壊れてしまいますわよ?」
「…………えっ? あ、うん。ちょっと手持ち無沙汰でさ」
 美琴は微かに表情をこわばらせ、あははと笑う。そして手の中のカエル型携帯電話に視線を落とし、小さくため息をついた。

 ―――来た。

 白井は呟きを聞き逃さなかった。
 白井の背後で、美琴はベッドに腰掛けたまま携帯電話を親指で操作する電子音がわずかに響く。おそらくはメールを確認しているのだろう。美琴は画面を凝視しているらしく、しばらくは呼吸音さえ途絶えていたが、それからパチン、と携帯電話を二つ折りに畳む音が聞こえた。
「黒子ー? 私先に寝るから。……おやすみー」
 後ろでバサリという掛け布団をめくる音が聞こえて、白井が振り向くと美琴は枕と携帯電話を抱きしめるように丸くなってベッドに横たわっていた。
 白井は学習机の上に置いたノートパソコンの画面に視線を落とすが、画面の内容は頭に入っていなかった。ノートパソコンを開いていたのは元々ポーズで、そこに映る内容には何の興味もない。白井の興味はただ一つ、美琴にのみ向けられていた。そして美琴が携帯電話の向こうで待ち続けた、オンリーワンの答えを持つ相手に。
 白井が美琴を思い続ける限り、いつかは戦う時が来るだろう。ただしその相手がツンツン頭のあの少年とは限らない。白井が敬愛するお姉様自身を敵に回すかも知れない。
 それがいつになるのか、今は分からないが

 ―――女には、負けると分かっていてもドロップキックしなければならない時がある。

9たった一つの思い(3):2010/03/11(木) 01:01:11 ID:Qppu.lC6
 御坂美琴は頭から掛け布団をすっぽりとかぶり、その中で携帯電話を操作して先ほど『彼氏』上条当麻から送信されたメールの内容を確認していた。灯りを遮った掛け布団の中で、液晶画面のバックライトを頼りに文面を読んでいるとそのうち視力が落ちてしまいかねないが、今はそれを気にしている場合ではない。
 上条から送られたメールの内容は至ってシンプルだ。
『明日午後一時三〇分、コンサートホールの前で』たったこれだけだった。これに対し美琴は『遅れないでよね』と返信し、掛け布団をかぶってベッドに横になった。
 デートに誘うにしてはあまりにも味気ない文章だと、美琴は苦笑する。上条に恋人らしさは期待できないから、むしろこれでもよくやったとほめた方が良いのだろう。
(うーん、コンサートが始まる時間が時間だから待ち合わせとしては妥当なんだけど、この時間だとお昼ご飯を一緒に食べるのは無理かなぁ)
 今は春休みで、春休みの宿題が存在しない常盤台中学の学生である美琴は時間が有り余っていた。つまり暇だった。常盤台中学の学生寮は一年中昼食が存在しないので、必然的に美琴は上条の部屋で昼食を作り一緒に食べて、そのまま上条の宿題の面倒を見ていた。
 もちろん白井や初春、佐天と言った友人達との付き合いも欠かしてはいないが

 美琴が上条と付き合っていることを、同室の白井にまだ告げていない。

 初春と佐天には図らずもバレてしまったので口止めしてあるが、白井にはこの話をしていないのだ。察しの良い白井のことだからとっくに知っていると思うのだが、白井から一度としてこの件について切り出されたことはない。
 美琴が話をするまで、白井はきっと知らない振りを続けるだろう。美琴と一緒に騒ぐことはあっても、白井は心のどこかで控えるべき一線をわきまえている。話の流れでついうっかり口を滑らせてしまった、美琴のクローンに関する噂話の時のようにきっとぎりぎりまで堪えるのかもしれない。
 心底、と言う訳ではないが白井は上条をたぶん嫌っている。その理由については考えたくないが、少なくとも美琴には心当たりがある。そんな白井に上条と付き合っていることを話した時、一体何が起こるのか。
 ごめんと言えばいいのか。それとも言葉では済まされない何かが起きるのか。
 白井の優しさに甘えて、美琴はこの問題を棚上げにすることにした。
 今すぐ話して何もかもがどうにかなる訳ではないのだから。

10たった一つの思い(4):2010/03/11(木) 01:01:36 ID:Qppu.lC6
 ともかく、とベッドの中で美琴は思考を切り替える。
 明日は待ちに待った上条との初デートだ。上条が課題の提出を遅らせまくったついででも、立派なデートだ。
 上条の部屋に美琴が行くのもデートと言えばデートだが、二人で待ち合わせてどこかへ行くのはこれが初めて。
 初めてのデートは美琴なりにおしゃれしたかったし、上条から贈られたイヤリングを付けて行きたかったが、常盤台中学は休日も制服着用が規則として定められている。どこで誰が見ているか分からないし、規則はできる限り守ると上条と約束しているので、今回は仕方がない。その分夏に取り返そうと美琴は密かに心に誓う。
 コンサートの開演時刻が午後二時。どれくらい混むのか予想もつかないが、席を確保したり開演前に演奏曲の確認をするなら、開演時刻三〇分前の待ち合わせは妥当だろう。
 ただし、その時間だと上条の部屋で昼食を作って食べて、などとやっていると『待ち合わせ』がしにくい。せっかくのデートなのに二人一緒に部屋を出て待ち合わせの場所に行くなんてあまりにも間抜けだ。
 デートの待ち合わせは男が先に待ち合わせ場所に着いて、女が遅れて『ごっめーん、待ったー?』と言う。これだけは決して外せない。上条には『そんなテンプレに俺達を当てはめるなよ』と言われそうだが、美琴は頭の中の上条に向かって笑顔でこれを封殺した。
(いいじゃない、初めてなんだから)
 恋人同士になっても、美琴にとって上条は掴めない存在だ。だからそばにいてくれる間はわがままを通そうと決めた。どれだけ上条のことを好きでいるか真っ直ぐに伝えようと決めた。そうやって少しでも長く一緒にいて、少しでも上条が美琴のことを心の中に留めるようになってほしい。何度も何度も上条をこの手で抱きしめて、私はアンタのそばにいると伝えたように。
 美琴は最後に『お昼は自分で食べるように』と上条にメールを送信して、今度こそ目を閉じた。
 夜が明けたら、美琴の決戦が始まる。

11たった一つの思い(5):2010/03/11(木) 01:02:15 ID:Qppu.lC6
 歯は何度も磨いた。
 シャンプーもトリートメントもドライヤーのブローも入念に行った。
 鏡の前で目が腫れぼったくなってないか念入りにチェックした。
 ブラウスもスカートもブレザーにも皺は一つもない。
 唇にはリップを塗って、ほんの少しだけ香水を使って

「おっねえっさまーん」

 鏡の前で最後のチェックをしていた美琴の背後から白井黒子が空間移動で突撃してきた。
「くっ、黒子ッ!?」
 白井は美琴を絡め取るように後ろから抱きつくと
「まぁまぁお姉様、これからどちらかへお出かけですの? 今日はいつになくおめかしされていらっしゃいますけれども」
「え? あーいや、良い天気だしぶらーっとね」
 本当のことを切り出せず、美琴はお茶を濁す。
「バイオリンを持ち出されるようですけれども、本日は何か見せる行為(パフォーマンス)でもなされるおつもりですの? 身だしなみを整えて聴衆(オーディエンス)への気配りを怠らないなんてさすがお姉様ですわ! ところで、見せる行為自体は特に問題ありませんけれども、風紀委員の方へご一報いただければ現場整理などお力になれますわよ?」
「いっ、いや、その、腕がなまりそうだしここらでちょろっとバイオリンの練習でもしておこうかなーって、あはは、あはは……だから見せる行為じゃないから私一人で」
「では、わたくしがお供いたしますわ。お姉様、練習でしたら誰か客観的に評価する者がいた方がよろしいのではなくて?」
「よろしくないよろしくない! ちょ、良いから離れなさいよ黒子! アンタはまたそうやって人のどこを触ってんだ離せ馬鹿人の首筋でくんくん匂いを嗅ぐなっ!」
「あらーん? お姉様、新しい香水をお求めになりましたの? この香りは黒子も初めて嗅ぎますの……。お姉様にしてはずいぶんと大人びたチョイスですのね」
「人に抱きついたまま冷静にテイスティングすな。……だから離れろひっつくな暑い暑い暑いから!」
「もう、お姉様ったらいじわるばかりおっしゃって……」
 白井は心の中でハンカチを噛み千切ると意味ありげな笑顔を美琴に向けて
「ところでお姉様、お急ぎになりませんと『練習場所の確保』ができないのでは?」
「……、」
 美琴は一瞬だけ驚いて息を飲むと
「……そ、そうね黒子。うん、私、ちょっと行ってくるから」
 バイオリンケースを片手に、寮を飛び出した。

「……新作の香水に、『練習場所(とのがたのとなり)の確保』……」
 白井は美琴が出て行った出入り口のドアを見つめて
「あまりにもあからさますぎて笑えますわよ、お姉様? わたくしがしつこく『お供する』と申し上げたらどうするおつもりでしたの?」
 白井は一人、哀しく笑う。
 白井は心に決めたことがある。何かを巡って誰かが血を流すような世界から美琴を連れ戻すと。
 これから美琴の向かう場所が戦場ならば白井は体を張ってでも阻止するが、そこが美琴にとっての陽だまりと言うなら話は違う。
 美琴が誰かを愛することと、白井が美琴を愛することは別だ。
 美琴も気づいているかも知れないが、今回は白井が矛を収めた。
 白井は哀しく笑う。美琴の探す陽だまりは自分のそばには見つからないから。
 美琴の笑顔を守るためにほかならぬ美琴と戦わねばならないのか、と。

12たった一つの思い(6):2010/03/11(木) 01:02:47 ID:Qppu.lC6
 バイオリンをホテルのクロークに預けて、ついでに借りた部屋で白井に抱きつかれて乱れた制服をチェックして、待ち合わせのコンサートホール前の広場をのぞいた美琴は
「あれ?」
 ……上条がまだ来ていない。
 ―――いた。
 上条はチケット売場のあたりで何やらごそごそしていた。スムーズに会場の中に入るため、あらかじめチケットを買っていたのだろう。
(へぇ……やるじゃん、彼氏)
 今日の上条の服装はロングスリーブのカットソーの上からプルオーバーシャツを着込み、薄い茶色のチノパンにいつものバッシュと、ようするにいつもの普段着だった。上条はおしゃれに気を遣うような人間ではないが、今日は大学の定期演奏会とはいえクラシックのコンサートなのだから、もうちょっと何とかならなかったのかと美琴は両手で頭を抱えて、そこで見る。
 携帯電話の液晶画面に表示された時刻は一時四〇分。
 ついでに受信メールボックスに一件、上条からのメールが届いていた。
 上条から送信されたメールには『隠れてないでとっとと出てこい』と書かれている。
(うわー、バレてる?)
 ほとんど身を隠す建物がないコンサートホール前の広場で、美琴は待ち合わせた場所からできるだけ遠い位置を選んで上条の様子を伺っていたのだが、最初から上条は美琴の到着に気がついていたらしい。
「………………ごめーん、待ったー? ……痛たっ! いきなりひどいじゃない。何すんのよ!?」
 美琴がわざとらしい笑顔を作りながら上条のそばに駆け寄ると、上条からコツンと頭を小突かれた。
「『待ったー?』じゃねえよ。テメェ、物陰でチョロチョロしてわざとらしく遅れやがって。俺より先に来てて何遊んでんだよ!?」
「……こう言う時は『ううん、俺も今来たとこだから』とか言いなさいよね」
 美琴は小突かれた頭をさすりながら上条を睨む。
「あー、はいはい」
 上条はやれやれといった表情を浮かべて、そっぽを向いたまま美琴にチケットを差し出すと
「……、こう言うのは彼氏が用意しておくんだろ?」
「……良くできました」
 美琴は上条の手からチケットを受け取って、にっこり笑った。

13たった一つの思い(7):2010/03/11(木) 01:03:13 ID:Qppu.lC6
 コンサートの楽しみ方にはいくつかあるが、大きくまとめると楽曲そのものを楽しむか、そこで行われる演奏や演出を主眼に置くかの二つに分かれる。今回の美琴と上条の場合は前者で、しかも上条が提出しそびれた課題のために来ているので、本日の演奏曲の『情報』も必要となる。
 上条はコンサートホール入り口で係員のお姉さんからもらった、いかにも大学のサークルの演奏会なので手抜きですよと言いたげなコピー用紙製のパンフレットを片手にうーんうーんとうなっていた。
 上条がパンフレットを受け取った瞬間鼻の下が伸びた(ように見えた)ので、美琴はすかさず上条の向こう脛を力一杯蹴っ飛ばしておいた。そんな訳で上条は蹴られた足の痛みを気にしながらそこそこ豪華な観客席に腰を下ろし、パンフレットを横に傾けたりひっくり返したりしている。
「……なあ御坂。これ日本語だよな?」
 二つ折りのパンフレットでバタバタ顔をあおぎながらげんなりする上条。
「……それ以外の何に見えるってのよ?」
 上条の手の中からパンフレットを奪って、両手で開いて順に目を通す美琴。
(何だ、ちゃんと日本語じゃない。ドイツ語で書かれてるのかと思ったじゃないの)
 学園都市の学生だけあって、上条の頭の中には能力開発で使用される薬物の知識は歴史年表のように入っているが、ことクラシック音楽となると完全に門外漢だ。ベートーベンと第九ぐらいはおなじみだが、バッハの代表曲を述べよと言われてもピンと来ない。試しに上条に『ラヴェルの「ボレロ」を知っているか』と聞いたら『ボレロってどんなシールだ? 水玉か?』という答えが返ってきた。こんな上条を一人でコンサートに行かせたらちんぷんかんぷん状態で帰ってきて、まともに課題が片付かなかっただろう。
 美琴はパンフレットに書かれている『本日の演奏曲一覧』に目を通す。フルオーケストラなら交響組曲を一曲丸ごとという演奏会もあるが、こちらは初心者でも聞きやすいよう短めの楽曲が選ばれている。バッハの『G線上のアリア』、サン=サーンスの『白鳥』、ヴィヴァルディの『四季』より『春』、ドヴォルザーグの『新世界より』の『第四楽章』など上条でも一度は聞いたことがありそうな楽曲が並んでいた。
 美琴はここで一つの可能性を思い立つ。
「アンタ、あらかじめ言っとくけど」
「……何だ?」
「コンサート中に寝るんじゃないわよ?」
「……、」
 上条からの返事はない。それどころか気まずそうに美琴から視線をそらして、口笛を吹きながらシートの上で足をぶらぶらさせている。
 上条はどうやらおとなしく教室の席について授業をまともに聞く生徒ではないのだろう。下手をすると歴史の時間に『織田信長が織田幕府を作っていたら日本はどうなっていたんですか』などとお馬鹿なことを言って授業を引っかき回しているかも知れない。
 美琴はどっちが子供なんだとツッコみたくなるのを心の中で抑えて
「……ったく。デートの真っ最中に彼女ほったらかしで寝たら電撃で叩き起こすかんね?」
「……あのな、これデートじゃなくて……いやデートかもしんねーけど俺は課題のために来てるんであって」
「デートでも課題でも寝るなっつってんの! ……やっぱり私が来て正解じゃない」
 美琴は上条の左手の甲を軽くつねると、上条の左手の指の間に自分の指を一本ずつ通し、きゅっと軽く握りしめた。いわゆる恋人つなぎだ。
「……アンタが課題のために来てんのは分かってるから、ちょっとくらいはデートっぽくしてよね?」
「はいはい、っと。そう言うお前こそよだれ垂らして寝るんじゃねーぞ?」
「私はよだれなんか垂らさないし寝たりもしないわよ! アンタと一緒にすんなっ!」
「こら、そろそろ始まるからおとなしくしろって」
「…………」
 抗議の代わりに、美琴は上条とつないだ手に少しだけ力を込めた。
 ステージの幕が上がり、演奏者達がそれぞれの席に着く。
 ステージの袖から現れた若い指揮者が中央で客席に向かって一礼し、背中を向けると軽やかにタクトを振って演奏会が始まった。

14たった一つの思い(8):2010/03/11(木) 01:03:56 ID:Qppu.lC6
「……ええっと……ターンタタンタン、じゃなくてタンタタターン、タンタタターン……あれ? 違うな。……ジャーンジャカジャカジャン?」
「……どの曲を真似してるのかわかんないけど、そんなフレーズの曲は一つとしてなかったわね」
 コンサートホールを出た後、上条は片手に持ったパンフレットで曲順を確認しながら口まねで楽曲を再現しようとしているらしいのだが、口から出るメロディがどの曲ともまったく合っていない。子供がテレビアニメを見て主題歌を適当に口ずさんでいるのと同レベルだ。
 美琴は大きくため息をついておでこに手を当てると
「……これは延長戦やった方が良さそうね」
「……延長戦? 延長戦ってまさかデートのか?」
「コンサートの、よ。アンタの頭の中で曲がごっちゃになって感想どころじゃなくなりそうだから、弾いて聞かせるのにバイオリン持ってきてあんのよ。クロークに預けてあるからついて来て」
 美琴は上条と恋人つなぎのままコンサートホールからいちばん近いホテルへ移動する。上条はパンフレット片手に曲の再現に余念がないのか、美琴と指を絡ませていると言うことに気づいていない。
 美琴の斜め後方でズンタタタじゃないズンチャッチャズンチャッチャと謎のメロディが聞こえる。ありゃ、こうじゃなくてこうか? という変な声も一緒だ。
 美琴がホテルのクロークからバイオリンケースを引き取った後も、上条はおかしなメロディで歌い続けている。中学生と高校生らしいお手々をつないだカップルがホテルにやってきて、しかも男の方が変な歌を歌っているので、クロークに詰めていたホテルマンから怪訝そうな表情と抑えきれない苦笑で見送られたことに上条は気づいていない。
「こら、その変な歌ストップ」
 美琴は上条を引きずって歩いていたが、道半ばで足を止める。
「……え?」
 上条はあれいつの間にこんなところまで歩いてきたんだろうとあたりをキョロキョロする。
「アンタの部屋に戻ったら、今日聴いた曲のさわりだけでも弾いてあげるから、無理に曲を思い出そうとすんの止めなさいっての。かえってごっちゃになっちゃうわよ?」
「へ? 弾く? 弾くってもしかして……それ、バイオリンだよな。そういやお前弾けるんだったっけ?」
 上条は美琴が手にしているバイオリンケースを指差して『それいつの間にどっから出したんだ?』と首をひねっている。上条の頭の中でコンサートホールを出てからクロークに立ち寄ったことまでは記憶されていないらしい。
「そうよー。今日ほどやっといて良かったと思ったことはないわ、うん」
「……、お前、弾けたんだ?」
「一応はね。……アンタ、去年の盛夏祭来てたでしょ?」
「盛夏祭って……何だっけ?」
「うちの寮の寮祭。八月の上旬にやったんだけど、アンタ確か……あの小っこいシスターと一緒に来てたじゃない? んで、アンタがあの子とはぐれたって言って、私のステージの裏に来てて……」
「??? ……何か覚えがあるようなないような……?」
「私が出番待ちでテンパってる時に、アンタはたまたま迷い込んだらしくてね。おかげさまでこっちは緊張がほぐれたわよ。アンタ、あの時私のこと、その……綺麗って言ってくれたの覚えてる?」
 上条は小首を傾げて
「……お前いたっけ?」
「いたっつってんでしょ!! バイオリンのソロやったんだから。……覚えてないの? あん時は白のドレスを着てたんだけど」
「……白? ……ステージの裏? 今何か思い出しかけたような…………」
 上条は何だっけ? と首をひねってうんうんうなっていたが
「もしかして、あの綺麗な女の子か? いやー悪りぃ悪りぃ。俺、お前のことあんとき知らなかったから」
「……ということは、アンタはあの時私を私と認識しないで『綺麗』って言ったの?」
「あの…………御坂? 何でお前の周辺の空気が不穏に帯電してんの!?」
「そ・れ・は、アンタがそうやって見ず知らずの女の子にほいほい『綺麗』って言うのがよく分かったからよッ!! 記憶があろうとなかろうと節操なしに声かけやがってこのボンクラがァああああああああああ!!」
「何で? 何で?? 何で俺が怒られなくちゃならないのって痛ったぁ!?」
 美琴と恋人つなぎのまま足を思い切り踏んづけられて、上条は片手に安っぽいコピーのパンフレットを握りしめながら痛みで飛び上がった。
 頼んでないのに課題でデート。今日も上条は踏まれ損の蹴られ損かもしれない。

15たった一つの思い(9):2010/03/11(木) 01:04:18 ID:Qppu.lC6
「……なあ、演奏してた人たちみたいに椅子とかなくて良いのか?」
「良いわよ、あそこまで本格的にやる訳じゃないし」
 ガラステーブルを隅に押しやって空間を確保すると、上条はベッドに腰掛け、美琴はそこから少し離れたところで立ったままバイオリンを鎖骨の上に乗せて構える。
 ここは繊細なお嬢様の住まう女子寮ではなく上条の住むむさ苦しい男子寮で、造りはまんまワンルームマンションだ。よって隣近所の方々には多少の雑音に耳を塞いでもらうことにした。
「全部バイオリンの曲って訳じゃないから、多少違うところはあるけどそこは目をつぶってよね」
「……何がバイオリンの曲じゃないって言うのがもうすでに分かんねえから大丈夫だと思うぞ?」
「私も全部弾けるって訳じゃないけど、弾ける奴は順番に弾いていくからその間にアンタはメモでも何でも取っときなさい」
 上条が深々と頭を下げて
「それでは美琴センセー、よろしくお願いします」
「あいよー。それじゃ一曲目、ヨハン・パッヘルベルの『カノン』からね。耳かっぽじって良く聴きなさい」
 室内の空気が完全に静止するのを待って、美琴は第一バイオリンのパートをなぞるように演奏を始める。美琴も譜面を完璧に覚えている訳ではないが、目の前にいるたった一人の観客のために精神を集中し、音を外さぬよう細心の注意を払って弓を滑らせる。
(あーあ、ホント我ながら馬鹿だなぁ私)
 朝から何度も髪を梳かしたり、新しい香水にチャレンジしたり、上条に念押しして待ち合わせの時間を決めさせたり、白井の追求を振り切ったり。
 あれこれ苦心惨憺してみても、最後にはそんな乙女のいじらしい努力を投げ捨てて、上条の面倒をあれやこれやと見てしまう。こんな自分はもう笑うしかない。
 これのどこがデートなのよと思いつつも、悪い気はしない。
 美琴の目の前には、美琴が一番愛する人がいて、美琴の演奏に耳を傾けてくれる。
 上条は美琴のそばにいる。今はどこにも行かずに隣で笑っている。
 これはたった一人による、たった一人のための独奏会。
 美琴は上条ただ一人のために、思いを込めてバイオリンを弾き続ける。

16たった一つの思い(10):2010/03/11(木) 01:04:43 ID:Qppu.lC6
「……っと。だいたいこんなもんかなー」
 ところどころ怪しい部分もあったが弾ける曲は一通り弾き終えて、美琴は肩からバイオリンを下ろすと深くため息をついた。
「お疲れさん。ひとまず汗拭けよ」
 上条が放ってよこすタオルを受け取って、美琴は額の汗を拭う。緊張と集中から解放されて、美琴は表情とバイオリンの弦を緩めた。
「お前ホントすげーな。何であんなに弾けんだよ?」
「……学校の授業でやってるからね。ちょっと怪しい部分はあったし、今日のコンサートの演奏とは比べられないほどお粗末だけど、アンタの課題の参考になればそれで良いわ」
「本当にさんきゅーな、御坂。……つか、コンサート行かないで最初っから御坂に弾いてもらった方が良かったような……?」
 美琴は上条がコップに注いで差し出すオレンジジュースを飲みながら
「馬鹿な事言ってないの」
 上条の頭をペチッとはたく。
「……まぁ、何にしてもアンタが喜んでくれて良かったわよ。バイオリン持ってきた甲斐があったってもんね」
 上条はレポート用紙に何かをせっせと書きながら
「昨日と言い今日と言い、御坂にはもう頭が上がんねえよ」
 ぺこりと美琴に向かって頭を下げた。上条は素直に感動しているらしい。
「んで、アンタ気に入った曲はあった?」
「ああ。えっと……『白鳥』って曲が良かったな」
 上条はパンフレットをめくり、その中の一行を指差した。
「あれか……本当はチェロの曲なんでバイオリンで弾くと甲高くなっちゃって趣に欠けるけどね」
「そうか? 俺はあれ、御坂に似合うと思ったけど」
 上条の唐突な言葉に
「何で?」
「えっと……小萌先生に聞いたんだよ。『御坂は低能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)まで努力で登り詰めた』って。白鳥ってあれだろ? 水上では優雅なのに、水面下では必死に水を掻いてますって。曲も綺麗だし、白鳥はまさに努力の跡を気づかせないお前の一面にはぴったりだなってさ」
「……私はただ、目の前にハードルがあったら超えなきゃ気が済まなかっただけ。努力とかそう言うのとは少し違うかもね。でも、そう言われて悪い気はしないかな」
 上条の言葉に、美琴は気恥ずかしそうな笑いを返した。
 上条は美琴を白鳥と言った。その譬えはあながち外れてはいない。
 上条の前ではわがままだけど物わかりの良い彼女を演じ、上条のいないところで心を乱す。水面下でもがくように上条の愛を求め、上辺では面倒見良く振舞う。
 滑稽で、愚かで、見栄っ張りの白鳥。
 こんなの、もう笑うしかない。

17たった一つの思い(11):2010/03/11(木) 01:05:05 ID:Qppu.lC6
「おっと、そうだった忘れてた」
「……何?」
「御坂先生、課題に付き合っていただきありがとうございました!」
 上条は美琴に向かって深々と一礼し、顔を上げると
「お前にはいろいろ教わってばかりで高校生形無しだな」
 上条は苦笑する。
「私もアンタにはいろいろ教わってるわよ?」
「何か教えたっけ?」
「……いろいろ、ね」
 上条と出会って、美琴は誰かを深く愛することの苦しさを知った。自分がどれだけ上条を好きでいるかを知った。自分と上条の関係に思い悩み、それでも上条のそばにいたいと願う、自分の惨めで醜くわがままで、それでも譲れない『芯』を知った。
 上条が美琴から教わったというのなら、美琴は上条から自分について多くのことを学んだと言っても良い。
 きっとそれは、上条でなければ知る事のなかった、自分の中に眠る真実の自分。
「だからアンタはんな事気にしなくて良いわよ」
 美琴は笑顔で上条に告げた。
 白鳥の優雅さで、裏に潜む身勝手な苦しみを微塵も感じさせることもなく。

「そういや御坂。お前、その……何かつけてるか?」
 美琴の前で上条が鼻をひくつかせ、怪訝な表情を浮かべる。
「何かって何?」
「えーっと……香水ってのか? 正月の時と何か匂いが違うみたいだけどよ」
「……いつ気づいたの?」
「コンサートホール前で待ち合わせた時、かな」
 美琴は上条の頭をペチッとはたいて
「……言うのが遅いわよ」
「……そ、そっか。悪りぃ」
「で、似合う?」
 上条の前にずい、と顔を近づける。
「……良く分かんねえ。けど……嫌いじゃねえ、かな」
「……あとは?」
「あとは……そうだな。今度どっか行こうぜ。今日は結局デートじゃなくなっちまったし」
 美琴は頬を膨らませると
「……ちゃんと誘ってよね?」
「……また待ち合わせんのか?」
 上条はげんなりとした表情を浮かべる。
「そうよー。デートは男が先に待ち合わせ場所に来て、んで女が遅れて行くの。私が『待った?』って聞いたらアンタは『今来たところ』って答えんのよ。いい?」
 嘯く美琴に、上条は頭をガリガリとかきながら
「……次まで覚えてたら、付き合ってやるよ……」
「それくらい覚えときなさい」
 美琴はずびし、と上条にふざけ半分でチョップした。
 上条当麻は相変わらず最低の彼氏だ。
 デートの誘いは素っ気ないし女の子の密かな努力に気づいてくれない。美琴が待ち合わせに遅れても会話を合わせてくれないし、ようやく香水に気づいたと思ったら言い出すのが遅すぎる。
 初デートはいつの間にか課題一辺倒に終わってしまったけれど、次のデートの約束が取り付けられただけマシだと思うことにした。
 この彼氏は恋人らしいことが期待できないのだから。
 次のデートを夢に見て、美琴は上条の手を取ると、少しだけ強く握りしめた。

18D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/11(木) 01:05:35 ID:Qppu.lC6
 以上になります。

>>1

お邪魔しました。

19■■■■:2010/03/11(木) 01:11:40 ID:/aGR6W0w
リアルタイム万歳だぜGJ

20■■■■:2010/03/11(木) 01:13:13 ID:Flri5DIg
>>1乙です!

>>18
GJです!
だんだん上条さんも彼氏らしくなってきたかな?
続きも待ってます!

21■■■■:2010/03/11(木) 01:13:31 ID:IhO.jH.Q
>>18
心理描写が相変わらず秀逸すぎる…
GJ

22■■■■:2010/03/11(木) 01:45:41 ID:9iK.GHig
とりあえずまずは、>>1乙!

>>18
GJです!続きが楽しみです
あとは、遅くなったかもしれないけど、前スレ>>990もGJです!原作でもあんな展開にはならないのだろうか…

23■■■■:2010/03/11(木) 08:15:51 ID:9Oq/Svoc
黒子の心理描写も切ないなぁ…

のん気な彼氏としっかり者(を演じつつ水面下でジタバタ)な彼女がかわいすぎる。

24■■■■:2010/03/11(木) 11:50:02 ID:3hNSILUo
遅まきながら
>>18
GJです
二人の距離感が絶妙ですね

>>前スレキラさん
GJです
入学式編楽しみにしてます

25かぺら:2010/03/11(木) 18:18:13 ID:FxP2..Dk
こんにちは
Dairy Lifeの続きを投下しようか迷っております。
part2の前半は書けたのですが、後半も書いてから一気に投下すべきでしょうか?
ちょっと意見くださるとうれしいです。

感想を少々。

>>前スレ・キラさん
いやーいちゃいちゃですなぁww
美琴から右手が離せない上条さん萌えw

>>18
乙です。
流石でございます。
上条さんも美琴も等身大な感じが素敵です

最後に
>>1
スレ立て乙です!

26■■■■:2010/03/11(木) 18:28:36 ID:cl5hhPi2
>>25
前半・後半で別々に投稿する人もいるから
前半だけ先に投稿でも問題ないんじゃないかな

27■■■■:2010/03/11(木) 18:41:19 ID:yRNpgMAo
part5までで4M超えかぁ
小説にすると16巻分くらいはあるんだなあw

28■■■■:2010/03/11(木) 18:54:59 ID:/mYoYvq2
>>25
前半だけでもok、待ってますよ。

29かぺら:2010/03/11(木) 19:26:24 ID:FxP2..Dk
OK!前半だけ投下します。
といっても、後半も今日中に投下できるかもです。

シリーズタイトル:Dairy Life
*part1「日常の交差(クロスデイズ)」は5-955から5-964です

19:30より4レス借ります

30月曜日(ホリデイ)1:2010/03/11(木) 19:31:00 ID:FxP2..Dk
日曜日。上条は例によってユニットバスの中で眠れないなー、と思いながらぼーっとしていた。
とあるきっかけで始まった、美琴の来訪は一ヶ月経った今でこそ落ち着いたものの、2週目は上条にとって記憶に残るものであった。
つまりは、インデックスと鉢合わせた時の話であるのだが、思い出すのも恐ろしい、というよりも不思議な空気だった。
様々な魔術師や能力者との死線を潜り抜け、『神の右席』の4人全員と向き合ったことのある上条であったが、それの比ではないくらいだ。
あまり思い出したくもない過去であるが、今でも上条はその時のことを思い出してしまう。

マンガ雑誌を購入した後、上条は美琴と出会うことなく部屋についた。
おかえり、とうまー。今日の晩御飯は―?というインデックスの声を軽くスルーしてしまうほど、上条は憂鬱であった。
この後、シスターvs超能力者という年末の格闘技もビックリな異色対決を見ることになるのかと思うと憂鬱にもなる。
というか、不幸体質の上条にとって、その戦いを見るくらいでは凹まない。重要なのは『巻き込まれる』という事態だ。
「不幸だ」
「とうまー、晩御飯は何って聞いてるんだよ。無視しないで欲しいかも」
「あー、今日はお客さんが来るからな。それからだ」
少し頬を膨らませる食うだけの居候を適当にあしらう。深く聞かれては面倒にことになることは明白だ。
美琴には事前にメールで連絡を入れてあり、インデックスを『釣る』意味も含めて、美琴が料理を披露する事になっている。
何を作るかも聞いていないし、そもそもシスターとの戦いで有耶無耶になりそうな気がするが。
それでも、上条は楽しみであった。生姜焼きを知らない世間知らずのお嬢様が繰り出す料理とはどんなものか。
「お客さん?なにか嫌な予感がするけど、私は敬虔なるシスターであるから一応話は聞いてあげるんだよ。誰が来るの?」
「………御坂」
「とうまの頭をカミクダク!」
「ぎゃあっぁぁぁぁぁっ!?インデックスさんっ!?話聞くんじゃなかったんですかぁっ」
「アンタらなにやってんの?」
いつの間にか入ってきていた美琴はシスターに噛まれる高校生と言う奇妙な図を白い目で見ていた。
その後は目も覆いたくなるような戦いが繰り広げられるかと思ったが、意外にも2人は打ち解けていた。
もっとも、いきなり打ち解けたわけではなく、戸主である上条が部屋を追い出され、20分ほど外で佇む羽目になったのだが、帰って来たっころにはそれなりに仲良くなっていた。
驚くことに、食後――夕食はとんでもなく美味いハンバーグだった――には、一緒にマンガを読むという仲にまで発展。
更には、「みことー、一緒にお風呂に入るんだよ」「じゃぁ、その長い髪を洗ってあげる」「洗いっこするんだよ」なんて羨ま…奇跡的な状態になっていた。

「はぁ、なんていうか不幸だ」
そこまで急速に仲良くなられては裏で何かがあるのではないかと勘ぐってしまい、1人置いてかれた気分になる。
3人でいるのに1人で蚊帳の外、といった感じだ。
「でもまぁ、仲良くなってくれてよかった、かな」

31月曜日(ホリデイ)2:2010/03/11(木) 19:31:40 ID:FxP2..Dk
翌日。昨日が日曜日であったので今日は月曜日である。通常ならあちこちで授業風景が見れたであろうが、今日は祝日。
授業風景どころか、浮かれた学生たちが楽しげに遊んだりしている。
しかし、不幸なる上条は今日の午前に行われた補習に体力を削られ、トボトボと足取りが重い。
心なしか俯き加減であり、その口から時々、不幸だ、と漏れている。傍から見れば少年犯罪に走りそうなくらいの悲壮感が漂っている。
「よーう、どうした、元気ないぞ」
「……この声は御坂か。どうした?」
上条は横からひょっこり現れた美琴に眠たそうな顔を向け、大きなあくびを1つつく。
「な、なんかおかしいわよアンタ」
「ん?」
「いっつもなら電撃飛ばすまで気づかないのに、なんで?」
「言ってることはよくわからんが、上条さんは朝から補習でブルーなんですよ」
自分で言ってて悲しいぜ、と涙を流す上条に少し同情しながらも美琴は意を決して尋ねる。
「まぁ、いいわ。それよりアンタ、このあと暇?」
「暇っちゃぁ暇だな。夕飯までには戻らないとインデックスに噛まれることになるけど」
「じゃ、ちょっと付き合って」
そういうと美琴は上条の右手を掴んで引っ張る。
「ちょ、ちょっと待て、御坂。俺はマンガ買って家に帰りたいんだが」
読ませてやるから帰らせてくれ、と目で訴えかけてみる。
そんな上条の表情を正確に読み取ったのか、美琴はふふんと勝ち誇ったような笑みを浮かべ言い返す。
「アンタ忘れたの?今日は休刊日よ」
「そういやそうか……って、だったら休むっ寝るっ、寝かせてください」
うだー、っと肩を落とし、眠たいアピールをしてみるが美琴はそれがどうしたと言わんばかりにグイグイと上条を引っ張っていく。
「アンタ、先週偶になら付き合うって言ったわよね?」
「……言いましたね」
「じゃぁ付き合え」
「何処に連れて行かれるんでせうか?」
「Seventh mist。買い物、付き合ってくれる、わ、よ、ね?」
「はい」
「よろしい」
―――不幸だ―――
げっそりとした上条は不幸だ思いつつも、どこか楽しい気分になるのを感じていた。

32月曜日(ホリデイ)3:2010/03/11(木) 19:32:12 ID:FxP2..Dk
上機嫌の美琴に引かれ、上条はSeventh mist前まで連行されてきていた。
美琴には初春や佐天らと度々訪れている半ば常連と化している店であるが、上条にとっては馴染みがない。
以前、小さな女の子を連れて訪れ、不幸にも事件に巻き込まれたりしているのだが、上条の記憶には残っていない。
「なぁ、御坂、ホントにこんな店に入るのか?」
「ん、なんで?」
「いやー、上条さん的にはちょっとハードルが高いのですよ」
ごくごく普通の洋服店ではあるが、全体的に女性向けであり、そもそもあまりファッションを気にしない上条にはあまり居心地のいいものではない。
「別に1人で歩けって言ってるわけじゃないんだし、大丈夫でしょ?」
「いやいや、むしろ1人じゃないからキツいわけでして」
「何?アンタ、私と一緒なのがそんっなに嫌なわけ?」
腰の引けている上条。純情青年にとって女の子と一緒にお店を歩きまわってあれこれするのはどうも受け入れがたい。
「そういうわけじゃねぇ。御坂と一緒にいるのが嫌なんじゃなくて、女の子と一緒にお買い物とかそういうのはなんというか……」
「……何がいいたいの?」
「だからですね、こういうのは恋人同士で行くもんじゃないんですか、ってことなんですが…」
上条の一言――本人は何気なく発しているのだが――で美琴の顔が一気に赤く染まる。
「あはははは。気にしなくていいのよ、そんな事。あはははは」
「上条さんは気になるんですけど」
大げさに笑ってみせる美琴を見て、上条はよりげっそりとする。
「アンタは―――」
「あん?」
「アンタは、私が恋人だと、嫌?」
「……………………はい?」
「…………」
沈黙。上条は美琴が何を言いたいのかが良く分からなかった。
―――コイツ、『私が恋人なら嫌?』とか言いやがりましたか?アレ?ここ笑うとこ?アレ?―――
「あ、れ、と……いやいやいや、忘れて!何言ってるんだろ、私。あはは、あはははははっ。それ、行くわよっ!!」
―――だあぁぁぁっ!?私、何言ってんのよっ!自爆?自爆した!?もう、不幸だあぁぁ―――
違う意味で混乱した2人は、頭の回らないままSeventh mistに突撃していった。

33月曜日(ホリデイ)4:2010/03/11(木) 19:33:02 ID:FxP2..Dk
「で、御坂。何を買いに来たんだよ?」
「ひゃうっ!?」
いち早く復帰した上条に声をかけられ、美琴は素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。
女性物のパジャマ売り場の前まで来て美琴は何を見るでもなくウロウロしている。
上条は行ったり来たりせわしない美琴を見て声をかけたのだった。
ついさっき自らの発言で自爆した美琴の心臓は口から飛び出しそうなくらい暴れており、心ここにあらずなくらいにパニックになっていた。
「おい、大丈夫かよ?」
「大丈夫!落ち着いた」
深呼吸をして落ち着いた風に取り繕ってみる。鼓動は落ち着いたものの、赤いままの顔を見せたくなくて顔を逸らしてしまう。
「で、何を買いに来たんだよ?」
「……考えてない」
「はぁ?」
どういうことだよ、と、上条は美琴の肩に手をやり詰め寄る。身体はこちらに向けたものの、美琴は顔をこちらに向けない。
「……遊びに行きたかっただけ」
「っ!」
上条は気付いた。美琴が少し涙を浮かべている。これはまずい。精神衛生上非常にまずい。
「アンタと、ゆっくり遊びたかったの。取り繕ってない、真っ白な御坂美琴として」
美琴がこちらを向く。涙を浮かべた美琴は、笑っていた。
嬉しいから、楽しいからの笑顔ではなく。自分を、素直になりきれない自分の心を嘲笑するかのような、寂しい笑顔。
―――俺は、何をやってるんだ―――
上条は思う。自分は美琴の事を考えていたか。見せかけの、自己満足の優しさで満足していなかったか。
答えは出ない。一朝一夕で、弾き出して言い答えじゃない。自分の心の中の『何か』に向き合って出すべき大切な答え。
今まで右腕で殺してきた幻想ではない、護るべきもの。今は未だ淡い幻想でも、いつかは鮮明なる現実になるかもしれない。
―――少なくとも、御坂にこんな顔させて、自分の幻想にすがりついてんじゃねぇよ―――
気付いた時、上条は美琴を抱きしめていた。
「すまん、御坂。何も気づけなくて。俺は――」
美琴は目を丸くしたまま固まる。
「俺には、まだ何も分からないけど。答えが出たら、聞いてくれるか?」
「……馬鹿、気にしなくていいのに」
美琴の目から、涙がこぼれる。
「待ってる」
頬を伝い零れた涙が上条の服を濡らした。

34かぺら:2010/03/11(木) 19:34:54 ID:FxP2..Dk
前半 終わり。
短めですがご容赦ください。

続き書いてきます

35■■■■:2010/03/11(木) 19:53:31 ID:cl5hhPi2
GJです
後半も楽しみにしています

36■■■■:2010/03/11(木) 20:35:25 ID:wMMwvvz.
GJ!!GJとしかいえない
後半もたのしみだ

37■■■■:2010/03/11(木) 21:31:45 ID:ypzOAdmo
GJ!!
なにをしてる早く続きを書くんだ

38キラ:2010/03/11(木) 21:50:43 ID:Yp4i4D16
職人様方、お疲れ様です。
皆さんGJです。
『超電磁砲の記憶』の続きを投下させていただきます。
『memories』シリーズの続きとなります。

55分に、6、7レスほど消費の予定です。

39キラ:2010/03/11(木) 21:55:18 ID:Yp4i4D16
 その二人は、三人から見えない席から会話を聞いていた。
 白井の背後から三つ目の席で、二人は隣同士になりながら、イヤホン越しから聞こえる三人の声に顔をにやけさせていた。他人から見れば、変質者同士に見えるが、この席を頼んだのはそれの対策でもあり、三人に存在を気づかれないようにするためでもあった。
『認めるっていってもな。俺はまだ、美琴のことを好きだとは思えてないし』
『でも、恋人になるって言ってくれたじゃない? だから片思いでも、私たちは恋人よ』
「ねえ聞いた聞いた? 恋人だってよ」
「はい! ばっちりと聞きました!」
 二人は今にも立ち上がって周りの誰かに言いふらしたい気分を押さえ、上条と美琴の会話を聞いていた。二人は少女であったため、この手の話題には敏感だ。しかも、有名な常盤台のお嬢様けん友人の御坂美琴の恋愛話となると、興奮はさらに高まった。
 以前から二人は、美琴には想い人がおり何度もアタックしようとしていることを知っていた。だが毎回それは空振りに終わるという不器用な恋愛をしていたことも知っていた。そんな美琴がその彼と結ばれるとなっては、二人は動くことも黙っていることも出来なかった。
「上条さんってあの有名な無能力者の"上条当麻"さんだよね。だったら、学園都市始まって以来の、最強のカップルになると思わない?」
「思います思います! これ、スクープにしたら学園都市中が大騒ぎになること間違いなしの大スクープですよ」
「うんうん! 本当によくやってくれたよ、初春」
「いえいえ。今回はたまたまですよ、たまたま」
「それでも、よくやってくれたよ。おかげで御坂さんの恋人話が聞けるんだから」
 初春と呼ばれた少女は、ノートパソコンに刺さったイヤホンの片耳をつけながら興奮した笑顔で隣の少女に答えた。隣の少女も、そうだよねと仲がよさそうに笑って答えると、イヤホンの音量を一つ上げ、耳につけたイヤホンから会話の続きを聞き取った。
『…………そういえば、お前も昨日ほど恥ずかしがったりしてないな』
『そういうアンタこそ、私のこと名前で呼んでるじゃない』
『そうか? 俺はいつも通り、御坂って言ってるだけだけどな』
『いいや! 確かに名前で呼んでたわよ。黒子も聞いてたでしょう?』
『え、ええ。上条さんはお姉様を下の名前で呼んでおりましたわ』
「くぅ〜、映像がないのが残念だな。きっと今の御坂さん、デレデレな顔してるんだろうなー」
「さすがにそれは難しいですよ。白井さんに盗聴器を仕掛けられただけでも奇跡なんですから」
 初春は盗聴器越しから聞こえる二人の顔を想像しながら、隣の少女に苦笑いしながら答えた。隣の少女は、それもそっかと納得するとすぐに会話の続きを聞き始める。

40キラ:2010/03/11(木) 21:56:08 ID:Yp4i4D16
『無意識に呼んでんのっかな? でも名前で呼べてるし、それだったらそれで、いいんだけどさ』
『よくない! アンタは私のことを呼ぶとき名前固定! そうじゃないと、らしくないでしょ?』
『らしくないって…だったら、お前も俺のことを名前で呼べよ。いつまでも"アンタ"って言うのは卒業しろ』
『なっ!? あ、アンタはアンタでいいのよ。名前でなんて……そんな』
『よくねえよ! なんで俺が名前を呼ぶのにお前は呼ばねえんだよ。それがお前の言う『恋人同士』じゃないのか?」
『うっ……それは……そうだけど』
『だったら言ってみろ、御坂。上条さんの下の名前を』
『あっ…………ううぅっ』
「初春初春初春!! 映像! どうにかして御坂さんの顔を見る手はないの!?」
「ないですって、佐天さん! あったら、最初からやってますよ!」
 隣の少女、佐天涙子は真っ赤になった美琴を想像して、興奮のあまりソファーを叩いた。歯がゆいと言っているのが、仕草からも表情からも嫌というほどわかる。初春も同じ気持ちであるが、佐天の猛烈な抗議にそこまで興奮できなかった。だが、興奮しなかったせいか、初春はあることを思いつき、ノートパソコンのキーボードを高速で打ち始めた。
「あれ? 初春、何か思いついたの?」
「はい。映像が見れないなら、映像を盗めばいいんです」
 そういった直後に、ノートパソコンの液晶にはなんと上から見た二人の光景が表示され、初春はその映像が良く見えるようにズームした。
「初春、これって…」
「はい。このお店の監視カメラの映像です。この程度ならものの三十秒でちょちょいのちょいですよ」
 見つかったら大変ですけどと、持ち前のハッキング能力を駆使し、初春は自慢げに言った。この程度のことは『守護神』(ゴールキーパー)と呼ばれた初春からすれば、パソコンの起動時間よりも早く出来ること。しかも、ここはただのファミレス。監視カメラのコントロールを奪うのは、簡単すぎてあくびをしてしまいそうなほどで楽な作業であった。
 佐天は親友の働きにグッジョブと親指を立てると、パソコンに映し出された二人を見た。そこにはいつも通り、緩そうな表情をしている上条と真っ赤になって俯く美琴の姿があった。
「うわぁーこれが御坂さん? いつもよりも乙女」
「私たちの前ではこんな顔、見せませんからね。って、あれ?」
「どうしたの、初春?」
「佐天さん……白井さんは?」
 初春は映像の下を指すと、向かい側に座っていたはずの白井の姿がなかったことに気づいた。だがおかしなことに、盗聴器からの声はイヤホンから届いてる。白井に仕掛けたはずなのに、盗聴器からの音は聞こえる。
「あれ? さっきまで声は聞こえてたのに…って、う、初春」
 疑問に思っていた佐天であったが、ふと初春を見て、その謎が明かされた。
 佐天は初春の奥、廊下側を指差しながら真っ青な表情になっていた。なんとなくだが、初春はその方向からピリピリした何かを感じたような気がした。しかも、よく身近で感じる感覚であった。
「えっと……さ、佐天さん。その、逃げられるでしょうか?」
「初春、あの人から逃げられないってことは、初春自身が一番良く知ってるはずじゃない?」
 そうでした、と初春は冷や汗を流しながら無理に笑った。
 佐天の指した方向に誰がいるか、言わずとも初春にはわかっていた。でも、振り向いてはいけないような気がしたので振り向けなかった。いや、振り向いたらあの人はどんな顔をしているか、想像しただけで振り向く勇気もなかった。

41キラ:2010/03/11(木) 21:58:15 ID:Yp4i4D16
 現在、上条と美琴の向かい側の席には窓側から、初春、白井、佐天の順に座っていた。
 白井がいなくなったことに気づいてすぐ、通路から聞こえた断末魔のような叫び声のあと、追加された二人は上条に自己紹介を終えことの経緯を話した。上条はそうですかと、若干照れながら答えるが美琴は再起不能の放心状態になった。恥ずかしいのレベルが、一定値を超えてしまっていたのだった。
 上条はその間は漏電の可能性があった電撃姫こと美琴の手を、右手で握っていなければいけない。これが二人きりなら問題なかったが、この席には白井と初春、佐天がいる。美琴が復活するまでの間、上条は常に三人に見られ続けなければならない一種の羞恥プレイを課せられたのだ。
「………………」
 逃げられるのなら、どこかへ逃げ出してしまいたいが、目の前の三人は決して逃がしてくれないだろう。しかも肝心の美琴はこの調子であるため、一人で逃げることも出来ない。
 不幸だと呟いて、早く起きろと心の底で念じながら三人と向き合ってみた。
「うっ……!」
 三人の反応は二種類。一人はお前を殺してやると上条に殺意を出すものと、残りの二人は自分たちの様を見て面白おかしそうにニヤニヤと笑っているものたち。
 殺意を出している一人、白井はこの類人猿がとこの若造がを繰り返し呟きながら、自分の私物である金属の矢を持って今にも飛び掛ってきそうだ。だがどこかで自制が働いてなのか、ただ単にまだしないだけなのかわからないが、襲いかかってこない。それでも上条からすればとても怖いし、命の危険を感じる相手であった。
 そして残りの二人、初春と佐天は握られている手をチラチラと見ながら、ご関係に興味ありますと目を輝かせていた。白井とは違ってこちらには恐怖も殺意も感じられないが、代わりにキラキラと輝く興味の視線は襲い掛かってこない白井よりも厄介であり、この次の展開も容易に予測できた。
「そ、それで……何を訊きたいんだ?」
 言った途端、初春と佐天の手がほぼ同時に上がった。それに上条は引きつった笑みで答え、正面にいた佐天を指名すると、よしっとガッツポーズをして、こほんと言って一呼吸置くと、佐天は上条さんと言って、
「御坂さんとはいつ恋人になったんですか!?」
 好奇心を抑えきれない子供ように、佐天は身を乗り出して上条に訊いた。指名されなかった初春も、私も訊きたいですと佐天のように身を乗り出してきた。残った白井は、殺すッ! 絶対に殺してやる! と上条への殺意をまた大きくしながら、金属の矢の手入れをしていた。
 上条ははぁーと大げさにため息をつくと、隣でまだ放心状態の美琴を確認して重かった口を開いた
「三月二十九日に、こいつから『恋人にならない?』って言われたから、恋人になった。告白とかは特に受けてないぞ」
 上条はありのままのことを振り返りそう答えると、佐天は少しだけ驚いた。
「え…? 好きでした、って言われる告白で恋人になったわけじゃないんですか?」
「まあ、告白しようにも上条さんも美琴も色々と事情がありまして、はい」
 上条は自分の記憶をごまかしながら答えると、初春と佐天はそうですかと納得出来ない表情を作って答えた。
(昨日、読んだ記事には俺の記憶喪失のことが載っていなかったから、念のためにごまかしてみたけど。正解だったようだな)
 上条は仕込んでおいたごまかしが成功したことに安堵した。美琴の友達とはいえ、記憶のことを全て知っているとは限らない。それに記憶喪失になりましたなんてことは、言いふらすものではない。なので、上条は美琴の補足が入らない限りは、自分の記憶のことは黙っておくことに決めておいたのだ。
 昨日の記事にも、自分の名前は載っていたが入院や記憶のことは書いていなかった。つまり一部の人間のみにしか自分の記憶のことは知られていないと予想して、昨日のうちに隠す方向へと考えを進めていたのだ。

42キラ:2010/03/11(木) 21:59:42 ID:Yp4i4D16
 白井に関しては、美琴が補足したので素直に頷いたが、この二人はどうやら記憶どころか入院していたことも知らないようであった。俺のことは詳しく知らないのか、と上条は疑問に思ったので、今度はこちらから思い切って訊いてみることにした。
「じゃあ上条さんからも。二人は上条さんのことをどれぐらい知ってるんだ?」
「そうですね……学園都市を救った無能力者ということは知ってます。あとは、御坂さんの気になる相手ということも少し知ってましたが、こうして会うのは初めてです」
「私も佐天さんと同じで、こうやって会うのは初めてです。ですが私は風紀委員なので、佐天さんよりは少し知っている自信があります」
 初春は自分のノートパソコンを取り出すと、キーボードを打ち始め、検索をかけた。その間、初春の素早いキーボード捌きにしばしば目をとらわれていると、隣からがさがさと動くような音が聞こえた。
「……あれ? また気絶しちゃってたんだっけ?」
「それぐらいわかれば十分だな。まったく、迷惑ばかりかけるやつだ」
 美琴が起きたのと同時に、上条は右手を離し、やっとあの羞恥プレイから開放されたと長かった拷問に耐え切った開放感を味わう。先ほど注文したコーラを一口飲んで、大げさにはぁーと息をつくと急激に疲れが出てきた気がしたので、椅子に深く腰をかけて天井を見上げた。
「なんで、そんなにおやじ臭いことをしてるわけ?」
「お前が言うな!!!」
 お笑い芸人を真似て頭を一発叩いてツッコミを入れた。何するのよと怒り出した美琴を無視して今度は小さく息をついた。すると、上条さんと初春に呼ばれると、パソコンのディスプレイの画面を向けられた。そこには自分の写真と細かいデータが記されていた。
「えっと…これは?」
「書庫(バンク)にアクセスした検索結果です。情報処理は私の専門分野ですので、これぐらいのことは簡単に検索できるんですよ」
 というと、画面が様々に移り変わっていく。学歴と能力、さらには関わった事件のことも書いてあった。それを見ていた隣の美琴はどんな顔をしているのか気になったが、きっと想像通りの顔をしていそうだったので見るのをやめた。
「……なるほど。でもこんなところで書庫にアクセスしてもいいのか?」
「権限は持ってますから。それに細かな部分までは検索をかけなかったので、特には問題ないと思います」
 そうか、と納得しながら上条は大雑把であるが書庫に書かれているデータを見た。細かいことは、美琴の作った記録に載せられているものでカバーすればいい。だが、こういった情報から得られる情報と比べてみるのも、自分の記憶探しにはもってこいのことだ。
「………………」
「えっと、上条さん?」
「あ、悪い。書庫を見る機会ないもんで、少しばかり夢中になってた」

43キラ:2010/03/11(木) 22:00:44 ID:Yp4i4D16
 はぁと初春は納得するが、上条にはその声が聞こえてこない。真剣に、表示されているデータを一つずつ一つずつ読んでいく。その作業は勉強に集中する学生のようであったので、初春は上条の表情に少しばかり疑問を持った。
「ねえ佐天さん。書庫にあるデータって、あんなに真剣に見たいと思うものですか?」
 小声で、近くにいた佐天に話しかける。ちなみに、真ん中にいる白井は、殺す! 絶対に殺す! と絶賛暴走中であったため、聞こえていない。
「あたしは特には思わないけど。でもほら、上条さんって初春みたいな情報通な友達がいないのかもしれないじゃない? だから珍しいものだと思って見ちゃうんじゃないかな」
「そうですか? 情報なら御坂さんがいると思うんですけど」
「言われてみればそうだね。でも、御坂さんにお願いしてまで書庫を見ようと思わなかったけど、いざ見てみるとなかなか興味深いことが書いてあった、とか」
「ですけど、書庫にあるデータって大体自分が知っていることですよ? まあデータそのものに興味があるかもしれませんけど、あそこまで真剣になってみるものでしょうか?」
 佐天の言ったことは初春にも理解できる。書庫のアクセスと言うのは、一般人が行うことはほとんどない。それ理由としてはアクセス権限とプライバシー、正当な理由がないためである。
 書庫へのアクセスは一般人には不可能、ではない。だがアクセスするにはいくつかの手順を踏まなければならない事実もある。その事実を省いてハッキングする美琴のような人物もいるが、それも一応一つの手である。
 だが上条にはハッキング能力もなければ、美琴に頼んだようなこともしていないそうだ。つまり興味本位で見ようとは思っていなかった。だが今の上条の目は興味などではなく、もっと別の物を持っているように見える。まるで"偶然に探していた情報が見つかった"かのように、事件の手がかりを探す風紀委員のようであった。
 初春はそこに疑問を抱いたのだ。そして、佐天の話を聞いた限りではその疑問が解けなかった。
「なんだか上条さん。事件を捜査する私たち、風紀委員みたいだと思いませんか?」
「言われてみればそうだよね。御坂さんや白井さんの時と、似たような表情をしてるよね」
「………何か探し物でもあったのでしょうか?」
 初春は直接本人に聞こうと思ったが、ややこしい事になりそうだったのでやめることにした。
 一方の上条は見ていくうちに、少しずつだが自分の知らなかったことを知っていく。意外といろんな事件に巻き込まれてるんだなと、感心してしまうのと同時に今の自分の環境にズレを感じ始めた。そして、最後にたどり着いたのはやはり二月の事件。データはそこで終わっていた。
「……………………ありがとう、初春さん。つい夢中になっちまった」
「あ、いえ。なんだかお役に立てたようだったので嬉しいです」
 パソコンの画面を初春の方向へと戻すと、上条は氷が解けてしまったコーラを飲みきった。少々薄味になってしまっていたが、水分補給になったのでそのあたりはあまり気にはしなかった。それに、飲みきったおかげで少しばかり頭が冷えたような気がした。
 ふいに上条は白井と呼ぶと、ちょっと付いてきてくれと席をたった。
「アンタ、黒子になにか用があるの?」
「まあ、ちょっとな。秘密の用事だ」
 そういって上条と空間移動で出てきた白井は席を後にした。

44キラ:2010/03/11(木) 22:01:41 ID:Yp4i4D16
「何よ、アイツ」
 言うだけ言ってどこかへ行ってしまった上条に、愚痴を言いながら注文しておいたミルクティーに口をつける。美琴のミルクティーはミルクを全て入れ、少しばかりのシロップを含ませている。本当はシロップは入れなくてもよかったのだが、今日は入れてミルクティーを味わってみたので普段より甘みがあったが、特には気にはならなかった。
 優雅にミルクティーのカップを置くと、何があったのと初春と佐天に質問してみたところ、
「御坂さん」
「御坂さん」
 二人はいっせいに身を乗り出してきた。さすがのことに、美琴は驚き後に引くが、接触するまではなくテーブルの半分で止まった。それでも身を乗り出してきた二人は、自分を押しつぶすほどの勢いがあるように思えたので後に引いたまま、どうしたのと訊くと二人はさらに身を乗り出してきて、聞きたいことをばんばん言っていく。
「告白してないってどういうことですか?」
「御坂さんならずばっと告白するのがセオリーじゃないんですか?」
「好きって言えてないんですか?」
「恋人になってとは言えても、自分の気持ちは伝えられないんですか?」
「上条さんが好きじゃないんですか?」
「上条さんと本当の恋人になったんじゃないんですか?」
「え…? え…?? ええーー??!!」
 一気に質問されて美琴は混乱するとの同時に、アイツは何を話したのよと席を立ってどこかへ行ってしまった彼氏に腹を立てた。また彼氏が席を立った理由がわかったような気がしたので、とりあえずあとで電撃と雷撃の槍を浴びせようとひそかに決意した。
 しかし、それよりもまずはこの状況である。美琴はなぜこうなったのか現状を理解できていなかったので、どういうことと二人に説明を求めると、代表して佐天が話を始めた。
「あたしが上条さんに『御坂さんとはいつ恋人になったんですか』って訊いたら、上条さんは『告白は受けてない』って言ったんですよ。なんでも御坂さんが『恋人同士になって欲しい』と言っただけで、恋人になりましたって感じでしたけど、本当ですか?」
「……………まあ、間違ってはいないかな」
 美琴は少しだけ沈んだ表情で答えると、佐天はそうですかと言って、身体を引いた。
「アイツもアイツで色々とあってさ。それでもなりたかったら、なってくれたって感じかな」
「でもそれって……悲しすぎませんか?」
「そうかもね。でも…そうしなければならない事情があったから」
 佐天の説明通り、上条の言ったことは間違ってはいない。そして初春の言ったとおり、悲しすぎる。でもこれは仕方のないことだと、美琴は自分を無理に納得させた。
 記憶を失った人間との恋は、他人から見れば悲しいものなのだろう。好きであったはずの相手から、何もかも忘れ去られる絶望は上条と出会った直後に体験済みだ。さらに好きと言っても、答えられないことは知っていても苦しく悲しいものだ。
 逆に上条であっても、いきなり他人と出会うことと好きだと言われることは驚きや衝撃、戸惑いや苦痛など美琴以上に様々なことが伴うことだ。もしかしたら、美琴の味わった絶望よりも大きなものを感じてしまっていたのかもしれないが、その気持ちはどんなに頑張ろうとも美琴には理解できない。
 今思い返してみれば、三月二十九日はお互いに辛い日、もしかすれば人生最悪の日だったのかもしれない。お互いに絶望を味わい、愛情を伝えても答えられない答えてくれない苦痛は、お互いに忘れられない傷になったのは間違いないだろう。
 でも、それでも上条は頷いた。自分の片思いになっていると知りながらも、『後悔するなよ』と言っておきながらも美琴と恋人になった。きっと上条には一方的な片思いの相手と恋人になるのは、とても辛いとわかってるはず。なのに上条は自分を好きになろうと努力してくれている。美琴を一人の女の子として意識して、好きになろうとしている。
 この先にどんな出会いや出来事があるのかわからないのに。自分と言うものをまだわかっていないはずなのに。それでも上条は美琴を好きになろうと努力しようとしてくれている。それがとても嬉しかった。

45キラ:2010/03/11(木) 22:02:33 ID:Yp4i4D16
「え…? 御坂さん?!」
 慌てた初春の声にどうしたのと美琴は驚いた。すると初春は、涙がと答えたので美琴は自分の目頭辺りを撫でてみた。
「あれ…? なんで泣いてるんだろう?」
「なんでって御坂さん、どうしたんですか? もしかしたら自分でもわからないんですか?」
「あ、うん。自分でもなんで泣いてるのかよくわからない」
 悲しかったり苦しかったりもしなければ、嬉しかったり面白かったりもしていない。ただ佐天に言われたことを考えていただけだったのに、自分でもわからずに涙を流していたのだ。
 何故だか涙は止まらず、拭いても拭いても流れてくる。しかもなんで泣いているのかも自分でもわからないのだ。
「おかしいな。私、何もないのに。ただ話してただけなのになんでだろう…」
「………御坂さん」
「ごめんね。私にもなんでかよくわからないの」
 というと美琴は、お化粧を直してくるとバレバレの嘘をついて席を立った。
 今はこの場から離れないと迷惑がかかる。それにまだ泣き止まなそう気がしたので、美琴は少し駆け足でトイレに駆け込んで行った。
 それを見ていた友人二人は、後味の悪そうな表情をしながら美琴の背中を見ていた。
「なんだか複雑で大変そうな二人だね、初春」
「そうですね。御坂さん、とてもつらそうな顔してました」
「訊いちゃったあたしたちもあたしたちだったかな。今はすごく反省してる」
「はい。私も軽率だったと思います」
 二人が美琴を見ながら思ったのは、軽い気持ちで訊いてしまった後悔。初めは友人としてとても嬉しかったし興味があった。美琴が想っていた相手と付き合ったと聞いたときは、心から祝福した。だから上条と美琴に恋人はどういったものかを訊きたかった。
 だけど実際は想像していたものよりも、複雑で辛い結果だった。楽しそうな会話とは裏腹に、二人はとても大きな問題を抱え、恋人として成り立てていなかったのだ。それを知らずに二人は様々なことを聞き楽しんでしまった。その罪は知らなかったでは済まされないことだ。
「二月の事件あったでしょ。あの時の新聞の記事を見たときにさ、思った事があったんだよ」
 佐天はふいに初春にそんなことを語りかけてきた。それに初春はなんですか? と答えると佐天は寂しそうな表情で言った。
「きっと上条さんのいた世界って、御坂さんでも遠かったんじゃないのかなってね。無能力者の英雄(ヒーロー)と肩を並べるのは、レベルじゃどうにもならないほどに、ね」
「………なんとなく、わかります」
「あたしも上条さんと同じ無能力者だけど、やっぱりあの人は少しだけ世界が違う気がする。だけど」
 佐天はそこで言葉を区切ると、天井を仰ぎながら初春に語った。
「あたしたちと同じ世界にもいる気がする。上条さんと話して、そう思った」
「はい。私もそうだと思います」
 そっかと相槌を打って、ぼんやりと考える。
 上条と美琴、この二人は一体どんなことに悩んで苦しんでいるのだろう。恋人になれたと言うのに、なんであんなに苦しそうなんだろう。
 しかし答えを知らない佐天と初春は黙ってその行方を見ている傍観者、またはサポートする協力者にしかなれない。恋愛はその二人個人の問題だとわかっていても、自分の役目がそれしかできないとわかっていても、悔しかった。

46キラ:2010/03/11(木) 22:14:17 ID:Yp4i4D16
以上です。
あと二回ほどでこの回は終わる予定です。

前回の『番外編』のご感想、ありがとうございます。
一部に失言がございましたことを、ここで謝らせていただきます。
それで、前回『次回は入学式編』と言いましたが、今日になって『その前にホワイトデーかけるじゃん』ということに気づきました。
なので、収まりきらない部分をカバーするために、『ホワイトデー編』を先に書かせていただきます。
その後に、入学式、上条の卒業式、と続く予定です。
ですけど、入学式と卒業式の間にまた番外編が入るかも(下手すれば長編になるかも…)
入学式をご期待されている方には申し訳ありませんが、もう少しだけお待ちしていただければ幸いです。
これと『memories』の同時進行ですすめていこうと思いますので、両方とも温かい目でご期待ください。

では長文失礼しました。
最後に、20巻買うの来月以降っぽいorz

47■■■■:2010/03/11(木) 22:23:51 ID:IhO.jH.Q
>>46
相変わらずのGJ
このシリーズはD2氏の作品とはまた違う切なさを感じられた。
記憶喪失が皆にばれるっていうのは原作でも起こりそうだな、と。

そういえば、今度の日曜日でしたねホワイトデー。
作品ラッシュの予感がしますねー

48■■■■:2010/03/11(木) 22:25:38 ID:nPzaRGLI
>>34
GJ! 後半も期待してます。

>>46
GJ! あぁ、黒子と上条さんが気になる…

49:2010/03/12(金) 00:17:02 ID:gD.geSdY
お久しぶり?です。

今から8〜10レスくらいを消費してネタを一つ投下したいと思います。

いつもの留意点
・このスレに合うのかなぁ?少し自信がないです。
・二番煎じというか、三番煎じみたいなやつです。いいのだろうか。
・被らなければすぐに投下するかと思います。

50:2010/03/12(金) 00:17:49 ID:gD.geSdY
A lie



御坂美琴はある少年を探していた。
理由はただ一つ。
自身に眠る莫大な感情を、打ち明けるため。

「…………いた」

美琴が想いを寄せる彼は、いつの日かの鉄橋に佇んでいた。
何故こんなところにいるのだろう? そんな疑問が頭によぎったが、それについては考えない。
今はただ、想いを告げることだけを考えた。

「アンタ!」
「っ……………ああ、御坂か」

少し驚いた顔をした後、いつもの調子、いつもの顔で、彼は振り向いた。
その顔をみると、すぐに心臓の鼓動が速くなる。
これから言おうとしていることを考えて、美琴の心臓の鼓動はさらに速くなる。
それをなんとか必死に抑えて、言葉を搾り出す。

「大事な話が、あるの」
「ん? なんだ?」

自分が緊張しているのがわかる。
それでも。
精一杯の勇気をもって。
御坂美琴は、上条当麻に告白する。

「私は、アンタのことが……………………好き」

上条は驚いたような顔をしていた。
それは、すぐに真剣な表情へと変わる。
少しの静寂。
上条は真剣に考えてくれているようだった。
美琴は上条の次の言葉を期待と不安を混ぜながら待つ。

「……………俺は、お前とは付き合えない」
「ッ!!??」

その言葉で美琴の体に衝撃が走る。
上手く呼吸することができない。涙が零れそうになる。頭の中が真っ白になる。
それでも、なんとか言葉を搾り出す。

「な……ん、で?」
「嫌いなんだよ。お前のこと」
「ッ!!!???」

嫌い。その言葉が美琴の心を貫いた。
ただ、一歩二歩と後ろに下がる。それだけ衝撃を受けていた。
涙が勝手に溢れ出し、頬を伝ってブレザーに落ちる。
顔を見られまいと俯くが、涙は濡らす標的を地面に変えただけで、止まらない。
足腰に力が入らない。それでも、なんとか立ち続ける。
全身が震えだす。汗が噴き出す。
上条が何かを言っていても、聞こえない。聴覚が働かない。脳が働かない。
ただ、上条当麻は御坂美琴のことが嫌いだという事実が美琴の頭を埋め尽くす。
もう、その場にいることなどできなかった。
震える全身を強引に動かして、足腰に強引に力を入れて。上条に背を向けて走り出す。

「ッ」

美琴は後ろを振り返る事なく、ただただ一直線に走り去っていった。
瞳から零れ出る雫を拭おうともせずに。
その様子を、上条は奥歯を噛み締めながら見送ったことを美琴は気づかなかった。

51:2010/03/12(金) 00:18:25 ID:gD.geSdY

白井黒子は風紀委員の仕事が早く終わったので、寮に帰ってきていた。
少し疲れた様子で、ベッドに腰掛けている。

(はあー。疲れましたわね、全く)

疲れをテレポートできたらいいですのに。などとできないことを思いつつため息を吐く。
そこでふと頭をよぎるのは、愛しのお姉様、御坂美琴のことだった。

(お姉様はどこに行かれたのでしょう? わたくしに何も言わないで行くなんて……。まあ、いつものことなのですけれど)

まさかまたあの殿方と……!? などとその場面を少し想像して怒りに火が点く。
すると、噂をすればなんとやら。コツコツという足音が扉の外から聞こえた。その足音は紛れもない、白井の愛するお姉様―――御坂美琴の足音だった。
ガチャ…と部屋のドアが開いた音を聞いて、白井はドアの方を見る。

「お早いお帰りです―――ッ!? お姉様!? 一体どうされたんですの!!??」
「…………ただいま」

白井は帰ってきた愛しのお姉様をみて驚愕で目を見開いた。
美琴は今もなお零れ落ちる涙を拭おうともしていない。涙は頬を伝ってブレザーに染みを作っている。
白井に対して弱みを見せることなど一切なかった美琴が、涙を流しているのを隠そうともしていない。
それはつまり、隠そうと思うことさえ忘れさせる程までにショックなことがあったということ。そこまで美琴に影響を与える人物を、白井は一人しか知らない。だが、その人物はそのようなことをする人物ではなかったはずだ。
何と言葉をかけたらいいかわからないでいると、美琴が口を開いた。

「私、フラれたんだ。アイツに。………嫌われてたんだ」
「ッ!!??」

美琴はそういうと、フラフラとベッドの方へと歩き出す。その足取りはおぼつかなく、今にも倒れてしまいそうなほどだった。
様々な衝撃が白井に襲い掛かる。
それは、美琴がフラれたという事実と、美琴がその事実を打ち明けたという事実、そして、美琴が想いを寄せる彼が美琴に対し嫌いと言った事実だった。
そんな衝撃の事実を言われて、白井は何も言ってあげることができなかった。

「黒子。私……ちょっと休むね」

美琴が力なく自分のベッドへと倒れこんだ。掛け布団を思い切り抱きしめて、声を押し殺して泣きはじめた。
白井はその様子を見てられなくて、ここから去ることを決める。内に多大なる感情を閉じ込めて。

「お姉様。わたくし、少し、出掛けて参りますわ」

白井黒子はそういうと208号室からテレポートした。
行き先など、決まっていた。

52:2010/03/12(金) 00:18:56 ID:gD.geSdY
「不幸……いや、そんなこと言う資格もないか」

もう半ば口癖になりかけている言葉を言いかけて、やめる。
今いる場所は第23学区。1時間後には上条は学園都市から消えるだろう。

(御坂が俺のことを好き、か…………)

上条は美琴のことを嫌いではなかった。嫌いなはずがなかった。
異性として好きか? という質問ではわからないと答えるしかないが、大切な人かという質問をされたらイエスと即答することができる。
それなのに、嫌いだと偽って傷つけた。

(もし帰ってこれたら、今度からはいつものように騒げないのか……)

今度行く場所は、生きて帰ってこれるかなんてわからない。
生きて帰ってくるつもりではあるが、確証なんて持てなかった。
なぜなら今までだって何度も死にかけたのだ。今度は生きて帰れるとは限らない。
しかも、今度行く場所は今までよりも危険だということがわかっている。
だから、突き放した。
返事を待ってくれという希望を持たせる形の場合、もし死んでしまった時に悲しむと思ったから。
だから、嫌いだと突き放すことで、諦めて、嫌われる方を選んだ。
そちらの方が、死んだと知った時傷は深くないと思ったから。
どっちを選んでも傷つけてしまうのなら、せめて傷が深くない方を選ぼうと。
そこに、美琴の意思はない。でも、言えるはずがなかった。
元々言うつもりもなかったし、告白なんてされれば余計言えるはずがない。
好きな人が危険な場所へ行こうとしているのを知って、止めない人間がいるはずがない。いや、美琴ならついて行くと言い出しかねない。
そんな美琴を巻き込もうなんて思えるはずがなかった。

「……ゴメン」

人知れず、上条は呟いていた。
わかっている。自分勝手だということは。それでも、大切な人を危険になんて晒したくない。例え、どれだけ強くても。
そんな気持ちから思わず口から零れていたのだろう。

「謝るのなら、謝る相手の前まで言って謝るべきではありません?」
「ッ!!??」

内側にばかり意識がいっていたせいで接近に全く気づかなかった。もしかしたらテレポートで現れたのかもしれないが。
上条は心臓が止まるかと思いつつも、話し掛けてきた相手の方を向く。

「白井か……驚かせるなよ。ビックリしたじゃねえか」

そんなことを言ってみせるが、白井は一切反応せずに上条に近づいてくる。
そんな白井の様子を不思議に思うが、そんなことなど次の瞬間吹っ飛んだ。
スパァアン!という音が周りに鳴り響く。
その直後に襲ってくる頬の痛みから、ようやく自分はビンタされたのだと知る。
混乱した頭の状態のまま、その行為を行った人物を睨む。

「いきなり何すんだっ!!」
「何すんだとはこっちの台詞ですのよこの野郎」

明らかに白井は怒っていた。
だが白井にそんなことを言われなければならない覚えはない。何もしていないはずだ。
上条は俺が一体何をしたと言おうと口を開きかけて、気づく。
白井が怒っているのは別に上条が白井に何かをしたとは限らないということに。
最近自分がとった行動と照らし合わせてみれば、何に対して白井が怒っているのかはすぐにわかった。
白井の敬愛する御坂美琴に対してとった行動のことだ。

「……あのことか」
「ええ、わたくしは怒りに怒り狂っておりますのよ。どうして―――」

そこで白井は言葉を一度止める。必要な間なのだろう。
この後に来るのはどんな罵詈雑言だろうか。だが、例えどんな罵倒であっても受け入れるつもりだった。

53:2010/03/12(金) 00:19:24 ID:gD.geSdY
「―――嘘をついたんですの?」
「ッ!!??」

上条は驚きで目を見開いた。美琴を悲しませたことで罵倒されると思っていたから。まさか嘘であるなどとバレているとは思ってもいなかったから。
だが、嘘だと認めるわけにはいかない。結果的に美琴に希望を持たせるようなことはできない。

「…何言ってんだよ。嘘なんて俺がいつ」
「しらばっくれても無駄ですの」

上条の言葉を白井は途中でばっさりと切り捨てた。そんな言葉(ごまかし)など聞く必要がないとばかりに。
上条は白井の態度に驚くが、表情には出さない。

「貴方が何を思って嘘をついているのか、そこまではわたくしにもわかりませんけど、貴方はお姉さまの気持ちを一度でも考えたことがありますの? お姉様は貴方のことを本当に本気で好きなんですのよ。それこそ、わたくしが入り込む余地などないくらいに。わたくしとしては認めたくはありませんけど。そんなお姉様が、何を想って貴方に告白したかわかりますの? いつもは素直になれないお姉様が! 勇気を振り絞って! フラれるかもしれない恐怖に打ち克って! そうしてようやく搾り出した、凝縮された一つの言葉を! 貴方はなんの想いも込められていない嘘を告げて! お姉様の気持ちも考えずに傷つけたんですのよ!?」
「………」

上条は何も言い返すことができない。全て事実だったから。
美琴がどれだけの想いを内側に秘めていたのかなど知らないし、その想いを告げるのに費やした苦労など一切考えてなどいない。そのことを理解しておきながら上条は嘘をつき、傷つけたのだ。
その事実を知った白井が怒るのも当然だった。

「貴方は、お姉様の真剣で、純粋で、一途な気持ちを弄んだんですのよ」
「っ違う!!」

思わず、上条は叫んでいた。言ってから、ハッとする。一度言ってしまった言葉は取り消せない。故に、今言った言葉も取り消すことはできない。
対して白井は少し微笑んでいた。本当の言葉が聞けたと言わんばかりに。

「違うなら、なんだと言うんですの?」
「……弄んだわけじゃ、ねえよ。嫌いっていうのは、本心だ」
「………強情ですこと。あくまで嘘を貫き通すつもりですの?」

白井は呆れたようにため息を吐いた。
上条の嘘と動揺などを隠す演技は全て、白井には通じていない。
だが、白井が揺さぶっても、上条が嘘をつくのを止めようとはしない。
そして、白井が上条を揺さぶることのできる手札は、あと一つしか存在しない。白井は、その手札を使うことを決意する。これで上条が認めなければ、白井の負けだ。

「なら、あの約束はなんだったんですの?」
「……約束?」
「お姉様と、その周りの世界を守るんでしょう?」
「ッ!!??」

上条の肩がギクリと跳ねた。その瞳に宿るのは明らかな動揺。だがその動揺もすぐに隠れてしまった。
白井は上条のその決して折れない芯の強さに内心驚く。

「それは」
「本当にお姉様が嫌いなら、そんな約束など最初からしませんわよね?」
「ッ」

上条の言葉を遮って、先手を打つ。この先手はとても有効だったようで、上条は言葉を詰まらせた。
上条はどうすればいいか必死で考える。だが、上手い返し方など思い浮かばなかった。
白井は、上条が言葉を発するのを待っている。
元々、嘘だったのだ。嘘を積み重ねて隠し通せることなどほとんどない。
それに、今言ったところで白井が美琴にそのことを言うまでには時間がある。仮に電話を使ったところで、美琴がここに来る頃には上条は学園都市からいないだろう。
打算的で最悪だとは思う。だが、それでも、美琴を危険に巻き込みたくない。
上条は諦めて白状することにした。

54:2010/03/12(金) 00:19:48 ID:gD.geSdY
「……………………ああ、そうだよ。俺は御坂美琴を嫌いじゃない」
「やっといいやがりましたわね」

白井は疲れたようにため息を吐いた。だが、白井にはまだやらなければならないことがある。
白井は再び真剣な眼差しで上条を見て、追及する。

「どうして嘘などついたんですの?」
「言わない」

間髪いれずに、はっきりと上条は言った。それは、確固たる意志の表れだった。
上条はその理由だけは言わない。言えない。言いたくない。言えばまず間違いなく白井が止めにくるだろう。そうなってしまえば恐らく、飛行機に乗れないか、美琴に事実が伝わって美琴が来て止められる。

「言いなさい」
「言わない」
「言わないと、金属矢をぶち込みますわよ?」
「言わない」

白井が脅しても、上条は決して揺るがない。
白井には、上条を少しでも揺さぶることのできる手札が存在しない。

「全く、参りましたわね……。ここまで強情な方など初めてお会いしましたわ」
「……………」

2人の間に静寂が流れる。
ふと、上条は疑問に思ったので訊いてみることにした。

「……なあ。なんで俺の居場所がわかったんだ?」
「……大変でしたんですわよ? ジャッジメントの詰め所へ行って、ジャッジメントの権限をフル活用して衛星の監視カメラを使って、同僚にも手伝ってもらったんですのよ。おかげで今度奢らなくてはならなくなりましたわよ」
「……そうか」

疑問が解消されると、再び2人静寂が流れる。
上条が学園都市からいなくなる時間も着々と迫っていた。
不意に、白井は携帯を取り出す。
上条はその様子に美琴に知らせるのかと思うが、白井の行動は違った。
白井はただ携帯を見てポツリと言った。

「…………恐らく、そろそろですわね」
「は?」

上条は白井の言葉の意味がわからなかった。
白井は上条を無視して背後にある入り口の方を見やる。
上条も釣られて白井が見ている方を向く。
丁度その時、入り口のところに人がやってきていた。
入り口に立っている人物を見て、上条は目を見開く。

「ッ!!!!????」

その人物は、肩で大きく息をしながら、それでも足取りはしっかりとして、上条の方へと歩いてくる。
それは、カエルをモチーフにした携帯電話を手に持って、常盤台中学の制服に身を纏って。学園都市にも7人しかいないレベル5の第3位、『超電磁砲』の異名を持つ。

「見つけた……」
「御……坂……!?」

上条にとって、今最も会いたくない、会ってはならない人物。御坂美琴だった。

55かぺら:2010/03/12(金) 00:20:14 ID:667m884s
くそっ、11日中に間に合わなかった!
とりあえず、お返事etc。そのあとに後半投下します。

>>35-37
>>48
あざーす。
お待たせしました。
853見てた and 思いのほか長くなってしまいました

>>キラさん
感想を…と言いたいところなのですが、『memories』は全編終わってから読もうと楽しみにしていますので、
感想はそのときにでも。


では、何事もなければ、『月曜日(ホリデイ)』の後半を00:25分より投下開始します。
前述の通り、長くなったので8レス借ります
シリーズタイトル:Dairy Life
*『月曜日(ホリデイ)』前半は>>30-33です。

56:2010/03/12(金) 00:20:14 ID:gD.geSdY
白井は美琴が来るとテレポートでどこかへ行ってしまった。
だが、今の上条にそんなことを気にする余裕など存在していなかった。

「な……んで…? ここに……?」

驚きで上手く言葉に出せず、途切れ途切れのような感じになってしまった。

「コレよ」

美琴は携帯電話の画面を見せる。そこにはGPSの使用コードが書かれているメールが表示されていた。送信者は白井黒子となっている。
美琴はそれを見せたことを確認すると、ポケットにしまった。
上条は理解した。白井はこのメールを送ってから上条に会っていたということを。
だが、それでやって来ただけなら、上条が嘘を言っていたことは知らないはずだ。

「なんだよ……そういうことかよ。……で? 俺になんの用だよビリビリ?」

素っ気無い態度をとって、嘘の続きをする。上条は美琴のことが嫌いだと思わせるために。胸の奥でチクリとした痛みが走るが気のせいだと思い込むことにした。
美琴は上条の様子に痛みを受けたような顔をする。だが、それはすぐにいつもの表情に隠された。
その様子を見逃さなかった上条は、胸の奥で先ほどよりも強い痛みが襲ってくる。だが、上条はそれを表情には決して出さず、無視した。
美琴は少し唇を噛むと、搾り出すように言った。

「やめ、なさいよ」
「は? やめるって、何をだよ?」
「アンタが嘘をついてたってことはもう知ってるんだから! 演技するのはやめなさいって言ってるのよ!!」
「ッ!!!!!????? な……………!?」

上条の肩がビクンと跳ね上がる。言われた言葉を理解できていない。いや、したくないのか。
なぜ? その言葉だけが上条の頭の中をグルグルと回る。
その疑問は口をついて出てきた。聞けば、認めたことになるのだが、今の上条にはそんなことに気づく余裕などなかった。

「なんで……知ってんだよ……?」
「聞いてたのよ。アンタが黒子と話している内容を」

美琴は携帯をポケットから取り出して少し操作する。

「コレでね」

そう言って美琴は携帯の画面を見せる。そこには白井黒子との通話時間がかいてあった。とても長い。
それを見て上条は気づく。

「まさか……!?」
「そ。アンタと黒子が話してるとき、黒子は私と電話を繋ぎっぱなしにしてたのよ」

それは奇しくも、美琴が上条の記憶喪失について知ったときと似た方法で。
上条は脱力した。
白井の役目は、美琴が来るまでの時間稼ぎだったのだ。

「はは、は。まいったな……」
「……それでアンタは、今度はどこに行こうとしてるわけ?」
「ッ!?」

ショックが抜けきらない状態で予想していなかった質問をされて、上条は驚く。
だが、本当のことを言うわけにはいかない。

「何、言ってんだよ。俺は別に」
「じゃあなんで、ココにいるのよ?」
「ッ」

上条は言葉に詰まった。第23学区になぜいるのかなど言い訳なんてできない。いや、したところで既に美琴には答えが大体わかっているだろう。
誤魔化せる道理はなかった。だから、上条がとることができる対抗手段は一つしかない。

57:2010/03/12(金) 00:20:40 ID:gD.geSdY
「………」
「アンタが今度行く所と、今回の嘘は関係してる。……違う?」

上条は沈黙することで対抗しようと試みたが、どうやら美琴には効果がなかったらしい。
だから、上条は沈黙し続けることで情報をできる限り与えないという方法しかとることができない。

「ま、いいわよ。言いたくないなら言わなくても。アンタは止めても聞かないだろうし。ついていくだけだから」
「ッ!!?? ダメだっ!!!!」

また、上条は思わず叫んでいた。その反応で、上条がどれだけ危険なところへ行こうとしているか美琴にバレてしまうとわかっていても。

「……どうして? 私じゃアンタの力になれない?」
「…………お前を危険な目に遭わせたくないんだよ」
「……っ私は! アンタを危険な目に遭わせたくないのよ!!」

2人の想いは似通っていた。
上条も美琴も、大切な人を危険な目に遭わせたくないという気持ちからだ。
そして、2人の性格も似通っていた。
何でも1人で背負い込み、決して他人に打ち明けることなどしない。困っている人がいたら放っておけない。自分を犠牲にしてでも他人を守ろうとする。
そう、2人の芯は、似通っていた。
自分ではなく他人のために。
自分ではなく大切な人のために。
それが、お互いがその大切な人だったら、衝突するのは当然だった。

「ダメだ。連れて行くわけにはいかない」
「アンタが何を言おうと、私はついていくわよ」
「〜〜〜〜〜ッ!!!! なんでだよっ!? 俺は、お前を傷つけたんだ!! そんな奴の心配なんてする必要ないだろ!!??」
「そうね。でも、傷つけられても、何を言われても、それでも私はアンタのことが今でも好きなのよ!!!!」

美琴は、嘘をつかれて傷つけられても、上条のことが好きだった。
そうじゃなければ、美琴はこんなところには来ていない。嫌いになっていたら、上条がどこへ行こうが、どんな危険な目に遭おうが知ったことではないはずだ。
上条はその事実に気づく。だけど、

「だから、私はアンタについていくわよ。アンタを守ってみせる。力になってみせる」
「…………迷惑なんだよ。余計なお世話だ!!!!」
「ッ」

心に思ってもいないことが口から出ていた。
その言葉を聞いて美琴が痛みを受けた顔をする。
迷惑なはずがなかった。むしろ、嬉しかった。それなのに。また、傷つけた。
上条は、自分は最低な奴だ、と自嘲する。

「それでも、いいわよ。私は、勝手にアンタを守るだけだから」

美琴は気づいていた。上条がその言葉を言った少し後に、悲痛な顔をしていたことを。
上条は嘘をついて相手を傷つけながら自分も傷ついている。優しい性格だから。
そんな性格であることは、美琴はわかっていた。似た者同士だから。本人達は2人の性格が似ているとは思ってはいないが、それでも、どこか通じるものがあって、お互いの性格のことは大体わかっていた。

「……………どうなったって、知らねえぞ……」

上条はその言葉を吐き捨てるように言うと、そっぽを向いた。目線なんて合わせられるはずがなかった。あれだけ言い合って、傷つけたのだから。
美琴はそんな上条の横顔を直視して、言う。

「帰ってきたら、今度こそ聞かせてもらうわよ。本音でね」
「…………わかったよ」

上条は諦めたように、そう吐き捨てた。
危険な場所へと連れて行くことになるのだ。美琴が勝手についてきたんだと主張しても、何が何でも美琴を守ろうと。
例え、死んでも。そんなことをすれば美琴は悲しむだろう。怒るだろう。でも、それでも上条は守ることを新たに誓う。
あの時の約束うんぬんではなく。己の意思で。
もし、死なずに無事に帰ってこれたら、今度こそ美琴の想いに真剣に応えよう。そう、決意した。

58:2010/03/12(金) 00:21:06 ID:gD.geSdY
「終わりましたの?」

テレポートで近くに現れるなり、白井黒子は訊ねてきた。
恐らく離れたところから様子を見ていたのだろう。
律儀なことに、会話は聞いていない様子だった。

「ええ、終わったわよ。…………それと黒子、私達今から出かけてくる。いつ帰れるか分からないから寮監に言い訳お願いね」
「お、お姉様!? い、一体何をするつもりですの!!??」

白井はそこまで言った後、何かに気づいたらしい。
二人の様子を交互に見て、

「お姉様と殿方は、どこに行かれるんですの?」
「……ちょろっと『外』にね」
「やはりそうでしたの。でしたら、黒子も」
「ダメよ」

白井の言葉を途中で遮って、美琴は拒絶する。
上条としても、これ以上誰かを連れて行くのは嫌だった。叶うなら美琴もここに残っていて欲しい。

「御坂、やっぱり」
「アンタは黙ってなさい。…………黒子」
「なんですの? お姉様。わたくしは例えお姉様が来るなと言っても」
「―――――ゴメン」

バヂィッと電撃が白井に飛び、白井は避けることもできずに当たって、意識を失ってその場に倒れた。
後遺症だとかそういう類のものは一切残らないだろう。
美琴は辛そうな表情をしつつも、それでも決意した顔をしていた。

「…………行くわよ」
「さすがにここに置いていくのはまずいだろ」

上条はそう言いながら、白井を抱きかかえて近くの椅子に寝かせた。

「行くぞ」

上条は美琴のもとへ戻ると、一言だけ、そう告げた。
美琴は何も言わずについていく。
上条は美琴を守ると心に誓って。
美琴は上条を守ると決意して。



―――――2人はこの日、学園都市から消え去った。





終わる。

59:2010/03/12(金) 00:21:41 ID:gD.geSdY
以上です。
このスレに合っているのかはわかりませんが。

↓一応Q&A

Q 何故美琴は第23学区にやってきたんですか?
A メールを受け取った(こっちのが先)時点でとりあえず行ってみようと思い、準備する。
そうしていたら電話がきて、聞いてみると上条と黒子が会話している。しかもそれは告白の件で、尚且つ黒子は嘘だと主張している。
それを聞いて美琴は一度冷静になる。
一連の流れから上条が第23学区にいると確信して、じゃあ何故上条が第23学区にいるのかを考える。
告白の件と、黒子の嘘だという発言という情報と上条の性格から上条がまた何かしようとしていることに気づく。
急いで第23学区へ。
大体こんな感じの流れが背後に一応あります。
だけどサプライズ感を出したかったので省きました。

Q 何故上条は橋の上にいたんですか?
A その時点で既にどこかへ行くことはわかっていたから、先の事を考えてちょっと感傷に浸っていた的な状態。

Q 何故黒子は上条の嘘がわかったのですか?
A それなりの交流は経ているので、上条がそういう人物ではないことを見抜いていたんです。約束のこともありますし。
ちなみに美琴はショックで気づくことはできませんでした。

Q 2人の性格が似通っているというのはなんですか?
A ∀が勝手にそう思っただけです。一応根拠(?)としては3巻の橋の場面と16巻の美琴が上条と会った場面の描写に似ているところがあるよな〜なんて思ったからです。


質問されたら答えていきますので、質問があればどうぞ。感想や指摘もどうぞ。

60かぺら:2010/03/12(金) 00:23:05 ID:667m884s
>>59

ごめんなさい。
リロード確認忘れてました

しばらく様子見します

61:2010/03/12(金) 00:28:33 ID:gD.geSdY
あ、書き忘れにつき連レス失礼します。

結局ネタ被りにも関わらず投下させていただきました。
元々ネタを提供したのが自分とはいえ、やっぱりネタ被り(具体的なシチュという意味で)投下はいけないかなぁと思いましたので、ネタ被り投下は今回限りにすることにします。
しかも投下したのがなんだかはっきりしない終わり方のものですしね。
ちなみに先は妄想でお願いします。

以上、お邪魔しました。

62かぺら:2010/03/12(金) 00:45:01 ID:667m884s
>>59

やらかしといてなんですが感想を
なんか本編でありそうな展開ですね。
美琴のためにキレる黒子が素敵w
このあと何と戦ったのか、ちゃんと戻ってこれたのか
ハッピーエンドを祈ります。


あ、続きの投稿は明日にします。

63■■■■:2010/03/12(金) 00:53:28 ID:6GB5uyto
黒子キレすぎだろ…
このスレで一番男前なの、黒子じゃね?
さすが主人公になっただけはあるぜ!21巻に出てこねーかな…

64:2010/03/12(金) 01:25:37 ID:gD.geSdY
ちょっと抜けてる文章があったので補足しますね。

>>53
思わず、上条は叫んでいた。言ってから、ハッとする。一度言ってしまった言葉は取り消せない。故に、今言った言葉も取り消すことはできない。それでも、その言葉は否定したかった。
対して白井は少し微笑んでいた。本当の言葉が聞けたと言わんばかりに。

「それでも、その言葉は否定したかった。」の部分が抜けてました。
上のは直したものです。

65■■■■:2010/03/12(金) 02:01:03 ID:aYiYmh6M
>>34
GJ
早く後半が読みたいです〜

>>46
GJ
なんともいえない距離を感じますね
佐天さんと初春絡むとだいたいニヤニヤ展開なのに辛いなんて……

>>61
GJ
ネタが同じでも書き手によってかなり違いが出てこれはこれで良いですね

66■■■■:2010/03/12(金) 03:42:32 ID:08eyA.eM
かべらに吹いたw
どんまいw

67かぺら:2010/03/12(金) 10:03:34 ID:667m884s
おはようございます。
バイトから帰ってきました。
気を取り直して、頑張りたいと思います。

『月曜日(ホリデイ)』の後半を10:10より投下開始します。
思いのほか長くなってしまい、8レスお借りします
シリーズタイトル:Dairy Life
*『月曜日(ホリデイ)』前半は>>30-33です。

68月曜日(ホリデイ)5:2010/03/12(金) 10:11:49 ID:667m884s
どれくらいそうしていただろうか、上条が気付いた時、周囲にはなんだか人だかりが出来ていた。
常盤台の制服の女の子がどこぞの馬の骨とも知れぬ高校生と抱き合っていれば自然と注目の的ともなる。
上条は顔に血が昇るのを感じ、慌てて美琴から離れようとする。
しかし、美琴は意識を失っているのか、ふにゃーとか言いながら上条の方に倒れて来る。
そのまま避けて床にダイブさせるわけにもいかず、とりあえず支えてみるがこれでは先程と何も変わらない。
むしろ、離れようとするツンツン頭に、行かないでとお嬢様がしがみつくように見える。
まずい。さっきは意識せずに抱きしめてしまったが、一度現状を把握してしまうと、胸元に感じる美琴の体温やら息やら体重を意識してしまう。
―――これは、マズい。不こ…………じゃないけど、不幸なんかじゃないけど……―――
「ご迷惑おかけしましたぁぁぁっっ!!」
漏電しないよう右手で美琴を抱えあげると、上条は走り去る。何処に行くわけでもなく。




「あー、死ぬかと思った」
美琴を抱えて逃げてきた上条は肩で息をしつつ、店の端にあるちょっとした休憩所まで来ていた。
相変わらず意識の戻らない美琴をベンチに座らせ、恐る恐る右手を離してみる。漏電の心配はないようでようやくほっと一息と言ったところか。
上条はベンチから立ち上がると、近くの自販機に向かいホットコーヒーを買う。
普段なら微糖をにするところだが、甘い気分を取りあえず一掃できるかと思いブラックをチョイス。
美琴の座るベンチに戻り、一瞬迷ったってから隣に腰掛ける。と言ってもその間は30センチは空いているのだが。
白いシスターさんが嫌がるプルタブを難なく攻略し、一口すする。
「苦い…」
ブラックにするんじゃなかった。そう思いながらコーヒー缶を見つめる。
―――俺は……どうしたらいいんだ―――
勢いで言ってしまった美琴への言葉。嘘は含まれていない。全てに整理がついてから、自分の心に向き合えたら、美琴に言うべきことがあるような気がした。
だが、今から何をすればいいか。それがわからない。
自分に向き合う。簡単なようで難しいこと。記憶喪失である上条にとって、『本当の自分』が何か分からない。
「どうすりゃいいんだよ」
上条の吐いた言葉に答える者はいない。

69月曜日(ホリデイ)6:2010/03/12(金) 10:12:50 ID:667m884s
「んっ」
美琴はぼんやりとする視界に目を細め、ゆっくりと体を起こす。
―――あれ?私、なにしてたっけ―――
ゆっくりと記憶を読み返す。上条に抱きしめられ、いろいろと言われて、答えて……
思い出した途端、一気に顔が赤くなり慌てたように周囲を見回す。
さっきまでいた所と違い、ベンチに座らされている。隣には真剣な顔でコーヒーを見つめている上条がいる。
「……」
「おっ、気づいたか」
「うん。ごめんね、ビックリしたでしょ?」
「まぁ、な」
上条は少し心配そうな表情を浮かべて美琴を見る。美琴は自分がどうなっていたかを思うと顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「最近、ときどき起こるの。なんか、パニックになるっていうか、能力の制御がうまくいかなくて」
「そうか…」
深くは聞いてこない。それが上条なりのやさしさである事は美琴も分かっていた。
自分の抱える想いも、なにもかもを吐き出せたら自分は楽になる。
ただ、同時に上条を苦しめることになるのも事実だ。自分の中で迷っている上条を、さらに難解な迷宮に引きずり込むことになる。
―――苦しいけど、辛いけど。アンタが自分で答えを出してくれるなら、私はいつまでも待ってるから―――
口には出せない。美琴は小さく、上条にバレないくらいの溜息をつく。
「アンタも、そんな怖い顔しないで、悩みがあるなら美琴センセーが聞いてあげるわよ?」
精一杯元気に話しかける。上条が苦しむ姿は見たくなかったから。
「べ、別に悩んでるわけじゃねぇよ。気にすんなって」
上条は笑ってみせる。引きつった笑いになってるかもしれないけど、それでも自分の事は自分で解決すると宣言したから。
そんな上条を見て、美琴は胸が締め付けられるような気がした。
本当は自分を頼って欲しい。自分が上条を頼った時のように、お互いに頼りあって2人で歩きたい。
上条の性格から期待はできないものの、できれば相談に乗ってあげたい。でも、無理やり聞くのは反則な気がする。
―――でも、これくらいならいいわよね―――
美琴はもう一度小さく溜息をつくと左手で上条の右手を握る。やさしく、薄いガラス製品を持つように。
上条は少し驚いた顔をしたものの、ゆっくりと握り返してくれた。
「ありがとう、美琴」
何気ない行動がお互いの心に響く。少しだけ楽になったような気がして、微笑み合う。
30センチの距離のあるぎこちない繋がりでも、今の2人には堪らなく愛おしいものだった。

70月曜日(ホリデイ)7:2010/03/12(金) 10:13:25 ID:667m884s
―――あいつ、名前で読んだわよね―――
繋いだ手が急に恥ずかしくなって美琴は「ちょっと、私もなんか飲むわ」なんて誤魔化しながら自販機の前に立っていた。
上条に美琴、と呼ばれたことにドギマギしつつ、自販機に小銭を入れる。
どれにしようかと指をくるくる回してみるが、思考が安定しない。
顔に血が昇る。またふにゃーとなりそうなのを必死でこらえ、両手で頬を叩く。
ここは気つけに炭酸よね、と1人に納得すると、ヤシの実サイダーに手を伸ばす。
「みーさかさーんっ」
突然声をかけられて肩を叩かれる。そんな事に自分でも驚くほどにビクッと身体が跳ねる。
振り返ればそこには馴染みの顔が2つ。肩に手を置いたまま目を丸くしている長髪の少女と、その隣に花飾りの少女。
がこんっ、と自販機から音がする。美琴の右手はヤシの実サイダー、の隣『西瓜紅茶』をしっかりと押していた。
―――不幸だ―――
誰かの専売特許である言葉を脳内で呟き、がくんと肩を落とす。
「あー、御坂さん?大丈夫ですか?」
花飾りの少女、初春飾利は何だかブルーな美琴に恐る恐る問いかける。
やってしまった、といってもまさか美琴がそれほど驚くとは思っていなかった長髪の少女、佐天涙子は目を丸くしたまま固まっている。
ご丁寧に口はあんぐりとあいており、アホの子と言われかねない顔だ。
「いやー、大丈夫大丈夫。ごめん、ちょろっ考え事してたからさ。佐天さん?」
「はっ!?あ、いやーほんとスイマセンっ!飲み物は弁償しますから、超電磁砲はやめてくださいっ!!」
勢いよく、ぐわっと、頭を下げる佐天に、美琴は逆に固まってしまう。
「はわわわ。私からもお願いします。佐天さんを許してあげてくださいっ」
隣にいた初春も佐天を真似る。
「えーっと、気にしてないから。2人とも顔、上げて?」
「え、あ、ありがとうございますっ」
本当に嬉しそうな顔をして、2人は顔を上げる。よかったー、と涙を浮かべながら抱き合っていたりする。
―――私、そんなに怖がられてるの?―――
割と本気でビビられた美琴は普段の生活を見直そうかと本気で考えていたりする。
「でー、2人は何をしてるのかな?」
目の前で生還の喜びを分かち合っている2人に問いかける。良く考えればSeventh mistは2人の行きつけなのだから居ても何にも不思議ではない。
「えっとですね、佐天さんと買い物に来たんですよ」
「初春の新しいパンツを買いに来たんだよねっ」
「違いますっ!!」
あーもう、コイツら付き合っちまえよ、なんて生温かい目で見つめてみたものの特に気にされないまま話は続く。
「で、いざ店内に入ってみるとですね。御坂さんの噂が流れてたもんで、探してたんですよー」
「えっ!?噂?」
仲の良い2人にアテられながら、美琴は尋ねる。
このタイミングで『噂』なんて言われれば心当たりがありすぎて困る。
もしその噂とやらがアレのことならば、妹達どころではない。羞恥死、なんて新たな死因が発見されるかもしれない。
「「常盤台の『超電磁砲』が高校生の男と抱き合ってたっ、て」」
ねー、なんて楽しそうに顔を見合わせる2人を視界にとらえたまま美琴は頭から煙が出るような気がした。
「あれ?御坂さん………もしかして、マジですか?」
「佐天さんっ、御坂さんに限って………あれ?」
真っ赤になって口をパクパクとさせる美琴を見て、佐天も初春も固まる。
「不幸だ」
声に出てしまう。よりにもよってこの2人にバレるとは……。

71月曜日(ホリデイ)8:2010/03/12(金) 10:13:57 ID:667m884s
上条はなかなか帰ってこない美琴を不審に思いつつも、ボーっと待機していた。持っていたコーヒーは既に飲み干している。
ゴミを捨てに行くがてら美琴の様子でも見に行くか、とベンチから腰を上げようとしたときポケットの中の携帯が震える。
「御坂から…なんだコリャ?」
美琴からのメールを受け取った上条は絶句した。
『ゴメン、埋め合わせはするから先帰ってて』
「ってか、お前が誘ったんだろーが」
上条は肩をすくめて大きく溜息をつく。
―――さて、どうするかな―――
夕食時まで美琴に付き合う覚悟をしていたので、こうポッカリと空いてしまうと逆に困る。
寮まで帰って寝てもいいのだが、ここまで来ると何やらもったいない気もする。
携帯を閉じ、空き缶をゴミ箱に捨てる。
「本でも買いに行くか?」
柄にもなく小説でも買ってみるかな、と偶に通う古本屋を目指す。
「アイツじゃねーか?」
「そうだ、アイツだ!!」
ドタドタと何人かが走ってくる。
―――なんだ?万引きか?―――
誰が追われてるんだろう、と上条は走ってくる男たちの方を見る。
誰も追われてるようには見えないが、何やら必死、もとい鬼の形相をした奴らが5人ほど走ってきている。
「あれー、何やら上条さんの不幸センサーにビンビン反応してるんですけども…」
まだ遠くではあるが、明らかにこっちに走ってきている気がするなー、なんて考えつつ少し冷や汗をかく上条。
「お前だよ、お前!人前で大胆にもっ!常盤台の超電磁砲とどういう関係だっ!?」
1人が叫ぶ。そいつが美琴にやられたヤツで単なる逆恨みなのか、密かに美琴を想う事による嫉妬心なのか。
どちらにせよ、上条のできる事は1つ。
1対1ならともかく、1対5だ。まだ見えないだけでこれから増える可能性もある。
上条はぐるんっ、と音がするような勢いで振り返ると一目散に出口を目指して走る。
「待てやコラァァッ!!」
「待てと言われて素直に待つ奴いるか、ふざけんなっ!」
後ろから飛んでくる怒号に応え、しっかりと火に油を注ぐ。
「不幸だぁぁぁぁっ!!」
上条は走る。ゴールのない不毛なる戦いの火蓋が切られた。

72月曜日(ホリデイ)9:2010/03/12(金) 10:14:29 ID:667m884s
―――アイツには悪いことしたな―――
美琴は上条にメールを送信した後、もう一度溜息をついた。
現在はSeventh mist近くの喫茶店におり、美琴は苦めのカプチーノを飲む。
目の前には目をキラキラとさせた後輩2人。
「えーっと、まず最初に言っておきたいんだけど」
どうしてこうなった、と頭をかきながら美琴は続ける。
「その…噂話は、黒子には内緒ね」
「えー、白井さんに内緒ですかぁ?」
ニヤニヤ笑いを浮かべながらズイっと顔を寄せてくる佐天。
美琴はその顔に不安を抱く。
―――あー、こりゃやばいなぁ―――
直接見られたわけではないが、さっきの失態では『噂が本当である』と宣言したようなものだ。
「そんな噂聞かれたら、黒子が暴走するに決まってんじゃない。だから、ね?」
口止め料ではないが、後輩2人の前にはしっかりと飲み物が置かれている。
「まぁ、そうですよねー。白井さんが暴走したら、噂の彼氏さんがどうなるか分かりませんし」
ちょっとだけ不満そうに佐天が呟く。乗り出した体を元に戻し、あーあ、口を尖らすあたり、正に『他人事』と言った感じだ。事実、他人事なのだが。
―――助かった―――
佐天が追撃の手を緩めた事に安堵しつつ、何気なく隣の初春に目をやる。
何やら一生懸命に携帯をいじっている。
「う、初春さん?」
「はい?」
「何をしてるのかしら?」
―――激しく嫌な予感がする―――
妙に手が汗ばむのを感じながら、とても楽しげな初春の答えを待つ。
「メールを書いてたんですよ、白井さんに」
「初春、あんた…」
美琴だけでなく、佐天も驚いたように初春を見る。
「あー、その男の人と御坂さんの馴れ初めとかー、いろいろお聞きしたいですねー、佐天さん」
にっこりと、初春は佐天に笑いかける。佐天は一瞬考えた後、先程のニヤニヤ笑いを復活させワザとらしく続ける。
「あぁ、そーだね初春。そこは外せないよねっ」
「ですよね。私、余りに気になりすぎて送信ボタンを押してしまいそうですよ」
「だぁぁぁぁぁっ!分かった!全部吐くっ、全部話すから」
初春は邪気のない笑みで携帯を閉じると、佐天とともにズイと体を乗り出す。
「「まず、出会いから!」」
2人の口止め料は高くつきそうだった。

73月曜日(ホリデイ)10:2010/03/12(金) 10:14:59 ID:667m884s
「あー、疲れた……なんなんだ、アイツら」
上条は後ろを振り返り追手がいなくなったことを確認すると壁にもたれかかった。
当てもなく走ってきたが、当初の目的通り古本屋の前についていた。
「なんていうか、不幸なのかよくわかんねぇな」
頭をポリポリと書き、息を整える。肩どころか全身で息をしているような状態で本屋に入りたくはない。
―――風が冷たくなってきたな―――
吹き抜ける秋風が火照った身体に心地よく、上条は目を閉じて大きく息を吸う。
―――気持ちいいな―――
柄にもなく感傷的になる。
「今なら詩でもかけそうだな、なんて」
上条自身で身震いしそうな独り言を吐く。隣で誰かが全て聞いてることなんて気づいてはいない。
「そうですか。では書いてみてください、とミサカはあなたのセンスに期待しながら提案します」
「っと、御坂妹か。何やってんの?」
いつのまにか隣にいた――正確には上条が後から来たのだが――御坂妹に驚きつつも、上条は尋ねる。当然のごとく御坂妹の提案はスルーする。
「いぬのエサを買いに行ってました、とミサカはスルーされた事に凹みながらも答えます」
「いぬって、結局その名前になったのかよ」
「なにか問題でも、とミサカはミサカの決めた事に口出しするなと憤りながら尋ねます」
?といった様子で首を傾げる御坂妹に呆れながら、上条は姉妹のセンスを疑う。
―――美琴も美琴だが、妹も変わりもんだよな―――
「いいや、問題ねぇ。お前が決めて納得してんならそれでいいよ」
「では、あなたはここでなにをしているのですか、とミサカは逆に問いかけてみます」
「ん?いや、ちょっと本を買いに来てみたんだけど、お前も見ていくか?」
上条は左手で古本屋を指差し、御坂妹を見る。
「ご一緒してみます、とミサカはお姉様にリードをとったことを喜びつつ応じます」
リード?なんのこっちゃ、と首を傾げながら、上条は店内に入る。
いらっしゃいませー、と愛想のない店員の声を聞きながら一直線に文庫本コーナーを目指す。
「どういう書籍を探してるのですか、とミサカは興味本位で聞いてみます」
「読みやすい小説だ。現代小説っつうの?」
よくわかんねぇけど、と付け足し、上条は小説コーナーの前に立つ。いざ来てみるとどれを読めばいいか分からない。
「『吾輩は猫である』はどうでしょうか、とミサカは猫のついたタイトルに期待しつつ提案します」
「それは別に可愛い猫の生活の話じゃねぇぞ、っていうか読んだことないのかよ」
相変わらず良く分からない御坂妹に嘆息しつつ、上条は一冊の本を取る。
なにやら映画化が決まったとかいう恋愛小説でワイドショーでも取り上げられていたものだ。
―――これにするか、って話題物は高ぇな、クソッ―――
古本は100円主義の上条にとって、古文庫1冊に400円はキツイものがある。
「それは恋愛小説だと思いますがよろしいのですか、とミサカはあなたが何を思って買うのか想像しつつ尋ねます」
「ちょ、別に、俺の深層心理とか気にしなくていいから」
痛いところを指摘され、焦る上条に御坂妹が詰め寄る。
「では自発的に答えてください、とミサカはあなたに詰め寄ります」
「答えませんっ!!」
御坂妹は、そうですか、とすこし寂しそうに――現に『寂しそうに諦めます』とか言っていた――上条から離れると、同じ本を掴む。
「では、勝手に判断してみます、とミサカは同じ本を手に取ります」
上条は大きく溜息をつき、御坂妹をレジまで案内する。
ちなみに800円が上条の財布から消えた事を付け加えておく。

74月曜日(ホリデイ)11:2010/03/12(金) 10:15:29 ID:667m884s
「なーるほど。つまり、その人、えっと、上条さんは御坂さんを救ってくれた恩人だと」
「そうっ!別に彼氏だとか、恋人だとかそんなんじゃないんだから」
一通りの話をまとめる初春に対し、必死に取り繕おうとする美琴。
「なるほどー。まだ彼氏じゃないってことで、これから告白するんですか?」
顎に手をやり、1人で納得する佐天。隣で初春もうんうんと頷いている。
「こここここっ、告白っ!?佐天さん、何を言ってるのかな―」
「あれ?御坂さんは上条さんの事を好きなんじゃないんですか?」
思いっきり焦っている美琴に追い打ちをかけるように、わざとらしく大きく首を傾げてみせる初春。
―――そんな初歩的なトラップにかかってたまるもんですか。お嬢様なめんなぁ―――
「そうよ、なんで私があんなヤツのことっ」
ふんっ、と顔をそむけて見せる。顔が赤くなるのを感じるが負けてはいけない。
「じゃぁ、初春っ。その上条さん、私が落としちゃうねっ!」
「応援しますよっ、佐天さん!」
「んなっ!?ちょっと、なんであなた達が」
この話を始めた時点で、美琴が攻めようが守ろうが周りには罠しかなかったのだが、美琴は気付くこともなくどんどんと深みにはまっていく。
「だって、上条さんって話を聞いてるだけでも優しそうですし、守ってくれそうじゃないですか。なかなかいないですよ、そんな人」
「私も上条さんと仲良くなりたいです」
じゃあライバルだね、初春っ。そうですね、佐天さんっ。と、傍から見ればわざとらしすぎる会話であるが、今の美琴はそれを判断できるほど冷静ではなかった。
「あーもうっ、そうよ、私はアイツが好き……なんだと、思うんだけど……」
最初の勢いはどんどんとなくなり、最後には聞き取れないほどの声であった。
「(御坂さん、可愛すぎますっ)」
「(初春、笑っちゃダメだよ)」
佐天と初春の2人はニヤニヤとなるのを我慢しきれず、言ってしまった美琴は真っ赤になってテーブルに突っ伏していた。
「御坂さん、応援しますよ」
だんだんとブルーになっていく美琴の肩を佐天が揺らす。
「でも、どうしたらいいか分からないの……」
顔だけ上げた美琴は、涙目で頬を上気させていた。
―――か、可愛いっ―――
―――それは反則ですよぉ―――
ずきゅーん、と心を打ち抜かれた2人が密かに上条を羨んだりするのだが、それはまた別の話だ。
「とりあえずですね、名前で呼んであげましょう!アイツとかじゃダメですよ」
顔を真っ赤にした佐天が両手をぐっと握って提案する。
「なまえ?」
「そうですよ。今度会ったら、思い切って名前で呼ぶんです!出来ればファーストネームで」
初春も佐天に続いて手をぐっと握り続ける。
「むむむ、無理よっそんなの」
「「ダメです!頑張りましょうっ!!」」
結局は目をキラキラさせた2人の後輩に負けてしまう美琴であった。

75月曜日(ホリデイ)12:2010/03/12(金) 10:16:16 ID:667m884s
「ごちそうさまでした」
「ごちそーさまーなんだよ」
上条は御坂妹と別れを告げた後、買い出しを済ませ寮に戻った。
幸いその間に追い回されたりすることもなく、比較的平和に生活できたので上条としても一安心ではある。
インデックスがお風呂に入っている間に、手早く皿を片づけ、上条は買ってきた恋愛小説を取り出す。
「読んでみますか」
上条はあまりこういった本を読んだりしないのだが、現状の自分の気持ちに対する答えが出てきそうな気がしたのだ。
最初の数ページを読んでみたが、活字嫌いの上条にも読みやすいものだった。
暫く読んでいると、ガラステーブルの上に置いてあった携帯が鳴りメールの受信を知らせる。
美琴からのメールで、内容は今日の謝罪と友人に根掘り葉掘り聞かれたという苦労話であった。
「あいつも、人に言えないくらい不幸体質なんじゃねぇか」
上条は美琴からのメールを読み、からからと笑う。携帯を眺めて1人で笑っている姿は怪しさ満点だ。
「とうま、なにをニヤニヤしてるのかな?」
「……あー、インデックスさん?」
ぎぎぎ、と動きの悪い首を上げると、目の前には寝巻を着たインデックスが頬を膨らませて立っていた。
「なんでニヤニヤしているか聞いてるんだよ。聞こえなかった?」
「落ち着け、インデックス!上条さんは御坂からのメールを読んでいただけだっ―――」
「やっぱりとうまはとうまなんだねー!!」
上条の自爆発言と同時にぷんぷんと暴れだしたインデックスはバスタオルを投げ捨てると上条の頭に飛びかかる。
「だぁぁぁっ、やめろぉぉぉぉっっ」
上条も噛まれまいと必死に逃げてみると、運よく初撃を回避することに成功する。
インデックスは今まで百発百中を誇っていた噛みつきを回避されてしまった事に落ち込んでしまう。
―――あれ、もしかしてワタクシ助かりました?―――
ずーんと落ち込むインデックスを少し可愛そうにも思ったが、上条は噛まれずに終わりそうな現状に珍しくも幸運を感じていた。
「あれ?とうまー。本なんか読んでたの?」
「ん?ちょっとそんな気分になったからな」
インデックスは床に転がっていた小説からカバーを外しタイトルを見る。
「これは話題になってる恋愛小説だね」
「らしいな。インデックスも知ってたか?」
テレビっ子のインデックスにとって流行り話題はお手の物だった。
「恋愛小説……むむっ、みことからのメールで喜んで……とうま、そういうことなんだね」
「な、なにをいってるのか分からないんですけど―――っ!?」
「問答無用なんだよー」
上条の叫び声が響いた。




御坂美琴は寮の一室にいた。
ルームメイトの白井はシャワーを浴びているところだ。
美琴は携帯を開き、上条からの返信を見る。
『また遊びに行こうな』
そっけない文ではあるが、美琴は心の中が暖かくなるのを感じる。
「……当麻、か」
後輩2人にアドバイスされた事を思い出し、名前を口に出してみる。面と向かって言ったわけでもないのに顔が熱くなる。
―――出来れば私も―――
名前で呼んでもらいたい。昼間に『美琴』と呼ばれた時の事はあまり覚えていないが、すごく暖かなものだった。
それだけで上条を近くに感じる事が出来る。上条にも自分を近くに感じてほしい。
「ちゃんと、呼べるかな」
美琴はごろんとベッドに寝転ぶときるぐまーを抱きしめる。
「(おおおおお姉さまっ、今『当麻』とか言いましたかぁぁっ!?あの、類人猿がぁぁぁっ)」
シャワールームからどす黒いオーラが出ていた事に美琴が気付く事はなかった。

76かぺら:2010/03/12(金) 10:18:54 ID:667m884s
以上です。

まだ暫く続く予定です。
プロットのファイルに使いたいセリフとか展開を書きためてるんですが、増えてきて困っておりますw
4部編成の予定が……増えましたw
頑張りきれるか、俺?

77■■■■:2010/03/12(金) 10:21:48 ID:8MEHJUMY
>>76乙です。
本人達がまだ踏みとどまっているのに、噂だけが先行してしまって
外堀が埋まっていく感じですな。

78■■■■:2010/03/12(金) 10:31:25 ID:Kk4PqDhw
>>76
GJ!
続きも期待、じっくり行ってくれ。

79かぺら:2010/03/12(金) 13:14:40 ID:667m884s
ちわー
最近、暇さえあったらここに来てSS書いて…
ブログ更新しろよ、俺

ちょろっと尋ねたいことが。
ここに投下したSSって、自分のブログにフォローしてもいいんですかね?
特に制限とか書いてないのですが、一応。

>>77
うまいことこの後の話で絡めていけたらと思います。

>>78
ちょっとゆっくり考えてみるよ

PS
さっき、禁書SSスレみてきたんだけど、えらいこのスレ嫌われてんな
クオリティにそれほど差はないとは思うけど、なんで?

80■■■■:2010/03/12(金) 13:30:11 ID:1zd0wdzA
>>76
GJ!
インデックスや御坂妹も出てきて、より良い感じですね。

勢いがある時は突っ走ってしまうのが良いと思いますよ。

81■■■■:2010/03/12(金) 14:13:50 ID:aYiYmh6M
>>76
GJ
いやはや上条さんの心情が良いですな

82キラ:2010/03/12(金) 14:56:09 ID:hT3fTn8o
途中で行き詰ったのでござるorz
『memories』とホワイトデーとブログの三つ同時進行は、やはりきつい。
レスを少しほど。

>>47
微妙なラインの切なさを目指してるんですが、難しいです。

>>48
次で二人に何があったか、書きます。

>>55
『memories』は昨日の時点で、まだ半分にもいってないので終わりはまだまだ先になりそうですorz
まあ今月は無理なので、来月には終わらせたいです。

>>65
ニヤニヤさせるはずなのに、完成してみたら…ドウシテコウナッタ(自分でも驚いた)

そして、>>59>>76の2作品ともGJです。

83■■■■:2010/03/12(金) 15:50:07 ID:hZrT3S.k
>>79
>さっき、禁書SSスレみてきたんだけど、えらいこのスレ嫌われてんな
>クオリティにそれほど差はないとは思うけど、なんで?
ざーっと目を通してきたけど、ここのスレで上がったSSに対し
「批評しづらい」ってのがあちらの住民の一部ではネックみたい。
批評できない=レベルが低い、みたいな発想?
つきつめちゃえば「表現の自由が奪われとる」みたいな感じなのかね、あっちだと。

読み手の一人としては、作品おとしてもらえるだけで嬉しいし
書いてくれてありがとうって気持ちだから
GJとしかレスしてないけど、それがなれ合ってるように見えんのかもね。

84■■■■:2010/03/12(金) 16:07:59 ID:RSnQnGjI
>>79
あちらとこちらでは根本的理念が違うんだと思う。生ぬるいとかいっているしね。
しかし、SSでは楽しめたモンが勝ちなのは事実。俺はあっちの読み手より、こっちの読み手のほうが好きだ。もちろん書き手も。
だからあちらは気にするな。


そしてGJ!上琴妄想が止まらないのは仕方ないはずだ!!

85■■■■:2010/03/12(金) 16:09:55 ID:8MEHJUMY
>>83
俺の場合、批評家ではないから自分に合わない作品については
ネガティブなコメントはせずにスルーすることにしている。
こういう立場の人が多い場合、GJと書いたレスが増えるとか
言われてしまうかもねぇ。
このスレの場合、テーマが絞られているから自分に合わない作品に
遭遇する率は減るけど、あちらのスレの場合間口が広い分その率が
増えてしまうわけで、必然的に読んだ後のコメントも減ってしまう。

86かぺら:2010/03/12(金) 17:56:48 ID:667m884s
>>83
>>84
>>85

OK!
なんか元気出てきた!
俺は書きたいことを書くって事で。
自己満SSにあたたかいコメくれる皆さんに感謝しつつ、
とりあえず、Dairy Life完結までは頑張ってみる。

87■■■■:2010/03/12(金) 20:24:58 ID:FniVwEq2
ぐちゅ玉さん、「とある両家の元旦物語」の続きはいつ見れるのですか?

88:2010/03/12(金) 20:37:56 ID:4U/rl4ZU
色々と遅い気もしますがw
∀さんの手でかかれたあのネタがみれて最高です!
私自身としてはシリアスネタは結構好物なんで∀さんの作品はとても好きなんですw
やっぱり本家は違うなぁと感じさせられました…
やっぱり黒子は良い子w
では失礼します

89ぐちゅ玉:2010/03/12(金) 21:16:47 ID:aW.RYYoA
>>87
すみません、現状土日しか書く余裕がなくて…
一応3月中には必ず、と申し上げておきます。
インデックスvs美琴で、なかなか納得できる出来にならなくて苦戦中。

といいつつ、その前に短編2本上げますが。

90■■■■:2010/03/12(金) 22:11:34 ID:5RW7FInc
>>かぺらさん
SSや同人なんて自己満足の固まり。
てか表現てそんなもんでしょ、突き詰めれば。だから好きなことを書けばOK!
自分が書いて楽しんで、読んだ人も楽しんで。それでいいじゃない。

それはそうと禁書20巻を読み終えたらSSの続きを書くモチベーションが著しく
下がってしまった。
原作が面白すぎたんで「あんなの俺には書けない」と思ったんだろうな…情けな。
皆さんはそう言うとき、どうやって気分入れ替えてますか?

91■■■■:2010/03/12(金) 22:25:01 ID:1zd0wdzA
>>90
原作ありきの二次創作・SS。
主人公(監督)は書き手である貴方自身、観衆はいうなればこのスレの読み手。
そして演者は上条当麻や御坂美琴、その他キャラクター達。

別にかまちーになる必要はなく、監督である貴方は原作に対する想いを
ぶつけて、演者に演じてもらえば素晴らしい作品ができると思うんだ。

大切なのは「想い」だと思う。

92■■■■:2010/03/12(金) 22:33:41 ID:hCto2kj2
>>90 「あんなの俺には書けない」

そげぶ!!

93■■■■:2010/03/12(金) 23:49:05 ID:fCgrB7yQ
ある意味で、あんなのは俺には書けないと思う。
細かいこと気にしないで読めば面白いけど、実際に書こうと思ったら、
無意識に注意を払ってしまうような部分で穴がありすぎるし。

94■■■■:2010/03/13(土) 00:17:35 ID:JiW3Xx6w
>>93
でも、いちゃいちゃSSなら書けると思うんだ・・・
さあ!!勇気を振り絞って俺の欲望w(ゲフンゲフン!!
前に進むんだ!!待ってるよ

95■■■■:2010/03/13(土) 00:29:02 ID:4OSMpsoA
>>94
ネタはいくつかあるが、基本的にすごく微妙。
俺がお話を書こうとすると、暗くて重くて不幸な方向に転がるんだ。

美琴の過去を題材に構想を練っているが、やっぱり微妙すぎるなぁ。

あと、相互依存っぽい関係になることが多い。

96■■■■:2010/03/13(土) 01:29:12 ID:AxxfjXqE
>>90
モチベーション下がるのは分かるw
けど考えてみるとアレって1巻あたりに4ヶ月位も使ってるんだよね
単純に考えると1日に1000字ちょっと (速筆と言われてるのに)
書いてる人なら分かると思うけど超丁寧なんだろうと思えるペースだよねー

97■■■■:2010/03/13(土) 02:50:45 ID:FPd2jbWQ
>>97
たしかに、かまちーには勝てるわけはない。
が、美琴を応援する気持ちだけは負けてはいない!(と思う…)。

20巻読んだ感想は唯一つ。

神(かまちー)よ…乙女を守り給えと…

…これぐらいだったら、ネタバレにはならないよね…

ネタバレ解禁になれば短いのを一つ書くつもりw

98■■■■:2010/03/13(土) 05:04:42 ID:AxxfjXqE
SS書いてると
新刊出るたびに矛盾点がないか、自分の予想が合ってるかとハラハラすることに気づきました
心臓に悪いw
別に矛盾しててもいいけど、どうしても気になってしまう

99■■■■:2010/03/13(土) 06:16:49 ID:YVrr4LTQ
>>96
ただし1年分に足らないくらいのストックがある上でだけどな
(去年の今ごろ17巻時点で既に19巻はできていた様子)
加えてヘビーオブジェクト、DVD特典の超電磁砲SS、
漫画超電磁砲のプロット、超電磁砲アニメ全面的にチェック………

やっぱ凄いって

100■■■■:2010/03/13(土) 06:17:25 ID:8.FonGLg
原作読んでると意図的に美琴と上条さんの距離を縮めてない気がする

101桜並木:2010/03/13(土) 07:42:26 ID:3OxrbMwo
やっぱりバトルものが足りないかなーとか思ったり。このスレだと今までで一度もないんじゃないかな?

あと保管庫のほうなんですが「・・・」を「…」に変換してようですけど、何か意味あるのでしょうか?絶対に変換しないとだめ?

102■■■■:2010/03/13(土) 07:52:47 ID:Ol3l8EqA
>>101
これを元にしてるからじゃないかしら

禁書風味SSの書き方
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/pages/1682.html

まぁ三点リーダーはwikiのフォントだと「……」が等間隔に見えなくて綺麗じゃないから
別にどちらでもいいって気がするけどね
ただ出版物も…で使ってることが多いと思う
だって個数が三の倍数ばっかりだし

バトルはねぇ
単純に要求されるレベルが一個上がるのよね
あとどうしてもオリキャラを出さなきゃ駄目になったりしてハードルが高い
挑戦する分には何も問題は無いと思うけどね

私個人としても近いうちに書かざるを得ないような状況になりそうな気がする

103桜並木:2010/03/13(土) 08:15:29 ID:3OxrbMwo
ほとんど規則守れてない自分に絶望した!こんなお触れ書きがあったなんて知らんかった・・・

104■■■■:2010/03/13(土) 08:22:30 ID:Ol3l8EqA
いや別に規則じゃないですよw

105■■■■:2010/03/13(土) 09:09:13 ID:2oOAVsC6
「こうした方が原作の文っぽくなるよ」という程度のものですしね。

106■■■■:2010/03/13(土) 09:10:16 ID:ppDmPQ1A
んーと、
・・・(中黒を3個)ではなく、…(三点リーダ)を使う、っていう
出版業界、編集業界の約束事があるんです。
そっから来てるんじゃないかと。
そもそも・は小見出しやつなぎに1個で使うもんなんで…とは別もん、と。

107■■■■:2010/03/13(土) 09:10:42 ID:w9cGmydA
バトルものが無くても上条さんと美琴がイチャイチャしてればそれで良いという俺w

108かぺら:2010/03/13(土) 10:20:13 ID:tWIJC8.E
SS談義で盛り上がってますね

業界のなんたらはわかりませんが、…と・・・に関しては好みかもしれませんね
俺個人としては、文字数が増えるから…を使います

>>90
応援どうもです。
確かに原作読むと「俺、へたくそやな」とは思いますね
人によって書き方にクセもありますし、別の方が言われてますがペースもあると思います。
プロットの量とかもケタ違いでしょう。
あと、キャラの使い方は二次創作だと制限かかるんでそう思えてくるだけじゃないでしょうか?
自信をもって、とは未熟者の俺からは言えませんが。


>>桜並木さん
バトルの描写は異常なくらい難しいせいもあるかと。
美琴はまだ戦闘中の動きの少ない方だと思いますが、一方さんとか無理です。
個人的には、ブログでなのはSS書いてたりしますが、
オリキャラがメアリー・スー化しないように必死です(笑)

長々失礼しました。
Dairy Lifeの続きはまだ5レスぶんくらいなので暫しお待ちを。

109キラ:2010/03/13(土) 13:54:32 ID:UUN7PyWs
談義中ですが、お邪魔します。
ちょっと小ネタことsssを投下します。
タイトルは『12月のとある夜にて』

55分に3レス消費予定。

110キラ:2010/03/13(土) 13:56:08 ID:UUN7PyWs
 季節は過ぎ十二月。
 寒さばかりを感じるこの季節だが、生憎雪はちらつくこともない。暖冬と予測された今年は雪を期待できないが『樹形図の設計者』(ツリーダイアグラム)がない今、絶対ではない。
 それを知っている上条当麻は雪でも降るのかなと空を眺めながら、帰宅した。
「んで、玄関先になんでお前がいるんだ」
「いいじゃない。どうせ来る予定だったし、問題ないでしょ」
 そういうい意味じゃねぇよとため息をつきながら、上条と美琴は部屋の中に入っていく。
「ねぇ、今日とか雪降りそうじゃない?」
「降ったら降ったらで、外を歩くのが面倒そうだな」
 ロマンがないわねと、今度は美琴がため息をついて呆れた視線で上条を見た。それをスルースキルで受け流した上条は、カバンを置いて持っていたスーパーの袋から食材を冷蔵庫に入れていった。
「それで? 暴食シスターがいないってことだから、今日はここで夕飯を食べて帰るというお考えですか?」
「正解♪ あ、でもただでというわけじゃないわよ? どうせ宿題があるんでしょ? 見てあげるわ」
「へいへい。まだ時間もあるようですし、見てもらいますかね」
 上条はカバンから今日出された宿題と特別課題を机の上に出した。机と一体になったコタツに入り、上条はこれだと美琴に渡した。
 夕食を食べさせてもらう代わりに、宿題を見てもらう。上条と美琴が良く行う交渉だ。といってもこれは稀なほうだ。大体いつもは、夕食を全て美琴に任せ、その後に宿題を見てもらうパターンの方が多い。上条からしてみれば、食費も労力も減るそちらの提案の方が魅力的である。
「これぐらいなら、一時間以内に終わると思うわ。難題はあるけど、そう難しいものじゃないと思うわ」
 一通り問題を読み終えた美琴は上条にそう説明した。一目見ただけで大体の問題がわかるあたり、流石であると上条は思ったが、もう何十回も思ったことなので考えないことにした。それに、自分との差に涙が出そうでもあった。
「一時間か…なら、その後に飯を作っていいか?」
「問題ないわ。それに、私は食べさせてもらう身なんだから、口出しする権利はないと思うのだけど」
 念のためだと上条は言うと、小さめのペンケースからシャープペンシルを取り出した。

111キラ:2010/03/13(土) 13:56:41 ID:UUN7PyWs
「――――――――――――うん。これでいいわ」
 最後の最後で難題に引っかかったが、美琴がいたこともあり、予定通り一時間以内に終わった。そして、宿題と課題の時間から開放された上条は、疲れたと床に転がった。
「やっぱ上条さんは、頭を使うことはなれませんな。いくら学力が上がってもこればかりはどうしようもない気がします」
「ま、いいんじゃない。用は学力が向上したって結果が重要なのよ。それに私だって勉強するのは好きじゃないわ」
「そりゃそうだ。勉強が大好きなんて人がいるほうが稀だ。一般的な学生は、大体嫌いなんだよ」
 それもそうねと、美琴も上条を真似て床に転がった。
 視界には部屋の天井だけが見えている。だが、聴覚は隣にいるその人だけを捕らえている。それがとても心地の良い感覚だった。
ふと、美琴の手が上条の手に伸びた。上条はそれに気づき、その手を握ると美琴はふふふと小さく笑った。
「何笑ってるんだよ」
「別に。ただこういう時間もいいわねって思っただけよ」
 うれしそうに美琴は答えると、その手を握り返してきた。上条はそれに何も言わず、もう一度握り返してきた。
「幸せそうだな」
「当然よ。だって好きな人と一緒にいるんだから」
 そう言われて、上条は照れくさくなり赤くなった顔を隠すように美琴とは逆方向を向いた。美琴はそんな上条のことも知らずに、握り締めた手の幸せを確かめるように何度も何度も握り返した。
「ったく、俺はお前に敵わねえよ、美琴」
「それは私もよ、当麻」
 そういって二人は顔を赤くしながら笑った。

112キラ:2010/03/13(土) 14:00:43 ID:UUN7PyWs
 それから上条が作った夕食を食べ、流れに任せるように美琴との時間をすごしていると時間の流れはあっという間だった。
 常盤台の門限はすでに切っているが、消灯時間までに戻れば問題ない。美琴は何度も上条の部屋を訪ねていたので、その時間というのは把握済みだ。
「悪いな。送りたいんだけど、今日は…な」
 上条は申し訳なさそうに言うが、美琴は特に気にした様子はない。
 実は上条は『必要悪の教会』(ネセサリウス)の手伝いで、クリスマスに行うミサの手伝いをしている。そのため、寝る前にその手伝いをしている。そして、美琴を送っていたらその時間に間に合わなくなるので、今月はクリスマスが終わるまで、送れる時間はなかった。
 当然、美琴もそのことは理解している。だから何も言わずに、頷くのが上条のためだと知っている。本当はもう少し一緒にいたいが、邪魔をするほうが嫌だったのでその思いを押し殺した。
「ううん。私も知ってたから、気にしないで。今度は、その日じゃない日にちゃんと来るから」
 上条はああと頷くと、手を広げた。美琴は上条の胸の中に顔をうめその体温を確かめた。
「…………………暖かい」
 お互いの体温はとても暖かく心地が良い。布団の中にもぐるのとは桁違いの心地よさに、このままでいたいと願いたくなるが、少しして美琴は上条から身体を離した。
「…ありがとう。それじゃあ…またね」
 満足そうに、でも本当は苦しそうに美琴は玄関を出た。その時に、美琴と声をかけられ振り向いた。
「言い忘れてたけど、クリスマスの日は空けとけよ。あと、イブもな」
 そういって上条は真っ赤な顔を隠すように部屋の奥に戻っていく。美琴は、馬鹿と言って玄関のドアを閉めた。
 その顔は、すでにニヤニヤと緩めきっていた。


―――――――――――――――
以上です。
長さや内容にこだわらず、ありのままに書いてみたんですが、意外と話になりました。
投下する時は、長さと内容を重視しすぎておかしくなることも多いので、たまにはこういったのもいい気分転換。
でも、書いたのは一週間前なんですけどね(汗)

さて、明日はホワイトデーですが、ここがどれだけにぎわうか、楽しみです。
そういう私は、途中で詰まっていて明日ピンチですorz

113■■■■:2010/03/13(土) 14:19:15 ID:ppDmPQ1A
>>112
GJ!
……必要悪の教会のミサって、ここの誰かのSSで読んだような気がするけど
もしかして話つながってる?

114■■■■:2010/03/13(土) 14:40:50 ID:L8PVV2Cg
>>113
>……必要悪の教会のミサって、ここの誰かのSSで読んだような気がするけど
D2氏の作品なのでつながりはないはず。

GJ!短くてもすごく良い作品でした。
明日が今からとても楽しみですね。

115■■■■:2010/03/13(土) 14:44:00 ID:w9cGmydA
>>キラさん
GJです!待ってましたぜ!ホワイトデーSSも頑張って下さい!

1161-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2010/03/13(土) 17:03:34 ID:FQDjL.96
皆さん乙!&GJです!

>>101
「・」はwikiの編集記号のひとつです。
行頭にあると「番号無しリスト」の効果になります。
なので、どうしても「・」で行を始めたいときは、全角空白をその前に置いてください。

それから、@wikiモードのページには、1ページあたり「1200行、50000バイト」の制限があります。
これは、wikiの文字コードのUTF-8の場合での話です。
文字コードがシフトJISの場合は、だいたい32000バイト位が、ページの制限になります。
ですから、制限に掛かりそうな場合、自分が変換を掛ける場合もあります。

SS作者さんは、一度は以下のページに目を通してください。
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/82.html
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/213.html

117■■■■:2010/03/13(土) 17:22:31 ID:Gmsi5YZc
ここってレールガンのネタって使っていいんですかね?
てか基本的に著作権とか心配でw
実際のところどこまでがOKなんでしょうか?

118■■■■:2010/03/13(土) 17:57:49 ID:PVFkyIak
>>116
毎回お疲れ様です。まとめの更新本当に助かります。

119■■■■:2010/03/13(土) 18:11:50 ID:tdsT/3G.
>>117
>>1をよく読んで投稿しましょうね
ネタ的に使用はOK
ネタバレは基本的にフラゲネタ以外なら良いみたい
ま、その辺は良識を持って投下するといいんじゃなかろーか

ただし18禁モノは板的にNGだかんね

120■■■■:2010/03/13(土) 18:16:17 ID:Gmsi5YZc
>>119
これからはよく読んで聞きます…すいませんでした。
後著作権のことが書かれていないようなので教えていただけますか?

121■■■■:2010/03/13(土) 18:21:01 ID:dz0OZ6QQ
>>120
SSとかの二次創作は著作権的には基本ダメなんだけれども
出版社とか版権元とかが非営利のファン活動なら黙認してあげましょうって感じで
見過ごしてくれているんじゃなかったっけ? 広報とかにも役立つし。
だから著作権的なことはあまり深く考える必要がない気がする。
かまちーや原作をリスペクトする心さえあれば良いんじゃないかなと俺なんかは思うけど。

>実際のところどこまでがOKなんでしょうか?
残念ながら↑に書いたのは日本のアニメとかラノベとかPCゲーとかに限っての話。
海外作品とかはそこらへんはかなり厳しくて完全にNGみたいなもんだし、
日本でも音楽作品は厳しかった気がする。例えば歌詞まんま載せるとか。
でもまあ、そこら辺注意すれば大体OKなんじゃね。よっぽどのことがない限りは大丈夫だと思う。
というか一回著作権でググってみてください。ここまで書いてあれだけど自信無くなってきた。

うん、えーとつまりまとめると美琴が可愛ければいいと思う。

122■■■■:2010/03/13(土) 18:24:58 ID:vdK/yCZY
〜しかた、いちゃレーなんかはなかば電撃公認なんだっけ
てか電撃の絵師か

123■■■■:2010/03/13(土) 18:34:36 ID:tdsT/3G.
ここやまとめスレ内だけでワイワイやってる分には問題ないだろう、ってトコじゃないかね
見たら金取りますとか、書籍にまとめて出版しますとか言い出したらダウトなのは間違いない
だが、「絶対訴えられない!」・・・ではないと言う事は理解しておいた方がいい

前提として>>1にある
> 上条さんと美琴が最終的にいちゃいちゃしていればいいので、
が守られていればぶっちゃけ何でも良いと思ってる俺はきっと間違ってるがキニシナイ!

124スピッツ ◆Oamxnad08k:2010/03/13(土) 18:36:06 ID:0PQSPdYY
久々に来ました。
最近納得ができるやつが書けないんですよね。
1000文字程度書いても削除の繰り返し・・・
納得行くのが書けるまで試行錯誤して頑張ってみます。 
あと>>1乙です

125豚遅:2010/03/13(土) 19:41:45 ID:2vcAcOMc
PCが大破した豚が登場
もう新スレだった。一乙です。
それと>>116様ことまとめの人いつもご苦労様です。感謝しています

126■■■■:2010/03/13(土) 20:17:19 ID:MJ4zPCRQ
こっそりレスします。

>>62
続きは現在全く考えていません。恐らく書かないので、続きは妄想や脳内補完でお願いします。

>>63
そうですよね。黒子って男前ですよね。シリアスモード入ったときは。普段は変t(そげぶ

>>65
楽しんでくれたのなら幸いです。

>>88
そう言っていただけると光栄ですw


明日?え?ホワイトデー?ナニソレオイシイノ?
SS何も考えてないので期待しないでくださいw


>著作権の話
でも同人は普通に出回ってる(?)よね。そこらへんどうなんだろう?

127■■■■:2010/03/13(土) 20:41:44 ID:rYsEoglI
同人読んでから原作買いに行くような俺みたいな奴がいるから黙認(ry

128■■■■:2010/03/13(土) 21:16:50 ID:Q/UzLF6w
>>112
GJです
温かい気持ちになる作品ですね

>>120
良いssを作られることを期待します

129鬼畜ばあちゃん ◆m2vH1XGyFA:2010/03/13(土) 21:27:47 ID:T40ezEEM
はじめまして。鬼畜です(笑)
短編SSを投下します

130ゆめ?:2010/03/13(土) 21:29:56 ID:T40ezEEM
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
太陽の光に照らされた少女は、ゆっくりと瞳を開けた。
「…ぅ、ううん……」
今日は休日。
特に予定も入れてない。
あると言えば、今日発行される雑誌をコンビニで立ち読みするぐらいだ。
もう少し寝ておこうと思ったが、少女は過剰な睡眠は返って健康を害することを知っていた。
目をこすり、ぼやけた視界が徐々にはっきりしてくる。
(…見慣れない天井ね)
はて、と疑問が頭に浮かんだ。が、頭がまだ働いていない、と思った少女は再び目を閉じた。
頭に残る睡眠を拭い去るべく、あと一〇分くらい寝ようと布団にもぐりこんだ。
一息空気を吸った時、疑問は確信に変わる。
匂いが違う。
布団の手触りが違う。
御坂美琴はハッと目を覚ました。
「えっ!?此処どこ!?」
布団をはねのけるが、
「寒ッ!って、ええ!?なんで私、ワイシャツ一枚しか着てないの!?」
ブラもショーツも身に着けていない。
靴下も履かないままフローリングの床を踏んだため、足の裏がひやりとしたが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。
先ほどまで、脳内に残留していた眠気は吹き飛び、周囲を見渡す。
彼女の部屋では無い。
常盤台寮の部屋では無い。
鼻につく匂いが、自分の知っている場所では無いと切に訴えていた。
御坂美琴は、朝日が見え隠れてしているカーテンを開ける。
「うわっ…」
瞳孔が開いていて、太陽の光が直視できない。鍵が掛かっていない窓が開けて、躍り出るようにベランダに出た。肌寒い風が彼女の全身を撫でる。無意識に前を隠し、辺りを確認した。
今いる場所は一般学生の寮で、見慣れた風力発電のプロペラがここから見える事から、学園都市の第七学区であることがわかった。
だが、
「わたし…何でこんなところにいるの?…昨日は、普通に寮で寝てたはずなのに!?…それにこれ…誰のワイシャツよ!?」
襟元の形と言い、ボタンの掛け合いと言い、何処からどう見ても男性用のワイシャツだった。彼女はますます混乱した。
寝ている間にここに連れてこられた?
何かの実験が行われようとしている?
一体何のために?
次々と浮かぶ疑問。
一夜にして急変してしまった事態を呑みこめず、御坂美琴はへなへなと座り込んでしまった。
そして、

「あ、美琴、起きてたのか」

心臓が跳ね上がる。
背後に人がいる事も気付けなかった。
それほどまでに自分はパニックに陥っていたのかと自制し、彼女は恐る恐る後ろを振り返って、固まった。
いた。
ツンツン頭の少年が。
お前、ベランダに出て何してんだ?という表情で。
「あ…」
「あ?」
はらりと、何かが肌蹴た。
ちらりと、御坂は下を見る。
(―――見られた)
「い…」
「い?」
(私の裸を…)
「いっ…」
(――ミラレっ)



「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああー!!」

131ゆめ?:2010/03/13(土) 21:31:14 ID:T40ezEEM



「あのさ。美琴」
「…はい」
「ここ、男子寮だよ?」
「……はい」
「休日だからよかったものを」
「………はい」
「お隣さんは、俺たちのこと知っているからいいけど…」
「…………はい」
「室内でビリビリは禁止ですよ?常盤台のお嬢様を部屋に連れ込んでるなんてバレたら…上条さん学校でリンチされますから」
「……………はい」
「それと、ワイシャツ一枚でベランダに出るなよ。誰が見てるか分からねーし、今の時期だったら寒くて、風邪引くかもしれないだろ?」
布団の一部が焦げていた。換気はしたが、焼けた匂いが漂っている。
普段着姿の上条当麻が御坂美琴を諭すように、

「って!な、なんでアンタは私の名前を気安く呼んでんのよ!しかも呼び捨てで!なんで私はアンタの部屋にいんのよ!」

ダンッ!とテーブルに強く拳を振り下ろした。
「そ、それにっ、わ、わたっ、私の制服はっ!?し、下着も洗濯中ってどうゆうこと!?」
御坂美琴はまだワイシャツ一枚の姿だった。肩に上条当麻の学ランを羽織っているが、素肌が多く露出している。
先ほどの電撃で一部の電子機器が壊れてしまい、上条当麻に説教をくらった。彼女は正座したまま少年に声を上げている。
御坂の剣幕に少し呆気に取られていた上条当麻だったが、手に持っていたビニール袋をテーブルに置くと、あぐらをかいてフローリングの床に座った。

「なんでって…俺たち、恋人同士だろ?」

上条当麻は平然と、そんなことを告げた。
「へ?」
「おいおい…今更その反応は無いだろ。昨日あれだけセックスしておいて…
もしかして、アレですか?最近マンネリ化してきたプレイに刺激を加える為に、初心に帰って恥じらいプレイをご所望ですか?」
「………え…へっ……あ…え?」
呂律が回らない。
この男は何を言っている?
「…変なところに気を使わなくてもいいっつーの。
俺は、その…エッチな美琴も好きだから…今のままでいいよ。
それより、飯にしよーぜ。昨日のカレーがあるし…コレのついでに、コンビニでサラダ買ってきたからさ」
コレと言って、彼女の前に差し出したのは、今日コンビニで読もうとしていた雑誌だった。
視線を落したまま、御坂美琴は硬直していた。
なぜこの男は自分が読みたい雑誌を知っている?
そもそも、何故自分は上条当麻の部屋にいる?
「あっ、そうそう」
彼の声に。ビクッと反応し、顔を上げた。
御坂美琴の表情から何かを読み取ったのか、台所に向かう足取りで上条当麻は苦笑しながら
「生理が近いなら近いって言ってくれよ。おっぱい固いなーと思ったら、やっぱりそうだったのか。それだったら、俺だってちょっとは気を使えたのに…」
などと、のたまった。
思考が停止する。
本棚の隣に飾っている、自分と上条当麻が恋人同士のように映る写真を横目に、
御坂美琴の意識はそこで途切れた。

132ゆめ?:2010/03/13(土) 21:32:04 ID:T40ezEEM




「――――――――――はっ…!」
御坂美琴は目を覚ました。
上半身を起こし、辺りを見渡す。
どこからどう見ても、常盤台中学寮の二〇八号室。
隣のベッドでは、ルームメイトの白井黒子がすやすやと眠っている。
目をこすりながら、目覚まし時計で時刻を確認した。起床時間にはまだ早い。
「…なんだか、変な夢を…見ていた気がする」
もう一度布団に潜りこむ気が起きなかったので、御坂美琴はベッドから立ち上がった。
テーブルに置いてあった携帯を取り、電源を入れる。
しばらくして、待ち受け画面が表示される。
ツンツンした少年と携帯をカップル契約した時に取った写真が、そこにある。
すぐに、一件のメールが届く。
御坂美琴に微笑が零れる。

画面には、『上条当麻』と表示されていた。

133鬼畜ばあちゃん ◆m2vH1XGyFA:2010/03/13(土) 21:34:22 ID:T40ezEEM
これで終わりです
このスレを見ているうちに、自分も書いてしまいました!

しかし、このスレ更新率がヤバいと思います

134■■■■:2010/03/13(土) 21:44:36 ID:GdIEhjOM
>>133
乙。
美琴どんな夢見てるんだw
もし寝言に内容が出ていたら黒子に殺されるww

135■■■■:2010/03/13(土) 21:55:03 ID:3OxrbMwo
鬼畜ばあちゃんさんGJです!初めてなのにみやすかったです!というかどんどん読み手が書き手になっている・・・
恐ろしいスレだ。
そして127の発言に不覚にも吹いた。

136■■■■:2010/03/13(土) 21:58:00 ID:JiW3Xx6w
>>133
GJ!!
ちょっとその夢俺にも見してk(ry

137■■■■:2010/03/13(土) 22:00:13 ID:iRIsr9ug
原作を読んで、ギブアップしたけど、二次創作は面白いなと思えた人間もいたり。

138■■■■:2010/03/13(土) 23:22:37 ID:rYsEoglI
ヒロイン多すぎて、一人ひとりが生かしきれてないのが最近多いし
やっぱり二次創作もいいよね!

>>133 惜しみないGJを贈ります。
夢ネタってツンデレキャラには王道だけど、やっぱりいいよね。

139■■■■:2010/03/14(日) 00:02:54 ID:3WmNvTnk
Railgarnetで誰か書いてくれないかな……。
いや思い切って自分で書いて……いいのかな。

140■■■■:2010/03/14(日) 01:04:14 ID:9iqGzidc
ここって18禁だめじゃね?

141■■■■:2010/03/14(日) 01:21:55 ID:ZLSD/t/o
18禁ってほどでもない希ガス
直接的な描写じゃないしいいと俺は思うが

142■■■■:2010/03/14(日) 01:26:51 ID:akalL8cQ
>>140ってばお子様ねwww「セックス」に反応したのかしら?www
もしかして御坂さんですか?www

冗談ですw
怒らないでね。
行為の描写があったわけじゃないし、それがメインじゃないからセーフでしょ。

143■■■■:2010/03/14(日) 07:26:32 ID:GhkBFcN6
前にも出たけど
厳密なことを言えば実はテキストは法的に18禁認定できないらしい
だから色んな人の主観に依る

ところでエロパロ板は結構空気が違うね
個人的にエロ専用スレを禁書板の方にもほしー て人は居ないのかな?
(俺は書くか分からないけど)

144■■■■:2010/03/14(日) 07:29:33 ID:zMcZSK9.
エロはあっちでやればいいやん

145■■■■:2010/03/14(日) 08:47:15 ID:9iqGzidc
最近いちゃいちゃ成分がたりない…
短編でもいいからだれかSS書いてくれー(もちろんいちゃいちゃ)

146■■■■:2010/03/14(日) 10:56:08 ID:3WmNvTnk
今日はホワイトデー。
職人様に期待を。

147■■■■:2010/03/14(日) 11:11:21 ID:Bm6LTplY
最近直接的ではないもののエロスレ投稿があるよね
まぁ、直接的に描写するような事を書かずいちゃいちゃに組み込めればいいんじゃね?
そして、当面の問題は…
何でこんなに過疎ってんの?

148:2010/03/14(日) 11:49:16 ID:68om6bRI
お久しぶりです。
今まで諸事情により筆があまり進んでませんでしたが、日がきたので【side by side】の続編を投下したいと思います。
さて、僭越ながら14日の先陣をきらせてもらいますかw
局部的にいちゃつかせたつもりですが、いちゃ成分補給にまではならないかも?

注意すべきは、まだ文が稚拙かなという所と誤字脱字でしょうか。
気をつけてはいるんですがね…

では【side by side】を投下します。
消費レスは5の予定。

149【side by side】―ホワイトデー―(1):2010/03/14(日) 11:50:15 ID:68om6bRI
3月13日上条宅、朝

上条は大いに悩んでいた。
その悩みの種は明日、つまり世間で言うところのホワイトデーにある。
彼は自分では何故かはわかってはいないのだが、バレンタインの夜遅くに家に帰ってみると大量のチョコが家の前に置かれていた。
ただの義理チョコならまだいいのだが、中には、手紙のある明らかに気合いの入っているチョコもあった。
それ故、彼はお返しをしようとは思っているのだが、中には無記名のものもあり、それを除いても元々の絶対数が多いため、必然的にお返しも桁外れの量になってしまう。
だから貧乏学生上条当麻は非常に困っていた。

「なんであんなにチョコくれるんだよ……不幸だ」

世間一般ではこの状況を不幸と言うと当然、非難の嵐がとんでくるのだが、上条にとっては死活問題にも発展しうるので十分不幸な部類に入る。
だがさらにもう一つ悩みの種はあり、それは先月のバレンタインに晴れて結ばれた"彼女"御坂美琴のことであった。
彼女はバレンタインでは手作りとは思えない程のクオリティと味のケーキを贈ってきたため、三倍返しが基本(らしい)のホワイトデーのお返しにはこちらも頭を抱えている。
だからといって値段で勝負したって結果は見えており、破産確定。
そもそもお嬢様相手に値段で勝負という発想自体が自殺行為だ。

「ああもう!!俺はどうすればいいんだぁ!!……不幸だ」

上条は自分の不幸を精一杯嘆いた。
しかし嘆いたところで状況は何も変わらない。
しかも今年はバレンタインが日曜日であり、ホワイトデーもまた日曜日なのである。
上条は昨日、14日を美琴からの誘いを受けて予定を入れた。
そして美琴以外の人にお礼をするにしても渡すのは月曜日と元々決めている。
よって、美琴の分+美琴以外の分を今日中になんとかしなければならない。
数にして約20人分ものの量を…
つまり今のこの時間は無駄以外の何ものでもない。

「ここでこうしてる時間がもったいない。材料を調達してる最中に考えるか…」

上条は身支度を整えると、履きなれたバッシュを履き、外へと足を踏み出した。

150【side by side】―ホワイトデー―(2):2010/03/14(日) 11:50:42 ID:68om6bRI
同日、とあるファミレス

御坂美琴は久しぶりにいつもの4人組とのおしゃべりを楽しんでいた。
バレンタインが終わってからの彼女はほぼ毎日といっても差し支えないほど、上条と顔を会わせている。
学校帰りは例の自販機前で待ち合わせをして門限まで話をしたり、出かけたりし、休日は平日では行けないような所へと出かける。
なので、よっぽどの用事がある時以外の予定はほぼ上条と会うことで潰れていたため、四人で集まることは本当に久々なのである。(無論、他の三人は事情を知っているため口は出さない)
そして今日は上条が『今日はホワイトデーの準備をさせてくれ!!』と必死に頼みこんできたので、美琴は久々に四人で過ごしていた。

初「―――ところで、御坂さん。バレンタインからお忙しいようですけど、彼氏さんとはうまくいってるんですか?」
美「ぶはっ!!……う、初春さん。そういう話は心臓に悪いから急には…」
佐「バレンタインから全然会ってくれませんからね!あたしももお気になって気になって……」
白「お姉様、別に毎晩黒子に惚けてるように話すように話せばいいのではありませんの?」
初佐「「ま、毎晩!?」」

黒子の何気ない爆弾発言に二人が身を乗り出す。
先ほど言った通り、美琴と上条はほぼ毎日顔を会わせている。
なので、美琴は上条当麻のネタにはこと欠かない。
美琴としても、事情を知る身近な人間が黒子しかいないため、やり場のない幸せ気分全てを黒子に向けている。
そのためここ一カ月の美琴と黒子の会話の話題は八割以上が上条ネタだ。
黒子としては幸せそうな美琴を見れるのはいいのだが、流石に毎晩惚けられると身が持たない。
実際、いくら黒子が認めた殿方である上条といえども、数回本気で存在を消しにかかったこともあった。(そのたびに、美琴の制裁のおかげで事なきを得ている。)
それで、予定がないと言っていた美琴を誘って今に至るのだが。

美「ちょっと黒子!?ま、毎晩ってそんな……」
白「毎晩どころか毎日ではありませんの?別に事情は知られているのでしたら、偶には黒子以外の人にも話してあげてくださいな」

うんうんと大きく頷く二人。
確かに美琴は普段は黒子にいつも話している。
だがそれはデート後のやり場のない幸せを向ける矛先が黒子しかいないから、彼女に話すわけであって、デート後のようなフワフワした気分でもない今では、美琴としては話すのはかなり恥ずかしい。

151【side by side】―ホワイトデー―(3):2010/03/14(日) 11:51:15 ID:68om6bRI
美「うぅ……やっぱり無理!…そうゆう気分じゃないと恥ずかしい」
白「では今からそういう気分になってくればいいんじゃないですの?」

そう言って黒子は窓の外を指差す。
美琴はおろか初春と佐天までもキョトンとした顔で指された方を見る。

美(ッ!!な、ななななんで今現れるのよ――!!)

そこにはなんとも不幸そうな表情で大量の何かが入っているスーパーの袋を両手に持ったツンツン頭の少年の姿があった。
言うまでもなく、上条である。
初春と佐天は美琴に彼氏ができたのは知っているが、彼氏が上条であることを知らない。
まして二人とも上条のことさえも知らない。(初春は覚えていないだけ)
なので二人は美琴が絶句している理由も、黒子が指を指した意図もわからなかった。

佐(ね、ねえ初春。外になんかある?)
初(私もわからないです……外に彼氏さんでもいるんじゃないでしょうか?)
白「ほらほら、早くしないと愛しの上条さんが行ってしまわれますわよ?」
初佐「「ええ――!?」」
初「ど、どれなんですか白井さん!その上条さんって!!」
佐「あ、あたしも知りたいです!!」

美琴もようやく我に返り、そこで二人の状態に気づく。

美「だ、ダメよ黒子!教えないでよ!!」

たまらず黒子を制止する。
しかしそんなことで止まる彼女ではない。

白「今何やら大きなスーパーの袋をぶら下げているツンツン頭の方がそうですの」
美「ダメって言ってんでしょうがぁ―――!!!」

美琴はとっさに電撃を放とうとするが、今は店内だからか手前で踏みとどまる。
そうしている間にも、二人はその白井の情報に当てはまる人物を凝視していた。
遅れてそれに美琴は気づく。

美「ってそっちも見ちゃダメ――!!」
佐「あ、あれじゃない?大きなスーパーの袋をぶら下げたツンツン頭の人って」
初「きっとそうですよ!御坂さん、ここは私達のためと思って、行って来てください!」
佐「お話は後でゆ―――っくり聞きますから、そういう気分になってきてください」!
美「え!?ちょ、ちょっと二人とも!?」

美琴は初春と佐天に強引に背中を押され、店の外へ締め出された。
締め出された後も、戻ろうと試みるも、二人が扉の向こうでニヤニヤしながら扉を抑えつけているため叶わない。

美「はあ…アイツの不幸が少しずつ私に移ってきてるのかな……」

ため息混じりに一人呟く。

美「……せっかくだし、行ってこようかな」

そして浮かない顔は次第に明るく、重い一歩は次第に軽くなっていた。

152【side by side】―ホワイトデー―(4):2010/03/14(日) 11:52:22 ID:68om6bRI
同日、とあるファミレス前

「お、重い……不幸だ」

何やら大きなスーパーの袋をぶら下げて、いかにも不幸そうな顔をしたツンツン頭の人は、一通りの買い物を終えていた。
朝一番に買い物に出かけていたはずが、今や時間は昼になろうとしているところ。
これには理由がある。
一つは上条ならではの不幸な出来事。
もう一つは何をするかで迷っていたこと。
最終的には美琴以外の子には手作りで一人当たりの量を減らすことで決着がついた。
しかし肝心の美琴の分は未だに迷っていた。
どんなに喧嘩っ早くても、どんなに生意気でも、まがりなりにも相手はお嬢様。
こういうことは難しい。
いっそ本人に聞きたいとも思っている。
とりあえず他の子の分だけでも片付けてしまおうということで帰路についていた。

「ちょ、ちょっと…」
「ん?」

いきなり背後から声がかけられた。
しかしそこで上条はそれが誰かなどとは思わない。
仮にも背後からとは言え、ここ1ヶ月ほぼ毎日聞いてきた相手の声。
聞き間違えるはずがない。
上条は振り向きながら、それでも確信をもって答える。

「美琴か?どうしてこんな所にいるんだ?」
「そ、それはこっちのセリフよ。なんでアンタがここにいるの?」

「あれ?俺今日はホワイトデーの準備するって言ったよな?だからその買い出しだよ」
「そ、そうなんだ…」

上条はなにも嘘は言っていない。
たとえそれが美琴の分だけでなく、他の女の子の分が含まれていようとも…
ちなみに彼はバレンタインに美琴以外の子から大量のチョコをもらったことは彼女には言っていない。
だから今日はホワイトデーの準備、としか言っていない。
と言うかそもそも、一人のために上条がぶら下げている程の大きな袋や、一日つかうことは少々おかしいのだが…

「……そういうお前は?」

一番突っ込まれたくないことを聞かれる前に話題を違う方へ向けさせる。

「わ、私は友達とそこのファミレスでお茶してて、その時に当麻を見かけたから……」

対してこちらも嘘は言っていない。
その友人に背中を押され、無理やり会わされようとも、見かけたからには変わりはない。
その理由のせいで、慣れているはずの会話も若干緊張しているのだが、なんで会いに来たかなんてことは口が裂けても言えないだろう。
お互いに重要な部分は隠しつつ、会話を繰り広げる。
しかし、そんな会話も続くわけもなく、少しの間二人の間を沈黙が続く。

153■■■■:2010/03/14(日) 11:52:51 ID:.oHqCp62
原作20巻の発売による壁(かまちー)の高さの実感によるモチベーションの低下
アニメ最終回前にでの美琴の成長具合の見極め、そういったもんじゃないかな。

実際、美琴は「待ってる女」から変化しようとしてるし上条さんはやっぱりすごいやつだった
って事がはっきりしたしね。プロット大幅に変更しなくちゃいけない職人さんも多いと思う。
正直言って、21巻でのミコトの動きがわからないと少し書きようがないというのが本音。

今は書き手じゃなくって読み手としてwkkt状態なんだと思う。落ち着いたらまた投稿始まるさ。

自分もいちゃいちゃどころか「生きて帰って来るんだぞ〜五体満足で帰って来るんだぞ〜」
てな状態でとても筆が進む状態ではないけどね…

154【side by side】―ホワイトデー―(3):2010/03/14(日) 11:53:26 ID:68om6bRI
「えっと…?用がないなら上条さんは作業があるので帰らせていただきますが…?」

その沈黙を上条が破る。
上条としては突っ込まれたくないことがあるので早めに去りたい。
美琴としても元々用があって話しかけたわけではなく、無理やり何か話をしてこいと言われてここにいるので、これといった話題なんかは特に何もない。
それでも美琴はこのままあっさり別れるのは少し気がひけた。
せっかくだからもう少し一緒にいたい、話をしたい、そういう気持ちに駆られる。
だから、美琴は必死で何か話題を考えた。
そして彼女の視界に彼の大きな袋が目に入る。

「そういえばさ、何作るの?」

ここで上条は先程まで自分が何を考えていたかを思い出す。
美琴への贈り物をどうするかということについて。

「美琴は何がいい?」
「へ?わ、私は当麻が作ってくれるものならなんでも…」
「いや、好みとかあるだろ?もし嫌いなものだったら困るしさ」

質問に対して質問で返されて美琴は少し戸惑う。
そして返答にも困った。
彼女は元々上条から貰えるものなら何でもいいと思っていたし、食べるつもりだった。
そしてこれという好物も特にない。
だが上条にそこまで言われるとちゃんと答えないと申し訳ない気がしてくる。

「じゃ、じゃあ……甘いもの?」
「なんで疑問系なんだよ…。まあわかった、なるべく期待にそえるよう頑張るよ。……でもあんまり期待はするなよ?」

上条はそう言うとニカッと笑って美琴の頭を撫でる。
美琴は突然のことで肩をビクッと小さく揺らし、顔を赤く染めるが、付き合ってからは偶に上条がすることなので漏電して気絶ということはなくなった。
そして何よりも彼にこれをされるとなぜだか美琴は幸せな気分になれた。
ずるいとも思っていた。
たったこれだけのことで幸せな気分にできるのだから。
だから彼女も彼が最も弱いとも言える、甘えた上目遣いで、

「ううん、美味しいの作ってね?…期待してるよ?」

鉄壁の理性を誇る上条でも彼女である美琴の甘えた上目遣いには弱かった。
そこそこの頻度で美琴はこれをするのだがやはり慣れない、いや、男としては慣れることはできないだろう。
上条は目線を逸らし、顔を若干赤くして俯き加減に、

「………頑張るよ」

その声は目の前にいる美琴にしか聞こえない程の大きさだが、彼女はしっかり聞き取って嬉しそうに微笑んだ。
始め気にしていた人目ももう気にせず、二人は自分達だけの世界にいた。

155:2010/03/14(日) 11:54:39 ID:68om6bRI
以上です。
四人が同時にでてる時のみ会話の前に名前があるのはそういう仕様ですw
黒子、出番あまりなかったなぁ…
まだ新刊は読んでませんが、二人がいちゃついてればいいな…

では失礼します。
ありがとうございました。
少しでも皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。
今日は他の職人達も楽しみ!

156:2010/03/14(日) 11:55:49 ID:68om6bRI
連レスすいません…
最後が(3)になってますが、(5)ですorz
申し訳ない;

157■■■■:2010/03/14(日) 12:14:28 ID:Bm6LTplY
蒼さんGJ!
恥じらう美琴が可愛い!!!
その後の佐天と初春の反応が楽しみです

158■■■■:2010/03/14(日) 12:16:24 ID:Bm6LTplY
ヤベッ!!!しくじっちまった(汗)
コピペしたのは良いけどsage入れるの忘れてたー!!!
皆さんスイマセン。

159■■■■:2010/03/14(日) 12:40:47 ID:ZLSD/t/o
原作原作言われると読みたくなるわ
早くアニメ2期やってくれねーかな

160■■■■:2010/03/14(日) 13:12:36 ID:kQi5aTHA
GJです
一時の出会いでもほんわかできる二人っていいですね

原作は美琴がしたことに上条さんが本気の説教したりするんだろうかと
その時のやりとりを妄想したりしてます

161かぺら:2010/03/14(日) 13:20:30 ID:0dDsDGtM
>>147
>>153

DairyLifeの妄想が膨らみすぎて話がまとまってないんです。
書く→書きたいこと増える→書く→増える→ふにゃー
代わりに、WDネタ落とすので勘弁。


>>蒼さん

GJです!
恥じらう美琴萌えww
この後の佐天さんたちも気になる。期待してます。


ってワケで、落としに来たよ、ホワイトデーネタ!
お世話になってる皆さんに、甘い物ならぬ甘い話を。
何事もなければ13:25より3レス借ります。

162赤い顔の天使1:2010/03/14(日) 13:25:18 ID:0dDsDGtM
3月14日。
上条にとって、戦争とも呼べる怒涛の生活を送った『あの日』からちょうど一ヶ月。
上条当麻は来てしまった『今日』という日に大きく落胆していた。
一か月前に手元にやってきたチョコレートは上条を長く苦しめることとなった。上条1人では何ヶ月分の食糧となったかは想像したくもない。
くれた女の子にとっては残酷な結果ではあるが、同居人のシスターさんが大層喜んだらしい。
上条からすれば、貰ったチョコレートは全て『義理』だと思っており、普段の不幸を憐れんでの行動だと考えていた。
そんな激動の日――もちろん、男子生徒から追いかけまわされた――を経て、今日に至る。
上条の懐具合の問題から、クラスの女の子には少しずつ手造りクッキーを撒き、もはや何処で立てたフラグか分からない名も知らぬ人には涙を飲んでもらうこととした。
律儀な上条としては貰っておいて何もしないのは後ろめたい気分ではあるが、名も知らぬ人には渡しようもない。




「あー、不幸だ」
下校途中、上条の口からいつもの口癖が漏れる。むしろ想いに応えて貰えなかった女の子の方が不幸ではあるが鈍感少年は想いにすら気付いていない。
そんな上条の鞄の中には丁寧に包装されたものが1つ残っている。
「あいつ、もう来てんのかな……」
上条は携帯を開き、時間を確認する。
「また待たせちまってるか」
待ち合わせ、というか呼びだした時間からは既に10分が経過している。
これからその場所に向かうと最低でも25分はかかるだろうから、30分くらい待たせることになる。
「また、ビリビリか……不幸だ」
気恥かしく思えてしまい、上条は走らずにトボトボと歩いて向かう。
―――さて、なんて言うかな―――
上条は呼びだした相手を思い浮かべながら、最初になんて言おうかと思いを巡らせていた。
下手なことを言えば、ビリビリキャッチボールで有耶無耶になりかねない。
御坂美琴。
常盤台のエース、第三位のレベル5の彼女は、自分がお嬢様であることを誇示するわけでもなければ、無能力者の上条を見下すわけでもない。
むしろ、見る度出会う度に絡んできてはビリビリと追いかっけっこをする。かと思えば、デートもどきみたいなことをしてみたり。
普段は男勝りなクセに、偶にえらく女の子らしい反応――これがまた素晴らしく可愛かったりする――を見せてみたり。
それ以上に、彼女は上条当麻にとって特別な女の子であった。
自らの『記憶喪失』について知って上で、上条を力になると言ってくれた人。
一ヶ月前、上条に「大好き」と言ってくれた人。
一ヶ月保留した答えを、上条の想いを告げるべき大切な人。

163赤い顔の天使2:2010/03/14(日) 13:26:01 ID:0dDsDGtM
上条が待ち合わせ場所に着くと、美琴は1人で立っていた。
肩を震わせ、小さくなっている美琴の背中を見て、上条は酷く後悔した。
自分の気恥かしさなんて小さな理由で、美琴に辛い思いをさせてしまった事に。
美琴は上条に気づいていない。ゆっくりと近づき、後ろから震える美琴を抱きしめる。
美琴はビクッと身体をかたくして振り向く。
3月半ばとは言え、日が沈むとそれなりに寒い。美琴の頬は赤くなっており、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「悪い、御坂。待たせちまった」
「………かと思った」
上条は美琴から身体を離し素直に謝ると、美琴の目から溢れだした涙がぽろぽろと零れる。
「え、み、御坂っ、すまん!!」
美琴の涙を見て、上条は慌てる。異能の力には勝てても、女の子の涙には勝てない。
「また、何かに巻き込まれてるんじゃないかって、心配したの。良かった、無事に来てくれて……」
「………わりぃ」
美琴は涙を流しながら無理矢理笑おうとする。ぎこちない、綺麗とは言い難い、そんな笑顔。
上条は思う。こんな顔をさせてはいけないと、自分の好きな綺麗な笑顔を守ろうと。
上条は美琴の涙を拭ってやると、その潤んだ目を真っ直ぐと見詰める。
「御坂……俺も、大好きだ」
飾り気もなければ、ムードもない。だけど、上条らしい、想いの籠った言葉。
「まったく………告白の答えまで遅刻してくるなんて、アンタらしいわ」
そう言って美琴は微笑む。上条の好きな、屈託のない笑顔で。
そんな美琴の事を、上条は堪らなく愛しいと思った。
ぽんっ、と美琴は上条にもたれかかる。真っ赤に染まった顔を隠すように、上条の胸に顔を埋める。
「御坂?」
「冷えたから暖めて」
上条はふっ、と笑い美琴を優しく抱きしめる。
冷えた身体を、暖めるように。暖かい心が、冷えないように。




上条と美琴は隣り合ってベンチに腰掛けている。
待ち合わせ場所である例の自販機前は、上条にとって美琴と出会った最初の場所だ。
正確にいえば、シャッターの閉じた建物の前で、不良に囲まれながらという非日常的な出会いだったのだが、記憶喪失である上条は覚えていない。
上条は、ただなんとなく、思い出の場所として自販機前を選んだ。妹達の件の橋の上も思い出の場所と言えばそうだが、打ちひしがれた美琴の涙を思いだしそうなのでやめておいた。
ロマンチックでも何でもない場所ではあるが、気を張らずに喋れる場所で。
美琴としては夜景の見える場所とか、観覧車の中とかそんな事を期待したりもしたのだが、相手は上条である。
思い出の場所、というか2人の共通する場所を選んでくれた事だけで満足している。
「で、なんで遅れたのよ」
上条の肩にもたれかかりながら、美琴が尋ねる。
無事に来てくれて好きだと言ってくれただけで十分、と言いたいところではあるが、30分も待たされたのだ。
不満の1つくらいぶつけないと気が晴れない。
「知り合いにお返し渡してたらな……」
真面目な顔をして言い放つ上条に、美琴は大きく溜息をつく。
女の子の前で、しかも、たった今結ばれた『彼女』の前で他の女にお返ししてたと言うのだ。
―――ま、それがコイツのいいところでもあるんだけど―――
そこに惹かれたんだしね、と美琴は思い、それ以上は言及しない。上条当麻はそんなやつだ。

164赤い顔の天使3:2010/03/14(日) 13:26:32 ID:0dDsDGtM
「アンタのことだから、お返しも大変だったんじゃない?」
「まぁ、な。少しずつで我慢してもらったし、全員に返したワケじゃねぇから。むしろ、先月の方が辛かった」
暫くチョコレートは見たくねぇ、と上条は身震いする。美琴も後輩達から貰ったものを思いだし苦笑する。
―――確かに、貰いすぎるのも苦よね―――
怒りを買いそうな言葉ではあるが、物事には適量というものがあるのだ。
「アンタ、全部食べたの?太って……るようには見えないけど。その年で糖尿病とかならないでよ?」
美琴は笑いながらの皮肉る。まさかとは思いつつも、無駄に優しい上条ならやりかねないない。
自分の分を食べてくれるのは嬉しいが、他の女の分となると複雑でもある。
「いーや、あんなに食べたら死ぬって。インデックスに手伝ってもらった……まぁ、殆どアイツが食べたけどな」
上条は、あれは凄かったな、と笑い、食べきれないチョコレートに目をキラキラとさせていたインデックスを思いだす。
「はぁ!?アンタ、まさか私の作ったヤツもシスターに食わせたんじゃないでしょうね?」
笑う上条に本気で掴みかかる美琴。いくら鈍感な上条とはいえ、意を決して「大好き」という言葉と共に送ったプレゼントだ。
「お、落ち着けって!そんなことするわけねーだろ」
上条は厳しい目で睨みながら掴みかかってくる美琴を引き離し、ベンチに座らせる。
「お前の分はちゃんと俺が食べたよ。すっげーうまかった」
「あ、うん…………ありがとう」
美琴の顔に落ち着きが戻る。
「そりゃ、インデックスに食われた人には可哀想だけどよ……お前のは、特別だよ」
上条は隣にいる美琴から目を逸らす。その頬は赤く染まっている。
「目の前で好きって言われて、あんな想いの籠ったもんを人にやれるかってんだ。死んでも分けてやらねーよ」
「………なっ」
美琴の顔が一気に赤くなる。口はぱくぱくとしており、何を言いたいのかは分からない。
―――なに、恥ずかしいこと言ってんのよっ―――
美琴は勢いよく背を向けると、両手を自分の頬にあてる。上気した顔に、冷えた手が心地よい。
それでも、心の、胸の熱さは収まりそうにない。
「そうだ、御坂、こっち向いてくれ」
上条は何かを思い出したように言うと、鞄から包装された細長い小箱を取り出す。
「名前で、呼んで」
「御坂?」
「名前で、美琴って呼んで」
美琴は振り返らない。恐らくは上条が名前で呼ぶまで振り返ることはないだろう。
―――意地っ張りな奴だな―――
美琴は耳まで赤くなっており、照れていることが丸わかりなのだが、上条は何も言わずに小さく息を吐く。
「……美琴、こっち、向いてくれ」
「んっ」
さっき以上に真っ赤になった美琴が上条の方に振り返る。目線は合わせられないようで、ちらちらと上条を見ては逸らしている。
―――こんな可愛い奴だったんだな―――
気付くの遅すぎるな、と自分の鈍さに笑う。
「お返し。そんな良いもんじゃねぇけどな」
そういって上条は包みを渡す。美琴はおずおずと手を伸ばし、ゆっくりと包みを解く。
小箱の中から現れたのは、ネックレス。小さな銀色の十字架がついている。
「食いもんでもよかったんだが、最初のプレゼントだしな。形に残したかった」
「ふふっ、案外、気障なんじゃない」
美琴はそう言いながらも、嬉しそうにネックレスをかける。
「悪かったな」
上条はふいっ、とふてくされた顔で背を向ける。本当はネックレスをかけた美琴を直視するのが恥ずかしかったからなのだが。
―――さっきの逆だな―――
なんとなくとった行動だが、デジャヴのようなものを感じ、上条は頬を緩めた。
「………ううん。凄く嬉しかった。ありがとう、当麻」
美琴が寄りかかってくるのを感じて振り向くと、上条の目に飛び込んできたのは、赤い美琴の顔。
唇にやわらかい感触と熱さを感じる。
ゆっくりと、美琴が離れた。リンゴのように真っ赤な美琴の顔を見て、上条は自分もそれくらい赤くなっているだろうなと思う。
―――天使みたいだな―――
十字架をさげ、目の前で微笑む美琴にそんな事を思う。
「大好きだよ、美琴」
3月にしては冷たい風が吹く。2人の心は暖かいままだった。

165かぺら:2010/03/14(日) 13:28:01 ID:0dDsDGtM
以上になります。

蒼さんに続いて2番手で登場させてもらいました。
ちょっと寝てからDairy Life書いてみます。

166■■■■:2010/03/14(日) 13:46:58 ID:sE6xjFAU
蒼さんGJです!
上条さんは相変わらず不幸の意味がズレてるぜ!

167■■■■:2010/03/14(日) 13:53:51 ID:Dxlwv8qw
ホワイトデーネタ来てた!
お二人ともGJです!!

168■■■■:2010/03/14(日) 14:32:13 ID:nMx9iixo
>>155
乙。
この後美琴はファミレスに戻って三人娘相手にのろけまくりですかw

>>165
乙。
ある意味事件に巻き込まれていたと言えそうでもあるしw

169■■■■:2010/03/14(日) 14:33:50 ID:BTdz.3YM
お久しぶりです
「未来の娘の訪問」筆者です
5スレには投下する的な事言ってたのに、もう6スレ目になってました

ちょっと仕事の期限が月末なのに、未だ一行も出来てないヤバイ状態なのですが、
SSの方は完全に止まっちゃってます、すみません。

桜並木さんネタ被せちゃってゴメンね
私信ごめん

170■■■■:2010/03/14(日) 15:25:52 ID:dc19a6rA
>>165
GJ!!
なんと初々しい二人だ。いいぞもっとやれ!!

>>169
もう、止めますとか言われたら悲しいけど、いつかやってくれるならいつまでも私は待ちますよ!!
贅沢言えば、禁書終わるくらいにまでやってくれれb(ry

なにを隠そうこの俺m(誰も覚えていない

171■■■■:2010/03/14(日) 15:58:27 ID:oRtIjQhk
入浴剤とか恋人の日常風景の続きも読みたいよぉ〜

1723-351だった気がする:2010/03/14(日) 16:52:40 ID:dc19a6rA
さて、誰もいないようなのでホワイトデーだというのに、フライングしまくって4月馬鹿の小ネタを投下したいと思います。
出来はあれですが、楽しんでくれたら嬉しいです。
1、2レス消費予定です。

173小ネタ:2010/03/14(日) 16:53:57 ID:dc19a6rA
4月1日、一般的にエイプリールフール(4月馬鹿)と呼ばれるこの日は、どんな嘘を付いても許されるはずの日であった。
まあ、嘘と言っても相手の限度と言う物があるし大袈裟にしすぎるととんでもないとばっちりを受けることもある。ようするに、あやふやなのである。
 そしてこの日を逆手にとってなんとか少しでも思いを告げようとする一人の少女がいた。
「嘘だから言ってしまえば…。いや!それじゃあ、嘘になってしまう!!」
常盤台中学のある寮の一室。いつもなら白井黒子と呼ばれるルームメイトがいるのだが、4月1日には学園都市ならではの厄介な馬鹿が出てくるので、ジャッチメントとして仕事に出ていた。
白井によると、今日は寮に帰ってくることはまずないらしい。
なので一人の少女、御坂美琴は思う存分一人で悶々としていた。ある男性、いつもアイツと呼んでる上条当麻のことを思って。
「だー!!クリスマスもダメ、バレンタインもダメ、もうなんのイベントでもいいから私を後押ししてよ!!」
美琴はどうしようない自分の気持ちに苛立ちながら、ベットの上でバタバタと暴れる。結局いい考えは浮かばなかったので、もう今日のことは忘れることにした。
と、その時。ブー、ブー、とカエル型の携帯が振動し始めた。
「うーん、黒子かな?なんか忘れ物したのかな、私に頼むってことは急ぎ?」
色々と考えながら美琴は携帯を手に取るが、その携帯の小さな画面に映し出された番号をを見て固まる。
アイツ、上条からの電話だ。
(なな、何!?何の用なの?え、えーと、早くボタンを押さないといけないのに指が震えてっ!!)
焦る気持ちと、震える指を必死に抑えながら、携帯電話を耳にあてる。
「あー、御坂か?」
「あ、あの、えーと、今度はなにを頼みたいのよ(わーなにやってんのよ私ぃ!!)」
「あのだな、その今からいつもの自販機の前に来れるか?」
「……いいけど、その待ち合わせ場所って私にしか通じないのよ」
「それでもいいんだ、いや、それじゃないとだめかな?……まあ、ともかく来てくれ」
「ちょっ……切れちゃった」
上条は用件だけ言うとさっさっと電話を切ってしまった。これでは一体なんのために自分が行くのか理由がわからない。
しかし約束してしまった以上、行かないわけにもいかないだろう。それに美琴自身、上条と一緒にいる時間は悪くない。むしろいつまでも一緒にいれたらと思うほどである。
「でも、なんの用事かいってくれないと、あるはずないとわかっていても期待しちゃうじゃない…」
美琴は一人誰もいない誰にも聞こえない声で呟くと、明らかに期待した顔で部屋を出て行った。

――――――――――――――――――――――

174小ネタ:2010/03/14(日) 16:54:21 ID:dc19a6rA
「よう、早かったな」
待ち合わせの場所に行くと、もう既に上条はそこにいた。いつも遅れてくるので、まだ来ていないだろうと高をくくっていたら見事に外れたので、準備できていなかった心が高ぶる。
「わ!?な、なんでもうアンタはそこにいるのよ!!」
「何でって、お前に電話したときもうここにいたからな。上条さんとて待ち合わせ場所にいたのに間に合わなかったって不幸はそうそうにありませんよ」
「え?電話したときにもうここにいたの?」
「ん、まあな」
「……………」
美琴はそれ聞いて黙ってしまう。なぜ上条は待ち合わせ場所から電話なんてしたのだろう。上条は基本的に面倒くさがり屋である。じゃあここにいるということはかなり重大な話なの
だろうか。
ふと、嫌な予感が美琴の頭をよぎる。まだ付き合ってもいないというのに別れ話、これから一生会えないという決別の話、どんどんネガティブなイメージが美琴の頭の中を染めていく。
(ない、ない!!そんなことない!!………………あるわけ、ない……)

「おい、どうした暗い顔して。そんなんじゃなんか話しづらいじゃねえか」
美琴の気持ちを知らない上条は心配した顔でオロオロとする。
「………ねえ、アンタ私のこと嫌い?」
と、美琴は思わず聞いてしまった。後悔が美琴の体全体にはしる。でも、もう引き返せない。美琴は上条の顔を見れずに、俯きながら上条の返事を待つしかなかった。

暫くの沈黙の後、
「意味わかんねえ質問だけど、そんなことはない。どっちかというと……いや、好きだ」
真剣な顔で上条はそういった。だから、とりあえず嫌いではないという返事に、美琴は”初めのうちはそう聞こえた”。
「そう、……………へ?」
だんだん、頭が回ってきてその言葉の意味が脳内で審議にかけられる。まさか、今のは告白だったんではないのか。
「やば、フライングした」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!!アンタ今なんて!?」
「やー、今日はいいエイプリールフール日ですなー。嘘を付くには丁度いい日だ」
「ま、待ちなさいよアンタぁ!!今のってあからさまに思わずって感じだったわよ!!」
「やや、そういえばすごく重要で大切な用事があったんだ!ゴメン、御坂この埋め合わせは必ずするから。そういうことで、じゃ!!」
「待ちなさいよ!!とって付けたような嘘で逃げんじゃないわよ!!まて!!」
「今日は”嘘付いてもいい日”だからねー!!本当のことかもれないから、止める権利は貴方にはない!!」
「だから、さっきのは嘘かどうか訊いてんのよ!!」

上条は怒鳴り放電しまくる美琴から逃げるように、走っていく。美琴も追いかけるが、きっといつものように逃げられてしまうだろう。
その上条は走りながら、美琴には絶対聞こえないような声で呟く。
「(全く、あれだけクリスマスの時とかバレンタインの時とかその他もろもろの時までアプローチされれば気づかないわけねーつうの!まるで告白されたような気分だったのに、当の
本人はあれだもんなぁ。だんだん好きになっちまった俺がやろうとしたが……。ああ不幸だ)」

1753-351だった気がする:2010/03/14(日) 16:56:02 ID:dc19a6rA
はい。終わりです。
もう、色々とごめんなさい。文章の構成力とか、ホワイトデーとか、
ぐふ!!

176■■■■:2010/03/14(日) 17:28:15 ID:BTdz.3YM
>>175さん
お疲れ様!!
自分はこんなに短く構成する事が逆に出来ない人間ですので、
自分に無い能力に嫉妬します!!

次回作も期待してまーす。

177小ネタ:2010/03/14(日) 18:55:43 ID:9HbnQhlk
レールガン23話の病室=上条さんのいつもの病室説があったので、書いてみました!


同じベッドの上で








「おい、面白ぇモルモットが手に入ったぞ、誰か運んどけ!」

近くでテレスティーナの声がする。
行かせちゃ、ダメだ…止めなきゃ…。
だが美琴は立ち上がろうにも立ち上がれない。そこで美琴の意識は途切れた。


美琴は気づくと、真っ暗な世界の中にいた。
「何やってんだろ私…。1人で乗り込んで1人でやられて…」
その時
「おい!」
美琴の後ろから声がした。
「!?」
美琴が振り向くと、そこにはあの見慣れたツンツン頭の少年がいた。
「な、なんでアンタがここに!?」

「そんなつまんねぇことはどうでもいい!理論も理屈もいらねぇ、たった一つだけ言わせろ!
 お前はそれでいいのかよ。テメェはあの子達を助けたくないのかよ?
 簡単にあきらめんじゃねぇよ!俺の知ってるお前はそんなヤツじゃねぇ!
 納得できないことがあんなら、テメェのその手で下らない幻想をぶち壊してこいよ!」

その少年は右拳を突き出し、美琴にむかって叫ぶ。

「わかったわ、私が私の手でけりをつける!」

美琴はその少年と向かい合い、自分の左拳をその少年の右拳にむかって突き出す。
すると少年は満足そうに笑って、フッと消えてしまった。
「なによ、自分が言いたいことだけ言いやがって…。」
しかし、そんなことを言いながらも美琴は感謝していた、あのツンツン頭の少年に。

次の瞬間。美琴の目に病院の天井が写っていた。
「大丈夫ですか、御坂さん!」
「お姉さま!」

美琴たちは知らない。今美琴が寝ている病室は、いつもツンツン頭の少年が戦いの傷を癒すために使っているということを。
もしかしたら、このベッドにはその少年の魂がうつっているのかもしれない。

END

178キラ:2010/03/14(日) 21:19:38 ID:q/z2So1Q
どうも、です。
誰もおられないようなので、ホワイトデーのお話を投下させていただきます。
タイトルは『とある幻想殺しの同棲生活』です。
前作『とある超電磁砲の卒業式』の続きに当たります。

25分から9、10レス消費を予定しております。

179キラ:2010/03/14(日) 21:25:22 ID:q/z2So1Q
 3月23日。
 話題となった常盤台の卒業式は沈黙に向かい、世間では過去の出来事として人々の記憶の一部となっていた。学園都市内でも、様々な動きがあり波乱であった卒業式後の一週間は、学園都市は上条当麻と御坂美琴の二人の話題で持ちきりとなっていたが、今はもう過去の記憶だ。
 だが本人たちは、終わった話題であっても卒業式の出来事は過去の出来事と簡単に済ませることは出来ない。あれから様々なことが一気に起きたが、あの日は始まりの日であり記念日となった二人は大切な思い出の一部として永遠に残るのであろう。
 さて、世間はホワイトデーというイベントが終了し、学生たちは春休みと言う新しいイベントを待つ日となった今日、上条と美琴の二人は今日も仲良く街の中を歩いていた。
「それで、目的地とやらはどこにあるんだよ」
「うーん。そろそろだと思うんだけど、多分この辺りだと思うんだけどな」
 第七学区のとある住宅街。上条と美琴はこの場所にはほとんど来たことがないが、今日はこの場所に用があって二人でやってきたのだ。
 恋人つなぎで歩きながら、美琴が用意した地図を持ってここまで来た時間は十数分。時刻はそろそろ12時を回ろうとしているが、二人はまだお腹はすいていない。
「って言われても、ここはアパートばっかだぞ?」
「そんなことぐらいわかってるわよ。それに、このあたりはアパートが多いって聞いたんだから、ないとおかしいじゃない」
 そういう意味じゃなくてだな、と上条は高層ビルの立った場所とは大違いの、小さなアパート街とでも命名できる場所に来たのはいいが、目的の場所はまだ見つからない。
「普通、事前に行って場所を覚えてから来るのが普通だと思うんですが?」
「仕方ないじゃない。バカ母や黒子、土御門が勝手にやったんだから。それに、私がいなかった時だからどうしようもなかったのよ」
 そうですかと上条はため息をつきながら、周りを見渡す。真新しいとは言えないアパートだらけの場所のどこに目的地があるのか、日が暮れるんじゃないのかとさえ思えてきた。場所もわからないのに地図を渡されても困るなと、今更ながらこの地図を渡した本人、土御門舞夏を少々恨んだ。
 一方美琴は、上条は役に立たないと判断し、地図に書いてある場所を確認しながら目的地を探した。一応、細かな部分は書いてあるが少しばかり大雑把な部分も目立つ地図だが、まったくわからないわけでもない。むしろ、近くにあるアパートの名前や目印になりそうな家など、細かなことも書いてあったので適当に書かれるよりはよかった。
 そして、地図に書かれたアパートの名前を発見し、それから次々と地図と周りを照らし合わせていく。
「うん…うん……このあたりみたいね」
 母親のように上条の手を引きながら、美琴は大体の目星をつけた。角を曲がり、目印となるものを確認して、美琴はここかな、と地図に書かれた目的地の名前を照らし合わせてみた。
「ここみたいね。ちゃんと標識もあるようだし」
「えっと………マジ?」
 様々なことを予想していた上条もさすがに目を疑った。
 それは予想外のものであったが、よくよく考えてみればお嬢様である美琴らしいものだ。常盤台の寮から出て次にこれかよ、と相変わらずのブルジョワジーな様を見た気がした。
「美琴さん。一応、お伺いしますが、これが貴方様の新居になるのでせうか?」
「そうだけど、何かおかしい?」
 美琴は何の疑いもなく、言い切った。だがそれでも上条はまだ納得できなかった。
 お嬢様学校である常盤台の寮を出てきたと思ったら、次はこれだ。一体、どれだけ自分と階級は違うんだと、改めて超能力者の権力の大きさを感じた。
「ほらぼっとしてないで入るわよ。当麻の荷物だって、あるんだからちゃっちゃとやらないと」
「高校一年になって新居が寮じゃなくて、一軒家ってどういうことだよ! しかも標識の名前、絶対おかしいだろう!?」
 上条はこの質問に、誰かに答えて欲しかった。だが、答えはすぐ目の前の新居の姿と『上条』と書かれた標識だけで十分であった。

180キラ:2010/03/14(日) 21:26:30 ID:q/z2So1Q


 この家は元々は新しい家ではなくボロボロの古家であったらしい。そんな家を美琴の母親である美鈴が目をつけ、リフォームしたらしい。ちなみにリフォーム代を払ったのは美琴であるようだが。
 こんな豪邸みたいな一軒家に住む意味あるのか、と突っ込むほどにこの家は大きく綺麗であった。住み慣れていた男子寮とは違って、二人でも十分お釣りが来るぐらいの大きさを誇っている。見取り図によると、使用されない部屋も存在してしまうため、客間と物置として使うとか。
 そして、何故この二人がこんなに家に住むことになったのかと言うと、
「これで四月は、ちゃんとした住まいに住める。貧乏学生の上条さんも、ホームレスならずにすんで安心しました」
「ちゃ、ちゃんと感謝しなさいよね。これからは、二人で一つ屋根の下なんだから」
 二人は三月いっぱいで寮から出ないといけなかったからだ。
 美琴は常盤台を卒業してしまったため、寮の部屋は次来る生徒に受け渡し、美琴は新しい寮で新しい生活をしなければならないとちゃんとしてした理由がある。だが上条が寮を出なければならないわけはそれには分類されず、本来行うことのない特例であった。
 その理由は、先の卒業式の騒動で男子寮にメディアや美琴のファンが張り付いていたのが原因であった。メディアは学園都市の上層部が一日足らずで鎮圧させたが、美琴のファンであった人間は連日のように上条の住む男子寮に張り付いていたのだ。それが男子寮に住む人間たちの反感を買い、家に帰ってきた上条がまず最初に言われたのは、管理人直々の退去命令。その期限は3月以内。
 そしてその話を美琴にしたところ、この家に住むという結論に達した。ちなみに学園都市上層部や上条と美琴が通う学校も首を縦に振っている。要するに、学園都市公認であったのだった。
「……お嬢様ってすげえや」 
 新しい家の玄関に入って一番最初の感想は、このセリフであった。
 自分の寮とは比べ物にならないほど立派な玄関は、テレビで紹介されたりしている芸能人の家をこの目で見ているような感動があった。それに、玄関と言うものを見るのは帰省した時以来だったので、それと比べての感想でもあった。
「な、何言ってるのよ。もうお嬢様じゃないわよ、私は」
「いや、お嬢様だろう。古家を買い取ってリフォームするって発想が、もう俺とお前とじゃ差があるし」
「そうかしら? 私としては新居を建てたほうが良かったのだけど、時間がなくて…って何、泣いてるのよ」
「いえ。自分との階級の差を、実感させられまして…あはは、不幸だ」
 肩を落す上条を見て、美琴は何に落ち込んでいるのと言って頭をかしげた。だがそれも当然と言えば当然。上条が感じているものと美琴が知りたいものは、どう頑張っても理解できないことであったのだから。
「それよりも、荷物はどこだ? 宅急便で送られてきてるはずなんだろう」
「ああ、そのことなんだけど。土御門が家に来て今やってくれてるらしいのよ。なんでも"お引越しの手伝いもメイドは仕事の一つだ"とかで」
「なるほど。ということは、この靴は土御門のやつか?」
 上条が指差した靴に、美琴は頷いた。となると、手伝ってもらっている相手である土御門舞夏に、全てを任せるわけにもいかない。
 玄関で靴を脱いで、長い廊下を歩いていく。まだ殺風景なこの廊下はこのままなのかと思うが、それは先のお楽しみとしてとっておくことにして、廊下の奥のドアを開けて居間らしき部屋に入った。
「おおー来たかー上条当麻、御坂。いやー"上条"美琴でいいのかな?」
 ニヤニヤと笑って迎えたのは、シスコン軍曹と呼ばれた兄の義妹、土御門舞夏はメイド服姿で二人を迎えた。
 どうやら二人が来るまでの間、居間に様々なものをセッティングしていたようだ。
「え…? あ、いや……って、まだ御坂よ!」
「照れるな照れるな。この家は"上条家"なんだから、今は上条美琴であってるんだぞー」
「そ、そう…だけど。私たちはまだ…ね、ねえ」

181キラ:2010/03/14(日) 21:27:14 ID:q/z2So1Q
 恥ずかしがっている美琴は上条に同意を求めた。それにそうだなと、あまり興味なさそうに答えると、舞夏はまたもやニヤリと笑って、今度は上条の方へと視線を向けた。
「なるほどー上条当麻はもう御坂を上条の人間だと思っているわけかー」
「は、はぁ?! あ、いや、違うぞ! お、俺はそういうつもりで言ったんじゃ」
「照れるな照れるな二人ともー。というよりも、二人はとっくの昔に肉体関係を持っているではないかー」
「「なっ!!!???」」
 その言葉には上条も美琴も同時に驚き、一気に顔を真っ赤にした。勢いの止まらぬ舞夏はポケットからあるものを取り出すと、机の上に置いた。そしてそれが最新の音楽プレイヤーと居間に置いてあるデッキに繋ぐケーブルだとわかった瞬間、上条と美琴の予想したくないことを予想してしまった。
「つ、土御門さん。それは一体、なんでせうか?」
「知らないのかー? このケーブルでこのプレイヤーとデッキを繋げば、デッキで音楽を聴けるというやつー」
「それは知ってるけど、一体何を…?」
 舞夏は、ケーブルをデッキとプレイヤーにつなげるとデッキを操作して、プレイヤーの曲を聴けるようにする。その後に音量をマックスに上げ、プレイヤーを操作して曲を選択した。
「美琴さん、不幸な香りがするのですが気のせいでせうか?」
「実は私もアンタと同じ香りがするんだけど…どう思う」
「多分…不幸です」
 お互いに嫌な予感を感じつつ、舞夏は作業をこなし終えて二人を見た。最後にまたニヤリと笑って、行くよーというとプレイヤーの再生ボタンを押した。そして、流れてきたの、
『ねえ当麻。今日もするの?』
『なんだ、美琴は俺とするのが嫌なのか?』
『嫌じゃないけど……やっぱり恥ずかしい』
『そりゃあ恥ずかしいことするんだから、恥ずかしいんだろう。ほらほら脱いだ脱いだ』
『って、勝手に服脱がすな!!! あ、待って! まだ下着は』
『ダメ……か?』
『だ、だめじゃ……ないわよ、馬鹿。んっ』
『ちゅっ……好きだ、美琴』
『わたしも、好き。当麻が、好き。だから優しく―――』
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
 そう叫んで二人は同時に気絶した。何気に気絶の瞬間、上条の右手は美琴の手を握っていたのは褒めべきことだろう。だが上条の最後の力だったりするが、それに気づいてくれた人間は誰もいなかった。
「ふっふっふー。やはりまだまだウブだなー。さーて、では寝室に盗聴器でも仕掛けようかなー」
 舞夏は気絶してしまった二人の写真を撮って、楽しそうに居間を後にした。向かう先は、もちろん寝室だった。

182キラ:2010/03/14(日) 21:27:57 ID:q/z2So1Q
 翌日の3月24日。
 気絶から目覚めたあとは特に何もなく、二人と舞夏は引越しの作業を続けた。そしてそれが完全に終わったのは夜の話だったので、一日中忙しかったのが昨日のその後の話であった。
 そして昨日からここに住み替え一夜を過ごした二人は、朝から住み慣れていない家で朝食を取っていた。
「あれ、味噌変えたか? 少しだけ薄味になった気がするんだが」
「よくわかったわね。そうよ、いつもの使ってるのとは別の味噌を使ってみたのよ」
 美琴は気づいてくれたことが嬉しかったのか、箸を止めて笑って答えた。
 根本的なものは変わっていないが、いつも使っている味噌よりは少し薄い。料理なんて食べれればいい理論の上条であっても、この違いはわかる。だが毎回使い、食べられていたからこそ気づけたことでもあるのは、美琴には少々皮肉でもあった。といっても本人たちはそのことに気づいていないようだが。
「朝はこっちの方がいいかもな。いつものでもいいけど、俺はこれぐらいの方が好みだ」
「だったら、朝はこれにして昼と夜はいつもの味噌にする?」
「それがいいな。二つ買うことになるけど、値段あんまり変わらないし、量も同じぐらいだろ?」
 美琴は若干だが今使ったほうが安いと、上条に伝えるとだったらまた買いに行く時にと、あとで覚えておこうと言う結論に至った。美琴も買い物に行く時に覚えておこうと、呟くと小さな口でご飯を一杯食べた。
「……………………」
 すっかりと主婦らしいことを考えるようになった美琴は朝食を進めていく。一応上条も、美琴からマナーに関しての手ほどきは受けていたので、人よりは礼儀作法が出来ている。
 だが上条から見る美琴の食事はスムーズだと思った。マナーを学んだ上条だからこそ、それがよくわかるような気がした。
「どうしたのさ。箸が止まってるんじゃない」
 上条の視線に気づいた美琴は、箸を止めて上条を見返してきた。
 時折見せるその笑顔が、すっかり可愛く見え、美琴にすっかり惚れてしまっている自分に少しばかり呆れた。だがそれはあちらも同じだろう。
 見てくる視線は、上条の一つ一つを観察しているように見える。小さな動作でさえ、美琴には見逃せない何かを感じているのかもしれない。でも、上条にはそれが何を思っているのかよくわからない。
 お互いに見合って少し経つ。すると唐突に上条はあることを思って言った。
「最初は料理も出来ないお嬢様だと思ってたのに、今となっては主婦らしくなったもんだな」
「しゅ、しゅふ…??!! わわわわわわたしが!!??」
「??? お前以外誰がいるんだよ。確かに上条さんも主夫は出来ると思いますが、昨日来てからずっと美琴が家事をやってたじゃないか。だったら、お前しかいないだろう」
 何言ってるんだと思いながら、上条は味噌汁を飲む。
 昨日の舞夏との荷物整理から夕食の買出し、夕食にお風呂、そして朝ごはんの準備まで美琴はほとんどをこなしている。重たい荷物や自分の身の回りの整理しか行っていない上条と比べてみても、美琴の仕事は上条の倍は来ないしている計算だ。
 せっせと動く美琴は、上条から見れば普通の主婦に見えた。しかも、これでお嬢様なのだから、お金持ちも馬鹿に出来ないなと上条は思ったりもした。
「で、でも……私は、そんな」
「何赤くなってるんだ? 昨日の疲れでも出てきたのか?」
 持っていた箸を置くと、向かい側の美琴の後頭部に右手を回した。そのまま、右手を自分の方向に押して、美琴の額と自分の額を合わせて、美琴に熱はないかを計った。
「うーん。そこまで熱くないな。でも無理するなよ」
「…………うん」
 そういって上条は額を離し、席に戻っていこうとした。

183キラ:2010/03/14(日) 21:28:45 ID:q/z2So1Q
 その時、美琴の手が上条の右手を掴んだ。
「えっと、美琴さん?」
「……漏電」
「へ…?」
「漏電…するかもしれないから。握ってて」
「あ、ああ。漏電、ね」
 上条はそっぽ向きながら答えた。同時に予想もしていなかったので、いきなり握られた手を意識してしまい、その顔は少しばかり赤みをおびていた。
 対する美琴は俯きながら、うんと頷いた。美琴も動揺に少しばかり顔が赤かったがそっぽ向いた上条は気づいていない。 
「…………………」
「…………………」
 手を握り合ったまま固まる二人。小さな手と大きな手は、力を強めたり、握りなおしたりするがそれも一瞬だけである。だが、それを頻繁に繰り返し、二人は互いの手の感触を確かめ合った。そんな嬉恥ずかしい思いをしながら、上条も美琴もしばらく無言のまま、真新しい床に目を伏せた。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………美琴」
「…………………………何?」
 上条は小さな声で美琴を呼んで、会話をし始める。だが俯いた顔を上げて互いの顔を見るほどの会話までには回復していなかった。
「………………ご飯、冷めちまったな」
「………………うん」
「…………………まだ、漏電しそうか?」
「…………………うん」
「……………………………もっとこっち来いよ」
「……………………………うん」
 そう言われ、美琴は上条の肩に身体を預けて、握っていた手の指を絡ませる恋人つなぎに変えた。上条はそれに従い、恋人つなぎになるとその手をぎゅっと握った。握られた美琴もぎゅっと握り返し、ふふふと小さく微笑んだ。
「何、笑ってるんだよ」
「…………嬉しいから」
「……そうか」
 上条もつられて笑うと、伏せていた顔を上げ美琴を見ると赤みを帯びた耳が眼に入った
 表情は俯いていたので上条からは見えない。だがほんのりと赤くなった耳は、果物のように綺麗な赤みと見るものを魅了する可愛さがあった。それに吸い込まれるように上条は開いていた左手で、耳に触れた。
「え……? ちょ、ちょっと」

184キラ:2010/03/14(日) 21:29:30 ID:q/z2So1Q
 実は他人の耳に触れたのは初めてだ。
 自分の耳は、日常でも触れたりする。だが他人の耳に触れる機会は、日常ではほとんどない。以前、美琴に耳掃除をしてもらったことがあるが、その時は美琴だけが上条の耳を掃除したので、上条は一切触れていない(上条がやらなかっただけだが)。
 つまり、他人である美琴の耳に触れるのは今回が初めての経験だったのだ。
「こ、こら……やめなさい」
 これが女の耳か、と赤みを帯びた耳は上条の指で優しく揉んでみる。自分よりも柔らかい感触に、上条は何故か感動のようなものを覚えた。耳など自分にもあるはずなのに、美琴のものは自分よりも全然柔らかい。その事実が、今度は少しばかり興奮した。
「だから、やめなさいって! 人の耳なんて」
 怒っているというよりも、嫌がっている。だが嫌がっているのは触られているからではなく、触られた感覚に嫌がっている。
 夜の経験もしている上条は経験からそう判断し、今度は揉むのではなく少し引っ張ってみた。
「い、痛ッ! そんな強く引っ張らないでよ」
「あ、悪い。だったら、これぐらいか」
 痛いと言われ、上条は少し引っ張ると言うより揺らす方向へと変えてみた。
 すると美琴は痛みがなくなったのか静かになるが、俯いた顔を上げ上条をにらみつけた。
「アンタ、私の耳になんか触って楽しいの?」
「楽しいって言うか…触ってみたいなって思っただけだ。別に虐める気なんてさらさらねえよ」
「本当? アンタが私に触るのって大体何かあるときなのよね」
 というと美琴の顔は少しばかり赤くなった。
 一方の上条は、美琴の言葉に心当たりがあるらしく、しばらく考えた。そして、ああと納得すると嫌らしい顔で笑った。
「なんだ。お前、もうベットへ行きたいのか?」
「なっ!!!??? ななな!!!???」
「ああ、言わなくてもわかってるぞ。そうなんだよな! そうかそうなんですの三段活用ですよね美琴さん」
 この何日かですっかりと理性を壊していい場面を判断できるようになってしまった紳士上条は、自分の本能をむき出しにして美琴に言うと、握っていた手を離すと、今度は美琴の身体を抱きしめた。
「あ、ぅ………と、とうま」
「お前が欲しい」
 そして耳元で囁くと、上条は美琴の唇を奪った。奪われた美琴にはもう拒否権はなく、強引のお願いをする上条に折れて頷くしかなかった。

185キラ:2010/03/14(日) 21:30:17 ID:q/z2So1Q
 朝から全開に飛ばし、2時間近く愛しっぱなしだった二人はことを終えて、新しい家のベットの上で手を繋ぎながら転がっていた。
 ちなみにことを終えた後なので、服はしっかりと着ており、部屋にこもった臭いを残さぬようにしっかりと換気もしていた。
「なんというか、まさかこんなに早くお前と住むとは思ってなかった」
「そうね。私も結婚した後に一緒に住むと思ってたから、まだそこまで実感はないわ」
 男子寮のものとは違う綺麗な天井は、まだ見慣れていないせいかホテルにでもいるような違和感を感じさせる。だがここが二人の新しい家である。上条は自分にそう言い聞かせ、ホテルという仮の住まいの考えを打ち消した。
「というよりも俺たちが早いだけかもな。なんというか……手順が全部普通よりも早すぎる?」
「なんで疑問系なのよ。というよりも、それが事実じゃないの?」
「そうだよな。告白して、肉体関係作って、結婚の約束して、同棲しちまったんだ。しかもそれが数週間のうちに決まっちまったんだから、早すぎるとしか言いようがないか」
 そう、展開が早すぎるのだ。何もかもが早すぎて、逆に不安になってくる。
 不幸である上条だからこそ、こんなにまでいいこと尽くしであることが逆にものすごく恐ろしい。むしろ、何かあってくれたほうが気が楽になる気がするほどだ。そんな考えに上条は自嘲して、普段の自分らしくないと思った。
「………不安なの?」
 不意に美琴は上条の心情を読んだかのように、問いかけてきた。タイミングのいい質問だったので少々驚きながら、質問されたことに素直に頷いた。
「ずっと不幸だったからな。いきなりこんなことばかりだと、あとが怖いって思うんだ。こんな幸せなことばかり起きてたら、いつか神様に大切なものを奪われるような気がして、幸せなんだけど不幸なんだ」
「………………」
「好きなやつと一緒にすごし、好きなやつと愛し合って、好きなやつと結婚する。でもそれって全部幸せだろ? 不幸ばかり経験してきた俺からすれば、ある意味その幸せって神の奇跡みたいなもんなんだ。でも俺には神の奇跡は通用しない。だから………何もかもが不安だ」
「でも……それがいいんじゃないかしら」
 そういうと美琴は身体を起こし、上から上条を見下ろした。
 そして上条から見た美琴は、不思議なことにとても嬉しそうに笑っていた。
「不安だから、幸せなことが起きたら嬉しいんでしょ。そんな幸せばかりが約束された世界だったら、アンタだって幸せだと思わないじゃない」
「それはそうだが」
「むしろアンタは幸せの価値が誰よりもわかる人間じゃないのかしら?」
「幸せの価値が…わかる?」
「だってそうじゃない。アンタも周りには不幸ばかり。道路を一歩歩けば車に轢かれそうになるし、財布を持てば途中で落す。さらにはトラブルに巻き込まれやすくて、最後にはボロボロになる。でも逆に考えれば、不幸だと思う以外のことで自分に得になることがあれば、それはアンタの幸になる。ほら、アンタは誰よりも幸と不幸がわかる人間じゃない」
「――――――――――――――――――、」
 上条は今までそのような発想をしたことがなかった。
 自分が不幸になれば、誰かが幸せになると考えたことはあった。だが自分が不幸になったから、得することがあればそれは幸だと判断できるなんて考えは、いっさい思いつかない発想だったのだ。そのような発想を美琴はして、誰よりも幸と不幸がわかる人間、その価値の大きさがわかる人間だと美琴は言ってくれた。
 上条にはそれは好きな人に好きだと言ってもらうのと同じ、またはそれ以上に嬉しかった。

186キラ:2010/03/14(日) 21:31:40 ID:q/z2So1Q
「だから、当麻は人より不幸だってことを、気にしなくてもいいんじゃないかな? って、不幸人生まっしぐらって言ってたし無理か」
「……………いや、無理じゃないかもな」
 そういって自分も身体を起こすと、何も言わずにすぐに美琴の唇を奪ってすぐに離した。その時間は約2秒間。だが、今日してもらったキスのなかで一番のできのキスであった。
「………当麻ってキスが好きなの?」
「そういうお前こそキスばっかりするじゃないか。こっちに帰って来てすぐのころはまったくしなかったのにな」
「それはッ!? は、恥ずかしかったからよ、馬鹿」
 思い出したのか、美琴は顔を赤くしながら俯いた。
 そう二人がこうも自然になったのは最近になってからだ。名前で呼び合うのも、手を繋ぐのも、キスのするのも、身体をあわせるのも、最近一週間前あたりからだ。
 そして、そのきっかけとなったのは………。、
「そういえば、ずっと忙しかったからホワイトデーのお返しまだだったよな。ほれ」
 というと上条は自分のポケットから小さな箱を取り出した。それを美琴の手に置くと、上条は開けてみろと促して美琴自身に開けさせた。
「え…? これって…」
 箱の中にあったのは小さなペンダント。銀色の輝きを放ち、真ん中にエンブレムと後ろに文字が刻まれている。美琴は後ろに刻まれている文字をゆっくりと読み上げる。
「『我が最愛の妻、上条美琴』って」
 渡した上条は頬を掻いて、背を向いた。やはり送った相手が喜んでくれるのは嬉しいが、書かれたものを読まれると自分がどれだけ恥ずかしいことを書いたのかを、強く実感させられた。
 でももらった美琴は本当に嬉しそうに笑ってくれた。上条はそれだけでもう十分だった。だがこのペンダントはこれで終わりじゃない。
「それの横に隙間があるだろ。その中に……入ってる」
「入ってるって何が?」
「ッ!!! いいいいいいいいからあけてみろ!!!」
 思い出しただけで逃げたくなった。というよりも、逃げる気だった。だが喜びの笑顔を浮かべていた美琴の表情に見とれて、上条は逃げるのをやめた。その代わり、美琴の肩に右手を置いてもしもの事態に備えた。
(これは爆弾だからな……漏電じゃすまねえかも)
 一日で家の中を真っ黒にされたらたまらない。それに冷静に考えてみると逃げるよりも、こうして右手で備えていた方が安全であった。
 そして、美琴は上条に言われたとおり、ペンダントの中を開けてみた。そうして開けられた中に入ってたものを見て美琴は固まり、いつもの展開を迎える。
「ふにゃー」
 ペンダントを持ちながら、美琴は表現できない顔をして気絶してしまった。上条はそんな美琴の顔を見て苦笑いすると、自分の用意したペンダントの中身を見て、それを確認するとすぐに目を逸らした。
「やべえ。これは………色々な意味で悪い」
 空いていた左手で顔を抑えて、上条は自分がどれだけの勇気も持ってこんなものを入れたのか改めて実感した。そして、これは絶対に他人には見せられないなと思いながら、上条はそのペンダントを閉じて美琴の手のひらに置いた。
「はぁー当分の間は苦労しそうだな。ホント、幸せだ」
 幸せを実感しながら、ペンダントの中身に入れた写真を思い出す。
 その写真はパートナーであるシスターに頼んで教会で撮ってもらったもの。遅れてしまったホワイトデーであったが、全てはこの写真とペンダントを買えるまでの期間であった。
 そしてペンダントの中身に入っていた写真は、白いタキシード姿の上条と純白のウェディングドレスの姿の美琴が教会の祭壇の前でキスをしている写真だった。
「あー幸せだ!! ちくしょう幸せすぎだぜ神様(ばかやろう)!!!! ははははは!!!」
 上条を幸せの叫び声を上げながら、大声で笑った。その顔は、誰から見ても本当に幸せそうだった。

187キラ:2010/03/14(日) 21:32:28 ID:q/z2So1Q
 上条は美琴に頼まれた夕飯の食材を買って、家に帰っていた。その途中で上条は良く知る人物と会う。
「上条ちゃーん」
 見知った顔の教師が上条に声をかけてきた。上条はその相手、月詠小萌に振り返ると、元気そうで何よりですと答えた。
「それで、何か用ですか?」
「はい。始業式ですけどちょっと変更になったので、これを渡しに来ました」
 そういって小萌先生は、持っていたカバンから一枚のプリントを取り出し上条に渡す。上条は全ての買い物袋を片手で持つと、渡されたプリントのタイトルが目に入った。
「『始業式・入学式の日時変更のお知らせ』。ということは両方ともずれるんですか?」
「書いてあるとおりです。あ、それともう一枚」
 次はなんだともう一枚もらうプリントの中身に興味がひかれないまま、小萌先生はもう一枚のプリントを取り出すと上条に渡す。だが、もう一枚のプリントは予想外もいいところ。内容を見ずともタイトルを見ただけで、驚きのあまり買い物の袋を落としてしまうほどであった。
「…………先生。わたくし上条当麻は幻覚を見ているのでしょうか? なんだかものすっごく信じられないことが書いてあるですが、嘘ですよね?」
「いいえ、本当です。それに書いてある中身は正真正銘の真実。間違いなんていっさいありません」
 中身に間違いはないと断言しきった小萌先生は、笑顔で答えた。そしてそういわれてしまった上条は、引きつった顔で笑うと肩を落とした。
「先生。僕、入学式を休みたいです」
「ダメです。それに休んだりしたらどうなるかは、上条ちゃんが一番よーく理解していると思いますけど?」
「ははは……ははは。幸せなんて、本当に一瞬だけ。やっぱり上条さんは不幸でないと」
 不幸の涙を流しながら、上条はプリントに書かれたタイトルをもう一度読んだ。
『入学式のプログラムとご案内(上条当麻・上条美琴、夫妻版)』
 学園都市公認の学生夫妻とはまさにこの二人のことであった。

188キラ:2010/03/14(日) 21:46:04 ID:q/z2So1Q
以上です。

補足
インデックスは学園都市の教会で暮らしてます(前回の小ネタの話も同様です)
上条美琴となっておりますが、美琴はまだ"御坂"のままです(事情を知っている友人だから上条と呼んでいるだけです)
卒業式と入学式の間の話なので、ホワイトデーよりもそちらが重視(ですから日にちがこの日)
ホワイトデーの当日は、二人は会っていません(本編に組み込めなかったのでここで補足)
………あと何かありましたら、ご感想とともにお願いします。

あと前回の小ネタで『ミサのネタは誰かのネタにあったけど繋がっているの?』と聞かれましたが、否です。
言われて気づいたので、他の方との話の繋がりは一切皆無です。

それとまだ続くので一応シリーズタイトルを考えておきましたので、書いておきます。
シリーズタイトル『fortissimo』

189■■■■:2010/03/14(日) 21:59:06 ID:ludJBJqY
>>177
>>187
お二人とも素晴らしい。GJです!

190■■■■:2010/03/14(日) 22:23:43 ID:3NLJVvgI
>>177
GJ!
おそらくこのまま出番なさそうな上条さんだけど。
こういう登場の仕方はしてほしかったなぁとは、思う。

>>178
相変わらずのGJ!
障害にぶつかりながら、というシチュエーションも良いけど
一気に駆け抜いていく二人も中々に素晴らしい。
入学式も楽しみにしています。

191■■■■:2010/03/14(日) 22:25:30 ID:3NLJVvgI
連レス失礼。
>>178じゃなくて>>188ですね。
申し訳ない…。

192■■■■:2010/03/14(日) 22:31:49 ID:r8veJSEQ
>>177
GJ!!
案外本当にこんなやり取りをやってそうで。絶対病室一緒だろうなあと。

>>188
毎度ながら超GJです。
スレタイに合ういちゃいちゃとは正にこの事だ、なんて思うのは私だけでしょうかね。


諸兄らの素晴らしい作品に感銘を受けて自分も読み手から書き手へ動いてみました。
ちょいとキラ氏との間隔が近いので余韻が残ってるかもしれませんが……

問題なければ23時くらいから5レスほど頂いて投下しますが、大丈夫でしょうか?

193■■■■:2010/03/14(日) 22:51:01 ID:3NLJVvgI
>>192
ガンガンいこうぜ

194■■■■:2010/03/14(日) 23:01:29 ID:oRtIjQhk
>>179
2828…
282828282828282828!!!!!

195ナヒるハ:2010/03/14(日) 23:05:20 ID:r8veJSEQ
では、ちょいと投下させていただきます。
バレンタインでもホワイトでもありませんが平にご容赦を。。。
原作20巻とかアニメ23話でそれ所じゃないとは思うけど、読んで頂ければ幸いです。

タイトル:ミコトラプソディー

一応、投下時の便宜上 ナヒるハ と名乗っておきます。

196ミコトラプソディー<1/5>:2010/03/14(日) 23:08:29 ID:r8veJSEQ
狂想曲1 [上条当麻]

発端は夜の繁華街。
普段は連日の鬼ごっこ。
転機は夜の開放劇。
発覚は昼の一騒動。
焦燥は午後の地下街。

そして……始まりは夕方の自販機前。

最近御坂の様子が変だ、とは上条の弁。
まずビリビリが減った。これは大変に喜ばしい。
願わくばこのままでいて欲しいと思いたいところだが、きっと無理なので割愛。
つぎに買い物を手伝ってくれるようになった。これもある意味嬉しい。
特にお一人様一点限りの特売品の際にはもう涙が出そう。
でもどうして急に手伝ってくれるようになったのか。これも不明なので割愛。
ここまでが良い事。
その代わり漏電が増えた。これは非常に困る。
突然所かまわず電気を飛ばしまくるので、右手が間に合わないと周りに被害が出る。原因不明。
そして気を失う事が頻発する。最も困る。
体調が良くないなら寮で寝てればいいのに、とも思う。こっちは心配で仕方がない。

上条当麻にとって、御坂美琴は守るべき存在だ。
約束したからと言うのもあったが、それ以上に彼女と言う存在は外見とは裏腹に脆く儚い。
普段の傍若無人っぷりの裏側を知ってしまったと言うのもある。
他にももう一つ要因があって、これがまた結構大部分を占めているのだが、どうしようもない事情により封印中。
気にするなと言われたらそこまでだが、自分にとってはとても重要な事。
でも最近ふと思う。陥落も時間の問題かもしれないと。

とにかく、ケンカ売ってくるのが当たり前だった関係が変わりつつあるのだ。

「(まあ、上条さんとしては平和なのは大変良い事なんですがね)」

それも大事だけど、これも大事……と、上条は手に持った一枚の紙を凝視する。
本日の戦場への案内。食うか食われるかの激戦地への招待状。
自宅で保護している暴食シスターのために今日も征く。
全ては家計のため、そして自分のため。


御坂美琴はそわそわしていた。
ちょっと前に通りかかったスーパーに掲げられていた幕を見る限り、アイツはきっとここを通るだろう。
最近何度となく一緒に行ってるから聞かなくても分かる。
だから自分は待っているのだ。
どうして? そんな事を聞くまでもない。
上条を“恋愛の対象”と意識しだしてからは日増しに想いは募るばかり。
けれど生来の素直になれない性格が災いして未だ一歩は踏み出せず。
買い物に付き合うようになっただけでも大した進歩だ。
でも、このままで良いとは思えない。
すでにこの関係にも満足できない。
もっと上条と一緒にいたい。もっと上条と話をしたい。そしてもっと、上条に自分の事を見てほしい。自分の想いに早く気がついてほしい。
あまりにたくさん存在する恋敵たちを押しのけて、自分が頂点に立つために。
機会を伺うだけで何もできない。そんなイライラしたり涙したりする日々からおさらばするために。
だから今日は、今日こそは……。
そんな事を考えていると、前方からツンツン頭の少年が歩いてくる。
待ってたと悟られたくないから、さりげなく移動して偶然を装う。
ここまでなら大丈夫。もう何度も使った手だから。
トクン、トクンと鼓動を奏でる胸に手を置いて、一呼吸。
スッと前を見据えて、いざツンツン頭の隣へ。
そして自分はいつもの様にこう言うだろう。

『アンタ、今日も幸薄そうな顔してるわねー』

197ミコトラプソディー<2/5>:2010/03/14(日) 23:10:33 ID:r8veJSEQ
「んで、アンタ今日は何買うの?」
「本日の目玉商品一点張り。あとは安いものを手当たり次第」
「ふーん、卵がお一人様一パック限りで50円か。確かに目玉ね」
「だろ? ビンボー学生にとって卵は貴重なタンパク源。上条さんの明るい明日のためにも逃すわけにはいかんのです」
「でも、よくよく考えてみるとアンタって結構大食らいなのねー。一昨日だってあんなに買い込んだのに……。そんな買ってばっかいるからお金ないんじゃないの?」
「マ、マアソウカモシレマセンネ。カミジョーサンオトコノコデスカラ。 ハハハ……」
「ちゃんと栄養とか考えてるのか心配だわ。なんなら私が作りに行ったげようか?」
「いえ!? そんな、御坂センセーともあろうお方にご足労願うなんて、滅相もありませんの事よ?」
「そんな気にしなくてもいいのに。……それとも、来て欲しくない理由があるとかじゃあ?」
「(ギクゥッ?!)」
「……あやしい」
「み、御坂さん? 上条さんやましい事なーんにもアリマセンヨ? 紳士の中の紳士であるこの男上条が嘘を付くわけないじゃないですかー」
「………………」

ジーっと見られる。内心上条は冷や汗だらだら。
でもタイミングよく戦場へ到着したので一先ず安心。
既に激戦が広げられている中へ突撃するんだから、お喋りなんて言う余計な事をしている暇はない。
共同戦線を張った二人の攻撃が、今始まろうとしている。
それぞれ片手に買い物カゴを装備して、いざ、戦闘開始――――

「――――いやあ、今日もホクホク大戦果ですよ。これも御坂のお陰だな」
「当然よ。誰が手伝ってあげたと思ってんの」

しばらくしてスーパーのドアから現れた二人は、両手いっぱいに膨れた袋を持っていた。
言葉通り、戦果は上々。これで週末を乗り切る事ができるだろう。
……もっとも、一般の人から見れば一週間分の量なんだろうけれども。
人間ブラックホールに寄生されている上条家には三日持つかすらも怪しい。
でも、そんな事を知らない美琴からすれば『前回もこのくらい買ったのに……ホント、よく食べるわねー』なのである。

「ホント感謝しております。美琴センセー!」
「! そ、そそそうよ。アンタは私に感謝しなさい!」

上条の事をよく食べるわねとか、そんな事を考えている所じゃない。
不意打ちで名前を呼ばれたもんだから心臓が暴れまくってる。
“美琴”と言う言葉がぐるぐる頭の中で反芻した。

『うわ、どうしよう……名前、名前で呼ばれちゃった!』

制御ができなくなってきたのか、美琴の周りにパチパチと電気が飛び交い始めた。

「お、おい御坂! 電気漏れてるぞ」
「ふぇっ? あ、とっ止められな……」
「しょうがねえなあ」

ポフッ

「ふぁっ! あ……」

上条が右手で頭を押さえた途端に、嘘のように電気が消える。
その下では、やはり顔を赤くしたままの美琴が俯いて小さくなっていた。

「お前、最近本当に漏電増えたよな。危なっかしくてしょうがないぞ」
「……ふにゃー」
「あっこらまた……ったくよぉ。さっきまで元気いっぱいだったじゃねえかよ!」

目を回して気絶してしまった美琴を抱きかかえると、とりあえず近くのベンチへ腰掛ける。
硬いベンチに寝かせるのもアレなので、一緒に座って肩に寄りかからせた。
上条の左肩から腕先にかけて、美琴のぬくもりが伝わってきた。
しばらく美琴を見つめてから、そっと呟く。

「静かにしてれば、お前も可愛い女の子なんだけどな」
「………………」
「そんな野郎の前で頻繁に気を失ってばかりじゃ、いつか襲われてしまいますよー」
「………………」
「……例えば俺とか、なんて。俺は何を言ってるんだかな。馬鹿馬鹿しい、中学生相手にそんな気起こすなんて青ピじゃあるまいし」
「……ねえ、アンタは私のこと襲っちゃいたいの?」
「何言ってんだよ。だから俺は中学生相手……に……?」
「…………に?」

ギギギギ……と首を左へひねる。
そこには、こちらに体重を預けたまま見つめる美琴の姿があった。

198ミコトラプソディー<3/5>:2010/03/14(日) 23:13:12 ID:r8veJSEQ
まさか、聞かれてた?!

「み、ミサカサンいつの間に?! ええと、これには山よりも低く海よりも浅いワケがありましてですね。その、つまり……」
「……つまり、大した事ないってワケよね。それで、続きは?」
「へっ? いや、だから」
「それとも、私ってそんなに魅力ないのかな」

急に目を逸らすと、寂しそうな声で呟く美琴。
一体どういうつもりで発言したのか上条にはさっぱり分からない。
もちろん、裏で美琴が何を考えているかなんてのも。

「確かに、私はアンタに対して電撃かましたり超電磁砲撃ったり夜通し追い掛け回したりしてるけどさ……」
「(普通そんな事されたら死んでしまいますけどね?!)」
「それって、結局アンタだからやる事であって、他の人だったら絶対にやらないんだからね」
「と、言う事は、つまり……御坂は俺の事……」

かあっと頬が熱くなる。
上条のことを直視できないから思わず下を向いてしまった。
さすがにここまで言ったから上条も気がついただろう。
だからこそ、次に来る言葉が物凄く楽しみで、物凄く怖い。

「……そんなに嫌いだったのか」
「ンなこと一言も言ってねえだろうがこのド馬鹿! 一体どういう解釈したらそうなるってのよ!」
「い、いや、だって。御坂お前、俺にだけビリビリして追いかけるって、どんだけ嫌いなんだよ」
「だあぁぁぁもう! その話し終わり、消し去りなさい! だから、つまりはアンタの事が好きだからよ!!」
「……え?」

勢いあまるとは、まさにこの事を言うのかもしれない。
逆に勢いがあったからこそ、普段言えないような事もスラスラと口に出せた。
人、それを告白と言うのではなく暴露と言う。またはぶっちゃけとも。

「えぇそうよ! 私はアンタの事が好き。寝ても覚めてもアンタの事が頭の中から離れないくらいにアンタが好き! 追い掛け回したのも買い物付き合ったのもアンタと一緒にいたかったから! 私は、アンタともっと一緒にいたいの。もっと話がしたいの。全てのものを捨てても、アンタの傍にいたいのよ! いい加減、気づきなさいよ。このバカ、鈍感……」
「………………」

ついさっきまで気を失っていたはずなのに、今では怒涛の如く言葉を吐き出す美琴を前に完全に翻弄されている上条。
ハッキリ言えば美琴の言ってる事は無茶苦茶だ。
致死レベルをはるかに超えた電撃や、街一つ吹き飛ばすような超電磁砲を生身の人間相手に放っておいて、それで好きと気づけと言われても、かなり無理な話だ。
まず恐怖に慄き、消し去りたいくらいに自分の事が嫌いだろうと考えられる。
追い掛け回す、と言うのをギリギリ許容範囲に収めたとしても、まず最低限買い物に付き合う位からがようやく好意への第一歩といったところか。

しかし……しかしである。裏を返せば、それだけ上条のことを信頼していたからこそ。
致死レベルを超えた電撃も、本気撃ちの超電磁砲も、日頃から得た感覚で『コイツならきっと打ち消してくれる』と信じていたから打てたのだ。
いつどんな時でも、常盤台の超電磁砲・学園都市の第三位としてではなく、御坂美琴と言う一人の女の子として接してくれる上条への本気の信頼の証。
普通の知り合いや友達ならいざ知らず、あの白井黒子にすらこんな事はしない。
夏に知り合った初春飾利や佐天涙子に至っては言わずもがな、だ。

まとめ。その位に上条当麻の事が好き。そういう事だ。

199ミコトラプソディー<4/5>:2010/03/14(日) 23:15:16 ID:r8veJSEQ
「……うぅっ……ひぐっ……ぐすん」
「あー、その。そうか。俺の事、そう言う風に思ってくれてたんだ。……悪かったな。御坂」
「ぐすっ……(コクン)……」
「えぇと、その、なんと言うか。ハッキリ言うとな。俺もお前の事、好き、なんだと思う。いや、好きだよ?」
「ッ!?」
「最初はさ、海原と交わした約束ってのもあったんだけど、あれからいろいろやってる内に、約束とは関係なく本当にお前の事を守りたいって思った。一人の女の子として」
「………………」
「……でも、な」
「……え?」
「こんな事ここで言うとまた怒られそうな気もするけれど、高校まで待ってもらえねえか?」
「どういう、こと?」
「俺の中で、中学生って言う部分に酷くためらいを感じるんだ。中学ってまだ義務教育だろ? だから何かあったとき責任が持てねえんだよ。御坂にも、親御さんにも。安易に俺がOKだして付き合って何かありましたでは、俺はともかくとして御坂の将来が傷ついちまう」
「………………」
「だからお前が高校に上がる2年後なら、高校生になったのなら胸を張って付き合うことができると思う。だから……」
「付き合うの? 付き合わないの? 好きなの? 好きじゃないの?」
「いやだから、それは……」
「いいから! 中学とか高校とか責任とか、そんな事は関係ナシに、アンタはどうなの?」
「……好きなんだから、付き合いたいに決まってんだろ」
「じゃあ、それでいいじゃない」
「はあ? 御坂、お前人の話し聞いてたか? 俺は」
「お互いに好きだから付き合う。普通の中学生だってやってる事だから何の問題もないでしょう。それに、アンタがそこまで考えてくれてるんなら、間違いなんて起きないんじゃない? 私からって言うのはあるかもしれないけど。それに……」
「………………」
「中学生と付き合ったからって理由だけで何か言ってくるような奴がいたら、ソイツのふざけた幻想ごとぶっ飛ばしてやればいい。アンタがいつもやってる事でしょ?」
「!!」
「確かに、アンタの言うとおり中学生はまだ子供かもしれない。だけど、だからって付き合うのすらいけないなんて理由はない。好きとか恋愛に年齢なんてカンケーないのよ」
「御坂……」

まだ目元に涙を浮かべている美琴。
でもしっかりと上条を見据えて、ハッキリとした言葉で伝えている。
そこには“中学生の御坂美琴なんていう幻想”はどこにもない。
”御坂美琴と言う一人の女の子の現実”が、確かにあった。

「それで、もう一度だけ聞くわ。……私は、上条当麻の事が好き。だから、私と付き合ってください」
「……俺は、御坂の事が好きだ。だから、こちらこそ俺と付き合ってくれないか」
「……やっと言ってくれたわね。ホント、バカなんだから」

ポフっと上条の胸元へ倒れ掛かる美琴。
その上から、おずおずと言った感じに上条が抱き締めてきた。
また涙が溢れてくる。でも今度のは悲し涙じゃない。嬉し涙だ。
ようやく捕まえた。想いが叶ったという実感が、胸いっぱいに広がってきた。

「こりゃあ、不幸だなんて言ってらんねえな」
「当たり前よ。この私を彼女にしておいて、不幸だなんて言わせてたまるもんですか」
「真面目な話、不幸な出来事に巻き込んしまうかもしんない。世界を飛び回ってしばらく帰ってこれないかもしんないし、また入院して心配かけるかもしれんが……本当にそれでも、いいのか?」
「当然。むしろ、望むところよ。アンタの帰るべき場所は、私が絶対に守って見せるから、だからアンタは思う存分暴れてきなさい。そして、ちゃんと私のところへ戻ってくること!」
「……サンキュな。御坂」
「“美琴”」
「え?」
「“美琴”よ。付き合い始めたんだから、ちゃんと私のことは名前で呼んで。でないと返事しない。私も、アンタのこと当麻って呼ぶから」
「お、おぃ御坂。そんな急に……」
「……(プイッ)……」
「……分かったよ。美琴」
「ん、よろしい。当麻」

200ミコトラプソディー<5/5>:2010/03/14(日) 23:17:57 ID:r8veJSEQ

しばらくお互いの鼓動を感じたところで、美琴の方からするりと離れた。
傍に置いてあった買い物袋を、よいしょと持ち上げる。

「それじゃ、帰りましょうか。荷物もあることだし」
「……そうだな」
「あ、ついでだから私がお夕飯作ってあげる。なんてったって彼女ですから」
「ああ、悪いが宜し」

宜しく頼む、と言いたかった。本当に。すっごく本当に。
だけど最後まで言葉は発せられなかった。
今と言う空間は非常に居心地の良いものであり、美琴の柔らかさを堪能してしまった上条としてはこの後の家訪問・料理と言うのも大変ありがたいものであった。

でも、何か忘れてはいないか?

上条は本来は一人暮らしだ。
しかし現在はワケあってもう一人(+一匹)を家に置いている。
そしてその事を美琴は知らない。
付き合う前ならいざ知らず、彼女と言う存在になってしまった美琴がこの事を知ったら、一体どうなるのか?
答えは、最早言うまでもないだろう。

「(や、ヤバイですよヤバイでしょうヤバイですとも?! 今家に御坂を入れるわけにはいかない!)」
「うん? どしたの急に黙り込んじゃって。早く行きましょ」
「い、いやいやいや! ミサカサン! 大変申し訳ないのでございますが、実はカミジョーさんこの後ヒッジョーに大切な用事を思い出してしまいましてでございましてね?! できればまた今度にして欲しいな。なんて……」
「御坂じゃなくて、美琴。今言ったばかりでしょうが。 あと、何かアヤシイからやっぱアンタん家行くわ。案内しなさい」
「み、みさ……美琴」
「は・や・く」
「……ハイ」

彼女と言う存在ができて、あれ、ひょっとして俺ってば今幸せ? なんて思ってたのもつかの間。
いつもの不幸よりもさらに上の『恐怖』がおいでおいでしている。
選択権もなければ拒否権もない。
正に上条当麻、風前の灯。

「(や、やっぱり言ってしまうんですね。 せーの、不幸だあぁぁぁぁぁ!!)」

次回、上条家に電撃と噛み付きと引っ掻きの嵐が巻き起こるかも?
狂想曲2 [禁書目録]

上条当麻の明日は、どっちだべ?!

201ナヒるは:2010/03/14(日) 23:20:09 ID:r8veJSEQ

以上です。最後すみません。

いちゃいちゃ分少ないですが、プロローグだからと言う事で。。。
文末に次回なんて入れてるとおり、何事もなければしばらく続きます。
ここヘン、読みにくいなどありましたらお知らせください。

では。ありがとうございました。

202■■■■:2010/03/14(日) 23:22:00 ID:oRtIjQhk
面白い!GJ!インデックスさんとの絡みが楽しみwww

203■■■■:2010/03/14(日) 23:23:14 ID:dc19a6rA
>>201
GJです!!すごく、素晴らしいです。楽しませてもらいました。続きも期待してます。

>>176
ありがとうございます。頑張ります、精進いたします。はい!!

204■■■■:2010/03/15(月) 00:11:12 ID:3OLpMqFw
>>201
GJ!
すごい読みやすいし、何より読んだ事ありそうでなさそうな美琴が
見れたような気がする。信頼して待つ女というのも良い。

最近は読み手→書き手になった方々も中々レベル高いなぁ…

205■■■■:2010/03/15(月) 01:11:04 ID:tKK43tIQ
美琴可愛すぎだろうがよぉぉぉ。
このスレいいよ。ホントにいいよ。

206■■■■:2010/03/15(月) 03:13:51 ID:soh826bE
書き手の皆さん本当にいつもGJだぁぁぁ!

207■■■■:2010/03/15(月) 03:54:16 ID:uJsHSYfA
6スレ目に入ってなおこの様子だと・・・なんか怖い。

もしや、これには上条さん並の不幸なオチが・・・なんてね。
書き手の皆さんには感謝の嵐ってもんだ。ほんと、このスレ見つけてよかった。

208■■■■:2010/03/15(月) 07:01:48 ID:AEBuw3xM
ミコトガカワイスギテシニタイ

209■■■■:2010/03/15(月) 07:56:25 ID:QmJC4j.g
超短編というか小ネタを一本投稿します。

注意事項
・2レス使用。
・二年後を書くつもりはございません。

一番伝えたいのは…
クダラないので過度な期待はせずにマッタリとホットミルクを一口くらい含んで流し読みしてくださいw

只今より5分後に投下!

210■■■■:2010/03/15(月) 08:03:15 ID:QmJC4j.g
「とある二人のキューピッド」

「(なんか変な風に下ろしたお金が飛ばされてから一時間……どんなに探しても見つからない。
 青髪…土御門は…ダメだろうなぁ…。誰かいない…って御坂…? でもさすがに年下に借りるのは…
 いや…でもこの際変なプライドは捨てよう、そーしよう!)」

「(あ、アイツだ……)」

「おう、御坂…」

「そ、そっちから話しかけてくるなんて珍しいじゃない」

「そうか? ていうか今暇か?忙しくない?」

「忙しくない忙しくない忙しくない!」

「なら良かった……」

「そういうアンタは何かしらあるんでしょ? 不幸だーって顔してるし」

「顔にまで不幸が出てる!? 上条さんお婿に行けない…」

「そ、その時は私のとこにくれば良いじゃない……」

「は?」

「い、いや。何でもないから、気にすんじゃないわよ! 美琴センセーも忙しいんだから、さっさと用件を言う!」

「お前、今さっき「忙しくない」って言ってなかったか…?」

「だぁ〜もう! 用件聞かせろって言ってんのよこらぁ!」

「はぃい! ……大変申し上げにくい事なんでせうが…」

「なんだって言いなさい! 私を誰だと思ってるのよ」

「では、遠慮なく……お金貸して下さいっ!!!!」

「はあっ!?」

「いや、ですから……上条さんにも色々色々ありまして……。もちろんタダで借りるつもりは一切ないのですっ!なんでもします!
 …年下の中学生、そしてオンナノコ、よりにもよって…常盤台の御坂美琴さんしか頼める人がいないこの底辺のわたくしめをどうかお救いください!」

「なんでもするのよね…?」

「はい、なんでも!」

「ふ〜ん、なんでも…ねぇ。 後で文句言ったり、取り消したりするのはナシよ。それでもOK?」

「文句なんて滅相もない! 借りなければ今月の残りを試食品だけで過ごす事になってしまいますので…」

「じゃ、貸したげる。 これくらいで良いわよね?」

「神様仏様御坂様!何でもします!この上条当麻を執事…いや、奴隷だと思って何なりとお申し付けください!」

「……う〜ん」

「なんでも良いんだからな?」

「本当の本当になんでも…?」

「命に関わる事じゃなければなんでも受け入れるつもりですよ?」

211■■■■:2010/03/15(月) 08:03:50 ID:QmJC4j.g
「……苗字を上条にしたい」

「はい?」

「だから…私の苗字を上条にしなさいって言ってるのよ」

「御坂さん…? 何を言っているのかイマイチわかりかねますよ?」

「アンタと同じ苗字になりたいって言ってんのよ!!」

「そ、それってつまり…。分かる範囲で理解しますと……結婚しろとおっしゃっているんでせうか?」

「ダメ……?」

「えーっと、我が日本国の法律のよると…男性は18歳以上、女性は16歳以上にならないと認められないんらしいんですよ」

「そ、それを過ぎたら良いってワケ?」

「あ、ハイ」

「えっ?」

「え?」

「重みも何もあったもんじゃないわね……」

「それまで後二年…苦しい事、悲しい事は全部俺が自慢の不幸で吸い取ってやる、その代わり嬉しい事楽しい事は一緒に味わって行こうぜ…良いか?御坂」

「ちょっとお願い…ほっぺた引っ張ってくれないかしら? 遠慮なく思いっ切り」

「…………痛い?」

「痛い……。夢…じゃないのよね」

「彼氏って何をしたら良いのかよくわかんねーけど…」

「か、彼女って何をしたら良いのか私もよくわかんない…」

「とりあえず…手でも繋ぐか?」

「う、うん……」

「ちょっとそこの貴方!」

「ん?今なんか聞こえなかったか?」

「私は何にも聞こえなかったけど…」

「…あの殿方はわたくしを常盤台の婚后光子と知って無視してるんですの…? 
 もういいですわ!折角わたくしが直々に手元まで届けて差し上げようと思いましたのに……えい!」

〜終了〜

212■■■■:2010/03/15(月) 10:33:15 ID:MTlEb/fo
キラさんに質問です。
『入学式のプログラム・上条当麻・上条美琴夫婦版』ってこれってもしかして当麻は2年留年して一緒に入学と言う意味ですか?
それとも美琴『だけ』の入学式に当麻が父兄として参加と言う意味ですか?分かりにくかったので・・・。
SSはいちゃいちゃ過ぎです!!!

213■■■■:2010/03/15(月) 10:51:27 ID:jKyS0vZU
>>211
GJ!美琴、なんという積極性・・・
>>212
sageろうね。

214キラ:2010/03/15(月) 11:04:20 ID:k4yBPd1M
呼ばれたので、飛んできました。

>>212
最初の留年説も、当麻の父兄説も違います。
これは次で明かすこととなっているので詳しくは言えませんが、美琴は入学生で上条は在校生として参加します。
簡単に言えば、在校生代表と入学生代表の二人のための『プログラム』です(こういえばわかるかな)
すいません、こんなあやふやな説明しか出来ないですorz

あと、感想を下さった方々、ありがとうございます。
やはり感想をいただけると、書いたかいがありましたと思えて次の作品を書くやる気にもなりますね。
それと、作品をまとめてくださった管理人さんもありがとうございます。
そして、職人さんたちGJ!!!!

215ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:16:05 ID:ieRDysaE
5分後に8レス投下予定。

アニメからネタワードを貰って作るのは、今回で最後とします。
(アニメ最終回に新ネタもたぶんないでしょうし)


他の職人さんの作品が、分量多すぎて読みきれません!困ったモンダ。

216ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:21:37 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!1】

 12月。
 芸術鑑賞祭の時期がやってきた。
 芸術の秋ということで、本来は10〜11月に行なうべきなのだろうが、一端覧祭という大イベントに押し出された形である。
 美術館めぐりや、クラシックコンサートなど、どのプログラムを選択するかは学校に一任されている。

 今年、常盤台中学は全校生徒全員での音楽祭を選択した。
 午前中はプロによるクラシックコンサートを鑑賞し、午後が生徒たちによる合唱コンクールとなる。

――インペリアルホール。
 学園都市の誇る複合施設で、宿泊、食事、結婚披露宴、各種会議、コンサート、講演会、研修などに使用されている。
 数カ月間、改修のため閉鎖されていたが、今回、恒例の芸術鑑賞祭に丁度間に合うように改修は終了していた。
 1階席1000席、2階席500席のこのホールで、音楽祭は始まろうとしていた。


 一人であっても気品オーラで振り向かせる常盤台中学の生徒が、正面玄関横に200人弱集まった。
 存在感は圧倒的である。周りには5倍以上の中学・高校の音楽祭参加者がいたのだが…
 長点上機学園の制服がちらほら見かけるが、これはスタッフとして参加しているものらしい。

 そんな注目を浴びている常盤台中学の一員、御坂美琴はキョロキョロしていた。
「誰かお探しですの?お姉様」
 今日は学年の区切りの無いイベントとされているので、白井黒子は美琴にべったりくっついている。
「ん?誰か知ってる人いるかな〜、と思ってさ」
「ああ、パンフではツンツン頭の殿方さんの高校も来ているみたいですわね。学年は書かれていませんが」
「そうなのよね…って!いやそれとは関係ないわよ?」
 わかりやすい美琴の態度に、黒子は溜息をつく。
 常盤台中学のような少数精鋭の学校はともかく、生徒数の多い学校では全学年で来ることは少ない。

『ックショイ!』
『お、カミやんの噂してるロリっ子がどこかにいるんやね』
『いや、どこかの暗殺部隊が作戦を練ってるんぜよ。なんせ戦争までケリつけちまうお人だからにゃー』
『テメーラは黙ってろ!ちっくしょ、ロシアでも風邪引かなかったのに…』
 上条当麻は教室で、つかの間の平和を味わっていた…授業そのものはサボりすぎて地獄であったが。


 常盤台中学の女生徒たちは、1階席真正面のエリアを割り当てられていた。
 彼女たちがこのように中央にいると、他校の生徒たちにもピリッとした雰囲気が伝播するのか、
音楽祭の空気を壊すようなバカ騒ぎをする生徒は皆無だった。
 ただし、午前中のクラシックコンサートでの居眠りは、それなりにいたようだったが。

「ちょっと息抜きに、ブラブラしてくるわね」
 美琴は、美琴を慕う女の子たちと昼食をとったあと、そそくさと立ち上がって探索を再開した。
(電話を掛けたらいいだけなんだけど、普通に学校にいたら私ただのバカよね…)
 それなりに注目を浴びつつ、美琴は「アイツ」の姿を探す。
(もし居れば、さりげなく一緒に帰っちゃったりなんかしたり…あーもうっ、事前に聞いておくんだった!)


 昼休みを挟んでの午後、各校の合唱コンクールの部へ移る。
 トップバッターはいきなり、最大の目玉、常盤台中学の登場である。
 しかも、今回は2年生による合唱…そして、その中に学園都市の誇るLV5、御坂美琴もいるらしいという噂。
 美琴は寮と学校を往復する毎日なので、大覇星祭や対ロシア戦争などで露出したぐらいで、顔はあまり知られていない。

 舞台袖から現れた、総勢30人程の女生徒達。
『どの子だ?』『あれだよ、あの端の背の高い…』『カッコいい感じの女の子なのか』
 御坂美琴に注目が集まるが、彼女自身は別段凄まじいオーラを出している、というような事もなく、溶け込んでいる。

 普段から自身を磨き上げる努力を怠らない常盤台中学のお嬢様たち、その美声は圧倒的であった。
 誰が可愛い、といった目で見ていた観客も、目を閉じ聞き惚れる体勢になっている。
 そうして、1分程経過した、その時――

 響き渡る不快な大音響が、総ての人々の耳を貫いた!

217ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:21:54 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!2】

 その大音響は止まらなかった。不快な、脳をかき混ぜられるような音が、いつまでも鳴り続ける!
 常盤台中学の学生たちが座っているエリアから悲鳴が次々にあがる。
 白井黒子はコレが何であるか、はっきり分かっていた。

(キャパシティダウン! なんでこんな事が!?)

 黒子は以前に聞いたことを思い出した。
 このインペリアルホールの先日までの改修は、テロに備えたセキュリティ設備を取り付けるためだ、という事を。
(まさか! 能力者テロ対策に、キャパシティダウンを実装したんですの!?)
 ならば、これは本当に何かが起こっているのか、誤作動なのか。

 お姉様は?…と黒子は耳を押さえつつ、ステージを確認してハッとする。
(あれは長点上機学園の制服…ですわよね?)
 一人の制服姿の男が、ステージ横の手前階段から、ゆっくりステージに登ろうとしていた。


 御坂美琴も、これがキャパシティダウンだとすぐに気が付いた。
 周りの女の子たちも、耳を押さえてうずくまっている。当然合唱どころではない。
(なんなのよこれ!一体何が?)
 その時、一人の男がステージに登ってこようとしているのに気付いた。大きなヘッドホンをしている。
 美琴に警戒信号が走る。あのヘッドホンは、この音を聞かないため…コイツは何か狙ってる!

 警備員が男を阻止しようと回り込んだ、その時。
 いきなり横から突かれたように吹き飛ばされ、警備員は壁に激突し、昏倒した!
(なに…今の!?)
 分からない、分からないが美琴は、顔をしかめながら前に出る。能力が使えなくとも、ここは私が守る!
 こっちの声は聞こえないのだろう、ならばと美琴は男を睨み据える。
 接近して掴み、直接電流を流すことなら、ひょっとしたら可能かもと考えて一歩踏み出した瞬間。

「わざわざ前に出てくれてアリガトよっ!!!」

 完全にステージに上がったその男は、美琴に向かって右手を突き出し、…開いた手で掴むような仕草をした。
(えっ…!)
 美琴の体が見えない大きな手に掴まれる。
 そしてそのまま、一気に手を差し上げた男の動きと共に、体は天井近くまで引っ張り上げられた!
(テ、テレキネシス!?)

「動くな! 俺が能力解いたら、アイツ落ちて大怪我するぜ」
 大声で男が叫ぶ。警備員やアンチスキルが近寄ってこようとする動きへの牽制だ。
 やにわに、左手を使って一人の警備員を『掴み』、振り回して、他の警備員をなぎ倒す。

(マズイ…ッ!)
 美琴は空中で歯をくいしばる。
 電撃は出せないことはないが、過去の経験からまず暴発する。下には、常盤台の子たちがいる。
 この男は片手で美琴を操作しているが、これは細かいコントロールのためだけだ。
 左手も使った瞬間に飛びかかる、といった手も無駄だろう。全員はじかれるのがオチだ。
(冷静に考えても、打つ手あるのこれ…!?)


(コイツは…やっかいじゃんよ!)
 二階席から、今日は引率のため、教師として来ていた黄泉川愛穂が唸る。
 狙撃すれば人質は自由落下の運命。そして一撃で倒せなければ自由落下では済まされないだろう。
 かといって近づけば、今度は人質を振り回して武器にしてくる。
 そして、話に聞いていたキャパシティダウンで、能力者に頼ることもできない。
(まっすぐ御坂美琴を狙った!?…何やら自暴自棄になって、力を誇示することだけが目的じゃん!?)
 音を止めれば勝機があるが、止んだ瞬間の対応が遅れると学園の至宝が砕かれてしまう可能性が非常に高い。

 そこに彼女を呼ぶ声が聞こえ、黄泉川は振り向いた。


 ◇ ◇ ◇

218ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:22:11 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!3】

 突然、美琴は逆さに吊り下げられたような体勢にさせられた。
 元々能力で壁登りなど行っているため、この高さ自体の恐怖心はない。
 しかし、自分の意思ではないこの体勢に、じわじわと恐怖が侵食してくる。

 また、一人のアンチスキルが「左手」に捕まり、美琴よりも高く吊り上げられたと思った瞬間!

 美琴が真下に加速度をつけて落とされた!!
(――――――――――――ッ!!!)

 美琴も、見ている者も、悲鳴をあげる間もない。
……衝撃が来ず、美琴は、おそるおそる目を開ける…高さ1メートル弱の所で止められていた。

「…安心してんじゃねえぞー?最後は必ず、落とすから、な? LV5の席、あけてもらわねーと、な?」
 そうつぶやいた男は、今度は美琴を振り回し、近づこうとしていたアンチスキルにぶつけて吹っ飛ばした!
 そしてそのまま、また先程の高さに美琴を戻す。


 不快な音、恐怖、無重力感、様々なものが美琴の思考能力を奪って行く。
(LV5の…席?)
 あの男の言葉が残る。
 どう考えても目的が見えないこの暴挙で、垣間見えた男の狙い。
(最初から…LV5の私を潰すつもりで……)
 LV5は定員制ではない。が、減りすぎれば、LV4からの引き上げはあり得る、とあの男は思っているかもしれない。
(そんなこと、ありえないのに…)

「き……あっ!」
 思わず小さく叫んでしまう。突然、高さを維持したまま振り回され始めたのだ。
 ステージから客席の上を容赦なしに振り回される。
 それでも、美琴は歯を食いしばり、「あんな男に負けるかっ!」という思いだけで耐え忍ぶ。

 男はまだ心が折れていない様子の美琴を見て、舌打ちし…
 右手を振り下ろし、美琴を一気に引落した!
 そして激突の寸前でまた右手を上げ、吊り戻した。更に、上下に右手を振り、美琴を縦に振り回す。
――ついに、美琴の心を殺しにかかった。

(どうして…こんな目に…)
 微かに、美琴の心に弱気が入り込んできた。
 もうアンチスキルには期待できない。自分でもどうしようもない。
(アイツが、いればなあ…)
 昼休みに走り回った結果、「アイツ」はいないと判断せざるを得なかった。
 結構縁があるので、居るかも、と思ったのだが…目立つ友人の金髪・青髪も見かけず、どうやら今回はいないようだった。
 つまり、あのヒーローは、とある高校で授業を受けている最中だろう。
(守る、って言ったクセに…)
 直接じゃないけどさ、と自嘲し、それにいい加減守る価値もないわよねこんな子を、と。

 そう考えたとき、ついに美琴の心が折れかけた。

「たす…けて……」
 ごく小さい叫びが、耐え切れずに口からこぼれていく。
 希望を失い、光を失った瞳が、一縷の望みをかけて下を俯瞰した、とき――

 二階席に繋がる扉が開くやいなや、黒い塊がステージに向かって突っ込んできた!

219ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:22:23 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!4】

 男はその扉から、一人の学生服が突っ込んで来るのを確認し、薄く笑った。
 こういうヒーロー気取りは、直接掴んで恥さらしにしてやる…と、左手を構える。

『こンの―――――』
 男は、階段を一足で飛び越えて駆け込んできた少年を掴もうとした。
 穴の開いたタイヤに空気を入れたような、スカンッといった「何もない感触」に疑問を感じた瞬間…
『――クッソ野郎がァァあああああああ!!』
 扉から躊躇わずノンストップで突っ込んできた上条当麻の右ストレートが、男の顎を打ち抜いた!

 上条は急ブレーキをかけ、すぐさま上を見据える。
 一撃で意識を飛ばすよう、顎を狙い打ちして脳を揺らした。制御を失って、間違いなく落ちてくる!
「――――来いッ、御坂!!」
 解放された美琴が膝をたたんで丸くなって落ちてきた。高さ、おそらく5メートル強。
――受け止めてくれる事を、信じきった体勢を最初から取っていた。

 回転もせず、背中から落ちてきた美琴を、滑り込むように両腕で上条は受け止め――
 美琴は、まだ続く大音響の中、固く閉じた目を開け上条を見つめると、そのままむしゃぶりつくように胸に抱きついた。
「頑張ったな、御坂…」
 上条の声に、ただただ震えながら、強く強く抱きついた――
 固唾を飲んで見守っていた生徒たちから、拍手が巻き起こった!


「御坂、まだ終わってねーぞ。立て!」
 上条は美琴の耳元で囁く。
「お前はこのまま崩れちゃダメだ。立ってあの野郎を見下ろせ。暴力に屈しないと見せつけるんだ。
このままだと、あの野郎が俺と同じく、お前に勝った事になっちまうぞ、いいのか?」

 美琴は上条の顔を見上げ、微かに頷くと、すっくと立ち上がった。
 あの男は、ヘッドホンが吹き飛んだ状態で打ち倒されており、すでにアンチスキルに取り押さえられている状態であった。
 外れたヘッドホンからは、ここからでも音楽が聞こえる。相当な大音量で相殺していたようだ。

 振り返って観客席を眺めやると、皆が注目している。
 不快な音は続いているが、慣れてきたのか耳を押さえている者は少なくなっていた。
 美琴は、やや前に出て、両手を前に揃え、一礼した。
 改めて拍手が巻き起こり、ステージ上の動ける女の子や、白井黒子が駆け寄ってきて美琴を囲む。


 不意に音が止んだ。…ようやく音響室のスペアカードキーを見つけ、停止できたようだ。

 ざわめきの中、遅れてステージに駆けつけた黄泉川が、地声で芸術鑑賞祭中止を叫んでいる。
 遅れて緞帳が降りてきて、幕が観客席とステージを隔てる。
「黒子、私はいいから常盤台の子たちを見てあげて。あの音、長時間聞いちゃったら気分悪くなってる子いると思う」
「何おっしゃいますの!お姉様こそあれだけ振り回され、まともな状態のはずございません!」
「大丈夫だってば」
(今、アイツと話したら、私何しちゃうか分からない…ちょっと落ち着かせて貰わないと…)

 上条は座り込み、美琴を眺めながら感心していた,。
 あれだけのことがあったのに、もうリーダーシップをとって平然と仕切っている。
(悲鳴も上げず、泣きもせず、か。たいしたもんだ)

 上条のまわりには微妙な空気が流れている。
 関係者みなお礼を言いたいのだが、まず話すべきである肝心の美琴が他の子の世話をし出したためだ。
 上条はこういう場はすぐ去りたかったので立ち上がった。行くべきところもある。
(肩はやっちゃってるな…あとは打ち身と…ヒビ入ってねえといいな)
 近くにいたアンチスキルに話しかけ、共に舞台袖からステージを降りようとした。

「どこ行くのよ?」
 女の子に囲まれた美琴が上条の動きに気付き、まだお礼も言っていないとばかりに静止させた。
「ま、つもる話はまた今度だな。俺は行かなきゃ」
「だからどこへよ?」
「んー、色々とな」

「御坂!」
 黄泉川が御坂美琴に表情を固くして叫ぶ。
 いぶかしげな顔をした美琴は、(ああ、アンチスキルの…)と思いながら黄泉川を見つめる。
「言いにくいが、上条は今から詰所に行くじゃんよ。話をしたいだろうが、今は我慢してくれ」
「詰所?」

「お前にとってはヒーローだが、…さっきの行為で、上条当麻は傷害事件の現行犯。拘束させてもらうじゃんよ」

220ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:22:45 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!5】

 上条は左手で美琴に手を振ると、そのまま歩き出そうとした。
「待ちなさい」
 美琴が低い声で上条を止める。額からバチバチッと放電し、女の子たちが1歩下がる。
「拘束…?私の恩人を? ふ ざ け ん な!!」
 白井黒子が「皆下がって!もっと!」と叫ぶ。

 バチイイッッ! 御坂美琴の全身が放電し始めた!

 女の子たちは思いっきり下がり、見ている者みな、息を呑む。
 黒子もここまで怒り狂う美琴を見るのは初めてである。

「私が死んでいても、その口は同じことが言えるの!?
私は空中にいたけど、客観的にアンチスキルの人たちの打つべき手を考えてた。
あそこで打てる手は一つ、アイツを狙撃し、一撃で昏倒させるしかない。
私は落下するけど、何とか足から落ちれば、後は賭け。…でも、アンタたちはその賭けを恐れ、何もできなかった!」

 美琴はアンチスキルたちを睨みつけ、二階席への扉がある辺りを緞帳越しに指さしながら、
「扉から!この人が飛び出して来たとき、私がなんて思ったと思う!?
『どう落ちればいいかしら?』よ!? …ヒーローが来たんだから、もう助かった事が分かったもの!
なのに、その人を拘束?…許さない、絶対許すもんか。
何も出来なかったアンタたちを責める気は無い!けど、拘束などと言い出すなら、許さない。
法が絶対だというなら結構。今日この日は、レベル5がアンチスキルを全滅させて逮捕された日と書き換えてやる!!」


 あまりの迫力と恐怖に皆が口すら動かせない中、上条が動いた。
 上条は、雷光に包まれた美琴に畏れもせず近づき、ぎこちない動きで、美琴の頬に右手を触れた。
 凄まじい光と音を発していた雷光が、たちまちの内に消える。

「御坂、ヒーローならカッコよく去らせてくれ、な? 
俺は守りたい子を守ることができて、胸を張って行こうとしてたんだ。
唇を噛みしめて助けを噛み殺してた子を助けることができて、誇りを持って行こうとしてたんだ。
…それでも、止めるのか? お前が普段、守っているものは何だ? 誇りなんじゃねえのか?」
 美琴はうつむいてしまった。
「謝れ、御坂。お前は、お前を必死で助けようとした人たちを恫喝し、恐怖を抱かせた」
 上条は右手を離し、一歩下がった。…雷光は発生しなかった。

(私は…アイツの誇り、を…)
「…ごめんなさい。申し訳ありませんでした。失言をお許し下さい」
 美琴は深々と頭を下げ、謝った。
「よし!…御坂、お前は興奮状態にあるんだから、ゆっくり休め。いいな?」
 じゃあ行きましょう、とアンチスキルを促し、上条は去って行った。

 うつむいて立ちすくむ美琴に、白井黒子が寄り添う。
「お姉様、やはり今日はもう戻りましょう。あまりに色々ありすぎましたわ」
「……うん、そうね。黒子、ありがとう」
 美琴はぽつりとつぶやく。
「…私って何なのかしらね。いつまでたっても一人で暴走して…」
「お姉様の真意はみな分かっておりますわ。あまり考えこまないことですの」


 その時、黄泉川の携帯に連絡が入った。
「ああ…。ん、そうか。…うむ、わかった」
 黄泉川はため息をついて携帯を切ると、美琴を呼び止めた。
「御坂…上条の行き先は詰所じゃなくなったじゃんよ」
「え?」
「病院直行らしい。その場での見立てによると、右肩亜脱臼・その他にもヒビ程度の骨折の恐れあり、だそうだ」

 美琴は膝から崩れ落ちた。
 代わって白井黒子が問いかける。
「亜脱臼とは何ですの?痛いんですの?どれくらい治療がかかるんですの?」
「外れきっていない脱臼じゃんよ。痛みは外れ方次第。全治3週間…奴なら若いし2週間ってとこかな」
「ではさっきの会話中、ずっと耐えてらしたの…?」
「そうじゃんよ。あの高さだと、…着地で約40Km/hか。そんな体当たりを受け止めたんじゃ、そりゃ外れるじゃん」
「40Km/h…確か、100mの世界最高が時速換算で44Km/hとか聞いたことありますわね…」

 美琴は、黄泉川と黒子の会話を呆然としながら聞いていた。
 私は…アイツの武器を使えなくした挙句、ぐだぐだと引き止めてずっと痛みに耐えさせていたと?
 力なく私の顔に触れたのは…あれが右腕の限界だったと…

 駆け寄った黒子は、美琴の表情を見てギョッとした。
 あの生き生きとした瞳は、見る影もない。完全に表情が死んでいた。

「――皆様失礼致します。無作法ですが、テレポートにて御坂お姉様をお連れ致します!では!」

 ◇ ◇ ◇

221ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:23:01 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!6】


――事件から2日経過した。

 御坂美琴は、3日間、部屋にこもったままであった。
 美琴は微熱が続いており、ずっと布団にくるまっているが、あまり眠れていなかった。
 叩きつけられそうになった場面のフラッシュバックや、上条当麻への罪の意識が頭を占め、とても眠れる状態ではなかった。


 事件のあらましは、白井黒子がジャッジメントルートで手に入れた情報により、おおよそは掴めていた。
 犯人は長点上機学園2年のレベル4。
 早期にレベル4になったにも関わらず、レベル5に到達できず…最近はノイローゼ気味になっていたという。
 そうやって追い詰められた男の視線の先には、御坂美琴という、レベル1から5へ駆け上がった中学生がいた。

 そんな時、学生主催で行われる芸術鑑賞祭において、音響係となった彼は、キャパシティダウンの存在を知る。
 そこに常盤台中学参加の話を聞いた瞬間、これは『運命』だと、思い込んだが故の……事件であった。

「長点上機学園の動きも早かったですわ。即日彼は退学となりましたの。
レベル4のテレキネシスト、外に出すにはあまりに危険な存在、一生病院暮らしになるかもしれませんわね…」
 黒子は、全く同情の余地はございませんが、と付け加える。
「彼のご両親も、上条当麻を訴えることはない、と誓約したそうです。暴力事件には発展しないようで何よりですわね」

「その上条当麻、ですけども…彼は病院で治療後、詰所にて手続きを行い、その日の内に帰宅したそうですの。
ちなみに彼は元々音楽祭に参加しておらず、同校の教師、黄泉川氏に届け物をしにきて偶然出くわしたとのこと。
それから、お姉様を救ったシーンが強烈すぎて、かなりの有名人となっておりますわね。我が常盤台の女生徒も、
相当のぼせあがっている者が出ておりますが、相手がお姉様では諦めざるを得ない、というのが実情のようですの」
 今回ばかりは、何も出来なかった自分を省みて、上条当麻への罵詈雑言は差し控えた黒子であった。

「相手が私では、って、黒子それ否定しておいてよ。私アイツに説教されて怒られてたし、諦める必要ない、ってさ」
「お姉様、LV5に説教する人として、余計に有名になってしまいますわよ…」
 黒子から見ると、美琴は元気は取り戻しているようには見える。
 ただ、少しでも考え込むと悪い方へ悪い方へ考えが及び、うつ状態になっているようである。


 その時、来客モニターが反応し、ピンポーンと来客を告げた。
 黒子は特に頼んでるものは無かったですわよねえ、とつぶやきながら応対する。

「はぁい、どちらさまですの?」
『上条、だけど…御坂の見舞いに来たんだけど、いいかな』
 美琴は布団の中で、目を見開いた。

「…いらっしゃいませ。ではご用意致しますので、5分後にノックしていただけませんこと?」
『分かった。それじゃ後で。』

「ちょ、ちょっと黒子!何アイツ入れる気なの!?」
「さぁさお姉様、洗面器の水換えますから、濡れタオルでせめてお顔だけでもお拭き致しましょう」
「こ、こんなカッコで会えるわけないじゃない!何考えてんのよアンタ!」
 美琴はパジャマ姿で、かつ寝グセもそれなりについてしまっている。
「はいはい、病人は顔だけ出していればよろしいんですの。御髪の乱れも許容範囲ですわ」
「や、やめて…会いたくない…」

 黒子は美琴の哀願を無視して、寮監へ電話連絡を入れた。
「208号室の白井ですの。只今からお見舞いの名目で殿方を1名招き入れますので、ご報告をと…ええ、名前は上条当麻…
はい、あの殿方ですの。…ありがとうございます、私も同席致しますので…はい、では」
 黒子は顔だけ出している美琴に向かって、
「許可も取りましたですの。ではお覚悟を決めて、応対なさって下さいな」


――コンコン。
「どうぞ。お待たせいたしました、ですの」
 右手を包帯で吊り下げた上条当麻が入ってきた。寮に戻っていないのか、学生鞄も持っている。
「悪いな白井。コレお見舞い、渡しとくな」
「ご丁寧にありがとうございます、ですの。お姉様に代わってお受け取り致しますわ」
 右手で支えるように持っていたフルーツのカゴを黒子に渡し、上条は美琴のベッドを見つめる。

 美琴はフカフカの布団の中に隠れてしまっており、頭髪がわずかに見えるのみだ。

222ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:23:16 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!7】

「ケガの具合はどうですの?」
「右肩脱臼は、実はこれ3回目でな。もう外れやすくなってるから、今回が特別どうこうって訳じゃねーんだ」
「どれだけ普段無茶苦茶してるんですの!?」
「体が商売なもんでな…さて、肝心のお姫様は…」
 美琴の布団に動きはない。

「それでは、後はお任せいたしまして、わたくしはこれで。…お姉様!ちゃんとお話するんですのよ!」
「ちょっと待て。二人っきりにすんのかよ!?」
「わたくしが居てはできないお話もおありでしょう?色々ございますでしょうから…」
「いや、それでもな…」
「いつ戻るとは申しませんので、わたくしの影に怯えながらお話しなどして下さいな。もちろん…」

「戻った時、いちゃついていたり、お姉様を泣かせたりしておりましたら、その包帯が真っ赤に染まりますので」
 その瞬間、黒子は消えた。


 上条は肩をすくめ、黒子が用意してあった小椅子をベッドの近くに寄せ、座る。
「御坂…えーと」
「……」
「5秒以内に顔出さねえと、悪いけど布団ひっぺがす。お前が下着姿だったら全力で謝るが、それでもやる」
「!」
「5」「4」「3」…

 美琴はたまらず、真っ赤になった顔を出した。首のところで布団をがっちり固定して。
 それでも、向こうを向いたままだ。
「こっち向く気は、ないんでせうか?」
 美琴は目を固く閉じたまま、布団の中でごそごそと仰向けになり、顔もようやくさらけ出した。

「よし。…御坂、おはよう」
「…! なにがおはよう、よ!」
 また目元まで布団を引き戻してしまった。しかし、ようやく目をあけて、上条を見つめる。
 優しい目で見つめ返された美琴は、先刻までの上条への罪の意識を思い出し…
 常日頃の想いと合わさって、キャパシティを超えてしまった感情は、涙となって。

 美琴は大粒の涙をぼろぼろとこぼし、小さくしゃくり始めた。

「な、なんで泣く! か、顔出せて言ったのは謝るから、な?すまん!」
 上条は大慌てで頭を下げる。
「ち、ちがう…アンタの前では…泣いてもいいんだって思ったら…今まで我慢してた分……」
 美琴は何とか言葉を搾り出す。
「あ…だめ…。止まんない…」

「俺の前だと泣いていい、って何ですか!どんなルール決めてんだお前は…」
 と言いつつ、上条も悪い気はしない。一定のレベルの信頼を貰っている証と思える。
「…まあ、落ち着くまで喋らなくていいぞ」
 ごそごそと上条は鞄から何やら取り出して、布団の上に並べている。

「実際、今日は謝りに来たんだけどな……俺を庇っておいて叱られるってのは、ねーよな。
けど、今のお前に謝ると、さらに追い詰めそうな気がしてきたなあ……」
 上条は立ち上がると、美琴の机のあたりに行って、すぐ戻ってきた。
 美琴はまだくすんくすんとしゃくりあげているが、少し落ち着いてはきたようだ。

 しゃっ、しゃっと微かな音がする。
「もしさ、…お前の涙が俺に関することなら、だけど……本当に気にする必要ねえんだぞ?
いい加減、付き合い長いんだから分かってくれないと、上条さんも困っちまうんですが」
「…………でも……」
「お互い、困ってる時に助け合えてるんだから、それでいいじゃねーか。…よし、こんなもんかな、っと」


 美琴はいきなり、濡れタオルが目の上に被せられてビクッとする。
「落ち着いてきたか?目真っ赤になってるだろうから、それで押さえときな」
 その濡れタオルを左手で押さえようとして布団から手を離した瞬間、上条に布団をずらされた!
「お姫様、ご機嫌いかがですか?」
「〜〜〜〜!」
 美琴は口許をプルプルさせて、真っ赤になった顔をさらけ出した。

 不意に冷たいものが唇に触れる。
(んっ…?)

 タオルをずらし、見てみると…上条当麻がフォークに刺した一口大のリンゴを、美琴の唇に押し当てていた。

223ぐちゅ玉:2010/03/15(月) 11:23:33 ID:ieRDysaE
【キャパシティ・オーバー!8】

「ほれ、口あけなさい」
「む〜〜〜〜〜!」
「ひょっとして、『はい、あ〜ん』とでも言って欲しいのか?しょーがねえな…」
 それを聞いた美琴はおずおずとリンゴを口に含んだ。
「お、食べた食べた」

 上条は、不自由な右手でありながら綺麗に切り分けたリンゴを刺して、自分もぱくっと食べる。
「うん、美味いな。御坂たん、感想はどうですか?」
 むぐむぐと口を動かしていた美琴は、開口一番、
「あ、アンタ私で遊んでるでしょ…」
「何を失礼な!病人の看病じゃないですか!はい、あ〜ん」
「だ、だからそういう…」
 開いた唇の隙間にリンゴを差し込まれ、また美琴はしゃくしゃくと食べさせられる。
(な、なんでコイツこんなノリノリなの!?)

「はい、タオルタイムおしまい!」
 不意に美琴は上条から濡れタオルを奪い取られ、顔を隠すものが無くなって顔を背ける。
「だ、だから!さっきから私をいじって、ひどいじゃない!」
「数少ない、御坂をいじれるチャンスだからね!…ま、とりあえずは涙は止まったかな」
「も、もう泣かないわよ…」
 上条は立ち上がり、タオルと皿を美琴の机の上に置いた。

 上条は戻ると、座らずに少し改まった口調で話し出した。
「なあ御坂。不思議に思わなかったか?お前が伏していること、俺がどうやって知ったと思う?」
「そう言われれば……そうね」
「…白井がな、昼休みに来たんだよ。お姉様の笑顔を取り戻して欲しい、ってな」
「黒子が……」
 それなら、本来ありえない先程の黒子の態度の意味が分かる。美琴は立ってのぞきこんでいる上条の方に顔を向けた。

「とはいえ、さ。お前の笑顔って言われても、実は俺、お前にいつも怒られてばっかりでさ…」
「うっ……」
「お前の会心の笑顔ってあんまり見た記憶がない、ってのに気付いたんだよ!」
 美琴も冷や汗をかき始めた。よく考えれば、いつも照れ隠しに怒鳴ってばっかりだった……
「という訳で、笑顔プリーズ。何か俺が手伝えばいいなら言ってくれ」

「そんなこと言われても!そ、そんな見つめないで!」
 まじまじと見つめられた美琴は、また布団を目元まで引き上げてしまった。
「こら隠れんな!」
 上条は左手で布団を掴んだ瞬間、美琴は布団ごとぐるんと逃げるように奥に寝返った。
「うわっ!」
「きゃっ!」

 左手を布団に巻き込まれ、支えるべき右手は脱臼で動かせず…
 上条は美琴の肩に近い背中に、パジャマの上から顔を押し付けるように倒れ込んでしまった!

 左手で体を支えて起き上がろうにも、うかつな場所を触ってしまいそうで、動かせない。
「み、みひゃか。お、おひふいて、な?う、うごけん…」
 くぐもった声で上条が喋っているのを背中で聞きながら、美琴は硬直していた。
 美琴も美琴で、布団にくるまってしまったため、身動きできない。

「わ、私も動けないから…落ちる!」
 と言い放つなり、布団ごと向こう側に転がり落ちた!
 ほとんどダメージもなく、布団から上半身だけ抜け出して座り込み、ベッド上の上条と同じ高さの視線で目が合う。

 美琴は、カエルの様な体勢でベッドに顔を押し付けている上条を見つめ。
 上条は、肩がはだけてブラチラ状態で座り込んだ、緑のパジャマを来た美琴を見つめ。

「のぐおッッ!」
 突然、上条がうめくと同時に、白井黒子が上条の背中ににヒップドロップの体勢で落ちてきた!
「わたくしは、わたくしはそれなりに信用してたんですのよ!? こンの類人猿、お、襲いかかるとは…」
「ま、待て白井、誤解だっつーの! ど、どいてくれ、また肩外れ、れ…」

 止めようとした美琴だったが、不意に思い直し、――2人がじゃれてると想定して、笑顔になってみた。


――私のヒーローさん!こんな笑顔じゃダメかな? 


fin.

<キングゲイナー・オーバー!の禁書キャラMADてないのかなあ…と全然関係ない締めをしてみたり。>

224■■■■:2010/03/15(月) 11:34:13 ID:ijtysFe.
>>223
乙。GJでした。
普段病室で見舞われてばかりの上条さんとしては、たまには見舞う側になりたいですわなw

>キンゲMAD
初春のポカポカのカットがゲイナーダンスの部分で使われるのは確定ですか。

225■■■■:2010/03/15(月) 15:20:50 ID:pqdJFuGU
>>211
GJな小ネタですよ!まさかの婚后光子の登場にびっくり
>>223
GJ!このスレでの黒子が万能すぎるw

226■■■■:2010/03/15(月) 16:26:10 ID:Vec6ZYJ2
鼻血出たのでティッシュ買って来ます

227■■■■:2010/03/15(月) 16:44:12 ID:CteXXPqw
皆様GJですよ。2828が止まらんw

>>223
初春のポカポカ使った作品なら見た記憶が。

228■■■■:2010/03/15(月) 17:38:25 ID:P92Ohviw
>>211
自分なりに考えてみたんですが、変な風って婚(ry

ともあれGJ!楽しかったですぜ。

>>223
黒子の使い方が巧みですねw

GJです!

229■■■■:2010/03/15(月) 18:16:49 ID:l10MouHw

        /≦三三三三三ミト、   
      .  ―― .
       《 二二二二二フノ/`ヽ       /       \
       | l  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨{ミvヘ      /      ,   !l ヽ
       ト==   ==彡 》=《:ヽ     ′ ―‐ァ!l / ̄}
         /≧ァ 7¨7: :ァ.┬‐くミV!ハ    |    (__   _ノ    |
       ′: /: イ: /': :/ |:リ  ヽ }i! : .     |  _j_   ツ    |
      i. /: il7エ:/ }:/ ≦仁ミ ト:.i|: i|   |    d   __ 、、   |
      |:i|: :l爪jカV′´八ツソ Vミ :l|   |   ノ  - ノ    |
      |小f} `   ,    ´  ji }} : .{    {   ┌.  ー ´    }
       }小    _      ,ムイ|: :∧    .    |/   ヨ
       //:込  └`   /| : :i i : :.∧   、  o   ―┐!l /
        /:小:i: :> .    .イ _L__|:| :li {∧   \    __ノ /
.      /′|从 :|l : i :爪/´. - 、 〈ト |ト:ト :'.   /       く
            N V 「{´ /   ヽ{ハ|   `\ /        ヽ
           | }人ノ/   li  V    _.′贈  惜  と  '
       i´ }    //} i′′ ハ 、|   `ヽ.   り   し  ミ   !
       { {     〃ノ {l l!  } :  {     }  ま  み  サ  |
   rー‐'⌒ヽ  ,イ   i{| |   i      |  す  な  カ
   〉一 '   ∨n     ∨   ′  ハ      |      い. は  }
   `r‐‐ ´   V    |       |      !      称     ′
    ‘r‐‐ ´    \   }/i⌒ヽ   {      .      賛    /
      `¨¨` ー .、  ` < ` |    `ト、 }     ヽ     を
         }}\      ̄ `ヽ ト ソ      \     /

230D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/15(月) 18:55:30 ID:2r2qZN.I
 お邪魔します。
どなたもいらっしゃらないようでしたらネタを1つ投下します。
「パラドックスの確率」全15レス消費予定。

元ネタは
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1268319568/648
ネタ提供者さんに感謝。

231パラドックスの確率(1):2010/03/15(月) 19:05:54 ID:2r2qZN.I
 スーツ姿の彼女は歩道で一人、尻餅をついていた。
「あいたたたた……」
 突如自分を襲った痛みに涙を浮かべ、彼女は腰のあたりをさすりながら辺りをキョロキョロと見回す。
「あーあ、実験は失敗かぁ……。まさか実験施設の中じゃなく外に飛んじゃうとはね……。見たところここって第七学区だから、とりあえず歩いて帰……?」
 彼女は痛む腰のあたりをさすりながら辺りをもう一度見回した。
 何かが違う。
 彼女が知っている風景より、ここは全般的に建築物が少し古い気がする。
 逆に、道を行く通行人が彼女を見たら、突然何もない虚空から現れて彼女が地面に落下したように思えて『もしかして空間移動能力者が空間移動に失敗したのか?』と驚いたかも知れない。
 彼女は辺りをキョロキョロと見回して表示板を見つけると、そこには間違いなく『第七学区』と書かれている。
「……確かにここは第七学区だけどさ……やけに古くない? 何かまるで、私が中学生の頃みたいなんだけど」
『上条美琴』は痛む腰をさすりながら立ち上がる。


「……うーん、実験は成功だったのか、それとも失敗だったのか。それが問題だわ」
 上条美琴、二四歳。
 ただいまとあるコンビニの店頭でスポーツ新聞を立ち読みしながらおでこに人差し指の先をつけ、今後について検討中。
 あの後、美琴は自分が『転がり出た』歩道から立ち上がると汚れた服をパンパンと叩き、記憶を頼りに一番近くのコンビニに飛び込んで、マガジンラックからスポーツ新聞を一部引き抜き日付をチェックした。
 日付は今日。それは間違いない。
 ただし、西暦は美琴の知っている年から一〇年過去のもの。
「どうも景色が昔とそっくりだと思ったら、やっぱりここは私がいた時代から一〇年前の学園都市かぁ……。元の時間へ帰る方法にあてはあるけど、だとしてもここでぼんやり……あれ?」
 美琴は視線を手元のスポーツ新聞から全面ガラス張りの向こうに広がる歩道のその先へ。
 歩道の向こう側には何台かの自動車が走り抜ける片側二車線の車道と、白いペイントの横断歩道が見える。
 その横断歩道で信号待ちをしながらあくびをしている、見覚えのあるツンツン頭のあの少年は誰だったっけ?

232パラドックスの確率(2):2010/03/15(月) 19:06:45 ID:2r2qZN.I
 上条当麻は一人、あてもなく散歩をしていた。
 あてもなく、というのは少しおかしいかも知れない。あてはあったのだが、外れたのだ。
 上条はスーパーの日曜早朝特売セールに行くつもりで、前日の夜に目覚ましをセットしたがうっかり二度寝をしてしまい、同居人のインデックスによる『おなかへった』コールで目を覚ましてみればすでに特売セールスタートの時間。慌てて着替えて部屋を飛び出しダッシュしたものの、スーパーに辿り着いてみれば特売品は全て売り切れ。
「せっかく、起きてから余裕を持ってスーパーへ行くまでの時間も、行列ができるであろうタイミングも全部計算しておいたってのに……不幸だ」
 ツンツン頭をガリガリとかいて悔やんでみても、もう遅い。
 下手に時間に余裕を持たせていたせいで、目を覚ましたとき『あと五分』なんて思ってしまったのが全ての失敗の始まりだった。
「あーあ、インデックスが肉を楽しみにしてたのにな……買えなかったなんて言ったら怒るだろうな、アイツ」
 早朝特売セールの目玉品は豚肉の小間切れ。
 一〇〇グラム当たり二五円という上条家の財政に優しいお値段だったので、ここで買いだめして使わない分は冷凍保存しておこうと思っていた。他にも玉子や牛乳など、貧乏な上条家における貴重なタンパク質の特売オンパレードだったのだ。しかしそれらは全部上条がスーパーにたどり着くまでには売り切れていた。
 あてが外れた上条は元来た道を引き返し、最寄りのコンビニでインデックスに与えるためのお菓子を見繕って帰ろうとしていた。
 いつもの横断歩道で信号待ちをしながら盛大にあくびをしていると、横断歩道の反対側でぶんぶんと大きく手を振っている女性の姿が目に入る。
 よく見ると、どうやら彼女は上条に向かって手を振っているらしい。
 耳を澄ますと、『おーい』という女性の声も聞こえるような気がする。
「……誰だあれ? どっかで見た事があるようなないような……」
 上条は寝起きの頭をフル回転させて、前方の女性と一致するシルエットを検索する。
 髪は茶色でセミロング、年齢は見た目二〇歳代、化粧映えのする顔立ち、胸は大きめ、スポーツで鍛えたようなシャープな体型、服装はコンサバティブ。
「ああ、あれって御坂の母さんの美鈴さんじゃないか。おーい、美鈴さーん!」
 上条は視線の前方で自分に手を振る女性に向かって手を振り返す。
「美鈴さーん、こんな朝早くから学園都市に来る……来る……ちょ、こっちに向かって来る!?」
 横断歩道の反対側で上条に手をぶんぶん振っていた美鈴は、信号が変わるやいなや上条に向かってダッシュで駆け寄り、両手を広げるとぎゅうううううーっと強く上条を抱きしめた。
「やーん、かわいい!」
 美鈴はぐりぐりと猫のように上条に向かって頬をすり寄せる。
「……はい?」
 横断歩道から歩きだして三歩目で、反対側から走ってきた美鈴に抱きしめられて、上条は訳が分からない。
「かわいいかわいいかわいい! 一〇年前だからこっちの当麻が学生って言うのは分かってたけど、うーん、髭が全然生えてない当麻ってかわいい! 若いってやっぱり良いわねー」
「……ちょ、美鈴さん!! ここは天下の往来!! アンタはこんなところで朝っぱらから俺に向かって何やってんだ!? 離せ、いいから離せーっ!!」
「もー、そんなに照れなくても良いんだってば。この時代の当麻ったらかわいいなー」
「ぎゃわーっ!? 酒もないのにこの人酔っぱらってる!? 止めろバカ離せ!! ……あれ、当麻?」
 上条の記憶にある御坂美鈴は、上条の事を『上条くん』と呼ぶ。美琴の母親ではあるが上条とはそれほど親しい間柄とも言えないので、彼女は上条の事を下の名前では呼ばない。
「もう、さっきから人の事を美鈴さん美鈴さんって母親の名前で呼ばないでよ。私には美琴ってちゃんとした名前があるんだから」
「……はい? 美琴?」

233パラドックスの確率(3):2010/03/15(月) 19:07:17 ID:2r2qZN.I
 御坂美琴は早朝の道を、両腕を組み首をひねりながら一人早足で歩いていた。
 しかし、早朝の空気が気持ちいいから散歩に出てみました、などと深窓の令嬢が口にするような理由で美琴がここを歩いている訳ではなかった。
 美琴には目的があった。しかしあてがなかった。
「うーん、おっかしいなー。どこにもないなんて」
 美琴が毎月コンビニで立ち読みしている月刊少年マンガが、どこの店に行っても見つからないのだ。今月は印刷部数が少なかったのか、どこの書店でも少数しか入荷しなかったらしく店頭から瞬く間に消えてしまったという。
 いつもならどの店にも二〜三冊は積まれているので美琴は後で読もうと軽く考えていて、時間ができたので立ち読みに出発したらこのていたらく。
「あの探偵マンガの解決編が今月号に載るはずなのよね。こんな事なら門限破ってでも発売日当日に立ち読みすれば良かったわ」
 そんな訳で美琴は早朝から一冊のマンガ雑誌を求めてコンビニ行脚の真っ最中、と言うか放浪中。
 広い学園都市の中ならば、どこか一軒くらいはあの月刊少年マンガが店頭に残っているはず。
 そう思ってかれこれ一〇軒ほど回ってみたものの、マンガ雑誌は影も形も見つからない。
「この先に確かコンビニがあったからそこをあたって、そこにもなかったらいったん引き返そう。寮で地図を使ってコンビニのある場所を調べて、もっと効率的に回った方が良さそうね」
 てくてく、てくてく、てくてくと歩いて。
「……あれ?
 不意に美琴は、奇妙な違和感を覚えた。
「何だろう、これ。私自身の力を外から放射されているような……ううん、違う。これって……空気中の静電気が大きく揺らいでる?」
 美琴の周囲の空気に含まれる静電気が奇妙な感じに揺らいでいる。
 そわそわと落ち着きがなく、まるでここにいてはいけないと言われているような不思議な感触が空気中に漂っている。
 美琴は優秀な電撃使いで、その能力の応用は多岐に渡る。
 たとえば電磁波センサー。
 美琴の『自分だけの現実』から生み出され、美琴の体を包むように放射される微弱な電磁波は、そのままセンサーとして転用できる。
 自分の電磁波と違う波長とぶつかる事で、直接視認しなくてもそこに誰かがいる、異物があると言った具合にレーダーの役目を果たすのだ。
 その電磁波センサーが美琴に何かを促している。
「妹達(シスターズ)……とも違うわね。まるで私自身がもう一人いるみたいな……いやいや、完璧なクローンは作れないはずだからそれはないけど。でもこの不安定な静電気は何か気になるわね」
 美琴はマンガ雑誌の探索を切り上げて、不安定な静電気の正体を探る方に意識を切り替える。『おかしな静電気』は風に乗った匂いのように空中を漂っている。
 美琴は空を見上げ、空中の静電気の奇妙な流れを目で追う。
「……あっちか」
 おかしな静電気の流れを追い駆けて、美琴は走り出す。
 何か嫌な事件でも起きていなければ良いが。
 美琴が静電気の流れを目で追いながら角を勢いよく曲がると、少し離れた前方の横断歩道の上でいちゃいちゃと抱き合うカップルの姿を見かけた。どうもカップルは女性の方が年上らしく、積極的に男に抱きついている。いや、誘惑しているのか?
「……ったく。どこの世界にもいるのよねー。ああやって朝っぱらから見せつけてくれちゃう連中ってのがさ。どこのバカップルだっつーの。こっちはこのヘンテコ静電気を……?」
 美琴は遠くで恥も外聞もなく抱き合っているバカップルを見つめてため息をつき、やがてその片割れの男の方に気がついた。
 学生服らしい服装、中肉中背の体型、そして特徴的なツンツン頭の彼。
「……あれは……あの馬鹿は……」
 バチバチと火花の散る音が聞こえる。
 それが自分の出す高圧電流の音だと気がつく前に、美琴は爆発した。
「あの馬鹿……何を朝っぱらから路上で不純異性間交友なんかしちゃってるのよーっ!!」
 美琴は叫び、直接裁きを下すべく上条の元へ突っ走る。

234パラドックスの確率(4):2010/03/15(月) 19:07:59 ID:2r2qZN.I
「うん、美琴。私、美琴よ?」
「……はい?」
 上条には訳が分からない。
 何故ならば、目の前の美鈴がにこにこ顔で美鈴自身の顔を指差し、あまつさえ『私は美琴です』だなどと自己紹介しているのだから。
「あのー……美鈴さん? 朝っぱらから見え見えのドッキリなんかされたって、俺どうしたらいいか対応に困るんだけど?」
「だーかーらー、私は美琴なんだけど……って、ああそうか」
 自分を美琴と呼ぶ、おかしな美鈴は上条から手を離すと、右手でグー、左手でパーを作り両手を合わせてポンと叩いて
「ごめんごめん。説明が足りてなかったわね。私は美琴なんだけど、正確には一〇年後の美琴なのよ」
「…………………………………………はい?」
「アンタに会いに来たの。一〇年後の学園都市から」
「………………………………………………………………はい?」
 上条には理解できない。
 目の前の美鈴が自分を『美琴』と言いだして、しかも一〇年後の世界からやってきましたなんて、ドッキリにしてもレベルが低すぎる。
「……美鈴さん、アンタの娘と何かトラブったんなら、俺でよければ相談に乗るけど?」
「うーわー、アンタこうやって女の子とフラグ立ててたんだ。なるほどねー。かわいい顔してもやる事は大して変わんないのか、うんうん」
 美鈴は話を聞いてくれない。それどころか『きゃーかわいい』と言いながらしきりに抱きつくわ頭を撫で回すわとやりたい放題だ。
 美琴と美鈴は母娘だけあって、外見はよく似ている。美鈴を見ていると、美琴があと一〇年経ったらたぶんこんな感じに育つんだろうな、と言うのがよく分かる。それくらいこの母娘が似ているのは認めるが、よりによって自分の娘の名前を騙っちゃうのはどうなんだろう。おおかた学園都市の進んだ科学技術に触れて、未来志向にでもかぶれてしまったのだろうか。
「とりあえずさ、俺から離れてよ。あと子供みたいに頭を撫で回すのも止めろ。ここは横断歩道で、大体アンタの娘の美琴なら今そこからビリビリと……げっ! 本物の御坂!?」
 上条がしつこく抱きついてくる美鈴を引っぺがそうと暴れていたら、そこに常盤台中学の最強電撃姫こと美琴が現れた。
 しかもお怒りモードで。
 美琴は全身に電気を纏って
「……あのさ、アンタがどこの誰と付き合おうと私には全く! これっぽっちも! 関係ないけど! 路上で朝っぱらから人に見せつけるみたいに、どっかの女といちゃいちゃしないでくれるかしらー……? 今ここで黒子の代わりに、アンタに正義の鉄槌を下してあげても良いんだけど?」
「ほら美鈴さん! アンタの娘がここにちゃんとこうして……美鈴さん?」
 上条をぎゅうううっと抱きしめたまま、美鈴の動きが凍る。
 目は丸く見開かれ、口はOの字に、そしておそるおそる片手で美琴を指差すと
「……うわー、中学生の私だ。そりゃそうよね、一〇年前の学園都市なんだから私と出くわしても当然か」
 などと変な事を口走っている。
「……お、おいおい? 何言ってんだよ美鈴さん」
 今度は上条の言葉を聞いた美琴が眉をひそめる。
「ねぇアンタ。この女の人に向かって今『美鈴さん』って言った?」
「え? この人お前の母さんじゃないの?」
「確かによく似てるけど……別人よ、その人。大体、能力者でもないのに、うちの母さんがこんだけ強力な電磁波を放出してる訳ないじゃない」
「……へ?」
 上条は美琴と美鈴の顔を見比べる。
 そう言えば上条の記憶の中にある美鈴より、この女性は少し若いような気がする。美鈴が努力で保たれた美しさというなら、目の前の美鈴は天然の輝きがある。
「……、あれ? じゃあこの人一体誰? お前の親戚か? まさかお前の母さんの妹達?」
「んなわけないでしょ。こんだけ見た目がそっくりなのも驚きだけどさ。それで、そっちのアンタ……アンタは一体、どこの誰?」
 美琴は美鈴によく似た女性に向き直る。
 答え次第によっては能力の使用も辞さないという構えだ。
「んー、説明してあげても良いんだけど。その前に……ひとまずここから逃げるわよっ!」
 美鈴似の女性はにっこり笑うと上条の腕を掴み、そのままものすごい速度で走り出した。

235パラドックスの確率(5):2010/03/15(月) 19:08:38 ID:2r2qZN.I
 かくして上条と美鈴似の女性は一時間も街を走り回った。

「……って、待て! この時間の進み方が早すぎる展開はどっかで見覚えがあるけど、何で俺まで一緒に走らなくっちゃならないんだよ!?」
「うんうん、ごめんごめん。当麻の事巻き込んじゃったし、これからも巻き込んじゃうから一緒に来てもらわないと困るのよ」
 美鈴似の女性は上条をとある裏路地に引き込むと、にこにこしながら
「色々説明するからどっか座れる場所行きましょ。できればあの子がいないところだと助かるわー」
「……あの子?」
 上条は美鈴似の女性の言葉に首を傾げる。
「一〇年前の私の事よ。私とあの子がこの時間で顔を合わせんのは、まずいのよ。……たぶん、推測だけど」
「まずい? まずいって何が?」
「それを説明したいから、どっか座れる場所に行こうって言ってんのよ」
 彼女が一〇年後の美琴だとしても、傍若無人なところは今の美琴と何にも変わらないんだなと上条が心の中で思っていると。
「何? 一〇年後の私が美人なんで見とれた? やだなぁもう、私照れちゃうじゃない」
 いやーんやっぱり一〇年前の当麻って初心でかわいいーと一声叫んで、自らを美琴と名乗る女性は上条をぎゅううっと強く抱きしめる。
「だからいちいち抱きつくな! 熱い苦しい首が極まってる!? ギブギブ!!」
「ほーら当麻の好きな大きなおっぱいですよー。もう、こういうのが好きなくせに照れちゃってー。この頃の当麻って素直じゃないのね。かわいいなぁホント」
「止めて止めてお願いだからそのデカいのを押し付けんな!! お前見た目は俺の理想のタイプなのに中身は御坂一族そのものか!?」
「あらーん? なるほど、それじゃ子供の頃の私がいくら突っかかっても相手してもらえない訳だわー。昔の私ってぺったんこだったもんねー」
「は? 子供時代のお前? ……何か分かんない事言ってっけどまあいいや」
 上条は巨乳気味な女性の話を聞き流し、熱い抱擁から何とか抜け出すと、ぜーはーと肩で息をついて
「……っつーか、お前が一〇年後の御坂だっていう証拠はあるんかよ?」
「それもそうよね。さすがに証拠を見せないと当麻も信じてくれないわよねー。……じゃあ早速」
「だからって脱ぐなよ! 頼んでもいないのにいきなり脱がれたって分かんねーよそんなの! ……もっとほら、何かないのかよ。御坂は超能力者(レベル5)なんだから、能力使ってみせるとかさ」
「うーん、じゃあちょっとだけ。今はちょっとしか能力が使えないんだ」
 美鈴似の女性の前髪が静電気でふわふわと浮き上がり、バチバチと火花が飛ぶ。
「……これでどう? ゲームセンターのコインがあったら超電磁砲を撃ってあげられるかもしれないんだけどねー」
「それは物騒だから止めてくれ。……、まあしゃべり方が妹達とは全然違うけど、妹達が成長したら一人くらいまともなしゃべり方になりそうだしな」
「向こうでもそうだったけど、どうしてこう当麻は頭が固いのかなー。固いのは」
 上条は美鈴似の女性の口元を両手で押さえ込んで
「テメェ今ナニかとんでもない事をさらっと青少年の前で口走ろうとしただろ!? ここに載せられない事をしゃべろうとしてたな!? 一〇年後の御坂ってこんな感じなのかよ?」
「あっはっはー。そりゃねー、一〇年後の私がどんな奴かだなんて当麻に教える訳ないじゃない。教えたら歴史が狂っちゃうもの」
「……歴史が、狂う? 何だそれ」
 美鈴似の女性の言葉に、上条は怪訝な顔をする。
「こういう言葉って知ってる?」
 美鈴似の女性は、真剣な眼差しを上条に向けて
「歴史改変。……あるいは時間犯罪とも言うわね」

236パラドックスの確率(6):2010/03/15(月) 19:09:07 ID:2r2qZN.I
「……それでとうま。もう一度聞くけど、この薄幸少女改め薄幸女性はどこの誰ちゃんなの。クールビューティにも短髪にも似てるけど、親戚か何か?」
「俺にもよく分かんねーけど、とりあえず困ってるってのは分かったから連れてきた……かな?」
「いやー、小っこいシスターに会うのも一〇年ぶりなのよねー、そういえば」
 険悪な雰囲気を漂わせるインデックスと、割と脳天気に笑う美鈴似の女性こと美琴(仮)と、インデックスによって体中のあちこちに噛み跡をつけられた上条は上条の部屋でご対面。
 インデックスの機嫌が悪いのは、上条が早朝特売セールで手に入れるはずだった肉を買ってこれなかったせいもあるのだが
「とうま! そうやって困ってる女の子を考えなしにほいほい助けるのはそろそろ止めた方が良いかも!!」
「とはいえさ、インデックスだって救いを求める人の手をはね除けたりはできねえだろ?」
「そ、それはたしかにそうなんだけど……」
「ごめんごめん。すぐ出て行くからさ、ちょろっとだけここに置いてくれる?」
 美琴(仮)は残りの二人に向かって両手を合わせて拝む振りをする。
 インデックスは小さくため息をつくと、開き直ったように部屋の真ん中に仁王立ちで
「……仕方ないかも。とうまだってスフィンクスを拾ってくれたしね。ここは歩く教会の私に任せるんだよ!」
「そんな胸を叩いて任せろって言われてもな……」
 大体この人は猫じゃないんだからさ、と上条は独りごちる。
 美琴(仮)は、インデックスの前では『美南(みなみ)』と名乗っていた。上条にはよく分からない話だが、一〇年前の人間に一〇年後の美琴が来ている事を知られてしまうのは、歴史上都合が良くないらしい。
 美琴(仮)の説明によれば
「『今』の時点で確定した未来の情報を過去の人間が掴んでしまうと、それだけで未来が変わっちゃう可能性があんのよ」
「じゃあ俺はどうなるんだよ」
「当麻はたぶん大丈夫ね。右手の幻想殺しが片っ端から可能性を消し去ってると思うから。ただ、当麻の記憶の中に私の情報が残るとまずいから、私は当麻の前では本当の自分を出せないけど」
 美琴(仮)は幻想殺しについても何かを知っているらしい。
 上条は美琴(仮)に問い質したが、美琴(仮)は『たった今、未来の話を過去の人間が知る事は危険だって説明したでしょ? 可能性は打ち消されるけれど、当麻の記憶の中に情報が残るのはまずいのよ。ごめん、それは理解して』と苦笑いを浮かべて回答を拒否した。
「するってーと何か、脱いだり抱きついたりしてきたのは、あれは全部演技だと?」
「……………………………………………………えへ」
「怪しい笑いでごまかすな!」
 大体こんな感じに落ち着いた。

237パラドックスの確率(7):2010/03/15(月) 19:10:04 ID:2r2qZN.I
「うーん。みなみの話をまとめると、みなみは何か……じっけん? で失敗してこの学園都市に来たの?」
「そうそう、そんな感じそんな感じー」
「ずいぶんアバウトだなオイ」
 美琴(仮)が一〇年後の世界からやってきたと言う事を大っぴらにはできないため、要所要所をぼかして説明するとどうしてもこんな感じになってしまう。
 美琴(仮)が何かの実験に失敗して、一〇年という時間を飛び越えてしまったというのは納得いかないところではあるが、そうでもないと目の前にいる美琴(仮)の存在を証明できない。
 美琴(仮)は自らの証明として、上条と美琴しか知らない妹達計画について、上条に詳細を語って見せた。
 あの事件の全貌と、鉄橋の上での対決は上条と美琴しか知らない話だ。それを事細かに説明できる以上、彼女が一〇年後の美琴である事は否定できない。
 しかし。
(この巨乳なお姉さんが御坂の一〇年後? ……嘘臭えー。美鈴さんが一〇年後の御坂の振りをしてるって方がまだ信用できるぞ)
 美琴と顔立ちに類似性が見られるものの、美琴(仮)はスタイルが別人のように変わっているのだ。服のセンスも、あけすけな性格にも、今の美琴の面影がほとんど見つからない。……性格は美鈴さんにそっくりな気がするが。
 美琴(仮)はこの時代の住人に一〇年後の美琴の情報が伝わらないよう演技をしていると言っていたが、本当に演技なのだろうか。
「なあ、それでみこ……じゃない、美南さん。元いた『場所』に帰る方法って何なんだ?」
「口で説明してもいいんだけど……何か書くもん貸してもらえる? たぶん二人には理解できないから、書く分には大丈夫でしょ」
 上条が学生鞄の中から使いかけの科学のノートとシャーペンを取り出して美琴(仮)に差し出すと、美琴(仮)は白いページにすらすらと公式を書き出していく。上条は横からノートをのぞき込んでいたが、最初の三文字目で何が書いてあるのか分からなくなって、両手で頭を抱えてその場に突っ伏した。
「……ねえ、みなみ。本当にこれはかがくの式なの?」
 美琴(仮)の隣でノートに書かれた公式をのぞき込んだインデックスの表情がどんどん曇っていく。
「ん? そうだけど? アンタこれに見覚えでもあんの?」
 美琴(仮)は公式をノートに書き込んでいた手を止めて、インデックスの方に顔を向ける。
「……うん。すごく見覚えがある。といっても、私が見たものとは逆なんだけどね」
「逆? 逆って何だ、インデックス?」
「……『復活の罪典』に載ってる術式と、みなみが今書いてる式ってよく似てるんだよ」
「ふっかつの、ざいてん?」
 何だか嫌な予感がする。猛烈に嫌な予感がする。この話は聞かない方が良い予感がする。
「うん。私が持ってる一〇万三〇〇〇冊の中にね、そう言う魔道書があるの。用途はそのままズバリの死者再生。と言っても死んだ人間を蘇らせるんじゃなくて、死んだ人間の時間を巻き戻す事で一時的に生き返らせるの。遺言を聞き直したいときとか、死んだ人の力を借りたい時に使うんだけどね。みなみがノートに書いている式は、その復活の罪典にある術式を、終わりから逆に書いているように見えるんだよ」
「……するってーと何か。美南さんがノートに書いている公式を逆向きに直せば、死んだ人間が生き返らせられると?」
 そんなのはもう魔術(オカルト)じゃなくて怪談(ホラー)じゃねえかよ、と上条はげんなりする。
「魔術師一〇〇人分くらいの膨大な魔力が必要になるけどね。それに、要所要所が復活の罪典にある術式と違うから、これを完全に逆に書き直してもそれだけじゃ無理かも」
「まどうしょ? 一〇万三〇〇〇冊? アンタ達二人で何言ってんの?」
 左右から意味不明の単語を口走られてキョトンとなる美琴(仮)。
「復活の罪典は、使い道だけなら単なる魔術書で済むんだけど……これが禁書目録に収められた本当の理由は死者再生ができるからじゃないの」
「? 何か隠しコマンドでもあんのか?」
「かくしこまんど、って何?」
「隠しコマンドって言うのは、本来使われるはずのなかった機能を、簡単には見つけられない方法で仕込んでおくって話よ」
 隠しコマンドについて知らないインデックスに、美琴(仮)が助け船を出すと
「?……とうまが時々買ってくる本に付いてる『ふくろとじぐらびあー』ってやつに似てるかも」
「お前はお黙りインデックス!」
 意外な流れで意外な話を暴露されて慌てる上条。

238パラドックスの確率(8):2010/03/15(月) 19:10:32 ID:2r2qZN.I
「とにかく、復活の罪典が禁書目録に収められた理由はね。……歴史改変ができちゃうから」
「歴史改変?」
 美琴(仮)が使った言葉をインデックスもまた口にして、上条の肩がギクン! と一瞬こわばる。
「人を一人生き返らせちゃうって事は、その人が本来歩むべきだった人生を『やり直させる』事につながるからね。本当だったら病気で死んじゃった人が、怪我で死んじゃう、なんて話になると『死んだ』って結論は同じでも、途中で通った道が違っちゃうから、未来に伝わる確定情報が変わっちゃうの。そうすると、後の世の人が困った事になっちゃう。たとえば、生まれてくるはずの人が生まれてこなかったりとか。とうま、『マラキの予言』を覚えてる?」
「ああ、あの変な預言書な。あれがどうかしたのか?」
「あれが魔道書にならないのは、過去に向かって送り届けられる情報が『予兆』に過ぎないから。曖昧な情報だから、あれで未来を知っても歴史改変にはつながらないの。でも、復活の罪典は使えば確実に未来が変わる。あの本は危険なの」
 使えば確実に、未来が変わる。
 つまり、一〇年前の、この時代にいる美琴が一〇年後の確定情報である美琴(仮)の姿を完全に把握してしまったら。
 最悪の場合、本来辿るべき時間がねじ曲がって一〇年後の美琴(仮)の存在が消えるかも知れない。
 そこで上条は美琴(仮)の顔を見た。
 美琴(仮)の書いた公式と、復活の罪典に書かれた術式はほぼ表裏一体。
 統括委員会と科学者達が神を否定しながら『神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの』を追い求めるように、魔術もまた才能なき者が才能ある者に追いつくために術を磨く。
 科学(サイエンス)はもう一つの魔術(オカルト)。魔術はもう一つの科学。
 上条は頭の中で一つの可能性にたどり着く。
 美琴(仮)の公式も復活の罪典も求めるものは同じ、時間の操作。
 美琴(仮)は失敗だと言っていたが、おそらく美琴は何らかの理由と手段で時間を操作しようと試み、予期せぬ『失敗』でこの時代へやってきた。
 しかし、上条が自分の推論について美琴(仮)に尋ねて、美琴が是と答えたら、その瞬間に歴史が変わってしまうかも知れない。
 これ以上『情報』を知るのは止そう。上条の右手でも扱いきれないほど危険すぎる。
 上条は口を噤み、視線を美琴(仮)の横顔からノートに書かれた理解できない公式の羅列に移して
「なあ。この公式、破いて捨てちまった方が良いよな?」
「そうね。読めなくなるまで粉々にお願い。後々誰かに解析されちゃうと困るしね」
「? その式なら私が全部読んで覚えちゃったけど?」
「しまった! インデックスそれ今すぐ全部忘れて! 色々と世界の危機だから即刻忘れて下さいお願いします!!」
「話がよく見えないけど、その『復活の罪典』とやらに書かれている術式を調べれば、次こそ実験を成功させられる……? ねぇ小っこいの、その術式って奴を私に教えてもらえないかしら?」
「? ……私は魔力がないし、覚えても誰かが聞いてこなければ答えたりしないからみなみの式については大丈夫かも。それに、私は復活の罪典に書かれてる術式について教えるつもりはないからね。魔道書の原典は常人が目を通せば発狂するから、そんな危ないものをみなみには見せられないんだよ」
 二人分をまとめて回答する魔道図書館こと銀髪碧眼シスター。
 ツンツン頭の少年はその言葉に安堵の、そして巨乳っぽいお姉さんは落胆のため息をついた。

239パラドックスの確率(9):2010/03/15(月) 19:11:05 ID:2r2qZN.I
 一方その頃、美琴はムカムカしながら早足で街の中を歩いていた。
「……マンガは見つからないし、不純異性間交友のあの馬鹿を締め上げようとしたけどいなくなっちゃうし、それにあの母さんそっくりの女はいったいアイツの何なのよ!?」
 念のため母・美鈴に電話をかけてみたが、
『いやー、美琴ちゃんが大きくなったらママそっくりになる可能性はあるけどねー』
 美琴の親族に美鈴似の容姿を持つ女性はいないという。
 しかし上条のそばにいたあの女性は、美鈴に生き写しだった。
 けれど、圧倒的に違うものがある。
 彼女が身に纏っていた電磁波は、美琴にもおなじみのものだ。
 間違いなくあの女は発電系能力者だ。しかも自分と限りなく能力の使い道もレベルも近い。
 大人の能力者がいるという話はほとんど聞かないが、この学園都市なら何があってもおかしくない。
 それとももっとぶっ飛んだ話で、知られざる家系の秘密が発覚したのかとも思ったが、別に美琴が王位継承権ルートに入った訳でもなければ、生まれた頃に取り決められた顔も知らない婚約者が突然花束を持って現れたりもしない。
 それにこの、肌を刺すようなピリピリとした空気が美琴には気にかかる。
 空を見上げれば、澄んだ川にペンキを流したように、空中をおかしな静電気の束が漂っている。
 静電気は空気中にまんべんなく拡散するので、普通こんな現象は発生しない。
 明らかにこの世界とは異質の何かが混じっている、と美琴は思う。
 それなのに、この静電気の流れを追い駆けようとすると、美琴が予想もしない場所へ放り出されてしまう。
 まるでそんなものはありません、いませんと遠ざけられているような気がする。
 誰かが意図的に迷路の出口を操作しているような奇妙な感覚に
「もう、いったい何なのよ、これって……」
 美琴は頭をガリガリとかきむしって、当初の目的だった本屋の前で立ち止まる。
 コンビニと合わせて本日二三軒目の訪問。
 これでお目当ての月刊少年マンガが見つからなかったらあのツンツン頭を訴えてやると美琴は心に誓う。
 罪状なんか何だって良い。
 強いて言うなら、乙女の心を踏みにじった罪にでもしておこうかと思いながら、美琴は本屋の自動ドアをくぐり抜けた。

240パラドックスの確率(10):2010/03/15(月) 19:11:54 ID:2r2qZN.I
「……歴史改変、か」
「そ。あの小っこいシスターも言ってたけど、ヤバいのよ、それって。本来通るはずだった筋道をずれると、たくさんの人に影響が出るの。生まれてくるはずだった命が生まれてこないとか、幸せになるはずだった人が不幸になるとかね。だから、歴史改変は絶対起こしちゃいけない訳」
『超機動魔法少女カナミンインテグラル』の再放送が始まったからと、インデックスはテレビに見入っている。
 上条と美琴(仮)は禁煙派から追い出された愛煙派のように、ベランダに出てしばし会話に興じていた。
 上条は教室の机に突っ伏すように両腕をベランダの柵に引っかけて自分の体を支え、美琴(仮)はベランダの柵に後ろ向きに肘をついて空を見上げる。
「さっきもう一つ言ってたな。時間犯罪、ってのは?」
「本来の歴史から過失で道を逸れてしまうのが歴史改変なら、改変を意図的に起こすのが『時間犯罪』。未来を自分の思いのままに変えてしまおう、とかね」
「時間移動って、大変なんだな……ミス一つが命取りかよ」
「まぁね。だから、当麻に色々しゃべっちゃうとまずいのよ。当麻が意図していなくても、聞いてしまった情報を元に当麻が動いてしまった場合、歴史が変わっちゃう可能性が高いから。だから当麻の力を借りるのに、詳しい事を何一つ話せなくてごめんね」
「手伝うのは問題ないけど、俺に何ができるってんだ?」
「当麻の右手は、異能であれば何だって打ち消す、だったわよね。じゃあ私がこの世界にとって異能の存在だとしたら?」
「……え?」
 もし美琴(仮)の言う通りなら、上条が美琴(仮)に触れた瞬間彼女はこの世界から跡形もなく消し飛んでしまう。
「……あれ? でもお前、さっきさんざん俺に抱きついてきたじゃん」
「そうなのよ。だから最初はちょっとドキドキしちゃった」
「その場合のドキドキってデッドオアダイじゃねえの!?」
「いやーん、この頃の当麻ってばホントかわいいー。女の子に興味があるくせに無理しちゃってさー。さっきだって私に抱きつかれて嬉しかったんでしょ? もう、正直に言ってよねー」
「俺をベタベタ撫でるな! 一体どこまで演技なんだよこの女!? ……あれ? そうすっとお前が実験しようとした理由って何?」
「んー? 妹達の件で当麻に助けてもらったからその恩返し?」
「……という嘘くさい建前はおいといて真実は何だ?」
「うわー、一ミリたりとも信用されてないなんて、この時代の当麻は冷たいのねー」
「だから何で今度は俺の胸で嘘泣きすんだよ?」
 美琴(仮)は嘘泣きの顔を笑顔に戻すと
「……あの小っこいのが言ってた通り、ここに来ちゃったのは偶然の産物、実験の失敗よ。いや、結果だけ見たら成功なのかも知れないけどね」
「じゃあやっぱり恩返しってのは真っ赤な嘘じゃねえか!」
「でもね、一〇年前のここに来て、当麻の顔を見たいって思ったのは本当よ。偶然でも何でも、会えて良かったわ」
「……そうか、そりゃ良かった」
「なーに? 私の目的が当麻に会いに来たからじゃないんでむくれてるの?」
 美琴(仮)は上条を見てニヤニヤと笑う。
「……お前が帰るのってちっと寂しいなって思っただけだ。インデックスもお前になついてたし」
「あらあらー、じゃあ寂しくないようにいい子いい子ぎゅーする?」
「いらねえよ! お前外見良いのにその性格で全て台無しだよ!!」
 上条は何を言ってもテンションが高いままの美琴(仮)にげんなりすると
「それより……そろそろお前が未来に帰る方法について教えてくれねえか? 話せる範囲でいいから」
「そうね」
 上条の言葉に、美琴(仮)は表情を真剣なものに変える。
「こっちの時間に飛んだときの機材をそのままこっちで作れればいいんだけどそれは無理っぽいから、私が私自身を飛ばす……って言えばいいのかな。私は今のこの世界にとって異物だから、いずれこの世界の手で『外』へ弾き飛ばされんのよ。その時の力を利用して、向こうに戻る」
「へえ。じゃあ時が来れば自動的に戻れるってことか? だったら……」
「異物と見なされて弾き飛ばされた存在に、世界は責任なんか取らないわよ。ここからいなくなればそれでオッケーなんだから。つまり、私が飛ばされた先の時代が、一〇年後の未来とは限らないってこと」
「お、おいおい!? それじゃお前、ちゃんと帰れねえじゃねえか!? それに、そんな話を俺にしてもいいんかよ?」
「あくまでも、これは私がさっき演算した結果に基づく推論だから、たぶんしゃべっても大丈夫。で、その推論を確実なものにするために、当麻の右手を借りたいのよ」
「はぁ? 俺の右手で何すんだ?」
「今は内緒。……頼りにしてるわね、当麻?」
 美琴(仮)は上条の右手を取って胸の前に掲げると、にっこりと笑って見せた。

241パラドックスの確率(11):2010/03/15(月) 19:13:58 ID:2r2qZN.I
 午後八時。
 上条と美琴(仮)はとある河原に立っていた。
「言われた通り呼び出したけどよ、お前がアイツと会ったらまずいんじゃねえの?」
「さっきは確かにそうだったんだけど、今なら大丈夫。もうすぐ私は消えるから」
「……消えるとか、嫌な言い方すんなよ」
 美琴(仮)の言葉に上条が眉をしかめると
「仕方ないもん。この時代にとって、私はいちゃいけない人間なんだからさ」
 美琴(仮)は苦く笑う。
 上条に話しかけられている間、美琴(仮)はずっと空を見上げていた。こうやって空気中の『情報』を読み取って、帰るための時が来るのを待つ。
 ここへ来るまでに何度も美琴(仮)は何度も演算を繰り返した。
 方程式の値を入れ替え、検証し、確信を持って元いた時代へ帰るための準備は整った。
 あとはあの子が現れるのを待つだけ。
「……来たわね」
 美琴(仮)は自分と同種の電磁波を感じ取り、土手の方を振り向くと
「……お待たせ。アンタに言われた通り来たけどさ。何? アンタはこの女といるところを私に見せつけたいの? それとも何か目的でもあんの?」
 常盤台中学の制服を着た、御坂美琴が現れた。
 美琴(仮)の一〇年前の姿で、
 頭から湯気が噴き出しそうなくらいに怒った顔で、
 全身から断続的に火花を散らして。
 美琴(仮)は笑いを堪えながら
「来てくれてありがとう、御坂美琴さん。早速で悪いんだけど、あなたとちょっと話がしたいのよ。……当麻、少し席を外してくれる?」
「……大丈夫か?」
 上条が不安そうな眼差しを美琴(仮)に向けると
「大丈夫よ。この子は私だもん。扱い方くらい分かってるわ」
「……あのさ、私を除け者にして勝手に話を進めないでくれるかし……らっ!」
 美琴の額から美琴(仮)に向かって、挨拶代わりに雷撃の槍が飛ぶ。
「……おっとっと。相変わらず気が短いのね」
 美琴(仮)が笑って槍を受け止める。
 雷撃の槍は美琴(仮)の腕を通り抜け、わずかな間に霧散した。
「おいビリビリ! いきなり雷撃の槍なんか飛ばすなよ! 危ねえだろ!?」
 美琴は腰に手を当てると、ニヤリと笑って
「……この女が電撃使いってのは分かってんのよ。威力を押さえた雷撃の槍程度じゃ通用しない……そうでしょ?」
「ご名答。さすが学園都市の第三位。……当麻はちょっと離れてて。このじゃじゃ馬は少しばかり危ないから」
 美琴(仮)は同じ笑顔を美琴に返す。
「じゃ……ッ、じゃじゃ馬!? ちょっとアンタ! 人をつかまえて良くも……」
「……ヤバくなったら呼べよ?」
「当麻ったらやっさしーい。それでこそマイダーリンよね」
「なっ!? 変な事言うなよ! 俺向こう行ってるからな」
 上条は一度振り向き、美琴(仮)に向かって『冗談は止めてくれよ』と言うと、美琴達から離れた土手まで走って振り返る。そこで二人の会話が終わるのを待つつもりらしい。

242パラドックスの確率(12):2010/03/15(月) 19:15:41 ID:2r2qZN.I
 美琴(仮)は上条に向かって手を振ると、美琴に向き直り
「……さて。何から話そうかな。話してもあなたはたぶん全部忘れちゃうんだけどね。何しろ私も今の今まで『忘れてた』から」
「は? アンタなに訳の分かんない事言ってんの? それより、アンタも電撃使いってんなら私と勝負しなさい。アンタに勝ってから、アンタのご託を聞いたげる」
「はいはいストップストップ。決着の時間ならあとで作ってあげるから、今は私の話を聞いてくれる?」
 美琴はいらだたしげに革靴の爪先でトントンと地面を叩いて
「……アンタの話ってのは何? アンタがあの馬鹿の事を馴れ馴れしく名前で呼び捨ててる事? それともダーリンとか呼んでアンタ達がいちゃついてる事?」
「……今にして実物と対面すると、ホント昔の私って気が短かったのね。これじゃ当麻が嫌がる訳だ、うん」
「アンタ一人で何納得してんのよ? さっさと話ってのを始めたら? 私忙しいんだからさ。あの馬鹿がどうしても来てくれって言うからここに来ただけなんだし」
「いやー、過去の自分のツンデレっぷりに頭が痛くなってきたわね。……じゃ、本題に移りましょ。あなた、時間移動能力者って知ってる?」
「……知ってるわよ。まだこの学園都市でも現れていない幻の存在よね。科学者達は念動力の発展系って考えてるらしいけど」
「そう。今も科学者は必死に研究してるだろうけれど、実は一〇年経っても時間移動能力者はまだ現れないのよ。それで、私は別のアプローチで時間移動の研究を始めたの。科学の力で、時間を操ろうとした訳。私が持つ能力を、移動のための動力として使う事でね。私はアンタと同じように空気中の電子線や磁力線を読み取る事ができる。もし、その応用で『時間の波長』を読み取って演算できるとしたら?」
「……できる訳ないでしょ、そんな事。アンタは夢見がちなおばちゃんだったのか」
 おばちゃん呼ばわりされても、美琴(仮)はひるまない。
 それどころか余裕の笑みを浮かべて
「ところができちゃうんだな、これが。さらに言えばあなたは学園都市第三位にして最高の電撃使い。最高出力は一〇億ボルト。これだけ瞬間的に出せれば、小型発電所並に電力を供給できる。……違う?」
「そりゃ私は学園都市の第三位……あれ? 何でアンタの話なのに、私の話が出てくんのよ?」
「あなたは私。私はあなた。私はね、一〇年後のあなたなのよ。……初めまして、『私』」
 そこで美琴(仮)は美琴に向かって優雅に一礼する。
 今ここで美琴としゃべっている内容は、美琴自身がすぐに忘れてしまう。だから好きなだけしゃべる事ができる。
 何しろ、上条美琴自身も忘れていたのだから。
「今から九年後の学園都市で、私……つまり九年後のアンタは時間移動の研究に着手する。時間移動に使用する試作機のエネルギーは自分の能力でまかなって、研究に研究を重ねて一年、ようやく時間移動実験の第一回目を迎えたの。結構これが大変でさ、それでも初期の予定では『三〇分後の過去』へ飛ぶのが限界のはずだった。ところがどうも計算式に抜けがあったみたいでね、一〇年前の今日へ飛んじゃった、と言う訳。時間移動そのものは成功。けれど、とんだ大失敗……だったんだけど」
 美琴(仮)はかつての美琴のようなしゃべり方に戻して、話を続ける。
 上条は離れたところに立っていて、二人の会話は彼の耳には入らない。
「予定していた時間への跳躍は失敗し、私は過去へやってきた。ここに来てからだいぶ時間は経ってるけれど、能力の回復はいまだ全快にはほど遠い。そこで私は『気がついた』。この時間跳躍は偶然じゃない。必然だったんだって」
「……意味が分かんないわね」
 美琴は横に首を振る。
「アンタは私。だから分かんないふりをすんのは止めた方が良いわよ? 私はね、過去の私、つまりアンタに会うためにここに来たのよ。誰が仕組んだかは知らないけどね」
「はぁ? 何のためによ」
 美琴は未来の自分と向かい合うと、自分にどことなく似た女性をキッと睨み付ける。
「アンタさ……好きな人いるでしょ? その人の名前は上条当麻」
 美琴(仮)が美琴に指摘すると、美琴は顔を真っ赤にして
「……べっ、べっ、別に、あの馬鹿の事なんてこれっぽっちも好きじゃないわよ。本当よ?」
 目に見えて狼狽する。
「あのさ、私が私に向かってごまかしてどうすんのよ。アンタが今ここでちんたらやってっと、未来の私に影響が出る訳。だからさっさとくっついてくれる? 私と当麻が幸せに暮らすためにもね」
「……私と、……当麻?」
「そう。私は一〇年後のアンタなんだけど、一〇年後のアンタは上条当麻と結婚して上条美琴になってんのよ。で、アンタはこれからアイツに告白すんの。今日、この河原でね」

243パラドックスの確率(13):2010/03/15(月) 19:19:43 ID:2r2qZN.I
「……馬鹿馬鹿しい。与太話はここまでね」
 美琴が唇をギリ、と噛みしめる。
 直後、茶色の前髪が静電気を帯びてふわふわと浮かび始めた。
 美琴(仮)ではなくなった上条美琴は両手をわたわたと振って
「いやいやホントだから。ちょっと落ち着いてくんない? 毎日ムサシノ牛乳一リットル飲んでたってカルシウム全然足りてないんじゃないのアンタ?」
「ちょ、ちょっと! どうしてアンタがその話を知ってんのよ? 黒子だって知らないわよ?」
 美琴は放電を止めると、上条美琴に詰め寄る。
「だから、アンタは私なの。同じ事知ってて当然じゃない。牛乳飲んでる理由も知ってるわよ。……もうちょっと大人っぽいボディになりたい、というより胸が小さいのを気にしてるからよね? でもね、毎日牛乳飲んでもダメだから。アイツに協力してもらった方が早いわよ?」
「……あ、アイツって?」
「あそこにいるツンツン頭だけど?」
 上条美琴は、土手でぼけーっとしている上条を指差す。
「ばっ、ばっ……ばはば、馬鹿じゃないのアンタ? 何をどう協力してもらうのか知んないけどさ、そんなんで大きくなる訳……」
「都市伝説とか眉唾もんとか良く言われるけどさ、んー、愛の力って奴? 経験者がここにいんだからちったあ信じなさいよ」
 上条美琴は『ほらこんな風に』と親指で自分の胸を指し、美琴がそれを食い入るように見つめる。
「……大体私の話はこんなところかな。で、何か質問とか感想とかってある?」
「……本当に牛乳飲んでもダメなの?」
「質問ってそっちか。……私らしいと言えばらしいけど」
 上条美琴は苦笑すると
「うん、ダメダメ。牛乳の習慣は固法先輩を見習って始めた事だけど、先輩が大きくなったのは違う理由だと思うわよ? つか、固法先輩がムサシノ牛乳で大きくなったって言う確証がそもそもどこにもないじゃない」
「…………そうだったんだ…………」
「い、いやあのね、そんな涙目になって落ちこまなくて良いんじゃない? アンタはこれからなんだからさ。元気出しなさいよ、ねっ?」
 美琴は上条美琴の励ましに、ううと唇を震わせつつ上空を指差して
「それから、このヘンテコな静電気の発信源はアンタよね? 何でこんな事になってんの?」
 上条美琴もつられるように空を見る。
 二人の超能力者は、空中に飛び交う電磁波や静電気を能力で読み取ると
「推測だけどね……たぶん私が本来ここにいてはいけない人間だからだと思う。私の存在はこの世界の摂理って奴に反してるから、世界そのものによって排除されかかってんのよ。だから私の体に帯びてる電磁波も静電気も、この世界から『弾かれて』異物として引っかかってんのよ。今こうしてアンタと話している内容も情報という名の『異物』だから、私がこの世界を離れたら、世界の摂理によっておそらく一斉に消去されるわね。例外は当麻の右手……あの右手はいろんなものを跳ね返しちゃうから、当麻に話した内容だけは残っちゃうけど、当麻が人に話してもたぶん誰も信じてくれないと思うわ」

 確証のない、推論ばかりの話。
 実験データを積み重ねなければ裏付けさえ取れない話。
 それでも、一〇年前の自分に聞かせておきたかった。
 上条美琴が一〇年前に御坂美琴だった頃、ひょっこりやってきた『上条美琴』に聞かされた話を。

「この世界が私を排除しようとする力を逆手に取って、私は元いた時代へ帰る。手順としてはこうね。まず、私をここから排除しようとする力が、私を『外』へ放り出すために世界に穴を開ける。次に、開いた穴から時間の波を読み取って、元いた時代に向かって『時間のレール』を電撃で作る。最後に、当麻の右手の力を使って、この世界と『私』の接続を断ち切ってもらう。こうすれば、ゴム紐に引っ張られるみたいに、私は世界の『排除する力』を振り切って、元の時代へ帰れるって寸法ね。……一か八かだけど」
「……本当にそんなんで帰れんの? そんな都合のいい話ってあんの? それって失敗するかも……」
「帰るわよ、絶対に。向こうじゃ私の旦那が今頃首を長くして待ってんだから」
 上条美琴は揺るぎない自信を微笑みに乗せる。
「ねぇ、最後に聞かせて。……一〇年後のアイツって、どんな感じ?」
「……優しいわよ。優しすぎてフラグ体質に拍車がかかってっけどね」
 上条美琴は美琴の肩をポンポンと叩いて
「……そろそろ時間だわ。最後に、私が元の時間に帰るためにアンタに協力してもらいたいんだけど、いい?」
「……いいけど、何やればいいの?」
「アンタの全力を私に叩き込んで。それだけでいいから。アンタの電気をもらって、それで私がレールをかける」

244パラドックスの確率(14):2010/03/15(月) 19:21:29 ID:2r2qZN.I
「ちょ、ちょっと! いくらお互い電撃使いと言ったって……それに教えてくれれば私がレールをかける方法だって……」
 美琴がうろたえながら『本当にそれで良いの?』と上条美琴に問いかける。
「今のアンタじゃ無理なのよ。より強固な自分だけの現実と高度な演算が必要になるから。……大丈夫、私を信じなさい。きっと最後はうまく行くわよ」
「……やけに自信たっぷりな自分って何かムカつくわね」
「私はツンデレだった過去の自分を穴掘って埋めたいくらいよ。それじゃ、そろそろ当麻を呼ぶから、アンタは私が合図をしたら全力でよろしく」
 そこで上条美琴と御坂美琴は顔を見合わせて、同じ顔で大きな声を上げて同時に笑った。


「当麻ー、おまたせー」
 上条美琴が土手から戻ってきた上条を『やっぱりかわいいー、連れて帰りたーい』と騒いで抱きしめる。
 上条が焦りながら『お、おいこらよせって』と上条美琴を引きはがそうとする。
 それを見た美琴のこめかみにビキリと青筋が立つ。
「……で、どんな感じ?」
 分かってても堪えきれない何かに美琴が拳をブルブルと震わせながら上条美琴に問いかけると、上条美琴は人差し指で天を指し示して
「見える? あれが、私をこの時代の外へ吹っ飛ばそうとする力って奴よ。私を追っかけて発生するなんて、まるで掃除機ね。やだなー、推測通りになっちゃった。向こうに帰ったら論文の書き直しだわ」
 見上げた空に黒く大きな穴が、渦を巻くように開いていく。
 穴は、まるで空に浮かぶ悪意の塊のようだった。
 空に開いた巨大な穴から、黒い光が美琴(仮)の両肩にゆっくりと降りそそぐ。
 世界の摂理が、いよいよ美琴(仮)を『外』へはじき出すべく干渉を始める。
「……で、このままぼーっとしてっと私はあれに吸い込まれちゃうと思うから、アンタは本気の電撃をよろしくね。で、当麻は最後に、力いっぱい私に向かって右手をぶつけて。……いい?」
「ホントにそんなんで帰れんのか?」
 この時代に未来の情報を残さないために、上条は『美琴』が未来に帰る手段について、詳細な説明を聞かされていない。
「あれにつかまったら私は一巻の終わりだからね。当麻は私の足元に伏せて、準備してて」
 美琴が走って上条美琴から距離を取ると
「……では、遠慮なく……」
 美琴は空に向かって右手を掲げる。
 バチバチという火花は、やがて青く揺らめく閃光に、
 閃光は大地と空をつなぐ火柱に、
 何かがはじけるような音は、やがて足元を震わせる轟音に変わった。
「……いけえっ!」
 美琴から虚空へ、虚空から上条美琴に向かって、一〇億ボルトに達する光速の雷撃の槍が発射される。
 同じように右手を空に掲げた上条美琴が空から降る雷撃の槍を受け止め、即座に演算を展開し、その身に受けた電気を全て自分の中に蓄えようともがく。
「……、大丈夫か?」
 上条美琴の足元にしゃがみ込んでいた上条がおそるおそる目を開けて見上げると
「だい……じょうぶ……演算は成功、充電は……完了、ってね。レベル5同士の電撃の交換なんてやった事ないから本当に一か八かだったけど」
 上条美琴は少しだけ笑って
「ありがと、手伝ってくれて。当麻に会えて、あの子に会えてよかった。……当麻」
「……何だ?」
「一〇年後の世界で会いましょ……必ずよ」
「ああ。それじゃ……行くぞ」
 上条美琴が空に向かって伸ばした右手から、細い糸のような光が虚空に開いた穴に向かって伸びていく。
「こっちはいつでもオッケー……これで向こうと『つながった』。あとはアンタの全力でお願い」
「元気でな。……また会おうぜ、美琴!」
 上条当麻は立ち上がり、大振りに構えた右手の拳を、上条美琴に向かって突き刺すように、

 振り抜いた。

245パラドックスの確率(15):2010/03/15(月) 19:22:23 ID:2r2qZN.I
 何かを殴りつけた感触はなかった。
 空に開いた穴はもう見あたらなかった。
 上条美琴の姿はどこにもなかった。
 上条は手応えのない拳を見つめ、呆然とする。
「夢……じゃ、ねえよな」
 上条が人の気配に振り向くと、そこには一瞬で最大出力を使い、虚脱状態となった御坂美琴が立っていた。
「御坂?」
 上条の呼びかけに、美琴は夢から覚めたように肩を一度震わせて
「あれ? ……私、ここで何やってたんだっけ? マンガを探して、アンタに呼び出されて、ここへ来て……それから……何してたんだっけ……雷撃の……槍を……」
 どういう理屈なのか分からないが、上条の前から一〇年後の美琴は消えていた。
 どういう理屈なのか分からないが、御坂美琴の記憶から一〇年後の美琴の事は抜け落ちていた。
 詳しい事情を何一つ聞かされていない上条は、『私、こんなところで何してたんだっけ』という美琴の問いに答えられない。
 だから、上条は笑ってこう言った。
「お前、立ったまま夢でも見てんじゃねーの?」
「ゆめ? ……そっかこれ、ゆめなんだ……だったら、ゆめなら、いいよね……」
 夢と現実の境目が見えなくなったような口ぶりで、美琴が何かを呟きながら、ふらふらと上条に歩み寄る。
 おぼつかなげだった美琴の歩みがピタリ、と止まった。
 どこかぼんやりとしたまま、肩の力が抜けたままの美琴は、上条を見上げるように
「あのさ。私は、アンタの事が―――――――――――――――」


「――――――――――――――――――――――――美琴ッ!」
 重いドアを蹴飛ばして、一人の男が美琴の名前を叫んで病室に転がり込む。
「病室ではお・し・ず・か・に」
 ベッドの上の上条美琴は、人差し指を唇に当てると、床に這いつくばるように病室に飛び込んできた上条当麻に微笑んだ。
「馬鹿野郎! 実験の最中に姿が消えたって聞いて、俺は死ぬほどビックリしたんだぞ!? 無事か? 痛いところはねえか? 気分はどうだ? 熱は?」
「大丈夫よ。『向こう』からの時間移動に成功したけど、戻ってきた場所がまたしても歩道だったから、転んでちょっとすりむいただけ。念のため精密検査を受けたけど異常なし。今夜はここにお世話になるけど、明日には退院できるから」
「そうか……よかった……」
 上条はほっと安堵の息をついて、備え付けの見舞い客用パイプ椅子に座り込む。
「お前がこの学園都市で最高レベルの電撃使いなのは知ってるけど、だからってもうあんな実験に参加するのは止めてくれ。俺の寿命が縮んじまうよ」
 上条は硬く目を閉じ、首を横に振る。
 美琴はそんな上条を見て微笑むと
「当麻も過去にこの『私』と出会ってんだから分かってる通り、今回の実験結果は『起こるべくして起きた失敗』だもん。今回の失敗を糧に、より安全な時間移動を目指すつもりよ、私は」
「だけど俺は……」
「ホント、当麻は頭が固いわよね。一歩でも前に進もうとする夢と意欲に溢れてて良いと思うんだけどなー、時間移動って」
「夢に溢れてんのは結構だけど、俺を悲しみの涙で溺れさせないでくれよ。お前がいなくなったら俺はどうすりゃいいんだ」
「あはは、ホント当麻って甘えんぼさんね。昔の当麻が嘘みたい。昔の当麻は、あれはあれでかわいかったけど、こっちの当麻もかわいいわねー」
 美琴はぎゅうううっと上条の頭を抱え込んで抱きしめると
「そう言えばさ、向こうの当麻が『私』に言ってたんだけど……『外見は好みなのに性格で全て台無し』ってどういう意味かしら?」
 そのまま上条の頬をぎゅううっとつねる。
「いはいいはいいはい!(いたいいたいいたい!)そ、そんな昔の俺が言った事なんて責任取れっかよ! 大体、その頃の俺はお前とまだ付き合ってもいなかっただろ!? だからつねらないでごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 美琴は上条の頬から手を離すと
「でもさ、こうして当麻と私が一緒にいるって事は、向こうの私はうまくやったみたいね」
「……一〇年後のお前がいなくなって、『お前』の記憶がすっぽり抜け落ちたお前が、寝ぼけてるんだと思って俺に告白してくんだからビックリだったな。お前がもっと素直になってくれれば、俺から告白しに言ったのに」
「……だったら時間移動で歴史を変えてくる?」
「止せよ、『今』の俺達の幸せが壊れちまうって。ともかく、約束通り一〇年後のお前に会えて良かったよ、美琴」
 とある病院のとある個室で、時間移動から帰ってきた少女と時間移動に出くわした少年が笑いあって、時間が過ぎていく。
 一〇年前の二人に思いを馳せて、一〇年後もこうして笑い会える事に感謝して。
 一〇年前の二人と、一〇年後の二人の時間移動騒動劇は、こうして幕を下ろした。

246D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/15(月) 19:22:54 ID:2r2qZN.I
 終わりです。
お邪魔しました。

247■■■■:2010/03/15(月) 19:34:50 ID:ttSLLe06
>>246
GJです!こういう風にもっていきまましたか。さすがD2さんです、うまい!!
しかし、美琴の胸の大きさの理由から考えると、美鈴さんの胸も(ry

248かぺら:2010/03/15(月) 19:42:52 ID:FWowyk7c
こんちは。
Dairy Lifeが投下できるレベルまで来たんですが、
しばらく様子見ますね。


>>223
黒子の戻ってくるタイミングが秀逸すぎる。
というか、初春を使って盗み見てたんじゃないかとww
このあと上条さんが入院して、逆「あ〜ん」ですね!


>>246

24歳美琴……やべぇ、好みかもしれん(爆)
10年で変わった美琴に対して、上条さんはあんまし変わってないなー。
GJでしたっ!

249■■■■:2010/03/15(月) 19:43:42 ID:4zhWP5.6
>>246
本当に書いて下さるとは……
GJです!

250■■■■:2010/03/15(月) 20:28:52 ID:rO3XddBU
美琴が時間移動なんて常識ハズレな事をしようとするなら
その理由は某漫画みたいに死んでしまった最愛の人に逢うためにとかの方がしっくり来るな
その方が美琴らしい気がするし

251■■■■:2010/03/15(月) 20:47:35 ID:CBOjNjPI
あの時読めなかった月刊マンガを読むために(違

252■■■■:2010/03/15(月) 20:56:08 ID:2r2qZN.I
>>251
盲点だったΣ
しまったそっちをオチにすれば(ry

253かぺら:2010/03/15(月) 21:10:33 ID:FWowyk7c
そろそろいいかな?


シリーズタイトル:Dairy Life
*part2「月曜日(ホリデイ)」は>>30-33>>68-75です。

とりあえず、前半を投下。
21:15より4レス借ります。

254繋ぐ手(ラヴァーズ)1:2010/03/15(月) 21:16:01 ID:FWowyk7c
美琴が上条を名前で呼ぼうと決意してから、10日が過ぎた。
あの一件以来、美琴は上条と会っていない。
初春らに言われた『名前で呼ぶ』事を意識しすぎ、どういう顔で会えばいいのかわからないまま時が経ったという状態だ。
ワザと上条と接触しないような行動パターンをとったりしている割には、メールはしっかりと送っている。
せめてメール内で『当麻』と読んでみようかと思ったが、指が4のキーを押す事もなく撃沈した。
あれから10日、と言う事は勿論、月曜日は通過しているのだが、『今週は立ち読みしちゃったから』とか言い訳してスルーしてみたりもした。
上条からの返信に『準備してたのに来ねぇとなると寂しいな』なんて文があったものだから、その日は一日中幸せだったりもした。
以前、水曜日の雑誌は買わないのか、と聞いてみたが、週に2冊は厳しいですのよ、との答え。
もし水曜分も買っていたのら、それを口実にも出来たな、と美琴は思う。もっとも、いざ現実となると自分から行くなんて出来なさそうではあるが。
そんな悶々とした10日間、初春や佐天は会うたびに意味ありげな視線を送ってくるし、黒子は黒子でじっとりとした目で見てくる。
何も悪い事はしていないのに、責められているような後ろめたい気分で落ち着かない美琴であったが、焦って自爆するわけにはいかない。
初春や佐天相手ならまだしも、上条本人に自爆しようものなら死んでも死にきれない。
―――だぁぁぁっ、無理っ!どんな顔して呼べばいいのよ。こんなことなら初めから名前で呼んでおけば―――
そこまで思って気付く。そういえば、上条本人から名前を聞いたことがあったか。
右手に宿る能力を知るために『書庫』にアクセスした時に知ったのだが、本人から聞いた覚えが無い。もちろん、尋ねた覚えもない。
―――なんと、まぁ―――
意外なる事実に今さら気付いた美琴であったが、これは逆にチャンスなのではないだろうか、と思案する。
―――名前の話題から繋げれば……よーし―――
妄想もとい暴走を始めた美琴の頭は外の一切を排除し、上条との接触プランを練る。
もはや、上条一色なのだが本人はあくまで認めていない。どんどん小さくなっていくプライドがどこまで持つか。美琴が素直になるのはもう目の前だ。
えへへ、と妄想にふける超電磁砲は、教室中の目線をいつもと違う意味で集めている。
その場に居合わせた先生でさえ、触れずにスルーを決めたほどの不気味な美琴は後々まで語り継がれることになる。
絶賛授業中。この日、常盤台のエースのノートは真っ白のまま進むことはなかった。

255繋ぐ手(ラヴァーズ)2:2010/03/15(月) 21:16:49 ID:FWowyk7c
美琴と会う事のなかった10日間、上条の生活は劇的な変化を遂げていた。
インデックスがおかしい。
初日はその尋常じゃない事態に、新手の魔術でも発動しているのかと思ったくらいだった。
何がおかしかったか。その始まりは、夕食前のインデックスの一言だった。

「とうまー、私も何かお手伝いするんだよ」
「はいっ!?」
なんと言いましたか、インデックスサン?、と聞き直してしまった。
どういう風の吹きまわしかは分からないままであったが、一生懸命に手伝ってくれる――失敗ばかりだったが――インデックスはとても愛らしかった。
その日を境に、インデックスが妙に丸くなったような気がした。
いざ夕食を食べるときになっても、「とうまもたべなきゃだめだよ」と言いだす。
いつもは量に大差があるのだが、それ以降は同じものを食べることになっていた。
それでもインデックスは妙に楽しげだったし、食後寝る前までテレビの虫だったのに、なにかにつけて話かけてきたり、遊ぼ遊ぼとやってきた。
そんな新生インデックスは、外に出るとどうも色々と悩んでしまう上条の心を癒してくれていた。
―――インデックスも、女の子だもんな―――
鈍感マイペース純情少年である上条がそう思えるくらいに、インデックスは可愛い女の子になっていた。
以前とのギャップのせいもあるかもしれないが、上条は目の前にいる銀髪のシスターとの暮らしを楽しんでいる。
ただの噛みついてくる居候から、隣に並ぶ同居人に。

上条にとって、インデックスはかけがえのない人である。それは確かだ。
そんな事を思うたびに、自分が彼女を偽っている罪悪感に悩まされていく。
―――俺は、どうすればいい―――
四六時中、そればかりを考えている。少しずつ、自分の精神が削られていっているような、気が狂いそうな状態。
上条は大きく溜息をつく。神の右席をも破ってきたが、今度の壁はそれよりずっと大きなものだった。

256繋ぐ手(ラヴァーズ)3:2010/03/15(月) 21:17:22 ID:FWowyk7c
上条は迷っていた。
終業後の教室で1人考え事をしてしまうくらいに。
―――帰る、か―――
重い腰を上げ、帰り支度をする。ふらふらと考え事をしながら、昇降口を目指す。
職員室の前から小萌先生が見ていたのだが、上条は気付かない。
答えの出ない迷宮をさまよいながら、上条は悩んでいた。
美琴の事は嫌いじゃないし、アステカの魔術師には守るとも言った。それは確かだ。
でも、それでいいのか。単純に弾き出した答えでいいのだろうか。
インデックスは、この身の不幸体質は、右手に宿る幻想殺しは、そして何よりも『記憶喪失』は……
自分と向き合い、自分と闘う。上条の前にハードルは多い。1つ1つ解決するしかないのだが、自分だけで答えの出ないような気がする。
かといって――
―――相談できるような悩みでもねぇしな―――
そもそもあまり悩みを打ち明けない上条にとっては地獄のような気分だった。
校門に向かいながら空を見上げる。オレンジ色の夕焼けがあたりを染めている。
「どうしたらいいんだろうな」
上条は呟く。答えは―――
「自分の、やりたいようにやればいいんじゃない」
声につられ、目線をおろすと校門の外に美琴が立っていた。
「御坂………久しぶりだな」
「えらく元気ないじゃない。私に会えなかったからかしら?」
腰に手をやり笑う美琴を見て、上条は心が軽くなるような気がした。
―――単純だな、俺も―――
自分の安さを認識して、頬が緩む。自嘲気味ではあったが、ひどく久しぶり笑ったな、と上条は思うのだった。
「こんなところまで来て………待ち伏せか?」
「アンタに………当麻に話があったから」
辛そうな上条から目を逸らしてしまったことに嫌気を感じながら美琴は素直に答える。
上条が元気に「よっ、御坂!久しぶりっ」なんてテンションで話しかけて来たら、電撃の1つでもお見舞いしていたかもしれない。
「話、付き合ってくれる?」
美琴は逸らしていた目を上条に戻す。上条は驚いた顔をしていた。
「お前、今、当麻っつたか?」
「なによ、ダメだった?」
目を丸くする上条の顔が面白くて、微笑んでしまう。美琴はその勢いのまま、ちょっとだけ皮肉をこめて言い返す。
「いや、悪くはないんだが……今までアンタとしか呼ばれなかったから」
「そりゃそうよ。アンタ、私に1回も名乗ってないのよ?」
「あれ?そうだったっけか。なんとまぁ、上条さんは気付きませんでしたよ」
はははっ、と笑う上条につられ、美琴も笑う。
上条はその美琴の笑顔に荒れた心が癒されるような気がした。

257繋ぐ手(ラヴァーズ)4:2010/03/15(月) 21:17:52 ID:FWowyk7c
「で、なんだ御坂、話って言うのは?」
「歩きながら話す」
美琴はそう言うと歩き出した。上条も美琴の隣に並んで、歩調を合わせる。
「あのね。話っていうのは、アンタの、当麻の迷ってる事の話」
「……分かるのか?」
上条はちらりと美琴を見る。その表情からは感情は読み取れないが、少し怖がっているようにも見えた。
「当麻は、そんな性格だから誰も頼ろうとはしないと思う。だから、これから私が言う事は、私個人の意見。気に入らなかったら、聞き流して」
「…………」
「正直、記憶喪失の事とか、インデックスの事は私が口を出せる話じゃないわ」
「…………」
美琴は真っ直ぐ前を向いたまま続ける。いつものハキハキした声ではないが、ゆっくり心に染み込むような声。
「どうせアンタのことだから、不幸体質とか気にしてるだと思う。周りに迷惑がかかるんじゃないか、って」
「別に俺は、そんなできた人間じゃねぇよ。自分の事で精一杯だ」
上条が口をはさむ。実際、美琴の言っている事は殆どあっている。自分だけならまだしも、近くにいる人を不幸に巻き込みたくはなかった。
「ううん。他人の事まで自分の事のように考えられるからそう思うだけ」
美琴は首を横に振り呟く。言葉1つ1つが上条の心に響く。
―――例え俺が他人の事を思える人間でも、不幸を撒いてしまう事には変わりはない―――
美琴の優しさに感謝しつつも、上条は譲らない。
「右手の力が戦いを呼んでしまうから、近くに人を置きたくない。何でも1人で背負おうとする」
人には自分を頼れっていうのにね、と美琴は続ける。
上条にとって一番痛い話を、美琴はしていた。美琴自身もその事は分かっている。
―――全部、バレてんじゃねーか―――
敵わないな、と漏らし、上条は立ち止まる。それに気付いた美琴も、上条の半歩前で立ち止まる。
「……なぁ、御坂。なんで、わかったんだ?」
「私を誰だと思ってんのよ」
観念したかのような上条の前で、美琴はふふんっ、と笑ってみせる。内心はこのあと言おうとしていることによる不安でいっぱいだ。
「さすがは、レベル5。いや、常盤台のお嬢様ってトコか?」
「ううん。私がレベル1のままでも、その辺のただの中学生でも分かったと思う」
美琴はそこまで言うと俯く。手汗が酷い。鼓動の音がやたらと大きく聞こえる。
上条は見た。目の前の少女は何かを決心したかのような目をしていた。
「私は、アンタが、当麻の事が好きだから。だから、気づけたんだと思う」
美琴は顔を上げずに、小さな声で言う。本当に小さな声であったが、上条には大きく強い芯をもって聞こえた。
「当麻の人を気づ付けないよう気にしすぎる優しさも、不幸を体質だって笑い飛ばしてしまうところも、私の全力を受け止めてくれる右手も、全部まとめて、大好きなの」
上条は雷に打たれたような気がした。美琴が自分を好いてくれているかもしれない、ということは自意識過剰かなと思いながらも薄々感じていた。
ただ、目の前の少女は今、何と言ったか。
自分の欠点でもあるおせっかいも、呪いたい不幸体質も、争いの種になる右手も、全てを含めて好きだと言ってくれた。
上条は気付かない。自分の目から涙が流れていることに。たった1粒の涙。
記憶喪失になっても、殺されかけても、流さなかった涙。
「ありがとう、美琴」
10日前にも言った言葉。込められる想いの差は、上条のみぞ知る。
「全部片づけられたら、答えるから。待っててくれ……どういう答えになるかは、分からないけど」
わりぃな、と上条は笑った。心の奥から、本当の上条当麻として。
「待ってる」
美琴も応える。10日前と同じ言葉で。込められたる想いはやはり、美琴のみぞ知る。
夕焼けのオレンジが2人を照らしていた。

258かぺら:2010/03/15(月) 21:19:10 ID:FWowyk7c
以上です。

悩む上条さん書いてたらテンション下がってきた。
はやく幸せにしてあげないと……

というわけで、おやすみなさい。

259■■■■:2010/03/15(月) 21:21:14 ID:7zuhepKE
>>246
GJです!
ラブラブな二人で2828しますねw

260■■■■:2010/03/15(月) 21:27:37 ID:7zuhepKE
>>258
リロードしてなかった…
GJです!

悩んでいる上条さんっていいじゃないですか
その先に幸せがあるから、頑張れと応援したいです!

261■■■■:2010/03/15(月) 21:29:37 ID:CBOjNjPI
>>252
ちょw
まさかそういう反応が返ってくるとはww
まぁ雑誌のバックナンバーを読む手段はいろいろありまするが。

>>258
なるほど、週に2冊は買えませんか上条さんw

262■■■■:2010/03/15(月) 22:18:46 ID:Vec6ZYJ2
>>258
おやす美琴
全裸で期待してます

263ナヒるハ:2010/03/15(月) 22:35:44 ID:PK6ch5g2
>>246
>>258
お疲れ&GJ!!
毎度楽しませてもらってますー。

皆様に続けとばかりに、
昨日の続きを投下させていただきます。
問題なければ23時ごろから始めますので、よろしくです。

264ナヒるハ:2010/03/15(月) 23:04:11 ID:PK6ch5g2
それでは、投下いたします。
6レスほど頂きます。

タイトル:ミコトラプソディー
>>196>>200 の続きとなります。

265ミコトラプソディー <2 - 1/6>:2010/03/15(月) 23:05:48 ID:PK6ch5g2

狂想曲2 [禁書目録]

上条当麻の家には居候がいる。
男ならともかく年頃の女の子である。
御坂美琴はその事を知らない。
だからこそ、問題なのである。

「――――へぇ、ここの七階にアンタ住んでるんだ」
「あ、ああ……」
「じゃあさっそくエレベーターで上がっていきましょうかね」

まるまる膨らんだ袋を持つ美琴が急かすように先へと歩いていく。
逆に同じく袋を持つ上条の歩みは遅い。それはもう亀のように。ナマケモノのように。
なぜって、この先に起こるであろう事態が予想できるからである。

「(どうしようどうしましょうどうしたらいいんでしょう?! このままだと俺の命と家の中が滅茶苦茶になっちまう。なんとしても美琴とインデックスを会わせないようにしなければ)」

さっきからいろいろ頭の中で考えるも、良い案は浮かばず。
そもそも他人頼り程危ないものはない。

「ほら、どうしたの当麻。そんなゆっくり歩いて」
「な、なんでもありませんの事よ?」
「そう? じゃあ、七階っと」

美琴が七階のボタンを押すと、エレベーターは上下の振動と共に動き始めた。
いよいよその瞬間がやってくる……。

チーン、と言う音がしてエレベーターのドアが開いた。
右に曲がって二つ三つ先のドアが上条家だ。
ふと目に入る一つ手前のドア。
もはや一刻の猶予もない。
上条は一縷の望みを賭けて隣の家――土御門の住む家――の呼び鈴を押した。

「え? なんでアンタ自分の家に呼び出したりなんかしてんの?」
「へっ? あー、いっけねいけね。間違えた。ハハハハ……」
「…………?」
「俺の家はこの隣だ(クソッ。土御門の野郎肝心な時に留守にしやがって)」

一縷の望みを絶たれた今、上条ができることは祈るのみ。
そう、インデックスが出かけている、と言う一点に全てを賭ける。
これで駄目なら……またその時考えればいい。
謝り倒すもよし、事情を話して納得してもらうもよし。
そもそもやましい理由があって隠していたわけじゃないから、堂々としてればいいのだ。
そうだそうだ。なんだ、まだ方法はあるじゃん。
そう考えると少し気分が楽になった。

「あ、みさ……美琴。わりぃんだけど、ここで少し待っててもらえるか? 部屋片してくる」
「いいけど、別にそんなの気にしないわよ」
「俺が気にするの! つーわけで、すぐ片付けてくるから」

ガチャッ

『あ、とうまだ。おかえりー。もうお腹ペコペコなんだよ。わたしもスフィンクスもお腹と背中がくっ付きそうなんだよ。とうまー』
「………………」
『……とうま?』

……ガチャン

無言でドアを閉める。
インデックスは出かけてなかったし、まるで待っていたかのようにドアの前にいた。
まず、いるかいないかの賭けには敗れた。
そして……

「………………」
「………………」

“いる” なにかが上条の背後に“いる”。
身体が金縛りにあったかのように硬直して後ろを向く事ができない。
それはもう、神の右席なんか恐るるに足らないくらいの威圧感が背後からビシビシ伝わってくる。
漫画なんかだと、きっと『ゴゴゴゴゴ……』なんて効果音とどす黒い背景が入っている事だろう。
そうでなくても、バチバチと言った音が聞こえてきている。
振り向かなくても、姿を見なくても結果は明らか。
即ち、謝り倒す方法も、事情を話す事も効果はない。
だからもう、諦める他ないのである。最初から。

「なんでアンタの家にあのシスターがいるかはこの際置いておくとして……一つ、いい?」
「……な、なんでございましょうか。姫」
「死ぬ前に何か言い残すことはあるかしら?」
「……不幸だ」

直後、上条家玄関前を中心に雷が落ちたかのような轟音と衝撃波が観測されたそうな。

266ミコトラプソディー <2 - 2/6>:2010/03/15(月) 23:07:10 ID:PK6ch5g2

カッチコッチカッチコッチ……
部屋の時計だけがやけに響いて聞こえる。
幸いな事に先ほどの電撃を受けても何の被害も受けなかった。
なんてことはない。間一髪右手が間に合ったのだ。
でも、間に合ったのは周りへの被害を防ぐのみ。
今、部屋の中で正座させられている上条は満身創痍だ。
右手を封じられた上での美琴による容赦ない打撃(電気属性つき)と、インデックスによる頭部への噛み付き攻撃(出血効果つき)、更に驚いたスフィンクスによる引っかき攻撃(これも出血効果あり)と言うスリープラトン・ジェットストリームアタックにより、見事にボロボロな姿になっていた。
まさに『もうやめて! 上条さんのHPはもうゼロを通り越してマイナスよ!』である。

そして、さっきから第二ラウンドが本人を差し置いて行われている。
お互い無言のままの一触即発状態。
美琴は周囲にパチパチと電気を散らして、インデックスは齧るとばかりに歯をカチカチさせて。
それぞれ『なんでアンタ(短髪)がここにいるの?』と言う言葉を胸に睨み合っていた。
上条が何か言おうものならば、たちまち二人によるツープラトンが襲い掛かるので何もできない。
数々の幻想を打ち砕いてきた上条でも、この幻想だけはぶっ壊せる気がしなかった。
ちなみにスリープラトン最後の一角であるスフィンクスは、やる事やったら満足した、と言う感じでベットで丸くなっていたりして。

とにかく、しばらく睨み合った状態から先に動いたのはインデックスの方だった。

「ねえ、もうこんな時間だけど短髪は帰らなくてもいいの? モンゲンって言うのがあるんじゃないのかな?」
「その言葉をそっくりアンタにお返しするわ。何処に住んでるんだか知らないけど、門限過ぎる前に帰ったら?」
「わたしはここに住んでるからいいんだよ。それにモンゲンなんてないもーん」
「な!?」
「だから短髪は早く帰るんだよー」

ふふん、と言った感じで無い胸を張るインデックス。
そこには確かに『勝った!』と言う言葉が表情に出ていた。
だけど、美琴だって負けてない。
何せ自分は上条の彼女だから。さっき付き合い始めたばかりだけど、そんな事は関係ない。
勢いだけは絶好調な美琴に怖いものなど無いのだ。
そこに壁があれば乗り越えるまで! 門限があれば超電磁砲で打ち抜くまで!

「私だって、今日は“当麻”の家に泊まるんだから、帰るのはここなのよ! 文句ある?」
「えぇーっ!」
「ええーっ?!」

……ギロリ。

「な、なんでもありません……上条さんお口にチャックしてますのでどうぞ続けてくださいませ」

「短髪泊まるの?! それに今“とうま”って……」
「ふん。いい? 私と当麻は付き合い始めたの。つまり彼氏と彼女の関係って事。だから私が“当麻”の家に泊まりに来る事になんの不思議も無い。むしろ自然な事なのよ。おわかり?」
「そんな、とうまが、短髪と……?」

キッとインデックスが睨み付ける。
その先にいるのはもちろん本日の下手人、上条当麻その人だ。

「とうま! 短髪の言ってることは本当なの?! ちゃんと説明してほしいかも!」
「当麻、ちゃんと説明、できるわよね?」

美琴はニッコリ笑って問いかけた。
でもその笑いは悪魔の笑みだ。
『ヘンな事言ったら承知しないからね』と言う意味を含んでいる。
ここで言うヘンな事とは、上条と美琴の関係だとは言うまでもないだろう。
すでにボロボロな上条に反抗する力は残されてない。
ただ事実をありのまま述べるのみ。

「インデックス。あのな、よく聞いてくれ。今日……み、美琴と付き合い始めた。だから今言った事は全部間違いない。本当だ」
「と、とうま……」
「ね? 言ったとおりでしょう。だからこの場合むしろ帰るのはアンタの方。そもそも、さっきここに住んでるって言ってたけど、どういう事なの?」
「それについても俺から離す。だから美琴も聞いてくれ。ちゃんと、話すから」

267ミコトラプソディー <2 - 3/6>:2010/03/15(月) 23:09:05 ID:PK6ch5g2

上条はこれまでの経緯を簡単にではあるが説明した。
もちろん全てを話したわけではない。当たり障りのないところだけ話して、魔術などの肝心な部分は伏せてある。
けれど、ちゃんと事情があってインデックスと同居しているということは伝わったらしく、なんとか怒りを静めることに成功……

「それなら、どうして最初からそう言ってくれなかったのよ。やっぱりなんかやましい事があるとか?」
「ありません!!」

……成功?

「……とまあ、こう言う事情があるんだ。だからインデックスは今後も俺の家に住むし、そこは変えられない」
「とうま……」
「まあ、正式に依頼されて住んでるって事なら私がとやかく言える立場じゃないわね。……そりゃ、ちょっとは気にするけどさ」
「スマン、美琴」
「いいわ。この件についてはもう何も言わない。……にしても、アンタってば私が知らない間にそんなことに巻き込まれてたの? あと、結構いろんなところに行ってるみたいだけど、そもそもそんな頻繁に外って出れたっけ?」
「い、いやーその、あははははは」

無理やり拉致されたり、超音速航空機に積み込まれたりして不法出入国してます! なんて口が裂けてもいえない。

「上条さんにも、いろいろあるんですよ」
「それはもう諦めてるからいいわよ。でも、入院とか酷い怪我とか、私はそっちが心配。この間の事もそうだし、気が気でないんだからね」
「ぜ、善処します」
「……ねえ、とうま」
「ん? どうしたインデックス。そういやさっきから随分と大人しかったけど」

ぐうぅぅぅ〜、と音が部屋に響く。
こんな音出すのは一人しかいない。
訴えかけるようにもう一度鳴ったお腹を押さえながら、インデックスは涙目で訴えた。

「お腹空いたんだよー。短髪の事は“どうでもいいから”とにかくお腹空いたんだよおなかー!」
「ど、どうでもいいって何よ!」
「とーうーまーぁ」
「ああ、もう! わかったわかったよ。今夕飯作ってくるから、ちっと待ってろ。どうせだから、美琴も食べてくだろ?」
「あ、うん。えぇでも、私作ろうか?」
「任せとけって。これでも伊達に一人暮らししてません」

今日買ってきた材料が早速役に立つ。
と言うかこの為に安い品を大量に買い込んでいるのだが。
上条が夕飯を作っている間、美琴とインデックスは言葉も無く二人きり。
唯一の癒しキャラである三毛猫スフィンクスは、上条の足元をカリカリしながら『なあなあアンちゃん。オイラのご飯は〜?』とアピールしていた。

「………………」
「………………」
「(ど、どうしよう。会話が無いわ。あの子ずっとこっち睨んだままだし)」
「………(ぐうぅぅ〜)………」
「(それにさっきからお腹鳴りすぎ! もう少し羞恥心とか持てないのこの子は!)」

268ミコトラプソディー <2 - 4/6>:2010/03/15(月) 23:11:04 ID:PK6ch5g2
「ねえ、短髪」
「……あのさ、前から言おうと思ってたんだけどその短髪って呼ぶの止めてくれない? 私には御坂美琴って名前があんの」
「短髪は短髪だよ」
「ホントムカつくわねアンタ」
「短髪も、わたしの事アンタって呼ぶの止めてほしいかも。わたしにはインデックスって名前があるんだよ」
「アンタはアンタよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「すっごくムカッときたかも」

睨み合ったまま戦況に変化はない。
台所の方から何やらいい匂いが漂ってくる。
インデックスはそちらに目を奪われがちになるが、首をブンブン振って意識を回復させ、目の前の脅威を改めて見据えた。
でも、先ほどまでの威勢はない。
やっぱりお腹が空いて力が出ないのか、それとも別の問題か。

やがて、はぁと大きなため息を吐いた。
若干すねたような口調で、そっぽを向きながら呟く。

「……どうして短髪がとうまと付き合えたのか不思議でしょうがないよ」
「私は当麻が好き、当麻は私が好き。他に理由はいるかしら?」
「い、いらないけど! いらないけど、でも……」

しゅん、と急にインデックスが大人しくなった。
どうやら、まだ納得がいってないようだ。
そりゃあ、何の前触れも無く突然『付き合い始めたから』なんて言われて納得できるほうが難しい。
ましてや、インデックスはこの家で当麻と一緒に住んでいた。
毎日顔を合わせ、ご飯を食べ、お風呂上りの姿や寝起きの着衣が乱れた姿を見られた事もある。
なのに何の関係にも至ってないのだから、無理も無い。

美琴は、インデックスが上条のことを好きなのだと言うことを知った。
時より見かける頭部への噛み付き攻撃も、愛情の裏返しなのだと。
なんだか自分が振り向いてもらおうと電撃を打ちまくっていた事と被るような気がする。
そして改めて、美琴は自分の恋敵を認識した。
全てはタイミングの問題……もしも、今日自分が告白をしなかったら、次に自分が上条と会った時に隣に寄り添っていたのはこの子だったのかもしれない。

ぽん、と美琴はインデックスの頭に手を載せた。

「短髪?」
「ゴメンね。アンタからすれば、急に現れた女が横から奪っていったように見えるかもしれないけど、でも、これだけは譲れない。私にとって何よりも大切なものだから」
「………………」
「別に嫌いでもいい。恨んでくれてても構わない。でも、私はアンタに……インデックスにも認めてほしい。勝手なお願いかもしれないけど、そう思ってるの」
「……まだ、諦めたわけじゃないもん」
「うん。それでもいい」
「……まだ、認めてあげないもん」
「うん。今はまだそれでもいい」
「……わたしがとうまと先に“きせーじじつ”を作っちゃうもん」
「それは困るわ」
「……しないよ。できないよそんなこと。とうまの悲しい顔、見たくないもん」
「私はいいのかしら」
「だってライバルだもん……みことは敵なんだよ」
「あらあら、手厳しいこと」

それでも、美琴はインデックスの頭を撫でたまま。
インデックスも、嫌がりもせず撫でられたまま。
その表情にさっきまでの険悪さは残っていない。
むしろ、なんだか心地よさそうにしている。
美琴は思った。すぐには無理かもしれないけれど、でもこの子とは仲良くやっていけそうな気がする。
根拠も確証も無いけれど、そんな気がした。

269ミコトラプソディー <2 - 5/6>:2010/03/15(月) 23:13:40 ID:PK6ch5g2

「ほい、お待ちどうさんでした……って、お前ら何やってんだ?」
「ん? 別になんでもないわよ。ね、インデックス」
「うん。ね、みこと」
『ねー』
「そ、そうか?(なんだか急に仲良くなった気がするが……まあ、そっちの方が平和でありがたい)」
「それよりもとうま! お腹空いたんだよ!」
「わぁってるって。今ご飯よそうから」
「ようやくお夕飯なんだよ。待ちくだびれたんだよ」
「へいへい。ほら。美琴はこの位でいいか?」
「あ、うん。ありがとう……」
「んでは、頂きましょうかね」
「ずいぶん量が多いけど……こんなにたくさん食べられるの?」
「ま、見てろって」
「???」
「それでは……」
『いただきます』

がつがつがつがつ……!

「ほらな?」
「うわ……すごい食べっぷり。一体この小さい身体のどこに入ってるのよ」
「おかわりなんだよ!」
「おまえ、ちょっと落ち着いて食えって。夕飯は逃げないから」
「量は減るんだよ!」
「……アンタが特売を気にする理由がよく分かったわ」

こりゃあ食費がいくらあっても足りないわね、と美琴は実感した。
元々上条一人分の生活費でやり繰りする分しか仕送りはないはずだ。
そこにもう一人、それも大食らいが増えたとしたら、まずこうなるだろう。
今度自分がご飯を作りに来る時は食材を持ってこようかな、なんて考える。

そして、文字通りあっという間に夕飯は終了して……。
ご飯粒一粒レベルまで食べ残しゼロの食器の洗い物をしている最中に、上条家の電話が鳴った。

pririririririri!

「っと、電話電話。ハイ、もしもし……あれ、小萌先生? どうしたんスかこんな時間に……え、インデックス? はい、いますが……おーいインデックス、小萌先生からだ」
「こもえから? ……もしもし? うん。うん……えぇ?! それは是非お呼ばれされるんだよ! 超特急で向かうんだよ!」

電話を切った途端に何やら出かける準備をするインデックス。

「お、おいインデックス。どうしたんだ急に。小萌先生がどうかしたのか?」
「こもえが、全国美味いもの巡りツアーに誘ってくれたんだよ! これは行くしかないかも。と言うわけだからとうま、日曜日の夜まで出かけてくるね!」
「えっ? あ、おい! インデックス!!」
「スフィンクスもつれていくからねー」

ガチャン、とまるでひと時の嵐のようにインデックスは去っていった。
残されたのは何がなんだか分からないまま放置された上条と美琴。
少なくとも分かったのは……

「インデックスが……」
「日曜日の夜まで帰らない?」
「え、えーと……」
「ど、どうしましょうか」
「とりあえず、茶でも飲むか?」
「うん。頂くわ……」

計ったような、なんとも絶妙なタイミングで“二人っきり”と言う空間は完成してしまったのである。

270ミコトラプソディー <2 - 6/6>:2010/03/15(月) 23:15:53 ID:PK6ch5g2
「な、なあ。美琴。さっきの話なんだが」
「さっきって?」
「その、美琴さんは本当に今日泊まっていくおつもりなのでせうか?」
「えっ?! あ、あれは……そ、そそそうよ! なんて言ったって私はアンタの彼女になったんだから、彼氏の家に泊まったって何の問題も無いわけで!」
「フツーに考えたって、中学生が男の家に寝泊りなんてまずいだろ。さっきの話じゃねえけど、何かあったら責任が」
「それは私が言ったでしょう。アンタがそこまで考えてるなら問題ないって」
「そ、それに! お前ン所白井と一緒の部屋だろ? 何も言わずに帰らなかったらむしろマズいんじゃねえのか?」
「あ、それもそうね。ちょっと黒子に電話してくる」

美琴はスカートのポケットからゲコゲコ電話を取り出すと、黒子の番号を呼び出してコールボタンを押した。
1コール目が終わらないうちに電話に出るのは、ある意味才能としか言いようが無い。
最も、これは美琴限定なのかもしれないが。

「あ、もしもし黒子? 今日ちょっと帰らないから寮監誤魔化しといてくれる?」
『―――?! ―――――!!』
「だからそんなんじゃないって。ちょっと……きゅ、急に親戚がこっちに来たものだから、私はそっちのホテルに泊まるのよ。うんうん!」
『――――? ――――。―、――――!』
「そそ、そう言う訳だからあとよろしくね!」
『――――! ――』

ゲコッと言う音と共に通話が切れる。
何を言ってるのか声までは聞き取れなかったが、電話越しに大きな声を出していたのは上条にも分かった。
肯定的でない? そりゃそうだ。

「と、言う訳だから! 私は今日ここに泊まるわよ。もう黒子にも言っちゃったし、門限も過ぎてるから寮に戻れないんだからね」
「……はあ。お前のその行動力には頭が下がるよ」
「褒め言葉として受け取っておくわ♪」
「んでも、着替えとかどうするんだ? 当然ながら、ここには女物の服なんかないぞ」
「あの子のはないの? と言ってもサイズ違うから着れそうも無いけれど」
「インデックスの? あいつはいつもあの格好だからな。寝るときも俺のワイシャツだけだし」
「じゃ、じゃあ……それで」
「はい?」
「と、当麻の……ワイシャツ、着る」
「?!」

一瞬、ワイシャツ一枚だけの格好をした美琴が頭に浮かんだ。
うん。アウト。上条さんの理性的にもトリプルプレーでアウト!

「美琴サン?! そんな、しし下着とかはどうなさるおつもりなんですか?!」
「短パン穿くから大丈夫よ。それとも何、穿いてほしくないとかそう言った事考えちゃってる? この変態」
「変態?! この紳士・上条が変態ですとな? ならばいいでしょう、上条さんがステキ紳士だという事を分かってもらうためにも、どうぞ泊まっていってもらおうじゃありませんかええどうぞ!」
「そう? んじゃ遠慮なく〜。お風呂って入っていいのかな?」
「どうぞどうぞ。そっちの奥入ったところだから。あと俺のシャツ着るなら置いてあるぞ」
「サンキュー」

パタパタと歩いていって、直後にドアの閉まる音。
しばらくして、シャワーの流れる音が聞こえてきたところで上条は我に返った。

「(な、なんて事を口走ってやがるんですかこのバ上条はー?! やっぱアレですか、男は皆例外なく狼ですかそうですか! 結局上条さんも紳士じゃなくて変態さんだったんですね?!)」

上条は知らないが、今の姿は夏に黒子が地面やファミレスのテーブルでやっていた事と同じであった。
連打してぶつけたおでこから、シューっと煙が上がっている。

「(落ち着け、上条当麻。冷静になるんだ。心頭滅却すれば美琴もまた無害ナリ! 相手は中学生・相手は中学生・相手は中学……駄目だ、さっきのイメージがまた! バカ、上条さんのバカバカバカ!)」

一人で斜め上へ向けてエキサイティングしてる上条当麻。
だが忘れてはいけない。夜はまだ始まったばかり。
美琴の姿だってまだ見てないし、一体寝るときはどうすれば?
そして上条は見事変態紳士から紳士へとランクアップすることはできるのか。

「(あぁもう、幸せ……じゃなくて、不幸だあぁぁぁぁぁ!!)」


次回、夜の二人は炎よりも熱く燃え上がってますのよ。
狂想曲2.5 [御坂美琴]

上条当麻の明日は、どっちだべ?!

271ナヒるハ:2010/03/15(月) 23:18:40 ID:PK6ch5g2

以上です。

書いてて思ったんですが、インデックスさんのお腹の中って絶対に陽天心菌がいるような……?
いや、インデックス菌か???

ここヘン、読みにくいなどありましたらお知らせください。

では。ありがとうございました。

272■■■■:2010/03/15(月) 23:19:19 ID:CBOjNjPI
>>270
乙。
なんかこの先インデックスも積極的になりそうで上条さんの
神経はますますすり減っていきますなw

273■■■■:2010/03/15(月) 23:24:23 ID:ttSLLe06
>>271
GJです。こう、なんていうか、神様GJ!!

読みにくいとかじゃないんですが、変な質問を一つ。
2.5と一体なんなのでしょうか?3じゃない理由は次呼んだらわかります?

274ナヒるハ:2010/03/15(月) 23:42:47 ID:PK6ch5g2
>>272
>>273
両氏ともありがとうございます。

ご質問の2.5とは、いわゆる番外編です。
ここは『いちゃいちゃSS 』なんだから、いちゃいちゃを全面に持ってこないでどうする?! と言う事です。
すっごく簡単に言えば、夜を補完するお話ですね。

.5モノは適宜入りますよー。

275■■■■:2010/03/16(火) 00:02:43 ID:10oQEshM
>>246
今までの中で一番おもしろかった

>>250
上条さんor美琴が死ぬSSは駄目だろー
バッドエンドはやめといて〜

276■■■■:2010/03/16(火) 00:17:12 ID:voR7GtO6
>>275
まあ、ワタクシ的にはそれもアリ・・・ですぜ。だがハッピーエンド限定。
結局はスレタイ通りいちゃいちゃが良いんだが。


相変わらずこのスレ愛されてるな。
こういうの見ると書き手になってみたくなるが、まあ、地獄から悪魔を召還しかねない。


じゃあ、俺も>>262に倣って
おやす美琴・・・半裸で期待してるぜ。もちろん上は着るさ、安心しな。

277どるがば ◆KlUXhbo4RM:2010/03/16(火) 00:39:47 ID:Ce4GLulA
初めまして
初投稿になります。
1スレの最初から見てました^^
ここの職人さんみたいにいつか書き手なりてーと思いながら
素晴らしい作品に見蕩れてたらいつの間にかpart6 orz
自分でもびっくりです
初めての投稿になりますので、醜い点や誤字脱字あると思います。
皆さんのお目汚しにならなければと思いますがどうか温かい目でお願いします。
タイトルは『とある乙女の恋事情』
そして今回は「看病編」前編です。
6スレ消費させていただきます。
一応長編目指しています、どのくらいになるかはまだわかりませんが。

では誰もいなければすぐに投下します。

278看病編1:2010/03/16(火) 00:40:41 ID:Ce4GLulA
十月某日
今日は一端覧祭の準備のため多くの学校が午前中準備でその後放課となっている。
そのためか平日にもかからわず多くの学生たちが行き来している。
その中、常盤台中学校のエースである御坂美琴は少しおぼつか無い足取りで帰路についていた。

「はぁ・・・熱があるのに無理して学校なんか行くモンじゃないわね・・・。」

そう美琴は風邪を引いていた。
無理して学校に行ったのにも理由がある。
(アイツに今日一端覧祭の予定聞こうと思ったけど、風邪を拗らせるわけにはいかないか・・・
今日は大人しく寮に帰って寝よ。)
意識もしっかりしているので寝れば治るだろうと思いつつ寮に向かってく。
と、その時後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「よぉ!御坂ー」
ツンツン頭の学ランを着た高校生が美琴の肩に手を置いてそんな事を言ってきた。

「っえええ!!?」
美琴は意中の人が突然現れたことと、肩に手を置かれたことでぐるぐると目を回してしまった。
ツンツン頭こと上条当麻はそのことに、
「み、御坂!?大丈夫かッ!?」
驚きを隠せない様子で膝から崩れ落ちた美琴を何とか支えることに成功する。

(ヤベェ・・・どうしよ、、さすがにこのままってわけにもいかないし、
顔真っ赤だけどコイツ熱あるみたいだな、もしかして俺のせい・・?
こっちから話しかけるとか慣れないことはしない方がいいのかな・・・)
心の中で意外と冷静に物事を整理している上条だが、結局「不幸だー」とか言いながら男泣きをしている。
思いっきり具合の悪そうな美琴を早く休ませた方が良いのは一目瞭然でとりあえず上条の寮に連れて行くことにした。

「常盤台の寮に連れて行くといってもこっからじゃ遠いし早く寝かせた方がいいからな。」
女子中学生を部屋に連れ込むことになまじ抵抗があるようで、心の中では(仕方がないから、仕方がないから・・・・)
と念仏でも唱えるように念じていた。

279看病編2:2010/03/16(火) 00:41:28 ID:Ce4GLulA
幸いにも寮の目の前であったので誰に見られることもなくおぶって上条の部屋に入ることができた。
熱のあるせいか呼吸が荒いので起こさないようにそっとベッドに寝かせた。

「とりあえず熱下げなきゃだよな・・?」
洗面所に行き洗面器に水と氷を入れ、その中にタオルを入れて美琴のそばで腰を下ろした。
タオルの水を絞り優しく額に乗せた。
「あとは薬を飲めば簡単に治るんだけど、寝てる内は飲ませられないし・・・。」

学園都市には研究施設やら、薬科大学などがごった返してあるため多数の薬会社がある。
そのため市販の薬は通常では考えられないほどの安値になっている。
効き目も通常では考えられないくらいに効く。
上条は不幸体質というのもあって救急セットや薬を買い溜めしているので薬は余るほどある。
風邪薬も例外ではない。
ちょっとした風邪薬程度なら広告ティッシュを配る要領で試供品を配ったりする会社もある。
学園都市外の人が見たらどう考えても危ない、街中で薬を配っているのだから。
上条宅にあるのはちゃんと買ったものだが
「んーっ・・・」
上条はぐっと背伸びをする。
(今日も疲れたなぁ・・・)

今、隣で寝ている美琴を忘れてしまうくらいに今日は疲れた。
つまんない授業やら、友人達との遊び(遊びと書いて殴り合いと解釈する)やらで
かなり疲労が溜まっているのだった。

そしてそのまま上条はベッドに背中を預けて眠ってしまった。

280看病編3:2010/03/16(火) 00:41:59 ID:Ce4GLulA
何時間ぐらい寝ただろうか?
ポケットに入っている携帯を取り出し時間を確認する。

『15:12』

(そういえば今日は午前放課だったけ・・・?)
寝ぼけた感の頭を動かし今日の授業が終わった時間が十二時過ぎぐらいだったのを思い出す。
(ところでインデックスどうしたんだろ?帰ってきた時いなかったよな・・?)
ふと、自分が帰ってきた時のことを振り返る・・・
(俺は確か帰り道で・・・、み、御坂!!!)
上条は鮮明に帰路であったことを思い出し恐る恐る寄りかかっていたベッドの方を見てみる。

まだ美琴は寝ていた。
(ふぅー、よかっt、って何で俺はほっとしてんだ!取り合えずタオルを変えないと)
寝る前のままであったタオルは二時間ほど経ってすっかり水分が奪われていた。
(熱はさっきよりは下がったけど、まだ微熱って感じだな)
心なしか呼吸が落ち着いている美琴を見てちょっと安心しつつも急いでタオルを水につけ絞り
美琴の額に乗せた。

「んっ・・・」
急いでしまったせいか、目を覚ましたようだ。
「御坂っ!?大丈夫か?」
呼ばれて美琴はちょっと鼻声で
「・・うん、大丈夫・・。アンタが看病してくれたの?」
「ああ、お前いきなり倒れたからびっくりしたぜ。正直俺のせいで倒れたのかと思った;」
美琴はあながちその通りなんだけどね、と思いつつある疑問を抱く。

「ここどこ・・?」
見慣れない殺風景な部屋を眺めながら上条に問う。
「ここ?俺の部屋だけど。まぁ、あそこからお前の寮まで運ぶのは流石に遠すぎたからな。看病するにも都合が
良いかと思って」
「へ、へぇー・・」
表では興味ないです的な振る舞いをしているが内心
(こ、こ、ココがアイツのへ、部屋!!!?? ついに来ちゃった)
と顔が真っ赤だが幸い上条は熱だと思ってあまり気に留めてない。

「取り合えず熱が下がるまでウチに寝てろよ」
「う、うん」
(ってことは、か、風邪引いている内はこうしていられるのかな・・・?)
美琴は嬉しさのあまりに悶えていた。
一端覧祭に誘うことを忘れてしまいかねないほどに・・・

そうだ、と何かに気づいたらしい上条は買い溜めている薬の山から風邪薬を取り出し美琴の前に差し出す。
「これ飲んどけよ、市販のやつだから特効薬って訳じゃないだろうけど楽になると思うぞ」
上条は熱なのか嬉しさ故なのか顔が赤い美琴の右手にそっと置く、ちなみに上条は前者だと理解しているが
美琴本人は後者による赤面であった。
「あ、ありがと・・」
上条の垣間見える優しさに胸打たれる乙女な美琴であった。

281看病編4:2010/03/16(火) 00:42:30 ID:Ce4GLulA
ぐぅ〜〜
上条の腹の虫が鳴る。
「何か安心したら腹減ったなぁ、御坂腹減ってる?」
美琴はちょうど上条からもらった薬を飲み終わったところだった。
「ちょっと減ったかな・・?」
先ほどの上条の優しさに半分酔いつつ、自分の腹部(胃のあたり)を軽く抑えながら答える。

「時間も時間だしな腹へって当然か、でも中途半端な時間に食うと夕飯も食えたり食えなかったり
するよなー」
うーん、と顎に手を当てて某考える人みたく悩んでいる上条は
「そうか、お粥でいいか。それなら御坂も風邪で消化のいいものだしついでに俺もちょっとつまむ
程度にすればちょうどいいな。」
それを聞いた美琴は驚いたように

「えっ!?アンタご飯作れるの?」

「おいおい、一人暮らしなめんなァァ!っていうかお粥くらい誰でもできんだろ?
まあでもお粥一つでも上条さんの家事スキルを発揮するには十分過ぎます」
とニカッと笑う上条を見てくらッときてしまった美琴は直視することさえままならない。

「そ、そう、じゃあその一人暮らしの家事スキルとやらを見せてもらおうじゃないっ!」
俯きながら言っているので具合でも悪いのかと上条は頭に?マークを浮かべながら
声は元気そうだし大丈夫かと一人頭の中で勝手に解決する。
実際、美琴フィルターによる美化された上条を直視できないだけだが無論そんなことを言える美琴ではない。

「じゃっ、作りましょうかね!」
気合を入れたのかYシャツの袖をまくり台所へと進む。
そんな姿を眺めていた美琴は
(なんていうか、コレって夢じゃないのよね・・?)
幸せすぎる現実にこれは幻想を抱いているのでは?という疑問が頭から離れない。

だがそんなふざけた幻想は上条のエプロン姿で台所にいるのを見て打ち殺された。
彼は美琴に対しては右手以外にも幻想殺しがあるらしい(美琴の幻想もとい妄想のみ)
また幸せな現実に戻ってきてふにゃーという感じになってからポケットの中身が震えた。
マナーモードのため震えるだけで気づいたのは美琴だけ、上条は鼻歌を歌いながら楽しく
料理中である。
ゲコ太携帯を取り出し誰からなのかと思い着信をみる
どうやらメールではなく電話のようだ。

282看病編5:2010/03/16(火) 00:43:08 ID:Ce4GLulA
携帯のテロップには「母」と表示される。
「母」とは美琴の母親の御坂美鈴である。
正直、今一番かかってきて欲しくなかった相手と言っても過言ではない。
他にも白井というのもあるが、彼女はいくらでもごまかせる。
だが、美鈴の場合出ないで無視すると「何で出なかったのかな〜?電話に出られない時間じゃなかったよね
美琴ちゃんが電話に出られない理由って何だろねー?」
と目でわかってますオーラを出されながら誘導尋問にかけられるに決まっている。
よって無視するという選択肢は今後のことを考えると抹消された。
何コールしただろうか、バイブなのでポケットから出すといまいち分からないが留守電に接続される
前に出なくてはならない。

ゆっくりと通話ボタンの上にある親指に力をかける。
「・・も、もしもし?」
布団に隠れながら声を押し殺し通話相手だけに聞こえる声で問いかける。
『美琴ちゃん!?もぉー遅いからママ心配したのよ〜』
見た目もさることながら声色もお姉さんと思わせるような感じで話す美鈴に
「用があるなら早くしてよねっ」
ツンとした美琴得意の態度で対応する。
『美琴ちゃんのいじわる〜!というか急がなきゃならないことでもあるのかしらん?』
ヤバイッと美琴は下唇をかみ締めて危機感を覚える。
突き放す意味でツンとした態度を取ったことが仇となったようだ。
伊達に美琴の母親をやっているわけではないのである。
美琴のツンツンした態度も「母」美鈴からしてみれば意思疎通なのである。
一方的な意思疎通ではあるが。

言葉に詰まらせた美琴が声を出さずに唸っている時、台所からアイツが話しかけてきやがった。
「御坂〜、お前梅干食えるか?」
上条単にはほとんど完成したお粥に梅干を入れるか、入れないかでそういえば御坂って梅干食えんのかな?
嫌いなヤツとかも結構いるしなという思考によって訊ねただけなのだ。
そこで美琴が電話していることを知った上条は、
心底申し訳なさそうに顔の前に片手を立てて声を発さず口の動きだけで「わりぃ」と謝罪した。
その前にはもう既に思考停止してしまった美琴は顔を真っ赤にし口をパクパクしているだけだった。

283看病編6:2010/03/16(火) 00:43:47 ID:Ce4GLulA
電話からは
『え!?今の上条君??もしかしてあなた達同棲しちゃっているの?キャーーー!!
美琴ちゃんやるじゃんっ!お母さん見直したわ、ホント。大覇星祭の時なんて
あんなにウブだった美琴ちゃんが今はもう同棲!?子供の成長って早いって言うけど
あれから一ヶ月でこうも変わっちゃうと心臓に悪いわー。
でも美琴ちゃんの恋は全力で応援するからねん♪じゃあねー上条君によ・ろ・し・く』
ここで通話が切れた
コイツ絶対面白がっているっ!とかこのまま勘違いされたらされたでアイツと・・・、とか
大体用件何だったんだよ、とか色々と頭がパンクしそうになりそのままベッドへ倒れた。
ここで意識が途切れた

「・・sか?、みさ・か?、御坂?」
夢の中で「あの馬鹿」という名の王子様が私を呼んでいる。
美琴は夢の中でもある意味幸せだった。
「大丈夫か?御坂っ!」
ここではっきりと上条の声が聞こえた。
「う、うん、何とか・・」
「お前風邪なんだから無理すんなよ?」
上条は優しく微笑んでくれる、それだけで美琴は嬉しくなれる。
「あり・・がと」
「気にすんなって、さっ食おうぜ」
まだできて間もないように見える、それを見て美琴は気絶してからそう経っていないらしいことがわかる。
上条がレンゲにお粥を掬い美琴の口の前まで運んでくる。
最初美琴には上条のしていることが理解できなかった。
「・・え??」
「??えって、お前は病人なんだからコレぐらいは当たり前だろ?
それとも嫌か?」
美琴はそれを嫌だと思っていない、むしろ相当嬉しい部類である。
そしてその行為を嫌がっていると上条に思われたくなかった。
「い、やじゃない・・」
「じゃあ、あーん」
これは美琴が夢にまで見た(既に美琴の夢には出てきている)シーン。
ドキドキしながら小さく口を開ける。
程よい温かさと食感が空腹だった胃にすとんと落ちるのを感じ、心地よくなる。
「なら俺も食うか」
えっ?と美琴が言う前に既に上条は美琴が口にしたレンゲを口にしている。
その時美琴は思った、私が笑うとコイツも笑ってくれる。
(もしかして・・・この雰囲気なら私の想い伝えられるかも)

284どるがば ◆KlUXhbo4RM:2010/03/16(火) 00:46:44 ID:Ce4GLulA
以上になります。
どうだったでしょうか?
いざ書いてみるといちゃいちゃさせるのがどれほど難しいかが分かります。
書き手の皆さんの凄さを実感しました。

では後編は近日にあげますので、お付き合いのほどよろしくお願いします。

285■■■■:2010/03/16(火) 00:55:01 ID:drL3X84I
>>246
まじで面白かったっす!!
こんなこっている話が見れるとは!
感動しましたありがとうございます

286■■■■:2010/03/16(火) 01:04:47 ID:R/lgwGzI
>>284
萌えました!
特に美鈴からの電話が入ったときの美琴の反応が面白かったです。
はじめて書いた方とは思えませんね。

皆様もGJ!!
それにしても今日のラッシュは何なんでしょう・・・幸せすぎます。

287■■■■:2010/03/16(火) 01:18:21 ID:e4cUozC.
>>284
なんというGJ!
続き待ってますマジで。

288■■■■:2010/03/16(火) 02:17:55 ID:SbTjiXoc
どるがばって
ドルチエ アンド ガッパーナ?

289■■■■:2010/03/16(火) 04:48:12 ID:1aPv50jc
胸もみくらいいいよね?

290■■■■:2010/03/16(火) 06:14:24 ID:zQ/MyAf6
20巻読んだ
もう上×琴は完全にないと思った

291■■■■:2010/03/16(火) 06:58:12 ID:6Fk.DRYM
個人的にはこのまま特定の誰かとくっつく事なくハーレム構成して行って欲しいんだがなw

292■■■■:2010/03/16(火) 07:11:34 ID:K7siN0HY
まぁ、21巻に期待ですな〜
果たしてどうなる事やら…

6月26日発売の『とある科学の超電磁砲 第五巻
偽典 超電磁砲付特装版』にも期待ですなぁ〜

特装版の表紙2巻に『インデックス』、4巻に『打ち止め』が来るとなると
5巻には誰が特装版表紙に来るのやらw

293■■■■:2010/03/16(火) 07:47:05 ID:j1sItIbA
>>271
GJです!
インデックスと美琴の仲が良くなると、ほっとします
いちゃいちゃを楽しみにしています!

>>284
GJです!
かいがいしい上条さんていいですね
続きも楽しみにしています!


20巻は上琴の可能性ががなくなるのではなくて
ステイルにインデックスのフラグが立つと脳内補完しています

294■■■■:2010/03/16(火) 08:07:41 ID:w1/qYe.s
>表紙
21巻の表紙がまさかの教皇……ってことはないなw

295■■■■:2010/03/16(火) 10:52:58 ID:nVvEJD96
上琴最高

2963-351:2010/03/16(火) 11:03:14 ID:yRzpBhWA
誰もいないようなので、・・・こっそーり小ネタを一つ。
出来はあれですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
たぶん2レス消費します。

297小ネタ:2010/03/16(火) 11:04:33 ID:yRzpBhWA
上条当麻は目を覚ました。
しかし、目を開け見えた景色はいつも通りの天井ではなく”いつも通りの病院の天井”だった。
体は思うように動かなく、重い。まるで体全体の筋肉が落ちたような感覚を上条は味わう。
「また、振り出し(スタート)か……」
上条は嬉しそうに、また悲しそうにそう呟く。以前の上条だったらこんなことは無かった。以前なら心から病院にいること、全てがうまくいったことを喜べていた。
でもそう思えなくなったのは
「と、当麻!!」
コイツ、御坂美琴の彼氏になってからだ。

上条は今さっきまで寝ていた体を起こす。
「あら、御坂さん?いつから俺の名前を普通に言えるようになったんですか?」
「……馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
と美琴は真剣な顔で、怒る。
それはそうだ。上条は美琴の知らないところで闘って、知らないうちに傷ついて帰ってきたのだ。待たされた方からすれば堪ったもんじゃない。
「私が・・・どれだけアンタを心配したと思ってんのよ!?」
美琴の怒声が病室に響く。でも、その怒声は尖がったものではなくて、どこか温かい心にしみる声だった。
「………心配、したんだから」
そう言うと美琴は上条の右腕あたりに顔をうずくめる。しっかりと上条の手を握って。
「ゴメンな」
上条は罪悪感が無かったわけではない。むしろ大有りで、心がきりきりと痛んでいる。
上条が人を助けるのに難しい理由はいらない。ただ単純な理由で行動する。
でも、現実はそんな単純ではない。上条がなにかしら動けば、助かるものもいれば、必ずではないが苦しむものもいる。どこかに影響が出てしまう。
そう今ここで不安に駆られている美琴のように。

298小ネタ:2010/03/16(火) 11:04:54 ID:yRzpBhWA
「……あのさ、御坂を悲しませる気はないんだけどな、誰かが俺に助けを求めたら、なにがなんでも俺はそいつを助けに行く。たとえ美琴を悲しませても。
それが俺だから、上条当麻だから」
美琴は落ち着いたのかゆっくりと顔を上げると、上条をまっすぐ見つめる。目の周りは真っ赤で、まだ目じりに涙が浮かんでいた。上条はそれをみて、つい辛い顔をしてしまう。
「バカ、アンタがそんな顔すんじゃないわよ。………わかってるわよ?アンタが誰かに助けを求められたら絶対に助けに行くって。でもね、わかっていても不安なの。
もしアンタが帰ってこないと思うと、胸が張り裂けそうで世界が真っ暗で」
「……………」
「だからさ、アンタには帰ってきたとき明るい顔しててほしいのよ。私がどれだけ心配したんだーって怒れるくらいに。今日みたいに暗い顔されてちゃあ、堪んないわよ」
「わかった、約束する」
「破ったら、殺すわよ」
「はは、そりゃあ守らなくちゃな」
あと、と美琴は付け足す。
「アンタがどっかに行ったら、なにがなんでも付いていくから、追っかけるから」
「………………」
「?……否定、しないの?」
美琴はいつものことだから否定されると思っていたのだろう、急にキョトンとした顔になる。実際、いつもなら上条がお前に傷ついてほしくないからと美琴を押し返していた。
だが、今日の上条は違っていた。今まで考えていたこと、今決心したことを話す。
「なあ、御坂。一つだけ約束してくれるか?」
「なに?」
「絶対に俺の命令は聞くこと」
「無理」
「は、早いな。………まあ、いいか。今日、上条当麻は御坂美琴にどっかに行くときは必ず話してから行くと誓います」
「え?」
「でも、一緒に行くとかは出来ないからな。急いでるときもあるし。ああ、あとお前も勝手な行動はしないこと。上条さんに必ず報告すること」
「だだ、だって、アンタはいつも勝手に!?」
上条でも今までのことを考えると、随分と突拍子もないと思う。でも、毎回、毎回、美琴の辛そうな顔を見ていたら考えが変わった。いや、変われたと言うべきだろうか。
「いやですね、いつも美琴を放っておくと、待ってろって言ったのに来たり、突然ロシアまで追っかけてきたりするから、こっちも気が気ではないんですよ。
だから、そんなことになるくらいないならもう初めっから巻き込んじまおうと思って。そっちの方が守りやすいし」
美琴はだんだんと驚いた顔から、にらみ顔に変わっていき、上条の鼻をつまんでぐりぐりといじる。
「アンタがっ!言える立場じゃないでしょうが!!あと、守るのは私!少しぐらいは借りを返させなさい。アンタだって少しは私に頼ったっていいんじゃない?」
「じゃあ、少しは頼らせてもらうかな」
「………アンタ、いつもなら私に頼らないのに……変わった」
上条は少し自嘲気味に笑って、
「本当、誰だよ俺を変えちまった奴は。きっと俺はその誰かさんのせいで、大変な思いをする様になるんだろうな。まあ、お互い様ってその誰かさんに痛いほど教えられたから、
たとえどんなところにいようとも守ってみせるって決心できたんだけどな」
誰に言うでもなく前を見てそう言う。
暫く沈黙が続くが、上条は恥ずかしいのと、見たら怒られそうなので隣にいる美琴の顔は見ないようにした。小さく鼻のすするような音が聞こえる。
「………バカ。そんな我侭で自分勝手な人の言うこと聞いちゃって。本当にバカ」
美琴が上条の手を握る強さはかなり強い。上条もその力に負けないように握り返して、
「ああ、本当に馬鹿だ」
としっかりとその言葉を口にした。

病室にいる二人はこれから危険な道を一緒に歩いていかなければならない。今までは上条だけが危険な道を通っていたが、これからは美琴も一緒についてくる。
上条は、守るべき対象が増えて大変だと思った。でもそのことを不幸だとは思わなかった。

299小ネタ:2010/03/16(火) 11:07:35 ID:yRzpBhWA
はい。終わりです。
ありがとうございました。

300■■■■:2010/03/16(火) 15:06:00 ID:YGT4FFAU
>>299
GJ!
共に立てる事を原作でも期待。

流れが速すぎて、各作品に対する感想が追いつかない。
とりあえず、惜しみない拍手と作者様の愛にGJ!

301■■■■:2010/03/16(火) 15:38:39 ID:tkq3tow2
なんか書き手さん初心者とかいってる人多いけどレベルたけーよ

>>290
作者がわざとそうしてる可能性だってありえるだろー
現実的に考えてみろ
上条さんは美琴以外ありえんわ
外人?聖人?年上?知るかそんなこと

302■■■■:2010/03/16(火) 15:43:21 ID:Jtfo/XiY
GJ!

……そういえば、ロシアで会ったら美琴はどうやってツンデレするんだろう?
いくらなんでもごまかせないような気がする。

303■■■■:2010/03/16(火) 15:49:21 ID:hWAnQKo6
>299
GJです。
しかし、この二人結ばれても上条さんの不幸体質&フラグ体質で、平穏な未来は予想できませんわなぁw

304■■■■:2010/03/16(火) 15:55:11 ID:2WSYfuIE
別に描写しなくてもよいストラップネタ出たから、美琴ルートもまだ健在ですな。

「シャ、シャッターの件で貸しだっつってんのに、いつまでも姿現さないから、取り立てにきたわよ!」

305かぺら:2010/03/16(火) 15:57:26 ID:g2NPNYd2
みなさんGJです。
本当は1つ1つ感想付けたいところですがすいません。
お返事だけ。

>>259
あざーす。ちょっとイチャイチャ分が減るかもだけど応援のお願いします。

>>260
どうもです。きっと悩む内容変わるんだぜww

>>261
単に買うほどの魅力が(ry かもしれませぬ。

>>262
>>276
美琴サンが暴走しかねないので下は履いてくれ。上条さんが困ります。

>>294
上条さんと一方さんの無敵タッグに期待してる。

306かぺら:2010/03/16(火) 16:01:56 ID:g2NPNYd2
さて、連投ごめんよ。
何事もなければ投下します。

『繋ぐ手(ラヴァーズ)』の後半を16:10より4レスお借りします
シリーズタイトル:Dairy Life
*前半は>>254-257です。

307繋ぐ手(ラヴァーズ)5:2010/03/16(火) 16:10:15 ID:g2NPNYd2
美琴と別れた後、上条は自分の寮へと向かう。
あと解決すべき問題は、インデックスとの関係と自分の記憶について。
インデックスと、本当の意味で打ち解ける為には、記憶の話は不可避である。
―――全部話してしまったら、アイツはどうなっちまうんだよ―――
『竜王の殺息』の影響で記憶を失ったと知れば、インデックスはどうなるであろうか。
―――想像したくもないな―――
完全なる行き止まり。越えなくてはいけない壁なのに、越えられない理由がある。
別れ際に美琴は言っていた。
『そんなに心配しなくても、あの子ならきっと受け止めてくれるわ』
信じてあげなさい、と美琴は笑って言った。
上条には、美琴が何をもってそういうのかは分からなかった。
インデックスと美琴の関係。自分が追い出された20分の間に何があったのか。
インデックスも美琴も教えてはくれなかった。
考えながら歩くうちに、上条は自分の寮まで帰って来ていた。
―――どんな顔で入ればいいんだ―――
考えのまとまらないまま、上条はエレベーターに乗り、部屋の前に着く。
「ただいま」
意を決して扉を開き、中に入る。
電気は付いているものの、お腹を減らしているであろうシスターの元気な声は聞こえてこない。
「おい、インデックス――っ!?」
部屋の中心におかれたガラステーブルの前に座っていたのはインデックスではなかった。
「待ってたのですよー、上条ちゃん!」
我らが幼女先生、月詠小萌がお茶まで用意して待機していた。
「えー、小萌先生?ここは私の家であってますよね?」
「そうですよー、ここはちゃんと上条ちゃんのお部屋です。ちゃんと片付いている様で、先生は満足なのです」
うんうん、と腕組をしながら1人で納得する小萌先生を見つつ、上条は何から聞いていいか困っていた。
「では質問っ。小萌先生は何故ここにいらっしゃるんでしょうかっ?」
「それはですねー。最近悩ましげな上条ちゃんの相談に乗るためなのですよー。シスターちゃんは姫神ちゃんと一緒に私の家にいます」
さぁ、ここに座るのです、と席を進める小萌先生に、戸主は私ですよと言いそうになり慌てて我慢する。
「さぁ、上条ちゃん。何で悩んでるんですか?なんでも来いなのですよ!」
「先生……俺、どうしたらいいのか、分からないんです」
上条は小萌先生の向かいに座り話し始める。個人面談みたいだな、と上条は思う。
「この話をするためには、先生にしておかなきゃならない話があります」
「ふむふむ。なんですか?」
「インデックスを初めて先生の所に連れて行った時のことです」
上条はステイル=マグヌスを『魔女狩りの王』ごとぶっ飛ばした後、瀕死のインデックスを連れて小萌先生の家を訪れた。
小萌先生に回復魔術の補助をしてもらい、ステイルや神裂から目をくらます意味も含めて暫く居候となったことがあった。
「あの後、先生の家がぶっ壊れた事とか……そのへんの話です」

308繋ぐ手(ラヴァーズ)6:2010/03/16(火) 16:10:54 ID:g2NPNYd2
美琴は寮に戻っていた。上条と別れた後、どこかをプラプラする気分でもなかったし真っ直ぐ帰ってきたのだ。
「ただいま」
扉を開けると、ルームメイトの白井が自らのベッドの上で正座していた。
いつもなら美琴のベッドの上で怪しい事を企んでいるはずである。
「お姉さま」
「ど、どうしたのよ、黒子?改まっちゃって」
正座をしたまま、真っ直ぐと真面目な表情で見つめてくる白井に、美琴の腰が引ける。
「とりあえず、お座りになって下さい」
白井に部屋に入るように促され、美琴は自分が扉を開けたまま固まっていた事に気付いた。
「あ、ごめんごめん」
美琴はこれから何が起こるのかと、少し不安、いや、戦々恐々としながらも、促されたベッド――付け加えておくと、美琴のベッドである――に座る。
「で、どしたの?」
「黒子はお姉様に確認を取らなければなりません」
―――カクニン?なんのこと?―――
美琴は自らの記憶を振り返る。
―――あれ……選択授業の書類って、提出まだよね………でも、こんな真剣に確認って、なんの話?―――
美琴には心当たりがない。白井に『真剣に』確認されるようなこととは何か。
全く何も思いつかずキョトンとしていると、白井はぷるぷると震えながら口を開いた。
「お姉様からお話してくれるかとも思ったのですが……例の噂についてです」
「う、わさ……?」
美琴は自らの不幸センサーにビビッ、と反応したのを感じる。
―――噂って、『妹達』の事じゃないわよね……だと、したら。いやいや、初春さん達には口止めしたし…―――
「ええ。Seventh mistでお姉様があの殿方と抱き合ってたという噂ですの」
探るような目で覗いてくる白井に、美琴は顔を青くする。
美琴自身はあまり覚えていないが、上条によるとギャラリーに取り巻かれるくらいの騒ぎだったらしい。
美琴は学園都市内では有名であるし、なにより常盤台の制服を着ていたのだ。
『幻想殺し』が噂になるくらいなのだから、あの事件が噂として流れない方がおかしいのであった。
「あのー、黒子?なんの話かなー、なんて。あははは」
「お姉様!」
「は、はいっ!?」
恐る恐る言い訳しようとする美琴の言葉をピシャリと遮り、白井は美琴の目を真っ直ぐと見る。
その目には、揺るぎない意志。
「お姉様。なぜ、隠すのですか?」
「………ごめん」
「なぜ、黒子を信じてくれないのですか?」
白井の悲痛な目が訴えかける。美琴には、返す言葉が無かった。言い訳のしようすらなかった。
自分を信頼してくれる後輩なのに、自分は信じ切れていなかったかもしれない。
「……噂は本当の事、という事でいいんですの?」
「……うん」
美琴が答えると、白井は小さく溜息をつく。わかっていましたけど、とでも言いたそうな顔で。
「確かにわたくしは上条さんの事をよろしく思っておりません」
美琴が何か言おうとするのを目で牽制し、白井は続ける。
「あの方との件では、お姉様が規則破りに走りかねないので好ましくないですし。もちろん、黒子よりもお姉様の愛を受け取ることも許せないのですけど」
「………あ、愛って、別にそんな」
白井の余りにもストレートな表現に、美琴はたじろぐ。上条に好きとは言ったが、言葉にされてしまうと気恥かしい。
「違いますの?」
「……ううん、違わない。私は、アイツの事が好き」
そうですか、と白井は少しだけ悲しそうな顔をする。理解はできるが、納得できないといったそんな表情。
「寂しくはありますが、お姉様が決めた事でしたら、黒子はそれを応援します」
「うん…………ありがとう、黒子。ごめんね?」
「謝らないでください、お姉様」
白井は強気に答える。しかし、その目には明らかに涙が浮かんでいる。
「黒子………」
美琴は白井のとなりに座ると、その頭に手を置き、優しくなでる。
「私がこんなことしても、辛いだけかもしれないけど……」
「お姉……様っ」
白井は溢れだした涙を堪えることなく、美琴の胸に飛び込む。
「今までありがとう。今日は私の胸を貸してあげるから……全部出しちゃいなさい」
部屋に白井の嗚咽が響く。
扉の外で一部始終を聞いていた寮監は、点呼もそのままに立ち去る。
―――私にできるのは、見守るだけ、か―――
子供たちの幸せを祈って。

309繋ぐ手(ラヴァーズ)7:2010/03/16(火) 16:11:19 ID:g2NPNYd2
上条は小萌先生に事情を説明する。魔術について、インデックスについて。
もちろん、余計な部分は省く。矛盾が出ないレベルで、説明していく。
「つまり、先生の部屋が壊れちゃったのは、暴走した魔術で操作されちまったインデックスと、俺達が戦ってたからなんです」
「まだ納得しきれませんが、そういう理由だったのですね」
あの神父さんも関わっていたとは驚きです―、と小萌先生は冷めてしまったお茶をすする。
時間的にもビールを飲みたいところだが、生徒との真剣な話の場だ。さすがに我慢する。
「あの、先生?」
「なんですかー、上条ちゃん?」
「信じてくれるんですか?」
「あまり信じたくはありませんが、この目で2回も見てしまっていますしね。それに――」
2回。小萌先生は魔術を見ている。インデックスの治療のとき、大覇星祭の時の姫神の治療のとき。
小萌先生は途中で言葉を途切ると、上条を見る。
「それに、先生は生徒の事を信じてあげるもんなんですよ―」
少し照れたような笑顔で、小萌先生は笑う。
そんな笑顔に上条は救われた気がした。普通なら話しても信じてくれないであろう『異能』の話。
同じ『異能』のはびこる学園都市であるとはいえ、魔術の話はそうそう受け入れられるものではない。
それでも、小萌先生は上条を信じてくれた。
上条は意を決する。小萌先生には、自分の全てを話そうと。その信頼に答えようと。
「先生、もう1つ。もう1つだけ聞いてもらっていいですか?」
「おーけーですよー。1つと言わず、2つでも3つでもドンと来いなのです!」
「実は俺、記憶喪失なんです」
上条は苦笑いを浮かべながらそう言った。その上で、まるで自分の事はどうでもいいかのように続ける。
「暴走したインデックス魔術の影響で、エピソード記憶の脳細胞が破壊されちゃったらしいんです。だから、あの日より前の、記憶が……ないんです」
小萌は絶句する。流石にこの話は想像外だった。
―――上条ちゃんは……なんてものを―――
なんてものを背負ってるんだろう、小萌先生は思う。なぜ、そこまで笑っていられるのか。
「俺は……インデックスを縛りたくないんです。俺の記憶喪失が自分のせいだと思うと、アイツは……」
そこまで言って、上条は黙る。これ以上先は、言いたくなかった。
「どうすればいいか、わからないんです、先生。黙ってたら、これ以上インデックスを騙したままだと俺は……」
身体を震わせる上条に、小萌先生は下唇を噛みしめる。自分の非力さを思い知らされる。
目の前の1人で戦ってきた少年を助けたいと、そう思った。教師としての責任ではなく、上条を知る1人の人間として。
小萌先生は上条の横に来ると、ツンツンとした頭をなでる。
「上条ちゃん」
優しく穏やかな小萌先生の声に、上条は顔をあげる。涙を我慢したような、小萌先生も初めてみる表情。
「先生には、上条ちゃんがこれまでに巻き込まれてきた事も、辛さも分かってあげられませんが……上条ちゃんは良く頑張ったと思います」
小萌先生は上条の目を真っ直ぐと見る。その目の奥の何かを読み取るように。
「シスターちゃんも、上条ちゃんの想い人も、分かってくれると思います。信じてあげてください」
「でも…………」
「大丈夫です。上条ちゃんのやりたい事をやればいいのですよー。今までと同じ。そうでしょう?」
小萌先生は優しく微笑みかける。上条は、そうですね、と呟くと、涙目で笑う。
「先生には敵いませんね」
「そう簡単に負けませんよ―、先生は立派な大人なのですー」
上条は涙の浮かんだ目をごしごしとこする。上条は心が軽くなった気がした。これから先は、自分が決める。今まで通りに。

310繋ぐ手(ラヴァーズ)8:2010/03/16(火) 16:11:47 ID:g2NPNYd2
ふぅ、と上条は溜息をつく。
目の前には美味しそうにご飯を食べる小萌先生がいる。
今頃、小萌先生の部屋ではインデックスと姫神がご飯を食いつくしているであろう。
と言う事で、お礼がてらに上条が夕食を作ることになった。
あり合わせの夕食であったが、小萌先生はおいしいですー、とバクバクと食べていた。
―――そういや、普段はどんな生活なんだろうな―――
大したものでもない上条の料理を美味しそうに食べる姿を見て、上条はふと、小萌先生の部屋の惨状を思い出した。
知らず知らずのうちに、口元が緩む。中途半端に我慢したせいか、ニヤニヤとしてしまう。
必死に我慢しようとするが、肩がピクピクし始める。
「あー、上条ちゃん!何を笑ってるんですか」
「いや、先生!別に先生の部屋を思い出し笑いしたわけではなく……」
―――しまったぁっ!?―――
上条が自分の失言に気付いた時には、小萌先生はむぅーっと膨れる。
「あー、っと、せ、先生っ!さっきの話ですけど、俺に想い人がいるって、良くわかりましたね」
学校じゃボロ出してないと思うんですけど、と続け無理矢理に話題を変えようとする。
「え?」
「え?」
きょとん、とする小萌先生。狭い部屋を静寂が支配する。
―――あれー、もしかしてわたくし………地雷原につっこみましたか?―――
「上条ちゃん?先生は冗談で言ったつもりだったんですけど……」
「え?」
上条の背に嫌な汗が流れる。それはもう、だらだらと。
「上条ちゃん」
「はい。なんでございましょうかっ!?」
上条はビシッと正座をする。小萌先生はそんな上条を見ると、にやぁーっと笑みを浮かべる。
「先生は生徒の相談を聞く義務があります。そうですねー?」
「はい。そうですね……」
さっきまで相談に乗ってもらって身であるので、知らんぷりもできない。
「では、お話をしてください、上条ちゃん」
小萌先生は暗に吐け、と訴えかけている。笑ってはいるが、目は座っている。
「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
上条の叫びが部屋にこだました。



所変わって、常盤台の寮。
「お姉様?」
「どうしたの、黒子」
寝巻に着替え、それぞれのベッドに横たわっている。
就寝時間はとうに過ぎているのだが、美琴は上条とのあれこれを全て吐かされた。
あまり言いたくなかったのだが、「黒子を信じてくれませんの?」と言われては抵抗も出来ずに陥落した。無条件降伏にもほどがある。
「お姉様は、もう想いを告げられましたの?」
「………うん。身の回りの整理がつくまで待ってくれって、保留されちゃったけど」
幸せそうに美琴が微笑む。白井はがばっと起き上がり、美琴の近くまで来ると手を握り閉める。
「ちょ、ど、どうしたのよ、黒子?」
「お姉様!待ってるだけではダメです。上条さんの所に行って下さいまし」
白井は酷く興奮した顔でぶんぶんと美琴の手を振る。
「い、痛いって黒子っ!それに、待ってるって言っちゃったし、アイツも待っててくれって言ってくれたし……でも、答えがどうなるかは分からないって言ってたっけ」
美琴はゴニョゴニョと聞き取りにくい声で呟く。
―――あれ?どうなるか分からないんだっけ?って、ことはもっと攻めた方がいいのかしら……あれ?―――
白井はそんな美琴にためらう事もなく続ける。
「そんなもの既成事実でなんとかなりますのっ。押し倒すのですわっ」
は?
―――今、何言いやがった、この子―――
美琴の身体が固まる。
―――キセイジジツ?オシタオス?―――
何を想像したのだろうか、ぼんっ、と美琴の顔が一気に赤くなる。
「そしてわたくしはその様子をしっかりと録音させていただ―――っ!?」
「ふざけんなぁぁぁぁっっ!!」
美琴の蹴りが白井の頬に突き刺さる。うにゃぅっ、という声なのか音なのかと共に、白井の身体が部屋の中を転がる。
「おおおおおお姉様っ、今日は少し電撃が強いようなぁぁぁっ!?」
「うるさいうるさいうるさいっ」
美琴は電撃を飛ばし、白井を縛りつける。
「あーもうっ!不幸だぁぁぁぁぁっ!!」
美琴は自分でも知らぬうちに、ある少年の口癖を叫んでいた。

311かぺら:2010/03/16(火) 16:13:11 ID:g2NPNYd2
以上になります。

今回は上条さんと美琴の生活がシンクロニシティ的に重なるように書いたのですが。
ちょっとワザとらしかったかしら。

ではでは。また後ほど

312■■■■:2010/03/16(火) 16:37:19 ID:hWAnQKo6
>>311
GJです。
小萌先生は安心して相談できる相手ですよね。
しかしこの後、大本命であるインデックスへの説明イベントが待ってるんだ。
頑張れ当麻。

313■■■■:2010/03/16(火) 16:52:02 ID:tkq3tow2
>>306
GJ
>さて、連投ごめんよ。何事もなければ投下します。
ムスカ:何をためらうのです?制服さんの悪いクセだ

314ななに:2010/03/16(火) 18:52:15 ID:wlBIVBYc
どうも、初めまして。ななにと申します。
小説を書いてみちゃいました。
駄文ですが、よろしかったら読んでみてください。

315コタツの中の戦争:2010/03/16(火) 18:54:41 ID:wlBIVBYc
 3月の半ば、暖かくなってきたと思えば、低気圧があーだこーだで冬並みの寒さの今日。
当麻と美琴は当麻宅で勉強中だ。

「コタツって良いよなー」 カリカリ

二人はコタツで勉強している。

「そうねぇ。日本の文化の極みよね」 カリカリ

当麻はコタツの中で胡坐(あぐら)をしており、美琴はぺたんと正座をしている。
いわゆる女の子座りだ。

「うだーーもう駄目だ。疲れた」

突然、当麻は床に倒れこむ。
倒れこんだ当麻は胡坐をくずそうと足をのばそうとする。

ガタッ
「うわぁっ!?」

のばそうと、動かしたヒザがテーブルにあたったのだ。

「ハハハ、悪ぃ悪ぃ」

ヘラヘラと誤る当麻を見て、美琴は怒る気が無くなったのか、

「もぉ...気をつけなさいよ」

「スマン、悪かった」




その後も美琴は勉強を続ける。
当麻は当麻で、足の形がしっくりこないのか、何度も足をクネクネさせている。

ガタッ
「にょわっ!?」

訳の分からない言葉を叫んだ美琴は、そのまま当麻を睨みつける。
当麻は、

「ゴメンなさーーーいっ!!どうか、どうかビリビリだけはぁぁぁぁぁ。」

などと叫びながら、土下座をしている。

「わ、分かったから土下座すんなっ」

「マジ?しない?」

「しないわよ。だから、気をつけなさいよね。まったく...」

美琴は勉強を再開する。
しかし、当麻は足がムズムズする

「(やっぱ、最初の形だなぁ)」

と思いつつ、

「(さすがに、次揺らしたら、ビリビリ確定だよな)」

と、細心の注意をはらい、ゆっくりと足を動かす当麻。

テーブルに注意しすぎて、美琴に気づかなかったのか、

チョン
グラッ

美琴のヒザに当たってしまった。

「アンタは〜〜〜〜〜〜」

サーーーーっと、血の気が引いていくのが分かる。

「(ビリビリだけは〜〜〜〜〜)」

と心の中で叫ぶ。



だが、美琴の反撃は意外だった。



「このっこのっ」

「痛っ、ちょ、痛いっつーの」

女の子座りをくずし、足で攻撃してくる。

「えいっこのっ」

「くそっ。負けるかぁぁぁぁ」

負けじと当麻も応戦するが、女の子に本気など出せず、押され気味になる。

戦争も終わりに近づく。

「「ハァ、ハァ...」」


美琴は本気の一撃を放つため、床に倒れこむ。

「これで、終わりよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ」

腕で体を押し出し、右足を前に突き出す。



「ゴフゥっっっっっ」



当麻の体から、力が抜ける。













すべてが終わったそこには、




顔を真っ赤にした一人の女の子と、
顔を真っ白にして、下腹部をおさえる不幸な男の子が居た

316ななに:2010/03/16(火) 18:56:27 ID:wlBIVBYc
どうでしょうか?

何ゆえ、初心者なものでして。
考えたあげくこうなりました。

できたら、感想などお寄せください。

317■■■■:2010/03/16(火) 19:15:22 ID:/ryt8Z3Q
>>311
GJ
黒子はホントいいキャラだねえ、続き期待

>>316
よくあるネタだけど、このスレではひょっとして初だったり?
なんだかんだいちゃいちゃも良いけどこういうのも良いですね

318■■■■:2010/03/16(火) 19:30:08 ID:yRzpBhWA
>>316
GJです!
やっちまいましたね美琴さん!!もう責任とるしk(ry

>>300,>>303
ありがとうございます。そうですね、この二人はある程度刺激のある生活を送りそうですね。いちゃいちゃ的な意味で(違

319■■■■:2010/03/16(火) 19:37:14 ID:Xb1dpqIU
>>316
GJです。ほんとここの職人さんはレベル高いな。
俺なんか文才ないからここのSSみてニヤニヤするので精いっぱいだよ。


PS
ついさっきつべで23話みてきた。もうね、テレスティーナは
絶対に「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」って感じ。
話の展開上無理なのはわかっているけど
美琴の電撃と上条さんのそげぶのダブルパンチで鉄槌をくだしてほしいね

320■■■■:2010/03/16(火) 20:23:01 ID:6m1RyqEE
>>319
文才は上条さんと美琴のいちゃいちゃへの情熱だっ!!
と言う事でSSを書く作業に戻るんだ。

321■■■■:2010/03/16(火) 20:30:08 ID:2M5B.j4k
書き手のみなさんGJです!
読み手としては勢いについて行けてない…w


『Little Love Melody』
注意事項
・時系列等、細かい設定は気にせずに勢いで書いたので矛盾があるかもしれない事をご了承ください。
・中盤にダラダラがあります…。お時間とお気持ちに余裕があれば最後までお付き合い下さい。
・文才はないに等しいです。

なんといっても一番下については暖かく見守ってください。
違和感がありましたら、お読み頂いている間は脳内で変換してもらいつつ、後でコッソリとお知らせして頂けるとありがたいですw
お見苦しい所が多いとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。

投稿開始は只今より5分後を予定。5レス消費させてもらいます(予定)

322■■■■:2010/03/16(火) 20:35:43 ID:2M5B.j4k
――カラオケボックス

 不幸な少年は重い体を動かし、一人で第六学区にあるカラオケボックスに向かっていた。
 理由は―――とある催しのクラス代表に選ばれてしまったからだ。
 いや…青髪ピアスと土御門にハメられた。という言い方が一番正しい。本人にやる気なんざあるワケがない。
 では、何故!カラオケに向かっているのか、それは『どうせなら少しウォーミングアップくらいしといた方が…』
 と彼のどこかにある、惨めな姿は見せられない。という感情からだった。 

(あぁ〜だりぃ…。人の事ハメといてアイツらは付き合いもしねぇし…)
 頭をポリポリと掻きながら、どんよりと曇った空を見上げる。そして、今日は何かがありそうだな――と根拠のない予感がした。

 その頃、常盤台のお嬢様は上条が向かうカラオケボックスに一足早く到着していた。
 約束をしていたワケではなく、ストレス発散を兼ねて遊びに来ただけ…。
 普段からゲーセンに行ったり、コンビニで立ち読みもするお嬢様なので珍しい行動でもない。

(う〜ん。何時間にしようかしら…)
 店員が「お客様…?」と尋ねているのを聞きもせずに料金表とにらめっこしていた。
 常盤台の制服を着てれば嫌でも目立つのだがそんなのは全く気にしていない様子。
 そして数十秒で出した結論は「一番奥の部屋、テキトーに借りるから」
 細かい事はどうでも良い…という実にオトコマエな心の持ち主だ。

 美琴が入室して間もなくだった、彼は少し周りを気にしながら入店。そして受付の前で眉間にシワを寄せ料金表を眺めていた。
 (喉を軽く慣らすだけなら30分でも…いや、でも1時間でも料金はあんまり変わんねぇし…)
「お客様、どういたしますか?」
 先程の事が頭の隅にある店員は慎重に対応する、振る舞いを見るに比較的長く勤めていそうな雰囲気があった。
「ん〜じゃ一時間でお願いします、部屋は奥の方で開いてる所を…」
「かしこまりました、ではご案内いたします。あ、その時の状況によっては延長も可能なのでご利用ください」

 店員の後に続いて、部屋へ向かう。案外静かなもんだな――と思いつつ、部屋の前まで到着した。
 どうやら一番奥の部屋は埋まってるようだ、声は聞き取れなくとも音の方は微かに聞こえる。
 廊下の方は突き当たりではなく、お手洗いになっており奥に男性、手前に女性。そして入り口には消毒液が置かれていた。

「お飲み物の注文がごさいましたら、承りますがいかがでしょうか?」
 メニューに目を通す、学園都市にもかかわらず、何故かアルコール類が目立つが下の方にしっかりとソフトドリンクの欄があった。
 定番のコーラやらオレンジジュース、学園都市の自販機等では危ないジュースを多々取り扱っているのだが
 店となるとかなりまとも…いや普通のラインナップになっている。
 飲み放題コースが500円というリーズナブルな価格で設定されているのだけれど
 1時間じゃ元が取れるかも怪しいので、とりあえず無難にメロンソーダを頼むことにした。
「じゃ、メロンソーダでお願いします」
「かしこまりました、そちらのルームサービス専用の受け取り口から間もなくしますと、お飲み物が出てまいりますのでお取り下さい。では失礼します」
 歌っている時に飲み物等が部屋に運び込まれないようにと配慮しているようだった
 実際に飲み物というのは微妙な時間差で部屋に運び込まれるので歌ってる時に来る例が多い気もする。
 しかし店員が部屋のドアを閉めた瞬間に注文したメロンソーダが受け取り口に出てきたのだ
 彼は『どんな早業だ!』と心の中で受け取り口に向かい突っ込んだ上で飲み物を受け取った。

323■■■■:2010/03/16(火) 20:37:04 ID:2M5B.j4k
――当麻と美琴が交差する時、何が始まる…?

 隣の部屋では美琴が早速、高得点を獲得していた。もちろん自慢の能力で機械を操作したりはしていない。
 基本的に何をやっても上位の得点.成績を取れるくらい万能なスキルの持ち主。
 ゲーセンのパンチングマシーンを始め音楽ゲーム、格闘ゲーム等々……。
 ダメなモノというのは気合と根性でひたすらやりこみ攻略する。
 しかし、まだ攻略出来ていないモノもあるのだが……。

「きらめき〜踊る♪ 電光 この世界 暗闇を 駆け抜ける〜♪――」

 お互い、隣に不幸な少年、そして常盤台のお嬢様が居ることをまだ知らない。

 再び部屋を戻す。上条はというと未だに座ったままで飲み物を飲んでいた。
 曲を探してるというワケではなく、一人で歌うことに若干の後ろめたさがあるようだった。

(いざ、来てみると誰に見られてるワケでもねぇのになんかなぁ…あれってもしかしたら
 誰かが居るからこそ歌わなきゃ…ってなって歌えるもんなのか? とりあえず気分転換に顔でも洗ってくっかな……)
 てな調子で部屋を出て、右側奥にあるお手洗いに向かおうとした…が。
 自分の部屋の右隣、いわゆるこのカラオケボックスで一番奥の部屋に見覚えのある顔がいた。覗こうと思い、見たワケではない。
 何気な〜くお手洗いに向かおうと一歩踏み出したら、自然と目に入ってしまったのだ。

「――約束の言葉を ぎゅっと抱いて進んでゆ……」

 目が合った。

 美琴は握っていたマイクをそのままポトりと落とし、上条は目を逸らしお手洗いに向かって逃げた。
 

 気持ちの整理を始めたのは美琴だった、体が先に動いたとしても『あの馬鹿』に無意味な電撃を飛ばすくらいの事しか出来ないのは自分でも理解していた…
(なんであの馬鹿がここに居るワケ!? しかも私、ベストまで脱いで本気で歌ってたってのに…。
 とりあえず取っ捕まえて話聞かないと気が済まないわ。右奥は確か…トイレ! いくらアイツでも逃げられないでしょうね…)

 彼は早速、男子トイレに逃げ込んだ。美琴の事が目に入ってから数秒間見つめてしまった事に反省しつつ
 御坂美琴が何故ここに居るのかを考えていた…。
(なんで休みの日の朝っぱらから常盤台のお嬢様がカラオケボックスなんかにいんだよ……。しかも思いっ切り目が合っちまったし…あ〜不幸だ)
 場所を考えると逃げる事は不可能…もしこの場から逃げれたとしても、御坂美琴以外の人間にも追われるハメになるだろう。
 ここは大人しく観念する事にした…。

 ガチャ…と男子トイレのドアが開いた、そこからまるで署まで輸送される容疑者のように顔を伏せた上条が現れた。

「自分から観念するなんてアンタも少しは成長したのね」
 髪の先からパチパチと電気を飛ばしている美琴、腕を組んでいるのでどうやら直接的な攻撃をする気はないらしい。
「覗くとかそういうつもりは一切なかったと言いますか……ですから、見逃して下さい!」
 上条が顔をあげた次の瞬間―――目の前の光景に声が出なくなった、電撃とかそういうのではない…。
 視覚的な刺激と言えば分かりやすいだろう。
 確かに目の前にいるのは御坂美琴なのだが、ベストを着ていない…これだけならば何にも思わないのだが
 ボタンが外れて微妙に乱れたシャツの間から下着が見えたり見えなかったり…。
「見逃す…ねぇ。アンタは何か私から逃げなきゃならない事をしたのかしら…?」
「……ふ、服…」
 目線を左斜め上に逸らしながら美琴に伝える。
 それを伝えられた美琴は下に目線を向ける……。
「ひゃ……何見てんのよ!!」
「うおっ!?」
 オトコマエな性格の美琴がオンナノコな悲鳴をあげた瞬間に『バチっと』電撃が放たれたが
 この超至近距離でも彼の右手は反応し打ち消す。
「ちょっと来なさい!」
「不幸だ……」
 美琴は左手で襟元を隠しながら、上条の手を掴み部屋へ連れ込んだ。

324■■■■:2010/03/16(火) 20:40:17 ID:2M5B.j4k
――ビリビリ使い

「あっち向いてて…」
「自分から連れ込んどいてそれはないだろ…」
「じゃこっち向いてて…」
「見てろっていうんですか!?」
「んなワケないでしょーが!」
「…外出てるから着替え終えたら呼べよ」
「…あの、その…外に出たらさっきみたいに覗かれるかもしれないから…」
「わかったわかった、壁の方向いてりゃ良いんだろ?(ったく何のプレイですか?)」
「……うん」
 上条は靴を脱ぎ、L字型ソファーに正座する形で美琴に背を向ける。
 美琴は乱れたシャツを一回脱いで着直す。何故か背を向ける形ではなく上条の背を見る形で着替えているのだが……。

――数分後
「あの〜そろそろよろしいでしょうか…?」
「ダメ」
「足の痺れというのが限界に……」
「それくらい耐えなさいよ」
「不幸だ……」

――更に数分後
「御坂、一つ聞いて良いか?」
「なによ」
「本当に着替えてる途中でしょうか…?」
「当たり前じゃない、見たら黒焦げにしてやるんだから…」
「痺れに苦しむ上条さんを見て楽しんでいる。というのではない?」
「う〜ん…。電撃は効かないけど、そういうのなら効くって事?」
「逆質問!? いや…まあ上条さんも人間ですから…というより早く着替えてください!」
「あ、うん…」

――更に更に数分後
「ふーっ ふーっ ふーっ」
「呼吸オカシイけど大丈夫…?」
「色々と限界なんですけど…」
「1つ目は?」
「痺れ」
「2つ目は?」
「怒り」
「3つ目は…?」
「我慢」
「全部我慢しなさいよ」
「だから我慢も限界だっつてんの! 今から5秒後にもう楽になるからな、その後になんかあっても上条さんは一切の責任を負いません!」
「ちょ、待って!」
 美琴の制止なんて当然無視である、1・・・2・・・3・・・4・・・。
「5! さすがに数十分したから着替え終わってるよ……な?」
 目に入ったのは上から、水色の下着、スカート、ルーズソックスの順番だった。
 シャツの方とベストの方はソファーの上にどういうワケか綺麗に畳んで置いてあった……。

 顔を赤く…尚且つ涙目で上条を見つめている美琴
 上条の方は足が痺れているせいもあり、微妙な角度から美琴を眺める形となっている。
「良いスタイルしてるな〜御坂も立派な女性じゃないか〜。…………ご、ごめんなさい!!!」
「いいからさっさとあっち向きなさいよ!いつまで見てるつもり!?」
「いや…ですから足が痺れてですね…」
「電撃と痺れ……どっちが良いか選びなさい…」
 次の瞬間、膝を使ってクルっと壁の方に再びポジションを戻した。この間2.06秒。

 美琴はササッと服を着用し、足の痺れがとれた上条と向かい合う形で座っている。
 
「で、なんでアンタはここにいたワケ?」
「そっちはどうなんだ? 常盤台のお嬢様が朝から一人カラオケですかぁ?」
「人の裸見た後によくそういう態度が取れるわね……」
「見たくて見たワケじゃねぇよ!!」
「ふ〜ん。そう…私の裸なんか別に見たくなかったと? そうよね〜男ってのはもっと胸が大きい人の方が好きなんだろうし。
 仕方ないか…どうせ私の裸くらいじゃなんとも思わないわよねー」
「あの〜そこまでは申しておりません…。それと…健全な男子たるもの、女性の裸を見たら多少なりともああいう感情は抱くに決まってるのです」
「ああいう感情ってなによ…」
「言葉で表せと言われると非常にピンクな事になりますので…それにまだ御坂さんは中学生ですし」
「アンタの中で中学生と高校生の間になにがあるのかしら? もし私が高校生だったら話してるワケ?」
「そういうワケでは……」
「安心しなさい、私の隣にはいつも十八禁どころじゃ済まない変態がいるから…多少の事じゃ驚きもしないわよ」
 美琴はその後「さっさと話した話した」と続けた、その表情に先程まで顔を赤くして涙目になっていたオンナノコの姿はなかった。
「……変な感情と言いますか、疚しい感情と言いますか…そういうのが出てきてしまうんです、ハイ」
「へぇ〜。それを私にも持ったと…?」
「仕方ねぇじゃねぇか! 俺だって男ですよ男!」
「という事は…脈はアリって事…?」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、何でもない。 アンタって勢いに任せるタイプ?それとも慎重に進めるタイプ?」
「そんな情報を聞き出してナニを企んでいらっしゃるのですか御坂さん…。まあどっちかといえば前者だろうな」
「ふ〜ん。じゃ、子どもっぽいモノと大人っぽいモノどっちが好き…?」
「そりゃ大人っぽいモノに決まってるだろ」
「うっ……」
 痛手を突かれたように軽く俯く。

325■■■■:2010/03/16(火) 20:41:30 ID:2M5B.j4k

「どうした?」
「な、なんでもないわよ……」
「あーでも、子どもっぽいモノも素敵だと思うぞ、非科学的だけど夢ってもんがある。
 それにそういうモノが好きな人って純粋っぽいし。あっ、これは俺の個人的なイメージだから気にすんなよ」
「…そうよね、そう、絶対にそうよ! 今日の所は帰るわ、何かあったら連絡しなさいよね。明日は暇だから」
「あのー御坂さーん?」
「じゃ、また明日ね!」
「あ……明日? ちょっと待て…って行っちまった…。 「明日は暇だから」の次に出た言葉が「また明日ね」…?」 
 そこに一人取り残された少年は考える、これって明日の予定を勝手に埋められたという事なのだろうか…と。
 そして時計の針を見たら、10時50分…。
 結局一曲も歌えぬままカラオケボックスを去る事になりそうだ、しかし延長してまで歌いたい、練習しようなんざ思ってはいなかった。
 隣の部屋にある伝票を取り、少年は店を去る。さっきと同じように空は曇っている…。
 でも今日はもう何も起こりそうにない――根拠のない予感がそう告げた。

―――モノホン(本物)のお嬢様、御坂美琴

「〜♪ ♪〜 〜♪」

 カラオケの帰り、眺める空は上条と一緒。しかし彼女の心はどうも晴れ渡っているようだった。
 意中の男性に裸(正確には上の下着、いわゆるブラジャー)を見られたりでもしたら、普通に考えてすぐに立ち直るのは無理だ。
 だが彼女はそれ以上の収穫に心が弾んでいた。
 自分が上条の守備範囲内に居る事…尚且つ大まかな趣味と自分の趣味に対する気持ちまでも知ることが出来た。
 こんなのが下着を見られたくらいで分かるんなら、安いモノだと考えを切り替えて目的地へ向かっていた。
 そこは様々な服屋が一つの施設に詰まっている「Seventh mist」
 虚空爆破事件の舞台ともなった場所でもあり、上条が女の子と初春…そして美琴を幻想殺しを使い救った場所でもある。
 当時は半壊の状態でしばらく営業を見合わせていたが、安全が確保された現在は普通に営業している。

(とりあえずは仕入れよね!)
 どうやらお嬢様マネーの本気を出すらしい、以前目を奪われたパジャマのある売り場は脇目もふらずに素通り
 たどり着いた先はちょっとオトナなゾーン――実際に美琴は身長が百六十センチ以上あり
 中学生として平均以上のスタイルの持ち主だ。
 そして、様々な吊るし飾りに書いてある文字に目を取られながら物色を開始。

(う〜ん、どれどれ?)
 最初に目をつけたのは今までの趣味とは真逆ともいえよう、Sexyなゾーンだった。
 チェック模様の服に、ニーハイブーツ、そしてガーター付きのニーハイソックス……。
 それをコーディネートしたマネキンを見て―――
(これならアイツも少しは気にしてくれるんじゃないかしら…)
 等と考え始めた時にはもう店員を呼び、ご購入。
 試着は後でで良いやという気持ちでモノを買う辺りはさすがお嬢様。

 次に目をつけたのは大人しめのワンピース等が飾ってあるコーナー
 美琴の感性で可愛いと思えるモノがズラッと並べられている。
(どこまでが良いのかしら…買って合せてみるのが一番よね)
 サイズだけを確かめ、並んでいる服達を片手一杯になるまで抱える。
 そしてすぐにお会計……この場に上条が居合わせたらどういう反応をするのかは想像出来やしない。

 そして最後の目的地は下着売り場だった
(べ、別に見せるワケじゃないんだから、どんなのを着てたって構わないわよね…)
 と自分を納得させて中へと入って行く。逆だろう…と美琴に突っ込む人物はここにはいない。
 
 そこは見てて恥ずかしくなる下着から、大人しめの下着…いわゆるSexy〜普通まで幅広く扱っている。
 美琴は普段の自分が行く方向とは逆に向かう―――「どうせ見せるワケじゃないんだから」と再び自分を納得させて…。
(うわぁ…布ちっさ……)
 自分の胸と下着を交互に見比べる…しかし自分の胸の負けを確信。
(ま、まだ成長途中だから仕方ないわよね…。ムサシノ牛乳、ムサシノ牛乳……)
 結局は自分のサイズに見合った黒の下着をご購入、黒というだけでどこかオトナっぽく見えたというのが購入理由。
 これで本日の仕入れは終了のようだが、直接美琴が寮に帰る様子はない。
 
 常盤台中学生は校則で外出時の私服着用を認めておらず、大体は制服での行動と定められている為、迂闊に持ち帰り等は出来ない。
 多少の量ならまだしも、紙袋一杯の服を持って帰れば寮監のチェックにも引っ掛かるだろう。

326■■■■:2010/03/16(火) 20:42:53 ID:2M5B.j4k
(問題はこの服をどこに隠すかね…。あ、そうだ…ホテル!)
 そして、服を隠す為だけにホテルの一室を借りたお嬢様、部屋に入る為にカードキーを渡されたが
 こんなモノは必要ないと言わんばかりに自分の能力で簡単にロックを解除し入室。
 確かにここなら服を隠す以外にも試着等、色々出来るのだが……。上条が見たら気を失いかねない行動だろう。

 一人ファッションショーは夕方まで続いた……。
 
 美琴は雲の間から夕焼けが差しているのをホテルの窓から確認し、少し驚くも手際よく服を整理…。
 それを見て今日の所はとりあえず寮に帰る事にした。

 帰り際に上条へメールを送ろうと携帯を確認…しかし先手を打たれていた。
 恐らく買い物…試着で夢中になっていたので気付かなかったのだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――

 200*/**/** 15:26
 件名:さっきの事だけど
 from:上条当麻
 
 明日どっか行くって事で良いんだよな?
 待ち合わせ場所も時間も言われなかったから
 良く分からなかったけど…。
 とりあえずどっか行くんなら
 明日の午前9時にいつもの自販機前で待ってる。
 来ないんなら連絡くれ、それ以外の場合は来い。分かったな?






 今日のお前はいつもより可愛かった…うん。
 もう少しで中学生に手を出した凄い人になってたかも…。
 なんてな。じゃ、また明日。


―――――――――――――――――――――――――――――


 美琴はこれを見て、反射的にニ文字を打ち返信した。
 「馬鹿…」―――そして
――――――
――メニュー
返信
転送
電話帳に登録
メールアドレス表示
表示設定
メール管理   》

――メニュー
フォルダへ移動
保護
カラーラベル
データフォルダに保存
―――――――

BACKボタンを2回押し、受信ボックスへ戻った時。上条当麻からのメールには保護を意味する南京錠マークが付いていた。

――続くない。

327■■■■:2010/03/16(火) 20:44:09 ID:2M5B.j4k
以上です!

カラオケの所で終わらせる予定だったのに、勢いに任せたらこうなってしまいました…。
何やってんだ俺。しかも調整したハズが投稿途中、文字制限に引っ掛かってグダグダになった…w

お見苦しい点多かったと思いますが、最後まで読んで頂き感謝です!

328■■■■:2010/03/16(火) 20:53:45 ID:1wx2sjBk
>>327
GJ
とりあえず言いたいことは
早く続きを書いてください

329■■■■:2010/03/16(火) 21:02:15 ID:/ryt8Z3Q
>>327
GJ
何をしてる、早く続きを書くんだ!

330■■■■:2010/03/16(火) 21:09:06 ID:w1/qYe.s
>>316
もう美琴嫁にいけねぇw

331■■■■:2010/03/16(火) 21:09:08 ID:3YotOZic
>>327
GJです。是非続きをお願いします。

332■■■■:2010/03/16(火) 21:14:00 ID:w1/qYe.s
>>327
乙。
学園都市に新たな脱ぎ女伝説が(違

333キラ:2010/03/16(火) 22:19:42 ID:rNQqlkzo
皆様、お疲れ様です、
前回のssを書き終えた後に、ぶっ倒れそうになったキラです。
書くのはいいけど、体調管理はお気をつけを(私みたいにならないために)

『超電磁砲の記憶』の続きを投下させていただきます。
『memories』シリーズの続きとなります。

25分に、6レスの予定です。

334■■■■:2010/03/16(火) 22:21:27 ID:tkq3tow2
美琴は上条さんの嫁
>>327
以上です! じゃね〜だろ
続き書きやがれ
全裸でまってるぜっ!

しつこいようですが美琴は上条さんの嫁

335■■■■:2010/03/16(火) 22:25:32 ID:w1/qYe.s
>>333
お身体は大切に……

336キラ:2010/03/16(火) 22:26:50 ID:rNQqlkzo
 上条と白井は、ファミレスから少し離れた大通りにいた。
 この時間は小さな子供が楽しそうに遊んでいるので、昨日のような危険はない。白井はもしものことを考え、入念にその場を観察して安全だと確認すると近くベンチに腰をかけた。
「大丈夫か? なんだか真剣な顔してたけど」
「お気になさらずに。昨日の風紀委員のしびれがまだ少し抜けておりませんの」
 そうかと納得すると、上条は自販機から買ってきたジュースを白井に一つ渡す。白井はそれを受け取って膝元におくと、隣にいた上条を見た。
 何を考えているのかわからない普段通りの表情は、一体何を考えているのか、白井にはわからない。だがいちいちここまで連れてきてまで自分と話すことといえば……。
「白井、いきなりで悪いが訊きたいことがあるんだ」
「二月の事件…ですか?」
 ああ、と上条は頷くと真剣な眼差しで白井に見つめた。
「美琴には悪いが、真実を知りたい。もちろん、白井の知っている真実でも構わない」
「だと思いましたわ。こんな場所まで来て話すことといえば。やはりそれだと予想できておりましたし。それに、いい機会ですの」
 白井は上条からもらったジュースを開けると、一口だけ口をつけた。幸い、飲めるものであったので特には気にならず話を折ることがなかった。
「本来ならお姉様が話すべきことですが、きっとお姉様は一生、抱え込んで話さないでしょう」
「どういうことだ…?」
「そういうお方ですの。ですが、貴方も似たようなお方ですわね」
 白井は読みきって上条に言うと、上条は視線を逸らし答えなかった。
(まったく。こういった部分は似たもの同士ですの)
 上条は美琴と同じで背負い込むタイプだ。絶対に話さないと決めことは絶対に話さない頑固な一面があり、事件に巻き込まれたりすると関係のない周りを巻き込まんと一人で解決しようとする。他人を思いやることが出来ても、他人から助けを得るのはどこか苦手。まるっきり男版の超電磁砲みたいだ。
 だからこの手の相手には、白井は慣れているつもりだった。接し方は少し違うが、根本的なことは美琴と似ていたのだから。
「貴方もお姉様には絶対に訊く気はないのでしょう? だからわたくしに訊きに来た。違いますの?」
「………悪い」

337キラ:2010/03/16(火) 22:28:06 ID:rNQqlkzo
 上条は素直に謝った。それは認めることであり、白井に申し訳ないと思う心からの謝罪であった。
「お姉様に訊かない理由をお聞かせください。内容はどうあれ、それだけ聞ければわたくしもお話します」
 ジュースをもう一杯飲んで、白井は上条の出方を待った。すると上条は白井と同じようにジュースを一杯飲むと、床に視線を向けて神妙な表情になり、敵わないなと呟いた。
「簡単な話だよ。俺はあいつの暗い表情を見たくないんだよ。苦しそうで今にも泣きそうなあいつの表情をさ、俺が見たくない。それだけだ」
「……………」
 それを聞いて思ったことは、間違いだった。
 白井は上条の言葉を聞いて感じたのは優しさだった。人を思いやり、苦しませたくないと思う優しさ。だけど上条が抱いていたのはそれだけだった。そこには愛情もなければ異性として気遣う心持もない。言うなれば"他人の曇る顔を見たくない"だけなのだ。
 だけどそれは間違いだ。上条がここで抱かなければならないのは思いやる優しさではなく、御坂美琴という個人を悲しませたくないと思う愛情だと言うのに…上条はそれに気づいていないのだ。
「これで満足か、白井」
「え、ええ。ありがとうございます」
 だが心の奥では、違いますと言った。恋人同士となったはずなのに、上条の態度はいっさいの変化はない。それでは美琴が報われないと思った。がそれ以上に白井が感じ始めたのは、上条の歪みだったのだ。
(間違えて、間違えておりますわ、上条さん。それではいつまで経っても、お姉様を好きにはなれませんの)
 でも言ったところで変わらないのは、わかっていた。だから白井は言わないのではなく、言えなかったのだ。
 上条は個を第一ではなく、救えるもの全てを第一と考えている。そんな相手に『助けを求める人ではなく、お姉様を見てください』と言えるだろうか? 答えは否。上条の精神は、誰かを救うことにあるのだ。だというのに一人だけを見続けることはきっと上条には出来ないだろうし、言ったところで変わる問題でもない。むしろ上条は言われたことを意識しすぎる可能性だってある。
 だから白井は言えなかった。言ったらまた別の間違いを起こすことがわかってしまったから。
「白井? どうしたんだ、ぼっとして」
「あ、いえ。少し考えを整理しておりましたの。申し訳ありませんが、もう少しだけいいですか?」
 ああと上条が頷いたのを見て、白井は少しだけ息を整えた。
 間違えだらけの上条当麻。だがそれも上条自身であるのは、付き合いの中で白井はすでに知ってしまっている。
 言うことはとっくの昔に決まっている。ただ上条への整理の時間が少しだけ時間が欲しかった。どこでこうなってしまったのか、どうすればいいのか、美琴個人にどうすれば振り向いてくれるのか。
(わたくしは、無力…ですわ)
 でも答えはとっくの昔に、無力とだけ出ている。
 それがたまらなく悔しくて、白井は唇を思いっきり噛んだ。少しだけ血の味がした。

338キラ:2010/03/16(火) 22:28:48 ID:rNQqlkzo
 トイレに入って、そろそろ五分が経とうとしていた。
 その間に人が入ってこなかったのは不幸中の幸いであったと、美琴は小さく安堵の息を吐いた。
 泣きやんだ顔は涙の流れたあとが少しだけ見える。美琴は鏡を見ながら、蛇口をひねって冷たい水でそのあとを拭いた。
「ははは……何やってるんだろう」
 実は美琴は上条の変化に気づいていた。
 今日の上条の様子は昨日と比べて、とても曖昧だったのだ。何が曖昧かというと、自分と上条との心の距離感が昨日よりも開いている。
 あくまで憶測の域を出ないことだが、上条が起きてからほとんどずっといた美琴だからこそ、その変化に気づいた。本当は気づきたくなかったのだが。
 だから今日の態度は、特にファミレスに入ってからは恋人らしくなかった。いや、友人時代に戻ったような感覚だった。
 そして、美琴は考えたくないことを予想してしまう。
「私だけじゃなく、色々な人を視界に捕らえてる」
 美琴は思う恋人と言うのは、特例がない限りは彼氏は彼女を、彼女は彼氏を一番に考えるものだと思っている。しかしその考えで行くと、上条は時間を重ねていくごとに遠ざかっていく。なぜなら彼は、彼女よりも救いを求めているものを第一に考えて生きてきたのだから。
 それに気づいてしまい、結局気づかされてしまう。彼女となっても上条は彼氏にはなれない。誰もが求める彼氏、美琴が追い求める彼氏には絶対に届かないのだ。
 だから上条は最低の彼氏。いや、彼氏ではなくただの偽善者(フェイカー)だ。
 しかももっとたちが悪いのは本人は一切気づいていないことだ。
 上条は自分は美琴を好きになろうと、恋人らしいことをしようと努力している。だが今日も会話や行動はどうだろうか。ホテルの一件は置いておいても、それ以外はマニュアルに従った通りにしか動いていない。言われたことを素直に行ない考えようとしていないのはまるでロボットのようだ。
 でも本人はそのことに気づかず、言われたことを行っていけばいいと思い込んでしまっている。そこには誰かを好きになろうとする恋愛感情的な想いは、ない。
 想いがないから上条は何にも気づけない。誰かを救いたいと思う心だけしか、そこにはない。
 そう『美琴の彼氏となって、美琴の願いを叶える』と思う心しか………。
「…………ははは。馬鹿みたい」
 自分も、それに付き合っている上条も…。
 自嘲しながら、美琴は水で涙のあとを消す作業を繰り返していた。何度も繰り返し、大体終わったところで一旦顔を拭いて、鏡を見た。
 瞳の赤みは消えきっていないが、それ以外はもう安心できるまで回復している。あとはこの赤みだが、これは時間とともに治していくしかない。美琴は目を擦ると、両頬を両手でぱちんと叩いた。
「よし! これで元通り」
 そう言い聞かせて美琴はトイレを出て、席に戻った。その胸のうちには上条には会いたくないと思う心が少しばかりあった。

339キラ:2010/03/16(火) 22:29:57 ID:rNQqlkzo
 白井黒子は風紀委員だ。
 御坂美琴は超能力者だ。
 では、上条当麻はなんなのだろうか。
 二月の話はまずこの問いから始まった。
「俺はなんなのか、だって?」
「貴方は無能力者でただの高校生。そんな貴方が何故あの事件に関わったのか。本心は貴方にしかわかりませんが、貴方はすでに上条当麻の記憶を失くしてますの。ですから、憶測でも構いません。お答えください」
「上条当麻はなんなのか…………」
 白井が上条にこの質問をした理由は特にない。また答えてもらっても、大きな意味は持っていない。
 だが、意味はなくとも上条当麻の断片は見れる。つまり、上条本人が過去の上条の考えをどう考えるかを白井は少し知りたかったのだ。
「俺は多分、誰かが助けを呼んでいたから来ただけじゃないか? 俺がなんのかは、きっとそこまで重要じゃないんだと思う」
 やはりと白井は思うと、そうですかと上条に頷いてみせた。
 上条の答えは、白井の思い通りの答えであった。白井はこの問いの答えは特にないことはわかっていた。なぜなら、上条はどこにも属さないただの高校生。でもどこにも属さないから、自分のしたいことだけを行える。
 と、言ってもこれは美琴にも当てはまることだ。どこにも属さずに、自分のしたいことを行った。ただ唯一違うのは、誰かを救うために事件に巻き込まれたのではなく、上条の手助けをしたくて事件に巻き込まれた点であった。
 そして、その原因を作った本人は誰かが傷ついて欲しくなかったから、助けに行ったのだ。そこに助けて欲しいと願った意思はなく、助けたい・傷つけたくないと思う上条の意思だけが働いていた。
「では上条さん。貴方は"そう考えていた"と思いながら、わたくしの話を聞いてください」
 上条の眼を見ながら、白井は言った。返答として上条は無言で頷き返すと、白井は視線を前に戻し話を始めた。

340キラ:2010/03/16(火) 22:32:25 ID:rNQqlkzo
 二月の事件は三月が見え始めた普通の平日の日に起こった。
 空は少々雲が目立ち、気温は冬らしい一桁台の朝。いつものように賑わう通学路には、学校へと向かう学生がいつものように歩いていた、街は賑わう前の静けさを保ち、道路には仕事場へ向かう大人たちの車が溢れ、電車は学生と仕事へ向かう大人たちが占拠していた。
 今日は変わった予定もなければ、世間でも重要な日でもない。ただの平日の朝であり、学園都市にとっても平日の朝……のはずだった。
「その日はわたくしもお姉様も、特に大きな予定はなくいつも通りに起きました。ですが登校するために部屋に出た時、地震、というよりも大きな爆発がおきましたの」
 最初の揺れは地震だと思ったが、揺れは一回だけでなく何度も起きていた。それが爆発音だと気づくと、美琴と白井はカバンを部屋に放り投げ、廊下を一気に走り抜けて寮の出口を出た。
 いつもと変わらないはずの外の光景は、街の方向からの煙で非日常へと変わった。美琴はすぐに煙の昇る街へ走って向かい、白井は美琴の許可を得て空間移動で先に街へと向かった。移動中で白井は、携帯で初春と連絡を取り情報を求めながら、空間移動をしていくと数分で煙の昇っている街の入り口に着いた。
「そこには大きな爆発の跡が残っておりましたわ。しかも、規模は並みの能力者の非ではありませんでしたの」
 爆発の後はクレーターとなり、周りにいくつもの跡を残していた。大規模な爆破テロでも、ここまで大きなクレーターとして残るわけはないとわかるほどの大きなくぼみを、白井は初春に写メで送ると、これぐらいのクレーターを残せそうな相手を探すように依頼した。
 これほどの跡を残せる能力者ならば、大能力者ではなく超能力者であってもおかしくのない。それに過去にあった『幻想御手(レベルアッパー)事件』のようなこともありうるので、情報はないにも越したことはない。白井は初春の情報を待ちながら、街の中へと歩いていこうとした。
 その時、無数の氷の針が白井に周囲に展開された。
 氷の針は視界だけでいくつかあるかわからない数であり、形状や大きさは個々別々。白井の金属矢ほどの大きさもあればその倍、その半分もある。形状も金属矢に似たようなものがあれば、とんかちのように平らな形状に、削りたての鉛筆に近い形状、さらにはナイフそのもののような形状と氷の針とは言いがたいものがたくさんあった。
 だが氷の役割は、相手を射殺すこと。決して生かさず、ありとあらゆるものを蜂の巣にするために、周囲に展開された氷の針は音も立てずにいっせいに白井に襲い掛かった。
 しかし、展開後に襲い掛かった氷の針よりも白井の空間移動の方が二秒以上も早かったため、針は誰もいない空間だけに襲い掛かり、白井を射殺す効力を失った。
 空間移動後、白井は太ももに装着しているホルダーに手を置き、いつでも針を空間移動させる手はずをそろえた。そうしている間にも、第二陣の氷の針がいっせいに白井の周囲に展開された。今度は数は少ないが、さきほどよりも鋭利な針が増え殺傷能力をあげていた。さらに展開された針は展開しながら形状を作り、白井に襲い掛かる一秒前で完成される計算となっていた。
 それも空間移動で避けるが、今度は一秒前後での空間移動だった。さきほどよりも寸前であったため、白井は空間移動を繰り返し、街の中をあらゆる場所に空間移動して相手を探す。
 店の看板、自販機、車の上、歩道橋など着地が可能な場所であれば、白井は空間移動は可能。ならば道をまっすぐに進むのではなく、ジグザグに位置をずらして進んでいけば、攻撃までの時間は多少稼げる。さらに一応、相手を探すことにも繋がるはずだ。
 だがあくまで一時しのぎ。展開される氷の針には空間移動をしたさきに待つのではなく、空間移動を終了し移動する一秒未満の時間で氷の針は展開されてきた。それが二度もあったので、三度目は時間の問題だろう。

341キラ:2010/03/16(火) 22:33:12 ID:rNQqlkzo
 などと考えている間に、三度目が展開された。今度の氷の針の形状と数は二度目と同じだが、展開方法はさきほどよりも全然早い。というよりも、白井と展開された氷の針の距離が一気に近づいていたのだ。
 やばいと心の中で焦りながら、間一髪のところで白井はそれを回避した。だが、今度の回避は完全な回避でなく、致命傷を避けられただけの回避であった。
 空間移動後、白井は右肩に一本、左腕に三本、右の拗ねに一本、左の足の裏に二本ほど刺された痛み走ったが、直撃する寸前であったので数センチだけの傷であった。他にも左頬、わき腹、太ももにかすり傷をつけられたが、それはたいした痛みではなかったので特には気にならなかった。
 それよりも痛かったものは、三度目にしていくつか傷をつけられた事実だ。
 二度目はかすりもしなかったはずの氷の針が、三度目になってここまでの傷を負わせるほどの展開スピードと殺傷能力を持っていることは、傷の痛みよりも痛い事実だ。これが意味するのは、次の攻撃では展開される速度と氷の針の数は一気に増え、下手を次、運が良くても二度目で殺される確信であった。憶測ならまだしも事実が憶測を否定し、未来に起こり得る現実は白井の中で確信に変わっていたのだ。
 つまり、あと数秒の間にこの能力を使っている相手を見つけ出し気絶なり拘束なりしなければ、自分の命はない。
 白井は冷静に考えながら、どこから氷の針は展開されているを探していると、三度目よりも短い間隔で氷の針が出現し始めた。しかも予想通り、数は増えており殺傷能力は白井が見た限りでは全て鋭利なものとなっていた。
 それらを視界で確認し襲い掛かってきた瞬間、死ぬ! と白井は本気で覚悟したが、反射的に空間移動を行ない蜂の巣になることは回避できた。
 しかし、今度の回避はあくまでの命の回避であった。
 空間移動後の左肩と左手、右腕と右ふともも、両すねにはそれぞれ氷の針が溶けずに刺さっていた。さらに、右手の甲と左手の肘、左のわき腹と右の膝は氷の針で抉られていた。命に問題にある怪我ではなかったが、怪我の数と傷の大きさは致命傷に匹敵していた。
 かつて対決したことのある結標淡希よりは怪我はまだいいが、あの時とは決定的に違ったのは次で確実に殺される確信であった。だから白井は、賭けとして見つけた相手をすぐに攻撃できるように、両指の間にもてるだけの金属矢を挟み、相手を見つけようとした。が、両指に挟み終わり、空間移動した後一秒未満で氷の針は展開され、死ぬと思う前に白井に襲い掛かった。
「ですけど、氷はわたくしに襲い掛かってきませんでした。何故だか、上条さんにはおわかりですか?」
「誰かが……止めたのか?」
 最初から殺傷能力を持たせた氷の針を無数に展開し、白井に襲い掛かっていたということは、相手は最初から白井を殺そうとしたのは確実であった。さらには回数を重ねるごとに白井を追い込み、四度目で致命傷を負わせた相手に五度目の展開は殺意があってのことでしか考えられない。話を聞いている上条もそれは理解しているはずだろう。
「はい。そしてそのお相手は、上条さん。貴方ですの」
 展開された氷の針は白井の命を奪いに来る死神のように、いくつも束になって命を奪いに来るはずだった。だが、氷の針は出現後にすぐに弾け、水になって地面に落ちていく。同時に離れたビルから窓ガラスが割れた音が聞こえた。その音の方向を向いた白井は空から人が落ちてくるのを見た。その相手は背中から床に落ちると、白井は落ちてきた相手を確認した後に落ちてきたと思われるビルの窓を見た。そこにいたのは、ツンツンした頭をした白井がよく知る少年、上条当麻の姿だった。
 そして、その姿が記憶を失う前の上条当麻を見た最後の記憶であった。

342キラ:2010/03/16(火) 22:35:27 ID:rNQqlkzo
 それから約十分、白井は自分の知る限りのことを話しきり、それを知った上条は沈黙と無表情で前を向いていた。
 上条と白井の目の前の光景には、誰もいない公園だけが広がっていた。滑り台とブランコ、砂場とこのベンチだけで構成されている小さな公園であるが、全て聞き終えた上条にはこれが一体何に見えるのであろうか。
 自分の記憶を失い、自分の記憶のことを知るたびに、上条の光景は何に変化しているのだろうか。
 記憶を失ったこともない白井には光景の変化がどんなものか、想像しようにも今の上条らしいよい想像が浮かばない。
 元々知っているはずなのに知らない苦しみなのか。
 新たなことを知り目の前の光景が変化する驚きなのか。
 知っただけで何も変化しないただの光景なのか。
 白井には上条の頭の中では一体何が繰り広げられ、何を思っているのかを一切読み取ることが出来ない。予測は出来ても、確信に繋がりそうな手がかりは今の上条にはいっさい見当たらない。まさに無表情無感情の様であった。
 記憶を知りたいと願った上条は知った結果、何が起こり、何が変化するのだろうか。
 それらは時間とともに上条自身が変化した結果になって、上条の変化が自分たちの記憶として残るのであろう。だがそれは一般論であり、上条には通じなさそうな理論であった。なので白井はそれに頼らず、自分でどう変化しているのかを予想してみた。
 少なくとも動揺はあったはず。自分がどんなことをやってきたのかを知り、記憶を失った事柄に大きく近づいたのだ。白井であったら、平然であると隠せるが、本心は冷静でいられるはずはない。そして、それは上条でも同じはずだ。
 上条がどれだけ危険なことを経験し、どれだけ驚くべきことを知ってきたとしても、今の上条は二日間の思い出しかない。そんな人間がいきなり過去のことを知り、今一番知りたい過去であるのだったら、何も感じないわけはない。
 それに上条の人間性には一切の変化はない。だとすれば、上条を支配している感情は、
「驚かないのですの?」
「驚くと言うよりも、納得した気がした。美琴や白井が知り合いだったり、今まで話してもらった話が綺麗に繋がって、上条当麻が一気にわかった、というところか」
「そう、ですか。わたくしはもっと驚くと思いましたわ」
「これでも十分驚いたけどな、『不明能力者(レベルX)事件』。」

343キラ:2010/03/16(火) 22:36:04 ID:rNQqlkzo
 二月の事件は学園都市では説明できない能力者たち、魔術と呼ばれる能力を所有していたものたちが起こした事件を、学園都市では『不明能力者事件』と呼ばれ、その時に用いられた魔術という名称は『恐怖の能力(デビルサイエンス)』と呼ばれ学園都市に広まっている。
 白井の同僚の初春や固法は魔術ではなく恐怖の能力と呼んでいる。他にも友人の佐天や常盤台の生徒たち、他の風紀委員や警備員も魔術と呼ばず恐怖の能力という名称で呼んでいる。これを魔術と呼ぶのは、美琴や白井、または上条に助けられたり関わりがあったものぐらいだけである。
「でも白井。魔術ってなんで恐怖の能力なんだ? その辺りがいまいちよくわからねえんだけど、わかるか?」
「ええ。聞きました話ですと、魔術の存在は学園都市では異能の中の異能だそうですの。ただでさえ、能力者たちが存在しており解明されていない謎が多いのに、そこに魔術と呼ばれる謎の能力の存在を示されれば、能力者のみならず魔術も調べる研究者が増えますの。
 ですけど魔術は能力者たちの能力よりも謎が多く、解明どころか魔術は使えないという事実がありましたの。
 学生たちは誰も使えないはずの能力を『外』の人間が自分の能力のように使える。だけど自分たちには扱えない。なのにその能力は大能力者か超能力者に匹敵するほどの力であった。
 自分たちよりも大きく強い能力を見せられた学生たちは、魔術の恐怖を抱き、研究者たちは解明できない謎の能力に触れてはいけない恐怖のようなものを感じ始めた。それがきっかけになって世間では、魔術は恐怖の存在になり、不明能力者事件の能力者が扱う魔術を『恐怖の能力』と呼んで恐れましたの」
「それが………恐怖の能力と呼ばれる由縁」
「ええ。魔術が―――」

「学園都市で恐れられたときにつけられた名前と言うわけさ」

 不意に二人の目の前から声が聞こえた。
 ずっと前の向いていた上条と白井は、いきなり聞こえた声に一瞬思考が真っ白となり停止した。ずっと前を向いていたはずなのに、相手は空間移動でもしてきたように目の前にいて、二人を見ていたのだ。
「久しぶりだね、上条当麻。いきなりで悪いけど話を聞いてもらうよ」
 相手は上条の有無を問わず、近づいてきた。
 白井は見知らぬ相手に警戒心を持ち、金属矢を持って敵意を示した。だが上条は白井の前で手を広げ、白井を止めた。
「安心しろ、敵じゃない。何もしなければ何もしてこない。そうだろ―――」
 そして、上条は白井の知らない名前を告げた。

344キラ:2010/03/16(火) 22:43:20 ID:rNQqlkzo
以上です。
二度ほど文字数制限に引っかかってしまいましたorz
次回で、最後の予定です。
設定が多くなってしまったので、今までの投稿分だけで設定ノートを作ったら一時間もかかりました。
この長編の伏線や設定多すぎです(こんな予定では)
では続きを書いて、また来ます。

PS
入学式のプロットを一週以上考えてますが、いまだ完成せず。
入学式って、本当に何があったっけ?

345■■■■:2010/03/16(火) 22:55:00 ID:w1/qYe.s
>>344
乙です。
当麻の設定が辛いっすねぇ。

346■■■■:2010/03/16(火) 23:18:08 ID:/ryt8Z3Q
>>344
いやいや、なんだか大きくなってきましたね

347かぺら:2010/03/16(火) 23:39:27 ID:0MBq19Hg
>>316
GJです。
「責任とるわよ」とか言いかねないなw
>>327
ブラウスのボタンをかけなおすだけで数分もかけるあたり、
美琴はこの展開を狙っていたのではなかろうか、と邪推してみる。
>>キラさん
我慢してたけど『memories』読んでくる。明日になりますけど。
>>312
>>313
>>317
続きが38KBになりました。今日は筆が進むんだぜ。

348ななに:2010/03/16(火) 23:41:10 ID:wlBIVBYc
「コタツの下の戦争」なんて
駄文を書かせたもらった者です。

投稿した後、「あれ?これ、イチャイチャしてなくね?」
と不安になり、ローテンションでしたが、皆さまのお言葉で力がでました。
嬉しすぎて死にそうです!!

また、書かせてもらうかもしれまさんが、
そのときは、暖かい目で見守ってやってください

349■■■■:2010/03/16(火) 23:50:10 ID:YGT4FFAU
>>327
GJ
激しく続きをお願いしたい。

>>344
相変わらずのGJ、そして切ない。
次回で終わるのが残念ではあるけども
どういう物語を魅せてくれるのか。
続きお待ちしてます。

>>348
これからも頑張ってほしい、応援してます。
ただsageてくれると非常にありがたい。

350■■■■:2010/03/17(水) 00:37:34 ID:DaABhLkQ
はじめて投下させていただきます
他の方々みたいに上手くかけてませんが読んでくれれば幸いです

小ネタです
「カイロ」

351■■■■:2010/03/17(水) 00:38:12 ID:DaABhLkQ
「ちくしょー、寒い」
3月の中旬の放課後、ここ数週間暖かい日が多かったから上条当麻は今日も平気だろと天気予報も見ないで家を出たためコートを着ていないでいつもの学生服だった。
しかしそういう日に限って天気が崩れ、珍しく気温が寒かった。
しばらく歩いていて、ふと気がつくといつもの自販機に近くまで来ていた。
(ここは温かいお飲み物でも買って家まで頑張るか!)
「ちょっとアンタ! 待ちなさいよ!」
(いや、こういう早く帰りたい日はビリビリにからまれる気がするやっぱり少々辛いが買わずにすぐに帰ろう)
「無視すんな!」
怒鳴り声が聞こえてきて、振り返ると電撃が……それを条件反射で防いでいる自分が悲しい……
「なんというか、不幸だー」
「なによ!?私に会ったのが不幸だって言うの!?」
「あー悪い、悪い。で、何の用だ?」
相変わらずこいつはいつもビリビリしてるなー……
ってかこいついつものミニスカートの制服なのに寒くないのか?コートなんかも着ていないし……
「えーと、いや別に用事があるって訳じゃないんだけど…ただ見かけたから……」
というと困った顔でゴニョゴニョと言い始めた。別に用事無いみたいだしちょっと寒くないか聞くか、もしかしたら上条さんの知らないマル秘あったか術とか知ってるかもしれないし
「なぁ、お前その格好寒くないのか?」
「え?ああ、ちょっと体内の生体電気を操って体温を上げてるのよ」
なんだ、電撃使いだけの特権か……
「まぁずっと使ってると疲れるから普段はコートとか着るんだけど今日はコート忘れちゃって」
「ふーん……つまり人間カイロか」
俺はためしに御坂の手を握ってみた
「お!本当だ!手袋もしてないのに手がポッカポカだ!」
「なっ!アンタ……/////////」
右手を御坂の手から離して両手で御坂の頬を触る。そうすると御坂の顔がみるみるうちに真っ赤になっていった
「なんだ?さらに温かくなったけどサービスしてくれてるのか?」
「あふ……いや、その……あ…あ………」
(んー手だけじゃあな……体が冷たいだよな〜まぁ相手は中学生だし良いか、いやむしろ中学生だから問題?まぁいいや、寒いし)
上条は御坂をガバッと抱きしめた。そう寒いから
(ちょっと!!!!!!えええガバっって!!!!!!なんで急に抱きついてるのよ!!!!!!!!!!!!!)
「うわー、本当にお前暖かいな……このまあ家に持って帰りたいですよ」
(家に持って帰りたいって////////)
「ふ……」
「もしかしたら今日の上条さんは幸福かも……」
「ふにゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
その瞬間彼女は意識を失いながら漏電した
「やっぱり不幸だ!!!!!!!!!!!!!!」

352■■■■:2010/03/17(水) 01:00:01 ID:GuBOSMss
何かいいのキタ!
メール欄にsageって入れてくれるともっとうれしいです・・・

353■■■■:2010/03/17(水) 01:45:08 ID:DaABhLkQ
>>352
申し訳ないです・・・初めての投下で緊張して・・・
次から気をつけます許してください!

354■■■■:2010/03/17(水) 03:21:08 ID:Locgx9eI
にやにやがとまらないww

355■■■■:2010/03/17(水) 07:28:32 ID:vdierAQ6
>>351
GJ。
コタツがきて、カイロかきて、次は火鉢か湯たんぽか。

356■■■■:2010/03/17(水) 08:35:11 ID:fe4u7Y4E
>>351
GJです!

>>355
布団に連れ込むわけだな

357■■■■:2010/03/17(水) 08:59:27 ID:pFmXYYrQ
美琴ならゲコ太湯たんぽを愛用してくれると信じている。

358■■■■:2010/03/17(水) 09:00:01 ID:E2iomevg
>>351
GJ!
お持ち帰りの話も読んでみたい!

359かぺら:2010/03/17(水) 11:06:43 ID:p13ZGiIU
>>351
確かに美琴はあったかそうなイメージが……
にやにや

>>355
>>356
>>357
触発されて書いた。後悔はしてない。
20分で推敲もしてないから拙文すまん。

360ゆたんぽ1:2010/03/17(水) 11:07:18 ID:p13ZGiIU
とある喫茶にて。
「最近、寒くて寝付けないのよね」
だから冬は嫌いなのよ、と美琴は頬を膨らます。
そんな美琴をも可愛いと思ってしまう上条は、美琴の膨れたほっぺをつんつんと突く。
「ちょっと、やめてよ!なに公衆の面前でやってんのよ」
「わりぃわりぃ。あまりに美琴さんの膨れっ面が可愛いもんで、上条さん的には突っつきたくなったわけですよ」
上条がこっ恥ずかしい事を言ったりやったりして、美琴がそれに照れて赤くなる。
この2人における、おきまりのパターンであるが、人はそれをバカップルと呼ぶ。
今ではあの白井でさえ、呆れを通り越して関与しなくなったほどだ。
「で、なんだ。美琴は夜寒くて寝付けないと?」
「そうなのよ。入った途端の布団って冷たいし、じっとしてると暖かくはなるけど動くとまた冷たくなって……もう嫌」
溜息と共に肩を落とす。
上条としてはそれくらい我慢したらなんとかなるだろ、と言いたいところではあるがそんな事を言えばどうなるかは分かったものではない。
「常盤台の寮とか温度管理はすごそうだけどな」
「もちろんよ。何の苦もなく寝れるわ」
「はぁ?お前今、寝付けないって言ったところじゃねぇか」
「ばか。アンタのとこに……その、泊まったときの話よ」
「あぁ、そういうことか」
美琴は週に2度ほど、上条の部屋に泊まりに来る。
インデックスが英国にかえってしまってから、1人で寂しいとか思っていた上条にとっては嬉しい事ではあった。
しかし、戸主にも関わらずベッドは奪われ、『風呂じゃ死ぬ!』とか言い倒してようやく、同じ部屋の硬い床で寝る許可を得た。
しぶしぶ床で寝てみると、毎回、小さい声で『意気地なし』とか言われることになる。
―――女心は分かりません―――
上条は怪訝な表情で美琴の背中を見ながら寝ることになっている。
「お前……文句言うならわざわざ泊まらずに寮まで帰れよ」
―――辛い思いまでして泊まっていくのは勝手だが、文句まで言われるとは―――
上条はわりと本気で対策を考える。
「エアコンは使わねぇぞ!電気代も馬鹿になんねぇし」
「うっさいわね!分かってるわよ」
「こたつで寝るわけにもいかんしなぁ……と、そうだ、美琴、今から買いもん行くぞ」
上条は何かを思いついたかのように立ち上がり、美琴の手を引いて喫茶を出る。
「なな、何よ、いきなり」
「湯たんぽだよ湯たんぽ!」
「ゆたぽん?」
「違わないけど、違う!!」



「これが先人たちの知恵の結晶!湯たんぽなのです!」
上条と美琴はデパートの寝具コーナーに来ていた。
最近、流行りらしく、いろいろな湯たんぽが置いてある。デザイン的にオシャレなものも多い。
「さぁ、選べ!エアコンは付けない上条さんだが、湯たんぽなら買ってやろうっっ!!」
「結構いろんなデザインあるし、迷っちゃうわね……っ!?」
急に固まってしまった美琴の様子に、上条はその目線の先をたどる。
「げっ」
上条の顔が引きつる。そこにあったのはもちろん『ゲコ太ゆたんぽ』である。
ご丁寧に小さな子供用としてに安全対策もばっちりの代物らしい。
「美琴サン?」
「当麻、分かってるわよね?」
両目をキラキラキラキラァァッとさせた美琴が上条を見つめる。
「ハイ、ワカッテオリマス………」
上条は手に負えなくなった美琴に肩を落とし、店員さんを呼ぶ。
「すいませーん。これ欲しいんですけど……」
上条の声に反応した店員さんは高速安定ラインのような身のこなしでやってくると、近くの棚の引き出しを開け始める。
「あー、お客様申し訳ございません。こちらの商品はただ今、品切れとなっておりまして、お取り寄せになるのですが………」
「そうですか、どうしようかな」
上条は美琴の様子を窺う。
キラキラキラキラァァァッとしていた。
―――無理だ。別のにしろなんて、言えねぇっ!!―――
「取り寄せ、おねがいします」
上条は店員さんに支持されたとおりに注文書を書き終え、結局何も買わうにデパートを後にした。

361ゆたんぽ2:2010/03/17(水) 11:07:47 ID:p13ZGiIU
夜。
美琴はパジャマ姿で上条の寮にいる。お泊りです。
「まったく、結局湯たんぽ買えなかったじゃねぇか」
「ううううるさいっ!げ、ゲコ太が私を呼んでたのよ!」
なんじゃそりゃ、と上条はコップに入ったお茶を飲むと、床に枕と毛布を準備する。
「そろそろ寝るぞ」
「はぁ、今日も寒い中寝るのか………」
美琴はガックリと肩を落とすと、おそるおそる布団に入る。
「湯たんぽ代わりに、上条さんが添い寝してあげましょうかー、なんて……」
上条はよっこいしょ、と床に転がりながら冗談を飛ばし、毛布をかぶろうとした。
ぐいっ、と驚くような力で襟元を引っ張られる。
「添い寝、お願いするわ」
「はいっ!?」
「湯たんぽ代わり。ゲコ太が届くまで」
そう言って美琴は上条をベッドに促す。
―――め、目がすわってしまわれてますよぉぉっ―――
抵抗むなしく、上条はベッドの中に引きづり込まれる。
美琴は上条にも布団をかぶせると、思いっきり抱きつく。
「あー、こりゃ暖かいわ。今夜はグッスリ眠れそうね」
「上条さんは全く眠れそうにありませんけどね」
「おやすみ、当麻」
「聞く耳持たずかよっっ…………不幸だ」
結局、抱きつかれたままの上条はろくに眠れないまま朝を迎え、美琴は今までにない快眠具合にご機嫌であった。



後日談。

上条宅に『ゲコ太ゆたんぽ』が届いて早一ヶ月。
お子様センス全開の湯たんぽは開封されてはいるものの、使用された形跡が全くない。
一ヶ月の間美琴が上条宅を訪れていないわけではない。むしろ、週に3回と頻度が増えたくらいだ。
「おい、美琴っ。折角、買ったんだから湯たんぽ使って1人で寝ろよ」
「そんなの無理!ゲコ太を足蹴にするなんて考えられないわ」
湯たんぽは足元を暖める為に置いて使うもんだ、と上条が教えてから、美琴は頑なに使用を拒否する。
「はぁ?じゃぁ、何でもいいから1人で寝てくれよ」
「アンタは………私と寝るのはいや?」
―――うっ!?―――
上目使い攻撃に、上条の抵抗が弱くなっていく。
「嫌じゃないですけど……なんていうか、ですね」
「湯たんぽじゃ私1人しか暖かくないけど、添い寝してくれたら、2人とも暖かいでしょ?」
「…………ふ、不幸だ?」
―――もうわかりません―――
上条の寝不足はまだ続きそうだ。

362かぺら:2010/03/17(水) 11:08:51 ID:p13ZGiIU
俺も誰かと添い寝したいっ!!
美琴は上条さんに譲りますので、佐天さんもらっていきますね。

ではでは。

363■■■■:2010/03/17(水) 11:13:45 ID:pFmXYYrQ
>>362
早ぇよ!しかもGJだ!w
湯たんぽとして使われないゲコ太湯たんぽは、ぬいぐるみのごとく鎮座したまま
春を迎えたんでしょうな。

364■■■■:2010/03/17(水) 12:20:26 ID:7PoBTZCU
>>362
短時間で凄いですね。GJ!だが、そげぶ。

365■■■■:2010/03/17(水) 13:20:20 ID:FDm0hto2
ここって上琴のみなんかな?
上黒向こうに投下したいんだが、向こうっていちゃ系皆無だからさ
もしいいなら、ここをお借りしたい

366■■■■:2010/03/17(水) 13:28:30 ID:jo0Yhkxw
>>365
>>1 ヨメ

367■■■■:2010/03/17(水) 13:34:55 ID:TL9r7o76
>>365
残念ながらここは上琴オンリーなわけだね
と、言う訳で向こうに投下するしかないわけだね

368■■■■:2010/03/17(水) 13:54:15 ID:zJ5M9Y2M
>>351
いちゃいちゃGJです!
美琴がかわいい

>>362
GJです!
上条さんの鉄壁の理性がすごいw

369■■■■:2010/03/17(水) 15:29:02 ID:/CZiv2/o
うぉー!!!
なんか美琴さんが大変な事になってんだけど―!?

あと…、やっと全部読み終えたぜ。どんだけみんな投稿してんだ
まぁ、こちらとしては万々歳だけど♪

370■■■■:2010/03/17(水) 16:04:43 ID:Vm6ghuv2
>>321の作者です。

たくさんのレスありがとうございます。
時間は掛かるかもですが、続きを書いてみる事にしました。
…の、乗せられたワケじゃないんだから勘違い(ry

投稿は少し先になると思いますが、どういうのにしようか頭に浮かんではいるので
次回予告的な奴を書かせてもらいます。

「朝を迎えた常盤台中学女子寮だったが、美琴が夢を見ている間にルームメイトの黒子が見えない敵とバトルを繰り広げていた!?
そんな中、上条の気持ちにも徐々に変化が…。あの言葉を実質封印、不幸な少年は確実に一歩を踏み出した」

―――当麻と美琴が交差する時、何かが始まった!!

てなワケで忘れられた頃にまた会いましょう。

371■■■■:2010/03/17(水) 16:28:16 ID:WFMpuqfc
>>353
そんなことより続きを書いてくれ〜
>>362
貴様のせいで顔がにやにやしてもどらなくなったどうしてくれる
GJ

372■■■■:2010/03/17(水) 16:28:19 ID:cOAK9rlI
そういえば前スレの上条の教師実習はどうなったんだろう?
と気になってしまった。

373カミコップ:2010/03/17(水) 16:44:23 ID:x1q7z3bU
はじめましてカミコップです
皆さんの素晴らしいSSに触発されました

短編オンリーです

文才ない初心者ですが、
妄想と勢いでカバーせよとのことなので…


禁書O.S.T『それぞれの想い』
聴いてたらなんとなく浮かんだネタです

2レス消費だと思います

374幸せ美琴:2010/03/17(水) 16:46:40 ID:x1q7z3bU

「うだー…、やぁっと終わったぁ」

上条はやっとの思いで、血と汗滲む課題地獄を抜けだしたことで、
心の底から安堵の溜息を吐く、参考書やらノートやらが無造作に散乱したテーブルに盛大に突っ伏した。

「お疲れさま、ちょっと待ってて」
「うぃ〜っす」

そしてしばらくすると、キッチンの方から、
可愛らしいスリッパをパタパタ鳴らしながら、御坂美琴がやってくる。
その両手には二つのマグカップが握られていた。

「あ、もう片付けてくれたんだ。疲れてるなら無理しなくていいのに」
「課題に追われてる上にあんな有様じゃ格好付かないだろ? 俺が嫌なんだよ」

テーブルの上は彼女が来る前にキレイサッパリ片づけられてあった。その時間約一分。
上条当麻。人を気遣うという点では一切の妥協も許さない男である。

「ありがと。はい、熱いから気をつけなさいよ」
「おぅ、サンキュ」

上条は美琴からゲコ太キャラの絵柄がついた“ペア”のマグカップ(上条のはゲコ太・美琴のはピョン子柄)
を受け取ると、ふーふーと熱を冷ましてから口をつけコクリと中身を喉に流し込んだ。
胃の中が、適度な甘さとほろ苦さ、そして温かさで満たされる。

「はぁー、生き返る」

課題を終わらせた安堵感も相まってか、美琴の淹れたココアは格別だった。
それにしても、と上条は思う

「……、それにしても、このココアって本当に俺ん家のモンか?」
「そうだけど、もしかして好みの淹れ方とかあったり?」
「いや、そうじゃないけど……、なんか、美味い」
「っ……、あ、当たり前ね。なんたって美琴様の愛情が注がれてるんだから///」
「ぶふッ!」

あからさまなバカップル発言に上条吹く。盛大に吹く。

「ぎゃああ、なにしてんのよバッチいわね!」

美琴は勝手知ったるはなんとやらで、すぐさまキッチンの方から布巾を取ってくると、
上条が吹き出した痕跡を丁寧に拭いていった。はたからみれば新婚さんまっしぐだぞこの野郎。

「なんつーか、なにからなにまでマジすんません」
「い、いいのよ。好きでやってるんだし、ね」

美琴さん真っ赤っ化。
いつまたふにゃーモードに突入してしまうかは時間の問題である
しかし、それは本人も自覚していた。

なぜなら、上条が課題を終えた今、二人の関係を阻害するものはなにもない。
いわゆる『いちゃいちゃタイム』という項目の出現条件が全て満たされ、解禁状態にある。
あとはカーソルを合わせ、ポチっと選択すればいいだけの話。

375■■■■:2010/03/17(水) 16:48:04 ID:x1q7z3bU

(もう……我慢、しなくてもいいよね)

美琴は上条と付き合うようになってからというもの、その大半が理性と欲望との格闘だった。
甘えたい、でも素直に甘えられない。
周りの目をいつまでも気にしていて何が恋人なのかとも思うが、
御坂美琴は学園都市切ってのレベル5のうちのひとりであり、それゆえに知名度も高い。
また、上の連中になんらかの大事が知れ渡れば、それなりの対応も考えられる。
もしも、美琴と上条が付き合っているという事実が公になり、学園都市上層部の連中に知れ渡ろうものなら。
最悪、上条と過ごす穏やかな時間が剥奪されるということにもなりかねないのだ
そんなのはいやだと美琴は心の中で何度もかぶりを振った。

果てしなく“IF”の話ではあるが必ずしもそうならないとは言い難い。
美琴にとって、上条と過ごす時間がなによりも大切で掛け替えのないものだと実感すればするほど、
それに呼応するように考えなくてもいい不安も膨れ上がっていく。
だから、その反動が大きくなるのはいたって自然なことなのかもしれない。



「ねぇ、とうま」

やがて二人がほぼ同時にココアを飲み終わると、
上条と肩を並べて座っていた美琴が小さく控えめでどこか甘い囁き声を漏らした。

「ん?」

なんだ、と問いかける暇も与えず、美琴は上条の肩に身体をもたれ、
猫のようにスリスリと頬ずりし始める。

「……、なんだよ、もうツンツンモードはお終いか?」
「うん……」
「っ……」

こうなった美琴は、上条といえどどうしようもない。
まるで二重人格者なのではないかと疑いたくなるような見事な変貌ぶり。いや、化けっぷりだと上条は思った。
しかし、これも上条の知る御坂美琴の形であり、嘘偽りのない姿であるということも知っている。

「まったく、お前はいつからこんなふにゃふにゃ軟体動物にになっちまったんですかー?」

だから、美琴のそれに抱きしめるという形で答える。

「ふにゃ〜…」

漏電はない。
彼女の頭には幾度となく彼女の電撃(全て)を受け止め続けてきた右手が添えられているから。

その後、二人はどちらからともなく口づけおかわし、
めくるめく甘いひと時を過ごすことになる。


「当麻……、大好き、だよ」


美琴は今日も幸せだった…。


-END-

376カミコップ:2010/03/17(水) 16:49:36 ID:x1q7z3bU

以上です

台詞少ない……
ボキャブラリーが貧困……

ort


あとsage忘れもありました
スミマセン

377カミコップ:2010/03/17(水) 16:50:40 ID:x1q7z3bU
ああまたsage忘れてる……

いっそ殺して…

378■■■■:2010/03/17(水) 17:50:27 ID:TL9r7o76
>>377
済まないと思うのならば、
もっと書いてsageをして投下するんださあ早く!

379ぴんた:2010/03/17(水) 18:35:48 ID:x1pv3KLs
こんばんは。
ちょっと頑張って書いてみました。
本当に初めてなのでうまくいってるかわかりませんし、
矛盾な所が多々あると思いますが、最後まで読んでくれたら嬉しいです。
消費はいくつになるか分からないです。

では18:40に書き込みます。

380ぴんた:2010/03/17(水) 18:43:13 ID:x1pv3KLs
【信じる先に】

 
 上条当麻は肩を落としながら歩いていた。
 彼の不幸体質は自他共に認めるものであるのだが、こうも度重なると流石の彼も溜息を吐かずにはいられない。
 さて、今回の不幸はというと――

PM4:27

「不幸だ…」
 
 とある日の夕方。
 彼はビルに沈む太陽をバックにいつもタイムセールで愛用しているスーパーのチラシを持って立っていた。
 目当ての特売品がなかったのか絶望の表情をしている。
 しかしいつまでも佇んでいるわけにはいかないので帰ろうとした時。
 最近となっては、まぁお決まりの例の人物から声が掛かった。

「ちょっとアンタ! 何この世の終わりみたいな顔してんのよ!」

 その人物は御坂美琴。
 彼女は最強の電撃使いと言われているが、上条の前では見つけたら話しかけずにはいられない恋する乙女。
 しかし上条の持ち前のフラグ体質と超鈍感な性格が相まって未だ恋人というか告白することも出来ないでいた。
 最近では上条の寮にご飯を作りに行ったり、一緒に遊園地に遊びに行ったりとしている。
 もちろんそんなピンクな話ばかりでなく、インデックスの件も知って大暴れした事もあったのだが。

「あぁ…御坂か。どうした? 何か用か?」
「え、っと…用って事はないけど。ただアンタを見かけたから(探してたとは言えない…)」
「そうか…」
「あ! ちょっと待ちなさいよ! って、行っちゃった…」

 美琴はちょっと話せるかなと思い声をかけたようだがその願いは叶わなかった。
 何故なら今の彼は今日をいかに生き抜くを考えていたのだから。
 美琴はやる事もなくなったのでつまらなそうに寮に向け歩きだした。

「あーあ。何よ、アイツったら。全く私の気も知らないで…」

 つまんなーいつまんなーいとボヤキながら歩いていると美琴の携帯が鳴り出した。

「おっと、電話だ…げっ」

【母】

 電話の画面に出た名前を見てげんなりする。
 ここ最近特に用事という用事はないのでこういう時は決まって上条絡みの話と決まっていた。
 美琴の母美鈴は、美琴が上条に恋していることを知っており何かとお節介をやいてくる。
 美琴は溜息を吐き電話に出た。

「もしもしー」
『美琴ちゃん! お母さんだけどさ!』
「ど、どうしたのよ。何かあったの?」
『美琴ちゃん。今日当麻くんに会った?』
「へ? あぁ。まぁ、会うには会ったけど…」
『それで…どこか変わったところなかった?』
「え?うーん…何か元気なかったみたいだったけど、それが?」
『………美琴ちゃん。落ち着いて聞いてね?』
「な、なによ。アイツに何かあったの?」
『実は、今日詩菜さんのお宅に遊び行った時に聞いたんだけど…』
「う、うん」
『当麻くん。明日学園都市から引っ越す事になったらしいのよ』
「―――え」

381ぴんた:2010/03/17(水) 18:44:26 ID:x1pv3KLs
 嘘…。
 アイツが? 引っ越す?
 何で?
 親の都合とか?
 でもアイツ寮で一人暮らしだし…でも、家庭の事情とかで遠くに行くとなったら…。
 ありえない事じゃないのかな?
 確かに今日のアイツなんか変だったし…。
 で、でも…そんな急に明日なんて…。

『――ちゃん? 美琴ちゃん?』
「あ、え? もしもし?」
『大丈夫? 美琴ちゃん?』
「う、うん…」
『ところで、美琴ちゃんさ。当麻くんにはもう告白は済んだの?』
「な、なんで私がアイツに告白なんか…」
『…まぁ、美琴ちゃんがそう言うならお母さんは何も言えないけどさ。ただ…』
「…」
『後悔だけはしないようにね? 伝えたい事を伝えずに後回しにすると、後で絶対に後悔するから』
「っ…」
『当麻くんのことだから。離れても美琴ちゃんが会いたいって言えば会いにきてくれると思うけどな』
「私…そんな、急にそんな事言われても…」
『急じゃないでしょ? 今まで何回チャンスがあったの?
 彼が鈍感なのは知ってるけど美琴ちゃんが素直になれないのが一番問題なのよ?』
「私は、私は…」
『まぁ、お母さんが言えるのはここまでね。お母さんこれから詩菜さん家行って引越しのお手伝いしてくるから』
「私は」
『美琴ちゃんは自分が今やりたいことをやりない。想いを伝えるのも良し。淡い初恋のままにしておくのも良し』
「……わかった」
『じゃあ、切るね? バイバイ』

 美琴はその後暫く俯いてその場から動かなかったが、
 やがて何かを吹っ切るように前を向いて。
 上条当麻の寮の方向へと走りだした。

382ぴんた:2010/03/17(水) 18:47:11 ID:x1pv3KLs
PM5:03

 上条は部屋へと帰ると冷蔵庫の中身を確認し溜息を漏らす。
 中身はキャベツともやしだけ。
 買い物に行ったのだから何か買ってくればよかったが、生憎特売品売り切れで目の前が真っ暗になって何も見えなくなった。
 あの暴食シスターが子萌先生の家に行ってるのがせめてもの救いだが。

「どんだけだよ、ホントに…」

♪〜 ♪〜 ♪〜

 上条の携帯が鳴る。

 相手は…美鈴さん?
 どうしたんだろうか?
 とりあえず出なきゃ。

「はい、もしもし」
『あ。当麻くん? お久しぶり〜』
「ああ、どうもお久しぶりです。何かあったんですか?」
『くっくっく…じ、実はね。当麻くんにお願いしたいことがあるの』
「は、はぁ…まぁいいですけど。何ですか?」
『その内美琴ちゃんから電話なりなんなりがくると思うんだけど…
 そこで当麻くんには美琴ちゃんが言う事に嘘を突き通してもらいたいの』
「はぁ? 何でそんな、あ。あー…今日エイプリルフールですか」

 そうなのだ。
 何を隠そう今日は4月1日。エイプリルフール。
 嘘を言ってもいい日だった。
 美鈴は美琴に上条が引っ越すから伝えたい事があるなら今日中に言っておくようにといった。
 もちろん引越しの話なんか嘘で、すぐバレるかと思ったらしいのだが
 美琴が全部信じてしまったために引くに引けなくなってしまったらしい。
 冷静に考えてみれば引越しなんてそんな急に出来るものではないから。
 しかし上条に恋する美琴は今日がエイプリルフールなのも忘れ全てを鵜呑みにしてしまった。

「あんたが鬼か」
『だって〜…面白いじゃない?』
「…」
『ところで、当麻くん?』
「は、はい?」
『気持ちは決まったの?』
「…アイツのことですか」
『そうよ。ビックリしたわ。いきなり「俺、御坂…美琴の事が好きになっちゃったかもしれないです」なんていうから』
「ぐ…ま、まぁ…何か一緒にいて楽しいって言うか。全部じゃないですけど、話せるっていうか」
『踏み切れない理由はやっぱり美琴ちゃんが中学生だから?』
「…はい。最近よく一緒にいることが多くなって、それでアイツがどんどん可愛く見えてきました」
『おぉ。親としては鼻が高いよ』
「だからその、傷つけたくないんです。今は」
『ぶ! ちょ、ちょっと当麻くん? 私一応美琴のママさんなんですけど?』
「え? あ…ちょ、ちょっと! 違いますよ? 娘さんを傷物にするとかそういう意味じゃないですからね?」
『えー、違うのー? 残念〜』
「残念じゃないですよ! で。俺…まぁ、ケンカと言いますかよく怪我するんですよ」
『知ってるよ。人助けしてるんでしょ』
「まぁ見過ごせないと言うかその…」
『?』
「アイツ怪我して帰ってくるたびに凄く悲しそうな顔するんです」
『それは当麻くんの事が心配だからじゃない。好きだから』
「そ…、れは」
『当麻くんだって美琴ちゃんが傷ついたりするのみたくないでしょ?』
「そうですけど、でも…でもアイツがもう少し大人になったら分かってくれるかもって」
『…』
「そんな悲しい思いしなくてもいいような、もっといい人がいるんじゃないのかって。
 アイツ女子校で男の知り合いなんて俺くらいみたいですし」
『……、助けを求められたら、行かなきゃならない?』
「…? …はい」
『美琴ちゃんが彼女になって、行かないでって言っても?』
「はい。それでもし今よりも親しくなって、もし今よりもっと好きになったら」
『それを失うのが怖いのね?』
「…そうなんです。それならいっそこのままの関係の方がいいんじゃないのかって」
『当麻くんは、それでいいの? 辛くない? 胸が、心が痛いんでしょ?』
「…」

383ぴんた:2010/03/17(水) 18:48:28 ID:x1pv3KLs
『言っておくけど、美琴ちゃんは本気よ? 多分これからそれが分かると思うけど』
「…」
『本気のあの子を前にしても今と同じ台詞が言えるかしらね?』
「……わかりません」
『今日は世間じゃ嘘をついてもいい日だけど、あなた達2人に関しては今日は嘘をつかない日にした方がいいかもね』
「…、だから美琴に嘘ついてまで」
『いや、まぁ。半分はホントにからかう程度だったけどね♪』
「え」
『あ、そうそう。当麻くん?』
「はい?」
『私はなにがあっても美琴ちゃんの味方よ? あなたともいい関係でありたいわ。どんな結果になろうともね』
「美鈴さん…」
『でも。美琴ちゃんが可哀相だからとか私に相談しておいて振るのは気が引けるだとか、そんな気持ちで美琴ちゃんと付き合うのなら』
「…」
『私はあなた達を認めないわ』
「……わかりました」
『んー、まぁ。そんなとこかな? じゃあ私は夕飯の準備するから』
「はい。ありがとうございました。今まで相談してもらって」
『いいのよ♪ 大事な一人娘の、愛しの王子様からの相談だもの。じゃ、またね?』
「はい。また」

 そうして美鈴は電話を切った。
 通話時間7分47秒。

「素直になれない娘と娘を想う色んな問題を抱えた男の子…か」
「こんなの…漫画か小説の世界だと思ってたけど」

 そして美鈴が、ふふ♪ と笑い、親としては大変ね? 詩菜さんっと言った。

「恋のキューピットも楽じゃないですね。美鈴さん」
「うまくいったら結果そうなるけど、まさか美琴ちゃんが信じるとは思わなかったから…
 こうなったら当麻くんにかけるしかないですね」
「あらあら。あの子は、どうするのかしら? …あら? 醤油空っぽ」
「あ、私入れてきますね」
「すみません。お願いします」

384ぴんた:2010/03/17(水) 18:49:30 ID:x1pv3KLs
PM5:18 男子寮上条宅

「…」
 
 上条は美鈴との電話のあと自分の気持ちを整理しようとしていた。

「俺…どうしたら、いいんだよ。御坂…」

 するとさっきの電話では緊張して忘れていたのかのように唐突にお腹が鳴り出した。
 部屋はテレビもつけてなく静かだったのでよく響いた。
 あまりにも空気を読まない音だったので、上条は笑ってしまった。

「ったく。人が真剣に悩んでるっつーのに」

 上条は立ち上がり玄関へ向かった。
 いくらなんでもキャベツともやしでの夕食では今の悩みも解決するのに脳が回らないと思い、何か食ってこようと思ってのことだ。
 ―――しかし。
 上条は玄関のドアの取ってに手をかけたところで、何かを感じた。
 誰か、いる。
 まだ気持ちの整理がついていない今、一番会いたくない相手だった。

「…よぉ。どうした? 門限いいのか?」
「……ちょっと中に入れて。大事な話があるの」

 そういえば美鈴さんは俺が明日引っ越す嘘をついたんだった。
 ならば美琴がここに来るのも頷けた。
 でも、まだ気持ちが――

「あー、悪い。俺今から飯食いに行こうと思って。家に何もないんだ」
「じゃあ私も一緒に行く」
「はぁ? おまえ寮の夕食どうすんだよ。もったいねぇ」
「一緒に行く」
「……はぁ。わーったよ。今日くらいなら奢ってやるよ」
「っ…!」

 美琴は上条の言葉にビクッとした。
 上条は美鈴さんの嘘に乗ったような台詞をいった。
 しかし悪戯な気持ちではなく。
 後に来る告白の壁を大きくするものだ。
 そして、2人はすっかり暗くなった道を歩いてファミレスに向かった。

385ぴんた:2010/03/17(水) 18:50:44 ID:x1pv3KLs
PM5:41

「御坂ー。お前何食うー?」
「私はドリンクバーだけでいい」
「そっか。寮の飯あるもんな。じゃあ俺は…」

 その後料理が届き夕食タイムになる。
 上条は頼んだメニューを食べているが、美琴は最初にドリンクを入れていったきり席を離れようとしない。
 もうコップは空だった。

「えっと…御坂さん? 上条さんが何か入れてきましょうか?」
「…いい」
「そ、そうかですか」
「…なんで」
「ん?」
「なんで黙ってたのよ」
「……何が」
「引越しの話よ!」
「あー…別に。言うほどでもないと思って」
「っ!」

 上条は嘘をつく。
 壁を高く。高く。高くするために。
 美琴が越えてこれないような高い壁に。

「アンタね! ちょっとは一緒にいたんだから言ってくれてもいいじゃない!」
「ちょ、ちょっと…静かにしろよ。皆見てるぞ」 
「うっさい!」
「まぁ、悪かったよ。隠しててさ」
「……、私は」
「あ、ほら。今は飯にしようぜ。冷めると美味しくないからな。俺だけだが」
「聞いて」
「帰りに公園寄るからそこで聞いてやるよ」
「…わかった。絶対に聞いてもらうから」
「うん」

 上条は時間が欲しかった。自分の気持ちと向き合える、言葉を選べる時間が。
 美琴は時間が惜しかった。自分の気持ちを伝える時間が。
 そして上条は料理を完食するとトイレに行った。
 その間美琴は黒子にメールしていた。

 『ちょっと遅くなる。もしかしたら帰らないかも。』

 美琴はそれだけ送って携帯の電源を切った。
 暫くして上条がトイレから帰ってくる。
 そして、行くか? と言って美琴は小さく頷いた。
 公園に移動するまでの間、2人は手が触れる距離で肩を並べて歩いていたが一言も喋らなかった。

386ぴんた:2010/03/17(水) 18:51:33 ID:x1pv3KLs
PM6:30

 公園に着いた2人はベンチに座っていた。
 美琴が買ってきた飲み物を持って。
 美琴はもう自分がやるべき事は決まっている。
 上条も決心したのか空を見上げている。
 そして暫く無言の時が流れたが、上条がその均衡を破る。

「ごめんな。今まで黙ってて」
「…なんで黙ってたの」
「いや、違う」
「なにが違うの? ずっと隠してたじゃない!」
「引越しの話な。アレ嘘なんだ」
「――………う、そ?」
「ああ。美鈴さんから電話あったんだろ? 俺が明日引越すって」
「う、うん」
「そんで俺のところにも電話あってさ。おまえを騙してくれって。悪かったな」
「……引越さないの?」
「あぁ」
「明日も明後日も、ずっとずっとここにいるの?」
「まぁずっとかは分かんないけど高校卒業するまではここにいる」
「そっ…か、」
「怒らないのか?」
「うん…。嬉しいから…」
「で。話って?」
「え? えっと…その、あの…」

 美琴は迷ってしまった。
 今日は上条が引越すから、会えなくなるから意を決して告白しようとしたのに。
 明日からも一緒にいられると思ったら、途端に怖くなった。
 気持ちを伝えることに。
 一緒に笑ったり、喧嘩したり、ご飯食べたりするのが出来なくなるかもしれない事に。
 しかし――

「うん。大切な話。とてもとても大切な話があるの。聞いてくれる?」
「……あぁ。そういう約束したからな」

 美琴は止まらなかった。
 母の、美鈴の言いたい事が分かったから。
 ありがとう。
 勇気をくれて。
 気付かせてくれて。






 学園都市を離れ、上条当麻の実家。
 夕食をしながら話している上条詩菜と御坂美鈴の姿があった。

「美鈴さん、ごめんなさいね? 今日主人が帰って来なくて、一人じゃ寂しいからって呼んでしまって」
「いえいえ。いいんですよ詩菜さん。私も一人でしたから、こうしてお話して食べるのも楽しいですし」
「ところで…、あの子達はうまくやってるかしら。当麻さんの事だからそろそろ本当の事言ったと思うけれど」
「ふふ。そうですね。でも美琴ちゃんは…きっと止まらないと思いますよ」
「止まらないっていうと?」
「今、美琴ちゃんは当麻くんが引越ししない事を知って嬉しい反面迷ってると思うの」
「明日からの当麻さんとの関係に?」
「えぇ。でもそれじゃダメなのよ。当麻くんは危険な事に首を突っ込んでるみたいだから…
 いつお別れになるか分からないものね? 伝えれる時に伝えないと。あ。ごめんなさいね? 縁起でもないこと」
「いいえ。当麻さんは…昔からそうでしたから」
「そう、だったんですか」
「でも美琴さんが真剣に想いを伝えてくれれば、
 当麻さんも真剣に悩んで真剣に答えを出してくれると思いますよ。あの子は、そういう子ですから」
「もしもの時は面倒臭い親への挨拶がなくていいですね」
「あらあら。美鈴さん。それは話がまた随分と飛んじゃいましたね」
「ふふ」
(―――大丈夫ですよね? 当麻さん?)
(――頑張ってる? 美琴ちゃん?)

387ぴんた:2010/03/17(水) 18:52:38 ID:x1pv3KLs
PM6:46

 舞台を学園都市に、上条を美琴がいる公園に戻すと美琴が想いを打ち明ける瞬間だった。

「で大切な話って?」
「うん。これから言う事は嘘とかそんなのは1個も入ってない。本当に、私の中に閉じ込めておいた本当に大切な話」
「わかった」
「全部話し終わるまで聞いてね? 途中で相槌とかもいらないから」
「あぁ。わかった」

 上条は思った。
 御坂は本気なのだと。
 今まで上条は積みかねてきた壁を乗り越えてしまう程、本気なのだと。
 その壁とは、
 今まで気の無い振りをしてきて、嘘を言い続け、
 しかしそれが嘘で明日からも一緒にいる事が知ったのなら美琴はまた思いとどまり、
 想いを打ち明けないと思っていたから。
 上条は結局は答えを出すことは出来なかった。今は。
 情けない話だが、自分よりも年がいってない中学生の女の子に告白される男だ。
 本当に…情けねぇな。俺。

 そして美琴は上条にしか聞こえないような、小さく、でもしっかりと。はっきりと。
 上条当麻の目を見て想いを打ち明けた。

「私は、アンタが…上条当麻の事が好きなの」
「好きだった。ずっと好きだった。アンタは馬鹿でドジで無鉄砲だけど」
「アンタの周りにはいつも他の女の子がいて苦しかったけど」
「でも一緒に遊びに行ったり、喧嘩したり、ご飯食べたり、そんな時間がとてもとても大好きだった」
「アンタは知らないだろうけど一日中アンタの事を思って悩んだこともあった」
「一緒に遊びに行く前の日なんか明日はどういう格好で行こう、とか」
「どうしたら喜んでくれるかな、とか」
「もっと自分に素直にならなきゃ、とか」
「でも結局最後は素直になれなかった」
「アンタは私の事なんか眼中にないみたいでし、話かけてもスルーされるし」
「うぅん。こんなのは言い訳」
「結局は、私が怖いだけだったんだ。今の関係が壊れる事が」
「だから最後の最後で素直になれなかった」
「でも、アンタが引越すって聞かせれて気付いた」
「いつまでもこんなんじゃダメ。素直に、自分に素直にならないと、後悔してからじゃ遅いんだって」
「だから――」

「こんな私だけど、恋人にしてくれませんか?」

388ぴんた:2010/03/17(水) 18:53:24 ID:x1pv3KLs
 上条は美琴の告白を無言で聞いていた。
 美琴の目は真剣で、嘘偽りの類は欠片もないだろう。
 全てを曝け出して月明かりに照らされたその瞳は――

 とても、とても綺麗だった。
 とても、とても。
 何にも汚されていない透き通った、そんな瞳だった。

 では、自分が美琴にできることはなんだろうか?
 自分は美琴のことが好きだ。
 それは今までの生活から気付いた嘘偽りない自分だけの想い。
 美琴から好かれているから好きになったんじゃない。
 美鈴に相談して勇気付けられたから好きになったんじゃない。
 自分が、自分の思いだけで気付いた想いだった。
 では、どうすれば―
 自分の性格上、助けを呼ばれたらイギリスでもロシアでも飛んでいくだろう。
 美琴を置いて。
 危険な事に巻き込むわけにはいかないし、魔術の関係もある。
 ならば突き放せばよいのではないか?
 その方が美琴の為でもある。
 どんなに今この瞬間に絶望したとしても、きっと時間が解決してくれる筈だ。
 進学して新しい高校、大学に行けば男なんて腐る程いるだろう。
 しかしその、まだ見ぬ誰かに美琴の事を救ってあげろと?
 「御坂美琴とその周りの世界を守る」といった約束も、約束したからと一緒にいるのは美琴も望まないはずだ。
 ならば。
 ならば――
 
 この好きな想いを殺して、もう一度。もう一度だけ。
 美琴に、
 愛しの御坂美琴を本気で信じてみようと思った。


「ありがとう。こんな俺を好きになってくれて」
「うん」
「凄く、凄く嬉しい」
「それで、返事は?」

 上条は少し美琴から視線を離し、そして意を決したのか真剣な眼差しで美琴を見つめ言った。


「ごめん。俺は、御坂とは付き合えない」

389ぴんた:2010/03/17(水) 18:54:16 ID:x1pv3KLs
PM7:33

 美琴は常盤台の寮まで戻ってきていた。
 帰ってくる途中で白井に連絡をしようと携帯の電源を入れた。
 着信履歴―37件。
 それを見て美琴は笑ってしまった。
 もう、黒子ったら…心配しすぎ、と。

「も、もしもし! お姉さま? お姉さまですのね!」
「あー、はいはい。私ですよ。御坂美琴です」
「お姉さま! お体に異変は御座いませんの? お姉さまは純潔のままですの? 黒子は…黒子は――」
「ごめんね。もうちょっと遅くなるとおもったけど予想よりも早く帰ることになっちゃった」
「お姉さま! 早く帰ってきて黒子に、黒子にそのお顔を見せて下さいましぃぃぃぃ!」
「わかった、わかった。えっと…7時半くらい? には着くと思うから寮の裏にいてよ」
「わかりましたわ、お姉さま! お待ちしております!」
「ありがとう、黒子。あとね、実はあと2つ…お願いがあるの」
「何なりと! 黒子に出来ることなら何でもいたしますわ!」
「帰ったら、何も言わず胸を貸して? 私が落ち着くまで…」
「お、お姉さま? ……分かりましたわ」
「そしてあと一つは――」


 上条は自分の寮に戻ってきていた。
 美琴の告白を蹴った。
 美琴を信じたから。
 美琴は理由を聞かせて欲しいと言ってきたが、何を言ったのか覚えていない。
 ただ暫くすると美琴は「そっか…わかった。じゃあ、またね」と言って帰っていった。
 上条としてはもっと問い詰められると思ったが、何か呆気なく終わって溜息を吐いた。
 美琴は分かってくれたのだろうか?
 美琴は信じてくれたのだろうか?
 
 こんな―
 こんなことでしか自分の本当の気持ちも伝えられないような男の事を。


「…美琴」

 そして夜は更ける。

390ぴんた:2010/03/17(水) 18:55:31 ID:x1pv3KLs
PM11:57

 上条当麻はつい先程美琴と一緒にいた公園のベンチの上にいた。
 手には自販機で買ったばかりの暖かいお茶系の何かの缶が……2つ。
 さすがに深夜は寒く、防寒対策してきたがそれでも寒いらしく震えていた。
 その震えは、寒さと恐怖だった。
 しかし、その震えの半分の恐怖は0時になるのと同時に止まった。

「よぉ」

 上条の前に一人の少女が立っていた。
 上条はその少女に買ったお茶を渡すと自分の隣に座らせた。
 その少女はコートを着ていた。
 一緒に遊びに行く時にいつも来ていたコート。そしてマフラー。
 しかし頭には防寒具はつけておらずそのサラサラな短い髪を露わにしていた。
 その少女は――御坂美琴その人だ。

「温かい…」
「寒かっただろ? それ飲んで体温めろよ」
「ありがと」

 美琴は上条からお茶を受け取り少し口をつけた。

「あんまおいしくないわね。コレ」
「あぁ、失敗したと思った」
「何でコレにしたのよ。もっと他のあったでしょ?」
「なんつーか、チャレンジ精神で」
「…馬鹿」

 そして美琴は左手を「手、握って」と差し出した。
 上条は以前美琴を守ったその右手でしっかりと握った。
 美琴はぴくっとしたが優しく握り返した。

「――で、さっきは何で嘘ついたの?」
「…さすが御坂さんですね。何でもお見通しですか」
「私はずっとアンタの事だけを見てきたのよ? 真剣な表情したって嘘なんか一発で見抜けるわ」
「傷つけたかと思った」
「傷ついたわよ」
「すまん」
「でも――」
「?」
「傷ついたのは、アンタが自分を騙して嘘を言ってたから。見てられなくなったから」
「すまん」
「でも信じてた。アンタは絶対、どんな形でも答えを出してくれるって。
 でも怖かった。だからここに来る前は黒子の胸の中で震えていたわ」
「ありがとう。信じてくれて」
「うぅん。私の方こそ、ありがと。信じてくれて」

「御坂。これから言う事は嘘とかそんなのは1個も入ってない。本当に、俺の中に閉じ込めておいた本当に大切な話だ」
「うん」

 上条は先程美琴が言った台詞を借り、その後に続けた。
 美琴は体を少し振るわせたが視線を離さず向き合っている。

391ぴんた:2010/03/17(水) 18:56:47 ID:x1pv3KLs
「俺は御坂が、御坂美琴が好きだ」
「好きだった、ずっと。前から」
「でも俺の中で何かがその想いを濁らせていた」
「それは、失う事の怖さだった」
「俺は人を好きになる事が初めてだったから、失った時の絶望とかがいまいち想像がつかない」
「だから一定以上の好意や愛情を拒絶してきた」
「だから御坂の気持ちを気付いていたのに気付かないふりをしていた」
「そうすればおまえとの距離を開けれると思ったし、危険な目にも巻き込まなくても済むと思ったから」
「でも時間が経つにつれてその想いの大きさに押し潰されそうになった」
「辛かった」
「苦しかった」
「胸が、心が痛かった」
「そして気付いたんだ」

「愛せないことが、一番怖いんだって。一人なのが、一番怖いんだって」

「一人は嫌だよな。自分の思いのままにできるけど、それだけじゃねぇか」
「誰に愛されず、誰も愛せないなんて」
「そんなの、怖いよな」
「俺を頼ってくれている奴はいると思う。自惚れかもしれないけど」
「でも、でも俺は。愛する事がしたかった」
「遠くに行っても、どんなに辛い事があっても」
「絶対に愛する者がいる場所に帰るんだって思う事が出来たのなら俺は絶対に帰れると思うから」
「だから」
「もし恋人になっても、おまえを危険な目には会わせたくない」
「おまえは俺の帰る場所を作って待っていてほしい」
「待ってるだけの女じゃないのは、分かってる」
「だから」
「おまえは俺の帰る場所を守るために戦ってほしい」
「俺が出かけている間、御坂自身から生まれるその恐怖から」
「そして笑顔で迎えて欲しい。帰って一番に見るおまえの顔が悲しい顔なんて――」
「そんなの見たくないからさ」
「だから、信じて欲しい」
「だから――」

「こんな俺だけど、恋人になってくれませんか?」


 上条はその閉ざされた心の扉を開いた。
 その真っ直ぐな瞳に映されたのは、涙を流しながら、しかし俯くこと無く真っ直ぐ向き合っていた美琴だった。
 上条は優しく美琴の涙を払い、左手を美琴の右頬に添えた。


「こんなんじゃ、ダメか?」

 美琴は上条の左手からその体温と優しさを受け取り、自分の右手を上条の左頬に添え返し―――

「ダメじゃない」

 優しく、幸せそうにキスをした。

392ぴんた:2010/03/17(水) 18:58:13 ID:x1pv3KLs

 どれぐらい時間が経っただろう。
 2人は深夜の寒さも忘れ幸せの一時を送っていた。

「ちょっとさっきの告白の中で引っかかった事があったんだけどさー」
「な、なんでせうか御坂さん? ダメ出しでせう?」
「いや…アンタさ、私の気持ちに気付かない振りしてるって言ったじゃない?」
「…い、言いました…ような?」
「アンタは私の気持ちに気付いておきながら振り回してたって事よね?」
「そ、そうなりますね」
「覚悟はいいかしら?」
「え! ちょ、ちょっと! い、痛いのは勘弁してくださ――っん」
「――っは! こ、 これで許してあげる!」
「あ、ありがとうございます」
「で」
「は、はい」
「恋人になったからには嘘はいけないと思うのよね?」
「そ、その通りですネ」
「これから私が言う事に嘘偽り無く答えて」
「ぜ、善処します」
「―と、その前に」
「…? どうしました? 御坂さん」
「それ」
「?」
「御坂やめて、美琴って言って。私も…と、当麻って呼ぶから」
「み、美琴」
「もっと」
「美琴」
「―――――んっ、こ、この響き。脳がとろけそう」
「何かキャラ変わってないでせうか? みさ…美琴さん?」
「今まで我慢してた分、たくさん当麻に甘えないとね!」
「あ、あまり人前じゃやめてくれよな」
「2人きりならいいのー?」
「ま、まぁ俺の理性が抑えられる程度なら」
「えー? もう恋人なんだからさ。その…抑える必要……ないんじゃない?」
「がはっ! そ、その潤んだ瞳で上目使いはやめなさい! 男なら誰にも効くと思ったら大間違いですぞ」
「嫌…なの?」
「いいえ。嫌じゃないです」
「じゃあ、いいじゃない♪ あ。もちろん今日は泊まりに行くわよ? もう寮には戻れないしね♪」
「嫌じゃないですが!」
「な、なによ。何か文句あんの?」
「お前はな! まだ中学生だろうが! しかもお嬢様学校! さらに有名人! そんな奴が男子高校生の部屋に泊まっちゃいけません!」
「だって彼氏じゃん…」
「彼氏でも! 何かあったら俺のみならずおまえも未来ないぞ!」
「じゃあ遊び行くのならいいのね?」
「ま、まぁ…あまり男子寮なんで頻繁に来るのはやめてほしいのが本音ですが」
「なにそれー? 遊び行くのもダメなんて全然恋人っぽくない!」
「あのな、いいか良く聞けよ。美琴?」
「な、なによ」

393ぴんた:2010/03/17(水) 18:59:16 ID:x1pv3KLs
「仮に俺がおまえの寮に行きたいって言ったらどうするよ?」
「別に? 普通に入れるけど?」
「おまえはそれでもいいだろうが俺が危ないじゃないか。みんなの憧れ美琴お嬢様に手を出したなんて」
「その時は私が燃やしてあげるから」
「だ、だから…その逆もありえるんだよ! 俺の部屋来て美琴が帰ったあと部屋に駆けつけられてボコボコにされかねない」
「むー…」
「わ、分かってくれたか?」
「仕方ないなー」
「さすがですね。美琴さん」
「これ」
「…ん? カエルの携帯?」
「カエルじゃない! ゲ・コ・太!」
「で?」
「まぁ、聞いてよ」
「…?」

『「俺は御坂が、御坂美琴が好きだ」
 「好きだった、ずっと。前から」
 「でも俺の中で何かがその想いを濁らせていた」
 「それは、失う事の――』

「だああああああ!! て、てめぇ! なに録ってんだよ!」
「当麻の嬉恥ずかしの愛の告白よ♪ きゃ♪」
「きゃ♪ じゃねぇよ! てめぇ! 何かゴソゴソしてると思ったらそれか!」
「動くなー! 動くと分かってるだろーなー」
「や、やめて! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎて死んじゃいそう!」
「部屋に遊びに行ってもいいわよね?」
「あ、あのような貧相な部屋にお嬢様を招き入れるのは気が引けるというか…」
「いいわよね?」
「どうぞおこしください」
「うん!」
「…不こ――痛て!」
「アンタね! 私が隣にいるときは不幸だなんて言わせないわよ!」
「…そうだな。不幸じゃない」
「もう一人じゃないでしょ」
「あぁ。もう一人じゃない」

 上条と美琴はその後もお互いを求めるように話込んだ。
 そしてさすがに眠くなってきたので渋々上条は美琴を自分の部屋に連れて帰った。
 美琴は「これが世間で言う『お持ち帰り』というやつなのね」とか言ってたけど、
 上条は聞こえない振りをした。
 そして寮の前に着くと上条は何か忘れてるような気がしたが、まぁいいかと思い美琴を部屋の中に入れた。


その頃の子萌の部屋。

「うぅぅ」
「んー…? どうしたんですか、インデックスちゃん? 寒いですか?」
「んーん。寒くはないんだけどね。何か今寒気がしたんだよ」
「え?」
「何かこの後の生活で見るに耐えないものを見なきゃいけない気がするかも」
「んー? 上条さんに彼女でもできたんでしょうか?」
「まさか! いつになっても、とうまはとうまなんだよ!」
「でも彼女が出来ちゃったらデート代とかでインデックスちゃんの食費が削られそうですねー」
「ま、まさか…これって、未曾有の大ピンチかも…」
「まぁお腹が減ったらいつでも来ていいですからね?」
「ありがとうなんだよー、こもえー」


 その後上条が何者かに噛み付かれ、子萌の財布が何者かに食い潰されたのは言うまでもない。

394ぴんた:2010/03/17(水) 19:04:17 ID:x1pv3KLs
以上になります。

何かもう色々とすみませんでした。
書いてて胸が、心が痛かった。

美琴が悩むSSが多い気がしたので上条が悩むSSを考えてみました。
後日談も考えてみますのでご指導のほどお願いいたします。

でわわ。読んでくれてありがとです♪

395■■■■:2010/03/17(水) 19:10:59 ID:Pomq8pfQ
>>394
GJ!いいですね。悩む上条さんって。楽しませていただきました。
あと、上条さんの告白録音データ、俺もほs(ry


最近、新規の職人さんが多いな!しかもレベル高くて俺がうもrゲフンゲフン!!
なにこのスレ怖い(もちろんいい意味で)

396■■■■:2010/03/17(水) 20:29:42 ID:vdierAQ6
>>362
まさかあのボケからSSが投降されようとはw
感無量です。
あぁたしかに美琴だとゲコ太を足げにはできないか。

397■■■■:2010/03/17(水) 20:32:20 ID:vdierAQ6
>>394
GJですた。
録音してたのかよ、美琴w

398かぺら:2010/03/17(水) 20:41:44 ID:gScW2zZM
こんばんは
ジョエル=ロブションが面白すぎる。

>>363
創作意欲が掻き立てられたんだぜ!!ゆたんぽの今後に期待!

>>364
ありがと………ぐはぁっ!?佐天さんもダメかっ

>>368
俺なら(ry

>>371
俺はニヤニヤしたまま書いてるぜw

>>394
後日談にも期待。
1つだけ、小萌先生だぜ!

399■■■■:2010/03/17(水) 20:47:13 ID:wThhFhzQ
>>376
GJ!甘えてくる美琴かわいい
>>394
会話メインの文章もいいですなあ あと「小」萌ですの

400かぺら:2010/03/17(水) 20:53:56 ID:gScW2zZM
さて、気を取り直して。
キーボード変えたら打ちにくい。慣れるまで大変だ

シリーズタイトル:Dairy Life
*part3「繋ぐ手(ラヴァーズ)」は>>254-257>>307-310です
なにもなければ21:00から。
途中で切りたくないので一気に12レス借ります。
長いけど上条さんの出した答えに付き合って下さい。

401繋がる心(ベストフレンズ)1:2010/03/17(水) 21:00:40 ID:gScW2zZM
12月23日。
年の瀬も近づき、にわかに慌ただしくなった学園都市のあちこちは綺麗な装飾やイルミネーションが施されている。
科学の最先端を行く学園都市でも、来るクリスマスは重大なイベントとして取り扱われるらしく、学生達はそわそわとしていた。
もちろん、3バカと呼ばれるデルタフォースの彼らもその例外ではなく、あわよくば女の子と良い感じにデートしたいなと思っていたりする。
現に、下校途中だというのにデカい声でどんなデートがベストだとか、お蔵入りするであろう情報を撒き散らしている。
1人を除いて。
「んー、カミやん?えらい元気ないで―?」
「最近、悩んでるみたいだったけど、どうしたんだにゃー?」
青髪ピアスと土御門。3バカの両翼は物憂げな上条にちょっかいを入れる。
大方、どの女の子とデートするか迷ってるんやろー、なんて青髪は言うが、上条にとってはそんな気分ですらない。
あの日から数日が過ぎた。
小萌先生と話をして、心の整理をつけたものの、イマイチ踏ん切りがつかない。
インデックスに対してどうするか、あと一歩を、踏み出すきっかけを掴めずにいた。
―――本当に告白してしまっていいのか―――
上条は悩む。インデックスに全てを打ち明けること。そうすれば確かに前には進めるだろう。
但し、『今までの上条当麻』を否定しかねない行動だ。自分の信念さえ……
上条はインデックスが自分に縛られることを懸念している。
自分がインデックスに縛られてしまっていることに目を背けて。
―――どう、するかな―――
「カミやん、悩みすぎはよくないでー?お肌に悪いわ―」
耳元で青髪が喋りかけて来たことで、上条はようやく我に帰る。
「あ、わりぃ。何の話だっけ?」
「まぁ、モテるカミやんが気にする話やないんやねー。っと、じゃぁ、みなさんさいなら!」
喋るだけ喋って、青髪は走り去って行った。上条と土御門はお隣さんであるが、青髪は別の寮だ。
「さて。カミやん、何をそんなに悩んでるんだ?」
さっきまでのふざけた空気を一掃して、土御門が聞いてくる。その目には至って真剣だ。
「別に、お前に言うような話じゃねーよ」
「まぁ、深くは聞かないがな。だが、カミやん。友人として、1つだけ言っておく」
土御門は真剣に、仕事の時のような声で続ける。
「やりたいことはやりたいうちに済ませてしまえ。言いたい事は言えるうちに言っとけ。学園都市の奴らならともかく、魔術師相手なら特にだ」
「お前―――」
土御門は目で上条を牽制する。黙って聞け、とでも言っているようだった。
「俺はここの学生だからまだしも、日本人のねーちんや五和だって会えなくなるかもだしな。禁書目録だって例外じゃねぇ」
「っ!!お前っ、気づい―――」
「土御門さん的にはカミやんには、超電磁砲がお似合いだとは思うけどにゃー」
土御門は上条の言葉を遮り、言いきる。その口調は元のふざけたものに戻っていた。
「土御門………テメェ」
「お、図星かにゃー?顔が真っ赤だぜい?それに肩もプルプル………カミやん!?」
上条は目の前でヘラヘラとしている土御門を見据え、右手を握りしめる。
「紛らわしい真似すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
アドバイスのお礼に、拳をくれてやった。

402繋がる心(ベストフレンズ)2:2010/03/17(水) 21:01:25 ID:gScW2zZM
「結局何だったんだよ、土御門の奴……」
土御門を殴り飛ばした後、1人で走って帰って来た。もう直に寮に着く。土御門が追ってくる気配はない。
さっきの『記憶喪失』を知っているかのような発言に、上条は一瞬ヒヤリとした。
―――でも、アイツなら知ってたかもしれねぇな―――
知っていて、上条にアドバイスをした上で、茶化したのかもしれない。上条に気負わせないために。
今頃、『全くカミやんは世話がやけるぜい』なんて言ってるかもしれない。
上条は土御門を殴り飛ばした右手を見る。後悔は……していない。
「さて………」
―――勝負、だな―――
上条は目の前の建物を見る。上条の住む学生寮。その一室には、銀髪のシスターがいるだろう。
上条は汗ばむ右手を握りしめる。
―――やってやろうじゃねぇか―――
下唇を噛み、自らの部屋に向かう。意を、決する。幻想を未来に繋げるために。
―――ウダウダと悩むのはもう止めだ―――
決意と共に扉を開く。
「ただいま」
「おかえり、とうま」
上条が部屋に入ると、インデックスは部屋を掃除していた。
先日始まった彼女の変貌は、インデックスを恐ろしいまでに働きものにさせた。
掃除機は流石に使いこなせていないものの――「歩く教会が吸い込まれそうになったんだよー」とか大騒ぎになった――粘着テープによるコロコロするアレで掃除をしている。
偶に、重要なプリントやら宿題の上までコロコロしてくれるので大変なことにもなったりするのだが、同居人の働きぶりは上条には嬉しい限りであった。
「とうま?」
掃除する自分を見ながら固まっている上条に、インデックスは首を傾げる。
「あ、いや、コロコロするシスターさんってのも新鮮だなーなんて思いまして」
「とうま。そこはかとなく馬鹿にしてるね?」
ぷぅ、っと頬を膨らます。可愛いなんて思ってない、多分。
「ねぇ、とうま。今日はなんだか元気だね?」
「そうか?いつもと変わんねぇつもりなんだが…」
上条はポリポリと頭を掻く。むしろ、
―――いつも通り悩んでんだけど―――
「なんか、最近ずっと悩み事してるみたいだったのに。今日はスッキリとしてる気がするんだよ。何かあった?」
「べ、別に……何もねぇよ」
上条は学ランを脱ぐとハンガーにかける。
スッキリとした。そうかもしれない。悩みぬいて出た答えは―――
「インデックス」
背を向けたまま、インデックスに呼び掛ける。どうしたの、という顔をしているだろう。
「話があるんだ……聞いてくれ」
振り返る。インデックスの表情が、予想した通りのものから変わっていく。
まるで「待っていた」と言わんばかりの顔に。
「インデックス、単刀直入に言う!俺は今まで、お前に隠してたことがある!」
「……とうま、私はシスターさんなんだよ?懺悔を聞くのも仕事の一つなんだから、なめないで欲しいかも」
えっへんとない胸をはるシスターに、上条は苦笑する。ここまで来て、決意が揺らぐ。
―――こんなんに懺悔していいんかよ―――
こっちは真剣だってのに、と目の前のお気楽シスターに、上条は思わず頭を抱えそうになる
「とうま。いつでもおーけーなんだよ」
「インデックス、俺は、記憶喪失なんだ」
言った。言ってしまった。
―――もう後には引けねぇぞ―――
上条は真っ直ぐとインデックスを見る。驚いた顔をしているか、絶望の顔をしているか。インデックスは―――
笑っていた。慈悲深い、まさに懺悔を聞くシスターのような顔で。
「イン……デックス?」
予想外だった。完全に、予想外だった。上条は呆気にとられる。言葉が、出てこない。
「やっと、やっと言ってくれたね。とうま」
インデックスはその慈悲深い顔をそのままに呟く。
―――なんて言ったんですか?―――
上条は混乱する。
―――やっと言ってくれた?―――
まるで、まるで、全てを知っていたかのような。それでいて、上条の告白を待っていたかのような。そんな言葉。
「インデックス……まさか、お前…」
上条は回らない頭を必死に働かせる。目は丸くしたまま、インデックスに問う。
知っていたのか、と。
「うん。ごめんね、黙ってて。でも、とうまの問題だから。とうまが自分で言い出すまで待ってようって」
インデックスは申し訳なさそうに、細い眉をハの字にして続ける。
「とうまが悩んでる事も、苦しんでる事も分かってたけど。私から言ったら、とうまが潰れちゃいそうだったから……」
その目に涙がじわじわと浮び、零れる。一粒の涙が、インデックスの頬から落ち、床を濡らした。

403繋がる心(ベストフレンズ)3:2010/03/17(水) 21:02:17 ID:gScW2zZM
「ど、どうして……」
―――どうして、バレたんだ―――
上条は固まったまま動けなかった。いつ、なぜ、どこで……上条の脳内で記憶がぐるぐると回る。気を張っていないと、意識が飛びそうだった。
「『右方のフィアンマ』『自動書記の遠隔制御霊装』……ここまで言えば、とうまでも分かるよね」
「フィアンマ………あの時、か」
上条は『右方のフィアンマ』の言葉を思い出す。
「そう。それまでは全然気付かなかった。ううん、時々とうまが何かに悩んでたりうなされてるのは聞いてたから、何だろうとは思ってたんだけど」
「はははっ、なんだよ。これじゃぁ、俺は何だったんだよ……今まで、何をしてたんだよ」
笑うしかねぇや、と上条は呟く。無力感のみが、身体を支配する。
「とうま。私はね、嬉しかったよ。とうまが私の事を考えてくれてたんだ、って」
「…………」
「何か隠し事をしてるな―、って、とうまの事だから聞いても教えてくれないだろうし、下らないことで悩んでるんだろーとか思ってたけど」
「…………」
「でも……『首輪』の制御下とは言え、私の攻撃で……とうまは」
「……インデックス!!」
上条はインデックスの両肩に手を置く。
「それ以上言うんじゃねぇ!!確かに俺の記憶喪失は『竜王の殺息』が原因かもしれねぇっ!」
「………とうま?」
「だからって、お前が気にする事じゃねぇ!俺は俺の自己責任であんな風に行動した!」
「でも、それでもっっ」
インデックスが首を横に振る。上条の性格上、そういうとは思っていた。それでも、納得できない。
「でも、ってなんだ!お互い様だろ!俺はお前に迷惑をかけてる。心配もかけちまってる」
「……………」
「お前が責任取るってんなら、俺から頼むのは1つだけだ。今まで通りに、友達、いいや、家族みたいに接してくれ!」
「そんな、とうまがそれでよくても、私は嫌なんだよ!納得できないもん」
インデックスは納得できない。まるで駄々をこねる子供のように、上条の言葉を否定する。
「うるせぇっ!俺は、お前との関係がそんな責任とか慰謝料みてぇな関係になっちまうのが嫌だって言ってんだ!そんなんじゃねぇだろっ、俺達の関係は……どうなんだ、インデックス?」
「…………私も、とうまとは家族でいたいよ?もっと仲良くなりたいんだよ?」
「そうだろインデックス!だったら、家族みてぇに、俺の同居人として支えてほしい……俺は、それでいいと思う」
上条は全てを出し切る。心の内の全てを。
「……わかったよ、とうま。私も……もっと色々と出来るようにならないとだね。とうまのお手伝いも」
そう言って、インデックスは掃除用コロコロを掲げて微笑む。
「インデックス……わりぃな。俺の価値観を押しつけちまって…」
「なんでとうまが謝っちゃうのかな?ここは私が謝るところだと思うんだけど」
インデックスは上条の手を取り、真っ直ぐと見つめる。
「私にとっては、例えどんな風になっても、とうまはとうまなんだよ」
「インデックス………1ついいか?」
上条もインデックスの碧い瞳を真っ直ぐと見つめる。
「この事は……記憶喪失の事は………他には言うな。心配させたくねぇし、記憶が無くとも、俺は俺だ」
「やっぱり、とうまはいつまでたってもとうまのままなんだね」
インデックスは小さく溜息をつくと、頬を緩める。
「うん。でも、あんまり悩んじゃダメなんだよ。一人で何でもやっちゃうのはとうまの良いところだけど、待ってる方は心配なんだよ」
―――美琴にも同じこと言われたな―――
自分の行動による責任は自分で背負う。上条の信念であり、悪い癖でもある。
―――これからは、もっと臨機応変に、かな―――
上条は頬を緩めて思う。このインデックスへの告白は、過去の自分を殺すことになったかもしれないけど。
―――1つ成長……前に進めたってトコか―――
目の前にいる同居人のシスターの小さな手を握り返す。
「ああ。困った時は相談、だな」
「うん」
2人は手を取り合って微笑む。お互いに心の内をさらけ出し、神の前で懺悔するかのように。

404繋がる心(ベストフレンズ)3:2010/03/17(水) 21:05:09 ID:gScW2zZM
「あー、緊張した」
上条は仰向けに倒れると大きく息を吐いた。
「とうま、大丈夫?」
インデックスは上条の横まで歩いてくると、そこに腰を下ろす。
「いやいや、インデックスさん。上条さんは悩みすぎで死ぬかと思いましたよ」
悔いはないぜ、と言い残し、ワザとらしく力を抜く。
上条の部屋に静寂が広がっていく。
暗い後ろ向きな静寂ではなく、心地よい春の陽だまりのような静寂。
実際、上条はうとうととしていた。悩みが解消されてホッとしたし、今までその悩みのせいでまともに眠れていなかった。
その疲れが一気に出たのか、わずか数分だというのに睡魔に襲われる。
「ねぇ、とうま」
そんな眠たい静寂を、インデックスの小さな声が破る。
「私も、1つとうまに言いたいことがあるんだよ」
インデックスは上条の顔を見ないまま呟く。
「おっ、なんでせうかインデックスさん?上条さんで良ければ、お聞きしましょう」
上条は腹筋を使って起き上がると、胡坐を組んでインデックスに向き直る。
それでも、インデックスは上条の方を見ない。
心なしか、顔が赤い気もする。
「インデックスはね………」
「ほうほうっ」
上条がインデックスの方に身を乗り出すと、彼女は身を固くし、目を閉じた。
「インデックスはね、とうまのことが大好きなんだよ」
「なるほどー。いやー、上条さんは照れてしまいますよっ!?」
あはははは、という形で上条の口が止まる。目の前のインデックスが真剣な顔をしているから。
「これでも私は女の子なんであって、そんな風に流されてしまうと悲しいかも」
「あれ、もしかして………マジですか?」
こく、っと、インデックスは首を縦に振る。
『とうまのことが大好きなんだよ』
上条の脳内で、インデックスの言葉が繰り返される。
―――ど、どうするよ?―――
上条は自分の心に問いかける。今までインデックスを可愛いと思ったことは確かにあるし、好かれているような気もしていた。
だけど、それは…………恋人とかそういうのではなく、兄弟というか、家族という括りでだ。
「………い、い、いいいいんでっくす?」
「とうまは、私のこと、きらい?」
真剣な眼で真っ直ぐと見つめてくるインデックスに、上条は罪悪感に苛まされる。
―――き、き嫌いなわけじゃねぇっ、けど、そうじゃなくて―――
あくまで「家族」としてだ、そうなんだ、と上条は自分に言い聞かせる。
―――俺が、俺が好きなのは、年上の管理……っ!?―――
上条の脳裏に浮かんだのは――御坂美琴
―――そうか、そうなのか……このもやもやは―――
混乱した上条の頭の中では小さなインデックスと小さな美琴が団体戦を繰り広げている。
あっちでは美琴がびりびりと。こっちでインデックスががぶがぶと。
「お、おおおおお俺はっ―――」

405繋がる心(ベストフレンズ)4:2010/03/17(水) 21:05:52 ID:gScW2zZM
「なんてね。冗談なんだよ?」
「はい?」
「仕返し。覚えてない?とうまは『なんつー顔してんだよ!お前は』って言ったんだよ」
にまーっと、インデックスが笑う。初めて入院した時のことだよ、と付け足しながら。
「えーっと、インデックスさん?冗談だったんでせうか?」
「とうまは私の家族だもの。それに、とうまはみことの事が好きなんだよね?」
インデックスはにっこりと笑う。上条は、全てを見透かされているような気がした。
「もう答えたの?」
「なんで知ってるんですか?」
「あ、やっぱり告白されたんだね」
とうまから言いそうにはないと思ってたんだよ、とインデックスは続ける。
―――は、はめられたっ!?―――
まさかインデックスにやられるとは、と上条は悔しがる。彼はこの手の話となると非常に弱いのである。
「まだ、答えてはねぇよ。お前との問題が片付くまでは待ってくれって言ってさ」
上条は全てを白状する。さっき、相談すると誓ったところだ。
「じゃぁ、今からみことのところに行ってくるんだよ」
「はぁ?今から?」
インデックスはその場に立つと、胡坐をかいている上条の手を取り無理矢理に立たせる。
「思い立ったら吉日っていうんだよー」
そういうとシスターさんは文字通り上条の背を押し、玄関に導く。
「おいおい、インデックス?」
「いいから行くんだよ。みことをいつまでも待たせてたら可哀想なんだよ」
玄関まで連れてこられ、上条はバッシュを履く。決意はまだ固まりきっていないが……ここまでされては、やるしかない。
「インデックス、ごめんな」
「こういうときは、ありがとうっていうもんだと思うけど」
インデックスは頑張ってきてねと言って手を振る。上条は大きく頷くと、扉を開く。
「行ってくる。ありがとうな、インデックス」
ばたん、と扉が閉まり、廊下を駆けていく上条の足音が響く。
「これで、良かったんだよね」
インデックスは柔らかく微笑んだ。我慢し続けた涙を浮かべながら。

406繋がる心(ベストフレンズ)5:2010/03/17(水) 21:06:19 ID:gScW2zZM
勢いよく飛び出してきたものの、上条はこれからどう動くか困っていた。
美琴に会う、という目的はあるものの、どうやって会うか。
第一、手元に何もない。携帯もなければ小銭もないので公衆電話も使えない。
颯爽と飛び出してきたので、今さら部屋に戻って充電器の上の携帯を確保するのもなんだか間抜けだ。
常盤台の寮に乗り込む、っていうのも1つの手ではあるが、この時間だ。恐ろしいと聞く寮監に遭遇すればどうなるか……
「ど、どうするっ!?」
上条はとりあえず、常盤台の寮に向けて走りながら考える。いい案は浮かんでこない。
案1、出直す。
―――論外だ。どのツラ下げてインデックスに『出直します』なんて言うんだよ―――
案2、誰かに電話を借りる。
―――土御門……いや、無理。小萌先生………この時間は酔ってそうだ―――
案3、ジャッジメント経由で、白井にお願いする。
―――1番現実的ではあるが、自殺行為だ―――
上条は立ち止まって頭を抱える。
―――ふ、不幸だ―――
溜息といっしょに禍々しい何かが飛び出してきそうな気分だ。
周りを見回すと、例の自販機前まで来ていた。
「な、なんか急に喉渇いてきやがった」
上条はズボンのポケットに手をやる。もちろん、財布は入っていない。
「しまった………って、あれ?」
一瞬、回し蹴りを入れてみるかと思ってしまった自分を恥じながら、自販機の隣を見る。
誰かがベンチに座っている。常盤台の制服に、肩まである茶色い髪。ジュースの缶を見つめて、ぼーっとしている。
「みっ、美琴っ!?」
―――なんたる偶然!―――
上条は嬉々とした表情で駆け寄る。美琴の隣に何か置いてある。なにか……ゴーグルのような。
「またお姉様と間違えましたか、とミサカは覚えの悪いあなたを睨みます」
「なんだ、御坂妹か」
一旦持ち上げてから落としてくれる意地悪な神様を呪いつつ、上条はベンチに腰掛ける。
「なんだとは失礼ではないですか、とミサカは訂正を求めます」
無表情で訴えかけてくる御坂妹に素直に頭を下げる。すいません、と。
「で、御坂妹はこんなところで何してんの?」
「お姉様に教えていただきました事の実践を、とミサカは指差しながら言います」
ぎぎぎ、と上条は御坂妹の指差す先を見る。そこにあるのは赤い自販機。
「あー、御坂妹。教えて貰ったというのは………」
「この自動販売機に回し蹴りをするとジュースが出てくるというものです、とミサカは本当に出てきた事に驚きながら報告します」
御坂妹は自慢げに手元のジュースを見せる。心なしか口元もニヤついている。
「あんまりそういう事やるなよ」
上条は溜息をつきながら、美琴を思い出す。
―――妹に何教えてんだよ―――
「あなたも試そうと思ったのではないですか、とミサカは邪推します」
「いやいやいや、一瞬思ったことは否定しませんけどね。紳士上条さんはそんな事しませんっ」
上条はぶんぶんと首を振る。やろうとなんか、してない。
「喉が渇いたと言っていましたが、買われないのですか、とミサカは首を傾げます」
「それが財布も携帯も忘れちまってな」
御坂妹は、そうですか、と呟くと手に持ったヤシの実サイダーを差し出す。
「お飲みになりますか、とミサカは間接キスに期待しながら差し出します」
「ちょ、お前!そんな言葉何処で聞いてきたっ!?」
そういう事をあまり気にしない上条でも、目の前で先に言われてしまうと急に気になってしまう。
「紳士上条さんはそんなことしません!」
「お姉様のときは喜んで飲んでいましたのに、とミサカは借り物競走を思い出しつつ舌打ちします」
ちっ、と本当に舌打ちをして御坂妹はヤシの実サイダーを飲み干す。
「借り物競走………あ、あんときか」
上条は思い出した。大覇星祭のときに美琴から飲み物を貰ったような気がする。
御坂妹は白い目でこっちを見ると口元をにやっと緩める。
「紳士の意味を調べ直すことを勧めます、とミサカは皮肉ります」
上条はぷるぷると震えながら俯く。
「ふ、不幸だ……」

407繋がる心(ベストフレンズ)6:2010/03/17(水) 21:06:46 ID:gScW2zZM
「1つお聞きしてもいいですか、とミサカはあなたに確認をとります」
「なんでせうか?上条さんは心が折れそうですよ」
負のオーラを出しまくる上条に気負うことなく、御坂妹は続ける。
「いつからお姉様をファーストネームで呼ぶことになったのですか、とミサカは疑問を投げかけます」
「つい最近。美琴に用があって飛び出してきたんだけど、連絡出来なくて困ってたんだよ」
答えはするものの、心ここにあらずの上条。口からは『不幸だ』が何回も出ている。
「なるほど。お姉様を呼びだせばいいのですね、とミサカは自前の携帯をプッシュします」
「っ!!お、連絡してくれんのか」
上条は自分を見捨てなかった神様に感謝しつつ、電話する御坂妹に手を合わせる。
「もしもし、お姉様ですか?」
『な、なによ。アンタから連絡が来るなんて珍しいじゃない?』
電話の向こうから美琴の声が聞こえる。
「お姉様も素直になられたようですね、とミサカは安堵します」
『はぁ?何の話よ』
「お姉様。例の自販機前まで来てください」
『ちょ、どうい』
Pi
御坂妹は一方的に電話を切る。恐らく、美琴は怪訝な顔で切れた電話を見ているだろう。
「いやー、助かったぜ、御坂妹。さんきゅーな」
「お姉様が素直になられたのでしたら、ミサカも素直になりましょう、とミサカは決意します」
御坂妹はベンチから立ちあがる。
「あなたの事が好きです、とミサカは叶わぬ恋と自覚しながら気持ちを伝えます」
―――今日はなんて日だ―――
上条は目の前の少女を見る。感情の薄い無表情な少女、だと思っていた。
しかし、その少女の顔には明らかに感情が見て取れる。
「…………ごめん」
上条は俯く。真っ直ぐと見てくる御坂妹に目線を合わせられない。
「何故謝るのですか………、とミサカは……あなたにっ…問いかけます」
様子のおかしい御坂妹に驚き、上条が顔を上げると御坂妹は涙を流していた。
「これ……が悲しいという………気持ちなのですね、と……ミサカは…溢れる涙を………堪え切れずに言います」
「…………わりぃ」
上条は罪悪感に打たれていた。目の前にいる泣いている女の子に何もしてあげられない、非力な自分に。
「気にする必要はありません。その分………お姉様を……幸せにしてください」
「ああ、約束する」
御坂妹は、涙を拭うとその場から駆けだす。
「御坂妹っ!!」
上条が叫ぶ。その声に呼応するかのように、御坂妹は立ち止まる。振り返りはしない。
「ありがとうな、こんな俺を好きでいてくれて」
「お姉様を泣かすようなことがあれば、ミサカはあなたを許しません、とミサカは世界中のミサカを代表して言います」
そう言い残して、御坂妹は夜の闇に紛れるように駆けていった。
「もう2度と、泣かせるもんか」
上条は誓う。2度と目の前で、大切な人が泣かないように。

408繋がる心(ベストフレンズ)7:2010/03/17(水) 21:07:11 ID:gScW2zZM
常盤台の寮の一室で白井黒子は電話をしていた。電話の先は同僚の初春。
先程、美琴が『例の自販機』とか言いながら飛び出していったのだ。
「初春、どうなってますの?」
『えーっと、ツンツン頭の……高校生ですかね、ベンチに座ってます』
「なるほど…………そう言う事ですの」
白井は顎に手をやり、ツンツン頭を想像する。その高校生はおそらく―――
『上条さん、ですか?』
電話の向こうから初春が答えを出す。
「そうでしょうね。お姉様は答えを待ってるとおっしゃられましたし………初春?」
『きゃー、御坂さんを待ってるんですかっ!これはビッグニュースですよ。佐天さんにも連絡します』
「初春、落ち着きなさい!」
電話に向けて白井が叫ぶが、初春は聞いちゃいない。1人大騒ぎしている。
『白井さん、テレポート使って連れて行ってくださいっ』
「な、何を言ってますの?」
『ですから、佐天さんと3人で見に行きましょうよ!御坂さんがいかがわしい事されないように、見守らなきゃですよね!』
「うっ!?」
―――いかがわし事……そんな事させませんわっ……いや、是非録画しなければっ―――
「初春っ、佐天さんを初春の部屋まで呼び出してくださいましっ」
白井は初春との電話を切ると寮を飛び出す。向かう先は初春の部屋。
テレポートを効率的に使い高速移動を実現する。


「白井さんっ!」
白井が初春の部屋の扉を開こうとしたとき、廊下の端から佐天が駆け寄ってくる。
「御坂さんと上条さんがなんですって?」
佐天は目をキラキラと輝かせている。
「とりあえず入りますわよ」
白井は扉を開き中に入る。佐天もそれに続く。インターホンなんて押してないし、ノックもしてない。
「うわわっ、おふたりとも急すぎますよっ」
初春は慌てて花飾りを頭につける。
「ごめんごめん、初春。でも私は花のついてない初春も大好きだよ?」
「ななななっ、何を言ってるんですか、佐天さんっっ」
「そんな事はどうでもいいですの。お姉様はどうなってますの?」
白井は2人のやりとりをバッサリと断ち切り、初春のパソコンに表示されている監視カメラの映像を見る。
佐天もそれに倣いディスプレイに目をやる。
「どれどれ…まだ御坂さんは着いてないようですね」
白井にそんなこと扱いされてしまった初春は後ろで涙を浮かべているのだが、当然のごとくスルーされている。
「では、現地に向かいましょう」
「はい!さっすが、白井さん」
白井はまだ間に合いそうであろうことを確認すると、再び玄関へと向かう。
佐天もそれに続くが、初春はあうあうと言いながらへこんだままだ。
「初春!何をへこんでいますの?」
「どうでもいいって……せっかく、佐天さんが誉めてくれたのに……」
「早く行きますわよ。それとも、その頭のお花だけ先に現地に飛ばしましょうか?」
「やややや止めてくださいっ」
初春は花を飛ばされては大変だと、しぶしぶと後に続いていった。

409繋がる心(ベストフレンズ)8:2010/03/17(水) 21:07:34 ID:gScW2zZM
上条はベンチに座っていた。
まさか監視カメラによって観察されているなんてことは予想だにしていない。
御坂妹の電話によって美琴はここに来るはずである。
あんな電話ではあったが、美琴の性格からして必ず現れるだろう。
『いったい何の用よ!』とか言ってビリビリ帯電しながら。
―――さて、なんて切りだすか―――
今まで散々待たせっぱなしだったわけだ。気の利いた事でも言ってやらないと爆発するかもしれない。
「そろそろかな」
上条は時計台を見る。御坂妹のした時間から考えると、もうすぐ現れるだろう。
「こんなところまで呼び出して、いったい何の用なのよ……」
―――噂すればなんとやらだな―――
美琴はキョロキョロと周りを見回しながら歩いている。見当たらない妹を探しているようだ。
何やら息が荒いところを見ると、走ってきたのだろう。口ではあぁ言いながらも根は優しいお姉様なのだ。
―――ま、そこが美琴のいいところなんだけどな―――
上条はベンチから立ち上がると、美琴の方に近付いていく。
「よう、美琴」
「っ!?」
美琴はものすごい勢いで上条を見ると、機嫌の悪そうな顔のまま睨みつける。
「な、なんでアンタがここに居んのよ」
「おいおい、せっかく名前で呼びあうようになったのに。またアンタに降格か?」
やれやれ、とワザとらしく肩をすくめてみる。美琴はそんな上条に呆れるように息を吐くと肩の力を抜く。
「私は『美琴』って呼んでいいとは言ってないんだけど?」
「あ、わりぃ。当麻って呼ばれたからついな。許せ、美琴」
あっ、またやっちまった、と上条は頭を掻く。
「別にいいけど」
「ん?」
「美琴でいい、って言ってんのよ」
「そうか、ならそうしよう」
上条は腕を組んでうんうんと頷いている。美琴は上条に美琴と呼ばれていることを急に意識してしまい、自分の顔が熱くなるのをを自覚する。
妹の意味不明な電話に呼び出されてきてみればコレだ。
―――そもそも、肝心のあの子はどこにいったのよ―――
美琴はあたりを見回してみるが御坂妹の姿はどこにもない。
茂みのあたりでカサカサ聞こえたような気がしたが、おそらくネコでもいるのだろう。
ビックリさせるのも可哀想だなと思い、電磁波ソナーの出力を下げてみる。0には出来ないが、遠距離で驚かすことはないだろう。
背後からの襲撃などに備えての電磁波ソナーを弱くすることは心配ではあるものの、今は上条もいる。
―――もしものときは、しっかり守ってよね―――
そんな期待を込めた目で上条を見てみるも、上条は妙にそわそわとしていた。
「あー、美琴。お前は、御坂妹に呼び出されたと思うんだが……あれは俺が頼んだんだ」
「はぁ?なんでアンタが直接連絡してこないのよ?」
そんなに妹が好きか、と言いながら帯電しだす美琴の頭に右手を乗せる。
電気で逆立っていた美琴の髪がふわりと戻り、あたりに飛んでいた電気が消える。
「お前に答えを伝えようと思って飛び出してきたはいいけど、携帯とか忘れちまってよ」
「なら、家まで戻ればいいじゃないの」
「いや、たまたま御坂妹に会って、連絡してくれたんだって。それに……」
「それに?」
歯切れの悪い上条に続きを促す。上条は一瞬迷った後に口を開いた。
「インデックスが、な」
「あ………そうね。ごめん変なこと聞いて」
「なんで謝んだよ」
上条はそう言って、美琴の頭を撫でる。
―――インデックス………ごめんね―――
美琴は上条の部屋にいるであろうシスターの事を思う。今頃泣いているかもしれない。
―――今度、ゆっくり話しないとね―――
美琴は思う。インデックスの対等な友達として、同じ人を想う恋敵として。
「なぁ、美琴…………今まで待たせちまって悪かった」
そう言うと、上条は逸らしていた目を美琴に向ける。美琴が見たこともない、取り繕うことも偽ることもしない本当の『上条当麻』がそこにいた

410繋がる心(ベストフレンズ)9:2010/03/17(水) 21:08:04 ID:gScW2zZM
「思ってたより、早いわね」
「上条さん的には長くて泣きそうでしたけどね」
とりあえず座ろうぜ、と美琴をベンチに促し、上条はその隣に座る。15センチ。少しだけ、小さくなった幅。
「ねぇ、当麻。解決はしたの?」
「んー、まぁな。インデックスも御坂妹も分かってくれたとは思う」
上条は何気なく口にするが、すごく悩んだんだろう。美琴はそんな上条を少しだけ気にかける。
「………そう。って、なんであの子が出てくんのよ?」
「あの子?あぁ、御坂妹か?」
上条が『片づける』と言っていたのはインデックスとの問題じゃなかったのか。
「さっき、御坂妹に会ったって言ったろ。そんときにさ、好きだって言われちまった」
「えっ!?」
美琴は固まる。
―――あの子が、当麻にこ、告白した?―――
何かにつけて、美琴と争っては来たが…………
「で、あ、アンタ。なんて答えたのよ?」
「アイツには悪いけどな、ごめんって、断ったよ」
泣いてたんだ、アイツ。上条は続ける。その横顔は、寂しげだった。
「お前を泣かせたら許さない、ってよ………」
「…………あの子」
「だから俺も約束したよ。俺の大切な人を、もう2度と泣かせたりしねぇ、って」
上条は右手を、『幻想殺し』を握りしめて見つめる。
「美琴だけじゃねぇ、インデックスも、御坂妹も、ステイルや土御門だって入れてもいい。俺が出来る事なら、全て守ってやる」
握りしめていた右手を開く。先程の寂しげな目ではなく、意志のこもった目をしていた。
美琴は思う。上条当麻はこんな人間だ。
―――私だけじゃない。自分を犠牲にしてでも、全てを護ろうとしている―――
「そう、よね」
『自分だけが特別じゃない。アイツは平気であんなことを言うやつよ』以前に自分に言い聞かせた言葉。
同じ言葉でも、今の自分には辛い言葉。
「アンタは……当麻はっ、そういうやつよね」
美琴の目から涙が零れる。
分かってはいたことだ。でも、もし上条が自分を選んでくれるなら。そんな事を期待し、夢に想い、言葉にした。
上条の自分に対する接し方からも、期待はしていた。自意識過剰かもとは思いながら、『待っててくれ』という言葉に甘い感情も抱いた。
ふたを開けてみれば、上条当麻は相変わらず、上条当麻のままだった。
でも、それでも。これではピエロじゃないか。
―――あんまりだ―――
美琴は思う。上条は確かに鈍感ではある。それにしてもあんまりだ。期待を抱かせておいて、待たせるだけ待たせたのに。
―――逆恨みかもしれない―――
上条は『待っててくれ』とは言ったが『答えがどうなるかも分からない』と言っていた。
感情論だとは思う。上条を恨むのは筋違いだ。
それでも、美琴の目から流れる涙は止まらない。止めることなく流れ出す感情の奔流は、美琴の心にヒビを入れていく。
美琴は『自分だけの現実』を崩されるような感情を上条に抱いた。
レベル5の、常盤台のエースの座は今日で終わりかもしれない。
それほどの感情の爆発が、涙となって溢れる。目の前で慌てる上条の姿が揺らぐ。
いつもなら放たれる雷撃の槍も飛び出すことはない。

411繋がる心(ベストフレンズ)10:2010/03/17(水) 21:09:59 ID:gScW2zZM
茂みの中。
白井黒子はじめ、盗み見の共犯3人はそこに潜んでいた。
通常、美琴の電磁波ソナーによってこのような行為は瞬殺されてしまうはずなのだが、美琴の勘違いによって事なきを得ている。
この3人は、美琴よりも一歩早く到着していた。美琴が誰かを探してキョロキョロとした時は焦って初春が倒れそうにもなった。
「し、白井さん……あれが、上条さんですか?」
「見た事ありませんの?てっきり全て知っているのかと思っていましたのに」
佐天の質問に頷いてから、白井は中途半端に知っている2人をいぶかしむ。
「顔は見たことなかったんですよ。へー、なかなかカッコイイかも……ねぇ、初春?」
「私は以前お会いしたことがあるので知っていましたよ」
グラビトン事件で面識のあった初春は自慢げに言う。
「そういえば、グラビトン事件だっけ、のときに初春たちを護ってくれたんだよね」
「そうなんですよ。しかも、何にも言わずに立ち去るんですよ!」
初春は興奮気味に言う。例の美琴からの聞きだしのときに知った事実であり、初春も佐天もその上条の行動に感動したのだ。
「くーっ、御坂さんも命を助けられたって言ってたし。そりゃ、惚れちゃうよねっ!いいないいなー」
「ですよねっ、佐天さん!」
「おふたりとも、お静かにしてくださいまし。バレてしまいますよ」
白井は勝手にテンションの上がっていく2人を白い目で見る。白井としては、このあと美琴がどうなるかの方が問題なのだ。
「いやー、白井さん。落ち着いてなんかいられませんよ」
御坂さんの大スクープですよ、と大騒ぎする初春。白井はその頭に手を載せ、笑顔で応える。
「お花畑は頭の中だけで十分のようですわね?頭のお花畑は空間移動させていただいてよろしいかしら?」
「すいませんすいません許して下さい」
目の座った白井に対し、初春はただただ謝る。
「あ、見てくださいよ、白井さんっ!!」
佐天が指差した先、つまりは上条と美琴がいるところを見る。
ぽんっ、と、上条の手が美琴の頭に置かれ、わしゃわしゃと撫でているところだ。
佐天は『いいなぁぁっ』と頬を染め、初春は『お花がぐちゃぐちゃになるので私にはちょっと…』とか言い、白井は危うく金属矢を空間移動させるところだった。
茂みの中で三者三様に反応を見せていることなんて想像すらせず、上条と美琴はベンチに隣り合う。
「うわー、近いっ!近いですよ、白井さん」
初春が再び騒ぎ出す。佐天――意外にも一番乙女かもしれない――は完全に見とれており、初春や白井の事など気にもしていない。
となると、盛夏祭等でも見せたテンションが上がしまって扱いにくい初春の矛先は白井に向く。

412繋がる心(ベストフレンズ)11:2010/03/17(水) 21:10:23 ID:gScW2zZM
―――うっとおしいですわね―――
本当に頭の花をテレポートさせようかと思ったものの、叫ばれてはバレてしまう。
白井は大きく溜息をつく。こうなれば無視するしかない。
白井は絡んでくる初春を適当にあしらい、再び目線を美琴達に向ける。
美琴は上条の横顔をみつめているところだった。
―――お姉様があれほど熱い視線を送るなんてっ………この黒子、羨ましいなんて思ってはおりませんっ―――
恐ろしい顔をした白井を見てしまった初春は、全身を強張らせる。
―――い、いま白井さんを怒らせたら、あわわわわ―――
顔を真っ青にして、初春も2人同様、美琴達に目を向ける。少し大きくなった上条の声が聞こえてくる。
『俺の大切な人は、もう2度と泣かせたりしねぇ、って』
はうっ。
そんな声が初春の左側、1人の世界に入っていた佐天の方から聞こえてくる。
初春と白井が様子のおかしい佐天の方を見ると、彼女は顔を真っ赤にして、目をうるうるとさせていた。
この場に上条をよく知る人間がいたらこう言ったであろう。『またか、あの野郎』と。
しかし、そんな雰囲気も一瞬で壊れるような事が起こる。
『美琴だけじゃねぇ、インデックスも、御坂妹も、ステイルや土御門だって入れてもいい。俺が出来る事なら、全て守ってやる』
上条の言葉。静かな空間にそれだけが響く。そして―――
美琴が泣いた。気を張った、強がった美琴しか見たことのない佐天と初春には衝撃的な姿。
―――あの御坂さんが―――
―――泣いた?―――
それでも、どうにも様子がおかしい。少なくとも、上条の言葉に感動したわけではなさそうだ。
上条の言葉が、美琴にとって辛い事実を示していた。そんな涙。
2人は慌てて白井を見る。飛び出す事を必死に我慢している白井の姿があった。
次に出る上条の言葉次第では、白井は飛び出していくだろう。そして金属矢を上条に打ち込むだろう。
白井にとって、美琴に恋人が出来るのは好ましい事ではないかもしれない。
それでも、愛すべきお姉様を泣かせるのは、何人たりとも許さない。
―――例え、お姉様に嫌われることとなっても、黒子は許すことはできませんの―――
血が沸騰するかのような思いを抱えながら踏みとどまる。上条当麻の、心の内を確かめるまでは。

413繋がる心(ベストフレンズ)12:2010/03/17(水) 21:11:33 ID:gScW2zZM
「みみみ美琴さんっ!?な、なんで泣いてるんでせうか?」
張りきって――上条的にはカッコよく決めたつもり――宣言してみたら、美琴が号泣していた。
デルタフォースと呼ばれている上条にも、美琴が感動して泣いているわけではない事は分かる。
それゆえに焦る。どさくさにまぎれて何か言ってしまっただろうか?
「あー、美琴さん……泣いておられては分からないんですが……」
「アンタの答え、じゃなかったの?さっきの言葉」
全員を守るという上条の誓い。転じて言えば、例外はないという事だ。
美琴にはそれが辛かった。自分を見てほしい。出来るなら、自分『だけ』を見てほしかった。
溢れだす涙は止まらない。上条を困らせているのも、優しい上条の前で泣くことがずるい手段であるかもしれない事も分かっている。
『自分だけの現実』を制御してきたレベル5でも、抑えきれない。
ぼやけた視界の中で、上条は呆れたように溜息をついている。
そんな上条を見たくなくて、美琴は顔を背ける。
上条が近づいてくるのを感じ、身を固くする。
―――やめて。中途半端に優しくしないで―――
「諦めきれないじゃないのよ!!」
想いが、言葉として漏れる。制御の利かなくなった感情が溢れだし、漏れだした電気があたりに散る。
そんな能力と感情の奔流を抑えるかのように、背けた顔の横に上条の顔がきた。
溜息をついていた上条は、泣きじゃくる美琴の身体を後ろから抱き締める。優しく、壊れないように。
「諦める、ってどういう事だよ」
身を固くする美琴の耳元で囁く。出来るだけ優しく、心の奥まで届くように語りかける。全身全霊の想いをこめて。
「勘違いしてるみてぇだから、訂正しとく」
『勘違い』とはどういうことか。1人で浮かれていた事が勘違いだというのか。
上条は一回しか言わねぇぞ、と前置きする。
「もう1つ、御坂妹と約束したんだ」
上条は美琴から離れると、その両手で美琴を自分の方に向かせる。
「お前を幸せにする、って約束した」
「っ!!」
美琴の目が大きく見開かれる。『勘違い』とは…。自分のはやとちりだとしたら。上条の気持ちを聞いていないだけだとしたら。
「遅くなっちまったけど、答えが出た。俺は、お前が……御坂美琴が好きだ」
上条は真っ直ぐに、美琴の瞳を見つめる。涙で濡れた綺麗な穢れのない瞳を。
肩に置いていた手を伸ばし、美琴の涙を拭ってやる。
「2度と泣かさねぇ、なんてカッコつけといて……いきなり泣かせちまって……情けねぇ」
美琴は上条の手を取る。暖かい手が、自分の涙で濡れていた。
―――当麻の話を最後まで聞こうともせずに、勝手に勘違いして。私は……―――
最悪だ。美琴は思う。最愛の人に辛い思いをさせた。最愛の人の誓いを涙で濡らしてしまった。
「………ううん、そんなことない。そんなこと、ないわよ」
美琴は上条の手を離すと、その胸に飛び込む。
「私こそ、最後まで当麻の話も聞かずに勝手に勘違いして……ごめんなさい」
「気にすんなよ。俺も回りくどい言い方しちまったし。そもそも、待たせなきゃこんなことにはならんかったしな」
上条は両腕を美琴に回し、優しく抱きしめる。
「美琴、お前は俺が幸せにする!不幸は全部、俺が奪い取ってやる」
上条は美琴に回した腕に、少しだけ力を入れる。自分の意志を示すかのように。
「……なに言ってんのよ。当麻といれば、不幸なんて大きな幸せの一部にすぎないわよ」
美琴は笑う。ずっと恋焦がれた、夢に見た、自分の居場所。最愛の人の腕の中で。
上条と美琴は見つめあう。その顔が近づいていく。

414繋がる心(ベストフレンズ)12:2010/03/17(水) 21:12:22 ID:gScW2zZM
茂みの中の3人は固まっていた。目の前の出来事はなんなのだろうかと。
まるでドラマを見ているかのような、そんな風景。
「ねぇ、初春。これ、夢じゃないよね?」
「ほっぺほすねってみまひたが、ひたひです」
両頬をつねったまま初春が答える。どうやら夢じゃないらしい。
「あぁっ、佐天さん!あれってもしかしてきききききすですか?」
「初春、ちょっと落ち着き―――っ!」
佐天が初春の方を見たとき、その視界には白井も飛び込んでくる。ぷるぷるとしていた。
「し、白井さん?」
声をかけるのが早いか、空間移動で消えた白井は、今まさに甘い世界に行こうとしていた美琴達の横に飛び出した。
『お姉様ぁぁぁっっ!!』
『うわぁっ、し白井?どっから出てきたっ?』
『黒子?アンタまさか、見てたの?』
さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら、喜劇に変わる。
「だぁぁっ、白井さんっダメですよー!!」
「コラ初春っ、アンタまでいってどうすんの」
そういいつつも、2人は茂みから飛び出す。ガサガサッという音と共に自販機横に転がり出る。
急に茂みから飛び出して気でもすれば、必然的に注目の的だ。
「………」
「………」
口をあんぐりと開けたまま、上条と美琴は固まる。白井は美琴に取り押さえられて悲鳴をあげている。
「あははははは。み、御坂さんっ、おめでとうございます!!」
「上条さんも、おめでとうございます!」
初春と佐天は、慌てたように祝福を言葉にする。
そんな2人に、上条と美琴は丁寧に頭を下げる。『どうもご丁寧に』と。
「………」
「………」
「………」
「………」
沈黙が流れる。

415繋がる心(ベストフレンズ)14:2010/03/17(水) 21:13:01 ID:gScW2zZM
「で、あなたたちは見てたの?」
「はい、見てました。佐天さんや、白井さんと一緒に」
固まったままの美琴からの問いかけに初春が答える。妙に重い空気が漂っている。
「どこくらいから見られていたんでせうか?」
「えっと、御坂さんが誰かを探してここに来たあたりからです」
―――さ、最初からですかっ―――
上条は愕然とした表情をする。
―――ということはアレですか。上条さんの偉そうな宣言とか、告白とか全部聞かれてしまったという事ですね……不幸だ―――
「アンタら、覚悟はできてるんでしょうね?」
こめかみに青筋を立て、美琴がビリビリと帯電する。
「おおお姉様っ、黒子はもう痺れておりますっっ………うげっ」
「御坂さんっ、落ち着いてくださいっ」
「そんなの、私達死んじゃいますからっ!!」
美琴に掴まれていた白井は電撃の犠牲と散り、残る2人も顔を真っ青にすると、後ずさる。直ぐにでも走り去りたかったが、背中をみせたら危険な気がした。
「おい、美琴。そんなビリビリすんなって」
そう言って、上条は右手で美琴の頭を撫でる。ふわり、と電撃が収まり、美琴は膨れっ面で上条を睨む。
「なによ。全部見られちゃったのよ?」
「まぁ、いいじゃねぇか。こうやって祝福してくれてんだし」
「で、でもっ……」
上条は納得のいかない顔をしている美琴の耳元に口を近づけると、小さな声で囁く。
「(後で、全部説明する方が恥ずいだろ……)」
ぼんっ、と音を立てるような勢いで美琴の顔が赤く染まる。
上条の声は聞こえていないので、周りから見れば愛の言葉を囁いたように見えなくもない。
「あ、上条さん。今、そんなに甘いことを言ったんですか?」
佐天はニヤリと口元を歪める。
「え、聞かせてください!御坂さんっ」
初春も佐天に乗っかるかたちで続く。さっきまでビリビリを怖がっていたのに。
「アンタ達、よっっっっっっぽど電撃食らいたいみたいね?」
「「きゃー」」
こめかみをピクピクとさせた美琴から逃げるように、2人はわざとらしい声をあげて上条の後ろに隠れる。
「助けてください、上条さん!」
「大切な人は、全員守ってくれるんですよね?」
「えっ?」
確かに、ついさっきそんな事を誓ったところだ。
目の前には、ほほう、とか言いながら帯電している美琴がいる。ポケットからゲーセンのコインなんか出しているようにも見える。
「もしかして、私たちはその中に入りませんか?」
「見ず知らずの女の子はダメでしょうか?」
「うっ……」
―――う、う上目づかいっっ―――
上条は女子中学生2人の上目づかいにやられ、完全に固まってしまう。
―――なんだか上条さんの不幸レーダーにびんびんと反応しておりますよー。今までにないくらいにぃぃぃ―――
ぎぎぎ、と動きの悪い音がするかのような速度で、上条は美琴に振り返る。
笑っていた。それはもうにっこりと。手にはコインが1枚。
「み、美琴さん?ここはゲーセンではないので、コインを取り出しても出来ることなんてないですよ?」
「死んでみる?」
超絶至近距離で超電磁砲が放たれる。上条はなんとか右手で受け止めるも、攻撃はそれで終わるハズもない。
上条はぐりんっ、と踵を返すと走り出す。こういうときに言う言葉は1つ。
「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

416かぺら:2010/03/17(水) 21:17:23 ID:gScW2zZM
以上!
3、12が2回ありますね。
そして12レスって言ったのに長くなってますね。15レスあるよ。
あんまりいちゃいちゃしてないかもですが、俺が1番書きたかった話です。
長かった……
まだ続きます。季節外れクリスマスねたです。

ここまでで137P分(電撃文庫換算)
20巻も書くかまちー凄ェ

417■■■■:2010/03/17(水) 21:26:10 ID:V.EAfOSI
かぺら氏GJです!

にやにやがとまりませぬw

418■■■■:2010/03/17(水) 21:30:19 ID:zJ5M9Y2M
>>416
GJです!
インデックスがいい子すぎる
ところでキスは未遂?

419■■■■:2010/03/17(水) 21:41:11 ID:vdierAQ6
>>416
乙!GJです。
このスレでは非常に希少なきれいなインデックス……。
御坂妹も切なかった。世界中で一万人弱がすすり泣いているかと思うと。

でもこのあと、煙草くわえた不良神父が襲いかかってきそうで怖いw

420■■■■:2010/03/17(水) 21:59:44 ID:uOfCF.uk
上条さんが一人を選ぶとき、他の女の子は失恋するってことだよな
モテないのも辛いが、モテすぎるのも辛いね。優しい人は特に
ノブレスオブリージュ(モテる者の義務)ってとこですかね?

421カイロ:2010/03/17(水) 22:19:46 ID:DaABhLkQ
どうも、351です
なんかみなさまから続きを!みたいなことを言ってもらえた非常に嬉しかったので頑張って書いてみました!

相変わらずの初心者の駄文でもしかしたらみなさんの期待にこたえられないかもしれませが頑張りました!
では投下させていただきます

422カイロ:2010/03/17(水) 22:20:50 ID:DaABhLkQ
「ったく」
俺は意識を失ってる御坂をおぶりながら自分の寮に向かった。
おそらく彼女を常盤台の寮まで連れて行った場合、不幸な上条さんはお嬢様み

んなに誤解されて大変な目にあうんだろうな……
特に白井とかには殺される気がする……
(まぁこいつまだ暖かいからヌクヌク状態のまま自分の寮まで帰れるのは幸せ

ですね!)

〜10分後〜

「やっぱり熱いよ!!」
御坂(カイロ)をずっと背負っていたため背中が熱くなってしまったのだ。
ちくしょー、なんで気を失ってるのにまだ熱いんだよ。
(んーこれ以上おんぶはムリだな……そうすると前だな。)
そう思い上条は御坂をおんぶからお姫様抱っこに切り替えて自分の寮まで急い

だ。

(うわあああああ、おんぶはおんぶで胸くっつくのが気になったけどお姫様抱

っこは!!!!!!こいつまだ私が気絶してると思ってるわよね……?)
そう御坂は最初から気絶していなかったのである。幸せと恥ずかしさから妄想

して話が聞こえなかったのと足に力が入らなくなったのを上条が勘違いしただ

けだった。
(どうしよう!こんな幸せで良いのかな?こいつ多分自分の寮に帰るのよね?

そうしたらこいつん家わかるじゃん!しかもお姫様抱っこって//////絶対今ニ

ヤけちゃってるわよ!!)

(ん?気絶してるのにやたら幸せそうな顔してるな〜気絶しても良い夢って見

るもんなんだな)
やっと寮に着いたけど、土御門とかいないよな?と辺りをキョロキョロしなが

ら自分の部屋に入っていった。
インデックスはもうイギリスに帰ったのでとりあえず安心して俺のベットに寝

かせられる。
(ん〜風邪かなんかかな?まぁこいつにはいつもお世話になってるしお粥でも

作ってやりますか……)
御坂を俺のベットに寝かし、掛け布団をかけて俺は料理を始めた。
(でもまだ寝てるしとりあえず自分の飯だな、簡単だし野菜炒めでいいや)

(どうしよう?今起きて平気かな……?まだ寝とこうかしら?いや、ここで逃すとこれからドンドン起きにくくなりそうね、起きよう!)
私は目を開けて、辺りを見回してノビをした。
「ん〜…………よく寝たわ」
わざとあいつにも聞こえるくらいの声で言った。
さすがにこの状況あいつもきっと「美琴、よく起きたな。心配したんだぞ!」とか言っちゃったりして!もしも抱きしめられたりしちゃったらどうしよう!?
「ふっふーん♪楽しい楽しいお料理〜♪」
「…………」
「おお!今日は良い感じにおいしく出来たぞ〜♪」
「………」
「さてと御坂のおかゆはどんな具合かな〜♪」
「……」
「やべっ!ちょっと焦げちゃった!」
「…」
「まぁいっか、これくらいどうせあいつじゃあ気づかねぇな」
「焦がしてるんじゃないわよ!てかいい加減こっちに気づきなさいよ!!」
相変わらず私に対しては検索件数0のあいつに電撃の槍をぶち込んだ。しかしやっぱりあいつは私の渾身の一撃を右手であっさり防いでしまう
「のわ!何すんだよ御坂!?」
「あんたが無視するからでしょう!」
あーもー!!なんで素直になれないんだろう……短気はダメだってわかってるのに!いくらあいつが無視するからって……心配してくれないからって……
「ったく、防げたから良いものを……まぁ、元気そうで良かったよ、心配したんだぞ。」
え?心配しててくれたの?やだ……すごいうれしいかも
「ほれ、イライラしてないでお粥でも食べろ、今食べさせてやるから」
そう言いながら上条は近づいていきベットに寝てる御坂のすぐ脇に座りお粥が入った鍋を板にのせベットに置いた
「ふえ?」
「ふえ、じゃなくて食わせてやるから待ってろ」
そう言い、お粥をレンゲで一掬いするとフーフーと息を吹きかけ始めた
(ええ!?これってもしかして「アーン」ってやつ!?まだ心の準備が出来てないわよ!!どうしようでも嬉しいかも)
「食欲ないかもしれないけどこれくらいは頑張って食えよ。ほれ、アーン」
(嘘!?!?これって夢?いやいや、ふわあああああ。夢なら夢で良いから夢から覚めるまでに食べよう!)
決心して目を閉じて口を広げてレンゲの方にちょっと近づく御坂
………
……

しかしいつまでたってもなかなかレンゲが来ないから目を開けると
「今考えると小学生じゃあないんだし、自分で食うよな。しっかり食えよ〜」
そう言いながらレンゲを置き、台所から野菜炒めを持ってきて一人でパクパク食い始めた
「うお〜やっぱり今日のは絶妙な味付け!上手く作れたぜ〜」
「この……バカ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うわああああ、不幸だ!!!!!!!!!!」
短気はダメとわかっていても止められない電撃があるのであった

423■■■■:2010/03/17(水) 22:59:07 ID:vdierAQ6
>>422
乙です。
美少女お持ち帰りいいなぁ。
しかしお粥を焦がすなww

424■■■■:2010/03/17(水) 23:27:57 ID:8ZiqGXJc
最新のニュースをお送りします
禁書版で最高の職人が集まる
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part6
でgj職人が増加中です。
この現象によって禁書ファンの増加と美琴萌え〜人口の爆発的増加
が予測されています。
なお、このスレは禁書の二次創作でも最高のものであるとの
専門家の声が多数上がっております。

425■■■■:2010/03/17(水) 23:39:05 ID:GuBOSMss
>>421
面白いです!
上条さんのフラグ立て&スルーに翻弄される美琴がかわいすぎて死にそうです。
ぜひ続きを見たいです。

426■■■■:2010/03/17(水) 23:43:32 ID:KVzacODg
この書き手の増えっぷりには感動を覚える
原作が終わるまでは楽しませて貰うぜ・・・

427■■■■:2010/03/18(木) 00:15:32 ID:49f5dqA.
最近『side by side』と『A lie』の二つをベース(パクリかも)に浮んだSSが有るのですが
この二つ作家さん内容をお借りして良いですか?

428■■■■:2010/03/18(木) 00:45:10 ID:uRhaUDU2
>>427
巣に帰れ

429■■■■:2010/03/18(木) 01:13:02 ID:.bf1kiXU
それはさすがにまずくね?

430■■■■:2010/03/18(木) 01:22:38 ID:thBoU5Go
>>422
上条さんの原作でもやりそうな行動で笑ったwwww


>>427
まずいと思う。
テーマが同じならまだしも、作品をベースってアウトでしょ。

431■■■■:2010/03/18(木) 01:29:30 ID:ATATVM1k
オリジナリティー
目指せどうせこの道(上琴)を行くんだから

432かぺら:2010/03/18(木) 01:30:12 ID:eJG5rM4g
>>427
書き手目線ですまんが一言。
まずいと思う。
書き手としては、書きながら、自分の構想と似たSSが先に投下されないように戦々恐々としてる。
俺だけかもしれんけど

433■■■■:2010/03/18(木) 01:31:45 ID:dFckplkc
書き始めたらどうしてもエロがはいる
しかも美琴が誘うっていうねw

434:2010/03/18(木) 01:34:40 ID:5kSItocc
>>428-430
いいよーって即座に思ってしまったのにどうしてくれるw

>>427
ちゃんとsageてくれるならどうぞご自由に使ってもいいですよー。
蒼さんがどう言うかはわかりませんが。

一瞬『A lie』って誰の作品だったけ?って思ってしまったのは内緒。

435■■■■:2010/03/18(木) 01:36:27 ID:0QoH4Ylg
作者が、勝手に続きやサイドストーリーを書いていいと言ったのならともかく、
そうでないのなら自重するべきでしょう

436:2010/03/18(木) 02:29:00 ID:5kSItocc
ちゃんとリロードはするべきでした。
一つ補足。
あのネタのことなのだとしたら、提供者は自分ですがオリジナルは蒼さんの『side by side』なので、もしそのことなのだとしたら蒼さんの意見に従ってください。

>>432
そうですねー。確かに自分もそう思うところはありますが、ネタ被り投下をした自分がいっても説得力がないし、むしろもう自分は投下した後だったりするので別にいいかという気分になったりしてます。
蒼さんのは長編でまだ続いてるので大丈夫かわかりませんが。
それに、自分は『悪夢』のときもちょっと被り気味だったのでねー。切り口が違うらしいので一安心しましたが。

とりあえず何よりもどんなのができるんだろうという興味でいっぱいです(

437■■■■:2010/03/18(木) 06:04:59 ID:FU6k8DU2
上琴がいちゃいちゃしてればそれでいいんだよ!

438■■■■:2010/03/18(木) 07:43:06 ID:uRhaUDU2
うーん、>>427って多分三次申請してるんだよね?

>>436
ネタ被りと三次を一緒に考えるのは止めたほうがいいよ
前者は笑って許せるが、後者は高確率でトラブルの元だから
たとえば、元作者が書こうとしてた内容を先取りされて元作者がやる気なくすとか
元作者の作品のファンが混乱して荒れる原因になったりとか

>>427はsageてない(つまり、ルールを把握していない and/or 守っていない)
上で恐らく三次申請らしきことをしてる(ここを明確にするべきなのにしてない)わけだが、
トラブル回避にどの程度気配りできるか、この段階でアヤシイと判断せざるを得ない

まあ、ネタ被り程度なら多分誰も文句言わないので、他の人の作品の内容に頼らず
オリジナル展開のオリジナル文章で攻めるべきだと思うよ>>427

439■■■■:2010/03/18(木) 09:48:50 ID:49f5dqA.
427です。
説明不足だったと深く反省しています<激反省
何となく思っていたのが似てしまったものでキャラの位置は当麻、美琴以外は違います。
でも基本がお二人様の話を参考にしていましたので其処でお借りして良いのかを書いたので・・・<激汗
基本流れを美琴の告白→当麻自分気持に気付くも生来の不幸体質で為断る→美琴黒子に泣きつく。
その時黒子は当麻の性格を感じつつ自分の欲望の為あえて傷心している美琴にその事を言わない。
一方で当麻は辛いがこれで言いと言い聞かせている所に偶々告白のシーンを見てしまった五和が出てくる。
という感じです。その後はオリジナルで最後がまた似る可能性が<激汗。
流石に全て似せるつもりは無いです。ですが処所似てしまう可能性が高い為書いた次第です。
誤解(なのか?)を招く書き方をしてスイマセン<激反省

440■■■■:2010/03/18(木) 10:55:26 ID:8CL/AeG2
>>439
あとはメル欄にsageを入力すれば完璧だな

441■■■■:2010/03/18(木) 11:43:30 ID:Gj.n9ZH2
ネタ被りくらい良いだろうただのお遊びなんだから
趣旨的に作品の完成度がとか、個人の腕がとかいう物じゃないし
律儀に申告してるわけだし
というか被らずにとか不可能

442■■■■:2010/03/18(木) 11:47:47 ID:DcASAqRM
>>739
感情表現に「激」とか使ってる間は真面目とは思えないのですがね……
これだけで貴方が書く作品に不安を感じます。

基本の流れですけど、ぴんたさんの【信じる道に】と、構成が近いですよね
自分で考えた、又はネタ提供された物で書くのが一番ベターで安全だと思いますが、
五和登場後、更に話も続くようで、それらを纏める技量があるなら
構成はそのままに、文章化の際に自己の文章力を強く出すのが良いかと
ほかの方が言ってるようにネタ被りは大丈夫そうですし
ぶっちゃけ話が似通った物になるのも仕方ない所もありますから。

443■■■■:2010/03/18(木) 11:53:09 ID:DcASAqRM
連投ごめ
739じゃなくて439だった……ごめんね

444■■■■:2010/03/18(木) 11:54:00 ID:gbMU/Z4g
>>416
初春佐天のコンビのいじりは鉄板だね GJ

>>422
上条さんに振り回される美琴は良いですね GJ


どうでも良いけどROMってて議論に参加するんならGJぐらい書いてやれよw

445■■■■:2010/03/18(木) 12:10:08 ID:la4pu8T6
とりあえずこのスレに起こっているいちゃいちゃ大好きな人たちに、

『カミコト属性』

と言う言葉を送りましょう。

もちろん僕も『カミコト属性』に耐性がありませんけど。

446■■■■:2010/03/18(木) 14:52:15 ID:tv2XOI2Y
御琴可愛すぎて単位落とした俺にお前らは謝る義務がある

来年度もお世話になります。

447■■■■:2010/03/18(木) 14:54:22 ID:Y0ks6rxo
名前間違えるとかないから

448■■■■:2010/03/18(木) 15:09:02 ID:28hSrfYg
>>447
御坂美琴 
略して御琴

449■■■■:2010/03/18(木) 15:18:27 ID:0wttMvzs
もうネタがかぶったとかどうでもいいからいちゃいちゃSS投稿してくれ〜

450■■■■:2010/03/18(木) 15:22:45 ID:U106hjLk
>>449
さあ、その憤りのない感情を執筆作業に打ち込むんだ・・・
必要なのは能力ではない、情熱だ!さあ、さあ、早く!!

451■■■■:2010/03/18(木) 15:31:58 ID:6LzCBgJ2
来年にはお前ら全員欝になってるんだろうな

452■■■■:2010/03/18(木) 16:18:33 ID:.iPCsdK6
パクリは良くないが被りは気にしないから読みたいな

453■■■■:2010/03/18(木) 18:22:42 ID:CfVZPHG6
>>449
禁断症状でとるな…末期症状で手遅れです。

人のこといえないけど…

454D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/18(木) 19:05:41 ID:jZOIcWN.
 お邪魔します。
どなたもいらっしゃらないようでしたら、10分後にネタを1つ投下します。
「午睡 La_siesta.」11レス消費予定。
話としては
「たった一つの思い」の続きになります。

 たった一つの思いは
>7-17
です。

※通しタイトル「Equinox」は
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/474.html
です。

455午睡 La_siesta.(1):2010/03/18(木) 19:15:34 ID:jZOIcWN.
 四月、それは春うららかな季節。
 天高く鳥は舞い、陽光は学園都市にあまねく両手を差しのばし、空に浮かぶ雲は春風にたなびく。
 遅咲きの桜の花びらがはらはらと散って、上条の肩にひとひら落ちた。
 今年、上条当麻は二年生に『無事』進級した。
 無事、と強調するにはそれなりの理由(わけ)が存在する。大手を振って胸を張れる理由ではないのが痛い。
 上条の右手には『幻想殺し』という特殊な能力が存在する。
 幻想殺しは異能であればありとあらゆる力を打ち消す能力だ。単に『打ち消す』だけで異能の力を滅ぼしたり、異能をなかったことにはできないが、その右手と共に上条は時に望んで、時には引きずり出されて戦った。
 右手で救ったものは多かったが、失ったものも多かった。
 上条が失ったものを主に『学校の出席日数』と呼ぶ。
 上条は聡明なる優等生ではない。はっきり言って平均校に通う平均点以下の生徒だ。そんな彼が授業を放り出して世界をかけずり回るとどうなるか。
 予習が足りない。復習が足りない。テストの点数が足りない。よって進級の単位が足りない。
 彼がどれだけこの状況を『自分のせいで自分のためだろ』と嘯いても、教師達も時間も猶予をくれない。
 もはやギャグで片付けられるほどハイレベルな彼の不幸まみれの人生に、物好きな救世主が現れた。
 隣を歩く『彼女』御坂美琴がいなければ、上条の前に山と積まれた宿題も課題も満足に終わらず、彼は不幸にも高校一年生をやり直していただろう。
 こうして、上条当麻の新学期が始まる。

456午睡 La_siesta.(2):2010/03/18(木) 19:15:51 ID:jZOIcWN.
「アンタ、背伸びた?」
 常盤台中学の三年生に進級した美琴は、上条より二回りは小さい右手を自分の頭の上に、次いで隣を歩く上条の頭の上でその差を比べるように当てると
「あんまり大きくならないでよね?」
 ほんの少しだけ自分より背が高くなった上条をまぶしそうに見上げる。
 上条は左手で美琴の手を握り、右手で学生鞄を担ぎ直す。
 俺そこまで背が伸びたっけかなーと上条は考えながら
「何だ? 俺の背が伸びると悔しいのか? お前の負けず嫌いってそこまで……」
「ううん。……差がつくとキスしづらくなるじゃない。私が背伸びして届くくらいまでにしておいてって事」
「……、」
 言っておくが。
 上条と美琴はまだキスもしていない。
 年相応の清いお付き合いを心がけている、と思う。―――主に上条が。
「……テメェ、それはどこのマンガの受け売りだ! 新学期早々から何を愉快な夢見てやがる!! お前な、俺をからかって何が楽しいんだよ!?」
「冗談よ馬鹿。言ってみただけでしょうが」
 はいはいアンタの言いたいことはわかってるわよー、と美琴が上条の隣でうんざり気味に嘆息する。
 上条と美琴の身長に差がついたらついたで階段を使って段差キスに挑戦しようと言い出さないだけまだマシかも知れない。
 美琴は上条との間接キス程度で顔が赤くなるほど奥手な女の子だが、以前から上条に『中学生(ガキ)』扱いされるのがムカムカするからと、周囲にはバレバレの背伸びをしている。彼女の実態は年相応に、いや実年齢以下に子供っぽく、ルームメイトの白井黒子以下彼女を知る関係者各位を嘆かせていた。
 かくいう美琴の『彼氏』上条も、彼女の実態を知るうちの一人だ。
 上条としては美琴の年齢が年齢なので、せめて彼女が卒業するまではこのままでと思っているが。
 ―――彼女がいても手も出せないんじゃ、二次元に恋しているのと変わんねえんじゃねーの?
 それってつまり
「……擬人化美琴たん萌え?」
「擬人化って元の私は人間扱いされてないじゃん!? つかどっから出てきたのよその話?」
 今日もボケとツッコミのカップルが一〇センチの距離を空け、放課後の通学路で肩を並べて歩く。

457午睡 La_siesta.(3):2010/03/18(木) 19:16:18 ID:jZOIcWN.
「そういやお前さ、進路について聞かれなかったか?」
 学年が変わり、新学期を迎えると必ず聞かれるのが進路希望だ。
 一年の段階での調査は結構曖昧なものだが、これが二年生、三年生になると様子が変わり具体的な話が始まる。二年生ではある程度の方向性を要求され、三年生になれば志望校を視野に入れた学習に本腰を入れる。上条の薄っぺらな学生鞄の中にも進路希望調査票なるものが収められ、後日提出することになっている。
 去年も今年もいつだって上条の進路希望はただ一つ『しあわせになれればなんでもいいです』だ。そんなことを美琴の前で口にしたら雷撃の槍程度では済まされないが、万年不幸少年上条当麻としてこれだけは譲れない。
「……まぁお前だったらどこだって構わなさそうだけどな」
 優秀な生徒ほど進学に有利なのは学園都市の中でも外でも変わりはないが、強能力者(レベル3)からエリートと呼ばれる学園都市において、超能力者(レベル5)の美琴はさらに飛び抜けた存在だ。各校への推薦入学は三年の二学期までに確定するが、美琴の場合はもっと前、それこそ二年の終わりから各校による獲得合戦が始まる。
 能力開発に熱心な学校ほど高レベルの能力者を欲しがるのは当たり前の話で、水面下では長点上機学園をはじめとする学園都市有数の進学校や超難関エリート校が彼女の元に打診(ラブコール)を送っている。
「ああ、それならもうとっくに決めてあるわよ」
「へぇ……お前だとやっぱ長点上機学園か? それとも特異能力の霧ヶ丘か? でも霧ヶ丘行くとまた女子校生活だよなー」
 美琴は何をわかりきったことを聞くんだと言いたげな顔で
「ううん、アンタの高校に」
「来んなよ! そりゃうちの教師連中は諸手を挙げて歓迎すっかも知んねーけど、俺の高校は超能力者のお嬢様が来て満足するようなとこじゃねえぞ?」
 上条は即座に渾身のツッコミを放つ。
「……ジョークだって言おうとしたのにこめかみに青筋立てて否定しなくてもいいじゃない」
「お前のジョークはブラック過ぎて笑えねーんだよ」
「でも、アンタの高校に行けば寮も近くなるし学校まで一緒に行けるわよね? 昼休みになったらアンタの教室にお弁当届けに行って屋上で一緒にお弁当食べて、ってできるでしょ?」
「…………、」
 常盤台中学の給食は、学食レストランなる場所で拝見したところ一食あたり四〇〇〇〇円のお値段がついていた。ああいうものばかり食べていると庶民っぽい生活に変な憧れを抱いてしまうものなのだろうか。
「いっそアンタに二年ほど留年してもらうって言うのも面白そうね。『上条くーん、おはよー』なんて毎朝挨拶して高校に通うのって結構楽しいかも」
「面白がるな! お前は上条家ご一同様を敵に回したいのか!?」
 上条当麻の父、刀夜は上条の不幸を打ち殺すために科学の最先端である学園都市に幼少の上条を送り出した。学園都市でさえ上条の不幸体質を変えることはできなくても、上条がそこで幸せに暮らしていることを知って刀夜は満足したが、さすがにこんな人為的な不幸はご遠慮願うだろう。
 かくしてボケとツッコミのカップルは四月の空の下でぎゃあぎゃあと大騒ぎして笑いあう。
 平和で、のどかで、穏やかな新学期が始まった。

458午睡 La_siesta.(4):2010/03/18(木) 19:16:35 ID:jZOIcWN.
「空はこんなに良い天気。風当たりも……あまり良くはねえけど布団もシーツもバッチリ干せてるし。いやー、これって結構幸せじゃねえの?」
 美琴を寮まで送り届けて、自室の玄関のドアを元気よくただいまーと開けて。
 部屋を出る前にあらかじめベランダに干しておいたシーツと布団を取り込んた上条はほくほく顔だ。その後でベランダを入念にチェックして、空挺部隊所属の女の子が引っかかってないかどうかを確認する。
 彼の悪友にして隣人の土御門元春や、ロリはおろかロリ以外にも全方位展開可能な青髪ピアスならいざ知らず、上条は女性に対しそこまで苛烈な趣味嗜好は持ち合わせていないのだ。
 上条の記憶にない話だが、インデックスが屋上から降ってきたのは万に一つの偶然であって、あんな事がそうそう何度も起きるものではない。それでも不幸の擬人化・ジェントル上条としてはつい何度も後ろを振り向いてしまう。財布をポケットに入れたつもりが部屋に置いてきたり、避けたつもりのテニスボールを踏んでしまうことが日常茶飯事の彼にとっては、これでも用心が足りないくらいである。
 上条の周りにいるのがおばあちゃん思考のシスターとか男言葉と女言葉が混ざるゴスロリ女とか服装がやけにエロい女教皇とか無駄に髪が長い最大主教とか何やら尻尾が生えてる不思議ちゃんばかりのせいで、学園都市第三位でレベル5の電撃使いでも『最近では』普通の女の子の範疇に入るようになった。美琴は怒りん坊でやきもち焼きでガサツで口が悪くて可愛い物好きで趣味が子供っぽいが、あれは上条の知る限り割とまともな方だ。……と思う。電撃さえ使わなければ。
 ―――アイツ、黙ってりゃそこそこ良い線いくしな。黙ってればだけど。
 上条には何が普通なのか分からなくなってきた。まともな女の子の基準プリーズ。
 ベランダから引き上げた布団は春の陽射しをたっぷり吸い込んで、ふかふかに干しあがっている。
 頬を当てるとまるで洗剤のCMに出てくるタオルのように心地よい。
 早速このふかふか加減を堪能するぞとベッドに敷いて、シーツも皺を伸ばして四隅を合わせてピンと張って、上条はその上へゴロンと大の字に転がった。
 春眠暁を覚えず。
 早い話が、昼寝だ。
 美琴が後で来ると言っていたが、玄関の鍵を開けておけば問題ないだろうと適当に考えて
「ふあ……ぁ、おやすみ……むにゃ……」
 上条は夢の中に向かって進撃を開始した。

459午睡 La_siesta.(5):2010/03/18(木) 19:16:57 ID:jZOIcWN.
 上条の部屋のインターホンを押しても、ドアをノックをしても返事がない。
 玄関に鍵がかかっていないので不用心だなと思いつつ、ドアノブを握って勢いよく開くと
「もしもーし?」
 美琴はドアの向こうへ顔を突っ込んだ。
 室内に誰かがいる気配はあるけれど、空気に動きがない。
「お邪魔しまーす……ただいまー?」
 玄関で革靴を脱いできちんと揃えると、美琴は抜き足差し足で短い廊下を音を立てないように歩いていく。泥棒が入ったにしては室内が荒らされた様子もない。上条が部屋の中にいるなら『ただいま』と声をかけると『ただいまじゃねーだろ!』とすかさずツッコミが飛んでくるところだが、その反応もない。
「……あれ? 寝てる?」
 部屋の隅に置かれたベッドの上には、美琴の到着に気づかずグースカ寝こけている上条の姿が。
 美琴は渋い顔をして
「私が来るって知ってんのに何で寝てんのよアンタ!?」
 ベッドの空きスペースに腰掛け、上条の鼻の頭をつまんでみるが、上条は『……るせえな……』と邪険に手を振り払うだけ。気持ちよく寝ているのに邪魔された時の反応は誰だって同じだ。美琴がほっぺたをツンツンつついてみても、むにっとつまんでみても上条はむにゃむにゃと何事かを呟くだけで起きようとしない。
 上条に相手にされずむー、と頬を膨らませて唸る美琴。
 寝ている間に上条の顔に化粧でもしてやろうかと思ったが、あいにくコスメセットを入れた鞄を持ってきていない。じゃあお手軽なところでマジックを使ってまぶたに目を描いてやろうか、それともツンツン頭のとんがった部分一つ一つに洗濯ばさみをくっつけてやろうかと思案する。
 ……どれもインパクトに欠ける。つかどっちも面白くない。
「うーん。今日は時間あるし、コイツの部屋の掃除しようと思ったんだけどなー」
 今の上条だったら爆音を奏でるオンボロ掃除機を耳元で使っても目を覚まさないような気もするが、その程度の事で上条を起こすのはつまらない。目を覚まさないからと言っていたずらするのは何か違うと思うけれど、上条を驚かせるせっかくの機会を無駄にしたくない。
 周りが全員女の子ばかりの女子校なんぞに通って、お姉様御坂様などと呼ばれて偶像のように崇拝されていると肩がこってしょうがない。美琴にとって等身大の自分で付き合える上条は、女子校生活で見失いがちなドキドキやワクワクを与えてくれる存在だ。
 大人になった美琴が今の二人を振り返った時、これを『青春』と呼ぶのかも知れない。

460午睡 La_siesta.(6):2010/03/18(木) 19:17:18 ID:jZOIcWN.
(良いこと思いついた! えっへっへ、目が覚めたらコイツビックリするわよ?)
 美琴は一人、黒い笑みを浮かべる。
 明らかにいたずらを思いついた時の笑顔で
「ほら、どけどけ。場所空けなさいよ。私もそこで寝るんだから」
 美琴は上条に向かって声をかけると、上条はふがぁ、と何やら呟きながら壁際に寄り、ベッドの上のスペースを空けた。寝ぼけている上条の耳には美琴の言葉の前半部分『どけどけ』しか聞こえてないのだろう。
 美琴はベージュ色のブレザーを脱ぐとハンガーに掛けて壁にぶら下げ、リボンタイを首から外してブレザーのポケットにしまう。それからブラウスの第一ボタンを外し、通勤ラッシュを脱出したサラリーマンのように頭を横に振って首回りを緩めた。最後にチェックのスカートに手をかけて逡巡する。
 スカートの下には短パンを履いているので、脱いでも問題ないと言えば問題ないが、脱いでしまうとビジュアル的に難がありそうだ。かといって脱がないで横になるとスカートのプリーツに変な皺が入ってしまう。
 短パン姿と皺で前者を取って、美琴は上条の隣にゴロリと体を横たえた。
 二人はちょうど狭いベッドの中で身を寄せるように向かい合っている。美琴が上条の部屋に泊まる時は決まって美琴がベッド、上条が床に布団を敷いて寝ていたが、頑張って詰めれば多少狭くても二人で寝られることを確認し、美琴はちょっとムッとする。
「狭い狭いって言うけどさ、寝ちゃえば問題ないじゃない。何がダメな訳?」
 上条が聞いたら真っ青になりそうな台詞をさらっと吐いて、美琴は上条の空いている左腕を自分の体のどの辺に持って行こうか悩んだ。最初は腰に手を回させ、何やら恥ずかしく思えてきたので次は背中に腕を回させた。美琴の右腕は上条の肩に置いて
「……起きない」
 これだけ隣で美琴がゴソゴソしているのに、上条は目を覚まさない。
「ちょっとー、何で起きないの? 女の子が隣に寝てて何でアンタは気づかないの?」
 この構図で上条が起きたらさぞかし驚くだろうと期待していただけに、美琴の落胆ぶりも尋常ではない。穴が空きそうなくらい上条の寝顔を見つめて……だんだん眠くなってきた。
 春の陽射しを浴びたふかふかの布団と、すぐそばに感じる上条の体温が心地良い。
「ダメ……何か眠……私も……寝……」
 上条と同じベッドの中で美琴もうつらうつらと舟を漕ぎ、長いまつげとまぶたがゆっくり落ちて、美琴の視界を閉ざしていく。
 ただいまの時刻は午後二時三三分。午睡にはおあつらえ向きの天気とほどよい良い時間。
 ベランダから差し込む春の陽射しは二人の頬を撫でるように広がって、二人分の寝息が男子寮の一人部屋でハーモニーを奏でる。

461午睡 La_siesta.(7):2010/03/18(木) 19:17:36 ID:jZOIcWN.
 ―――あたたかい。
 上条の霧がかった思考の中で最初に浮かんで来た単語はそれだった。
 最初はベランダに差し込む陽射しがポカポカと暖かいのだろうと思ったが、上条の体温と異なる熱源は、ベランダよりもっと近くに感じられた。具体的に座標を指定すると、熱源は上条の左手の先にある。
 ……左手?
「うう……ねむ………んで……」
 上条当麻は不幸な少年だ。なので、ゆっくりと慎重にまぶたを開いた。
 ここが海の家『わだつみ』の一室でもなければ超音速旅客機の中でもないことにまずは安堵する。何しろ目を覚ましたらそこは空港のロビーで、持ち物は財布も何もきれいさっぱり抜かれてましたという経験ありの上条にとって、一日の目覚めをどこで迎えたかというのはきわめて重要かつ深刻な問題だ。
 視界を巡らせるとそこに広がるのは自室の見慣れた天井、見慣れた部屋の壁紙、見慣れた家具のレイアウト、見慣れない女の子の茶色い前髪。
「……あれ?」
 今あきらかに変なものが見えたような気がする。
 気がするんじゃなくて、見えた。
 繰り返すが上条当麻は不幸な少年だ。よって、ここが自室であっても何が起きるか分からない。
 上条は寝起き直後の脳に酸素を行き渡らせるべく大きく深呼吸して、自分とは異なる熱源を感知した左手に視線を移動させた。

 上条当麻は着衣が乱れた御坂美琴を左手で抱きよせて

「……ちょ―――」
 ―――っと待て。一体何がどうなっている。
 状況によっては一戦交えた後に見えなくもないが、まさか上条当麻は理性にさよならしてとうとう中学生に襲いかかってしまったのか?
 ……そんなはずはない。上条は美琴がいつ部屋にやってきたのかを知らない。
 だいたいそんな幸せ、もとい危険なことをやらかして何にも覚えていませんなんてあまりにも不幸すぎる。
 上条は器用に首だけを持ち上げて、まず自分の服装を確認する。
 上条が身につけているのはワイシャツ、スラックス、靴下。ここまでは昼寝する前と同じだ。何も問題ない。
 次に隣で寝ている美琴の服装を確認する。
 美琴がいつも着ているベージュ色のブレザーがない。壁に向かって首を伸ばすと、ハンガーに掛かっているのが見えた。そこから視線を美琴に戻すと、白い喉元が見えるのでリボンタイを外しているらしいのが分かった。細い鎖骨がちらりとのぞいていたので一瞬ドキッとしたが、脳裏に残像が残らないよう硬く目を閉じる。美琴はおそらくブラウスの第一ボタンを外しているのだろう。
 上条はゆっくりと顎を引いてから目を開けて、足元の方へ視線を移動させると、チェックのスカートは少し皺が寄っているが美琴の腰に巻き付いているのを確認した。めくれあがったスカートの裾から短パンが見えていることにほっとしつつ、日焼けしていない美琴の太股が目に焼き付きそうだったので上条はズバン!! と顔を背ける。

 美琴はとんでもなく幸せそうな笑顔を浮かべて、上条の腕の中で眠っていた。

462午睡 La_siesta.(8):2010/03/18(木) 19:18:06 ID:jZOIcWN.
「……おどかすんじゃねえよバカ。人のベッドで何してやがる」
 上条はようやく安堵の息を吐いて、それから美琴を起こさないように慎重に、何故か美琴の背中に回っている自分の左手をゆっくり外した。自分の肩に置かれている美琴の右手は、美琴のブラウスの袖をそーっとつまんで引っぺがす。
 ここで風紀委員が上条の部屋に踏み込んだら、不純異性間交友と判断されて二人揃って即時拘束は免れない。
 こんなのはドッキリにしてもひどすぎると上条は思う。
「悪ふざけにしちゃやり過ぎなんだよ、お前は。俺が男でお前が女だっての忘れてんじゃねーのか?」
 短パンを履いているからと言って短いスカートが翻るのもかまわず全速力で走るとかありえない。
 本人は『女の子に対して夢見んなよー』とのたまうが、お前一応彼氏がいるんだからもっと女の子らしく恥じらいを持てよと注意したくなる。上条が過去に一度注意して、美琴の自動販売機への回し蹴りはなりを潜めたが、根本的なところは何も変わっていない。
 それでいて。
 シミ一つないキメの細かい白い肌とサラサラの茶色い髪。
 細く整った眉、長いまつげ、比較的通った鼻筋、桜色の唇。
 ところどころは発展途上だが均整の取れたスタイル。
 折れそうに細い腰。すらりと伸びた長い足。
 去年よりもまぶしいくらいに女の子になった美琴が上条の隣で寝息を立てる。
 常盤台中学のブランドを無視しても、美琴が街を歩けばすれ違う一〇人中九人は間違いなく振り返る。それに最近、美琴は年頃の女の子が持つ健康的な色気が出始めたような気がする。
「お前は何がしたいんだ? お前は何をされたいんだ? ……そのうち本当に襲うぞ?」
 最近の美琴を見ていると、上条は変に彼女を意識してしまって胸が苦しい。
 インデックスを抜きにしても、上条の人生でここまで至近距離に女の子がいた試しはない。その子が自分の彼女で、事あるごとに手をつないだり抱きしめ合ったりということもなかった。
 上条とて健康な男子高校生だ。純情であっても人並に異性への興味はある。
 そんな上条の隣に、中学生とはいえ平均点を大きく上回る女の子がいるとどうなるか。
 上条は美琴の唇に指を伸ばしかけ、刹那心に浮かぶ煩悩と邪念を吹き飛ばすべく頭を横に振る。
 上条は思う。
 美琴がこんないたずらをしでかすのだって、何だかんだ言っても上条を信頼しているからだ。信頼は裏切れない。裏切りたくない。それが自分の彼女であればなおさらだ。
 上条は隣で眠る美琴を起こさぬようにゆっくり体を起こし、ベッドから降りる前に
「…………みこと?」
 一度だけ、名前を呼んだ。
 ここで起きたなら連れて行こうかとも思ったが、マンガのように都合良く目覚めることもなく、美琴はうう……んと悩ましい声で何事かを呟きながら眠り続けている。
 窓の外は日が西に傾きつつある。午睡の時間は終わりだ。
 置き去りにすることを美琴は怒るかも知れないが、気持ちよさそうに眠る彼女を起こすのは心苦しいし、何より今は美琴の顔を見るのが少しつらい。
 外へ行って頭を冷やし、ついでに晩飯の買い物をしてしまおうと思い立って。
 美琴に気づかれる前に上条はそっとベッドを降りると、ガラステーブルの上に『お留守番よろしく』とメモを残し、ポケットの中の財布を確認してから音を立てずに部屋を出た。

463午睡 La_siesta.(9):2010/03/18(木) 19:18:28 ID:jZOIcWN.
 上条がいつものスーパーでショーケースを眺めながら一つ一つ値段を確認していると、上条のズボンのポケットで、携帯電話の着信音が鳴った。
 相手は美琴だ。
『こらーっ! アンタ、私を置いてどこに行ってんのよっ!』
 着信音量は絞ってあるはずなのに、つんざくような絶叫が上条の鼓膜を直撃する。
 上条は一度携帯電話から耳を離して
「……、どこって、スーパーで晩飯の買い物だけど?」
『何で私を起こさないのよ! 鍵持ってないからそっちに行けないじゃない!』
 上条はふ、と笑って
「いやー、実に贅沢だよな。学園都市第三位にお留守番させるなんて」
『その「お留守番」ってのがムカつくんだけど! 留守番じゃなくて「お留守番」ってところにそこはかとなくアンタの悪意を感じるわよ! 人を子供扱いすんなあっ!!』
 電話の向こうで美琴がぎゃあああっ! と吼えた。
「……、もうちっとで帰るから良い子で待ってろよ。じゃあな」
 美琴がほかにも何か叫んでいたようだが気にしない。
 上条は親指で終話ボタンを押し、通話を切った。


「ただいまー」
 スーパーから本日の戦利品と共に戻った上条は勢いよく玄関のドアを開けて
「お帰りー」
 美琴はドアの向こうで仁王立ちし、上条を中に入れようとしない。
「……あの、買い物行ってきたんでそろそろ飯の準備をしたいんですが?」
 部屋の中へ入ろうとする上条を遮って
「何で私を置いて行くのよ?」
 美琴が頬を膨らませる。
「何で、って……お前気持ちよさそうに寝てたしさ。起こすのもかわいそうだなって」
「それでも起こしてよ! 起きたらアンタいないんだもん、ビックリするじゃないのよ!?」
「だからメモ残しといただろ? そんなに怒んなよ……たかが買い物に行ってきただけじゃねーか」
 美琴はむーと頬を膨らませたまま両腕を組み、頑として通行拒否の姿勢を貫く。
「分かったよ。……やるよ、やってやるよー!!」
 留守番にと置いて行かれた子供がだだをこねる事ほどやっかいな話はない。
 上条は叫び、スーパーの袋を持ったまま美琴を抱きしめて
「ただいま。……これで良いか?」
「約束を覚えてたことはほめてあげる」
 美琴がお帰り、と上条を抱きしめる。
「たかがスーパー行ったくらいで、んなことやらせんなよ……ったく」
 上条は美琴を抱きしめたままいっちに、いっちにと一歩ずつ玄関の中に入っていく。

464午睡 La_siesta.(10):2010/03/18(木) 19:18:54 ID:jZOIcWN.
 玄関のドアが完全に閉まったところで、美琴は上条の手からスーパーの袋を取り上げて
「じゃ、ご飯は私が作るからね」
 上条はいたずらの現場から逃げ出す子供をつかまえるように、コラ待てと美琴を後ろから抱きしめて
「人が寝てるベッドに転がり込んで来やがって。お前なに考えてんだよ?」
「人がせっかく来たってのに、アンタが私をほったらかして寝てるのが悪いんじゃないのよ。おどかされたくなかったらちゃんと起きてることね」
 スーパーの袋を持ったまま、上条の腕の中で馬鹿離しなさいよと美琴がもがく。
「んなムチャクチャな……。お前が俺の部屋で昼寝すんのは構わねーけど、もうちょっと場所ってもんを考えような?」
「だってアンタの部屋はベッドしかないじゃない」
「それはそうだけど……だったら俺を普通に起こせばいいじゃねえか」
「アンタを起こしても、最後は一緒に寝るでしょうが」
「…………、」
 話が平行線のまま進まない。つか、さらっと『一緒に寝る』などと言わないで欲しい。
「お前は忘れてるかも知れねーから言っとくけど、俺は男でお前は女なんだぞ?」
「分かってるわよ……そんなことは。アンタだって私のことアンタの彼女だって忘れてない?」
 きっと美琴は、上条が本当に伝えたい気持ちの半分も分かっていない。
「……忘れてねえよ」
 御坂美琴は上条当麻の彼女で、それでもまだ中学生だから。
「……分かってるから。ちゃんと分かってるからあんまり俺を困らせんな」
 いつまでもこのままでいられる自信はないから。
 男と女では『そばにいたい』のニュアンスはたぶん違うから。
 きっと美琴はこれからどんどん綺麗になって、手がつけられないくらい『女の子』になっていく。
 これから先、今のように冷静に美琴と付き合っていけるのか、純情少年上条当麻には自信がない。
 自信がないのに言葉にも出せず、上条はただ黙って、美琴を後ろから抱きしめた。
 美琴はしばらく上条に抱きしめられるままおとなしくしていたが、左手をにゅっと伸ばして上条の頭の後ろに伸ばし、上条の頭を手前に引き寄せる。
「……馬鹿。アンタね、何つまんない事勝手に考えてんのよ。どうせ私が子供だとか中学生だとか、変な理屈を頭ん中でこね上げて、人に無断で手を出せない理由でもつけてんじゃないの? それでいていざそうなったらどうしようとかビクビクしてんじゃないの?」
「……え?」
 上条は言葉が出ない。
 美琴は何を言おうとしているのか。
 次の言葉が読めない。
「あのね。アンタに出会うまで、アンタに出会ってからも、私に失礼なことを仕掛けてきた連中を私が何人ぶっ飛ばしてきたと思ってんのよ?」
「でもそれはお前の能力で……」
「何の力もない無能力者(アンタ)相手に気張ると思ってんの? 弱者の料理法くらい覚えてるわよ」
 ハッタリだ、と思った。
 美琴の言う『弱者の料理法』は、上条の幻想殺しには通用しない。
「いくら私がアンタの彼女でも、アンタがつまんない考えで私に手を出そうとすんのを、私が許す訳ないでしょうが」

465午睡 La_siesta.(11):2010/03/18(木) 19:19:15 ID:jZOIcWN.
「…………あ」
『許す訳がない』。
 上条の彼女だからと言って何もかも上条の思い通りに自分を明け渡すつもりなどないと。
 美琴は宣言した。
 いくら美琴が中学生でも、美琴には一人の人間としての誇りがある。
 美琴は、自分が女の子であることを熟知していて、
 それが上条に何を思わせるかを分かっていて、
 上条がその先でたとえ何かを踏み外しても、それが自分の意に沿わぬ事であればどんな手を使ってでも止めると暗に告げているのだ。
 甘やかすのと大事にするのとは違う。
 きっとこれも、美琴がかつて口にした『アンタを大事にする』なのだろう。
 美琴は黙って上条に守られているだけの少女ではない。自分の意志でこの世界に両足を踏ん張って立っている。
 自分の意志と選択と義務と権利を最大限に行使して。
 美琴を勝手に評価していたことを、上条は心の中で恥じた。
 自分一人の身勝手な思いで、何か取り返しのつかないことをしでかすところだった。
 美琴は『おいたはダメよ』とでも言うように上条の手の甲を軽くつねりながら
「まぁ、アンタが私を見て、ろくでもないことを考えるようになったことだけは、見直してあげても良いわね。昔は人のことをさんざんさんざんさんざんさんざんスルーするし、女扱いもしてくれなかったもんね、アンタは」
 女扱いしなかった訳じゃないけど、あの頃は女の前にビリビリがついてたもんなと上条は心の中で苦笑する。
 上条が美琴を一人の女の子として意識するようになっても、美琴はまだ中学生だ。
 諸事情により美琴にはおおっぴらに手は出せないし、内容によっては美琴自身がそれを許さないだろう。
 またの名を蛇の飼い殺し。
 ならば思わせぶりな態度で変に煽らないで欲しい。
 それって結局
「……擬人化美琴たん萌え?」
「擬人化って元の私は人間扱いされてないじゃん!? つかいつまで引っ張ってんのよその話題!?」
 二人の短い午睡が終わり、時間が動き出す。
 二人の新学期の一日目は、こうして過ぎてゆく。

466D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/18(木) 19:19:53 ID:jZOIcWN.
 以上になります。
お邪魔しました。

最後に、職人さんGJ!
編集人さんいつもありがとうございます。

467■■■■:2010/03/18(木) 19:23:38 ID:mkVcld4U
D2さんGJ!
このスレって登竜門みたいだな。
読み手が書き手にクラスチェンジみたいな

468:2010/03/18(木) 19:25:13 ID:MnEaLyRM
すいませんここ最近家をあけていたので、みれてませんでした…
ネタの件ですが、自分も∀さんが投下されたネタを使いましたので偉そうなことはいえませんが、この告白のネタ自体は自分は大丈夫です。
その後の展開まで真似されると困りますが、それ以外なら大丈夫です。
ですのでそんなに気負はないでいいですよー。

ちなみに家を空けている間に結構書きためたのでまた続きは明日投下します
あとは読み返ししておわりだー!

では今からD2さんの作品を読んできますw

469■■■■:2010/03/18(木) 20:15:15 ID:WZUlBYaA
>>466
GJ~(・∀・)っ旦

470■■■■:2010/03/18(木) 20:28:14 ID:49f5dqA.
此処の皆さんは他のサイトと違いバッシングはあまりされないですね。
正直過激なバッシングは覚悟していたのですが・・・。
正直書けるか分かりませんが話しが纏められたら書いてみます。
ただ、乗せ方って普通にやれば良いのかが分かりません。
皆さんアリガトウゴザイマした。

471■■■■:2010/03/18(木) 20:53:50 ID:L8gNXtWI
>>466
GJです!
D2さんはホントいろんな美琴を書かれてますね。

472■■■■:2010/03/18(木) 21:02:37 ID:QLQWywXE
>>466
相変わらず素晴らしいですね!GJ!

>>470
メール欄にsageと入力してください。

473■■■■:2010/03/18(木) 21:19:22 ID:gbMU/Z4g
>>466
gj
上条さん大変ですなあ

>>470
とりあえずsageを覚えましょう、良い作品待ってます

474■■■■:2010/03/18(木) 21:37:08 ID:.0Y5xP1w
>>466
GJです!

上条さんかわいいよ上条さん
美琴にドキドキする上条さんっていいですね
美琴は確信犯?
続きを待ってます!

475■■■■:2010/03/18(木) 21:40:30 ID:Mo8097sg
>>466
GJです。相変わらず良い文章ですね。
一つ聞きたいのですが、スカートを脱いで寝たのに上条が起きたときには
穿いているのはミスですか?自分の勘違いだったら申し訳ないのですが。

476D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/18(木) 21:46:13 ID:jZOIcWN.
>>475
おそらくそれは
> 短パン姿と皺で前者を取って、美琴は上条の隣にゴロリと体を横たえた。
付近を指しているのではないかと思いますが分かりづらくて申し訳ないです。

スカートに皺が付く(のがみっともない)方を捨てた、つまり美琴は最初からスカートを履いています。

477■■■■:2010/03/18(木) 21:49:49 ID:Mo8097sg
>>476
すみません。後で慎重に読み直して気付きました。本当に申し訳ないです。
自分の文章読解力の無さに涙が出そうです。
わざわざお答え頂きありがとうございます

478■■■■:2010/03/18(木) 22:37:24 ID:OmZuMogo
美琴に邪な考えをもよおす上条さんっていいw

479キラ:2010/03/18(木) 23:23:45 ID:S1R7DJVk
D2さん、相変わらずGJです。
他の職人様たちのGJです。というか皆さんGJです。

『超電磁砲の記憶』の続きを投下させていただきます。
『memories』シリーズの続きとなります。

30分に10レスの予定です。
(途中で切れる可能性があるので、五分経っても投下されなければ途中で切れたと判断してください)

480キラ:2010/03/18(木) 23:31:09 ID:S1R7DJVk
「御坂さんって意外とうぶなんじゃないんですか? だって上条さんの名前を言えないなんて…ねえ」
「そそそそそそそそんなことは……」
「私は佐天さんの言うとおりだと思います。見てて歯がゆいといいますか」
「うんうん。御坂さんならやれば一撃! というところをやらないところがまたまた」
「佐天さーん!!」
 美琴と初春、佐天の三人は美琴の恋愛話をして会話に花を咲かせていた。
 そこには数分前までの暗い雰囲気は一切なく、女の子同士が友人の女の子の恋人話をネタに話を広げている。もっとも、そのネタにされている美琴からすればとても恥ずかしいことなのでやめて欲しいのが、やめてくれない雰囲気を察するに諦めるしかなかった。
「でも上条さんも意外とうぶかもしれないと思うんですけど」
「アイツは鈍感なだけよ。私のことなんて」
「ま、まあそれはわかってますけど、佐天さんが言いたかったのはそういう事じゃなくて」
「御坂さんがアタックすればするほど、御坂さんをより意識してくれるんじゃないかなーという話です」
「あ、アタック!? 無理無理無理!!! 絶対に無理だって!!!」
「無理じゃありませんッ! 御坂さんなら絶対に出来ますって! 初春もそういってますよ」
「ええ!!?? いつ言ったんですか!?」
「そこは頷くところでしょう! 否定しないでよー」
 佐天は不満そうな顔で初春に抱きついた。
 抱きつかれた初春は、なんですか! と慌てた声を上げながら暴れた。すると佐天はニヤリと笑い、自分の両手を初春の太ももに置くとゆっくりと両手を上にへと登らせていく。
「ご、ごめんなさ、ってどこに手を入れてるんですか!?」
「どこって、初春の下半身だけど」
「きゃぁ! ちょっと、佐天さん! そこはダメですって!!!」
「そこってどこが? ちゃんと言ってくれないとわからないよー?」
「佐天さん、わかってやってるでしょ! あ、ダメですって!!!」
 初春と佐天のいつものコミュニケーション(といえばいいのか微妙だが)を見ていた美琴は、相変わらずねと苦笑いした。季節がすぎるごとに、初春への行動がさらに危ない方向へと向かっていくのを少し心配しながらも、自分も初春のような立ち位置にいるので他人事ではないと思いながら、美琴は仲がよさそうな二人が少しだけ羨ましかった。
(私も当麻とあれぐらい自然に出来ればなー………でも私もアイツもまだまだ未熟だし無理か)

481キラ:2010/03/18(木) 23:31:47 ID:S1R7DJVk
 まだお互いに恋人らしくなれず、デコボコしているのは美琴にもわかっていた。
 たとえ自分への好意が離れていくのだとしても、恋人になってくれている上条に恋人として様々なことをして欲しいと思うのも美琴なりの願望である。だが恋人は二人いて成り立つものなので、上条だけでなく美琴自身もしっかりしなければならない。のだがそれが出来ないから美琴も上条同様に未熟であった。
 なので自然に戯れる初春と佐天が羨ましい。二人は親友と言う美琴が上条に抱くのとは別の関係であっても、あれぐらい自然であれば恋人らしく様々なことが出来るのかもしれない、と思うと二人の姿と自分たちの姿を照らし合わせてみた。
『こらっ! そんなところに手を入れないでよ!』
『そんなところってどこだよ。ちゃんと言ってくれよ、美琴』
『ッ!!?? そんなこと、恥ずかしくて言えないわよ』
『ふぅーん。だったら、別に問題ないよな』
『やっ! だ、だからそこはやめてって! 当麻ー』
『………嫌か?』
『……………と、当麻にされる、なら』
(それで当麻がああやって、私はこうやっちゃって……それで、そうなって………えへへ)
 美琴は自分の妄想の世界に没頭して、だらしなく表情を緩ませながらえへへと無意識に笑った。
 それを見ていた初春と佐天は、普段の美琴のギャップとは大きく変化していることを理解すると、初春に触れていた手を引いて、佐天は初春とこそこそと小さな声で話し始めた。
「見てみて初春。御坂さんのあのだらしない顔。きっと御坂さんの頭の中では凄いことになってるんじゃないかな」
「佐天さん。御坂さんってあんな人でしたっけ?」
「初春。言いたいことはわかるけどあれも御坂さんだよ。あたしもまだ信じられないけど」
「なんだか白井さんを見ているような気がするんですけど」
「言えてる。白井さんが御坂さんに対して積極的なセクハラをするのと同じような顔してるもんね」
「つまりこれもは上条さん効果なんでしょうか?」
「かもね。恋すると女は変わるって言うし」
「御坂さんもきっとそれにあてはまったんですね」
 初春と佐天は暴走中の美琴を見て、恋するとああなるんだと思い、苦笑いする。
 いっさい周りに気づかず、一人でえへへと笑うその表情は緩みすぎていて自分の妄想に呆けている。一体、美琴の頭の中ではどんな展開が繰り広げられているのか、それを知ったらさらに面白そうだと二人は思う。
 そして、初春は昨日使用したボイスレコーダーを取り出すと美琴の前においてスイッチをオンにする。すっかりと妄想に没頭してしまっている美琴はスイッチの入ったボイスレコーダーには気づかず、初春と佐天はそのことに小さなガッツポーズをとった。
「えへへ…当麻とは恋人だし、あんなこともこんなことも……って、ないない! 何を期待しちゃってるのよ私は! 当麻と手を繋いだり、抱きしめられたりなんてないない! 腕を組むの抱きつくのもないって! えへへへへ、はははは」
 緩みきった表情で自分の妄想にふける美琴の表情に、ついつ写真を撮ってしまう二人。ドンドンやりたい放題のことをやっていく初春と佐天だが、やられてる本人は何にも気づかず自分の妄想の中に酔いしれていく。
 そして白井が帰ってくるまでの間、このボイスレコーダーには美琴の妄想劇場が録音されることを美琴は知らない。

482キラ:2010/03/18(木) 23:32:17 ID:S1R7DJVk
 人気のない公園には三人の姿があった。
 その中の一人、ステイル=マグヌスと呼ばれた修道服の男は上条と白井の前に現れた。
 いっさいに気配を断ち、突然現れた相手は白井からすれば敵の可能性が高い相手だ。だが上条に止められ、とりあえずは敵意は少し解くが警戒を怠らない。
 ステイルと呼ばれた男は自分よりも年上、大人に見えた。身長は上条よりも高く一八〇は越えている。燃える炎を思わせる赤い長髪と白い肌は日本人でないことはわかる。さらに咥えタバコと指には銀色の指輪がたくさんつけられている。
 外見からはそこいらの学生とはわけが違うのは白井でなくともわかる。白い肌と赤い長髪はこの学園都市では十分に目立つし、咥えタバコなんてしていれば学生でないことはわかる。だがわかるのはそれまでだ。
「上条さん、このお方は?」
 白井は相手を知っている上条にステイルのことを問うと、意外なことに上条は首を横に振った。
「悪い白井。俺も名前と外見だけしか知らないんだ。だから実際に目の前で会うのも、話をするのも初めてだ」
「そうだね。僕も記憶を失った上条当麻に会ったのは、今日が初めてだ」
 そういうとステイルは上条と白井の座るベンチに近づいてくる。
 そして、お互いの距離が5メートルあたりの場所に止まるとステイルはポケットから小さな手紙を取り出す。それを上条に投げると、ステイルはふぅーとタバコの煙を吐いた。
「彼女とのことが書いてある。家にでも帰った時に読め」
 ステイルは吐き捨てて言うと、タバコを持っていた小さな袋に捨てて、一枚のカードを取り出した。
「それは…?」
「ルーン、という単語は聞いたことがあるだろう、上条当麻。僕たち魔術師が扱う魔術の類さ。その子は神裂の時に体験していると思うけど」
 神裂の名前を聞き、白井はすぐさま金属矢をステイルの正面に放った。
 その時間は約2秒間だけ。その間に白井は十本以上の矢をステイルに飛ばし、相手を串刺しにしようとした。だが飛ばされた矢は当たる前に炎で焼き消され、矢は跡形もなくこの場から消え去った。
「僕の魔術は元から仕込んでおくことで効力を発揮してね。神裂から話は聞いてたから、念のために仕込んでおいたんだけど役に立ったね」

483キラ:2010/03/18(木) 23:32:52 ID:S1R7DJVk
 発動したのはステイルの魔術だった。
 発動された炎は白井の攻撃を想定しての防御魔術であったため、上条と白井には特に危害はない。しかし白井の金属矢が通用しないことの証明にはなった。学園都市で作った金属矢を一瞬で溶かすほどの高熱の火は、並みの発火能力(パイロキネシス)では溶かすほどの火を作り出すことは出来ない。それを一瞬のうちに動作なく作り出した高熱の火、炎は人など簡単に焼き殺せるほどの高温だろうと予想できた。
 ならば、と白井は金属矢をステイル本人の体に空間移動させた。といっても体内に入れて殺すのではなく、身体の肩と足にそれぞれ一本ずつ空間移動させ、動きを封じ込めようと考えたのだ。
 そして空間移動させた金属矢は計算通りに、ステイルの体に空間移動した。のだが金属矢は何もない空間に出現しそのまま地面に落ちた。
「君の事は知っているよ。空間移動、確かに素晴らしい能力だろうけど、種がわかってしまえばどうとだって出来る。でも神裂のようにその場ですぐにとはいかないけどね」
 ステイルが使ったのは蜃気楼。相手に位置を誤認させる目くらましの術だが、白井のように小さな武器で攻撃するものであれば効果は大きい。もし爆弾のような広範囲のものを空間移動させてきたのであれば蜃気楼は一切役に立たない。だが神裂と学園都市内にあるデータを使って事前に調べておいた白井の戦闘スタイルは蜃気楼に適していた。
 単純な話、準備と情報でステイルのほうが圧倒的に有利だ。しかも種のわからないステイルの能力は、まだ白井には断片しか見せていない。つまり無闇に白井はステイルにに近づいて攻撃できない状況であった。
 白井はこの状況にどのような手で打開する手はないかを考えた。美琴の超電磁砲ならば勝てるだろうが空間移動ではステイルと相性が悪い。ならばと、隣にいた上条の存在にかけようと思ったとき、

 世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ
 それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり
 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり
 その名は炎、その役は剣
 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ

 その術はステイルが持つ魔術の中で最強の魔術。たった一人の少女を守るためだけに作り上げられた最強の炎であり、全てを焼き尽くす最強の怪物。
『魔女狩りの王(イノケンティウス)』
「肉弾戦に持ち込もうとしても無駄だよ。幻想殺しでも殺せない、これがあるからね」
 白井のみならず、上条も『魔女狩りの王』の登場には驚きを隠せなかった。
 摂氏3千度を越す炎の怪物は、爆破と再生を繰り返しありとあらゆるものを塵に返す存在。幻想殺しでも殺すことは不可能であり、弱点を知らない今の二人には勝機など一切ない。
 白井は空間移動があるので逃げることは出来るが、上条の幻想殺しでは逃げることは出来ない。しかも殺しきれない魔術を相手にしても上条が力尽きるだけだ。
「かつては君に一度負けたけど、君の弱点は僕も知っているし前のような失敗を繰り返さないように入念に仕込みをしておいた。もう一度言うけど、幻想殺しは無駄だよ。『魔女狩りの王』は殺されようとも何度だって生き返る処刑になんだからね。
 でも僕の目的は君を殺すことじゃないからね。このまま何もせずに君が僕についてくれさえすれば、『魔女狩りの王』は消すしその子にも手を出さないよ」

484キラ:2010/03/18(木) 23:33:31 ID:S1R7DJVk
 それは上条に持ちかけられた交渉だった。
 何もせずに黙ってステイルについてくればそれでいい。しかしもし戦うのであれば、白井の命は保障しない。
(わたくしは………くっ)
 だが白井はこの交渉は白井にも持ちかけられていることを理解していた。なぜならステイルは空間移動を使えることを知っている。それはつまりここから逃げることを視野にも入れているということだ。だというのに何故上条に交渉を持ちかけたのか…。
(わたくしを動けなくするため、ですのね)
 用のある人物は上条。しかしそこに白井と言う存在が入るのはステイルからすれば迷惑でしかない。だからこその交渉。
 白井がもしもステイルに攻撃などをすれば、『魔女狩りの王』は白井を狙ってくる。そうなると上条は白井を守るために、戦うしかなくなる。
 それだけは回避しないといけないのは白井にもわかっていた。ステイルは白井がそれをわかっていからこそこの交渉の本当の効力、白井の拘束が働いたのだ。
「……わかった」
 上条は勝てないことを悟ると、白井の肩を叩いて首を横にふった。
 そして白井を置いて上条は前に歩くとステイルはふっと笑って『魔女狩りの王』を消した。
「さて、少し場所を変えようか。二人きりで話したほうが僕たちのためだからね」
 というとステイルはルーンのカードをしまうと、ゆっくりと背中を向けて公園の出口へと出た。
 上条は少し考えた末に、悪いとだけ白井に言うと出口で待っているステイルの後を追った。白井は追いかけようと思ったが、追いかけたところで何も出来ない、むしろ邪魔なだけだ。
 置いていかれた白井は上条とステイルが公園を出て行く姿を見終えた後に、両膝をついて両腕で自分の身体を思いっきり抱きしめた。
(わたくしは………無力、ですわ)
 かつて御坂美琴を守ろうとした時、白井は自分には届かない世界であったと気づかされ、そのために強くなり肩を並べようと思った。その決意は今も白井の中に残っており肩を並べられるように強くなっている途中だ。
 しかし今回、白井黒子はさらにその上の世界、上条当麻の現実には絶対に届かないと気づかされ、無力だと理解させられた。同時にそれは御坂美琴を守る自分の決意がどれだけ小さく、どれだけ無力だったかを実感させられた。
(お姉様、上条さん……わたくし、は)
 すでに上条当麻は魔術側の人間にもなり始めている。かつての上条がたどった道を歩くように…。
 白井は何故上条が美琴に恋愛感情を抱いていなかったかを、先ほどのやりとりで少しだけ理解できた。そしてそれをなんとかするのは美琴か上条本人、または魔術師だけだとも理解した。
 そして白井は無力の涙を流して声を殺して泣いた。

485キラ:2010/03/18(木) 23:34:04 ID:S1R7DJVk
 上条がステイルの背中を追ってきてたどり着いたのは、白井といた公園から一キロ離れた大通りのわき道。
 不気味なことに上条も通ったことがあるこの道には一切人がいない。さきほどのあの公園にしても、学園都市内の大通りに人がいないなどという状況は上条にも異常である事は理解できている。
 そのため、上条は少しばかり知らない魔術師の男に警戒心を抱いた。右手を握り締め、ステイルの背中を観察しながら上条はステイルを追っていくと、わき道の途中、もう少し行けば信号がある微妙な場所でステイルはいきなり止まった。
「上条当麻。まず君に言いたいことがある」
 止まったステイルは上条に振り返るとステイルの両手から天へ向けて炎が噴出された。
 ステイルの魔術に関しては少しだけだが土御門から話は聞いていた。炎を操る『必要悪の教会』の魔術師にして上条当麻の協力者。何度も世話になっている仲だが決して仲がよいとはいいがいたい。だが戦友としてはそれなりの関係であった、らしい。
 そのステイルがこのタイミングでの魔術の使用は、記憶のない上条には何を意味するのか理解できない。そのため、火山の噴火をイメージさせた炎の噴出はステイルへの警戒心を強化させた。
「君の記憶の事に関しては良く知っている。だけど記憶がなくとも君は上条当麻だし、彼女のパートナーであることは継続だ。だから僕個人として、君に会いたくなってね。その時にちょうど一つだけやらないと気がすまないことがあってね」
「気がすまないこと?」
「ああ。でも……君の薄い反応を見て気が変わったよ」
 と、いうとステイルは炎を返して、上条に近づく。
 そして、上条の頬を右手で思いっきり殴った。
「てめえ! いきなり何を」
「禁書目録…インデックスを知っているだろう?」
 その名前を言われ、上条は一瞬のうちに凍りつかされた。
 インデックス、今はここにはいないが自分のパートナーであり上条にとってかけがいのない存在。
 土御門の話では、自分はインデックスとはほかと一線を越える関係にあったらしい。友人や恋人とは違うさらにもう一歩行った重要な存在。それゆえにここでその名前を前触れなく出されたことに上条は衝撃を受けたのだ。
 ステイルはそんなことも知らず、ポケットからタバコを出すと火をつけて口に咥えた。
「僕は彼女とは大切な関係でね。自分の命よりも彼女を選ぶと生き方をしているんだ。たとえ、記憶に残らなくともて知らずとも、彼女が何かを望めば僕が叶える。彼女を狙うものがいるのならば誰でも殺す。そして命に代えても彼女を守る。そう、誓ったんだ。
 でも今のパートナーは僕ではなく君だ、上条当麻。だから僕は君を殺したくとも殺すことは出来ない。そして記憶が残り続ける限り、僕はずっと君を殺せない」
「……ステイル」
 それだけでステイルという男のことは十分だった。
 彼はインデックスのためだけに生きている存在だ。インデックスが生きている限り彼は生き続け、インデックスがピンチになれば誰よりも早く駆けつけ、インデックスが何かを願えば彼はその望みを叶えるために何でもする。
 上条はそんなステイルの生き方が、どうしようもなく凄いと思ったのだ。誰かを救うのではなく誰か一人のためだけに何かを救う。そこには自分の自己満足と一人の少女の笑顔だけしかなくとも、その生き方はきっと素晴らしいと思えるはずだ。
 上条のように無差別に救いを差し伸べる手を引く生き方も、決して悪くはないし上条自身は素晴らしいと思っている。だがふと思ってしまった。
(俺も美琴のためだけに生きれれば……)

486キラ:2010/03/18(木) 23:34:45 ID:S1R7DJVk
 自分は全力でそれに答え彼女とともに彼女と生きていく。少なくとも、幸福な未来はあるのではと上条は思った。
 しかし、それは夢物語だと上条は起きた時からずっと気づいている。そんな生き方をすれば上条当麻は必ず崩壊する、と。
 だから羨ましいのだ。一人の女の子のためだけに生きれる生き方は、自分には不可能だったから。
「でも君は彼女を泣かせた。一つの秘密を彼女に隠し、自分の口から言わずに消えていく運命であった上条当麻が、インデックスを泣かせ絶望させた。
 わかるか! 君はずっと信頼されてきた思っていたパートナーを泣かせたんだ! それを本当にわかっているのか! 上条当麻ッ!!」
 ステイルはもう一回殴る。さらに一回殴る。またもう一回殴る。何度も一回殴る。
 上条はそれを無言で受ける。一切の防御をせずに正面で受ける。
 今の上条には何も言えないし何も助けられない。だから上条はステイルの拳を耐えるしかない。
「ッ!! つ!!! く…!」
 拳は軽いがそれに乗っているものは信じられないほど重く痛い。
 痛みは顔ではなく胸の奥に刺すように響く。一発殴られるごとに痛みは増し、上条は顔の痛みよりもそちらの痛みに身体が参ってしまいそうだった。
 その正体は、怒り。ステイルがインデックスの代わりの怒っているのだ。
 つまりこの痛みはインデックスが上条にぶつけるべくぶつけた怒りの痛みだ。受けるはずだった心の痛み、上条の罪であったのだ。
 上条はこのことにはまだ気づいていない。しかし逃げてはいけない、防いではいけない、殴られるべきなんだと心が命令する。だから上条は一切動かずにステイルが満足するまで殴られ続けるしかない。
 ステイルもそれがわかったのか、何発も何発も殴って抵抗をしない上条への拳を少しずつ弱めていく。最初は全力であったが、六発あたりから一切抵抗を見せず前を向くだけの上条に気づき始めていたのだ。
 一方的に殴るのはステイルでも感心しない。たとえインデックスのためであっても、一切の抵抗をせずに甘んじて罰を受ける上条はステイルからすれば逆に自分が罰を受けているような錯覚に陥らせた。
「はぁ…はぁ…はぁ……もう、いい」
 そして、殴り始めて十二発。十三発前に拳を下げるとステイルは一歩下がって上条と睨んだ。
 まだ殴りたかったがこれ以上はインデックスの代わりにと思っていた最初の頃からかけ離れていってしまう。逆に自分が気に入らないと思う自己満足の暴力になってしまうのでステイルは暴力をやめた。
 代わりに、インデックスの代わりの制裁だけでなくもう一つの目的を果たそうと思うとステイルは口に咥えたタバコを燃やした。
「上条当麻、もう一つだけ用件がある。ああ、こっちは話だからもう構えなくてもいいよ」
 言われて上条は緊張を切らし、自然と力が抜けていくのを感じた。
 一瞬、立ちくらみを受けて倒れそうになったが足を踏ん張って耐え切った。そして、リラックスしながら上条はステイルと再度向き合った。
「本来はこちらを最初に言うべきだったけど、細かいことはいいか。
 さて、上条当麻。君はこれから一週間後にイギリスに渡ってもらうよ」
「………………え?」
 ステイルの言葉に上条を耳を疑った。
 ずっと学園都市にいると思ったはずだったのに、いきなり言われた渡英の言葉。上条には何を言っているんだと驚きの表情を隠せなかった。
 ステイルは上条の表情を見るが一切に動揺は上条にはさらさず黙々と話を続けた。

487キラ:2010/03/18(木) 23:35:47 ID:S1R7DJVk
「これはすでに決定事項だ。といっても目覚めて二日の君にこの話は混乱の種だろうけど、そんな都合はこっちにはないんだ。
 とりあえず、君には頷いてもらうしかないんだけどね」
「ちょっと待ってくれ! もっと詳しく説明してくれ!」
「………それもそうだね。説明なしに頷くほど、君は何でもオーケーする人間じゃないからね」
 そういうとステイルは新しいタバコに火をつけてタバコを吸うと、ふうーと上条に煙を吐いた。身近にタバコを吸う人間を知らない上条からすれば、タバコの煙は慣れていなかったもの。げほげほと咳き込んでステイルを睨むと、すまないねとしてやったりの表情を浮かべた。
(こ、この腐れエセ神父が!!!)
 上条は初めてステイルに殴りかかろうと思ったが話がそれてしまいそうだったのでやめた。 
「それで説明なんだけど、君はもう二月のことは学園都市の人間には聞いているんだろう?」
「ああ。さっきお前が脅した白井に聞いたよ。魔術師の一味がこの学園都市の第七学区をめちゃめちゃにして、俺たちが倒したって話だろう」
「その通り。でもそれはいい方向で見た感想だ。では質問するけどこの事件で学園都市の人間、上条当麻を含む友人たちが魔術師たちを倒したことで、魔術社会では何が起きたのか知っているかい?」
「……………」
 それに関しては白井は一切知らないはずだ。同時に土御門はこのことを知っていたのでは、思ったが過去を知らなかった時点でそれをきけるはずもなかったことを思い出し、頭の外へ追い払った。
 沈黙の上条を見ていたステイルはタバコの煙を空に向かって吐くと、知らないのかと言って話を始めた。
「上条勢力。君の周りの友人や知り合いは魔術社会ではその一員として見られているんだ。その上条勢力が魔術師集団のたったの一日で鎮圧させ、学園都市を救った。
 これが魔術社会では何を意味するのか、君にはわかるかい?」
「わからねえよ。別に魔術師を倒したぐらいじゃ、魔術社会に大きな影響なんてありはしないんだろ?」
「そうだね。学園都市を襲った"普通"の魔術師を倒した程度では魔術社会には大きな動きはない。
 ではもし"普通ではない"魔術師が学園都市を襲ったのだとしたら、どうなると思う?」
「普通じゃないって、どんな魔術師だよ」
「社会を動かすほどの存在の魔術師たちだよ。過去には神の右手というローマ正教の魔術師集団がいたんだけど、彼らほどの強い力を持ってはいなかったけどね」
 ステイルはタバコの煙を吐くと、タバコを燃やして背中を向けた。
「どんな理由であれ、君たちは社会に繋がる魔術師を倒してしまったんだ。あとは社会がそれをどう見るのかは、わかるだろう」
 社会を精通する魔術師の集団を倒してしまった、上条勢力の一員たち。学園都市では英雄として語られるかもしれないが、魔術社会からすればそれほどの力を持っている魔術師でさえも敵わないほどに上条勢力は危険な存在になっていた。
 社会は危険な存在を放置するほど優しいものではない。軍隊にしてもテロリストにしても、社会は力を持つものを放置することをもっとも恐れる。なぜなら放置した結果、力を持ったものたちが自分に何をしてくるのかわからず恐怖するからだ。だからどこにも属さない上条勢力がいつ自分たちに牙を向けるわからない状況を魔術社会では放置できない。
 ステイルは背を向けたまま、また一本のタバコを出して火をつけて口に咥える。
「君にはインデックスと言うパートナーがいる。しかし彼女は元々必要悪の教会のメンバーでもある。最大主教(アークビショップ)はそれを見逃すわけはない」
「インデックスは……どうなったんだ?」
「人質だよ。君を必要悪の教会に引き込むためのね」
 ステイルは忌々しそうに上条に告げると、タバコの煙を宙に漂わせながら歩き始めた。
「悪いが時間だ。次に会うのは四月二日。その日に彼女から全てが語られ君はイギリスに行くことになる。それでは上条当麻、明日一日を有意義に使うことだね」
 そしてステイルは上条の前から去っていったのだった。その背中を追うつもりは上条にはなかった。

488キラ:2010/03/18(木) 23:36:26 ID:S1R7DJVk
 上条とステイルが去ってしばらくしたあと、白井は美琴たちの待つファミレスに戻ろうと思った。
 ここにいても上条は戻ってくるとは限らない。それに美琴たちと別れてそろそろ三十分が経過しようとしていた。ここまで時間がかかると、心配性の美琴ならば探しに来る可能性があった。それは今の白井にはデメリットでしかなかった。
 しかし白井は戻ることを躊躇った。それは自分の今の顔は、情けない表情になっているのが鏡を見なくともわかったから。
(情け、ないですわ。それでも白井黒子ですの)
 自分で自分を叱るも、効果はなく無駄な労力だけを使った。
 白井はどうすればと思いながら、砂のついてしまった膝を叩くと公園の出口に向かって歩く。
「おっ、白井。まだいたのか」
 その声に振り返ると、そこにはステイルと一緒に去って行った上条当麻の姿があった。
「上条、さん…!?」
 上条の顔の傷に気づくと、白井は上条に近づいた。
 唇は切れており、左頬は少しはれている。右頬にも殴られた跡があり、あの後何があったかが気になり、上条にどうしましたの!? と問いかけた。
「ちょっと、な。それよりもそんなに酷いか?」
「それよりも、じゃありません! そんなお顔でお姉様たちのところへ戻ったら、どんな心配をされるか」
「そっか……でもこればっかりは仕方ないからな」
 上条の顔の怪我は酷くはないが、顔であったため怪我は目立つ。しかもずっと一緒にいた美琴ならばその変化に一瞬で気づくだろう。
 白井はとりあえず怪我の手をしようと美琴に頼もうと思い携帯を取り出そうとしたが、その手は上条の手に掴まれ遮られた。
「美琴には言うするな。それよりも白井、少し遅くなるってことだけでいいから連絡してくれないか?」
「何を言っておりますの! 結局はばれてしまうのですよ?!」
「それでもだ。あいつを心配させたくないんだ…頼む、白井」
 上条は白井に深々と頭を下げて頼んだ。そこまでされてしまっては白井も断ろうにも断れず、なくなくわかりましたのと頷くしかなかった。
「それと悪いんだけど白井。どっかの薬局行って」
「わかっておりますわ。それよりもここで待っていてくださいですの。そんなお顔で歩かれては、色々と面倒ですので」
 そういって上条は悪いと言うと、さきほど座っていたベンチにもう一度座る。
 それを確認して白井は上条の視線を受けながら美琴の携帯に電話をかけると3コールで美琴は電話に出た。

489キラ:2010/03/18(木) 23:37:10 ID:S1R7DJVk
『もしもし黒子? どうかしたの?』
「いえ、結構時間が経っておりましたので、心配させまいと思いまして電話しましたの。それでお姉様、もう少しだけお時間がかかりますがよろしいでしょうか?」
『なんでアンタがそんなことを確認するのよ。私は別にアンタの親じゃないんだし、アイツと話すべきことがあるんでしょ?』
「………知って、おりましたの?」
 白井は美琴を過小評価していなかったが、ばれていたことには驚きを隠せなかった。
 いや冷静でなかったため、誰でも気づけることに気づけなかっただけなのかもしれない。白井は頭を振って混乱していた考えを打ち消して、美琴に言った。
「いえ、なんでもありませんの。それよりもあと十分かかるので申し訳ありませんが初春や佐天さんにもそのようにお伝えできないでしょうか?」
『ああ、それは任せて。それよりも早く戻ってらっしゃいよ。二人を待たせるのも悪いからね』
「了解しましたの。それではお姉様、愛しておりますの」
 そして電話を切ると上条と向き合った。
「これで満足ですの、上条さん」
「ああ。何から何まですまない、白井」
 上条は申し訳なさそうに謝ると、それが妙に腹立たしく思えた。
「何故ですの! 何故貴方はボロボロにならなければなりませんの!? 貴方はそんなお方ではないはずなのに」
「そんなんじゃねえよ」
 そういって上条はそっぽ向くと、苦しそうな表情を浮かべた。
 何かに耐えている表情を見せられ、白井はとても申し訳ないことをした後悔を思った。だがそれを見ていない上条は空を見ながら言った。
「俺は俺だよ。善人でも悪人でもない。だから怒ったり怒られたりする時だってあるんだよ。風紀委員のお前なら、俺の言いたいことはわかるだろう?」
 風紀委員の名前を出された白井は、上条の言うことに納得がいった。
(貴方もわたくしも………同じです、と言いたいのですね、上条さん)
 白井は何も言わなかった。何も言わずに上条の前から姿を消して、薬局へ向かった。
 上条も何も言わなかった。白井が消える前も消えた後も何も…何も…。

490キラ:2010/03/18(木) 23:39:53 ID:S1R7DJVk
以上です。
これで『超電磁砲の記憶』は終わります。
けど『memories』は続きます。この章終わりです、という話です。
すまない、黒子(実はこの章の主人公の一人)
そして、まだ上琴で絡ませられない展開にもすまない。
一応、『原作でありえそうな美琴ルート』風に書いているので、細かいので毎回の絡み合いが難しいです。

この次ですがでしばらくお休みして、『fortissimo』に集中したいと思います。
こちらの方が『memories』よりも短いので今月中に全て終わらせて、来月以降は『memories』を再開する予定です。
その間、プロットの変更や設定を考えたりもしたいので、これの続きはしばらくお待ちを。

491■■■■:2010/03/18(木) 23:53:58 ID:00kxsiyM
GJですの!!

492■■■■:2010/03/19(金) 00:04:48 ID:84nAtqD2
>>490
GJ! 続編楽しみ

493どるがば ◆KlUXhbo4RM:2010/03/19(金) 01:06:32 ID:Tjw0WpHk
遅くなりました;
後半と言っていたのに日が開いてしまいました。
構成などの確認していると意外に時間が過ぎちゃうものですね^^;
『看病編』の後半投下しようと思います。
前半は→>>278->>283
今回はちょっとシリアス系?
4レス消費させていただきます。
誤字、脱字あったら言ってください。
何も無ければすぐに行きますので

494看病編7:2010/03/19(金) 01:07:38 ID:Tjw0WpHk
しかし、美琴の口は堅く自分の意思でも開こうとしてくれない。
その状況に美琴は地団駄を踏みたくなる。
(どうして・・?今まで想っていた気持ちを言うだけなのに、自分の心に素直になるだけなのに・・・)
美琴は自然と俯きかけていた。
それを見た上条は
「・・何か悩んでいるみたいだけど、どうかしたか?俺なんかで良かったら相談に乗るぞ」
美琴は驚いた。今まで上条は人の気持ちに対してわざとじゃないだろうか?と疑いたくなるくらいに気付かない。
美琴が上条に対する想いも含めて鈍感と言われるほどに
「その顔を見ると図星みたいだな」
美琴は考えるよりも前に言葉が出た。
「どうして?・・どうして私が悩んでいるって解るの?」

上条は美琴の言葉を聞いて少し遠い所を見るように目を細めて小さく微笑んだ。
「なんていうかさ、お前がそういう顔をしているのを見るのって辛いんだよ・・・。」
上条は以前にもこういう顔を見たことがある。
美琴が妹達の事件で助けを求めたいはずなのに一人鉄橋の上で苦しんでいた時の顔。
美琴も上条が直接言わないでも言いたいことが不思議と伝わった。
上条は美琴に伝わったことを確認したかのようにまた言葉を紡ぐ。
「俺は・・お前には笑っていて欲しい。俺が言った言葉覚えているか?」
美琴は一方通行との戦いの後入院した上条のところに見舞いに行ったとき上条にかけられた言葉を思い出す。

「・・・私は笑っていて良いんだってこと?」
「そういうこと。お前は苦しいことや嫌なことを全部一人で背負い込もうとするだろ?
もしさ苦しいこと、嫌なことで悩んでいるなら俺でもいい他の友達でもいいから頼ってみろよ。
解決するかは別の話だけどさ、肩の荷が下りるというか楽になると思う」
まぁ俺も人のこと言えないんだけどな、と言いながら上条は頭を掻いている。
「・・あさ」
「んー?」
「じゃあさ、アンタも悩んでいることがあったら私に話すって約束してくれる?」
「・・えっ!?で、でも俺の場合は巻き込まないよう__」
ここで美琴に遮られた
「約束してっ!」
美琴は小指だけを立てた拳を上条の顔の前に突き出してきた。

495看病編8:2010/03/19(金) 01:08:20 ID:Tjw0WpHk
「えーっと、それはまあ何といいますかー、それとこれとではですねー」
マニュアルを忘れた新人店員のような口ぶりの上条に美琴は
「じゃあ私がずぅっと悩んでいる顔してても良いっての?
さっき私のそういう顔見るの辛いって言ったの誰だっけ!?」

上条はうぅっと唸りながら渋々了解したのか美琴の小指を取り指きりげんまんをする。
「仕方ないか約束だもんな」
どっちが困っていたか分からなくなるくらいに立場は逆転していた。
はぁーっと溜め息を吐く上条を見て少し笑顔になる美琴は
(コイツも何かあったら話してくれるってことよね?これは中々に良い取引だわ)
と一人で背負い込むところも、相手の為に何かしたいと思うところも似たもの同士の二人である。
約束を終えたので上条は本題に戻るべく言葉をかける。
「で、お前は何に悩んでいるんだ?」
約束したから言うんだぞ、という目をしている美琴は少し戸惑いながら応える。
「もし、もしもの話だけど。私がこの学園都市から、アンタの目の前から消えたらどう思う?」
上条はとても驚いた顔をして
「お前っ!そんなに重い話だったのか!?」
少し興奮気味の上条に対して美琴は冷静に
「もしもの話よ。私が悩んでいることとは特に関係は無いから」
「何だよ、驚かせんな・・」
「それで、どうなのよ?ちゃんと質問に答えて」
上条は少し悩んだみたいだが、すぐに答えは返ってきた。
「正直それは考えられない・・・。俺の日常にはお前がいて当たり前なんだよ。
お前の日常はどうかは分からないけど、少なくとも俺の日常にはお前がいて喧嘩したり、
話したりするのが当然のことなんだよ!」
それを聞いた美琴は胸が熱くなるのを感じた。とても強く、とても熱く、とても心地の良い・・・
本当に美琴は嬉しかった。上条の中に美琴がいるということを上条の口から聞けた事に。
もう口から言葉を出すことなんてできなかった。
勝手に体が上条の胸に向かって動いている。
不思議だと思うことなのに、思うはずなのに。
今は不思議だとは思わなかった、可笑しいと思わなかった。
だってずっと求めていた"もの"がそこにあるのだから。

496看病編9:2010/03/19(金) 01:08:54 ID:Tjw0WpHk
「御坂・・」
上条も不思議と向かってくる美琴を抱きとめていた、抱きしめていた。
そしてまた同様にそのことに対して上条は不思議だとは思わなかった。
護るべき"もの"がそこにあるのだから。

上条はそっと話す。
「お前の日常には俺がいるのか?」
美琴は自分が頭で考えた言葉よりも早く、心で想っていた言葉が出る。
「私の日常にはね、アンタがいて、アンタが傍にいて、アンタと一緒に話して
アンタと・・・」
そこで美琴は上条に抱きついている力を少しだけ強くする。
上条はそれに気付いたのか、そっと美琴の頭を撫でる。
「私の日常にはアンタがいるよ。アンタがいることが当たり前。
ううん、アンタがいなくちゃダメなのっ!」
震えている美琴に気付き上条は優しく微笑み少し美琴を離して顔を見えるようにした。
上条の両手は美琴の肩を掴んでいる。
上条は美琴の目を見て話す。
「そっか、お前が悩んでいたことって俺のことだったんだな」
コクンと美琴の小さい頭が立てに振れる。
「じゃあ、これからは背負うものが半分になりそうだなっ」
上条は嬉しそうに笑う。
美琴は驚いたように
「・・えっ!?どういうこと・・?」
「何だ、俺の勘違いだったか?てっきりお前は俺のことが好きなのかと思って
両想いだから嬉しいなっていう」

「両想い?じゃあアンタは・・・」
「そうだよ。俺はお前のことが好きだっ!」
美琴は開いた口が閉まらない。
美琴は第三位の超能力者といっても中学生であることに変わりは無い。
好きな人から告白されて嬉しさのあまり涙を流すことなど女子中学生にしてみれば至極普通のことである。
涙が溢れ出すのにそう時間はかからなかった。
「嬉しい・・・」
「良かった、お前の喜びは俺の喜びでもあるからな。
よく言うだろ感情を分かち合うことで喜びは二倍、悲しみや苦しみは半分にって。
さっきの約束はそういう意味でも良いかもな」
今度は上条から美琴を抱きしめた。
そしてそっと唇を重ねた。

497看病編10:2010/03/19(金) 01:09:23 ID:Tjw0WpHk
風邪というのもあってか、泣きつかれたというのもあってか美琴はベッドで小さく寝息を立てている。
上条は水に湿らせたタオルを美琴の額に乗せてベッドの脇に腰を下ろす。
そこで上条は玄関のところに手紙が落ちているのを発見する。
部屋に入ったときは美琴を負ぶっていたせいか気付かなかったらしい。
なんというか白い封筒に三つ折にされた手紙が入っていた。
そこまではいいのだが問題は内容だ。
英語で書かれている、上条は赤点取ること必須な問題児であって読めるはずが無いのだ。
仕方ないので埃を被っている英和辞書らしきものを引っ張ってきて頑張って訳してみた。
思ってみたより文脈は簡単で短かったので訳すのに時間はそうかからなかった。
内容は
『拝啓 親愛なるとは程遠い上条当麻
今回はインデックスにオルソラから暗号を解く手伝いをして欲しいということでイギリスに来てもらうことになった。
君にはあの子の保護者という名目があるけど今回は危ないこともないので君がくる必要も無い。
まあ僕にしてみれば万々歳なんだけど。こっちには護衛もいるから心配は無いよ。』
というふざけた内容だった。ちなみに手紙の最後には見たことの無い文字があり、それを見て間もなくクラッカーのような
爆発を起こして砕け散った。
右手で触っていけば良かったと後悔する上条であった。
差出人には名前が無かったが上条には一人思い当たる人物がいるのだがそれはほぼ確定しているので敢えてここでは伏せておく。
これでインデックスがいない件に関しては解決した。
(あっちには神裂や五和もいるし大丈夫だろう)
と自己暗示して安堵する上条だった。

その後上条は熱も下がり元気になった美琴を門限前に寮へと送った。
あまり近すぎると上条の存在が他の人物にバレてしまうのを恐れ少し離れたところで別れた。
しかし、二人とも数メートル歩くと互いに振り向いて手を振り、また数メートル歩くと振り向いて・・・というのを
繰り返してなんとも初々しいという感じであった。
今日は寝れそうに無いなと美琴は自覚した。
実際、枕が潰れるくらいに抱きしめていたというのは言うまでも無い(目撃者:白井黒子)

上条の日常と美琴の日常が交差した時、桃色空間が始まる!?

498どるがば ◆KlUXhbo4RM:2010/03/19(金) 01:11:56 ID:Tjw0WpHk
どうだったでしょうか?
一応続けようと思ってます。
他の書き手さんのレベルが高くてホントにビクビクしながら書いてます。
ではまた次の時よろしくお願いします。
失礼します

499■■■■:2010/03/19(金) 01:17:49 ID:VB7Es3Io
>>498
GJです。
自分も看病物を書いていたのですが後回しにしていたら
先を越されてしまいました。どうしようかと悩んでいる頃です。
やっぱり同じテーマでも書き手によって内容変わりますね。

500■■■■:2010/03/19(金) 01:31:22 ID:JQdsebWE
>>466
>>490
投下お疲れ様です。
お二人の作品、毎度更新を楽しみにしてます。
D2氏は日常を描きながらも高い密度で語られる二人の心情が素晴らしく
キラ氏は周りの状況が二人にそれぞれ決断を迫る今後の展開が楽しみです。

いちゃいちゃオンリーも良いですが、何気ない日常の風景や
科学・魔術といったとあるシリーズの根源的内容がしっかり絡む展開も
大好きですね、まぁもっとも二人が幸せになれる展開であればと思います。

>>498
GJ!看病物も良いですね。
雰囲気は重要、と。
次作も期待しつつ、投下お疲れ様でした。

501■■■■:2010/03/19(金) 01:53:06 ID:rKRq2wQ6
>>490
GJです!
美琴エンドにならないの?というハラハラ感がいいですね。

>>498
GJです!
かわいいカップルですね
こんな青春時代を送りたかったw

502ぴんた:2010/03/19(金) 02:50:44 ID:ylDrTAVI
皆さんGJです!
深夜にこんばんは。
393の続きなんですが>>393←こういうのどうやってやるのか分からなくて(´・ω・`)

…と、とりあえず後日談出来たので乗せておきます!

503ぴんた:2010/03/19(金) 02:52:42 ID:ylDrTAVI
【信じた先に・後日談】

 
 御坂美鈴は目を覚ました。
 見慣れない天井。
 見慣れない部屋。
 寝慣れないベッド。

「あー…昨日泊めてもらったんだっけ」

 昨日4月1日に上条詩菜宅に夕飯を共にした。
 しかしついつい酒が進み、そのまま寝てしまったらしい。
 後で詩菜さんに謝らないとと思い携帯を探す。

「えっと、あったあった。―――8時20分か」
「もう詩菜さん起きてるわよね」

 そう思いベッドからでる美鈴。
 その時メールが一通受信してることに気付いた。

「お? 誰からだろ…って美琴ちゃん?」

 美鈴は美琴からのメールを開くと、ふふっと笑って携帯をポケットにしまい背伸びをしてその部屋を後にした。
 台所に向かうとそこには料理している詩菜の姿があった。

「あ、おはようございます。美鈴さん」
「おはようございます。詩菜さん。すみません、リビングからの記憶が無くて…」
「いいえ。やはりお布団の方が気持ちよく寝れるでしょう?」
「おかげさまで頭以外なら痛くないです」
「ふふふ。……? 美鈴さん? 何かいい事でもあったんですか?」
「えぇ。 詩菜さん? どうやら私は恋のキューピットだったみたいですね♪」


    Time 10/04/02 02:11
From 美琴ちゃん
    Sub
------------------------------------
ありがとう

504ぴんた:2010/03/19(金) 02:54:00 ID:ylDrTAVI
4/2 AM8:47


 上条当麻はカーテンから差し込む日の光で目を覚ます。
 昨日はインデックスがいなかったため久しぶりのふかふかベットだ! …ったのだが、実のところあまり寝れていない。
 家に帰ってきたのは深夜2時を回っていたし、何より寝る時に美琴が「今日は一緒に寝て!」とか言うもんだから。
 美琴は上条に抱き枕のごとく抱きついて幸せそうに眠りに落ちた。
 しかし、当の上条はそうも行かなく、
 美琴の柔らかさと匂いにより目が冴えに冴えて日が昇ったくらいにやっと寝ることが出来た。
 正確には睡魔で意識が飛んだと言った方が正しいのだが。
 
 上条は眠そうに寝返りをうつ。
 しかし、そこに美琴の姿はなく変わりに何か良い匂いがしてきた。

「ん? あれ…み、こと?」

 そこには可愛いエプロン(以前上条宅に料理をしに来た時に置いていった)姿の御坂美琴が楽しそうに料理をしている。
 その後ろ姿はとても愛くるしく、その後姿だけで自分は幸せになってしまったのだと実感できるほどだ。
 そしてそんな愛しの天使が上条の声に気付き、

「あ。おはよう当麻。よく寝れた? もうすぐご飯できるから待っててね♪」

 などど言うもんだから上条は、もうそれはそれは泣きそうな顔になったのと同時に前屈みになった。
 そんな上条の姿に美琴は?の表情をしたが、
 何かを思い出したように料理の手を休め上条のいるベッドへと小走りで近づいてきた。
 そして、

「忘れてた♪ 恋人の寝起きの特権――」
「ん? ―――っん」

 おはようのちゅうをされた。
 美琴は頬を赤く染めて、えへへと笑いながら台所へ戻っていった。
 その場に残された上条は、…その、もう、何か、ダメになった。
 しばらくすると美琴が、出来たよーとお盆に乗せて朝食を持ってきた。
 そこにあったのは上条では作れないようなこったメニューだった。

505ぴんた:2010/03/19(金) 02:54:38 ID:ylDrTAVI
「ぅお。なにこの食い物、あまり物でこんなの作ったのか?」
「そうよ。勝手に使っちゃったけどいいわよね? 朝食分くらいしか冷蔵庫に入ってなかったし」
「うぅ…。ありがとうございます、美琴様。こんな…こんな朝食は今まで見たことがないですよ」
「ふふ。出来る女だと惚れ直した?」
「もうぞっこんですよ、美琴様」
「えへへー。じゃあさじゃあさ。撫でて撫でてー」
「なでなで」
「ふにゃー」
「(超電磁砲ファンがみたら殺されるようなシチュだぜ…)」
「じゃあ冷めないうちに食べよっか?」
「おう。うんまそーだな、おい」
「朝だから食べやすく味付けしたんだけど…はい、あーん♪」
「じ〜〜〜〜〜〜ん…」
「ど、どうしたのよ」
「俺は今確信した。もしこの世界が小説や漫画の世界ならば主人公は俺だという事に」
「そ、そうなんだ。ま、まぁとりあえず。どうぞ?」
「あむ」

ピピッ

「「へ?――――」」

 何か電子音がした。
 2人は音のする方に視線だけ向けるとそこには、

「つつつつつつつつつつつつつ土御門ッ!!???」
「ままままままままままままま舞夏!!???」
「おいっすカミやん! はいチーズ♪」
「いい絵だぞーみさかー。笑って笑ってー」

 デジカメとデジタルビデオカメラを持った土御門兄妹がいた。
 どこから入ったのか部屋の隅に立っており、そのすぐ後に

「とうまー。ただいまなんだ、よ…」
「おはよう。この子送りに来、た…。」
「上条ちゃーん?春休みは宿題がないからってだらけてないです、よ………ね?」
「お姉さま! こんな時間までお戻りにならないと思ったらやはりここでし…た、か」

 …と色々来た。
 舞夏と黒子は美琴に
 「いつから? なんで? どこまで?」「何故ですの? 黒子のどこがお気に召さなかったんですの?」などと詰め寄り、
 上条はまずインデックスで数箇所噛み付かれ、
 姫神と小萌に同時にげんこつをもらい、 
 床に倒れたところを土御門にボコボコに脚蹴りされた。
 もちろんインデックスは上条を噛んだ後ちゃっかり美琴お手製の朝食をおいしく頂いた。
 しかしこんな出来事は序章に過ぎない。
 上条当麻と御坂美琴のドタバタラブコメディは始まったばかりなのだから―――

506ぴんた:2010/03/19(金) 02:58:02 ID:ylDrTAVI
以上になります&ぎゃああああああ!!!
美琴ちゃんのメールががががががが!!!

…(´;ω;`)

あと394で僕は恐れ多くも上条さんを呼び捨てにしてしまった…。
もうこの数日は罪悪感でいっぱいでしたよ。
「小」萌先生でしたね! 失礼しました。次回からも気をつけます。

でわ♪

507■■■■:2010/03/19(金) 04:13:48 ID:K0f8bl5s
>>506
GJ!Σd(≧∇≦)

508■■■■:2010/03/19(金) 07:23:35 ID:KTrMDq1c
職人殿達、あいかわらずGJでござる!!

509かぺら:2010/03/19(金) 10:46:21 ID:a0.GJOIM
>>506
GJです。
「えへへ〜。撫でて…」の下りがつぼりました

>>393はすべて半角英数ですればOKです。

510■■■■:2010/03/19(金) 17:50:17 ID:UQndNBDQ
 半角/    と書かれた
 全角   ←ボタンを押してから
 ――    やり直してみてください。
 漢字

511ぴんた:2010/03/19(金) 18:27:22 ID:ylDrTAVI
出来ました!ありがとうございます!

>>380 - >>393 の信じる先にの後日談です。

512桜並木:2010/03/19(金) 18:27:28 ID:6BN2YOuk
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/587.html

↑大幅に書きなおしました。設定がちょくちょく変っているので目を通していただけると有難いです。

今から投下します。まぁ多分2スレくらいだと思いますが。

513桜並木:2010/03/19(金) 18:27:49 ID:6BN2YOuk
あっとあとにします。

514ぴんた:2010/03/19(金) 18:33:18 ID:ylDrTAVI
あ。桜並木さんすみません。
自分は書き込みませんので、どうぞです。
紛らわしい文章失礼しました。

515桜並木:2010/03/19(金) 18:39:17 ID:6BN2YOuk
びんたさんすみませんでした。変な誤解をして。
では問題がなければ40くらいに投下します。

516未来からうちの子がやって来た:2010/03/19(金) 18:43:27 ID:6BN2YOuk
八章 奪い合い Spectators_of_sadness

1 2/2 23:00

ミサカネットワークと言う特殊な力がある。

これは学園都市で七人しかいないレベル5の第三位、つまり超電磁砲のDNAから作られた軍用クローン「シスターズ」に備わっている能力で
あり、一種のテレパシーのようなものだ。超電磁砲の劣化版であるシスターズはオリジナルである超電磁砲の1パーセント程しか能力を発
揮できないが、唯一オリジナルにない力がこのミサカネットワークである。おそらく超電磁砲もその気になればシスターズにリンクしてこ
の力を使うことが可能であろうが、どちらにしても脳波の関係で長時間は行使できないだろう。

シスターズ。学園都市でこの単語に聞き覚えがある者は多くはない。逆にこのキーワードを知っていると言うことは学園都市の闇を知る者と
言うことである。非合法な人間クローンに留まらず、実験と評して一万人もの人間を平然と殺める学園都市の大きな闇を。

そして軍用クローンとして製造されたシスターズにはもちろん一切の自由がない。ただ実験のためだけに生まれ、ただ実験のために死ぬ運
命に彼女たちはいる。どんなに嬲られ、蔑まれ、バラバラにされようとも彼女たちには何も言う資格がない。

しかしそれは彼女たちが実験動物だったときの話。今では普通の少女とまではいかないが、ある程度自由が与えられている。



「はぁ………はぁ………はぁ………はぁ………くぁ………」

シスターズの一人、検体番号10321号はとにかく走りまくっていた。明確な目的地があるわけではない。だがスカートがめくれ、縞々
のパンツが丸見えになっても速度を落とすことはない。とにかく焦っているのだ。強いて言えば目的地はミサカネットワークが使用できる
ところ。彼女たちのミサカネットワークも万能と言うわけではない。電波が届かない場所になったらもちろんその力は行使できない。不幸
なことにかなり広範囲に強力なジャミングが発生していたので使えなかったのである。だから、走っているのだ。


「たたた、た、大変です!!!とミサカは自分が見たものに驚きを隠せません!!」

ようやくミサカネットワークが使える(と感じた)ところに着いた10321号は自分の分身たちに事の成りを説明し始める。

「どうしたのですか、藪から棒に?とミサカ10032号は10321号の慌てぶりに若干引きつつ説明を要求します」

人は環境やストレスなど、各々感じる様々な刺激で違う性格に育つ。それは遺伝子レベルで同じ肉体を持ち、学習装置で同じ精神に組み上
げられたシスターズにも言える事だ。元々はほとんど差はなかったのだが、少しずつ個人差が生まれ始めている。それは心身共に言える事
で、何かと怒りっぽい性格の者もいれば、抜けているというか、ぼーとしている者もいる。体のサイズも様々で、彼女たちはそれを気にし
ている。しかし、やはり根本的に同じ心、同じ体なので一番最初に思うことや、気になることは大体同じなのである。

「あああ、『あの人』とお姉様のことです!!とミサカはあまりにも衝撃的な光景だったのでもう気絶しそうです!!」

「「「「「「「「!!!???い、一体何が!!??!?!?」」」」」」」」」

だから一様に、シスターズは自分たちを実験から救ってくれた『あの人』に好印象を持っている。シスターズだって肉体年齢で言えば14、
15歳とお年頃。仮にも命を救ってくれた恩人が自分たちと同じくらいの歳なら気になって当然のことだ。それに彼女たちに『男性』と
言うのは極端な3人の人間しかいない。

まず『自分たちを殺してきた者』。次に『体の調整をしてくれる者』。そして『救ってくれた「あの人」』。最初の一人目は歪な者だった
が、実験が中止されたのを拍子に『守ってくれる者』に変わった。しかしだからと言って、その一人目に恨みがないといえば嘘になる。

実験の最中のシスターズは、何も全く感情がないわけではなかった。もちろん命令されれば言われた通り死んだし、どんな事でも文句の一
つも零さず実行したが内心不満はあった。それに単純に「痛い」というのが一番辛いことだった。シスターズの思考は先も述べたように、
ミサカネットワークで共有している。しかしそれは痛みも伴うことなのだ。つまり今まで一万回殺されてきた記憶が、生きている彼女たち
の中に記憶されている。確かに自分たちを命がけで助けてくれている事には心から感謝している。しかしそれと同様に許そうとする心も
「痛みの記憶」で押し殺される。

517未来からうちの子がやって来た:2010/03/19(金) 18:44:12 ID:6BN2YOuk
一番最初のシスターズ、検体番号00001号の時の記憶だってちゃんと覚えている。
「なんでこんな事をしないといけないのか、そもそも自分は誰だろう?」、そう00001号は思っていたようだ。
そして00001号が考えをまとめる暇もなくあっけなく殺され、次の00002号の記憶は00001号が殺された時の痛みに恐怖する
ものだ。そして再び襲い掛かる死と絶望。00002号は死の直前、恐怖のあまり心臓麻痺で死んだ。
そういう風に恐怖と痛みは積み重なっていき、09000号を越えたあたりで痛みは当然になっていた。しかし恐怖はどうにもならないく
らい巨大になっていた。自分の番号が宣告されたときの絶望と悲しみと未練。いや、未練はない。むしろ未練がないことが未練なのだ。
この世に自分がいた証がない。誰にも愛されず、知られない。どんなに叫ぼうとも自分たちの慟哭と悲鳴は実験と言う絶対に掻き消され、
無残にも『自分で自分を用済みとして焼却』する。死体が燃えるところを見ていると「いつか自分もこんな風になってしまうのだろうか・・・」
と番号を数えては現実と言う壁にぶち当たる。そんな事を彼女たちは未だに悪夢としてみることが何度もある。

だから自分たちを救ってくれた『あの人』、上条当麻には感謝しきれないほど感謝しているし、出来ることなら一生そばにいて、必要とさ
れる存在になりたいと願っている。

それが『恋』という感情だということに彼女たちはまだ気付いていない。だから『失恋』という感情もよく分からない。

「お姉様とあの人に赤ちゃんが出来たようですってかもう5歳くらいの元気なぐあああああああああ!!!!」

「「「「「「「「「「「「「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!??!?!?!?!?!」」」」」」」」」」」」」」」


故にある計画が発動されようとされていた。

518未来からうちの子がやって来た:2010/03/19(金) 18:47:56 ID:6BN2YOuk
第九章 鬼姫 Captivate_JUDGMENT

1 2/3 10:00

朝だ。特にいつもと変わらない普通の朝。強いて言えば二月にしては温かい朝だ。太陽が「今日も一日働くかー」と日光を出している。
しかしそんな普通の朝の中、エプロン姿の御坂美琴は普通ではなかった。加えて言うと台所も普通ではなかった。

(う………うへええわああああああああああ!!!!????ど、どうしよう………)

美琴はしゃがんだりくるくる回ったり頭を抱えたり、意味の分からない行動をしていた。

御坂美琴(上条美琴と本人は自称したい)はその傲慢無礼な性格からは全く想像できないが、そのまま嫁に出しても問題ないくらいに家庭スキルが高い。服を縫う事なんて朝飯前というか昨日の晩飯前くらいで、料理に関しては経験こそ少なく不慣れなところがあるが、それでも十分に食べる者を唸らせる程うまく作れる。掃除は誰でも出来るということで特にカウントしないが、強いて例を挙げるなら奇数の靴下を見ると落ち着かなかったり、本の並べ方の基準は種類別ではなく、本の大きさであったり〜などなど。

何故これほどまでに家庭スキルが高いのか。周りの者に言わせたら「そんなのお姉様の才能に決まっていますわおほほ」だが、それは断じて違う。むしろ生来の美琴はその性格通りのオンチな女の子で、料理なんていざ知らず、お湯の沸かし方も分からない程の生粋の箱入りお嬢様だった。今の美琴があるのは彼女の並々ならぬ努力の賜物だ。ただ、それでも我が強い者は「お姉様の才能っつってんだろ?いっぺん死んどくか?あーん?」と言うかもしれない。だがやはりそうではない。それは周りの者が知らないだけで、美琴は血の滲むような努力を決して口にはせず、ただ黙々と誰も見ないような所で『なりたい自分』に近づくため一生懸命に努力してきたのだ。そんな美琴だからこそ人が集まるし、「あんな人になりたい」「あんな人になれ」と学園都市中でレールガンと尊敬され、畏怖されているのだ。
だがそんな美琴も完璧というわけではない。弘法にも筆の誤り。誰だって慌てたり、焦ったり、緊張したりすれば、得意なことでもミスの一つや二つくらいする。

今、美琴は昨日と同じく上条と美栄(みえ)のために遅めの朝ごはんを作っているのだが、何度やっても満足できる料理が作れない。それは美琴の判断基準が高すぎて満足できないのではなく、何度味見してみても明らかに不味いのだ。このままでは上条にレモンちゃんと正式に呼ばれるのも致し方ない程に。何故、腐ってもお嬢様で何気に努力家である美琴がこのようなことになっているかと言うと。

(ぐ、ぐべぼらべしゃああああああ!?!?!ア、アイツとキ、キスしちゃったああ!!?!?!?好きって言ってちゃったああ!?!??)

後悔というか、未知への航海というか。上条とのキス。それが原因だ。

昨日の『アレ』は計画的なものではない。本当は、ただ上条に自分があのワンピースを着ている姿を見せ、感想とか反応を聞いたり見たりしたかっただけで、あんなことするつもりはなかったのだ。だがフラフラと立ち眩みをしている無防備な上条を見たら、どうしても何かしたくなって気付けばキスをしちゃってました〜、というわけだ。おまけに、その場の勢いで「好き」とか「キスして」とか自分の心の中を全て暴露してしまった。それは考え方によっては体の隅々を見られてしまうことより恥ずかしいことだ。美琴の顔はかーと更に赤みを増す。

まぁ「もう何であんな事したの!?」って感じなのだが、何もあの出来事をなかったことにしたいわけではない。むしろあれをなかったことにしてしまったら、もう一生キスなんて恐ろしいものできない気がするし、二度とああいう自分を上条に見せられないような気がする。それは少し嫌だなと美琴は思う。何よりなかった事になったら、私の勇気とか努力とかはどうなんだー!?って感じなのでそのままの現実にしておきたいのが本音だ。

「………………………にしてもアイツ………………、いつもあんなに優しかったらいいのになー………………………」

美琴は昨日上条が言ってくれた優しい言葉を思い出す。それは黄色で、水色で、黄緑で、オレンジで、ピンクで。嫌いな色が一つもなかった。

(………もっと素直になって、私の考えていること思っていることをアイツに伝えたい。難しいことかもしれないけど、少しずつでいいからもっとアイツの事を知りたい。あの時みたいになって、目の動き一つで思っている事が全部分かるくらい………って!ふわああ!!??な、何考えてんのよ私!!??そ、それより!!ア、アアア、アイツ、起きたらなんて言ってくるかしら!!!???も、もし変な女の子だと思われて軽蔑されたらどうしよう!!??)

519未来からry):2010/03/19(金) 18:49:16 ID:6BN2YOuk
美琴は起きてからというもの、そんなことばかり考えているので何にも集中できない。こんな状態で料理を作ろうとしているものだからうまい物が出来ないのも道理だ。
まず、材料の確認をしていない。砂糖と塩を間違えるのは当たり前。味噌と胡麻だれと間違え、胡麻だれ汁(味噌汁の類だと信じたい)を作ったり、仕舞いには米(ただしその100%が誤ってパンカスをこねた物である)を炊いたり、もうやりたい放題だ。

「………はぁ………はぁ………と、とりあえず、今は料理作んのに集中しろ私………これでご飯不味かったら本当に軽蔑されんぞ………」

これで何度目のトライか。美琴は失敗するたび同じようなことを自分に言い聞かせ、結局途中から「あ、あれ!?昨日何したっけ!?あれ!?どこまで!?キス!?キスまで!?」と過去を振り返るのに切磋琢磨になってしまっているのだ。それで出来上がるのがダークマター(暗黒物質)というわけである。アニメなどでよくある紫のヘドロみたいなものを想像してもらえばわかりやすいだろう。

そこに。

「………………マ、ママ………おはよ………」

美栄が台所の入り口に立っていた。

「わっ………と………み、美栄か………おはよう………」

今美栄の着ているパジャマは昨日美琴が薦めた物でゲコ太シリーズの最新作だ。かなりグッドにハッピーにキュートだと美琴は思う。ちなみに美栄が未来から来たとき着ていた服は見たことがないゲコ太シリーズ(ゲコ太郎と言うゲコ太の子供にあたるらしいキャラクターがプリントアウトされている)で、改めてそう遠くない未来に思いをはせる美琴なのだった。実際その服は美琴が美栄の4歳の誕生日にくれた物らしい。そこまでは心暖まるファミリーストーリーなのだ。しかし美栄はやたら服の洗い方とか保存方法について厳しく指摘してくるのだ。まぁ大切にしてくれるのは嬉しいのだが、その指摘の度合いが小姑並みで正直美琴は滅入っていた。そのくせ、服は何かを零したようなシミがあるし、それを雑に洗ったような跡もあるし、色も所々落ちてるし、とても大切に使っているとは思えなかった。
美琴は昨日の夜のことを思い出す。

『ちょ、ちょっとママ!そのふくはべつにあらってよ!』
『え?どうして?』
『どうしてってどうしても!このふくはママがアタシの4さいのたんじょうびにくれたものだから!』
『あ、そ、そうなの?よく覚えてるわね……、んーわかったわ……じゃあ、先に洗うね』
『あーあーあーあ、ちがうちがう!これはむしてあらうとくべつせいなの!センタッキであらったらいろがおちちゃうでしょミコトさん!』
『……そ、そうですよね……、……すみません……。じゃ、じゃあ今のうちに乾燥機に入れとくから、美栄は先にお風呂入っちゃいなさいな』
『ぶうぃー!べつにいいんですよアタシはおふろにはいらなくても!だからママがちゃんとあらうかどうかチェックします!』
『……えぇー……(……そんなに大切な服なのかな……?……結構雑に洗われてるみたいだし、シワもあるし、シミみたいなのもあるけど……)』
『はやくはやく〜』

………………………………。

(……ふっ……可愛いは正義……か。……恐ろしい……)

「……、あのねーママ?……ひっく」

ん?と美琴は改めて美栄の顔を見る。美栄の顔は遠くから見たら一見ただ顔が赤くなっているだけのように見える。しかしよく見てみれば泣いたような跡があった。涙の跡はサーカスなどで見るピエロのメイクの様に目の周りに拡散している。

「っ!?ど、どうしたのよその顔!?何かあったの!?み、美栄!?どこか痛いの!?」

ドダダダ!と美栄に近づいた美琴は慌てて美栄の体を弄りまくる。が、特に腫れているような所はない。

520未来からry):2010/03/19(金) 18:50:12 ID:6BN2YOuk
(んー?どこか攣ったのかな……でもそんな感じじゃないし……怖い夢とか……?)

「ねー美栄?何があったの?ママに話してごらん……?」

「……ふぇ……ぐす……とみせかけて!ひっく……………だ、だいすきー!!」

そういって美栄は美琴のお腹に飛びつく。笑っている。いや、泣いている。いや。笑いながら泣いている。こういう表情は何というのか。美栄は喜んでいるのも確かようだが、涙も流れていてどこかぎこちないものを連想させる。食べ物に例えるならさしずめラーメンの上にチョコレートケーキがドンッと乗っかっているような感じだ。

「?????………………ホントどうしたのよ美栄?………………なんか変よ?」

「カ、カミジョーさんはママがだいすきなのです!ひっく………………」

「………??う、うん………み、美栄………?嬉しいの?悲しいの?」

「う、うれしいもん!ひっく………」

「………………?だ、大丈夫????」

美琴は美栄の背中をよしよし〜と撫でる。

2分。

美栄はすぐに泣き止んだ。

「……よしよし…………美栄?もう大丈夫?」

「……う、うん……ごめんなさいママ……」

「い、いや、別に謝らなくてもいいのよ。泣きたい時は泣いたっていいのよ(5歳ってそういう……、泣くほど母親に甘えたい年頃……だったっけ……)」

美琴は勝手に推測しつつ美栄の泣き跡を顔の汚れをエプロンで拭う。泣き止んで落ち着いてきた美栄が美琴のエプロンをぎゅっと握り締め上目遣いで美琴をうるうると見つめ、

「………あのね、ママはアタシのことすき?……きらい?」

「え?」

「………………………きらい?」

「え!?あ、いやいや!好きに決まってんじゃない!美栄が私を好きな1000倍以上好きだってば!」

美琴は美栄を抱きしめている腕に更に力を込める。美栄はそれに満足なのか嬉しそうに美琴のお腹にグルングルンと顔を埋める。

「…………、じゃあパパは?」

「にょわわ!?な、なんでよ!?」

「……、きらいなの?」

「あ……い、いや、き、嫌いじゃない…………………………………す、好き……だけど……」

「………プ………あははははは!!ママかおあかーい!!」

「ふぇ……?って、こ、こら!からかわないでよ!」

「あはははは!そ、そ、それよりなにつくってるの………………ププフ………なんかすごいことになってるね!」

「もう………。ま、まぁ………そ、そうね………凄い事になってるわね………」

『すごい物』を作っていたのは本当だ。今台所はかなり際どい匂いが漂っており、キッチンはどす黒い液体があちこちに飛び散っている。普通の神経の持ち主がこの状況を見たら、衛生法ギリギリの化学工場か魔女の工房を連想するだろう。それほどひどい有様だ。これを綺麗にするにはかなりの時間が必要とされるだろう。恐らくそんなことをしていたら料理の途中で上条は起きてしまう。結論を言うともう凝った料理は作れない。

「ちょっと張り切っちゃって………ね………あは、あはは………」

(………できれば見られたくなかったけど………もうパンでいいかな………でも昨日あんな事しちゃったし………その翌日にパンってどうかしら………?適当なやつとか空気読めないとか………アイツに思われたりしないわよね………?)

しかしもうそれしか選択肢がないのは事実。仕方なく美琴は冷蔵庫の中にあったパンをトーストに放り込む。

「はぁー………………昼で挽回するしかないわねこりゃ………」

521未来からry):2010/03/19(金) 18:50:28 ID:6BN2YOuk
一応材料はまだかなりある。あと2,3日は何も買わずとも大丈夫だ。しかし美琴のそんな様子を見ていた美栄は美琴のエプロンの裾をくいっとひっぱり指をくわえる可愛い仕草で「………ママー?ごはんないのー………?」と呟いた。正直時間がないので、やや罪悪感はあるが仕方ないものは仕方ないのだ。

「い、いやあるわよ………?パンだけど………」

「えぇー……」

明らかに不満そうだ。どうもこの美栄と言う少女。かなりの美食家のようだ。昨日の朝美琴が作った渾身の朝ごはんにも60点くらいの顔をしていたし、遊園地でハンバーガーを注文したら「こんなジャンクなものたべられないー」とか平然と言ってのけていた。それは暗に将来自分の料理の腕が相当なものを示すと言うことなのだろうだが、どこか納得できないと言うかなんと言うか。そういうくせ、クッキーやカロリーメイト、チョコレートなどの甘そうなお菓子はよく好んで食べている。美栄の服のポケットには常に何かしら食べ物が入っており、やはりそのほとんどがお菓子だ。甘いものが好きなのは美琴も同じなので強くはいえないが、親心から美栄には可愛い女の子になって欲しい美琴としてはあんまりそういうものは食べて欲しくない。太るし、腫れ物が出来たりするので程ほどにして欲しい所なのだが何度止めても一向にやめようとしない。一回「そんなに食べると太ってパパみたいな人と結婚できないぞー?」と忠告したら「ええ!?うそ!!で、でも!こっちにいるあいだだけだもん!かえったらやめるもん!!」とそれでも食べ続ける美栄に美琴は本気で心配になった。

そう思い出したらやっぱり無理やりにでも取り上げるべきかと美琴は迷ってきた。

(………うーん………。それにしても………帰る、か………。まぁ………いつかはその日が来ちゃうんだよね………)

美栄が来てからと言うもの美琴の時間は光り輝いていた。でもそれには制限時間がある。それに未来の自分たちだって、何とか美栄を探そうと必死だろう。美栄は「………て、てがみおいてきたからだいじょうぶだよ………?たぶん………」と言っていたがそれが未来の自分たちにとってどれくらい気休めになるか。

上条がいた。

522桜並木:2010/03/19(金) 18:57:05 ID:6BN2YOuk
以上です。なんか中途半端ですが・・・。ちなみに言っておくと今回のはフラグ回なのであんまりいちゃいちゃしてません。

あとこのシリーズは長期休載いたします。理由は公式設定が変わってしまうのを恐れているのもありますが、自分自身高校三年生と大切な時期だからです。
最初は勉強もssもどっちも両立しようと思っていましたが、この二カ月で学力が著しく低下し不可能と結論づけました。自分勝手なのは分かっていますが、かなり長い期間休載させていただきます。本当に申し訳ありません。

523■■■■:2010/03/19(金) 19:29:05 ID:.EUQn7bA
頑張れ!!

524:2010/03/19(金) 19:40:00 ID:6IPN6w5g
投下間が狭くて申し訳ありませんが、今日は今くらいしか機会がないので、どうかご容赦を…
今回の注意点は初春と佐天が…って感じですw

では【side by side】投下します。
消費レスは6の予定。

525【side by side】―ホワイトデー―(6):2010/03/19(金) 19:40:58 ID:6IPN6w5g
「―――あの二人、良い雰囲気になってきましたね…。始めは無理を言ったせいかギクシャクしてましたが、結果オーライです」
「御坂さんって気を許した人にはあんな顔するんだ……。この時の御坂さん、かわいい…」
「お、お姉様ったら……私にもあんな顔をされたことないのに…」

二人が自分達だけの世界に入った頃、それに比例して初春と佐天はテンションが増し、黒子は自分でも見たことのないような表情をする美琴を見てショックを受けていた。
なんやかんやで美琴と上条が二人で話を始めてから30分近く経っており、当然のごとくファミレスで待機している三人はそれを観察している。
始めは前述の通り、ギクシャクしていたため初春と佐天は若干の後悔をしていた。
しかし段々外から見ているだけでもわかるほど、彼らの雰囲気は一変。
彼女達の心にはもう後悔など既に存在しない。
むしろ特に初春と佐天のテンションは上がる一方で、そのテンションはおかしな方向にまで向いていた。

「うう…会話が聞けないのが残念!!……一体二人はどんな会話してるんだろう」
「わからないなら想像(妄想)するまでですよ佐天さん!!」
「!?……そうだね、初春。…あたし、大事なこと忘れてたよ!!」
「そうですよ!佐天さんともあろう人が何言ってるんですか!」
「……」

二人は調子がうなぎ登りで上がってゆき、どこかの劇のワンシーンにも似たものをやり始める。
一方で黒子はそんな二人を静観していた。
単に二人を止めるのが馬鹿馬鹿しくもあり、面倒なのこともあるが、そこそこ人通りのある大通りの片道で、真っ昼間にもかかわらず桃色空間を醸し出す上条と美琴の様子を見て、少し複雑な心境だったからである。
自分が最も慕う人物、御坂美琴の相手である上条ことは彼女も認めた。
しかも、二人が結ばれるに至るまでの最大の立役者は自分だと言っても過言ではないだろう。
だからこそ複雑だった。
この頃は平日休日問わず、美琴はほとんど毎日上条と一緒に時間を過ごす。
偶に夜に寮で話をしたとしても、自分と美琴の話題は上条の事ばかり。

―――つまり、美琴は自分のことを全く見てくれない。

黒子は美琴を最も慕っていているからこそ、彼女の幸せも願ってはいる。
反面、全く構ってくれないのも寂しい。
美琴が自分から離れ、どこかに行ってしまうようで。
認めたはずなのに、自分から応援して二人を結ばせたのに、この感情は止まらない。
黒子はただひたすらにこれから生まれる寂寥感に駆られていた。

526ぴんた:2010/03/19(金) 19:41:06 ID:ylDrTAVI
桜並木さんGJです。
勉強の方頑張って下さい!

527【side by side】―ホワイトデー―(7):2010/03/19(金) 19:41:31 ID:6IPN6w5g
「……ところで、今何時だ?」
「今は……うわっ、もう一時前だ。となると一時間近くしゃべってたのかしら?」

ファミレスで三人(主に二人)に観察されているとも露知らず、あれからさらに30分程経っていた。
正確にはファミレスの中の三人のみならず、道ゆく人達もジロジロ見たりしていたのだが、もちろん二人は気づいていない。

「一時!?やべえ、そろそろ取りかかんねえと……って俺まだ飯も食ってねえし!!」
「そ、そうなの…?ならもっと早くに言ってくれればよかったのに…。なんならご飯一緒に食べる?」

美琴からの誘いに上条は迷う。
しかし、受けてしまえばまた時間がかかってしまうのは必然。
とにかく上条には時間がなかった。

「……悪い!また今度な!……というか明日にしようか?いや、それがいいうんそうしよう」
「うん…え?……ええ!?」
「何をそんな驚いてるんだよ。それじゃあ美琴、またな!」

返事を待たずして、上条は美琴に背を向け走り出す。

「へ?あ、ちょ、ちょっと当麻、待ちなさいってば!!」
「詳しくはまた夜にでも連絡すっからぁー!!」

美琴の制止にも構わず、上条は顔だけを彼女に向けて叫びながら走り、その姿を消した。

「……ってことは明日はアイツとご飯食べてからどっか行って、アイツ手作りのお菓子もらえるってことなのかな…?……えへへ」

美琴は一人呟いて、明日にあるであろうデートを想像して無意識に顔を緩ませた。
その様子は事情を知っている者達から見れば、思うところがある場面だろうが、知らない者達から見れば、奇妙なものとして映ったかもしれない。

528【side by side】―ホワイトデー―(8):2010/03/19(金) 19:42:03 ID:6IPN6w5g
美琴は数分その場で立ち尽くした後、後輩達の待つファミレスへ戻った。
そこに行き着くまでの彼女の足取りは三人の狙い通り、ふわふわとして浮き足立っている。
とは言え、この計画の立案者たる一人はあまり素直に喜べずにいるのだが…

佐(こ、これは…!?)
初(計算通りです!)

美琴が未だに顔を緩ませた状態で元の席に着くと、待ってましたと言わんばかりに佐天と初春が彼女にくいつく。
二人のテンションは先程からの妄想やらで最高潮に達しており、留まるところを知らない。

佐「み、みみ御坂さん!?お話を、私達にお土産話を――!!」
初「今はそういう気分ですよね!?そうですよね!?是非とも話してください!!」
美「うえぇっ!?ちょ、ちょっとアンタ達…!?」
初「今は反論は受け付けません。さぁ、早く!」

実際、今の美琴の気分は先程話していたところの"そういう気分"だ。
放っておけば恥ずかしがらず、自然と口を開いていただろう。
いつもなら黒子に対して聞かれてもないのにしゃべっていた。
だが今は執拗に求められている。
流石に"そういう気分"だからといっても、こうなれば恥ずかしさが先行する。

美「えっと…とりあえず落ち着こう、ね?」
初「御坂さん、私達ずっと待ってたんです」
美「……は?」
初「私達は御坂さんと彼氏さんが楽しくお喋りをしている間中、帰らずにここでず―っと待ってたんですよ、えぇ一時間も!」
美「うぅ…」
初「人をそこまで待たせてたんですから、お話くらいいいでしょう?」
美「…………はぃ」

美琴にとって初春は後輩。
しかも能力者としても美琴は超能力者であるのに対して、初春は低能力者。
にもかかわらず、今は美琴が初春に完全に屈しているその光景は、以前学園都市最強の超能力者の第一位を学園都市最弱の無能力者が倒す光景に似たものがあった。
しかも初春にはまだ佐天という味方がいる。
孤立無援の状態で美琴に逃げ場はもう存在しない。

美「……じゃあ何を話せばいいの?」
佐「そうですねぇ……やっぱり、まずはバレンタインの時が聞きたいです」
美「……バレンタイン?」
佐「結局あの後どうなったか…私、心配で心配…」
初「ですよねー。相談の成果とかも聞きたいですし」
美「ちょ、ちょっと待ってね……本気で?
初佐「「本気です♪」」
美「………」

とっさに美琴は黒子の方を向くも、黒子は我関せずと言わんばかりに反応せず、お上品にお茶を飲んでいる。
いつも二人は息ピッタリで美琴は普段ならそれが羨ましくも思っていた。
だが今日この時だけはそうは思えず、彼女の目には二人はやたらと憎たらしく映った。

529【side by side】―ホワイトデー―(9):2010/03/19(金) 19:42:33 ID:6IPN6w5g
美(ば、バレンタインって……アレを言うの!?む、無理!恥ずかしすぎる!!)

バレンタインには色々なことがあった。
会ってすぐに手を繋ぎ、二人で食事をし、ネックレスを買い、そしてケーキを渡して告白。
それは一度は断られたに思えたが、それは実は嘘でちゃんと受け入れてくれたこと。
そして、

美(き、きききキスもしちゃったわよ!?そ、それにすっごい甘えちゃったし……こんなのを言えと!?)

実を言うと、その日の詳細は黒子にすら言っていない。
概要こそ帰ってきた直後の気分でしゃべったものの、流石に後半にしたことまでは言えなかった。
あの時の気分でも言えなかったことが、勿論今の中途半端な気分で言えるはずがない。
美琴は横目で二人の様子を確認する。
目を星のように輝かせてという表現はまさにこの時に使うべきものだろう。
二人の期待に満ちた目には、確かに擬似的な星を美琴は見た。
とても断れる雰囲気ではない。

初「御坂さん」
美「?」

顔を赤く染め、頭を抱える美琴を見かねたのか初春が口を開く。

初「早く言わないと、衛星のカメラをハックして見ちゃいますけど?」
美「!?」

初春はニッコリと小悪魔的笑みを美琴に向けながら、自前のノートパソコンの起動準備にかかる。
美琴は彼女のハッキングの腕が能力により補強された自分と同等かそれ以上なことは承知済みだ。
そんな彼女が真剣にハッキングにかかればどうなるか。
リスクはあるだろうが、恐らく衛星の監視カメラでさえできてしまうかもしれない。
口で言うのはなんとでもなる。
だがアレを見られるのは美琴としては色々終わってしまう。
後輩達にベタベタな自分を見られるなど決してあってはならない。

530【side by side】―ホワイトデー―(9):2010/03/19(金) 19:43:07 ID:6IPN6w5g
美「話す!ちゃんと話すからそれだけは止めて!!」
初「そうですか?ではお願いします(まあ、どちらにせよ見ますけど♪)」
佐(う、初春怖っ!)

初春の隣にいる佐天であっても少し聞き取り辛い程の声量での初春の呟きに、佐天は若干の恐怖を覚えた。
こういうこともあり、実は初春の中ではバレンタインに何があったかさほど重要ではない。
全く重要ではないわけではないが、それよりも見たかったものがあったため優先順位はそれよりも下だ。
その彼女にとってより重要なことは美琴の恥じらう顔を見ることだった。
後輩の前では凛々しい美琴の恥じらう顔は彼女達にとっては非常にレアなのである。
当の美琴はその呟きが聞こえるわけもなく、真っ赤になった顔を隠すように俯きながら、ぽつぽつと口を開いていく。

美「ば、バレンタインは……始めは待ち合わせをして、その後ご飯食べに行って、店に寄って、最後に待ち合わせ場所に戻って話をして解散しました!以上です!」
佐「ちょ、まとめすぎじゃないですか!?」
美「そ、そんなことないわよ?だって別にバレンタインのこと話せとしか…」

美琴そこまで言ったところで、鋭い視線が自分に向けられていることに気づく。
その視線の主、初春はやはり小悪魔的笑みを向けつつ、手はものすごい速さでパソコンのキーボードをたたいていた。
語らずもわかる、これは『聞きたいことはそれじゃない、早くしないとハッキングは完了しますよ?』と言っている。
美琴はそのあまりの速さに思わず息をのむ。

美「だぁ――!!じゃ何聞きたいか具体的に言ってよ!答えるから!!」
佐「いいんですか!?じゃあじゃあ…」

最早自暴自棄になりかけの美琴を見て、初春は手を止める。
佐天は少しの思考の後に、顔を上げて、

佐「……手はつなぎましたか?」
美「手!?……つ、つないだけど。で、でもそれはなんか成り行きでそうなったというか、無意識の内につないだというか……」

後の方になればなるほど、言葉に勢いはなくなり、小声になってゆく。
一方、佐天と初春はさらにテンションを上げた。

初「(か、かわいい…)結局、チョコは何を贈ったですか?」
美「ケーキ渡した。……一応、美味しいって言われた」
佐「(まあこんな顔されたら大抵の人は落ちますよねぇ…)さっき店に寄ってって言いましたよね?何の店ですか?そして何買ったんですか?」
美「んと、アクセサリーショップに寄って……コレをお揃いで買った」

そう言って美琴は首に掛けていたネックレスを見せる。
これには佐天と初春のみならず、今まで黙っていた黒子も覗きこむ。

白(ッ!!これは…!!)
佐「うわぁキレイですね……ん?この文字は…?初春わかる?」
初「いや、わからないですね…英語、でもないみたいですし……御坂さん、これは?」
美「え?い、いや、それはただその形が気にいったからで、別に意味なんてないわよ?」

531【side by side】―ホワイトデー―(10):2010/03/19(金) 19:44:09 ID:6IPN6w5g
ははは、と美琴は軽く笑いながら答えた。
佐天と初春は多少の疑問は覚えつつも、それでも納得したようで、ネックレスを美琴に返す。
しかし、黒子は違っていた。
卒業後には生徒を社会で活躍できるようにすることを目指して教育をする常盤台中学は、グローバル化へ向かっている世界でも通用するように、多種多様な言語を教える。
一般の高校では習わない言語さえも。
だから黒子には書かれていることが読めた、いや、読めてしまった。
そして、文字とは関係ない他の意味までも…

白(お姉様、そうなんですね…そこまで上条さんを…)

普段の美琴なら、この黒子の微妙な変化もわかったかもしれない。
だが今の美琴は目の前のやたらとつっかかってくる二人の対応で精一杯だった。

佐「こ、告白はいつしたんですか?」
美「……最後、待ち合わせ場所でした」
佐「何て言ったんです?」
美「えぇ!?む、無理!それは流石に言えない!!」

美琴は手も顔も精一杯横に振り、断固拒否の態勢をとる。

初「(流石にこれは無理っぽいですね…)じゃあ…キスはしたんですか?」
美「き、きききキス!?や、やだなあ、まだ初日よ?そんなのするわけ……」
佐「え!したんですか!?うわぁ御坂さんって、意外ににそういうとこは積極的なんですねぇ」
美「なんでそうなんのよ!それに、初めにしてきたのはあっち、よ………あっ」

美琴はわかりやすい誘導尋問にもかかわらず、自ら地雷を踏んだ。
それには美琴のみならず、その場にいる全員がしばらく言葉を失っていた。
そして、美琴はあまりの恥ずかしさによりただでさえ赤かった顔が、さらにみるみるうちに赤く染まってゆき、

美「…ふ」
初佐「「…ふ?」」
美「ふにゃー」
初佐「「えええぇぇぇぇぇ!!!???ちょっと御坂さ―――ん!!!!!」」

辺りに美琴の漏電した電撃が迸る。
無論、その対策の要の上条当麻は今ここにはいない。
その日、そのファミレスはたった一つの出来事により当分の間営業停止にまで追い込まれた。

532:2010/03/19(金) 19:46:28 ID:6IPN6w5g
以上です。
レスは5だった…
今回は恥じらう美琴を楽しんでいただけたらと思います。

では失礼します。
ありがとうございました。
少しでも皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。

>>桜並木さん
パニクる美琴が可愛いw
個人的には好きな作品でしたので、休載は寂しいです…
が、私もようやく受験を終えて、その重要さもわかっているつもりなので心から応援します!
大変でしょうが頑張って!

533ぴんた:2010/03/19(金) 19:56:15 ID:ylDrTAVI
蒼さんGJです!
途中で入ってしまって申し訳ありませんでした。

534:2010/03/19(金) 20:26:18 ID:6IPN6w5g
ぎゃーーーす!!
なんかおかしいと思ってよくみたら9が2つある…orz
ミス多くてすいません…

535■■■■:2010/03/19(金) 20:44:05 ID:rKRq2wQ6
>>522
GJです!
思い出して、大騒ぎする美琴ってかわいいw
上条さんの様子も気になります
休載はさびしいですが、落ち着いたらまた投稿してくださいね

>>532
GJです!
黒春と佐天に問いただされる美琴はかわいいですね


毎日いちゃいちゃ成分が潤うこのスレ
幸せです

536■■■■:2010/03/19(金) 20:52:29 ID:YreG1U7g
>>522
受験が終わる前に原作終わって板自体が廃れてそうだが・・・
と脅しをかけてみるが、とにかく受験頑張って。GJでした。

>>532
GJ。ふと思うとこの状態の美琴は傍からしたら迷惑極まりないなw

537桜並木:2010/03/19(金) 20:57:55 ID:6BN2YOuk
言い忘れてました。wiki管理人さん。章の切れ目がおかしいところが多々あるかと思います。これは編集の仕方が分からなかったためで、何か違和感を感じたら勝手にページを増設したり、区切りを変更してもらって構いません。

あと重ねて言いますが今まで書いたものを大幅に書きおなしました。以前地の文がおかしいと言われたためです。リテイクというかリメイクと言ったほうがいいかもしれません。それほど大量に書き換えました。正直こちらに投下しようか迷いましたが、一応流れは同じだし書きなおしたものなので保管庫のほうに投下した次第です。
見直していただかないと今後(と言ってもかなり先になるわけですが・・・)意味不明な展開になってしまうかもしれません。少し長いのでじっくり読んでいただけたら嬉しいです。
それと少しネタばれですが3月当初でアクセラレータなどを絡ませたバトルものを計画していました。実際もうそこまで書き終わっているのですがバトルものがあまりにも面白すぎて、その前提になる話をないがしろにしてしまいこんな中途半端なところまでしか投稿できなかったのです。本当に申し訳ありません。待ってくれている方々には本当に土下座の一言です。気長に待っていただければこれ幸いです。

538■■■■:2010/03/19(金) 21:37:47 ID:eznsaPrQ
>>532
GJ!!
やはり、美琴には上条さんが、色んな意味で必要不可欠だったと言うことですね。わかります。

>>537
よし、禁書終わるまで待とう。そしてGJでした。はい。

539ナヒるハ:2010/03/19(金) 23:30:25 ID:yte5Xfvc
お晩です。
全ての職人様にGJの嵐を。
そして美琴には上条さんを。

ちょうど“合い間”のようですので、ミコトラプソディーの続きを投下したいと思います。
何事もなければ40分頃から。 読んでいただければ幸いです。

540■■■■:2010/03/19(金) 23:39:29 ID:tDXBJHlw
>>537
第4章がありませんでしたよー。

541ナヒるハ:2010/03/19(金) 23:41:19 ID:yte5Xfvc
それでは、投下いたします。
5レスほど頂きます。

タイトル:ミコトラプソディー
>>196-200 および >>265-270 の続きとなります。

542ミコトラプソディー <2.5 - 1/5>:2010/03/19(金) 23:42:48 ID:yte5Xfvc

狂想曲2.5 [御坂美琴]

夜。
二人きり。
彼氏の家。
シャワー。
ワイシャツ一枚。

これだけならば答えは決まってしまうようなものだが……?

シャー……と言う音が部屋一面に響き渡る。
足元からは水の跳ねる音と湧き上る湯気。
全身に勢いよく当たる水流がなんとも気持ち良い。

「はぁ……」

漏れたため息が反響して耳に入る。
だけどすぐに水音にかき消された。

……一体自分は何をやってるんだろう?

熱めのシャワーを頭から浴びて、御坂美琴は考え事をしていた。
シャワーと名が出るとおり、美琴はお風呂に入っている。
それだけならば何の問題もないのだが、肝心なのはその場所。馴染み深い常盤台のそれではなく、上条家のお風呂なのだ。
つまり、ここはホームではなくアウェー。完全なる敵地。や、この場合敵と言うのは正しくないか。

上条当麻は自分の恋人。今、その恋人の家でシャワーを浴びている。
そんな事を他の人が聞いたら、まず間違いなくソッチの方へ話は流れるだろう。
実は美琴もソのつもりだった? いやいや。
実際はこうだった。

「(ど、どうしよう……勢いでここまできちゃったけど、男の人の家に泊まるなんて……! しかも、お風呂にまで入るなんて! 服が……わ、ワイシャツ一枚なんて!)」

確認しよう。御坂美琴は中学生の女の子であり、彼氏はおろか男友達すらいなかった恋愛経験ゼロである。

顔が赤いのは、なにも熱めのシャワーを浴びてる事だけが理由でない。
むしろそっちはオマケであり、本当の理由は考え事をして赤くなっているのだ。
そこには羞恥心のほかにも緊張が混ざっている。
この後、自分は風呂を出て、上条のワイシャツを着て部屋に行くだろう。
その下にあるのは、自らの柔肌と短パン一枚のみ。
ここまでの姿を他の人……男の人に見せたことなんかある筈もないし、恥ずかしくてした事だってない。
しかも相手は恋人である上条当麻。
何も起きない事を明言しているとは言え、それはそれはこの後に起こるかもしれない“出来事”に無用な意識をしてしまう。
美琴も思春期真っ盛りの中学生。もちろんソんな知識も知らないわけではない。

「(もしかしなくても……もしかしたら、あんな事やこんな事が……と、当麻と?)」

自然と視線は前から下へ。具体的には自分の胸部で止まる。
そっと手で触ってみると、ん……まあ柔らかいんじゃないの? と言う実に慎ましいレベルで形を変えた。
一応女の子らしい柔らかな曲線を描いてはいるものの、同年代の子と比べてみてもその双丘は限りなく“丘”であり“山”には程遠い。
少なくてもインデックスには勝っている事は間違いないが、その他は……。
美琴の頭の中で、よく上条の近くにいる女の姿を思い出してみる。

「(や、やっぱりアイツも、大きい方が好きなのかな)」

考えてみると、これまで上条が他の女といる場面に遭遇した中で、いわゆる“巨乳”に分類されるのが半数以上。
当然ながら、自分にはどんなに見栄を張っても分類されることはない。

「(まだ、これからがあるもん。高校生になれば、私だってきっと……!)」

と言う部分まで来て、さっきから自分が何を考えているのか思い直してまた赤面。
実はこれでもう3回目だったり。
とりあえず身体はしっかりと洗っておく。
女の子としての身だしなみもそうだけど“何があっても良いように”。
もちろんこの部分でまた何回かエンドレスして、のぼせ気味で風呂から出たのはそれから更に30分も後だった。

543ミコトラプソディー <2.5 - 2/5>:2010/03/19(金) 23:44:13 ID:yte5Xfvc

「あ、上がったわ……」
「……おぉ、ずいぶんゆっくり入ってた……な」

上条が美琴を見つめたまま固まる。
そりゃそうだ。今の美琴の姿を想像してみよ。何もない方が異常と言える。
しっとりと濡れた髪の毛、ほんのりと赤く上気させた表情、第二ボタンまで開けられたほんのり膨らみのある胸元、袖口から半分顔をのぞかせる小さな手、すらりと伸びた脚、見えるか見えないかの太ももと更にその中の……

「ぐはッ?!」
「え、ちょ、どうしたの?」
「ナ、ナンデモアリマセン。カミジョウサンゲンキデス」
「そ、そう?」

居心地悪そうにもじもじしている美琴。その格好が更に上条を攻め立てているのだが気づく訳がないだろう。
一応自分の格好に恥ずかしさを覚えているのか、若干上条から離れたところに座った。
ここでも一層強調される美琴の太もも。短パンを穿いているらしいが、実のところ穿いてないんじゃないかと言うくらいに際どい部分まで見えてる。
美琴と同じく思春期真っ盛りの、しかも男の子にとってこの光景は絶景以外のなにものでもないはずだ。
一挙手一投足全てが艶かしいで満ちている。
思わず生唾をゴクンと飲み込んだ。

「(こ、これはマズい。精神衛生的にマズい! 殆ど同じ格好をインデックスで何度も見たけど、小さな子供が大人のシャツ着て寝てるようなもんだったから全ッ然気にならなかった……イヤ嘘です。上条当麻は不覚にもインデックスさんに見蕩れたことありますゴメンナサイでした! でもそんなの関係ねえ! 相手が美琴に変わっただけなのに、なのに何故!? 何故美琴が着ただけでこうも変わるの?!)」
「と、当麻。そんなジロジロ見ないでよ。変態」
「しょ、しょうがないだろ! 自分の彼女がそんな格好して近くにいりゃあ誰だって見ちまうっつーの!」
「……えっ?」
「あ! いや、これは……」
「そ、それって、似合ってるって、こと?」
「……そうだよ。不覚にも上条さんトキめいてます! って何言わせるんだ」
「不覚って、なによ……もぅ」

上条にそう言ってもらえて嬉しかったのか、美琴は立ち上がると上条の隣までやって来た。
そのままストンと座ると、上条に身を寄せてピッタリとくっ付く。

「み、美琴さん?! 何故?」
「べ、別に付き合ってるんだから……こ、これくらいは当然よ」
「お前、心臓めっちゃドキドキ言ってるじゃん」
「あ、アンタだって」

お互いにちょっと飛んでるものだから、今がどう言う状態か理解できてない。
シラフの時ならまずもって出来ないだろう。
勢い・テンションと言うのは時に大きな力を生み出す。
もっとも、それが正しい方向かは別として。

「(か、上条さんの鋼の理性が、音を立てて、崩壊中。この破壊力は、上条さん、防げません……!)」
「(わ、私ってば一体なにやってんの!? こっこれってまるで私が誘ってるみたいじゃない!)」
「み、美琴……!」
「ひゃいっ?!」
「お、俺……もう……」
「(えぇー!? そんなつもりじゃなかったのに! や、やっぱアンタも男の子だからそうなっちゃうの……? しょ、しょうがない、よね? 私が誘ったようなものだもんね。怖いけど……でも、当麻になら……!!)」

544ミコトラプソディー <2.5 - 3/5>:2010/03/19(金) 23:45:48 ID:yte5Xfvc

ゆっくりと上条の顔が近づいてくる。
もうこの先に起こるであろう事を想像した美琴は覚悟を決めた。
今日の今日で、と言うのが若干の不安だが、上条にだったら自分の……。
ゆっくりと美琴が目をつぶる。
心臓の鼓動はかつてないほど激しい。
もうあと少しすれば……

「ふ……」
「(……?)」
「風呂入ってくる!」
「……は?」

ガタン! と急に立ち上がった上条が、そっぽを向きながらこんな事をのたまった。
思わず見上げたまま固まる美琴。
あれよあれよと言う間に上条は風呂場へと向かってしまい、状況を理解したのは風呂場からの上条の叫び声を聞いてから。

「ふ、ふにゃー…………」

風呂から上がって少し経つのに、今になってのぼせ上がった美琴は、周囲に電気を撒き散らす暇もなく気を失ってしまった。
幸いすぐ後ろがベットであったため、もたれかかるような姿勢に。
当然ながら、この後上条によって発見されるまでそのままなのだが……。

そのころの上条といえば。

「(がああぁぁあぁ?! 結局紳士なんて嘘っぱちじゃねえか! 所詮上条さんは中学生相手に欲情しちまいやがった変態野郎ですよー!!)」

と別の意味で苦悩に満ちていた。
いや、あれはたとえ誰であっても急所を突かれ効果は抜群だったと思う。
むしろあの流れで良くぞ耐えた、と言った所か。
甘い雰囲気になるのはまだ早い。始まって一日も経っていないのだから。

とまあそれは横に置くとして、この季節にしては場違いな位冷たいシャワーをしこたま浴びた上条が部屋に戻ると、発見されたのは顔を真っ赤にしてノビている美琴の姿。
思わずさっきのことを思い出して上条自身も顔が赤くなったが、今はそれどころではないだろう。
美琴の目の前でしゃがみ込んで、軽く肩を揺すってみた。

「おい、美琴。大丈夫か?」
「……ふにゃぁ〜……」
「………………」

大丈夫じゃなかった。
はあ、と一つため息を吐く。

「……そんな緊張するくらいなら初めから無理するなっつーの」

上条は急激に冷静になっていく自分に気がついた。
美琴がこんなになるまで追いやったのはある意味自分である。
勢いがそうさせたのも確かだが、年長者の自分がしっかりしないとあっという間に崩壊しかねない。
何より、つい夕方に自分で言ったばかりでこの体たらく。
まだまだ上条の紳士としての振る舞いは鍛錬が必要らしい。

「よっと……」

肩とひざ裏に腕を通して、そっと美琴を抱きかかえる。思ったよりもずっと軽いし、何より柔らかい。それに風呂後だからか良い匂いがした。
美琴の横顔がすぐ傍にある。相変わらず起きた様子はない。ならば今が絶好の機会かとばかりに呟いた。

「……今はこれが精一杯だから、これで勘弁してくれな」

545ミコトラプソディー <2.5 - 4/5>:2010/03/19(金) 23:47:23 ID:yte5Xfvc

そう言うと、自分の唇を美琴の頬にそっと押し当てた。
時間にしてほんの一瞬。軽く触れる程度のものであった。
これならば美琴にも気が付かれずに済むだろうと思いきや、赤い顔が更に一瞬で真っ赤になった。
いわば、瞬間沸騰の類か。

「え? ま、まさか美琴さん?」
「……お、起きてるわよ。バカ」
「ど、どの辺りから起きてらっしゃったんでせう?」
「……そんな緊張するくらいなら、って所から」
「メチャクチャ序盤……! あの、これはですね」
「当麻」
「ハ、ハイ」
「できれば、唇に欲しかったな、なんて……」

この時美琴に向けられた視線は、ある意味先ほどの破壊力を上回っていたかもしれない。
女の子とは、かくも可愛いとは思わなかったと新たな一面を見出した上条であったが、今度は理性が押し勝った。
それはまた今度な、と言うと美琴をベットに下ろしてあげて自分もまた隣に座る。

「あ、そうだ。湯上りにアイスでも食うか? インデックスが食い尽くしてなければの話だけど」
「ううん。いい。それよりも、ちょっとこうしていたい、かな?」

ピタリ、と身体をくっつけて、上条の肩に自分の頭を乗せた。
位置は逆だが、夕方の時と同じ体勢だ。

「こうするの、夢だったんだ」
「そ、そうか」
「うん。だって、当麻のことすぐ近くに感じるから」
「抱きしめたほうがいいんじゃねえの?」
「……それはまた今度。だって、私今こんな格好だし?」
「あー……」
「それにね」
「それに?」
「楽しみは、取っておきたいじゃない? いろいろと」

上条の方を向いて、ニッコリと笑った。
喜怒哀楽、様々な表情を今まで見てきたが、やはり美琴には笑顔が一番だと上条は思った。
この笑顔を絶やさないためにも、守るためにも、もっとしっかりしなくてはと再認識する。
そういうのも含めて『御坂美琴とその周りの世界を守る』だという事も。
今この瞬間だけでなく、この先もずっと……。
だから上条はそんな思いも含めて返事をする。

『そうだな』と。

やがて、夜も更けてきてもうそろそろ日付も変わろうかという頃合い。
いくら若いとは言え、あまり夜更かしは褒められたものでないので寝る事に。
……普段から徹夜で追いかけっこしてるじゃんなんてのは薮蛇だ。

「そろそろ寝るか。明日もある事だし」
「うん。あ、でもベットが一つしか……」
「今日はお前が使えばいい。普段はインデックスが使ってるから変な匂いとかもしないはずだ」
「それは全然気にしないけど…(なんだ、当麻の匂いじゃないんだ)…と、当麻はどうするの?」
「俺? 俺はいつも風呂場で寝てるよ。と言ってもまだ乾いてないから後になるけどな」
「風呂場って……そ、そんな。家主追い出して自分だけベットなんて悪いわよ!」
「上条さんはそんな事全然気にしませんよ」
「私が気にするの! とにかくそんなのはダメなんだから」
「じゃあどうすれば……」
「私と一緒に寝たくないの?」
「ぐっ! だ、だからそれはさっきの事もあるからでして」
「じゃあ私が風呂場で寝る」
「それは断固として拒否します!」

あーしろこーしろ、ゼロにするだがことわる……

546ミコトラプソディー <2.5 - 5/5>:2010/03/19(金) 23:49:06 ID:yte5Xfvc

あぁもう埒があかないわね! と言うや否や、上条の手を掴むと自分の方へぐいっと引き寄せた。
当然のことながら逆らえるはずもなく、半ば美琴を押し倒す形で倒れこむ上条。
ベットがギシリと軋みをあげて揺れ、自分のすぐ目の前に倒れこんだ美琴がいる。距離は果てしなくゼロに近い。

「お、おい美琴!」
「いいから、アンタは私と一緒にここで寝るの」
「ったく、自分から誘うやつがいるかよ」
「だって、しょうがないじゃない……アンタと、一緒にいたいんだから」

プイッとそっぽを向いてしまう美琴。
でも言ってる事は本当だ。
つい半日前には想像できなかった事が次々と起きている。
もし今眠ってしまったら、全部夢になってしまうかもしれない。
そう考えると不安なのだ。本当に、自分は上条と一緒になれたのかと。
だから……

「でも、アンタに迷惑かけたくないし、どうしてもって言うなら……」
「わかったよ。じゃあもうちょい奥つめてくれ。このままだと上条さんの寝るスペースがありません」
「え? いいの?」
「その代わり、俺は反対側を向いて寝るからな。あと掛け布団は見てのとおり一組しかないから半分ずつだ」
「う、うん……」

パチンと電気を消すと、ごそごそと美琴が布団に入り、上条もまた納まる。
一人用のベットに二人分の顔。ちょっと狭いけど、お互いのぬくもりがすぐ近くに感じられるからか、なんだか落ち着く気がした。
宣言どおり上条は反対側を向いてしまったので寝顔は見えない。
でも目の前には広くて大きな背中があった。
これくらいならいいよね……と後ろから抱きつくようにして包まる。

「こ、こら美琴!」
「いいじゃないよー。背中くらい貸しなさい」
「まさかこれがやりたかったんじゃないだろうなあ」
「違うわよ。本当は、腕枕とかやって欲しかったなーとは思うけど」
「今はまだ早いです。だからその内、な……」
「うん。わかった。おやすみ、とうま」
「おやすみ。美琴」

真っ暗な空間の中で、好きな人に抱きついて、好きな人の鼓動を感じながら眠る。
興奮して寝れないかと思ったが、思いのほか早くに眠気はやってきて、程なくして美琴は小さな寝息を立て始めた。
めまぐるしくいろんなことがあった一日だ。しかもこんな状態にもなっている。
初日にしてはずいぶんかっ飛んで行ったような、何かと手順をすっ飛ばしたというか。
一方で美琴の規則正しい寝息を感じた上条は、未だ眠気が来ない。
こっちはこっちでむしろお約束的状況だ。
まだ一日目、時間にして半日も経ってないのに一緒に寝てる。
最近の若い子はこんなにも積極的なのか、と思ったほど。
でもすぐに自分もその“若い子”に分類される高校生だと思い出してため息をつく。

「(ったく、しょうがねえな。このお嬢様は)」

本当にしょうがないのはむしろ自分の方かと小さくため息をつくと、美琴の腕を押しつぶさないように慎重に身体の向きを変える。
腕枕なんてまだ早い。これから先でもたくさん出番は来るはずだ。
だけど、それは彼女が願った事。なんだかんだ言いつつも叶えてあげたくなるのが彼氏と言うもの。
これが惚れた弱みとでも言うんだろうか。
美琴の頭を揺らさないようにゆっくり持ち上げると、左腕をそぉっと通して腕枕と思える体勢になった。
必然的に距離は縮まっていて、美琴の寝息が目の前ではっきりと感じられた。
もう片方の腕でそっと頭を撫でてあげる。

「おやすみ、美琴」

なんだか美琴の寝顔が更に穏やかなものになったような気がするが、これは気のせいだろう。
目が覚めた時の美琴は、とても驚くだろうな……。
そう思いながら、安心したように上条もまた目を瞑りやがて眠りへとつく。
明日は土曜日であり、のんびりとした休日が待っている。

金曜日の夜は更けてゆく……
上条と美琴の物語は、まだ始まったばかりだ。


次回、真の敵は常盤台でない? もっと身近なところに潜んでいる!
意外と早く足はつくものだ。
狂想曲3 [初春飾利・佐天涙子]

上条当麻の明日は、どっちだべ?!

547ナヒるハ:2010/03/19(金) 23:51:48 ID:yte5Xfvc
以上です。

次回、もうなんて言うか、この二人は鉄板ですね。
逆にバラバラだと動かせそうもない未熟者をお許しください。

例によって、ここヘン、読みにくいなどありましたらお知らせください。

では。ありがとうございました。

548■■■■:2010/03/20(土) 00:01:22 ID:7fAEccAk
>>547 二人のいちゃつき具合が素敵すぎます。

549■■■■:2010/03/20(土) 00:06:21 ID:D0xfVcWk
>>547
乙。GJですた。

550■■■■:2010/03/20(土) 00:16:07 ID:cgSg1/Pk
ナヒるハぁぁぁぁぁぁっ!
てめーバカヤロー明日学校の打ち上げあるのに貴様のせいでにやにや顔がとまらんだろーがー!!!
でもGJですの

551■■■■:2010/03/20(土) 00:35:42 ID:xpctdleg
>>547
GJです!
二人のいちゃいちゃで、顔が元に戻らない…

552■■■■:2010/03/20(土) 00:43:00 ID:20I52wSg
>>537
すごい続きが気になりますが、待ちます。
大変な時期だと思うが頑張ってください
マジで待ってます!!

553■■■■:2010/03/20(土) 01:25:44 ID:3ZoCSiWw
原作が限りなく美琴エンドだと思うのは俺だけ?

プロポーズ大作戦の最終回みたいな展開になる気がすんだが
山ピーが美琴で長澤が上条さんみたいな

気のせいかな

554■■■■:2010/03/20(土) 08:17:56 ID:I220H4Dw
>>553
お前のような奴が幻想をぶち壊してくれるといいんだがな

>>547
(*´Д`)GJ

555■■■■:2010/03/20(土) 08:33:01 ID:/272zVc2
最近SS書く暇が少ない
読む暇はもっと少ない
後々GJのロングパスしても許してねー

556:2010/03/20(土) 10:37:38 ID:njApJ0Mg
大丈夫そうなのでいきます。
昨日の続きです。
注意点は特になし。でも少しシリアス風味かも?

では【side by side】を投下します。
消費レスは5の予定。

557【side by side】―ホワイトデー―(12):2010/03/20(土) 10:38:31 ID:njApJ0Mg
同日19時、常盤台女子寮

「疲れた…とにかく今日は疲れたわ……」

美琴は一目散に自分のベットへ向かい、重力に逆らわずベットに倒れ込んだ。
あの後、電撃により負傷した初春と佐天を病院まで見送り(黒子は空間移動でファミレスから脱出し、無事だった)、ファミレスの店長に頭をこれ以上ないくらい下げて、自分の漏電による被害の弁償のお金を支払った。
勿論、弁償はお嬢様の美琴であるから払えた額である。
そして他の客達にも色々と謝罪などをしている内にこの時間にまでなってしまった。
さらに幸いにも、門限ギリギリだったため寮監の制裁は避けられたが、注意はされ、それにも精神をすり減らした。

「なんで今日はこんなについてないの…?本当にアイツの不幸が移ったかなぁ……」

ベットに俯きながら一人ごちる。
ちなみに黒子は美琴の謝罪巡りに付き合わず(美琴が拒否したため)、先に寮に帰っており、今は美琴に背を向けて何やらパソコンをいじっている。

(そういえば今日の黒子はなんか変だったわね……会話にもあまり絡んでこなかったし、いつもに比べてものすごく大人しかった…いや、暗かった…?)

様々なことが起きた今日であったが、美琴には気にしていたことがあった。
それは今日の出来事の発案者で美琴をそれに誘った白井黒子のことである。
初春と佐天による集中的な攻撃で、会話中は話すことができなかったが、今となってはやはり気になる。

「ねえ黒子、なんかあったの?いつもより元気ないみたいだけど」
「……」

黒子は視線こそ美琴に向けるが、口を開こうとはしなかった。
しかし、その視線にはどこか寂しさを思わせるものがあることに美琴は気づく。

「えっと……なんかあるんなら相談のるよ?」
「……いえ、大丈夫ですの。これは黒子の問題ですから」
「水くさいなぁ、私にできることならなんでもするよ?」
「だったら、私の願いを聞くことはお姉様の幸せを邪魔することになりますので、尚更結構ですの」

黒子の口調はどこか素っ気ない。
それは恐らく黒子がそれを美琴のことについて知っている人の中で一番わかっているからこそであった。
今の自分の願いの根元はただの嫉妬。
もっと美琴に自分を見てほしいという身勝手極まりない願い。
それを今、幸せを享受している美琴が叶えられるはずがない。
ましてや美琴はあんなネックレスまで送っている。
だからこれは黒子の問題。
黒子自身で解決するしか道はない。
それでも美琴は生来、困っている人や悩んでいる人、苦しんでいる人などをほっとけない性格だ。
なんと言われようと、そこは譲れない。

558【side by side】―ホワイトデー―(13):2010/03/20(土) 10:39:01 ID:njApJ0Mg
「私の幸せの邪魔ってのが気になるけど、それでもいいから話たけでも聞かせてよ」

黒子は思った。
やはりお姉様は優しすぎる。
わざわざ自分の幸せが邪魔されると言われてもなお、踏み込んでくる。
そして思い出す。
自分はこんなお姉様だからこそ慕っていることを。
きっとお姉様はこの自分の身勝手な願いですら真剣に考えてしまう。
それが少しの嬉しさはあるものの、それ以上に許せなかった。
あまりの自分の身勝手さが。
結局はあの頃と何も変わっていない。
自分の身勝手加減で、自分だけならまだしも美琴にまで危険な目に合わせてしまった九月のあの頃と。
美琴のいる世界へ追いつこうと頑張り、迷惑をかけまいとしてきたのに、また迷惑をかけようとしている。
それがどうしても許せなかった。
そう思うと、黒子の目から涙がこぼれだした。
無意識の内に流れた涙は簡単には止まらず、それを隠そうとする彼女の服のそでを濡らす。
それを見た美琴は始めはギョッとしたように驚いたが何も言わず、ゆっくり彼女に近寄り、自分の方を向けさせて抱きしめた。
顔を隠していた黒子も、やがてそれを外し美琴の胸に顔を埋め、美琴の服をまた濡らす。

「……私の推測だけど、もしかして私がアンタに構ってあげてないのが嫌なの?」

黒子は口は開かず、黙って頷く。

「そっか……まあ最近はアイツばっかりで黒子に構ってあげれなかったわね。……それに私はアイツのことが心底好きだし、いつまでも一緒にいたいとも思ってる」

美琴の口調は優しく、黒子はその声を聞いている内に次第に落ち着いていった。

「でもね黒子。私は同様に黒子も好きよ?大切な後輩であり、パートナーなんだから。……だから私は黒子を無視してアイツと付き合ってくつもりはないわよ。あくまでもアンタにも認めてもらいたいしね」
「そう、ですの…」
「うん、そうよ。だから安心して」

黒子はいつかは美琴に追いつきたいと思っていた。
能力者としても人間的にも。
しかし、この優しさだけはいくら頑張っても真似できないと思った。
美琴の優しさは生まれつきの度量があってこそ。
こんな些細なことで嫉妬している内は到達できる域ではないと思ったからだ。
だから、彼女は答えた。

「お姉様、私はこれ以上お姉様に迷惑はかけたくありません。ですからこの件に関しては忘れてくださいませ」
「アンタね、この期に及んでまだそんなこと言ってんの?というか迷惑なんてそんな…」
「お姉様はお姉様の幸せを離さないことだけを考えてくださいな。私の問題は私で解決しますので」

美琴はそれ以上は何も言わなかった。
彼女自身はこの問題を迷惑とは思っていない。
むしろ、越えねばならないハードルだとも考えていた。
だが、黒子の言い分に対しての反論はしなかった。
自分の問題は結局は自分で解決しなければならない。
黒子がそれを望むなら、この場は何も言わない方がいい。
美琴はそう思ったからだ。

559【side by side】―ホワイトデー―(14):2010/03/20(土) 10:39:32 ID:njApJ0Mg
同日21時、上条宅

「お、終わった……とりあえずはこれでいいだろう…」

上条は美琴と別れて帰宅した後、昼食をとりつつ作業に没頭した。
彼が作っていたのはクッキーであり、生地を作ること自体は全体のかかった時間から考えれば大したことはなかった。
だが問題は焼く時間だった。
いくら一人当たりの数は減らしたとはいえ、クッキーの枚数は必然的に多くなり、その一般的な家庭の環境では膨大とも言える量のクッキーを一回でこなせるわけもない。
ましてや今回の作り手は上条当麻である。
一般的な家庭でのオーブンでも数回に分けなくてはいけないであろう量なのに、貧乏な彼が持っているオーブンはそれよりもサイズが小さく、より多くに分けなくてはならない。
それにより彼自体は意外と手持ち無沙汰ではあったものの、時間は恐ろしくかかってしまった。

(問題は美琴の分だよなぁ…作ってはみたものの、どうしたものか)

一応その余った時間で案は出してあった。
そしてその時間で準備も下拵えもして、最後に焼いて完成してはいた。
だが、バレンタインにもらったケーキを思い出すとどうしても霞んでしまう。

(大切なのは気持ちってのもわかるけど、やっぱりな……)

比較対象が悪いのはわかっている。
気持ちが大切なのもわかっている。
しかしそれでも気になる。
上条の料理の腕は一人暮らしのためか、並かそれ以上の腕はある。
かといってお菓子は頻繁に作っているわけではないので、それに関してはあまり経験豊富とは言えない。
だから、明確に失敗したというわけではないがやはり少し自信がない。

(まあなんにせよ、美琴が満足してくれればそれでいいんだが、相手はまがりなりにもお嬢様。……果たしてどうなることやら)

彼女がちゃんと喜んでくれるだろうか。
だが、彼にはそれでは足りないような気がしていた。
そんな一抹の不安を胸に秘めて、作業を終えた上条は一旦台所から離れて自分のベッドに腰掛け、目の前のガラステーブルの上に置いてある携帯電話へ手を伸ばした。

560【side by side】―ホワイトデー―(15):2010/03/20(土) 10:40:04 ID:njApJ0Mg
同日22時頃、常盤台女子寮

美琴は自分の枕に顔を埋め、決して中学生向きとは言えないカエルをモチーフにした携帯電話を手にしてベッドに俯せになっていた。

「アイツ、夜にまた連絡するって言ったわよね…?うん、言った言った……もぉ、早くしてよね」

明日は朝早くに用事があるためか、それとも泣きつかれたのか、この時間にもかかわらず、既に寝てしまっている黒子を横目に美琴は一人呟く。
美琴は黒子が落ち着くまで彼女を抱きしめていた後、彼女から離れベッドで今の体勢のまま、考え事をしていた。
黒子のこと、上条のこと、自分のこと、そしてこれからのこと。
黒子は自分については大丈夫と言った。
上条のことは今まででは他人対して抱いたことのない程、好きだった。
自分はもっとこれからも彼と一緒に進んでいきたいと思っていた。
ではこれらから、これからとるべき行動は?
一見すると簡単なことだ。
上条と一緒にいていればいい。
だが、美琴はその判断を下していいものかと悩んでいた。
黒子はああは言っても、ずっとは放っておけるわけがない。
かといって、そっちに気を向けると今度は上条に会えない。
そのジレンマが美琴を苦しめていた。
ずっと考えていても答えはでない。

(こんな時、当麻なら…)

そんなことを考えると無性に上条の声が聞きたくなった。
こんなとき、いつも救ってくれるのはいつも決まって上条だから。
自分にとってのヒーローであり、自分がこの世で一番大好きな人の。
そうして今に至る。

ゲコゲコ、ゲコゲコ

不意に美琴の携帯からカエルの鳴き声と思しき着信音が発せられた。
美琴は慌てて携帯を開き、ディスプレイを見る。
上条からの電話だ。
心待ちにしていた彼からの電話。
美琴は急いで通話ボタンを押して電話にでる。

「も、もしもし…」
『うーす、今大丈夫か?明日のことなんだけどさ』
「うん、大丈夫…」
『…?なんか元気ねえな、何かあったのか?まあそれはおいといて、明日は12時にいつもの場所でいいか?あ、昼飯は食うなよ』
「えっと、いつもの場所って…自販機前よね?」
『そうそう……って本当に元気なさそうだな、大丈夫か?』

声だけで見抜かれてしまった。
特に隠そうと思っていたわけでもなく、こっちから話そうとしていたことでもあったので、聞かれること自体は嫌ではなかった。
むしろ気づいてくれて少し嬉しい。
声だけでも自分の変化がわかってくれることが。

「うん、ちょっと考え事をね……ねぇ当麻」
『ん?』
「当麻は…今、幸せ?」

561【side by side】―ホワイトデー―(16):2010/03/20(土) 10:40:34 ID:njApJ0Mg
だから聞いてみようと思った。
自分が心配していたことを。
悩みの種の一つを。

『……なんで今そんなことを聞くかは全然わかんねえけど、今俺は幸せだと思うぞ。少なくとも不幸ではないよ』
「そっか、そうよね…うん、ありがとう」
『何かあったのか?……もしかしてまた何かに巻き込まれて!?』
「ううん、違う。ちょっと考え事してただけだって。……だから心配しないで?」

美琴は我ながら酷い声だと思った。
こんな弱々しい声では彼でなくても心配する。
するなと言う方が無茶かもしれない。
それほどその声には力がなく、心細さに満ちていた。

『そうか…ならいいけど。……あんまり無茶はするなよ?何かあれば相談しろよ?』
「うん、ありがとね。それじゃあね、また明日」
『ああ、また明日な』

返事が返ってきたのを確認すると、美琴は電話をきった。
彼女は相談と言える相談はしてない。
質問を一つだけしただけだ。
それでもその答えを聞いて、電話をする前に比べて、した後では心が少し軽くなった気がした。
特に問題の一つも解決したわけでもないのに。

「そっか、幸せか…ならとりあえず明日は今まで通りでいいのかな」

上条の声を聞いて多少なりとも安心した美琴は、疲れもあってか携帯を片手にそのまま眠りについた。

562:2010/03/20(土) 10:41:41 ID:njApJ0Mg
以上です。
こうなるならこれまでのやつ全部を二回に分ければよかったな…

では失礼します。
ありがとうございました。
少しでも皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。

563■■■■:2010/03/20(土) 10:59:21 ID:eXHh2D2g
>>562
GJ!
続きが気になる

564■■■■:2010/03/20(土) 12:53:52 ID:sTVkqdiE
547
GJにやにやがとまらねー
途中騎士団長がいた気が…
562
GJめっちゃ続きが気になる

565■■■■:2010/03/20(土) 17:48:16 ID:SyVZON7A
やばい
見ている間ずっと身悶えていた。
「上条美琴」ありがとう

566かぺら:2010/03/20(土) 19:52:21 ID:syNi97lU
最近、筆の進みが悪いです。助けてくれ。
とりあえず、前半だけでも投下しようかと思ってます。
もう少し推敲するので21時くらいにまた来ますね。

>>桜並木さん
GJです。読んでると子供が欲しくなりますねー
その前に彼女か……orz

>>ナヒるハさん
ニヤニヤしながら読みました。風呂上がりGJw
騎士団長ww

>>蒼さん
黒子が可愛いw
おkしいな、佐天さんファンなんですが……

567かぺら:2010/03/20(土) 21:18:49 ID:syNi97lU
ただいま。投下に来たよ。
バットを持つ佐天さんが可愛くて生きるのが(ry

シリーズタイトル:Dairy Life
*part4「繋がる心(ベストフレンズ)」は>>401-415です

21:25より6レス借ります

568前夜祭(クリスマスイヴ)1:2010/03/20(土) 21:25:29 ID:syNi97lU
12月24日
世間はクリスマスイブ、学園都市を含めた日本全国が無意味に浮かれる日である。
昨夜、晴れて想いが届き、念願の上条との恋愛が始動した御坂美琴は朝からイライラとしていた。
あの後、走り回って久々に電池切れになり寮まで戻ったのだが、美琴がイラついているのは、それが理由ではない。
理由は朝交わした上条とのメールにある。
『当麻、クリスマスの予定は?』
『24日はイギリス清教(インデックスの所属してるやつな)のパーティーに参加予定』
『まぁ、今日は私も予定あるからいいわ。明日よ明日』
『明日は忙しい。無理。じゃ、これからパーティの準備だから』
それ以降、上条からの連絡はない。
「なんなのよ、アイツ!せめて理由くらい教えろっつーの!」
1人の部屋でビリビリとしてみる。同室の白井は朝早くからジャッジメントのお仕事らしい。
夜は佐天の部屋でパーティが開かれる。寮監には家族と過ごすなんて嘘をついていたりするのは内緒だ。
美琴としては、25日くらい恋人同士で過ごしてみたいと思うところだ。
まだデートすらしていないのだから、目の前にイベントがあればそれに飛びつくのは当然であろう。
告白の答えをもらった後も、なんだかんだで甘えることすらできなかった。キスさえも………
美琴は未遂に終わってしまった上条とのキスを思い出す。恥ずかしくて死にそうだ。
なんとか気分を変えないと夜のパーティの空気を悪くしそうだ。
「………あの馬鹿」



上条は英国式の教会にいる。つまりはイギリス清教の教会だ。今日の夜、イギリス清教のパーティが開かれる。
とは言っても、学園都市内であるので、出張してきた『必要悪の教会』のメンバー一部のみの参加である。
参加者は神裂をはじめとした天草式のメンバーにステイル、土御門である。
オルソラやアニェーゼ部隊も来たかったらしいが、いくらなんでもシスターさんが大量に来れるわけはないので、彼女らは英国本国で楽しんでいるだろう。
神裂に聞いた話では毎年のように騎士団長が色々と苦労しているらしく、そのお手伝いもさせられるらしい。
そうまでして学園都市で開かれる理由は学園都市で生活しているインデックスを考慮した結果である。
「美琴には悪いことしたかな……」
上条は携帯を閉じる。
上条としても恋人である美琴と一緒に過ごすクリスマスは魅力的である。そこは絶対だ。
―――あとで何でも埋め合わせはするから、許してくれ―――
閉じた携帯を握りしめる。理由も告げずに美琴に断りを入れた。責任感の強い、彼女を苦しめないために。
「馬鹿だな……俺は」

569前夜祭(クイスマスイヴ)2:2010/03/20(土) 21:25:45 ID:syNi97lU
美琴は白井達4人とやSeventh mistに来ていた。今夜行うクリスマスパーティ用に、プレゼントを買いに来たのだ。
と言っても、お互いに交換し合うのだから内容が分からないように個人行動ではある。
その後、合流して買い出しを済ませ、佐天の寮で準備に取り掛かる予定である。
準備と言ってもクリスマスツリー(美琴が自宅から取り寄せてきたもの)を飾って、夕食を作るだけだ。
美琴は店内をプラプラと歩きながら目ぼしいものをピックアップしていく。
「うーん、他人にあげるものとなると……難しいわね」
美琴は顎に手をやりながら頭を捻る。
値段関して言えば、2000円から3000円くらいと初めに決めてはあるので困ることはない。
だが、見た目で『いいな』と思ったものは大概予算オーバーだし、予算で探せばショボイものばかりである。
もちろん予算内で良いものもあるのだが、そこは常盤台のお嬢様。感覚が違うのである。
2000円ではホットドッグくらいしか買えないわ、とは美琴の談である。
この感覚の違いが、上条との生活において後々問題となってくるのだが、それはもう暫し先の話である。
「黒子相手ならフザケたものでもいいけど……初春さん達にはねぇ」
美琴はランジェリーショップの前まで来ると、布があるのか分からないような紐パンを手に取る。
「………うまく初春さんに回れば面白いんだけど……」
美琴は佐天にスカートを捲られている初春を想像する。
「さ、流石に………可哀想かなぁ」
美琴は紐パンを返すと、となりの店へと歩く。小洒落た雑貨屋さんだ。
ゲコ太を始めとしたファンシーグッズは置いてないので、美琴はあまり御世話になっていないお店だ。
「んー、なかなかいいお店じゃない」
今度から来てみようか、と思いながら、プレゼントになりそうなものを探す。
「御客様、なにかお探しでしょうか?」
「あ、はい。ちょっとクリスマスプレゼントを探してるんです」
キョロキョロとする美琴を見かねて、店員さんが声をかけてくる。
他人の意見も取り入れてみようか、と美琴は店員さんに見繕いをお願いする。
「予算は3000円くらいまでなんですけど、可愛いものありますか?」
「そうですねー。あ、お相手は……彼氏さんですか?」
「あ、いや……友達の女の子にです」
美琴にとって振られたくない話題であった。顔に出なかったか心配になる。
―――たぶん、すごく嫌な顔してる―――
美琴は店内に会った鏡に目をやる。鏡に映った自分は酷く疲れた顔をしていた。
昨夜は幸せの絶頂にいたのに。今は………
「どうしてよ、当麻」
美琴は自分が弱くなった気がした。想えば想うほど、辛くなる。こんな思いをするなら恋なんてするんじゃなかったかな、と思えるほどに。

570前夜祭(クリスマスイヴ)3:2010/03/20(土) 21:26:13 ID:syNi97lU
「久しぶりだね、上条当麻」
「おう、ステイル。どうしたんだよ、そんな怖い顔して。お前、インデックスと飾り作ってたんじゃねぇのかよ?」
上条が教会で飾り付けをしていると黒い不良神父こと、ステイル=マグヌスがやってきた。
「別に。どうにもこの飾り作りとやらは性に会わなくてね。神裂に代わってもらったよ」
ステイルは溜息をつきつつ、上条に折紙が鎖状になった飾りを手渡す。
インデックスと2人きりなのが耐えられなくなったのでは……ない。
「お、さんきゅー。神裂なら……あれだな、過保護すぎて作業が進まないんじゃねぇか?」
不器用なりにも懸命に作るインデックスと、それを必死に手直しする神裂を想像し、上条は吹き出してしまう。
「どうだろうね?神裂は聖人だからな、すごい速度で作ってるかもね」
そう言いながら、ステイルは懐からルーンのカードを取り出して手で弄ぶ。
「さて、上条当麻。ちょっと来てもらおうか」
「な、なんだよ」
「いいから来い」
ステイルは上条を連れて教会の外に出る。ポケットからルーンの紙切れを投げると、あたりに妙な空気が流れる。
「……人払い、か」
「そう。あまり聞かれたくない話なもんでね」
ステイルはそう言うと上条の目の前に立つ。
「上条当麻。これを、左手で持ってもらおうか」
ステイルはラミネート加工されたルーンのカードを上条に差し出す。
「左手?あぁ、右手じゃ『幻想殺し』で壊れちまうからか」
上条はそれを受け取り、興味深そうに見る。
「そんなに面白いものをでもないだろう?」
ステイルは興味深そうな上条に、何を今さら、という顔を向け新しい煙草に火をつける。
いやいや面白いって、と上条は言う。
「この右手で幾つもの魔術をぶっ殺してきたけどよ。こうやってゆっくり見るのは初めてだしな」
これが天使の名前か?と言いつつ、裏表をじっくりと観察する上条にステイルは溜息をつく。
「本題に入るぞ。インデックスの事だ……」
「………」
「僕は言ったはずだ。彼女を泣かせる者は誰であっても許さないと」
ステイルの目が本気になる。上条はその目を真っ直ぐと見返す。
「君は彼女の想いに答えなかった……そうだな?」
「ああ。そうなっちまうな」
上条は僅かに目を伏せると、右手を握りしめる。もしかしたら、ステイルと殴りあうかもしれない。
「確かに俺はインデックスを泣かせちまったかもしれねぇ!それでも、俺は俺のしたことに後悔はしてねぇ」
上条の持つルーンのカードがひしゃげる。それくらい上条には力が入っていた。
「その事に関しては、例え誰にも文句は言わせねぇ。お前にも、インデックスにもだ」
「…………分かった。もういいぞ、上条当麻」
ステイルは人払いを解除すると、上条に興味が失せたかのように教会へと戻っていく。
「ステイル…」
「勘違いするな、僕と君は仲良しさんじゃないんだ」
ステイルは足を止めたはしたものの、上条に振り返ることなく続ける。
「さっき君が僕に謝ったなら、その程度の覚悟だったなら、君の左半身を吹き飛ばすつもりだったんだが……」
上条は左手に持たされたルーンのカードに目をやる。『魔女狩りの王』をも呼びだす、ステイルの作った『大切な人』を護るためのルーン。
上条は思う。ステイルは本気で自分を吹き飛ばそうとしただろうか。
もし本気だったなら、わざわざ潰されるかもしれないカードを――左手であるとはいえ――渡したであろうか?
ステイルなりに、上条を信じてくれていたのではないか。共に、インデックスを思う人間として。
「なぁ、ステイル。このルーン、記念に貰っていいか?」
「……好きにするといい。ただ1つ言っておくぞ、上条当麻。そのルーン、僕はいつでも吹き飛ばせるんだぞ?」
さも、危険なものだと言わんばかりに。気に入らなければ吹き飛ばすぞと言わんばかりに。
「あぁ、分かってる。じゃぁ、貰っとくぜ」
「ふん。何の記念かは知らないが、僕は君の友人じゃないからね。誤爆したときは恨まないでくれよ」
そう言ってステイルは教会に入っていく。
「馬鹿野郎」
上条は思う。何がいつでも吹き飛ばせるだ。何が誤爆だ。ステイルはステイルなりに自分を信じてくれている。
わざわざこんな茶番みたいな事をしてまで、自分の心の内を聞きだして。
―――そういうのを、友達っていうんじゃねぇのかよ―――
上条は頬を緩めると教会に戻った。

571前夜祭(クリスマスイヴ)4:2010/03/20(土) 21:26:27 ID:syNi97lU
「お客様、これなんてどうでしょうか?」
店員さんは店の奥から小さな黒い球体を持ってきた。
「1世代古いものですので、お値段もご予算の範囲内です」
あまりお洒落とは言えない、何に使うかもわからない。
「あの、これは?」
「あぁ、これはですね。お風呂用のプラネタリウムなんですよ」
店員さんはにっこりと商業スマイル全開で、スイッチを入れる。
明るい店内では良く分からないが、小さな穴から光が漏れているようにみえる。
「あー、なるほど。お風呂に入りながら見れるってやつですね」
美琴は暫く考えた後、勧められた通りお風呂用プラネタリウムを購入する。
「では、包装致しますので少々お待ち下さいませ」
店員さんは丁寧にお辞儀をすると、カウンターの裏へと入っていく。
美琴はポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。
―――まだ時間はあるみたいだけど、どうしようかな―――
ブラブラと何かを見て回ってもいいし、ジュースでも飲んで待ってるのもいい。
お待たせしました、と笑顔で出てきた店員さんから紙袋を受け取り、美琴は店の外に出る。
クリスマスイブという事で、カップルもちらほらと見える。
美琴は、ほぅっと息を吐く。
―――あーあ、なんでこんなにイライラしてるんだろう―――
美琴は右頬をパシッと叩き、首を振る。
気持ちを入れ替えないと。他の3人にまで辛い空気を撒かないように。
「御坂さーん!」
美琴が声の方に振り向くと、佐天が元気よく駆け寄ってきた。
「御坂さんは、もう決まりましたか?」
「うん、一応ね」
美琴は手に持った紙袋を掲げる。
「佐天さんは?」
「あたしも決まりましたよ―。いやー、良いものがありました」
佐天は天真爛漫な笑顔で手に持った袋を見せる。ニヤニヤとしてるあたり、良いものというより面白いものな気がしないでもない。
「あ、御坂さんはこの後どうされるんですか?」
まだ集合までは時間ありますけど、と付け足し、佐天が問いかける。
「うーん。喫茶コーナーにでも行こうかな。佐天さんは?」
「ご一緒してもいいですか?」
「うん。じゃ、行きますか」
はーい、と元気良くついてくる佐天に顔を見られないように、美琴は目を伏せた。
―――気持ちを切り替えなきゃいけないのは分かってるんだけどね―――
美琴は上条との一件を引きずったままの自分の弱さを嫌悪する。
「御坂さん?」
気付けば佐天が心配そうな顔で見ていた。
「あ、ごめんね」
「いえいえ。御坂さん、なにかお悩み事ならお聞きしますよ?」
いつものからかう様な感じではなく、本当に心配そうな顔の後輩に甘えようかとも思う。
今まで、何度か佐天の気持ちを考えない発言をしてきたというのに。そんな自分を本気で友達だと言ってくれ、心配までしてくれる。
―――後輩に面倒みて貰うようじゃ、私もまだまだね―――
そんな事を言えば『そんなの先輩・後輩なんて関係ないですよ』なんて言われそうだ。
「ありがとう、佐天さん」

572前夜祭(クリスマスイヴ)5:2010/03/20(土) 21:27:22 ID:syNi97lU
「さって、大体こんなもんか」
上条は額の汗を拭い、脚立から降りる。
「あとは料理くらいか……」
この手の作業で全く使えない子状態のステイルは相変わらず煙草をぷかぷかとやっている。
神裂はインデックスのつまみぐいを防ぎつつ、バカでかいクリスマスツリーと格闘している。
残る天草式のメンバーは各々料理を作ったり掃除をしたりと忙しそうだ。
そんな中、教皇代理の建宮斎字だけはちらちらと上条の方を見ている。
「な、なんなんだ?」
まるで恋する女の子がやるような建宮の目線の送り方に、上条は冷や汗をかく。
―――どうせなら五和や神裂なら良かった―――
そこまで考えて、上条は何を想像したのか、恐ろしいものを見たような顔をした後肩を落とす。
―――いや、いかんっ!俺としたことがあの堕天使を思い出すとは……不覚っ―――
堕天使とは、間違っても『御使堕し』の時のミーシャ=クロイツェフの事ではない。
「うおぉぉぉぉっっ!この幻想もぶち殺したいっ!」
上条はそのトラウマになりかねない記憶を末梢すべく『幻想殺し』を頭部に持ってくる。
バキンッ!なんて音がするわけもなく、図らずも脳裏に残されてしまった堕天使の姿は消えることはなかった。
上条はブンブンと首を振って気を取り直す。口元がぴくぴくと緩んでしまうのを必死で我慢する。
「今、神裂に会ったらダメだ。絶対に―――」
「女教皇様がどうかしましたか?」
「のうわぁっ!?」
ぶはっ、と変な声をあげ、上条は背後の人物から距離をとる。
「いいいいいい五和サン?いつから聞いてらっしゃったんでせうか?」
「『この幻想も…』ってあたりからですけど」
「……………不幸だ」
がくんっ、と肩を落とし、気の毒になるくらい落ち込む上条に、五和はきょとんとするしかない。
「あ、すいませんっっ!もしかして、聞いちゃいけない事でしたか?」
「いいやっ、五和さん!気にすることなんかないですのよっ!紳士である上条さんが五和や神裂がエロい天使さんや精霊さんになるなんて想像もしておりません!」
沈黙。
上条の口から放たれた言葉によって、重苦しい空気が流れる。
言った上条は真っ青に。言われた五和は真っ赤に。間にオレンジでもおけば信号になりそうである。
「あわわわわわわわっ!?わ、私がですか?」
「いいいいいいい五和さん、それは幻想、じゃない幻聴ですっ。忘れてくださいませ……」
上条は真っ赤になった五和の前で土下座の体勢に入る。上条にとって慣れてしまったその姿にはもはや貫禄すら漂う。
「…………その、あなたが見たいって言うなら………着てもいいですけど」
「はい?」
五和は真っ赤な顔で体の前で手をもじもじとしながら呟く。
「えっと………五和さんはあのエロい精霊さんに興味があるとおっしゃるのでせうか?」
「きょ、興味なんてないです!それに、エロくなんてっ」
上条が顔をあげると、五和は手はもじもじ、顔は真っ赤、眉は吊り上げの器用な状態を維持していた。
―――あれ、怒ってんのか……照れてんのか……あの姿はエロくないんかよ?―――
上条は頭の上にクエスチョンマークを大量に飛ばしながら、思いついたままの事を言う。
「五和的にはあの格好はエロくないとっ!?もっとハードなのをっぐえっ―――」
ぷんぷんと怒る五和が後にした部屋には、気を失って横たわる上条の身体があった。

573前夜祭(クリスマスイヴ)6:2010/03/20(土) 21:28:08 ID:syNi97lU
「でね、理由も告げずに逃げられちゃったのよ」
あーもうイラつく、と美琴は空になった紙コップを握る。怒りの矛先となった不憫な紙コップは、クシャっという音と共に綺麗に握りつぶされた。
―――なるほどー。それでですか―――
佐天は目の前で愚痴る美琴を宥めながら、この後どうすべきかを考える。
あれだけ悩み事を打ち明ける事を渋っていたというのに、喋りだすと聞いてもいない惚気話を挿みながら教えてくれる。
佐天はそんな美琴の一面を見れた事に喜びを感じる。
「御坂さん、その話って直接、上条さんから聞いたんですか?」
「そうよ。今日の朝にメールで」
美琴は佐天に話すことでイライラが復活したのか、さっきまでコップの形をしていたものは球体となっている。
「うーん。上条さんには、御坂さんにも言えないような理由があるってことですよね」
佐天は目の前の恋するレベル5が噴火させないように言葉を選びながら喋る。
「えっと、ご自宅はご存知なんですよね?お話してみられてはどうでしょうか?」
「えっ………」
―――考えもしなかった―――
美琴は固まる。上条からの断りのメールを見た瞬間からイライラしっぱなしだった美琴は思いつきもしなかった。
確かに、面と向かって問い正せばメールより効果はあるだろう。
だが相手は上条だ。頑なに口を割らないかもしれない。
「本当はすぐにでも送り出したいところなんですが、上条さんも今日はご用事なんですよね」
だったら今夜にでもお部屋に伺えば良いと思います、と佐天は続ける。
―――答えてくれないかもしれない。言いたくない事は聞くべきじゃないのかもしれない。それでも―――
美琴は肩の力を抜き、怒りを鎮めるように大きく息を吐く。
―――話だけでも聞いてみる―――
その決意が表情に出たのか、佐天は美琴を見て微笑んでいた。
美琴はそんな佐天を見つめ返する。
―――ほんとうに、助けられっぱなしだわ―――
美琴は微笑む。何もできない自分への笑いか、佐天への頬笑み返しか。
「ありがとう、佐天さん」
もう一度、繰り返す。レベル0でも、能力が使えなくても、強い目の前の少女に。
「いえいえ。御坂さんには『幻想御手』ののときに御世話になりましたし」
お互い様ですね、と笑う。美琴はそんな佐天に心が落ち着いていくように感じる。
「ほんとうに、御世話になりっぱなしだわ。貴方達には頭が上がらなくなるわね」
「レベル5の、お嬢様なのにですか?」
佐天は皮肉ではなく、その事実が可笑しいようにクスクスと笑っている。
「なにかお礼しないとね。何がいいかな?」
「そうですねー。ファーストネームで呼びあうとかは?」
いつもの冗談を言う調子で佐天が提案する。
―――ふふん。偶にはお返ししておきますか―――
いつもからかわれている美琴にとって、めったに訪れない好機。逃す手はない。
「おーけー。これからは涙子、って呼べばいいかしら?」
「うっ、みみみ御坂さんっ」
「み・こ・と・さ・ん!なんなら呼び捨てでもいいけど?」
美琴は佐天の目の前でピッと人差し指を立ててたしなめる。
「わわわ、冗談のつもりだったんですけど」
「あれ、涙子は私を名前で呼びたくないの?距離感じるわね」
美琴はわざとらしく目を伏せる。視界の端の佐天の顔は真っ赤で、目はおろおろとしている。
「そ、そんな事はないですよ、み……美琴さん」
ずきゅーん。
そんな音が聞こえたような気がするくらい、美琴の心に何かが突き刺さる。
普段は天真爛漫な佐天の恥じらう姿。
―――当麻……なんか、良くわかんないけど、ごめん―――

574かぺら:2010/03/20(土) 21:30:34 ID:syNi97lU
以上になります。
また2,3日開くかもですが、とあるラジオの超電磁砲でも聴きながら気長にお待ちを。

それにしても、五和書くの難しいよ……

575■■■■:2010/03/20(土) 22:18:40 ID:LxF8jtps
>>562
GJ
黒子がかわいいですね、しかし美琴はさらに上ですねえ

>>574
GJ
美琴×佐天……だと……?

576■■■■:2010/03/20(土) 22:39:26 ID:6wqCqGVw
>>574
すまん文句言わせてくれ。
コレ、上条さんと美琴いちゃいちゃしてるか?
ちょっと他のキャラにスポット当てすぎな気がする。(かべらさんはサテンさんファンのようだが)
いや、前提としては2人が恋人関係にあるのはわかるんだが、1度の投下で1回はいちゃつかせるとか、『次回はちゃんといちゃいちゃするよ』みたいなフォローが欲しかった。
『このスレではこのくらい2人をいちゃつかせねばならない』なんてルールはないが、このスレで書く以上はやっぱり美琴センセーを1番にプッシュしてもらいたい。

…とは言っても、私も楽しく読ましてもらったんで、これからもぜひここで書いて下さいね。次回は2人のいちゃいちゃ期待しています。

577■■■■:2010/03/20(土) 22:57:08 ID:jejexnCo
>かぺらさん
GJ!上条さんとステイルの友情に泣いた

>576
最終的に上条さんと美琴がイチャイチャしてくれればそれで良いじゃない
そこに至るまでの過程を楽しもうよ!ドラマは大事だよ?
…と一方的に言ってごめん

578■■■■:2010/03/20(土) 23:23:10 ID:54.ahtj2
そういう意見もあるという事で、別に否定的になる必要はないと思う。
作品に対して批判的な対応・言動は全て無視なんてのは荒れる原因だしね。

まぁ最近は過程をしっかりと踏まえた上で、成長していく二人の関係を
描いてくれる作者様が増えてるので、読み手としては大歓迎。
いつか言ったかもしれないが、いちゃいちゃオンリーも良いが
過程、言うなれば(シリアスな)ドラマ部分ありの物語も大好きなので。

後、流れに乗れない時はしばらく筆をおいて期間をあけるなり
読み手に回るなりすると気分転換になるかもしれない。

579■■■■:2010/03/20(土) 23:59:23 ID:PftrlQXQ
>>576
まあ>>567の >バットを持つ佐天さんが可愛くて生きるのが(ry
ってのがなければ、そんなに気にならなかったんだろうけどな

580■■■■:2010/03/21(日) 00:01:40 ID:qRmXqWuc
>>577,578,579
…あー、すみません。
たしかに、自分の好み押しつけすぎたなってのは投下した後思いました。
美琴が上条さん以外にトキメクのに我慢ならないとか、自分重症すぎ…
1つの意見として聞き流してやってください。

(実は原作でも、上条さんが他の女性とからんでるだけで軽く嫉妬してしまうんだ…)

581■■■■:2010/03/21(日) 00:03:04 ID:qRmXqWuc
ぎゃあ!!しかもsage忘れ…
本当に申し訳ない。死のう…

582■■■■:2010/03/21(日) 00:07:26 ID:z68a4i.o
そーしな

583かぺら:2010/03/21(日) 00:11:03 ID:yagpHAEI
最初に。いろいろすまんかった。反省!

>>575
発展はしないよ。ただ、いつまでも「名字+さん」づけはあれかな、と。

>>576
すいませんでした。フォロー足りなかったです。
ぶっちゃけ、ちょっと自覚してるだけに猛省した。すまん。
フォローじゃないけど私見だけ書いときます。怒らせる結果になったらごめんなさい。
個人的には上条−インデックス(+ステイル)と美琴−黒子(+初春、佐天)は最低限補完すべきだと思っていました。前回の話+今回のステイル部分がそれにあたります。
言っていいのかわかりませんが、俺のSSは全体的にいちゃいちゃ分が少ないとは思います。正直、ココで書いてていいのか迷いながらの部分もあります。
前回の御坂妹のところや、今回の美琴×佐天、上条×五和、神裂なんていらない部分かもしれませんし。
後半のネタバレになるので書けませんが、上条×美琴で24日を過ごしていないのにも、理由はありますので。
長々と言い訳がましく書いてみました。期待しろとは言いませんが、これからも暖かく見守ってくれると幸いです。
PS
佐天ファンだけど、上条×美琴が一番です。

>>577
ステイルはツンデレというか、背中で語ると思うんだ。

>>578
焦らずにやってみます。ご意見どうもです。

>>579
それは書き込んでから思いました。
美琴を可愛いと思わないわけではないのですよ。

最後に、ROMのみの方にも不快な思いをさせたかもしれません。すいませんでした。
未熟な身ですので、色々意見くださると嬉しいです。
長文失礼しました。

584■■■■:2010/03/21(日) 00:38:48 ID:oXHFBpro
最近住人が変に冷たいと思う。そりゃ自分も慣れ合うのはどうかと思うが書き手のモチベーションを維持するにはやさしくするのが当たり前だしつまりそのせいでssが減ったらどうするんだコノヤロー

585■■■■:2010/03/21(日) 00:48:45 ID:CXkTFfyI
>>かぺらさん
かぺらさんのSS、読んでいて凄く面白いので頑張って下さい!

586■■■■:2010/03/21(日) 00:50:18 ID:QCpiJ20k
>>583
GJです。ステイルカッコ良すぎでした。

あと、なんだか良くわかりませんが、いちゃいちゃするまで一気に纏めてしまうのも有りだと思います。
まあ私は別にどっちでも構いませんけどね。

>期待しろとは言いませんが
では、期待します(別にプレッシャーはかけてないよ!)

587■■■■:2010/03/21(日) 01:06:06 ID:XhNs3M4o
作品自体にケチをつけるわけじゃないんだけどね。
かなり前に誰かがいってたが作者様は基本、お金もらってるわけじゃないのに
書いてくれてる、訳なので感謝してる。

GJで終始しても良いんだけど(それを馴れ合いというのかもしれないが)
できれば感想を書いてほしいと思う作者様もいるとは思う。

まぁ感想の書き方にもいろいろある訳なので、その辺難しい。
作者様が書かれた作品に対して、垂れ流しで書きたくないっていう
読み手側の想いもあるので。

ただモチベ維持のためだけに(必要以上に)作者様にやさしく当たるのは
個人的には反対したい。それは何か違う気がする。

588■■■■:2010/03/21(日) 01:19:36 ID:64Nm3LOg
嫌なら読まなきゃいい

589■■■■:2010/03/21(日) 01:22:30 ID:QaM8fchk
脇役というか周りのキャラクターを生かしてこそ
主役がいきるってもんだし。
おれはいいと思うけどなーカペラさんの構成の仕方。
話に膨らみでるし。
つかさ、どうせネタ切れしてかぶったりする位なら
多少ベタベタ系のいちゃいちゃじゃなくてもいいと思うけど。
例えばD2さんの書く話ってベタベタした感じしないのに
すげーおもしろいし

590■■■■:2010/03/21(日) 01:28:37 ID:CC3c5vzM
美琴「アンタ等、私と、と、当麻の愛の巣を荒らそうっての!?///」

591■■■■:2010/03/21(日) 01:48:16 ID:tV9seDns
>>590
その一言で全ての争いが消えるだろう。
なぜなら僕らはあなたと上条さんの幸せを願っているのだから。

592ファン:2010/03/21(日) 01:49:37 ID:k393TaOw
荒らさないで、みんなで仲良くニヤニヤしましょうよ!

私はずっと見てきて初カキコです。
私みたいに書き込みしないでずっと見ている人たくさんいる
とおもうので、書き手さん!がんばってください!

おじゃましました

593■■■■:2010/03/21(日) 03:14:04 ID:vlC5j7z6
変な奴はスルーで良いよ
テンプレも読んでないみたいだしお子様なのかな

594■■■■:2010/03/21(日) 04:59:31 ID:h9iSJV0U
流れを打破すべくわたくしが身を投じさせてもらいますの!

注意書き
この作品は100パーセント思いつきですので細かい所のクオリティは気にしないで欲し…いや、実力不足ですの。
パーソナルリアリティを持ってすればこのレベルの作品でもニヤニヤ出来るかもしれません。過度な期待は禁物ですのよ。
短いです…それでもこの一区切りで完結ですの。

では、5分後に投稿開始させてもらいます、3レス消費…タイトルは『ありがとう』

595■■■■:2010/03/21(日) 05:05:39 ID:h9iSJV0U
――『ありがとう』

「おーい!御坂ー!」
 背後から聞き覚えのある声がする、美琴は背中に走るビリビリを感じながらそっと振り向く。
「ちょっとアンタ、どうしたの? 随分と疲れてるみたいだけど…?」
「……ちょっと助けてくれ」
 彼の息は乱れており、顔色も悪い……。事態の重大さを美琴は一瞬で理解した。
「私なら力になるから、何があったのか説明してちょうだい!」
「いいから来てくれ!」
 ツンツン頭の少年は美琴の手を掴み、走り出した。
「ちょ、どこ掴んでんのよ!」
「…手だけど」
「そ、そんなの分かってるわよ…」
「マズイなら離してもいいんだけどー?」
「ど、どうせならもっと強く掴みなさいよ、ハグれちゃったらどうする気…?」
 もっとも一晩中追いかけっこ出来る人間が手を離したくらいでハグれる事はないだろう。
 だけどもこの言葉は少年の心に響いた、そして手を更にギュッと握り締める。
「痛くないかー?」
「…う、うん」
 『強く握りすぎ…』なんて言えるわけがなかった。
 そう…走っている目的を忘れそうになるくらい……『嬉しかった』

596■■■■:2010/03/21(日) 05:05:54 ID:h9iSJV0U
「ここだ、ここ……」
 5分くらい走った先に、街を通る小さい水路にたどり着いた。
 少年が指差す先はその下……そこには白い紙袋が引っ掛かっていた。
「……アンタ、まさかこれの為だけにここまで連れてきたワケじゃないわよね?」
「仕方ねぇだろ! 他の奴に任せられるようなモノじゃねぇんだから……」
 その言葉の意味が分からなかった美琴だったが、折角頼られたんだから応えてあげよう…という考えで了承した。
「で? 私は何をどうすれば良いのよ」
「……考えてなかった」
「はぃい!? なによそれ…」
「いや…気付いたら走っててお前を探してたというか…」
「ま、まあ…アンタだから良いわよ…」
 連絡取れるんだからしなさいよ…と思いつつ『どうやって取るのか考えましょ』と続ける。
「俺でも届かなかったのに御坂が届くわけねぇしなぁ……」
「…中には何が入ってるの?」
「そ、そんなの言えるワケねぇだろ!」
「具体的に答えなくて良いわよ、磁石に反応するモノが入ってる?って事を聞きたかったの」
 少年は数秒間思考した後に『ま、まあ…そうだな』と答えた。
「なら簡単じゃない、ちょっと外の袋は焦げるかもしれないけど…」
 と美琴は少年に言い放ち、紙袋を引き寄せるように何かを念じている。ように少年には見えた。
 実際は電磁石と同じような事をやっているらしい。どういう能力なのかは本人しか分からない。
「…御坂さんは念力も使えたんですね」
「ちょっと黙ってて! 力の加減が相当難しいんだからっ!」
「……はい」

597■■■■:2010/03/21(日) 05:06:04 ID:h9iSJV0U
 数分後、壁を伝ってどうにか手の届く位置まで目的の紙袋が到着
 少年は右手を伸ばし、手のひらサイズの紙袋をしっかりと掴んだ。
「ま、この美琴センセー以外取れる人は居なかったでしょうね」
 腰に手を当て得意げな顔をして少年の方を向く。
「良かった…本当に良かった」
「うんうん、じゃ私は行くから。どんな事でも困った事があったらいつでも言いなさいよね!」
「……ちょっと待ってくれ!」
「ん?まだ何かあるワケ? あ、でも暇だから付き合ってあげない事もないわよ」
「御坂…ありがとう」
 少年は微笑みながら礼を言う。
「な!? そ、そんなお礼言われるような事した覚えなんかないわよ!」
「…顔赤くなってるけど?」
 美琴は自分の頬をポンポンと二度叩き
「うっさいわね! あの能力使うと少し熱が出るんだから!」
「わかったわかった」
「なによ、呼び止めておいて…馬鹿」
「ワリィワリィ、今回のお礼ってワケじゃねぇんだけど…これ」
 少年は手に持っていた紙袋を美琴の方に差し出していた。
「どういう事…? アンタ、これ大事な物なんでしょ?」
「物凄く大事、だからお前を呼んだって言っただろ?」
「じゃ私にあげちゃマズイんじゃないの?」
「あーもう、御坂さんは鈍感ですかー? これはお前にやる為に買ったんだよ」
 『アンタが言うか!?』と突っ込む前に言葉を止められた、いや止まった。
「……」
「と、とりあえず…手、出せよ」
 美琴は言われるがまま、無意識に左手を差し出した。
「…っしょ、これでよし!」
 ボーッとしている美琴が左手を見ると、薬指に指輪が……。
「ふ、ふ、ふ………」
 少年もアレっ?と言った感じ……何やら不発に終わったらしい。
「こ、こ、こ、こゆーとき…どーゆー顔したら良いかわっかんないのよね」
「そんなの俺も知らねぇよ……」
「と、と、とりあえず…責任は取りなさいよね」
「え?」
「じゃ、じゃー私忙しいから…」
 少年は敢えて突っ込まずに自分の心に尋ねた『どうしてこうなった』のか
 しかし心が返した答えは極簡単な物だった……。感情の正体をようやく掴めた少年は美琴を追いかける。

そう…この時を最後に御坂美琴の片想いは終わった―――終了

598■■■■:2010/03/21(日) 05:08:00 ID:h9iSJV0U
以上ですの。

アニメが終了し、しばらく欝な生活が続きますからね…
それでも…それでも自家発電とこのスレさえあればなんとかなりそうな気がしていますの。

短い作品ですが、見て頂きありがとうございました。

599■■■■:2010/03/21(日) 08:56:37 ID:WmJnkQaA
>>598
GJです!2828しました。
二人のやり取りも自然な感じでしたし。

アニメは終わってしまいましたが、このスレは見続けようと思います。
自分にとってのオアシスになってます。

600■■■■:2010/03/21(日) 10:12:16 ID:CXkTFfyI
>>598
GJ!やばい、ふにゃー不発の美琴が可愛いぞ

601■■■■:2010/03/21(日) 14:58:45 ID:j3Qfo9dA
早く原作で一端覧祭やんないかねー
いい意味でも悪い意味でも上条さんと美琴にフラグ立ちそうだが

602■■■■:2010/03/21(日) 15:35:59 ID:oXHFBpro
俺なんて美琴に死亡フラグ立っているように見える・・・。
いや人気的に絶対死なないと思うけど、なにか悪いことが起こる気がしてならない・・・

603■■■■:2010/03/21(日) 15:44:53 ID:j3Qfo9dA
俺は最近エァツリとくっつく気がして怖いわ

604■■■■:2010/03/21(日) 15:46:03 ID:V4UwR/oA
俺は俺の嫁になる気がしてニヤニヤが止まらない

605■■■■:2010/03/21(日) 15:52:57 ID:oXR9c3r.
>>604
俺って人のとこに嫁に行くのを
想像してしまって盛大にフイタ

606■■■■:2010/03/21(日) 15:55:25 ID:n/Ic5wfE
>>603
エツァリはショチトルがいるし大丈夫だろ

607■■■■:2010/03/21(日) 16:05:20 ID:vlC5j7z6
あれ、まとめページカウンタ消えたね
何か問題でもあったのかしらん

608■■■■:2010/03/21(日) 16:06:09 ID:vlC5j7z6
訂正サーセン
反転したら見つかったw

609キラ:2010/03/21(日) 16:35:53 ID:vnaFjP4M
どうもです。
ご期待されておられる方が多かった、入学式編です。けど今回は前編orz
タイトル『とある恋人の登校風景』
シリーズタイトル『fortissimo』
前回『とある幻想殺しの同棲生活』>>179-187

40分から、9、10レス消費予定です

610キラ:2010/03/21(日) 16:40:19 ID:vnaFjP4M
 4月4日。
 3日の始業式を終えた上条当麻は、隣にいる恋人こと御坂美琴と裸のままベットで寝転がっていた。
 だが単純に眠いから転がっていたのではなく、3日の夜から行っていた契りを終えて疲れ切ってしまった身体を休めるために転がっていたのだ。その隣の美琴も激しく動かした身体と様々なことですっかりと体力切れであった。
 そんな時間を過ぎている間にすっかりと日付は入学式当日になっていたことに、寝室のデジタル時計を見て上条は気づいた。
「ん? どうしたの?」
「ついにこの日が来てしまったんだな、って思いまして」
 上条はデジタル時計を指差すと美琴はああ、なるほどと上条の言いたいことに納得した。
「今日は私の入学式だったわね。なんだかこの家に来てあっという間だったな」
「って言ってもまだ二週間しか経ってないし、上条さんは一週間この家にいられませんでした」
「それは自業自得……ではないかな。当麻らしいと言えば当麻らしいわね」
 悲しそうな表情を浮かべながら、上条の胸に顔を埋めた美琴の頭を上条は優しく撫でた。
 サラサラと逃げていく綺麗な髪が手のひらをくすぐり、触れるだけで心地よい。さらに自分の好きな相手を撫でているためか、心が安らぐような気がした。
「退院したと思ったらちょうどその日が始業式だし…せっかく二人で夜まですごせると思ったらインデックスのところに行っちゃって、帰ってくるのは8時過ぎだし。これってあんまりじゃないかしら、当麻」
「わ、悪かったよ美琴。でも退院の時期は始業式と繋がって仕方なかったことだし、約束は『外』に行く前からインデックスとしていたことだったから」
「そういう意味じゃないわよ、馬鹿。私が言いたいのはそれの見返りよ。彼女を待たせた分、それなりのことを払って欲しかったんだけど、今日のアンタもいつも通りだったから私が甘えるしかなかったじゃない」
「ああ、だからあんなに積極的だったし普段よりもノリノリだったわけか。てっきり薬でも何かを使ったと思ってました」
「そ、それは!! その……また、今度、ね」
 美琴は上条の胸にさらに顔を押し付けて答えた。だが最後のあたりは小さくなっていくのを聞いて、ああと美琴の心境を察すると上条は美琴の耳元に顔を移動させると小さな声で囁いた。
「ならさらにエッチな美琴を楽しみにしてるよ」
「…………ふにゃ」
 耳元をくすぐる息と甘いささやきに美琴は意識を飛ばしそうになった。だが成長した美琴は意識を飛ばすことと漏電することがないぐらいの耐性がついていたため、意識を失う一歩手前で意識を持ち直し小さな声で馬鹿と呟いた。
 そんな美琴が愛しくて、上条は美琴の身体を抱きしめると強く強く離さない様に身体を密着させた。
「暖かい…それに、心臓の音が聞こえる」
「そっか。美琴の身体も十分に暖かいぞ」
 美琴も上条を抱き返し、二人はベットの上で抱き合いながら笑いあう。
 そして上条の胸の顔を埋めていた美琴は、顔を上げ上条に向き合うと上条にだけ見せる満面の笑みを浮かべて、言いたかった言葉を伝えた。
「遅くなったけど言わせて。『お帰りなさい、当麻』」
「ああ。『ただいま、美琴』」
 それは上条が『外』へ行ったり、事件に巻き込まれたりした時に言うと決めた二人の約束の言葉。
 今更になってだが、上条も美琴もそれを言い終えて初めていつもの二人になれたことを実感して笑いあった。そして、約束の言葉の後にあったもう一つの約束。
「んっ……ちゅっ。大好きだよ、当麻」
「俺も大好きだよ、美琴」
 上条と美琴は抱き合いながら、キスをして愛しかった人との再会を喜んだのだった。

611キラ:2010/03/21(日) 16:41:07 ID:vnaFjP4M
 いつもよりも早い朝の目覚まし時計のアラームの音が耳に響く。
 上条は眠たい身体を起こして少し離れた机においてあったデジタル時計のアラームを切ると、うああーと眠たいあくびをしながら頭をボリボリと掻いた。
 いつもよりも一時間近い目覚めと昨日の反動でまだ身体は眠りを欲していた。だが隣で寝ていたはずの美琴がいないことに気づくと自分も寝ていられないなと思い、仕方なく起きることにした。
「うぅー寒っ。まずはシャワーシャワーっと」
 あのまま寝てしまっていたので身包みは一切ない。こんな姿で家を歩くのはどうかと思ったので、上条は近くに脱ぎ捨ててあった下着を身につけると、服を手に持って一回自室へと向かうために廊下に出た。
 廊下は来た当初よりもすっかりと様になって、予定表のカレンダーや美琴が用意した花や壁紙などが飾られていた。最初の頃は、どこの大豪邸ですかと自分の住んでいた男子寮と比べて迫力のある廊下に違和感を抱いていたが、自分の住む場所に慣れるというのは意外にも難しくなかったのか違和感はすぐに消えた。ちなみに、これはこの家にある部屋や飾りにも大体に当てはまることだったが、今はすっかりと自分の家という実感があるため、この家の違和感はもうほとんどなくなっている上条であった。
 廊下を抜けて自室に着くと、上条は制服のワイシャツといつも中に着ているTシャツ、黒のズボンを取ると一階にある風呂場に向かった。
「いちいち階段を下りていくってのは、やっぱり面倒だな」
 寝室と上条と美琴の自室は二階。居間やキッチン、風呂場は一階にある作りであるため、統一だった前の部屋とは違って昇り降りに関しては面倒で仕方ない。それが一軒家というものだから仕方ないのだが、上条が面倒なのはそういう意味ではない。
「……………」
 小さな子供のように手すりに両手を置きながらゆっくりと降りていく。高所恐怖症ではないのだが、この階段にはたちの悪いものがすんでいたのでこのように何かにびくびくしながら降りていくしかない。しかし結局はそれも無駄な気がすると感じる上条である。
 と、思った矢先に上条の腕から制服のワイシャツが地面に落ちた。するとそのワイシャツは上条の降りる階段の一段下に落ち、ちょうど上条がその下一段に足を置く瞬間だった。
 そして置いたのと同時に、ずるっと足を滑らすとバランスを崩し階段に尻餅をつく。バランスを崩した上条は支えていた手すりから手を離してしまい、そのまま一階まで滑り落ちていくこととなったのだった。
「いてて……不幸だ」
 幸いなことは頭から落ちなかったことだが、それでも痛みと精神が削られたことには変わりはない。
 これは毎日起きることではないが、毎回普段よりも早起きをするたびの習慣、上条のもつ不幸体質にが生み出す必然であった。だから上条は早起きをするたびに、階段から降りることに慎重になるのだが慎重が役に立った覚えはない。といっても慎重になって不幸を回避できるのならばこの体質に苦しむことがないので、半分諦めているが怪我が軽減できるかもしれないので一応は続けている。
「アンタ、また階段から落っこったの?」
 その声は一階の台所の方から聞こえた。上条はその声に、ああそうだよとやけくそに答えて風呂場に向かおうと立ち上がった時であった。
 いきなり台所の方向のドアが開くと声の本人である美琴が姿を現した。のだが、美琴を見て上条はこう着した。
「まったく。不幸体質だってことはわかっているけど、毎回毎回大きな音で落っこちられたら、心配するつーの。わかってるの?」
「……………………………」
「な、何よ。何かあるの!?」

612キラ:2010/03/21(日) 16:41:42 ID:vnaFjP4M
 上条は何を言えばいいのか真剣に迷っていた。
 このシチュは上条からすれば万々歳かついいんですねと飛びつきたい気持ちがあった。しかし、なにぶん朝でありこれから学校に行かなければいけない状況であったので、鉄壁の理性が働いていたため、一般的な健全男子としてどう反応すればいいのか迷っていた。
 しばらくどう言おうか、どう反応すればいいか迷った末に上条は決断した。
「さーて風呂に入ってこようかなー」
「って、わざとらしく無視すんなやこらーっ!!」
 背を向けて無視しようとしたが、美琴のとび蹴りを背中から喰らってしまい地面にキスする羽目になってしまった。当然のことだがこれも上条の不幸である。
「いてて……だったらお前は俺にどんな反応を期待したんだよ!!?? いきなり襲い掛かってくださいって誘ってるのか!! 羞恥を隠して頑張ったから褒めてほしいのか!! それとも俺をからかってるのか!!」
「そんなんじゃないわよ!! 私はアンタに、当麻に喜んで欲しいからこうしただけよ!!!」
「ああ、嬉しい! 嬉しいですよ!! 時と場合であったら涙を流して土下座してやりたいぐらい嬉しいさ!!! でもな、"御坂"。学校行く朝から裸エプロン!!1 しかも夜の気持ちが抜け切ってない状況でその姿は上条さんからすれば理性を破壊する上条ブレイカーかなんかなんですよ!!! それをわかっているのか"御坂"は!!!」
 上条は一気に言い終わると、はぁはぁと息を荒くしてなるべく美琴の身体を見ないようにそっぽ向いた。
 今の美琴の服装は、男性の夢である裸エプロンである。エプロンは相変わらずのカエル柄であったが、高校一年生とは思えない整ったスタイルは上条からすれば上条の理性を崩壊させる魔の誘惑であった。出会った当初は小さかった胸も今や吹寄に近いほどの大きさに成長しているというのに、それ以外がモデル顔負けの綺麗でスラリとした足腰を中学二年からほとんど、というより変化なしに保っている。さらに美琴は高校生にもなったと言うことで、可愛さだけではなく大人のような顔立ちも少しばかり見え始めており、普通のままでも理性には十分な脅威であった。
 その美琴が裸エプロンで上条の前に出てくると言うのは、上条の理性を壊す気でいるようにしか思えないのが上条の考えであった。決してそんなつもりではないと、頭ではわかっていても上条からそう思えてしまうのだった。
「な、なによ。せっかく喜んでくれると思ったのに」
 喜んでくれなかったことに美琴は残念そうに肩を落とした。
 それを見ていた上条は、言いすぎた罪悪感と美琴の頑張りを無碍にした罪の意識にかられた。上条ははぁとため息をつくと、美琴の頭を優しく撫でた。
「御坂、十分嬉しいんだけど今は勘弁してもらいたい。これから入学式ってイベントがあるのにエンジョイしてたら、上条さんは途中で力尽きます。だからそういったイベントは休みの日とか余裕のある日にしてもらえれば助かる」
「あの……いやじゃ、ないの?」
「嫌なもんかよ。ぶっちゃけ、学校じゃなかったら理性をぶっ壊してベットインしたいよ。でも今日はそんな余裕はないから、またあとでな」
 そういって上条は美琴の頬にキスをすると、撫でていた手を離して風呂場に向かった。
「…………ふにゃー」
 その時、何かが聞こえたがとりあえず無視することにした。
 それに上条の理性とジュニアはそろそろ限界であったため、上条は魔の誘惑から逃げ少し駆け足になって風呂場のドアを開けると後ろを振り向かずに閉めて、大きく息を吐きその場で体育座りをした。
「………朝から上条さんは幸せです。ですが状況は不幸です」
 それからしばらく落ち着くまでの間、上条はその場で体育座りし続けたのだった。その理由に関してはご察しください。

613キラ:2010/03/21(日) 16:42:15 ID:vnaFjP4M
 シャワーを浴び終えると上条は用意しておいた制服に着て、歯を磨いた。
 それら、朝の準備が終わった上条は階段を上がっていき、もう一度自室に戻った。そこでカバンや携帯など身の回りに必要なものを持って上条は部屋を後にする。そのまま階段を降りて(今回は不幸はなし)居間へとドアを開けると、朝ごはんのいい匂いがした。
「ん? ちょうどよかった。お皿の準備、してくれないかしら」
 声の方向であるキッチンにいたのは、上条と同じ高校の制服姿の御坂美琴の姿であった。先ほどまでのサービス姿がないことに上条は安心感を覚えるが、制服姿の美琴の姿に今度は別の関心を寄せた。
 実は美琴の高校生での制服姿を見るのは今回がはじめてであった。一応、美琴は寸法を測るときなどに制服を何回か着ていたようだが、ちょうどその時は『外』に行ってしまっていたため、上条は立ち会えなかった。なので今日この瞬間が、上条が初めて美琴の制服姿を見た瞬間でもあり、美琴が上条に制服姿を見せた初めての瞬間であった。
「やべえ、抱きしめたいほど似合ってる」
「ッ!!?? い、いきなり何言ってるのよ馬鹿ッ!!!」
 見た感想をそのまま口に出してしまった上条は、あ、やべえと赤面した。対する美琴はそっか…と言って黙り込んでしまう。
「………あのー御坂…さん?」
「………名前」
「名前………あ」
 さっきからずっと、と明らかに不機嫌に上条を睨む。上条は美琴に言われて前の呼び方で呼んでいたことに気づき悪いと謝った。
「絶対ってわけじゃないけどさ、この家ぐらいはちゃんと名前で呼んでよ」
「ああ、ごめん。つい癖で」
 上条はまだ御坂と呼んだりアンタと呼ばれたりしている。だが単にこれはまだ名前で呼び合うのが定着していなかったことと他の人の前で名前を呼び合うのになれていないだけだ。
 なので二人はこの家ではお互いに名前で呼び合うように意識している。それはこの家に来て二人が決めた簡単な約束、決まりごとだ。なので上条は当麻(とアンタ)と美琴は美琴と呼ばれているのがこの家での普通だった。
 なので好きな人に名前で呼ばれることが好きな美琴からすれば、この家で御坂と呼ばれるのはちょっぴり悲しい。この話は美琴の独り言のわがままだったと以前、美琴がそんなことを言っていたことを思い出して、心の底から申し訳ないと思った。

614キラ:2010/03/21(日) 16:42:59 ID:vnaFjP4M
 わがままとはいえ恋人である美琴が願ったことだ。やはり彼女の笑顔が見たい上条からすれば、そんなわがままな願いでもかなえたいと思うのも彼氏としての勤めだと思っていたので、美琴には言わずに一人でこっそりと聞いてやろうと思っていた。だがそんなお願いをあっさり破ってしまったことは、自己満足とはいえ上条からすれば後悔すべきことであった。
「私はまだ御坂美琴だけどさ、いずれは上条の名になるんだからこの家ぐらいは名前で呼んでよねって前に言ったじゃない。ま、無理にとは言わないけど」
「悪い。やっぱりまだ意識しないとダメみたいだ」
「あっ……ううん。責めてるんじゃなくて、そのお願いだから気にしないで」
 申し訳ないと思いすぎた上条の表情に気を悪くした美琴は、暗い表情で言い直した。そんな暗い顔の美琴の表情を見た上条は、またつい美琴を抱き寄せてしまった。
 小さな身体といい匂いのする髪の毛の匂い、少し驚いた顔。美琴の一つ一つの仕草を見た上条はあることに気づいて小さく笑ってしまった。
「何笑ってるのよ、ばか当麻」
「別に美琴を見て笑ったんじゃねえよ。ただ、気づいちまっただけだよ」
「気づいたって…何によ?」
 腕の中で上条を見上げてくる美琴が、どうしようもなく愛しい。
 まだこの家に引っ越してきた時間はそれなりに経ったがすごした時間はまだ少ない。それどころか、まだ付き合い始めてやっと一ヶ月のあたりだというのに、今は誰よりもこの手の中にある現実(みこと)を手放したくない。
 上条はこの気持ちを知っている。しかし気づいてみるとそれをどのような言葉で表現すればいいのかわからない。例えるなら、言葉が何語でどんな場面で使うのかわかっているのだが、明確な意味をよく理解できていないような曖昧な気持ちだった。
 だから上条は精一杯考えるのではなく、思ったことを単純に口にすればいいと思い美琴の身体をぎゅっと抱きしめた。
「美琴と付き合う前は誰かを救うことばかり考えてたけど、今それと美琴がいないとダメになっちまったみたいだ」
「なっ!!!??? なにらしくないことを言ってるのよ!!! 当麻、帰って来て全然別人みたいに」
「やっぱ、らしくないか。一応これでもいい彼氏になる勉強をしてたんだけどな」
 勉強? と何を言っているのとキョトンとした表情がまたさらに可愛く思えて、もっと力強く抱きしめたいと思った。しかしこれ以上は美琴の身体が壊れてしまいそうな気がしたので、逆に力を緩めていきなり暴発しても大丈夫なようにした。
 そして、ちょっとなと言ってその話題からは離れようとした。いくら上条でもこの話題は色々と問題があったり恥ずかしかったり、美琴に怒られそうだったので話したくなかった。
「それより、美琴こそ裸エプロンとかどうしたんだよ? いつもならあんなこと絶対しなかったし、昨日の夜も含めて『外』帰って来てからずっと積極的じゃないか」
「ああー!!! うるさい言うな言うな!!! その話はおしまい!!!!」
「なんだよそれ。言ってくれたっていいじゃねえかよ!」
「だったら当麻も勉強のこと言ってよ! そしたら私も言うから!!」
 それを言われてしまっては上条もどう答えればいいか躊躇した。
 はっきり言うと、美琴が積極的な理由を聞けるが自分も言わなくてはいけない地獄でもある提案だった。頷けばなんとかなり、頷かないと死ぬ。。
 睨んでくる美琴を見て、上条は自分の意見とその後の祭りを相談してゆっくりと頷いた。この先は天国か地獄か、ではなく地獄よりもさらに怖いなと思いながらこの先に起こりそうな不幸にため息をつくしかなかった。

615キラ:2010/03/21(日) 16:44:10 ID:vnaFjP4M
 少し早めの朝食を済まし二人で皿を洗った。それと美琴の身支度を終えるとカバンを持って上条と美琴は鍵を閉めて家を出た。
 そしてこの瞬間から二人は家にいた頃よりも大人しめの恋人同士へと変化した。
 単純な話、家の中では二人の愛の巣(テリトリー)であるが家の外ではそのような空間は存在しない。気を抜けば友人に会う可能性もあり、他人の目もやはり気になる。二人きりの時は存分に甘えたり甘えさせたりできるが、まだ外に出ている時にそれらを発揮できるほどの耐性はお互い持ち合わせていない。
 そのため、外では相変わらず初々しいカップルになってしまう二人であった。そしてそんなことにも気づけずに、二人は密着していそうだがくっ付いていない微妙な距離を開けて学校へと歩き始めた。
 初めて二人で通る通学路。過去に美琴が思い描いていた理想の夢が、今現実になっている。本来ならここは喜ぶべきことであったが、さきほどの提案のこともあって今はそんな余裕など一切ない。
「んで、御坂。どっちから言えばいいんだ?」
「当然、アンタからよ。話を出したのはアンタが最初なんだったし、私はまだ言うのが恥ずかしい」
「それは上条さんも同じなんですけど、はいわかりました口答えしてすいません」
 美琴は睨みながら右手に青い輝きを発する。どう考えても上条への脅しであった。
 幻想殺しをもってしても、電撃は怖いし危険である。不本意だが上条は脅しに屈して先に言うことにした。
「一応確認ですが、上条さんが言えばいいのは何を勉強したか、ですよね?」
「そうよ。美琴さんと離れている間に何をしていたか、洗いざらい話なさい。それと嘘はダメよ、嘘は」
 今度は左手に青い輝きを発しながら笑った。しかし目はどう考えても笑っておらず、嘘だと気づかれたら焦げた体の出来上がり、になりそうな予感がした。元々誤魔化すつもりはないが、念のために聞いておいてよかったと思った上条は小さな安堵の息を吐いた。
「それで勉強の話か。単純な話、『いい彼氏のなり方』って本があったからそれを何冊か読んで勉強しただけだけど………えっと、言わないとだめでせうか?」
「当然よ。アンタがそれだけであんなに変貌するわけないでしょ」
「はぁー、わかりましたよー。それでその本を読んでたところを土御門に見つかって、実践してみようってことになって」
 そこまで言って、美琴の目がどんどん怒っているように見えてきた。いや怒っているんですね、と上条はびくびくとしながらこれを言い終えたら電撃をもらいそうだったので右手を胸の辺りに置いた。
「それでインデックスや五和に」
「死ね!!!! この浮気者!!!!」
 言い終える前に美琴の特製の雷撃の槍が上条目がかけて降り注いできた。
 何度も経験しているとはいえ一歩間違えたら死のこの状況をゲーム感覚で楽しめるわけもなく、ぎゃあああと叫びながら雷撃の槍を右手で確実に殺していく。わかっていたこととはいえ、一瞬で命を奪う雷撃の槍を打ち消すなんてめちゃくちゃなことをしなければいけない状況はどう考えても非日常的であるがこれも日常の一つだ。もっとも、これは自業自得なんだが。

616キラ:2010/03/21(日) 16:44:44 ID:vnaFjP4M
「それじゃあアンタは、抱きしめるのも耳元で囁くのもキスをするのも他の女で練習したって言うの!!??」
「キスだけは違う!! それ以外はあってるけどキスだけは、ぎゃあああーーー!!!」
「私と言う彼女をほったらかしにして、他の女にそんなことをするなんてどんな神経をしてるのよ!!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!! 死ぬ!!! 今回は冗談抜きで死ぬって!!!!」
 どこの紛争地帯の銃撃戦だ、と心の底で思うほどの雷撃の槍の嵐。上条はかつてないほどの命の危険を感じながらも、なんとか美琴の肩に触れるとそのまま抱き寄せた。
「はぁ…はぁ…はぁ…冗談、きついって」
「何が冗談よ、馬鹿。いくらなんでも最低よ、アンタ」
 美琴の声は意外にも沈んでいて目からは少しばかり涙が出ていた。上条はごめんというと額に優しくキスをして涙を拭った。
 あの時は仕方なかった、と以前の上条ならば言っていたが今はそんな言い訳を言うつもりはない。『外』でつい目に留まった本を読んで、それが土御門にばれて、練習してみろと言われて断りきれなかったのは自分のミスだ。あの時、もっとちゃんと断れば彼女を裏切ることはなかったのにと上条は遅すぎる後悔をしながら、優しく美琴の頭を撫でた。
 そして上条は美琴のことをまったく思ってなかったなと思うと、刺された胸の痛みが襲い掛かってくる。上条はその痛みを素直に受けながら、もう一度ごめんと言うと美琴に唇を優しく奪った。
「………いいわよ。私がアンタに信頼されてなかったって証拠だし、悪気があってやったんじゃなくて私のために思ってやっていたことだって、わかったから」
「……ごめん。それでも、ごめん」
 そういって上条はもう一度美琴の唇を奪う。だが、今度は少しばかり違った方法を取った。
「ッ???!!! んんんっ???!!!!」
 上条は唇を合わせると、そのまま美琴の唇を口の中に吸い込んだ。ぎゅっと圧迫される口内に入っている美琴の唇は心なしか甘い味がする。
 まだ舌をつかっていないからいいかと一定のラインを超えていないことをいいことに、上条はそのまま美琴の唇を味わう。
「んんっ!!! ッ!!!! ダメ!!!!」
 だが十秒したあたりで美琴は上条を押し返し、唇を解放させた。
「もう!! 時と場合を考えるって言ったじゃない!!!!」
「まさか……アウト?」
「アウトに決まってるじゃない!!! 私をその気にさせるつもり!?」
「へ……?」
(ソノキトハナンデスカ?)

617キラ:2010/03/21(日) 16:45:26 ID:vnaFjP4M
 さりげない美琴の発言に、上条は思考が凍りついた。
 それに気づいていない美琴は顔を赤くしながら涙目で上条をにらんでいた。しかし美琴が睨んでいる気かもしれないが、上条からすれば睨んでいるようには見えず可愛くみえてしまう罠であったのだが、凍り付いていた思考はそんなことに気づくこともなかった。
「えっと……その気、とは?」
「え……??? あ……ッ!!!??? 私に何を言わせるのよ、馬鹿!!!!」
 自分が何を言ったかを思い出した美琴は、また雷撃の槍を上条に向かって放ち始めようとしたが、放つ寸前に肩に触れ形を織りなしていた雷撃は花火のように消え去った。それを見た上条はふぅと安堵し、美琴はトマトのように真っ赤になって上条を睨んだ。
「全部アンタのせいよ馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿、大馬鹿彼氏」
「すでに上条さんは何度も馬鹿と言われて傷ついているので、そろそろやめて欲しいのが本音です」
「だったら変な話も変なキスもしないでよ! ここは家の外なんだから、それ相応の付き合いってものがあるでしょう!?」
(御坂がそれを言いますか……)
「何か文句でもあるの?」
「ありません」
 いかがわしいことを思ったが、美琴に睨まれたので言わずにないと答えた。そうと信用していない目で言われたがそれ以上は言わず、美琴は黙って先に行こうとした。
(ひとまず回避できたけど……あ、そうだ。御坂の方を聞いてなかったな)
「それで、御坂はどうしてあんなに積極的だったんだ?」
 言われて美琴はぴたっと止まった。すると目を泳がせながら、なんこととしらばっくれた。
「おいてめえ。まさか俺にだけ言わせて逃げようとしてたんじゃないよな?」
「そ、そんなわけないでしょう。私が逃げるなんて、ね」
 目を逸らしながら、言われてもまったく説得力がない。何かを誤魔かそうとしている美琴の手を上条は右手で握ると美琴の横に並んで笑った。
「それじゃあ話せよ。約束だろう?」
「や、約束ね。そ、そうよね。でもなんで手を」
「恋人なんだから手を繋ぐのが普通って前に言わなかったか? 俺はそれに従っただけだが、何かおかしかったか?」
 そういって笑うと、美琴もおかしくないわと引きつって笑った。見ていた上条は、逃げる気だったかと逃がさないように手をぎょっと握った。

618キラ:2010/03/21(日) 16:46:42 ID:vnaFjP4M
「それで、美琴さんはどうして積極的だったんですか?」
「うっ………そ、それは…その」
 相変わらず目を合わせようとしない。言いたくないのか、それとも別に何かあるのか疑問に思ったが、美琴は諦めたのかため息をついて上条の手を握り返した。
「私も、土御門よ」
「……土御門? って義妹の舞夏でいいんだよな?」
「そうよ。その土御門であってるわ」
 土御門舞夏とは、引越しの時以前からの付き合いでもある。男子寮でも世話になっていたし、週に一度あの家の掃除けん遊びにも来てくれる。だから上条と美琴からすれば使用人に近い存在でもあった。
 その土御門の名前が出たことに上条は困惑はしなかったものの、美琴と何をしたのかは想像が出来なかった。
「悪い御坂。上条さんには土御門が何をしたのか想像できない」
「ま、当然よね。私と土御門の付き合いなんて知らないんだし、その時は『外』に行ってた頃だしね」
 そうなると上条と美琴はほとんど同じ時期に何かしらのことをしたことになる。
 何故だろうか、上条はこの偶然が必然のように思えてきた。そしてこれは陰謀ではないと信じたくなったが、今の上条と美琴にはこの偶然が陰謀かもわからなかった。
「それで私は土御門から男が喜ぶことを教えてもらったのよ。何をすれば喜ぶのか、何を着れば見てくれるのか、何をしていけば振り向いてくれるのか、告白とはちょっと違ったことをたくさん教わったわ」
「それで……裸エプロンですか?」
「…………………つ、土御門の案よ。アンタがそういうことにも憧れてるって聞いたって言われたのよ」
 上条が思うにそれは出鱈目だ。
 それをして欲しいのは兄である元春の方だろう。そんな兄の願いを上条の願いに変えたのはどうかと思ったが、予想以上の威力であったので許すことにした。
 一応、不謹慎なことを毎日のようにしている上条であるが、そういったサプライズも男である上条からすれば喜ばしいことであった。それが自分の恋人である美琴の行うことだとその喜びは何倍にも膨れ上がるし、行うのは家の中なので自分には多分大きなリスクはないだろう。
「ま、細かいことはいいか。それはのちのちわかりそうだし、話すよりも実際に見たほうが早いからな」
「百聞は一見にしかず、ね。だけどお互い様よね」
「まあな。偶然じゃないように思えるけど、そのあたりは時間もあることだし焦らずに行きたいもんだな。でも今度はお互いに、な」
 誘うように笑うと、美琴はそうねと頷いた。
 自分たちがどれだけ相手のことを喜ばせたいと、些細な会話の中で上条は知った。だから今度は知った上で、お互いをお互いに喜ばせるために少しずつ様々なことをしていこうと思った。
 そしてそれは家の中だけでなく、家の外でも人の前でも出来るようになって、自分たちの幸せな姿を恥ずかしがることなく自慢したい。
「俺には御坂を信頼しきれなかった責任もある。だから今度は御坂自身が協力して欲しいんだけど、ダメか?」
「そんなこと、言わなくてもわかるでしょ。それに私も同じよ」
 上条は繋がれた手の感触を確かめながら、美琴に笑いかけた。美琴は笑いかけられ、それの答えに笑って答えてみせた。
 まだ外では初々しいが繋がれた手の幸せをかみ締めながら、上条は入学式会場になっているとある高校へと美琴と共に歩いていく。
 だが二人はまだ知らない。
 入学式で待つ大きな事件(サプライズ)を………。

619キラ:2010/03/21(日) 16:49:02 ID:vnaFjP4M
以上です。
残りは後編に続きます…と言いたいですがまだプロットがorz

それと職人様方、最近一気に増えて嬉しいですし作品はGJです。
もちろん感想をくれる方や読んでくれる読者の方々もありがとうございます。
というか、ここの人たちみんなGJ!!!

620■■■■:2010/03/21(日) 17:25:36 ID:CXkTFfyI
>>キラさん
待ってましたー&GJ!!
朝からラブラブすぎて口から砂糖が出そうなほど甘いっス!(褒め言葉
後編の入学式も楽しみにしています!

621■■■■:2010/03/21(日) 17:36:39 ID:JvdSkKqw
キラさんGJですw
いやー、まさに朝からイチャイチャしてますなぁ〜お二人はw
続きも楽しみにしておりますw

622■■■■:2010/03/21(日) 17:47:26 ID:ZVOoOktM
キラさん、今回のはエロイですよ!!!それで言ってブラックコーヒーが必要に成って来ました。
甘〜〜〜い!!もう早く続きが読みたくなって来ました。
SS:皆さん本当に凄く感じます。色々と構想は出来ていますが何分文才が無いので如何纏めれば良いのか・・・。
て言うか某Ⅸをやっていて書いていないのが現実です(一応構想は練りながらですが・・・)。

623:2010/03/21(日) 19:01:56 ID:AIDEDAkc
大丈夫そうなのでいきます。
今回も注意点は特にありません。
強いて言うならシリアス風味w

では【side by side】投下します。
消費レスは5の予定。

624【side by side】―ホワイトデー―(17):2010/03/21(日) 19:02:48 ID:AIDEDAkc
3月14日12時、自販機前

美琴は普段通り、先に待ち合わせ場所に着き、上条の登場を待っていた。
しかし、集合時間になっても当の上条はまだ現れない。

「遅いわね…何かあったのかしら。それとももしかして何か厄介事?」

上条の遅刻は別に今に始まったことではなく、付き合う前は毎回遅刻していたくらいだ。
だが付き合うようになった後はそんなことはなく、この一カ月に二、三回はしたが、その程度にまでなった。
それ以外は十分前には集合はできるようになり、最近では遅刻の方が珍しい。
だから最近の早めの集合に慣れてしまった美琴はすっかり遅刻の耐性がなくなり、苛立ちを覚えていた。

「……まあ、今までが出来すぎていただけであって、むしろこっちが本当のアイツなのかな…」

いくら付き合うようになってからは彼の厄介事が激減したとはいえその可能性は拭えない。
上条の不幸や厄介事の元々の原因とも言える彼の右腕は未だ健在なのだから。

「今日は長期戦かなぁ。……まあそれならそうで、貸しができるから悪いことづくめってわけじゃないけど」

美琴は今までの経験と上条の彼女たる美琴の勘が若干の嫌な予感を訴え、長期戦を覚悟した。
貸しができるから何をさせようか。
最早美琴はそこまで思考を張り巡らせていた。
今からその時が楽しみで仕方ない。
とりあえず長期戦に備えて何か飲み物でも買おうと自販機に目を向ける。
以前ならばお金を入れずに、自販機回し蹴りをいれてジュースを手に入れていただろう。
だか美琴は前に上条に自販機に回し蹴りをいれることについての注意を受けたことがある。
それ以来はちゃんとお金を入れて買っている。
そしていつも通りに財布の中の小銭を取り出して、自販機に入れようとした。
その時だった。

ゲコゲコ、ゲコゲコ

美琴の携帯電話の着信音がなる。
美琴は慌ててとりあえず手にした小銭をしまい、ディスプレイを見るとそこには美琴の待ち人、上条当麻の名が表示されていた。
時間は集合時間をとっくに過ぎていることから、これは上条が遅れるという連絡であると判断するのが妥当だろう。
しかし、美琴は何故だか嫌な予感がした。
普段の彼なら遅れるとしても連絡も特にしない。
その彼が今回に限って連絡をよこした。
その原因は不明であるが、それでも美琴には何かが起きたとしか考えられなかった。

(いや、でも……まさか本当には…ねぇ?)

美琴は恐る恐る携帯の通話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。

625【side by side】―ホワイトデー―(18):2010/03/21(日) 19:03:16 ID:AIDEDAkc
「…もしもし」
『美琴…か?…悪い、ちょっとそっち行けなくなった。そっちに行く途中、なんか変な連中に追われて、なんとか撒いて、家に戻ったんだが…』

彼の息絶え絶えの声を聞いて美琴の背筋に嫌な汗が流れた。
今のところは上条は無事らしいが、この後は何が起こるかはわからない。
その彼が言うところの変な連中が直に彼の家の場所をつきとめるかもしれない。

「ちょっと、大丈夫なの!?何か、私にできることはある!?」
『……もしかするとお前の所にやつらが行くかもしれない。今のところ家の周りには連中はいない様だから、今の内にうちに来い』
「はぁ!?アンタは私を誰だと思ってんのよ!私は学園都市に七人しかいない超能力者の第三位なのよ!?アンタを追いかけまわした連中なんて、この私がぶっ飛ばしてやるわよ!!」
『馬鹿野郎!!それでもしお前に何かあったらどうすんだ!!俺は自分が襲われるより、そっちの方が嫌なんだ!!』

上条はいつでもこうだ。
誰かを思うあまり、自分のことを全く考えていない。
もし彼に何かが起きた時、それを悲しむ人のことを全く考えていない。
そんな考え方しかしない彼に、美琴は腹が立った。

「私はアンタが、当麻が傷つく方が嫌!!もっと自分を大事にしてよ…!!」

上条は少し黙った。
それが何のためかは今の美琴にはわからない。
美琴の悲痛とも言える心からの叫びが彼に届いたのかもしれない。
少なくとも美琴はそう思った。

『……わかった今後は気をつける。でも今は、今回だけは俺の言うことを聞いてくれないか?』

上条の声は穏やかだった。
泣いている赤ん坊をあやす時のように優しく、包み込むような声。

「……わかったわよ。行けばいいんでしょ?それじゃ家の場所教えてよ、行くから」

別に美琴は上条の言い分を納得したわけではない。
でも彼にあんな声で頼まれたら、断れる気にもなれなかった。

『俺の家の場所は今からGPS情報を送る。それでわかるよな?』
「うん、大丈夫。あと今回だけだからね、こんな頼みを聞いてあげるのは」
『わかったわかった。それじゃあな』

上条がそう言うと一方的に電話は切れた。
そして間もなく彼からのメールが届く。

(ここか…まあアイツの家を知れたところだくは良しとするわ)

上条の家までの大体の道のりを確認すると、美琴は携帯を閉じて、目的地に向かって走り出した。
怒りと心配な気持ちを早く彼にぶつけるために。

626【side by side】―ホワイトデー―(19):2010/03/21(日) 19:03:49 ID:AIDEDAkc
美琴は目的地である上条が住む学生寮に着いた。
この一ヶ月で上条とはかなり親密になり、様々な所へと出かけたことはあったが美琴が彼の部屋に訪れたことは未だない。
初めての来訪がこんな形になってしまったのは彼女の心の中では残念としか言いようがないのだが、今はそのことについて怒っている場合ではない。
走っていたためかそれほどの時間はかかっていないのだが、彼女には長く感じられた。
自分が着くまでに彼に何か起きてないか。
それがとにかく心配だったからだ。
今美琴が辺りを見回す限り、その学生寮には特に変わったところは見られない。
この静けさは何も起きてないためのものなのか、それとももうすでに事が起きてしまった後によるものなのか。
そこまでは判断できなかったが、とりあえず先程の上条からのメールに書かれていた彼の部屋に向かうべく、美琴は学生寮のエントランスをくぐる。
無論、一応自分が誰かに尾行されていないか、学生寮の周りに不穏な動きがないかを確認してからの行動である。

(全く、ここのセキュリティーは一体どうなってんのよ。これじゃ誰でも自由にお入り下さいって言ってるようなもんじゃない)

確かに美琴の思うように、この学生寮にはセキュリティーと言える代物はほとんど見受けられない。
辛うじて監視カメラ程度のものが見られるものの、こんなものは今時どうとでもなる。
また、あくまで彼女の基準は自分の住む常盤台女子寮なので余計に目につく。

(まあそれについては今はおいといて、早く当麻の部屋に行かないと)

美琴は周りを見回してエレベーターを見つけると、真っ先にエレベーターに乗り込み、上条の部屋のある七階のボタンを押した。
学園都市特有の揺れを感じない高速エレベーターにより、あっという間に七階に着き、上条の部屋を目指す。
美琴が上条のであろう部屋の前に着くと、とりあえず周りを見回し何もないことを確認する。
美琴の目では学生寮付近同様、特におかしな点などは見られず、普通の日々の学生寮と何ら変わりないように見えた。
なので、上条の部屋のインターホンを押す。
インターホンの無機質な音が鳴り響き、上条の応答を待つ。

―――しかし、返事はない。

(ッ!!うそ…嘘でしょ!?)

微かな不安が彼女の脳裏をよぎった。
美琴は手を震わせながらも、無我夢中にドアの取っ手に手を伸ばす。
幸い鍵はかかっておらず、ドアを引いた時の手応えはなくあっさりドアは開いた。

「当麻!!」

627【side by side】―ホワイトデー―(20):2010/03/21(日) 19:04:20 ID:AIDEDAkc
パァンッ!!!

(ッ!!……えっ?)

ドアを勢いよく開けた瞬間、銃声にも似た音が部屋中に響いた。
その音に驚き、美琴は肩を大きく揺らしたが、彼女はそれどころでは済まない。
美琴は何が起きたかは全く理解できなかった。
やがて何もかもがわからない状況下で、少しぼんやりしていた視界は次第にはっきりしてゆき、美琴は目の前の光景を目の当たりにする。
だが、それでもその光景を理解できなかった、いや、理解したくなかった。
今までの自分の十分すぎると言える程の警戒、彼の身の心配、万が一のときの恐怖。
その光景はそれら全てを馬鹿にするような光景だったからだ。

「あ、あ、アンタはあああああぁぁぁぁあああ!!!!!!」

先程の銃声に似た音にも負けず劣らずの怒号を美琴が発して、上条の部屋に彼女の電撃が放たれる。
部屋のことなど全く考えていない無配慮の数億ボルトにも達する無慈悲なる電撃である。

「どわああああぁぁぁぁあああ!!!!!!や、やめろおおおおぉぉぉぉおおお!!!!」

そして、その美琴の怒号にも負けない程の声量で上条の部屋にいた誰かから発せら、美琴に飛びついた。
その声の主とは。

そう、ここの部屋の主である上条当麻であった。

「きゃあ!……あ、アンタ!!なにしてんのよ!!」
「はぁ!?んなもんお前がいきなりそんな全開でビリビリしだすからだろうが!!」

今の彼らの態勢は上条が玄関に立っていた美琴に飛びついた形であったため、ちょうど上条が美琴を押し倒したような態勢だ。

「違うわよ!なんでアンタはこんな時にあんなことをしたのかって聞いてんのよ!!」

美琴の言うところのあんなこと。
つまり、先程の銃声に似た音の原因となる上条の行為のことだ。
勿論、美琴に向かって本当に銃を撃ったなんてことは決してない。
では何だったのか。
答えはクラッカー。
上条は美琴に向かって三個程のクラッカーを同時に放ったのである。
それらのクラッカーの中から放たれた長い糸状の紙や紙吹雪が美琴にかかるその光景は、美琴がつい先程まで醸し出していた緊迫した雰囲気を一気にぶち壊す程、非常に馬鹿げたものだった。

「え、えーっとですね…それは…」
「アンタは変な連中に追われてたんじゃないの!?それをこんなことして…馬鹿じゃないの!見つかったらどうすんのよ!!」
「み、美琴!落ち着けって!!」
「これが落ち着いていられるもんですか!!大体なんでアンタはこんな時でむッ…!!」

628【side by side】―ホワイトデー―(21):2010/03/21(日) 19:04:52 ID:AIDEDAkc
美琴のすぐ近くでする上条の匂い、彼女の視界いっぱいに広がる彼の顔、そして口元の柔らかくも、熱く、とろけるような甘さの感触。
上条は美琴にキスをしていた。
彼らはバレンタインの日には三度ほどしていたのだが、それ以降は頻繁にしていたわけではなく、キスは稀にしていた程度。
なので美琴はこの感触に慣れているわけではなく、さらに突然されたことにより顔を急激に赤く染める。
そしてその熱はすぐに美琴から離れた。

「…落ち着いたか?」

コクコク、と角張った動きで美琴は黙って頷く。

「はぁ…お前がいきなりところかまわずビリビリすっから、玄関の壁が焦げちまったじゃねえか……不幸だ」
「ご、こめん……で、でも、アンタがこんな時にあんなことするからでしょ。…ちゃんと説明してよね」

美琴は鋭い目つきで上条を睨めつける。
対して上条は少し疲れたようにため息をつき、そして睨めつけてくる美琴の視線に対してしっかり目線を合わせて、

「ああ、アレな。アレは全部嘘。別に俺は誰にも追われてなかったし、ずっと家にいたよ」
「………………は?」

「いやな、一昨日も昨日の昼にも言ったとおり、昨日に今日渡す菓子を作ったんだよ。でもそれだけじゃお前を喜ばせる自信がなくて、隣りに住んでる土御門って奴にちょっと相談してみたんだよ。そしたらな『それはもちろんサプライズが一番だにゃー。女の子というのはみんなサプライズに弱いものぜよ』って言ってきたもんだから…」

そこから上条は説明をさらに続いていた。
だが、そこからの話は全て美琴の頭には入っていっていなかった。
今の美琴の頭には、あれだけ心配させといて実は嘘という怒りが七割、自分を喜ばせようと上条なりに頑張っていたことによる嬉しさ二割、諸々のこと一割で占められていた。
なので新しい情報をいれるなどという余裕は全くなく、まさに右から左の状態である。
ただ今の美琴に言えることは一つだけある。
そして美琴と上条の態勢は始めからあまり変化はない。
ただ始めに比べて上条が少しだけ起き上がり、彼の右手で美琴の左手を握っているぐらいの変化だ。
だから美琴は今能力を使えない。
だから美琴の持てる力全てを振り絞って、

「……といてっ…!」
「だからだな…って美琴聞いてんのか?」
「人にあんだけ心配させといて!!!謝りもせんのかアンタはあああぁぁぁああ!!!!」
「ごばあぁ!!!」

上条の頬を右から左へ美琴の全身全霊を込めた横薙の一撃が彼女の怒号とともに炸裂した。

629:2010/03/21(日) 19:06:00 ID:AIDEDAkc
以上です。
少しでもハラハラドキドキしてもらえたら嬉しかったりw
さぁ次からはいちゃいちゃだ!

では失礼します。
ありがとうございました。
少しでも皆さんに楽しんでもらえたら幸いです。

630■■■■:2010/03/21(日) 19:24:36 ID:FyBwRyNg
>>629
TPOをわきまえないカミやんw
これは電撃くらっても仕方ないレベルww
GJですた。

631■■■■:2010/03/21(日) 19:48:18 ID:JvdSkKqw
蒼さんGJですw
上条さんいつも事件に巻き込まれてばかりだから、
冗談がじょうだんにきこえないですよw

632■■■■:2010/03/22(月) 00:29:29 ID:j6UDAbtQ
禁書のメインヒロインはインデックスで美琴はあくまで・・・・だと?


だ・・・誰か、この幻想を(ry





蒼さんGJ。できればこの幻想を・・・

633■■■■:2010/03/22(月) 00:55:30 ID:3NPEl9ks
>>632
馬鹿野郎なにいってやがる…
そんな幻想上条さんがぶち(ry

634■■■■:2010/03/22(月) 01:08:14 ID:biUBPP6Y
>>632
その幻想をぶち(ry

灰村さんのサイトには「インデックスとのダブルヒロイン体制が・・・」ってあったよ

・・・これじゃだめかな?

635■■■■:2010/03/22(月) 01:30:28 ID:j6UDAbtQ
>>634

だとしたらかなりの進歩?・・・いやいや、こんなところでとどまるLV5ではないはず。
とりあえず、ヒモのフードファイターにたかられて上条さん涙目。美琴さん癒してあげて。



さて、SSでも書いてこようか・・・まあ、気が向いたら。
ってことで誰か投下しといてくれ。

636■■■■:2010/03/22(月) 02:29:17 ID:gtRR.Xb2
>>632
上条さんの魔術サイドの話におけるメインヒロインがインデックスで
恋愛サイドの話におけるメインヒロインが美琴さんつーことで問題あるまい?

637■■■■:2010/03/22(月) 05:28:20 ID:SmMZuZLM
ふと思ったのですが皆さん 上琴雑談スレって欲しくないですか?
利点
・各キャラスレでは普段叫べない事でも言える
・かなり昔のssや、他スレのssについても良かったと感想を言える
 (ただ直近の投稿とか、同スレの投稿についてはこっちで言って欲しい)
・その他創作物に関してなんかも
欠点
・2chの各キャラスレで「カプ厨は専用スレ行け」と言われるかも(でもあそこしたらばじゃん と返せるけど)
・ここが変に過疎る可能性
 (別にここは今まで通りで、邪魔になる程度に騒いだり叫びたい時に使うスレだと思って頂ければ)

投稿される方の邪魔にならない程度に御意見頂きたいです

638637:2010/03/22(月) 05:38:26 ID:SmMZuZLM
すいません訂正
どうやっても邪魔になりそうな気がするので雑談スレでお願いします
雑談スレ 3フラグ目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1200906099/
別に要らない と思ったら反応無しでも構いません

639■■■■:2010/03/22(月) 12:40:49 ID:/qsxM5Z.
と○だちコレクションで「とうま」と「みこと」が恋人になったんだよー。
原作でもなってほしいんだよー。

640かぺら:2010/03/22(月) 13:10:53 ID:fRRQQUy.
前回は色々ご迷惑をおかけしました。

>>キラさん
なんかエロい!想像してしまいそうな俺の煩悩を抹殺して下さい。

>>蒼さん
冗談で済まされないレベルw
電撃くらっても文句言えませんよ、上条さん

誰もいないようでしたら『前夜祭(クリスマスイヴ)』の中盤を13:15より投下開始します。
6レスお借りします。前篇は>>568-573です。
いつも少ない、いちゃいちゃ分を当社比1.5倍したつもりです。

641前夜祭(クリスマスイヴ)7:2010/03/22(月) 13:15:47 ID:fRRQQUy.
初春や白井と合流した美琴達は佐天の部屋にいる。
クリスマスツリーの飾り付けも終え、夕食の料理をテーブルに並べていく。
キッチンでは初春が最後のポテトサラダを盛り付けている。他3人は席について初春待ちだ。
「ところでお姉様はどのようなものをプレゼントに?」
「アンタねぇ、それ言ったら楽しみがなくなるでしょうが」
美琴は呆れたように溜息をつく。
「そうですよ、白井さん。きっと物凄く素晴らしいプレゼントを用意してくれてますよ。ね、美琴さん?」
「あははは。そんなに期待されると渡しにくいんだけど……」
―――さっきはあんなに照れながら呼んできたのに―――
美琴は佐天の適応力に驚きつつ、その期待の満ちた目線から逃げるように顔を背ける。
その背けた視界には、両手でポテトサラダが山盛りにされた皿を持つ初春が入る。
「あ、れ?」
美琴は驚いたような顔で初春を見ている。さらに盛られたポテトサラダが『残ったジャガイモを全部使いましたよ』なんていうくらいの大量だからではない。
初春の顔が青ざめていたからだ。まるで怖いものを見たかのように。バイオリンを教えて貰っているところを見られたときのように。
美琴はゆっくりと初春の目線をたどる。白井のいるであろう空間には、壮絶な顔の空間移動能力者がいた。
「お、お姉様?」
「どうしたのよ、黒子?」
「いつからなのですか……」
「な、なにが?」
じとーっとした目で白井は美琴の顔を覗き込む。
「いつの間に上条さんから佐天さんにお乗換えに?」
「なにを勘違いしてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
美琴はその右手を真っ直ぐと突き出し、白井の顔面へと突き刺す。うげ、と言い残して白井は後ろにバタンと倒れる。
「なにがあったんですか、御坂さん?」
初春は持っていたポテトサラダをテーブルにドンと置く。
美琴が白井に鉄槌を下すのは良く見る光景である。スルーしても良いのだが、今回は違った。いつもは『からかう側』の佐天が顔を赤くしているのだ。
上条の告白シーンを除いたときに佐天が思っていたより乙女であることを知ったので、美琴の惚気話で盛り上がったのだろうと思ったのだが。
「いやね、私が当麻から涙子に乗り換えたんじゃないか、って話で」
「…………佐天さん」
「どしたの、初春?」
目を丸くしたままの初春に佐天は首を傾げる。
「いつから御坂さんに乗り換えたんですかっ!」
「だから乗り換えてないって!っていうか、誰から乗り換えたっていうのよ」
「私から!花が無くても好きって言ってくれたじゃないですか!」
準備は出来たのに、パーティが開かれるのにはまだ時間がかかりそうだ。

642前夜祭(クリスマスイヴ)8:2010/03/22(月) 13:16:01 ID:fRRQQUy.
『必要悪の教会』のパーティが英国式教会では、名目上クリスマスパーティと銘打った宴会が繰り広げられている。
参加者の殆どが天草式のメンバーであり、上条的には『ぶっちゃけわざわざ集まる意味あんのか?』と思えるようなものであった。
上条は周りを確認する。さっきまで隣にいた筈のインデックスは『食べ物がいっぱいあるんだよ』と言って走って行った。
料理の置いてあるテーブルは今頃戦場となっているであろう。確認したくもない。
と言っても、教会の至るところで色んな人が盛り上がっていて、酒池肉林状態になりつつある。
「あー、みんな好きなのね、お祭りごと」
イギリスでの集団晩餐のときのように、1人取り残され気味の上条は食事するのも諦める。
「あ、もしもし………か、上条、さん」
「うん?」
後ろから声をかけられ振り返る。そこにいたのは――
「うおぉっ!?せ、精霊さんっっ!」
「そ、そんなに驚かなくてもっ」
あわわわわと口をぱくぱくさせる大精霊がいた。
「でう、ですか?」
『大精霊』と化した五和は、その場をくるりと回ってみせる。
チラメイドという名のはずであるが、チラどころではなく刺激は強い。
胸元は大きく開いているというか見えまくっているし、スカートも短い。なおかつ上下セパレートによるへそ出しである。
「なんつーか、思ってたよりエロいな」
上条はできるだけ見ないように努力するも、どうしても目線がよからぬところにいってしまう。
―――思ってたよりも、でかい!―――
何がでかいと思ったのは上条にしか分からない。
「私の部下をそんな目で見ないでください、上条当麻」
後ろから声が飛んでくる。神裂火織のものだ。
上条の脳裏に堕天使が降臨する。数時間前にもフラッシュバックして悩まされた堕天使にモノ申すべく、勢いよく振り返る。
「神裂!テメェまでエロい格好してんじゃねぇ!―――って、あれ?」
神裂はいつも通りの恰好であった。
「んなっ!?人聞きの悪い!どこがエロだというのですか」
「うううっせぇ!その姿も十分エロいと言ってるんです。あー、もう堕天使エロメイドかと思って焦りましたよ」
上条は神裂の『相変わらずのエロさ』に半分安堵し、『いつも以上のエロさ』出なかったことに半分残念に思う。
「か、上条当麻、何を残念そうな顔をしてるんですか!今すぐ外に出なさいっ。その記憶を吹き飛ばしてあげましょう」
「神裂さん、殺す気ですか?」
腰に付けた『七天七刀』を手に持つと、聖人の腕力をいかんなく発揮して上条の襟元を掴みあげる。
「ちょっと待てって、神裂!悪かった!エロメイド姿のお前を想像した上条さんが悪かったです!許してぇぇっ」
「黙りなさい!!なに、以前のように傷だらけにはしません。『唯閃』は一撃必殺ですから」
「うわぁぁっ、マジで殺す気ですよ、この人!い、五和さん、見てないで助けてください!」
「え、あ、女教皇様!待ってくださぁぁぁいっ」
その後、教会の外では大精霊と聖人の戦いがあったとかなかったとか。

643前夜祭(クリスマスイヴ)9:2010/03/22(月) 13:16:15 ID:fRRQQUy.
パーティも終わりの時刻を迎え、美琴は1人で歩いている。
あれから佐天との仲を問い詰められ、上条との一件の話になって、初春の事も名前で呼ぶようになって。
ようやくパーティが始まったかと思えば、メインのプレゼント交換では大騒ぎであった。
というのも、初春に渡ったプレゼントが美琴も見ていたあの紐パンだったのだ。
犯人は白井で、本人いわく『お姉様に渡ることを望んでいましたのに』だそうだ。
当然、初春は『酷いと思いませんか、るるる涙子さん?』と言っていたが、佐天に『ごめん、私もそれにしようかと思ったよ。もちろん、飾利用に!』なんて言うのだ。
『実は私も』なんてカミングアウトなんて出来るわけもなく、少し後ろめたい気持ちで初春を慰めることになり。
そんな初春の頭を撫でたら白井が暴走を始めるわ、佐天が羨むわで正直、疲れるものだった。
ちなみに、美琴の貰ったプレゼントは初春からのブランケットだった。
話を戻そう。
美琴は1人で歩いている。初春は佐天の家に泊まるらしいが、普通なら白井と共に寮に戻るべきところだ。
美琴の目指す先は、上条の寮。
結局は全員に吐かされた上条との一件の解決するべく、美琴は単身で乗り込もうとしていたのだった。
十字教のパーティが何時に終わるかは分からなかったが、美琴は上条が帰ってくるまで待つつもりであった。
決心の揺れないうちに聞いておきたかった。疑念が膨らまないうちに話して欲しかった。
どこか思いつめたような表情で歩いていると、天の悪戯なのか、見知ったツンツン頭と白いシスターの後姿を発見する。
美琴はぷらぷらと歩いている2人の方に駆けていくと、大きく叫ぶ。
「待ちなさい、当麻、インデックス!」
振り返る。上条はギョっとした顔で。インデックスは友達を見つけたような人懐っこい顔で。
「あ、みことー。メリークリスマスなんだよ」
「メリークリスマス、インデックス。その様子だとパーティは楽しかったみたいね」
七面鳥がおいしかったんだよ、とじゃれてくるインデックスを撫でながら、美琴はバツの悪そうな上条に目をやる。
「何か用かよ」
上条は目線を合わせずにぶっきらぼうに問いかける。
「別にアンタに用はないわ。私はインデックスに話があってきたの」
美琴は驚いている上条に構わず、インデックスの手を取る。
上条からは恐らく『本当の理由』を聞き出せないであろう。ならば、隣の同居人に聞いてみよう、というわけだ。
「わたしに、話?」
「そ。ちょっと付き合いなさい」
「むむむ。その様子からみると重要な話なんだね。わかった」
インデックスは頷くと、美琴の手を握り返す。
「とうまは先に帰ってて」
「ど、どういうことだよ美琴」
「後で全部話すから、先に帰ってて。お願い」
美琴はそう言い残すとインデックスの手を引いて行った。
上条にはそんな美琴を呼びとめることも、その背中に声をかけることさえ出来なかった。
―――あんな目されたら、なんも言えねぇじゃねぇか―――
恐らくは明日の件であろう。上条は配慮の足りなかった自分を責める。美琴にあんな顔をさせてしまった自分自身を。

644前夜祭(クリスマスイヴ)10:2010/03/22(月) 13:16:28 ID:fRRQQUy.
どれくらいそうしていただろうか。
上条はふと我に返ると時計を見る。すでに帰って来てから1時間は経っていた。
言われた通り寮まで帰ってきた後、ベッドで横になりながら考え込んでいた。自分と美琴の関係について。
―――俺はアイツの事を、全然わかってねぇんだよな―――
上条は悩む。美琴の心を分かってやれない事に苦悩する。
―――泣かせねぇとか守るとか言いながら、あんなに悩ませといてよ―――
あれから2人とも帰ってくる様子はない。連絡すら来ない。
何も教えられずに待つことがこんなに辛いなんて、と上条は思う。
「情けねぇな」
上条の言葉は静かな部屋の壁に吸い込まれるように消えた。
こんこん。
静かにしていなかったら気付かないくらいの小さな音で、扉がノックされる。
上条は自分でも驚くくらいの速度で跳ね起きると玄関に向かうと、遠慮がちに扉が開き、俯いた美琴が入ってくる。
美琴1人。インデックスの姿はない。
上条がその事を聞こうとした瞬間、ポケットに入れっぱなしだった携帯が震える。
インデックスからのメール。『きょうはきょうかいでとまるから、ふたりでゆっくりはなしあってほしいんだよ』
まだ変換もできない稚拙なメールであったが、文面異常に伝わるものがあった。
「………とりあえず、上がれよ」
「うん」
さっき別れた時のぎこちない空気のまま部屋の中に移動する。
「なんか飲むか?」
「ううん。いいから、こっち来て」
キッチンに向かおうとする上条に、美琴は座るよう促す。
初めて来たときのように、ガラステーブルに向かい合う。
「話があるの」
「俺にもある。お前に確認したいことが。でも、先に話しちまってくれ。全部聞いてからにする」
上条は真っ直ぐに美琴を見つめる。
じゃぁ、と呟いて美琴は小さく息を吐いて続ける。
「どうして、黙ってたの?」
「…………な、なんの話だよ」
「明日と、今日の話よ」
キッとした目で真っ直ぐと見据えてくる美琴に、上条は目線を合わさられない。
「明日の事は確かに言ってねぇけど、今日の事は教会に行ってるって言っただろ」
「それだけじゃないでしょ。今更、何を隠そうとしてるのよ?全部、インデックスが話してくれたわよ」
上条は顔をしかめ、下唇を噛む。
「もう1度聞くわ。どうして?インデックスが明日の朝で帰っちゃう事黙ってたの?」

645前夜祭(クリスマスイヴ)11:2010/03/22(月) 13:16:42 ID:fRRQQUy.
「………それは」
「私の顔を見て話して」
美琴は上条の両頬に手を当て、無理矢理に顔を向けさせる。上条は抵抗を試みるも、美琴の目は本気だった。
―――言うしか、ないよな―――
上条は小さく笑うと両頬に当てられている美琴の手をとる。美琴が少し驚いた顔をするが構わずに、話を始める。
「インデックスから帰るって話を聞いたのは、昨日の夜。お前に告白の返事をして、部屋まで帰ってきた後のことだ」
上条が帰ってきた後、ベッドの上にいたインデックスが涙ながらに話してくれたのだった。
実は以前から決まっていたこと、上条が悩んでいる間は言いたくなかったこと、分かれる前に上条に想いを告げたかったこと。
「お前に黙ってたのは………なんていうかな」
「遠慮してってわけ?」
「まぁ、そんなところかな」
上条はバツが悪そうに答える。何かを隠してる、美琴は考える。上条は本心を言いたがらない。
「嘘、ね」
「は?」
「嘘。アンタは私に遠慮したのかもしれないけど。家族であるインデックスとの問題に、私が首を突っ込むのを良しとしなかった。そうでしょ?」
「………」
上条は答えられない。美琴の言ったことが、寸分違わず自分の本心だったから。
―――お見通しか―――
上条は諦めたように肩をすくめてみせる。これから先も苦労しそうだな、と思いながら。
「そうだよ。俺はインデックスを家族だと思ってる。だから―――」
上条が全て言いきる前に、その言葉は中断された。美琴の右手が、上条の頬をはったから。
「アンタはっ!人の話には首を突っ込んでくるのにっ、なんで自分のときは話してくれないのよ」
「………美琴」
「私と『妹達』のときは無理矢理にでも入ってきたでしょう?」
美琴は泣いていた。そのことが上条の心に響く。赤くなった左頬よりも。
「それに、私は……インデックスの友達なの!親友なの!どうして、別れの一言もなしにサヨナラさせるつもりだったの?」
「………」
「今日だって、インデックスや、他の子達、英国に帰っちゃう人とのお別れ会だったんでしょ?」
「……ああ」
名目上は『クリスマスパーティ』であったが、その本質はお別れ会であった。
神裂をはじめとした、天草式とステイル、それにインデックスは本格的に英国付になる。
第3次世界大戦の終結を迎えたことで魔術師の抗争も沈静化した現状では、イギリス清教が学園都市で仕事をすることもないだろう。
必然的に、会う機会は減る。『遊び』には来れるものの、そうそう来れるものではない。
だから、お別れ会として盛大にパーティをすることになったのだった。
「でも、お前の知らない人間ばっかりだし。流石に、連れて行けねぇだろ」
「分かってるわよ、そんなの。じゃぁ、なんで明日も会えないっていうのよ?」
「インデックスを見送って、その気持ちのままお前に会うのが失礼だと思ったからだ。沈んだまま、クリスマスなんて楽しくねぇだろ」
「なんで1人で見送りする前提なのよ。私も、連れてけって言ってんの。2人で見送ればいいんでしょうが」
美琴は上条の胸に右手を叩きつける。力のこもらない弱々しいものだった。
「2人で分かち合ったら、悲しみもちょっとは和らぐでしょうが……なんで、全部…1人で、抱えようとすんのよ」
上条に思いのたけを全てぶつけた美琴の声は涙で消えそうだった。
「ごめん、美琴」
上条は目の前で泣きじゃくる美琴を抱きしめる。自分の足りないところを埋めるかのように。

646前夜祭(クリスマスイヴ)12:2010/03/22(月) 13:16:54 ID:fRRQQUy.
「落ち着いたか?」
「……うん」
上条は美琴が落ち着くまで優しく抱きしめていた。目を泣き腫らした美琴が頷く。
「そうだよな、なんで考えなかったんだろうな」
「アンタは、視界が狭すぎんのよ。サイじゃないんだから、偶には周りも見なさい」
私も人の事言えないけどね、と美琴は続ける。
「ほんとうに、お前はすごいよ」
「すごくなんてないわ」
美琴は上条に抱きしめられたまま身をよじり、その胸に頬を寄せる。
「インデックスの見送りなんて言いながら、明日当麻と一緒に居れることを喜んでる。そんなズルイ人間なの、私も」
「…………」
美琴の言葉を否定するように、上条は美琴を抱きしめる腕に力を込める。腕の中にいる美琴の良い香りが、上条の心を癒す。
「美琴………」
「なに?」
美琴は上条の顔を見上げる。目線は合わせてくれないが、上条の顔は優しげだった。
「ほんと、悪かった。さんきゅーな」
上条は照れくさそうに、にやっと笑う。美琴が想う上条らしい笑顔で。
「ねぇ、悪いと思うならさ。お願い聞いてくれる?」
「あぁ、いいですとも。愛しの美琴たんに迷惑をかけてしまいました上条当麻になんでもおっしゃってくださいませ」
上条は鼻をふふんとならすと、美琴の耳元で何でも言ってみろと囁く。
耳元で囁かれた事で顔を真っ赤にしてドキドキと動揺している美琴は、大きく息を吸うとニヤリと悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
上条はそんな笑顔に違和感を覚える。
―――あれ……もしかして俺、地雷踏みました?―――
だがもう後の祭り。口から出てしまった言葉を打ち消す能力は上条にはない。
「今日1日、私の言う通りにしなさい」
「分かったよ、どうせアレだろ?お前が寮に帰るまでだろ。たいして時間ねぇぞ?」
上条は少なくとも大覇星祭のときのような事にはならないだろう、と安堵する。
「何言ってんのよ。今日は、泊まっていくわよ?」
「はぁ?なに言って―――」
「言う通りにするのよね」
「そうですね、すいませんでした」
上条が抵抗の意志をみせた瞬間、美琴は右手をビリビリと帯電させるとテレビに向けていた。
『家電が順番に死ぬけど、いいのかな?』と暗、いや明らかに示している美琴に、上条は無条件降伏を飲んだ。
「なんだよ、明日の朝までは付き合えってことか?」
上条は美琴に回していた腕を離すと、美琴が不満げな顔をしているのも無視してその場に寝転がった。
「そうやって何でも勝手に判断しちゃうのは当麻の悪い癖ね」
美琴は携帯を開くと上条の目の前にズイと出す。いつの間に撮ったのか、待受けが上条の寝顔になっているのはツッコミ待ちなのだろうか。
「美琴サン?なんなんでせうか、この写真は?」
「私がマンガ読んでる横で寝てたから撮ったのよ。それ以来ずっとこれが待受け」
―――と、いうことはですよ―――
上条は顔を赤くしている美琴を見つめて思い出す。そもそも、美琴が上条宅に来るきっかけとなったのが月曜に出るマンガ雑誌だった。
何かにつけて家に来たがる美琴が、そのマンガ雑誌を読んでる横で上条が寝ていた事はある。どうやらその時に撮られたらしい。
―――ということは、アレか。何かにつけて俺の部屋に来たがったのは、俺に会うためか―――
上条はマンガを言い訳にやって来る美琴を思い出してみる。あの時は正直、鬱陶しいくらいだったが本心を分かった上で考えると非常に可愛い行動に見える。
「なぁ、美琴………お前、思ってたより可愛いやつだよな」
「んなっ!?」
「あ、外見は前から可愛いと思ってたんだけどよ。こんな写真待受けにしたり、マンガ口実に俺の部屋に来たり……」
「ととと当然何を言い出すのよ、このばかっ!」
上条は腹筋を使って起き上がると、美琴は耳まで真っ赤にして煙でも出そうな美琴の頭を撫でる。
「こんな可愛い美琴たんをスルーしていたなんて。上条さんは昔の自分を殴ってやりたいですよ」
「ふふふ、ふにゃぁぁぁ」
右手で撫でられているので漏電することはないものの、全身の力が抜けた美琴は体重を上条に預けてしなだれかかる。
上条はそんな美琴の行動が『甘えて来てる』と勘違いしたのか、その頭を優しく撫で続けるのだった。

647かぺら:2010/03/22(月) 13:19:14 ID:fRRQQUy.
以上になります。
珍しく3部に分けて、後篇は書け次第投下します。
いちゃ分当社比3倍くらいにできるといいな。

ではでは。

648かぺら:2010/03/22(月) 13:30:08 ID:fRRQQUy.
追伸。
いちゃ分あんまし増えてなかった…
まだ投下してない部分だorz

649つばさ:2010/03/22(月) 13:36:46 ID:poo/TTms
こんにちは、最近スレにお邪魔してなかったら新しい職人さんも増えますます
素晴らしいスレになってますね。
なんか浦島太郎状態……。読むだけでも大変……。

全ての職人さん、GJです!

他の職人さんごめんなさい、いくつかのみ感想書きます。
>>D2さん
>>パラドックスの確立
十年後の美琴がかわいすぎます。現代よりもかわいいかも。
ドラえもんやパーマンで感じてたような結ばれた未来がわかった上でのそうなる前提の過去
っていうのが大好きな自分としては凄いお気に入りな話です(パーマンはちょっと違うけど)
ひたすらイチャラブって言うのもいいですが、別のテーマが存在していてそのエッセンス
として結ばれた二人がいる話ってのは二重の意味で読んでて楽しいです。

>>桜並木さん
受験生ですか。五年ほど前に経験しましたが後悔だけはしない結果を目指して頑張って。
それにしても受験か……。不安で不安で仕方なくなりますが私たちも周りの人もきっと応援
してくれてます。頑張れ!
今まで面白い話をありがとうございます。また来年笑顔で復帰されるのをお待ちしてます。

>>かぺらさん
他のキャラとの絡みの件ですがまったく気になりませんでした。
むしろ話を面白くするためには必要だと思います。個人的な考えですがSS、二次創作といえ
ども物語、ストーリーです。
上条、美琴、この二人だけで話を成り立たせることもできますが他のキャラがいたって問題
ないでしょう。イチャイチャのみを見たいならそれこそシチュエーションオンリーになってしま
います。それと物語は違いますよ。私は面白い、の方が重要だと思ってます。
そんなわけでステイルかっこえーな、面白かったので続き楽しみにしてます。

650つばさ:2010/03/22(月) 14:13:24 ID:poo/TTms
用件書くの忘れてた。
大丈夫でしたら14:15頃から投稿したいと思います。

651ウソと魔法と素直な気持ち(1):2010/03/22(月) 14:15:15 ID:poo/TTms
「あ、当麻だぁ! 当麻、当麻! ねぇえ、と、う、まぁ」
 放課後、校門から出てきた上条は突然聞こえてきた甘ったるい声に全身を震わせた。
「だ、誰だ! 俺はそんなかわいらしい声でかわいらしく名前を呼ばれる覚えなんてないぞ!」
 全身に緊張感をみなぎらせて上条は辺りをきょろきょろと見回した。
「くそ、学校の周りじゃ人だって多いのにこんなところで騒ぎを起こすわけにはいかない。もっと人通りの少ないところに」
 あまりにも経験したことのない状況に魔術側の誰かの策略だと判断した上条は、この辺りの空き地およびそこへの最短ルートを考え始めた。
 最短ルートの検索終了。
 後は全速力で駆け抜けるだけだ。
 無意識に小さく右手を振った上条は静かに心の引き金を引く。
「いまだ!」
 次の瞬間、上条は左から来た茶色い影に体当たりを食らっていた。
「な、なんだ、なんだ!?」
 半ば無意識にその影を抱きしめた上条は地面に尻餅をつきながら必死で状況を判断しようと努めた。
「とうまぁ。どうして無視するのよぅ。声かけてるのにぃ」
「へ? この、声? へ?」
「えへへぇ。と、う、ま!」
「み、御坂か? 何やってんだお前」
 上条はようやく自分に抱きついている、かつ自分が抱きしめている人物が御坂美琴だということを認識した。

「上条当麻。貴様、こんなところで不純異性交遊なんていい度胸してるわね」
 美琴と抱き合いあたふたする上条は例によって例のごとく、絶対無敵のクラスメート、吹寄制理ににらみつけられていた。
 また校舎の方からは土御門や青髪ピアスといったクラスの愉快な仲間達がこちらに向かって土煙を上げて走ってきているのが見える。
 相変わらずこういう時の団結とノリの良さは天下一品なクラスだ。
「あ、お日柄も良くご機嫌よろしいようで」
 非常にまずい状況であることはわかっているのだが、今はそれ以上に自分の腕の中にいる美琴のことで頭がいっぱいな上条にはその程度の返事しかできない。
 だがそんな程度の会話であっても自分以外の女性の相手を上条がすることが許せない女の子が一人。
 美琴はぐぎぎと上条の首を自分の方に向かせると頬をぷくっとふくらませてにらみつけた。
 だがいかんせん元々美少女な美琴、かわいさばかりが強調されまったく怖くない。
 電撃を伴わない美琴の怒りの表情を見た上条は少し、ほんの少しだが心臓の鼓動を早くした。
 だが美琴はそんな上条の変化に気づかない。
 怒りのままに口を開いた。
「浮気した」
「へ?」
「私は大好きな当麻に会いたくて学校が終わってすぐ来たのに、当麻は私を無視して他の女なんかと仲良く話してた! それも私の体を堪能しながら! 最低! 女の敵!」
「え? いや、あの、その、これはその、事故で! と、とにかく離れて」
 動揺した上条は美琴を抱きしめていた手を離し立ち上がろうとしたが、美琴はそれを許してくれない。
 上条から離れないように彼の制服をぎゅっと握りしめた。
「何よ、言い逃れ? 今さらこんな程度で照れたって言うの? 夏のあの日、一晩中私と過ごしたあの夜、あれはいったい何だったの? あの激しさに比べたらこんなのなんてことないじゃない」
「え!? いや、そんな誤解を招くような言い方をされても上条さんとしては非常に困る訳なんですが」
 一方通行との戦いのことを言っているのだろうか、それとも記憶を失う前にやっていたらしい美琴との深夜の追いかけっこのことを言っているのだろうか。
 とにかく上条はわずかに残った冷静な判断力をかき集めてことに対処しようとしていた。
 今の美琴は明らかにおかしい、だが冷静に、あくまで冷静に対処すればなんとかなる、そう思っていた。
 だが目の前にいる常盤台の電撃姫はそんな上条の幻想を木っ端微塵に破壊して下さった。
「私、初めてだったのに。一晩中寝かせてくれないなんて……」

「上条当麻!!」
「カミやん!!」
「裏切り者!!」
「ちょっと待て――!!」
 美琴が落とした水爆級の爆弾は上条のやや平凡かもしれない学生生活を跡形もなく消し飛ばした。

652ウソと魔法と素直な気持ち(2):2010/03/22(月) 14:16:16 ID:poo/TTms
 ここはとあるファミレス。
 とりあえず学校の前はあまりにも人目に付くという理由で場所を移動して騒動の続きが行われることになった。
 参加メンバーは上条、美琴、土御門、青髪ピアス、吹寄の5人。
 本当は上条のクラス全員が参加したがったのであるがまずは下調べとして土御門達3人がクラス代表として名乗りを上げたのだ。
「さあ、カミやん。納得いく理由を聞かせてもらえるかにゃー」
 土御門が目を閉じ、静かな口調で声を出した。
「いや、それが俺にもさっぱり」
「ほう。そう言う割には貴様、ずいぶんその女の子と仲がいいみたいだけど?」
 こめかみをひくつかせながら言うのは吹寄。
 上条にとってせめてもの救いは、吹寄が怒っているのは非常に女性関係にだらしない彼の性癖に対してである、という点であろうか。
 これが嫉妬からくる怒りであれば上条はますます泥沼にはまることになっていただろう。
 吹寄に指摘された上条は自分の腕をしっかりと抱きしめている美琴を見た。
 何がなんだかよくわからない、ただとにかく美琴以外の女性とまともに話すことは危険だ、そう判断した上条はあえて吹寄を無視した。
「フン」
 自分を無視した上条の態度に吹寄は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
 だが美琴は上条が吹寄を無視したことに非常に気分を良くしたようだ。
 先ほどの怒りはどこ吹く風、白井黒子が見たら卒倒しそうなくらい幸せそうな表情を浮かべて上条にすり寄り、まるでマーキングするかのように頬をこすりつけていた。
 上条は状況を打破すべく美琴に話しかけようとした。
 だがまたしても上条の期待は美琴が木っ端微塵に破壊することになる。
「理由も何も見たまんま。私と当麻は将来を誓い合って婚約してるの。好き合ってる二人にどんなことがあったって別にいいでしょ」
「なーに――――!!」
 ショックで固まった上条に土御門達3人が食ってかかった。

「き、きき貴様! 相手はまだ中学生なのよ!! わかってるの!? 貴様に倫理観て言葉は存在しないの!?」
「……倫理観のことを言われたら俺もちょっと良心の呵責が。そ、それはともかくカミやん! ねーちん達はどうする気ぜよ! フラグ立てたらきちんとルート消化してから本命とエンディングを迎えなさいって父親から教わらなかったのかにゃー!? このままだと血の雨が降るぜよ!」
「ふふ、カミやんはとっくに大人になってたんやな。裏切りもん、裏切りもん……裏切りもん!!」
「婚約? 将来? いったい御坂さんは何をおっしゃってるんでしょうか? これも上条さんの失われた記憶と関係あるんでしょうか……。そうか、これは夢なんだ。学園都市も、幻想殺しも、インデックスも魔術も超能力も何もかも夢なんだ。俺は普通のなんの力もない高校生で、何か面白いことないかなと窓の外を見てまどろんでいるときに見た夢なんだ……」
 上条はブツブツと呟きながら現実逃避を始めていた。

653ウソと魔法と素直な気持ち(3):2010/03/22(月) 14:18:17 ID:poo/TTms
「――ま、とうま、当麻!」
「はっ。お、俺はいったい何を」
「やっと起きたの?」
 正気に戻った上条は慌てたように周りをきょろきょろと見渡した。
 そこに悪友達の姿はなく、心配そうな美琴だけがいた。
 上条はコップの水をぐいと飲み干すと、美琴の方を見ずに呟いた。
「悪い、今、何がどうなってるんだ。いろんな記憶が混乱して訳がわからない」
「とりあえず当麻があっちの世界に飛んで戻ってこないから、クラスメートの人たちはあきらめて帰ったわよ」
「そうか。いや、それよりも俺が聞きたいのは――」
「でもあの人達も野暮よね、人の恋路にいちいちケチを付けようとするなんて。私と当麻が婚約してることになんの文句があるって言うのよ。本当は今すぐにでも結婚したいのにちゃんと分をわきまえて婚約にしてるこの常識的な私たちに、ねえ」
「だから、俺が聞きたいのはそんなことじゃなくってだな」
「何? 怖い顔しちゃって」
 きょとんとする美琴。
 その無邪気な表情に多少の罪悪感を覚えたが上条は言葉を続けた。
「いったい何の話なんだ、婚約とか結婚とか。俺と御坂が? そんな覚えまったくないぞ」
 しかし美琴は上条の質問の内容とは別にところにお冠のようだった。
 かわいらしく頬をふくらませてジト目で上条をにらみつけた。
「美琴って呼ぶこと」
「だからそんなことより俺の質問に」
「美琴」
「だから」
「み、こ、と」
「おい」
「み、こ、と」
「……み、みこ、と」
 根負けした上条の様子を確認してようやく美琴は相好を崩した。
「うん、よろしい。で、いったいどうしたの当麻? ひょっとしてまた記憶喪失?」
 そして再び心配そうに上条を見つめる美琴。
 その純粋な瞳にさらに罪悪感を覚えたが今の上条にあまり余裕はなかった。
「だから、そうじゃなくって美琴のこととかいろんなことはちゃんと覚えてる。美琴との婚約とかそこのところだけ俺は知らないんだ。そもそもいつ俺たちは名前で呼び合うような仲になったんだ? なあ、俺たちって友達じゃないのか?」
「何、それ……。アンタ、本気で言ってるの?」
「本気も何も、そんなこと俺全然知らないっていうか記憶にないっていうか。なあ、お前俺のことからかってるんじゃないのか? もしそうなら悪い冗談だぜ」
「冗談って、アンタこそ何言ってるの? こんなこと冗談で言うはずないでしょ。そもそもこんなことでアンタをからかって私に何かメリットがあるって言うの?」
「メリットなんて俺にわかるわけないだろ。とにかく今の俺にはお前と恋人だとか婚約だとかいう感情がない。だったら、からかわれてると思うのが自然だろ。モテない上条さんに対する嫌味かとも思っちまう」
「何よそれ!」
 顔を紅潮させた美琴は上条に食ってかかった。
 その目は本気で怒っている目だった。
「恋人とかそういう感情がないですって!? ふざけんじゃないわよ! なんと言われたって私はアンタが、上条当麻が好き。この気持ちに嘘偽りなんてない! アンタも私のことを好きって言ってくれた! それが私の認識してる全てよ!!」
「…………」
「なんとか言いなさいよ」
「えっ。あ、その、ごめん」
「はあ? ごめんて何よ、ごめんて! その場しのぎで謝んな! ちゃんとわかってんのか馬鹿当麻!」
「ん、んぐ……」
 美琴の激しい口調に圧倒された上条は再び謝罪の言葉を口にしそうになったが、なんとかそれを飲み込んだ。
 同時に美琴へ誠意ある対応を取ろうと思い、脳内で必死に状況を整理しようとした。

 自分の美琴に対する感情が恋愛としての「好き」でないのは事実。
 しかし自分たちが相思相愛だと言う美琴の言葉に嘘があるようにも思えない。
 美琴は彼女のことを好きでないと言った上条の言葉に本気で怒っているのだから。
 そして最も重要なことだが、美琴は上条のことを好きだと言っている。
 初耳だ。
 ケンカ友達のはずの美琴が自分のことを好きで自分たちは恋人同士。
 結局状況は上条の脳のキャパシティを遥かにオーバーしてしまうだけだった。

「ごめん。本当に、ごめん」
「だから――」
「何もわからないんだ、本当に。だから、ごめん」
「……こっちこそ、ごめん。言い過ぎた、かも」
 美琴は上条から離れた。

654ウソと魔法と素直な気持ち(4):2010/03/22(月) 14:19:18 ID:poo/TTms
 長い沈黙が続き、やがて美琴がぽつりと口を開いた。
「ほんとに、何も知らないの? 記憶自体はあるのに?」
「記憶喪失には、なってないと思う。お前のことも他のことも、以前記憶喪失になってあたふたしてたことなんかも全部覚えてる。さっきも言ったとおり、お前との関係が俺の中ではあくまで友達なんだ。恋人じゃ、なくて」
「そんな……じゃあ私の覚えてることや認識はいったいなんだっていうの? 私が嘘ついてるって言うつもり?」
「正直最初はそう思ってたんだけどさ、違うんだろ? 確かにお前はそんな嘘つくような人間じゃない」
「そ、そうよ、私は嘘なんてついてない。でも、じゃあなんでアンタと認識が違うのよ! いろんな思い出、ちゃんと覚えてる。あれ?」
 美琴は記憶の中の上条との思い出を呼び起こそうとして妙なことに気づいた。
 動作や言葉、その時の感情は覚えているのだが、その情景は全て霞がかかっているようにぼやけているのだ。
 特に背景、周りの様子に至ってはほとんど消えている。
 美琴と上条という人物だけは存在するのに、その記憶がどんな場所でどんな状況だったかがぼやけてしまっているのだ。
 文字として、言葉としては確かに美琴の中に存在する記憶の数々。
 しかし実感が酷く薄い、まるで後から強引に上書きしたような記憶。
「なんなの、これ……?」
 美琴はうつろな瞳で額に手を当てた。
 その顔は徐々に青ざめ始めていた。
「私は、アンタがずっと好きで、え、一端覧際の時にやっと告白して、アンタが最終日の時やっと返事くれて」
「一端覧際は確かにお前と回ったけど、そんなことあったか? 俺には二人して遊び回った記憶しかないんだけど」
 だが美琴に上条の言葉は既に届いていない。
 呼吸は荒くなり、青ざめた顔からは脂汗がにじみだしていた。
 上条は慌てて美琴の肩を揺らした。
「おい、大丈夫か、美琴、おい!」
「それで家族同士の顔合わせなんかはほとんど済んでたから、あれ、トントン拍子に話は、あれ、進ん、で後はその年齢になればってことで婚約ってことに、違う、そうじゃない? 何がどうなってるの? これが違うの? 私、頭おかしくなったの?」
 明らかにおかしい美琴の様子にファミレスの店員やら周りの客やらが少しずつ騒ぎだした。
 このままここにいては面倒なことになると判断した上条は美琴を連れてファミレスを出た。

655ウソと魔法と素直な気持ち(5):2010/03/22(月) 14:20:03 ID:poo/TTms
 とりあえず近くの公園に来た上条は美琴をベンチに座らせた。
「おかしいわよ、私は確かに告白した。でも、当麻は、けど、どうなってるの?」
 場所は変えたものの美琴の様子は相変わらずであり、上条は途方に暮れるばかりだった。
「ねえ当麻! 私どうなってるの? 私の記憶、間違ってるの? なんで間違ってるの? 違うんでしょ? なんで事実と違うの? なんで、なんで……」
 顔を覆い、美琴は激しく頭を振った。
 そんな彼女を見ながら上条は悔しそうな顔をして唇を噛んだ。
 だがそんな顔をしたところで状況が改善するはずもない。
「な、なあ御坂」
 上条が美琴に声をかけた途端、美琴は不安そうに上条を見上げその制服の端をぎゅっと掴んだ。
「あ、ぁう、あ……」
 美琴は何か言おうとするのだが、舌がもつれるのか口をぱくぱくさせるだけで、その口から言葉が出ることはなかった。
 さらにその瞳からは涙があふれそうにまでなっていた。
 その涙を見た上条ははっと息を呑んだ。

 なぜ、こんなにも美琴が悲しまなければならないのだろう。
 なぜ、こんなにも美琴が泣かなければならないのだろう。
 美琴は何も悪いことをしていないというのに。
 美琴はもう一生分の涙を流したのだ。
 美琴はもう悲しみの涙など流してはいけない。
 だから誰であろうと、なんであろうと、美琴を悲しませることは許さない。
 もしそれでも、美琴を悲しませようとする、そんな運命があるとするのなら。

 なんであろうと、この俺が、そんな運命なんて、ぶち壊してやる!



 美琴が悲しんでいるという現実に対して激しい怒りを覚えながらも、上条はできるだけ穏やかな口調で美琴に話しかけた。
「なあ御坂。覚えてることが違うってことだけどさ、もう一度、最初っから考えてみようぜ。俺が思い違いしてるかもしれないしさ、な?」
 不安そうな表情のまま美琴はぽつりと呟いた。
「思い、違い……?」
「そう、勘違いとかさ」
「私と当麻は、婚約して、は、いないのよね……」
 上条は辛そうにうなずいた。
 美琴は自分の中の上条との婚約に関する記憶がパシュッと音を立てて消えたような気がした。
「そ、それなら、付き合っても、いな、い……」
 再びうなずいた上条を見て、再度美琴は自分の中にある告白に関する記憶が消えるのを感じた。
 記憶が消えたように感じるたび、美琴の呼吸はまた荒くなってきていた。
「お、おい御坂、もう止めようぜ」
 美琴の変化に気づいた上条は彼女を止めようとしたが、美琴はそれに構わず話し続けた。
「い、いち、一端覧、祭で、告白した、ってい……いい言うう、いう、のも……」
 これ以上美琴を刺激したくなかった上条は答えようとしなかった。
 だが美琴はやや焦点の合っていない目で上条を見て答えを促した。
「ねえ」
「……お前は、何も告白、して、ないはずだ」
 美琴の迫力に屈した上条は思わず答えてしまっていた。
 その途端、上条の制服を掴んでいた美琴の手が力なく垂れ下がった。
「何も……かも、違う……ちがう、違う……嫌、そんなの、イヤ」
 美琴は小刻みに首を横に振りながらぶつぶつと呟きはじめた。
 その間も彼女の呼吸は荒く、大きくなる一方だった。
「嫌……私は当麻が、好き……。当麻は、私のこと、好き……じゃ、な、な……い」
「…………」
 なぜか上条は何も答えることができなかった。
 答えなかったのではない、答えられなかったのだ。

 先ほどまで、少なくとも今日の放課後までなら「好きじゃない」と簡単に答えていただろう。
 でも今は、そう答えることができなくなってしまった。
 なぜか。
 答えは明白だった。
 美琴の告白によって、上条の中に「美琴を恋愛対象として考える」という選択肢ができてしまったからだ。
 今の美琴の状態が普通じゃないことはわかっている、それでも告白は告白。
 上条にとって生まれて初めて自分を好きだと言ってくれた相手を意識するな、という方が無理な話だ。
 じゃあ「好き」と答えられるのかと言われればそうもできない。
 上条には「人を好きになる」という感情がいまいちわからないからだ。
 もちろん美琴のことは嫌いではない。
 顔だってかわいいし、電撃さえなければさっぱりした世話焼きな優しい性格といい素敵な女の子だと思う。
 嫌いと言うよりよくよく考えたら、むしろ上条の中ではインデックスと並んで好きな女の子第一位のような気がする。
 しかしそれでもこの「好き」はあくまで友情としての「好き」。
 だから「嫌い」ではないが「好き」とも断言できない。
 どれだけ考えても答えが出ない。
 上条の脳は再びオーバーヒート状態になろうとしていた。

656ウソと魔法と素直な気持ち(6):2010/03/22(月) 14:22:00 ID:poo/TTms
 だが上条には悠長に考えている暇はなさそうだった。
 上条の言葉に関係なく美琴は自問自答を始めていたからだ。
「好き、嫌い……いや……私は、好き、当麻が。当麻は、私……好き、嫌い。嫌い、きらい、キライキライキライキライ……嫌!」
 自問自答を続けるうち、美琴の呼吸はますます荒くなっていき、ついには彼女は体をかき抱き、がたがたと震えだすまでになってきてしまった。
 慌てて上条は美琴の体を揺すぶった。
「おい、御坂! しっかりしろ、おい!」
「嫌いやイヤ」
「御坂、御坂、御坂! しっかりしろ!」
「いや、いやいやイヤイヤいや――――!!」
「くっ。しっかりしろよ、このバカ野郎!」
「…………!」
 興奮した上条は無我夢中で美琴を抱きしめていた。
 上条に抱かれた瞬間、美琴は体をぎゅっと縮こまらせた。
 上条は暴れる猛獣をなだめるかのように美琴の頭を右手でゆっくりと撫でていた。
 落ち着け、大丈夫だ、俺が絶対なんとかするから。
 そんな想いを込めながら上条は美琴をなで続けた。
 やがて美琴の震えは徐々に小さくなっていった。

657ウソと魔法と素直な気持ち(7):2010/03/22(月) 14:22:35 ID:poo/TTms
 美琴が多少落ち着いたことで上条も少し冷静さを取り戻した。
「御坂……」
 しかしだからと言ってどうすればいいのかがわかったわけでもない。
 やがて美琴は上条の背におずおずと手を回しながら、再びぽつりぽつりと呟きだした。
「嫌いなのは、イヤ。好き、好き。でも、当麻は、私を――」
「好きに決まってるだろ」
 後戻りできない、そう心のどこかで思いながらも上条は美琴に答えていた。
 今まで恋なんてしたことがないのだからどうすればいいのかなんてわからない。
 それ以前に自分の心だってよくわからない。
 美琴を嫌いじゃない、友人の中では一番好きな女の子、そこまでだ。
 だが幻想殺しで美琴に触れても彼女の様子に変化が見られない以上、今の美琴は魔術師にも能力者にも心を動かされていないのだ。
 今の美琴はある意味正気である意味異常。
 そしてなぜかはわからないが今の美琴は自分を求めている。
 許せないと思っていた美琴を悲しませる原因とは、皮肉にも自分だったのだ。
 ならば美琴が完全に正気に戻るまで一生をかけてでもついて行こう。
 ある意味その場しのぎで逃げのような選択ではあったが、美琴を悲しませないために上条が必死で出した結論だった。
「あの、みさ、み、美琴。俺はお前のことは好きだ」
「本当に?」
 美琴は不安そうに上条を抱きしめる手に力を込めた。
「当たり前だ。俺は聖人君子じゃない。嫌いな奴とは会話もしたくないし、ましてや好きでもない奴をこうして抱きしめたりできるもんか。けど」
 もちろんこれで問題が根本的に解決する、などとは上条とて思っているわけではない。
 というか、上条の考えで美琴が納得するかも非常に怪しい。
 上条は上条であり、今の美琴が求めている上条とは異なるのだから。
 だから上条は線を引くことにした。
 今の上条にできる精一杯の、御坂美琴という女の子への誠意として。
「今の俺は、お前と恋人じゃない、と思う。お前の『好き』と俺の『好き』は、違うから」
 上条の言葉に美琴は手の力を緩めた。
 逆に上条は美琴を離そうとしなかった。
「俺の『好き』は、お前の『好き』に追いついてないんだ」
 今の美琴の状態から考えると、上条が彼女のことを好きだと言えば中学生が簡単に越えるべきではないと彼が思っている線すら、美琴は軽々と飛び越えようとするだろう。
 そして上条とて中学生に手を出すなんてあり得ない、と今は言っていてもしょせんは感情を理性でコントロールしきれない若い盛りの高校生。
 しかも生物学的に言えば彼らの年齢は二つしか離れていないのが現実。
 正直言っていつ美琴に抑えきれない劣情を抱くようになって、取り返しの付かないことを起こしてしまうかわからないのだ。
 しかしそれだけは絶対に認められない。
 美琴が正気に戻ったときのために、上条は美琴を大切に扱いたかった。
 後で美琴が後悔することだけは絶対にしたくなかった。
 だから美琴と自分自身に釘を刺すことにしたのだ。
「でも俺はお前を世界で一番大切な女の子だと思う、そこから始めさせてくれないか? 頼む」
 しばらくの沈黙の後、美琴はこくりとうなずいた。
「うん。でも、これだけは約束して。当麻が一番好きな女の子は私。恋人じゃなくても、それでも、当麻の一番側にいるのは、私。他の女の子じゃない」
「当然だろ。第一、上条さんは今まで女性にモテた試しがないんだ。みさ、美琴が心配するまでもない」
「…………」
 美琴は何も答えず上条をぎゅっと抱きしめた。



 結局その日はそのまま二人は別れた。
 二人の新しい関係は明日から、ということにして。
 不安、期待、嫉妬、羨望、絶望、希望。
 様々な感情が入り交じった日々が始まろうとしていた。

658つばさ:2010/03/22(月) 14:28:21 ID:poo/TTms
えっと、前半がここまでです。
読んでくださった方ありがとうございます。
一人で長くスレを占拠するのも申し訳ないんでまた時間をおいて投稿したいと思います。

それから心理学&精神医学は私の専門外ですのでこの話において当麻が取った行為の
善悪の判断は正直私には付きかねます。
話の流れで違和感と無理はないように気は使ったのですが。
もし嫌悪感などを感じる方がいらっしゃれば中途になって申し訳ありませんが後半の
投稿はやめておいた方がいいのかも、とも思います。

上でも書きましたが最近投稿&書き手さんが増えて皆さんGJです。
私も精進したいと思います

659■■■■:2010/03/22(月) 14:51:02 ID:thEFEodA
>>634
ダブルヒロインって言ってるけど
原作じゃインデックスと上条さんの距離ばかり縮まって美琴なんかもう相手にされてない感があるがな

あーあやっぱフラれるのかね

660■■■■:2010/03/22(月) 15:14:18 ID:ZppByO2c
>>659
盛り下がること書くなよ

661■■■■:2010/03/22(月) 15:14:59 ID:0Im/mY5Q
だからこそこのスレじゃないか。

662■■■■:2010/03/22(月) 15:15:31 ID:O7m/DBZo
>>659
こっちが期待すればするほど美琴の出番がなくなり、当麻との距離が遠くなってる気がする。
へたに話が面白いから読んでるけど上条x美琴派としては毎回読むのが辛いんだよね、原作

663■■■■:2010/03/22(月) 15:20:47 ID:0Im/mY5Q
保管庫
2010/02/23から今まで 222459 回 いちゃいちゃした。 昨日は 6895 回 いちゃいちゃした。 今日も 4180 回 いちゃいちゃした

つまりこういうことだ。

664■■■■:2010/03/22(月) 16:18:54 ID:.60TD5wY
>>662
どんなストーリーにするかは鎌池和馬さんが決めることであって
俺らは上条×美琴になることを希望することしか出来ないんだから
そこは文句言っても仕方ないと思うよ。

665■■■■:2010/03/22(月) 16:22:46 ID:qfhRuy2Y
それでも上条さんならこれからもハーレムを拡大してくれると信じてる

666■■■■:2010/03/22(月) 16:30:23 ID:s4krzx7Q
一ヶ月で23万かうちのサイトなんか半年で16万しか回らなかったのに…
上琴は偉大だ

667■■■■:2010/03/22(月) 16:38:16 ID:SmMZuZLM
>>658
面白かったです
こういう切なさパターンもあるのね
種明かし編?期待してます

668■■■■:2010/03/22(月) 16:51:49 ID:3NPEl9ks
>>659
でもさ〜個人的にインデックスはないと思う
上条さんはインデックスを恋愛対象ではなくて一方通行でいう打ち止めのような感覚だと思う

俺にとって上条さん感覚

インデックス
・かわいい妹分
・守るべき対象
・俺はロリではない

御坂美琴
・ある意味いやな相手
・モテるんだろ〜な
・性格さえなおせば…
・守るべき対象

669■■■■:2010/03/22(月) 17:06:49 ID:gpiXnpso
>>647
GJです。
嫉妬に狂う初春がなんか笑える。黒子といい、風紀委員にはこんな奴らしかいないんかい!
続きも楽しみにしてます。

670■■■■:2010/03/22(月) 17:24:23 ID:VDffj0KE
>648
GJです!クリスマスも楽しみにしていますね!
>658
GJ!続きが気になる展開ですね…なんか後半を期待して待ってますね!

671■■■■:2010/03/22(月) 17:28:28 ID:SmMZuZLM
とりあえず立ててみました
他の色んなスレと競合するので過疎るかもしれませんが
よかったら適当に使ってみて下さい

上条当麻×御坂美琴 専用雑談スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1269245969/

◎このスレ的使用例
・かなり前のssに何か言いたい時、まとめページで見て何か言いたい時
・スレの流れが早すぎて言いにくい時
・投下の超ロング予告(できたら明日投下します とか)
・投稿者の愚痴(ネタが思いつかないよーとか 俺が書きたいだけ?)
・ssネタで盛り上がる
・情報交換

GJ等は極力こちらでお願いしたいです
あと「こちらで雑談するな」というような意味では決してありませんので勘違いしないで下さい

672■■■■:2010/03/22(月) 18:35:31 ID:OmQzAp8Y
前回投稿した時からどれだけ進んでるんだ……
この状況を一言で表すと皆さんGJになっちゃいます…なんか申し訳ない。

読みと書きをやっていると、これだけ職人さんが居るんだから俺なんて居なくても(ry
自分も少しでも近づけたらいいなーと思いつつ続きを投稿させてもらいます。


『Little Love Melody』前回は>>322-326
注意事項
・時系列等、細かい設定は気にせずに勢いで書いたので矛盾があるかもしれない事をご了承ください。
・最初の方は絡みがありませんが、これは今回限りになりますのでお許し下さい。
・文才はないに等しいです。それなのに無理に頑張っちゃったのでオカシイ所があるかと思います…これに関しては指摘をお願いします。

投稿開始は只今より5分後を予定。4レス消費させてもらいます(予定)

673■■■■:2010/03/22(月) 18:40:24 ID:OmQzAp8Y
――常盤台中学校女子寮(第7学区)

 時刻は午前7時前。
 昨日は何事もなく帰宅しいつも通りの寮生活をしていた美琴だった…のだけれど
 眠りについたのは深夜の3時頃、白井も普段は遅い方だがそれでも12時前には眠りについている。
 何かある日の前日はどうしても意識をしてしまって寝付きが悪くなる事は有りがちなので分からなくもないのだが……。

「さて…」
 部屋に響いた第一声は美琴の声ではなく白井の声だった。
 昨夜は比較的遅くまで資料をまとめ、本日は一般的には休日なのだが風紀委員の集まりに参加しなければならない。
(お姉さまは昨夜、かなり遅くまで起きていらっしゃったようなので無理もありませんか…)
 いつも笑顔で見送ってくれる美琴が起きていない事に若干残念そうな白井だったが、美琴を第一に思い―――そっと部屋を出て行こうとしたその時だった。
「どこ触ってんのよ……。ううん、ダメじゃない……エヘヘ、くすぐったい♪」
 白井は自分の耳だけではなく五感全てを疑った、今この部屋には確実に2人しかいない。
 もし何かの間違いがあっても寮監が部屋に入ってくる程度、時間帯を考えれば友人の初春や佐天も来てるワケがないし、居るワケもない。
 体の底から沸き上がってくる恐怖に身を震わせながら、恐る恐る後ろを振り返る……。
 ―――だが、そこには確かに美琴しかいなかった。しっかりと入り口から見て左側のベッドに美琴一人。
(疲れてるんでしょうか…本日は出来るだけ早めに帰宅し、いつもより早く寝る事にしましょう)
 そして再び部屋を出ようとドアノブに手をかけた―――その時
「あっ…。そこはダメ……」
 白井は金属矢(ダーツ)を構えた、相手のいる所さえ把握出来れば、的確に急所を突き、相手の戦力をゼロに出来る。
 その気になれば紙切れ一枚でダイアモンドの切断も可能な能力だ、余程の能力者でなければ大能力者の白井に対抗は出来ない。
 絶対に敵は見えない所(死角)にいる、そう判断した白井は部屋の全てを見渡せる位置へテレポートした…が敵らしき姿はない。
 確かに最初から、部屋には美琴しかいなかった。そう…『美琴』しかいない。
「まさか…お姉さまの寝言……?」
「ア、アンタとしかこんな事やらないんだから…」
「……これは風紀委員の集いなんかに行ってる場合じゃない気がしますの……」
 白井はニヤニヤしている美琴を揺すり眠りから引き摺りあげる。
 夢を見ているということは浅い眠り……という白井の目論み通り美琴はすぐに夢から覚めた。
「ん…?」
「お姉さま!お姉さま!!」
「……夢の中まで邪魔すんじゃないわよ!!」
「あ゛う゛っ!? 朝からシ・ゲ・キ・テ・キ…過ぎますわ……」
「えっ……朝?」
 美琴はそう言って時計を確認すると7時20分を過ぎた頃だった。
 そうして数秒の静止……。何かを思い浮かべ、そして弾けるように動き出した。
「こんな事してる場合じゃないわ!」
「ちょっとお姉さま……」
 パジャマを脱ぎ捨て、机の上に畳んであった制服を適当に着用、そして貴重品を掴み…ガードの為の短パンを履き
 『じゃ、行ってくるから!』と言い残し、白井より先に部屋を飛び出していった。その間35.6秒。
 結局、白井は見えない敵と戦い、電撃を浴びされ(当人は愛のムチだと判断している)そして風紀委員の集まりの集合時間にも間に合わなかった…。

674■■■■:2010/03/22(月) 18:41:14 ID:OmQzAp8Y
―――上条当麻の住む男子寮(第7学区)

 目覚ましの音が鳴り響く。響くという言い方をすると、どうも反射音を想像してしまうのだけど、それは間違いではない。
 実際に鳴っているのは風呂場、そして厳密にいうのならば浴室の中だ。彼がいるのは浴槽の中なのだが……。
 時刻をチェックする…7時32分――普段ならインデックスが「おなかへった」と浴室の前まで来るのでそれで起床している。

 今日は起き上がる際に蛇口をヒネってしまった。もちろん、布団モノともビッショリになってしまい
 いつもならお決まりの一言が家の中に轟くハズなの…なのだが、彼は何も言わず布団を干そうとしていた。
 どこか言ってはイケない気がしていたのだ、あの常盤台の御坂美琴と一緒に出掛ける、自分が『不幸』なワケがない。
 もしこれがクラスの人間の耳にでも入ったら、右手では殺せない現実がクラスの男子全員から襲いかかってくる。
(さて…と。こういうのって少し早めに待ち合わせ場所に到着しといた方が良いんだったよな…?)
 今日の天気は晴れ、小鳥のさえずりが心を癒し、日差しが心を明るくする。見方を変えるだけで何故か幸せな気分になれた上条であった。

―――ホテル(セブンスミストの近く)

 美琴は起床から1分以内に寮を飛び出してきた事もあり、ホテルのシャワーにて汗を流していた。
 待ち合わせ時刻まで後1時間弱、既に彼女の胸は高鳴っていた―――『アイツ』の笑う顔を思い浮かべながら…。
(でもこういうのって早めに待ち合わせ場所についてた方が……出来るだけ早くしなくちゃダメね…)

 まずは女性と見てもらうのを第一に置き、服装はチェックの上下、ニーハイブーツ、ガーター付きのニーハイソックス。
 しかし……いざ合せてみると恥ずかしくなってしまう、自分で違和感の正体を探し…結局、短パンを履く事で落ち着いた。
 待ち合わせ時刻まではまだ40分近くあるのだが、ホテルから待ち合わせ場所まで距離がある事も配慮し既に出発の準備を完了させていた。
(…これくらいが丁度いいわよね。どっちにしろ行くんだから…)

―――Black history?

 時刻は8時30分。
 最初に待ち合わせ場所に到着してたのは美琴ではなく…上条だった。
 多少のナニかに見舞われる事を想定して早めに家を出発したのだけれど、驚く程何にもなく待ち合わせ場所に到着してしまった。
 彼もどういうワケか自分でも理解が出来ていないのだが、ドキドキしてしまっている。この感情の正体を彼はまだ知らない。

 美琴はというと、待ち合わせ場所へ向かって歩いている途中…なのだけど、周りの視線が非常に痛い事になっている。
 学園都市というのは学区によって雰囲気が様変わりするのだが、この第7学区は休みの日でも制服姿の中高生が中心。さすがに目立つのは仕方がない。
 まだ常盤台の超電磁砲とバレていないだけマシだろう……。もし気付かれでもしたら騒ぎになる事は確実。
 噂というのはこの世に誕生さえしてしまえば、一人歩きしあっという間広がって行くモノなのだから…。
(失敗したかも……。でも気にするのは人の目じゃなくアイツの目だけで良いわよね…うん、それだけで良いのよ)

675■■■■:2010/03/22(月) 18:41:31 ID:OmQzAp8Y
―――姉妹

 時刻は8時45分。
 今日は見事なまでに何にもない。思い返してみると蛇口をヒネってしまい布団と服を濡らした程度。
 よく考えるとそれも不注意だった気がしないでもないが、たまたま掴んだ所が蛇口だった…これがこの男の体質というべきか。

(ちっと、早すぎたか…?)
 空を見上げ、右手を翳す―――これには神の御加護すら打ち消す『幻想殺し』を宿っている。
 いくらこの右手があろうと、不幸じゃなければ出会えなかった人間…立ち会えなかった出来事が沢山
 そんな数々の不幸に感謝しつつ御坂美琴を待つ、その横顔は呟いた言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだった。

 そんな上条の姿を影から眺めてる人間がいた―――美琴だ。
 なんとか人の多い場所をくぐり抜け待ち合わせ場所までたどり着いたのだけど、彼の前に姿を見せる事を心の中で躊躇している。
 この服についてなんて言われるか、先程まで思っていた言葉とは逆に恥ずかしさとちょっぴりの恐怖が彼女を襲う。
(まだ時間あるし、今からホテルに戻れば…少し遅れるかもしれないけど何とかなるわよね…)
 そんな事を考えていた時、背後に気配を感じた。しかも自分に向かい一直線に歩いてくる。
(……誰?)
 恐る恐る振り向こうとしたが、声が先に飛んできた―――
「おはようございます。お姉様、とミサカは挨拶をすると同時にその服装はどうしたのですか?と尋ねます」
「……なんでアンタがここに居るワケ?」
「質問に答えてくださらないのなら、大声をあげますよ?とミサカは――」
「分かったから…お願いだから静かに…」
「ふっ、お姉様もこの程度ですか、とミサカは新たなスキルを身に付けた事に喜びを感じます」
「アンタねぇ……。た、たまにはこんな服着てもいいじゃない、深い理由はないわよ」
 美琴は明らかに震えている声で御坂妹に告げる。
「では、あの少年とは何もないのですね?とミサカは尋ねます」
 御坂妹は上条の方に目線を向ける。
「うっ……」
「非常にお似合いですよ、とミサカは見違えたお姉様を心から羨むと共に今度貸して頂けないでしょうか?とお願いをします」
「ほ、本当…?」
「ミサカが嘘をつくメリットはないと思うのですが、とミサカはお姉様に客観視する事を促します」
「そ、そういうなら行ってこようかしら…」
「ふっ、お姉様はやはりこの程度ですか、とミサカは扱い方を身に付けた事に新たな喜びを感じます」
「ヤバっ!? 待ち合わせ時間ギリギリじゃない!」
 それでも美琴は一呼吸置いて――
「…今日はありがとう、アンタが来てくれなかったら怖くてアイツの前出れなかったから」
 これに対して、御坂妹の口から言葉が飛ぶ事はない…歩き去るお姉様を視界から消えるまで見守っていた。

676■■■■:2010/03/22(月) 18:42:13 ID:OmQzAp8Y
―――当麻と美琴が交差する時、何かが始まった!?

 時刻は9時、空は青の中にも柔らかい白が混ざり。気持ちの良い日差しが降り注ぐ。
 随分早く到着し、美琴を待っていた上条…それなりの時間に到着はしていたものの顔を出せなかった美琴
 短い時間に色々な想いが渦を巻きながらも、気付いてみれば約束の場所.時刻に二人が揃った。

「えーっと……。本当に御坂美琴さんでいらっしゃいます?」
 上条はというと初めて見る美琴の私服姿に驚きを隠せない様子。
 名門「常盤台中学校」の制服を着て、ビリビリを飛ばしてきたり、自販機に蹴りを入れてる…そんな御坂美琴はそこには居なかった
「べ、別にアンタの為にこういう服をわざわざ買って着てきたとかそんなんじゃないんだからねっ!」
「……御坂だ」
「そ、その前に何か言う言葉があるんじゃないかしらー?」
「時間…ギリギリだったな」
「ふ〜ん、へぇ〜。アンタは私がこういう服着てても何にも思わないんだ……」
「……そんなワケねぇだろ」
「えっ?」
「そ、その服すげー似合ってる。し、強いて言うなら…もう少しスカートを長くしてくれないと色々な意味で困るっていうか…」
 美琴はスカートの端を摘み、チラッと中を見せた―――それを見た上条の顔はスーパーの特売に間に合わなかった時、そんな表情をしていた。

 これで変な緊張から解き放たれた二人は徐々にいつもの調子を取り戻す。
「で、結局の所どう?」
「か、可愛い…」
「なんでアンタが照れてんのよ…。ま、まあ…私もこの格好は結構恥ずかしんだけど…」
「じゃ、なんでそんな服着てきたんだ? その姿で今日一日外に居るんだろ…?」
「そ、そんなの……(アンタの為に決まってるじゃない)なんて言えない…」
「ん?」
「な、何でもないわよ! そんな事よりどこに行くか決めましょ、こんな所にいつまでも居るワケじゃないでしょ?」
「そうだなー。その辺全く考えてねぇんだよな……」
「それなら…美琴センセー特別プランに決まりって事で良いわよね?」
「ん、なんだそれ?」
「いいから黙ってついてくる!」
「ちょ、引っ張んなよ!」
 自然な流れで手を取ったつもりの美琴だったが、力が思うように入らない。
 そんな時にサポートしたのが上条だった。離れないようにしっかりと掴み返し、言葉にならないやり取りを二人の中で消化して行く
 端から見たらカップルにしか見えない二人だが、当人たちにそういう意識はない。
 まだお互いの気持ちは今日の空のようだ。雲一つ無くなった時…お互いの想いが強く相手の心に射し込むハズ―――

―――続く

677■■■■:2010/03/22(月) 18:43:04 ID:OmQzAp8Y
今回はスタートまでを書かせてもらいました。

この後どうなるか…?
美琴の行動パターンを勝手に予測して上条さんを振り回させてもらいますw
原作的にも美琴が動かなきゃ変化ないと思っちゃっているのでこういう形になりますがご了承下さい。
(だからこそ今後が楽しみですw)
あくまで動きの中心は美琴で、それに重なって上条さんの心が変化して行く…的なのが自分の中での理想です。
ちなみに作品の最初に出た、とある催しについては後々入り込むかもしれません。

今回もお見苦しい点多かったと思いますが最後まで読んで頂き感謝です!

>>671
流れを見て利用させて頂きます!

678■■■■:2010/03/22(月) 19:44:43 ID:/qsxM5Z.
>>677
GJ〜!
初々しいのう。初々しいのう。

679■■■■:2010/03/22(月) 20:23:52 ID:3NPEl9ks
>>677
こういうの好きだわ〜
早く〜続きを〜書いて〜くれんかの〜

680かぺら:2010/03/22(月) 20:37:00 ID:fRRQQUy.
>>つばささん
はじめまして、になるですかね。よろしくお願いします。
美琴の身に何があったのか、後半お待ちしてます。
>>677
続きが気になる。
この美琴は暫くの間、御坂妹にいじめられるんだろうな。

さて、問題がなければ『前夜祭(クリスマスイヴ)』の後篇を投下します。
前篇・中編は>>568-573>>641-646
20:40より6レス借ります。

681前夜祭(クリスマスイヴ)13:2010/03/22(月) 20:41:31 ID:fRRQQUy.
ふにゃふにゃとしている美琴を可愛いなと思いつつ、上条は美琴の携帯を見る。
アホみたいな顔で寝ている自分がいる。自分の寝顔とはこうも恥ずかしいものなんだな、と上条はファイルを抹殺しようかと迷っていた。
「にゃ、にゃに見てるのよ?」
「いやな、お前が見せたかったもんが、あまりにアホな顔をした上条さんだったんでちょっとヘコんでるんですよ」
「私が見せたかったのは、当麻の寝顔なんかじゃないんだけど」
美琴はふにゃふにゃからは復活したものの、上条にもたれかかったまま携帯の右上を指差す。
「時間と日付が出てるだけだぞ?」
「そうよ。なんて書いてあるか読んで分からないの?」
「上条さんでも時計くら読めますとも!っていうか、そもそもデジタル表示じゃねぇか」
美琴の見せたかったのは普通の時刻表示。そこには無機質なデジタル表示で『12/25 00:13』と出ている。
「で、美琴せんせー。これがどうしたのか馬鹿な上条さんに教えてください」
「アンタ、自分で言ってて辛くない?」
「それ以上言うと泣きますよ?」
本当に泣きそうな顔をする上条を、だったら言うんじゃない、とたしなめる。
―――泣きそうな顔も可愛いわね―――
美琴が偶に泣かせてみようかな、なんて物騒な事を思っているのは内緒である。
「仕方がない。美琴せんせーがヒントをあげよう。私はこれを見せる前になんて言ったでしょう?」
「……んー」
上条は顎に手をやって考える。美琴が何を言っていたか……
『今日1日、私の言う通りにしなさい』
上条は嫌な汗を背中に感じながら、もう1度時計を確認する。表示は『00:15』。
「あのー、美琴せんせー」
「はい、当麻くん!答えは分かったかなぁ?」
やたらと甘い声で、美琴は上条の胸に頬を摺り寄せる。身体のいたるところが暴走しそうになるのを必死に堪え、上条は答える。
「えー、クリスマスを一緒に過ごそうでおーけーですか?」
「大正解っ!!」
美琴はどん、と上条を押し倒す。上条から見ると、上に圧し掛かった美琴が上条の胸元に顎を置いているようになる。
―――な、なんかいろいろ当たってるんですけどぉぉぉっ!?―――
さっきよりも密着し、美琴の体温やら重さやら何やらを意識してしまう。理性が吹き飛んでしまわないようにするだけで必死だ。
「というわけで、1日付き合ってもらうわよ?」
「落ち着け、美琴!だから明日はインデックスの見送りを」
「分かってるわよ。私も行くって言ってるでしょ。問題はその後、沈んでないでインデックスが羨むくらい楽しんでやんのよ」
上条は腹の上で笑う美琴を見て溜息をつく。いつもなら『不幸だぁぁ』というところだが、不思議とそんな気分にならなかった。
なんだかんだ言いつつも、上条も美琴と一緒に過ごすことを楽しみにしている。
「……そうだな。まったく、お前にゃ敵わないよ、美琴」
上条はにっ笑うと、美琴の頬をぷにぷにとつつく。
「にゃにすんにょよ」
「いや、可愛いなと思って」
上条の言葉に、美琴の顔はまた赤くなる。
―――何度言ってもこれだもんな。飽きないっつーか、可愛いっつーか―――
上条は美琴の頬をぷにぷにと触ったり伸ばしたり遊ぶ。そのたびに美琴はふにゃふにゃと何か抗議の目線を送ってくるが、敢えて無視しておく。
―――偶にはこうやっていじってもいいだろ―――
美琴としてはこうやって構ってくれる事は非常に嬉しくあるのだが、相変わらず子供扱いであることに不満を持っている。
だからこその抗議の目線なのだ。心地いいだけに口で言えないあたりが美琴のジレンマであったりする。

682前夜祭(クリスマスイヴ)14:2010/03/22(月) 20:41:42 ID:fRRQQUy.

「で、美琴。とりあえず、この後どうするよ?」
押し倒されたまんまの上条は、この動けない状況を打破すべく美琴に判断を仰ぐ。
美琴はうーん、と頭を捻っている。上条に何を言ってやろうか迷っているようだ。
「とりあえず、風呂でも入ってみるか?」
「にょわっ!?」
美琴の頭の周りからパリパリと漏電が始まる。静電気くらいの微弱なものではあるが、ほぼゼロ距離で喰らってしまう上条にとってチクチクと地味に痛いものだった。
「て、てめぇっ!何想像して漏電してんだよぉぉぉ」
上条は慌てて『幻想殺し』で漏電を消し去り、そのまま美琴の頭の上に置く。
「なっ!?そんなやましい想像なんてしてないわよっ。誰がアンタと一緒にお風呂なんかっ」
―――想像してんじゃねぇか―――
自分で言っておいて真っ赤になる美琴に、上条は呆れたように息を吐く。
「言う事聞くつっても、流石にそれは無理だ。上条さんは暴走してしまいますよ」
上条は美琴と2人で入る風呂を想像する。ただでさえ狭いユニットバスだ。
―――うっ!?―――
自分が先に入っていて、後から美琴が入って来ようとする瞬間までを鮮明にイメージしたところで、上条はぶんぶんと首を振り煩悩を抹殺する。
こういう時に『幻想殺し』が使えれば何かと便利な気もするが、現実は得てして残酷なものだ。
上条は顔以外の部分に血が集まりそうになるのを感じると、騎士団長や聖人も真っ青な速度で美琴の下から脱出すると、脱兎のごとくバスルームに飛んで行った。
「俺が先に入るんで、美琴はテレビでも見て待ってて下さいっっっ!!」
バタバタと騒がしくなったかと思えば、上条はバスルームに飛び込んでいく。
恐らく、今頃冷たいシャワーを浴びて涙を流していることだろう。
部屋に1人残されてしまった美琴は、上条のスピードに目を丸くしたまま床に転がっていた。
「な、なんなのよ、アイツ………」
上条が何に焦っていたのか、美琴には知る由もない。不満をぶつける間もなく風呂に行ってしまったので、美琴は何をしていいのかもわからない。
テレビでも見てろ、なんて言われたが、常盤台ではテレビなんて見ないので何を見ていいのかもわからない。
そもそも、今は深夜0時過ぎである。見たこともない深夜番組なんて地雷原以外のなにものでもない。
「なにして待ってろっていうのよ」
美琴は身体を起こしてその場に座ると、周りを見回してみる。特に暇を潰せそうなものはない。
「お風呂に突撃してやろうかしら」
美琴は慌てふためく上条を想像する。一瞬本当にやろうかとも思ったが、恥ずかしすぎて死ぬかもしれないので中止。
―――いつかやってやるわ―――
それでも美琴は上条にとって幸か不幸か分からない決意を抱くのだった。
ともあれ、今は何かで暇をつぶすしかない。かといって部屋を漁るのも可哀想だ。
「マンガも読んじゃったし―――――ふゎあ」
美琴は大きく口を開けて欠伸をする。隣に上条がいなくて良かったな、と思いながら涙を拭う。
「眠い……」
もぞもぞとベッドの上にあがり、制服のまま横になる。ブレザーとリボンは取ってあるものの、このままではプリーツスカートに皺が寄ってしまう。
「ちょっと、だけ……」
誰に言ってるのかもわからないが、美琴はふにゅむにゃと声にならない声を発した後、眠りの世界に旅立っていった。

683前夜祭(クリスマスイヴ)15:2010/03/22(月) 20:42:27 ID:fRRQQUy.
「あー、さっぱりしましたよー。美琴、お先でしたって、寝てる………」
上条がわしゃわしゃと髪をタオルで拭きつつ部屋に戻ると、美琴はすやすやと寝息を立てていた。
「おーい。美琴センセー」
耳元で声をかけてみるも、起きる気配は全くない。頬をぷにぷにと突いてみる。柔らかくて張りのある程よい弾力を感じる。
「なんかクセになりそうだな」
上条は繰り返しつついてみるも、幸せそうに眠る美琴はなかなか目覚めない。良い夢でも見ているのだろうか、時折口元がゆるむ。
「男の前で無防備に寝てんじゃねぇよ」
上条はバスタオルをハンガーにかけると、ベッドの下に座り美琴の肩を揺らす。
「幸せそうに眠りやがって」
起こし辛いじゃねぇか、と上条は呟く。それでも心を鬼にして起こそうと努力する。風呂も入らずに制服のまま寝るのはあんまりだ。
「おーい、みことー。さっさと起きねぇと襲っちまうぞ?」
反応はない。上条は自分の言った言葉に身震いする。
―――な、なに口走ってんだよ、俺は―――
上条はぶんぶんと首を振り、大きく肩を落とす。
「このままで、俺の理性は持つんかよ」
上条が求めれば、美琴は受け入れてくれるだろう。でもそれは違う、と上条は思う。
好きだからといって、相思相愛だと言っても、盲目的に突っ走っていいところじゃない。
信頼してくれている、美琴のためにも、その親である美鈴のためにも。
上条は御坂家の父親である旅掛には会ったことはない。親同士で知り合いであったり、裏で色々と話題になっていることなどは知りもしない。
だからこそ、上条は美琴を大切にしたいと思っている。大好きで、大切だからこそ。
―――でも―――
「これくらいならいいよな」
上条は唾を飲むと、眠っている美琴の顔に自分の顔を近づける。幸せそうに眠る美琴の顔にドキドキしながら。
―――お姫様を眠りから起こすのは―――
急に恥ずかしくなり、上条は目を瞑る。これでは見えない。美琴の顔の位置を把握するため、ゆっくりと目を開く。
怪訝な顔をした美琴が上条を見つめ返していた。
「アンタ、なにしてんの?」
「いや、ね。なかなか起きないお姫様を起こそうとしてまして」
ダラダラと流れる汗に動揺しつつ、上条は必死に言い訳をする。嘘は言ってない。
「ほぉ、それで乙女のファーストキスを奪おうとしたと?」
「あはははは、そんなわけないっっすいませんでしたぁぁぁぁっ!!」
美琴の目が笑っていないのを確認すると、上条はベッドから飛び降りそのまま土下座に入る。
「…………んのよ」
「はい?」
「な、なんで謝んのって言ってんのよ」
「もしもし、美琴さん?」
上条が顔を上げると、美琴はばっと身体を背ける。耳や首の後ろまで真っ赤だ。
「えー、美琴……確認していいか?」
「なによ」
「美琴は…………キス、されたかったってことでおーけー?」
「っ!!」
答えは返ってこない。上条はその美琴の反応を『肯定』ととり、背を向けている美琴の隣に座る。
「美琴、こっち向いてくれ」
「……んっ!?」
上条は美琴が顔を向けた瞬間に、その唇を奪い、勢いよく離れる。
「っっっ!!!」
美琴は声にならない声をあげて、バスルームに駆けて行った。

684前夜祭(クリスマスイヴ)16:2010/03/22(月) 20:42:47 ID:fRRQQUy.
上条は美琴のいなくなったベッドで横になっていた。
ベッドに残る残り香と、バスルームから聞こえるシャワーの音で上条は心臓はバクバクとしている。
―――この展開はやばいんじゃないですか。大丈夫か、俺?―――
上条はさっきのキスを思い出す。一瞬触れたか触れないかのようなものだったが、その行為は上条の心に大きく響いた。
正直のところ、上条は美琴との『恋人関係』というものを良く分かっていなかった。
それが今日一日、いや、今夜だけで一気に意識してしまった。
ついさっき必死に防衛した理性にも、鉄壁と自負していたつもりだった。
鉄壁の防波堤を築いていたつもりだったが、押し寄せる波はその防波堤の高さを遥かに超える大波だったのだ。
残る最終防衛ラインを守りきることを、上条はより一層心に誓うのだった。
「とうまー、上がったわよ―」
下着にワイシャツ一枚で出てきたように見えた美琴に心臓を抉られかけ、上条は大きく息を吸う。
今誓ったところなのに揺らいでいくよわよわしい信念に呆れつつ、上条は美琴を見てしまう。
―――なんだ、短パンは装備してんのかよ………って、オイ!―――
上条は明らかに残念に思ってしまった自分に焦る。これでは信念が倒壊するのは案外早いかもしれない。
「なに顔赤くしてんのよ?もしかして、美琴さんのセクシーな姿に照れてんの?」
「からかってんのかよ?」
「はいはい、ごめんね。パジャマがないから代わりに着ただけよ。アンタのだけど、良かったわよね?」
異議は認めませんと顔に書いておいて何を反論しろというのか。上条は何も言わない代わりに、わざとらしく溜息をついた。
「ったく、男モノのワイシャツ着て寝るだなんて。どこの教科書に載ってんだよ」
上条は頭を掻きながら文句を言ってみる。肝心の美琴は気にもしてないようだ。
―――まてよ―――
上条のワイシャツは2枚である。学ランの下に着用することが推奨されている制服の一部なのだが、推奨だけでは誰も守らない。
みんな学ランの下は思い思いのシャツを着ている。ワイシャツに袖を通すのは偶にだ。
美琴が着ている者は26日の補習出来て行こうかと思って用意しておいたものだ。
となれば、どうするか。補習は普通のシャツを着て行くか……それとも。
洗濯し直せばいいのだが、美琴の着たワイシャツの魅力に飲まれる上条にとっては論外だ。
―――おとこのこだもの。とうま………なんてな―――
怪しい悩みの間、上条は怪しい笑みを浮かべていたのだが、本人は気付いていない。怪訝な顔で美琴が見ていることも。
置いてかれた美琴はベッドの上で胡坐をかいている上条の近くまで来ると、その胡坐の上に座り体重を預ける。
急に美琴の匂いを感じた上条はなんとか現実に帰ってくるが、今度は顔のすぐ前にシャンプーの香りだ。
「みみみみみ、美琴?」
「ん〜なぁに?」
美琴は心地よさそうに喉を鳴らす。上条はそんな甘える美琴に焦っていた。
「お前って、こんなキャラだっけ?」
「別にいいでしょ?ほんとは昨日の夜にしたかったんだけど、邪魔されちゃったしね。いろいろと」
上条は昨日の事を思い出す。
―――そう言えば、突然現れた白井達に邪魔されたんだっけか―――
上条と美琴の唇が合わさる瞬間に現れたお邪魔虫達によって有耶無耶になっていた。
「だぁから、もう一回」
「はぁ?」
「もう一回して、って言ってんの。さっきは一瞬で分かんなかったし」
「いやいや、そんな意識してなんて無理ですよ。さっきは勢いでできましたけど」
上条はバタバタと暴れて抗議する。さっきは不意打ち気味だからできた。面と向かってなんて、出来るわけはない。
「なるほど、アンタは勢いで女の子とキスしちゃうわけ?こりゃインデックスの言ってた事も分かるわ」
美琴が敵を見るような目で見てくるのに耐えられず、上条は話を逸らそうと頭を回す。
「い、インデックスがなんて言ってたって?」
「はぁ、彼女の前で別の女の話ねぇ……やっぱり、インデックスの言う通りだわ」
流石に一緒に住んでただけあるわ、と美琴はインデックスに感心しつつ、その『言葉』言う。
「『とうまはいつまでたってもとうまなんだよ』だってさ。言いえて妙よね」
頷いて感心している美琴を見て、上条は涙するのみだった。

685前夜祭(クリスマスイヴ)17:2010/03/22(月) 20:43:03 ID:fRRQQUy.
「ほら、いつまでも泣いてないで」
美琴は上条から下りると、背中をぽんぽんと叩く。
「ううう……上条さんの心はもうボロボロですよ」
「じゃぁ、私が癒してあげるから」
いいこいいこ、と言いながら美琴は上条の頭を撫でる。
「おい、美琴。馬鹿にしてんのか?」
「顔赤くしながら言っても説得力無いわよ」
美琴の指摘通り、上条の顔は真っ赤である。普段はしている側である上条にとって、されるのは気恥かしいものだった。
「すいません、許して下さい」
「話は変わるけど、私の言う通りにするって言ったわよね?」
「…………何が望みだ?」
上条は美琴にむすっとした顔で尋ねる。美琴はそんな上条をいじるのが楽しいのか、にこにこしている。
「だから………もう一回、キス………して?」
自分で言っておいてほんのりと頬を染める。
―――んんああぁっ!?―――
しかし、そんな恥ずかしげな美琴の仕草は、もはや美琴専用になった上条のストライクゾーンを的確に突く。
「あぁ、みみ美琴さん?」
「アンタ、なんでそんな顔赤くしてんのよっ!そもそも女の子に言わせるような事じゃないでしょうが、このばか!」
「ばかって……仕方ねぇだろうが!お前が可愛すぎるのが悪ぃんだよ!ストライクど真ん中の表情しやがって」
「なんで、キレてんのよって、ドサクサにまぎれて凄いこと言うなぁぁぁっっ」
「やめろぉぉぉぉっ!!」
びりびりっ、飛び散る電気を右手で打ち消し、上条は美琴の頭に右手を置く。
運動をしたわけでもないのにお互いに肩で息をしている。上条はヒートアップしすぎて黒歴史にしたいような事を言っていたが気にしないことにした。
「………目、閉じろよ」
上条は顔を背け、美琴の目を見ずに言う。美琴は頷くとぐっと目を閉じる。
―――力入れすぎだろ―――
すっというより、ぎゅぅぅぅっと目を閉じている美琴の両頬に手をやり、少し上に向ける。
「行くぞ」
上条はゆっくりと顔を近づける。その距離がゼロになり、しばらく動かなくなる。
「んっ……」
唇が離れると、美琴の口から吐息が漏れる。その目は熱っぽく潤んでいた。
「………もう1回」
それを合図にしたかのように、もう1度口づける。甘い空気が部屋に漂う。
「美琴………」
上条の呼びかけに応じるように、美琴はその胸に飛び込む。上条の腕がその身体に回される。
「当麻…………だいすき」
「ありがとう、美琴」
永遠とも言える時間が過ぎた。

686前夜祭(クリスマスイヴ)18:2010/03/22(月) 20:43:13 ID:fRRQQUy.
カーテンの隙間から入る光で、美琴は目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。外からは爽やかな鳥の声まで聞こえる。
ぼやけた視界がはっきりとしてくる。美琴は身体の上に重いものが乗っている事に気付いた。
「にょわっ!?」
目の前に上条の寝顔。どうみても同じベッドで寝ている。
美琴の頭は一気に覚醒し、慌てて自分の姿を確認する。幸いにも服は着ていた。『てへっ♪』みたいな事は起こっていないようだ。
美琴は身体の上に乗っているのが上条の腕であると確認すると、より密着するように身体を摺り寄せる。
上条の胸元にすっぽりと収まるようにポジションをとる。
―――もう少し、いいよね―――
美琴はおずおずと上条の背に手を回しぎゅっと頬を寄せ、目を閉じる。
この瞬間の幸せを噛みしめるように。


どれくらいそうしていただろうか。
ガチャガチャと玄関で鍵を開ける音がし、誰かが部屋に入ってくる。
「んっ、何だ?」
上条もその音で目覚めたようで、眠そうに眼をこすっている。美琴はむくりと身体を起こすと侵入者のやってくる方向に目をやる。
ぱたぱたとした可愛らしい足音と一緒に現れたのは、インデックスだった。
「とうま、みこと、そろそ…………」
「…………」
美琴とインデックスの目が合い、お互いに固まる。何も言えない均衡状態が重い空気となって部屋に満ちる。
「…………お、おはようインデックス」
「……みこと、おはようなんだよ」
身体は指一本動かないが、口だけは妙になめらかに動いた。
「んっ………インデックス……もっと静かにっ!?」
上条は身を起こすと隣で顔を赤くしている美琴に目をやる。それからゆっくりと首を回し、同じく顔を赤くしているインデックスに目をやる。
インデックスはぷるぷると震えていた。心なしか涙目にも見える。
「やっぱりとうまはとうまなんだね」
「インデックスさん、どうしたんでせうか?」
「いつまでたってもとうまはとうまなんだね!!」
「なんか昨日も聞いたような気がしまぁぁぁぁっ!!」
上条が言いきる前にインデックスはその頭にかじりつき、美琴は顔を染めて固まったままで、噛まれた上条は『不幸だぁぁ』と叫んでいた。
上条当麻の朝は、今日も平和だ。

687かぺら:2010/03/22(月) 20:44:20 ID:fRRQQUy.
以上になります。

楽しいな、イチャイチャを書くってのは、多少ベタでもやっぱり楽しい。
当社比3倍くらいにはなりましたかね?

「だから………もう一回、キス………して?」のあたりとか、ずっとニヤニヤしながら書いてました。
俺、きめぇ……orz

688■■■■:2010/03/22(月) 20:45:11 ID:0umhB1b2
ttp://iup.2ch-library.com/i/i0070651-1269257967.jpg

689■■■■:2010/03/22(月) 21:33:46 ID:3NPEl9ks
>>687
貴様様のSS読んだらほとんどの男達の顔がキモくなると思うのは俺だけじゃないはず…
GJ

690■■■■:2010/03/22(月) 21:48:48 ID:LWs7GeJI
>>677
GJです!
美琴はどんな夢を見ていたのでしょうw
上条さんのために頑張っておしゃれをするのがかわいいですね
これからのデート編が楽しみです

>>687
GJです!
いちゃいちゃしすぎて顔面が戻らないw
続きを待ってます

>>662
私も原作を読んでがっかりする時がありましたが、
今はどうすれば上琴ルートに行くかを妄想して楽しんでいます。
ちょっと終わっているかもしれませんが、後悔はしていませんw

691■■■■:2010/03/22(月) 21:57:21 ID:11vzWF1Y
ガンバ大阪

692■■■■:2010/03/22(月) 22:20:50 ID:n.IXZVsU
カペラ氏GJです!!
いやー、美琴のYシャツ姿はさぞかし破壊力高いんだろうな〜w

そういえば、ここって画像で支援してもよろしいんでしたっけ?

693■■■■:2010/03/22(月) 22:22:19 ID:CHD9D3z6
つばさ氏続きお願いします。

694■■■■:2010/03/22(月) 23:42:36 ID:frGeehms
原作読んだ限りではこっから上琴ワールドをロシアで展開するのだと思うのですよー
だからわたしら上琴族はこれからのかまちーさんに期待大でいいのですよー

695■■■■:2010/03/22(月) 23:57:55 ID:mYwjdXRI
なんかよく分かんないことガタガタ言ってるけどとりあえずsageよう

696■■■■:2010/03/23(火) 01:17:56 ID:aZbjTfqI
ここは論争禁止です

697豚遅:2010/03/23(火) 01:19:48 ID:54SCa4IY
お久しぶりです
一本投げますね。

・気をつけておりますが誤字脱字ありだと思います。申し訳ない
・妄想でご飯が3倍はいける方々、用量用法妄想をよく守ってお読みください
・よんでくださった方はこの豚野郎!と一言くれると嬉しいです
1:25から開始予定

698豚遅:2010/03/23(火) 01:24:50 ID:54SCa4IY
「なんかイライラする……」
御坂美琴は腕組をしながら考えていた。
この一週間、アイツに会っていない。いつものように待ち伏せして空振り、
探しても空振り、自動販売機前ですら空振りと散々だ。
ここまで会えないとなるとまた何かやっかいごとに巻き込まれているのだろうか。
それとも他に何かあるのだろうか。
「もしかして私のことを避けてるとか……」
いや、それは無い、と頭を振る。
ちょっと頭がくらんくらんとするくらい全力で。
(ない……よね)
考えてみればいつも電撃を撃っては追っかけてるかなんか言い争いをしているか、どっちかな気がする。
(……あれ?冷静に考えればアイツが私にいい印象抱く理由がない?)
あごに手をあてて考え込んでしまう。ちょっと冷や汗も出てきた。
いや、ときどきいい感じにはなってる気もするし
宿題もいっしょにやったし
大覇星祭の時にはアイツから罰ゲームを持ちかけられたし、
電話で唐突に頼みごとをされたこともある。(内容はアレだったが)
と美琴は上条に対して好感度があがるかな?といった行動を思い出していたとき
「不幸だーっ!」
待ちに待った声が聞こえてきた。
こらえることのできない笑みを浮かべながら美琴は
「ちょっと!アンタ!みつけたわよとまりなさ」
「わりい!急いでる!」
待ちかねた相手はこっちを見向きもせずに走り抜けていった。
笑顔のまま凍りつく。頬の筋肉が痙攣してヒクヒクと音を立てる。
こみかめに青筋が浮かぶ。
そしてあたりにバチバチという音が鳴り響く。
「ふ……ふざけんなこるぁ!」
ちょっとだけ目に涙を浮かべながら
いままでの鬱憤とか今一瞬で起こった出来事の寂しさとか愛情とか色んなものがいっぱい詰まった一撃を放とうとしたそのとき
美琴の真横を光の塊、つまりはレーザーのような攻撃が通っていった。
ひゅごっと空気を切り裂く音が辺りに響き渡る。
それはまっすぐ上条当麻へと向かっていき、上条はそれを打ち消すと路地裏へ入っていった。
「っ!また何やっかいごとに!?」
美琴はすぐさまレーザーが飛んできた方向へと振り返る。
すると
「うへ?」
間抜けな声を出した。
なぜならそこにはお嬢様がいた。
見た目からしてお嬢様だとわかる。
なぜわかるかというとそれは気品を感じさせる長い黒髪でも派手にゆれてる胸でもなければ
バイオリンを持っているからでもなく、見慣れた制服を着ているからだ。
ぶっちゃけると常盤台の制服を着た少女が全力で走っていた。
なんだか、手の辺りから外見からは似つかわしくない凶暴な光を放っていた。
彼女は、普段はこんな大声をださないだろう、というような大声で
「お待ちなさい!ツンツン頭!」
と叫ぶと美琴を見ることすらなく上条が消えていった路地裏へと同じように走っていく。
「えっと……」
ぽつーんと言う擬音がとても似合う感じに御坂美琴は完全に取り残されてしまった。

699豚遅:2010/03/23(火) 01:25:56 ID:54SCa4IY
なにがなんだかわからずに放心状態でボーっとしていると先ほど二人が消えていった路地裏から
常盤台の制服を着た少女だけが戻ってくる。
そして辺りをきょろきょろ見回しているようだった。
ふと美琴と目が合った。同じ制服だからか、こっちに走りよってきて口を開いた。
「すみません、こちらにツンツン頭の高校生が走って……御坂様!?」
さすがに常盤台の学生には御坂美琴は有名人だ。先ほど気がつかなかったのはそれほど必死にアイツを追いかけていたのだろうか。
美琴は頬をヒクヒクとさせながらも何とか答えた。
「あ、あはは、こっちにはこなかったわよ……」
「左様ですか……あの方の逃げ足はレベル4くらいあるのでしょうか」
考え込んでいるようだ。
ちょっとの時間、お互いに沈黙した。が、その沈黙を破ったのは美琴だった。
「えっと、アイツとどんな関係?」
「宿敵です」
瞬時にすごいきっぱりと言い返された。
「えっと、どうして宿敵に?」
なんか冷や汗が止まらないが聞いてみるしかない。
彼女の答えはこうだった。

大覇星祭、玉入れのとき、自分の能力を消した人がいた。
最初追っかけいた人を追い詰めたときに、先ほどの少年が消したことを聞いた。
で、調べてみたのだがその中学にそのツンツン頭は居らず、探し回っていたのだが
「ついに!偶然ですが先週にみつけたのです!」
それからその道の近くを探索し、毎日勝負を挑んでは逃げられているらしい。
逃げるルートはいつも違うので追いかけるのが難しいともいっていた。
つまり
(アイツを見つけられなかったのはこの子のせいかーっ!)
と、声には出せない叫びを放つ。
「ところで、御坂様」
「なに?」
「先ほど、アイツと仰っていましたがあの男性をご存知なのですか?」
びくぅ!っと肩を震わす。そりゃご存知ですよ。あはははーとはいえず
「え、えっとねまあなんというか……まあ、そのことはどうでもいいじゃない」
「はあ……」
彼女はちょっと納得がいかないようだがそれでもとりあえずはうなずいてくれた。

700豚遅:2010/03/23(火) 01:26:36 ID:54SCa4IY
常盤台の寮へと帰る途中、彼女は自分の能力ことを話し始めた。
彼女の能力は基本的に攻撃にしか使えないようだ。
光の砲弾や先ほどのレーザーのように攻撃の用途は多いのだが
「どうも攻撃一辺倒になってしまうのです」
光を屈折して別の場所を見せたり、目くらましのように輝かせたりはできないらしい。
なんだか学園都市第四位を髣髴とさせる能力だ。
「代わりに大覇星祭の様に、自分の能力を生かせる場所ではそれなりの自信があったのですが」
「それを砕かれた、と」
なんとなーく美琴にはその気持ちがわかる。自分も似たようなものではあったのだから。
(けど……)
自分の居場所が奪われたようでなんとなく気持ちが落ち込む。
しかし彼女はそんな美琴の様子など気にせずに自分の言葉を続ける。
アイツのことを話すことができる相手ができたからだろうか、どうも彼女はテンションがあがっているようだ。
「そこで!あのツンツン頭に『参りました』と言わせてみるべく努力を続けているのです!」
大きな胸をどーんと張って彼女は答えた。
いろいろはた迷惑な努力だ。だが
(どうしよう……)
なんかある意味妹達よりも自分に似ているのではないか?
という少女を見つめて考え込んでしまう。
(体系も似てればよかったのに)
このお嬢様、全体スラっとしてるのに一部分ボリューム満点である。
なんかいろいろショックを受けつつも常盤台の寮に着いた。
「それでは、わたくしは別の寮ですので、ここで失礼いたします。」
彼女は礼をして、優雅に立ち去った。

「お姉さま、どうしたのですか?」
ルームメイトの白井黒子が常盤台のエース、美琴に心配そうに声をかける。
なぜなら常盤台のエースは部屋の隅で体育座りをしていた。
なんか右手でのの字を書いている。
「そりゃ、誰がアイツを追いかけようと勝手だけどさ。けどさ。けどさ」
なんか呪いなのか新手の超能力開発なのかわからないがぶつぶつとつぶやく愛しのお姉さまをどうしようと
白井黒子は真剣に悩んでいた。

701豚遅:2010/03/23(火) 01:27:11 ID:54SCa4IY
もちろん御坂美琴も床にのの字を書きつつ真剣に悩んでいた。
もちろんあのツンツン頭とそれを追いかける彼女のことだ。
(私がやめなさい、といっても意味がないのよね)
どう考えてもあの二人の問題でしかない。
部外者である自分が何を言っても無駄なのはわかっている。
なんせ、自分が誰かに『上条当麻を追いかけるのをやめなさい』といわれてもやめないだろうとわかっているから。
つまりはあの彼女に自発的に追いかけることを止めさせなければいけないのだが
(なんか、それはそれで……)
彼女が追いかけるのをやめると、自動的に自分も追いかけるのを止めないといけない気がする。
そもそも
(もし、アイツが追いかけられるのを嫌がっているなら)
それは自分が追いかけているときも同じなのでは?という考えにいたってしまう。
そう考えてしまうととてもモヤモヤとした感じがする。
思い切ってアイツに聞いてしまえばそれで済む話なのかもしれないけど
(怖い……)
アイツの本音が怖い。本当に嫌われていたら……
その場合、自分はどうすればいいのか。
アイツの傍にいる方法がわからない。
「寝よう……」
とりあえず明日だ。明日になればきっとなにか……

「変わるわけないわよねー……」
当たり前だが何の解決策も出さなければ一日がたとうが何も変わらない。
美琴は常盤台中学からの帰り道でため息をつきながらとぼとぼと歩いている。
思い切ってこちらから探しに行こうかとも思う。
彼女より先に見つけられれば、と考えはしたが
「だめだあ」
仮に先に見つけても解決にならない。彼女がそれで攻撃をやめるか分らない。
まさか、自分以外にアイツを追いかけてる人が一人いるだけで自分の行動が八方塞になるとは思っても見なかった。
結局、良い考えも浮かばず夕方まで一人でとぼとぼと歩いてしまった。
と、そのとき偶然通った河原で二つの影を見つけた。
その影はひとつはツンツン頭でもうひとつは長い黒髪のお嬢様の形をしていた。

702豚遅:2010/03/23(火) 01:27:32 ID:54SCa4IY
時間はちょっと遡る。
ツンツン頭の少年は正直ちょっとうんざりしていた。
理由はこの一週間毎日追いかけてくるお嬢様だ。
「相手が御坂ならまだしもなあ」
あのビリビリお嬢様ならいくらでも相手になる、それくらいには気心も知れている。
が、今度の相手は見知らぬお嬢様。
なんだかとてもやりづらい。
(それになあ)
なんとなく調子が出ない。
(御坂に会えてないしなあ)
と漠然といつものビリビリお嬢様が思いつく。
(ってなにを考えてるんだ!俺は)
今湧き上がった複雑な感情はさておいておいて、あのお嬢様の攻撃を何とかしたいのだが、
対策を立てるまもなく彼女は今日もやってきた。
「見つけましたわ」
「あー、不幸だー」
「その台詞、いい加減聞き飽きましたわ。」
上品な唇を少し歪ませている。
「で、お前は何を一体どうしたいんだ?」
上条当麻はいい加減うんざりといった感じで彼女に問いかけるのだが
「当然、あなた様に参った、といわせたいのです」
うーん、それって
「つまり勝負でもすればいいのか?」
「そうですわね」
「なら、相手になってやるよ」

というわけで、移動してきたのだが
「なんかデジャヴを感じる」
「何かいいまして?」
「いや、なんでもない。いつでもいいぜ」
「ではいきますわ!」
いい終わる早いか、お嬢様はレーザーを放ってきた。
いつもどおり右手で打ち消す。
次は光の砲弾をいくつも投げてきたが上条が右手を振り払うとあっけなく霧散する。
「何度やっても同じ結果じゃねーか!」
「うっ」
どうも彼女は応用力はあまりないらしく、本当に攻撃一辺倒なのだ。
あしらうだけならそう難しくない。
だけど彼女もそれなりに考えているようで
「これならっ!」
光の砲弾を地面に撃ち込んだ。
かなりの量の土砂が舞い、上条に襲い掛かる。
それを壁にして、後ろからもう一発のレーザーを放とうとする、が
目の前の土砂などお構いなしに上条はその土砂に自ら突っ込み、かいくぐった。
「え!?」
驚愕するお嬢様。上条はそのままお嬢との距離をつめる。
そしてお嬢様の目の前まで来て右手を振りかぶり
(って、この先どうすりゃいいんだ!?)
まさか悪人でもないのに殴るわけにもいかない。どうしよう?と心の中にクエスチョンマークを浮かべたのがいけなかった。
不幸体質の上条が気を抜けば、そこに不幸が舞い降りる。
上条当麻は先ほどの砲弾によりえぐれた地面に足を引っ掛けた。
「うおっ!?」
突然崩れた自分のバランスに驚愕しつつ、何かをつかむように右手を伸ばすと
「え?」
お嬢様をつかんで倒れこんだ。

703豚遅:2010/03/23(火) 01:27:54 ID:54SCa4IY
「いてて……ってなんか柔らか……い……」
もにゅ
という音が出そうだった。上条の右手はとあるお嬢様の自己主張の激しい物をつかんでいた。
まあ、要するにラッキースケベだった。
しかし、つい先ほども言ったが上条当麻は不幸である。
ラッキーという言葉にはとても程遠い人生を送っている。つまり
「ア、ン、タは一体何をやってるのかしらっ!」
不幸の現況となりえる存在。つまりは怒りに震える学園都市第三位がそこにいた。
「ふ、不幸だー!」
立ち上がり、わき目も振らずに逃げ出す上条。そこへ全力のレールガンを叩き込む御坂美琴。
「まてこんのエロ野郎!」
壮絶な追いかけっこが始まった。
「殴りたい!ついさっき追いかけてくるのがこのビリビリならいいやと思った自分の幻想を思い切りぶち殺したい!」
「なに言ってるのか分らないわよっ!」
あたりの地形が変わるのではないか?という感じで電撃やらレールガンを打ち込む美琴と
それを平然と打ち消し逃げる上条。そしてその影で
「えっと……」
ぽつーんと言う擬音がとても似合う感じにお嬢様が一人取り残されてしまった。

日付が変わるころ、御坂美琴は常盤台の女子寮へと戻ってきた。
「まったく、あの馬鹿は!」
怒りのこもった口調と、どすどすといういかつい足音とは裏腹に
「お姉さま、なんかとっっっても嬉しそうですけど?」
「え?そう?」
そうにしか見えないため、白井黒子はため息をついた。
「あの殿方となにかあったんですの?」
びくっっと全身を震わせて見る見るうちに顔が赤くなる。
「な、なにもないわよ!」
とはいうものの
(あー、やっぱりなんというか……楽しかったなあ)
久しぶりに全力を出しまくった美琴はそのままベッドに倒れこんだ。
そしてそのまま枕を抱きしめてスースーと寝息を立て始めた。
(なんですの!その幸せそうな寝顔はなんなんですのー!)
しかも時折まちなさいよーとかつかまえたーとかなぞの寝言を発する。
それを聞いて白井黒子が床に何度も頭をたたきつけつつ、夜は更けていった。

704豚遅:2010/03/23(火) 01:28:24 ID:54SCa4IY
翌日、ルンルンという音が聞こえてきそうなくらい軽快なスキップで登校中の
御坂美琴の前に例のお嬢様が現れた。
「あの、御坂様」
「ん?何かしら?」
満面の笑みである。ちょっとお嬢様は気後れしたようだが
「わたくし、あの殿方を追いかけるのはやめにいたします」
「へ?」
彼女は告げた。
御坂美琴の全力を防げるあの人を倒すにはまだ実力が足りないことを悟ったらしい。
「なので!まずは自分のレベルを上げることに全精力をつぎ込みます!」
なんか後光がさしてるようにも見える。こんなところで応用力あげなくても。
「それにですね」
「ん?」
お嬢様は本当にお嬢様らしくにこりと笑って

「はぁ、疲れたぜ……」
夕暮れの学園都市をのそのそと歩くツンツン頭の少年がいた。
彼は昨日結局一晩中美琴と追いかけたあと、ほとんど眠らずに学校に来た。
そのせいで授業中に爆睡したところ親船先生に居残り草むしりを命じられてやっとこさ先ほど終わったところだ。
そして例のごとく終バスはもう終わっていたため自宅の寮へと徒歩で帰宅中だった。
「あー、早く家に帰りたい」
とそこへ
「いたいた、見つけたわよ!」
振り返るとそこには
「御坂……?」
常盤台の制服、しかし最近のお嬢様ではない、見慣れたお嬢様
なんだか楽しそうに笑うよく御坂美琴がそこにいた。
なんだかつられて少し笑ってしまう。
「さあ!勝負よ!」
「えー!?いきなりそれですか!?もう上条さんの体力はゼロよ!」
といって一目散に逃げ出す。
それを追いかける美琴。

美琴は逃げ出す前の上条の顔をしっかりと見た。
笑っているアイツ。楽しそうなアイツ。
(よかった)
美琴ももう一度笑って目の前の少年を追いかけ始めた。


にこりと笑って、お嬢様はこういった。
「あの殿方と御坂様、とても楽しそうでしたので邪魔はできませんわ。」

705豚遅:2010/03/23(火) 01:29:01 ID:54SCa4IY
以上です。
呼んでくださった方ありがとうございます

次はまたいちゃいちゃしたい

706■■■■:2010/03/23(火) 01:43:18 ID:dPjK1AmA
>>704
この豚野郎!
いやはや、切り口が新鮮だった。良かったです!GJです!!

しかし、美琴さん。追いかけてるだけじゃだめですよ。いつかは上条さんに追いつかないと!

707■■■■:2010/03/23(火) 01:49:54 ID:B8Mq9D1g
>>705
こンの豚野郎がァ!!!

>>706
確かにw
いつか追いついてくれるさLV5

708■■■■:2010/03/23(火) 02:05:17 ID:xzWyLQIo
>>705
豚さん豚さん最高ですwwwwww
美琴と白井以外の常盤台生が出てくるのもあまりないからGJです!


上条さんは神上のごとくいつかレベル6になってくれると信じてるぜ。

709■■■■:2010/03/23(火) 02:05:49 ID:xzWyLQIo
馬鹿やった、下げます

710■■■■:2010/03/23(火) 03:11:37 ID:b/1mPCoM
ちょっと質問なんですが、このスレは上条さんか美琴中心じゃなければいけないのでしょうか?
一応いちゃいちゃさせますし最終的には2人にとってハッピーエンドになるような話を考えているんですが。
会話の間間に視線切り替えが分かるような文章を挟めばいいんですかね?

711■■■■:2010/03/23(火) 03:23:45 ID:DIqmzOgM
よく分からないのでテンプレ読んでからとりあえず投稿すると良いと思います!

712■■■■:2010/03/23(火) 07:21:45 ID:qZ/VLGWU
>>705
GJ!
美琴がお嬢様にフラグを立てたのかと(ry

713■■■:2010/03/23(火) 07:54:04 ID:UuvePo9Q
前から気になっていたんだけど、なんで18禁のssと普通のssを分けているの?
いや、18禁だといろいろまずいのは分かってんだけど、とらドラの保管庫とか見ると
18禁のと普通のが混ざっていたから。そのおかげで住人が多いからかとらドラのssは質が異常に高い。
今さら18禁と普通のが合併するのは自分も反対だけど、ちょっと気になったから。一応とあるについてのことじゃなくて
このスレ自体の話なのでこっちに書かせてもらいました以上

714■■■■:2010/03/23(火) 08:20:16 ID:ladL3vf6
>>705
確かに、美琴と同じような事する人が他にでてもおかしくないですよね、
上条さんの体質だとw
GJでした。

715■■■■:2010/03/23(火) 08:20:57 ID:DIqmzOgM
>>713
・@wikiが18禁物を載せられないから
・18禁物を入れると(建前上)18歳未満立ち入り禁止にする必要があるから
(ただし元々文章というものは法律で18禁にできるものではないのでこの2つの理由は微妙だったりする
とは言ってもエロイ物を@wikiに堂々と載せるか否かは問題となると思う
個人的にはそもそも@wikiじゃなくても良いとすら思うが)
・18禁を嫌う人が少なからず居るから
・専用スレが元々あるから(テーマが若干違うが)
・超書きたい!って人があまり現れないから

簡単に言えば、解決しなければならない問題が多くて面倒だから現状維持 って話

あと人数の事については既に40人以上居るので少なくはない
質についてはここは 『いちゃいちゃ≧質』『誰でも書いてみなよ』 って雰囲気だから少し的外れ

個人的には禁書板にも18禁容認スレ、あるいは上琴エロエロスレが欲しいが
以前提案したところ反応が薄かったのであまり需要がないんだろう と予想

たまに猛烈にエロイ物を書きたくなるのよね だって男の子だもん

716■■■■:2010/03/23(火) 08:21:32 ID:ladL3vf6
>>713
「18禁モノが嫌いな人もいるから」では理由にならないかねぇ?

717■■■■:2010/03/23(火) 08:29:46 ID:wv3wZdbQ
超電磁砲の〜〜で足りているでは理由に(ry

718■■■■:2010/03/23(火) 08:54:35 ID:DIqmzOgM
>>717
何ですのそれ?

719■■■■:2010/03/23(火) 09:01:28 ID:3DePKCqY
そういう名前の同人誌
超電磁砲のあそびかた
     あいしかた
     さそいかた

720■■■■:2010/03/23(火) 09:07:05 ID:DIqmzOgM
ああ納得申し訳ない

そう言うssスレがあるのかと思ったw

721■■■■:2010/03/23(火) 10:22:36 ID:ZpPyn5HI
>>719
正直さ〜その3本以外上琴の同人誌あまりいいのないよね〜
他の同人誌見てると美琴がロリっぽく見えたり巨乳すぎたりして違和感ありまくりだし…

722■■■■:2010/03/23(火) 10:24:12 ID:v06NkI2c
いちゃレー…

723■■■■:2010/03/23(火) 10:35:24 ID:ZpPyn5HI
すまん忘れてた…

724D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/23(火) 10:56:23 ID:qZ/VLGWU
 お邪魔します。
どなたもいらっしゃらないようでしたら、10分後にネタを1つ投下します。
「ナチュラルに恋して」9レス消費。
話としては
「午睡 La_siesta.」の続きになります。

 午睡 La_siesta.は
>455-465
です。


※通しタイトル「Equinox」は
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/474.html
です。

725ナチュラルに恋して(1):2010/03/23(火) 11:05:55 ID:qZ/VLGWU
 御坂美琴は少々疲れていた。
 五月に入ってから学校関連の用事で妙に忙しかったのだ。
 美琴の通う学校は超能力開発と世界有数のお嬢様学校で名高い私立・常盤台中学。美琴は学生達から羨望の眼差しを集める常盤台中学で、三年間最高位の超能力者(レベル5)としてさらに羨望の眼差しを集めるスーパー中学生だ。美琴自身、努力で得た超能力の後についてくる賞賛などこれっぽっちも興味はなかったが、周囲はそういう訳にはいかなかった。
 いくら名門中学と言えども、入学希望者がいなければ学校運営という事業は成り立たない。
 そんな訳で、次の超能力者候補生を求めている常盤台中学は美琴を『看板』あるいは客寄せパンダとしてフルに活用したのだ。
 何しろ美琴は常盤台中学創立以来の最高レベルの能力者であり学園都市第三位の超能力者、通称『超電磁砲』として知名度が高い。常盤台中学には心理掌握というもう一人の超能力者がいるが、デモンストレーションとして使うには美琴の方が派手で分かりやすいと言うのがその理由だ。学校側も美琴に多額の奨学金を投入している以上、回収に走るのは当然のことだった。美琴もそれを分かっている以上、拒否はできない。
 学校からの要請は如何なる内容であれ受諾し実行する。それが常盤台中学の生徒としての心得であり、奨学金を受ける条件なのだから。
 もし常盤台中学に鈴科百合子なる生徒がいたら美琴もここまで振り回されることもなかったのだが、現実はそんなに甘くも優しくもない。
 来期入学希望者向けパンフレット用のモデルとして撮影に引っ張り出されたり、学校説明会へ同席および在校生としての学校紹介、討論と意見交換、論文執筆の合間に『偉い人』との会合出席と、美琴のスケジュールはびっしりと埋まり、秘書役を買って出た同室の後輩・白井黒子でさえ過密とも呼べるここ数日の日程管理には手を焼いた。こんな状態だったのでさすがの美琴も疲労していたし、『彼氏』上条当麻との放課後デートさえままならない状況だったのだ。
 メールや電話で上条と毎日やりとりしていても寂しいものは寂しいし、会いたいしそばにいたい。
 だから予定がぽっかりと空いた今日は上条にメールで連絡して、二人で手をつないで特にあてもなく街をぶらついている。お邪魔虫の携帯電話は留守番電話モードに切り替えてポケットの中に放り込んだ。
 美琴が一方的に日々の出来事や噂話をしゃべって、上条がそれに相槌を打つ。
 美琴の右手は上条の左手を握り、互いの肩先に一〇センチの距離を開け肩を並べて歩く。
 五月の午後の空は青く澄んで、街路樹の緑がそよ風に揺れる。。
 いつも通りで何の変化もないけれど、美琴にとっては自然で穏やかで幸せな放課後だ。

726ナチュラルに恋して(2):2010/03/23(火) 11:06:24 ID:qZ/VLGWU
 時々、美琴はショーウィンドウに映る二人の姿を横目で眺めてはため息をつく。
(私達ってお似合いのカップルに見えるかなぁ)
 上条は時折、二人のことを『お嬢様と下僕』もしくは『サラブレッドと驢馬』と揶揄する。それは二人の見た目や能力、出自をなぞらえた譬えではあるのだが、美琴には承伏できない。
 何故ならば。
 美琴の隣にいる『彼氏』、上条当麻は老若男女敵味方を問わず、とにかくモテるのだ。愛されていると言い換えても良い。上条が右拳で殴りつければ例外なく相手は上条の信奉者になってしまう(ように見える)し、ひどい時はストーカーのように上条につきまとうわ色仕掛けで迫るわとやりたい放題だ。
 そして上条は、誰に対しても分け隔てなく付き合う。
 上条には差別や見下しといった感情が一切ないので、上条の気づかないところで彼に共鳴する人のつながりが広がっていく。美琴が出会った上条当麻という少年は、美琴が初めて出会った『能力や肩書きに関係なく自分を対等に扱ってくれる人物』であり、彼のそんな飾らない、自然な姿が好ましくて恋に至ったわけだが。
 上条自身に『モテる』という自覚がないのがなお痛く思えて、美琴は時々頭を抱えたくなる。おそらく世界規模で自分のライバルがいると予想する美琴は、『自分は上条当麻の隣を占めるに足りる女の子か』と自問自答してしまう。
 だから、逆だ。
 しっかり者の彼女を演じる美琴としては、上条が美琴と釣り合いが取れているか気にするのは全くの問題外で、むしろ自分の方が上条と釣り合いが取れているのかが常に気にかかるところだった。
 先日勝負を挑んできた二重まぶたが印象的なあの子を始め、上条の知り合いには言葉に出すと屈辱的に美琴よりも何かが大きな女性が多い。彼女たちの影を見るたびに打ち負かされそうで地味にへこむ成長過程少女は、ショーウィンドウに映る自分の姿を見てため息を一つ追加する。
「ん? 御坂、やっぱお前疲れてんじゃねえの? 何かさっきからぼーっとしてるし、久々に時間の余裕ができたんだったら寮に真っ直ぐ帰って体を休めた方が良かったんじゃねえのか?」
「アンタね……久々に彼女と顔を合わせて言う言葉がそれ? 真っ先に『会えて嬉しい。もう離さない』とか何とか、そういう言葉はアンタの口から出ない訳?」
「そんなこっ恥ずかしいコト言えっかよ! お前は上条さんにどんなキャラを期待してんだ?」
(人目があるにもかかわらず強く抱きしめてくるとか、恋愛映画並にうんざりするほど甘い言葉を聞かせてくれるとか、そう言うのはないのかアンタは)
 かつて恋人ごっこの時に『何をすれば恋人っぽく見えるのか』と問われて答えられなかった美琴は、上条と本当の恋人になってから一人でいろいろと考えた。恋愛映画もたくさん見たし雑誌の特集は一通り目を通した。結果、恋人なら何をやっても恋人らしく見えるという抽象的な答えでは満足できず、美琴が思い描く『恋人らしさ』をあれこれ上条に要求しては断られ続けている。こんなところでも美琴はずっと片思いのままだ。
 このやたらとモテるが今ひとつ恋人としての反応に欠ける彼氏には恋人らしい発言をを期待できないので、美琴はため息を追加して告げた。
「……良いんだ。どうせ私の片思いなんだから」
 美琴の言葉に上条はキョトンとして
「……、お前突然なに言ってんの? 意味がさっぱり分かんねーんだけど」

727ナチュラルに恋して(3):2010/03/23(火) 11:06:54 ID:qZ/VLGWU
 と、不意に上条の携帯電話が鳴った。
 上条は美琴を『ちょっと待て』と片手で制すとポケットから携帯電話を取りだすと、液晶画面に浮かんだ名前を見て、上条の常に眠そうな表情が引きつったものに変わる。
「? どうしたの?」
 美琴を見る上条の目が不自然に泳いでいる。
「あ……いや、何でもねえよ」
 上条は通話ボタンを押し、美琴から手を離して背を向けると電話の向こうの誰かと会話を始めた。
「……、もしもし…………、だからそれは………、はい、いや……そうじゃなくて……」
 上条の電話の口調から、相手が友人ではないがごく親しい誰かで、しかも年上の女性というのは感じ取れた。
 ……誰だろう?
 年上というと思い出せるのはあの金髪か、それとも神裂とか言うポニーテールの女か。
(ちょっとー、彼女放置して他の女としゃべってるってどういう訳?)
 いらだつ。気になる。今すぐ携帯電話を奪って履歴を確認したくなる。
 美琴は上条の後ろから両手を回してぎゅっと抱きつき、自分の存在を上条にアピールする。やたらと人の目を引く常盤台中学の制服を着たままこんな事をすれば周囲の注目を浴びるのは間違いないが、今の美琴にそんな事を気にする余裕はない。
 何しろ上条は電話で女性としゃべっているのだから。
 ついこの間五和という少女とやり合って、美琴自身勝ちとは思えない形で勝利を拾ったばかりなのだ。恋愛面ではこれっぽっちも自分に自信が持てないスーパー中学生としては、ここで誰かに上条の気を引かれては困る。
 上条の交友関係が広いのも分かっている。美琴の知らない『外』で上条が誰かと知り合うことにも理解を示しているつもりだが
(が、我慢我慢……きっと相手は知り合いとか友達、そう友達よ)
 上条が誰と電話でしゃべったってそれは悪い事じゃない。
 それなのに。
 美琴は自分に背中を向けて親しげに誰かと話す上条にいらだちを覚えた。
 自分を放置して、他の女と楽しくおしゃべりだなんて。
 電話が終わったらにっこり笑って『誰から?』と聞けば良いだけなのに、
 こんな事でいらだつ自分にも腹が立った。
 些細な事で心がかき乱される自分に腹が立った。
 御坂美琴は上条当麻にとって、しっかり者の彼女なのだ。
 こんな事を思う方がどうかしていると冷静さを取り戻そうとするがうまく行かない。
 我慢できずに美琴が上条を置いて黙って立ち去ろうとした瞬間、上条がくるりと振り返って
「……え? あ、そりゃ今、ここにいますけど……」
 何やら気まずげに美琴の方をちらちら見る。
 何故上条はこちらを見て、何を話しているのだろう?
「え? ええ? い、いや別にそれは良いけど御坂が何て言うかな……」
 自分の名前が出てきた事に息が止まりそうなほど驚いたがそれは顔に出さず、とにかくひたすら平静を装う美琴。
 携帯電話を耳から離してしばし美琴を見つめた後、上条が手にした携帯電話を何とも言えない複雑な表情で差し出す。

「……、御坂。美鈴さんから」

 意外な言葉と共に。
「…………は? 何でうちの母さんがアンタのケータイに電話してくんの?」
「とりあえず出てくれねーか。何か話があるらしいから」
「あ、うん。何かしらね」
 美琴は努めて平静に両手で上条から携帯電話を受け取ると、お嬢様スタイルで耳に当てた。

728ナチュラルに恋して(4):2010/03/23(火) 11:08:43 ID:qZ/VLGWU
「……もしもし?」
『もしもし美琴ちゃーん? 元気してたー?』
 電話の向こうから聞こえてくるお気楽な声は、間違いなく美琴の母・美鈴のものだ。
「元気してたー? ってアンタね……何で私じゃなくてコイツのケータイに電話してくんのよ?」
『だって美琴ちゃんのケータイ、留守電のまんまじゃない? ママは美琴ちゃんに用があんのに。あ、それとも今ってデート中だった? ごっめーん、ママお邪魔だったかなーん?』
 そう言えば、と携帯電話を留守番電話モードにしていたのを思い出し、美琴は心の中で舌打ちする。
 正月に帰省した際、母・美鈴には上条との交際の話は一応通してある。美琴はその際あれやこれやとアドバイス……と呼べるかどうか分からない話を美鈴から吹き込まれていた。
 用とはその話の事だろうか。
『上条くんたら電話の度に美琴ちゃんの話を楽しそうにしてくるから、もしかしたらいつも一緒にいるのかなーって』
「ぶっ!? ちょ、待ちなさい母! アンタそんなにしょっちゅうこの馬鹿のところに電話かけてんの? 私のところに最後にかけてきたのいつだっけ?」
『うーん、確かお正月の後じゃない?』
 美琴が入手するのにあれだけ苦労した上条の連絡先を、美鈴がいつの間にか上条自身と交換しているのは知っていたが、母さんが頻繁にコイツと連絡を取ってるなんて聞いてないわよっ! と美琴は内心慌てる。
 美琴の狼狽を知ってか知らずか、美鈴はマイペースに
『それでね、ママの話を聞いて欲しいんだけどそろそろ良い?』
「なっ、何? こっちも忙しいから早くしてよね」
『あのさー美琴ちゃん、ちゃんと毎日基礎体温チェックしてる? あと周期も。常盤台中学の保健体育ってそう言うことはしっかり教えてくれてるわよね? 何しろ家庭科でさえアレだから、もしかして一歩先に進んで男女産み分けとか教えちゃってるんじゃないかってママは心配で』
 美鈴の言う『常盤台中学の家庭科でさえアレ』とは、シャツのちょっとしたほつれを直す感覚で金絵皿の傷んだ箔を修繕したりペルシャ絨毯のほつれの直し方を授業で教えていることだ。常盤台中学の教育課程が大学並に高レベルなのは恐れ入るが、一般的に金絵皿やペルシャ絨毯などを所有している家庭は少ない。本当に即戦力として必要な授業なのかと母親としてちょっと首をひねっているのだ。この調子で行くと保健体育ではDNAの塩基配列から教えているのではないかと美鈴は危惧している。
 それは授業と言うよりもはや職人芸、授業と言うよりは科学技術論の世界だ。
「……きそたいおん? 何……ってえええええ!? ちょ、このバカ母! アンタ電話口で何て事言ってんのよっ!」
 とんでもない叫びを耳にして『何だ?』と振り向く上条に『何でもないから』と目だけで示す美琴。
 美琴が再び上条に背を向けて会話に戻ると
『んー、上条くんにそれとなく聞いてみたんだけどはっきりした事教えてくんないから美琴ちゃんに一任してるのかなーって。……大丈夫よね?』
「アンタは人の彼氏に何て事聞いてんのよ? そんなことコイツが知ってる訳ないでしょうが」
『じゃあやっぱり美琴ちゃんが管理してんのか。美琴ちゃんが上条くんと付き合いだして結構経つでしょ? ママとしては孫の顔は一日も早く見たいところだけど、パパがビックリするから赤ちゃんは中学卒業してからにしてねって釘を刺しておこうかなって思ってさー。上条くんの自然な欲求に任せんのも大事だけど、美琴ちゃんがしっかり手綱握っておくのよ? ……それとも、美琴ちゃんが上条くんにおねだりしちゃうのかなーん?』
 美琴もこの日ばかりは上条の奥手に感謝しつつ
「アンタ本当に心配してんのか!? ……私達はそう言うんじゃないから放っといて。つか、もうちょっと母親らしい話はできないの?」
『えー? これだって立派に母親の務めだと思うけどなー? 年末に美琴ちゃんから話を聞いた時は何やら深刻そうだったけど、上条くんに聞いたらそんなことなさそうだったからとっくに済ませちゃったのかなって』
「何を済ませてるって言うのよ?」
『やだなぁママ恥ずかしくてそんな事言えなーい♪』
「変なシナ作んな恥ずかしいなら最初から口にすんな! ……ったく。バカ母、アンタはそんなに暇なのか」
『そうそう、美琴ちゃんの弱そうなところ、上条くんにこっそりレクチャーしておいたから。あとで二人で楽しんでねん♪』
「…………ひー、とー、のー、彼氏に余計な事を吹き込むなあーっ!!」
 美琴は一声叫んで親指で力いっぱい終話ボタンを押し込むと、ふーふー息を吐きながら上条にぐいっと携帯電話を突き返す。
 今のやりとりで何だか疲れが無駄に倍加したような気がする。
 美琴はどうにもできないやりきれなさに小さくため息をついた。

729ナチュラルに恋して(5):2010/03/23(火) 11:09:14 ID:qZ/VLGWU
 ……それにしても。
 母親にまで進捗状況を心配される恋愛というのはどうなんだろう?
 上条はケータイ壊れたんじゃねーのかと呟きながら受け取った携帯電話の外装をチェックしつつ
「……、美鈴さん、何だって?」
「……大した用事じゃなかったわ。まったくあのバカ母は……」
 そこで美琴は思い出す。
「ねぇアンタ、うちの母としょっちゅうコミュニケーション取ってるみたいだけど、何の話してんの?」
「へ? ……ああ、お前に世話になってるとかそんな話だけど?」
「……本当に?」
 美琴は上条に胡乱な瞳を向けて
「母さんがアンタが私の話を楽しそうにしてるって言ってたけど? っつーか、何でアンタは自分の彼女よりその母親と楽しく会話しちゃってんのよ?」
「……、まあそうだろ。お前の母親にお前の悪口言って何が楽しいんだ?」
「そ、そう……ならいいんだけど。で、母さん、何か言ってた?」
「言ってた、けど……」
 上条の言葉は歯切れが悪い。美琴は上条をキッと一睨みして
「何言ってたの? キリキリ教えなさい今すぐに!」
「……お前は虫が苦手だから近づけないでくれって。小学生の時にクラスでいたずらされて授業中に逃げ出したとかいう話を聞いたんだけど」
「……へ?」
 あまり思い出したくなかったので美琴は記憶の底に封印していたが、小学生の頃にはそんな事もあった。確かあの時は……
「んで、お前の母さんがその事で小学校まで呼び出されたって。子供の頃の失敗話を聞かされたなんて知ったら、お前怒るだろ? だからあんまり言いたくなかったんだよ。お前だって嫌じゃねーのか、そう言う話はさ?」
 弱いとはその話だったのかと美琴が心の中で安堵すると、追い討ちのように上条が
「あと、お前の耳がどうとか言ってたけど」
「……その話は忘れて今すぐに」
 確かにそっちも『弱い』が、そんなことを上条に聞かせないで欲しいと美琴は思う。大体そう言うことは上条自身の手で知るべきであって、母親だからと言って変に気を回さないで欲しい。
「もしかしてお前の耳って触るとびょーんって大きくなんのか? どっかの奇術師みたいに」
「なるわけないでしょ。それってこの間見たテレビの受け売りじゃない。……そこで楽しそうに手をわきわきさせんなっ!!」
 良いじゃねーかちょっと試させろと美琴の耳をつまんで引っ張ろうとする上条と、こんなところで馬鹿な事すんじゃないわよと上条の思惑を阻止しようとする美琴の間で取っ組み合いが始まった。常盤台中学の制服を着たお嬢様がそこらにいくらでも転がっている柄の悪い学生みたいにつかみ合いを始めたのを見て、周囲の人々が二人から視線を逸らしつつ遠巻きに退いていくが美琴は気にも止めない。
 こんな風に二人で騒いでいられる時間が楽しいから。
 自分が自分でいられる一番自然(ナチュラル)な時間だから。
 美琴は声を上げて笑う。
 誰よりも幸せそうに。

730ナチュラルに恋して(6):2010/03/23(火) 11:09:40 ID:qZ/VLGWU
「……私の耳に関する疑惑はあとできっちり解き明かすとして。……この間聞きそびれたけどアンタの部屋にきたあの五和って子はアンタの何?」
 肩で息をしながら少ししわになったブレザーの裾を引っ張りつつ、美琴は上条に問いかける。
 それは美琴と上条が付き合い始めて何ヶ月目かの記念日を迎えたとある一日。
 記念日だから何かお祝いしようと久々に訪れた上条の部屋で騒いでいたところへ、とある少女が現れた。
 二重まぶたが印象的な、美琴では絶対太刀打ちできない母性の塊を備えた少女。バレンタインデーに上条の部屋を訪れて、美琴に向かって『負けません。あきらめません』ときっぱり告げた少女。
 名字なのか名前なのか分からないが『天草式の五和』と名乗る少女は、その日美琴に挑戦状を叩き付けた。
「……、だからアイツはただの友達だって。たまたま知り合っただけだよ」
「……ふーん。それで、あの子はどこの学校に通ってんの? 学舎の園じゃ見ない顔だけど」
 学舎の園は五つの女子校が共同で費用を出し合って隣接する敷地内に強固なセキュリティを築いた隔離エリア。言わばそこに通う女生徒専用のミニチュア要塞都市だ。
 学舎の園を構成する女子校はどれも名だたるお嬢様学校で、当然学舎の園で見かける制服もその五種類しか存在しない。そして学舎の園には出入り可能な人間が限られているので、通っているうちに生徒達の顔を何となく覚えてしまうのだ。
 上条が『友達』と呼ぶ五和の事を、美琴は学舎の園の中で見かけた覚えがなかった。そもそも身に纏っている空気のようなものが、学園都市の生徒と少し違うような気がする。初めて出会った時も突然長槍のようなものを持ち出されたし、あの子は無能力者(スキルアウト)側の人間なのだろうか、と美琴は五和について少し考える。
 歳が上条と近そうなので、上条と同じ学校に通っているのかと思ったが、話を聞く限りどうやらそれも違うらしい。あとで黒子か初春さんに頼んで書庫に当たってもらおうと美琴は心に留めておく。
 五和が学園都市の『外』で出会った知り合いと言う事を美琴に話せない上条としては、話を流してしまいたいしこれ以上の追求は避けたいと思っているのだが、事情を知らない美琴は上条のその不審な態度が妙に引っかかる。
 上条はあの子について美琴に何かを隠している。
 しかもあの子は限りなく上条の好みのタイプに近い、と美琴は推測する。
 常に謙虚で一歩引いて、決して出しゃばる事がなく、甘えさせるのが上手で、料理がうまくて笑顔がかわいくて、そして美琴が比較対象に入らないほどデカい。
 私の勝てる要素が一個もないじゃない、と美琴は両手で頭を抱えたくなったがあいにく手がふさがっているので代わりにため息をついた。
「で? あの子もアンタがその右手で助けてお知り合いになって、ケータイの番号や部屋の電話や、あまつさえ部屋の場所まで教えちゃったクチ?」
「それにはいろいろと事情がありまして……大体俺は海に落ちた時とか川に落ちた時に助けてもらった方でアイツを助けた事なんて一度もねーよ」
「落ちた時に助けてもらった? ……アンタはいつから落下型ヒロインになったのよ?」
 海に落ちたのは大覇星祭ナンバーズで当選したイタリア旅行、のはずがアドリア海の女王がらみで叩き落とされた時、川に落ちたのは超音速旅客機から土御門の策略によって真下を流れるセーヌ川へ蹴落とされた時だが、どうしてそう言う目にあったのかを説明するには必然的に『外』の話をしなければならない。上条としては言えないし言う気もないので口を閉ざしているが、美琴としては上条のその態度が気にくわない。
 助けてもらった、と言うからには上条が泳げないのならばやむを得ないが、上条が泳げないという話は聞いたことがない。大体海に落ちた川に落ちたという状況がすでに想像できない。
 そこで美琴は心に何かが引っかかった。
 ―――海?
「……アンタ、あの小っこいののほかにも女の子と海に行ったって訳? へぇ……アンタの『話』については聞かない約束してるけどさ、ちょろっとこればっかりは見過ごせないわね」
 疲れているせいか、些細なことでいらだってしまう。
「……何で? 何で御坂の周りが不穏にバチバチ帯電してんの?? 俺がいったい何をした!?」
「理由なら自分の胸に聞けこの馬鹿彼氏!!」
 いらぬ濡れ衣を着せられたと慌てて逃げる上条。
 アンタはいったい何人の女の子とバカンスすれば気が済むんだと腹を立てながら追う美琴。
 今日も愉快な追いかけっこが五月の青い空の下で始まる。

731ナチュラルに恋して(7):2010/03/23(火) 11:10:06 ID:qZ/VLGWU
 とある日、美琴は五和に勝負を申し込まれた。
 胸の大きさでも器量の良さでもなく、勝負は『お味噌汁』でつけようと言うことになった。これなら能力は関係なく、お互い平等に勝負に望める。
 上条に週二回は食事を作ってあげている自分の方が若干有利なのではないかと思いつつ、美琴はその条件を飲んだ。ところが五和は美琴より上手だった。
 結果から言うと、美琴は五和に負けた。
 突如として元『火災時とか緊急時以外は壊さないでね的に各部屋のベランダを区切っているボード』に空いた穴をくぐり抜けて現れた舞夏は、話を一通り聞くと勝負の立会人に立候補して
『むむ、できる……!! 貴様あの時よりまた一段と腕を上げたな!?』
 上条に至ってはお味噌汁を口に含んだ瞬間破顔して
『美味いよ五和。ところで今回の隠し味って乾燥ホタテ使ってんの?』
 まるで以前にも食べたことがあるような口ぶりだった。
 美琴も一口飲んでみたが、同じものを作ったとは思えないような味で、密かに敗北感を味わっていた。
 ところが、である。
 結論から言うと、美琴は五和に勝った。
『みさかみさかー、こういうのを試合に負けて勝負に勝ったって言うんじゃないのかー?』
 訳の分からない言葉を並べてニヤニヤと笑う舞夏。
 上条は美琴の作ったお味噌汁を当たり前のようにおかわりして、
『御坂、悪りぃけど飯よそって。炊飯器の中にまだ残ってたと思うから』
『……は? アンタご飯食べんの?』
『大盛りにしてくれ』
『あ、うん。分かった…………はい』
『さんきゅー』
 二人の自然なやりとりを目の当たりにして、何故か黙りこくって部屋の隅っこで膝を抱えて打ちひしがれる五和。
 立会人の舞夏による終結宣言が告げられて、『勝者は五和だが勝ったのは美琴』という、美琴自身にもよく分からない形で一応の決着がついた。
『この勝負は誰が主役なのか、それを見落としたのが敗因だったなー』
 舞夏は元気を出せよと、打ちひしがれる五和の肩をぽんと叩く。
 何故自分が勝ったことになっているのか。
 美琴はいくら考えても分からない。
 どう考えてもあの時勝利したのは五和のはずなのに。

732ナチュラルに恋して(8):2010/03/23(火) 11:10:50 ID:qZ/VLGWU
 とにかく、今はあの馬鹿を捕まえるのが先だ。
 美琴は意識を五和との勝負から、自分の少し前方を走って逃げる上条に戻す。
 ケンカ友達だった時代から、美琴は上条に勝てたためしがない。能力は言うに及ばず、追いかけっこでもまともに上条を捕まえたことがないのだ。捕まえることができたとしても、それは大体上条が先に足を止めて休戦を申し込んできた時であり、美琴が自力で追いついた事は一度もない。
 そして上条は足を止めて振り向く。
 いつものように振り向いて
「止まれ、御坂!」
「わっ!? 馬鹿っ、急に立ち止まんじゃないわよっ!」
 走る勢いを落とし損ねた美琴は上条の背後、腰のあたりに思いっきりタックルした。ドゴォ! という壮絶な音と共に美琴と上条は勢い余って遊歩道の上に転がる。
「痛ててててて……」
 美琴に乗っかられて遊歩道の上にべしゃりとつぶされる上条。
「痛いじゃないのよ馬鹿!」
 上条の上に重なるように突っ伏す美琴。
 上条はどうにか体をひねって起き上がると、美琴の制服についた汚れを手で払いながら
「バカかお前は。ただでさえ疲れてるくせに、無駄に体力使ってどうすんだよ?」
「アンタが逃げるのが悪いんじゃない!」
「んなこと言われても背後からビリビリされたら誰だって逃げるって! もういい加減それは止めてくれよ!」
 遊歩道の上に転がって、それでもなお二人は怒鳴りあう。
「だって……」
 美琴は意を決し、上条をキッ! と強く見据えると
「だって! アンタが次から次へと女の子をとっかえひっかえするから悪いんじゃない!」
 美琴の発言を聞いた上条はしばし無言の後、美琴の言葉のどうしようもなさに空を仰いで後方へひっくり返った。
 上条からすれば、こんなのは言いがかりなのだ。
 仰向けにひっくり返ったまま上条が嘆く。
「……御坂。お前は何か大きな誤解をしているから改めて言うけど、俺は女の子をとっかえひっかえなんかしてないって。本当にたまたま、クラスメートとか友達と会って、そこで立ち話をしているところをお前が見かけてビリビリして追っかけてくるだけだぞ。しかもいくら説明しても信じてくれねえし、俺はいったいどうすりゃいいんだよ? お前に大事な友達がいるように、俺にだって友達はいるんだぜ?」
「……分かってるわよ、そんなのは」
 上条は分かっていない。
 上条の周りにいる女の子は、たまたま上条に告白していないだけで、あの五和という少女を始め、誰もが上条に対して『本気』なのだ。モテる事を分かっていない上条の発言は、美琴の耳にはまるで皮肉に聞こえる。
 自分は謙虚じゃないし、一歩引いて上条を立てるようなタイプじゃない。甘えさせる前に怒鳴ってしまうし、学習中の料理の腕前はあの子に負けて、そして体はいまだに成長過程のままだ。

733ナチュラルに恋して(9):2010/03/23(火) 11:11:23 ID:qZ/VLGWU
「……分かってるわよ、そんなの」
 上条の言うとおり、能力なんてただの副産物でしかない。
 超能力を取り除けば。
 御坂美琴という一人の自然な人間は、上条当麻という一人の自然な人間の前では取るに足らないただの女の子だ。
 美琴は上条の自然(ナチュラル)な部分に触れて恋をした。上条は美琴の自然な姿を見て好きでいてくれているだろうか。
「あのな……お前忘れたのか? 俺がお前に告白した時、お前に何て言ったのか」
「……忘れてない。大事な事だもん、忘れてないわよ」
 上条はあの時『俺はお前だけだから』と言った。
 美琴だけが特別で、あとは全員友達だと、上条はそういう意味で告げたのだ。
「覚えてんなら変な心配すんなよ。ったく、突然物分かりが良くなったと思ったらだだこねて暴れやがって。お前は振幅が激しすぎなんだよ」
 物分かりが良いのは上条の前で取り繕っている方で、本音の美琴はみっともないくらいにわがままで融通が利かない女の子。
「……ま、物わかりが良い御坂ってのも何か怖いよな。お前は本来年がら年中傍若無人(わがまま)キャラだし」
 お前も疲れてんだろうからそろそろ帰ろうぜ、と上条が起き上がり美琴の髪を撫でる。
 物分かりの良い彼女を演じてたのが上条にバレたのかと、美琴が内心慌てていると
「そう言う部分も含めて全部御坂だから、仕方ねえか」
 上条が美琴に向かって苦笑する。
 二人の頭上にあった五月の青空は夕焼け色に染まり、太陽は西へと沈んでいく。
 美琴は上条の眠そうに見える瞳をのぞき込んで
「私のそう言うところも好き?」
「……ビリビリしなけりゃな」
「何よそれ」
 美琴はむーと頬を膨らませると、上条の頭をぺしっとはたく。

『わがままなお前も好き』とは言ってくれないのが上条当麻という少年の素で、自然な反応だ。そんな少年を美琴は好きになってしまったのだから仕方ない。
 美琴にできるのは、なるべく飾らない自然な自分を少しでも上条に受け入れてもらえるように努力すること。
 謙虚さも優しさも料理の腕前も少しずつ磨いて、自分の中に取り込んで。
 それで上条が美琴を好きだと言ってくれたなら、きっとそれは自然な姿の美琴を好きでいてくれることと同じ。
 磁石が引かれあうように恋をして、それが当たり前みたいに寄り添って、当然のように手をつないで。
 そんな自然な二人でいたいから。
 片思いをいつか本当の両思いに変えてみせると美琴は心に誓って、ニコリと笑うと
「私は好きよ、アンタのそう言うところもね」
 ただそれだけを、上条に告げた。

734D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/23(火) 11:12:57 ID:qZ/VLGWU
 以上になります。

読んでくださる住民の皆さん、ありがとうございます。

お邪魔しました。

735■■■■:2010/03/23(火) 11:50:00 ID:fx8ro4Og
>>705
GJです!
他の女の子にも追いかけられるなんて、上条さんは相変わらず人気者ですね


>>734
GJです!
美鈴さんの電話w
百合子ちゃんは性格的に看板って無理のような気がします
相変わらず美琴が切ないですね
美琴がどうしてあせっているかは、上条さん一生気がつかないんじゃ?

736■■■■:2010/03/23(火) 12:54:24 ID:ladL3vf6
>>734
GJですた。
予想外の耳ネタで吹いたw

737■■■■:2010/03/23(火) 13:16:35 ID:.GpDkvJA
…皆早すぎです。
最後まで読むのに3時間かかりましたよ。(疲)

投稿してくれる職人さんにはこれ以上ない感謝を。
そしてこれからも宜しくお願いしますね♪

738■■■■:2010/03/23(火) 13:24:02 ID:c0W34TE2
たくみなむちって人の同人誌、妹が持ってるっていうから見せてもらった
ホモ本だったorz中古で買ったらしい
あの人昔はハンターハンターのキルア×ゴンの同人誌作ってたんだな

739■■■■:2010/03/23(火) 14:06:27 ID:BS7cmGgo
豆知識もいいけどまずsageよう

740■■■■:2010/03/23(火) 14:20:09 ID:XWAan0YU
どうも350です
新しいの書いたので投下します

3レス使い、14:30に投下し始めます

7413月14日 1:2010/03/23(火) 14:31:10 ID:XWAan0YU
3月14日(ホワイトデー)

上条当麻は悩んでいた。
何をあげるかは簡単に決まった。お金もなく、たくさんの人にあげなければいけないとの事で彼は手作りクッキーにしようと早々に決まった。
同じ学校の方々に対するお返しは学校で渡せば良い。では違う学校の人にはいつ渡せば良い?
そう、常盤台のとある少女にどうやって渡すかだ。
彼女はバレンタインデーの時、たまたま帰り道で会って、たまたまチョコを持っていて、たまたま不幸そうな顔をしているとかの理由でチョコをくれた。
例え義理でもホワイトデーにはお返しをしなければいけない…………
まぁとりあえず放課後までに考えれば良いか


御坂美琴は悩んでいた。
何をあげるかは簡単に決まった。御坂美琴は女の子なのにたくさんの人にあげなければいけない、しかしそれはテキトーな高級店でおいしそうなのをまとめて買えば良い。
常盤台の人たちには学校や寮で渡せば良い。では送るほうではなくもらうほうは?
そう、あの男からどうやってお返しをもらうかだ
私はバレンタイデーの時、あいつの帰り道をウロウロしてやっと会えて、事前に頑張って作ったチョコを持って、テキトーな理由をこじつけてチョコをあげた。
当然ホワイトデーにはお返しをもらえるはずで、好きな人からだからなんでも良いからすごく欲しいのだ
まぁとりあえず放課後まで考えれば良いか


学校では全く考えてなく気がつけば放課後だ
てか、常盤台のお嬢様に手作りクッキーで平気かな?まぁあいつはお嬢様っぽくないから平気だよな
しかしやはりお返しなんだから礼儀は必要だよな?自販機まで呼び出すのは失礼かな……
う〜む……そうすると……
少し大変だけど常盤台の寮まで行こう。


学校であいつのことばっか考えてたらあっというまに放課後だ
てか、あいつお返し用意してるかしら?いつも無視するからな……お返しまで無視されたらヤダな
まぁもしお返しを用意してなかったらそれを口実に買いものとか夕食にでも付き合ってもらおう!
う〜む……そうすると……
今日はがんばって素直にならなきゃ

7423月14日 2:2010/03/23(火) 14:32:08 ID:XWAan0YU
なんか変な気分だな
これからお返しに行くだけなのに緊張してきた
美琴がお返し喜んでくれなかったらどうしよう……って待て!あいつは御坂だ御坂。美琴って呼んじゃダメだろ
ちくしょう、早く常盤台の寮に着きたいけど着きたくない
モヤモヤするなー考えがまとまらん


なんか変な気分だわ
まだ会えるかすらわからないのに緊張するなんて
ああ、そうか。もしあいつに会えなかったらどうしよう……そうだ!あいつじゃなくてと、と、当麻って呼ぼう
あー、ちゃんと素直になれるかな……
早くあいつ……と、当麻に会いたいけど時間が欲しい


おーし、チャイムを押すぞ!

おーし、探しに行くわよ!


上条当麻がチャイムを押そうとした瞬間ドアが開いた
しかもそのドアを開けたのはこれから会おうとしてた御坂美琴だった
「あ、あ、あ……なんで当麻がここにいるのよ!!」
(あー違う!もっと素直にならなきゃ!!)
「美琴にお返し渡しに着てやったんだよ!!」
(やべー!!ついつい美琴って言っちまった!!)
まさかこんな風に会うとは思ってなかった二人だからそろって軽く混乱してる
二人とも真っ赤な顔でお互いを名前で呼び、妙に息が合った動きをしている
それを見ていた常盤台の寮生はみな小言でヒソヒソと話している
白井黒子の姿も見えたから怒鳴ってくるかと思いきや、あまりのショックにか魂の抜けたような状態だ
そして、寮の最高責任者寮監が
「ほほう、また寮の目の前で逢引か良い度胸だな御坂」
凍りつきながら愛想笑いをする二人、同時にお互いの方を向き、同時にどこかに走り出していた

7433月14日 3:2010/03/23(火) 14:32:53 ID:XWAan0YU

気がつけば二人でいつもの自販機まで走っていた
「今さらだがお返しに来ただけでやましい気持ちが一切なかった上条さんはなんで逃げてしまったんだろ……」
「そんなの知らないわよ、当麻が不幸だからじゃないの〜?」
二人でため息を吐きベンチに座る、先ほどとは違い完璧にいつも通りの雰囲気に戻ったのだ
美琴が「当麻」と呼ばなければ。そう呼んでしまい当麻はまた意識し始めてしまったのだ
そして当初の目的だった
「あの、み、美琴さん。これホワイトデーなんでお返しです」
(ヤバイ!!めっちゃ恥ずかしい!!顔が見れない)
「あ、ありがとう。大切にするね」
(美琴って言われた!どうしよう……顔がにやけちゃうよ)
「「…………」」
お互いに相手が顔が見れず気まずい沈黙
それを先に破ったのは美琴だった
「当麻!私当麻からのお返しすっごい嬉しい。それでね、その、あの……」
美琴は嬉しさや素直な感情を出そうとして告白をしようとしている
普段は鈍感な当麻もこの時ばかりはわかった。普段意識して見てる相手のことだから、相手の特別な変化もわかったのだ
「私ね!当麻のことが好きなの!だから付き合っ」
相手が言い終わらないうちに当麻は美琴を抱きしめた
「美琴俺はお前が好きだ。でも付き合えない」
「な……なんで?」
目に涙をためて当麻を見る美琴
辛そうな顔をしながら美琴を見る当麻
「お前はまだ中学生だろ?俺は美琴を大切にしたい……可能性を奪いたくない。もしも卒業してまだ俺のことが好きでいてく」
今度は美琴が当麻にしゃべらせなかった。キスをしたのだ
「ずっと待ってる。だから卒業式の日に迎えに来て」
美琴はそれだけ言うと常盤台の寮に帰っていった、もらったクッキーを大切に持ちながら




1年後

「う〜ん……待ってるとは言ってたが、もし待っててくれてなかったらどうしよう」
当麻は常盤台の卒業式に来たのだ、正門に寄りかかりながら不安そうな顔をしている
「その幻想をぶち殺す!」
そう言いながら当麻に誰かが抱きついてきた
当麻の胸に頭をスリスリしながらも両手でギュッと抱きしめられている
周りを見渡すと多くの生徒がこっちを見ていた
顔は見えないが自分に抱きついているのが誰だがはわかった
「おい、美琴!見られてるから、一旦離れてくれ!」
スリスリが止まったかと思いきや上目使いでこっちを見て笑顔で
「ヤーダよ!!ずっと寂しかったんだもん!今日は絶対に離れないからね!」

その日、学園都市のいたるところで抱きしめあってるバカップルがいたとかいないとか……

744■■■■:2010/03/23(火) 14:34:04 ID:XWAan0YU
以上です

皆さんに読んでいただけると嬉しいです。ではお邪魔しました

745■■■■:2010/03/23(火) 14:43:49 ID:UUuxqS4U
>>734
美鈴さん堀の埋め方に隙がないなぁ…

「私の耳に関する疑惑はあとできっちり解き明かすとして」
いいんですかねきっちりみっちりねぶるように解き明かしても…望むところか。

>>744
「その幻想をぶち殺す!」
美琴が言うと新鮮すなぁ、原作でも聞いてみたいものだ。

746■■■■:2010/03/23(火) 14:47:56 ID:FkBxg1nM
美琴「その幻想をぶち殺す!」
これは新しいな 上条さんが言うよりかっこいいし。

747■■■■:2010/03/23(火) 15:04:52 ID:9chQ5xjY
>>705
上条さん、相変わらずモテまくってるな。
でもたまたま「最初」が美琴だったってだけでこれからも常盤台やそのほかの学校の
生徒でも上条さんに勝負を挑んでそこからって女性はいくらでも出てくる可能性があ
るわけで。さっさと告らないと美琴ヤバイね、やっぱ。

>>734
あいかわらずD2さんの話は面白いです。
美琴はまだ恋する乙女なのに、上条さんはすでに老夫婦の域で美琴のことが
好きなんだろうな、というのがこのシリーズでの私の上条さん評。
こりゃ美琴もヤキモキするわ。
無理なのはわかってるんだけどやはりもう少し上条さんには若さと美琴の気持ち
を察する努力を期待したい……話変わってしまうから絶対無理だけど

>>744
この文脈だと、もしかして二人は一年間会っていなかったのかな?
生殺し状態でよく二人とも耐えたな……。
幻想がぶち殺されてよかったです。

748■■■■:2010/03/23(火) 15:10:39 ID:XWAan0YU
>>735>>736
彼女だったらきっと彼の口癖(?)くらい言ってくれるかな〜って


>>737
正直言うと、「その幻想をぶち殺す」をあの構図で言わせたくて1年間会わせませんでした

う〜ん……もっと深く考えるべきでしたね

749■■■■:2010/03/23(火) 15:32:23 ID:ladL3vf6
>>748
逆に上条さんが「無視すんなやゴルァ!」を……あれって口癖ってほどの
頻度じゃないかw

750■■■■:2010/03/23(火) 15:35:10 ID:Bg.gA6cU
俺の記憶じゃ、美琴は上条さんの「その幻想をぶち殺す」を聞いたことないような気がするが。
あったらゴメンネ。
(厳密には大覇星祭でつぶやいているのを聞いているのはあるけど、意味分かってないと思う)

ま、突っ込むだけ野暮ですけどw

751■■■■:2010/03/23(火) 15:38:47 ID:I46yradI
ハメ撮りあみタン復活!
HP移転してまた動画垂れ流し中www
ttp://mlprf.com/ami/

752■■■■:2010/03/23(火) 15:39:36 ID:Gn6PQSIE
書き手の皆さんGJです。
ところで聞きたいのですがパソコンのメモ帳で約47KBのが出来たんですけど。
何個かに分けた方がいいと思いますか。ssなるものを書くのは初めてなんで
お願いします。

753■■■■:2010/03/23(火) 15:47:14 ID:DIqmzOgM
15レス程度に収まると思うので普通に投下で良いと思います
専ブラ入れてるなら4096byte制限に注意して
入れてないならワードやその他エディタで1800字以内程度ずつ切ると良いですよ

(って何かgjレスもなんもせんでスイマセン 疲れて追う気力が…)

754■■■■:2010/03/23(火) 15:48:19 ID:Bg.gA6cU
>>752
初めてなら5〜6Kぐらいの序章分からの方がいいかな。
改行とかアドバイス来るかもしれないし、
あんまり長すぎると読んでもらいにくいし。

慣れると10K程度ずつで問題ないかな。
それは他の職人の投稿量を参考にするといいかと。

755■■■■:2010/03/23(火) 15:58:09 ID:Bg.gA6cU
↑あ、ゴメン文字数で見てた。

初めてなら5〜6K→10K前後
慣れると10K程度ずつ→20K

に読みかえて下さいませ。

756■■■■:2010/03/23(火) 16:29:35 ID:Gn6PQSIE
>>753‐755
親切にありがとうございます。約15レスぐらいに収まるなら一気に投下するかもしれません。
少し間を置こうと思います。それとテーマとしては看病物になるので出来ればどるがばさんに
許可を頂きたいです。

それと文の改行としては会話と地の文の間を空けています。
(例は書いているssとは関係ないです。)



「おい、ちょっと待てよ」

上条の言葉に美琴は足を止める。

「何よ?」

757756:2010/03/23(火) 16:57:57 ID:Gn6PQSIE
あ、少し間を置くと言っても今じゃないので気にしなくていいですよ。
それと連レスすいません。

758■■■■:2010/03/23(火) 17:09:18 ID:Z3DWaMaY
つばささん続きまだっすかね。

759■■■■:2010/03/23(火) 17:36:59 ID:BS7cmGgo
最近ぐちゅ玉さんの作品みてないな〜

760■■■■:2010/03/23(火) 17:43:06 ID:DIqmzOgM
いや8日前に・・・

761■■■■:2010/03/23(火) 18:50:46 ID:ZpPyn5HI
寝てた人ぉぉおおっ!
まだ寝てるのかね〜

762■■■■:2010/03/23(火) 18:53:15 ID:nl2VTKS.
>>758-761
の様なことを雑談の方でいうとこっちの消費が減りつつアッチの話題にもなるのではないかと思ってみる。

763■■■■:2010/03/23(火) 20:37:47 ID:FkBxg1nM
雑談禁止にすると堅苦しくね?と思うのは僕だけでしょうか
俺のような奴がいるからいけないのかな?

764■■■■:2010/03/23(火) 20:50:57 ID:XTXnpTM.
一日見ないだけで更新たくさんで嬉しい

765つばさ:2010/03/23(火) 21:43:43 ID:vnK5Fgf2
こんばんは。感想くださった方、読んでくださった方ありがとうございます。

>>670
えっと、ご期待に添える内容かどうかわかりませんが、続き読んでいただけましたら。

>>かぺらさん
こちらこそよろしくお願いします。
美琴に何があったというか、なんというか…。

>>693
お待たせしてすいません、今からです。

>>758
申し訳ありません。なんかプレッシャーが……。


大丈夫でしたら「ウソと魔法と素直な気持ち」の後半を21:50頃から投稿したいと思います。
昨晩中に投稿したかったんですが細かな手直ししてたら時間かかってしまいました。
前半は>>651-657です。

766ウソと魔法と素直な気持ち(8):2010/03/23(火) 21:51:10 ID:vnK5Fgf2
 翌日、上条が通う高校の最終時限。
 上条は昨日の夜から起こったことを思い出しながら授業が終わるのを待っていた。
 まずは昨晩。
 昨晩は美琴と付き合うことになったと報告した際、半狂乱になったインデックスにめちゃくちゃに噛みつかれた。
 ちゃんとご飯の用意は今まで通りするからと約束したにもかかわらず、である。
 なぜあそこまでインデックスが怒るのか上条にはまったくわからなかった。
 結局その後インデックスに一言も口をきいてもらえないまま家を出た上条だったが、今度は学校が大変だった。
 土御門達から「美琴と婚約している」という話が学校中に知れ渡っていたらしく、クラスメートどころかクラス、学年問わず様々な人からの質問攻めにあったのだ。
 なぜか男子より女子からの質問が多かったのだが、やはり自分みたいな無能力者が常盤台のお嬢様と付き合うことを気に入らない人は多いんだな、と上条は質問を適当にかわしながら考えていた。
 そこまで思い出したとき、ようやく授業終了のチャイムが鳴った。

 放課後になると同時に教室から脱出した上条は校門を出ると、美琴との待ち合わせ場所であるいつもの自販機前に向かおうとした。
 しかしその必要はなかった。
 校門を出たあたりで昨日と同じように美琴が飛びついてきたからだ。
「うわ、みさ、美琴! 急に飛びつくのはよせよ。落っことしたらどうするんだ」
 口ではそう言いながらも美琴をしっかりと抱きしめた上条。
「だ、だって、当麻を見たら我慢できなくなって……」
 それに対し、真っ赤にした顔を上条の胸に埋める美琴。
 本人達の意識はともかく、どう見てもバカップルである。
 上条は美琴の行動をたしなめようとした。
 天下の往来、しかも学校の前であまりベタベタするのもどうかと思ったのだ。
「そ、そうか。でもさ美琴、やっぱりちょっと、というかかなり恥ずかしいからあんまりこういうのは」
「これでいいの。だって、こうでもしないと諦めない人たちがいるんだから……」
「え?」
「なんでもない。行こう当麻!」
 上条は気づいていない。
 美琴の視線は上条ではなく、遠くから辛そうに上条を見つめていた彼のクラスメートの女子達を捕らえていたことに。

「それで、今日はこれからどうするんだ?」
 上条は隣を歩く美琴に聞いた。
 ちなみに美琴は上条に腕を絡ませており、その際上条の腕に体を、特に慎ましいながらもきちんと自己主張している胸を押しつけるようにしているため、上条は鋼の理性を発揮して必死に意識を他に向けていた。
「うーん、とにかく時間はいっぱいあるんだし、今日はこの辺を散歩するだけで私は満足よ」
「そうか。それから悪いんだけどさ、腕、離して下さいませんか美琴様」
「なんで?」
 上条の葛藤には気づいているけどもちろん美琴はそしらぬ顔。
 むしろ気づいているからこそますます胸を押しつけるため事態は悪くなる一方である。
「ですからとっても柔らかい物が気持ちよくてむにっとしてなんかよくわからんがまろやかな気もして、それでもって甘い香りまでしてきて美琴さん、あなたなんの香水つけてるんですか。とにかく上条さんはいろんな物が暴走しそうで大変でブレイク限界、なぜか黄金に輝く正義のヒーローに変身できそうなくらいテンパってるんですよ」
「嫌」
「そうですか……」
 わかりきっていた答えではあったので上条は小さくため息をつきながら、自らの鋼の理性が効果を発揮し続けてくれるのをひたすら祈り続けた。
「ところで、白井の奴はどうしたんだ? アイツの性格なら邪魔しに来ても不思議はないんじゃないか?」
 上条はきょろきょろと辺りを見回しながら美琴に尋ねた。
 美琴と付き合うとなると最大の障害になりそうな白井がまったく姿を現さないのが不思議だったのだ。
「黒子? 頭痛で寝てるわよ」
「頭痛? 白井が? 信じられないな」
「本当よ。昨日の夜、アンタと付き合うって教えてあげてその後ずっとアンタのこと話してたら、今朝になって頭が割れるように痛くて起きられませんって」
「それはまた、大変だったな……」
 白井が姿を現さない理由はよくわかった。
 彼女が本当に病気なのか仮病なのかはわからないが、夜通し憧れのお姉様にその彼氏の惚気を聞かされれば白井でなくとも病気にくらいなるだろう。
 上条は草葉の陰で眠る白井にそっと心の中で手を合わせた。

 その後二人は他愛もない話をしながらいろんな場所を散歩して一日を過ごしたのだった。

767ウソと魔法と素直な気持ち(9):2010/03/23(火) 21:52:24 ID:vnK5Fgf2
 翌日の二人のデートはショッピング。
 それはファッションにまったく興味がない上条を美琴が着せ替え人形にして遊ぶだけの一日ではあったのだが、上条はこれまでの人生で味わったことのない満足感を得ていた。

 次の日は上条の家で勉強会。
 自分の彼氏になったのだから劣等生は許さない、という美琴のありがたいお説教と共に上条はみっちりとしごかれることになった。
 ちなみにインデックスはというと、美琴が訪問したときは不機嫌さ全開だったのだが、美琴がお土産代わりとして振る舞った手作りの料理を食べ終わる頃にはすっかりご機嫌になっていた。
「ハグ、モググ、短髪がとうまの恋人になるのは納得いかないけど、ムグ、ゴク、こういうお土産があるんなら、とうまと、ング、仲良くするのは許してあげてもいいかも。というより当麻のご飯よりずっとおいしいし、毎日でも来て欲しいかも」
 以上のようなインデックスの弁を受け、完全に餌付けされてるじゃねえか、と上条は思ったがあえて黙ることにした。
 ちなみにその日の晩からインデックスが美琴の次の訪問をすっかり楽しみにするようになったのは言うまでもない。

 その次の日は映画鑑賞。
 少女趣味の美琴なのでベタベタのラブロマンスを見るのか、と思った上条の予測を裏切って美琴の選んだ映画は「ゲコ太の宇宙創世記 大魔境へいらっしゃい」。
 どう考えても対象年齢が小学生の映画である。
 子供達に混じって入場者特典であるゲコ太のおもちゃをもらってほくほく顔の美琴を見ながら、上条は幸せってこういうのを言うのかな、と柄にもないことを考えていた。

 さらに翌日は週末ということで二人は水族館へ。
 ここまで来ると付き合い始めはぎこちなかった上条もすっかり美琴との関係に慣れ始めていた。
 だが逆に美琴の様子が時々おかしくなるのに気づいた。
 普段はいつも通り上条にくっついて色々な動物たちに目を輝かせているのだが、今日はふとした拍子に上条からぱっと離れるときがあるのだ。
 しかもそのとき美琴の顔は真っ赤である。
 ただ、少しすると美琴は再び上条にくっつくので上条もそこまで疑問にも思わなかった。
 上条はこのとき、気づいていなかった。
 終わりはもう、すぐそこだということに。

768ウソと魔法と素直な気持ち(10):2010/03/23(火) 21:53:08 ID:vnK5Fgf2
 その翌日。
 美琴のたっての希望で自然公園のボートに乗りに来たのだが、美琴は明らかに挙動不審だった。
 上条と目を合わせようとしたり、目をそらしたりと非常に忙しい。
 しかも今までと決定的に違うのは上条と腕を組もうとしないことだ。
 どんなに上条が恥ずかしがってもいっしょに歩いているときは必ず腕を組んでいた美琴が今日はまったくそうしない。
 散々思案したあげく手を繋ぐくらいでそれもおそるおそる。
 何かの拍子にすぐ手を離すのだ。
 さらに上条が話しかけてもずっと上の空。
 そんな美琴を心配した上条が美琴の額に自分の額を当てて熱を測ろうとしたところ、顔を真っ赤にした美琴は奇妙な叫び声を上げて逃げ出してしまった。
 あっけにとられた上条は美琴を追いかけることもできず、呆然とその背中を見送った。

 上条から逃げ出した美琴は化粧室で顔を洗っていた。
 顔を洗い終えた美琴は大きくため息をつくと鏡に映る自分を見た。
 顔を洗ったことにより先ほどからの顔の火照りは消えたものの、その表情に明るさはない。
「あんなの反則よ、恥ずかしすぎるわ。んにしてもアイツ、躊躇なくやってきたけど、私以外の女にもあんなことやってないでしょうね」
 美琴はもう一度大きなため息をついた。
「それにしても、美琴か。さすがにあれだけ素で連呼されると破壊力デカいわね。みこと、か……」
 美琴は小さく微笑んだ。
 だがその笑みはすぐに消え、辛そうな表情に戻った。
「もう、限界ね。でも後もうちょっと、もうちょっとだけ、お願い」
 美琴は鏡に映る自分に懇願した。
「夜中の12時まででしょ、シンデレラの魔法は。今日はまだ終わってないの、お願いだから。ファイト、私!」
 美琴はぱしーんと顔をはたくと小さくうなずいて化粧室を後にした。

 美琴はその後もかなりぎくしゃくしながらもなんとかデートを続けることには成功し、二人は帰宅の途についた。
「と、当麻、今日はもうここまででいいわ。後は一人で帰れるから」
 寮への帰宅途中で発せられた意外な美琴の言葉に上条は聞き返していた。
「え? いつもなら寮が見えるまで送っていくのに、いいのか? まだ全然途中だぞ」
「うん、大丈夫。それよりも明日は学校あるんだから早く寝なさいよね。勉強もしっかりやるのよ」
「ああ、わかってる。それに情けない話だけどこれからはお前が勉強見てくれるしな。上条さんも劣等生から脱出できそうだ」
 にかっと笑う上条に、美琴は寂しそうな笑みを返した。
「そう。本当に、頑張るのよ。ちゃんと、ね」
「大丈夫だって。それよりお前さ、今日はどうしたんだ? てか、昨日から様子おかしいぞ。本当に具合でも悪いのか?」
 美琴の顔を心配そうに上条はじっと見つめた。
「そんなことないわよ。大丈夫!」
 そんな上条に美琴は笑顔で答えるとくるっと後ろを向いて走り出した。
「バイバイ!」
「ああ。み、美琴!」
 美琴の後ろ姿に言いしれぬ不安を感じた上条は思わず声を出していた。
「何?」
 美琴は上条の方を見ずに答えた。
「え、えっと、悪い、なんでもない。また明日な!」
「…………」
 美琴は何も答えず走り出した。
 拭いきれない不安を抱えたまま、上条は美琴の背を見つめ続けた。

――時間切れ。一週間、よく保った方よね。シンデレラの夢の時間は、終わり。

 翌日から美琴は上条との一切の連絡を絶った。

769ウソと魔法と素直な気持ち(11):2010/03/23(火) 21:54:14 ID:vnK5Fgf2
 上条と連絡を絶って一週間後の夕方、美琴は寮の部屋でぼうっと携帯の画面を見ていた。
 そこに映っていたのは先週上条といっしょに撮った写真だった。
「楽しかったな……」
 大きくため息をつきながら、美琴は次から次へと携帯の写真を切り替えていく。
 そのどれもがきらきらと輝く楽しい思い出の欠片だ。
「戻れない、よね、あのときには」
 この間、上条と別れた際に覚悟はしていたはずだった。
 もうダメなのだ、同じようには過ごせない、と。
 だからこそ自分の中で整理を付けるために上条に会わないようにしているのだ。
 しかし一向に自分の中で整理が付きそうにない。
 上条に会いたくて仕方がない。
「会いたいよ、当麻ぁ……」
 知らず知らずのうちに涙はどんどんあふれてくる。

「まったく、そんなに恋しいのでしたら素直にお会いになればよろしいではありませんの」
「黒子!? いつ帰ったの? ていうか、どうしてテレポートで帰ってくるのよ」
 美琴が後ろを向くと、そこには風紀委員の活動中でまだ帰るはずのない白井黒子が音もなく立っていた。
 美琴は白井の姿を確認すると目をごしごしとこすった。
 そんな美琴を見ながら白井はやれやれと言わんばかりに首を振った。
「わたくしも風紀委員の活動の途中でして、ちょっと野暮用で寄っただけですわ。それよりもお姉様、どうしてそこまでして上条さんにお会いになりませんの? お二人はお付き合いなさってるんですわよね、非常に不本意ですが」
「そ、それは……」
「それともなんですの? あんな類人猿に愛想を尽かせて、ようやくこの黒子の海よりも深い、大宇宙よりも広い愛に応える気になりまして?」
「な、何を馬鹿なこと」
「違いますわよね。黒子の知ってるお姉様はそう簡単に心変わりするような軽薄さで人を好きになったりしませんし、そんなお姉様が想いを寄せる方がお姉様に愛想を尽かされるようなことをそうそうするわけがありません。まったくもって不愉快極まりますが」
「黒子……」
「で、いったいどういう訳ですの? 先週は毎日門限ギリギリまで上条さんとデートをするくらいお盛んだったお姉様が、今週に入ったら打って変わって学校が終わると寮へまっすぐお帰りになってひたすら部屋にこもる毎日。倦怠期、というわけではありませんわよね」
「べ、別に、会う必要がないから会わないだけよ」
 ばつが悪そうに白井から顔をそらす美琴だが、白井はそんな美琴をジト目でにらみつけた。
「泣くほど会いたいのに?」
「な、ぅ、く……」
 美琴はもう一度目をこすった。
「とにかく、どういうことになるにせよ、きっちりとケリはつけていただきませんと。お姉様のそんな悲しそうな顔を見るのは黒子には耐えられませんし、なによりああいう汗臭い熱血馬鹿が何かあるたびに神聖な風紀委員の支部に押しかけてくることは我慢なりません。さ、お姉様」
「え? 馬鹿ってまさか」
 白井は何も答えず美琴の腕を掴むとテレポートを使った。

 美琴達がテレポートした先は寮から少し離れており、かつ人目に付きにくい場所だった。
 辺りには誰もいない。
「ちょっと、いきなり何すんのよ」
「さ、後はお二人で存分に語り合って別れ話を成立させて下さいな。お姉様のアフターフォローは黒子が全身全霊をもってお相手いたしますので」
「ア、アンタは何を?」
「それでは、お姉様をよろしくお願いいたしますわ。では」
 そう言うと白井はぱっと姿を消した。
「いったい黒子の奴、何言ってんの、よ……どういうこと? まさか、黒子はアンタに頼まれて?」
 美琴は白井が姿を消した後に立っていた上条をにらみつけた。

770ウソと魔法と素直な気持ち(12):2010/03/23(火) 21:56:11 ID:vnK5Fgf2
「よ、元気そうだな」
 やたら嬉しそうに上条は片手を上げた。
「なんでアンタがここにいるのよ」
 一方美琴は不機嫌そうに言葉を返した。
「なんでって、そりゃ白井に頼んでお前をここに連れてきてもらったからな。大変だったぜ、まず風紀委員の支部を探すとこから始めなきゃいけなかったし」
「支部って、アンタまさか一七七支部に? てことは初春さんとか佐天さんになんか妙なことを、いや、巨乳マニアのアンタのことだから固法先輩に手出したんじゃ! あの人にはちゃんと黒妻っていう人がいるのよ!」
「……なんだよ巨乳マニアって。だいたい、俺にはお前がいるのにそんなことするわけないだろ」
「そ、そう……じゃなくて、なんでアンタがそんなことまでしてここにいるのかって聞いてるのよ!」
「お前に会いたかったからに決まってるだろ。携帯には出ない、メールの返事は返さない、俺は常盤台には近づけない、特別な事情もないのに女子寮なんてもっての他。ならこうでもしないとお前に会えないだろ。んにしても白井の奴、去り際になんつーことを。当たったら大怪我だぞ」
 上条は指で挟んだ金属の矢を弄んだ。
 おそらく白井がテレポートで消える直前、上条に投げつけたのだろう。
 一方、素直に自分に会いたいと言われた美琴は心臓を高鳴らせたが、それをごまかすように大声を出した。
「わ、私はアンタに会いたくなんてないわよ。だから返事もしなかったし、連絡もしなかったでしょう!」
「そんなもん関係ねーよ。俺が、お前に会いたかったんだ」
 美琴はしばらく上条をにらみつけていたが、やがて諦めたかのように大きくため息をついた。
「そうね、アンタはそういう奴よね。いっつも自分の気持ちや正義を人にぶつけて、こっちの気持ちなんかお構いなし。相手がどんな気持ちになるかなんて、考えもしない。ほんとに、私がどんな気持ちなのかなんて……。でも、あれから一週間か。そろそろいいかもね」
「そろそろ?」
「うん。あのさ、ちょっと話、いいかな」
「そりゃ別にいいけど、俺に話なんてないんじゃなかったのか?」
「うるさいわね、会いたくないって言っただけよ。それに事情が変わったの」
「ふーん」
「じゃあ、言うわよ」
 美琴は大きく息を吸い込んで気合いを入れた。
 その気迫に押された上条はごくりとつばを飲み込む。
 次の瞬間、美琴はばっと頭を下げた。
「ごめんなさい! 二週間前のことは全部なしにして!」
「へ?」
 上条はまぬけな返事を返すことしかできなかった。
「えっと、どういうことだ?」
「だから、そのまんま。二週間前、アンタに告白したのとか、色々、全部、なしにして欲しいの! あれは、ま、まま間違い、だから……」
「間違い……告白、そのものがか」
「……うん」
「てことはお前、正気に」
「戻ってる。だから、正気じゃなかったあのときのことは、全部」
「いいぜ」
「…………!」
 美琴は目を見開いてはっと息を呑んだ。
 自分から言いだしたこととはいえ、あまりにも上条があっさりと自分との別れ話を納得したことに衝撃を受けたのだ。
 自分はやはり上条に本当の意味で好かれてはいなかったんだな、と。
「でも、その前になんであんなことになったかくらいは聞かせてくれよ。原因、わかってるんだろ?」
「う、うん」
 あまり言いたくないな、と思いながらも美琴はうなずいた。

771ウソと魔法と素直な気持ち(13):2010/03/23(火) 21:56:55 ID:vnK5Fgf2
「あ、あのね。あのとき私、催眠というか、自己暗示状態になってたの」
「自己暗示?」
「うん。きっかけは些細なこと。雑誌の特集であった催眠ていうのを試しにやってみたら見事に自分にかかっちゃって。ほら、私ってレベル5でしょ。人より遥かに『自分だけの現実』、思いこみが強くてかなり心の奥の部分にまでかかったみたいなの、しかも別の現実まで心の中に構築しちゃって。だからあのときの私は暗示で性格が変わった上に事実とは異なる思いこみの記憶まで心に同居させてる状態だったってことね。ちなみにあのときの記憶は全部あるわよ。まあこうして解説してるくらいだからわかるでしょうけど」
「それが婚約とか、付き合ってるっていうあれなのか。そうか、科学でも魔術でもないから幻想殺しが効かなかったわけか」
 美琴はこくりとうなずいた。
「でも、元々素人がかけた暗示なんだから簡単に解けるはずだったのよ。実際あのときどんどん偽の現実と性格は壊れていってた。なのにアンタは、私の中の偽物を助けちゃった、お節介にも。ほんとに、私や妹達だけならともかく私の中の偽の感情までアンタは……」
 美琴はやや自嘲気味な笑みを浮かべた。
「だってお前、あんなに辛そうだったから」
「それはそうよ、偽物とはいえ心の中に構築した『自分だけの現実』よ。心にある現実がどんどん壊れていくのは本当に怖かったわ、あのときの私の心の中心は偽物の方にあったんだから。で、アンタに助けてもらった偽の現実と性格なんだけど、しょせんは偽物、時間制限があった」
「それがこないだの自然公園でのデートの日。様子がおかしかったのは暗示が解けかけで性格そのものが不安定だったから、か?」
「そう。まあこっちは壊れるんじゃなくて解けるんだから恐怖はなかったんだけど。かくして12時の鐘の音と共に見事にシンデレラの魔法は解けちゃった。アンタと私の嘘で固めた中途半端な関係も終わったってわけ。欲を言えばもっと続いてほしかったけど、ね」
「シンデレラ……」
「で、完全に正気に戻ったのはいいんだけど、そうなったら後始末を色々とね。でも、気持ちの区切りがちゃんと付かなくて。だから、しばらく時間をおいたらアンタともちゃんと元に戻れるかなって」
「で、一週間してどうだったんだ?」
「…………」
 美琴は何も答えなかった。
「後どんだけ時間があればいいんだ?」
「……わかんないわよそんなこと。でも、迷惑かけたアンタには謝りたかった。好きでもない私のために本当に、ごめん」
 美琴は申し訳なさそうに頭を下げた。
「お前、何勘違いしてるんだ? 俺がいつ迷惑だなんて言った? 俺は自分で選んだんだぞ、お前にとことんまで付き合うって。それに好きでもないとか俺が一度でも言ったか? 恋人としての『好き』に追いついてないだけだって言ったはずだ」
「それは、そうかもしれないけど……。でもやっぱりおかしいわよ。私はお人好しのアンタの心を弄んだのよ、なんでそんなに優しいのよ! 同情にしてもお人好し過ぎよ!」
「俺はそんな聖人君子じゃねえ! だいたい被害者の俺が被害を受けてないって言うんだ、なんの問題がある。……それに、お前がどう考えてようと、いまさらもう後戻りなんてできないんだよ、俺は」
「それ、どういうことよ?」
 訝しげに上条を見る美琴。
「だから……とにかく、二週間前のことはなしでいい。ていうか、遅かれ早かれ俺の方から頼もうと思ってたことだし」
「そう。つ、つまり、アンタも、私と別れたかったってことなんだ……」
 美琴は辛そうに唇を噛んだ。
 だが上条は首を横に振った。
「そうじゃなくて、俺がなしにしたいのは告白のとこだけだ。後のことは最初からやり直すつもりだったんだ」
「アンタ、さっきから何が言いたいの?」
「だからその、あのさ、みこ、御坂」
 上条は美琴の肩を掴むと、急に真剣な眼差しで彼女の瞳を見つめた。
 美琴はその眼差しが自分の心臓を高鳴らせるのを感じた。
「は、はい」
「えっと」
「はい」
「だから」
「うん」
「み、みみ、すすす」
「はい? ミス?」
「み、みみみみ、御坂! 好きです! 俺と、本当に付き合って下さい!」
「に?」
「好きです」
「にや」
「付き合って下さい」
「に、にゃにゅ、ふにゅにゃにゃぁぁ!?」
 そのとき、美琴の呼吸は一瞬止まった。

772ウソと魔法と素直な気持ち(14):2010/03/23(火) 21:58:47 ID:vnK5Fgf2
 我に返った美琴は慌てて呼吸を繰り返した。
 とりあえず上条は近くにあったベンチに美琴を座らせ、その背中をさすり続けた。
「っくは、はあ、はあ……」
「……おい、大丈夫か、御坂」
「だ、大丈夫、たぶん……」
「えと、その、急、過ぎたか? あの、俺、こういうこと初めてでよくわからないんだが、なんかまずかったか?」
「いや、そういうことじゃないんだけどね……いったい何がどうなってるのか」
「御坂が好きだって告白した」
「全部すっ飛ばして結論だけあっさり言うな! ……ゲホッゲホッ」
 咳き込んだ美琴の背中を再び上条は無言でさすった。
「だいたいなんでそうなるのよ、私はアンタのことを――」
「そんなの関係ない」
「でも」
「俺さ、一週間お前といっしょにいて、今まで知らなかったお前のいろんなところをたくさん知ったと思うんだ。そして、知れば知るほどお前のことで俺の心はいっぱいになっていった。お前、さっきシンデレラの魔法とか言ってたろ、続いてほしいとかも言ってたよな。あれさ、俺も同じだったんだ。お前には悪いと思ったけど、お前が俺の側にいてくれるんならこのままの状態が続けば、いいなって」
「…………」
 美琴は上条に返す言葉を持たなかった。
「でも、それじゃダメだってこともわかってた。そんなとき、お前と会えなくなった。そうしたらお前のことを考えてやる余裕とかすっかりなくなって、ただお前に会いたくて、たまらなくなって。結局お前に会うために白井を探して風紀委員の支部にまで乗り込んじまった。白井の奴、文句言ってたろ」
「うん、汗臭い熱血馬鹿が来て迷惑だって」
「だろうな。でも、白井は俺の頼みを聞いてくれて、お前に会わせてくれた。実を言うとさっきな、お前の姿を見た瞬間、抱きしめたくてしょうがなかったんだ。でもお前の様子が変わってるのはなんとなくわかってたし、もしそれで嫌われたりしたら、とか考えたら何もできなくて普通の挨拶になっちまった」
 恥ずかしそうに頬をかく上条を見ながら美琴は心臓の鼓動がどんどん早くなるのを感じていた。
 本当に告白など慣れていないのだろう。
 回りくどく、不器用な言い回しだが精一杯真剣な想いを自分にぶつけてくれようとしているのがわかった。
「二週間前の関係はやっぱりいびつだ、あんなのフェアじゃない。お前の弱みにつけ込む、そんなの俺は嫌だ。俺はお前に正々堂々、正面からちゃんと向かい合って自分の気持ちを伝えたい。だから、二週間前のあんな関係は全部なしにして、できることなら最初っから始めさせてほしいって頼みたかったんだ」
 そこまで言うと上条は目を閉じて深く深呼吸をした。
 目を開けた上条は先ほど以上の真剣な眼差しで美琴を見つめた。
「もう一度言う。御坂美琴さん、心からあなたが好きです。恋人として俺と、付き合って下さい」
「…………」
 美琴は何も答えなかった。

773ウソと魔法と素直な気持ち(15):2010/03/23(火) 21:59:17 ID:vnK5Fgf2
 やがて沈黙に耐えきれなくなった上条がおずおずと口を開いた。
「あ、あの、へ、返事は、やっぱり……」
 美琴は瞳を潤ませながら上条をにらんだ。
「アンタさ、ほんと、馬鹿じゃないの?」
「……いくらか、いや、かなり自覚はある」
「おまけに人がどう思ってるかなんかちっとも考えないし。私の気持ち、考えたことある?」
「や、やっぱり迷惑……」
「私がどうして暗示なんかに頼ろうとしたかとか、どんな暗示に頼ろうとしたかとか、アンタちょっとでも考えた?」
「えっと……?」
「私は、素直になりたかった。妹や、あのシスターみたいに素直にアンタに接したかった。アンタへの気持ちを素直に表したかった。学園都市の誇るレベル5、この科学の固まりみたいな私がアンタに素直になりたいってだけで怪しい暗示なんかに頼ろうとした。この気持ち、アンタちょっとでも考えたことある?」
「…………」
 静かな、それでも威圧感のある美琴の口調に上条は言葉を失った。
「アンタが私のこと好き? 私に会いたくてたまらなくなった? ふざけないでよ! 私が、いつから、どんだけアンタのこと好きなのか、考えたことあるの! アンタが私のこと好きだって言うんなら、私はその何倍も何倍もアンタのこと大好きなんだから!! だから、だから……」
 美琴は上条をビシッと指さした。
「アンタは私と付き合いなさい!! 世界中の誰よりも私を大切にしなさい!! 一生私といっしょにいなさい!!」
 ここまで一気に言うと美琴は肩で荒い息をついた。
 上条は何も言わずぼうっと美琴の顔を見つめていた。
 その様子に美琴は表情を暗くし、うつむいた。
「だ、ダメ……かな……」
「……する」
「え?」
「するするする約束する! 美琴を大切にする、一生いっしょにいる。お前を一生懸けて護り続ける!!」
 顔を真っ赤にした上条は美琴の手をぎゅっと握ると飛びかからん勢いで彼女に近づいた。
 同じように顔を真っ赤にした美琴の目からつーと一筋の涙が流れた。
「ほんと?」
「ああ」
「ほんとにほんと?」
「ああ」
「ほんとにほんとにほんと?」
「ああ」
「私、ビリビリするよ」
「上条さんには幻想殺しがある」
「わがまま言うよ」
「いくらでも聞いてやる」
「嫉妬深いよ」
「上条さんは美琴以外に興味ないから問題ない」
「胸だって小さいよ」
「気にしたことありません」
「それから、それから……」
「俺は良いところも悪いところも全部ひっくるめて美琴の全部が大好きなんだ! それくらいの男の甲斐性見せてやる! だから俺を信じろ!!」
「うん!」
 感極まった美琴が上条に飛びつき、それを上条はしっかりと抱き留めた。



 乙女にかけられるシンデレラの魔法。
 確かにそれは12時で消えてしまう儚いものなのかもしれない。
 けれど乙女がその心に一途な想いを抱き続けるならば、魔法はきっと乙女の想いを叶えてくれるだろう。


おしまい

774ウソと魔法と素直な気持ち(16):2010/03/23(火) 22:00:27 ID:vnK5Fgf2



 ちなみに。

「あれ、当麻、携帯鳴ってるよ」
「ん? いったい誰だろ、こんなときにって、母さん?」
 上条の携帯に表示された発信者は上条詩菜だった。
「もしもし」
『もしもし当麻さん? そこに美琴さんいますよね、代わってくれますか?』
「ああ。母さんが美琴にだって。でもなんでいっしょだって知ってるんだ?」
 美琴は上条から携帯を受け取ると丁寧に頭を下げた。
「あ、詩菜さん、お久しぶりです。えっといろいろありましたけど、なんとか無事に。はい、ありがとうございます。え? そんな、今から甘えちゃっていいんですか? いやです詩菜さんてば、そんなかわいいだなんて。でも本当にいいんですか? でしたら、はい、是非お願いします! はい、ではまた後ほど、こちらから連絡します。はい、番号は当麻から聞いておきますので」
 美琴は当麻に携帯を返してきた。
「詩菜さん、今度は当麻にだって」
 上条は訝しげにそれを受け取った。
「何、母さん?」
『当麻さん、まったくあなたという人は。まさか中学生に手を出してしまうなんて。刀夜さんの血とはいえ、そこまで手が早い男に育てた覚えはありませんよ』
「えっと、そう言われましても。俺としても清い交際を心がけ……って言うか、母さん、どうしてその話をもう!」
『とはいえ相手が美琴さんなら話は別です、あの娘は当麻さんにはもったいないくらい良い娘ですからね。それにあなた方の年齢差なんて、実際は成人すればなんの問題もありませんし。はい、ですから婚約の件もこちらに異存はありませんよ、あんなかわいらしい娘ができるなんて本当に嬉しいです。御坂さんも喜んでいるんです、よくやりましたね、当麻さん』
「え」
『結納などの段取りなどはこちらで決めておきますので任せておいて下さい。大丈夫です、御坂さんのお宅とはご近所さんなんです。当麻さんは何も心配することはありませんよ』
「で、ですから」
『学園都市の外に出るのは大変だと聞いてます。申請のことなどもあるでしょうし二ヶ月前には連絡するようにしますから。それでは後の連絡は美琴さんとやりますので当麻さんは肝心なときに、逃げ出さないようにだけ、お願いしますね』
「あ」
 電話は無情にも切れてしまった。
「み、美琴、これってどういう……」
「あ、あはは。それが、暗示かかって当麻と付き合うようになった夜に、私嬉しくって母さんに電話しちゃったの」
「な……!」
「そしたら母さんと詩菜さんてご近所さんだったらしくてすっかり話が伝わっちゃってて。しかも私そのとき、結婚を前提にお付き合いって言っちゃってたのよね」
 ごめんと言いながら明るく笑う美琴。
――ひょっとしてさっきの告白とか関係なく、俺の人生ってもう決まってた……?
 なまじかわいい分、上条には美琴の笑みが小悪魔のそれにしかどうしても見えなかった。

 こんな出来事が二人の告白のすぐ後に起こっていたりする。



本当におしまい

775つばさ:2010/03/23(火) 22:04:50 ID:vnK5Fgf2
以上になります。
読んでくださった方、ありがとうございます。

長い内容で複数日に引っ張ったわりには大したことない落ちで申し訳ありません。
これでも矛盾やら何やらないよう考えたんですよ、一応……ただの言い訳ですが。

んにしても、コメディを目指したはずなのになんでこんな内容になったんだろう?
純粋にコメディを書ける人が羨ましいです。

776■■■■:2010/03/23(火) 22:17:17 ID:bqLz.Bro
>>「私、ビリビリするよ」

死んだ

超GJ

777■■■■:2010/03/23(火) 22:17:40 ID:ladL3vf6
>>775
乙でした。
自己暗示か。まぁ、なにかもっと酷い事でなくてよかったです。

778■■■■:2010/03/23(火) 22:20:08 ID:FkBxg1nM
どんな風なコメディを目指したのかは知らないが、
こっちの方がいい気がかなりするぜ Gj

779■■■■:2010/03/23(火) 22:31:09 ID:XZWRDiUs
>>775
GJです!!胸がキュンとしますなw

780■■■■:2010/03/23(火) 22:51:32 ID:dPjK1AmA
>>775
GJです!
素直でも美琴は策士ですね。既成事実とは。上条さん完全に尻に敷かr(ry

>>「ゲコ太の宇宙創世記 大魔境へいらっしゃい」
隣に住んでいるおじさん、すげぇw

781■■■■:2010/03/23(火) 22:56:11 ID:3DePKCqY
ちょっとシリアスを含んでいたから、オチが凄い面白かったww

782キラ:2010/03/23(火) 23:19:12 ID:JgDePCTQ
どうもです。
入学式編の本編を書いていたはずなのに、一体どこで脱線してしまったのでしょうか(汗)
前回は前編だったので今回は後編。

タイトル『とある恋人の登校風景』
シリーズタイトル『fortissimo』

25分に10レス消費です
(途中で切れる可能性があるので、五分経っても投下されなければ途中で切れたと判断してください)

783キラ:2010/03/23(火) 23:25:14 ID:JgDePCTQ
 上条にはある不幸な過去がある。
 といってもそれは記憶を失った時の話や学園都市内での話ではなく、学園都市に来る前の話だ。
 学園都市に来る前の幼少時代、上条の不幸は学園都市の生徒たちのようにギャグのように受け入れられるほど周りは優しくなかったという。上条の不幸は周りからすれば迷惑きわまりない体質、言うなれば嫌うものの対象であった。
 不幸と言うのはまだ子供から見れば何が起こるかわからないもの。さらにそれが怪我に繋がったりすれば不幸は怖いものであると小さな子供は判断してしまう。たとえ大人が違うと言っても、目の前で起きた不幸を否定することには繋がらない。それが長い時間続くとなれば、子供たちは不幸を恐れ嫌っていく。
 そしてその対象であった上条自身が嫌われる。近くにいたら自分も被害にあう、何かに巻き込まれる、自分にも不幸が移る。子供たちはそういって同じ子供である上条を忌み嫌い恐れた。
 それは他の親たちや先生も同様である。目の前の起こる不幸は笑いでは済まされないことも多く、自分たちにもいつ不幸で被害にあうかわからない。それを嫌ってはいけないと思いながらも不幸を恐れてしまう大人たちは、いつしか上条を嫌っていった。
 その結果、彼につけられた名が『疫病神』。一緒にいるだけで自分たちも不幸になってしまうことを恐れた子供や大人たちがつけた名前である。
 その名をつけられた時、過去の上条は何を思ったのかは記憶を失ってしまった今ではわからない。だがとても悲しくかったのではないかと思える。怒りや憎しみではなく、嫌われる悲しさだけが当時の上条を支配していたのだろう。
 だがそれだけではない。その時期に一度、見ず知らずの男の包丁に刺されたこともあったらしい。幸い、包丁に刺された不幸どまりであったがそれが影響してさらに上条の名が広がり、地元では有名人になっていたらしい。
 そしてそれらのことを受け、上条は一人学園都市にやってきた。不幸な疫病神であった上条を守るために。
 閑話休題。
 美琴は上条の小さな頃の過去はよく知らなかった。
 恋人になったとき、時折だが父親から話されたということを知ってはいたが細かな話は上条の口からは出ていない。しかし上条の記憶がない以上は仕方のないことだと美琴はわかっていたので、特に文句はないし無理に聞く気もなかった。
 だが上条が『外』へ行っている間、友人である初春から見せられた雑誌の記事で上条の過去が取り上げられていたことを知ってしまった。、まだ美琴が知らない過去であったため、でたらめな記事かどうかわからないが少なくとも上条の不幸体質をよく知る美琴には真実のように思えた。
 そして美琴はその過去の話を訊ねてみようと思って、通学路の途中にあるいつもの自販機の前で止まって上条の手をゆっくりと離した。
「……御坂?」
「入学式が始まる前に、聞きたかったことがあるの」
 美琴は上条の目を見ながら、はっきりと告げると上条も目を見て頷いてくれた

784キラ:2010/03/23(火) 23:25:52 ID:JgDePCTQ
 この話を今するのにはある理由があった。
 初春からの話では入学式にはメディア・記者の目も入るらしい。しかもその場でインタビューや会見などを学校側の独断で設けられる可能性もあるということなので、もしかしたら上条の過去を知る人間がいる可能性がある。いや雑誌の記事にされてしまったのだ。ほとんどの記者が知ってしまっているはずだ。だから、その時に何も知らない上条が質問された時のために、美琴は辛いが先に訊いておきたかったのだ。
 こんなことを入学式の直前に聞くことになるのは正直、複雑な思いで気が引けた。だけど何かあってからでは遅いと、気持ちを改めた。
「実はアンタがいない間、ある雑誌の記事にアンタの過去が載せられてたの。私は初春さんから見せてもらったんだけど……もしかしたらアンタは知らないのかもしれない、でももし知っているなら教えて欲しい」
「…………」
「学園都市に来る前に、アンタは不幸体質のせいで周りに蔑まれていたって。アンタがいた地元ではそれなりに有名人で疫病神って言われてたって書いてあったの。ねえ、これって本当のことなの?」
「ああ、本当のこと…なんだろうな」
 上条は神妙な面持ちで頷いた。その顔からは一体どんなことを思っているのか、美琴ですらよくわからなかった。だけど目はかすかに揺らいでいたのを見た。
「父さんに聞いたことがあるんだ。帰省した時に少し興味があったから詳しく教えてもらったけど、そんなことが過去にあったらしい」
「………………」
 さきほどから断言できず曖昧なのは記憶破壊があるからなのだろう。上条の記憶のことを理解している美琴だからこそ、曖昧なことを言っている上条の言葉を理解できた。そして神妙だった表情が少しずつ悲しそうな表情に代わっていくのを見て美琴は罪悪感を感じ始めた。
「でもそれは過去の話だし、俺の不幸で苦しんでいる人を救うことができるならば俺はいいってわかったから。だから今は不幸になったことを後悔してない。って過去を知る前から不幸になったことは後悔してないか」
 不便だけどなと上条は小さく笑う。その話を聞いていた美琴は、上条の強さが羨ましく思えた。
 でも考えてみれば上条が強いのはずっと前から、助けてもらった時から知っていた。どんな絶望にも屈しず最後まで諦めずにあがき続け、自分を助けてくれた上条当麻。思えば美琴が上条にほれたのは、そんな強さを目の前で見せ付けられたからなのかもしれない。
「それでこっちも聞くけど、上条さんの過去を知って御坂は上条さんを嫌いになりましたか?」
 聞いてくることは真剣な内容。なのに上条は笑って聞いてきた。
(わかってて訊いてきてるのね。この馬鹿)
 答えを知っているその笑顔が少し悔しい。でもと思いながら美琴は上条の胸に飛び込んだ。
「誰かに見つかっても知らねえぞ?」
「それはお互い様でしょう、馬鹿。アンタだって私がこうしてくることを知ってたから、すぐに抱きしめてきたんでしょ?」
「やっぱりわかっておりましたか…」
「当然でしょ。私の大好きな"当麻"だったらそうするって信じてたから」

785キラ:2010/03/23(火) 23:26:32 ID:JgDePCTQ
 美琴は上条の腕の中で笑うと、上条の頬にキスをした。
 家の外なので少しばかり恥ずかしかったが、やってしまえばどうということがなかった。なので今度は逆の方にもキスをして両方の頬に均等なキスをしてあげた。
「それ、家の外じゃ恥ずかしくてやらないって言ってなかったか?」
「今はここに誰もいないでしょ? それに"当麻"だって満更でもないんじゃない?」
「……………ったく。どうしてお前はこんなに可愛いことばかりするんだ、美琴」
「当麻が好きだからよ。好きだから当麻に甘えたいの。わかった?」
 ああというと上条は美琴の唇をキスをする。
 一瞬だけの簡単なキスだが、一瞬だけでも幸せを感じられ気持ちが伝わるキスが上条も美琴も大好きであった。微妙に甘い味や柔らかい唇の感覚、取り込まれそうな艶と煌きは一度だけでは満足させず、何度も何度も求めたくなる。
 今度は美琴が上条にキスをした。だけど今回は少し時間の長いキスで唇をより一層密着させた。
「ちゅっ……んんっ……はぁ」
 長いと言っても時間にすると十秒前後の時間だ。それだというのに二人の体感時間はそれを何十倍もしたぐらい長く疲れるものであった。
 お互いに少しだけ息を荒くしながら、唇をゆっくりと離すと二人を繋いでいた透明の橋が伸びて消えていった。その橋が唾液で出来たものであるとわかると美琴は急に恥ずかしくなり顔が熱くなるのを感じた。
「え、エッチ……」
「お、お前が……言うなよ」
 唾液で出来た橋は少しだけ外での抵抗があったぬ美琴でも刺激が強すぎた。そして作ってしまった張本人は何をいえばいいのかわからず、真っ赤になりながら俯いた。
「………………」
 美琴はおずおずと上条の顔を見上げると、上条は朝って方向を向きながら真っ赤になっていた。それを見た美琴は少しだけ気持ちが落ち着き、上条の胸の顔を隠してほんの少しだけ顔を緩ませた。
「………とーま」
「な、なんでしょうか、ひめ」
「もう少しだけ、このままでいい?」
「………はい」
 そして美琴は上条の抱きしめ返してしばらくの間、二人で抱き合い続けた。
 ちなみにその時、通行人が何名か通りがかろうとしたが雰囲気的に近寄れなかったので遠回りしていくしかなかった…と後日、土御門舞夏からそんな話を聞く美琴であった。

786キラ:2010/03/23(火) 23:27:16 ID:JgDePCTQ
 抱擁が終わって外での関係に戻ると、二人はさきほどよりも少しだけ間をつめて密着寸前の距離で歩いていた。
「……あれ? こんなところに車の列?」
 とある高校に向かう途中の大通りの道路で上条は車の列を見た。
 いつもの通学路であるから気づけたわずかな変化に気づいたのは上条だけだ。隣にいた美琴はよくわからず、キョトンとした顔でどうしたのときいてくる。不覚にもその顔に萌え…いや蕩れてしまった上条はドキッとしてしまったのだが、咄嗟に唇を噛んでなんとか表に出さずにすんだ。
「いつもはここに列なんて並んでないだが、今日に限ってはこんなに並んでるから気になってな」
「ああ、そういうこと。確かにこんな時間に車の列なんて珍しいわね。この近くで何かあるのかしら?」
 二人で興味深そうに車の列を見ながら、学校へと歩いていく。のだが今度は歩道の反対側に人だかりが増えていく。
「あれ? 今度は人の列か?」
「本当ね。しかも車と同じ方向じゃないかしら?」
「言われてみればそうだな。なあ御坂、なんか心当たりないか?」
「残念だけどないわね。このあたりはアンタと私の高校ぐらいしか知らないし、イベントのこととかも特には聞いてないわ」
 そっかと歩きながら相槌を打つと、列の中で上条は見たことのある制服を見た。しかもつい最近までよく見た記憶のある制服姿。ふと上条は横にいた美琴を見てみて、ああと見たことのある制服を常盤台だと思い出す。
「御坂、常盤台の制服の生徒もいるみたいだけど、本当に知らないのか?」
「えっ!? 常盤台の生徒もいるの!? だったら会いたくないわね」
 常盤台の名前を出され美琴は肩を落とした。何がどうしたのかわからない上条は、頭をかしげて常盤台の生徒をもう一度見たがやはりわからなかった。
「なんで会いたくないんだ? 常盤台はお前の母校だろう」
「アンタ、私は常盤台のエースで憧れの的だったということを忘れたの? それに卒業式の件もあったから余計に会いたくないのよ」
 常盤台のエースと卒業式のことを言われ、上条は納得した。そして、卒業式は自分も含まれることを思い出し、今度は上条が肩を落とす。
「肩なんて落としてどったの?」
「上条さんはこれから来る不幸を思い出してテンションが一気にダウンしただけです」
 卒業式にあんなことをしてしまえば、上条の学校の全ての生徒は上条に殺意を覚え殺しにかかってくる未来は、いくら鈍感な上条でも容易に想像できて地獄である。というよりも昨日はまた担任になってしまった月詠小萌のおかげで回避できたが春休み前に学校を無断で休み、友人にも誰とも会わずいたことが奇跡であったと思い返すが、それはきっとこれから来る地獄の前の静けさであったと背筋が凍りつくような恐怖に襲われた。
「ちょ、ちょっと!!?? 真っ青になってどうしたのよ!?」
「美琴たん。上条さんは入学式から無事に生きて帰ってくる自信がありません」
 いつも以上に生き生きして血走った目で走ってくるとある高校の生徒一同から逃げられる気は今回ばかりはなかった。果たして自分を生き残れるのかと自問自答しても返ってくる答えはノーの幻想をぶち殺してやりたいと思った。

787キラ:2010/03/23(火) 23:28:02 ID:JgDePCTQ
 そんな鬱状態の上条が何を考えているのかもわからない美琴は頭をかしげる。しかし何に苦しんでいるのかいまいちわからないが、上条個人の問題そうだったのでそれ以上は何も聞かなかった。
「それにしても一体何なんだ? そろそろ何か見えてきてもいいと思うんだが」
「そうね……あれ? ねえ、あそこの文字見える?」
 二人の斜め前、人の列の先にある小さな文字を指差され、上条は指された方向に視線を向けた。ここからではあまりよく見えず、人の頭が邪魔であったので文字は全て見えないが、一文字一文字を穴が開く勢いで見て読んでいく。
「えっと……にゅうがくしき、いりぐち……?」
「入学式入り口……? どこの?」
「あー待て待て。えっと、学校名は………」
 書いてある文字から高校の前の文字を一つづつ読んでいく。色文字であったのと日差しに影響されなかったのが救いであったため、上条の目では鮮明にとは行かないまでもよく見れば見えるほど漢字を一文字一文字読んでいった。
「…………………はい?」
 そして読み終えた上条は絶句のあまり、しばらく動けず凍りついた。それから美琴に呼びかけられたりしてしばらく、上条は目の前で起きている現実を受け入れられず、驚愕の表情を浮かべた。
「そ、それで……何が書いてあったの?」
「うふふ……御坂さん。わたくしたちはどうやらとんでもないものを見ていたらしいですね。上条さん、あまりのことに現実逃避してこのまま家に帰りたい気分になりました。ですけど現実なんですよね? そうですよね? そうだよな御坂?」
「アンタが何を言いたいのかわからないけど、今ここにあるのは現実の世界よ。そんなに信じられないなら、自分の頬を引っ張るなりしてみれば?」
 もっともな意見が提案されたので提案通りに上条は自分の頬をひっぱてみた。
「痛いですね。しかも目の前の光景が消えませんね。これは現実ですね」
「ねえいい加減に教えてくれてもいいんじゃないの? それともアンタは都合が悪いものでの書かれてたの?」
 何も教えてくれないことに少しばかりイライラして上条を睨んだ。睨まれたあたりでようやく現実を受け入れた上条は表現できない不気味な表情を浮かべ、涙を流しながら美琴を見ると人の列に指を指した。
「あの列の方々、みんな上条さんたちを見に来ているようです」
「わたし…たち……え、ええ???」
 いまいちよく理解できないが、そんな馬鹿なと上条の言葉を理解している自分がいる。それでも美琴はしらばっくれるが上条はそれを知らずに何が書いてあったのかを簡略にまとめていった。
「あの列は、上条さんと御坂の入学式を見に来ている列です」
「……………………」
 そしてしばらくの間、先ほどの上条のように美琴も凍りついたのだった。

788キラ:2010/03/23(火) 23:28:38 ID:JgDePCTQ
 現実を受け入れたくなかった二人であったが、歩いているうちに入学式の宣伝のポスターや人だかりを見せられ嫌でも現実であると実感させられてしまった。そして完全にこれは現実だと受け入れた頃、二人は長かった通学路の最終地点であるとある高校に着いた。
「美琴たん。僕、どうすればいいんだ…」
「知らないわよ。さすがの美琴さんでも今回ばかりは予想外。さらに入学式に何が起こるかは私にもわからないわ」
 まだ入学式が開始するまで二時間以上あるのに、見てきた悲惨な光景の数々。まるで超一流芸能人になってしまったようだと思いながら、上条はため息をつくことすら忘れてしまったほどのなにやら悪い予感を感じていた。
 これはきっと不幸センサーですねと理解しながら、やっとたどり着いたとある高校の門をくぐろうとした時であった。
「いたぞ!!! 上条当麻と御坂美琴だ!!!」
 自分たちがとってきた通学路とは逆の方向から聞いたことのない男の声が聞こえた。
 そしてその声を合図に男の後ろからは一気に人の波が上条と美琴へ向かってきた。カメラを持つ男性がいれば、マイクを持つ女性。スーツ姿でメモ用紙を持った男性もいれば、ケーブルを持って走る男性など波の中には様々な役割を持つ人たちがいた。
 記者団といち早く察したらしく、美琴はすぐさま上条の手を掴んで門をくぐった。だが美琴が出来るのはあくまでそれまで。ここから先の地理は生徒であり上級生の上条に訊かなければならなかった。
「ねえどこかに隠れられる場所ないの?」
「まずは玄関に入れ。そこの玄関に俺の下駄箱があるから、そこから学校の中に入れば」
 最初は驚いていたがこのようなトラブルには毎度毎度慣れっこで世話になっていたため、切り替えるスピードも速い。すぐさま何をすればいいのかを判断すると今度は上条が美琴の手を引いて玄関先へと走っていく。その間も、後ろの記者団は逃がすまいと二人を追いかけてくるが一晩中走り回ったこともある仲であるから二人からすればこのような短距離はまったく問題ない。
 上条と美琴は玄関の戸を開けると、上条の下駄箱に向かって走った。こんな状況でも律儀に外靴を入れて上履きに履き替えるあたり、おかしな部分で几帳面であるが今はこの場を乗り越えることだけを考えるべきだ。美琴は上条とそれに便乗する自分に心の奥で何してるのと一言だけ突っ込んでそれ以上は考えることをやめた。
「とりあえず、上に上がるぞ。このまま一階にいたら乗り込んできた時に厄介だ」
 一階には職員室や事務の受付がある。しかしたくさんのメディア・記者団の前ではそれらはきっと何の障害にもならないだろう。というよりも学園都市が『外』の住人であるメディア関連の人間を引き入れた時点で学校側もそれを受け入れているのと同じだ。
 警備員の先生がここに勤めていると聞いたことがあるが生憎、その人物である黄泉川は今日に限って別の場所で仕事をしている。そのため、今の記者団を無効化するような教師はここには誰もいなかった。のだが追われて余裕がない上条は黄泉川の存在を思い出せるわけなかった。
「ねえ、どこに行くつもり?」
「三階とかにある特別教室でやり過ごす。それで入学式の直前になったら、そこから脱出する。そうすればあいつらに絡まれずに参加できるはずだ」
 上条と美琴は階段を一気にのぼると、二階の廊下を走っていく。誰もいない廊下はなぜか不気味であったが、今はそんなことを考えるよりも隠れられる場所を探す方を優先しなければならなかった。
 上条は走りながら隠れられそうな教室を思い出しながら、廊下の突き当たりにある大きな教室を見つけた。
「しめた! 音楽室だ。確か入学式のリハで開いてるはず!」
 入学式の入場では吹奏楽部の演奏と共に新入生が入場してくる。そのため吹奏楽部は春休みの期間中でも入学式用の曲を練習するため音楽室を利用して練習を重ねる。それから時期が近くなると会場となる体育館でリハを行ない本番に備えている。
 吹奏楽部のことはさっぱりわからない上条であるが、そんなことぐらいは大体は予想がついていた。そしてリハは今日であったはず。
 あてずっぽだが、多分あっているだろうと予想すると上条は突き当たりのある音楽室のドアノブに手をかけた。それからすぐにドアノブを引いて中に入ろうとした。

789キラ:2010/03/23(火) 23:29:15 ID:JgDePCTQ
 だが扉は一切開かずに鍵がかかっていた。
「なん…だと…!?」
 扉が開いていたことを想定したため、開いていなかったことは予想以上にショックであった。
 それもそのはずだ。昨日のうちに吹奏楽部の面々は楽器を会場に移動させ、今現在リハの練習中であることを上条は知らなかったのだ。なので音楽室の扉が開いているわけもなくどんなに頑張ろうが鍵がないと開かないのが現実だった。
「くそ。だったら三階にあるパソコン室でも」
 と上条と美琴が階段を上るために背後を向いた瞬間だった。
「いたぞー!!!! 上条当麻だ!!!!!」
 上条の名前を叫ぶ声が三階から聞こえた。上条がその叫びを耳にしたのと同時にバレンタインデーに起きたある不幸な追いかけっこをした記憶が頭をよぎった。
 まさかと信じたくない気持ちで上条は声の方向へと視線を移した。そこにいたのは上条と今年同じクラスになった隣の男子生徒であった。
「やべえ!!! 急いで逃げねえと」
「え??? え……??? なに、なんなのさ!!??」
 状況を判断できない美琴は上条に手を引かれるのみ。さきほどのメディア関連の記者団たちだけではなく、何故同じ学校の生徒たちからも逃げなければならないのか、美琴にはよくわからなかった。
 一方の上条は不幸だ不幸だと何度も何度も思いながら、来た廊下を戻って走る。のだが一階には記者団がいて三階には学校の生徒たちがいるはず。つまり上にも下に逃げるようにも階段は一切使えない今、いまいる二階で追っ手を振り切るしかないのだ。
 しかし上条は高校の生徒だから知っていた。あと残っている教室は使われていない空き教室と普通に生徒が使う教室のみであり、そこには鍵もなければ隠れられそうなスペースがないことも。
 空き教室は数箇所にあるが、すでに飛ばしてしまっている。だが戻ったところで空き教室には何もない。あるのは使われていない机と椅子が置かれているぐらい。さらに空き教室の半分は何かの行事で使うときのために何も置かれていない広々とした空間だけになっている。そこに隠れようなんて思考回路は幼稚園児でも持っていないであろう(能力者は別として)
 同様に普通の教室も隠れられる場所などない。綺麗に並んだ机と椅子、黒板の前にある教卓には隠れられるわけなどない。他にあるのは教室の正面にある大きめの黒板と後ろにある掲示物を張るための壁。それ以外には何も……。
(あれ……?)
 教室にある物品に一つずつ思い出していたとき、一つだけ隠れられそうな場所がありそうなことに気づいた。
 そこの大きさは上条と美琴の二人でなんとかなりそうだが、問題はその中身だ。だがそこまで考えて下から来る音と上から聞こえる叫び声が上条の考えていた問題を一気に吹き飛ばした。
(こうなったら、破れかぶれだ! 当たった砕けろ!!)
 最終的に上条はやけくそになりながら近くの教室の戸を開けて、痕跡を残さないように静かに閉める。そして美琴の手を引いて教室の後ろにあるそれの元まで歩いていった。

790キラ:2010/03/23(火) 23:29:56 ID:JgDePCTQ
「いたか?!」
「いいや、いないぞ!! クソ、どこへ行った上条当麻!」
「カミやんは絶対に学校内にいるはずや。だからみんなで手分けしけ探す」
「それに記者団の人たちもいる。見つかればその人たちを利用して見つけ出せるはずよ」
「よし!!! それじゃあ手分けして探し出すぞ!!! 散開ッ!!!」
(まるで軍隊みたいだな。これは見つかったら怖いぞ)
 上条は隠れた場所から聞こえる青ピアスと他の面々が指示を出して自分たちを探している会話を聞いていた。何度も学校の生徒たちに追われたりしていた(追われる理由は不明)が、こうやって指示を出している状況に遭遇したのは今回が初めてだ。
 初対面なのか何度も顔をあわせた仲なのかよくわからなかったが連携が取れている以上、探している生徒は自分を見つけたら真っ先に襲い掛かってくるか救援を呼ぶだろう。そうなると無能力者の上条ではその危機を脱出できないのは確実だ。
 同じく追われている超能力者の美琴ならば、この学校の生徒が束になっても負けないだろう。しかしこれから二時間後あたりに控えている入学式前に騒ぎになる可能性があったので、さすがにそれだけは避けたかったので能力を使用させないようにずっと右手で美琴の手を握っている。
 だが美琴からすれば、追われてばかりいるのはイライラの原因になりつつあるので手っ取り早く能力で追い払いたいのが本心であった。
「ねえ、私の能力で」
「ダメだ。お前の能力は強すぎるし騒ぎになる。それに『外』から来た人間に能力を使ったら問題になるぞ」
「そ、そう……だけど…」
「いいからこのままでいろ。ちょっと窮屈だけど」
 二人が隠れていた場所は掃除用具箱の中だ。大体の教室の後ろに配備されており中には清掃用具がたくさんしまわれている教室の物品の一つ。
 上条が見つけ出した以外と見つかりにくい隠れ場所だ。小学校時代であれば子供がよく隠れるために使う密かな隠れ家であるが、高校生にもなればここに隠れられると考える生徒は意外と減るものだ。簡単なのだが意外と見つからない小さい頃からの隠れ家に上条と美琴は隠れて、記者団と高校の生徒たちをやりすごそうとしていたのだ。
 しかしここには欠点がいくつかある。まず埃がまんえんしているこの空間は、くしゃみが出てしまいそうで少し怖い。さらにほうきやちりとりなど様々な掃除用具で占められているせいで動ける場所は限られている。さらにさらに周りは音がしやすい薄いプラスチックの壁であったので無闇に動けば音でばれてしまう。そのため動くにも音を立てないように慎重に動かなければならなかった。
「…ねえ……これさ、きつくない?」
「あ、ああ………きついな」
 密着状態である二人の顔の距離は10㎝もない。話せば互いの息が顔をくすぐり目の前を向けば相手の瞳の中に自分が写る。
 身体は抱き合ってはいないが、だが上条の両手は美琴の顔の横にある壁にそれぞれ置かれ、押し倒そうとしているように見えてしまう。
 さらに美琴の両足の間に上条の片足が入り、美琴の太ももに上条の下腹部が当たっていた。
(あたってるッ!? あたってるって!!??)
 美琴がきついと言ったのは足の問題があるからである。
 生暖かい感触が太ももに触れているのは状況は興奮で動揺が入り混じったパニック状態であった。しかも今日は入学式ということなので、気分転換に短パンを履かずに着てしまっていたので、上条は布越しとはいえ美琴からすれば肌に直接だったので余計にダメージが大きい。
 さらにそんなことも知らない上条は、むず痒さで時折身体を動かす。それがさらなる刺激を呼びこのままでは意識が飛んでいってしまう危機感を感じていた。

791キラ:2010/03/23(火) 23:30:32 ID:JgDePCTQ
「こ、こらぁ。動かないでよー」
「そう言われてもな……動かないとムズムズしないか?」
「それはそうだけど、こんなに近くだから私まで痒くなるじゃない」
「??? お前、いつも家じゃべったりのくせに何言ってるんだ?」
「ッ!!!?? 時と場合があるって言ってるでしょ、馬鹿!!!」
(というよりも、なんで私まで巻き込まれてるのよ)
 手が使えれば上条の頭を叩いている場面だが、左手は上条に握られ開いている右手も動かそうにも視界が悪く動かそうにも音を立ててしまいそうで動かせなかった。なので上条を睨みつけるしかできなかった。
「あのー美琴さん。そんなに睨まれても」
「うるさい! アンタが馬鹿で鈍感なのが悪いのよ!!」
「??? いまいちよくわからないのですが、上条さんは何かしてしまったのでせうか?」
「ッ!!! なんでこんな状況で前みたいにボケられるのよ!!! 実はアンタ、私とこうやって隠れるのを楽しんでるんじゃないわよね?!」
「そんなわけあるかよ! 第一、見つかってボコされるのは俺だけなんだか、楽しめるわけないだろう!」
 小さな声で言いあう二人は、まるで過去の関係に戻ったかのような痴話げんかを始める。しかもさきほどの緊張感はもう二人にはなかった。
「本当かしらね? どうせアンタのことだから私も一緒に道連れにするって腹じゃないのかしら?」
「俺がお前を道連れにしてどんな得があるんだよ。それに道連れにしようとしても学校のやつらは俺だけを狙ってきてるんだし、もし何かあってもお前には能力があるんだろう」
「そういう意味じゃないわよ。アンタは私と一緒に逃げて一緒に苦労をさせようって腹かって訊いてるのよ」
「だから俺に何の得があるんだよ。一緒に苦労を共にして俺はお前に何をさせようってんだよ?」
「それは……あ、アンタがわかってるでしょうが」
「もう言ってることがめちゃくちゃだな。何度も言うがお前と一緒に逃げて俺が得することはない。今までだって追われている時にお前と一緒に逃げてないだろう。なのに付き合い始めたから一緒に逃げますなんてこと、俺がするかよ」
 確かにと美琴は上条の言うことに納得は出来た。だがここで終わるのは何故だか負けるような気がしたので、そんなことは口には出さなかった。
「じゃ、じゃあ何よ。アンタは私と一緒じゃ嫌だってわけ?」
「はぁ!!!??? お前、話が飛躍しすぎてないか?」
「いいから答えなさい!!! 一緒に逃げるのは嫌なの?」
 知らない間に、上条の言うことに頷きたくないおかしな対抗心を持ってしまった美琴は、話の方向を一気に急転換させた。ちなみに負けたくない対抗心は、美琴が持つ負けず嫌いな性格と過去の上条との勝負で生み出された感情であり、想いが叶い結ばれた今でも残り続ける感情であった。だが皮肉なことに美琴は未だにそんなことに気づいておらず、今の上条はそんな対抗心の被害を受けてしまっている状況であった。
「俺は別に嫌じゃねえよ。今回は偶然だよ、偶然」
「そ、そう……偶然ね、偶然」
 しかし偶然ではなく必然であったことを二人はすっかりと忘れている。
 今の二人は、とある高校の生徒に見つからないように隠れているだけだと考えているが、外には記者団たちがいることを忘れている。隠れる前は上条も美琴もそのことを覚えていたのだが、美琴が上条を睨みつけたあたりからそのことをすっかりと忘れていた。
 だから美琴は今回の逃亡劇は自分は被害者だと途中から思い込んでしまっていた。その結果がさきほどの嫌かどうかの質問であった。
(偶然…か。それもそうよね………って何を期待してるの、私は)
 上条の返答に美琴は落胆した。でもなんで落胆したのかよくわからなかった。

792キラ:2010/03/23(火) 23:31:52 ID:JgDePCTQ
 一方、答えた上条はと言うと美琴が悲しそうな表情を浮かべていたのを見ていた。何かを裏切られた悲しそうな表情、一体何を言われるのを期待していたか、上条にはよくわからなかった。
 でも思ったことは一つだけ。そんな顔は見たくない、と。
「…………美琴」
 上条は空いていた左手で美琴の頬を優しく撫でる。そして、優しく笑うと唇を優しく押し付けて三秒数えて離した。
「あ……な、何…よ」
「悪い。でもお前が辛い顔を見ると、どうしても耐え切れなくなって…つい」
「辛い……………顔?」
「こんな状況でも俺はお前のそんな顔を見せられたら放っておけないんだ。何かに耐える顔や悲しそうな顔は見ていると……心臓を鷲づかみにされているみたいな感覚に襲われて……俺」
「………………」
「………悪い。こんな状況だって言うの、変なこといって。俺、なんかおかしくなったみたいだ」
(なんでこんなことを言ったんだ?……わからない………けど気持ちを抑え切れなかった)
 心の中で何かを抑え切れないことがあったのは、上条が一番理解している。感情的になることは多々あるが吐き出さないといけない不快感と胸の痛みは感情的になったときには感じたことのないおかしな感覚であった。
 理性が崩壊した、本能的に言ったのとは違う別のこと。これをなんと言えばいいのか、なんと例えるべきなのか、上条にはわからなかった。でも吐き出してみると不思議と嫌な後味は残らなかった。
「………当麻」
「悪い……わる、んんっ!!??」
 上条の言葉の途中で美琴は上条の言葉を飲み込んだ。キスという愛情表現で。
「それは……私も同じ。アンタがそんな顔してちゃ私も辛いわよ、馬鹿」
「美琴……」
「だから私も笑うから、当麻も笑って。そしたら私はもっと笑えるから」
 そういうと美琴は上条の優しく微笑んで、もう一回キスをした。
(敵わない、な。まったく、どんどん強くなっていっちまう)
 そしてそれに励まされる自分は弱くなっていくように思えた。でも二人は互いを強いと思い、自分を弱いと思ってしまう。だから二人は離れられなくなっていく。自分の光、強さの象徴から……。
 それでも上条と美琴はいいと思えた。なぜなら……。
「「好き」」
 二人は一緒に笑って言える事であったから。
 そして今度は二人は目を瞑って唇を近づけていき……。

「それで……いつまでこれは続くのかしら?」

「「!!!???」」
 唇がふさがった瞬間、上条はバランスを崩し後ろに崩れ、美琴も上条に釣られて倒れてしまった。その結果、扉は開いてしまい上条は唇を押し付けられたまま美琴に押し倒されてしまった体勢になってしまった。
「…………………」
「……………………ちゅ。え、えーっと…」
 唇を離しあたりを見渡すと、二人を取り囲むようにとある高校の生徒たちが立っており、廊下からは記者とテレビカメラがこちらを見ていた。
「…………………………あ………あ、の」
「それでは上条当麻、尋問の時間と行こうか。安心しろ、これも入学式のイベントの一環だ」
 その中の代表者として吹寄制理は上条に死刑(にゅうがくしき)の始まりを告げた。もちろん、こんな状況では上条も美琴も何も言えず、吹寄の言葉に頷くしかなかった。
 そして御坂美琴こと超電磁砲の入学式は始まった。

793キラ:2010/03/23(火) 23:35:28 ID:JgDePCTQ
以上です。
前触れを丁寧に書きすぎた結果がこの長さ。自重しなかったからでもありますね(汗)

前回の感想、ありがとうございました。
入学式を楽しみにしていた方々、本当に申し訳ありません。
最後に入学式に確実に入るように終えたのでこれでやっと入れる、はず。

794■■■■:2010/03/24(水) 00:13:06 ID:P8ja2dNw
>>775
つばさ氏、GJですw
外堀からどんどん埋めていくなんて、美琴は策士ですなw

>>793
キラ氏、GJですw
上条さんと美琴の入学式は、どんなことになるのやら…
ニヤニヤが止まりませぬw

7951-879@まとめ ◆NwQ/2Pw0Fw:2010/03/24(水) 00:20:46 ID:wtLVsyP.
皆さん乙!&GJです!

>>775
一応、確認させてください。
以前、トリップ付きで投稿してましたよね?

>>793
投稿前に一度音読することをお勧めします。
誤字・脱字等を減らせますよ。
すごく恥ずかしいかもしれないけどねw

796■■■■:2010/03/24(水) 00:49:04 ID:rdqm2m9.
>>775
何て云うか、・・・さすがッす。  以上!!
コレ以外に云うことなしです
しいて云うならば、
>>「ほんと?」
 「ああ」
 「ほんとにほんと?」
 「ああ」
 「ほんとにほんとにほんと?」
 「ああ」
 「私、ビリビリするよ」
 「上条さんには幻想殺しがある」
 「わがまま言うよ」
 「いくらでも聞いてやる」
 「嫉妬深いよ」
 「上条さんは美琴以外に興味ないから問題ない」
 「胸だって小さいよ」
 「気にしたことありません」
 「それから、それから……」
 「俺は良いところも悪いところも全部ひっくるめて美琴の全部が大好きなん   だ! それくらいの男の甲斐性見せてやる! だから俺を信じろ!!」
 「うん!」

ココ!!!
ツボですわ〜顔を真っ赤にしている美琴が見えてきましたよ

>>793
GJです!!イチャイチャがもぅ・・・
毎度毎度、言いますが、ニヤニヤしている自分がキモイ

>>「萌え…いや蕩れてしまった上条は」
これって、「とれて」と読みますよね?
ガハラさんですよねwww?

797つばさ:2010/03/24(水) 01:14:43 ID:v4/2FfEQ
感想、ありがとうございます。

>>776
あのセリフは頭に浮かんだ瞬間「ニヤリ」としました。

>>777
大したネタじゃないのに前半で美琴を壊しすぎたのが個人的な反省点です。
もっといいどんでん返しが浮かべばよかったんですが……。

>>778
コメディはプロット止まりです。
性格反転で何か書けないかな、と考えてその原因を考えてたらあんな話になりました。

>>779
前半美琴をかわいそうな目に遭わせたのでなんとか彼女を幸せにしてあげたかったのです、ラストは。

>>780
……この話のプロット時のタイトルは「ウソと魔法と既成事実」でした。
そして近所の猫型ロボットが大冒険する時代です、隣のおじさんも大冒険するんです!

>>781
あのおまけは、書くかどうか凄い迷いました。ラストの雰囲気ぶち壊すんじゃねえ俺、と

>>794
性格が変わろうと美琴は策士で天才です、一度捕まえた上条さんを逃がすわけありません

>>795
いつもまとめご苦労様です。
トリップ一度つけたんですけど次書くときにつけるの忘れてしまって、そのままです。
お手数でなければ外していただけないでしょうか。

>>796
ちょっとここだけ美琴の精神年齢下がったような気もしましたが個人的にこの美琴かわいい! と思ったのでそのまま行きました。
まあ上条さんの答えがわかった上で甘えてる美琴、ということにして下さい。

以下感想
>>キラさん
あーあ、二人とも卒業式だけでなく入学式でもやらかしちゃったのか。しかも式が始まる前にw
まあここまでやれば日本中、いや世界中? にばれるわけですからとことんまで行っちゃえ!
尋問なぞ二人の愛でぶち殺せ!

798■■■■:2010/03/24(水) 08:37:53 ID:.DN8Y.s6
つばさ氏、キラ氏GJです!
自分もそのレベルの作品を書けるくらい精進しなければ!

まとめさんも毎回ありがとうございます!

799どるがば ◆KlUXhbo4RM:2010/03/24(水) 08:53:48 ID:DkP.e1sk
>>756
すいません、返信遅れました;
私は全然構いませんよ
むしろ投下してくださいw
書き手の方もどんどん増えているので、ネタが被ることなんて日常茶飯事のことでしょうから。
せっかく書いて頂いた物をネタが被ったからといって捨てるなんてもったいないですし
内容が被ったりは流石に書き手の方も、読み手の方も快くは思わないかもしれないですけど
私の場合、長編物の序章として看病物を書かせていただきましたが、書いてしまった方
これから書こうかと思っている方含め特にお気にせず投下してください。

長文失礼しました。
ちなみに今は続編を書いているのでまた顔を出すのが遅れるかもしれません。

800■■■■:2010/03/24(水) 11:57:47 ID:yflIJVWw
なんか原作だと美琴が上条さんのために魔術使って死にそうなんだが

801■■■■:2010/03/24(水) 12:05:01 ID:Q3E0euTg
ないわ
というか雑談スレかキャラスレの話題だね

802■■■■:2010/03/24(水) 12:13:14 ID:2uBHGAfU
>>761 壁|ω・`) ...イチオーイキテマス

803■■■■:2010/03/24(水) 12:21:37 ID:uHouzXhE
>>キラさん

パソコンの画面でニヤケている野郎は誰なんだ!!!
あ、俺か…

804■■■■:2010/03/24(水) 12:48:22 ID:voKjtAUI
>>799
ありがとうございます。今日中には投下すると思うので
投下する何分か前には予告します。

805■■■■:2010/03/24(水) 16:55:51 ID:XWnLA8No
これが嵐の前の静けさってやつか

806■■■■:2010/03/24(水) 19:21:05 ID:DiJWKrZ6
これだけレスがつかないのも珍しいな

807■■■■:2010/03/24(水) 21:30:40 ID:duBqpjM.
おまいら待機しすぎww

808花鳥風月:2010/03/24(水) 21:30:58 ID:voKjtAUI
どうも>>804です。35分くらいから作品を投下したいと思います。

注意点
・全部で17レスです。
・自分はssを書くのが初めてです。
・禁書見だしてまだ浅いのでキャラや設定捉えきれてないかもしれません。
・途中でトラブル起こして止まるかもしれません。

それでもよろしい方はどうぞ。

809The boy nurses the girl 1:2010/03/24(水) 21:34:51 ID:voKjtAUI
「まったく、こんな日に外に出かけるもんじゃねえな」

とある真冬の日、昼を過ぎたころ上条当麻は買出しに外へ出たところだった。外はこの冬一番の寒さと言ってもいいほどだ。
吐く息の白さがそれを物語っている。それのためか休日だというのに外に出ている人はまばらだった。
その中上条は出かけるためにそこそこ着込んで外出している訳だが、どうしても右手に手袋を着けるわけにはいかない。
何故なら不幸な上条であるが故に幻想殺しである右手はいつでも使える臨戦態勢をとらざるを得なかった。
そのせいで他は完全防寒できたとしても右手だけは寒さを凌ぐにはポケットに手を入れるぐらいしかない。

「インデックスも小萌先生の所へ行ったし買うのは少しだけでいいか…」

最近インデックスは小萌先生の所に行くことが多く、泊まることも少なくない。今回も鍋やら豊富な暖房器具やらが恋しかったのか
二時間前ほどに出かけてしまい夜遅くまで帰ってこないみたいだ。

(確かに俺は暖房器具やら食い物やらに余裕はねえよ。って自分で言ったら余計悲しくなってきた…)

はぁ、と真っ白なため息をつく。現在上条の部屋には暖房器具は以前の落雷で壊れてしまったエアコンの代わりの二代目があるくらいだ。
コタツもあったのだが持ち前の不幸さを発揮し故障中である。

「落ち込んでてもしょうがねえ、さっさと買い物済まして寮でじっとしとくか…」

そう言い上条は少々ペースを速め歩き出す。そうして曲がり角に差し掛かったところ
バチッと少し派手なスパーク音とともに青白い光が飛んできた。

「うおっ!?」

上条はとっさに件の右手を前に出した。すると飛んできた光は右手に触れた瞬間消え去った。
こういうときの反射神経はもう常人を超えているのではないのだろうか。

(いったい何があったんだこんなところで?まさかとは思うがあいつじゃねえよな…)

上条はさっき飛んできたものがひどく見覚えのあるものだったことを思いながら上条は辺りを見渡した。
すると、これまたひどく見覚えのある少女が立っていた。

(…やっぱりあいつか)

上条は自分の悪い予感が当たりまた厄介なことになりそうなことを感じ肩を落としつつもその少女に声をかける。

「おい、どうしたビリビ…っておい!」

その少女、御坂美琴はフラフラとしていて今にも倒れそうになっていた。
それを見た上条は何も考えずに駆け寄り倒れる寸前でそれを受け止めた。

「おい、大丈夫か御坂!」

そう問いかけてみたものの返事がなく本人が苦しいとすぐ分かるほど息が荒く、そればかりか顔も赤い。
そこで上条は美琴の額に手を当ててみた。案の定、当てた額はとても通常だとは思えないほどに熱かった。
明らかに外で少し気分が悪くなったレベルではない。そのせいで上条の顔が少し曇る。

「ったく、何でこんな体調なのに外に出かけたんだこいつは」

上条はその返事が返ってこないことが分かりながらもひとりごちる。


〜数分前〜

美琴はふらふらとした足取りで歩いていた。

「流石にこんな体調でこんな寒い日に外に出かけるのは間違いだったわね…」

美琴は朝起きたころから調子が優れなかった。実はこの日限定でデパートにゲコ太のキャンペーンがあり
それで美琴は無理を押してきたのであった。本来は黒子にでも頼もうかと思ったのだが、あいにく風紀委員の仕事があり
『本来ならこの黒子が付き添ってじっくりと看病して差し上げたいのですが仕事があるから仕方ないんですの…』と
非常に残念そうな言葉を残し早朝から出かけていた。

(あぁ、もう意識が危なくなってきた…。でも寮がまだ遠い…)

症状も悪化しだんだん一歩一歩がつらくなり始めた。周りから見てみたらどう見ても異常だと分かるのだが
不運にもこの寒さなので人気は全く無かった。

(…もう……無理………)

そうして彼女は無意識に放電し意識が途切れた。

810The boy nurses the girl 2:2010/03/24(水) 21:35:40 ID:voKjtAUI
(…しょうがねえ、買出しはとりあえず後回しにしてまずは御坂をどうにかしなきゃあな)

上条は買出しをあきらめ美琴を運ぶことにした。しかしここからでは常盤台の寮は遠すぎる。
流石に病人を長時間冷たい外気に当てるわけにはいかない。

(ここからだと俺の寮のほうが近いな)

しかたなく上条は自分の部屋で妥協することにし、そこで美琴を看病すると決め、美琴を背負った。

(よいしょっと、……こいつ意外と軽いんだな)

これを本人が聞いたとしたら間違いなく電撃が上条を襲うだろう。しかし今、当の本人は起きていない。
上条はそれからしばらくの間歩いた。美琴自身も倒れたとはいえ単に眠っているようである。
多分疲れが一気にきたのだろう。そして歩きながら上条はふと気づいた。

(……む、こんな状態を誰かに見られたら相当まずいよな。というか御坂を背負ってる時点でまずいような……)

一方美琴の方は夢を見ていた。上条に背負われているからであろうか美琴は夢の中でも
上条に背負われていてなおかついちゃいちゃしていた。

【「…そろそろ降りていただいてもよろしいでしょうか?」「何?別にいいじゃない」
「あの…ですね、このままだと色々と不都合な点が…」「だから何?美琴センセーに言ってみなさい」
「………何でもねえよ」「何隠してんのよ。言っちゃえ!」ギュッ 】

夢とリンクするように美琴の上条に抱きつく力が強くなる。急な出来事に上条は困惑した。

(な、何で強くなった!?これは更にまずいぞ…)

そんな上条のことは露知らず美琴の脳内では夢は平然と続いている。

【「おわっ!急に抱きつくな!お、降りろ!」「い〜や〜だ〜」】

美琴が現実では到底出来ないことをこの桃色の世界の中でやっている。その代わりに現実では
その本人の満面の笑みとなって現れている。流石に上条の右手でもこの幻想は壊すことは出来ない。

「………とうまぁ」
「!!??」

不意に美琴の口から甘い声で彼のファーストネームが漏れた。さっきの出来事に続き様に放たれた
この言葉は上条を少しの間立ち止まらせた。

(今、名前で呼ばれた…?)

上条は心の中でさっきの出来事を再確認する。それでも現実を受け入れることが出来ない。
それほどさっきの出来事は上条にとって信じられないものだった。

(…えっと、こいつはいつも俺のことを『アンタ』って呼んでて、名前はおろか苗字すら
 呼ばれたことが無いわけであって、さっきのは幻聴?いやそれにしては鮮明だったな…。
 それにいつもの声色じゃなかったし、じゃあ……)

そんなことを考えていた上条は最終的に頭がオーバーヒートを起こしてしまった。
上条は思い切り顔をブンブンと左右に振る。幸いにも美琴は起きなかった。

(……あ〜もう考えるのやめた!これ以上は俺がどうにかなっちまう!)

上条はこれ以上考えるとおかしくなりそうな気がしたので急遽他の事を考えることにした。

「あはは…。今日は本当に寒いな…。本当に寒い、寒い、寒すぎて上条さん困っちまうよ……」

運んでいる間上条は白々しいながらもまるで美琴のことを気にしていないかのように独り言を言いながら歩いていた。
軽く自己暗示をかけているようにも見える。それにしても不幸な彼がこんな状態で転ばなかったのも
誰かに目撃されなかったのもある意味奇跡といえよう。

811The boy nurses the girl 3:2010/03/24(水) 21:36:29 ID:voKjtAUI
何とか寮につき上条は他の人に気づかれないように美琴を部屋に運び上着だけを脱がせベットに寝かすことができた。
さっきまで自分を誤魔化しながらも美琴を意識していた上条は上着を脱がすのも躊躇われたのは内緒である。
落ち着いたところで上条は美琴の看病の準備を始める。

(まずはタオルだな…。水でぬらして…)

上条は冬の水の冷たさに耐えながらタオルを絞り美琴の額にのせた。気のせいかもしれないが
少し美琴の苦しそうな表情が和らいだ気がする。

(とりあえずこれで何とか一安心だな)

上条が大きく安堵の息を漏らす。その少し大きな音に感付いたかのように美琴の意識が戻り徐々に目を開ける。

(……ん…ここは…?)
「おっ、目が覚めたか?」
「……え?」

上条の言葉を受け意識がはっきりとなる速度が加速する。そしてようやく状況を把握することが出来た。

「……っ!な、な、何でアンタがいるの!!?」

美琴は素っ頓狂な声で驚く。無理も無い、目を覚ましてみると見覚えの無い場所に自分の想い人と一緒にいたのだから。
どう見ても混乱状態だと分かる美琴を見て上条は落ち着かせようと試みる。

「まぁ、まて、とりあえず落ち着け。まだ調子悪いんだから」
「どうしてアンタと私がここにいて私が寝てて、っていうかここはどこ!? 」
「…思ったより元気じゃねえか。まず落ち着け、今から説明するから」
「#st%yhs&lk$!!??」
「…あー、もう駄目だこりゃ」

もう言っている本人でも分からないような言語を発している様を見てこれ以上言葉で
言っても無駄だと感じた上条は右手で美琴の頭を撫でる。これには軽い暴走状態の美琴も行動を止めるしかない。

「ひゃっ」

急に頭を撫でられ美琴が小さな悲鳴を上げる。その悲鳴には軽い驚きと戸惑いがこもっていた。

「よーし、よし」

上条がまるで猫をなだめるかのように美琴を撫でる。美琴はさっきと違うパニック状態に陥っていた。

(今、私コイツに撫でられてる…撫でられてるッ!?)

美琴はだんだん心地よくなってきて、全身の力が抜けていく。

「…ふにゃ〜」

いつもならここで漏電するところだが上条が右手で撫でているため何事も起きなかった。

「…やっと落ち着いたか?」

上条が尋ねる。美琴はただその問いかけにコクリとうなずいて答えた。それから上条はこれまでの経緯を美琴に説明した。

「…えっ!じゃあここはアンタのベッド……」
「あ〜それは大丈夫だ。昨日か一昨日洗って干したばっかだから」

美琴の言葉にギクッとした上条は間髪いれずに答える。

「そっか……」

そう美琴は肩を落とす。そんな自分の残念そうな仕草に気づき慌てて否定する。

(って何で私は残念がってるのよ!)

そう自分にツッコミを入れた。もっとも、そのベッドを普段使用しているのは上条自身ではではないのだが。

「にしても、どうしてそんな体調でこんな寒い日に外に出たんだ?ほぼ自殺行為じゃねえか」
「うっさいわね、何だっていいじゃない!」

流石にゲコ太のためにデパートに執念で行ったとは言えず、理不尽に怒鳴ってしまう。しかしそのその場しのぎも無駄と終わってしまう。

「そういえばお前手になんか袋持ってたな、っていうかまさかあれのために?」
「…!…アンタ、中見たの!?」
「…いやあれはなんというか不可抗力というかお前の手から離れそうになったからとったときに偶然見えたというか…」
「……」
「……」

812The boy nurses the girl 4:2010/03/24(水) 21:37:23 ID:voKjtAUI
二人の間に沈黙が流れる。上条はとりあえずフォローするついでに沈黙を破ろうとした。

「あのー、上条さんは人の趣味をとやかくいうつもりはありませんが体の方を大せ――わかった、わかったから
 その物騒なもん寮ではしまってください!お願いします!」

上条が言い終わる前に美琴が帯電してきたので上条は話を中断し右手で美琴の肩に触れる。しばらくして
二人が完全に落ち着いたとき美琴が疲れのためかふらついた。慌てて上条が支える。

「ほら、まだ体調悪いんだから暴れずに寝とけって」

上条は美琴を寝かせて落ちたタオルを水に浸して絞り、再び美琴の額にのせる。

(暴れさせたのはアンタでしょ!)

そう軽く心の中で不満を言いつつも美琴はおとなしく従った。上条は美琴が落ち着いたのを見て立ち上がり上着を着込んで玄関に向かう。

「まあとりあえず俺は買出しに行く途中だったし、今は何にも無いんでちょっと材料買ってきてお前にお粥でも作ってやろうか?」
「…………」

そう問いかけても返事が返ってこない。そのことを疑問に思った上条は振り返ってみる。そこには唖然とした表情の美琴がいた。
上条はそれを見た時にはその表情の意味が分からなかったが少しして理解しイラッときた。

「あのなぁ、お前は一人暮らしの学生をなめてんじゃねぇのか?作れなかったら今頃上条さんは死んでますよ」

上条は若干馬鹿にされたみたいで不機嫌ながらも冗談を言う。

「そういうわけで行ってくるから悪いけど汗とかかいたらこのタオルを使ってくれ」

そう言って美琴にタオルを投げる。そして上条は準備をして玄関に向かう。

「…あ、ちょっと待って」

その言葉に上条は引きとめられる。振り返ると身体を起こした美琴が何か言いたそうな目でこちらを見ていた。

「何だ?なんか他にいるもんでもあったか?」
「そうじゃなくて…その……」

上条はなかなか喋らない美琴に対して首を傾ける。そしてようやく美琴は少し俯きながらも言葉を発した。

「……ありがとう」

その言葉を聞いた瞬間上条はすごい勢いで振り返り玄関を出て行った。そのあまりの速さに美琴は少しの間放心状態になっていた。
そしてようやく気づき、

「…アンタはこの期に及んでもスルーするか!!」

美琴は大声を出した。いつもなら電撃の一つでも飛ぶものだが、上条がいない今は
部屋が大惨事になることが目に見えていたので何とか我慢した。

(せっかく人が必死の思いで感謝したのにあの反応はあんまりじゃない)

美琴も最近上条に対して少しでも素直になってみようと努力はしていた。そこから出た素直な感謝の結果があれである。
そのまま美琴はふて寝をした。しかしそのとき美琴は気づいていなかった。振り返ったときに上条の顔と耳が真っ赤だったことに。
いや、寒かったから顔が赤いことを気にしなかっただけかもしれない。



「今日はどうもおかしい…。一体俺はどうなっちまったんだ…」

上条は昼を回ってもまだ寒い道を歩きながら呟く。上条はさっき美琴の言葉と顔で大きく揺さぶられた。
それでどうにかなりそうで思わず走って出ていってしまった。ついでに焦って足を滑らし転んでしまった。
不幸が代名詞とは言うだけの事はある。

(なんだろうな…この気持ち……)

以前にも上条はこの気持ちに似たようなことを感じたことはあった。そのときはまだ誰だかわからなかったが
常盤台の盛夏祭でドレス姿を見たとき、夏休み最後の恋人ごっこで宿題を見られるときに接近されたとき、
携帯のペア登録でツーショットを撮ったとき、いずれも御坂美琴に絡んだときであるが。記憶を失って一年もたたないが
これまでに多くの人、特に女性に出会い助けてきた上条にとって御坂美琴はその中の一人である。
でもこんな気持ちになるのが何故彼女だけなのか、上条には理解できない。それよりこの気持ちが何なのか上条には分からない。

(…まあ、なんとかなるだろう。とりあえずあいつの身体も心配だし、早く済まそう)

そう上条は深刻に考えずデパートに向かった。貧乏学生であるため普段は特売などでスーパーにお世話になっている上条が
今回は何故デパートに来たかというと、

(お嬢様だからって別に高いものを選ぶ必要は無いんだろうけど…やっぱり考えた方がいいんかね?)

そう無駄にも思える配慮のせいで高い食品を選ぼうとしたのだが、ふと我に返り財布の中を覗くとため息しか出なかったので
仕方なく無難な安い食品で妥協することにした。

813The boy nurses the girl 5:2010/03/24(水) 21:38:07 ID:voKjtAUI
(所詮俺は貧乏学生ってとこだな。ははは……)

とんだ取り越し苦労だなと涙が出そうになるのをこらえつつ会計を済ますと少し若めの男性の店員から券を渡された。
急に渡された上条はキョトンとする。

「何ですかこれは?」
「本日当店ではキャンペーンをしていますので良かったらあちらへどうぞ」

満面の営業スマイルで指している方向を見るといろいろな雑貨やらグッズ物などが置いてあった。どうやら
何か一品この券と交換できるようだ。それらの中に件のゲコ太もあった。

(あいつはこれのために…まったくどんだけ好きなんだよあれのことが)

上条は少しあきれつつ、その雑貨が置いてある所に向かう。何かいいものはないかと探してみるが特にめぼしいものは無い。

(何にも無いし、しょうがないからこれをもらうか。…えっと確かこれはあれと一緒じゃないよな)

上条はビニール袋の中で見たものとは違うものを選び引き換えの所に向かった。そこでの女性店員に交換してもらう際こう尋ねられた。

「彼女へのプレゼントですか?」
「へっ!?」

マニュアル通りの営業スマイルながらもマニュアルとは思えない質問をされ上条は思わず耳を疑う。しかし尋ねられたのは
紛れも無い事実だ。その言葉を聞いて真っ先に浮かんだ少女は言うまでも無い。上条はその思考を振り切り否定しようとするが
これを自分のためだと肯定するようでしょうがなく店員の言うことをそのまま肯定した。

「えっと…まあそんなところです」

その上条の様子の一部始終と答えに思わず店員はクスッと笑ってしまった。上条はその場にいてもたってもいられなくなり
そそくさと店を出た。そしてしばらく離れたところで溜息をつく。

「はあ、今日はまた変わった不幸な日だ…」

そうぼやきつつ美琴の身を心配し上条は少し急いだ。



上条は寮に着き部屋へと入った。そのときまだ美琴は穏やかな寝息を立てながら寝ていた。

「…大分良くなってきたみたいだな」

上条は美琴が起きないように小さな声で呟く。とりあえず美琴が良好な状態であることを確認した上条はお粥を作るため
キッチンへと向かった。そして準備を着々と始める。

(土御門舞夏レベルとまではいかないけど上条さんもそこそこ料理には自信があるんですよー)

そう上条は少し馬鹿にされた美琴に心の中で文句を言う。以前に自分が風邪のときに自力でお粥を作った経験がある上条は
実際に料理はそこそこ出来る。そういう時は何の工夫も無い米だけの物を作るのだが、今回作る相手は自分で無いので
少しは彩りが良く栄養も補えるように工夫はしてみる。そしてあとは煮込むだけになったので上条は一息つく。

「これで後は待つだけ、と」

一段落したので上条は美琴の様子を見に行く。ベッドではまだ美琴はまだ眠っている様だ。上条は額のタオルを取り手を当ててみる。

「熱は引いたみたいだな。でもまだ顔が赤いな…」

そう思いつつ上条はベッドに手をつき美琴の顔色を気にし顔を覗き込んだ。見たところ苦しそうな顔をしていないので安心する。
しばらく美琴の顔を見つめていて上条は思わず呟いた。

「黙ってりゃ意外と可愛いんだけどな……」

自分で口にした言葉を自覚して上条を大きな衝動が襲う。しっかりと意識はあるのにまるで誰かが身体を操っているみたいだ。
もう上条の目には美琴しか映っていない。

(もっと近くで見たい……)

既に上条に自分を止める術は無かった。段々と二人の距離が縮まる。その時ジュッという音が部屋の中に響いた。

814The boy nurses the girl 6:2010/03/24(水) 21:39:01 ID:voKjtAUI
「ッ……!」

その音で上条は我に返った。それが鍋が吹き零れた音だとわかり急いでキッチンに向かい慌てて火を止める。
何とか間に合ったみたいでお粥は助かった。しかしそれに安心する暇など無く上条は自己嫌悪に陥る。

(俺は今何をしようと……)

頭を壁にガンッと打ち付けて自分を戒める。そのころ美琴はまだ――

(な、な、何!?さっきの状況は!一体何が起こったの!??)

いや訂正。美琴は既に起きていた。


〜数分前〜
「――なったみたいだな」
(……うん?)

美琴はわずかながらに聞こえた言葉に目を覚まし目を細めながら開いた。起きたばかりの意識の中でも
キッチンに向かう上条の後姿を確認し美琴ははっきりと目を覚ます。

(帰ってきたんだ…。今から作るのかな)

もう美琴は無視されたことを気にしてない様子である。

(からかったけど、実際にアイツの料理の腕ってどうなのかしら?一人暮らしだからやっぱできるんだろうけど…)

美琴は若干の不安と上条の作った料理が食べれるという期待にどぎまぎしていた。そうしてる間に良い匂いがしてきた。
その匂いに美琴は食欲がそそられてきた。

(まぁ、おいしくないことはなさそうね)

そう思いつつも心の中では一層期待が増す一方だった。やっぱり素直にはなりきれないようである。一段落したのか
キッチンから足跡が聞こえてくる。そこで美琴はある一つの案を思いついた。

(…そうだ。このまま寝たふりをしてやろう。アイツの行動を見るのが楽しみだわ)

美琴はその案を早速実行した。そこに上条が近づいていく。起きてるとは思わない上条は気付かないままタオルを取り
美琴の額に手を当てる。

(…ん)

さっき洗った上条の手のひんやりとした冷たさに一瞬美琴は驚き声が出そうになるのを我慢する。
それでも手を当てられていることに顔が赤くなっていくのは止めれなかった。

「熱は引いたみたいだな。でもまだ顔が赤いな…」
(やばっ、ばれた?)

美琴は上条に起きているのを勘付かれたか考え少し不味いと思う。その次の瞬間、自分の左手に上条の右手が置かれる。

(えっ!?)

突然のことに美琴は声が出そうになるのを抑える。上条としては美琴の顔色を伺うために
ベッドの適当な所に手を着こうとしただけであって気にしていないようだ。
しかし美琴としては急に手を置かれて最大限の混乱状態になっていた。その美琴に更に駄目押しともいえる一言が放たれる。

「黙ってりゃ意外と可愛いんだけどな……」
(〜〜〜〜!!?)

『黙ってりゃ』や『意外と』は言われてもあまり嬉しい言葉ではないが美琴は『可愛い』という一つの単語だけで
今にも昇天してしまいそうだった。美琴は何が起こっているのかを確認するために目を薄く開けてみる。
そこには頬が少し朱色の上条の顔があった。その何かに見蕩れているような表情の上条を今まで美琴は見たことが無かった。
その上条の顔が美琴の目には魅力的に映り同じように見蕩れてしまう。
その後ようやく顔がこっちに近づいてくることに気付いた。

(ま、まさか)

これから起こる出来事を予想した美琴は覚悟を決めたかのように息を呑む。そこで鍋の吹き零れた音がして
上条は急に顔を離し急いでキッチンに向かっていった。キッチンに行ったのを確認してから美琴は大きく息を吐く。
この間バレなかったのは上条も気が気じゃなかったためだろう。

815The boy nurses the girl 7:2010/03/24(水) 21:39:52 ID:voKjtAUI
そして現在に至る。

(…まだ心臓がドキドキしてる)

自分の胸に手を当てながらそう思っていた。

(どうしてアイツはあんなこと……今までアイツは私に見向きもしなかったのに)

美琴は上条の行動に疑問を感じていた。それもそのはず、今まで二人は美琴が上条を一方的に見つけ、上条は接触を避け、
美琴が一方的に追い回していたのだから。美琴は自分でもこんなことをする中学生に
高校生の上条がいつも相手をするとは思っていなかった。

(でも確かにアイツは頬を赤らめて、真剣にこっちを見て、近づいてきて…)
(………)

さっきの場面を思い出し美琴は一気に赤くなった。そして考えたことを振り払い寝転ぶ。

(…もう、何でだろう、アイツは何を考えていたんだろう)

美琴はそう考え上条の理解できない行動を不思議に思う。そこでふと美琴は考えた。
それは自分の勘違いかもしれない。
自分の都合の良い方向に考えているのかもしれない。

(それでも……ひょっとしたら……)

そうして美琴は一つの大きな決心をする。



(あ…できた)

上条が自己嫌悪に陥っている間にお粥は完成していた。とりあえず味見をしてみた。

(…うん、まあ美味くできてるな)

気分は滅入っていても味にまでは影響しなかったようである。上条は自分の頬を一、二回両手で叩く。

(こんな顔をあいつに見られたら心配されるからな。平静を装っていこう)

せめて御坂に心配をかけてはいけない。そう思い上条はさっきの出来事のことは引き摺らずに行くことにした。
上条は温かいうちに美琴にお粥を持っていく。

「おっ、もう起きたか?」
「…うん」

既に美琴は寝たふりをやめ目を開けていた。先ほどの状況が衝撃的過ぎてまだ顔が赤い。

「ほらできたぞ、上条さん特製のお粥だぞ〜。よく味わって食えよ〜」

上条はさっきの気持ちをかき消そうとしているのか無駄に明るく振舞う。
しかしさっきの出来事を目撃してしまっている美琴にはそれが非常にわざとらしく思えた。

(コイツは悟られないようにしてるわけね)

ならば自分もこの場ではなかったことにしよう。そう美琴は思いながら返事をする。

「…うん。……あれ?起きれない?」
「え?」

身体の調子が悪いのに無理に外に出てここに来てからも少し暴れたせいか、熱は引いたようなのだが
どうも身体の自由が利かないらしい。疲労が一時的に一気に来たようだ。
その冗談のような状況を見て上条は一つの行動が思い浮かぶ。

「あの〜…御坂さん?」
「…な、何よ?」
「それはひょっとして食べさせてくれってことでせうか?」

訝しげに美琴に尋ねる。美琴はしばらくフリーズしたあと顔を一瞬で真っ赤にした。

「な、な、何!?そ、そんなこと誰も言ってないわよ!!見てなさい、すぐ起き上がって見せるわよ!」

慌てながらそう言って美琴は全身に力を入れようと試みる。しかし、身体はびくともせずそればかりか周りにバチバチと
電流がほとばしってきた。これには上条が慌てだす。

「どこに力を入れたらそんなことになるんだよ!?」

そう言いながら上条は放電される前に右手で美琴に触れる。さっきまで帯電していた電気が何も無かったかのように消え去る。

「分かった、分かったから無理すんな。これ以上はお前も危ないし、この部屋も危ないから」
「う〜」

まったく動きそうに無い身体に対して美琴は諦めた。

816The boy nurses the girl 8:2010/03/24(水) 21:40:35 ID:voKjtAUI
上条はどうやら身体が冗談じゃなく本当に動かないらしいことを知り美琴に食べさせようと説得する。

「とりあえず、動けるようになるためにもこれ食えって。栄養付けるのが先決だから」

そう言っても中々承諾しない美琴を見て上条は少し考える。そしてもう一回納得させようと声をかける。

「…お前も俺に食べさせられるのは嫌だろうけど、背に腹は変えられねえだろ」
「………けど……じゃない」
「は?」

あまりにも声が小さすぎて聞き取れなかった上条は聞き返す。

「今、なんて……」
「嫌じゃないけど、恥ずかしいじゃない」

上条の声に重ねるようにさっきより大きい声で美琴は答える。

「………」

上条は沈黙した、自分でも顔が赤くなるのが分かった。

(またコイツ、赤くなってる…)

やっぱりいつものコイツと違う、と美琴は思う。今までは自分が空回りして自爆したようなものばかりだった。
さっきや今のような反応は前に言ったように今まで見たことは無い。

(今日なら…出来そうな気がする)

そう思ってる間に上条は行動に移していた。

「……とりあえず嫌じゃないんなら食わすぞ」

上条は食べさせるために美琴の身体を起こそうとする。

「…えっ!?ちょ、ちょっと待って!」

美琴は急に思考を中断され慌てて上条を制止する。

「…へ、変なところ触らないでよ」
「そんなことしたら上条さんに雷の裁きが下るから絶対にしません」
「無かったらしてもいいって言うの?」
「ばっ、そう言う意味じゃねえよ!」

そういうやり取りがありつつも上条は何とか美琴の身体を起こすことに成功した。後は美琴に食べさせるだけだ。

「ほら、口開けろって」
「……」

一度は覚悟したもののやっぱりいざやるとなると躊躇われる。気まずい雰囲気になって来たので上条はもう一度説得しようとする。

「この雰囲気が好きという物好きな上条さんじゃありませんから。な、頼むから食べてくれ」
「……分かったわよ」

どうやら美琴の方も覚悟が出来たようである。それを聞いて上条はお粥を掬ったスプーンを持った。

「あーん」
「…ふざけてんの」
「いや、やっぱお決まりかなと思って」

美琴は口ではそう言いつつも嫌じゃないようで素直に従う。上条は慣れない手つきで美琴の口にスプーンを運ぶ。
この一連の動きの中での二人の顔はほんのり赤かった。

(…何だよこのむず痒いシチュエーションは)

自分でやっておきながらも上条は思う。規則正しく咀嚼している美琴を見て上条は感想を求める。

「どうだ?」
「…………おいしい」

それを聞き上条は心底安心する。

(良かった……。何とかお嬢様の口にもあってくれたな)
「正直、アンタの料理の腕見くびってた」

余計な一言が付き上条はガクッと肩を落とす。

「あのなあ、こういうときは素直においしいって言ってくれればいいのに一言余計なんだよ」
「だってがさつそうなアンタが料理ができるって思わないじゃない」
「人を見た目で判断すんじゃねぇ!」

そう多少の口論をしつつも美琴はお粥を全部食べた。

「…ごちそうさま」
「どういたしまして。満足していただけましたか」
「うん…満足」

食べたら眠くなったのか美琴はウトウトしだした。上条はそれを見てもう体調は良さそうだなと安堵する。

「後は良くなるように寝とけって」
「…うん……わかっ……た…」

そう言って眠りこけた。上条はちゃんと寝かせて布団を丁寧にかける。そして美琴を見て一息つく。

「ったく、憎まれ口ばっか叩くこいつも寝てれば可愛いもんだな」

上条はそう独り言を呟いてみる。そうして美琴の寝顔を見ていてハッとする。

(やばっ、こうしてるとまたあの状態になるかわかりゃしねえ)

上条は目を背けることにした。そのままベッドに背を預ける。

(俺はこいつをどう思ってるんだろう…)

上条は再び過去を思い返す。といってもわずか一年にも満たない過去ではあるが。その短い過去の中でも
こんな感情を感じたのは御坂美琴ただ一人だ。

(俺は…こいつを……)

817The boy nurses the girl 9:2010/03/24(水) 21:41:34 ID:voKjtAUI
「……ん」

しばらく時間がたち美琴は目を覚ました。上条はベッドに背を預けたまま眠っている。

「ちょっと、アンタ」

もう身体は動くようだ。上条は相変わらず眠っている。

「ねえ、アンタ」

少し声を大きくしてみる、しかし反応はしない。試しに美琴は指の上でバチッと電気をスパークさせた。
すると上条がビクッと反応した。そしてようやく目を覚ました。

「…ビリビリ、屋内での電気の使用は控えてくれって」
「なかなか起きないアンタが悪いのよ」
「それだけの理由で使うな…って、もう動けるようになったのか?」
「うん。そこの所はアンタに感謝しなきゃね。ありがとう」

上条が急な美琴のお礼にドキッとしつつも軽く笑いながら答える。

「ハハッ、礼にはおよばねえよ。単なるお節介だしな」
「そんなこと無いわよ」

そう二人して笑う。そして急に上条が何かを思い出した。

「おっと、すっかり忘れてた。御坂、ちょっと待ってろ」

上条は立ち上がり台所に向かう。美琴は何のことか分からずただ首をかしげる。帰ってくる右手には何かを持っている。

「これ、材料買ってきたときについでにもらってきた」
「あっ」

上条が差し出した右手には美琴がもらってきたのとは別のパターンのゲコ太がのっていた。それを見て目を輝かせる。

「いいの?」
「いいも何も俺の趣味じゃねえし他に欲しいもんが無かったからな。お前が喜んでくれたらどうかなって」

目を輝かせる美琴に少し照れつつも上条はそれを渡す。美琴はそれを握り締め胸に当てた。

「…嬉しい」
「そこまで喜んでくれたら俺も本望だ……ってもうこんな時間じゃねえか。門限大丈夫か、お前?」

時計は結構な時間をさしていた。冬のせいもあり外はもう真っ暗だ。上条に尋ねられても美琴は黙ったままだった。

「……」
「途中まで送っていくから今日はもう帰れ。同僚も心配してるんじゃないか?」
「……」
「…おい?御坂?」

美琴は心の中である覚悟を決めていた。あの寝たふりをしたときから決めていた覚悟だ。

「あのね」
「うん?」

上条がようやく言葉をつむぎ始めた美琴の言葉に返事をする。

「私はアンタに隠してきたことがあるの」

この言葉に上条は少し戦慄を感じた。またこの少女が何らかの事件に巻き込まれているのではないかと。

「お前…」
「黙ってて」

上条が何かを言うのを美琴は阻止した。続けて美琴は上条に言う。

「お願いだから、今は黙って聞いてて……」

上条は真剣なその表情を見て黙っていることにした。美琴は上条の予想していることが分かり断りを入れておく。

「大丈夫、事件とかそんなんじゃないから。もっと単純なこと」
「………」
「最初にアンタと会ったとき、といってもアンタは知らないだろうけど今のアンタと同じようにお節介な奴だった」
「子ども扱いをするは、無能力者のアンタ相手に本気で向かっていっても簡単にいなされるは、ほんとにムカつく奴だった」

美琴の瞳が少しずつ潤んできていることに上条は気づいた。まだ言葉は続く。

「でも妹達の件のときボロボロになりながら学園都市最強に向かっていくアンタを見たとき私は思った。
 何で無能力者のアンタが何の責任も無いのに超能力者の私を助けてくれようとしているのか?それに無謀だとも思った。
 でもアンタはその常識を覆した」

818The boy nurses the girl 10:2010/03/24(水) 21:42:26 ID:voKjtAUI
「………」
「それから私はアンタが気になり始めた。単なるムカつくやつとしてじゃなくて……」

いくら鈍感と言われる上条でもこの後どんなことを美琴が言うのかぐらい理解できた。

「私にとっての特別な一人として」
「…!」
「そのころは…身体をはって助けてくれたから、と思ってた。でも…夏休みの…最後の恋人ごっこ…とか、
 大覇星祭…とかでそれが勘違いじゃない…って…思い知らされた」

気づけば美琴の瞳からは涙が零れ落ち始めていた。そのせいか言葉も途切れ途切れになってきた。
上条はすぐにでも美琴を泣き止ませるために何かをしたかった。でも美琴に黙っててと言われているので上条は何もできなかった。

「それに……私は……アンタが私の電撃で傷ついて…それでも学園都市最強に向かった……アンタも……
 なんでかわからないけど…ボロボロに…なりながら何処かへ向かってた……アンタも……私はただアンタから
 言葉を聞いただけで、しばらく動けなくなった」

上条は知る。この少女が今まで自分をどのように見ていたのかを、そして自分をどう思っていたのかを。

「そして、その………ボロボロに…なりながら何処かに行く……アンタを見て……私は確信した………」
「……」
「私は……アンタが…上条当麻が大好きなの!!」
「…!!」
「やっと……言えた……」

それを言い切って美琴は両手で顔を覆い泣き出してしまった。上条は今、美琴から言われた事実に驚いていた。
美琴が自分を想っているということは今まで考えたことがなかった。そればかりかいつもの反応から
上条はずっと嫌われてると思っていた。それらの美琴の想いを受け止めてもなお彼はなかなか答えが言えなかった。
そこで美琴が続けて彼に尋ねた。

「……アンタは……私のことをどう思って……あんなことしたの?」

上条はその言葉に疑問を感じた。

(あんなこと…?それって妹達の件とかあの約束の事とかか……?)

上条は過去の美琴との思い出を思い返してみる。今までしてきたことは彼にとっては当然のことであって特別なことではない。
しかし、次に美琴が言ったことは上条の予想していたものとは違っていた。

「…見てたのよ……私が寝ているところで……き、キスしようとしているアンタを」
「ッ!!」

実はあの時に見られていたという事実を知って上条は硬直する。

「……み、見られてたのか…。悪い、あの時は自分でもどうかしてた…」
「………」
「……いいか?これから言うことは俺の気持ちだ。聞いてくれ」

上条は落ち着いてきた美琴に語りかける。

「知っての通り、俺は途中で記憶をなくした。今の俺が初めて見たのは盛夏祭でのステージ裏。
 正式に名前を知ったのは俺の二千円札を呑みこんだ自動販売機の前だ」

ようやく涙も止まった美琴はそれを聞いて驚く。この目の前の男は知り合って一日の自分に命を懸けてくれたという事実に。

「正直言ってお前に会ったときは驚いた。急に電撃を撃ってくるは、人の不幸で大笑いするは、
 知識の中にあった常盤台のお嬢様のイメージとはあまりにもかけ離れていたお前に」

普段なら美琴はここで怒っているところだが、状況が状況なだけに美琴は何も言わない。
いや、今から真面目に答えようとしている上条に怒れるわけがなかった。

「でも、それと同時に俺は心に一つの感情を抱いていた。お前から俺とお前は知り合いだったと知って
 少し昔の自分に『御坂はお前にとってどんな存在だった?』と尋ねてみたくなった」

意外な上条の言葉に美琴は段々と、この答えが自分が想像していた悪い結果とは違うかもしれないと考え始めた。
実際この告白は上条があの行動を起こしたときにひょっとしたら望みがあるかもしれないということで決意したものだったが、
断られたらどうしようとずっと思っていた。どんなときにも恋に余裕というものは存在しない。

819The boy nurses the girl 11:2010/03/24(水) 21:43:07 ID:voKjtAUI
「それから短い間に昔も俺はこんなに大変な目にあっていたのかと思うほどたくさんの出来事があった。
 それにいろんな人とも出会えた。でもどんな人に会ってもお前に会ったときのような気持ちを感じることはなかった」
「………」
「それが何の感情なのか俺は考えてみた。それが大体何なのかはいくつか見当はついたが俺はそれが何か確信できなかった。
 でも今お前に告白されてやっと確信することができた」

上条はここまで話すと一度大きく深呼吸をした。そして美琴に近づきゆっくりと美琴を抱き寄せた。

「ッ!!!」
「この感情が…恋だってことに」

恋という感情は単純な怒りや悲しみ、喜びといった感情とは違い奥が深く複雑なものだ。上条は恋ということを
知識として知ってはいたが具体的にどんな感情かは分からなかった。昔にはその感情を向ける人が自分には居たのか、
実際にその感情は自分にどのような影響を出すのか、上条には分からないところだらけだった。でも今日になって気づくことができた。

「ごめんな…御坂、今までお前に辛い思いさせちまって。この一日だけで俺はとても辛かった。
 だったらお前は今までどれだけ辛かったのかって、あのときからお前に辛い思いはさせたくないって思ってきたけど、
 これじゃ俺がお前を苦しめていたようなもんじゃねえか」

そういい終わった直後、美琴は上条にしがみついてまた泣き出してしまった。

「……バカっ…今更謝ったって遅いわよ……。なかなか…相手にしてくれないアンタに…私がどれだけ不安になったか…」
「…悪い、お前に対する感情がよく分からなくて思わず逃げたりしてた。…本当に情けねえよな…俺って」

上条は自分の情けなさに嫌気がさしてきた。思えば自分はこれまでにこの少女を何回不安な気持ちにさせてきたのだろうか。
それを踏まえてもう一度上条は美琴に問いかける。

「こんな情けない俺でも…お前は好きでいてくれるのか?」
「……アンタは…何を言わせる気なの…?」

美琴が軽く睨むように上条を見つめる。

「……そんなこと言うまでもないじゃない…」

美琴は上条の胸に顔を埋めた。言葉より態度で表したほうが手っ取り早かったからだ。その状態でしばらくして上条はあることに気付く。

「…返事、まだだったな。俺も……お前のことが好きだぞ」

そう言って上条は美琴を抱きしめる腕を強めた。それに比例するように美琴も抱きしめ返した。お互いの体温や匂いが感じられて
両者の感情も次第に昂って来る。昂った感情が衝動を生み出す。

「キス……していいか?」

その言葉に美琴は無言で頷き顔をあげる。二人の視線が互いの姿を捉える。ほぼ同時に目を閉じた。
見えないはずなのに二人の唇は確実に近づいていった。
そしてそれらは触れ合った。
美琴の瞳から止まったかと思っていた涙がまた零れ出した。上条もこれまで感じたこともないような幸福を感じていた。
それから何秒、いや何分たっただろうか。思い切り相手を堪能した二人は名残惜しげに離れた。
お互いの顔はまだ赤い。それからまたしばらくの間見つめ合っていた。

(…………………………)
(……………俺の負けだ)

上条は美琴の視線に対して照れたのか少しそっぽを向いてしまった。美琴はそれを見て少し微笑み上条の方に近づき摺り寄った。
上条は少し戸惑ったがまた美琴を抱きしめる。二人を甘い雰囲気が包む。
―――この距離だと相手の鼓動がよく聞こえる―――
二人はそう考え心地よさを感じていた。お互いを想う気持ちが空間を満たしその状態が先ほどよりも長い時間続いた。

820The boy nurses the girl 12:2010/03/24(水) 21:43:46 ID:voKjtAUI
しばらく時間がたつと美琴は眠ってしまった。上条はそんな美琴の寝顔をじっと見て居ることしかできなかった。

「それにしてもよく寝るよな……。いつもこんな感じなのか?」

上条は寝顔を見ながら美琴に対する愛しさが募っていくのが分かった。美琴に対する感情が恋だと分かったのはいいが、
自覚してからは結構気恥ずかしい。

(…………はっ!)

寝顔に見惚れてしまっていることに気づき思いっきり顔を背ける。その勢いで少し首を痛めてしまう。

(いてて……ったく、これじゃ不幸だか幸せだかわかんねぇな…)

首をさすりつつ背けた先をなんとなく見てみる。そこにはとっくに夜の時刻を指している時計があった。

「……やべぇ、もうシャレになんねえ時間になってる」

既に門限がどうのこうの言ってる時間ではなかった。規則に厳しい寮監がいるらしい常盤台では
この時間だと御法度どころの騒ぎではないだろう。泊まらせるという手もあるだろうがそれこそ論外だ。
一刻も早く帰らせなければならない。しかし、その美琴はまだ眠っている。
気持ち良さそうに眠っているところを起こすのは気が引けるが背に腹はかえられない。意を決して上条は美琴を起こそうとする。

「おい、起きろ。時間がヤバイことになってるぞ」
「……ん…なに?」

一応上条の呼びかけには気づいたようだがまだ夢心地である。目も半開きでとても起きてるとは言えない。

「だから、もう時間が門限をぶっちぎってるって言ってんだよ」
「……わかった……」

多少冗談みたいに言っても返事に力が無い。そう言ってまた目を閉じた。

「ぜんぜん分かってねえだろうが!」
「……うるさい」

完全に起きようとする気配がないので言葉で言っても無駄だと上条はさじを投げた。

「ほら、立てって」

上条は美琴を支えながら立たせた。しかしフラフラして一人で立とうとしない。そしてまた床に伏し寝てしまった。
上条は頭をポリポリと掻き頭を悩ませた。

「あんだけ泣いたから疲れてんのか?…ったくこのお嬢様はどうしたもんかね」



(うわっ、外はとんでもなく寒いな)

外はもう真っ暗で街灯と月のみが二人を照らす。上条は吐く息がはっきりと白いのに寒さを再確認する。
上条はこれはまずいなと思っていた。しかし、それは寒さのせいだけではない。

「えへへ……とうまあったかい…」

あれから上条は苦肉の策として美琴を負ぶって送ることにした。しかも美琴はどうやら寝ぼけているようで
夢と現実の区別が付いていないみたいで上条からは見えないがとても幸せそうな顔をしている。

(一度意識しちまうともう駄目だ……平静を保てねえ)

少々の厚着で二人の間は隔てられているとはいえ上条には美琴の身体の感触がしっかり伝わってくる。
外は寒いはずなのに身体、顔が共に熱く感じられた。

(…このことについて考えちゃだめだ、上条当麻、考えるんじゃない!!)

上条の理性という名の導火線には火がつき始めていた。このままでは感情という名の爆弾が爆発しかねない。
部屋に連れて来るときは多少大丈夫だったのだが意識した後だともう止まらない。

「……とうまぁ…大好き…」

とどめのような一言が入った。上条の思考は停止し、歩みが止まってしまった。

821The boy nurses the girl 13:2010/03/24(水) 21:44:19 ID:voKjtAUI
「……ん?」

外の冷たい空気にいくらかあたって美琴の目が覚めたようだ。寝ぼけていて上手く働かない脳で周囲を確認する。

(……あれ、ここ部屋じゃな……………!!)

ようやく自分の置かれている状況を理解した美琴は上条の背中の上で暴れだした。停止していた上条の思考は無理やり起動させられた。

「……おわっ!馬鹿、急に暴れんな」
「い・い・か・ら、おろしなさい!って言うかお・ろ・せ!」
「言われなくても分かってるって!ほら」

上条はなんとか美琴を背中から下ろすことに成功し事なきを得る。寒さなど関係ないように二人は真紅とも言えるほどに
顔を真っ赤に染めていた。先に美琴が口を開く。

「了承もなしに勝手に乙女を背負うってどういう了見!?信じられない!」
「それはお前が起きなかったからだろ!それにお前は乙女って言う柄か!?」
「なっ、それってどういう意味よ!」
「どういうってお前はお嬢様どころか乙女らしくもないってことですよ!」
「ア〜ン〜タ〜はどうしてそう心無いことを言えるのかしら!」

バチッと電撃が飛ぶ。間一髪で上条が右手で打ち消す。

「…あっぶねえ〜、電撃は禁止だ禁止!っつうかお前は本当に調子が悪かった元病人ですか!?」
「ああ、誰かさんのおかげで今はすっかり元気よ!こんな風にね!」

もう一発さっきより強めに電撃が飛ぶ。最早お決まりのように上条が打ち消す。

「本当に危険ですから!口喧嘩に電撃使うの反対!」
「どうせ当たらないんだからいいじゃない!」
「だ・か・ら!そういう問題じゃねえって何回言ったら分かるんだ!」

そんな感じでしばらく口喧嘩(+美琴から上条への一方的な電撃)は続いた。そして二人は疲れたのか
ひざに手をつき前屈みになって息を荒げていた。そして上条が口を開いた。

「……もう、喧嘩は、終わりにしねえか…」
「……うん、賛成…」

そう言って二人は歩き始めた。時間はもう気にするまでもない。こうなったら急ごうが、のんびり行こうが同じである。
二人肩を並べて歩きながら美琴は思う。

(本当に、私はコイツと恋人同士になったのよね…)

美琴は今でも少し信じられない。今まで想いを秘め続けてもどかしいほど悩んだのに、実際に告白してみると
相手も少なからずも気にしてくれていたなんて思ってもみなかった。美琴は上条を見上げてみる。
すると向こうもこっちに目を向けていた。それに気づいて二人はほぼ同時に目を逸らした。
今思うと結構上条と美琴は似ているのかもしれない。目を逸らして少しして美琴は右手を握られた。突然の出来事に美琴は身を縮める。

「…えっ」
「…また電撃飛ばしてくると危ないからな、用心だ、用心」

急な上条の行動に美琴は少し呆然とする。どうしても繋がれた右手を意識してしまい繋がれた手をつい見てしまう。
そして見ている間にあることに気づいた。

「……プッ、あはははは!」
「何だよ、なんか文句あんのか」

上条が少々不満そうに言う。本当に気づいてないのだろうかとますます笑いがこみ上げてくる。

822The boy nurses the girl 14:2010/03/24(水) 21:44:52 ID:voKjtAUI
「っははは、…だって、そっち、左手じゃない」
「……!!」

上条はようやく自分の失態に気づいた。慌てて手を話してポケットに入れる。
上条の右手がどんな異能を打ち消せても、左手は一般人のものと大差はないのだ。上条は未だ笑ったままの美琴にいじられる。

「意外と可愛いところがあんのよね、アンタは」
「う、うるせえ」

美琴は笑いつつも自分と手を繋ぎたいと思ってくれた上条の行動を嬉しく思っていた。そうして美琴にある一つの考えが浮かんだ。

「そんなに手が繋ぎたかったんなら言ってくれればよかったのに」
「うわっ!」

美琴は大胆にも上条の腕に抱きついた。そのせいで二人の身体は密着する。また上条の理性が綱渡りをし始めた。

「やめろって、そんなにくっつくな!」
「そんなに恥ずかしがらなくってもいいじゃない♪」
「ああもう、摺り寄ってくんな!それに恥ずかしがってなんてないから」
「や〜だ、離さない」

完全に甘えモードに移行した美琴はもう上条の手には負えない。

(こいつってこんなキャラだったのでせうか?)

上条はあまりの変貌ぶりに動揺が隠せない。どこか酔っ払った御坂美鈴に通じるものがある。
流石は親子と上条は思う。
しょうがなく放っておくことにした。

(まあ、こんな顔が見られるんだったらいいか)

実際に美琴の顔は真っ赤だったもののそれを気にさせないほどの幸せそうな笑顔をしていた。

(……本当、素直にしてたらもっと可愛いのに)

上条は心底そう思った。

「ん?何か言った?」

思うだけにとどまらず口から漏れていた。

「……いや、何でもございませんのことよ」
「…何?そんなこと言われたら余計気になるじゃない」
「いや、きっとあなたは幻聴を耳にしただけでわたくしこと上条当麻は何も言ってません」
「い・い・か・ら、言え!」

そう言って腕を抱きしめる力を強める。これに焦るのは上条だ。

「おわっ、何でそこで強くするんだ!このままじゃ色々とまずいって!」
「アンタが言ったらやめる」

この状態を放っておいたらさらに状態は悪化しかねない。上条は覚悟を決めた。

「ああ分かったよ!俺は『素直にしてたらもっと可愛いのに』って言いました!」
「…………」
「……ん?どうした?」

上条が放った言葉に美琴はそれまで以上に顔を赤らめて固まってしまった。

「おーい、大丈夫ですか〜」
「……なんでもない」
「はっ?」
「なんでもないから早く行くわよ」

これ以上尋ねたらきりがないなと思った上条は素直に言うことを聞くことにした。

「…分かったよ」

823The boy nurses the girl 15:2010/03/24(水) 21:45:30 ID:voKjtAUI
こうして常盤台の寮の近くにようやく着いた。

「ここまででいいよな」
「うん」

流石に門の目の前まで送るわけには行かないのでここで足を止める。

「それじゃ…」
「待って」

帰ろうとする上条を引き止める。急に止められたので上条は美琴の方に振り返る。

「何だ?どうかしたのか?」

美琴は深呼吸をして気を落ち着かせた。上条は何をする気なんだと首をかしげる。

「その、今日はありがとう」

その言葉に上条は今更言うほどのことでもないだろうと思った。

「それなら部屋でも言っただろ。心配することはねえよ、お節介だったかもしれねぇしな」
「それと……」
「ん?何だ?まだ何かあるのか?」
「これから…その色々とよろしく。と、当麻」

上条はそれを聞いて名前を呼ばれた照れで固まってしまった。言った方の美琴も恥ずかしさを隠せない。
全く初々しいことこの上ない二人である。

(あれ、私なんか間違ったこと言っちゃった?)

美琴は上条が固まってしまったのを見て少し自分がミスをしたのではないかと不安になる。
少しして上条は我に返った。そして周りを見渡したかと思うと美琴に近づいてきた。

(な、何!?)

いきなり近づいてきた上条にさっき少々恥ずかしいことを言ったこともあってか美琴は半ばパニック状態になっていた。
上条は十分に美琴との距離を縮めると歩みを止め口を開いた。

「……美琴」
「ひゃい!?」

美琴は急に近づいてこられた上に名前を呼ばれたことでもうまともに呂律も回らなかった。
しかしそれだけでは終わらない。上条は美琴の頭の後ろに手を回した。

「…こちらこそよろしく」
「………!!!」

上条は少し身をかがめて美琴と唇を合わせた。あまりの出来事に美琴は目を見開いていた。でも少しして目を閉じた。
本日二度目となるが慣れるわけもない。そして上条の唇が離れる。

「あ……」
「……あ〜、その……またな!」

やってみたはいいものの相当恥ずかしかったのか早足で帰っていってしまった。
美琴はしばらくの間その場所に佇んでいた。こうして長い長い一日が終わった。

824The boy nurses the girl 16:2010/03/24(水) 21:46:00 ID:voKjtAUI
「お〜ね〜え〜さ〜まぁぁぁ〜〜」

否、終わってなかった。美琴の元にシュンッという音とともに同僚白井黒子が現れた。時間が時間なので
普段寝巻きとしているネグリジェを着用している。この寒さの中相当辛いと思うのだがそんなことはお構いなしに黒子は美琴に尋ねる。

「こんな時間までどこへいってらしたの!?今朝から体調が悪いのに風紀委員の仕事で看病できないので
 黒子はとても心配していましたのよ!」

いくら尋ねても美琴はさっきの出来事のせいで返事がない。そして更に黒子が言い放つ。

「そんなことよりも、私見てしまったんですの。先程お姉様が殿方と……!あぁ〜腹立たしすぎて言えませんの!」

黒子はおそらく自分自身にとって一番ショッキングであろうことを見てしまったようだ。
黒子は寒さもあいまって小刻みに激しく震えている。今にも何かが覚醒しそうだ。

「まさかとは思いますが、あの類人猿ですの!?あんの若造がぁぁ〜〜!!」

黒子が言う類人猿、若造はもちろん上条のことである。黒子はキィィ〜とハンカチを噛んでもおかしくないほど悔しがっていた。
普通に考えると上条当麻より白井黒子の方が若造であると言うことはあえて突っ込まないでおこう。
烈火の如く怒っている黒子も流石になんのリアクションも起こさない美琴に疑問を抱いた。

「……お姉様?」

試しに美琴の目の前で手を振ってみる。何の反応もない。これを見た黒子は少し考える。

(これは…チャンス?)

黒子は少し笑みを浮かべ美琴に向かって飛び込んだ。

「……おっ、ねえさま〜〜!」
「……ふ、」

美琴が僅かに声を漏らし黒子は時間がまるで止まったかのように感じた。

「へ?」
「ふにゃ〜」

これまた二度目となる美琴の漏電が時間差で今まさに飛び込んできた黒子にクリーンヒットした。

「〜〜〜〜〜!!??」
「……ハッ、く、黒子!?ごめん」

黒子が言葉にならない悲鳴をあげその場に倒れこむ。その言葉を聞いた美琴はようやく意識を取り戻し黒子の身体をゆすった。

「大丈夫!?黒子!?」
「……………」

へんじがない ただのしかばねのようだ ▽

「死んでませんの!!」
「…?誰に言ってるの?」
「あ、いや何でもありませんの」

とりあえず少しの間気を失っていたようだが意識を取り戻した。

「本当に大丈夫?」
「大丈夫ですからお姉様は心配しなくてもよいですわよ。それより少し前の記憶がありませんの」

さっきのショックで上条と美琴についての一部始終が抜け落ちてるようだ。少し前と聞いて美琴はさっきのことを思い出し慌てる。

「た、多分何もなかったわよ、本当に!」
「お姉様がそういうのでしたら別によいのですけど……ってこんなことしてる場合ではありませんわ!お姉様、早くお部屋へ!」
「あ、うん…」

そう言って二人は空間移動で自分たちの部屋に帰った。あれだけの騒ぎで寮監が気づかなかったのも珍しい。

825The boy nurses the girl 17:2010/03/24(水) 21:46:34 ID:voKjtAUI
(慣れないことしちまったな)

自分の寮に向かいながら上条はそう考えていた。自分でも若干気障な行動だったと思う。実際に上条は
今更自分のした行動を思い出しては相当な恥ずかしさを感じていた。

(そりゃ上条さんにだってかっこつけたいときはありますよ)

そう自分に言い聞かせ誤魔化そうとしていた。それでも恥ずかしさは簡単には拭いきれない。
最終的に頭をワシャワシャと掻き毟ってうやむやにすることにした。ひとまず落ち着いたところで今日を振り返ってみる。
この日は上条にとって特別な日となった。実質人生で初めての恋を自覚した日であり初めて彼女が出来た日でもある。
思い出に関する記憶は一年にも満たなく通常の高校生とは少し違うので
上条にはどのようにするのが恋人らしいのか分からないところもあるが、不思議と心配ではない。

(別に、恋人らしく演じるのが付き合うってわけじゃない…よな?)

形だけが全てじゃない、と上条は考える。それと同時に今までと変わらずに飾らず自然に過ごしていければいいと思う。

(にしても、あいつが俺を好きだったなんて思ってもみなかったな)

それには美琴の素直になれないのと上条の鈍感さが災いしたとしか言いようが無い。
そのせいで二人の気持ちは大幅に遠回りをすることとなったのだ。しかし、一度伝わってしまえば簡単なものである。
実際に告白を受けて自分の気持ちを自覚してから上条はまるで今までスルーしてきた時間を取り戻すかのように美琴に惹かれている。
御坂美琴がとても大きな存在となった今、上条は夏休みの最後に誓ったことを思い出し再び新たな項目を加えて誓い直す。

――御坂美琴とその周りの世界を守る、そして絶対に幸せにしてやる――

その決意とも取れる誓いは寒い空の下でも確かな温度を持ってるかのように上条自身の熱い意志がこめられていた。




「ふわぁ〜」

電灯をつけたまま美琴はベッドに寝転び欠伸をしていた。あれから無事に寮監にばれずに空間移動で部屋に入り、
軽く記憶を失っている黒子からしばらく体調について色々と説教まがいのことを言われた。
終わったあと黒子は寝巻きだったのでそのまま床に就き、美琴は明日に備えすぐに寝る支度を整えた。
既に科学の最先端の集まりである学園都市も大方暗闇に包まれている。今日は色々なことがあり美琴はすっかり疲れていた。
それでもその疲れを気にさせないほどの喜びがあった。

(本当に…アイツと恋人同士になれたのよね……)

上条と歩いていたときから何回もそんなことを考えてしまう。今までが空回りなどの連続だった故に未だにどうも信じきれないようだ。

(…いやいやいや、こんなこといつまでも考えてるなんて私らしくない。ついに恋人同士になったのよ!)

そう考えウジウジした考えを断ち切る。今でも告白後の自分がとった行動を鮮明に思い出せる。
それを思い出すたびに恥ずかしくて思わず足をバタバタしてしまう。そして急にふと思い出したかと思うと持って帰ってきた
ビニール袋を取り出す。そこには自分が意地で手に入れたゲコ太ともう一つ上条から貰った別の種類のそれが入っていた。

(意外と告白する前のアイツも私のこと考えてくれてたのね)

そう思うと無性に嬉しくなってくる。この想いを伝えればこの気持ちも落ち着くだろうと思っていたが、
それどころか更に大きくなっているような気がした。美琴は上条から貰ったものを携帯につけて眺めた。
自然と口元が緩んでしまう。それを枕元に置き、電灯を消した。
これからどんなことが起こるか分からない。
不安な気持ちだってある。
それでも想いが通じ合った上条とならばどんなことでも乗り切れると思う。これからの二人の幸せな道を考えながら美琴は眠る。

(おやすみ、とうま)

fin

826花鳥風月:2010/03/24(水) 21:50:11 ID:voKjtAUI
これで終わりです。結構緊張しました。感想や指摘などがあるとありがたいです。
書き手の皆さんに影響されて勢いで書いてみたのですがやっぱ難しいです。
やっぱり書き手さんはすごいですね。これからも頑張ってください。
ここまでお付き合いくださいありがとうございます。では失礼します。

827■■■■:2010/03/24(水) 21:55:26 ID:ec1uYC8Q
>>826
GJ!
これが初めてとは恐れ入ります。
非常に読みやすく、背景・感情等々わかりやすく書かれていたと思います。
今後も宜しければ書いてくださるとすごく嬉しいですね。

828■■■■:2010/03/24(水) 22:05:46 ID:shX0qLbA
GJだぁ〜とても初めてとは思えないぜぇ

829■■■■:2010/03/24(水) 22:12:05 ID:QrGwyAIQ
>>826
は〜こりゃすごい・・・読みやすいし、場面が容易に想像できる。
危うく萌死するところだったぜー 
次回作に期待しつつGJ!させていただきます

830■■■■:2010/03/24(水) 22:13:49 ID:3hlvBzWs
>>826
GJです
イイいちゃいちゃでした、次作に期待

831■■■■:2010/03/24(水) 22:24:56 ID:oGzHTIdk
>>826
GJ!!
なかなか良い語り口です。
次作も期待。

832■■■■:2010/03/24(水) 22:41:53 ID:iz4xw2tQ
>>826
GJです!
心情が細やかで良かったです
その後の二人も読みたいですね

833■■■■:2010/03/24(水) 22:45:08 ID:Lm4DWNmY
>>826
すっごい良かったです。

あと、他の職人様もいつもありがとうございます。
いやなことがあっても、このスレに来ると癒されます・・・

834■■■■:2010/03/24(水) 23:01:06 ID:lU2ZoJyk
>>826
非常に読みやすいSSでした。
状況描写もわかりやすく二人の揺れる心理描写もしっとり伝わってきていい感じです。
当麻の心理展開はすごく参考になりました。そっかー、自分ももうちょっと表現工夫しよう。
んにしても初めて書いた話でこれ、ですか…。自分の書いたのよりよっぽどおもしろくて嫉妬します正直w
また他の作品を書かれるのを楽しみにしています。

835花鳥風月:2010/03/24(水) 23:14:43 ID:voKjtAUI
まさかここまで反応をもらえるとは思ってませんでした。
皆様の感想を聞くと書いて良かったなと思います。ありがとうございます。

>>827>>829>>830>>831
コテハンも作ったので他に思いついたら書こうと思うのですが、
まだ学生で長く考えて何回も直すタイプなので次がどのくらいになるか
分かりません。それでも頑張ろうと思います。

>>832
その後の二人については気が向いたら書くかもしれませんが
まだ予定していません。

>>834
自分のを参考にして頂けるなんて恐縮です。
こんな自分でも少しでも力になれればと思います。

836■■■■:2010/03/24(水) 23:33:03 ID:g2ZIZ3TQ
すっばらしい!なんという作品!

837■■■■:2010/03/25(木) 00:40:25 ID:u3CSNofs
GJです〜
初めてとは思えない作品でした。
次の作品を楽しみに待ってますね♪

838■■■■:2010/03/25(木) 00:44:32 ID:pTVxhoXw
>>826
初めて…だと?…

839どるがば ◆KlUXhbo4RM:2010/03/25(木) 01:23:34 ID:STK2/8CM
>>826
私なんかよりも全然レベル高いじゃないですか!
GJ!
素晴らしい作品の後に投下するのはとても気が重いのですが
「とある乙女の恋事情」『看病編』>>494-497の続編になります
『私とアイツと時々・・・』を投下します。
8スレ消費します。
あまりタイトルにはネタバレ要素を少なくしたいためこのような感じになってます。
今回は直接のいちゃいちゃが少ないです。
次に繋げるための作品になります。
では特に問題が無ければすぐに投下します。

840私とアイツと時々・・・1:2010/03/25(木) 01:24:23 ID:STK2/8CM
今、美琴と美鈴はとあるファミレスに来ている。
ここで昼食も取り終え美琴はレモンティー、美鈴はコーヒーを飲んで口直ししているといったところだ。
一見姉妹に見えても可笑しくない御坂母娘は何故こんなところで食事を取っているのか?しかもここは学園都市内である。
それは昨日、つまり上条に寮まで見送ってもらった後まで遡る。

美琴は高鳴る胸をギュッと押さえながら寮の玄関をくぐる。
門限までまだ時間があるので寮監の姿はまだ見えない。
ある意味ありがたいかも知れない、今の美琴の顔は赤く染まって息が荒い。
その姿だけ見たらまるで風邪でも引いているかのようである。
実際ついさっきまで風邪を引いていたようなものだからあながち外れではないが。
208号室、美琴兼白井黒子の部屋の前に来て深呼吸をして心を落ち着かせる。
同居人である白井の姿は無かった。
(そういえば今日は一端覧祭の準備で遅くなるとか言ってたわね・・・)
午前中にそう言われたことをふと思い出した。
そう分かると自然に安堵した。
そうしてベッドにダイブする。
制服のままであるが今はそんなこと全然気にならない。
数時間前にあった出来事は美琴にとってとても重大な出来事であったから、
一生一度の初恋が叶ったのだから・・・
結論、彼女は枕をこれでもか!とばかりに抱きしめている。
そして周りから見たら正直病気でなかろうか?と疑問に思っても可笑しくないくらいに悶えている。

(・・・アイツ私のこと好きって言ってくれた、夢じゃないよね?)
自分の頬を軽く抓り夢で無いと確認してまた枕を抱きしめる。
これを幾度と繰り返す、普段白井といる時とは打って変わって乙女に変わる美琴であった。
それから枕にも飽きてきて愛しの彼に電話でもしようかと携帯を取り出す。
履歴には『母』という表示がある。
今日そういえば電話かかってきたっけ、と用件を聞けずにいたことを思い出した。

841私とアイツと時々・・・2:2010/03/25(木) 01:24:57 ID:STK2/8CM
用件が無ければ電話なんてかけないだろうしあっちも忘れているのだろうと推測し履歴から母こと美鈴にかける。
思ったより美鈴は早く出た。
『もしもしー、美琴ちゃん?』
「さっきのことなんだけど、何か用があったんじゃないの?」
あぁー、という適当な声が聞こえてくる。
『そうだった〜、美琴ちゃんが早くも大人になってたことに驚いちゃって忘れてた』
テヘっ☆とか聞こえる。周りから見たら若いかもしれないけど美琴からしてみたら正直歳を考えて欲しいと懇願したいのである。
「な、何よ大人になるとか、それよりも用はなんなのよ!」
美琴は話がまたズレそうだったので軌道修正する。
『ごめんごめん、いや明日ね大学の講習が学園都市であるのよ。それで午前中で終わるから一緒にお昼でもどうかな〜?って
美琴ちゃんも今午前授業だって言ってたから』
でも、と小悪魔的な嫌らしい声で美鈴は話しを続ける。
『上条くんとのラヴラヴライフが待っているのに私がお邪魔できないモンね〜、今日は二人の愛の巣を邪魔しちゃったみたいだしー』
ぶはッと不覚にも吹いてしまった。今はそういうことを聞くだけで妄想してしまい、ふにゃふにゃになりかねないため
強気で美鈴にぶつかる。
「なななんあ、ゴホっ、な、何を言ってんのよ!わた、っわ、私がアイツと・・ら、らぶらヴ・・」
作戦は失敗に終わり、顔から火が出るとはまさにこういうことを言うのではないだろうか?
美琴は顔を真っ赤にして、ぷしゅーっという音まで上げている。
『もぉー、美琴ちゃんってお・ま・せ・さん♪』
「そ、そんなんじゃないっ!いいわよ、明日のお昼一緒に食べましょ!時間と場所はこっちで決めるから
詳しいことはメールで送るから、じゃーねっ!」
あぁん、とエロい声を上げる美鈴を無視して通話を切る。
(明日はアイツと一緒に買い物でもしたかったのにぃー)
美琴の心の声も虚しく天まで届かなかった・・・。
でもこれからは追いかけなくても、上条を捕まえられることが何より嬉しかった。
他の誰のでもない、美琴だけの彼を。

842私とアイツと時々・・・3:2010/03/25(木) 01:25:30 ID:STK2/8CM
時間は現在に戻りファミレス、昨日約束したとおり昼食を二人で取ったのだった。
美鈴の大学の愚痴やら、美琴の愚痴やら何とも姉妹の会話にも思えなくない感じだった。
「ところでどうなのよん、彼とは?」
はぁー、と溜め息を付く美琴いつもなら恥ずかしがるところだが実はこの話題はもう三回目さすがの美琴も慣れた。
「だから彼じゃないってさっきから何回言わせんのよ」
昨日めでたく付き合うことになったので、これは嘘である。
「うそだー、だって上条くん料理してったっぽいし〜梅干どうのこうの言ってたし〜」
「あ、あれはアイツが余ったコンビニのおにぎり渡してきただけで・・・その、何ていうか・・
べ、別に私に料理してた訳じゃないんだからっ」
これも嘘である、美鈴は分かってますといわんばかりに腕を組んで大きく頷いている。
「ふぅん。じゃ本人に確認とってみようかな〜」
ここは窓際の席なので外の様子は丸分かりである。
美鈴はガラス窓を指差す、その先には!?
「な、なんで?」
アイツこと上条当麻がいる。何やら誰かととても楽しそうに電話している。
「あら、誰かと電話しているみたいね。他の女の子かもよ〜?」
美鈴は顔は上条の方に向いていて横目で美琴を実に楽しそうに眺めている。
美琴は上条のことに夢中で見られていることに気づいてはいない。
「あ、アイツが他の女の子と・・?そんなこと、そんなこと・・」
ついに心の声が外に駄々漏れしている。
(やっぱ美琴ちゃんは上条くんに夢中か、素直じゃないんだから)
美鈴はフフッと微笑む。

そして上条は電話で誰かと待ち合わせていたのか、少し離れたところにいるらしい通話相手に手を振っている。
(誰なんだろ?アイツやっぱり女の子となのかな)
そうあって欲しくない、そうでないと信じたい。
でもいつだって願ったことは裏切ってくる。
その相手は

843私とアイツと時々・・・4:2010/03/25(木) 01:25:56 ID:STK2/8CM
上条の待ち合わせの相手らしき電話片手に走ってきた人は、長い黒髪で白梅の花の形をした髪飾りをつけている
明るそうなとても可愛らしい女の子であった。
そして美琴の良く知る女の子であった。
「佐天さん・・?」
「美琴ちゃん知り合いなの?」
「・・・うん、友達なんだ、けど」
(うぁー美琴ちゃんの凹みっぷりが半端じゃないわね・・・。まさかここまでとは)
美鈴も予想外の美琴の上条に対する想いの一片を見て少し驚く。
(美琴ちゃんをここまで虜にするなんて上条くんやるわねっ)
だが美琴はそれどころではないのである。
それもそのはず既に想い通じあった二人であるのに上条は他の女の子といるのだ。
(何でアイツは佐天さんと・・。分け隔てなく誰とでも付き合うからって)
そう考えたとき美琴の頭の中で『分け隔てなく誰とでも付き合う』というところに引っかかった。
そうなると上条は美琴に対する愛情を他の誰かにも同じ愛情を注ぐのでは?
そんな考えが心を占める。
何度も考えているうちに二人は楽しそうに話しながらファミレスに向かってきている。
立ち話もなんだから、みたいなシチュエーションから来るものだろうと美琴は考えなくてもわかる答えを出した。

しかし今はそれよりも二人がこの場所へ入ってくることだ、何とも気まずいし上条が他の女の子と付き合っているところなんて見たくも無かった。
だけど真相も聞きたい、そういうのがぐるぐる回って結局動けずにいた。
心の準備もできないまま上条と佐天は入ってきた。
佐天はすぐに美琴の存在に気づく。
「あれっ、御坂さんじゃないですかー!」
「御坂?おう御坂じゃん!」
二人は嬉しそうに美琴に近づく。
「ってか上条さんは御坂さんのお知り合いなんですか?」
「俺も佐天さんが知り合いのことに驚いた」
そんな楽しそうな二人を見て美琴は下唇を噛みぐっと堪えつつ問う。

844私とアイツと時々・・・5:2010/03/25(木) 01:26:28 ID:STK2/8CM
「なんでアンタは佐天さんと一緒にいるの?」
少し寂しそうな顔をする美琴を見て上条は美琴が大体思っていることを理解したのか
小さく微笑んで答える。
「佐天さんに俺の財布を拾ってもらったんだよ。交番にいたらちょうど佐天さんが俺の財布を持って来てくれて
それで着替えた後お礼がしたいからここのファミレスに来たって訳」
「あたしは最初断ったんですけどね」
「今月の食費が入ってたから本当に助かったよ。もう少しで上条さんの家計は火の車でしたっ!」
上条はそういって土下座しながら佐天に感謝している。
佐天はそこまでしなくてもっ!とちょっと焦りながら止めてくださいと言っている。
「そうだったんだ・・・」
「あれぇ、美琴ちゃんなんで安心しているのかなぁ??」
「あ、安心なんてしてないわよ!」
とそこで美鈴の存在に気づいたのか佐天が
「あのー、そちらの方は御坂さんのお姉さんですか?」
素通の人が見たらそう思っても可笑しくないだろう、逆にそれが普通。
「お姉さんだってー、うれしーな。私は美琴ちゃんのママでーす」
「えぇー!!お母さんですか?若い過ぎますよっ、あたしのお母さんと大違いなんですけど・・・」
そこで上条は
「まぁ誰もは最初はそう信じたいよな」
うんうん、と頷いている。
「立たせたままで悪いから、上条くん達もここに座っちゃって」
美琴達が座っているのは4人掛けの席である。

美琴の隣に上条、美鈴の隣に佐天という形で座った。
上条はコーヒー、佐天はオレンジジュースを注文した。

「ところで御坂はなんで佐天さんと友達になったんだ?」
「それは黒子が風紀委員の友達の初春さんって子が佐天さんと友達で、佐天さんも私もよく風紀委員の部署に
遊びにいったりしてたからそれでみんな友達になったってこと」
「そうなんですよ〜、でもあたしが一番気になるのは御坂さんと上条さんの関係なんですけどっ!
お二人は恋人同士だったりするんですか!?」
興味津々というオーラが身体全体から出ている佐天、満面の笑みでテーブルに身を乗り出して聞かせて下さい!と懇願している。
「あぁ〜、それはきの---」
そこまで言いかけて美琴が上条の口を塞いだ。

845私とアイツと時々・・・6:2010/03/25(木) 01:27:01 ID:STK2/8CM
上条にしか聞こえない声で
「お願いっ、昨日のことは黙ってて。私も言いたいけど、今はまだ心の準備ができてないっていうか・・・」
少し俯く美琴を見て美琴の手を掴んで自分の口から離しこれも美琴にしか聞こえない声で
「わかった。今はまだ、な」
美琴は小さく頷く。
佐天はそれを見て二人が普通の関係でないことを悟る。
(やっぱり。なんかあるよねコレ)
「で?どうなんですか。上条さん」
そこで待ちに待った答えが
「友達だよ。俺らも」
「そ、そうよ。ただの友達」
上条はなんら変わりないが美琴の顔は明らかに引きつっている。
これを見逃す美鈴ではない。
「美琴ちゃんそれは本当の気持ちなのかな?ただの友達ってことは例えば佐天さんと上条くんが付き合っても良いっていうのかしらん?」
不敵な笑みで美琴の弱点を攻める。
「ぇぇええっっ?!?」
美鈴の攻撃は一撃必殺だった。
美琴はそこで意識が途絶える。
倒れる美琴を上条が何とか支える。
「あらら、気絶しちゃったか」
「御坂さん!大丈夫ですか?」
流石の美鈴も驚いているようだ。
「美琴ちゃんはホントに素直じゃないのね〜」
「ってことはやっぱり御坂さんと上条さんは・・?」
「そこら辺はどうなの?上条くん」
そこで少し言うべきか考えたがこの人は全てお見通しだろうと思い素直に言うことにした。
「・・・はい、実は俺コイツと付き合ってます」
「やっぱりね〜、今日の様子でなんとなく分かってたわ」
「えっ!?本当に付き合ってたんですか?」
佐天はまさかその通りだとは思いもせず普通に驚く。

846私とアイツと時々・・・7:2010/03/25(木) 01:27:34 ID:STK2/8CM
「で、それはいつからなのかしら?」
「昨日御坂、いや美琴が熱を出して街中で倒れたので俺の部屋で看病して、その後色々話していたら俺も美琴も
お互いのことを想っていることに気づいてって感じです」
「倒れた美琴ちゃんをお持ち帰りとは、やるわねっ上条くん!流石の美鈴さんもその話を聞いて仰天の一言だわ」
「お、お持ち帰りっ!?ちゃんと門限前に美琴の寮に送っていきましたよ!」
ふふふっと美鈴は笑って
「冗談よ、上条くんは美琴ちゃんが気を許した男の子だもんねー。そんなことしないのは分かっているわよん♪」
「からかわないで下さいよ」
佐天は脇で
(御坂さんは既にそんなところまで行ってたなんて、中学一年と二年ではこんなにも大人の階段が上がるのか。
ってことはあたしも二年になったら誰かと・・?)
などと思い美琴のことを改めて先輩であると自覚する。

「そういえばどうして俺達が付き合っていることが分かったんですか?」
と上条が聞くと、美鈴は何でそんな分かりきったことを聞くのかというような顔で
「美琴ちゃんが上条くんと佐天さんが一緒にいるのを見ていた時。いつもだったらイライラするはずなのに今日は何か裏切られたみたいな顔をしてたのよ。
それでこれは二人に何か大きな変化があったな、って思ったわけよ」
「・・・ははっ、凄いっすね・・」
上条は美鈴の観察眼に驚きを隠せない反面、自分はこのスキルは一生つかないだろうなと冷静に思った。
そして美鈴はふっと席を立つ。
「じゃあ私はこれで失礼するわね」
「えっもう行くんですか?」
「今日午後四時までしかここにいられないのよ」
気づくと今は午後の三時になるところだ。
「じゃ、上条くん佐天さんまたね。美琴ちゃんをよろしくねん、特に上条くん美琴ちゃんを泣かせないでよー」
「わかってます。俺もコイツの泣き顔は見たくないです」
「でも基本的に私は上条くん達を応援しているから」
そう言って美鈴はファミレスを後にした。
そしていつのまにか支払いも済ませてあった。
(美鈴さん大人だなぁ、借りもできちゃったし今度返さなきゃだな)
支払いのことを気にするだけで上条も大人っぽいのだが特に自覚はない。

847私とアイツと時々・・・8:2010/03/25(木) 01:28:04 ID:STK2/8CM
上条は向かい合った佐天がいきなり携帯を取り出し此方に向けているのに気づく。
「・・・あのー佐天サン、何をしているんでせうか?」
「未だに信じられないので写真取らせてくださいっ」
今、美琴は寝ている(気絶による)。上条の肩に寄り添って。
これは第三者から見たらどう考えても彼氏彼女の中としか見えない。
そんな中この状態で写真を取られたら一溜まりも無いだろう。
身動きが取れないのでほぼされるがままだが一応抵抗してみる
「それは俺は別にいいけど、コイツがなんていうか・・・」
「いいじゃないですかー。じゃああたしが言いふらすのと、ここで写真取られるのどっちがいいですか?
ちなみに写真取った場合は誰にも見せませんし言いませんよ」
上条は少し考えたが
「言わないんだったら写真くらい良いか。佐天さん一思いにやってくれっ!」
「では心置きなく行きますよー」
パシャッと携帯カメラがデフォルトのシャッター音を放った。
「おおっ!綺麗に写ってますよ」
「どれどれー?おっいいじゃん!佐天さん俺にも送ってくれ」
どうぞー、と言って赤外線で送信した。
上条は特に美琴との関係を隠したいようでも無かった。
むしろ本人としては見られても全然いいと思っている、不幸にならなければ。

その後美琴が起きた後三人はそれぞれの帰路についた。
ちなみに美琴が寝ている間の出来事全ては何も言っていない。
言ったらまた気絶してしまうところだっただろう。
上条はそれも見据えて敢えて言わなかった。

848どるがば ◆KlUXhbo4RM:2010/03/25(木) 01:31:23 ID:STK2/8CM
以上になります。
次回は色々と動き出す作品になると思います。
他の職人さん達のレベルの高さに正直私のようなものが書いても需要が無いかもしれませんが
お付き合い頂けたら幸いです。

では続編もよろしくお願いします。
失礼しました。

849■■■■:2010/03/25(木) 01:37:17 ID:Z.y8ZPfo
>>848
GJです!気絶しちゃう美琴がとても可愛かったです。
続きを楽しみにしてます。

850■■■■:2010/03/25(木) 01:57:08 ID:5I8vvDG6
>>848
GJ!美琴がかわいすぎる。
中々、大人な上条さんも良かったです。

最近続編物が多くてすごく待ち遠しい。
週間雑誌の次号が気になる、そんな感じですかねー。

851かぺら:2010/03/25(木) 03:00:08 ID:YXc.B6gA
2日ぶりに来てみたらすっごい投下されててビックリしました。
続きを投下しようかと思ったんですけど、大丈夫ですか?
こんな時間には誰もいないですかね?

とりあえず、ログ読んできます。

852かぺら:2010/03/25(木) 03:49:50 ID:YXc.B6gA
投下しますよー
Dairy Lifeの続き行きます。
前回、『前夜祭(クリスマスイヴ)』は>>568-573>>641-646>>681-686です。
3:53より7レスかります

853友達の輪(ファミリー)1:2010/03/25(木) 03:53:59 ID:YXc.B6gA
インデックスの乱入もといモーニングコールにより、慌ただしい朝が始まった。
「まったくとうまは。気を利かせて一晩帰らなかったらこれなんだよ」
「上条さんが悪いんですかね?」
インデックスはぷんぷんと頬を膨らませながらお茶を飲んでいる。
上条は朝ごはんの準備としてキッチンで仕事をしており、美琴はインデックスの横で未だにぽーっとしていた。
「みこともみことなんだよ。とうまと仲良くするのはいいけど、私の前であれはあんまりかも」
「っ!?わたた私も、そんなつもりはなかったって言うか、事故って言うか……」
「いいわけするんだね?」
「ごめんなさい」
美琴が諦めたように頭を下げるのを見て、インデックスは溜息をつく。
「で、とうま。今日はどうする予定なの?」
「どうって、飯食ったら空港行ってお前ら見送るんじゃねぇか」
上条はテキパキと手を動かして卵焼きを焼いている。
「その後なんだよ。みこととデートするんじゃないの?」
「デート、っつってもなんも考えてねぇ」
「ノープランなんだね」
昨日の夜に決まったところだからな、と上条は言いながら味噌汁を注いでいる。
「美琴、どっか行きたいところとかあるか?」
「んな、私にふるの?そこは男がエスコートするもんでしょうが」
美琴はビリビリと頭の周りに飛ばしながら叫ぶ。顔を赤くしていたり上条にも分かるくらいに照れていた。
「行きたいところっつてもなぁ……思いつかんのですよ」
「アンタが……ど………いっん」
「はぁ?そんな小せぇ声じゃ聞こえねぇよ」
「アンタが……当麻が行きたい所なら、どこでも、いい」
美琴は上条に背を向けると、ぶつぶつと何かを呟いてる。隣にいるインデックスは勝手にしてくれとでも言いたげな顔だ。
「………んー。と言われましても、上条さんは寧ろ家でゆっくりしていたいと言いますか何と言いますか…」
上条が卵焼きの乗った皿を運んで行くと、美琴は肩を落としてブルーになっており、インデックスはその肩をぽんぽんと叩いている。
「あれ、美琴?インデックス?どうした?」
どうしてそんなにブルーなんですか、と上条が言うと2人は大きく溜息をつく。インデックスにいたってはやれやれと首をふっている。
「これからも苦労しそうだね、みこと」
「私、選ぶ相手間違ったかな………」
「悩みができたらいつでもで連絡していいから」
「ありがとう、インデックス」
2人はひしっと抱き合う。上条はガラステーブルに朝ごはんを用意して固まっていた。
「お前ら、本当に仲良くなったよな。つか、そもそもどうやって仲良くなったんだよ?」
「ん?それは、ね」
そう言うと、インデックスはぽつぽつと語り始めた。

854友達の輪(ファミリー)2:2010/03/25(木) 03:54:14 ID:YXc.B6gA
2人の馴れ初めは、美琴が上条宅に通う事になった2回目の月曜日である。
女同士で話があると言って上条を部屋から追い出し、ガラステーブルで向き合って話し合ったのだったのだ。
「ねぇ、短髪。短髪ととうまはどういう関係なの?」
「それはコッチのセリフよ。アンタこそあの馬鹿とどういう関係なのよ?」
「私はとうまに助けてもらって、それからここで住ませてもらってるんだよ」
「なんだ、アンタも助けてもらったってやつか」
美琴は上条の相変わらずの部分に呆れて肩をすくめる。美琴の言葉にインデックスも察したようで同じような顔をしていた。
「そういう短髪もとうまに助けてもらった人?」
「そうなるわね。頼んでもないのに首を突っ込んできて一方的に助けてもらった感じかな」
「むぅ。やっぱりとうまはとうまなんだね」
「そ、アイツは誰にでもあんな奴なのよ」
2人はさっき外に追い出した上条の性格を思い出し、もう一度溜息をつく。全く同じタイミングに出た溜息に2人は見つめあう。
「ぷっ、はははっ……アンタも大変よね」
「あはははっ……短髪も苦労してるんだね」
あの馬鹿のせいよね、と言いながら2人は笑いあう。同じ苦労を知る者として通じる部分があったのだろう。
「で、さ……1つ聞いてもいい?」
「なにかな、短髪」
「アンタも、その………なんていうかな……」
美琴は目線を合わせないまでも、チラチラとインデックスを見る。
「短髪、言いたいことはハッキリ言わないと分からないんだよ」
「そうね………」
美琴は大きく深呼吸をすると、両頬を手で叩く。
「アンタも、アイツの事、好きなの?」
「………うん」
「そっか………」
「短髪も?」
「………うん」
最初のトゲトゲした空気から一転、恋する乙女2人によるむず痒い空気が部屋に広がっていた。
「私たちは、ライバルってやつなんだね」
「そうね、恋敵ともいうわね」
「負けないんだよ」
「もちろん。私だってそう簡単に譲るつもりはないわ」
インデックスは小さな両手をぐっと握りしめ、美琴は両腕を組むとふんっと鼻を鳴らす。
「じゃぁ、仲良くしないとだね」
「はぁ?」
インデックスは右手をスッと出すと美琴を見る。握手を求めているようだ。
「……ライバルじゃないの?」
「ライバルは友達になるもんなんだよ」
インデックスは可愛らしく笑うと、無理矢理に美琴の手を取って握手をする。
「アンタに教えられるとはね。私もまだまだだわ……………でも、友達でも容赦はしないわよ?」
「望むところなんだよ。恨みっこはなしだからね」
美琴はインデックスの手を握り返すと、目の前で微笑むシスターに笑い返す。
「じゃぁ、まずは名前で呼んでよ。短髪じゃなくてさ………美琴、って」
「わかったよ、みこと。私の事もインデックスって呼ぶんだよ」
「んっ、よろしくね、インデックス!」
「こちらこそなんだよ」

855友達の輪(ファミリー)3:2010/03/25(木) 03:54:28 ID:YXc.B6gA

「なるほど、そんなことがあったんですね」
「結局、私は負けちゃったけどね。だから、とうま、みことを泣かせたら許さないんだよ」
「はいはい、わかってますよー。上条さんは、すでに1万人近くと同じ約束してます」
3人は上条の用意した朝食を食べ終えて空港に向かう準備をしている。インデックスの持ち物はあまりないため、それほどバタバタすることもない。
「みこと、元気ないね。どうしたの?」
「んー、アンタと仲良くなれてあんまり経ってないのにもうお別れか、と思ってさ」
「むむむ。そう言われるとなんか急に寂しくなってきたんだよ」
インデックスは荷造りの手を休めてぺたんと座りこむ。
「このベランダでとうまと出会ってから……まだ半年くらいなんだよね」
色んな事があったからもっと長く感じるんだよ、と振り返る。本当に色んなことがありすぎた。
「毎回毎回、とうまは無茶するし、私を頼ってくれないし。心配もいっぱいしたんだよ!」
「それに関しては言い訳のしようもねぇ……」
インデックスに睨まれ、上条は頭を掻く。美琴はそんな2人を見ると微笑ましいような、羨ましいような不思議な気分になった。
「ほんと、アンタら仲いいわね。ちょっと妬けるわ」
「むー。それは私へのあてつけかもしれないんだよ」
インデックスは頬を膨らませながら美琴の背中をぽかぽかと叩く。
「ごめんごめんっ、そんなつもりじゃないって」
いたいいたい。もんどうむようなんだよ。と仲良し姉妹のようにじゃれあう2人を見て、上条は頬を緩ませた。
「なんかさ、俺は家族で過ごした記憶ってのが無いわけだけど……」
上条は呟く。『竜王の殺息』によって失った、家族との記憶。それは上条にとって想像すらできない。
「こんな感じなんかな、って思うんだよな。お前らを見てると仲良しの妹2人を見る兄貴みたいな気分だ」
微笑ましいものを見る目をしている上条に、じゃれあっていた2人は白い目を送る。
「な、なんだよ、その目は」
「………アンタが兄貴ってのもなんだわね」
「ちょっと頼りないかも」
「あ、あんまりだ………」
上条はずーんと肩を落とし、いじいじと床にのの字を書く。
―――ちょっと良い事言ったつもりだったのに………不幸だ―――
「ねぇ、とうま。私にも家族っていうのがどんなのか分からないけどね」
インデックスは上条の隣まで来ると、ちょこんと座る。
「それでも、とうまのことは家族だと思ってるよ。お兄ちゃんとは呼べないけどね」
インデックスは悪戯っぽく舌を出すと、荷造りに戻っていった。
「じゃぁ、私とも家族になるわね。インデックス」
美琴は頬を染めつつ、荷造りをするインデックスの背に呼び掛ける。インデックスは『友達じゃなくて?』とかいた顔だけ美琴に向ける。
「そそそ、そりゃ、あれよ………わたっ、私と、当麻が……けけ結婚すればそう、なるでしょうよ」
「…………」
「…………」
顔を真っ赤にしている美琴を、2人の無表情な視線が突き刺さる。美琴の顔はその間もどんどんと赤くなっていく。
「み、美琴?今のはプロポーズでせうか?」
「こんなに惚気るなんて、とうまよりもみことの方が厄介かもしれないんだよ」
「だぁぁぁぁっ!!今のは忘れなさい!!」
顔を真っ赤にした美琴が帯電を始める。上条はその頭に右手を置き、インデックスに荷造りが済んだことを確認する。
「あとはスフィンクスを持つだけだよ」
「じゃぁ、そろそろ行きますか。美琴、ビリビリしてねぇでキャリーバック持ってくれ。」
上条は腰を上げると、インデックスの荷物を持ち玄関に向かう。顔を赤くしたままの美琴が持っているネコ用キャリーバックの主であるスフィンクスはインデックスの手の中だ。
「ここに来るのも最後かな?」
「何言ってんだ、いつでも遊びに帰ってこい」
「そうよ。私もアンタと一緒に遊んでみたいしね」
「うん。ありがとう、とうま、みこと」
3人は玄関を出ると仲良く空港に向かう。本当の家族のように。

856友達の輪(ファミリー)4:2010/03/25(木) 03:54:43 ID:YXc.B6gA
第23学区。学園都市の空港がある学区だ。
上条たちはその空港で出発時間まで待っているところだ。
「搭乗手続きも終わったし、あとはのんびり待ってるだけだな」
「そうねー、アンタ、他の人には挨拶しなくていいの?」
飛行機の見える待合室の椅子に上条と美琴は隣り合って座っている。インデックスは神裂らとお土産を物色中だ。
「挨拶って言ってもな……ずっと一緒だったインデックスは別として、他の奴らは有事でしかあってねぇし」
「ふーん。アンタのことだから仲の良い女の子だらけかと思ってたけど」
「上条さんをどんな人間だと思ってるんですか?」
「別に、なんでもないわ」
美琴は上条の鈍感さに呆れ、なんとなく目線を背ける。いつか見た二重まぶたの少女がこっちを見ている。
「ねぇ、当麻。あの子、ほっといていいの?」
「あん?…………五和か、どうしたんだろ」
こっちきたらいいのに、と呟く上条に、美琴はもう何度目かわからない溜息をつく。
―――この鈍感さは、もはや罪ね。苦労しそうだわ―――
美琴はもう1度こっちを窺っている少女に目を向ける。ちらちらと上条と美琴に向けている顔には色んな感情が見て取れた。
美琴は上条の手を取って立たせると、キョトンとしている上条の背中をパシンと叩く。
「いってぇな、いきなりなんだってんだよ?」
「行ってあげなさい」
「で、でもよ……お前を置いてくわけは……」
「いいから。行って、話を聞いてあげなさい」
上条はしぶしぶとした顔で五和の方へと歩いて行く。美琴はもう一度溜息をついた。
―――なんで私がフォローしなきゃいけないのよ―――
美琴は上条が自分を気にしてくれていた事に喜びながら、何かを話している2人を見る。
頬を染めながら何かを話している少女。その目は明らかに恋する乙女のそれだ。
五和は傍から見ても一発で分かるような初心な反応を示しているのに、上条は気にする様子もない。
美琴が頬杖をつきながら見ていると、走り回っていた子供が上条にぶつかった。子供は特に気にする様子もなく走り去ったが、問題はぶつかられた上条である。
上条の顔が五和の特大オレンジに突っ込んでいた。いつかも見たような光景だ。
―――あの、馬鹿っ―――
自分でも帯電しているのがわかる。雷撃の槍をぶっ放しそうになるのを必死に堪える。近くにいた人がびっくりしていた。
慌てて離れて謝り倒す上条に、顔を真っ赤にした五和はぶんぶんと首を振っていた。
―――あーあ、あんなに鼻の下を伸ばして……やっぱり大きい方がいいのかしら―――
美琴は自分の胸を見てボリュームの少なさに落胆する。
―――ちょっと癪だけど、聞いてみようかしら―――
自分の母のプロポーションを思い出し、相談してみようかと考える。
そんなことをすれば『そんなの上条くんに揉んでもらえばいいのよ。美琴ちゃんがお願いすれば聞いてくれるって』とか言うに決まっている。
―――まぁ、私としては……別にアイツに揉まれるのは……って何考えてんのよ―――
美琴は妄想で顔を真っ赤にした。実はそんな事件は今日中に起こりうるんじゃないか、とかも思っていたりする。
因みに、この胸のコンプレックスを解消しようと、美琴は色々と努力を積んでいる。
某風紀委員の先輩の飲んでいる牛乳も飲んでみたし、某警備員みたいに肉まんを沢山食べてみたりもした。
半年前と比べたら少しは大きくなった気もしたが、その分体重も増えた。減量を試みると真っ先に胸が犠牲になったりもした。
自分で胸を触ってみる。オレンジみたいな大きさのは触ったことが無いが、自分のみたいに可愛らしい感触ではないだろう。
―――あいつも大きいのがいいのかな―――
ほぅ、と溜息をつく。そういえば、上条の周りには胸の大きい人が多い気がする。
「お前、なにやってんだ?」
「にょわああああああああぁぁっ!?」
いつの間にか上条が隣に戻ってきていた。美琴は驚きのあまり、さっき我慢した雷撃を打ちこむ。もちろん打ち消されてしまうのだが。
「アアアアアアアアアアンタ、いつのまにぃぃぃ!?」
「いや、戻ってきたら美琴が自分の胸見て溜息ついてたとこで戻ってきたんだけど……見られたらまずい事でもしてたのか?」
目を丸くしたまま困り顔の上条は美琴の隣に座る。美琴は『うわぁぁぁ』とか言いながら頭を抱えている。
そんな様子を見て、上条は首を傾げるしかできなかった。

857友達の輪(ファミリー)5:2010/03/25(木) 03:56:06 ID:YXc.B6gA
「あー、美琴さん?大丈夫でせうか?」
「…………」
「美琴さん?」
美琴は頭を抱えたまま固まっている。上条はどうしたもんか、腕を組んで悩む。
「………………ねぇ、当麻。1つ、聞いていい?」
「なんだよ?」
「当麻は、胸が大きい方が好き?」
上条はぶぅっ、と吹き出し一気に顔を赤くする。お茶を飲んでいなくて良かった、と上条は思った。
「んなっ、いきなりなんだ?どっから沸いた疑問だ、そりゃ?」
「…………」
美琴は答えない。答えられない、と言った方が正しいのか、きゅっと口を閉めて上条を見ている。
「………美琴?」
「……………」
何も答えない美琴の両頬に手をやり、上条はむにぃと引っ張る。
「っ!?にゃにふんにょよ」
「くっだらねぇ事で悩んでんじゃねぇよ」
上条は両手を離すと、今度は右手で美琴の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「俺は御坂美琴が大好きだって言ったじゃねぇか。それじゃダメなんかよ?」
「………」
「そりゃ、あれですよ。上条さんも年頃の男の子ですから女の子のそういう部分に興味が無いわけではないです。むしろアリアリですけどね」
「………」
「でも、そんなもん全部無視して、俺は美琴が好きなんだよ。むしろ、美琴の胸が好きっ!?」
全てを言いきる前に、美琴の拳が上条の胸に突き刺さる。上条はいってぇと言いながら微笑んでいた。
「元気でたかよ?」
「………ばか」
美琴は頭を撫でられながら、どこか満足そうに微笑み返す。
上条はそんな美琴から手を離すと腕を組んでニヤニヤとした顔で美琴を見る。
「ったく、美琴せんせーもそんなこと気にするんですねぇ」
上条の手が離れて少し名残惜しそうな美琴はほんのりと涙を浮かべている。ぷぅと膨れている表情も可愛くて仕方がない。
「アンタが悪いのよ」
「俺が?」
「アンタがあの子の胸に飛び込んでニヤニヤしてるから悪いんでしょーがっ!!」
ビリビリィ、と至近距離で電撃を飛ばされ、上条は慌てて右手をかざす。
「いきなりはやめてくれ、ほんと。間に合わなかったら痺れるんですよ?」
「ふんっ、アンタの行い次第ね。で、さっきの話はなんだったのよ?」
美琴はプイと顔を背ける。相変わらず素直になれない美琴であるが、実のところ上条が五和と何を話していたのか気になって仕方なかったのだ。
「別に大した話はしてねぇよ」
「嘘ね。どうせまた告白でもされたんでしょ?」
「な、なんでわかったでせうか?」
上条は『なんだってぇぇっ』くらいに大げさに驚く。
―――ほんと、なんでここまで鈍感なのかしら。見てたら誰でもわかるでしょ―――
ネタでやってるんじゃないかと思うくらいの鈍感さに呆れを通り越して物も言えない。
「で、なんて答えたのよ?」
「言わなきゃいけませんか?」
美琴は何も言わずにじっと睨みつける。上条は暫く悩んだ後、諦めたように口を開く。
「まず初めに『あの人とはどのような関係ですか?』って聞かれてな。恋人だ、って答えた」
「うん」
「で、『それでも私があなたを好きなのは変わりません』って言われちまってよ」
「そんで鼻の下伸ばしてたの?」
「馬鹿野郎、んなわけねぇだろ。気持ちは嬉しいけど、俺は美琴のことしか想えねぇって言ったよ、ハッキリな」
上条は顔を背ける。珍しく耳まで赤くなっている。
―――本人前にして言う様なセリフじゃねぇぞ―――
本人を前にしなくても十二分に恥ずかしいセリフなのだが、美琴中毒気味の上条は気付きもしない。
「ふ、ふ」
「ふ?」
「ふにゃぁぁぁ」
「またこの展開か、こんにゃろぉぉぉぉぉっ!!」

858友達の輪(ファミリー)6:2010/03/25(木) 03:56:39 ID:YXc.B6gA
ぴんぽんぱんぽーん、と小気味いい音が館内に響く。
『11時45分発、イギリス行きの搭乗時刻となりました。お忘れ物の内容にご搭乗お願いします』
アナウンスが流れる。とうとう時間となった。
「とうま、みこと、それじゃぁ一旦お別れなんだよ」
「あぁ、あんまし迷惑かけんじゃねぇぞ」
「イギリスに行っても元気でね」
搭乗ゲートの前で上条はインデックスに荷物を渡す。
「インデックス、私が持ちましょうか?」
「ううん、自分で持つよ。ありがとうね、かおり」
そうですか、と神裂は自分の荷物を抱える。相変わらずの格好であるが、『七天七刀』を袋に入れてあるだけマシだろうか。
「神裂も元気でな。あんまりエロい格好で出歩くなよ、お前なら襲われても負けねぇとは思うが……」
「んなっ!?べ、別にエロい格好などしていません!最後に言うのがそれというのはあんまりではないですか、上条当麻」
「はははっ、気にすんなよ。俺としては最後ってつもりもねぇし。会えなくなるわけじゃねぇだろう?」
それはそうですが、と歯切れの悪い神裂に後ろから建宮がボソボソと何かを言っている。
みるみる内に神裂が赤くなり、聖人の力をフルに利用した拳が建宮の顔面に突き刺さる。ものすごい勢いでゲートをくぐり、搭乗タラップに飛んで行った。
「ねぇ、インデックス、あの人大丈夫なの?」
「いつものことだから気にしなくてもいいんだよ。むしろ、かおりの力に驚かないみことが凄いと思う」
「ツッコミどころが多すぎるわ、アンタら」
世界は広いわね、と美琴は目を丸くしてぷんぷんとゲートをくぐっていく神裂を見ていた。
天草式のメンバーもゲートをくぐり終え、残るはインデックスとステイルのみである。
「ステイル、インデックスの世話、しっかり頼むぜ」
「まったく君はこの子を馬鹿にしすぎじゃないかな?1人でも色々と出来るようになったんだろう?」
「そうだよ。掃除もご飯もだいぶ出来るようになったよ」
あとは洗濯だけだもん、とインデックスが膨れる。
「そうだな、悪い。インデックス、ステイルの世話、しっかり頼むぜ」
「任せるんだよ!」
「っ!インデックス、君まで僕を馬鹿にするのか?」
ステイルは生活能力が無いと馬鹿にされた事を憤る。まさかインデックスにまで馬鹿にされるとは思わなかったのであろう、心なしか悲しそうだ。
「ステイル、全部私が教えてあげるんだよ。洗濯は修業しなきゃだけどね」
「……むむむ」
インデックスににっこりと笑いかけられ、ステイルは何も言い返せずに搭乗ゲートをくぐって行った。
「もう、お別れだね」
「インデックス、いつでも帰ってきなさいよ」
美琴はインデックスの手を握るとぶんぶんと振る。強がった口調とは裏腹に2人の目には涙が浮かんでいる。
「さっきも神裂に言ったけどよ、会えなくなるわけじゃねぇんだし。お前が困った時はいつでも飛んで行ってやるからよ」
学園都市の超音速旅客機に乗れば一瞬だしな、と上条は続ける。
「そんときは私も駆けつけてあげるから」
うん、とインデックスは頷く。搭乗タラップから神裂の『もう時間ですよ』という声が聞こえてくる。
「じゃあね、とうま、みこと。バイバイ」
「うん。バイバイ、インデックス」
「………違う」
「とうま?」
「どしたの、当麻?」
インデックスと美琴は心配そうに上条の顔を覗き込む。
「違うぞ、インデックス。ここは『行ってきます』って言うところだろ」
家族が出かけるんだからな、と上条は言う。キョトンとしたインデックスの横で美琴はくすっと笑うと、上条の言葉に続ける。
「そうね。アンタはちょっとお出かけするだけなんだから、私も言い直さないとね。行ってらっしゃい、インデックス」
「……今度帰ってきたら、『ただいま』って言うんだぞ!行ってらっしゃい、インデックス」
上条と美琴は、涙を浮かべながらインデックスの手を握る。インデックスはそれに応じるかのように微笑んだ。
「うん。行ってきます、みこと、とうま。結婚式には呼んでくれないと怒るんだよ!」
ぎゅっと手を握り返すと、インデックスは搭乗口に駆けて行った。

859友達の輪(ファミリー)7:2010/03/25(木) 03:56:52 ID:YXc.B6gA
上条と美琴は空港の展望ブリッジにいる。インデックス達を乗せた旅客機はその高度をあげ、どんどんと小さくなっていく。
「行っちゃった、ね」
「あぁ」
美琴と上条は小さくなる機影を眺めている。さっきまで目の前にあった旅客機は既に豆粒のサイズになっている。
「寂しくなるわね」
「そうだな」
機影が完全に見えなくなり、青い空には雲だけが浮かんでいる。
「さ、美琴せんせー。しんみりとした空気もここまでだ!デート行くぞ―」
「ちょっと、アンタ!そんな大声で言わないでよ」
行くぞ―、と上条は美琴の腕を掴むとずんずんと歩いて行く。
美琴はそんな積極的というか、自暴自棄にも見える上条の隣まで追いつくと、その腕に思いっきり抱きつく。
「っっ!?」
「あらぁ?そんなに驚いてどうしたのかなぁ?」
美琴は流し目で上条を見る。上条としては腕にあたる柔らかい感触にドギマギしているところだ。
「みみみ、美琴さん?色々と当たってるんですど?」
「当麻は大好きなんでしょ?私の胸」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。上条はちくしょう、と歯噛みしなるべく腕を意識しないように歩く。
傍から見れば初々しいバカップルにしか見えず、クリスマスでもなければ呪い殺されそうだ。
「で、結局、何処に行くのよ?」
「あー、どうすっかなぁ……」
上条は何気なく観光案内の掲示板を見る。外部からやってきた人用に掲示されている物だが、中の人が見ても困ることはない。
むしろ、行き先に困っている上条達にはおあつらえ向きと言ったところか。
「んー、どうせならクリスマス限定、みたいなところがいいよな」
「そうね……夕食も美味しいとこ予約は、間に合わないかなぁ」
「電話するだけしてみりゃいいだろ」
上条はレストランリストの紙を取ると美琴に手渡す。迷うには十分の量がリストアップされていた。
「んー、よし。こことかいい感じだな」
上条は掲示されたポスターを見ながらデートプランを考えると、レストランリストに目を通している美琴を促し空港を出る。
「取りあえず、夜まではその辺を歩くか。クリスマスプレゼントも用意してねぇし、見に行くか」
そうね、と言い美琴は上条の右腕に抱きつく。
「でも、行くとこ決まったんじゃないの?」
「夜中のイベントなんですよー。晩飯食ってからだな」
「私には門限あること忘れてない?」
「守る気もねぇんだろ?」
上条は美琴が見ていたリストを眺めながら駅を目指す。別の学区に移動しなければ、23学区には空港くらいしかない。
「あーあ、優秀な美琴ちゃんが当麻のせいで悪い子になりますよー」
「じゃぁ、デートはやめて帰るか?送ってくぞ?」
なんなら一緒に寮監さんに謝ってやる、と上条が言うのを聞き流し、美琴は上条に身体を寄せる。
「ううん。言ったでしょ、インデックスが羨むくらい思いっきり楽しんであげましょ」
美琴は満面の笑みを浮かべると、上条の腕を引くように駅へと向かった。

860かぺら:2010/03/25(木) 03:58:50 ID:YXc.B6gA
以上です。
最近、頬を染めた美琴に「……ばか」って言われたくて仕方がないです。

クリスマスデートを期待されてた方、すいません。
長くなりそうなので1回切りました。次こそ書きますので。
ではでは。

861■■■■:2010/03/25(木) 04:12:23 ID:hYmBBFEc
GJ

862■■■■:2010/03/25(木) 04:24:53 ID:QIXCVdNc
>>848
GJ!上条さんと佐天さんの絡みが新鮮でした
続きを楽しみにしています
>>860
クリスマスデート編を期待して待ってます
GJ!

863■■■■:2010/03/25(木) 04:59:47 ID:Ie163LIQ
いつも2828しながら読まさせてもらってます!
書き手の皆さんGJです‼

864■■■■:2010/03/25(木) 06:59:50 ID:mjnGOcSc
>>848
>>860
どるがば氏、かぺら氏GJです!
いやはや、ここの職人さんたちはレベルが高いですなw

ちょっと私言。
最近、美鈴さんのセリフがメルブラの蒼崎青子(CV:三石琴乃)で
脳内再生されてしまう今日この頃。

865■■■■:2010/03/25(木) 07:02:32 ID:JkMf0ca2
>>848
GJです!
美琴って、上条さんのことに関しては嘘をつくのが下手そうですね
そんな美琴がかわいいw

>>860
五和は避けて通れないですよね
ちゃんと断った上条さんにGJ!

866■■■■:2010/03/25(木) 09:40:16 ID:eiE3gmrY
>>826
>>848
>>860
花鳥風月氏、どるがば氏、かぺら氏GJです!!
毎回高品質のいちゃいちゃをありがとうございますw

867■■■■:2010/03/25(木) 10:59:55 ID:Xr.5swLM
>>848
GJ
不安になる美琴も可愛いですなあ

>>860
GJ
上条さん……鈍感すぎw

868ぴんた:2010/03/25(木) 13:28:55 ID:wFAP26W2
みなさんGJです。
前書かせてもらったシリアス系は悲しくなるので今回はギャグ?系を書いてみました。
もしかしたらキャラ崩壊してる可能性があるんですが軽くスルーしてください。

では5分後くらいに投下しますー。

869■■■■:2010/03/25(木) 13:29:13 ID:pTVxhoXw
>>860
生殺し…だと?…

870ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:33:37 ID:wFAP26W2

 御坂美琴はとある公園の自販機の前に立っていた。
 時刻は昼の12時を少し回ったところ。
 美琴はお金を入れてザクロコーラかヤシの実サイダーのどちらかにしようとボタンを指差し迷っている。
 そんな迷っている彼女に後ろから声がかかった。

「御坂ー! 今おまえ暇かー!?」

 美琴がここにいる理由でもあったその声の主は上条当麻。
 美琴は上条がいつもここを通るので、もしかしたら会えるんじゃないかとドキドキしながら待っていたのだ。
 しかしあまりに唐突だったために美琴は自販機の押すボタンを間違えた。
 ハバネロパイナップルジュース―――。

「……あ、アンタねぇ! いきなり大声でビックリする…じゃな、い?」

 思い切り振り返ったが、いない。
 声の主が、上条当麻がいない。
 しかし何か足元にある。いや、いる。それはまるで土下座をしたツンツン頭の制服姿の男子高校生のようだった。
 彼は額を地面に押し当てこれ以上は小さくならないであろう体制で土下座していた。

「あのさ、安いのは認めるけどそんな用事だけで一週間も私に頼るのはどうなのよ?」
「いえ。お礼はもちろんさせていただきます」
「あ、当たり前よそんなの!」
「で・す・か・ら!」
「ぅお」
「今は一刻の猶予もありません。私上条当麻とご一緒頂けないでしょうか?」
「…はぁ。で? 今日は何の特売なわけ?」
「お一人様2点限りの納豆と牛乳で御座います」
「はいはい。じゃあ行きましょうか」

 その言葉を待ってましたかのように顔を上げて満面の笑みを見せる上条。
 その笑顔に美琴は不覚にも頬を赤らめてしまう。

(まったくもうこいつは! ひ、人の気も知らないで!)

871ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:34:41 ID:wFAP26W2
 スーパーから出てきた上条と美琴は笑みを浮かべている。
 上条はお目当ての特売品&タイムセールの戦利品ゲットで満足の笑み。
 美琴は上条と嬉恥ずかしの買い物デートでご満悦の笑み。
 しかしあまりに買いすぎた為、袋が3つになってしまい美琴が上条の寮まで持っていってあげることとなった。

「何から何まですみませんねぇ、御坂さん」
「べ、別にいいのよ。一番軽いやつだし…そ、それにもっと一緒にいたいし…」勿論この台詞はデクレシェンドである。
「ん?」
「(こ、こんな彼女みたいこと…はっ! ち、違うわよ? 困ってたから! 困ってる人を助けるのは当然よね! うん)」

 美琴は周りから見れば仲のいいカップルのシチュエーションに顔を真っ赤にして俯きながら歩いている。
 上条はそんな美琴を見て荷物重いか? と言ったが美琴は首を振ったので?の表情をしながらも帰路を歩いて行く。

「そういや御坂。お礼」
「ふぇ?」
「お礼。何がいい? 財布を苦しめない事なら何でもしてやるから」
「え? な、ななっ何でも? じゃ、じゃあさ! うーんうーん」
「まぁ寮に着くまでに考えとけよ」

 その後美琴はあれもいいしこれもいいしと悩み続けた。
 上条は一体どんな事をさせられるのだとうかと少し恐怖を抱いたが、今の上条家にとって激安の食材は必要不可欠だ。
 とあるシスターが食べ盛りなので。
 なので上条は考えることをやめた。

 そして2人は寮の前まで帰ってきた。
 上条は重かったろ? 本当ありがとなと言い、美琴から袋を受け取った。
 もちろん美琴は上条の部屋に行きたかったので少し不満な顔をして袋を渡す。

「で、決まった?」
「う、うん」
「お。なになに? 上条さんに出来る事なら何でも聞いて――」
「………………して」
「え!」
「……モーニングコール」
「あ、あぁ。モーニングコールね。ビックリした…」
「あ、明日から一週間! 朝7時にモーニングコールね! い、いいい一日でも忘れたらもう一週間追加!」

 それから御坂美琴お姉さまの幸せな一週間が始まったのだった。

872ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:36:09 ID:wFAP26W2
 一日目。AM6:00。月曜日。
 美琴は目覚めていた。
 5時半には起きており、シャワーを浴びて布団の上で携帯を前に正座している。

「まさか楽しみすぎて目が覚めるとは思わなかったわ」

 携帯を開き時間を確認する。

「…ま、まだ6時か。私どんだけ緊張してるのよ」

 そんな美琴が出すオーラに何かを感じたらしく隣のベッドで寝ていた白井黒子が目を覚ます。

「ん…? お姉さま? 今日は随分とお早いですのね?」

 美琴はベッドから飛び上がるほどドキっとした。
 白井の声が心臓にわるかったのか暫く息を荒げていた。

「はぁ…はぁ…。く、黒子。お、おはよう」
「お、お姉さま? どうしましたの? どこかお体が優れないので?」
「う、うぅん。ちょっとビックリしただけだから…」
「そうですか。…あら? シャワーをお浴びになられたのですか?」
「う、うん。何か目が覚めちゃって。あは、あはは」
「はっ! 今ならお風呂場にお姉さまの残り香が! お姉さま! 黒子もシャワーを浴びてきますわ」
「い、いってらっしゃーい」

 美琴は黒子が風呂場へ入るのを確認すると携帯を握りしめ布団に包まった。

(うふふ。早く7時にならないかなー♪

873ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:37:10 ID:wFAP26W2
 AM7:02
 
 美琴は毛布に包まって体を震わせていた。
 白井はというとまだ風呂場から出てきていない。
 時々「お姉さま! お姉さま! あぁあああああ!!」とか聞こえてくるが美琴はそれどころではなかった。

(し、ししし心臓に悪いわね。これは。は、はやく電話かけてきなさいよ! もう2分も過ぎてるじゃな…)

♪〜 ♪〜 ♪〜

【上条当麻】

「きっ…きっ…きっ、来たっ!! あわわわわわわ、あうあうあうあう」

 美琴は布団から跳ね上がり、なぜか髪型をチェックし始めた。
 そして自分の匂いを嗅ぎ始め変な臭いじゃないわよねとか言い出した。
 まぁ要するにテンパっていた。
 そして落ち着きを取り戻したのかいざ通話ボタンに指を置いたところで、

(はっ! 今ここですぐに出たらいかにも待ってたみたいじゃない! そ、そんなのダメよ!
 これはあいつの罰ゲームというか買い物のお礼というかごにょごにょ……はっ!)

 切れた。コール時間49秒。
 美琴の時は暫く止まっていたが、やがて携帯を握り締め某ボクサーのように真っ白になってしまった。

(う…うぅ。お、終わった…もう全部終わったわ…)

♪〜 ♪〜 ♪〜

【上条当麻】

「っ!」

 美琴は音速の3倍で飛ばすコインよりも早く通話ボタンを押した。しかし――

「も!」

 押したはいいが緊張しすぎて、も! としか言えなかった。

(ああああああああああ! 何言ってるのよ私! き、きき…緊張しすぎ!)
『あぁ? もしもし? 御坂か?』
「はぇ!? あ…う、うん。お、おはよう…」
『お、おはよう。おまえ今起きたのか。まぁモーニングコールだからそういうもんかもしれないが…くくっ』
「な、なによ。何笑ってるのよ」
『だって、も! だぜ? なかなか聞けないよな。美琴お嬢様の寝ぼけた声はよ』
「〜〜〜〜〜っ!! ね、寝ぼけてないわよ! そ、そそそれより電話するのが遅い!」
『あのなー7時ぴったりってわけにはいかないだろうがよ。まぁそれだけ言えれば大丈夫だな。学校頑張れよ』
「え? あ…うん。頑張る…」
『じゃあまたなー。俺飯作らないといけないからさー』
「う、うん。ま、またね」

 …………。

「ふー、朝からちょっとエキサイト…もといシャワーを浴びすぎてしまいましたわ。…あら? お姉さま? お姉さま?」
「ふにゃー」
「お、お姉ざばばばばばばばばばっ!!!」

874ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:38:46 ID:wFAP26W2
 2日目。AM6:10。火曜日。
 美琴動き出す。着替えとタオルを持ち、風呂場へと消えていった。

「昨日の反省を生かし、学校の準備をしている時間くらいに電話がくるタイミングの方がいいわね」
「さすがに昨日は早すぎたわ。今日は冷静に行くのよ」
「心を無に」
「無に」
「そもそもモーニングコールなんだからギリギリまで寝ててもいいんだからね?」
「アイツの電話を心待ちにしてるわけじゃないんだから。だ、だから言ってやるのよ」 
「あら? おはよう。もう起きてたけどご苦労様」
「…だ、ダメよ。折角電話してきてくれるんだからもっと素直に」
「おはよー…。まだ眠いー。何か目の覚める言葉言ってー」
「…とか? んー。私のキャラじゃないわね」
「で、でも! もし『ほら美琴。起きないと遅刻しちゃうだろ?』とか『もう…美琴はお寝坊さんだな』と、とか!」
「『美琴…起きないと、ちゅ、ちゅちゅちゅ…チューしちゃうぞ?』とかだったらどうしようー!」
「どうしようどうしようー! えへ、えへへへへへ、へへへ」

「……お姉さまとお風呂ご一緒にと思いましたが今行くと危険な気がしますわ」

 AM6:50
 美琴は風呂からあがるとふらふらーとベッドにダイブした。
 そして携帯を開き時間を確認する。
 もちろん例のモーニングコールが楽しみなので足はパタパタさせていた。

「あと10分かー。なんかお湯にあたりすぎたせいでのぼせちゃったわ…ま、まずい。ここで…寝る、わけ、には―――」

875ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:40:10 ID:wFAP26W2

 ………。

「――ま? お姉さま?」
「んぁ?」
「お姉さま? そろそろ起きないと学校に遅刻しますわよ?」
「黒子ー? ……え! い、今! 今何時!?」
「今は―――7時45分になりますわね」
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
「ど…どうなさいましたの、お姉さま。 今朝はサンドイッチだったので走りながらでも食べられますわよ?」
「で、でで…電話は……モーニングコールは……?」

 そして美琴は携帯を開く。カエルの目はバッチリ何かを受信していたらしく光っていた。
 不在着信3件。
 【上条当麻】コール41秒。
 【上条当麻】コール33秒。
 【上条当麻】コール60秒。

「…」
「お、おねえ…さま?」
「……、う…うぅ……」
「そ、そんなちょっと寝過ごしたくらいで泣かないで下さいまし!」
「く、黒子ぉー…ん?」

 よく見ると何か留守番メッセージが録音してあるようだ。
 そういえば60秒以上コールすると留守電に繋ぐ設定にしたような。
 ま、まさかっ―――
 美琴は恐る恐る留守電メッセージを再生した。

『もしもし、御坂? おまえな! どんだけ起きないんだよったく! 一応留守電に入れておくから電話してないとか言うなよな?
 昨日といいおまえ朝弱いのか? …まぁいいや。早く起きろよ? 上条さんもこれからご飯だからさー。じゃまたな!』

「…」
「お、おねえ…さま?」
「……、ふ…ふふ……」
「そ、そんな泣いてるんだか笑ってるんだか分からない顔で笑わないで下さいまし!」
「ふふふ、ふふ、ふにゃー」
「お、お姉ざばばばばばばばばばばばばっ!!!!」

876ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:41:42 ID:wFAP26W2
 PM21:30
「黒子ー? 私もう寝るねー?」
「え? あ、はい。随分とお早いですのね? 朝寝坊しないためですの?」
「え!? う、うん。そうね。や、やややっぱり早寝早起きは生活リズムを構築する上で―――」
「はぁ。まぁおやすみなさいですわ」
「お、おやすみー」
(今朝のお姉さまは確かにモーニングコールと言いましたわ。お姉さまがこれ程までに待ち焦がれる相手と言うと…)

 黒子は美琴が寝たのを確認するとアサシンの如く忍び寄りカエルの携帯を掴んだ。
 万が一の事も考え黒子は美琴からテレポートで距離を取り、着信履歴を確認しはじめる。
 着信履歴は『上条当麻』の名前が大半をしめてあった。
 黒子は確か学校が終わったら美琴に電話したと思ったが、これを見る限りバッチリ履歴を消されていた。

(あ、ああ、あのボンクラがあああああっ! お、おお、お姉さまの一日は黒子との甘い会話から始まりますの!
 邪魔はさせませんわ! 邪魔はさせませんわーーーーっ!!)
 
 黒子はマナーモード+振動無しにして携帯を美琴の枕元に戻した。


 3日目。AM6:30。水曜日。
 美琴は目を覚ました。いつもは携帯の目覚ましで起きていたが今日は普通に目を覚ました。

「う、うわ! もうこんな時間じゃない! 目覚まし鳴らなかったわよね? 消しちゃったのかしら…
 と、とにかくすぐにシャワー浴びないと!」

 美琴は着替えとタオルを持って風呂場に行こうとするが既に誰かが入っていた。
 まぁ、相部屋なので白井黒子以外いないのだが。
 美琴は扉のシルエットに向かって話かける。

「く、黒子!? 入ってるの!?」
「あら、お姉さま? すみません、先に入らせていただいてますわ」
「そ、そう。まだかかりそうなの?」
「すみません。今入り始めたばかりでして…、軽く浴びる程度ですので20分くらいしたら出ますわ」
「20分…わ、わかったわ!」
(プランA完了ですわ)

877ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:42:48 ID:wFAP26W2
 美琴は20分以内に学校の支度をする。
 制服出して、シャツだして、靴下だして、今日の授業で使う教科書の類を鞄にぶち込む。
 漫画で見たら恐らく3,4人はいるんじゃないのかと思うほど美琴はあせっていた。

(早く準備してシャワー浴びないと! あいつから電話かかってきちゃう!!)

 AM6:45
「お姉さまー? あがりま――」
「黒子! 待っていたわ! 私すぐに入ってきちゃうわね!」
「は、はい。どうぞごゆっくり…」

 美琴は脱衣所のドアの前で待ち構えており、黒子を入れ違いで入っていった。

「…ふむ。予想通り学校の準備をして待ってましたわね。携帯は、と」

 白井は机の引き出しから何やら携帯充電器のような小型の機械を取り出すと美琴の携帯にセットした。
 実はこの機械携帯を充電するものではなく、携帯の残りバッテリーを正確に測れる機械。
 普通の状態なら何分で電池切れになるか、会話をしていたら何分で切れるかなど。科学最先端は余り使わなそうな物も生み出すのだ。

(ふむふむ。会話で12分ですか。もう少し電池使ったほうがよさそうですわね)

 そう言うと黒子は自分の携帯から美琴に電話をかけ通話状態にした。
 もちろん美琴が風呂場から出てくるまで通話状態にしておき、服を着ている時に自分からの着信履歴を消しベットに戻す。
 マナーモード解除も忘れない。
 ちなみになぜ美琴の携帯はこんなに電池が少ないかというと昨日のうちに白井が色々やっていた。
 そしてそんな事を知らない美琴が風呂場から出てくる。

(プランB、C完了ですわ)

878ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:45:15 ID:wFAP26W2
 AM6:55
 シャワーから出てきた美琴は身支度をしていた。

(ギリギリ5分前ね。危なかったわ)
「お姉さまー。朝ごはん食べに行きましょうー」
「え!? う、うん。…あー、私はもうちょっとしたら行くわ」
「あら。お腹減ってないんですの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど…。電話が…」
「電話? 持っていけばよろしいじゃありませんの」
「そ、そうだけど…」
「ささ。行きましょう、お姉さま」
「あ、ちょっと黒子ー」
(プランD完了。いよいよ最後の締めですわね)

 美琴と白井は寮の食堂行くと既に他の寮生も疎らにいて空いている席に座る。
 今日の朝はバイキング形式になっているのだが美琴は何故か取りに行かず、ソワソワしている。

「…? お姉さま? ご飯取りに行きませんの?」
「う、うん。もうちょっとしたら…」
「そうですか。では、わたくしは先に取りに行ってますわね」
「うん。いってらっしゃい。黒子」

 美琴は黒子に(引きつった)笑顔で送ると携帯を確認する。
 もう7時5分。そろそろ着てもいい頃だが――

♪〜 ♪〜 ♪〜
【上条当麻】

(きっ…きた! 初日は待ちすぎたけどきょ、今日は…………………………………このくらいで!)
「も、もしもし〜…」

 美琴は全然眠くないのだが眠そうな声をして電話に出た。
 私はアンタからの電話なんか忘れちゃってたくらい熟睡してたのよというツンデレ思考で。
 しかし、そんな素直になれない美琴に白井の積み重ねてきたプランが炸裂する。

『ピロン… ピロン… ピロン…』
「あ、あら? もしもし? もしもーし?」

 なにやら電子音だけで上条の声は聞こえない。

「んー? 寮内は県外じゃないし…はっ! ま、まさか!」

 そう言って美琴は携帯の画面を見る。
 そこにはバッチリ電池切れのマークと共に全アイコンが点滅していた。

879ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:46:28 ID:wFAP26W2
「ああああああああああああああああああ!!! な、なんで!? 昨日の夜ちゃんと充電したのにぃぃぃぃぃいいいい!!???」

 朝。お嬢様の朝。
 そんな寮内の食堂からはウフフだのオホホだの聞こえてきそうな雰囲気だっかが、この美琴の一言で全てをぶち壊した。
 周りからは「み、御坂様? どうなさいましたの?」「なんですの今の?」「御坂! 飯くらい黙って食え!」だの色々言われたが、
 美琴はそれどころではなかった。

「と、とにかく充電! 充電しないと!!」

 美琴は周りの視線に気付きもせず食堂を飛び出して行った。
 しかし白井は後を追わない。何故なら白井のポケットには2人分の携帯充電器が入っているのだから。

(計画通り――――ですの)


 PM6:45
 朝の騒動から美琴は寮監にキツくお仕置きを受けたがそんな事は些細な事だった。
 美琴は帰ってくるなり白井の挨拶をスルーし、ベットに倒れ込んだ。
 ちなみに充電器はバッチリ元の場所に戻してある。抜け目無し。白井黒子。

「う…うぅ…」
「お、お姉さま? どうなさいましたの…?」
「く、黒子ぉ…こ、コレ…」

 美琴が持っていたのは黒焦げたカエルだった。
 正確にはカエルの携帯。
 何故こうなったかと言うと、朝美琴は充電器が見つからないあまり自分の電気で充電して会話しようとしたらしいのだが、
 失敗し携帯をショートさせてしまったらしい。
 もしかしたら普段の彼女なら成功したかもしれないが余りにも焦っていたのでとのこと。

「電池もすぐ切れちゃうし…どっちみち寿命だったのかなぁ…」
「そ、そうですわね…ズキズキ」
「まぁ機種は変えないんだけどね。でも在庫少ないらしくて取り寄せなんだって。一週間後くらいに来るって言ってたけど」
「そ、そうなのですか…そ、それは……残念でしたわね…ズキズキ」
「はぁ…」
「ど、どうなさいましたの? お姉さま?」
「……なんでもない。う…うぅ…」
「お姉さま…」

 上条当麻からのモーニングコール。
 3日目にして終了。

880ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:47:55 ID:wFAP26W2
 4日目。AM7:03。木曜日。
 上条は美琴にモーニングコールするべく携帯を取り出す。

「そろそろかけるか。それにしても御坂。あいつこの4日間でまともに出たの一回もねぇじゃねえかよ、ったく…」

 そんな文句を言いつつも上条は美琴へコールする…はずだったのだが、コール出来ない。

『只今電波の届かない所にあるか、電源は入っていない―――』
「…………またか。昨日は最初はコール出来たけど2回目以降これだし。留守電も入れられないしで」

 上条は携帯をポケットにしまうと、朝食の準備をする。
 今日の朝ごはんは昨日の特売品『朝のともだち』たる名前の6枚切りの食パン。
 それと牛乳にマーガリン。上条当麻の精一杯の朝食である。
 上条はその6枚をもはや習慣的に、自分1枚インデックス5枚と配った。

「いつもありがとうなんだよ、とうまー」
「いいんだよ、インデックス。まだあると思って帰ってきたら無いっていう絶望感に比べたら、目の前でおいしく食べてもらった方が涙出ないし」
「もぐもぐもぐもぐ…」
「…食パン両手で交互に食う奴初めて見たぜ」

 上条は1枚のパンを心ゆくまで堪能すると鞄を持って部屋を出た。
 もちろんだるいし、腹も満たされていないのでいつもの台詞が口から漏れる。

「不幸だ…」

 そんな彼の目の前に少女が飛び出してきた。
 上条は俯いていたためその少女とぶつかってしまい転びそうになる。

「おっ…と。すみません。ちょっと余所見してて……って、おまえは」
「あはようございますですの。上条当麻さん」
「白井、黒子だっけ?」
「覚えていただいて光栄ですわ。突然ですがお願いがございますの」
「はぁ? ほんと突然だな、おい。…で何だよ?」
「今日の放課後お時間宜しいでしょうか?」

881ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:48:52 ID:wFAP26W2
 PM6:44
 白井は常盤台の寮まで戻ってきていた。
 美琴はというと昨日の携帯故障+上条からのモーニングコールにありつけないショックで不貞寝してしまっている。
 もちろん学校へは行ったのだが、朝の異様なテンションの低さに白井はさすがにやりすぎたと思いプレゼントを買ってきたのだ。

「お姉さまー。お姉さま、起きてくださいまし」
「んー…ん? 黒子ぉ? 何? もうご飯だっけ?」
「それはもうすぐですわ。それよりお姉さま。あの殿方よりお姉さまへプレゼントがございますのよ」
「殿方ぁー? プレゼントぉー? ………………ええええええ!!!???? あ、あああアイツがっ、わっわっわわ私に!!???」
「はい。どうぞですの」

 そう言って白井は美琴に綺麗に包装された真四角の小箱を差し出した。
 美琴はさっきまで寝ていたとは思えないほど目をギラギラさせて、胸をドキドキさせてその小箱の包みを解いた。

「……目覚まし時計?」
「はいですの。お姉さまが電話に余りにお出られないから目覚まし時計を、と」
「…そっか。携帯壊れちゃったし、あと3日じゃ電話出来ないもんね」
「携帯が壊れてしまったことはあの殿方には言っておきましたわ」
「…」
「それにちょっとしたサプライズもございますの」
「え? なによそれ?」
「朝になってのお楽しみ、ですわ」
「???」
「ささっ、もうご夕食が出来てる頃ですわ。お姉さま、一緒に行きましょう」
「あ、うん。…あれ? 黒子も何か買ってもらったの? その小さな袋」
「え? あぁ、これは自分で求めた物ですわ。中身は耳栓ですの」
「………………………なんで?」
「街を誰かの血で汚さないためですわ」

882ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:50:13 ID:wFAP26W2
 5日目。AM6:55。金曜日。
 美琴はまだ布団の中にいた。起きてはいるのだがだるくて起きる気になれないといったところ。
 でも早くしないとシャワーも浴びれないし、ご飯も食べれないしでもぞもぞしている。
 そして美琴はあと5分だけー…と言った時―――

『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』
「―――え!?」
 
 美琴はガバッと体を起こすが周りにその声の主はいそうにない。
 隣のベットで白井は寝ているようだが、それ以外にこの部屋に人はいなかった。

「気の…せいよね。あはは…アイツの声が聞こえるとか、私いよいよおかしく―――」
『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』
「なってない! やっぱり聞こえる! ど、どこから!? 携帯は壊れてるし…ん?」

 美琴は昨日白井から渡された目覚まし時計を持つ。
 なにかを警告しているようにランプがチカチカと可愛らしく光っており、目覚めの時間だと言う事を教えてくれているようだ。

「でも鳴らないわねコイツ…私、止めたかし――」
『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』
「こ、こここコイツだああああああ!!! コイツが喋ってたぁああああ!!!」
『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』
「あ…あぁ…」

 目覚まし時計から聞こえてくる上条当麻の声は美琴にとって最高の目覚ましになった。
 上条の言葉は棒読みだが、それでも美琴は嬉しくて顔を赤らめずにはいられない。
 美琴はその時計を自分の胸に押し当て少し強めに抱きしめた。そうすると体中にその声が響き渡り幸せな気分になれる。
 時計に録音されている台詞は3つだけだったが、美琴はそれだけで十分だったのか目覚ましが切れるまで止めることなく聞き続けた。
 そしていつの間にか体のだるさが消え、心が軽くなった気がしたので美琴は笑ってしまった。

「あは。こんなので喜んじゃうなんて…」
 
 美琴は時計を枕元に戻すと、一回だけ背筋を伸ばし着替えを持って風呂場へと消えていった。
 その足取りは軽くシャワーの音が聞こえると同時に鼻歌も聞こえてくる。

「………た、たたた耐えるのですわ。お、おおおお姉さまの為ですもの。と、ところでこの耳栓全くもって役立たずですわね」

 昨日白井は放課後に上条を連れて雑貨屋へ買い物に行ったのだ。
 そこで美琴の携帯が壊れたから朝起きる事が難しくなったのでと上条に時計を買わせた。
 その時計は声が録音できるやつで一番安いやつだった。白井は用意してあった台詞が書いてある紙を上条に渡し、その言葉を読ませた。
 自分で考えた台詞で、聞いても怒りを覚えないようにしたのだが、万が一の事も考え一緒に耳栓も購入した。
 それが白井の言うサプライズだったのだが、実はもう一個――――

883ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:51:25 ID:wFAP26W2
 6日目。AM6:50。土曜日。
 美琴は夢の中にいる。ふわふわと気持ちいい。
 夢の中では上条との幸せライフを送っていて、いつものように夢なら覚めないでほしいと思うところだが今朝は違った。
 私にはあの目覚ましがある。
 あの目覚ましがあれば起きても幸せになれる。
 そして―――

『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』 
『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』 
『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』

 ………。

「ふにゅ…」

 美琴の顔は完全に緩みきっていた。
 幸せを噛み締めるように目を閉じているが口元からは甘い溜息を吐き、頬や耳は真っ赤になっていた。
 今日は学校は休みなので、しばらくこのままでいようと思ったが目覚ましの声が止まってしまったので起きることにした。
 ―――が。

「御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー」

 また上条の声が聞こえてきた。
 あれ? おかしいな。時間過ぎたらもう鳴らないはずなのに…。

「あれ…? なんで当麻っち(時計の名前。当麻+ウォッチ)また鳴ってるのー。まぁ、気持ちいいからいいんだけど」
「美琴はお寝坊さんだなー」
「そうよー。だって大好きな当麻の声で起きたいからゆっくりしてるんだもん」
「だ、大好きなんですか」
「うん。大好きー。えへへー、とうまぁー。とー、…ま?」

 御坂美琴の時は止まった。
 何か目覚ましの台詞違うんじゃない? って言うか今普通に会話したわよね?
 そして美琴は恐る恐る毛布から顔を出してみる。

「…」

 いない。
 ホッと胸を撫で下ろす。隣のベットを見るが白井もいなかった。
 シャワーかしらと思った美琴は当麻っちを持って時間を確認する。

884ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:52:23 ID:wFAP26W2
「げ。まだ7時半じゃない。黒子休日にこんな時間に起きるなんて…」

 そう言った時にまた時が止まった。
 おかしい。7時に目覚ましセットしたんだから鳴っても5分か10分。
 でも今は30分。さっき鳴ったばかりなのになんで30分?
 その時美琴は何かが背後にいるような気配を感じた。
 美琴の体は白井のベットの方を向いて横になっているため、ゆっくりとゆっくりと視線を壁側に向ける。
 そこには。

「…」

 ツンツン頭の。

「あ…」
「よ。おはよう」

 不幸そうな顔をした。

「あ、ああ…アンタ……」
「やっと起きたか。いやーどうよこのサプライズ。つっても考えたの白井だけどな」

 美琴が恋する上条当麻が。

「なっななな…い、今の……聞こえてて」
「あ? 当麻っち? …いえいえ! 聞こえてませんよ? 大好きな当麻の声で起きたいとか聞こえてないですから!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」

 顔を真っ赤にして立っていた。

「なんでアンタがここにいるのよ!!!! しかもバッチリ聞いてるじゃないーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
「どおおおおおおおおおおおおおおおおお!!???」
「ふにゃーーー! ふにゃーーーーー!! ふにゃーーーーーーーーー!!!」

 美琴は上条以上に顔を真っ赤にし、上条に電撃を浴びせる。
 …はずだったのだが、いち早くそれに感知した上条は美琴の手を握り電撃を封じ込めた。

「あ、あっぶねぇ! おまえその可愛らしいかえるパジャマにもコイン忍ばせてあんのかよ!」
「ふにゃー!!!」
「お、おいコラ! 暴れんな! つか力強っ! もってかれる! 腕持ってかれる!!」
「わっ忘れろーーーー!! 全て忘れろーーーー!!! 記憶を消してくれるーーーーーーーーー!!!」
「やばい! 今手を離すのはやばい! 絶対死ねる。楽になれる。でも死ぬのは嫌だーーーー! 朝はパン一枚でもいいから死ぬのは嫌だああああ!!!」
「離せこのバカーー! 女の子の寝顔見るなんてアンタって奴はホントに―――」
「うぉ―――」

885ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:53:52 ID:wFAP26W2
 上条はよく耐えた。美琴のテンパリ時の怪力から。しかしここまでのようだ。
 上条はこれから起こるであろう映像が予想できた。恐らく美琴のどこか恥ずかしい所に顔を埋め、それにさらに激怒した美琴が
 上条を振りほどき電撃を浴びせるという映像が。
 …はは。不幸だ。

 ちゅっ。

 …ん? 手はちゃんと握っている。他の所には当たっていない。
 左手はベットの柵にかかっている。美琴の体にさえ触れていない。
 首から下の感覚もいつもと変わりない。が。
 首から上。特に唇がいつもと違った。
 柔らかい何かに押し付けられているような? いなような?
 唇が押し付けられているため息を吸う事が出来ず、苦しくなっていく。
 ついには耐え切れなくなり口を開けるとさっきまで押し当てていた何かも同時に開く。
 そのタイミングが成せる技かどうかは定かではないが、舌に何かが触れた。
 味なんか全く感じなかった、というか感じる状態ではなかったのだが。それはとても官能的な触感だった。
 まぁ要するに上条が美琴にキスしていた。
 おはようのちゅーをしていた。
 上条は状況を理解したのかゆっくりと美琴の唇から離れる。
 離れる時に熱も一緒に無くなっていったのだが、自分の唇と美琴の唇とで何かよくわからない水の端が出来たため一瞬にして顔を真っ赤に染めた。

「あっ…あああああの。み、さか…さん。こ、こここコレは、その…事故というか。不幸というか、何と言うか…」
「ふぇ…? あ…は……ぇ」

 美琴の目は完全にとろけきっているが上条の目だけを見ている事は分かった。

「い、今の…私……あの…」
「ち、違…くないけど! 絶対あれだぞ! あれっていうのはアレで、だ…だから……!」
「あ、ああああアンタと…!
「きっキスじゃないからな!!」
「キッ!!???」

 ボン!ボボン!ぼぼぼぼぼ…と美琴の顔が真っ赤になり、沸点を越えたのかと思うほど湯気が出た(気がした)。
 美琴は手を振りほどくと顔を隠ししばらくいやんいやんしていた。

「わっ私…こ、コイツと。きっキスぅを……」
「み、御坂…さん?」
「う…」
「う?」
「嬉しい…」
「…ぇ」

886ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:55:26 ID:wFAP26W2

 嬉しいと顔を上げて言った美琴の顔は本当に幸せそうで顔全体を使って喜びを表現している。
 恋する乙女はファーストキスは絶対に好きな人とと思っており、理想のシチュエーションとは違えど相手が相手なら嬉しいに違いない。
 上条はそんな美琴の言葉と満面の笑みに、今まで築き上げてきた精神と理性が圧倒的な何かに粉砕される衝動に駆られ動けなくなってしまった。

「う、嬉しいなー。私のファーストキスがこ、ここコイツとなんて…えへへ」
「……ふ…」
「えへへ…へ?」
「ふぅ…」
「ちょ…」
「ふにゃー」
「わあああああああっ! ちょ、ちょっと! アンタ大丈夫!?」


 AM9:13
 白井は浴室からではなく部屋のドアから入ってきた。きちんと常盤台の制服を身にまとい風紀委員の腕章をつけて。

「ただいま戻りましたわー」
「あ。黒子おかえりー。どこ行ってたの?」
「おはようございます。ちょっと風紀委員の支部の方に忘れ物をしてしまいまして」
「そうなんだー、…えへ」
「…お姉さま。何か機嫌がいいみたいですわね?」
「そ、そそ…そうかなぁ。そんな事…ない……けど」
「言っておきますが今日は特別ですわよ。寮監が朝からいないからであって、あの殿方もなかなか頷かなかったんですから」
「わっわかってるわよ! ……ありがとね、黒子」
「………いいんですの。それより今日はどこにも出だしませんの? お姉さまが休日に部屋にいるなんて珍しいですわね」
「うん。これから行くとこ」
「…お姉さま? と、常盤台は出歩く時も制服姿と義務付けられてますのよ?」
「大丈夫大丈夫♪ 今日寮監いないんでしょ♪」
「…お姉さま? ち、ちなみに聞きますけど…どなたとお出かけになられるのですか?」
「へ!? や、やーねぇ黒子ったら。ひ、1人で行くに決まってるじゃない! あは、あはは」
「でしたら! わたくしもご一緒――」
「ダメ」
「うっ。………………と、ところでお姉さま。実はここにわたくしがこの前買った下着があるのですが、ちょっとサイズを間違えてしまいまして」
「………とか何とか言って私に穿かせようってんでしょ」
「ま、まさかそんなわけありませんわ!」
「ふーん。じゃ、じゃあ貰っておこうかしらね。す、捨てるの勿体無いしね。うん」
「え……………………………おねえ、さま?」
「た、たまにはね、気分転換も大切よね! じゃじゃあ私もう行くから! ありがとね黒子〜〜」
「お姉さまああああああああっ!!!」

887ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:57:02 ID:wFAP26W2
 美琴は白井から下着入りの小袋を受け取るといそいそと部屋と後にした。
 白井は呆気にとられていたがしばらくして正気に戻る。そしてどっと冷や汗をかき自分のベットに腰掛けた。

「まっまさか…サービスしすぎましたの? カマをかけた下着さえも持っていかれるとは……」
「後を追うしかないですわね。わたくしのサイズでしかも布小さめのを選んだ下着なんかお姉さまが穿いたら―――」
「…」
「おねえさまああああああああああああああっ!! ぴっちぴち!!! ぴっちぴちですわあああああああああああああああっ!!!!」

 白井はいつの間にかベットに仰向けになっていると何やらしだした。
 それは何とは言わないが、テレポートの演算が出来ないような何かをしているようだ。
 何をしているんだろうね。分かる人いますか? ちなみに僕はわかりませんね。
 そして事終えた白井は美琴のベットへと歩み寄り目覚まし時計を手に取った。

「はぁはぁ…こ、この目覚まし……こいつがやっぱりいけなかったんですわ…中身を確認すれば全部分かるはずですわ」

 白井は目覚まし時計の時間をアラームが鳴る時間まで戻す。
 確か録音した台詞は
『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』 
『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』 
『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』だったはず。

『美琴ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』
「あ、あら? 今美琴って……?」
『いい加減起きろよなー。遅刻するぞ? あの場所で待ってるぜー』
「…………今、何つった?」
『ほら美琴。遅刻したら何だっけ? ほ、ほっぺにch―――』

 消した。アラームを消した。

「お、お姉さま。まさか…まさかあの類人猿に! 認めませんわ許しませんわ信じてますわあああああああ!!!」
「……そ、そうですわ。ちょっとこの目覚ましに」

888ツンのちデレデレ:2010/03/25(木) 13:57:49 ID:wFAP26W2
 7日目。AM6:57。日曜日。
 美琴と白井は既に目を覚ましていたが起きあがる動きは起こさない。
 美琴は昨日門限ギリギリに帰ってきたがとても満足気な顔をしていた。
 あの例の小袋はというと渡した時よりもちょっと膨らんでるように見えたような、見えないような?
 そして白井はドキドキしていた。
 目覚ましのアラームに。

(ふふ。お姉さま。今目を覚まさせてあげますわ。黒子のあま〜いこ・え・で♪)
(えへへー。早く鳴らないかなぁー。楽しみだなー。当麻っち♪)
(ドキドキドキ)
(どきどきどき)

 カチッ―――

(きたっ!)(きましたわっ!)
『おねえさまぁ〜ん。起きてくださいましぃ〜』
「……………………………………へ?」
(や、やややりましたわ!)
『遅刻してしまいますわよ? それとも黒子が直接起こしにくるのをお望みですのん』
「と…当麻っち? な、なんで黒子の声に……黒子っちに…」
(せっ成功ですわ! お姉さま! 嬉しすぎてぷるぷる震えてますわ!!)
『お姉さまぁん。今参りますわね? 黒子はっ黒子はもう我慢できませ――カチッ』
「……………黒子ぉ」
(――はっ! お姉さまが呼んでいる! 黒子を待ってるんですわ!! 今行きますわね!!!)
「黒子ぉ?」
「おねえさまぁあああああああああああん!! おはようござ――――」
「何してくれちゃってるのよ!! アンタはぁああああああああああああああああああっ!!!!!!」
「あああああああああああああああああああああああっ!!!」

『待ってたのに! 楽しみにしてたのにぃいいいいい!!!!』
『あぁああああああ! お、お姉さま!! 朝からっ朝から激しすぎますわあああああ!』
『誤解招くような事言うなぁああああ!!!』
『あああああああ〜〜!!』
「…ふむ。また御坂と白井か。さて、今日は首を90度曲げるだけでは済まさんぞ」
 
 眼鏡をかけ直した寮監が208号室のドアノブに手をかける。
 その日美琴は上条とデートの約束をしていたが、集合時間になってもなかなかこないので上条は不幸だと連呼していたとか。
 その時間に美琴と白井は部屋で気絶していた。もちろんベットにいるわけではない。
 寮監のロックで極められた後、そのまま投げ出されて部屋の隅にぐったりしている。
 その後目を覚ました美琴が、当麻っち改め黒子っちの示す時間を見て光の如く駆け出したのはまた別のおはなし。

889ぴんた:2010/03/25(木) 14:01:15 ID:wFAP26W2
以上になります。
いちゃいちゃはあまりさせれませんでしたが(´・ω・`)
ラブコメ的展開は難しいですね。
もう色々真っ白になりました。

ここまで読んでくれてありがとうございます。でわ♪

890■■■■:2010/03/25(木) 14:05:15 ID:29mVLeVc
>>889
おつかれさまでした。
ふにゃふにゃしている美琴も可愛いけど、自滅黒子が可愛らし過ぎるw
なんであれ、破壊された携帯カワイソス。

891■■■■:2010/03/25(木) 14:13:39 ID:USjcPGpg
GJですの。6日目の黒子…
おそらくあいしかた的な事やっとるなwwww

892■■■■:2010/03/25(木) 14:55:36 ID:QIXCVdNc
>>889
GJ
履歴を上条オンリーにする美琴にワロタw

893■■■■:2010/03/25(木) 17:20:08 ID:dYDULebc
>>889
ぴんた氏GJです!
黒子も可愛い作品ですねw
ニヤニヤさせてもらいました!

他の皆さんもGJ!
直近の作品にしかレス出来ませんがお許し下さい
(こういう時上琴スレを使えば良いのかな…?)

自分も投稿させてもらいます。
『Little Love Melody>>673-676の続きです。
注意事項
・時系列等、細かい設定は気にせずに勢いで書いている作品です。
・作品の前後で違和感を感じるかもしれません…取り除きたかったんですけど、力量不足でした。
(心境変化を上手く書けなかったのが原因だと思います)
・文章下手なのでそこは上手く脳内で変換しつつよろしくお願いします。

投稿はただいまより5分後 12レスを予定しています(ちょこちょこ区切ってある感じです)
もし何かしらのアクシデントがあった場合は全部投稿した上で訂正させてもらいます。

894■■■■:2010/03/25(木) 17:25:34 ID:dYDULebc
―――上条視点

 完歩大きく早歩きする美琴の手をしっかりと掴んで、ついて行く。
 本音としては『この御坂…可愛すぎてヤバい』まで来ているのだが、言葉に表せない感情が混じってしまう。
 『常盤台の御坂美琴と一緒に出掛けられる』―――そう、彼は知り合いのオンナノコと出掛けているという意識ではない。
 学園都市の超能力者、そして誰もが聞いた事のある『常盤台の超電磁砲』―――と自分が一緒にいるという考えなのだ。
 ある日、美琴の同居人である白井に言われた言葉を思い出す―――お姉様(美琴)にとって重要なのは自分を対等に見てくれる存在。
 今の自分は本当に対等に見れているのだろうか……? 答えは『見れていなかった』――この現実はまだ殺せそうにない。

―――美琴視点

 恥ずかしさを紛らわす為に首をブンブン振りながら早歩きしている。
 自分が上条の手を掴もうとしたら、情けないくらい力が入らなかった、でも彼は握り返してくれた。
(ないないない! アイツは無意識でこういう事するんだから……)
 こちらはいつもの調子のようだった。しかし今日は状況が状況なのでこの調子で最後まで持つかどうかは疑問……。
 手の方に意識を置けば『恥ずかしくなる』自分の服装について考えれば『恥ずかしくなる』今の状況について考えれば『恥ずかしくなる』
 今の彼女はさっさと目的地について気を紛らわそうとしか考えていなかった。
 そこにあるのは常盤台の超電磁砲の姿ではなく、お年頃の恋するオンナノコの姿だった――上条はまだこの姿を知らない。

895■■■■:2010/03/25(木) 17:25:53 ID:dYDULebc
―――最高のデートスポット!?

「あ、あのー御坂さん?ここはどのような場所なんでしょうか?」
「見て分かんないの?ゲーセンよゲーセン」
 美琴が上条を引っ張ってきたのは学区内にあるゲームセンター、休日にも関わらず客の姿は見当たらない。
 それでも揃う物は揃っているので遊びたい人間にとっては絶好の場所と言えるだろう。
「今日は美琴センセーの驕りだから、じゃんじゃん遊びましょ」
「お金なら上条さんも多少は持ち合わせてるので大丈夫ですよ?」
「……そんなこと言ってると両替機に2千円札呑まれるわよ」
「まだ引っ張りますか……」
「私が連れてきたんだから気にしない気にしない」
「…んじゃ、お嬢様のお言葉に甘えさせてもらいます」
「よろしい」

 そんな二人が最初に楽しもうとしたのは『ゴーストボックス』
 一気に4人が入れる個室の中で座っているだけ…という簡単な物。
 中が揺れ、そして風等を表現する為このような形になっている。
 内容は名前の通り、この二人が今更そのような物に対して怖がったり等するワケがない…?

896■■■■:2010/03/25(木) 17:26:21 ID:dYDULebc

「え、えーっと?御坂さん?」
「なによ…」
「何故ゆえ…中に入った途端、上条さんの腕に捕まってらっしゃるのですか?」
「だって怖いもん」
 まだ始まってすらいないのだが……。
「と、と、取り敢えず…お金を入れなきゃな」
「アンタが入れなさいよ」
 そう言って美琴は上条に100円玉一枚を渡した。基本的にワンコインで大丈夫なのがこの学園都市の特徴でもある。
 (し、試験的に稼働させてるから…とかそういうダークな理由は一切ございませんのでご、ご安心を)

 『ゴォオオオオオオオオオ』
 音&風と共に中の映像が動き始めた。
 座席には振動が伝わり、実際に動いてるような感覚を得られる。
「これは結構本格的だな……うおっ!?」
 上条が驚いたのは『ゴーストボックス』の演出ではなく、隣の美琴に対してだった。
 無言で目をウルウルさせながら、彼を上目遣いで見つめる…。このウルウルがどこから来たのかはサッパリ分からない。
「前向きましょうよ……御坂さん」
「だって怖いんだもん」
「そんな目で見ないで!凄い人になっちゃいますから!」
 『ギャァアアアアアアアア』
 そんな中『ゴーストボックス』はプログラムにより、更に怖いルートへと入り込んだ。
 ただ中の演出で怖がらせるだけではない、乗っている人間の心拍数などを自動で測定し
 その人が怖がっていなかった場合は『上級者ルート』怖がっていた場合は『中級者.初級者ルート』
 大まかに分けると以上の3種類なのだが、演出そのものは数十あるとされている。この辺が試…学園都市らしいといえばらしい。

897■■■■:2010/03/25(木) 17:26:49 ID:dYDULebc

 上条の右腕に掴まりながら、肩に体重を任せている美琴…この体制に一番困惑しているのは彼だろう。
(何やら柔らかい感触があるようなないような…全神経を腕に…じゃなくて!)
 しかし次の瞬間、座席が不規則にガタガタ揺れ始める。並の揺れではなかった。
 シートベルトは設置させていない為、少しでも気を抜けば倒れ…そして間違いなくケガをする。
 危険を察知した上条は咄嗟に美琴を抱き抱える体制に入った。
「ちょっとアンタ、何して…」
「ごめん御坂! でも今はこうしてないと!」
 その揺れは30秒程続いた…この二人の人生のおいて一番長く感じる30秒だった事は間違いないだろう。
 ……揺れが収まったのを確認し、上条と美琴が同時に目を開けると―――まるで上条が美琴を押し倒したかのようなお約束の体制に…。
 右手が美琴の顔の横、左手が美琴の腕の下、そして左膝が美琴の太股の挟まれるような形になっている。
 美琴は上条の何かを思っているような表情を確認するともう一度目を閉じる……
 しかし何も起きなかった。そしてもう一度目を開ける……と?
 そこに彼の姿はなかった、美琴が慌てて起き上がると座席の下に土下座の体制をしている彼の姿が……。
「ごめんなさいごめんなさい!」
「……ば、馬鹿ーーー!!!!」
「ひぃい! こ、この通りです!」
 場所が場所なので電撃は放たれなかったが、もしこれが屋外だったら大規模な停電が起きてたに違いない。
「す、少しでも期待した私が馬鹿みたいじゃない……」
「……はい?」
「…………馬鹿」

 そんなこんなで『ゴーストボックス』から出ると、外の小さな液晶に二人ともビビり度「レベル5」と書かれていた。
 測定は心拍数等を参考にしている……別の意味で『ゴーストボックス』にドキドキさせられたのは間違いない。

898■■■■:2010/03/25(木) 17:27:00 ID:dYDULebc
―――最高の思い出

 時刻は10時30分過ぎ

「……色んな意味で疲れたわ」
 『ふー』と軽くため息をつく。
「さ、さて…次は何にしましょうかー美琴さん」
「み、み、美琴!?」
 ついさっきまで疲れた…と言っていた美琴の頬が一瞬で赤く染まる。
「あ……下の名前で呼んじゃマズかったか?」
「い、いきなり呼ばれたからビックリしただけよ!」
「んじゃ、御坂。次はどうする?」
「……美琴でいい」
「…? 美琴、次は―――」
「あ、アレにしましょ!」
 美琴が指をさしたのは試作機と貼り紙のされた『プリクラ』だった。
「ああいうのってカップルとかじゃないとマズイんじゃないか?」
「そ、そんなルールあるわけないじゃない!!」
 繋いだ手を確認してからそう告げる。
「記念にもなりそうだし、やるか」
「まるでこれが最後みたいな言い方じゃない」
「……もしかして違う?」
「アンタが良ければこれからも…ね?」
 この言葉を聞いて、上条は何故か嬉しかった…それに気付いた事もある――もしかしたら美琴の事が好き?
 まだ自分の中で納得行く答えは見つかっていないものの、確実に何かを掴んだ。

 早速、プリクラ機の中に入った二人。中にある説明書きを見ると、シチュエーション撮影なるものがある。
 指定したシチュエーションになったら自動で撮影を行うシステムになっており
 その中で更に細かく分けると――LoverモードとFriendモードの二種類。
 Loverモードは『キス』『お姫様抱っこ』『抱き合う』等、細かなものが求められているのに対し
 Friendモードでは主に『ピース』『笑顔』等、大雑把なポーズ的なものが求められている。
 その説明書きを見て目を輝かせているのは―――美琴だ。
 どうやら『キス』の方ではなく『お姫様抱っこ』の方が目的らしい。

899■■■■:2010/03/25(木) 17:28:08 ID:dYDULebc
「…これ」
 指をさし目的を伝えようとする。
「へ?」
「だからこれ…」
「…上条さんが美琴さんをお姫様抱っこするって事でせうか…?」
「う、うん…」
「……わ、分かった」
「あ、ありがとう…」
 美琴がお金を投入し、シチュエーションを設定する。
 その間、上条は後ろで軽いストレッチを行っていた……これを見られたら間違いなく怒られたハズだが、幸い見られる事はなかった。

「…持ち上げるぞ?」
「お、落としたら怒るわよ」
 1・2・3の掛け声で美琴を持ち上げ、お姫様抱っこの体制に入った。
 持ってみて分かったのは美琴も普通のオンナノコという事、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうな…そんな気さえした。
 プリクラの方は上条が所定の位置につくと、機械の方で自動的にカウントダウンが始まった。

 5・・・
 4・・・
 3・・・
 2・・・
 1・・・

 撮影は無事終了し、上条が美琴を降ろすと落書きタイムがスタートした。
 美琴は手際よく、平仮名で『みこと』『とうま』と書き、ハート柄のフレームと端っこにカエルのキャラクターを――
 そして制限時間ギリギリまでデコレーションに努める、その姿を後ろからボーッと眺めていた上条だったが見ても良く理解は出来なかった。
 
 外の受け取り口にてプリクラを受け取ると共に赤外線を使い、その映像を美琴は携帯にも取り込んだ。
「これでよし…と、後はこっちを切り取るだけね」
「んじゃ、俺はそこのベンチで休んでるぞー」
 そう言って上条はベンチに腰を掛ける。
(しっかし、見事なまでに人がこねぇなここ……休日でこれじゃ店やっていけんのか?)
 そんな心配をしつつ、プリクラを切り取っている美琴の後ろ姿を眺める。
(そういやアイツって好きな奴いんのか……?)
 一つ疑問が浮かんだ、なんでこれが頭に浮かんだのかは分からない。それでも気になったのだ。

900■■■■:2010/03/25(木) 17:29:26 ID:dYDULebc

「ちょっと携帯出して」
 切り取り終わった美琴が上条の元へ戻ってきた。そして彼は言われるがまま美琴に携帯を手渡す。
「ほい、って人の携帯で何やるんだ?」
「良いから!」
 ……待つこと数十秒、美琴が何やら笑みを浮かべながら、上条に携帯を返す。
 返ってきた携帯の待ち受け画面を見ると…さっき撮影したプリクラになっていた
 『裏も見なさい』と言われ、電池パックの方を確認すると撮影したプリクラが貼りつけられている。
「記念じゃなくて、思い出だから…分かった?」
「なんか違うのかそれ?」
「思い出って積み重ねて行くって言葉がピッタリじゃない?」
「まー言われてみれば、そんな感じもするな」
 何やら納得した表情で頷いた。
「それと今日、朝まともに食べてないのよねー」
「俺もだ、自販機前についたのが8時30分前…」
「そんな早くから待っててくれたの…?」
「ま、不幸が無かっただけなんだけどな」
「は?」
「安心して下さい、時間だけならいくらでもあります! 宿題は…徹夜で片付けるしかねぇよな……」
「宿題……? そういえばアンタの学校はそういうのあったのよね…」
「終わらなかったら終わらなかったで、次の休日を補習に充てるだけだ…慣れっこですよ慣れっこ」
 その後に大きなため息をつき『この話はヤメヤメ!』と言い放った。
「宿題…美琴センセーが引き受けちゃう…? もちろん全部やるワケじゃないけどねー。あ、別にアンタが補習になって困るとか、そんなんじゃないからね」
「よろしいんですか!?」
 頭の中の整理を行った…白いのは巫女の所に行ってる、部屋は朝掃除したばっかり…上条の心は決まった。
「ついでに何か材料買って行って、お昼もアンタの所で食べちゃおっか」
「……春が来た」
「は?」
「こっちの話だから気にすんな」
 そしてサッと美琴の前に手を出す、一瞬戸惑ったような表情を見せたが、言葉にはせずそっと手を掴む。
 こうして二人は思い出を心のノートの刻み、ゲームセンターを後にした。

901■■■■:2010/03/25(木) 17:30:06 ID:dYDULebc
―――Change

 時刻は12時前。

 二人はデパートで材料を仕入れた。普段特売日にスーパーや八百屋でまとめ買いしている上条にとってはほぼ無縁
 仕入れを済ませた二人は上条を先頭に目的地へ……。
 寮の入り口で土御門兄妹を見かけたが……上条は『元春』美琴は『舞夏』に反応。身を隠す事で危機を回避した。
 
 最初で最後の難関を乗り越えた二人は無事に上条宅へ到着した。
「へぇー。ここがアンタの部屋? 意外と普通じゃない」
「どんな所に住んでると思ってたんだよ…」
「早速だけど、台所借りるわよー?」
 美琴は材料を持って台所へ向かった、それほど複雑な間取りでもないので位置は簡単に把握出来たようだ。
「えっ? 料理ってお前が作んの!?」
「他に誰が作るのよ…」
 上条は猛烈に嫌な予感がした……この手のキャラクターはやる気だけはピカイチでも例外なく鍋を焦がす。
 漫画やらアニメやらの勝手なイメージでしかないのだが、嫌な予感しかしなかった。
「よし!上条さんも手伝う!」
「大丈夫よ、二人分くらい簡単に出来るから」
「ほら、その服だって汚れたら大変だろ?」
「もし汚れたら新しいの買うから大丈夫」
「……今のお前、最高に可愛いからさ出来ればそのままでいて欲しい…と思っているんですよ?」
「ちょ、あ、あああアンタ。いきなりナニ口走ってんのよ!! そんな事言われたくらいでね、私が折れるとでも思ってるワケ!?」
 数分後、材料を切り始めた美琴の隣にはしっかりと上条が居た。

902■■■■:2010/03/25(木) 17:30:39 ID:dYDULebc
 トントンと材料を刻む小気味好い音が静かな上条宅に響く。
 美琴の隣で腕を組み見張っている上条だったが、その手つきをみるに明らかに自分より上手かった…無駄な動き一つなく材料を切り落として行く。
「も、もしかして美琴さんって料理出来る人…?」
「当たり前じゃない、ウチの人間はみんなこれくらい出来るわよ」
「ほぇ〜」
 上条の中で常盤台中学校というのがどのようなモノか更に理解出来なくなってきた。
 高位能力者を集めたお嬢様学校で、能力開発に関しても学園都市でトップクラスくらいにしか思っていなかっただけに…。
「でもあんまりお嬢様に幻想抱くんじゃないわよー。 裸で寮内を走り回る人間だっているんだから」
「自販機蹴ったりするお嬢様も居るからなー」
 美琴は材料の下ごしらえをしながら『ぷくー』っとほっぺを膨らませる。
「悪かった悪かった、鍋を焦がす心配もなさそうだし、邪魔者は失礼しますよっと」
「ちょっと待って…」
「なんだ?」
「一人じゃなんか…アレなのよね。寂しいとかそういうんじゃないんだけど…」
 美琴の表情から何かを察した上条は聞き返すこともなく
「…分かりました。その代わり俺に出来る事があれば何でも言う、OK?」
「よーし!そこの男子学生!美琴センセーの本気を目に焼き付けとくのよ!」
「はい?」
 急なキャラ転換について行けなかった上条は結局何も手伝う事なく、遠い目で見守るだけだった。

903■■■■:2010/03/25(木) 17:31:35 ID:dYDULebc

 完成した料理が食卓に並べられて行く、それは彩りも鮮やかな和食の数々だった。
 全て美琴一人で作った。というのは目の前で見ていた上条ですら信じられない。
 テレビに出てきても疑わない…むしろ自然と言えるレベルだった。
 
「いつからここは一流の和食料理屋になったんだっけか?」
「べ、別に普通じゃない」
「…いただいちゃってもよろしいでしょうか…?」
 上条は座る体制を正座に切り替えて美琴に尋ねる。
「そ、そりゃーアンタの為に作ったんだから食べて貰わないと困るわよ」
 『いただきます!』の掛け声と共に上条が煮物料理を口へ運ぶ…。
「…………美琴さんって今何歳?」
「14だけど…それがどうかした?」
「後2年ちょいかー。俺もだけどさ」
「……アンタは一人で何をブツブツ言ってんの?」
「何でもない何でもない。しっかし家でこんな美味い料理を食えるとは思わなかったぜ…」
「満足してくれたんなら良かったわ…。もし口に合わないとか言われたら学園都市ごと吹っ飛ばしてたわよ」
「人質がデカ過ぎます!!」
「冗談よ冗談、学区一つくらいなら何とかなるかもしれないけどねー」
 そう言って笑い飛ばす、その表情は言ってる事とは正反対の優しさを含んでいた。

904■■■■:2010/03/25(木) 17:32:10 ID:dYDULebc
―――家庭教師?

 昼を済ませ、休憩を挟んだ後…二人は本題に取り組もうとしていた。
「ハァ……」
「さっきまでの元気はどこ行ったのよ…」
「取り敢えず、やらない事には先に進まないからな」
 そう言って、プリントに目を通す…しかしペンは進まない。
「……もしかしてもしかすると、アンタってやらないんじゃなくて出来ない…?」
「言わないでー!!」
「名前だけ書きなさいよ、後は私は片付けるから」
「全部はやらない…とおっしゃっていませんでしたっけ?」
「まともに教えながらやってたら日が暮れるわよ」
「今サラッと上条さんの学力について最低レベルの評価をしませんでした…?ねぇ、したでしょ!!」
「ほら、アンタは名前書くだけで良いんだからさっさとする!」
 言われるがまま名前欄に『上条当麻』と記入した。
「これでどうすんだ…?」
「よし、後は全部任せなさい。あ、後メモ帳ある?」
 またまた言われるがまま美琴にメモ帳を渡す。
「このメモ帳にどうやって答えを出すとか書いとくから、後で目を通しときなさいよ」
「は、はぁ…」
 物凄く若い家庭教師…ではなく、現実を見ると女子中学生…何とも言えない虚しさ、そして自分に対する情けなさが心を支配していった。

 数分後。
「一応筆跡も真似といたから、鑑定にさえかけられなければ大丈夫!」
「数問しか答えが合ってるかすら分かんねぇ……」
「2年後……。あ、そっか! 私がアンタの学校行けば…」
「はい!? じょ、冗談ですよね…?」
「どうだろ? そん時なってみないと分からないわよ」
「そこは否定して欲しかった……」
「考えてみなさい…こんな可愛い後輩が毎日、毎日お昼にお弁当届けにくるのよ?」
「いや…毎日さっきみたいな料理が食べれるって考えると…って俺を迷わせるんじゃねぇ!」
 美琴が自分で自分を可愛いと言った事に対しては自然と受け流していた。
「でもアンタより先に私が卒業しちゃったりして…」
「えっ?それって…」
「留年」
「……リアルで怖い!」
 一瞬で顔から血の気が引いた上条に対し、隣で楽しそうに笑う美琴。
 でもこんな学生生活ならもっと楽しんだろうなーと彼の心には徐々に変化がもたらされていった。

―――後編へ続きます。

905■■■■:2010/03/25(木) 17:33:58 ID:dYDULebc
今回は以上です!

次はほぼいちゃいちゃで構成して行く感じになると思います。
その序盤だけは既に書けているのですが…うーん、この二人の可能性は無限だな…とw
次回にてこのシリーズは完結させる予定なので、是非お付き合い頂けると嬉しいです。

今回も色々とお見苦しい点が多かったかと思いますが、読んで頂きありがとうございました!
(レス数は多分12ではなく、11になってるハズです)

906■■■■:2010/03/25(木) 18:20:48 ID:s2BrSzp.
>>905
GJ!
いちゃベタ〜、甘いわこれ

907■■■■:2010/03/25(木) 18:40:15 ID:Z.y8ZPfo
>>905
限りなくGJです!
美琴を意識する上条さんが可愛いです。
続きを楽しみにしています。

908■■■■:2010/03/25(木) 19:48:26 ID:RY.Z.Aw2
論争禁止なのかよwww

909■■■■:2010/03/25(木) 20:48:05 ID:I2THxO9I
GJ

910■■■■:2010/03/25(木) 21:36:58 ID:eiE3gmrY
>>889
ぴんた氏GJ!!
美琴の可愛さが留まる所をしらないw

>>905
GJです!!
きゅんきゅんしますなw

911■■■■:2010/03/25(木) 22:10:59 ID:Ugw0iqwo
2ちゃんの上条ssが軒並み攻撃されてる

912■■■■:2010/03/25(木) 22:37:31 ID:yuLWXUws
>>905GJです
すごく良かった!

913■■■■:2010/03/25(木) 22:38:55 ID:Ugw0iqwo
いかん、感想わすれてた!
>>905gj!!面白かった

914■■■■:2010/03/25(木) 22:45:16 ID:js57gCUo
感想もいいけどまず下げようか

915■■■■:2010/03/26(金) 03:06:16 ID:4HfZfzk6
>>889
コメディ的要素がすごい面白かった。
とうまっち→黒子っちになったところで吹いた
よい作品をありがとう

916■■■■:2010/03/26(金) 10:56:20 ID:.sq8xITk
>>889
上条さんのふにゃーって…想像できねぇw
上条ふにゃー後黒子が帰ってくるまで部屋で何があったのやら…ニヤニヤ

>>905
上条さん留年するもしないも美琴の手の内か…おそろしやw

917■■■■:2010/03/26(金) 18:17:07 ID:6aer.dzk
なんだこの静けさは

918■■■■:2010/03/26(金) 18:27:56 ID:3MCr3X0s
このスレのおかげで生きてける
感謝してもしきれない

919:2010/03/26(金) 19:34:50 ID:4n2lmhd6
大丈夫そうなのでいきます。
4月の準備やらでバタバタしてて忙しい……

では【side by side】を投下します。
消費レスは10の予定。

920【side by side】―ホワイトデー―(22):2010/03/26(金) 19:35:32 ID:4n2lmhd6
同日12時30分、上条宅

上条は美琴のありがたいお説教をあれからずっとリビングで受けていた。
上条の言い分によると『土御門から女の子にはサプライズが良いって聞いたから、サプライズな事件でも起こせばいいのかなと思いまして…』らしい。
だがもちろん彼の友人、土御門元春が言いたかったであろうサプライズは違う。
彼の言いたかったサプライズとは、予告もしていないのに突然女の子にプレゼントなどを贈ったり、その子にとって嬉しいことを計画したりすることである。
それを上条は履き違えて、サプライズなら何でも喜ぶ、つまりサプライズな事件という結論に彼の頭の中で至ってしまったのだった。
そして冗談が全く冗談に聞こえないシチュエーション。
美琴の怒りは最高潮にまで達していた。

「ったく、確かにアンタが私を喜ばせようとしてくれたのは嬉しいわよ?…けどね、もっと時と場合とシチュエーションを考えなさい!!アンタの場合、アレは全く冗談に聞こえないのよ!!」
「…………」
「わかったら返事をしなさい!!」
「は、はいぃぃ!!…本当に申し訳ござませんでした!!」

上条は始め背筋をピンと伸ばし、これ以上ないくらいまで地に這いつくばって土下座をした。

「はぁ…もう気が済んだし、アンタも懲りたようだからこれ以上はもう何も言わないけど…」

それ聞いた上条は安堵し、緊張をとく。
―――が、しかし

「ただし!」

彼女の再びの張りのある声により、緩みかけた緊張の糸がまた張り直される。

「もし万が一冗談で私を心配させるようなことがあれば…わかってるわよね?」

そう言って美琴は笑みを浮かべつつ(目は全く笑っていない)、左右両ポケットの中からありったけのコインを取り出した。
その数、およそ十枚程。
これは暗に、『もしあればこれら全部ぶっ放す』とまで言っている。
上条はいくら以前に数回超電磁砲を防いだことはあっても、そんな一気に約十発も撃たれたら防ぐのに右腕が一つでは明らかに足りない。
その先に待ち受けるのは、死あるのみ。

「わ、わかります!えぇわかりますとも!!上条さんの頭はそこまで悪くないのですことよ!?」
「あらそう、ならいいんだけどね。……あぁあと、この件は貸しってことでいいわよね?」
「…………は?」
「貸しでい・い・わ・よ・ね!!」
「も、もちろんですとも!何なりとこの愛玩奴隷上条当麻にお申し付け下さいませ!!」

921【side by side】―ホワイトデー―(23):2010/03/26(金) 19:35:59 ID:4n2lmhd6
それを聞いた美琴はピクリと眉を動かす。
そして先程の笑みとはまた違う笑みを浮かべて、

「ほっほーぅ…愛玩奴隷、ね。そういえば大覇星祭の時の罰ゲームも何だかんだでうやむやにされたし、それの謝罪もまだだったわよね?」
「は…?いや、これはその…言葉のあやというか…」
「それじゃ、こうしよっか。今日一日中はアンタは私の言うことを何でも聞く、口答えしない、抵抗しないってことで」
「お、おい!それはいくらなんでも横暴すぎやしませんか!?」
「あら、アンタは私に文句を言える立場だったかしら?愛玩奴隷さん?」
「…………はぃ。あぁ…」

自分で考えて用意した策が裏目にでて、一ヶ月前のある日と似たような展開に上条は思わずいつもの口癖を言いそうになる。
だが、上条は喉まで出かけたその言葉を口にすることはなかった。
何故なら、今自分の目の前には嘘ではあったものの、それでも自分の身を必死に心配して大急ぎで家に駆けつけてくれた"彼女"御坂美琴がいるのだから。
それほどまでに自分の身を安否を案じてくれる人は自分の肉親以外に今までに何人いただろうか。
過去のことは上条自身、記憶がないのでわからない。
しかし彼の父親の話を聞く限り、不幸を撒き散らす人間として蔑まれていた幼少時代は逆に疎まれてたと思う方が妥当だろう。
そして今絡んでいる友人やクラスメートなどの自分に対するぞんざいな扱いを見る限り、そこまでの心配をしてくれるとは到底思えない。
唯一その可能性が有り得る人物は、以前自分の部屋に居候していたシスターとは思えない程の大食らいの銀髪の少女、インデックスくらいだろうか。
無論、これ以外にもいるかもしれないが、少なくとも今直ぐに考えてでてくる人間はこれくらいだ。
そして今目の前にはそのほんの一握りしかいないであろう人物がいる。
今まで散々不幸不幸とぼやいてきたが、こういう人物の存在以上に幸福があるだろうか。
まして、この状況を不幸というのはもってのほかである。

「…………幸せだな」
「はぁ?……アンタ、もしかしてソッチの気でもあるわけ?うわぁ、流石の私でもちょっと引くかも…」

と言いつつ、美琴は既に上条から一歩引いている。

922【side by side】―ホワイトデー―(24):2010/03/26(金) 19:36:29 ID:4n2lmhd6
「おいおい!それは違うぞ!これはそう言う意味じゃなくてだな…その…」
「じゃあどういう意味?ちゃんと答えられなかったら問答無用で確定ってことで」
「酷いな!?……えっとだなぁ、これはその……美琴みたいに俺の不幸と真っ直ぐ向き合ってくれて、ここまで俺のことを心配してくれる人がいてくれて幸せだなって思っただけだよ」
「ッ!!」
「断じてソッチの気があるわけじゃないからな!!」
「…………」

上条は言い切ると、珍しく顔を少し赤くして美琴への目線を逸らす。
対して美琴は、かいつまんで言うと『お前がそばにいてくれて幸せだ』という上条のセリフを聞いて上条とは比べものにならない程顔を赤く染めていた。
彼女は内心よくもそんなセリフを言えたものだ、と呆れている部分もあるものの、そう言ってくれた喜びの方が断然大きい。
勿論、面と向かって言われたので恥ずかしいという気持ちもあったが、今の彼女にとってそれは些細なものでしかなかった。
今はただ、その圧倒的な喜びを、そして嬉しさを上条に伝えたい。
そう美琴が思っていたら、彼女の体は口よりも早く自然と動いていた。
愛すべき"彼氏"上条当麻の元へ。
そして美琴は今まで一番強く、彼を抱きしめた。

「うおっ!ちょ、ちょっと、美琴さん?一体どうしたんでせうか?」
「………ばか」
「??…上条さんは今の状況が全く理解できないのですが…?」

上条はそう言うが、実はなんとなくは掴めており、その言葉は照れ隠しの役割もあった。
そしてその内容はここ一ヶ月間ずっと彼女と一緒にいたことによってわかったことなのだが、とにかく美琴はこういうことに関してはとことん不器用なのだ。
普段の彼女を見ている周りの者達は、彼女をなんでも器用にこなして、頭もよく、誰とでも分け隔てなく接し、明るく素直な人と思うだろうか。
しかし、大部分は確かにそうであるのだが、こと恋愛沙汰、それも上条に対してはその限りではない。
これに関してはとことん美琴は素直ではなく、不器用なのである。
だから口では思ってもないことを言うことが多々見受けられるのだが、本当に嬉しい、感動している時は決まって何を口走るかわからない口で表現はせずに体全体で表現する。
だから、上条には彼女の何かしらの強い感情を抱いていることを察することはでき、尚且つそれが何の感情であるかはなんとなくわかっていた。

(ホントにこいつはこういうことは不器用だよな。何かを伝えたいなら口ではっきり言えばいいのに…。…まぁそれがこいつの可愛いところでもあるんだけどな)

上条もそれ以上は何も言わず、黙って美琴の背に優しく手をまわす。
それを受けて、美琴は更に抱きしめる力を強くし長い間ずっとそのままの状態で時を過ごした。

923【side by side】―ホワイトデー―(25):2010/03/26(金) 19:37:08 ID:4n2lmhd6
同日13時30分、上条宅

「腹減った…やっと飯にありつける…」
「こんな時間になったそもそもの原因はアンタにあると思うんだけど?」
「わかってますよ…わかってますからそれ以上あの件には触れないでください」

あのままかなりの時間を過ごした二人は、昼ご飯時をとうに過ぎた今、ようやく昼ご飯を食べようとしていた。
ご飯自体は上条が美琴に電話したすぐ後には作り終えて、あとは食べるだけの状態だったのだが、時間が経ちすぎてすっかり冷めてしまっていた。
それらを温めなおすのに多少の時間を要したものの、今やっと準備をし終えて、ご飯を食べようとしている。

「ま、まぁこんだけの料理を作って待ってたってとこだけは褒めてあげてもいいけど…?」
「あぁはいはい、わかったからもう食おうぜ。せっかく温めなおしたのにまた冷めちまう。……あと、さっきも思ったけど伝えたいことあるならちゃんと口で言った方がいいぞ?毎回毎回あれでもわからなくはないけど、いくら上条さんでも限界があるからな」
「よ、余計なお世話よ!大体、アンタは…」
「ではいただきます…パクッ」
「……って彼女無視して先に食べてんじゃないわよ!!ったく…いただきます…パクッ……ん、意外と美味しい」

別に美琴は上条が料理をできないとは思っていなかった。
一人暮らしで自炊しているのだから、ある程度はできるのだろうとは思っていた。
だが実際食べてみたらその予想を上回る味。
常盤台女子寮の食堂の味と大差ないと思える程に。

「そうなのか?お嬢様の美琴さんに美味しいと言ってもらえるとは、上条さんの料理スキルもすてたもんじゃないな」

上条とて、伊達に以前自分の部屋に居候していた大食漢の銀髪シスターを賄ってはいない。
食べる量には腹立たしい面もあったが、それでも美味しいと言ってくれたことが思いの外嬉しく、それ以来もっと美味しいと言われたくてこっそり腕を磨いてきた。
そして、隣に住む土御門の義妹の舞夏の教えもあり、それなりの腕はあると自負している。
それでもレベルの高い料理を食べ慣れているであろうお嬢様の美琴を満足させるレベルかどうかなのかは心配はしていたのだが…

924【side by side】―ホワイトデー―(26):2010/03/26(金) 19:37:44 ID:4n2lmhd6
「いやあ、不味いって言われるの覚悟での決行だったが、よかったよかった」
「べ、別に、当麻が作ってくれた料理なんだから例え不味くても私は食べるわよ……これも私が喜ぶと考えてやってくれたことなんでしょう?」
「ん?まあそうだけど…」
「だったら私は満足よ…ありがとね」

そう言って美琴は少し照れながらも、しっかり上条の目を見て微笑んだ。
その笑顔はこの時の上条曰わく、どこかの物語にでてくる天使を思わせるような笑顔、だったらしい。
そしてその天使のような笑顔を目の当たりにした上条は、いつもの平常心でいられるわけもなく、少したじろぐ。
この二人はまだ付き合い始めてから一ヶ月経っている。
こういう経験が初めての彼らには一ヶ月"も"かもしれないが、世間的にはやはり"まだ"一ヶ月。
付き合い始め特有の初々しさは抜けきらない。




長い沈黙が続いて、そのままの状態で昼ご飯を済ませた二人は上条は後片付けをして、美琴は上の空の状態でテレビを見ていた。
はじめは美琴も片付けをすると自ら言っていたが、『お前は客なんだからテレビでも見てろ』と断られた次第だ。

(うぅ…なんかさっきから会話がないから気まずい…。それにテレビって普段こんな時間になんて見ないから、面白いのなんて知らないし…)

美琴は初めての上条の部屋ということで軽い緊張状態にあったが、その他に先ほどから会話が続いていないことを気にしていた。
その原因は上条が美琴の笑顔を見てから部屋に二人きりということを急に意識にし始めて、彼女の顔をまともに見れなくなったのが原因なのだが、それを美琴が知る由もない。
今はとにかく水が流れる音や食器を洗っているためか、食器同士がぶつかり合うカチャカチャという音がやたら耳につく。

「ね、ねぇ…この後って何か予定あるの?」

そしてこの状況を打破すべく、美琴が上条に問いかける。

「んー、そういや飯とか菓子とかのことばっかり気にしててこの後のことは特に考えてなかったなぁ…」
「あっそうだ、お菓子ってどうなったの?」
「おっと、そうだったな、自分で言っといてすっかり忘れてた。ちょっと待ってろ、もう直ぐ片付け終わるから」

上条が言ったとおり、それから間もなくして片付けが終わったらしく、水の音や食器同士がぶつかり合うカチャカチャという音はなくなった。
そして、小さめのケーキを入れるような正方形に近い箱を持って上条が台所からガラステーブルの前にちょこんと座っている美琴の元へ駆け寄る。

925【side by side】―ホワイトデー―(27):2010/03/26(金) 19:38:12 ID:4n2lmhd6
「ほい。味は…まぁ美琴のには劣るかもしれないけど、俺なりに頑張って作ったからそれで許してくれ」
「……さっきも言ったでしょ。私は当麻が私のために作ったものなら何だって食べるって。私はこれを作ってくれただけで十分嬉しいから」
「そっか」
「んと……開けて、いいのかな?」
「そりゃお前にあげたものなんだからいいに決まってるだろ?」

それを聞いて美琴は恐る恐る上条が渡した箱を開けた。
中身は香ばしい香りが際立っているアップルパイだ。

「一応言っておくけど、何でアップルパイなのかってのは聞かないでくれ。材料があったのと、俺のあまりないお菓子スキルで美琴のリクエストに応えられそうなものがそれぐらいしかなくてな」
「うん……ここで少し食べるからフォーク貸して」
「へ?飯食ったばっかだろ?もう少し後の方が…」
「デザートは別腹ってよく言うでしょ?それと同じよ。私は今食べたいの」
「ふーん。相変わらず女の子ってよくわかんねーな」

それだけ言って上条はまた台所へ戻り、美琴が頼んだものを取りに行った。
その間美琴はもらったパイの香りを堪能していた。
形は少し歪なところもあるが、それは手作りということで十分許せる範囲内だ。
そして何より上条が言うよりもずっと美味しそうではある。

「ほらよ」
「あ、ありがと」
「自分で作ったものだし、どうせだから俺が切り分けてやるよ。それに一応美琴もお嬢様だもんな?」
「一応は余計よ!」
「へいへい」

美琴の文句を軽く流しつつも、上条は隣でパイを切り分けてゆく。
切り分けてゆく際の音や漂ってくるリンゴの香りが、美琴曰わく何とも言えなかった。
そして四等分されたパイを上条があらかじめ用意していた皿にのせ、美琴の前のテーブルに置き、

「……では美琴お嬢様、どうぞお召し上がりください」
「アンタが言うと激しく馬鹿にされてるようにしか聞こえないんだけど、それは気のせいかしら?」
「うん、間違いなく気のせいだな。ほれ、さっさと食え?」
「…言われなくても食べるわよ」

美琴は皿に添えられていた、上品さのかけらもないフォークに手を伸ばし、パイを口に含んだ。
数回の咀嚼の後、美琴はそれを飲み込み、少しキョトンとした表情で隣に座っている上条を見る。

「普通に美味しいわよ?」
「そうなのか?いや、菓子はほとんど初めてだったから自信なくてな」
「当麻も食べる?」
「いや、俺はいいよ」
「当麻も食・べ・る?」
「………はい」

926【side by side】―ホワイトデー―(28):2010/03/26(金) 19:38:52 ID:4n2lmhd6
半ば強引に上条の返事をもらう。
上条は昨日に小さめの試作品を作って、それを食べたので味は知っていた。
しかし、彼女にこう言われたら断れない。

「じゃ、じゃあ……はい、あーん」
「は…?ってええぇ!?」

美琴がやろうとしているのは、恋人同士なら最早定番とも言える"アレ"である。
少女趣味な美琴としては、恋人と一度はやってみたいことランキングの上位に入る。
実際、今まででやろうと試みたことは何度かあったが、それは上条に『人目が気になるし、恥ずかしい』と手厚く拒否されてきた。
恥ずかしいのは彼女も同じであるが、そこはやはり乙女。
やりたいのだから、そんなことはなんとか気にしない方向でいた。

「な、何してんのよ。ほら、あーん」
「ちょ、ちょっと待て美琴。いや、自分で食べるよ」

この流れはいつも通り。
だが今までと今日では状況が全く違い、部屋に二人きりなので人目を気にする必要性は皆無。
そして何より、今日の美琴には上条に対して絶対的な権利がある。

「今日は私の言うこと、やることに当麻の拒否権はない!!……何か異議があれば受け付けるわよ?」
「………申し訳ございません」
「わかればいいのよ。じゃあ、あーん」
「………あーん」

上条は躊躇いながらもゆっくりと美琴のスプーンの先に刺されているパイを口に含む。

「ムグムグ……まあ私的には美味しいと思いますがね」
「ちゃんと美味しいから心配しないの……ね、ねぇ、あのさ…」
「ん?なんだ?」
「こ、今度は当麻が私にた、食べさせてよ…」

沈黙。
別に上条は美琴が言ったことが聞こえなかったわけではない。
声は小さいながらも、しっかり上条の耳に届いていた。
だが、上条としては食べさせられるのも恥ずかしいが、食べさせるのもそれ同等に恥ずかしい。
だから聞いていないことにしたかった。

「さ、さーてコーヒーでも淹れてくるがはぁ!!」

美琴は立ち上がり、台所に向かおうとする上条のシャツの後ろの襟を思いっ切り引っ張る。
それにより上条は後頭部が美琴の足元の床にたたきつけられるが、美琴にはそのあたりの配慮は一切みられない。

「ごっ、がぁ!!」
「何回も言わせないの。今日、アンタは、私の言うことには絶対服従なの。というか、これはアンタが言い始めたことでしょう?」
「ぐ…ぐるじい……」
「だから、アンタには私の願いを聞く義務があるの。わかった?」

927【side by side】―ホワイトデー―(29):2010/03/26(金) 19:39:24 ID:4n2lmhd6
コクコクと上条は自分のシャツで首を絞められつつも、精一杯の力で頷く。
それを見た美琴はようやく上条のシャツから手を離し、彼を解放する。

「ぶはぁ!はぁはぁ…し、死ぬかと思った」
「こ、殺すわけないでしょう?……私にはと、当麻が必要不可欠なんだから」

いやあんな状況だったのに今デレられても困ります、とほんのり頬を赤に染めた美琴を横目に上条は心の中でそう思ったが、口には出さなかった。
もし口に出したら、その結果は目に見えている。

「はぁはぁ……んで、食べさせりゃいいんだよな?」
「う、うん…」
「んじゃやってやるよ。………ほら、あーん」

そう言って上条は一口サイズにされたパイをフォークに刺して美琴に差し出す。
美琴にとって心の底から待ちに焦がれていたシーンの一つがようやく現実で訪れたのだ。
つまり大好きな彼、上条からあーんをされることである。
今まで夢や想像(妄想)などでは嫌という程繰り返し、直前でも頭の中でデモンストレーションとしてやっており、準備に抜かりはない。
だがいざされるとなると、極度の緊張と羞恥で頭が動かず、差し出されたパイにかぶりつくことができなかった。

「……?どした?ほれ、あーん」

もしかしたら位置が遠かったかと勘違いした上条がフォークをさらに美琴に近づける。
パイと美琴の口の距離は数センチ。
美琴がほんの少し頭を動かせばかぶりつくことができる位置にパイはある。
それでも今までの妄想やデモンストレーションの甲斐なく、最早美琴の頭の中は真っ白で、動ける気がしなかった。

(ど、どどど、どうしよう!!は、早く食べないと当麻のことだからフォーク下げられちゃう!!で、でもか、体が動かないぃぃ…!!!)

美琴は全く口を開こうとせず、視線こそパイに向けられているが、端から見ると彼女はそんな状態の人形なのかと思える程固まっている。

(こいつ、自分から食べさせろって言ったくせに……ってあれ?食べさせるってんだからこれでいいんだよな…?でもこいつ全く動かねーし…あれぇ?)

上条は固まっている美琴を見て、少し疑問を抱く。
果たして彼女が求める"食べさせる"形はこれでよいものかと。
美琴はこの方法で自分に食べさせてきたから恐らく間違いない。
とは思っているが、彼女の不動の様子を見れば見るほど、固まっている時間が長ければ長いほど違う様に思えてくる。

928【side by side】―ホワイトデー―(30):2010/03/26(金) 19:39:55 ID:4n2lmhd6
(あれぇ?…でもこれ以外の方法つったら…)

無論、実際はこれで合っている。
美琴はやり方が違うから動かないのではなく、極度の緊張と羞恥で動かないだけなのだから。

(まさか……アレを…?いやいやいくらなんでもそれは酷すぎる妄想だぜ上条さんよぉ…。…でもじゃあなんでこいつは動かないんだ?……まさか、本当に…?うぅ…)

しかし上条は全く動かない理由を勘違いをして、別の方法を模索し始める。
そして上条の中でこれ以外の"食べさせる"方法の検索結果は一件のみ。
普段なら馬鹿馬鹿しいと一蹴して終わりだ。
でも今日の彼は美琴に絶対服従、拒否権はない。

(あぁもう仕方ねーなぁ)

上条は恥ずかしながらも、脳内の検索で得られた結果を実行することにした。

(あっ!やっぱり下げられちゃった……ってあれ?なんで当麻がそれを食べてるの?)

上条に動きがあって、ようやく美琴が正気に戻った。
しかし彼女の目から見れば彼の動きがどうもおかしい。
パイを下げたまではわかるが、それを皿におかずに自分で食べた。
しかも妙なことに、一気に食べるのではなく、半分かじり、くわえるような形で食べている。
それに疑問を抱くがさらに上条に動きがあった。
少し顔を赤くした彼は美琴目を見て、急に腕を彼女の首に巻きつけ美琴を自分自身に引き寄せる。

(へ…?ちょ、何…ッ!!)

そして突然、美琴の口を何かが覆う。
そしてさらにその後、美琴の口の中に先ほどの上条手製のアップルパイの味が口いっぱいに広がった。
その何をされたかを一部始終見ていた彼女は、もちろん何をされたかはわかっている。
だが少し理解し難いものでもあった。
それはパイの味が口の中に広がると同時に、上条からの熱も同時に伝わってくる。
美琴は一瞬その熱と味に戸惑いつつも、熱の方はすぐに離れていき、口の中に残された味の原因となるものを咀嚼して、飲み込むと、

「これで満足か?」
「な、ななな、なんてことしてんのよ!!アンタは!!」
「はぁ?食べさせろって言うからお前と同じ方法でやったら、お前全く動かねーし、やり方が違うのかって思ったからしたんだけど……違うのか?」
「違うわよ!最初ので合ってたわよ!!」
「……じゃあなんで動かなかったんだ?」
「ぅ……そ、それは…」
「はぁ……まぁ、ちゃんと"食べさせた"んだからもうこれでいいだろ?」

929【side by side】―ホワイトデー―(31):2010/03/26(金) 19:40:24 ID:4n2lmhd6
上条はそう言って、今度こそコーヒーを淹れてくる、と立ち上がろうとした。

「待って」

―――が、それをまた美琴が制止する。

「なんだ?まだ何かあるのか?」
「………………かい」
「はい?」
「………さっきのは不意打ちすぎたから、もう一回」
「………えーっと、それはさっきのですか?」

こくっと美琴は可愛らしく頷く。

「………んー、さっきのは場の雰囲気と勢いでやったからなぁ。もう一回ってのは流石に…」
「………ダメ、かな?」

少し熱に浮かされたような潤んだ目で上目遣いをして上条を見る。
それはいつにも増して可愛らしさが倍増しており、いつもなら考えられないような色っぽさもだしていた。
いつもの上目遣いでもすでにアウトなのに、これに耐えられる上条だろうか。
無論、上条がこれをされた瞬間、彼の脳内会議ではある答えが即決ではじき出された。

「………そんな目で頼まれたら断れませんよ」

そう言って上条は仕方ないと言うような感じで、皿に置かれたフォークを手にとり、取り分けられたパイを一口サイズより少し小さめに切る。
そして先ほどと同様に、パイを半分かじるような形でくわえ、

―――再度、口移しをした。

先ほどの口移しでは上条は美琴からすぐに離れていった。
上条もパイを美琴に移すと、今回も同様にすぐに離れようとした。
しかし、美琴が今回はそれを許さない。
美琴は上条の体に手をまわし、強く抱きしめ、離れようとするのを阻止する。
そして移された一つの"味"は小さめにカットされていたため、数回の咀嚼ですぐに飲み込む。
そこで次に、今度はまた違う"味"を堪能する。
美琴はただひたすらに"味"を求める。
ただ、その"味"が欲しくて。
ただ、彼を感じていたくて。

「……とう、まぁ……すき…」
「………美琴」

今彼らは上条の部屋で二人きり。
普段彼らが気にする人目や邪魔をする者は一切ない。
だから、美琴は普段できない程、彼に近づきたかった
普段できない程、彼に甘えたかった。
その後、彼らは長い間時を過ごした。

今の彼らの距離は零。
二人の仲を邪魔するものは何もない。

930:2010/03/26(金) 19:41:44 ID:4n2lmhd6
以上です。
今回は甘い…かな?
というかこいつら顔赤くしすぎだw
一応、ホワイトデーは終わりです。
気分と時間があれば番外編として続き書くかもしれませんが、それはかなり先ですねw
でも【side by side】はまだ続きます。
あと2章くらいのつもりです。

では失礼します。
ありがとうございました。
少しでも皆さんに楽しんでもらえたら幸いです。

931■■■■:2010/03/26(金) 19:58:29 ID:fo27Yd3k
>>930
乙です。
いきなりそうくるかw
上条さんの天然ぶりがパねぇっすw

932■■■■:2010/03/26(金) 20:07:22 ID:nLZKMTXg
少し話がずれるんですが、かべらさんのSS
× dairy life
   ↓
○ daily life
だと思います。
dairyだと乳製品という意味になるのですが・・・。

933花鳥風月:2010/03/26(金) 20:48:28 ID:nWCXio.E
>>930
GJです。
芳川「あなたの書くssは私以上に甘すぎる…」

934■■■■:2010/03/26(金) 21:25:13 ID:d.Og3j9Q
>>930
GJです。
やばい!!甘える美琴可愛過ぎる!!
キュン死するッ!!w

935■■■■:2010/03/26(金) 21:48:06 ID:sAXfvZQk
なんか、とてつもなく甘いゼ…
見てるこっちも甘い気分?
まさかの口移しとは…。原作7巻のねーちんを思い出しちまったw

936■■■■:2010/03/26(金) 23:26:19 ID:.msQOeD2
番外編として描かれるの楽しみ
半裸で待機しますww

937キラ:2010/03/26(金) 23:36:03 ID:cZUYb7s.
どうも、待たせました。
あはは…ははは……今回も自重しなかったので最後のあたりが(見て確かめてください)

タイトル『とある超電磁砲の入学式』
シリーズタイトル『fortissimo』

40分に12レス消費です
(途中で切れる可能性があるので、五分経っても投下されなければ途中で切れたと判断してください)

938キラ:2010/03/26(金) 23:40:17 ID:cZUYb7s.
 上条の高校の入学式は常盤台とは違い普通の高校で行われる普通の入学式………ではなかった。
 といってもそれは今年限定であり常盤台ほどではない。それでも普通の高校よりも一部が豪華仕様になっていた。それはテレビ放送をされている点と参列している人たちが国のお偉いさんばかりであったこと。
 そしてもう一つ、常盤台にはなかったことがこの高校での入学式で行われていた。
「はぁー入場制限なんて入学式、あるもんなのね」
「ははは。私も驚いてます。でも御坂さんの友人だったから楽勝でしたね」
「同感。御坂さんの友人じゃなかったらあたしは今頃御坂さんの入学式のテレビ放送を今か今かと待ってたかも」
 この高校に入学することとなった二人の友人であり先輩である御坂美琴の身内として招待された初春と佐天は、高校の正門で入学式のチケットを見せ無事に入学式の会場がある体育館前にたどり着いた。
 朝から長い列を並び長かった苦労を終えてやっと一息つけるような気がした。佐天は持ってきていたスポーツドリンクで喉を潤すと人の群れが出来ている方向、体育館の方向へと歩いていった。
「そういえば白井さんは?」
「白井さんはとっくの昔に入ってます。なんでも徹夜で並んでたらしく一番に入って席を確保したみたいですよ」
「さすが白井さんとしか言えないね。これも全部御坂さんのためだと思うとあたしは何と言って白井さんに挨拶をすべきか」
「変態の一言でいいと思いますよ。それかストーカー」
「はっはっは、相変わらず白井さんのいないところだと容赦ないね」
「事実じゃないですか。それにいないからこそ言いたかったことも言えるんです」
 初春は胸を張って答えるが、それは違うだろうと佐天は呆れた笑みを浮かべた。
 しかし初春の言うことも一理あるかもしれないと、佐天は白井が体育館で待っている光景を想像してみた。
 きっと待っている白井は今か今かと最新型のデジカメ、またはテレビカメラは首にぶら下げながら入学式が始まるのを待っているのだろう。席はきっと自分のカメラのピントが綺麗に合う場所を確保している。さらにその席で何度も何度もイメージトレーニングなどをしてニヤニヤとしている白井の姿が鮮明に想像できてしまうと時点で、きっと想像通りのことが体育館内で起こっているのではないだろうかと思うと佐天は呆れるを通り越して変態の意味で尊敬したくなった。
「初春、席はどうするの?」
 このまま考えていたら白井の全てが美琴を愛する変態へと変わってしまうような気がしたので、佐天は白井をそんなイメージに変えないためにも初春に話題を振って自分の頭も一緒に別の話題に変えた。すると初春は何かを思い出したように驚き、いきなり佐天の手を握った。
「え…? う、初春??」
「そうです! すっかり席のことを忘れてました。急ぎますよ佐天さん!」
 そういうと初春は駆け足で体育館の方へと向かっていく。手を握られていた佐天はというと、なんでそんなに元気なのと思いながら初春に手を引かれてともに体育館に急ぐ途中で、佐天は初春の片手に握られていたものを見た。
(ビデオカメラ……初春)
 白井とは別の意味で初春も美琴の入学式にとても興味があったみたいだ。そして単純に美琴の晴れ姿を見るだけが目的だった佐天は、二人の友人のせいで式が始まる前まで散々な目にあってしまったのだった。

939キラ:2010/03/26(金) 23:40:52 ID:cZUYb7s.
 入学式のプログラムは常盤台の時とさほどかわらないように見えた。
 開式の辞、
 国歌斉唱、
 入学許可、
 学校長式辞、
 教育委員会の挨拶、
 来賓祝辞、
 紹介、
 教職員の紹介、
 新入生代表の言葉、、
 校歌の紹介、
 閉式の辞。
 担任の小萌先生にもらったプログラムを一つ一つ思い出してみると、常盤台の卒業式と大差がないように思えた。というよりも同じような内容があったことを思うと入学式も卒業式も役者と中身が違うだけのものだと思えてきた。
 考えてみても入学式は学校の生徒として入るもので卒業式は学校の生徒として出て行くものだ。並べてみるとまさに出入口だったので、似ていると納得できなくもないことだ。というよりも出入口の表現で納得できてしまうので上条はそれで入学式のプログラムの疑問を納得することにして、目の前の現実を少しずつ受け入れていくことにした。
(なんで…こんな目に)
 上条の見ている光景は、ほかとは一味違ったものであった。何故ならが今いる場所は体育館の壇上、校長の横の席だったのだ。
(なんだなんでなんですか!!?? 何故わたくしめはこんな場所で入学式に参加しなければならないのでせうか???)
 明らかに公開処刑と言う名の極悪な拷問であった。
 周りを見れば学校長と副校長、さらには来賓として招かれた教育委員会のトップや有名な政治家などが座っている。さらにはテレビ局のカメラが壇上の袖幕の裏からこちらを映しているのが見える。
 今頃お茶の間では上条が映されているのだろう。しかしテレビに映っていると考えても思ったよりは緊張はしなかった。自分でも意外であったがよくよく考えてみればテレビに映るのは今回で二度目であったことを思い出し、初めてじゃないからなと思った以上に緊張しない自分に納得がいった。
 それよりも上条が気になったのは、周りにいる大人たちではなく校長とは逆の方向に座っている自分の婚約者である御坂美琴の存在であった。
(美琴…大丈夫か?)
 プログラムの記憶が正しければそろそろ教職員の紹介が始まりその後に美琴が代表を務める代表の言葉が待っている。そこで美琴は卒業式と同じように壇上で代表の言葉を述べる。
 一度は行った大役ではあるが大勢の人前で話すのは何度やっても緊張しないわけがない。しかも常盤台の卒業式で話題になったことによる期待やテレビカメラが見ていることでさらに緊張感が増しているのだろう。
 上条は美琴を気にして顔をずらそうとする。だが動かす場所によっては小さな動きでも目立ってしまう壇上の上であったので、目立たないように動くことは難しかった。手ならば動かすことが出来るかもしれないが、椅子の並び方が斜めに登っていく並び方であったため、美琴を見るためには少しばかり顔を動かさなければならなかった。
 本来の上条の性格ならば、別に目立ってもいいじゃないかと思う適当な場面であるが、入学式が始まる前に教師一同に在校生の代表として恥をさらさないようにと念を押されたので動くのも命だけであった。単位や学校内での不幸(じけん)でお世話になりっぱなし教師一同には、上条も頭が上がらなかったので上条はそれに素直に従うしかなかった。
(でもなー…やっぱり気になる)
 それでも上条は美琴のことが心配でならなかった。なので少しずつ顔を動かしながら横目で美琴の顔を見ようと必死に動いた。
 そして視界の端っこに美琴の顔を捉えると、もう少しと悟られないように慎重に動かしていった。
『新入生代表の言葉。新入生代表、御坂美琴』
 だがあと少しというところで美琴の出番であるアナウンスが流れる。名前を呼ばれた美琴は勢いよく、はいっ! と立ち上がると真っ直ぐに伸びた背筋が上条の横を通り過ぎて行った。
(……不幸だ)
 結局、上条は美琴の顔を見ることも出来ずに無駄な労力を使ったのだった。それは式中にトラブルを起こしてしまうよりも不幸な不幸であった。

940キラ:2010/03/26(金) 23:41:20 ID:cZUYb7s.
『―――以上を持ちまして、入学式を終了いたします。一同、礼!』
 入学式が終了した放送が流れた。体育館にいた生徒や保護者、来賓一同はアナウンスとともに頭を下げて礼をし終えると、席に座って入学式が終わったことの安心感を味わっていた。
「でも入学式は終わらない。というか終了するって言ったのにまだ出番があるって面倒だよな」
「そうよねー。しかもこれが終わっても、私たち新入生は教室で説明があるし終わったとはまだ思えないわね。それに教科書とか重い荷物もたくさんあるんでしょ?」
「ああ。ここは普通の学校だからお嬢様の通う常盤台のように自分の部屋まで宅急便じゃないぜ」
「まったく、いつまで常盤台のお嬢様を引っ張ってるのよ。それぐらい、私にもわかってるわよ」
 入学式のアナウンスを聞きながら仲良く話す上条と美琴は体育館にある女子更衣室にいた。
 といっても上条と美琴は扉越しに話している為、二人は互いの姿を見ていない。更衣室の扉の中側には美琴が、外側には上条がそれぞれ立っていたので二人の常識ではなく世の中の常識で二人は話していた。
 そして何故上条と美琴がここにいるのかにもちゃんとした理由があった。
「それにしてもこのドレスで演奏するなんて、あの頃みたいね」
「ああ。名前の知らない頃に会ったときは、えっと……なんて名前だったか忘れたけど、確かその時にお前はバイオリンを弾いてたよな」
「そうね。アンタの中ではその時、盛夏祭が私を初めて見た瞬間だったのよね?」
 盛夏祭は記憶を失った上条が初めて美琴の姿を見た日である。あの日は土御門舞夏に誘われてインデックスと共に来ていただけだったので、まだ美琴とは一切の交流もなかった。さらに会ったのはいいが、美琴の一方的な勘違いであの時は交流らしい交流もなかった。
 それから数週間後にあった自販機でのにせんえん事件の一件で上条は初めて美琴だと知ることとなったのだった。
「御坂だと知らないお前にインデックスの行方を訊こうとしたらいきなり椅子で叩かれそうになって。あの時は本当に驚いたぞ」
「でも見知らぬ女の子に、綺麗って普通に言ったのは許せないわよ。アンタ、他の女にもあんなことを言ったんじゃないわよね」
「ファッションに関しては御坂から訊かれた記憶しかないからよく覚えてない。でも俺は御坂一筋って決めたし、どんなスタイルのいいやつと比べてもお前には敵わねえよ」
 上条は全て素直に答えているので言葉には嘘偽りは一切ない。それが美琴にはわかっていたので、上条が褒めてくれることに素直に喜ぶことが出来た。
 過去の上条は鈍いこともあって、褒めてくれても美琴が解釈したのとは別の意味であったり余計な一言付け加えたりと喜べても言われた一瞬だけで、期待を裏切られることもあったので素直に喜ぶことがほとんど出来なかった。しかし今日の上条は過去の上条とは打って変わって、言ってくれる言葉のほとんどが美琴を中心にした言葉であり余計なことも言ってこない。あの頃とは真逆であったのだ。
 だから美琴は上条が自分だけを見て話している事がたまらなく嬉しくて、顔の緩みが治せなかったがここには一人だけで上条も入っては来ない。なので緩みを治す必要がなかったのは美琴には大きな幸いであった。
「えへへ。私も当麻一筋だからそういってくれると嬉しいな」
「そ、それは……嬉しゅうお言葉」
「あれ〜? もしかして照れてる?」
「ッ!! う、うるせえ! 早く着替えろよ」
 扉越しで顔を真っ赤にして照れている上条の表情は、今の美琴には容易に想像できた。
 その顔は少し可愛く思えて美琴はクスクスと小さく笑った。

941キラ:2010/03/26(金) 23:41:49 ID:cZUYb7s.
 そして会話を少しやめ、噂の白いドレスを持ってみた。
 実はあの時のドレスは今は家にあった。今日持ってきたのはまた新たに作ってもらった新しいドレスで、美琴はこれに着替えるために女子更衣室にいたのだ。しかし新しいドレスのデザインはあの時とほとんど同じの特注品を作ってもらったので、サイズが大きくなったぐらいでそれ以外は盛夏祭のときとあまり変わらない。
 これは上条の強い要望で実現したものであった。何故なら上条は盛夏祭の時はインデックスと一緒にいたので、美琴の演奏は見ていなかったの。だから入学式の場を使って上条はドレス姿の美琴の演奏を見たいと頼み込み、今回の企画が成立した。
「でもよく私の演奏の企画なんて通ったわよね。最初は私たちの会見じみたことを計画してたのに、なんで」
「ああ。あの"上条当麻・上条美琴、夫妻版"のままだったら確かに会見だった。でも今日は入学式で主役は俺よりもお前のほうだろう? だから俺ばかりが質問攻めを喰らいそうな会見じゃなくて、御坂がメインで出来る演奏にしてくれって何日も何日も小萌先生たちにお願いしたんだ。それで最後は何日も頼み込んできた俺に折れて先生たちは御坂の演奏に首を振ったってわけだ」
「折れて、ねえ。一体アンタは何をしたわけよ」
「カミジョウサンハナニモシテオリマセンヨ」
 頼み込んだだけで首を縦に振るなど思えない。きっと上条は何かをして、それの交換条件でこの企画を成立させたのだろう。
 美琴は言いたかったことがあったが、それは演奏が終わったあとにとっておこうと胸の中にしまいこんだ。その代わりに、上条のためにも成功させようと思いながら、制服を脱ぎ始めた。
 まだ着て数時間しか立っていない制服はすでに汚れがついてしまっている。美琴はパンパンと汚れや埃のついた部分を叩き、脱いでいった制服を一枚一枚丁寧に畳む。全て脱ぎ終わり下着姿になったところで持って着ていた大き目の巾着袋に脱いだ制服を全て入れていると、美琴は白いドレスに着替え始めた。
「あの時とは……違うわね」
 妙な期待をされていた盛夏祭の時は美琴はあまり気乗りではなかった。大役を任され公の場でバイオリンを演奏するのは、とても緊張することであったし自分には柄ではないと思っていた。だからあの時は逃げ出そうかなとも考えていたが、演奏の直前に緊張を吹き飛ばしてくれた上条がいたから美琴が無事に演奏が出来た。
 そして今回、盛夏祭の時以上の大役を任されテレビや政治家などの偉い方々がいる中での演奏はあの時以上に緊張している。周りの期待や見られる規模は信じられないほど大きく、逃げ出したいと思う気持ちは美琴の中に微かにあった。でも緊張しっぱなしだが盛夏祭の時とは違い今回も出来ると思う自信が少しだがあった。
「ねえ当麻。そこの周りには誰もいない?」
「ああ。あと時間まであと二分ぐらいしかないぞ」
「二分………二分だけ、か」
 着替え終えると美琴は制服の入った巾着袋と近くにあったバイオリンケースを持って、更衣室のドアを一回ノックした。ノックから一呼吸置いてドアノブを回して更衣室の外へと出ると上条が壁に寄りかかりながらこちらを見ていた。
「すげえ綺麗だと思いますけど」
「それはあの時の再現? でも綺麗って言ってくれたことは嬉しいな」
「それじゃあ言い直す。すげえ綺麗だよ美琴」
 上条は笑って美琴の頭を優しく撫でると、えへへと嬉しそうに笑いながら美琴は抱きついてきた。周りに誰もいないことを確認していた上条は、今はいっかと呟いて優しく美琴を抱きしめ返した。
「やっぱり当麻の胸が一番落ち着く。このまま一日ここで過ごしたいかも」
「おいおい、それはまずいだろう。って言いたいけど上条さんはその意見に同意したくなるな。美琴を抱きしめてると離したくなくなっちまう」
「えへへへへ。私は当麻のものだからそれでも構わないよ。だけど当麻は私のものでもあるから私の言うことにも従うんだよ」
「俺がいいって言う限りはな。全部は答えられないからな」
「わかってるって。私のダーリン」
 その言葉にはさすがの上条もぶっと噴出して真っ赤になった。そして、ああとそっぽ向きながら強く美琴を抱きしめた。
「なんだか美鈴さんみたいなもんが入ってないか? キャラがちょっと変わってきたぞ」
「さっき尋問で私のことを『美琴は俺のものだ! こいつを愛していいのは俺だけだ!』ってテレビやみんなの前で言ったのは誰だっけ?」
「………嘘ではないし認めるが、それを今言うか」

942キラ:2010/03/26(金) 23:42:35 ID:cZUYb7s.
 上条は入学式が始まる前に吹寄を代表とする在校生全員と記者の方々に尋問と言う名のインタビューをされたことを思い出した。
 三階にあった視聴覚室を借りて行われた小さな尋問であったが、質問がヘビーすぎたので途中から上条はやけくそになって答えきった。もちろん、上条が耐え切れない質問を美琴が耐え切れるわけもなく美琴も途中からやけくそになって答えきった
 そしてその質問の返答が入学式が終了した後にまた新たな話題として世間に出されるがそれはまだ先の話だ。
 ちなみにその中の一部を紹介すると、
『上条さんにとって御坂さんはなんですかって』という記者の質問に『俺の命よりも大切な妻』と真顔で答えたり。
『御坂さんは上条さんのために毎日やっていることは何ですか』という在校生の女子の質問に『そんなこと、多すぎて言えません。でもあげるとしたら当麻を愛することです』と美琴は思い出し笑いしながら答えたり。
『上条は御坂さんと結婚するつもりか』という上条のクラスメイトの質問に『わかりきったことを聞くな。それと結婚なんてもうしちまってる』と言ってその場にいた一同を凍らせたり。
『御坂さんは上条当麻と結婚するつもりは』という男子生徒の質問に『もちろんです。それに現実で結婚するだけじゃなくて死んでも一緒にいられるように死後でも結婚するつもりです。たとえ天国でも地獄でも』とツッコミ満載の夢物語な結婚話をし始めたり。
『カミやんはヤったのか』という上条の悪友であるグラサンの質問に『毎日のように何時間もヤってるが何か文句あるか、シスコン軍曹!』と自分が不謹慎なことをしたことを認めたり。
『家ではどんなことをしてるんですか』という記者の質問には『愛してあってます。心も身体も全てを愛し合って愛しつくしてます』と上条に抱きつきながら答えたり。
『私たちの目の前でキスできますか?』という吸血さんの質問には『それじゃあ』と答えて一分間、キスしっぱなしになり視聴覚室で自分たちを見ていた全ての人間に自分たちのキスを見せつけたり。
 と、こんなこともあって二人はすでに家の外でも中でも特には関係ない状態になりつつあった。甘えられる場面なら甘えて甘えさせて欲しいなら目いっぱい甘える。それらが身につき始めた上条と美琴は今がその時だと言わんばかりに美琴がめいっぱい甘えてきたので上条は甘えさせてあげていたのだった。
「ねえとーま。ちゅーしてー」
「美琴さんや、そんな色っぽい声を出されたら上条さんはここで間違いを起こしそうです」
「クスクス、それはさすがにダメじゃない。ダーリン」
 美琴は楽しそうに笑うと上条の頬にキスをした。キスされた上条はと言うと、お返しと言わんばかりに美琴の頬にキスをすると美琴と同じように小さく笑った。
「美鈴さんかよ、お前は」
「………そう言われるのは不本意だけど、もしかしたら親子だからかもね」
 だなと苦笑いしたあと上条の手は美琴の後頭部に優しく回された。
 サラサラとした指先から逃げていく綺麗な髪の毛がとても心地よく、かすかに香水の甘い香りがしたような気がした。おしゃれとは少し違うが、綺麗なドレス姿の彼女はとても美しくとても魅力的であった。
 上条はキスをする前にそのことを再度実感して目を瞑った。それからほどよい力で彼女の頭を自分に引き寄せると、音を立てずに自分と一つになった。
「ちゅ…ん………好きだ」
「うん」
 そして唇を離した二人は入学式後に待っていた御坂美琴の特別公演へと向かって同時に足を踏み出した。

943キラ:2010/03/26(金) 23:43:03 ID:cZUYb7s.
 入学式を終えた体育館にいた一同は、これから始まる特別公演の準備をしている舞台を見ながら胸を躍らされていた。
 当初の予定では、入学式中に上条当麻と御坂美琴の会見のような質問コーナーを設置する予定であったらしい。しかし何かの都合でそれは中止となり、盛夏祭の時と同じ美琴によるバイオリンの演奏へと変更になった。ちなみに変更になった理由は関係者の一部にしかわからない謎である。
 初春個人としては質問の方が面白みがあり楽しそうだったので、変更になったのは少しだけ残念であった。しかしまたあの時の演奏を聴けることには初春は別の意味で楽しみであった。
「佐天さん。私たちが初めて盛夏祭に行った時のこと、覚えてますか?」
「もっちろん。あの時の御坂さん、白いドレスを着ててさすっごい綺麗だったよね」
「それにバイオリンも上手であの時は御坂さんの演奏には引き込まれましたね。それがまたここで再現されるなんて」
「うんうん。やっぱり期待大だよね」
 二人は美琴のバイオリンの腕前と白いドレスを着ていた時の綺麗な姿をまだ覚えている。そしてあの時の感動もまだ二人の記憶の中に残っていた。
 初春と佐天は興奮しながら美琴の演奏の準備をしている舞台を見ながらその時を待っていた。それは彼女たちの周りに座っている保護者たちも同じであった。
 一方、それとは少し離れた席では。
「ふっふっふ。美琴ちゃんの演奏、お母さんも楽しみだなー」
 御坂美鈴は自分の愛娘の演奏を楽しみに待っていた。
 実は美鈴はまだ美琴のバイオリンの演奏を聴いたことがなかった。それは美琴が演奏をしてくれなかったからではなく、美鈴が美琴に演奏して欲しいと頼んでいなかったからである。
 美鈴の中では、自分の娘の演奏には少しばかり興味があった。だがそれよりも娘の気になる相手である上条との話題を優先させたので、自分個人の頼みはそれが終わったとでもゆっくりと出来たので頼まなかったのだ。
 しかし今回、意外なことに今まで聴けなかった娘のバイオリンの演奏を聴けると聞いたので美鈴も初春や佐天たちのように純粋に美琴の演奏を楽しみにしていたのだ。
「それにしても上条くんもいなくなっちゃてるみたいね。相変わらず美琴ちゃんは大胆ね♪」
 もっとも、娘をからかうのも楽しみの一つだがそれはまた後でのお楽しみ。
 さらに一方、美鈴から少し前の席には、
「お姉様、ハァハァハァ」
 息を荒くしている口元からよだれを零している白井黒子の姿があった。
 手には買ったばかりのデジカメがしっかりと握られ、その中身は全て今日の美琴の制服姿で埋め尽くされていた。白井はその中から厳選したものを選ぶことはせず、全て保存してデータとして残す予定である。もちろん、これから行われる美琴の演奏にもそれが含まれている。
「ハァハァハァ、お姉様の高校制服の姿。ハァハァ、黒子は感激のあまりイってしまいそうです。ハァハァハァハァ」
 これ以上の解説は問題があるので略させていただきます。

944キラ:2010/03/26(金) 23:43:33 ID:cZUYb7s.
 準備が整った美琴はあとは舞台の袖幕の裏で出番のアナウンスを待つだけであった。
「……………ッ」
 隣にいた上条は緊張をしている美琴の手を優しく握る。美琴も握られた手をぎゅっと握り返すと不思議なことに少しだけ緊張が緩んだような気がした。
「出番まで握っててやる。それまで出来る限りの緊張を解いとけ」
 この手が離れるのは美琴が舞台へ歩き出す時。それまで上条は出来る限りずっと握っているつもりだ。
 いくら美琴の恋人であり公演の関係者であっても、バイオリンの演奏が始まれば上条も観客だ。観客は演奏者を見守ることしか出来ない。手助けをしたくとも演奏が始まれば手伝えるのは邪魔をしないことだけだ。上条にはそれらが理解できていたからこそ、上条は始まる前まで美琴の手伝いをしたかった。そしてこれが演奏が始まる前の最後の手伝いになることも上条はわかっていた。
 出来るなら変わってやりたいと思いもしたが、それは美琴への裏切りであるのも理解している。それ以外にも様々なことを理解していた上条は今はただ想い人の手を優しく包み込むことしか出来なかった。
「……ねえ頼みがあるんだけど」
「ん? ああ、出来ることならなんでもいいぞ」
「うん。ちょっと待っててもらっていい?」
 美琴は上条の手をゆっくりと離すと、少し離れた場所においてあった制服の入った巾着袋の中に入っている制服のポケットからあるものを取り出した。制服をしまって置いてあった場所に巾着袋を戻すと取り出したものと自分のバイオリンケースを持ってきて上条のもとに戻ってきた。
 戻ってきた美琴に手を出してと言われたので上条は右手を出した。すると美琴はその上に取り出してきた小さなものを置くと上条から一歩離れた。
「これって、俺があげたペンダント?」
「そっ。遅刻したホワイトデーにもらった大事なペンダントよ」
 このペンダントは出来上がった翌日の3月24日に上条はホワイトデーのお返しとして美琴にプレゼントしたものだ。
 あの日以来、美琴はたびたび持ち歩いて幸せそうに中の写真を見ている姿は上条も何度か見ている。だが首につけている姿はまだ一度も見ていなかった。
「これを俺に渡して…どうするんでせうか?」
「つけて」
「はい?」
「私につけてって言ってるのよ。買ったのはアンタなんだからつけ方ぐらい、わかるでしょ?」
「まあわかりますけど………」

945キラ:2010/03/26(金) 23:44:09 ID:cZUYb7s.
 ペンダントの結びは金属ではなくそれなりに丈夫な糸で繋がれておりつけ方はとても簡単だ。結び目を解いて、また結ぶだけ。つけ方など幼い子供でも十分にわかる。
 しかし、何故自分がつけるのだろうか…上条にはそれよくわからなかった。
「ほら急いで。時間がないの、わかってるでしょ?」
「わかったわかった。ほれ、じっとしてろよ」
 急かされたので考えることは後にして、上条はペンダントの結び目を解いた。そして解いて出来た二本の糸を美琴の首の裏に回して、ほどよい長さに調節して結んだ。
 少しばかり長めだったかとつけ終えた時に思ったが美琴はペンダントをドレスの中に隠した。
「一応、きつめに結んどいたぞ。途中で解けたりはしないと思うけど、気をつけろよ」
「……うん。ありがとう」
「??? どういたしまして???」
 しおらしくなった美琴の態度に上条はよくわからず首をかしげた。
 ぺンダントをつけただけなのになんでこうも大人しくなったのか、上条の勉強にもそれを解くものはなく何を思っているのかよくわからなかった。それが少しばかり気になって訊こうと思ったとき。
『それでは本日の特別公演を始めたいと思います。御坂美琴さん、お願いします』
 その言葉が開演の合図だった。
 美琴は持っていたバイオリンケースを床に置くと、中から自分のバイオリンと弓を取ってケースを閉じるとそれを上条に渡した。上条はそれを受け取ると、美琴と声をかけた。
「えっと………その、行って来い!」
 何かいい言葉をかけようかと考えたが、結局出たのはいつもの通りの自分の言葉。言った後にもう少しいい言葉を用意しておけばよかったと後悔したが、美琴は声をかけてくれたことが嬉しかったのか、小さな声でありがとうと言った。
 そして優しく微笑むと美琴は上条の下に近づいていくと、上条とキスをした。
「当麻や聴いてくれるみんなを想って演奏する。だから、最後まで見守ってて」
「ああ、俺たちが見守っててやる。だから美琴は美琴の演奏をして俺たちを感動させてくれ」
 そして上条は美琴の背中を優しく押すと、美琴は観客たちが待つ演奏の場へと歩いていった。

946キラ:2010/03/26(金) 23:45:08 ID:cZUYb7s.
 この場にいる全ての人たちが自分を見ている。新入生や在校生、教職員に保護者たち。『外』から来た記者たちも皆自分だけを見ている。
 視界には演奏を楽しみにしている視線や衣装を見て見とれている瞳が映る。今の彼らには自分はどのように映っているのかは美琴には何一つわからなかった。
 しかしわからないことに恐怖はない。何故ならこの中には自分の友人たちも含まれていることを知っていたから。そして裏側では自分の最愛の人が見てくれていることを知っていたから。
(初春さんや佐天さん、黒子もいるみたいね。それとあの馬鹿親も)
 美琴が彼女たちを見たわけではない。だが来ている。見ていなくともそれは断言できた。
「………さて」
 体育館に流れているアナウンスがそろそろ終わる頃を見計らって、美琴は気持ちを切り替えた。
 持っていたバイオリンは中学時代から使ってきたもの。新しいものも買えるには買えたが数々の思い出と長い時間使ってきたため愛着があった。
 だが使い慣れているから上手く演奏できるとは限らない。大切なのはバイオリン自体でも技術でもない。気持ちなのだと、美琴は知っていた。
 楽器とは下手に弾こうと思えば下手に弾ける素直なもの。だが上手に弾こうと思っても上手に弾けない不器用なものでもあった。
 さらに楽器の音は人の気持ちに反応して音を出す。気持ちが沈んでいれば暗い音を響かせ、明るい気持ちであれば明るい音を響かせる。それが音になった時、聴いている人全てに演奏者の気持ちがダイレクトに伝わってしまう。
 だからどんなに上手な人が演奏しようとも気持ちがなければそれはただの音だ。ただの音には人に感動を与えることなどできはしない。それは誰にだってわかることであるが、意外と気づいていない人が多い。
 かつての美琴もそれを知らなかった。しかし度重なる練習を重ね、誰かに聴いてもらいたいと思う素直な気持ちを知ったとき、美琴は楽器はただ上手に弾くものではなく自分の心を描くものだと知った。
 アナウンスが終わり、自分の演奏する曲名が言われる。
 曲の数は三つ。どれも有名なオーケストラの曲でありバイオリンを学ぶ人ならば一回は弾くであろう曲だ。
 最初は上手く弾けずにボロボロであったバイオリンも、時間を重ねるごとに様々な曲に触れて、今はこんな大きな舞台の上で演奏をすることになっている。美琴は音楽家ではないが、今この場で演奏できることは誇りに思っている。
 そして、この演奏を成功させてみんなに感動を与えたいとも…。
 静寂は目の前の演奏者の音を待っている。気持ちはすでに自分の思い描いた世界へと旅立っていた。
 小さく大きく…静かにうるさく…丁寧に雑に…綺麗に汚く…真っ白い紙に様々なことを描いていく。自分の描く世界を知ってもらうために、美琴は流れるように構えると自分の描いた音を楽器の音に乗せて描き始めた。

947キラ:2010/03/26(金) 23:45:31 ID:cZUYb7s.
 上条当麻は美琴のバイオリンを聴かされたことは何度かあった。
 クラシックに興味がない上条には何を演奏して、誰の曲かを言われてもまったくわからない。
 しかし目の前で演奏している彼女の姿はそれらを全て忘れさせるほどに様々な世界を描いていた。
「――――――――――♪」
「……………」
「以上です。ありがとうございました!!!」
 演奏しきると美琴は笑顔でお辞儀をした。
 聴いていた上条は美琴が頭を下げたのと同時に大きな拍手を送った。それでも足りなかったが、戻ってくるまで観客役であった彼には今は拍手をすることしか出来なかった。
「やっぱりすげえよ。ホントにすげえ」
「えへへ、ありがとう当麻」
 とても嬉しそうに笑いながら美琴は端っこに置いてあったテーブルにバイオリンと弓を置くと、上条の座っていたソファーの横にスペースに座ると上条の腕を掴んでえへへと笑った。
「やっぱり当麻の横が一番落ち着く。終わったらすぐにここに来るって決めてたんだ」
「俺は終わったらすぐにここに来て欲しいって思ってたぜ。でも終わったらきっとお前がここに来るってわかってたから何も言わなかったけどな」
「むっ、わかってても言ってよね! 好きな人に来て欲しいって言われるのもね、私は幸せなんだよ!」
「そうなのか? だったら勉強するついでに今のことも覚えておきます」
「うんうん。わかってるわね、ダーリン♪」
 上条の腕に頬擦りをしながら美琴は幸せに笑った。
 時間はすっかり夜となり、入学式での特別公演を終えた美琴であったが、上条の要望により上条のためだけの上条美琴の演奏会がささやかに開かれていた。
 演奏する曲は今日演奏したのと同じ曲であった。しかし同じ曲であってもそのクオリティは下がるよりもむしろ上がっているような気がした。
「なあ美琴。お前さ、入学式の公演の時に手を抜いた?」
「はっ?? そんなわけないじゃない。自分でも驚くぐらいの絶好調だったわよ」
「そうだよな。あの時は感動のあまり上条さんも泣いちまったもんな」
 美琴の特別公演は大成功であった。間違えがなくパーフェクトの演奏であり、人々の魅了した新入生として明日の新聞には載るはずだ。そのあまりの演奏ぶりに、上条はついつい涙を流してしまい美琴やテレビカメラの前で恥を晒した不幸なオチがあったほど美琴の演奏は素晴らしかった。
 余談であるが、あまりにもパーフェクトな演奏に白井黒子は救急車で搬送されて現在も意識不明になっていたりもするが、二人はおろか友人の初春や佐天も知らなかったりもした。それが後日判明した時に、白井の変態レベルがさらに上がってしまうのだがそれはもう少し先の話である。
「でも今の演奏を聴いてて思ったんだが、あの時よりもクオリティ上がってないか?」
「クオリティ? 私は譜面通りに演奏したし公演以上の演奏は出来なかったから、むしろ下がっていると思うんだけど……」
「気のせいか? 美琴の気持ちがダイレクトに伝わってきた気がしたんだが……」

948キラ:2010/03/26(金) 23:46:19 ID:cZUYb7s.
「……ああ、そういうことね」
 気持ちと言われて美琴は何故上条がそう感じたのか、わかったような気がした。それがまだわからない上条はわかったのかと興味深そうな目で教えて欲しいと訴えてくる。
 でもただ教えるだけじゃ面白くないので、美琴は久々に卑怯な手を使った。
「交換条件。それに応じてくれたら、教えてあげる」
「…………………何のかは教えて、くれないよな」
「ふっふっふ。さ〜て、どうします?」
 実はとても単純で上条にもわかる答えだ。
 しかしまだ鈍感な部分は多いため気づくまで時間がかかるかわからない可能性もある。美琴としてはそれはあまりにも悲しすぎるので、ここでは上条に頷いて欲しかった。
 のだが予想に反して上条はここで首を横に振った。
「悪いけど、交換条件はなしだ。その代わりに……ならいいけどな、何か訊くか?」
「訊く。嫌だったら教えない」
「長期で休みになったら、どこかへ旅行をしたいんだがどうかでせうか?」
「行く! お泊りでしょ? 絶対に行く!!」
 喉から手が出るほど素晴らしい提案だったので美琴は興奮しながらその案に賛成した。
 実はこれは美琴も少しだけ考えたことがあることだった。しかし上条の度重なる『外』への用事で言っても難しい気がしたので言わなかった。だというのに上条がそれを言ってくれた。美琴には嬉しさのあまり気絶してしまいそうなほどに素晴らしい提案であった。
「了解。俺も色々とあるけどゴールデンウィークか夏休みにでも行けるようにするな」
「うんうんうん!!! 楽しみにしてるわよ、当麻!」
 喜びのあまり美琴は上条に抱きついて、何度も何度もキスを交わす。一度や二度ではなく、十回二十回と普通のカップルならば一、二か月分ぐらいのキスをして上条に自分の喜びを伝えた。それを受け取っていた上条は決して嫌だとは言わず、むしろ快く受け止めていた。
「んんっ…好き…大好き…ちゅっん…好き好き好き……当麻、大好き……んんっちゅ…ん……んんっ…好き」
(やべえ、美琴が壊れた。でも可愛いからいいか)
 上条は心の底でそんなことを思った。
 そしてしばらくして、落ち着いたのか美琴は上条から離れてまた上条の腕に抱きついた。
「えへへ…当麻と旅行とお泊りだ。えへへへへ」
 しかしどうやら元には戻っていないらしい、でも上条は可愛いからいいかと結論づけてそれ以上考えることをやめた。
「それで? なんで上条さんは美琴の公演がああも違うと感じたのでせうか?」
「それはね…あ・い。私の当麻に対する愛よ愛。当麻にはそれが伝わった?」 
 美琴は満面の笑みで答える。それを見せ付けられた上条はあまりにも美琴が可愛かったので無意識に美琴の肩を抱くと頬にキスをした。
「お前、可愛すぎ。上条さんを美琴依存症で殺すつもりですか?」
「だったら私は当麻依存症で殺すつもりなのって訊きかえすけど?」
「うるせえ。それに俺もお前も依存症なんてずっと前になってるだろう」
「そうね。でもこんな依存症だったら私は死んだあとも持っていたいな」
「死んじまったら依存も何もないだろう。というか死後に結婚するとか言ったの、本気かよ?」
「本気よ。天国でも地獄でも当麻を追いかけてもう一回結婚するわ。それであの世でも私たちは夫婦になるの。どう? 幸せだと思わない?」
「………………………」

949キラ:2010/03/26(金) 23:46:57 ID:cZUYb7s.
 死後に幸せなどあるのだろうかと思ったのが最初に思ったことだ。だが美琴は楽しそうに話すので上条はどんなものになるか想像してみた。
 死後の世界なんてわからない。何もない真っ暗な場所で一人取り残されるのか、マンガみたいに天国や地獄があるのだろうか、上条にはこれだといえる想像が遣いない。
 でも美琴はどこだろうとついてくると言った。天国でも地獄でも、と。
 そして一緒にいられればそれだけできっと幸せなのではないか?
「悪くはないかもな。夢がありすぎだけどな」
「夢があるからいいじゃない。それに当麻だって私と一緒にいられて嬉しいでしょ?」
「そうだな。お前となら天国だろうが地獄の底だろうが一緒にいられる気がする」
 幻想を殺す力を持つ上条は美琴の幻想を殺さず、それを受け入れた。
 本来の上条なら無意識に美琴の描くものを殺してしまうのだが、幸せになりたいと思う一人の高校三年生は美琴の夢物語に幸を感じた。なので上条もその夢物語に賛成したいと思い幻想を殺さなかった。
 上条は美琴の頭を撫でて、もう一度頬にキスをした。すると美琴も上条にキスを仕返してきてニッコリと微笑んだ。
「今日は唇に二十四回、右頬に四十六回、左頬に四十回、おでこに三十五回キスしてもらっちゃった♪」
「お前、まさか毎回毎回数えてるのか?」
「癖になっちゃったのよ。最初のうちは私は初心だったからキスをされただけで気絶してしまうぐらい幸せだった。だから幸せな回数ってことで数えてたんだけど、当麻とこの家に住む時期前後にそれが習慣みたいになっちゃって、今では毎回毎回数えてるのよ」
「ふーん。数えるね……」
 キスをしてもらった回数など上条は数えたことがなかった。今では一日に二百回は軽く越して三百回前後のキスをしている二人のうちの何割を上条が占めているのか考えたことなどなかった。
 上条はキスをしたいからキスをするのだし、美琴もキスをしたいからキスをしてくる。それを毎回毎回数えることなんて、上条は考えたこともなかった。
 しかし目の前にいる妻こと美琴はそれを数えていると言った。考えたこともない上条からすればそれは驚きであったが、実はもう一つだけ感じていることがあった。
「なあ美琴。キスしないか?」
「??? さっきからずっとしてるじゃない? それに断りなんていれてどうしたの?」
「美琴が俺のキスの数を数えているのが可愛くてな。ご褒美に上条さんの熱いキスをあげたいと思いまして」
「クスクス、なによそのセリフ。素直にキスをしたいって言えばいいじゃない?」
「……今日もお前可愛すぎだよ。上条さんはもう色々と限界に達しそうですよ。だから今の発言は撤回。ささ、キスしますよ」
 幸せそうに微笑む美琴の頬を撫でて上条は美琴と口付けを交わした。
 そして、唇を離すと上条は美琴の目を見ながら幸せそうに笑った。
「これからもよろしくね、ダーリン」
「ああ………えっと……ハニー…でいいのか?」
「よく出来ました。大好きよ、当麻」
「馬鹿にされた言い方だな。でも俺も大好きだよ、美琴」
 上条当麻と御坂美琴が口付けを交わした時、新たな物語が始まった。

950キラ:2010/03/26(金) 23:51:42 ID:cZUYb7s.
以上です。
これにて入学式編は終了。長かったです(涙)
皆さんにご満足いただければ幸いです。

前回の誤字・脱字の指摘をありがとうございます。
今回は念のために、三回読み直しました。それでもあったら……何もいえないです。
それと甘いと言われましたが、今回は……どれぐらいの甘さでしょうか?
ちなみに甘さはレベルは3か4で書いたつもりです。
ではまた次回に。

951■■■■:2010/03/27(土) 00:18:40 ID:NulebSOk
>>950
キラ氏GJです!
美琴ちゃんがでれでれでニヤニヤが止まりませんなぁw

952■■■■:2010/03/27(土) 00:26:50 ID:5XCd3SrE
GJです!
ところで途中の激しいキスはディープか!?w

953■■■■:2010/03/27(土) 00:31:44 ID:uKxSHrt6
>>950
これで3か4って・・・
これじゃアクセラレー・・・ゲフンゲフン

わ、私からするとまだまだレベル1なんだから!
悔しかったらもっと甘い作品書いてきなさい!次も期待してるんだからね!

954■■■■:2010/03/27(土) 00:39:07 ID:kcSB0wNM
>>950
GJです。ああ、初めて上琴に嫉妬しました。甘い、そして甘い!!
あと、家で出た初めは外ではなんたら言ってたのに、衆知の前であんなことをするとは何事だ!!いいぞ、もっとやれ!!

>ちなみに甘さはレベルは3か4で書いたつもりです。
・・・なん・・・だと?

955■■■■:2010/03/27(土) 00:56:56 ID:jBVLbca2
先日このスレつけて
数日がかりでpart6を読み終えたけど
みなさんの恋人になるまでの話系や告白直後の話系は
初々しいのばかりで本当にニヤニヤしながら見てましたよ!
これからもニヤニヤできる作品作り頑張ってください

956■■■■:2010/03/27(土) 01:16:28 ID:RcL.ZcPk
口から角砂糖が大量にこぼれるぜ…
GJ!

957■■■■:2010/03/27(土) 01:28:49 ID:79uE8oqE
なんという 見ていてこっちは恥ずかしくなっちゃいました
これはエロパロ板でもやるべき!

958寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/03/27(土) 01:38:37 ID:pSfgjQ4g
最近このスレレベル上がりすぎだろjk……
スレ初期から投げてる身としては嬉しいやら恐ろしいやらw

ところで、物凄くタイミングの悪い時期に完成したんですが
さてどうしましょうか
12レス(+2)なんですが、投げると970またぐって言う……
しかもキラさんからもうちょい時間空けた方がいい気もするって言う……

新スレ立てて投下…で良いと思いますか? それともこっちの方がいいかしら
悩ましい

959■■■■:2010/03/27(土) 01:40:47 ID:Jp/y3q4Q
こっちでOK
はやく埋めたほうがいいとおもう

960寝てた人 ◆msxLT4LFwc:2010/03/27(土) 01:54:18 ID:pSfgjQ4g
そうですね
こっちに投げ、かつ立てるのがベストじゃ?と思ったのでそうします
投げた後立てます

_____


題名:当麻と美琴の恋愛サイド ―帰省/家族―
副題:8章 【帰省1日目 情報屋】
消費:12レスの予定
番号:【130/2−73】 〜 【141/2−84】
前:
前スレ771から
または
ttp://www31.atwiki.jp/kinsho_second/pages/323.html

注意
・私ですら どういうことなの?いいのこれ? と思うような展開してます要注意
・オリキャラ注意
・すこーしだけ20巻のネタが入ります(読んでなくても大丈夫な程度)
・いちゃ分少なめ??


・遅筆ですんません


やや長めに、2:15頃から
それまで気にせずレスしといて下さい

961■■■■:2010/03/27(土) 02:06:49 ID:XL7viq2w
おお、寝てた人さんが来てるwktk
更に次スレ立てとはありがたい、よろしくお願いします

962■■■■:2010/03/27(土) 02:12:43 ID:qziedsgw
起きてたらリアルタイムで読める興奮きたwww
よろしくお願いします

963■■■■:2010/03/27(土) 02:15:59 ID:pSfgjQ4g
【130/2−73】


【帰省1日目 情報屋】


1月2日 PM6:44 雨


 上条は散々走った。
 両手に美琴を抱えているなんて忘れさせるような足の速さで、雨の中を散々駆けずり回った。
 そして器用にも、走りながら幾度となく火に油を注ぎまくったらしい。 上条がよく理解しない内に、追跡者の怒りのボルテージ
はどんどん増していった。
 結果、携帯で情報をやり取りする集団に囲い込まれたり、人混みの中自転車を持ち出す馬鹿に説教しながら逃げたり、何故か異常
に足が速いツインテールの女子小学生(先程フラグを立てたらしい)に執拗に追跡されたりしたわけだが、全てをその逃げ足の速さ
で振り切り続けた。
 やがて体力が限界に差し掛かった上条は、一か八か追っ手の裏をかき、急斜面の林を死ぬ気で登った挙げ句、どことも分からない
神社の境内へと飛び込こむ。
 まさか女の子一人抱き抱える状態で、キツイ坂道を選択するとは誰も思うまい。 と言う発想だ。
 とは言っても登った先にも参拝客は大量に居た。
 雨は未だ止みそうにないが、今日は新年2日目である。 白い布が敷かれた大きな賽銭箱の前には未だ長い列が出来ていた。
 上条は仕方なく人気の少ない場所を縫い、コソコソと境内の奥へ進む。
 奥は正面からはほぼ死角になる上、そのまま進んでも柵と数メートルの崖しか無い袋小路であり、誰も寄りつかないようだった。
 さらにその周辺は砂利が敷かれていて、近づく者があれば音で分かるなど、隠れるには色々都合が良い。
 上条は慎重を期すため、そこからより一層人気のない、本殿と少し離れた建物へと忍び足で近寄る。
 二回りほど小さい小屋のような建物は本殿と同じくらいの古さであるようだが、庇が長く、二人くらいなら余裕で雨宿りする事
が可能であった。
 上条は美琴の体を足からゆっくり下ろしてやり、周囲をキョロキョロと見渡す。 そして追ってくる者が居ないのを確認すると、
ようやく全身の力を抜いて少し湿った石畳の上にへたり込んだ。
 土埃が付いて汚れそうだったがもはやどうでもいい。
 ゼーゼーと肩で息をすることで精一杯である。

当麻「うだー! も、もう駄目だ、走れねー」
美琴「ホントお疲れ様。 何とか撒いたみたいね。 まだ油断は禁物だけど」

 美琴は立ったまま木造の壁に身を預けると、長い振袖やマフラーを絞った。
 よく吸った雨水がボタボタと石畳に降り注ぎ染み込んでいくが、その音は雨音によって掻き消される。
 もちろん幻想殺しは既に美琴から離れている。
 お姫様抱っこで一度は完全にふにゃふにゃになったが、必死の形相で逃げる上条を見て『これではいけない』と思い、どうにか
こうにか立ち直ったのだった。

当麻「ハァ、ハァ……………はぁ、あーあー。 着物、結局汚れちまったな」

 大雨の中を走ってきたおかげで二人は全身ずぶ濡れであった。
 バケツで思い切り水を被ってもここまでは濡れないだろう。
 何度頭を振っても髪の先から雫がポタポタと垂れてくる。

美琴「アンタね、自分の方が酷い有様なのに他人の心配、なんか、してん………ックシュッ!!」
当麻「………風邪引いちまいそうだな。 お前の能力って直接体を温めるとかできないんだっけ?」

 上条は適当に思いついた事を尋ねながら気だるそうに立ち上がる。
 水を吸って随分と重くなった自分のジャケットを脱ぎ、水分を追い出そうとバサバサと振ってみる。
 しかしそこから発生した風が体を撫でて余計に冷える事が分かると、身をすくめ手を止めてしまった。

964■■■■:2010/03/27(土) 02:16:18 ID:pSfgjQ4g
【131/2−74】


美琴「ちょっと、もう少し向こうでやりなさいよ」
当麻「あ、かかったか? 悪ぃ」
美琴「直接体内の電気を操るとか、それで熱を発生させるとかって普通の学校じゃほとんど禁止されてるでしょ? いくら私だって
    そんなに慣れてないわよ。 生死に関わる緊急事態だとかならともかく、このくらいならお勧めはしない。 アンタの右手に
    触れて誤作動しても良いって言うならやってもいいけどね」

 実際は美琴自身の体限定でなら難なくこなせるのだが、それは敢えて言わない。
 自分だけ暖まるなんて出来そうにないし、嘘偽りなく緊急事態以外はやるべきではないと考えているのだ。
 人間は感覚や感情などを含め、様々な制御を電気信号によって行っている。
 それを自在に操るということは、学園都市で密かに流通している強力なドラッグに手を染める以上に危険な意味を持つ。
 いくらパーソナルリアリティを極めた美琴とは言え、進んでその堕落の一端に触れるような真似はしたくない。

当麻「だよなー。 じゃあ昼やってたように乾かすしかねーか」
美琴「そうなんだけど、これだけ濡れてたらさすがに時間掛かるわね。 水を分解させて高速乾燥する事も出来るには出来るけど、
    バチバチ言わせてまたばれたら面倒だし」

 美琴は困ったように首を振る。
 先程のような事になると、またこの雨の中走るはめになるかもしれない(主に上条が)。
 体力的にも精神的にもそんな余裕はないだろうし、乾かした意味もなくなってしまうので本末転倒である。

美琴「ま、でもゆっくりやるわよ。 何より寒いしね」

 二人とも先程から歯の根が合っていない。 それほど冬の雨は冷たかった。
 傘がないのでそもそもそこから出て行くことも躊躇われる。
 詳細な場所が分かれば美鈴達に迎えに来てもらう事も出来るが、今すぐ動くとまた見つかるかもしれない。
 結局ゆっくり服を乾かして、雨が弱まるのを待ってから行動するのが一番得策だろう。
 そう結論づけると、美琴はまず携帯で美鈴達に雨宿りをしている旨などをメールで伝えた。

美琴「ちょろっと、アンタこっち。 そう、そこに立ってて」

 その後上条を自分の右側に誘導し、幻想殺しや体に能力が触れないよう注意して丁寧に服の水を蒸発させ始める。

当麻「ん、何かピリピリするな。 電気マッサージみたい」
美琴「制御を間違うとビリビリするわよ? 出来るだけじっとしてなさい」
当麻「……はい」

 シューという音と共に、徐々に二人の体から湯気が立ちのぼり始める。
 見た目はまるで温泉にでも入っているような感じだが、能力を極力抑えている上に、水が気化する際に熱を奪うのでそれほど
温かくはない。

美琴「クシュッ!! ……ックシュッ!! ……うぅ」
当麻「………………」

 美琴はおもむろに小さいバッグから可愛らしい猫柄のポケットティッシュケースを取り出してみる。 しかし中のティッシュが
完全に湿ってグチョグチョになっている事が分かると、静かにそれを戻し、ズズッと鼻をすすった。
 上条の上着ポケットに入っているティッシュが同じ運命なのは言うまでもないだろう。
 寒いのか、なんて訊くまでもない。 今は1月で、日は既に落ち、天気は雨、服はびしょ濡れである。
 このままじっとしていたら凍死できそうなくらいに寒い。
 現に美琴は相変わらず歯をカチカチと鳴らしながら体を震わせている。
 上条はどうにか美琴を暖める方法は無いものかと考えたが、暖かい場所を求め彷徨う案は先程却下した。
 それが無かったとしても、そもそも皆考える事は同じだろう。 そういった温かい場所が空いているとも思えない。
 何よりこの場所は屋台から遠く離れているに違いなかった。
 発想を変えて自分のジャケットを掛けてやる事も考えたが、そのジャケット自体がまだ濡れているから効果は余り期待できない。

当麻(つーことは、残る選択肢は一つ……だよな?)

 上条は心の中で一度言い訳すると、ジリジリと美琴の方へにじり寄る。
 そーっと左腕を美琴の背中から回し、肩を抱こうとした―――――が、

当麻「痛っつ!!」
美琴「ん?」

 左手から電気がビリッと流れ、驚いて手を離してしまう。

965■■■■:2010/03/27(土) 02:16:29 ID:pSfgjQ4g
【132/2−75】


美琴「何馬鹿なことやってんの? 服に電気流してるんだから当たり前でしょ」
当麻「ぐ……………そうだった」

 感電してビリビリ痺れる左手をブラブラと振って反省する。
 下心は無かったつもりなのに、おいたをした罰を受けたようで何だか非常に悔しい。
 右手ならば肩を抱くことは出来るだろうが、そうすると乾燥作業が止まってしまう。
 結局、上条に美琴の寒さを和らげる術はもう残されていないようだ。

美琴「さ、寒いなら素直にそう言いなさいよね! まったく」

 ところが、今度は美琴の方から寄り添い手を繋いできた。
 若干残念な気分でいた上条は少し驚く。
 肌と肌、服と服は触れてもオーケーなのか、それとも調節でもしているのかもしれない。

当麻「いや、あのぅ……………………………えーっと、はい」

 結果オーライなので出かけた言い訳を悔しさと共に飲み込む。
 それに実際上条の方もかなり楽になった。
 接しているのはせいぜい体の側面と手のひらだけであるのだが、全身冷え切っているためかそれくらいの小さな温もりでも断然
の違いがある。
 二人の体温で徐々に熱を帯びた血液が全身をくまなく廻るのが分かる。
 まるで相手から少しずつエネルギーを注入されているかのようだ。
 気のせいか、体の中心からもポカポカと沸き上がるものを感じる。

当麻(ったく、さっきは近づくだけで嫌がってたのに)

 お姫様抱っこで慣れたのだろうか。
 あるいは寒そうにしている上条のため我慢しているのだろうか。

当麻(まさかとは思うが誰にも見られてませんよねえ?)

 上条はキョロキョロと辺りを見渡す。
 彼は先程酷い失態を演じてしまったせいで、こういう所を誰かに目撃される事を恐れていた。
 とは言っても幸いその場所は薄暗く、ライトアップされている本殿の正面付近に居る者達は例えこちらを見ているようでも
二人に気付いている様子は全く無かった。
 まるで二つの世界が切り離されたかのようだ。
 それを再度確認して安堵する。

当麻(気付かれてはいないようだけど、たまに見られてる感じがして落ち着かないんだよなあ)

 距離が近くなって機微を察することが出来るようになったからか、美琴もそんな上条の様子に気が付いた。

美琴(何脅えてんだか。 相変わらずコイツは色んな自覚が足りないんじゃないかしらね)

 最強の電撃使いたる彼女は、体から常に出ている微弱な電磁波の反射によって周囲の物を察知するレーダー能力を持っている。
言うなればそれは全方位を見渡す高性能な第三の眼のようなもので、近づく者が居たら足音を聞く前に気付くことも可能である。
だから隣のツンツン馬鹿のように脅える必要は全く無い。
 それを上条に説明してやって不安を取り除くことも出来る。 が、彼女としては、何となく優位に立っているこの状況がちょっ
とだけ愉快なものに思えた。
 敢えて教えない方が面白いかもしれない。
 徐々に上条をからかってみたいという、小さな悪戯心が芽生え始める。

美琴「ねえ、さっきから何ビクビクしてんのよ。 心配事でもあるわけ?」

 心配しているようでいて、その目は明らかに笑っている。

当麻「へ? そ、そりゃお前、さっきの二の舞だけは避けたいだろ」
美琴「あーあー。 そっかそっか、そりゃそうよね。 アンタ物凄い事言ってたしね。 確かにあれをもう一度叫ぶとなると当分心
    に深い傷を負いかねないわね」

 美琴は一人納得したように頷く。

当麻「…………な、なな、ななな何のことでせう? か、上条さんにはさっぱりですが、とりあえずこの話は止めた方が良い気が
    しますよ?」

 とぼけた言葉とは裏腹に、顔面にはダラダラと汗が流れる。
 体感温度が一瞬で2、3度下がった。

美琴「んふ。 『俺の美琴に気安く触ってんじゃねー』だっけ? うぷぷっ、何それもしかして独占欲?」
当麻「〜〜〜〜ッ!!??」

966■■■■:2010/03/27(土) 02:16:39 ID:pSfgjQ4g
【133/2−76】


 上条は叫び出したいのを必死に抑えて身悶えする。
 暗くて見えにくいが、立ちのぼる湯気のうちのいくらかはツンツン頭から出ているのではないかと思わせるほど、上条の顔は
真っ赤に染まっていた。
 顔から火が出るという表現は決して誇張されたものではないと今なら主張できそうである。
 何か反論しようとするが中々上手く口が回らない。 あうあう……と言葉にならない言葉ばかりが出てくる。
 まったくトラウマになりそうな台詞を吐いてしまったとつくづく後悔するが、もう大分遅い。

美琴(な、何コイツ……………かわいいッ)

 そのからかい攻撃だけで十分上条の心は大ダメージを負っているのに、その様子が逆に美琴を調子づかせてしまう。
 死ぬほど照れている上条を見るのはぶっちゃけ楽しいし、あの台詞は上条と同じくらいに美琴のテンションを上げているのだ。
 美琴は顔のニヤケが止められないのを何とか隠しながら続ける。

美琴「大体アンタねぇ、自分では大勢の女の子にちょっかい出しておいて、私の体は誰にも触らせたくないっていくら何でも虫
    が良すぎるんじゃないかしら?」
当麻「ちょ、ちょっと待て! そうじゃねーって………ほら、あ、あああ、あの時は痴漢が出たんだと思っただけであってですね」
美琴「アレがそんな時に吐く台詞? 『俺の美琴に…』」
当麻「わー馬鹿復唱すんな!! ………あ、慌てたんだよ!! もしかしたらお前がキレて攻撃するかと思って」
美琴「ふーん。 何だ、そっか」
当麻「そ、そうそう」
美琴「じゃあ、実際に私がアンタ以外の男と手を繋いだり並んで歩いてるくらいじゃ文句ないわけね?」
当麻「うぐッ…………………………………と、時と場合に依る、かも?」

 上条だってこれまで自分の意志にかかわらず色んな女性と手は繋いだ気がする。
 なら自分だけそこで文句を言うのはおかしいと言うのにも納得せざるを得ないのかもしれない。

美琴「ふーん」

 美琴にとってその回答はつまらない。
 妙に物分かりが良いより、がむしゃらに否定して欲しかった。
 だからもう少し過激な事を言ってみたくなる。

美琴「それじゃあ私が過去に誰かと付き合ってたとか、何度かキスしていたとしても大した問題じゃ…」
当麻「したことあんのか!!?」

 上条は表情を豹変させ、右手で美琴の肩を掴み顔を真っ直ぐに見る。
 幻想殺しに触れられたことで服の乾燥が止まる。 遠くの喧噪がよく聞こえてきた。

美琴「ちょ、ジョークよジョーク! いくら何でもそこまで絶望的な顔しなくてもいいでしょ!!」

 やりすぎた、と思い慌てて取り繕う。
 上条は右手は離したものの、未だ心配顔であった。

当麻「無い、のか?」
美琴「無いわよ!!」
当麻「っつーことは……」
美琴「そうよ、クリスマスイブのアレが私のファーストキスよ!! そんな安いもんじゃないんだからそこんところをちゃんと理解
    しておきなさいよねコラ!?」
当麻「……そっか。 同じか、俺と」
美琴「って、え、アンタも?」

 照れを怒りで包み隠した美琴の言葉に、上条はただただホッとする。 その表情は歓喜と言うより苦笑に近い。 何故自分はそん
な顔をしているのだろう?
 彼はふと、一定間隔で吐息が漏れる美琴の唇を見つめてしまう。
 それは暗がりでも判るほど朱く、さっき食べた綿あめみたいに柔らかで、未だ寒そうに僅かに震えていた。
 ずっと見つめていると思わず吸い込まれそうになりそうなその唇が、別の唇を受け入れたのは生涯で二回。 いずれもが上条当麻
のものであるらしい。
 その純然さは大きな安堵と同時に、言いようもない不安も運んでくることに彼は気付く。
 その理由には彼にもおおよその見当が付いた。

当麻「……はは、やっぱ駄目だ。 さっきは思わず死ぬほど恥ずかしいセリフを吐いちまったけど、今でもアレは撤回できる気が
    しねえ。 最低だって軽蔑されるかもしれないけど、そこはどうやったって変えられないみたいだ」
美琴「だーかーらー、さっきのは冗談だっつってんでしょ。 その程度で軽蔑だなんてしないわよ。 別に独占欲を抱くことが必ず
    しも悪い事ばかりじゃない…………っていうか、むしろ私の方が……………その………………」

 唇を尖らせながらモゴモゴと何か言いつつ視線を逸らす。

967■■■■:2010/03/27(土) 02:16:51 ID:pSfgjQ4g
【134/2−77】


美琴「あ、アンタはそんなくだらない自己嫌悪するよりなら、私に似たような感情を日々抱かせてることを反省してればいーの!」
当麻「ああ悪い悪い悪かった。 それについては何度でも謝りますからお許しくだせぇ、っつーかホントどうにか治せないんで
    しょーかこれ!? 愉快なイベントに繋がるわけじゃない駄フラグばっかり起こるし上条さん的にはそこまで楽しい物で
    もないんですよ?」
美琴「ホント、さっさと治しなさいよ。 私だって疲れるんだから」
当麻「……………」

 じゃあ電撃なんて撃ってくるなよ。 と言ってみたかったが、逆のパターンを考えてみたら上条だって確かに美琴や相手の男性
に腹を立てるだろう。

当麻(そう考えてみると雷撃の槍やレールガンで攻撃してくるのだってちょっとくらいは理解………………いや、できねぇけど)

 それとこれとは話の次元が幾つか違う気がする。
 当たらないからと言ってあんな過激なツッコミをする彼女が世界のどこに居るというのだろうか。
 上条じゃなかったらもう軽く百回くらいは死んでいる気がする。

当麻(でも、逆に考えれば俺以外とは付き合えない、ってことになるのか?)

 そう考えて内心喜んだり安心している自分を、他方でもう一人の自分が不思議そうな目で見ている。 そんな感覚に襲われる。
 理由ははっきりしないが、もしかしたら上条にとって美琴を手放す事はすでに恐怖にまでなっているのかもしれない。
 無意識に握った手に力が籠もる。

美琴「?」

 それは微弱な変化だったが、握られた方は敏感に反応する。
 上条の顔を窺うと、たまに見る、何か考え事をしているような顔をしていた。
 彼は普段からヘラヘラしていたり、焦っていたり、怒っていたりと感情を表に出しているようでいて、実際には心の奥底が滅多
に読めないヤツだと美琴は思っている。 そしてこう言う時の上条はより一層読めない。
 結局彼の根底にある本心が垣間見えるのは、たまに彼を襲う危機的状況下くらいである。 例えば夏の橋の上や、秋のあの夜の
ように。
 美琴はその事にときどき不安になる。

美琴「えっと……さっきはからかったりしたけどさ、アンタはもっと普段からあんな風に開けっ広げに話した方がいいんじゃない
    かしら? せめて私にだけは」
当麻「ん? 俺は大概本心で話してるつもりだけど? どちらかっつーと普段本音を出さないのはお前の方じゃねーのか?」
美琴「……はあ? 何よそれ」

 意外な切り返しに困惑する。

当麻「ある人が言ってたんだけどな。 お前の本心を見たこと無いとか、素直なようでいて照れとか演技が混じってるって。
    その時は解らなかったけど、最近になって確かにそんな感じもするなーって思えてきたわけで」
美琴「誰が言ってたのよそんなこと。 まあ少しくらい取り繕ってる部分があるのは否定しないけど、アンタよりは素直だと
    思っ…………………あ、良いこと思いついた、じゃあこうしない?」

 美琴は不敵な笑みを浮かべて上条の顔を覗き込む。

美琴「試しに今から二人で素直になって、お互い思ったこと全て口に出す。 どちらかがギブアップした方の負け。 もちろん
    罰ゲーム有り。 どう?」
当麻「どうって…………………多分後悔するだろうからやめた方が良いと思うぞ」
美琴「ふーん。 何だ結局負ける気満々って事じゃない。 さっきも何か考え込んでたみたいだし」
当麻「いや、それとこれとは別だろ? 素直ってのにも限度があるわけでして、世の中には隠した方が良い物もあるんだよ。 凄惨
    な事件の内容とか食肉処理場で何が行われているかとか男子高校生の脳内とか!! ウソ発見器の時より酷い事になるのが
    見え見えじゃねーか」
美琴「別に私は構わないけど?」

968■■■■:2010/03/27(土) 02:17:05 ID:pSfgjQ4g
【135/2−78】


 同級生や友人には取り繕っている面があるかもしれない。 とは言っても常盤台の生徒の中では『竹を割ったような性格』だと
言われているし、現状の上条に対してなら親に対してと同等かそれ以上に素直になっていると自負している。
 そもそも美琴はことあるごとに上条へ素直に色々喋るよう言っているわけで、もちろんそれは自分にも同様の事を課している
つもりだった。
 相手にだけ何でも喋ろと強要するのは対等な関係とは言えないだろう。
 さらに上条の方が気後れしているのを見てさらに自信を高める。
 これは彼の悩みや不安を聞き出すチャンスだ。 同時に、もっと内心を話す事に慣れてくれたら、などとまで考えていた。

当麻「どうなっても知らないからな」
美琴「んじゃぁいい訳ね。 行くわよ? ハイよーいスタート!!」
当麻「………ったく、それで何が聞きたいんだ?」
美琴「ん、私からでいいわけ? ならとりあえず、さっきぼーっと考えてたことでも美琴センセーに話してみなさいな。 スッキリ
    するかもよ?」
当麻「…………………お言葉ですがセンセー、いきなりパンドラの箱開けるつもりかよ?」
美琴「あらーん? 早くもギブアップ?」

 ちなみに美琴はギブアップして罰ゲームをゲットしたら『思ったこと全て口に出す』ということを強要するつもりである。
 どちらにせよ上条に逃げ場はない。

当麻「『俺は』良いんだけどな。 ……えーっと、さっき考えてたことだろ? 俺がどっかの女子と絡むように、お前がどっかの
    男子と絡むのは確かに癪だよなーって思って反省したのが一つ」
美琴「気付くのが遅いわよ」
当麻「でも普段のアノ攻撃はさすがにあんまりだ、って思ったのが一つだな」
美琴「基本的にアンタが悪いんでしょ。 まあちょっと癖になってる感じもするけど、止められる気もしないのよね」
当麻「………前言撤回。 お前ってやっぱ俺に対しては素直すぎ!! ………えー、あと、怒る度に致死的な攻撃するようなら俺
    としか付き合えないんじゃねーかなーって心の中でニヤニヤしたのが一つ」
美琴「あ…………………」

 美琴は何か言おうとして躊躇うように口を噤んだ。

当麻「ん、ギブアップか?」
美琴「しないわよ! あ………アンタ以外と付き合うなんて、絶対有り得ないって、思っただけ」
当麻「……うわー、すげえ嬉しい。 あと照れて視線泳がす美琴センセー萌えー。 たまにチラチラこちらを見る所なんか高得点
    ですぞ。 あ、何か手が熱くなってきた。 もしかして顔も赤い? 漏電だけは勘弁してくださいお願いします」
美琴「…………………確かに素直すぎるのも問題だわ」
当麻「だろ? それで、あとさっき思った事は………………………」
美琴「ん?」

 上条は美琴の顔を見つめる。

当麻「これ、ホントに言っていいのか?」
美琴「な、何よ。 言いなさいよ」

 美琴は自分の顔の一点を見つめるその瞳にたじろぐ。

当麻「えーっと…………………………まぁ、そうだな」

 上条は頭を掻きながら数秒悩むが、やがて意を決する。

当麻「キス、したい」
美琴「んなっ!!?」
当麻「うわー唇が少し青ざめて震えてる寒そうだなー上条さんの唇で温めて差し上げたいなープニプニしてて柔らかそうだなー
    今キスしたらラムネ味かなーしかし美琴のヤツ可愛いなチクショーどうやったらキスする流れに持っていけるんだーこん
    な場所でなんて嫌がるかもしれねえなーそれにどうせまた邪魔が入るんだろうなー最後にしたのは学生寮だったなー今度
    する時は美琴が多少抵抗しても濃厚接吻してやるぞーふへへへへ、ってぎゃー上条さんったら中二女子に何て嫌らしい事
    考えてるんだしかも今逃亡中じゃねーか最低野郎だー犬以下だー以下略」
美琴「なななななななななななななあッ!! 何馬鹿なこと考えてんのよ変態じゃないのよ!!」

 上条は真面目くさった顔で声も平坦な物であったが、それでも喋っている内に全身の汗腺が開くようにカーッと熱くなるのを
感じた。
 暗くて良かったと思える。 顔の色がとんでもないことになっていそうだ。
 もちろん美琴の表情については言わずもがなである。

当麻「どうだ! こんな状況でそんなこと考えてるなんてキモいだろ、軽蔑したくなるだろ!? しかしてこれが男子高校生の脳内
    なわけです思い知ったか後悔したか!! はいでは今の心境をどうぞー」
美琴「………ッ!?」

969■■■■:2010/03/27(土) 02:17:20 ID:pSfgjQ4g
【136/2−79】


 誰も気付いていないとは言っても、すぐ近くで大勢の人が行き交っているのがそこからでも十分見える。
 しかも先程のことがあるのだ。 普通ならばタイミングを考えない馬鹿と罵るところであろう。
 でも駄目だった。
 間近で上条に見つめられてそんなことを言われては、抗いようもない不思議な力で自然と彼の体に吸い寄せられるのだ。

美琴「わ、わたわた、私…………………私は………………」
当麻「おい、無理して言わなくても良いんだぞ? 心の広い上条さんは罰ゲームなんて課さないからさ」

 それでも美琴は続ける。
 単純に今の気持ちを伝えたかった。

美琴「軽蔑なんて、できないわよ。 私だって…………アンタの、柔らかい唇が、忘れられなくて…………間近で聞いた、アンタ
    の吐息を、何度も何度も思いだして」

 美琴の体がフラフラと上条へ近づいていく。

美琴「その………アンタの体に抱き付いて、アンタに強く抱きしめられて…………そのまま、キス…………したくて、したくて、
    したくて、したくてしたくてしたくてしたくて」
当麻「わ、分かった。 もう全部分かったから。 全部俺の負けで良いから」
美琴「うん」

 伝わったことに満足すると、それ以上は言わず、ただ瞼を閉じ、全てを受け入れるサインを送る。
 人々が発する雑音が雨音に混じってそう遠くない距離に感じる。
 まるでその人達に見られているような独特な緊張感や背徳感が体中を走り暴れる。
 それでも二人は止まらない。
 互いを求め、ただ触れるために近づく。
 コツン、と二人が被ったピョン子のお面がぶつかる。

―――――残り2センチメートル

 美琴のレーダーがそう告げた。

 しかし同時に当たり前の如く邪魔が入ることを感知する。
 彼女は唇を引き、おでこを前に出して上条のおでこにくっつけると、静かに重く息を吐いた。

当麻「みこ……ッうあ!?」

 美琴は上条の体を、彼が転ばないくらいに抑えた強さで突き飛ばす。
 上条は何が何だか分からなくて酷く混乱したが、その数秒後、美琴の背後に一人の男が近づいてくるのに気付き、同じように
溜息を付いた。
 二人はその大きめの傘を差した男が通り過ぎるのを祈る。
 しかし二人を通り越したところであるのは崖のみである。
 男は当然のように真っ直ぐ向かってくると、ようやく目が慣れて二人の姿を確認できたのか笑顔になった。
 それでも二人は、まあ物珍しさで寄ってきたファン一人が相手ならば軽くあしらえるだろう、最悪暴れたら美琴の能力で気絶
させてしまえばいい、くらいに物騒な事を考えていた。
 しかし男は予想に反して奇妙な事を言い放つ。

 男「いやいや良かった、やっと見つけることが出来ました。 お久しぶりですね当麻君。 それと初めまして美琴さん」


 ◆

970■■■■:2010/03/27(土) 02:17:35 ID:pSfgjQ4g
【137/2−80】


 『久しぶり』という言葉を投げ掛けられた上条は表情を強張らせた。 が、それも一瞬で、すぐに口角を上げて眼を細め、男の
言葉に適当な誤魔化しで応じようとする。

美琴「コイツの知り合いなの?」

 しかし美琴がそれをさせなかった。
 通常ならこの状況で美琴が尋ねるべきは上条の方だろうが、もちろん今は通常ではない。
 だから男の方に聞く。

 男「ええ、当麻君が小学校に上がる前に色々と。 忘れられているかもしれませんが」
美琴「そんな前なら忘れてると思うわよ? コイツったら記憶力悪いの。 そうでしょ?」

 上条は美琴の突飛な行動に愕然とした。
 この話の流れで誤魔化すのは相当厳しい。
 まるで知っているなら具体的に何か喋ってみろとでも言われているかのようだ。
 男の年齢は恐らく上条の父と同じくらい。 パリッとした紺色のスーツに地味なネクタイを締め、染めていない短髪に黒縁眼鏡
といった出で立ちで、お固い商社にでも勤めているサラリーマンのような風貌である。 身長は上条よりも高く、体格も良い。
 学園都市内で同年代の人に声を掛けられた場合とは違い、当てずっぽうで関係を言い当てられるわけもない。 親戚、幼稚園の
先生、またはただの御近所さんという可能性だってある。
 上条は極力記憶喪失前の彼を知っている人に悲しい思いをさせたくない。 極力自分がウソを付くことで穏便に済ませたいのだ。
 だったら出来る限り覚えている振りをするべきである。
 それが解らない美琴ではないだろう。
 だから彼は半ば睨むような勢いで美琴の顔を見やった。

当麻「……ッ!?」

 そしてもう一度衝撃を受けてしまう。
 美琴の口元は薄い笑みを湛えていた。 しかし逆に瞳は悲しそうで、眉は困惑のカーブを描いている。
 鈍感な上条でも、瞬時に彼女の気持ちに気付くことが出来る。
 ついでに今すぐ自分を思い切り殴りたくなる。
 美琴は上条に、ひたすら一人でウソを重ね続けるような事をさせたくない。 ウソを重ねる事で彼の心の奥底が孤立していくの
を黙ってみていられなかっただけなのだ。
 だからそれを絶った。
 彼に恨まれることを承知で。

当麻(ったく、テメェは馬鹿か上条当麻。 大切な人に辛い思いさせてんじゃねえよ!)

 幸い相手は忘れられている事を想定している。
 二つを天秤に掛けること自体躊躇われるが、今はその選択以上のものは見あたらない。

当麻「………あ、ああ。 悪い、ちょっと思い出せないみたいだ」

 ゆっくりと喋ったはずなのに、自分でも驚くほど声がかすれていた。

 男「あっはは。 いいですいいです、だろうと思いました。 えーっと私はこう言うものです」

 男は責めるわけでもなく、人懐っこい笑顔のまま胸の内ポケットから白い名刺ケースを取り出し、二人へと手渡した。
 美琴はそこに書かれている文字を見て一瞬手が止まるが、上条の知り合いならば邪険にもできないと思い受け取ることにする。

当麻「学園広識社、編集長の文津知誠《ふみつちせい》さん?」
知誠「月刊学園都市って知らないですか? 主に外向けの雑誌でそこそこ有名なんですが」
当麻「俺はちょっと…………って、そんな人が何でまた? 俺との関係もさっぱりだし」

 上条はチラッと美琴の方を見る。 編集長自らが出張ってくる理由は分からないが、用事があるとしたら恐らくそちらだろう。

知誠「ははは。 そうですか? 君の元へ記者が来たとしても不思議ではないと思いますがね。 私だって『学園都市最強の第一位
    を退けた無能力者、今度は戦争の原因を絶つ』なーんて記事、書けるものなら書いてみたいですよ」
当麻「ッ!? 知ってるのか?」
知誠「まあその事は当麻君との関係も含めおいおい。 お察ししてらっしゃるかもしれませんが、今日はそちらのレベル5の
    お嬢様が帰省されるとの情報を得まして、恐縮ですがご実家に伺ったんです。 そしたら誰もいらっしゃらなくてです
    ねぇ、相当慌てました」

 知誠は傘を畳み、二人に倣って庇の中へと入る。

971■■■■:2010/03/27(土) 02:17:45 ID:pSfgjQ4g
【138/2−81】


知誠「ところが休暇中の部下から写真付きメールが送られてきましてね。 ああ、勝手に撮影したことはお詫びします。 部下も
    普段自分が編集している記事の主役を見て興奮したようで……………それで、驚いたんですよ。 隣りに写っているのが
    当麻君で……………いや、お二人を記事にするなんて馬鹿な真似は致しません。 一応弊社は統括理事会の認可を受けて
    いるまともな部類の組織でして、どちらにせよ検閲で弾かれてしまいますからご心配なく」

 そう言って明るく笑うと、ハンカチで顔に飛び散った雨の雫を拭う。
 上条は『雑誌のインタビューを受けるなんてやっぱり美琴は有名人だなー』と自分の事は放って置いて素直な感想を抱いたが、
当の美琴は20センチメートルくらい上にある知誠の顔を呆れ顔で眺めた。

美琴「つくならもうちょいマシなウソ付きなさいよ。 いくら統括理事会の認可を受けてる会社だからって、レベル5にそんな簡単
    にインタビュー出来るわけ無いでしょーが。 これでも一応最高軍事機密なのよ? それを記事にしようだなんて馬鹿か自殺
    志願者しか居ないわよ。 まぁ例えホントだとしても、悪いけど今そういう気分じゃ無いの。 分かったら帰ってもらえる?」
当麻(……ああ、そっか)

 適当に聞いていた上条もようやく気付く。
 大体にしてこのタイミングでこんな場所までレベル5の取材に来るというのは不自然極まりない。
 それに統括理事会が許可した取材なら堂々と学園都市内に入って出来るはずだ。 わざわざ帰省を狙う必要は無い。

知誠「ははは。 手厳しいですね」

 それでも知誠は柔らかい表情を崩さない。

知誠「いや、半分は本当なんですよ? 個人的に超能力者がどういうものか興味ありますしね。 もちろん仰るとおり記事にはなり
    ませんが」

 言いながら胸の内ポケットから今度は黒い名刺ケースを取り出し、二人へ渡す。
 二枚目の四角い紙に書かれた文字は、上条までもを呆れさせた。

当麻「……………探偵ぇ? 何か一気に胡散臭くなったんすけど」
知誠「ははは。 正確には情報屋なんですがね、理解できない人には本当に理解できないみたいで、便宜上探偵って事にしている
    んです。 あ、裏家業とかではなく単なる副業ですよ? リスク管理さえきちんとできれば割の良い仕事です」
当麻「………んで、その情報屋さんが何の用なんだ?」
知誠「ああすいません。 お二人も寒いでしょうしさっそく本題に入りたいのですが、実は要件が二つあります。 一つは依頼人
    から美琴さん宛への伝言、もう一つは当麻君に対して、私の個人的な要件です。 別々にお話ししたいので日にちを分け
    たいのですが、確か美琴さんは明後日までこちらに滞在するご予定でしたよね?」
美琴「その前に、初対面の相手に私がハイそうですかって素直に従うと思う? こう見えても今休暇中なのよね。 はっきり言っ
    てアンタ邪魔なんだけど?」
当麻(………………美琴さんってば、もしかして相当怒ってません?)

 先刻より美琴の全身からドロドロした『早く消えろオーラ』が出ている。
 原因はさすがに上条にも分かるが敢えて触れないでおく。

知誠「ははは。 嫌われちゃいましたか。 しかしこちらも引くわけには参りません」

 そこでようやく柔和な笑顔を真面目な無表情へと変える。

知誠「依頼人のお名前は御坂旅掛。 お話はご家族全員の未来に関わります」
美琴「………………」
知誠「恐らく旅掛さんからお母様にご連絡がいっているかと思います。 それを確認されてから明日、もしくは明後日でも全然
    構いません。 ですがこの件は必須です。 必ず『学園都市に帰られる前』までにお願いします。 あ、場合にも依ります
    が、お時間はさほど取らせないと思いますよ」
美琴「もしそれを無視したら? 正月ですら娘に顔を見せない仕事馬鹿の言うことを思春期の女の子が素直に聞くと思う?」

 その言葉と美琴の無関心そうな表情に、知誠は苦い顔を見せる。

知誠「お言葉ですが、美琴さんは現在、学園都市内での立場が相当悪い事を認識しておられますよね? 」
美琴「……………それが?」

972■■■■:2010/03/27(土) 02:17:59 ID:pSfgjQ4g
【139/2−82】


 一度は最悪な方法で学園都市を無理矢理抜けだし、戻ってからも学園都市の闇に踏み込んできたのだ。 学園都市内で立場が
不安定になっているのは当然の結果であった。
 それでも大してあからさまな攻撃が加えられないのはレベル5を処理するリスクの問題か、はたまた利用価値がまだあるのか、
誰かが未然に防いでいるのか。
 ただいずれにせよ、彼女自身にとってはそれ自体が些末な問題でしかないのもまた事実である。
 何故なら美琴自身よりも上条当麻の立場の方がさらに危険である事を知っているからだ。

知誠「そんな状況の美琴さんが何故正月に約一週間もの帰省を許されたか、不思議に思われませんでしたか?」

 確かに美琴は正直かなり駄目元で帰省の申請をした。
 約一週間という期間も適当に設定した物だ。
 だから、やけにあっさり通った時は驚いた。

美琴(何か裏があると思ってたけど…………アイツか)

 世界に足りないものを提案する事で、暴力に頼らずに世界をより良い方向へ導いていく事を生業とする男、御坂旅掛。
 彼ならば学園都市内部に働きかけて娘の帰省を促すくらい可能かもしれない。

知誠「お父様のお気持ちも少しは察してあげて下さい。 ……………なーんて、はは、駄目ですね。 これでは学園都市に居る
    自分の娘へ言いたいことを他人の娘さんに押しつけているようなものです。 すみません忘れて下さい」
当麻「娘?」
知誠「ええ、美琴さんと同じエレクトロマスターなんですよ。 うちの出版社の上層部の子供は全員学園都市に預けてましてね、
    まあ悪く言えば人質です。 っと話が逸れました。 美琴さんにはご納得して頂いた後、明後日までにご連絡して頂きく
    として、できれば当麻君には今日中に少しお話ししておきたい事があるのですが、よろしいですか? 時間は20分程度
    だと思います」
当麻「っつーか、俺への話って何だよ」
知誠「全然大した話ではないですよ。 ええ、まあその………………『疫病神』についてね」
当麻「……………………」
美琴「なに??」

 ほとんど表情には出さないが、上条当麻は覚えている。
 『疫病神』という単語を聞いたのは、エンゼルフォールの最中、上条刀夜の口からだった。
 小学校へ入る前、上条当麻が世間から付けられたあだ名。 記憶のない本人とは違い、父にとっては最悪のワードだろう。
 知誠の思惑は計れない。 口からそれまでにない不穏な単語が出た後も表情に変化はなかった。

当麻「………………良いですよ」
美琴「ちょ、アンタ何言ってんのよ!?」

 美琴は突然現れたお邪魔虫に当然上条も怒り心頭だろうと思っていたので、その言葉に驚いてしまう。
 しかし上条は取り合わない。

当麻「ただその代わり、一個お願いを聞いてくれねえか?」
知誠「何でしょう?」
当麻「傘を、買ってきて欲しい」

 まるでお願いのようではなく、取引でもしているかのように表情から色を消して無機質な声を放つ。

知誠「……なるほど。 お安い御用です」

 そう言うと知誠は再び傘を差し、やや小降りになった雨の中へ消えていった。
 見送った後、美琴が早速噛付く。

美琴「…………どういうつもり?」
当麻「どういうって、傘があればお前だけでも先に帰れるだろ? 顔も隠しやすいしな」
美琴「そういう話じゃなくて!」
当麻「何だよ。 昔の知り合いと話に花咲かせちゃ駄目なのか? どうせもう帰る予定なんだし」
美琴「…………なら、疫病神って何なの?」
当麻「さぁ? 神社の異能グッズでもぶっ壊して欲しい………とかじゃねーかな」

 上条は目は笑わずに、口調だけ戯けて言う。
 そんな話じゃないのは分かっているのでこれは冗談と言うよりウソだ。

973■■■■:2010/03/27(土) 02:18:16 ID:pSfgjQ4g
【140/2−83】


美琴「アンタ、また一人で事件に巻き込まれるつもり? どうしてもって言うなら私も連れて行きなさいよね」
当麻「二人で話したいっつってただろ? いいから風邪引きそうなお前はとりあえず母さん達と合流して早めに帰りなさい!
    そしてパンツ穿きなさい!!」
美琴「なっ、ばっ、そそ、それは言うな!!」

 美琴はもじもじと上条から体の一部を隠すような体勢を取る。
 そんなポーズをすると上条的には余計意識してしまうから逆効果としか思えない。
 どうせレンギスか何か穿いているだろうし、例え穿いていないとしても着物は冬用の物だ。 濡れたところで透けて見えるわけ
もない。
 もちろん意識していること自体を気取られるようなリアクションはしないよう気をつける。

当麻「心配なら途中で電話してくれば良いだろ? 上条さんはお前が風邪引いたりなんかしたら情けなくて泣いちゃいますぞ?」
美琴「………………………」

 美琴としてはそれ以上追及することも出来るが、それはそれで上条がまた何も言ってくれなくなりそうで怖い。
 ここら辺が引き際かもしれない。

当麻「つーか、お前の方は何なんだ? 親父さんがどうかしたのか? お前の立場が危ういって初耳だぞ」
美琴「知らないわよあんなヤツの事なんか。 それに立場が危ういってのはアンタの方が遥かに上だからこっちの事なんて心配
    すんなっての」
当麻「………………………」
美琴「………………………」

 何となく、二人はほとんど同時に溜息を付いてしまう。
 先程『自分の方が素直に話せる』と言い合っていたばかりだったのを思いだして、情けなくなったのだ。

当麻(これのどこが素直だ)
美琴(人の事言えないわね)

 ただし自覚したからと言って全てを話せるわけではもちろん無い。
 相手の悩みは知りたいのに、自分の悩みは言いたくないという矛盾が二人を苦悩させる。
 何でも言い合える間柄、いやむしろ性格になれる日はいつか来るのだろうか。
 二人はそれ以上話すと、また隠していることが露呈しそうなのが少し怖くて押し黙ってしまった。


 ◆


 数分後、知誠はビニール製ではない普通の傘を二本携えて戻ってきた。
 代金は奢りでいいとのこと。

美琴「それじゃ、アンタが言うから『し・か・た・な・く』帰るけど、電話掛けるからちゃんと出なさいよ?」
当麻「分かってるって」

 美琴は一度だけ知誠を睨むと、上条達に背を向けて下り階段の方へ歩き出す。 場所は知誠から聞いていた。
 上条はその背中を黙って見送る。
 というかむしろ途中で妙な動きを見せないか注視した。

 結局美琴は素直に階段を下りていき、その薄暗い場所には上条と知誠だけが残される。

974■■■■:2010/03/27(土) 02:18:28 ID:pSfgjQ4g
【141/2−84】


当麻「話すんなら、どっか座れるところにでも行くか?」
知誠「いや、ここで良い」

 知誠は改めて軒下に入り、傘を畳むため前に倒す。 と、その状態でふと動きが止まった。
 上条からは傘によって彼の体がほとんど隠れる。

知誠「ところで、もう一度確認なんだが、君は本当に僕を覚えていないのか?」
当麻「あ、えっと、はい。 何というか、申し訳なさでいっぱいです」

 今更ウソを付く事も不可能なので素直に答える。
 しかし知誠としてはどうにか思いだして欲しいようだ。

知誠「本当に? ほら、君が小学校に上がる1年くらい前、ここからもそれほど離れていない学園都市銀行の支店で会ったんだが」
当麻「…………ホント、ごめんなさい」
知誠「そうか。 残念だな」

 知誠は改めて動き出し、傘を完全に畳む。
 余りにも緩慢な日常的動作だったので、上条は数秒の間、知誠の手に握られた物が何であるか分からなかった。

知誠「動かない方が良い。 脅しではない」

 そう言うと知誠は大股で一歩前へ踏み出し、上条を突き飛ばす。
 体が木造の壁へと叩きつけられる。

当麻「がァッ!?」

 さらに右足を踏まれ、右腕を押さえられ、その金属を腹に押し当てられる。
 知誠は明らかにその動きに慣れていた。

知誠「なぁ、テメェは」

 更にそのままスライドさせ上条の顎まで持ってくる。
 金属のひんやりした感触に急激に現実を突きつけられる。
 上条の戦闘モードにスイッチが入るが、既に遅い。

知誠「命の恩人の事も、そいつの妻を殺したことも忘れたってのか? 疫病神にとってはその程度なのか? ア゛ァ!?」
当麻「ッ??!!」

 見下ろす憤怒の形相から出たその言葉に、上条は顎に銃を突きつけられている事も忘れるほどの衝撃を受ける。

当麻(恩人……妻……殺!?)

 混乱と不安と恐怖と冷静が同時に押し寄せ頭が爆発しそうになる。

当麻(だって、会ったのは、小学校前って………。 それに俺…………人を殺…………)

 しかし思い浮かんだ推測や主張を、すぐに別の自分が全否定する。
 上条は記憶喪失だ。
 自分がどういう人間だったのかも分からない。
 自分が他人にどれだけ迷惑をかけたのかも分からない。
 自分が誰を何回殴ったのかも分からない。
 自分が人を何人殺したのかだって―――――
 結局全てに確証は持てない。
 それに心のどこかで恐れていた。
 いつか過去の自分を恨む人間が現れるのではないかと。
 覚えてもいないのに、自分がやった責任をまざまざと突きつけられるのではないかと。

当麻(それでも、だからって………、これはねーだろ!?)

 上条の心の全てを不安という闇が覆う。
 彼は『上条当麻』が分からなくなる。
 知誠はそれを生気のない目で見下していた。

知誠「ははは。 何か、言えよ。 善人面して詫びるとか、悪人面して開き直るとかよぉ!? どうせ幻想殺しにこの状況を打開
    する手立てはねぇだろ? こんな場所じゃ助けも入らねぇ」
当麻「…………………」

 図星だった。
 異能が絡まず、上条より二回りも体格の良い人間に押さえつけられ、銃を突きつけられる。 さらに誰の助けも入る要素が無く、
守る者もなく、心の弱い所を突かれる。 この状況は幻想殺しにとって一つの最悪パターンを意味する。
 口ぶりから察するにそれを見越しての事なのだろう。

当麻「…………覚えて…………無い」

 それは単なる事実。
 なのに、上条の胸は己の言葉にズキンと痛む。
 今自分に銃口を向けている相手をおもんばかってではない。
 『俺には昔の自分は関係無い』と言っているようで、今までの行動が全てウソに思えてきて、どうしようもないのだ。

知誠「ははは………………………………、死ね」

 引き金を引こうとする。

当麻「ッ!?」

 上条は咄嗟に空いている左手で銃口を逸らした。
 しかしそれは間違いだったらしい。
 わざわざ空けている左手の攻撃が避けられないわけがない。
 グラッと視界が揺れた数瞬後、顎と鳩尾に一発ずつ入れられた事にようやく気付く。
 朦朧とする意識の中、先程の冷たい感触が今度は額へ押しつけられる。

知誠「地獄で詫びろ」

 唸るような低い声と共に、引き金が引かれた。

975■■■■:2010/03/27(土) 02:23:33 ID:pSfgjQ4g
ここまで



ど、どういうことなの?
い、いいのこの展開で?
過去最高に不安ですorz

帰省編のラストまでのプロットを書いてたら時間が掛かってしまったんですが
どうやらこれから数章イチャイチャ少なめです(あるにはあるんですが)
書いてる俺が死んでしまいそう………
できるだけ巻きで書きたい


補完
オリキャラその1
文津知誠
別名 お邪魔虫野郎
見た目 刀夜なんかと似た年齢かそれより上。 30代後半?
    堅苦しいスーツ姿、リーマン風
    何やら格闘技でもやっていそうな体格 高身長眼鏡
言葉 仕事の時と普段で落差
娘  後で出てきます



それではスレ立ててきます

976■■■■:2010/03/27(土) 02:34:29 ID:pSfgjQ4g
::::::::::::::::li/::::::::ヽ::::::::::\ミ<.__
:::|::::::i:::::1:::::|:::::::N:: i:::::::::ヽミ::、 ̄
/{ :::i:|:::::}::/:}!::::|} |斗i:ヽ:ヽ::\::≧=
__∨|:{::/:::i:/!::/イ }::从::|ト:i::\:ト
 ̄乂{`トィ{ }/ / ノ′ }ハ::}:\:{,.  -――‐- ..
  __-ミ / ィ,≦zz |小l> ´: : : : : ´ ̄ : ミ ミ: . 、 
、´  ̄ `     ´     {/ . : : : : : : : : : : . .   \:\\
        {     / :/ : : : : : : : ヽ : : : : . . . . . ヽ.
.u            / :/ : :′: :.′: }: :i|: : : : : .   . :、:
ヘ. 廴三三 フ .′' i : ,| : :/ : : /: /|_ミ: : : \ : : : ヽ
ト::}≧i  . ___ イ|:i :! |: :!|: /| : :イ: /1「´ ≧_、 : ヽ:\:. :
≦,/ハ、     ノ |:|十ト、|:|:i{七/7ナ }ト  彡ミ:..: : : :ヽ
  { |  \`     |:|.:{ :! :{从 |/孑___ノ   ≦:.__\:ヽ:...
   、   }丶  从:ヽ《Tミi { 7´{.:::ミiy  彡'´ヘト:.ヽ:...
    \ 厂 ¨¨¨ ヘヽ从ヒ:}     V:ツ′  f..  }:.: \:.
  }   ∨ー――<.ヘ{/〈   / 7´/ u ノ‐' 人:.:.:.:.:.:
 ,′   i \ `¨¨ 〈  人  ___      .ィ:爪:.:.:.ヽ:.:.:
    | r \    \ r\ ∨__)  イ />、:.:.r‐ ミ:.
/     し'/´      V _,ム>.‐<  /  ハ7 j,. -
    \  /       i ー .ニ{ イr‐彡   / / ノ ,.
 /     {         |  ´,々 〉{入   ,ノ 厂(_/ .
'       nヽ\ 、  ,小.   Y {_厂ミ:.く  /, / ‘ーァ'
        `’ ∨`丶   }_,〉、  }个ト、 ノ‐' i/   ‘ー
二¨¨`ヽ.    ハ    { ` ニニイ人:.Y:..`> {  . --
 /,二ヽ\   ヽ、 ハ    /'  ヽ∨´  j/
_(r_'_ノ⌒  マ下\}  }!   {}/ イ V  /-一 ー‐
 ‘ー<ヽ  }|  \ ノ    V′{`二/      /

二人のスレが立ちました
上条さんと美琴のいちゃいちゃSS part7
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1269624588/

977■■■■:2010/03/27(土) 02:34:43 ID:Jp/y3q4Q
うをおおおおおおおおおおおおおおお

原作並みに燃えるぜー、超燃えるぜーな展開っす!
GJ!

978■■■■:2010/03/27(土) 02:46:33 ID:6xV8uh0s
GJ!
そこで切るのは反則だと思います

979■■■■:2010/03/27(土) 02:46:49 ID:3MIEZbSo
は…はやく…はやく…つ……続きを………

980■■■■:2010/03/27(土) 03:09:02 ID:XL7viq2w
うおお…GJです!
続きがもの凄く気になります
そして次スレ乙です、そのAAはいつ見ても素晴らしい

981■■■■:2010/03/27(土) 03:56:49 ID:qziedsgw
GJです。
起きててよかった!!!!!


最高に面白いけど、原作共々こういう種類の不幸はかわいそうに思える。
上条さんが死にませんように!!

982■■■■:2010/03/27(土) 04:36:20 ID:jmWNnIZ.
そこで終わるとは…GJですあー続きが気になる
>>976


983■■■■:2010/03/27(土) 10:44:47 ID:uKxSHrt6
上条さんしんでまうん?
>>976

984■■■■:2010/03/27(土) 10:58:29 ID:kcSB0wNM
>>975
GJ!ず、ずりぃ。その展開は、続きが、続きが気になって!!
お、俺を寝かせない気かぁー!! 続き待ってます。いや、本当よろしくおねがいします。

985■■■■:2010/03/27(土) 11:02:51 ID:MELH39.A
>>975
なにこの鬼引きw
GJだけどまさかこうなるとは。

妙に足の早いツインテールの女子小学生……よもや某テレポーターの
従妹さんとかそういう手合ではあるまいなw

986■■■■:2010/03/27(土) 11:29:42 ID:zhOsN..c
>>975
GJです!
続きが早く読みたい…

987D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/27(土) 12:17:41 ID:LdJ86G52
>>975
寝てた破壊神キター!
早く続きをお願いします!!


……って叫ぶだけでもアレだと思うので、スレ埋めネタを1つ投下します。
「Foolish_game.」8レス消費。
少し早いけど4月1日話です。
どなたもいらっしゃらないようでしたら10分後に投下します。

988Foolish_game.(1):2010/03/27(土) 12:27:33 ID:LdJ86G52
 新しい季節を迎えるにふさわしい、実に良く晴れた一日だった。
「ほら、ネクタイ曲がってる」
 御坂美琴は腕を伸ばして上条の首もとに手を添え、それが当たり前のように少し歪んだネクタイを細い指でくい、と整える。
「……さんきゅー」
 直された方の上条当麻はやや仏頂面でお礼を述べる。
 四月一日。
 世間ではエイプリル・フールという呼び名で有名なこの日だが、美琴が上条のネクタイを直しているのは嘘でも何でもない。
 今日は上条がこれから通う大学で入学式が行われる。
 本人も半信半疑だが、上条は留年する事もなく本当に奇跡的にも大学一年生になった。これには今ネクタイを直してくれている美琴の尽力があってこそだ。
 当初、上条の学力では学園都市にあるどの大学でも入試突破は難しいのではないかと月詠小萌をはじめとする教師陣は頭を抱えていたが、そこに敢然と立ち向かった者がいた。
 美琴だ。
 彼女はどういうわけか担任教師よりも当の上条よりもやる気を見せ「アンタね、やる前から何もかもあきらめてんじゃないわよ。これから私がみっちり鍛えてやるから覚悟しなさい」と上条の寮に乗り込み、授業が終わると二ヶ月近くほぼつきっきりで上条の受験勉強に付き合った。いや、勉強について根本から見直させた。
 結果、美琴は奇跡を起こした。
 上条が志望していた『上条の学力でも何とか頑張ればかろうじて引っかかりそうな』ところから三ランクは上の大学に合格し、これには教師陣より何より上条自身が驚いた。合格通知メールを受け取って真っ先に美琴に知らせたら『当たり前でしょそれくらいでガタガタ抜かすんじゃないわよ』という非常に冷めた返事が戻ってきて、えー俺の感動と興奮はどこに? と五秒でがっくりした覚えがある。
 そして今日と言う日を、上条は迎えた。
 入学式なんてどうでも良いと上条は思っているが、目の前の『家庭教師』が先日から口を酸っぱくして行け行けと言ってくるので、仕方なく一張羅のスーツをクリーニングに出し、久々に散髪して、いやいや支度を調えている。
 美琴としては上条が逃げたりしないかどうか式までついていきたいが、彼女も彼女で始業式がある。たかが始業式でも美琴自身が彼女の通う高校では数少ないレベル5ともなると、学校側からいろいろ面倒な用事を押し付けられるのだ。
 美琴が二年生だというのに在校生総代挨拶を任されるのも、そのうちの一つ。
 だというのに美琴は上条の部屋を訪れ、こうしてやれハンカチは持ったか忘れ物はないか朝食は食べたかと、朝早くから上条の面倒を見ている。
 スーツにしわがないかチェックしていた美琴が手を止めて
「んで、アンタの両親は式に来んの?」
「止めてくれよ。ガキじゃねーんだぜ?」
 もう良いよそんなにしてくれなくて、とやや邪険に上条が美琴を引きはがす。
 それに対して美琴がむーと頬を膨らませるが、何も見なかった事にして上条は玄関に向かう。

989Foolish_game.(2):2010/03/27(土) 12:28:21 ID:LdJ86G52
「お前、学校間に合うのか?」
「よゆーよゆー。走ればすぐだし」
「走れば、ってお前ね……」
 高校卒業に伴い、上条は第七学区の住み慣れた寮から多くの大学生が居住する第五学区へ引っ越した。美琴は隣の第一八学区にある通称『五本指』のうちの一校に通っている。走っていくと言っても距離があるのでそれなりにきついはずだが、学校指定のバス通学は彼女のお気に召さないらしい。
 美琴と二人で部屋を出て玄関のロックをかけながら、
「いつもありがとな。……ところで、彼氏の方は放っといていいんかよ?」
「ああ、あっちはアンタと違って手がかからないから大丈夫。同じ学校だし、後で電話しとくわよ」
 上条の問いかけに、美琴はいつもと同じ言葉で答える。
 一年ほど前から、美琴には彼氏ができて付き合いを始めた。
 上条はまだ会った事はないが、相手は同じ高校の同級生らしい。聞くところによるとどうやら劣化偽海原のような奴で、美琴曰く『アンタほど手がかからなくて良い奴よ』だそうだ。上条は時折美琴から彼氏に関する生々しい相談を持ちかけられては『何で彼女いない歴と生存履歴が同じ人間にんな事相談すんだよ』と辟易した事は数知れない。
 最近は美琴からの相談も少なくなったので、二人の間はうまくいってるのだろう。自分のせいで美琴の貴重な時間を食いつぶして悪いと思っている上条としては、『俺の面倒見るより彼氏のところへ行けよ』がもっぱらの口癖だ。
「じゃあ、サボんないでちゃんと入学式に出んのよ? 後でチェックするかんね?」
「へいへい。お前も在校生総代挨拶、とちったり忘れたりすんじゃねーぞ?」
「大丈夫よ、アンタと違ってね。それじゃ行ってらっしゃい」
 美琴に手を振って、上条は歩き出す。
 不幸体質の上条を心配して、歩いて大学まで行っても十分式に間に合う時間を計算してくれた美琴のおかげで余裕を持って出発した上条は、まだ見慣れぬ景色を視界の隅に収めつつ携帯電話を操作して地図を呼び出す。
 何はともあれ今日から新しい生活の始まりだ。気持ちを入れ替えて頑張ろう。
 上条が両手を上に伸ばしてぐぐっと背筋を反らしてからよし、行くぞと角を曲がり、大通りに面した歩道に出たところで、運転手が居眠りをしていると思しき大型トラックが何故か上条を目指して突っ込んでくるという、お目にかかりたくない惨劇が上条の視界いっぱいに広がった。

990Foolish_game.(3):2010/03/27(土) 12:29:08 ID:LdJ86G52
 結局、上条は入学式に遅刻した。
 と言うより完全に間に合わなかった。
「ど、ど、どうなってやがる……」
 上条は日頃のあれやこれやで鍛え抜かれた反射神経に物を言わせて間一髪大型トラックとの身体接触は免れたものの、事故の第一発見者という事で事情徴収のため警備員に長時間拘束され、入学式はおろか新入生オリエンテーリングさえまともに参加できなかった。
 事故現場に出くわした人間の協力義務については理解しているが、何もこんな日にこんな目に遭わなくったって良いだろうと、上条は植え込みに突っ込んでよれよれになったスーツ姿で各種調書にサインした。
 ほうほうの体で大学に着いた上条は、ボロボロになった上条の姿を見て悲鳴を上げそうになった学生課のお姉さんに事故のあらましを説明して、今日もらうはずだった一通りの書類を受け取ると近場にあった椅子に腰掛け封筒の中身を引っ張り出した。
 中に入っていたのは選択授業の申請や授業料免除希望者への案内書など、オリエンテーリングの説明を聞かなければどう記入したらよいのかわからないものばかりで、上条は文字の羅列がのたうち回る意味不明のパンフレットをいったん広げ、それから頭痛を堪えて二つ折りの用紙類を元のように封筒に押し込めた。
 上条はただの飾りになったネクタイを首から外し、所々穴の空いた上着を脱いで脇に放ると
「……まあ、誰かに聞けばいっか」
 上条の高校時代のクラスメートは、ほぼ全員上条とは違う大学に進学した。奇遇にも上条と同じ大学を選んだのは青髪ピアスただ一人だが、青髪ピアスは上条との友情を自分の人生の天秤にかけてこの大学を選んだなどという、そんなお涙頂戴の美しい理由で進学したわけではない。
 青髪ピアスの原動力は月詠小萌だ。
 発火能力を専攻とする外見年齢一二歳にして完全幼女宣言の上条の元担任は、同じく発火能力系に造詣の深いこの大学に、何度か論文制作のために顔を出している。
 たったそれだけの理由で、発火能力者でもない青髪ピアスはこの大学を受験し、余裕で合格して見せた。さらにはクラスの秀才、吹寄制理と同等の学力を持ちながらわざわざランクの落ちるこの大学を志望し小萌先生を困らせては喜ぶといった変態ぶりを披露して、吹寄からおでこDXマークIIをお見舞いされたのは記憶に新しい。
「……とりあえず帰るか」
 窓の外では賑やかしく各クラブやサークルによる新入生勧誘合戦が始まっている。新しい出会いを求めて人波に飛び込むのも良いが、手元の書類は提出期限が決まっている。これをほったらかしにすればあの茶髪の家庭教師が何を言い出すかわからない。脳裏でかんかんに怒る美琴の姿を想像してため息をつき、上条は椅子から立ち上がった。

991Foolish_game.(4):2010/03/27(土) 12:30:22 ID:LdJ86G52
「御坂か……はあ」
 そこで上条はもう一度ため息をつくとポケットに入れた携帯電話を取りだし、待ち受け画面を開く。
 画面を飾るのは上条と美琴のツーショット写真。
 これはハンディアンテナサービスのペア契約の時に撮ったものではなく、ごく最近美琴に『無理矢理』撮らされたものだ。引きつった笑顔の上条と何か開き直ったようにハイになっている美琴が二人並んでいる写真というのは、何度見ても奇妙な気分がする。
 上条が幾度待ち受け画面から解除しても、都度美琴に携帯電話の通話履歴をチェックされその度にこの写真に設定を変えられるので、別の写真に切り替える事はとっくにあきらめた。
(お前は俺の彼女かっつーの。つか、お前以外の相手に電話かけたからって一回一回根掘り葉掘り聞こうとすんなよなー)
 上条は現在時刻を確認し、携帯電話をくたびれたワイシャツのポケットに放り込む。
 美琴の事を思うと、上条は憂鬱な気分になる。
 上条が美琴と知り合ったのは上条が高校一年生の時だ。話によると不良に絡まれていた美琴を上条が助けようとして割り込んで、そこで不良もろとも返り討ちにあったらしいのだが、上条にその日の記憶はない。以来何かと美琴は上条に突っかかってきてボコボコにしたりされたりを繰り返し現在に至る。
 出会った頃のような容赦ない電撃や雷撃の槍による攻撃は少なくなり、近頃では頼んでもいないのに世話焼きスキルを遺憾なく発揮する美琴に、上条は何かと面倒を見てもらう事も多くなった。だからその労力は彼氏に振り向けてやれよと上条は口を酸っぱくして言うのだが『あっちはアンタと違って手がかからないのよ。彼女の甲斐がないって奴?』と言って笑って聞き流される。
 かゆいところに手が届く美琴の存在は、上条の中で大きなものとなっている。
 反面、美琴の献身が上条にはやけに重すぎた。
 美琴は今でも絶対進化能力実験の件を気に病んでいる節がある。あれはどう考えても学園都市第三位のレベル5では手に負えない事件だった。上条の幻想殺しという特異点がなければ、一万人の死者が二万人に増え、美琴は望まぬ死を迎えて決着をつけようとしていただろう。
 その時の事を借りだと思うなら、この三年間でとっくに返してもらったと上条は思っている。むしろ上条が美琴に借りを作りすぎて返せないくらいだ。自分も大学生になった事だし、ここらで美琴との関係を見直す時期だろうと上条は考える。
 とはいえ、口ゲンカでまともに勝てた事のない美琴をどうやって納得させるのか。
 上条はもう一度窓の外を見る。
 新入生勧誘合戦はヒートアップし、学生の怒号にも似た絶叫がグラウンドや建物に五・一チャンネルサラウンドで反響する。どうやら空間操作系統の能力者が勧誘に混じっているらしく、その声はどの説明よりも鮮明に上条の脳髄に届いた。
 美琴を怒らせず、かつ穏便に追い返すにはどうすればいい?
 その解を求めて、上条は旗や机やチラシが飛び交う只中へ自ら飛び込む決意を固め、右拳を握りしめた。

992Foolish_game.(5):2010/03/27(土) 12:31:20 ID:LdJ86G52
 上条は肩に引っかけた上衣のポケットから財布を取り出し、中から破損を免れたカードキーを引き抜いて、上条が住居として借りている部屋の扉に据え付けられたスリットに差し込み滑らせた。
 ……反応がない。
 今朝の事故の衝撃で磁気が消えてしまったのかと、上条は何の変哲もないカードキーを夕日の光に当てたり透かしてみたりするが、上条の目には異変が起きたのかどうかさえわからない。とりあえずもう一度カードキーをスリットに通してみるが、やっぱり反応はなかった。
「ぐあ……不幸だ。カードキーが壊れたら中に入れないじゃねえか」
 自室のドアに寄りかかり、コンクリートを敷き詰めた通路に向かってずりずりと上条が落下する。
 すると、ドア越しに奇妙な音を聞きつけて無人のはずの上条の部屋のドアが開き、中から美琴が顔をのぞかせた。
「アンタ、自分の部屋の前で何遊んでんの?」
「…………その前に俺はお前が何故俺の部屋にいるかどうか小一時間ほど問い質しても良いか?」
 美琴はキョトンとした顔で
「アンタの部屋の鍵、最新式の電子ロックって聞いてたから私の能力で開くかどうかちょっと試してみたのよ。結構な触れ込みみたいだったけど大したことなかったわね」
 美琴が何をどう試したのかは聞くまでもない。
 電撃使いでも破れない最新のセキュリティと言う宣伝文句に惹かれてこの部屋を選んだのに、ものの五分とかからずに美琴に突破された現実に、上条は膝を地面につけたまま一年の三分の二が不幸に見舞われた顔で美琴を見上げる。
「優秀な発電系能力者であらせられるあなた様が俺の部屋の鍵を開けた後、そこで何をしていらっしゃるんですか?」
「夕飯の支度してたんだけど? アンタも食べるでしょ?」
「前から何度も聞いてることだがな、何でお前が俺の部屋でナチュラルに晩飯作ってんだよ!?」
「一人分作るのも二人分作るのも手間は同じだからいいじゃない。自分の部屋に帰って一人分作ったってつまんないんだもん」
「だからそれはお前の彼氏のところでやってやれって言ってんだろ! ……ったく」
 上条はドアノブに手をかけて立ち上がると汚れた膝を両手でパンパンと払う。
 美琴は玄関のドアから顔をのぞかせたまま
「ねぇアンタ。今日は入学式だったのよね?」
「そうだけど?」
 茶色の瞳がつう、と細められ上条を見据える。
「何をどうしたら入学式でそんなにボロボロになるのか、説明してもらえる?」
 ……不幸だ。
 何も悪い事はしていないのに、どうしてこんな責められるような目で見られなくちゃならないんだろう。
 これから身に覚えがないのに降りかかるであろうお小言を予想して、上条は悲しくないのに溢れる涙を止められなかった。

993Foolish_game.(6):2010/03/27(土) 12:32:13 ID:LdJ86G52
「……さすがの美琴センセーでも、アンタが交通事故に遭うってのまでは予想できなかったわね」
 おかわりの白飯を茶碗によそい、美琴が上条にはい、と差し出す。上条がさんきゅーと受け取って、ついでにリモコンをたぐり寄せてテレビをつけようとしたら美琴に怒られた。
「ご飯の時にテレビは見ないの。お行儀悪いでしょ?」
「……分かったよ」
 今朝の事故がニュースで流れていないかチェックしようとしただけなのだが、家庭教師様はお気に召さなかったらしい。上条はリモコンの操作をあきらめ、豚肉の生姜焼きをかじる。
「……うまいな。これならいつでも嫁に行けんじゃねえの?」
「ありがと。でもその台詞はもう一〇回くらい聞いたわね。たまには他の言葉でも使ってみたらどう?」
「……そうだっけ?」
 飯のお礼を言ってみたら冷静に切り替えされて他に言葉が続かない。つかいつのまに一〇回とかカウントしてるんだろう御坂の奴。
 晩飯ってもっと和気藹々と食べるもんじゃないんですかと心の中で涙を流し、上条は白飯をかきこむと
「そうだ。あのさ」
「んー、なーに?」
「今日大学行ってきたんだけど」
 まるで母親に今日の遠足の内容を話してるみたいだと、上条は苦笑する。
 それくらい彼女の面倒見の良さが行き届いている訳だが、上条にはそれが重すぎた。
『俺達、友達じゃねーか。こんなのは間違ってる』と叫びたかった。
 友達なんだから、もうこれ以上干渉しないで欲しい。
「うん?」
「俺、サークルってのに入ろうかと思って。あっちこっちのパンフレットもらってきたんだ」
「……そう。いいことかもね」
「えーっと、ほら、これって大学デビューって奴? あとは……春だし、ここらでいっちょ頑張って彼女でも作ろうかなってさ」
 美琴の動きが一瞬止まった。
「……そうね。それもいいかもね。せいぜい頑張んなさい」
「……、だから、御坂」
「だから?」
「その……彼氏のところに、そろそろ、戻れよ」
 いつまでも彼氏付きの女の子をそばに置いておくのはまずいと、上条は思う。
 春だし、大学生だし、今日はきっと良い機会だ。
 今日はエイプリル・フール。
 四月に馬鹿な終わり方をさせるのもきっとやり方としてはアリだ。
 美琴の優しさを踏みにじるのも、今日限り。
「今日まで、ありがとう。でも俺なら大丈夫だから。お前の彼氏には悪い事しちゃったけど、お前もそろそろさ、俺みたいなのにくっついてないで戻ってやれよ。……彼氏のところに」
 美琴は手にした茶碗をガラステーブルの上に置き、その上に箸を揃えて置くと
「まったく。――――――笑えない話よね」
 自嘲気味にぼそりと呟く。
「……何が?」
「アンタが彼女を作るって言うのも、私が彼氏のところに戻るって言うのも」
「……何で?」
 上条はキョトンとした顔で美琴を見る。
「今日ってエイプリル・フールでしょ? 何がどこまで嘘で本当なのかさっぱりわかんないんだもん」
「別に、俺の話は……」
 嘘を見抜かれたのかと思い、上条は動揺する。
「そうね。アンタのはそうかもね」
「『アンタのは』?」
 意味が分からない。
「私のは嘘よ」
「嘘って……何が」
「彼氏なんていないの、最初から」

994Foolish_game.(7):2010/03/27(土) 12:33:40 ID:LdJ86G52
「…………何で」
 さっきから何で、とか何が、しか言えていない。
 美琴は淡々と話し始める。
「ちょうど一年前のエイプリル・フールのこと覚えてる? アンタに『彼氏がいる』って話をしたの、あの日でしょ?」
「……そうだっけか」
 そう言われてみれば、その頃に美琴が『彼氏ができた』と言っていた覚えがある。あまりにも嬉しそうに話をするので、嘘と疑う余裕はなかった。
「最初はエイプリル・フールだから『嘘でした』って最後に言うはずだったんだけど、アンタあっさり信じちゃうんだもん。引っ込みつかなくなっちゃってさ」
「……、何でそんな嘘ついたんだよ。つか、次の日にでも『あれは嘘』って言えば良かったじゃねえか」
 エイプリル・フールの嘘は一日限り。だから翌日にでも撤回できる。
 美琴は何かをあきらめたように笑って、
「……アンタの気を引きたかったから、かな。去年のバレンタインデーの時にアンタに告白したんだけど、私フラれちゃったのよね」
 告げた。
「……え?」
「こっちは本命でチョコ渡したのに、アンタ力いっぱい『義理チョコさんきゅー』とか言ってくれちゃってさ。本気で泣いたわよ、あの日は」
 つい友達のノリでくれたのだと思ってあの時は『義理』だと思っていた。
 義理以外でくれる訳はないと思っていたから。
「で、私は思った。恋人はいつか別れちゃうけれど、友達ならずっと一緒にいられるって。だから私は、ずっとアンタの友達でいた。ずーっとね。で、去年のエイプリル・フールに『彼氏ができた』って嘘ついてアンタの様子を見てたんだけど、アンタはやきもちも妬かないし、嘘の相談に真剣に乗ってくれちゃってさ。そりゃ嘘ついたのはこっちが悪いんだけど、ああいうのはたまんないわよ、ホントに」
「……そっか」
「ということで、嘘の話はこれでおしまい。ごめん、ずっと騙してて」
 美琴は上条の対面で居住まいを正し、ぺこりと頭を下げた
「……、気にすんなよ。俺も一度くらい『それエイプリル・フールだろ』ってツッコめば良かったんだろうし」
「だからさ……アンタに彼女ができるまでは、アンタの友達でいさせてよ。アンタに彼女ができたらその人にバトンタッチするから」
 今しかない。
 二人の関係を見直して、何もかもを終わりにするなら今しかない。

995Foolish_game.(8):2010/03/27(土) 12:34:13 ID:LdJ86G52
「……そっか。じゃあとりあえず友達から彼女にバトンタッチしてくれ、御坂」
 上条は二人を終わらせるための解を告げた。
「……?」
 言葉の意味が読み取れず、美琴はキョトンとしている。
 上条は視線を手元の茶碗に落としたまま
「彼女でもないのにあれこれ世話焼かれたらうっとおしいけどよ、彼女だったら問題ねえじゃねーか。彼女でもないのに電話の着信履歴チェックされたらうるせえだけだけど、彼女だったらそれくらいしたって文句ねえだろ。友達が電子ロック破って部屋に入ってたらやり過ぎたいたずらでも、彼女だったら合鍵渡してないんだから仕方ないって考えられるから」
「……ごめん。言ってる意味が良く分かんないんだけど?」
「だから、嘘の友達を今日で止めろっつってんだよ。俺だって男付きの女にもやもやすんのはもううんざりなんだ。お前が今頃彼氏と会ってるとか、彼氏の部屋にいるとか、昨日のデートの内容はこうだったなんて妄想すんのはたまんねえって言ってんだよ。一人前の男に生々しい話聞かせんなよ」
 美琴に嘘をつかないで済むという安堵で、上条はほんの少し頬を緩める。
 一方の美琴は苦く笑って
「……ごめん」
 嘘をバラした失敗よりも嘘をついたことの気まずさで肩を落とす。
「今夜一二時を過ぎたら、今日までの俺達は終わりだ。日付が変わったら、本当の二人になれるとお前は言えるか? 言えるんだったら今夜泊まってけ。友達だったら嘘は大目に見るけど、彼女になるなら俺を今まで騙してきた分、朝まで生説教すっからな。場合によっては明日学校サボりだと思え」
「…………もしかして、私一年間棒に振ったの?」
「……俺が一年前にお前の嘘を見抜けなかったんだからお前のせいだけじゃねえんじゃねーの? お互い愚痴は今のうちに言っておこうぜ。日付が変わるまであと何時間もないんだし、今後は嘘はなしだ。で、御坂。……あの赤裸々な相談内容は」
「……うん。というかアンタを彼氏と想定して、相談してた」
「……つまりあれは全部お前の願望、と」
「ぎゃーっ! 忘れて忘れろ忘れなさい今すぐに!!」
「……まあ、嘘の相談内容だから忘れてやるよ」
 本日はエイプリル・フール。
 あらゆる嘘を嘘だと言い張る限り許される、一日限りの嘘が横行する日。
「じゃあさ、ちょろっと聞きたいんだけど。……アンタ、私をもらう気ない?」
「もらう、……ってのは」
「もちろんエイプリル・フールだから、答えは嘘って事でオッケーだけど」
 上条はゴクリと生唾を飲み込んだ。もちろんそれは少ししょっぱい生姜焼きのせいだと嘘をつくこともできる。
「『いつでも嫁に行ける』って嘘つかれたんだから、一回分の嘘を聞いても良いわよね?」
「……嘘の友達の話だからな。真に受けるんじゃねーぞ?」
 上条と美琴はお互い顔を見合わせて、お互い右手を掲げ、ガラステーブルの上でハイタッチをした。
 友達として最初で最後のハイタッチ。
 嘘の友達から本当の恋人へのバトンタッチ。
 時計が一二時を回ったら、
 上条の説教と二人の本当の毎日が、始まる。

996D2 ◆6Rr9SkbdCs:2010/03/27(土) 12:34:52 ID:LdJ86G52
終わりです。
お邪魔しました。

997■■■■:2010/03/27(土) 13:28:02 ID:VQkxs0bw
>>996
GJ
早く続き書いてください
書かないと本気で泣きますよ

998■■■■:2010/03/27(土) 13:29:41 ID:jMygX8O6
なんだよ…
その後の二人考えたら28282とまらねぇよ…

999■■■■:2010/03/27(土) 13:40:57 ID:jMygX8O6



1000■■■■:2010/03/27(土) 13:41:54 ID:jMygX8O6



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