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お肉さんと夏野菜
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薄暗い部屋に男女がふたり、机をはさんでむかい合って座っている。外からは、夏の盛りはこれからだと言わんばかりにあぶら蝉がじいじい鳴いていた。
男は椅子にどっかりと座り、うんざりした顔もちで腕を組み、何も喋らない。対する女はおかまいなしにとべらべら喋る。
「たまにな、ふと考えることがあるんよ」
「なぁんで、うちはお肉さんが好きな女の子やなくて、普通の女の子に生まれなかったんやろうって」
「え?お肉さんが嫌いやからとちゃうよ。だって…」
「普通の女の子やったら、もぉっとお肉さんをばれずにいーっぱい食べられるやんか!」
女の名前は東條希。先々月に誕生日を迎えたばかりの18才。
ニコニコと、曇りのない満面の笑みで話すその少女はこの夏、人を食べた。
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(よくもまぁ、べらべら、べらべらと…。同じはなしを何度聞いたか、キリがない)
東條の向かいに座っている男、板倉はここ神田警察署の刑事だ。もっとも、刑事といってとキャリア組ではなく、警察官からの叩き上げだが。腕捲りをし、無精髭の生えたその風貌は疲れきったサラリィマンにもみえなくはないが、首もとのきっちりと締められたネクタイが板倉の刑事としての気質を表している。
その板倉はうんざりしていた。夏のボーナスが少なかったのもそうだが、目の前にいる少女が起こした事件の対応で予定していた夏の旅行の予定が立ち消えてしまったからだ。
「東條、いい加減黙れ。お前の話しは誰も聞いていないんだ。調書にも録ってない。反省の言葉でも話したらどうだ。お前、このままだと逆送で無期か最悪、死刑だ。」
東條はその言葉をきくやいなや、目をほそめて微笑んだ。
「うちは、死刑がええなぁ。死んだら、みんなにごめんて謝れるから。みんな、謝ったらゆるしてくれるやろうから。そしたら、もいちどみんなを食べてみたいなぁ」
東條のその言葉には、嘘偽りがない。音乃木坂学院の制服に身をつつんだ彼女は、可愛らしい女子高生にしか見えないのである。
そのことが更に板倉を苛立たせた。
「付き合いきれん!」
そう板倉は吐き捨て、取調室を後にした。
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(ああ、畜生…腹がへった…)
自らのデスクに向かう板倉は腹がへっていた。朝からペットボトルのお茶しか飲んでいない。力なく、よろよろと応接室の前を通ると、焼肉の香りがする。ひょいと、首を応接室にいれると、恰幅のいい髭を生やした男が焼肉弁当をほうばっていた。
「ヒゲクマさん、お疲れ様です」
「おうイタか、おめぇ顔色が良くねぇな。飯くってねぇんなら、こっちに来いよいくつか弁当があるからよ」
恰幅のいい男は熊田という。髭の生えた顔と熊みたいにつぶらな瞳から、ヒゲクマの愛称で呼ばれている。元暴対の凄腕で、刑事課の中でもかなりの武闘派だ。
「ありがとうございます。にしてもヒゲクマさん、よく肉食えますね…」
「馬鹿、肉こそが最高のエネルギー源たぜ。それに、あんな遺体はもう慣れてるしな」
「流石っすね…」
板倉は弁当の箱が詰められている袋をあさり、夏野菜の天丼を見つけだした。
(これなら、食べられる)
肉など今は食べたくもない、「肉」の話は東條からうんざりするほど聞かされている。いつもなら、見ただけで涎が出てくるロースカツに目もくれない。
蓋を開けると大ぶりの茄子、かぼちゃ、獅子唐、しいたけの天ぷらが乗っている。板倉は、茄子の天ぷらから口に運ぶ。濃いタレの味と、茄子に染み込んだ油、茄子の風味が空き腹をこれでもかと刺激して飯が進む、不思議と板倉の口から。
「うめぇ…」
そう、言葉が漏れた。ここ数日、板倉は地獄にいるような心持ちだったが、この天丼を食べるとまるで今までの苦しみが嘘のように晴れた。
次はしいたけ、かぼちゃ、獅子唐と箸は進む。あっという間に平らげ、ふたつめの天丼の蓋を開けて食べ始めてしまう。人間、不思議と苦しみ抜いているときにうまい飯を食べると大いに救われるものだ。
板倉は結局、天丼を2杯にインスタントの味噌汁を3杯も腹におさめてしまった。
熊田が熱いほうじ茶を淹れて、板倉に渡した。
「イタ、やぁっと元のおめぇさんに戻ったな」
「はい」
「ところで、東條の様子はどうだ?あいも変わらずお肉の話かい」
「ええ、反省の言葉でもでりゃあいいんですがね。でてくるのは肉の話ばっかりですよ」
「ま、いいやさ。俺たちの仕事は捕まえて、調べあげて、ムショか台に送る手伝いをするだけだ。反省させるのはカウンセラーにでも任せりゃいいんだよ」
「俺、まだ信じられないんですよ。あんなガキが、8人も食べるなんて信じられない」
「そりゃおめぇ、ガキだからよ。ガキだから分別が付かねぇで、ただ自分の欲に対して突っ走るんだ。これが大人なら我慢するし、別の手をとるぜ」
「別の手?」
「あぁ、横浜あたりで華僑が売ってる。えらく馬鹿高いがね」
「ふぅん…でも、東條は人肉が好きって訳じゃないでしょう。東條はあの8人が好きだから食べたって言ってましたよ」
「だから、そこがガキなのさ。大人なら好きな人を食べたいって感情を、人肉が食いたいって感情にすり替えてしまうんだ」
「東條はもう少し我慢してれば良かったんですかね…」
「ま、どっちにしろもう済んだ話だ。奴はもう捕まっちまったんだ」
「…俺、東條ともう一度話してみようと思います。μ'sの話を聞いてみれば肉以外の事を考えるかもしれません」
「あんまり、無理するなよ。お、そうだ東條の気が変わったら飯をおごってやるよ」
「はい、飯はジャンボでお願いしますね!ヒゲクマさん!」
焼き肉の店であるジャンボを指定してきた板倉に、熊田はニッと笑い答えた。この様子ならもう、大丈夫だろう。
口の端に米粒をつけた板倉は、天丼を食べる前とはうって変わって、取調室へ力強く歩き出した。板倉の頭の中にはジャンボで「らんぼそ」をおごってもらう事と、東條の家に踏み込んだ時の事が浮かんでいた。
警察だ!と叫び、東條の家に踏み込んだ時、東條の顔は涙に濡れていた。涙に顔を濡らして、肉にかぶりついていた。一口ごとに「ごめんな」と謝っていたあの東條はまだ、引き返せる。いや、引き戻してやらなきゃいけない。
そう決意して、板倉は扉を開けた。
外ではまだ、あぶら蝉がじいじい鳴いている。
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えぇ…
精神状態おかしいよ…
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え、なにこれは(賞賛)
文章が上手い読みやすい
じぇいで初めて続きが読みたいと思った
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シェフ東條 夏野菜スペシャル
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え、なにこれは(興奮)
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ほのぼのノッゾレ立てなきゃ(使命感)
カニバルニキの上手いところは、敢えて直接描写を少なくしてくるところやな
まあ、口で言うほど嫌いやないで、カニバルノッゾレ
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>>6
野菜から作るのか・・・
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なんだこの文才!?
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ちょっとノッゾレ多すぎんよ〜(指摘)
たまには他のメンバーのスレも見たい、見たくない?
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>>9
家畜から育てるんでしょ(適当)
これ以上水どうネタ出すとイッチの文才を殺しかねないのでももうやめる
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>>11
深夜のことうみニキとか、昆虫食りんニキとか、マッキレニキとかいるけど、やっぱりノッゾレが圧倒的に多いな
カニバルニキだけでたぶん3、4人いる
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NaNじぇい特有ののんたん推し
なお
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というかこれ、そろそろノッゾレまとめスレ必要なんでね?
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