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平成仮面ライダーバトルロワイアルスレ3
1名無しさん:2011/08/23(火) 09:20:31 ID:FqUe2rLk0
当スレッドはTV放映された
平成仮面ライダーシリーズを題材とした、バトルロワイヤル企画スレです。
注意点として、バトルロワイアルという性質上
登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写が多数演出されます。
また、原作のネタバレも多く出ます。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。


当ロワの信条は、初心者大歓迎。
執筆の条件は、仮面ライダーへの愛です。
荒らし・煽りは徹底的にスルー。


平成仮面ライダーバトルロワイアル@ウィキ
ttp://www43.atwiki.jp/heisei-rider/pages/1.html

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14262/1291297718/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14262/

2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

執筆の際は、以下のページを参照にしてください
ttp://www43.atwiki.jp/heisei-rider/pages/30.html

2名無しさん:2011/08/23(火) 09:22:57 ID:FqUe2rLk0
【参加者名簿】

【主催者】
大ショッカー@仮面ライダーディケイド

【仮面ライダークウガ】 4/5
○五代雄介/○一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/○ゴ・ガドル・バ/○ン・ダグバ・ゼバ

【仮面ライダーアギト】 3/5
○津上翔一/○葦原涼/●木野薫/●北條 透/○小沢澄子

【仮面ライダー龍騎】 3/6
○城戸真司/○秋山 蓮/●北岡秀一/○浅倉威/●東條 悟/●霧島美穂

【仮面ライダー555】 4/7
○乾巧/○草加雅人/○三原修二/●木場勇治/●園田真理/●海堂直也/○村上峡児

【仮面ライダー剣】 4/6
●剣崎一真/○橘朔也/○相川始/●桐生豪/○金居/○志村純一

【仮面ライダー響鬼】 3/4
○響鬼(日高仁志)/○天美 あきら/○桐矢京介/●斬鬼

【仮面ライダーカブト】 5/6
○天道総司/●加賀美新/○矢車想/○擬態天道/○間宮 麗奈/○乃木怜司

【仮面ライダー電王】 3/5
○野上良太郎/●モモタロス/○リュウタロス/○牙王/●ネガタロス

【仮面ライダーキバ】 3/4
○紅渡/○名護啓介/○紅 音也/●キング

【仮面ライダーディケイド】 4/5
○門矢 士/●光 夏海/○小野寺 ユウスケ/○海東 大樹/○アポロガイスト

【仮面ライダーW】 4/7
○左翔太郎/○フィリップ/●照井竜/○鳴海亜樹子/○園咲 冴子/●園咲 霧彦/●井坂 深紅郎

40/60

3名無しさん:2011/08/23(火) 09:23:18 ID:FqUe2rLk0
【修正要求について】
・投下されたSSに前作と明らかに矛盾している点がある場合、避難所にある議論用スレにて指摘すること。それ以外はいっさいの不満不平は受け付けない。
・修正要求された場合、該当書き手が3日以内(実生活の都合を考慮)に同じく議論用スレにて返答。必要とあらば修正。問題無しならそのまま通し。
・修正要求者の主観的な意見の場合は一切通用しません。具体的な箇所の指摘のみお願いいたします。

【書き手参加について】
・当ロワは初心者の方でも大歓迎です。
・書き手参加をご希望の方は避難所にある予約スレにて予約をするべし。
・その他、書き手参加で不明な点、質問は本スレ、もしくは避難所の雑談スレにでも質問をお書きください。気づきしだい対応致します。

基本ルール
各ライダー世界から参加者を集め、世界別に分けたチーム戦を行う。
勝利条件は、他の世界の住民を全員殺害する。
参加者を全員殺害する必要はなく、自分の世界の住民が一人でも残っていればいい。
最後まで残った世界だけが残り、参加者は生還することが出来る。
全滅した参加者の世界は、消滅する。

4名無しさん:2011/08/26(金) 18:26:21 ID:MlTgWbOw0
新スレ乙!さっき前スレも終わったみたいだし、総合版に移動して心機一転ですね!

5名無しさん:2011/08/26(金) 22:07:30 ID:txsy4.5o0
しかし、第一回放送前にもう3分の1も死んでるんだな
前に雑談スレで言われてたように、この分だと第2放送前にほとんど退場してそうだな

6名無しさん:2011/08/27(土) 17:49:38 ID:z932TtjM0
なんだかんだいって、志村や矢車さんは最後まで生き残りそうだな。

7 ◆nXoFS1WMr6:2011/09/07(水) 03:52:56 ID:0VJTMhHc0
これより投下します。

8決意の名探偵 ◆nXoFS1WMr6:2011/09/07(水) 03:53:44 ID:0VJTMhHc0
大ショッカーが発した放送からどのくらいの時間が立ったろうか。
彼らは今陸地にいた。
しかし、そこは彼らが本当に行きたかった東側ではなく東京タワーのない西側エリア。
だがそれはしょうがないことでもあった。
あの流れの強い川では流され続けるのはあまりいいとは言えなかったし、あのまま意地を張って東側に行ったところであの流れのまま行けば恐らくつくのはG−4辺りになるだろう。
それでは本末転倒だ、あの流れのなかにいては放送も聞けなかっただろうし、それで禁止エリアに気付けず死んでしまう可能性もあった。
故に急がば回れということわざを信じ彼らは放送前に流れのゆるい川の内側からE−3エリアに流れ着いたのである。
そして彼らは今、火に当たっている、冷たい川の水で凍えきった体を温めるため。
彼らの間に会話はない。
それぞれ今の放送のことを考えているため。

(照井……)

彼、左翔太郎は考えていた。
この悪夢のような殺し合いで死んでしまった自分の戦友、照井竜のことを。
放送を直接聞いてもまだ信じられない、まさかあの男が死ぬなんて。
心のどこかでまだあいつが生きているような気がする、だってあの男は…。
そう、あれは忘れもしない風都史上最悪のテロリスト大道克己とその仲間が風都タワーを占領し、自分たちの持つメモリが効果を失ってしまった時のこと。
自分はその時事件の最初から屋根を突き破って探偵事務所にあったT2ジョーカーメモリと出所不明のロストドライバーを切り札とし、風都タワーに向かおうとした。
しかし、照井はメモリなど使えなくとも帰ってくるといった。
その結果あいつはフィリップがエターナルの効果を書き換えT2以前のメモリが使えるようになるまでエンジンブレード片手に生き抜いた。
そんなあいつがこんなところで死ぬなんてとても思えなかった。

『死ぬなよ、照井』
『知らないのか、俺は死なない』

あいつの言動一つ一つを思い出して泣き出しそうになる。
しかしそれではいけない、あいつはきっとそんな俺をいつもの調子で怒るだろう。

(もしおまえのアクセルを受け継いだ奴がいるなら、渡さねえとな)

そう、彼のデイパックにはある道具が入っている。
仮面ライダーアクセルを高速の青き戦士に変える『挑戦の記憶』を内包するそのメモリの名は――。

――トライアル!――

幸い、こちら側のエリアにはサーキット場もある。

9決意の名探偵 ◆nXoFS1WMr6:2011/09/07(水) 03:55:39 ID:0VJTMhHc0
亜希子の話では(あいつの気が動転していてあまりよく分からなかったが)トライアルのマキシマムを使うにはモトクロスのコースを十秒以内で走り切る必要があるらしい。
照井の奴は十秒を切らずに使ったらしいがそれはあいつが長い間仮面ライダーとして戦って成長したおかげだろう。
故にこの場で初めて変身できるようになった程度の参加者なら本当に十秒を切ろうとする根気がなければトライアルのマキシマムは使えないと考えるべきだ。
しかし、マキシマムが使えなければトライアルになる理由などない。
防御力とパンチ力が大幅に下がってしまうため。
そのため自分には使命があった、照井からアクセルを、仮面ライダーの名を受け継いだ参加者に特訓させ、トライアルのマキシマムを使うことができるようにすること。
それがあいつの望むことだと思うから――。
しかしこの特訓をしようとすればかなり大きな問題がのしかかる。
それは――。



彼、紅音也は考えていた。
先程の放送で死を断言された参加者について。

(キング……、あいつがもう死ぬなんてな)

自分の世界からの参加者で死者に名を連ねたのは自分と真夜の仲を切り裂こうとしたキングただ一人。
名の通りファンガイアのキングであり、自分もかなり苦戦させられた。
しかし、最後には未来から来た自分の息子、紅渡とともに奴を倒した。
一度死んだ奴が蘇って自分たちの前にもう一度立ちふさがるなら、また倒してやろうと思ったが、正直ここまで早くあいつが死ぬとは思わなかった。
まぁ、キングに特別な思いはないし、正直死んでくれて清清する、という言葉だけで済ますことはできない。
あの男は正直なところイクサに変身することしかできなかった頃の自分では太刀打ちできないほど強かった。
それをこんな早くに亡きものにするとは、所詮変身制限の隙を突かれたのかもしれないが、あいつは戦闘においてそこまで愚かな男ではないと思う。
だがしかし、キングは所詮敵だ、死んだところでそこまで悲しくはない、それに人の音楽を平気で奪うあいつを別段仲間だと思っていなかった。

(いや、それよりも……)

天道や乾の仲間も死んではいたが、所詮はむさい男たち、あったこともない野郎に特別な感情を抱く筈もない。
そう、今の放送で一番彼にとって辛かった出来事は――。



((東京タワー、だな))

二人は溜息を吐きつつ考える。
翔太郎の大切な仲間であり、音也にとっては大事な女性(といってもあったこともないが)である鳴海亜希子が数時間前東京タワーより放送を行った。
それはこんな殺し合いに反対する者たちを集めようとする物、だがそれだけではなく危険人物をも集めてしまう危険性を秘めていた。
故に彼らは彼女が本当はどんな気持ちで放送を行ったのか分かりもせず亜希子と合流すること、そして亜希子を危険人物から守ることの二つを自分の使命とし、行動した。
しかし、今現在は東京タワーで彼女に会うこともできず危険人物に襲われ川流れ、この場にいるのである。
さて、放送前、彼らは早く岸に上がって放送を聞くこと、そして早く東京タワーに行くために西側のエリアに上がった。
だがその放送で告げられたのは夜の21時から東京タワーのあるD−5エリアが禁止エリアに入ってしまったことだった。
無論、自分たちが今すぐタワーまで走っていけば20時過ぎごろにはタワー周辺につけるだろう。
しかしそこまで体力が持つのかまず不明だし、もし持ったとしても変身して戦うだけの体力も考えると無理に等しかった。
それにそこまで危険を冒して戻っても先程のように見つからないかもしれないし、もうタワーから離れているのかもしれない。
それ故、いっそこの近くで仲間を集った方がいいのではないかという考えが浮かぶ。
音也の体力的にはそちらの方がいいのかもしれないが、だがそれでもやはり彼らには亜希子の呼びかけに答えたいという気持ちがあって。
故に彼らは頭を悩ませる、どうすれば一番いいのか。
彼らの間に、会話はなかった――。
時刻はちょうど18時30分を回った――。

10決意の名探偵 ◆nXoFS1WMr6:2011/09/07(水) 03:56:36 ID:0VJTMhHc0
【1日目 夜】
【E−3エリア 川付近】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、とても強い決意、悲しみと罪悪感、それ以上の決意、仮面ライダージョーカーに1時間30分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
0:東京タワーに戻る?それともこの近辺で仲間を探す?あるいは――。
1:出来れば音也と情報交換をしたい。
2:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
3:出来れば相川始と協力したい。
4:カリス(名前を知らない)、浅倉(名前を知らない)を絶対に倒す。
5:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
6:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
7:ミュージアムの幹部達を警戒。
8:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
9:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
【備考】
※木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ホッパーゼクターにはまだ認められていません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。


【紅音也@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、仮面ライダーライアに1時間30分変身不可
【装備】イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、不明支給品0〜2
【思考・状況】
0:東京タワーに戻るか?それともこの近辺で仲間を探す?あるいは――。
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
2:女性を見たらとりあえず口説く。冴子辺り探してみる。
3:乃木怜治、村上峡児を警戒。間宮麗奈については会ってから判断。
4:もう一人の自分に嫌悪
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、巧の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※カードデッキ(ライア)@仮面ライダー龍騎が破壊されました。契約モンスターのエビルダイバーは王蛇と契約済です。

11 ◆nXoFS1WMr6:2011/09/07(水) 03:57:32 ID:0VJTMhHc0
これで投下を終わります。
初めての投下なのでもし、問題点などあればお気軽に仰ってください。

12名無しさん:2011/09/07(水) 10:13:18 ID:qgL8/HhQ0
投下乙、
とりあえず陸には上がれたが西側は危険人物ひしめく場所、しかもタワーが禁止エリアになった事で戻りにくい状況か……

2点気になったのだが、
まず、翔太郎の放送での退場者に関する反応に関しトライアルの事もあるとはいえ照井にしか反応しなかったのが気になった。
霧彦の方は既に聞いていたからまだ良いが、
井坂に関しては翔太郎の時間軸では死亡しているもののネクロオーバー化している可能性があると考えている以上、強敵の井坂があれ程簡単に倒れる事に反応しないのが奇妙に思えた。
特に音也がしっかりキングの退場に反応している事を踏まえると奇妙に思える。
それに、木場の事を木場の世界の面々に伝える方針があった筈なのに海堂や真理の名前が呼ばれた事に反応していないのも奇妙に思える。
一方の音也は巧の仲間の名前呼ばれた事について『特別な感情を抱く筈もない』と触れていた筈なのに(音也にとっては真理はむさい男なのか? まぁ真理の年齢的に反応しない可能性もあるからそこまで言わないが)。
それに、フィリップや亜樹子の名前が呼ばれない故に無事らしい事に全く反応が無いのも少し奇妙な気もする。

もう1点としては作中では放送前にE-3の西側の陸に到達したとあるが、
マップを見ても川の幅はエリア1つ分前後あり、浅倉ファムと戦って疲弊しなおかつ変身解除した状態だと約5分程度でエリア半分の幅がありそれ以上エリアを越える事無く流れる川を渡りきれるのかという疑問があるのだが。(D-4の橋の下経由という時点でE-4とE-3の境を経由している事は確定的)

修正するしないはともかくその辺り氏はどのように考えているのだろうか?

13 ◆nXoFS1WMr6:2011/09/07(水) 20:00:27 ID:ETwMtZpYO
反応が遅れて申し訳ございません。 伊坂に関しては霧彦が死んだときの状況をおおまかにでも聞いていると判断し、ネクロオーバーにも制限があると判断する描写、フィリップ、亜希子が死んでいなくて安心する描写と木場の死を伝えるべき人が少なくなって悲しむ描写、及び放送に関しては555の世界以降はきけていたがそれより前の世界についてはどこまで把握しているかわからない、という風に修正しようと思いますがよろしいでしょうか。

14名無しさん:2011/09/07(水) 20:48:27 ID:tDvImOf20
つまり、放送時は川の中だったが、木場達の名前が呼ばれる以降は確実に把握、それ以前どれだけ把握しているかは不明という事になるのかな?
後の部分は反応描写を加えるという事らしいので、その修正で概ね大丈夫だと思います。

15 ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:36:39 ID:YSqBjQ0Q0
投下乙です
翔太郎も音也も、火種となりそうなエリアに流れ着きましたか……
彼らがどうなるのか、楽しみですね。
修正の方も、頑張ってください。

そして自分も、これより予約分の投下を開始します。

16生きるとは ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:37:17 ID:YSqBjQ0Q0



「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 天道総司の目前より、絶叫と共に近づくのは一人の男。髪型から体格、そして顔立ちまでもが自分と同じな男。
 そう。かつて根岸が率いた悪のネイティブ達によって、強制的にネイティブにされたもう一人の自分。
 奴の顔は鬼のように険しく、敵意に染まっている。しかし同時に、何処か迷いが感じられた。
 どうしたものか。そう考えている内に、彼らの距離はゼロになる。
 そのまま、天道が纏う服の襟を擬態天道は締め付けるように掴みかかった。

「お前は……!」
「お前は、お前達は……一体何なんだっ!」

 天道の言葉は、もう一人の自分自身によって乱暴に遮られる。そのまま、両手の力が強くなっていくのを感じた。
 何とかそれを振り払おうとするも、ビクともしない。身体の節々に感じる痛みが、それを邪魔していた。
 だが相手は、それは知った事ではないと言うようにこちらを締め付ける。

「みんなを護るとか……世界を救うとか……そんな事に何の意味があるんだっ!」
「何……?」
「どうせ世界は一つ残らず全て消える! そうなったら、僕達もみんな消える! なのに何でっ!」

 その言葉で天道は確信した。やはり奴はこの殺し合いに乗っている。それも、自分達だけではなく他の世界すらも破壊しようと企てていた。
 無論、そんな事をさせるつもりはない。世界の運命はその世界に生きる全ての命が創ってこそ、価値がある。別世界の住民が、そこまで干渉するべきではない。破壊など以ての外だ。
 だがここでこの男を倒すわけにもいかない。相手はまだ悩んでいるように見えたからだ。本当に殺し合いに乗っているのならば、行動を共にしているあの男を殺しているはず。
 利用しようとしている可能性も考えたが、今の奴からはそんな気配がほとんど見えなかった。

「この男だって……海堂だってそうだ! 僕を救うとか言って、勝てもしない相手に挑む! 世界を救うなんて言う!」
「海堂だと……!?」
「でもどうせみんな死ぬ! 世界だって滅ぶ! 僕は、そうさせるつもりだった!」

 続けざまに発せられる叫びの勢いに、流石の天道も思わず後退りそうになる。
 そんな中、横から乾巧が割り込んできて、擬態天道に詰め寄った。

「おい……ちょっと待て、どういう事だ! お前、海堂と会ったのか!?」
「黙れっ! あいつは……あいつはもう死んだっ!」
「なっ……海堂が、死んだだと!?」

 怒号と共に告げられた事実に、巧は愕然とした表情を浮かべる。
 海堂。恐らく、巧と同じ世界に生きる住民の一人である、海堂直也の事かもしれない。妙に胡散臭いが、人間の心を決して失わなかったオルフェノクなので、信頼にはおける男だと巧は語っている。
 驚愕する彼を余所に、擬態天道は再びこちらに振り向いた。

「あいつは僕達を守ろうとか言っておきながら、結局死んだ! 最後に死んじゃったら、何の意味も無いじゃないか!」
「それは違う!」

 その直後、擬態天道の言葉を遮るような声が聞こえる。奴と一緒に行動していた、黒いスーツを身に纏った男が放った言葉だ。
 それに反応して、擬態天道は振り向く。名も知らない男は真摯な表情で、こちらに歩み寄ってきた。

17生きるとは ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:38:18 ID:YSqBjQ0Q0
「彼の……直也君が行った正義は、決して無駄なんかじゃない!」
「何でさ……あいつは僕達なんかを守るために、死んだくせに!?」
「彼は、君に生きて欲しいと願った筈だからだ!」
「僕に……生きて欲しいだって!?」
「彼は言っただろう……仮面ライダーは、人を護る為に戦うと」
「それがどうしたんだ!?」
「彼は迷っている君に生きる道を示し、その為に戦い抜いたんだ!」

 擬態天道に言い聞かせるかのように、男は力強く言葉を告げる。一語一語聞かされる度に、首を締め付ける力が弱くなっていくのを感じた。
 そこからすぐに、両手を襟から離す。その表情からは、何処と無く険しさが抜け落ちているかのように見えた。

「生きる道を示すって……何の為にそんな事を」
「君を救いたいからだ。直也君は言った筈だ……自分には仲間がいた。直也君は彼に憧れていたが、彼を救えなかったと。そして、これ以上誰も死なせたりしないと」
「だから……だから何なんだ」
「それは直也君にとって、決して忘れることの出来ない重荷となっていた筈だ。例えどれだけ明るく振舞おうと、直也君の中では一生償えない罪として残っていたかもしれない……
 だからこそ、これ以上不条理な犠牲者を出さないと決意して、君を救おうとしたんだ……俺は直也君の意思を継いで君を救ってみせる。彼の残した思いが無駄ではないと証明するために」

 泣き叫ぶ子どもを慰めるかのような男の言葉は、まるで世界を照らす太陽のように温かかった。そして、先程まで錯乱していた筈の擬態天道は言葉を失う。
 詳しく推測できないが、恐らくもう一人の自分はこの男や海堂と行動を共にしていた。その途中で出会った強大な敵を、海堂が一人で食い止めたのかもしれない。
 それが原因で、もう一人の自分も迷ってしまった。そんな奴を、この男は何とかして導こうとしている。
 ならば、同じ世界に生きる者として自分はその手伝いをする義務があった。天道は一歩進み、擬態天道の前に出る。
 もう一人の自分は、迷いと不安で表情が歪んでいた。

「お前はこれからどうするつもりだ」
「どうするつもり……だと?」
「この男も、その海堂とかいう奴も、お前の為に戦った……ならば後は、お前自身がどうするかだ」

 仲間であった二人の男は、もう一人の自分に道を示す。残るはその道を、もう一人の自分が歩くかどうかだ。
 恐らくこのままでは、この男は全ての世界を消そうとして、最後に自殺するかもしれない。だがそれでは、奴を信じた彼らの意思が無駄になってしまう。
 それだけは、絶対に避けなければならなかった。

「このままのお前でいるか、それともお前がお前自身の力で生きようとするか……決めるのはお前だ」
「僕は……全ての世界を滅ぼそうとした。こんな僕が、今更生きようとしたって……」
「ならば、これから償えばいいだけだ!」

 弱弱しく体を震わせる擬態天道の言葉を、またしても黒いスーツの男は遮る。

「君の持っていたその過去は、確かに消さないかもしれない……ならば、これから償えばいい」
「償えって……僕に、どうしろと?」
「俺がこれから、君に道を示す!」

 そして男は、今にも崩れ落ちそうな彼を支えるかのように、ガシリと肩を掴んだ。それが力強い事は、男の放つ雰囲気から容易に感じられる。
 それだけではなく、迷ったもう一人の自分を導いてみせるという、確固たる意志も。名前は知らないが、やはりこの戦いを打倒しようとしている人物であると確信出来た。

『やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね。
 今この放送を見れてるお前らは、とりあえず最初の六時間は生き延びれたって事さ。喜びなよ?
 ……っと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね』

 しかしその直後、この場の雰囲気に合わないような声が唐突に聞こえる。それが首輪から発せられた事を察する暇もなく、頭上に気配を感じた。
 天道は夕焼けの赤で染まる空を見上げる。そこには、鷹の紋章と巨大なモニターが備え付けられていた飛行船が、ゆっくりと飛んでいた。
 そこに映し出されているのは、赤いジャケットを着た不敵に笑う金髪の少年と、黒いタイツと覆面を纏った二人組。

『さて。世界の命運を賭けた、最っ高にハイレートなデスゲームの方は楽しんで貰えてるかな?
 これから皆お待ちかね、このゲームで死んじゃった参加者名と、今後の禁止エリアを発表するよ。
 当然、二度目はないからしっかり聞きなよ? メモを取っておくのもいいかもね?』

18生きるとは ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:39:54 ID:YSqBjQ0Q0

 何事かと思う暇もなく、キングと名乗った男は嘲笑うように口を開いて、指を鳴らした。
 そのまま、彼は語る。世界を賭けた殺し合いで、二十人もの犠牲者が既に出てしまっている事。世界ごとに分けた殺害数ランキングなどという、巫山戯た物を提示した事。
 この世界に『禁止エリア』という場所が設置されて、指定された時間の後に突入すると首輪が爆発する事を。
 そして――

『それじゃ、最後になるけど、もう一つだけお前らにアドバイスしてやるよ。
 僕の知り合いに、戦えない全ての人々を守る、とか何とか言ってた御人好しな仮面ライダーが居るんだ。
 けど、そいつもこの六時間で呆気なく死んじゃった。多分、他にも似た様な事言ってる奴は居たんだろうけど。
 コレ、どういう事か分かる? ……簡単な話さ。所詮、口だけの正義の味方なんて何の役にも立ちはしないって事。
 結局最後まで生き残ってゲームクリア出来るのは、逸早くゲームの性質を理解し、その攻略法を見付けた奴だけなんだよ。
 ほら、ゲームのルールをイマイチ理解してない馬鹿なプレイヤーって、大体いつも最初に潰されちゃうだろ?
 つまり、そういう事さ。本気で自分の世界を救いたいなら、そろそろゲームの性質を見極めた方がいいよ。
 ま、生き残ってゲームクリアしたかったら、精々頑張って他の参加者を蹴落とす事だね。
 ……それじゃ、六時間後にまたね、みんな』

 最後にそう言い残すと、キングの姿は画面から消える。そして、遙か上空を飛ぶ飛行船は皆、水平線の彼方へと去っていった。
 天道だけでなく、ここにいる皆がそれを只見ている事しかできない。変身の時間制限により攻撃をする事など出来ないし、仮に変身出来たとしても届くとは思えなかった。
 例え抵抗しようとしても、大ショッカーは確実に防ぐだろう。だから今は、何も出来なかった。
 その事実を叩き付けられて、天道は憤りを感じる。この六時間もの間に、大勢の犠牲者が出てしまっている事を。
 そして、長きに渡って共に戦ってきた友を失った事を。ガタックゼクターがベルト共に飛んでいた事から、予感はしていた。しかし、それでも心の何処かでは奴が生きていると、信じていたかったのかもしれない。
 だが、可能性は呆気なく否定された。しかしだからこそ、加賀美の分まで戦う義務がある。大ショッカーを倒して、元の世界に戻ったらその死を伝えるべき。
 そう決意を新たにしながら、彼は振り向く。呆然としたような表情を浮かべる、巧の方へと。
 
「真理……木場……畜生ッ!」

 そして彼の両足が崩れて落ちてしまい、拳を大地に叩き付ける。
 その理由は、一瞬で理解出来た。キングが告げた放送の中に、彼の親しい人物が三人もいた故。ついさっきもう一人の自分から知らされた海堂、そして木場勇治と園田真理。
 一度に三人も失ってしまった辛さは、痛いほど理解出来る。しかも、その傷は自分の比ではない。だから、下手に慰めの言葉を与えたところで気休めにもならなかった。

「乾……」
「……ああ、分かってるよ」

 それでも天道は言葉をかける。巧の声と身体は震えていたが、それでもゆっくりと立ち上がった。

「海堂の奴は戦ってたんだろ……二人を助けるために。なら俺も、へこたれるつもりはねえ」

 それが単なる強がりだという事は、すぐに気付く。
 本当ならば、大切な者達を失った悲しみと自身への憤りで身体が動かない筈だ。だが、それをしても彼らが戻ってくるわけではないし、何かを成す事も出来ない。
 何よりも、仲間の一人である海堂は力の限り戦っていたとスーツの男は語っていた。だから、海堂の分まで戦うと決意している。
 故に、巧は悲しみを耐えているのだ。

「そうか……だが、無理をするな」
「当たり前だ」

 天道はそんな彼の決意に水を差すつもりはない。だが、釘を刺す必要があった。
 仲間を失ったショックで冷静さを失い、無茶をさせては元も子もない。もしもあいつが突っ走ろうとするならば、自分がそれを止めてみせる。
 今は強がっているが、その可能性も決して否定できなかった。

「……それよりも、あいつは一体何者なんだ?」
「それは俺も知りたい……君は総司君と何か関係があるのか」

 そして、巧はもう一人の自分を怪訝な表情で見つめている。それはもう一人の自分を支えるスーツの男も同じ。
 彼らの疑問は当然だろう。そもそも、もう一人の自分がこの世界にいること自体、ただの推測でなかったため誰にも話していない。
 恐らく向こうも、自分の存在は誰にも知らせていないはず。お互いが出会った今となっては、全てを伝える必要があった。

19生きるとは ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:40:47 ID:YSqBjQ0Q0
「俺は名護啓介だ……この馬鹿げた戦いには、乗っていない」
「名護啓介だと?」

 彼の正体を伝えようとした瞬間、相手から告げられた名前に天道は目を見開く。

「どうかしたのか?」
「お前の事を知ってる人間と会った、紅音也と」
「紅音也と!? ……そうか、彼と出会ったのか」

 名護啓介と名乗った彼もまた、驚いたような顔を浮かべた。数時間前、紅音也が未来から来たと言っていた男。
 素性は分からないが、音也の話と今の態度からして、少なくとも危険人物ではない。

「彼は、今何処にいるんだ?」
「男と一緒に行動したくないと、勝手に一人でどっかに行っちまったよ。言っとくけど、俺は止めたからな」
「そうか……何事もなければいいが」

 今度は巧が疑問に答えると、名護は妙に浮かない表情をする。同じ世界の人間が一人で行動していると聞いては、こうなるのも当然だ。
 だがあそこで止めようとした所で、音也は聞く耳を持たなかったに違いない。不安だが、放送で名前が呼ばれていない事を考えるとまだ無事なはずだ。
 だから今は、音也が無茶をしないことを祈るしかない。

「……って、そんな事よりあいつだろ!」
「ああ、あいつは人間ではない……いや、元々は人間だった」
「元々は人間だった?」

 荒々しさから一変、疑問に満ちた声でこちらの言葉をそのまま返してきた。
 天道は不意に、もう一人の自分へ視線を向ける。彼はいつの間にか俯いていたが、その表情は未だに悩みで歪んでいる事は容易に想像できた。
 地獄という言葉すらも生温い記憶を本人の前で穿り出すのは、いくら天道でも躊躇ってしまう。だが、中途半端な答えでは二人は納得するわけが無い。
 何よりも、名護はもう一人の自分を理解しようとしている。ならば、奴の事を知っておく必要もあった。

「俺の世界には、かつてネイティブという地球の支配を狙った連中がいた……こいつは、奴らによって強制的に人間では無くなり、俺と同じ姿に変えられてしまった男だ」
「何ッ!?」
「本当なのか!?」
「ああ」

 二人は驚愕によって、一気に目を見開く。普通の人間が人間を無理矢理辞めさせられ、異形の姿となってしまうなど、簡単に納得出来るはずがない。
 そして、そのまま名護は僅かに沈んだ顔で、擬態天道に振り向いた。

「……すまない、君の事を何も知らずに師匠になるなどと言って」

 何処か申し訳なさそうに語るが、もう一人の自分は答えない。ゆっくりと上げた奴の顔は、やはり苦悩で染まっていた。
 奴は名護から、意図的に視線を逸らそうとする。

「だが、俺はだからこそ君の事をもっと知りたい……俺は君の師匠として、君と語り合い、君の事を導く義務があるからだ」
「そのお手伝い、私にもさせていただきます!」

 名護が強く言葉を紡ぐ中、雰囲気を壊すような陽気な声が聞こえた。次の瞬間、名護の持っていたデイバッグより一匹の小さな龍が現れる。
 金色の輝きを身体から放ちながら、ゼクターのように宙を飛び始めた。

「何だ、お前は?」
「あ、申し遅れました! 私はタツロットと申します! 乾さんに天道さんでしたっけ? どうぞ、よろしくお願いしま〜〜す!」

 訝しげな表情を浮かべる巧とは対照的に、タツロットと名乗った龍は饒舌に語る。そのまま、もう一人の自分に振り向いた。

「ちょっとザンバットソードを私の中に戻すのに時間がかかって、お話を聞くだけで大変申し訳ありませんでした……でも大丈夫! 啓介さんのお手伝いは、私もさせていただきますよ!」
「フン、そういう事ならこの俺、レイキバット様も力を貸してやろう……情けない男に使われるのには、耐えられないからな」

 ヘヘヘと明るく笑うタツロットと共に、レイキバットという白い蝙蝠も傲岸な態度で鼻を鳴らす。
 どうやら、知らない間に奴には仲間がたくさん出来ていた。もう一人の自分を思う彼らの言葉が、それを証明している。
 だが肝心の本人は、未だに弱弱しい雰囲気を醸し出していたままだった。

20生きるとは ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:41:09 ID:YSqBjQ0Q0
「でも、僕に一体何が……」
「言ったはずだ、それを決めるのはお前自身だと」
「僕自身が……?」
「お前の周りには、お前の事を見て思う奴がこれだけいる。お前がこのままでいるのか、それともこいつらと共に歩くのか……お前の道を決めるのは他の誰でもない、お前がやるべき義務だ」

 それこそが、天の道だった。
 人の歩む道は、この世界に数え切れないほどある。それを決められるのは、その人自身。例え一度道を間違えようとも、世界で生きようという意志があるのならばやり直せる。
 それが、世界が決して自分自身の敵ではないと証明する方法だ。






 擬態天道に諭した後、三人と二体のモンスターは情報交換を交わしている。
 放送前、自分達が戦ったカブト虫の怪人に変身する、軍服を纏った男について。ガイアメモリを知る世界の人間を探し、首輪の手がかりを探している事。名護の仲間達と一旦別れて、禁止エリアとなってしまったE−4エリアで落ち合う筈だった予定。
 現在の問題点は、合流するはずだった場所をどうするかだった。橘朔也と日高仁志と小野寺ユウスケの三人は分かれた後、マップの東方面に向かっている。
 故に、このままでは合流に間に合わない可能性があった。

「よし、ここは二手に分かれるぞ」

 そこで提案を示したのは、本物の天道総司。

「俺達はまず、D−8エリアを目指してその三人を探す……名護達は、西の方に行った三人を探せ」
「分かった。彼の事は、俺達に任せてくれ」
「そうですよ! 総司さんは、私が立派に鍛えてみせます!」
「お前らも精々、生きていることだな!」

 名護に続くように、タツロットとレイキバットは羽ばたきながら答える。
 話し合った結果、まずは分かれた仲間達を探す必要があった。天道と巧はまずD−8エリアの屋敷を目指し、名護と擬態天道は津上翔一、小沢澄子、城戸真司の三人を探しに東エリアを目指す。
 その際に、仲間達と合流できたら当初の目的地に近いE−5エリアに集まるように告げる。また、仮に合流できなくてもその時間までにこのエリアを目指さなければならない。
 橘達のグループは、F−6エリアの市街地に向かっていた。しかしユウスケの提案によって、調査を終えた後にD−8エリアにも向かっている可能性がある。
 故に、天道はこのエリアに向かうことを選んだ。

「けどよ、本当に大丈夫なのか? そいつをあんたらだけに任せて」
「言った筈だ。彼は俺達がしっかりと鍛えると、だから巧君と総司君は安心してくれ」
「……分かったよ」

 名護は疑問に答えるが、巧の不安は消えることは無い。
 真理も木場も海堂も死んでしまった今、彼らも犠牲になってしまう可能性だってあった。草加や三原が生きていたのは幸いだが、喜ぶ事など出来ない。ここで別行動を取ってしまっては、彼らを死なせるきっかけとなりかねなかったからだ。
 だが、ここで別行動を取らなければ名護の仲間達にメッセージを伝えられない。それに今は、死んでしまった三人を始めとした仲間達の思いが、無意味となってしまう。だから今は、やるべき事をやらなければならなかった。

「けど、絶対に死ぬんじゃねえぞ」

 でもせめて、言葉だけでも残さなければならない。
 気休めにもならない、こんな世界では大した意味を持たない。今までオルフェノクとの戦いで多くの物を失った巧だからこそ、それを知っている。
 けれど、これだけは伝えたかった。

「ああ、約束する……君達こそ、絶対に生きるんだ」
「当然だ」
「分かってるよ」

 そして名護も、巧と同じように言葉を残す。それを二人は、静かに頷いた。
 やがて彼らはそれぞれの道を歩く。仲間を探して、新たなる仲間の道を示すために。
 この世界は闇に覆われ始めたが、彼らは決してそれに飲み込まれていない。
 そんな彼らを見守るかのように、夜空に浮かぶ星々は輝いていた。

21生きるとは ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:42:16 ID:YSqBjQ0Q0

【1日目 夜】
【E-6 警察署(警視庁)前】
※外部にGトレーラーとトライチェイサー2000が並んで配置されています。



【天道総司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】最終回後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【装備】ライダーベルト(カブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仲間達と合流して、この殺し合いを打破する。
0:巧と共に、D−8エリアに向かう。
1:首輪をどうにかする。
2:間宮麗奈、乃木怜治、擬態天道、草加雅人、村上峡児、キングを警戒。
3:情報を集める。
4:橘朔也、日高仁志、小野寺ユウスケに伝言を伝える。
5:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
【備考】
※首輪による制限が十分であることと、二時間〜三時間ほどで再変身が可能だと認識しました。
※空間自体にも制限があり、そのための装置がどこかにあると考えています。
※巧の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※クロックアップにも制限がある事を知りました。



【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、悲しみと決意
【装備】ファイズギア+ファイズショット@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×2、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。世界を守る。
0:天道と共に、D−8エリアに向かう。
1:仲間を探して協力を呼びかける。
2:間宮麗奈、乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。
3:霧彦のスカーフを洗濯する。
4:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
5:橘朔也、日高仁志、小野寺ユウスケに伝言を伝える。
6:仲間達が失った事による失意。
7:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。

22生きるとは ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:42:44 ID:YSqBjQ0Q0

【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、ザンバットソードによる精神支配(小)、仮面ライダーイクサに1時間50分変身不可
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW、
    ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:総司君(擬態天道)を導く。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君と共に西エリアに向かって、津上翔一、城戸真司、小沢澄子に伝言を伝える。
3:総司君のコーチになる。
4:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
5:軍服の男(=ガドル)は絶対に倒す。海堂の仇を討つ。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※タツロットはザンバットソードを収納しています。



【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、全身打撲、極度の情緒不安定気味
    仮面ライダーダークカブトに50分変身不可、仮面ライダーレイに1時間変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+ダークカブトゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、ネガタロスの不明支給品×1(変身道具ではない)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:?????
0:?????
1:「仮面ライダー」という存在に対して極度の混乱。
2:僕は……
【備考】
※名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※海堂直也の犠牲と、自分を救った名護の不可解な行動に対して複雑な感情を抱いています。
※仮面ライダーという存在に対して、複雑な感情を抱いています。

23 ◆LuuKRM2PEg:2011/09/08(木) 23:43:19 ID:YSqBjQ0Q0
以上で、投下終了です
ご意見などがありましたら、どうかよろしくお願いします

24名無しさん:2011/09/09(金) 00:35:51 ID:oUylNt1E0
投下乙です。
とりあえず一触即発状態は何とか事なきを得たか。果たして総司(擬態の方)はどうするのだろうか。名護にタツロット、レイキバットという助けてくれる仲間がいるわけだが……
で、2手に分かれて行動するわけだが天道組が園咲邸ルート、名護組が西ルート……
って園咲ルートはディエンド、ナイト、更には草加との合流可能性ある反面ライアルと遭遇する可能性があり(但し上手く立ち回ればアクセルフォームGET出来る)、
西ルートは音也、麗奈と遭遇出来る反面、ダグバ他チートマーダーに遭遇する可能性があるか……どっちも地獄だなぁ。
……そういや、名護は今後も総司(擬態)の師匠をやるとして……名護は彼を何と呼ぶんだろう?(ちなみにタツロットはしっかり総司と呼んでいるみたいだが)

25 ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:17:00 ID:CBNtxhmY0
相川始、紅渡及びキバットバット?世+ガタックゼクター分投下します。

26チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:20:45 ID:CBNtxhmY0
「みんな知ってるか?
 トランプはアメリカ等ではプレイングカードと呼ばれていて、英語では本来『切り札』という意味である。
 何故日本でトランプと呼ばれる様になったかについては諸説あるが、明治時代プレイングカードでゲームする者達がよく『トランプ(切り札)!!』と口にしていた所を耳にしたが為にトランプと勘違いした説がある。

 俺達のトランプ(切り札)を見せてやる!!

 ……オォォォォォォイ! 待ってくれぇぇぇぇぇ!!」



   ▼



 ――その一撃は確実に男の持つデイパックに絡みついた。
 そしてその手からデイパックを奪取する事に成功し、デイパックは離れた場所へと放り投げられた。


「誰だ?」


 男はそう問いかける。


「僕はくれな――」


 そう名乗ろうかとも思う。
 だが思い直す。最早自分には紅音也の息子であり、名護啓介の弟子である紅渡として戦う資格など何処にもない。
 そう、此処にいるのは自分のいたファンガイアと人間が共に暮らす世界を守る為に存在するファンガイアの王――故に、


「くれな……まさか……!」
「――いや、キングだ」


 それが今の自分だ――


「……聞きたくない名前だ」


 そう口にする男の言葉が気になるもののそんな事はどうでも良い。その思惑を余所に男は懐から何かを出そうとする。
 最初にデイパックを奪取すべく仕掛けたのは変身する手段を奪う為。
 制限の所為か今の自分は変身手段を使えない。
 だったらどうするか? 答えは簡単だ、相手の変身を封じつつあわよくば自分の掌中に収めれば良い。
 幸い素晴らしき青空の会の会員になった時にファンガイアバスターの訓練をしたお陰で鞭の使い方はある程度出来る。
 何より今使っているジャコーダーは兄である登太牙、そして先に戦ったキングが自分に対して使っていた武器、その使い方は身を以て理解している。故に――

 相手が変身道具を使う前にそれを持つ手に攻撃を仕掛ければ良い。
 道具を使わずに変身する者という可能性も無くはない。それでも多くの者は変身には何かしらの道具を使っている。故に有効な手段の筈だ。
 もし相手が変身してきた時は逃げに徹すればよい。
 無論疲弊している状況を踏まえれば無茶だと思う。それでも取れる手段がそう多くはない以上、無茶でもやるしかない。

 だからこそ、その男が懐から手を出した瞬間にジャコーダーの一撃をその手に当てた。


「ぐっ……」


 その一撃で何かのカードを落としたのが見えた。詳しくは知らないもののそれが男の変身道具なのだろう。
 とはいえ流石にジャコーダーで回収する前に相手に拾われる可能性が――いや、


「サガーク」


 そう、自分には仲間――いや、王の僕(しもべ)とも言うべきだろうかサガークがいる。
 サガークは自分の考えを察し高速で落ちたカードを回収しそのまま戻り確保したカードを渡してくれた。


「ハートのA……?」


 そのカードはトランプを彷彿とさせた。中に蟷螂が描かれている事から蟷螂の怪人に変身する事は予測できるが――

27チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:21:20 ID:CBNtxhmY0


 そう考える前に光の何かが自分目掛けて飛んできた。


「それを返して貰おうか」


 見ると男は何時の間に出したのかはわからないが何かの弓を持っている。
 恐らくその弓を使って光の矢を発射したのだろう。


「くっ……」


 鞭と弓矢、どちらの方が射程が長いかなど考えるまでもない。
 両者共に変身こそしていないが疲弊具合などを省みても此方が不利なのは明白だ。
 ならば――
 ジャコーダーを構えたままデイパックの元へと――


「拾わせると思うか?」


 男は平然と光の矢を連発してくる。だが、少なくてもそれは想定内。
 右手でジャコーダーを振るい命中する前に何とか撃ち落として行き――
 左手で懐に仕舞ってあるガイアメモリを掴み――


 ――Wether!!――


 ドーパントに変身する力を与えるガイアメモリ、そのボタンを押し野太い声を響かせる。
 無論、少し前に変身したばかり故に変身に使えない事は重々承知している。
 だがそれは相手には知り得ない話、何かに変身すると思わせ警戒させれば十分だ。


「はっ!」


 警戒の為に一瞬身構えた男性にジャコーダーの鞭を飛ばす。男は何とか攻撃に気付き後退し回避した。
 失敗? いや、成功だ。


「サガーク」


 後退したお陰で密かに控えていたサガークが自由に動けた。サガークがデイパックを回収し戻ってきてくれる。


「くっ」


 そして相手の矢を警戒しつつ動きながらデイパックを探り何かのバックルを見つけた。
 そのままバックルを取り出し腹部に当てる。
 するとすぐさまベルトが展開し自身の腰に巻き付いてくれた。
 これで形勢は逆転――


「変……」


 ベルトに手を構えて変身しようとした。だが、その手が止まる――
 見てしまったのだ。今までは必死に戦っていたが故に見えなかったものを――
 目の前の男が流した血を――
 そう、人間が流す赤い血ではなく――
 緑色の血を――
 それを見た瞬間、青色の血を流す太牙の事を思い出してしまったのだ――


 そして同時に――


『やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね。』


 飛び交う飛行船のディスプレイ、そして首輪を含めた周囲のあらゆるスピーカーから刻み込む様に放送が流れ出してきた――


『僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね』

28チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:22:50 ID:CBNtxhmY0



   ▲



 度重なる激闘による疲労とダメージは決して無視出来るものではない。同時に度重なる変身を繰り返した為、当面は変身不能。
 故に紅渡は何処かで休息を取りたいと考えてはいた。
 だが問題は何処で取るかだ、現在位置は参加者が集おうとする東京タワーのあるD-5、
 参加者が集うという事は逆を言えば人通りが激しいという事、正直な所1人落ち着いて休める場所が近くにあるとは思えない。
 となると東京タワーから遠く離れるべきなのだろうが、仮に離れた所で絶対に戦いを避けられる保証もない。
 また、下手に離れすぎた場合、激戦区から離れる事になり次の行動が数手遅れる可能性もある。それ故に必ずしも良手とは限らない。

 一方で別の懸念もある。
 問題の東京タワーには爆弾が仕掛けられている。幸い起爆スイッチは破壊したものの戦いに巻き込まれる事により爆発する可能性が高い事に変わりはない。
 そして東京タワーには仕掛けた女性の呼びかけによって自身の父である紅音也や一時期弟子になった名護啓介が向かう可能性が高い。
 彼等をみすみす危険に巻き込んで良いものだとは思えない。
 仮に遠く離れるという事は2人を見捨てる事と同義である。
 世界を守る為には自分1人だけでも生き残れれば十分、だがそれは決して音也と名護を見捨てて良いという免罪符にはなり得ない。
 渡にとって守りたいのは自分の世界に住む人々。音也と名護もその対象なのだ。
 とはいえ、助けに行けば自分自身が爆発の危険に晒されるのも分かり切った話だ。助けに向かってみすみす自滅してしまっては笑えない笑い話にしかならない。
 つまり、何処で休もうとも一長一短、デメリットを抱えているという事だ。



 結論から言えば渡は東京タワーに向かう選択を取った。
 無論、爆発に巻き込まれ自滅する可能性は否定出来ない。それを理解しながらも音也と名護を見捨てる事は出来なかった。
 爆発の危険はあるかも知れないがすぐ近く、もしくは建物の1階ならば異変が起こってもすぐ対処は出来るだろう。

 ちなみにキングとの戦いを終えた後、ここに至るまでの間、渡は何度かサガへの変身を試みていた。
 変身出来る時間が10分程度なのは身を以て理解している。後はどれくらい時間をおかなければ再変身出来ないかを把握するだけだ。
 その結果、ここに至るまで一度も変身出来ていない。サガに変身したのは大体4時過ぎ、現在時刻は6時少し前。
 つまり――最低でも2時間置かなければ変身出来ない可能性が高いという事だろう。
 それならば先に交戦したキング、そしてアポロガイストが本来の姿を温存していた事にも説明が付く。一度変身すれば2時間以上変身出来ない事を知っているのならば温存するのは至極当然の流れだからだ。

 つまり、具体的なアクションを起こすのは出来ればサガへの変身が可能となるであろう6時過ぎ、理想を言えば最低限ゼロノスへの変身は可能にしておきたい。
 もっとも、激戦区中の激戦区ともいうべき東京タワーに近付く以上はそんな都合の良い展開にはなり得ないだろう。
 とはいえそれぐらいの事は渡自身重々承知済みだ。問題は――


「もし父さんや名護さんが来たら何て言えば良いんだろう……」


 実際に音也達に遭遇した場合の対処を決めかねていたのだ。
 渡としては爆発の危険があるタワーからは早々に待避して貰いたい。
 しかし事情を話した所で聞いて貰えるとは思えない。むしろ、他の参加者達を守る為にタワーに残ると言い出しかねないだろう。
 渡が残るからと説明した所でそれは変わらない。
 あの時、キバットバット?世も口にしていたが只説得しただけで引くとは思えない。むしろ自分の方に同行者を託す可能性すらあるだろう。
 それ以前に音也に至っては話を聞いて貰えるとすら思えない。
 そもそもの前提として音也は父親とはいえ渡自身が生まれる前に死んだ筈である。
 つまり、この地にいる音也が渡の父親であっても音也本人自身が知る筈の無い事なのだ。
 『父さん、僕は貴方の息子です』と言った所で、『誰が父さんだ? ファンガイアの新しい作戦か?』なんて言われ不審がられるのが関の山だろう。
 これでは聞いて貰える話も聞いて貰えない。

29チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:23:30 ID:CBNtxhmY0


「でも、僕が父さん達と行動を共にするわけにもいかない……」


 傍にいて守るという選択も取れない。
 名護にしろ音也にしろ他世界の参加者を守ろうとするのは明白。
 無論、音也達のスタンスを咎めるつもりは全く無い。だが、自分の世界を守る為には彼等の守っている者達も殺さないとならないのだ。
 それは渡のスタンスとは真逆であり決して相容れる筈がないのだ。
 今更2人の前に立てる道理すら無いだろう。
 何より、自分はキングから一族の運命を託されたのだ。彼は敵であり傲慢ではあったが一族の為に戦っていた事は理解している。
 その彼が敵である自分を新たなキングとして先を託し逝ったのだ。その遺志を裏切る事は決して許されない。
 故に違う道を行く名護達と共に行く事等決して許されないのだ。
 それが王を打ち破り新たな王となった渡が背負うべき責任なのだ、そこから逃げる事などあってはならない事だ。

 それでも音也達に対する対応は考えねばならない。
 キバットも口にしていたが名護ならば止めようとするだろうし場合によっては殺す事だってあるだろう。
 無論、全てが終わった後なら喜んでその命を神に返そう。だがそれは自分達の世界を救った後の話だ、それまでは例え名護達が相手であっても引くわけにはいかない。
 最悪、彼等を倒す事すら視野に入れなければならないだろう。渡としては出来ればそれは避けたい所だ。


「父さんに名護さん……出来ればタワーに来ないで……そして僕の前に姿を見せないで……
 もし出会う事になったら……僕は貴方達を……」


 そして、東京タワー下部建物まで辿り着き建物の近くで身を潜める。
 外見上は戦いの痕跡が見られたものの今は静寂を保っている様に見える。しかし中がどうなっているかはわからない。
 流石に中に入れば退避が困難になる、故に現状は静かに躰を休めながら待機すべきだろう。




 その時だった。1人の青年が建物から出てくるのが見えたのは。


「あれは……」


 その男がタワーで何をしていたのかはわからない、殺し合いに乗っているのかそうでないのかすらもだ。
 だが確実に言える事は他世界からの参加者、つまりは倒すべき相手だという事だ。
 周囲に他の参加者は見えないが、近い内に現れる可能性は否定出来ない。
 疲弊している状況を踏まえるならば仕掛けるべきではない――


 だが、本当にそれで良いのだろうか?
 もし、キングが自分と同じ状況に立ったならば変身出来ないからと小さく縮こまっていただろうか?
 いや、それはきっと違う。恐らく彼ならば変身出来ずとも堂々と王として戦いに出た筈だ。
 ならばこのまま引き籠もっていて良いとは思えない。
 それだけじゃない、もし目の前の男が殺し合いに乗っている場合、やって来るであろう音也達に仇成す存在と成りうる。
 音也達を守る為にもこのまま放置して良い存在ではないだろう。

 故に――悪手なのは承知の上で渡は敢えて仕掛ける事を選んだ。

 無論、考え無しに襲うつもりはない。
 変身手段を持たない為、圧倒的に不利なのは理解している。
 だが手がないわけではない。手元にある武器ならば先手を打てなおかつその後のアドバンテージを取れる可能性はある。


「いくよ、サガーク」


 そう小声で呟き、未だ自分の存在に気付かぬ男にジャコーダーを飛ばした――

30チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:24:15 ID:CBNtxhmY0



   ▼



 結論から述べれば東京タワー内部に自分以外の参加者を見つける事は出来なかった。
 故に相川始は早々にタワーを出る事に決めた。
 無論、もう少し探せば見つける事も出来るかも知れない。だが東京タワー内部には多数の爆弾、そして鏡の奥には多数のモンスターが潜んでいる。
 東京タワーは参加者が集わずとも危険地帯だという事だ。
 始の目的は栗原母娘の住む自分の世界を守る、その為に他世界の参加者を皆殺しにする事だ。
 それを踏まえて考えればタワーに潜む者達に固着する必要性は低い。モンスターが暴れ出すだけで爆弾が爆発するならわざわざ自分で手を下す必要は無い。
 戦う分には一向に構わないが、それに拘って自滅する必要性は全く無い。
 ここで自身の身を守れなければ、今は亡き『友』を裏切ってまで殺し合いに乗った意味すら無くなってしまう。
 それは決して許されない事だろう。

 とはいえ、タワーの建物から出る事までは決めてはいたがそこから先については正直決めかねていた。
 タワーから離れた者を追跡に出た左翔太郎、紅音也両名の帰還を待っても構わないが、長々と待つ義理もない。
 むしろこの殺し合いを打倒しようとする2人と相反する目的を持つ以上、ここで分かれても一向に構わない。
 それ以前に、2人が追跡している相手に苦戦、最悪敗北する可能性もある以上、拘る必要性は皆無だ。
 やって来た参加者を迎え撃つというのも良いが、爆発あるいはタワー倒壊に巻き込まれる危険もある。
 無論、『あの姿』もある以上それで倒れはしないだろうが、極力ダメージは避けたいのは言うまでも無い。
 それ以前にそもそも『あの姿』になるつもりなど全く無い。

 何にせよ、翔太郎達に対し思う所は多少はある為暫くはタワー近くで待っても構わないが、それ以降は好き勝手にやらせてもらうつもりだ。

 そう考えながらタワーを出る。何処かに誰かが潜んでいる可能性はあるだろうが目立つ様なものは見受けられない。
 2人と分かれてから20分強、彼等がバイクで出た事を踏まえるなら戻ってくる可能性はある。
 だが未だ戻ってこないという事は前述の通り苦戦しており、戻って来られるかもわからない状況に陥った可能性もあるだろう。



 その矢先だった。何かがデイパックに絡みついたのは――
 デイパックはすぐさま始の手元から離れ少し離れた所へと放り投げられた。


「誰だ?」


 放たれた何かは鞭の様なもの、故に飛んできた方向に潜んでいた襲撃者を見つける事が出来た。
 襲撃者は返り血を浴びているせいか血塗れ、高確率で殺し合いに乗っていると考えて良い。


「僕はくれな――」


 襲撃者は御丁寧に名乗って来た。だがそんな事は問題じゃない。
 今『くれな――』と言わなかったか?


「くれな……まさか……!」
「――いや、キングだ」


 だがすぐさま襲撃者は言い直した。よりにもよって敵の中でも最悪の敵とも言って良い相手が名乗っていた名前だ。


「……聞きたくない名前だ」


 故にそう呟いてしまった。別人なのはわかっているが、それでもそう思わずにはいられない。
 だが状況は悪化している。ラルクのバックルはデイパックの中に入れたまま、そのデイパックが投げ飛ばされた以上変身は不可能だ。
 となれば懐にしまってあるカードでカリスに変身するしかない。
 本当なら翔太郎が何時戻ってくるかわからない為、カリスへの変身は避けたい所だ。だが状況的に四の五の言える状況でもない。
 素早く懐に手を入れカードを出し変身する。すぐさまカードを掴んだ右手を――

31チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:25:30 ID:CBNtxhmY0


 だが、その瞬間に手に衝撃が奔る。先程の鞭が直撃したのだ。その衝撃から来る激痛から思わずカードを落としてしまう。


「ぐっ……」


 拾おうとしたがそれよりも早く、


「サガーク」


 その声に応えるが如く何かが飛び込んできてカードを回収しそのまま襲撃者へと渡した。


「ハートのA……?」


 目の前の襲撃者は此方が変身する僅かな隙を突いて仕掛けている。
 此方を変身させない為なのは明白だ。
 恐らく最初にデイパックを取り上げたのもそれが狙いなのだろう。
 そして同時に襲撃者が相当な場数を踏んでいる事は容易に推測出来る。

 ハートのAが奪われた以上、カリスへの変身は不可能。
 一応他のカードを使う事でそのカードに封印されたアンデッドに変身する事は可能。流石に同じ轍を踏むつもりはない、
 カリス程の力を発揮出来ないがこの場を切り抜ける事は可能――


「――!」


 ほんの一瞬湧き上がる衝動、それが何かは解らない――
 だが今迂闊に他のアンデッドに変身すれば取り返しがつかなくなる可能性がある、故に今まだ使わない。
 襲撃者は変身を封じれば優位に立てると考えている。相手がその気なら見せてやろう、変身せずとも使える力があるのを――


 仮面ライダーカリスの使う武器である醒弓カリスラウザー、それはカリスのバックルから出現する弓形の武器である。
 では、カリスに変身しなければ使えないのであろうか? 答えはNoだ。
 そもそも仮面ライダーカリスも相川始も仮の姿でしかない。
 その真の姿である■■■■■がカードを使う事でカードに封印されたアンデッドの姿を借りたものでしかないのだ。
 マンティスアンデッドの封印されたハートのAを使い仮面ライダーカリスに、
 ヒューマンアンデッドの封印されたハートの2を使い相川始の姿に変身しているという事だ。
 そして始が変身の際に出現させるカリスバックル、これはカリスの能力と言うよりは■■■■■の能力だ。
 つまりそこから出現させるカリスラウザーを模した弓であるカリスラウザーもまた■■■■■の能力によるもの。
 そう、相川始の姿のまま、分かり易く言えば変身せずともカリスラウザーは使えるという事だ。


 始は腹部に出現させたカリスバックルからカリスラウザーを出現させ構えすぐさま光の矢を放っていく。


「それを返して貰おうか」
「くっ……」


 矢の射程は鞭よりも長いのは明白。これにより状況は一転した。
 襲撃者もそれを察してか鞭を構えたまま投げ出されたデイパックの元へと走る――


「拾わせると思うか?」


 その言葉と共に数発の矢を放つ。襲撃者はそれを鞭で打ち落としていく。
 とはいえ、この局面に至るまで相手は一切変身をして来ない所を見ると今の段階では変身出来ない可能性が高い。
 デイパック回収に向かったのも中にある物を使い変身する為、
 そこまで解っているなら後はこのまま押し切――

32チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:26:40 ID:CBNtxhmY0


 ――Wether!!――


 聞き覚えのある野太い声が響く――
 アレはジョーカーの男が変身する時に使うメモリを作動させる時の声。
 つまり、目の前の男はメモリを使い変身するのか――
 読みが甘かった、無謀な突撃はそれを悟らせまいとするフェイント、
 ならば一度距離を取り、状況を見て別のアンデッドに変身するしかない。


「……!」


 そう思う矢先再び衝動が襲いかかる。だが、考えている余裕はない。



「はっ!」


 すかさず相手が鞭を飛ばしてくる。何とか察知できたため回避は出来た。
 だが、メモリを使ったにも関わらず変身しなかった、何故だ――


「サガーク」


 その言葉と共に何かの物体がデイパックを持って襲撃者に渡した。
 この瞬間、襲撃者の真の狙いに気が付いた。
 襲撃者は最初からその物体にデイパックを回収させるつもりだったのだ。
 無謀な突撃もメモリの作動音も全ては注意をそらせる為のフェイントだったという事か。


「くっ」


 デイパックを回収した以上、後は変身するだけ。此方の矢は完全に警戒されている故当たる様なヘマはしないだろう。
 中にはラルクのバックルがある為、変身されるのは確実。
 変身時にエネルギーフィールドが展開される為、変身途中に攻撃を仕掛けても防がれるのは明白。
 こうなれば此方も変身するしかない


 そして襲撃者がベルトを装着した。此方もカードを構えそれに備え――


「変……」



 だが、何故か襲撃者の手が止まっている。
 視線から見て始の手を見て動きを止めてしまったらしい。
 見ると血が流れていた。どうやら最初に攻撃を受けた時に傷を負ったらしい。
 大方、人間の物じゃない緑色の血を見て驚いているのだろう、今に始まった事じゃない――


 その時――


『やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね。』


 飛び交う飛行船から放送が流れる――


『僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね』


 既に封印された筈の忌々しい敵によって――

33チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:27:15 ID:CBNtxhmY0



  ▲



「ちっくしょう……20人もかよ……」


 放送はフィールドを飛び交う数隻の飛行船を軸に流れる。
 故にフィールドの上空を飛び行くキバット、そしてガタックゼクターの耳にも伝えられる。


「とりあえず渡に名護、それに親父さんは無事みたいだけどよ……」


 キバットの住む世界の仲間は皆無事とはいえ素直に喜べないでいる。


「それにしても冴子の野郎……生きていたのかよ……」


 一方、渡を守る為に死んだと思われた園咲冴子の名前が呼ばれていない事から無事だという事も判明する。
 無論、恐らく渡はそれを喜ぶのは容易に予想が着くし、生きていた事に関して悪く言う程キバットも悪趣味ではない。だが、


「まさか渡を後押し為にわざと死んだふりしたって事はねぇよなぁ……」


 冴子のやり口を考えると、渡を修羅の道に堕とし戦わせ、自身は乱戦の状況を切り抜ける為に敢えて死んだふりをした可能性もある。


「ていうか、確かタワーから呼びかけた姉ちゃんと同じ世界出身なんだよな……あの世界の女ってあんなんばかりなのかよ……」


 渡達仮面ライダーを騙し東京タワーの爆発に巻き込もうとした鳴海亜樹子の存在も踏まえその世界の女性は悪女ばかりではないのかと考えるキバットだった。


「けど……まさか世界毎に殺した人数を伝えるなんてよ……」


 放送では世界毎のキルスコアが伝えられていた。
 『クウガの世界』の参加者が仕留めた数が7人というのは驚異的ではあるがキバットにとってはそれよりも重要な事がある。
 一番重要なのは『キバの世界』つまり渡達の世界の参加者が3人仕留めたという事実だ。
 事実としてその内の2人、加賀美新とキングを仕留めたのは渡だ。残りの1人はキングがデイパックを複数所持していた事からキングが誰かを仕留めたと考えて良い。
 だが、それは一部始終を把握しているキバットから見ての話でしかない。

 普通に考えてこのほど死亡が伝えられたキングが仕留めたとは考えず、むしろ生き残っている3人が殺したと考える方が自然だ。
 つまり、渡のみならず音也や名護が警戒される可能性があるという事だ。

 更に問題なのは世界毎のキルスコアが今後も伝えられるならば、今後も渡がキルスコアを伸ばして行くと面倒な事になる。
 まず、音也や名護が危険人物として警戒される可能性だ。
 キングがいるなら(言い方悪いが)キング1人に全てを押しつければ良かったが今後は残る3人が警戒されるのは必至。
 無論、音也と名護ならば自身にかけられた誤解を解いてくれるかもしれない。だがその後はどうなる?
 渡自身が殺し合いに乗って何人も仕留めたと判断される可能性が高い。
 時間が経てば立つ程、渡の立場が危うくなり本当に戻れない所に行く事になる。それこそもう殺すしか無い程に――


「どうすりゃいいんだよ……渡、放送聞いているなら考え直してくれ。これ以上親父さんや名護を裏切らないでくれよぉぉぉぉ……」


 とはいえ、現状は願う事しかできないでいる。
 しかし、キバットにとって重要な事はもう1つある。
 それは放送を担当した者――『キング』が口にしたある事だ、
 一見すると単純にその人物に対しての侮辱と取れる発言ではある。いや、言い方から察するにどう考えても侮辱としか思えない。
 だが、冷静に考えてみて欲しい。ある人物が醜態を晒していてその人物の名前が自身と同じだったとするならばどうだろうか?
 少なくてもあまり良い気はしないだろうし、関係ないと一言釘を刺すぐらいな事を言っても罰は当たらない。

 だが、それはあくまでも一つの面で見た話でしかない。
 キバット達にとっての『キング』に取ってその発言は暴言以外の何者でもない。
 確かに何も知らない人物から見れば僅か6時間の中で無惨に退場した20人の中の1人でしかない。
 しかし少なくてもキバットや渡達にとっては傲慢で横暴ではあったものの確かにファンガイア、あるいはその世界の王であった。
 結果だけを見れば6時間、いや4時間強で退場した以上、決して良いものとはいえない。それでも弱い存在ではなかった。
 たった4時間程度の戦いを高みから見た程度で偉そうな事を語らないで欲しい、キングと敵対していたとはいえキバット自身も多少は憤りを感じていた。
 キバットでさえもそうなのだ、あの時散り行くキングに対して敬意を払い、その遺志を受け継ごうとする渡が聞いたらどんな反応をするだろうか?


「これ以上があるとは流石に思えねぇけど……渡……ブチキレテ無茶なんてするんじゃねぇよ……」

34チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:27:50 ID:CBNtxhmY0



  ▼



「キング……!」


 放送が終わった。既に剣崎一真の死を聞かされた事もあり、始にとって死者の名前はさほど重要ではない。
 20人という数字が些か大きいとは思ったが所詮はその程度だ。
 だが、重要なのはキングがアドバイスと称して奴の知り合いの死を持ちだした事だ。
 その人物に当て嵌まる人物など1人しかいない、剣崎の事だ。
 奴は、人々を守る為に戦い死んだ剣崎の行動を嘲笑い無駄だと侮辱したのだ。
 始にとってそれは決して許される事ではない、出来うるならば今すぐにでも奴の所に向かい――


 ――だが、少なくても始自身にはその資格はない事も理解していた。


 何故なら奴の言動が的を射ている事は始自身の行動が証明しているからだ。

 口だけの正義の味方が役に立たない――
 ゲームをクリア出来るのはいち早く性質を理解し攻略法を見つける――
 クリアしたいなら他の参加者を蹴落とす――

 嗚呼、悔しいがその通りだ。
 自分自身、早々に他の参加者を襲撃し1人仕留めていた。
 口先だけの正義の味方が語る言葉も甘いと斬り捨ててきた。
 そして何よりそんな正義の味方を利用し他の参加者を蹴落とそうとしてきた。
 まさしく奴の助言通りの行動を取ってきた自身にキングの言葉を否定する資格など何処にもない。


 そんな事は最初から分かり切った事だ。だがやはり剣崎に対する侮辱は許せない――
 やりきれない想いが始の中で渦巻く――


 そんな中、今は怒りをあらわにしている状況ではない。
 そう、目の前にいる襲撃者と戦っている最中なの――

 ――だが、襲撃者は下を向き拳を握ったまま震えていた。
 どういう事だ? 放送で何か怒りに震える事があったのか?
 剣崎に対する侮辱を聞いた所で事情を知らない襲撃者にとってはどうでも良い話の筈だ。
 何にせよ隙を見せているならばこのまま仕留めても構わないだろう、そう考えカリスラウザーを構え――

35チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:28:20 ID:CBNtxhmY0


 ――が、ふとある考えが浮かび、


「紅渡……お前は何故殺し合いに乗っている?」


 自分でも意外な行動なのは承知の上だ。それでも敢えて目の前の襲撃者――紅渡へと話しかけた。


「……!」


 始の呼びかけに気付き渡は始の方に向き直る。
 ちなみにバックルにかけた手はそのままであり、始の方もカリスラウザーを向けたままだ。


「聞こえなかったか? お前は――」
「僕は……僕の世界に住むみんなを守る為に他の世界のみんなを殺さなきゃならないんだ……!」


 その目的自体は始と大差はない。声の震え具合から考えても殺戮や戦いを楽しんでいない事は解る。
 だがそれ故に――


「友や仲間、家族を裏切る事になってもか?」


 無論、これ自体は自身にも当てはまる事だ。
 少なくても始はそれを理解した上で殺し合いに乗っているが、始自身良心の呵責を感じている。
 だからこそ渡自身はどう考えているのかを問う。


「そんな事はわかっているし許されるとは思っていない……全てが終わったら僕は消えても構わない……!」


 渡にとってそれは揺るぎない本心からの言葉だ。
 始はその渡の言葉に対し僅かながらも気圧されていた。


「お前が守った世界にお前自身がいなくても構わないというのか?」
「構わない……僕の存在がみんなを悲しませるのなら……僕自身が全ての罪を背負って最後に消えて終わりにする!」


 始自身は全てが終わった後、栗原母娘の元に戻り、彼女達を守り共に過ごす事を考えていた。
 確かに始自身はアンデッドである関係上どんなに傍にいようと思っても何れは別れざるをえない時は訪れる。
 だが、それはあくまでもその時が訪れた時の話だ、少なくても剣崎や栗原母娘が望む限りはそれに応えたいと思っている。
 しかし目の前の渡は自身を犠牲にし消え去る事に迷いはない。他者を殺す事に関しては迷っている節はあるものの、守りたい物を守る、その為に自身が生贄になるという揺るぎない意志は十分に感じた。


「引くつもりはないんだな、ならば――」


 始はカリスラウザーに手を掛ける。来るのかと思いつつバックルに添えた手に力を込めるが――



「俺を――利用するか?」



 始の口から飛び出したのは意外な言葉だった。

36チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:32:40 ID:CBNtxhmY0



「何を言っているんですか? 僕と貴方は敵同士ですよ? そんな事出来るわけが……」


 相手が口にした事は言ってしまえば共闘の提案である。だが、本来は敵同士である筈なのにそうそう組める筈もない。


「たった1人で何十人もいる敵を皆殺しに出来ると思うか? そんな状態で戦えるとは俺には思えないが?」


 その指摘はもっともだ。疲弊した状態でこれ以上戦いのが厳しい事は渡自身が理解している。


「……つまり組む代わりに残り人数が少なくなるまで互いの世界の参加者には手を出さないという事?」


 渡自身、園咲冴子と組んでいた時期がある為、提案の主旨自体は理解している。


「少し違うな、お前の世界の連中に関してはそれで構わないが俺の世界の連中に手を出すなと言うつもりはない」


 始にしてみれば剣崎が死亡した時点で仲間と言える人物はいない。
 剣崎の仲間である橘朔也辺りは考えても良いが元々奴は自身を警戒しているし自分自身も奴を剣崎程信頼していない為、そこまで拘るつもりはない。
 そして残る連中の中には始自身の敵でもあるアンデッドがいる可能性が高い。
 世界を懸けた殺し合い故に愚行なのは承知しているものの始にしてみればアンデッドとの共闘は決して有り得ない、遭遇したならば戦うつもりである。
 とはいえそこまで細かい事情を説明する気はない為、その部分は話すつもりはない。


「僕にしかメリットが無いんですが……本気で言っているんですか?」


 だがその事情を知らない渡にしてみれば自身にしかメリットのない提案など早々受け入れられるものではない。それ故に訝しみながら視線を向ける。


「ああ、お前が奪ったカードとベルト、それにデイパックを返して貰えれば十分だ」
「僕が……素直に聞くと思うんですか?」
「言っておくが、お前がそのベルトで変身した所で俺はお前を倒す自信がある」


 その瞬間、始の周囲を漂う気配が僅かに変わった。
 それはその言葉がこの場を切り抜ける言い訳ではない事を証明していた。
 仮にサガに変身したとしても疲弊した状態では返り討ちに遭うだけだと感じさせる程に――
 実際、始には本来の姿という切り札もあるし、他のアンデッドに変身出来る以上、始の方が一方的に蹂躙されるという展開はない。

37チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:34:00 ID:CBNtxhmY0


「もう1つ教えてやる。俺はさっきまで紅音也と行動を共にしていた」
「!!」


 その言葉を聞いて渡は驚いた。
 よくよく考えてみれば目の前の男は最初から自分の事を紅渡と呼んでいた。
 だが、自分自身名前までは名乗って無かったはずだ。紅という名字を持つ人物は2人いる以上それだけでは断定は出来ない。
 断定したという事は――もう1人の方ではない事を知っている。つまりもう1人の人物である音也と面識を持っているという事になる。


「父さんと……会ったんですか?」
「千年に一度の天才と言っていたな……父親?」


 ちなみに始は渡の事を音也の弟だと考えていたがその事など渡には知る由も無い。


「間違いない、父さんだ……ちょっと待って、父さんは殺し合いに……」
「いや、奴は乗ってはいない……もっとも利用させて貰ってはいた」
「父さんを利用したの?」
「自分の世界を救いたいのは俺も同じだからな。それに連中が俺を勝手に信じているだけだ、とやかく言われる筋合いはない」


 始は平然と口にし続ける。


「もし、僕がこの話を飲まなかったら……父さんが危ないって事?」
「そう取って貰って構わない」


 もっとも始自身利用するつもりなので再合流を果たしたからといってすぐに殺すという事はない。
 それでも、状況次第で手に掛けるつもりではあるという事だ。


「……父さんは今何処に?」
「乗った連中を追う為にタワーを離れた。近い内に戻ってくるかも知れないがな」
「タワーには爆弾が仕掛けられています。その事を父さんは……」
「知っている。何時爆発するか解らない事も含めてな……それで下手を打つ奴では無いだろうがな。
 もっとも、今の俺の言葉を信じないというならそれでも構わない」


 幾つか引っかかる所はあるものの男の語った音也に関する話は概ね事実と考えて良い。
 わざわざ語るべきではない『利用している』という言葉からもそれは明らかだろう。
 その前提を元に渡は考える。

 状況的にこのまま提案を拒絶する事は渡にとってデメリットが大きすぎる。
 拒絶した場合このまま戦いとなり単純に敗北する可能性も高い。
 仮に逃走に成功したとしても目の前の男が音也と再合流を果たした場合、音也が危機に陥る可能性が高くなる。
 それ以前に戦いに巻き込まれて爆弾が爆発した場合、自分はおろか音也までも爆発あるいは倒壊に巻き込まれる可能性が出てくる。

 一方で提案を受け入れた場合はどうだろうか?
 目の前の男を完全に信用出来るわけではないし何れは倒さなければならない強敵に変わりはない。
 だが、少なくても当面に限った事だが音也の安全はある程度保証され、同時に音也と名護に対する脅威が1つ払拭される。
 更に言えば単身での戦いにも限界を感じていたのもまた事実、利用出来る武器と考えればそこまで悪いというものではない。


「……1つだけお願いがあります。僕が貴方の提案を受け入れたなら、今すぐにでもタワーを離れたいんですが……父さんが戻ってこない内に」
「ああ、お前が乗るならばそうするつもりだ。お前がそう言うという事は……」


 渡はベルトを外しデイパックに戻しカードと共に始へと投げ渡す。


「貴方と組……いえ、貴方を利用させてもらいます」
「ああ、俺もお前を利用させてもらう」
「それで……貴方は誰なんですか?」
「……相川始だ」

38チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:34:45 ID:CBNtxhmY0



  ▲



 かくして2人が共闘を決めた後、渡の希望通り早々に東京タワーから離れD-5に隣接するエリアであるC-5のビル街へとやって来た。
 音也達が戻ってくる可能性は多分にあったものの、21時に東京タワーのあるD-5が禁止エリアとなる事もあり、東京タワー倒壊に巻き込まれる可能性は大分低くなるという判断もあった。

 そして辿り着いた場所はC-5にあるZECT秘密基地。C-5に入った際に物音が響き周囲を探っている間に見つけた施設である。
 ちなみにその物音自体、先程までZECT秘密基地にいた人物がある参加者に追いかけ回らされた際の音ではあるが2人にはそれを知る由もない。
 何はともあれ当面はここで休息をするつもりだ。その最中、


「そういえば……何故タワーに爆弾が仕掛けられている事を知っていた?」


 何故渡がタワーの中を見ていないにも関わらず爆弾の事を知っていたのかが気になりその事について聞く。


「ついさっき仕掛けた人に会いました」
「仕掛けた奴……鳴海亜樹子に会ったのか?」
「はい、冴子さんや来人君の世界の人だから多分……」
「来人? 誰の事だ?」
「確か名簿ではフィリップになっていたと思います。冴子さんの弟だけど、左翔太郎という人の相棒でもあるそうです」
「ジョーカーの男の相棒か……」


 渡は冴子と行動を共にした際に彼女の知り合いについて話を聞いており、その際にフィリップが冴子の弟園咲来人であると共に左翔太郎の相棒でもある事を聞いていた。
 なお、ここで渡は一時期冴子と行動を共にしていたが彼女は既に死亡した事を話し、始の方も翔太郎と一時期行動を共にし今は音也と行動を共にしている事を話した。


「(……? 放送でその女の名前呼ばれていたか……? 別にどうでも良いか……)」


 渡は放送で呼ばれた死者の名前を全て正確に覚えているわけではない。
 戦いの最中であった為メモを取る余裕もなく、更に言えば名前を読み上げられた後に語られたある事のお陰で冴子の名前が呼ばれていなかった事を完全に失念してしまったのだ。
 始の方は概ね把握しているもののそこまで重要では無い為、敢えて口出しはしなかった。

「とりあえず、父さんにも仲間がいるんですね……良かった……」
「安心するのは勝手だが、何れはジョーカーの男も倒すんじゃな……話を戻す、その女が爆弾を仕掛けたのは確か何だな?」
「あともう1人います。それに便乗して……大ショッカーの幹部らしいアポロガイストという人が爆弾を仕掛けたって言ってました」
「大ショッカーの幹部か……」


 その最中、今更ながらに気になった事を問う。


「……ところで、お前はどうしてキングと名乗っていた?」
「僕がキングを受け継いだからです。僕があの人を倒し、その遺志を受け継ぎました。
 あの人は許せない人だったけど……少なくても、あの人もあの人なりにファンガイアとその世界を守ろうとしていた事だけはわかったから……」


 だからこそ、あの時の放送を担当した『キング』の言葉が許せなかった。


『一応言っておかないと、誤解されたらムカつくからさ。ってか、僕だったら最初の六時間で死んだりしないし!』


 言ってしまえば、死したキングは弱いが自分は強いという事。つまり、渡達にとってのキングは弱いという侮辱である。
 それをどうしても容認する事が出来なかった。
 キングの強さは実際に戦った張本人である渡自身がよく知っている。
 彼は決して弱い王なんかじゃない、傲慢な所こそあるが気高き誇りを持ち誰よりも強い意志と力をもったまごう事なき王であった。
 渡が打倒する事が出来たのは幾つもの幸運が重なったからに過ぎない。
 運も実力の内と言えばそれまでだ、だが運だけで勝てるならば誰も苦労はしない。
 キングは誰よりも強い王だ、少なくても放送を行った『キング』と名乗る少年よりもずっと――渡はそう考えていた。

39チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:36:50 ID:CBNtxhmY0


「そういえばさっきの怪我は大丈夫ですか?」
「別に大した怪我じゃない、それより……俺の血を見て何とも思わないのか?」


 既に先程の戦いでの負傷に関しては既に完治している。
 その最中、怪我の事を聞かれ、始は自身の血を見られた事を思い出し、何故か平然としている渡にそう問いかける。
 始の流す緑色の血は自身が人間ではなく異形の存在アンデッドだという確固たる証拠、
 例え人間の中で暮らしていても血を見られた瞬間に拒絶された事が過去にあった。故に渡に問いかけるのだ。


「? 見た時は驚いたけど……太牙兄さんも青い血だったから別に……」


 だが、渡にとってそれは些細な事だ。確かに見た瞬間は多少なりとも驚く。
 しかしそれは人間ではないという事を示すだけでしかない。
 ファンガイアと人間の間に生まれ、両者との共存を願う渡にとっては全く意味のない事だ。
 何より、渡には青い血を持つ兄の太牙がいる。そんな渡にとって今更血の色で何かが変わる何て事は決して有り得ない事だ。


「そうか」


 それ以上追求する事もなく短く応えた後、始は部屋を出た。
 そして1人残された渡は躰を休めつつ考えていた。
 始の真意はわからないものの、結果として身を休める機会を得る事が出来た。
 もう暫く休めば手持ちの変身道具は全て使える様になり再び戦える様になる。
 だが、何れは始も倒さなければならない。果たして自分に始を倒す事が出来るだろうか?
 あの時の始の気配を思い出す。あれは何だったのであろうか?
 少なくても、今まで戦ってきた始とは全く違う異質のものだった。
 無論、これが気のせいであればそれにこした事はない。
 だが、もし真実ならば――

 それでも今更引くわけにはいかない。
 例え始の本心が人々を守る事であり、
 例え始がいかに強敵であろうとも、
 例え始が何よりも恐ろしい存在になったとしても、
 必ず彼をも含めた全ての敵を倒し、世界を守らなければならないのだから――
 その為に信じてくれた者を殺し、同じ一族の王を殺し、そして長年の友とも別れを告げたのだから――
 ここで引きさがる事は彼等に対する大きな裏切りでしかない。

 だからこそ渡はただ願う、虫が良すぎる話だと理解していながらも――
 せめて音也と名護、そしてキバットが無事である事を――
 共に行く事も、顔向けも出来なくとも、せめて遠く離れた所から願う事だけは許して欲しいと――

40チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:38:05 ID:CBNtxhmY0



「これで良い……」


 廊下に出た始は静かに呟いた。
 何故、始は渡と組もうとしたのか?
 無論、人数が減るまでは同じ目的を持つ者を利用した方が都合良いという理由もある。
 だが元々のバトルファイトでも他のアンデッドを利用しようとしない始がそれだけでこの手段を取ったりはしない。


「確かにお前の言葉を否定する資格は俺にはない――」


 言ってしまえば、この行動を踏み切らせる切欠はキングの言葉が原因だ。
 つまり、キングのアドバイスに従って他者を利用して出し抜こうとしているのか?


「だが、それはお前の言葉を肯定するという事じゃない――」


 表向きには正解、だが真の意味では不正解だ。


「本当に正義の味方が無力かどうかを証明するのは俺でもお前でもない――あいつらだ」


 始が自分と同じ殺し合いに乗った参加者と組む事で単純に自身を強化するだけではなく2つ分の脅威を1つに減らす事が出来る。
 これにより殺し合いを打倒しようとするグループがある程度動き易くなる。
 少なくても渡に狙われようとしていた者達の危機は回避出来た事になる。
 また、始自身は早い段階から殺し合いに乗った参加者を優先して仕留める算段でいた。
 とはいえその中には始1人の力では厳しい相手もいるという状況だ。
 だが、2人ならば大分有利に進められる可能性が高い。
 当然、殺し合いに乗った参加者が減る事で殺し合いを止めようとする側が有利になる事に違いはない。が、


「もっとも、俺達を倒せないならばそれまでだがな」


 だが、これは殺し合いに乗っていない参加者を一切襲わないというわけではない。
 殺し合いを打倒する者達の最終目標は大ショッカーの打倒である。
 だが、それ自体は決して容易ではなく、少なくても参加者達よりもずっと強大である事は確実だ。
 故に最終的には自分達が立ち塞がるという事なのだ。自分達を倒せないで大ショッカー打倒などそれこそ砂上の楼閣でしかない。
 自分達を倒せるならばそのまま大ショッカーを打倒すれば良い、
 自分達を倒せなければ自分達が優勝すれば良い、
 どちらに転んでも最終的に自分達の世界の安全が保証されるなら何の問題もないという事だ。
 本音を言えば自身が倒される事で栗原母娘の元に戻れなくなる事が悲しくはあるが、剣崎達の望み通り全ての世界が救えるのならばそれでも構わないだろう。

41チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:38:45 ID:CBNtxhmY0


 そんな中、始は手元にある6枚のラウズカードを見て考えていた――


「妙だな……」


 それは先程感じた強い衝動である。
 先の戦闘時、残る4枚のカードを使おうとした時に感じたものだ。
 あの時は渡への対処に追われていたが為深くは考えてはいなかったが今はその理由に気付いている。


「まさか……『あの姿』を抑えられないでいるのか……」


 それは始の本来の姿にして忌み嫌い戻るまいとしていた姿、破壊と破滅しか起こさない最強最悪の存在、


 ジョーカー――


 少なくてもその力が絶大なのは理解している。
 だが、それに変身した時、全てを破壊――
 自らの世界を含め、人間相川始として過ごしてきた全てすらも破壊してしまう気がした――
 だからこそ先の戦いで危機に陥っても戻ろうとしなかったのだ。
 無論、この場では長時間の変身は不可能、そして一度変身した後の連続変身が出来ない事は概ね把握している為、ジョーカーに戻ったとしても一見問題は無い様に思える。
 それでも、ジョーカーへの変身だけは読み切れない。
 前述の通り、相川始に戻るというのは厳密に言えば間違いだ。あくまでもハートの2のカードを使って変身しているだけに過ぎない。
 無論、先の戦闘でも一定のダメージを受けたが為にカリスから始の姿に戻った事は知っているからこの場では例外なのかも知れない。
 だが、それはハートの2を所持していたからその力で戻れたというだけかも知れない。
 もしハートの2を奪われる等して失った場合はどうなるのだろうか?
 所持していないアンデッドの姿になる事など普通は有り得ない。
 本当の意味での真の姿、ジョーカーに戻るのではなかろうか?
 無論、それ自体は何の証拠も無い仮説レベルだ。

 だが実際の所、姿さえ始に戻れれば済むという話ではない。
 ジョーカー化への衝動を抑えているカードを失った時点でその精神は破壊衝動のみによって動く怪物と化してしまう。
 外見上こそ始であってもそこに始としての心はなく、言うなれば始の皮を被ったジョーカーでしかない。
 只無差別に破壊をもたらすだけの存在となる、それだけは避けねばならない。

 では、今何故ジョーカー化への衝動を感じているのだろうか?
 確かに始自身一時期ジョーカー化への衝動を抑えられずジョーカーとなった事はあった。
 その時の原因は2つ、
 1つはキングによってハートの2を除くカードを奪われた事、もう1つは剣崎が13体のアンデッドと融合しジョーカーに匹敵する程の力を得た事、
 つまり、ジョーカーに匹敵する程の力の存在により、自身の中のジョーカーの力が高まり、手持ちのカードの力では抑えられなくなったという事だ。

 だが、ここで疑問を感じる。何故このタイミングでジョーカー化への衝動が高まっているのだろうか?
 手持ちのカードは6枚、普段より持っている数が少ない以上通常よりも衝動を抑えられなくなっても不思議はない。
 更に先の戦いの中でハートのAも一時的に奪われた為、手持ちは更に減少した5枚となり抑える力が弱くなるのは当然の理だ。

 とはいえ、この時点で対処法自体は判明している。
 かつてジョーカーとなった時は剣崎がハートのカード13枚を自身に渡してくれた事で、元に戻る事が出来、同時にその力も抑えられる様になった。
 つまり、残りのラウズカードを確保、理想を言えばハートを揃えれば問題はクリアという事になる。
 当然だが、その過程で手持ちのカードを奪われてはならない、特にハートの2だけは絶対に失ってはならない。


「だが……何故だ?」


 しかしもう1つの原因については謎だ。
 前述の通りあの時抑えられなくなった原因は剣崎が強大な力を得た事だ。
 だが、この場においては既に剣崎が死した今その原因自体は解消されている筈だ。
 つまり、考えられるとすれば剣崎とは別のジョーカーに匹敵する存在がいるという事である。
 そんな存在が本当にいるのか?
 アンデッドの総数は53体、トランプになぞらえた52体を除きジョーカーは1体だけの筈だ。
 更に言えば剣崎の様な存在が何人もいる筈もない。普通に考えれば絶対に起こりえないはずだ。

42チューニング♯俺を利用しろ! ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:40:55 ID:CBNtxhmY0

 始は知り得ない。この場にはもう1人ジョーカーが存在している事を。
 そして、この戦いの最中、徐々に両者の位置は接近しつつあった。
 剣崎が新たなジョーカーとなろうとしたが故にジョーカー化への衝動が強まったのであれば、
 もう1体のジョーカーが近付く事でジョーカー化への衝動が強まるのは当然の流れだ。
 だが、その事実をここにいる始は決して知り得ない――

 結局の所、始にとってジョーカーは本来の姿だ、それ故にその姿に戻る事自体は至極当然の流れと言える。
 運命と言っても良い――だが、


「いや……俺があの姿に戻り全てを滅ぼす存在となるのが運命だとしても――」


 脳裏に浮かぶのはあの時の会話、


『例え全ての世界を救うとして、お前はどうする? 運命を変える方法があるとでも言うのか』
『いや、それはまだ分からない……』


 それは甘い言葉を口にする翔太郎に問いつめた時の会話、始の問いに対し、


『でも俺は、絶対にそれを見つけてみせる。そんなのが運命なら、絶対に変えなきゃいけねえからな』


 翔太郎は揺るぎない表情でそう応えた。それは現実の見えていない甘過ぎる発言かも知れない。
 だが、恐らく剣崎も同じ事を言う筈だ。そして他の世界の参加者の中にも同じ様に考えている者はいるだろう――
 剣崎が死しても運命を変えようとするその心は決して消える事はない――


「それを変える切り札はある、必ずな――」


【1日目 夜】
【C-5 ビル/地下 ZECTの秘密基地】
【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(少なくても第38話以降)
【状態】罪悪感、若干の迷いと悲しみ、ジョーカー化への衝動(小)
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
2:渡を利用し他の参加者を減らす(殺し合いに乗った参加者優先)。
3:ジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、返り血、ウェザードーパントに30分変身不可、ゾルダに25分変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ウェザーメモリ@仮面ライダーW、
    エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、
    バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
0:今暫く体を休める。
1:始を利用し他の参加者を減らす。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※放送で冴子の名前が呼ばれていない事を失念している為、冴子が死亡していると思っています。

43 ◆7pf62HiyTE:2011/09/12(月) 20:43:40 ID:CBNtxhmY0
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

今回容量が43KBとなるので前後編となります。分割点については以下の通り、
>>26-35が前編(25KB)、>>36-42が後編(18KB)となっています。

44名無しさん:2011/09/12(月) 20:58:10 ID:9VJizr9g0
乙です

45名無しさん:2011/09/12(月) 21:49:30 ID:k6ZnccY20
投下乙です!
始……志村の存在を考え始めたか
暴走しそうな始もそうだけど、渡もどうなるだろうなぁ……
キングの放送で、奴に対する怒りが芽生え初めてからどう動くか楽しみですね。

46名無しさん:2011/09/12(月) 23:16:08 ID:64KjR4zQ0
投下乙です
始の考え方や手を組んだ理由がすごく始らしくていいな
渡の青い血やキング@ブレイドへの反応とかクロスオーバーもお見事
しかし言われてみればそうだよな
ジョーカーは変身するものというよりも元の姿だし
いったいどうなるんだろ

47名無しさん:2011/09/14(水) 12:45:15 ID:emNPV8SU0
えっと、◆nXoFS1WMr6氏 
「決意の名探偵」の修正はまだでしょうか? 
そろそろ一週間経つので、何らかの報告が欲しいです(リアルが忙しいかもしれませんが、このままだと収録が出来ないので)

48 ◆jRNMQDB2ko:2011/09/14(水) 14:57:56 ID:lmKD/GB.O
すいません、リアルな事情があって、修正、及び投下に十分な時間がとれるまであともう少しかかりそうです。
本当はじめてなのに生意気で申し訳ありませんが、修正まであと少し待ってください。お願いします。

49 ◆nXoFS1WMr6:2011/09/14(水) 15:00:12 ID:lmKD/GB.O
すいません、トリ間違えました。

50 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/06(木) 00:22:28 ID:TLmZ4o6g0
投下開始します。

51名無しさん:2011/10/06(木) 00:27:21 ID:TLmZ4o6g0
 門矢士は、見知らぬ病院の天井へとその手を伸ばした。
 伸ばした右腕は何を掴む訳でもないが、しかし身体が軽くなった実感は得られた。
 先程までは少し身体を動かす度に受けた傷が疼く思いだったが、今ではそうでもない。
 もうこれ以上の休息も必要ないと判断し、士は何も言わず、今まで自分が横たわっていた寝台から脚を降ろした。
 それに気付いたのか、矢車想は医者の為に用意された筈のデスクチェアに力無く座ったまま、緩い口調で尋ねて来た。

「なんだ、もういいのか?」
「これくらいどうって事ない。もっと酷い傷を負った事もある」
「ほう、人間にしちゃ随分と早い回復だな……まるでワームだ」
「あんな奴らと一緒にするな。全てに於いて俺はワーム以上だ」

 人差し指を立てて不遜に語る士だが、矢車はふっと鼻で笑うだけだった。
 何処か見透かされているような気がして、矢車のこういう態度はどうにも気に食わない。
 生け好かない相手だが、それでもこの病院で士の傷を手当てしてくれたのは、他でもない矢車だった。
 恩を感じていない訳ではないが、借りを作ってしまった気がして、士はそれも気に入らないのだ。
 要は、反抗期の素直になれない子供と同じようなものなのだった。
 そんな士の心に火を点けるように、矢車は涼しげな顔で続ける。

「なるほどな……ゴキブリ並の生命力って奴か」
「テメエ、それじゃどっちにしろ虫けらじゃねえか!」
「ならゴキブリワームはどうだ……?」
「おい、喧嘩売ってんのなら買うぜ」
「手当てしてやったばかりの相手を痛ぶる趣味はない」
「……チッ」

 それを言われると何も言い返せなくなって、士は不機嫌そうに舌打ちした。
 だが、矢車が士の回復力をワーム並だと揶揄した事自体は、あながち間違いではない。
 事実として、矢車に本格的な手当てを施されてからというもの、士の回復力は異常だった。
 以前、剣崎一真が変身した金色のブレイドの攻撃を受けた時も尋常ならざる傷を負ったが、回復は早かった。
 そもそもの話、十三体のアンデッドと同時融合したブレイドの攻撃を受けて、あの程度で済む事自体が異常なのだが。
 果たしてそれは世界の破壊者だからなのか、その理由を士は知らないが、回復力が強い事に越した事はない。

「だが、この分なら殺し合いに乗った奴らとも戦えそうだ」

 自分の右手を眺めながら、握り、開きを幾度か繰り返し、士は最後にぐっと拳を握った。
 キングとか云う奴の定時放送なら見た。北條は死んだ。もうここで合流する事はない。
 それどころか、たったの六時間のつもりが、殺された人数は多く、事は存外に深刻だった。
 夏海のような犠牲者をこれ以上出さない為にも、士はディケイドとして、これからも戦わねばならないのだ。
 そう思って、一刻も早く動き出そうと立ち上がるが、しかしそんな士を呼び止めたのは、矢車だった。

「おい……ちょっと待てよ、士」
「今度は何だ、俺は急いでるんだ」
「急ぐのはいいが、俺はまだ行く気は無いんでね」
「何だ、まだ休んでいたいのか? 見掛けによらず“もやし”だな」

 苛立ちも半分に、士は挑発するように鼻で笑って見せる。さっきの仕返しのつもりだった。
 だが、それに反して矢車の面持ちは暗く重く、そこに先程までのような軽薄さは無い。
 闇に沈み切った、過去の自分とも似た矢車の瞳は、何処か気味悪ささえも感じる。

「あの放送を聞いて、お前はこれからどうするつもりだ?」
「そんなもん、決まってる。殺し合いに乗った奴らをブッ潰すんだよ」
「正義のヒーローのつもりか?」
「お前、何が言いたい」
「いいよなぁ……お前は」

 ぼそりと呟いた矢車は、くつくつと笑い始めた。

52 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/06(木) 00:29:54 ID:TLmZ4o6g0
 
「まだ正義の心の燃え滓が残っててよ……そんなもん、俺はとっくに失くしちまった」
「ならお前は何の為に戦う、大ショッカーを潰すんじゃなかったのか」
「潰すさ。弟を笑った大ショッカーは、俺がこの手で、叩き潰す」
「なら――」
「お前、何か勘違いしてないか?」

 士の言葉を遮って、矢車は立ち上がった。
 拍車付きの左ブーツがカチャリと金属音を鳴らす。
 嫌な威圧感を肌で感じて軽く身構える士に、矢車は歩み寄った。
 士の胸ぐらを掴み上げると、矢車は士の瞳を覗き込むように顔を寄せる。

「俺はお前の中の“闇”に興味を持っただけだ。仲間になるなんて言った覚えはない」
「そいつは悪いな、俺はいつまでも自分の闇を引き摺る程センチメンタルじゃないんでね」
「……違うよなぁ? お前は闇を捨てた訳じゃない、捨て切れる訳がない……そうだろ士?」

 また見透かされたような気がして、士は言葉を詰まらせた。
 確かに矢車の云う通りだ。夏海が死んだと聞かされた時、士は再び闇に沈みかけた。
 世界の全てに拒絶され、たった一人で足掻き、戦っていたあの頃に戻りそうになった。
 それは矢車の云う通り、士が未だ闇を捨て切れていないからなのだろう。
 そういう意味でなら、士だって矢車と同じだと言えるのかも知れない。

「ああ、確かにお前の言う通り、俺はまだ闇を背負ってるのかも知れないな」

 だが、と続けて、士は矢車の手を払い除けた。

「それでも俺は通りすがりの仮面ライダーとして旅を続ける。仲間を作り続ける」
「信じた仲間に裏切られる痛みを知っていても……か?」
「ああ、それが俺が見付けた、ディケイド(俺)だけの物語だからな」
「それがお前にとっての、闇の中で掴んだ光……って奴か」
「……そんな事は知らん。考えた事もないからな。ただ、俺から言える事は一つだ。
 欲しいなら自力で探してみろよ、お前だけに掴める、お前だけの光って奴を」

 それは、過去の自分へ言った言葉なのかも知れない。
 世界を旅すれば、いつか自分を許容してくれる世界が現れる、そんな風に思っていた自分へ。
 他者に世界に許容を求め、それで確立される自分自身の存在などは、所詮受け身の、仮初の幸福でしかない。
 士はそれを理解し、ディケイドの世界など存在しないという事を受け入れ、その上で旅を自分の物語だと悟った。
 それはきっと士にしか掴み得ぬ「光」で、他の誰に語った所で、その誰かを救う事など出来はしないのだろう。
 矢車が本気で光を掴みたいと思うのならば、それは矢車が自分自身の意思で何かを掴まなければならないのだ。

「クックククククク……アッハッハッハッハッハッハ!」
「何だ、気でも狂ったか……いや、悪い、元々狂ってたな、お前は」
「クック……面白い奴だ、お前は……俺にそんな事を言った人間はお前が初めてだ」
「どうかな。お前が人の話を聞こうとしなかっただけじゃないのか」
「聞く気にもならなかったからな……闇に堕ちた事もない奴らの綺麗事なんざ」
「ああそうかよ……面倒臭い奴だな」

 呆れたように嘆息し、士は再び踵を返した。

「で、どうする。お前も来るのか、来ないのか。無理強いする気はないぜ」
「もう暫く、お前の中の闇を見極めるのも悪くはないだろう」
「……勝手にしろ」

 気味の悪い男だと思うが、士は矢車の事はそれ程嫌いでは無かった。
 過去の自分と似ている所があって、それで居て、生け好かない態度で、気に入らない奴ではあるが。
 それでも仲間として、信頼は出来る。気掛かりなのは、この男がどうやって光を取り戻すか、だ。
 この男が光を見付ける為の手助けくらいはしてやってもいい。そう思いながら、士は病室を後にした。
 病院の廊下は仄暗く、ずっと遠くで輝く非常口の緑だけがぼんやりと浮かんで見える。
 先も不安になるような暗闇でも、士の足音の後には、確かに矢車の足音が響いていた。

53 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/06(木) 00:31:46 ID:TLmZ4o6g0





 身体に感じる揺れを感じながら、葦原涼は少しずつ意識が戻って行くのを感じていた。
 薄らと瞼を上げると、自分の身体を背負って、ゆっくりと、しかし一歩ずつ前へと進んで行く少女の頭が見えた。
 それは、涼がここで出会い、そして守った少女――鳴海亜樹子の背中だった。
 そこで漸く理解する。自分は今、亜樹子に背負われて歩いているのだと。

「亜樹、子……」
「……ごめんね、涼君」

 その謝罪の意味を深く考える事もなく、逆に涼は罪悪感すら感じた。
 自分のように力を持った者は、亜樹子のような力を持たぬ者を守らねばならないのだ。
 それなのに、涼はまたしても気を失って、あまつさえ自分よりも小さな少女に背負われている。
 きっと彼女は、自分を病院か何処かへと運び込み、手当てをしてくれるつもりなのだろう。
 そこまでさせてやる事もない、涼は自分の脚で立とうとするが、意識に反して身体は重たかった。
 疲労困憊した身体は亜樹子の背から降りようとはしてくれない。気付いた時には、また気を失っていた。

 それは、水の中へと沈んで行くのにも似た感覚だった。
 見慣れた大学のプールで、身動きも取れずに水底へと沈んで行くヴィジョンだ。
 自分一人だけが水の底へ、暗い闇の底へ沈んで行くのに、周囲の人間は誰も助けてはくれない。
 誰の手も届かない所へ落ちて行くような気がして、それが怖くて涼は抗うが、結局いつだって助かりはしない。
 この心は誰かに助けを求めているのに、その声は誰の心にも届いてはくれないのだった。
 結局、何処へ行っても、いつまで経っても、それは変わらなかった。

 冷たい。水のように冷たい、ひんやりとした感覚を、首筋に感じた。
 冷え切った鉄の寝台にでも横たわっているのだろうか、もう誰かにおぶさられている感触はない。
 あれからどれ程の時間が経っただろうか、身体は幾分か楽になったように思われた。
 先程よりも瞼は軽かった。徐々に覚醒しつつある視界に移ったのは、見知らぬ天井だ。
 何処かの病院の手術室だろうか。涼を照らすライトがやけに眩しくて、思わず眉根を寄せる。
 そんな眩しさもすぐに遮られた。自分を覗き込む亜樹子の顔だった。

「亜樹子……」

 そして、気付いた。
 亜樹子がその手に握り構えているのは、手術用のメスで。
 その切先は、涼の喉元に確かに突き付けられて居る事に。
 過去に殺されかけた、或いは殺された記憶がフラッシュバックする。
 走馬灯のように巡って行く記憶は、一気に涼の意識を現実へと引き戻した。

「うわあああああああああああああああああああああっ!!?」
「きゃっ……!?」

 乱暴に振るわれた涼の腕が、亜樹子の身体を突き飛ばした。
 亜樹子は一瞬悲鳴を上げて、すぐに周囲の医療器具に激突して崩れ落ちた。
 急いで起き上がった涼は、亜樹子を一瞥したあと、自分の身体を確認する。
 問題はない。目立った外傷もない。まだ、自分は殺されてはいない。
 睨み付ける様に亜樹子を見れば、その手には未だにメスが握られていた。

「もう、やめてくれ……」

 まただ。また涼は、信じようとした者に裏切られた。
 守ったつもりの少女はしかし、涼に恩義などは感じては居なかったのだ。
 過去のトラウマを呼び起されて、涼は軽い恐慌状態にありながら、絶叫した。

「もう、うんざりだっ!!」

 自分のデイバッグを引っ掴んで、涼は振り返りもせずに走り出した。
 何処まで逃げたって、今は嘘になんてならない、そんな事は自分でもわかっている。
 だけれども、今はここに居たくはない。こんな所で殺されてはたまったものではない。
 手術室のドアを蹴破って、廊下へと飛び出た所で、眼前に二人組の男が居た。
 邪魔だ。「どけ!」と叫ぶと、片方の男の肩を押し退けて、涼は一目散に病院を後にした。

 それから、どれくらい走っただろう。
 それ程時間は経過していないように思うが、結構な距離を走ったと思う。
 景色が変わって、住宅街へと入ったところで、ようやく涼は脚を止め、後ろを振り返った。
 もう、亜樹子の姿は何処にも見えない。後方には誰も居なくて、その事実に胸を撫で下ろす。

「何をやってるんだ、俺は……」

 また孤独になって、それなのに胸を撫で下ろす自分が居た事に嫌悪する。
 この身体が人間でなくなってからというもの、結局涼はいつだって孤独だった。
 ここでだってそうだ。誰も助けてはくれない。誰の声も届きはしない。
 この気持ちをぶつける先も分からず、涼は傍らの電柱を殴り付けた。

54 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/06(木) 00:32:17 ID:TLmZ4o6g0
 




「おい、どうした、何があった!?」

 病院の手術室でへたり込む少女の肩を揺さぶり、士は叫ぶ。
 大きな物音が聞こえたかと思って来てみれば、既にこの状況だった。
 残されたのは、必死の形相で逃げて行く男と、物言わずメスを握り締める少女のみ。
 状況はまるで分からないが、穏やかではないという事だけは分かる。

「おい、矢車」
「あ?」

 興味なさげに腕を組んで立っていた矢車が、ちらと士を一瞥した。

「俺はあいつを追う。お前はここでこいつを見てろ」
「……黙って従うとでも思ってるのか?」
「ああ、思うぜ。お前はこいつを見捨てたりしない」

 それは、根拠のない断言だった。

「言った筈だ……そんな正義感なんて、もう捨てちまったってな」
「だが俺の事は助けた。それはお前にまだ正義感が残ってるからだ、違うか」
「違うな……俺はただ、お前の中の闇が見たかったからだ」
「ならそれでもいい。そいつの目を見てみろ」

 やれやれとばかりに、矢車は少女の顔を見て……その表情が、変わった。
 まるで何かに気付いたように。矢車の目が見開かれてゆく。
 乗った。後は上手く言いくるめるだけだ。

「そいつは今、明らかに動揺している。それはお前の言う闇じゃないのか」
「こいつは今、深い闇の底に沈もうとしている……いい目だ、悪くない」
「……悪趣味な事だ」

 士の予想に反して、矢車は少女に見とれている様子だった。
 気味の悪い何かを感じて、士は急いで話を切り上げる事にした。

「またここへ戻って来る。それまでその子の事は任せた」
「……仕方のない奴だ、いいぜ。行って来いよ」

 矢車という人間は、意外と扱い易い部類なのではないかと士は思った。
 ともあれ、ここは矢車に任せておけば、戻って来る頃には少女も口を聞けるようになっているだろう。
 仮に少女が殺し合いに乗っていたとしても、あんな少女一人に矢車がどうこうされる事もあるまい。
 見た所目立った武器も持って居ないようだったし、矢車とて歴戦の仮面ライダーだ。
 その点では矢車を信頼し、士はこの場を矢車に任せたのである。



【1日目 夜】
【E-5 病院 手術室】


【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】全身に傷(手当て済)、亜樹子に対し妙な感情
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
0:亜樹子の瞳の闇に強い興味。
1:士の中の闇を見極めたいが、今は士を待つか……?
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
4:音也の言葉が、少しだけ気がかり。
5:自分にだけ掴める光を探してみるか……?
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外は出来ないようです。
※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。


【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(少なくても第38話終了後以降)
【状態】放心状態、ダメージ(大)、疲労(小)、恐怖(中)、精神的ショック(極大)、ファムに変身不可55分変身不可
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
基本行動方針:風都を護るため、殺し合いに乗る。
0:どうすれば……?
1:極度の混乱。
2:涼への罪悪感。
【備考】
※良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。
※放送で照井竜の死を知ってしまいました。

55 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/06(木) 00:32:57 ID:TLmZ4o6g0
 


「ったく、手間かけさせやがって、ようやく追い付いたぜ」

 住宅街のど真ん中で、何をするでもなく電柱にもたれ掛かっている男に、士は言った。
 態度は極めて不敵だ。結構な距離を走ったように思うが、士の声に息切れは感じられない。
 だがそれは目の前の金髪の男も同じだ。奴も今し方走って来たばかりの筈だが、それ程疲れているようにも見えない。
 恐らくは、奴も仮面ライダーだ。それも、素の身体能力まで強化される、クウガか、アギトか……恐らくそれ系だろう。
 金髪の男は電柱を殴りつけて姿勢を立て直すと、鋭い眼光で士を睨み付けた。

「何だお前、俺に何の用だ」
「聞きたいのはこっちだ、お前、なんで逃げた」
「逃げた訳じゃない、お前には関係ないだろう」
「そうは行かない、お前、あの女に何をした」
「何もしてないさ……俺はな」
「なるほどな、大体分かった」

 言葉の通り、大体わかった。
 恐らく、目の前の男は殺し合いには乗って居ない。
 あの女、鳴海亜樹子が手に持っていたメスの事を考えると、恐らく涼は殺され掛けたのだろう。
 それが辛くて、怖くて、だから涼はあんなに必死の形相であの場から逃げ出したのだ。
 この状態の男が嘘を吐くとも思えなかった。

「信じようとしたのに、裏切られた。だから怖い、そんな顔をしてるな」
「黙れ、お前に何が分かる、俺の気持ちなんて誰にも分かりやしないさ」
「ああ、分からないね、俺はお前みたいな臆病者じゃないんだ」
「うるさい、黙れ、もう俺に構うな! 放っておいてくれ!」

 やれやれ、と小さく呟くと、士は呆れにも似た溜息を落とした。
 知っている。士は、こいつとよく似た男を知っている。そいつの影が、どうしてもチラつくのだ。
 自分の中の力を恐れ、人を傷つけるのを恐れ、人に裏切られるのを恐れ、誰も寄せつけよとしなかったあの男の影が。

「まるで子供だな、知ってるぜ、お前みたいな男」
「何の話をしている、おせっかいならやめてくれ!」
「いいややめられないね。俺は全ての仮面ライダーを破壊する男だ、お前も破壊してやる」

 男の表情が、変わった。

「お前、この殺し合いに乗ってるのか?」
「そうだと言ったらどうする」
「殺し合いに乗った奴は、一人残らずブッ潰す!」
「何故だ」
「俺が俺である意味を、必ず見付けなければならないからだ!」

 言うが早いか、男は量の手を眼前で交差させた。

「変身!」

 獣のように開いた指で、量の腕を一気に腰まで振り抜くが。
 その姿に変化はない。男の姿に変化が訪れる事もなければ、周囲の何かが変わった訳でもない。
 士は全てのライダーを知る男だ。今の変身ポーズで、目の前のライダーが何に変わるのかも大体分かった。
 やはりあの男に、葦河ショウイチに似ていると思ったのは、士の勘違いなどではなかったらしい。
 自分の存在意義を見付ける為に、自分の中の力と、殺し合いに乗った奴らと戦う為に。
 その為に男は、仮面ライダーとしてこの戦いに挑むのだろう。
 ならば。

「いいぜ、来いよ。お前も俺が破壊してやる」

 自分のデイバッグから取り出したブレイバックルを、男の足元に放り投げた。
 男は混乱した様子でありながらも、放り投げられたブレイバックルを拾い、逡巡する。

「何してる、俺をブッ潰すんだろ。腰に当てて、レバーを引けば変身出来る」
「分からないな、何故そんな物を俺に渡す」
「制限で変身出来ないんだろ」

 ディケイドライバーを眼前でチラつかせ、士はニヤリと笑った。
 すぐにそれを腰に当てると、ディケイドライバーは士の腰へとベルトを伸ばし、この身に纏わりついた。
 左腰のホルダーから、一枚のカードを見せ付けるように掲げ、

「変身」

 それをディケイドライバーに装填し、バックルを回転させた。

 ――KAMEN RIDE DECADE――

 九つの世界の力を司る虚像が士の周囲に展開される。
 それは一瞬で士の身体と一体化し、この身体を破壊者のスーツが包んだ。
 最後に顔面に、数枚のカード状の虚像が突き刺さって、変身は完了した。
 仮面ライダーディケイド。全ての世界を破壊し、全ての世界を繋ぐ戦士だ。
 左腰から引き抜いた剣がシャキンと音を立てて、ディケイドは悠然と構える。

56 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/06(木) 00:33:14 ID:TLmZ4o6g0
 
「……お前、本当に殺し合いに乗ってるのか」
「さあな、だが、ここで戦わなきゃお前は俺に潰される」

 男もまた、スペードのカードが装填されたブレイバックルを腰に当てた。
 カード状の帯が男の腰を取り巻き、それは一瞬で赤いベルトへと変じた。
 言われた通りにレバーを引くと、

 ――Turn Up――

 オリハルコンで出来た青いゲートが、ベルトから放出された。
 それはゆっくりと男の身体へと迫り、男の身体を通過する頃には、その姿を変えていた。
 もうそこに先程までの男の姿はない。紫紺のスーツに銀の鎧。守る為に戦い、散った男の仮面。
 仮面ライダーブレイドの仮面を纏い、男もまた、右腰の剣を引き抜いた。

「確かめさせて貰うぜ、お前がブレイドを受け継ぐに相応しいかどうかをな」

 全ての人々を守る為に戦った、正義の仮面ライダー――剣崎一真。
 あの男のベルトは、これ以上士が持って居たところで意味などない。
 誰かが彼の想いを受け継ぎ、誰かがブレイドとして戦わなければならないのだ。
 ここで確かめよう。目の前の真っ直ぐ過ぎる男が、果たして剣崎を受け継ぐ事が出来るのかを。
 もしも目の前の男がブレイドに受け入れられたなら、きっと剣崎が目の前の男を救ってくれる。
 自分に出来るのは、その後押しだ。通りすがりの仮面ライダーらしく、戦うくらいしか出来まい。
 だが、それでいい。剣を振り上げて、ディケイドは駆け出した。



【1日目 夜】
【F-6 住宅街】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、決意、ディケイドに変身中
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
1:目の前の男(葦原涼)を救い、ブレイドを受け継ぐ事が出来るか確かめる。
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:これが終わったら病院で待つ矢車の元へ戻る。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ライダーカード(G3)はディエンド用です。
※葦原涼がギルスである事は、大体わかりました。


【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、背中に火傷、胸元にダメージ、ギルスに1時間20分変身不可、ブレイドに変身中
【装備】ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:俺が俺である意味を見付けたい。
1:ディケイドを倒す。
2:ディケイドは本当に殺し合いに乗っているのか……?
3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
4:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒
5:亜樹子……
6:制限とは何だ……?
【備考】
※ディケイドの不可解な行動に若干困惑しています。

57 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/06(木) 00:35:45 ID:TLmZ4o6g0
投下終了です。
サブタイトルは「光と影」でお願いします。
それでは、何か指摘などあればよろしくお願いいたします。

58名無しさん:2011/10/06(木) 11:34:46 ID:dzwazrRw0
投下乙です。
仮面ライダーディケイド、ギルスの世界編(違!)。涼にブレイドか、意外と合っている様な気がする不思議。
しかし、近くにはガドル閣下とかそういうのがいたからなぁ、士にしろ涼にしろ地味に危ない様な気が。
一方の所長は放送もあってか精神的にヤバイ状態……で、矢車兄貴……まさか妹にする気ではなかろうか? 地獄兄弟ならぬ地獄兄妹……
果たして、橘ヒビキはどっちに向かうか。病院ルートにしてもディケイドルートにしてもどちらもあり得そうであり面白そう。

59名無しさん:2011/10/06(木) 13:39:14 ID:p1mRg5OY0
投下乙です!

葦原さんがブレイドになるとは……果たして、彼が本当に剣崎の意志を継げるのか。
そして所長も矢車さんに見込まれてきて……このまま地獄に堕ちてしまうのか。
色んな意味で、今後が楽しみだなぁ

60 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 01:51:52 ID:3IQmcFd60
感想ありがとうございます。
それでは次の予約分の投下を開始します。

61 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 01:59:46 ID:3IQmcFd60
 始と渡は、傷の回復もそこそこにZECTの地下秘密基地を後にした。
 二人の間で協定が結ばれてから、時間で言うと三十分と経過してはいないだろう。
 渡はもう大丈夫だと言って歩を進めるが、それが痩せ我慢だという事は容易に想像出来た。
 不幸中の幸いか、進む道は平坦で、歩行者に疲労の溜まりにくい舗装された道だ。
 周囲を見渡してみても、東京タワーが後方に見える事以外に、目立ったものは何もない。
 市街地から外れつつあるからか、建物はまばらだが、進む先には幾つかビルが見える程度だった。
 やや歩いた所で始は立ち止り、足取りの重い渡に声を掛けた。

「どうした、やはり辛いか」
「いえ、大丈夫です。僕の事は気にしないで」
「あまり心配を掛けさせるなよ」
「すみません」

 別に渡の事が心配な訳ではない。あくまで戦力的な意味で心配なのだ。
 とは言っても、仮に渡がやられる事があろうと、始が動じる事はないだろうが。
 本来渡は敵なのだ。これはあくまで一時的な仲間、言うなれば一時休戦に過ぎない。
 それを理解しているからこそ、下手な情を抱くのは御免被りたかったのだが。
 そんな始の気持ちを知ってか知らずか、渡は消え入りそうな声で訪ねて来た。

「あの……始さんは、どうして戦うんですか」
「最終的には戦う事になるのに、そんな事を聞いてどうする」
「それもそうですね……忘れて下さい」

 浮かない顔をして、渡は俯いた。
 何も間違った事は言っていない。いつか殺さなければならない相手の情報など、知るだけ無駄だ。
 剣崎が死んだ今、始に限ってそんな事はないだろうが、知れば知る程戦い辛くなる可能性は否めない。
 それならば、最初から何も知らなければいい。知るとしても、必要最低限の情報だけでいい。
 敵である筈の存在と手を組むと言うのは、即ちそういう事なのだ。
 だが、一つだけ答えてやることが出来るとすれば。

「俺も、ある意味では渡と同じなのかも知れない」
「えっ?」
「別に、何でもない。答えてやれるのはそれくらいだ」
「そうですか……ありがとうございます」

 渡は少しだけ考える素振りを見せて、礼を言った。
 世界を守る為に、敢えて修羅の道を行く、という意味では間違ってはいない。
 そうだ、正義の名の元に光の道を歩む事は、翔太郎や、音也達に任せればいい。
 自分達はただ、日陰の暗殺者として、それでも守る為に戦っていけばそれでいいのだ。
 世界を救った後の在りようこそ渡とは違っているものの、そういう意味では違いない。
 ……少し前まではこんな事を言う程丸い性格ではなかったのにと、始は軽く自嘲した。

「始さんにも、守りたいものがあるんですね」
「さあな、これ以上は知らなくてもいい事だ」
「そう、ですか」

 渡は、相手の話に深く立ち入ろうとはしなかった。
 それが分かっているから、始も幾分か気が楽でいい。
 相手がもしも剣崎だったなら、しつこく始の事を問い質していた事だろう。
 二人の間にそれ以上の会話は無いかと思われたが、それでも渡はまるで独り言のようにごちた。

62 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 02:04:33 ID:3IQmcFd60
 
「僕は、自分の行動に後悔はしてないけど、でも貴方のように強くはない」
「……どうした、らしくないな。罪のない人間を殺す事に怖気づいたのか?」
「そういう訳じゃ、ないです。僕にはもう、後戻りは許されないから」
「なら何を悩んでいる? その悩みはお前を殺すぞ」

 それは忠告だった。
 釘を刺すように言った言葉に、渡は一瞬詰まるが、すぐにまた口を開いた。

「構いません。僕が死ぬ事で、皆が幸せになれるなら……」
「なら、その為に戦っているという事を決して忘れない事だ」
「……だけど、たまに思うんです。どうして僕は、こんな所まで来ちゃったのかなって」

 夜空を見上げ、そう告げる渡は、とても苦しそうだった。
 言いたい事や憤りは沢山あるのだろうが、それを言葉にする事は出来ないのだろう。
 それを言葉にしてしまうのは、そのまま渡自身にとっての弱さに直結するからだ。
 だから始は、渡の口からはそれ以上何も訊こうとはしなかった。
 何も訊かない方が、渡の為だと思ったから。

「始さん……一つ、お願いがあるんです」
「何だ、言ってみろ」
「僕の事、名前で呼ぶのはもう、止めてくれますか」
「……キング、か」

 渡は小さく、しかし強い瞳で、こくりと頷いた。
 正直言って気に入らない名前だが、それが渡の強さを補強する仮面になるのなら。
 そう思って、始はこれ以上深く立ち入る事もせず、ただ素直にそれを受け入れた。

 それからやや歩いた所で、二人が見付けたのは一台のバイクだった。
 黒と緑の悪趣味な配色のバイクが、ビルの麓に停められている。

「始さん……このバイク」
「ああ、そういう事だな」

 それだけで意思疎通は十分だった。
 このビルの中に、参加者が居る。二人の視線は、ビルの上方へと向けられていた。
 逡巡は一瞬だ。二人の意思はすぐに同調し、躊躇いも無く歩はビル内部へと進んで行った。
 階段を上り、やや奥へと進んだ所で、始はそこに何者かの気配を感じた。
 何かが震えているのだろうか。カタカタと物が揺れる音が聞こえる。
 二人はただ、音のする部屋へと、ゆっくりと歩いて行った。
 そして、静まり返ったその一室へと足を踏み入れた瞬間、

「な、何だ貴様らはっ!?」

 ガタンッ! と大きな音を立てて、白いスーツの男が立ち上がった。

「……アポロガイスト」

 渡が小さく呟いた。
 その名には聞き覚えがある。確か、東京タワーに爆弾を仕掛けた奴だったか。
 と云う事は、この白いスーツの男もまた、殺し合いにのった悪人という事だ。
 それを理解するや、始の表情がきっと強められる。

63 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 02:13:22 ID:3IQmcFd60
 
「ま、待てっ、仮面ライダーども! 今貴様らと戦う気はないのだ!」
「東京タワーに爆弾を仕掛け、多くの人間を殺そうとした貴様が何を言う」
「ぐぅっ……わ、私には今、戦う力がないのだ! そんな私に手を掛けるというのか!?」

 何を腑抜けた事を言っているのだ、こいつは。
 始にはアポロガイストの言っている言葉の意味が、まるで理解出来なかった。
 東京タワーに爆弾を仕掛けた悪人でありながら、戦う力が無くなれば命乞いをするのか。
 ちらと渡を一瞥すれば、渡もまた、眼前で取り乱すアポロガイストを冷たい視線で見詰めていた。
 どうやら渡もまた、始と同じ心境らしい。それは、ゴミクズでも見下ろすような冷徹な視線だった。

「戦力の有無には関係ありません。僕もさっきは貴方と戦った、条件は同じです」
「だからといって、無抵抗の相手を殺すなど、仮面ライダーのやる事ではなかろう!」
「俺達は別に仮面ライダーでなくとも構わない」

 半ば呆れた様子で、二人はアポロガイストに詰め寄った。
 一歩距離を詰める毎に、アポロガイストは必要以上に脅えた様子で後じさる。
 後方のデスクに激突しながら、それでもパニックに陥った様子でただ逃げようとする。
 流石に様子がおかしくないかと、始も思った所だった。

「どうしました、アポロガイスト。さっきまでの威勢は」
「だ、黙れ仮面ライダー! 貴様らには関係のない事だ!」
「そうですか、では遠慮する必要はありませんね」

 渡の手には、ジャコーダーが握られていた。
 渡はそれをアポロガイストへと突き付け、鋭い眼光で睨み付ける。
 相手は自分達を殺し合いに叩き込んだ組織の大幹部、情けを掛ける道理などはない。
 アポロガイストは何をするでもなく、ただ情けない声を上げながら後じさるだけだった。
 が、そこで始の中で迷いが生まれる。過剰に脅え、逃げるしか出来ないこいつを、このまま殺していいのか。
 こいつにはまだ、訊き出さねばならない事があるのではないか。そう思った始は、今にも奴を仕留めんとする渡を手で制した。

「ちょっと待て、キング」
「……止めないで下さい」
「違う、ここは俺に任せろ」

 そう言うと、渡は渋々ながらに腕を降ろした。
 再びアポロガイストを睨み付けると、アポロガイストは震える声で言った。

「ようし、流石は仮面ライダーだ、話の分かる奴で安心したのだ」
「ああ、今のお前をこのまま殺すのは気が引けるからな」
「立派な心掛けだ、仮面ライダーよ。では、今すぐここを出て行くがいい!」
「……何か勘違いしているようだが」
「ひっ……!?」

 始は一直線にアポロガイストの眼前へと向かって行き、その胸ぐらを掴み上げた。
 情けない表情で脅えるアポロガイストの頭を、室内の壁に思いきり叩き付けて怒鳴る。

「俺はまだお前を助けてやると言った覚えはない」
「ぐっ……な、何が望みなのだ!?」
「俺の質問に答えろ……そうすれば命まで取る気はない」
「な、なんだそんな事か……良いだろう、哀れな貴様らに絶望の真実を教えてやるのだ!」

 ……なるほど、こいつはこういう男か。
 典型的に古典的過ぎる悪の組織の幹部思想、というか。
 恐らくこいつは、訊かれてもいない事を勝手に答えるタイプだ。
 自分の知識をひけらかして優位に立ちたいのか知らないが、こういう奴はテレビで見た事がある。 
 始が元居た世界で放送されていた、子供向けの特撮やアニメに登場する敵幹部のパターンだ。
 なればこそ、この状況に持ち込んでしまえば、後の情報を聞き出す事は容易いと思われた。

64 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 02:17:34 ID:3IQmcFd60
 
「まず、お前達大ショッカーとやらの本当の目的は何だ、教えろ」
「愚かな仮面ライダーめ、我々の目的は、貴様らの居る全ての世界を征服する事にある!」
「世界征服だと? だとすると、世界の選別とかいうのも全て嘘なのか?」
「ハハハ、哀れな貴様らは何も知らないのだな! 世界が滅びに向かっているのは事実だ!
 例え存続する世界が一つになるまで戦っても、ディケイドが居る限りは無意味なのだ!」
「一体どういう事だ、ディケイドとは何だ」
「ディケイドとは悪魔、世界の破壊者だ! 奴が居る限り、世界の融合は止まらないのだ!」
「……そいつは何処にいる」
「この会場の何処かだ。だが残念だったな、ディケイドを破壊するのはこの私だ、
 貴様ら愚かな仮面ライダーなどにその大義は――ぐっ!?」

 アポロガイストの言葉は最後まで告げられる事は無かった。
 脅えながらも調子良く喋る男の首を鷲掴みにし、もう一度その頭部を壁に叩き付けてやったのだ。
 ドゴッ! と嫌な音が響いて、壁に僅かな凹みが見られた。アポロガイストの額からは一滴の血が流れ落ちていた。
 最早そこに大幹部の威厳などは微塵もなく、アポロガイストはただ壊れたように瞳を泳がせていた。
 相当な脅えようだ。恐らくは、他の誰かの精神攻撃でも受けたのだろう。同情する気は全くないが。

「世界を救うためには、ディケイドを破壊した上で勝ち残らなければ意味がない……そういう事だな?」
「クク、その通りなのだ、絶望したか仮面ライダーよ。貴様らの戦いは、ディケイドが居る限り無意味なのだ!」
「そうか……もう一つ訊かせろ。ディケイドを破壊すれば、全ての世界は救われるのか」
「ふん、確かに滅びからは免れるかも知れん。だが、大ショッカーの支配から逃れるのは不可能なのだ!」
「分かった……もういい」

 まるで興味を失ったように、始はアポロガイストを解放した。
 ようやく解放されたアポロガイストは、数歩程よろよろと歩きながらも、再び向き直る。
 足腰は震えていて、声を出す事自体が恐怖との戦いのように思われた。
 しかし、それでもアポロガイストは悠然と構え、

「残念だったな仮面ライダーども! 所詮貴様らは我らの掌の上で踊る――」

 言葉を言い終える前に、赤い閃光がひゅん、と音を立てて閃いた。
 が、別段驚く事もない。始とて、こうなる事は最初から想像していたのだから。
 魔皇力漲る赤の鞭は、狙い過たずアポロガイストの心臓部を正確に貫通していた。
 アポロガイストの純白のスーツが、胸元から赤に染まってゆく。

「約束が……違うでは、ないか――」
「僕は貴方を助けると言った覚えはありません」
「仮面ライダー……卑怯な奴、なのだ」

 しかしその無念は、誰にも届きはしない。
 アポロガイストはそう言い残すと、どさりと音を立てて崩れ落ちた。
 物言わぬ躯となった大幹部にはこれ以上見向きもせず、渡は踵を返す。
 まるで容赦がないように思うが、こうする渡もまた、何処か辛そうだった。
 それが分かって居ながら、しかし始は渡を引き戻す気も慰める気もなく。

「それでいい、流石キングを名乗るだけの事はある」
「……アポロガイストは、東京タワーに爆弾を仕掛け、大勢の人間を殺そうとした悪人です。
 そんな奴が殺されたって、誰も哀しみはしない……ある意味では、僕と、同じです」

 最後の一言を告げる渡の口調は、とても悲しげだった。

65 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 02:23:19 ID:3IQmcFd60
 




 それからややあって、二人はビルの前で支給品の確認を行っていた。
 アポロガイストが持っていた支給品は、全て二人で山分けという形にした。
 当然の事、意味が良く分からないお面や理容セットは、そのまま放置しているが。
 黒と緑のバイク――ハードボイルダーもまた、アポロガイストの支給品の一つだろう。
 バイクに跨り、アクセルを握る始の後ろに跨りながら、渡はごちた。

「僕らの目的、増えましたね」
「ああ、そうだな。世界を救う為には、ただ戦うだけでは駄目だ」

 そう。それは大ショッカー大幹部から直接聞いた情報だ。
 何処まで信憑性があるのかは分からないが、あの状況で嘘を吐く事もないだろう。
 ともあれ、これで全ての世界を救う為の最低必須条件はハッキリした。
 最後の一人まで勝ち残った所で“破壊者”が居ては意味がないのだ。
 故に、何としてでも破壊しなければならない。

「この事は、父さんや名護さん……出来れば、皆にも伝えないと」

 ディケイドを破壊する事は、全ての世界の住人にとって有益だと渡は考える。
 世界を守る為のディケイドの破壊に関しては、きっと名護達も同調してくれる事だろう。
 そうだ。本当の敵は大ショッカー以前に、世界の破壊者とまで言われる悪魔ディケイドなのだ。
 まずは始と手を組み、出来るならディケイドの脅威を話が出来そうな皆にも伝える。
 その上で自分が優勝して初めて、キバの世界は救われるのだろう。
 故に――

「世界の破壊者、ディケイド……これから僕と、僕の仲間達が、貴方を破壊します」

 まだ見ぬ敵、ディケイドを胸中に思い浮かべ。
 渡は強い決意と共に、鉄のように冷め切った声色でそう告げた。
 走り出したハードボイルダーが切る風すらも、今の自分よりは幾らかぬるいだろう。
 そう実感して、渡は自分が後戻りの出来ぬ所まで来ている事を改めて実感した。


【1日目 夜】
【B-5 平原】


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(少なくても第38話以降)
【状態】罪悪感、若干の迷いと悲しみ、ジョーカー化への衝動(小) 、ハードボイルダー搭乗中
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
    T2ガイアメモリ(サイクロン)仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
【道具】支給品一式、不明支給品×1、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
1:渡を利用し他の参加者を減らす(殺し合いに乗った参加者優先)。
2:ジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。

66 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 02:23:39 ID:3IQmcFd60
 

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(小)、返り血、ハードボイルダーに搭乗中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ウェザーメモリ@仮面ライダーW、
    エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王
    ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、
    バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:始を利用し他の参加者を減らす。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※放送で冴子の名前が呼ばれていない事を失念している為、冴子が死亡していると思っています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。



【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド 死亡確認】
 残り39人



【全体備考】
※マシンハードボイルダーに二人乗りしています。所有権がどちらにあるかは次の書き手さんにお任せします。
※インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555はB-5ビルに放置されています。

67 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/07(金) 02:25:55 ID:3IQmcFd60
投下終了です。
「これから僕と、僕の仲間達が、貴方の旅を終わらせます」。

サブタイトルは「世界の真実」で。
また指摘などあればよろしくお願いいたします。

68名無しさん:2011/10/07(金) 07:24:02 ID:3GdCeazI0
投下乙です!
ああ、アポロガイスト……死んでしまったか。
そして渡がディケイド編の渡になっちゃってるー!? だとすると、始はディケイド版の剣崎ポジションか
二人とも、ディケイドを倒しても何も変わらない……のかな?

69名無しさん:2011/10/07(金) 08:43:35 ID:qFyE8ofI0
投下乙です。
あーアポロ退場かー。浅倉にフルボッコにされたダメージから最後まで復帰出来なかったか……
でも最後にトンデモナイものを残していきました。ディケイドが敵だというメッセージです。
今は始も渡もマーダー側だから大して影響ないけど、対主催になってもディケイド撃破が主目的になったら対立は避けられない罠(但し始は断定していないらしい、渡は乗り気……ってディケイド渡かよ!?)。
確か音也はディケイドこと士を敵と認識していないから音也の同行者である翔太郎を含めて考えると……この始&渡と音也&翔太郎の対立は決定的になるな。(でもそもそもディケイドという名前自体知らなかったよな)
……恐らく今回の話聞いたら名護や橘はそれ信じてしまいそうな気がする。士涙目じゃねーの。
……というか士、涼と戦っている場合じゃないぞ。早く全ての仮面ライダーを繋げ!! 間に合わなくなっても知らんぞ!!

70 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:34:41 ID:Kak5VuBo0
これより、予約分の投下を開始します

71会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:35:59 ID:Kak5VuBo0
『やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね』

 夕刻。前方を走る装甲車を追い、マシンキバーを駆る牙王の耳に、風を切る音に負けず滑り込んだ軽薄な声は首輪から発せられた物だった。

『……っと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね』

「ほぉ……そいつは是非とも喰らってやりたいところだな」

 相手に聞こえているかは知らないが、牙王はそう呟く。
 放送をしているということは大ショッカーの一員なのだろうが、どちらかと言えば牙王は『キング』という名に想起されるものがあった。
 白いライダーに変身し、自身と対等に戦ったあの『王』を自称した獲物の姿が、牙王の脳裏に蘇っていた。

『……モモタロス、ネガタロス、キング、光夏海、照井竜、園咲霧彦、井坂深紅朗
 以上、二十人。……いや、僕も死神博士もびっくりしたよ。まさか皆がここまで必死に殺し合ってくれるなんてさ?
 これからも僕らの期待に応えられる様に頑張ってね、みんな。死神博士もみんなの事、応援してるってさ』

 キングを名乗る青年の声で読み上げられた死者の名に、興味深いものがいくつかあった。
 モモタロス、あの特異点野上良太郎の仲間の赤いイマジンだろう。『王』に比べればどうと言うことのない小物だが、ここに連れて来られる前に彼自身を喰らった相手の呆気ない訃報には少なからず苛立ちを覚える。
 ネガタロスとやらは名前からしてやはり電王達の仲間だと考えるのが自然だが、そんな名前には覚えがない。まあ既に他人に喰われた奴のことなど気にしても仕方がないだろう。
 とはいえ、それに続くキングを名乗る者の口から告げられたキングという名には、牙王の注意を引くに足るものがあった。
 既に喰らうこと能わぬ死者だが、おそらくあの『王』を名乗った男のことだろう。
 彼の物と思しき首輪を拾っていたとはいえ……放送でその名を聞き、決して満たされることのない、一種の飢餓が自身の中に生まれたように牙王は感じていた。
 牙王の心境など知らず、あっ、と何かに気づいたような呟きが、首輪から続いて出る。

72会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:37:20 ID:Kak5VuBo0
『そういえば、僕と同じ名前の奴が死んじゃったみたいだけど、そいつ僕とは何も関係ないから、勘違いしないでね。
 一応言っておかないと、誤解されたらムカつくからさ。ってか、僕だったら最初の六時間で死んだりしないし!』

 そう、嘲笑う声が続いた。
 それを聞いた瞬間、牙王の中で、火が着いた肉をそのまま呑み込んだ時のような、胸糞の悪い熱が生じた。
 その正体が何なのか、牙王には掴めない。
 ただ、この放送の主の声によって呼び起こされた感情であることだけは把握できた。

「一番強い、か……面白ぇ」

 目下追跡中の装甲車、それに乗る小野寺を始めとして、牙王が現在狙う獲物――ダグバ、相川始、そして紅渡は死者の列の中に誰一人いなかった。電王もイマジンが一匹……または二匹死んだが、特異点である野上良太郎は健在だ。
 あの『王』に匹敵か、それを超えるかもしれない、究極の獲物達――彼らを喰らった後のことなど、とりあえず全部喰うなどと大雑把にしか考えていなかったが、新たに明確な目標ができた。
 参加者達を喰らい終えた後、大ショッカーを喰らう。そのことには変わりないが、一番強いと豪語するこのキングとかいう輩を、その中では最大の標的としてやろう。
 その時に彼が口にした通り、あの『王』をも超える獲物であることを示せばこの苛立ちや飢餓感も薄れるだろう、牙王はそう考えていた。
 しかし、やはり当面はこの装甲車を追い、小野寺という男を喰らう。その考えは変わらない――いやむしろ、強くさえなっていた。

 理由は、キングの発表した世界ごとのキルスコア。
 結果は、クウガの世界が断トツの一位。主催者の大ショッカー側が、ワンサイドゲームとなることを危惧するほどの勢いだという。
 この牙王でさえ、未だ満足に喰らった獲物は一人もいないというのに、七人。先の死亡者の三人に一人以上が、クウガの世界からの参加者により殺められたということになる。
 先程盗み聞きした話から、ダグバを始めとする未確認生命体なる者達が、クウガの世界出身であることはわかっている。そしてその世界の名を冠す、クウガに変身できる小野寺。
 自身の狙う獲物の力を確信し、禁止エリアの位置を頭に叩き入れながら、牙王が期待に胸を高鳴らせた時だった。

73会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:39:07 ID:Kak5VuBo0
 はるか前方を行き、少しずつ距離を詰めるだけだった装甲車との距離が大幅に縮まっていることに気づいたのは。

 確かに一直線上の橋の上で、加速力に勝るマシンキバーに乗る牙王が追い付くのは時間の問題だったが、そうなるのが思っていたよりもずっと早い。
 その疑問は、徐々に減速して行く装甲車を見て氷解した。
 ダグバが他の参加者を喰らうことが挑発になることからも、おそらく小野寺という男はあの野上良太郎などと同じ人種なのだろう。そんな人間にとって、誰かの死、特に知人の物ともなれば大きい影響を与えるということは牙王も何となく知っていた。
 おそらく、先の放送で彼に影響を与えうる誰かが死んだのだろう。

 しかし――と、牙王はマシンキバーのアクセルを緩め、相対距離を保った。
 そろそろガオウへの変身が可能になっている頃合いだろうが、何となく今喰らいついても不味そうだなと、牙王は直観していた。
 理由は単純、放送に対する小野寺の反応だ。
 それで怒りと憎しみに燃え、ダグバに匹敵する究極のクウガになったという時のように、活力を得たのならともかく――装甲車の減速は、明らかな彼の消沈を表していた。
 仮に小野寺の変身するクウガが究極の力を持っていようと、全力のそれとの喰い合いができなければ意味はない。病気で弱った豚を喰うのは勿体ないからだ。

 自分が殺し合いに乗っていると告げれば、やる気を出してくれるのだろうか?
 そこまで考えて、牙王は忘れかけていた可能性に気づき、断念する。
 小野寺と行動を共にしていた男達の身体はボロボロで、命辛々逃げ出したばかりだと感じられた。おそらくはダグバに喰われかけたのを何とか逃げ延びたのだろうが、その場で小野寺はダグバに立ち向かうために変身しているはずだ。

 つまり、今牙王が戦いを挑んでも、小野寺は変身できない公算が大きい。

 その小野寺に殺し合いに乗っていると伝えても、彼が力を取り戻すまで待つのではどうも締まらない。
 それよりはダグバがやったというように、小野寺の目の前で他の参加者を喰ってやる方が究極の力を引き出すのに役立つだろう。仮に変身できない状態でも、彼に牙王へと怒りを燃やさせることができれば後は向こうから勝手に来てくれるのではないだろうか。

 最高の獲物を前に、ただ喰らうのではなく、どう喰らうのかを考えている牙王はそこでふと何かを感じ、マシンキバーのサイドミラーを覗いた。

74会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:40:50 ID:Kak5VuBo0
 この地に来てからずっと視線を感じてはいたが、それとはまた別、今新たに加わった、何者かの気配……
 それに気づくことができたのは、『王』を横取りされた経験から、獲物に手を出されまいと神経が研ぎ澄まされていたからかもしれない。

 遥かに後方、小野寺の仲間二人を襲っていた虎のモンスターが、こちらに向かって来ているのが鏡に映っていた。
 おそらく牙王が小野寺を追跡し始めたさらにその後、二人を追って来たのだろう。
 それでも元の距離と、装甲車やマシンキバーの速度には敵わず、今まで気配を感じるには遠過ぎる距離にいたのが、減速によって捕捉できた、ということだろうか。
 随分と疲弊した様子ではあったが、あの男二人はもう喰われたのだろうか? 放送では名前は呼ばれていなかったと思うが――
 とはいえ小物どもに興味はない。それより今変身できないかもしれない小野寺を横から喰われでもしたらたまったものではない。睨みをくれてやろうと減速しつつ振り返ったが、そこにはモンスターの姿はなかった。
 振り切ったか? と思いながら正面に向き直り、サイドミラーを再び覗くと、先程よりわずかにだけ近い距離に怪人が写っていた。
 再び振り返る牙王だが、やはり肉眼ではその姿を捕捉できず、三度サイドミラーにその姿を確認した時、ようやく得心が行った。

 どういった理屈かは知らないが、こいつは鏡の中にいる――

 自分のいた世界のイマジンのようなものだろう。あいつらは人に憑依して時間を飛んだりできたが、こいつは鏡の中にいることができるのだと、何となく把握した。
 それなら先程、こいつが突然現れて男達に襲い掛かっていたことも納得できる。あの時も鏡の中に身を潜め、隙を伺っていたのだろう……

「面倒臭ぇなぁ」

 牙王はミラーモンスターの制限を知らない。既に橘達を襲うために一度姿を見せたデストワイルダーは、残り1時間45分ほどは現実世界に干渉することができない。
 だがそれを知らない牙王からしてみれば、いつ仕掛けて来るかも知れない屏風ならぬ鏡の虎をどうやって始末するか、如何にして自分の食事の邪魔をさせないかは難題であった。
 もっとも――だらだらと頭を巡らせるのは牙王の好むことではなかった。

 牙王はマシンキバーのアクセルを緩め、速度の安定しない装甲車からさらに距離を取る。

75会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:42:02 ID:Kak5VuBo0
 結局、牙王の選んだ手段はシンプルだった。装甲車を追跡しつつ、後ろから鏡の中に生息する虎を牽制すべく、サイドミラーに映るモンスターへの距離を詰める。
 牙王との接近に気づいてか、怪人の方もその疾走する速度を緩めた。



 デストワイルダーは橘を襲い、ヒビキの変身したギャレンに撃退されたため、以降警戒されることを本能で察し、橘を襲うことを断念していた。
 そうしてその場から離れて行く装甲車とバイクを見て、そちらへと矛先を変えたのだ。
 ミラーモンスターであるデストワイルダーにとって、人間は捕食対象でしかない。
 だがミラーモンスターの中には契約したライダーとの絆を、契約の解消後も持ち続けていると思えるような個体も存在する。

 果たして東條悟とデストワイルダーの間に、それほどの絆が構築されていたのかは定かではない。
 だが、東條がダグバに殺されたのは、元を正せば彼が小野寺ユウスケを『怖く』しようとしたため。
 デストワイルダーが主人の仇討ちのために動いているのであれば、橘以上にユウスケは攻撃対象であってしかるべきなのだ。無論、デストワイルダーがそのことを知っているとは考え難いことだが……



 究極の獲物とそれに釣られる捕食者達の疾走する橋は、D-3に分類されるエリアへと達しつつあった。
 それらを照らす夕日は傾き、太陽は完全に闇に沈もうとしていた。



 ……そして、それからおよそ二時間後……

「……見失ったか」

 くそっ、と吐き捨てるのは、夜闇の中マシンキバーを駆る牙王。
 デストワイルダーの動きを牽制し続け、ついには一旦追い払うことに成功したのがこのD-2エリアの市街地に入ってからのこと。

76会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:43:17 ID:Kak5VuBo0
結局一度も仕掛けて来なかったデストワイルダーに割いた時間は骨折り損だったかもな、と装甲車を追い駆けたが、橋とは違い障害物の多いこの場所では一度見失うと発見するのは難儀だった。
デストワイルダーに捕捉されるほどに一度は減速したとはいえ、その後の小野寺は何度か速度を上げていた。またそのたびに気が抜けたように減速も繰り返していたが、付かず離れずで尾行するには、小野寺の不安定な精神状態による運転は厄介だったのだ。
挙句デストワイルダーの殺気が増したのを感じて、先にこちらから仕掛けようと牙王が接近したところ終ぞ鏡から顔を出さず、結局は逃げられてしまった。
単純な制限のせいかもしれないし、同じ捕食者として牙王の実力を感じ取ったからかもしれないが、牙王は腰抜けの相手をしている間に見失った獲物のことで頭が一杯だった。

 いくら障害物が多く、一度見失ったとはいえ、牙王は小野寺のことを諦めるつもりなどなかった。ここまで追跡して来た意地もある。また、障害物が多いとなればあの大型車の通る道は限られて来る。今ならまだ十分追い付けるだろうと牙王は踏んでいた。

 焦りもあった。見失ったのは小野寺だけではなくデストワイルダーもだ。もう十分時間が経ったから変身できないなどということはないだろうが、鏡から奇襲するという特性を知らず余計な傷をつけられていてはこの二時間はとんだ道化だ。

 そんな牙王の耳を劈いたのは、前方に見えた爆発の音だった。

 距離は十分にあるはずだが、爆発によって生じただろう強風が牙王にまで届いていた。彼はマシンキバーのブレーキを掛け、路地裏に停車させる。貴重な移動手段が壊されては困る。ここからは自分の脚で、先程の爆発の場所に向かおうというわけだ。

 今の大規模な爆発は間違いなく参加者の手によるものだろう。戦闘で起こったというのならそれなりの獲物、ひょっとすれば小野寺かもしれない。仮に違っていても、あの野上良太郎と同じ人種なら小野寺も様子を見に来るはずだ。もしも来なくとも、それはそれで喰いでのありそうな獲物がいる。もはや牙王の飢餓は耐えられないところまで来ていた。

 そうして爆心地に向けて道路を走る牙王の方に、ある物体が飛来して来た。

 それは両掌に収まる程度の大きさで、紫色の箱のようなものだった。どことなく、自らの持つガオウベルトのバックル部分を連想させる。
 人の目線ぐらいの高さを飛ぶ、その箱のような物体は突如中心に走る線を基準に割れ、闇の中からクローバーの意匠を顕にした。

77会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:44:09 ID:Kak5VuBo0

「なんだ……?」

 呟く牙王に、その紫色の物体――レンゲルバックルが襲い掛かって来る。
 自らに飛来したそれを、牙王はしかし難なく掴み取る。
 直後、牙王の中に彼の物とは異なる意思が流れ込む。
 それは彼の全身に心の糸を伸ばして支配権を奪いに掛かり、そして牙王の心に直接囁く。

 ――ここから逃げろ、と。

 高い戦闘力を持つ赤い仮面ライダー。奴から逃れるために小沢の身体を捨てたレンゲルバックル=スパイダーアンデッドだったが、逃げた先に新しい身体となる人間がいたのは僥倖だった。今から戻ってあれと戦うという気はないが、やはり操れる身体の有無はこのバトルロワイヤルにおいて大きい。見たところ優れた戦闘力を持つ宿主らしく、他の変身アイテムなどの戦力を整えてからあの赤いライダーを始末することも容易いはずだ……

 ……そこまで考えて、スパイダーアンデッドは気づいた。
 全身を支配し、自由を奪ったはずの男が……自分の指示に従わないことに。
 男がレンゲルバックルを手にしたまま、自身の逃げて来た側に一歩踏み出したのを見て、スパイダーアンデッドは慌てて命じた。

 ――逃げろ!

「煩い」

 スパイダーアンデッドの声をそう断じて、牙王は歩を進める。
 先程、手に取ったバックルから何かの意思が感じとれたが、牙王はそれを無視した。
 だが脳に送り込まれた、高い戦闘力を持つ『仮面ライダー』のイメージに、牙王は強い興味を示した。
 その脳裏に浮かんだ強さは、あの『王』の実力に肉薄するものだった。しかも何よりも、それが自らの持つさらなる力を押さえながら戦っているのが、牙王には見て取れたのだ。
 小野寺だと――自らの追っていた究極の獲物だと、牙王の闘争者としての直観が告げていた。
 そして自らが手にしたこれが、メモリと同じく、異世界の変身アイテムだということもバックルから伝わる思念で把握できていた。それもホッパーメモリや、下手をすればこのガオウよりも強力な戦士への変身を可能とするアイテム。

78会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:45:46 ID:Kak5VuBo0
 それがここまで警告を放つ相手だと言うことに、牙王は興奮を押さえられずにいた。



 何故牙王が自らの精神支配を受け付けないのか、スパイダーアンデッドは動揺していた。それだけならまだしも、今必死に逃れようとした戦場に、再び引き戻されようとしている。
 破壊されるわけにはいかない。スパイダーアンデッドは牙王に引き返すように命じるが、跳ね返される。せめて自身を手放すよう念じるが、これも牙王には通じなかった。

 元々、スパイダーアンデッドと言えど強い意思を持つ相手をそう易々と洗脳することはできない。それに加えて、牙王は元はイマジンを率いた盗賊団の首領だ。人間に憑依し、自在に操ることのできるイマジンに隙を見せないだけの精神支配への耐性を持つことは、ある意味で必然とも言えた。
 しかし、それも完璧なわけではない。あの桐生豪も、最初の内はスパイダーアンデッドに支配されずある程度自我を保っていたのだ。それが、最終的にはあの様だ。
 いつか、隙を突いて、ゆっくりと、しかし確実に牙王の意識を喰らって行けば良い……だがそのためには、危険な相手であるあの赤い仮面ライダーの元へ向かいたくはなかった。

「なんだ。おまえ、ビビってるのか」

 牙王がこちらの胸の内を見透かしたように嘲笑して来る。その余裕を受け、スパイダーアンデッドは牙王を今すぐ操ることを諦め、そして覚悟を決めた。
 この男を使い、あの赤いライダーを始末する覚悟を。

「やる気になったか。良いぜ、おまえと俺、どっちが喰うのかの勝負もやってやるよ」

 牙王はそう強く握り締めたレンゲルバックルに告げ、歩みを止めぬまま、それが逃げて来た爆発のあった方向を見据えた。

「待ってろよ小野寺、そして他の獲物共も……全員俺が、喰ってやる」

 全てを喰らう牙の王は、さらにその牙の列を増やし、ついに究極の獲物をその顎(アギト)に捕えようとしていた――

79会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:46:47 ID:Kak5VuBo0
 そんな牙の王に続く、人ならざる影が二つ。

 一つは鏡の中に潜むデストワイルダー。このモンスターもまた、爆発の現場にいるのが自身の追い掛けていた獲物だと気づいていた。
 牙王に気づかれないように、ひっそりと、ゆっくりと。彼のかつての主人だった東條のように、奇襲を仕掛けるタイミングを探りながら、デストワイルダーはヒビキの変身したギャレンによって傷つけられた身を物陰に隠しつつ、牙の王の開く会食の場へと誘われて行った……。

 そして上空から牙王を観察し続ける黄金の昆虫型コア――コーカサスゼクターもまた、牙の王を追って激戦の跡地に向かおうとしていた。
 そこで彼は気づく。自分達の目指す先に――同族の気配が存在することに……



 時間は少しだけ巻き戻る――

 今は亡き加賀美新の相棒・ガタックゼクターに導かれ、紅渡の相棒・キバットバット?世は、大ショッカーの用意したバトルロワイヤル会場の空を飛び続けていた。
 ファンガイアのキングを襲名し、自らの世界を護るためにマーダーへと堕ちつつある渡を救おうとしてくれた、加賀美の遺志を継ぐ者を探して。
 今は別れた渡への不安と、長時間の飛行は、陽気なキバットから口数を奪っていた。
 そうして彼らがD-2の市街地上空に到着した辺りで、ベルトを持ち飛んでいたガタックゼクターが前進をやめ、その場で滞空し始めた。

「――ここにいるのか?」

 キバットの問いかけに、ガタックゼクターは答えない。そもそもガタックゼクターが渡を救おうとしてくれているというのも、キバットの勝手な妄想かも知れないのだが。
 ガタックゼクターはキバットに答える代わりに、じっと地上を凝視している。キバットもそれに倣うと、先程までは聞こえなかった怒号や剣劇の音が耳に届く。視線を彷徨わせ、やがて三人の仮面ライダーと四体の怪人が争っているのを発見する。
 いや、正確には、赤と銀の二人のライダーを、緑色のライダーが怪人を率いて襲撃している光景がキバットの大きな瞳に映った。
「あの野郎……っ!」
 パタパタと滞空しながら、キバットは義憤に鋭い歯を食い縛る。

80会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:47:44 ID:Kak5VuBo0

 仮面ライダーは、本来は加賀美のように、皆のために戦うヒーローのはずなのに。
 殺し合いに乗り、他の参加者を傷つける仮面ライダーの姿は、渡もやがてはこうなるのだとキバットに突きつけようとしているようであり、また、渡が誰かのために戦う本当の仮面ライダーを見て今の考えを改めてくれないかというキバットの希望を、あの亜樹子のように打ち砕こうとしているようでもあり、受け入れ難い眺めであった。

 しかもその悪の仮面ライダーは、従える四体の怪人ともども強い。二人の仮面ライダーは一方的に痛めつけられていた。
「畜生……これじゃあ、嬲り殺しじゃねぇか!」
 赤いライダーが、緑のライダーの持つ杖に激しく打ち据えられ、吹き飛ばされる。数回転がった彼の元へと銀色のライダーが駆け付けるも、その時には彼らは五体の敵によって完全に追い詰められていた。
 キバットは自身の無力を憎む。キバの鎧を託す相棒もいない自分では彼らを救えるかはわからないし、渡を助けるまで死ぬわけにもいかない。それでもいっそ、飛び込むべきか――本気でキバットがそう考えた、まさに時だった。

「おおおおおりゃあああああぁぁぁぁぁぁ!」

 突如として、戦場に響き渡る絶叫。それを耳にして、キバットは声の出所に目を向ける。
 そこに現れたのは、赤と銀のライダーを飛び越え、炎を纏った跳び蹴りを緑のライダーに放つ赤い戦士。
昆虫のクワガタを模したような二本角、火炎のように赤く染まった瞳と全身、腰に輝くベルトを持った――仮面ライダーだった。
彼の蹴りは、相手を砕かんと一直線に進む。しかし、すんでの所で植物の怪人が動き、緑のライダーの盾になるように立つ。
 結果、炎のキックは植物の怪人を吹き飛ばすだけに終わってしまった。
 蹴りの反動で新たに現れた仮面ライダーは僅かに宙を舞って、地面に着地する。
 そのまま、後ろを振り返って何事かを叫ぶと、仮面ライダーは五人の凶手に突撃した。
 殺到する四体の怪人を、神速の勢いで捌き切る。歴戦の戦士としての圧倒的な力、それでいて誰かを守ろうとする優しさ。それら二つを感じさせる戦闘スタイルは、まさに――

――皆の笑顔のために戦う、ヒーローのものだった。

 その姿を初めて目にした時から、キバットの中に電撃のように衝撃が走り、それが今も続いていた。

81会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:49:30 ID:Kak5VuBo0
 何故かはわからない。だがこれは運命だと、どこかで感じる自分がいることにキバットは気づいていた。

 蹴散らされた怪人達は既に姿を消し、対峙していた仮面ライダーと悪のライダーは互いに向けて勢い良く疾走し、同時に跳躍した。
 赤い仮面ライダーの足に帯びた灼熱と、緑のライダーの両足から放たれる吹雪が互いに激突しながら、両者の距離が縮んでいく。
 刹那、強大なエネルギー同士が空中で衝突。そこから両者は拮抗し、轟音と共に大量のエネルギーが周囲に拡散する。
 しかしそれはほんの一瞬で、次の瞬間には凄まじい大爆発を起こした。圧倒的な爆風によって大気は揺らぎ、その衝撃がキバットとガタックゼクターを吹き飛ばそうとする。

「うおわぁあああああっ!?」

 ウェザーの起こした突風にも負けない風圧に、再びキバットは遠くに吹き飛ばされそうになる。そのキバットの背後に回って、ガタックゼクターが必死に押し留めてくれる。
 そうして巻き上げられた粉塵が晴れた時、そこには一人の男が倒れていた。
 渡より少し年上ぐらいの、まだ若々しい雰囲気の青年。その姿を見ながら、キバットは問いをガタックゼクターに投げていた。

「あの兄ちゃん……なんだろ?」

 キバットの言葉に、ガタックゼクターは頷きはしなった。
 だが構わず、キバットはもう一度、確信を持って同じ問いを放っていた。

「あの兄ちゃんが……渡を救ってくれる、仮面ライダーなんだろっ!?」

 理屈ではない直感が、キバットの中にあった。
 あるいは別のキバの世界において、別世界の自分の相棒であった、人とファンガイアのハーフであるワタル少年の心を、あの青年――小野寺ユウスケが救ったことがあるのを、どこかで感じ取っているのかもしれない。

 あるいはガタックゼクターも、どこかでその運命の鎖に導かれ、この場所へとキバットを誘ったのかもしれない。

82会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:50:44 ID:Kak5VuBo0
 また小野寺ユウスケは、二人目のガタックの有資格者であった剣崎一真と共に戦った、どこか天道総司を彷彿とさせる男・門矢士の相棒であり、そして本人もまた、加賀美新を連想させる人物であった。ガタックゼクターとも、ある意味因縁のある相手だと言えた。そして別世界の仮面ライダーキバを救ったことも含めると、この会場に集められた参加者の中でも次なるガタックの有資格者として最も適任であると考えられた。

 それでもガタックゼクターは、ユウスケを資格者として完全に選んだわけではなかった。
 理由は夕方、次なる資格者を探していたガタックゼクターがユウスケを見つけた直ぐ後のG-5の市街地で見た、あの黒い姿。
 怒りと憎しみに支配され、究極の力を誇ったあの黒きクウガは、ガタックゼクターから見てもやはり恐ろしい存在だった。
 どれだけ加賀美に似ていようと、また彼なら、加賀美が最期にやり遺した紅渡の救済をやり遂げてくれるだろうという運命的な直感があっても、参加者を虐殺したあの白い怪人を思わせる姿となったユウスケに対しガタックゼクターは一歩距離を置いて観察していた。故に、キバットの問いかけに頷くことができなかったというわけだ。

 それでも眼前でたった今、ユウスケは、己の力で誰かを傷つける恐怖に負けずに、自分が救うことのできる誰かのために戦った。
 強大な闇に負けずに自らの戦いを貫くその姿は、あの白い怪人より、かつてのガタックの有資格者達――加賀美新や剣崎一真を思い出させるものだった。

「ほら、行こうぜ!」

 トレンチコートの男――ユウスケに救われたライダーが変身を解いたと思われる彼が、ユウスケを背負って移動し始めたのを見て、キバットがそうガタックゼクターを促す。

「待ってろよぉ、渡ぅー!」

 そう言うや否や、地上に向けて降下し始めるキバットに一先ずは続こうとして――

 ――背後から、こちらを見つめる視線を感じた。

 ガタックゼクターは振り返り、虚空を睨むも、夜の闇に阻まれ何も目視できない。
 ただそこに、自分と同じライダーシステムの、昆虫型ゼクターの気配を感じ取っていた。
 だが今までに出会った覚えのない、ガタックゼクターの知らない謎のゼクター。
 いったい、何者だというのか――

83会食参加希望者達 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:52:06 ID:Kak5VuBo0
「おーい、早くしろってぇ!」

 目の前の希望に元気を取り戻したのか、先を行くキバットが陽気にそう声を掛けて来る。
 ガタックゼクターは後ろ髪を引かれる思いでありながら、未知のゼクターの正体を解き明かすことを放棄し、キバットの後に続いた。



 異なるカブトの世界から召喚された、二つのゼクター。

 彼らがそれぞれ、自らの資格者たるに相応しいか見極めようとしている異世界の男達が接触するまで、残された時間はほんの僅か――
 その邂逅が何をもたらすのか、その時はまだ、誰も知らなかった。



【1日目 夜中】
【D-2 市街地】
【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:死亡後
【状態】:疲労(小)、ダメージ(小)、苛立ち、強い興奮状態。
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、ガイアメモリ(ホッパー) @仮面ライダーW、ライダーブレス(コーカサス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED、マシンキバー@仮面ライダーキバ レンゲルバックル@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、首輪(キング)、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
1:赤いライダー(ユウスケ)の元に行き、戦う。
2:クウガ(ユウスケ)、ダグバ、ジョーカー(始)、渡、電王を喰らう。
3:変身が解除されたことによる、疑問。
4:最後に大ショッカーを喰らう際には、キング@仮面ライダー剣と優先的に戦う。
【備考】
※コーカサスゼクターが牙王を認めているかは現状不明です。
※スパイダーアンデッドによる精神支配を現状は受けていません。ですが、今後どうなるのかは後続の書き手さんにお任せします。

84 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 20:56:49 ID:Kak5VuBo0
以上で予約分の投下を終了します。

問題点などありましたら、御指摘の方よろしくお願いいたします。

85 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/08(土) 21:12:10 ID:Kak5VuBo0
追記します。

今回の話の容量が合計で41KBに達しているので、>>71>>78を前篇(21KB)、>>79->>83を後篇(20KB)としてお願いします。

失礼致しました。

86名無しさん:2011/10/08(土) 22:40:12 ID:iCJT31sgO
投下乙です!
レンゲルは牙王の手に渡ったか……確かにイマジンを率いた牙王なら抵抗出来ても当然かな?
そして、ユウスケ達を見つけたキバットとガタックゼクターはどうなるだろう……
あと、彼らを知ったコーカサスも

87名無しさん:2011/10/08(土) 23:42:13 ID:wGG4MzM20
投下乙です。
牙王が何故ユウスケ見失い2時間以上も彷徨っていた理由も無事に補完されたか。
それにしても地味に牙王がレンゲル確保した上でユウスケ達を補足し、更にデストワイルダー、それからキバット&ガタックまでやってきて大集結しているなぁ。
……数話前までは左エリアあんまりいなかったのに此処まで集結……どうしてこうなった。

88 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 17:54:35 ID:ffnveV5c0
投下乙です!
牙王……デストワイルダーやコーカサスゼクターを引き連れた事で
市街地が戦場になりそうですね。
ガタックゼクターやキバットも果たしてどうなるか……


そしてこれより、自分も予約分の投下を開始します

89Round Zero 〜Killing time ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 17:55:35 ID:ffnveV5c0


「成る程、既に三分の一が死んでいるのか」

 D−8エリアに存在する『Wの世界』の園咲邸を模したような屋敷で、金居は静かに呟く。
 時計の針が六時を越えた頃、突如としてこの屋敷に存在する全ての映像媒体が起動して、大ショッカーによる放送が行われた。そこで知った、死者の名前と『禁止エリア』なる存在。
 誰が死んだかは、彼にとってはどうでもよかった。強いて言うなら同じ世界の住民である剣崎一真や桐生豪、乃木怜治が東京タワーで出会ったと言う霧島美穂に少し関心が向いたが、別にそこまで気にするほどではない。
 それよりも、気になるのは禁止エリアによって行動がある程度制限されたことだ。何でもそこに向かうと、問答無用で首輪が爆発されるらしい。
 しかもその中には、これから向かうはずだった病院があるE−4エリアまで含まれている。そこまで大きな問題ではないが、例え乃木と合流したとしても長時間の休息は不可能となった。
 もっとも、間に合わないなら間に合わないで他の施設を目指せばいい。

「それにしても……何故、奴が大ショッカーにいる?」

 そしてもう一つ、金居にとって疑問となっている存在が一つ。あの放送を行っていたキングという男は、見覚えがあった。
 一万年前に行われたかつてのバトルファイトで見た、種の繁栄を賭けて戦っていたアンデッドの一人。それもスペードのカテゴリーキングだ。
 何故、奴が大ショッカー側にいるのか? 何故、封印された筈の奴が再び解放されたのか? そして何よりも、何故世界の命運を賭けたこの状況で奴は笑っているのか?
 放送を行っていた奴の態度からは、悲観といった感情が一切感じられない。いやむしろ、この状況を楽しんでいるかのようにも感じられた。
 天王寺が率いるBOARDによって開放されてから再び行われたバトルファイトで、キングと直接出会った事は無い。故に、奴の思考や目的がまるで読めなかった。

「……俺達は、ただのゲームの駒に過ぎないと、そう言いたいのか? 貴様は」

 その言葉には、確かな憤りが込められている。
 放送の最後でキングはこの戦いをゲームと呼び、馬鹿なプレイヤーは最初で潰されると言った。それはすなわち、奴にとって自分達は遊び道具に過ぎない事を示す。
 アンデッドの王にまで登り詰めた金居には、それが屈辱だった。だが、ここで怒りを覚えても仕方がない。今は精々、奴の言葉通りにゲームとやらを続ける。

「良いだろう……だが、忘れるな。俺はアンデッドとして、最後には貴様を封印してみせる」

 この世界の何処にもいない、だが自分を確実に見ているであろうキングに言い聞かせるように、金居はそう告げた。
 そして彼は豪華な雰囲気を放つ椅子から立ち上がり、自身の傍らで佇んでいる男に振り向く。五代雄介の顔は人形のように固まっており、一切の感情が感じられなかった。
 地の石の効果で、ライジングアルティメットとなって絶大なる戦闘力を手に入れて、操り人形となった男。しかし物事は都合よく行かず、情報を引き出そうとしても何も答えない。
 どうやらこれはクウガの意思を全て奪う代償に、全ての意識を抹消してしまうようだ。もっとも、別にそこまで悲観することは無い。情報を引き出せないのなら、捨て駒としても上等だからだ。
 
「さて……そろそろ行くか」

 全ての荷物を纏めた金居は部屋から出て、その後をついて行くように五代も無言で歩く。
 この屋敷を捜索したが、研究室のような施設を見つけられただけで、後は何も無い。故に、これ以上ここに留まっている理由は無かった。
 屋敷に出ると、外は既に暗闇で包まれている。まるで全ての物を押し潰してしまうかのような、究極の闇。
 しかし今の五代雄介に宿るのは、究極すらも遥かに超えた闇だった。そして、それを意のままに操る手段を、金居は持っている。果てしなき闇を進む彼らの表情からは、一切の感情が感じられなかった。





「くっ……まだだ、まだだ……っ!」

 草加雅人は足元が覚束無いまま、道をたった一人で進んでいる。その表情からはいつもの余裕は微塵も無く、鬼のように歪んでいた。
 頬から次々と流れる脂汗は、雑草の生えた地面に落下しては飲み込まれる。息も絶え絶えで、全身に凄まじい激痛が残ったままだった。本来ならば歩く事すらも難しい状態だったが、彼は動いている。
 草加を動かしている物はたった一つ。園田真理を救いたいという、揺るぎない信念。

90Round Zero 〜Killing time ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 17:59:32 ID:ffnveV5c0

「真理……真理……真理ッ!」

 それだけを胸に、愛しい彼女の名前を呼んで身体に鞭を打って進む。だが、そのスピードはあまりにも遅かった。
 何故、こうなったか。考えるまでもない、五代雄介が何の前触れもなく自分達を裏切ったからだ。しかもその際に秋山蓮は、メモリとカードデッキを持って一人で逃げる。
 もう、自分が利用出来る者は誰もいない。だが関係ない、優勝して真理を蘇らせるまでは戦わなければならないのだから。五代との戦いで気絶し、大分時間が経ってしまっている。
 これ以上、止まるわけにはいかなかった。例え何処にも行けなくても、例え何も見えなくても、止まれない。
 それが小さな明かりすら見えない、闇の中だろうと。

「心配するな、真理……俺がまたお前の笑顔を取り戻してやるから……待っていてくれ……」

 真理の笑顔を脳裏に思い浮かべ、草加は思わず笑みを浮かべる。彼女の幸せを思えば、戦えた。彼女と共にいる日々を願えば、戦えた。
 園田真理というたった一つの希望を信じて、永遠とも思えるような暗闇を進む。一体何処に向かっているのか、何処を目指しているのか。草加自身、分かっていない。
 オルフェノクのような化け物、そして異世界の住民を皆殺しに出来ればそれで良かった。優勝した矢先には真理を蘇生させて、自分の世界からオルフェノクどもを一掃する。

「だから、泣かないでくれ……お前に涙は似合わない……」

 俺達の世界は、俺達人間の物。だからどんな手を使ってでも、化け物どもを殺して取り戻してみせる。ここで死んだら、今まで何のために生きてきて戦ってきたのか。全てが無意味になってしまう。
 忘れもしない流星塾生の同窓会が行われたあの日、オルフェノクに俺達は殺された。しかしようやくカイザのベルトを手にして、敵討ちをする事が出来るようになる。
 乾巧も、木場勇治も、海堂直也も、村上峡児も、誰一人として残さず殺さなければならない化け物だ。この手で全員消せば、奴らによって全てを滅茶苦茶にされた真理が本当に救われる。
 その時が来るまで、諦められない。

「俺が……俺が必ず君を助けてみせる……だから……アァッ!」

 草加の思いは、転倒した事によって途中で途切れてしまう。どれだけ強い執念を持っていようとも、身体のダメージは深刻だった。
 転んだ事によって、荷物が辺りに散らばってしまう。草加は何とかして起きあがろうとするが、身体が言う事を聞かない。

91Round Zero 〜Killing time ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 18:01:52 ID:ffnveV5c0

「だから……俺だけを見ていてくれ、真理。君に相応しいのは……俺だけなんだから」

 流星塾にいる頃から、ずっと真理の事を思ってきた。それだけは今も変わらない。君を泣かせるような奴は、俺が全員殺す。世界に君の邪魔になるような存在があるのなら、俺が一つ残らず破壊する。
 俺は君を助ける。だから、君も俺の事を助けてくれ。いつものように、その優しい手で俺の手を握ってくれ。
 それだけが、俺の望みなんだ。

「死んで……たまるか!」

 彼女は俺の生きる理由。彼女は俺にとっての全て。彼女こそが俺の世界でもある。
 それを潰した奴らは、この手で殺す。奴らは唯一無二である、俺の母親となってくれる女を殺した。奴らは俺を守ってくれる母親を殺した。
 許さない。許せるわけがない。例えどれだけ命乞いをしようとも、皆殺しにする。皮を剥ぎ、四肢を砕き、首を千切ってもまだ足りない。
 どす黒い憎悪を胸に抱きながら、草加は芋虫のように地面を這い蹲って、カイザの変身ギアに手を伸ばした。指先が届くまで、あと少し。
 しかしその最中、視界の外より一本の腕が唐突に現れて、カイザギアを奪った。何事かと思った瞬間、近くに気配を感じる。
 草加は顔を上げて来訪者の姿を確認しようとするが、その速度は遅かった。ようやく見えるようになった頭部も、辺りが暗いでよく見えない。
 ただ唯一はっきりしているのは、来訪者から感じる視線が氷のように冷たい事だけ。そして、オルフェノクのような薄気味悪さも感じられた。
 
「……何者だ」

 草加は思わず、そう訪ねた。
 自分は見下されている。そう思った事で苛立ちを感じたが、草加は必死にそれを堪えた。
 この状況はチャンスでもある。もしも現れたのがフィリップのようなお人好しであれば、自分の事を救おうとする筈だ。例えそうでない奴だとしても、自分をすぐに殺さない分まだ可能性はあるかもしれない。
 もしも、こちらを利用しようと考えるならばそれはそれで良しとする。今は相手の手駒でも、時間を待てば出し抜ける機会は訪れるかもしれない。いざとなったら盾にする事も、立場を逆転させる事も出来るはず。
 そうすれば真理を救える、そうすれば真理とまた一緒にいられる。ようやく見えてきた微かな希望を胸に、草加は来訪者の反応を待った。

「フン、まだ生きていたのか」

 しかし帰ってきたのは、冷たい一言。
 その意味を考える暇もなく、草加の耳に銃声が響く。次の瞬間、彼の頭部に凄まじい熱と衝撃が走った。頭が押し潰されてしまいそうな重圧を感じて、視界が真っ赤に染まる。
 目の前の色を拭い払う事なんて出来ない。一体何が起こったのかなんて、考える事が出来ない。
 唯一考える事が出来るのは、この世界で一番大切な存在。園田真理の笑顔、園田真理との思い出、園田真理が自分の隣にいる未来。
 しかしそれらも、血のような赤に塗り潰されていく。変わりに見えるのは、流星塾生達のように灰となっていく自分自身。
嫌だ、真理が消えていく。真理が見えてなくなっていくなんて、嫌だ。死にたくない、俺はまだ死にたくない。こんな俺は、俺じゃない。一体誰なんだ、この男は。
 助けてくれ、真理。いつものように俺の手を握ってくれ。
 助けてくれ、真理。俺も君を助ける、君の事を守ってあげるから。だから、君も俺と一緒にいてくれ。そうすれば、君も俺も幸せになれるから。
 この世界には、俺と君以外に誰もいなくてもいいし、何も必要ない。俺は君だけを見ているし、君も俺だけを見ていれば良いんだ。
 だから、そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。俺から目をそらさないでくれ、俺に背中を向けないでくれ。
 何処にも行かないでくれ。どうして俺を一人にして、そっちに行ってしまうんだ。どうして俺も一緒に連れて行ってくれないんだ。
 いつものように……子供の頃のように、俺の手を引いて歩いてくれ。そうしないと、俺は壊れてしまう。俺から何もかもが無くなってしまう。俺は生きていけなくなる。
 ねえ、まってくれよ……まり。



 果てしない暗闇の中で、草加は真理に手を伸ばすが届かない。自分から去っていく真理の後を追っていくが、届かない。
 それは当然だった。彼の見ている真理は真実ではない、虚像の存在。もう園田真理は、この世にいないのだから。
 しかし草加がそれに気付く事は永遠にない。彼はもう何が幻で、何が真実なのかが分からないのだから。
 ただ一つだけ、彼が知る事の出来ない真実が一つだけ存在する。それは、草加が真理と同じ世界に行った事を。
 草加雅人がこの世界で、たった一人への愛に生きた生涯を終えた事を。




92Round Zero 〜Killing time ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 18:03:49 ID:ffnveV5c0
 もう動く事のない男の身体を、金居は冷ややかに見下ろしていた。頭部には風穴が空いており、そこから大量の血液が飛び出している。
 脳だった赤い肉や、骨だった白い欠片も散らばっていた。大半の人間が見たら吐き気を促すだろうが、彼は特に何も感じていない。感じる必要も意義も存在しなかった。
 ただ、邪魔者が一人減った程度にしか思っていない。金居が名も知らぬ男を殺した理由はたった一つ。男からは、利用価値が見いだせなかった為。
 こいつは先程、クウガの男と行動を共にしていた奴だ。しかも、ライジングアルティメットになった瞬間、何の躊躇いもなく殺しにかかっている。
 だからこいつはまるで信用出来なかった。同行者を襲う奴から情報を引き出そうとしたところで、真実を伝えられるわけがない。手駒にしたとしても、途中で裏切るに決まっている。
 周りにも、クウガの男以外に気配が一切感じられない。故に、金居はデザートイーグルの引き金を引いて頭部を撃ち抜いた。先程の戦いで負ったダメージが深かったのか、何の抵抗も出来ずに死んでしまう。
 金居は男が使っていた変身ベルトを始めとした、全ての支給品を回収した。それを終えた頃、倒れた男の身体から突然、全ての色が消えていく。髪の毛も破裂した肉片も、灰色に染まっていった。

「何……?」

 何事か――そう思った頃には、金居の目前で男はまるで灰のように崩れ落ちる。後に残ったのは、銀色に輝く首輪だけだった。
 流石の金居も、思わず目を見開いてしまう。射殺した相手の身体が灰になるなど、自分の世界では到底有り得ない現象だったからだ。
 しかしそれは一瞬で、彼はすぐに瞳を細める。それどころか、薄い笑みすらも浮かべていた。

「……わざわざ自分から証拠を消してくれるとは、実に有り難いな」

 男の成れの果てである灰は、ゆっくりと風に流されていく。このまま行けば、誰にも見つからないまま消えていく筈だ。
 自分が奴を殺害した痕跡が一切残らない。それどころか、死因の特定も遺体の発見すらも出来ないだろう。放送で男の名前は呼ばれるだろうが、犯人が自分だと証明する事は誰にも出来ない。
 灰の山に埋もれた首輪も、証拠になるとは考えにくい。最良の手段としては首輪を川に捨てる事だが、その間に誰かに見つかっては疑われてしまう。
 何にせよ、これ以上この場に留まっていてもどうにもならない。そう思いながら金居は、首輪から目をそらして去っていった。

「変身一発……か。それにしても、お前はいい物を持っていたな」

 答えが返ってこない事を知りつつも、金居は五代に向けてそう告げる。五代のデイバッグには二本の瓶が入っていた。もう一つの『555の世界』で人間解放軍の科学者である野村が生み出した、変身一発と呼ばれるドリンク剤。
 本来ならば草加雅人以外の人間にオルフェノクの記号を埋め込み、カイザに変身した後の灰化を食い止める存在。それが、五代の支給品として配られていた。
 だが言葉の反面、金居は変身一発に大した期待を抱いていない。副作用を無効か出来る反面、変身一発を飲んだ人間によって二度目の変身を行われると今度はベルトが灰化するようだ。
 そこまで事態は希望に満ちていない――まるでこの殺し合いを象徴しているかのようだと、金居は無意識の内に呟いた。




【1日目 夜】
【D-7 草原】

93Round Zero 〜Killing time ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 18:05:52 ID:ffnveV5c0

【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康
【装備】デザートイーグル(2発消費)@現実、カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555、カイザショット@仮面ライダー555、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、変身一発(残り二本)@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
五代の不明支給品×1(確認済み)、草加の不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
4:利用できる参加者と接触したら、乃木を潰す様に焚きつける。
5:地の石の力を使いクウガを支配・利用する(過度な信頼はしない)。
6:22時までにE-5の病院に向かう。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※地の石の効果を知りました。
※五代の不明支給品の一つは変身一発@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロストです


【五代雄介@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】健康、地の石による支配
【装備】アマダム@仮面ライダークウガ
【道具】無し
【思考・状況】
1:地の石を持つ者(金居)に従う。
【備考】
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※地の石による支配力がどれぐらいかは次の書き手以降に任せます。
※地の石の支配によって、言葉を発する事が出来ません。


【草加雅人@仮面ライダー555 死亡確認】
  残り38人
※草加の遺体は灰化しました。首輪は【D-7 草原】に放置されています。

94 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 18:08:17 ID:ffnveV5c0
以上で投下終了です。
ご意見や問題点などがありましたら、指摘をお願いします。

95 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/10(月) 19:59:08 ID:FT31YlCc0
投下乙です!

たっくん達が近くまで来ているはずだけど、間に合わなかったか……
絶望的な状況でも、草加雅人なら大丈夫! だと期待していたけど結局退場かぁ。
もっと草加の活躍が見てみたかった気がする一方、彼らしい真理を想いながらの
惨たらしい最期だったなぁとも思います。

本人も強豪マーダーで、さらにおそらくは参加者でも最強戦闘力の五代
ライアルを従えた金居の今後が気になりますね。

ただ、五代の状態表に仮面ライダークウガへ後○○変身不能という記述が
ありませんが、時間帯が夜ですが『落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜』終了時点
から二時間が経過した夜中直前ということなのでしょうか?

96 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 20:04:39 ID:ffnveV5c0
ご指摘ありがとうございます
それでは、収録時に仮面ライダークウガに一時間変身不可と収録時に修正させて頂きますが
よろしいでしょうか?

97 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 20:06:20 ID:ffnveV5c0
すみません、指摘の意味を勘違いしてました……

>から二時間が経過した夜中直前ということなのでしょうか?
氏の解釈で大丈夫です。
変な事を言って申し訳ありません。

98名無しさん:2011/10/10(月) 20:51:22 ID:c84r53b2O
投下乙です!策士策に溺れ助けは来ず……まあ、仕方ないよね。金居さんも金居さんでご利用は計画的に。

そういや確か変身一発って実は一発だけじゃダメだったっけ、もう一本いっとく?

99名無しさん:2011/10/10(月) 21:38:13 ID:cXDHdN2M0
投下乙です。あちゃー草加退場かぁー、マーダーだからあの状態からはい上がれるかと思いきやそんな都合良い展開は無かったか。
まぁ参戦時期的にも限界近かったからなぁ……しかし、能動的に戦わないとはいえ金居はかなり厄介だよなぁ。

100 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/10(月) 21:59:21 ID:FT31YlCc0
>>97
了解しました。放送直前の『落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜』終了時点でD-7
にいた金居が五代を抱えた状態で隣エリアの屋敷に着いてから放送を聞いて
いるのに、草加に再遭遇するまでに随分時間がと思いましたが、単純に屋敷
で時間を潰したのですね。22時までにE-5に到着する目的があるのにとも一度
思いましたが、金居は大まかにですが制限のことも知っているので、五代の
制限のことも考えたためなのだろうと納得できます。

ただ、些細なことですが、たった今気付いたことをもう一点だけ。前述のように
金居にはE-5病院に22時までに向かうという目的があるので、屋敷からそこまで
向かうのにマップの形状を見ると草原を通るのは草加にトドメを刺す目的以外だ
と、彼にとって単なる遠回りになるだけの気がします。

文中でも草加が道を歩いているという描写がある(まあ、道路よりはやや草原
っぽいですが)ので、場所をE-7草原からE-7道路へ収録時には修正した方が自然
かな? と思いました。

101 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/10(月) 22:09:30 ID:ffnveV5c0
重ね重ねありがとうございます
それでは、収録時に草原から道路に修正させて頂きます。

102 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:37:22 ID:qH32kVoQ0
皆様投下乙です。

>>会食参加希望者達
キバット達はまさかのユウスケに目を付けたか。
ユウスケは今精神的にも助けを求めてるだろうし、キバットとの出会いは何か変わるのかな。
というか何気にキバ&ガタックを一気にゲットするチャンス!?
ユウスケにはこれからももっと頑張って欲しいなぁw

>>Round Zero 〜Killing time
草加さん……想像はしていたけれど、やはり長くは持たなかったか。
五代さんは五代さんで完全に自我失っちゃったし、こっちはユウスケとは逆だなぁ。
どん底から光の兆しが見えたユウスケと、光の元からどん底に落ちた雄介の対比は考えてみれば面白いかも。
……というか金居がかなり厄介な存在になっている件についてw


それでは、自分も予約分の投下を開始します。

103 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:41:27 ID:qH32kVoQ0
 放送が終わってから、三十分程が経過しただろうか。
 死者の名を告げる放送を聞いて、最も衝撃を受けたのは野上良太郎だった。
 ライトアップも眩しい東京タワーの麓で、水浸しになったアスファルトを踏み締めながら、良太郎は項垂れる。
 その様子を見た他の皆は、そんな良太郎の気持ちを汲んでか、今は何も言葉を掛ける事はしなかった。
 いや、良太郎以外の一同もまた、良太郎と同じように仲間が死んだのだ。きっと皆、気持ちは同じなのだろう。
 あきらは悲しそうに眼を伏せていたし、冴子や村上は、考え込むように何処か遠くを眺めていた。
 志村は先程までは良太郎と同じように悲しそうにしていたが、こうしては居られないと、一人で東京タワーの中へ入って行った。
 今は動けないであろう良太郎達に気を遣って、志村が先行して東京タワーの内部を探索してきてくれると言い出したのだ。
 この時ばかりは誰も動ける状況では無かったし、ウラタロスも何の口出しもしようとはしなかった。
 いや、良太郎の中に居るウラタロスやキンタロスも、きっとこの場の皆と同じ気持ちなのだろう。
 今は何も言う気にならないし、ウラタロスも志村の行動一つ一つに気を配っている精神的余裕も無かった。
 大切な仲間が死んだのだから、仕方のない事だ。
 だけども、志村はこの哀しみからも立ち上がって、今、皆の為にたった一人でも行動している。
 そう考えると、自分は何をしているんだと思えてきて、良太郎はゆっくりと顔を上げた。

「あの……」
「どうかしましたか、野上さん」

 村上の視線が、射抜くように良太郎を見詰める。
 思わずたじろいでしまいそうになるが、しかし良太郎は続ける。

「皆、辛いのは分かります。僕も辛いから……でも、僕の仲間は、きっと最期まで戦ってたんだと思います」

 良太郎にとって最大の仲間であり、最高の親友でもあったイマジンを、心に思い浮かべる。
 喧嘩っ早くて、何をやっても大雑把で、だけど本当は誰よりも優しくて、強かった最高の相棒。
 彼が、何もせずにただ殺されたなんて、良太郎にはとても考えられなかった。
 きっと最期まで勇敢に戦い、それでも敗れたのだろう。どんな想いで彼が散ったのかは、想像に難くない。
 生き残った良太郎は、どんなに辛くとも、悲しくとも、彼の想いを蔑ろにするような事だけはしてはいけないのだ。
 そう思って、言葉は酷く不器用でも、それでも良太郎は一生懸命に三人に向かい合った。
 
「僕、戦います。今はこんなに辛いけど、でも……やらなきゃいけない事だけは、分かった気がするから」
「野上さん……」

 良太郎の言葉に、真っ先に反応を示したのはあきらだった。

「やっぱり、強いですね。大切な仲間が亡くなったっていうのに」
「ううん、そんな事ないよ……本当は不安でたまらなくて、何処までやれるかもわかんないから……」
「それでもです」

 たった一言だけども、そう告げるあきらは、何処か嬉しそうだった。
 その表情に陰りはなく、良太郎の立ち直りを素直に祝福してくれているようだった。
 あきらも仲間が死んだようで、つい先程までは辛そうにしていたのに。いやきっと今でも辛いに違いない。
 それでもあきらは、良太郎に負けじと、前を向いて歩き出そうとしているのだ。良太郎だけ弱音を吐くなんて事は許されない。
 そんな二人を眺めていた村上が、冷淡な態度を崩す事もなく、しかし関心した様子で呟いた。

「これは意外ですね。まさか真っ先に立ち直るのが野上さんとは」
「そう、ですか……? 僕なんか、何も凄い事ないです……いつも一人じゃ何も出来なくて……
 でも、こんな僕でも、少しでも心が強くなれたんだとしたら、それはきっと友達のお陰なんだと思います」
「……不躾な事をお訊きしますが。そのご友人というのは、先程の放送で名前を呼ばれた方、ですか」

 良太郎は、緩く頷いた。
 村上は一言「そうですか」と告げると、それ以上は何も訊こうとはしなかった。
 それはつまり、これ以上落ち込んでいる場合でもないという事なのだろう。きっと、この三十分を村上はずっと我慢していたのだ。
 彼が冷たい男だという事は、既に周知の事実だ。誰が死んでも特別哀しむという事もしないのだろうが、それでも殺し合いに乗る気はないらしい。
 だからこそ良太郎達とも行動を共にしているのだろうが。

「貴方は立ち直ってくれたようだけど……あっちは遅いわね」

 そんな中、不意に呟いたのは冴子だった。

104 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:42:20 ID:qH32kVoQ0
 
「東京タワーに一人で入って行った彼の事よ。もう二十分近く経つんじゃないかしら」
「えっと、東京タワーって広いし……たった一人ですから、きっと時間が掛かってるんじゃ……」
「本当にそうかしらね」
「何なら、私が様子を見に行きましょうか」

 名乗りを上げたのは村上だった。
 きょとんとする三人の返事も待たずに、村上は東京タワーの入り口に向かって歩き出した。
 
「私が行くのが最も安全でしょう」

 良太郎には、その言葉の意味がさっぱり分からなかった。
 その時の良太郎は、新たな決意を抱いた反面、未だ危機感には疎かったのだ。
 というよりも、それは危機感云々の、それどころか、常識すらも逸脱した現実だった。
 悲劇の始まりは、村上が東京タワーの内部へと消えてからほんの十数分後。
 良太郎の耳を劈いたのは、聞いたことも無い程に巨大な爆音。
 良太郎の身体を薙ぎ払ったのは、体感した事も無いような暴力的な爆風。
 長く続く爆発の後に、日本のシンボル・東京タワーは崩落した。





 東京タワーの内部は大体調べた。
 展望台も含めて、その内装は元の世界に存在する東京タワーと相違ない。
 全長三百三十三メートルを誇る日本のシンボルを、奴ら大ショッカーはそのままこの会場へとコピーしたのだ。
 その技術力と労力に舌を巻きながらも、志村純一はようやく奴らから離脱し一人になる事が出来たと、一人不敵に微笑んで居た。
 そもそも純一が良太郎達と別行動を取ったのは、タワーの散策をしたかったからでもあるが、最も大きな理由は別にある。
 いつ襲われても可笑しくないこの殺し合いの場で、あんな無防備を晒し、時間を無駄にする奴らと一緒に居たくなかったからだ。
 落ち込んだり悲しんだり、そんな事をしている時間があるなら、東京タワーの散策でもしていた方がよっぽど時間を無駄にせずに済む。
 それに、あまりここで時間を無駄にしたくない理由もあった。
 焦げたアスファルトと、大量に出来た不自然な水溜りを純一は見た。
 この東京タワーに向かって歩いている途中、不自然に轟く雷鳴を、純一は聞いた。
 恐らくは最初に純一が戦い、殺した男が持っていた銀のメモリを使って、誰かがここで戦っていたのだ。
 見た所、メモリは戦いの跡地には見当たらなかった。何処へ行ったかは分からないが、もしかしたら東京タワーの中に何かがあるかもしれない。
 もしもまだ東京タワーの中にそいつがいるのなら、誰も見ていない間に殺してでも銀のメモリを奪い取る。
 それ以外の誰かが居たとしても、無条件に殺害だ。そう思って純一は東京タワーに入って行ったのだが。
 
「まさか、あんな物が仕掛けられているとはなぁ」

 不敵に、そして他者からすれば、不気味に。
 純一はにたぁっと頬を吊り上げ、笑ってみせた。
 場所は展望台よりも数十メートル下方の非常階段だ。
 ここから東京タワーの赤と白の支柱を見渡すが、視界に移る色は赤と白だけではない。
 黒い何かが、見る限り、爆弾としか思えない装置が、至る所に取り付けられていた。
 数はざっと二十程であろうか。誰が仕掛けたのかは知らないが、粋な事をしてくれる。
 きっと、夕方ここで放送を行った女は、これを使って参加者を一網打尽にするのが目的だったのだろう。

105 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:43:01 ID:qH32kVoQ0
 東京タワーが健在である事を考えれば、作戦は失敗に終わったのだろうが……それならば、その意思は自分が継ごう。
 純一の見立てが正しければ、これだけの量の爆弾を一つでも起爆させれば、一気に他の全てが誘爆し、東京タワーは崩壊する。
 そうなれば、無防備を晒し続けている真下の四人を、一気に葬り去る事だって可能だろう。
 その為の起爆装置をさっきからずっと探しているのだが、どういう訳かその類の物は何処にも見当たらなかった。
 誰かが持ち去ったか、或いはこの計画を看破され、既に何者かに破壊されてしまったか。
 純一は軽く舌打ちをするが、すぐにデイバッグからグレイブのバックルを取り出した。
 それを腰に押し当て、ベルトとして装着すると、
 
 ――OPEN UP――
 
 誰に何を言う事もなく、純一はバックルの扉を開いた。
 カシャンと音を立てて、バックル中心部の「A」が姿を現す。
 同時に放出された金色のゲートは、ゆっくりと純一の身体を通過し、その身体に鎧を着せる。
 それは、全てのエースを超越する最強のエース――ケルベロスの力を疑似的に再現する為の鎧。
 仮面ライダーグレイブへと変じた純一は、デイバッグからペン型のZECTGUNを取り出し組み立てる。
 銃となったそれを右手に握り締め、その銃口をグレイブから見て出来るだけ遠くの爆弾へと向けた。
 起爆させるのは一つでいい。必要なのは、自分が逃げるだけの時間だ、それもほんの一瞬あればいい。
 出来るだけ遠くの爆弾を爆発させ、それが全ての爆弾に誘爆する前に、ここから飛び降りて離脱するのだ。
 高さはざっと百メートル程か。少し高いが、何、アンデッドである自分が高所から飛び降りた程度でどうにかなる事もあるまい。
 念には念を入れて、グレイブの装甲も身に着けているのだ。万に一つも、自分がここで自滅する可能性はない。
 狙い定め、東京タワーの支柱に備え付けられた爆弾を銃撃しようと、その引き金に指を掛けるが。
 
「成程、そういう事でしたか」

 カツン、カツン、と。鉄骨を踏み締め、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。
 サイレンのような―純一の知識で言うならば、ライダーの変身待機音だろうか―音が聞こえた。
 咄嗟に銃を降ろそうとするが……もう遅い。変身までしてるのだから、言い逃れのしようはないだろう。
 グレイブの仮面の下で舌打ちをしながらも、こちらに向かって歩いて来た男をその視界に捉える。
 それは、耳障りなサイレンを鳴らす金色の携帯電話を携えた村上峡児であった。
 村上が腰に巻いている金色のベルトを見るに、奴は既に戦う気なのだろう。
 諦めたように、グレイブは問うた。
 
「貴様、何をしにここへ来た」
「貴方が遅いから様子を見に来たのですが……よもや貴方が東京タワーを爆破する腹積もりだったとは」
「気付かれたからには、もう演技を続ける必要もないな。東京タワーよりも先に、貴様の最期を拝めそうだ」
「……下の下、以下ですね」

 言いながら、村上はふん、と鼻で笑った。

「しかし、まあ善しとしましょう。貴方のお陰で、このベルトの性能も確かめられる」

 金色の携帯電話をわざとらしくちらつかせ、村上はのたまう。
 純一がその真意を理解するよりも早く、村上は携帯をベルトに収めた。

 ――Complete――

 電子音声に伴い、ベルトから金色に輝く帯が放出された。
 やがて金の帯の周りには漆黒の装甲が形成されて、村上の姿は見えなくなる。
 グレイブと同じ、仮面ライダーの装甲だった。地の帝王と呼ばれるその装甲を身に着け、村上は軽く両手を揉んだ。
 それは村上の癖だろうか。思いの他身体に馴染んでいる様子で、村上が変じたライダーは満足げにグレイブを眇め見た。

「成程。これがオーガですか、デルタよりもよほど私に馴染んでいるようだ」
「オーガ……仮面ライダーオーガか。だが残念だったな、貴様はここで潰される!」

106 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:43:46 ID:qH32kVoQ0
 
 握り締めた右手を軽く掲げ、挑発的にグレイブは告げた。
 オーガとグレイブ。同じく黄金の装甲を持つ仮面ライダーが、ここに相対した。
 各世界の代表ライダーを原点として開発された新世代ライダーという点では、条件は同じなのかも知れない。
 新世代を担う仮面ライダーとして開発された二者は、互いに黄金の剣を構え、距離を計り合い。
 高度百メートルの冷たい風に吹かれると同時、東京タワーの非常階段の上を、二人は駆け出した。
 カン、カン、カン、と。鉄骨を踏む度にけたたましい金属音を掻き立てながら、一瞬で間合いは煮詰められた。
 グレイブの剣と、オーガの剣が激突する。眩い火花は夜の闇へと吸い込まれ、消えて行った。
 そのまま鍔迫り合い、純一は気付く。オーガの剣は重たい。グレイブの剣よりも、ずっとだ。
 その点スピードではグレイブが僅かに押しているのかも知れないが、自信は持たない方がいい。
 この敵との戦いは、持久戦に持ち込めば押し負ける。たったの一合でそこまで理解したのは、純一の類稀なる戦闘力の賜物か。
 一瞬の思考で攻撃のパターンを切り替え、グレイブは身を低く落とし、オーガの喉元目掛けて剣を突き立てた。
 当然その一撃はオーガが振り上げた剣によって弾かれるが、構う事は無い。剣を振り上げがら空きになった胴に、グレイブは蹴りを叩き込んだ。
 体勢を崩したオーガは数歩よろめき、非常階段から転げ落ちるが、構わずグレイブはそれを追撃せんと駆け下りる。
 階段の踊り場でようやく止まったオーガに、上方から剣を突き立ててやろうと飛び込むが、切先はオーガの左手に掴み取られた。
 
「オーガと同じ金のライダー……グレイブ、でしたか。どれ程の実力かと期待したが、大したこともない」

 今度はオーガからの挑発だ。仮面の下の村上がどんな表情でそうのたまったのかと考えれば、酷く不愉快だった。
 軽く舌を打る純一など意にも介さず、オーガはグレイブの剣を掴んだまま、右の大剣を振り上げた。
 回避は出来なかった。グレイブの装甲から派手な火花が舞い散って、この身体に痛みが奔る。
 拙い、と思うが、剣が掴まれたままなのだ、身動きなど取れよう筈もない。
 そんなグレイブの脇腹を、今度はオーガの脚が鋭く蹴り上げた。
 たまらず剣を手放し横へと転がったグレイブを後目に、オーガは立ち上がる。
 グライブラウザーを奪い取ったオーガは、それを一瞬眇めると、よろめくグレイブに向き直った。
 
「中々に造り込まれた武器だ。だが、もう必要もないでしょう」

 オーガの声には、余裕すら感じられた。
 手に取ったグレイブラウザーを、高度百メートルから地上へと投げ捨てる。
 数秒遅れて、東京タワーの真下で金属が落ちる音が聞こえた。これで実質、グレイブの武装は無くなった。
 拙い。徒手空拳では大剣を使いこなすオーガに勝つ事など敵わない。グレイブとしての勝利の道は、潰えた。
 だが、まだ策はある。純一の頭に、この場を切り抜ける為のプランが幾つかのパターンとなって浮かび上がる。
 行ける。まだ戦える。志村純一は、こんな所で終わりはしない。
 
「ククク……武器を失った程度で、このグレイブが終わるとでも思っているのか?」

 わざとらしく、仰々しく、グレイブは告げる。
 仮面の下では不敵な笑みを崩さずに、一歩、一歩と後退して行く。
 掛かれ。俺の罠に掛かれ。そう思いながら後退するグレイブとの距離を詰めるように、オーガが前進する。
 やがて、グレイブの退路は断たれた。東京タワーの非常階段の手すりに、グレイブの背部装甲が当たったのだ。
 もう行き止まりだ。これ以上の逃げ場はない。そう実感しながらも、グレイブはちらと後方を見遣り、確認する。

107 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:44:21 ID:qH32kVoQ0
 
「もう逃げ場はありません、これで終わりです」

 ――Exceed Charge――

 オーガがベルトの携帯電話を開き、ボタンを一つ押し込んだ。
 ベルトで生成されたのであろう金色のエネルギーは、瞬きながらオーガの身体を伝い、その大剣へと充填されてゆく。
 一瞬の後には、オーガの大剣は巨大な光の刃に覆われ、眩く黄金に輝いていた。言うなれば、巨大な光の剣、と言ったところか。
 何のためらいもなく、それはグレイブへと振り下ろされる。光の刃はグレイブの上方の鉄骨をも斬り裂きながら、その速度を上げる。
 光の粒子が、触れるもの全てを光子レベルで分解し、あたかも対象を綺麗に斬り裂いているように見えるのだろう。
 東京タワーを斬り崩しながらも、グレイブの仮面へと真っ直ぐに振り下ろされる大剣を見ながら、純一は笑った。
 
「馬鹿め、掛かったな!」
「何……?」

 オーガストラッシュがグレイブの仮面を叩き斬る寸前、グレイブは身を翻した。
 ほんの一瞬、人間レベルでは見抜けぬ間合いを、それでも純一は見極め、その一撃を回避したのだ。
 驚く村上の声を聞きながら、一瞬前までグレイブが居た場所を、黄金の刃が寸断して行くのを見た。
 そして、その刃の先にあるのは――東京タワーの支柱に備え付けられた爆弾だった。
 オーガの剣は、仕掛けられた爆弾の一つ毎、支柱を斬り裂いたのだ。





 最初に爆発したのは、たった一つの爆弾だった。
 一つ目の爆弾は、東京タワーの支柱を吹き飛ばし、広範囲を焼き尽くそうと炎を撒き散らす。
 それは二つ目、三つめ、四つ目と連鎖してゆき、爆発が起こる度に、支柱は確実に吹き飛ばされて行った。
 爆発は爆音を伴いながらも、一つ、また一つと断続的に続き、暫くの間爆発音と爆風が止む事はなかった。
 東京タワー自体が相当な強度を誇る建築物ではあるが、零距離で、それも連続で爆発を引き起こされればたまったものではない。
 やがて吹き飛ばされた支柱の数が、東京タワーを支えるのに必要な数を越えた時、東京タワーが傾き始めた。
 これは拙い。何が何だか分からないが、とにかく拙い。爆風に身を嬲られながらも、良太郎は思った。
 そんな時、良太郎の内部から、良太郎に声を掛けてくれたのは、キンタロスだった。

(良太郎、ここは俺に任せるんや!)

 キンタロスが、良太郎に有無を言わさずにこの身体の所有権を握ろうとする。
 だが、良太郎はそれを善しとはしなかった。自分の意識を決して手放そうとはせずに、キンタロスを拒絶した。

(何してるんや良太郎!?)

 驚愕したキンタロスが怒鳴る。
 だけれども、良太郎はまるで意に介さずに、走り出した。
 頭上では、絶え間なく爆発が続き、大量の鉄骨が降り注ぐ。
 それでも良太郎は、呆気に取られるあきらと冴子の元まで駆け寄ると、二人の方を強く掴んだ。
 
「ここにいちゃ、拙いよ! 早く、逃げなきゃ!」

 誰よりも早く、俊敏に行動したのは良太郎だった。
 キンタロスの助けをも拒絶して、良太郎は二人の肩を掴んだまま、一生懸命に走る。
 もうこれ以上は、ウラタロスとキンタロスに頼りっぱなしの自分は止めにするつもりだった。
 必ず二人の力が必要になる時も来るだろうが、今はまだその時ではない。それを理解したからこそだった。
 そして何よりも、死んだ友の想いを受け継ぐと、良太郎はこの心に誓ったのだ。
 だから良太郎は、何があろうと絶対に折れはしない。
 ここで皆で一緒に生き残ってみせるのだと、強く念じた。

108 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:45:02 ID:qH32kVoQ0
 
(良太郎、お前一人じゃ……)
(無駄だよキンちゃん。こうなった良太郎は、誰よりも意思が強いって知ってるでしょ。
 きっと僕やキンちゃんどころか、先輩の言う事だってもう聞かないよ。なら僕達は大人しく待つしかないでしょ)
(そ、それはそうかも知らんけどやなぁ……)
(大丈夫だから、今は良太郎に任せようよ)

 頭の中で慌てるキンタロスを制したのは、ウラタロスだった。
 流石はウラタロスと言ったところか。人の心を読むのは彼の最も得意とする分野。
 良太郎の強い想いを汲み取って、ウラタロスは今、レディ二人を良太郎に任せてくれたのだ。
 ならば良太郎は、その想いにも応える必要がある。この場の誰よりも強い意志を持った男は、誰の助けをも求めず、立ち上がったのだった。
 
 



「ガハァッ!」

 純一にしては無様な呻き声だった。
 固いアスファルトとの激突で、グレイブの装甲は限界を迎えた。
 生身を晒した純一は、目立った外傷こそないものの、苦しげに天を仰ぎ、笑う。
 爆発の颶風に身を嬲られ、落下してゆく鉄骨に激突し、終いにはアスファルトとの激突だ。
 いくら人ならざる存在とはいえ、これが堪えない筈は無かった。
 症状で言うなら、恐らくは全身打撲、程度だろうか。何にせよ後を引く程の怪我ではない。
 罠にしては些か無謀過ぎたかとも思うが、これであの村上を仕留められたのなら文句は無い。
 真下に居た三人も、無事に済んだとは思い難い。仮に逃げ延られたとしても、あの集団からは抜ける事には成功した。
 純一が何か行動を起こそうとしても、野上は逐一邪魔をして来るし、村上は油断も隙も無かったのだ。
 正直言って、あの厄介な集団に入ってしまったのは、純一にとって痛恨のミスであった。
 しかし、その不自由ともこれでおさらばだ。これでようやく純一は自由になれる。
 そう思った矢先。純一から少し離れた場所で、バラバラになった鉄骨がごと、と音を立てて崩れ去った。

「まさかこんな方法で東京タワーを爆発させるとは……恐れ入りましたよ」
「貴様……その声は……!!」

 何事かと思って、声の主を見遣る。
 そこに居たのは、頭からつま先まで、純白の怪人だった。
 最早人のものですら無くなった鋭い眼光は、殺意を以て純一へと向けられる。
 しかし、純白の怪人が発する声は、つい先程まで戦っていた村上の声そのものだった。
 園田真理から聞いた話を思い出す。確か、オルフェノク、とか言ったか。
 誤算だった。自分は人間ではないのだから死ぬ筈もないと踏んだが、相手も人外である事は、盲点だったのだ。
 つくづく上手くいかないものだ。軽く舌打ちをしながら、いよいよ次の変身手段を使う時が来たかと思う。
 オルフェノクとなった村上が放つ威圧感は相当だ。ジョーカーにするか、オルタナティブにするか、考える。
 恐らく、確実に敵を仕留めたいのであればジョーカーになるべきなのだろうが、あまりあの姿を多様したくはない。
 ジョーカーは切り札なのだ。他の選択肢があるなら、それよりも優先して使われるべきカードではない。
 オルフェノクを睨みつけながらも、純一はよろよろと後退する。二人の距離が詰まるのは、ほんの一瞬だった。
 純一の喉元を掴み上げた純白のオルフェノクは、この身体をギリギリと持ち上げる。
 息苦しさを感じるが、自分は人外だ。窒息で死ぬ事はない。
 いよいよ変身する時が来たか。そう思うが。
 
「志村さん!」
「――!?」

 突如響いてきた声に、純一は聞き覚えがあった。
 オルフェノクに喉元を締め上げられながらも、ゆっくりとそちらを見遣る。
 そこに居るのは、若干へっぴり腰だけども、しっかりと地を踏み締め仁王立ちする野上だった。
 野上の後方には、あきらと冴子も無事健在しているのが見えて、純一は心中で思いきり舌打ちした。
 これだけ苦労しながらも、仕留めた相手は零。ふざけるなよ、何の為に俺は――。
 しかし、今のこの状況を利用しない手は無い。

109 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:45:45 ID:qH32kVoQ0
 
「た、助けて下さい……野上さん! 村上さんが、突然襲い掛かって来たんだ……!」
「そんな……もう人は襲わないって言ったのに、どうして……」

 野上は一瞬悲しげに眼を伏せるが、次の瞬間には、意を決したように顔を上げた。
 デイバッグから紫色の刀を取り出すと、お世辞にも慣れているとは言えぬ手つきで、それを構えた。
 さながら、刀の使い方をまるで知らないド素人のようだった。
 だけれども、その瞳だけは強く、剣呑であった。
 
「し、志村さんを離して下さい……村上さん!」

 野上が声を張るが、オルフェノクは動じない。
 ちらと野上を見るだけで、それ以上の仕種は何も返さなかった。
 そうしている間にも、純一の喉元に加えられる圧力は徐々に強まって行く。
 このままでは、例え人前であろうともジョーカーに変身せねばならなくなる。
 これ以上野上に頼るのは止めた方がいいか……そう思った時だった。

「僕は……決めたんだ。もう、これ以上、誰にも悲しい思いはして欲しくないって」

 静かにそう告げた野上は、一拍の間を置いて――一気に走り出した。
「やああーっ!」などと声を張り上げて、野上は純白のオルフェノクへと斬り掛かる。
 オルフェノクは純一の身体を放り投げると、容易く野上が振り下ろした一太刀を受け止めた。
 一瞬でも純一を離してくれたのなら、もうそれで十分だ。野上とてそれを理解しているのだろう。
 解放された純一をちらと一瞥し、野上は叫んだ。
 
「ここは僕に任せて、逃げて、志村さん!」
「わかりました、ありがとうございます、野上さん!」

 本当なら、「でも、野上さんを置いて行く事なんて出来ない!」とか、そういう事を言っておくべきだったのだろう。
 だけれども、村上が変じたオルフェノクは、既に志村の正体を知っているのだ。そう考えれば、一刻の猶予もない。
 変に演技を続けてネタばらしをされる前に、多少不自然でも、今はこの状況を離脱するのが先決かと思われた。
 そう判断してからの行動は早い。純一は一目散に駆け出し、冴子とあきらの肩を掴むと、急いで退避を開始した。


 志村があきらと冴子の二人を連れて離脱したのを確認して、良太郎は安心した。
 少なくとも良太郎は、志村の事を信頼している。自分の代わりに、三人の命は救われたのだ。
 後は、何とかして村上を止め、考え直して欲しい所だが……今の良太郎には、変身する手段はない。
 だけども、どういう訳かここで死ぬ、という気はしなかった。
 良太郎の友は、きっと最期まで戦ったのだ。それなのに、良太郎がここで諦めていい道理などはない。
 決意を胸に、全力を込めて踏ん張る。ローズオルフェノクが掴んだままの刀に、無理矢理にでも力を込める。
 ローズオルフェノクは、呆れたように良太郎の刀から手を離した。

「えっ……?」
「やれやれ……下の下、ですね」

 そう言って、怪人は一歩身を引くと、その姿を変えた。
 目を丸くする良太郎など意にも介さずに、その姿は元のスーツの男へと戻ってゆく。
 一体どういう事だろう。てっきり、先の放送を聞いた村上が、殺し合いに乗ってしまったのかとばかり思っていたのだが。
 しかし変身を解除し、良太郎を見詰める村上の視線には、軽蔑はあっても、殺気というものはまるで感じられなかった。
 良太郎の頭の中に、酷くトーンを落としたウラタロスの声が聞こえて来たのは、それから一瞬後の事だった。

(やられたよ、良太郎……あの志村って奴にね)
「え……どういう……」

 状況がまるで分からない。
 村上は呆れたように嘆息し、言った。

「貴方は騙されたんですよ、志村純一にね」
「え……?」

 この場で理解出来ていないのは、良太郎ただ一人だった。
 周囲を見渡すが、そこに志村の姿は、もうない。ただ、崩れ去った鉄骨が積み重なって、燃えているだけだった。
 最早完全に崩れ去った東京タワーの跡地で、瓦礫と鉄骨の山の中で、良太郎はようやく彼らの真意を理解した。
 それに気付いた瞬間、良太郎の中に蓄積されていた「信頼」は、東京タワーと同じように崩れ去っていった。

110 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:46:11 ID:qH32kVoQ0
 


【1日目 夜】
【D-5 東京タワー跡地】

【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダー電王に1時間10分変身不可
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。
0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。
1:志村純一に騙された……?
2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
3:モモタロス、リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:電王に変身できなかったのは何故…?
6:剣崎一真、橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。
7:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ウラタロスは志村と冴子に警戒を抱いています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。


【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、バードメモリに溺れ気味、オーガに二時間変身不可、オルフェノクに二時間変身不可
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:今すぐに良太郎を殺す気は無いが、今後の同行についてはもう少し見極めが必要。
2:志村は敵。次に会った時には確実に仕留めるべき。
3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。
4:冴子とガイアメモリに若干の警戒。
【備考】
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。

【全体の備考】
※18時40分頃、東京タワーは爆発・崩落しました。
※広い範囲でこの様子は確認されたものと思われます。

111 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:47:06 ID:qH32kVoQ0
 あきらと冴子が立ち止まったのは、あれから十分程後の事だった。
 しかし、それ程遠くへ離脱する事が出来たのかと問われれば、そういう事もない。
 ただでさえ冴子は脚を怪我しているのだから、一般人同然の二人がそう上手く逃げられる訳がなかった。
 そして、そこまで理解した上で、志村は自分達に、来た方向へと戻るようにと告げた。
 市街地に逃げ込むよりも、今は誰も居ない事が証明されているホテル方面へ戻るのが得策だからだと言った。
 あきらと冴子の二人にそう指示した志村は、野上さん一人だけを放っておく事は出来ないと、一人で引き返したのだ。
 正義の仮面ライダーである彼がこの場から居なくなった時点で、自分達の身は自分で守らねばならない。
 いざとなれば戦う事も辞さない覚悟であったが……今はまず、休憩が必要だと思われた。
 何しろ、ここまで走りっぱなしだったのだ。体力の限界も近い。
 
「大丈夫ですか、冴子さん」
「ええ、何とか。悪いわね、私の為に貴女にまで迷惑を掛けてしまって」
「いえ、気にしないで下さい。冴子さんには何の罪もありません」

 殺し合いに乗った者に襲われ負傷した冴子は、寧ろ被害者だと言える。
 襲われ、脚を怪我し、それでも逃げ延びて、今度は味方に迫害されては堪ったものではなかろう。
 今はとにかく、志村の言う通りに離脱するのが先決だ。体勢を立て直さねば、何も出来まい。
 あきらは、座り込んだ冴子に手を差し伸べた。
 
「……借りを作ってしまうわね」
「そんな事ありません」

 そう言って緩く微笑み、あきらは冴子に肩を貸した。
 助けを得ながらも、何とか立ち上がった冴子と共に、あきらは歩き出す。
 しかし、その足取りは重い。負傷者である冴子を連れているからか、それとも精神的なものか。
 もう人は襲わせないと誓った筈なのに、村上はまた人を襲ってしまった。
 あんなに人の良い志村を、その手で殺そうとしていたのだから、言い逃れのしようもない。
 それを考えると、もしかしたら、東京タワーを爆破したのも村上なのかも知れない。
 考えたくはないが、後から東京タワーに入って行ったのも、志村や自分達を殺す為の――。
 いいや、そんな事は今考えた所で意味の無い事だ。今はまず、生き残る事を考えねばなるまい。
 そう思いながらも、一歩ずつ確実に前進してゆくが――不意に、後方から足音が聞こえて来た。
 ザッ、ザッ、と。平原の草むらを踏み締め、歩いて来る何者かの足音だ。
 あきらが咄嗟に振り返ると、

「貴方は……仮面ライダー――?」

 そこには、漆黒の仮面ライダーが居た。
 頭まで爪先まで、殆どが漆黒だが、全身に金のラインが奔っている。
 右手に握り締めた巨大な大剣を引き摺る事で、その切先は地面を抉り、緑の平原に茶色の傷跡を残していた。
 漆黒の仮面ライダーはあきらの問いには決して応える事無く、ゆっくりと歩を進めて来る。
 奴は敵だ。直感があきらにそう訴えかけて来る。敵が放つ殺気は、友好的な人間に放てるものではない。

「逃げて下さい、冴子さん……私が時間を稼ぎます」

 そう言って、冴子の肩に回していた手を、冴子から離した。
 冴子はこくりと頷くと、あきらを信頼してくれたのか、脚を引き摺りながらも、後方へと走り出した。
 脚を怪我した彼女が完全に離脱するまでには時間がかかるだろう。
 何としてでも、自分がここで時間を稼がねばならない。
 デイバッグから音笛を取り出し、口元へ運ぶ。
 
 ――ACCEL VENT――
 
 鬼の音色が高らかに響くのと同時だった。
 漆黒のライダーが、右腕のガントレットに一枚のカードを通す。
 あきらが、青い炎と共に燃え尽きてゆくカードを認識した次の瞬間には、既に漆黒のライダーはそこには居なかった。
 ほんの一瞬だった。黒のライダーが、一瞬であきらの眼前に現れたかと思えば、あきらの身体は既に自由を失っていた。
 激痛が走ったように思うが、もうそれが痛みと呼べるものであるのかどうかも、あきらには分からない。
 ゆっくりと視線を降ろせば、漆黒のライダーの大剣が、自分の腹部へと突き刺さっていた。
 
「お前達のお陰で、本当に動きにくかったよ」

 これはその礼だ、とでも言わんばかりに。
 漆黒のライダーは、寒気が走る程に気味の悪い声で囁いた。
 何処かで聞いた声のような気がするが、それが誰の声なのかはもう分からない。
 勢いよく大剣を引き抜かれれば、そこから大量の血が噴き出して、いよいよあきらは自立すらも不可能となった。

112 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:47:26 ID:qH32kVoQ0
 
 
 平原を鮮血で染めながら崩れ落ちたあきらの姿を、冴子は見た。
 あきらを殺した漆黒の仮面ライダーは、ゆっくりと、しかし確実に歩を進める。
 地に引き摺られる大剣が、ガリガリと不気味な音を立てながら、地面を緩く抉る。
 冴子は必死になって逃げようとするが、脚は自由に動かない。
 必死になればなる程にこの脚はもつれ、逃走を困難とする。
 逃走は不可能だ。聡明な冴子が、その結論に至るまでにそれ程時間は掛からなかった。
 デイバッグからガイアドライバーを取り出した冴子は、それを自らの腰に押し当てる。
 一瞬でベルトとなったそれに、冴子は最も信頼のおける金のメモリを挿入した。
 
 ――TABOO――
 
 変化は一瞬だ。
 メモリによって冴子の身体は作り変えられ、人を越えた存在へと進化した。
 タブードーパントとなった冴子の身体は、脚の不自由さなど気にする事もなく、宙へと浮かび上がった。
 漆黒の仮面ライダーはしかし、別段気にする様子もなく、対処をする素振りすら見せようとはしない。
 ミュージアムの幹部ともあろう者が、随分と舐められたものだ。
 タブードーパントは、掌の中で火球を生成すると、それをライダー目掛けて放り投げた。
 ちらと顔を上げ、迫る火球を認識したライダーは、大剣を振るい上げ、火球を防ぐ。
 大剣の腹で軽い爆発が起こるのを確認しながら、次の火球、またその次の火球を撃ち出した。
 隙を与えてはならない。一気に責め立て、隙を見てこの戦域から離脱し、体勢を立て直す。
 運が良ければ、また野上や志村のような御人好しを見付け、利用すればいいだけだ。
 その為にも、今は生きる。生き残って、何としても生還して見せるのだ。
 火球攻撃の連続に、次第に漆黒のライダーは防戦一方となって行った。
 ライダーの周囲は既に火の海で、冴子の必死の攻撃が窺える。
 これならば、すぐに追い付かれる事もあるまい。
 タブードーパントは、宙空をフラフラとよろめきながらも、撤退を開始した。
 
 
 変身制限の時間が訪れるまで、冴子は逃げ続けた。
 だけれども、蓄積された疲労の為か、最早真っ直ぐに空を飛ぶ事は不可能だった。
 何度も高度を下げて、何度も地面に落ちそうになって、それでも逃げ続けたのだ。
 全ては今後の為に。今はまず、ホテルで休んで、体力を回復してから体勢を立て直す。
 それさえ出来れば、些か極論だけども、漆黒のライダーとの戦いに於いては勝ったも同然。
 どもかく、今はキバへの変身と、サガから受けたダメージ、それからここまで走り続け飛び続けた事で、体力も限界に近かった。
 恐らく、冴子が思う程遠くへ離脱する事は敵わなかったのだろうと、悔しいながらも実感する。
 それでも、脚を引き摺って歩き続けた所で――冴子は、見付けた。
 
 「貴方は……」
 
 それは、数時間前に見付けた一人の男の遺体。
 頭から割られ、何者かによって惨殺された自分の世界の男のなれの果て。
 どうしてだろうか、冴子はこの男を見てしまうと、どうしようもなく不快な気持ちになってしまう。
 それは何処か、この男を慈しんでいるかのような……ある訳のない、不思議な情。
 この男の前では、自分が自分の知らない自分になってしまう気がしてしまう。

「どうして、こんなに……」

 これは何の根拠も無い、下らない運命論なのだろうが。
 もしかしたら、別の時間軸、別の世界線では、自分はこの男と何らかの関係を持っていたのかもしれない。
 起こり得るかも知れなかった、別の未来の可能性。全く別の世界線での因果が、自分にそんな幻影を見せるのか。
 非現実的で、有り得る訳がないと思いながらも、気付いた時には、冴子は再び男の遺体に見入ってしまっていた。
 そんな時だった。

113 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:47:48 ID:qH32kVoQ0
 
「冴子さん」

 何者かに、その名を呼ばれたのは。
 慌てて振り返ると、そこに居たのは一人の男だ。
 まだ若く、爽やか過ぎる程に爽やかな笑顔を振り撒く御人好し。
 人の為に戦いたいと言って憚らなかった正義の仮面ライダー、志村純一。
 志村の登場に、冴子は些か驚きながらも、質問を投げかけた。

「どうして貴方がここに居るの……?」

 しかし志村は答えない。
 ただ爽やかに微笑んで見せるだけだった。
 志村の笑顔は、場の薄暗さの所為か、酷く歪んで見えた。
 気味の悪い笑顔だ。まるで化け物が微笑んでいるかのような錯覚すら覚える。
 そして、そこでようやく、この男の異常性に、不自然さに気付いて、冴子は寒気を感じた。

「その男の人、冴子さんのお知り合いなんですか」
「知り合いだったら何だというの?」
「とても運命的だなぁと思って」

 とても嬉しそうに、志村はそう言った。
 口調は柔らかく、相手を安心させるように優しい。
 それなのに、この男が喋る度、どうしようもなく警戒してしまう。
 志村は穏やかに歩を進め、冴子と、男の遺体の眼前で立ち止まった。

「その人を殺したのはね」

 厚い雲が流れてきて、月明かりに照らされていた志村の顔に、影が差した。
 志村が今、どんな表情をしているのかは、冴子の瞳には見えはしない。
 いつも通りの笑顔なのか、それとも。

「僕なんですよ」

 雲間から差し込んだ月明かりに、志村の顔は再び照らされた。
 だけれども、そこにいるのはもう、志村などではない。
 血塗られたような赤のフェイスカバーのその奥で。
 死神は、不気味に笑っていた。


 随分と時間が立ったような気がする。
 結局、冴子はあれから何もする事は出来なかった。
 最悪の鬼札(ジョーカー)の存在に気付くのが、あまりに遅かった。
 冴子が死神の嘲笑の次に見たのは、月明かりの下で振り上げられた、白と赤の鎌だ。
 それは成程死神の如く、弧を描きながら冴子へと到来し、この身を引き裂いた。
 かろうじてまだ意識はあるが、もうこれ以上は動くことも出来まい。
 力無く伸ばした手は、誰にも届かず、地面へと吸い込まれてゆく。

 だけれども、その手を受け止めてくれる人は居た。
 冴子の手が落ちた先にあったのは、名も知らぬ男の冷たい手だった。
 彼が、最期にこの手を受け止めてくれた気がして。
 冴子は力無く、自嘲した。
 成る程――。
 
(――私はあなたを……愛していたのね)

 根拠も、理由も、何処にもないけれど。
 冴子はそれでも、走馬灯のように流れてゆく記憶の中で、息を引き取った。
 されはもしかしたら、別の時間軸で起こり得た、幸せな未来だったのかもしれない。

114 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:48:09 ID:qH32kVoQ0
 
 



 死神は笑う。
 ただ冷淡に、冷徹に。
 凍てつく程に冷たい笑みを貼り付けて。
 異世界の人間が、また二人死んだ。これで剣の世界が勝ち残る確率は更に上がった。
 放送を行ったキングとか言う奴は言った。これはゲームだ。重要なのは、どう攻略するかだと。
 これが死神ジョーカーのプレイングスタイルだと言わせて貰おう。
 まともに戦う気などは更々ない。ただ、隙を見て参加者を間引いて行く。
 それが最も賢く、それでいて最も合理的なゲームのスタイルである。

「しかし」

 野上と村上を放置して来たのは、ミスだったかと思う。
 奴らは自分が殺し合いに乗っている事を知ってしまったのだ。
 出来る事なら確実に葬り去りたかったが、生憎その隙はなかった。
 ジョーカーとしての姿を見られる事がなかった事だけがせめてもの救いか。
 何にせよ、ここまで純一がジョーカーの姿を見せた相手は、全員殺している。
 ジョーカーとは即ち死神。その姿を見た者は、決して生きては帰れない。
 これからもずっと、ジョーカーとはそういう存在であり続けるべきなのだ。
 その為には、数多くの変身手段が必要になるだろう。

「出来るだけ変身道具を集めて、ジョーカーは温存しないとな」

 ゲームの攻略への道筋を、少しずつ明確にしてゆく。
 一つ。ジョーカーは、確実に参加者を殺せる時にしか使わない。
 一つ。ジョーカーの姿を見た者は確実に殺し、自分の正体は隠蔽する。
 一つ。ジョーカーを使う為にも、まずは善人を装い、集団に入り込む。
 それらを実行する為には……とりあえず、野上と村上の存在は邪魔だ。
 これから出会う参加者には、野上と村上は実は殺し合いに乗っていると悪評を広めよう。
 信頼さえ得てしまえば、きっと皆は自分の言う事を信じる。後はどさくさに紛れて奴らを始末出来れば、完璧だ。
 月夜の闇に紛れて、死神ジョーカーは殺戮の饗宴に身を投じてゆくのだった。
 
 
 
【1日目 夜】
【D-6 平原】
 
【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身の各所に火傷と凍傷と打撲、疲労(小)、グレイブに1時間35分変身不可、オルタナティブに1時間45分変身不可、ジョーカーに2時間変身不可
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ
    あきらの不明支給品0〜1、加賀美の不明支給品0〜1、ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
1:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
2:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
3:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。
【備考】
※555の世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
※ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※名簿に書かれた金居の事を、ギラファアンデッドであると推測しています。
※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。


【天美あきら@仮面ライダー響鬼 死亡確認】
【園咲冴子@仮面ライダーW 死亡確認】
 残り36人


【全体の備考】
※C-6西南寄りにあきらの遺体が、C-6北寄りに冴子と井坂の遺体が放置されています。
※ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、着替えの服(三着)@現実はあきらのデイバッグに放置されています。

115 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 20:53:38 ID:qH32kVoQ0
投下完了です。
>>103-110までが前編。
>>111-114までが後編です。
タイトルは「愚者の祭典/終曲・笑う死神」でお願いします。

>>113
> されはもしかしたら、別の時間軸で起こり得た、幸せな未来だったのかもしれない。

誤字の自己申告です。
以上の一文は以下の分で補完しておいて下さい。

> それはもしかしたら、別の時間軸で起こり得た、幸せな未来だったのかもしれない。


それでは、また何か問題点などありましたら宜しくお願いします。

116 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 21:02:41 ID:qH32kVoQ0
状態表に不備を発見したので修正します。
冴子殺害してから五分後を終了時刻にしたつもりが、
ジョーカーの制限のみ二時間フルに残ってたのでそこだけ修正です。


【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身の各所に火傷と凍傷と打撲、疲労(小)、グレイブに1時間35分変身不可、オルタナティブに1時間45分変身不可、ジョーカーに1時間55分変身不可
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ
    あきらの不明支給品0〜1、加賀美の不明支給品0〜1、ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
1:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
2:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
3:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。
【備考】
※555の世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
※ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※名簿に書かれた金居の事を、ギラファアンデッドであると推測しています。
※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。

それでは、失礼致しました。

117名無しさん:2011/10/11(火) 21:36:14 ID:Pxi7aXQg0
投下乙です!
ああ、あきらに冴子さんが死んでしまったか……
東京タワーが破壊されてしまった結果、こんな悲劇が来るとは……良太郎と社長が道化だ。
そして志村、これからどんどん快進撃を続けていきそうだなw

118名無しさん:2011/10/11(火) 21:55:10 ID:Coz/Depk0
投下乙です、純一ファイヤー、タワー崩壊!!
此処で一気にあきらと冴子を退場させやりたい放題とは……一応良太郎と社長はこれ以上戦う事はないけどこれは拙い事態だ。
社長は元々警戒されてもおかしくないからともかく良太郎に至っては涙目展開だなぁ。
しかし前奏曲から始まった愚者の祭典もこれで終曲か、全く亜樹子と美穂とアポロはとんでもない事をしてくれた……そういや美穂の遺体はそのままタワー崩壊に巻き込まれて……哀れ。
後、冴子……ラストは井坂の所で退場出来たのは不幸中の幸いだったかな……まぁ同じ純一にヤラれちまったけどね。
あきらは……うん、なんか一番退場しそうな所が順当に退場したという印象しかない。
というかこれで響鬼組はヒビキと京介の2人だけ、キツイ状況だなぁ。W組は左、フィリップ、所長の3人……わー色々ヤバイわぁー

119 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/11(火) 22:21:50 ID:PCMSwfkk0
投下乙です!

社長オーガ遂にキター! 純一の考えも読み取っていて社長かこいい! ローズオルフェノク対アルビノジョーカーって好カードだ盛り上がってきたぁ!
……とか思ってたら良太郎の頑張りが裏目に出て、哀れ女性陣二名が退場……
さらっとダグバを超えてキルスコアトップに躍り出たニーサン、ただでさえモモの死を知って絶望の良太郎、あきらの説得で人を襲わずにいてくれたのが
失望からどう転ぶのかわからない社長と三人とも今後が気になりますが、特に本編でここまで絶望的な展開になったことがなかった良太郎がここからどう
立ち上がってくれるのか、期待が膨らみます。

ところで良太郎の状態表に剣崎との合流・モモタロスの捜索が記入されていますが、放送で剣崎の名前を聞き損ねたのでしょうか? モモの方は死体だけ
でもということでわからなくはないのですが……

しかし、放送以降さらに脱落に拍車が掛かっている印象で、そろそろ出身参加者がいなくなる世界の一つも出るんじゃないかとひやひやしているのですが、
実際にロワ内で参加者が全滅したらその世界はどうなってしまうのでしょうか? まあまだ気にするには早いとは思いますが……

120名無しさん:2011/10/11(火) 22:31:25 ID:Pxi7aXQg0
>実際にロワ内で参加者が全滅したらその世界はどうなってしまうのでしょうか? まあまだ気にするには早いとは思いますが……
そこは実際に起こるまであんまり気にしなくてもいいかと
ひやひやする気持ちは分かりますが、どうなるか分からないのもロワの醍醐味でしょうし

121名無しさん:2011/10/11(火) 22:44:25 ID:Coz/Depk0
>>119
全滅後の世界に関してはまだ慌てる必要は無いと思う。
実際、全滅したからと言って必ず滅亡描写を入れる必要は皆無だし、それ以前にまだ2人の世界もそんなすぐ退場するとも限らないので(ただ、これは割とすぐかも知れないが)。

後、ちょっと気になったのですが、別段毎回毎回感想書く時も酉入れる必要は無いですよ。酉入れて感想書きたいのなら別段構いませんが。
ただ、上げる必要が無いならメール欄が空欄状態にするより、sageにした方が個人的には良いかと思われ(別にしなきゃいけないという決まりも無いけど)。

122 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 22:55:39 ID:qH32kVoQ0
感想&ご指摘ありがとうございます。
良太郎の状態表の不備は完全にこちらの見落しでした。
以下の通りに修正しようと思います。

【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダー電王に1時間10分変身不可
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。
0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。
1:志村純一に騙された……?
2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
3:リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:電王に変身できなかったのは何故…?
6:橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。
7:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ウラタロスは志村と冴子に警戒を抱いています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。

123名無しさん:2011/10/11(火) 23:06:03 ID:PCMSwfkk0
>>120>>121
助言ありがとうございます。パロロワというか、2chからして初心者なので色々と失礼な振る舞いをしてしまうかもしれませんが、
よろしければこれからもよろしくお願いします。

>>122
お役に立てたのなら幸いです。

124名無しさん:2011/10/11(火) 23:07:19 ID:ZAtaOY1Y0
すいません、自分も一つ気になる点があったので指摘させていただきます。
放送直前の『究極の路線へのチケット』で電王とほぼ同時刻に変身した牙王のガオウへの状態表は後10分変身不可でした。
電王が変身したのは夕方に入ってすぐのはずなので、今回の話、つまり6時半ちょいすぎではもう良太郎は電王に変身できる筈です。

125 ◆MiRaiTlHUI:2011/10/11(火) 23:24:41 ID:qH32kVoQ0
>>124
ご指摘ありがとうございます。
良太郎が登場する一つ前の話「第二楽章♪次のステージへ」において、
放送が近いという描写がありながらも電王への変身が「二時間不可」という事になっていたので勘違いしていました。
それでは修正用スレの方に該当部分で良太郎が変身しなかった理由も地の分に追加して投下しておこうと思います。

126名無しさん:2011/10/12(水) 00:01:16 ID:iAN8b2agO
投下乙です!
中身対決にまでもつれ込みかけた劇場ライダー(オーガは本来の木場さんじゃないけど)の戦いは善意の水入りでお流れか、そういや社長って浮遊的に飛べたよね。

さて、女性陣二人はやっぱりというかまあニーサンが懐にいた時点で……にしても東京タワーは拡声器の呪いの場にされたり爆破されたりと嫌な意味で目立つなぁw

127名無しさん:2011/10/12(水) 00:29:11 ID:1MSjso.Q0
投下乙です!
ニーサンが原作通り過ぎて…原作でもこいつ、仲間のフリして確実に殺す時だけジョーカーになってたんだよなぁ…。
冴子のラストのニーサンの不気味さも、原作で仲間二人を殺したシーンを彷彿とさせて良かった。
それにしても、同じ相手に同じ場所で殺されて、同じ事を考えながら死ぬって…ここまで来るともう運命だなぁ。
これからもニーサンには正体バレまでずっとジョーカーを切り札として温存して欲しいな。

128 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:45:18 ID:ow/mpi0I0
これより、予約分の投下を開始します。

129This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:46:31 ID:ow/mpi0I0

 ン・ダグバ・ゼバはバギブソンに跨ったまま、冷たい風を受けながら道路を進んでいた。何処までも続く闇の中を突き抜けながら、新たなるリントを求めて北の市街地を目指している。
 先程、大ショッカーがこの六時間もの間で二十人も死んでいると告げたが、ダグバは特に興味を向けていない。同族たるズ・ゴオマ・グが敗れたと知っても、どうでもよかった。
 ダグバの思考はただ一つ。究極の力を持つクウガのように、より強い恐怖を与えてくれる戦士と出会う事。この戦いで生き残っている程の猛者と巡り会う為に、街に向かう。体力の回復に充分な時間を使ったので移動を始めた。
 そして、彼の興味は他にも向いている。クウガを究極の闇に進化させるための生け贄として殺した男が持っていた、黒いカードデッキ。これは最初の戦いで殺した霧彦という男が使っていた物にとてもよく似ていた。
 ならば自分の力にもなるだろう。これさえあれば、もっと戦いを楽しむ事が出来るかもしれない。次にリント達と出会ったら、カードデッキを使ってゲゲルを行おう。
 毎日の日課を行うかのように考えながら、ダグバはハンドルを握り締める。数刻後、彼は目的地として定めた街を見つけた。すると感情が高ぶっていき、無意識の内に薄い笑みを浮かべていく。
 新たなる戦いを求めて。





「……お前、まだついてくるのか?」
「当たり前だ。あんたを一人にさせるつもりはないからな」
 真摯な言葉に紅音也はうんざりしたような溜息を吐くが、それでも翔太郎は何とか行動を共にする。
 焚き火の前で身体を休めてから一時間以上の時間が経過しており、彼らはE−2エリアに突入していた。広いエリアを見渡して他の参加者を捜すが、まだ誰とも遭遇していない。
 それに翔太郎は焦りを覚えていた。この六時間で照井や霧彦を始めとした二十人もの人間が殺されている以上、犠牲者が更に増える可能性もある。このままでは知らない場所でフィリップや亜樹子を始めとした仲間達が殺されてもおかしくない。
 そこで音也と行動しているが、向こうはこの状況にも関わらずしてどうも離れたがっている。別世界の人間を捜すと同時に単独行動の阻止も必要だった。

130This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:48:26 ID:ow/mpi0I0

「お前、そんなに俺の後をつけたいのか?」
「そうじゃねえ! こんな時に一人で歩くなんて危ねえだろ!」
「おっと、俺は千人に一人の逸材……そんな危機を回避するなど、造作もない事だ」
「そんな都合の良い事が、そう何度も起こるわけ無いだろ!」
「言っておくが、俺は男と一緒に歩く趣味はない……悪いが、他をあたるんだな」
「俺だってねえ! ……って、さっきも言っただろうが!」

 まるで、川に流されている最中に起こった出来事を再現しているかのようで、翔太郎の苛立ちは思わず強くなってしまう。
 しかしそんな事はどうでもいい。こんな場所で単独行動なんてさせたら、音也だっていつ殺されてもおかしくなかった。もしそんな事になってしまったら、また木場の時みたいに犠牲となってしまう。

「あんたを放っておくわけにはいかねえ……紅と同じ世界に生きる奴を、悲しませたくねえからな」
「生憎だが、渡も名護も俺が死んだくらいで落ち込むような柔な奴らじゃない……特に渡は、この俺の息子だからな」
「そういう問題じゃねえ! ……てかあんた、子持ちなのか!?」
「ああ、二二年後の未来からやって来た俺の血を継ぐ男だ」

 未来からやって来た息子。音也から告げられた事実に翔太郎は更に驚いた。それが意味する事は、大ショッカーは世界だけでなく時間すらも自在に行き来する事の出来る相手である。
だが大ショッカーが得体の知れない相手である以上、今更驚いても仕方がない。
 問題は音也が一人でフラフラと行動しようとしている事だ。全ての女を守るとは言っているが、もしもかつての園咲冴子みたいな女に出くわしたら、騙されてしまう恐れがある。今は何としてでも、単独行動を止める必要があった。

「へえ、こんな所にいたんだね……君」
 共に行動する手段は無いかと考えようとした瞬間、翔太郎の耳に穏やかな第三者の声が響く。反射的に振り向いた先には、まるで財団Xの人間が着るような純白の衣服に身を包んだ男が立っていた。その青年は、一切の汚れを感じさせないような穏やかな微笑を浮かべている。
「なんだ、あんたは……?」

 殺し合いという状況にはまるでそぐわない青年の態度に、翔太郎は呆気にとられた。
 こんな事態で見知らぬ相手を前に笑っていられる事自体、そもそもおかしい。自分達を警戒させないためかもしれないが、ここまで明るいと逆に胡散臭さを抱いてしまう。
 だが今は彼と話す必要があった。

「てめえは……あの時の怪物か!」

 翔太郎が一歩前に出て対話を試みようとした瞬間、音也が叫ぶ。
 振り向くと、彼の瞳は青年を睨み付けていた。

「あの時の怪物……? って事は、あいつは敵なのか!?」
「ああ」

 音也の返事は短かったが、確かな警戒心は感じられる。翔太郎はそれを受けて青年に振り向くと、未だ笑っているのが見えた。

「せっかくまた会えたんだから、僕を怖くしてよ……リントの戦士達」

 涼しげに笑う彼はデイバッグに手を入れて、そこから黒いカードデッキを取り出す。それに立ち向かうために、翔太郎も無言でジョーカーメモリを懐から手に取った。
 この男は、端から落ちる直前に戦った白い仮面ライダーと同じで、仮面ライダーの力を殺し合いに利用している。フィリップや照井、おやっさん達が背負った名前を汚させるわけにはいかない。

「ああいいぜ……この音也様が、てめえの心に恐怖って奴を刻み込んでやる」

 不敵な笑みを浮かべる音也もバッグの中からイクサベルトを取り出して腰に巻き、ナックルを掌に押し付けた。それを見た翔太郎もジョーカーメモリのスイッチを力強く押す。

『READY』
『JOKER』

 二種類の異なる音声が発せられる中、青年もカードデッキをすぐ近くに立っているカーブミラーへ向けるように構えた。すると虚空より現れたVバックルがその腰に巻きついていく。

131This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:51:12 ID:ow/mpi0I0
「変身」
「変身!」
『FIST ON』
『JOKER』

 音也がイクサナックルを、翔太郎がジョーカーメモリをそれぞれベルトに挿入した。すると一瞬で紅音也が仮面ライダーイクサへと、左翔太郎が仮面ライダージョーカーへの変身を果たす。

「ふふっ……変身」

 白と黒。対極の色を持つ二人の仮面ライダーを見た彼の笑みは更に歪み、カードデッキをVバックルに差し込む。すると、彼の周りに人型の虚像が回転しながら多数表れて、身体を包んで漆黒の鎧に形を変えた。
 複眼を血の如く赤に煌かせる仮面ライダーリュウガに変身したン・ダグバ・ゼバは、前に踏み出す。それを見て、ジョーカーの仮面の下で翔太郎は思わず冷や汗を流した。

(何だ……この嫌な感じは。まるで、テラーフィールドを受けてるみたいだ)

 リュウガから感じられるのは圧倒的威圧感と恐怖。それもテラー・ドーパントが発するようなそれらに匹敵する程、強大な存在。全身の神経が逃げろと警告を発していたが、翔太郎は何とかしてそれを振り払った。
 ここでこいつを見逃したらフィリップや亜樹子だけでなく、音也の仲間達を初めとした多くの人間が犠牲になる。これ以上、そんな暴挙を許すわけにはいかない。

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 自分にそう言い聞かせたジョーカーは強く叫びながら、疾走を開始する。風のような勢いでリュウガの目前に迫って右ストレートを放つが、リュウガは体勢をずらしてそれを避けた。ジョーカーはそれに止まらず反対側の拳を振るうがまたしても避けられる。
 矢継ぎ早にジョーカーは攻撃を繰り出すが、その度にリュウガは攻撃をかわす。それに若干の焦りを感じて、攻撃を切り替えることを選び右足で蹴りを放った。しかしそジョーカーの攻撃は胸部に当たろうとした直前、リュウガの片手一つで呆気なく受け止められてしまう。

「何――ッ!?」

 次の瞬間、ジョーカーは足の裏が地面より高く浮かび上がるのを感じて、背中から勢いよく地面に叩きつけられた。そんな彼をリュウガは嘲笑いながら、がら空きとなった胸部を踏みつける。

「グアッ!」
「フフッ……」

 一度までならず二度も三度も蹴りを受けて、ジョーカーは苦悶の声を漏らす。連続して振り下ろされるリュウガの足は、鎧を打ち砕かんばかりの勢いで襲い掛かった。その最中、突然大気が爆発するような轟音が鳴り響き、リュウガの身体に何かが激突する。その衝撃で黒い身体は横に蹌踉めいた。
 敵の蹴りから解放されたジョーカーは荒く咳き込みながらも、何とか立ち上がる。そんな彼の元に、イクサが近づいてきた。

132This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:52:26 ID:ow/mpi0I0
「すまねえ、紅!」
「全く、無鉄砲の馬鹿が……もう少し考えて動け」
「……悪かったよ」

 明らかに不機嫌を醸し出しているイクサの声に、仮面の中で翔太郎は僅かに沈んだ表情を浮かべる。普段なら反論しただろうが、流石に今回ばかりは向こうの言い分が正しかった。
得体の知れない相手に一人で突っ走っても、敗北に繋がるだけ。リュウガの猛攻が皮肉にも、ジョーカーの頭を冷やす結果となった。
 自省したジョーカーは目前に立つ仮面ライダーを仮面の下から睨み付ける。一方でリュウガはカードデッキから一枚のカードを取り出し、籠手に差し込んだ。

『SWORD VENT』

 くぐもったような低い音声と共に虚空から青龍刀が現れて、リュウガは黒い柄を握る。ドラグセイバーの刃が煌めいた瞬間、リュウガは走り出した。
 拙いとジョーカーが思った頃には、既に胸部が横に切り裂かれる。悲鳴を発する暇もなく、イクサもドラグセイバーの一振りを浴びていた。ジョーカーは何とか体勢を立て直すがそれを狙われたかのように、ドラグセイバーの突きを受ける。鎧から激痛が伝わる中、倒れないように耐えた。
 敵は青龍刀を持っているのに対し、こちらは特別な武器を持っていない。しかも、二対一という数のアドバンテージを打ち消すかのような身体能力をリュウガは誇っている。

(あの野郎は絶対に他の手札を持っている筈だ……こいつは、さっさと決着をつけないとやばいかもな)

 リュウガは恐らく、先程音也が変身した仮面ライダーライアと同じ世界に存在する仮面ライダーだ。だとすると奴はまだ、戦いを有利にする為のカードを残している。
 それがどんな物なのか分からない以上、あまりダラダラと時間をかけるのは宜しくない。
 横薙ぎに振るわれるドラグセイバーを背後に飛んで避けながら、思考を巡らせるジョーカーはイクサの近くに立った。

「おい紅、とっとと決めるぞ!」
「俺に指図するな……だが奇遇だな、俺もそうしようとしていた所だ」
「そうかよ!」
「お前が時間を稼げ、華麗なフィニッシュを決めるまでのな」
「OK!」

 イクサの自信に溢れた言葉にジョーカーも力強く頷いて、リュウガに向かって走る。敵はドラグセイバーを高く掲げ、勢いよく振り下ろしてくるがジョーカーは横に回って回避。
 そこから流れるように、ハイキックをリュウガの脇腹に放った。運良く命中して相手は微かに揺らぐ。
 しかしリュウガはそれを何事もなかったかのように足元を整え、突貫しながらドラグセイバーで斬り付けてきた。
 一合目は何とか避けられたが、二合目からの刃によって強化外骨格に傷が刻まれていく。神速の勢いで繰り出され続ける攻撃は、流石のジョーカーも全て避けることが出来ない。
 それでも致命傷にならないだけ幸いだった。目的はイクサが必殺の一撃を与えるまでの時間稼ぎ。すなわち、歌劇における序曲を奏でること。

133This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:54:52 ID:ow/mpi0I0
(まだだ……もう少し、もう少しだ)

 リュウガの太刀筋を見極めながら、ジョーカーは回避行動を続ける。ドラグセイバーの刃を避けながら、少しでもイクサから距離が離れるように。
 下手に必殺技を放っても避けられる可能性がある以上、一人に意識を向けさせてもう一人が準備をする。特別な武装をどちらも持っていない今、方法はそれ一つしかなかった。

『IXA KNUCKLE RISE UP』

 戦術の第二段階が電子音声と伝わる。リュウガは反射的にそちらに振り向くのを見て、ジョーカーは距離を取った。

「吹き飛びやがれ!」

 リュウガに向けて真っ直ぐ伸ばしたイクサの左手から、大気の塊が砲弾のように発射させる。ブロウクン・ファングの一撃はリュウガに容赦なく激突し、衝撃で宙に浮かんだ。無論、その機を逃すジョーカーではない。

「行くぜ!」
『JOKER MAXIMUM DRIVE』

 ロストドライバーからジョーカーメモリを抜き取り、ベルトの脇に備え付けられているマキシマムスロットに挿入する。力強い音声と共に、切り札の記憶が右腕に流れるように両腕で構えを取った。その到達点である拳から黒いオーラが放たれていく。

「ライダー――」

 右手に凄まじいエネルギーが宿るのを感じてジョーカーは走った。腰を深く落として、目指す敵を仮面の下から睨みつけて。
 ジョーカーの脚力ならばリュウガが落ちるまでの時間に必殺を繰り出すことは、造作も無い。

「――パンチッ!」

 数秒後、神速の勢いで突貫したジョーカーのライダーパンチがリュウガの身体を打ち抜いて、そのまま近くの建物に吹き飛ばした。壁が破壊される轟音を鳴らしながら、周囲に粉塵が舞い上がる。
 それを見届けたジョーカーは軽いため息を吐くが、安堵はしていなかった。いくら必殺技を連続で叩き込んだとはいえ、それだけで戦闘不能になるわけではない。

「どうだ?」
「いや、まだわからねえ……」

 警戒を保ったジョーカーの元にイクサが駆け寄る。白い仮面に覆われている為、表情を窺う事は出来ないが声は警戒に満ちていた。相手の戦闘力が未知数である以上、油断など出来ないのは彼も同じ。
だがこのままじっとしていても何にもならない、そう思ったジョーカーはイクサに振り向いて、目を見開いた。
 リュウガが変身するために使ったカーブミラーより、巨大な黒い龍が顔を出しているのを見て。しかもその怪物は、イクサに殺意を込めた視線を向けていた。

「あぶねぇ!」
『GYAAAAAAAAAAAAAA!』

 大気を振動させるほどの咆吼をドラグブラッカーが発すると同時に、ジョーカーはイクサを突き飛ばす。遠のくイクサを目にした瞬間、ジョーカーの胴体は暗黒龍ドラグブラッカーに食い付かれた。

「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
「左ッ!?」

 イクサの声はジョーカーの悲痛な絶叫によって、呆気なくかき消される。そんな彼らのことなど構いもしないドラグブラッカーはジョーカーを口に挟んだまま、市街地の建物に突っ込んで行った。壁や柱や家具、電柱や鏡など様々な物にジョーカーをぶつけては砕く。
 それはかつて霧島美穂の命を奪った手段の再現のようだった。本来ならば光夏海のように飲み込まれてもおかしくなかったが、仮面ライダーの装甲はドラグブラッカーの鋭い牙に耐えている。しかしそれでも、中にいる翔太郎に衝撃を与えていた。
 やがて何度目になるのかわからない激突の後、ドラグブラッカーはジョーカーの身体を無造作に放り投げる。彼の身体は隕石のように家の屋根を突き破り、そのまま床下にまで沈んだ。

「ぐっ……」

 ジョーカーは呻き声を漏らす中、身体の節々に伝わる痛みに耐えながらも何とか起きようとする。
 認識がまだ甘かったと悔いた。奴がカードを使う仮面ライダーなら、鏡から現れるミラーモンスターだって使役している。まさかリュウガはこちらの裏を読んでいたのか。
 仮面の下で歯軋りしながら、開いた穴から上を見上げる。その先に見えるのは、大きく開いたドラグブラッカーの口から灼熱が放たれる光景。
 刹那、周囲は煉獄の炎に飲み込まれていった。

134This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:57:10 ID:ow/mpi0I0





「あの野郎!」

 仮面ライダーイクサは突然現れたミラーモンスターに対し、怒りと共にイクサナックルから大気の弾丸を発射した。それはドラグブラッカーの胴体に当たり、灼熱の放出を止める事に成功する。
 別に野郎一人が食われようが知ったことではないが、自分を庇った事だけは評価してやっても良い。そういう立派な心がけを持つ奴を失うのは我慢ならなかった。
 ドラグブラッカーは激痛で悶えた直後、ギロリとイクサを睨みつける。イクサはそれに張り合って仮面の下からドラグブラッカーを睨み返した。

「悪いが、てめえみたいな品性の欠片もない化け物とアイコンタクトをしても、嬉しくないんだよ!」
『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 殺意に満ちた咆哮と共に急降下しながら、ドラグブラッカーは火炎を吐く。一度までならず連射される熱の固まりは辺りを容赦なく破壊して逃げ場を奪い、イクサに迫った。
 しかしイクサもただでやられるような事はせず、左右に飛んでドラグブレスを避ける。灼熱の刺激がブラックアーマースーツを突き抜け、肌に刺さる中で音也は見た。破壊された物全てが石のような色になっているのを。
 どういう原理なのかは知らないが、あの炎に当たると拙いのは明らかだった。だが距離を取ろうにも、周りは炎で覆われている。
 仮面の下で舌打ちした瞬間、いつの間にかすぐ近くにまで迫っていたドラグブラッカーは勢いよく尾をイクサに打ち付けて、横薙ぎに吹き飛ばした。
 瓦礫の山を転がるが、イクサはすぐに立ち上がる。こんな所で倒れていたらジョーカーの二の舞になってしまうだけ。そんなのは御免だった。

「やってくれるじゃねえか……だがな、掠り傷にもならねえ」

 大口を開けながら迫るドラグブラッカーを睨むイクサは不敵に笑いながらフエッスルを取り出し、イクサベルトのフエッスルリーダーに再び挿入。
 そしてイクサナックルをベルトの脇に押し込んだ。

『IXA KNUCKLE RISE UP』

 イクサジェネレーターから放たれるエネルギーを感じたイクサは腰を深く落とす。
 どうせ逃げられないのなら下手に足掻いたって仕方がない。尤も、逃げるつもりなんて欠片もないが。退路は全て消されており、生き残るにはドラグブラッカーを倒すしかない。
 上等だ。

『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
「おるああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ドラグブラッカーの叫びを受けながら、イクサは炎の間を駆け抜ける。距離が縮む中でドラグブラッカーは尚も口から炎を発するが、イクサは左右に飛んで避けた。
 いかに威力が凄まじかろうと、所詮は単なる炎でしかない。千年に一度の天才を相手に単調な攻撃を繰り返しても、見切られるだけだ。
 やがて呼吸を整えるためなのか、ドラグブラッカーの炎が止まる。勝機が見えたと確信したイクサは左腕を真っ直ぐに伸ばし、イクサナックルのパワートリガーを力強く引いた。
 凄まじい轟音と共に放たれたエネルギーはドラグブラッカーの牙を砕きながら口内に飛び込み、体内で一直線に暴れまわる。口から食道、そして血管や臓器といったあらゆる組織を容赦なく焼いた。
 固い皮膚を誇るミラーモンスターといえども、体内は通常の生物と同じように脆い。ブロウクン・ファングを受けた結果、ドラグブラッカーは跡形もなく破裂するしかない。
 大気を震わせる爆音と共に、灼熱の大輪を咲かせて。

「へっ……手間取らせやがって。軽いかる……っ!」

 軽薄な言葉は突如として襲い掛かった疲労によって遮られ、イクサは右膝を落としてしまう。いくら軽口を吐こうとしてもやはり蓄積されたダメージは無視できない。リュウガに変身した野郎は、悔しい事にそれだけの戦闘力を持っていたのだ。
 さっさと変身を解いて休み、瓦礫の中に埋もれた翔太郎を探して無事を確認したらレディを探すために別れる。もし死んでいたら、一応簡単な墓でも作るつもりだ。
 しかし、そんな暇は無い。彼はすぐに立ち上がって、前に振り向いた。

「……そっちから来るとは、探す手間が省けたぜ」
「案外やるね、君」

135This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 22:59:40 ID:ow/mpi0I0
 黒く燃え上がる炎の間から現れたのは、リュウガに変身したあの優男。こんな地獄のような状況でもまだ涼しい笑みを浮かべている敵に、イクサは吐き気を感じる。
 こいつは他者の命を奪うことに何の躊躇いも持たない。ほんの僅かな間しか顔を合わせていないが、それだけは確信できた。

「……まだヘラヘラ笑ってやがるのか、この狂人が」
「仮面ライダー、今の君じゃあ僕を怖がらせる事は出来ないね。だから、その時を楽しみにしているよ」
「ああ、そうかい」

 イクサ自身は知らないがその感情は、乾巧が園咲霧彦を殺された時に抱いた怒りとよく似ていた。それは周囲に燃え盛る炎よりも凄まじく、イクサの中で熱く燃え盛っている。
 男がこの場を立ち去ろうとした瞬間、イクサはその道に弾丸を撃ち込んだ。

「その時なんてのはな……来ないんだよ!」

 奴が目を見開いた一方で、仮面の下から音也は大きく怒鳴り声をあげる。

「どういうつもり?」
「悪いがここからてめえを行かせる訳にはいかねえ……俺がてめえを倒す」
「もう動けないのに?」
「関係ねえ!」

 痛む身体に鞭を打ち、啖呵を切りながらイクサは走り出した。その先で嘲笑を向ける男の身体に歪みが生じ、そこから白い怪物の姿を変えていく。
 距離がゼロになろうとした直後、イクサは勢いよく怪物の頬に拳を振るったが、怪物の右手によって止められてしまう。反対側の手でストレートを繰り出すが、その瞬間にイクサは吹き飛ばされた。
 ン・ダグバ・ゼバが神速の勢いで振るった拳が、イクサの頬に容赦なく叩き込まれた為。仮面の右半分は呆気なく砕け散るが、イクサはふらふらと立ち上がった。
 しかしそんな行為を嘲笑うかのように、ダグバはゆっくりと迫る。目前にまでたどり着いた瞬間、イクサの鳩尾を殴りつけた。
 骨が砕かれそうな衝撃に苦しむ暇も無く、ダグバの攻撃は容赦なく叩きつけられる。脇腹、胸部、腹部、肩部、四肢と、身体の至る所に拳を振るった。
 最早それは戦いなどではなく、一方的な嬲り殺しだった。仮面の割れた部分からは音也の血が吐き出され、ダグバの身体を汚していく。
 それでもイクサはダグバを殴るが、微塵にも揺れない。諦めずにもう一度、拳を振るおうとした。
 だがその一撃が届く前に、ダグバの拳が残ったイクサの仮面に叩きつけられる。80トンの重量は凄まじく、イクサを遠くへ吹き飛ばすのに充分な威力を誇っていた。
 十字架を模ったバイザーも白いマスクも限界を迎える全てがただの破片となって地面に散らばる中、音也の顔を晒したイクサは地面に倒れた。





 ン・ダグバ・ゼバは倒れたイクサをぼんやりと眺めていた。
 連係攻撃でリュウガのデッキを破壊しただけでなく、ドラグブラッカーまでも殺した仮面ライダーに興味を抱き、究極の力を解放。しかし大口を叩いた割には無様な姿を晒している。
 所詮、一人では何も出来ない脆弱なリントでしかなかったと言う事か。もうこうなっては死ぬのも時間の問題だろう。

「そういえば、もう一人はどうなったのかな……?」

 不意にダグバはドラグブラッカーの吹き飛ばしたジョーカーの存在を思い出し、周囲を見渡した。もしも先程のような小細工を仕掛けようとしているのなら、それはそれで面白い。
 待ち伏せて返り討ちやれば良い……そう思ったが、辺りには誰かが近づいてくる気配が感じられない。ならば、ジョーカーもあそこで倒れたということか。
 ダグバは落胆して小さな溜息を吐く。

「悪いが、あいつの出番はねえよ……!」

 燃え盛る炎がようやく消えかかった頃に声が聞こえた。つい先程完膚なきまで叩きのめした男の声が。
 それに僅かな期待が芽生えて、ダグバはゆっくりと振り向いて見つける。男の姿は満身創痍と呼ぶに相応しい有様だった。
 口や額から血を流し、息も絶え絶えで、その身体を包む鎧の至る所に亀裂が生じており、そこから火花が音を立てて飛び散っている。
 誰がどう見ても、重症と判断するような怪我。その姿を見れば、誰でも立ち上がるのを止める筈の男。

「これは俺のコンサート……偉大なる紅音也様が奏でる音楽は、これで終わりじゃねえ!」

 紅音也がン・ダグバ・ゼバの前に再び立ち上がったのだ。

136This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 23:09:26 ID:ow/mpi0I0
 いつもなら戦いなんて面倒な物は他人に任せて、自分はのんびりと高みの見物としていたはず。もし戦いが起こっても、翔太郎に任せてその隙に野郎と離れる事が出来た。
 しかしそんな事を許していい相手ではないし、最初からするつもりもない。

(ゆり……わりぃな、お前の母さんの形見をこんなにまでして)

 既にボロボロとなったイクサの鎧を見ながら、紅音也は麻生ゆりの事を考える。
 チェックメイト・フォーのルークに母親を殺され、ファンガイアとの戦いに身を投じた俺の惚れた強い女の事を。全ての始まりは彼女の愛を得るために、戦士になったあの日からだった。
 あいつがいたからこそ、俺は人々の音楽を守れた。あいつがいたからこそ、今まで戦うことが出来た。ここで倒れるのはゆりの侮辱に他ならない。

「まだやるの?」
「当たり前だ……」

 静かな言葉を告げる度に口から血が流れるが、そんな事はどうだっていい。そんな程度で諦めるほど天才は柔ではないからだ。

「俺は戦わなきゃいけねえんだよ……てめえみたいな野郎から、全ての世界に生きるレディを守るためにな!」

 この世界には大ショッカーによって多くの女性が無理やり連れてこられた。全ての女が守る対象である音也にとって、それは決して許される事ではない。
 無論、蛇のライダーやダグバのような狂人の犠牲になるのを容認するなど、死んでも出来なかった。

(次狼……お前は真夜を守るためにキングに立ち向かった時、こんな気持ちだったのか?)

 ダグバを睨みつけながら、紅音也は次狼の事を考える。
 ゆりを巡って奴とは何度も戦った。イクサの所有権を巡ったり、命を賭けた戦いを繰り広げたり、なんて事も無い喧嘩をしたり、数え切れない。
 憎憎しいとは何度も思ったが、決して嫌いになれなかった狼野郎。だからこそ、息子を託すことが出来た。

「他の世界のリントを潰さないと、世界を守れないのに?」
「リンゴだが何だか知らねえが、俺に不可能は無い! 世界も、全ての女も、俺が守る!」
『IXA KNUCKLE RISE UP』

 全身に伝わる激痛など関係ないと言う様に、フエッスルをイクサベルトに叩き込みながらイクサナックルを押し付けて、音也は地面を疾走する。その拳に輝きを乗せながら。
 ダグバはそんなイクサをつまらなそうに見つめながら腕を向ける。刹那、その先から走るイクサの身体が爆音と共に灼熱の炎に包まれた。究極の力を得た者のみが使う事を許される超自然発火能力。
 北條透と東條悟の命を奪った火炎が今、紅音也の命を奪おうと襲いかかった。音也の全身は一瞬で火達磨となり、誰もがもう助からないと思う姿にされてしまう。皮膚は焼け焦げ、残ったイクサの鎧も次々と崩壊した。

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ん……?」

 しかしそれでも音也の足は止まらない。炎に飲み込まれても尚、走る事をやめていなかった。全身が今にも崩れ落ちそうなほど熱い、炎が傷口を通って体内にまで進入する。
 だけど関係ない。そんな程度で止まる程、柔な身体ではない。紅音也の中で燃え盛る思いに比べれば、こんなのは火の粉にも満たない熱さだ。
 音也自身は知らないが、その決意はこの世界に来て初めて殴り合った男、園咲霧彦とよく似ているものだった。

(真夜……わりぃな、せっかく生き返ったのにまた死ぬ事になっちまって)

 未来から来た息子、紅渡と共にバットファンガイアを倒した日の事を思い出しながら、紅音也は真夜の事を考える。
 ひょんな事から出会ってから彼女に積極的アプローチを仕掛け、遂に結ばれた運命の女。チェックメイト・フォーのクイーンであるがそれでもこの思いは変わらない。
 もしもまた、自分が死んでしまった事を知ってしまったらあいつは泣くだろうか。真夜の涙を思い浮かべてしまった音也は、心の中でもう一度だけ謝った。

137This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 23:12:00 ID:ow/mpi0I0

(名護……もしも渡に会えたら、あいつの事を頼んだぞ。お前は俺が見込んだ男だからな)

 ダグバとの距離が縮む中、紅音也は名護啓介の事を考える。
 ある日突然未来から現れた堅物の男。最初はあまりにも胡散臭くとっとと追い払おうとも思っていたが、あいつはあいつなりに信念を持っていた。
 不安な事には不安だが、少なくとも未来を託すには問題ないかもしれない。

(乾、左、天道、士、コウモリ娘、その付き添いの男……お前らも精々頑張るんだな)

 炎が勢いよく燃え上がる中、紅音也はこの世界で出会った者達の事を考える。
 野郎どもに白いメスのコウモリ。別にどうなろうと関係ないが、流石にこんな殺し合いの犠牲になるのは気分が悪い。
 とりあえず、無事を祈るだけはした。

『こんな時に一人で歩くなんて危ねえだろ!』
『あんたを放っておくわけにはいかねえ……紅と同じ世界に生きる奴を、悲しませたくねえからな』

 不意に先程の翔太郎の言葉が脳裏に蘇る。
 もしもあいつが生きていて、自分が死んでしまったらあいつは悲しむのだろうかと、不意に音也は考える。
 普段なら知らない野郎がどんな感情を抱こうとどうでもいいはずなのに、何故か気になった。もしかしたら自分を庇った相手だからなのか?
 そこまで考えてもどうにもならないが。

(渡……お前はみんなを守れ……そして人の中に宿る音楽を守り続けろ。俺の息子であるお前なら、出来るはずだ)

 そして紅音也の脳裏に思い浮かべるのは、偉大なる血を受け継いだ紅渡。あいつは優しさを持つが、誰かのために自分自身の存在を消そうとする危うさも持つ。
 もし、また自分が死んだと知ったらあいつは悲しみに沈んでヤケにならないだろうか……父親として、そんな不安が芽生えた。
 いや、そんな事はない。あいつは俺の息子だからどんな試練が待ち受けていようとも、立ち上がる強さを持っている。
 キングから大牙を助けに行った時だって悲しみを乗り越えて、大きくなった。だから渡はもう一人で歩いていける。
 俺の息子なら誰かのために強く生きていける……父親だからこそ出来る絶対の確信だった。

(まだだ……俺はまだ終わらねぇ。終わらせてたまるか!)

 燃え盛る炎の勢いが強くなるが音也はそれを感じる事は出来ない。あらゆる神経と血管は既に焼け落ち、音也から全ての感覚を奪っていた。
 だけども足は止まらない。声帯も焼かれ、声にもならない絶叫を発しながら残る全ての力で拳を握り締める。
 この身体を動かすのは、止めどなく溢れ出す比類無きこの自信。全ての女が生きる素晴らしい世界を守るという誓いが、音也の力となっていた。

「――――――――――ッ!」

 終わらないこの愛が胸中で燃え上がる中、音也はダグバにブロウクン・ファングを放った。それもただの一撃ではなく、ダグバ自身の炎を乗せた灼熱の一撃。
 全てのエネルギーが眩い輝きとなってイクサナックルから解放された。何もかもが飲み込まれていくので、音也は何も見る事が出来ない。
 ただ一つだけ、感覚が消えた後で確かな感触が一つだけあった。決して間違いでも錯覚でもないと確信出来る成功。
 最後に打ち込んだブロウクン・ファングがダグバの身体を打ち抜き、吹き飛ばしていた事だけは確かだった。
 そしてそこは奇しくも、ウルフオルフェノクとなった乾巧がユートピアのメモリを砕く際に拳を叩き込んだ場所と寸分の狂いもない、同じ場所でもあった。




138This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 23:13:27 ID:ow/mpi0I0
「……ッ」

 ン・ダグバ・ゼバは呻き声を漏らしながら、ゆっくりと起きあがる。その身体には確かな痛みを感じるも、致命傷と呼ぶにはほど遠い。
 その部分をさすりながら変身を解いてダグバはリントの姿に戻る。もうこれ以上、グロンギの姿でいる必要がない。何故なら、たった今まで自分に抗ってきた仮面ライダーは既に死んでいるからだ。
 超自然発火能力によって顔面の皮膚は焼け爛れ、髪の毛も無茶苦茶に縮れている。鎧で守られていた胴体も至る所が黒く焦げていて、鼻が曲がるような異臭を放っていた。
 炎の影響は人体だけでなくベルトやナックルにまで及んでおり、度重なる攻撃によってボロボロに砕けている。亀裂から見える内部の機械からは、最早火花すらも飛び散っていない。
 未だに燃え続けているベルトはやがて、音もなく崩れ落ちる。ダグバはぼんやりとそれを見届けると、その場を去っていった。
 もうこれ以上ここにいたところで、怖くなる事は出来ない。あの黒いライダーが今更現れても、同じだろう。
 やはり、自分を怖がらせてくれるのは究極の存在となったクウガだけ。そんな事を考えるダグバの手中にはあるモノが握られている。


 バイクの音を発しては逃げられる可能性があったので、彼は市街地に着いてからバギブソンを降りた。もしもゲゲルから逃げ出す弱者を殺せるなら、クウガの怒りは更に強くなってもっと怖くなれるかもしれない。
 そんな事を考えている最中にダグバは見つけた。かつて究極の力を僅かに手にして反旗を翻した同族の遺体。弱い『ズ』の中でも低級に位置する愚か者、ズ・ゴオマ・グの遺体を。
 力無く倒れているゴオマの腹部に手を突っ込むと、推測通りに目当てのモノを見つける。もっとも、ダグバがそれを体内に取り込もうとした矢先に二人のリント達を見つけたので、後回しになってしまうが。

「やっぱり、君は持ってたんだね……」

 手中で輝くのは、この身体に宿る究極の金と同じ存在。かつて究極の力を取り戻すために必要だったベルトの欠片。
 それが今、もう一つ現れたのだ。もしも究極をも超えた存在となり力を振るえたらどうなるのか……ダグバですらも予測出来ない事柄に、感情を高ぶらせる。
 しかしそれはまだ制限によって叶わない。今は楽しめる時間がまた来るまで待たなければならない。焼け死んだリントがあまりにも面白かったので力を発揮したが、今になって思えば失敗だったか。
 ようやく芽生えた楽しみが遠くなってしまって溜息を吐きながらも、ダグバは紅音也の支給品を回収しながらバギブソンの元へと歩く。
 その顔に能面のような無機質な笑みを浮かべたまま。




【1日目 夜中】
【E-2 市街地跡地】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、恐怖(小)、怪人態及びリュウガに2時間変身不可
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、モモタロスォード@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式×3、不明支給品×2(東條から見て武器ではない)、音也の不明支給品×2、バギブソン@仮面ライダークウガ、ダグバのベルトの欠片@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
1:もう1人のクウガとの戦いを、また楽しみたい。
2:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
3:ガドルやリントの戦士達が恐怖をもたらしてくれる事を期待。
4:新たなる力が楽しめるようになるまで待つ。
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。
※制限によって、超自然発火能力の範囲が狭くなっています。
※変身時間の制限をある程度把握しました。
※音也の支給品を回収しました。

139This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 23:18:03 ID:ow/mpi0I0
 誰もいなくなって静寂が広がるE−2エリアの市街地のほとんどが、既に瓦礫の山となっていた。冷たい夜風が吹く中でごとり、と音を立てながら山の一角が盛り上がる。
 その下からゆっくりと、左翔太郎が姿を現した。

「……俺は、生きてるのか」

 身体の節々に凄まじい痛みが残っていて、衣服と帽子が埃にまみれている。しかしジョーカーの鎧があったおかげで、不幸中の幸いにも重傷までには至っていなかった。
 翔太郎は痛む身体に鞭を打ちながら、廃墟同然となった街の中を進む。一体どれくらいの時間、自分は気絶してしまったのか。そして音也はどうなったのか。

「紅……何処にいるんだ、紅!」

 その声は焦燥で満ちている。圧倒的戦闘力を誇る相手に一人で立ち向かっては、どうなるか分からない。だから周りを見渡すが、見えるのは街の残骸だけだった。

「どうなってるんだ……うわっ!」

 激痛でおぼつかない足取りで進む中、翔太郎は足を滑らせて転倒する。まるで水を踏んだかのような感触に違和感を覚えながら足元を確かめた。

「何だ……?」

 そこに広がるのは水溜まりのように広がる赤い液体。漂う鉄の生臭さから、翔太郎は一瞬でそれが血液だと判断する。
 一体誰の血なのか? そして何処から流れてくるのか? これだけの量ならば既に致死量まで達しているので、この場で誰かが殺された事になる。
 翔太郎は思わずその主を捜すとすぐに見つけた。元の世界でドーパント達から風都を守るために何度も力を合わせた親友、照井竜の遺体を。

「照井……照井っ、照井っ!?」

 力無く瓦礫の中に横たわっている照井の身体は酷い有様だった。身体のあらゆる所が執拗に刃物で刺された跡があり、明確な悪意を持って惨殺された事が一目で分かる。
 大ショッカーが告げた放送で照井が既に無くなっているのは知っていた。しかしやはり受け入れたくない気持ちが、生きていると信じていたい気持ちがあった。全てが大ショッカーの悪質な嘘であると。
 しかしそんな僅かな希望も、今ここで打ち砕かれた。その直後、愕然とした表情を浮かべる翔太郎の元に夜風が吹いて、鼻が曲がるような匂いが届く。
 それで翔太郎は表情を顰めながら思わず匂いの元へ振り向き、見てしまった。この場で殺された照井のように瓦礫の中で倒れている死体を。

「おい、嘘だろ……冗談だよな……?」

 その声は掠れると同時に震えていた。その死体は全身が黒く焦げていて原形を留めていなかったが、傍らで散らばっている機械の残骸には見覚えがある。
 イクサベルトとイクサナックルである事が予想出来た。それらは白い服を着たあの男によって破壊されてしまい、瓦礫の下で意識を失っている間に持ち主が殺されている。

「何とか言えよ……紅ッ!」

 ついさっき、仮面ライダーリュウガを倒すために力を合わせた男、紅音也が。翔太郎は精一杯の力を込めて叫ぶが何も返ってこない。
 悪夢であって欲しい。幻であって欲しい。嘘であって欲しい。冗談であって欲しい。気のせいであって欲しい。
 翔太郎の中で望みが無数に広がるが、身体に伝わる感覚がそれを否定していた。そして木場勇治の時みたいに、自分はまた見殺しにしてしまった事を肯定してしまった。

「畜生……」

 翔太郎は項垂れる。自分自身の無力さに、下手人である男を逃がしてしまった不甲斐なさに。
 これ以上の犠牲は出さないと決意した矢先にこのザマだ。仮面ライダーの名前と誇りを守るどころか、自分自身がその二つを汚している。

140This Love Never Ends♪音也の決意 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 23:19:50 ID:ow/mpi0I0
「畜生……ッ!」

 思わず拳を力一杯地面に叩き付けたが、鈍い痛みが走るだけで何も変わらない。その痛みも自分が背負った罪を償うにはあまりにも遠かった。
 何も果たせていない。何も守れていない。何も救えていない。木場さんも、照井も、霧彦も、紅も、殺された二十人も見殺しにしてしまった。
 それなのに、自分だけが生き残っている。

「畜生ォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 自分への憤りを感じて翔太郎は無様に叫ぶが、それは誰にも届かない。それにも関わらず、嘆きの感情をひたすらに発散した。
 それを聞いた危険人物がこちらに近づいてくるなんて考えは、今の彼にはない。無様な姿を晒している隙に殺されるかもしれないなんて考えは、今の彼にはない。
 ただ、嘆きの海に沈む事しか今の翔太郎には出来なかった。



【1日目 夜中】
【E-2 市街地跡地】
【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、とても強い決意、強い悲しみと罪悪感、仮面ライダージョーカーに1時間50分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
1:俺は……!
2:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
3:出来れば相川始と協力したい。
4:カリス(名前を知らない)、浅倉(名前を知らない)、ダグバ(名前を知らない)を絶対に倒す。
5:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
6:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
7:ミュージアムの幹部達を警戒。
8:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
9:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
【備考】
※木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ホッパーゼクターにはまだ認められていません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。


【全体備考】
※E−2エリア市街地の大半が廃墟となりました。
※イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ 、カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダー龍騎は破壊されました。また、ドラグブラッカー@仮面ライダー龍騎も消滅しました。
※紅音也の遺体が【E-2 市街地跡地】 に放置されています。(全身は原形を留めていないほど、黒く焼け焦げております)



【紅音也@仮面ライダーキバ 死亡確認】
  残り35人

141 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/16(日) 23:23:09 ID:ow/mpi0I0
以上で投下終了です。
矛盾点や疑問点などがありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。

そして◆MiRaiTlHUI氏も投下乙です。
志村はいい感じに大活躍してますね! あきらと冴子さんを一気に殺すとは……
二人を失った事を知ったら、良太郎と社長がどうなるだろう……
最後にもう一度、志村はまだまだ頑張りそうな予感がしますねw

142名無しさん:2011/10/16(日) 23:29:15 ID:GYMX273E0
投下乙でした。
いや、予約の段階から音也辺りヤバイと思ったけど案の定か。
とはいえ、リュウガ関係を完全撃破した辺りは無駄じゃなかったね……まぁその代わり支給品奪われているから意味無い様な気も。
一見すると一矢報いた様に見えて殆どノーダメージな悲しい話。
……というか今回完全に翔太郎役立たずだった気が、思いっきり悲しんでいる辺り遂にホッパーが……が、まだ認められてはいない!?
ホッパーに認められていないという事は逆を言えばそこまで絶望していないというのが救……というか何処まで絶望させりゃいいの?
あーでもキバット?世が近くにいただろうし、名護も向かっていたのに惜しかったなぁ……

……そういやダグバが遂に欠片GETしちゃったね……おい、どないせいっちゅうねん。

143名無しさん:2011/10/16(日) 23:34:12 ID:Rngd6ZNwO
投下乙です。
やっぱダグバは恐いなぁ、てか地味にベルトの破片、音也の不明支給品も回収してダグバうはうはじゃん!
そして翔太郎も照井、音也の死体みてかなりの絶望を味わったな、今度も無事乗り越えられるのか。
翔太朗に幸あれ!!

144 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:40:07 ID:8ChTooOo0
投下乙です!

音也……もし出会うタイミングが違っていれば、キバットバット?世と合流できたかもしれないのに。そうすればあるいはダグバ相手でも……
しかしダグバの変身したリュウガを倒しドラグブラッカーを仕留めるとは、二人の変身するライダーのスペックを考えるとこの時点で十分
頑張った気もしちゃいますね。

危険人物が西側に多いとはいえ、おそらく今最も近いのは翔一&真司ペアだから翔太郎の方はまだ安心、なのかな……? まあ、彼には
ダブルに変身しなければならないという生存フラグが(ry

それで仲間になった人達が次々に身代わりになっていくなら、ある意味呪いですよねぇ……

そしてダグバが欠片ゲット……原作に存在しないセッティングアルティメット、出ちゃいますか。
五代さんが早く正気に戻ってくれないと大変なことになりそうな予感……

では自分も、破棄になるかもしれませんが予約分の投下を開始させて頂きます。

145防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:41:16 ID:8ChTooOo0
 橘朔也とヒビキの二人は、E-5エリアの道路を南下していた。
 元々は、大ショッカーが仕掛けたこのふざけた殺し合いを止めるために仲間や協力者を探そうと行動していた。変身手段を持つ参加者が五人も集まり、二手に分かれたとはいえこれだけの仲間が居るのだ、その行き先は決して暗いものではなかったはずだった。

 はずだった、のに――

 あまりにも危険な参加者、ン・ダグバ・ゼバとの出会いにより、全ては急変した。彼により自分達は酷く傷つき、他にも危険人物だったとはいえ二人の参加者が命を奪われた。
 その光景を目にした小野寺ユウスケは、ダグバと等しい力を持つクウガとなった。だがそれは、人々を護る自分達にあってはならない、憎悪に支配された存在。
 もしも、その力が自分達に振るわれたら――橘はその恐怖のまま、黒きクウガの危険性をヒビキに説いた。
 光夏海という仲間を失い、ダグバと戦い、心身ともにボロボロなユウスケが、その言葉を耳にしている可能性を考慮せずに――

 結果、ユウスケは自分達の元を去って行ってしまった。きっと、彼を恐怖した自分達を、巻き込んで傷つけてしまわないように。
 そんな事態を招いてしまった原因は自分にあると考える橘の足取りは、重い。
 そして彼、いや彼らの足取りを重くさせる理由は、もう一つあった。

 それは、殺し合いの進行状況を告げる、大ショッカーによる放送。
 そこで読み上げられたのは、全参加者の三分の一にもなる二十人の死者の名だった。
 橘は、覚悟していたとはいえ大切な仲間である剣崎一真の死を突き付けられた。
 だが、それだけで終わりではなかった。ヒビキも彼の頼れる先輩である財津原蔵王丸の死を告げられた。さらにこの会場にて出会った同志、海堂直也までも命を落としていた。
 さらにその海堂の仲間だと言う木場勇治と園田真理の訃報まで読み上げられた。
 特に、戦う力を持たず、早急に保護しなければならなかった園田真理の死は、守るべき人を護れなかったという罪悪感となって二人を締め付ける。
 また、ヒビキ達には黙っていた人物だが、橘のかつての先輩であり、レンゲルの持つ闇により絶命したはずだった桐生豪の名が死者の中に含まれていたことも、橘の精神を責め立てていた。

 さらに二人に絶望を与えたのは、大ショッカーの発表した世界ごとの殺害人数だった。
 それによれば、クウガの世界が他を大きく引き離して一位。そこはあのダグバと、他に二体の未確認が所属する世界。

146防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:42:14 ID:8ChTooOo0
 予想はしていたが、未確認生命体の脅威はこれで証明されたようなものだった。ダグバだけでなく、他の未確認も相応の力を持っていると考えられる。
 自分達仮面ライダーが束になって、ようやく戦いになるかどうかというほどの力を誇る悪魔。そんな奴らが野放しになって、今もこの会場のどこかで暴虐の限りを尽くしているのかもしれない。

 だが、それでも二人は止まるわけには行かなかった。
 恐るべき未確認だが、その内の一体ズ・ゴオマ・グは既に倒されたと放送で告げられた。
 また、多くの者達を取り零してしまったとはいえ、彼らが仮面ライダーである以上、まだ護るべき者達がこの会場には大勢いるのだ。
 ダグバから橘を庇い散った、名も知らぬ参加者より言伝を預かった相手、小沢澄子。
 彼女と共にいるところにヒビキが出会った、人を護る仮面ライダーとして戦う城戸真司。
 他にも、やはりヒビキが別れた津上翔一や、あの時集まった五人がそれぞれ信頼できると名前を挙げた乾巧や紅渡を始めとする多くの者達は未だ名前を呼ばれずに済んでいる。
 海堂は残念だったが、彼と共に別行動を取っていた名護啓介は生き残っている。
 橘は信用していないが、アンデッドである相川始は剣崎の友だった。その始も無事だ。
 そして自分達が知らない、護らねばならない人々がまだいるはずなのだ。

 連続する絶望に、それでも彼らが屈せずに立ち向かうことができたのは、彼らの正義の心によるもの――
 だがそれでも放送直後という短時間で立ち直れたのは、皮肉にも大ショッカーのおかげだと言えるかもしれない。
 放送を行ったキングは、かつて剣崎が封印したはずのアンデッド、カテゴリーキングだ。奴の言う御人好しの仮面ライダーとは、十中八九剣崎のことだろう。
 そんな彼の死を指して、奴は言った。

 口先だけの正義の味方など、何の役にも立ちはしないと。

 ならば自分達が、ここで悲しみに沈んでばかりいて良いわけがない――ヒビキがそう、放送を行う飛行船を睨んでいた橘に告げた。
 剣崎は、病院にいた他の参加者を護るために単身危険人物に立ち向かい、死んだという。
 確かにその場で剣崎が救った者達は――光夏海はその内の一人である、東條悟によって殺められた。その東條もまた、ダグバによって無惨に殺された。
 だがそれでも、剣崎の死は無意味だったわけではないと、そうヒビキは言う。
 何故なら自分達に、その正義の意思を遺してくれたのだから、と。
 最期まで仮面ライダーだった彼は、自分達に勇気を与えてくれたのだと。

147防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:42:49 ID:8ChTooOo0
 だからこそ――ここで自分達が立ち止まっていてはいけない。彼の遺志を継いで、仮面ライダーとして人々を護らなければならない。
 そして剣崎達、散って行った仮面ライダーを嘲笑った大ショッカーを倒して殺し合いを止め、彼らへの侮辱を撤回させなければならないと。
 その言葉を受け、橘はヒビキと今後のプランを考えた。
 今の自分達がユウスケを追いかけることはできない。今のユウスケの精神状態には不安があるが、乗り越えてくれることを信じるしかない。

 ユウスケこそいないが、当初の予定通りに病院に向かうべきだという結論に至るのに、そう時間は掛からなかった。
 E-4エリアは――おそらく、そこで津上と合流する予定だったことを大ショッカーに察知されたのだろう、23時より禁止エリアに指定されていた。
 だが、だからこそ――立ち寄れる内に、治療に使える道具を手にするために、参加者が集まる可能性も高い。協力を望める相手ならば是非もなく、もし危険人物がいるのなら、他の参加者を護るために戦うべきだと、そういう考えになったのだ。
 夜の闇が足元を隠し、歩行するだけで体力を奪われる草原を歩くだけの余裕も二人にはなかった。市街地以上に人が集まる可能性があり、参加者と出会えなくても今後のために身体を癒すことができる病院は、そういう意味でもやはり目指すべき場所だった。
 またダグバなどと遭遇したら今の自分達では絶望的だが、何も行動しないわけにはいかなかった。

 何故なら、仮面ライダーなのだから。

(カテゴリーキング……)

 放送を行ったアンデッドを思い出す。剣崎の死を愚弄した、あの青年を。

(貴様は剣崎が封印したはずだ。それでもまた俺達の前に立ち塞がり、人々を傷つけるというのなら……もう戦えない剣崎の代わりに、俺がおまえを封印する!)

 その決意を胸に、橘は歩を進めた。
 歩き始めた時、遥か前方だった街灯の煌めきの群れは、目の前まで近づいて来ていた。

148防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:43:20 ID:8ChTooOo0
 きぃん、という剣戟の音と共に、夜の街に火花が散る。
 光芒が切り取ったのは、それぞれ剣を手にした白銀の甲冑に身を包む騎士と、マゼンタの装甲を持つ異形の戦士。
 仮面ライダーブレイドと仮面ライダーディケイド。二人の仮面ライダーが刃を交わしていた。

「ウォォォオォォォッ!」

 剣の名を冠する戦士でありながら、獣のような雄叫びを上げるブレイドの太刀筋は洗練されているとは言い難い。とはいえ、その甲冑を纏う葦原涼はこれまで武器を用いた戦闘などしたことがなかったのだから無理もない。
 対するディケイドはその力任せな斬撃を受け流す。一合、二合と醒剣ブレイラウザーとソードモードのライドブッカーが互いに噛み合い、今またブレイラウザーが襲い掛かるが、その切っ先からライドブッカーは逃れる。
 いくつかの虚像を背に連れて一閃したライドブッカーの刀身が、攻撃をかわされ隙を晒したブレイドの甲冑に盛大な火花を散らせる。

「どーした! 俺をブッ潰すんじゃなかったのか!?」

 尊大な青年――門矢士の声で、ディケイドは転がりながらも何とか膝を立てたブレイドにそう尋ねる。

「――っ、ヴァァァァアアアッ!」

 舌打ちして飛び出すブレイドだが、大振りな一撃をディケイドは呆気なくかわす。反撃として逆袈裟に切り裂かれ、一回転しながら再び地に叩き伏せられる。先程からこの繰り返しで、傍から見ればディケイドがブレイドを嬲っているようにしか見えないだろう。
 うつ伏せに倒れ、ダメージの蓄積から直ぐに起き上れないブレイドに、ライドブッカーの刀身を撫でながらディケイドが一歩近づく。

「どうした。そんな調子で殺し合いに乗った奴らを一人残らずブッ潰せるのか? 本当におまえがおまえである意義など、そんな調子で見付けられるのか?」

 立ち上がれずにもがいているように見えたブレイドが、静かにブレイラウザーを持ち直したのをディケイドは見逃さなかった。

149防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:44:06 ID:8ChTooOo0
「黙れ!」

 下からまっすぐに伸びた突きは、ディケイドの胸へと最短距離を疾っていた。しかし、ライドブッカーの剣腹を左手で押さえ、楯としたディケイドに防がれる。
 今の一撃は合格点だ、などと言いながら、ディケイドは両腕を跳ね上げる。それで体勢が崩れたブレイドに、ディケイドからの蹴りが突き刺さる。
 二歩、三歩と後退するものの、ブレイドは今度は倒れ込みなどせず、両の足でしっかりと大地を踏みしめ立っていた。
 ディケイドの仮面の下で、それを見た士は笑みを漏らす。
 侮辱と受け取ったのか、ブレイドは咆哮しながら剣を叩きつけて来た。
 ディケイドがライドブッカーでその一撃を受け止め、二人のライダーによる鍔迫り合いの格好となる。

「――あの女に殺されそうになったから、か? 殺し合いに乗った奴は全員潰す、なんて言っているのは」
「違うっ!」

 ディケイドの言葉によってブレイドは憤慨し、力ずくでライドブッカーを払い除ける。再びディケイドに切っ先を振り下ろすも、事もなげに戻って来たライドブッカーがそれを受け止める。
 違う、とブレイドはもう一度、まるで自分に言い聞かせるように首を振り、やがて赤い瞳でディケイドを睨みつける。

「俺は――俺は、俺の力で誰かを護りたい、それだけだ! 亜樹子のことは関係ない……本当にあいつが殺し合いに乗っていると言うなら……」

 ブレイラウザーに込められた力が再び強くなり、鍔迫り合いをする二人の戦士の身体の震えを強くする。
 その中で、ブレイド――葦原涼は、叫んでいた。

「俺が、あいつを止める!」
「潰す、じゃないのか? あの女は、助けてくれたおまえを殺そうとしたみたいだぞ?」

 ディケイド――士には、ブレイドに変身した男の大体の事情がわかって来ていた。
 名前を知っていることから、自分達が来る前から二人には面識がある。武器もなく戦う力も持ち合わせていないように見えたあの少女を、涼が護って来たのだろう。

150防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:44:57 ID:8ChTooOo0
だから涼は裏切られ殺されかけたことからあんな辛そうな顔になり、亜樹子も矢車に見出されるような闇を心に背負ったのだろう。
助けた相手に、殺されかけた。だがそこで復讐に走るような男には、ブレイドの資格は託せない。
一真の願いは、ブレイド……仮面ライダーの力で皆を護ること。涼を傷つけようとして心に傷を負うような奴は、人を狂わすこの異常な空間ならまだ護るべき対象なのだと士は考えていた。紅音也が止めてくれていなければ、自分もマーダーキラーとして殺し合いに乗っていたことだろう。夏海がそんなことを望まぬことなど、わかり切っているのに。
音也が自分にしたように、闇に堕ちかけている者をも救う。それが仮面ライダーの役目だ。
故に待つ。目の前の男の答えを。
そして葦原涼は――ブレイドは、答える。

「あいつは……このふざけた殺し合いの恐怖に呑まれた、ただの女だ。殺し合いに乗っていようと、力を持つ俺が護らなきゃならない、力のない人間に変わりはない。
 だから俺が護る。そしてあいつが人を襲うというなら、俺が亜樹子を止める! あいつらとも、そう約束したからな……」
「だが、あいつはおまえを裏切ったんじゃないのか?」
「それでもだっ!」

 ブレイラウザーが押し込まれ、ライドブッカーが押し返すと鍔迫り合いが解除される。棒立ちしながらライドブッカーを持っただけのディケイドに対し、ブレイドは腰を低くし、刀身に左手を添えて構える。

「別に俺は……裏切られるのには、慣れてるからな」

 その言葉を境に、一瞬の静寂が夜の街を覆った。

「――くっ、ふっ、あはははははははははははははははっ!」

 それを破ったのは、ディケイドの腹の底からの哄笑だった。

「貴様ぁっ!」

 剣を振り上げ襲い掛かって来るブレイドの胴にライドブッカーを走らせ、火花を散らせて後退させる。

151防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:46:09 ID:8ChTooOo0
 慣れない姿での攻防に疲労したのか、肩で息をするブレイドを見るディケイドの仮面に隠れた笑みはしかし、嘲笑などではなかった。
 先程の様子から、こんな言葉を引き出すのはもっと手強いものかと思っていたが――
 このまっすぐな男は、士の想像を超えて愚直過ぎるようだ。
 最期の瞬間まで仮面ライダーであり続けた、あの男のように。

「おい、スラッシュのカードをラウズしてみろ」
「なんだと!?」
「スペードの2をその剣に読み込ませてみろって言っているんだよ」

 敵対する自分の言葉に当惑した様子ながらも、ブレイドはそれに従う。

 ――Slash――

「これは……!」

 電子音の後にカードから召喚されたエネルギーに、ブレイドが驚いたような声を漏らす。
 その力をわかり易く教えてやるために、ディケイドは自分から仕掛けた。

「はぁあっ!」

 疾走するディケイドの振り下ろしたライドブッカーは、迎撃に動いたブレイラウザーと再び拮抗すると思われた。
 だが――

「ヴェェェェェイッ!」

 アンデッドの力を得た横薙ぎの斬撃は、ライドブッカーを弾いてディケイドの胸元に一閃していた。
 ディケイドからの攻撃に対処して、ブレイドがダメージを通したのはこの戦闘において初めてのことだった。
 ダメージを受けて吹き飛ぶディケイド。とはいえこの攻撃を受けることはわかっていたことだから、膝を着くような無様は晒さない。
 思っていた以上に痛みを覚えた胸板のことを意識の隅に追いやって、ディケイドは追撃を仕掛けて来ないブレイドに伝える。

152防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:47:04 ID:8ChTooOo0
「――BOADのライダーシステムは、そう言う風にしてカードに封印されたアンデッドの力を引き出して自己強化することができる。覚えておけ」

「何故だ? おまえは……殺し合いに乗っていないな?」

 ブレイドの問いかけに、ディケイドは肯定も否定もしない。

「俺にこのベルトを渡し、戦い方を教えて……おまえは俺に何をさせたいんだ!?」
「俺が知るか!」

 ディケイドの返答に、ブレイドは驚いたように頭の位置を少し落とした。

「知るか、って……」
「おまえは愚かな人間だ。殺し合いに乗った奴をそいつが無力だからと助けて、自分が殺されそうになったのに、まだそいつが闇に堕ちるのを止めようとしている。この次は無傷で済まないかもしれないのにな」

 だが、とディケイドは息継ぎする。

「愚かでもおまえは人間だ。自分で自分の道を決める人間だ。愚かだから、転んで怪我をしてみないとわからないこともある。時には道に迷い、間違えたとしても……それでも、自分が選んだ道を歩むことができる、人間だ」

 きっと、葦河ショウイチのように――裏切られるのに慣れたと言う、人ならざるアギトの力で傷ついて来たのだろう彼に、士ははっきりと言ってやる。

「そんなおまえに、道案内なんて必要ない。おまえはもう、自分の道を見つけているはずだ。破壊者である俺ができるのは、その道を邪魔するおまえ自身を破壊することだ」
「おまえ……何者だ?」
「通りすがりの仮面ライダーだ。……別に、覚えなくて良い」

 そう告げたディケイドが、ブレイドの力を託せると信じた相手に、さらにその力のことを教えるべく戦いを再開ようとした、まさにその時だった。

 巨大な威圧感を放つ第三者が、その場に現れたのは。

153防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:48:16 ID:8ChTooOo0


 今回のゲゲルを進行する大ショッカーは、ご丁寧に途中経過を放送してくれるらしい。
 だがグロンギの同じゲゲルを司るラの者達に比べると、奴らは気に食わないと言うのが、ゴ・ガドル・バの抱いた印象だった。
 いや、気に食わないなどという生温いものではない。ゲゲルが終われば、あのキングと名乗ったリントには制裁を下さねばならないとガドルは心に決めていた。

 理由は簡単だった。

 奴は、『仮面ライダー』の正義を愚弄したのだ。

 放送の直前、ガドルはある参加者と戦った。その参加者はその前にも一度戦った、取るに足らぬ弱者のはずだった。
 だが彼は、その戦いで真の仮面ライダーとなり、遥かに強大だったはずのガドルを打ち破ったのだ。
 そう、ガドルは正義の味方・仮面ライダーに敗れた。彼が正義のために燃やした命が尽きるのがほんの一瞬でも遅れていれば、先の放送の中にガドルの名も含まれていただろう。

 リントである彼らの言う正義が何なのか、グロンギであるガドルには理解できない。

 だがその正義とは、脆弱なはずの彼にこの破壊のカリスマを凌駕するほどの力を与える戦士の心なのだということは、何となくわかった。それを持つ戦士と敵として相対できることに、誇りすら抱かせてくれるものだと。

 その敬意を払うべき戦士の誇りを、奴は愚かだと侮辱したのだ。

 放送に呼ばれたゴオマにように、神聖なゲゲルのルールを破った不届き者でもあるまいに。きっと最期の瞬間まで正義を胸に、勇敢に戦った真の戦士達を嘲笑った。

 ――許せぬ、と。そんな怒りを胸に秘めながら、ガドルは夜闇に包まれたF-6エリアの市街地を歩んでいた。
 仮面ライダーとの戦いで受けたダメージは小さくはなかったが、グロンギの中でも最強に近いガドルの身体は、万全には遠くともある程度それを癒していた。

「ん……?」

154防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:49:02 ID:8ChTooOo0
 興味深いある物を見つけたその時、ガドルの強化された聴力がある音を捉えた。

 それは剣戟の音。この近くで戦闘が行われていることを示していた。

 おそらくだが、既に本来の姿への変身制限は解除されているはずだ。そう考えたガドルは戦場へと足を向けた。

 そうして見たのは、仮面ライダー同士が互いに争う姿。

 この地に連れて来られてより、クウガを含む仮面ライダーと言った戦士達が手を組んだことはあれ、争う姿など目にしなかったため、ガドルの内には驚きがあった。
 驚愕だけではなく、嫌悪感まで抱いている自分に気づき、ガドルは足を止めていた。

 思い出されるのは、あの蛇の男と共に戦っていた黒い仮面ライダー。だがガドルはあれを仮面ライダーと認めない。正義の心で戦っていたようには到底思えなかったからだ。
 この二人もそう言った手合いなのか――そう落胆しそうなガドルだったが、事の顛末を見続ければ、考えは変わった。

 目の前の二人は、共に正義のために戦う仮面ライダーだ。愚かなリントにより己の正義を見失いかけた白銀のライダーをマゼンタのライダーが導く、そのための戦いだったようだ。

「通りすがりの仮面ライダーだ。……別に、覚えなくて良い」

 マゼンタの仮面ライダーがそう呟き、戦いが再開されそうになった時に、ガドルは静観するのをやめた。
 全身から闘志を解放し、一歩近づく。

 その気配に気づいた二人の仮面ライダーが自分を振り返ったのを見て、ガドルは名乗りを上げた。

「俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ」

 いつもの口上に、怪人態への変身を終えたガドルはさらに自らを表す言葉を付け足した。

「仮面ライダーよ、リントを護らんとする、貴様らの敵だ」

155防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:49:42 ID:8ChTooOo0


「……バシグラ ドバ ギグバジョ デ ギズン(自分でカリスマとか言うなよ)」

 突然現れた、破壊のカリスマを自称する軍服の男が姿を変えたカブトムシの怪人の正体を特定するのに、ディケイド――門矢士にはほんの少しだけ時間が必要だった。

 腰にした金のバックルと、固有名詞の前後に並ぶ一文字。リントという単語。
 これらを統合すれば、クウガとアギトの世界に存在する未確認生命体・グロンギしか、士は該当する怪人を知らない。

 だが、士は人の姿を持ったグロンギなど知らなかった。究極の闇、ン・ガミオ・ゼダによって多くの人間がグロンギに変えられたことはあった。だがそうして生まれたグロンギには、グロンギ族であることを示すバックルがなかったのである。

 それ故に迷ったが、だからこそカマを掛ける意味で、士はグロンギの言葉でそう応じた。

「ゾグ……パセサン ボドザゾ ガジャヅセスボバ(ほう……我らの言葉を操れるのか)」

 果たして相手は、グロンギの言葉で応じた。

「こいつ……未確認!?」

 やはりアギトの世界出身なのだろう、ブレイドが驚愕したような声を上げるが、ガドルと名乗ったグロンギは彼を無視し、士の変身したディケイドを見やる。

「ドボデ ゴゾゲダ(どこで覚えた?)」
「パスギ、ザグセダ(悪い、忘れた)」

 そう間髪空けず答えるも、士はライドブッカーを握る手が汗ばむのを感じていた。
 ガドルの放つ威圧感は異常だ。旅の中で出会って来た数々の強敵達の中でも、最上位に位置するほどの力を持っていることが感じ取れる。各世界のライダーの持ち力を失った、今の士が相手をするには危険過ぎるほどに。

「おい、おまえ……どうして奴らの言葉を……?」

「良いから構えろ」

156防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:51:13 ID:8ChTooOo0
 故にブレイドの疑問に答える余裕はなかった。

「言ったはずだ、奴は俺達の敵だと……」

 それも、とびっきり凶悪な。
 その言葉を待っていたかのように、ガドルは胸元の装飾品を一つ千切った。
 同時に小さい勾玉状のそれが、巨大なボウガンへと形状を変える。

「来るぞっ!」

 そのボウガンから矢が放たれる時には、ディケイドは地を蹴りブレイドと反対方向へと跳んでいた。

 直後、ディケイドの背を叩く衝撃と、轟音。

 当たったわけではない。掠めたわけでもない。それでも後方の家屋を一撃で消し飛ばしたボウガンは、衝撃波だけでディケイドの体勢を崩すほどの威力だった。
 まともに当たれば、致命傷になりかねないほどの威力。それに対して反射的に生じた恐怖を捩じ伏せ、ディケイドは一枚のカードをディケイドライバーに投げ込む。

 ――ATTACKRIDE BLAST――

 ライドブッカーをガンモードに変形し、トリガーを引く。瞬間、ライドブッカーの周囲に四つの虚像が現れ、それらを含めた五つの銃口から、無数のエネルギー弾が射出される。
 無数の弾丸がガドルの胸元で弾けるが、ダメージの入った様子はない。怯みすらせずに、銃口をディケイドに向け、再び矢が放たれる。

「――っ!!」

 さらに二射、三射。背中のほんの少し後ろを射抜いて行く矢を振り返らず、ディケイドはライドブッカーで応戦しながら走る。
 振り返ったら――足を止めたら、やられる。その直感があった。
 当たっても、まるで巨大な岩に豆鉄砲で挑んでいるかのように、ガドルは小揺るぎもしない。必殺の威力を秘めた反撃の矢が、ディケイドの直ぐ後ろを駆けて行く。
 知っている限りでは、クウガのペガサスボウガンによく似ていた。だが威力はそれ以上で、単発式のあちらと違いガドルのボウガンは連射が効く。

157防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:52:01 ID:8ChTooOo0
 だがディケイドの攻撃はダメージにならずとも、ガドルの注意を向けさせることには成功していた。
 その間に疾走し、距離を詰めた男が一人。

「ウォオオオオオオオッ!」

 絶叫と共に、反対側からガドルに接近していたブレイドが剣を振り下ろした。

「――何っ!?」

 だが夜の市街地に響いたのはブレイラウザーがガドルの装甲を切り裂く音ではなく、ブレイドの驚愕に染まった声だった。
 既にスラッシュリザードの効果は消えている。それでも優れた切れ味を誇る醒剣ブレイラウザーが、ガドルの装甲に傷一つ付けることなく止められていた。
 ガドルがブレイドへと視線を移す。その過程で、眼の色が緑から紫へと変わる。

「まずい!」

 効かない弾を撃ち続けながら、ディケイドは思わず叫んでいた。
 ガドルの手にしたボウガンが、黒く巨大な剣へと姿を変える。
 まるでクウガと同じだとディケイドが思った時、その大剣はブレイドへと振り下ろされていた。

「ウァアアアアアアアッ!?」

 先程まで、ライドブッカーに何度切り付けられても耐えて来たブレイドの甲冑が、その一撃でぱっくりと割れていた。
 幸いにもその下の紺のスーツにまでは届いておらず、装着者は無事だ。だが、オリハルコンプラチナで形成された鎧でさえ、身の安全を保障してはくれないのだと、この一撃が示していた。
 斬撃により倒れ伏し、痺れてまだ立ち上がれないブレイドに、再びガドルが大剣を掲げる。

158防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:52:52 ID:8ChTooOo0
「やらせるかぁっ!」

 だがディケイドは、それをただ見ているわけではない。

 ――FINAL ATTACKRIDE DEDEDE DECADE――

 ディケイドの構えたガンモードのライドブッカーとガドルの間にホログラムのような10枚の巨大なカードが展開される。気づいたガドルがこちらを見た時には、もうディケイドは銃爪を引き絞っていた。
 放たれた光弾はカード型エネルギーを潜り抜け、その力を得て光線へと強化される。10のゲートを通過し、極太いビームと化した一撃がガドルを強襲した。
 ガドルの巨体が、闇を切り裂き殺到する光の束へと呑まれて行く。

 苦鳴を漏らしながら、必殺技により爆散する怪人に巻き込まれまいと、ブレイドが立ち上がりディケイドの方へ向かって来た。

「な……っ!?」

 光が収束したというのに、爆発音が聞こえなかったことに背後を振り返ったブレイドと同時に、ディケイドも驚愕と畏怖の声を漏らしていた。

 ビームの着弾時より数歩下がった程度の位置で、ガドルは健在していた。
 鍛えられた巨躯を誇示するように胸を張るその姿は、先刻と一切の変わりなく。
 絶大な威力を秘めた必殺技の一撃でも、奴はダメージすら受けていなかった。

「その程度か……そんな力では、俺には勝てないぞ」

 そうして、淡々とした声色で二人に告げて来た。
 いや――先程と変わったところがある。

「ブレイド! スペードの5と6と9のカードをラウズしろ!」

 それに気づいたディケイドは、そう指示を飛ばした。
 目立ったダメージは入っていないようだが、さすがにディメンションブラストの直撃で奴はその手から大剣を取り零していた。武器がない今というチャンスを逃す手はない。

159防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:53:36 ID:8ChTooOo0
 ライドブッカーから取り出した次のカードをディケイドライバーに投げると同時に、隣のブレイドも三枚のカードを立て続けにラウズする。


 ――Kick――
 ――Thunder――
 ――Mach――

 三体のアンデッドの力が束ねられ、新たな力が呼び醒まされる――
 ――それは数多の敵を打ち破って来た、仮面ライダーブレイドの必殺技。

 ――Lightning Sonic――

 ――FINAL ATTACKRIDE DEDEDE DECADE――

 コンボ成立の知らせに被せるように、別の電子音が鳴る。
 ブレイドの両足に稲妻が走り、ライドブッカーを腰に戻したディケイドとガドルの間に、再び10枚のカード型エネルギーが展開される。

「はぁああああああああ……はぁっ!」

 二人の仮面ライダーは力を込めるように一度姿勢を低くした後、跳躍する。
 黄金のエネルギーゲートはディケイドを追うように動き、彼とガドルを繋ぐ一本の道となっていた。カードを突き破るようにして宙を進んで行くディケイドに、稲妻を纏ったブレイドが並んでいた。

「うぅりゃぁぁぁぁぁあああああああああああああぁっ!」

 二人の叫びは唱和され、武器を持たないガドルの胸板に、ディメンションキックとライトニングソニック――ダブルライダーキックが炸裂した。

 先の攻撃を耐えた油断からか。ガドルはほぼ防御せず、無防備に二人の蹴りを受けた。
 結果、勢い良くその身体は後方に撃ち出され、その勢いのまま家を一軒吹き飛ばした。

 キックの反動で軽く宙を舞い、着地した二人の視界に映るのは、だらんと手足を伸ばして仰向けに倒れているガドル。
 その右手がぴくんと動き、立ち上がろうとする姿だった。

160防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:54:17 ID:8ChTooOo0
「なん……だと……っ!?」

 信じられない思いで、ディケイドはそう呻く。

 あり得ない。一撃でも、それなりの実力者を倒せる攻撃を三連続で浴びせたのに――それで立ち上がった奴には、大きなダメージを受けた様子が見受けられなかった。

 立ち上がる過程で手に取っていた装飾品を再びボウガンに変化させたガドルが、竦んだように動けなかったブレイドを狙い撃つ。

「ウォォォオオオオオオオオッ!?」
「――おいっ!」

 直撃し、弾け飛んで行くブレイドを思わずディケイドは振り返る。だがそんな場合ではないとガドルを振り返った時、奴はボウガンを大剣に変えながら接近して来ていた。
 振り下ろされる大剣を、咄嗟に抜き放ったライドブッカーの刀身で受ける。

 完全に防御したのに、その上から叩き潰されるような斬撃だった。

 ガドルの剛力に耐え切れず、鍔迫り合いの状況でディケイドは膝を着く。そのじりじりと押される鍔迫り合いを保つだけでも、両腕の痺れたディケイドには必死のことだった。

「――弱いな。悲しいぞ、仮面ライダーよ」

「――悪かったなっ!」

 叫びに怒りを乗せて、何とかガドルの大剣を押し返し、その隙に彼の下から抜け出す。側転して逃れたディケイドは、悠然と構えるガドルに向けてライドブッカーを構える。

「究極の闇とやらより強いグロンギがいるなんて、聞いてないぜ……」

 かつて小野寺ユウスケの世界を存亡の危機に陥れたグロンギの王、ン・ガミオ・ゼダ。
 キバーラによってユウスケが強制的に変身させられ、全てのライダーを破壊するための戦いをしていたディケイドに最後に立ち塞がった仮面ライダー、アルティメットクウガ。
 究極の闇と呼ばれた彼らも強かったが、目の前に立つ破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バはそれらを超越しかねないほどの力を発揮していた。

161防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:55:28 ID:8ChTooOo0
「――バビゾ ギデデギス(何を言っている)?」

 だがそのディケイドの嘆きを本気でいぶかしむような声を、ガドルが発する。

「ギランゴレゼザ ギラザ ゾゾドゴギ ビパ キュグキョブンジャリ(今の俺では、未だ究極の闇には遠い)。ザバサボゾ ボグギデ、ビガラサド ダダバッデギスド ギグボビ 仮面ライダー(だからこそこうして、貴様ら仮面ライダーと戦っているというのに)?」

 仮面ライダーだけをリントの言葉のままにして、ガドルはディケイドに尋ねていた。

「ゴロゴロビガラグ バゲギデデギス ゾ ダグバ(そもそも貴様が、何故ダグバを知っている?)」
「ダグバ……?」

 その名前を聞いた時、ディケイド――士は、妙に強い引っ掛かりを覚えた気がした。
 まるで、行き別れた家族の名を聞いたような、そんな感覚。
 だが、参加者名簿で見たかもしれないが、初めて聞く名前だったのもまた事実。
 そんなディケイドの戸惑いを察知したのか、ガドルは再び剣を構えた。

「――ギブゾ(行くぞ)」

 宣告と共に間合いが詰められる。振り下ろされた大剣を、ディケイドは何とかライドブッカーを使って受け流した。だが受け流しても、その両腕が痺れる重い一撃。
 受けるだけで消耗する斬撃が、一度ではなく何度も迫る。何とか凌いでいたディケイドはしかし、攻防が十にも満たぬ内に限界を迎える。
 ライドブッカーごと斬撃に捕えられ、胸部の装甲を裂かれながらディケイドは宙を舞う。

「――がはっ!」

 受け身も取れず地に叩きつけられ、肺から空気が吐き出された。衝撃で脳が揺れたのか、立ち上がることができない。
 歪む視界の端には、大剣を片手に迫るガドルの姿。

 ――こんなところで……すまない、夏海。どうやら俺も、今からそっちへ行くみたいだ……

162防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:56:09 ID:8ChTooOo0
 そう士が、ディケイドの仮面の下で瞼を閉じた瞬間。

 金属同士の激突する、甲高い音が彼の鼓膜を叩いた。

「――おい、起きろっ!」

 耳に入ったのは、ブレイドに変身したあの男の声だった。

 意識をはっきりさせたディケイドが顔を上げれば、ブレイドが両手でブレイラウザーを支え、ガドルの大剣を受け止めていた。
 力に押され、潰されそうになりながらも、ブレイドはディケイドに呼び掛けてくる。

「どうしたっ!? おまえが俺の道の邪魔をする、俺を壊すんじゃなかったのか!? そんなところで寝てるから、俺が……人を護ることに迷う自分を、もう壊しちまったぞっ!」
「……そうか」

 ディケイドはゆっくりと、しかし脚に力を込めて立ち上がる。
 同時、ガドルの蹴りが胸部の装甲を大きく損壊したブレイドに突き刺さる。悲鳴と共に撃ち出されて来たブレイドの身体を受け止め、ディケイドはガドルから一旦距離を取る。

「それなら、勝つぞ。ブレイド」

 痛みを訴える身体を強い意志でねじ伏せて、満身創痍の二人の仮面ライダーが並び立った。

「……俺は、葦原涼だ。だが何か策があるのか? 俺の力も、おまえの力も、奴には通用しなかったぞ」

 葦原涼と名乗ったブレイドに、ディケイドは頷く。

「確かに、俺の力もおまえの力も、こいつには通じなかった……だが!」

 ディケイドは、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。
 この圧倒的不利な戦いを覆す最後の希望である、切り札を。

「――俺達には、まだ俺とおまえの力が残されているっ!」

163防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:57:12 ID:8ChTooOo0
 そしてディケイドは、運命のカードをライドした。

 ――FINAL FORM RIDE B B B  BLADE――

「ちょっとくすぐったいぞ」

「え……、おいっ!?」

 ブレイドの抗議を無視して、ディケイドは相手の背中に手を突っ込む。
 内側から何かを引っ張り出すように動かすと、ブレイドの背にブレイラウザーのそれを巨大にしたようなカードトレイが現れる。
 突如として再生した胸部装甲と共にそれが回転し、上へ向く。
 同時にブレイドが浮かび上がって反転し、両腕が頭部と共に装甲とトレイの間に収納され、両足が巨大な刃へと超絶変形する。
 ディケイドの手に掴まれたのは、彼の身長の倍ほどもある、ブレイラウザーを模した巨大な剣。
 ブレイドブレード。

 ――これは……

 ブレイドが変形したブレイドブレードから、葦原涼の声が響く。

「これが俺とおまえの力だ、涼っ!」

 叫んだディケイドは、ファイナルフォームライドが完了するや否や接近して来ていたガドルへと、この超巨大剣を薙いだ。

 ここまで巨大な得物ならば、懐に潜り込めば満足に戦えまい――ガドルはそう予想していたのだろう。これほど巨大な剣ならば、接近中に振るわれようと遅く、充分対処できると。

 だが実際はどうか。まるで滑るように移動したブレイドブレードは、ガドルの左半身へと襲い掛かっていた。

「――ぬぅっ……!?」

 ブレイドブレードを手にした大剣で防ぐガドルだが、先程までのディケイド達のように斬撃の威力に耐え切れず、間合いの外へ投げ出されていた。
 それは破壊のカリスマがこの戦いにおいて見せた初めての、本当の意味での隙。その時を作り得たディケイドは、ついに切り札を切った。

 ――FINAL ATTACKRIDE B B B  BLADE――

 巨大なブレイドブレードの刀身に、青白い稲妻が迸る。
 それが放つ絶大な力の波動は、ガドルに本能的に剣を構えさせていた。
 だがそれは、大きな判断ミスだと言わざるを得ないだろう。

「――ウェアッ!」

 ディケイドとブレイドブレードの気合いが唱和され、必殺の一撃が叩き落とされた。
 それは掲げられたガドルの剣をへし折り、彼の身体を切り裂いて、そして射線上に存在した家屋を巻き込んだ強烈な爆発を巻き起こした。

164防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:58:15 ID:8ChTooOo0


 今の二人にできる最大最強の一撃・ディケイドエッジを繰り出した後、ディケイドは天にブレイドブレードを放り投げた。
 軽く浮いた状態でブレイドブレードが、先の逆再生のように仮面ライダーブレイドの姿へと戻る。ただ胸部装甲だけは修復されたままだった。
 着地したブレイドは、ディケイドに尋ねた。

「終わったんだな」
「――ああ、多分な」

 適当な相槌のようにディケイドが答えると同時、三度目の恐怖が、彼らの全身を駆け巡る。

「――やはり見事だ。仮面ライダー達よ」

 ディケイドエッジの余波により、コンクリートが割れて剥き出しになった大地を歩むのは、鍛え抜かれた肉体を覆う漆黒の外骨格と、黄金に輝くバックルを持った大柄な怪人。

 ゴ・ガドル・バだった。

 そのカブトムシを思わせる角は、Y字に別れた内の左先から断たれている。左胸から下腹部にかけて一直線に酷い裂傷が走り、左腕からも赤い血を零していた。ブレイドブレードを受けとめようとしたガドルの大剣は、半ばからへし折られている。

 だがそれでも、ガドルは未だ倒れていなかった。

「楽しいな、仮面ライダーよ。心躍るぞ」

 ガドルは仮面ライダーに惜しみない称賛を送りつつ、その身を金色に変えた。
 ゴ・ガドル・バ電撃体。
 持ち得る力を使い果たした二人の仮面ライダーは、ガドルの見せたさらなる力を前に、リアクションが遅れた。
 その隙を、同じく限界の近いガドルは見逃さなかった。

165防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/16(日) 23:59:19 ID:8ChTooOo0
 電撃体となっても修復されていない左半身の裂傷から血を零しながら駆け出し、一歩ごとにその両足に電流が走る。
 十分な助走を得て、ガドルは高く跳躍した。
 ようやく驚愕を終え、何らかの対処を試みようとしているディケイドの方へ、ガドルは両足を向ける。

 その巨躯が錐揉み回転を始め、両足から膨大な稲妻を撒き散らしながら、もはや回避の叶わぬ速度、迎撃しようとも防御不能の、恐るべきゼンゲビ・ギブブが世界の破壊者を砕かんと迫る。

 その両足に捕えられる直前、ディケイドの前に立つ白銀の影があった。

「――おまえ……っ!」

「ハァァアアアアアアアアッ!」

 ――Tackle――

 アンデッドの力を解放、強力な突進攻撃を可能としたブレイドは、そのままガドルに飛び出した。

 勝算があったわけではない。だが、正面から飛び込んで少しでも威力を相殺するしか、自分の背にしたディケイドを護る手段がないのだと、ブレイドは考えたのかもしれない。

 ガドルの両足が、白銀の装甲を捉え、そして粉砕した。

 修復された鎧が砕かれた時には、ブレイドは背後のディケイドを巻き込んで吹き飛んでいた。

「ぐぁっ!」

 ブレイド越しに味わった衝撃でも、この威力。路面に叩きつけられながら、ディケイドは自らの盾になったブレイドを探す。

 直ぐ脇に、既にブレイドの鎧はなく、生身を晒した葦原涼の姿を見つけた。
 彼の額から流れる血を見た途端、ディケイドの心胆が凍え、同時に強い怒りが沸騰する。
 がしゃんという音がなくとも、ディケイドはガドルの方を向いていただろう。

 先の音は、その場に残されていたブレイバックルがガドルの足で踏まれた音だった。
 それを自分に託して逝った剣崎一真の姿を思い出し、ディケイドはライドブッカーを手にする。

166防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:00:46 ID:fiV.VHiE0
「う……っ」

 だがそこで暴発しかけた彼を正気に戻したのは、涼の漏らした苦鳴だった。

 両者揃って本来の力を引き出せなかったとはいえ、ブレイドとの二人掛かりで倒すことができなかった相手だ。それでもブレイドとの激突の際に傷口から裂いた血の華を見れば、相手も弱っていることは明白。この危険過ぎる相手を始末するチャンスを前に、本来ならディケイドに撤退などという選択肢はなかったかもしれない。

 だが――

『ブレイドの……仮面ライダーの力で……みんなを護ってくれ……』

 脳裏に蘇ったのは、剣崎一真の、仮面ライダーブレイドの、最期の頼み。

 どう見ても迅速な治療が必要な涼を置いて、勝てる保証のない相手へそれでも突貫するのが、彼の望みだろうか?
 せめてこの場に仲間がもう一人いたならその選択もあるだろうが、今、涼の命を救えるのは、門矢士しかあり得なかった。

「一真……許せよ」

 ディケイドはライドブッカーからカードを取り出し、ディケイドライバーへと投げた。

 ――KAMENRIDE BLADE――

「その姿は……」

 ガドルが驚愕の声を漏らした時には、ディケイドの姿は変わっていた。
 命ある限り、人を護るために戦う運命の戦士、仮面ライダーブレイドへと。
 ディケイドブレイドはライドブッカーから次のカードを取り出し、ライドした。

 ――ATACKRIDE MACH――

 電子音が高々と響いた次の瞬間、マッハの名の通り高速移動に入ったディケイドブレイドは、息も絶え絶えな葦原涼と二人分のデイパックを抱えて全速離脱を開始した。

 一真の願いは、敵を倒すことではなく、皆を護ること――

 門矢士は、そのために彼から授かったブレイドの力を行使した。

167防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:02:06 ID:fiV.VHiE0
「逃げる、か」

 一体いくつ隠し玉があるのか。先程の白銀の戦士へ姿を変えたマゼンタの仮面ライダーにそう思いながら身構えたガドルだったが、予想に反して奴は逃げ出した。
 最初に来たのは失望だった。こちらは先の一撃に残った力の殆どを費やした。今両の足で立てているのは、勝者として君臨するための意地に過ぎず。なおもこの戦士に隠された力があるとすれば、弱所として晒された傷のことを考えても、ガドルが倒される可能性は十分にあった。死闘を覚悟したというのに、奴は我が身惜しさに逃げ出したというのか。

 だが、直ぐに否とガドルは首を振る。

 仮面ライダーは、リントを護るために戦う戦士だ。
 先程まで白銀の仮面ライダーに変身していた男は、ガドルのゼンゲビ・ビブブの直撃で瀕死の重傷。放送前に戦ったあの仮面ライダーの時とは違い、マゼンタの仮面ライダーが護らねばならないリントは自力では動けず、またそれを助ける仲間もいない。
 ならば防人たる仮面ライダーの本懐に従えば、マゼンタの戦士の選択肢はガドルと雌雄を決することではなく、男を救うことしかなかったのだろう。そう納得した。

 正義とは何なのか、グロンギであるガドルには理解できない。
 だがそれが強き戦士の誇りであることは、彼らが教えてくれた。
 放送前にガドルを破ったあの蛇の男のように、マゼンタの戦士もその誇りに従う真の仮面ライダーだと言うことなのだろう。

 ただ自分の身が可愛くて逃げ出した腰抜けではない。そんな者に、こんな傷は付けられない。ガドルはそう、自らの左半身に走る裂傷に触れる。
 実質的に自分をより追い詰めたのはあの蛇の男だが、ガドルの生涯でも最も深いだろうこの傷を与えたのはあの二人の仮面ライダーだ。
 敬意を払うべき、強き戦士であることに間違いはない。
 ゲゲルのスコアこそ得られなかったが、ガドルはこの闘争に充足感を覚えていた。

168防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:02:56 ID:fiV.VHiE0
 ガドルは一度射撃体になり、強化した五感で周辺に戦いの気配も、敵の存在も感知できなかったことを認めてから、変身を解いた。

 ガドルはそこで膝を着く。

 ダメージ故に、だけではない。足で押さえておいた、ブレイバックルを拾うため。

「仮面ライダーの力……か」

 やむにやまれぬ状況になれば、身に纏うこともあるだろう。
 だがガドルは、気高き正義の仮面ライダーの敵であることに、誇りを覚えている。
 出来得るならば自分ではなく、使いこなせるだろう他の参加者に渡し、戦いたかった。

 歩けるだけ回復した後、来た道を戻り、ガドルは戦いの前に発見していた、ある物の前に出る。
 それは流線的な美しいフォルムをした、深いワインレッドの一台のバイク。
 天の道を行き、総てを司る男の愛車、カブトエクステンダーだった。

 その内回復するだろうが、さすがにこの重傷では長距離移動は厳しいだろう。そういう意味では、願ってもない拾い物だった。

 マップ東側の二つの市街地は既に捜索し終えた。故にガドルは、マップ西側の一つしかない代わりに最も巨大な市街地に次の目的地を定めていた。

 自らの誇りを満たす、さらなる強者との闘争を求めて。
 正義に燃える仮面ライダー達と同じように、破壊のカリスマもまた、その歩みを止めはしなかった。

169防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:03:33 ID:fiV.VHiE0


【1日目 夜】
【F-6 市街地】
【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(大)、ダメージ(極大)、左腕及び左上半身に酷い裂傷、怪人態に1時間50分変身不可、アームズドーパントに50分変身不可、少しだけ満足
【装備】ガイアメモリ(アームズ)@仮面ライダーW 、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW 、ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:ゲゲルを続行し、最終的にはダグバを倒す。
1:強い「仮面ライダー」及びリントに興味。
2:タツロットの言っていた紅渡、紅音也、名護啓介、キングに興味。
3:蛇の男は、真の仮面ライダー。彼のような男に勝たねばならない。
4:仮面ライダーの「正義」という戦士の心に敬意を払う。
5:仮面ライダーの力(ブレイバックル)は、自分では使わず他の参加者に渡して戦いたい。
6:ゲゲルが完了したらキング(@仮面ライダー剣)を制裁する。
【備考】
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。
※『キバの世界』の情報を、大まかに把握しました。
※ガドルとタツロットは互いに情報交換しました。
※タツロットはガドルの事を『自分を鍛えるために戦う男』と勘違いしています。
※また、ガドルが殺し合いに乗っている事に気づいていません。
※海堂直也のような男を真の仮面ライダーなのだと認識しました。

170防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:04:43 ID:fiV.VHiE0

 ディケイドブレイドはマッハの効果が切れた後も、必死に走っていた。
 涼への負担を考えればもっとゆっくり走るべきなのかもしれない。だがあの恐るべき敵から涼を遠ざけるためにも、一刻も早い治療を施すためにも、急ぐ必要があった。

「……本当に何だったんだ、あのグロンギは」

 ほんの一分前まで戦っていた恐るべき怪人について、ディケイドは考える。
 クウガの世界において最も強い力を持つ者は、究極の闇だと思っていた。だがこれまでの旅で戦って来たそれらを、あの怪人は凌駕しかねない力を持っていた。
 この地に来て最初に戦った牙の意匠を持った仮面ライダーと言い、全ての仮面ライダーを破壊したはずの自分が及ばぬ実力を持つ者が、この会場には集められている。
 無論、この会場ではこれまでに集めた仮面ライダー達の力が失われ、自身が弱体化していることも一つの要因なのだろうが……

 彼らは知らない。互いの知る究極の闇が異なることを。
 また、グロンギにおいてもそれに最も近き位置に立つガドルに比べると、通りすがっただけの士はその真髄の深さを知らない。
 不完全な復活に加えて、力を行使する意思の伴わなかったン・ガミオ・ゼダ。この地でユウスケがそうなったように、装着者の意思を介してアマダムが覚醒し究極に至ったものではなく、キバーラの魔皇力によって姿と力の一部を引き出しただけで、ユウスケの意識が残ったこれまた不完全な変化だったアルティメットクウガ。士が出会って来た究極の闇とは、所詮はその一端に過ぎなかったのである。

 また、アルティメットクウガと戦った激情態に比べ今のディケイドはスペックで劣り、ブレイド以外のライダーの力を失ったことに加えて、かつて二度に渡り組織を壊滅させた力を恐れた大ショッカーによる制限。それらによって今現在の己の力を見誤ったことが、相対的にガドルをより恐ろしい相手だと士に感じさせていたのだ。

 だがそれよりも、士の関心を引く事柄があった。

「ダグバ……か」

 究極の闇を口に出した時、ガドルはダグバを知っているのかと尋ねて来た。
 ダグバ。それがガドルの居たクウガの世界の、究極の闇を齎す者。
 その名前に強く惹かれていることに、ディケイド自身戸惑っていた。

171防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:06:02 ID:fiV.VHiE0
(世界を滅ぼす者同士、シンパシーを感じているってことか?)

 かつてクウガの世界で出会ったガミオもそう言えば、ディケイドに対してそういう感情を抱いているように見えた。

(バカバカしい。俺は世界の滅びを破壊する、仮面ライダーだ――そうだろ、一真、夏海?)

 そう、自分は仮面ライダーとして生きることを彼らに誓ったのだ。
 涼を抱いて走りながら、ディケイドは心中で一真に詫びる。

(すまない、一真。俺のせいでブレイバックルが悪に奪われた)

 あの時マッハで仕掛ければ、あるいはバックルを取り戻すことはできたかもしれない。
 だがその後に、涼を連れて逃げ切れるとは思えなかった。故にディケイドは、一真から託されたブレイバックルを諦めて、涼の命を優先した。
 だからこそ、絶対に涼の命だけは救わなければならない。
 二兎を諦め、一兎だけに絞ったのだ。これで二兎共得ずでは、笑い話にもなりはしない。

(だが、俺は必ずこの男を救う。そしてブレイドの力を取り戻す。だから、信じていてくれ)

 そう新たな誓いを立てながら、ブレイドの姿でディケイドは駆ける。

「――ブレイドッ!?」

 その時だった。T字路の前方から、二人の男が現れたのは。
 まずい。もし殺し合いに乗っている奴らだったら……

「おまえが剣崎を殺した奴かぁっ!」

 ディケイドこそ一真を殺し、ブレイバックルを奪ったと犯人と勘違いしたのだろう。男の一人がベルトを腰に巻き、もう一人の制止を振り切り変身しようとする。
 そのベルトがギャレンバックルであることに、ディケイドは気づいていた。
 彼にもディケイドと同じぐらい冷静な観察眼があれば、このブレイドのバックルが違うことによる違和感に気づけただろうに。

「変身!」

 男はレバーを引く。だが、何も起こらなかった。

「変わら……ない」

 ディケイドは知る由もないが、目の前の男――橘朔也がギャレンに変身したのは、午後5時を回ったちょうどその時。
 現在時刻は、未だ7時に届いていない。それ故に制限が掛かっていたのだ。
 同時に、ディケイドも10分の変身限界時間を迎える。
 ディケイドの鎧が分解され、急激に重みを増した涼の身体を抱えながら、士は口を開いていた。

172防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:06:40 ID:fiV.VHiE0
「仮面ライダーギャレン……橘朔也か」

 かつて訪れたブレイドの世界で、ギャレンに変身していた菱形サクヤと同じ名前を持つ男。剣崎一真との位置関係からも、恐らく彼がギャレンだろうと士は頭に入れておいた。

「貴様、その人をどうするつもりだっ!?」
「落ち着け橘! この青年くんが殺し合いに乗ってる証拠なんてないのに、らしくないぞ!?」

 後ろの男が涼を指差して叫ぶ橘を制止する。士はそんな彼らに短く、「退いてくれ」と告げた。

「こいつを病院に連れて行く。急いで治療しないと手遅れになるかもしれない」

 つい先程の誓いを思い出し、強い意志を持って告げる士の様子に、殺し合いに乗っていないことを悟ってくれたのか……橘は落ち着きを取り戻したようだった。

「あ……すまない、失礼なことをした。だが何故君はブレイドに……?」
「一真の死に際に立ち会った。俺も、あいつの仲間だと言うならあんたと話がしたい」
「そりゃ良い話じゃないか、橘。俺達も病院を目指していたんだからな」

 もう一人の男がそう賛成し、橘に言う。士はその二人を置いて、可能な限り急ぎながらも慎重に移動する。

「だがまずはこいつの治療が先だ。構わないな?」

 どこか尊大な士の態度にも、勘違いから攻撃しようとした罪悪感からか橘は特に反発せず頷く。後ろの男も、元からそういう人柄なのだろう、さして気にした様子はなかった。
 一真の仲間であることから半ば予想していたが、彼らも殺し合いには乗っていないらしい。変身手段を使い果たしたこと以上に、涼のために戦いを避けなければならなかった士にとっては僥倖だった。

 こうして、殺し合いを打倒せんとする傷だらけの仮面ライダー達が四人、揃った。

 彼らが病院に向けて、歩み始めたところで――

 ――東京タワー倒壊を知らせる轟音が、彼らの耳に届いた。

173防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:07:20 ID:fiV.VHiE0
【1日目 夜】
【E-5 道路】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに2時間変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
1:葦原涼を救う。
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:橘ともう一人の男(ヒビキ)と共に病院に向かい、情報交換を行う。
5:東京タワーが……
6:ガドルから必ずブレイバックルを取り戻す。
7:「ダグバ」に強い関心。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ライダーカード(G3)はディエンド用です。
※葦原涼がギルスである事は、大体わかりました。


【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、全身に中程度の火傷、罪悪感、クウガとダグバに対する恐怖、仮面ライダーギャレンに10分変身不可
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×3、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードはついてません)@仮面ライダーカブト、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:今は病院に行って、怪我を治す。
2:とにかく首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
3:目の前の青年(門矢士)と情報交換。
4:小野寺が心配。
5:キング(@仮面ライダー剣)は自分が封印する。
6:東京タワーが……。
7:殺し合いで勝たなければ自分たちの世界が滅びる……。
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。

174防人 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:08:00 ID:fiV.VHiE0

【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、全身に中程度の火傷、罪悪感、仮面ライダー響鬼に10分変身不可、仮面ライダーギャレンに1時間変身不可
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り1着)
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:今は病院に行って、怪我を治す。
2:打倒大ショッカー
3:殺し合いはさせない
4:大ショッカー、ガイアメモリを知る世界、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:目の前の青年(門矢士)と情報交換。
6:小野寺を心配。
7:東京タワーが…… 。
8:小沢さんに会ったら、北條(名前を知らない)からの遺言を伝える。
【備考】
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ガイアメモリは自分にも支給されていたが、知らない間にどこかに落としてしまったと勘違いしています。


【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(極大)、背中に火傷、胸元に大ダメージ、仮面ライダーギルスに1時間10分変身不可、仮面ライダーブレイドに1時間57分変身不可 、気絶中
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
0:俺が俺である意味を見付けたい。
1:……(気絶中)
2:人を護る。
3:亜樹子を止める。
4:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
5:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒
6:制限とは何だ……?



【全体事項】
※F-6エリア 市街地が戦いの余波によって、半壊しました。

175 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:09:54 ID:fiV.VHiE0
以上で予約分の投下を終了します。

現在、致命的な問題を抱えた作品であるため破棄となる可能性がありますが、
それ以外にも何か問題点がございましたら御指摘お願いします。

176 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/17(月) 00:13:09 ID:fiV.VHiE0
失礼しました。
もし収録できるようになれば、>>145->>>154が前篇、>>155->>163までが中編、>>164->>174までが後篇となります。

177名無しさん:2011/10/17(月) 00:20:36 ID:VMsqRAHsO
投下乙です!
ブレイドになった涼くん……オンドゥル語を会得しちゃってるよ!?w 士とのダブルライダーキックがかっこよかった分、吹いてしまった
そして橘さんも覚醒したと思ったら凄い勘違いをしたな……すぐに気付いたみたいだけどガドルもバイクを手に入れてから、どうなるだろう……激戦地に向かいそうだし

178名無しさん:2011/10/17(月) 00:33:43 ID:7/G6iwhU0
投下乙です。
ダグバも戦う一方、ガドルも戦うか。それでも涼と士でなんとか切り抜けて何より……ブレイバックル奪われバイクもGETされちゃったからあんまり好転してない罠。
……後、橘ァ……お前何か問題起こさないと気がすまんのか、問題を起こすノルマでもあるんかい、お前の失言(指摘そのものは間違ってはいない)が原因でユウスケいなくなったんだぞ。
しかし病院か……絶望兄妹が誕生しているか惨劇の後になっているか……

で、ガドルは盗んだ(いえ手に入れた)バイクで西側へ……ってもうらめぇ、それいじょうはいらないのぉ!!

179名無しさん:2011/10/17(月) 14:42:42 ID:f3.jbU0o0
投下乙です!
今回の2作を読んで思ったけど、もしもこの状況で所長までもが死んだら
翔太郎や涼が更にカワイソスになりそうな予感……
これは良太郎にも言えるかもしれないけど(志村に裏切られただけでなく、あきらや冴子も死んだし)

180名無しさん:2011/10/19(水) 23:38:01 ID:GGkaJwXM0
ディケイドの制限は他より厳しいか…まあ公式チートキャラだししょうがないか
ディケイドヒビキ登場の可能性が出て個人的に嬉しいぜ

181 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:39:56 ID:KTwUhEkQ0
感想ありがとうございました。

これより、予約分の投稿を開始します。

182太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:41:28 ID:KTwUhEkQ0
「……銃声?」

 もうすぐ午後八時を回ろうかという頃。E-7エリアの道路を進んでいた天道総司は、そう同行者が呟くのを聞いた。
 周囲は市街地からも離れ、人口の灯りもないまさに闇の中。視覚が不十分なこともあり自然と過敏になっていた天道の聴覚には何も届かなかったが、横に立つ男の顔は真剣そのものであり、そもそもそんな理由がないとはいえ、狂言の類とは思えない。

 天道と行動を共にする男・乾巧は『555の世界』に存在する怪人・ウルフオルフェノクが正体だ。天の道を行き、総てを司る男であるといえど、結局は人間止まりである天道より、感覚器官はずっと優れている。天道の耳に届かない音でも、彼なら拾えてもおかしくない。

 しかし、銃声とは……

「穏やかじゃないな。どっちだ?」

 天道の問いに、こっちだと進行方向を巧が指差す。

 二人は現在、名護啓介の仲間である橘達捜索して行動中だ。こちらにいるという確信があるわけではなかったが、もしや……彼らの身に何か起こっているのだろうか?

 そうでないとしても、銃声がするということはそこに人が居て、ただごとではない事態が起こっていることは間違いないだろう。
 ならば自分達、人を護る仮面ライダーが向かうべきだろう。

「急ぐぞ」
「ああ」

 天道の言葉に、乾も間を置かずに答える。
 そして二人は、歩みを疾走へと変えた。

 その先に待つ、闇に恐れることなく――



 灰となった死体から全ての支給品を回収し、下僕と化させたクウガの男――確か、同行者からの呼び名は五代だったか――を伴ってE-5エリア病院への移動を再開したその直後、金居は正面から向かって来る二つの微かな足音に気付いた。

183太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:42:48 ID:KTwUhEkQ0
 灰になった男を始末した時点では、周囲に気配は感じられなかった。故に自身が手を下す場面を目撃されたとは考え難いが……金居は、五代を振り返る。

 地の石により支配したこの男からは、意識や言葉、感情といったモノが失われている。そんな男とどういった経緯で同行しているのか、怪しまれない可能性の方が低いだろう。

 無論、地の石の支配下に置かれたクウガ――ライジングアルティメットの圧倒的な力は把握している。さらに金居自身も、アンデッドの中でも最強クラスの実力を持つ、カテゴリーキング。よほどの相手でもまず後れを取らないということはわかっている。
 だが地の石による支配がどこまで信用できるものかわからず、また首輪による能力制限を考えると、殺し合いに乗っているにも関わらず金居は積極的に戦うつもりはなかった。

 故に、怪しまれる今の五代をそのままにはしておかず、接近する足音に気付いた時点で地の石を使って瞼を閉じさせ、全身から力を奪いまるで意識がないかのようにさせる。重力に抗えなくなった五代を背負った上で、身近な物陰に身を隠す。
 アンデッドである金居の五感は人間よりも上だ。夜の帳も手伝って、足音の主達と接触するまでにはずっと気絶していた五代を連れて動く無害な参加者を装える。
 二人で行動していることから、無差別なマーダーである可能性は低い。仮にそうでも、本来の姿への変身に予備動作など不要なため、相手の動きを伺っていれば良いだろう。
 今はとにかく情報を集めることが優先だ。様子を見て接触できるようであれば、それに越したことはない。

 果たして、二人組の男が姿を現した。

「この辺りか?」

 鋭い眼差しをした癖毛の男が、もう一人の男に問う。

「あぁ」

 茶髪の男が頷き、二人は油断なく周囲を見渡す。

 奴らはこちらの存在に気づいている――その事実に心中で舌打ちし、金居は考える。

 二人組の彼らがマーダーだろうとなかろうと、こちらの存在に気づかれているのならば身を隠すメリットは低いだろうと金居は考えた。問答無用のマーダーなら、発見されれば先制攻撃される。それ以外の交渉の通じる相手に対しても、姿を隠し続けるのは良い印象を与えるとは言い難い。

184太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:43:49 ID:KTwUhEkQ0
 だが、そもそも彼らがどこでこちらの存在に気付いたのか――その時点を読み誤れば、即座に戦闘に入り込むことは想像に難くない。単にこちらの存在に気付いただけならいざ知らず、もしも先程の銃声を聞かれて居れば……

 暗闇に潜む金居の視線の先で、茶髪の男の方がデイパックを漁り出す。そこから何かを取り出す様子を見せた直後に、突然男がこちらを向き、金居と目が合った――気がした。

「――おい。そこにいる奴、出て来い」

 やや高圧的な声で、茶髪の男が告げて来た。黒髪の男の視線もこちらを向く。
 仕方ないか、と金居は立ち上がり、茂みから姿を見せた。

「失礼した。だが殺し合いを強要されている状況なんでね、そちらが危険人物かと疑ってしまったんだよ」

 無差別マーダーではない。自分のようなスタンスだろうと、葦原涼のように本気で主催者を打倒し殺し合いを止めようとしている者だろうと、一先ず情報交換は期待できる。
 そう思った金居だったが、黒髪の男から厳しい追及が飛んで来た。

「まだ俺達を信用できていないのだろうが、こちらもおまえ達を信用することはできそうにないな。……もう一人はどうして出て来ない?」

 五代のことを見抜かれている。金居は思わず舌打ちしそうになり、首を振った。

「奴が出て来ないのは仕方ない。彼は放送前に見つけてからずっと意識がないからな」
「ほぉ、そいつぁ妙だな」

 茶髪の男が、そう一歩前に出たのを感じた。

「足音は二人分聞こえたぜ。意識がないまま歩いているって言うのかよ」

 まさかその通りだが、と答えるわけにはいかなかった。
 金居も気づいていた。彼らが明らかに自分を警戒していることに。
 だが、情報を聞き出すことを諦めるのはまだ早い。何とか自らの望む方向に誘導しようと思考を巡らせる金居だったが、それを無為にする一言が発せられる。

185太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:44:42 ID:KTwUhEkQ0
「しかも、銃を撃った後に……な」

 銃を撃った時点では、気配はなかったはずだったが、それでもこいつが察知しているのはクウガである五代と同じ、身体能力が向上した何者かだからか。
 所詮は人間の作った玩具かと金居は内心吐き捨て、二人の男の強い視線を受ける。

「おばあちゃんが言っていた……」

 脈絡なく、黒髪の男は人差し指を天に向け、そう漏らした。

「手の込んだ料理ほどまずい。どんなに真実を隠そうとしても、隠し切れるものじゃない……嘘など吐かずに、正直に話したらどうだ」

 男の言葉に、金居は決心を固めた。
 今回は情報収集を諦める、と。

 そうしてデイパックに手を入れた瞬間、デイパックが何かに弾かれた。

「――っ!?」

 弾かれた際に――何がぶつかったと言うのか、金居のデイパックは引き裂かれ、中身が零れ出していた。肝心の地の石だけは既に掴み、取り零すことも傷つけることもなかったのは唯一の幸いか。

「ファイズアクセル……それに、カイザギアだとっ!?」

 金居のデイパックから飛び出したベルトを見て、茶髪の男の方がそう驚愕の滲んだ叫びを発する。おそらくはそれと同じ世界の出身か。

「――乾、今は目の前の奴だ。……どうやら、やる気らしいぞ」

 先程金居のバックを貫いた、赤い機械のカブトムシを掌に受け止めながら、黒髪の男がそう乾という男を諭す。

 それらに対して金居は苛立ちを込め、地の石に念を送りつつ、叫んだ。

「ライジングアルティメット! こいつらを始末しろ!」

 背後で五代がすっと立ち上がる気配を感じながら、金居は口角を歪めた。

 言葉で相手の情報を得られないなら、その身を以って教えて貰うことにしよう。

「……全力でな」

 未だ全容計り知れぬ、究極をも超越したこの闇の力を。

186太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:45:27 ID:KTwUhEkQ0


 眼鏡の男が命ずると、背後から一人の男が立ち上がった。
 その能面のように固まった顔を巧達に向け、構えを取ると何もない腰に突如としてベルトが現れる。
 そのバックルから漏れ出す禍々しい紫の波動を見て、巧は本能で悟った。
 目の前に立つ男がこれから姿を変えるのは、自分が出会って来た全ての中で最強の存在。
 防御力を頼りに殴り合いに持ち込むなど、生身で戦車に挑むようなものだ……と。

「乾っ!」
「わかってるよっ!」

 天道はそのままカブトゼクターを、乾は霧彦より託されたガイアドライバーを腰に装着する。できるなら目の前に転がったファイズアクセルを回収したくもあったが、さすがにさらにそこから変身する隙がある相手だとは思えない。

「変身」

 ――HEN-SHIN――

 ――NASCA!――

 天道の声に続いて、ベルトに装着されたゼクターの電子音と、ガイアウィスパーの叫びが唱和される。

「キャストオフ」

 ――CAST OFF――

 ――NASCA!――

 天道がカブトゼクターの角を倒し、マスクドフォームの装甲を解除すると同時、巧の方もナスカメモリをガイアドライバーに挿入、その身を異世界の怪人へと変化させる。

 ――Change Beatle――

 そして二人は、変わっていた。

 天道は彼の世界を象徴する、深いワインレッドの装甲を纏い、夜に煌めく青い瞳を持つ仮面ライダーカブトに。

 巧は風となった戦友、園崎霧彦のもう一つの姿――マントを思わせる翼を生やした青い騎士のような怪人、ナスカ・ドーパントへ。

 彼らと同じくして、ライジングアルティメットと呼ばれた男もその姿を変え、眼鏡の男を守護するように前に出て来ていた。

 それは夜の闇よりなお暗い漆黒の身を黄金の装甲で覆い、全身に鋭い突起を生やした――どこかあの白い青年が最初に変身した姿を連想させる、四本角の仮面ライダーだった。

187太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:46:31 ID:KTwUhEkQ0
 先のカブトムシの怪人よりもがっしりとした体躯。やはり腕力勝負に持ち込むのは利口とは言えない。

 故に、二人の武器は速さ。カブトにはクロックアップが、ナスカには超加速がある。
 その圧倒的な速度を活かして、ライジングアルティメットに指示を下す眼鏡の男を叩く。計り知れない力を感じさせるこの仮面ライダーと戦うより、それが有効的なはずだ。
 二人がそのために超高速移動を開始しようとした、その時。

 二人の目の前の闇が、一層濃くなった。

「うぁああああああああああああっ!?」

 全身を砕かんと襲い掛かる衝撃にナスカ・ドーパントは思わず叫び声をあげ、一瞬だけブラックアウトした視界が回復した時には、自分が天高くを舞っていることに気づく。

 何が起こったのか――それを理解する前に、何かが自分を飛び越えて行った。
 夜空に浮かぶ月の灯りを遮るのは、地上100メートルまで一瞬で跳躍した金の黒の仮面ライダー――ライジングアルティメット。
 ナスカウイングで体勢を整えようとしたナスカだったが、ライジングアルティメットの固められた拳がその腹に叩き込まれる方が圧倒的に早かった。

「――っ!!」

 その一撃により生じた悲鳴は声さえも粉砕されていた。隕石のように地上へと落下するナスカはたった二発の、しかし規格外の攻撃により、乾巧の姿へと戻っていた。

 ドォンッ! と地を揺らし、草木が黒い炎に吹き散らされた大地に半径数メートル規模のクレーターが生じる。

「――がっはっ……おぶ……っ」

 乾巧――ウルフオルフェノクは生きていた。激突の直前に、オルフェノクの姿へと変身を果たしたおかげで、死ぬことはなかった。
 だが自由落下などを遥かに超えた速度で地面に叩きつけられ、オルフェノクといえども無事で済むはずがなかった。そもそもその前にナスカの時点で受けた攻撃だけでも甚大なダメージが巧の身体に刻まれていたのだ。

 夜空を彩る星々が瞬いた気がした後、ウルフオルフェノクとなっても痛みにより満足に動けない巧の真横に、天より絶対的な暴力の化身が降臨する。

 ライジングアルティメットの着地により、大地がまるで怯えているかのように震える。

188太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:47:21 ID:KTwUhEkQ0
 全身を貫く激痛と恐怖で動けないウルフオルフェノクを無視して、ライジングアルティメットは正面を向いたままで手を夜空へ掲げ、そこから先程星空を呑み込んだ闇の波動が放たれた。

 先程自分達を吹き飛ばしたのもこれか――そう巧が思ったその時に、その闇の津波から何かが投げ出される。

 それは全身の赤い装甲に亀裂を走らせたカブトの姿だった。
 さすがに天道だけあって、およそ三発波動の直撃を受けつつも未だ倒れ込むような無様を晒しはしないが、さすがに限界なのか片膝を着いていた。

 ざっ、と大地を踏み締めながら、ライジングアルティメットがカブトの方へ走る。

 必殺の拳を携え、数十メートルの距離を一瞬で詰めつつあるライジングアルティメットの前から、電子音を残してカブトが消える。

 クロックアップを発動させたのだと、ウルフオルフェノクは勝利を確信した。

 先程からの様子を見るに、絶大な暴力で巧達の命を削りに来るこの仮面ライダーからは意志が感じられない。やはりあの眼鏡の男――おそらくは大事そうに抱えているあの石に操られているのだろう。

 ならばあの男を倒す、もしくはその石を奪う――それで自分達の勝ちのはずだ。そしてクロックアップの力は先のカブトムシの怪人との戦闘でも通じた、自分達の切り札だ。

 それが背後を振り返りもせず後ろ向きに放たれ、ウルフオルフェノクのすぐ横の空間を貫いて行った暗黒の波動に易々と捕えられ、その超加速状態を強制的に解除される光景を目の当たりにするまでは――巧は、クロックアップを無敵の力だとさえ思っていた。

「天道ォォオオオオオオオオオオッ!」

 闇の波動に全身を削られ、眼鏡の男の眼前に罪人のように叩き伏せられたカブトを見て、絶叫しながらウルフオルフェノクが駆け出す。
 クロックアップさえも見切ったライジングアルティメットがそれを見逃すはずはなく、凄まじい瞬発力によって一瞬でウルフオルフェノクの背後に立ち、拳が突き出された。

 神速の拳がギリギリで横に跳躍したウルフオルフェノクを掠める。だが防御した上からわずかに掠めただけで、ウルフオルフェノクをさらに数十メートルも飛ばすほどの威力。路面に激突した際、既にダメージの蓄積されていた巧の身体はオルフェノク態を保つことができずに、再び乾巧の生身を晒す。

189太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:48:25 ID:KTwUhEkQ0
 激痛に苛まれ、呻き声を上げる巧の横にいくつかの何かの塊とともに転がって来たのは、限界を超えたダメージによってカブトの鎧が融けるように消えて行く天道総司。

 振り返った先に立っていたのは石を持つのは眼鏡の男ではなく、左手にまるで鋏のような形状の剣を握る黄金の怪人だった。ライジングアルティメットと同じように、クワガタムシを連想させるような異形をしている。

 これがあの男の正体か。ライジングアルティメットという暴風と比べてしまえば弱いものだが、身体を押されるような圧迫感。この怪人もラッキークローバーや先のカブトムシ怪人に匹敵する実力を秘めた者であることは想像に難くない。ライジングアルティメットという比較対象が異常過ぎるだけで、この怪人の強さも今の二人の装備では、クロックアップ抜きだと最初から二対一でやっと互角程度という実力は持っているはずだ。
 そんな奴が、あの絶対の暴力を使役している。今自分達はこの会場において最も厄介な相手と戦ってしまったのだと巧が悟った時は既に遅い。

 まだ戦闘――と言っても良いかわからないほどに一方的だが、互いに最初の変身をしてから20秒前後しか経過していないというのに、既に勝敗は決しているも同然だった。

「大人しく騙されておいてくれれば、こんなことにはならなかったんだがな」

 嘲るように、金色の怪人――ギラファアンデッドが告げる。

「哀れだと思うよ。俺も一度見たが、それでもライジングアルティメットの力がこれほどとは思っていなかったからな」

 背後からはそのライジングアルティメットが近づいて来る足音。それを受けて巧は立ち上がる。

 敵の強さはあまりに絶望的。ナスカメモリも遠くに落とした以上、天道は変身できない。
 それなら自分が戦うしかない。命に換えても、天道が逃げるための血路を切り開く。
 海堂直也がそうしたように、仮面ライダーとして最期まで戦う。

 ファイズギアを装着した巧に対して、敵は手出しをしなかった。

「――どうした? 早く変身しろよ」

 その様子をいぶかしんだ巧が手を止めていると、ギラファアンデッドがそう変身を促す。

「何、勘ぐることじゃない。おまえ達から情報が得られるとはもう期待していない。それならあいつの性能を確かめる実験台になって貰おうというだけだ」

「そういうことかよ……その傲慢さが命取りになるぜ!」

 ――Stading by――

 巧はそこで『555』をコードしたファイズフォンを天高く掲げて、叫んでいた。

「変身っ!」

 ――Complete――

 ベルトから全身に流れ込むフォトンブラッドが夜の闇を切り裂く光となり、胸部と四肢を銀の装甲が包み、最後にΦを象ったマスクが一際強く輝いた。

190太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:49:44 ID:KTwUhEkQ0
 仮面ライダーファイズに変身を果たした巧だが、既にその肉体は限界が近かった。
 それでも天道を逃がし切る時間を――そう思った巧の耳に、予想だにしなかった音声が潜り込んで来る。

 ――Stading by――

 音のした方を見れば、カブトに変身するのとは別のベルトを巻いた天道が、黄色と紫の携帯電話を右手に持っていた。

「変――」
「――バッカ野郎ッ!」

 先程ギラファアンデッドに挑み、あしらわれた際に、ただではやられず散らばっていた奴の支給品を回収していたのだろう。カイザフォンを躊躇いなくギアに装着しようとした天道を、ファイズは思考を挟む余地もなく反射的に止める。

「おまえ、これカイザギアなんだぞっ!? 人間が変身したら死ぬって言っただろうが!」
「乾――離せ」

 仮面ライダーに掴まれては、さすがの天道も抗えないのか――それでも彼は強い意志を感じさせる面差しのまま、巧にそう告げる。

「何もしなくとも、このままでは死ぬだけだ。俺が何とかする」

 そう言った天道が左手で投げた物にファイズが一瞬気を取られた隙に、天道はカイザフォンを空いた左手に投げ、ファイズの制止を振り切ってベルトに装着していた。

「変身」

 ――Complete――

 再び闇を押す強い閃光が、今度は天道より生じる。χをモチーフとした仮面に、全身を走る黄色いフォトンストリーム、紫の瞳を持つ仮面ライダーカイザが、そこには誕生していた。

「本当に変身するとはな」

 その光景を前にして、愉快そうにギラファアンデッドが嗤う。

191太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:51:22 ID:KTwUhEkQ0
「乾」

 カイザへの変身を果たした天道が再び呼び掛けて来る。
 呼び掛けられたファイズの方は、ショックのあまりに最初動けなかった。
 真理、木場、海堂、霧彦。護れなかった、亡くしてしまった大切な仲間達の顔が脳裏に浮かび、そこに新たに天道の顔が並ぶ。
 だが天道の呼び声に正気を取り戻し、唇を噛み切る思いで彼の横に並ぼうとする。

「――これを使って、俺にあいつから石を奪え、って言うんだろ?」

 天道が投げて来たのはファイズアクセル。それを装着しながら、ファイズはカイザへとそう返した。
 だがカイザの返答は、ファイズの予想を大きく外れた物。

「それを使って逃げろ」

 その言葉に、ファイズは天道を振り向く。問い詰める前に、二人を飛び越えてギラファアンデッドの前にライジングアルティメットが降り立った。
 両掌が翳され、再びの暗黒の波動が二人の仮面ライダーを呑み込み、大きく吹き飛ばす。

 草木が焼き払われ肌を露出した大地に叩きつけられた二人は、元々限界に近いダメージを蓄積させていたために、その一撃だけで変身を保つのが一杯一杯となっていた。

「奴らには……二人だけでは、勝てない」

 息も絶え絶えに、立ち上がったカイザがファイズにそう言う。

「この脅威を他の者達に伝えなければならないが……クロックアップさえ捕えるような奴だ。二人とも逃げると言うのは……無理だろう」

 再び主人が狙われることを警戒しているのか、ライジングアルティメットは悠然と歩く。仮にアクセルフォームとなっても、警戒している奴を超えて背後のギラファアンデッドを仕留めるのは困難だとファイズにも把握できた。

「それなら、オルフェノクに変身できるおまえが生き残るべきだ」
「ふざ……けんなよおまえっ!?」

 痛みを怒りで捩じ伏せ、ファイズはカイザに詰め寄る。
 自分を逃がすために。そのための理由作りをするために、天道は一度変身すればベルトが外れた瞬間に命を落とすカイザの力を纏ったのだと悟ったファイズの頭は、雑多な感情が統合された怒りに支配されていた。
 もはや自分は助からないのだから逃げろと言った時に、万が一にも自分が彼を見捨てずに残らないように、自ら命を断つようなことを……

 だが憤怒のままに詰め寄るファイズに対し、吹き飛ばされる寸前に掴んでおいた二人分のデイパックを投げて渡したカイザはもはや彼に取り合わず、迫り来る敵を睨んでいた。

「――俺の夢は、人間からアメンボまで、世界中の総ての命を守り抜くことだ」

 迫り来るライジングアルティメットに対して徒手空拳ながら隙なく対峙したカイザは、天道総司はそう強く言い切った。

「それをこんなところで終わらせないでくれ、乾」

 その言葉を最後に、カイザはライジングアルティメットに突撃して行く。
 呪われたベルトの力で、崩れ行く灰となる背中をファイズに幻視させながら。

 ファイズは――巧は、その後ろ姿を見送ったままに数瞬立ち止まっていたが、猛襲したライジングアルティメットの拳にカイザが捕えられたのを見て――決心を固める。

「――早くしろ、乾っ!」

 口腔に血が溜まったのか、普段より不明瞭な天道の叫びに対し、ファイズは絶叫と共にアクセルフォームを発動させた。

「うわああああああああああああああああああああっ!」

 そして、全力で駆けた。

192太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:52:27 ID:KTwUhEkQ0


(……行ってくれたか)

 そう天道は、走り去って行くファイズの背を心中で見送る。
 当然逃がすまいとライジングアルティメットが掌を翳すが、天道はその前に立って我が身を楯に波動の速度を少しだけ遅らせ、ファイズが逃げ切る時間を稼ぐ。

(本来乾は、人の命の選択などできる奴ではないだろうな)

 きっとそれは、自分達が人類を守る仮面ライダーである上で正しいことだ。その道を選び、傷つき倒れたとしても、自分達は歩み続けなければならない。

 武器一つないカイザは波動の直撃により全身の力を奪われながらも立ち上がり、天道が普段決して取ることのないガードの構えを取り、究極の暴力に対峙する。

 自分は乾を傷つけただろう、と天道は思う。自分が彼の立場だったらどう思うか、想像するのは簡単だった。

 だが、変身時間の限られたこの場においては、生き残るべきは天の道を行き総てを司るこの自分ではなく、オルフェノクという固有の力を持つ乾巧だということは間違えようのない事実だろう。

 それでも乾は、そんな理屈よりも先により多くの変身手段を持つ自分がその分戦わねばと考える男だろう。多くの仲間を失ったことで、無茶をしでかす可能性も十分にあった。

 だから彼を退かせるために、時間を稼ぐためにも――例え彼の心を傷つけようと、決心をさせるためにも、天道は呪われたベルトに手を出した。
 乾はきっと傷つくだろう。何しろこの天道総司が死ぬのだから。だが天道は、それでも彼ならその痛みさえ乗り越えられる男だと信じていた。
 だからこそ、彼に世界を託せる。総ての世界の総ての命を守り、許し難い大ショッカーを打倒する仮面ライダーとして、戦ってくれると信じている。

 今自分がするべきなのは、乾巧が進むべき道に邪魔が入らぬよう、この敵を喰い止めること――気合いを発しながらライジングアルティメットに向かい駆けるカイザは、その拳にその強き想いを乗せた。

 その拳は究極を超えた闇に届くことはなく、敵の拳を真正面から受けてしまう。

 縦に一回転して吹き飛び、天の道を行くこの身をまたも地に着けてしまいながらも、解けてしまえば終わりの変身を必死に保ちつつカイザはまた立ち上がる。

 そして、見た。

 ライジングアルティメットの姿が、元の男性の物へと戻っているのを。

193太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:53:33 ID:KTwUhEkQ0
「何……っ!?」

 戸惑っている内に、正面に立つ男の背後から飛来する斬撃。それは男の脇を通り過ぎ、カイザの装甲を切り刻む。

「ライジングアルティメット、奴を始末しろ!」

 飛ぶ斬撃を放った怪人からの、やや焦った声色の指示により男は歩みを再開し、動けないカイザを無視して脇に逸れた後、そこにしゃがみ込む。

 何をしているのか、という天道の疑問は次の瞬間晴れた。

 ――NASCA!――

 男は乾がこの場に残して行ったナスカメモリを手にしていた。
 だが、ガイアドライバーはその手にないはず……そう疑問に思うカイザの眼前で、男はそれを首輪に突き刺した。

 ――NASCA!――

 首輪にメモリが呑み込まれ、男の全身がナスカ・ドーパントへと変わる。
 だがそれは乾巧の変身していたそれとは違う、全身を真紅に染めたドーパントだった。

「赤いナスカ……R(レッド)ナスカといったところか」

 天道はそう一人呟き、考える。

(先程の声からすると、奴も焦ったようだった……やはりあの石であの男を操っていて、突然変身が解けたものだからその支配から逃れたとでも考えたわけか……)

 だが、と天道は腰の剣を抜くRナスカに身構えた。

(どうやら奴の支配から、この仮面ライダーは脱していないらしい。それなら何故変身が解けた?)

 敵の力はあまりにも圧倒的過ぎて、天道は瀕死ながら戦闘自体は未だ一分を回った程度しか時を経ていないはずだ。変身に制限があることは把握しているが、こんな短い時間ではない。

 ならば何故か。天道は一つの可能性に行き着く。

 夕方、あのカブトムシの怪人と戦った際。奴はその姿を金色に変えてから、さらにその力を増し、自分達は逃げるしかなかった。

 その際、ウルフオルフェノクに連れられて逃げる中、追い掛けようとしていた奴が人間の姿に戻るのを目撃した。
 直前まで追い掛けようとしていた奴が何故変身を解いたのか。あの時はわからなかったが……あれは解いたのではなく、解けたのではないだろうか?

194太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:54:43 ID:KTwUhEkQ0
 おそらくあれは、カブトで言うハイパーフォームに値する、上位形態。ハイパーカブトの力は他のマスクドライダーとは一線を画しており、この戦闘でさえ扱うことができれば違う結果を導いたかもしれないものだ。
 それほどの力、殺し合いのバランスを保つために制限を課せられても何もおかしくはない。そもそも戦闘力の無い一般人まで巻き込んでおいてバランス調整も何もないのだろうが、他に可能性がないのならそれは真実足り得る。

 ライジングアルティメット。昇り行く究極。それはこのライダーの強化フォームだったのではないかと天道は考えた。
 それ故に、変身時間に厳しい制限が課せられたため、相手の変身が解けたのではないか。

(なるほど……どうやら俺達は、敵の迫力に呑まれて選択を誤っていたらしい)

 ライジングアルティメットの力を感じ、圧倒的な速度を持って、一気に決着させようとしたが、実際には持久戦に持ち込めばこの悪魔的な戦闘力は直ぐに消え去っていたのだ。まったく以って判断を誤ってしまったとしか言えない。

 とはいえ、実際には乾がこの場に残っていてくれたところで、あの金色の怪人も相当な実力だ。ライジングアルティメットとの戦闘でダメージを受けた自分達では結局のところ返り討ち、結果は乾が逃げ切れた分、今の状況の方がまだマシだろう。

 それでもライジングアルティメットに変身する男を仕留めることはできたかもしれないが、悪に操られただけの哀れな男の命を奪うなど仮面ライダーにとっては言語道断だ。

 必ず、俺の分も乾達がこの男も救ってくれる――そう思った天道の視界から、赤い影がまるでクロックアップのように消え去り、腰に強い衝撃を受けた。

「――っ!?」

 突然カイザの横に立っていた赤いナスカは、カイザギアから乱暴にカイザフォンを引き抜いていた。途端天道を包んでいたカイザの鎧が消失し、生身を晒す。

 それを確認したと同時に、天道の両掌から灰が零れ始める。カイザギアの呪い、オルフェノクやその強い記号を持つ者以外が変身すれば灰化し絶命すると言う話を乾から聞いていたが、それが来たということだろう。

195太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:55:30 ID:KTwUhEkQ0
 だが、もう十分だろう。既に、時は稼いだ。アクセルフォームとなったファイズには、超加速のできる赤いナスカと言え追い付くには距離が開き過ぎている。

「……何故笑っている?」

 近くまで歩んで来ていた金色の怪人がそう尋ねてくる。
 言われ天道は、自分が笑っていたことに気づいた。

 彼は人差し指を立て、天に向ける。そして、敬愛する祖母の言葉を紡ぐ。

「おばあちゃんが言っていた。散り際に微笑まぬ者は、生まれ変われないってな」

 身体が灰となって崩れて行くのがわかる。それでも天道はさらに、祖母からの借り物ではない、自分自身の、確信に満ちた言葉を紡いだ。

「――そしてこの地には、この俺に並ぶような奴らが、仮面ライダー達がいる。だから、何も心配することがないだけだ」

 ――かつて、人間からアメンボまで、世界中の総ての命を救うと決めた自分が、取り零してしまった者が居た。
 それは、この会場に連れて来られた、もう一人の自分。
 ネイティブの悪魔の如き所業により、世界の総てを憎んでしまったあの男。世界の総てに拒絶されたと思い込んでしまった彼を、救ってくれた者達がいる。
 それは、この天道総司にさえできなかったことだ。
 人類の味方、仮面ライダー。それは天道も目指した、正義の守護者達。
 乾のように、名護のように、どんな絶望や困難にも負けない者達が、この会場にはいる。

 そして、おばあちゃんが言っていた。この世に不味い飯と悪の栄えた試しはない、と。

 ならばこの怪人や大ショッカーのような奴らは必ず敗れる。それが世の理だ。

 ただ、元の世界に残して来た妹達のことと、もう一人の自分がどう生きるのか、その道を決めたところまで見届けることができなかったことだけは心残りだが……

 二人の妹は、強い娘達だ。助けてくれる人々も何人もいるだろう。自分が帰らないことで悲しませてしまうだろうが、きっとそれも乗り越えてくれる。

 そしてもう一人の自分もきっと、もうかつてのように世界を拒み、自分自身を傷つけるようなことはしないと、そう確信できた。

 何故なら、彼にはもう支えてくれる仲間が、大勢いるのだから――

 それを最後に、天の道を行き、総てを司る男――天道総司の思考は、闇に葬られた。

196太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:56:23 ID:KTwUhEkQ0


「……死んだか」

 最期まで微笑んだまま、灰となって崩れ去った男を見て、金居はそう呟いた。

 既にギラファアンデッドへの変身は解き、灰の山からカイザギアを拾っている。五代もナスカへの変身を解除し、金居の指示でガイアドライバーを回収して来ていた。

 ――思っていた以上に、二人の仮面ライダーとの戦いから得た収穫は多い。

 それが金居の率直な感想だった。

 二人の口から情報を得ることはできなかったが、戦いの中でライジングアルティメットの真の戦闘力の一端が垣間見えた。また、ライジングアルティメットへと五代が変身していられる時間がおよそ一分と十数秒であることも把握した。
 おそらくはその強過ぎる力を大ショッカーに制限されているのだろう。放送直前の戦闘で突然変身が解けたのも地の石の支配の問題もあったかもしれないが、単純に時間制限を迎えただけだったと考えられそうだ。

 先程の戦闘で見たように、複数の――それもかなりの実力を感じさせる仮面ライダーを一切寄せ付けなかったライジングアルティメットの力はまさに無敵と呼ぶに相応しいが、一分程度しか変身を保てないのならやはりこの力でゴリ押すことを前提とした立ち回りは好ましくない。今回のように戦闘が避けられない時だけに使用は留めるべきだろう。

 次にこれまたライジングアルティメット……というより五代についてだが、表出て来る意識はなくとも記憶は残っているようだ。金居はガイアメモリのことを知らないが、五代はその使用方法を知っており、指示されずともそれがどのような代物か把握して金居の命を実行した。
 となると、下手を打てば彼にとって親しい者などと接触させれば支配に影響が出るかもしれない。そのことは警戒するべきだろう。

 そもそも個人としての感情や意志を剥奪されている今の五代自体、積極的に他の参加者と潰し合うつもりのない金居にとっては扱いに悩むものだ。ある程度参加者が減ればその絶大な戦闘力で一気に勝利まで金居を近づけてくれるだろうが、それまではどうしておくべきなのか。
 いや、そもそも信じ過ぎることは危険かと、金居は首を振る。

 次に、カイザギアを適正がない人間が使えば本当に死んでしまうと言うこと。現状では五代の変身手段が他にないためともかく、できるなら敵対者にはこれを渡して始末するのも悪くはない。仮面ライダーカイザはライジングアルティメットには無論、自分から見てもそこまで脅威ではなく、既に戦力を把握している以上、敵に未知の力を使用されるよりよほどやり易い。どのようにして敵にプレゼントし、変身させるかという問題はあるが。

197太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:57:53 ID:KTwUhEkQ0
 最後に、これは情報ではなく道具。ファイズアクセルを失ったが、充分にお釣りの来るナスカメモリとガイアドライバーを手に入れた。五代は首輪にあるコネクタで使用したが、敵だった男はわざわざベルトを使って変身していた。その差が体色の差なのかはともかく、よりこの変身ツールに詳しいと考えられる敵――乾と呼ばれていた男がそんな手間をわざわざ踏むのなら、何か理由があるのかもしれない。五代に使わせる場合はともかく、自分が変身する時はガイアドライバーを使うべきだなと金居は結論した。

 さて、自分達が殺し合いに乗っているということを知った参加者が一人逃げてしまったが……先の戦闘で負ったダメージは尋常ではないもののはず。口封じのために追いかけて仕留めるべきか、否か……



 今後の方針について思考を巡らせる金居の横で、地の石によって支配された五代雄介は物言わず仁王立ちしていた。
 彼は自らの手で、天道総司を殺め――その笑顔を奪ってしまった。
 地の石によって封じ込められた彼の心に生じただろう深い悲しみと後悔と強い怒りに、今まさにガイアドライバーというフィルターにより除去されなかったガイアメモリの毒素が流れ込み、結合しようとしているのかもしれない。

 未確認との激闘の中でも、人間らしい優しい心を最後まで失うことのなかった五代雄介。封印された彼の心がもしも再び解き放たれた時、メモリの毒に侵された彼がなおも優しい心を保てたままなのか……
 もしかすれば、太陽を葬り去ったことによって――より深く、より恐ろしい闇が生まれ出でることになったのかもしれない。
 そのことを知る者は、まだどこにもいなかった。



【1日目 夜中】
【E-7 荒野】

【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康 、ギラファアンデッドに1時間55分変身不可
【装備】デザートイーグル(2発消費)@現実、カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555、カイザショット@仮面ライダー555、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、変身一発(残り二本)@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、
五代の不明支給品×1(確認済み)、草加の不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
0:逃げた参加者(乾)を追うべきか否か……
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
4:利用できる参加者と接触したら、乃木を潰す様に焚きつける。
5:地の石の力を使いクウガを支配・利用する(過度な信頼はしない)。
6:22時までにE-5の病院に向かう。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※地の石の効果を知りました。
※五代の不明支給品の一つは変身一発@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロストです
※五代のライジングアルティメットへのおおよその変身時間を把握しました。

198太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:58:39 ID:KTwUhEkQ0
【五代雄介@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】健康、地の石による支配 、仮面ライダークウガに1時間53分変身不可、ナスカ・ドーパントに1時間55分変身不可
【装備】アマダム@仮面ライダークウガ 、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】無し
【思考・状況】
1:地の石を持つ者(金居)に従う。
【備考】
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※地の石による支配力がどれぐらいかは次の書き手以降に任せます。
※地の石の支配によって、言葉を発する事が出来ません。
※ガイアドライバーを介さずにガイアメモリを使用したことで精神が汚染された可能性があります。現在は地の石による支配によって表に出ませんが、どのような影響するのかは後続の書き手さんにお任せします。





 乾巧は、哭いていた。
 また仲間を失ったこと。自分を助けるために、天道総司が犠牲となったこと。
 自分が彼にカイザについて教えていなければ、こんなことにはならなかったかもしれなかったこと。
 それらの事実が、巧の心を酷く傷つけていた。

「天道……っ!」

 偉そうで、無愛想で、人間からアメンボまで世界に生きる総ての命を守るという、臭い台詞を自信満々に吐くような、大きい器をした、強い仮面ライダーだった男。
 元の世界では彼を待つ、彼が護らなければならなかった妹達が居ると言う。
 なら自分だろうと……死ぬべきだったのは、既に命を失くしたオルフェノクである自分だろうと、巧は拳を地面に叩きつける。
 何度も、何度も。血が滲んでも構わずに。

 何も護れない。海堂が命を懸けて、もう一人の天道を救ったと言うのに、自分は死人の分際で天道を犠牲にして生き残ってしまった。霧彦の死に目に約束したような良い風など、自分なんかでは吹かせられなかったのだ。

 何度も、何度も。巧はひたすらに自分の拳を痛めつけた。

「天道ォ……っ!」

 再び拳を振り降ろそうとして、巧の脳裏に彼の最期の頼みが蘇る。

『――俺の夢は、人間からアメンボまで、世界中の総ての命を守り抜くことだ』

『それをこんなところで終わらせないでくれ、乾』

 天道のその声を思い出し、血が滲むほどに握り締めた拳を――巧は、振り降ろせなかった。

199太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 01:59:27 ID:KTwUhEkQ0
 彼が自分に望んだことは何だ? 彼を犠牲に生き延びた罪悪感から逃れるために、こうやって自らを痛めつけることか? そんな下らないことを望むような、小さな男だったか?

 答えは否。断じて違う。

 彼は太陽のように大きな男だった。彼が今の自分の立場だったら、こんな風に悲しみに屈したりはしない。無様な醜態を晒すことなど決してしない。
 なら自分はどうするべきなのか。彼に貰ったこの命を、どう使うべきなのか。

「……決まってるよな、天道」

 そう巧は、ぽつりと呟いた。

 自分達は――正義のために戦う人類の味方・仮面ライダーだ。
 こんなところで膝を屈している場合じゃない。仲間を失ったのなら、その仲間の分も、誰かを護るために戦いを続けなければならない。

「――俺が、護るぜ。おまえの世界も、霧彦の世界も、俺の世界も、全部の世界を、だ。総ての世界の、人間からアメンボまで、総ての命を護り抜く。俺がおまえの代わりになる。
おまえの理想は、俺が継ぐ」

 霧彦の妹さんも、天道の妹さんも、自分が必ず護り抜く。

 世界の総ての命を護り、世界中の皆を洗濯物が真っ白になるように幸せにして、綺麗な世界にしてみせる。そのために最期まで戦い抜いて見せる。

 自分は、仮面ライダーなのだから。

 そうだろ? 真理、木場、海堂、霧彦、天道……!

 決意を胸に、乾巧は歩き始めた。

 散って行った仲間達のために。仮面ライダーとして。
 闇の葬られた太陽の代わりに、闇を切り裂き、光をもたらすために。



 そうして再起した巧の様子を、上空から見守る影が一つ。
 主人の考えた通り、彼は仲間を失った痛みを乗り越えた。きっともう大丈夫だろう、彼は仮面ライダーなのだから。

 ならば自分は、天道総司に代わりとなって天の道を行く者を探すこと――それが使命だと、カブトゼクターは考えていた。

 天道がカイザになった際に投げ捨てていたベルトを抱えて、カブトゼクターは夜の中を飛ぶ。

 この闇を照らす、新たな太陽を求めて。

200太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 02:00:05 ID:KTwUhEkQ0
【1日目 夜中】
【D-6 草原】


【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、深い悲しみと罪悪感、決意、ナスカ・ドーパントに1時間45変身不可、ウルフオルフェノクに1時間45分変身不可、仮面ライダーファイズに1時間55分変身不可、右手に軽い怪我と出血
【装備】ファイズギア+ファイズショット+ファイズアクセル@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×2、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。世界を守る。
0:天道の遺志を継ぐ。
1:仲間を探して協力を呼びかける。
2:間宮麗奈、乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。
3:霧彦のスカーフを洗濯する。
4:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
5:橘朔也、日高仁志、小野寺ユウスケに伝言を伝える。
6:仲間達を失った事による悲しみ、罪悪感。それに負けない決意。
7:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
8:石を持った眼鏡の男(金居)とそれに操られている仮面ライダー(五代)の危険性を他の参加者に伝える。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。



【天道総司@仮面ライダーカブト 死亡確認】
  残り34人
※天道の遺体は灰化しました。首輪は【D-7 荒野】に放置されています。

【全体備考】
※E-7エリア 草原が戦いの余波で荒野となりました。
※カブトゼクターが次の資格者を探して移動を始めました。行き先は後続の書き手さんにお任せします。

201太陽は闇に葬られん  ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 02:06:22 ID:KTwUhEkQ0
以上で予約分の投下を終了します。

>>182->>191が前篇、>>192->200が後篇となります。

また御指摘の方よろしくお願いします。

202名無しさん:2011/10/23(日) 07:06:14 ID:7Mw0QobcO
投下乙です!
やはり天道はカイザに死ぬ運命にあったか……
でもたっくん、どうか彼の意思を継いでくれると信じたいな!

203名無しさん:2011/10/23(日) 07:35:53 ID:lrSjU46s0
投下乙です。
タイトルの時点でもしやと思ったらやはり天道が……影響が大きそうだ。
ファイズアクセルを取り戻したとはいえナスカが奪われたのが地味に痛い……
しかしRアルティの変身時間が1分少々……
ノーマルが10分、ライジングが5分、アメイジングが2分半と半々にしていったらそれぐらいになるか……(微妙に違う気もするけどそれだと1分も使えず、話にならないので仕方がない)

それとこれだけは言わなければ

ま  た  カ  イ  ザ  ギ  ア  か

……そりゃ、過去2シリーズいずれもそれだけどまさか今回も……

204名無しさん:2011/10/23(日) 08:57:56 ID:lrSjU46s0
1点だけ気になったところがあったので指摘します。
ベルトとゼクター以外の天道の所持品(特にディエンドケータッチ、サバイブ疾風)はどうなったのでしょうか?
本編描写を見る限り少なくても金居が手に入れた様子はなく(ナスカ関係には言及している一方そっちにはないので)、
天道の性格上、自分が死ぬとわかっているなら巧に託す方が自然かなと(そんな余裕などないといえばそれまですが。)思ったので。

205名無しさん:2011/10/23(日) 09:04:01 ID:lrSjU46s0
しまった、>>191で2人分のデイパックをカイザが渡したって記述があったのを忘れていた。ということは巧が所持と。
ただ、どちらにしても巧の状態表から抜けているのでそちらの修正が必要だと。
(巧が所持していたのは巧、霧彦のデイパックの2人分、そして天道分を受け取るという流れだからデイパックは3つ分?)

206 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 09:35:44 ID:KTwUhEkQ0
>>204
御指摘ありがとうございます。
そうですね、巧の状態表に記述するのを完全に忘れていました。

後で修正用スレの方に投下させて頂きます。

>>203
ライジングの時点で5分なんでしょうか? どこかで制限としてアルティメットで2分半とあったと記憶していたので、その上であるライジングアルティメットは1分15秒のつもりで話を考えたのですが……

207名無しさん:2011/10/23(日) 10:12:29 ID:hVcLFDHgO
アルティメットが2分半というのは、「究極の幕開け」の修正前での描写だったと思います。
また、「究極の目覚め」でユウスケがアルティメット化した際は半減(=5分)に留まっていました。

これを考えると、今回のRアルティメットの時間制限で1分強は行き過ぎでは…? と感じました。
他の強化と同じく5分か、あっても2分半で十分かと思います。
(これでも十分脅威たりうるはず)

208 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/23(日) 10:26:15 ID:KTwUhEkQ0
>>207
ユウスケのアルティメットが5分なのに対して、五代のアルティメットが2分半なのは中間形態(ライジング及びアメイジング)の有無が原因かと思います。
ゴオマも、強化体に変身できなかったもののその中間形態のせいで究極体には2分半しか変身できなかったので……

ただ行き過ぎだと考える方がいらっしゃるのなら全体のバランスに関わることかもしれないので、できれば他の方の御意見もお聞きしたいです。
議論スレの方に投下して意見を募集してきます。

209名無しさん:2011/10/23(日) 18:48:30 ID:mGoNEt9EO
投下乙です!もう散々言われてますがとりあえず……ま た 天 道 の 死 因 カ イ ザ ギ ア か、これじゃもう本当に呪いのベルトじゃないかなぁ?

そして意外なタイミングでRナスカ、また時間の厳しい強化形態……持久力の無い手札ばっかり揃っていきますなぁ。

210名無しさん:2011/10/23(日) 19:12:33 ID:AhHmdu0I0
投下乙です!
天道…最後まで立派な仮面ライダーだったよ、お前は。
にしても、また死因はカイザギアかぁ…最早因縁だなぁ。
たっくんも主人公らしい境遇だけど、ここから立ち直れるのか…とにかく二人ともかっこよかったです。

制限は全員五分なんだと思ってた。
一分だと短過ぎて今後動かしづらいだろうから、二分でいいかなとは思います。

211名無しさん:2011/10/23(日) 19:51:58 ID:Hq90X7Ww0
投下乙です。
天道おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!
またカイザギアで死亡か……最早天道とカイザギアには因縁めいた何かがあるとしか思えないなw
ライアルは元祖アルティメットと違って派手に動き回れるから、その点戦闘に迫力を持たせられて良かったなぁ。
元のアルティメットの性能考えたら、そりゃあペガサスをもっと発達させた能力も含んでるんだからクロックアップだって見切れるわな。
金居が一言「全力で」と命令するだけでここまで驚異的な力になるとは……恐るべし、ライジングアルティメット。
その一方で、天道と巧は最初に金居の嘘を見抜いてしまったのが仇となったか……もし騙されてたら死にはしなかったのに……
でもその分、天道は最期まで熱かったし、巧はそれを受け継ぐと決意を固めたようで、巧の今後が気になります。

212名無しさん:2011/10/23(日) 20:27:16 ID:H/d3vTzcO
ま た カ イ ザ ギ ア か

213名無しさん:2011/10/23(日) 21:40:18 ID:p3xuE5LsO
またカイザギアで死んだか天道……、でも実際天道は完璧過ぎて下手に戦闘で死亡とかよりは回避できないカイザギアで一片の姿形を残さないで死んだほうが彼らしいような……。
あと別に指摘点って言うほどではないんですけど確かディケイドの力復活の条件って心を通わせるか、死体確認でしたよね?(間違ってたらすみません)
……あれ?天道灰になって吹き飛んでね?

214名無しさん:2011/10/23(日) 21:46:56 ID:6H.1hN6E0
新しいカブトの資格者が誕生すれば・・・・・・

215名無しさん:2011/10/23(日) 23:37:05 ID:zzEkoVWE0
天道にはカイザギアの呪いが付きまとってるようだ・・・

216名無しさん:2011/10/26(水) 21:33:57 ID:biaBweu60
ま た カ イ ザ ギ ア か
しかも「散り際に微笑まぬ者〜」もいっしょという

217二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/10/27(木) 19:57:59 ID:yk3OjOU20
ここのコメ見て二つのロワの天道の動向見てきたが、すごいな。
剣崎一真の早期死亡並、あるいはそれ以上にすごい気がする。
まさか今読んでるなのはロワまで…ってことはさすがにないか。
そもそも支給されてないし。

218名無しさん:2011/10/27(木) 21:34:46 ID:Uq8FvOPs0
投下乙
今の所マーダー勢の強さが半端ないな
やっぱ対主催の殆どがアイテム無いと強化出来ないのがキツイか〜

219名無しさん:2011/10/28(金) 19:17:35 ID:hOf7oPCg0
久しぶりの三原に期待

220 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:42:08 ID:1I84greM0
感想ありがとうございました。

御期待に添えるかはわかりませんが、これより予約分の投下を開始します。

221 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:43:14 ID:1I84greM0
 夜の帳に覆われたD-1エリアにおいて、煌々と光を漏らす白亜の建造物があった。

 そのエリアにおいて最も大きな建造物。病院の二階広場で三原修二は頭を悩ませていた。

 ――園田真理がまた死んでしまった。

 同じ流星塾の仲間。大ショッカーによりここに連れて来られる前、スパイダーオルフェノクへと変貌した同輩、澤田亜希により殺害された少女は、この地でもまたその命の華を散らしていた。

 ――これで草加は止まらないだろうな……リュウタ達も殺されちまう。

 カイザに変身できる草加は、単純に戦闘で言えば一番頼りになったかもしれない。だが、真理が死んでしまった今、彼が大ショッカーの口から出た願いを叶えるという約束を信じ、異世界の参加者を殺し回ることは容易に想像できた。
 そんな草加に、今の自分の同行者であるリュウタロス達を会わせるわけにはいかない。
 そうなると自分達が頼れるのは、乾巧と野上良太郎の二人しかアテがない。
 ――リュウタロスの仲間であるモモタロスは、真理と一緒に放送で呼ばれてしまったのだから。

 途中で気絶していた女性を拾い、身体を休めるのに一番良いだろうと二人が病院に付き、そこの一室に彼女を横たえた後――大ショッカーによる放送が行われた。
 こんな状況に自分達を放り込んで、嘲笑う大ショッカーに対して怒りや恨みは当然あるものの、それを口にしたら最初のあの男のように殺されてしまうんじゃないのかと怯えて、三原は結局何も言えなかった。
 代わりに、リュウタロスは激しく嘆いた。

 モモタロスが死んだと聞いて、嘘だと喚き始めた。こんな状況で女性を起こすとまずい、と三原が何とか外に連れ出して、泣き叫ぶリュウタロスをひたすらに宥めた。
 もしかして、仲間が死んだから草加のように優勝狙いに乗り変えないかという不安もあった。彼が敵になったら勝てるのか――そもそも自分はこの半日を共に過ごした稚気に溢れる怪人を撃てるのか、という三原の不安は杞憂だった。

 それこそもう三十分近く泣き果たしたものの、リュウタロスはやがて落ち着き、こう言ったのだ。

「モモの分まで、僕が良太郎を守るから。僕ら、大ショッカーを倒すから。だから、心配しないでよね」

 死した友にそう宣言するリュウタロスを見て、三原にも感じさせられるものがあった。
 リュウタロスは見た目こそ恐ろしげだが、その心はまだ幼い。きっと人間なら子供なのだろう。
 そんな彼は仲間の死を受け入れて、自分の成すべきことをきちんと把握し、理不尽に立ち向かうことを宣言したのだ。不幸にも先立った友のために。

 そんな彼に比べて、自分は元の世界で真理の死体を見せられても、自分には関係ないと目を閉じ、耳を塞ぐだけだった。そうすれば無関係になれる、怖いことや面倒なことに巻き込まれずに済む、などと考えて、逃げ続けていた。

222 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:43:52 ID:1I84greM0
 この幼いイマジンは、自分よりずっと強い。そう、本当の意味で認めざるを得なかった。
 そしてそんな彼をもうこれ以上、悲しませたくなかった。

 良太郎の手掛かりは何も掴めていない。そもそも自分達は殺し合いが始まってからというもの、放送前に見つけたあの女性以外にはたった一人の襲撃者としか接触しておらず、掴みようがない。

 だが、彼女が持っていた四つの仮面をつけたみょうちきりんな剣――デンカメンソードは、野上朗太郎の武器だという。
 ひょっとすると彼のことを知っているのかもしれない。何にせよ話を聞く必要はある。
 だが彼女の寝顔は随分と苦しそうで、しばらくは休ませてあげようよと他ならぬリュウタロスが言った以上、三原達は彼女の目覚めを待ち続けるだけとなっていた。

 あの人は女性だし、リュウタロスは怪人だけどまだ子供だ。それなら自分は――未来では、きっとデルタとして勇敢に戦っているはずだ。また真理を助けることはできなかったけど、良太郎や乾さんのような他に護ってくれる人がいない以上、男である自分が頑張らないと、と三原は頬を叩く。

「そうだよ……護ってくれる人と遭えるまでで良いんだ。それまでは、俺が二人を護らないと……」

 既に参加者の内からその三分の一もの死者を出すほど苛烈な、この世界を懸けた殺し合いで、他の世界の住人を助けてくれるような御人好しが、果たして何人存在するのかは三原にはわからない。
 だが少なくとも乾と良太郎は信用できるし、彼らのような人間が他にいないと無理に考える必要はないはずだ。三原はそう、希望を持つことにした。

 結局は他力本願だが、それでもその頼るべき他者と出会えるまでは自分が頑張ると決意できたというだけでも、これまでのことを考えると十分な進歩なのかもしれない。

 ――と、そこで病院の床を鳴らす軽快なステップに気づいた。

「修二ー、見回り終わったよー。誰かが戦った跡はあるけど、やっぱり僕ら以外には、今は誰もいないみたい」

 現れたのは件のリュウタロスだった。放送直後はあれほど取り乱していたというのに、今はそれを微塵も感じさせず陽気に手など振っている。

「そっちは何もなかった?」
「ああ、うん……あの女の人のところずっと見てたけど、誰も来なかったし、まだ寝てるみたいだ」

 実際には少し思考に没頭して余所見もしていたが、特に気配などはなかったし、大丈夫だろう、多分。

 決意に対して少し無責任な気が自分でもして、三原は少しだけ肩を落とした。

「でもさ、病院の電気全部点けて良いの?」

 リュウタロスの疑問はもっともだ。だが三原にももちろん――上策とは言えないものの、一応の考えはあった。

223 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:44:58 ID:1I84greM0
「そりゃ、本当はない方が外から目立たないから良いけど……また危ない奴が来るかもしれないけど、あの人を真っ暗闇の中で眠らせるのも何だか悪いし、この中に侵入されてても敵を見つけ易いんじゃないかなって俺は思ったんだ」

 灯りもない夜の病院なんて、影を見るだけで自分は怖いし、と三原は内心呟く。

「それに危ない奴だけじゃなくて、きっと良い人も病院に人がいるかもしれないって来てくれると思うから……」

 三原がそこまで呟いた時、硬い音が下の階から聞こえて来た。

 誰かが歩いている音だと気づくのに、二人にはそう時間は掛からなかった。

「リュウタロス!」

 焦りながら、しかし生来の気質もあって三原は小声で目の前の怪人に呼び掛ける。

「俺が様子を見て来るから、おまえはあの人のところに行っておいてくれ。もしも戦いになったら、俺が時間を稼ぐから、その間にあの人を連れて逃げるんだ」

 そう、先程決意したばかりの言葉を、三原はリュウタロスに伝える。
 少し声が震えたかもしれないけれど、そんなことを気にしている場合じゃない。

「うん、わかった」

 リュウタロスは勢い良く頷き、あの女の人を置いて来た病室に向かう。

「――気をつけてね、修二」

 リュウタロスの声に孕まれた感情が、ただの心配だけではなく。
 微かに恐怖を含んでいたことを感じ取って、三原は彼を安心させるべく力強く頷いた。

 ……とは、言ったものの。やはり三原は三原だった。
デルタギアをいつでも装着できるように準備しながらも、気づかれないよう遠くの階段から慎重に一階に降りて物影に身を隠しているにも関わらず、エントランスにて視線を彷徨わせている二人の男を目にすると、恐怖に震えるのを抑え切れなかった。

「誰かいませんかー」などと呑気そうに二人揃って声を挙げていても、油断してはいけない。
 もしも、彼らが殺し合いに乗っていたら――相手は二人だ、いくらデルタが強いライダーズギアと言ってもそれはあくまで自分の世界の話であって、別世界に対して優位性があるとは限らない。さらに言うと一度しか変身していないため、その力にも戦いにも慣れていない自分では相手二人が怪人やライダーなら数の差を埋めるなんて到底できないだろう。

 きっと、成す術もなく殺される。リュウタロスを悲しませることになるかも知れないし、何より自分が死ぬのも痛い目を見るのも嫌だ。

 それでも、リュウタロスと約束したのだ。自分が様子を見て来る。危険人物なら、時間を稼ぐ。
 男は自分だけで、後は女子供だけ。それなら、自分がやるしかない。
 ここで頑張らないで、いつ頑張るんだ。

「あ、あのっ!」

 そう勇気を振り絞って、三原は物影から飛び出し、二人の男に呼び掛けた。

「あ、あなた達は、殺し合いに乗っているんですか――!?」

224 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:45:41 ID:1I84greM0







 葦原涼のアパートを出てから、一時間と少し経過した頃。
 津上翔一と城戸真司は、D-1エリアの病院を目指していた。

 蜘蛛のモンスターに操られた小沢澄子を救い出すという当面の目的を持つ二人だが、目的地をどこにすれば良いのか二人ともよくわかっていなかった。
 一先ず小沢が変身した緑のライダーが向かって行った北側を目指す、という大雑把な行動方針はあったものの、それだけで見つけ出すのはさすがに無理があるというもの。
 そんな二人に策を授けたのはキバットバット?世だった。

 曰く、小沢や未確認の前に操られていた男は病院にいる怪我人を狙ってやって来た、と。
 結果は――返り討ちに遭い、未確認の暴力に晒されると言った無惨なものだったが、またその時と同じように病院に集まる負傷した参加者を狙う可能性は高いと、キバットは推測を二人に伝えた。
 結果として二人は、即座にそれに乗った。小沢が居なくとも、病院はそのモンスターの思考したように、怪我人が集まり、それを狙う危険人物も集まり易い場所。人を護る仮面ライダーとして共に戦うことを決意した二人は、当然のように病院を目指していた。

 二人の仮面ライダーを導く高貴な夜の眷属の後ろ姿はしかし、どこか悲しげで。
 目的地についての提言をしてくれてから、またキバットは黙り切っていた。
 その蝙蝠の姿は、真司にまだこの地で生きているはずのある男を連想させていた。

「なあ、キバット。おまえずっと元気ないよな」

 余計なお世話だとか、無遠慮に傷口に踏み込んでいるんじゃないか、といった心配は、もちろん真司にもあった。
 それでも、ひょっとしたら自分が力になれるんじゃないか、という気持ちの方が勝るのが城戸真司という男の常だった。

「……おまえには関係ないことだ」
「そんなこと言っちゃいけないですよ、キバット。せっかく城戸さんが心配してくれてるのに」

 ある意味真司以上に空気が読めないと思われる翔一がそう口を挟む。
 黙れと返すキバットに、今度は真司が喰いつく。

「関係なくないだろ! 何か悩みがあるなら、力になれるかもしれないじゃないか」
「そうですよ。俺達、もう仲間なんですから。遠慮なんかしなくて良いです」
「仲間、だと?」

 笑わせる、とキバットは切り捨てる。

225 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:46:19 ID:1I84greM0
「手伝ってやっているからと、勘違いをしていないか? 俺は大ショッカーが気に食わないだけであって、おまえ達とは違う世界の住人だ。おまえらの仲間などになったつもりはない」
「でも、おまえの世界を脅かす大ショッカーは許せないんだろ」

 真司も引き下がらない。意地を張るのが蝙蝠だと、ある仮面ライダーの姿を思い出しながら。
 彼の時と違って、今、自分達の目的は一致しているはずだ。
 そのキバットが隠す悩みを共有して、少しでも負担を減らしてやりたい。真司も翔一も同じ想いだった。

 当然だ、とキバットは間を置いてから頷いた。

「それじゃ、やっぱり俺達は仲間ですよ」

 間を置かなかったのは、真司の隣を歩む翔一。

「俺達だって、大切な人がいる自分の世界を護りたい。でも、そのために何の罪もない人を犠牲にするなんてやっぱりおかしいです。だから、こんなことを強制する大ショッカーが許せない。
 同じ気持ちを持って戦うなら、それは仲間なんじゃないですか?」

 自分が言いたかったことを上手く言葉にして貰った真司はそうだそうだと頷く。

「おまえは俺達を助けてくれたじゃんか。俺達はおまえのこと、もう仲間だって思ってるんだからな」

 二人の男の訴えに、夜に舞う赤と黒の蝙蝠は答えず、そのまま時が流れるだけかと思われた。

「――仲間とやらでも、少しは遠慮を覚えろ」

 そう溜息を漏らしたのは、根負けしたキバットだった。

「おまえ達に心配されるほど俺が落ちぶれているのは――先の放送で、知人の名が在ったからだな」

 その言葉に、真司はまた土足で踏み込んでしまった、と後悔を覚える。隣の翔一も、一瞬だけ息を止めたのが感じられた。
 そんな彼らの様子に、「勘違いするな」とキバットは続ける。

「そいつは知人で、かつては共に戦いもしたが……互いに道を違え、拳を交えた敵だ。……実力は、俺の知る全ての者で最強だったがな」



 そう。故にキバットは焦っていた。

「奴のことだから殺し合いに躊躇などなかっただろうし、俺は奴とは違って大ショッカーの思惑に乗り、悪趣味な催しの駒に成り下がるつもりはない。
 だが、俺の世界で最も強力な参加者が死んだわけだ。もしも殺し合いが続けば、俺の世界が勝ち残れる可能性は限りなく低くなった、ということが問題だ」

226 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:47:07 ID:1I84greM0
 いくら真夜に非道な行いをし、惨めな振舞いを続けたが故に見限り、紅親子と力を合わせ真夜のため打倒した相手とはいえ、キバットにキングへの情が一切残っていないわけではなかった。
 無論、眼前に現れたなら互いに敵と見なし、手段はともかく戦うつもりではあった。
 だが彼とは永き時を生きた戦友でもあり、真夜への仕打ちに耐えられず離反したキバットだったが、真夜との関係という一点を除けばキングを立派なファンガイアの王だと今でも認めてはいた。そうでもなければこの闇のキバの力、与えたなどしない。
 凶悪なゴブリン族を滅ぼし、強大無比のレジェンドルガにさえも自らと力を合わせて打ち勝ち、ファンガイアに平和と繁栄を齎した、偽りなき勇者であり英雄であった者、キング。
 自らの知らぬところで二度目の命を散らせた戦友を嘲笑った、あの大ショッカーのキングとやらに憤るより先に、あんな奴にまで嗤われるほどに堕ちてしまったかつての友に、哀惜を覚えないと言えば嘘になる。

 とはいえやはりキバットを悩ませたものは、自らが彼から奪った闇のキバと未来より現れた黄金のキバ、二つの王の鎧を結集してようやく打倒し得るほどの戦力を誇るあのキングの脱落。
 制限があるとはいえ、その彼がこうも早く敗れ去ったのは、運悪く制限時間に引っかかったのか。それとも、単純に異世界の戦士や怪人はキバの世界で最強の存在だった彼をも凌いだのか。
 願わくは前者であって欲しい。だが希望的観測であることもわかっているからこそ、それほどに危険な戦場で、真夜の愛した男とその息子がいつまでも無事でいられるとキバットは思えなかった。
 彼らが死ねば、真夜は悲しむ。そしてその真夜も、忌々しい大ショッカーによって世界ごと命を奪われることになる。

 だが、頼れる者などいない。翔一の炎のアギトの力はチェックメイト・フォーに匹敵か凌駕する勢いだが、キングには及ばない。その彼を打倒し得る存在が居るなら、この二人の仮面ライダーも屠られるだけだろう。

 既に参加者の三分の一が命を落とすほどのこの殺し合いを、本当に止めることができるのか。
 かと言って、屈辱に甘んじて大ショッカーの思惑に乗ったところで、音也も渡も殺し合いに乗るなどあり得ない以上、散々繰り返したが戦力の問題もあり、キバの世界の優勝は絶望的のはずだ。

「――大丈夫ですよ。キバットの世界だって、俺達が護って見せます」

 まさに八方塞なキバットだったが、その必要最低限の心情の吐露に対し、翔一は眩く、柔らかい笑顔を浮かべた。

「そうだ。なんたって俺達は、人類の自由と平和を護る――仮面ライダーだからな!」

 その翔一に続いて、翔一よりも力強さを感じさせる表情でキバットに告げるのは、真司。

227 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:47:45 ID:1I84greM0
「城戸さん、でもキバットは人間じゃないですよ」
「あー、そっか! でもなぁ、おまえはもう仲間だからな! キバットもキバットの世界も、俺達が護るってのに変わりはないから、安心してくれよ!」

 騒がしく手を動かし、真司がそう指差しながらキバットを励まそうとする。

 何となくわかっていたが、この二人の男はあまり頭が良いとは言えないだろう。キバットの気が滅入るほどの状況をきちんと認識できているか、疑ってしまうほど。
 だが、それでも。
 あの凶暴な未確認との死闘を潜り抜け、小沢澄子という同行者を蜘蛛の怪物に連れ去られても。
 力強く、優しい笑顔を浮かべるこの異世界の戦士達を信じても良いのかもしれないと、キバットは不覚にも一瞬思ってしまった。

「ふん……好きにしろ」

 そう呟いてキバットは再び前を見る。
 本音を言えば、潰し合うべき世界の住人である自分をここまで想ってくれる人間達に、悪い気はしないと考えながら。

 二人と一匹の向かう先には、夜の中で光を零す白亜の建造物の姿があった。

 ……そうして、現在に至る。

「あ、あのっ!」

 全体の電灯を点けた無防備な病院のロビーで、参加者が居ないかと呼び掛けていた彼らの前に、気弱そうな一人の青年が姿を現し、問いを投げて来た。

「あ、あなた達は、殺し合いに乗っているんですか――!?」







「うーん、修二大丈夫かなぁ」

 病室の隅で座って、リュウタロスはそう心配を口にする。

228 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:48:42 ID:1I84greM0
「でも、修二強くなったなー、特訓した甲斐があったよね」

 熱っぽいとか、バイトがあるとか、見苦しい言い訳をあれだけ吐いていた修二が、戦いになったら自分が時間を稼ぐ間に逃げるように、なんて言って来た。
 リュウタロスは彼の成長が何だか自分のことみたいに嬉しくなって、へへーっと膝を抱えて笑う。
 戦いの音も、修二の叫び声なんかも聞こえて来ない。今のところは上手く行っているのかな、とリュウタロスは思う。
 六時間の間に、モモタロスを含めて20人も死んでしまっている。それなのに自分達はまだ他の参加者とまったく接触できていない。
 そこで眠っているお姉ちゃんが起きる前に他の参加者が来たことで、事態が好転すると良いな、とリュウタロスが考えた時だった。

「うっ……」

 ベッドから漏れる呻き声に、リュウタロスは思わず「あっ!」と声を発し、立ち上がった。
 駆け寄ってベッドを覗き込むと、美しい女性がゆっくりと瞼を開けるところだった。

「お姉ちゃん、目が覚めた?」







 白い、シオマネキのような大きなハサミを持った怪人の姿が、脳裏に蘇る――

 ――おまえ達にも聞かせてやろう……私のレクイエムを。

 そうして、複数の醜悪な異形を薙ぎ払い――

 ――麗奈さん。

 響いたのは、彼女を愛し、彼女が愛した男の声。

 ――そこで彼女の意識はまどろみから浮上した。

229 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:49:11 ID:1I84greM0
(今のは……夢?)

 重たい瞼を開きながら、彼女――間宮麗奈は思考をはっきりさせ始めた。

(確か……怖い男の人が現れて、照井さんがやられて、一条さんと、桐谷くんが追い詰められて……それで……)

 山羊の意匠を持つ異形の怪物が、自分に向かって来るビジョン。
 その後どうなったのか、思い出せない。
 殺し合いを強要されたこと自体が夢だったのか、と逃避したくなったが、首筋に覚える硬質な感触がそれを許さない。

(ここは……どこなの?)

 ぼやけていた視界がはっきりしたその時、彼女の目に映ったのは、最後の記憶と似通ったものだった。

「お姉ちゃん、目が覚めた?」

 そう幼さを感じさせる声と共に彼女の視界に飛び込んできたのは、龍を思わせる顔をした、異形の怪人だった。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 絶叫が、夜の病院に響き渡った。







「いいえ、殺し合いには乗っていませんよ」

 決死の覚悟で放たれた三原の問いに、ニコニコしている方の男が答えた。
 こちらを安心させるような笑顔の男に、若干警戒を解きつつ三原は確認する。

230 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:50:05 ID:1I84greM0
「ほ、本当ですか?」
「本当です」
「ほ、本当に本当ですか?」
「本当に本当だって」

 もう一人の男もそう三原に答える。
 どちらも人畜無害そうな容貌をしているが、信用しても大丈夫なのだろうか?

「そうしないと、自分の世界が危ないのに、ですか?」
「それでも、他の誰かや世界を犠牲にするなんて間違ってる。こんな殺し合いだって、世界の崩壊だって、俺達が止めてやるさ」
「だって俺達は、人類と自由の平和を護る、仮面ライダーなんですから。だから、安心してください」
「本当に……?」

 何度目になるだろうか。三原はそう呟いて、固めていた覚悟を解きつつあった。
 この人達は、信用できる?

「失礼かもしれませんけど、あなたは戦いに慣れている人には見えません。こんなところに連れて来られて、怖かったですよね。でも、もう大丈夫です」

 三原のことを見透かしているように、笑顔の男が一歩踏み出して、力強く頷く。

「俺、津上翔一って言います。アギトです」
「あっ、俺は城戸真司。仮面ライダー龍騎」

 もう一人の男もそう続けて、自己紹介をして来る。三原も釣られて、「俺は三原修二って言います」と名乗る。

「三原さんか。俺も翔一も仮面ライダーだから、きっと三原さんのこと護れるよ。だから、もう心配しなくて大丈夫ですよ」

 そう、城戸と名乗った男も屈託な笑顔を見せて。
 三原は、肩の荷が降りるのを感じていた。
 この二人はきっと、本当に殺し合いを止めようとしている、人を護る仮面ライダーだ。
 もう、無理に自分が頑張らなくて良い――そう三原が思って、自然と顔が綻んだ時だった。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 病院の上の階から、女性の悲鳴が聞こえて来たのは。

 三原は振り返り、津上と城戸も厳しい表情になったかと思うと、直ぐに走り始める。

「ま、待ってくださいっ!」

 猛烈な勢いで階段を昇る二人を追って、三原も必死に走る。

231 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:51:00 ID:1I84greM0
 さっきの悲鳴は、多分あの女性のものだろう。
 リュウタロスが他に誰もいないことを確認したはずなのに――まさか、別口から誰かが侵入して来たのだろうか?

 もしも、二人が殺されていたら――三原のそんな不安は、直ぐに晴れた。

「お姉ちゃん、やめてよ〜!」

 駆け付けた先で繰り広げられていた光景が、ある意味脱力物だったためだ。

 真剣な恐怖を浮かべた妙齢の美女が、キャアキャア言いながら子供っぽい仕草のやたら厳つい顔をした紫の怪人に、とりあえず枕だの花瓶だのと言った投げられる物を手当たり次第に投げつけて、部屋の外に追い出しているという図は、当人達は必死でもどこか愛嬌があった。
 そういえば、もう慣れていたけれどもリュウタロスは異形の怪人で、目が覚めていきなりそれを目にしたら女性がどういう反応に出るか考えるべきだった、と三原は頭を抱えたくなった。

 だが三原がその光景に対し誤解を解いて場を収めなければ、と思えたのは、リュウタロスのことを彼はよく知っていたからで。
 初対面の二人の仮面ライダーにとっては、(冷静になってみれば明らかに妙だと気付きそうだが)リュウタロスという怪人が女性に襲い掛かっていたようにしか見えなかったのだろう。

「その人から離れろ、モンスター!」
「城戸さん、俺が行きます! 二人をお願いします――変身!」

 疾走の速度を一段上げた津上翔一の姿が光に包まれて、それが消えたと思ったら現れたのは黒い体躯に金の装甲を持つ仮面ライダー。自己紹介によれば、アギト。

 彼が勢いよく殴りかかって来たのを、リュウタロスは慌てて飛び退いてかわす。

「わっ、何々!?」

「もう、あんなことは繰り返させない!」

 リュウタロスに構えるアギトの後ろでは、「大丈夫ですかっ!?」と城戸が新たな異形に驚く女性に駆け寄り、保護していた。
 それを感じ取ったアギトが、気合いと共にリュウタロスへと距離を詰め――

「わー! 待って待って! 待ってください!」

 彼らの間に、何とか三原が割り込んだことによってアギトが止まった。

「退いてください、三原さん。危ないですよ!」
「違うんです、こいつは違うんですってばっ!」

 この様子を見るに、やっぱりこの二人は信用できるんだろうけど――
 ――自分が頑張らなくて良いなんて思ったのは甘かったと、三原は痛感させられていた。



 病院の周辺を見回り、特に他の参加者の姿が見受けられなかったために二人に遅れて病院の中に入ったキバットバット?世は、二階の喧騒が聞こえて来て直ぐそこに向かい、一部始終を見ていた。

 どこかあの鬼に似ている異形から女性を護ろうと立ち向かった津上だったが、キバットがあの紫の怪人から特に害意が見受けられなかったと感じたのは正しく、三原とかいうどう見ても殺し合いに乗っていない参加者の仲間だったらしい。

 未確認をアギトと勘違いして犠牲者を出し、小沢を蜘蛛のモンスターに奪われてしまったために、心に余裕がなかったのだろうことは情状酌量に値するが――翔一は何の落ち度もない参加者に襲い掛かった挙句、早速しかも無駄にアギトへの変身を使ってしまった。
 二人してリュウタロスというその怪人に平謝りする仮面ライダーを見て、やっぱり大丈夫なのかこいつら、と思わざるを得ないキバットであった。

232 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:51:54 ID:1I84greM0
【1日目 夜】
【D-1 病院】


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】強い決意、リュウタロスへの気まずさ
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:翔一と共に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢を助け出す。
3:ヒビキが心配。
4:蓮にアビスのことを伝える。
5:三原、リュウタロス、女性(麗奈)と情報交換する。
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。

【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】強い決意、リュウタロスへの申し訳なさ、仮面ライダーアギトに二時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、 ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバット?世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
1:城戸さんと一緒に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢さんを助け出す。
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
4:木野さんと北条さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
5:三原、リュウタロス、女性(麗奈)と情報交換する。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※龍騎の世界についての基本的な情報を得ました。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。

233 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:52:27 ID:1I84greM0
【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】疲労(極小)、安心と軽い精神的な疲労
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】なし
1:津上、城戸、麗奈(名前を知らない)と情報交換を行う。
2:巧、良太郎と合流したい。草加、村上、牙王を警戒。
3:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやる 。
4:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクの可能性に気付いたもののある程度信用しています。

【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康 、津上と城戸への軽い怒り(直ぐに収まる程度)
【装備】リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト 、デンカメンソード@仮面ライダー電王
1:翔一と城戸に謝って貰う。
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す。
4:モモタロスの分まで頑張る。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※ドレイクゼクターがリュウタロスを認めているかは現状不明です。

【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】精神的疲労(中)、人間不信 ワームの記憶喪失、混乱状態
【装備】ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:何がどうなってるの!?
1:リュウタロス、津上(どちらも名前を知らない)を警戒。他の二人は誰?
2:とりあえず一条、京介、照井についていきたいけど、三人はどこ?
3:他人が怖い。
4:殺さなければ殺される……。
5:あの人(影山)は一体……?
【備考】
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※ 一時的にウカワームの記憶を取り戻しましたが、再び失いました。
※ ただし、何か強いショックがあれば取り戻すかもしれません。

234 ◆/kFsAq0Yi2:2011/10/28(金) 23:55:47 ID:1I84greM0
以上で予約分の投下を終了します。
入れるのを忘れていましたが、タイトルは『肩の荷は未だ降りず』で。

問題点・修正案などございましたら御指摘よろしくお願いします。

235名無しさん:2011/10/29(土) 00:38:41 ID:Xt9RbU4oO
投下乙です!
リュウタ、モモの死を乗り越えただけでなく三原にも影響を与えるとは……
そして麗奈さんは目覚めたけど、彼女はどうなるだろう
とりあえず翔一君と真司はリュウタに謝ろうな!

236名無しさん:2011/10/29(土) 01:41:58 ID:2PQvsv.Q0
投下乙です。
なんとなく不穏な予感があったけどアギトの変身を無駄遣いしただけで済んだのは幸運か?
でも色々不安要素が大きいのがなんとも、麗奈も色々危うく、アギトを無駄遣いしたし……
キバット?世を呆れさせるんじゃねぇよぉぉぉ……
結果的に三原がやる気になったのが不幸中の幸いだけど……あんまり、意味がない?
でも、そこには危険人物が大量接近するだろうからなぁ……みんな伏せやぁー!!

237 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 18:27:09 ID:idZVSc6s0
投下乙です!
リュウタは強いなぁ……それが三原にも宿るといいなぁ。
翔一や真司に間違われたのは、災難だったなw
そして麗奈さんはどうなるだろう……さっきまでいた人達が急にいなくなってはそりゃどうようするよな

それでは自分も予約分の投下を開始します

238信じる心 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 18:28:09 ID:idZVSc6s0
「照井竜が……死んだ?」

 時計の針が六時を過ぎた頃、フィリップは愕然とした表情で呟く。
 闇に包まれ始めた世界に突如として現れた、複数の飛行船。そこに備え付けられたモニターに映し出された、キングと名乗った少年が六時間もの間に二十人が死んだ事を告げた。
 その中には、かつての敵であった園咲霧彦や井坂深紅朗。更には、風都を守る為に幾度となく力を合わせた照井竜までもが含まれていた。それが意味するのは彼らはもうこの世にいない事。

「どうして……どうしてなんだっ!」

 今にも泣き出しそうな様子でフィリップは叫んだ。照井の死を許してしまっただけでなく、二十人もの犠牲者を出してしまう。
 僕は能無しだ、愚か者だ。翔太郎や亜樹ちゃんがそばにいないと、何も出来ないような弱者だったのか。
 自分を責めるような言葉が脳裏で次々と思い浮かんでしまい、フィリップは全身から力を失ってしまう。

「おっと、落ち着きたまえ」

 しかしそんな彼が倒れる直前、海東大樹は両手で支えた。フィリップは反射的に振り向くと、彼はいつもの不敵な表情を浮かべていた。

「海東大樹……すまない」
「別に構わないさ。君が足手纏いになられちゃ、僕達だって困るしね」

 そして、意図的にやってるような憎まれ口も変わらない。だが放送前とは違ってほんの少しだけ暗さが感じられる。
 それは無理もなかった。放送の中には、彼の仲間である光夏海の名前だって呼ばれている。いくら海東でもそれは受け入れたくない筈なのに、それをおくびにも出していない。
 ならば自分が彼の為に出来る事は、すぐに立ち上がる事だ。彼はお宝を守りながら、この戦いを徹底的に邪魔するつもりだと語っている。
 今は、彼の足枷になるような事はあっていけない。そう思ったフィリップは、身体の力を取り戻させて立ち上がった。

「そうだ……辛いのはみんなだって同じだ。だから僕だけが甘ったれるなんて、許される訳がない」
「ちゃんと、分かってるじゃないか」

 海東はフッ、としたり顔で笑った。フィリップはそれに心強さを感じながら、もう一人の同行者に振り向く。
 視線の先にいる秋山蓮の顔は、先程とは何も変わらない無愛想な雰囲気を醸し出したままだった。しかし、同じ世界の人間である北岡修一の名前が呼ばれて、何処か表情を曇らせている。
 仲間を失った事による純粋な悲しみか。真意は分からないが、彼の為にも自分は必死に戦わねばならない。

「秋山蓮、さっき君が話していたクウガについて、もう一度聞かせて貰ってもいいか?」
「ああ……あの五代は、変身した草加を完膚無きまでに叩きのめすほどの力を見せた。恐らく俺が横から入ったところで、俺もやられていただけだろう」
「あの草加雅人を、全く寄せ付けなかった……」

 蓮から告げられた事実に、フィリップは思わず戦慄する。
 彼の戦いは、最初に襲われた時しか見ていない。しかしその動きには一切の無駄がなく、一流の戦士である事が感じられた。
 考えたくはないが、もしもその力が自分達に向けられたら一巻の終わりかもしれない。もしも、ここに翔太郎がいてWに変身できて、ディエンドやナイトと力を合わせても五代を止められるかどうか。
 いや、出来る出来ないの問題ではない。五代が暴走したのなら、何が何でも止めてみせる。翔太郎や亜樹ちゃんも、絶対にそうする筈だ。

「分かった……ありがとう、秋山蓮」
「言っておくが、全てを知ったと思うな。俺もああなった五代について、詳しい事までは知らないからな」
「それでも、君には感謝している。君のおかげで、異常事態を知ることが出来たのだから」
「そうか」

 フィリップは純粋な気持ちで感謝を告げるが、蓮は素っ気無く答える。しかしそれでも、フィリップは蓮を信頼できる人物だと思い、心が少し軽くなった感じがした。
 安易に他者を信頼しても、良くない事なのは分かっている。だが、こんな状況だからこそ誰かを信じなければ、命が無意味に奪われてしまう。
 今は、蓮との信頼関係を少しでも築き上げていくことが大切だった。難しい事かもしれないが、時間をかけていけば打ち解ける事が出来るはず。
 かつての自分ならば、下らない理想論だと切り捨てていた筈の思い。しかし、人は理想を追い求めていくからこそ生きていける。それを全て無くしてしまっては、本当の悪魔に堕ちてしまうだけだ。
 この殺し合いに巻き込まれた者達を出来る限り救う為に、園田真理を殺した奴を始めとした危険人物を倒す。そして、大ショッカーに対抗する為の手段を探す事だ。

239信じる心 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 18:29:55 ID:idZVSc6s0

「さて、二人とも。これからどうするんだい? これ以上ここにいたって、どうしようもないと思うよ」

 フィリップの心に希望が戻りつつある中、海東は口を開く。

「そうだな……やはり、すぐ近くにある警察署に向かおう。ああいった建物なら、誰かが来ているかもしれない」
「危険人物と出くわす可能性もあるが、それしか無いな」
「じゃあ、決定だね」

 そして、蓮と海東はフィリップの提案に頷いた。彼ら三人はすぐそばにそびえ立つ警察署に目を向けて、移動を開始しようとする。
 その瞬間、バイクのけたたましいエンジン音が響いてすぐに足を止めた。フィリップが振り向いた先には、黒い衣服を纏った男が銀色のバイクに跨っているのが見える。

「君は一体……何者だ」
「おっと、俺は戦うつもりはない……もっとも、君達が闘争を望んでいるならそれに答えてやるが」

 高圧的に語る男の鋭い視線はこちらを見定めているようにも思えた。不要な戦いを仕掛けるつもりはないようだが、刃向かうならば容赦をするつもりもないだろう。
 だからここは少しでも穏和に進ませる必要があった。もしも交渉の機会になるなら、幸いにもこちらには手札がある。

「そうか……僕達も無駄な戦いは望んでいない」
「それは幸いだ。こちらとしても無駄な戦いをしなくて済む」
「僕達はいまから警察署に向かうところだ……もしも話があるなら、そこで頼む」
「よかろう……俺としても、情報が必要だからな」
「秋山蓮も海東大樹も異存はないか?」

 フィリップは仲間達に訪ねた。

「俺は構わない」
「僕としても、全然大丈夫さ」
「では決まりだな……さて、行こうか」





 
 新たに出会った乃木怜司を加えて、フィリップ達は『E−6』エリアの警察署に備え付けられたソファーに腰を下ろして情報交換をしている。
 22時までに病院で向かう事になっている乃木の予定、落ち合う予定となっている金居というイレギュラー、突然変貌して襲いかかった五代雄介、鏡の中に潜んでいた蟹のミラーモンスター、フィリップが纏めた首輪に関する考案。
 そして――

「亜樹ちゃんが……殺し合いに乗っているだと!?」
「あの女はこの俺も罠に填めようとした……君の友人はとんだ悪女のようだ」

 フィリップにとってかけがえのない存在である鳴海亜樹子が殺し合いに乗っていると、乃木は語った。聞くと彼女は東京タワーから拡声器を使って参加者を集めようとしたらしい。
 この状況でそんな事をするなど自殺行為以外の何者でもない。しかしそれこそが彼女の目的で、本当は東京タワーに集まった参加者達を一網打尽にする可能性があった。
 現に乃木が東京タワーに大ショッカーを打ち破る同志を集めるまで、待っているはずだった。しかし彼女とその同行者である霧島美穂はそれを無視している。
 そして霧島美穂は死んだ。恐らく、殺し合いに乗った参加者の手にかかって。

「でも、それは君の憶測に過ぎないんじゃないかな?」
「例えそうだとしても、殺し合いを良しとする愚か者をも集めるような輩に付き合っていては命が幾つあっても足りんよ」

 海東は小馬鹿にしたような態度を取るが、乃木は鼻を笑いながら流す。海東の態度はこの状況では不謹慎極まりなかったが、フィリップはそれに気を止めていない。
 仮面ライダーとしての力を持たないが、風都を守るために戦っていた彼女が殺し合いに乗る。その可能性がフィリップにとってあまりにも受け入れがたい事実だった。
 彼女が大ショッカーの言葉を信じるとは考えたくないが、有り得ない話ではない。もしも世界の消滅が本当だったとしたら、風都に生きるみんなもまたいなくなってしまう。彼女にとってそれは何よりも辛い筈だ。
 加えて、照井竜の死を知ってしまったらどんな無茶な行動を取るか分からない。乃木の言うとおり、本当に殺し合いに乗る可能性だってあった。

240信じる心 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 18:34:59 ID:idZVSc6s0

(亜樹ちゃん……君は――)

 しかし、その先からフィリップの思考は続かない。突如、耳を劈くような轟音が外から響いて、警察署が大きく揺れた。
 フィリップは反射的に立ち上がって窓から外を眺める。すると、この警察署から少し離れた位置でそびえ立つ東京タワーから大量の炎が吹き出し、崩れ落ちていくのが見えた。
 
「やはり、あの女どもは俺を潰しにかかっていたとは……」

 乃木の冷たい言葉が耳に突き刺さり、思わずフィリップは拳を握り締める。乃木の言葉に怒りを感じてなのか、亜樹子の裏切りに対する絶望なのかは彼自身にも分からない。

「フィリップ、君はあれを見てもまだあの女を信じるのか? 君自身をも裏切ったあの女を――」
「例えそうだとしても……僕は信じる! 東京タワーに爆弾を仕掛けたとしても、そうせざるを得ない理由がある筈なんだ!」

 続けられる言葉を遮りながらフィリップは乃木に振り向く。

「彼女は今まで僕の生きる街を守るために何度も戦った! そんな彼女が、誰かを犠牲にしようとする筈がない!」
「素晴らしい理想論だな……だが、もしも俺の言葉が真実だったとしたらどうする?」
「もしも君の言葉が真実だとしても、その時は絶対に亜樹ちゃんを止めてみせる!」

 フィリップはそう大声で宣言した。
 亜樹子が人殺しなんかする筈がないと信じている為。もしも乃木の言うように殺し合いに乗ったとしても、理由がある筈だった。だから彼女を捜して絶対に止めなければならない。
 そして彼女を助けに行った葦原涼という男も救ってみせる。フィリップの思いに一切の揺らぎはなかった。
 そんなフィリップの肩を叩きながら海東は前に出る。

「……だそうだよ、君はどうするんだい?」
「信じようとするなら好きにするが良い。あの女がどうなろうと俺は知った事ではない……故に、君がどうなろうと君の勝手だ」

 呆れたような溜息と共に呟く乃木の前に、今度は蓮が出てきた。

「それで、これからお前はどうするつもりだ。確か22時に金居という男と落ち合う事になっているようだが、もしそれまでに現れなかったらどうする」
「可能な限り待つつもりさ。まあ、あそこは禁止エリアとやらになってしまったから長居はできんが」

 警察署を経由してから向かおうとしていた巨大な病院。それが配置されたエリアが大ショッカーの手によって23時から進入不可となっていた。
 恐らく大ショッカーが殺し合いを打倒しようとする集団の結成を阻止するために、このような処置を施したのだろう。加えて病院には、数々の医療器具があって殺し合いを阻害する可能性もあった。
 しかしもしかしたら、亜樹子もそこに向かっている可能性もある。彼女が上手く葦原涼と出会い、そこに避難しているとフィリップは信じたかった。
 
「とにかく、病院に向かおう……そこに行けば誰かと出会えるかもしれない」



【1日目 夜】
【E-6 警察署】

【共通事項】
※この四人で情報交換をしました。
※東京タワーが崩壊するのを見ました。
※まずは病院に向かおうと考えています。

241信じる心 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 18:35:42 ID:idZVSc6s0
【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】健康、照井の死による悲しみ
【装備】無し
【道具】支給品一式×2、ファングメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、
エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実
【思考・状況】
0:亜樹子が殺し合いに乗っているのなら何としてでも止める。
1:大ショッカーは信用しない。
2:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
3:草加雅人は信用しない方が良い。
4:真理を殺したのは白い化け物。
5:首輪の解除は、もっと情報と人数が揃ってから。
6:出来るなら亜樹子や蓮を信じたいが……
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※今のところは亜樹子を信じています。


【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】最終話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(サイガ、コーカサス)
【道具】支給品一式、不明支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
0:お宝を守る。
1:これから病院に向かう。
2:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。
3:フィリップ、秋山蓮、乃木怜司と共に行動。
4:五代雄介の知り合いと合流。
5:知らない世界はまだあるようだ。
6:志村純一……
7:蓮、草加、金居を警戒。五代に対しては……。
【備考】
※クウガの世界が別にあることを知りました。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。


【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】第34話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)
【装備】ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、エターナルメモリ@仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
【思考・状況】
0:これから病院に向かう。
1:自分の世界のために他世界の人間を倒す。
2:まずはこの集団に潜む。
3:協力できるなら、同じ世界の人間と協力したい。
4:同じ世界の人間を捜す(城戸優先)。浅倉とは会いたくない。
5:協力者と決着をつけるのは元の世界に帰ってから。
6:草加、クウガ、金居を警戒。
【備考】
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。

242信じる心 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 18:37:29 ID:idZVSc6s0
【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実
【思考・状況】
0:この三人を上手く利用し、病院に向かう。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:利用できる参加者と接触したら、金居を警戒するように伝える。最悪、金居を潰させる。
5:葦原涼と鳴海亜樹子の生死に関してはどうでもいい。
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。
※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。

【首輪の考案について纏めたファイルの内容】
※首輪の内部構造、それに関する考案が書かれています。
※首輪とこの殺し合いについて、以下の考案を立てました。
1:首輪には、自分の世界には無い未知の技術が使われている可能性がある。
2:無闇に解体しようとすれば、最悪自分の世界の住民が全滅される。
3:解体自体は可能だが、それには異世界の知識も必要。
4:大ショッカーは参加者の生きる世界を、一瞬で滅ぼせるほどの兵器を持っている。




 
 D−5エリアに建っていた東京タワーの跡地。盛大な爆発の影響によって崩れ落ちたそこは大量の瓦礫と鉄屑、更には鏡の破片がが散らばっていた。
 一つ一つは小さいが、物を写し出す本来の役割は未だに健在。その奥深くから咆吼が発せられていた。
 仮面ライダーインペラーの契約モンスターであったゼールの名を持つ魔物達。彼らは爆発の衝撃で傷つきながらも生き延びていた。
 鏡写しの世界であるミラーワールド。現実世界で東京タワーが破壊されたのならば、ミラーワールドに存在する東京タワーもまた瓦礫の山と化していた。
 それを掻き分けながらゼール達は地上に現れ、大きく吼える。彼らの叫びは鏡の世界で響き渡った。


※ゼール軍団は東京タワー爆発の影響によって負傷しています。(規模がどの程度なのかは後続の書き手さんにお任せします)

243 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 18:38:34 ID:idZVSc6s0
以上で投下終了です
指摘点などがありましたら、よろしくお願いします。

244名無しさん:2011/10/31(月) 19:24:18 ID:ZqUD4syw0
投下乙です!
ゼール群団と一緒に予約されてたから波乱あるかと思ったらフィリップ組は無事で一安心。
でもタワーに残っている社長良太郎組がゼール達に襲われる可能性もあるんだよなぁ……

指摘点、というほどではないのですが、乃木は大ショッカーへ反旗を翻しているのに、首輪解除要員であるフィリップへの態度が少しだけ気になりました。
金居との接触時などはワームとして適度に相手の願いを叶えつつ、こちらの要求を通していくというやり口だった乃木が、おそらく彼が喉から手が出るほど
欲しい人材だと考えられるフィリップにあまり良い印象を持たれないような口の効き方をするのが少しだけ変かな〜? と思いました。

245 ◆LuuKRM2PEg:2011/10/31(月) 20:51:57 ID:idZVSc6s0
ご指摘ありがとうございます
それでは、後ほど修正版を投下させて頂きます

246名無しさん:2011/10/31(月) 23:08:52 ID:cMaOzBb.0
投下乙です。
とりあえずゼール軍団とバトルするかと思ったらそんな訳もなく、単純に負傷したけど未だ健在という事を示しただけか。
見た所、基本的には穏やかな感じだけど……実は乃木は危険対主催で、蓮はステルスなんだよなぁ。
まぁ、蓮にしてみればライアルへの対処は必須だから当面は共闘するだろうし、乃木に関しては警戒しているカブト勢がもういないから実はそこまで動きにくくはないんだよな(乃木の危険性を知っているのは天道経由で聞いた人物程度)、
しかしこの分だと次の放送前に病院が大変な事になるな。

247名無しさん:2011/11/02(水) 23:25:38 ID:2.5Yvhcs0
フィリップ、乃木や蓮を信じたいのは分かるが……お前の相棒凄いことになってるぞ早く合流しないと。
それより少し気になったことがあったのですが。

今回フィリップ組は6時50分ほどに警察署内にいたことになっていますがその頃天道達は話し合いをしていた筈なんですよね。
(放送直前の状態で1時間50分変身不可が『生きるとは』終了時に50分変身不可になっているため7時前後?)
中にいたフィリップ達が気付けて外にいた天道達が(しかも並はずれた聴力の巧もいて)気付けないというのはいささか不自然ではと思いました。
幸い天道達の次の作品『太陽は闇に葬られん』では夜中すぎですし名護や擬天との別れがあと数十分早くても大丈夫そうかなとは思いました。
(それに幸運にも作者さんは同じですし)

248 ◆LuuKRM2PEg:2011/11/02(水) 23:56:33 ID:H48dOULQ0
ご指摘ありがとうございます
それでしたら『生きるとは』で名護さんと擬態天道の変身不能時間を氏の言うように
50分から1時間、天道と巧の変身不能時間を10分に修正させて頂きますがよろしいでしょうか?

249 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/03(木) 00:31:37 ID:kuc78aW20
>>248
二度も修正して貰っておいて気付けなかった自分が偉そうに横からですが、>>247さんの疑問点だと『生きるとは』終了
時刻が7時前後だということで、タワー倒壊時刻は6時50分だと思われるので、10分だとまだ倒壊にカチあってしまうので
名護さん達は1時間10分、巧達は20分変身不可、にしておくのが良いかな、と愚行します。

それと、『防人』の葦原涼の状態表が『光と闇』をこちらの都合で修正して頂いた後のこちらの修正されていない文での
収録がされているので、お手数ですがそちらも『仮面ライダーギルスに50分変身不可』に修正して頂けないでしょうか?

250 ◆LuuKRM2PEg:2011/11/03(木) 07:23:33 ID:nA5NP7/E0
修正させて頂きました

251名無しさん:2011/11/03(木) 20:39:50 ID:QSmOzZOo0
しかしカブト勢は二大主役がいなくなって現在まともな対主催がいないんだな。
逆にマーダーもいないんだけど。

252 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/03(木) 22:31:45 ID:kuc78aW20
>>250 
確認しました、ありがとうございました。

>>251 
確かに……乃木さんは基本対主催は貫くだろうけど危険人物でもあり続けるだろうし、ウカ姉さんもどうなることやら……
矢車さんも結局やさぐれたままだと、海堂さん達の活躍に影響を受けつつある擬態天道が一番の期待の星……だと……っ!?

253名無しさん:2011/11/03(木) 23:01:06 ID:vEf3HiOo0
擬態天道は初代ライダーロワのリュウガみたいになる可能性がある・・・かも?

254名無しさん:2011/11/04(金) 15:37:40 ID:YvxxHrgw0
そういや擬態天道は原作では実力では天道に一度も負けてないよな。
ハイパーフォームでゴリ押しされたから負けただけで

255名無しさん:2011/11/04(金) 21:17:01 ID:wezGQ9N.0
なにはともあれ擬態天道には天道の分まで頑張ってほしいね。
天道も行く末を見届けられなかったこと死ぬ前に無念がってたし。

256名無しさん:2011/11/04(金) 22:58:34 ID:/iywDhQc0
>>254
ビルから落ちながら戦うときは通常フォームで負けなかったっけ
「俺がこう動く……と、やつは思っている」的に天道が裏の裏まで読んで
擬態はたしかに天道と同じ実力を持っているけど、それはあくまで擬態された時の天道で天道自身の進化は光より早いとかなんとか

257名無しさん:2011/11/04(金) 23:10:47 ID:eaE.O3rw0
>>256
裏の裏まで読んだけどやったことはただのHCU……まあこれ以上は荒れるので(ry

258 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/08(火) 19:04:17 ID:GX5S6n2s0
これより予約分の投下を開始します

259 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/08(火) 19:05:03 ID:GX5S6n2s0
 夜の闇に紛れず、強い存在感を放つ白き影の名は、ン・ダグバ・ゼバ。究極の闇を齎す者、グロンギの王たる少年である。
 歪な頭部を持つ獣のようなバイク、バギブソンを背に座り込んだ彼の眼前には、自らの巻き起こした惨状が広がっていた。
 市街地を崩壊させるほどの戦いも、彼にとっては児戯にも等しい。そもそもこの世界存続を懸けたバトルロワイヤル自体が、彼にとっては面白そうなゲゲルであるという以上の価値がないのだが。

 そのゲゲルのルールとして、参加者には制限が加えられている。仮面ライダーや怪人態といった超常の力を発揮する異形を保てる時間はわずかに10分のみ。それを一度過ぎれば、およそ二時間無力なただの獲物と化してしまう。
 その制限は究極の力を持つダグバにも例外なく適用されていた。絶対者である自分を縛り付ける首輪を軽く叩いて、ダグバは笑みを深める。

 彼の属する世界において、ダグバに太刀打ちできる者など同じ凄まじき戦士である究極の形態となったクウガだけだったが、異世界のリントは本当に面白い。他者に施すばかりであった自らに恐怖を与え、このような戒めまで施している。
 純粋な力であればやはりクウガ――自らと同じ世界の熟練した戦士と、異世界より現れた未熟な、しかし究極の闇を齎す者へと到達したもう一人のクウガの二人以外、ダグバを害することの叶う者は存在しないだろう。だがこのゲゲルに招かれた者達は、その埋めがたき差をこのような道具で無きモノとして来る。ほんの30分前に持ち得る戦闘手段を浪費した今のダグバは、究極の闇を齎す絶対の暴君ではなく、首輪の効力によって脆弱なリントと等しき存在にまで堕ちていた。故に今、他の参加者が現れようものならダグバは恐怖のままに虐殺されるだろう。

 自身と同等の存在との命の削り合いで覚える恐怖こそ、ダグバにとっては至高の感情だが、虫のようなちっぽけな存在に逆に蹂躙されるというのも面白いかなと、彼が思った時だった。

 連続する鉄馬の嘶き――バイクのエンジン音がダグバの耳に届いたのは。

 立ち上がり、それのする方を向いた究極の闇を齎す者の周囲に広がっていた脆弱な闇が、強い光に切り裂かれた。

 ダグバの方に向かって来たのは深いワインレッドの、流麗なフォルムをしたバイク。それを駆る巨躯の軍人の顔は、ダグバに覚えのあるものだった。

「目的地が焼き払われたと思えば……やはりおまえか」

 現れた軍服の男――カブトエクステンダーを駆るゴ・ガドル・バの言葉を、特にダグバは聞いていなかった。
 リントの如き今の自分では、ゴ集団最強であるガドルに抗う術などない。ダグバは恐怖がむくりと起き上がるのを感じて……

「……今、使える力はあるのか?」

 そのガドルの問いに、急激に冷めた気分になりながら答えた。

「ないよ」
「そうか」

 ガドルの返事は短かった。そうだろうな、とダグバは失望したように溜息を吐く。
 ガドルはグロンギの中では、自分とはある意味最も近い存在だ。それは有する力のことではなく、その精神。二人はただの殺戮を喜ぶ他のグロンギと異なり、自身を脅かす強者との戦いを望む。ガドルは己を研磨し、最強へと近づくため。またダグバにとっては、それだけが手に入らないものであった故に。

 そんなガドルが、本来の姿になれない自分を殺すとは考え難い。究極の闇を齎す者である本来のダグバを超越した、真の最強になることが彼の目的だからだ。
 使える力があるかという問いを発する時点で、彼は自分が究極の力を先程使用したことと、制限の存在を把握しているというのは間違いないだろう。他の力があるとブラフを使ってもこちらから仕掛けなければガドルは今のダグバに手を出さないだろうし、リントの姿のままで襲い掛かっても相手にしないだろうことから、事実を伝えるしかなかった。

260 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/08(火) 19:06:06 ID:GX5S6n2s0
 せっかく、恐怖を味わえると思ったのに……

 そう嘆くダグバの前で、ガドルも考え込むようにどこかを見ていた。

 バイクのアイドリング音だけが木霊する静寂の中、二人のグロンギがただそこに立っていた。

「……仕方がない、か」

 やがて思案していたガドルはそう決断の溜息を漏らすと、ダグバの目の前で自身のデイパックを手にした。
 そうして一瞬だけ躊躇するような表情をした後、ダグバに箱のようなものを投げて来た。

「――これで戦って欲しいの?」

 スペードのマークの刻まれたその箱を笑顔と共に翳すダグバだが、ガドルは否と首を振る。

「持っておけ。究極の闇を以ってして及ばなかった相手ならともかく、下らぬ制限で弱き者に貴様が倒されることは許せん」

 そして、とガドルはさらに付け加える。

「それは仮面ライダーの力だ。そのブレイドという戦士は特にその誇りを貫いた強き戦士だった。本来リントを護る戦士である彼らの力を、貴様に与える時点で矛盾しているが――せめてその力に恥じぬよう、無様だけは晒すな」

「へえ……」

 少しだけ、ダグバの内に苛立ちがあった。
 誰に向かって、何様のつもりでこんな言葉を吐くのだろうと――愚か者を見る目でガドルを見たが、そこで認識を改めた。

「ガドルが僕の前で、そこまで言うなんてね……」

 王が見た破壊のカリスマを自称するグロンギの瞳は、驕りなき誇りを持つ強き戦士のもの。
 ガドルはその、『仮面ライダー』の敵であるということに、心からの名誉を抱いているのだ。
 これまでずっと、ダグバしか見て来なかったあのガドルが、そのダグバと同じくらいに、敵対者として『仮面ライダー』を認めている。

「……凄いんだね、仮面ライダーって」
「――ああ」

 僅かな間は、返答への躊躇いなどではなく、胸中に蘇った強敵への想いを噛み締めるためのものだろうということは、ダグバにも見て取れた。

「そんな相手だからこそ、殺す価値がある」

 そう満足げに呟くガドルは、どうやら相当仮面ライダーにお熱のようだ。だがそれは彼の隙になっているわけではなく、むしろ逆らしい。
 テラーメモリの力でダグバがこのゲゲルの認識を改めたように、ガドルも仮面ライダーとの戦いを通じ、視野が広くなったのだろう。ダグバに挑むためのゲゲルの標的としか見ていなかった敵対者を、己の全霊を懸けて挑むべき強者だと認めたのだ。

261 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/08(火) 19:08:09 ID:GX5S6n2s0
 ただノルマのようにこなす殺戮とは違う、互いの全てを懸けた真なる闘争。今のガドルはそれをいくつか乗り越えて来たのだろう。

 午後に顔を合わせた時、単純にガドルはグロンギの中で自分の次に強いから――といった程度の理由でしか期待していなかったが、今のガドルは違う。一度戦うごとに、心身ともにグンとその力を増すだろう。
 戦う理由は違えども、まるでクウガのように。
 いつか、本当に究極の闇を齎す者に相対できるほどに。

「……その傷も、仮面ライダーにやられたの?」

 それまでのガドルの動きから、左半身に酷い裂傷を負っていることはダグバには察知できていた。
 ダグバの問いに、ガドルはにんまりと頷く。

「ああ。――別の仮面ライダーには、敗北さえした」

 なら何故ガドルが生きているのか――それは問わない。
 先程自分が殺した白い仮面ライダーをダグバも思い出す。彼の力は弱かったが、それを補う技量や――それ以上に、ダグバにはよくわからない面白さがあった。そして、既に絶命しているはずの身でダグバに一撃を入れて来たのだ。
 おそらくは似たような状況で、その仮面ライダーは勝利まで後一歩、命が保たなかったのだろう。

(良いなぁ……)

 負けたことを嬉しそうに報告するガドルを本当に変わったと思いつつ、自分と違って何人も命のやり取りができる好敵手が存在する彼に、そう素直に羨望を抱く。

 そこでダグバは悪戯したくなって、少し試すことにした。ポケットに入れておいた自身のベルトの欠片を手に取り、ガドルへと投げ渡す。

「……何だ、これは?」
「ゴオマから返して貰った、僕のベルトの欠片だよ。……大丈夫、僕のバックルはちゃんと修復されているから」
「……どういうことだ?」
「大ショッカーは、別々の時間から僕やガドル、ゴオマを連れて来たみたいだよ」

 その言葉に軽く衝撃を受けたかのように双眸を見開くガドル。まじまじと大きな掌に収まった金の欠片を注視し、再びダグバを向く。

「それでこれは、どういう真似だ?」
「これのお返しだよ」

 ダグバはそう再びスペードの意匠をされたバックルを掲げる。

「それを使えば、僕の――究極の力の一部が手に入るよ」

 ダグバの言葉に、ガドルは再び驚き、欠片へと視線を向けた。
 だが特に迷うようなこともなく、ガドルはダグバにそれを投げ返して来た。

「――不要だ。俺は仮面ライダー達と戦い続けるが、ダグバ、貴様が俺のザギバスゲゲルの相手であることには代わりはない。その相手から施される力など要らん。力が欲しければ自分で奪い取る」

 そのガドルの返答に、ダグバは笑顔を返す。
 本人も知らない内に、少しだけ深くなった笑顔を。

「うん。僕も、今のガドルならザギバスゲゲルに来る頃には、僕を笑顔にできると思うよ」

262 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/08(火) 19:09:25 ID:GX5S6n2s0
 もし欠片をそのまま持って行こうとしたのなら、これ以上は期待できないからこの場で殺すつもりだったが――やはりこのグロンギは、ゴオマのような盗んだ力で図に乗る愚か者とは違った。
 あくまで己の力を鍛え上げ、自身が手にした力で究極を目指すガドルに、ダグバはそう本心からの期待を伝えた。

「ダグバ、待っていろ」

 ブレイドという仮面ライダーについて、彼の見聞きした限りの情報をダグバに伝えた後、再びバイクを走り始めさせたガドルがそう、いつもの挨拶を残して行く。
 ダグバが崩壊させた市街地の方へと鉄馬を従え向かうガドルは、直ぐに小さな点になってダグバの視界から消えつつあった。
 その背に向けて、ダグバは呟く。

「――待ってるよ」

 ――それはグロンギ同士が邂逅したにしては、あまりに穏やかな交流だった。
 ただガドルにはダグバ以外にも倒すべき強き戦士が現れ、ダグバにとってクウガ以外に、本当に自分を笑顔にしてくれるかもしれない者を見つけることができたこのバトルロワイヤルの会場で、それぞれの現状が互いにとって望ましいものであったからだろう。故に、今は戦わず互いのゲゲルを続けることを優先したのだ。

 ダグバはガドルから渡された仮面ライダー――ブレイドの力を見て、思う。
 なるほどリントを護る宿敵の力を、リントを滅ぼすダグバに渡すことは抵抗があったのだろう。ただ敵に感化され過ぎることのなかったガドルにはやはり甘さはない。例え明らかに重過ぎる傷を負っていようと、おそらくは他のゴでも今のガドルには敵わないだろう。あるいは、あの時ガドルを殺した黒の金のクウガと戦っても、怪我にも関わらず結果は変わるのではないかとさえ思える。
 そのガドルが自分の前に現れるか、あるいはそのガドルすら打倒し得るほどの強者が立ち塞がるか――
 どちらにせよ笑顔になれそうだと思ったダグバは、バックルをデイパックにしまおうとして――

「ブレイド……?」

 ある事実に気づき、別のデイパックに手を出す。
 夕方、別世界のクウガを怖くするために整理した男から奪った支給品。その内の仮面ライダーの力は先程の仮面ライダー達に壊されてしまったが、他にも手に入れた物があった。
 武器ではなかったために意識の隅に追いやってしまっていたのだが、その説明書には面白いことが書かれていた。

「あった……」

 取り出したのは、一つの箱。
 そのアイテムの名は、ラウズアブゾーバー。
 仮面ライダーブレイドもしくはギャレンを強化フォームへと変身させるための装備。
 そのままでも、今のガドルに称賛されるほどの力を持つ仮面ライダーの力を、さらに強化できるというアイテムはダグバの興味を引くのに十分だった。

「ガドルやクウガを待ってる間、これで遊んでみるのも面白そうかな」

 ラウズアブゾーバーを使用するのに必要なカードは、今は手元に足りていないらしい。
 それならガドルが言ったように、それを持つ参加者を見つけ出して奪い取るのも一興だろう。

 ガドルの言う仮面ライダーの誇りというのは、ダグバには正直わからない。そもそもさほど興味がない。
 善も悪も、リントもグロンギも、どんな存在が抱くどんな情念だろうと、それ自体にダグバは何も価値を見出さない。
 ダグバが他者に求める本質は結局、それらを積み重ねた上での力が、どれほど自分を愉悦させてくれるのか、ただその一点のみ。

 だから、その力への純粋な興味だけが、究極の力を持つグロンギの王の中にあった。

263 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/08(火) 19:10:28 ID:GX5S6n2s0



【1日目 夜中】
【E-2 市街地跡地】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、恐怖(小)、怪人態及びリュウガに1時間30分変身不可
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、モモタロスォード@仮面ライダー電王 、ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3、不明支給品×1(東條から見て武器ではない)、音也の不明支給品×2、バギブソン@仮面ライダークウガ、ダグバのベルトの欠片@仮面ライダークウガ、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【思考・状況】
1:もう1人のクウガとの戦いを、また楽しみたい。
2:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
3:ガドルやリントの戦士達が恐怖をもたらしてくれる事を期待。
4:新たなる力が楽しめるようになるまで待つ。
5:余裕があれば残りのスペードのカードを集めてみる。
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。
※制限によって、超自然発火能力の範囲が狭くなっています。
※変身時間の制限をある程度把握しました。
※音也の支給品を回収しました。
※東條の不明支給品の一つはラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣でした。


【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、左腕及び左上半身に酷い裂傷、怪人態に10分変身不可 、カブトエクステンダーを運転中
【装備】ガイアメモリ(アームズ)@仮面ライダーW 、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:ゲゲルを続行し、最終的にはダグバを倒す。
1:強い「仮面ライダー」及びリントに興味。
2:タツロットの言っていた紅渡、紅音也、名護啓介、キングに興味。
3:蛇の男は、真の仮面ライダー。彼のような男に勝たねばならない。
4:仮面ライダーの「正義」という戦士の心に敬意を払う。
5:ゲゲルが完了したらキング(@仮面ライダー剣)を制裁する。
【備考】
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。
※『キバの世界』の情報を、大まかに把握しました。
※ガドルとタツロットは互いに情報交換しました。
※タツロットはガドルの事を『自分を鍛えるために戦う男』と勘違いしています。
※また、ガドルが殺し合いに乗っている事に気づいていません。
※海堂直也のような男を真の仮面ライダーなのだと認識しました。
※参加者が別の時間軸から連れて来られている可能性に気づきました。

264 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/08(火) 19:12:24 ID:GX5S6n2s0
短いですが、以上で予約分の投下を終了します。
タイトルは仮投下の際と同じく『献上』でお願いします。

問題点などございましたらまた指摘よろしくお願いします。

265名無しさん:2011/11/08(火) 21:26:19 ID:pwB.D4bo0
投下乙です!
ああ、剣崎涙目な展開だなぁ……しかもスペードのカードを持ってる牙王が近くにいるよ!?
このままじゃダグバがキングフォームになってしまいそうだ。

266名無しさん:2011/11/09(水) 15:03:16 ID:zRg3uLbU0
投下乙です。
なんだこのグロンギの二人……原作よりもかっこよくみえるぞ!w
海堂との戦いはガドルに今まで無かったものを与え、ダグバはダグバで仮面ライダーに興味を持ち……
近くにラウズカードがあるのなら、グロンギの王がキングフォームになるっていうのもありかも知れませんね。
本当にどうなるんだこの辺り一帯……やばいのばっかりだなw

267名無しさん:2011/11/09(水) 17:36:44 ID:uqVtRblIO
投下乙です!今のこの二人には全うな手段で勝てる気がしねぇw潰し合ってくれるかと思いきやこのような……

268名無しさん:2011/11/09(水) 19:18:01 ID:fEBuUy5wO
いやはやガドルが仮面ライダーとの戦いを通じて大きく人間らしく成長してるなぁ。
それと指摘点というほどではないんですけどガドルの状態表にてキバ世界のキングに興味とありますが放送にて死亡を知っているので消したほうがいいと思います。
……それとタツロットは天道や名護さん達と情報交換したのにガドルが殺しあいに乗っているのを知らないんでしょうか、どちらにせよガドルはもうタツロット持っていないので備考のタツロット関係消したほうがいいのでは?

269名無しさん:2011/11/09(水) 19:36:58 ID:KnN051ek0
投下乙。
なんというかすごいかっこいい…
海堂死亡話以降ガドルさんの株が自分の中で上がりっぱなしだ。
ダグバもかっこよかった。
M野郎なんて心の中で思ってごめんね。

270名無しさん:2011/11/09(水) 19:45:22 ID:HiOyK0mg0
投下乙です。
流石につぶし合いは無かったか。
思えば前に遭遇した時は何処かガドル慢心していた所あったけど、この遭遇を切欠にガドルが成長したとも考えられるんだよなぁ。
それを考えると今回の遭遇も互いに影響を及ぼすと考えると……なるほど対主催涙目じゃねーの。
つかガドルはともかく、ダグバにブレイド……しかも都合良くアブゾーバー、更に比較的近くに必要カードもあるって……ダグバブレイドキングフォーム出るというのか……
それでもまだダグバの方が強い事を考えるとどれだけ絶望的なんだろう。とりあえずみんな伏せやぁー!!

271 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/09(水) 21:24:19 ID:rparRDm20
たくさんのご感想ありがとうございます。

>>268さん、ご指摘ありがとうございます。管理人様にはお手数ですが、wikiへの収録時に、
ガドルの状態表からキング(キバ)の名前とタツロットに関する備考欄の削除をお願いします。

272 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:21:36 ID:KGMFDRnA0
これより、予約分の投下を開始します。

273Sを受け入れて/地獄の兄妹 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:23:01 ID:KGMFDRnA0
「……おまえ、あの時東京タワーで叫んでた奴だろ?」



 東京タワー手前の激戦地で、葦原涼に助けられた後、鳴海亜樹子はどうすることもできずに茫然と立ち尽くしていた。
 そんな彼女の耳に、聞きたくないのに潜り込んできたのは、キングという少年の軽薄な声。
 そこで亜樹子は知ってしまった。東京タワーで共同作戦を行った霧島美穂の死を。
 そして、そして――照井竜、が……
 ここに連れて来られるほんの少し前に、NEVERから皆で風都を護り抜いて、一緒に花火を見たばかりの――亜樹子の、想い人。
 やがて自分が泣いていることに気づいて、亜樹子は自分の気持ちを知った。
 好きだったんだ、自分は。やっぱり、彼のことが。彼の居てくれる、父や仲間の護った風都が。どうしようもないくらい、自分の世界を愛していたんだ。

 それがなくなってしまう。このままじゃ壊れてしまう。
 竜くんも――――――――死んじゃった。

 ――知らないのか。俺は死なない。

「竜くんの……嘘つき……」

 ぽつりと。残された者のそんなありふれた、しかし抑えられない悲しみの籠った言葉が、ぺたんと地べたに座り込んだ亜樹子の唇から零れる。

 ――もちろん、勝ち残るに値するだけの褒賞は用意している。最後まで生き残った者にはあらゆる望みを叶えてみせよう。

 そんな時、亜樹子の心が砕けないよう縋ることができたのは――自分達をこの殺し合いの場へと引き込んだ憎むべき元凶の、その甘言だけだった。

 ――巨万の富、無限の命、敵対勢力の根絶など望みは何でも構わん。何となれば過去の改変や死者の蘇生も可能である。

 過去の改変。死者の蘇生。

 NEVERという生きた死人達を見た直後なのだから、亜樹子にはそんなバカげたこともすんなりと信じられる。
 園崎霧彦や井坂深紅郎と言った、亜樹子の知る死者達がここにいるのも、大ショッカーの力の証明だろう。
 いや、彼らはネクロオーバーさえ施せなかったはずだ。何せ死体が残っていなかったのだから。
 それなら大ショッカーの力は、亜樹子の知識を大きく超えている。逆らって勝てるわけがない。
 逆に彼らの望み通りに勝ち残れば、本当に死者の蘇生が叶うのだ。
 照井竜も、鳴海壮吉も、竜くんの家族だって生き返らせることができる。そもそもそんな事件をなかったことにだってできる。
 皆が愛した風都から、悲しみを取り除いて――もっともっと素晴らしい場所にすることができる。

 そのためには……

「……ごめんね、涼君」

 自分を助けてくれた、異世界の仮面ライダー。

 彼は本当に、本当に立派な人だ。きっと竜くんや翔太郎くんと会えばきっとすぐに意気投合するような、そんな優しい仮面ライダーだ。彼が風都に居て、皆に力を貸してくれれば……と思う。
 だけど、風都のためには――殺さないといけない。
 亜樹子にはデイパックも装備も、もうなかった。何もできない無力な亜樹子が殺せる相手なんてほとんどいない。間引ける時に仕留めておかないと、そんなチャンスはもう巡って来ない。
 そう手術室のベッドの上に運んだ涼へと、メスを握り締めて亜樹子は涼の首元にあてがい――

274Sを受け入れて/地獄の兄妹 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:23:54 ID:KGMFDRnA0
 迸った悲鳴と共に払われた腕に突き飛ばされ、背中から何かにぶつかって倒れ込んでしまった。

「もう、やめてくれ……」

 哀願するような涼の声を、メスを握ったまま、倒れ込んだ亜樹子は聞く。
 涙声が混じったような声に、全身を駆け巡る痛みに凌辱されながらも、亜樹子の意識は何とか、正常な方に傾いた。

 ――亜樹子ちゃん、まだ誰も殺してないでしょう? だったらまだ可能性はあるんじゃない?

 死んだ美穂の、そんな言葉が思い出される。
 自分はまだ、誰も殺していない。
 罪を犯して、風都の仮面ライダー達に取り返しのつかないことは、まだしていない。

 ――でもそれは、やっぱり都合が良すぎるんじゃないか?

 現に今、自分は、身を呈して護ってくれた仮面ライダーを、殺そうとしたのだから……

 ――テメーのやった事は自分の世界すら守れてねえよ……
 ――只の……只の人殺しだ。

 もうとっくに、手遅れなんじゃないだろうか……?

 何事かを叫んで涼が出て行ったことにも関心が持てず、亜樹子は再び生まれた罪悪感と、喪失感と、悲哀と、鳴海探偵事務所の所長として残った最後の正義感が、せめぎ合いをするのを止められなかった。

 新たに手術室に二人の男が現れたが、亜樹子は今、彼らを殺すどころの状態ではなかった。その前に、自分の精神を擦り潰して死んでしまいそうだった。

 ただ止められない感情の奔流に翻弄されながら、いつまでも放心状態を続けていると……



「……おまえ、あの時東京タワーで叫んでた奴だろ?」



 そう、亜樹子の前に立っていた左袖の無い黒コートの男が尋ねて来た。
 ビクッ、と身体が強張るのを、亜樹子は抑え切れなかった。
 それを見て、男はくつくつと喉を鳴らす。

「良い目だ。何があったのか知らないが、おまえの瞳に闇が見える……」

 闇。暗部。――悪しき、モノ。

 そう連想した亜樹子は、さらに心の内が大きな感情に押し潰されるのを感じた。

 私は何なの? 鳴海壮吉の娘? 鳴海探偵事務所の所長? 仮面ライダーの、仲間?

 違う、私は――私はただの、人殺し――っ!

 メスを落とし、涙を流しながら、亜樹子は顔を抱え込んで、そんな想いを消そうと首を振る。

275Sを受け入れて/地獄の兄妹 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:24:37 ID:KGMFDRnA0
 私は、仮面ライダーに倒されるべき悪? 翔太郎くんの、フィリップくんの、涼くんの、お父さんの、竜くんの、仮面ライダーを裏切って彼らの誇りを汚すような、そんな醜い存在――?

「違う、私は、私、は……っ!」

 声が詰まる。涙で視界が歪む。それでも感情は、喉から嗚咽として零れ出す。

「うっ……くっ、あぁぁ……ぁっ!」

 私はただ、ただ。皆で幸せに暮らす、大好きな風都を護りたかっただけなのに――っ!

 外から重く、しかし弾けるような音が聞こえて来たのは、まさしくその時だった。

「――っ!?」

「――大変! 大変よ!」

 そう、甲高い女の声がする。でも女なんて、自分以外この場にいただろうか?

「東京タワーが崩れちゃったのよぉっ!」

 その甲高い声が耳に入った時、亜樹子は拳銃で撃たれたような衝撃を覚えた。
 ふらふらと、視界が揺れる。自分が立ち上がったのだと気づくのに、少し時間が掛かった。

「ちょ、ちょっと! あんた、待ちなさいよ!」

 女の声が聞こえてくるが、耳から耳へ通り過ぎて行くように、意味が頭に届かない。
 身体のあちこちが、痛い。だけど胸はもっと、もっと痛い。
 それが怪我のせいなのか、亜樹子にはもうわからない。
 まるで今の彼女の心のように暗い廊下を、遥か遠い緑色の光を目指し、一歩動くごとに走る痛みに耐えながら、躓きそうになる足を必死に進める。
 何で自分がそんなことをしているのか、亜樹子にはわからなかった。思考の届かない深い意識の声に呼ばれるように、亜樹子は病院の入り口を目指す。

 ――そうして外に出れば、周囲を覆う闇は一層濃くなった。

 ――まるで、本当に亜樹子の心と通じているかのように。

 さっき伝えられた言葉を、できれば嘘だと思いたかった。
 すっかり闇で化粧を終えた世界には、あるべきものの姿がなかった。
 夜の帳を人工の光で切り裂いて、こんなに離れていてもその威容を見せていたあの真紅の塔――東京タワーが、どこにも見えなかったのだ。
 代わりに、わずかばかりに黒を赤に染める火の手が見える。

「はは……あははは……」

 自分でも引き攣っていると理解できながら、それを正すことができない笑声を、亜樹子は漏らす。

 東京タワーに美穂と共に仕掛けた爆弾の起爆装置は、あの喋る蝙蝠によって壊されてしまっていた。だから、外部から起爆することはできない。
 爆発させるには、誰かが直接爆弾に手を出すしかない。爆弾があるとも知らずにやって来た、あの呼びかけで亜樹子達を助けようとしてくれただろう正義の仮面ライダーや、他の参加者を殺そうとする危険人物がそこで出会い、戦って――その影響で、タワー崩壊が引き起こされたのだ。

 死んでいる。絶対に、あの爆発に巻き込まれた人は死んでいる。強力な爆発を受けて、それを凌いでも今度は東京タワーの瓦礫に襲われる。もしタワーの上の階が戦場になっていたのなら、落下というおまけまでついて来る。

276Sを受け入れて/地獄の兄妹 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:25:31 ID:KGMFDRnA0
 助かるわけが、ない。

 ――亜樹子ちゃん、まだ誰も殺してないでしょう? だったらまだ可能性はあるんじゃない?

 殺した。

 私は人を殺した。

 起爆してないなんて、あそこで死んだ人は聞いていない。
 あそこに人が集まるように、私が呼び掛けた。私が、あそこに爆弾を仕掛けた。

 私が、あの爆発に巻き込まれた人達を殺したんだ。

 ――もう、言い逃れなんて絶対できない。

 私は、悪だ。ただの、人殺しだ。
 仮面ライダーの横に立つなんて、許されるような存在じゃない。
 私は風都に吹く風を汚す、ただの悪なんだ。

 ……それでも。

 ……私は悪でも、風都を護りたい。

 ……そこに私がいなくても、良いから。

「――崩れちまったなぁ、東京タワー」

 手術室から追い駆けて来たのだろう、男がそう亜樹子に呟く。

「様子を見にでも行くつもりか?」

 後ろから投げられた男の問いに、亜樹子はゆっくりと首を振る。

 こつ、こつとブーツを鳴らしながら、男は亜樹子の前へと移動して来て――彼女の顔を覗き込む。

「――底に落ちた……か」

 そう満足げに、彼は呟いた。

 ――崩れたのは、東京タワーだけではない。
 鳴海亜樹子という人間の心も、また――



「おまえ……俺の妹にならないか?」



 男の言葉の意味が、亜樹子には最初理解できなかった。

「どん底に落ちてから見えるものもある。俺はずっと、暗闇の中を歩いて来た……。
 おまえも、俺と一緒に地獄を行かないか?」

 やっぱり、何を言っているのか全然わからない。
 目の前の男は狂っているんじゃないかと、亜樹子は思う。

「俺は、おまえの傍にいてやる。だからおまえも――来い」

277Sを受け入れて/地獄の兄妹 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:26:19 ID:KGMFDRnA0
 だけど――好都合だ。

 亜樹子はもう、迷いを捨てていた。
 ぐだぐだうじうじと、心の中で言い訳ばかりして。あそこで野上良太郎達と別れた時に、本当は済ませておかなければならなかったことを、自分はずっと置き去りにして来た。

 美穂にあって自分になかったもの。それは覚悟だ。

 罪を受け入れ、悪となってでも目的を達成するという覚悟が、自分には足りていなかった。

「お兄……ちゃん?」

 今の亜樹子は徒手空拳。ライダーや怪人が跋扈するこの殺し合いにおいて、ただの一般人程度の力しか持たない亜樹子が生き残ることなど、本来は不可能だ。
 だけど、美穂が教えてくれた。亜樹子には亜樹子の武器があると。

「……行こうぜ、妹」

 満足げに頷く男に、亜樹子も――本心からの喜びを込めてやった笑みを返す。
 目的に近づく、道具を見つけた歓喜を。

 亜樹子が無力な女に過ぎないなら――それを武器にすれば良い。
 バカな奴らを、利用して駒にするのだ。

 幸いなことに、目の前のこの男は亜樹子を求めている。どういう目的かは知らない。妹になれ、などと初対面の女性に言って来る男がまともであるはずがない。
 だがそういう趣味だというなら応じてやる。どんな汚い真似をしたって、まずは手駒を手に入れてやる。何しろ亜樹子には武器も力も今はないのだから、盾となる参加者は必要だ。

 急に視界がクリアになった気がして、亜樹子は心の中で先程の自分の失態を嗤う。
 わざわざ殺し合いに乗ると宣言した亜樹子を、助けに来るような御人好しだ。あそこで殺そうとするよりも、身を護る盾として使う方が絶対に良かった。損得勘定ができなかった自分を悔やむが、まあ良い。

 今は目の前の男。こいつを利用して、少しずつで良い。あわよくば他の世界の参加者を削り、亜樹子自身の戦力も用意させる。都合が悪くなったら、美穂の言うように男を捨てれば良い。

「――うん、行こう」

 亜樹子は応えて、痛みの残る身を動かして男に続く。

 そう、行こう。風都を護るために。邪魔者を全て消し去るために。

 殺し合いのシステムを考えると、自分と同じ世界の参加者にはできるだけ生き残って欲しいが――もしも自分の邪魔をするなら、翔太郎やフィリップだって――殺す。どうせ大ショッカーに生き返らせて貰うのだから、もう躊躇わない。むしろ彼らは、その性格上最初の内に盾としてしか利用できないと考えた方が良い。

 当面は、誰と会ってももう殺し合いには乗っていませんと言い張る。その方が、御人好しの多い正義の仮面ライダーと近づき易い。無力な女であることを活かして彼らの庇護欲を煽る方が、今の自分に扱える駒を増やし易いはずだ。涼のことは正気じゃなかったと、泣いて謝って許しを乞おう。本人は無理でも、他の仮面ライダー――野上良太郎のような相手は、それで十分なはずだ。

 東京タワーの爆弾は、全部あのアポロガイストとかいう怪人の仕業にすれば良い。事実を知っている渡と言う男は殺し合いに乗っているから、正義の仮面ライダーにそれが知れることはない。
 ああでも、もしもあの蝙蝠が他の参加者にも言い触らしていたらどうしよう――?

278Sを受け入れて/地獄の兄妹 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:28:06 ID:KGMFDRnA0
 ――あぁ、そっか。

 放送も爆弾も、何もかも、全部霧島美穂に脅されていたことにすれば良いんだ。
 あの状況、起きたばかりで錯乱していたことにすれば良い。自分の命が惜しくて、美穂に手を貸していた。それであんな応答をしてしまったと言い張ろう。
 死人に口はない。全部押し付けてしまおう。利用する相手に蝙蝠がそのことを話す前なら、自分は被害者なんだと吹き込んでしまえば良い。

 別に良いよね、美穂さん。私達は本来、敵同士なんだから――

 追及が続くなら、この男に中てられて狂ったフリをしたって良いのだ――いやもう、狂っているのか。

 それでも、構わない。

 自分が狂おうと、命を落とすことになろうと――幸せな風都を作り上げる。惨劇を失くし、照井竜とその家族が笑って暮らせる風都を。父壮吉が二人で一人の仮面ライダーを導いて、人々の平和を護る理想の風都を、この手で護るのだ。

 そのためなら自分は、何にだってなってやる。
 男の言うように、地獄を歩むことになっても――それで願いが叶うなら、もう何も望まない。



 悲壮過ぎる決意を胸に隠し、偽りに兄と呼ぶ男に続いて地獄を歩もうとする女を、夜空に浮かぶ星々が見下ろしていた……。



【1日目 夜】
【E-5 病院 手術室】

【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】全身に傷(手当て済)、闇の中に一人ではなくなったことへの喜び
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:士の中の闇を見極めたいが、今は士を待つか……?
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:妹(亜樹子)と話をする。
3:天道と出会ったら……?
4:音也の言葉が、少しだけ気がかり。
5:自分にだけ掴める光を探してみるか……?
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外は出来ないようです。
※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。
※鳴海亜樹子を妹にしました。

【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(劇場版『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』直後)
【状態】ダメージ(大)、疲労(小)、極めて強い覚悟、ファムに変身不可15分変身不可
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
基本行動方針:風都を護るため、殺し合いに乗る。
0:例え仲間を犠牲にしてでも優勝し、照井や父を生き返らせて悲しみの無い風都を勝ち取る。
1:まずは目の前の男(矢車)を利用する。
2:他の参加者を利用して潰し合わせ、その間に自分の戦力を整える。
3:良太郎は利用できる? 涼のことは会ってから判断。
4:当面は殺し合いにはもう乗ってないと嘘を吐く。
5:東京タワーのことは全て霧島美穂に脅され、アポロガイストに利用されていたことにする。
【備考】
※良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。
※放送で照井竜の死を知ってしまいました。

279 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/10(木) 18:29:19 ID:KGMFDRnA0
以上で投下終了です。

問題点・修正点・誤字脱字などございましたらご指摘よろしくお願いします。

280名無しさん:2011/11/10(木) 18:33:22 ID:U35KkXoY0
投下乙です
所長が完全に覚醒したあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 黒いよ、マジで黒いよ!
てか兄貴、そんな奴を妹にするなwwww
完全に外道になった所長がどうなるのか……凄く楽しみだ

281名無しさん:2011/11/10(木) 18:38:50 ID:qFF8YGDA0
投下乙です、
地獄兄妹誕生!!
……だけど、実は全然兄妹で目的が噛み合っていない罠。兄貴は大ショッカー潰すつもりなのに妹は兄貴を利用して優勝狙い……
……兄貴何やってんの? ……まぁ原作からしてこんな感じか。

282名無しさん:2011/11/10(木) 19:07:49 ID:o2O1zIkc0
投下乙です。
この絶対ろくな死に方しなさそうな所長の外道っぷりが素敵!
矢車さんはまあ……原作でもこれくらい訳わかんなかったし、とても「らしい」ww
集団に亜樹子一人が紛れ込んでるだけでなんかニーサン並に恐ろしい気がするのは気のせいだろうか……

283名無しさん:2011/11/10(木) 21:23:07 ID:gVCyMtGcO
投下乙です!地獄兄妹……あれ、って事は最後所長が兄貴にライダーキックされてウンメ(ry

284名無しさん:2011/11/13(日) 13:10:50 ID:FwvDNI6c0
乙です
この兄妹色々な意味でヤバイですね・・・

285 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:31:23 ID:crHJVhYc0
感想ありがとうございました。
これより予約分の投下を開始します。

286君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:32:40 ID:crHJVhYc0
 ――揺れを感じて、小野寺ユウスケは意識を取り戻した。

 この地に連れて来られてからの戦いで積み重なった疲れを身体の節々で感じつつ、自分が誰かに背負われていることに気づいた。

「あっ――ごめんなさい!」
「――気がついたのかい?」

 慌てて飛び降りようとするユウスケをがっちり掴んだまま、そう男の声が返って来た。
 何とか相手の拘束を振り払って脱出したユウスケは、その声をどこで聞いたか思い返す。
 先程、レンゲルに襲われていた深紅の仮面ライダーの声だと気づいた時には、ユウスケは周囲を見渡した。

「レンゲルは!?」
「――あの仮面ライダーですか? 今さっき、あなたが追い払ってくれましたよ」

 そう後ろから、婦人警官を背負った少年がユウスケに答えた。

「あなたが来てくれていなかったら、多分、俺達は殺されていました……本当にありがとうございます」

 人を背負ったまま器用なことに、そう丁寧に頭を下げて来た少年の浮かべた笑顔に、ユウスケは素直に安心と喜びを覚え――すぐにそれを振り払った。

「……無事なら、良かったです。それじゃあ」

 デイパックも持たず、踵を返してユウスケは彼らと別れようとした。
 こんな自分でも、また誰かの笑顔を護ることができた。それは純粋に――本当に本当に、嬉しい。
 だけど、誰かと一緒に居てはもう、ダメなのだ。
 だって、自分は――

「――待ってくれ!」

 そう自分を背負っていた、茶色のロングコートの男が呼び止めて来た。

「俺には、恥ずかしいことに力が足りない。ここに連れて来られた人々を保護して殺し合いを止めるには、君の力が必要なんだ。何より君も、こんな場所に一人だけでは危険だ。我々と一緒に行動してくれないか?」

 助力を求める男の言葉に、しかしユウスケは歩みを止めなかった。
 ただ無視しては彼らも納得しないだろう。だから、理由だけは残しておくことにした。

「無理……ですよ。俺はもう、誰かの傍にいちゃいけないんです。
 俺がその人達を傷つけて、笑顔を奪ってしまうから……」

 だって自分はもう、未確認――

「――それは君が、第四号だからか?」

 思わぬ言葉に、ユウスケの足が止まった。

 この人は、俺を――第四号を――クウガを、知っている?

「――戦うためだけの生物兵器に、なってしまうかもしれないからか?」

 ユウスケの反応を慮ってか、先程の驚きと焦燥を含んでいた声が、今度は穏やかに、ただ確認をするような、そんな声色に変わった。

287君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:33:47 ID:crHJVhYc0
 ただ、ユウスケの方はそうはいかない。

(戦うためだけの……生物兵器)

 それはまさに、あの黒きクウガを的確に表した言葉だった。

 ただ憎しみに駆られ、ただ怒りのままに、究極の暴力を行使し、他者を傷つけるだけの存在。
 それはまさに、他者を殺傷することだけが存在意義の、兵器と呼ぶに相応しいモノだ。

 それが今の、ユウスケ自身。

(だったらやっぱり、俺はここに居てはいけない――っ!)

 ――その力が、俺達に向けられたらどうする?

 脳裏に蘇るのは、橘朔也の恐怖を孕んだ声。

 人を傷つけるだけの兵器が、人と一緒にいて、その人を笑顔になんてできるわけがない。
 ただの兵器となった自分は、その存在意義を果たし、そして消えるべきなのだ。

(この命と引き換えに、ダグバを討つ!)

 その決意を胸に、ユウスケは疲労困憊した身体に鞭打ち、走り出す――

「それでも君は、誰かの笑顔のために戦った……俺の知っている、四号と同じように」

 ――その言葉が届いていなければ、そうなるはずだったのだ。

「……もう一人の、クウガ?」

 ユウスケは止まり、思い出す。
 橘達に見せて貰った、もう一人のクウガの戦いの記録を。
 半径数kmにも渡る爆発を伴う、凄まじい戦いを繰り広げてきた、もう一人のクウガ。その力はまさに、兵器と呼ぶに相応しい物。
 一体彼が、どんな気持ちで戦っているのか――それを知りたいと、ユウスケは思っていた。

 振り返った先にいる、強い眼差しで頷いたロングコートの男――自分ともう一人のクウガを同じだと言う、彼はいったい、何者なのか。

「あいつは強い男だが、暴力を好しとする奴じゃなかった。いつも、心の中で泣きながら、それでも皆の笑顔のために戦った」

「皆の、笑顔のために……」

 ――私一人の笑顔のために、こんなに強いなら……世界中の皆のためなら、あなたはもっと強くなれる。
 ――私に見せて、ユウスケ?

 姐さんと慕った、八代藍刑事の最期の頼み――ユウスケの原動力たるその願いを思い出しながら、ユウスケは男の言葉を繰り返す。

「それでも――あいつがどんなに辛くても戦えたのは、一人じゃなかったからだ。
 あいつの家族も、友人も、同僚も、仲間も――未確認との戦いを押し付けてしまった俺さえも、五代は自分を支えてくれていると言っていた。無力な俺達が、あいつを支えていると」

 五代――それがもう一人の、第四号……仮面ライダークウガの名前。

288君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:34:44 ID:crHJVhYc0
 そう静かに認識するユウスケに、目の前の男はさらに語りかける。

「あいつも、何度も戦うための生物兵器になりかけた。それでも、あいつは皆の笑顔のために戦う、戦士クウガであり続けている……。
 君は俺や五代よりも若い。そんな運命を背負わされて、どんなに辛いか――俺は、それをずっと傍で見て来たつもりだ。
 だから、言わせてくれ。そんな辛い想いを、たった一人で背負い込もうとするな……と」

 ひょっとするとそれは、ユウスケだけに向けた言葉ではなかったのかもしれない。
 彼の知るクウガへの罪悪感が言わせた言葉だったのかもしれない。
 ただその熱い意志を感じさせる瞳には、ここにはいない男への想いだけでなく――殺し合いの中で戦力を欲する保身でもなく、純粋にユウスケ自身を案じる想いが、確かに見て取れたから。

 ユウスケが紡いだ否定の言葉は、とても弱々しいものだった。

「ダメなんです……俺は、俺だけが危険なわけじゃない。俺を怒らせるために、ダグバが他の人達を殺して行く……」

 門矢士や、海東大樹や、橘やヒビキ、名護啓介が紅蓮の炎に焼かれて悲鳴と共に落命し、それを見て邪気もなく笑う、白い怪人の姿が頭に浮かぶ。
 その幻想を振り払い、ユウスケは語気を強めて叫ぶ。

「俺は、その前にあいつを倒さないといけない! その時誰かが俺の傍にいたら、究極の闇に巻き込んでしまうっ!」

「ダグバ、それに究極の闇……第零号かっ!?」

 そう驚愕を漏らした男から視線を逸らして、ユウスケは再び走り去ろうとする。
 だがその前に、男に捕まえられる。

「奴は危険だ! 一人で戦おうなんてするな!」
「危険だから! 他の人は巻き込めないって言っているんじゃないですか!?」

 そう叫び返し、掴まれた腕を振りほどいたユウスケに、男はさらに大きな声で叫んだ。

「――それがわかっているのなら! どうして君は、自分の身は顧みない!? 君が傷つくことで悲しむ人がいるということが、どうしてわからないっ!?」
「――っ!」

 そう声を張り上げる男の剣幕に、思わずユウスケは黙ってしまう。

 ――私はただ、あなたを心配して――

 生前の姐さんの、そんな言葉が蘇る。
 あの時の自分は、他に未確認と戦う戦士が現れて、自分は姐さんに捨てられてしまうんじゃないかと――彼女の気持ちも考えず、その心配をまるで気に留めようとしなかった。

 そして、今の自分には――仲間がいる。

 ――こいつが皆の笑顔を護るなら! こいつの笑顔は、俺が護る!
 ――知っているか。こいつの笑顔、悪くない。

 そう言ってくれた士は今、光夏海を喪って、何より辛いはずだ。
 そんな彼を、さらに自分は傷つけようとしていた、ということなのか?
 自分が犠牲になることで、士や、海東さんや、橘さんやヒビキさんと言ったこの会場で出会った仲間達が――死んでしまった夏海ちゃんや海堂が、そして姐さんが、何にも悲しく想うことなく、笑顔になれるだろうか? 彼らはそんな、冷たい者達だったか?
 答えは否だ。彼らはきっと、誰よりも優しい心を持っている。だからこそ、人を護るために皆が戦っている。そんな彼らが、自分のような存在だろうと、誰かが傷ついて心痛めないわけがない。

289君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:35:32 ID:crHJVhYc0
 俯くユウスケに、さらに男が言葉を掛ける。

「――皆の笑顔を護ると言うのなら、中途半端な真似はするな。皆の中に、どうして自分を想ってくれる人を、どうして自分自身を入れないんだ」

 本気で怒ったような男の声に、ユウスケは何も言い返せなかった。

「そうですよ」

 それまで黙って見ているだけだった少年も、男の言葉に後押しされたように、そこで口を開く。

「自分を助けてくれた人が苦しんでいて、そのまま誰かのために犠牲になってしまったら……俺は、本当に立派だと思いますけど、それでも――残された者として、とても、悲しいです」

 少年の言葉には――それを体験した者だけが持ち得る本物の感情が込められているように、ユウスケには感じられた。

「だから、あなたも自分のことをもっと大事にしてください。俺も鍛えてますけど、あなたの力は俺なんかよりずっとずっと凄いです。その力で守れる人が、俺達以外にももっとたくさんいるはずなんです。あなたが無事で居てくれるだけでも、救われる人がいるはずなんです。……だから、お願いします」

 そう少年に頼まれては、その想いを無下にできるはずもなく。

(中途半端、か――)

 誰も巻き込まずにダグバを倒すために単独行動を、などと言っているはいるが、自分はただ――橘の言葉が、その後に続く拒絶が怖くて、あの場から逃げ出しただけではなかったのだろうか。
 彼がダグバやそれに等しい究極のクウガに恐怖はしても、ユウスケ自身を拒絶する理由などどこにもないというのに。

 そう考えてしまえば、もう――ユウスケには、彼らの申し出に抗うことなどできなかった。

「あなた達の、名前は……?」

 ユウスケの問いに、ロングコートの男が懐から警部補の階級が記された警察手帳を取り出す。

「俺は、警視庁未確認生命体合同捜査本部所属、一条薫だ」
「俺は桐谷京介って言います。この人のことは、わかりませんけど……」

 一条に続いて名乗った後、背負った女性をそう振り返った少年の名に、ユウスケは強く反応する。

「桐谷京介、って……ヒビキさんの弟子の、京介くんかっ!?」
「!? ヒビキさんを知って――」

「――ようやく、追い付いたか」

 京介の問いかけは、その男の声によって遮られた。



 ――どうして、その声を聞くまで気づけなかったのだろう。

 いつの間にか自分達の背後に立っていたその壮年の男からは、強烈な威圧感が放たれている。

290君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:36:33 ID:crHJVhYc0
 それが男の隠そうともしていない闘気と、そして殺気というべき感情による物であることは、既に何度もその類の感情に晒された三人には、一瞬で理解できていた。

「――どいつが、小野寺だ?」

 鰐の皮を思わせる衣服に身を包んだ男の問いに答えることなく、ユウスケと一条が女性を背負った京介と男の間に立ち、それぞれ戦うための覚悟を決めた戦士の言葉を紡ぐ。

「――変身っ!」

 されど――何も、変わらない。
 アークルは現れない。アクセルドライバーに押し込んだアクセルメモリも、内包する地球の記憶を解放することはない。

「!? どうしてっ!?」
「――やはり、か……!」

 変身の叶わなかったことにユウスケは動揺した声を上げ、一条は無力を噛み締める。

「ああ、なるほどな……おまえが、小野寺か」

 一方でそう一人呟いた男は苛立たしげに舌打ちし、気だるげに息を吐いた。

「やっぱりクウガとやらになって戦えねえのかよ……おまえのせいだぞ」

 そう誰もいないのに何者かに語りかけるように言葉を発する男に、ユウスケは問い詰める。

「おまえ、誰だ? どうして俺のことを知っている!?」
「俺は牙王だ。――まあ、戦えないならそれはそれで、仕込みぐらいはしておくとするか」

 言い終えると同時に、何もない空間から恐竜や鰐の顎を模したようなバックルが現れ、一人でにベルトが男の腰に巻かれる。

 男がバックルのボタンを押すのを見て、突然の事態に戸惑うことなく一条はデイバックへと手を伸ばす。ユウスケは京介に振り返り、避難を促す。

「その人を連れて逃げるんだ、京介くん!」
「変身」

 ――GAOH FORM――

 ユウスケが視線を戻せば、バックルの前に翳されていた黄金のカードケース――電王のライダーパスに似ているそれが、同じように分解され、破片が牙王に纏わりつき、装甲して行く。

「――そっちに装甲車がある! それで逃げろ!」

 少年相手に無茶なことをユウスケの叫ぶ間に、胸板へと天に伸びた牙のような一対の白い角が、両肩へと恐竜の頭を思わせるショルダーアーマーが、金と黒で構成されたスーツに装着される。
 破片は最後に、顔面で恐竜の顔によく似た形を作り――それが展開して、異形の仮面となった。
 全ての過程を終え、その仮面ライダー――ガオウは、全身から赤黒い波動を放った。

 それに怯まず、生身でユウスケはタックルを仕掛けた。
 だがガオウは、事もなく片手を払い、ユウスケの身体を路上に転がらせる。
 ダメージも疲労も蓄積された身に、軽くとはいえ仮面ライダーの打撃を受けたユウスケは思わず悲鳴を発し、激痛に行動を縛られる。

291君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:37:19 ID:crHJVhYc0
「くだらねえ真似すんじゃねえよ――おまえは、メインディッシュって奴だ」

 そうユウスケに告げるガオウの胸板で、金属音が鳴る。
 AK-47 カラシニコフから一条の放った、対オルフェノク用スパイラル弾は、しかし仮面ライダーの装甲に傷一つ着けることができずに弾かれていた。

「おまえは、オードブルって奴だな」

 一条が続けて放つ弾丸を気にも留めず、ガオウは一気に距離を詰める。
 咄嗟にデイパックを掲げたが、ユウスケの時とは違って全力のライダーの拳が一条を襲っていた。

 まるで大型トラックに撥ねられたように、一条の身体が宙を舞い、家屋の壁に激突しそれを突き破る。

「――っ! 一条さんっ!!」

 路地を一つ挟んだ大型車線上に停車してあった装甲車の方に向かっていた京介が思わず振り返り、崩れ落ちる瓦礫と立ち込めた粉塵に向けて、叫び声を発する。
 その悲痛な声はユウスケの耳にも届いていた。

 生身であんな目に遭っては、助かりっこない――理不尽な暴力で人々の笑顔を奪う悪のライダーに、ユウスケの中にドス黒い憎しみが生まれる。
 もしも変身できていれば、あの黒いクウガになってしまっていたかもしれない。

(一条さん――っ!)

 もう一人のクウガを知る刑事。会って間もない自分を心配してくれた人。そんな彼が、あっさりと殺された。
 だがそのことを嘆き、立ち止まっている暇など、今はない。

「どうやら、効果覿面って奴みてえだな」

 二人の敵意の籠った視線を受けながら、そうユウスケを見て嗤ったガオウは腰に付いていた二つのパーツを連結させ、デンガッシャーのように組み立てる。
 そして黄金のライダーパスを腰に翳すと、電子音が生じる。

 ――FULL CHRAGE――

「――京介くん、逃げろっ!」

 ユウスケが叫ぶと同時に、ガオウの持つ大剣の先端が高速回転を始め、電流のようなエネルギーを纏う。

「――らぁああっ!」

 ガオウの叫びと共に、その先端が放たれた。

 文字通りの飛ぶ斬撃と化したその一撃は、背負った女性を放さないまま何とか横に逃げた京介の脇を通り過ぎて――その先にあった装甲車を、まるでバターのように引き裂いた。
 エンジンを貫き、刀身に宿っていたエネルギーが引火させたのか――巨大な鉄の箱は、呆気なく爆発四散する。

「うわああああああっ!?」

 降り注ぐ鉄の欠片から意識の無い女性を護りながら、京介が悲鳴を上げる。

 そのすぐ隣のいくつかの家屋を貫き、崩壊を引き起こしながら、ガオウの構えた大剣の柄にその刃がブーメランのように舞い戻り、装着された。

292君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:38:38 ID:crHJVhYc0
「はっ――さて、トドメと行くか」
「やめろ――っ!」

 何とか立ち上がったユウスケは、ガオウに必死に組みつく。が、身動ぎだけで払われてしまう。
 今度は倒れ込まず、膝を着きながらも、ガオウと京介達の間にユウスケは立ち塞がった。

「おまえ……! どうしてこんなことをするんだっ!?」

 理不尽な暴力への純粋な怒りを込めて、ユウスケはガオウに問う。
 それに対して、ガオウは可笑しそうに鼻を鳴らす。

「そりゃ、おまえを強くしてやるためだよ」

「な――に……?」

 思わぬ言葉に、ユウスケは衝撃を受ける。

「聞けばおまえ、ダグバに他の参加者を喰われたら、奴に対抗できるだけの究極の力を出したしたそうじゃねえか。おまえは雑魚ばっかの中でやっと見つけた極上の獲物だ。豚は太らせてから喰え、って奴だな」

 ガオウがどうしてそんなことを知っているのか、どうしてそんなことを言うのか、どうしてこんな酷いことができるのか、ユウスケにはわからない。
 だが――

 ――こうまでしてあげたのに、何で怖くならないのかな? 早くしてよ。

 そう言って、二人の参加者を屠ったダグバの姿が憎しみと共に蘇る。
 この仮面ライダーは未確認と同じだ。理解できない自身の快楽のために、他者に理不尽な暴力を振るい、皆の笑顔を奪って行く。

 ここで止めなければ。倒さなければ、一条だけでなく、もっとたくさんの人の笑顔が犠牲になる――っ!

「邪魔だ」

 そうガオウに払い除けられ、再び地に倒れるユウスケ。視界の端には、迫り来る凶手から女性を庇い、変身音叉を構えるも――自分や一条と同じく、それが叶わない京介の姿が映った。

「やめ……ろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 二人ににじり寄りながら大剣を構えるガオウに、ユウスケは絶叫する。
 そして、心から欲する。

 あの二人を助ける力を。
 この状況を打破するための、力を。
 皆の笑顔を護るための、本当の力を!

 全てを闇に覆い尽くす究極の力を手にしながら、そんなものではなく、たとえちっぽけでも誰かの笑顔を護るための切実な力を欲するユウスケの叫びに――

 ――天は、応えた。

「――やらせるかよぉおおおおおおおっ!」

293君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:39:20 ID:crHJVhYc0
 そう、聞き覚えのある声がしたかと思うと――空から舞い降りて来た金と青の影が、ガオウを目掛けて突撃した。

 周回する軌道を描いた二つの影は、ライフル銃による狙撃も受け付けなかった仮面ライダーの装甲に火花を散らせ、ガオウを苦鳴と共に後退させる。

「これ以上の悪事は、この俺様が見過ごさねえぜ!」
「――キバットっ!?」

 器用なことに、飛びながら片方の翼をまるで指差すようにガオウに突きつけた、顔だけの蝙蝠のような小さい金色のモンスター――かつての同僚とまったく同じ声と姿をした存在に、ユウスケは思わず叫んでいた。

「えぇっ!? 何で兄ちゃんが俺の名前を知ってるんだよぉ!?」
「……おまえ、あの時の蝙蝠か」

 首を振りながら、そうガオウが立ち上がる。

「おまえがここにいるってことは、あいつも近くに来てやがるのか?」
「渡は……今は、いねえ」

 そうガオウの言葉を否定するキバット。ユウスケは彼らの口から出た名前に気を取られていた。

(ワタル……)

 かつて訪れたキバの世界で、友達となった幼い少年――ワタル王子。
 彼もまた、ライダー大戦の世界で自らの世界の存亡を賭けて戦っていた。
 そこで再会した直後に自分はここに連れて来られたが――彼は今、どうしているのか。

 ……などと、感傷に浸っている場合ではなかった。

「そうか。じゃあ、とっとと失せろ。おまえは特別に見逃してやる」
「そうはいかねえ! この兄ちゃんに、渡の大馬鹿野郎を救って貰うんだからな!」

 突然そう言われ、ユウスケは顔を上げる。
 ワタルを、救う?

「あー……兄ちゃん、承諾も得ないで勝手に口走っちまったけどよぅ……」

 ユウスケの方に寄って来るキバットの代わりに、青いクワガタムシ型のメカ――ガタックゼクターが、ガオウを牽制している。

「兄ちゃんに、頼みがあるんだ。だからその前に、兄ちゃんに死なれちまったら困るんだよ。勝手だけどよぉ、助太刀させて貰うぜぇ」
「いや……助かる!」

 ユウスケはそう本心から礼を述べつつ立ち上がり、また気だるげな溜息を漏らすガオウを睨む。

「何にしても、まずはこいつをどうにかしないと……」
「あぁ。俺だって、このままじゃ仮面ライダーと戦うなんてできねぇ。本当はあいつが力を貸してくれたら良いんだが……何考えてんのかわかんねぇし」

 そうキバットは、ガオウを牽制するように飛び回るガタックゼクターを見、それからユウスケに真剣な表情で振り返る。

「だから、兄ちゃん――!」

 するりとキバットが、ユウスケの左手の方に飛んで来た。

294君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:40:43 ID:crHJVhYc0
「普通の人間にゃちょっとしんどいだろーけど、俺の力、使ってくれ!」
「えっ……?」
「キバって、いくぜぇぇぇぇぇっ!!」

 ガブリ、っと。

 キバットが、ユウスケの手の甲に噛み付いた。



 魔皇力が注がれた瞬間、ユウスケは思わず身を捩った。

 既に疲労が蓄積されていたその身に、人間にとっては毒である魔皇力を体内に取り込んだのだ。もはや疲労は、直接痛覚に訴えて来るほどの物。

 だが、それでもユウスケはもう、膝を屈しなかった。

 その腰に鎖が巻かれると、それが銀のベルトへと姿を変える。
ユウスケに余計な手間を掛けさせないためか、ユウスケの手からその牙を抜いたキバットは自分からバックルへと頭を下にして収まった。

「変……身……っ!」

 言葉を発するのも億劫なほどだったが、ユウスケはそう叫んだ。

 キバットの身体から湖面が波打つような波動が放たれ、ユウスケの輪郭が変化して行く。
 そうして夜の市街地に現れたのは、頭上に輝く月のように黄色い瞳と、血の色をした体色の異形。
 それはファンガイアの王たる証の鎧を纏った戦士――仮面ライダーキバ。

「変身……した?」

 再び女性を背負った京介が、そう驚愕の声を漏らした。

「おまえがそれになるのかよ」

 少し呆れたように、ガオウは吐き捨てた。

「俺が……キバに」

 そしてキバ――ユウスケは、かつて自らが仕えた友にして王たる者のそれと同じ鎧を纏ったことに、わずかばかりの感嘆を漏らしていた。
 自然と、変身する前に感じていた魔皇力による苦痛はある程度軽減していた。それでも長時間の戦闘ができるほどの体力が今のユウスケに残っているのかは怪しいが。

(――これなら、戦える!)

「気をつけろよ、兄ちゃん。こいつ認めたかねぇが、強いぜ!」

 そうキバットが警告を飛ばし、ユウスケもそれを感じ取っていたからこそ、油断なく構える。

「……まあ、良い。邪魔するってんのなら味見ぐらいしてやるとするか」

 そう言ってガオウは、大剣を片手にキバへと距離を詰め始めた――

295君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:42:10 ID:crHJVhYc0




 ――視える。

 ダグバとの戦いで、究極の力を持つクウガになってからというもの――ユウスケの肉体は、その機能を向上させ続けていた。
 今までなら死んでいたほどの疲労も、現在進行形で強化されて行く肉体の治癒力が軽減して行く。
 当然それは、まさしく本来生物兵器としての能力。戦いの中でこそその真価を発揮するという物。
 変身したことによってその強化された五感は、さらにその能力を高めた。
 今までのユウスケなら、目で追うのもやっというガオウガッシャーの一撃も――
 今ならその軌跡が、はっきりと読み取れた。

 大剣の間合いを完全に見切り、上体を引いたキバに、ガオウの剣閃は届かない。

「ふっ!」

 そして一撃。キバの拳が、ガオウの顔面に叩き込まれた。
 だが、浅い。その理由は、直ぐに戻って来たガオウガッシャーから逃れるために、踏み込み切れなかったこと。
 再び襲い掛かった大剣の攻撃範囲から飛び退き、キバが再びガオウに対峙する。

「……良いなぁ、おい」

 軽く首を振るガオウが発したそれは、肉食獣が舌舐めずりするような声だった。

「もっと喰わせろ」
「……嫌だね」

 そう、もう嫌だ。
 これ以上、誰かの――自分自身も含めて、皆の笑顔を理不尽な暴力に奪わせはしない!

 大剣を突き付けるガオウに対し、キバは上体を倒し、記憶にあるそれのように、左手を下に、右腕を頭上に掲げた。

 そうして再び、疾走した二人の間合いが接触する。

 ガオウが繰り出した突きを、キバは身を捻って回避する。そのままガオウの胴へと放たれたキバの左足を、ガオウは柄を落として弾く。だがキバはその反動で後退し、姿勢を崩すことを期待したガオウが横薙ぎ振るった一撃を、これまたあっさりとかわす。

「うらぁああああっ!」

 ガオウは剣を振り終えてもそこで止まらず、体勢を持ち直す隙を見せずにキバへと巨体を活かした突撃を敢行した。

 飛び退ったばかりの隙だらけのキバに、回避する術はない。だが――

「はぁああああああああああああああっ!」

 宙で蝙蝠のように逆さになったキバは、連続で両の拳をガオウに叩きつける。怒涛のラッシュにガオウの突進の勢いはわずかに削がれ、最期にキバはガオウの肩に手を突いて体勢を立て直しながら距離を取る。

296君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:42:59 ID:crHJVhYc0
 だがその胴を、ラッシュが途絶えた瞬間に跳ね上がった大剣が裂いていた。

「ぐぁああああっ!?」

 互いに無理な体勢だったからか、未だ互いに決定打足り得るほどの一撃ではない。
 だが、キバを纏うユウスケの身体は既に限界が近い。威力や装甲の厚みから考えても、ガオウとは一撃の重要度が違い過ぎる。
 さらに言えば、今こそ大部分を見切ることができているが、疲労が溜まればそうもいくまい。
 帯刀した相手に、徒手空拳はあまりに厳しかったのだ。

「くそ……」

 キバの鎧が何とか耐えてくれた腹部をさすりながら、ユウスケはそう毒づく。
 わかってはいたが、目の前の仮面ライダーは相当に手強い。大ショッカーの幹部達にも匹敵か、それを凌駕するほどの強さだ。

「やっぱり、武器相手に素手じゃ厳しいか……」
「――だったら目には目を、剣には剣をだっ!」

 キバの腰から聞こえたのは、キバットの叫び。
 キバットは誰に言われるでもなく、自分から青のフエッスルを手にしていた。

「ガルル、セイバー!」

 笛というよりはトランペットのような音色が響くと、京介が持っていたデイバッグの一つから、青い胸像が飛び出す。
 飛来したそれをキバが掴み取ると、胸像は狼の遠吠えを伴ってその刀身を湾曲させた片刃剣へと変形を遂げた。
 黄金の刀身に、青い野獣の頭部を象った柄を持つその剣を握った左手に鎖の束が走り、弾けた時には、その腕は新たに青い装甲に覆われていた。
 胸元にも同様の変化が起こり、さらにキバットの瞳も青色へ。最後に狼――ガルルの一吠えと共に、キバの月光のような黄色い瞳も、深い青へと変化していた。

 流れ込んで来る衝動のまま、キバは剣を担いで四つん這いのような体勢を取り、そして吠えた。

「随分威勢良くなったじゃねぇか」

 ガルルフォームへの変化を見届け、ガオウはそう不敵に笑う。

 そのガオウを見据え、キバは腰を落としたまま走り出す。ガオウもそれに応じ、二人の仮面ライダーの戦いが再開される。

 だがガルルフォームとなったキバは、今までガオウの戦っていたそれとは完全に別種のもの。
 まさに獣の如き瞬発力で、ガオウの予想を超えた速度を叩き出し、刃を叩きつけて来た。

 だがガオウも無抵抗に刃に蹂躙されるような男ではない。巨大なガオウガッシャーを巧みに操り、最小限の動きでガルルセイバーの連撃を弾く。

「がぁああああああっ!」

 着地したキバが、さらに追撃の牙として得物を振るう。
 一合、二合、三合。火花を散らせぶつかり合う剣と剣。速度はキバが圧倒的に勝っており、防戦一方にまでガオウは追い詰められているように見えた。
 確かに純粋な剣と剣のぶつかり合いでは、技量で勝っていても反撃の芽を見出せないほどの速度差に、ガオウは明らかに押されている。防ぎ切れなかった刃の嵐が少しずつ、ガオウの装甲を削って行く。
 だが。

「足元に気をつけろ」

297君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:43:59 ID:crHJVhYc0
 言うや否や、右から迫るガルルセイバーを受け止めるわずか一瞬前に、ガオウの右足が動く。
 速度で勝りガオウを刻み続けるガルルセイバーは、その分一撃ごとの重さが足りなかった。野獣のような猛攻だろうと、剣技で遥かに上回るガオウからすれば、片手間でも数度ならば対処できるほどに。

 結果、相手の一撃を受け止めながらの、ガオウのカウンターキックがキバを強襲していた。

 攻撃が終了した直後の、慣性による硬直。しかも蹴りを防ぐための左腕は剣を持ち、一撃を繰り出したばかりで反応が遅れる。

 確実に敵手を捉えたガオウの炎を纏った蹴りは、赤い塊によって迎撃された。

 それはキバが握り締めた右拳だった。
 ガオウの蹴りは、ただの攻撃後の隙を狙っただけではなく。ガルルセイバーがキバの視界を塞ぐ、そのタイミングで放たれた感知不可の一撃のはずだった。だからこそその余裕が声に出た。

 だがそれに、キバは後出しで反応して見せたのだ。

 しかしながら、腕力と脚力には大きな開きがある。ガオウとキバガルルフォームではキバの方がスペックに勝るが、それでもほんのわずかでもガオウのキック力はキバの拳を凌ぐ。さらに言えば満足な体勢からでない一撃は、到底重たい蹴りを撃墜できるほどのものではない。

 結果、キバの拳は弾き返され、ガオウの蹴りはその胴を捉えた。

「ぐぁああああああっ!」
「あぁっ!」

 意識の無い女性を庇いながら見守るしかできない京介がそう悲痛な声を上げるが、数度転がって立ち上がったキバはガオウに構え、「大丈夫だ」と返す。

 純粋に見れば、仮面ライダーとしてのスペックはキバが勝っている。また、究極の闇へと覚醒を果たしたことで強化された今のユウスケの身体能力――それによって生み出された戦闘センスは、牙王さえ大きく上回るほどの物だ。

 だが仮に素質で劣ろうとも、現時点での戦闘技術は熟練の戦士である牙王が遥かに上。特に素手よりマシと言え剣戟はガオウの専門分野であり、相手の土俵で戦っているに等しい。ましてキバとして戦うのが初であるユウスケには荷が勝ち過ぎる相手だ。

 加えて、ユウスケの全身を蝕む疲労と傷の数々は十分戦いに影響を及ぼすレベルに達している。それによって有利は、襲撃者の方に傾いていた。
 
 速度を活かし、連続攻撃で押し続ければ、万全なら十分に勝機はあっただろう。

 だが今のユウスケに消耗戦が許される体力は残っていない。活力の源である魔皇力も、いつ毒となってこの身に牙を剥くか知れたものではない。
 ならキバの取れる選択肢は、一つ。

 キバはガルルセイバーを地に水平に構え、腰に落とした。
 ちょうど、キバットの目の前に。

「ガルル、バイトッ!」

 ユウスケの意図を察したキバットが峰に噛み付き、刃が燐光を漏らす。
 キバは左手にガルルセイバーを構えたまま両手を広げ、扇を描くように顔の前に移動させ両手で剣を掴むと、横を向いていた刃先をガオウに向ける。
 刃を再び寝かせ、それを仮面が銜えると、キバの身体は夜空高くへと跳躍した。



「――なるほどな」

298君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:44:44 ID:crHJVhYc0
 キバの意図を悟り、ガオウは一人頷く。
 長引けば消耗し続け、敗色濃厚と見たか。ここに連れて来られてから最初に戦った仮面ライダーと同じように、最大の一撃で一気に勝負を着けるつもりなのだとガオウは悟る。

「そう来るなら、あいつと同じように喰い潰してやるよ」

 相手が最大の力での決着を望むなら、それ以上の力で叩き潰してやるのみ。

 ガオウはそうマスターパスを手に取り、それをベルトに翳して――

 一発の銃声を聞いた。

「あ――っ?」

 感じたのはパスを握っていたはずの右手の痺れ。そこにあったはずのマスターパスは、意識外からの狙撃を受けてガオウの手から零れていた。

 予想外の事態にガオウが思わず視線を巡らせると――先程その命を喰らったはずの、一条という男が隙なく構えたライフルの先端から硝煙を昇らせる姿が、そこにあった。

「テメェ……ッ!」
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 そうして一条という男に一瞬でも気取られたのが、致命的な隙。

 巨大な満月を背景に、天から迫り来るキバへと対抗するだけの力を、ガオウはもう用意できない。

 迎え撃とうと振り上げたガオウガッシャーは口に銜えられた斬撃に押し切られ、ガルルセイバーはガオウの身体を縦に切り裂いた。







 ガルル・ハウリングスラッシュを受けたガオウの鎧が消失し、その中から牙王の生身が晒される。
 彼が倒れ込むのを見たキバもまた、がくりと膝を着いた。

「……キバット、悪い。もう限界だ」

 ユウスケが告げると同時に、キバットはベルトから飛び出して、キバの鎧が砕け散る。

 もう一度牙王が動く様子がないことを確認すると、ユウスケは重い身体に喝を入れて立ち上がった。

「――無事だったんですね、一条さん!」

 そう彼の元に歩み寄るのは、脅威が無力化されたこと、そして同行者の無事に胸を撫で下ろす京介だ。ユウスケも同じ気持ちで、一条達の元に駆け寄る。

「もうダメだと思っちゃいましたよ」

299君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:45:34 ID:crHJVhYc0
「あれで死んでないなんて、モディリアーニの姉ちゃんよりもタフな兄ちゃんだなぁ」

 ユウスケに続いて、そうキバットも失礼な、しかし喜びを込めて軽口を叩く。

「この程度のことは、未確認に何度もされて来たからな。君達を置いて何もせず死ぬなんて、中途半端な真似ができなかっただけだ」

 そう、ユウスケに言い聞かせるように、一条は強く言って来た。
 実際問題、壁を突き破ったのに五体満足で額を切っている以外に目立った外傷もない一条という刑事は、生身でも下手な怪人よりよほど頑強なんじゃなかろうかと思えてしまう。
 その彼に、ユウスケは頭を下げる。

「さっきは、ありがとうございました。ほとんど捨て身だったんです、一条さんの助けがなかったらどうなってたか……」
「気にしなくて良い。俺は警察官だ。どんな凄い力を持っていようと、民間人である君達を護る義務がある……それを果たしただけさ」

 どこか寂寥を孕んだその声を聞いて、ユウスケは彼に自らの決意を伝えることを決めた。

「一条さん。俺、決めました」

 すぐ横でパタパタと滞空するキバットにちらりと目をやり、ユウスケは再び、一条を見る。

「やっぱり、ダグバとは一人で戦います。そこに他の人は巻き込めない」
「君……!」
「だけど! ……中途半端は、もうしません」

 強い決意で以って、一条の声を遮る。

「ダグバは俺が倒します。究極の闇に対抗できるのは、究極の闇しかない。それ以外に誰かがいても、無意味に傷つけられてしまうだけです。
 だけど、あいつを倒すのは皆の笑顔を護るためです。――俺自身のものを含めて」

 静かに、しかし確かな決意を込めて、ユウスケは言い放った。

「それ以外の時は、やっぱり俺も皆と一緒に居て、皆の笑顔を護りたい。俺が傷つくことで、誰かの笑顔が失われるなら――俺は絶対、負けません。必ず、帰ってきます」

 再びユウスケは、キバットの方を見る。

「クウガの力を、俺が制御できるのかはわかりません。だけど、皆の笑顔を護るために、こいつがきっと力を貸してくれます」
「えぇっ!?」

 いきなりそう振られて、キバットは驚いたようだった。

「さっき言ったじゃないか、キバット。これ以上の悪事は見過ごさないって」
「いや、まぁ……そりゃそうだけどよ」
「だから、おまえの笑顔も俺が護る。俺が力になれることがあるなら、言ってくれ、キバット」
「に、兄ちゃん……!」

 キバットは感銘を受けたように、大きな瞳をウルウルとさせた。

「キバット、教えてくれないか? おまえの相棒のワタルを救ってくれって、どういうことなのか」
「あ、あぁ、頼む! 渡は――」
「――悪いが、そう言った話は少しだけ待ってくれ」

300君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:46:15 ID:crHJVhYc0
 一条がそう、二人の間に割り込んできた。

「まずはあの男を拘束しよう。その後、互いの知っている情報を交換して、それから今後の方針を立てよう。――俺達はまだ、君の名前もちゃんと聞けていないからな」

 そう一条に言われて、ユウスケはそう言えば名乗っていなかったことにようやく気づいた。

「ああ、すいません! 俺は、小野寺……」

「――一条さんっ!」

 ユウスケの自己紹介を遮ったのは、京介の切羽詰まった声だった。
 振り返った一条と、ユウスケが見たのは――鏡から飛び出して来る虎の怪物の姿だった。



「危ねええええええええっ!」

 叫ぶが早いか、キバットがユウスケの襟に噛みつき、後ろに引っ張った。

 一瞬前までにユウスケがいた空間を、突如現れた怪物の爪が薙ぐ。

「こいつは……!」
「チックショー、次から次へと!」

 あの時橘達に襲い掛かっていたミラーモンスターの登場にユウスケは驚き、キバットは休む暇もくれない新たな襲撃者へと怒りを燃やす。

「二人とも、離れろ!」

 一条が残った対オルフェノク用スパイラル弾をばら撒く。それは怪物の全身に刻まれた酷い火傷の痕のような傷に寸分違わず吸い込まれて行き、獣に苦悶の咆哮を上げさせる。

 だがそれで絶命させるには至らず、怪物はその剛腕で一条を薙ぎ払うと、既に限界のユウスケへと襲い掛かって来た。

「んにゃろぉ、させるかぁああああっ!」

 遥かに巨大な相手へと、勇猛果敢にキバットが立ち向かう。一条がさらに抉った傷口へと、その牙と爪による連続攻撃で畳掛ける。高速で旋回するキバットにミラーモンスターも手を焼いたようだったが、やはり攻撃力が足りない以上、それも長くは続かない。怪物が遮二無二振りまわした爪がキバットを捉え、叩き落とす。

「キバット!」

 叫ぶユウスケだが、凶器たる長い爪を持つ怪物に立ち向かう術はない。もう一度だけクウガへの変身を試みたが、やはりアークルは現出しなかった。

「――こっちだ!」

 それでも女性を連れている京介や、自分を庇って倒れた一条やキバットへと注意を向けさせないため、声を上げて彼らと反対の方向にユウスケは動く。
 怪物が両手を広げ、ユウスケを追い――

 ――HOPPER!――

 そんな電子音声が背後から聞こえて来たが、意識を向ける前にモンスターの一撃が来襲した。

301君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:47:17 ID:crHJVhYc0
 虎の爪をボロボロの身体で何とか一度かわしたユウスケだが、二度目を避けるだけの体力はない。
 命を狩り取る一撃を阻んだのは、突然その間に割り込んだ褐色の影だった。

「――誰の獲物に手出ししてんだ、テメェ」

 そうユウスケを庇った異形が発した声は――ついさっき、一条の援護が在ってようやく撃退したはずの襲撃者、牙王の物だった。

「――ドーパント!?」

 起き上り、ユウスケ達の方へと歩み寄っていた一条がそう叫ぶ。

「うらぁっ!」

 受け止めた爪を払い除け、牙王の変じたバッタの怪物は強烈なハイキックを虎の怪物に叩き込む。溜まらず後退する相手へと、さらに容赦なく踵がめり込む。
 吹き飛んだ相手にトドメを刺すべくホッパードーパントは跳躍し、両足で飛び蹴りを放った。
 それは破砕音と共に路面のコンクリを砕くが、そこに虎の怪物の残骸は見られなかった。

 見れば襲撃される前と同じように、タイラントクラッシュによって爆砕された装甲車から離れたサイドミラーの中に、全身に深い傷を刻んだ獣の姿が見えた。
 だがそのミラーモンスターの姿は、現実では確認できない。最も鏡の中に敵が逃げ込んだことに気づいたのは、その知識があるユウスケと、直接相対した牙王だけだったが。

「……また隠れやがったか」

 雑魚が、と苛立ちも露に牙王の変身した怪物が吐き捨てる。

「……さて、小野寺。テメェまだ力はあるか?」

 未確認のような異形と化した牙王がそう尋ね、ユウスケの返事を待たずに溜息を着く。

「ないみてぇだな……なら、仕込みに戻るか」
「――っ、よせ!」

 一条へと踵を返した怪物へユウスケは追い縋ろうとするが、限界を迎えた身体がそれを阻む。
 一条はAK-47 カラシニコフを構えるが、既に弾も残っていない。残っていたところで牽制にもならないだろうが、それでも威嚇するように構える。

「京介くん、逃げろ!」

 そう叫ぶ一条の掲げたカラシニコフがホッパーの打撃でへし折れ、防御した上から一条の身体が転がる。だが先程も似た状況で、死んだと思えば平然と生存していた一条を警戒してか、ホッパードーパントは容赦なく追撃を加えに行く。

「一条さんっ!」

 膝を着いている場合じゃない。喉が潰れるほどの叫びを放ち、その一念で立ち上がったユウスケの前に――

 ――もう一つの、護るための力が現れた。

 突然、銀色のベルトがユウスケの足元に降って来たかと思うと、一条をくびり殺そうとしていたホッパードーパントの元へと、そこから青い影が筋となって伸びる。

 ホッパードーパントに自らの身体をぶつけ、火花を散らせたそのクワガタ型メカは、怪人が一条を手放すとユウスケの元へと舞い戻る。

302君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:48:11 ID:crHJVhYc0
「――ガタック、ゼクター……!?」

 自分に向かって頷いて見せるライダーシステムのコアに、ユウスケは問い掛けた。

「まさか……俺に、変身しろって言うのか!?」
「ほぅ、面白え」

 こちらを見ていたホッパードーパントが、そう呟く。

「おまえがクウガになるまで待ってやるつもりだったが、さっきのでもまだまだ喰い足りねえんだ。もっとやろうぜ。じゃねえと……」

 そうユウスケに背を向け、喉を押さえて咳き込んでいる一条の方へ、ホッパードーパントは再度歩み出す。
 それを見ては、ユウスケにはもう猶予はなかった。

 足元にあるベルトを急ぎ装着すると、その手にガタックゼクターが飛び込んで来る。それを掴み、ユウスケは許し難き怪人を見据え――戦いへ臨む、宣告を口にした。

「――変身ッ!!」

 ――HEN-SHIN――

 電子音声と共に、ガタックゼクターをライダーベルトに挿し込んだユウスケの身体は正六角形の金属片に覆われて行き、それが青と銀の重量感溢れる装甲へと変化していく。
 それの完了を待たずに、ユウスケはガタックゼクターの角を倒す。
 形成された装甲が弾け飛び、その下からスマートなフォルムの一人のライダーが現れた。

 ――CHAGE STAG BEETLE――

 それこそは、戦いの神仮面ライダーガタックが、世界の命運を賭けた戦場に、再三に渡って降臨した瞬間だった。

 それを見届けず、ホッパードーパントは一条へと襲い掛かる。
 笑顔を奪うことでユウスケを憎しみに染め、その力を引き出すために。

 だが、そんな真似は仮面ライダーが許さない。

 限界に近い身体を、それでも皆の笑顔を護りたいという強い願いを活力に変えて、ユウスケは――ガタックは叫んだ。

「クロックアップ!」

 ――CLOCK UP――

 そうして、ガタックは一人だけ違う時間の流れの中に飛び込んだ。
 猛烈な速度で一条に襲い掛かりつつあったホッパードーパントの動きが停滞する。間に合うはずのなかったそれが、充分に間に合う距離と時間へと変換される。

 体力が尽きるまで時間はない。長引かせるつもりもない。

 ――One――
 ――Two――
 ――Three――

 ガタックゼクターのボタンを押し、準備を終える。宙に浮いたままのホッパードーパントの元へ駆け寄ったガタックは、勢いを弱めずに跳躍する。

303君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:49:00 ID:crHJVhYc0
 後は叫ぶだけだ。皆の笑顔を護るために悪を砕く、その技の名を。

「――ライダーキック!!!」

 ――Rider Kick――

 電子音と同時、ガタックゼクターから大量のタキオン粒子が塊となってガタックの右足へと集中する。

「おぉりゃぁああああああっ!」

 一閃したその蹴りは、確かにホッパードーパントの胴を捉え、弾き飛ばした。

 ――CLOCK OVER――

 同時に、その時間流の終焉を告げる電子音が響いた。

 ガタックは通常の時間軸へと引き戻され、必殺技を受けたドーパントの変身が解かれる。路上を勢いよく牙王が転がり、その首輪からガイアメモリが射出されて来る。

「――こんにゃろっ!」

 復活したキバットが、そのガイアメモリを口腔へと運んだ。

「ガブリ、っと! ――これでもう、使えねえぜ!」

 ぺっぺっとその欠片を吐き出しながら、キバットが牙王にあかんべえした。
 それを見て肩で息をしながら、ガタックは一条へと手を差し伸べる。

「大丈夫ですか?」
「君――か?」

 さすがに苦しそうに顔を歪める一条に尋ねられ、ガタック――ユウスケは先程言い損ねた己が名を、今度こそ告げる。

「はい、小野寺――ユウスケです」
「ユウスケ……!?」

 驚いたような一条に、ガタックはどうしたのかと尋ねようとした。
 だがそれは、またも阻まれる。

「良いなぁ、おい……俺はこういうのを待ってたんだよ」

 ごきり、と。
 首を鳴らせながら、再び牙王が立ち上がった。

「ゲェッ!? まだ動けんのかよ!?」

 キバットが心底驚き、微かに怯え、そして呆れたような声を漏らした。

「もっと喰わせろ。ここに来てからずっとお預けだったからな」

 そう牙王がデイバッグに手を伸ばそうとするのを見て、キバットが声を上げる。

「させるかよっ!」
「そうだ……今ならっ!」

304君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:49:36 ID:crHJVhYc0
 ガタックは再び腰のスイッチを叩いたが、何故かクロックアップはできなかった。
 だがまだ十分、ボロボロの牙王が何かする前に、仮面ライダーの力で取り押さえるぐらいの体力は残っている。ガタックは先行するキバットに導かれるように走り――見た。

 天から流星の如く堕ちて来た金色の昆虫型メカが、キバットを叩き落とすのを。

「ぐぁっ!?」
「キバット!」

 彼の身を案じる前に、さらにその金の影はガタックにも襲い掛かり、連続で体当たりを敢行する。
 怒涛の攻撃に思わずガタックが足を止めたことを見届けると――その未知の黄金のゼクターは、牙王の元へと舞い降りた。

「……あぁ、なるほどな。おまえがそうだったのか」

 一人納得した様子の牙王はデイバッグに突っ込んでいた右腕を抜き取り――

 そこに巻かれていたブレスレットに、コーカサスオオカブトを思わせるゼクターが鎮座した。

「変身」

 ――HEN-SHIN――

 先程のガタックの変身の再現のように、六角形のパーツが牙王の全身を覆って行き、それは黄金の装甲へと変化して行く。

 ――CHANGE BEETLE――

 現れたのは天に向け屹立する黄金の三又の角の間に、青い瞳を持つ戦士。外国種のカブトムシの角を思わせるショルダーアーマーを右肩に装着した、黄金の仮面ライダーだった。

 その変身の光景を見たキバットは、呆然と呟いた。

「嘘だろ……まだ戦うのかよ」

 ユウスケに力を貸し、キバへと変身させていたキバットだからわかる。もうユウスケが限界を迎えるまで、猶予がないと。

 極限に近いその状態で、しかしガタックは強く拳を握った。

 自分の身体の限界が近いことは嫌でもわかる。まともな戦闘行為ができるのは保って後1、2分か。

 だがそれは、牙王も同じはずだ。

 ここで最初に戦ったカブトムシの未確認や、ダグバのように、強固過ぎる肉体に攻撃そのものが効いていないわけではない。その技量で以ってかわし、防ぎ、ダメージを軽減しているからこその牙王の鉄壁。

 それでも変身を解除し、数十秒意識を奪うほどの一撃目と、クロックアップして仕掛け、無防備を突いた二度目。この二つの必殺技で牙王の体力もまた十分に消耗しているはずだった。

 雄叫びを上げて疾走し、互いの距離を詰める二人のマスクドライダー。その拳は確かに互いの胸を捉え、敵をよろめかせた。

305君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:50:22 ID:crHJVhYc0
 凄まじい速度で、鋭さで、重さで交わされる肉弾戦。だがそれは明らかにそれまでの二人の攻防に比して、疲れが見て取れる雑な物となっている。
 具体的に言えば、防御が疎かになっていたのだ。

 多くの戦いにおいて、攻めるは容易く守ることは非常に困難だ。攻撃側は相手の隙をたった一つでも見つけ出しそこを突けば良いが、守勢に回れば相手の攻撃を全て予測して対処する必要がある。

 今の二人に、そこまでの余裕はない。
 ただただ少しでも早く相手を打ち倒し、自身の受けるダメージを最小に抑える戦法しか、彼らには残されていなかった。
 故にコーカサスのラッシュにより、ガタックは折角の武器であるガタックダブルカリバーを手に取る余裕がない。そんな行動をする余力があれば、ただ一撃でも多く相手に届かせ、その力を削る方が重要だったからだ。

 ガタックの――ユウスケの読みは正しかった。牙王の身体も既に限界に近いほど疲弊していた。故に二人に残された体力はほぼ同等。身体能力による素質はユウスケが勝り、磨き抜かれた技術は牙王に軍配が上がる。総合的に見れば、実質的に今の二人の装着者としての戦闘力は拮抗していると言えた。

 そうなれば、勝負を決めるのは――それぞれが身に纏う、ライダーシステムの優劣。

「――クロックアップ!」
「いちいち叫んでんじゃねえよ!」

 ――CLOCK UP――

 ほんの一瞬だけ距離が開けた時、二人はクロックアップを発動させていた。

 これでガタックの――元々もう期待はできなかったが、味方の援護というアドバンテージは消失。それでも相手のクロックアップに遅れを取って、全員まとめて蹂躙される展開だけは避けなければならなかった。それほどまでに時間にさえ干渉せしめるクロックアップというシステムは強力な物。

 他の時が止まった中、互いの拳を打ち合わせるたびに、大きく消耗するのはガタックの方だった。

 ガタックは元の世界では、最強のライダーシステムと称される存在だ。ハイパーゼクターの力で一段上の存在に進化したハイパーカブト以外、全てのライダーシステムを超えるスペックを誇っている。

 だが相対する黄金のライダーは、また別の可能性の元に存在したカブトの世界において――そのガタックさえも上回る、最強の仮面ライダーとして君臨した王者だった。その看板に偽りはなく、ハイパーゼクターを欠いた不完全な状態でもその性能は全ての面でガタックを凌駕している。

 それでもガタックが豊富な武装を活用できていれば、互角以上に持ち込めたかもしれない。だがそれが許される状況ではなく、攻撃こそ最大の防御という言葉を体現したこの戦いでは、純粋により強大な力が勝つのは当然のことと言えた。

 今また互いに繰り出した拳が交錯し、結果としてガタックだけが後退する。

「くっ……ライダーキックっ!」

 だがその間に必殺技の発動準備を済ませていたガタックは、ガタックゼクターの角に手を伸ばす。
 純粋な殴り合いにおいて、より強い力が勝つのなら――自身の持つ、最大の力で勝負するのみ!

「面白ぇ……最後は派手な力比べと行こうぜ!」

 クロックアップの少ない残り時間の内に決着を着けようとするガタックを見て、コーカサスも右腕に装着したゼクターからタキオン粒子の巨大な塊を放出し、その拳へと流れ込ませる。

 ――Rider Kick――
 ――Rider Beat――

「はぁあああああああああっ!」

 二つの電子音、二人の叫びは唱和され、青い煌めきを纏った両者の蹴りと拳が激突し――

 閃光が、爆発した。

306君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:51:17 ID:crHJVhYc0




 ――CLOCK OVER――

「うわあああああああああっ!」

 打ち負けたのは――やはりガタックの方だった。

 単純な拳と蹴りではなく、タキオン粒子を纏った必殺技としての激突。おおよそその威力は互角だったが、故により消耗していたガタックが競り負け、弾き飛ばされていた。

 亀裂の走ったコンクリの上を転がり、うつ伏せで止まったガタックの装甲が限界を迎えて消えて行く。ガタックゼクターも耐え切れず、強制的にベルトから排出された。

「――ユウスケ!」
「ユウスケさん!」
「小野寺くんっ!」

 キバットが、京介が、そして一条が、変身の解けたユウスケへと叫びを上げ――

「――旨かったぜ、小野寺」

 同じくクロックアップ世界から帰還したコーカサスが、そうユウスケへと言葉を投げた。

「てめー、ユウスケはやらせねぇぞ!」

 自身とユウスケの間に割って入ろうとするキバットに、コーカサスは尋ねる。

「そういやおまえ、小野寺に紅渡を救って貰うとか何とか言ってたな……どういうことだ?」
「てめーにゃ関係ねぇことだろ!」
「あいつも俺の獲物だ。くだらねえ小物に横取りされてたら溜まらないからな」
「てめー……ッ!」
「まあ、今は小野寺か」

 キバットとの会話を一方的に断ち切ったコーカサスはユウスケを見降ろし、告げる。

「それは究極のクウガとやらじゃねえんだろ? 俺はそれを喰らいてえからな、仕込みはするぜ」

 コーカサスは三度、一条と京介へと距離を詰め始める。

「やめ……ろ……」

 そう呼び掛けるユウスケの声は、とても弱々しい物だ。ギリギリで戦い続け、遂に限界を迎えたのだろう。腕一本すら満足に動かせず、これ以上の無理をすれば命に関わるほど疲弊しているようにも見える。

 もはやコーカサスを阻める者はいない。仮に何かの変身手段があっても、クロックアップの前には使用前に簡単に潰されてしまう。

 それでも、ユウスケは必死に言葉を紡いでいた。

「やめ、ろ……っ!」

「――そこの彼の言う通り、やめた方が良いと思うわよ」

307君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:52:07 ID:crHJVhYc0
 その場に響いた新しい声は、京介の背負った女性から発せられたものだった。

「あ?」

 コーカサスに睨まれても、京介の背から降りた彼女は気の強そうな表情を変えなかった。

「理解できないけれど……あなたの目的は、そこの彼と戦うことでしょう?」
「あぁ。究極の力を持った、な。そのためには、他の参加者を喰って怒らせてやるのが良いらしい」
「そう。でも彼、今は制限で変身できないわよ」

 制限? というユウスケや京介の疑問を無視して、コーカサスは億劫そうに頷く。

「あぁ、そうだな。だからテメェらを肴にして、そいつをもっと旨くしてやろうってわけだ」
「そんなことをすれば、彼があなたを満足させる前に勝手に死んでしまうと思うけれど?」

 どういう意味だ、とコーカサスの問い掛けに、婦人警官はやれやれと言ったように鼻を鳴らす。

「わからないの? 彼の身体はもう限界。そのことを頭でわかっていても、目の前であなたが私達を手に掛ければ、きっと黙っていないわ。そこで彼が向かって来て、あなたは殺さずに止められる?」
「できなくはねぇと思うけどなぁ」
「――それでも、万全の彼と戦うにはこれ以上痛めつけたくないんじゃないかしら? それにいつあなたに襲い掛かるかわからない彼を、戦えるようになるまで一人で連れて動くつもり?」
「――なるほどなぁ」

 コーカサスは小さく頷き、傲然と腕を組んだ。

「要するに、まだ小野寺を繋ぐ鎖として利用価値があるから、自分達を喰わないでください、ってことか」
「――まあ、そうとしか受け取れないのならそれでも構わないわ」

 そう婦警は返すが、さすがに先の言い方ではそうとしか受け取れないのでは、とユウスケは思う。

「はっはっはっはっはっ!」

 強気過ぎる命乞いに、しかしコーカサスは盛大に笑い始めた。

「……ただの命乞いにしちゃ、随分と強気じゃねぇか、姉ちゃん。……面白ぇ」

 がっ、とコーカサスが彼女の首を掴む。途端に苦しそうな表情になるのを見て助けようとするも、ユウスケはもう自力で立ち上がることができなかった。ガタックゼクターはそんな資格者の傍から離れられず、真っ先に飛びかかったキバットはあっさり払われる。一条が怪我を押して、比較的健康な京介が叫びながら距離を詰めようとしたが、女性自身がそれを制止し、コーカサスを睨み返す。

 その未だ強い光を灯した視線を受けて、今度はコーカサスが鼻を鳴らした。

「俺の牙を喉笛に立てられて、それでもまだ逃げられると思って居やがるなら……足掻いてみろよ」

 どさっ、と。無遠慮にコーカサスは女性の身体を投げ捨てる。

「良いぜ、それなりに満足できたからな。テメェの口車に乗ってやるよ。次に小野寺が究極のクウガになれるまで、テメェらもまだ喰わずにおいといてやる――まあ、その代わり俺に従って貰うがな」

 そうして未だコーカサスの変身を解かない牙王は、一条と京介を見やる。

「テメェらの支給品全部寄越せ。余計な真似をするならこの場で喰らってやる」
「く……っ!」

308君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:52:53 ID:crHJVhYc0
「……従って」

 歯噛みする一条に、喉元を押さえ咳き込んでいた女性が苦しそうに伝える。

「今は、犠牲者を出さないことを考えなさい」

 彼女の言葉を受けて、一条は強い葛藤を見せながらも、自らの持っていたデイバッグと……懐に入れておいたアクセルメモリとドライバーをコーカサスの元へと差し出す。

「一条さん……」
「京介くん……耐えてくれ」

 すまん……、と。泣きそうな顔をしている京介に、本人もあれだけのダメージにも見せなかった、今にも涙を零しそうな表情で、一条が告げた。
 京介も苦痛を耐える様子で、牙王の元へとデイバッグを届ける。

「さて……おまえもだ」

 複数のデイバッグを手にしたコーカサスは倒れて動けないユウスケの元へと歩み寄り、抗議するように飛ぶガタックゼクターを払い除けてユウスケの腰からライダーベルトを引き抜いた。
 乱暴な扱いにユウスケの口から悲鳴が漏れ、それを見てコーカサスが言う。

「心配するな――おまえらも、喰らう時には全員返してやるよ。喰う時には、な」

 ああ、それと……などとコーカサスが、元から背負っていた自身のデイバッグへと手を伸ばす。

「おまえら、変身が解けてクロックアップがなくなれば……とか思ってるんだろ? 甘いんだよ」

 そうやって彼が見せたのは――クローバーの意匠が施された一つの箱。
 それに見覚えのあった彼らは、全員苦渋に顔を歪める。

 あれはこの一連の戦いにおいて最初に自分達を襲撃した仮面ライダー、レンゲルの変身アイテム。

「そんな……!」

 去っていなかった脅威に、京介がそう嘆きの声を漏らす。

「わかってるだろうが、逃げたら喰う。もしそいつが逃げ切ったら、代わりに残った奴らを、だ」

 レンゲルはラウズカードから、複数のアンデッドを召喚する能力を持っている。単純な戦闘力はもちろん、その数の暴力は彼らの抵抗をクロックアップ同様易々と無力化するものだった。この脅しを現実のものとするには十分な能力。

 完全に生殺与奪を握られている状況下にあることを全員が把握したところで、コーカサスは渡された大量の支給品をとって彼らから少し距離を取った後、変身を解いた。

「――っ、ユウスケさん!」

 堪え切れなくなったように、京介がユウスケへと駆け寄る。いつでも変身できるようにレンゲルバックルを腰に舞いた牙王はそれに目もくれることなく、支給品の確認を始める。それらの様子を確認した後、女性は一条の方へと歩み寄った。

「ごめんなさい、勝手なことをしてしまって」
「いえ……あなたが気に病むことではありません」

 先程の気丈さが鳴りを潜めた彼女の様子に、一条は首を振る。

309君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:53:36 ID:crHJVhYc0
「確かに、危険人物の意のままになってしまっている今の状況は好ましいものではありませんが、まずは民間人である彼らの安全の確保が我々の至上命題ですからね。むしろ私こそ、力不足でした」
「我々……ということは、あなたも?」

 警察であると一目でわかる服装の女性の問い掛けに、一条は頷く。

「その前に、まずは彼の手当てをしましょう。詳しい話はその途中からでも」

 一条の言葉に婦警も頷き、京介に仰向けにして貰っているユウスケの元へと向かう。

「……すいません、一条さん。俺……」

 そう苦しげな息の中呟いたユウスケに、一条は首を横に振る。

「君は十分頑張ってくれた。本来なら、俺がやらなくちゃいけないことを……あいつの、五代雄介のように、立派にやり抜いてくれた」
「五代……ユウスケ?」
「それが俺の世界の、戦士クウガの名だ」
「――そうよ。謝る元気があるなら、この先のために使いなさい!」

 遅れて話に入って来た婦警が、そう厳しい激を飛ばす。

「あなたは未確認生命体の脅威から、人々を護った第四号でしょう!? 弱音なんか吐かないで、英雄らしく強くありなさい!」

「……えっ?」

 何故彼女が、第四号を知っているのか――ユウスケと一条は顔を見合わせる。

 とてもよく似た、しかし確かに異なる世界から連れて来られた者同士が互いの素性を知るのは、そのすぐ後のことだった。







「……つまり、俺と小野寺くんは別々のクウガの世界、小沢さんは小野寺くんが訪れたのとはまた別のアギトの世界から来た、ということか……」

 互いの情報交換を終え、それをまとめた一条の呟きにユウスケが頷く。
 手当てと言っても何の道具もなく、三人が面倒を見ているだけだが、一応例の婦警こと小沢澄子が牙王相手に交渉しユウスケの体力を回復させるための食糧だけは取り返していた。とことん豪胆な人だとユウスケは感心してしまう。

「それにしても、鳴海亜樹子が殺し合いに乗った危険人物というのは本当なのか、キバット?」

 聞けば一条達は当初、仮面ライダーアクセルに変身する照井竜に率いられて行動していたが、彼は未確認生命体第三号の襲撃から一条達を護ってその命を落としてしまったという。
 その第三号は小沢とその仲間が何とか倒したとのことだが、人の姿をした相手を射殺したことで出来た心の隙をレンゲルバックルの邪悪な意志に付け込まれてしまい、小沢が操られて先程一条達、そして駆け付けたユウスケとの交戦、合流に繋がったということだが。
 小沢がレンゲルに変身し二人を襲ったということと、それは操られていたからだというのは自己申告だが、わざわざ不利になることを言うとは思えず、ガタックゼクターが小沢をまったく警戒しないことからその言葉を三人とキバットは信じた。

310君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:54:36 ID:crHJVhYc0
 話は逸れたが、一条達にとって照井という存在はとても大きなものとなっていた。その彼が信頼できると伝えていた人物の凶行は、俄かには受け入れ難いものとなっていたのだろう。

「俺だって、認めたくなかったさ。そうじゃなかったら、どれだけ……」

 そう呟くキバットは、多くの事情が重なり自身の世界の存続のため修羅の道を選んだ紅渡という自身の相棒を説得するために、それができる仮面ライダー――ユウスケを頼りに来たそうだ。
 渡が他者を犠牲にする道を選ぶ決定打になったのが、その亜樹子の所業だったという。

「嘆くのはそこまで。キバットの話を信じないわけじゃないけれど、実際の事情はわからないし、それでも状況が状況だから実際に会ってみるまでは最悪の事態も想定しておくべきだってことよ」

 一条達とキバットの双方の気持ちを汲んだ落とし所へ、小沢が持って行く。ユウスケへの第一声と言い、弱さを見せるなと強調するのは、彼女自身が心の迷いを一度怪人に利用されたことに負い目を感じているからだろう。

「当面の問題は、結局あいつをどうするかということに変わりはないわ」

 そう小沢が示すのは牙王。彼は小沢の支給品から手に入れたアビスのデッキを手にし、鏡の中にも配下を忍ばせるようになっていた。
 仮面ライダーに変身できる強力な支給品を手にしながら、戦いの中で気づけなかったことに京介が自分を責めたが、ずっと小沢を庇って動き続けていた上に、カードデッキで変身できることを知らなかったため、仕方がないことだと言えた。

「あいつは紅渡くんのことも狙っているし、私達に彼を探させようともするでしょうね。それに、自分から第零号の元に向かおうとしている……特に、装備を全て取られた今の私達が第零号に遭遇するのは危険過ぎるわ。――まあ、小野寺くんが変身できるようになれば大丈夫なんでしょうけどね」
「――え?」

 小沢のその言葉に、ユウスケは思わずそう疑問の声を漏らす。

「万全のあなたなら、第零号にも対抗できる……もちろん牙王にも。そうなんでしょう?」
「いや、でも……小沢さん。俺、クウガの力をきちんと使えるなんて保障……」
「なら使いなさい」

 はっきりと言い切られて、ユウスケは二の句を繋げなくなってしまう。

「あなたはずっと四号――クウガとして戦って来たんでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「さっき、私が操られて二人に襲い掛かっていた時にも、あなたは皆の笑顔を護るためにその力を行使したわ。あなたならできるから、自信を持ちなさい」
「小沢の姉ちゃんの言う通りだぜ、ユウスケ。おまえは立派な仮面ライダーじゃねぇか」

 そうキバットが相槌を突いて来て、ユウスケは不慣れな展開に戸惑ってしまう。こういうのは、いつも士の役目なのに……確かにキバット族には、士より好かれてたけど……

「私は、あなたのような人達を知っているわ。氷川くんや、ここに連れて来られている津上くん、それに城戸くん……あなたや彼らのような存在が、仮面ライダーだというのなら。私はあなたの心が、ただの暴力や負の感情なんかに負けることなんて考えられない。あなたとそっくりな彼らが、それに打ち克つところを私は何度も見て来たから」

 そう激励して来る小沢の姿に、ユウスケはある人の姿を想い起こす――
 ずっと自分を支え、最期まで信じてくれた、八代藍刑事を……

「それとも、こんなにたくさんの人間に支えて貰っても自分じゃ勝てないなんて、情けないことを言うつもり?」

311君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:55:29 ID:crHJVhYc0
 ……いや、こんなに厳しくはなかったかな、姐さんは。
 どちらかというと、同じ八代でも小沢同様にG-3システムの開発者である八代淘子の方が彼女には似ているなと、ユウスケは結論付けた。

 他にも、ヒビキがやはり皆を護るために戦ってくれていること――ダグバに襲われながらも一命を取り留めたことを小沢とユウスケから聞かされた京介の安堵や、小沢から己の父親までこの戦いに巻き込まれていることを知ったキバットが一瞬落ち込みはしたものの、この殺し合いを打倒すれば関係ないと彼女と共に奮起するなど、情報交換とそれに伴う交流は続いたが……

「――随分元気になったみてぇじゃねぇか」

 そう声だけで割り込んで来たのは、支給品にあった食糧を貪っていた牙王だった。

「……おまえらの武器は、ここにまとめておいた」

 牙王は一つのデイパックを掲げて見せる。とはいえ気に行ったのか、それとも抑止力のためか、アビスのデッキは反対の手に握られていたが。

「こいつはおまえらを喰う時まで預かっておくぜ」

 そう凄みのある笑みを見せた牙王は、それと自分自身のデイパックを装備し、立ち上がる。残りのデイパックとその中身は、一応は返してくれるということか。……食糧は全部取られてしまったようだが。

「さっき――つっても、おまえらがダラダラと喋り始めるよりも前だが、南の方で街が燃えてるのが見えたんでな。……確かダグバは人間を燃やすんだったな、小野寺?」
「そう言っても、他にも炎を武器とする参加者はいるわよ。第零号とは限らないんじゃないかしら」
「テメェに聞いてるんじゃねぇよ」

 ずっと自分との交渉口に立ち続ける小沢に、牙王は嫌そうに目を細めた後、呆れたように溜息を吐く。

「ダグバや紅渡じゃなくても、火の手はかなり広かった。それなりの獲物ってことだろ」

 ユウスケほどではないにせよ――疲弊していたはずの牙王はそれを微塵も感じさせない様子で、そう言葉を続ける。

「立て。そいつのとこに向かうぞ」

 従わねば、それすなわち死。抗えるわけもなく三人が立ち上がり、未だ満足に動けないユウスケに一条が手を差し出すが。

「俺がやりますよ。一条さんでも、さすがに辛いでしょう?」
「しかし……」
「彼らは一般人よ、一条さん。私達からすれば、護衛対象は固まって貰う方が良いと思うけれど」
「小沢さん……それでも」
「これ以上言わないと、わからないほどあなたは疎くないと思いますが」

 小沢の言葉に、一条はようやく「任せる」と手を引いた。
 少年に申し出をさせたものが、単なる厚意だけではないのだろうことは、ユウスケにもわかる。
 立場的に一条が彼を頼るわけにはいかないが、実際、今の一条がユウスケを背負って長距離移動するのには無理がある。京介の心情的に、一条の体力的にも、これが一番なのだろう。

「……っ、ごめんな、京介くん」
「大丈夫ですよ、小野寺さん。俺、鍛えてますから」

312君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:56:29 ID:crHJVhYc0
 その朗らかな笑顔を見て、ユウスケは彼も立派な鬼――仮面ライダーだと安心する。
 小沢を護り抜いてくれただけで十分だが、目の前でユウスケや一条が身体を張り続けるのをただただ見せられたこと――しかも、仕方がないのに仮面ライダーの力があったことに気付けなかったことに強い後悔を抱いているのだろう。残された者の悲しみを味わったことがあるという彼には、今度も見ているだけだという、より一層強いその念が。
 だから、本当は年下の少年に背負って貰うなんて気が引けることだが……それで彼の心が少しでも軽くなるなら、今は素直に身を任せようと、ユウスケは思っていた。

「……小野寺くん」

 そうしてユウスケを背負った京介が立ち上がると、小沢がそう声を掛けて来た。

「お礼を言い忘れていたわ。さっきは止めてくれて、本当にありがとう」
「えっ……いや、そんな」

 止めて、ということは、彼女が変身したレンゲルのことを言っているのだろう。
 ユウスケはあの時、小沢が操られているなど知らず一条と京介を助けることしか考えてなかった。操られていただけの被害者を、下手をすれば傷つけていたかもしれない以上、素直に感謝の言葉を受け取れなかったが、小沢は押し切って来る。

「良いから。私が素直に礼を言っているんだから、受け取っときなさい。取り返しがつかなくなる前に助けてくれて、感謝しているわ」

 そう男らしい言葉で、素直に謝って来られるのだから……ユウスケとしては戸惑いながらもそれを聞き入れるしかなかった。

「一条さん、私が持ちます」
「しかし、小沢さん……」
「あなたが身軽な方が私達は安全かと思いましたが、違いますか?」

 巧妙に相手を黙らせて、ふんっ、という男らしい掛け声とともに相当な重量のあるデイパックを持ち上げる小沢には、あれだけ頼りになった一条も形無しのようだった。気がつけばキバットともすっかり馬が合ったようで、彼女は天然のリーダー気質なのかもしれない。
 それでもさすがに重かったのか、結局軽めのデイパックを一つずつ一条と京介に渡したが。

「一条さん!」

 手持無沙汰な様子の一条に、ユウスケは声を掛ける。

「俺も、頑張ります。――その、五代さんのように」

 そうユウスケは、笑顔と共に一条に親指を立てて見せた。
 本人は、自覚していなかったのかもしれないが……情報交換の際に、必要以上に口を開かないと思われた見た目からは想像できないほど、一条がその五代雄介という人物をどれほど信頼し、認め、尊敬し、想いやっていることがよくわかるぐらい、彼は自分の世界のクウガについて語っていた。

 あの一条が、そこまで言う人物なら――皆の笑顔を護るために戦う五代雄介という男に、尊敬を抱くのは難しいことではなくて。同じクウガとして、そんな人のようになりたいと、ユウスケは心から思っていた。

(会ってみたいなぁ……)

 その想いはより強くなっていた。それを呑み込んで、ユウスケは言葉を続ける。

「あそこで、クウガになって、俺……本当に、良かったです。一条さん達を助けられて」

 気を失う前までは、自分はもう未確認と同じ、忌むべき存在になってしまったと思っていた。
 だが、その力で一条達の笑顔を護ることができた。
 そして一条に、自分のしていることが、中途半端な自暴自棄だと諭された。
 おかげでユウスケは、真っ暗な闇の中で、仲間という光を取り戻すことができた。
 その名前を冠した女性も、あのどこか胡散臭いオルフェノクも、もういないけれど。彼らの願いを、歪めずに済んだ。
 一条と京介、それに小沢やキバット、それにガタックゼクターという新しい仲間もできた。
 結果として牙王の捕虜となり、またキバットの頼みによって新たになすべきことも増えたが……あの時、言い訳して立ち止まらなくて――本当に、良かった。

 願わくば、他の参加者と出会うまでに自分の力が戻って、獰悪な牙から笑顔を護れるように――
 ――今度こそ、今までみたいに中途半端ではなく、本当の意味で皆の笑顔を護れるように。

 その想いを胸に、ユウスケは暗闇の中を、仲間と共に進んだ。

313君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:57:20 ID:crHJVhYc0




 悲観的な状況でも、優しさを忘れず、強くあろうとする同行者達に、一条は安心するとともに、申し訳なさを抱いていた。

(……五代のように、か)

 先程小野寺ユウスケが自分に告げて来た言葉を、一条は反芻する。
 確かに、五代の人格は多くの人の手本となるものかもしれない。だが、それ故に彼が無理をしているということを知る一条は、内心複雑であった。
 本当は暴力を嫌い、自由に、気ままに冒険する五代雄介に、自分は寄り道をさせてしまっている。
 本当なら、その役目は自分が替わってやりたかった。五代には冒険だけしていて欲しかった。
 皆の笑顔のために、自分の笑顔を犠牲になんてして欲しくなかった。
 いつも五代は笑っている。だけどそれは、他の人を悲しい想いにさせないためで――いつだって五代は、その拳を振るうたび、心の中で泣いていた。
 
 小野寺ユウスケ。彼には自分が五代に言えなかった、五代にずっと言いたかったことを、別人だとわかっていてもぶつけてしまった。
 それで、あんなに辛そうだった彼が笑顔を取り戻してはくれたが――

 また五代のように苦しい想いをする者を生み出してしまったのかもしれないと、一条は苦悩する。

 また、小沢の世界やかつてユウスケが訪れたという別のアギトの世界の情報も、一条にとっては懸念することだった。
 五代があれだけ我が身を犠牲にして、未確認の脅威を打ち払ってくれたとして――得られる平和は束の間で、アンノウンという脅威が、自分達の世界にも現れるのではないか。
 現状を考えれば、自分達がその新たな脅威に、第四号抜きで太刀打ちできるとは思えない。
 いったい自分は、いつまで五代をこんなことに付き合せなければならないのか――

 せめて、自分に力があれば……五代にも、ユウスケにも、こんな負担を押し付けなくて良いのに。
 だが、照井が命を賭して自分に託して行ったアクセルの力さえ、自分は護り切れなかった。さらには牙王という危険人物に奪われてしまっている。

 挙句、いくら表に出さなくても、全身に蓄積されたダメージを同行者達にも気遣われてしまっている始末。
 こんな自分で、照井のやり残したことを達成できるのか。そう不安がある。
 だが、先程ユウスケに皆が説いたように――例え不安でも、やるしかないのだ。

(あのキバットという存在は、知性と自我を持ち俺達に協力的だ。事実、何度も力になってくれた。信頼できる相手に間違いないだろう。だからこそ……)

 だからこそ、照井が信頼できると言っていた鳴海亜樹子が殺し合いに乗っているのではないか。その最悪の可能性が一条の中でも拭い切れない。
 ならばそれを確かめ、事実ならその彼女を正気に戻すことも――照井から使命を託された自分の役目だと、一条は気を強く持ち直す。

 そして、やはり五代と合流したかった。彼が力を貸してくれれば――もう一人のクウガと、力を合わせてくれれば。きっと第零号にも、負けはしない。
 何よりこの殺し合いという極限の場所では、きっと五代が涙を流すような光景が繰り広げられ、彼の心を傷つけるような決断が迫られる場面が何度もあるだろう。
 その時に手を汚すのは、自分の役目だと――一条は認識していた。

 ただ今は、牙王の脅威をどうにかすることが最優先だ。誰かを保護したり合流したりする前に、自分自身が死んでしまっては照井に申し訳が立たない。さらに言えば、それでも命を投げ出してでも護らなければならない者達が一緒にいる。

 背後から自分達を見張るように歩いてついて来る牙王の隙を探りながら、一条は夜の中を歩いていた。

 自分達の進む方向にある、牙王と同等、そしてそれ以上の脅威にまだ、気づくことなく。



 そうして、牙の王と彼に捕らわれた四人の参加者、そして自我を持った四つの支給品は――

 ――さらなる戦いを目指し、歩みを続けた。

314君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:58:03 ID:crHJVhYc0
【1日目 夜中】
【D-2 市街地】

【共通事項】
※マップ西側の市街地を南下し、参加者を探す。
【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:死亡後
【状態】:疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーガオウに1時間30分変身不可、ホッパードーパントに1時間33分変身不可、仮面ライダーコーカサスに1時間40分変身不可、満腹
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、コーカサスゼクター+ライダーブレス(コーカサス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED、レンゲルバックル@仮面ライダー剣 、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣 、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式(食糧のみ×7)、首輪(キング)、
(次の道具は全て一つのデイパックに収められています)アクセルドライバー&アクセルメモリ@仮面ライダーW、照井の不明支給品、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、変身音叉@仮面ライダー響鬼、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ 、ユウスケの不明支給品(確認済み)×2、京介の不明支給品×0〜1、ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品×0〜1、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト

【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
1:街を廃墟にした参加者を探す。
2:クウガ(ユウスケ)、ダグバ、ジョーカー(始)、渡、電王を喰らう。
3:ユウスケがクウガに変身できるようになったら、究極の力を引き出させて喰らう。
4:ユウスケを究極のクウガにするために、その時が来たら一条、小沢、京介を喰らう。
5:最後に大ショッカーを喰らう際には、キング@仮面ライダー剣と優先的に戦う。
【備考】
※コーカサスゼクターの資格者に選ばれました。
※スパイダーアンデッドによる精神支配を現状は受けていません。ですが、今後どうなるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※変身制限についておおよそ把握しました。
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。

【牙王以外の共通事項】
※参加者が見つかる前にユウスケの変身が可能になり、もし牙王が言葉通り装備を返すなら全員で牙王を取り押さえる。そうでなければユウスケを他のメンバーがサポートする。
※ユウスケの変身が可能となる前に参加者が見つかれば、危険人物でなければ誰かがキバに変身し協力して牙王を取り押さえる。危険人物ならば牙王とのその参加者の戦いの隙に逃げるか、両方を無力化する。
※隙があれば逃げるか、できれば牙王を取り押さえる。

315君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:58:40 ID:crHJVhYc0
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、ダグバへの激しい怒りと憎しみ、牙王への怒り、仮面ライダークウガに1時間20分変身不可 、仮面ライダーキバに1時間30分変身不可、仮面ライダーガタックに1時間35分変身不可、桐谷京介に背負われて移動中
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、キバットバット?世@仮面ライダーキバ、ガタックゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】無し
【思考・状況】
0:皆の笑顔を護るために戦う。中途半端な真似はしない。
1:一条達と行動して、皆の笑顔を護る。
2:ダグバを倒す時は、誰も巻き込まない様にする為1人で戦う。
3:もしもの時は士に自分を殺して貰う。
4:海堂直也は、現状では信じている。
5:殺し合いには絶対に乗らない。
6:士、海東、橘達と合流したい。
7:紅渡を救って、キバットの頼みを叶えてやりたい。
8:もう1人のクウガ=五代雄介に会ってみたい。
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました
※ガタックゼクターの資格者に選ばれました。
※クウガ、アギト、龍騎、響鬼、Wの世界について大まかに把握しました。
※変身に制限が掛けられていることを知りました。

【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、額に怪我、全身に打撲など怪我多数、罪悪感、仮面ライダーアクセルに1時間25分変身不可 、二人のクウガへの複雑な感情
【装備】なし
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
1:牙王や危険人物から同行者を守る。
2:鍵に合う車を探す。
3:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
5:五代、桐谷や照井の知り合いと合流したい。
6:未確認への対抗が世界を破壊に導いてしまった……?
7:照井と同じ世界に生きる者に、照井の死を伝える。
8:鳴海亜樹子の現状を確かめる。本当に殺し合いに乗っていれば、照井の代わりに自分が止める。
【備考】
※ 『仮面ライダー』はグロンギのような存在のことだという誤認はユウスケの説明で解けました。
※ 『オルフェノク』は『ある世界の仮面ライダー≒グロンギのような存在』だと思っています。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※ 麗奈の事を未確認、あるいは異世界の怪人だと推測しています。
※ アギト、龍騎、響鬼、Wの世界及びディケイドとその仲間について大まかに把握しました。
※ 変身に制限が掛かっていることを知りました。

316君はあの人に似ている ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 00:59:24 ID:crHJVhYc0
【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】最終回後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、京介変身体に1時間25分変身不可、罪悪感 、小野寺ユウスケを背負って移動中
【装備】なし
【道具】食糧以外の基本支給品×1、着替えの服(3着分)@現実
【思考・状況】
1:人を守る。
2:化け物(イマジン)が気になる。
3:牙王を何とかする。
4:響鬼達との合流を目指す。
5:照井を見捨ててしまった事に罪悪感。
6:麗奈が化け物だった事に愕然。
7:牙王との戦いでも何もできなかった自分への憤り。
【備考】
※名簿に書かれた『財津原蔵王丸』の事を、同名の他人だと思っています。
※『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※ クウガ、アギト、龍騎、Wの世界及びディケイドとその仲間について大まかに把握しました。
※ 変身に制限が掛けられていることを知りました。

【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤(第46話終了後以降)
【状態】健康、疲労(中)、仮面ライダーレンゲルに1時間25分変身不可 、罪悪感
【装備】無し
【道具】食糧以外の支給品一式×5、コルト・パイソン+神経断裂弾(弾数0)@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。殺し合いを止める。
1:一条達と共に行動する。
2:牙王をどうにかする。
3:できれば真司や翔一と合流したい。
4:操られていたとはいえ迷惑を掛けた分、同行者達の力になる。
5:会場にいるという第零号(ダグバ)を警戒。
【備考】
※真司の支給品のトランプを使うライダーが居る事に気付きました。
※クウガ、龍騎、響鬼、Wの世界及びディケイドとその仲間について大まかに把握しました。
※スパイダーアンデッドの精神支配から開放されました。 その間の記憶はあるようです。
※変身やモンスターの実体化に制限が掛けられていることを知っています。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)


【全体事項】
※ ホッパーメモリ@仮面ライダーWが破壊されました。
※ D-2エリアでZECTの装甲車@仮面ライダーカブトが破壊されました。
※ D-2エリアにマシンキバー@仮面ライダーキバが放置されています。

317 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 01:04:03 ID:crHJVhYc0
以上で投下終了です。

問題点などございましたら、お手数とは思いますが御指摘の方よろしくお願いします。

なお>>286->>294が前篇、>>295->>305が中編、>>306->>313が後篇、>>314->>316が状態表となります。

318 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/14(月) 01:10:51 ID:crHJVhYc0
早速ですが状態表に不備を見つけました。

小沢澄子の状態表の備考欄の次の文を一条薫の方へ移動させておいてください。

>※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)

319名無しさん:2011/11/14(月) 01:26:01 ID:r8OemNsYO
投下乙です!
いやいや、大作見事でした! 圧倒的強さを持つ牙王にそれに立ち向かうユウスケ達……
全員に見せ場があって、とても迫力満点でした!

320名無しさん:2011/11/14(月) 13:38:09 ID:rxxqctbI0
投下乙です。
なんとかユウスケ持ち直しキバとガタックで戦った……それでもハイパーなコーカサスには届かず、更にレンゲルまで残した牙王が勝ったか……。
道具が殆ど奪われたとはいえ結果的に誰も退場者がいない分まだマシだったのか……
……でも、これからダグバの所に向かう辺り……
ど  う  か  ん  が  え  て  も  前  哨  戦  な  ん  だ  よ  な  ぁ
4分割の長編なのに……とりあえず、病院側への火種は少し拡散された……のかなぁ。

321名無しさん:2011/11/14(月) 19:11:15 ID:q8TVhg5gO
投下乙です。
嘘みたいだろ、この先にこれ以上の激戦確定な相手との戦いが待ってるんだぜ?しかもご丁寧に相手にとっての強化アイテムまで引っ提げて。こりゃあ他の参加者も巻き添えな大乱戦になりそうだなぁ・・・

322名無しさん:2011/11/15(火) 01:57:58 ID:tj5xQvO.0
最近溜まってた分一気に読ませて貰いました
ディケイドの弱体化に疑問を持っていたが他より制限キツめだったか・・
マーダーが圧倒的優勢に見えて意外と疲労やダメージは対主催並にはあるんだよな
何はともあれ大乱戦には期待

323名無しさん:2011/11/16(水) 21:00:12 ID:qeNV1tgA0
ホッパーメモリが破壊されたんなら、「ホッパードーパントに1時間33分変身不可」って項は削ってもいいんじゃないかな
T2でもう一個出したいって人もいないだろうし

324名無しさん:2011/11/16(水) 21:02:58 ID:kFFL6mI.0
>>323
確かT2のHはヒート(HEAT)だからT2にホッパーは無い様な。
でも、個人的には細かい所だけどあった方が良いかな。前に砕かれたメモリでの変身不能時間も記載されている訳だし。

325名無しさん:2011/11/16(水) 22:02:00 ID:eZPUC3Hk0
皆ダグバのことだけ心配してるけど、実際市街地に向かってるのはガドルだからね?
でも今の状況で脅威なのは実際ガドルだよなぁ(使い慣れた能力2つ保存)
はてさてボドボドな翔太郎は生き残れるのか、もしくは一条組の誰か殺してしまって今度こそパンチホッパーに!


……なれるのか?いままで同行者二人も殺してまだ絶望しきらないような男だからなぁ。

326名無しさん:2011/11/16(水) 22:27:12 ID:gBUgArEs0
牙王対ガドルってNEXTでもあったなぁ……
でもなんでだろう、今の閣下だと互いにズタボロとは言え牙王に負けるビジョンがない。
閣下が牙王をボコにして仮面ライダーの何たるかを説教し始めるまでありそうな勢いだ。

327名無しさん:2011/11/18(金) 00:37:24 ID:0L/Til/Y0
>>325
何気に翔太郎って心の強さがトップレベルだしな。

328名無しさん:2011/11/18(金) 02:26:21 ID:pk1j/p6kO
翔太郎はテラーの恐怖を照井さんやフィリップみたく耐性が無いにも関わらず打ち破ったからなぁ。

しかもそれから更に色々あった本編後と来たらもう絶望にゴールする事は無いんじゃ・・・

329 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:42:27 ID:ZGltcG5s0
感想ありがとうございました。

これより予約分の投下開始します。

330 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:43:19 ID:ZGltcG5s0
 相川始がハンドルを握るハードボイルダーの上で、紅渡は夜風を浴びていた。

 このバトルロワイヤルの主催者である大ショッカー――参加者の一人でありながらその大幹部でもあったアポロガイストを屠った後、二人は新たな獲物を求め移動していた。
 まずは直ぐ隣のB-6エリアにあるホテルへと赴いてみたが、人が居た痕跡こそあれど肝心の参加者の姿は見当たらなかった。
 だが大して落胆することもなく、二人は次の目的地へと向かった。

 現在の目的地は、園崎冴子の生家――渡が初めて殺めた人間、加賀美新の眠る園崎邸だった。

 自身を汚した返り血を思い出し、渡は顔を歪める。
 できるなら、あの場所にはもう行きたくなかった。だが、いつの間にか倒壊していた東京タワーに父音也が戻っている可能性がある以上、そちらに始を向かわせたくない――何より、自分が父に会うことが許されない気がして、渡自ら屋敷にいるかもしれない参加者を狙おうと始に告げた。

 自身の犯した罪の結果を、見せつけられることになるとしても……渡はもう、立ち止まるわけにはいかなかった。とっくにそれができる場所は、通り過ぎてしまったのだから。
 ファンガイアの偉大なキングに、後を託されたのだから。

 振り切っても振り切っても、直ぐまた迷いに追い付かれる己の甘さを戒めるためにも、渡は最大の敵について思いを巡らせる。

 悪魔と呼ばれし世界の破壊者、ディケイド。

 奴が居る限り、世界の滅びは避けられない――これは大ショッカーの大幹部から直接得た情報だ。事実だと見て間違いない。

 ならば世界を護るために、先代より託されたこの王の名に懸けても悪魔を討つ――

 ――その決意は揺るがないが、不安もまた確かにあった。

 既に故人のはずの父や、絶大な力を誇った先代キング、さらに別々の世界の参加者達を、合計で六十人も拉致し首輪を付け服従させるような大ショッカーをして悪魔と呼ぶほどの存在。果たして自分が始と手を組んだところで、二人だけで奴に勝てるのだろうか?

 世界の破壊者を倒すために、それが叶いそうな相手とは素直に話し合って、ディケイドの脅威について他の参加者にも認識させ、可能なら共闘する――その選択肢が渡の中にはあるが、果たして赦されざる罪人である自分にとって、そう都合良く事態は動くだろうか――

「――キング。準備は良いか」

 そうハードボイルダーを操縦する始が声を掛けて来る。
 渡が思案に沈んでいる間に、ハードボイルダーは園崎邸が見えるところまで来ていた。意識を現実に戻した渡は「はい」と短く、しかしできるだけ力強く応える。

 曲がり角に差し掛かり、カーブのために体勢を傾けるため、渡は始を掴む手に力を込めた。

 だが次の瞬間響いた轟音とハードボイルダーを襲った衝撃に驚いて、思わず手を滑らせてしまう。

「――今のは何だっ!?」

 何とか車体の上に渡の身体が留まり、始が異変に対しハードボイルダーのブレーキを掛けながらそう疑問を漏らす。

 音の聞こえた方――園崎邸へと方向を変えなかったため、ちょうど進路の正面となった方へ二人が視線を巡らせると、次の瞬間異様な光景が繰り広げられた。

 夜空を彩る満点の星々の一部――そして、その中に浮かぶ巨大な黄金の月の下半分が、突然闇に喰われたのだ。

「な……っ!?」

 何が起こったのか――それを認識する前に、星空は再び月と共に輝きを取り戻す。

 幻覚? いや、違う。

「――始さん」
「あぁ。行くぞ」

 静かに状況を把握した渡の声に、始が頷く。

 今の轟音、地を伝って来た衝撃、そして数秒夜空を覆った、より深い闇――
 これらはこの先で戦闘を行っている参加者が発生させたものだと、二人には理解できていた。

 ようやく見つけた、しかも既に戦闘中の参加者。始末するにしても消耗したところを狙えば容易で、話し合いをするにしても戦闘後の変身制限を狙えば優位に進められるかもしれない。

 再びハードボイルダーが走り始め、二人の暗殺者を戦場へと運んで行く――

331 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:43:56 ID:ZGltcG5s0




 渡と共に駆け付けた場所を、戦場と呼んでも良いのか始は迷ってしまった。

 常人を超えた視力によって、始には当事者達に悟られない程度に離れた場所で何が起こっているのかわかった。

 人型を取った禍々しき黄金の闇――そうとしか形容できない仮面ライダーが翳した掌から放つ闇の波動に、赤と黄色の二人の仮面ライダーが呑み込まれて数十メートルの距離を舞う。

 何かを赤いライダーに伝えて、黄色の仮面ライダーの方がその仮面ライダーに突撃を仕掛けたが、拳の一撃で大きく吹き飛ばされる。一撃加えられるごとに確実にその命を消耗しながら立ち上がり続ける黄色のライダーの叫びを受けて、赤いライダーが突如その姿を変えたかと思うと超高速移動で掻き消える。
 だが――恐ろしいことに金の黒の仮面ライダーは始の視界から完全に消えたそれを察知し、狙い撃っていた。
 さらにそれを先読みしていたと思われる黄色のライダーが、掌から放たれた闇の波動にその身を投げ出して赤いライダーを庇ったが、ついに膝を着く。

 始にはそれが本当に仮面ライダー同士の戦いだと、最初は認識できなかった。
 まるで生身の人間をライダーや怪人が嬲るが如く――前方で繰り広げられる攻防には、それだけの戦力差が存在していた。
 もはや戦いなどではなく、一方的な蹂躙、虐殺行為と呼ぶに相応しい光景が、始達の前では繰り広げられていた。

 恐ろしいのは、黄色のライダーの動きから一方的に蹂躙されている彼が決して弱い存在ではないということが見受けられることだ。その実力は始の変身したカリスと比べても遜色ない。ならそれをこうも易々と圧倒するあの暴虐の化身は、どれほどの力を秘めているのか――

「まさか……あれが、ディケイド?」

 そう、隣で渡が呟くのが聞こえた。

 確かにあの戦闘力、悪魔と称するに何も不足はなかった。始の本来の姿でも、まだ届かないことが容易に読み取れるほどの、圧倒的な力。
 あの大ショッカーが悪魔と評するだけはあるように見える。

 だが、本当にあれがディケイドなのか?

 その始の疑問は、驚愕と共に晴れることになる。

「――ライジングアルティメットよ、奴を始末しろ!」

 その叫びが響いたのは、突如として金の黒のライダーの変身が解除された直後だった。
 声のした方――ライジングアルティメットというライダーの変身が解け、強過ぎるその存在感に覆い隠されていた、比較しなければ十分強大な気配の方を見た始は、そこに仇敵の姿を見た。

「――カテゴリーキング……!」

 ライジングアルティメットへの変身の解けた男に敵対者の排除を命じたのは、クワガタ型の黄金の怪人――ダイヤのカテゴリーキング、ギラファアンデッドだった。

「知っている相手なんですか?」
「ああ、敵だ」

 手短な始の返答に、渡は視線を厳しくすると静かに金色の怪人を見据えた。

 カテゴリーキング、奴との戦いで――始は、栗原晋を巻き込み、死亡させてしまった。
 それがきっかけで栗原親子の元へと住むことになり、剣崎とも出会えた。
 だがあれがなければ、栗原親子の悲劇はなかった以上、始にとっては拭い難い過去――『相川始』となる前の、闘争に狂う獣だった時期を象徴するような敵であることに変わりはなかった。

「――そう言えば、始さんの世界がどんなものか聞いていませんでしたが……どう言った敵なんですか?」

 何気ないような渡の問いに、始は自分でも声が不機嫌になることを抑え切れなかった。

「人類の敵だ。それがどうした?」

332 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:44:55 ID:ZGltcG5s0
「いえ……あの男の人が、あの怪人に操られているように見えたから……そういう能力を持っているのですか?」

 確かに、まるで生気を感じさせないままガイアメモリで赤いドーパントに変身した男は、ギラファアンデッドに操られているように見受けられた。
 アンデッドの中にはダイヤのカテゴリージャック、伊坂ことピーコックアンデッドや、レンゲルの装着者を操るクローバーのカテゴリーエース、スパイダーアンデッドなど他者の心を操る能力を持った輩もいる。

「……いや。知らないな」

 だがギラファアンデッドにそんな特殊能力があるといった様子は、少なくとも元の世界では見受けられなかった。言葉による煽動を行っていた奴にそんな能力があるなら、その性格上積極的に洗脳を活用して来ると考えられたからだ。

 しかし渡の言うように、あのドーパントに変身したライジングアルティメットという男は、ギラファアンデッドの支配下に置かれているように見受けられる。

 とはいえこうして二人の仮面ライダーと戦っていたということは、その支配は誰にでも有効というわけではなさそうか。

 赤いドーパントは先程の仮面ライダーほどではないが、その姿を超加速で掻き消すと、敵の仮面ライダーのベルトから何かのガジェットを毟り取った。
 すると、仮面の中から現れた長身の男の全身から、灰が零れ始めた。
 いったい何が起こっているのか――理解できない事態の連続に二人が戸惑っていると、灰と化し崩れて行く男が右の人差し指で天を指し示し、接近していたギラファアンデッドに告げた。

「おばあちゃんが言っていた。散り際に微笑まぬ者は、生まれ変われないってな」

(生まれ変わる――か)

 不死者たるアンデッドの始には、理解できない思想だ。
 だが、剣崎一真は――笑って死ぬことができただろか?

 栗原晋は、最期まで家族を心配し、微笑まぬことなく死んでいった。きっと剣崎も、皆を心配し、護れなかった己の無力を悔やみながら逝ったのではないか。

 生まれ変わるということが喜ばしいことなら、最後まで自分より他者を優先する者達がそれに恵まれないというのは、随分酷いことを言う物だ――始は微かに苛立ちを覚える。

 だが、灰となり崩れ行く男は、最期にもう一つ、言葉を遺した。

「――そしてこの地には、この俺に並ぶような奴らが、仮面ライダー達がいる。だから、何も心配せずに逝けるということだ」

「――っ!」

 その言葉に、渡が鋭く息を呑むのが聞こえた。
 始はすぐにそちらに声を掛けるべきだったが――彼自身もまた、意識を彼方に飛ばしていた。

 剣崎が死に際に、笑っていたのかはわからない。

 だが彼は――ひょっとしたら、この男が仮面ライダー達に託したように、自分にも託して逝ったのではないか。
 剣崎の願いは、自分達の世界を護るために――他の世界の者達を、犠牲にするなどということでは、断じてない。
 彼は世界を滅ぼすジョーカーであるこの自分を、それでも人々を護っているからと、信じているような男なのだから。

 例え世界存亡の危機に陥ってでも、救われるべき者達全てを救うために非情な運命と戦い続ける――それが剣崎一真、それが仮面ライダーだ。

 自分がその託された願いに反していることに、『相川始』というジョーカーに芽生えた心は、痛みを覚えていた。

 ――だが、それでも。

 唯一の友を裏切ることになっても。

 栗原親子が生きて行く自分の世界を護る、それが『相川始』の揺るぎない真実の想いでもあった。

(俺は剣崎とは、違う道を行く……そう決めたはずだ)

 全身が灰化した男が完全に崩壊し、灰の山となったのを見て、始は渡へと声を掛けた。

333 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:45:34 ID:ZGltcG5s0
「どうした? 揺らいだか、キング」
「いえ――僕には……迷う理由がありません。僕は――仮面ライダーでは、ありませんから」

 そう渡が小さく首を振るのを見て、何故自分の胸に痛みが走るのか、始にはわからなかった。
 ただ、渡が引き返せない道へと進むように、彼の悲壮な覚悟を後押しする言葉を選ぶ。

「そうだな。おまえは仮面ライダーではなく――ファンガイアのキングだからな」
「えぇ。僕に託されたのは、仮面ライダーの心ではありません……ファンガイアの王の、その使命です」

 渡の瞳に冷徹な輝きが戻るのを見て、始は灰の山からベルトを回収する眼鏡の男性――ギラファアンデッドが化身した金居へと、視線を戻す。

「行くぞ。あの黒いライダーの力は驚異的だが、制限された今なら関係ない」

 始がそう、ハートのAを取り出し、歩を前に進めようとした時だ。渡が制止の声を掛けて来た。

「待ってください。始さんは、あの男のことを知っているんですよね?」
「……敵だと何度も言ったはずだ」
「それでもです。何の目的で行動しているのかわかれば、どう接触するべきなのかは変わります」

 渡の言いたいことがわかった始は、内心舌打ちする。

 カテゴリーキングを――金居を、可能なら利用するべきだと言っているのだ。
 そして始には、それが――始自身の思惑を無視すれば、充分可能なことだと理解できている。
 アンデッドである金居が、自身の種が生きる世界を守るために、この殺し合いで優勝するつもりだというのは明白だ。そのために、まず同じ世界の住人である始が共闘を申し入れれば――本来は敵同士である自分をこちらの隙を突いて封印しようとするかもしれないが、世界保全のために当面は休戦するだろう。
 ましてや、それが存在し続けるだけで全ての世界を滅ぼすディケイドのことを伝えれば、それの打倒を目的とする渡とも十分共闘を選択肢に入れて来る、そういう類の相手と見て間違いない。

 だが、他のアンデッドと手を組むということに、始の中には大きな拒絶があった。

「奴の目的は――人類の根絶だろうな」
「その理由を聞いているんです。はぐらかさないでください」

 自分に向けられた渡の眼光が強くなったのを感じながら、始は思考を巡らせる。

 この自分の対応が悪手だったことぐらい、言った直後には既に始も理解している。
 金居の能力を把握できるほどに彼のことを知っていながら、そのスタンスを知らないと言い張るのは無理がある。それも、はぐらかそうとしたせいで渡の警戒心を煽る結果になってしまっている。
 嘘の情報を与えたところで、恐らく金居に接触した際に確認を取るはずだ。金居とあの男がその力を使い果たしていると仮定しても、豊富な変身手段を持つ渡がもしも自分に不信感を抱いて金居に味方すれば、一気に三対一に持ち込まれてしまう。
 それでも勝てるのなら、元々は殺し合いに乗った奴らを狙うつもりだったのだから最悪の場合、渡という手札を捨てることになっても構わない。
 だが金居の戦闘力をよく知る始からすれば、本来の姿でなくとも奴が渡と力を合わせてしまえばジョーカーとなったところで確実に勝利できる、という確信は持てなかった。こんなところで返り討ちとなっては、剣崎と道を違えてまで殺し合いに乗った意味がなくなる。

 それでも、元来アンデッド同士は決して手を取り合わない敵であり、また特殊な状況下においても――人間とは違っていても、人間へと近づこうとする『相川始』にとって、『アンデッド』の仲間となるという行為は、忌避するジョーカーとしての自分に近づく気がして、損得などといった理屈を超えた嫌悪があったのだ。

「――あなたも、ある意味では僕と同じだと言いましたね」

 悩み続ける始に対し、一時間ほどの前の会話を指して、渡がそう告げて来た。

「僕は、あなたにも守りたいものがある――だから、何としてでも勝ち残るために、この僕と利用し合うことにした、そういう考えだと思っています」

 渡の言葉は半分正解、半分は不正解だ。それと同時に、渡という殺戮者の矛先をある程度、仮面ライダー達から遠ざけるべく誘導するという目的も始にはある。
 だがそこに金居を加えれば、そのような誘導がどこまで効くのかまるで予想できない。

「元の世界での確執もあるでしょう。ですが僕は、王として世界を救うために――利用できるものは、全て利用するつもりです。でも、始さんの世界を想う気持ちは、僕と同じではないということですか?」

(――安い挑発だな)

 自分は世界のために、ここまで泥を被る覚悟があるが、貴様はどうだ――異界の魔族の若き王が問うているのは、つまりはそういうこと。

334 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:46:13 ID:ZGltcG5s0
 自分は渡とは違う。本当は心など持たず、世界を喰らうためだけに存在する悪魔だった。

 だが――

 ――始さん!
 ――始!

 脳裏に蘇る声の内、一つは失われてもうない。

 彼らのおかげで、『相川始』はここにいる。決して得るはずがなかった心を胸にして、守りたい、愛する人々のために戦うために。

 ――そう、『相川始』が在るのは、全ては彼らのおかげ……

(安い挑発だが……それを言わせる覚悟は、そうでもないか)

 渡が静かにジャコーダーを握り締めていることを、始は見て取る。

 不信感が芽生え始めている。元から利用し合う間柄なのだ、自らにとって不利益になるのなら、敵として排除するのは当然の選択。このままではコンビ解消は避けられない。
 そしてそれは、始にとっても望むところではなかった。

「――わかった。話してやる。俺の世界と、奴についての情報を、な」

 金居に気づかれぬよう距離を取りながら、始は手短に自身の世界のことを渡に説明した。
 自分が――ジョーカーがどのような存在であるのかは伏せたまま、自身もアンデッドの一体だとだけ教えて。

 その上で、金居は非常に頭の回る厄介な相手だが、自らの利益を決して見失わない者――恐らくは世界を救うために、ディケイド討伐にも協力するだろうことを伝えた。

「それなら……手を組むよう、申し出ましょう」
「良いのか? 俺と奴は本来敵同士とはいえ、同じ世界の参加者……おまえが不利になるぞ?」
「あなたも、彼も――最後は全員、倒せなければならない相手です。それに王である以上、僕は敵が強大になることに臆して、世界にとって不利益となる行動を取るわけには行きません」

 あの戦闘を見た後でそれを言い切る渡に、始は好きにしろとだけ答える。
 その覚悟に始も決心させられたのだ、文句など言えようはずもない。

 思えば最初から、世界を存続させることに対し胸に秘めた覚悟は、平和になった後の世界に自分がいなくても良いという渡の方が強かった。渡を利用するために後戻りできない覚悟をさせようとしていたが、自分にそんなことをする資格などなかったのかもしれない。

「――だが、あのライジングアルティメットとやらはどうする? あれで俺達もまとめて葬られるかもしれないぞ?」
「彼自身にあれを操る能力がないのなら――おそらく、それを可能にする支給品があるはずです。戦うにせよ、一時休戦が叶うにせよ――それを奪えば良いだけの話です」
「なるほどな。だが、その時はさすがに早い者勝ちにさせて貰うぞ?」

 始としても、ライジングアルティメットを従えた金居や渡に攻撃されては一巻の終わりだ。
 だが逆にあれを手中に収めることができれば、少なくとも自分が知る限りの参加者に遅れを取るなどということはなくなる。

 そして、渡が金居を始末ではなく利用することに拘った理由も恐らくはそれだろう。
 ライジングアルティメットを見て、渡はディケイドかと疑った。
 さすがの彼も、悪魔と呼ばれるまだ見ぬ敵を恐れているのだろう。それに対抗するために、あの強大無比な力を危険だと消すのではなく、手中にしたいと考えているのだ。

 始の確認に渡は頷き、再び立ち上がった。

「行きましょう――僕達の願いを叶えるためにも」

 そう言って渡は立ち上がる。
 甘いところはある。迷いもある。それでも彼が、自分の世界を想う気持ちと覚悟は本物だろう。

 全ての罪を背負って、世界を救った後は消えようとしているこの王のように――
『相川始』もまた、愛する者の生きる世界のために、その心さえ犠牲にする覚悟を固めつつあった。

335 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:47:17 ID:ZGltcG5s0




 つい先程逃がしてしまった、乾という参加者――超高速移動で離脱して行った彼を追い掛け始末するべきか否か、思案を巡らせていたところへと突如として向かって来たエンジン音に対し、金居は思わず舌打ちした。

 これはバイクの音――他の参加者の登場に、金居の頭に浮かぶ内容が一気に書き換わる。

 迂闊だった。ライジングアルティメットを全力で暴れさせた戦闘は、あまりに派手な物だった。近くに参加者が居れば駆け付けて来ても何もおかしくはない。戦闘が終わったからと変身を解いたのは失敗だった。
 まずいのはこの場所だ。ただでさえ見晴らしの良かった草原は、ライジングアルティメットの力で荒れ果て、地肌を覗かせていた。隠れる場所などありもしない。

 向かって来た相手がマーダーならば、それも今手元にある使用可能なアイテムで対抗できるような相手でなければ……ナスカの超加速なら逃げ切れるかもしれないが、初めて使う能力を信用することはできない。最悪五代を捨て石にしても逃げ切れるのだろうか?

 どう対処したものか――そう金居が考えていたところで、そいつらは姿を現した。

 悪趣味な黒と緑のバイク――それを駆っているのは、金居が最も会いたくない相手の一人だった。

「ジョーカー……!」

 口に出すのも忌々しいとばかりに、金居は吐き捨てる。

 現れたのは、最悪のアンデッド、ジョーカーが人の姿を取った存在――確か、相川始と名乗っていたか。本来味方であるはずの同じ世界の参加者の登場に、金居はしかし強い焦燥感を覚える。

 全てのアンデッド、いや全生命の敵である、死神ジョーカー。どの生命の祖でもない存在でありながらバトルファイトに参加し、あらゆるアンデッドを狩り尽くし――最終的には、世界中の命を一つ残さず滅ぼそうとする悪魔だ。

 現代のバトルファイトにおいては、人間の中に潜んで仮面ライダーに協力するなど、その殺戮と破壊だけの本能は鳴りを潜めているが――金居にとっては生来よりの宿敵であり、向こうにとっても自分は狩猟の対象であった。
 それは、この世界を懸けた殺し合いの場でも変わらないだろう。アンデッドの本能に従わずに、仮面ライダーの一員として動いていたとしても、殺し合いに乗った自分を見逃す理由がない。

(――まずい。今の手札では、奴には勝てない……!)

 元の世界で行われていたのは人間により歪められたバトルファイトだったため、金居は勝利しても他のアンデッドを封印することができなかった。しかし、この殺し合いの場で首輪を利用すればその難点を克服し、ジョーカーを封印して最終勝利者となれる――そう考えていたが、タイミングが悪過ぎた。

 カイザの力は把握している。ナスカの力も、ライジングアルティメットとの戦いで見た。どちらも自分やジョーカーには及ぶものではない。
 しかも奴には同行者がいる。五代を捨て石にして逃げ切れるかどうかもわからない。

「――あなたは、ダイヤスートのカテゴリーキングですね」

 八方塞の事態に必死で策を巡らせる金居を呼んだのは、ジョーカーではなくその同行者の男。
 バイクに乗っている時は始に隠れていて見えなかったが、その全身は返り血に汚れていた。

「僕達は――あなたに、共闘を申し込みに来ました」

 その直接的な申し出に、だが金居は意外過ぎて反応が一瞬遅れた。

「――何?」
「あなたも、世界を護るために殺し合いに乗っている――違いますか?」

 男が確認しに来ているのは、殺し合いというよりも世界の保護のために動いているのか否か――そういう風に感じ取れた。
 どの道ジョーカーと行動を共にしていて、その上で自分の正体を知って接触して来た――下手に反抗する意思を見せるタイミングでもないと考え、金居は正直に答えることにした。

「あぁ、そうだな。――その様子を見させて貰うと、君もそうだということか?」
「――えぇ」

 若い男は痛みを堪えるような表情でそう頷いた。

「なるほど。だが俺と、そこにいるジョーカーは同じ世界の住人だが、君は誰だ?」
「僕はキング――」

336 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:48:11 ID:ZGltcG5s0
「キング、だと?」

 夕刻、放送を行っていたあのカテゴリーキングを思い出し、思わずそう漏らす。
 そんなはずはないと否定するが、先の放送でキングという参加者も呼ばれていたはず。

「妙だな。その名前の参加者は既に死んだと思っていたが」
「僕が、その人から継ぎました」
「――あまり好きな名前じゃないが、他人の事情に深入りするのは止そうか」

 そう言えば夕方、ホテル付近で『キング』という名を聞いた気がする。
 その時に――今とは随分態度が違うために直ぐには気付けなかったが、この青年の姿を見ていたことを金居は思い出した。
 とはいえ今はまだ使えるほどの情報ではないと判断し、交渉に意識を戻す。

「それでキング、君は俺やそいつとは別の世界の住人だと思うが?」
「えぇ、そうですね。僕達は別の世界の住人――敵同士です」

 金居の問い掛けに男はそう、躊躇いなく頷いた。

「ですが、そのようなことに拘っている場合ではなくなりました」
「……どういうことだ?」
「僕達は先程、大ショッカーの大幹部と接触し、殺しました」
「……何だと?」

 カテゴリーキングである自分や、自身と並び最強のアンデッドであるジョーカー、さらに異世界から無数の参加者をおそらく気づかれぬ間に拉致し、このような首輪を嵌めた大ショッカー。さらに殺し合いを円滑に進めさせるために、参加者の中にその息が掛かった者がいるのは別におかしなことではない。そんな鉄砲玉の役割を、本当に大幹部などにやらせるのかは怪しい話だが――
 このキングを名乗る青年が言いたいのは、つまり、大ショッカーの大幹部から得た情報が、本来敵である自分に共闘を申し込む判断をさせるほどの物だということ。
 ただ始末するだけなら、ここまで殺し合いに乗りながら生き延びて来ているのだ、恐らく制限のことなど知っているだろう。ライジングアルティメットを脅威に思ったのだとしても、ここで共闘を申し出ることはおかしい。

(いや、それも罠、か……?)

 あるいはこちらの情報を聞き出し、それから殺すための芝居か。向こうにジョーカーがいる以上、その可能性は決して否定できるものではない。

(とはいえ……まずは、応じるしかないか)

「それで、この俺に共闘を……よりによってジョーカーとその同行者が持ち掛けるほどの、重大な情報が手に入ったということか?」

 金居の問い掛けに、キングは頷いた。

「まず、大ショッカーの目的ですが……彼らの真の目的は、全ての世界の支配でした」
「まあ、だろうな――全てだと?」

 世界征服を目論む程度のことは予想していたため、聞き流す程度だったが続く言葉に大きく反応してしまう。

「全てということは、世界が滅びる――というのは嘘だということか?」
「いえ――それは本当です。おそらく、ここに集められた参加者の世界が選別される、というのも事実でしょう」

 ですが、とキングを名乗る青年は続ける。

「しかし、世界が一つになるまで戦ったとしても――それだけでは、世界の滅びは止まりません」

 金居には青年の言い方が引っ掛かった。
 最後の一人になっても、ではないということは、この殺し合いがやはり世界の選別を担うというのは事実だということ。その結果世界が一つになっても、滅びからは逃れられないと彼は言う。

「どういうことだ?」
「世界の破壊者、ディケイド」

 そうキングは、ある者の名を告げた。

「この会場のどこかにいるその悪魔を破壊しない限りは、どうあっても世界の破滅は避けられない――アポロガイストはそう言っていました」

 アポロガイストという名は名簿の下の方に載っていたが、奴が大ショッカーの手の者だったか。

「なるほどな」

337 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:49:19 ID:ZGltcG5s0
 そして、目の前のキングを名乗る青年の目的が読めた。

「その悪魔から世界を救うために――理由はどうあれ世界を護ろうとする者同士で、手を組もうと言いたいわけか」

 その目的なら、アンデッドとしての本能に忠実な金居は、彼に協力せざるを得ない。
 自らの種の繁栄する世界を護るためには、ディケイドを破壊すること――それは必須事項だろう。
 本来のバトルファイトにも、参加する生命をリセットするために同様の役割を担う者が存在するため、ただ破壊を齎すだけの悪魔がこの世界の生存競争の場に潜んでいても、金居には違和感なく受け入れることができた。その打倒を果たすためならば、利用できる敵対者と手を組むことを厭うつもりはない。

「――だが、それが真実だという証拠はあるのか?」
「僕らが出会った時点で、アポロガイストは酷く精神を消耗していました。そこから口を割らせたので、あの状況で嘘を言うとは考え難いです」
「俺が聞いているのは――まぁ、そのディケイドとやらの話は身近な例があるから信じられないというわけじゃない」

 そう金居は、ハードボイルダーに跨ったままの始――ジョーカーを一瞥する。

「俺が聞きたいのは、共闘の話が本当かどうかということだ」
「……断るというのなら、僕は今ここで戦っても構いませんが」
「おいおい。俺だってせっかく休戦を申し入れてくれた相手と戦って、無駄に消耗したいわけじゃない」

 渡を抑えるように両手を掲げて見せ、金居は続ける。

「ただどうしても不安なんでね。申し出て来た相手が、別の世界の住人と、同郷とはいえ本来敵のジョーカーだ。共闘を理由に安心させるフリをして、情報を引き出してからディケイドと戦う前に襲われては、こちらも溜まったものじゃない」
「それは……信じてくださいとしか、言えません。少なくともディケイドを破壊するまでは、僕は共闘の約束を破るつもりはありません」
「……まぁ、実際に異世界の参加者と共に行動している君を信じることは難しいことじゃない」

 もちろん殺し合いに乗っている段階で信用できるわけはないが、目の前の青年はあくまで見た目からの判断だが、あまり他人を口先で誘導することが得意なようには見えない。無論、それさえもブラフでないとは言い切れないが……
 自らの世界を護るために動いている、その想いだけは、青年の言葉から感じ取れていた。
 故にディケイドを打倒したいという彼の意志だけは本物であり、恐らく共闘の申し出もそれ自体は事実だろう――その後、もしくは過程で何をされるかはわかったものではないが。

「怖いのはそっちの死神の方さ。――なぁ、ジョーカー。いったいどういう風の吹き回しだ?」

 金居が信用できない――というより脅威に感じているのは、この異世界のキングを名乗る青年ではなく、同じ世界出身の青年の方だった。

「……俺も貴様と手を組むなど、はっきり言えば吐き気がする」
「――始さん」

 制止するかのように、キングが非難の色を帯びた声を発する。
 キングのその声を無視して金居を見ていたジョーカー――始は、その視線を少しだけ弱めた。

「だが、そんな自分の心に反してでも、護りたい人々がいる。それだけだ」
「なるほどな……」

 ――人間の母娘に入れ込み、仮面ライダーの味方をしていることは知っていたが、ここまで人間に毒されていたのか。

 世界を滅ぼすだけの舞台装置が、人間への情を持って己の意志を捩じ曲げてまで同族殺しとは、随分と滑稽なことだ。そう嘲笑してやりたくなる気持ちもあるが、ここは交渉が上手く行くように言葉を選ぶべきだろう。

「いや、正直言って心強いよ。おまえが世界を護るために動くとは……な」

 幾分皮肉は混じってしまったが、本心でもある。
 少なくともこの世界を懸けたバトルファイトの間は、自分と同格以上の力を誇るが、本来ならば完全な敵でしかないあのジョーカーアンデッドが味方となるのだ。正確に言えばディケイドを破壊するまでだろうが、寝首を掻かれる心配はあっても戦力面で頼もしいという気持ちに嘘はない。

「前に誘った時はあっさり振ってくれたから、なおさらな」

 適当にそう言葉を続けると、始は首を傾げて来た。

「何の話だ?」
「もう忘れたのか? 酷い奴だ――まぁ、良いさ。問題はこれからだな」

338 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:49:54 ID:ZGltcG5s0
 ワイルドカリスになって攻撃までしていたくせに、あっさりと忘れ去っているジョーカーに思うところがないわけでもないが、別段重要なわけでもないため金居はキングの方を見る。

「キング。ディケイドを破壊するために、君やジョーカーとの共闘、受け入れさせて貰おう」
「――よろしくお願いします」

 そう嬉しそうな表情で応えたキングは、金居の背後――彼らと出会ってからも、無言で仁王立ちを続けていた五代の方へと向けられた。

「カテゴリーキング、彼は……」
「――名簿にある金居で良い。こいつは五代……雄介だったか」

 名簿にあった五代の名を思い出しつつ、金居はキングへと、意地の悪い笑みを浮かべた。

「はっきり言えば、こいつの戦闘を見ていたから俺に共闘を持ち掛けて来た……違うか?」
「……隠しても仕方ありませんね。その通りです」

 正直に頷くキングに対し、金居は告げる。

「異世界の仮面ライダーらしいが、今は俺の支配下にある。――言っておくが、詳細は言えないぞ? これは共闘するとはいえ、俺の最低限の保身のためだ。わかってくれるな?」

 わかりましたと頷くキングの顔が、夜の中でも若干残念そうなのが見て取れた。
 やはりというか、ライジングアルティメットを支配下に置いているのが自分の固有能力ではなく、支給品だということはバレていたか。それを成す物が地の石であると悟られ、奪われてしまっては一巻の終わりだ。
 それでも力尽くで奪いに来ないのは、こちらがまだ隠している力があると警戒しているのか――あるいは金居自身も、対ディケイド用の戦力として期待されているのか。
 どちらかわからないが、それがこの制限の間本来の姿とライジングアルティメットを封じられた金居の命を護る楯だ。どちらも大切に扱うべきだろう。

「それで、ディケイドについて他に何かわかっていることはあるのか?」
「いえ……この会場のどこかにいる、と言うことしか」
「そうか。それなら、E-5の病院に向かおう」

 金居は、その場所で22時に乃木怜治という参加者と待ち合わせをしているということをキングとジョーカーに伝える。

「乃木が集めた連中以外にも、禁止エリアになる前に医薬品を手にしようという参加者や、単純な負傷者も集まるだろう。情報の収集には打ってつけだ」
「そう都合良く行くのか?」

 口を挟むのは、未だハードボイルダーから降りない相川始。

「先程逃げた赤い仮面ライダー……もしも奴が貴様のことを他の参加者に告げていれば、情報収集などと言っている場合ではあるまい」
「ああ、俺もそのことは考えていた。だから病院に向かうべきか、間に合わない可能性があってもさっきの奴を追うかで悩んでいたが――状況が変わったからな」

 そう金居は始に答え、キングの方へと向き直る。

「ディケイドの破壊が俺達の同盟理由だが、本来の目的――優勝して自分の世界を救うということも忘れたわけではないだろう。情報収集ができ、ディケイドを倒すために利用できる戦力になってくれるならともかく……敵対するなら、始末するに越したことはない」

 金居の言葉に始が口を挟もうとしたが、それより先にキングが頷く。

「そうですね。……負傷者も集まるだろう病院なら、多くの参加者を殺すことができるでしょう」
「ああ。正直、いくらライジングアルティメットがいるとはいえたった二人では無理があるが……おまえ達を含めれば、奇襲も容易い。最悪の場合でも、最低限のダメージを与えて撤退する程度はできるだろう」

 元より、乃木を信用していたわけでもない。できるなら強敵となるだろう乃木を潰すように立ち回りたかった金居としては、乾に逃げられ自分がステルスとして活動することに支障が出ると言うタイミングでの、他の参加者との共闘は願ってもない物だった。
 無論腹の探り合いとなること、出し抜き合いとなることは間違いなかったが、そもそも消耗したタイミングでマーダーに遭遇してまだ命拾いしていること時点で贅沢は言えない。むしろ、金居にとって都合が良いことが続き過ぎて怖くなって来るほどだ。
 実際、これで病院での立ち回りには保険ができた。情報を得られるならば良し、ダメでも他世界の参加者を一気に間引くチャンスにもなり得る。彼らと接触するまでに比べれば、格段に動き易くなったことは間違いない。

「――どうした? 何かあるのか、ジョーカー?」
「……いや、何でもない」
「――金居さん」

339 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:51:08 ID:ZGltcG5s0
 そう首を振る始が気にならないわけではなかったものの、キングが金居に呼び掛けて来たため、そちらに意識を移すことになった。

「病院に向かうことですが、条件があります」
「……なんだ、キング?」

 その声が緊張していたのを感じ取ったために、応じる金居の声も自然と固くなる。

「――そこに僕の世界の参加者がいても、彼らには手を出さないでください」

「――難しい相談だな」

 わずかな間の後にそう答えた金居に対し、キングは視線を強めた。

「金居さんが望むなら、あなたと始さんの世界の参加者にも、手出しはしない――その条件と引き換えでもダメですか?」
「いや、正直言って俺の世界の参加者を削ってくれても別に構わない」

 自分とジョーカー以外、確実にわかるのは仮面ライダーギャレンこと橘朔也がいるということ。それ以上自分の世界から誰かが連れて来られているのか、まだ生きているのかを金居は把握できていないが、どの道本来は敵ばかりなのだから死んだとしてそこまで痛くはなかった。

「もちろん、手を出さないという条件を付けて貰えるなら嬉しい話だが……正直言って、それを気にする余裕があるとは思っていないからな」

 殺し合いの場で、同盟を結んだ相手と同じ世界の住人だからと言って手を緩める余裕などないと金居は当然のことを言ったつもりだったが、瞬間、キングが発する圧力が増す。

「――この条件を呑めないのであれば。僕には今から、あなたを倒すと言う選択肢があります」
「おいおい、自分から共闘を持ち掛けておいて、そりゃないんじゃないか?」
「サガーク」

 円盤状のモンスターがキングのデイパックから飛び出し、その腰に巻きつく。
 キングの発する圧力がいよいよ上級アンデッド――それも名の通りカテゴリーキングに匹敵するモノにまで膨れ上がり、彼と金居の間で緊張が高まって行く。

「――わかった、キングの世界の参加者には手出しはしない」

 金居は降参と言ったように両手を上げる。

 今の金居の戦力で勝てる相手とは思えないが、ここで脅しに屈すれば後々に逆らい難くなるのではないか――そんな疑念もあったが、おそらく下手に意地を張っても話がややこしくなるだけだ。キングの発していた殺気が微かに揺らぐのを見て、金居は内心溜息を吐く。

(やれやれ。面倒な奴らとチームを組むことになったものだ)

 とはいえ、生き延びるためにも最低でも再変身ができるようになるまでこの同盟は必要不可欠だ。

 それにこのバトルロワイヤルにおけるジョーカー――ディケイドを始末するために、危険は承知で本来敵であるこの二人と手を組んだのだ。この程度の不仲を回避できるよう立ち回るのは、最低限求められることだろう。

「――ただ、殺さなければこちらが殺される、という時にまでこの約束を守れるはわからないが」
「その時は、例えディケイドを破壊する前でも、僕があなたを倒します」
「善処はするよ――そのためにも、その参加者の詳細含めて、おまえの世界の情報をくれないか? ただ手を出すなと言われるより、その対価として情報を貰えれば、取引として応じる意欲も沸く」
「……わかりました」

 キングが同意すると同時に彼の腰からベルト状になっていた円盤生物――サガークが離れる。

 面倒なのは、彼の世界の参加者に不利になるよう振舞った時だけで――後はどうやら利用し易い相手のようだと、金居は密かにほくそ笑む。

 そうして、キングの世界の情報を聞き出す。その過程でキングの本名が紅渡だということも判明したが、それを無視してさらにキングからこれまでに接触した参加者の情報、病院で仕掛けることになった場合に有用そうなゾルダという仮面ライダーの力を持っていることと、その詳しい能力を聞き出すことに成功する。

 もう少しだけ聞き出せるのではないかと思いもしたが、あまりに欲張って始に止められた場合にキングの心証がさらに悪くなる。また、病院に向かうと決めた以上、あまり時間を浪費していては間に合わなくなる。そもそもこのE-7エリア自体、後わずかな時間で禁止エリアになってしまうのだから、移動を開始する必要があった。

「さて、そろそろ行くとするか」
「ええ」

340 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:52:48 ID:ZGltcG5s0
 金居の言葉に、キングが頷く。無言で始が、そして支配された五代が二人の王に続く。



(……ここで終わるなら、所詮はそれまでと言うことか)

 病院に襲撃を仕掛けると言う渡と金居の方針に対し、あくまで殺し合いに乗った連中を優先して狙うつもりだった始としては今の展開は芳しいものではない。
 金居と接触したことにより、やはり渡を誘導することは難しくなった。
 だが、元々は殺し合いを打倒しようと言うグループの前に、最終的に立ち塞がることになることに変わりはなかった。それが早まっただけだろう。
 いくらライジングアルティメットが強大とはいえ、さらにそこにファンガイアのキングが、最強のアンデッドであるカテゴリーキングとジョーカーが結託しようとも、それら全てを拉致し、その生殺与奪を握る大ショッカーは自分達の遥か上を行くと始は認識している。
 少なくとも自分達を倒せないようでは、大ショッカー打倒など夢のまた夢。
 故に、病院に集まっているのが例え仮面ライダー達であっても、始は一切加減する気はなかった。

 ――そしてこの地には、この俺に並ぶような奴らが、仮面ライダー達がいる。だから、何も心配せずに逝けるということだ。

(――それなら……おまえの命を奪った者達に徒党を組まれても、心配はないということだな?)

 別に死者を愚弄するつもりではない。
 むしろ、その言葉を真実であると、始自身が信じていたかった。
 だから、それを確かめるためにも――

 ――死神は、仮面ライダー達へとその牙を剥く。



「行きましょう――全ての世界の敵、ディケイドを破壊するために」

 ファンガイアの新たなキング――紅渡の言葉に従い、彼らは悪魔を狩るために動き始めた。



【1日目 夜中】
【E-7 荒野】

【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康 、ギラファアンデッドに1時間20分変身不可
【装備】デザートイーグル(2発消費)@現実、カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555、カイザショット@仮面ライダー555、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×3、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、変身一発(残り二本)@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト、
五代の不明支給品×1(確認済み)、草加の不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
0: ディケイドを破壊するまで始・渡と共に行動し、彼らを利用して他の参加者を減らす。利用はするが信頼はせず、出し抜かれないようにする。
1:22時までにE-5の病院に向かい、乃木やそこにいる者達と情報交換を行う。乾のせいで自分のスタンスがばれていたら、同行者と共にその場にいる参加者をできるだけ減らす。
2:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
3:他の世界、及び大ショッカー、ディケイドの情報を集める。
4:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
5:利用できる参加者と接触したら、乃木を潰す様に焚きつける。
6:地の石の力を使いクウガを支配・利用する(過度な信頼はしない)。 またその存在を始や渡に気づかれないよう注意する。
7:乾を見つけたら殺す。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※地の石の効果を知りました。
※五代の不明支給品の一つは変身一発@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロストです
※金居のデイパックは破壊されたため、草加から奪ったデイパックを使用しています。
※五代のライジングアルティメットへのおおよその変身時間を把握しました。
※キバの世界の参加者についての詳細な情報を得ました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。

341 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:53:34 ID:ZGltcG5s0

【五代雄介@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】健康、地の石による支配 、仮面ライダークウガに1時間18分変身不可、ナスカ・ドーパントに1時間20分変身不可
【装備】アマダム@仮面ライダークウガ 、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】無し
【思考・状況】
1:地の石を持つ者(金居)に従う。
【備考】
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※地の石による支配力がどれぐらいかは次の書き手以降に任せます。
※地の石の支配によって、言葉を発する事が出来ません。
※ガイアドライバーを介さずにガイアメモリを使用したことで精神が汚染された可能性があります。現在は地の石による支配によって表に出ませんが、どのような影響するのかは後続の書き手さんにお任せします。


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】罪悪感、若干の迷いと悲しみ、ジョーカー化への衝動(小) 、ハードボイルダーを押して移動中
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE 、T2ガイアメモリ(サイクロン)仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ 、ハードボイルダー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、不明支給品×1、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
1:渡・金居・五代を利用し他の参加者を減らす(殺し合いに乗った参加者優先)。
2:ジョーカー化を抑える為他のラウズカードを集める。
3:隙があれば金居からライジングアルティメット(=五代)の支配権を奪う。また、その支配の秘密を解き明かす。
4:ディケイドを破壊し、大ショッカーを倒せば世界は救われる……?
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ヒューマンアンデッドのカードを失った状態で変身時間が過ぎた場合、始ではなくジョーカーに戻る可能性を考えています。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄叫びで木場の名前を知りました。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※キバの世界の参加者について詳細な情報を得ました。


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(小)、返り血、ハードボイルダーに搭乗中
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ウェザーメモリ@仮面ライダーW、 エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王 、ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、 バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:始・金居・五代を利用し他の参加者を減らす。
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:ディケイドの破壊は最低必須条件。
4:隙があれば金居からライジングアルティメット(=五代)の支配権を奪う。また、その支配の秘密を解き明かす。
4:加賀美の死への強いトラウマ。
5:これからはキングと名乗る。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※放送で冴子の名前が呼ばれていない事を失念している為、冴子が死亡していると思っています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。
※相川始から剣の世界について簡単に知りました(バトルファイトのことは確実に知りましたが、ジョーカーが勝ち残ると剣の世界を滅ぼす存在であることは教えられていません)。

342 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 09:56:05 ID:ZGltcG5s0
以上で投下終了です。
>>330->>334が前篇、>>335->>341が後篇となります。タイトルは『Dを狩るモノたち/共闘』でよろしくお願いします。

また問題点などございましたらご指摘の方お願いします。

343名無しさん:2011/11/20(日) 10:11:07 ID:MSSLN18YO
投下乙です!
金居、見られた矢先に最悪の宿敵と手を組む結果になるとは……これは病院がもっとヤバいことになりそうだ

344名無しさん:2011/11/20(日) 10:34:31 ID:on81bu4Y0
士ぁぁ!
早く逃げてぇぇ!!ただでさえ疲労している士に襲いかかる超凶悪マーダーたち。
それに戦いの途中で名護の話で信用できると聞いてるであろう渡からディケイドは世界を破壊する、なんて言われたら橘さん組も士の敵になっちゃうかな?
これは病院がライダー大戦みたいになりそうだ、激情態になれないと士に勝ち目はないぞ!?

345名無しさん:2011/11/20(日) 10:42:16 ID:on81bu4Y0
ごめんなさい、大切な一言を忘れてました。
投下乙!!

346名無しさん:2011/11/20(日) 10:43:44 ID:eMQuODeU0
投下乙です。

ディケイドは脱がーす!!

というわけで、ヤバイ連中が組んじゃったよ!
ライアル、カテキン、ジョーカー、サガ……病  院  オ  ワ  タ

347名無しさん:2011/11/20(日) 13:11:44 ID:9uFjiEWcO
投下乙です。えっと、病院周辺の皆さ〜ん・・・












348 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/20(日) 21:00:39 ID:ZGltcG5s0
あ……すいません、今気付いたのですが、収録時には渡の状態表からハードボイルダーに搭乗中という文を削っておいてください。
お手数をおかけして申し訳ありません。

349 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/23(水) 15:48:37 ID:K.Bcy1MA0
投下乙です。
病院がヤバイ事になりそうだなぁ
てか消耗した今のディケイドに、木野さんにやられた直後みたいな状況の涼達じゃ勝てる気がしないぞ!?
ヒビキさんは強いし凄く頼りになるはずなんだけど、そのほかの面子が不安過ぎて……

自分もニーサン分の投下を開始します。

350 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/23(水) 15:50:52 ID:K.Bcy1MA0
 それは、殺し合いの場にしては些か静か過ぎる夜道だった。
 あれから一時間程散策したとは思うが、純一が得た物は何一つない。
 野上達と同じような団体と出会う事もなければ、殺し合いに乗った参加者と出会う事すらなかった。
 結局純一は誰とも出会う事無く、気付いた時には地図上の警察署――警視庁まで訪れていたのだった。

(まさかこうも誰とも出会わないとはな……)

 正直言って、拍子抜けだった。
 僅か六時間で参加者の三分の一が死んでいる事を考えれば、それほど悠長な戦いでもない筈なのだが。
 たまたま自分の歩いて来た道に、他の参加者が誰も居なかったというだけなのだろうか。
 だとするなら、変身制限を大幅に消耗している自分にとっては幸いな話とも言える。
 その上、こうして暫く歩いている間に、六時間以上も前に受けた火傷や凍傷も随分と回復したのだから有り難い。
 本来の純一ならばもっと回復が早くても良い筈なのだが、それはやはりこの場の制限によるものであろうか。

(……まあいい、今は少し休もう)

 何にせよ、無理は禁物だ。今は身体にしろ変身制限にしろ、消耗した状態なのだ。
 ゲームに勝ち残るには、確実に補給をこなしつつ、他のプレイヤーを削って行くのは必須条件。
 何処かへ行くにしても、今はまずここである程度回復するのを待ってからの方が良いと判断した。
 十分な休憩ののち、何処かへと移動するのであれば……まずは病院あたりだろうかと、何となしに思う。
 禁止エリアになる前に参加者が医療品を集めに来る可能性は高く、それに気付く参加者も、恐らく多い。
 だとするなら、もしかすれば今頃病院は激戦区になっている可能性もある。
 そんな所に自分から足を運ぶのは馬鹿馬鹿しい。
 やるとすれば、善人を装いつつ接近し、全てが終わった後で、その戦いの勝者を仕留める、くらいか。
 所謂、漁夫の利という奴だ。
 今までだってそれに近い勝ち方でここまで来たのだから、今更真っ向勝負など挑もうと思える訳もない。
 僅かな時間で今後のプランを組み立てた純一は、まずは誰も居ないであろう警視庁内部で身を休めようと歩を進め、

「……ん?」

 そして、気付く。
 目の前に停められていたバイクとトレーラーの不自然さに。
 二台の車両が停められていた場所は、別に駐車場という訳ではない。
 警視庁の真前に、まるで意図的に並べられたかのような形で並列に停められていた。
 考え得る可能性は二つだ。
 一つ、何者かがトレーラーとバイクを駆り、この警視庁へ訪れたという可能性。
 一つ、最初から大ショッカーが支給品として用意した道具だという可能性。
 純一はバイクに近寄り、それにそっと触れようとするが。
 本来右のグリップがあるべき場所には、何もなく。

(このバイク、ハンドルがないぞ……?)

 右グリップだけがごっそり無くなったかのような、不自然な造りだった。
 バイクのアクセルとは、通常は右グリップそのものだ。なのに、それがない。
 走る事のないバイクなど、ただ場所を取るだけの邪魔なガラクタではないか。
 と、そこまで考えて、純一は自分のデイバッグの中に、一つの心当たりを見出した。
 大量の道具が詰め込まれたデイバッグの中を漁り、一本のグリップを取り出す。

351 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/23(水) 15:51:20 ID:K.Bcy1MA0
 
(……なるほどな)

 そして、合点が行った。
 最初は、参加者にバイクのグリップなど支給してどうするのかと思っていたが、そういう事だったか。
 閃いたままに、純一は取り出したグリップを、バイクの何もないグリップ部に当てがった。
 両者の企画はやはり共通だったらしい。バイクは、すんなりと純一のグリップを受け入れてくれた。
 試しに跨り、ブレーキを握りながらスターターボタンを押し込む。
 同時、回転を始めたエンジンは軽快な駆動音を響かせ、ヘッドライトは眩く輝き夜道を照らした。
 パーツの欠損ゆえ、今まで誰にも見向きもされなかったバイクが、此処へ来てようやく息を吹き返したのだ。
 それは警視庁と科警研が開発したスーパーマシン・トライチェイサー2000Aが、バイクとして復活した瞬間だった。

(ククク……これはいいものを手に入れたぞ……!)

 元々、主な移動手段としてバイクを用いていた純一にとって、この支給品は非常に有り難い。
 これまで純一が乗っていた市販のバイクよりもスペックは圧倒的に高そうだし、これはかなりの僥倖だった。
 同時に、グリップは今まで自分が持っていたのだから、このバイクがここで誰かに乗られた事がないという事実も分かった。
 そう考えるなら、バイクの隣に並べられているこのトレーラーも、大ショッカーが用意した支給品である可能性が高い。
 一度トライチェイサーから降りた純一は、トレーラーに近寄り――そこで、またしても気付く。
 バイクにグリップが必要だったように、トレーラーにも、鍵が必要だ。
 そして、その鍵と思しきものを、今純一は持っているのだという事を。
 先程天美あきらから道具を奪った時の事を思い出し、鞄を漁る。

(あった筈だ、それらしい鍵が)

 純一は、あきらの所持品のうち、訳のわからないディスクと私服は放置した。
 全く以て使い道が分からない、もっと言えば、不必要だと判断したからである。
 その際に、捨てるかどうかを悩み、結局捨てずに持って来た鍵があった事を思い出したのだ。
 もしかしたら何処かで使えるかも知れないし、鍵程度なら持っていたとしても邪魔にはならないからだ。
 ややあって、すぐに鍵を見付けた純一は、それを運転席のドアへと差し込む。
 ガチャリと音を立てて、トレーラーは純一の侵入を受け入れた。

(中に何が入っているのか、確かめさせて貰うぞ……!)

 運転席に入った純一はほくそ笑みならが、後部コンテナへと続くドアを開ける。
 わざわざ鍵がなければ入れない様な仕組みのトレーラーなのだ。
 中には一体、どれ程有益なものが隠されているのか、楽しみで仕方がない。
 そして、見た。

(これは……!)

 コンテナの中に隠されていたものは、純一の笑顔をより不気味に輝かせるものだった。
 
 
 
【1日目 夜中】
【E-6 警視庁前(Gトレーラー内部)】
※外部にGトレーラーとトライチェイサー2000Aが配置されています。
※トライチェイサー2000Aにはトライアクセラーが装着されました。

352 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/23(水) 15:51:58 ID:K.Bcy1MA0
【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】軽い全身打撲、グレイブに30分変身不可、オルタナティブに40分変身不可、ジョーカーに50分変身不可
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
    加賀美の不明支給品0〜1、ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、トライチェイサー2000A@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
0:これは……!!!
1:Gトレーラーに身を隠し身体を休めつつ、このトレーラー内部を探る。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。
【備考】
※555の世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
 ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
 ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※名簿に書かれた金居の事を、ギラファアンデッドであると推測しています。
※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。

【全体備考】
※あきらの最後の支給品は、Gトレーラーの鍵でした。
※トライチェイサー2000Aはトライアクセラーを装着したままGトレーラーの隣に駐輪されています。
※Gトレーラー内部に何が隠されていたのかは次の書き手さんにお任せします。

353 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/23(水) 15:54:29 ID:K.Bcy1MA0
短いですが今回はこれで投下終了です。

……ところで今日は「いいニーサンの日」ですね。
いいニーサンの日にいいニーサンにいい笑顔をさせてあげられたと思うので個人的には満足です。
今回も何かあれば報告して下さると助かります。

354名無しさん:2011/11/23(水) 16:08:57 ID:yg2PzEXs0
投下乙です。

無事に、いいニーサンの日の内に投下できましたねw
Gトレーラーの鍵をニーサンが持っていた……となると、一条さんがずっと持っているあの鍵は何の車のものなのか……

Gトレーラー内にあるのはG3ユニットなのか、あるいはもっと強力な何かなのか……気になるところですね。

そして病院に言って漁夫の利狙い……だと……っ!? これは本格的に病院組詰んだんじゃ……

355名無しさん:2011/11/23(水) 16:13:50 ID:.4.UkwYE0
投下乙です!
ニーサン! まさにいいニーサンの話ですねw
Gトレーラーの中には果たして何が入ってるのか……楽しみですねw
それと、タイトルをお願いします。

356名無しさん:2011/11/23(水) 19:31:52 ID:GjzcO5PAO
投下乙です。いいニーサンwとはいえ中身がG3ーXとかだと洒落にならんぞ・・・つかこのままだと病院は絶望すら振り切ったもっとヤバい事にw

357名無しさん:2011/11/23(水) 21:06:08 ID:4RIpy8860
乙です。
凄く気になりますね〜
G3が入ってたとして装着した時の制限はどうなるのだろうか?

358名無しさん:2011/11/23(水) 23:57:10 ID:gNmO6Ib60
投下乙です、
1123の日だからか!!
よかった、ようやくトライチェイサーが動いてくれるよ。
で、病院に関しては後から向かうか……最大の問題は志村は剣組だから、金居と始がいるディケイドを脱がす軍団(違)と十分組む可能性が高いので強化される可能性が高いと。
しかし、中に何があったんだ……何にせよ、病院組の橘以外みんな逃げてー。

>>357
G3関係に限りバッテリーが稼働する間しか使えないでいいんじゃね?(但し、その範囲内なら他の変身ツールの時間制限には捕らわれない)……ただ、最終的にアギトに匹敵するそれが普通に使えるとチート過ぎる気もするが。まぁそれは実際に登場した時に話し合えば良いかなと。

359 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/24(木) 09:24:55 ID:kh8Iy0ko0
感想ありがとうございます。
またしてもタイトル忘れていましたね……
それでは、今回の作品のタイトルは「志村運送(株)」でよろしくお願いいたします。

360 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 18:56:56 ID:4uBNYJh20
これより、予約分の投下を開始します。

361名無しさん:2011/11/28(月) 18:58:30 ID:cYaKDJh20
支援

362Tをついで ◆SEpX7EU6GM:2011/11/28(月) 18:58:31 ID:4uBNYJh20
 乾巧と天道総司――正義のために戦う二人の仮面ライダーと別れてから、名護啓介は擬態天道やタツロット達と共に、大河に区切られた西側のエリアを目指していた。
 彼と同じ顔を持つ――正しく言えばそのモデルとなった天道から聞かされた、擬態天道の歩んで来たその壮絶な人生。そのことを何も知らずに師匠になるなどと言った名護だったが、自身の言葉を撤回するつもりなどなかった。

 何故なら名護啓介は、正義の味方――海堂直也がその身で示した、仮面ライダーだ。
 理不尽に苦しむ者を救うために、全力を尽くすことを信条とする名護にとって、擬態天道は救済すべき相手に他ならなかった。海堂も、最期までそれを望んでいたはずだ。

 実験体として誘拐され、人間から異形の者へと造り変えられてしまった青年――天道の話では、その時はまだ、年端もいかない少年だったという。どれほどの絶望と孤独を抱いて、地獄のような世界を生きて来たのだろうか。ネイティブという悪魔の集団に、名護の赫怒が烈火と燃える。
 そうして奴らに尊厳を踏み躙られ、神も世界も呪っただろう彼の心を何とか救いたい。名護の心で強くなるのはその想いだった。長い間監禁され、モルモットとしてしか扱われなかったその孤独をせめて埋められないかと、名護は何度もタツロットと共に話しかけたが反応は芳しくなかった。名護の視線に怯えるように目を逸らし、そのたび歩みも止まってしまうこともあった。

 だがそれでも、彼は名護に付いて来てくれた。

「――総司くん、暗くて分かり難いかもしれないが、もう橋を渡り終えるぞ。頑張って翔一くん達を見つけよう」

 名簿にある名で呼び掛けた際、彼は酷い拒絶を見せた。ネイティブワームへと改造される悪夢を思い出してしまうのかもしれないと名護は見当を付け、事実その通りだったらしい。故に今は天道から、その名も借りておくことになった。
 無論、津上翔一を始めとした参加者達と出会った際には名簿にある名を伝えるしかないことは、彼の心をまた抉るようであり、名護としても本意ではないのだが……
 だが、できることなら。彼の両親が、愛しい我が子への想いを込めたその名前を彼が取り戻せる日が来ることを、名護は心の中で祈っていた。

「……名護さん、は」

 不意に後ろから名前を呼ばれて、名護は振り返った。

「どうした、総司くん?」

 俯いたままの彼は、弱々しく言葉を続けた。

「名護さんは、僕が……総ての世界を壊そうとしても、償えば良いって、言ってくれたよね」
「ああ。もちろんだ」

 人間は誰でも、苦しい時、悪意を持ってしまうことがある。
 そうならない強さを持つことが理想でも、誰でも強くなれるわけではない。擬態天道など、その機会すら天から与えられたことはなかっただろう。
 ずっとずっと、目に見える周囲の総て――彼にとっては世界そのものから迫害され続けて来たのだ。そんな悪意を抱くなと言う方が、よほど酷だと言うものだろう。
 だから、世界はもっと広いと――世界にあるのは彼を傷つける悪意ばかりではないと、この自分が教えて行かなければならない。世界に傷つけることしか教えて来られなかったなら、それ以外のことを知って貰えれば、きっと彼は変われる――名護はそう信じていた。

 名護の前に立つ擬態天道は、そんな名護の肯定を受けても酷く怯えた様子だった。
 だがこちらから呼び掛けても応えてくれなかった彼が、自分から声を出してくれたのだ――その勇気を尊重したい、そう思って名護は彼の言葉を待っていた。

「……それはまだ、僕がどの世界も壊してない、から?」
「そうだな。それもある。まだ何も壊していないなら、謝れば良いことだ」
「そーですよー!」

 二人の後ろを飛んでいたタツロットが、びゅびゅーんと名護の肩辺りまで飛んで来る。

「誰だって、気分が優れなくて悪いことしちゃいたい時や、しちゃう時だってあります! でも、そこでちゃんとごめんなさいするのが大事なんですよ! 謝ったら、ちゃんと許して貰えます!」

 タツロットの言葉を受け、名護は頷く。そんな二人に、彼は弱々しい笑顔を浮かべた。

「それじゃあ、やっぱり僕は……名護さんとは、いられない……」

 突然の宣告に、名護は思わず声を荒げた。

「どうしてだ!? 理由を言いなさい、総司くん!」
「……僕は、もう壊したんだ。……剣崎一真っていう、仮面ライダーを」
「剣崎……一真だって!?」

 その名には覚えがある。この会場で最初に合流した仮面ライダーギャレン、橘朔也の仲間だ。
 そして、先程の放送で名前を呼ばれていた、この狂気の世界の犠牲者でもある。

363Tをついで ◆SEpX7EU6GM:2011/11/28(月) 18:59:16 ID:4uBNYJh20
 彼を殺した悪は、絶対に許さない――そう密かに思ってもいたが。

「総司くんが……彼を、殺めてしまっていたのか……」
「そうだよ、僕が壊したんだ……剣崎一真を。もうあいつには、ごめんなさいなんて言えないんだ」

 今にもまた泣き出しそうな顔で、擬態天道はそう言葉を紡いだ。

「謝ったって……許してなんか、貰えない」
「……確かに、誰かの命を奪うと言うことは、決して許されることではない」

 名護はそう静かに頷いた。それを見て、擬態天道の顔の均整がなおさらに崩れる。

「――だが俺は言ったはずだ、総司くん。過去がどうあろうとも、償えば良いのだと」

 崩れそうな擬態天道に、名護はそう力強く告げた。

「一真くんが今の君を見て、自分の仇を討てと――君のことを、倒すべき悪だと言うだろうか。俺は直接には彼のことを知らない。だが彼が……直也くんのような立派な仮面ライダーだったということは、その仲間から聞いている」

 海堂直也の名を聞いて、驚いたように名護の言葉に聞き入っていた擬態天道は再びびくりと身を震わせるが、怯えたような瞳で、それでも必死にこちらを見ている。
 名護は彼を安心させるために、顔も知らぬ死者の心を信じて、救うべき魂のために言葉を継ぐ。

「一真くんはきっと、今の総司くんを倒すべき悪などとは言わないはずだ。何故なら君は、その罪を悔やみ、苦しんでいるからだ」

 名護は擬態天道に歩み寄り、その肩を力強く掴む。

「そして俺は、直也くんの正義を継いで、君を救うと約束した。彼の残した想いが、その優しさが、その強さが! ……無駄ではないと証明してみせる。そう言ったはずだ」

 名護の顔を見るのも辛そうな擬態天道を、それでも正面から見据えて、名護は言葉を送り続ける。

「君が一真くんを殺めたことは、決して許されることではない。――だが。仮に君がこれまでに、どんな許されざることをして来たのだとしても。俺が君を導き、一緒にその罪を贖おう」
「どうして……どうして君達は、そこまでして僕のことを……?」

 理解できないと言った様子で、目尻に涙さえ溜めて、擬態天道は首を振る。
 名護は柔らかい笑顔を作り、彼に答えた。

「直也くんが言っていただろう。俺達仮面ライダーは、皆を護って、世界だって救ってしまう……そんな存在だと。
 君は心悪しき者にずっと苦しめられてきた、俺達仮面ライダーが助けなければならない人なんだ。俺は、俺達は、君のことを絶対に絶対に見捨てない。絶対に……だ!」
「そーですよ! 何があっても、私達が付いてますからね、総司さん! だから、そんなにご自分を責めないでください!」
「――この俺様の目は、途中で見捨てねばならん奴を選ぶほど濁ってはいない」

 名護の言葉に続いて、後ろからタツロットが、擬態天道の後ろからレイキバットが、それぞれの言葉を彼に送る。
 彼は、そんな言葉を掛けられたことが初めてだったのか、どう受け取ったら良いのかわからない様子で、重みに耐えられないように名護の手から離れ、一歩後退した。

 その頬に伝わる一筋の涙を夜闇の中垣間見て、名護はその横に並び、肩を叩く。

「さあ、行こう。総司くん」

 今は、受け取り方がわからなくても良い。
 それでも、この世界には彼を想いやる温かい心を持った者がいるということを、いつかわかってくれる。名護はそう信じていた。

 そうして擬態天道の背を押しながら、橋を渡り切ろうと言うところで――遠くから届いた轟音に振り返ると、南の空を朱に焦がす煉獄がこの地に顕現する様を、名護は目にした。







 橋を渡り切った辺りで、突如として南方の市街地で発生した火災を見て、名護啓介は彼を伴って急行した。
 擬態天道は、つい先程までその業火に負けないほど熱く、だが誰かを傷つけることのない優しさ持ち合わせた言葉を吐いた名護に逆らう気になれず、彼の後を必死に追い駆けた。

364 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:00:19 ID:4uBNYJh20
 ――俺は、俺達は、君のことを絶対に絶対に見捨てない。絶対に……だ!

 そんなことを言われたのは、擬態天道にとって初めてのことだった。

 ずっとずっと、自分はひとりだと思っていた。
 世界はこんなに広いのに。世界はこんなにたくさんあるのに。
 誰も彼を顧みない。誰も彼を見はしない。天道総司の名と姿を借りなければ、誰の目にも留まることなく、誰からも何も想われず、正体を知られれば否定されるだけの存在なのだと――
 ――ずっと、そう思っていたのに。

 名護啓介は、自分が本物の『天道総司』ではないと知っても、それ以前と変わることなく接してくれている。レイキバットやタツロットも同じだ。彼らの言葉を信じるのなら、今はもう亡き海堂直也もまた、『天道総司』ではなく、『彼』自身を想って散ったのだという。

(――どうして、僕なんかのために……)

 わからない。本当にわからない。そんなことなんて、今まで一度もなかったのに。
 疑念が渦巻く中で、それでも彼は何故か、理由もわからないまま、ただ名護達から離れたくないと思っていた。
 このままでいるのか、それとも彼らと共に歩むのか。自分の道は自分で決めろと、『天道総司』は言っていた。
 まだその道を決めたわけではないが――それでも、名護達と離れることに強い抵抗があった。

 そうして、青空の会の戦士として鍛え続けた名護と、ワームと戦うために鍛錬を積んだ天道総司の肉体を持つ彼が、まったく止まらずに30分ほど走っただろうか。

 訪れたE-2エリアの市街地は、彼のいた世界の渋谷という街を思い出させた。

 絶大な暴力に晒され、ビルは崩れ、路面のコンクリは砕け、家屋は焼け落ちている。へし折れた街路樹を超えると、様々な物質が焼け焦げた臭いがそこら中から漂って来ており、彼は思わず鼻を塞ぎたくなった。
 隕石の直撃を受けた渋谷跡地のような惨状に、擬態天道さえも恐れを抱く。

 病院で出会った、通りすがりの仮面ライダー。そして放送の前に戦った、異世界のあの全身兵器の怪人。
 異世界から参加者を集ったこの会場には、ダークカブトの力さえ凌ぐバケモノが跳梁している。この惨状も、その内の一匹により引き起こされたものか。
 もしも、その犯人がまだ近くに居たら……そう背筋を凍らせるものを感じながら、自分と違って物怖じせず周囲を探索する名護に、彼は黙って付いて行く。

 怖くないと言えば嘘になるが……名護やタツロット達と別れてしまう方が、ずっと怖く感じて。彼は何故か引き返そうとも言えず、ただ名護に続いていた。

「――啓介すぁーんっ!」

 そう呼び掛けて来たのは、先行していたタツロットだった。未だ瓦礫の山が燻り、一層その視界が奪われるこの状況下では、月光を返す彼の黄金の身体を捉えるのも一苦労する。

「あっちに、生存者の方が……」
「――わかった。行くぞ、総司くん!」

 名護にそう促され、彼はその背に続いた。

 歩くと直ぐに、嘆きと共に地を叩く音が聞こえて来た。

 煙の先に真っ先に覚えたのは、焦げた臭いに混じる鉄の臭い。足元へと視線を配れば、既に凝固が始まっているもののおびただしい量の血液が楕円状に広がっていた。

「……何てことだ」

 名護が思わず、と言った様子でそう呟くのが聞こえ、声の方向に擬態天道も顔を上げる。

 そこには真紅のジャケットを、深紅の血で染め上げた一つの死体が横たわっていた。
 血の海に沈んだ遺体には身体を正面から背中まで貫通したような傷がいくつもあり、精悍な顔にも鋭利な切り傷が刻まれ、削られている。明らかに狂気に塗れた悪意を持って、死後も執拗なまでにその躯を破壊され続けたことがわかる、あまりに惨い死に様だった。

 ただ血の固まり具合から見て、この男はこの市街地を崩壊させた戦いとは無関係に命を落としたようだ。無論高熱で早く固まった可能性もあるが、それにしては多く血液が残り過ぎており、自然に血が凝固したように見えることがその推測の根拠となる。

 次に生理的な嫌悪を呼び起こす悪臭を乗せた生温かい風が吹き、擬態天道はそちらの方を向く。

 先程声が聞こえて来た方だと思った時には、そちらに両手を着き力なく震える男の姿を見つけることができた。

365 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:01:01 ID:4uBNYJh20
 この帽子の男が生存者か。その向こうには、瓦礫に埋もれた真っ黒な焼死体がある。全身が完全に炭化し、その原型を留めぬほどに崩れたその遺体に比べれば、赤い男の遺体も幾分マシに思えた。何しろその炭の塊が人間の亡骸だとわかったのは、単純に大きさで判断できたに過ぎないからだ。

「――君、しっかりしなさい」

 高温に晒され、肌を焼く熱を持ったコンクリの上で両拳を握っていた男は駆け寄った名護の呼び掛けを境にして数回、一際大きく震えた後、長い溜息と共に蠕動を止め立ち上がった。

「……すまねぇ。情けない姿、見せちまったな」

 あちこちで上がる黒煙に汚されたのもあるのだろうが、それ以上に泣き腫らしたことで真っ赤になった両目を帽子で隠そうとする男が鼻声で名護と擬態天道にそう告げて来た。

「――情けないなどということはない。君も、大変だったのだろう?」
「……慰めて貰ってくれたところ悪いが、俺には辛いなんて思う資格はねぇんだ」

 そう言いながらも、心に負った傷を隠し切れていない青年は声を震わせながら名護に答えた。

「……あんた達は、殺し合いには乗ってないんだな」

 男の確認に、名護はああ、と力強く頷く。

「そうか。……俺は左翔太郎。風都の……その名も背負えねえ、半人前の探偵だ」

 翔太郎と名乗った男は帽子を取り、ぐしゃりと握り締めた。

「……あんた達は早く逃げてくれ。この近くには、トンデモねえ危険人物がいやがるんだ」
「何だって? なら君はどうするつもりだ」
「俺は……あいつを倒す」

 自らの帽子を眺めながら、翔太郎と名乗った青年はそう怒りを込めて言い放った。

「危険人物……だと言ったな。なら、君を一人にしておくわけにはいかない。君こそ逃げなさい」
「……そうはいかねえ。俺は半人前だが探偵で……半人前だが、仮面ライダーだ。あんた達を危険な目には遭わせられねえ」
「そうか。なら俺はやはり君を見捨てられないな。何故なら俺は、一人前の仮面ライダーだからな」

 そう臆面もなく言い切る名護に翔太郎は一瞬、面喰らったようになり、それから名護の方へ向き直る。

「そんなことを言ってる場合じゃねぇんだよ! 頼むから逃げてくれよ、俺は本当に半端者なんだ……誰も護れてない、皆死なせちまってる能無しなんだよ!」
「なら俺達が一緒に居よう。君の分も、俺が他の人々を護ると約束しよう」
「……何なんだよあんた。どうしてこんなところを見て、どうしてそんなこと言えるんだよ!」
「俺は名護だ!」

 瓦礫の山や真っ黒の焼死体を指差して翔太郎が自棄になったように抗議するも、名護はそう叫び返して、翔太郎を唖然とさせる。

「俺は名護啓介だ。そして言ったはずだ、俺は仮面ライダーだと。どんな力を誇る敵が相手だろうと、俺は誰かの命を護るために戦う。……その使命を、仲間からも託された。なら、俺は君のことも見捨てるわけにはいかない」

 海堂があそこまで必死だったのは、自らの過去への贖罪だと、名護は言っていた。
 それなら、名護にここまで言わせるのも、海堂を見捨てたことに対する罪悪感なのだろうか――ふと、擬態天道はそう考える。
 そして、多分違うと、内心で彼は否定する。
 何故なら名護啓介は、初めて彼と出会った時、海堂が犠牲になる前から、こんな男だった。
 海堂も、誰かを救えなかったことが重荷になっているのなら、それはきっと彼が最初から、あの正義とか言う心を持っていたからだと、彼は思う。
 最初から彼らには、彼らが尊ぶ正義の心があった。
 なら、そんなものを持っていない自分は――

「――あんたが、名護さんか」

 擬態天道を思考の渦から呼び戻したのは、名護を呼ぶ翔太郎の声だった。

「さすがは紅が認めてた人だな、あんた……自棄になって、また情けねえ真似するところだったが、あんたのおかげで落ち着けたぜ……ありがとな」
「そうか。感謝はありがたく受け取っておこう。……紅?」

 そこで名護の顔色が変わる。

「君は渡くんか、紅音也を知っているのか?」
「――あぁ」

366 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:01:39 ID:4uBNYJh20
 平静さが戻りつつあった翔太郎の声が、その問い掛けによってまた震えた物となる。

「俺のせいで、紅……音也は……っ!」

 帽子を被り直し、再び拳を握り締めた翔太郎が身を翻して、焼死体の姿を晒す。
 その傍らで散らばっている、黒く汚れた白の欠片には――擬態天道にも見覚えがあった。

「イクサナックル……まさか、彼が……っ!」
「……こいつが、紅だ」

 声を出すことも辛い戦いだと感じさせるほどに全身を震わせながら、翔太郎が首肯した。

「そんな……音也さんが……」
「あの伝説の男が、こんな姿になるとはな……」
「紅音也……まさか、そんな……」
「すまねえ名護さん。俺が不甲斐ねえばっかりに、紅は……!」
「……いや。自分を責めるな、翔太郎くん。彼はきっと、最期まで人の音楽を護ることができて、本望だったはずだ。君が自分を責めてその音楽を止めてしまっては、彼はきっと悲しむ」

 タツロット達と共に愕然とした表情だった名護が、翔太郎の零した涙に正気を戻し、そう彼の肩に手を乗せる。そうして視線を、紅音也だった物へと向けた。

「紅音也。俺はかつて、過去に跳んだ時……あなたと出会った」

 時を跳ぶ。異世界にもハイパークロックアップのような代物があるのかと、そのための実験体でもあった擬態天道は複雑な心中で名護の言葉を聞く。

「軽薄で、破廉恥で、何と自分勝手な男だ。こんな奴に違う時代とはいえ、イクサを任すことなどできない……あなたの上っ面だけを見て、俺はそう思いもした。だが本当のあなたは、その内なる心の法に従って、護るべき愛するもののために命を懸けて戦う、立派な真の戦士だった。
 今の俺があるのは、あの時あなたから遊び心を教わったからだ。その恩を忘れるつもりはない。あなたに代わって、俺があなたの愛した、人の心が奏でる音楽を護ろう。そして、あなたの御子息である渡くんも――彼からすれば余計なお世話かもしれないが、必ず俺が支え、護り抜いてみせる。
だからどうか、せめて安らかに眠りなさい……」

 そう紅音也へと告げる名護の頬に光輝が生じたのを見て、擬態天道は思わず問うていた。

「名護さん……泣いてるの?」

 指摘されてから、翔太郎にああ言った手前、罰が悪いかのように彼は目元を拭う。

「俺は泣いてなど居ない! これは……心の汗です」
「名護さん、その言い訳はちょっと古いぜ……」

 微かに呆れたように、そう翔太郎が名護に突っ込んだ。

(――その、紅音也って言うのは……名護さんにとって、大事な人だったんだ……)

 大事な人が死ねば、人間は悲しい……それくらいは、擬態天道も知っていた。

 ――もうこれ以上、俺様の目の前で誰一人傷付けさせねぇ! 誰一人だって、殺させやしねぇ!
 ――嗚呼そうさ……俺ぁ守るんだ! 今度は俺が……みんな、この俺様が、守り抜いてやるんだよ!

 そう言って、死んでいった男の姿が、擬態天道の脳裏に蘇る。

(――どうして。どうして、僕を……)

 どうして――誰からも何も想われないような自分なんかのために、海堂は命を捨てたりしたのか。
 それは擬態天道に生きて欲しかったからだと、名護は言っていた。だけど、他人の――それも、見ず知らずの自分のためにその命を捨てるなんて、馬鹿げてる。
 誰だって死ぬのは怖いはずだ。痛いのは嫌なはずだ。苦しいことなんてしたくないはずだ。それなのに、どうして海堂は、名護は、そこで死んでしまっている紅音也は、あの時向かって来た剣崎一真は、どうしてこんな簡単に、他人のために命を懸けるんだろうか。
 自分は死にたくない。生きていたい。他人のための犠牲になるなんて、もう真っ平だ。
 ……なのに。自分は生きているのに、紅音也が死んで名護が嘆き、海堂が死んでしまった今この生を、彼は手放しで喜ぶことができなかった。

「……総司くん。君こそ、彼のために泣いてくれているのか?」

 名護にそう聞かれてから。擬態天道はいつの間にか、自分が嗚咽を上げて泣いていたことに気づいた。
 何で、どうして泣いているのかはわからないけれど――擬態天道は首を振る。

「違……う……っ!」

367 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:02:17 ID:4uBNYJh20
 しゃくり上げながら、そう首を振る。頭の中に浮かんで来たあの胡散臭い顔を思い出すままに、擬態天道は、わからないままでも理由を声に出す。

「その人には、悪いけど……その人のためじゃ、ない……ただ、海堂を、思い出したら……」
「……海堂は、おまえにとって大事な仲間だったんだな」

 そう、わかったような口をきいて来たのは翔太郎だった。

「仲間……だって?」
「あぁ。木場さんから聞いていた通りの奴だったみたいだな、その海堂直也って男も……」

 何も知らないくせに、そう一人頷く男が気に食わなくて、擬態天道は声を荒げる。

「仲間なんかじゃない! 僕は、おまえらとは違う! 僕には、そんなものいなかったっ!」
「それは違うぞ、総司くん!」

 何言ってるんだよこいつ、と翔太郎が呟くのを掻き消して、名護の叫びが響く。

「確かに、これまで君には仲間は居てくれなかったかもしれない。だが、それは過去の話だ。今や俺も、直也くんも、タツロットやレイキバットも、君のことをかけがえのない仲間だと思っている。例え君が孤独だと思い込んでいても、君は決して一人じゃない、俺達が一緒に居るんだ!」

 己を指差してそう強く言った名護は、そこで一度息を吐いて自身を落ち着かせる。

「――それを君が嫌だと言うなら、それでも構わない。だが誰かを頼りたくなったら、そのことを思い出してくれ。君が助けを求めれば、俺達はいつでも、必ず駆け付ける」

 そう暑苦しいほどの気持ちを込めて、それを伝えて来る名護に、擬態天道は何も言えなかった。



 名護が翔太郎と情報交換し始めたのをぼんやりと眺め、その内容を何となくだが頭に入れながら、擬態天道は尻を地べたに着いて座っていた。

「……できるなら、照井や紅の奴をこのままになんてして置きたくねぇが……」
「――手厚く葬りたいところだが、埋葬する時間はないだろうな」

 場所によってはまだ熱を保っているコンクリを避けて、座れる場所を見つけ出したばかりの頃は、そんな会話も聞こえたが。実際時間がないのは事実である以上、津上翔一達を見つけ出すべく早めに移動を開始し、その過程で情報交換を進めるという方向で二人の方針は決まったようだ。

 名護の言葉が、自分にとって事実なのかは知らないが――今は彼らに付いて行く、そのことしか考えていなかった擬態天道も、移動を始めようとした彼らの後に続こうとして……

(――ダークカブトゼクター? いや、違う……)

 聞き覚えのあるゼクターの飛行音が、彼の耳に届いた。
 それは自身の半身とも言える、ダークカブトゼクターと瓜二つの移動方法で、その空気の裂き方も同じだった。それによって発生した音を、一瞬彼が聞き間違えてしまうほどに。

 それが近づいて来ることに気づいて、擬態天道は立ち止まり、視線を巡らせ――見つけた。

「……あれはっ!」

 彼の声を聞いてか、名護も振り返る。そして次の瞬間に、大きく驚愕した声を上げた。

「……カブトゼクター!?」

 それは二時間前、この殺し合いを止め大ショッカーを打倒するために、それぞれの成すべきことを果たそうと、彼らとは別行動を選んだ男の、その相棒――

 本物の天道総司の連れていたはずのカブトゼクターが、擬態天道の頭の上まで飛んで来ていた。

「あのベルトは……」

 カブトゼクターが抱えるライダーベルトを目にして、思い当たるものがあるかのように翔太郎が声を漏らし、その言葉にはっとしたように名護が息を呑む。

「カブトゼクターがベルトとともにここにいるということは……まさか、天道くんが……っ!?」

 その愕然とした声に、擬態天道もあぁと、自分でも意外なほどにあっさりと、事実を受け入れる。

 その主と共に天の道を往くカブトゼクターが、彼が肌身離さず持っているはずのベルトを抱え、今ここにいるということ。
 それは、天の道を行き総てを司る男――天道総司の死を、意味していた。

368 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:02:52 ID:4uBNYJh20
 誰も彼もから愛され、何もかもを手に入れ、総ての頂点に立つ、まるで太陽のようなあの男――
 天道総司が、死んだ。それも、こんなに呆気なく。

 悲願が叶ったというのに、擬態天道の中には、不思議とそれを喜ぶ気持ちが湧いて来なかった。

 あまりにも突然のことで、まだそのことを実感できていないから? 自分の手で、あの男に復讐することができなかったから?

 どちらも違う気がすると、擬態天道は結論していた。

 ――このままのお前でいるか、それともお前がお前自身の力で生きようとするか……決めるのはお前だ。

 そう告げて来た天道は……自分を邪魔者のようには、扱わなかった。
 ずっと、出来損ないの擬態である自分を、見下していると思っていたのに。ずっと、彼と同じ顔で惨めに生きる自分を、疎ましく感じていると思っていたのに。
『天道総司』は名護や海堂と同じような光を燈した瞳で、彼のことを見つめていた。

 その瞳がもう二度と開かれることはないのだと思うと、喜びではなく、その反対の感情が、擬態天道の中に溢れて来た。

 どうしてなのかわからない。わからない。わからないことだらけだ。

 他者から辛い扱いしかされずに生きて来た彼にとっては、未知のことが多過ぎて。これまで体験したことのない感情の奔流に、擬態天道が戸惑っていると――

 その彼に話しかけるかのように、カブトゼクターが鼻先まで降りて来る。
 何かを伝えるようにカブトゼクターはその角を上下させると――抱えていた銀のベルトを、擬態天道の手の上に落として来た。
 ――瞬間。彼の感情が沸騰する。

「……ふっざ、けるなぁあっ!」

 受け取ったライダーベルトを、擬態天道は思い切り振り被ってカブトゼクターに投げ返す。渾身の力で叩きつけてやったと言うのに、その機体より大きなベルトを器用に掴み取るゼクターは何でもそつなくこなすあの男を思い出させた。心を占めるその他の感情総てを圧し払った怒りを込めて、滞空するカブトゼクターを彼は睨んだ。

「僕は……僕は、天道の予備なんかじゃないっ!」

 その死に感じた痛みも忘れ、ずっと抱えて来た憎しみのまま、擬態天道は叫ぶ。

「天道が死んだから? 僕にカブトになれってことか! ふざけるな、誰に頼まれたって、あいつの代わりになんかなるもんかっ!」

 あの時天道が自分を気遣ったようだったのは、つまりそういうことか――

「あいつがあの時僕を心配したのだって、僕を自分のスペアだって考えてたからだなっ!?」
「――総司くん!」

 擬態天道の激昂に、呆気に取られている翔太郎を追い越して、名護が歩み寄って来るのがわかる。
 その声がまた、制止の意味合いを含んでいたことはわかった。だけど、今度の声にはこれまでとは違う、自分への強い否定が込められていたことにも彼は気づいてしまった。また涙が込み上げて来るのを堪えられないまま、擬態天道は天空にあるカブトゼクターに罵倒を浴びせる。

「消えろ! どっか行っちゃえ! 天道の亡霊め、二度と僕の前に現れるなっ!」

 彼の叫びを受けてか、飛来したダークカブトゼクターがカブトゼクターに体当たりを仕掛けた。ライダーベルトを抱えたままでは満足に黒いゼクターに対処することができず、カブトゼクターは後退を余儀なくされる。深紅のゼクターを執拗に追い駆けて、ダークカブトゼクターはさらに突撃を仕掛ける。それを幾度と繰り返し、やがて黒金と深紅の双つのカブトムシ型のゼクターは、擬態天道達の視界から消えて行った。

 はぁはぁと、全力で叫んだことによって酸欠になった肺に空気を送りながら、擬態天道はカブトゼクターが消えた夜天をずっと見据えていた。

「……総司くん」
「何だよ、名護さ――」

 パン、と響いたのは、振り返り際自分の頬が叩かれた音だと気づいたのは一拍置いてからのこと。
 擬態天道は痛みから生じた敵意を乗せて、名護へと視線を戻す。
 そこにあった名護の顔は、強い憤怒に歪んでいた。

「天道くんに、謝りなさい」
「嫌だ。僕は、あいつの代わりになんか、絶対にならない」

369 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:03:24 ID:4uBNYJh20
「――そんなふざけたことを言うのはやめなさい!」

 名護から浴びせられた否定の言葉に、擬態天道は二の句を繋げなくなってしまう。

(何だよ……結局、名護さんもそうなの……?)

 結局彼も、自分を天道総司の代わりだと見ていたということか。
 だから天道が死んで、彼の予備としてカブトゼクターの資格者となることを拒んだ自分に、強い怒りを見せているのか。

 頬を張られた痛みではなく、自分の頭に浮かんだ事実にもう何度目かわからない涙を流しながら、キッと擬態天道は視線を強める。

「……君が自分の予備などと。天道くんが、本気でそう思っていると考えているのか?」

 だが名護の放った言葉に、擬態天道は意表を突かれ、そして愕然とする。

「……僕なんかじゃ、偉大な天道総司の劣化コピーにもなれないってこと?」
「総司さん、違いま……っ!」
「死者を愚弄するのはやめなさいっ!」

 タツロットが口を挟んで来たのを無視して、名護が声を張り上げた。その剣幕に、タツロットや視界の端の翔太郎、擬態天道自身も縮こまる。
 その畏縮した肩を、名護はまた力強く掴んで来る。

「彼は君のことを、自分の偽物だとか、予備だとか! そんな風に思ったりしない! 天道総司は、もっと大きく立派な仮面ライダーだ! 彼が君を気遣ったのは、一重に彼が君を、君自身を! 心から助けたい、救うための力になりたいと願ったからだ!」

 そう訴えて来る名護は、それを伝えること以外、何も頭にないかのように。まったく遠慮せずに、ひたすらに大声を発し続ける。

「きっと天道くんは、死の瞬間まで君のことを気に掛けていた! 心配していた! だからカブトゼクターは、彼のその遺志を継いで、君を護る力になろうと、ここまでやって来たんだ!」
「天道が……僕を……!?」
「そうだ!」

 確信に満ちた声で、名護は力強く頷く。

「天道くんは、君のことを想い、できることなら君の力になりたいと思っていた。絶対にそうだ! あの天道くんが、死に際にカブトゼクターに託したのは、君のことだったんだ!」

 自分とはまるで違う考え方を、完全に信じ切って名護は擬態天道に示して来る。

「そんな……そんなことが……」
「――なのに、君は。その天道くんの想いを愚弄した。その行為を見逃すことは、俺にはできない。天道くんに謝りなさい、総司くん」

 名護の物言いは、擬態天道を責める物から、諭す物へと変化していた。

「俺は君の師匠として、君に道を示すと言ったはずだ。君が道から外れそうになったら、元通りに導く義務がある。だから、もう一度だけ言う。天道くんに謝るんだ、総司くん!」

 そう掴まれた肩を揺すられ、擬態天道は成されるがままにぐらぐらとふらつく。
 何を信じていいのか、擬態天道には何も分からなくなっていた。何の基盤もないから、こんなに簡単に揺らいでしまう。
 今までずっと、擬態天道が見て来た世界と――名護達仮面ライダーが、彼に示そうとする世界は、同じ世界のはずなのに、まるで別の物に見えて。

 これまでの自分の見て来たそれか、仮面ライダーの示す世界か。

 擬態天道が判断を付けられず、ただただ戸惑っていた時だった。
 ――彼らの元に迫って来るバイクの音に、三人が気づいたのは。

「どなたかこちらに来てますね……?」

 タツロットがそう呟き、その直ぐ後に、深いワインレッドのバイクがその姿を現した。
 それを駆る軍服の男の顔は、その場に居た全員に覚えがあるものだった。

「おまえは……!」

 翔太郎が驚愕を、名護と、そして擬態天道が怒りを込めて、新たに現れた男へ視線を向ける。

「ガドル……さん……っ!」

 タツロットがそう、辛そうに呟いた。

370 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:04:14 ID:4uBNYJh20







 ダグバと別れた後、彼がその力を振るった戦いの跡地へと、ガドルは向かっていた。
 理由は、あれだけの惨禍を見せつけられれば、強者との戦いを望む参加者が集まって来るだろうと考えられたため。
 そして何より、リントを護る仮面ライダーが、あの災厄を放置しておくとは考え難かったからだ。
 その読みは正しく、聞き覚えのある大声のした方へ向ったガドルは、三人の参加者を見つけた。
 彼らは全員、一度ガドルが出会ったことがあり――その内の二人は、弱いが、仮面ライダーだとガドルが認めた男達だった。

「――こんなところで会うとはな」

 黒いタートルネックの男――確か、あの蛇の男、ガドルに勝利した仮面ライダーこと海堂直也が、名護と呼んでいたリント――が、そう仮面ライダーに変身するための道具を片手に一歩、前へ出る。
 後ろに居るのは、生身のまま拳を構えた帽子の男。日中に出会った、技は未熟で力もまるで弱い――だがその気骨だけは認めざるを得ない、仮面ライダーの一人。
 それと一時行動を共にしたタツロットや、仮面ライダーの力を装着者に与える顔だけの白い蝙蝠――そして仮面ライダーの力を持ちながら、その名に相応しくない精神をした、怯えた表情の癖毛のリントが一匹ずつ、さらにその背後に並ぶ。

「海堂くんの仇、討たせて貰うぞ……その命、神に返しなさい」

 そう有無を言わせぬ気迫を持って、名護が籠手のような変身アイテムを構える。
 この三人の中でも、あの海堂直也と語り合ったことからも特に仮面ライダーとして正義の誇りを持った戦士であることは明白。前の戦いでは不発させたが、さらに力を隠し持っていると思われる、仮面ライダーに変身する男。この三人の中では、名護が最大の獲物だろうとガドルは結論付ける。

「――待て」

 名護が宣戦布告し、そのまま変身しようとしたところで――ガドルは制止を口にした。

「――待て、だと? 殺し合いに乗った悪が、どの口でそんなことを!」
「――無論、貴様らと戦い、殺すことが俺の本望だ」

 そう殺気を解放するだけで、後ろの帽子の男の身が強張り、仮面ライダーモドキが恐怖のままに一歩下がる。名護さえも、わずかにその表情を厳しい物にする。

「だが、ここでそこの二人を巻き込む恐れを抱きながら、戦うことは貴様らも本意ではあるまい。場所を変えろ――断ってくれても、俺は別に構わんがな」

 そうガドルが示すのは、二つの死体。
 一人は全身に創傷を刻み、苦悶や後悔に塗れながらも、どこか満足した顔で事切れた男。その命が尽きる寸前に何かを成し遂げたような――恐らくは完全に脅威を駆逐するには至らなかったが、無力なリントを護り抜くことに成功した仮面ライダーの顔だと、ガドルは結論付けた。
 もう一人は、全身が完全に炭化した真っ黒な焼死体。ダグバの持つ、超自然発火の力によって命を奪われたことは明白だが――彼が抵抗もせずただ狩られるのを待つだけの存在だったわけではなく、最期の瞬間までダグバに挑んでいた勇敢な戦士であるということは、その周辺に散らばった機械の残骸で判断できた。

 そうして散った戦士達に敬意を払い、ガドルはできれば、彼らの眠りを妨げたくはなかった。
 それは仮面ライダー達も同じであり、彼らは殺戮を好むグロンギであるガドル以上にそのことを気にして、下手をすれば全力を出せない可能性があった――それはガドルの本意ではない。

 それ故のガドルの提案だったが、果たして仮面ライダー達はそれを受け入れるかは、また別問題だ。拒まれれば、絶息した戦士達には無礼を働くことになろうと、この場で戦い三人を殺すのみ。
 そう考えるガドルに対し、険しい視線は緩めぬまま、名護はゆっくりと構えを解いた。

「まさか、貴様に死者を悼む気持ちがあったとはな……」
「――貴様らの言う感情と同じかなどわからんが、俺は相手に応じた振る舞いをするだけだ」
「……良いだろう。場所を、変えよう」

 名護はそう頷き、ガドルは付いて来いと、さらに西側、まだ無事な市街地の方を三人に示す。

「――なぁ、マッチョメンよ」

 カブトエクステンダーを走り出させようとしたガドルに、帽子の男がそう声を掛けて来る。

「あんたも、こいつらに気を遣ってくれたってんなら……そんな悪い奴じゃないはずだ。どうしてこんな、殺し合いなんかに乗っちまったんだよ。そんな方法で、本当に世界を護れるなんて思っているのか?」
「――世界など、俺には興味はない」

371名無しさん:2011/11/28(月) 19:04:37 ID:cYaKDJh20
しえn

372 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:04:53 ID:4uBNYJh20
 何を勘違いしているのか、そう訴えかけて来た翔太郎の声を一蹴して、ガドルは彼の方へと視線を動かす。

「俺の目的は、この地に集められた全ての強者と戦い、殺すことだ。――ただ強き者には、相応の振舞いをする、それだけだと言ったはずだ」
「何言ってんだよ、あんた……」
「やめなさい、翔太郎くん。その男は人間ではなく、未確認生命体――無辜の人々を傷つけ、その笑顔と命を奪う悪魔だ。外見に騙されるな」

 名護の言葉は正しい。ガドルはグロンギであり、リントなどはただのゲゲルの標的に過ぎない。リントを殺すことを文化として、そして本能として掲げるグロンギにとって、他者の命などゲゲルのスコア以上の価値など持ち得ることはない。リントを狩り、ゲゲルを達成すること以外、ガドルには何の関心もない。負ければ世界が滅びると言われても、何も感じなかった。
 それでもグロンギ最強の戦士として、ガドルの欲にあったのは強き戦士との闘争だった。そして、ガドルにとって敬意を持つべきは同胞ですらなく、殺す価値があると感じられる強き戦士だった。

 故に、戦士達の亡骸は安置したに過ぎず。ガドルはカブトエクステンダーのアクセルを回す。

「――15分待つ。それまでに来なければ逃げたとみなし、他のリントともども殺す」
「リント……って、あの白い野郎が言っていた……」
「待っているぞ、仮面ライダー達よ」

 それだけを言い残し、ガドルはカブトエクステンダーで移動を再開した。
 目指すはE-1エリア市街地。それだけ距離を取れば、仮面ライダーも本気を出せるだろう。

 必ず追って来るという確信が、ガドルにはあった。またリントを今襲っているわけでもない以上、背後から仕掛けるような輩でもない――もしその程度の相手なら、死角からの奇襲だろうと十分に対応して見せるとガドルは自負していた。

 故に悠々と敵に背を向け、ガドルはその場から目的地へと移動を始めた。瓦礫が散逸した路上ではバイクの操縦は困難なものだが、既に二時間駆り続けた鉄馬はガドルの一部に等しかった。

(――見極めさせて貰うぞ、仮面ライダー)

 あの時、まったくガドルの敵にはなり得なかった、二人の仮面ライダー。
 だが、最初に戦った時は、あの海堂直也もガドルの敵足り得なかった。そんな彼を変えたのは、正義に殉じるという彼の覚悟とその信念。
 それを胸にすれば、どの仮面ライダーもガドルを脅かすほどの強者足り得るのか。それをガドルは確かめたかった。

(貴様らの掲げる、正義とやらの力を)

 宿敵への期待を胸に、破壊のカリスマは生温い夜風を切って走って行った。







「――急ごうか。あの方向、恐らくE-1エリアの市街地の方を目指している。15分ではギリギリと言ったところだ」

 そう名護が去って行くバイクを見据えて言うと、総司という男が彼を掴んだ。

「何言ってるの!? ついさっき、三人掛かりでもまったく歯が立たなかったじゃないか! 今度こそ殺されちゃうよ!」

 そう、必死に名護を呼び止めようとする総司を見て、翔太郎はようやく彼に共感できるところを見つけられた。

「……それでもだ。奴を放置していては、他の者達が危険だ。俺は仮面ライダーとして、奴を倒す義務がある」
「――俺も行かせて貰うぜ」

 そこで翔太郎は名乗りを上げた。

「――俺は半人前かもしれねえが、何もせずに見ているだけなんてできねえ。半人前でも、たった一人よりは一人半の方がまだマシなはずだ」
「そうか……翔太郎くん、その心構えさえできれば、君はもう立派に一人前だ。胸を張りなさい」

 そう名護は言ってくれるが、翔太郎は首を振るしかできない。

「ありがとな、名護さん。……だけどそう言って貰ったところで、俺はまだ口先だけだ。まだ何も成し遂げちゃいねえ以上、半人前でしかねえよ」

373 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:05:39 ID:4uBNYJh20
 確かに翔太郎は、風都を護り続けて来た。
 だがそれは翔太郎個人の力ではなく――鳴海亜希子や照井竜、刃野刑事達警察やウォッチャマン達情報屋、何より相棒のフィリップといった風都の皆と力を合わせて来たことが大きい。

 故におやっさんこと鳴海壮吉とは違い、翔太郎は一人ではまだ何もできないひよっこだ。名護がその心意気を認めてくれたところで、事実この殺し合いで犠牲者ばかり出している以上、翔太郎は自分の不甲斐なさを許すことはできない。

「……それでもあのマッチョメンは、木場さんやあんた達の仲間だった海堂の仇なんだろ。俺の前で堂々と殺人予告までして行きやがったんだ、何もせず見ているだけなんて俺にはできねえ」
「ああ。心強いよ、翔太郎くん。……総司くん!」

 翔太郎に頷いた名護はさらにそこで、ずっと情緒不安定気味な総司の方を振り返る。

「……事実として、奴は強敵だ。俺が出会って来た全ての悪の中でも、おそらくは最も手強い敵の一人だろう。必ず勝てるという確証はない……だから君は、無理に付いて来なくても良い」
「え……?」
「おい、名護さん。まさかあんた、死ぬ気じゃないんだろうな?」

 黙って見ていられず、翔太郎はそう口を挟んだが、それは要らぬ心配だったようで。

「馬鹿なことを言うのはやめなさい、翔太郎くん……俺は世界の希望。輝く太陽のように、決して消えることはない!」

 いちいち大仰な人だなと、翔太郎は少し呆れたりもしたが。

「勝てる保証がなくとも、世界のために、必ず悪に勝つ! ――それが俺達、仮面ライダーだろう?」

 続いた言葉には、翔太郎も力強く、心から頷いた。

「……太陽は。天道は、消えちゃったじゃないか……っ!」

 そんな二人に届いたのは、総司の悲痛な声。彼は必死の形相で、名護に詰め寄っていた。

「あいつはバケモノなんだ、僕達じゃ……海堂みたいに殺されちゃう! どうして逃げられるのに、どうして自分から戦いに行くなんて言うのっ!?」
「おい――総司だったか、おまえ。ずっと名護さんは、おまえに言ってるじゃねえか」

 名護が死地に飛び込むのが耐えられない様子の青年に、翔太郎は帽子を深く被り直しながら言う。

「俺達は、仮面ライダーだ……ってな」
「――だから!? どうして君達仮面ライダーは――!」
「――それは俺達が風都を……いや、人間を、愛しているからだ」

 普段なら、ハードボイルドを心掛ける翔太郎が決して口にしないような、愛と言う単語――
 それでも目の前のこの青年には、敢えてこの、自身の根源たる想いを言い聞かせる必要があると、翔太郎は思っていた。

「人間を、愛……!?」

 意味がわからないという様子で、総司は首を振る。

「言っておくが、人間じゃなくても――木場さんや、海堂みたいな。人間らしい心を持った者を、俺は愛している。だからその大切な人や街を泣かすような奴らを、俺は絶対に許せねえ。
 きっと名護さんも、紅も、照井も、木場さんも、海堂も――さっき言ってた天道も、皆同じだ」

 どこか引っ掛かりを覚えた翔太郎の言葉に、それでも名護が力強く頷いてくれたのがわかった。

「だって、そんな……ここに連れて来られた人達なんて、ほとんど住む世界も違う、見ず知らずの他人じゃないか! そんなのを、愛してるから戦うだなんて!」
「なあ、総司……さっき名護さんは、自分のことを太陽のように、って言ったよな」

 それと同じだと、翔太郎は彼に伝える。伝えなければならない。

「温かい太陽も、心地良い風も――邪魔する奴がいなけりゃ、誰にだって平等に降り注いで、どこにだって分け隔てなく吹くもんだ。俺達の――仮面ライダーの、誰かを想う気持ちだって同じだ。どこの誰だって、俺はその命を愛しいと思う」
「そうだ――顔も知らぬ人の奏でる音楽も、俺は尊いと思う。自分の命を懸けてでも、護る意義があるものだと、俺はそう信じる」

 名護が翔太郎の言葉を継ぎ、そうして総司に告げる。

「だから、総司くん……ここにいる沢山の人の、そして直也くんが、その命で君に遺した物を……その命の奏でる音楽を、どうか俺に護らせてくれ」

374 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:06:23 ID:4uBNYJh20
 わからないよと、総司は俯き、首を振る。
 だがその否定は、仮面ライダーの理念を否定するものではなく。そのために、仮面ライダーの命が喪われることを認めたくないためのものだと、翔太郎は感じていた。
 壮吉を亡くした、自分達のように……

(――名護さんにとっては、紅の奴がおやっさんだったんだな)

 つい先程、紅音也の遺体へ向けた名護の宣誓を、翔太郎は思い出す。
 見たところ、自分と壮吉の関係に比べれば――本来異なる時間に生きる者同士が、偶然邂逅しただけだったために、非常に短く、そしてまた対等に近い関係だったようだが。
 それでも名護啓介は、確かに紅音也の魂を受け継いだ。

(そして名護さんは、今――こいつのおやっさんになろうとしてるんだ)

 自分で自分の感情の整理もできていないような、一人の青年。だがその心は未だに幼く、理解の及ばぬあらゆる事象に混乱しているようであった。
 そんな彼の、道標になるために。
 名護啓介は、仮面ライダーとして戦っている。翔太郎には、彼らの関係はそう見受けられていた。

(だったら――総司には、俺と同じ想いは絶対にさせねえ……!)

 自分のせいで壮吉を死なせてしまったということを、翔太郎は決して忘れることはできない。
 今また、もし総司を残して名護が死んでしまうようなことになるなど――翔太郎は絶対に認めるわけにはいかない。
 必ず二人を護る。そして自分自身も、もちろん風都やこの会場にいるフィリップや亜樹子を護るために――絶対に生き残る。
 そう、全員揃って生き残ってみせると、翔太郎は強い決意を固めていた。

(そのために、照井、紅、木場さん……それから海堂に天道、そして霧彦……俺に力を貸してくれ)

 散って行った仲間達に、そう祈りを捧げる翔太郎の方を、名護が振り返った。

「――行こうか、翔太郎くん」

 その呼び掛けに、翔太郎は力強く頷く。

「あぁ。行こうぜ、名護さん。仮面ライダーとして!」
「――待って!」

 タツロット達に総司を任せ、ガドルとかいうマッチョメンのところに向かおうとしていた二人を呼び止めたのは、総司だった。

「置いて、行かないで……」
「総司くん……しかし、危険なんだ。戦う意思のない君を、連れてはいけない」
「だったら……だったら、僕も戦うから……!」

 縋るように、総司は名護に駆け寄って来る。

「お願いだから、名護さんまで……僕を置いて、遠くに行かないで……!」
「――良いぜ。付いて来いよ、総司」
「――翔太郎くん!」

 咎めるような名護の声に、翔太郎は首を振る。

「名護さん、こいつはきっと……あんたに死んで欲しくないんだ。あんたを護りたいんだよ。
 誰かを護るために戦う……それならこいつも、立派な仮面ライダーなんじゃねえのか?」
「しかし……」
「心配なのはわかるけどよ。それはあんただけじゃなくて、こいつも同じ気持ちなんだ。違うか?」

 翔太郎の言葉に、名護は暫し逡巡するように険しい表情で瞼を閉じたが、やがてそれが開かれる。

「――わかった。だが危なくなったら、直ぐに逃げなさい。それが条件だ」

 そうして総司の同行が許可され、三人並んで、ガドルの待つ場所へと向かう。

(――そういえば、さっき来たあのカブトムシ型のガジェット……)

 総司が追い返した赤いカブトムシメカを、翔太郎は不意に思い出す。
 カブトになれってことか、などと錯乱した総司が叫んでいたことも。

(――あれはつまり、ファングと同じで自律行動できる変身ツールってことか)

 そのカブトゼクターが抱えていたベルトと良く似たベルトを、翔太郎は持っている。

(あのベルトにも……対応した仮面ライダーになれるガジェットがいるかもしれないってことか)

375 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:07:00 ID:4uBNYJh20
 もしそうなら、叶うことなら力を貸して欲しい。

 この地では、同じ変身は10分程度しか続かないと言うことは知っている。それなら、変身手段は多いに越したことはない。

(聞こえてるわけねえが、いるなら頼む……仮面ライダーとして戦うための力を、俺にくれ……!)

 そう願いながら、翔太郎は夜の中を歩いた。



 彼は知らない。彼がようやくその存在に気付いた、彼を密かにずっと観察していたゼクターが、彼が河で流されてしまった際に、一度彼のことを見失っていることを。
 そしてそのホッパーゼクターが、ようやく翔太郎を見つけ、遥か後方から付いて来ているということを……

 そしてもう一つ、彼の切り札であるジョーカーのメモリ……それが彼にまた力を与えられるようになるまで、一時間以上の待機時間が必要なことを――左翔太郎はまだ、知らなかった。



 ……約束の時間は過ぎてしまったが、10数分歩いた彼らは、E-1エリアへと届いていた。
 あのマッチョメンが、恐ろしいほどの強敵だと言うことは理解している。日中の勝利がフロッグだということぐらい、翔太郎にもわかっている。だが、名護や総司と力を合わせて、三人で戦えばきっと勝てるはずだ。翔太郎は、目前に迫る戦いに向けてそう自分を鼓舞する。

(……待てよ)

 つい先程まで、デイパックに入ったベルトとまだ見ぬそれに対応したゼクターに思考を巡らせていた翔太郎は、そのきっかけとなったカブトゼクターとの一件の際に聞いた、そして総司を諭す際に呼んだ名前に覚えた違和感に気づいた。

(天道……確か紅の奴が口にしていた……いやそこじゃねえ。総司の奴が口にした、そして名簿にあった、天道のフルネーム……)

 探偵である以上、翔太郎の人物名を覚える能力は当然ながら常人よりも鍛えられている。
 たった一度流し読みした程度の名前でも、意識して聞いたわけでもない名前でも、彼の記憶の中には確かに刻まれていた。

(――天道、総司!?)

 いったい、どういうことなのだろうか。
 天道以外、名簿に総司という名前を持つ者などいなかったはずだ。
 それなら今、名護のすぐ横を不安げな表情で歩く、この癖毛の青年はいったい何者なのか……

「――なぁ、一つ良い……」
「――待っていたぞ」

 疑惑を晴らそうと、一際開けた道路に出た際に放った翔太郎の言葉を阻んだのは、進行方向から投げられた声。

 それは鍛えられた筋肉で軍服の布地を押し返す、屈強な大男――腰の後ろで両手を組んで現れたガドルが発したものだった。

「――あぁ、待たせてしまったようだな。その命を、神の下に返す時を」

 すっと表情を厳しくし、名護がガドルを睨み返す。

「貴様らには、まだ名乗っていなかったな――」

 そうガドルが取り出した物に覚えがあった翔太郎は、思わずそれに意識を奪われてしまう。

「アームズだと!? そんな馬鹿な、もうメモリブレイクしたはず――」

 ――ARMS!――

 戸惑う翔太郎の疑問に答えずに、ガドルはそのスイッチを押す。

「俺は破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ――」

 名乗りの途中で、ガドルはガイアメモリを首輪へと挿し込んだ。
 メモリは首輪へと取り込まれ、メキメキと音を立てて、ガドルの身体が変化して行く。

「――リントの守護者、仮面ライダーよ。貴様らの敵だ」

 そうして顕現したのは、赤黒い肌を銀の装甲で覆った怪人――アームズ・ドーパント。

376 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:07:41 ID:4uBNYJh20
 かつて翔太郎が戦った、ツインローズの片割れ・倉田剣児が狂気と共に変貌したものとは違う――左半身に醜い傷を晒しながらも、メモリに呑まれることなく兵器の記憶を己が力の一部として取り込んだ、一切の隙のない完璧な兵(つわもの)がそこにいた。

「――変身」

 ――HEN-SHIN――

 かつて倒したはずの敵の予期せぬ復活に動揺し、リアクションの遅れた翔太郎の横で、飛来したダークカブトゼクターをベルトに合体させた総司の身体がずんぐりとした銀の装甲で覆われ、痩身の青年は金の単眼を持つ重厚感溢れる戦士へとその姿を変える。

「――魑魅魍魎跋扈するこの地獄変……名護啓介がここにいる!」

 背中からシールドソードを抜き放ったアームズ・ドーパントの方へ名護が一歩踏み出し、イクサナックルを左手と打ち合わせ、右手を地に平行に鋭く伸ばす。

 ――READY――

「――イクサ、爆現!」

 ――FIST ON――

 顔の前で一度腕を曲げ、そうして腰に落としたイクサナックルをベルトに装着させ、名護の身体が――彼の師、紅音也が変身していた物と同じ、純白の仮面ライダーイクサへと変わる。

 その十字架のような黄金の仮面が割れ、紅い瞳が顕となると――その口から、携帯電話型ツールが吐き出される。手に取ったイクサが1,9,3のボタンを押し込むと、また電子音が流れる。

 ――ラ・イ・ジ・ン・グ――

 アームズ・ドーパントが左腕を変化させた機銃を向けようとするのを、イクサと総司の変身した仮面ライダーのそれぞれが手にした銃で射撃し、妨害することに成功する。

 その隙に、けたたましい警報音を鳴らす、青と白の携帯電話――その最後のボタンを、イクサが押し込んだ。

 途端、イクサの装甲の一部が吹き飛んで、その下の青い内部構造が剥き出しになる。
 仮面もその形状を変え、まるで鎧武者の兜のような姿へと変化した。

 それはかつて紅音也が変身していた物とは違う、未来でこそ到達し得た、IXAの究極形――

「キャストオフ」

 ――CAST OFF――

 青き戦士の雄姿が顕現すると同時、総司の変身した仮面ライダーも、その鈍重そうな装甲を排除する。

 ――CHANGE BEETLE――

 現れたのは、黒く煌めく装甲に赤い紋様を刻んだ、カブトムシを思わせる仮面のスマートな戦士。角によって双眼となった金の視線で赤い怪人を睨む彼に習い、翔太郎は――何も知らずに――自身の切り札であるガイアメモリのスイッチを押した。

 ――JOKER!――

「――変身!!」

 ガイアウィスパーに重ねたその叫びが、開戦の合図となった。

377 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:08:34 ID:4uBNYJh20
【1日目 夜中】
【E-1 市街地】


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、とても強い決意、強い悲しみと罪悪感、仮面ライダージョーカーに1時間15分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
1:名護や総司(擬態天道)と協力して、ガドルを倒す。今度こそ二人を絶対護る。
2:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
3:出来れば相川始と協力したい。
4:カリス(名前を知らない)、浅倉(名前を知らない)、ダグバ(名前を知らない)を絶対に倒す。
5:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
6:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
7:ミュージアムの幹部達を警戒。
8:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
9:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
10:総司(擬態天道)と天道の関係が少しだけ気がかり。
【備考】
※木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ホッパーゼクターにはまだ認められていません(なおホッパーゼクターは、おそらくダグバ戦を見てはいません)。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※自身の変身が制限されていることをまだ知りません。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(小)、ザンバットソードによる精神支配(小)、仮面ライダーライジングイクサに変身中
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW、 ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:総司君(擬態天道)を導く。
1:総司君や翔太郎君と共にガドルを絶対に倒す。海堂の仇を討つ。
2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
3:総司君と共に、津上翔一、城戸真司、小沢澄子を見つけ出し、伝言を伝える。
4:総司君のコーチになる。
5:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
6:後で総司君を天道君に謝らせる。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※タツロットはザンバットソードを収納しています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。
※天道総司の死に気づきました。
※左翔太郎の制限に気づいていません。
※天道総司から制限について詳細を聞いているかは後続の書き手さんにお任せします。

378 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:09:04 ID:4uBNYJh20
【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、全身打撲(ある程度回復)、極度の情緒不安定気味 、仮面ライダーダークカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+ダークカブトゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、ネガタロスの不明支給品×1(変身道具ではない)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:今は名護達に付いて行く。
0:ガドルを何とかする。名護達に置いて行かれたくない。
1:「仮面ライダー」という存在に対して極度の混乱。
2:ガドルへの恐怖。
3:名護に対する自身の執着への疑問。
4:海堂の死への戸惑い。
5:天道の死に対する複雑な感情。
【備考】
※名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※海堂直也の犠牲と、自分を救った名護の不可解な行動に対して複雑な感情を抱いています。
※仮面ライダーという存在に対して、複雑な感情を抱いています。
※天道総司の死に気づきました。またそのことに複雑な感情を抱いています。
※左翔太郎の態度から、彼が制限のことを知っていると勘違いしています。


【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、左腕及び左上半身に酷い裂傷(ドーパント及びに怪人態でも現れます)、アームズ・ドーパントに変身中
【装備】ガイアメモリ(アームズ)@仮面ライダーW 、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:ゲゲルを続行し、最終的にはダグバを倒す。
0:イクサ、ダークカブト、翔太郎を殺す。
1:強い「仮面ライダー」及びリントに興味。
2:タツロットの言っていた紅渡、紅音也、名護啓介に興味。
3:蛇の男は、真の仮面ライダー。彼のような男に勝たねばならない。
4:仮面ライダーの「正義」という戦士の心に敬意を払う。
5:ゲゲルが完了したらキング(@仮面ライダー剣)を制裁する。
【備考】
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。
※『キバの世界』の情報を、大まかに把握しました。
※ガドルとタツロットは互いに情報交換しました。
※海堂直也のような男を真の仮面ライダーなのだと認識しました。
※参加者が別の時間軸から連れて来られている可能性に気づきました。
※擬態天道(ダークカブト)を仮面ライダーだとは認めていません。

379 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/28(月) 19:14:38 ID:4uBNYJh20
以上で投下終了です。
>>362>>363はタイトルを入れてみたら垢が変わってしまいましたが私です。
支援ありがとうございましたが、>>371についてはSSの内容ではありませんということを一応断って置きます。

少々怪しいですが、>>362-369を前篇、>>370及び>>372-378が後篇となります。タイトルは『Tを継いで#再戦』となります。

問題点・誤字など修正点がございましたらまた御指摘の方よろしくお願いします。

最後に、名護さんは最高です!

380名無しさん:2011/11/28(月) 20:38:21 ID:id9snyOI0
投下乙です!
翔太郎……まさか変身制限がこんな所で仇となるなんて。
そういやホッパーゼクター、川に流されてたんだな……果たして翔太郎を認めるかどうか。
名護さん、擬態天道と一緒に翔太郎をどうか支えて欲しいなぁ。

381名無しさん:2011/11/28(月) 21:08:07 ID:Ffc2Mto60
投下乙です。
名護が見事に擬態天道と翔太郎の支えになっている不思議。翔太郎同様最終回後参戦なのにかたや半人前状態、かたや師匠するとは……
だが、ここでガドル戦か……ライジングあるとはいえ閣下には本来の怪人態がある以上圧倒的不利は否めないか……
しかも翔太郎はジョーカーに変身出来ない状態……ホッパーあるっていっても個人的には認めて欲しくないなぁ、なんか認めたら絶望したって事だからなぁ……でも認められないと危機的状況という矛盾……
真面目な話、カブトに認められる展開はまずないだろうし……というかこれきり抜けても

す ぐ ち か く に ダ グ バ が い て 牙 王 も 迫 っ て い る の で す が。

382名無しさん:2011/11/29(火) 00:46:23 ID:zi.8DFwkO
投下乙です。さて、大乱戦の下ごしらえは着々と……ホッパーの資格者候補は後一押しな擬態天道くらい、か?

383 ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/30(水) 00:11:24 ID:D0.3ySTU0
これより、予約分の投下を開始します。

384眠りが覚めて ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/30(水) 00:12:22 ID:D0.3ySTU0
 古来より、蛇は時に信仰され、時に嫌悪されて来た。

 不死の象徴として世界各地で崇拝された一方、神と同格視されるほど強大な蛇が、無力な大勢の人間を己が贄にし、時には神さえもその牙と毒で殺すという伝説も、決して珍しいものではない。

 太古の神話から、現在に至るまでの芸術品などでも、蛇とは恐怖の象徴として描かれている。

 人間にはそうした蛇に対する恐怖が、本能レベルで記憶されているとする学説も存在するほどだ。

 ――それならこの暴虐に飢えた蛇が、星の内包した『恐怖』の記憶を呑みこんだのは、ある意味では必然のことだったのかも知れない……







 現実ではなく、鏡の中の世界――ミラーワールドで力なく歩く、傷ついた獣の姿があった。
 その名はデストワイルダー。既にこのバトルロワイヤルにおいて脱落した、東條悟の契約モンスターだった虎型の怪人である。

 東條とデストワイルダーの間で結ばれた契約は、彼が落命する前に既に破棄されている――それでもデストワイルダーは、東條が死に際戦った橘朔也を、彼の死の一因となった小野寺ユウスケを、まるで仇討ちのように襲撃していた。
 だが相棒のライダーもおらず、消耗したところを狙ってもどちらも邪魔が入った。二度の戦いでデストワイルダーが身に受けたダメージは重く、本来強力なモンスターである彼ももはやまともに仮面ライダーや怪人と戦う力は残されていなかった。
 消耗した相手を狙おうにも、空間自体に掛けられた制限によって、ミラーモンスターは二時間に一度、最大で一分間しか現実世界に出現できない。それで仕留め切るのは難しい物があった。
 いや、デストワイルダーを苦しめる問題はそこではない。
 その身に蓄積されたダメージを癒すために、今のデストワイルダーでも簡単に手に入れられる餌を求めて、獣はミラーワールドをアテもなく流離っていた。

 今、小野寺ユウスケや周辺の参加者を狙うのは無理がある。彼らを管理下に置いた、強靭な捕食者――奴に睨みを効かされている。奴が他のライダーのカードデッキを手に入れ、契約モンスターに常に警戒させているからなおさらだ。

 負傷者の集まる病院を狙うと言うのも……昼時のように、そう上手く行くとはデストワイルダーには思えなかった。
 
 デストワイルダーは北上していた。街にいる参加者は集合し、また周囲を警戒している。牙王と一度距離を取って街から離れたついでに、いきなり飛び込むのではなく、単純に一度様子を見ようと言った程度の考えだっただろうが。

 消耗から動きが鈍り、停滞していたその時――デストワイルダーは背筋に冷たいものを感じた。

 市街地の反対側をバッと振り向いた彼は、直後、どうして振り返ってしまったのかと激しく後悔することになる。

 デストワイルダーは、彼を呑み込めるほどに巨大な蛇の身体が描いた円の中に囲まれていた――

 ――突如として沸き上がった恐怖からそんな光景を幻視し、獣は恐怖のまま一歩後退する。

 その脚に感じたのは、ただ長く伸びた草が掠っただけだと言うのに。

 無数の蛇がその全身に絡み付き、足が地面から抜け出せなくなったかのように感じる。

 夜の草原で闇に包まれ、輪郭しか見えない無数の雑草が鎌首をもたげた蛇の群れに見えてしまう。

 このデストワイルダーを乱した原因は、北東から迫って来ている。その気配を確かに感じる。
 その方角から、巨大な蛇が、その顎を開いて自身を丸呑みにしようと迫って来る――

 ――そんな非現実的な光景を脳裏に描いてしまったデストワイルダーは、身体に溜まった疲れも無視して、足元のただの草を本当に蛇の群れであるかのように爪で切り裂いて血路を開き、脱兎の如く逃げ出した。

 確かに彼に恐怖を植え付けたその力は強大――しかし、さすがにここまで取り乱さすほどの効力はないのだが、知性なきモンスターとはいえ、重傷の身であったことが、生存本能と繋がったその恐れをより増大させたのだろう。無論、デストワイルダーが見たものはただの幻覚だが、それを彼に視させた根源は、確かに北東からデストワイルダーの……市街地の方に迫りつつあった。

 あるいは何度か直接戦い、ついこの間、二度に渡ってその猛威を見せつけられ――この恐怖の源のことをよく知っていたから、蛇などと言う具体的な恐怖のイメージが人間でもない獣にも現れたのかもしれない。

385眠りが覚めて ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/30(水) 00:13:50 ID:D0.3ySTU0
 デストワイルダーが走り去った、その背後――草原に、一台のバイクが現れつつあった。



 ――時間は少し巻き戻る。

 B-3エリアの草原で、浅倉威は目を覚ました。

「あぁー……」

 上体を起こした浅倉は王蛇に変身した時のように首を捻ると、そう息を漏らした。
 体調は万全とはいかないが、戦う分にはそこまで問題は出ない程度に回復している。何より疲れやダメージのことを忘れさせるほどの力が自身の内を駆け巡っていることが感じられる。わざわざ昼寝たばかりなのにまた眠りに就いた甲斐はあったと言えるだろう。

「……はっ、ちょうど良い時間じゃねぇか」

 時刻を確認すれば、気絶する直前――最後に使った変身手段であるテラー・ドーパントの変身を解いてから、およそ二時間が過ぎていた。

 緑色の怪人へと変貌した白いスーツの男との戦いでテラー・ドーパントへと変身を果たした時も、東京タワーへ向かう寸前、E-5エリアで最初にテラー・ドーパントと化してから、およそ二時間が経過していた。霧島美穂との戦いを通じて、変身に制限が掛けられており同じ姿への変身は連続では行えないことは既に把握していた。その待機時間も、最前の変身で割り出すことができた。

 既に力は戻っている。眠りに着く前よりさらに溢れ出ている力、そして内に感じるこの衝動は、浅倉がいつでもテラー・ドーパントに変身できることを示している。つまり、それ以前に使用した全ての変身能力も、問題なくその本来の力を発揮できるということだ。

 浅倉とは別人の変身したファムと戦った後、大して時間を置かずに浅倉自身がファムに変身したことから、変身道具ではなく、人物が同一の姿に変身することに制限を架していることもわかる。つまり、他の参加者から変身道具を奪えば仮に自身の変身が全て制限されていてもライダーバトルを楽しむことはできると言うことだ。

 制限など、大ショッカーも余計な真似をしてくれたものだとイライラするが、変身できないならその時は最初に殺した男のように別に素手で戦っても良い。要は暴力の渦中に身を置いてイライラさえ晴らせれば浅倉にとっては何だって良いのだ。

 そしてそれを叶えるためにはいくらでも思考を回す。より多くの戦いを楽しむためには時に撤退も選ぶし、神崎士郎――そして大ショッカーの開いたこのライダーバトルが終われば、報酬として終わらない戦いを願うという極めて単純ながら解決策も考えてある。狂えるモンスターと称される浅倉だが、その彼なりの価値観を基準にすれば論理的に策を巡らせる能力はある。始末したい相手を連れて来させるために人情を煽る演技もこなすし、馬鹿な人権派気取りとはいえ仮にも弁護士を騙して脱獄するという芸当もする。ただ、彼が常に戦いを求めるから忘れる者が多いだけなのだ。

 浅倉威は――蛇とは、ある神話において人類の祖を唆したように狡猾な一面を持ち合わせている、ただの獣以上に危険な存在であるということを。

 誇りを尊ぶ戦士ではなく、自らに見合う獲物を求める狩人でもなく、己を脅かす敵対者を欲する絶対者でもない。ましてやそれぞれの願いや護るモノのために闇に堕ちた暗殺者でも、人類の自由と平和を護る正義の味方でもない。

 狂える蛇は、殺し合いと言う名の餌場で、ただ感情の赴くままに目に付く全ての贄を呑み込んで行く――そういう生き物なのだ。

 自分達に用意された制限についての解明も、その時になってイライラしないためには必要なことだろう。

 テラードラゴンは身体中を駆け巡る記憶にあるものと違い、一分程度しか召喚できなかった。先の戦闘で緑色の怪人が召喚したマグナギガもいつの間にか消えたことから、ミラーモンスターにも同様の制限が施されていると考えた方が良いだろう。ファイナルベントへの影響はわからないが、もしもアドベントとファイナルベントによる召喚が共通の制限だった場合を考え注意すべきか。
 そのファイナルベントのことを考えると、仮に共通だった場合、余計なことをしなければ最低限変身するごとに一度使えるよう、同程度の待機時間が必要になる制限が掛かっている可能性が高い。つまり、モンスター達の召喚も一度行えば待機時間に二時間ほどを要すると考えられる。

 となると、王蛇のデッキは複数のミラーモンスターと契約しているアドバンテージを活かすべく、ユナイトベントばかりでなく一体ずつ使用して行くべき場面もあるだろう。

「……どうした?」

 そうミラーモンスターについて思考を巡らせていた浅倉が呼び掛けたのは、サイドバッシャーのミラーに映っている巨大な白鳥――ブランウイング。
 本来の契約者である霧島美穂の因縁の敵であり、彼女を殺した浅倉威を憎みながらも、デッキと共に奪われた契約のカードによって縛られているミラーモンスター。

386眠りが覚めて ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/30(水) 00:14:46 ID:D0.3ySTU0
 それでも絶えず浅倉への敵意を燃やしていたはずが……浅倉が目を覚ましたことに怯えるように縮こまり、カタカタと震えていた。
 エビルダイバーやメタルゲラスも同様――変わりがないのは、別に心を許しているわけではないが、浅倉にとって一番の相棒と言えるベノスネーカーのみ。

 理由はこの身を巡る記憶が教えてくれる――今の浅倉は、全ての他者に恐怖という名の毒を撒き散らしているのだと。

 恐怖による支配とは古典的だが、有効な手段だ。前と違って他の人間を餌にしても今のこいつらなら拒否はしないだろう、面倒が一つ減ったと浅倉は認識する。

 しかし、寝る前はここまで怯えていただろうか。そんな疑問があったので、一言だけ告げておく。

「ビビんのは勝手だが、戦いの時に動けないとかはやめろよ? ……なぁ」

 浅倉が鼻で笑うようにそう告げれば、さらに怯えたのか三匹のミラーモンスターはそれぞれ一歩ずつ下がった。

 その光景を見てもう一度鼻を鳴らしつつ、浅倉はデイパックを身に付けサイドバッシャーに跨る。

 緑の怪人との戦いでは、バトルモードの性能もある程度試すことができた。二足歩行型重戦車の格闘能力や機動性は未知数だが、ゾルダのファイナルベントにも匹敵するようなその圧倒的な火力については把握できた。ただの移動手段としてだけではなく、戦力としても十分に使って行ける。じゃじゃ馬だったハードボイルダーと比べて随分得な物を拾ったと浅倉は頬を歪める。

「行くか……次の祭りの場所に」

 殺し合いを、悦楽を得るための祭りと呼び――目覚めた蛇は、再びこの地での活動を開始した。



 ――浅倉威は気づいていなかった。
 いや――何となく勘付いてはいるが、本人にとっては別段重要なことではないため、特別に考えなかったという方が正しいか。
 自身に宿るテラーの力――それをより強く引き出せるようになっていることに。

 ――人の記憶に関するここ近年の研究では、睡眠中の方が覚えたばかりの近時記憶を改変したり混乱させたりする出来事に対して、起床時よりも強い抵抗力を持つことが明らかになったという。

 近時記憶は脳の海馬に蓄えられ、すぐには定着しないということは有名な話である。また、記憶直後にその記憶を再活性化することで、記憶が脳内のハードディスクドライブである新皮質に移り、長期的に保管されることも従来の研究で知られていることだ。

 だが生体が起床時に記憶を再活性化しようとすると、記憶の想起が不安定な状態に置かれることになる。例えば、ある詩を暗記した後で次の詩を暗記し始めてから、一つめの詩の記憶を再活性化しても長期記憶に保管され難くなる。

 これに対して研究者が脳の画像分析をしたところ、睡眠後わずか数分で海馬から新皮質への新情報の移動が始まっていた。40分の睡眠後には、新たな記憶に妨害されない長期保管の領域に、十分な量の記憶が保管されたのだという。

 これは単純な暗記などについての研究ではあるが、人間にとって『記憶』の定着を、睡眠が補助することがある一例として挙げることができるだろう。

 そして浅倉は、テラーメモリを食し、その記憶を取り込んだ後――強烈な睡魔に襲われ、眠りに就いていた。
 だがこれまで幾度となくライダーバトルを繰り広げて来た――事実としてその後、常人には満足に扱えないようなハードボイルダーの馬力を無理矢理ねじ伏せ消耗した上で霧島美穂と二度戦い、左翔太郎及びに紅音也と激突し、さらにはアポロガイストを追撃し、ほとんど休む間もなく合計で四連戦を果たせるような浅倉が、たった一度の戦闘でそこまで疲弊するなど本来はあり得ない。

 それも全ては、呑み込んだ記憶の力をその身に定着させるため――本人の意識さえ越えて、身体が判断した行為だったのかもしれない。

 もちろん、これはただの暴論かもしれないが――地球の記憶を直接取り込んだ人間など過去に例がないため、事実そうなっている以上、他に説明のしようがないのだ。

 そしてまた、アポロガイストとの戦いで身体に根付いた記憶の力を強く呼び覚ましたドーパント状態となった、その直後に眠りに就いたことで――

 蛇の身に宿る、恐怖という毒を振り撒く記憶は、その力をより強く彼に定着させていたのだ。

 無論、今更テラー・ドーパントの力が増したわけではない。

 だがドーパントへと変身せずとも、常時浅倉が身体から発するその呪いが、より変身後のそれに近い強さへと、引き上げられていたのだ。

387眠りが覚めて ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/30(水) 00:16:45 ID:D0.3ySTU0
 故に、他の要因も存在したが、人の身のままでもデストワイルダーに幻覚を見せるほどの恐怖を植え付け――

 直接力を呑み込んだ蛇は、首輪による制限を受けてもなお、テラーメモリの本来の所有者である園咲琉兵衛と同等にまで、その呪いの効力を強くしていた。

 それこそ、究極の闇を齎す者という、絶対の魔王をも退けたほどの毒を得た蛇は――



「待っていろ、仮面ライダー……」



 ――新たな獲物を求め、夜の市街地へと侵入しようとしていた。



【1日目 夜中】
【C-2  道路】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、興奮状態、サイドバッシャーに搭乗中
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、サイドバッシャー@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実
【思考・状況】
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
4:とりあえず南方の街を目指す。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。またそれによる疲労はありません。
※ヘラクスゼクターに認められました。
※エビルダイバー、メタルゲラスが王蛇と契約しました。これによりユナイトベントが使用可能になりました。
※変身制限、及びモンスター召喚制限についてほぼ詳細に気づきました。
※ドーパント化した直後に睡眠したことによってさらにテラーの力を定着させ、強化しました(強化されたのはドーパント状態ではなく、変身していない状態での周囲に対するテラーの影響具合です)。今後も強化が続くかどうか、また首輪による制限の具合は後続の書き手さんにお任せします。


【全体事項】
※デストワイルダーに浅倉に対する強い恐怖が植え付けられました。デストワイルダーは後1時間現実世界に出現できません。またデストワイルダーも市街地の方に向かいましたが、今後どう行動するのかは後続の書き手さんにお任せします。

388眠りが覚めて ◆/kFsAq0Yi2:2011/11/30(水) 00:18:32 ID:D0.3ySTU0
以上で予約分の投下を終了します。

問題点・誤字などございましたらまた予約の方よろしくお願いします。

遅れましたが、前回のSSの感想ありがとうございました。

389名無しさん:2011/11/30(水) 09:17:02 ID:idDXSWlM0
投下乙です!
ああ、浅倉までも激戦区に向かうか……てかテラーの力が強くなってる!?
このままじゃみんなピンチだ!

390名無しさん:2011/11/30(水) 20:01:37 ID:iqfJA9bU0
投下乙です。
テラー強化だと……これ本気で対主催の皆様逃げてだわ。
ただ、浅倉のスタンス上、対主催だろうがマーダーだろうが平然と戦うキャラだからつぶし合ってくれる可能性は確かにあるんだよな。
しかもテラーはあのダグバを撤退させた実績もある……まぁ同じ手が通じるとは思わないけど、上手くつぶし合い……そうそう都合良くはいかないしそれどう考えても仮面ライダーの勝ち方違うよね。
問題は何処に向かうかだが……

391名無しさん:2011/12/03(土) 14:05:05 ID:n7qcFeXY0
乙。危険人物どうし潰しあってくれりゃいいが・・・うまくいかねえだろうな

392名無しさん:2011/12/04(日) 02:30:08 ID:1pAb2LZg0
>>391
ここまでに死んだマーダーはほとんど潰し合いだけどね。
対主催に殺されたマーダーって言ったらゴオマぐらいかな?

393名無しさん:2011/12/04(日) 17:34:03 ID:E.QJRvqo0
それにしても5回変身できるってそれだけでもかなり凶悪だなー
今誰が一番変身能力持ってるっけ?

394名無しさん:2011/12/04(日) 17:54:20 ID:raHL4g3o0
確か一位が浅倉で、次が渡(サガ・ウェザー・ゼロノス・ゾルダ)と始さん(カリス他ラウズ変身・
ラルク・サイクロンドーパント・ジョーカーUD)、それとニーサン(グレイブ・アルビノ・オルタ
ゼロ・タブー。Gトレーラー内の装備でまた増えるかも)の同着のはず。
ただ一条組から取り上げた装備を口約束を破って使うなら牙王達が渡を抜いて浅倉に並ぶ五種類。

……マーダーばっかりや……

395名無しさん:2011/12/04(日) 18:05:38 ID:lta0AqFU0
使う使わない無視して考えれば単体は牙王(5+不明支給品2〜7)
チーム内の使いまわし考えれば始(何と脅威の9変身可能!)
その他は大体多くても4か5……まぁそれも殆どマーダーなんですけど。
どうすればいいんだこれ……。

396名無しさん:2011/12/04(日) 18:20:42 ID:raHL4g3o0
しかも一騎ごとの戦力でもマーダーが上なんだよな……

段違いに強いダグバとライアル、逆に戦力の低い蓮と亜樹子を除いた大半の連中が上位の幹部怪人以上の戦力を最低
一つは持っているんだよな……現状タイマンで対抗できそうなのが東の社長と乃木、西の翔一くんと753だけど前二人
は危険対主催で翔一くんは無駄にアギトへ変身制限中・753はまさに強豪マーダーの閣下と激突中、か……

東のライダー大戦と西のロワ充パラダイス、どっちが地獄なのか……

397名無しさん:2011/12/04(日) 19:00:25 ID:1yXJEMuI0
今思ったが、蓮はエターナル持ってるけど変身した場合レッドフレアになるんだろうか

398 ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:00:25 ID:dcAFNkrM0
投下乙です!
浅倉はまだまだ頑張りそうな気がしますね! 全ての変身制限が解除された今となっては、市街地が混沌となりそうです……
皆様が言うように、マーダー連中はどいつもこいつもうはうはだなぁ……

それでは自分も投下を開始します。

399新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:01:14 ID:dcAFNkrM0


「そうか……お前が剣崎の最後を看取ってくれたのか。それなのにすまない、早とちりをしてしまって」
「別にいい……俺も一真のブレイバックルを奪われたから、お互い様だ」
「例えそうだとしても、剣崎だったら同じ選択を望んでいたはずだ。だから、気を落とさないでくれ」
「……大体わかった」

 夜空の輝きに照らされた『E−5』エリアの草原で、門矢士は橘朔也の言葉に静かに頷く。剣崎一真の遺体が埋められた大地を見守りながら。
 破壊のカリスマを自称した未確認生命体、ゴ・ガドル・バとの戦いの後で出会った朔也に全てを告げる。しかし士を責めるどころか、むしろその選択を認めていた。

「剣崎を眠らせる手伝いをしてくれてありがとう……せめてあいつの身体だけは無茶苦茶にされたくなかった」
「大ショッカーの奴ら……相変わらず悪趣味なことをしやがる」

 剣崎が眠っていた『E−4』エリアは大ショッカーによって進入禁止にされ、そこに留まっていると首輪が爆破される仕組みになる。それは既に死んでいる剣崎も例外ではない。
 故に士と朔也は剣崎の遺体を『E−5』エリアに埋葬した。全ての人々を守るために戦った彼の尊厳をこれ以上壊させないために。

「それと、小野寺のことなんだが……」
「わかっている、あいつはアルティメットクウガになったのなら俺が止めるだけだ」
「……すまない。俺が余計なことを言ったせいで」
「全く、相変わらず余計なことをする奴だ……」

 朔也が沈んだ表情を浮かべる中、士は溜息と共にぼやいた。
 一真の遺体を埋葬する直前、朔也は士に放送前に起こった全てを話す。ン・ダグバ・ゼバと名乗った未確認生命体との戦いの末に、小野寺ユウスケが究極の闇に目覚めてしまったと。そしてユウスケは自分達を巻き込まない為に、一人で東に言ってしまったことも話した。

(あの野郎、朔也とヒビキを心配させやがって……会ったらとっちめてやる)

 長らく共に戦ってきた仲間に向かって毒を吐きながら、士は考える。
 先程戦ったガドルすらも上回ると言われる、ン・ダグバ・ゼバ。朔也とヒビキの話から推測すると、アルティメットクウガになってようやく立ち向かえる程の相手らしい。
 いくら究極の力を得たとはいえ、そんな奴を相手に一人で突っ込んでも生きていられるとは思えなかった。例え戦いに勝利したとしても、その後からユウスケが笑顔を見せてくれるとも思えない。
 ライジングアルティメットになれればいいが、もしもダグバがそれに匹敵する力を持っていたら結果は同じだ。手遅れになる前に、何としてでもユウスケを見つける事を考えなければならない。

(お前まで、夏海の所に逝くなよ……そんなの夏海が望むわけないからな)

 夜の闇によって光が僅かしか残らない夜空を眺めながら、士は声に出さずにそう告げる。不意に彼は、この夜空がユウスケの心情を表しているようだと思った。





 身体の節々に鈍い痛みが走り、倦怠感を感じる。しかし妙に心地よい暖かさが全身を包んでいた。
 葦原涼はそれに違和感を感じながらゆっくりと瞼を開けると、視界に白い天井が映る。そのまま身体を起こすが、激痛によって顔を顰めた。すると、白い布団が身体に掛けられているのが見える。
 白い天井に白い布団。どうやらここは病室のようだった。

「おっ、目が覚めたか」

 涼が今いる場所が何処なのかを察していると、突然聞き覚えのない朗らかな声が聞こえる。振り向いた先には、体格のいい壮年の男が爽やかな笑みを浮かべながら椅子に座っていた。

「大丈夫か、葦原……だっけ?」
「誰だあんたは、何故俺の名前を知っている?」
「門矢から聞いたんだ……あと、津上からもお前のことを聞いているよ。みんなを守るために戦った頼れる仲間だってね」
「津上だと?」

 長らく共に戦ってきた戦友の名前を出されたことで、涼は怪訝な表情を浮かべる。

400新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:02:10 ID:dcAFNkrM0
「あ、俺の名前はヒビキ。名簿じゃ日高仁志って書いてあるけど、ヒビキって呼んでくれ」
「そうか……そういえば、俺と一緒にいた男はどうした?」
「ああ、門矢の事か。あいつは今、俺と一緒にいた橘朔也って奴と一緒に剣崎一真……お前が持っていたブレイバックルの持ち主を埋葬しているよ」
「ブレイバックルの?」

 ヒビキと名乗った日高仁志という男の言葉によって涼は気づいた。通りすがりの仮面ライダーと自称したあの男から渡された変身アイテムが、この手にない事を。
 傍らに置いてあったデイバッグのファスナーを開いて探すが、何処にも見当たらない。

「……そういえば、一体何がどうなっている? 俺達は怪物と戦っていた筈だ」
「俺も聞いた話だからよくわからないけど、門矢を庇って倒れたお前をここまで運んできた……門矢自身がな。その際に、ブレイバックルを手放すことになったようだ」
「それは本当か?」
「ああ」

 ヒビキが頷くのを見て、涼は胸が痛むのを感じる。
 門矢士。恐らく自分を導こうとしたあの男の名前だろう。あいつは見知らぬ自分なんかの為にわざわざブレイバックルを渡した。だが、結果はこのザマだ。

(俺が無力なせいで、あいつや剣崎という奴の思いを踏み躙ってしまったのか……)

 ヒビキの話から推測するに、ブレイバックルはもうあのガドルとかいう奴に奪われているだろう。これでは殺し合いを潰すどころか、殺し合いに乗った奴らに力を与えているようなものだ。
 その事実にやり切れなさを感じた涼は、ベッドから降りながらデイバッグを手に取る。もう身体の痛みは大分癒えていた。

「おい葦原、まだ寝ていた方が……」
「もう大丈夫だ」

 ヒビキの制止を無視し、涼は急ぎ足で病室から廊下に出た。窓から月光が差し込む肌寒い道を歩き、外に続くドアを開ける。
 夜風が一気に吹き付ける中、涼はすぐに士を見つけた。そして、ドアが開く音に反応したのか向こうも振り向いてくる。

「何だ、やっと起きたのか」
「……すまない、俺が弱いせいで剣崎という男の遺品が奪われることになってしまって」
「いや、その事は気にしないでくれ」

 涼の表情が微かに曇る中、士の隣にいた見知らぬ男が前に出た。涼は病室での話を思い出して彼が橘朔也であると気付く。

「俺は剣崎と長い付き合いだから分かる……お前のような男を守るためならば、剣崎は同じ状況に陥っても門矢と同じ選択を取っていたことを」
「あんた、剣崎の知り合いなのか? なら、尚更俺は……」
「それ以上は言うな」

 朔也は涼の言葉を遮るように、右手で肩を叩いた。

「もしもお前が剣崎の意思を継ぎたいのなら、あいつの分までみんなを守るために戦うと誓ってくれ……それが、あいつの為でもある」
「みんなの為……」

 そう呟いた瞬間、士と朔也の後ろにある地面が不自然に盛り上がっているのを涼は見つける。その下には一真という男が眠っているのは明らかだった。
 涼は数歩だけ進み、前に立つ。

「剣崎といったか……俺はお前のブレイバックルを受け取っておきながら満足に使いこなせず、挙句の果てには奪われてしまった。本当にすまない」

 顔も知らない男だが、翔一のように常に誰かの為に戦っている人間であると朔也の話から想像できた。そして士が自分にブレイバックルを渡したのは、一真の意志を継いで欲しいと願ったからだと気づく。
 それをまともに果たすことができなかった事に自責の念を感じるが、悔やんだりなどしない。ここで止まった所で、今が変わるわけではないからだ。

「俺はお前の分まで戦う、そしてブレイバックルも絶対に取り返してみせる。だからお前はゆっくり眠っててくれ……」

 そう穏やかに涼は語る。
 本当に一真を思うのなら尚更挫けたりなんかしないで戦わなければならない。道半ばで倒れてしまった彼の無念を晴らす為にも、必ずこんな戦いを仕組んだ大ショッカーや殺し合いに乗った奴らを潰し、一人でも多くを守らなければならなかった。
 そんな彼の決意を見守るかのように、星空は静かに輝いていた。

401新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:03:46 ID:dcAFNkrM0





「ところで、俺と一緒にいた彼女は……亜樹子はどうしたんだ? お前は俺のことを追ってきたが」
「あいつは矢車に任せた。多分まだ病院にいると思うが」
「そうか」

 一真への誓いを果たした涼に士はそう告げる。
 彼と共にいた女、鳴海亜樹子は聞くところによると先程崩れ落ちた東京タワーで呼びかけをした張本人らしい。だが彼女は涼を裏切って刺し殺そうとした。

「もう一度聞くぞ。お前、まだあいつの事を信じているのか? あいつはさっきお前を刺そうとした筈だ」
「例えそうだったとしても、俺があいつを見捨てていい理由にはならない。あいつはこんな馬鹿げた事に巻き込まれた被害者なんだ」
「そうか……なら、お前の思うように行け。あいつがどうなっていようとも、お前はあいつを救うって約束したんだろ?」
「言われなくてもそのつもりだ。亜樹子が何を考えていようとも、俺の気持ちは変わらない……俺はもうあいつから逃げたりしない」

 涼の瞳からはもう、一切の迷いが感じられなかった。その姿は、大切な人を思うが故に大切な人から逃げ続けた『アギトの世界』を象徴する仮面ライダーアギトに変身する男、葦川ショウイチに似ていると改めて士は思う。

「そういえば、さっきお前が言っていた制限とは何のことだ」
「ああ、まだ言ってなかったな……大ショッカーが作ったこの首輪には、どうやら俺達の変身を邪魔する効果があるようだ」
「どういうことだ?」
「詳しいことはわからないが、どうやら俺達全員は長時間の変身が不可能な上にもう一度変身するのに時間が必要なようだ。どうせ、俺達を効率よく潰そうって魂胆だろ」
「連中の考えそうなことだ」
「全くだ……」

 士は涼の言葉に同意しながら病院に向かって歩く。亜樹子と想の二人と合流して、今後の行動を決めなければならなかった。元々涼は『B−6』エリアのホテルにいる仲間達の元に、亜樹子を連れ戻すつもりだったらしい。
 その一方で、朔也とヒビキの二人は大ショッカーに反抗する者を探す為に別行動している仲間達と、この後の0時に病院で合流する予定と聞いた。それだと、別行動を取らざるを得ないかもしれない。

「そういえば涼、確かお前の仲間には野上良太郎がいたよな?」
「そうだが……知り合いなのか?」
「ああ、前にちょっとだけ会った事がある」

 ホテルで待つ涼の仲間の一人に、士の知る人物がいた。
 時を越える列車、デンライナーに乗って過去を変えようとするイマジンという怪人から時の運行を守る仮面ライダー電王に変身する野上良太郎。しかし彼がこちらを知っているとは限らない。
 一真が自分を知らなかったように、別の世界に生きるよく似た良太郎である可能性も充分にあった。ここにいるヒビキのように。
 そしてそれは亜樹子にも言える。かつてスーパーショッカーとの戦いで仮面ライダーWと力を合わせた後、Wに変身する二人の男の隣に彼女がいた。病院で見かけた時はあまりに唐突な出来事だったので思い出せなかったが、あの顔は確かに亜樹子だった。
 もっとも、彼女が自分の事を知っているのかは定かではないが。

「ヒビキ、ちょっといいか」
「ん?」

 朔也と一緒に少し前を歩いていたヒビキは振り向いてくる。

「あんたは鍛えているのか」
「うん、鍛えてるよ。だから大丈夫!」
「本当か?」
「小野寺から聞いたんだ、俺とは別のヒビキさんが悲しみと戦い続けたって……心配してくれてありがとな、俺は絶対にこの力でみんなを守ってみせるから」

 スポーツマンのように爽やかで明るい笑顔でヒビキは朗らかに言った。
 それを見た士は、この男は何も心配がいらないと感じる。このヒビキは鬼の力をしっかりと自分自身の物にしており、牛鬼になる可能性は考えられなかった。
 もしかしたら以前訪れた『響鬼の世界』で出会ったヒビキも、鬼の力を押さえられなくなる前は彼のような男だったのかもしれない。無論、これはただの推測でしかないが。

「おーい、涼君!」

 士が過去を思い返している中、病院から一人の少女が飛び出してくる。その隣には、矢車想が相変わらずの仏頂面で歩いていた。

「亜樹子!」

 そして涼も、現れた鳴海亜樹子の元に走っていった。

402新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:04:27 ID:dcAFNkrM0





 盛大な爆発によって倒壊した『D−5』エリアの東京タワー跡地にて、野上良太郎は俯いていた。共に殺し合いを打破する仲間だと思っていた志村純一が、実は殺し合いに乗っていたという事実にショックを受けて。
 瓦礫の下からローズオルフェノクの姿となって現れた村上峡児が純一を襲ったと思ったが、実際はその逆。むしろ純一の暴虐を食い止めようとしていたのだ。
 純一は天美あきらと園咲冴子と共にここから離れている。だとすると本性を現して、二人の命を奪う可能性が大いにあった。

(良太郎……)

 脳裏に響くウラタロスの言葉が良太郎の心に響き渡る。
 思えば彼は純一の言動に警戒心を持っていたのに、それを自分は無視して勝手に飛び出してこんな結果を招いてしまう。純一が逃がしたのは自分の責任だ。

「いつまでそんな所で蹲っているつもりですか?」

 そんな彼の耳に峡児の言葉が突き刺さる。叱責と侮蔑が混じった声は刃物のように鋭利で、氷のように冷たく感じた。

「貴方は言ったはずでしょう? もう誰にも傷ついて欲しくないと……貴方自身がそう言ったのではありませんか?」

 鋭い視線と共に突き付けられた言葉は良太郎に強く圧し掛かり、押し潰されそうになる。それを言ったのは自分ではなく、自分の中にいるウラタロスだ。
 思えば、今までイマジンとの戦いを乗り越えるのに自分一人ではまともに戦えていない。この殺し合いだって、牙王や峡児を相手に自分一人で立ち向かうことが出来なかった。
 そして今は、純一の真意に気づけずにこんな結果を招いてしまう。

「その言葉や決意は嘘だったのですか? ただ、私達に取り入ろうとするためだけの出鱈目だったのですか?」
「……ッ!」

 溜息と共に漏れたその言葉を受けてようやく良太郎は顔を上げた。未だに冷淡な視線を向ける峡児を前に、真摯な目線で答える。

「……違います」
「ほう?」
「誰にも傷ついて欲しくないのは、嘘じゃありません……嘘じゃないんです!」

 それを強調するかのように声を荒げるが、明らかに弱々しかった。こんな悲劇を招いてしまった自身への憤りによって、今にも心が崩れそうになっている。
 しかしそれではモモタロスの無念を晴らす事は出来ないし、離れ離れとなったリュウタロスを見つける事も出来ない。何よりも今は、純一や牙王のような殺し合いに乗った奴らから多くの人を守る。
 それだけが今の良太郎を支える唯一の思いだった。

「なるほど……ならばそれを証明してみせるのですね。これ以上、あの男の好きにさせたくない事を」

 そう言い放つと、峡児は良太郎から背を向けて周囲に散らばった瓦礫の上を進む。その後を良太郎はゆっくりとした足取りでついていった。
 一歩一歩進むたびに足元が崩れ落ちそうになるが、それでも彼は罪の重圧に耐える。本当にみんなを守りたいと思うなら、峡児の言うようにこんな所で蹲っている場合ではない。
 
(良太郎……お前、大丈夫か?)
(そうだよ、お願いだからあんまり無茶をしないでよね……いくら志村の事があったからって)

 キンタロスとウラタロスの声は、明らかにこちらを心配しているようだった。普段ならば喜んでいただろうが、今は事情が事情なのでそう思えない。
 しかしそれでも、彼らの思いを無碍にする事は出来なかった。

(ありがとう二人とも……でも僕なら大丈夫だから)

 だから良太郎は出来る限りの力を出して二人に告げる。少しでも困難を乗り越える為の力になると信じて。





(やれやれ……世話の焼ける方だ)

 ようやく奮起を取り戻した野上良太郎を見て、村上峡児は胸の内で溜息を吐いた。
 東京タワーを爆破させた志村純一を無様にも逃がしてしまい、天美あきらや園咲冴子といった人材を失ってしまう。恐らく志村は既に二人の命を奪い、逃走を続けている筈だ。可能性としては、そこから自分達を殺そうと他の参加者達に取り入る事すら考えられる。
 もっとも、その時が来れば返り討ちにしてやればいいだけの話だが。

403新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:05:59 ID:dcAFNkrM0
(まあ、これ以上の失態を重ねるのなら容赦はしませんが……精々、私を失望させないようにするのですね)

 野上良太郎の同行を許した理由は、単純に単独行動が望ましくなかった為。この殺し合いが始まってからの六時間で、二十人もの参加者が既に死んでいると大ショッカーは告げた。その中には乾巧の協力者である人間の園田真理や、スマートブレインに反旗を翻す木場勇治や海堂直也も含まれている。
 別に彼らが死んだ所でどうという事もないが、自分が生きる世界の生存率が半分にまで減少した事になる。大ショッカーの言葉が真実は分からないが、もしも本当に世界が消えてしまってはオルフェノクを繁栄させるどころではない。
 殺し合いに乗った下の下の者がまだ大勢いる以上、単独行動をしては無駄に消耗する結果を招いてしまう。それを避ける為には一人でも多くの手駒を得る必要があるので、良太郎を連れて行くことを選んだ。
 本来なら致命的な失態を侵した者と同行するなど耐え難かったが、贅沢は言っていられない。

(志村純一……貴方は私を出し抜こうと企んでいるようですが、二度目はない。今度こそ、私は貴方を潰してみせましょう)

 峡児の誇りは強い怒りへと変貌していき、白き死神に向けられる。
 冷たい瞳の奥底には、殺意に満ちた炎が燃え上がっていた。



【1日目 夜中】
【D-5 東京タワー跡地】


【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】強い決意、疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:モモタロスの分まで、皆を守る為に戦いたい。
0:極力自分の力で、自分に出来る事、やるべき事をやる。
1:今は村上さんと一緒に、志村純一を探す。
2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
3:リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:電王に変身できなかったのは何故…?
6:橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。
7:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ウラタロスは志村と冴子に警戒を抱いています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。



【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、バードメモリに溺れ気味、オーガ及びローズオルフェノクに十分変身不可
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:良太郎の同行は許すが、もしもまだ失態を重ねるようであれば容赦しない。
2:志村は敵。次に会った時には確実に仕留めるべき。
3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。
4:冴子とガイアメモリに若干の警戒。
【備考】
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※オーガギアは、村上にとっても満足の行く性能でした。


【全体の備考】
※この二人がこれから何処に行くのかは、後続の書き手さんにお任せします。

404新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:07:48 ID:dcAFNkrM0




「……だとすると君は、その霧島美穂って女に脅されて東京タワーに爆弾を仕掛けたのか?」
「うん……ごめんなさい、あたしが弱かったせいでみんなの行動を侮辱しちゃって」

 鳴海亜樹子は橘朔也に弱弱しい態度で答える。
 矢車想と出会ってから病院を抜け出し、四人を見つけてから彼女は全てを話した。拡声器を使って東京タワー参加者達を呼びかけ、仕掛けた爆弾を使ってみんなを殺そうとしたことを。
 そして、それをやるように仕向けたのは霧島美穂とアポロガイストの二人で、拒否をすれば命を奪うと脅されていたと話す。

「あたし、弱かったの……自分の命が惜しいあまりに仮面ライダーの名前を悪用しちゃったから」
「そうか……だが君は葦原の話によると、野上達の元から離れて殺し合いに乗ったそうだが」
「今はもう、そんな事は考えていないわ!」

 朔也の鋭い目を前に、亜樹子は必死に叫んだ。

「確かにここに連れて来られてからのあたしはそうだったわ……でもそれは間違いだって気づいたの! こんな事をしたって、何にもならないって!」
「成る程な……しかしだからといって、俺はお前を完全に信じることは出来ない。状況が状況だからな」
「そう……それだけでも大丈夫。ありがとう」

 彼の返答は充分に予想の範囲内だった。野上良太郎や天美あきらのようなお人よしでなければ、こんな状況で安易に人を信じるなど出来る訳がない。
 だから少しでも、相手の知る必要があった。

「すまない……俺も出来るなら君を信じたい。だが……」
「いいの、あたしは疑われて当然の事をしたんだから」

 罪悪感で表情を曇らせている朔也を見て、亜樹子は確信する。この男はリアリストに見えて、その根は左翔太郎やフィリップのようなお人よしである事を。
 それはここにいる男達全員にも言える。あの翔太郎とフィリップほどではないだろうが、何だかんだで情に弱い連中だ。油断をしなければ、出し抜けるチャンスはきっと来る。
 それまでは罪悪感に溺れた善人の皮を被ればいい。全てはみんなが望む理想の風都を守るためだからと、亜樹子は自分に言い聞かせていた。





「すまない葦原、彼女を疑ってしまって……」
「いや、あんたの言うことは分かる……あいつを信じてくれるなら、それでいい」

 朔也が涼に謝っている中、病院のロビーに集まった士達は今後の方針について考えている。
 23時に病院の大半が進入不可となるとあまり長居は出来ないが、ここには仲間達が集まる予定になっていた。そしてその一方で、涼は亜樹子を連れて離れた良太郎達の元に戻る予定を取っている。
 しかしこの状況で戦力を分散させては、ヒビキや朔也と別行動を取った海堂直也のように殺されてしまう恐れもあった。

「津上や小沢さん達も、西にいるだろうしなぁ……参ったな、ここから無闇に動くわけにもいかないし」
「矢車、お前は元隊長だろ? 何か案はないのか」
「そんなもの、とっくに犬に食わせた」
「……お前に聞いた俺が馬鹿だった」

 投げやりにしか思えない想の態度に士は舌打ちをしながら地図を取り出す。
 西エリアの街と北のホテル。どちらも病院から距離が離れすぎていて、普通に行けば片道だけでも一時間以上かかるかもしれない。それにもしも、何かの事情があって仲間達が目的地より離れたら致命的なロスタイムになる。

「さて、どうするか……?」

 ここで全員集まって仲間達を待つか、それとも人数を分散させて仲間達を探すか。
 かつて罪を犯してしまった女を信じるか、敵とみなすか。
 別の世界に生きる自分と同じ名前を持つ男の思いを、自分が受け継いでみせる。
 志半ばで倒れた男の意志を継いで、みんなを守るために戦いたい。
 妹と認めた女の闇と、絶望から立ち直った男の闇を見守りたい。
 何を犠牲にしてでも、どれだけ手を汚そうとも愛する世界を守りたい。
 限られた時間しかいる事が許されない病院という空間の中で、それぞれの思いが交錯していた。

405新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:10:27 ID:dcAFNkrM0
【1日目 夜中】
【E-5 病院ロビー】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに2時間変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
1:今後の行動方針を考える。
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ガドルから必ずブレイバックルを取り戻す。
6:「ダグバ」に強い関心。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ライダーカード(G3)はディエンド用です。
※葦原涼がギルスである事は、大体わかりました。



【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、全身に中程度の火傷、罪悪感、クウガとダグバに対する恐怖、仮面ライダーギャレンに10分変身不可
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×3、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードはついてません)@仮面ライダーカブト、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:今後の行動方針を考える。
2:とにかく首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
3:小野寺が心配。
4:キング(@仮面ライダー剣)は自分が封印する。
5:出来るなら、亜樹子を信じたい。
6:殺し合いで勝たなければ自分たちの世界が滅びる……。
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※現状では、亜樹子の事を信じています。

406新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:11:19 ID:dcAFNkrM0
【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、全身に中程度の火傷、罪悪感
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り1着)
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:今後の行動方針を考える。
2:打倒大ショッカー
3:殺し合いはさせない
4:大ショッカー、ガイアメモリを知る世界、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:小野寺を心配。
6:小沢さんに会ったら、北條(名前を知らない)からの遺言を伝える。
【備考】
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ガイアメモリは自分にも支給されていたが、知らない間にどこかに落としてしまったと勘違いしています。




【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、胸元に中ダメージ
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
1:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
2:人を護る。
3:亜樹子を信じる。
4:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
5:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒
6:ガドルから絶対にブレイバックルを取り返す
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※現状では、亜樹子の事を信じています。

407新たなる思い  ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:12:53 ID:dcAFNkrM0
【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】全身に傷(手当て済)、闇の中に一人ではなくなったことへの喜び
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:士の中の闇を見極めたい。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:妹(亜樹子)と話をする。
4:天道と出会ったら……?
5:音也の言葉が、少しだけ気がかり。
6:自分にだけ掴める光を探してみるか……?
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外は出来ないようです。
※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。
※鳴海亜樹子を妹にしました。


【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(劇場版『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』直後)
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、極めて強い覚悟
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
基本行動方針:風都を護るため、殺し合いに乗る。
0:例え仲間を犠牲にしてでも優勝し、照井や父を生き返らせて悲しみの無い風都を勝ち取る。
1:まずはこの連中を利用する。
2:他の参加者を利用して潰し合わせ、その間に自分の戦力を整える。
3:良太郎は利用できる?
4:当面は殺し合いにはもう乗ってないと嘘を吐く。
5:東京タワーのことは全て霧島美穂に脅され、アポロガイストに利用されていたことにする。
【備考】
※良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。
※放送で照井竜の死を知ってしまいました。


【全体事項】
※剣崎一真の遺体がE−5 平原に埋葬されました。
※この六人は今、今後の行動について話し合っています。
※人数を分散して別のエリアに向かうか、この病院に待機しているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。

408名無しさん:2011/12/04(日) 22:20:30 ID:E.QJRvqo0
投下乙です!

亜樹子がいきなり涼を刺すかとひやひやしたけど
そうならなくて良かった。
これからどうなるのか?とにかくこれからが気になる展開でした。

409 ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:22:24 ID:dcAFNkrM0
以上で投下終了です。
ご意見などがありましたら、指摘をお願いします。


……そういえば今日はフォーゼに橘さんが校長先生となって登場してましたね。
あの学校は天音ちゃんも入学してましたから、剣の世界と何らかの関わりがあるのかと妄想してしまいます。

410名無しさん:2011/12/04(日) 22:35:59 ID:raHL4g3o0
投下乙です。

涼さんの圧倒的回復力にまず驚く。兄貴も犬に食わせたじゃねえよw
そして、真っ黒い所長に騙される橘さん……そんなんで校長が務まるのか!? って別人ですね、はい。
同一人物だったら天音ちゃんを護れよって始さんにムッコロされますね。

ところで気になったのですが、まず社長&良太郎組なんですが、社長の状態表からするとあまりにも長い間良太郎を放置して
ただ見守っていたことになります。特にそのエリアは21時より禁止エリアになるので、その直前まで意気消沈し続ける良太郎
と待ち続けるだけの社長と言うのも変だと思います。それだけの長時間、ニーサンが動くことを読みながら放置というのも……

それと、士と橘さんの状態表の変身制限の部分に不備があり、涼のものと一致していません。
この辺りについて返答お願いします。

411 ◆LuuKRM2PEg:2011/12/04(日) 22:45:12 ID:dcAFNkrM0
ご指摘ありがとうございます。
それでは、後ほど状態表の修正版を修正スレに投下させて頂きます

412名無しさん:2011/12/05(月) 00:24:28 ID:sIeRitXc0
投下乙です。

予約のメンバーから一斉合流かと思いきや良太郎&社長パート、病院の6人に分かれての展開か。
で、今後どうするかは次次第……まぁ確実に病院ファイヤー、仮面ライダー崩壊の可能性が高いのですが。

……あの校長、新手のフォーゼ敵幹部だったりして(北條も555で敵幹部(クローバー)、真理もキバで敵幹部(チェックメイト)。

413名無しさん:2011/12/07(水) 15:01:46 ID:U3hfMeOc0
?……橘さんと天音ちゃんを演じてた人がフォーゼに登場してるってこと?

414名無しさん:2011/12/07(水) 20:42:49 ID:ZpZecvsU0
>>413
そういうことですよ

415名無しさん:2011/12/09(金) 20:40:54 ID:9RfYFVUg0
役の名前は速水公平。だからリブラゾディアーツかもしれない

416 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:11:41 ID:rcxl50pA0
まだ期限まで時間はありますが、これより予約分の投下を開始したいと思います。

417それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:12:54 ID:rcxl50pA0
「――君が、ガイアメモリのある世界の住人だったのか!」

 E-4エリア病院のロビーにて、情報交換を行っていた六人の内の一人――橘朔也は、そう鳴海亜樹子を向いて立ち上がった。

「それじゃあ、この首輪のことを知っているのか? 解除はできないのか!?」
「え? えっ?」

 だが橘の興奮が理解できないといった様子で、亜樹子はそう疑問の声を漏らすだけだ。

「――どーいうことだ?」

 そこで尊大な態度で口を開いたのは、腕を組んでソファに腰かけていた門矢士だった。

「あぁ、これは橘の仮設なんだが……」

 そこで口を開くのは橘と行動を共にしていた日高仁志――鬼としての名をヒビキという、音撃戦士だった。

「首輪にはガイアメモリを使うためのコネクタがあるだろ? それなら、首輪もその世界に関わりのあるものじゃないかって思ったんだが……」
「私、知らない!」

 ヒビキが言葉を濁した矢先、亜樹子は首を振って否定した。

「本当か? ――まさか、殺し合いに乗っているから隠しているなんてことは……」
「橘!」

 そこで声を張り上げたのは芦原涼――胸部に多大なダメージを受けたために、発声にも痛みを伴って顔を歪めながら、しかし咎めるような視線を橘に向ける。

「――あ、すまない……」
「……W(ダブル)の世界からの参加者が簡単に解除法を知っているような首輪だったら、そこの人間をそのまま引っ張っては来ないだろ。コネクタの技術を使っているだけだって考えるのが普通だろう」

 そうして事態を見届けると、呆れたように士は呟いた。
 初対面の際、ブレイドへとカメンライドしていた士のことを、剣崎一真を殺害しブレイバックルを奪った下手人だと勘違いしたことといい、どうもこの橘という人物は勘違いし易い性質の人間らしい。そのくせ勘違いした時には妙に決断力に富むようだから、扇動系マーダーに騙されたりしないものか非常に心配だ。
 それでも正義感に溢れる仮面ライダーの一人であることは間違いないのだが、と亜樹子に謝罪を重ねる橘の姿を見て士は思う。

「……となると、カモフラージュのために全員にガイアメモリが支給されているという説も間違っていた可能性が高いな。ヒビキが落としたわけじゃなかったみたいだ」
「――そうだろうな。俺も北条も支給されてなかったしな」

 俺もだ、と涼が士に続き、ここにバトルロワイヤル開始直後より長い間信じられてきたWの世界万能説は崩れることになった。

「……でも、フィリップくんなら何とかなるかもしれない」

 だがそこで示されたのは、新しい希望。

「フィリップ……仮面ライダーダブルの片割れか」
「うん。私の事務所の仲間なんだけど……星の本棚って言われるぐらいのすっごい知識があって、すっごく頭が良いの。フィリップくんなら、首輪のことも解析できるかも」
「そうか……なら、急いでそのフィリップくんと合流しないとな」
「――確かに重要なことだが、もう少しここで待つという方針に変わりはないぞ、朔也。フィリップがどこにいるかわからない以上、希望が生まれても状況が変わったわけじゃないからな」

 先程の話し合いの時点で、部屋の隅で両膝を抱えている矢車想以外の全員が戦いに支障が出るほどのダメージを蓄え、しかも全快の状態でも数人掛かりで太刀打ちできなかったダグバやガドルを筆頭に、アポロガイストを圧倒したウェザー・ドーパントに変身する紅渡など、強過ぎる危険人物が決して少なくない。故にまずは身体を癒し、また極力人数を分散させないようしばらくこの病院に全員で待機しておくということになった。
 病院は性質上、他にも参加者が集まってくるはずだ。別行動を取るにしても、もう少し協力者を増やして頭数を揃えてからの方が良いだろうし、危険人物襲来の可能性も考えると、この地の安全性を確保するためにも病院に残るべきである――そのような方針が六人の間で決定されていた。

418それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:13:40 ID:rcxl50pA0
(……紅渡、か)

 亜樹子から伝えられた情報に、士は自身を旅に送り出した男の姿を思い描く。
 剣崎一真と同じように、士が知る彼とは同じ名前で同じ姿だろうと別人だと推測できる。あの底知れない男が、簡単に大ショッカーの思惑に乗るとは考え難いからだ。

(……おそらく、音也の肉親だろう。それが殺し合いに乗っているなんてな)

 士達と別れた紅音也は亜樹子を救うため、単身東京タワーに向かった。
 その東京タワーで亜樹子がマーダーと化した渡に襲われたとは、何という皮肉だろうか。
 また紅渡は橘達と別行動中の仲間である名護啓介の知人でもあった。名護自身は見紛うことなき仮面ライダーであるため、橘とヒビキが受けた衝撃や、名護がそのことを知っているのか、知ればどうなるのかを心配しているようだった。

(……この紅渡がどんな奴だか知らないが、音也には借りがあるからな。もしも俺の前に現れて、まだ殺し合いに乗ってやがったら、俺が音也の代わりに根性注入でもしてやるか)

 この情報を届けてくれた亜樹子のことも、士は橘同様、はっきり言えばそこまで信用はできていない。
 仮面ライダーとともに戦う彼女の正義は信頼できる。だが、自分の愛する世界の命運が懸かっていては、他の世界を犠牲にしようという思いが生まれないかどうかはわからない。

 愛するもののためなら、普段絶対に考えないようなことだって人間は考えてしまう――士自身が、この地でそれを体験したのだから、なおさらそう疑ってしまう。
 もっとも、士をそこから、紅音也が助け出してくれたわけだが。

(音也の奴が助けに行くって言っておいて、結局は会えなかったみたいだが……それならこいつも俺が救う。もしも道を違えていたら、その外れた道を俺が破壊して、元の居場所に戻してやる)

 そう静かに士は、どこか元気がない亜樹子の顔を見て決意を固める。

(……おまえなら、こいつを見たらそうしろって言うだろ、夏海)

 士はもういない最愛の女性が、静かに微笑み、頷く姿を幻視した。

 ――こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!

 士の中で、未だに木霊する声の一つ。
 亜樹子の行った放送――それが霧島美穂と共に行った、他者を傷つけるための嘘の言葉だったとしても。

 その言葉で、士が立ち直ることができたのは事実なのだ。
 その言葉が、正義の心という不屈の魂をこの胸に宿したことは、紛れもない真実なのだ。

 士はそこで、部屋の隅に一人で座り、話し合いに参加しようとしない男を振り返る。

「――おい、おまえも何か意見とかないのか」
「……俺はおまえらと仲間になるつもりはない、と言ったはずだぞ……士」
「――でも、妹さんは仲良くしているみたいだけど、良いの?」

 そこで士の横に現れ発言したのは、顔に手足を付けただけとデフォルメされたような姿の白い蝙蝠――親指ほどの大きさしかないモンスター、キバーラだった。

「大ショッカーを潰すっていう目的は、俺も同じだ……だから妹が代わりに、おまえらと情報交換してくれるんだとよ。……健気な妹ができて、俺は嬉しいぜ……」
「うわっ……」

 いつものように消極的ながらもにんまりと笑った矢車に、キバーラは引いたようにそう声を漏らした。

「――うん、お兄ちゃん……私、頑張るからね」

 一方で、矢車に合わせたかのように急に声のトーンを暗くしながら、亜樹子が答えた。

「亜樹子ぉ……!」
「お兄ちゃんっ!」
「――そんなことより! キバーラ、何か見つかったのか?」

 独自の空間が展開され始めたのを阻止すべく、世界の破壊者は旅の仲間に問いかけた。

419それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:14:21 ID:rcxl50pA0
 先程の話し合いにキバーラが参加していなかったのは、小回りが利いて空を飛ぶこともでき、夜目も明るい彼女が病院に周囲を見回って来てくれていたからだ。

「あー、そうそう、凄ぉい大発見があるんだから! 士――それと朔也さん、来て貰える?」
「――俺か?」

 思わぬ指名だったのか、橘は自身を指差しながらキバーラを振り返る。

「あなた、確か剣(ブレイド)の世界のライダーシステムに詳しいのよね?」
「あぁ、一応、研究を見ていた程度はあるからな……」
「技術屋ではあるんだ。それじゃ、やっぱり来て貰った方が良いわ。――士はまだ、変身できないでしょうしね」

 もしも危険人物と鉢合わせしてしまった場合、いくら優れた身体能力を持つ士と言えど変身が叶わなければその結果は明白――悲しいことだが、剣崎一真がそれを証明している。
 それなら短距離だろうと、別行動を取る際には最低限その時変身できる者が一人は同行する――それも先程の取り決めで決まっていた。

「行くぞ、朔也。――涼、ヒビキ。誰か来たら頼んだぞ」

 そうして橘を伴って、士は扇動するように前を飛ぶ小さな白い影を追った。

 外に出て、寒気を感じながらしばらく歩いたところで――士達は、黒い塊を見つけた。

「こいつは――イマジン、か?」
「多分、ネガタロスって奴よ、士」

 矢車や光夏海に襲い掛かって来たが、剣崎一真の協力もあって撃退に成功した色違いの電王――眼前に転がる首なし死体は、それに変身していた者だろうとキバーラは告げる。

「イマジンのくせに電王じゃなくてキバに恨みがあるって言ってた奴だけど、悪党だったし、多分野上良太郎の仲間じゃないんでしょうね」
「……悪の怪人とはいえ、これは惨いな」

 足元の死体を見下ろし、そう呟いたのは橘だった。

 血の代わりに砂が溢れているが……腹部は大きく爆ぜており、この時点で致命傷だっただろう。それなのに、さらに首を途中まで掻き切り、残り半分は踏み付けられたのか折れ、頭が千切られていたのだ。

「……一真を殺した、あの黒いカブトの仕業かもな」

 残虐な手口から連想したわけではなく、単に状況的に他の犯人が見つからないからだが――士はそう、ぽつりと呟く。

「――それで、キバーラ。大発見ってのはこいつのことか?」
「いくら何でも――さすがにこいつを手厚く葬る気にはなれないぞ」

 士に続き、橘もそうキバーラに不満の声を漏らす。実際は東條悟もいたとはいえ、もしこいつが居なければ、剣崎達はひょっとしたらその後の襲撃にも対応できたかもしれない――そのことを考えると、薄情になっても仕方がないというものだ。

「違う違う。ほら、よく考えてみなさいよ。首が取れてる、ってことは……」

 キバーラの言葉に閃き、周囲を見渡した士は――闇の中に転がった、銀の輪を見つけた。

「――そういうことか」
「士、写真を撮ること以外は苦手なことはないのよね? ――何か、わかるんじゃない?」

 キバーラがそう呟く中、士はネガタロスのものと思われる首輪を、その手で拾い上げていた。







「――キバーラの発見って何なんだろうな」
「さあな。帰って来たらすぐわかるだろ」

 ヒビキの問いに、涼はそう素っ気なく答えた。

420それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:15:00 ID:rcxl50pA0
 別に、ヒビキを不快にさせたいわけではなく、士のように不器用な喋り方しかできない年頃なんだろうと、ヒビキは見当付ける。

「それより、そのダグバって奴のことをもっと教えてくれ。門矢が言うには、あのガドルが自分より強いと言った未確認で……北条を殺した奴、なんだろ?」
「ああ、そうだな――」

 危険人物についての情報を共有しておくことも、大切なことだろうとヒビキは頷く。
 特にダグバの危険度は、身を以て理解している。少しでも詳細な情報を知ることが危機回避に繋がることは決して珍しいことではないと、ヒビキは長年の魔化魍退治の経験から理解していた。

「――第零号、だと」

 ダグバの脅威に付いて説明していた中で、涼はその単語に大きく反応した。

「知っているのか、葦原?」
「――ああ。二年前、猛威を振るった未確認生命体の中でも……最悪の奴だ」

 あいつ一体に、三万人が殺された。

「――え?」

 涼の紡いだ言葉を最初、ヒビキは理解できなかった。
 いやそんな馬鹿な、ただの聞き間違いだろ――そう現実的な思考という逃避が働いたが、涼の沈痛な面持ちを見て事実だと思考に染み込んで来る。

「三万、って……最近じゃ大きな災害があっても、死者なんて二万も行かないよ!?」

 そう、思わずといった様子で叫んだのは亜樹子だった。ヒビキも同じことを思っていた。

「そんな、野放しになっていたんじゃなくて、仮面ライダーがいたんでしょ!? 組織的に動いたわけでもないのに、それで……」
「……仮面ライダーだかは知らないが、その頃は未確認生命体の中に人間に友好な第四号という奴がいた。そいつはそれまでに四十体以上の未確認を倒していたが……その四号も簡単に蹴散らして、奴は暴れたと言われている」

 涼が淡々と語る言葉に、ヒビキは背筋が凍るような錯覚を感じた。

(……こいつは、割と本気で鍛える時間があってもヤバいな)

 あの時、装甲声刃もなかったのによくも生き残れたものだとヒビキは思ってしまう。奴は遊んでいるような態度と口ぶりだったが、それは嘘でも何でもなかったようだ。

(鍛えに鍛えて、道具に頼って……それでやっとか。今の俺じゃ多分、装甲響鬼になっても退治できないだろうな)

 歴戦の鬼であるヒビキをして、そう悟らざるを得なかった。相手は天災の域すら超えた、正真正銘のバケモノだ。嫌でもあの時看取った男の遺言が蘇る。

 ――逃げて……くださ……い
 ――奴は…………第0号………我々では……到底、太刀打ち出来る………相手では………ありま、せん

 人を護って全身を焼かれ、それでも必死に警告を残そうとした男――放送を聞き逃した涼に説明する過程で、北条透という名前と一時的に士と行動を共にしていたという事実が明らかになった彼は、涼と同じようにダグバを知っていて、なおも奴に立ち向かった。
 あるいは彼も、誰かを護るために死地に赴いたのかもしれない。
 自分達が奴とまた戦うようになっては、彼の願いを裏切ることになるのかもしれないが――

「――それでも、人を護るためには俺達が倒すしかないでしょ」

 しかし、その不安を振り払うように、ヒビキは決意を口にした。

「俺達はそのために鍛えてる――仮面ライダーなんだからさ」

 ヒビキの言葉に、涼は瞳に意志の光を取り戻すと、力強く頷いた。

「そうだな。……俺も剣崎に、そう誓ったばかりだ」

 涼が頷くのを見て、ヒビキは心強い物を覚えた。

421それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:15:39 ID:rcxl50pA0
 確かにヒビキ一人では、奴を倒せるほど鍛えられるかはわからない。少なくとも、このバトルロワイヤルの会場で他の人を護るためには、そこまで鍛えている時間はない。
 それでもヒビキ達は一人ではないのだ。元の世界の鬼や猛士の仲間達ではないが、彼らと志を同じくする仲間――仮面ライダーがいる。
 五人で歯が立たなかった上、生半可な戦力では犠牲者が増えるだけでも……あの門矢士は、小野寺ユウスケが究極の闇を齎す者になったと聞いても自分が止めると言っていた。
 究極の闇を齎す者がどんなに強くても、それに立ち向かえるほどの力を、正義のために使える者がいるのもまた事実なのだ。なら一人では無理でも、五人でも無理でも、もっと多くの頼れる仲間達と力を合わせれば、きっとあの怪物だって退治できるはずだ。

(……そのためには、俺ももっと鍛えなきゃな)

 自分だけではダグバに届かないとしても、少しでも皆の力となるために。そう考えを固めたヒビキは自然と、たった一人でダグバに挑もうとしている仲間を思い出す。

(だからそれまで、早まるなよ……小野寺)

 ヒビキは別の場所にいる仲間を想いやった後、目の前にいる亜樹子に笑顔を向けた。

「だから鳴海、そんな怯えなくて大丈夫だよ。俺達が必ず、何とかするからさ」

 ヒビキの言葉に、亜樹子は「ありがとう」と小さく呟いた。
 彼女が本当に殺し合いに乗っていないかどうかはわからない。だが、彼女にこれ以上罪を重ねさせず、導くのも自分達の仕事だろうとヒビキは思っていた。

 その後も、ヒビキと涼は警戒するべき危険人物についての情報交換を続けることにして――
 ――その時が、来てしまった。

「――俺が最初に戦ったのは、ギターみたいな剣を使う鉛色と深緑の怪人だった」
「――え?」

 ――共に戦う仲間と決めたばかりの男の犯した、過ちを知る時が。

「葦原――その時のこと、詳しく教えてくれないか?」

 微かに震えたヒビキの問いかけに、涼は怪訝そうな顔をしながら頷く。

「あぁ、茶髪の女が襲われていたところを見つけたんだが……」
「――茶髪?」

 そこで新たに反応したのは、亜樹子だった。

「――ねえ涼くん。その女の人、すっごい綺麗で、髪が長くて、背も高くなかった?」
「ん? ――あ、あぁ。確かに、座っていても女にしては随分でかかった気はしたが……」

 その返答に亜樹子はさらに、その女性の服装について尋ね、涼がそれに答える。
 そうして亜樹子が息を呑むまでの光景を、ヒビキは何か膜を通して見ているような――酷く、現実感が欠落した心地で眺めていた。

「その人、霧島美穂だよ、涼くん!」
「――何?」

 東京タワーに罠を仕掛けた主犯の名を出されて、涼の顔色が変わる。

「俺は――騙されていたのか?」
「いや、でも……襲っていた方も、本当にただの怪人だったのかもしれないし……」
「――葦原」

 自分で出した声が随分冷めていることに、ヒビキ自身驚いていた。
 故にこちらを二人が――部屋の隅で矢車さえ驚いて振り向いたのも、当然かもしれないとヒビキは感じていた。

「その怪人は……音撃斬、とか言ってなかったか?」

 勘違いであって欲しかった。
 首を振って欲しかった。

 だが、葦原涼は――躊躇いながらも、頷いてしまった。
 肯定してしまったのだ。

「ザンキさんだ……」

422それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:16:31 ID:rcxl50pA0
 思わずそう零してしまって、すぐにヒビキは後悔した。

「……知り合い、だったのか?」

 遠慮がちに、涼が尋ねて来た。
 一瞬、はぐらかすべきかとも思ったが――ヒビキは自分の考えを否定する。
 いつかわかることなら、ここで伝えるべきなのだ。

「――その人の本名は、財津原蔵王丸って言うんだ」

 ヒビキの言葉に、亜樹子が両手で口元を覆い、涼が衝撃を受けた顔になった。
 先の放送で告げられた死者を伝える際、その名前をどう読むんだと彼が反応したから。ヒビキは彼が、自分の尊敬できる先輩格であるとだと伝えていた。

「いや、でもほら。――葦原が勘違いして戦ったんだとしても、それが原因とは限らないからさ、そんな気にするなよ」

 気休めでしかないことは、口にしたヒビキ自身理解していた。
 この会場で一度変身するということは、それが解ければただの蹂躙されるだけになるというリスクを背負うこと――その場にマーダーの霧島美穂が居合わせていて、その後彼女が五体満足で亜樹子の前に現れているのなら、答えは一つだ。
 それ以前に、涼との戦いで致命傷を負っていた可能性も捨て切れない。

「いや……俺は仕留めちゃいないが、浅くない傷を負わせちまった……」

 あぁ、やっぱり――と、ヒビキは一瞬だけ、何かが込み上げて来るのを感じた。

「俺が……俺のせいで!」
「――おまえのせいで、どうしたんだ?」

 投げられたのは、どこか尊大な青年の声。士達が帰って来たのだ。

「俺が……ザンキって人を、死なせちまってた……!」
「何!?」

 大きく反応したのは橘の方だが、士も決して小さくはない動揺を見せていた。

 目の前で自分自身を激しく責める青年に対し、ヒビキの心に憎い気持ちがないと言えば嘘になる。
 長い間、同じ想いを抱いて戦って来た仲間の死ぬ原因を作った男が、目の前にいるのだ。これで憎む気持ちが出ないのは、心を鍛えるとかそういう問題ではなかった。

 それでも、だ――

(あのザンキさんが、葦原相手だからってただでやられるわけがない……それならきっと、ザンキさんにはわかっていたんだ。葦原が悪い奴じゃないって)

 それなら――いやそうじゃなくても、彼は自分に仇討ちなんて望まないはずだ。

(怒りや憎しみに心を囚われちゃいけない……こう言っちゃ悪いけど、あの時の小野寺や、もう一人のヒビキさんみたいになっちゃいけないんだ)

 憎しみを抱かないなんて、自分を含め人間には無理だとヒビキは思う。
 だが誰かを護りたいと言う想いで鍛えたその力で、どうしても生まれる怒りや憎しみに呑まれて自分の願いを壊さないように、心を鍛えることはできるとヒビキは信じていた。

(鬼の力に振り回されないように、俺ももっと鍛えないとな)

 そうして、自分を傷つけてしまっている葦原を――自分が鍛えてやらないと。



「殺し合いをぶっ潰すとか言って……実際には、俺が殺し合いを助けちまっている!」

 剣崎の墓前での誓いを、涼は既に、完全に裏切っていた。そんなことを誓う資格は、涼にはなかった。
 情けなさと。惨めさと。己自身への御せない怒りに叫んだ涼の肩を、正面に座っていたヒビキが叩いて来た。

「でも葦原はさ……誰かを護りたかったんだろ?」

423それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:17:15 ID:rcxl50pA0
 そう、優しく掛けられたヒビキの気遣いが痛くて、涼は叫び返してしまう。

「それで、誰かを傷つける奴ばっかり助けて! 霧島美穂も、アポロガイストも! 挙句に、最期まで誰かのために戦った剣崎の、ブレイバックルまで未確認に奪われて!」
「でもさ、葦原……ザンキさんも、剣崎も。そんな風に、おまえに自分を責めて欲しいとは思ってないって、俺はそんな気がするんだ」
「どうしてだ!? 俺は、あいつらを裏切って――ザンキを死なせて、剣崎の願いを踏み躙って――!」
「――涼くんは、さ」

 そこで涼の叫びを止めたのは――何か言おうとしたヒビキではなく、亜樹子の小さな声だった。

「私を、護ってくれたじゃない。それとも……私を護ったことも、やっぱり後悔してる?」

 亜樹子のそんな……不安そうな問い掛けに、涼は冷水を掛けられたような気分になる。

「――そうだ、葦原。おまえはちゃんと、鳴海を護ってみせたじゃないか」

 声を掛けたのは橘。それに後押しされたかのように、頷いたヒビキが改めて言葉を紡ぐ。

「確かに葦原は、失敗して誰かを傷つけることになったかもしれない。でもザンキさんや剣崎は、きっと葦原のことだって護りたいって考えるって思うんだよ、俺は。確かに二人が理想とした結果じゃないだろうけど、そのことで葦原が自分のことを傷つけるのだって、二人は望まないんじゃないかな」

 だから、自分が二人を裏切って辛いなら、せめてそのぐらいは聞いてあげて欲しいな、と――ヒビキは、憎いはずの涼に、温かく微笑んで。

「――俺が、憎くないのか? あんたの仲間を死なせた俺が……」
「はっきり言って、嫌な気持ちがないわけじゃないよ。でも、それに負けて、自分の本当の想いを曲げたくないんだ」
「どうしてあんたは、そんな強く……」
「そりゃ、鍛えてますから!」

 しゅっ、と指二本の敬礼のような真似をして、ヒビキは爽やかに笑った。
 それを眩しいと思って、涼は力なく首を振った。

「それでも、俺は……いつも、間違ってばかりだ。あんたみたいに、俺は強くない……」
「それなら、葦原を俺達で……」

 ヒビキの言葉の途中で、涼は頬に衝撃を覚えていた。

「――っ、何をする、門矢!?」
「根性注入」

 痛みを覚えて振り返った先には、涼を殴った手をぷらぷらさせている士の姿があった。

「――裏切られるのには慣れているんじゃなかったのか、涼」

 ガドルとの戦いの直前、士に伝えた自身の言葉を、今度は彼に提示される。

「言ったはずだ。おまえは愚かな人間だ。道に迷うこともある。転んで怪我をすることもある。だが、その痛みを乗り越えて、誰かを護りたいという自分の信じた道を行くことができる人間だ、とな。そしておまえが道に迷うなら、おまえの道を邪魔するおまえ自身を、俺が破壊する――ってな」

 不敵に笑う門矢の顔を、涼は黙って見ることしかできない。

「何度も何度も信じようとして、何度も何度も裏切られて来た――やっと決意したのに、自分自身の行いがその決意を裏切っていた。それが許せなかった、ってところか」

 やっぱり子供みたいな奴だな、とどこか馬鹿にするように笑う士に、自分の感じている辛さをこいつは本当にわかっているのかと、涼は反射的に苛立ちを覚えてしまう。

「だが、子供だったらこれから学んで行けば良い話だ。おまえはたくさん間違えた。何度も裏切られて来た。数え切れないくらい、傷ついて来た。だが、間違えたのならもう同じ間違いをしないように学べば良い。裏切られた辛さを知ったなら、自分はもうそれを他人に与えないようにすれば良い。力が足りず傷ついたなら、前よりもっと強く鍛えれば良い。そうして、おまえはおまえの信じた道を歩いて行けば良いんだ。その邪魔をする奴は、俺が壊してやる」

424それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:18:05 ID:rcxl50pA0
 そう語る士の目には、嘲るような色は一切なく。

 橘やヒビキも、彼の言葉に深く頷いていた。
 だが涼は、罪悪感のままに、自らに強く巣食った諦念を彼らに放つ。

「それでも、俺は……俺だって、何度もそうしようとして来たさ! それでも……」
「……一人じゃ上手く行かなかったってんなら、これからは俺達が支えるよ。――だから、そんな自棄にならないでさ。皆で一緒に鍛えよう」

 そう涼に手を伸ばしたのは、ヒビキ。
 その大きさに、士や橘の浮かべる笑顔の温かさに、両目に込み上げて来るものがあって、涼はそれを隠すために顔を掌で覆い、俯く。

「――っ、すまない……ありが、とう……っ!」

 そうして、そう謝罪と、感謝の言葉を、涼は吐き出した。

 ――大学のプールで、身動きも取れずに水底へと沈んで行く、いつものヴィジョン。
 自分一人だけが水の底へ――暗い闇の底へ沈んで行くのに、周囲の人間は誰も助けてはくれなかった――

 ――今までは。
 
 今は、沈んで行く自分に手を差し伸べてくれる者達がいる。
 心が発した助けを求める声に、応えて者がいるということに――

 葦原涼は、涙が零れるのを堪え切れなかった。
 そんな彼の背を、ヒビキは力強く、しかし優しく叩いて、傍に居てくれた。

 ――その時、自分の力で、人を護ってみるのも悪くない、と言った想いから。
 例え力がなくとも、人々を護りたい――そう強い感情へと、葦原涼が抱えるものは確かに変化した。

 ほんの少しだけの変化――しかしそれは、彼にとって、確かに大きな一歩だった。



(――ちょっと、甘かったかな)

 涙ぐんでいる涼を見て、亜樹子はそう静かに、そして冷たく振り返る。
 涼が口にした茶髪の女が霧島美穂であった確証はなかったが、もしもそうならヒビキの様子から二人の間に不和を生むことができるのではないか――そう思って突いてみれば、結果は大当たりだった。
 もちろんこんなところで殺し合いをされても困るし、仮面ライダーである彼らがそんな簡単に殺し合ったりはしないだろうと亜樹子は踏んでいた。事実その通りだったが、想像していたよりもずっと、涼に与えたショックが大きかったようで。

 気が付いたら、つい、彼を慰めるような言葉を亜樹子は口にしていた。
 もちろん、『お兄ちゃん』と並んで扱い易いと想像できる、亜樹子の盾になって貰う涼にこんなところで潰れられるわけにも行かないし、彼を気遣ったことで、他の仮面ライダーからの警戒も弱められただろう、ということを考えれば、結果オーライではあるが。

 そんな言葉を掛けた時、亜樹子にそこまで打算は働いていただろうか。

(――こんな調子でどうするの、私)

 首輪を解除する上の重要人物としてフィリップの名を上げたのは、実際にフィリップにならそれができるかもしれないという信用があったのも事実だが、彼らに協力することで信頼を勝ち得て行くための行為でもあった。またフィリップの生存確率を向上させることは風都の保全に繋がり、さらに彼と元の世界で深い関わりを持つ自分の価値を彼らに認識させ、保護欲を強くする狙いもあった――

 あの時はそこまで、ちゃんと考えた上で行動できたじゃないか。咄嗟にそこまで考えが回ったのは、単に橘がヒントをくれたからなだけという気もしないでもなかったが。
 それがあっさり、憐憫の情に流されているようでは話にならない。

(――失敗から学べって言ったよね、仮面ライダー……私、その言葉覚えておくね)

 幸い周りは御人好しばかりだ。今は徹底して害意のない一般人を装えば、いくつか失敗しても問題はないだろう。

 彼らのことは嫌いになれない。むしろ、好ましいとさえ思う。

425それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:18:41 ID:rcxl50pA0
 だけど亜樹子は、天秤の片方に風都を――それも、過去をやり直し、悲劇もない理想郷としての風都を護り抜き、勝ち取るためという錘が乗った時点で、もう片方に釣り合う物を持ち合わせていなかった。

 狂熱に至れぬ好ましいという感情では、狂気になり得る愛には到底、及ばないのだ。

 本音を言えば、その前提となる大ショッカーの機嫌を損ねないために、首輪の解除などされてはたまった物じゃないが――露骨に邪魔するわけにもいかないと、キバーラが発見した首輪を解析すべく、士と橘の去った方を亜樹子は見やる。

 今の亜樹子は一切の戦力を持たない。幸い仮面ライダーの庇護下にあるが、未確認生命体第零号などのような怪物にも、優勝を狙うなら対処していかなければならない。
 故にまず亜樹子に必要なのは情報だった。警戒すべき相手を把握し、自分に使えそうな戦力について知り、可能ならば手中に収めて行く。
 ――最も、意思がなく亜樹子の命に忠実で、全ての参加者を圧倒するような戦力を誇る、都合の良い駒などあるわけがないのだが、と亜樹子は少しだけ、心を重くする。
 まさにその条件を満たす物――いや者が、この地を目指して歩み始めたことも知らずに。

 全ては愛する人々の生きる、愛する故郷のために――彼女の心はより暗く凍えて行った。



(――良い感じだな、亜樹子)

 そうして暗い闇に染まって行く、自らの妹となった女性を見て、矢車はほくそ笑む。
 表面上は地の性格なのか、やや煩いくらいの様子を見せる彼女が、矢車にも見通せないような暗い闇を抱え、またその奥に何か、彼とは異なる思惑を隠していることは既に見当が付いている。あるいは彼女は本当に殺し合いに乗っているのかもしれない。

 弟を笑った大ショッカーは潰す。それに変わりはないが、もう少しこの妹の闇を眺めていたい。例え今は目的が一致していなくても、彼女も矢車や相棒と同じく、絶望の底の闇に堕ちた大切な仲間であり、大事な妹であることに変わりはないと、矢車は思っていた。

 もう闇の中に一人ではない――奇しくも彼が光の住人と呼ぶ葦原涼が得たのと似た想いが、彼に笑顔を象らせていた。

426それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:19:34 ID:rcxl50pA0




「――よし、こいつを使えば禁止エリアになる前には、余裕を持って解析できそうだな」

 首輪を解析するに当たって、何か使える物がないかと探していた橘達は、幸運にも病院の三階で首輪の内部構造を調べることができる設備を発見することができた。

 何故こんな、首輪を解析できる装置があるのか――その疑問がなかったわけではない。
 そもそも何故大ショッカーはこんな風に、参加者が危機を脱することを手伝うような物を会場に用意しているのか。既に奴らが信用するに値しない悪の結社であるということは、橘自身も感じ取っていた。
 殺し合いを主催した目的もわからない。士達から聞いた話を頭に入れても、やはり奴らが善意で世界の選別をするなどありえない。士は邪魔な仮面ライダー同士で潰し合わせ、世界征服をするつもりなのだろう、と言っていたが……誰一人、いつの間に拉致されたのかも気づかぬ内にこんなところにいるのだ。それこそ無数の世界を旅するディケイドや、あの恐るべき戦闘力を持つダグバが、だ。本当に世界征服がしたいだけならわざわざ手間を掛けずにその力で以ってして、抵抗勢力を一網打尽にしてしまえば良いはずだ。

 ――あるいは橘がダグバを強く恐れるのは、それが原因なのかもしれない。
 確かにダグバがまたいつ目の前に現れて、自分達を殺そうとするかわからない。その時にまた生き残れる保証もない。目の前に死をちらつかされ、恐怖を覚えるのは当然だ。

 だがそのダグバもまた、結局は大ショッカーの掌の上なのだ。自分達はこの殺し合いを打倒するために、大ショッカーを倒さなければならないが、奴らはダグバさえ凌ぐほどの、もはや橘には想像すらできない存在なのだ。

 まるで理解の及ばない、そんな奴らと戦わなければならない。それが恐ろしくて仕方がない。
 だから橘はダグバやクウガへの恐怖心で、さらなる恐怖から目を逸らそうとしているのかもしれない……。

 だが、だからと言って、かつてのように恐怖に屈するわけには行かなかった。

 ――彼が、最期の瞬間まで、仮面ライダーとして戦い抜いたのだから……

 橘はあの、誰より強かった後輩の死に、それを誓ったのだから。

「――門矢、行けるか?」
「任せろ」

 橘の問い掛けに、機械の設定をしていた士がそう得意げに気に答える。

 彼曰く――大ショッカーが何を考えて用意したかなんて関係ない、使える物は利用して、後で吠え面かかせてやるだけだ、とのことだった。
 橘は、大ショッカーの脅威を自分より知っていてなおもそんな強気な男がいることに、どこか胸を撫で下ろしていた。

 そうして首輪の解析が装置によって開始されたのを見届け、橘は溜息を漏らした。

「――門矢の言う通りだったな」
「何がだ?」
「Wの世界の参加者なら簡単に外せるだろうなんて勘違いの馬鹿馬鹿しさが、さ。――俺は自分が理解できない事態に対して、誰かを頼りたかっただけだったのかもしれない」

 そう自嘲しながら、橘は続ける。

「――俺も、葦原のように何度も勘違いし、悪意ある者に騙されて、色々な物を失くして来た。組織も恋人も、先輩も……友も」

 脳裏に蘇る大切な者達の姿。それらを瞼の裏に焼き付けながら、橘は言葉を紡ぐ。

「だが、そこで立ち止まってはいけないんだ。俺にはまだ……残されたものがあるからな。誰かに縋るんじゃなくて、自分の道は自分で歩かないと行けない……少なくとも、剣崎はそういう奴だった。なら俺は友として、あいつに恥じないように生きなければならない」
「――そうか」

 橘の決意に、士は静かに頷いてくれた。

 自分の世界。そこに残して来た仲間達。そして門矢達、この会場で出会った新しい仲間――

427それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:21:45 ID:rcxl50pA0
 橘にはまだ、仮面ライダーギャレンとして、護るべきものがあるのだ。
 そのために戦うという宣言を、数多の世界を渡って来た旅人は、聞き届けてくれた。

「――そういえば、もう一つのバトルロワイヤル会場の方にも、他の世界のギャレン達がいるんだったな」

 彼らも今の自分と同じような思いで戦っているのだろうか――橘はふとそう漏らす。

「――もう一つの、バトルロワイヤル会場?」

 だがそれを知るはずの士は、怪訝そうな表情で聞き返して来た。

「おまえはライダー大戦の世界という、バトルロワイヤルの会場から来たんじゃなかったのか?」

 だがその反応に、橘は困惑せざるを得なかった。
 何しろ門矢士は、本気で橘の言葉が理解できないと言った風で居るのだから。

「――そんな世界、とっくに通り過ぎたぞ」
「――何?」

 小野寺ユウスケから聞いていた話と違う。橘は思わず士を問い質していた。
 返って来たのは、その世界を訪れたのは既に過去の話だと言うもの。アポロガイストを倒し、一度は大ショッカーを潰し、再編成されたスーパーショッカーも叩き潰したという。
 だが現にこうして大ショッカーは健在。ユウスケがあの状況で嘘を吐く理由もない、と橘が異を唱えたところで――

「そうか……俺とユウスケは、違う時間から連れて来られたんだな」

 士がそんな解釈を示した。

「違う……時間?」

 突拍子もない意見に、橘も疑問符を付けざるを得ない。

「別に、時間移動や時間操作――要は別の時間から誰かを連れて来る技術なんてそこまで珍しい物じゃない。タイムベント、ハイパークロックアップ、そして時の列車……確か、キャッスルドランの内部にも時間を行き来する扉があるんだったな」

 士が珍しい物じゃないと語るそれらはしかし、橘にとっては十分、未知の驚嘆すべき術であった。同時に時すら操る大ショッカーへの恐怖もまた、確かに大きくなるのを感じる。

「大ショッカーについてはまた結成したのか、別の時間軸か、同名の別世界組織なのかはわからないが……どうして俺とユウスケを違う時間から連れて来たんだ?」
「……推測だが、例えば時間軸が違えば誤解も起き易い。本来仲間である相手と敵対していたり、するようになる場合もある。それが狙いじゃないか?」
「――なら別に、ライダー大戦の世界の頃から連れて来なくても良いと思うが……」

 事情に詳しい士が見当もつかない以上、橘が無理矢理考えてもまた余計な勘違いを招くだけだろう。士とユウスケのどちらも互いを長い間世界を旅した仲間と思っていて、共に大ショッカーや殺し合いを打倒しようとする正義の仮面ライダーであることは、既に己の目で確認しているのだから。彼らがわからないなら、わからないのだと信じることにした。

「――しかし、それなら知人と合流してもある程度気を付けた方が良いのだろうな……大ショッカーめ、厄介なことを」

 橘がそう毒づいたところで、ひゅわんという独特の飛行音が聞こえた。

「ねえ朔也さん。首輪の解析はもうちょっと時間掛かるでしょ?」
「ん? ああ、そうだな」
「それじゃ、そろそろ士の変身制限も解けると思うし、ちょっと二人きりで話して来ても良い?」
「キバーラ?」

 キバーラの言葉に疑問を感じたように、士が振り返った。

「――お願い」
「……わかった」

 キバーラの声に少し不安の色が混じっていることに気づいて、橘は頷いた。

428それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:22:48 ID:rcxl50pA0
「良いのか?」
「ああ。どうせしばらくは俺も見守るしかすることがないからな、門矢も暇だろう」

 そう士を送り出し、橘は再び解析画面へと目を配りながら、別のことを考えていた。

「参加者が違う時間軸から来た可能性があるというなら……相川、おまえはいつからだ?」

 もしかすると、今のように――少なくとも剣崎や栗原親子には友好的な相川始ではなく、ただの危険な怪人であるジョーカーアンデッドとして参戦している可能性もある。
 そうなれば――死した剣崎の想いを裏切ってでも、本当に奴を封印するしかなくなる。
 そして――

「志村純一。こいつも、俺達の世界の住人なのか?」

 士との情報交換でわかったことだが、どうやらどの世界からの参加者か区別するために、名簿には世界ごとに区切るための行が開いているらしい。――この理屈だと、葦原涼達とダグバ達未確認は別世界の出身ということになるが、士が言うにはクウガとアギトの二つの世界には共通点が多く、両方に未確認が存在するということなので、未確認については偶然個体まで酷似していただけと考えれば納得できなくはない。

 問題はそれに従うと、志村純一という橘も知らない人物が、剣の世界の名簿に存在していること。

 最初は気に留めなかったが、その理屈がわかれば同じ剣の世界出身の金居と言う参加者についても推測は可能。恐らく苗字しかないことから偽名で、伊坂同様上級アンデッドである可能性が高いだろう。とはいえこれまで封印して来た上級アンデッド達の偽名を全て把握しているわけではないから、上級アンデッド最後の一体、ダイヤのカテゴリーキングであるのか、過去に封印したアンデッドなのかまではまだわからないが。
 だが、志村純一の場合はそうはいかない。嶋昇のようにフルネームを揃えた偽名を持つアンデッドもいるし、園田真理のような一般人が参戦させられているなら、ただの一般人である可能性もある。前者ならともかく、後者なら急いで保護しなければならないだろう。

 とはいえ士に繰り返し伝えられたように、今の戦力で迂闊に動くことはできない。勇気と無謀を履き違えてはいけないとはよく言われるが、ここはまさにそんな場面だった。
 だが――

(志村純一――おまえが何者だろうと、俺は一人の仮面ライダーとして、おまえに接する)

 人々に害成す者なら制裁を。罪なき一般人であるなら保護を。

 剣崎なら、きっとそうするだろうから。

 その決意を胸に、橘は首輪の解析を見守っていた。







「――それで、話とは何だ、キバーラ」

 士は病院の屋上で、星空をバックに浮遊する小さなキバット族にそう問い掛ける。

「あそこで迂闊に話せないこととか、あんたにはイロイロあるでしょ、士。――例えば、大ショッカーとの因縁とか、ね」

 後半は士の耳元に飛来して、周囲に誰かいても聞き取れないようにキバーラは囁いた。

「――それに私も、イロイロと気になることがあるの」

 ひゅわーっ、と士の耳元から離れたキバーラは、天に近い屋上と言う特別な空間を切り取る手摺にふわりと着地した。

「……ユウスケは、私や士……それに夏海とは、違う時間からここに来たのよね」
「――あぁ」

 夏海、の名を出す時、指の半分もない純白の身体が震えるのを、士は見逃さなかった。

「――気を付けた方が良いわよ、士。あなたにとってここは多分、今までの旅の中で一番厳しい地獄になるわ」
「――想じゃないが、とっくに地獄さ」

429それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:23:23 ID:rcxl50pA0
 もうその笑顔を見ることができない――士の居場所になると言ってくれた最愛の女性を想い浮かべそう返した士に、そうじゃない、とキバーラは首を振る。

「そういうことじゃないの、士。――あなたは、力が失われているとはいえ、ブレイドとの二人掛かりでゴ・ガドル・バっていうグロンギに、一方的にやられてしまったのよね?」
「――悪かったな」
「だから違うのよ、聞いて。――ここがあなたにとって地獄だって思った理由を」

 諭すような口調で、キバーラは続ける。

「あなたは忘れているんでしょうけど――そのガドルの、名前の前にあるゴというのは、グロンギの階級。ゴというのはその中でも最上位集団であることを示しているわ」
「――なるほどな。やっぱり……」
「でも、本来あなたがかつて倒した究極の闇――ン・ガミオ・ゼダに比べれば、劣る階級でもある……グロンギは戦闘狩猟民族。階級はそのまま強さを現していると言って良いわ」
「……それだけこの首輪の制限が強い、ってことか? だが正直な話、制限を無視しても明らかにガドルの方が強かったぞ」
「それはガミオの復活が不完全だったせいでもあるけれど、多分もう一つ理由があるわ」
「……同じグロンギ族と言っても、住んでいる世界が違うから強さも違う……ってか?」
「えぇ、二重の意味でね」

 勿体つけたようなキバーラの話し方に、士は苛立ちを覚える。

「どっかの鳴滝みたいに、焦らしてないでさっさと要点を言え」
「――その鳴滝さん……いえ、あなたを旅に送り出した紅渡の方だったかしら。正直言うと小難しくて興味なかったから、誰から聞いたかさえはっきり覚えてなかったことなんだけど、ここに来て思い返してみたの」

 キバーラは飄々とした彼女にしては珍しく、本当に自信がなさそうにそう語る。

「私達が旅して来た世界は――ここで出会った仮面ライダー達を見ればわかるでしょうけど、結局はクウガやキバと言ったその仮面ライダーが存在し得る一つの可能性の姿に過ぎない、IFで分岐したパラレルワールドの一種なのよね」
「――あぁ。アギトや剣、響鬼の世界。同じ名前と同じ姿をした、しかしまったく別人の仮面ライダーが生きる世界が無数に存在するってことは、大体わかった」

 思えばかつて訪れたネガの世界も、そんな世界の一つだったのだろう。

「そう。さっき首輪を回収したネガタロスも、彼がイマジンなのにキバを知っていたのは電王とキバが同時に存在する、私達の知らない世界の住人だったって考えるのが自然ね」
「――だが、なら奴は何故電王の世界の参加者扱いなんだ?」
「――きっと、オリジナルに近い世界の住人だったから、じゃないかしら」
「オリジナル?」

 どういうことだ、と士はキバーラへと一歩近づく。

「オリジナルってのはどういうことだ」
「先に断って置くと、私達が巡って来た世界が紛い物だとか言いたいわけじゃないわよ」

 士の怒気に気づいてか、対照的にクールにキバーラが告げる。

「パラレルワールドって言うのはIFの世界だって言ったでしょ? IFの数だけ分離した世界がある。例えばジョーカーアンデッドが、世界を滅ぼす破壊者である世界があるかもしれないし、どっかの強欲社長が自作自演のために造り出しただけの安っぽい仮面なんていう世界だってある」

 例えば、オルフェノクの使徒再生によってアギトに覚醒を果たす者がいる世界。例えば、人類が新人類にその数を逆転され、支配権を奪われてしまった世界。例えば、友と世界のために運命と戦った男が、運命に敗れて世界のために友を犠牲にした世界。例えば、渋谷ではなく海に巨大隕石が落ち、地球上の水が枯渇してしまった地球を救うために、一人の仮面ライダーが過去を改編しようとした世界――ひょっとすると、そんな世界も存在するのかもしれない。

「だけど、IFで枝分かれしたって言うのなら――その選択の元になった世界があるはずよ。そしてそれを繰り返して行けば、それぞれの仮面ライダーの世界には樹の根っこから直接伸びた、幹に相当するそれぞれの仮面ライダーの源流たる世界――オリジナルが存在するはずじゃないか、っていう仮説を聞いたことがあるの」

 キバーラの説明する世界のあり様、そこで便宜上使われるオリジナルと言う呼び名に、士はなるほど納得はしたが。

430それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:24:02 ID:rcxl50pA0
「……それが俺にとっての地獄と言うのと、何の関係があるんだ?」
「――あなたを旅に出した紅渡が言ってたでしょう? あなたの使命は、破壊による再生だったって……」

 でもね、とキバーラは言葉を区切る。

「ディエンドは例外にしても――キバである紅渡は生きていた。何故なら彼とは別のキバをあなたは倒していた――必要だったのは、その仮面ライダーと同じ種類のカードだったから。もう少し言うと、ダブルはあの時見逃された。どうしてだと思う?」
「……俺が知るか」
「樹を育てる時はね、その樹にとって邪魔な枝を切ってやることも大事なの――あなたの役目は、その枝切りだったということよ」

 きっとダブルの世界は若い、枝分かれの少ない世界なのね、とキバーラは言う。

「つまりあなたは世界の破壊者なんて言われているけど、実際には九つのオリジナル世界とそこから派生した無数の世界を存続させるために、存在したら困る世界を破壊して――それから、壊した世界を本来存在しなかったディケイドの物語に再構成して、新たな別の世界として確立させた。それがあなたの旅だったんじゃないかしらって、私は思ったのよ」

 キバーラの語る旅の意義に――士は、一応頷いておいた。

「俺も大体そんなもんだと思うな。それで、キバーラ――」
「何が俺にとっての地獄と繋がるんだー、でしょ? わかってるわよ」

 手摺に肘を着いて体重を預ける士の横を、とことことキバーラは歩く。

「ここからは、鳴滝さんでも紅渡でもない、私が何となく考えただけのただの思いつきよ」

 キバーラはそうやってまた士を焦らし、一度息さえ区切った後、士に向き直った。

「――ここに連れて来られたのは、そのオリジナル世界の住人達なんじゃないかしら」

 そうして、士が待っていた言葉をようやく寄越した。
 だが――

「……まだわからないな」
「根拠は、紅渡や剣崎一真……ワタルやカズマと言った名前は、かつて私達が旅した世界のライダーとも同じだけれど、フルネームが同じと言うのは……それがよりオリジナルに近い存在だからじゃないかと私は思うの。だから剣立カズマより、剣崎一真の方が多くの世界に存在しているんじゃないかって」
「そういうことじゃなくてだな……」
「えぇ、あなたにとって地獄な理由でしょ?」

 キバーラは再び、ふわりと浮き上がる。

「――あなたは世界の破壊者と言っても、その破壊の目的はオリジナル世界の存続だった。それならあなたは、他の世界に対するようには、オリジナルやそれに近い世界の住人達には、世界の破壊者として振舞えないんじゃないかしら、っていうことよ」

 背後に回ったキバーラを追って、士も身を翻す。

「つまり、今までディケイドが多くの世界で発揮して来た、世界の破壊者としての異常性――相手の本質を無視したみたいに簡単に破壊する理不尽な力の多くは、ここに集められた参加者相手には無効になっている可能性があるわ。ライダー大戦の世界で敵となった、あの『剣崎一真』との戦いのように」
「――例えば、不死のアンデッドを殺すことができない……とかか?」
「ありえるでしょうね」

 キバーラは首肯する。
 確かにディケイドの力は強いと言うよりも、どこかおかしいということは、士も感じたことはある。明らかに、エネルギーや衝撃が足りてないだろう一撃でも、次々と敵が爆発四散していった覚えがある。なるほど破壊者の権能と言われれば納得できる事柄だ。

「ま、アンデッドについてはどうせ首輪の制限でどうにかできなくはないんでしょうけど――今までみたいにはいかない、もう世界から特別扱いして貰えないということを、肝に銘じた方が良いでしょうね」
「――そんなことは、大体わかってる」

 あの牙の意匠を身に纏った仮面ライダーや、破壊のカリスマを名乗るグロンギ。激戦を潜り抜けて来たはずの士でも、決して油断ならない参加者がゴロゴロいることなど既に嫌と言うほど理解させられている。

431それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:25:21 ID:rcxl50pA0
「――本当にわかっているの?」

 そこで、怒ったようにキバーラが士の眼前までずいっと寄って来た。

「確かに、ユウスケはオリジナル世界の住人じゃないから、あなたは破壊者として優位に戦うことができる――でもユウスケが変身したクウガ本来の力は、決してディケイド相手に劣るわけじゃないの。そのユウスケが何とか互角だからって、カードも足りないような状況でダグバと、究極の闇を齎す者と戦えるなんて思ってるんじゃないの?」
「どうした? 珍しく随分心配してくれるじゃないか」
「……言わせないでよ」

 ぷいっ、とそっぽを向いたキバーラに、士は理由を悟って「すまない」と、彼にしては珍しく真っ当に謝罪を口に出す。

「……それに、あなたがかつて激情態として戦ったあの姿……アルティメットクウガっていうのね、不完全なのよ」
「――何?」

 全てのライダーを破壊するための破壊者としての旅、その最後にして最大の敵として士の前に立ち塞がった、士の知る究極の闇を齎す者を――キバーラは、不完全と呼んだ。

「だって、本当はクウガの世界に魔皇力なんてないじゃない――魔皇力で無理矢理姿と力の一部を引き出しただけで、本来のアマダムの覚醒プロセスを経ていない、残念仕様よ。
 本物は夏海が夢に見ていたような、聖なる泉が枯れ果てた――負の感情に心を喰われた生物兵器。本当に破壊者としてのディケイドと同じように、世界を闇に葬り去ってしまいかねない存在――それが仮面ライダークウガアルティメットフォーム」

 キバーラはアルティメットクウガではなく、クウガアルティメットフォームと呼んだ。正式名だからそう呼んだだけなのか、あるいは意図的に区別したものなのか――
 いや、ここは気にするべきではない細かいところか。それより重要なのは、キバーラの語る真の究極の闇という存在。あの破壊のカリスマをして、遥かに遠いと言わしめるほどの力を誇った存在。
 ――ガドルとの戦いで受けた傷が、疼きを増す。
 ダグバという名に惹かれるような感覚がまた強くなり、士はそれを振り払う。
 
 つまるところ、今のユウスケは魔皇力での覚醒と言うIFではなく、オリジナルと同様のアルティメットフォームへの変身を遂げた存在。その力は恐らく、士がかつて戦ったものを凌ぐ――当然、それと同等以上だというダグバも。
 そしてユウスケの変身したクウガと違い、士はダグバを相手に世界の破壊者として戦うことができない。なのに、認識が甘いのではないか――キバーラはそう言いたいのだろう。

「別にクウガだけじゃないわ。仮面ライダーの中には、世界の破壊者にも負けないような戦士が他にもたくさんいるわよ。私の父が管理する闇のキバの鎧だって、その気になれば世界を破壊できるような代物なんだし。――ライダー大戦の世界の途中からここに連れて来られたユウスケは多分、そんなのと同じ次元で戦うようになってしまったんだわ。私の魔皇力に汚染された出来損ないじゃなくて、本当の凄まじき戦士として――」

 どこか自嘲していたキバーラは、再び士の方を向いた。

「――破壊者としての特権がないままで、せっかく集めた力を取り戻していない状態で。そんなところに入って行ってユウスケを助けられるって、本気で思う、士?」
「――当たり前だろ」

 キバーラの問いをきちんと受け止めながら、まるで気負いすることなく士は答えた。

「要は、破壊者だの悪魔だのって特別扱いされることがないだけで――俺もただの、いつ命を落とすかもしれない仮面ライダーとして戦わなきゃならない……ってことだろ?」
「――そうよ。自分自身の力を入れても、あなたは10の内、たった二つの力しか取り戻していない。コンプリートフォームも激情態も使えない。そんな状況で立ち向かうつもり?」
「――そんなこと。皆も今までの俺も、当たり前にやって来たことだろ」

 ――例え世界に良くも悪くも特別扱いされて来たのだとしても、士はいつも本気だった。
 本気で己が貫きたい信念、護りたいという想いに従って、いつだって命ある限り戦う、仮面ライダーであり続けた。
 それは士の仲間達も――話題のユウスケも、どこかにいるはずの海東も、旅で出会って来た仲間達も――そしてその命を散らせてしまった剣崎一真と、光夏海も。
 皆、特別だから戦ったのではない。その身体を突き動かす、確かな衝動があったから。

「世界に愛された特別な英雄だからじゃない。皆、仮面ライダーとして、何かを護りたいという想いがあるから戦って来たんだ。それなら、俺に破壊者という特権がなくなったとしても……何も、変わることはない。仲間と同じ土俵に立っただけだ。

432それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:26:10 ID:rcxl50pA0
 そして俺は仲間を信じている。あいつらなら、何かの加護がなかろうと、自分の信じるモノのために立ち向かうはずだ。それならあいつらの仲間の俺も、恐れて立ち止まるわけにはいかないだろ」

 士は手摺に体重を預けるのをやめて、キバーラに向けて歩み始める。確かな想いを、胸に秘めて。

「例えカードが一枚も使えなくても――俺は護るべきモノを護り抜くために、理不尽を破壊し、これからも仲間達と旅を続ける。通りすがりの、仮面ライダーとしてな」
「そう――どうやら愚問だったみたいね、門矢士……いいえ、仮面ライダーディケイド」

 ふぅ、とキバーラが小さく吐息を漏らす。
 安心したような――それとも諦めたような、そんなどっちともつかないようなキバーラの様子を見て、彼女の真下まで来た士は口の端を歪めた。

「大体、所詮はおまえのちっぽけな脳みそが出した下手な仮説だろ。アテになるのか?」
「あー、ひっどぉい! もー心配してやらないんだからね!」

 そう言ってびゅーんと飛び去って行ったキバーラは、しかし直ぐにUターンして来る。

「ちょっとぉ、呼び止めなさいよねぇっ!」
「知るか」
「――あなたにとって地獄だって思った理由が、もう一つあるのに?」

 ハイテンションから一転、気遣うような声色の思わぬ言葉に、士はしかし顔を顰めた。

「また長話に付き合せるつもりかよ」
「今度はさっきよりは短いわよ……多分」

 自省しているのか、キバーラの声には元気がなかった。

「さっきの、オリジナル世界から参加者が集められているんじゃないのって言ったわよね。そう考えた理由はもう一つあるのよ」
「……幹を殺せば、樹は死ぬな」
「――えぇ」

 つまり、無数の世界が融合を始めており、それを防ぐためだという建前なのに参加した世界はたったの九つ。士達が長い旅で巡った世界からの参加者など、一人もいない。
 所詮は大ショッカーの虚言だと思っていたが……キバーラの仮説がもしも事実ならば。

「参加していない世界……海東の奴の世界はライダーや怪人から見て、実質剣の世界のIFなんだろう。ユウスケ達の九つは語るに及ばず、だ」
「シンケンジャーの世界は仮面ライダーがいないから、除外するとしても……BLACKとRXとか、アマゾンの世界がどうなっているのかはちょっと気になるけれど……」
「大ショッカーの言葉は真実である可能性が存在する、ってことか」
「そう……あなたが一度死んでまで完遂した世界の再生が、台無しにされるかもしれないってこと」

 それでね士、とキバーラは続けた。

「ひょっとするとだけど……この殺し合いの結果に起こる世界の破壊には、ディケイドの力が悪用されているかもしれない」
「……は?」

 キバーラの思わぬ言葉に、士は首を傾げる。

「何を言っているんだ。おまえがディケイドはオリジナル世界に対しては破壊者としての働きが弱いって……」
「あなたはね。でも、考えて。あなたや海東――ディケイドとディエンドは、世界を渡る力を持っているわ。でも当然それは制限されているわね」
「元々任意で使えるわけじゃないがな……ってかおまえはどうなんだ」
「私はその能力がある人の血を吸って、一時的に借りてるだけだから……言っとくけど、私が吸った程度じゃ解決できないような制限になってると思うわよ――ってそういう話は後回しにして」

 士の周りをくるりと飛んだキバーラは、再び夜空に浮かぶ双子の赤星となって、天へと昇る。

「……ディケイドライバーを作ったのは、大ショッカーでしょ」

 士も忘れかけていた事実を、キバーラは告げる。

433それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:27:08 ID:rcxl50pA0
「材料なんかの問題で、それをもう量産できないとしても、ディケイドライバーに組み込まれた技術は実例として沢山のデータを与え、またその技術を進歩させたはずだわ。
 そしてその技術は、オリジナル世界をも破壊する能力を産み出し――それの機能が首輪に埋め込まれているんじゃないかしら」
「――何?」

 キバーラの大胆な仮説に、士の思考はまた付いて行けない。

「だから、その世界の参加者が全滅するのがどうして世界の滅びに直結しているのか、という疑問に対する、私なりの答えよ――首輪には、参加者を疑似的な世界の破壊者にする機能があるんじゃないのかしら。そんな状態でその世界を代表する仮面ライダーや怪人を破壊し尽くしたら――破壊された側の世界は滅びを迎えてしまうはずよ」

 どんな参加者――それこそ最強のグロンギであるン・ダグバ・ゼバや不死のアンデッドでさえちっぽけな首輪の爆発で死ぬというのも、その破壊者という特性を付与する力が、制裁たる爆破の際には装着者自身に向けられるからなのかもしれない。

 あなたが苦戦する理由の一つもこれかもしれないわね、とキバーラは語る。

「仮にディケイドの世界の破壊者としての力が、オリジナルにも適用されるとしても――敵対する参加者も皆破壊者だっていうなら、あなただけ突出することはできないじゃない。
 その上で、元から破壊者としての能力を持つあなたと海東の首輪は、その部分の余裕を世界移動能力の制限に使っているかもしれない――つまり、ネガタロスの首輪を解析しても、あなた達の首輪は外せない可能性があるわ」
「――それが事実なら、俺は随分と大ショッカーに嫌われていることになるな」
「嫌われるだけのことをして来たじゃない?」

 からかうようなキバーラの言葉に、士は苦笑するしかなかった。
 門矢士は――元は大ショッカーの大首領だったのだ。もっとも、結局士は傀儡のお飾り首領だったのだろうが。
 それが仮面ライダーディケイドとして大ショッカーへと牙を剥き、二度に渡って組織を壊滅させたのだ――恨まれるのは当然、もしそうでなくても、他より入念に対策されてもおかしくはないだろう。

「なるほどな。もし首輪が外せなかったら、さすがに俺も打つ手はない」

 士はキバーラの言わんとすることを理解した。
 その上で、長く連れ添った旅の仲間に告げる。

「だが、言ったはずだ。俺には仲間がいる――もしも俺が戦えなくても、あいつらなら大ショッカーに負けたりすることはない。だから、長話して貰ったところ悪いが、今の俺がするべきことに変わりはないぞ、キバーラ」
「――そう」

 落ち込んだような声でキバーラが答えた。
 彼女が気を遣ってくれているのは、やはり夏海のことを想ってなのだろうと思い、士は込み上げて来る感情を抑えながら、キバーラにいつもの調子で笑いかけた。

「大体、それもおまえの小さな頭で考えただけのことだろ? 実際に解析してみなくちゃ何もわからないだろ」
「――あー、またそんなこと言う! ひっどぉい!」

 キバーラの声に明るさが戻ったのを感じて、士は小さく、本当に小さく、笑った。

「話はもう終わりか? なら、朔也のところに戻るぞ」
「――えぇ、そうね」

 キバーラが頷き、士は身を翻して、来た道を戻って行く。
 横にキバーラが並んだのを見て、士は呟いた。

「そう言えば前に、海東の奴が俺の台詞をパクりやがったことがあったな」
「ヒビキの世界のこと? あんた、いつまで根に持つのよ」
「俺は悪魔だからな、しつこいんだ――あの時の意趣返しでもしてやるか」

 不敵に笑って、士は屋上の出入口に向かって歩いた。

「俺の旅の行先は、俺だけが決める――誰にも、どんなものにも、邪魔をされてたまるか」

 そう、宣戦布告して。

 門矢士は、己の選んだ道へ続く扉を、確かな決意と共に開いた。

434それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:27:55 ID:rcxl50pA0
【1日目 夜中】
【E-4 病院】

【病院施設について】
※一階廊下の壁と、診察室の天井と壁が破壊されています。
※二階の廊下が破壊され、一階診察室と繋がっています。
※二階の病室の壁が破壊されています。
※三階で首輪の解析中です。どの程度時間が掛かるかは後続の書き手さんにお任せします。

【共通事項】
※病院でもう少し協力者を集まるのを待ってから、改めて行動方針を決める。
※ゴ・ガドル・バ、黒いカブト(擬態天道)、紅渡、アポロガイストを警戒。ン・ダグバ・ゼバに特に強い警戒。また村上峡児にも若干の警戒。
※できれば津上翔一、小沢澄子、城戸真司、天美あきら、桐谷京介、野上良太郎、紅音也、名護啓介、小野寺ユウスケ、海東大樹、左翔太郎、そして特にフィリップと合流したい。


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、決意
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド 、キバーラ@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:朔也と共に首輪を解析してみる。
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ガドルから必ずブレイバックルを取り戻す。
6:ダグバへの強い関心。
7:音也への借りがあるので、紅渡や(殺し合いに乗っていたら)鳴海亜樹子を元に戻す。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ライダーカード(G3)はディエンド用です。
※参戦時期のズレに気づきました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は光夏海以外には出来ないようです。
※亜樹子のスタンスについては半信半疑です。


【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、全身に中程度の火傷(手当済み)、罪悪感、クウガとダグバ及びに大ショッカーに対する恐怖 、決意
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×3、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードは付いてません)@仮面ライダーカブト、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:門矢と共に首輪を解析する。
2:フィリップと合流したいが、彼に頼り切らず自分でもできる限りのことはする。
3:志村純一……何者だ?
4:小野寺が心配。
5:キング(@仮面ライダー剣)は自分が封印する。
6:出来るなら、亜樹子を信じたい。
【備考】
※『Wの世界万能説』が誤解であると気づきました。
※現状では、亜樹子の事を信じています。
※参戦時期のズレに気づきました。

435それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:28:43 ID:rcxl50pA0
【以下四人共通】
※士達が去ってからも情報交換を続けたのか、その場合どんな情報をどのくらい交換したのかは後続の書き手さんにお任せします。


【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、全身に中程度の火傷(手当済み)、罪悪感
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り1着)
【思考・状況】
0:仮面ライダーとして、人々を護る。
1:葦原涼を鍛えてやりたい(支えてやりたい)
2:打倒大ショッカー
3:殺し合いはさせない
4:小野寺を心配。
5:小沢さんに会ったら、北條の遺言を伝える。
6:仮面ライダーの一員として、ダグバを倒す。そのためにももっと鍛えないと。
【備考】
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。
※『Wの世界万能説』が誤解であることに気づきました。


【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、胸元に中ダメージ 、仲間を得た喜び、ザンキの死に対する罪悪感
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗ってる奴らはブッ潰す!
1:剣崎の意志を継いでみんなの為に戦う。
2:人を護る。
3:亜樹子を信じる。
4:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
5:ガドルから絶対にブレイバックルを取り返す
【備考】
※変身制限について、大まかに知りました。
※現状では、亜樹子の事を信じています。
※聞き逃していた放送の内容について知りました。
※自分がザンキの死を招いたことに気づきました。
※ダグバの戦力について、ヒビキが体験した限りのことを知りました。


【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】全身に傷(手当て済)、闇の中に一人ではなくなったことへの喜び
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:士の中の闇を見極めたい。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:亜樹子の思惑がどうであれ、妹として接する。またその闇を見極める。
4:天道と出会ったら……?
5:音也の言葉が、少しだけ気がかり。
6:自分にだけ掴める光を探してみるか……?
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。
※鳴海亜樹子を妹にしました。
※亜樹子のスタンスについては半信半疑ですが、殺し合いに乗っていても彼女が実行するまでは放置するつもりです。

436それぞれの決意 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:29:28 ID:rcxl50pA0
【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(劇場版『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』直後)
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、極めて強い覚悟 、自分の甘さへの反省
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
基本行動方針:風都を護るため、殺し合いに乗る。
0:例え仲間を犠牲にしてでも優勝し、照井や父を生き返らせて悲しみの無い風都を勝ち取る。
1:まずはこの連中を利用する。
2:他の参加者を利用して潰し合わせ、その間に自分の戦力を整える。
3:良太郎は利用できる?
4:当面は殺し合いにはもう乗ってないと嘘を吐く。
5:東京タワーのことは全て霧島美穂に脅され、アポロガイストに利用されていたことにする。
6:首輪の解除は大ショッカーの機嫌を損ねるからうまく行って欲しくない。
【備考】
※良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。
※放送で照井竜の死を知ってしまいました。


【キバーラの仮説についてまとめ】
1.ディケイド組以外の参加者は各ライダー世界のパラレルワールド分岐前、オリジナル世界の住人(仮説)。

2.士の破壊者としての旅はオリジナル世界を救済するためのものだった(仮説)。

3.そのためディケイドの破壊者としての力(アンデッド爆殺、非必殺技で敵を一撃撃破などの理不尽な現象)はオリジナル世界の住人、つまり参加者には使えず、互角レベルにまである意味弱体化。原作最終回でオリジナルに近い人物だと考えられている『剣崎一真』戦で苦戦したのもおそらく同じ理由(仮説)。

4. オリジナル通りの方法でアルティメットフォームに変身できるようになったユウスケは、MOVIE大戦でキバーラの力で変身したクウガよりも強い(断定)が、彼はオリジナルではないのでディケイドは破壊者としてある程度スペックを無視して優位に立てる(仮説)。

5. 4.について、あくまで純粋な戦力で勝っているわけではないので、例えば小野寺クウガがダグバに対抗できるとしても、ブレイド以外の力を失い上位形態への変身もできない現在のディケイドがそのままオリジナル世界の住人であるダグバに対抗できるというわけではない(仮説)。

6.大ショッカーは首輪にディケイド同様の世界を破壊する力を与える機能を組み込み、参加者全員を疑似的な世界の破壊者にして殺し合わせることで世界の破壊を企んでいる(仮説)。

7.オリジナルには効き難いとはいえ、その能力を元から備えている門矢士及びに海東大樹の首輪は特別製で、他の参加者の首輪とは構造が異なるかもしれない(仮説)。

8.オリジナル世界が破壊されれば、そこから分岐した同じ種類の仮面ライダーの他の世界も滅び、殺し合いに参加していない世界の命運も左右される恐れがある(仮説)。

437 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/10(土) 00:33:45 ID:rcxl50pA0
以上で投下完了です。

>>417->>425が前篇、>>426->>433が後篇、>>434->>436が状態表となります。

仮投下から48時間では今のところ強い反対意見を招かずに済んでいますが、もしキバーラの仮説などについて問題であると思われた方はまた御指摘の方お願いします。
また仮投下時点に比べると橘のパートを少し書き足しており状態表も変化しております。こちらについても問題などございましたらよろしくお願いします。

438名無しさん:2011/12/10(土) 07:52:09 ID:akx9drUc0
投下乙です!
橘さんとヒビキさん、遂に勘違いに気付いたか……長かったなぁ。
葦原さんも絶望しそうになるけど、何とか立ち直ってくれたね! 
しかもその役を葦原さんを騙している所長が買っているってのが、何とも言い難いな。
そしてキバーラの仮説は本当に正しいのかどうか……その発想はなかったわ。
あと、ついに首輪の解析が始まったけど、危険人物が向かってるから病院がどうなるのか不安だなぁ。

439名無しさん:2011/12/10(土) 08:04:06 ID:P5SVoz6g0
乙です。キバーラは天才かもしれない

440名無しさん:2011/12/10(土) 10:20:26 ID:qhe00UuMO
投下乙です。キバーラ、そこに気付くとはやはり天才・・・ってかもやし自身も不可解だったんかいw

441名無しさん:2011/12/10(土) 12:29:42 ID:P5SVoz6g0
現時点で一番危険なのは誰だろう
渡かな

442名無しさん:2011/12/11(日) 01:50:32 ID:oasB/RGM0

キバーラ凄ぇ…
士は格好良いが、いよいよディケイドが圧倒的不利になってきたな
ヒビキアカネタカの出番か?

443名無しさん:2011/12/11(日) 14:48:17 ID:nXFfJ1ac0
ライアーメモリを使えば勝機が見える、かもしれない
まあ橘さんはむしろ騙されるほうだけど

444名無しさん:2011/12/12(月) 10:25:23 ID:dQsv0hJI0
これより、代理投下を始めます

445狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:26:47 ID:dQsv0hJI0
志村純一はGトレーラーの中で休息をとっていた。
別に激しい戦いをしたわけではない、それに長時間走り続けたわけでもない。
ではなぜ彼は息を切らしているのか?それは今彼がいるここGトレーラーに入っていたものが原因だった。
彼が数十分前にこのトラックの鍵をデイパックの中から見つけ出し、コンテナ内に入った際、いちばん先に目に入ったものは多数の重火器だった。
見れば銃が二丁にナイフが一本、正確な名はそれぞれGM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GK-06ユニコーンという。
どれもデイパックに入れてもパーフェクトゼクターよりはあまりかさばらない物でありこの時点でも元から別にこの車を探し求めていたわけでもない純一にとっては棚から牡丹餅なのだ。
しかし、彼の笑顔をさらに歪ませるものがこの中にはあった。
黒いボディに青の複眼、頭には二本の角、それは開発者の小沢澄子でさえ恐怖し封印せざるを得なかった悪魔の装甲。
G4システムがそこにはあった、本来人間が使用を続けるならば死が待っているという恐怖の装甲、しかし不死の生命体たるアンデッド、しかもその最上位に値するジョーカーである彼にとってそんな副作用は無に等しいと思われる、なれば後に残るのはその圧倒的な戦力のみ。
それに彼がG4を手に入れて歓喜した理由はそれだけではない、何とそのG4はバッテリーが続く限り使用できるというメリットがあった。
更に説明書にはバッテリーが続く時間はおよそ15分と記してあった、説明書の記述をどこまで信用していいものか決めかねるものの純一が把握している変身制限は10分である。
そう、つまりわかりやすく言えばG4は他の変身道具よりも5分も長く仮面ライダーの力を纏えるのだ。
たかが5分と侮ってはいけない、この戦いをずっと見てきたものなら分かる通り、この地ではものの1分、いや1秒だろうと相手より長く変身できていたほうが勝利をつかむのだ。
それが同じ瞬間で変身しても5分も続く、これは純一でなくても歓喜に値する代物だろう、しかしG−4はグレイブやオルタナティブ・ゼロのように手軽に持ち運び、及び手軽に変身できるものではない。
無論、一度使用すればその後はGトレーラー内にある充電装置でバッテリーを充電する間長く使えないと表記されていた、これも自分がこの戦いの中で見つけた制限、つまり一度変身能力を使えばそれがたとえ己の真の力でも最低2時間は使用不可になるというもののことだ。
もしかすればG4に限れば再変身までの時間は他のものより長いのかもしれない、とにかくそれは今わかるものではないし、今後考えていけばいいだろう。
持ち運ぶのも容易ではないし、Gトレーラーの中で装着するにも誰か協力者がいたほうがスムーズだ。
しかし、今の彼のスタンスは通称ステルスマーダー、善人のふりをしてお人よしに近づき、隙をついてその命を奪うというものだ。
それゆえ、G4装着のサポートをする者をずっと生かしておかなければならない、それは他世界の人物であれば自分の世界の保守のためとはいえ非常に手間だ。
なれば同じ世界の者ならどうか。
橘朔也は恐らく殺し合いにはのっていないだろう、自分の話術をもってすれば洗脳するのは簡単かもしれないが、自分が他世界の者を殺していると分かれば面倒だし、それを隠すのも面倒だ。
ならばそれより自分の言うことを忠実に聞き、なおかつそれ自身もある程度の戦闘力があった者のほうが安心できる。
しかし、そんな人物がそもそもいるのかと彼が悩みを抱えた瞬間、ある大事なことに気づく。

「不味い……バイクが外のままだ」

もう自分はGトレーラーという便利な移動手段があるとはいえ、バイクのほうが小回りが利くし、他にもいろいろ便利だ。
一応自分がこの中にいる間、外でエンジン音はしなかったため持ち去られてはいないとは思うが……。
少しの心配を抱きつつ彼が外に出た時、一人の青年と目があった。

446狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:28:34 ID:dQsv0hJI0



乾巧は暗い夜道を歩いていた。
先ほど同行者である天道総司を失ってから早くも数十分も経っていた。
そして今彼が目指していたのは数時間前までずっと留まっていた警視庁である。
本当は今の怪我を考えれば病院を目指したかったのだがそこにはまで距離もあるうえに、それに名護たちとの合流時間までまだ結構あった。
故に今は近くの施設の警視庁に行き自分たちがいないうちに訪れた参加者に先ほどの眼鏡の男とそれに操られる男の危険性を伝える、それが自分の使命だ。
そう考え彼が警視庁についたのがおよそ十数分前、内部をざっと探したが参加者の姿は見当たらず、警視庁は諦めそうそうに移動しようかと彼が警視庁をでた時だった。

「ん?」

外部にあったバイクとその横のトラック、数時間前ここに来た時も見つけてはいたがどこか違和感がある。
しかし何が違うのかまではわからない、自分の思い違いだったのか。
どこか煮え切らない思いを抱きつつ彼がバイクから目を離そうとしたその瞬間だった。

「これは……?」

そう一人呟いてまたバイクを見つめる。
正確にいえば右グリップを、だが。
数時間前彼と天道がこのバイクに気づきつつもバイクを使用できなかった理由、それが右グリップが無かったためなのだ。
天道は使えないならそれまでとすぐ思考から切り捨てていたようだが巧は違かった。
もしかすると、彼のもとの世界での愛車、オートバジンも似たような性能を持っていたために頭の片隅に引っ掛かっていたのかもしれない。
しかし、バイクがひとりでに動き、右グリップを取り付けることなどできるはずもない。
故に近くに参加者がいるのではないか、ふとそう思うもしかし警視庁内に人の気配は感じられなかった。
つまり自分の支給品として配られていたバイクのグリップを取り付け、この場から去った?
いや、さすがにそれはないだろう、この近辺で戦いが起こった様子は見当たらないため急いで去るを得なかった訳でもなさそうだ。
ならばまだこの近くにいるのか?そう思い、巧は少し身構える。
だがいるとしたら果たして何処に?思考した瞬間に巧の眼に目の前のトラックが映る。
これも数時間前は鍵がかかっていて入ることの叶わなかったものである。
そんな都合のいいことはないとは思うがもしやこの中にいるのか、そう思い彼が恐る恐るトラックによっていったそんなとき、ゆっくり、ゆっくりとだがトラックのドアが開き、そして一人の青年と目があった。

447狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:30:21 ID:dQsv0hJI0


二人の間を沈黙が支配した。
お互いまさか参加者がいるとは思っておらず、油断した状態であった。
しかし、先に冷静に場を処理したのは純一だった。
彼は明らかに敵意を向けている遭遇者にむけて自分は無抵抗だということを示すため両手をあげ、デイパックを投げた。
無論、襲いかかってきた時やデイパックを持って逃げようとした時用にいつでも真の力を解放できるように身構えつつもそれを悟られないようにし――。

「俺は志村純一って言います、この殺し合いには乗っていません、もしよければ俺と情報交換しませんか?」

可能な限りの善人の行動を使って自分に敵意が無いことを示す。
最初に遭遇した時の第一印象から彼が積極的に殺し合いに乗っていないことは分かった。
故にこの行動をした際相手がどう動くか大体の見当は付いている。
あまりにも手際のよい志村の動きに遭遇者は驚きつつも言葉を紡ぐ。

「お、俺も殺し合いには乗ってない、俺の名前は乾巧、よろしくな」

ゆっくりとだがしっかりそう答えた男の名前に志村は少しうろたえざるを得なかった。



それから数分が経ち彼等は協力して外に放置されていたバイク、トライチェイサー2000をGトレーラーの中に運び込み、それから情報交換を行っていた。
まず話し出したのは巧だった、それは数十分前に起きた惨劇についての情報のこと。

「……つまり、あなたは約一時間前にその驚異的な戦闘能力を持つ二人の参加者と戦い、同行者である天道総司さんを失ってしまったんですね」

巧は黙って、しかし強く頷く。
そしてどんなに嘆いても一度消えた命はもう戻らないと知りつつも強く答えた。

「俺はあの時逃げることしか出来なかった……だが、もうあんなことは繰り返させねえ」

強く、確かな気持ちで以ってそう告げる。
しかし、それを聞く志村の表情はどこか悲しげで、何かとても後悔してるようにも見えた。

「俺もあなたと同じです、俺はあの時逃げることしかできなかった」

448狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:31:09 ID:dQsv0hJI0

そう言いながら彼が懐から取り出したのは黄金に輝く、彼が数十分前まで持っていたものと良く似ている物だった。
そしてその物に描かれていたアルファベットはT、つまりそれは自分の探していた人物の持っているはずの物だった。

「なっ!?タブーだと!?なんでお前が持ってんだよ!」

それは自分達がこの場に来て初めて看取った心優しき男、園咲霧彦の妻である園咲冴子が持っているはずの物だった。
驚愕の表情で志村に言いよるが彼は悲しそうな顔をしたまま言葉を続けた。

「そうですか、彼女はあなたの知り合いだったんですか、本当にすみませんでした」

泣きそうな顔でそう言う志村を見て思わず巧の勢いは失われてしまう。

「いきなり怒鳴って悪かった、でも本当になんでお前がそれを持ってんだ?」
「はい、あれは放送後すぐの東京タワーでのことでした」

それから彼は話を続けた。
放送前からホテルで遭遇した天美あきら、園咲冴子、野上良太郎、村上峡児達の集団と行動をともにし、放送直前に東京タワーまで移動。
そこで放送を聞き、自分の先輩である剣崎一真らの死に嘆いていた時、突然野上と村上が東京タワー内を見てくると言い出し、自分達が下で待っているとあまりにも帰りが遅いので迎えに行こうとした瞬間――。
――東京タワーが爆発したのだという。
突然のことに驚きつつも女性二人を何とか爆風と瓦礫から守りぬいたとき舌打ちとともに二人が現れたというのだ。

「村上が……」
「はい、恐らく彼らは東京タワー内部で打ち合わせをし、事前に仕掛けてあったか、自分たちで仕掛けるかした爆弾で僕たちを一掃するつもりだったんでしょう」

そしてその後村上の変身した携帯を使う黒い仮面ライダーとの戦闘となり、その圧倒的な戦闘能力に三人がかりでも軽く倒されたらしい。
その志村の言葉に巧は驚愕する。
今、確かに携帯を使った黒いライダーに村上が変身したといったか?

449狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:33:31 ID:dQsv0hJI0
「ガイアメモリのある世界の人物が首輪を解除できる可能性があると?」
「あぁ、俺たちと同じように大ショッカーを倒そうと考えてる奴が考えたらしいんだが……、俺の遭遇した園咲霧彦って奴は全然そんなこと言ってなかったんだよな」
「えぇ、俺と行動していた園咲冴子さんもそんなこと全く口にしていませんでした」

その純一の言葉に巧は首を傾げる。
本来この話題は数時間前の名護たちとの情報交換の場で言えたならすべて解決したはずなのだが、あの時巧は放送で知らされた仲間たちの死を整理するので精一杯でとてもじゃないが情報交換にちゃんと参加していたとはいえなかった。
ならば天道が指摘してくれればよかったのにとその後どんなことを話したのか彼に巧が聞きそれを愚痴ったときあの男はまたしても不敵に笑って言ったのだった。

「おばあちゃんが言っていた、どんな些細なことでも疑うより信じるほうが楽だ、とな」

そんなことを言ったって一応名護たちに霧彦のことを伝えておいたほうが良かったのではないか、そう言おうとも一瞬思ったがやめた。
この会話をこの二人の間で続けていても無意味だと思ったため。
このことを今うじうじ言っても名護たちはここにいない、故にこのことを話すのは12時に病院で集まったときでも遅くないはず。
そう考え自分の少し前を歩く天道に追いつこうとしたときだった、今となっては忌々しいあの銃声が聞こえてきたのは。

「一応、俺とおまえの間で『ガイアメモリのある世界』の人物ならだれでも首輪を解除できるわけじゃないのはわかってるんだが……」
「はい、問題はだれなら首輪の解除が可能なのか、というよりそもそもそんな人物いるのかどうか、ですよね」
「あぁ、もう頭痛くなってきたぜ、そんな奴のことあいつは一言も話してな……」

そういった時に巧の言葉は止まる。
待てよ、本当にそんなこと一言も言っていなかったか?よく思い出せ、この頭の引っ掛かりはなんだ?
その時、ふと彼は思い出した、一人だけ首輪の解除のできる可能性がある人物について霧彦が触れていたことに。

「そうだ……、フィリップって奴は確か仮面ライダーWってのの頭脳的存在で理由はわからねえが分かりやすく言えばありえねえほど頭がいいらしい」

霧彦は幾度となく戦った敵でもある仮面ライダーWのことを冷静に観察していた。
その際、仮面ライダーWの右側、つまりフィリップがいつも自分達が世に送り出したドーパントの弱点を調べ実行に移しているのだ、という結論に至った。
霧彦によれば地球の記憶をそのまま具現化したドーパントの能力を正確に分析するのはエリートである霧彦自身も出来ないと断言していた、そのためそれを初見で冷静に分析するフィリップの力があれば首輪の解除も夢ではないといっていいだろう。
それを志村に説明し、次に今後の目標を立てる。
まず夜12時に集合となっている病院に今から向かい、禁止エリアになる前に病院内の医療道具を出来る限りGトレーラーに詰め込む。
そうすれば病院が禁止エリアになり傷の治療に西側の病院まで行かなくてはいけないという事態を防げる。
二人の行動方針はこれで決まり、巧は病院に向かって運転を始めた志村の横に座った。

(村上……)

450狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:34:15 ID:dQsv0hJI0
彼が思考しているのは元の世界でも結局自分達が倒すことの叶わなかった強敵村上峡児について。
オーガとかいう仮面ライダーに変身したことについても気になるがそれより村上が霧彦の妻を殺したということのほうが彼にとっては大事だった。

(村上、それに野上良太郎、お前らが今どんなに強いのかは俺はわからねぇ、でもお前らは絶対に俺が倒す!)

最初、志村の体から血の匂いがしたのはやはり自分の勘違いではなかった。
しかし一瞬彼を疑ってしまったことを逆に巧は悔やんでいた。
彼は他の参加者を殺すばかりか、自分には出来なかった園崎冴子を守るという使命を果たそうとしていた。
たとえそれが失敗に終わったとしても、同じように天道を見殺しにしてしまった自分にどうこう言う資格はない。
そして次の瞬間、彼の心に芽生えたのは謝罪の気持ち。

(霧彦、すまねぇな、お前の嫁さん守るって約束したのによ)

今、巧の心は霧彦への罪悪感でいっぱいだった。
彼から託されたナスカメモリは敵に奪われ、挙句彼に必ず守ると約束した彼の妻が死ぬのを自分は防げなかった。
しかし、だからこそそれを伝えてくれた志村には感謝の気持ちを抱くと同時に彼の心には新たな思いも芽生えていた。
霧彦を殺したあの薄笑みの優男とその妻の命を奪った村上峡児と野上良太郎への激しい怒りが彼の中で渦巻いていた。

(天道、霧彦、俺今度こそやってやる、絶対に志村をお前たちのところへは行かせない、俺がこいつを今度こそ守り抜く)

それゆえにまた新しく出来た仲間である志村純一は、いやそれだけじゃないもうこの場にいるすべての罪なき人を絶対に天道たちのところへは行かせない。
今度こそは絶対に自分の命に代えてでも守り抜く、その強い正義の炎が巧を動かす原動力となって、巧は、Gトレーラーは闇を進む。
横にいる男が霧彦の妻を殺した男だと気づかぬまま。

451狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:35:37 ID:dQsv0hJI0



(園田真理から聞いてはいたが……ここまでお人よしとはな)

志村純一はGトレーラーのハンドルを握りながら思考していた。
先ほどから行動を共にしているこの男、乾巧の名を彼は知っていた。
それはこの殺し合いの開始後早々に殺害した女性、園田真理が情報を教えてくれていたため。
彼女は一応自分の世界の仮面ライダーの中では一番信用できると語っていたがまさかここまでとは。
正直、園咲冴子について知っていてくれた上、村上峡児の敵対関係にあったのは自分にとって最高の出来事だった。
あとはそのまま園咲冴子、天美あきら殺害の罪を自分にとって現在最大の問題である自分が殺し合いに乗っていると知っている野上良太郎と巧の敵でもある村上峡児になすりつければ全てがうまくいった。
野上はともかく、村上に関して言えばこの殺し合いで今のところ誰も殺してないだろうとはいえ、元の世界でやっていたことがやっていたことなので罪をなすりつけてもすんなりと納得された。
まぁ奴らの汚評を広められたのが今回一人だけだったとはいえ、噂はたちまち広がっていくだろう。
一人に話せば伝染病のようにたとえそれが誤解であっても先に回ってきた噂を信じてしまう、それが愚かな人間という生き物なのだ。
そして何故彼が先ほど自分で馬鹿馬鹿しいとまで表現した激戦地区になっているかもしれない病院に行くことを自ら提案したのか、それは先ほどまでとは事情がかなり変わったためであった。

(首輪を解除できるかもしれない魔少年、フィリップか、面白い……)

それは先ほど巧から聞いた首輪が解除できる可能性が最も高いとされる少年のことであった。
この忌々しい首輪さえ外れればいずれ世界を支配する自分をこんな戦場に投げ込み、ゲームのコマとして扱った大ショッカーの連中を皆殺しにするのも悪くない。

(いや、奴らは俺でさえ気づかない内にこんな戦場に送り込むことのできる奴らだ、下手なことは考えないほうが身のためか)

しかし、今現在彼らの技術力は自分の世界にあったすべての物を超越している事を考え、その考えをやめる。
まぁとりあえず首輪さえ解除できればどうとでもなる、故に今はそのフィリップが行きそうなところを優先していこうとしているのだ。

(この俺にここまで気を遣わせるとは……、これで首輪の解除は僕にはできません、なんていったらどうしてやろうか)

別にフィリップであれば必ず首輪の解除ができるという保証はない。
しかし、首輪に彼らの世界の技術がつかわれているのは事実、そのため今はその可能性を信じるしかないだろう。
フィリップについての思考はここでやめ、彼はまた違うあることについて考え始める。

452狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:36:04 ID:dQsv0hJI0

(石を持った眼鏡の男に、それに操られる男……確かライジングアルティメットと言ったか)

そう、次に彼が考えているのは先ほど乾からもたらされた超危険人物である二人組のことについてだ。
乾の話からするにその眼鏡の男自体に洗脳能力はなく、彼が持っていたというその石に力があると考えていいだろう。
更にその石で乾やその同行者であったという天道総司という人物を洗脳しなかったことを考えるとその石の能力はライジングアルティメットとやらに変身する男にのみ作用するものなのだと考えられる。
ここから導き出される答えはただ一つ――。

(もし俺がその石を奪えばその圧倒的な力は俺の物となるのか?)

園田真理から聞いた乾巧の力は恐らく彼女の世界の仮面ライダーでは最も強いと言っていいとまでいっていた。
そんな男を更にもう一人加えてもまったくもって歯が立たないとまで言わしめるその実力に志村はある種心躍っていた。
無論敵に回ればそれ以上怖いものはないだろうが味方にすればこれ以上心強いものはない。
それにそんな忠実で強力な僕がいればG4の装着もスムーズになり、今までの彼の問題点はほとんど改善される。
一応、ライジングアルティメットは戦いの最中一度も声を発さなかったと巧が言っていたため、彼から情報を得ることは難しい、或いは支配下に置いている限りは不可能だろう。
しかしそこまで強い僕が手に入り、しかも首輪を解除することができたなら今までの自分の他者の隙を狙い殺すではなく、純粋に他の参加者に会ったらそれを殺すという風に少しこの殺し合いに積極的になるのもいいかもしれない。
志村は気付けなかった、いいこと続きで少し注意力散漫となった彼を鏡の中から見つめる複数の影がいたことに。



東京タワーが爆発した後、数体の仲間を失ったゼールたちはその原因ともいうべき男を追っていた。
男の名は志村純一、東京タワー爆破後、二人の女性を襲い殺害した彼に全くもって襲える隙が無かったわけではない。
というよりむしろ彼が警視庁についてからはいくらでも彼を襲える瞬間はあった。
傷を負っているとはいえ、未だ残る仲間たちとともに鏡の中から奇襲すれば恐らく純一になすすべはなかっただろう。
なのに何故彼らは乾巧という新しい餌が増えた今も純一を襲おうとしないのか。
それは純一の持つある一枚のカードの持つ効果のせいであった。

――SEAL――

それは鏡の世界に存在するミラーモンスターの攻撃を防ぐための封印のカード。
たとえその効果に気づいていないものが持っていようと、ただ持っていればその効果を発揮する。
しかし、何故それを志村が持っているのか?
元々それはこの場において紅渡が殺害してしまった男、加賀美新の持っていた物であった。
このカードは説明書を読んだ園咲冴子が護身用に自身のポケットにしまっていたものであり、それゆえ紅渡もその存在に気づかぬまま彼女のそばを去ってしまった。
そして、その些細な見落としが今、志村純一の命を支えているのだ。
もし、今後戦闘において志村が自身を狙っているモンスター、及び自身の持つ封印のカードがそれの出現を邪魔しているのだと分かり、彼がこのカードを何かしらの方法で消去、或いは気付かずとも誰かの手で破壊されてしまった場合、その時にはガゼールたちは情け容赦なくその場にいるものを食らいつくすだろう。
その時をひそかに待ちつつ、ゼールたちは傷を癒していた。

――それぞれ違う思惑を抱いた二人の男に複数のモンスター――
――それらすべてを乗せたGトレーラーは走る――
――これから先に待つであろう、究極の闇とそれに相反するこの場での希望に向かって――

453狼と死神 ◇nXoFS1WMr6 代理投下:2011/12/12(月) 10:38:35 ID:dQsv0hJI0
【1日目 夜中】
【E−6 道路(Gトレーラー内部)】

【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、深い悲しみと罪悪感、決意、ナスカ・ドーパントに50分変身不可、ウルフオルフェノクに50分分変身不可、仮面ライダーファイズに1時間変身不可、右手に軽い怪我と出血(ほぼ完治) 、Gトレーラーの助手席に乗車中。
【装備】ファイズギア+ファイズショット+ファイズアクセル@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×3、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW 、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。世界を守る。
0:天道の遺志を継ぐ。
1:今度こそだれも死なせない。
2:園崎夫妻の仇を討つ。
3:仲間を探して協力を呼びかける。
4:間宮麗奈、乃木怜治、相川始、それと特に村上峡児、野上良太郎を警戒。
5:霧彦のスカーフを洗濯する。
6:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
7:橘朔也、日高仁志、小野寺ユウスケに伝言を伝える。
8:仲間達を失った事による悲しみ、罪悪感。それに負けない決意。
9:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間(フィリップ優先)と接触する。
10:石を持った眼鏡の男(金居)とそれに操られている仮面ライダー(五代)の危険性を他の参加者に伝える。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界、志村の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※志村の血の匂いに気づいていますが、それはすべて村上たちのせいだと信じています。

【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】軽い全身打撲、Gトレーラーを運転中
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 、アドベントカード(SEAL)@仮面ライダー龍騎、ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、トライチェイサー2000A@仮面ライダークウガ 、G3の武器セット(GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GK-06ユニコーン)@仮面ライダーアギト、G4システム@仮面ライダーアギト
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
0:G4に興味、使う機会があれば使う。
1:病院に行き、フィリップを探す。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。
5:ライジングアルティメットとやらを手中に置いてみるのも悪くない。
6:ライジングアルティメットを支配し、首輪を解除したら殺し合いに積極的になるのもいいかもしれない。
【備考】
※555の世界、カブトの世界、キバの世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
 ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
 ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※名簿に書かれた金居の事を、ギラファアンデッドであると推測しています。
※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。
※封印のカードの効果に気づいていません。

【全体備考】
※ゼール軍団は志村を狙っていますが、封印のカードにより今は攻撃できません。
※ゼール軍団が何が何匹死んだのかは後続の書き手さんにお任せします。
※Gトレーラー内にはG4の充電装置があります。
※G4は説明書には連続でおよそ15分使えるとありますが、実際どのくらいの間使えるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※G4を再度使用するのにどれくらい充電すればいいのかは後続の書き手さんにお任せします。
※トライチェイサー2000A、及びG4システムはデイパック内ではなくGトレーラー内に置かれています。

454名無しさん:2011/12/12(月) 10:42:36 ID:dQsv0hJI0
以上で代理投下終了です。

そして◆nXoFS1WMr6氏投下乙です。
たっくんがまさか真理の仇と出会うとは……もしもニーサンが真理を殺した事に気付いたらどうなるのか
今後が楽しみですね!

455名無しさん:2011/12/12(月) 18:44:10 ID:/TzwYlzc0
投下&代理投下乙です。
雑談スレで不幸四天王候補に挙がったりしているたっくんだけど、このロワにおいての死亡フラグである
「ニーサンと二人っきり」に変身できない状況で突入したけど生存した初の人物になったな……
さすが主人公は格が違った。一方で五代さんの扱いはブレがなさ過ぎる。

しかし橘さん達の勘違いが解けた次はたっくんが騙されたかぁ、上手くいかないもんだなぁ。
先に向かっただろうフィリップ組と合わせると病院は12人も結集するから金居組にも対抗できる……のか?
でも12人中三人がステルスマーダーだし、ライアルはノーカンでも他の三人にタイマンで勝てそうなのがニーサンと危険
対主催の乃木しかいない……たっくんともやしがいる時点で病院でのライダー大戦勃発は確定事項だし、どうなるのやら。

456 ◆nXoFS1WMr6:2011/12/12(月) 20:00:53 ID:ktnN/9Cg0
代理投下本当にありがとうございました。
それに一時投下スレの皆様も期限超過した自分に温かいお言葉をかけていただき本当にありがとうございました。
しかし、一つだけ。
>448と>449の間が抜けてしまっています。
自分で投下できなかった自分が悪いのですが、wiki収録時はお願いします。

457名無しさん:2011/12/12(月) 20:14:17 ID:te1U3URA0
投下乙です。

>それぞれの決意
キバーラがここまで考察するとは……正解かどうかはともかくとしてやっと進展……しているのかなぁ?
で、橘組の勘違い解消や、涼の誤殺(というより対主催を仕留めた)発覚絶望劇場もあったりと筋も進んでいる……
た だ し こ こ か ら が ほ ん と う の じ ご く だ

>狼と死神
巧は志村と出会って騙され展開で病院か……社長が拘わっている以上致し方ないとはいえ良太郎涙目だなぁ……
で、ゼール軍団を引き連れて病院って……一歩間違えたら混戦ってレベルじゃねーぞ。

と、 ◆nXoFS1WMr6氏、一時投下スレでの書き込みに対して何かコメントは無いのでしょうか?
今回は一応、仮投下スレの方に投下しているから良いのですが、氏の期限に対するスタンスはいささかいい加減です。
プライベートがある以上、遅れる事は仕方ないとしても、遅れるなら遅れるで迅速な連絡をして欲しいのですが?

458 ◆nXoFS1WMr6:2011/12/12(月) 20:29:27 ID:ktnN/9Cg0
申し訳ありませんでした。
期限について些かいい加減なところがあったのは認めます。
しかし、言い訳と言っては何ですが、自分は一時投下スレの>574さんの意見で
2.期限内に仮投下してOK、但し可能な限り本投下を行う。
の方で考えていたので(本当に自分勝手で申し訳ありませんが)日曜日の朝のあの連絡でも自分では迅速な連絡のつもりでした。
ですが、一応一時投下スレの方も仰っているように、仮投下の場合、期限内投下が難しいのは事実だと思います。
これが自分だけの意見ならスルーしてもらって構いませんが一応、自分は話し合いの必要があると思いました。

459名無しさん:2011/12/14(水) 17:41:49 ID:SRL6yBLk0
それにしても不死身のアンデッドと余命幾何もないオルフェノクとは面白い組み合わせだな

460名無しさん:2011/12/14(水) 20:23:15 ID:SRL6yBLk0
>>457
でもどっちの病院に向かうとしても社長はともかく良太郎の誤解は解けるんじゃね?
D1にはリュウタがいるしE5には士がいるし

461名無しさん:2011/12/17(土) 08:58:36 ID:fSE62kEU0
>>460
誤解とくなら良太郎の知り合いよりも志村の本性知ってるやつの方が有効じゃない?
こういう場合、良太郎と村上が二人の仲間を殺したところを『この目で見た』といってる志村の発言は信憑性が高くなるし。
なにより渡や亜樹子みたいに仲間が信じてても実際にはゲームに乗ってたなんて例もあるから知り合いの証言というのはそこまであてにならない。

462名無しさん:2011/12/17(土) 09:05:35 ID:yXFW6mx.0
志村の本性知ってるのは・・・金居とムッコロだけか
マーダーしかいないな

463名無しさん:2011/12/17(土) 15:39:33 ID:xGe5QE7s0
金居とムッコロが志村の正体知ってる描写ってあったっけ?
ムッコロは同じジョーカーだから気付けてもいいかもしれないけど、ジョーカーだからって理由だけで気付いたらそれはそれで嫌だな。

464名無しさん:2011/12/17(土) 19:31:36 ID:tG4NE.FMO
あくまで「アンデッド同士だから分かる」程度の話じゃね?

465名無しさん:2011/12/24(土) 21:47:43 ID:x7sa8Qs.0
予約きた

466 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:04:42 ID:UZsnx73.0
これより予約分の投下を開始させて頂きます。

467Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:06:06 ID:UZsnx73.0
「……結局、得たものは何もなし、か」

 呟いたのは乃木怜治。言葉ほどは落胆の籠っていない声だが、フィリップは歯噛みする。
 病院に向かおうと提案したのはフィリップだったが、それを止めたのが乃木だった。彼が言うにはまだ金居との待ち合わせにまで時間がある、それに首輪解除のために異世界の技術を集めるなら、この警察署を一度調べてからでも遅くはあるまい……とのことだった。
 それ自体は事実であり、病院に亜樹子がいるかもしれないというのもフィリップの願望に過ぎない以上、強く反論することはできなかった。

 そうして一つ一つ、警察署内を見て回ることになったが……海東大樹と乃木怜治の両方が、戦う術を持たないフィリップを一人にはできないと、彼との同行を望んで来たことが厄介になった。
 どちらがフィリップと一緒に行動するかで乃木も海東も、表面上はあくまで穏やかにしながら決して引かず、不和が広がりそうであったために秋山蓮の進言もあって四人で内部を捜索することになった。
 そうして四人で隈なく調査し、最後に調べに入ったのがこの地下の実験室のような部屋である。警察組織で独自開発された兵器についての性能実験を主な目的とした部屋だったようだが、残念ながら目的に即したものは何も置かれていなかった。

「――海東大樹。君は何故、ここに入った時に驚いたような表情をしていた?」

 乃木が尋ねたのは、この場にいる男達の中では最もフィリップと付き合いが長く、またその態度に反して最も信用が置けると考えている人物――海東に対してだった。

「いや、僕の知っている世界の警察署と似ていたのに、大事な物があった場所に何もないんだなって思っただけさ」
「僕の知っている世界、か……」

 飄々とした海東の言葉にそう一人で、興味深そうに呟いた後、乃木はフィリップの方に向き直った。

「残念な結果になってしまったな」

 そこで乃木は言葉を区切り、フィリップの表情を見た後、再び申し訳なさそうな表情で口を開いた。

「……いや。提案者として、無駄な時間を掛けさせたことを詫びるべきか。すまなかったな、フィリップ」
「乃木怜治……僕は、そこまで……」
「いや、君が友人である鳴海亜樹子を心配しているのを知っているのに、道草を食わせてしまったからな。ここは謝罪させてくれ」

 尊大な態度と裏腹に、乃木はそう素直にフィリップに謝る。フィリップは思わず彼へと一歩近寄った。

「気にしないでくれ乃木怜治。仲間のことが心配なのは僕だけじゃない。だから、僕だけが甘えたことを言うわけにはいかない。君の提案は確かに徒労に終わってしまったが、理に適っていて、皆のために必要なことだった。同意しておいて結果が悪かったからと君を責めるわけにはいかない」

 フィリップの許容を聞いて、乃木怜治は「すまない」ともう一度だけ謝って来た。
 初対面が高圧的であり、亜樹子が殺し合いに乗った可能性をフィリップに提示したことから、フィリップは彼にあまり良い印象を抱いていなかったが……一方で乃木はそのことでフィリップのことを思い遣ってか、こんな風に気遣いを見せてくれていた。

「――それにしても。わざわざ上の電気を消す必要なんてあったのか?」

 乃木への印象をフィリップが改めていた頃、蓮がそう疑問を零した。

「秋山蓮。全員で固まって行動している以上、この上は無防備だ。わざわざ周囲にここに人がいますよと宣伝することもあるまい――参加者は俺達のような真っ当な人種だけではないのだからな」

 蓮に対し、フィリップとの会話で見せた心配りなどを感じさせない口調で、乃木がそう答える。

「だが、協力的な参加者が通りかかっても俺達に気づかず、合流できない可能性があるんじゃないか?」
「一理あるな。それは確かに惜しいことだが……背に腹は代えられん」
「まあ、ここを通り過ぎたなら、時間を考えると行先は病院だろうね」

 そこで、E-4エリアの方を狙い撃つかのように指を象り、口を挟んだのは海東。

「まだ余裕がないわけじゃないけど、乃木が言うには待ち合わせしている金居くんとやらはどうも怪しい……だから先に病院に向かって準備しておきたいということも考えると、そろそろ僕らも出発した方が良いんじゃないかな?」

 秋山くんが心配している行き違いになった他の参加者とも合流できるかもしれないしね、と海東は付け足す。
 彼の言葉に異論を挟む者はなく、四人は地下から一階へと戻った。

468Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:06:44 ID:UZsnx73.0
 先陣に立つのは乃木怜治。単純に彼がそういうポジションを好むから――だけではなく、本人が危険人物からの不意の襲撃にもフィリップ達を護りながら対応し得る自信を持っているからだそうだ。
 その直ぐ後ろにフィリップ、海東、蓮と続く。皆が戦闘力のない自分を優先してくれていることに、フィリップは申し訳ないという想いを禁じえない。

(――翔太郎。君はどこにいるんだ)

 フィリップが求めるのは頼れる相棒の姿。状況に即さぬシュラウドへの反発心に大きく影響を受けているが――彼としかダブルにならないと決めた以上、フィリップがこれ以上同行者の足手纏いにならないためには左翔太郎との合流は至上命題だった。

 そうして裏口に隠してあったオートバジンを回収し、警察署から離れる時、彼らは結局気付かなかった。
 警察署の前に放置された、二台の車両――Gトレーラーとトライチェイサー、それらに変化が生じていることに。

 時刻は20時半過ぎ――死神が巨大な箱の中に潜んでから、未だ10分と経過していない時であった。







 それからおよそ40分後――ちょうどF-5エリアに足を踏み入れようかと言う時に、聞き慣れた耳鳴りがしたと思い、秋山蓮は振り返った。

「――どうしたんだい?」

 直ぐ前を歩く海東がそう疑問の声を投げて来たが、蓮はいや、と首を振った。

「――気のせいだったようだ」

 そうナイトのデッキと、警察署から持ち出して来た鏡の欠片をそれぞれ握り締めながら、蓮は正面を向き直る。

 一瞬、元の世界で嫌と言うほど耳にしたあの音――ミラーモンスターの気配を感じたと思ったが、改めて意識しても探り出すことができない。海東に告げた通り、気のせい――少なくとも今の自分達には関係ないことだと蓮は結論付ける。そうして先を行く乃木達に続くように、蓮も病院に続く道への歩みを再開しようとして、今度こそ確信を持って振り返った。

 後方を仰ぎ見たのは、またミラーワールドの存在を感知した、からではなく。
 自身の黒い姿を白く染めた、眩い光に気づいてだ。

「……あれは?」
「警察署の前に停めてあった車か……」
「Gトレーラーだね」

 オートバジンを手放した乃木が、疑問の声を上げるフィリップを追い越し減速する大型車両へと身構える海東の横に並ぶ。彼らよりも数歩前の位置に居る蓮は下がり際、Gトレーラーの運転席と助手席、その両方に人が乗っていることを確認した。

 三人の男が背後の少年を庇う形を取ったと同時、蓮が元居た位置よりさらに数メートル向こうでGトレーラーのタイヤが路面を噛み、その巨体を停車させた。
 照明が弱められ、獣の唸り声のようなエンジンの重低音が数秒続く。蓮が緊張しながら対峙していると、やがてその音は消えた。

 代わりに、その両端からそれぞれ一人の男をGトレーラーはその巨体から吐き出した。

「――何者かね?」

 そうどことなく高圧的な乃木の問いに、背の低い方の男が両手を上げて歩み寄る。

「突然申し訳ありません。でも、こちらに害意はありません」

 そう訴えながら一歩近づき、逆光が晴れて明らかになった男の顔を見て、海東大樹が息を呑んだのだが――生憎彼との間に乃木がいたため、また現れた二人の男への警戒に気を配っていたために、蓮がそれに気づくことはなかった。

「俺は、志村純一って言います。この人は、乾巧さん……殺し合いには乗っていません」

 そうして如何にも誠実そうな笑顔を浮かべる男と――どことなく感じの悪い顔つきの、茶髪の青年。二人は蓮達から、数歩の距離を置いて立ち止まった。

469Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:07:28 ID:UZsnx73.0
 一方蓮達は、聞き覚えのある名前に思わず反応してしまった。

「乾……巧?」

 それは第一回放送の直前まで、蓮達が共に行動していた草加雅人が口にしていた男の名。
 彼が信用に足ると言っていた、仮面ライダーファイズだった。

「――何だよ」

 蓮やフィリップの視線に、どこか居心地が悪いかのように乾はそう返す。

 本来なら、信用できると聞いている人物との合流は――優勝狙いとはいえ、操られた五代に対抗すべくこの集団に潜んだ蓮にとっても本来は望ましいことだが、自分達を裏切り、騙していた草加雅人の言葉をどこまで信用して良いのか――その不安が、乾を値踏みするような目になってしまったのだろう。

「――いや失敬。殺し合いを否定し、愚かな大ショッカーの諸君を叩き潰そうと言うのは我々も同じだ」

 そこでまるで代表のように歩み出たのは、傲慢な態度を崩さぬ乃木怜治。どこか皮肉な笑みを浮かべて、二人の参加者を睥睨する。

「こちらも名乗らねばならんな。俺は乃木怜治――」
「――乃木怜治だと!?」

 乾巧は、乃木が名乗った瞬間にそう強い敵意を剥き出しにした。

「どうかしたかな?」

 そうあくまで軽く、穏やかに応対する乃木に、乾は夜目にもわかる険しい表情と、立ち昇るほどの怒りで以って一歩詰める。

「――殺し合いに乗っていないだと? 天道の世界を征服しようとしたワームの言うことなんて、信用できるかよ!」

 乾の弾劾を受けて、乃木が少し視線を鋭くし、フィリップや志村と名乗ったもう一人の男が驚いたように乃木を見た。
 蓮自身は、あの剣幕で告げられた乃木の秘密に対し海東がまったく反応を見せていない方に注意が行ったが。

「……なるほど。君は天道総司と会っていたのか」

 乃木はそう静かに呟き、それから可笑しそうに鼻を鳴らす。

「だが……我々も、君のことを完全に信用できるわけではないのだよ」

 何、と眉間に皺を刻む乾に対し、乃木は背後に立つ蓮達を指し示す。

「俺自身に面識はないが、彼らは放送の前まで草加雅人と行動を共にしていた――その彼から、君のことを信用できる相手だと聞かされていてね」
「草加と!?」
「だが、彼は裏切った――隙を見て彼らを出し抜こうと、密かに凶器を集めていたのさ。目的は、優勝による園田真理の蘇生だろう」

 大ショッカーの言葉を信じるとは愚かな男だ、と芝居気たっぷりに乃木が笑う。

「嘘を吐くんじゃねえ!」

 対して、乾は吠えた。乃木にさらに一歩詰め寄り、胸倉を掴む。

「あいつは前に真理が死んだ時も……人々を護るっていう使命を優先した。今更あいつが、真理が死んだからってそんな真似に走るわけがあるか!」
「――だが、同行者を欺いてまで彼らの武器を自分の手元だけに集めていたのは事実だ。協力し合い、殺し合いを打倒しようという人間が、何故そんな真似をする必要がある?」

 冷めた視線のまま乃木が乾の腕を掴み、力んで震える彼の手を自分の首元から無理矢理引き剥がさせる。

「そんな草加雅人の仲間だと言う時点で、君が嘘吐きじゃないと言う保証はない――それと俺がワームだというのも、理由があって元の世界で人類と争っているのは事実だが、今は大ショッカーを潰すため、君達異世界の人間とも協力したいと言っているのも本当だ」

 乾の手を掴んだまま乃木が振り返ったのは、後ろに立つ蓮達三人。彼は悲しそうな表情を作り、続ける。

470Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:08:07 ID:UZsnx73.0
「――それでもやはり、人間以外の者を信じることはできないかね?」
「いや――信じるよ、乃木怜治」

 答えたのはフィリップだった。彼は一歩前に出て、乃木と乾の間に立つ。

「君の世界の事情については、後でもう一度じっくり聞かせて貰う――その時にまた、別の答えを出すかもしれないが、今は君を信じる」
「……ありがたいよ、フィリップ」
「その代わり、乾巧の話も聞いてあげて欲しい」

 フィリップに言われて、乃木は掴んでいた乾の手を解放した。彼は丁寧に手放したが、乾が乱暴に乃木の手を振り払ったため、粗雑な対応に見えたかもしれないが。

「――確かに草加雅人は嘘つきだったけど、乾巧が信用できる人物だと言うのは本当だと思うよ」

 そこで口を挟んだのは海東だった。

「おっと、別に乃木怜治が信用できない、と言いたいわけじゃないよ」

 視線の鋭くなった乃木に諸手を上げて見せ、海東は飄々とした様子で告げる。
 そこで蓮も口を開くことにした。

「……他人を騙すには、ある程度真実を混ぜる方が良いからな。乾巧が信用できる人間だと言う話は、事実だという可能性が高い」
「――ごもっとも、だな。失礼した、乾巧」

 乃木は慇懃無礼に乾に謝罪し、乾はそんな彼に対し顔を歪ませるが、横から彼の同行者が制止に入る。

「乾さん、落ち着いてくれ。確かにいきなりこんな目で見られて、嫌な気持ちになるのはわかるが――今はそんなことをしている場合じゃないだろ!?」

 真摯に訴える志村の姿に、舌打ちを交えながらも乾は頷く。彼は足元に視線を巡らせた後、何かに気づいたように顔を上げた。

「――待ってくれ。それじゃ草加は……?」

 彼が気にするのは当然、同郷の仲間の身。
 ステルスマーダーであるということが同行者に暴かれた以上、草加のその後は真っ当な道ではないだろう。蓮達からすれば勝手に見えても、乾の反応は当然と言えた。

「草加雅人は……」

 フィリップは、放送の直前に起きた悪夢を語る。彼らの頼れる仲間であった五代雄介が何者かの罠に嵌り、地の石によって操られてしまったということ。そうして変貌した五代を抹殺しようと、躊躇わず草加雅人が向かって行き――恐らく、カイザを遥かに凌駕したライジングアルティメットを前に敗北しただろうということ。

「ライジングアルティメットだと……」

 そこで乾が口を開いた。そうして呆然とした様子で、右手で額に当てる。

「じゃあ、あのカイザギアは……やっぱり草加の……」
「――っ、乾巧! ……君は、五代雄介と会ったのか?」

 平静を欠いた乾の反応からその事実に気付いたフィリップの問いによって、蓮達に緊張が走る。

「――五代さんなのかはわかりませんが、乾さんはライジングアルティメットと呼ばれた仮面ライダーと戦ったそうです」

 沈痛な面持ちの乾に代わり、彼の同行者である志村純一がそうフィリップに答えた。

「その際に、カイザギアという普通の人間が変身すれば死んでしまうベルトを使い、天道総司さんが自分を犠牲に乾さんを助けたそうで……」
「――待て。今君は、天道総司が死んだと言ったか?」

 聞き捨てならない、という風に反応したのは乃木怜治だった。

「ええ、悲しいことですが――」
「あの天道総司が……、か」

 あの乃木怜治が、そう噛み締めるように呟いた。
 悲しみの情などこれっぽっちも含まれてはいなかったが、その声に含まれた緊張は蓮が知る限り彼が見せた最高の物だった。

「――乾巧、その時の詳細を教えて貰えるか? 君らの装備はどういう状態だった?」

471Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:08:47 ID:UZsnx73.0
「乃木怜治、どうしたんだ?」
「何より、ライジングアルティメットを操っていたのはどんな人物だった?」

 フィリップの問いさえ無視して、乃木はそう乾に問い詰めた。

「ライジングアルティメットという呼称がわかるのなら、それを呼んだ人物――つまりは、五代雄介を操った張本人も君は見たはずだ」
「乃木怜治、それは僕も興味深いことだけど……今の乾巧は辛そうだ。何よりまずは互いの情報交換も満足に済んでいないんだ。最低限、君以外の僕達も名乗るべきだろう」
「……そうか。そうだな、フィリップ」

 意外なほどにあっさりと、乃木はフィリップの制止に応じる。
 彼がフィリップにだけは態度が違う――それは蓮の勘違いかもしれないし、仮にそうでも単純に胸中を秘めたままの蓮自身や海東よりは、明確な正義を示すフィリップ少年の方が乃木も感情移入し易いだけかもしれないが、蓮がそんな印象を抱くのも無理はなかった。
 ましてや彼はワーム……つまるところ人間ではないらしいということがわかった以上、彼が首輪の解除に最も近いフィリップを必死に懐柔しようとしているのではないのかと、疑いの目を向けてしまう。

「聞き間違えじゃなかったのか!」

 その蓮の思考を遮ったのは、歓喜の表情を浮かべた志村だった。

「――フィリップくん、俺達は君を探していたんだよ!」







「――それじゃあ、クウガを操っているのは……」
「怪しいとは思っていたが……やはり殺し合いに乗っていたか」

 情報交換の後、海東大樹に続いて呟いた乃木が表情を歪めた。

「金居ィ……ッ!」

 乾巧から改めて語られた情報により、彼らはライジングアルティメット――五代雄介を地の石によって操った張本人が誰なのかを解き明かすことができていた。

 ――その情報は、純一にとっても望むものだった。

(まさか敵は同じ世界の参加者だとは……な)

 冴子の死を知り悲痛な表情を浮かべたまま黙り込んでしまったフィリップに、彼の姉を護れなかったことを謝り何とか励まそうとする善人の顔を被ったまま、純一は考える。

(恐らく奴はギラファアンデッド……同じ世界の住人とはいえ、協力は難しいだろうな)

 アンデッド同士である以上、このような場でも純一と金居は敵であることに変わりない。無論世界保存のために協力することはできるかもしれないが、そのためには最低限、志村純一という善人の仮面を脱ぎ捨てねばならない。しかもそれで確実に地の石を有する金居との同盟が成立するとは限らないのだ。純一自身、機会があれば本来の敵である金居のことを始末したいとすら思っているのだから。

(……もっとも、『志村純一』として振舞えるのも後どれぐらいか)

 先程の情報交換の場において――あるいは首輪解除の希望である以上に、フィリップ達と合流できたことは純一にとって大きな意味を持つ、ある一つの要素があった。

(まさか、既に姿を見られていたとはな……!)

 フィリップが乾に見せる物があると言って提示したのは、園田真理を殺したと目される白い怪人の姿。赤いフェイスカバーに、鮮血滴る巨大な鎌を片手で握るそれは――志村純一の真の姿、アルビノジョーカーの物だった。
 その写真を見せられた瞬間、衝動的にこの場に居る全員を殺してしまいそうだったが、身体が動き出すのを純一は必死に抑えた。実際問題、油断し切っていた乾とフィリップを仕留めることは簡単だったかも知れなかったが、それでも純一の行動を制したのは二つの視線だった。

 乃木怜治と、海東大樹――奴らからは、一切の隙が感じ取れない。
 隙がない、というのはある意味では間違いかもしれないが……少なくとも乃木怜治は、その傲慢な振舞いは隙だらけに見えても、この男にとってはそうではないと、純一は本能的に悟っていた。何より、自分がヘマを踏んだ覚えなどないが――こいつは先程から、常に純一の動きを視界に収めるように立ち回っている。村上峡児の時のように、純一が警戒されているのは明白だった。こいつもワームという怪人らしく、どうも純一は人間以外の相手との化かし合いは上手く行かないようだ。

472Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:09:45 ID:UZsnx73.0
 海東大樹の方は、もっと露骨に純一を見張っていた。乾が乃木をワームだと告発した際も、その後の情報交換も、常に純一を視界に収めるどころではなく、純一に視線を向けていたのだ。乾から情報を聞き出していた今も、常にこちらを見ていた。
 二人の男から疑いの目を向けられているという状況は、この前に潜んでいた集団の状況を苦い思い出と共に思い起こさせるものであり、純一は内心舌打ちする。

「……村上峡児。野上……良太郎!」

 まさに今頭に浮かべた名を、傍らのフィリップが怒気と共に吐き出した。

「僕は必ず……君達を捕まえてみせる!」

 彼は風都の探偵だという。こんな状況下でも、肉親を奪われたのだとしても、憎しみに呑まれて仇の死を望むような人種ではないというのは、なるほど彼は立派な善人だろう。

「――フィリップくん。君のお姉さんを助けられなかった俺が、こんなことを言う資格はないのかもしれない。それでも、その手伝い、俺にもさせてくれ!」

 ――だが真犯人にあっさり騙されるのは、ただの道化でしかない。

 こちらの思惑も知らず、純一の熱弁に彼は少しだけ柔らかくなった表情で、「ありがとう」と返して来た。
 そんな少年に笑顔で応じながら、純一は今後のプランを練っていた。

 乾が期待していたフィリップでも、首輪を解除できる確証はないらしい。だが彼は既に首輪の内部構造について詳細を得ており、さらにいくつかの考察も纏めていた。純一の嘘に簡単に騙された甘い面もあるが、こと技術に関しては間違いなく傑物ということだろう。
 つまり、首輪を今すぐ外せるというわけではないようだが、フィリップが首輪の解除に最も近い鍵であることは確かなようだ。妙にフィリップに対して態度が甘かった乃木怜治も、おそらくは彼が首輪を解除し得る人材であることを見越し、この少年を懐柔しようとしているのだろう。となれば、奴はライバルと言うことになる。
 理想を言うならば、フィリップに取り入り、彼の信頼を得て誰よりも先に純一の首輪を外させられれば最高だ。そのまま即座にフィリップを殺害し、純一以外の参加者の首輪を解除できなくしてやれば、彼らと違って変身に制限がない――さらに言えばアンデッドとしての不死性を取り戻した純一が、この殺し合いにおいて絶対的な優位に立てる。
 また、逆に純一の正体が暴露される時も、やはり真っ先にこの少年の命を狩り取らねばなるまい。正体がバレればフィリップに純一の首輪を外させることができなくなる以上、彼の存在は他の参加者を有利にする危険因子でしかないからだ。

「――妙だね」

 純一が瞬時に思考を巡らせていると、不意に、海東が奴にしては真剣味を帯びた声でそう呟いた。

「どうしたのかね?」
「野上良太郎――僕はその名前を知っている。そんなことをする仮面ライダーだとは考え難い、ということさ」

 乃木の問いに答える形で発せされた思わぬ言葉に、純一の中に衝撃が走る。

(――何……だとっ!?)

 名簿では、奴と野上は別の世界だったはずだ――そう思わず海東へと目を剥いた純一だったが、同時にフィリップが彼に声を掛けていたおかげで、幸いにもそちらに注意が集まり善人の仮面を脱いだ顔を見られることはなかった。

「海東大樹……志村純一の言うことが嘘だと言いたいのかい?」

 だがそれに安心する暇もないフィリップの言葉に、純一は冷や汗を掻く。

 ここで嘘が見抜かれれば、最悪この五人全員と戦うことになる。いくら純一でも、そうなればただではすまない。
 隙を見せている奴らだけでも今殺すか? と純一は悟られぬように周囲を見渡すが、既に乃木が純一の一挙手一投足を完全に監視していることに気づく。油断し切ったフィリップなどを攻撃した隙に、奴から手痛い反撃を受けることは明白だ。
 かといって隙がなく、見るからに強敵である乃木に最初に仕掛けたところで仕留められまい――そうなれば、結果は五人からの袋叩きだ。

「いや、そういう意味じゃないさ」

 袋小路に追い詰められ、一か八かの賭けに出ようかとしていた純一を踏み止めさせたのは他ならぬ海東の言葉だった。

「志村くんの言う野上良太郎は、電王に変身する二十前後の青年……僕の知っている野上良太郎も電王だが、まだ十代前半の子供だからね。よく似た別人と考える方が自然さ」
「――ならどうして君は、先程わざわざ妙だと口にした?」

473Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:11:21 ID:UZsnx73.0
 そう質問したのはまた乃木だった。今度は真面目に理解できない、と言った顔をしている。

「同じ名前を持った同じ仮面ライダーに変身する、別世界の人物――心当たりのある彼らは、僕の知る限りだと似通っていたからね。完全に同一の名前を持つのに、見た目も中身もまったく違うのかなって思ってさ」

 海東が言うのは、彼の仲間だという二人の仮面ライダークウガ……五代雄介と小野寺ユウスケのことだろう。どちらも『志村純一』と同じような、正義の仮面ライダーだと言う。
 それと比べて二人の仮面ライダー電王――少年と青年の野上良太郎は違い過ぎる、ということが海東には気がかりだったのだろう。

「それは気にするようなことだったのかね? 君の知る例が偶々そうだっただけ、という可能性の方が高いだろう」
「……そうだね。その通りだ。誤解を招くような物言いをしてしまったが、皆許してくれたまえ」

 乃木の言葉に、海東はそう言葉だけ聞くとあまり反省していないような謝罪を口にした。

 一方で純一は、実際には二人の野上良太郎が似ている――といえなくても、少なくとも殺し合いに乗らない人物であることは共通していると知っている。二人の外見的特徴の時点で大きな差異があり、間違っても海東に同一人物であり純一が嘘を吐いている、などと認識されなかったことに胸を撫で下ろしていた。

 いずれにせよ、アルビノジョーカーの姿を知っている彼らをこのまま野放しにするつもりはない。

 これまで、ジョーカーの姿を見た者は全て死んでいる。死神の姿を見るのは、その者の命が潰える瞬間だけでなければならないのだ。それが生者に知られているなど論外だ。今はまだ純一と結びつけられていないが、さっきみたいな拍子にいつ嗅ぎ付かれるかわかったものではない。
 邪魔な村上達の悪評を流すために今は生かすが、彼らが生きていることで純一が被る不利益がメリットを上回った時は……彼は殺意を刃の形に練り上げ、その上で鞘に隠す。
 下手に吹聴させないためにも、言い触らされた場合でも誰にジョーカーの姿を知られたのか――それを確認するために、しばらく彼らと同行することはもはや確定事項だった。
 一先ず、彼らと共に純一が目指すべき場所は、やはり……

474Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:12:16 ID:UZsnx73.0
「……村上達だけじゃない。今は、金居だ」

 純一が考えていた通りのことを、フィリップが口にした。

「彼から雄介を助け出さないと」
「――となると、病院に行くということに変更はないだろうな」

 仲間を想うフィリップの真摯な主張に、乃木がそう具体的な方針を付け足す。
 ――純一の、期待通りの物を。

「金居を放置して奴に手札を与えるよりは、病院に来る可能性があるのなら罠を張る方が利口だろう。殺し合いに乗った愚か者だとわかった以上、遠慮することはない」

 待ち合わせしていたという割には、乃木の言葉は金居への遠慮と言ったものが一切ない。元々、少しでも自分に都合が悪くなれば潰すつもりだったのだろうと純一は推測した。
 殺し合いに乗っているかどうかはともかく、こいつはフィリップ達のように甘くはない――危険な相手だと、改めて認識しながら純一は一歩前に出て、力強く主張する。

「ええ。まずは五代さんを助け出しましょう!」

 病院に向かい、おそらくそこに後から来るだろう金居をこのメンバーと共に迎え撃つ。それは純一にとっても好都合なことだ。金居から地の石を奪える可能性が生じると言うのは無論、そこでの乱戦を利用して乃木や海東と言った厄介な奴らを始末する機会も得られる。金居が来なくても病院は既に激戦区である可能性は高いが、それはそれで他の参加者を減らしつつ乃木や海東の隙を誘うなど、最終的な勝利のために利用は可能。
 正体の秘匿とそのための目撃者の抹殺・フィリップの扱い・村上と野上の悪評を広げることなど、常に頭の中で整理なければならない問題は多いが、少なくとも何もせずどこにも行かずでは事態は好転などしないだろう。病院に行くことで地の石入手の可能性が生じるなど、それが優勝に繋がるのなら、虎穴に入らずんば、という奴だろう――何故虎なのかは知らないが。
 純一の真摯な訴えに、乾は強く頷いた。

「ああ。このまま放っておいたら、今病院に居る奴らが危ねえ……天道なら、迷わず行くはずだ」
「――もしも既に病院が戦いの舞台になっていたらどうするつもりだ? 後でライジングアルティメットとの戦いを控えているのに、わざわざ消耗するのか?」

 口を挟んだのは秋山だった。乃木怜治が乾に天道総司について詳しく聞いたため、その過程で何故カイザに変身する必要があったのか、という疑問の声が上がり、そこで彼らが変身制限を知らなかったという間抜けな事実が浮き彫りになった。

 既にそれを知っている乾が居なければ黙っていられたのだが――そうすれば、この高慢な乃木も軽薄な海東も、もっと楽に殺せるというのに。

「――君達人間諸君には辛いことだろうが、状況によるとしか言えないだろうな」

 乃木は――実際は反応を伺うためだろうが、フィリップを気遣うようを一瞥して呟く。

「敵はあの天道が、本気を出せない状況だったとはいえ歯が立たなかったような相手だ。殺し合いに乗るような愚か者ならば、放置して金居にぶつけてやる方が良いだろう。――場合によっては、友好的な参加者を見殺しにしなければならないこともあり得るな」

 その主張にフィリップが申し訳なさそうに乃木を見るのを、純一は視界の端に収める。
 実際には残酷だなど夢にも思っていないだろうが、直前に少年を気遣う姿を見せたことや己が人外であることの強調で、乃木は人間ではないことを理由にして敢えて嫌われ役を引き受ける優れた人格の持ち主であると周囲に思わせようとしているのだろう。
 無論、純一の他にも勘の良い者達にはこれが白々しい芝居だと勘づかれているかもしれないが、直前の視線で乃木が最も利用したい相手だろうフィリップにそれとなく主張したことで、本丸には十分に自身の偽りの姿を印象付け、好感を得る結果に繋げてみせた。
 単に蓮の言葉に対する彼の反応を観察するための一瞥に、偽りの気遣いを混ぜただけで、だ。

 既にヒトに非ずと言う、対人での交渉に不利な事実をイレギュラーの乾に暴かれたにも関わらず、自身の人間蔑視も、本来の冷血さも表に出したままここまでこなすとは――

 ジョーカーの姿を厄介な奴に知られてしまっていたものだと、純一は内心舌打ちした。

「ふざけんじゃねえ!」

 そこで乃木に反発を見せるのは乾だ。元々乃木を敵視している上、演じているだけの純一とは違い本物の正義の仮面ライダーであり――天道総司の犠牲で生き残った彼には、これ以上善良な者を見殺しにする可能性など受け入れられないのだろう。
 ――こいつは本当に利用し易いなと、内心今度は嗤う。

475Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:13:02 ID:UZsnx73.0
「てめぇ、何のために殺し合いを止めようって考えてるんだ、乃木……!」
「――無論、意味のない犠牲を出すなど愚かしい……そして殺し合いなどを強要して来る愚かな大ショッカーの諸君を許せないと思ったから、だが?」
「だったらてめぇは! どうして誰かを犠牲にするようなことを平気で……!」
「――俺は乃木に賛成だな」

 再び、乾の言葉に反発するように秋山が口を開く。
 彼の声色は微かに怒りを含んでいるような気がしたが――興奮している乾にはそのことが判別できた様子はないと純一は見る。

「聞くが乾、天道とやらの犠牲に意味はあったのか?」
「秋山蓮!」

 フィリップが強く窘める声を出したのに、純一も続く。

「秋山さん、何てことを言うんだ! 俺は天道さんを知らない、だけど彼はその命を犠牲にして、乾さんを助けた立派な仮面ライダーじゃないか!」
「そうだな……だったら乃木が言うのも、天道と同じ、意味のある犠牲じゃないのか? 何も犠牲を出さずに終わるような戦いじゃないだろ、これは」
「――っ、てめぇ!」

 純一の予想通りの秋山の返答に、激昂した乾が殴りかかった。

「待つんだ乾さん!」

 拳が振り下ろされる寸前、必死に乾にしがみ付きながら、そう純一は叫びを上げる。

「秋山さんが言っていることは――悔しいけど、事実だ!」
「志村――っ!」
「俺は……俺は、護れなかったんだ! あきらちゃんも……冴子さんも、一人も……!」

 涙混じりに、消え入るように訴える純一の様子に、興奮していた乾が平静を取り戻す。

「俺は、人を護るために仮面ライダーになったのに……誰も、女の子一人、護れなかった! 俺の助けが必要だったはずの人達を、俺は救えなかったんだ!」
「志村純一……」

 フィリップの同情を含んだ憐憫の声に、内心で純一は頬を歪めつつ、あくまで外見では涙を浮かべ、顔を皺くちゃにしながら、必死に乾に、その周囲の人間に言い聞かせる。

「ここで俺達がこうして言い争っている間にも、この会場のどこかで誰かが苦しめられているかもしれない……だけど俺は、その人達を救うことができない……できなかったんだ……!」
「志村、おまえ……」
「悔しいけど現実問題として、犠牲を出さないなんて無理だって、俺は認めるしかない……だけど、それでも!」

 そこで純一は双眸に涙を湛えたまま、秋山や乃木の方へ、強い意志を浮かべて告げた。

「……それでも、一人でも多くの人を護りたいんだ、俺は。きっと沢山の人を取り零す。その現実から目を逸らすなんてこと、俺にはできない。それでもこんなところで言い争いなんかして、届くはずの命が失われるなんて耐えられないっ!」

 掠れたような絶叫を上げ、それでも純一は声を出すことを止めない。

「今俺達がやるべきなのは、仲間割れなんかじゃないはずだ! 確かに犠牲は避けることができない。最終的に殺し合いを止めるためには、乃木さんの言うような、最悪の事態を考えなくちゃいけないことだってある……それでも、俺は! その犠牲を一つでも減らすために戦いたいんだ!」

 本当なら、そのためになら命だって惜しくない――ぐらい言っておけば、甘い奴らにはさらに効果的だったかもしれないが、かつてそれで野上良太郎に言い負かされた屈辱を、純一は忘れてはいない。
 やり過ぎなくらいの善人振りでは、逆に足を引っ張る結果にもなり兼ねないということだ。既に純一のことを警戒している輩がいる以上、その辺りの立ち回りは慎重にならざるを得ないだろう。

「だから、頼む乾さん……俺の前で、意味もなく争うのはやめてくれ……まして、いくら酷いことを言われたからって、暴力なんか振るっちゃいけない……俺達仮面ライダーの力は、誰かを傷つけるためじゃない――人を護るためにあるんだから」
「志村……」

 純一の涙ながらの訴えに、数秒視線を絡ませた乾は罰が悪そうにそっぽを向いた。

「……悪ぃ」
「良いんだ、わかってさえくれれば……」

 そう恥ずかしそうに目元を拭いながら、純一はほくそ笑む。

476Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:13:43 ID:UZsnx73.0
 今の暑苦しい芝居で十分、乾やフィリップの純一への印象を良い物にできただろう。さすがに乃木がこれでお目零しをくれるとは思えないが、彼と違って予防線も張らずに犠牲があって然るべしといった態度を見せた秋山に全幅の信頼を置くわけにも行くまい。彼を少しでも気にして、その分純一への警戒を弱めてくれれば儲け物だ。
 その秋山も、乾に謝りこそしないが居心地が悪そうだった。そんな様子を見せるということは、彼もまた純一のことを『善人』だと錯覚した、ということだろう。

「――ま、乃木が言っているのはあくまで最悪の場合だけどね」

 おおよそ、先の乾の暴走を自分の利益へと化した純一だったが――その彼にも底が見えない男の一人が、そう口を開いた。

「乾くんや志村さんのおかげで変身に制限が掛かっていること――その制限は同一人物が同じ姿に変身することに掛けられたものだということはわかったんだ。それならせっかくこれだけ頭数が揃ったことだし、それぞれの支給品を合わせればもしクウガを取り戻す前に戦いに巻き込まれても、消耗できる戦力ぐらいは捻出できるんじゃないかな?」

 海東が口にしたのは自身にとって厄介な主張だと、純一は舌打ちした。

「賛成だな。忌々しい変身制限とやらには俺も頭を悩ませていたところだ。リスクがあるとはいえカイザギアのようなものがあるなら、支給品にもう少しデメリットが抑えられ、資格者を選ばない変身アイテムがあっても良いはず……是非ともその恩恵にあやかりたいものだ」

 ほとんど間をおかずに、我が意を得たとばかりに海東の案に頷く乃木を目にして、純一は一瞬苦々しいものを表に出しそうになった。

 失態だった。乃木がフィリップへ着実に取り入るのを見て、善人としての『志村純一』を強調した。だがそれが結果として、海東の案を自然な形で呼び出す形になってしまった。

(まさか、嵌められた――?)

 笑みを浮かべる二人の男を見て、純一がそう感じてしまうのも無理はなかった。
 純一が取るべきだったのは――この二人が相手では難しいだろうが、手の内を隠すために会話を誘導することだった。最初に話題に出た草加雅人のこともある以上、装備の独占は純一のスタンスを彼らに知られることに繋がる。だが、彼らと装備の共有を行うということは……ただ必要な時が来れば相互に貸し与えるという関係ならともかく。仮に今変身手段を持たない者が居れば敵を強化し、自身は変身アイテムを失って弱体化するだけという結果に繋がってしまうのだ。

「特に、フィリップは今戦う手段を有していないという……この場においてそれはあまりに危険だ。誰か変身アイテムが余っているという者はいないのかね?」

 ――噂をすれば、か。

 乃木の宣告に申し訳なさそうな顔をしたフィリップに、反射的に殺意が漏れそうになる。

 これは純一が避けなければならない展開だった。なのに純一はフィリップ攻略を乃木にばかり許すまいと、自ら墓穴を掘ってしまった……
 無論、乃木や海東が本当にそこまで把握しているという保証はない。だが海東の提案が、口にしただけの理由によるものと楽観視するより、草加雅人の暗躍を許した例から反省し、純一へと牽制球を投げたものではないかと疑ってしまう。

「――志村。タブーのメモリ、こいつに預けてやれないか?」

 ――そして、余計なことを言う馬鹿が一人……っ!

「タブーだって……!?」
「ああ。……志村が冴子から受け取ったんだってよ」

 姉の遺品に大きな反応を見せたフィリップに、乾がそうぶっきらぼうに――だが乃木へ向けた敵意とは程遠い、純一と出会った時のようなぎこちない優しさを込めて告げた。

 勝手に盛り上がるこいつらを本気で始末してやろうかとも思ったが、先の明るさに笑顔を浮かべた乃木の目が笑っておらず、純一を睨めつけているのを察し、再び思い止まる。

「――うん、わかったよ」

 純一は力強く頷いて、デイパックを肩から降ろし、中身を物色する。

「――本当は、俺の無力さを忘れないために持っておきたいと思っていたんだけど……」

 慎重に、穴のないように考えた言葉を紡ぎながら、純一は黄金のメモリを取り出す。

「確かにこれは、君が持っていた方が良い――冴子さんも、君の無事を祈っているだろうから」

 ガイアドライバーと共に、フィリップに冴子の遺品を手渡す。
 ――自分があれだけ苦労を重ねてようやく勝ち得た戦利品に、名残惜しさを覚えながら。

477Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:14:20 ID:UZsnx73.0
「志村……純一」
「困った時は、俺のグレイブバックルも使ってくれ。きっと役に立つから」

 そう懐から取り出した自身の仮面ライダーの力を示し、純一はフィリップへ微笑んだ。
 懐に隠したままのもう一つの装備――オルタナティブのデッキだけは、秘匿しながら。
 表に出せば、誰に何と言われて奪われるかわかったものではないし、手の内を一つでも多く隠すことに損はないだろう。ここまで協力的な態度を見せれば、わざわざ純一の身体調査をしてデッキを見つけ出す真似もできまい。

「……随分武器が多いようだが、本当に園咲冴子と天美あきらの二人分と合わせただけなのか?」

 デイパックを覗きこみ、『武器』という単語を、警戒しなければ恣意とはわからぬ程度に強調しながら、乃木が尋ねて来た。
 こう振舞えば迂闊に疑えまい、と思った傍から遠慮のない奴だ。そう内心毒吐きながら純一は、言外に疑われて傷ついた、という様子を偽装する。

「いえ、その車の中からもいくつか回収したものですが……草加さんのこともあったから、やっぱり気になるんですか?」
「いや、大ショッカーは随分不公平な支給をするのだなと思っただけだよ。……俺の場合は、そのバイク以外にまともな支給品などなかったからな」
「――あれは俺のだぞ」

 極めて無難な返答を示す乃木に、そう乾が呟く。

「君のだって? おいおい、笑えない冗談だな。あれはこの俺の支給品だ」
「支給品とかじゃなくてだな、ありゃ俺のバイクなんだよ」
「――そうだろうね。そうだと思っていたよ」

 そこで乾に味方したのは、意外にも海東だった。

「君はファイズなんだろ? オートバジンは本来ファイズギアの一部である可変型バリアブルビークルだからね、本来の所有者は乾くんということだよ、乃木」
「何でおまえが――」
「何故君がそんなことを知っているのかな? 海東大樹……」

 胡乱げな乾を遮り、海東を威圧する乃木の問いに、庇うようにフィリップが前に出る。

「彼は、ファイズやカイザの存在する別の世界を知っている。だから、ファイズについて詳しく知っているらしいんだ」
「――それは、海東大樹に乾巧がファイズであるとわかった証拠にはならないんじゃないのか?」

 フィリップの言にも、乃木の追及は続く。純一も同じ思いだった。

「――僕の知っているファイズの世界でも、タクミという人物がファイズだった……二人のクウガと同じように、同じ名前の人物は同じライダーなんじゃないかと思っただけさ」

 だが乃木の態度もどこ吹く風と言った様子で、海東は飄然と答えた。

「ま、名前だけで断定できたわけじゃなかったんだけど、乃木の支給品だって紹介されたオートバジンを自分の物だって言い出したから、確信しただけなんだけどね」
「なるほどな……先程の『野上良太郎』……二人の電王の件と言い、どうやら君は以前から複数の世界について知っていたということか、海東大樹」
「質問は……まあ、車の中で受け付けよう。今は単純に装備の確認が先だろう? Gトレーラーに乗れば、少なくとも運転手は装備のトレードに参加できなくなるわけだしね」

 海東の言に従って、それぞれが装備を衆目に晒し始めた。

 まず真っ先に動いたのはフィリップだった。二セット分の基本支給品の類に、スリッパなどはまったく興味をそそられなかったが、変身できずとも装備は豊富なようだ。特に、ジョーカーの姿を捉えた蝙蝠の機械を始めとした三種類のガジェットは十分有用性がある道具だろう。

 続いたのは乃木怜治だが……なるほど、先の問いは純一の潤沢な装備に本気で嫉妬しただけだった可能性も捨て切れない。最後に名簿だけ残ったデイパックの中身を見せたが、他は基本支給品と二枚の木の板だけだ。さすがの純一も同情を禁じ得ないし、改めてこの厄介な男を敵に回す場合、割に合わないと痛感させられる。明らかな強敵だというのに、勝利して得られる物がその勝利という事実以外何もないとは……。

478Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:15:16 ID:UZsnx73.0
 海東大樹の示した支給品は純一にとって大いに価値のあるものだった。彼自身のライダーの力の他に、ランダム支給品として彼に渡されていた物――クラブのJ、Q、Kのラウズカードである。グレイブの戦力強化に繋がるため、純一は即座にそれを要求し、問題なく手に入れることができた。特にカテゴリーキングのカードは純一の本来の目的に必須な物。回収できた幸運を噛み締めると共に、残るカテゴリーキングのカードの回収も新たな目標として純一の中に刻まれる。
 海東の残る支給品はブラッディローズとか言うバイオリンだったが……明らかに戦場では価値がないように見えるそれを彼はお宝と呼び、ラウズカードを差し出しておいてこれは渡さないなど、純一からすればあり得ないことを告げて来たが……まあ、良いだろう。
 秋山蓮は奴の仮面ライダーの力であるナイトのデッキの他には、エターナルメモリというロストドライバーとやらがなければ使えないメモリを手にしていたが、それだけだった。

 純一自身はオルタナティブのデッキを隠し、残りはGトレーラー内のG4のことも彼らに示したが、乃木に自分の世界の物であるとパーフェクトゼクターを奪われた以外は特に変わりはなかった。無論、よりにもよって乃木の手に強力な武器であったパーフェクトゼクターが奪われたのは手痛いことだが。

 最後に残った乾巧が見せたのは、彼自身の――そして特定の人間にしか使えないという仮面ライダーの力、ファイズギア。さらに本来フィリップの所有物らしきルナメモリに、首輪探知機という破格の独自支給品。この時点でも今回の交換における彼の貢献は大きいものだったが、加えてさらにナイトとディエンド――秋山と海東の変身する仮面ライダーを強化するためのアイテムまで彼は手にしていた。
 海東には、周りに促されるまますんなりケータッチを渡した乾だったが――

「こいつは……渡せねえ……」
「――何?」

 サバイブのカードを握った乾は乃木の時と同様、敵意の籠った眼差しを秋山へと向ける。

「天道が言っていた……このカードは、持ち主が信用できるなら渡す、ってな。――俺にはおまえが信用できねえ」
「……そういうことか」

 目を伏せた秋山は小さく溜息を吐いた後、何を言うでもなく踵を返した。

「そう思うなら好きにしろ。今はチームの空気を悪くしてまで、おまえから奪う気はない」

 そう乾の拒絶を許容した秋山は、一人先にGトレーラーへと向かおうとしていた。

「待ってくれ秋山蓮!」

 その背中を呼び止めたのはフィリップだった。彼は男が歩みを中断し、少しだけこちらを振り向いたのを見て、乾へと向き直る。

「乾巧。確かに、さっきの秋山蓮の発言を君は許せないと思う。僕もはっきり言ってそう思った……だけど彼は、僕達が押し付けてしまった厳しい判断を代わりにしてくれただけじゃないかな?」
「……何?」

 疑問の声は、乾と秋山、その双方から漏れた物だった。
 ただの反応以外の意味を持たないそれらを無視したフィリップは、乾に続ける。

「確かに秋山蓮の言葉を、僕達仮面ライダーは認めたくない。だけどそれは、辛い現実から目を逸らすこととは違う。志村純一が言ったように、理不尽の存在を受け入れて、その上で誰かが傷つくのが当然だなんて認めたくないから戦う――そうじゃないのか?」

 自らの言葉が引用されたことにある程度の信頼を築けた手応えを感じつつ、純一は事の成り行きを見守っていた。
 純一が本当に善人なら、フィリップに加勢するべきだろう。だが競争相手の強化を自分から手伝う必要性を見出せなかったので、ここはフィリップに任せ、不幸にも成功すれば表だけの祝福を、失敗すれば慰めながらほくそ笑めば良いと考えた。故に今は見物に甘んじることにした。

「お願いだ、乾巧。彼を信じるのが無理なら、頼む。僕を信じて、彼にサバイブのカードを返してあげてくれ」
「――っ、ああ、もうっ!」

 先の乃木との争いで生じた、仲間達との不和から庇ってくれた少年にそこまで言われては、乾も無下にはできなかったのだろう。
 彼はサバイブのカードを秋山――ではなく、フィリップに差し出した。

「――俺は、霧彦が信じてたおまえを信じる」

 彼の手を取り、カードを握らせながら、乾は再び続ける。

「だから――天道が言っていたように、信用できる相手になら俺はこいつを渡す……その後おまえがどうするのかまでは、俺の知ったこっちゃねえ」

479Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:16:16 ID:UZsnx73.0
 そう言ってフィリップから目を逸らした乾に、海東が純一を視界に収めながら微笑んでいるのが見えた。フィリップが見ていないところで、乃木が下らなさそうに鼻を鳴らしたのも。純一も乃木と同じ感想だったが、表面上は笑顔を保っておく。

「乾巧……ありがとう」

 背を向けた乾にそう告げて、カードを受け取ったフィリップは秋山を振り返る。

「秋山蓮……乾巧から……じゃない、か。僕からのプレゼントだ、受け取ってくれ」

 そう差し出された少年の手から、秋山蓮はカードを受け取る。

「そうか……だが俺は貸し借りには煩いんだ」

 不意にそんなことを口走った秋山は、懐から白い箱を取り出した。

「これは、元を正せばおまえの世界の物だ……どうせ今は使えないが、返しておく」

 そうして秋山は、エターナルメモリを、フィリップへと手渡す。

「……ありがとう、秋山蓮」
「礼を言われるようなことはしていない」

 そうフィリップに断った秋山は、改めてGトレーラーへと向かった。
 薄く笑みを浮かべたフィリップが続き、純一も彼の後を追い掛けようとして、その背中と自身の間に割って入った、軽薄な笑みを浮かべた海東の姿に苛立ちを覚えた。
 後ろでは、乃木と乾がオートバジンとかいうバイクを二人で回収していた。



 ――そうして走り始めた巨大な箱を追う、いくつかの影がその数分後、その場所を通り過ぎて行った。

 全員が消耗し、獲物は封印のカードで身を護っている状態。それに加えて、向かう先に強力な同族の気配を感じたために様子を見ようとトレーラーの荷台から飛び降りた彼らは、じっと静かにトレーラーが動き出すのを待っていた。

 再び動き始めたトレーラーが目指す先にあるのは、巨大な病院……混戦にはもってこいの場所だと、ゼール達は舌舐めずりしながら車影を追った。

480Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:17:28 ID:UZsnx73.0




 海東大樹から、彼が巡った複数の世界――そして大ショッカーとの因縁について大まかに乃木怜治が聞き出した直後、彼らを運ぶ車体に強い制動が掛かるのを感じた。
 目的地に辿り着いた――その確信を持って、乃木は再びちらりと、視界の端の志村純一という男に視線を向けた。
 ……とはいえ、今はまだ監視しかできない。決定的な証拠がない限り、まだフィリップの前で悪辣に振舞うわけにはいかないからだ。

(――それにしても首輪解除要員に、大ショッカーとの因縁持ちか……敵意を向けて来る愚かな乾も、どうにも信用できない秋山も……どう見ても要注意の志村もいるが、手札の揃い具合は順調と言ったところか)

 現状を認識しながら、運転席の秋山の目的地への到着を伝える声に従って、皆と同じく下車する準備に入る。
 激戦区と予想していた病院は思いのほか静かな様子だった。最も後三十分もすれば金居達が来るかも知れないこと、乃木自身が爆弾を連れていることを考えれば嵐の前の……という奴かもしれないが。

 オートバジンは敢えてコンテナに残したまま車外に出た乃木は、先を行くフィリップの周囲に秋山と志村が居るのを見て、最後尾の海東に追い付き、他に悟られぬよう囁きかけた。

「――情報提供して貰ったところ悪いが、俺はまだ君のことを信用していない」
「――だろうね」

 疑いの声を然もありなんと受け流す海東に、乃木は続ける。

「だが、志村に隙を見せない人材として信頼はしている……それを裏切らないことだな」

 乃木怜治は、ワームの首魁だ。
 人間に擬態し、彼らの目を欺いて社会に潜伏し目的のために行動するのがワーム。その頂点に立つ乃木も当然、他者を騙す能力――言うなれば嘘を吐く能力に優れている。
 嘘を吐くのが得意なら当然、逆に嘘を吐いている者を見極める能力も優れて来る。特に、最初に接触した霧島美穂がまさに乃木を騙し体よく利用しようとしていた人物だけあって、今の乃木は普段以上に嘘の気配と言う奴に敏感だった。

 フィリップは――強いて言うなら仮面ライダーダブルへの変身に左翔太郎が必要不可欠と言った時だけ、その気配を感じたが……先程隠し通した参加者の解説と照らし合わせても二人の能力欄に「仮面ライダーダブルに変身できる」ということが共通して記載されていたため、嘘だとも思い難い。あるいは左翔太郎以外でも条件が叶えば可能、と言う程度のことかもしれない。乃木が今最も籠絡したい優れた頭脳を持つ相手ではあるが、対人関係では甘さが残るためそれ自体は順調に進んでおり、その彼が不必要に情報を隠し立てするとは思い難かった。自分が人間と敵対する理由が、数十年前に人類の中枢に潜み地球侵略を目論んでいる敵対種族ネイティブの根絶であるという乃木の説明も、半信半疑とはいえあっさりと受け入れたほどだ。

 乾巧は天道総司の影響を受けて愚かにも乃木を敵視しているが、人付き合いが不器用であり物事を隠すことは苦手なようだ。今はまだ、専用の変身能力を持つらしいので兵隊に使えるということと、フィリップを懐柔している途中なので手を下すつもりはないが、敵視が敵対になるというなら餌にしてやっても良いだろう。
 秋山蓮は先の二人に比べて何かを秘めているのが伺えるが、こいつも甘さを捨て切れていない。ライジングアルティメットを直接目にした分強く警戒しているためか、徒党を組むことにも積極的な様子だ。パワーアップもしたようだし、せいぜい利用してやろう。

 海東大樹は、先程彼と大ショッカーの因縁について尋ねれば正直に答えたし、今回参加している多くの世界について、そのものではなくともある程度の知識を有している。その上で兵隊としても使えるなど有力な駒だが、まだ腹に秘めている物があるのは明白。底の知れない態度も相まって、手放しで信用するなど無理な相談だが――彼だけが乃木以外に志村純一を警戒している唯一の人物なのだから、貴重な駒を自ら潰すというわけにも行かない。

 そして目下、金居との対決を前に最も大きな不安要因であるのは、志村純一だ。
 奴は匂う。鈍感な人間諸君は気づかないかもしれないが、血の匂いがぷんぷんと。
 もちろん純一の言うように、村上や野上と言った参加者が危険人物で、彼らとの戦いで被った同行者達の血なのかもしれないが……そんな、同行者を護れなかったことをあんな涙ながらに語るにしては、些か元気過ぎやしないだろうか?
 本当に正義の仮面ライダーなら、歯が立たない強敵に護るべき対象を殺されたような戦いの後は、その結果に終わる前にもっと重傷を負っていても良いはずだ。実際、加賀美新や神代剣は乃木との戦いで圧倒され重傷を負いながら、護ろうとした相手を護り抜いたというのに、志村はそれ以上の苦戦を強いられたと口にしたにも関わらず、彼らほど深い傷を負った様子もない。

481Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:18:35 ID:UZsnx73.0
 デイパックの中身も、彼女らを殺され何とか装備だけは持ち逃げしたと言うには整理がされ過ぎていた。もちろん、乾と会うまでに荷物を整理しただけという可能性もあるのでさすがに疑い過ぎかもしれないが、彼が本当に二人の死に強いショックを受けていたならそんな余裕はあるのだろうか? ましてや護れなかった女性の遺品を、タブーメモリは己の無力さを戒めるために持っておこうとしていたなどと言うのに、戦力になる物以外は捨てて来たというのだろうか? あれだけ綺麗事を吐きながら、感傷は無駄だと? 乃木はその矛盾が鼻につく。

 何より、単純にその気配を感じるのだ。こいつはワームと同様、人目を欺く者であると。
 はっきり言って――葦原涼の話から判断すると村上峡児は怪しいかもしれないが、実は天美あきらと園咲冴子を手に掛けたのは志村純一で、野上達は彼に貶められている被害者ではないのか――乃木はそう疑ってすらいる。
 推測が真実にせよ否にせよ、この男を信じるなとワームの本能が警鐘を鳴らしている。だというのに愚かな人間諸君は、海東以外――あの秋山でさえ志村を善良な御人好しだと認識しているらしい。そんな状況で志村を無理矢理始末しようとすれば、他の人間の不興を買い、利用し難くなってしまう――首輪による制限のことも考慮すると、それは避けるべきだ。

 だがいくら乃木でも、一人だけで志村を逐次監視するわけにも行かない。とはいえ放置すればどんな風に牙を剥かれるかわからない……となれば、協力者の存在は必要不可欠だ。
 それが可能なのは海東大樹だけ――底知れないが、こちらが馬脚を露にしない限り乃木に積極的に敵対するような愚か者ではないと信頼できる、この仮面ライダーディエンドが、今の乃木の唯一の協力者だと言えた。

「……善処はするよ」

 海東の無難な返答に、乃木は瞼を閉じることで許容を表し、彼を置いて病院へと向かう。

 実際問題、志村などにそこまで気を掛けているわけにもいかない。今何よりも重大なのは、難敵である金居が従えたライジングアルティメットに対処することだ。
 乃木は最強のワームである自分が遅れを取るなどと思っていない。だが敵は、万全ではなかったとはいえあの天道総司を一方的に死に追いやった相手――油断は許されない。
 天道総司は、この自分に唯一土を着けた男――確かにハイパーカブトにもなれなかった天道なら乃木にとっても敵ではないだろうが、そんなスペック差だけで事足りる相手ならあの時に一度敗北することもなかった。乾が言うには、ライジングアルティメットとやらはクロックアップにさえも易々と対応したという――クロックアップなしで、だ。掛け値なしの強敵であることはまず間違いない。乾が天道から聞いた話だとクロックアップにも時間制限が掛かっていたらしいことを考えると、乃木の能力にもどんな制限が課せられているのかわからない。せめてそれを把握するためにどこかで一度変身していれば良かったかもしれないが、変身制限を知った今では迂闊なこともできない。
 つまり己のこともまだまともに把握できていない以上、これまでの戦いのように一方的な試合運びにすることは困難だろう。その上で、全力の天道総司に匹敵か、場合によってはそれ以上かもしれない超強敵との戦いが目前に迫っているわけだ。志村のことだけに頭を巡らせていて良いわけがない。

 とはいえ、病院にもしも利用価値のある参加者がいるのなら、それを見極めてから戦略を立てるのでも遅くはない――そう考えながら、乃木怜治はまるで病院の灯りに惹かれる虫のように歩を進めた。







「隙を見せない人材、ね……」

 乃木怜治に告げられた言葉を、海東大樹は口の中で転がしていた。
 あるいはあの抜け目ない男は、海東もまた彼と同じように志村純一を警戒している人物だと思ったのかもしれない。実際、状況証拠から論理的に彼を疑うべきだったのだろう。
 だが海東が純一を疑ったのはおそらく、乃木ほど論理的な理由ではない。

 志村純一を疑ったのは、彼が海東純一――自身の兄とまったく同じ顔をしていたからに過ぎないのだ。

 かつて、海東自身の世界で……正義の仮面ライダーとして振舞っておきながら、その実、世界征服を目論んでいた兄・海東純一。志村純一は、彼と同じ名前を持つだけでなく、顔も声もまったく同一の人物だった。

 異なる世界に同一の人物が存在する――ネガの世界の光夏海や、BLACKとRXの世界の二人の南光太郎の存在を知っており、何よりもこの会場で五代雄介というクウガを知っていたことから、いざもう一人の仮面ライダーグレイブの姿を目にしても、そこまで混乱することはなかった。

482Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:19:17 ID:UZsnx73.0
 ――とはいえ、やはり一度は戦いにもなった因縁ある兄と同じ顔の人物が目の前に現れて、平静でいられるはずもなかった。

 そうしてつい彼の顔を見ている内に、一度名簿で彼の名を見た時考えたことを思い出す――

 二人のクウガ、五代雄介と小野寺ユウスケの目的は同じ、『皆の笑顔を護ること』だった。二人は元の世界で警察と協力していたり、どちらも真の意味での御人好しだったり、他にも共通点は多かった。

 それなら、二人のグレイブ――海東純一と志村純一も、似通っているのではないか?

 正義の仮面ライダーと自らを偽り、その実欲望のために世界を支配しようとする悪人で……そのために殺し合いに乗っていても、何らおかしくはないのではないかと、疑った。

 もっと言えば、園田真理を殺害したあの白い怪物――『剣の世界』の怪人だと思われるあの死神とも、ひょっとすれば何か関連があるのではないか――海東はそう思いもしたが、結局は証拠がないと首を振った。

 そもそも、少年と青年の二人の野上良太郎――完全に同じ名前を持ちながら、まったくの別人である二人の電王がいるのだ。純一の言葉を信じるなら、青年の野上良太郎は極悪人。それなら、別世界の同じライダー、同じ名前の人物が似ているといった海東の推測はただの空論になる。
 ――無論、嘘を吐く悪人ではないかという疑いのある、志村純一を信じるならば……だが。

 結論の出ないことをいつまでも考えていても仕方がない。今は乃木達と共に病院に向かい、金居から地の石を盗む準備を進める方が重要だ。そう海東は迷走する思考を振り払い、自らの決めた旅の行先を再確認する。
 お宝は護られなければならない。五代雄介に笑顔というお宝を取り戻させるため、そして『仲間』と言う自分自身の最高のお宝のために、海東大樹はその誇りに懸け、ライジングアルティメットにも立ち向かう決意を固めていた。

 ――その戦いのための力として乾巧から齎されたケータッチだが、果たしてディケイドと違いディエンドの場合はカードが足りなくとも使用可能なのか、海東は考える。

(コーカサスはあるとして……足りないのはG4、リュウガ、オーガ、歌舞鬼、アーク……ディケイドとは違って電王の世界のライダーじゃなくて、Wの世界のスカルと言う仮面ライダー……そして……)

 海東はちらりと、先を行く志村純一の姿を目に収めた。

「……グレイブ、か」



 ――最終的に己の兄を信じたがために、彼と別世界の同一人物と思われる志村純一を疑うことを忌避したという自身の深層心理に、海東大樹は気づいていない。
 二人の野上の違いについてあっさり信じたのも、志村純一にずっと視線を送っていたのも、疑いだけではなく、彼を信じたいという願いがその証拠を求めた結果だと言うことも、結局は悟らず。

 海東大樹は仲間に続こうとして、後ろから迸った遠吠えを聞いた。



 乃木怜治が残して行ったオートバジンを、乾巧は一人でコンテナから降ろしていた。
 海東大樹の言った通り、オートバジンもファイズギアの一部だ。ファイズが真価を発揮するには、戦闘の際近くにあった方が良い。少なくともGトレーラー内に残すよりは扱い易いだろうと、一人で重たい車体と格闘していた。

「……やっと合流できた仲間が、おまえだったなんてな」

 そう巧は、どこか愛おしそうにオートバジンの車体を撫でた。

 オルフェノクの王との最終決戦で、オートバジンはファイズブラスターを届けて勝利に貢献し、その代償として王の攻撃で粉砕され、物言わぬ鉄の骸と化した。
 その最後の戦いの時までファイズを支え続けてくれたオートバジンのことを、巧もただの道具とは思えず、気づけばその機械人形のことを仲間と呼んでいた。

 木場や草加と同じように、死んだはずだった仲間が生き返らされてこんな殺し合いの場に放りこまれ、真理や海堂のように、あの戦いを生き残った大切な仲間まで、意味もなく命を奪われて行く……そんな状況を作り出した大ショッカーの所業に、改めて巧は怒りを燃やす。

 そうして、胸に燈った熱い感情を再認識する。

 天道や霧彦との誓いを。海堂や木場の願いを。
 そして歪んでしまった草加が、本当に胸に抱いていただろう物を継いで。

 乾巧は、最後の瞬間まで、仮面ライダーとして戦い抜く決意を、改めて固めていた。

483Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:19:56 ID:UZsnx73.0
 志村やフィリップのような、志を同じくする仲間と共に……

(フィリップが、冴子の弟だったなんてな。……なら霧彦、おまえの義弟さんだな)

 霧彦の妻を護ると言う約束を、巧は結局果たせなかった。

 それならせめて、生き残った彼らの弟だけでも護り抜く。自然と右拳を握り込んでいた巧は、そこで違和感に気づいた。

(――何だ?)

 指と掌の間に、無数の小さい粉が混ざったような異物感。掌を返して五指を開いた巧は、息を呑んで瞠目した。

 そこにあったのは、忘れ去ろうとしていた忌まわしき事実。

 彼の掌からは――灰が零れ落ちていたのだ。

 まるでカイザギアを使った適正のない人間のように。
 まるで仮面ライダーによって倒されたオルフェノクのように。
 オルフェノクの命の終焉を告げる灰化の現象が、乾巧の身に再び起こっていた。

 零れ落ちる灰の量は、かつて見た時よりも多く。掌だけでなく、肘へ、肩へと範囲が広がり、今すぐにもこの身体が、崩れ落ちてしまいそうなほどに灰化して行く。

 ――そんな馬鹿な。
 冗談だろ。

 巧は目の前の光景を受け入れられずに、そんな否定の言葉を浮かべる。

 死人の自分を生かすために、あの時天道を犠牲にしておいて。
 生きてあいつの夢を継ぐって決めたら――今度は、寿命で死ねって言うのか。

「ふざけんなよ……っ!」

 糞っ垂れた運命への憤怒のまま、右手を振り被った巧はGトレーラーのコンテナに叩きつける。
 鈍い金属質の音が響き、巧はぶつけた自分の身体が崩れ落ちていないか恐る恐る視線を巡らせ、綺麗なまま残っている己の右腕を見た時には、心底からの安堵を覚えた。

 だが先程の身の毛も立つような光景を、ただの幻覚なのだと巧は片づけることができなかった。

 元より、オルフェノクという種は短命だ。その宿命を覆すはずだった王を他ならぬ巧達が葬ったことで、死人から蘇った超人類達は滅びを迎えることが確定した。

 さらに巧は、最終決戦の寸前にスマートブレインに捕まり、オルフェノクの死について研究するための実験台として、セルブレイカーという薬品を投与され、残り少ない寿命を一層削られていた。
 元々、いつこの身がただの灰となってもおかしくはなかったのだ。

 それでも――

「――何も、こんな時じゃなくても良いだろ……っ!?」

 足元に散らばった、己が身から出た灰の山を目の当たりにして、巧は悲痛な声を上げる。

 せめて殺し合いを止めて大ショッカーを倒し、天道達との約束を果たせた後なら、そのために自身の命を使えた後なら、何の未練もなく逝けただろうに――

 どうしてそのためにこれから戦おうと言う時に、この命は燃え尽きようとしているのか。

 今すぐ死ぬと言うわけではないだろう。まだ何度かファイズにもウルフオルフェノクにも変身できるだろう。だがそれは、絶対に大ショッカーを打倒するのに足りる回数ではないと直感できる。

 天道達との約束を果たすために、総ての世界の総ての命を護ることも――霧彦の義弟を護り抜くことも、木場達の人とオルフェノクが共存するという理想を果たすことも――巧に残された命では、とても届かない。

「……何でだよ」

 運命のあまりにも非情な仕打ちに、巧はその両膝を折り、灰の中に沈んだ。

「何でだあああああああああああああああああっ!」

 何もかもを忘れて、乾巧は絶叫した。
 それは狼の嘆きにも似た、夜に響く慟哭だった。

484Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:20:33 ID:UZsnx73.0
【1日目 夜中】
【F-4 病院前】

【共通事項】
※病院に行って、友好的な参加者を探す。
※金居と彼に操られた五代雄介を強く警戒。また乃木との待ち合わせ時間にやって来ると仮定して、金居から地の石を奪い五代を奪還するために戦う。そのための準備をする。
※キング(名前は知らない)、ゴ・ガドル・バ、ン・ダグバ・ゼバ(名前は知らない)、相川始、アポロガイストを警戒。
※できれば一条薫、津上翔一、城戸真司、三原修二、橘朔也、日高仁志、擬態天道、名護啓介、紅音也、門矢士、小野寺ユウスケ、左翔太郎と合流したい。
※首輪解除のためにガイアメモリのある世界以外の技術を調べる。
※草加雅人は死んだと思っています。
※変身制限について、強化フォーム以外の制限を知りました。
※クロックアップも制限が課されていることを知りました。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※園田真理を殺したのはアルビノジョーカーだと知りました。またバットショットが撮影した写真でアルビノジョーカーの姿を知りました。



【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、深い悲しみと罪悪感、決意、ナスカ・ドーパントに30分変身不可、ウルフオルフェノクに30分分変身不可、仮面ライダーファイズに40分変身不可、自身の灰化開始に伴う激しい精神的ショック。
【装備】ファイズギア+ファイズショット+ファイズアクセル+オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×3、首輪探知機、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。世界を守る。
0:天道の遺志を継ぎ、今度こそ誰も死なせない。
1:天道達との約束を果たせないだろう自分への絶望。
2:園咲夫妻の仇を討つ。
3:仲間を探して協力を呼びかける。
4:霧彦のスカーフを洗濯する。
5:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
6:橘朔也、日高仁志、小野寺ユウスケに伝言を伝える。
7:仲間達を失った事による悲しみ、罪悪感。それに負けない決意。
8:乃木怜治を敵視、秋山蓮に若干の警戒。
【備考】
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界、志村の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※志村の血の匂いに気づいていますが、それはすべて村上たちのせいだと信じています。
※オルフェノクの寿命による灰化現象が始まりました。巧の寿命がどの程度続くのかは後続の書き手さんにお任せします。


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】健康、照井の死による悲しみ
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、ファングメモリ@仮面ライダーW、ルナメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実 、ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、エターナルメモリ@仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ

【思考・状況】
0:亜樹子が殺し合いに乗っているのなら何としてでも止める。
1:大ショッカーは信用しない。
2:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
3:真理を殺したのは白い化け物。
4:首輪の解除は、もっと情報と人数が揃ってから。
5:出来るなら亜樹子や蓮を信じたいが……
6:乃木怜治への罪悪感と少しだけの信用。志村純一は信用できる。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※今のところは亜樹子を信じています。
※園咲冴子と天美あきらを殺したのは村上峡児と野上良太郎だと考えています。
※ガイアメモリ(タブー)を使ってドーパントとして戦うつもりがあるのかどうかは後続の書き手さんにお任せします。

485Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:21:08 ID:UZsnx73.0
【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】最終話終了後
【状態】健康
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(サイガ、コーカサス) 、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー
【道具】支給品一式、ブラッディローズ@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
0:お宝を守る。
1:これから病院に向かう。
2:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。
3:知らない世界はまだあるようだ。
4:蓮、乃木、純一を警戒。
【備考】
※クウガの世界が別にあることを知りました。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※志村純一について、自覚していませんが彼を信じたいと思っています。
※五代の言う『笑顔』、ブラッディローズ、自身の『仲間』をお宝だと思っています。
※ディエンド用ケータッチについては、今のディエンドの所有カードだけで使用可能なのかは後続の書き手さんにお任せします。


【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】第34話終了後
【状態】健康、甘いことを言う乾への苛立ち(無自覚)、クウガへの強い警戒
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式
【思考・状況】
0:これから病院に向かう。
1:自分の世界のために他世界の人間を倒す。
2:まずはこの集団に潜む。
3:協力できるなら、同じ世界の人間(城戸)と協力したい。浅倉とは会いたくない。
4:協力者と決着をつけるのは元の世界に帰ってから。
5:もしも地の石を手に入れたら……?
6:志村純一は御人好し。
【備考】
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※園咲冴子と天美あきらを殺したのは村上峡児と野上良太郎だと考えています。


【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実
【思考・状況】
0:他の参加者を利用し、金居を潰す。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:首輪を解除するため、フィリップを懐柔したい。
5:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
6:葦原涼と鳴海亜樹子の生死に関してはどうでもいい。
7:乾と秋山は使い捨ての駒。海東は面倒だが、今後も使えるか?
8:どこかで一度変身後の能力を見ておくべきだったか?
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。
※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※村上と野上ではなく、志村があきらと冴子を殺したのではと疑っています。
※もし乃木が地の石を手に入れた場合破壊するかどうかは後続の書き手さんにお任せします。

486Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:21:42 ID:UZsnx73.0
【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】軽い全身打撲、乃木と海東への苛立ち
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、ラウズカード(クラブのJ〜K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3(ただし必要な物のみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 、アドベントカード(SEAL)@仮面ライダー龍騎、G3の武器セット(GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GK-06ユニコーン)@仮面ライダーアギト
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
0:この連中を利用し、金居から地の石を奪う。
1:バットショットに映ったアルビノジョーカーを見た参加者は皆殺しにする。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:野上と村上の悪評を広め、いずれは二人を確実に潰したい。
5:フィリップを懐柔し、自身の首輪を外させたい。
6:首輪を外させたらすぐにフィリップを殺す。正体発覚などで自分の首輪を解除させるのが困難になっても最優先で殺害。
7:乃木と海東を警戒。こいつらも何とか潰したい。
8:ライジングアルティメットを支配し、首輪を解除したら殺し合いに積極的になるのもいいかもしれない。
【備考】
※555の世界、カブトの世界、キバの世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
 ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
 ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※放送を行ったキングがアンデッドである事に気付いているのかどうかは不明です。
※封印のカードの効果に気づいていません。
※オルタナティブ・ゼロのデッキは極力秘匿するつもりです。


【首輪の考案について纏めたファイルの内容】
※首輪の内部構造、それに関する考案が書かれています。
※首輪とこの殺し合いについて、以下の考案を立てました。
1:首輪には、Wの世界には無い未知の技術が使われている可能性がある。
2:無闇に解体しようとすれば、最悪その参加者の世界の住民が全滅させられるかもしれない。
3:解体自体は可能だが、それには異世界の知識も必要。
4:大ショッカーは参加者の生きる世界を、一瞬で滅ぼせるほどの兵器を持っている。


【全体備考】
※ゼール軍団は志村を狙っていますが、封印のカードにより今は攻撃できません。
※ゼール軍団が何が何匹死んだのかは後続の書き手さんにお任せします。
※ゼール軍団の現在位置についてはお任せします(蓮が気づくほど近くではありませんが、病院を目指しています)。
※Gトレーラー内にはG4の充電装置があります。
※G4は説明書には連続でおよそ15分使えるとありますが、実際どのくらいの間使えるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※G4を再度使用するのにどれくらい充電すればいいのかは後続の書き手さんにお任せします。
※トライチェイサー2000A、及びG4システムはデイパック内ではなくGトレーラー内に置かれています。
※F-4エリア病院前にGトレーラーとオートバジンが停車されています。

487Oの始まり/嗤う運命 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:25:35 ID:UZsnx73.0
以上で投下完了です。

>>467->>473が前篇、>>474->>479が中編、>>480->>486が後篇となります。

問題点などございましたらまた御指摘の方よろしくお願いします。

488 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/26(月) 19:33:19 ID:UZsnx73.0
すいません、>>486

※ゼール軍団の現在位置についてはお任せします(蓮が気づくほど近くではありませんが、病院を目指しています)。



※ゼール軍団の現在位置については後続の書き手さんにお任せします(蓮が気づくほど近くではありませんが、病院を目指しています)。

でした。変なことを書いてすいませんでした。

489名無しさん:2011/12/26(月) 20:43:50 ID:nzBkqJKU0
乙です。しかしこのままじゃ病院が乱戦になるな・・・
まあゼール自体はたいして強くないから何とかなるかな

490名無しさん:2011/12/26(月) 21:17:39 ID:I83Hq2ak0
投下乙です!
ああ、たっくんがよりにもよってこんな時に灰化が進むなんて……このままじゃ草加と同じ運命になってしまうぞ!
ニーサンはここに来て、乃木さんや海東から疑われる上に装備を取られるとは。どうなるだろうw
あと病院……オワタ

491名無しさん:2011/12/26(月) 22:02:50 ID:nzBkqJKU0
  r ‐、 
   | ○ |         r‐‐、
  _,;ト - イ、      ∧l☆│∧    良い子の諸君!
(⌒`    ⌒ヽ   /,、,,ト.-イ/,、 l  
 |ヽ  ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒)   「窮鼠猫を噛む」というが、
│ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /|  噛んだところで猫が怒るだけだ。
│  〉    |│  |`ー^ー― r' |  無駄な抵抗はしないことだな。
│ /───| |  |/ |  l  ト、 |  
|  irー-、 ー ,} |    /     i
| /   `X´ ヽ    /   入  |

492 ◆/kFsAq0Yi2:2011/12/27(火) 00:53:47 ID:5SeYRnS.0
すいません。ミスを発見しました。

>>473

> 海東が言うのは、彼の仲間だという二人の仮面ライダークウガ……五代雄介と小野寺ユウスケのことだろう。どちらも『志村純一』と同じような、正義の仮面ライダーだと言う。
> それと比べて二人の仮面ライダー電王――少年と青年の野上良太郎は違い過ぎる、ということが海東には気がかりだったのだろう。

この部分は削っておいて下さい。これを残したままだと、後で乃木に異世界について説明を求められる展開と矛盾してしまうので。

493名無しさん:2011/12/29(木) 23:57:10 ID:HKUV3kMk0
まさか今の状況でたっくん灰化か…乱戦前だってのになあ
蓮がサバイブ手に入れた事でようやくマーダーに単体で対抗出来る対主催が増えた訳だが…

494名無しさん:2011/12/30(金) 00:01:02 ID:lBk/0wBI0
※秋山蓮は初登場時から一貫してマーダーです。マーダーなんです!

495名無しさん:2011/12/30(金) 10:12:37 ID:Gmdy0Ryo0
まるで戦わない、乱戦とも無縁、ある意味一番平和な三原
社長説得以後は良太郎組ダントツの地味さ、気が付いたらニーサンに殺られてた天美あきら※故人
マーダーらしい仕事を未だ何一つしてない注目度最低候補の蓮さん
あと一人で空気四天王…

496名無しさん:2011/12/30(金) 11:54:21 ID:lBk/0wBI0
まさか空気四天王が結成されるとはw
正直三原だけ空気力が飛び抜けている(彼と合流したキャラもパートごと空気になる。主人公×2も抱えて)から、
四天王なんか出ないと思っていたのに……まあ、空気過ぎる三原と合流するとしばらくは平和だから守護神とも言えるのか?

後の一人には仮面ライダークウキ=小野寺ユウスケ……は、明らかにここじゃあ空気じゃないしなぁ……誰がいるだろうか

497名無しさん:2011/12/30(金) 20:08:16 ID:zniIEeGE0
何気に一回もワームの姿になってない乃木さん、とかか?

498名無しさん:2011/12/30(金) 22:15:39 ID:iTygeq1I0
いや、乃木さんはそれ以外の方向で活躍してる気がするぞ

ところで矢車さんって地獄兄妹結成以外で何かやったっけ?

499名無しさん:2011/12/30(金) 23:01:53 ID:HGx1zrLI0
東條相手に戦って、士を闇に引きずり込もうとした以外は……
考えてみれば、この人もそんなに目立った事してないんだな。

500名無しさん:2011/12/31(土) 00:14:23 ID:umiNXfx60
いや、東條相手に変身時は圧倒、生身でもライダー相手に健闘、地獄兄妹結成に加え、
そもそも見せしめと一番関係が深いとなれば空気とは言えないだろう。

正直麗奈さんが一番手堅いかな。

501名無しさん:2011/12/31(土) 00:22:14 ID:umiNXfx60
言い忘れてた、兄貴はむしろ平成ライダーロワ内でのネタキャラ四天王候補だと思う、熱血してもすぐいつも通りやさぐれるし、真っ黒い所長を妹にしちゃうし。
ダディがトラブル起こしつつも熱血してたり、753がシリアスに最高です! だったりする中、本来の平成ライダーネタキャラ四天王で唯一ちゃんとネタキャラしている。

他のロワ内ネタキャラ四天王候補は結構前に雑談スレで話題になってたアポロさん、専用項目のある不幸四天王候補兼任の五代さん、
スコアを順調に伸ばしつつもポカが多くて徐々に自分の首を締め始めている上に、初登場時に例のネタをやってくれたりウェザーを全力で見逃したりするニーサン辺りかな。
まあ何でも四天王作れば良いってもんじゃないが。

502名無しさん:2011/12/31(土) 15:27:56 ID:uKIFqWac0
カブト見直したら乃木さん人間体でマスクドフォームと互角に戦ってた
パネエ

503名無しさん:2011/12/31(土) 16:07:40 ID:BRQeZbfw0
その乃木怪人体と僅かな時間ながらも生身で張り合う天道パネエ

504名無しさん:2011/12/31(土) 16:09:25 ID:umiNXfx60
まあ、さすがにこのロワでそれはやっちゃいかんけどねw 多分乃木さんの人間態の戦闘力は制限されていると思うw
っていうかフルボッコにされたのに凄い要素としてスルーされてるガタックェ……

505名無しさん:2012/01/01(日) 22:07:44 ID:0QijKZ7U0
ロワ用語集の四天王率は異常

…と思ったけど、このロワは四天王が用語集に載ってないのね

506名無しさん:2012/01/15(日) 13:28:48 ID:aZ6UQcSI0
変身ロワの感想を見て思ったんだけど、このロワ内では空気じゃなかろうとやっぱり空気四天王の最後の一人はユウスケだと思う。
原作で空気であだ名が仮面ライダークウキなんだから良いんだよ! いっそ原作とロワの違いをネタにもできるし。
これで(空気四天王の四人は)決まりだ

507名無しさん:2012/01/20(金) 19:36:47 ID:FG4BnrdI0
このロワのユウスケは活躍しまくりだと思う

508名無しさん:2012/01/21(土) 00:00:21 ID:rE08w/nY0
もう一人のクウガはマーダーに落ちたが・・・

509名無しさん:2012/01/21(土) 02:22:50 ID:ov8HLTaEO
>>508
洗脳だしマーダーとは違くね?キャラ崩壊とか以前に本人の意思ですらないしなぁ。

510名無しさん:2012/01/21(土) 13:30:42 ID:rE08w/nY0
金居や渡としては「便利な道具」と言う認識しかないからな…五代さん、これはさすがに怒っていい

511 ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:37:58 ID:cN.LBK3c0
予約分の投下を開始します。

512G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:39:57 ID:cN.LBK3c0
 目の前の赤い怪人から放たれる威圧感は、今までに相対して来たどんな敵よりも鋭かった。
 奴の気迫にあてられてか、ただ相対しているだけでも体力を削られていくような錯覚すら覚えるが、それは恐らくただの錯覚ではないのだろう。
 名護啓介が破壊のカリスマゴ・ガドル・バと相対するのはこれで二度目になるが、一度目でその理不尽なまでの強さを身を以て知ったからこそ、二度目となる今はあの時よりもずっと奴の気迫を脅威に感じる。
 だけれども、不思議と負ける気はなかった。命が脅かされる恐怖も、実際にはそれ程感じてはいなかった。
 今はそれよりも、もっと大きく、熱い思いが名護啓介を突き動かしているのだ。

「この身体、その全ての細胞が、正義の炎に燃えている」

 かつて世界を滅ぼすとまで云われたキバとも互角の実力を持つとされるライジングイクサの装甲に身を包んだ啓介は、誰にともなく一人ごちた。
 奴―ガドル―との戦いは、ここで終わらせよう。もうこれ以上、奴には誰一人殺させはしない。否、誰一人として殺させてはならないのだ。
 海堂直也は、その命の炎を燃やして正義を示し、逝った。彼が示した正義は、この名護啓介が継ぐと固く誓った。
 ならばここで奴を討たずして、どうして散って行った海堂直也に顔向けする事が出来ようか。
 倒すのだ。ここで奴を。海堂が貫き、しかし果たせなかった正義を、ここで啓介が完成させるのだ。
 それこそが今の啓介に出来るたった一つの手向け。戦士にしか出来ない、不器用だが崇高な手向けだ。

「行くぞ、ガドル――!」
「待って、名護さん!」

 いざ駆け出さんとしたイクサを引き止めたのは、後方のダークカブトだった。
 ちらと振り返ったイクサが見たのは、何度もバックルにメモリを装填し直すも、一向に変身が始まらない左左翔太郎だった。

「クソッ、何でだよ、何で変身出来ねえんだ!?」
「翔太郎くん……この場では、一度変身すれば二時間は変身出来なくなるんだ」
「ああっ!? んだよそれっ、制限は十分の方だけじゃなかったのかよ!」

 両手を大仰に広げ、ややオーバーにも見えるリアクションで翔太郎は怒鳴った。

「翔太郎くん、君には他にベルトはないのか」
「悪ぃな、今すぐ使えるのはコイツだけなんだよ」
「そうか。なら、君はそのまま下がっていなさい」
「名護さん……あんた、俺に黙って見てろって言うのかよ!?」
「戦士は、決して戦うべき時と退くべき時を見誤ってはならない」
「……っ」

 戦力外通告、とまで言いたい訳ではないが、戦えない者が戦場に出るのは危険すぎる。
 麻生恵や襟立健吾は生身でファンガイアと戦っていたが、この敵は、ガドルはそんな無謀が許される相手ではない。
 その双眸に反抗的な光を宿していた翔太郎も、不承不承といった様子ではあるが、一歩身を退いた。

「……ああわかった、わかったよ名護さん。その代わり、もし名護さんが危なくなったら、俺はすぐにでも飛び出して行くぜ」
「その必要はない。この俺を誰だと思っているんだ、俺は素晴らしき青空の会の戦士――名護啓介だぞ」

 イクサの仮面に隠れて表情は見えないだろうが、それでも不敵に笑う啓介。
 この一年間を仲間たちと共に戦い抜き、一回りも二回りも大きく成長した名護啓介に不可能はない。
 言外にそう告げる啓介の意思を汲み取ったのであろう翔太郎は、一言だけ「信じてるぜ」と告げると、ふっと笑った。

「もういいか」

 二人のやり取りを眺めていたアームズ・ドーパントが、背中のシールドソードを抜き放ち、歩を進める。
 アスファルトを踏む脚の、その一歩一歩がいやに重苦しく感じる。絶対的な強者の余裕と気迫が、赤い身体の全身からまるで瘴気のように滲み出ていた。
 脅えているのだろうか、ダークカブトは最初は落ち着かない様子で逡巡していたが、ややあって意を決したのだろう、イクサの隣に並び立った。

「名護さん、僕も、戦うよ……」
「ああ、だが総司君、君もこれだけは忘れないでくれ……退き際は決して見誤ってはならないと」
「分かってるよ……危なくなったら逃げろって事でしょ? でも、僕が逃げる時は、名護さんも一緒に……」
「悪いが、俺は逃げる事は出来ない。ここで必ず奴を倒す」
「そんな事、出来る訳……」
「倒さなければならないんだッ!!」
「っ、……」

513G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:41:20 ID:cN.LBK3c0
 
 ダークカブトは、何事かを言おうとしたのか言葉を詰まらせるが、そのまま何も言う事は無かった。
 言いたい事が無くなった訳ではないだろう。不安が無くなった訳でもないだろう。それぐらい啓介にだって分かる。
 分かるが、それでも、戦士には退けぬ時がある。この戦いがそうだ。故に、これだけは決して譲る訳にはいかなかった。
 総司には悪いが、啓介は例え誰に止められようともこの戦いから降りる事は絶対にしないだろう。
 未だ自分の生き方さえも見出せぬ総司をそれに付き合わせる気もない。道連れにする気もない。
 危なくなったら逃げてくれればいい。その為の時間くらいは稼げる筈だ。
 啓介は自分の中の正義に従い、悪を討つ……ただそれだけだ。

「行くぞ、総司くん」
「うん……!」

 二人の掛け声が、戦闘開始のゴングとなった。
 最初に駆け出したのはイクサだ。手にしたイクサライザーから銀の弾丸を斉射しながら、一気にアームズ・ドーパントとの距離を詰める。
 弾丸がアームズ・ドーパントの振るう剣の舞を通過して、その体表にダメージを与える事は無かったが、そんな事は最初から百も承知だ。
 一瞬でも牽制する事が出来たなら、それで十分。イクサライザーによる斉射が止んだ次の瞬間には、イクサはアームズ・ドーパントの懐へと飛び込んで居た。
 ふっ、と息を吐き出し、振り下ろされたシールドソードにカリバーモードとなったイクサカリバーを叩き付ける。
 イクサの肩に上体に、強烈な振動がびりびりと伝播するが、今更その程度の攻撃でイクサを止める事など出来ようものか。
 激突した一瞬の間に、イクサライザーの銃口をアームズ・ドーパントの腹部に密着させた。

「……ッ!」

 この距離なら、どんな武器を持っていようと防げはしまい。
 ほんの一拍反応が送れたアームズ・ドーパントの腹部を、零距離で放たれた弾丸の嵐が打ち付ける。
 まるでマシンガンの如き勢いで吹き付けた弾丸の嵐は、アームズ・ドーパントの身体を数メートル後方へとふっ飛ばすが、それでもイクサは容赦をしない。
 瞬時にガンモードへと変型させたイクサカリバーからも怒涛の勢いで弾丸を斉射。二丁の銃口から放たれた圧倒的なまでの一斉射撃は、さしものアームズ・ドーパントと言えども完全に防ぐ事は出来ない。
 苦悶の声を漏らしながら、その巨体は受け身すら取る事無く、と言うよりも、反射的に身を守る為前方で構えた両の手の所為で受け身など取れる訳も無く、無様にアスファルトを転がった。
 が、それでもイクサが銃撃の手を休める事はない。ガドルがこの程度でどうこう出来る相手だなどとは、啓介自身も思ってはいないからだ。
 射撃を続けながらもアームズ・ドーパントへ向かって駆け出せば、相手もこのままでは拙いと判断したのだろう、銃撃の嵐に見舞われながらも、シールドソードを構え直し、ガードの姿勢を固めた。
 イクサの銃弾は確かにそれで防がれるが、しかし。

「やああああああああああああっ!!」

 その場の全員の耳朶を叩いたのは、未だ幼さの残る絶叫だった。
 イクサとは全く別のルートから回り込んだダークカブトが、クナイガンを振り上げアームズ・ドーパントへと肉薄する。
 咄嗟に左腕を剣へと変型させたアームズ・ドーパントは、イクサの銃弾を防ぎながらも、振り下ろされたクナイガンに見事に対処をして見せる。
 だけども、右のシールドソードでイクサの銃撃の嵐を防ぎながらでは、如何に強者と言えども、完璧な対応など出来る訳もない。
 ダークカブトが次の一撃に移るよりも早く、イクサもまた、防戦一方となったアームズ・ドーパントへと肉薄し、カリバーモードへと変型させたイクサカリバーを振り上げ、

「総司君、今だ!」

 声高らかに叫んだ。啓介の考えを理解したのであろう、ダークカブトも小さく頷き、イクサと息を合わせてクナイガンを振り抜いた。
 二人の攻撃がなぞった軌道は、確実に敵の武器の隙を縫い、その体表を抉る……筈だった。

「……所詮、その程度か」

 ぽつりと呟いたアームズ・ドーパントの声に、二人が反応する事はない。そんな余裕は存在しない。
 先程のイクサの合図が仇となったのだろう。タイミングの分かり切った一撃に対処する事など、武人のガドルにとっては造作もない事だった。
 ダークカブトのクナイガンを右腕の剣で、イクサのカリバーを左腕のシールドソードで受け止め、同時に二つの剣を弾き返す。
 溜まらず一歩身を退き、二人は無防備を晒すが、アームズ・ドーパントが狙いを定めたのはイクサではなく、ダークカブトの方だった。

514G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:42:56 ID:cN.LBK3c0
 
「なっ……うわぁっ!?」

 カリバーを弾き返したシールドソードは、そのまま大きく弧を描いて、ダークカブトの胴部へと叩きつけられる。
 遠心力を味方につけたアームズ・ドーパントの一撃の威力は強烈だ。胸部装甲の真下、装甲の薄いライダースーツに剣に強烈な一撃を受けたダークカブトの身体は、まるでくの字にへし折られた棒きれのように宙を舞った。当然イクサの助けなど得られよう筈も無く、ダークカブトは無様にもんどりうって倒れ込む。
 イクサもまたアームズ・ドーパントに反撃を加えようと突貫するが、振り下ろしたカリバーによる一撃はシールドソードによって阻まれ、

「同じ手は二度も食わん」
「……ぐっ!」

 ならばとばかりに脇腹で構えたイクサライザーも、その引き金を引くよりも先にアームズ・ドーパントの右腕の機銃によって弾き飛ばされた。
 そもそもイクサライザーの弾丸ごときでは、この敵には大したダメージは与えられてはいなかったのだろう。
 油断をした訳ではなかった筈だが、それでもこの力の差には心中で悪態を吐かずには居られない程だった。
 だけども、アームズ・ドーパントはイクサへの追撃はしなかった。

「仮面ライダーの皮を被った愚か者か……まずは貴様から葬ってやる」
「総司くんっ!」

 アームズ・ドーパントがシールドソードを向けた相手は、腹部を押さえながら立ち上がったダークカブトだった。
 いけない、と、すぐにイクサは取り落としたイクサライザーを拾い上げ、もう一度アームズ・ドーパントへ挑もうと躍り掛かるが、再びアームズ・ドーパントの右腕の機銃による斉射を受け、たまらず仰け反る。
 剥き出しになったライジングイクサの胸部装甲から派手に火花を舞い散らせながら、思わず片膝を着いたイクサを後目に、アームズ・ドーパントはシールドソードを振り上げ、ダークカブトへと歩み寄ってゆく。
 
「ひっ……」
「また逃げる気か?」
「ぼ、僕はっ……」

 圧倒的な威圧感を放ちながら歩を進めるアームズ・ドーパントは、誰が見たって恐ろしい。
 無意識のうちにだろう、一歩身を引いたダークカブトへと、アームズ・ドーパントは厳しい一言を投げる。
 そんな挑発に乗る必要はない。逃げてもいいのだ。総司が今逃げ出したとしても、啓介に彼を責める気など毛頭無い。
 いや、寧ろ、師匠である自分は、彼が逃げるだけの時間を稼いでやらねばならない。それは強い戦士である自分の役目ではないか。
 カリバーの切先をアスファルトに突き立て、それを杖代わりに立ち上がり駆け出したイクサは、アームズ・ドーパントの背に組み付いた。

「総司くん、逃げなさい! 今の君に、これ以上戦うのは無理だ!」
「そんなっ……だって、名護さんはまだ戦ってるのに!」
「俺は戦士だ、例え君が居なくても、一人でも戦える!」

 そこまで告げた所で、アームズ・ドーパントの腕は、イクサの身体を振り払った。
 振り返り様にシールドソードによる一撃を叩き付けられるが、イクサは上段で構えたカリバーでその一撃を何とか凌いだ。
 少しでも力を緩めれば、そのまま押し切られる。ライジングですらこれだけ不利な状況に追い込まれるとは、些か予想外であった。
 イクサの仮面の下、啓介が苦悶に表情を歪めたその時、アームズ・ドーパントの怪力が突然に弱まった。
 見上げれば、今イクサがそうしたように、ダークカブトがアームズ・ドーパントの背に組み付いていた。

515G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:44:05 ID:cN.LBK3c0
 
「一人で戦えるなんて、そんなの嘘だ! 名護さんが、海堂みたいに殺されるなんて、僕は嫌だよ!」
「総司くん……っ!」

 危なくなったら逃げろと、あれだけ何度も言ったのに。
 総司は馬鹿だ、出来の悪い弟子だ。だけれども、嫌な気はしない。
 こんな弟子ではあるが、それでも自分は素晴らしい弟子に恵まれたものだと思う。
 なれば、弟子がこうまでして時間を稼いでくれたのに、その想いに答えない師匠などがあって良い訳がない。
 総司への説教は後回しにして、イクサは、身動きが取れなくなったアームズ・ドーパントが体勢を立て直すよりも先に、その体表に思いきりカリバーを叩き付けた。
 アームズ・ドーパントの胸部装甲を赤く煌めく刃が乱暴に斬り付けて、派手な火花と白い煙がイクサの視界を彩った。
 イクサは二度三度と言わず、何度も何度も、乱暴にその刃を叩き付けて、

「総司くん、離れなさい!」
「うん!」

 最後にアームズ・ドーパントに組み付いたダークカブトを離脱させ、通常のイクサの三倍以上の威力を誇るキックで以て、赤の巨体を蹴り飛ばした。
 アームズ・ドーパントに対処の術などはなく、イクサの蹴りの直撃を受けたその身体は、数歩よろめきはするものの、それでも倒れる事無く地を踏み締め仁王立ちする。
 数時間前に戦った時よりも、敵の動きにキレがない。先程の攻撃でも感じたが、どうやらガドルは幾度にも及ぶ戦闘のダメージを、未だ回復し切れていない様子だった。
 だとするなら、チャンスは今しかない。倒すなら、何としてでも此処で、確実に、だ。
 そして、師匠として、総司に「正義」を伝えるのも、今を置いて他にはない。

「総司くん。俺は師匠として、君にこれだけは伝えておかなければならない」
「えっ……」
「正義は絶対に勝つという事を」

 絶対に、という言葉を強調してそう言い切ったイクサは、イクサライザーとイクサカリバーをぐっと握り締め、アームズ・ドーパントを見据える。

「そこで見ていなさい。きみの師匠が、悪を討ち倒すその瞬間を――!」

 名護啓介は、例え相手がどんなに強敵であっても、一度決めた正義は真っ直ぐに貫く誇り高き戦士。
 総司には、そんな名護啓介の弟子であるという事に誇りを抱き、胸を張って生きていて欲しい。
 だからこそ、ここで無様を晒す訳にはいかない。弟子の為、全ての参加者の未来の為、名護啓介は、ここで悪を討ち取らねばならないのだ。
 カリバーをガンモードへと変形させ、ライザーと共に、二丁拳銃として構え――そして、怒涛の勢いで銀の弾丸を一斉に発射する。
 凄まじいまでの弾丸の嵐を、アームズ・ドーパントはシールドソードで何とか防ぐが、やはり全てを防ぎ切れる訳はない。
 防御し切れなかった無数の弾丸がアームズ・ドーパントを襲い、クリアーのフェイスカバーに亀裂が生じる。
 アームズ・ドーパントがたまらず一歩後じさったその瞬間には、既にイクサは敵の懐へと飛び込んで居た。

「ガドル、覚悟ッ!!」

 咄嗟に右腕を剣に変形させ、それを突き出すアームズ・ドーパントだが、その一撃はイクサの剣によって弾き上げられた。
 矢継ぎ早にシールドソードを振り上げるが、それもまた、イクサカリバーが確実に叩き落す。
 がら空きになった敵の胴部を、イクサの怒涛のラッシュが襲う。我武者羅な剣戟であるが、それは確かに敵の体力を奪っていた。
 しかし、敵もさるもの。剣戟も全く同じ調子で幾度か続けば、その軌道は読まれて当然だ。
 振り下ろしたイクサカリバーを右の剣で受け止め、横薙ぎに振り抜かれた巨大なシールドソードが、イクサの胸部装甲を捉えた。
 
「――ッ!!」

 それは確かに、たった一度の反撃かもしれない。
 されど、元々尋常ならざる怪力を秘め、メモリ自体とも異常なレベルで適合したガドルの一撃は、やはり強烈だ。
 たったの一撃でダークカブトに大ダメージを与えたその攻撃を、胸部に直接受けたのだ。そのダメージは半端ではない。
 全身に伝播する痛みと衝撃が、啓介の意思に反して、足元からガクガクとこの身を震わす。
 今にも崩れ落ちそうなその身体で、それでもイクサは、イクサライザーを構えた。
 同時にアームズ・ドーパントもまた、右腕の機銃を、ほぼ零距離でイクサへと構える。

516G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:44:33 ID:cN.LBK3c0
 
 ――二人の斉射は同時だった。

 ドドドドドドッ! と派手な銃撃音を掻き立てて、二人の身体が派手に爆ぜる。
 イクサの剥き出しの胸部装甲を何発もの弾丸が穴を穿ち、アームズ・ドーパントの傷だらけの胸部を無数の弾丸が抉る。
 見る者全てが息を飲む。強烈な威力を持った弾丸の応酬が、ほぼ零距離でお互いの身を削り合っているのだ。
 数秒に及ぶ斉射が終わった後で、お互いはほぼ同じ動作でお互いの剣を振り上げ、それらを激突させる。
 最早防御行動を取る事すらも出来ず、イクサの装甲はアームズ・ドーパントの剣戟によって派手に損傷させられるが、イクサも黙ってやられはしない。
 防御を捨てた分、この身で攻撃を受けながらも、敵の身体目掛けてカリバーを叩き付ける。何度も何度も、力の限りに剣を叩き付ける。この攻撃は、確実に敵の体力をも削っている筈だ。
 やがて、振り上げた二人の獲物が激突した。その衝撃はイクサの腕を伝って、最早満身創痍と言っても過言ではない啓介の身体全体に、骨の髄から震え上がる程の振動が伝播するが、

 ――イ・ク・サ・カ・リ・バー・ラ・イ・ズ・アッ・プ――
 
 それでも体力を残していたのは、戦術をより多く温存していたのは、イクサの方だった。
 痛む身体を動かし、左腕でカリバーフエッスルをベルトへと装填したイクサは、そのまま左腕でエネルギーを充填。
 シールドソードと激突したままのイクサカリバーの刀身が、チャージアップされたエネルギーによって光り輝いた。

「その命――!」

 輝くイクサカリバーの一撃が、シールドソードとの押し合いを征し、一気に下方まで降り抜かれる。
 粉々に砕かれたシールドソードは、最早原形すらも留めず銀の欠片となってアスファルトへ落ちた。
 勢いそのままに、イクサカリバーを振り上げたイクサは、残つ力を振り絞って、遥か上方へと跳び上がり。

「神に返しなさいッ!!!」

 それはまるで、闇夜を照らす灼熱の太陽の輝きを背に受けたかのように。
 太陽の光と灼熱を受け光り輝くイクサの刃が、亀裂の入ったフェイスカバーを叩き割って、そのままアームズ・ドーパントの股下まで一気に刃を振り抜いた。
 完全なる直撃だ。よもや防いだなどとは言わせまい。勝った、正義が悪を倒したのだと確信し、イクサはアームズ・ドーパントに背を向け、歩き始める。
 一拍の間を置いてから、イクサの後方で、アームズ・ドーパントの身体が爆ぜたのであろう、大爆発の音が聞こえた。
 背に吹き付ける爆発の颶風に煽られながらも、勝利を果たしたイクサは、後方で待つ二人の仲間の元へと凱旋する。
 強化形態であるイクサの変身が通常よりも早く解除される頃には、啓介の背を焦がす熱も颶風も収まっていた。





 どさりと崩れ落ちた巨体から排出された黒金塗りの小さな箱は、ぱきんと音を立てて砕け散った。
 それがアームズメモリの最期だった。兵器の記憶を宿したガイアメモリは、もう二度と使いものにはならないのだろう。
 いくら連戦による疲労を抱えていたとはいえ、アームズのメモリとガドルの適合率はかなりのもの。これを使い三人の仮面ライダーを圧倒したガドル自身も、よもや真っ向からのぶつかり合いで敗北を喫するなどとは思ってはいなかった。
 奴は、名護啓介と名乗った男が変身した仮面ライダーイクサは、成程ガドルも認めざるを得ない真の強者なのであろう。
 ガドルは海堂直也との戦いで学んだ。仮面ライダーとは、正義の心さえあれば、能力の限界すらも越えて何処までも強くなる存在なのだと。
 今し方戦った男は、ガドルの思惑通りより強い仮面ライダーとなり、見事この破壊のカリスマが変じたアームズ・ドーパントを打ち倒して見せたのだ。

「あの時手も足も出なかったリントが、随分と強くなったものだな……」

 そして、ガドルはそれを嬉しく思う。
 ようやくこのゴ・ガドル・バが戦うに足りる敵が現れたのだ。あのクウガさえも成し得なかった破壊のカリスマの打倒を、今ここで成し遂げんとする者がようやく現れたのだ。
 なれば武人として、破壊のカリスマとして、ガドルは全力前例を持ってその敵を、仮面ライダーを打ち倒さねばならない。それが戦士が戦士に払える、最大限の礼儀ではないか。
 ディケイドとブレイドによって与えられた大傷と、今し方ライジングイクサによって斬り付けられた身体は重たく、今もガドルの身を苛むが、最早そんな事は関係ない。
 戦いは常に生きるか死ぬかだ。この命を討ちとらんとする強者が現れた以上、それに背を向けて逃げ出すゴ・ガドル・バではない。
 痛む身体に鞭打って、ガドルは再び立ち上がり、アスファルトを踏み締めた。

517G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:45:15 ID:cN.LBK3c0
 
「リントの戦士、仮面ライダーよ……決着はまだ着いてはいないぞ」
「あいつっ……メモリブレイクされたってのに、まだ戦えるってのかよ!?」

 驚愕の声を上げたのは、先程の戦いで見ているだけしか出来なかった帽子の男だった。
 既に変身を解除した名護啓介は、イクサへの変身が不可能となった今でも、決して臆する事なくガドルから視線を外しはしなかった。それでこそこのゴ・ガドル・バが認めた仮面ライダーであると言えよう。
 その一方で、三人目の黒い仮面ライダー……否、仮面ライダーの皮を被った愚か者、ダークカブトは、名護とガドルの間で所在なさげに佇んでいた。
 真の戦士との決戦を望むガドルにとって、仮面ライダーにすらなり切れない紛い物にさしたる興味はない。とは言うものの、それでも元の世界でガドルがゲゲルの標的としていた男性警察官よりはよっぽど強いのだろうという事も分かりはするが、海堂直也や名護啓介、門矢士や葦原涼と言った、このガドルの身体に幾つもの傷を負わせた真の戦士達と比べれば随分と見劣りするものだ。
 此処は神聖なる戦士の決闘場。戦士ですらない紛い物がいつまでも此処に居るのは、ハッキリ言って場違いというものではないか。僅かな苛立ちと共にそう考えたガドルは、まずはダークカブトから片付けてやろうと、その身を漆黒の強化外骨格で覆い隠し、悠然と歩き出した。
 ガドルが変じたこの姿は、奇しくも目の前の黒いカブトと同じ、黒いカブトムシに似た姿だった。これこそが、最強集団ゴの、最強の戦士の真の姿。
 この姿になったガドルがまともに戦って負けた経験は、未だかつてゼロだ。如何に此方が手負いとて、例えアームズ・ドーパントの姿で撃破されたとて、真の力を解放したガドルを打ち倒すのはそう簡単ではない。
 胸元の装飾品を毟り取り、それを一振りの巨大な大剣へと変化させる。ダークカブト程度の敵ならば、大剣による一撃で十分撃破可能だろうし、もしもこの力に恐れをなして逃げるのであれば、目の前の獲物を捨て置いてまでわざわざ追い掛けてやる気も起きない。
 戦うも逃げるも、好きにすればいい。そういった判断に従い歩を進めるが、しかしダークカブトは、その場から逃げ出しはしなかった。

「貴様、俺と戦う気か」
「名護さんだって、戦ったんだっ……僕だって……!」

 自分を奮起させるようにそう呟いたダークカブトは、銅色の短剣を引き抜き、ガドルへ向かって駆け出した。
 猪突猛進。軌道の見え透いた、まるで子供の喧嘩のような攻撃だった。攻撃は単調だし、獲物のリーチでも此方が勝る。負ける訳がないと分かっていながらも、ガドルは大剣を振るった。
 大剣の一撃は、咄嗟に突き出された短剣によって何とか直撃だけは防がれるが、単純な力押しで圧勝した大剣は、ダークカブトの短剣を弾き飛ばした。
 宙を舞うクナイガンに一瞬気を取られたダークカブトの胴を、横薙ぎに振るった大剣が思い切り殴りつけた。

「ぐぁっ……!?」
「おい、総司っ!!」

 細身のダークカブトの身体は、容易に大剣に薙ぎ払われる。
 ごろごろとアスファルトを転がったダークカブトは、起き上がり様に先程取り落とした短剣を拾い上げ、すぐに再びガドルへ向かって駆け出して来た。
 強い意思を持つ訳でも無いダークカブトは、今の一撃で戦闘不能にまで追いやれると踏んでいたのだが、どうやら思っていたよりもタフらしい。
 二度目の突貫は、一度目よりも賢かった。ダークカブトの接近に対し、ガドルは勿論大剣で対応しようとそれを振るうが、ダークカブトは大振りなガドルの横一閃を、上体を前のめりに屈める事で回避した。
 そうなれば、ガドルとダークカブトが肉薄するまでに掛かる時間はほんの一瞬だ。
 クロスレンジまで飛び込んだダークカブトは、ガドルの首を掻き斬らんと、我武者羅にクナイガンを振り抜く。
 だが、まだ対処し切れぬ速度では無い。掲げていた大剣の角度をほんの少しずらし、クナイガンによる刃の一撃をその刀身で見事に防ぎ切った。
 互いの獲物から火花が舞い、反動でダークカブトの身体が僅かに後方へ下がった。すかさず大剣を振り上げ構え直し、ダークカブトへ向けて振り下ろすが、

518G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:45:42 ID:cN.LBK3c0
 
 ――PUT ON――

 ガドルの一撃がダークカブトを襲うよりも先に、ダークカブトは銀色の鎧を身に纏った。
 上半身の全体を覆い尽くした鎧は見るからに重厚そうで、事実としてガドルの大剣は、ダークカブトが突き出した左腕の装甲によって阻まれていた。
 とは言うものの、完全に防ぎ切ったという訳でもない。クウガの鎧すらも容易に破壊するガドルの怪力を前にして、如何に重厚な装甲と言えども“安全”などは有り得ないのだ。
 そのままガドルが剣を押し込むと同時、ダークカブトの左腕に装着された銀の装甲は耐久度の限界を越えて砕け散るが、最早そんなダメージすらもお構いなしだった。
 ダークカブトは、砕け散った左腕の装甲など意にも介さず、いつの間にか右腕で握り締めていた短斧を力一杯振り被って、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおあっ!!」

 それをガドルの脇腹へと力の限りに叩き付けるが……悲しいかな、剛力体のガドルに傷を付けるには、まだまだ力不足だった。
 捨て身の覚悟で飛び込み、渾身の一撃のつもりで振るった攻撃でこの程度なら、やはりこいつは大した敵ではあるまい。
 これはお返しだと言わんばかりに、大剣をダークカブトへ向けて振り下ろした。
 一瞬ののち、それはダークカブトの肩を守る銀の装甲へ食い込み、装甲全体に亀裂を生じさせた。
 ここまでの戦いで既にその身体はボロボロだったのだろう。ダークカブトは、ガドルの大剣に押し切られるようにガクンとバランスを崩し、その片膝をアスファルトへと打ち付けた。

「うぐっ……!」
「紛い物」

 声を掛けるが、ダークカブトは、何も答えようとはしなかった。
 先程までよりは些か戦士らしい奮闘を見せたが、それでもこのガドルには遠く及ばない。
 これで終わらせてやろう。装甲に食い込んだ刃を引き抜き、今度はその仮面を叩き割り頭蓋を砕き割ってやろう。
 そう思い、剣に力を込めようとした、その時だった。

「僕の後ろには……名護さんや、翔太郎が居るんだ……っ!」
「何――? ……ッ!!」

 ほんの一瞬注意を逸らした、その刹那。
 ダークカブトの銀の装甲全体に稲妻が走り、それがダークカブトの身体から浮かび上がり始めた。
 今まで幾度か見て来た光景だったが故に、それが何を意味するのかはもう知っている。
 危険を察知したガドルは、取り急ぎ銀の装甲に食い込んだ剣を引き抜こうとするが、

 ――CAST OFF――

 それよりも先に鳴り響いた電子音。
 同時に、目の前の装甲が弾け飛んだ。胸部、仮面、右腕、あらゆる箇所の装甲が、弾丸の如き速度でガドルへと殺到する。
 リントの警察官が用いる銃弾などよりもよっぽど威力の高い殺傷兵器と化した仮面ライダーの装甲は、ガドルの身体を強かに打ち付け、ガドルもこれにはたまらず両腕でガードの体勢を取った。
 腕の甲に激突し、何処かへと弾け飛んでいく装甲をやり過ごすまでに掛かった時間は、秒数にすれば二、三秒程度の事だっただろう。
 だけれども、極限の戦いにおけるその数秒は、大きい。この僅かな間に、ダークカブトのベルトが三連続の電子音声を鳴らしていた事に気付けぬガドルではない。
 しかし、だからと言って小細工などはしない。両腕の守りを解き、今すぐにでも剣を構え直し反撃ようとしたガドルの視界に飛び込んで来たのは――その場で左脚を軸に一回転して勢いを付け、右脚を振り上げるダークカブトの姿だった。

「ハアアアアアアアアアアアッ!!!」

 まるで体中の力を振り絞るかのように、ダークカブトが腹の底から裂帛の絶叫を響かせる。
 咄嗟に大剣を振り上げようとするが、ガドルが重たい剣を振り上げるよりも、ダークカブトが既に振り上げた脚を振り下ろす方が速いのは明白だった。
 一瞬ののち、ガドルの肩に踵落としの要領で叩き落されたその一撃の威力は、微々たるものだった。所詮紛い物の仮面ライダーではこんなものかと落胆するが、すぐにガドルはそれを否定する。歴戦の戦士だからこそ分かる。今の一撃に込められた感情は、そんなちっぽけなものではない。まだ何かがある筈だ。
 そして、気付く。踵落としを直撃させたその直後に、ダークカブトがベルトの角を倒したのだ。
 
 ――RIDER KICK――
 
 刹那、ベルトから駆け巡った稲妻が、ガドルの視界を眩く照らす。
 タキオン粒子と呼ばれるそれは一度ダークカブトの仮面まで昇り、そのままガドルと密着した右脚へと充填される。

519G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:46:37 ID:cN.LBK3c0
 
「ライダーキック……ッ!!!」

 仮面ライダーのみに許された必殺の一撃の名を高らかに叫び、ダークカブトは右脚に一気に全体重を乗せた。
 そして、奇しくもそこは、先の戦いでディケイドエッジによって斬り裂かれ、未だ回復の追い付かぬ左上半身。それに気付いた時には、ダークカブトの振り下ろした右脚によって、ガドルの身体は地に叩き落されていた。
 タキオンによる爆発音が、至近距離でガドルの耳朶を叩く。ディケイドエッジによる傷跡を通して、既にボロボロである筈のこの身に稲妻が駆け巡る。思わず両手をアスファルトに着いて、この身を支える。
 どうせ紛い物の仮面ライダーには何も出来まいと、油断し過ぎた。手負いの身体とは言え、剛力態となったこのガドルの身体を地に着けるとは、破壊のカリスマの名が泣くというもの。
 もうこれ以上の油断は出来まい。これから行うのは、先程までの遊びのような生ぬるい戦いなどでは断じて無い。生きるか死ぬか、生死を掛けた本気の死合いだ。
 確実な殺意を胸に、ガドルは再びその剣を握り締め――ダークカブトへの反撃が始まった。


 それから繰り広げられたのは、最早戦闘と呼べるものでは無かった。
 ガドルが一歩全身すると同時に、剣による一撃がダークカブトを襲う。ダークカブトには反撃の余地すらも与えられず、ただ後退する事くらいしか出来なかった。
 剣による攻撃を防ごうとクナイガンを振り上げれば、それを弾き上げられ、次の瞬間にはヒヒイロノカネで出来た胸部装甲に強烈な斬撃を叩き込まれ、ダークカブトは更に後退する。
 ダークカブトは、自分自身、もう何度攻撃を受けたかも覚えていなかった。ヒヒイロノカネは最早まともな装甲とは思えぬ程にズタズタに引き裂かれ、身体に蓄積された疲労は、ダークカブトの意識を朦朧とさせる。
 地球上で最も硬いとされる鉱物を用いた装甲のお陰で、今すぐに命に危険が及ぶ事こそ無いが、それでもいつまでこの身体が持つか。あとは殺されるのを待つだけ、なのだろうか。

(ほら見ろ……やっぱり、無理なんじゃないか)

 内心で、そう自嘲する。
 どんなに必死になって挑んだって、自分よりも強い者に真っ向からぶつかり合って勝てる訳がないのだ。
 海堂直也だって、自分の分を弁えず、或いは自分の死を悟った上で挑んで、そして結果は当初の想像通りだった。
 名護さんが勝利出来たのだって、それは名護さんが強いから勝てたというだけだ。心も体も弱っちい自分に、そんな事は最初から無理だったのだ。少しでも希望を持って挑んだ自分の愚かしさを呪わずには居られない。
 最早反撃する気力さえも消え失せたダークカブトの装甲を、横薙ぎに振るわれたガドルの剣が叩き付ける。強烈な衝撃は胴から全身へと伝播し、内臓でもやられたのか、口元から溢れ出した血液がダークカブトの仮面から漏れ出した。
 まさに立って居られるだけでも奇跡、というくらいに絶望的な状況であった。
 それでも、ふらふらになりながらも立ち上がったダークカブトは、目前に迫るガドルにか細い声で言った。

「もう、いいや……早く、殺せよ」
「何?」
「とっとと、一思いに殺せって、言ってるんだよ」

 ガドルが、ゆっくりと息を吐いた。
 それは単なる呆れによる嘆息か、それとも別の何かであるのか、ダークカブトには見当もつかないが、今となってはそんな事もどうだっていい。
 
「いいだろう」

 そう一言告げたガドルが、ゆらりと大剣を振りかぶった。

「おい、やめろ! 総司っ!!」

 翔太郎が叫ぶが、それでやめてくれる相手ではないのだろうという事は容易に想像がつく。
 あれだけ仲間がどうと言っておきながら、結局この土壇場では翔太郎も名護さんも何もしてくれなかった、仲間なんてそんなものかと、薄れ行く意識の中で毒吐く。
 ……いや、違うか。ダークカブトは知っている。彼らには今、他に変身する為の手段など残されては居ないのだ。助けようにも、助けに来れる訳がないのだ。
 それならば仕方があるまい。確実に殺されると分かっていて生身で飛び込むような馬鹿はいまい。あの海堂だって、変身能力を一つ残していたからこそ、ああして飛び出していけたのだ。
 他人の為に、確実に死ぬと分かっている戦場へ、命を投げ出してまで飛び出して行く事など出来ないのは当然の事。所詮、それが人間というものだ。期待するだけ馬鹿馬鹿しい。
 そうして死を覚悟したダークカブトには、最早ガドルの攻撃を避けるつもりさえなかった。
 奴はきっと、今振りかぶった大剣でダークカブトの仮面を叩き割り、この装甲ごと身体を真っ二つに引き裂くつもりなのだろう。
 さぞ醜い死に様を晒す事だろう。だけどもそれは、醜い人生を送って来た自分には調度いい、当然の死に方であるかのようにも思えた。

520G線上のアリア/ファイト・フォー・ジャスティス ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:46:55 ID:cN.LBK3c0
 
「……フンッ!」

 いよいよガドルが大剣を振り下ろす時が来た。
 月の光に照らされた大剣がダークカブトへと急迫し――刹那、感じたのは、腹部への衝撃だった。

「えっ――」

 何が起こったのか、今の彼には理解し得ぬ光景だった。
 何かに押されたように、この身体が後方へと突き飛ばされ。宙を舞う彼の視界の先で、つい先刻まで自分が装着していた筈のダークカブトゼクターが、大剣に特攻を仕掛けていた。
 そして、気付く。この身体には、もうヒヒイロノカネは装着されていない事に。眼前に拡がる世界は、ダークカブトの仮面を通してではなく、自分の肉眼で見る世界だという事に。

「―――――――!!!」

 吐き出したのは、何の意味も持たない、声にもならない声だった。
 飛んでゆくダークカブトゼクターへと手を伸ばすが、後方へと飛ばされながらでは、届く筈も無い。
 まるでスローモーションの映画でも見ているかのように。目の前で、ダークカブトゼクターは爆発した。
 小さな身体から溢れ出した多量のタキオン粒子が虹色の輝きを撒き散らし、爆発を誘発する。爆煙とタキオンの輝きがガドルを飲み込むが、そんな事でダメージを与えられる訳もない。
 すぐに晴れた視界に移ったのは、大剣を構え全身を続けるゴ・ガドル・バの姿だった。
 目の前で起こった事実を漸く理解出来た彼は――

「あっ……あ、う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 まるで泣きじゃくる子供のように、腹の底から絶叫した。
 ダークカブトゼクターだけは、どんな時でも自分と一緒に居てくれた。
 この身体が化け物に変えられたその時から、このゼクターだけは、ずっとそばに居てくれた。

 それが、そんな小さな相棒が、目の前で、殺された。
 こんな簡単に、別れの言葉すら交わさせず、ほんの一瞬で殺された。
 
 ダークカブトゼクターは、もう二度と自分の呼び掛けに応えてくれる事はなくなったのだ。
 どうしてダークカブトゼクターが自分の変身を無理矢理解除し、飛び出して行ったのかなど考える余地すらない。
 ただ怒りとも哀しみともつかない感情がこの胸を埋め尽くして、とっくに枯れ果てたと思っていた筈の涙を滂沱と流させる。
 もう自分には何もない。誰も一緒に戦ってはくれない。唯一無二の身内が居ないこんな世界に、もう意味などはない。
 終わらせてやる。これで全部、何もかも終わらせてやる――!

「――ああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 絶叫と共に、この身を緑の異形へと変質させてゆく。
 一体何故どうして自分がこんな行動を取っているのかなんて、自分自身にも解らない。
 ただ沸き起こる激情に任せて、ネイティブワームとしての姿を晒した彼は、ガドルへと飛び出して行った。
 腕から生えた鍵爪を振りかぶりガドルの懐へと飛び込むが、最早我武者羅飛び込んだサナギワームの一撃など、ガドルに届く訳がない。ワームの一撃は掠りもせずに、振り下ろされた剣がこの身を引き裂いた。
 硬質な外骨格に覆われているとは言え、ヒヒイロノカネよりは脆い装甲は容易く引き裂かれ、人間のものとは思えない鮮血が飛び散った。

「うぐっ……」

 無様な声を漏らしながら、遥か後方へと吹っ飛ばされたワームが、地面をのたうつ。
 ガドルはその場から一歩も動かず、ただ悠然とした動きで剣を突き出し、それをボウガンへと変えた。
 必殺の威力を秘めた空気弾が、ガドルのボウガンから射出されるが、そんな事を分析出来る程彼の心中は穏やかではない。
 自分に死が急迫する事など理解も出来ず、ただ我武者羅に立ち上がって、突貫しようとした、その時だった。
 眼前に、白の装甲を身に纏った戦士が立ち塞がり――その身で以て、空気弾の一撃を受け止めたのだ。
 装甲の表面で炸裂した空気弾は、太陽の紋章が描かれた装甲を粉々に砕き、その身体を後方へと吹っ飛ばす。
 白い装甲と緑の異形が激突して、二人の身体は揃ってアスファルトを転がった。

521G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:48:24 ID:cN.LBK3c0
「クソッ……俺にはどうする事も出来ねえのかよ!?」

 そう言って銀のベルトに拳を叩き付ける翔太郎であったが、そんな事で状況が変わる事がないという事くらいは、翔太郎自身が一番理解している。
 状況は絶望的だ。アームズ・ドーパントとの激戦を制した名護啓介は、最早戦える身体ではない。全身は傷だらけだし、蓄積された疲労の度合いは、まさしく満身創痍と言えるレベルなのだろう。
 そんな名護にこれ以上無理をさせる訳にもいかない。となれば、今総司を救う事が出来るのは自分しか居ないと云うのに、その自分は変身制限によって変身すらままならないという体たらく。今こうしている間にも総司が変身したダークカブトは、ガドルにボロボロに傷め付けられているというのに……。
 もう我慢ならぬと、生身で飛び出して行こうと立ち上がる翔太郎だが、そんな翔太郎の肩を強く掴み引き止めたのは、案の定名護啓介だった。

「落ち着きなさい、翔太郎君」
「止めてくれるな名護さん、俺はこれ以上黙って見てるなんて出来ねえんだよ」
「変身も出来ない今の君では、むざむざ殺されに行くようなものだぞ」
「じゃあ総司の奴を見捨てろっていうのかよ! あんたの弟子なんじゃなかったのか!?」
「俺だって辛い! だが……どうしようもないんだ……!」

 目を硬く閉じて、名護はらしくもなく苦悶に歪んだ声を漏らした。
 名護自身も翔太郎と同じように、助けに行きたくても行けないこの現状に苦しんでいるのだろう。
 それが分かるからこそ、翔太郎はこれ以上名護を責めるような事は言えなかった。

「……せめてこのベルトが使えりゃあ」

 ぽつりとぼやいて、街灯に照らされ鈍く煌めくゼクトバックルを一瞥する。
 自分にも戦う力さえあれば、今すぐにでも総司に加勢したいというのに……それなのに、このベルトに対応するガジェットは一向に姿を現そうとはしてくれない。
 翔太郎は知らぬ事だが、このゼクトバックルに対応するガジェット――即ちホッパーゼクターとは、絶望を糧に動く自律行動ユニットだ。どんな時でも僅かな希望を信じて戦う翔太郎をホッパーゼクターが認めてくれないのは、当然の事だった。

「無い物ねだりをした所で仕方ない……他に方法があれば……」

 そう言った所で、名護がふと、何かに気付いたように自分のデイバッグを漁り始めた。
 中から取り出したのは、翔太郎が良く知る長方形の箱――ガイアメモリだ。赤い色をしたそのメモリには、アルファベットの「S」をイメージさせる形状のケーキが描かれていた。

「スイーツメモリ……!? そんなもんまで支給されてるのかよ……」
「ああ、これは俺の支給品の一つだ。本当はこんな怪しげな物は使いたくなかったが、これしかないのなら……」
「名護さん……」

 そう言って手渡されるスイーツメモリを、翔太郎は素直に受け取る気にはなれなかった。
 名護は知らないのだろうが、ドライバー無しで使用されたガイアメモリは、使用者(ユーザー)の精神を蝕んでゆく。
 それを誰よりもよく知っている翔太郎だからこそ、風都を守る仮面ライダーである翔太郎だからこそ、ガイアメモリを使用する事には抵抗があった。
 大体にして、エクストリームどころかファングですらない通常形態の仮面ライダーWに破れ去ったスイーツメモリが、この状況で役に立つとも思えない。
 せっかく自分の支給品を貸してくれようとした名護さんには悪いが、こればかりは――

「いや、待てよ」

 そこで翔太郎は気付いた。
 翔太郎は現在制限によってジョーカーに変身する事は出来ないし、名護はもうイクサには変身出来ない。
 だけれども、翔太郎が一度たりとも変身した事のないシステムならば……そう、イクサならば、話は違うのではないか。
 そう思い、名護の腰に未だ巻かれたままになっているベルトに視線を向ける。

「……名護さん、あんたのイクサ、俺に貸してくれないか!」
「何……俺のイクサを?」
「ああ、そんな下らないメモリなんかよりも、そっちの方がよっぽど信頼出来るぜ」

 俯いた名護は僅かに逡巡するが、すぐに翔太郎の意図を理解したのだろう。「そうか」と小さく呟くと、すぐに腰に巻かれたベルトを外した。
 ベルトと、それに装着するグリップ――イクサナックルを翔太郎へと差し出した名護は、警告するように言う。

522G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:49:00 ID:cN.LBK3c0

「いいか、翔太郎君。このイクサは、絶える事無く未来の戦士へと受け継がれ続けてゆく、正義のライダーシステムだ。
 誰にでも装着出来るように設計されたこのイクサなら、確かに君にも使いこなせるだろう。だが……決して命を賭けるような無理だけはしないと約束してくれるか」
「おいおい、何言ってんだ名護さん。そんな事、一番無理して戦ったあんたが言ったって説得力ないぜ」
「それは……」

 何事かを告げようとした名護の口元に、人差し指を立ててそれを制し、

「俺だってあんたと同じ正義の仮面ライダーだ。野暮な事は言いっこなしにしようぜ、名護さん?」

 左手で軽くハットの角度を調節しながら、敢えてキザったらしい台詞を言って見せる翔太郎だった。
 先程のアームズ・ドーパントの戦いで、名護啓介は無茶とも思える戦法で見事勝利をもぎ取ったのだ。無理はしないで、なんて甘い事を言いながら勝てる相手ではないという事くらいは、翔太郎にだってわかる。
 名護はその双眸を厳めしく吊り上げ、翔太郎の眼をじっと見据えるが……やがて折れたように、ふっと笑みを浮かべた。

「……ああ、そうだな、君の言う通りだ。敵(ガドル)は、無理をせずに正義を貫かせてくれるような相手ではなかったな」
「その通りだぜ名護さん。無理せずなんて甘い事は言ってられねえ……けどな、代わりといっちゃあ何だが、一つだけ約束するよ」
「ふむ、何だ。言ってみなさい」

 訝しげに問う名護を後目に、翔太郎はイクサベルトを装着しながら告げた。

「名護さんだって、紅の奴だって、無理を通して道理を蹴飛ばしたんだ。なら俺だってやらなきゃ仮面ライダーの名がすたるってもんだろ?
 俺は勝つぜ、絶対にな。必ず勝つって約束する。だから名護さんは、俺を……いや、俺達仮面ライダーを信じて、ここで待っててくれ」

 翔太郎だけではない。俺達で、だ。
 名護の想いを胸に、総司と二人で、力を合わせて必ず強敵を討つ。それが翔太郎からの約束だった。

「……いいだろう。君も戦士なら……仮面ライダーなら、約束は必ず守りなさい」

 二人の間に、最早それ以上の会話は必要なかった。
 今翔太郎が手にして居るこのバックルは、あの紅音也が使っていたものと同じイクサナックルだ。
 紅とイクサが命を賭けてまで救ってくれたこの命、決して無駄に散らせはしない。遥かな時を越えて、紅から受け継がれたイクサナックルを掌に打ち付け、翔太郎は叫んだ。

 ――レ・デ・ィ――

「変身ッ!!!」

 刹那、ベルトから飛び出した金の十字架は瞬時にイクサのパワードスーツを形成し、翔太郎の身体へと装着されてゆく。
 スーツが翔太郎の身体に馴染み、その姿を蒼穹と太陽の仮面ライダー――イクサへと変化させた所で、マスクを覆っていた金のバイザーが変型し、赤い複眼を露出させた。
 セーブモードから、より出力を高く発揮する為の形態、バーストモードへとシステムが自動で移行したのだ。

 それからの行動は、翔太郎自身も考えて行ったものではなかった。
 今自分が飛び出さなければ、総司はきっと、ガドルのボウガンによって射殺されてしまう。変身したばかりだというのに、いきなり名護との約束を破る訳にもいかぬと、イクサは脇目も振らず一心になってボウガンの射線上へと飛び出した。
 結果として、太陽を描いたイクサの胸部装甲はまるで一点を突き砕かれたように砕け割れ、内部の心臓部を僅かに露出させはしたが、翔太郎自身は命に別状は無さそうだった。
 身体そのものをガイアメモリによって作り変えて「変身」しているダブルやジョーカーと違って、厳密にはイクサは強化装甲服による「武装」だ。砕かれたのが装甲だけだから良かったものの、これがもしもジョーカーの身体だったなら、と考えるとぞっとする。
 こいつの攻撃をこれ以上受け続ける訳には行かないなと判断しながら、翔太郎は自分の身体の下敷きになっていた総司の身体を起こした。

「間一髪だったな、総司」
「なんで、どうして……何しに来たの!?」
「決まってんだろ、お前と一緒に、勝ちに来たのさ」
「もう、やめてくれよ……僕はもう、こんな辛い思いをしてまで、生きていたくなんてないんだよ」

 異形となった総司の声は、震えていた。

「お前……」
「もう分かったよ。どうせ僕は何をやったって駄目なんだ……世界に拒絶されてるから」
「世界に拒絶って……、おいおい、俺や名護さんがいつお前を拒絶したってんだよ」

 問うが、総司は答えようとはしない。
 ふらふらと、覚束ない足取りでガドルの方向へと全身してゆくだけだった。

523G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:49:32 ID:cN.LBK3c0
 
「見苦しいな。戦う気すら失ったか」

 もう興味など失った、死ね、とでも言わんばかりに、ガドルが再びボウガンを総司へと向ける。
 だけれども、総司はまるで慌てようともしなかった。ただ死(ガドル)へと歩みを進めるだけだった。

「――んのバカッ!」

 ガドルが再び空気弾を放とうとしたその瞬間、慌ててイクサが飛び出した。
 緑の巨体を引っ掴んで、無理矢理その場へ押し倒すと同時、倒れ伏したイクサの背を空気弾が通過していった。
 激情した総司は、イクサの身体を突き飛ばし、金切声をあげて怒鳴る。

「なんで邪魔するんだよ! 僕なんか見捨てて、お前らはもう逃げればいいだろ!?」
「ふざけんなよお前……ふざけんなよっ!! なんで仮面ライダーが、救える命を見捨てて逃げ出さなきゃならねえんだ!?」
「お前が僕を助けたいって言ってるのは、僕の為なんかじゃない!」
「なっ……!」
「お前が仮面ライダーだから! だからその都合を僕に押し付けて、助けたつもりになりたいだけじゃないか!!」
「……っ!!」

 そう言われた次の瞬間――飛び出したのは、翔太郎の、イクサの拳だった。
 振るわれた拳は異形となった総司の上半身を強かに打ち付け、その身体を数メートル後方へ吹っ飛ばす。
 総司がどさりと音を立ててアスファルトを転がったその時、翔太郎は我に返ったように、はっとして自分の拳を見詰める。
 何故どうして殴ってしまったのか。言葉では無く、暴力を選んでしまった自分自身を一瞬とはいえ悔やんだが、いや、後悔はしていない。

「……殴っちまって悪かった、総司。でもな、それは、俺だけじゃない、守る為に戦った全ての仮面ライダーを侮辱する言葉だ」
「……っ! そんなの……僕が知ったことじゃない……っ」

 一瞬、総司の言葉が詰まった気がしたのは、きっと気のせいではないのだろう。

「なあ総司よ、お前も本当は分かってるんじゃないのか!? 仮面ライダーを……いや、名護さんの事を……
 弟子のお前の為に、あんなになるまで戦った名護さんを侮辱するのが、本当は辛いんじゃないのかよ?」
「……僕は……!」

 その問いに、総司は答える事が出来なかった。
 名護は、事実として、弟子である総司に自分の道を示す為に、例えボロボロにやられたとしても、最後には勝てないと思われていたアームズ・ドーパントを一人で打ち倒した。
 それは力だけで出来る事では無い。強い想いが無ければ……弟子を想う優しく正しい心が無ければ、決して出来ない事ではないのか。そして総司は、本当はそれをもう、分かっているのではないか。だからさっき、あんなに必死になってガドルに挑んでいったのではないのか。
 何の根拠もない推測だが、それでも翔太郎は、総司がそう思ってくれているのだと信じたかった。例え総司の正体が醜い異形だったとしても、心は人間なのだと信じたかったのだ。

「……弱きリントよ。貴様は、そいつが真の仮面ライダーになれるとでも思っているのか」

 ガドルが、手にしたボウガンを構えながら、イクサへと問うた。

「ああ、俺は信じてるぜマッチョメン。こいつは、総司は、正義の仮面ライダーになれる……絶対にだ!」
「愚かな……そんな根拠など何処にもなかろう」

 呆れ果てたように告げられた言葉と同時、ガドルが再び引き金を引いた。
 だけれども、それと同時に鳴り響いたのは、甲高い金属音。放たれた空気弾はイクサの足元のアスファルトを射ぬき、その地点を粉々に砕いて柔らかな地面を露出させたその威力の程に、イクサは息を飲んだ。
 ガドルは何も、意図してこの一撃を外した訳ではない。空間を裂いて現れた赤いガジェットが、発射の瞬間にボウガンに激突し、その方向を僅かにずらしたのだ。
 
「あれは……さっきの!」

 カブトゼクター。仮面ライダーカブトへと変身する為の、専用ガジェット。
 それが、銀色のベルトを携えて、再び翔太郎達の眼前へと姿を現したのだ。
 カブトゼクターはそのままの勢いで倒れ伏したままの総司の元へと飛翔し、総司の元へもう一度銀色のベルトを落とした。
 総司はまるで脅えたように、カブトゼクターとライダーベルトから逃げる様に、数歩後退りするが――やがて、感極まったように、ライダーベルトを掴み取った。
 変身する気になったのかと、翔太郎自身も、ほんの一瞬だけそう思った。

524G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:49:52 ID:cN.LBK3c0
 
「こんなものがあるからっ……もう、消えてくれっ!!!」
「……ッ!? おい、やめっ――」

 翔太郎の制止は、既に手遅れだった。
 総司が思い切り投げた銀のベルトは、ガドルへ向かって飛んでゆく。
 となれば、ガドルが降り掛かる火の粉を払わんと行動するのは当然のことだ。
 無言のままにボウガンから放たれた空気弾は、ライダーベルトのバックル部を直撃し――そのまま、銀色のベルトは、ただの無数の機械の破片となって砕け散った。
 カブトゼクターだけが残った所で、仮面ライダーカブトには変身出来ない。ゼクターに対応したベルトは、もうこの世に無いのだから。
 本来のカブトである天道は死んだ。総司へと受け継がれる筈だったベルトは粉々に砕け散った。
 事実として、仮面ライダーカブトは死んだ。これで、完全に、死んでしまったのだ。

「お前……なんて事を……!」
「もういいんだよ! ダークカブトゼクターにすら見捨てられた僕が、どうしてカブトになんかならなくちゃいけないんだ……!」
「……ダークカブトゼクターに見捨てられたって……それ、本気で言ってんのかよ」
「ああそうだよ! 世界は僕を拒絶する! ダークカブトも、最期には僕を見捨てて、一人で逝った!」
「お前……お前っ、あいつがお前を見捨てて逝ったって、本気でそうだと思うのかよ!?」

 イクサの仮面を通してでも分かるくらいに、翔太郎の声には怒気が含まれていた。
 翔太郎はこの眼で確かに見届けた。ダークカブトゼクターが粉々に砕かれて“死ぬ”その瞬間を。
 最後の最後で、総司の身体を突き離して、たった一人で死へと飛び込んで行く勇敢な「相棒」の姿を。
 翔太郎にだって掛け替えのない相棒が居るから分かる。アイツは、総司を見捨てて死んだ訳ではない。そんな訳がない。
 アイツもまた、たった一人の相棒を守る為に必死になって戦って……それで、最期はその命を賭けて総司を守り抜いたのだ。
 そこに人間だバケモノだガジェットだなどと、そんな下らない垣根は存在しない。誰が何と言おうと、アイツは総司の相棒だった。
 それなのに、それなのに総司(コイツ)は――!

「アイツがお前を見捨てただと!? そんなモン、俺は絶対に認めねえ!
 お前、アイツの相棒だったんだろ! お前がアイツの気持ちを分かってやらねえで、一体誰が分かってやるんだ!?」

 翔太郎の言葉に続いて、カブトゼクターも、総司の眼前で慌しくその身体を揺らす。
 こいつもきっと、翔太郎と同じ事が言いたいのだろう。自分のベルトを破壊されても、それでも、それだけは譲れないのだろう。
 カブトゼクターと同じ姿形をした、言わば兄弟とも言えるダークカブトゼクターが、一体どんな想いで、何の為にその命を投げ出したのか。それすら分からない大馬鹿野郎に、カブトゼクターはその身で必死に伝えようとしていた。
 もう一度総司の身体を起こして、ブン殴ってでも目を覚まさせてやろうかとも思ったが、今は戦闘中だ。そんな余裕はない。

「余所見をするのもいい加減にしろ」

 不意にガドルへ視線を向ければ、ガドルは既に煩わしいボウガンを投げ捨て、イクサの懐に飛び込まんと駆け出していた。
 そして、気付く。一直線に走って来るガドルの勢いは――ただイクサを殴る為だけに走っているのではない。
 意図に気付いたイクサはガンモードとなったイクサカリバーから無数の弾丸を放ちガドルへと浴びせるが、そんな事でガドルが止まる訳は無い。
 次の瞬間には、ガドルはその強靭な脚力で地を蹴り、はるか上空へと跳び上がっていた。
 必殺の飛び蹴り。仮面ライダージョーカーで言う所の、ライダーキックだった。

525G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:50:22 ID:cN.LBK3c0
 
「――まずいっ!」
「死ね――!」

 咄嗟に両腕で作ったガードの上から、ガドルの飛び蹴りが炸裂した。
 瞬間、イクサの腕部装甲全体に尋常ならざる衝撃が走り、その身体を遥か後方へと吹っ飛ばした。
 そのままイクサの身体は後方のビルの壁へと激突。ビルの壁に亀裂さえ生じさせる。
 全身に伝播する衝撃で、最早立ち上がる事すらもままならず、イクサの身体は地へとずり落ちた。


 眼の前で翔太郎が変身したイクサがやられたが、総司の心は動かなかった。
 最も長い付き合いだと思っていた友に裏切られた直後なのだから、まで付き合いの浅い翔太郎がどうなった所で、総司の心に影響がないのは当然の事だった。
 それ程までにダークカブトゼクターに見放された事は――いや、それ以上に、長い付き合いだったゼクターが破壊された事で、本当の意味で独りぼっちになってしまったという事実が、総司の心をより孤独にさせていた。
 ダークカブトゼクターが取った行動も、どうせどんなに戦っても勝てはしない総司の体たらくに呆れ果て、総司を見捨てて離脱しようとした所でガドルの剣にやられて死んだとか、そんな所だろう。
 結局世界は自分を拒絶する。ずっと一緒に戦っていた仲間だと思っていたゼクターも、自分を拒絶したのだ。その事実だけが頭の中でぐるぐる廻って、総司をより無気力にさせる。

「次は貴様の番だ、仮面ライダーモドキ」

 そう言って、ガドルが総司へと歩みを進める。
 逃げる気にもなれない。殺したいなら殺せと、今ではそう思う。

「逃げなさい……総司くん! 今すぐ、そこから逃げなさい!」

 名護さんが、総司に向かってそう叫ぶ。
 ふと見遣れば、名護さんの身体は、傷と痣だらけだった。
 翔太郎は言った。名護さんは、総司の為にあんなにボロボロになるまで戦ったのだと。
 一体何故、どうして。そんな疑問が頭に浮かぶが、いや、今となってはそんな事はどうでもいいかと思えるくらいには、総司の心は追い詰められていた。
 やがて、ガドルが総司の目前で歩みを止め――ワームとしての異形を晒す総司の面に、もう一度具現化させた大剣を突き付けた。

「そうはさせるか!」
「――!?」

 今度こそ、ガドルがその剣で総司の命を奪おうとしたその瞬間、総司のデイバッグから飛び出したのは、一匹の蝙蝠だった。
 機械仕掛けの白い蝙蝠は、ガドルの剣に体当たりを仕掛け、そのまま止まる事無くガドルの周囲を飛びまわる。ガドルは煩わしげに蝙蝠を払いのけようとするが、蝙蝠は恐らく、自分に出せる全力でガドルを翻弄しているのだろう、ガドルの腕は蝙蝠には当たらない。
 それはやや速度が落ちる剛力態であるから、というのも理由の一つとしてはあるのかもしれないが。
 ガドルを翻弄せんと飛び回りながら、白い蝙蝠――レイキバットは言った。

「アイツも意地を見せたんだ。この俺がこれ以上黙って見ている訳にも行かんだろう!」
「アイツ……?」

 レイキバットの言うアイツ、というのが一体誰の事なのか、総司には分からなかった。
 ややあって、レイキバットに続いて、カブトゼクターまでもがガドルに体当たりを仕掛けて行った。一撃一撃の威力が小さいのだろう、その程度でガドルに決定打は与えられないが、それでもガドルにとってはこの上なく煩わしげであった。
 全く以て不可解な連中だ。レイキバットにはそこまでする理由などないだろうし、カブトゼクターに至っては、ライダーベルトを破壊した自分の事を怨んで居たって何らおかしくはないのに。
 それなのに、

「どうしてお前らは、そうまでして――」
「――お前が、俺達の仲間だからだよ!!」
「っ!?」

 総司の問いに答えたのは――ガドルの遥か後方で、カリバーを杖代わりに立ち上がった、仮面ライダーイクサだった。
 最初の一撃で既に胸部装甲は砕かれ、二度目の飛び蹴りで腕の装甲も半分以上は形を成さなくなっているが、それでもイクサは立ち上がった。
 総司の脳裏を過るのは、自分がこの手で命を奪った剣崎一真と、自分を救う為にその命を燃やし尽くした海堂直也であった。
 奴らは一体どうしてこうまでして戦うのだろう。もう戦えないと根を上げたっておかしくない筈なのに――仮面ライダーは、何度でも立ち上がる。
 筆舌に尽くし難い異様な不快感が総司の心を覆って、異形となった総司の表情を、より醜く歪ませる。

526G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:50:44 ID:cN.LBK3c0
 
「いい加減にしてよ……何なんだよ、仲間って……!」
「お前はまだ知らねえんだな。いいぜ、なら俺が教えてやる。仲間ってのはな――!」

 イクサは杖代わりのカリバーを振り抜き構え直せば、ガドルに向かって一直線に駆け出した。
 イクサの急迫に伴って、ガドルを取り巻き飛び回っていたレイキバットとカブトゼクターもまた、戦線から離脱する。
 相対するガドルは、手にした大剣で、真っ向から迎え討たんとイクサを待ち受ける。

「――困ってる時は助け合う! 仲間がピンチの時は、例え身体一つになってでも助けに行く! そういうモンなんだよ!」

 そう叫んだ次の瞬間、イクサがガドルの間合いに飛び込んだ。
 ガキィン! と金属音を響かせて、イクサの剣とガドルの大剣が衝突し――イクサのレッドメタリックの刀身が、見事にへし折られた。
 だけれども、それでもイクサは止まらない。まるで最初から見越していたかのようにイクサカリバーを放り投げたイクサは、ガドルの懐へと滑り込んだ。
 しかし、例え懐へ潜り込めたところで、イクサの打撃力ではガドルにダメージなど与えられよう筈もない。また無駄な事を……と思った、その刹那。総司の予想に反して、イクサはガドルの肩を右手で掴むと、そのまま右腕を軸にガドルの頭上へと身体を浮かした。
 ガドルとイクサの視線が至近距離で交差するのも一瞬、まるで側転でもするかのようにガドルを追い越したイクサは、そのままガドルの背を取り、ガドルの行く手を阻んだ。
 イクサは、総司に背を向けながら続ける。

「そしてそれが……その心そのものが、仮面ライダーなんだよ」

 先程の一撃で既に戦闘不能と思われるダメージを受けていた筈の翔太郎の声は、それなのに何処か気持ち良さそうだった。
 もう既に立てないくらいに傷ついている筈なのに、何かが翔太郎を突き動かしているのだ。あの時剣崎を、海堂を突き動かした何かが、今こうして翔太郎を――!

「そうだ、俺はそれを求めていた……!」

 振り向きざまに剣を振り下ろすガドルもまた、何処か嬉しそうだった。
 二人が何に満足しているのかがまるで分からない総司にとって、目の前の光景は不可解かつ不愉快でしかない。
 武器を失ったイクサに、ガドルの大剣を止める術はないが、かといってイクサが回避すれば、ガドルの剣はそのまま総司の身へと突き立てられるだろう。
 こんな状況下でも、仲間がどうだと言っていられるのだろうか。さっきのダークカブトゼクターと同じ様に、直前になって逃げ出すのではないのか。そんな疑心が頭に浮かぶが、しかし起こった結果は、総司が想定したどれでもなかった。
 剣がイクサを装甲を裂くよりも先に、カブトゼクターが、レイキバットが、そして今度は、タツロットまでもが、ガドルの一撃を阻止しようとその身に取り付き、体当たりを仕掛けては離れを繰り返す。

「ビュンビューン! これが仲間というものですよ、総司さん!」
「俺がお前の力になってやると言っただろう、忘れたのか総司ぃっ!」

 タツロットの軽快な声に、レイキバットの低くドスの効いた声が続く。
 そんな二機に続くように、言葉を発する事の出来ぬカブトゼクターもまた、キュインキュインと機械音を掻き立てた。

「ほら見ろ総司……お前には、こんなに沢山の仲間が居てくれてるじゃねえか! お前のピンチに必ず助けに来てくれるこいつらが仲間でなくて、一体何だって言うんだ!」
「でも……僕はもう、一人ぼっち、だから……」
「お前は一人じゃねえ! 俺達がいつもそばにいる!」
「……っ!!」

 ――大丈夫、僕がそばにいる――

 瞬間、総司の脳裏を過ったのは、忘れかけていた優しい記憶。
 この世界に生きる、唯一の理由として縋っていた存在。天道総司に擬態した自分にとっての、唯一の拠り所。
 彼女にそう言って貰えた時、総司は心の底から安心した。例えどんなに世界が非情でも、自分は独りぼっちではないのだと錯覚出来た。
 あの頃は、ひよりが居てくれた頃はまだ、幸せだったのだ。何も全てを滅ぼしたいだなんて思っていなかったし、その優しさに触れる事が出来るのなら、自分はそれだけで満足だった。
 総司が求めていたのは、優しさなのだ。自分が求める世界からの許容なのだ。そして少なくとも、翔太郎が、名護さんが、自分を許容してくれているという事は、総司にも分かる。
 でも――

527G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:51:15 ID:cN.LBK3c0
 
「でも……でもっ! どんなに優しい言葉を並べたって、ひよりもダークカブトゼクターも、最後には僕を見捨てたじゃないか」

 そうやって許容してくれたと思い込んでいた世界は、いつだって最後には総司を見捨てて来た。
 その事実は変わらないし、一度根付いた警戒心は、どんなに他人に優しい言葉を掛けられた所で、そう簡単に解けはしない。
 だから受け入れる事が出来ないのだと叫ぶ総司を、ガドルに組み付きながら一瞥するイクサ。

「なあ総司、そのひよりって人の事は知らねえけどよ……少なくともダークカブトゼクターはお前を見捨てた訳じゃないって、お前自身、本当はもう分かってんじゃねえのか?」
「――えっ?」

 一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
 レイキバットが、ガドルの身体に激突しながら、僅かに怒気を含めた声で言った。

「まだ分からねえのか総司! アイツはな、お前を守る為に自分を犠牲にしたんだよ!」
「そ、そんな……筈……」
「その蝙蝠の言う通りだ! アイツは最期の瞬間まで、お前っていう相棒の為に戦ってたんだよ!」

 レイキバットに続く翔太郎の言葉に、もう動く事のないと思っていた総司の心が、僅かに揺れた。
 否、翔太郎の言う通り、本当は最初から気付いてたのかも知れない。ずっと一緒に戦い続けて来たダークカブトゼクターが、総司を見放す訳がないという事くらいは。
 だけれども、そうやって信じる事は、また裏切られる事に繋がるからと、無意識のうちに悲観的になって、過ぎて気付かないフリをしていただけなのかも知れない。

 そして、気付く。
 自分だって、本当はそう信じたかった。信じたかった、筈なのに。
 唯一残った信頼出来る友が、自分なんかの為に、二度と帰らぬ存在になってしまったという事実を認めるのが、怖かった。
 自分が殺したようなものではないか。それを認めるくらいなら、裏切られたのだと思い込んで、とっとと諦めてしまった方が、ずっと楽だった。
 
 自分の本当の気持ちに気付いた瞬間、ワームの姿へと変じた筈の総司の身体は、自ずと天道総司に擬態した、人間としての姿に戻っていた。
 目頭が熱くなる。視界に映るイクサが、みんなの姿が、ぐにゃりと歪む。頬を伝う温かい涙の感覚に、自分は今、泣いているのだろ気付く。

「僕は……僕は、一人じゃ、なかったの……? 僕なんかの為に、アイツは……アイツは……!」

 寂しい時も悲しい時も、いつだって一緒に居てくれた相棒――ダークカブトゼクター。
 アイツは、こんなどうしようもない馬鹿な相棒の為に、その身体を擲ったのだ。下らない死に方だ、犬死も同然だ、そうは思うが、アイツの行動を笑う気にはなれない。
 一体どれだけの勇気があれば、そんな事が出来るのか。一体どれだけ他者を大切に思えば、自分の身を犠牲にする事など出来るのか。もう失ったとばかり思っていた暖かい感情は、こんなにもすぐそばに溢れていたと云うのに――それに気付くのが失ってからでは、遅すぎるではないか。
 だが、死んでしまったダークカブトゼクターの為に、自分に何が出来るのか。何をすればアイツが喜んでくれるのかなど、今の総司には、いくら考えたところで分かりはしない。
 どうしていいのかも分からず、地面に蹲って涙を滂沱と流し続ける総司の背後から、名護啓介が歩み寄って来たのに気付いたのは、彼に肩を掴まれてからだった。

「総司くん」
「名護、さん……?」
「いいか、総司くん。君は世界に拒絶されている訳じゃない。ただ、気付いていないだけなんだ」
「気付いて……いない……?」
「世界が君の敵なんじゃない。本当の敵は、君を惑わす君自身の心の中に居る。自分だけには、決して負けるな!」
「……っ!!」

 世界は僕の敵じゃない……?
 随分と簡単に口にされた一言のように思うが、しかしその言葉は、今の総司にとって決して無意味な言葉ではなかった。
 ずっと敵だと思っていたものは、本当は敵では無くて。本当は世界に拒絶されていたのではなくて、自分の心が、自分自身を拒絶していたから。

528G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:51:52 ID:cN.LBK3c0
 
「じゃあ……僕は……この世界で、生きていて、いいの……?」
「誰が駄目だと言った。誰が君を拒絶すると言った。君は生きていていいんだ、君は此処に居ていいんだ!」

 そう言われた、その瞬間だった。
 総司の耳朶を叩いたのは、一際大きな呻き声と、何かが割れる破壊音。
 慌ててガドルとイクサとの戦闘へと視線を戻した総司は、イクサとガドルの拳がクロスカウンターの形でお互いの頬を叩くその瞬間を目の当たりにした。
 イクサの仮面が、ガドルに殴られた箇所からひび割れを起こし、数瞬ののち、その仮面もぱらぱらと砕け散った。
 頬を血で赤く染めた翔太郎の顔が半分露出し、それを見守る総司と名護の間に、緊張が走る。

「翔太郎!」
「翔太郎くん!」

 名を呼ぶが、翔太郎はちらりと二人を一瞥し、僅かに微笑むだけだった。
 とんだ痩せ我慢だ。痛くない筈がないのに、笑って居られる筈がないのに。
 間髪入れずに、ガドルをイクサから引き離そうと、カブトゼクターを筆頭とする三匹の小型生物がガドルに突撃を開始した。
 ガドルが数歩後退して、イクサから距離を取った所で、イクサもまた限界を迎えたかのように、どさりと崩れ落ちた。
 総司のフラッシュバックするのは、ダークカブトゼクターの散り様。自分の為に戦い散ったアイツと同じように、翔太郎もまた、総司を守る為に飛び出して行って、ガドルにやられたのだ。
 もうこれ以上、自分の為に何かを喪うのは嫌だと、ダークカブトゼクターの時の哀しみをもう一度経験するのは嫌だと、総司は無意識のうちに倒れたイクサの元へ駆け寄っていた。

「翔太郎っ、翔太郎っ!」

 涙でしとどに濡れた表情も気にせずに、総司はイクサを抱き起こし、半分砕けた仮面の中の翔太郎の顔を覗き込んだ。
 総司の涙が翔太郎の頬へと数滴零れ落ちて、その頬を伝ってゆく。目を開けた翔太郎はやはり、無理矢理笑顔を作ってみせた。

「よお、総司……お前、ちょっと目を離したうちに、良い顔出来るようになったじゃねえか。
 ……ははっ、そっちの方が、さっきまでよりずっと良いぜ。お前、変われたんだな」
「僕は、僕はまだ、何をすればいいのかも分からないし……何も、変わってないよ」
「いいや、変わったさ。さっきまでのお前は、そんな顔しなかったもんな」

 嬉しそうに笑った翔太郎は、よっ、と言いながら、自分の身体を起こした。
 二人の会話を眺めていた名護が、厳めしい表情で翔太郎を呼び止める。

「……翔太郎くん」
「おっと名護さん、さっきも言った筈だぜ。野暮な事は言いっ子無しだってな」

 そう言って、イクサはバックルに装着されたイクサナックルを取り外した。
 右の拳にナックルを握り締めて、自分にはまだ武器があるとでも言わんばかりに、それを構えて立ち上がる。
 名護はそれ以上、何も言おうとはしない。翔太郎を止めようともしなかった。二人の間の沈黙を不可解に思いながらも、総司が尋ねる。

529G線上のアリア/チェンジ・アワー・フェイト ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:52:12 ID:cN.LBK3c0
 
「止めないの、名護さん?」
「止めても無駄だろう……彼もまた、仮面ライダーだからな」

 名護の言葉に、翔太郎がふっと微笑んで、頷いた。
 もう何度も見て来た光景だ。これが剣崎一真や、海堂直也達と同じ、仮面ライダーなのだろう。
 いざ駆け出さんと構えるイクサに気付いたのか、ガドルも嬉々として前進を始めた。当然ゼクター達はガドルの行く手を阻もうと攻撃を仕掛けるが、最早ガドルは脚を止めるつもりはなく、まるで羽虫でも払うかのように彼らを殴り飛ばす。
 カブトゼクターとタツロットは素早い身のこなしでガドルの拳の直撃だけは避ける事に成功したものの、運悪くレイキバットだけが回避に失敗した。
 総司の為に飛び出して、少しの間ではあるがこうして時間を稼いでくれた“仲間”が、総司の足元へと吹っ飛ばされ、アスファルトに激突して数回バウンドした。

「レイキバット……」
「チッ……俺とした事が、ヘマしちまったぜ」

 倒れ伏したレイキバットを拾い上げれば、レイキバットはいつも通り強がってそう言った。
 命に別状は無さそうではあったが、それでもレイキバットが苦痛に表情を歪めているのは、総司にも理解出来る。
 思えば、みんなそうだ。海堂も、名護さんも、翔太郎も、レイキバットも、ダークカブトゼクターも、みんなみんな、総司の為に傷ついて行く。
 こんな自分の事など放っておけばいいものを……いや、翔太郎の言葉を借りるなら、それが仲間という物なのだろう。止めても聞かぬ、仲間の意地なのだろう。
 今の自分が何をやるべきなのかはまだハッキリとは分からないが、それでも、何となく分かった気がする。否、本当は最初から……名護や海堂に救われたあの時から、総司は気付いていたのかも知れない。
 少なくとも総司は、翔太郎にも、名護にも、レイキバットにももう、犠牲になって欲しくは無い。仲間だと言うのはまだ何処か気恥ずかしいけれど、それでも、自分の為に喪って、それで後悔するのは、もう嫌だった。

「翔太郎」
「あ? どうした、総司」
「僕も、戦うよ……もう一度」

 その言葉を受けたレイキバットが、何処か嬉しそうにふん、と笑い、総司の周囲を旋回し始めた。
 冷たい風が周囲の大気を包んで、雪の結晶を舞い振らせる。それと同時、ベルトを装着した総司が、イクサに並び立ち、今度は力強く宣言した。

「もう一度……今度は僕達の力で!」
「ああ……ああ、そうだな! 良く言った総司、見せてやろうぜ、俺達仮面ライダーの力を!」
「うん……今の僕に、何が出来るのかは、まだ分からないけど」

 果たして、自分に仮面ライダーを名乗る資格があるのかどうかも、総司にはまだ分からない。
 だけれども、今総司は、失わない為に、守る為に戦おうと、始めて思う事が出来た。その判断自体が総司にとっては大きな進歩であるなどと、本人だって気付きはしまい。今はただ、目の前の敵と戦うだけ。考えるのは全部、後にしよう。

「フン! 行こうか、華麗に、激しくっ!」

 そう叫んだレイキバットが、総司に装着されたベルトのバックルへと収まった。
 まるで周囲の冷気全てを凝縮して固めた氷の如き鎧が総司の身を覆い、一瞬ののちには、仮面ライダーレイへの変身が完了していた。
 仮面ライダーイクサと仮面ライダーレイ。異なるキバの世界に存在する二人の仮面ライダーが、全ての世界の仮面ライダーに共通する「正義」を胸に、ここに並び立った。

530G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:53:38 ID:cN.LBK3c0
 レイと共に走りながら、翔太郎は半分割れたイクサの仮面の下で笑った。
 こうして志を共にする仮面ライダーと共に同じ方向へ走ってゆくのが、今では随分と懐かしい事のように感じられる。実際には此処に連れて来られてからまだ一日と経過していないというのに。
 今も何処かで戦っているのであろうフィリップの為、絶対に俺達の力で勝利すると約束した名護の為、そして何より、仮面ライダーの意地にかけて、翔太郎が負ける事は許されない。
 例えどんなにボロボロにやられて身体一つになったとしても、食らいついてでも敵を倒す。その心そのものが仮面ライダーだと信じる翔太郎の心は、ボロボロにされればされる程に熱く燃え上がるのだ。
 だけれども、自分の体力が底をつきかけているというのもまた事実。それが分かっているからこそ、此処から持久戦に持ちこむつもりは無かった。
 となれば、今の翔太郎に取れる戦法は一つ。

「総司、アイツだってもう相当グロッキーな筈だ、デカいのぶつけて一発で決めるぜ!」
「分かった……!」

 そう叫び、左腕で腰に装着されたフエッスロットから一本のフエッスルを取り出した。
 イクサの戦い方は、名護の戦いを見ていたから分かる。ナックルの形をしたフエッスルが、恐らくこの武装のマキシマムドライブを起動させる為のキーだ。
 名護は当初勝てないと思われたアームズ・ドーパントを撃破し、男を見せた。総司はずっと閉ざしていた心を、少しずつだろうが、ようやく開いてくれた。この戦いでまだ何も成し遂げていないのは、翔太郎だけだ。少しずつでも前へ向かって歩き始めた総司の為、ここで正義の仮面ライダーの魂を示そう。
 そう決意するイクサとガドルの距離は、思考する一瞬のうちに無くなった。どうやらガドルが真っ先に潰そうと狙いを付けたのはイクサの方らしい。
 ガドルは割れたイクサの仮面目掛けて思い切り拳を振り抜くが、イクサはその場で前転して回避。ガドルの後ろへと回り込んで距離を取り、ナックルを突き付ける。

「食らいな、マッチョメン!」

 そう叫んで、ナックルの引鉄を引いた。
 同時に、大気を圧縮したエネルギー弾がナックルから発射され、ガドルの背で爆ぜる。
 僅かにガドルの身体が揺れ、イクサへと振り返ろうとするが、そうはさせまいと正面からレイが殴り掛かった。
 レイの拳は容易くガドルの掌によって受け止められ、反撃とばかりに強烈なボディブローがレイの腹を抉った。
 ぐう、と嗚咽を漏らすレイ。イクサの仮面の下で舌打ちをする翔太郎。必殺技を叩き込むだけの隙を作るだけが、こんなにも難しいとは思わなかった。
 もう迷っては居られないと、イクサナックルをベルトに戻した翔太郎は、そのまま先程取り出したフエッスルを装填した。

 ――イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ――

 片言の電子音が響くと同時、ガドルが此方に気付いたのか、レイの身体を投げ飛ばして振り返った。
 勝負は一瞬だ。連戦で傷付いているのであろう今のガドルであれば、翔太郎のイクサでも十分倒し得る筈だ。
 エネルギーが充填されたナックルをベルトから引き抜いたイクサは、強くアスファルトを蹴った。
 
「最早闘いを長引かせる余裕もないか。いいだろう――!」

 元より二人の距離は大して離れては居ない。一秒と掛からず、二人はお互いの懐へと踏み込んだ。
 この一撃を叩き込む為には、ガドルの隙を突かなければならない。だが、見る限りガドルに隙らしい隙などはない。
 ならばもう、下手な小細工は無しだ。いつだってそうしてきたように、真正面から踏み込んで、真っ向からブッ叩く!
 思い切り拳を振りかぶり、ガドルを目前にして跳び上がったイクサは――

「――オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 重力をも味方に付けて、光輝く拳の一撃をガドルの頬に叩き付けた。

「……っ!!」

 一瞬、ガドルが息を詰まらせた。強烈なまでの手応えだった。
 されど、それでもガドルは倒れない。イクサの全力の拳を受けて、それでもガドルは右腕を振りかぶっていた。
 次に予想されるのはガドルの反撃だ。反射的にマズイ、と思うが、全神経を叩き込んだ一撃をかました瞬間など、無防備に決まっている。
 イクサの両足が地面に着くよりも先に、ガドルのアッパーがイクサの腹を掬い上げた。どすん! と嫌な音が響いて、露出した翔太郎の口元から鮮血が飛び出した。
 だが、それでも翔太郎は意識を手放しはしない。まだだ、まだ終わっていないのだ。こんな所で負けてはいられない。仮面ライダーは、まだ戦える――!

531G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:54:05 ID:cN.LBK3c0
 
「ウェイクアップッ!!」
「――ム!」

 ガドルの背後から、笛の音色にも似たメロディが響き渡った。
 レイの両腕に装着された鎖が解き放たれて、三つの魔皇石が埋め込まれた巨大な鍵爪が両腕に装着される。
 魔皇石とは即ち、莫大な魔皇力を発するパワージェネレーターだ。一人の仮面ライダーが装着するには明らかに強大過ぎる力が、レイの両腕で暴走する。これこそが、レイを常人では扱えぬシステムたらしめる由縁。
 まるで燃え上がる炎のように赤く、激しく輝く魔皇石を内包した鍵爪を振り上げ、レイもまたガドルに肉薄する。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 振り下ろした右腕の爪は、ガドルに命中する前に強靭な左腕によって受け止められるが、その程度でレイの攻撃は止まらない。
 一撃目が防がれたなら、二撃目で勝利への道を切り拓くのみだ。最初からこうなる事を読んでいたかのように、レイは間髪入れず左腕の爪を下方から振り上げた。

「ぬぅ……っ!」

 今度は確かな手応えを感じた。魔皇力漲るギガンティッククローは、ガドルの右腹から左肩に掛けてを深く、鋭く抉ったのだ。
 傷口から膨大な魔皇力のエネルギーが溢れ出し、これには堪らず、右のギガンティッククローを抑えていたガドルの力も弱まった。
 チャンスは今しかない。押し切れば、勝てる――!

「ハアアアアアアアアアアッ!!!」

 怪力に特化したレイの右腕は、弱りかけたガドルの拘束をも振り払って、二撃目としてガドルの身体を裂いた。
 一撃目と殆ど変らぬ箇所をギガンティッククローが抉り、ガドルの身体をよろけさせる。膨大な量の魔皇力と冷気がガドルの身体から溢れ出す。
 だけれども、例えどんな窮地に立たされようと、黙ってやられはしないのがガドルという男だ。

「なっ……」

 二撃目を叩き込んだ瞬間、ガドルの拳は、レイの腹部を鋭く、深く抉っていた。
 ガドルの拳がレイの腹部、ベルトのバックル部に僅かに減り込んだ時点で、レイキバット自身も回避しようとしたのだろう。押し出されるようにレイから離れたレイキバットは、意識を失って地へと落ちた。
 そのまま拳は制御機関を喪失したレイの腹部へと突き刺さり、直後、レイの鎧も消失した。
 あと一瞬でもレイの鎧が消えるのが遅ければ、十中八九総司の命もここで尽きていた事だろう。

「レイキバット……!」
「勝負あったな」
「……ううん、まだだよ!」
「なに?」

 勝利を確信したのであろうガドルの拳を、しかし総司は倒れはせずに両腕で抑え込んでいた。
 これには流石のガドルも面食らった様子だが――ガドル自身も、総司の思惑にはすぐに気付いたようだった。
 そう。彼らは決して、一人で戦っているのではない。例え一人で勝てない相手でも、二人揃えば――!

 ――イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ――

 鳴り響いた片言の電子音。
 最早立っているだけでも体力を奪われる程に傷付いて居るというのに――それでもイクサは、翔太郎は立ち上がったのだ。

532G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:54:44 ID:cN.LBK3c0
 
「貴様、まだ立てるのか……!」
「悪ぃな、これが仮面ライダーなんだよ……さあ! お前の罪を、数えろッ!!」

 装甲は凹み傷付きボロボロで、割れた面からは血反吐すら吐き出すという無様な姿だが、それでも翔太郎の双眸には、決して悪に屈せぬ強い光が宿っていた。
 そう、翔太郎はまだ、勝利を諦めてはいない。何故なら翔太郎は、人々の希望、正義の味方――仮面ライダーだからだ。
 自分が仮面ライダーを名乗る限り、悪に屈せぬ熱いライダー魂をこの胸に宿す限り、翔太郎は何度だって立ち上がる。
 例えどれだけボロボロに傷め付けられようと、悪を倒すまでは、何度でも、何度でもだ――!

「安心しな、これで最後にしてやるよ!」

 割れた仮面の内側でニヤリと笑みを浮かべた翔太郎は、不敵にそう告げる。
 最後、というのは、事実上、これが最後のマキシマムドライブであるという事を翔太郎自身も理解しているからだ。流石に名護のライジングから、間を置かずしての二連続ライズアップにはシステムも堪えたのだろう。オーバーヒート寸前のベルトからは耳障りな警告音が鳴り響き、ベルトのあっちこっちから、ひっきりなしに煙が噴出される。暴走寸前のイクサエンジンは、翔太郎の身体とスーツ全体に強烈な過負荷が掛けるが、それでも翔太郎は挫けない。
 これが本当に最後の一撃だ。この一撃で、ガドルを確実に倒さなければいけない――否、仮面ライダーの全てをぶつけて、この敵をここで、確実に倒す!
 
(あと一撃だ。あと一撃だけでいい、頼む、耐えてくれ!)

 翔太郎の想いがイクサに届いたのか、暴走寸前のエネルギーはイクサを自壊させる事はなく、残った全エネルギーをナックルに集中させてくれた。あとは、打ち出すのみだ。
 ガドルは邪魔な総司を突き飛ばし、すぐ様イクサに応戦しようとするが――総司を突き飛ばすというその行為自体が、明らかに致命的な隙を作っていた。強き者には強き振る舞いで応じるというその精神が仇となったのだ。が、それを理由に攻撃を止めはしない。どんな高尚な精神を持っていようと、こいつが悪の怪人である事に変わりは無いのだ。だからここで倒す。そしてこいつとの戦いを終わらせる。

「ライダーパンチッ!!」

 ガドルの懐へと潜り込んだイクサは、悪を倒す必殺の技名を叫び、暴走寸前のエネルギーの全てを、ガドルの体表へと叩き込んだ。
 ドンッ! と、一際大きい炸裂音が響く。レイの二段攻撃による傷跡が生々しく残るガドルの胸部で爆ぜた膨大な熱量が、その身体を遥か後方へと吹っ飛ばした。
 重たい筈のガドルの身体が、ここへ来て始めて、人形のように宙を舞い、地へと落ちた。今度ばかりは言い逃れは出来まい、見まごう事無く、直撃だ。
 ようやく翔太郎はこの一撃を、仮面ライダーの想いと力を、破壊のカリスマへと届かせたのだ。

「見たかっ……仮面ライダーは、絶対に負けねえ! 街や人を泣かせる悪が居る限り、絶対にだ!」

 倒れて動かなくなったガドルにイクサナックルを突き付けて、翔太郎が宣言する。
 これが仮面ライダーだ。守りたいものがある限り、何処までだって強くなれる漢の姿だ。
 





 ガドルが吹っ飛ばされてから既に十秒程の時間が経過したが、ガドルの変身は未だ解除されなかった。
 まさか、まだ生きているのだろうか。イクサの必殺技を受けた直後、レイの二段階の必殺技を受けて、トドメにもう一度イクサの必殺技だ。
 数時間前にガドルの圧倒的な力を見せ付けられた総司でも、流石に勝っただろうと思った。というよりも、思いたかった、と言った方が正しいか。
 もしこれでもまだ倒せていなかったなら、一体どうやってこんなバケモノを倒せるというのだろう。
 十秒程度の時間が、酷く長い時間であるかのような錯覚さえする。
 ややあって、不安を抱きながら見詰める総司の眼前で、

「なっ……そん、な……」

 思わず絶句する。
 ガドルは、むくりとその身体を起こしたのだ。

533G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:55:16 ID:cN.LBK3c0
 
「良くここまで戦ったな、仮面ライダーよ。だが、惜しいな……この破壊のカリスマを倒すには、今一歩及ばなかった」

 そう告げるガドルの身体は、先程の黒の身体ではなく、金色の身体へと変わっていた。
 直感する。これは、今までのガドルとは違う。今までの圧倒的な戦闘力ですら、奴はまだ全力を出してはいなかったのだ。
 では何故このタイミングでその姿を晒したのか。……恐らくは、イクサの最後の一撃を受ける寸前に金の姿へと強化変身し、イクサの攻撃によるダメージを和らげたのだろう。そうでもなければ、あれだけの連続攻撃を食らって無事である筈がないと、少なくとも総司はそう思う。
 何にせよ、既に仮面ライダーの力を全て使い果たした自分達に、今のガドルに打ち勝つ術はない。逃げ出す事も出来はしない。
 それほど気温は低くない筈なのに、背筋がぞっとして、嫌に身体が冷える。当然だ、せっかく生きる為に戦おうと決めたのに、せっかく希望を信じたのに、それが全く通用していなかったのだから。これで絶望しない訳がない。
 だがしかし、それでも、こんな状況でも絶対に諦めない男達を、総司は知っている。

「しょ、翔太郎……」

 総司に背を向け、ガドルに向き合うのは、翔太郎が変身した仮面ライダー――イクサだった。
 もう何度も限界を越えた筈なのに、戦える訳がないのに、それなのにイクサは、未だ戦意を失ってはいなかったのだ。

「素晴らしい闘志だ。感服するぞ、仮面ライダー」
「ああ、言ったろマッチョメン、これが仮面ライダーだって」

 まただ。またあの時の――剣崎一真や海堂直也が死んだ時と同じ不快感を総司は感じていた。
 こんな状態で戦い続ければ、翔太郎はきっと死んでしまう。名護以上にボロボロのその身体で、これ以上戦える訳がないというのに。
 何よりも総司が嫌なのは、こんな生きる意味もまだ見出せていない自分なんかの為に、立派に生きる意味を持った人間が帰らぬ人になってしまう事だった。もう、ダークカブトゼクターのような犠牲を出すのは、沢山だった。

「もうやめよう翔太郎! こんな事したって殺されるだけだよ!」
「何言ってんだ、諦めんな総司。仮面ライダーの心がある限り、俺達は不死身だ」
「不死身って、そんなの……」
「不死身なんだよ。海堂って奴の魂(こころ)が、名護とお前に受け継がれて今も生きてるように、木場さんも、紅も、俺の中じゃみんな今でも生き続けてんだ。
 だから仮面ライダーは死なねえ。希望を繋いでくれる奴が居る限り、悪を倒すまで、何度だって蘇る。そういうモンだろ、名護さん?」

 翔太郎に視線を向けられた名護は、暫し苦しそうに表情を歪めるが、やがてゆっくりと頷いた。
 だけれども、総司には、翔太郎が何を言っているのか、名護が一体何に頷いたのかを、まるで理解出来なかった。
 何を言った所で、死んだら終わりではないか。例え一人が囮になって仲間を救ったとしても、残された方は辛く苦しいだけだ。
 総司は、ようやく認め始めた“仲間”にそんな事をしてまで、命を救って貰いたいとは思えなかった。
 何としてでも引き留めようと、総司はイクサに縋り付くが、イクサはまるで意に介さず、総司を指差して言った。

「なあ破壊のカリスマさんよ、見たか、コイツを」
「ム……?」
「総司だよ。コイツは紛い物でもモドキでもねえ。今はまだ未熟だが、それでもこいつはもう、本物の仮面ライダーだ」
「悪いが、理解出来んな」
「そうかい。そいつは残念だ」

 そう言って、はん、と笑う。
 イクサは総司の襟首を掴み上げると、遥か後方へ向かって投げ飛ばした。如何に満身創痍と言えども、仮面ライダーに変身中の翔太郎にとって、成人一人を投げ飛ばすくらいは容易い事なのだろう。
 アスファルトへと強かに身体を打ち付けた総司だったが、すぐに駆け付けた名護が総司の身体を起こし、大丈夫かと声を掛けてくれた。
 総司の身体は、大丈夫だ。少なくとも、既にボロボロに傷め付けられている名護や翔太郎に比べたら、ずっとマシな方だ。今本当に大丈夫ではないのは、自分よりも翔太郎ではないか。

「ねえ、名護さん、何でだよ、何で翔太郎を止めてくれないんだよ!?」
「言った筈だ。彼は、仮面ライダーだからな……それに、ここで全員殺されるよりは……ずっと、マシだ」

 非情な言葉であるが、その言葉を告げる名護は、苦しそうだった。
 酷く表情は歪み、今にも泣き出しそうな程に、両の瞳を硬く閉ざして、歯を食い縛っていた。
 これでは海堂が死んだ時と同じだ。また同じ事の繰り返しだ。一体何度、こんな事を繰り返せばいいのだ。
 そうするしかないのだと頭では理解していても、それを認める事の出来ない総司は、名護の腕を振り払った。

534G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:56:16 ID:cN.LBK3c0
 
「何でだよっ……僕は、そんなの、嫌だ! もう、嫌なんだ!」

 涙ながらに絶叫するが、総司の声は、もう誰にも届かない。
 イクサとガドルは再び肉薄し合い、お互いの拳をぶつけ合っていた。
 が、当然フリなのはイクサだ。拳を突き出しても、既に限界を迎えたイクサの攻撃などがガドルに通用する訳がない。どんな攻撃もガドルに命中する前にいなされ、逆にガドルは、強力な打撃をイクサに叩き込む。
 ガドルの拳が、イクサの残った仮面を砕いた。既に割れた胸部装甲を砕いた。心臓部のイクサエンジンを破壊され、最早まともな戦闘すらも出来なくなったイクサに、それでもガドルは容赦なく攻撃を続ける。
 最早これを戦いなどと呼べはしない、一方的な暴虐でしかないのだが、それでもイクサは倒れない。強い精神力で以て、何度殴られようとも、アスファルトを踏み締め続ける。イクサが倒れない限り、ガドルは攻撃をやめはしない。

「行こう、総司くん……彼が作ってくれたチャンスを、無駄にするな。
 今は生きて、必ず仇を討つんだ。海堂くんと翔太郎くんの仇を、俺達の手で……!」
「そんなのっ……嫌だ! 僕はもう何も喪いたくない! ダークカブトゼクターのような犠牲は、もう沢山だ!」

 翔太郎は今も必死に戦い続けている。海堂だって、きっと同じように戦い続けていたんだ。自分が命を奪ってしまった剣崎だって、ダークカブトゼクターだって、きっと最期は“守る為”に必死になって挑んでいった筈なのだ。

「僕は諦めない! だって、翔太郎が教えてくれたんじゃないか! 仮面ライダーは絶対に諦めないって!」

 そうだ。名護も、翔太郎も、何度も不可能を可能にして来た。限界を越えて来た。
 こんな自分をを仮面ライダーと呼んでくれるなら、仮面ライダーの資格があるというのなら、自分にはまだ、出来る事がある筈だ。
 全てが終わったと諦めるのはまだ早い。失ってから気付くのではなく、今度は自分の力で、自分自身で守りたい。守り抜く為の力が欲しい――!

 そう強く願ったその時、宙に一点の穴が穿たれた。
 そこから飛び出した赤いカブトムシは、イクサを嬲り続けるガドルに激突した。
 カブトゼクターの動きは、先程までの比では無い程に、素早く、そして鋭かった。
 まるで総司の強い想いに応えんとばかりに、怒涛の勢いでガドルに突撃し、イクサの身体からガドルを引き離してゆく。
 攻撃のラッシュが終わった途端、イクサは力尽きたとばかりに、どさりとその場に倒れ込んだ。

「翔太郎っ!!」

 駆け寄った総司が、翔太郎の上半身を抱き起こす。
 翔太郎は、まるで総司を咎めるように、僅かに目尻を上げた。

「なんで、逃げなかった……」
「だって……仲間だから……」
「……馬鹿野郎」

 無念そうに、ぽつりとそう呟く。だけれども、その反面、翔太郎は嬉しそうでもあった。
 総司がようやく翔太郎の事を仲間だと呼んだのが、翔太郎にとってはよっぽど嬉しかったのだろう。
 こんな状況下でも嬉しそうに微笑む翔太郎を見ていると、やはり総司の涙は止まらなくなってしまう。数分前と全く同じ光景だった。
 先程と違うのは、翔太郎の命が、今度は本当に燃え尽きる寸前、という事だろうか。

 それからややあって、翔太郎の表情から、最後の笑顔すらも消えた。
 まるで糸の切れた人形の様に――翔太郎の頭部は、ガクンと項垂れた。
 否応なしに気付かされる。翔太郎も、ダークカブトゼクターと同じように、もう帰っては来れない所へ逝ってしまったのだと。

535G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:56:49 ID:cN.LBK3c0
 
 また失ってしまった。
 また、自分の所為で、掛け替えのない命が散らされてしまった。
 自責の念が総司を苛むが、今はそれ以上に、総司を突き動かす強い想いがあった。
 そっと翔太郎の状態を地面に寝かせた総司は、すっくと立ち上がり――デイバッグから取り出したベルトを、腰に巻き付けた。
 無機質でシンプルな見た目をした、銀色のベルトだ。ずっと使い慣れて来た、今はもう相棒の形見となってしまったベルトだ。
 今まで総司にダークカブトの力を与え続けて来たライダーベルトを腰に巻き、新たな相棒の名を、高らかに叫ぶ。

「――カブトゼクターッ!!!」

 呼ばれたカブトゼクターは、ガドルへの猛攻を止め、とんぼ返りをして総司の元へと飛翔した。
 ぱしっと音を立ててそれを掴み取り、手の中に収まったそいつに、語りかける。

「カブトゼクター……君は、こんな僕と、一緒に戦ってくれるの?」

 言葉を発する事の出来ぬカブトゼクターは、代わりにキュインと、嬉しそうに鳴いた。
 カブトゼクターは、この自分を、天の道を継ぐに相応しい“仮面ライダー”だと認めてくれたのだ。
 自分を友と認め共に戦ってくれる相棒が居るならば、最早これ以上黙っている訳にはいかない。

「ありがとう……君が力を貸してくれるなら、僕はもう一度戦える。今度は仮面ライダーとして……守る為に!
 今はもう居ない天道と、ダークカブトゼクターの意志は……いや、死んで行った全ての仮面ライダーの意志は、この僕が継ぐ!」

 さっき翔太郎が言った通り、仮面ライダーとは不死身の戦士だ。
 その魂を受け継いでくれる者が居る限り、仮面ライダーは何度でも蘇り、必ず悪を打ち倒すのだから。
 総司の知る限り、一人の立派な仮面ライダーとして戦っていた天道総司も、きっと最期の瞬間まで勇敢に戦ったのだろう。
 そして、その最期を看取ったカブトゼクターがこの自分を選んでくれたのなら、自分にはそれを、天の道を継ぐ義務がある。
 剣崎を殺してしまった罪を背負い、海堂を見殺しにしてしまった無力感すらも糧に、今度は仲間と共に、生き抜いていかねばならない。
 
「……僕の名前は、天道総司。天の道を往き、全てを司る男を継ぐ者――またの名を、仮面ライダーカブト!」

 そう宣言すると同時、静観するガドルと総司の間に、時空の扉が開かれた。
 眩い緑色の光が空間を歪曲させ、内部から現れたのは、天道総司のもう一つの相棒、ハイパーゼクター。
 時空を裂いて現れたそいつもまた、ガドルを牽制するように体当たりを仕掛け、総司の元へと飛翔した。

 最早迷う事は何もない。総司の想いに、力は応えてくれた。
 天の道を往く男にのみ従う太陽の使者が、始めて生きる為に生きようと決意した男の存在を認めてくれたのだ。
 それは、どんな強敵をも打ち倒し、正義を貫く為の最強の力。時空すらも超越し、どんな不可能をも可能に変えてくれる勝利の鍵。
 この力で、総司は飛ぶ。全てを救い、全てを守り抜く為に――仮面ライダーの力で、全てを変える為に。

「変身ッ!!!」

 カブトゼクターをベルトに叩き込むと同時、ハイパーゼクターが総司の腰に取り付いた。
 同時に、総司の全身を、黒いスーツと銀色の鎧が覆い尽くす。頭部を覆う仮面は、薄いブルーの複眼と、巨大な一本のカブトホーン。
 全身の至る所にタキオンプレートを装着したその姿は、仮面ライダーカブトの最強の姿――ハイパーフォーム。

 ――CHANGE HYPER BEETLE――
 
 驚愕した様子のガドルを後目に、カブトの全身の装甲が変形し、展開されてゆく。
 まずは胸部の装甲が、続いて背部の装甲が。両腕両脚のプレートも展開し、展開した全ての装甲から虹色の粒子が放出される。
 やがて虹色に輝くエネルギー状の翼がハイパーカブトの背から放出され、まさしく光の翼となったそれは、夜の闇をも掻き消さんばかりの勢いで、力強く輝いた。

「ハイパークロックアップッ!!」

 ――HYPER CLOCK UP――

 そして――次の瞬間、ハイパーカブトはこの時空から姿を消した。

536G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:57:04 ID:cN.LBK3c0
 




 光の速度すらも超越して、ハイパーカブトは時空を翔ける。
 最早肉眼でも認識出来る程のタキオンは眩く羽撃いて、その度時間を追い越して行く。
 目の前で繰り広げられる時間軸が、一瞬のうちに逆行されてゆく。とんでもない力だと思う。
 これが天道を最強たらしめたハイパーの力なのかと認識するが、同時にこの身体に掛かる負荷が尋常ではない事に気付く。
 たったの一秒でも時間を遡る度に、総司の身体には強烈な疲労と過負荷が掛けられ、すぐにでも意識を喪失しそうになる程だった。
 だけれども、名護だって、翔太郎だって、どんな無理にも耐えて、限界を越えたのだ。自分がここで男を見せずして何とする。
 そうして数十秒の時間を巻き戻し終えた時には、ハイパーカブトの身に蓄積された疲労は、既に耐えがたいものとなっていた。
 だが――!

「僕はまだ、戦えるッッ――!」

 裂帛の気迫を込めた叫びと共に、イクサとガドルの間へと飛翔したハイパーカブトは、イクサの装甲を砕かんと突き出されたガドルの拳を受け止めた。
 眼前のガドルが、背後のイクサが、その後ろで見ていた名護が、驚愕する。同時に名護は、先程までそこに居た総司の姿が消え去った事にも驚愕しているようだった。
 どうやら時空を越えれば、その時間軸の自分は消滅するらしい。タイムパラドックスの一種だろうが、今はそんな事はどうだっていい。
 既にこの場で倒れ伏しそうになる程の苦痛を堪えて、ハイパーカブトは驚愕するガドルの頬を殴り飛ばした。

「ぬぅ……っ!?」

 この拳は、確かに効いている。先程までとは比べ物にならない程の手応えを感じながら、ハイパーカブトは二度三度と、ガドルを殴りつけた。
 一撃殴られる度後退するガドル。元々傷だらけの身体には、ハイパーカブトの攻撃力を持ってしての打撃は堪えるのだろう。
 だが、相手は破壊のカリスマ。そう簡単に勝たせてくれる程、甘い相手では無い。
 すぐにハイパーカブトの攻撃を見切ったガドルは、突き出されたハイパーカブトの拳を絡め取り、肉薄する。

「貴様……さっきの仮面ライダーモドキか」
「モドキじゃない。僕は、天の道を継ぐ男――仮面ライダーカブトだ!」
「天の道……? 仮面ライダーカブト、だと……?」
「僕はもう逃げない。ここでお前を倒す! そして、みんな守ってみせる!」

 面食らった様子で驚愕するガドルの顔面に、もう片方の拳を叩き込んだ。
 堪らず仰け反ったガドルだが、すぐに体勢を立て直し、拳を振り上げ前進して来る。
 両者の拳が振り抜かれたのは、全くの同時だった。二人の拳が二人の胸部にブチ当たり、お互いの脚が揺れる。
 ハイパークロックアップによる疲労の蓄積した総司の身体にも、連戦で傷付いたガドルの身体にも、お互いの攻撃は堪えた。
 続く二撃目は、両者同時に振り上げたハイキックの激突だった。キックとキックが激突して、両者堪らず後方へと吹っ飛ぶ。
 ガドルはハイパーカブトよりも僅かに早く起き上がり、ようやく身を起こしたばかりのハイパーカブトへと肉薄。その襟首を掴み上げ、無理矢理に起き上がらせた。

「どうやら貴様の事を真の仮面ライダーと認めざるを得ないようだな」

 そう言って、ガドルは強靭な右腕を振り上げ、ハイパーカブトの装甲を砕こうと突き出す――が、

「ぐぅっ――!?」

 呻き声を上げたのは、ハイパーカブトではなく、ガドルの方だった。
 何事かと思うが、すぐに察しが付いた。拳を振り抜く瞬間に、連戦による傷跡が急激に疼き出したのだろう。
 総司は知らぬ事だが、その傷跡は、先の戦いでブレイドのファイナルフォームライドによって切り裂かれた大傷。
 仮面ライダーブレイドによって与えられた傷が、まるで意思を持っているかのように、このタイミングで疼き出したのだ。
 それはまるで、剣崎を殺めてしまった罪をも背負って正義の為に生きて行くと決めた総司の背を、同じく正義の為に戦った剣崎の意思が後押ししてくれているかのようだった。
 あの破壊のカリスマがこれだけ大きな隙を見せる事など、今を置いては恐らく他にない。

537G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:57:25 ID:cN.LBK3c0
 
「ハアッ!!」

 今しかないとばかりに突き出されたハイパーカブトの蹴りがガドルの胴に直撃して、ガドルの身体が後方へと吹っ飛んでゆく。
 最早、疲弊し切ったガドルにも猶予は残されてはいまい。お互いがお互いに、この戦いこそが本当の意味での決着であるのだと悟ったその時、先に行動を起こしたのはガドルの方だ。
 胸元の装飾品を引き千切り、それを巨大な大剣へと変化させるガドル。散々自分達を傷め付け続けてくれた、あの協力無比な剛の剣だ。
 どんな装甲をも斬り落とすあの刃の前に、流石に生身では分が悪いかとも思うが、今の総司に逃げるという選択肢などは有り得ない。
 ならば、戦うしかない。どんなに不利だと分かっていても――剣崎や海堂、名護や翔太郎がそうしたように。今度は、自分が背後の二人を守るのだ。
 眼前のアスファルトに、空から降って来た剣が突き刺さったのは、ハイパーカブトが走り出そうとした直後の事だった。

「これは……!」
「今の総司さんなら使いこなせる筈です! 負けないで、総司さん!」

 頭上を旋回しながら、黄金の小竜が総司を激励する。
 タツロットから託された黄金の剣を握り締め、アスファルトから引き抜くと同時、剣自体に備わった強大なエネルギーが総司の心を侵食する。
 だけれども、既に天の道を継ぐ仮面ライダーとして生きるのだと決めた総司の心を蝕む事は、どんな魔剣であっても不可能だ。
 一瞬だけ僅かにフラついた脚は再び強く地面を踏み締めて、両手でザンバットソードを構えて立つハイパーカブト。
 びゅん、と音を立てて剣を振り抜いたハイパーカブトは、歩を進め出したガドルに真っ向から向かって行く。
 刹那のうちに二人の距離は再びゼロとなった。同時、黄金の魔剣と黒金の大剣が激突し、火花を散らす。
 一撃二撃と剣をぶつけ合わせ、僅かに押されたハイパーカブトが、じりじりと後方へと追い詰められてゆく。
 しかし、

「総司くん! 剣の腕では相手が上だ! 真っ向からでは勝てないぞ!」
「生真面目に相手なんかすんな! もう一度そいつに、お前のマキシマムドライブをぶつけてやれ!」

 後方から聞こえる二人の“仲間”からの応援。
 そうだ、自分は一人で戦っているのではない。掛け替えのない仲間が、どんな時も一緒に戦ってくれているのだ。
 ならばこれ以上、仲間が待つ後方へは一歩たりとも進ませる訳には行かない。自分に出来るのは、翔太郎の言うマキシマムドライブで、こいつに一太刀を浴びせる事。
 だけれども、この魔剣の使い方など総司は知らない。不自然に巨大な蝙蝠が刀身に噛み付いてはいるが、これをどうすればいいのかも、分からない。

「総司さん! 魔皇力さえあれば、そのザンバットバットで刃を研いで、必殺技を放つ事が出来ますよ!」

 魔皇力。それは、キバの鎧を始めとするファンガイア一族に纏わる武装に漲る魔のエネルギーだ。
 レイに変身した時に使って、この身体に強烈な負荷をかけてくれたあの魔力……それさえあれば、こいつに一撃を叩き込む事が出来る。
 だけれども、ZECTが開発したマスクドライダーに、そのようなエネルギーが運用されている訳もない。魔皇力のチャージアップなど、出来る訳がない。
 全く無駄な能力ではないかと、内心でやや憤慨するが――否、ないならないで、いくらだってやりようはある。
 今の総司ならば、どんな不可能だって可能に出来る筈だ。
 再び剣をぶつけ合わせ、お互いの剣に伝わる反動を利用して後方へと跳び退いたハイパーカブトは、左腰のハイパーゼクターの角を押し倒した。

 ――MAXIMUM RIDER POWER――

 通常のマスクドライダーシステムのタキオン粒子とは比べ物にならない程のエネルギーが、ハイパーゼクターから全身へと供給される。
 虹色に眩く輝くタキオンのエネルギーは、ハイパーカブトが握り締めたザンバットソードにも伝わり、その刀身をきらきらと煌めかせる。
 ザンバットバットを左手で鷲掴みにした総司は、一度ならず二度三度とザンバットの刃を研磨した。透き通る様に美しかった刃全体にタキオンの輝きが充填され、虹色の輝きを乱反射させる――!
 光輝く剣を振り上げ、再びガドルの懐へと飛び込んだハイパーカブト。剣を振り下ろすガドルに対抗するように、下方から刃で斬り上げる。

538G線上のアリア/インヘリテッド・ハイパーシステム ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 04:58:12 ID:cN.LBK3c0
 
「――ハアアアアアッ!!!」

 名付けるならば、ハイパーザンバット斬、といったところだろうか。
 それは、魔皇力を研ぎ澄まして放たれるファンガイアの王の力を、膨大なタキオン粒子で代用した一撃だった。
 お互いの刃と刃は激突し――次の瞬間には、光輝く虹色の刃が、鈍い黒金の大剣を斬り裂き、ガドルの身体を薙ぎ払っていた。
 ガドル自身も寸での所で身をよじらせ、ハイパーザンバット斬の直撃だけは防いだが、それでもこの一撃の威力は絶大。
 堪らず吹っ飛んだガドルは、数歩よろけた後、がくりと崩れ膝をついた。

「さあ、決着を付けよう、ガドル――!」
「……ッ、望む所だ」

 ザンバットソードを頭上で振り回して勢いを付けたハイパーカブトは、その切先をアスファルトへと突き刺した。
 どすん! と音を響かせて、ザンバットの刃が深くアスファルトに減り込む。魔剣を手放したハイパーカブトと相対するガドルもまた、数歩後退し、距離を十分に取った。
 ガドルの脚に、稲妻が宿る。今までの比ではない程の気迫が、ガドルの全身から滲み出ている。恐らくはあれが、ガドルの持てる最強にして最高の必殺技なのだろう。
 武人を語る戦闘狂の自己満足に付き合ってやる義理はないが、それでも相手はあの破壊のカリスマ。此方も最高威力の必殺技で迎え討たねば、きっと勝利は掴めない。
 もう一度左腰へと手を伸ばしたハイパーカブトは、勢いよく、銀のカブトムシの角を押し倒した。

 ――MAXIMUM RIDER POWER――

 二度目のマキシマムライダーパワー。
 今度は総司の全身全霊を掛けて、ガドルとのうんざりする程の因縁にも決着を付けてみせる。
 海堂の仇を、ダークカブトゼクターの仇を、今此処で、この手で取るのだ。そしてこれからも総司は、名護と翔太郎と共に戦い続ける。
 これはその為の第一歩だ。ハイパーカブトが脚を踏み出すと同時、体中を駆け抜けるタキオン粒子を放熱させる為か、全身のカブテクターが展開を開始した。全ての装甲が変型を追える前に、ハイパーカブトはバックルに装着されたカブトゼクターのボタンを三度押し込んだ。

 ――ONE,TWO,THREE――

「ハイパーキックッ!!!」

 ――RIDER KICK――

 カブトの仮面の下で絶叫する総司と一緒に、カブトゼクターの電子音声がその技名を告げる。
 それは、かの天道総司が最も信頼を寄せる必殺技。どんなワームをも蹴り砕いて来た、仮面ライダーのみに許された究極の必殺技。
 チャージアップされたマキシマムライダーパワーが、カブトの右脚に、タキオンによる竜巻を発生させる。向かい合うガドルの両足の稲妻も、一歩蹴り出す毎にその輝きを増してゆく。
 ガドルが跳んだ。激しい錐揉み回転を加え、雷撃を撒き散らしながら、ガドルが急迫する。ほぼ同時、完全に変形を終えたハイパーカブトの光の翼が羽撃たいて、カブトの身体をガドルと同じ高度にまで跳び上がらせる。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 絶叫と共に繰り出す、必殺のハイパーライダーキック。
 天道総司が生涯そうしたように、天の道を往く者の誇りを胸に、全力を持って繰り出す一撃だ。
 例え相手がどんなに強大な悪であろうと、この一撃を止められるものは世界中の何処にも居ないと、総司は確信する。
 今は亡き天道と、海堂と、ダークカブトゼクターと、総司の勝利を信じて待つ名護と、翔太郎――みんなの想いを乗せて、ハイパーカブトは闇夜を翔ける。
 刹那――二人の全力全開の必殺技が、お互いの胸部に炸裂した。膨大な量のエネルギーが両者の間で爆ぜて、大爆発を引き起こす。
 ガドルが撒き散らした稲妻と、ハイパーカブトが放出した虹の輝きが、その場の全員の視界を覆い尽くした。

539G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 05:00:12 ID:cN.LBK3c0
 両者の激突の末、先に起き上がったのはゴ・ガドル・バの方だった。
 未だ怪人態の姿のままではあるが、自分の身体の事は自分が一番良く分かる。そう長く持たず、この変身も解除されるだろう。変身制限によるものではなく、純粋な体力切れによって、だ。
 だが、まだその時ではない。この激闘の末に、どちらが勝利したのかを見極めぬ限り、ガドルに安息は無い。
 仮にハイパーカブトが未だ顕在で、まだ戦えるというのなら――もう既に体力の限界を迎えたガドルに、勝ち目はないだろう。
 だけれども、もしもハイパーカブトが既に散っているというのなら、その時は、この破壊のカリスマの勝利だ。
 また一人、強き仮面ライダーを討ち取る事が出来たのだと、ガドルの名にも更なる箔が付くというもの。
 周囲を見渡し、ハイパーカブトの姿を探し求め――そして、見付けた。
 ガドルからは遠く離れた位置で、地を踏み締め、両の脚でしっかりと立つハイパーカブトの姿を。

「む……貴様」

 しかし。
 ガドルが一歩踏み出すと同時、ハイパーカブトの身体が揺れた。
 まるで風に煽られるように、ふらっと傾き――その身体から、銀の装甲が剥がれ落ちた。重力に引かれて崩れ落ちる姿勢を、奴の仲間の名護啓介が、そっと受け止めた。
 天道総司を名乗ったあの男は、意識を失っても尚、倒れる事無くその場に立ち続けていたのだろう。助けてくれる仲間の存在といい、あの男は本当に変わったと、ガドルは敵ながらに感心すら覚えた。
 奴の振る舞いを内心でずっと否定して来たガドルだが、今では素直に認められる。翔太郎の言う通り、奴はもう、立派な仮面ライダーだ。それは認めよう。
 だけれども、どんなに成長を果たしたところで、勝負に負けては意味がない。結局の所、この戦いはガドルの勝ちに終わったのだ。
 
「……ッ!?」

 ――否。そこで、自分の考えを否定する。
 奴に蹴られた胸部に、強烈なまでの違和感を感じた。
 違和感はガドルの全身に張り巡らされた神経組織を伝って、体中へと伝播してゆく。痛みと苦痛が、ガドルの身体を今にも引き裂かんと、体内で蠢いているかのようだった。

「……そうか」

 此処へ来て、ようやくガドルは気付いた。
 ハイパーカブトに蹴られた胸部から、大量のタキオン粒子が、この身体に叩き込まれたのだという事実に。
 クウガによって封印のエネルギーを叩き込まれたグロンギが、全身の神経組織を伝播し、やがてベルトを砕かれ爆死するのと同じ原理で、カブトによるエネルギーが、今にもこの身を砕こうと体内で暴れ出しているのだ。
 確信する。本当の勝者は自分ではない。結果的にこの戦いに勝利したのは天道総司で、自分は、負けたのだと。

「ゴセロ、ボボラゼバ(俺も、ここまでか)」

 体内で光輝くタキオン粒子の光が、蹴られた胸部から漏れ出していた。
 この光がゲドルードに仕込まれた爆弾に到達した時、ガドルの五体は吹き飛ぶのだろう。そうなれば、この周囲は全て火の海となって、何もかもが消えてなくなる。
 グロンギ族というのは、それ程に危険な爆弾を抱えてゲゲルに挑む民族であった。死を背負って戦い、最強の「ン」へと到達する為に己を研磨し続ける、それがガドルの生きる理由であった。
 そして奴らは、このゴ集団最強の戦士であるゴ・ガドル・バを打ち倒した。となれば、次に待つのは――ダグバだ。
 強者には強者への、勝者には勝者への礼儀を以て接するのが、ガドルの礼儀。
 奴らがダグバに辿り着くまで、下らない理由で脱落する事は許されない。
 
「仮面ライダーよ」
 
 目の前で天道総司に肩を貸して立ち上がる名護と翔太郎を、ガドルは呼び止めた。

「この勝負、その仮面ライダーの勝ちだ」
「何……!?」
「俺は、じきに爆発する。そうなれば、お前達諸共この一帯を吹き飛ばす事になるだろう」

 そう告げた瞬間、名護と翔太郎が息を飲む音が、ガドルにまで聞こえた気がした。
 無理もない。やっとの思いで勝ったと思ったら、次に爆発に巻き込まれると聞かされたのだから。
 そんな二人を安心させてやろうなどという優しさのつもりではないが、ガドルが自分のデイバッグを、名護の足元へと投げた。

540G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 05:01:15 ID:cN.LBK3c0
 
「……何のつもりだ?」
「言った筈だ。俺は強者には強者に見合った振る舞いをすると。
 俺に勝利した貴様らが、ここで脱落する事は許されない。そこの鉄馬を使って、今すぐに此処から離脱しろ」

 そう言って指差したのは、ガドルが今まで移動手段に使って来たカブトエクステンダー。
 元来二人乗りが限度のあのバイクに、三人で乗るのはちとキツいだろうが、なに、不可能ではない。
 元々が大型のバイクなのだから、身体の細いあの三人ならば、窮屈ではあるだろうが乗って行ける筈だ。
 ガドルのデイバッグを拾い上げた名護が、訝しげにガドルを睨む。

「罠の可能性は――」
「信じぬなら、ここで道連れに死ぬか」

 そう告げるガドルの胸部の光は、既に腹部にまで到達していた。
 あと一分程しか持ちはしないだろう。離脱するならば、今すぐでなければ間に合わない。
 今にも身体を突き破られそうな痛みに耐えるガドルの容態の変化に気付いたのだろう、名護はもうそれ以上は言わずに、カブトエクステンダーに跨った。
 翔太郎がその後ろに総司を乗せ、更にその後ろに無理矢理跨り、総司の身体が振り落とされぬようにと、総司の身体を両腕でしっかり支える。
 最後にもう一つだけ、伝えるべき事があるのだと思い出したガドルは、エンジン音を轟かせ、バイクを急転回させ今にも走り出さんとする名護を呼び止めた。

「強き仮面ライダーよ。最後にもう一つだけ、貴様らに伝えておく事がある」
「……何だ?」
「あの仮面ライダー……海堂直也の攻撃は、この破壊のカリスマにも確かに届いていた。
 あの戦いに勝利していたのは、本来なら俺では無く、海堂直也の筈だった」
「な……っ!?」

 このゴ・ガドル・バを敗北させた始めての仮面ライダーの名は、海堂直也だ。
 正義の心とやらの力で、何処までも強くなったあの男は、確かにこのガドルを打ち倒した。
 惜しむらくは、奴の命が、あと一歩の所で持たなかった事。それさえなければ、もしも海堂があと一秒でも長く生きていたなら、ガドルはあの時、既に死んでいたのだ。
 それが、ガドルのみが知る戦いの結末。誰にも知られる事無く散った勇敢な戦士の、本当の最期。それを海堂の志を継いで行くのであろう戦士達に伝える事が出来たのだから、ガドルにとって思い残す事はもうない。
 事実を知った名護啓介は、ふっと微笑んだ。

「そうか。直也くんは、最期までその正義を貫く事が出来たんだな」
「ああ。……もう時間がない。行け、そして二度と振り向くな、強き仮面ライダーよ!」

 ガドルの絶叫を最後に、名護啓介はカブトエクステンダーを駆り、何処かへと走り去って行った。
 最後に強い仮面ライダーと戦い、その後ろ姿を見送る事が出来たのだ。武人として、これ以上を望みはしない。
 きっと奴らはこの先、この破壊のカリスマよりもずっと恐ろしい敵と出会い、その度絶望の淵に立たされるだろう。
 だけれども、それでも諦めて欲しくは無い。何せ奴らは、このゴ集団最強の戦士を打ち倒したのだから。
 今の奴らではダグバには未だ届かないだろうが……このままもっと、ずっと成長してゆけば、或いはダグバにも届く可能性はある。

「精々油断しない事だな、ダグバ」

 最期の瞬間、最強の座に君臨する究極の闇の姿を思い浮かべ、ガドルの意識は飛んだ。
 腹部のゲドルードに到達したタキオン粒子が爆弾を起爆させ、ガドルの身体を粉々に吹き飛ばしたのだ。
 この地点を中心に、他の全てを薙ぎ払わん勢いで、爆風が拡がる。遥か天に向かって、激しい火柱が立ち上る。
 破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バは、一片の肉片すらも残さずにこの世から消え去った。

541G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 05:01:41 ID:cN.LBK3c0
 







【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ 死亡確認】
 残り33人


 
 




【1日目 夜中】
【?-? ???】

 
【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、、仮面ライダーイクサに1時間50分変身不可
【装備】ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW、
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:この場所から離脱する
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君と共に、津上翔一、城戸真司、小沢澄子を見つけ出し、伝言を伝える。
3:総司君のコーチになる。
4:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※剣崎一真を殺したのは擬態天道だと知りました。
※天道総司から制限について詳細を聞いているかは後続の書き手さんにお任せします。

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、とても強い決意、強い悲しみと罪悪感、仮面ライダージョーカーに55分変身不可、仮面ライダーイクサに1時間45分変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、トライアルメモリ@仮面ライダーW、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:この場所から離脱する。
1:名護と総司と共に戦う。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:カリス(名前を知らない)、浅倉(名前を知らない)、ダグバ(名前を知らない)を絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
6:ミュージアムの幹部達を警戒。
7:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
8:もし、照井からアクセルを受け継いだ者がいるなら、特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
9:総司(擬態天道)と天道の関係が少しだけ気がかり。
【備考】
※木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ホッパーゼクターにはまだ認められていません(なおホッパーゼクターは、おそらくダグバ戦を見てはいません)。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

542G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 05:02:04 ID:cN.LBK3c0
 

【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(極大)、ダメージ(大)、仮面ライダーダークカブトに1時間40分変身不可、ワーム態に1時間42分変身不可、仮面ライダーレイに1時間45分変身不可、仮面ライダーカブトに1時間50分変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト、ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式×2、ネガタロスの不明支給品×1(変身道具ではない)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きる。
0:気絶中。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きる。
2:名護に対する自身の執着への疑問。
【備考】
※名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※仮面ライダーという存在に対して、複雑な感情を抱いています。
※タツロットはザンバットソードを収納しています。


【全体備考】
※E-1 市街地エリアで大規模な爆発が発生しました。空に向かって火柱が発生しているので、広い範囲で観測可能なものと思われます。
※イクサシステムはオーバーヒートを起こしました。変身者に関わらず、四時間の間イクサは使用出来ません。
※三人を乗せたカブトエクステンダーが今何処に居るのか、どの方角に進んでいるのかは後続の書き手さんにお任せします。

543G線上のアリア/リレーション・ウィル・ネバーエンド ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 05:02:20 ID:cN.LBK3c0
 




 ここからそう遠くは無い場所で、大規模な爆発が発生した。
 轟音は周囲のエリアにまで轟き、天まで伸びる火柱は何処からだって観測出来る。
 ン・ダグバ・ゼバは、誰もいない市街地跡地から、立ち上る火柱を眺めていた。

「そっか。死んじゃったんだね、ガドル」

 それがあの男の死による爆発だという事は、ダグバには一目で分かった。
 以前、ガドルがクウガに負けて死んだ時も、同じくらいに強烈な爆発が巻き起こった筈だ。
 今の爆発は寧ろ、あの時よりもやや抑えられている気さえする。大ショッカーによる何らかの制限だろうか。
 そこまで考えたダグバは、そんな取り留めの無い思考を働かせるのは時間の無駄でしかない事に気付く。
 重要なのは、此処でさらに強くなった筈のガドルをも打ち倒す強者が、この会場には居るという事。
 それを考えた時、ダグバは自分の身が自然と震えるのを感じた。
 武者震い、という奴だろうか。それとも、テラーによって植え付けられた恐怖心だろうか。
 が……まあ、どうでも良い事かと、ダグバはそれについて考える事すらも放棄した。

「まだまだ、楽しませてくれそうだね」

 白い悪魔ン・ダグバ・ゼバは、まるで無邪気な子供のように笑った。
 
 
 
 
 
【1日目 夜中】
【E-2 市街地跡地】


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】ダメージ(小)、恐怖(小)、ガドルを殺した強者への期待、怪人態及びリュウガに1時間変身不可
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、モモタロスォード@仮面ライダー電王 、ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3、不明支給品×1(東條から見て武器ではない)、音也の不明支給品×2、バギブソン@仮面ライダークウガ、ダグバのベルトの欠片@仮面ライダークウガ、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
0:ガドルが死んじゃったか……。
1:もう1人のクウガとの戦いを、また楽しみたい。
2:ガドルやリントの戦士達が恐怖をもたらしてくれる事を期待。
3:新たなる力が楽しめるようになるまで待つ。
4:余裕があれば残りのスペードのカードを集めてみる。
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。
※制限によって、超自然発火能力の範囲が狭くなっています。
※変身時間の制限をある程度把握しました。
※音也の支給品を回収しました。
※東條の不明支給品の一つはラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣でした。


544G線上のアリア ◆MiRaiTlHUI:2012/01/25(水) 05:09:53 ID:cN.LBK3c0
これにて投下終了です。
まず、期限を超過してしまった事を謝罪させていただきます。
この度は本当に申し訳ありませんでした。

今回は四分割です。
>>512-520 が1分割目。
>>521-529 が2分割目。
>>530-538 が3分割目。
>>539-543 が4分割目。

タイトルの「G」は言わずもがなでしょうが、「ガドル」の意です。
音楽関連の用語はキバ風タイトルから、間に「/」挟んでのアルファベット含むタイトルは仮面ライダーWからです。
また、今回分がwikiに収録される際には、少し拘りがあるので、後日自分でやっておこうと思います。

今回は少し粗が多いかもしれませんが、もし何か気付いた事があればご指摘宜しくお願い致します。

545名無しさん:2012/01/25(水) 07:20:40 ID:o8jGL0mA0
投下乙です!
ガドル閣下あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ついに逝ってしまいましたか……最後の最後まで、彼は真の男でしたよ!
翔太郎が死んでしまうかと思いましたが、まさかのハイパークロックアップですか!
擬態天道はもちろん、翔太郎も名護さんもタツロットもレイキバットもダークカブトもカブトゼクターもみんな真の仮面ライダーです!
最後にもう一度、本当に乙でした!


……そして、ダグバはまた何かをやらかしそうな予感。

546名無しさん:2012/01/25(水) 12:11:03 ID:c9oBzR1EO
投下乙です!
ああ、やっぱり今回もダメd ウンメイノー 天の道を継ぎ、総てを司る仮面ライダーの誕生の流れには痺れたなぁ。そうだよ、お前は一人なんかじゃない!

そしてガドル閣下、正に強敵と書いてトモだった・・・にしてもダグバがどう動くのやら。

547名無しさん:2012/01/25(水) 15:57:32 ID:XYYb6hZc0
投下乙!
これは…すごかった!
ついに、ついに…擬態天道が覚醒したか!
そしてガドル、死ぬ瞬間までかっこいいじゃないか!
最高でした!改めて乙です!

548名無しさん:2012/01/25(水) 18:07:16 ID:XKKcHLrQ0
投下乙!
総司、お前はやればできるだと思ってたよ(ぇ
そして総司を個々までに成長させた名護さんは最高です!
ガドルも最後までかっこよかったです

549名無しさん:2012/01/25(水) 23:19:49 ID:kmZKXom20
投下乙です。
「僕が、僕たちが仮面ライダーだ!」――仮面ライダーカブト、新生。
いやっもう最っ高でしたよ! 翔太郎の言うとおり、人間だバケモノだガジェットだ、そんな垣根なんて関係ない! おまえら皆仮面ライダーだ!
圧倒的に強過ぎる、本当にダグバに迫りつつある強さのガドルを倒すために、仲間たちが、そして海堂が剣崎が天道が、皆が擬態天道達に力を貸してくれる……熱い、熱過ぎる!
皆の意志を受け継いだ対主催の希望の太陽が生まれて、天道達も(死者スレで?)喜んでるよきっと。
天の道を往き、総てを司る男を継ぐ者――君こそ、真の仮面ライダーだ!

嗚呼、あの日このロワ見つけられて、本当に良かったなぁ……

550名無しさん:2012/01/26(木) 02:06:43 ID:dL7HRcXw0
投下乙です、まず遅くなりましたがOの始まりの方の感想も。

>Oの始まり
一気に集結して病院か……って相変わらず志村はステルス続行中(但し乃木に疑われている、海東からも当然といえば当然だけどある種複雑に見られている)。
そして参戦時期的にあると思ったけどついに巧の崩壊が始まったか……ああ、天道の遺志を受け継いだ矢先に……
後、殆ど何もしていないのにサバイブGETして強化された蓮……アレ、これ一応マーダー強化だよな??? 何故かそう見えない不思議。

>G線上のアリア
ガドル戦完全決着!!
いや、このラインナップ誰が退場してもおかしくないけど……まさか3人退場せずガドル閣下が退場するとは……
だが名護によるアームズ閣下撃破、そしてジョーカーに変身出来ない故にスイーツ(ハハッ)しかないのかと言われそうなハーフ(ハハッ)ボイルドがまさかのイクサとなっての激闘。
だが、ガドル閣下も本当に何処までも強敵でコイツ本当に原作よりも強いんじゃないかという勢い……
だがしかし、だがしかし今回の主役は完全に総司、身を挺して総司を守って散っていったダークカブトゼクターの姿に自暴自棄になりながらもレイキバットやタツロットを含めた仲間達総ての意思がついに総司を本当の意味で仮面ライダーにしてくれたか……まさか新たなカブトになるとまでは予想外だったけど。
………………で、最後にほんのちょっと出てきたダグバ……そうか、まだコイツがいるのか……
そういや終わって見れば、ガドル閣下戦った割にキルスコア1つだけなんだよね。しかも、その1つも確かサイガギアで限界超えたからなのでガドル閣下の直接攻撃で仕留めた相手はいない……逆言えば最後の最後まで強者と戦い続けたからこそなんだろうけどね。

551名無しさん:2012/01/26(木) 20:48:44 ID:WU0RLLbU0
もうwikiに更新されてるんですね。
殺害ランキングのとこの擬態天道のスタンスが対主催に変わってて嬉しかった。
そしてガドルの最期の言葉…かっこよすぎだろ!
男なのに惚れちまいそうだ…

552名無しさん:2012/01/26(木) 22:12:11 ID:A/w320ZQ0
ガドルは一番かっこいいマーダーだったと思う
言っちゃ悪いが渡とは比べ物にならry

それからひとつだけ誤字の報告を。一箇所翔太郎が753を呼び捨てにしてるところがあります

553 ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:45:41 ID:jxmujMZ20
投下乙です。
感想の前に、一つだけ。今回は事前に報告がありましたのでそこまで咎めるつもりはありませんが、やはり期限超過は本来は許されないことですので、次からはお気を付け下さい。

……とはいえ、そんな風に問題を抱えていても今回のSSが素晴らしい作品であることは紛れもない事実だと思います。
拙作からリレーされた結果、ここまで見事な作品が生まれたのだと思えば、こんなに嬉しいことはほとんどありません。

さて、自分も予約分の修正が完了しました。問題点などございましたらまたご指摘の方を頂けたら幸いです。
それでは、私の13作品目、投下させて頂きます。

554闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:46:51 ID:jxmujMZ20
 何もかもを呑み込んだ爆発の跡地では、温いはずの夜風が未だにその熱気を帯びている。
 その爆心地と思しき場所で鋼鉄の魔獣のように眠る異形のバイクに腰を預け、黄金の月を見上げているのは、全身を白装束に包んだ無垢な印象の青年だった。

「……やっぱり、誰もいないよね」

 グロンギが誇る最強の戦士、ゴ・ガドル・バがその命を散らせた場所で、可笑しそうに笑う彼こそはグロンギにおける絶対の支配者――ン・ダグバ・ゼバその人だった。

 ガドルと別れてから半刻もしない頃、天を貫く爆炎の柱が顕現する様を目撃し――それが彼の死を意味するのだと、目にした瞬間にダグバには理解できていた。
 ダグバはその寸前まで、自身を脅かす強者に育つ可能性がある者としてガドルに大きな期待を寄せていた。それこそ唯一の宿敵だと認める、クウガに対するのと同じぐらいに。
 だが結局、そんな期待を抱いたすぐ後に、ガドルは死んでしまった。

 折角面白くなりそうだったのに、勿体ないな――と、彼は思わなかった。
 何故ならそのガドルを超えるほどの強者が、既にそこにいるのだから。

 首輪によって一時的に封じ込められた究極の力を再び取り戻し、新たな力を手に入れるまでは積極的に動くつもりなどなかったが――生前のガドルから護身用にと渡された仮面ライダーの力もあるのだし、その真価を確かめるためにスペードのカードを集めに行くのも一興だろうと考えた彼はバギブソンを駆り、爆発の跡地まで足を運んでいた。

 とはいえ、いざ到着してもそこには誰もいなかった。ガドルを殺した強者も首輪の制限で、今頃はその力を封じられてしまっているのだろう。
 先程の爆発に巻き込まれて死んでいるとは考えなかった。いくらなんでもあのガドルがそんな程度の輩に敗れはしないだろう。ガドルを殺してみせた強者は必ず生き延び、別の場所に向かったはずだ。

 そのことを把握してなお、ダグバは今追い掛けようという気にはならなかった。
 理由は二つあるが、一つは先程述べた通り、ガドルに勝った者がその力を首輪のせいで封じられているだろうことから、今は戦っても楽しくはなれないと思ったからだ。

「――どんな相手だったの、ガドル?」

 呟いてから、ダグバはまた自分のことが可笑しくて喉を鳴らしてしまう。
 負けた者に価値などないのに、もう死んでしまった者へと、気付かぬ内にダグバは声を掛けてしまっていた。それだけ自身がガドルに期待していたということや、そのガドルを打ち破った強者――おそらくはガドルが執着していたリントの戦士、『仮面ライダー』へ強く期待しているということが何だか可笑しくて、ダグバはついつい笑ってしまう。

「――ううん、違うかな?」

 最後にガドルと交流した時の、自身の胸の内を思い出し、ダグバは本当の感情を悟る。
 要は羨ましいのだ。ダグバは、ガドルのことが。
 全身全霊を懸けた真の闘争に臨める好敵手の存在した戦士は、魔王にとっては堪らない羨望の対象だったのだ。
 きっと全力を尽くした戦いでガドルは果てた――それがダグバには本当に羨ましい。
 絶対者であるダグバにとっては何もかも退屈だ。そんなダグバを本当に笑顔にできるのは、彼の意に添わないものしかない。
 究極の暴力で捻じ伏せようとしても抵抗して、逆にダグバを脅かし、恐怖を齎すような強者こそが、ダグバを愉悦させる唯一無二の存在なのだ。
 ダグバがこんなにも欲しがるものをガドルに施した者は、果たしてダグバを満足させることができるのだろうか。そんな興味が尽きない。
 だから、その力が再び万全となるまで今は休ませようではないか――ダグバがガドルの最後の戦場に敢えて留まった理由は、しかしもう一つある。

 ちょうど、リントの姿でもリントの域を大きく超えた感覚機能を持つダグバの聴覚が、近づいてくる複数の足音を拾った。

 ダグバが留まったのは先程、ガドルがダグバの戦いの跡地に向かったのと同じ理由だ。
 広範囲で確認できた爆発に惹かれてきた参加者との戦いに興じるために、ダグバはこの場に残っていた。

「――究極の闇を、始めるよ」

 このゲゲルに参加させられる直前と同じ状況――ガドルが敗北し、死亡したことを受け、やはりこのゲゲルに参加する直前と同じ言葉をダグバは誰にともなく宣告した。



「……結局、誰もいねえじゃねえか」

555闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:47:42 ID:jxmujMZ20
 廃墟、否焦土という形容すら温いほどに、そこにあった全てが破壊し尽くされた跡地に立った牙王は、落胆も顕にそう呟いた。

 先刻の、天を焦がし、数秒の間夜を昼と成した爆炎の柱は、牙王達にも確認できた。
 あまりにも非現実的なその爆発の光景を前に、牙王すら一瞬言葉を失った。

 そして次の瞬間、驚愕から転じた確信を秘めた笑みを牙王は浮かべていた。
 あの大破壊を成したのは、先程立ち寄っていたE-2エリアの市街地で暴虐の限りを尽くした何者かに匹敵か、あるいはそれ以上の力を秘めた強者――己が牙に相応しい獲物であると、彼は瞬時に悟ったのだ。

 故に、機が熟すまで手綱を握る四人の参加者――究極の獲物と、それを縛る鎖であり、彼を牙王の求める獲物として仕上げるための贄でもある三匹を従え、牙王はE-1エリアへ急行した。

 だが、全てが灰燼に帰した地に立つ者は――先の破壊を成した者も、牙王のように強者との戦いを求める者も、誰一人として存在せず。
 この会場に連れて来られてから、幾度となく感じ、蓄積されて来た苛立ちは、再び臨界の時を迎えつつあった。
 その余韻も冷めやらぬまま、牙王は群れている四人の参加者を振り返った。
 ――否、その先頭に立つ一人の男へと、視線を注いでいた。

「小野寺。おまえ、そろそろ戦えるんじゃねえのか?」

 自身との戦いに敗れた時点では、もはや立ち上がることもできないほどに消耗していたはずの小野寺ユウスケ。彼は既に両の足で大地を踏みしめ、立ち上がっていた。
 全身に刻まれていたはずの細かい傷も、そのほとんどが癒えている。まだ幾許か疲労の色が見て取れ、全快とはいかないのだろうが――それでも、勝者であったはずの牙王以上に、体調は優れているように見える。
 何より牙王の視線――彼に注ぐ前に一瞬、殺意を込めた一瞥をおまけの三人に向けたのを察知してから、その瞳には強い闘志が見て取れた。

 時間的に考えても、そろそろ奴の真の姿であるクウガの力が戻っているはず――後は、ダグバがやったと言うのと同じように、他の参加者を目の前で喰い殺してやれば奴は究極の力を持った存在へと変貌するはずだ。
 究極などと大層な肩書を持っているのだ。この破壊を齎した闘争者達と同等以上の力を持った、牙王を満足させるような獲物であってくれなければ困る――そして少なくとも、小野寺自身の戦闘力は牙王を愉悦させるに相応しい物の片鱗を見せている。
 それならこの飢えを、この眼前の男は晴らすことができるはずだ――そう牙王が考え、戦闘態勢に移ろうとした瞬間、小野寺は突如として牙王から視線を外した。

「誰か来たと思ったら、君だったんだね。……もう一人のクウガ」

 自身を前にして、突然別の何かに警戒を飛ばした小野寺の不遜への怒りは、牙王の中には湧いて来なかった。
 突如として現れた声の、その威圧感と存在感を鑑みれば――その反応も致し方なしだと、牙王も認めていたのだから。
 だが、小野寺やその取り巻きと違い、牙の王は悠然と振り返った。

 そこに立っていたのは、夜目に映える白一色の服に痩身を包んだ青年。
 だがその白と言う色から連想する、極一般的なイメージを一切連想させない人物だった。
 その姿を見るだけで息苦しさを、そして牙王にとっては心地良さを感じさせる圧力を、この一見何の変哲もない青年が放っていた。

 一目で、わかった。この青年はあの『王』と同等――いや、おそらくはそれ以上の力を秘めた、究極の名を冠するに相応しい獲物であると。

「……第零号!」
「ダグバ……!」

 餌の男女二人と、そして小野寺がその者を表す名を畏怖や憎悪を込めて口にする。
 その名は響きだけで、牙王を愉悦させる物だった。

 嗚呼、ダグバ。

 思えば初めてその名を知った時から、牙王は彼に心を奪われていたのかもしれない。
 この獲物を味わってしまえば、その後はもう何を喰っても満たされぬのではないかと。
 そんな直感を覚えながら、己の中から既にダグバを喰らうこと以外の思考が消え始めていることを、牙王は自覚していた。

「君達がガドルを殺した……わけじゃなさそうだね」

556闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:48:29 ID:jxmujMZ20
 ダグバがそう一人呟いたが、牙王はその独り言を無視し、同じように言葉を吐いた。

「そうか、おまえがダグバ……か」

 そこまで自身を魅了した存在に、牙王はだがいつも通り、捕食者として接する。

「逢いたかったぜ……」

 そう牙王は、僅かな陶酔すら込めて呟いた。
 固唾を呑んで事態の推移を見守っているだけの外野など、もはやどうでも良い。牙王の目には、ダグバしか映っていなかった。

「――君は誰?」

 まるで恐れを知らぬ無垢な幼子のように、ダグバはそう純粋な疑問を投げて来た。
 牙の王の殺意に晒されて、この反応。この魔王は今まで、他者に脅かされるという経験と縁がなかったのだろう。そう察した牙王は、その最強という安寧の座にいた白を自らの牙で蹂躙できるという悦びに震えそうになりながら、問答に応じた。

「俺は牙王――ダグバ、おまえを喰らう牙だ」
「君が僕を怖くしてくれるの?」

 能面のように固まった無機質な笑顔を浮かべたまま、無邪気にダグバが応じる。
 相手も望んでいるのなら、応えてやるべきだろう――牙王はダグバに頷いた。

「究極の力を持つおまえこそ、俺の牙に相応しい獲物だ……たっぷり味わせて貰うぜ」
「ああ、ごめんね。後少しの間、究極の力は使えないんだ」

 牙王の言葉に対し、そう首輪を示すダグバを前に、牙王の中では憤怒が沸騰していた。
 それは余計な小細工を施した、大ショッカーへの烈火の如き怒り。
 探し求めた究極の獲物を前にしながら味わうことができないと言うことに、彼の飢餓がそのまま転じた感情だった。

「でも、後ちょっとだから……その間は、これで遊ぼうよ」

 怒れる牙の王にダグバが示して見せたのは、スペードの紋章が刻まれたバックル。

「――あれは、ブレイバックルっ!?」

 ダグバを前にして一気に色褪せた、もう一人の獲物――小野寺が、ダグバの取り出したバックルに対してそう驚愕を滲ませた。
 同時に、牙王の脳内に響く、不快な声。

 ――戦え……あれを手にすれば、さらなる力が……!

(うるせえ奴だな……)

 小野寺と戦う直前に手に入れた、クローバーの意匠が施された変身アイテム――変身者と異なる、独自の意志を宿しているレンゲルバックルの囁きに、内心牙王は嘆息する。
 どうやら、今ダグバが見せているのはレンゲルバックルと同じ世界に存在している仮面ライダーの変身アイテムらしい。それが持つカードを奪うことで、さらにレンゲルの力を増すことができる、と言いたいらしい。
 正直、このやかましい奴の望みを叶えるのは癪だが、牙王自身の本来の力であるガオウは究極の力を取り戻した後のダグバに取っておきたいとすれば、前哨戦として同じ世界の仮面ライダー同士で、と言うのも一興か。

「良いぜ……まずは味見させて貰うとするか」

 ダグバに頷いた牙王は、懐からレンゲルバックルを取り出し、腰に翳した。
 腰に巻いていた武骨なベルトを投げ捨てたダグバも同様にすると、バックルから現れたカードの束がベルトを構成し、それぞれの腰に巻きついて行く。

「ふふっ……変身」
「――変身」

 ――Turn up――
 ――Open up――

 それぞれ違った、だが良く似た電子音と共に、ダグバの前にヘラクレスオオカブトの、牙王の前に蜘蛛の紋章が描かれた青の光の壁が展開される。
 二人の闘争者は躊躇わずそのゲートを通り過ぎて、変身を完了させた。

557闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:49:27 ID:jxmujMZ20
 紫紺に白銀の騎士と、濃緑に黄金の装甲を持つ戦士。
 青年と壮年ではなく、仮面ライダーブレイドと仮面ライダーレンゲルが、夜の中で対峙していた。

 牙王――レンゲルが醒状レンゲルラウザーを構えたのに合わせて、ダグバの変身したブレイドも、腰から白銀の剣を引き抜く。

 そうして、夜闇を切り裂く白銀の一閃が迸る。

「――うん」

 何のことはない素振りの感触に、だがダグバは満足したように頷いた。
 一方で、その何気ないながら流麗な太刀筋に、改めて牙王は惚れ惚れとする。
 応じるようにレンゲルも自らの得物を一旋し、緑の煌めきを円弧の形で夜に残す。
 棍や杖は牙王本来の武器ではないが、その槍捌きを見てかブレイドもブレイラウザーを正眼に構え直した。

「――行くぜ」

 宣告に続いた裂帛の気合と共に、レンゲルが地を蹴って間合いを詰め始めた。

 応じたブレイドも静かに走り出し、両者の剣戟が相克する重厚な、そして凄烈な音が、全ての失せた夜の地で響き始めた。



「――皆は、この間に逃げてください」

 そんな異常者同士の戦いを前にして、小野寺ユウスケが同行者達を振り返り、そう真剣な表情で告げた。

「あいつらが戦いに夢中な間に皆が離れたら、あの黒いクウガになってダグバを倒します。だから、巻き込まれないよう逃げてください」

 それは確かに、ほんの数刻前にこの青年が口にした言葉だった。
 だが小沢澄子は、その言葉を受け入れず、首を横に振った。

「いいえ、小野寺くん……あなたが想定した場合と、今は状況が違うわ」

 間合いで勝る醒杖の刺突を剣腹で弾き、捌きながら、間合いの長さ故に隙を見せた敵手の懐に潜り込んだブレイドが斬撃を繰り出す。醒剣の一撃をレンゲルは前転してかわし、体勢を立て直す間も惜しんで片膝を着いたまま、レンゲルラウザーを片手で背後へと旋回させる。追撃しようとしていたブレイドも、自らの切っ先が敵を貫くより先に自身が切り裂かれることを悟ったか、遠心力の乗った一撃をブレイラウザーで受け止める。追撃から防御の姿勢へブレイドが移行する間に立ち上がったレンゲルがそのまま押し込み、武器が絡み合った状態のまま、二人の仮面ライダーは戦いの場所を廃墟の方へと変えて行く。

 その干戈の交わりの軌跡を視界の端に収め、確かにユウスケの言う通り、逃げるなら今が好機だと理解しながらも、小沢は目の前の青年に告げた。

「第一に、第零号は本来の力を発揮できない状態よ。奴が本来の力のままで暴れているのなら、確かに私達はここにいるだけであなたの負担にしかならないわ」
「だから――」
「でも、今は違う。いくら第零号だと言っても、首輪の制限には勝てなかった。奴自身がそう認めたのよ。牙王との戦いを見れば十分強いことはわかるけれど、それでも今の奴は、この地においては常識的な範囲内の危険人物に過ぎない」

 刃同士の抱擁が終わり、再び激烈な攻めとなって人の身の丈ほどの高さに無数の星屑を生みながらぶつかり合う。間断ない金属の擦過音に不快さを感じながら、小沢は続けた。

「それなら当初の予定通り……危険人物同士が潰し合っているこの隙に、私達全員で協力して、二人ともここで何とかするべきよ」
「いや……でも、危険なんですよ!?」
「ここで逃げても、牙王が装備を返さなかった以上、私達が危険なのは変わりないわ」
「それは……キバットが何とかしてくれますから……」
「――なぁ、ユウスケ。おまえはそんなにその黒いクウガってのになりてぇのか?」

 パタパタと空気を叩きながら、キバットバット?世がユウスケへと問い掛けた。

「あの白い野郎がヤベーってのは、俺も何となく感じたけどよ……それでも無理におまえが危険をしょい込む必要なんざねーんじゃねーかって、俺は思うぜ」
「――そうですよ!」

558闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:50:54 ID:jxmujMZ20
 キバットの言葉に続いたのは、桐谷京介だ。ほんのつい先程まで、ユウスケを背負った上で歩いていたというのにまるで疲労の色を見せることなく、むしろ気力に溢れ、それをとうとう御し切れなくなったかのように、力強くユウスケに詰め寄る。

「俺は……ずっと、見てるだけでした。やっと鬼になれたのに、ここに来ても、照井さんや、一条さんや、ユウスケさんが誰かのために命を懸けるのを……」
「京介くん……」
「だから、これ以上あなただけが無理に苦しむ必要なんかないんです! 小沢さんの言う通り、力を合わせて誰も苦しまずに何とかできるんなら……俺にも、手伝わせてください!」

 少年の真摯な訴えに、どう応じて良いのか困惑する様子のユウスケに肩に力強く、だが優しさを感じ取れる絶妙な加減で、大きな掌が置かれる。

「――君は言ったはずだ、小野寺くん」

 声の主へとユウスケは振り返り、一条薫はそんな彼へと力強く頷く。

「五代のように頑張る、と……そして俺は言ったはずだ。あいつが戦えたのは、あいつが一人じゃなかったからだ。あいつを支えてくれる人が、大勢いたからだと。
 だから俺達にも、君を支えさせてくれ。小野寺ユウスケ」

 そんな一条の言葉を受けても、でも、でもとユウスケは頭を振る。

「……俺は、元の世界では仮面ライダーのように戦う力を持っていなかった……全て五代に、押し付けてしまっていた。それなら今度は、俺があいつの笑顔を護ってやりたい……小野寺くん、君の笑顔もだ」

 その言葉に衝撃を受けたかのように、ユウスケがその目を見張った。
 その様子を見て、小沢は改めて口を開いた。

「――何より、さっきも言ったけれど牙王から装備を取り戻さないことには危険過ぎるわ。逃げろって言うなら、せめてそれを取り返して来てから言ってくれなきゃ無理な話よ」

 もちろん、装備が戻った後に本当に逃げるのかはわからないけれどね、と付け足して。

 ――一条の語った心境は、小沢にも心当たりがあった。
 いつだって前線に立つのは責任者である小沢澄子ではなく、氷川誠だった。アンノウンと戦うのは津上翔一や葦原涼だった。
 もちろん、後方支援する者がいてこそ戦士は背中を気にせず戦えるのだ。自らの役割の重要性を知っているし、常にベストを尽くして来たと小沢は自負している。
 それでも、前線で戦う彼らにばかり痛みを押し付けてしまっていると感じたことがないというわけでは、ない。
 無論小沢自身は戦士ではない――どんなヘマを踏んだのか、この会場に骨を埋めることになってしまった、自分こそG3の装着者に相応しいと言い張り続けたあの同僚ほどには自惚れてはいない。仮面ライダーの力を得ても、それを十全に発揮できるなどと豪語するつもりはない。
 それでも殺し合いの場に立たされた以上は、本来は民間人である翔一や真司、ユウスケ達に護って貰ってばかりではいられない。彼女は市民の安全を護る、警察官なのだから。

 せめて彼らの足手纏いにならないよう、自衛する程度の力は持っておきたい――幸いなことに、アビスのデッキは周辺に鏡になる物がなくなってから、牙王は一条達の支給品と同じデイパックに入れていた。レンゲルとなった今も、それを身に着けたまま奴は戦っている。あれを取り戻せば、最低限の戦う力は確保できる。
 ユウスケを凄まじき戦士へと変身させなくても、三人で牙王を抑えていれば今の彼ならきっと制限された第零号を打倒できる――そのまま牙王を拘束することも可能なはずだ。

 自らを闇の呪縛から解放してくれた青年への恩返しや、彼を想う操られた間に傷つけてしまった同行者達への罪滅ぼしとしては大したことではないかもしれないが、それでも今は彼らの力になりたい――それが小沢澄子の偽らざる気持ちだった。

 三人と一匹の仲間、さらに彼を相棒と見なすガタックゼクターが降りて来て、ユウスケを取り囲む。
 仲間の視線を一身に集めた彼は、諦念したように息を吐いた。

「……わかりました」



 月明かりや満天の星空より、なお明るい光源が、地上に一つ。

 火花を散らせ激突を続けるブレイドとレンゲルの戦いは、拮抗状態にあった。

559闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:51:58 ID:jxmujMZ20
 ライダーシステムとしての優劣は、基本形態ではレンゲルが上。しかし小野寺ユウスケとの激闘から未だ癒えぬダメージを蓄積した牙王に対し、究極の闇を齎す者――グロンギにおいて最強の存在であるダグバは、脆弱なリントを模した姿でありながら、その実屈強な牙王を大きく上回る身体能力を誇っている。その不利を間合いの有利な武器が再び埋め、その上で両者の技量が同程度であるということが膠着の原因だと言えるだろう。

 攻め手に回っているのはレンゲル。やはり間合いの差は大きく、ブレイドの踏み込みを許さない。
 だが槍と剣では手数に差が生じ過ぎる。レンゲルが一撃放つたびにブレイドは二度剣を振れる。初撃は迎撃に費やされるとしても、後発はレンゲルラウザーが次撃を備える前に彼我の距離を疾走し、その装甲を裂かんと迫る。
 それに対して弾かれた穂先をその勢いのまま、レンゲルは愛杖を旋回させる。遠心力を柄のスラッシュ・リーダーに向け直すことに成功したレンゲルは握力を緩め、掌と五指の間でレンゲルラウザーを滑らせる。そうして放たれた打突を前に、ブレイドは身を翻す。
 避けたままブレイドがさらなる追撃を見せなかったのは、短く持たれたクローバーの刃がまるで短刀のように目先を過ぎったため。攻め入る隙を今の敵手は見せていないと判断し、ブレイドの鎧に身を包んだダグバは相手の間合いのさらに一歩外にまで後退する。
 そこで立ち止まり、次の激突に臨もうとしていたブレイドは、予定を変更しさらに後方へと跳躍する。

 ――Slash――

 その過程で、ここまでの攻防で一度も披露しなかった特殊能力――ラウズカードを使用したブレイドは、レンゲルとは見当違いの方向にそれを一閃させた。

 ――瞬間。刃が纏ったエネルギーが、突如として現れた矢と激突し、相殺し合う。

 ただ剣で受けようとすれば踏み止まれなかっただろう峻烈な一矢――それによって打ち込まれた刻印を、解放されたアンデッドのエネルギーが真っ二つに切り裂き、同時に副次効果として繰り出された強烈な斬撃が、見事に不可視の矢の運動エネルギーに打ち勝った。
 刃を振り抜いたブレイド――ダグバの視界に映るのは、廃墟の彼方から限られた射線を的確に貫いた宿敵の、緑の姿。

 今、自らに牙を立てんと向かって来るこの『仮面ライダー』も、リントとしては破格の戦士だろう。だが彼の武勇は長き歳月を費やして磨き上げた、その類稀なる技量による物だ。それだけでは、ダグバを満足させるにはまだ足りなかった。
 彼はダグバに執心を見せたが、ダグバからすれば結局、牙王との戦いも、凄まじき戦士との究極の闘争、そこで味わう至高の恐怖に比べればただの暇潰し、余興に過ぎなかった。

 だからこそ――

「――来るんだね、もう一人のクウガ」

 余興を一気に彩る宿敵、その参戦に胸を高鳴らせながら、ダグバは呟いた。



「――ありがとうございました」

 長時間変身できないペガサスフォームからマイティフォームへと戻りながら、クウガは小沢へとコルト・パイソンを返していた。
 彼女の持っていた、既に弾が尽きたコルト・パイソンをペガサスボウガンに変化させ、レンゲルと激しく争う隙にブレイド――ダグバを狙い撃つ。これで倒せればもちろん言うことはなかったが、やはりそう簡単な相手ではなかったようだ。
 不意を突いて放たれた不可視の矢を、おそらくはクウガの構えだけからなおも見切ったブレイドはこともなくその一撃を叩き斬り、レンゲルへと向き直っていた。
 これではユウスケがクウガに変身したことを無為に知らせただけとなってしまったが――それでもAPを消費させただけでも意味があると信じ、クウガは彼女に協力を感謝していた。

「――小野寺くん」

 続いて一条が差し出して来たのは、超人の怪力によって半ばから折られた名銃AK-47カラシニコフのなれの果て。
 ――その長い銃身は、棒切れと見なすに十分な代物だった。

「ありがとうございます」

 そう静かに受け取り、ユウスケは改めて激突する二人の仮面ライダーの方を見据える。

「――超変身!」

560闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:52:50 ID:jxmujMZ20
 叫びと共に、アークルが甲高い唸り声を上げる。
 光と共にクウガの装甲が、その大きな双眸が、そして霊石アマダムが、赤から青へその煌めきを変える。
 青いクウガ――ドラゴンフォームへのフォームチェンジを終えたクウガは、ほぼ同時に手にした元銃である棒切れを、専用武器であるドラゴンロッドへと再構成する。

「――行ってきます」

 ここに辿り着くまで、ユウスケを回復させるために背負ってくれた京介も。これからの戦いに対する策を授けてくれた小沢も。自分を支え、こうして力を貸してくれる一条も。
 確かに彼らには、直接ダグバや牙王と戦える力はないかもしれない。
 それでも、彼らも許せないのだ。誰かを無意味に傷つける理不尽な暴力が。
 そんな物に、誰かの優しい笑顔が奪われることが。
 その想いが、ただ力が足りない、そんな理由で踏み躙られると言うのなら――

(それなら――戦えない皆の代わりに、俺が戦う!)

 それが力を持った者の責任だと言うのなら、望むところだ。
 世界中の人達の笑顔のためなら、どこまでだって強くなってやる!

 奇しくも今、人を無意味に傷つける暴虐の王の手に堕ちた剣の、本来の所有者が抱いた物と同じ想いを胸に、クウガはドラゴンフォームの跳躍力を活かし戦場へと駆けた。
 狙うはレンゲルが持つ、一条達の装備を纏めたデイパック。取り返した後、できるなら彼らにはここから離脱して欲しいが――自分が彼らの立場だったらどうするのか、わかり切っていたから。クウガはもう何も言わず、今は彼らの頼みを叶えるために力を揮うことにしていた。

「――邪魔するんじゃねえ!」

 焦土から廃墟へと戦いの舞台を移し、ブレイドと刃を交えて互いに動けない状態からのレンゲルの叫びと同時、天から黄金の流星が一筋、クウガ目掛けて墜ちて来る。
 それをクウガの背後から現れた――彼に似た青のクワガタが、地から天へ昇る光の帯となって迎え撃つ。
 コーカサスゼクターの相手をガタックゼクターに任せ、クウガは一際強く地を蹴った。

「おぉりゃぁああああああああああっ!」

 ドラゴンロッドの先端に封印エネルギーを注ぎ込み、密着していた二人の危険人物へとその穂先を繰り出す。
 これには溜まらずという様子で、銀と緑の影は互いに弾き合うようにしてその場を離れ、誰もいなくなった剥き出しの地表をドラゴンロッドが深々と抉る。
 地中深くに得物を突き刺し、隙を見せたクウガはブレイドとレンゲルにとって恰好の的であった。
 クウガを貫いて、向こう側のブレイドに仕掛けようとするレンゲル。そんなレンゲルの意図すら無視して、純粋にクウガとの戦いを望むブレイド。

「――超変身っ!」

 迫り来る両者に対し、立ち上がりながらクウガはそう叫び声を上げた。
 叫んだ時には、アークルが光輝き、その色を紫に変えていた。それに合わせてクウガの鎧も、より大きく、堅牢な紫銀の甲冑へと変化する。
 その装甲の硬度はレンゲルラウザーのエッジを受けてなおクウガの身を護り切り、彼に武器を取らせる時間を与えた。深い紫の瞳をしたクウガ――タイタンフォームが手にしたドラゴンロッドが、紫の刀身に黄金の装飾の施された長大な直剣へと形を変える。
 長さが変化し、半分以上地面に埋まっていたはずのクウガの専用武器は、その切っ先を僅かに土中に埋もれさせただけになっていた。
 ちゃきりという、柄を握る音だけでその重厚さの伝わる大剣が、切っ先に触れた土くれを吹き飛ばし、印象を裏切る速度で跳ね上がる。
 逆袈裟に振り上げられたタイタンソードが、鏡映しのような軌跡を見せていた銀の刀身と噛み合い、派手な火花を散らせた。

 華開いた光芒が切り取った宿敵の姿を、クウガは睨みつける。

「――楽しいね、クウガ」

 ブレイドの仮面の向こうから、そう涼しげな声で語りかけて来るダグバに対し、クウガの中の怒りが再燃する。

 この会場に連れて来られた仮面ライダーブレイド――その本来の資格者は橘朔也の後輩、剣崎一真のはずだ。先の放送で名を呼ばれた彼がどんな死に方をしたのかは知らないが、きっと最期の瞬間まで仮面ライダーとして戦い抜いたことだろう。
 剣崎一真は、その剣がダグバの手によって血に染められることを望まないはずだ。

561闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:53:32 ID:jxmujMZ20
 彼のためにも、ここで倒さなければならない。皆の笑顔を涙に変える、この未確認を!

「はぁああああああああああああああああっ!」

 沸き上がる想いのまま、クウガはタイタンソードを振り抜いた。



 クウガが激闘を繰り広げる二人の仮面ライダーの前に飛び出した直後、残された三人と一匹の間でも動きがあった。

「――それじゃあ行くぜ、京介!」

 キバットの呼び掛けに、京介は深く頷く。

「ああ――行こう、キバット!」
「――ガブリッ!」

 京介がキバットを掴んだ右手を左手の前に翳すと、彼の牙が手の甲に突き立てられる。
 瞬間的に流れ込んで来る魔皇力の奔流に内側から苛まれつつも、京介はキバットを自らの腰に出現したベルトに押し込んだ。

「変身っ!」

 次の瞬間、桐谷京介の全身に波動が生じ、それが収束して鎧を形作る。
 仮面ライダーキバへの変身を遂げた京介は、二人の刑事を振り返ることなく駆け出した。

 皮膚の下からこの身を喰い破ろうと荒れ狂うような、異質な力。ファンガイア王位継承の証であるキバの鎧を資格無き者が纏った場合の拒絶反応。キバットから聞かされた通りの痛みを感じながら、しかし京介の胸にあったのは喜びだった。
 女性である小沢や、満身創痍の一条に、こんな負担を強いることなく済んだ安心と――こんな苦痛に晒されながら、人を護るために強敵へと立ち向かったユウスケ――師であるヒビキと肩を並べた男に近づけた、そんな満足感を抱いたために。
 厳しい修行に耐えて鬼の力を手に入れた、その苦労がこの会場に来てから初めて、少しだけ報われたような気がして……京介は不適合の烙印を、甘んじて受け入れていた。

 もちろん、一条や小沢は京介にキバの鎧の負担を押し付けるために彼を変身させたのではない。牙王からの装備の奪還――それが失敗した時、少しでも生存確率を上げるために京介をキバへと変身させることを選んだのだ。
 逆を言えば、クウガが――そしてキバが、彼らのアクセルやアビスの力を取り戻すことに失敗すれば、一条と小沢の身が危険に晒されることになる。
 キバ自身には、難しいことは要求されていないが――それでも、あの三つ巴に自分から近づくと言うだけでも、京介からすれば十分に勇気を試されることであった。
 ヒビキの弟子になったばかりの頃の、逃げてばかりの情けない姿が思い出される。

(――俺は……あの頃とは違うんだ!)

 鬼になることをやめた、あの安達明日夢だって――修行から逃げ出したわけではなく、彼は彼なりの人助けの道を見出し、そちらに進んだのだから。
 明日夢のライバルである自分が、自分の道から逃げ出すなんてできるわけがない!

 ――Stab――

 京介が変身したキバがほんの十数歩の距離まで肉薄して瓦礫の影に隠れた時、レンゲルが一枚のカードをラウズした。
 先程までレンゲルラウザーの猛攻を悉く弾いていたタイタンフォームの装甲だが、蜂の紋章を吸い込んだ切っ先が、さらに狙い澄ましたかのように関節部に突き刺さる。
 刺された個所から血のように火花を噴き出して、刺突の勢いのまま後方に弾かれた紫のクウガの姿に、キバは思わず飛び出しそうになるのを自制する。

(ザンキさん、照井さん……父さん! お願いだ、ユウスケさんに力を貸してください!)

 追撃に襲い掛かったブレイドの剣を何とか構えたタイタンソードでクウガが受け止め、上に打ち弾くと同時に旋回したレンゲルラウザーの穂先が足元からクウガに迫り――

「――超変身っ!」

 声が響いたと同時に、青い光が一瞬クウガの姿を隠す。
 クウガ自身と同時に再び棍に姿を変えた彼の武具が、その伸びた長い柄の先でレンゲルの錫杖をさらに下から、掬い上げるようにして弾いた。高々と打ち上げられる形になったレンゲルラウザーに対し、構えを取る過程でその防御を成しただけだったドラゴンロッドは遥かに早く腰溜めに構えられる――

562闇を齎す王の剣(1) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:54:41 ID:jxmujMZ20
 ――構え終わる前に、再び横薙ぎに引かれた銀光が、青い影を両断した。

 ブレイドの斬撃が捉えたのは、だがクウガではなくキバの目に映った残像だった。刃が届く寸前、その一瞬にも満たない刹那の間に、青き勇者は高く舞い上がっていた。

 そしてまさに竜の如く天を駆けたロッドは、レンゲルの肩へと疾走し、そこに存在したデイパックの紐を貫いていた。

「――甘えんだよ!」

 まったくの同時、レンゲルラウザーの一撃がクウガの腹に突き刺さる。
 ドラゴンロッドが肩を打ち据えたことで、威力が若干削がれていたことが幸いしたのか、傷は浅い。それでもエッジ部分は宙にあるクウガの腹部を切り裂き、血を滲ませていた。

「――くっ!」

 痛みに負けることなく苦鳴と共にクウガはその武器を操り、レンゲルラウザーの刃からその身を逃れると同時に――レンゲルの肩口から千切れたデイパックを打ち出していた。

 ――京介の変身した、キバの控える方に。

「京介!」

 キバットに呼び掛けられるまでもなく、キバは青いフエッスルを手に取り、それを彼に咥えさせていた。

「ガルル、セイバー!」

 鳴り響くのは、契約に基づく呼び声。デイパックから明らかに別の力が加わった彫像が、その形状を刃に変えながら飛来する。
 右手で受け取れば、キバの姿は青のガルルフォームへと変化していた。
 奥底から沸いて来る獣のような衝動を感じながら、俊敏性を大きく増したキバは続いて飛来するデイパックを掴み取る。

 予定通り――クウガが先行して仕掛け、まずは通常通り交戦することでデイパックから意識を逸らさせ、キバが接近してから装備を取り戻すという、その目的を達成できた。

 実際に装備を奪還するまではデイパックに意識を向けさせないために、ガルルフォームになるのはクウガがデイパックを取り戻すまで待たなければならなかったが、彼は見事にその役を果たしてくれた。
 ならば自分も、それに続かなくては――大幅に強化された機動性で以ってその場を離れようとしたキバの背に、絶望を想起させる声が追い付く。

 ――Remote――

 京介にとっての拭い難き恐怖の象徴、アンデッド解放を告げる単語が夜の闇の中で響く。

「これ以上邪魔させんな」

 解放されたパラドキサアンデッドとコーカサスアンデッド、二体のカテゴリーキングへと、不愉快さを隠そうともせずにレンゲルが告げる。

 振り返ったキバの背に向かって、パラドキサアンデッドは右腕から生やした鎌の周辺に、目視できるほどに大気を凝集させ――

 その腕を、閃いたクウガのドラゴンロッドが叩き落とす。
 誤射された空気の鎌は、瓦礫の山を吹き飛ばし、夜では底が見えないほどの断裂を大地に刻みながらも、キバの身体をその刃から取り逃がしていた。

「行け、京介くん!」

 キバを庇うように立ち、青く輝く霊石を自らの血で赤く汚しながら、伸長したドラゴンロッドを構えたクウガが二体のカテゴリーキングと対峙していた。

「――はいっ!」

 その声に背を押されるように、キバは驚異的な脚力で、一時戦場を離脱する。
 孤軍奮闘するクウガを助けるために、必ず戻って来ると誓いながら。

 疾走する青き獣の背を、剣戟の響きが抜き去って行った。

563闇を齎す王の剣(2) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:55:35 ID:jxmujMZ20




「……次から次へと、邪魔ばっかしやがって」

 邪魔者を始末させようと差し向けた二体のカテゴリーキングと激しい攻防を繰り広げるクウガを見て、レンゲルはそう苦々しく毒吐く。

 ダグバの変身したブレイドとの戦いに水を差しただけでは飽き足らず――本当の意味での邪魔者――獲物にすらなり得ない雑魚の始末すら妨害し、そのくせ牙王自身とは積極的に戦おうとしない獲物の一匹の行動に、彼は不愉快さを隠そうともしなかった。

 ダグバもダグバで、先に自身と戦っていたと言うのに後から来たクウガの方にばかり気を向けている――『王』と紅渡の時と同様、自らを無視する二人への苛立ちが大きくなりつつあった。

 だがそこでレンゲルは、ブレイドがクウガに襲い掛かるわけでも、自分に向かって来るわけでもないということに気づいて、その気配で動向だけは把握していた究極の獲物の方へと振り向いた。

「……クウガと戦っている、金色の方――」

 レンゲルが振り返るのを待っていたかのように、構えも解いたブレイドは言葉を発した。

「スペードのキング、だったよね?」
「あぁ、そうだな」
「他のスペードのカードも、君が持っているの?」

 その声に、愉悦と興味の色を感じ取って。
 その対象が自身ではなく、装備品のカードであるということへの大いなる不満と、それを餌にすればやる気になるだろうという期待が鬩ぎ合ったが、それもまた一瞬の攻防。

「――あぁ」

 レンゲルの首肯に、ブレイドは突如、背負っていたデイパックへと手を潜らせた。
 そうして引き抜いた何かの機械を、左腕に装着してから――改めて、剣を構えた。

「そうなんだ――じゃあ、行くね」

 先程よりも増した威圧感に、彼の挙動を見守っていた牙王もまた、レンゲルの仮面の下で獰猛な笑みを浮かべ応じる。

「――来いっ!」



「――お待たせしました!」

 廃墟にて未だ続く戦いから帰還した、仮面ライダーキバ・ガルルフォーム――桐谷京介の無事を知らせる声に、一条は胸を撫で下ろす。

「早くしないと――ユウスケさんが、一人で戦っています!」
「わかっているわ――でも京介くん、ちょっと待って」

 今にも飛び出して行きそうだったキバを呼び止めた小沢は、アビスのデッキを彼が手にしたガルルセイバーに翳す。するとどう言った理屈か、鏡のように彼女の姿を映した刀身からベルトが現れて、その細い腰に巻きついた。

「――変身!」

 掛け声と共に小沢はデッキをベルトに挿入し、異形の鎧が彼女にオーバーラップする。

 鮫の意匠を持った水色の仮面ライダー――アビスへと変身を遂げた小沢澄子の横に並び、一条もアクセルドライバーを腰にしていた。

 ――ACCEL!!――

「変……身っ!」

 この手に取り戻した、照井竜の遺志の結晶――アクセルメモリを、ドライバーへと挿し込む。一条は赤く発光するアクセルドライバーのスロットルを握り込み、手前に捻った。

564闇を齎す王の剣(2) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:56:44 ID:jxmujMZ20
 ――ACCEL!!――

 轟くエンジン音と共に、ガイアウィスパーが再び、正義の戦士の名を叫ぶ。
 真紅の粒子が一条を覆い込み、次の瞬間には仮面ライダーアクセルへと、一条薫を変身させていた。

 遂に護るための力を取り戻した二人の刑事は、疾風の如く走り去るキバの背中を追い、戦場を目指し駆け始めた。
 いずれも、人間を遥かに超えた脚力を持つ仮面ライダーだ。十秒も経たぬ間に、彼らにとって再びのE-2エリア、五つの異形の交錯する戦場に到達する。

 クウガはレンゲルが召喚しただろう二体の怪人を相手取っていた。以前はさらに二体、加えてレンゲル自身を入れた五対一でも渡り合っていたクウガだが、前回よりもやや苦戦しているようだ。その原因が、単にダメージ故にやや精彩を欠く彼の動きによるものか、数が少ない方が呼び出された怪人も本来の実力を発揮できるからなのか、レンゲルの装着者がより強い戦士に変わっているからなのか――あるいはその全てによるものなのかは、アクセルには判断が付かなかったが――

「――離れて、小野寺くん!」

 ――STRIKE VENT――

 判断を付けるよりも先に、アビスが動いていた。

 三人の中で最も足の遅い――加えて装着者自身の身体能力でも劣るアビスだが、唯一の飛び道具を有していた。彼女の元に、再びガルルセイバーから鮫の頭部を模したような形の籠手が召喚される。

「このっ!」

 大きく振り被って繰り出した右手の先端から、勢い良く水流が射出される。極めて短いながらも、断面だけなら一つの河川程もある大量の水が高速で撃ちつけられたのだ。二体のカテゴリーキングの屈強な体躯もその運動量には敵わず、抵抗も数秒の間に周囲の瓦礫ともども押し流されて行く。

 ――Blizzard――

 跳躍して水流の直撃をかわしたクウガが彼らの横に着地するよりも早く、そんな電子音が廃墟に響いた。
 ブレイドと武器を弾き合って距離を取ったレンゲルがカードをラウズし、クローバーの刃の先から猛吹雪を発生させた。襲い来る洪水に対して放たれたブリザードは、瞬く間にそれを氷結させて、レンゲルの身を護り切る。

 ――Absorb――

「――それも、スペードのカードだね」

 水流を凌ぎ切ったレンゲルが、また別のカードをラウズしたことに身構えたアクセル達とは異なり、無造作に構えたままのブレイドは彼にそう言葉を掛けた。

「ああ、そうだぜ」

 見せびらかすように一枚のカードをブレイドの方に翳すレンゲル。一方で、ラウズしたにも関わらず何も起こらなかったことへの戸惑いに四人の仮面ライダーは襲われていた。

 だが、困惑している場合ではないと、アクセルはクウガへと向き直る。

「小野寺くん……俺達が、レンゲルの方を抑える」

 いつの間にか、あの二体の怪人はその姿を消していた。
 敵は再び、ブレイドとレンゲルの二人のみ。

「一条さん……」
「君はその間に、第零号を倒してくれ――頼んだぞ!」
「――っ、はいっ!」

 心底から、納得しているわけではないようだが。
 それでも力強い声音で頷いたクウガは、足を撓ませてブレイドの方へと跳躍した。

「おぉりゃぁあああああああああああああっ!」

565闇を齎す王の剣(2) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:57:38 ID:jxmujMZ20
 天からの激烈なロッドの打ち込みをブレイドはその剣で受け流し、持ち堪えた次の瞬間には斬撃を繰り出すが、瞬発力に優れた青のクウガが易々と刃に捉われることはなかった。一瞬で敵の間合いの外まで跳び出したクウガは長いロッドを何度か旋回させ、ブレイドに対峙する。両者は激突を繰り返し、アクセル達の元から離れて行く。

「テメェ……ッ!」
「たぁっ!」

 度重なる横槍に憤りを隠せない様子のレンゲルに、真っ先にキバが襲い掛かった。
 だが見もせずにレンゲルが構えた錫杖によってガルルセイバーは受け止められ、次いで鬼蜘蛛のような仮面がキバを振り向いた時、悪寒を感じたアクセルは既に駆け出していた。

 大振りに一閃された錫杖、その先端に備え付けられていたクローバーの刃がキバの鎧を上から下に蹂躙し、さらにそこに込められていた力がその身を吹き飛ばす。

「うわぁああああああああああああああっ!?」

 大きく弾き飛ばされたキバの身体をアクセルは受け止める。幸いキバの鎧を貫通されてはいないようだが、見ただけでわかる重い一撃だった。音撃戦士として鍛えた京介でも、無防備に受ければ大ダメージは必至だろう。
 レンゲルは錫杖を旋回させて穂を肩先に預けると、自らが吹き飛ばした相手を見やった。その口から苛立ちが漏れるのを、隠そうともしていない。

「何度も何度も、次から次に邪魔ばっかりしやがって……」

 ――SWORD VENT――

 レンゲルの憤怒の声に被せるように、そんな音声が響き渡る。
 アクセルの手の内のキバが、ダメージにも手放さなかったガルルセイバー――その鏡のように磨き抜かれた刀身から、三度アビスへと装備が飛ぶ。
 鮫の牙が連なったかのような双刀を振り被り、彼女は自身を操っていた仇敵へと、気合と共に突進していた。

「やぁああああああああああっ!」

 だが、彼女の太刀筋は拙い。京介よりもずっと、戦いに慣れていないのだろう。
 当然のようにレンゲルに迎撃される彼女の援護に行かなければ――何とか立てたキバを置き去りに、アクセルは駆け出したが……ユウスケにああ言ったものの、果たして照井に比べ、仮面ライダーアクセルとしての戦いに慣れていない今の自分がまともにやり合ったところであの強敵を下せるのか。脳裏を過ぎったその不安を晴らすかのように、一条の内を巡る地球の記憶がとある光景を彼に示す。

(――そうか!)

 そして一条も、アクセルの仮面の下で思い出す。正義の仮面ライダーと呼ぶべき、二人の男のことを。
 一人は本来の仮面ライダーアクセル――照井竜。最期の瞬間まで誰かを護り抜くという使命に殉じた、同じ警察官としても尊敬の念を抱かざるを得ない人物。
 もう一人は――言うまでもない、五代雄介。

 二人の男の雄姿が、一条の脳裏に蘇る。その二つを知る一条だからこそ、選べる選択肢がそこにある。

 ――ACCEL MAXIMUM DRIVE――

 叫びと共にアビスが剣を振り下ろす間に、アクセルはベルトのレバーを握り締め、次にドライバーのパワースロットルを何度も捻りながら、レンゲル目掛け突撃する。

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 まさに目の前では、アビスが強烈な刺突を受けて装甲を抉られていた。だがレンゲルは後退する彼女に追撃を仕掛けず、赤いオーラを纏ったアクセルの方を向いていた。
 これで良い。敵の注意を自分に向けることで、結果的に二人を護れる。
 レンゲルは当然、明らかに大技の体勢に入ったアクセルを放置せず、錫杖を叩きつけて来た。ラウズカードを使わなかったのはそんな余裕はないという判断からだろう――そうなると踏んだ、一条の読み通りに。

 一撃目を胸に受け、体勢が崩れ掛けた。それでも力強く地を踏み持ち堪えると、相手が二撃目の準備に入るついでにクローバーの刃を掠めさせて行き、それだけでも肩口の装甲が少し削れる。続いた横殴りの一撃を脇で受け、いよいよ装甲が貫通された。だがそこで刃を咥え込んでそれ以上の侵攻を許さず、一条自身が切り裂かれるのを防いでくれた。

566闇を齎す王の剣(2) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:58:24 ID:jxmujMZ20
(――ありがとうございます、照井警視長っ!)

 胸中でこの力を託してくれた恩人に礼を述べながら、新たなアクセルは度重なる攻撃にも決して歩みを止めなかった。
 どんな攻撃だろうと、来るのがわかっていれば耐えれば良い――紫のクウガのように。
 まともにやり合っても、敵の実力が遥かに上で、徒に消耗するだけなら――乾坤一擲、全力を注ぎ込んだ捨て身の技で一気に勝負を着ければ良い。
 その一念で遂に迎撃に耐え切ったアクセルは、その場で身体を捻りながら跳び上がった。

 本来の間合いの長さを捨てて零距離から放たれた、焔のように赤いエネルギーを纏った後ろ回し蹴りが、咄嗟に後退しようとしたレンゲルの胸板に叩き込まれた。

 レンゲルは数メートル向こうへ飛んだが、手応え――いや足応えから直撃ではなかったことを悟って、アクセルは臍を噛む。敵はこちらの蹴りに見事に相対速度を合わせて後退することで、その威力を軽減させていたのだ。
 だが、威力を落とそうと仮にも必殺技が命中したのである。レンゲルといえども確かに消耗したらしく、一瞬だけ姿勢を崩したのをアクセルは見逃さなかった。

 しかしアクセルもまた、アクセルグランツァーを浴びせるまで張っていた集中力の糸が僅かに緩んだその瞬間、それがプツリと切れてしまっていた。結果、ここまで蓄積されたダメージに屈し、思わず膝を着いてしまう。

 直後――

「――ガルル、バイトッ!」

 狼の遠吠えと共に、背後で何者かが跳び上がる気配をアクセルは感じた。
 何者かなど、考えるまでもない。決死のアクセルが与えたダメージの生んだ好機、それを逃すまいと追撃を仕掛けたキバだ。

 だがレンゲル――牙王は既に一度、その技を受けている。その上で実力の劣るアクセルの捨て身の一撃を受けた経験から、今度こそそれを許さない強力な技で迎撃されてしまう。そうなると、空中で身動きの取れないキバは恰好の的だ。

 彼を援護しなければ――そう思ったアクセルだったが、激痛によって始動が遅れる。

「……させないわっ!」

 だが代わりに、レンゲルの行動を阻止せんと飛び掛かった者がいた。
 二刀を振り被ったアビスの猛襲は、レンゲルからすれば容易に対処できるものだろう。そのことはアビスも織り込み済み、それでも十分だった。

「――チィッ!」

 さすがに、凶器を手に躍り掛かって来るアビスのことを完全に無視するのは、レンゲルにもできなかった。またラウズカード使用を試みていた体勢からレンゲルラウザーが翻り、再び水色の装甲に深い傷を刻む。だが強烈な一撃に弾き飛ばされながらも、アビスの仮面の下で小沢澄子はあの勝気な笑みを深めていたことだろう。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 アビスを傷つけられた怒りを込めて、キバの絶叫が地に落とされる。

 満月を背景にした孤影を撃墜しようと、黄金の影がそこへ伸びる。コーカサスゼクターの突撃はしかし、その下から大顎を開いたガタックゼクターによって胴体を挟み込まれて、在らぬ方向へと逸らされて行った。

「ブチかませ、京介っ!」

 ゼクターの援護を見届けたキバットの声を合図に、彗星のようにキバが降下を開始した。

 もはやラウズカードを使う暇もない。以前一太刀浴びた経験から、半端な防御も無駄と判断したのだろう。レンゲルは天から降って来る刃から逃れようと身を翻す。
 だが青い弾丸はそれさえ追尾するように、物理法則を無視して動いた。自らを追尾して来る剣に観念したかのように、レンゲルが激突の寸前にキバへと向き直る。
 ――違う、諦めたのではない。下手な防御が意味を成さず、迂闊に逃げても追尾されるなら、ギリギリでその太刀筋を見極め、回避しようと言うのだ。

 アクセルが敵の思考に気づいた瞬間、青き迅雷が廃墟と化した市街地に突き刺さった。

 まさに落雷のような凄まじい音と衝撃を伴った着地と斬撃――しかしレンゲルは、未だ健在だった。

567闇を齎す王の剣(2) ◆/kFsAq0Yi2:2012/01/28(土) 00:59:04 ID:jxmujMZ20
 錫杖で着地したばかりのキバを容赦なく打ち据えたレンゲルだが、その一撃は先程までに比べれば鋭さを欠いていた。見ればその右半身の金の装甲とその下の濃緑のスーツが、先の一撃によって切り裂かれている。その下の牙王の身体自体は薄皮一枚程度しか痛手を被っていないようだが、それでも確かに刃は届いていた。

 着実に、こちらの攻撃は効果を上げている。奴が完全にガルル・ハウリングスラッシュを回避し切れなかったのも、アクセルグランツァーのダメージと無縁ではあるまい。

 それでも、消耗の度合いはこちらの三人も同じだ。依然として奴は三対一でもこちらを圧倒するだけの力を見せている。

 ――Lightning Blast――

 奴が態勢を立て直す前に、さらなる大技で叩みかける必要がある。電子音が響いたのは、そう考えたアクセルが立ち上がろうとした、まさにその時だった。



 リーチと移動速度、その二つで勝るためにブレイド相手に優位に立っていたはずだったクウガが、その有利を手放してしまったのは戦場に少年の悲鳴が響いた時だった。

「――京介くんっ!?」

 だがクウガが前にしていた相手は、宿敵の晒した隙に一切遠慮せず打ち込んで来ていた。

「余所見はダメだよ、もう一人のクウガ」

 そんな叱責と共に襲い掛かったブレイラウザーの切っ先を、クウガは咄嗟にかわすことができた。後少しで胸板を抉っていただろうそれをクウガはぞっとした思いで見ながら、ドラゴンロッドを旋回させる。
 クウガは自分が場を離れたその直後に届いた苦戦の様子に気を取られ過ぎていた。その隙を突かれた焦りから、咄嗟に敵を牽制しようとした、そんな程度の一撃だったが――

 不安定な体勢から繰り出した甘い一撃を、ブレイドは左手で掴み取っていた。

 ただの牽制打と言ってもあっさり受け止められたことに驚きはしたが、所詮相手は片腕。いくら腕力が低下した形態と言えど、両手なら押し切れる――そう判断をしたクウガが、両腕に力を込める前に、ブレイラウザーの柄尻が腹部に叩きつけられていた。
 一度だけとはいえ究極の形態へと変身を遂げたことで強化された再生力――その働きで
 塞がっていた、レンゲルラウザーによって与えられた刀傷が再び開く。鮮血を零すクウガ、その両腕から、痛みによって一瞬だけ力が抜けていた。

 握力の緩んだその一瞬を見逃さず、ブレイドはドラゴンロッドを奪い取る。

 ドラゴンロッドがただの鉄屑に戻る前に、ブレイドはそれを持ち主へと叩きつけた。声もなくタイタンフォームへと超変身を遂げ対処を試みたクウガだったが、鋭い打ち込みに思わず体勢を崩し、鎧の上をさらにブレイラウザーが擦過する。それでも微かな切り傷で済ます硬度を鎧は持ち合わせていたが、その脳天にドラゴンロッドが叩き落とされた。
 寸前、クウガのモーフィングパワーの残滓の失せた青の棍は折れた銃身に戻り、クウガの頭部に超人の腕力で叩きつけられたことで、さらに半ばからへし折れる結果になった。これではもはや、ドラゴンロッドにもタイタンソードにも変えることはできないだろう。

「――うぉりゃあっ!」

 だが武器を失ったことを嘆く前に、たかが鉄の棒で打ち据えられただけで一切ダメージを受けずに済んだクウガはその幸運に拳を握り込み、眼前の宿敵へと繰り出していた。
 しかし強固な代わりに重い鎧を着込んだ紫のクウガの動きは、他のフォームと比べると機敏さに欠けていた。それはブレイド相手でも同じことで、彼は首を振るだけで悠々と拳を回避してしまう。さらに装甲に覆われていない剥き出しの二の腕へと、ブレイラウザーが叩きつけられる。腕を斬り落とされこそしなかったが、その表面を切り裂かれ、クウガの行動をまたも激痛が縛ろうとする。痛みによる拘束を振り払って、棍棒の如く腕を叩きつけようとしたクウガだったが、側転してブレイドはそれをかわした。

 仕掛けたその時だけは、ブレイドとレンゲルの二人と同時に渡り合っていたクウガ――ユウスケだったが、それもフォームチェンジに牙王が対応するまでの話だった。そもそもの技量の面では牙王にもダグバにもユウスケは大きく劣り、しかもダグバは身体能力でもユウスケと互角以上なのだ。変身者の間で開いたこの差が