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アニロワ3rd 本スレ Part18- 1 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/05/14(金) 23:41:50 ID:???
- アニメキャラ・バトルロワイアル3rdの本スレです。
企画の性質上残酷な内容を含みますので、閲覧の際には十分ご注意ください。
前スレ
アニロワ3rd 避難所スレ Part5
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13136/1271089747/
まとめwiki
ttp://www29.atwiki.jp/animerowa-3rd/
- 2 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 00:01:44 ID:q0LGKXWc
- 一番乗りー
- 3 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 00:08:35 ID:FeltDxAc
- てすとぉ
- 4 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 00:09:17 ID:4WA01FqM
- テス
- 5 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 00:10:47 ID:ZuJ0tFjw
- テスト
- 6 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 00:12:32 ID:shjTjDmw
- テストです。
管理人さん方にマジで感謝です。
- 7 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 00:13:53 ID:HP0ygLfk
- てーすと
- 8 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 01:57:39 ID:a8fK5ePA
- テストですと
- 9 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 20:24:25 ID:xDVxfq1g
- これは…
悪くは無いが…
なんだろう…一波乱あるかと思ったら保留か
カイジの原作みたいで後にドツボが待ってるみたいでいいとは思うが…
ありゃりゃ木さんなら保留するぐらいなら行動するような…
- 10 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 20:30:45 ID:HP0ygLfk
- せめて何人かは行動させてほしかったかな・・・
- 11 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 20:33:39 ID:ugm/AmXI
- USBメモリの内容ってなんだっけ?
- 12 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 21:34:45 ID:FeltDxAc
- 先ず投下乙くらいは言おうぜ
しかし情報量多いなw
- 13 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/15(土) 23:34:35 ID:q0LGKXWc
- 改めてみると情報量スゲーw
まとめるの大変だったろうに。これは乙せずにはいられないな
- 14 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/16(日) 18:32:19 ID:imtSbqGQ
- ★ 連絡事項 ★
作品投下用スレッドに、◆0zvBiGoI0k氏の仮投下ならびに◆1aw4LHSuEI氏の本投下が来ています。
それぞれ書き手氏が意見を求めていますので、意見のある人はどちらの作品への意見かを明記のうえ
作品投下用スレッドでレスしてください。
- 15 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:15:04 ID:1zZnPUgY
- えーお待たせしました、両儀式、デュオ・マックスウェル、平沢憂、東横桃子、ルルーシュ・ランペルージ、秋山澪の本投下を始めます。
- 16 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:16:35 ID:1zZnPUgY
- ◆
奇怪な因果によりどことも知れぬ星の下に集う六人組。
彼ら彼女らの心の内をほんの少し覗いてみよう。
己の世界を平和に繋ぐ友を生還させるため、手を尽くして主催を撃ち滅ぼさんとする者。
ただひとつの大切な『思い』を失くし、おぼろげにまつろう者。
想い人を蘇生させるため、孤独に優勝を望む者。
奪われたすべてを取り戻すために、避けない道を選んだ者。
この地で消えた、守れなかった命のため、死神の矜持のため戦う者。
いまだ意味は見つからず、けれど死ぬ意思だけは捨て生きる者。
誰もが皆、その心に留める思いは異なる。そもそも方針からして真逆の者さえいる。
いつ分裂しても不思議ではない砂上の楼閣。
だがこの場この時分においては共同体。互いが互いを利用し、つけこみ、喰い合う食物連鎖の関係だ。
三角形の頂点に立つ者が誰かは―――さて。
いずれにせよ、この六人はもうしばしの間を共に過ごすことになる。
崩れる時とは全員が真っ逆さまに落ちる結末の時だろう。
それが起こる瞬間を計るのは、神ならぬ身では確定を下すことはできまい。
呉越同舟、同床異夢。同じ舟に乗りつつも異う(ちがう)夢を持つ者達の旅は、まだまだ続く。
◇
- 17 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:17:33 ID:1zZnPUgY
-
南西エリアの大半を占める工業地帯。船着場や象の像、今は失き太陽光発電所もその一帯に置かれている。
工場が立ち並び迷路のように入り組んでおり、夜ともなれば一層侵入者を迷わせる。
ましてやまったく馴れぬ乗り物を操るのに必死であれば足元がお留守になるのも自然であり―――
「うわっ!!」
人型の金属の塊が倒れる音で一瞬周囲がざわめく。
その塊の内部にいる秋山澪もまた同様に動揺していた。
負傷はないが倒れた衝撃が脳まで伝わり前後不覚に見舞われる。
『大丈夫澪さん?』
機体の外から聞こえてくる平沢憂の声。ただ姉の唯に瓜二つの姿はなく、代わりにあるのは無機質な藍色の巨人。
今自分も乗り込んでいるブリタニア帝国の一般的なKMF、サザーランド。
「だ…大丈夫だ、このくらい!」
態勢を直そうとコンソールを握り直す。時間をかけながらもゆっくりと起き上がるサザーランド。
不格好ながらも、一応立て直しには成功する。
ままならない現状に澪はひとり葉噛みする。
当然の話だが、KMFとベースとではまったく勝手が異なる。
ベースも操作にもある程度勝手がいるが機動兵器の操縦などその比ではない。
飛行機か自動車を操るのが近いだろうが健全な女子高校生にはまだまだ遠い世界だ。
ジェットコースターなどという絶叫系アトラクションすら脊髄反射で逃げ出す澪には未知すぎる感覚だった。
- 18 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:18:37 ID:1zZnPUgY
-
はっきりいって、怖い。動かすだけでもこれなのだ。実際に戦いに使うのならどれだけの負担があろうか。
加えて、目の前を悠々と走る憂の姿を見てどうしても対比してしまう。
憂の乗る機体は自分と違ってスイスイ進んでいる。
足がローラーになっているから歩かせる手間がかからないことを差し引いても軌道にブレがなく綺麗に走っている。
境遇は自分と大差ないはずなのにどうしてこの短時間にああも操れるのか。自分との差は何なのか。
姉と同じく飲み込みが早いのは知っているがギターとロボットじゃ次元が違う。
才能の違い、ということだろうか。生まれつきに備えられた平沢憂だけの才能。
アニメとかにもよくあった。一般人が成り行きでロボットに乗ったらいきなり敵をバッタバッタとやっつけていくやつ。
やれ特別な力があったとか、親が昔凄い人だったとか、そんなありがちな物語。
けどそういうのは大抵主人公とかにだけ許される選ばれた特権だ。
主人公だから特別なんじゃない、特別な人だからその物語の主人公になれるんだと、私は思う。
それなら自分の立場は……端役か。
無様に足掻いて才能の壁に直面して、主人公を引き立てるだけのかませ犬。
紙面や映像で眺めていた時は同情したものだ。彼らにだって目的や願いのために一生懸命なのに、
主人公を軸にして回る物語では当然そんな努力は実らない。
視聴者として俯瞰する一方の側からすれば不憫で憐れで滑稽な光景。
艇で眺めているルルーシュや、主催の連中はそんな風に自分を見ているのだろうか。
そう思うとひどく腹立たしく、同時に自嘲してしまう。
こんな機械ひとつ動かすのに手間取る自分なんて上から見下ろす者達にとってはなんてことのない存在なんだろうなと。
けどいいんだ。私は主人公になんてなれないし、なるもりもない。
私が欲しいもの。たった一日前の、二度と戻らない日常だけを取り戻す。
そのためなら、端役でも悪役でも構うものか。
もしそんな願いが主人公にしか叶えられない行為だっていうのなら、
まずは、その幻想を殺さなければいけない。
正面のディスプレイを見つめ、ゆっくりと機体を走らせる。
届かない幻想(ユメ)を現実にするために。
□
- 19 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:19:22 ID:1zZnPUgY
-
そんな澪の悪戦苦闘振りを、澪の予想通りルルーシュは眺めていた。
ギャンブル船で移動拠点として購入したホバーベースの操縦室にて舵を取っている。
迎撃兵装がないのは困りものだが予想の範疇だ。次の放送で追加武装に上がってくるのだろう。
もっとも相手が機動兵器を手にしていない限りはこの質量だけでも立派な兵器だ。
動く棺桶ともいえないだろう。
さて、と改めて艇の前を走る2機を見る。
まず秋山澪。やはりというべきか動きがぎこちない。
今の今まで存在すら知らない兵器を扱っているのだから当然と言えば当然だ。
黒の騎士団のリーダーとしてもブリタニア帝国の皇帝としても軍団の「指揮」や「指導」は日夜行っていたが、
個人を一から教える「教導」というのはあまり体験していない。せいぜい目が見えず足も動かせない頃のナナリーを世話した位か。
基本的な操作方法だけを徹底的に教え込んだが、実戦投入できるレベルには程遠い。
ただの女子高生に騎士団の兵並の操縦を求めるのはやはり無理があったか。
それでも進歩はしているようだ。艇に搬入するのでも一苦労でこうして直線を走らすだけでも何度も倒れていたが、
今では動かすだけならそう問題ではない。思いの力、とでもいっておくか。
象の像へ向かうか、憂と澪の訓練か。ルルーシュが選択したのは両方だった。
戦略を教えても動かせなければ意味はない。まずは基本的な移動の仕方を教えてからの方が良いと判断してのことだ。
デュオには象の像を偵察するように依頼した。せっかく数がいるのだ、出来るだけ人材は効率的に使いたい。
工業地帯は迷路のように入り組んでおり、夜ともなれば一層進入者を迷わせる。
更にデュオからの報告では周りは大規模な破壊に見舞われているらしく、大型のホバーベースでは通れるルートが限定される。
そのため安全に通行できる道を確保するようにも伝えてある。偵察の足にはリーオーではなく小回りが利くバイクを使うよう奨めた。
危険人物に出会ったら無理をすることなく最優先で帰還するようにも言い含めてある。
何度も自分たちから遠ざけて酷使させるのは訝しられるとも思ったが意外にも快諾された。寝ずの番も慣れたものでこういった作業は得意分野だとは本人の弁だ。
MSのパイロットといっていたが、工作員としてのスキルも持ち合わせているらしい。
その上対人戦もこなし機械技術の知識も持っている。何らかの組織に身を投じているにしても少し過剰に思える能力だ。
おそらくは、個人でも最大の戦果を上げることを目的としたゲリラ戦に特化した特殊工作員。
デュオに対するルルーシュの見識はそういったものだった。
- 20 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:21:44 ID:1zZnPUgY
-
頼りになる反面、警戒の念は外せない。
バーサーカーとの最終決戦においても奇襲に失敗した桃子を唯一目撃しているため、迂闊に監視にも置けない。
両義式が不確定さによる不安要素なら、デュオ・マックスウェルは確定的な不安要素だ。
ちなみにその両義式は今もブリッジで睡眠中だ。
桃子も現在は休眠中だし出来れば二人で向かって欲しかったがデュオが声をかけてもすっぱりと断った。
隠密行動が得意そうではないのは分かるし疲労が溜まってるのも知ってるが、それにしてもこの和服寝過ぎである。
そんな奔放さに、未だここで生きているらしき不死の魔女の姿を思い出した。
とはいえ、今すぐ表面化する問題というわけでもない。
別段ルルーシュは優勝狙いでもなければ皆殺しも望まない。
スザクを無事元の世界に還し、二度と連れ去られることのないよう完膚なきまでに主催を叩き潰す。
それがルルーシュの基本方針。それ故に憂と優勝狙いの桃子、それに近い気持ちである澪を手駒に進めている。
デュオとて生半可な正義感や甘い理想に突き動かされているだけの男ではない。
最後には理屈や効率で非情な決断も出来る兵士の目をしている。いざとなれば、協調できないこともないのだ。
先の二名にしても、主催を討ち死者蘇生の業が手に入るというのなら契約の反故にもならない。
主催の『魔法』が特定個人にしか使用できないものであるのなら、話は変わってくるが。
憂に関しては……別に何の問題もない。筈だ。
結論としては、今切り捨てるべき人材ではないということだ。
まさに呉越同舟。意を違えながらも止む得ぬ事情で行動を共にする乗客達。
その航海の行方は、操縦桿を握る自分次第だろう。
デュオからの報告を待ちつつ、ルルーシュは艇を目的地へと向けた。
『ルルーシュさーん!ほら見てください、三回転半飛べましたよーー!!』
『ううう憂ちゃん危ないからこっちに来ないでぇえええ!!!』
……余りにも場違いな声に舵を思い切り外れた方向に回しそうになる。
「憂……無理に動かすな。サザーランドはそこまで立体的な動きは構造上難しい。関節部が壊れるぞ」
『はーい。もーちょっとで四回転になるんだけどなぁ……』
- 21 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:24:30 ID:1zZnPUgY
-
戦闘用の機動兵器がフィギュアスケートの世界レベルの選手がごとく回ってる様は二重の意味で驚きだ。
ひとつはそんな発想に至ること、もうひとつはそれをこなす憂の適応性だ。
おもし蟹を補助道具付きとはいえ乗りこなしたり目を離した短期間に武器の扱いを覚えたりと、
飲み込みが早いのはわかっていたが、相手はKMFだ。そこまで期待はしていなかった。実際最初は澪と大差ないレベルの動きだった。
だが要点を押さえ、コツを覚えた後の実践レベルに至るまでの習熟はおそろしく早い。
バッティングセンターで初めてバットを握ったのに、隣でコツを拾い聞きしただけでホームランを打つようなものだ。
それが初めて銃を手にした少年兵同様の澪と差が開く決定的な違いだった。
攻撃を除外して、単純に動きだけなら訓練を受けた一般兵のそれを超えているのではないか。
……KMFに芸術性を求めたりましてや競技大会に使用するなどルルーシュは知らないし、認めないが。
加えて、思いを奪われた憂の心境。
銃を握る覚悟や人を殺す決意といった、兵士として最低限必要なものが完全に欠如している。
おそらく本人にしてみれば新しい玩具を与えられたも同然なのだろう。
そして玩具で遊ぶことに、人というのは熱心にのめりこむものだ。
ゲームの敵を倒すのに子供は工夫を欠かせないし、容赦もしない。
これもまた、銃を撃つことに重みを感じている澪との決定的な違いだった。
『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』
ルルーシュの根幹ともいえるその信条からもっとも外れている存在である憂に嫌悪感はある。
だが、そうさせたのは他ならぬ自分であることも忘れてはいけない。
これまでのように、ゼロレクイエムという大義のため切り捨てていった敵、兵士、民衆。
そういった犠牲のひとりに憂もまた組み込まれていく。
犠牲とは、その後に続く結果があってこそはじめて意味を得る言葉だ。
スザクが死に、自分までもがここで終えたら、それはただの無駄死にだ。
何の意味もなく、ただ殺されただけ。そんな無駄で彼らの一生は終わってしまう。
大口を叩ける立場ではない。自分の勝手な都合を、勝手に世界に押し付けた。
だからその結末も勝手に、自分の手で生み出さなければならない。
平沢憂は確実に枢木スザクを―――『ゼロ』を生還させるための駒。
そう決めたのなら、最後までそれを貫かなくてはならない。今さら優しくしていいはずがない。
この目的を完遂できたのなら、姉への思いを奪われた悲しき少女の生も、無為なものではなかったと証明してやれる。
それしかもう、彼女にしてやれることなんて自分にはないのだから。
舟を動かす舵が、少しだけ重くなった。
◇
- 22 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:25:35 ID:1zZnPUgY
-
程なくして、目的地に着いた。
この場で戦闘は起きなかったらしく瓦礫のひとつなく整然と建物が立ち並んでいる。
ここは工業地帯のさらに限定的な空間―――倉庫群。
デュオからの連絡待ちの状況で、桃子が休み式がいる以上「黒の騎士団」としての活動、会議も控えておくべき。
故に近場のこの地区を憂らの訓練場所も兼ねて移動していた。
そして到着した倉庫群だが……うす暗く視界が開けていない。
電灯の数が少ない工業地帯全域にいえることだが、ここの暗さはひとしおだ。
建物内でなくあくまで複数の倉庫の集まりである為安定した光源もない。KMFの照明ではたかが知れている。
少々危険だが、ホバーベースのライトの出力を上げるべくコンソールを操る。
『うわっ』
『きゃっ』
大光量が奔りコクピット内の二人も目を瞑る。そこまで照らしてようやく、この一帯の全貌が明らかになった。
『わー、たくさんありますねー』
『五…十…十二個あるな』
澪の言う通り、目の前には十二のコンテナがダース単位で林立されている。
大きさはちょうど平均的な一軒家―――KMFやMS位ならすっぽりと入りそうな位のサイズ。
いかにも、といった箱だ。
『やっぱり、中に何か入ってるんでしょうかね?』
『その可能性は高いが……おそらく大半はハズレだろう。主催がそこまでの施しをするはずがない』
ここに戦況を優位に運べるものが隠されている可能性は確かに高い。
ルルーシュの考えが正しければ、機動兵器クラスのものが。
だが悪辣な主催のこと、そう簡単に物品を渡すことがないのは分かりきってる。
ホールのように一定の条件を満たさなければ手に入らないか、そもそも内容物がハズレか。
『……じゃあ、放っておくのか?』
「いや、とりあえず見ておいてくれ。特に手は出さなくていい、開く条件などが書かれていないかを―――」
澪の問いに答えてる途中、操縦室の通信機から音が漏れる。
デュオの持つ通信機には手を加えこの陸上艦の通信機能と繋いである。
憂と澪のサザーランドも同様だ。回線をオープンに開きこの場にいる全員に情報を共有させる。
ついでに仮眠中の二人を起こす目覚まし代わりにもなるだろう。
- 23 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:26:43 ID:1zZnPUgY
-
『聞こえるかルルーシュ?象の像だがダメだぜありゃ、人っ子一人もいやしねえ』
「一人も……ですか?どこかに戦闘の跡は?」
『ここからだとちっと離れてるが双眼鏡で覗いた限りじゃ何の痕跡もない、完全な手つかずだ』
予想を下回る結果にルルーシュは逆に驚く。
スザクがいるのなら良し、いなくとも情報と手駒を集められればそれも良しとしていたのだが
まさか誰もいないことになるとは思いもよらなかった。
「俺達のように奇襲を警戒しているのでしょうか」
『それにしたって立案したゼクスがいなくちゃ集まるもんも集まらねえだろ。
多分、本当にここには誰もいないんだよ』
「―――つまりは、その情報源であるサーシェスという人のブラフだったか、」
『ゼクス達がどっかでトラブってるかってことだな』
結論すると、その二択となる。
どちらが正解かは―――正直計りかねるところだ。
ゼクスが虚言を使う人物でなく、サーシェスが張五飛曰く「胡散臭い」という証言を纏めると前者の割合が高いが……
「……とにかく、一度戻ってきてください。こちらにも少し気になるものを見つけたので」
『へえ、何かあったのか。なるべく早めに戻るぜ』
通信が切れたことを確認する。それから会話を聞いていた二人にも言葉を向けた。
「そういうことだ、さっき言ったとおりに調べてみてくれ」
『はーい』
『……分かった』
今の通信で式も、少なくとも桃子は眼を覚ましたはずだ。
外の光景を見ると、憂はもちろん、澪も意思通りに走らせる程度までにはなったらしい。これなら事故を起こすこともあるまい。
デュオも間もなく戻ってくる。その間に少し思考を閉じておきたい。
椅子に座り、意識は最低限に保ちつつ、瞼を閉じて脱力する。
ほんの僅かな間だけ、ルルーシュは休息の時間を過ごした。
◇
- 24 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:27:47 ID:1zZnPUgY
-
「へえ……こりゃまた大層なもんがあったな」
「それでどう思いますデュオさん、何か思い当たるものがありますか?」
偵察を終えたデュオが倉庫群に着いて一番の開口はそれだった。
MS一機が収まりそうなコンテナが十二。ルルーシュが自分に意見を求めるのも分かるというものだ。
「まあ確かにMSが詰まってそうな大きさだが、首輪と同じで扉も接合部もないんだろ?
だったら俺にどうこうできるもんじゃないさ」
戻った矢先にデュオは立て続けにバイクからリーオーに乗り換えコンテナを観察している。
こういうのは直接見ないとハッキリしない。けどそれは先に二人の少女がやっていたのでそれ以上の意見も得られなかった。
「しかしこれ全部ガンダニュウム合金か?どこから持ってきたんだよこんな量……」
ガンダニュウム合金は環境上宇宙でしか精製ができず、製造コストも高いため量産機への採用は見送られている。
ガンダムのような生産性を無視した高性能機のみにしか使われてはいなかった。
―――デュオの時間軸から少し先の世界では幾らか純度を下げた上で新たな量産機の装甲材に採用されることになるが、
そんな未来など与り知らぬ身であるデュオはこれを解決する手段は二つあると踏んでいる。
一つは、帝愛が資金提供を行ったこと。
開会式をはじめ放送であれだけ派手に金金言ってた連中だ。
開発コストなんて度外視してもお釣りが返ってくるほどの援助をしていたって不思議ではない。
二つ目は、少しばかり無理が出るが、時間移動で調達したこと。
ルルーシュからは異世界の存在を、五飛からは時間軸の違いを認識させられたデュオには十分考えてしまう可能性だ。
この場合、決め手になるのはどちらが負担が少ないかであるが、
『魔法』の原理やら労力なんてこれっぽっちも見当がつかないデュオでは考えが及ぶわけもない。
「これが全てその金属で出来ているとしたら…強度はどれほどになるのですか?」
「リーオーのライフルじゃ十発撃ってようやくへこむくらいだ。
装甲もかなり分厚くされてるみたいだし、外部から壊すのはかなり手間だぜ。
式、どうだ?こいつも「視えにくく」なってんのか?」
リーオーの掌に乗せている式にも話を振る。
どうやらデュオが戻ってくるまでずっと眠っていたらしくさっきの通信でようやく目が覚めたようだ。
死を視るという特異なる眼を持つ少女は貴重な魔術的な見地(デュオ達の想像としては、だが)を教えてくれる。
「ああ、同じだ。「線」がまったく視えない。切った張ったで済むような問題じゃあないな。
―――けど、それも四つだけだ。あとの八つはしっかりと視えるよ」
式によれば「線」がある部分ならそこにナイフでも指でも通せばどんなものでも切断できる、ということらしい。
それの対策は施してあるのは四つだけ。その中に何かが入ってるのは明白だ。
- 25 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:29:14 ID:1zZnPUgY
-
「じゃあ、あとの八つはダミーってことか。中は空か、最悪トラップでも仕込まれてるかもな。
何でえ、結局骨折り損ってコトか」
「いえ、そうでもありません」
「あん?」
割って入るルルーシュの声。モニターに映る表情はどこか得心がいったような顔だ。
「これに使われてる材質、魔法が首輪と同じ仕様であるのなら確かに開錠は難しい。
ですが、翻せば首輪を外す術さえ分かれば同じ要領で開けられるということです」
回りくどい言い方に少し頭を捻るデュオだがそこは工作員としての知識を併せ持つガンダムパイロット。
暫くしてその真意に思い当たる。
「―――首輪を外した奴用の、特別ボーナスってところか」
「ええ、その公算が非常に高い」
『首輪を外すのもゲームの内』、揚陸艇でデュオとルルーシュが考察した問題。
これが真実として、外した者が次に取る行動を仮定してみる。
そも首輪を外そうとするのは大半がゲームの脱出、主催への反抗を志す者だ。
そして己の命を握る首輪を外せば、あとは堂々と反旗を翻すか、脱出の手段を講じるかとなる。
だが、首輪の存在を抜きにしても主催の力は計り知れない。
多数の強者、異能者を瞬時に連れ出し強力な武器を反抗も恐れず投げ渡す。
これだけでもその強大さは瞭然だ。
だから、ここに眠るのはそれを埋める道具。
首輪を外す頃にはゲームも佳境に入っているだろう。生きた参加者も数を減らし残っているのは力ある者、知恵ある者。
そうして選別された人間に送る最後の餞別。この牢獄を抜ける箱舟、もしくは飼い主気取りの人間へ突き立てる牙。
「……それにしたってよ、こんなホイホイ用意してやるもんか、アイツらがよ?」
ここまでさんざ下劣に追い詰めてきて最後に特大の施しを与える。こんなことをされても胡散臭いことこの上ない。
「分かっています。当たりの四つにしても時間制限があったり、定員が決まっていたり、
中途半端に使えないものばかりなのでしょう」
―――『大当たり』はせいぜい一機。大方、限られた脱出の切符を求めての同志討ちでも期待してるのだろう。
―――もし、本当に何の不備もない高性能機や脱出艇があったのなら、それがおそらく内通者の差し金だ。
―――己の内にのみ秘した情報を思い浮かべ、ルルーシュは十二の鉄塊を見渡した。
- 26 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:29:41 ID:1zZnPUgY
-
「とはいえ、開けない以上ここにいても仕方がありません。そろそろ移動しましょう」
「そうだな、でどうする?やっぱ像には行くのか?」
「ええ、人が集まってないとはいえ施設の一つなら何らかの手掛かりもあるでしょう」
人材と情報の収集という目的は果たせないが、逆にいえば隠されている設備などが手つかずともいえる。
そちらのメリットを考えた方が有意義だ。
「じゃ行くか。一応それが通れる道は幾つか探しといたぜ。
けどほとんどは瓦礫なんかがゴロゴロしてるからスムーズに行きたいなら撤去作業が必要だな」
ルルーシュの指示通りにデュオはここから目的地までの道のりのルートは複数見繕っておいた。
通行止めの道もMSがあれば片づけられると思ったので幾つか枝分かれして組み込んである。
「分かりました。それではなるべく近いルートで。
デュオは障害物の撤去をお願いします」
「おいっ俺かよ……つっても他にいねえか。やっぱアイツらじゃ無理があったんじゃないか?」
一端艦内に戻り格納庫へ向かう途中にコックピットから降りた澪と憂とすれ違になったが、
どちらも疲労の跡が強く残っていた。
憂に関しては、子供が夜まで遊び続けたような、一種の爽快感のようなものを覚えていた方が気になったが。
どれだけ決意が高かろうと所詮は銃の握り方も知らない高校生。自分たちとは土台が違う。
「いえ、そう捨てたものじゃありませんよ。澪も着実に順応しているし、特に憂の飲み込みの早さは驚かされた。
この短期間であれだけ動かせるのは余り見た機会がない」
ルルーシュについてデュオは殆ど知らないがその戦術眼と先見性は確かなものだ。
その男がこう評価するほど平沢憂の才能は際立っているということか。
「……動けるのと戦えるのは別問題だぜ。あんま無理難題吹っ掛けるなよ」
「無理は言いませんよ。ただ出来ることは精一杯やってもらいます」
「おい、そろそろ降ろしてくれないかな。それともオレもこのまま付き合わせる気か?」
リーオーの手元から式の声が届く。無論そんな気はないので手を下ろし地に立たせてやる。
そのまま工場を出て、ベースを誘導させるために機体を歩かせていった。
■
- 27 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:30:30 ID:1zZnPUgY
-
鉄の原生林、人工でありながら意図されず生まれた迷路。
迷い込んだのは五名を乗せた一艇の艇。
案内人は土偶色の人形。親切に、舟が進むのに邪魔な石をどけてくれる。
抜けた先には目指していた場所が見える。
(この場所……見覚えがある。バーサーカーと鎧武者が戦っていた光景に。
ここからあの怪物を発電所まで運びこんだということか……)
まどろみの中垣間見た大英雄と戦国最強、それに付く金眼の青年の映像とその想い。
周囲の光景はほとんど光に包まれぼやけていたが実際に近づくと不思議と既視感を感じる。
この地点で彼らはその命を未来の為に燃やし、果てた。そんな確信が自然と持てた。
開けた土地に巨大なホバーベースは危険のため身を隠し、デュオはそのままリーオーで、
憂と澪はサザーランドに乗せ、その肩にそれぞれルルーシュと式が担がれる形で像へ進む。
「憂、余計な動きをするなよ。振り落とされてはかなわん」
「大丈夫ですよ、私もう上手に動かせるんですよ!」
「……ちゃんと使えるのか?前のめりに倒れて潰れるとか漫才にもならないぞ?」
「ば、バカにするな!それくらいちゃんと出来る!」
桃子は待機状態。甲板で秘かに周囲の索敵を行わせる。
「ステルスは慣らし程度でいい。今の内に体を起こしておけ」
『りょーかいっす』
像は森のはずれに静かに佇む。見守るように、蔑むように。
守り神かも知れないし、祟り神かも分からない。
いずれにせよ、旅人は目的地へとたどり着いた。
■
- 28 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:32:47 ID:1zZnPUgY
-
「……象だな」
「象ですねー」
「象……なんだよな」
「象でしかないだろうな」
「象だろ、どう見ても」
(像っすよねぇ)
十人十色。ただし総意は統一している。
ようするにこれは【象の像】以外のなにものでもない。それだけである。
神話に出てるような抽象的な姿はしておらず四足歩行、冠や宝石で装飾されてある。
だが一番明確な違いを挙げるなら、その大きさだ。
最もポピュラーな象であるアフリカゾウの全長は平均して5~7メートル前後。
対してこの像は10mはゆうに超える。単に目立たせるためにこれだけ大きくするというのも不自然では、ある。
「ルルーシュさんルルーシュさん、これにも中にロボットが入ってるんですか?」
「いや、さすがにそれはないだろう。……多分」
これに機動兵器(そんなもの)を隠すのはさすがに露骨すぎる。
こんなだれが見たって怪しいものに隠すほど主催も内通者も馬鹿げてはいないだろう。
「これも例の合金なのですか?」
『……いーや、そんないいもんじゃなさそうだな。壊そうと思えば簡単にいけると思うぜ』
リーオーに乗ったまま像の材質を値踏みするデュオ。件のガンダニウム合金とは違く通常火器で破壊可能らしい。
壊されても構いはしない、ということか。
像から少し離れて上を見上げる。すると確かに背中の部分に明らかに不自然な突起が見える。
揚陸艇で見通した【バトルロワイヤル観光ガイド】に記されていた情報を思い出す。
【E-3/象の像】
・名前の通りの象の像です。
象は富と繁栄の象徴です。賞金の使い道を考えながら優勝祈願をしてみましょう。
【マル秘情報!】
・象の背中には聖人様が乗っています。決して触れないように。バチがあたりますよ!
(”バチ”というのが俺たちに対するペナルティなのか、主催に不都合なことを隠すブラフなのか……
判別するためにも直に見る必要があるな)
- 29 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:33:44 ID:1zZnPUgY
-
もちろん頂上に飛びつく跳躍力も取りつく筋力体力もルルーシュには絶無だ。
そうでなくても腕を負傷しているのだから。
像と同サイズのMSならカメラのズーム機能も使い鮮明に確認できるだろう。
「デュオさん、象の背中になにか見えますか?ガイドによれば人が乗ってるらしいです」
『背中?…ああ、いたぜ。かなりちっちぇえな。分かってなくちゃ気付きにくいぞこりゃ』
10数mある象に比べ背中の人は1m強、原寸大の人間の大きさだ。
予めこの情報を知ってなくては目に留まり難い。
この像の大きさもこれを隠すための措置とも解釈できる。
『けどよ、特に怪しいものは仕掛けられてないぜ。ガイドには何て書いてあるんだ?』
「……触れるとバチがあたる、だそうです。
ハッタリ、と言いたいが本当に何らかのペナルティがかかるかもしれない。手を出すのは控えておいた方がいいでしょう」
記された’バチ’が何を意味するか、この像の役目はなんなのか、まだまだ情報は少ない。
触らぬ神にたたりなし、とはこのことか。
「とりあえず降りて来て下さい。仕掛けがそれだけとも限らない、足場のあたりも探ってみるべきでしょう」
返事を返し、ゆっくりと膝を折るリーオー。
必要なものはほぼ揃っているが。今の内に自販機の内容も確認しておきたい。
「澪。自販機は見つけたか?」
周囲の警戒は憂に、遠方からの監視を桃子に、澪には自販機の場所と内容を見るように言っておいた。
式は一人気ままにうろついてるが、あれでも警戒はしてるのだろう。
自販機は像の土台の端に置かれていた。
百聞は一見に如かず。デュオとルルーシュは自販機のディスプレイの正面に立った。
- 30 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:34:19 ID:1zZnPUgY
-
自販機の前でしばらく話しこむ二人を澪は離れて眺めている。
こうなっては蚊帳の外だ。機械だの魔法だのなんてものを知らない澪にはこうして指示をこなすことしかできない。
悔しいが、今はもう己の限界を冷静に推し量ることができてしまってる。
こうするのが最善だと、理解できてしまっている。
……そんな自分の冷静さが、嫌になる。
こうして待ちぼうけを食らってるよりも周りの警戒がてら操縦に慣れるほうがましだ。
そう思ってサザーランドに戻ろうとしたが、
ぼんやりと、ひとり立ち尽くす式を見て思い直った。
「……なに、見てるんだ?」
そう、式はどこかを見ていた。像ではなく、その足元の土台のあたりをじっと凝視している。
それが気になって、声をかけてしまう。
「――――――ズレている」
「へ――――――っ!?」
普段は透明で灰色の瞳が、深みのある蒼色へと変わった気がした。
それを視た瞬間に、また背筋が凍った。
笑みを浮かべているわけではない。眼そのものに『力』が宿っていた。
それだけなら勘違いで済むものだが、デイパックに突っ込んだ手がおかしな色合いの歪な短剣を取り出してきたからより剣呑さが増す。
そのまま像へと歩き出し、土台に手が届くまで近づいて――― 一閃。
するとバターを切るように土台に線が入り、
そこから一部の部分だけがズルリと崩れて落ちた。
「!?……え、これって―――」
「やっぱりか」
壁が落ちて現れたのは、深い闇。
光が届かないほどに奥が深い通路が姿を現していた。
いや、通路というよりは洞穴に近い。
「ここに隠し扉があるって―――分かってたのか?」
発見した式に問いかける澪。
壁の亀裂なんてどこにも見当たらなかったのにこの少女は隠し場所をピタリと当てた。
- 31 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:34:51 ID:1zZnPUgY
-
「いや。けど線がズレていたからな。おかしいと思っただけだ。
ここを開けたときに石でも詰まってたんだろ。意図してかは知らないけど」
この扉には幾多もの見えない仕掛けを施されていた。
表面の凹凸、影の付け具合、魔術を使わずしてキャスターすら欺いたものと同一の隠匿性。
直視の魔眼により捉えるモノの存在限界の線。
物探しにおいては確たる才を持つ青年に一度解放された際に扉の間に小石が挟まり僅かな隙間を生み出していた。
予め計算していたかは、今となっては計れないが。
その一本の軌道が途中で断ち切られたようにズレていたので気になって斬っただけだ。
扉が現れたのは、あくまで結果でしかない。
「物探し……上手いんだな」
「それは専門外だよ、今回はたまたまだ。
……アイツみたいな器用な真似、オレには出来ない」
その言葉には、どこか哀しさが込められていた。
丁度、澪が船の一室で問うた質問に答えた時の虚無感に似ていた。
「どうした澪!……っこれは―――」
騒ぎを聞きつけてルルーシュ達が駆け付ける。
目の前に映るのは、短剣を持つ式と、その傍に立つ澪と、ぽっかりと穴のあいた空間。
「隠し扉か……地下に通じてるみたいだな」
デュオが顔を覗き込む。
確かに外の光で僅かに見える通路は緩い下り坂になっている。
中に明かりはないらしく電灯なしでは通るのは危険そうだ。
「―――て式、オマエどこ行くんだよ!?」
「どこって、見れば分かるだろ。中になにかあるんだから隠してるんだろ?」
見れば分かる、その通りだ。
式は空いた扉の先へ乗りこんでいるのだ。デイパックから懐中電灯を引っ張り出している。
「いやそれは分かるけど、そうじゃなくてだな―――」
「わ、私も行く!」
デュオの制止を遮るように澪もまた式に続こうとする。
一寸先が闇の空間に飛び込むのは気弱な澪ならずとも勇気が要るがそれを押し切るように飛び込む。
- 32 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:35:34 ID:1zZnPUgY
-
「待て、澪」
すると、今度はルルーシュが止めにかかる。
独断で動くなと命令するのかと思えば、左手に持ったランタンを差し出してくる。
「これを使え、懐中電灯では心許ない。
それと通信機を持っていけ。通路を抜けたらすぐに連絡しろ。
危険と思ったらすぐに避け、いいな?」
ランタンを手渡され指示をもらい少し戸惑う澪だったが、
それがルルーシュから始めての指令だと理解し、深く頷いて先を行く式を追いに向かった。
闇に消えていく女子2人を見送って、デュオはルルーシュの方へ視線を移す。
「おい、いいのかよ?」
「問題はありません。これまでの施設で罠は全くといっていいほど設置されていなかった。
殺し合い以外での死亡は主催の望みではないのでしょう」
納得できる意見ではある。
悪趣味極まりないこの遊戯で求められるのは殺し合いという行為。
施設の仕掛けはそれを盛り上げる要素に過ぎない。
三回目の放送で遠藤が言っていたように、罠や事故で死ぬ形での脱落はお断りなのだろう。
こちらにとってみたら、ありがた迷惑でしかないが。
「それに式さんがいれば大抵のことには対処できるでしょう。何かあればすぐに退避するようにも言い含めてあります。
俺たちは今の内にこれからの進路を考えていましょう」
状況を聞くといって背を向けサザーランドに乗りこんでいる憂に歩き出すルルーシュ。
その姿を怪訝に見るのは、やはり穿ち過ぎなのだろうか。
時間を重ねるごとに疑念は深まる。親友の間柄だというスザクとも名前と顔以外には大して聞いていない。
頼りにはなる。だが過度に信頼しては付けこまれると抱く程度には距離をおくつもりだ。
疑心暗鬼になっては元も子もない。腹の内がどうあれまだ暫く付きあっていく関係にあるのだから。
頭を掻きつつ、デュオも機体のチェックのためリーオーへ歩き出した。
そこでふと、少し思い立ったことがあるので振り返った。
「そういえばよ、ルルーシュ」
「なんでしょう、まだなにか?」
「大したことじゃないけどよ、その敬語使いやめねえか。年だって俺より上だろ?」
少しの間を共に過ごして分かったが、敬語を使うよりも澪や憂に語りかけている姿の方がルルーシュの素であるようだ。
ハイスクールの三年なら十七か十八歳。自分よりも二、三年上だ。
目上の相手に気を遣っているというのなら些か気が悪いし、
コイツの腹を探るにも、なるべく対等な立場でありたいと思ってのことだ。
その胸中を知ってか知らずか、ルルーシュは暫く顔を呆けさせて、
「―――そうですね、ここでは貴族だとかいったことも意味を成さない。
では―――暫くの間だがよろしく頼むぞ、デュオ」
「おう、よろしくやっていこうや」
この時、両者の距離が一歩縮まった。それが幸運かは、まだ分からないが。
◇
- 33 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:36:33 ID:1zZnPUgY
-
「待てって!先に行くなよ!」
「―――なんだ、秋山か」
「……!私じゃ不満か?」
「いや、別に」
「……………………………」
「……………………………」
コツリコツリと、靴の音が鳴る。足音の残響が通路を巡る。
明りは一切なく、前を行く式の懐中電灯と、後を追う澪のランタンのみが狭い道を照らす。
分かれ道もなければ曲がり道もない、完全な一本道がこれでもかと長く伸びる。
足場も綺麗に整備されており、まるで細長い棺桶のよう。
ただ暗く長い道だと分かれば、恐怖は幾らか和らいだ。
少なくとも遊園地のお化け屋敷よりは何倍もマシだ。
だから、気まずいのはこの無音の空気。
別に式とは仲良くなってないし、嫌悪感だってまだ抜けきっていない。
それなのにこんな狭い場所で二人きりになるなんて、思ってみればどうしてこんな行動を取ったのか。
肩に機関銃は背負ったまま、ランタンで肩手も塞がれるのでバランスが取りずらい。
式も後続のペースなんて考えていないので気を抜くとすぐ離されてしまいそうになる。
けれど、立ち止ったままではいられなかった。
何かをしていないと、胸に抱えたおもいに潰されてしまいそうで。
交流を深めたいのは事実だけど、それは友達になりたいなんていうベクトルとは全然別のもの。
使える繋がりがあったから利用するなんていう、馴れ初めとしては最低の部類だ。
けれど、それでいい。
最低でも最悪でも構わない。そうでも手を染めなきゃ届かないものを自分は目指している。
そう決めたのならなにか話すべきなんだろうけど、やはりというか何も出てこない。
式自身進んで語ろうとはしない性分であるのは知っている。自然こちらから話を切り出さなければいけないのだが、
談笑できる間柄でもないのもお互い知っている。
結果こうして互いに無言で進み続けるだけ。
声をかけるきっかけを探そうと周りを見渡す澪だが―――
「着いたな」
「え?―――わ!」
突然立ち止まった式に意識が回らずぶつかりそうになるも踏みとどまる。
光に照らされた先には階段、この通路の終着点を意味する。
- 34 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:37:38 ID:1zZnPUgY
- 突然立ち止まった式に意識が回らずぶつかりそうになるも踏みとどまる。
光に照らされた先には階段、この通路の終着点を意味する。
「……結局何もないのか?」
「隠し通路なんだから道があるだけなんだろ。
スイッチは……これか」
階段を登り扉を開ける。開いた先はまたしてもうす暗い空間。
たださっきと違い僅かだが夜の光を感じ、風の音と潮の香りが耳と鼻に届く。
どうやらここは本当に洞窟らしい。
外に出られたことを確認して、デバイスを取り出す。現在位置は【F-2】。遺跡である。
まるまる1エリア分移動してきたことになる。海路がなくては通れない者の為の措置ということだろうか。
「あ、おい!」
とりあえずルルーシュに連絡した方がいいだろうか、そう思案している澪を横目に式は歩を進める。
仕方なく着いて行くと、ようやく式の視線の先―――向かって左の壁にある「ソレ」に気付いた。
巨大な石板、古の壁画。
まるで大きな木の根かのように無数に分かれた枝。
その中心に添えられた、羽ばたく鳥の紋様。
端に置かれた販売機と換金機以外に何もないことから、コレのためにこの施設はあるのだと分かる。
では、コレのある意味とは―――
「……ワケがわからないな。式はコレがなんなのか分か―――」
無論、澪に判明できるはずもない。
機械が置かれてるわけでもないし、ルルーシュなら意味を引き出せるのだろうか。
同じように壁に手を置いている式に尋ねてみる。
純粋に正体を知ってるのか、会話のきっかけに出来るという思いもあって。
けれど―――
「―――え」
言葉が、止まってしまう。
半日も経たない程の時間で、それでもほんの少しはその在りようや特徴なんかは掴めていた目の前の少女が、
まるで、まったくの別人みたいに見えてしまったから。
風貌や言葉使いもあって女性にも男性にも判断できる式を、今は女性にしか見えない。
そこに不自然はなく、むしろ彼女の本当の、ありのままの姿であるようにも感じてしまうからますます困惑する。
「なに、オレになんかついてるか?」
かけられた言葉にはっとなる。
見ると式はいつも通りの、ぶっきらぼうな男口調に戻り鋭い目つきで私を見つめる。
「……いや、何でもない」
- 35 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:38:05 ID:1zZnPUgY
-
ただの勘違いか。私はそう結論付けることにした。
大して気にしていなかったのか、式は視線を空へと移す。
けどそれは景色ではなくて、そこにいる何かを睨みつけてるようだった。
おもむろに式は左手を上げる。そのまま、開いた掌をぐっと握りしめた。
変化は、なにもない。
「……消えた。いや、吸い込まれた、か」
ぽつりと呟く。まるで獲物を取り逃がした狩人みたいに。
「今度は何してるんだ?」
「いや、なんでもない。霊魂か何かが視えた気がしたんだけど消えちまった。」
「れいっ!?」
咄嗟に強い反応をしてしまう。
秋山澪が恐怖を感じる者の中で常に上位をキープする単語。
夏で毎度律の持ち出した怪談に枕を濡らした数も知れない。
「だからいなくなったって言ってるだろ。いや、最初からいなかったのかもな。
魂なんてそんな簡単に視えるわけないんだ。凝り固まったり加工されてない限りはすぐ消えるんだから」
だから怖がる必要なんてないんだ、と言われて自分が恐れていたことに気付く。
なぜ今更幽霊なんかに怯えているんだろう。
そんな不確かなものより、もっと恐ろしいものに何度も出会っているというのに。
「それより、もう行こうぜ。ここにはなにもないよ」
踵を返して式は私を抜いて歩き出す。
色々言いたいことがあったけど、帰る途中でもいいやと続く。
通信機が繋がりルルーシュに遺跡にいることを教えて、指示通り自販機の商品のメモを取る。
波の音だけが、扉に消える二人を見送っていた。
やっぱり、帰り道も終始無言だったのは言うまでもない。
◆
- 36 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:38:45 ID:1zZnPUgY
-
黄昏の空。
佇む神殿。
歴史の図書。
廻る歯車。
赤子の泣き声。
無数の仮面。
渦巻く肉塊。
昇る螺旋。
思考エレベーター。
割れる景色。
覗く世界。
宙を突く柱。
神を殺す剣。
魂の還る場所。
人。
無意識
アラヤ。
世界。
C。
蒐まる四十の死。
来訪を待つ二十四の生。
杯に注ぐ御酒。
醸造の蔵場。
閉じた楽園。
外と内の中継点。
死が起きる度に門を開き、其の魂を回収。聖杯へと行き届かせる。
起動は一瞬。神代の魔術師にも、Cの魔女にも悟られない。
箱庭に散った命を一点に収束させる。それがこの門の役割。
あの石板に触れた瞬間に流れ込んだその一瞬のみにわたしは引き出された。
どれだけ分かれていても枝に触れられたら根も反応する。
科学によって到達した、人という仮面を被る演者の舞台。
始めから繋がっていた分、いつか来た少女のように外的要因なくとも自動的に接続が叶ってしまった。
無秩序な単語の羅列、錯綜する光景。それはこの封された世界の真実の一端。
けれど彼女にその情報は咀嚼し切れないし、そもそも自分が開示する気がない。
今までも、これからも、なにがあろうと自分が手を出すという選択肢は存在しない。
彼ももう、死んでしまったし。
けれど。
隣人に顔を見せる位なら、しておいてもいいのかもしれない。
カラのまんなかで、わたしはそう考えていた。
◇
- 37 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:41:13 ID:1zZnPUgY
-
式と澪が抜け道から戻った後、ルルーシュ達は一端ホバーベースへと戻った。
今後の行動―――主に周辺の施設の捜索について話すためだ。
象の像以外のこの周辺にある施設は【学校】、【ショッピングセンター】、【廃ビル】、備考に【吊り橋】がある。
【憩いの館】はやや離れており、【遺跡】も視野に入れていたが澪と式のおかげで除外できた。
よってこの三か所、ないし四か所を優先的、迅速に調査することになる。
主な調査対象は施設の概要、自販機の商品、施設サービスの把握。魔方陣の破壊。
参加者と会う機会があるのならなるべく接触、こちらに連れてくるか情報の交換を。
一目で危険人物と分かる相手か、阿良々木暦を発見した場合は逐一連絡。
戦闘に発展してしまった場合は撤退をなによりも優先、最悪は拠点に合流し迎え撃つ。
それが式と澪が井関へ向かっていた三十余分の間にルルーシュとデュオで決めた方針だ。
(しかし、思考エレベーターか……)
神を殺す剣。ラグナレクの接続のための現の世界とCの世界とを繋ぐ鍵。
元々遺跡が神根島のものであることはガイドブックで知っていたため思考エレベーターがあることに驚きはない。
考えるべきは、ここに思考エレベーターが置かれている訳だ。
単に目に着いた建造物から適当に選んだ可能性もあるが、
Cの世界に向かう「コード」を持つC.C.、
ラグナレクの接続の同志であるルルーシュの実母、マリアンヌの意識が乗り移っているアーニャ・アールストレイム、
そしてその計画を知り、阻止した時系列から呼び出されたルルーシュがいることから、偶然の産物とも考えにくい。
また逆説的に、この殺し合いに計画の立案者たるシャルル・ジ・ブリタニアとV.V.が関わっていることも否定できる。
自分はともかくC.C.が死んでは元も子もあるまい。
(そういえば、ダモクレスの設計図にも思考エレベーターの表記があったな。
アレが会場の外にあるとするなら、遺跡同士で人員の転移や交信をしているのか?
そこを押さえれば主催の本拠地に乗りこめるかもしれないが当然操作は受け付けなくされてあるだろうが、
コードを持つC.C.ならば起動が可能か―――)
「それじゃ、俺達は行くけどよ……っておいルルーシュ?」
「―――っああ分かった。しかし本当にMSではなくていいのかデュオ?」
脳内の考察はおくびにも出さず対応するルルーシュ。
ダモクレスをはじめとした主催の重要な情報は未だ秘匿し続けているが、
抜き差しならない事態になれば開示も考慮に入れていた方がいいのかもしれない。
- 38 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:42:00 ID:1zZnPUgY
-
「いいっていいって、リーオーじゃあんまスピードも出ないし目立ちまくる。
その分バイクなら小回りも利くし飛ばせば一時間もかからねえよ」
調査の手順としては別グループに分かれて両端の施設を調べることになった。
振り分けは例によってデュオと式がショッピングセンター、ルルーシュと澪と憂の三人は学校と廃ビルに。
先にデュオ達がショッピングセンターに先行し、ルルーシュ達はホバーベースで二つの施設を回る。
施設を調べ終える毎に通信を取り、最終的な合流地点を決めるという手はずだ。
「それと、念のためにこれを渡しておく」
ルルーシュが手渡したのは一つの首輪。
内側の金具には「SABER」の文字。
「緊急時などにペリカが必要な場合は使ってくれ。
彼女の物なら充分な額が得られるはずだ」
「……オーケー。式、体の方は平気か?」
「だいぶマシになった。あの化物と戦う前くらいには持ち直したかな」
背伸びをして答える式。
前というのはバーサーカー戦前、信長との対戦後のことだ。
戦闘行為には支障がない程度、ということになる。
「けどおまえ、いつの間にあいつと呼び捨て合う仲になったんだ?」
「ああ、それについてはちょっとあってな。向かう途中にでも話すさ」
「ふうん、まああの棺桶に詰められるのに比べたら別にどうでもいいことだけど」
「カンオケってなぁオマエ……」
デイパックからバイクを引っぱり出すデュオの横で愚痴る式。
だがMSをカンオケ呼ばわりとは死神である自分に対しては中々シャレが利いている。
苦笑をこぼしながらもキーを入れエンジンを吹かす。
「んじゃ先に行ってるぜ。ヤバイことがあったら早く伝えろよ」
「ああ、そちらも気を付けてな。良い報告を期待しよう」
サムズアップを決めながら工業地帯を一気に駆け抜けるサイドカー。
見る見るうちに姿は消えていく。
桃子から完全にいなくなったこと、通信の漏れがないことも確認した後、確認に戻る。
- 39 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:44:44 ID:1zZnPUgY
-
「さあ、俺たちも出発するぞ。まずは学校だ」
その表情はまるで仮面を付け替えたように一変する。
三人のメンバーを抱える黒の騎士団の長としてのルルーシュの顔に。
「……いつの間にあんな馴れ馴れしくなったんだ?」
あまりに急な変化に気持ちの悪いものを感じつつも澪は尋ねる。
「ん?ああ色々あってな。それも含めて話すとしよう」
ホバーベースの進路を取りつつ答える。
オートパイロットとUSBの地図とを連動させてあり、目的地を入力しておけばある程度の自立移動が可能なように仕組んである。
よって操縦桿に手を離した状態で憂、澪、通信機越しの桃子との会議を始める。
「俺たちの動きはデュオ達に言った通りだ。施設を巡り、魔方陣の破壊、参加者と接触し可能なら引き込む。
だが彼らとは一点だけ違う点がある。それは―――」
「阿良々木さんをブチ殺すことですね!」
「………………っ」
「そうだ、阿良々木暦を発見した場合はデュオ達に悟られぬよう排除する。
可及的速やかにな」
元気よく返事を上げる憂。満足げに肯定するルルーシュ。それを愕然と見つめる澪。
どうして、先生に指を指されて自慢げに問題に答える生徒のようにそんなことを言えるのか。
阿良々木暦という人物の排除。
それは澪が「黒の騎士団」に加入した際に聞いてはいる。
自分たちの正体を知り目的の妨げになるだろうという人物。
だが阿良々木暦の名が出るたびに憂が垣間見せる因縁と執着はどうしても合点がいかない。
優しい彼女をして激昂させるほどの不埒な暴行を加えられたのか。
そうであったのならまだ気が楽だ。危険人物であるなら倒せばいいのだから。
だがそうはならないのはそうではないと無意識に理解しているからなのか。
ギャンブル船で八九寺真宵から聞いた阿良々木暦の人物像。
そして、姉の死を目の当たりにしながらも―――もう瓦解寸前といった様だが―――平然としている平沢憂。
それを教えたのは全て、ルルーシュ・ランペルージという男から。
けれど、きっとこれは甘えだ。
阿良々木暦がどんな人物であれ、平沢憂の状態がどうあれ、それを深く考える必要はない。
誰かを気にする余裕なんて、許されないことなんだから。
軽音部のみんなを、あの日常を取り戻す。
それ以外のすべてを捨てる覚悟がなければ、望みを叶えることなんてできない。
そう、自らを緊縛する。
「では、これより黒の騎士団としての活動を開始する」
「おー!」
返事を返す余裕も、今はない。
……To be continued⇒
- 40 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:45:27 ID:1zZnPUgY
-
【E-3/ホバーベース内/1日目/夜中】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(中)、右腕の骨折
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス反逆のルルーシュR2
[装備]:イヤホン@現地制作、ニードルガン@コードギアス 反逆のルルーシュ、ククリナイフ@現実、ホバーベース@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式×2、6500万ペリカ、盗聴機×8、発信機×6@現地制作、単三電池×大量@現実、通信機×5@コードギアス反逆のルルーシュ
歩く教会@とある魔術の禁書目録、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)
パソコン、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
首輪×3(キャスター・ヴァン・張五飛)、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、
荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、和泉守兼定@現実
“夜叉”の面@現実、ゼロの仮面とマント@コードギアス、バトルロワイアル観光ガイド、不明支給品(0〜1)
食材色々(ホバーベースの冷蔵庫内)
[思考]
基本思考:枢木スザクは何としても生還させる。
1:学校→廃ビルの順に施設を調査する。
2:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。
3:デュオと式を上手く利用する。
4:殺しも厭わない。桃子、憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。利用できる物は利用する。
5:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい 。
6:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する事にした。
7:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。
8:象の像は慎重に調べる。
9:両儀式を警戒。荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感?
10:ライダー、織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。
11:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
12:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
13:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。
14:桃子と憂の2人を、必要以上に大切に思わないように気をつける。
[備考]
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※モデルガン@現実、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード、ミサイル×2発@コードギアス反逆のルルーシュ
ジャージ(上下黒)、鏡×大量、消化器、ロープ、カセットコンロ、
混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、その他医薬品・食料品・雑貨など多数@ALL現実
揚陸艇のミサイル発射管2発×1機、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス反逆のルルーシュR2、
現在支給品バッグに入れています。
※揚陸艇の燃料…残り7キロ分。揚陸艇は船着場に繋留したままです。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い。
及びその記憶と想いを呼び覚ましました。
(どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手さんにお任せします。
ただし、何か特殊な力に目覚める。イノベイターに覚醒する等は一切ありません)
※荒耶宗蓮の工房から不明品多数を回収しました。
(何を回収したのかは後述の書き手さんにおまかせします)
※荒耶宗蓮の工房内に在った大極図の魔方陣がルルーシュにより傷付けられ力を失いました。
※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。
※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。
※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。
※デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。
※【象の像】でなにか購入、首輪換金、施設サービスを使用したかはお任せします。
- 41 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:46:52 ID:1zZnPUgY
-
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失、疲労(小)
[服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット、純白のパンツ@現実
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯、S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(6/6)
遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×10個(in腰巾着)、発信機@現地制作、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式、日記(羽ペン付き)@現実、桜が丘高校女子制服、カメオ@ガン×ソード、皇帝ルルーシュのマント
ゼロの剣@コードギアス反逆のルルーシュR2、包帯と消毒液@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor 、
鉈@現実、阿良々木暦のMTB@化物語、ファサリナの三節棍@ガン×ソード、 燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1
“泥眼”の面@現実 、38spl弾×46、メイド服@けいおん! 、さわ子のコスプレセット@けいおん!、洗濯紐
[機動兵器]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
1:サザーランドを乗りこなせるようにする。
2:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。
3:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
4:桃子ちゃんは友達。
5:阿良々木さんにサザーランドを見せた後、ブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
6:澪さんとバンドが組めて嬉しい。
7:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。
8:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。
9:ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
10:思いを捨てた事への無自覚な後悔。
11:お姉ちゃんは私の――。
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※第2回放送をほとんど把握していません。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
- 42 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:48:05 ID:1zZnPUgY
-
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:疲労(小)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、果物ナイフ@現実(現地調達)、双眼鏡@現実(現地調達)
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実
蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)、小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、キャンプ用の折り畳み椅子@現実
七天七刀@とある魔術の禁書目録、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ、発信機@現地制作、“狐”の面@現実、不明支給品(0〜1)、
死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、 ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
[思考]
基本:加治木ゆみを蘇生させる。
0:学校→廃ビルの順に施設を調査する。 基本は潜入、監視。
1:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。
2:もう、人を殺すことを厭わない。
3:覚悟完了。ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。
5:……憂ちゃんは一応、友達ってことで。秋山澪は……。
6:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。
7:浅上藤乃と思われる黒髪の少女に出会った際に、冷静であるように努める。
8:ルルーシュの能力とは?
9:ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
[備考]
※登場時期は最終話終了後。
※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場で伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
- 43 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:49:12 ID:1zZnPUgY
-
【秋山澪@けいおん!】
[状態]:疲労(小)、両頬に刀傷
[服装]:龍門渕家のメイド服@咲-Saki-
[装備]:田井中律のドラムスティック、影絵の魔物@空の境界、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実
[道具]:基本支給品一式×9、千石撫子の支給品0〜1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、法の書@とある魔術の禁書目録
下着とシャツと濡れた制服、桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、
モンキーレンチ@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、軽音楽部のティーセット、
シアン化カリウム入りスティックシュガー×5、ゼロの仮面、刀身が折れた雷切 @現実、
ジャンケンカード×10(グーチョキパー混合)、ナイフ、薔薇の入浴剤@現実、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、
中務正宗@現実、発信機@現地制作、通信機@コードギアス反逆のルルーシュ、ランタン@現実
[機動兵器]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン
[思考]
基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
0:学校→廃ビルの順に施設を調査する。
1:サザーランドを乗りこなせるようにする。
2:この集団を利用し、目的を果たす。
3:軽音部全員を救う方法を見つける。
4:見つけ次第、実行する。 手段を選ぶつもりはない。
5:式とのコネクションは秘密にしておく。
6:憂の精神状態に疑念。
7:一方通行、ライダー、を警戒。
8:伊達政宗のおくりびとが福路美穂子か。
9:ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
10:正義の味方なんていない……。
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。
※起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。
※自分の望みのために、起源を乗り越えて戦う覚悟を決めました。
※黒の騎士団全員の情報を得ました。
※ルルーシュたちの作戦を把握しました。
【(腹)黒の騎士団の作戦】
1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。
2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。
3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。
4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。
5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。
6:桃子は集団内の人間をよく観察する。
7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。
8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。
9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて分かれるか、そもそも関わらない。
10:『おくりびと』は見られないようにする。
- 44 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:50:00 ID:1zZnPUgY
-
【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:疲労(小)
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実
COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・9発)@現実
BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、
首輪×5(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律・竹井久・セイバー)、手榴弾@現実×10
桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、
ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night
ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1)
[機動兵器]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
[思考]
基本:五飛の分も込めて、ガンダムパイロットとして主催を潰す。
0:式とショッピングセンターを、ついでに吊り橋も調査する。終わったらルルーシュと再合流。
1:首輪の解析について、ヒートショーテルや手榴弾などを駆使して実験してみる。
2:リーオーを乗りこなす。憂と澪への機動兵器での訓練を行う。
3:『消える女(桃子)』に警戒。
4:デスサイズはどこかにないものか。いやこんなリアル鎌じゃなくて、モビルスーツの方な
そういえばあの女(桃子)ビームサイズ持ってたな……。
5:首輪を外すのもゲームの内か……。
6:五飛の死に対する小さな疑問。
[備考]
※参戦時期は一応17話以降で設定。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。
正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。
※以下の情報を式から聞きました。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※リーオーはホバーベース格納庫に置いてあります。
※【象の像】でなにか購入、首輪換金、施設サービスを使用したかはお任せします。
- 45 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:50:37 ID:1zZnPUgY
-
【両儀式@空の境界】
[状態]:疲労(小)、 ダメージ(小)
[服装]:私服の紬(上着排除)
[装備]:九字兼定@空の境界
[道具]:基本支給品一式(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0〜1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 、武田軍の馬@戦国BASARA
陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実
[思考]
0:私は死ねない。
1:当面はこのグループと行動。
2:ボロボロだし新しい着物が欲しい。行き先(ショッピングセンター)に呉服屋はあるかな……。
3:澪との約束は守る。
4:刀を誰かに渡すんだっけ?もったいないな……。
5:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。
6:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。
7:荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。
8:荒耶が死んだことに疑問。
9:首輪は出来るなら外したい。
[補足]
※首輪には、首輪自体の死が視え難くなる細工がしてあるか、もしくは己の魔眼を弱める細工がしてあるかのどちらかと考えています。
※荒耶が生きていることに関しては、それ程気に留めてはいません。
しかし、彼が殺し合いに何かしらの形で関わっているのではないかと、確信しています。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました
※以下の仮説を立てています。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。
・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※平沢唯から聞いた信頼できる人間に刀を渡すというプランを憶えています(引き継ぐかは不明)
- 46 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:52:37 ID:1zZnPUgY
-
【施設の備考】
【F-3/倉庫群】
・十二のコンテナが置かれている。うち四つは死の線が視えない。以下ルルーシュとデュオの推察。
・材質はガンダニュウム合金。
・線が視える八つはダミー、もしくは罠。
・首輪を外す技術があれば同じ要領で開封できる。
・中身は機動兵器。首輪を外した者へのボーナス。高性能機か脱出艇。ただしどれも何らかの不備がある。
・一機は内通者が仕込んだ不備のない機体がある(ルルーシュのみの推察)。
【E-3/象の像】
・【遺跡】に繋がる隠し通路の扉が壊されました。簡単に見つかります。
・象の上には聖人像が乗っています。効果は不明。
・自動販売機の商品一覧
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
象の像(ミニチュア):100ペリカ
お守り(健康・安産・優勝):1万ペリカ
矢×10:10万ペリカ
リフレイン:10万ペリカ
ブラッドチップ(スペック:低/高):50万ペリカ
弓:500万ペリカ
カラドボルグⅡ(レプリカ):1000万ペリカ
ゲイボルグ:(レプリカ):1500万ペリカ
エクスカリバー(レプリカ):2000万ペリカ
長刀:2000万ペリカ
鎧・兜:2000万ペリカ
警備ロボット:3000万ペリカ
オートロボット:6000万ペリカ
スーパーカー(フェラーリ・エンツォ、赤):8000万ペリカ
※機動兵器一覧
OZ-07MSトラゴス:3億ペリカ
GNR−010オーライザー:4億ペリカ
富岳:5億ペリカ
※施設サービス:換金律2倍
この換金機で首輪を換金した場合、金額は2倍になる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 47 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:54:15 ID:1zZnPUgY
-
【F-2/遺跡】
・自動販売機の商品一覧
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
天然水:150ペリカ
ジュース:200ペリカ
オール:1000ペリカ
ゴムボート:5万ペリカ
照明器具:10万ペリカ
モーターボート:100万ペリカ
西洋剣:1000万ペリカ
アサルトライフル(AK-47):2000万ペリカ
GNミサイル(2発):4000万ペリカ
木造船:6000万ペリカ
揚陸艇:1億ペリカ
※機動兵器一覧
ポートマンⅡ:2億ペリカ
OZ-09MMSパイシーズ:3億ペリカ
ドラクル:5億ペリカ
※施設サービス:転送装置
入力した任意の座標へ空間転移できる。ただし範囲は会場内に限定。
所要ペリカ:1人につき3000万ペリカ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 48 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/16(日) 21:55:53 ID:1zZnPUgY
- 以上で投下終了です。タイトルは以下のでお願いします。
“腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅
感想指摘、双方受け付けております。
- 49 : ◆mist32RAEs:2010/05/16(日) 22:17:55 ID:tmJbBkjY
- 投下乙です。
流石に海側の施設だけあってロボットもそれ系なんですね。
あとレプリカ宝具は真名開放不可という認識でいいのでしょうか。
互いの真意を誤魔化したままで表面上仲良くなっていくグループの何気ない会話が面白かったです。
憂……やはり天才。
そしてこちらもゼクス、一方通行、信長、ファサリナを投下しますが、
首輪についてやや踏み込んだ描写がありますので、ひとまず仮投下スレに投下してご意見を頂きたいです。
よろしくお願いします。
- 50 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/16(日) 22:41:01 ID:t95lFros
- 投下乙です
さて、謎のコンテナか。脱出するのも想定内だろうけどこれは不気味な
そして表面上は仲がいいが最後にはどうなるやら…
憂は凄いなw でも機体持ちが腹黒以外増えそうなんだよな…そいつらに勝てるか?
- 51 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/16(日) 22:54:41 ID:aMoWoC5U
- 投下乙です
機動兵器入りコンテナか、リボンス余裕だなw
憂、恐ろしい子…
モモ、学校は行っちゃらめー
- 52 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/16(日) 23:19:35 ID:aMoWoC5U
- >◆0zvBiGoI0k氏
改めて読んでて気付いたんですが、デュオ&式の位置情報はないのですか?
描写だとホバーベースから離れているのですが、位置情報がルルーシュら4人分しか見当たりませぬ
- 53 : ◆1aw4LHSuEI:2010/05/16(日) 23:57:59 ID:Uz6VfHTs
- それでは改めまして本投下します。
- 54 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/16(日) 23:58:28 ID:Uz6VfHTs
-
走る馬の上で、僕たち二人は無言だった。
僕も浅上も馬に乗るのが初めてで慣れていないから緊張しているっていうのもある。
だけど、一番の原因は、ライダーが死亡していたことを知ってしまったことなんだろう。
正直な話、僕自身はライダーに対してあまり良い感情を持ってはいなかった。
当然と言えば当然な事だ。だって、僕にとって彼女は冷酷な殺人者にすぎない。
真田の仇であり、僕自身だって殺されかけた。
浅上から話を聞いても、僕にとっての印象は変わらない。
だけど。きっと浅上にはライダーの、他の一面も見えていたのだろう。
完全に、とはいえないけれど、僕だってそれを理解できないわけじゃない。
他人にとっては、ただの化物かもしれない。
でも、確かに、自分との間に何かを感じた。
そんなやつが、僕にだっていたことがある。
今では見る影もない美しい吸血鬼。
一生をかけて償うと決めた相手。
それを選んだのは責任感だけじゃなく、生きていて欲しいと僕自身が望んだからだ。
きっと、その関係とはまた違うんだろうけど。
でも、同じぐらい浅上はライダーに生きていて欲しかったんだと思う。
背中に感じる感触と腰に回された腕。押さえられた嗚咽の声がそれを痛いほど感じさせた。
だけど、僕には浅上を慰めてやる余裕なんてない。
なんと言葉をかければいいのか分からない、というのが一番の本音ではあるけれど。
思い出してしまったのだ。分かっていたはずのことを。
ここでは、人は本当に簡単に死んでしまう。
千石、八九寺、神原、真田、セイバー。
僕は、それを分かっていたつもりだった。
だけど、そうだ、だけど。
やぱり全然わかっちゃいなかった。
早く合流しなければ、戦場ヶ原が、死んでしまうかも知れない。
やっと、僕はそんな当たり前のことを実感する。
「言葉」でなく「心」で理解できた。
だから、心が急いていた。
だから、気遣いが薄くなる。
前に神原から言われたことがある。
もしも――それでも誰か一人を選ばなくてはならない状況が訪れれば、
そのときは迷わず、戦場ヶ原先輩を選んであげて欲しいな
その通りだ。
僕は戦場ヶ原が好きだ。
あいつを守ってやらなきゃならない。
そのために他のすべてを犠牲にするなんて言えないけれど。
それでも、義務でもなく責任でもなく。
ただひとりの男として、僕はあいつを守りたいと思っているのだから。
原村によると戦場ヶ原は僕たちと同じE−5エリアにいるらしい。
だけど、今までの戦場ヶ原の位置から僕して、僕たちから見て対岸にいるってことは想像に難くない。
同じエリアにいることが分かってるのに会えない。遠回りしなくちゃならない。
そう、僕は焦っていた。
尋常じゃないはずの馬に突っ込むことや、背中に当たっているだろう感触への反応を忘れてしまうほどに。
こんなことじゃ、だめだ。
きっといいことにはならない。
だけど、どうしたらいいのか。いい考えは浮かばなくて。
ただひたすらに一心に、馬を走らせることしか今の僕には出来なかった。
- 55 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/16(日) 23:58:48 ID:Uz6VfHTs
-
「――――――!」
「――――――!?」
そんなときに聞こえてきた声。
何か言い争っているように聞こえる。
馬のハンドルのあたりに据え付けたデバイスを見ると、薬局と書かれた施設の近く。
これまでの経過時間で戦場ヶ原がここに移動してくるとは思えなかったから通りすぎようと思っていたんだけど……。
確かに誰か参加者がいてもおかしくはない。
正直、戦場ヶ原のことを考えると先を急ぎたくもなるけれど。
殺し合いに乗ってない相手なら、情報交換をしておくべきだろう。
「浅上、他の参加者だ。接触しようと思うけど、いいか?」
「…………はい」
少しだけ、僕に話しかけられて驚いたように身を震わせた後、浅上は僕の言葉に同意した。
こんな状態の浅上を他の参加者と出会わせていいのかとも思ったけど、放っていくというわけにも行かない。
何があるかわからないけれど、やぱり接触しておくべきだろう。
揉めているようだし、対応は慎重に考えた方がいいだろうけど。
僕は様子を伺うため、静かに馬を停めてゆっくりとそっちに近づいて―――あれ?
―――馬って、どうやって停めればいいんだ?
「……あの、悪いけど停まってくれないか?」
そう呼びかけると、馬は一鳴きだけして薬局を視認できるぐらいの位置で停まってくれた。
……最近の馬は賢いんだなあ。乗ったときも要件を伝えたらそのとおりにしてくれたし。
何かトラウマでもあるのかと思わせるぐらいに、こっちの命令から逸脱した行為はとらない。
できた馬もいたもんだ。
でも、停るときの鳴き声で向こうもこっちに気付いたらしい。
聞こえていた声が止んで、静かになった。警戒しているのだろう。
取り敢えず馬から降りて様子を伺ったけど反応はない。
でも、すぐに攻撃してこないってことは、話し合う余地があるってことだろう。
このまま見合っていても仕方ないし、、出来るだけ警戒させないようにこっちから自己紹介する。
「僕の名前は阿良々木暦! こっちは浅上藤乃。どっちも殺し合いには乗ってない。そっちは、どうだ?」
すると少しの間の後、薬局の中から金髪の男が銃を構えながら出てきた。
素人目にだけど、その姿は様になっていて銃の扱いに手馴れていそうに見える。
着てる服からして軍人かなにか、だからだろうか。
それにしても男、か。言い争ってた声は両方共女の子の声っぽかったし、後二人は薬局の中にいるんだろう。
それを守るようにこの人が出てきたってことは……殺し合いには乗ってない、かな。多分。
「私はグラハム・エーカー。君と同じくこの殺し合いのルールに従うつもりはない!」
と、告げた後。
「―――君が、阿良々木暦か。ふむ、聞いていた通りの容姿だな。あまり、時間はないが……。入りたまえ」
僕のことを知っているようだ。一体、どうして僕のことを知っているんだろう。
そんな疑問は浮かぶけど、中で聞いたらいいことだ。
馬にそこで待っててくれと呼びかけて、僕らは薬局へと入ることにした。
◎ ◎ ◎
- 56 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/16(日) 23:59:15 ID:Uz6VfHTs
-
少しばかり時間を巻き戻し薬局の中。
三人の人間がそこにはいた。
一人は白井黒子。ユーフェミアに撃たれ重症を負い、施設サービスにより治療され今は眠っている。
一人は天江衣。黒子を救うために一億ペリカの借金を独りで背負った少女。
一人はグラハム・エーカー。衛宮士郎の救出と二人の安全を天秤にかけた結果、『保留』という選択をした男。
何をしているのか。グラハム・エーカー。早く衛宮士郎を救出に行くべきでないか―――。
いや、彼を見捨てるというのなら、もっと戦場から離れるべきではないのか―――?
今の彼にそれを問うのは酷だろう。
彼の同行者は現在、無力な幼い少女と、致命傷を癒したばかりで眠るこれまた年端もいかぬ少女の二人。
その二人を置いて戦場へ向かうことなど出来るはずもなく。
かと言ってこれ以上逃げるとしても、戦力外二人を連れた上での逃走は危険も大きい。
何よりも、グラハム自身が、少年、衛宮士郎の無事を祈っている。
ここを移動して離れてしまえば、二度と出会うことがないかも知れない。
そんな考えすら浮かんでくる。
だからこその『保留』による待機。
どちらも取り落としたくないからこその、第三の選択肢。
だが、つい考えてしまう。
ひょっとしたら増援に向かうべきだったかも知れない。
ひょっとしたら全力で逃走すべきだったのかも知れない。
ひょっとしたら……どちらも失うかもしれない最悪の選択肢を選んでいるのかも知れない。
グラハム・エーカーはこの男にしては珍しく迷っていた。
本当に、自らの出した決断が正しかったのかを。
「―――すまないな、天江衣。不甲斐ないばかりだ。私としたことが」
「な、何を言うのだグラハム! 人は十全十美というわけにはいかない。完全無欠の選択など見つからないで当然だ!
それに、グラハムが千思万考して得た答えなのだから、きっと大丈夫だ! なんとかなる!」
だが、天江衣のまっすぐな言葉を聞いて理解する。
後悔など、迷いなど持っている場合ではないのだ。
こんな子供を死なせていいはずがない。あのような勇敢な少年を見捨てていいはずがない。
ならば、きっと自分の選択は間違っていない。
そう信じるしかないのだから。
「そうだな……。その通りだ。この私が泣き言などを言っている場合では無かった」
グラハム・エーカーは自分の選択を信じる。
そうと決まれば次に考えるべきは、これからのこと。
白井黒子が目覚めれば、どうするのか。
勿論、それまでに衛宮士郎と合流出来ることが理想的だろうが。
彼の位置情報は最早なく、少年自身にもこちらの位置を知る方法が無い以上それは望めない。
つまり、状況が動くこと。
白井黒子の覚醒後にどう動くか。
それまで動けないだろうからこそ、それを今考えるべきだった。
やはり、全員で彼の元へと向かうことが望ましいだろうか。
しかし、此の島にきてから一度も経験していない殺し合い。
それも、想像もつかないような異能をもってしての争い。
自分はいい。グラハム・エーカーはそう考える。
軍人なのだから。弱き者を守るために戦うのは当然のことだ。
だが、天江衣を戦いに巻き込んでもいいのだろうか。
殺し合いなどには縁のない、この可憐な少女を。
とはいえ戦闘力の無い彼女を一人きりにするわけにもいかない。
ある程度戦闘の出来る誰かとともにいてもらわねばならないだろう。
では、自分のみが行き白井黒子と天江衣には待機していてもらう、ということではどうか。
だが、納得するだろうか。白井黒子が。
グラハムの心にまた僅かな迷いが生まれる。
- 57 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/16(日) 23:59:39 ID:Uz6VfHTs
-
「―――……? ここ、は―――……?」
しかし、それが具体的な形を見せる前に、白井黒子の目が覚める。
疲労も含めて肉体が回復した以上、それほど長く眠りが続くはずも無かった。
「しらい、しらい! 目を覚ましたのか!」
「衣さん……。そう、わたくしは撃たれて……。え? 何故傷がありませんの? それに、士郎さんは……?!」
「落ち着け、白井黒子。ここは薬局だ。傷は施設別サービスで治療した。―――衛宮少年とは、まだ合流出来ていない」
冷静に答えるグラハム。
「では、まだ士郎さんは……―――!」
瞬時に意識がはっきりとする黒子。
一刻も早く駆けつけなければとばかりに勢い良く起き上がる。
「ま、待ってくれ、白井! まだ傷も癒えたばかりでそんな無茶を―――!」
それを留めるは天江衣。
正直な話、彼女は怖かった。
白井黒子が危険な戦場に繰り出そうとすることが。
自分と友達になると言ってくれたものが、また死んでしまうのが。
―――どうしても、伊藤開司と被って見えてしまい。
「―――もっと、もっと無茶をする人が行ってしまったんですの! だから、わたくしは―――!?」
しかし、それも黒子には通じない。
普段の彼女であれば天江衣相手にここまで怒鳴ることはないだろう。
衛宮士郎という少年が未だ死地にいることが、黒子の頭から冷静な思考を排除していた。
「待て、衣、白井黒子。―――どうやら、他の参加者のようだ」
二人を制しようと口を開きかけたグラハム・エーカーは外から聞こえた馬の声に反応する。
思い出すのは支給品だった馬のこと。
それを考えれば、他の参加者が馬を移動手段としていると言う可能性にはすぐに思い当たった。
どう対応すべきか、わずかに迷い身構える。
すると、向こうもこちらの存在に気がついているようで、声をかけてきた。
「僕の名前は阿良々木暦! こっちは浅上藤乃。どっちも殺し合いには乗ってない。そっちは、どうだ?」
そして時間を巻き戻す。
◎ ◎ ◎
- 58 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:00:05 ID:t./tb2yg
-
情報交換のターン。
筆談等を適時交えて盗聴に備えながら、各自、己の知ったことを伝え合う。
開会式の少女の家族、天江衣。学園都市の風紀委員にしてレベル4のテレポーター白井黒子。ユニオンの軍人にしてフラッグファイターのグラハム・エーカー。人間もどきの吸血鬼未満、阿良々木暦。歪曲と千里眼の少女、浅上藤乃。それぞれの元々の知り合いの名前と容姿、簡単なプロフィール。
ギャンブル船、希望の船、エスポワール。セイバーのマスター、衛宮士郎。蝸牛に迷った少女、八九寺真宵。元帝愛幹部、利根川幸雄。普通の女子高生、秋山澪。ギャンブラー(?)、伊藤開司。戦国武将、明智光秀。エスポワール会議。OZの軍人、ゼクス・マーキス。投影魔術と解析魔術。仲間割れ。そして、日本人を殺す女、ユーフェミア・リ・ブリタニア。世界有数のデジタル派、原村和。『黒子の仮説』。聖杯戦争。ガンダムのパイロット、ヒイロ・ユイ。その同行者の女、ファサリナ。エスポワール・ノート。参加者よりと予想される工作員、忍野メメ。正義の味方、衛宮士郎、首輪解除の鍵となりうる。政庁崩壊。政庁跡での戦闘。狂った女。治療サービス。その際に現れた主催者側の少女、禁書目録。
殺人に乗った少女、平沢憂。牧師のような服を来た少年、デュオ・マックスウェル。中性的な和服の少女、両儀式。ナイトオブゼロ、枢木スザク。熱き戦国武将、真田幸村。気高い少女、セイバー。おくりびと。明智光秀と織田信長は危険な存在。駅襲撃。東横桃子とルルーシュ・ランペルージ、平沢憂と手を結んでの不意打ち。位置ワープ。F-7/ホールと条件入場の扉。USBとパソコン。バトルロワイアルサポート窓口担当、原村和。時間経過により開示されていく情報。ライダーの襲撃。浅上藤乃との合流。ライダーの死亡。位置情報により戦場ヶ原ひたぎと合流するためにここまで来たこと。
まず、初めに加治木ゆみを殺した。琴吹紬と千石撫子を逃した。月詠小萌は藤乃の行動の結果死んだ。ライダーと出会い同盟を結んだ。駅を襲撃して真田幸村を殺した。駅で枢木スザクと銃を持った男、神原駿河、一方通行と戦闘した。アリー・アル・サーシェスと同盟を結んだけれど、即座に別れた。阿良々木暦を殺そうとして殺せなかった。そして、人を殺すことをやめた。
◎ ◎ ◎
- 59 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:00:25 ID:t./tb2yg
-
それぞれの情報が開示され、空いていたピースがいくつか埋まる。
僕の情報も彼らの持っていた考察の裏付けや、新しい発見にもなったらしい。
だが、彼らにとってはそれ以上に衝撃だったことは浅上による罪の告白のようだった。
繰り返される謝罪の言葉。自身の罪を隠すこともなくさらけ出した浅上。
でも、三人の反応は分かっていたことだがあまり芳しいものじゃなかった。
白井は不信感を隠そうともしなかった。
「―――正直、阿良々木さんには申し訳有りませんけれど、信用できませんわ。
改心したふりをしている、ということも考えられますし。
それに、改心が偽りで無かったとしても、それをどう償うつもりですの?
もし、お姉さまを殺した人間が貴女だったのなら、私は到底許せそうにはありませんわ」
天江は泣いてしまった。加治木ゆみは彼女の知り合いで、友達になれたかもしれない人、だったらしい。
「……すまない。衣は……あさがみを許してもいいものか、分からない……」
グラハムさんは白井ほど感情的ではなかったけれど、やはり信用しきれないようだ。
「―――人を殺したということ。それ自体は仕方ないと許せることかも知れない。
私も軍人だ。戦場で人間を殺したことはなんどもある。この狂った殺し合いを戦場と見立てれば分からない話でも無い。
しかし、ここで相手をするのは死ぬ覚悟のある軍人ではない。殺し合いとは無縁なはずの一般人だ。
しかもそれを享楽的に殺したと言う人間を手放しで信用できるほど、私、グラハム・エーカーは人間が出来てはいないな」
冷たい、いや、当たり前の言葉だった。
浅上がしてきたことは、それだけ罪深く許されざる行為なのだ。
どれほど罵られても償いには決して値しないほどの。
浅上は、それらを聞いて辛そうだった。
泣きそうだった。罪を噛み締めていた。
だけど、泣いてはいなかった。
誤魔化さず、罪と向きあおうとしていた。
そんな彼女を見て僕は思う。
彼らの言っていることはもっともで、許してもらおうなんて図々しいことだと。
浅上は、許して欲しいわけではないだろう。甘んじて責を受けるつもりだろう。
しかし、それすら傲慢なことかもしれない。
なぜなら、意図せずして選択肢を狭めているのだ浅上は。
だって、許せなかったとして、許さなかったとして。
どうすればいい。今まで殺し合いに乗っていなかった人間は。
殺すか? 浅上は殺意を向けられるても受け入れるつもりはあるだろう。
それはそれでひとつの選択肢なのかも知れない。
だが、殺せるわけがない。殺し合いを選ばなかった人間が、無抵抗な人間を殺せるわけがないのだ。
心情的には兎も角、行動としてそうしてしまえば、それはゲームに乗ったものと同じになってしまうのだから。
だからといって、許すことも難しい。殺し合いにのっていない人間は多かれ少なかれ、誰かとの死を乗り越えてきただろう。
今更、それを行っていた人間にごめんなさいと言われても、怒りを抑えることは難しい。
だったら、だったらどうするのか。
決まっている。
- 60 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:00:52 ID:t./tb2yg
-
「少年、君にも聞きたいことがある。―――どうして、君は浅上藤乃を許せた?」
そう、僕だ。
既に同行している僕が、どうして浅上を許せたのか。
その確認と、理屈の追求。
「聞いてみたところによれば、君の元からの知人二人が死ぬことになった遠因も、浅上藤乃によるもののようだ。
だというのに、何故だ、少年。何故君は浅上藤乃を許したんだ?」
だから、僕は答えた。
「―――許したわけじゃない。……別に僕は浅上がやったことを許したわけじゃないんですよ。
神原も、千石も僕にとって大切な友達でした。―――それを手放しに許せるほどに、僕だって人間が出来ているわけじゃない」
そうだ。
かつて、どうしようも無いほどに敵対した男を殺されて。
それを、許せなかったのが、僕だ。
人を殺した浅上を、それを楽しんでいた浅上を許せるはずが無い。
「……ならば、何故だ。君はどうして彼女と同行している」
訝しげなグラハムさんの顔。
そうだろう。許せないなら、どうして僕は浅上の側にいる?
ちらりと浅上を見れば、少し不安そうな顔をしていた。
大丈夫。既に答えは得ている。
そう心の中でつぶやいてグラハムさんに目を向けた。
僕は、覚悟を決める。
―――いや、覚悟なんて。もっと前に決めていた。
「―――それでも、浅上に生きていて欲しいと思ったからです。
許せなくても、仇でも、あの涙は、後悔は嘘じゃなかった。
僕を殺そうとした浅上も、僕を生かそうとした浅上も、嘘じゃない。
人殺しをしないと誓った彼女は、僕と一緒にここまできた浅上は、普通の女の子だった。
僕は……嫌だ。こんな子が救われないのは、真っ当に生きられないことは嫌だと思った。
浅上藤乃を許せない気持ちは本物です。だけど、それ以上に、僕は浅上に生きていて欲しい。
だから。
僕は浅上を守る。―――ただ、それだけです」
ちゃんとした、誰にでも誇れるような理屈があるじゃない。
こんな、ただの短絡的かもしれない、だけど嘘じゃない。
僕にはそんな感情しか無い。
納得してくれるとも思っていないけれど。
押し付けられるわけも無いけれど。
それが、僕の偽らざる気持ちだった。
「……そうか」
グラハムさんは少し考えていたようだった。
そして、向き帰り、白井、天江のことを見る。
天江は、泣きながらもしっかりとグラハムさんを見据えていた。
白井は僕を少し見た後で、グラハムさんに向かって頷いた。
こちらに顔を向けて、彼は僕らにこう言った。
「では、少年。君のその意志に免じて判断を『保留』することにしよう。
これからの彼女の行動で、私たちが浅上藤乃をどう扱うかが、決まる」
……それは、この場で出来る最大限の譲歩と言ってもいいものだと思う。
僕も、浅上も驚いて彼を見る。
グラハムさんは少しだけ笑うと言った。
「許さなくてもいい―――か。少年、君はなかなかユニークだな」
こうして僕たちは、本当の意味でグラハムさん達と合流することができた。
◎ ◎ ◎
- 61 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:01:15 ID:t./tb2yg
-
さて、こんな心温めるエピソードのあとで非常に心苦しいところではあるんだけれど……。
僕の方からやはりもう一つ提案をしようかと思う。
いや、なんていうか空気読めとか、おいおいさっき言ったことはどうしたんだとか聞かれても困るんだけど。
これから先のことを考えたら。多分、こうすることが一番いいと思うから。
「ふむ、情報も集まったところでこれからどうするかだが―――」
「ごめん、グラハムさん。先に僕からいいですか?」
まとめようとしたグラハムさんの声を遮っての発言。
みんなの視線が僕に集まる。
う。ちょっと緊張。
あまり大勢に注目されたことないしなあ。
「なんですの? 阿良々木さん。わたくし、出来ましたら早く―――」
「うん、僕も早く行動したい理由はあるよ。その上での提案がしたい」
ちょっと苛立を見せた白井。
気持ちは分からないでも無い。
僕だって戦場ヶ原を早く迎えに行きたいのだし。
「僕たちの目的は大きく分けると二つだ。
ここから見て、北東、東方面にいる知り合いの探索と、天江の安全の確保。
―――勿論、天江以外はどうでもいいってわけじゃないけどさ。
全く戦えないんだし、最優先で安全を確保することに異論があるやつはいないと思う」
見わたせば皆ここまでは特に反論なし。
まあ、当然か。一応、そういうふうに言葉を選んでいる。
「で、それがなんなんですの?」
「慌てるなって。―――うん、だから僕は二手に別れることを提案したい」
この時点でグラハムさんだけが少し反応する。
僕が何を言おうとしているのか大体わかったのかも知れない。
白井、天江、浅上は未だピンときていないようだけど……。
「で、班分けは僕とグラハムさんで政庁の方へ。天江、白井、浅上は安全なところへ行くってことでどうだろう」
……続く僕の言葉で爆発した。
「…………なっ!」
「…………ふぇ?」
「…………え」
- 62 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:01:37 ID:t./tb2yg
-
「っ……どういうおつもりですのっ!?」
そして、彼女たち三人の中で最も早く反応したのは白井。
中学二年生という年齢を感じさせない頭の良さ。
それが彼女の強さの一因だということは、まだ僅かにしか付き合いの無い僕でも分かる。
そして、だからこそ最初に声を上げて、最も早く攻略される。
―――こう見えても僕は、頭の回る女子中学生の扱いには慣れているんだ。
「どういうつもりもなにも……言った通りだよ。二手に別れた方が効率がいいのは当たり前だろ?」
「別に、チームを分けることに反対しているわけではありませんわ! 私が言いたいのは……!」
「―――どうして、自分が政庁側じゃないのか、って?」
「―――っ」
……まあ、情報収集の話っぷりから少しぐらいは推察出来る。
衛宮士郎ってやつと白井は随分仲良しらしい。
それを考えると、白井の心理としてはやっぱり自分が探しに行きたかったんだと思う。
だけど、それはだめだ。ああ、全然だめだ。
「白井は、どうして政庁に行きたいんだ?」
「決まってますわ! 士郎さんを放っておけないからですの!」
「―――その気持ちはわからなくはないよ。僕だって戦場ヶ原を放っておけないから、行きたいんだ」
「だったら……!」
急く彼女を制するように、片手を出して目を見つめた。
「―――衛宮士郎ってのはさ。お前にとってなんなんだ?」
「―――え」
白井の動きが止まり、固まった。
「僕にとって戦場ヶ原ひたぎは恋人で、他のすべてより優先すべき存在だ。
だから僕はあいつを迎えに行く。でも、お前にとってはどうだ。
お前にとっての衛宮士郎は、僕にとっての戦場ヶ原ひたぎに匹敵するほどの理由なのか?」
「それは―――……」
声のトーンが落ちる白井。
……ひどいこと言ってるなー。僕。
「悪い、白井。でもさ、それだけじゃないんだ。もし二組に分けるとしたら、この組み合わせ以外にはないと思うから。
だから、こう提案させてもらった」
「……どうして、ですの?」
「まず、必要なのは天江の安全を出来るだけ確保することだと思う。それが、僕らにとっての一番身近な命題だ。
これを遂行するなら、さっき言った白井、天江、浅上のチームが一番だと思う」
ふむ、と今まで黙って僕の意見を聞いていたグラハムさんが口を開く。
「なるほどな。千里眼とテレポートか」
「ええ、そういうことです」
顔を向け僕もそれに頷きを返す。
白井も分かったようだ。
浅上は……目を伏せていてよく分からない。
天江は。……やばい、この子会話についてきてなくないか。
「……千里眼による索敵と、テレポートによる離脱。そういうことですの?」
僕は、そのとおり、と言葉を返す。
そう。取り敢えず危険人物の情報は大量に得たのだ。
安全なやつと危険なやつは、今の僕たちなら大体わかる。
参加者名簿を持っていた浅上なら容姿も問題なく判別可能ということもあるし。
変装をされたらややこしいかもしれないけれど……。
まあ、そこは取り敢えず怪しいやつは避けることにすれば、大きな問題はにはならないだろう。
で、危険人物なら白井のテレポートだ。
女の子三人程度なら一緒に移動可能というその能力。
射程や疲労、精度という制限を考えても、これ以上逃げるのに適した能力もないだろう。
こうして敵に気づかれる前に離脱を繰り返していれば、危険な目に合う可能性はずっと減らせるだろう。
「……わかり、ましたわ。わたくしもそれで構いませんの」
うなだれるように了承する白井。ちょっとかわいそうだった。
白井は頭がいい。つまり、それは理屈で折れてくれる、ってことだ。
まず先に感情論を理屈で制してから、理論を見せて納得させる。
というか、初めのはったりがやっぱり効いてるみたいだ。
よく考えたら結構穴のある理論なんだけど……。
まあ、うまくいったからよし。
次は……天江、かな。
- 63 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:02:05 ID:t./tb2yg
-
「天江は、これでいいか?」
「衣は…………」
天江は分からないなりに話を聞いていたらしい。
とりあえず、チーム分けがどうなるか、ということはわかっているようで。
目に涙を溜めながら、僕を見る。
「衣は……、もう、グラハムと離れるのは……」
うわ、泣きそうだ。
どうしよう。天江に関して言えば、説得のために何も考えてなかった。
チラリとグラハムさんの方を見れば厳しい表情。
……困った。どういうつもりでそんな顔なのか分からない。
けど、取り敢えず、助けてくれはなさそうだ。
仕方ない。頑張ってみよう。
「天江……」
「……ひゃ! あ、ありゃりゃ木!?」
突然抱きしめられて驚いた声をあげる天江。
名前、噛んでる噛んでる。
―――えーと、ここからは。
「……天江にはさ、危ない目にあって欲しくないんだ。だから言う事聞いてくれないか?」
「だ、だが……衣はグラハムと……」
む。まだ無理か。
仕方ない。こうなったら八九寺ばりの扱いで―――。
……いや、それはグラハムさんが怖いのでパス。
正攻法にしよう。
ていうか、あの、グラハムさん。
心なしか、顔がさっきよりも厳しくなってるんですが……。
「その間、好きなこと……。そうだ、ギャンブル船に行ってればいい。たしか天江は麻雀が好きなんだよな?」
「……ギャンブル船? 麻雀?」
ぴくりと天江が体を震わせる。
抱きしめているから表情は見えないけれど、この感触は、行けるか?
僕は天江の耳元で優しく言う。
「そう、ギャンブル船。たしか1000万ペリカ持ってるんだよな? だったらそれを元手にギャンブルしたらいい。
それに、もう言ってた準備時間は過ぎてるし、ギャンブルルームにいる間は殺し合いは出来ない……。
それがいいって! な、天江! ギャンブル船で待ってないか? 僕たちはちゃんと帰ってくるからさ」
「……ペリカをかけての麻雀」
天江は一呼吸ぐらい黙った。
それがどうしてなのか僕にはわからないけれど、天江には天江の葛藤があったんだろう。
僕から身を離すと、まだ少しうるんだ瞳で、だがしっかりと頷きを返した。
「分かった……衣も、それでいい……」
- 64 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:02:25 ID:t./tb2yg
-
うん、いい子だ。
できるならもうちょっと抱きしめていたいぐらいに。
でも、それは時間が無いからまた今度ということで。
そして、最後。
グラハムさんは多分僕と同じ考えだろう。
だから、これが最後の説得になる。
―――浅上藤乃。
「浅上は、どうだ?」
「私は、別に、その、阿良々木さんが決めたことなら……」
俯いたままで言う彼女に申し訳なく思う気持ちがある。
こいつならきっと反対しないだろうとわかっていた。
控えめで自分を押し通すことの無い浅上なら。
それを分かっていて、僕はわざわざ浅上に尋ねた。
……やっぱりひどいことしてるな、僕は。
だけど、きっとこれは浅上にとっていいことだ。
多分、おそらく、きっと……。でも。
だから。
「本当に、いいのか?」
「はい、大丈夫です……」
「そうか……」
「それに、阿良々木さんのこと、信じてますから」
信頼してくれている、いや、信用されていると言うべきか。
感情では納得できていないだろうに、彼女はそう言った。
そう、頷いてくれた。
僕を、信じてくれた。
―――だったら、僕も意志を貫き通すだけだ。
「だったら、ここで別れることになるな」
「はい……」
「でもさ」
浅上が僕を見上げる。
僕はそれを見返した。
「これが、今生の別れってわけじゃない。必ず後でまた会おう。
浅上が今まで傷つけた人に謝るなら、僕もそれについて行く。
一緒に謝ってやることは出来ないけど、側で支えてやることぐらいはできるから。
だから―――」
「だから、生きてくれ。僕はお前に死んで欲しくない。生きて必ず、もう一度会おう」
そして、そんな死亡フラグのようなことを口にした。
浅上は、少しだけ涙を流して答えを返す。
「―――はい。阿良々木さんも、死なないでください。私はあなたに生きていて欲しい」
そして、僕たちの運命は分岐する。
なんて大層なことを言っても。
この時の僕には先に何が起こるかなんて、予想もついていなかったのだけれど。
◎ ◎ ◎
- 65 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:03:04 ID:t./tb2yg
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「ひどい人ですわよね、阿良々木さんって」
「え?」
先に出発したグラハムさんと阿良々木さん。
表に出て、二人を見送った私に白井さんがかけてきた言葉がそれだった。
「そんなこと……」
「ありますわよ。……僕が浅上を守るだなんて言っておいてこの有様。
甲斐性なしにも程があるというものですの」
阿良々木さんを悪く言われるのは嫌だけど、彼女の言葉に怒りや不快感より先におかしさがこみ上げてくる。
白井さんはきっと、私の立場になって考えて言ってくれている。
私が人を殺したと聞いたとき、激しい怒りを見せた彼女も、こうしてみれば普通の女の子だった。
「……仕方ないですよ。阿良々木さんにはちゃんと恋人がいるんだから」
「そう! そこですわよ! あの男、恋人がいると言うのに、あんな思わせぶりなことを言うだなんて何を考えてますのやら。
衣さんのことも抱きしめていましたし、全く、とんだすけこましの好色野郎ですわ!」
大げさなリアクションをする白井さんが少し可愛くて。
私は思わずクスリと笑う。
「……いいんですよ。私は別に阿良々木さんが好きなわけじゃありませんから」
「……そうなんですの?」
先輩も、ライダーさんも、死んでしまった。
私が好きになった人は、みんな死んでしまう。
なんて、そんな思いが湧き上がる。
だから、というわけでもないけれど。
阿良々木さんのことを好きになっちゃいけない。
ちゃんとした恋人のいる彼に恋してはいけない。
だから、これでいい。
あの人にこんなに心配してもらえるだけで。
私には、充分すぎるぐらいだ。
「……ふふ、心配して下さってありがとうございます」
「……いえ、別に、わたくしは貴女を心配したわけではありませんのよ?
ただ……あの方に腹が立っただけと言うか、今考えたらうまく言いくるめられてしまったことに対する怒りというか……。
……ああ、もう! 大体、わたくしはまだ浅上さんを信用したわけじゃないのですわよ? そこをちゃんと理解して欲しいものですわ!」
ふいっ、と顔をそむける白井さん。
なんだかどこかで聞いたことがあるような態度のような気がするけれど。
「出発はもう少ししたらしますので、お手洗いその他準備をしておいてくださいまし!」
そう言って薬局に戻る彼女。
……阿良々木さんが私をこちらに加えた真意は掴みきれないけれど。
こんなふうに、私が普通の女の子みたいに話す場を与えてくれるつもりだったのかな、と。
勝手に感じて嬉しくなった。
- 66 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:03:26 ID:t./tb2yg
-
「…………あら?」
「……あの、その、あ、あさがみ……」
ふと気づけば、薬局の扉の端からウサギの耳のように長いカチューシャが出ていた。
天江さんだ。
知り合いを殺した私にまだなれていないのか、表情は固い。
仕方ないことだと思う。私も、心を引き締めて彼女と向き合った。
「……なんでしょうか」
「……あさがみ、私と! ……私と、友達になってくれないか……?」
そう言って、震えながら差し出される手。
彼女なりの精一杯だろう勇気を振り絞ってだろう行動。
私みたいな人殺しを、受け入れようとしてくれる。
……なんて、いい子なんだろう。
―――本当の意味で、阿良々木さんの言葉が分かる。
ああ、この子を死なせちゃいけない。
こんな子を死なせちゃいけない。
だから、虫がいいことかも知れないけれど。
人を殺した私が、言っていいことなのかわからないけれど。
人を守ってもいいだろうか。
この子を。大切にしてもいいだろうか。
「浅上……? あの……」
返事をしない私に不安になったのか。
天江さんは眉を下げた顔で私を見上げる。
そんな彼女が可愛くて、思わずぎゅっと彼女を抱きしめ。
私はそれの答えにした。
「わ、だ、だから抱きしめるな、撫でるな、子供扱いするな〜!」
ライダーさん。
私、がんばります。
あなたは私を利用していただけなのかも知れないけれど。
私はあなたに会えてよかった。
だって。
私はあなたに生きていて欲しかった。
その気持ちはきっと嘘じゃないから。
私、がんばります。
あなたはそんなこと望んでもいないかも知れないけれど。
わたしが今こうしてここにいることは、きっとあなたがいてくれたおかげでもあるんだから。
ライダーさん。
本当に、ありがとうございました。
- 67 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:03:47 ID:t./tb2yg
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【E-4 薬局/一日目/夜中】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康、首輪爆発まであと11時間(現在の負債:1億ペリカ)
[服装]:いつもの私服
[装備]: チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2
[道具]:麻雀牌セット、レイのレシーバー@ガン×ソード、水着セット@現実、エトペン@咲-Saki-
ペリカード(残金1000万)、サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
1:誰にもバレないように、負債を返済する。
2:白井、浅上と一緒にギャンブル船に行って麻雀をする。できればそこで一億ペリカを稼ぐ。
3:グラハムを信じる。
4:《はらむらののか》と《清澄の嶺上使い》を救い出したい!
5:ギャンブルではない麻雀をして友達をつくる。
6:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる。
7:皆が望むとあらば麻雀に臨みペリカを入手する。
8:インデックスと友達になりたい。
9:浅上、白井とは友達になれた……?
[備考]
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※帝愛グループに1億ペリカの借金をしました。借金は定時放送を迎えるごとに、倍額になります。
7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、睡眠中
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録、
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:天江衣、浅上藤乃とともにギャンブル船に行く。危険はできるだけ避ける。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
4:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
5:士郎さんが心配、意識している事を自覚
6:士郎さんはすぐに人を甘やかす
7:危険人物を警戒
8:少しは士郎さんを頼る
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:浅上藤乃を一応警戒。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。
・ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
・その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※美琴の死を受け止めはじめています。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
- 68 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:04:08 ID:t./tb2yg
-
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、疲労(小)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録 、伊達軍の馬@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式、
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
1:天江衣、白井黒子とともにギャンブル船に行く。危険はできるだけ避ける。
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを探す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※阿良々木と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※移動手段には伊達軍の馬@戦国BASARAを用いる予定です。
◎ ◎ ◎
- 69 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:04:30 ID:t./tb2yg
-
「―――それにしても、少年。君はなかなかにしたたかだな」
「……何を言ってるんですかね。グラハムさん」
夜の道、ヘッドライトに照らされたアスファルトにどこか不気味な雰囲気を感じている中。
軍用ジープを走らせながらの言葉に、一応僕はすっとぼけてみる。
グラハムさんはニヤリと笑うと僕の方を横目で見た。
「阿良々木少年、君のやりたがっていることは一見理論的だがその実、大して衛宮少年と変わらない。
―――君は、少女たちを危険な目にあわせたくなかった。そういうことだろう?」
―――50%正解。
まあ、つまりそういうことだ。
わざわざあんなことを言って男女でチーム分けをしたことの理由としては。
いや、別に女の子を馬鹿にしてるわけじゃない。
白井も、浅上も僕よりずっと強いことは分かっている。
彼女たちにしか出来ないことなら、僕は遠慮なく頼るつもりだ。
何もかも自分でやろうというほどに、僕は自信家でも独善者でもない。
だけど、今回やることは、戦闘じゃない。
ただの知り合いとの合流で、必ずしも戦闘能力が必要というわけじゃない。
だったら、わざわざ危険だと分かってる場所に女の子を行かせるよりも。
僕が行った方が気が楽だって言う、ただそれだけの話。
「それがわかってたから、僕の意見に反論しなかったんですか?」
「そういうことだ。―――君が言い出さなけば私が言っていたかも知れない」
もっとも、君ほど上手く言いくるめることが出来たかは分からないが。
そう言って笑うグラハムさんは格好良い。
こういうまともな大人は本当に久しぶりに会った気がした。
いや、僕の両親とかも別に普通なんだけどさ。
まあ、本当はもう一つ理由があるんだけれど―――。
「そして、浅上藤乃のため、か?」
……残り50%も正解だった。
浅上の今までに迷惑をかけた人に謝りたい、っていうのは立派な行為だと思う。
後ろめたくなって隠したくなってもおかしくない過去と、まっすぐに向き合っている。
それ自体は攻められることでも何でもない。
だけど。あいつは殺人者だ。
多分、あいつのせいで殺し合いに乗ってしまった東横が、あいつの謝罪を聞いたからってどうなる?
殺意を向けられるだけだろう。
そうでない参加者だって、誰もがグラハムさん達みたいに受け入れてくれるとも限らない。
排除しようとするやつだっているだろう。
そうなれば、生きるために殺すか、嫌悪感のために殺せず死ぬかの二択しかない。
どちらにしても最悪。選ぶことになった時点でどうしようもない状況。
あいつにはそんな目にあって欲しくない。
だから、戦地から、人が多く集まる点から遠ざけた。
できるだけ他の参加者と接触しない作戦を伝えた。
浅上の最悪を、出来るだけ遠ざけるために。
自分勝手な自己満足だと分かっているけれど。
「……天江と、白井には悪いことをしたと思っています」
「気にするな、少年。君の狙いがなんであれ、語られたメリットは嘘ではない。
それに、説得の言葉だって嘘とは思えなかった。なにより、衣を案じてくれた気持ちは本物なのだろう?
―――だったら、構わないさ。君と私の利害は一致している」
「―――ありがとうございます」
―――さて、少し急ごうか!
そう告げたグラハムさんはアクセルを強く踏み込んで。
軍用ジープは加速した。
ずっとずっと、守ってやらなくちゃって思ってた。
お前はぼくの彼女だ。
強くも無い僕だけど。
それだけは他人には譲れない。
待ってろ、戦場ヶ原。
すぐに、僕が行くから。
お前を迎えに行くから。
脱出の目処が付いたんだ、だからみんな一緒にで帰ろう。
そんなちっぽけな願いぐらい、きっと叶えてみせるから。
だから。
- 70 :阿良々木暦の暴走 ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:05:14 ID:t./tb2yg
- 【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30、軍用ジープ@現実
[道具]:基本支給品一式、、ゼクスの手紙、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム〜戦場の絆〜』解説冊子、
双眼鏡@現実、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル、1万ペリカ、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
0:阿良々木暦とともに衛宮士郎ら信頼できる知り合いと合流する。
1:天江衣をゲームから脱出させる。
2:衛宮士郎とヒイロ・ユイを会わせ、首輪を解除する。
3:首輪解除後、『ジングウ』を奪取または破壊する。
4:主催者の思惑を潰す。
5:ヒイロからもっともっとガンダムについて詳しく聞きたい。
6:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。
※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
7:衣の友達づくりを手伝う。
8:夜は【憩いの館】で過ごすべきか。『戦場の絆』も試してみたい。
9:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
10:死ぬなよ…少年。
11:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換しました。
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(中)
[服装]:直江津高校男子制服
[装備]:マウンテンバイク@現実 拡声器@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10
毛利元就の輪刀@戦国BASARA、
土蔵で集めた品多数
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
基本:知り合いと合流、保護する。
0:グラハム・エーカーとともに戦場ヶ原ひたぎら信頼できる知り合いと合流する。
1:憂をこのままにはしない。
2:桃子、ルルーシュを警戒。
3:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
4:千石……八九寺……神原……。
5:太眉の少女については……?
6:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
7:浅上らの無事を願う。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※会場に生まれた綻びは、あくまで偶発的なものであり、今後発生することはありません。
※巨神像はケーブルでコンソールと繋がっています。コンソールは鍵となる何かを差し込む箇所があります。
※原村和が主催側にいることを知りました。
※サポート窓口について知りました。
※衛宮邸は全焼しました。小さく燻っているのみです。
※土蔵にあった魔方陣の効力が消失しました。
※土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※藤乃と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換をしました。
※衣の負債について、気づいていません。
- 71 : ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 00:06:42 ID:t./tb2yg
- 以上で投下終わります。
仮投下からの大幅変更及び誤爆申し訳ありませんでした。
内容に関する指摘等ありましたらお願いします。
- 72 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/17(月) 00:44:33 ID:gBPyjOpA
- 投下乙です
さすがはらら木さん、一通りのフラグを立てらっしゃる
そこに痺れ(ry
- 73 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/17(月) 13:38:24 ID:gBPyjOpA
- >◆0zvBiGoI0k氏
>>52の質問への返答をお願いします
位置情報が確定しないと予約状況まとめが作れない…
- 74 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/17(月) 15:17:10 ID:sKY05tnI
- 失礼しました。デュオ達の位置は【E-3/工業地帯/1日目/夜中】とします。ホバーベースからは見えない程度の距離とお考えください。
それとmist氏へ。レプリカ宝具は単なるイミテーションの意味合いが強いです。武器としての性能は大して良くありません。
- 75 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/17(月) 15:29:06 ID:gBPyjOpA
- >>74
回答ありがとうございました
- 76 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/17(月) 15:46:29 ID:gBPyjOpA
- >◆1aw4LHSuEI氏
予約状況まとめを作っている最中に気付いたのですが、グラハムと暦の位置情報が抜けているのでそちらの指定をお願いします
- 77 : ◆1aw4LHSuEI:2010/05/17(月) 20:10:30 ID:t./tb2yg
- >>76
申し訳ありませんでした。
【E-4 北東側/一日目/夜中】
と、してください。
- 78 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/17(月) 20:26:04 ID:gBPyjOpA
- >>77
対応ありがとうございました
- 79 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/17(月) 21:55:22 ID:UXkG1U1Y
- 投下乙です
>◆0zvBiGoI0k氏
『“腹黒の騎士団・バトルロワイヤル・ツアー御一行様”の旅』の分割指定をお願いします
>◆1aw4LHSuEI氏
『阿良々木暦の暴走』の分割指定をお願いします
- 80 : ◆0zvBiGoI0k:2010/05/17(月) 22:43:56 ID:sKY05tnI
- 分割は前後編、>>32で分割です。32の最後の◇は後編の頭に置き換えてください。
毎度お世話様です。
- 81 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:24:56 ID:vieQ42Jw
- ではゼクス信長一方ファサリナの本投下いきます
- 82 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:25:31 ID:vieQ42Jw
- 此時、信長敦盛の舞を遊ばし候。
人間五十年、
下天の内をくらぶれば、
夢幻の如くなり。
一度生を得て、
滅せぬ者のあるべきか、
と候えて、
螺ふけ、具足よこせと仰られ、
たちながら御食をまいり、
御甲めし候ひて御出陣なさる。
――『信長公記』
◇ ◇ ◇
火傷とは負傷の中でも厄介な種類のものだ。
おおよその場合は皮膚の破壊がメインとなるため、内蔵や骨と比べ軽く見られがちであるが、侮ればたちまち命に関わるダメージとなる。
血液を含む体液の流出、それに伴う血圧の低下、さらにショック症状、合併症などなど。
そもそも骨まで届くダメージが軽いわけがないのだ。
ゼクスは士郎たちと接触した際に、それを隠してユーフェミアの探索を優先した。
つまり自身の治療を後回しにすることを選んだ。
結果として見れば、それは悪手と言わざるを得ないだろう。
痛みはなく、傷さえ見せなければ彼らに隠し通すことは難しくなかった。
だがそれは傷が浅いのではなく、神経まで焼き切れて痛みを感じていなかっただけだ。
ゼクスはあちこちで破壊のあとが残る、闇に包まれた市街地を独り、歩く。
だがその足取りは怪しい。
片腕を持っていかれた他にも全身のあちこちを焼かれているのだ。
常人ならばとっくに意識を失っているレベルでも、かろうじてそうならないのはライトニングカウントの意地といったところか。
しかし長くは持たないだろう。
ゼクス自身もすでに限界を悟っていた。
血圧の低下により意識は朦朧とし、さらに火傷の断面から雑菌が侵入して発熱。水分を失い続け思考力も奪われる。
「……………………ユフィ」
言葉を紡ぐ舌も既にカラカラだ。
まともな発音の声が出ず、誰かが聞いたとしても、それを正しく認識できるとは思えない。
「……リ……リーナ」
果たして探しているのは異世界で出会った呪いの姫君か、すでに失われた己の理想か。
それともすでに自らの現実すら判別できないのか。
大きくふらついて道端の街灯に身体を預けた。そして何度か息をつく。
- 83 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:25:58 ID:vieQ42Jw
-
「ぐっ……」
もし後ろを振り向く余力があれば、背後のアスファルトに点々と染みを作った己の血液の量が尋常でないと分かるだろう。
だがもう足が前に進まない。
体を動かす燃料が、血が足りないのだ。
なんせよりによって左腕だ。
その内部を流れる血管は心臓のすぐ傍から繋がっている。
そこから流れる血流の勢いは強い。
肉を焼かれたことで直接の流出は食い止められていた。
だがその血液自体は内出血となって左腕の内部に溜まり続け、すでにズタズタだった傷のあちこちから徐々に溢れ出している。
もはやどうにもならないことは明白。
強靭な意識もついに限界を迎え、ゼクス・マーキスは鉄柱に身を預けた体勢のままで膝を折ってしまった。
◇ ◇ ◇
「ふうっ」
軽快に息をひとつ吐き出す。
そして振り返ってデパートからの距離を確認する。
遥か彼方からでも怖気を催すような、あの鬼神とも呼べる気配は今のところ感じない。
慌ててあそこから逃げてきたが、どうやら元から向こうも追撃するつもりは無かったようだ。
ダメージの回復を優先したか。
やはりヒイロの一撃が堪えていたのだろうか。
「ヒイロ……」
ヒイロ・ユイは心のなかに。
豊満な胸を自らの腕で抱きしめることで、自らの中にある幻想を抱きしめようとするように。
うっとりと瞼を伏せ、そして数秒ののちに悩ましげなため息をひとつ。
「………………ふぅ」
心なしか頬がうっすら熱を帯びているような気がする。
とにかくここからなるべく早く離れなければいけないことには変りない。
ファサリナはそう考え、ヒールの音をカツカツと響かせながら静かな夜の街を行く。
風が少し強く吹いているのが、先程まで行われていた激闘の余韻のように感じられた。
「あら……?」
そこでファサリナはあるものを見つけた。
真っ暗な道路の脇に点々と記された染みのようなものだった。
デパートから離れる歩みを止め、そっと近づき目を凝らす。
「……血、でしょうか」
赤い液体が点々と脇道へ続いている。
その先に誰かいるのは明らかだ。しかもまだ乾いていない。
ひょっとしたら先に逃げた士郎少年かもしれない。
元は彼を助けるためにファサリナはヒイロと共に乱入したのだ。
詳しく容態を観察する暇はなかったが、もしかしたら彼はすでに負傷していたのだろうか。
そうだとしたらどうするか。後を頼むと託されたからには、任務は完遂しなくてはならないだろう。
念のためにゲイボルクを構えながら、そろりそろりと脇道へ続く血痕をたどる。
すると、すぐにそれは見つかった。
- 84 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:26:44 ID:vieQ42Jw
- ぼんやりと輝く街灯が照らす細い道。
その下で鉄柱に寄りかかるようにして崩れ落ちた姿は、金髪の男性らしき影だった。
出血がその下の地面に黒く大きな染みを作っている。
一瞬、手遅れかとも思ったが、よくみると肩がわずかに上下している。まだ息はあるようだ。
ひとまずファサリナはそっと近寄りながら声をかけてみることにした。
「あの……もし?」
「……」
その男は無言のまま、ゆっくりと顔を上げた。
もはや応える気力すらないのか。だがファサリナの姿を見ると、その瞳が僅かに輝きを見せた。
「ぐ……」
「……しっかり! 安心してください、大丈夫です。襲ったりはしませんから。まず怪我を見せて頂きますね……うっ」
傷の具合を調べて、思わずファサリナは眉をひそめる。
肉が焼けたおぞましい匂いが鼻をついたからだ。
加えてここまで流れだすままに任せた出血を考えれば、もはや手遅れに近いことは明白。
厳密には設備の整った病院と腕の良い医者が揃ったならば、まだわからない。
しかしこの島でそんなものを早急に調達できる可能性は、ほぼゼロだ。
「み……ず、を……」
「水ですか……? わかりました、これを……ああ、ゆっくり飲んで下さい」
ペットボトルの飲料水を分け与えながら、ファサリナはすでに胸中でこの男を見捨てるつもりであった。
どちらにしろ長くはもたないだろう。いっそのこと止めを刺して、その首輪を解析用のサンプルとして頂戴するべきかとまで考えていた。
と、そんな時。
「ありがとう……私は……ゼクス、だ……君は?」
「ゼクス……ヒイロが言っていたゼクス・マーキス?」
金髪の男は水を摂取して多少持ち直したのか、だいぶはっきりと言葉を発するようになった。
そしてその口から意外な名前が飛び出した。ファサリナは思わず目を丸くして驚いてしまう。
「ヒイロだと……! では、君は……そうか、確かさきほど一緒にいた!」
「はい、私はファサリナ。ヒイロの同志です……!」
「そ、そうか……ならば頼む! ユフィ……ユーフェミアという桃色の髪をした女性を保護してくれ。ここから南東に行ったはずだ!」
「それは……しかしそれでは貴方が……」
だがゼクスは、私のことはいい――と即答した。
ファサリナも元より見捨てるつもりではあったが、まさか自らここまで強く主張するとは思わず、少々戸惑ってしまう。
気を取り直して事情を詳しく聞くと、そのユフィという女性は高貴な家の生まれであり、この殺し合いから脱出するための集団を取りまとめるシンボルに成り得る器だという。
いわゆるカリスマというやつだ。ファサリナが所属していた組織のカリスマ――カギ爪の男の事を思う。
本人は祭り上げられたり英雄視されることを好まなかったようだが、あの組織を強固にまとめ上げられたのは、ひとえに彼のカリスマがあったればこそだ。
帝愛に比べればどう足掻こうが劣勢にならざるを得ないこちらにとって、そういった人材は確かに必要不可欠だと思える。
もっともヒイロが生存か、もしくはゼクスが五体満足で健在であれば、ファサリナはその考えを却下しただろう。
不屈不撓の意志を胸に、常に前を見据えてファサリナを導いてくれたヒイロ・ユイ。
そしてそのヒイロをして障害――つまり比肩する存在に成り得ると言わせた男、ゼクス・マーキス。
実際に目にしたこともない高貴なるお姫様とやらの優先順位など、この二人に比べればさしたるものではない。
ヒイロとともに進むかゼクスを排除、もしくはこちらにどうにかして取り込むことを考えていただろう。
だがそれも今となっては考えるべくもない。
ゼクスによると、そのユーフェミアという女性は何者かに催眠術をかけられているという。
ファサリナからすれば変わった名前を持つ人種――日本人というらしいが――に出会うと突然、人が変わったように殺戮行動をとるらしい。
そういえばヒイロも日本人かと聞かれた上で、そのユーフェミアという女に襲われたと聞いた。
そんな危険人物は即刻間引きの対象として処断すべきだろうと思えるが、その手の人材が不足気味であることを考慮すれば事情は変わってくる。
術が解ければという前提つきで、そのお姫様を仲間に引き入れる選択肢もありえるということだ。
- 85 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:27:20 ID:vieQ42Jw
- とにかくゼクスには、出来る限りのことはすると頷いておく。
「頼む……そうだ、ヒイロはどこだ。君とははぐれたのか、それとも――」
「先程の戦い……勇敢に戦い、果てました。本当に、最後の最後まで戦い抜いて」
「…………馬鹿な」
しかし現実はままならずヒイロは散り、そしてゼクスの命も今まさに尽きようとしている。
カギ爪、トレーズ、ヒイロ、ゼクス――。
ファサリナの知る限りにおいて、集団をまとめ上げるカリスマ足り得る人物は次々と脱落している。
生存者の中にまだその器足り得る人物がいるかもしれないが、なんの確証もなくそれを信じるのは流石におめでたすぎる。
かろうじて他にその資格がありそうなのはグラハム・エーカーくらいか。
「私は私のために、今は亡き同志のためにヒイロの意志を継がなくてはなりません。ですから……貴方を助けないことをお許しください。
その代わりといっては何ですが、ユーフェミアという女性については出来る限りのことをさせて頂きます」
「ああ……構わない。行ってくれ」
「はい……では」
「そうだ……最後に……すまない、ひとつだけ、聞かせてくれ」
ゼクスの表情は苦しみに歪んでいた。
痛みか、それともヒイロが散ったことに対する精神の苦痛か。
ファサリナは二人がどんな関係だったか知る由はない。
ただゼクスの表情がとても、とても辛そうだった――だから、もしかしたら彼も悲しいのだろうかと考えただけだ。
「ヒイロは……彼の強さは……君の眼にどう映った」
――強さ。
ヒイロ・ユイは強い。
彼は迷わない。彼は動じない。彼は怯えない。彼は道を過たない。
ゆえにヒイロ・ユイは強い。
ファサリナの眼にそう映ったように、ゼクスも彼をそう見ていたのか。
「……とても、とても強いひとでした」
「そうか……」
「でも……とても、優しい子です」
「……」
強いだけのマシンではない。彼は紛れもなく優しい人間だ。
リリーナという少女の遺体を前にして、彼は初めてその感情を僅かでも表に現した。
ファサリナが知ったヒイロ・ユイという少年、その仮面の内側。ゼクスもそれを理解している人間なのだろうか。
なんだか無性に問うてみたくなった。もしかしたら自分はこの気持を誰かと共有したかったのだろうか。
自分が僅かな間でも思いを寄せた男の、本当の姿を理解したという気持ちを肯定して欲しかった。
もしそうしてもらえたら、自分の中のヒイロは今よりもっと確かなものとなって、胸の内で鮮やかに何度でもよみがえるだろうから。
だから話した。語った。
リリーナという少女の遺体を前にしたヒイロのことを。
そしてそこで初めて見せた人間らしい感情。
それを乗り越え、前に進もうという意思。
帝愛を倒すという大義のためにその少女の首を切り落とし、その死を克服して進み続けたヒーローのことを。
ファサリナは知らない。
ヒイロ・ユイによって首を切り落とされたリリーナ・ドーリアンが目の前の男――ゼクス・マーキスの血を分けた妹であることを。
「――!」
その時、カツンと音が響いた。
それは普段であれば聞き逃してしまうような小さな音だったかもしれない。
だがこの場では、今この時は、そんな音がやけに耳に響いた。
それは足音だった。
ここは表通りから脇に入り込んだところにある、車が一台通れるか通れないかという幅しかない狭い道だ。
両脇は五階か六階建て程のビル壁に挟まれ、横に逃げる道はない。
- 86 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:27:57 ID:vieQ42Jw
- そこに表通りの方から足音が響いたのだ。
本来、何の変哲もない靴裏がアスファルトを叩くだけの音がやけに響いたのは、その路地を囲むビル壁に音が反響したせいなのかもしれない。
ともかくその場にいた二人――ファサリナとゼクスは足音に反応して表通りの方を見る。
そこには人影。ひとつの影。
表通りのきらびやかな灯を背負って逆光になっていたため殆どシルエットしか見えないが、ファサリナはつい先程までソレを相手取っていたがゆえに理解した。
細い手足はとても鍛えている風には見えない。全くの素人――普通ならばそう判断して問題ない。
だが、彼は普通ではない。すべての攻撃を反射する恐るべき異能の少年がそこにいる。
今、この場で彼を倒す手段はない。
ゼクスを連れて逃げる余裕もない。
だが――ひとりだけならおそらく逃げ切れる。
もとよりゼクスは見捨てるつもりだった。
あちらへの警戒は怠らず、横で血まみれのまま蹲る彼の表情をちらりと伺う。
視線が交わり、そして互いに頷き合う。
――構わん、行け。
そう言っているように思えた。そしてそれは多分間違っていない。
少年がこちらへ向かって一歩を踏み出した。
ジャリッ、とその靴裏がアスファルト上の砂を噛む音。
それを合図にしてファサリナは、少年が来た表通りとは逆方向へと駆け出す。
振り返らず、一目散に、南東にいると聞いたユーフェミアという女性の元へ辿り着くために。
最後に、置き去りにしたゼクスに対して「さようなら――」とこころの中で別れを告げて。
◇ ◇ ◇
私の元へ死神が近づいてくる。
一歩一歩、確かな足音を響かせて近づいてくる。
不健康な青白い肌。
年齢的には染めていなければ有り得ないほど白一色の髪。
ギラギラと赤く輝き、狂気を撒き散らす両眼が私を見下ろしている。
人とは思えぬその表情がぱっくりと割れて笑いの形を作る。
笑顔の形をした亀裂の奥から無限の闇が覗いていた。
並のものならこの殺気を至近距離で撒き散らされ、平常でいるなど無理な話だろう。
そして例え私が万全でも、この少年の異能の前では虫けらも同然だ。
あっけなく、あまりにも脆く、木っ端微塵になるまで破壊される運命しか有り得ない。
私はここで死ぬ――――、
「よォよォゼクス。象の像に行ったんじゃなかったのかァ? なァにこんなとこで愉快に無様に死にかけてンだよ、笑っちまうなァオイ?」
「……殺し合いに乗ったらしいな、一方通行……」
白髪の少年は首元を隠した手を下ろして近づいてきた。
彼に装着された特別製首輪のランプは赤。
――つまり能力はしばらく使用できないということだ。
ほんの少し、本当に僅かながら生き長らえた。
だが私はそんなことよりもユーフェミアの――彼女の探索を引き受けてくれたファサリナ嬢の無事を、ただ祈っていた。
- 87 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:28:43 ID:vieQ42Jw
-
【E-5とD-5の境界/一日目/真夜中】
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康、移動中
[服装]:自前の服
[装備]:プラネイトディフェンサー@新機動戦記ガンダムW、ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式×2、軽音部のラジカセ@けいおん、シャベル@現実、M67破片手榴弾×2@現実、
イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4、
お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実、
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考] 基本:主催を倒し、可能ならカギ爪の男やヒイロを蘇生させる。
0:ユーフェミアを探索し、グラハム達と合流。
1:ユーフェミアが見つからなければ切り上げて合流を優先(薬局、象の像、ギャンブル船のいずれかへ向かう)。
2:自分の中で生きているヒイロを守る。なるべく単独行動は避けたい
3:ゼロなどの明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。ユーフェミアに組む価値なしと判断すれば切り捨てる。
4:首輪が解除でき、三節根が手に入ったらダリアを呼んでみる?
5:お友達……。
6:オリジナルヨロイが奪われてはいないでしょうか……
[備考]
※デュオを協力が可能かもしれぬ人物として認識しています 。
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています。
※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています 。
※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています 。
※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 。
※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。
※グラハム・衣と情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
◇ ◇ ◇
ゼクスらを見つけたのは偶然だった。
というより、こちらも信長から離れるために移動していた最中、バッタリ遭遇してしまったに過ぎない。
まだ制限は解除されておらず、今の自分は無力な素人だ。
だがあの女が引いたということは、それを知らなかったのか。
「誰かと思えばホントにゼクスかよ。で、テメーあの女に俺の制限のこと喋ったのか?」
「あいにくそんな暇も余裕もなかったがな……見ての通りのくたばり損ない、さ……」
やはり。
一方通行はそんなゼクスに対し、ハッと皮肉げに笑った。
確かに怪我の具合を見れば、長くはもたないだろうということは明らかだった。
念のために構えた支給品の二二口径をだらりと下ろして、ゆっくりとゼクスの表情を覗き込む。顔色は極めて悪い。
「ま、最初に言っとくけど助ける気ィねーから俺。ちょいと死ぬ前に知ってること色々喋ってくれや。断ったら少し寿命が縮むだけだがよォ?
そのまま死ぬよかだいぶ痛ェ目に合うんじゃねーかなァ、ギャッハッハッハッハ!」
それは本心だった。
できれば今すぐ衝動に任せて血の華をぶちまけてやりたいが、今は能力が封じられており武器はゴム弾の拳銃ひとつ。
しかも相手は放っておけば、じきにくたばる身だ。すでに満身創痍でろくに抵抗すらできないだろう。
そんなヤツをわざわざ殺してもイマイチ楽しくなるとは思えなかった。
それより、この制限下でも制圧出来る相手に出会ったチャンスを利用し、情報を手にいれるべきだ。
正直にいって今後の戦いで相手を殺さぬように手加減できるとは自分で思えなかったし、する気にならなかった。
- 88 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:29:19 ID:vieQ42Jw
- 頭の中で声が聞こえ始めた。内なる衝動が殺せ、殺せと叫んでいる。
ぎしりと歯を食いしばり、この場はどうにかそれを押さえ込んだ。
「殺し合いに乗った……んだな」
「……べェつにィ? やるこた変わっちゃいねェよ。邪魔な奴はブッ殺して、ゲームの主催もブッ潰してやるだけだ。
俺の都合のために虫ケラがいくらか死んでも知ったこっちゃねェ。踏みつぶして進むって、ただそれだけのこった」
今の一方通行は狂っているが最優先事項を忘れたわけではない。
殺人衝動にさえとらわれなければ、何をすべきか、そのためには何が必要かという思考を推し進めることは可能なのだ。
先程の戦闘で頭に血が上っていたのは確かだが、制限による無力化で冷静な判断力をどうにか取り戻した。
とりあえずゼクスから情報を手に入れること。そしてその荷物を奪い取ることが目的だ。
情報はいわずもがな、荷物の中に使える支給品があれば、無力化されている間はそれが頼りになる。
手に入れておくに越したことはないだろう。
「とりあえずもうすぐくたばるんだから、その荷物はいらねーよな? 俺が貰ってやるから寄越せオラ。ホレ、手に持ってるその拳銃もだよ」
はじめに支給されていた品の最後の一つ――アンチスキルのニニ口径ゴム弾拳銃を突きつけながら、ゼクスのデイパックを奪う。
まともに人を殺すことすらできない銃モドキに頼ることになるとは思わなかった。
あちらはこの銃がゴム弾であることなど知らないせいか、抵抗はない。またはすでにその力も尽きたか。
とにかく次だ。まだ用件は済んではいない。
「で、だ。こっちが本題なんだが、あと何分かで俺の制限が解ける。つまり能力をまた15分だけ使えるようになるわけだ。
そん時にテメーに手伝ってもらいたいことがある。それまで死ぬんじゃねェぞォ? 終わったらサックリ楽に殺してやっからよォ」
「……」
すっかり忘れていたが、先刻手に入れたアーチャーの首輪を解析しなければならない。
しかも都合のいいことに他にもう一つサンプルがみつかったので失敗しても代わりがきく。
そのもう一つとは言わずもがな、眼前のゼクス・マーキスのことである。
「目的のために手段は選ばないということか……」
「ハッ、よく言われるけど違うんじゃねェのかァ? 目的のためならとっちゃいけない手段ってのが最初からあんだろうがよ。
目的を定めた時点で手段ってのは限られてんだよ。そいつを見失った奴が選ばねェとか抜かすわけだ」
「お前は……違うと?」
「最初からなァ、元から俺が欲しいものは変わってねェよ。ちょいと事情が変わって、ちょいとやり方を変えたってだけだ」
そろそろ時間だ。時間を確認する。
路地の薄闇をぼんやりと照らす首輪のランプが赤から緑へ変わった。
「さて、時間だ」
「なにを……する気だ」
「まあ見てのお楽しみだ……っと」
ゼクスの顔をのぞき込むような動作で正面に腰を下ろし、無造作に片手で顔面を掴んだ。
驚いたように目を見開いてこちらを見ているが、能力が使えるようになった時点で向こうにはどうすることもできない。
(おとなしくしなァ、俺の声が聞こえるなら黙って頷け)
(な……ぐっ!?)
(俺とテメェの声をベクトル操作して直接お互いの頭蓋骨に響くように調整した。口ン中でモゴモゴやれば聞こえるはずだ。やってみろ)
(いわゆる……骨伝導という奴か。お前は盗聴機を想定して……?)
ゼクスもすでに気付いていたか。主催への反抗をブチあげただけはある。
この調子なら他にも何かすでに情報を得ているかもしれない。
- 89 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:29:49 ID:vieQ42Jw
-
(他にもこの首輪について何か知ってやがるな……どーせ直にくたばるんなら素直に全部ブチまけていけよ。
テメェの大事なリリーナちゃんの敵討ちくらいやってやるからよォ)
(……私が接触した参加者――二十世紀末の日本からやってきた魔術師の解析結果だ……。
これから話す内容は、基本的に彼の時代における技術を基準にしたものになる……。
外面には視覚による情報の偽装・抑制を行うことに特化した概念物・礼装が埋め込まれ、現在も機能している。
視覚妨害以外にも礼装が存在……恐らく魔術行使に対する防御、ただし魔力供給がされていないため、死体から外された状態では機能していない。
中心部には金属……知る限りの材質において該当するものなし。トランシーバーに似た構造の装置が存在……機能の断定は不可能。
ICチップらしきものが存在……機能の断定は不可能。電磁石と共に液体が存在……知る限りの液体に該当するものがない。
製作技術――技術と工程。車、電化製品といった二十世紀の技術の範囲外で作られている。
その技術品に対し、視覚妨害・魔術妨害の機能を持つ限定礼装によって保護を行っている。
以上だ……私の荷物に情報をまとめたメモがあるから後で確認するがいい)
(ヘェ……いいぜ、今ので全部覚えた。おかげでだいぶ仕事がはかどりそォだ)
一方通行が暮らす学園都市の技術レベルは、おそらくその魔術師とやらの時代よりも実質数十年は進んでいる。
実際に調べてみれば新たにわかる事もあるだろう。制限もあることだし余計な手間を食っている暇はない。
再び能力を封じられる時間までに、やれる限りのことをしておかなくてはならないからだ。
(……こいつは)
早速、ゼクスを掴んだほうとは逆の手でアーチャーの首輪を取り出し、解析を開始する。
一見でその断片すら解析できない要素が複数存在。これが魔術の礼装というやつか。
液体……おそらく液体爆薬、そしてトランシーバーについては多少未知の要素があるものの想定の範囲内だ。
バイタルサインをチェックする機能と見られる回路あり……しかし現在は機能していない。
爆薬、そしてそれに付属する回路と繋がっているが……止まっている。
ということは、おそらくこれを禁止エリアに放り込んでも爆発はしないだろう。
問題は魔術礼装……一方通行にとって未知の領域だ。
ここに来てから未知の力に触れたのは二回。一度目は織田信長の黒い影――侵食する瘴気。
そしてもうひとつ……一方通行の操作したベクトルすら乱す、あの女の能力――停止の結界。
どちらかといえば後者のものに性質が近い。
首輪をしていなかったあの女は主催側の人間である可能性が高い――つまりこの首輪ギミックの作者である確率は高い。
信長の能力であれば、すでにあっさり反射できるほど解析は済んでいるのだが、そううまくは行かないようだ。
(こっちは解析終了だ……次は生きているテメェの首輪を調べる。残り……9分と28秒。こりゃ楽勝だなァ。
しかしこっちのヤツと違って、そいつは今もバイタルサインのチェックが生きてるだろうぜ。ま、俺自身は反射で済むワケだがよ。
テメェは俺がしくじれば爆発してオシマイなんだが、今更恨む筋合いでもねェだろう? そんときゃ大人しく諦めなゼクス)
(いいさ……今更こんな生命など惜しくはない……帝愛打倒に辿り着くための捨て石になれというなら、なってみせよう……!)
(ヒャッハッハ……いい心がけだ。んじゃまァ――)
(……だが!)
手首を強い力で握り締められた感触があった。
隻腕も同然のゼクスによって、一方通行の手が掴まれている。
反射的に、殺すか――と思い立った瞬間、ベクトル操作によるものではない、はっきりとした肉声が耳に響いた。
「これだけは……聞いておけ……一方通行……!」
「てめ……」
「いいか……勝利とは……水に落ちた犬を棒で叩くことだ……っ!」
「……はァ?」
少なくとも殺意はない。
何かを伝えようとしていることは分かる。
しかし、この死にかけの男は果たしてまともな思考で喋っているのだろうか。
思わずその顔をのぞきこんでしまう。
ゼクスの眼には確固たる意志の光があった。
- 90 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:30:18 ID:vieQ42Jw
- 思い出す――最強のレベル5たる自分の前に立ちはだかった、ボロボロになりながらも一歩も引かなかった男がいた。
そして、それを守るように立ちはだかった女がいた。あいつらも――確かこんな眼をしてはいなかったか。
一瞬、我を忘れる。
「……オマエ」
「勝つ事とは……負かすこと、蹴落とすこと、躓いた者を踏みつぶすこと、相手の傷口を広げて塩を塗りこむことだ……!
勝ち残るとは……屍の山を超えていくことだ……! 決して美しいことではない……残酷でさえある……っ!」
そしてその事実に気づいたとき、自分が憧れた/殺したくてたまらない存在が、内なる思考の中で歪んでいく。
まるで鼓動のように、どくんと自身の体が震えたように感じた。
「私は甘すぎた……ヒイロ・ユイのようには、それが、できなかった……ゆえに此処で無為の内に死ぬのは当然の事なのだろう……!
一方通行……貴様がそれでも勝ちたいと望むなら、鬼になれ……ッ!!」
一方通行の中で突如、爆発するように殺意が芽生えた。
黒い感情に満ちた、熱に浮かされたような狂喜が尋常とは思えぬ高ぶりをもたらす。
鬼気迫る――まさにその言葉がぴったりとハマる。
「ハハァ…………いいぜ、死ねよ」
――首輪だけを残して、ゼクス・マーキスが歪む。
バンッッッ!!――と、自動車のタイヤが爆ぜるかのような鈍い破裂音が響いた。
「くか――」
びちゃり、びちゃり。
「くくかきくかこ――」
湿った柔らかい何かがべちゃべちゃと叩きつけられる音。
「くかきかここかこくかくかか――」
それが断続的に続く中、甲高くどこか非人間的な響きの哄笑が生まれ、徐々にそのボリュームを上げていく。
「くか――ぎゃは、ぎゃは、ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ひゃっはっはっはっはっはははっはっはっはっはっはっははははははあははひゃはひゃひゃひゃはは、ひゃは
ゲホッ、ゲホッ、ぎゃは、ひゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ゲッハハハ、ハハハハハハ、ハハ、ハハハハハハハハハハハ、ヒャッハッハッハッハッハッハッハッハッハハ
ギャハハハハハハ―――――――――――――――――――――――――――――――ッッッッッッ!!!!」
可笑しくて可笑しくてたまらない。
息が切れるまで笑いつづけ、むせてもなお収まらずに笑い続ける。
口裂けの怪物みたいに、いっぱいに広げた口腔から、こみ上げてくる衝動のままに感情をぶちまけた。
楽しい。楽しい。
殺すのは楽しい。
スッキリ爽快、殺す度に思考がクリアになっていく感覚すらある。
「笑わせてくれんじゃねェか負け犬君がよォ! いいぜェ! 文句なしの完全勝利、キルゼムオールでキッチリ締めてやらァ!!
鬼になれだァ!? 悪魔でも魔王でもなってやらァ! 俺を誰だと思ってやがる!! 俺は最強で無敵のレベル5様なンだ!!
テメェやそこらの雑魚みてェな弱い生き物なんかじゃねェンだよォォォォ!!!!」
べっとりと赤く染まったアスファルトの中心、生臭い血と骨と臓物の中で彼は吼える。
表面にゼクス・マーキスと刻まれた銀色のリングをその手に握り、夜の街に孤独な悪党が咆哮を轟かす。
その叫びはまるで誰も寄せ付けぬ悪鬼。
または寂しくて泣いている童のようで――。
- 91 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:30:51 ID:vieQ42Jw
-
【D-5 南部/一日目/真夜中】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(完成)、能力使用不可(使用可能まで約一時間)
[服装]:私服
[装備]:パチンコ玉@現実×少量、アンチスキル用ニニ口径ゴム弾拳銃@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式×2、缶コーヒー各種@現実×多数、首輪×2(アーチャー、利根川、ゼクス)、
H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数5/12発/)@現実、3499万ペリカ、おもちゃの双眼鏡@現地調達、
真田幸村の槍×2、H&K MP5K(SMG/40/40発/)@現実、その他デパートで得た使えそうな物@現地調達、ピザ×10@現実
Draganflyer X6(残バッテリー約10分)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実、士郎の首輪解析メモ
[思考]
基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。
0:能力が使えるようになるまで身を隠す。
1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)。
2:このゲームをぶっ壊す!
3:首輪を解析する。首輪を解除出来たらあの女(荒耶)をブチ殺す。
4:上条当麻は絶対に絶対に絶対に絶対にブチ殺す。
[備考]
※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
※ライダーの石化能力・藤乃の念動力の制限・信長の瘴気・荒耶の魔術(不完全)を分析しました。
※式の力で、首輪の制限をどうにかできる可能性があると判断しています。
※橙子(荒耶)の名前は知りませんが、首輪の魔術礼装の作者ではないかと考えています。
※ゼクスから士郎が解析した首輪の構造情報を入手しました。
【アンチスキルの22口径ゴム弾拳銃@とある魔術の禁書目録】
学園都市のボランティア警備員であるアンチスキルが使う暴徒鎮圧用拳銃。
反動が小さく素人でも扱える22口径、弾頭もゴム製で、あたってもせいぜい肋骨が折れる程度の威力しかない。
◇ ◇ ◇
デパートの上層部から眺める真夜中の街並みは、街灯の人工的な明かりが星屑の海を思わせる。
戦国の世にはない、天井から床まで一面すべてギヤマンでできた透明な壁。
そこから透けて見える夜景を眺めつつ、第六天魔王こと織田信長は建物内で調達した酒瓶に口をつけた。
足元に広がる下界をよくよく見てみれば、先刻の戦による余波であちこちから火の手が上がっている。
まさに戦場の跡。打ち砕かれし建築物は朽ち果てた姿を晒し、骸は誰にも顧みられぬまま捨て置かれる地獄。
信長にとっては見慣れたものだ。汚れし世に救いなど一辺も無く、邪気と魔性に満ちた人界――それが戦国。
「夜に参ずるは黒凶つ……下天の内に充ち満ちて……永劫現を貶めん……」
再び酒をあおった。
一旦、外套と鎧を外しており、その下の肉体に布切れを裂いて包帯の代わりとし、傷を覆ってある。
今は休息の時だ。ここから見る限り、辺り一帯は静かなものである。
遙か遠方からでも立ち昇った、先程のような大きな戦の機は未だ見えない。
天の理なくば、是非も無し。
ここは力を蓄え、刻来れば地獄の釜を開くが如き鏖殺の戦を始めるべし。
百鬼眷属、我が背名にあり。
- 92 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:31:19 ID:vieQ42Jw
- 我が刃は厄災の刺。
我が覇道は疾走する狂喜。
我が抱きし闇は浮世を慟哭する魂で満たし、死に至る病で埋め尽くす。
我が名は第六天魔王――織田上総介信長也。
「人間五十年……下天の内をくらぶれば……」
織田信長は、この幸若舞・敦盛の一節をことあるごとに好んで舞った。
天下にその名を轟かせた桶狭間の合戦を思い出す。
武田と伊達を手玉にとり、今川の首を労せず討ち取ってみせた。
「夢幻のォ……如く……なりィ……」
能独特の朗々たる声が響きわたる。
凄絶な笑みを浮かべながら、いまの信長はこの死地を楽しんでいた。
「一度生を享けてェ…………滅せぬ者のォ……あァるべェきィかァァァァ……!」
信玄坊主ではないが、動かざること山の如しという言葉が今の状況には相応しい。
あと一刻も立たず放送とやらが流れるだろう。
その放送ごとに、この戦場における機は大きく動く。
死者の読み上げ――この殺戮遊戯における参加者――同盟相手、もしくは敵対関係の生存確認。それによる戦略の変更。
禁止エリアとやら――それによって移動すべき経路は大きく変わる。
信長はかつてそれを三度伝えられた経験で、もし自ら動くならばそれからだと正しく理解していた。
「全く……安い座興よ……」
持っていた酒ををすべて飲み干すと、無造作に瓶を床に投げ捨て、笑った。
魔王は今この時だけ殺戮の手を休め、無心で、ただ夜を眺めていた。
【D-5 南のデパート最上階/一日目/真夜中】
【織田信長@戦国BASARA】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)治療済み
[服装]:ギルガメッシュの鎧
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し。
1:放送後、荒耶の言葉通り、西に向かい参加者を皆殺しにする。
2:荒耶は可能な限り利用しつくしてから殺す。
3:首輪を外す。
4:もっと強い武器を集める。その為に他の者達の首をかっきり、ペリカを入手する事も考慮。
5:高速の移動手段として馬を探す。
6:余程の事が無ければ臣下を作る気は無い。
[備考]
※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。
※ルルーシュやスザク、C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。
※視聴覚室の遮光カーテンをマント代わりにしました。
※トランザムバーストの影響を受けていません。
※思考エレベータの封印が解除されましたが、GN粒子が近場に満ちたためです。粒子が拡散しきれば再び封印されます。
※瘴気によって首輪への爆破信号を完全に無効化しました。
※首輪の魔術的機構は《幻想殺し》によって破壊されました。
※具体的にどこへ向かうかは、次の書き手にお任せします。
※荒耶との間に、強力な武具があれば譲り受けるという約束を結びました。
- 93 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:32:02 ID:vieQ42Jw
-
◇ ◇ ◇
OZで長い時間を過ごした私は、戦争の中に勝手な美意識を持ち込んでいた。
戦う者同士、敵と味方にわかれていても、唯一認め合うことのできる精神としてだ。
私には守るものを持つ資格がない。だが、彼らに――ヒイロ・ユイらに言わせれば、この考えこそが甘いのだろう。
美意識を気取った体裁など必要ない。そんな戦いしかできないがゆえに、私はここで倒されただけのこと。
これは戦争なのだ。命をかけても学ばなければならないものがある。それができねば死ぬだけだ。
しかし戦いは激化するがゆえに、置いていかれぬ為には人間としての感情さえ必要としなくなっていく。
私は一人の兵士、自分の意思として、その流れに逆らう道を選んだ。
ヒイロ・ユイ……お前は純粋すぎる、そして優しすぎる。しかし、そうでなければ生きる資格がないということか。
ならば私は、どこまでも生き抜いてみせるべきだったのか。誰よりも厳しく、戦士として。
だが……リリーナを失い、その屍を踏み拉いてまで、修羅の道を踏破した果ての勝利にどんな価値があるというのだ?
お前は強すぎる。私には……無理だ。
「そうか…やはり律儀な男だよ君は。だからこそ私も信頼がおけるというものだ」
――トレーズ・クシュリナーダ。
幻か……それとも、この無様な私を地獄から笑いにきたのか。
「そういえば君の気が済むのかね。この世から戦いはなくならん。ならば常に強者が世界をおさめればいい。
人々は強い者に支配されることに喜びすら感じる。世界は戦い続けることが自然なのだ」
――それが貴様の理想か。
「言った筈だ。私の理想など、一人の人間の妄想でしかない。
歴史は日々の積み重ねで作られる。個人の未来などに興味はない。
ゼクス・マーキス――いや、我が永遠の友ミリアルド・ピースクラフト。
君に会えたことを悲しく、また嬉しく思う。だがこの戦場は変わっていく。私の力が不足していた。
人の進む道はあまりにも気ままだ。ふくれあがる力が、これほどまでに人の心を置き去りにしていくとはな」
そうでなければ勝てはしない。
ゆえに貴様は敗れたのだろう。そして、この私も。
そうまでして得た勝利に価値を見出せぬがゆえに。
互いに生き残るべき人間ではなかったということだ。
- 94 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:32:33 ID:vieQ42Jw
-
「……古き良き伝統と人間の奥深い感情が築き上げた、いたわりの歴史。
私は戦うことが時に美しいことと考えると共に、命が尊いことを訴えて、失われた魂に哀悼の意を表したい。
私は、人間に必要なものは絶対的な勝利ではなく、戦う姿、その姿勢と考えている。
しかしモビルドールという心なき戦闘兵器の使用を行うロームフェラ財団の築く時代は、後の世に恥ずべき文化となりはしないか。
また一方で、戦わずにはいられない人間性を無視する完全平和をたたえる……。
宇宙コロニーの思想は、その伝統を知らぬ無知が生み出す哀れな世迷い言と感じていたものだよ」
だが――その宇宙から彼らが生まれたのだろう。
「そう。その境遇の中から、私の理想を超えた新しい戦士達が生まれた。それがガンダムのパイロット達だ。
彼らの純粋性に満ちあふれた感情の前に、私が愛した伝統はかすんで見えた。
守るべきものを失い、さらに守ってきたものに裏切られた戦士は歴史上敗者であるにも関わらず。
しかし彼らにその認識はない。それどころか、彼らはまだ戦う意思に満ちあふれていた。
美しく思われた人々の感情は常に悲しく、重んじた伝統は弱者達の叫びの中に消え失せる。
戦いにおける勝者は歴史の中で衰退という終止符を打たねばならず、若き息吹は敗者の中より培われる。
ならば私は……敗者になりたい」
だが貴様は、いや私もその敗者にはふさわしくないということさ。
むしろそれは衰退する勝者としての思考だろう。
人は場所、時間、環境を選んで生まれる事は出来ない……。
格差というものは確かに存在し、ゆえに生まれた瞬間、それぞれが生きる境遇は異なっている……。
それが宿命だ。そして世界はあまりに無慈悲で残酷なのだ。
「我々は衰退すべき勝者として生まれたがゆえに……結果として敗れるべき勝者にしかなれなかったと……?」
いや……私や貴様が焦がれた彼らは、そんなことなど露ほども考えていない。
彼らは、ただ明日を求めただけだ。
勝者か敗者か、きっとそんなことは最初から関係ないのだよ、トレーズ。
残酷な世界。
無慈悲なる宿命。
孤独に過ぎる冷たい荒野をただ一人で進まねばならぬとしても……。
「それでも彼らは――ただ明日を求めた、か」
ああ。
そうだ。
きっと、それこそが――、
【ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW 死亡】
- 95 :夢幻の如くなり ◇mist32RAEs:2010/05/17(月) 23:34:34 ID:vieQ42Jw
- 本投下終了です。
ご意見ご感想をお待ちしています。
なお、おそらくぎりぎりで分割になると思われますので、収録の際はファサリナの状態表までを前編としてください。
- 96 : ◆1aw4LHSuEI:2010/05/18(火) 02:37:01 ID:x/Ouzq/g
- >>79
wiki編集ありがとうございます。
>>61で分割。前後編としてください。
- 97 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/18(火) 09:10:14 ID:dC..lmHQ
- >>80、>>96
返答ありがとうございました
- 98 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/18(火) 13:26:03 ID:0ohvX5/I
- 投下乙です
ゼクス……ボロボロだったから放っといても死にそうだったけど、一通と再会したか
最初に行動を共にした相手に殺されるとは、運命じみたものを感じるぜ
彼の言葉を受けた一通は、勝利者となれるのか
最後のトレーズとの会話が、なんていうかたまらない。ゼクスは何かを見出せたのかな
GJでした
- 99 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/18(火) 19:40:26 ID:v0Zsbb8I
- 投下乙です
ゼクスを看取ったのが最初に出会った一方通行だということに奇妙な縁を感じました
最後の死に際のゼクスとトレーズの掛け合いは印象深かったです
そして、不気味に構える信長には『格』というものを感じさせる何かがありました
良い死亡話だったと思います
- 100 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/18(火) 22:24:41 ID:a8mQRBJY
- 投下乙
ゼクスの最期の言葉が熱いわ
信長公と一方通行は個人で主催者とやりあえそうな風格が出てきてるし
- 101 : ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 14:39:48 ID:FtDhdbXo
- 本投下遅れまくりで申し訳ありません。
現在もリアル事情で忙殺中であります。
ですが、今日の18〜20時くらいには確実に投下できると思いますので
どうか平にご容赦を
- 102 : ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:37:21 ID:LcBWvSus
- 浅上藤乃、白井黒子、天江衣、伊達軍の馬、投下します
- 103 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:38:15 ID:LcBWvSus
- この思いが歪だなんて、言われなくても分かっている。
無人の薬局に戻った黒子は、壁際の柱にもたれかかった。
コンクリートの硬さと冷たさが制服越しに沁み込んでくる。
電灯が消えた屋内は、外と変わりないほどに暗く、そして肌寒い。
黒子はむき出しの二の腕を掴み――
「そんなこと、最初から分かっていますわ……」
――そして、爪を立てた。
綺麗に切り揃えられた爪が柔肌に痕を刻む。
気温の低さに耐えかねて腕を抱いたのでは断じてない。
堪え切れぬ感情を、爪痕がもたらす痛みで紛らわす。
自傷行為にも近い忍耐である。
黒子はコンクリートの柱に後頭部を軽く当てた。
この場所は散らかった薬品棚に遮られて、入り口の方からは死角になっている。
居住性は最悪に近いが、表の二人からは姿を見られにくい。
「……それなのに……」
阿良々木暦。
藤乃にも同様のことを言ったが、彼は相手の心の機敏を読みきれていない節がある。
あんな風では、いつか致命的な読み違えをやらかしかねない。
現に、彼は黒子の心を読み違えていた。
『白井黒子にとって、衛宮士郎は恋人に匹敵する理由なのか』と、彼は問うた。
回答はイエスでもあり、同時にノーでもあった。
だからこそ黒子は沈黙してしまったのだ。
彼は黒子が『言われてみればイエスと言えない』などと考えて押し黙ったと思ったのだろう。
しかしそれは無理もないことだ。
本人ですら、こうして冷静になるまで自分の感情を把握し切れなかったのだから。
彼女にとって恋人に類する理由とは御坂美琴に他ならない。
この点において、阿良々木の問いへの答えは『ノー』である。
その理由が失われたとき、彼女は壊れかけた。
平静を喪失し、現実を放棄し、生存までも放り出しそうになった。
もしあのまま放置されていたら、御坂美琴の後を追って自害に走っていたかもしれない。
けれど、実際にはそうはならなかった。
彼がいたからだ。
衛宮士郎という少年のおかげで、壊れそうな心は辛うじて形を保つことができた。
ありがたい正論を並べて説得を試みたわけでも、ありきたりな慰めの言葉をかけたわけでもない。
彼は自分なりの態度で黒子に接してくれただけだ。
誰かのために生きることしかできない、不器用な在り方のままに。
その何でもないようなことに、どれほど助けられたことか。
だからこの島に限れば、彼が一番大切な人物なのは言うまでもない。
故に阿良々木の問いへの答えは『イエス』でもある。
「…………っ」
黒子は制服越しに左の胸を押さえた。
薄い脂肪越しに、心臓の鼓動が痛々しく伝播する。
脳裏を過ぎった幸せな過去の幻が、黒子の華奢な胸を締め付ける。
尽きることのない雑音。
終わらせたくないノイズ。
頭では否定しても、心のどこかで『ソレ』を取り戻す未来が浮かんでくる。
黒子の肩からデイパックが滑り落ちる。
床に落下した衝撃で、半開きの口から中身が幾つかこぼれ出た。
- 104 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:38:54 ID:LcBWvSus
- 「ハァ……ハァッ……」
心臓の鼓動が痛い。
呼吸を繰り返しても息が苦しい。
黒子は左胸を押さえたまま視線を上げた。
幾つもの電灯をぶら下げた、無機質な天井。
ここが牢獄の中だと錯覚してしまいそうになる。
左手で――いや、包帯を巻かれた左手で胸を押さえる。
そうしていると苦しさが少し和らぐ気がした。
「…………はぁ」
短く、深く息を吐く。
恋人ではない、大切な人。
言葉にすれば美しいが、果たして実態はどうなのか。
単なる代償行為の結果ではないのか。
独り善がりな一方的依存ではないのか。
――否定的な反証はいくらでも思い浮かぶ。
けれど黒子はそれらに反論するつもりなどなかった。
どの否定も真実の一面を言い当てている。
しかし、理由はどうあれ、今の白井黒子にとって衛宮士郎は必要な存在なのだ。
「まったく……これじゃ合わせる顔がありませんわ」
黒子は皮肉げな笑みを浮かべた。
少しだけ後悔する。
あのデリカシーゼロな男に、それがどうした!と言い放ってやればよかった、と。
白井黒子は衛宮士郎を必要としている。
彼がいないと彼女は崩れてしまう。
それで充分な理由ではないか。
恋愛感情であろうと。
依存の代替であろうと。
その違いに何の意味があるというのだろう。
黒子は身をかがめ、散らばってしまったデイパックの中身を戻そうとした。
「―――あら?」
こぼれた荷物の中に、見覚えのない箱があった。
平坦な長方形で、それなりの厚みがある。
素材は樹脂か何かだろうか。
触れてみると、意外に質量があった。
一秒の半分ほど考えて、それがノートパソコンであると気がつく。
見慣れた物でも、何の前触れもなく転がり出てくると、まったく違うものに見えてしまう―――よくあることだ。
そういえば、バトルロワイアルサポート窓口なんてものがあると言っていた。
このノートパソコンがそれのための端末なのだろう。
黒子は足を左右に広げて床に座り、膝の上にパソコンを置いた。
電源ボタンを押すと、物凄い早さで画面が立ち上がった。
「これですわね」
メールソフトを起動して、送受信メールを確認する。
どうやら、これまでにそれなりの回数のやりとりをしているらしかった。
サポート窓口の仕組みについては聞き及んでいる。
実際のメールを見れば、答えを受け取れる質問の内容も見当がつく。
黒子はわずかに躊躇いながら、カーソルを新規メール作成のボタンへと動かした。
「…………」
後ろめたさはある。
無断で機能を使っていいのかという懸念もある。
けれどそれらは、黒子の手を止める力にはなりえなかった。
キーボードを叩き、メールソフトのウィンドウに質問を打ち込んでいく。
そして、送信。
- 105 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:40:08 ID:LcBWvSus
- 「これで返事が返ってくる……のですよね」
送った質問は全部で七つ。
そのうち幾つかは回答のボーダーラインを探るための質問だ。
本当に知りたい質問は、二つだけ。
少々多すぎた気がしないでもないが、ものは試しである。
黒子はひとまずノートパソコンを床に置いた。
念のため、本体の音量をゼロにしておく。
今までの履歴を見る限りだと、返事が返ってくる時間はひどくバラバラだ。
数十分掛かることもあれば、数分で返ってきていたこともある。
出発までに返事があればいいのだけど―――
黒子はそう思いながら、外の見える位置へと移動した。
薬局の前では、衣が馬に乗っかって、思い通りに動かそうと悪戦苦闘している。
手足が身長相応に短いせいで、騎乗しているのではなく、荷物として乗っかっているようにも見える。
衣としてはそれが嫌なのだろう、手足をじたばたさせて馬に命令を出しているらしかった。
当の馬は文字通りの馬耳東風といった具合で、後ろに乗って轡を引く藤乃のほうに従っていた。
そういう風に仕込まれているのか、本気で衣のことを荷物としか思っていないのか。
もしくは何か別の理由でもあるのだろうか。
「…………!」
「…………?」
黒子に二人の声は届いていない。
かなり距離が開いているのと、壁や窓ガラスがあるせいだろう。
しかし、楽しそうに会話をしているということはだけは、よく分かった。
ふとパソコンの画面に視線を移す。
メールのアイコンに、着信を示す吹き出しが表示されていた。
黒子は慌てて元の場所に戻り、着信メールを開いた。
『From:原村和
To:沢村智紀
―――――――――――
一つ目の質問にお答えします。
衛宮士郎の現在位置はD-4です。
進行方向は西向きと推定されます。』
ほっと胸を撫で下ろす。
士郎が無事だった。
それだけで、あのメールを送った理由の半分が満たされた。
進行方向に関しては駄目で元々と思いながら書いてみたのだが、方角程度なら許容範囲らしい。
政庁から西に進んでいるということは、グラハム達がいる方へ向かっているということだ。
黒子は安堵した心持ちのまま、メールの続きを読み進めていった。
『二つ目の質問にはまだお答えできません。
三つ目の質問にお答えします。
秋山澪の現在位置はE-3です。
四つ目の質問にはまだお答えできません。
五つ目の質問にはまだお答えできません。』
二つ目の質問とは、誰が士郎と行動を共にしているか、という内容だった。
やはりそこまで虫のいい質問はできないのか。
三つ目の質問の回答は黒子にとって少し意外だった。
澪がすぐ隣のエリアにいるなんて想像もしていなかった。
四つ目の質問は、二つ目と同じことを澪に関して書いていた。
もし二つ目が通るならと考えてのことだが、無駄に終わったようだ。
五つ目の質問ではC.C.という人物の現在位置を尋ねていた。
もちろん黒子はC.C.なる人物について何も知らない。
支給された名簿で名前を確認したことがあるくらいだ。
だからこそ、黒子は彼ないし彼女の居場所について質問した。
そして返答は回答不可。
つまり現在位置に関する質問は、質問者が知っている人物に限定されるということである。
本当なら許容範囲を検証したかったが、同じような質問を過剰にしてしまうと、質問そのものを打ち切られかねない。
なので、今はここまでで良しとした。
- 106 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:40:34 ID:LcBWvSus
- 『六つ目の質問にお答えします。
明智光秀を殺害したのは秋山澪です。』
その一文を見たとき、黒子は我が目を疑った。
臆病な澪が? あの光秀を?
澪が近くにいると知ったときも驚いたが、それ以上の驚愕であった。
混乱のさなか、黒子はその結末に至る経緯を思い描く。
澪が悪意と殺意をもって光秀を殺害した。
光秀が澪を殺そうとして、正当防衛的に殺めてしまった。
主観的には事故だが、澪が死なせたと解釈可能な状況だった。
何らかの理由で光秀が瀕死となり、澪が介錯としてやむを得ず殺害した。
考えれば考えるだけ仮説が生まれるが、どれも根拠はない。
言ってしまえば単なる妄想だ。
確かなのはただ一つ。
光秀を殺害したのは澪であるという、シンプルな事実だけである。
「…………」
黒子はディスプレイの枠を掴んだ。
次が、最後の質問。
メールを送りつけた最大の理由の一つ。
それなのに、黒子は今更になって迷っていた。
もしも、さっきのように衝撃的な事実が綴られていたら―――
想像するだけで指が竦む。
確かめるべきだと理屈が言う。
よく考えろと感情が告げる。
「それでも……わたくしは……!」
黒子は意を決し、メールの表示画面をスクロールさせた。
そこに見知った名前がないことを祈りながら。
『七つ目の質問にお答えします。
御坂美琴を殺害したのはアリー・アル・サーシェスです。』
「アリー……アル、サーシェス……」
液晶画面に表示された名前を読み上げる。
最初に感じたのは、言いようのない拍子抜け感。
次に湧き上がってきたのは、安堵と憎悪が混ざった奇怪な感情であった。
知らない名前だったのは嬉しい。
アリー・アル・サーシェスが憎い。
もしかしたら仲間の誰かが、なんて思った自分が馬鹿らしい。
お姉さまを殺したこの人間が許せない。
士郎は黒子に『誰も殺させない』と言った。
それではアレがのうのうと生きていることは変わらない。
黒子はディスプレイを力任せに閉じた。
これ以上は駄目だ。
感情を制御できなくなってしまう。
- 107 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:41:07 ID:LcBWvSus
- 「…………」
お姉さまが死んだと知ったときには、悲しみしか湧いてこなかった。
それなのに、具体的な名前が分かった今となってはどうだ。
悲しみなどなく、憎しみがマグマのように泡立っている。
愛する人を失った嘆きが、愛する人を奪った者への恨みへと摩り替わりかけているではないか。
けれどそれは裏切りだ。
御坂美琴に対しての、そして衛宮士郎への。
「……先を急ぎましょう」
黒子は雑音まみれの思考を打ち切って、おもむろに立ち上がった。
これ以上は、戻れない深みへと沈んでしまう。
一人だけではこの感情を処理しきれない。
かといって衣や藤乃に打ち明けても迷惑なだけだろう。
だから今は押し殺す。
怒りも、悲しみも、憎しみも、嘆きも。
全部を心の奥底に封じ込め、然るべき時まで表に出さないようにしよう。
また一つ、彼に会いたいと思う理由ができてしまった。
「さて、と」
何事もない様子を繕って、黒子は薬局を出た。
乗馬の練習をしていた衣もそれに気づき、ぶんぶんと手を振ってきた。
「見るのだ白井! とても大人しい馬だぞ!」
「そうみたいですわね。……なんだか厭らしい雰囲気もしますけど」
相手は馬だと知ってはいるが、どこか釈然としない気持ちだった。
何というか、下心らしきモノを感じる気がする。
と、衣の後ろに乗っていた藤乃が、衣との間に一人分のスペースを空けた。
「どうぞ」
「……お言葉に甘えますわ」
黒子は空間転移を発動し、衣と藤乃の間に跨る形で転移した。
意外にも、馬は三人分の重量を受け止めても平気そうにしている。
全員が乗れないなら空間転移の連続使用で移動しようと思っていたが、その必要はないようだ。
窮屈ではあるが、これで体力をかなり温存できる。
――黒子達は知らないが、この馬は伊達軍の騎馬として、欧州筆頭の無茶な采配に追随し続けていた。
それも鎧を纏い武装を担いだ屈強な男を乗せてである。
今は平服の女子供が三人程度。
これで走行不能に陥るわけなどなかった。
黒子としても、三人が同じモノで移動できるのは好都合である。
彼女の空間転移は、自分自身と触れているものにしか効果を及ぼせないのだ。
奇襲を受けたときバラバラに行動していたら対処が間に合わない。
その点、同じ馬に跨っているのは都合がいい。
これなら三人まとめて一度の空間転移で脱出できるだろう。
衣が小柄であることを考えれば、130kgの重量制限は充分にクリアしているはずだ。
「さぁ、往くぞ!」
衣の無邪気な宣言に応え、騎馬が力強く嘶いた。
目的地はギャンブル船、エスポワール。
こうして少女達の夜間行軍の幕が開いた。
- 108 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:41:33 ID:LcBWvSus
-
――奇襲を受けたら、馬をどうするか?
そうなったら、馬は見捨てるつもりだった。
別に黒子が薄情なわけではない。
黒子の空間転移は130.7kgが限度なのだ。
ところが、馬という生物の体重はその数倍。
馬を転移させようと思ったら、いくつかのパーツに切り分けて運ぶしかなくなる。
しかし、それはもはや騎馬ではない。
ただの新鮮な桜肉(産地直送)である。
というわけで、見捨てる。
あくまで最善手を選んだ結論だ。
他意はない。たぶん。
【E-4 薬局/一日目/夜中】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録、
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:天江衣、浅上藤乃とともにギャンブル船に行く。危険はできるだけ避ける。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
4:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
5:士郎さんが心配、意識している事を自覚
6:士郎さんはすぐに人を甘やかす
7:少しは士郎さんを頼る
8:アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。浅上藤乃も含む。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。
・ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
・その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※美琴の死を受け止めはじめています。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
- 109 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:42:08 ID:LcBWvSus
- 【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康、首輪爆発まであと11時間(現在の負債:1億ペリカ)
[服装]:いつもの私服
[装備]: チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2、伊達軍の馬@戦国BASARA(藤乃と同乗)
[道具]:麻雀牌セット、レイのレシーバー@ガン×ソード、水着セット@現実、エトペン@咲-Saki-
ペリカード(残金1000万)、サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
1:誰にもバレないように、負債を返済する。
2:白井、浅上と一緒にギャンブル船に行って麻雀をする。できればそこで一億ペリカを稼ぐ。
3:グラハムを信じる。
4:《はらむらののか》と《清澄の嶺上使い》を救い出したい!
5:ギャンブルではない麻雀をして友達をつくる。
6:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる。
7:皆が望むとあらば麻雀に臨みペリカを入手する。
8:インデックスと友達になりたい。
9:浅上、白井とは友達になれた……?
[備考]
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※帝愛グループに1億ペリカの借金をしました。借金は定時放送を迎えるごとに、倍額になります。
7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、疲労(小)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録 、伊達軍の馬@戦国BASARA(衣と同乗)
[道具]:基本支給品一式、
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
1:天江衣、白井黒子とともにギャンブル船に行く。危険はできるだけ避ける。
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを探す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※阿良々木と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換しました。
※衣の負債について、気づいていません。
- 110 :Mobius Noise ◆C8THitgZTg:2010/05/22(土) 17:44:23 ID:LcBWvSus
- 投下終了です
しかし、書き込みボタンを押してからミスに気付きました
3人の状態表の[装備]欄を以下のように訂正します
>黒子
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録、伊達軍の馬@戦国BASARA(衣、藤乃と同乗)
>衣
[装備]: チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2、伊達軍の馬@戦国BASARA(藤乃、黒子と同乗)
>藤乃
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録 、伊達軍の馬@戦国BASARA(衣、黒子と同乗)
- 111 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/22(土) 18:06:54 ID:J7OeRTxQ
- 投下乙です
黒子が苦悩しとる…士郎、早く行ってやれw
そしてお姉さま殺しの下手人を知ったか…これは今後が楽しみだ
- 112 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/22(土) 18:10:37 ID:vQlCbLME
- 投下乙です
情報の与え方の制限が巧かったと思います
しかし、これでミサカinサーシェスと黒子との対面が面白くなりそうw
今後に期待できる良い話でした
- 113 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/22(土) 19:32:52 ID:mFy3xzOQ
- 投下乙です
なるほど、黒子も色々と悩みを抱えてるな…
それを上手く表現できていいですw
ミサカinサーシェスとご対面したらどうなるか楽しみだわw
- 114 : ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:12:11 ID:FtDhdbXo
- 遅くなりましたが
福路美穂子、衛宮士郎、荒耶宗蓮
本投下します
後半、多少の加筆あります
- 115 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:19:28 ID:FtDhdbXo
- ■ 『少女:悲哀の自己認識:路地裏〜橋』 ■
三人分の足音がバラバラのリズムを刻みながら夜に反響して消えていく。
前方には先の見通せない夜道が続いていて、左右にはコンクリートの壁がぼんやりと街灯に照らし出されていた。
ゼクスマーキスと別れた後、エリアD-5路地裏の薄暗くて小汚い道のりを福路美穂子は二人の魔術師と共に進み続けていた。
4メートル程前を先行しているコート姿の女――アオザキの背中を追って、疲れの溜まった両足をひたすらに動かし続ける。
「――で、その聖杯戦争ってのが……なんていうか……。七組の魔術師とサーヴァントが聖杯を巡って殺しあう……。って言っても伝わらないよなぁ……」
傍らからには、隣を歩く少年――衛宮士郎の声が聞こえてくる。
彼との会話に集中することによって、美穂子は足を動かす億劫さをなるべく感じないようにすることが出来ていた。
暗い道中における士郎の存在は、疲労感を大きく紛らわせてくれる。
(気を、使わせちゃってるな……)
士郎は努めて明るく話そうとしているようだった。
美穂子は、人の『感情の動き』を読むことには長けていた。
『超能力』的なものでは決して無いものの。
その『観察眼』の精度は既にある種の『能力』と言える域にあるだろう。
『場』の状況を速く正確に把握すると共に、相対した人物の心理状態をあくまでその人の表情や挙動のみ察知する。
それを元の世界では、ずっと卓上でこなしてきたのだ。
普通の人では気がつかないような僅かな心の機微も、美穂子は見逃さずに感じ取る事ができた。
だからこの時、士郎が少し無理をしている事も分ってしまっていた。
彼は何も気にしていないように話し、平静を装ってはいる。
しかし時折その横顔や挙動に、迷いや焦りの色が通り過ぎるのが垣間見えてしまう。
そしてその理由も、アオザキやゼクスと話す士郎の姿を見ていた美穂子には瞭然の事であった。
この場において誰よりも焦燥と苦悩を感じているのは士郎のはずだ。
にも拘らず、誰かに心配を掛けないようにと、彼は全てを背負い込んでいる。
その心遣い為を無下にしない為にも、礼の言葉を口に出す事は出来ない。
だからせめて、彼の心が今より少しでも軽くなるようにと、
自身の疲労も焦燥も憂慮も、全て士郎に悟られぬよう心の内へと仕舞いこんで。
美穂子もまた、なるべく明るく話すことを意識しつつ、士郎の言葉を聞いていた。
「うーん。これを人に説明するのはここに来て二回目なんだけど、やっぱりどう話すか悩むな……」
「理解できない部分は私から質問するから、とりあえずは衛宮くんの話しやすいように話してみたらどうかな……?」
「……わかった。でも断っておくけど、普通の人にしてみればかなり信じがたい話になるぞ?」
「それはきっと大丈夫。今ならどんな荒唐無稽な話でも、信じられそうだから」
――聖杯戦争。
『イリヤ』『バーサーカー』に続き、またしても士郎の口から飛び出した聞きなれない単語。
名前だけではどのような物かを予想する事は出来なかったが、
『戦争』という言葉がつくからには穏やかなものではないのだろうと思われた。
「まず、魔術師っていう存在があって――」
美穂子はひとまず士郎の説明に耳を傾け続けた。
「――それでサーヴァントっていうのが――――で、聖杯っていうのが――」
魔術、魔法、マスター、サーヴァント、聖杯。
聞かされた話は確かに士郎の言うとおり、事情を知らない人間には信じがたい話であったことだろう。
とはいえ、この場所で様々な経験を経た今の美穂子にはもう、なんの引っかかりも無く彼の話を納得出来てしまっていた。
「――とまあ、色々ややこしい説明をしてきたけど。
最初に言ったように、七組のマスターとサーヴァントが『手に入れれば何でも願いが叶う聖杯』を巡って最後の一組に為るまで殺しあう。
聖杯戦争を簡潔に言えばこんな感じかな。全部、元の世界での俺の仲間の受け売りなんだけど……」
そして、先程彼が言った『イリヤ』は七人のマスターの内の一人であり、『バーサーカー』はイリヤのサーヴァントであったと言う事。
他にも何人かのサーヴァントがこの島に連れてこられていることや、最後に士郎自らもまたマスターの一人であったことを告げて、
士郎の話は締めくくられた。
- 116 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:20:28 ID:FtDhdbXo
-
「…………」
美穂子はすぐに返事を返す事が出来なかった。
士郎が語った聖杯戦争の、ひいてはサーヴァントについての話。それは想定よりも、今の美穂子にとって関連性の在る事柄だった。
美穂子がこれまで戦ってきた大敵達の正体。
ヴァンと平沢唯を殺害し、伊達政宗に致命打を与えた巨人――バーサーカー。
片倉小十郎を殺害した紫髪の女――ライダー。
「……そっか――」
だが、それらを知って沸きあがる感情は既に無かった。
少し前の、憎悪に支配されていた頃の美穂子であれば、果たして何を考えたか分らない。
けれど、美穂子もう知っていた。
今の自分にとって重要なものは、大切な人たちを奪った敵の名前ではなく、大切な人達が残した思いだけなのだと。
いまさら誰かの仇の正体を知ったところで、心が揺らぐ事は無い。
だから、この時に囚われていた感慨はまったく別のこと。
「――それじゃあ衛宮くんは、ここに来る前からずっと戦ってたんだ……」
そんなことだった。
美穂子は思う。
日常から非日常に引きずり出された自分に対して、非日常から更なる非日常へと引きずり出された彼。
はたして、その心境はいかほどのものなのだろうか。
辛くは無いのか?
いや、辛いはずだ。普通の人間であれば、彼が言ったように、少し魔術が使える以外は普通の学生であったのならば。
そんな過酷な戦いの連続には絶えられないだろう。
少なくとも美穂子には出来なかったことだ。なのに、どうして彼はそこまで強く在れるのだろうか?
そんな単純で大きな疑問に――。
「――え? いやっ……俺は別にそんな大した事は……。戦いは全部セイバーがこなしてばっかりで……俺は全然何も……出来てないよ」
士郎は少し悔しそうな表情を浮かべながら、どこか的外れな答えを返していた。
そうじゃない、と。美穂子は心中で思う。
敵と戦うことや、役に立ったかではなく、疑問はもっと根本的な事だ。
どうしてそんなに、命を掛けた戦いに『場慣れ』してしまっているのか? ということ。
「俺にはまだ、何も出来てない……誰も救えてない……」
けれども、士郎の言葉からは決定的な感情のズレが感じられていた。
デパートの屋上で、漆黒の武者と対峙したあの時と同じ。
圧倒的な力不足を理解していて、立ち向かえば必ず死ぬという事が分っていながらも、誰かを助ける事に迷いが無い。
それはもう自己犠牲の領域すら超えた、ある種の歪。
彼はとても哀しい生き方をしてきたのではないか、と。
ふと、美穂子はそんな思いに駆られていた。
「だいたいセイバーの奴、女の子の癖に自分が戦うんだって聞かなくてさ……。そりゃ確かに俺は半人前だけど……」
そんな美穂子の心中を知るはずもなく、
ブツブツと愚痴を吐くかのようにセイバーについて語る士郎の横顔はどこか懐かしそうで、どこか辛そうだった。
その表情に、大切な人を失った自分と似たものを見つけて、美穂子の感慨は流されていく。
「半人前だけど……今の俺なら……あの時より少しは戦えるかもれないのに……」
呟いた士郎の視線は、何も無い手の甲のあたりに向けられていた。
それはきっと、彼にとって最大の心残りなのだろう。
セイバーの名前は、既に放送で呼ばれている。
それが意味することなど明白だ。
士郎もまた、美穂子と同じく大切な人を失っている。
死した人への思いを抱えている。
- 117 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:21:42 ID:FtDhdbXo
-
「って、悪いな。なんか、愚痴みたいになってた……」
それきり口を閉ざす士郎。
彼の思いに対して、美穂子が言える事など何も無い。
これ以上、その思いに踏み込むことは出来ない。
士郎が今感じてる思いは、きっと彼だけにしか理解できないものだから。
美穂子の中の死者への思いが、美穂子だけのものであるように。
「ううん、気にしないで。気持ちは分るから……」
けれども、思いを共有することは出来なくとも、その一端を知る事なら出来る。
思いを抱えて生きているのは自分だけではない。皆それぞれ懸命に戦っているのだ。
それを実感することで、美穂子は少しだけ勇気をもらう事が出来ていたから。
ひっそりと、心中で彼に感謝する。
同時に、それを彼にも返してあげたいと思う。
「私も、その人に会ってみたかった。とても綺麗で、高潔な人だったのでしょう?」
「……ああ……うん。まあな」
そして、軽く戸惑いながらも、少しだけ誇らしそうに士郎が頷いたとき。
「開けた場所に出るぞ。 一応、警戒はしておけ」
前を歩くアオザキの重苦しい声が、暗い路地裏道の終わりを告げていた。
窮屈な路地裏を抜け、一転して広い道路に出た。
どうやら、ここは既にD−5中央都市部からは相当離れた西端の住宅街のようで、
もう美穂子の視界に高くそびえるビル郡は無く、まばらに民家が立ち並んでいる光景だけが広がっている。
道路の先を見ると、そう遠くない距離に橋が見えた。
息苦しさから解放され、一つため息をついた美穂子と士郎だったが、先行するアオザキはずんずん先へと進んでいく。
「っと、そうだ! セイバーの話をしてたら忘れそうになってたんだけど……」
アオザキを追って、美穂子が早歩きを再開したとき、ふと士郎が声を上げた。
「そもそも何で聖杯戦争の話をしたかっていうとだな」
イリヤとバーサーカーの説明ついでに、サーヴァントの危険性を語ったものかと思っていたのが、どうやら違うらしい。
確かに考えてもみれば、士郎が言った人物達――サーヴァントはもうライダーを除いて全て放送で呼ばれてしまっているし、
最後のサーヴァントであるライダーですら、もう生きているのか死んでいるのかも分らない。
今更サーヴァントの危険性について話す意義は少ないだろう。
とすると、聖杯戦争を知らせる事そのものに意味があったようだ。
「えっと、これも俺の仲間の受け売りなんだけど……」
そんな前置きをして、士郎は語った。
このバトルロワイアルに関する一つの『仮説』を。
様々な世界から参加者をここに集めた要因は聖杯の魔力によるものではないかということ。
この殺し合いは聖杯の行使を目的としたものではないかということ。
つまり、『バトルロワイアルとはルールを捻じ曲げて、規模を拡大した聖杯戦争で在る』という可能性について。
「……なるほど……ね」
納得する。人を生き返らせる魔法の正体。
それは美穂子も今までずっと考えてきた事であったが、
知らない異世界に聖杯という願望器があったならば、事の次第はずっと簡単なものとなる。
と同時に、『仮説』を語った士郎の表情に、ある変化を読み取って、
そちらに気が行ってしまっていたので。
「福路は、どう考えてたんだ?」
士郎からの問いに、少し反応が遅れてしまった。
- 118 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:22:26 ID:FtDhdbXo
-
「えっ?」
驚いたように顔を向けた美穂子に対して、士郎はあくまで興味本位と言った様子で聞いてくる。
「だから、福路は主催者の力に関して、どんなふうに考えていたのかってことなんだけど……」
「……あ……えと……私は……」
美穂子が考えていた死者蘇生の力。
ついつい、だらりと垂れ下がった制服の左袖に目が行ってしまう。
かつてそこに在ったモノ。そして、未だに己が内に潜むモノ。
それこそが美穂子の考えていた死者蘇生の正体であり。
「それは……」
やはり、語る事は憚られた。
今の自分の身の上についてを語る事は、彼への負担になる気がしていたから。
「もっと……詐欺みたいなモノなんじゃないかって。ほらあの帝愛の人たちって、信用できないから……」
代わりに、そう言ってはぐらかした。
美穂子は士郎という人物について、少しずつだが理解し始めていた。
この少年は、誰彼構わず助けようとするし、なんでも背負い込もうとする。
見ず知らずの者や、過去に自分を殺そうとした者すらも。
それは聖杯戦争で敵同士であった筈のイリヤという少女を本心から心配している事や、
あの屋上で迷う事無く美穂子を助けようとした行動からも伺えた。
そしてなによりも――あの時、士郎に投げかけられた言葉を憶えている。
『――死ぬな!いますぐ助けるから!だから――』
だからこそ、彼には知られたくなかった。
「詐欺……? それってどう――」
「あ、そういえば。衛宮くん。
もしかして、その仮説を考えた人が、白井黒子さん?」
だから、士郎が事をより深く追求する前に、美穂子は先程考えていた予測をぶつけてみた。
「へ? あ……ああ、そうなんだけど……なんで分ったんだ?」
どうやらそれは図星だったようで、話を逸らすことに成功する。
「なんとなく、そう思ったから……かな」
実際に、美穂子は少し鎌を掛けていたのだが、根拠はちゃんとある。
『受け売りの仮説』について語る士郎の表情には、彼がアオザキやゼクスと白井黒子に関して話していた時と同じような表情が浮かんでいた。
それは焦燥感と、もしくはそれ以外の何か。
信頼感のような、それで居て何より気遣っているような。
ほんの僅かに、特別な感情を浮かべていたように思われた。
「聞かせてもらっても、いいかな? 西に居るその白井って人や、衛宮君の仲間の人たちについて……」
美穂子の提案はこの場において、もっともな意見のはずだ。
二人は未だに、まともな情報交換を済ましていない。
そんな理屈に加えて、美穂子は少し気になってもいた。
最良の選択だったとはいえ、士郎があれほどに悩み、そして選んだ後も未だに苦悩している選択肢。
その結果優先した白井黒子とは、はたしてどのような人物なのだろうかと。
「ああ、もちろんだ」
当然の如く、士郎は快く引き受けて、彼が今まで関わってきた者達について話し始めた。
- 119 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:23:19 ID:FtDhdbXo
-
会話の合間にも、目的地までの距離は縮まっていく。
三人が辿り着いたD―5西端の橋には、既に崩壊の兆しが見え始めていた。
バーサーカーとライダーによって散々痛めつけられた木材は多くの部分が欠損しており。
今このときも軋みを上げ続けている。
そんな場所をアオザキは臆する事無く進んでいき。
美穂子もまた士郎と共に、朽ち掛けている足場におずおずと足を乗せた。
「そう……。そんなことが……」
「ああ、だから急がないと」
不安な足場に意識を割きながらも、美穂子と士郎の情報交換は未だに続いている。
今は士郎から、士郎がこれまでに体験した一連の出来事を聞いていた。
ここまで、彼はあまり殺し合いに乗った者とは遭遇していないようであったが。
この島での初戦となった先の戦闘の最中、彼と共にいた白井黒子は銃撃により重傷を負ってしまったらしい。
「俺が不甲斐ないから、白井はあんな事になったんだ……。だから絶対に助けないと……」
士郎はそんな事を言ったが、
流石にこの発想には美穂子も異を唱えた。
「そんな……。どうして衛宮くんがそこまで責任を感じているの……? そもそもあれは私が――」
三回目の放送を聞いてから漆黒の武者と対峙するまで、美穂子の記憶は混濁している。
しかし、先の戦闘の火蓋を切ったのは自分であったことを、おぼろげながらも覚えていた。
そして今隣を歩いている少年に向かって手を上げたことも。
だから非が在るとすればそれは美穂子であり、責められるべきも同様のはずで、無論甘んじて受けるつもりだった。
にも拘らず、士郎は美穂子の言葉を手で制して言う。
「俺は、アイツと約束したんだ……」
「……約束?」
「ああ。一緒にこの世界から生きて帰る……って約束。だからアイツは、俺が守ってやらなきゃ……駄目なんだ」
「………………」
士郎の目は真っ直ぐだった。
ここに居ない白井黒子に告げるように。誓いを反芻するかのように、言い切った。
美穂子は少し、呆気に取られてしまう。
改めて自分の考え――やはり白井黒子が士郎にとって、特別な人物であるという事を確信する。
そう、特別なのだ。
誰彼構わず平等に助けようとする、まるで『正義の味方』のような衛宮士郎という人物の中で。
唯一、白井黒子だけが特別な価値を持とうとしている。士郎本人が自覚しているかどうかは分らないが。
ただ一つ言えた事は、あの戦いのおり、士郎は誰よりも白井黒子を優先したかったはずだ。
なのに、それを押し切ってまで福路美穂子を救いに来た。
その矛盾した行動にこそ、彼の苦悩と、歪の正体があるのではないかと、美穂子は思う。
そして、その歪の形は今の美穂子の在り方と、どこか似ているような気がしながらも。
この瞬間迷いに揺れている士郎と、彼に守りたいと想われている白井黒子のことを、美穂子は少し羨ましく感じてもいた。
守りたいと願う、大切な人。
それは美穂子にとって、もう既に失われていて、二度と戻らないものだ。
けれども、士郎と黒子にはまだ互いが残っている。
彼らの大切な人は失われていない、まだ生き続けている。
それは何よりも幸福なことだと、美穂子は心から思う。
やり直したいと思った。
もう間違えない、負けないと誓った。
だから美穂子まだ生きている、生きてここ居る。
もう一度だけ、勝つ為に戦う事を決めたのだ。
それでも、失ったものは戻らない。
これはどうしようもない現実だ。
戻らないからこそ、何よりも尊い価値がある。
故に死者の蘇生など嘘っぱちだと、美穂子は思う。
金や殺人で大切なモノを取り戻す事など、出来る訳がない。
そんなことは絶対にしちゃいけない、と。
大切な人をたくさん失った今だからこそ、美穂子には断言することができた。
そんな感慨と共に、美穂子もまたこれまで体験してきた事を、アンリマユや自分の状態については伏せつつ士郎に話した。
士郎は少し顔を顰めながらも、最後まで黙って美穂子の話を聞いていた。
話終えたとき、士郎は少しだけ顔を伏せてしまったので、美穂子に士郎の心中を図る事は出来なかった。
- 120 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:23:54 ID:FtDhdbXo
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一通りの情報交換が終わり、橋の中央まで来たときだ。
「なあ、アオザキ。そろそろ教えてくれないか?」
士郎が、先行するアオザキに近づいて声を掛けた。
「アンタ、どうして俺達を助けた? 俺達の味方だって言ってたけど、具体的に何が目的なんだ?」
未だ不明瞭なアオザキの正体。
橋を渡りきる前に、それを問い質しておこうと考えたのか。
士郎は少し詰問するような口調だった。
- 121 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:24:41 ID:FtDhdbXo
-
美穂子はそれをひとまず後ろから見ていることにする。
自分が続いたところで話が拗れるだけであろうし、魔術師同士である二人の間には軽い専門用語が飛び交っており、正直入っていけそうに無い。
だから、話の内容は後で士郎に教えてもらうことにした。
小さな声で為されている前方の会話から取り残されて、自分だけが世界から隔離されたような錯覚に陥る。
壊れかれた橋の上。
思わず足を止めて、橋の下に流れる川を見下ろしていた。
あたりは酷く静かだ。
ビル郡の光も、背後に遠い。
今は月明かりだけが美穂子の世界を照らしている。
人と人との喧騒も、虫の声もここには無い。
ただ、夜風が頬を撫でていくだけで――。
穏やかに、時間が流れていく。
士郎とたくさん話した余韻も手伝って、心が少し軽くなっていたからだろうか。
「『生きて』……『この世界から出る』……か」
気がつけば、その言葉をなぞっていた。
生きて、この世界から脱出して、それからどうするのか。
そんな『先』の事を美穂子は初めて考えた。
真っ先に浮かんだのは自分の事を『お姉ちゃん』と読んでくれた三つ子たちの存在で。
出来る事なら、生きて帰る事が出来たなら、華菜の代わりに自分が守ってあげたい。
もう一度、あの日常へと――。
「――――――っ!!」
そんな、儚い空想は、目の前に結ばれた像によって、呆気なく壊されてしまった。
「私は……いまさら……何を……」
月の光に煌いた川の水面に映る、美穂子自身の姿。
在るべき片腕を失った少女。この世全ての悪を身に宿した少女。
そんな変わり果てた自分の姿を見て。
急速に、心が冷えきっていく。
立ちくらみのように、一瞬だけ前後不覚に陥って。
全身を包む悪寒。絶望の味を思い出した。
――なにを馬鹿な。今更あの暖かな日常の中に、戻れるとでも思っているのか?
美穂子は自嘲する。
自分は今、なんて甘い幻想を抱いていたのだろうか、と。
そして、いまさら何に絶望しているのか、と。
全てが終わった後の事など、『先』の事など、果たして自分に用意されているか分らない。
今の自分がどれだけ日常からかけ離れてしまったのか、歪な存在になってしまったのか、そんな事は自覚していた。
日常に帰れるなんて、到底思えない。
きっと、自分は救われない。
- 122 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:25:07 ID:FtDhdbXo
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左肩が、悲哀を喰らうように、厳かに疼く。胸が締め付けられるようだ。
こんな事はずっと前から分かっていた事なのに。とうに覚悟していた筈なのに。
自分の姿を見た。現実を再認識した。
ただそれだけの事で、こんなにも心が痛む。
水面に映る現実に、圧しつぶされそうになっている。
けれども、それは考えてもみれば当たり前の事だろう。
いくら美穂子が数々の体験を経て、強くあろうと振舞っても、高貴な決意を固めていても。
結局、その心の本質は、普通の日常を生きてきただけの、普通の少女のものだった。
平気で居られるわけが無い。
美穂子は疼く左肩を押さえがなら、静かに眼を閉じる。
本音を言えば、怖くてしかたがなかった。
どうしようもなく、苦しかった。
泣きたいくらい、辛かった。
けれど自分には、それを訴える資格など無いと思っていた。
自分の間違いを許す事は出来ない。
失った人たちの事を思うと、自分だけが救われていいなんて思えなかった。
そして最も明確な罪の形にも、つい先程直面したばかりだ。
士郎は気が付いていないようだったが。
数十分前に出会い、そしてすぐに別れたゼクス・マーキスという男。
彼はきっと――死ぬだろう。
あの怪我で動き回って、無事で済む筈が無い。
『ならば良い。後は我々と共に主催に立ち向かってくれるのであれば言う事はない』
強い決意と共に走り去る彼を、美穂子にも士郎にも止めることは出来なかった。
ゼクスもまた美穂子に思いを残していき、美穂子も彼に誓いを返した。
この意志を貫きたいとは思うけれど。
それでも、やはり許されるとは思えない。
- 123 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:28:01 ID:FtDhdbXo
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様々な感情が綯い交ぜになって美穂子の中を駆け巡っている。
ただの少女の限界を超えた精神疲労。
それを美穂子は暫く立ち尽くしたまま、左肩を押さえ、両目を瞑り、じっと耐えていた。
たった一人で、一人ぼっちで苦痛に耐えて続けていた。
それが罰なのだと、背負うべき業であると言うように――。
「大丈夫……私はまだ……大丈夫だから……」
失った人たちを脳裏に思い出して、唱えるように断言する。
託された思いこそが、今の美穂子を支えている。
彼らの分まで勝利するという意志こそが全ての原動力だ。
ただ一つ、自分が正しいを思ったことを為す。
目の前の事からは絶対に逃げない。
「私は……まだ……戦えるから……負けないから……」
この強い思いが在る限り、『この世全ての悪』なんかには絶対に負けたりしない。
例えどれほど辛くても、苦しい道のりであったとしても。
今の美穂子には、自分は間違えていないと強く言える。正しい気持ちで戦っていける。
ならば、それで十分だ。
立ち向かうべきものは分っているから。後は自分の役割を見つけ出すだけ。
「絶対に……勝つからね……みんなの分まで……」
左肩の疼きが、少しずつ退いていく。
美穂子はゆっくりと右眼を開いて、水面に映った自分の姿を今一度、正面から見据えた。
曇りのない青い瞳が、美穂子を見返している。
「もう、泣かない」
もう、自分の世界が揺らぐ事は無い。
「いつか終わりが来るまでは、精一杯生きてみせる。生き抜いてみせるから――」
その言葉だけを水面の自分に告げて。
美穂子は少し距離が離れそうになっていた士郎の背中を追い、再び歩き始めた。
もうすぐ、橋の向こう側だ。
最後に美穂子は思う。
どうか、かの二人には報われてほしい、と。
せめて救われる事のない自分の分まで、
彼と彼女とが無事に再会し、そして約束を果たしてほしい、と。
そんなことを、静かに祈っていた。
- 124 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:29:01 ID:FtDhdbXo
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■ 『魔術師:根源に至る道:橋の中間〜橋の終わり』 ■
橋の中間地点にて。
「アンタ、本当はどうして俺達を助けた? 俺達の味方だって言ってたけど、具体的に何が目的なんだ?」
問いかける少年――衛宮士郎に対して、
さてどう答えようか、と。
魔術師――荒耶宗蓮は一瞬だけ思案を巡らせていた。
「善意だけって訳じゃないんだろ?」
続けられた言葉も、計算の内。
いつかは問われる事だと思っていた。
とはいえ、どの程度事情を明かすかは、そのときの状況に応じるもの。
「――然りだ。
おまえ達に私の協力者足りえる価値が在るからこそ、私は危険を冒してでもあの場に赴いた。
理由は先程にも言ったとおり、現状おまえはこの島で生存している唯一の魔術師であるからだ」
とりあえずは、あらかじめ用意してあった返答を返して様子を見ることにする。
今のところ、荒耶の言葉に嘘はない。
そして当然の事だが、やはり荒耶の想定通り、この説明では士郎も納得がいかないようだ。
「じゃあ、俺に協力してほしいことってなんだ? そもそもアンタは一体何者なんだ? 首輪をしていないってことは――」
「全てを話せば長くなる」
繰り出されかけた質問の嵐を、ゼクスマーキスに放った言葉と同じもので圧し留める。
「だが、そうだな。肩書きとしての素性と、おまえを助けた具体的な理由については、今の内に軽く述べておく事にしよう」
――今はそれでいいだろう、と。
押し通すような視線と共に魔術師は言う。
士郎もまずは話を聞こうと決めたのか、「わかったよ」と一つ呟いて暫し口を閉じる。
そうして、荒耶宗蓮は開示するべき真実と吹き込むべき虚実を、目の前の少年に与え始めた。
「察しているだろうが私は主催者側の人間だ。ただし、連中とは既に袂を分っている。故、多少ばかり身動きが取りにくい状況に在る。
私の目的はこの状況の打開。その為におまえの力が必要だ」
その前置きは、かつてアステカの魔術師に語ったものと似たような内容であった。
「確かに、ここに来る前のおまえは魔術師として酷く半端者であった。同じ世界からここに来た者の中では最弱と断言できる。
何故、連中はあれほど多くのサーヴァントを呼び出しておいて、マスターの中からおまえ一人を選んだのかは私も知らぬが……」
荒耶は未だに真実を述べ続けている。
実際、マスターの中から士郎だけがここに呼び出されている事は荒耶も疑問に思っていた。
このバトルロワイアルにおける黒幕の正体を知っていればこそである。
- 125 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:29:26 ID:FtDhdbXo
-
「だが、衛宮士郎は成長する事が可能である。
事実として、おまえは己の力の本質を理解し、それなりに戦えるほどの力を付け始めている。
そして、お前の魔術はここが底ではない」
「どういう……意味だ?」
さて、ここからが本題だ。
荒耶にとって、そして士郎にとっても。
「実態は私が話さずとも、それを得る事が出来れば自然に知れる事だろう。
行使が可能となれば、おまえは殺し合いに乗った者達や主催者に対して、かなり有用な切り札となる。
そして、そのための下地は既に出来上がっている。故に、残る必要な工程にも私は協力しよう。
だが今は身体を休める事が先決だ。魔力が枯渇した状態では何を為す事もできん」
一気に言って、荒耶は士郎から視線を切り、歩みのスピードを上げた。
取り残された士郎は未だに何か聞きたそうな様子であったが。
荒耶はもうこの場ではこれ以上語らぬと背中で示す。
そうして、魔術師は己の思考の中へと埋没していった。
衛宮士郎は荒耶が与えたきっかけを見事に掴み、自身の本質を完全に理解しつつある。
しかも、最大の課題であった『膨大な魔力』と共に、こちらの手の内に転がり込んできたのだ。
美穂子の身に刻まれたアンリ・マユの疑似魔術刻印の一部を士郎へと移植し、
魔力の流れを作れば、士郎は固有結界を展開出来る程の出力を得るのだ。
見込みの薄かった策が、現実に為そうとしている。
『衛宮士郎の固有結界をもってして抑止力を打開し、両儀式を手中に収め、根源へと至る』
その方法。
残る大きな課題は衛宮士郎を如何にして両儀式にぶつけるか、だ。
三人が向かう島の西には、式と共に数々の思惑を抱えた者達の姿が在る。
ならば幾つかに分けれた西側の集団。
そこに蔓延るそれぞれの思惑、誤解や不和を利用するのが定石か。
荒耶はその具体的な方法に思慮を働かせ続ける。
そこへもう一度、背後から挟まれる士郎の声。
「なあ最後にもう一つだけ、教えてもらってもいいか?」
魔術師は前を見つめたまま、返事を返さない。
士郎はそれを無言の肯定と受け取ったのか。
「福路は……今どういう状態なんだ?」
その問いに対して。
なるほど確かに、この男は聞き及んでいた通りの『正義の味方』だなと納得しつつ。
「……やめておけ。アレはもう、おまえにはどうにも出来ない存在だ」
荒耶はつまらなげに、振り返る事も無くそう言い切った。
- 126 : ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:30:13 ID:FtDhdbXo
- ここで分割します
- 127 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:31:29 ID:FtDhdbXo
-
■ 『少年:届かぬ救済:橋の終わり〜民家の庭』 ■
エリアD-4。
デバイスにはそう記されてあった。
橋を渡りきり、辿り着いた民家の庭で士郎はいま、木製の椅子に腰掛けて軽い休息を取っている。
アオザキは『他の参加者の位置を確認してくるからここに居ろ』と言ったきり中々戻ってこない。
福路美穂子は今、民家の中で着替えを物色している。
士郎は一人、月を見上げながらこれからの事を考えていた。
しかし、先のことなど霞が掛かったように見えてはこない。
アオザキの正体とは?
己の魔術の本質とは?
白井黒子は果たして無事に居るのか?
どれも考えたところで答えの出ないことばかりだ。
全ての事態が自分を置いて進行しているような感覚、どうにも気に入らない。
「衛宮くん、おまたせしました」
そんな時、声が聞こえたので顔を上げると、福路美穂子が民家から出てきた所だった。
「ん……ああ、そうか」
福路は動きやすさを考慮したのか、小脇にジーンズとワイシャツを抱えていた。
けれども、服装は士郎の制服を羽織ったままで、以前と変わっていない。
「ごめんなさい……もうちょっと借りていいかな?」
「そりゃ、かまわないけど」
その姿を改めて直視して、何か言葉を掛けた方がいいのだろうかと考えたとき、萎れたように垂れ下がっている左袖を見てしまい。
一瞬、言葉に詰まる。
その視線に気が付いたのか、福路は左肩を右手で触りながら、「気にしないで」と言うように苦笑いを浮かべていた。
片腕の身では、すぐ着替える事にも難儀するのだろう。
落ち着いて身体を休められる場所に辿り着いてから、ゆっくり着替えるつもりのようだ。
椅子は庭に幾つかあったのだが、福路は座らなかった。
士郎の目の前に立ったまま、先程までの士郎に習うように、ぼんやりと月を見上げている。
その瞳はどこか憂いを湛えているようでもあり、またどこか笑っているようにも見えた。
二人の間に、暫しの沈黙が流れる。
士郎が座る事を促そうかと迷っていたときだった。
「衛宮くん。これ」
突然、士郎へと福路が手を差し出した。
目の前に広げられた少女の手の平。
そこには黒くて丸い帯の様なものが乗っていた。
「……これって、眼帯か?」
士郎はそれを受け取って、まじまじと見たが。
やはり、その様にしか見えなかった。
当たり前のことだが福路はもちろん、士郎も眼に怪我など負っていない。
疑問を表情に浮かべながら士郎は美穂子を見上げた。
「そう。これには――凄く強くて、どもまでも真っ直ぐだったある男の人の魂が篭っているの。お守り見たいな物だと思って」
「俺に、渡していいのか?」
「貴方に……持っていて欲しい。常に強く在るという事。私には出来なかったけど……衛宮くんになら、きっと託せる」
福路はどこか影のある微笑を浮かべながらそう言って、士郎から数歩だけ距離を置いた。
- 128 :Moonlight Blue ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:33:27 ID:FtDhdbXo
-
「それに……わたしにはまだ、これもあるから」
そう言って、福路はディパックから折れた日本刀を取り出して、掲げて見せた。
宙に浮かび上がった白銀の刀身が、月光を反射して淡い輝きを放っている。
少女はそれを、儚い微笑を浮かべながら見つめていて――。
そんなとき、不意に風が吹く。
穏やかな夜風に福路の髪がふわりと浮いて、流されるままに踊った。
襟足辺りで切り揃えられた後ろ髪が上下に揺れて、その下に隠れていたうなじを少し覗かせた。
刀を握る彼女の右手が、舞う髪を押さえる為に耳元へと伸びていき。
ガランドウの左袖はただ静かに、独りでにたなびくのみ。
士郎はその光景に、何故かは分らないが、
目の前の少女が消えていくような錯覚に囚われていた。
まるで、今このとき士郎の手元に残った眼帯が、福路美穂子の遺言であったかのような。
そんな予感に駆られて――ー。
「……お前は死ぬのか……福路」
気が付けば、そんな事を聞いていた。
福路はその突拍子も無い言葉に、はっとしたように一瞬目を見開いて。
まるで悪戯がばれてしまったかのような、小さい苦笑いを頬に浮かべる。
そして、士郎の顔を横目で見。
「それは…………私にもわからない。でも、私はまだ生きている。それは確かなことでしょう?」
そんなふうに、とぼけてみせた。
彼女は肯定はしなかったが、やはり否定もしなかった。
「いったい、何があったんだ? どうして、そんな……!」
その問いに対して、福路は暫く答えない。
先程、福路は自分の身の上を士郎に語ったが、重要な部分は全て抜け落ちていた。
福路はそもそも天江衣と同じ世界の人間である、魔術師でも、超能力者でもない事は明らかだ。
にも関わらず、あの瘴気や失われた左腕、錯乱していた事情、普通の人間としては在り得ぬ不可解の数々。
それについて福路は明確に語らなかった。
けれども、何か壮絶な出来事があったことは想像に難くない。
彼女の状態が平常でない事など誰の目にも明らかだ。
「私のことは……気にしないで……」
やがて福路は小さな声で言って、右手を下ろし俯いて、その表情は見えなくなった。
けれど佇まいが「負担になりたくない」と語っているようで。
士郎は少し悲しくなる。
きっと彼女は士郎に心配させたくなくて、多くを語らなかったのだろう。
だがそれは違った見方をすれば、「士郎にはどうしようもない事情である」と彼女は思っている訳だ。
脳裏に、アオザキの言葉が思い起こされる。
――アレはもう、おまえにはどうしようもない。
それを振り払うように、士郎は言おうとした。
「俺は……福路のことも……!」
だがそこで、またしても言葉に詰ってしまった。
果たして、己はどんなセリフを続けるつもりなのか、と。
士郎は自問する。
- 129 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:34:31 ID:FtDhdbXo
-
『生きていて欲しい』とでも言うつもりか。
それとも、『助けたい』とでも、『救いたい』とでも言うつもりだったのか。
いつもなら断言できた事柄なのに、今は何故か言葉が出てこない。
その理由は――。
『士郎さん…約束…忘れないで…』
『全てを背負うのは不可能であると自覚しろ。』
「…………っ」
揺れている。
士郎の中の根幹を為す何かが。
ありえない筈の優先順位が――生まれようとしている。
「福路にも……死んでほしくない……」
やっと言う事が出来たのはそんな当たり前のこと。
偽善者のセリフだった。
こんな事が言いたかったんじゃない、という思いに駆られて。
「違う、そうじゃないんだ。俺は福路も――」
もう一度、言い直そうとしたとき。
「――駄目」
呟かれた小さな、けれどハッキリとした拒絶の声に、士郎の言葉は断ち切られた。
「駄目……」
福路は俯いたまま、ポツリと繰り返した。
「ねえ……衛宮くん。あなたは、一体誰を守りたいの? 誰を救いたいの?」
「俺、は……」
士郎はそれに、なんと答えてよいのか分らない。
己は何を救いたいと願い、何を救わないのか。
そんな事はもう明白だ。
「一番大切なものを、見失っちゃ駄目。
私なんかにかまっていたら、私を助けようなんて考えていたら。
あなたはきっとまた、後悔を増やす結果になる……」
セイバーのように、と。
言外に言われている気がした。
それと同時に、約束を交わした一人の少女が死んでいく様を幻視する。
「俺は……」
口を開けど、やはり続く言葉が出てこない。
弱弱しく、意志の見当たらない声を出す事しか出来なかった。
「私は……!」
対照的に、福路の口調は一層強いものになっていく。
「私はもう、誰かの重荷になんてなりたくない!
私のせいで……誰かが死ぬところなんてもう見たくないの……。
だから、あなたには……あなたにとって一番守りたい人を、何より優先して欲しい……。
私なんかを助けようなんて……思わないで……」
- 130 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:36:08 ID:FtDhdbXo
-
悔しかった。
言葉を返せないことが。
「全てを背負って戦うことなんて、誰にも出来ない。
みんなみんな助けるなんて、そんな事はきっと出来ない。
あなたには、あなたのやるべき事があるはず。
優先順位を……間違えては駄目……」
歯がゆかった。
俯いた少女の震えた声を遮る事が出来ない、己の不甲斐なさに。
「だって……あなたが守りたい人は――」
なによりも、その言葉が――。
「あなたの大切な人は、まだ生きているのでしょう?」
俯いたまま、まるで自分は生きていないとでも言うように。
その言葉を言わせてしまった事が、なによりも士郎自身を責めた。
「ありがとう。でも、ごめんなさい」
福路は顔を上げる。
「あの時、貴方の言葉で、わたしは大切な事を思い出せた。そして、ここに戻ってくる事が出来た。
それで十分助けてもらってる。わたしは救われているから……」
だからもう十分なのだ、と。
これから先、自分の身がどうなろうと後悔はない、と。
福路は微笑んでいた。
「今度はわたしが……誰かを救う番なんだと思う」
悪性と善性を両眼に併せ持つ少女の微笑み。
そんな幻想的な光景が、月光に照らされて輝いている。
淡い輝きを放つブルーの右目の隣で、今までずっと閉じられていた左目が開かれていた。
まるで煉獄の炎を思わせるかのような、真紅の瞳。
この世全ての悪性を孕む。
それは何よりもおぞましい瞳であった。
それに、士郎は一瞬ぞっとする。
紅の視線が、少女が背負うものの大きさと、言葉よりも明確な事実を突きつけてくる。
誰かを助ける事を望み、己が救われる事を望まない。
士郎はその在り方に、自分と似たモノを感じたからこそ。
もう自分が何をいっても無駄である事を悟らされた。
(…………)
だが、最も士郎の気を引いたのはそんなモノではない。
紅の左目の隣では、蒼の右目も未だ月光を反射して輝いている。
少女がまだ生きていることを証明している。
どこまでも澄み切った海面のような、群青の瞳。
見つめる全てを包み込む。
それは何よりも暖かな瞳であった。
(そう、だったよな……)
そこに士郎は、かつて一度だけ聞いた、救いを求めるか細い声を思い出していた。
- 131 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:39:44 ID:FtDhdbXo
-
『たす……けて……』、と。
縋るような少女の声。
果たしてそれに、己はなんと答えたのであったか?
(そうだったよな……くそッ!! 馬鹿か俺は……!)
士郎の全身に、高熱を伴った怒りが湧き上がる。
無論自分に対しての怒りだ。
己は今まで何を忘れていたのか。何を迷っていたのか。
士郎はやっと後悔する。そして決断する事が出来た。
迷う事などもう遅い。とっくにそんな段階は終わっていたのだ。
既に自分は、目の前の少女に対して言ってしまっている。
『必ず助ける』と。
だというのに、自分は今更なにを責任逃れしようとしているのか。
そも、全てを救うことこそが己の理想だったはずなのに――。
「だからあなたは――」
「――駄目だ」
だから、同じセリフで遮ってやった。
ようやく、士郎は自分を取り戻す。
『正義の味方』である、衛宮士郎を取り戻す。
「駄目だ、俺は納得いかない」
ピシャリと、言ってやった。
士郎の一転した強い口調に、福路はすぐに言葉を返す事が出来ない。
ここぞとばかりに畳み掛ける。
あの屋上で言ったように、もう一度。
「福路も俺達と一緒に、生きてここから帰るんだよ。もし福路が諦めそうになっても、俺や俺の仲間が無理やりにでも助けてやる」
自分勝手なエゴを、叩きつけてやった。
それに一瞬だけポカンとした福路であったが、
数瞬後、怒気すら滲ませた言葉を返してきた。
「衛宮くん! あなたは私の話を……!」
「全てを背負うことは出来ない……か? 悪いけど、俺はもう背負ってしまってるんだ。今更になって下ろす事なんか出来ないな」
切り返しにも、淀みは無い。
一度心を決めてしまえば、先程までが嘘のように言うべき事が明瞭になった。
「……っ! それでも……それでも私は……!」
――誰かの重荷になりたくない。
その言葉にも既に、ぶつけるべきセリフは用意してある。
それは士郎が知る限りとびっきり効果的な、こういう時に何よりも有効な殺し文句だ。
士郎が未だに忘れられない、何よりも脳裏に残るあの声、あの言葉。
それを士郎はこの時、自然に選び取っていた。
「『誰かの重荷』なんて。それも、もう遅い」
ただし泣き顔ではなく、今は笑顔で断言する。
「だって福路が死んだら、俺が悲しむだろ」
福路は一瞬、これ以上無いくらい呆気に取られていた。
- 132 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:41:59 ID:FtDhdbXo
-
「……っ!? なにを言っ――」
「もううるさい。福路の事情なんかしるかっ! 俺は白井も絶対助けるし、福路だって絶対に助ける。
例え事情を話してくれなくても、無理やりに助けるし、無理やり俺達と一緒に元の世界に帰らせてやる」
漸く意味が通じた様子の福路にむかって畳み掛けるように言ったあと、士郎も少し気恥ずかしくなって視線を逸らす。
やはり自分にはあの少女のように、連呼する事など出来ないようだ。
なんと言うか照れが半端ではない。
暫し、沈黙が流れた。
福路の様子は推し量る事が出来ない。
ただ士郎にとっては間違いなく、気持ちのいい沈黙でなかった。
突然、隣から聞こえてきた小さな笑い声に、士郎はおずおずと視線を戻す。
「……会ったばかりの女性にむかって……よくもまあ……そこまでの事が言えるのね……」
福路は心底呆れたように、苦笑いを浮かべていた。
その様子に士郎も少し安心したような、疲れたような、複雑な心境に陥ってしまう。
「残念だったな。こんな変わり者に出会った事が運の付きなんだ。あきらめてくれ」
そのぶっきらぼうな口調が更に可笑しかったのか、福路はもう一度軽快に笑い。
士郎に呆れ果てたからか。言い合うことに面倒になったのか。
それとも、もう何を言っても無駄と悟ったのか、諦めの口調で言った。
「もうっ……衛宮くんは頑固な人ね……」
「福路もな……」
言葉通り、どっちもどっちだと士郎は思う。
「うん。やっぱり……ちょっと羨ましいかな……」
「えっ?」
聞き返した士郎に「もういいわ」と言って、福路はもう一度だけ微笑んだ。
それは今まで見た事の無い笑みだった。
儚さも影も無い、一切の不純物を含まない笑顔。
それが福路美穂子にとって心からの、本物の微笑みなのだろう。
「もういいです。衛宮くんの好きなようにしてください。私は私の好きなようにしますから」
「ああ、望むところだ」
士郎は力強く頷いてみせる。
- 133 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:42:24 ID:FtDhdbXo
-
結局、事態は何一つ進展していない。
士郎には福路の事情を聞き出す事は出来なかったし、解決策などまだ何所にも見当たらない。
福路の心根も、きっと話す前と何も変わっていないのだろう。
けれど、これこそが第一歩なのだと。
花が咲いたような、その笑顔を見る事が出来たという事実にこそ、きっと価値が在る、と。
士郎にはそう信じる事が出来た。
強引に、意図を汲まずに、それでも――これが自分の理想、
『誰かを救う』ということなのだから。
などと、士郎が考えていたとき。
福路も少しの間は笑っていたのだが。
「けどね、衛宮くんっ!」
そこで急に、怒ったような声を上げた。
じぃっと、士郎の目を覗き飲んでくる。
「な……なんだ?」
そして、蒼紅のオッドアイに正面から見つめられ、
思わず身構えていた士郎に向かって。
「浮気は、駄目よ?」
福路はウインクついでに、左目を閉じてそう言った。
今度は士郎が呆ける番だった。
「…………はあ!? なっ!? いやっ俺はっ!」
一瞬だけ、少し顔を赤くして、
しどろもどろになる士郎であったが。
悪戯っぽくクスクス笑う福路を見て。
自分は今、からかわれているのだと、彼は思い知るのであった。
- 134 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:43:52 ID:FtDhdbXo
-
■ 『魔術師:根源に至る道2:民家の裏手〜民家の庭』 ■
その時、荒耶宗蓮は二人から10メートルも離れていない民家の裏手で、音も無く佇んでいた。
自らの眼で同行者を監視するでもなく、しかして周囲を観察するでもなく、ただじっと立ち尽くしている。
一見無駄に無防備を晒しているようでいて、荒耶はこのとき監視、観察、警戒、哨戒、計略その全てを同時にこなしていた。
そう、この島における事象の全ては荒耶にとってすれば『見る』までもないのだ。
同行者の様子など当然容易に、この島に存在する大半の人間の現状すら、意識下で把握する事が可能である。
『見る』のではなく、『感じ取る』。
壁に背を付け、目蓋を閉じて、気配を消して、世界に溶ける。
彼はこの時、世界と一体になっていた。
今更、さして驚くべきことではない。
なぜなら、この世界の基盤となる結界を構成したのは紛れも無くこの男だ。
その事実は男が一度死した後にも違える事はありえない。
身体適合率の低下によって、たしかに数時間前までは己の魔術と半断線状態に追い込まれていた。
たが今はもうマンションに到達し、更に数時間の期間を経て、己と己の魔術との結びつきの大半を取り戻している。
残る問題点は身体能力の弱体化ただ一つと言ってもいいだろう。
未だ、この地に存在する人間は一つの巨大な魔術の中に取り込まれている。
つまりは荒耶の体内にいるも同義ということ。
完全ではない故に、多少の精神集中を余儀なくされるものの、荒耶の感知はいまや相当の広域に及びつつあった。
――目標たる両儀式の姿は西南に在り。
現在は同行者たるデュオ・マックスウェルと共に、更に西へと移動している。
既に主催者との義理を気にする必要も無い。
そろそろ己の生存も知れる頃だろうが、もう後は邁進し、根源へと至るのみだ。
完全で無いが魔力行使には申し分のない己の身体適合率。異界の発生源であり、使える戦力でもある衛宮士郎。その魔力ブーストとなる福路美穂子。
既に最低限の手札は整った。
あと一つ、準備するべきは場の状況のみだろう。
衛宮士郎の固有結界を両義にぶつけられる場。
それには善悪、正誤、敵味方入り乱れる混沌とした鉄火場が好ましい。
小川マンションはかなり有用であったが、既に倒壊してしまった以上は自ら場を作り出すほかあるまい。
その為にやはり、重ねて利用するべきは周囲の人間。
荒耶は両義以外の参加者の立ち位置も入念に心得ている。
要となる者は――やはりルルーシュ・ランペルージとその一団、現在進行形で両義を利用せんと立ち回っている者達だろう。
狡猾なルルーシュと、奴と共に動く三人の少女は実に剣呑だ。抱えている波乱の種も申し分ない。
現在は、両義とそう離れていない南西にその集団は在る。
そこに加える火種としては――ここから南方に、更に南下する三人の少女の姿が在る。
白井黒子、天江衣、浅上藤乃。
いずれもルルーシュ達の正体を心得ている。
薬局から北上する阿良々木暦とグラハム・エーカーはそれ以上に有用だが、東側に向かうという意志が問題だ。
上手く利用出来ないようならば、接触を避けるのも一つの手であろう。
もちろん利用できるならばそれにこした事はないが。
以上が島西側に存在する参加者達の現状。
対して東側は未だ混乱が収まらない厄介な様相を模している。
- 135 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:44:21 ID:FtDhdbXo
-
東に居る危険人物――織田信長も一方通行も、混乱を発生させるという面においては郡を抜いて有用だ。
強力過ぎる性能ゆえに、如何せん不確定要素が大きすぎるのが問題だが、こちらから迂闊に手を出さなければ問題なく利用できる。
今のところ東側へと移動する気配は無いが、接近を確認した場合にはなるべく早い内に策に組み込む方針だった。
とりあえず、東側に存在する参加者の中ではその二名が再重要であり、おそらく他は考慮せずとも良いだろう。
後の者は距離的にも能力的にも抱える事情としても、生み出す状況に組み込むのは少し難しい。
――と、そこまで荒耶が考えた時だった。
預かり知らぬ気配に意識を飛ばした所、その正体を感じ取る。
(ふむ……憩いの館の領域にアリー・アル・サーシェス……。
リボンズの息がかかっている……ならば、近づくのは危険――いや、上手くすれば有効に使えるやも知れぬか……)
サーシェスは常識や良識を知った上で十分な実力を持った危険人物だ、
リスクは在るが上手く接触できれば、強力な協力者となるかもしれない。
「――――」
そうして全ての参加者に一通りの評価を付け、
漸く荒耶宗蓮は眼を開き、意識を己が身に引き戻した。
民家の壁から身を離し、士郎と美穂子の居る庭に向かって歩き始める。
最後に思慮する事は衛宮士郎と福路美穂子に関する事だ。
――まずは、衛宮士郎。
白井黒子が既に治療された事を知れば士郎はどう動くか。
おそらく、あくまで白井の無事を確認せんとするだろう。
あくまで屋上に残してきた者達に拘る可能性も十二分に在るが、
士郎が気にかかっている者達の現状は全て荒耶が把握している。
故に行動を御する事に問題は無い。
士郎の信念は揺らいではいるものの、未だに健在。
よって、荒耶の理想とする展開に持っていくことはそう難しくも無いだろう。
そもそも迷いの無い性格で在るから、後はその背を押してやればいい。
- 136 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:44:42 ID:FtDhdbXo
-
――次に、福路美穂子。
アレはもう衛宮士郎にはどうしようもない存在だ、と。士郎に対して荒耶は言った。
固有結界が為るまで死なれては困る故に、そう言った側面もあったのだが、同時にそれは紛れもない事実でもあった。
彼女の身体に仕込まれた呪いは魔術師の領分を遥かに凌駕している。
おそらく、彼女には既に何らかの形での破滅が確約されているのだろう。
今の彼女を真の意味で救う事など、きっと誰にもできまい。
そして、それは美穂子自身もすでに理解している様子であった。
何にせよ、士郎には不可能なことだろう。
言峰が無意味な戯れで福路美穂子にあんな物を仕込んだとは思えず。
美穂子の膨大な魔力からは聖杯との繋がりが匂うが、今の荒耶にはさして興味のない事だ。
考慮するべきは、荒耶にとっての福路美穂子の利用価値だけである。
その実、あの少女は抜群に有用だ。
士郎に供給する魔力という意味でも、場に混乱をきたすと言う意味でも。
よって荒耶と言う男に同情が介入する余地など在るはずも無く、最大限に利用し尽くす所存であった。
さて、とりあえずの現状は理解した。
後はそれをこちらの都合の良いように転がすのみ。
その思索は既に済んでいる。
「休息は終わりだ。そろそろ、行くぞ」
庭の同行者に声を掛け、後は振り返りもせずに歩き続ける。
すぐに背後から、二人分の足音が荒耶を追ってきた。
両義との邂逅に備えるに際して、場の状況もそうだが、二人の体力を回復させる事がまずは先決だ。
放送までには、落ち着ける場所で身体を休ませる必要が在る。
白井黒子が既に危機を脱している以上、その存在に向かう足を制限される事は無い。
では次に向かうべきは何所か?
関わるべきは誰か?
ここはひとまず、白井黒子を追うべく南下することが最も磐石な選択かもしれないが。
また違う場所に足を運ぶ事も選択の内だ。
夜を往く、魔術師の足が進む先。
それはまだ、彼だけが知っている事柄である。
【D-4/東側の住宅街/一日目/真夜中】
- 137 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:45:51 ID:FtDhdbXo
-
【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:オレンジ色のコート
[道具]:凛のペンダント(魔力残量:極小)@Fate/stay night
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
0:次に向かうべき場所に向かう。
1:士郎と美穂子の保護と櫓の状況を確認すべく、いったん身体を休められる場所、および工房に向かう。
2:周囲の参加者を利用して混乱をきたし、士郎の異界を式にぶつける。
3:美穂子を士郎の魔力ブーストとして使う。
4:体を完全に適合させる事に専念する。
5:信長を利用し、参加者の始末をしてもらう。
6:必要最小限の範囲で障害を排除する。
7:利用できそうなものは利用する。
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
※海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※A-7の櫓に、何かしらの異常が起きた事を察知しました。
※バーサーカーを倒したのは、ルルーシュであると確信をしています。
※何か強力な武器が手に入ったら、信長に渡す約束をしています。
※信長の首輪が、爆破機能と共に盗聴機能まで失ったかは次の書き手様にお任せします。
もしも機能が失われていない場合、主催側に会話の内容が漏れた可能性があります。
※一方通行の異常に気付きました。
※イリヤが黒幕である事を知っています。
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 疲労(大)魔力消費(大)、全身打撲(治療中)全身に軽い切り傷(治療中)、背中に火傷、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂群原学園制服(上着なし、ボロボロ)
[装備]: 落下杖(故障)
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、 伊達政宗の眼帯、
基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカード(残金5100万)
[思考]
基本:主催者へ反抗する。黒子と共に生きてこの世界から出る。
0:黒子の所に急ぐ。
1:福路美穂子や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
2:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていないが、黒子の治療までは信用する。
3:秋山澪と合流する。
4:首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
5:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める。
6:福路のことも、どうにかして助けたい。
7:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする。
8:一方通行、織田信長、黒い魔術師(荒耶宗蓮)への警戒心。
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
※白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。
※「剣」属性に特化した投影魔術を使用可能。
今後、投影した武器の本来の持ち主の技を模倣できるようになりました。
※現在投影可能である主な刀剣類:エクスカリバー、カリバーン、六爪、打ち刀
※イリヤが主催・人質である可能性には現状全く思い至っていません。
※片岡優希のマウンテンバイク@咲-Saki-は政庁跡に放置されています。
- 138 :Moonlight Black ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:46:24 ID:FtDhdbXo
-
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:アンリ・マユと契約、左腕欠損(処置済み)、疲労(大)
[服装]:黒いロングドレス (ボロボロ)、穂群原学園男子用制服(上着のみ、ボロボロ)
[装備]:聖杯の泥@Fate/stay night、折れた片倉小十郎の日本刀
[道具]:支給品一式*2、伊達政宗の首輪、包帯×5巻、999万ペリカ
ジーンズとワイシャツその他下着等の着衣@現実
[思考]
基本:自分自身には、絶対に負けたくない。失った人達の分まで勝利を手にしたい。
1:ただ己が正しいと信じたことを為し遂げる。
2:衛宮士郎や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
3:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
4:「魔術師」「魔力」などの聞きなれない言葉を意識。
5:死した人達への思い。
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています。
※死者蘇生はレイニーデビルやアンリ・マユを用いた物ではないかと考えています。
※アンリマユと契約しました。
※今は精神汚染を捻じ伏せています。
※所持していた六爪はエリアD−5のビル郡に散らばりました。
- 139 : ◆hqt46RawAo:2010/05/22(土) 22:46:52 ID:FtDhdbXo
- これで投下終了です
- 140 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/22(土) 22:54:36 ID:owQ5sUjQ
- 投下乙でした。
やだ…なにこのラブコメ……
最後の荒耶の思惑とのギャップで作品の魅力は更に増加した。
グラら木さんに会いに行くか避けて黒子を追うか……今後が気になる展開です。
- 141 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/22(土) 23:28:29 ID:mFy3xzOQ
- 投下乙です
凄い…ラブコメです…
その傍であらやんの思考は…
確かに今後が気になる展開だわ
- 142 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/22(土) 23:48:23 ID:J7OeRTxQ
- 投下乙です
おのれ、エロゲ主人公め…
三角関係を作ってガハラさんとは関係ないとこでNice boatな展開を作る気かw
いいからさっさと黒子のとこ行ってやれ、今すげー不安定だから
あらやんも策謀しとるなあ、これはいい引きだ
- 143 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/23(日) 16:44:41 ID:OZPnFaxA
- 替え歌を作ったので、ニコ動に上げてみました。
アカウントをお持ちの方は、視聴していただければありがたいです。
ただ…、あまり期待はしないで下さい(汗
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm10817512
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm10817743
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm10817833
- 144 : ◆Vj6e1anjAc:2010/05/23(日) 20:14:33 ID:xns6KKcQ
- 言峰綺礼分を投下します
- 145 :彼の者の愛した俯瞰情景 ◆Vj6e1anjAc:2010/05/23(日) 20:17:09 ID:xns6KKcQ
- あるところに、1人の男がいました。
男は神様に仕える神父で、その証拠に首から金色の十字架を提げていました。
そしてそれ以外の部分は、全て真っ黒に染まっていました。
彼が身に着けていた神父の服は、上も下も黒く染まっていました。
彼は自分が生まれた時から、悪いものを見ることや、他人の不幸を見るが大好きでした。
癖毛で背の高いその男は、身も心も真っ黒だったのです。
彼は自分の住む世界の中に、自分の生まれた意味を見出すことができませんでした。
自分みたいな生まれついての悪人が、どうして生まれなければならなかったのか分からなかったのです。
彼はそれが知りたくて、うんとたくさん勉強しました。
自分と他人の違いを知るために、たくさんの人を観察しました。
世界の真理に至るために、魔術を勉強したこともありました。
そんな彼が最後に目をつけたのは、聖杯戦争という戦いでした。
とても昔に死んでしまった、強い英雄や魔法使いを生き返らせて、互いに戦わせるというものです。
その戦いを最後まで生き残ることができれば、その人は、何でも願いを叶えてくれる器を手に入れることができます。
それが聖杯という名前の器でした。
ところがその聖杯は、いつの間にか《この世全ての悪(アンリ=マユ)》という、とても悪いものに取り憑かれていました。
悪いものに操られた聖杯は、誰かの願いを叶えるために、他の誰かを傷つけるようになっていたのです。
しかし、彼はその《この世全ての悪》に、とても大きな興味を持ちました。
世界で一番悪いものに会うことができれば、自分のような悪い人間が生まれた理由が、今度こそ分かるかもしれないと思ったのです。
彼は聖杯戦争の監督役になり、英雄達の戦いを見ていました。
そして最後には自ら手を出し、聖杯を完成させようとしました。
しかし、彼が《この世全ての悪》に出会う前に、彼は殺されてしまいます。
彼の前に立ちはだかったのは、正義の味方になることを夢見る少年でした。
良い人間になろうとしていた少年は、悪い人間である彼がしていたことを、許すことができなかったのです。
こうして彼はナイフで刺されて、《この世全ての悪》の中へと、静かに消えていったのでした。
- 146 :彼の者の愛した俯瞰情景 ◆Vj6e1anjAc:2010/05/23(日) 20:18:25 ID:xns6KKcQ
-
ところが、そうして一度殺されても、彼の人生は終わりませんでした。
気がついたら彼は生き返っていて、また新しい戦いに巻き込まれていたのです。
日焼けしたような肌の大男が、彼を含む大勢の人達に命令しました。
自分の研究を完成させるために、お前達全員で殺し合いをしろ――彼を生き返らせた男は、そう言ったのです。
大勢の人達が、生き残るために他の人達を殺しました。
大勢の人達が、殺し合わなくても済むように、大男を倒す方法を考えました。
そんな中で真っ黒な神父は、どちらの側にもつくことなく、殺し合いを見届けることを選びました。
彼は今までと同じように、色んな人の良い心や悪い心を観察していたのです。
彼は色んな人に出会いました。
一番最初に会ったのは、友達の女の子を探していた男の子でした。
殺し合いに乗ることとは別の形で、女の子を守ろうをしていた男の子は、しかしそれからしばらくして死んでしまいました。
次に茶色い制服を着た、茶髪の女の人に会いました。
女の人はみんなを救おうとしていましたが、それがこの殺し合いに勝つことで、願いを叶えようとしている誰かの邪魔になることには気づいていませんでした。
聖杯戦争で負けて殺され、そして生き返った少年に会いました。
少年は殺し合いに生き残ろうとしていましたが、自分より強いものに怯えていたようだったので、少年でも勝ち残れるようになるヒントを教えてあげました。
それからすぐに会ったのは、頭に鉢巻きを締めた格闘家の男でした。
彼よりもずっと強かった格闘家は、とてもまっすぐな心の持ち主でしたが、一度見ただけではそれ以上よく分からない、不思議な男でもありました。
三つ編みの女の子と赤毛の女の子の2人組に会いました。
三つ編みの方は、最初の男の子が探していた女の子で、男の子が死んでしまったことに、とても大きなショックを受けていました。
彼と同じ聖職者を名乗った、黒いスーツの男に会いました。
男はとてもイライラしながら人殺しをしていましたが、どうやらそのイライラは、自分では真似できない誰かへのコンプレックスの表れだったようです。
額に十字模様の傷をつけた、赤目と褐色肌の男に会いました。
故郷の仲間を大勢殺されて、その復讐を果たすために、相手と同じ人殺しになってしまった男でした。
片眼鏡をはめた中年の男と、ツインテールの不死身の少女に会いました。
中年の男の方は、連れていた不死身の少女の姿に、何かの面影を重ねていたようにも見えました。
そして、彼が最後に会ったのは、オレンジの髪を持った少女でした。
少女はいくつもの命令に操られていて、自分が一番したかったのが何だったのかも分からず、一人ぼっちで苦しんでいました。
彼はそれが知りたくて、少女に声をかけました。
私が助けてあげる、と言って、彼女の一番の願いごとを探ろうとしました。
すると少女の身体は、たちまち真っ赤な炎に包まれました。
自分の本当の願い事を取り戻すために、持てる力を振り絞って、自分を操っていたものを焼き尽くしたのです。
しかし少女の燃やした炎は、近くにいた彼を巻き込んでしまいました。
彼は逃げることもできず、あっという間に身体を焼かれ、炎の中に消えていってしまいました。
こうして彼は、一度死んで生き返り、そしてもう一度死を迎えました。
2回目の死を迎えた彼は、自分が死ぬ瞬間に、さまざまなものを目にしました。
それは自分と同じように、この殺し合いに巻き込まれた人達全員の心でした。
自分が生まれた理由は分からなかったけれど、それでも彼は、たくさんの面白いものを見たことで、満足して逝くことができました。
もしもまた生まれ変わることができたなら、そしてまた戦いに巻き込まれたなら、今度はそれを見る立場になりたい。
直接戦いに参加する側よりも、聖杯戦争の時のように、戦いを監督する側に立ちたい。
自分が生まれた意味を探して、たくさんの人を見続けてきた神父は、最期にそう願って消えていきました。
その真っ黒な神父の名前は――
- 147 :彼の者の愛した俯瞰情景 ◆Vj6e1anjAc:2010/05/23(日) 20:20:05 ID:xns6KKcQ
- ◆
「夢」
ぽつり、と。
低く唸るような声が、呟く。
寝入ったつもりはなかったが、どうやら白昼夢のようなものを見ていたようだ。
眉間に人差し指を中指を当て、言峰が軽く首を振った。
もやもやした感触を脳内から振り落とし、意識をクリーンアップする。
「この私が夢か」
あれは一体何だったのだろうか。
澄み渡った脳内で、夢幻の世界を回想する。
あれは間違いなく自分だった。
聖杯戦争の結末を迎え、このバトルロワイアルとも異なる戦いに身を投じ、そして再び命を落としたのは、紛れもなく言峰綺礼だった。
当然、体験した覚えのない未知の記憶だ。
だがただの夢だと断定するには、妙にリアリティのある記憶だった。
(あるいは)
もしかしたら、あれは本当に自分だったのかもしれない。
この世界でも元の世界でもないどこかに、自分とは別の言峰綺礼が生まれていて、生きて、そして死んだのかもしれない。
いわゆるパラレルワールドというやつだ。
常識的に考えれば、現実と虚構の区別のつかないSFマニアの妄言と断じられて当然の、突拍子もない推測なのだろう。
しかしあいにくと言峰は、とっくに常識の軛を越えてしまった。
魔術師の常識すらも超越した領域を、否が応にも見せつけられてしまった。
次元の壁を破壊し、数多の異世界から参加者を集めたのが、此度のバトルロワイアルなのだから。
そのような世界が実在しているのだから、自分のいた世界とそっくりな並行世界も、あるいは存在するのかもしれない。
もっとも、何故自分がその世界の有り様を垣間見たのかは、さっぱり見当もつかないのだが。
(もし)
もしそのような世界に行けたら。
自分と違う世界に住む自分の姿を、この目で直接見ることができたのなら。
ふと、そんなことを考えた。
パラレルワールドの自分と出会うことが叶うならば、あるいは自らの存在理由に、近づくことができるのだろうか。
広大な次元世界の海を漂い、自らと瓜二つの自らを見つけ、検分することができたなら、より深く自らを知ることができるのだろうか。
無駄なことなのかもしれない。
無限に近い世界の中から、たった1人の人間を見つけ出すことなど、到底不可能なのかもしれない。
常識的に考えれば、徒労にも程がある、気の遠くなるような作業だ。
「それも一興か」
ふ、と。
口元を、軽く笑みに浮かべながら。
しかし言峰は、それを無駄とは断じなかった。
そもそも言峰綺礼の生涯とは、言うなればその全てが娯楽であり、無駄の塊だ。
自らの存在意義を知らぬ神父には、なすべき使命も野望もない。
ただ自分自身を知るために、知識を積み、研鑽を重ね、世界のありようを傍観するだけの人生だ。
元から徒労を繰り返すだけといっても過言でない人生なのだ。今さらその程度のことを、無駄だなどとは思わない。
そこに可能性があるというのなら、何であろうと試すまでのこと。
幸いなことに、他になすべきことがない分、言峰綺礼の人生にはそれ相応の余裕と暇があるのだ。
- 148 :彼の者の愛した俯瞰情景 ◆Vj6e1anjAc:2010/05/23(日) 20:21:24 ID:xns6KKcQ
- かぱ、と。
おもむろに、手元で音を立てる。
いつしかその右手には、プラスチックのタッパーが握られていた。
左手で開封したそこに詰められていたのは、中華料理の一種・麻婆豆腐。
蓋に重ねる形でタッパーを左手に持ち替え、右手には新たにスプーンを握る。
挽肉と豆板醤とその他諸々の香辛料を和えられた豆腐を掬い、口へと運び、咀嚼した。
「雑な出来だ」
手を抜いたな、と悪態をつく。
中華料理店「紅州宴歳館・泰山」特製の激辛麻婆豆腐――不幸と醜悪を好物とする言峰が、それ以外に好む数少ないものの1つだ。
これはその行きつけの店のレシピを拝借し、帝愛の黒服達に再現させたものである。
自分にとってはどうということもないのだが、他人の舌からすれば、とても食えたものではない辛さなのだそうだ。
あるいは悪意すら覚えるほどの辛味だからこそ、悪を愛する言峰の舌に合ったのかもしれないが。
ともあれ、その麻婆豆腐を再現させたはずなのだが、どうにも本物に比べると一味物足りない。
恐らくは味見をしなかったのだろう。
レシピ通りの工程を踏んだあとの、最終確認とそれに伴う微調整を怠ったに違いない。
なにせ殺人麻婆だの外道麻婆と噂される代物だ。常人なら、レシピを読んだ時点で恐怖しても仕方がないのかもしれない。
「やはり、本物に限るということか」
二口、三口と口に含み、胃袋へと落として、呟いた。
それで満足したことにしたのか、再びタッパーの蓋を閉めて、懐へ戻す。
「さて」
そうして一時の間食を済ませると、意識を自らの職務へとシフトした。
全てのサーヴァントの魂を回収し終えた以上、そちらの用事ですべきことは今はない。
となれば当分は、時間潰しの意味も込めて、帝愛連中に与えられた仕事をこなすのがよさそうだ。
ちょうど手を加えるべきものもある。
かつて荒耶宗蓮が建設した小川マンション――地図上では「敵のアジト」と表記されている施設の結界が、まだ破壊されたままだ。
忍野が修復した直後に再び壊れ、結局そのままになっているのだという。
さて、どうするか。
代替を用意するなら、どこに置くべきか。
かつてどこの世界にいるとも知れぬ、もう1人の自身が願った姿を体現した言峰綺礼は、その高みより殺戮劇を俯瞰していた。
【???/???/夜中】
【言峰綺礼@Fate stay/night】
[状態]:健康
[服装]:神父服、外套
[装備]:???
[道具]:???、麻婆豆腐の詰まったタッパー
[思考]
基本:???
1:サーヴァントの死体(魂)を回収する。
2:荒耶宗蓮に陰ながら協力する。
3:この立場でバトルロワイアルを楽しむ。
4:結界の修復を手伝う。ただし1を優先する。
5:敵のアジトの結界の代替地になりそうな場所を探し、結界を設置する。
- 149 : ◆Vj6e1anjAc:2010/05/23(日) 20:22:06 ID:xns6KKcQ
- 投下は以上です
- 150 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/23(日) 20:43:28 ID:xXTCCCag
- 投下乙でした
黒服に作らせたマーボーを胸に忍ばせてる言峰に吹いたぜ
冷めておいしくないだろうに……保温タッパーか?w
- 151 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/23(日) 20:48:29 ID:xXTCCCag
- >>143
支援乙。編集途中で死んだキャラはゼクスっすねw
動画職人は数が少ないから気が向いたらまた作ってやって下さい
wikiに追加しておきますぜー
- 152 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/23(日) 20:51:30 ID:xXTCCCag
- …と思ったがwikiに動画が埋め込めない。リンクになっちまう
誰か直接再生できるやり方知らないか?
- 153 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/23(日) 21:40:01 ID:nHQw1ixU
- 投下乙です!
知っている人ならニヤリとできるネタが仕込まれていますね
あのシーンをこう繋げるとは思いませんでした
ただ、内容的に外伝収録向けかな……?
- 154 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/23(日) 23:26:39 ID:TSbpF1os
- 投下乙です
前回のあのシーンをこう繋げるとは
確かににやりとさせられるSSでした
ただ俺もこれは外伝の方がいいと思います
- 155 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/24(月) 01:03:04 ID:4Gu7iFH2
- 投下乙です。
ただ、私もやはり外伝にした方が良いかと思います。
荒れる要素にもなりますしね。
- 156 : ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:20:32 ID:S4qTxY4E
- これより枢木スザク、上条当麻、C.C.、戦場ヶ原ひたぎ、ユーフェミア・リ・ブリタニアを本投下します。
- 157 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:22:28 ID:S4qTxY4E
-
日本人を殺す。
神聖ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア。
彼女はかつて人々の平和を願い、神聖ブリタニア帝国エリア11副総督として、
日本人とブリタニア人の間に平等の世界を築くという理想を掲げて必死に奮闘していた。
しかし理想の世界が実現するほんのわずかな手前でその惨劇が起きた。
引き金となったものはギアス。人の意思を捻じ曲げる悪魔の力。
日本人を殺す。
ユーフェミアの意思をここまで繋ぎとめていたゼクス・マーキスは既にいなく、
彼女の意思は悪魔の力よって完全に支配されていた。
そしてより多くの日本人を殺すために海岸線より南に見えるタワーを目指して
歩こうとしていた矢先に、ヒイロ・ユイの自爆音とは異なるそう遠くはない距離から
一発の銃声がユーフェミアの元に響き渡った。
その音を聞いたユーフェミアの脳裏を横切る二つの顔。
それは。
血飛沫を上げ無様に死んでいった男、伊藤開司。
驚愕の表情を浮かべて崩れ落ちた女、白井黒子。
幾多の日本人の命を奪った。撃った。殺した。虐殺した。でもまだ足りない。
引き金を引く感触を思い出したユーフェミアが参加者名簿上の赤いマークをなぞり、
日本人の名前を眺めながら蕩けたような恍惚の表情を見せる。
「うふふ、今の音は何かしら?もし、近くに日本人がいるとしたら殺さないといけませんわよね」
ほんの少し歩いた所で周囲に漂う血の臭いと大量の血痕を見つけたユーフェミアが嬉しそうにはしゃぎ、
ゆっくりと地面へ屈み込んだユーフェミアは目の前に広がる血溜りの中に人差し指をそっと沈めてみせた。
とたん指先に絡みついてくる特有の感触、ほんの少し粘り気のあるソレは紛れもなく此処で人の命が散った証だった。
ユーフェミアが赤く濡れた指をその舌でちろりと舐める。
「ふふっ、まだ温かい……」
彼女の喉がごくりと鳴って、その唇が半月に歪み、そこには妖艶な笑みが浮かんでいた。
そして、少し離れた位置にある先程より小さく赤黒い血溜りからは、
住宅街の合間へと続く微かな血の痕が見てとれた。
「そちらへ行けば日本人に会えるのかしら?」
ギアスによって自らの意思を完全に支配されたユーフェミアが血痕の続く先へと再び歩きだした。
- 158 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:25:39 ID:S4qTxY4E
- ■
E-5エリア、住宅街の合間を吹き抜ける風、大通りよりわずかに外れた空き地、
そこで口論をしていた枢木スザクと上条当麻の二人。
その場へと後から駆けつけた戦場ヶ原ひたぎとC.C.は、
レイ・ラングレンの死の真相や一体彼らの間に何が起こったのかを問いただしていく。
まずはE-6エリアで上条が飛び出していき信長と戦ったこと、ア−チャーが死んだこと、
その後御坂美琴の遺体を取りに来た民家でサーシェスに騙された上条らとスザクが戦闘になったこと、
上条とレイが口論になり、結果として彼が自殺したこと、ひいては彼らが口論になった理由のことを話していく。
全てを確認し終えた四人はE-5エリアに広がる住宅街の中を、
まるで人目を避けるように薄暗い路地裏の道を選びながら、西へと歩いていた。
天上の月は暗雲で陰り、眼下を歩く彼らの足どりは重い。
そして、レイの遺体はスザクが、御坂美琴の遺体は上条が、
今はそれぞれのデイパックに入れてて持ち運んでいたのだが、
実は遺体の扱いについてもひと悶着があった。
上条が御坂の遺体をデイパックに入れることへと猛反発をしたからだ。
「冗談じゃねぇぞ。たとえ死んじまったとしてもこいつは物じゃねぇ。
御坂美琴っていう名前をした一人の人間なんだよッ!!」
レイの遺体をなんの躊躇もなくデイパックに入れたスザクとは違い、
遺体の扱い方に上条は怒りを露にして声を荒げていた。
そんな状態の上条をなだめようと、御坂の遺体を見つめたひたぎが話しかける。
「上条君が御坂さんを物のように扱いたくない、
その気持ちはわからないでもないけれど、
あまり女の子の痴態を周囲に晒し続けるのは感心しないわね」
上条が背負う御坂の遺体はレイの銃撃によって頭部が打ち砕かれて、
その隙間からは赤黒い血が流れ、脳漿らしきものが見え隠れしており、
ひたぎが言う通りに、無残な様子を周囲に晒していた。
「そうだな……そっちの方が確かに御坂に悪いよな…。
すまない御坂、元の世界に帰るまでほんの少しだけ我慢してくれないか」
戦場ヶ原に礼を言いながら上条は御坂の遺体をデイパックに入れる。
そんな二人のやりとりを冷ややかな視線で眺めている者が居た。
スザクは上条からそっと目線を外し、相変わらず偽善者ぶりを
遺憾なく発揮しているその様子に不信感と不快感を募らせていく。
「平気か?スザク」
いつの間にか厳しい顔を漏らしていたのだろう。
スザクの顔を真横から覗き込みながらC.C.が声をかける。
「ああ、僕は大丈夫だ。それよりも、君達をビルに残したままにしていたのはすまなかった」
「仕方なかろう。どうしてそうなったのかおおよその理由は聞いたからな。
まあ、あの坊やとお前では水と油、わたしと戦場ヶ原とは真逆な意味でも
相容れないだろうからな、坊やの毒は強すぎるのさ」
「毒か…、それは彼のアレの事かい?」
C.C.が言った『毒』という言葉を聞き、スザクが真っ先に思い浮かべたものは上条の決め台詞だった。
『その幻想をぶち殺すっ!!』
上条が幾度となく他人の幻想を打ち砕いてきた言葉をアーチャーは毒と称する。
世界を侵す毒と言われた事に反発した上条当麻。
ほんの半日前だろうか、まだアーチャーが健在だった頃の様子を思い出したC.C.が語る。
「まあ…、それがあの坊やの強みなのだろうが、ああいった類の偽善は、
お前やルルーシュがもっとも嫌う性質のものだろうからな」
「しかしC.C.、僕にはアレが偽善だとさえ思えないんだ」
レイ・ラングレンの死、その最後の心の叫びを聞きながら、レイの全てを否定した上条当麻、
上条当麻がレイ・ラングレンを理解しなかったように、枢木スザクは上条当麻を理解できない。
──いや、許せなかった。
- 159 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:27:52 ID:S4qTxY4E
-
■
どれほど歩いたろうか、此処まで移動する前に北から聞こえてきた爆発音も既に止んで久しい。
ある程度は身の安全を確認した四人の足元には再び静寂が訪れていた。
ほどなくしてその静寂を破り、スザクがおもむろに口をひらく。
「上条当麻、改めて話がある。違うな、君に確認したい事がある」
「ああ?言っとくが、さっきみたいなあんたの説教なら俺はご免だ」
合流前のやりとりを思い出した上条は思わず身構える。
スザクはあくまで冷静な口調をとりながら話を続けていく。
「君が御坂さんの復讐したいと思わないのも、殺人者を殺さないというのも僕は別に構わない」
「一体、何が言いたいってんだ!?」
「この先で、もしも僕たちがサーシェスのような相手に遭遇した場合、
僕はその相手を全力で排除する。つまり相手を殺すということです」
「なっ…てめぇ…っ!!まだそんな事を言いやがるのかっ!!」
「まずは最後まで僕の話を黙って聞いてください」
先程と違って、この場にC.C.とひたぎがいる事で自身にブレーキをかけているのだろう。
吼える上条に対してスザクは冷静な態度を崩さない。
「僕らが移動を開始する前に聞こえてきた戦闘音は、位置から推測して多分あの信長だと思う」
信長という単語に反応した三人がそれぞれ思考の末、静かに喉を鳴らす。
「神原さんとアーチャーさんの命を奪った戦国武将、織田信長。
その事実を差し引いても、信長は間違いなく危険な敵だと僕は思う。
たとえ話になってしまうけれど、再び僕らが信長と戦う事になったと仮定しよう。
いや、僕らが生き残る為にはその可能性は高いかもしれない」
よりいっそう神妙な顔つきをしたスザクが一呼吸の間を置く。
「上条当麻、信長はとても説得が通じるとは思えない規格外の存在だ。
あれほどの危険な相手を前にしたとして、サーシェスの時と同様に、
君は相手を死なせず殴るだけで済ます、信長を殺さずに済む方法があると言えるのか?」
そんな事は不可能だと、スザクが心中で告げている事が言葉の節々から伝わってくる。
スザクの言葉を理解した上条の顔が見る間に怒りで染まっていった。
「てめぇっ…!!神原が死んだ…アーチャーが死んだっ…!!
そりゃぁ俺だって悔しいし悲しいさ、でも、だからってなぁ!!
相手を憎んで復讐して、そんな事を繰り返して、
一体その先に何があるってんだ!!
なあ、戦場ヶ原、C.C.、お前らだってそう思うだろ!?」
拳を握り締めて両手を振り上げながら上条が叫ぶ。
「どちらが正しいかなど、わたしは知らないし興味もない」
C.C.は答えない。上条当麻はアーチャーの為にC.C.が涙を流した事を知らない。
その胸の内を知らない。C.C.が自ら他人にそれを語ることはもうないだろう。
「私が神原を殺した信長を許すと思うのかしら?
上条君のそういった所は嫌いではないけれど。
そうね、もしも私の最愛の阿良々木君が誰かが殺されたとしたら、
私はどんな手段を使ったとしても、その相手を必ず殺すわよ」
ひたぎが答える。それは阿良々木暦との一方的な約束にすぎない。
それでも、だとしても、ひたぎを殺人者にしない為に、
阿良々木暦は何があっても絶対に生き延びようとするだろう。
それがひたぎの愛を受け止めた阿良々木暦の選択なのだから。
それが二年もの地獄からひたぎを救い出してくれた彼への愛の約束だった。
C.C.とひたぎの本心は決しておいそれと他人に語るものではないのだろう。
ぶっきらぼうに、不器用に、二人が思い思いの言葉を口にした。
しかし、ひたぎの言葉を聞いた上条が彼女に対して怒りの声をあげる。
「戦場ヶ原…お前まで何言ってんだよ!!
違うだろ…そうじゃねぇだろ…ッ!?」
「ごめんなさい、私は別に上条君の想いを否定はしない。
けれど私の阿良々木君への想いも誰にも否定なんてさせないわ」
両手を振りあげ必死に叫ぶ上条の姿、できることならその肩を持ってあげたいと思う。
それでも最愛の人に誓った自分の本心に、たとえ表面上の言葉だったとしても、
ひたぎという女は決して嘘の言葉を吐く事が出来なかった。
- 160 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:29:09 ID:S4qTxY4E
-
■
上条当麻はただ許せなかった。
基本的な身体能力や学校の成績はあくまで普通であり、
奇跡の右腕以外には一切なんの特別な力を持たない少年。
しかし彼は今一人ではなかった。自分よりも遥かに強いだろうスザク、
ここまで行動を共にしてきたひたぎとC.C.の三人が一緒だった。
主催に反抗する意思を持った人間がこうして四人も集まっているというのに、
なぜ誰も彼もが殺し合いを否定する事を、殺し合わないという事を、
こうも簡単に諦めてしまうのか。上条当麻はただそれが許せなかった。
「そうかよ…、戦場ヶ原…ッ、…お前までそんな事を言うのかよ!
俺は殺し合いなんて絶対に認めねえ、今までだってそうしてきた、
だからッ、スザク、戦場ヶ原、お前らがどうしてもその考えを
捨てれねぇって言うんなら、俺は何度だって言ってやるッ!!」
上条の言葉(毒)を遮る者(レイ)はもう居なかった、彼は死んだからだ。
「────俺がそのふざけた幻想をぶち壊すっ……ッ!!」
啖呵を切った上条がその右腕を真っ直ぐに突き出した。
その瞳にはひとかけらの曇りもなく、それは見るものによっては偽善であり、
偽善というよりはとても狭い正義に違いなかった。
しかし迷いのないその言葉はスザクに深い失望を与えるだけだった。
レイ・ラングレンは己の命を賭してまで他人の幻想(ユメ)を打ち砕くという行為の罪深さを伝えようとした。
しかしその想いは何一つとして上条当麻に届かずに、あっさりと踏みにじられて地へと投げ捨てられた。
スザクの胸で一度は抑えた上条への悪感情が再燃、静かに爆発する。
一瞬の沈黙を置いてスザクが言った。
「そうか。それならば君とはここまでだ」
- 161 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:30:40 ID:S4qTxY4E
-
■
言葉が終わると同時に、スザクは素早くベレッタを引き抜きその銃口をピタリと上条へ向ける。
「てめぇッ!!」
「「スザク!!」」
その光景にスザク以外の三人が同時に叫ぶ。
「C.C.、それに戦場ヶ原さん、僕の話を聞いてください。上条当麻、君もだ」
「てめぇ、枢木スザクッ!!人に銃を突きつけながらなに言ってやがるんだっ!」
あくまで冷静な装いを崩さないスザクに上条が勢いよく噛み付いていく。
「君と一緒に行動していたら、僕はC.C.や戦場ヶ原さんを守れない。
いいや、正確に言うならば君の存在が彼女らを守る為に邪魔になる。
そう言ったほうが正しいな、ここまでの経緯を聞いて確信した」
「勝手に決めてんじゃねえぞ、枢木スザク!!
戦場ヶ原も、あいつの恋人も、俺が守ってやるって約束したんだッ!!」
「偽善者の御託はもういらない。これ以上君と話していても堂々巡りを繰り返すだけだ。
君が現実を見ないで理想を並べ立てている間に一体何人の人間が死んだと思っている。
君の身勝手な理想に付き合っていたら」
スザクの視線が殊更強く上条を射抜く。
「いずれ、僕たちは全滅する」
「……んなッ!!」
スザクが発した思いもよらぬ言葉に上条は絶句する。
「だから、君とはここまでだ」
言葉を終えたスザクは踵を返して背中を見せる。その後姿に上条が吼えた。
「理想を掲げて何が悪い!!」
スザクが立ち止まった。微かに溜息が聞こえてきたのは気のせいではないだろう。
「君が元いた世界は、よほど君にとって優しい世界だったんだろうな。
でもここは違う。君の理想は誰にも響かない。だからレイさんは、自ら死を選んだんだ」
「なんでだよッ!!なんでッ、誰もが幸せになれる未来を、ハッピーエンドを諦めちまうんだ!!」
「じゃあ君は、最後まで命をかけて戦場ヶ原さんを守った神原さんの事を否定するのか?」
「誰もそんな事は言ってねえ!!それでも他に何かやりようがあったかもしれないだろッ!!」
「そうやって人の言葉を頭ごなしに否定して、耳を貸さなかった事で戦局を混乱させた、
その結果、君がサーシェスを死地に追いやった事をもう忘れたのか?」
「…あれは、あの状況でどっちが敵か味方かなんてわからねえよッ!!」
「それだけじゃない、なぜ僕が全滅すると言ったのか、C.C.に聞いて解ったんだ。
君はアーチャーさん対して俺一人の力が足りないのならお前の力を貸せ、そう言ったそうだな」
「ああ、確かに言ったさ。俺だけの力が足りないってんならC.C.や戦場ヶ原だっている。
あんただって俺より強い力を持っているんじゃねえかッ!!」
「僕らを遥かに超えた力を持つアーチャーさんは死んだ。それは何故だ?」
「それは、アーチャーは信長の奴にッ…」
スザクがちらりと後ろを振り返る。
「それが違う。上条当麻、君がアーチャーさんを殺したんだ」
「なっ…、なにを言ってやがるッ!?」
「信長を振り切った僕らとアーチャーさんは合流した後ですぐに象の像へと向かう予定だっだ。
それなのに黙って勝手に飛び出した君を助けるために、アーチャーさんは信長と戦って死んだろう。
ひいては君の行動が僕らが未だにE-5エリアに留まる事になった原因を作ったことも、
それが戦場ヶ原さんの恋人との合流の可能性を遅らせているかもしれないとは、
他人の考えを全て否定する自分勝手な君は、そんな事を考えたこともないんだろう」
スザクが上条の全てを否定した。
「んなッ…」
「アーチャーさんを殺したのは君だ」
その言葉に愕然とした上条が地面に膝を付ける。
思い出すのは信長を倒すと言ったアーチャーの最後の背中だった。
「そんな訳があるかよ……アーチャーが死んだのが……俺のせいだってのかよ!!」
もう一度だけスザクは上条を真正面から見つめると、これが最後だと言わんばかりの決定的な決別の言葉を発した。
「訂正しよう、君の言葉は偽善者ですらない。ソレは悪意の扇動者が口にする言葉だ」
- 162 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:33:09 ID:S4qTxY4E
-
■
「いい加減にしないかお前たち、一体いつまで言い合っているつもりなんだ」
終わらない二人のやりとりに業を煮やしたC.C.が割って入る。
「すまない、だけど僕は彼とは行動できない」
スザクは自らの判断をC.C.にハッキリと告げる。
「わたしは別段それでも構わないさ。
元々その坊やとわたしは何の関係もないからな。
しかし戦場ヶ原、お前はどうなんだ?」
C.C.に言葉を投げかけられたひたぎ、彼女は無言のまま地に伏せている上条の元へと移動する。
「立ちなさい上条君」
ゆっくりと身を屈ませたひたぎが上条の頭と同じ高さまで自分の顔を下げる。
上条の眼を見たひたぎは彼女にしてはとても珍しく、優しい声で彼へと右手を差し出した。
「あなたも私たちと来るのよ。上条君は私の事を守ってくれるのでしょう?」
「くッ………うるせェ………うるせぇよ…ッ。
戦場ヶ原ッ…お前だってスザクと同じ考えなんだろ!?。
だったら、俺の事は放っといてアイツらと何処へなりとも行っちまぇばいいじゃねェか!」
ひたぎの右手を邪険に振り払た上条が何かに堪えるように唇を噛み締め地を殴る。
「クソッたれがッ…一体…俺にどうしろってんだよ!!」
「……上条君」
上条に振り払われたひたぎの掌が微かに赤く腫れていた。
拒絶された右手を擦りながら、ひたぎがほんの一瞬だけ辛いそうな表情をする。
しかし、必死に地面へと拳を振りかぶっていた上条はソレに気が付かない。
「まったく見ていられないな、この我侭坊やの事はもう放っておけ。
阿良々木暦を探すのだろう、行くぞ戦場ヶ原」
ふぅと短く溜息をついたC.C.がひたぎの元へ駆け寄り、赤く腫れていない左手をぐいっと掴む。
ひたぎは右手と左手を、上条とC.C.を見て逡巡する。その瞳が悲しみを秘めていた。
「たとえお前の無茶な行動でアーチャーが死んだとしても
わたしは決してお前を責めたりはしないさ。
だけどな、女に手を上げて当たり散らすような男には正直失望したよ」
「………ッ!!」
「それに、どうやらお前の右手は女の手を叩く為にあったようだしなあ」
侮蔑の言葉を投げかけるC.C.。
上条は苦虫を噛み潰した表情で押し黙る事しかできず、
C.C.に手を引かれながらもひたぎが感情を押し殺した声で言う。
「上条君、ほんの少し先に行っているけれど、あなたも必ず後から追い駆けてくるのよ」
ひたぎの声を聞いても上条は動かない。
「そこで腐っているのはお前の自由だろうさ。それでも今の戦場ヶ原の言葉を忘れるなよ」
C.C.の言葉を最後に三人は西に向かって再び歩きだした。
自らの偽善を打ち砕かれた上条当麻の眼には彼らの後姿さえ入っていなかった。
- 163 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:34:19 ID:S4qTxY4E
-
■
「戦場ヶ原さん、ここまで彼と行動を共にしてきたあなたには申し訳なく思います。
それに彼に対して神原さんの事をあげてしまったのもすみませんでした」
神原が死んだのは元を辿ればスザクらの力が足りなかったからだ。
その想いを込めて、スザクは後ろを歩くひたぎに再度頭を下げる。
「いいのよ、きっとあの子も、満足して死んでいったはずだから。
いえ、これはきっと、生きている者が自分を慰める為の言い訳ね」
どこか哀しげな色を浮かべたひたぎの瞳が揺れる。
「坊やの事は本当にあれでよかったのか?」
「上条君自身が私を拒んだのだから、仕方がないでしょう」
「…そうか」
「ええ、今は早く阿良々木君を探しましょう」
気持ちを切り替えたかのように質問に答えたひたぎが殊更明るく振る舞った。
C.C.はその姿に多少の違和感を感じながらも気付かぬ振りをした。
「しかしスザク。お前はあの時に本当は坊やを撃つ気がなかったようだが。
もしもそのまま一緒に行動することになっていたら。その時はどうしていたんだ?」
「それは僕にも正直わからない。本当に撃つ事になったのか。それとも」
これでよかったのだと、別れた際の上条当麻を思い出したスザクは多少顔を歪めてしまう。
「今はともかく西へ向かいましょう。象の像への集合時間には
だいぶ遅れてしまったけれど、この方角に進めば誰かしらとは合流できるでしょう」
上条当麻をE-5に残した三人はD-5エリアに差し掛かかる。
この別れは果たして双方にどういった結果をもたらすのか。
待ち受けるは新たな出会いか再会か。
夜空に浮かぶ月にはいまだに暗雲が立ち込めていた。
【D-5 南西/一日目/夜中】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、左腕骨折(処置済み)、脇腹に銃創、「生きろ」ギアス継続中
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:ベレッタM1934(5/8)、GN拳銃(エネルギー残量:中) 、鉈@現実
[道具]:基本支給品一式×2、デイパック(サーシェスの死体入り)、ノートパソコン@現地調達、オレンジハロ@機動戦士ガンダムOO、9mmショート弾(14発)
救急救命セット@現実、柳刃包丁@現実、工具一式@現実、雑誌@現実×多数、真田幸村の首輪、 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実
タバコとライター@現実、ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、ドラグノフ@現実(10/10)、
GN首輪探知機@オリジナル、平バール@現実、麻雀牌@咲×31個、ユンケルスター@現実×8、パチンコ玉@現実×大量、
コンビニの商品多数(内容は後の書き手さんにお任せします)
[思考]
基本:この『ゲーム』を破壊し、ゼロレクイエムを完遂する。
0:ルルーシュと合流する。
1:ひとまず象の像か西にいるであろう対主催と合流する。
2:首輪を外せる技術者を探したい。
3:ルルーシュに危険が及ぶ可能性のある要素は排除する。
4:明智光秀、織田信長、平沢憂、バーサーカー、ライダー、黒服の女(藤乃)に用心する。
5:確実に生きて帰る為の方法を探す。
6:上条当麻に強い不信感。
[備考]
※ラウンズ撃破以降〜最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※もしかしたら『敵のアジト』が『黒の騎士団のアジト』ではないかと少し疑っています。
※三回放送の前後に『E−3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランを政宗と神原から聞きました。
※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※政宗、神原、レイ、アーチャー、一方通行と情報を交換しました。
※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
- 164 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:34:56 ID:S4qTxY4E
-
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:ポニーテール、戦う覚悟完了
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている、ヘアゴム
スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(1〜3、確認済)、バールのようなもの@現地調達
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
0:スザク、C.C.らと象の像を目指しながら阿良々木暦を探す。
1:ギャンブル船にはとりあえず行かない。未確認の近くにある施設から回ることにする。
2:正直、C.C.とは相性が悪いと思う。
3:…上条君。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
※安藤から帝愛の情報を聞き、完全に主催者の事を信用しない事にしました。
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康、腹部に刺傷(応急手当済み、ほぼ治癒済み)、戦う覚悟完了
[服装]:血まみれの拘束服
[装備]:アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2、赤ハロ@機動戦記ガンダム00
[道具]:基本支給品一式 阿良々木暦のマジックテープ式の財布(小銭残り34枚)@化物語
ピザ(残り54枚)@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:ルルーシュと共に、この世界から脱出。
不老不死のコードを譲渡することで自身の存在を永遠に終わらせる――?
0:スザク、ひたぎと西へ向かう。
1:戦場ヶ原ひたぎと行動を共にし、彼女の背中を守ってやる。
2:スザクに放送の内容と特に織田信長の生存を伝える。
3:いずれルルーシュとは合流する。利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない
4:阿良々木暦に興味。会ったらひたぎの暴力や暴言を責める。
5:正直、ひたぎとは相性が悪いと思う。
[備考]
※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『過去 から の 刺客』の間。
※制限によりコードの力が弱まっています。 常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。
通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
- 165 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:38:00 ID:S4qTxY4E
-
◆◇◆◇◆◇◆
「ちくしょう……わかんねえよ……!!」
薄暗い路地裏にたった一人取り残された上条当麻。
否、戦場ヶ原ひたぎの差し伸べた手を自ら振り払った彼は未だ地に伏せていた。
何が間違いで何が正しいのか。どれだけ考えても答えは出ない。
違う、そうじゃない。自分が間違っているなんて一度たりとも考えた事がない。
スザクの言った通りだった。上条は一体何を根拠にあれほど強気で傲慢な言葉を繰り返してきたのだろう。
『君が元いた世界は、よほど君にとって優しい世界だったんだろうな』
今までが上手く行き過ぎていたという事なのか。不幸の裏返し、偶然という名の幸運。
『君の理想は誰にも響かない』
スザクの幻が叫ぶ。生きている者と死んでいる者、上条の中で多くの言葉が呪いのように浮かんでは消えていった。
『お前の言葉は、毒だ。確かに一見すると正しいだがそれは単なる理想でしかない』
『誰かの幻想(ユメ)を殺すということの罪深さを、お前はまったく理解していない』
『誰かの気持ちを理解しようとすることを、なぜ諦められるんだ』
『君は相手の事なんか最初から考えちゃいない』
『だが、その甘さに潜む毒は、いずれその全てを屍に変える事になる』
『上条当麻、君がアーチャーさんを殺したんだ』
お前は偽善者だ。事実その通りなのだろう。
これまでも幾度となく数え切れない人間にそう罵られてきた。
自らの偽善を自覚しながら上条当麻は変わらない。
それは過去の記憶、禁書目録との出会いでその一切を失くした自分。
たとえ誰になんと言われようとも、上条当麻は己の内から沸いてくる
たった一つの感情を決して変える事など出来ないからだ。
その上条当麻をして、有無を言わせぬ説得力を持った背中を思い出す。
「アーチャー…あんたは…この偽善の先に何があるのかを知っていたのか?」
上条の呟きが誰もいない路地裏に空しく吸い込まれていく。死者は何も語らない。
「殺し合いなんて……そのふざけた幻想をぶち壊す。
そう言って俺は誰かを救えたのか、誰も救えてないじゃねえか…」
地面を殴り過ぎたのだろう。いつの間にか右拳の皮が擦り剥け血が流れていた。
『君の言葉は偽善者ですらない。ソレは悪意の扇動者が口にする言葉だ』
再度スザクの幻が叫ぶ。幻をかき消そうと前に出した手があっさりと空を切る。
何故か涙が出てきた。
「ちくしょう…」
どれほどそうしていたのかわからない。
ほんの一瞬のような気もすれば、長い時間が経っているような気もする。
ほんのわずかな刻で答えをだそうとした事が間違いなのかもしれない。結局なんの答えも出なかった。
だから、偽善と呼ばれた過去の自分に必死に縋り付くことしか上条には出来なかった。
「くっ……ふざけんじゃねぇ!!お前らの言ってることが俺にはわからねぇんだよ!!」
俺は絶対諦めねぇ…たった一人でだって何度でも言ってやる!!
復讐なんて認めねえ!!たとえ誰かに殺されそうになったって、
相手を殺していい理由にはならねえ!!」
地に伏せていた上条は、己の信念を再確認しようと勢いよく立ち上がる。
ぐだぐだと考えるのは性に合わない。そう言わんばかりに地を踏みしめた。
幻想殺しの右手を握り締め、必死に縋り付いたその想いを、その言葉へと変えてゆく。
「俺が…このフザけた殺し合いなんていう……その幻想を必ずブチ壊すッ……!!」
それは嘘の決意を秘めた声だった。
だとしても、上条当麻のその叫びは所せましと路地裏を駆け抜けていった。
- 166 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:40:01 ID:S4qTxY4E
-
■
──ガシャン。
不意に響き渡る音。
音のした方向を見やる上条。
その瞳に一人の女性の姿が映る。
「おいあんた…!!」
「あの、すみません。人の声がしたものですから、どなたかいらっしゃるのかと思い」
上条の張り上げた声にびっくりしたのだろう。
路地裏から少しだけ離れた住宅街の合間からは暗闇の中にありながらも、
とても際立つ鮮やか桃色の髪とそれを包み込む可愛らしい小顔が覗いていた。
「申し送れました。わたくしはユーフェミア・リ・ブリタニアと言います」
「あっ、ああ。俺の名前は上条当麻だ」
ユーフェミアに名乗り返した上条が近づいてきた彼女を顔を見る。
その微笑がどこか人形じみた表情に見えるのは気のせいだろうか。
いや、違う。彼女は肩に深い傷を負っていた。
上条に会った事で緊張の糸が解けたようにその場で蹲るユーフェミア。
「おい、あんた!!大丈夫なのか、しっかりしろ!!」
咄嗟にユーフェミアへと駆け寄った上条が肩を掴んで体を支えてやると、
その綺麗な額にうっすらと浮かぶ汗や唇から漏れる荒い息遣いに気付く。
「すいません…わたくしは…大丈夫ですから」
その言葉と態度は半分が嘘で半分は本当だった。
『うふふ、今度日本人に会った時は確実に殺すために慎重に行動しましょう』
いかに日本人を殺すのか。ユーフェミアはここまでの道筋でその事ばかりを考えていた。
しかしその様子は一見すると怪我を負いながらも必死に痛みに耐えているように見えた。
だから上条は本当の思惑に気が付かない。
「大丈夫って、んな訳ないだろ。酷い傷じゃないか。
待ってろ、何処か休める場所をすぐに探してやるからな!!」
今にも地面に崩れ落ちそうなユーフェミアに上条が肩を貸して住宅街へと歩こうとした。
その時。
「ありがとうございます。ところで、上条さんに少しお聞きしたい事が」
「ああ、こんな時になんだッ!?」
上条はすぐ隣にあったユーフェミアの顔を覗き込み、ユーフェミアは簡単な事だと話す。
「あなたは日本人ですか?」
上条を見つめるその瞳が朱色の燐光を帯びていた。
- 167 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:42:23 ID:S4qTxY4E
-
【E-5 住宅街と路地裏の間/一日目/夜中】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)精神的疲労(中)右拳に擦り傷、
[服装]:学校の制服
[装備]:なし、
[道具]:基本支給品一式、御坂美琴の遺体、
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。御坂の遺体は必ず連れて帰る。
0:目の前の女(ユーフェミア)を今は助ける。
1:一方通行を探し出す。
2:戦場ヶ原ひたぎを追い駆ける?阿良々木暦を探す?戦場ヶ原ひたぎと3匹の猫の安全を確保する?
3:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
4:壇上の子の『家族』を助けたい。
5:俺の行動は間違っていたのか…。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:全身打身、肩口に刺傷(中)、疲労(大)、ギアス発動中
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:脇差@現実
[道具]:基本支給品×4、アゾット剣@Fate/stay night、ティーセット@けいおん!、ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、
特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、ピザ×8@現実、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、
ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他、レイのレシーバー@ガン×ソード、
即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)、シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする。
特殊:日本人らしき人間を発見し、日本人である確証が取れた場合、その相手を殺害する。
0:あなたは日本人ですか?
1:この島にいる日本人は皆殺し。
2:安全な場所で怪我の手当てをする。
3:体力の回復、武器の調達を行い、日本人を皆殺しにする為の準備を整える。
4:タワーへ向かう。放送、もしくは通信の機材があれば偽ゼロの情報を伝え、同時に日本人を一ヶ所に集める。
5:スザクに会ったら……。
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間は不明。
ロワ開始時点やアーニャと行動を共にしていた時とは、ギアスの発動条件や効果等に変化が起こっています。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※ギアス発動時の記憶の欠落を認識しました。発動時の記憶、ギアスそのものには気付いていません。
※アーニャの最期の言葉を聴き、『ギアス』の単語を知りました。
「状況追記」
上条当麻がひたぎの元へ置いていったデイパックを今回の合流で回収しました。
中には基本支給品一式と御坂の遺体が入っています。
- 168 :砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 12:46:53 ID:S4qTxY4E
- 以上で枢木スザク、上条当麻、C.C.、戦場ヶ原ひたぎ、ユーフェミア・リ・ブリタニアの本投下を終わります。
今回は本投下が遅くなり申し訳ありませんでした。
なお、内容の大筋に変更はありませんが加筆により仮投下時とは一部タイトルが変更されていますのでよろしくお願いします。
- 169 : ◆IVe4KztJwQ:2010/05/24(月) 13:11:15 ID:S4qTxY4E
- すいません、「砕けた幻想/上条当麻の後悔」ですが一点だけ変更します。
ヒイロの自爆音後に銃声→ユフィ移動→スザク達も移動→再び口論→別れる
スザクD-5到達→ユフィ遭遇と作中で大幅に時間が経過しているようなので
状態表の各キャラクタの時間を「夜中」から「真夜中」に変更します。
この変更に問題があるようでしたら意見をお願いします。
お手数をおかけしてすいませんがよろしくお願いします。
- 170 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/24(月) 14:08:54 ID:QWGBx2NA
- 投下乙です。
スザク、上条さん、.CC.、ガハラさんと四者四様の信念のせめぎあいと葛藤がセリフの端々に感じられて、すごく良かった。
悲壮感溢れる上条さんに容赦なく襲いかかるそにぶの試練も続きがめちゃくちゃ気になる引きです。
GJでした!
- 171 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/24(月) 14:15:22 ID:4A3Tf0QA
- 乙です
上条さんはよくも悪くも曲げないからな。
スザクもこの状況では正しい判断だが…ルル関係でどうにでも転びそうなお前がそう言っても…
ガハラさんもCCも言ってることと言いたいことが違うような…
そして上条さんに新たな試練が! どうなる!
- 172 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/24(月) 18:59:39 ID:.D7CZcdM
- 投下乙です
上条さん、曲がんないなあ…まあそれがらしんだが
皆不器用だなあ
上条さん逃げ…られんな、この距離だとw
- 173 : ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:02:09 ID:t4E802s6
- 宮永咲、ディートハルト・リート本投下します
- 174 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:02:47 ID:t4E802s6
- パイプベッドがあるだけの質素な部屋に少女の嗚咽が木霊する。
名を宮永咲。
先程行われた麻雀の対局において驚異的な和了を見せ、結果的に三人の男を殺した少女である。
人質として連れてこられるまでは文学好きの一麻雀部員に過ぎなかった彼女。
ただの少女に、三人もの人間の生命を奪ってしまったと言う罪の意識はやはり重すぎたのだろう。
その精神的負担に胃は大きく痙攣し、彼女は幾度となく嘔吐を繰り返していた。
今もまた、口を抑えた右手の隙間から逆流した胃液のみが滴たり落ちる。
「のどかちゃん、助けて!」
狂気は釜の蓋を開けて少女が放り込まれるのを待っている。
咲はもう、大切な友達の名を叫ばずにはいられなかった。
そうしなければ崩壊してしまうほどに、彼女の精神は追い詰められていた。
そして涙をこぼす。ボロボロとボロボロと、とめどもなく。
◇
- 175 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:03:14 ID:t4E802s6
-
ディートハルトがその男から連絡を受けたのは、第三回放送直後のことだった。
名を仮にSとしよう。
旧帝愛時代から黒服として仕える男である。
Sは元アメフト選手で、強固な身体と幅の広い体格を持つ。
鈍重に見えがちだが、事あるごとに40ヤードを駆け抜けたと放言するだけあって、瞬発力は凄まじい。
喧嘩をふっかける瞬発力も高いようで、裏業界に落ちぶれたのも、妻とその不倫相手を灰皿で撲殺したことが原因だ。
旧帝愛では主に実行部隊に所属し、極めて優秀な実績を残していた。
その真面目な仕事ぶりで利根川から重宝がられていたようで、S自身も旧帝愛に対する忠誠心は高かったようだ。
だから、なのだろうか。
Sは故遠藤を中心とした現帝愛、ならびに背後にちらつく存在に対してひどく不信感を抱いていた。
それはもう敵対心と言ってよく、連日のように現体制に対しての不満を漏らしていた。
故に現体制では浮いた存在となった。ここに送られたのも体の良い左遷だ。
そのような人間が用があると言う。直接会って話しがしたいと言う。
接触しただけで嫌疑がかかりかねない人物である。
彼にとってはデメリットだけが目立つ接触だが、ディートハルトはそれを受け入れた。
逆に言えばそれだけのデメリットを覆すネタを持っているだろうと考えた為だ。
もし見合わないネタであったのならば、すぐさま処理してしまえばいいだけのことである。
■
ともあれ、Sが彼の居る編集室に来るまでに多少の時間がある。
空いた時間をただコーヒーを啜ることにのみ浪費するわけにもいかない。
G-2周辺におけるバーサーカーと刹那、本多忠勝の戦いが不鮮明に途切れてしまった件についても、まだ調査が終わってないのだ。
エスポワール号における停電事件も含めて、映像屋としては痛恨事である。
生放送に多少のトラブルは付き物とはいえ、G-2周辺で起きた大規模な"通信障害"は予想を遥かに超えた、まさに事件であった。
一切の電波を遮断する。
資料で確認はしていたが、アレこそがGN粒子なのだろう。
太陽炉を会場に設置した時点で、有線での通信網も用意すべきだったのだろうが、拠点が宙に浮いている時点でそれは難しい。
まぁそもそもあの爆発で周囲のカメラがなぎ倒されているため、録画を確認する手段はあまり無いのだが。
しかし不可思議な点もある。
なぜ刹那と本多忠勝の二人に、死亡判定が即降りたのか。
バイタルサインの確認も、首輪の盗聴機能も、二人が死亡した瞬間も、ましてや死体すらこちらでは確認できなかったというのに。
主催側には自分の知りうる手段以外の生死判定方法があると言うのか。
またエスポワールにおける停電も規模としては遥かに小さいものの、同じような現象であると言えた。
あの時間帯、すぐに拡散されて無害化したものの、会場全体に高濃度のGN粒子が散布されたのである。
なんらかの原因によって一定量以上が吹き溜まり、作用したとも考えられる。
E-6公園に瘴気が吹きだまって独自の結界を築いたのと同じように、だ。
また資料によれば、あの時乗船していた天江衣は度々停電事故を引き起こしていたとされているので、それが原因であるとも考えられる。
二件とも発生してから既に六時間。
冠絶したディレクターの腕をもってすら、謎は解明出来ないままである。
■
- 176 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:03:34 ID:t4E802s6
-
レポートをまとめている最中に、ドアは叩かれた。
座っているディートハルトからすると見上げるのも億劫になるほどの大男。
Sだ。
「まさか、情報処理のリーダーたるディートハルト様に、直接お会いできるとは思いませんでした」
「ここは盗聴器も無い。防音設備も申し分ない。だから気兼ねなく、要件だけを喋るといい」
課題は山積みであり、時間は常に逼迫している。
「では単刀直入に。これです」
そう言ってSはノートPCを開いて動画を立ち上げる。
そこに映るのは織田信長ともう一人。第二回放送後から会場に突如現れた妙齢の女性。
関連資料から女性の名前は蒼崎橙子と判明していたが、その発声の仕方と癖は全く別人のものであった。
それは地の底よりなお昏き場所より鳴動するが如く、響く。
『魔術師―――荒耶宗蓮』
思わず立ち上がる。眉間にシワがよる。眉をひそめる。思わず大声を上げそうになって口をパクパクとさせる。
ようやくと平静を取り戻し、椅子にどっかりと腰掛けて、冷や汗すらかいて、唸る。
「生きていたか!」
彼の中から衝撃が通り過ぎ、そして、思考を整理するべく彼の所持する情報と符合させて行く。
この会場内で参加者である荒耶宗蓮の名を騙る必要性は皆無。
不興を買えば鎧袖一触の信長の前で、そんな小細工を講ずる必要も無い。
事実、エツァリの盗聴システムを停止させた手際。憩の館で、小川マンション内で、主催側しか知り得ない機構を使ってみせた事。
いずれも、彼女が荒耶宗蓮だとしたら造作も無いことだ。
今の所はさしたる動きも無いが、とはいえ生存しているにも関わらず連絡の一つも無い事は明らかに不審だ。
結界の損壊は当然、荒耶も知っていることであるはずなのに、小川マンション内の結界を修復すらせずに別行動をし続けている。
どう贔屓目に見ても、ゲームの進行など既に念頭にないと言わざるをえない。
「信長の首輪につけられた盗聴機能は著しく機能を低下しておりました。ノイズの除去にはかなり手間取りましたが、この通りです」
「なるほど、これは確かに大事だ。で、直接面会を申し出たのは何故だ?」
現帝愛への反逆行動を唆す、と言った所だろうとディートハルトは予想していた。
「いえ、大した事ではありません。ディートハルト様の直接の傘下に入れてさせて頂きたいと、そうお願い申し上げようと思っただけです」
拍子抜けだった。
要するにこれは保身だ。技術力の誇示による売名行為だ。
立場が弱い自分の足場を固めようと、その場凌ぎの立ち回りに過ぎない。
「ご承知でしょうが、私の身辺は謂れのない揶揄で溢れております。このままでは私は粛清されてしまうでしょう」
「すると現体制へ不満を持っているという噂は真実ではない、ということか?」
「ストレートですな。勿論です。おそらくは旧体制の人間を快く思わない新参者達の口さがない流言が元でしょう」
それが真実だとするならば、帝愛は内部においてすらバトルロワイアルをやっているということである。
馬鹿らしい話だ、とディートハルトは鼻で笑いかけて、やめた。
実際にゲーム開始から今に至るまでダース単位で黒服たちが姿を消しているのだ。
明日は我が身、という言葉もある。このように分かりやすい男を手元に引き入れておくのも悪くは無いだろう。
「分かった。すぐに辞令を出させよう。追って指示があるまで待機してくれ」
「ありがとうございます」
Sは屈強な身体を折り曲げるとそそくさと部屋を出た。
部屋に取り残されたディートハルトは椅子に身を預けて一息つく。
知略の人である彼が、さてなにから手をつけようか、と頭を悩ませるほどに問題は山積みであった。
- 177 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:03:54 ID:t4E802s6
-
■
荒耶宗蓮復活の報を上告して既に二時間が経過した。
主催側からの対応は特にされていない。
資料によれば荒耶宗蓮の最終目標は根源への到達。
それがなんなのか、俗人でしかないディートハルトには想像もつかなかったが、専門知識を持つインデックスも特に言及もしない様子だ。
彼の暴走といえる独断専行すら計算通りだとでも言うのだろうか。
尤も今や主催側はディートハルトの情報網を介さずとも済むシステムを構築している。
妹たち―シスターズ―がそれだ。
独自のネットワークを形成しているクローン集合体である彼女らを用いれば、情報漏洩の心配も無い。
よって既に何らかの対処をシスターズを用いてなしているのかもしれない。
まだそれが表出してはいない為、想像でしか無いが。
そもそも、とディートハルトは同時に五つのコンソールを操りながら思案に耽る。
「このバトルロワイアルの目的とはなんだ?」
参加者に関する膨大な資料を元に、最も過激なエンターティメントを提供する。
それがディートハルトに与えられた役割だ。
バトルロワイアルの目的が資金集めであるならば、まだいい。
問題はこのゲームの目的がそれ以外、根源への到達などと言った非ビジネス的なものだった場合だ。
目的を達成した瞬間、スポンサーは勿論ディートハルト自身も命の保証はない。
ビジネスでない以上、スポンサー他関係者は単なる情報漏えいの可能性がある危険因子でしか無い。
ならば命の保証に、なんらかの担保が必要になるだろう。
それこそ先程Sがしてみせたように、だ。
よって彼らの目的を探らねばならない。
そして、その目的に合致するようなネタや技術を提示せねばならない。
もしくは、主催自体をひっくり返すように参加者を誘導するか。
いずれにせよ、主催側の手の内が分からないことには対処の仕様が無い。
まずは主催側から提示された指示を追って考察する必要があるだろう。
それが主催側の尻尾を掴む、ディートハルトが唯一持つ情報だ。
■
- 178 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:04:14 ID:t4E802s6
-
ディートハルトに命じられた最初の指令。
それは数人の特定の参加者を、確実に殺せる位置に配置することだった。
リストに上げられたのはユーフェミア・リ・ブリタニア、C.C.、加治木ゆみ、龍門渕透華。
逆に保護対象としてあげられたのは東横桃子、ルルーシュ・ランペルージ、天江衣。
ただ、保護対象に関しては優先順位が低くて構わない、というお達しだ。
これだけ見ても二つの世界の人物に対して主催側が注目していると言うことが解る。
指令には極めて機械的に答えた。
C.C.と加治木ゆみは殺意のこもった人物の程近くに。龍門渕透華はみせしめとしてハメた。
ユーフェミアに関しては喧嘩っ早い参加者の中に放り込んだ。
結果的にC.C.とユーフェミアは生き残ってしまったが、それに対する処罰は特に下されていない。
ユーフェミアといえば神聖ブリタニア帝国第3皇女。ブリタニアの魔女コーネリアの実妹。
温厚な人柄で知られていたが、資料によればイレブン虐殺を仕掛けゼロに射殺されたらしい。
ゼロという文字を見た瞬間、ディートハルトの胸は初恋にときめく乙女のように早鐘を打った。
ゼロこそはディートハルトの熱狂。アイドルである。
無論その正体も最期すら資料にはある。
ルルーシュ・ランペルージ。本名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
世界に反逆し、神を殺し、全てを平らげ、そしてゼロによって死んだ男。
激動と言っていい人生を送った人物。
そしてディートハルトの名もその人生の一構成物質として付記されていた。
利用され、裏切られ、惨めに死んで行く馬鹿な男の人生。
だが、今この資料にある自分の人生を俯瞰してみて、ディートハルトはこれは仕方がない、と自分の後世を蔑んでみせた。
このディートハルトは結局ルルーシュの目的を探ることが出来なかったのだ。
情報戦に敗北したのでは生き残れるはずも無い。
だから自分は今、主催側との情報戦に勝利しようとしているのだ。
■
- 179 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:04:34 ID:t4E802s6
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特定の参加者を優先的に殺す意味とはなんであろうか。
東横桃子のその後を見れば、なんとはなしに理解できる。
関係性の深い加治木ゆみの死は、東横桃子にゲームに対する覚悟を植えつけた。
結果、ポテンシャルの多大なる向上を促し、荒耶宗蓮とセイバーという大物二人を始末するという覚醒を果たしている。
その能力の開花もバーサーカーには通用しなかったようだが、そのステルス能力は今だ健在だ。
保護リストには無かったが、衛宮士郎も強力な協力者を失った直後にその才能を開花させた。
投影などと言う魔術にあのような応用力があったとは驚きだ。
大量のペリカを偽造し、また、魔王信長と数十合も刃を重ねるほどに実戦能力を高めようとは。
一方の天江衣だが、こちらは従姉妹である龍門渕透華の死をもってしても、何ら覚醒を果たしていないように思える。
しかしエスポワール停電事件を引き起こし、想定を遥かに上回る強さをもって麻雀ゲームを席巻し、法外な額のペリカを稼いでみせた。
数億ペリカもの配当を得られるシステムではもとより無いのにも関わらず。
そして同じ世界の生存者である福路美穂子に関してだが、これはもう計算外もいいところだ。
死よりの復活もそうだが、レイニーデヴィルと聖杯の泥という規格外の毒を二つも喰らって、その二つとも克服するなど予想だにしなかった。
聖杯の泥を仕掛けた言峰神父も驚いたことだろう。
これも近しい人間を失い続けた逆境が福路美穂子のポテンシャルを高めたのか。
■
そういえば福路美穂子を始めとして、このゲームの参加者にはオッドアイや魔眼の持ち主が点在している。
絶対服従のギアスを持つルルーシュ。直死の魔眼を持つ両儀式。歪曲の能力を持つ浅上藤乃。石化の魔眼を持つライダー。
独眼と言うことを含めれば奥州筆頭伊達政宗も含んでいいだろうか。
邪眼・邪視・魔眼は相手を呪い殺すと言われており、両儀式などは「神様だって殺してみせる」とうそぶいて見せていた。
実際、式はその能力を持ってバーサーカー、つまり半神半人であるヘラクレスを仕留めている。
またルルーシュもシャルル皇帝いわくところの神―集合無意識体、Cの世界―を破壊しており、神殺しを果たしていると言える。
神や奇跡を打ち消すと言う上条当麻の幻想殺し、神を鎮めし戦場ヶ原ひたぎも神殺しを果たした果たせた人材と言っていいだろうか。
神というものは所詮、絶対上位の存在がないと自己を保てなくなる人間が生み出した妄想上の産物でしか無い。
手を合わせて祈るだけで現世の利益追求が叶うなどと、馬鹿げた現実逃避だ。
そういった概念上の神を討つなどと言う戯言は、自分を装飾するためにつけた売り文句に過ぎない。
だが、もし神がいると信じている人間がいたら?
神を倒すなどと言う絵空事を本当に欲している人間がいるとしたら?
主催側の人間が神殺しを望んでいるのならば、常軌を逸した力を、神殺しの力を求めるのも考えられることなのではないか。
ならば何故、殺し合いの場に彼らを持ち出したのか。
東横桃子、衛宮士郎、天江衣、福路美穂子のようなポテンシャルの向上を狙ったのか。
逆に神殺しの芽を摘む為、殺し合いの場へ一同に会し、一網打尽にしようとしたのか。
考えればキリがない。
だが、ハッキリしたことはある。
ルルーシュと麻雀世界の住人達は主催側にとって、少なくともサンプルとして重要な意味を持っていると言うことだ。
◇
- 180 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:04:55 ID:t4E802s6
-
暗い部屋の片隅。膝を抱え、宮永咲はそこにいた。アレから何時間経ったのだろうか。
時計も無い、外界の景色も見られないこの部屋において、彼女の時間感覚など無きに等しい。
そのような孤独な空間において、まだ理性を保っていられるのは、どこからか聞こえてくるような少女の歌に励まされたからであろう。
聞き覚えのない歌。消え入りそうな小さな声ではあったが、精神の内へと崩壊しかけていた彼女の心を優しく包むかのように、歌は響き渡った。
咲の心に希望が差し込むのと同時に、明かりの無い部屋の扉が開き、光が差し込む。
導かれるように出口を見ると、黒服に身を包んだ男がそこに居た。
「ある御方がお呼びだ。着いて来い」
背の高い屈強な大男はそういうとズカズカと廊下を歩いていく。彼女も跡をついて行く。
選択権はない。
従わなかった場合、きっと殺されてしまうだろう。
そして、同じく囚われの身である原村和の生命さえ脅かしかねない。
大切な友人を失う事。それが彼女には一番恐ろしかった。
だから彼女は必死で黒服のあとを追った。
必死であとを追ったのだ。
本当に必死で。
だが。
「うぅう、此処どこぉ〜?のどかちゃん、お姉ちゃん、助けてよぉ〜」
涙目になりながら、少女は独り、迷子になっていた。
長野県立清澄高校一年、宮永咲。15歳。
得意技:嶺上開花、どこででも迷子になってしまう事。
◇
- 181 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:05:15 ID:t4E802s6
-
「見失ったで済むと思っているのか!さっさと探せ!」
Sに宮永咲を連れてくるように指示を出した数分後。見事にSは宮永咲をロストした。
主催側が駒として有用性を見出そうとしている麻雀世界の住人。
その内二人がこの内部にいた。
デジタルの申し子、原村和とその恋人である宮永咲。
原村和は曲りなりとも主催側の仕事をこなす人間であり、ディートハルトにとって接触はなるべく避けたい人物だ。
ならば人質である宮永咲はどうであろうかとお伺いを立ててみた所、あっさりと許可が降りた。
すぐさま待機状態であったSに指令を出してみたところ、この有様だ。
多少は使える人間だと思っていたが、どうやら買いかぶりだったようである。
ただ宮永咲が脱走を試みた、という情報はディートハルトにとって好都合と言える。
気兼ねなく原村和に何らかの条件を飲ますことが出来るだろう。
それにしても、Sにしてもそうだが、よくブリタニア語が通じるものだ。
会場内においても出身世界はバラバラ、年代も違えば地域も違う人間ばかりである。
ほぼ半数が日本人とはいえ、なぜ意思の疎通が取れるだろうか。
そう考えて、ディートハルトははたと立ち止まり、割れた顎に手をやる。
「そういえばエスポワールでの会議で利根川とグラハム・エーカーが妙なやりとりをしていたな」
耳から聞こえる単語と口の動きが全く違う、と。
ディートハルトはここに連れてこられる途中、言葉は末端にいたるまですべて通じる人間ばかりだと説明された。
実際そのとおりだった為、今まで気にも留めなかった。
だが、共通言語を習得した形跡もない参加者同士が意思の疎通を取れている様子を見るに、何らかの手品が仕掛けられているのではないかと疑わずにいられない。
これも魔法という奴か、と思考停止することも可能だが、これも主催側が残したメッセージである。
死の危険と常に隣り合わせである参加者たちと違い、ディートハルトはとりあえずは差し迫った危険も無い。
彼のみに閲覧を許された、幾多の世界に及ぶ、膨大な量の包括的な資料と記録もある。
「一度考察してみる必要がありそうだな」
そう考えた矢先、ジリリと黒電話が鳴り響いた。Sだ。
「見つけました!今からお連れ致します!」
「いや、もういい!私自らそちらへ向かう!お前はそこで宮永咲を見張っていろ!」
そう怒鳴りつけて受話器を乱暴に押し付ける。
Sの所在地を探り、そこへ向かって大股で歩く。
「どいつもこいつも邪魔ばかりする!番組をともに作り上げようという気のある人間はいないのか?!」
◇
- 182 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:05:35 ID:t4E802s6
-
ゴゥンゴゥンと轟音が鳴り響く、ここはエンジンルーム。
どうやってたどり着いたのか、宮永咲はそこに居た。
「うぅ、ぐっす、ひっく。のどかちゃん、部長、衣ちゃん。みんなぁ。助けてよぉ〜」
孤独の心細さがようやく癒された精神を蝕む。
だからズシャッという重い足音を聞いた時も宮永咲は喜色満面の笑みで迎え入れた。
「のどかちゃん?!」
次の瞬間、宮永咲の鼻頭を黒い稲妻が通り過ぎた。
丸太のようなSの右腕が咲の顔面をかすめたのだ。
かすっただけだというのに、咲の鼻から鮮烈な朱がこぼれ落ちる。
鼻を抑えても血は止まらない。
激痛と血に怯えうずくまろうとする咲の下腹部に、Sの左足がめり込んだ。
身体全体をくの字に折って足が宙に浮く。胃液を逆流させてゴロゴロと転がる。
そのままへたれこんで顔を地面に押し付け、声にならぬうめき声を上げる。
「この糞女がァ!」
Sの怒号が鳴り響く。
うずくまり、息を吸う事さえ出来ずに嘔吐する咲の後頭部を髪を掴んで持ち上げる。
あがく力すら、ない。
「おとなしくついてくることすら出来ねぇのか!この場で修正してやる!」
振りかぶった拳は巨大で、凶悪な力強さで握られていた。
当たれば身体中の骨を折られてしまうだろう。そんな説得力を持っていた。
その時である。
『誰か助けて!』
咲の叫び声が辺り一面に響いた。
声も出せぬはずなのに、口も動かしていないはずなのに、それは大音量で響きわたった。
至近距離でそれを聞いたSは、咲を手放して耳を抑える。
声ではない。
音ではない。
だから鼓膜に異常など、きたすはずも無い。
だが、Sは耳を抑えた。鼓膜が振動で破裂しそうだと錯覚して耳を抑えた。
逆上したSは懐に収めていたベレッタを構え、床に放り出された咲めがけて撃ち放つ。
「化け物がぁっ!」
音速を超えた衝撃音がエンジンルームに響きわたった。
◇
- 183 :ディートハルト・リートの戸惑い ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:05:56 ID:t4E802s6
-
硝煙纏うPDWを携えたシスターズとすれ違ったディートハルトが、現場に着いた時にはそこは血の海だった。
四方八方から撃ちぬかれ、縮れた髪の毛を持つ黒い肌の巨体がどう、と倒れている。
蜂の巣とはまさにこの事だろう。その身体は全身銃創が無いところなど無いほどだ。
状況から見て、起きた事は大体飲み込める。
詳細を説明出来るであろう宮永咲は、身体中をS―シンプソンの流した血で染め、涙を流して恐慌状態に陥っている。
とても事情を聞ける状態ではないだろう。
ディートハルトは溜息をつくと、先程自分の身に起こった奇妙な現象を想起した。
咲の叫びはディートハルト自身も耳にしていた。
隔壁を何枚も隔てたその向こう側で。
いくら大声を出そうとも届くはずの無い叫び声が、彼の耳にはしっかりと聞き取れた。
「ここで何が起ころうとしている…」
主催の目的は未だオカルトの靄に包まれたままである。
【???/飛行船・エンジンルーム/1日目/夜中】
【ディートハルト・リート@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]: 健康
[服装]:普段着(セーターにジャケット)
[装備]:???
[道具]: ???
[思考]
基本:主催側の目的を探る。
1:生きてこのゲームを終了させる。
2:言峰と妹達への密かな恐れ
[備考]
※参加者の情報をかなり詳しく知りました。
※主催側は神殺しの力を欲していると仮定を立てましたが、彼自身も懐疑的です。
【宮永咲@咲-Saki-】
[状態]:腹部強打、恐慌状態(軽)、疲労(中)
[服装]:血まみれの清澄高校夏服
[装備]:???
[道具]: ???
[思考]
基本:のどかちゃんと一緒に帰りたい。
1:死にたくない。
2:歌を歌う少女にお礼がしたい。
- 184 : ◆LJ21nQDqcs:2010/05/24(月) 19:06:53 ID:t4E802s6
- 以上で本投下終了です。
本投下までに時間をかけてしまい、申し訳ございませんでした
- 185 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/24(月) 19:32:37 ID:.D7CZcdM
- 投下乙です
ふむ、結果を俯瞰的に見ればそういう考え方もできるか
咲よ、何があったw
最後に一言
おかえりなさい、もう問題起こしたらダメですよ
- 186 : ◆Vj6e1anjAc:2010/05/24(月) 20:30:30 ID:zdWMwtoE
- >>153-155
了解しました。では、wikiに収録する際には、外伝扱いでお願いします。
そして◆IV氏、並びに◆LJ氏、投下乙でした。
- 187 :◇mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:09:22 ID:YoEkAhJ.
- おまたせしてすいません。
デュオ・マックスウェルと両儀式を投下します。
- 188 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:10:34 ID:YoEkAhJ.
- 物心ついた時から死体ばっかり見てきた。
神様なんかいやしねえ。奇跡なんか見たこともないからな。
ああ、殺したよ。
数なんか数えきれないくらいに、殺した。
殺した罪か……考えなくもなかったけどよ。
殺したくて殺したわけでもないさ。
じゃあ、俺たちの大事なものを奪い取った罪は一体誰が償ってくれるんだい。
有史以来、人類が嫌ってほどの先例を重ねて証明してるだろ?
どこの国でも殺人に対する処罰の法律がないところなんかない。
どこの国の歴史でも戦争がなかったところなんてない。
つまり人殺しが起こらない国なんざどこにもありゃしないんだ。
人ってのはな、誰だって人を殺せるんだ……!
特別なことじゃない、当たり前のことなんだ。
ま、もっとも俺は死神だからな、そいつが仕事だ。
恨みを買うのもその内さ、仕事に罪も何もないだろうよ。
だから戦うのは俺ひとりで十分だ。
こんな思いをするのは俺ひとりで十分だと思って戦ってきたんだ。
……そうさ。
人を殺すのも殺されるのも、当たり前のことなんだ。
こんな辛いことが世界の過去でも、未来でも、今でも、地上でも、宇宙でも、どこでだって行われているんだ。
なあ……あんたらならどうする?
イヤでイヤでたまらない事が当たり前のように繰り返される世界ってのをさ。
そこで生きるしかないっていうなら、一体どうすればいいんだ。
一生、そこから背を向けて誤魔化し続けろってのか。
それともいっそすっぱり自分だけ世界からオサラバしちまえばいいのか。
俺たち馬鹿なんだぜ、きっと。
それくらい馬鹿じゃなけりゃ兵士なんてやれやしねえよな。
俺たちは殺し続けるために生きる。
生きるために殺し続ける。
いつ殺されたっておかしくない。
だったらせめて自分の生きる道を精一杯やるしかないだろ。
例え馬鹿だと言われようがいいさ。
事実だとしても、じゃあそれすらできない世界なんて満足か?
俺は……嫌だね。
【殺人考察】――デュオ・マックスウェル
◇ ◇ ◇
- 189 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:12:07 ID:YoEkAhJ.
-
私たちはサイドカーに乗り込み、西に向かって夜の街並みを駆けていく。
街灯の人工的な明かりの下、闇の中にぼんやり浮かぶ道路を辿って、目的地であるショッピングセンターを目指す。
私は側車に座って、ただぼんやりと前を見ていた。
やや冷えた風が頬に触れて通り抜けていく。
地面から伝わる振動と唸りをあげるエンジンの音がちょっと耳障りだった。
ふと私はこのサイドカーを運転する同行者を見やる。
栗色の髪を長く伸ばしており、それを三つ編みにするという特徴的な髪型で、腰まで届く長さのしっぽが風に吹かれて時折揺れる。
顔立ちは幼いし、背だって私より低いくらいだ。
なのに、どう見ても子供のくせに、一切慌てることなくこの車を乗りこなしている。
運転だけじゃなく銃の扱い方、やたら戦い馴れしてることもそうだ。あまりに外見と釣り合いが取れていない。
「なあデュオ」
「あー?」
エンジンの音がやかましいので、それに負けないように少し強い声で呼びかけた。
向こうも同じようにして、半ば怒鳴るように大きな声で応える。
「お前、いつのまにかルルーシュってヤツとだいぶ仲良くなったみたいじゃないか」
「ああ、それか……そういや道中で説明するっていったよな」
「そうだ。説明しろ」
違う。
私が聞きたいのはそういうことじゃないんだ。
いや、そうではあるのだけれど――なんだか混乱する。
私はこいつといるのは嫌いじゃない。
けど、こいつは多分、人殺しだ。私と同類。
人を撃つと決めたら躊躇いがないんだ。信長のときも、バーサーカーとかいう怪物のときも。
「別にたいしたことじゃないさ。敬語を使われるのもこそばゆいから止めようぜってな。まあ、明らかにあっちが年上だしよ。
確かになんか腹に一物ありそうだけど、そんなに悪いヤツでもないと思うぜ、俺は」
こいつはそう言って笑い、また前を向いて運転に戻る。
それは何の変哲もない普通の表情だった。
昔の私は人間が嫌いで、今も苦手ではあるのだけれど、とにかくそんなどこでも見る普通の笑い顔だ。
そう――こいつは普通の人間なんだ。
「――お前、人を殺したことあるか?」
私は少し強い口調で聞いてみた。
バイクのエンジン音が相変わらずやかましい。
「……なんだよ、いきなりよ」
「私は殺人鬼だ。私は教えたぞ。だからお前も教えろ」
「どういう理屈だよ、そりゃあよ……」
デュオは前を向いたままで呆れたように呟く。
でもそれから、その横顔に張り詰めたものを漂わせた表情で、短くはっきりと言い切った。
「――俺は死神だからな」
私は、そうか――とだけ返した。
殺人鬼と死神。
なんとも似合っているのかそうでないのかよくわからない組み合わせだ。
それに、私にはこうして見る限り、こいつが人殺しだなんて思えない。
あまりに普通で、あまりにお節介で、事あるごとに泣き言ばかりで弱く見えるくせに。
でも私だってそうだ。
殺人鬼のくせにこんなに弱い。
――あいつがいないと、わたしは生きてさえいられないんだ――。
- 190 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:13:43 ID:YoEkAhJ.
-
◇ ◇ ◇
しばらくサイドカーを走らせてたどり着いた先、ショッピングセンターの入り口は無残にも破壊されていた。
付近にバイクを止めてやってきたデュオは、呆然としたように呟く。
「……なんだよ、こりゃ」
「見りゃ分かるだろ。ここが戦場になったか、誰かが意味もなく破壊したのか、とにかくそんなとこだろ」
そっけなく言って両儀式は堂々と中へ歩みを進める。
内部は明かりがついていて、奥へと続く道に連なる華やかな店並びをくっきりと映し出している。
おいおい、無用心だろうが――と内心で呆れながらも、デュオは何も言わず彼女の後に続いた。
両儀式は、もし誰かがいたとしても並の相手に不覚をとるような女ではないのだ。
そうと知っていても、ついついお節介を焼いてしまうのは、どことなく危なっかしいところがあるからだろうか。
ガンダムによる破壊工作任務のために地球に降りた時、そこで出会った無鉄砲で無愛想な少年――ヒイロを思いだす。
「あいつも元気にやってんのかねえ……無茶さえしなきゃなぁ」
小さく呟いて、式の一歩後ろの位置につき、さらに歩みを進める。
警備用のロボットか何かだろうか。ドラム缶のような形状の機械が無残に破壊されて転がっていた。
「式、ちょっと見てくれ。こいつをどう思う?」
「さぁ……知らないな。俺がやったわけじゃないし」
「……はいはい、そうでしたね。お前に意見を聞いた俺が悪かったよ」
嫌味を込めた愚痴を言いながらチラリと彼女の顔色を伺ってみるが、全くもって平然としていた。
どうやら鉄面皮なところまでアイツに似ているらしい。
ともかく転がったままの残骸をざっと調べてみるが、これといって怪しい箇所は見当たらない。
分解するには工具が足りないし、日頃からガンダムの整備で機械いじりをこなすデュオがざっと見ても、普通のロボット以上には思えなかった。
「ま、いいか。とにかく魔法陣だっけ? そいつがあったら探して破壊するのがまず第一だな」
「ああ……そういえばさっきの処には見なかったな。地図に黄色い丸で書いてあるところにはあるはずなんじゃなかったか?」
「んー……そのはずなんだけどなぁ。俺たちが見落としてるのか?」
「遺跡は俺もざっと見ただけだからな……それはともかく象の像は俺も見たけど、見落とすようなところあったかな」
うーん、と唸って考え込んでしまう。
式が言うには、敵のアジトにはあまりにわかりやすく設置してあったが、神様に祈る場所ではそうではなかったらしい。
前者は式へのメッセージでもあったのだろう。基本的には後者――見つかりにくく設置されて然るべきということだ。
とすればこの場所の捜索にもそれなりに時間と手間が必要となる。
「ま、いいか。俺はちょっと着物の替えがないか探してくるから」
「え、ちょっと、おい、式!?」
いきなり式がそんなことを言い出してキョロキョロと店を物色しながら歩き出した。
突如、置いてきぼりにされたデュオは慌てて後を追う。
「おいおい、ちょっと待てって! 俺だけじゃ魔術がどうとかいうの見破れないだろ!」
「なんだよ……こんな広いとこ探すのに、いちいち俺の眼を使えってのか? 悪いけどすぐバテちまうよ。
だったらルルーシュたちを呼び出して、ロボットとかいうのでここを丸ごとぶっ壊した方が早いぜ」
「む……」
そういうのもありか――と思わず感心してしまった。
確かに、せっかく回復した式をまた無駄に疲労させることは避けたい。
ないとは思うが、万が一バーサーカーのような相手と遭遇すれば、MSがない現状では彼女が頼りなのだ。
- 191 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:15:49 ID:YoEkAhJ.
- と、そうこう考えているうちに、向こうはスタスタと呉服売り場とかいうところに入っていってしまった。
どうやら式が着ている変わった服を専門で売っている店らしい。
といっても店員は当然いないので、彼女は好き勝手に色々な商品を物色している。
それを売り場の入り口から覗き見て、デュオはやれやれとため息をついた。
「さっき、変なこと聞きやがるからちょっと心配だったけど、まあ大丈夫っぽいかねぇ……」
式と出会ってからずっと行動を共にしてきたが、一番ひどい時には生きる気力をほとんど失ったような状態だった。
それから数々の修羅場を経て今はだいぶマシになっているようだが、大切な誰かが死んだというショックから簡単に立ち直れるわけがない。
その大切な人間の亡骸があったであろう場所を去った直後、デュオは柄にも無く説教じみたことを言い放った。
両儀式という女の、あんなひどいザマを見ていられなかったからだ。
それ以来、式はそいつ――コクトーというヤツについて何も話さない。
というか、あいつは自分から何かを話すということがほとんどないのだと、短い付き合いでそれなりに理解したと思っていた。
そして向こうに話す気がないなら無理強いは必要ないとも。
だが、あちらの方からデュオの事を聞いてきたのは初めてだったような気がする。
しかも極めて物騒な内容である。
「一応、仲間と認めてくれたってことでいいのか……? ……って! 式! 着替えるなら試着室行け!」
デュオは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
お眼鏡にかなった服を見つけたのか、商品棚から一着取り出した式は、あろうことかそれまで着ていた服をその場で脱ぎだしたのだ。
そして、だったらそっちが向こうに行ってればいいだろ――などとぶつくさ呟きながら、なんだかんだでこっちの言う事を聞き、試着室へ入っていった。
「………………ほんとに、何なんだろうねアイツは」
危なっかしいというか何というか。
どうして自分はこういう奴らにばかり縁があるのだろうか。
デュオは天井を仰ぎながら頭をバリバリと掻きむしった。
◇ ◇ ◇
どうやらそれはキモノというらしかった。
式が新しく着替えた着物は、真っ白い色をしている。
帯にうっすらと落ち葉のような模様が描かれていて、よく見れば裾の方にも落葉模様が散っていた。
「……へえ」
「……なんだよ」
思わず感心した。馬子にも衣装というのか。
いや、元から顔の造形は凄まじいほど整っている。
セイバーやプリシラ、ルルーシュの取り巻き連中もそうだったが、このゲームの主催者は女の趣味だけは文句のつけようがない。
そんな彼女らに殺し合いをさせようという時点で、トータルの評価は底値を割ってマントルまで掘り進む勢いだが。
「で、どうするんだこれから。何か目処はあるのか?」
「ああ……とりあえずな。このゲームには信長とかバーサーカーとかとんでもない奴らばっかりいるわけだろ」
――お前も結構なトンデモだけどな、とは思うだけで口にしない。
ふん、と素っ気なく応える式にさらに説明を続ける。
「例えばMSとか、こいつらの戦いでここが戦場になった場合、こんな建物は簡単にぶっ壊れちまう。
そんなとこに魔法陣だっけ? それを設置して壊されたら目も当てられないだろ」
「この建物の中にはないってことか?」
「ああ……多分な。壊されて困るものなら、もっと安全なところ……例えば」
そこで言葉を切り、指で地面を指す仕草。
それを見て式は軽く眼を見開く。
- 192 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:16:50 ID:YoEkAhJ.
- 気付いたか。そう――地下だ。可能性が高いのはそこ。
それで駄目なら式の提案どおりルルーシュたちにも手伝ってもらい、ここを丸ごと破壊するしかない。
「んじゃ行こうぜ。まだ何かあるか?」
「いや……行こう」
まずは地下への入口を探す。
二人は揃って歩き出す。
カツカツと床を叩く二つの足音、その他に音は無し。
カツカツ。
カツカツ、カツカツ――。
「なあ」
ショッピングセンターは地下二階までエレベーターが設置されていた。
まずはそこへ降りてから、さらに先があるか確かめるつもりだ。
そのためにエレベーターへ乗り込み、行き先階へのボタンを押した時に式が話しかけてきた。
「――ルルーシュのこと、どう思う」
「んー……なんだかんだで根は割とイイヤツなんじゃねえかな。俺はそう思うぜ、さっきも言ったけど」
「……信用してるのか?」
「んにゃ、それとこれとは別さ。まあ貴族様ってやつらしいけど……なんつーか、頭が切れすぎる。
有能すぎるんだ。そういうファクターと、あの一見いい人みたいな人柄が一致しない」
この殺し合いの舞台において、少なくとも良い人というだけで、あれだけの武装と罠などの仕掛け、そして女子高生ばかりとはいえ一団のリーダー的存在にはなれない。
デュオはそう考えている。おそらくまだこちらに隠したままの一面を、あのルルーシュは持っているのだろう。
政庁で五飛に問い詰められたときに、僅かに見せた鋭い表情――おそらくあれが本性だ。
そのことを式に説明すると、へえ――と感心するように軽く笑って見せた。
心からの笑いではない。少なくともデュオにはそう見えない、むしろ皮肉げな笑み。
だが、それでも式がめったに見せない笑いの表情だった。
「安心したよ。これでお前ともうしばらく組んでいられそうだ」
「なんだよ、お前そこまでアイツが気にくわないのか?」
「別に。ただ、なんか企んでそうだなって思うだけさ」
「それが気にくわないってんだろ……」
ぽーん、と音が鳴ってエレベーターが地下二階を示すランプに明かりをつける。
唸るような重い音を立ててドアが開いた。
その向こうに続く景色は、打ちっぱなしのコンクリートでできた壁に囲まれた真っ直ぐな通路だ。
客を迎えるための華やかな飾りはなく、スタッフが行き来する機能だけを備えた無機質な地下道。
蛍光灯の人工的な明かりが照らす道の様子はどこか不気味で、デュオに最初の一歩を進めることを躊躇わせた。
「――行くか」
そう言って式が一歩を踏み出す。
デュオはいつの間にか口内に溜まっていた唾をゴクリと飲み込んで、式の後に続いた。
◇ ◇ ◇
- 193 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:18:36 ID:YoEkAhJ.
- 目の前に妖しい輝きを放つ魔法陣がある。
「……どうする、デュオ」
「うーん……どうするったってなあ」
ここまでくれば、やることは決まっている――のだが。
デュオと式の二人組はそのすぐ前に立ち尽くし、次の行動を決めかねていた。
結果として魔法陣を見つけることには成功した。
地下二階にいくつかあるスタッフ用の倉庫の隅に、隠れるようにして配置されたドアがあり、そこからさらに下へ続く螺旋階段が見つかったのだ。
延々と下って、どれほど降りたかは分からない。
そこは不吉な雰囲気に包まれた薄暗い空間で、ひたすらぐるぐると螺旋状の階段を降りては距離感を失うのも仕方ないだろう。
そしてその行き止まりに、目当てのものをついに見つけたというわけだ。
「なんつーか……確かに隠されてはいるんだけど、絶対に見つけて欲しくないって隠し方でもないよな」
デュオはこの魔法陣の隠し方に疑問を抱かざるを得なかった。
これがこの殺し合いの舞台について何らかの重要な役割を果たしているというなら、主催側にとっては絶対に見つからないように隠すべきものであるはずだ。
それこそ魔法陣を設置した空間の入り口をコンクリートで塗り固めて、誰も入れないようにするくらいはしてもおかしくない。
だがこれはどちらかというと「隠してあるから見つけてみろ」といった風情だ。
敵のアジトではあからさまだったし、神様に祈る場所でも式がすぐに見つけて破壊した。
さらに疑問に思ったことはもう一つ。
デュオたちが今まで破壊してきた魔法陣はここを含めればこれで三つとなる。
地図上に施設として記された印の数は全部で24であり、そのうちの八分の一にあたる数だ。
いくらなんでもそろそろ主催側から警告なり妨害なりが入るのではないか。
それとも――、
「ルルーシュが言ってたんだけどよ……首輪を外すのもゲームのうちじゃないかってな。
もしそうだとすると、こいつをどうにかするのもやっぱりこの殺し合いゲームの内に含まれてるんじゃねーかなぁ」
「ふーん……だとしたら、これを壊しても奴らの邪魔は入らないってことだろ」
「……かもなぁ」
「俺はどっちでもいい。お前が決めろ」
そう言われると悩む。
命令を受けて死地に飛び込む兵士の役割は慣れっこだが、こういった決断を迫られる立場は困る。
ましてやデュオ自身だけでなく、式の命も背負い込むことになるかもしれないのだ。
だが、いつまでもここに突っ立っているだけで状況が好転するわけはない。
二つ壊して何も起こらないのだから三つでも同じだろう、と半ば自棄気味に腹を決めた。
「ああ……しゃーねぇ。式、やってくれ」
「わかった」
そうと決まれば式に迷いは無かった。
歩を進めて魔法陣の眼前に立ち、躊躇いなど一切無く魔術殺しの短剣――ルールブレイカーを突き立てた。
カツン、と硬い音が薄暗い空間に響き渡る。
床の上でうっすらと輝いていた紋様は、音もなく消え去った。
しばらくこのまま待ってみる。
「……」
「……」
薄気味悪い空間に沈黙が満ちた。
さらに待ってみる。
- 194 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:19:58 ID:YoEkAhJ.
-
「……」
「……」
「……」
「……何も起こらないな」
面白くもなさそうに呟いた式の声が暗闇に吸い込まれていく。
それを受けてデュオは軽く嘆息した。
「ま……とりあえず戻ろうぜ。ついでにここの自販機と吊り橋も調べておきたいしな」
「……ああ」
◇ ◇ ◇
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
蒼崎橙子作の義手(右):一億ペリカ
蒼崎橙子作の義手(左):一億ペリカ
蒼崎橙子作の義足(右):二億ペリカ
蒼崎橙子作の義足(左):二億ペリカ
蒼崎橙子作の内臓:一億五千ペリカ
※時間経過で商品は増えていきます。
※各地の販売機によって、商品は多少変更されます。
※機動兵器各種に武装はついておりません。別売りでお求めください。
※当施設には独自のサービスがあります。
お買い上げ頂いた義肢などの取り付けを無料で行わせていただくサービスです。御気軽にご利用ください。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……なんだこりゃ」
ショッピングセンターに備え付けられた自販機の品揃えをチェックしてみたデュオの第一声がこれであった。
ウインドウに表示された商品の説明を読んでも、はっきり行ってワケがわからない。
が、式にとってはそうでもないようだった。
「へえ……こんなのまで揃えてるのか」
感心したように呟く式。
デュオはそれを聞いて反射的に浮かんだ疑問を口にする。
「知ってるのかよ、式」
「知ってるも何も、俺の左手はこの義手だよ」
式は言いながら、一見して生身としか思えない左手をひらひらと振ってみせる。
さらにじっくり見ても、やはり義手には見えない。
こいつが言うには、トウコというのは式の知り合い。腕利きの人形師で、本物そっくりの義肢を作れる魔術師だということだ。
まあ、つまり帝愛曰く「金で魔法を買った」、その一例だということだ。
「デュオ。お前、セイバーの首輪を換金してたよな」
「あ、ああ」
象の像で二手に分かれて出発する前に、換金率二倍の自販機でセイバーの首輪をすでにペリカへ変えてある。
思えばセイバーとは短い付き合いだったが、それなりに色々あったりもした。
そんな彼女の遺品とも言える代物を金に変えるのに、多少の抵抗がなかったといえば嘘になる。
- 195 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:21:59 ID:YoEkAhJ.
- だがルルーシュによる説得もあり、デュオは渋々ではあるが換金に納得したのだ。
主催側である荒耶宗蓮の首輪を換金してしまうのは、なんらかの貴重な手がかりを分析するチャンス潰してしまうかもしれない。
主催側ならではの独自のギミックが隠されているかもしれないからだ。
そして換金率二倍のボーナスを最大限に活かすには、換金する首輪の価値が高値であればあるほどよい。
セイバー程のものなら、うまくいけばバーサーカーのそれに匹敵するペリカを得られるかもしれず、引いては高性能な機動兵器を購入してさらなる戦力の充実が図れる。
――以上がルルーシュの言い分である。
デュオもそれは一々もっともであると認めざるを得なかった。
結果として得られたペリカは莫大であった。
三億五千万が二倍で、なんと合計七億。現在、それをデュオが所持している。
「ルルーシュの奴、確か片手が折れてたよな。義手にしてやれば喜ぶんじゃないか?」
「嫌がらせだろ、それ……」
冗談か本気かわからない式の一言。
骨折しただけで、いきなり自分の腕を得体の知れないモノに交換されてはたまらない。
とはいえ、この殺し合いで骨折以上のダメージを受ければ、回復の見込みはほとんど絶望的だ。
それを覆す方法がこの義肢を移植すること――式の言を信じれば、本物の腕以上の性能ということらしい――ならば、確かに有用ではあるだろう。
「しっかし、移植ってどうやるんだよ。そのトウコとかいう奴がひょっこり出てきてやってくれるってのか?」
「嫌なやつだけど、こういった殺し合いに協力する奴じゃない……いや、わからないな……」
「おいおい……」
トウコというのは一体どんな奴だ。
心のなかで突っ込んでおいて、ひとまず思考を次に向かって切り替える。
「ま、いいや。ラインナップは確認できたし、そろそろ行こうぜ」
「わかった」
やるべきことは未だに山積している。
このゲームの疑問点はそれこそ数え上げればキリがない。
だからこそ、こういう時は実際に動くしかないのだ。
足で稼いだ事実の収集こそが、未だ五里霧中のその先にある真実へ辿り着く手段と信じて。
◇ ◇ ◇
夜空に大きな銀色の月が浮かんでいる。
デュオの住んでいた宇宙コロニーからではまず見られない光景だった。
冴え冴えとした月光が海を照らし、さざ波に合わせて海面が煌めく様を、式と二人で眺めていた。
ここはショッピングセンターを出たところから北の方角にやや離れた海岸。
施設の魔法陣を破壊し、式とデュオの二人はそこから出て吊り橋もついでに調べようとしたところで時間となった。
この殺戮遊戯開始からちょうど24時間が過ぎるまであと少し。そろそろ四回目の放送だ。
吊り橋が見える海岸線にサイドカーを止め、放送が終わるまで小休止することにした。
ルルーシュへの連絡はそれが終わってからでいいだろう、とデュオは判断し、式もそれについて特に意見はなかった。
あちらからも連絡がないということは、今のところ特に緊急を要する事態にはなっていないのだろう。
支給品の飲料水に口をつけながら、デュオは再び月を見上げた。
煌々と輝く銀の真円が深いブルーの夜闇に浮かび、まるで白金の宝珠のようだ。
海から響いてくる波の音は穏やかで、不思議と心が静まっていく感覚があった。
「……なあ、デュオ」
「ん?」
横から呼びかける声に応えてそちらを向くと、先程ショッピングセンターから持ち出してきたらしいアイスを食べる式の姿があった。
今までが今までなだけに、向こうから話しかけてくるというのは珍しい。
- 196 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:24:37 ID:YoEkAhJ.
-
「お前、ずっと月を見てるな。好きなのか?」
「ああ……俺はコロニーっていう――宇宙に住んでたからな。地上から見上げる月ってのは、こんな時でもなかなか珍しくてさ」
「へえ……」
「お前こそ珍しいよな、そういう他愛もないことで話しかけてくるのって」
デュオは何の気なしに思ったことを口に出しただけだった。
だが式にとっては、その指摘は意外であったらしい。
びっくりしたような顔で、それからあらぬ方向にそっぽを向きながら、ぼそぼそと何事か呟いた。
そうかな――とか、うん――とか、言葉にならない単語を二つ三つ口にして、それから完全に黙ってしまう。
なんとなく居心地が悪い沈黙の時間が続いた。
「なあ、なんかあったのか?」
思い切ってデュオから式に聞いてみた。
だがそれに対する返事は何とも煮え切らないものだった。
「別に……いや……やっぱりいい」
「なんだよそれ」
気にはなる。
だが向こうが言いたくないのならば無理強いする必要もないと、ひとまずこれ以上は追求しないでおくことにする。
「んー、まあ言いたくなったら言えばいいけどよ。俺もいつまで生きてられるかわかんないから、できれば早めにな」
「お前……」
「このまま脱出できなきゃ最後の独りになるまで殺し合いだ。五飛だって目の前で死んじまった……俺だけ無い、とは言えないさ。
あー…………ほんとに地上から見る月は綺麗だな」
見あげれば、変わらず月は銀色の光を静かに降り注ぎ続けている。
陽光よりも遥かに弱々しいそれといえども、闇を切り裂くには充分すぎた。
空を、土を、海を、風を、夜を、そして二人を、月光は静かに照らし続ける。
「コロニーじゃ月がはっきり見えすぎて、まるで墓場みたいだった……」
そんなことを懐かしむように呟いた少年の声は、やがて静かな暗闇へと溶けていく。
傍らの少女はただ黙って、少年が見る月を、同じように見上げた。
「――俺たちはいつまでこの月を見てられるかな」
◇ ◇ ◇
- 197 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:26:49 ID:YoEkAhJ.
- 『人は、一生に必ず一度は人を殺す』
――そう、なの?
『そうだよ。自分自身を最後に死なせるために、私たちには一度だけ、その権利があるんだ』
――じぶんの、ため?
『そうとも。人はね、一人分しか人生の価値を受け持てないんだ。
だからみんな、最後まで辿り着けなかった人生を許してあげられるように、死を尊ぶんだ。
命はみんな等価値だからね。自分の命だからって自分の物ではないんだよ』
――じゃあ、おじいちゃんは?
『おじいちゃんはだめかな。もう何人も殺してしまった。殺してしまった彼らの死を受け持っているから、自分の死は受け持てない。
おじいちゃんの死は、誰にも受け持ってもらえないまま、空っぽのところに行く。それはとても淋しいことだ』
――いちどしか、だめなの?
『ああ。人を殺せるのは一度だけだ。そこから先はもう意味のない事になる。たった一度きりの死は大切なものなんだ。
誰かを殺してそれを使い切った者は、永遠に、自分を殺してあげることが出来ない。人間として死ねないんだ』
……おじいちゃん、苦しそうだよ?
『うん、これでおわかれだ。さよならシキ。せめてキミが穏やかな死を迎えられればいいんだが』
……おじい、ちゃん?
ねえ、おじいちゃん、どうしたの? どうしてそんなに、淋しそうな顔をして死んでるの? ねえ、おじいちゃんってば――。
ごめんね。
おじいちゃんがせっかく教えてくれたのに。
穏やかな死ってやつは、やっぱり無理みたいなんだ。
私の死も、もう誰にも受け持ってもらえないまま、いつか空っぽのところへ行く。
あいつは私を――さないって言ったのに、もういなくなってしまった。
埋まったと思った心の隙間は、またぽっかりと空いて、がらんどう。
でも、それでも死ねないんだな。
私は人殺しだから、もう自分を殺してやることなんかできない。
きっとあいつもそれを許さない。
なにがあっても人殺しは駄目だなんて、あいつはよりによって私に向かってそう言うんだ。
だから自分を殺すことなんか許すはずがない。
なあ、デュオ。
お前が私と同じ人殺しだとしたら、お前はこんな淋しさを抱えてどうやって生きているっていうんだ。
ああ。
なんて、淋しい。
なんて、無様。
……ほんと、莫迦みたいだ。
- 198 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:29:48 ID:YoEkAhJ.
-
【伽藍の洞】――両儀式
- 199 :伽藍の世界 ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:30:13 ID:YoEkAhJ.
- 【E-1/海辺/一日目/真夜中(放送直前)】
【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実
COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・9発)@現実
BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、七億ペリカ
首輪×4(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律・竹井久)、手榴弾@現実×10
桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、
ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night
ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1)
[機動兵器]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
[思考]
基本:五飛の分も込めて、ガンダムパイロットとして主催を潰す。
0:放送後にルルーシュへ連絡、そのあと式と吊り橋を調査する。終わったらルルーシュと再合流。
1:遺跡や象の像に魔法陣はないのか?
2:リーオーを乗りこなす。憂と澪への機動兵器での訓練を行う。
3:ルルーシュはあまり信用できない。『消える女(桃子)』にも警戒。
4:デスサイズはどこかにないものか。いやこんなリアル鎌じゃなくて、モビルスーツの方な
そういえばあの女(桃子)ビームサイズ持ってたな……。
5:首輪を外すのも魔法陣破壊もゲームの内か……首輪の解析について、色々実験してみる。荒耶の首輪はじっくり慎重に調べる。
6:五飛の死に対する小さな疑問。
[備考]
※参戦時期は月面基地脱出以降。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。
※以下の情報を式から聞きました。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※リーオーはホバーベース格納庫に置いてあります。
【両儀式@空の境界】
[状態]:ダメージ(小)
[服装]:白い和服(原作第五章・荒耶との戦いで着たもの)
[装備]:九字兼定@空の境界
[道具]:基本支給品一式(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0〜1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 、武田軍の馬@戦国BASARA
陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実
[思考]
基本:私は死ねない。
1:当面はこのグループと行動。でもルルーシュは気にくわない。
2:澪との約束は守る。殺そうとしてくるヤツを殺す。
3:刀を誰かに渡すんだっけ?もったいないな……。
4:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。
5:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。
6:荒耶が死んだことに疑問。
7:首輪は出来るなら外したい。
[補足]
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました
※以下の仮説を立てています。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。
・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。または魔眼の効果を弱める細工がある。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※平沢唯から聞いた信頼できる人間に刀を渡すというプランを憶えています(引き継ぐかは不明)
- 200 : ◆mist32RAEs:2010/05/25(火) 23:31:35 ID:YoEkAhJ.
- 投下終了です。
ご意見ご感想お待ちしております。
施設の販売内容や、セイバーの首輪の相場についてなど、ご意見があれば考慮し、まとめ収録時に修正するつもりです。
- 201 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/25(火) 23:44:28 ID:SCdHqi.o
- 投下乙です。
月明かりの下で語らう二人の心理が丁寧に描かれていて、とても良い作品でした。
個人的にはセイバーの首輪が少し高過ぎると思いますが、特に問題は無いかと。
- 202 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 00:07:55 ID:/pIzzilo
- セイバーの首輪は最良のサーヴァントということを含め問題ないと思います。
- 203 : ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:43:18 ID:My6LCZZw
- 投下乙です。
こちらも、ルルーシュ・ランペルージ、平沢憂、東横桃子、秋山澪、原村和を本投下します。
- 204 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:44:38 ID:My6LCZZw
-
† 秋山 澪 †
「澪さんと桃子ちゃんも、苗字じゃなくて名前で呼び合ったらどうかな?」
憂ちゃんの提案に、私は沈黙しかできなかった。
テーブルを挟んだ向かい側で、東横さんもほんの少し困った顔をしている。
ルルーシュさんと通信機越しの打ち合わせを終えた後、私たちはホバーベース内の憂ちゃんの部屋に集まっていた。
『学校に着くまでに予備のデイパックを一つ作るように』と指示を受けたからだ。
各自が自分の所持品から少しずつアイテムを出し合い、余っているデイパックに入れてホバーベース内に隠しておく。
こうしておけば、デイパックを奪われた場合でも敵の手に渡る物は少なくて済むし、手元に使えるアイテムが残る。
それがルルーシュさんが考えた作戦だ。
「だって、苗字で呼び合うなんて堅苦しいじゃないですか」
憂ちゃんがこんな提案をするのは、さっき聞いたルルーシュさんがデュオさんを呼び捨てにするようになった経緯が原因なんだろう。
実際、私と東横さんの関係は、出会って間もないとはいえ、たしかに少し堅苦しい。
これからしばらくは共に行動するんだ。
一緒にいるなら、もう少し打ち解けたほうがいいだろう。名前で呼ぶ、という形から入るのも悪くないかもしれない。
ただ……なんというか……そんなにキラキラした瞳で見つめられると恥ずかしいよ、憂ちゃん……
「あの」
東横さんの声に少し驚いて、私はあわてて顔を上げる。
その時初めて、自分が恥ずかしさで俯いてしまっていたことに気がついた。
私がいろいろ考えたり恥ずかしがったりしている間に東横さんが何を思っていたのかはわからない。
けど、表情から察するに、結論は私と同じみたいだ。
ならここは、年上の私が先に言うべきなんだろう。
「……桃子ちゃん」
「はい……澪、さん」
「えっと……改めて、よろしく」
「こっちこそ、よろしくっす」
東横さん…じゃなくて、桃子ちゃんが、ほんの少し笑顔を見せる。
憂ちゃんも満足してくれたらしい。
私たちは、荷物の整理を再開することにした。
「要らない物は全部こっちに入れちゃっていいっすかね?」
「そうだな。いざという時に必要な物がすぐに取り出せないのは困るし」
「澪さん。二つ以上ある物は、予備のデイパックにも分けて入れとけばいいですか?」
「うん、それでいいと思う」
私も自分の持ち物を、予備のデイパックへ移す物と自分で持っておく物に選別する。
改めて考えると、私は所持品に恵まれているのかもしれない。
元々持っていた物はこの殺し合いが始まる前に全て取り上げられたのに、今、私の手元には私の大事なものがたくさんある。
ベース。
軽音部のアルバムにティーセット。
それに、律のドラムスティック。
正直、見てるだけでもつらい。それでも、持っていてよかった、と思う。
他の誰かには渡したくない……絶対に渡さない。
そう決意して、律のドラムスティックを握り締める。
明智光秀の血を吸って変色してしまったドラムスティックを。
そして私は、思った。
思ってしまった。
考えてしまった。
このドラムスティックを見たら、律はどう思うんだろう―――って。
- 205 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:45:37 ID:My6LCZZw
-
律は音楽が好きだった。バンドが好きで、ドラムが好きだった。
ドラムスティックは律が音楽を奏でるための物だ。
私はそれを、人を殺す道具にしてしまった。
私は凶器になってしまったドラムスティックを、律に返せるんだろうか。
律の大事な物を穢してしまった私は、律の顔をちゃんと見れるんだろうか。
律だけじゃない。
唯に、ムギに、梓に、私はどんな顔をして会うんだろう。
私は変わった。
もう、血を見たくらいじゃ怯えない。
人殺しもした。
きっと、今ここにいる私は、律や唯やムギや梓が知ってる秋山澪じゃない。
変わってしまった私を、軽音部のみんなはどう思うんだろう。
みんなを救えたとしても、変わってしまった私に、今までの日常へ戻ることなんてできないのかもしれない。
私は気づいてしまった。
今まで自分が、みんなにもう一度会うことばかりを考えて、その後のことを考えていなかったことに。
―――でも、私はもう止まれない。止まっちゃいけない。
後のことなんて考えてる場合じゃない。
そんなのは、みんなで元の世界に戻ってから考えればいいんだ。
今は、みんなを取り戻すために戦う。
そのためなら何だってする。人だって殺す。
だって、私にはもうそれしかない。
それしか、ないんだから。
私はきっと、間違ってない…… そうだよな?
◇ ◇ ◇
- 206 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:46:31 ID:My6LCZZw
-
† ルルーシュ・ランペルージ †
途中の橋に仕掛けた盗聴器からは水の流れる音しか聞こえない。
ホバーベースの動きも、カーブの度に民家を数軒犠牲にしていることを除けばスムーズなものだ。
これだけ大きな物が騒音を立てながら移動していれば、こちらに接触してくる参加者がいるかと思ったが、それも無い。
少し拍子抜けだが、問題が発生しないのならばやっておきたいことはいくらでもある。
操舵席の横に置いたテーブル(スーパーマーケットで拝借した折りたたみ式)の上にパソコンを置き電源を入れる。
俺にとっては見慣れない形をしているパソコンは、10秒ほどで起動を完了し、デスクトップを表示する。
そこには俺が予想し、期待していたものがあった。
_______________
新着メールが1通あります
_______________
メールソフトの存在は政庁で既に確認済み。
あの時点ではソフトを起動しようとしても『現在は使用できません』というエラーメッセージが表示されるだけだったが
『現在は』と表記している時点でいつかは使えるようになるというのはバレバレだ。
まあ、隠すつもりもなかったんだろうが。
そして、メールの受信が行われたことで、メールソフトがどの段階で使用可能になるか、正常に動作するかという点はクリアされたと見ていいだろう。
あとはメールをやり取りできる相手が、主催サイドか、他の参加者か、あるいはその両方か、という点だが……
_____________________
From: 原村和
To: ロックオン・ストラトス
――――――――――――
バトルロワイアルサポート窓口へようこそ
_____________________
……これは予想外だな。
帝愛がこんなサービスまでやっているとは、さすがに思っていなかった。
あくまでも、このメールが真実であれば、の話だが。
このメールの差出人である原村和が主催サイドの人間である確証は無い。
とりあえず、『原村和』と『ロックオン・ストラトス』という名を知っているか、桃子たちに確認を取るか?
だが、現時点でこのメールの存在を話すのは……
……アカウントに名前を使用されているだけでバトルロワイアルと無関係という線もある。
桃子たちが知る人物であったとしても、その人物像を現段階で重要視する必要は無いだろう。
まずは、このメールが主催サイドからのものなのかどうか、突きとめることが先決だ。
原村和からのメールへの対応を一旦保留し、履歴とアドレス帳を開く。
履歴は原村和からのメール1件のみ。
アドレス帳の登録は3件。【原村和】【黒桐鮮花】【沢村智紀】。
これで、あのメールの信憑性がますますわからなくなった。
会場内のパソコンのアカウントには実在しない人間の名を使用しているという可能性も捨てきれないが、そこまで疑いだすと切りがない。
実在の人物だとして……【黒桐鮮花】は参加者の一人である黒桐幹也の親族だと考えるべきだろう。
とすれば、黒桐鮮花が主催サイドにいる可能性はかなり低い。
普通の人間は、自分の親族がこんな悪趣味な催しに巻き込まれることを是としない。
……我ながら呆れる思考だな。血のつながった親兄弟で殺し合った俺が当たり前のようにこんなことを考えるなんて。
まずは早急に、アカウントが【原村和】【黒桐鮮花】【沢村智紀】に設定されているパソコンの所持者を割り出す必要がある。
主催へと繋がっているのかどうかで、こっちの対応も変わってくるからな。
【黒桐鮮花】【沢村智紀】のパソコンに関しては、相手の名前を聞き出すところから始めなければならないが……
相手が参加者であれば、当然こっちを警戒してくるはずだ。
ある程度頭の回る奴なら、容易に名を明かすことはしない。最低でも、こちらから先に名乗らない限りは。
しかし、たとえ名前だけだろうと、誰かもわからない相手にこちらの情報を出すのはリスクを伴う。
だから―――
- 207 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:47:54 ID:My6LCZZw
- __________________________________
From: ロックオン・ストラトス
To: 黒桐鮮花
――――――――――――
はじめまして
俺はデュオ・マックスウェル。
メールの差出人のとこには別人の名前が出てるだろうけど、
最初から設定してあって変更できないみたいなんだよな。
で、本題なんだけど、アンタはバトルロワイアルの参加者か?
もしそうなら連絡がほしい。俺はここから脱出するための仲間を探してる。
アンタがこの殺し合いに乗っていないなら、手を組まないか?
__________________________________
―――利用させてもらうぞ、デュオ・マックスウェル。
お前は所詮、駒だからな。
同じ文面を【沢村智紀】宛にも送信。
【原村和】へは、バトルロワイアルサポート窓口へのメール、という体で文面を作成。質問内容は無難なものにしておいた。
送信が完了したことを確認してパソコンの電源を切る。
もうじき学校だ。
返信を確認するのは学校の探索を終えた後。
さあ、どう出る?
◇ ◇ ◇
- 208 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:48:41 ID:My6LCZZw
-
† 原村 和 †
ルルーシュ・ランペルージという人は、きっと物凄く強運で、でも同時に、とても不幸な人なのかもしれない。
彼から届いたメールを見ながら、私はそんなことを思いました。
バトルロワイアルサポート窓口を利用できるパソコンは、会場内でもほんの僅か。
しかも、阿良々木さんが起動したパソコン以外は、利用のために二つの条件が課されています。
一つめの条件は、国士の広間にあったパソコンから最初のメールが送信されて六時間が経過していること。
この条件は、本来ならどんなに早くとも七回目の放送を越えるまでクリアされることはないはずでした。
ゲーム終了まで達成されなかったとしても、何ら不思議はないような、そんな条件。
でも、阿良々木さんが起こしたイレギュラーによって、一日目が終わるより早くこの条件は達成されました。
二つめの条件は、パソコンによって異なります。
ランペルージさんが所持しているパソコンに設定された条件は、『タワーに置かれているいずれかのUSBメモリのデータを読み込んだことがあること』。
これはかなりハードルの高い条件だと私は思っていました。
なのに彼はこの条件をあっさりとクリアしていたんです。
阿良々木さんの最初のメールから六時間後。
私はランペルージさんの持つパソコンに、メールを送信しました。
内容はサポート窓口に関する簡単な説明のみ。
彼の持つパソコンには、特設サイトのURLの登録や、帝愛が作成した特殊なアプリケーションは入っていませんから。
こうしてランペルージさんは、本当は無くてもおかしくなかったサポート窓口への質問の権利を得たんです。
それなのに――――
________________________________
From: ロックオン・ストラトス
To: 原村和
――――――――――――
ひとつめの質問。
このメールを送っている私の本当の名前を答えてください。
ふたつめの質問。
主催の遠藤さんって人が、いま何をしているのか教えてください。
________________________________
質問の内容から考えて、彼が私の送ったメールの内容を信じなかったことは間違いありません。
頭が良すぎるのか、疑り深すぎるのか……
ただ、少なくとも彼は、送られてきたメールの内容を信じなかったことによって、私とのメールでのやり取り一回分の時間をロスしてしまった。
これは事実です。
もしランペルージさんの大切な人がこの会場にいて、まだ生きているのなら。
その人の居場所を聞いてくれれば、私は答えることができたのに。
もしかしたらこの時間のロスの分だけ、大切な人を救うのに間に合わなくなるかもしれないのに。
……でもそれは、私にはどうしようもないことです。
私はただ、質問されたことにマニュアル通りに答えるだけ。
それだけが、今の私のやるべきことで。
それだけが、今の私にできることで。
それしか、今の私にはできなくて――――
――――本当に私には、それしかできないんでしょうか……?
◇ ◇ ◇
- 209 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:49:15 ID:My6LCZZw
-
† 平沢 憂 †
『憂、桃子、澪。聞こえるか』
「ルルーシュさん、聞こえてるっすよー」
『学校に着いたが、予備デイパックはできてるか?』
「できてる。私の部屋に置いておこうと思うんだが、それでいいかな?」
『澪か。ああ、それで構わない。
ここからはさっきの打ち合わせ通りだ。桃子と澪は俺と校舎内を探索。憂には周囲の警戒に当たってもらう』
「はーい!」
私は部屋を飛び出して、操舵席に向かった。
途中ですれ違ったのは象の像の自販機で買った警備ロボット。
ルルーシュさんたちが学校を探索している間、私はこの警備ロボットと二人でお留守番担当だ。
最初は私も校舎の探索に行きたいって言ったんだけど、ルルーシュさんが周辺の警戒も大切な役割だって言うし、
廃ビルの探索には連れて行ってくれるって言うから今回は我慢我慢。
ルルーシュさんの言うことはちゃんと聞かないとダメだし、ルルーシュさんを裏切らないようにしなくちゃダメだから。
……あれ? なんでルルーシュさんのこと、裏切っちゃダメなんだろ?
あ、人を裏切るのが良くないなんて、当たり前のことだよね。
「ルルーシュさーん」
「来たか、憂」
ルルーシュさんに促されて、操舵席に座る。
この椅子、思ったより座り心地いいなぁ。
「えっと、そのCDプレイヤーにしか見えないのがさっき言ってた盗聴器の受信端末ですか?」
「そうだ。CDプレイヤーを改造して作ったからCDプレイヤーにしか見えなくて当然だがな。
難しい操作は無いし、今ならチャンネルを変える必要も無い」
「わかりました」
ルルーシュさんに渡されたイヤホンを耳につけたら、水の音が聞こえてきた。
誰かが学校に近付いてきた時と、盗聴器の音声を聞いて誰かが橋を通った時は、通信機を使ってルルーシュさんに連絡を入れる。
それが、今回の私の役割。
「それじゃ行ってくる。任せたぞ、憂」
「あ、ルルーシュさん、約束! 忘れてないですよね?」
「心配するな。阿良々木暦がいたら連絡を入れる」
「絶対ですよ!」
無理矢理ルルーシュさんの左手を取って小指を絡める。
ゆびきりげんまん。
やってから、外国人のルルーシュさんはゆびきりなんて知らないかなって思ったけど、様子を窺ったら伝わってるみたいでちょっとホッとする。
「あ。あともういっこ。桃子ちゃんと澪さんと一緒に、無事に帰ってくるって約束してください」
「……わかった」
? なんか微妙な間があったような?
でも、私が考えてる間にルルーシュさんは行っちゃったし……きっと気のせいだよね。
今は頑張って任されたお仕事しなくっちゃ。
ルルーシュさんの言うことをちゃんと聞いて、ルルーシュさんの役に立って。
阿良々木さんをぶち殺して。
それから
- 210 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:50:14 ID:My6LCZZw
-
……それから?
私は何のために頑張るんだろ。
ルルーシュさんのため?
違う。自分が死なないためだ。死にたくないから私は頑張るんだ。
何を?
人殺しを?
そうだ、いっぱい殺したら、優勝したら家に帰れる。
でも優勝は一人しかできないから、優勝しようと思ったらルルーシュさんや桃子ちゃんや澪さんも殺さなくちゃならないよね?
あれ?
あ、そうだ。優勝しなくても帰る方法があればいいんだ。
それならルルーシュさんたちを殺さなくていい。
でも、そんな方法なかったら?
私は死にたくない。だったら殺さなきゃ。でも桃子ちゃんは友達で……澪さんとはバンドを組んで……
……あれ?
おかしいな。
なんかよくわかんないけど、私、おかしいよ……?
えっと……
私は……
……これ、なに? 私…………
あれ………?
………やめよう。
考えなくていいよね。
私は死なないために頑張る。阿良々木さんは絶対殺す。ルルーシュさんのことを裏切らない。
これだけわかってればいいんだ、私は。
外を見たら、ちょうどルルーシュさんと澪さんが校舎に入って行くところだった。
見えないけど、桃子ちゃんも一緒のはず。
三人に向かって手を振ってみる。けど、気づいてくれなかった。
暗いし、仕方ないとは思うけど……
でもちょっと、さみしいな。
◇ ◇ ◇
- 211 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:51:19 ID:My6LCZZw
-
† 東横 桃子 †
ルルさんも澪さんも、ステルス状態の私とよく平気で一緒に歩けるっすね。
後ろから突然襲われるとか考えてないんすか?
……って、澪さんはともかく、ルルさんが考えてないとは思えないっす。
それでも警戒してる素振りが無いってことは、今はまだ大丈夫だって確信してるってこと。
ルルさんは本当に嫌な人っす。
そんなルルさんのこと、今までは敵にしなくて良かったって思ってたっすけど……そろそろ、そうも言ってられなくなってきたっすよ。
ねえ、ルルさん。
私、ルルさんには本当に感謝してるんすよ?
たぶん、ルルさんが今誰かに殺されたら、私きっと、ちょっと悲しむっす。
憂さんが死んでも、たぶん少し悲しいっす。
でも、それはあくまでちょっとだけ。
私が本当の本当に大事なのは先輩だけだから。
だから私はルルさんを、殺したくないとまでは思えないっす。
私は今、ルルさんを殺す方法を考えてるっすよ。
もし、生きている参加者が私と澪さん、ルルさんと憂さんの四人しかいなくなったら―――たぶん、私は勝てないから。
一対一対一対一になれば勝機はある。
でもきっとそうはならない。
ルルさんと憂さんは組む。二対一対一対。
ステルスもバレてる以上、明らかに私は不利。
だから、そうなる前にルルさんには消えてもらうっすよ。
今はまだ後ろからバッサリなんてことはしませんけど……ルルさんを殺す方法、そろそろ考えて準備するっす。
相手がルルさんじゃ、たぶんチャンスは一度きり。失敗したら死ぬのは私。
だから、確実に仕留める方法を用意するっす。
そのためにまずは、ルルさんが持ってるらしい能力ってのを見せてもらわないと。
今は、学校の探索に専念するっすけどね。
……というか
昇降口でみつけたこの自販機、おかしくないっすか?
- 212 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:52:23 ID:My6LCZZw
- ________________________________________________________
【施設サービスについて】
こちらの施設では、伝言サービスをご利用になれます。
伝言を残すには1分につき50万ペリカが必要となっており、最大3分まで録音可能です。
伝言を聴く際には、ペリカは必要ありません。
通常伝言の場合は誰でも聴くことができます。
特別伝言の場合は、特定の人物のみが聴けるように設定することが可能です。
特別伝言をご利用の場合は、オプション使用料として100万ペリカが必要です。指定できる参加者は3名までとなっています。
また、同様のサービスをE-7の学校でも行っております。
こちらで録音された伝言はE-7の学校でも聴くことができ、E-7の学校で録音された伝言をこちらの機械で聴くこともできます。
録音用のマイク、伝言を聞く為のヘッドホンは販売機側面に取り付けてあります。
ご利用の際は伝言録音ボタン、伝言再生ボタンのいずれかを押して下さい。
________________________________________________________
施設サービスの説明。
これは別に問題ないと思うっすよ。
問題は、商品の一覧っす。
___________________
油性ボールペン(黒):200ペリカ
油性ボールペン(赤):200ペリカ
油性ボールペン(青):200ペリカ
修正液:400ペリカ
ノート:200ペリカ
マジック(12色セット):1500ペリカ
給食(一食分):500ペリカ
硬式野球用 金属バット:25000ペリカ
硬式野球用 ボール:1000ペリカ
硬式野球用 グローブ:35000ペリカ
カーボン竹刀:25000ペリカ
剣道着・袴セット:20000ペリカ
剣道用防具一式:60000ペリカ
焼き土下座機:800万ペリカ
巨大ピザ専用オーブン:2500万ペリカ
___________________
……これだけ施設があれば、一ヶ所くらい品揃えがハズレの所があっても仕方ないっすよね。
武器らしい武器が無いのは、それはそれで別にいいっす。けど……
「澪…桃子……」
「なんすか? ルルさん」
ルルさんが怒ってるのと真剣なのとの中間みたいな、それでいてなんか面白いというか、簡単に言っちゃうとヘンな顔をしてたっす。
ちょっとした顔芸っすね、これは。
「……『焼き土下座機』というのは何だ?」
『巨大ピザ専用オーブン』もアレだけど、やっぱりいちばん気になるところは同じだったみたいで。
「知らないっすよ」
「私も知らないな……あ、ここに商品説明ってボタンがある」
そう言って、澪さんが青いボタンを押したっす。
- 213 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:54:50 ID:My6LCZZw
- _______________________
焼き土下座機
焼き土下座を行う際に使用する道具です
_______________________
「なんだこれはっ! こんなもの、何の説明にもなっていないだろうが!!」
ルルさんがキレたっす。
まあ、気持ちはわかりますけど……こんなルルさん、初めて見たっすよ。
【E-2/学校・昇降口/一日目/真夜中】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、右腕の骨折
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス
[装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実
[道具]:基本支給品一式、3500万ペリカ、盗聴機×7、発信機×6@現地制作、通信機×5@コードギアス、首輪×3(キャスター・ヴァン・張五飛)
単三電池×大量@現実、パソコン、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、和泉守兼定@現実、バトルロワイアル観光ガイド
鏡×大量、消化器、ロープ、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本:枢木スザクは何としても生還させる。
0:結局、『焼き土下座機』とは何なんだ!!?
1:学校→廃ビルの順に施設を調査する。
2:学校探索後、メールの返信がないかを確認する。
3:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。
4:デュオと式を上手く利用する。
5:殺しも厭わない。桃子、憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。利用できる物は利用する。
6:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい。
7:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する。
8:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。
9:象の像は慎重に調べる。
10:ライダー、織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。
11:両儀式を警戒。荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感?
12:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
13:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
14:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。
[備考]
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。
※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い、及びその記憶と想いを呼び覚ましました。
(どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手氏にお任せします。 ただし、何か特殊な力に目覚める、イノベイターに覚醒する等は一切ありません)
※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。
※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。
※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。
※盗聴器を一つ、E-2の橋に仕掛けました。
※パソコンで、メールソフト、バトルロワイアルサポート窓口の利用が可能になりました。
※揚陸艇は船着場に繋留したままです。(燃料…残り7キロ分)
※【象の像】で警備ロボットを一台購入しました。
- 214 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:55:46 ID:My6LCZZw
-
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:疲労(小)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、双眼鏡@現実(現地調達)
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実、蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)
小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、七天七刀@とある魔術の禁書目録、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、キャンプ用の折り畳み椅子@現実、“狐”の面@現実、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本:加治木ゆみを蘇生させる。
0:焼き土下座って……
1:学校→廃ビルの順に施設を調査する。 基本は潜入、監視。
2:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。
3:もう、人を殺すことを厭わない。
4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。
5:そろそろルルーシュには消えてもらう。そのためにまずはルルーシュの能力を知りたい。
6:……憂ちゃんは一応、友達ってことで。秋山澪は……。二人とも最後には死んでもらう。
7:ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
8:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
9:浅上藤乃と思われる黒髪の少女に出会った際に、冷静であるように努める。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話終了後。
※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場での伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
【秋山澪@けいおん!】
[状態]:両頬に刀傷
[服装]:龍門渕家のメイド服@咲-Saki-
[装備]:田井中律のドラムスティック、影絵の魔物@空の境界、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実
[道具]:基本支給品一式×3、千石撫子の支給品0〜1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
下着とシャツと濡れた制服、法の書@とある魔術の禁書目録、モンキーレンチ@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1
桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、軽音楽部のティーセット、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)、ナイフ、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、中務正宗@現実、ランタン@現実
[思考]
基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
0:土下座を焼くのか……?
1:学校→廃ビルの順に施設を調査する。
2:この集団を利用し、目的を果たす。
3:軽音部全員を救う方法を探し、見つけ次第実行する。 手段を選ぶつもりはない。
4:サザーランドを乗りこなせるようにする。
5:式とのコネクションは秘密にしておく。
6:憂の精神状態に疑念。
7:一方通行、ライダーを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
8:伊達政宗のおくりびとが福路美穂子か。
9:正義の味方なんていない……。
10:私は間違ってない……よな?
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。
※黒の騎士団全員の情報を得ました。また、ルルーシュたちの作戦を把握しました。
- 215 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:57:31 ID:My6LCZZw
-
【E-2/学校・ホバーベース内/一日目/真夜中】
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失
[服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット、純白のパンツ@現実
[装備]:イヤホン@現地制作、ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯
S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(6/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着)
[道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード
皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@現実
鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×46、さわ子のコスプレセット@けいおん!
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
1:頑張って見張りをする。でも、一人ぼっちでちょっとさみしい。
2:辛いことは考えない、ルルーシュさんを裏切らない。
3:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
4:桃子ちゃんは友達。澪さんとバンドが組めて嬉しい。
5:阿良々木さんにサザーランドを見せた後、ブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
6:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対しては『日本人』とは名乗らないようにする。
7:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。
8:思いを捨てた事への無自覚な後悔。
9:お姉ちゃんは私の――。
10:死にたくないから、私は……?
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※第2回放送をほとんど把握していません。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
- 216 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:57:56 ID:My6LCZZw
-
【(腹)黒の騎士団の作戦】
1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。
2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。
3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。
4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。
5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。
6:桃子は集団内の人間をよく観察する。
7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。
8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。
9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて分かれるか、そもそも関わらない。
10:『おくりびと』は見られないようにする。
【ホバーベースについて】
現在はE-2学校の校庭に停められています。
※下記の道具の入ったデイパックが、ルルーシュの部屋に置かれています。
基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード
モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機
ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、
カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実
※下記の道具の入ったデイパックが、澪の部屋に置かれています。
基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)
ファサリナの三節棍@ガン×ソード、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実
桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5
※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。
※下記の機動兵器が格納されています。
[平沢憂用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[秋山澪用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン
[デュオ・マックスウェル用]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
※警備ロボットが一台、ホバーベース内を巡回しています。警備ロボットの詳細については後続の書き手氏にお任せします。
- 217 :残酷な願いの中で ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 00:59:43 ID:My6LCZZw
-
【???/飛行船・原村和の部屋/一日目/真夜中】
【原村和@咲-Saki-】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:エトペン@現実
[道具]:デスクトップPC×数台、会場監視モニタ×数台、質問対応マニュアル(電子ファイル)
[思考]
基本:帝愛に従い、咲さんを救う
1:役割(麻雀・サポート窓口)をこなす。
2:咲さんが心配。一目だけでも無事な事を確認したい。
3:どうせ打つなら守る為の麻雀を打ちたい。
4:忍野メメを警戒。従ってはいるものの、帝愛は許せない。
5:【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】が帝愛にとっての最重要施設?
6:私には、帝愛に与えられた役割を果たすことしかできないんでしょうか……?
[備考]
※登場時期は最終回の合宿終了後です。
※基本的に自分の部屋から離れられません。
※監視されていること、異世界から集められていることを知っています。
※【櫓】が鬼門封じの重要施設。【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】のどれか、もしくは全てがこの島の最重要施設だと考察しています。
※以下の事柄はSOA!と思っています。
・死者が蘇る。
【質問について】
・参加者の居場所
サポート窓口を利用可能になった時点で回答可能。
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、居場所が分かるのも二人までです。
・特定人物を殺害した人間の名前
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、殺害者名が分かるのも二人までです。
・殺し合いに巻き込まれた理由、殺し合いの目的
サポート窓口を利用可能になった時点から四回目の放送以降、回答可能。
・原村和について
サポート窓口を利用可能になった時点から三回目の放送以降、回答可能。
・特定の人物の同行者
少なくとも、サポート窓口を利用可能になってから一回目の放送を越えた時点では回答不可。
※ルルーシュからの質問が回答可能なものかどうかは、後続の書き手氏にお任せします。
自販機商品解説
【焼き土下座機@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
焼き土下座をするために必要な道具の一式。絶対に特注品。
【巨大ピザ専用オーブン@コードギアス 反逆のルルーシュ】
文化祭の企画、直径12mのピザ作りのために用意されたオーブン。
肝心のピザは生地作成段階で失敗しているので、オーブンとしての役割を果たしたことはないと思われる。どう考えても特注品。
- 218 : ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 01:00:43 ID:My6LCZZw
- 以上で投下終了です。
- 219 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 01:08:01 ID:zxlmaPVE
- 投下乙です!
巨大ピザオーブン…どこに出現するんだ…校庭か?!持ち運びできるのか?!…あぁディバッグに入れればいいのか
憂の精神分裂具合がなんか加速してるなぁ。。。
澪も不安定になってるし、モモは殺伐としてるし…
式神コンビは腹黒の潤滑剤として必要だな、やっぱ。ロワ的には再合流しない方が美味しいかもしれないけどね!
そして学校イベント最大の目玉がこの直後に来るのね…
モモはどうなっちまうんだか…
- 220 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 01:26:42 ID:jgdGeA82
- 投下乙です
団結はしてるけど、どこか脆くて危なっかしくなあ、腹黒は
焼き土下座機ておまw
モモ最大のイベントは次回持ち越しか…
- 221 : ◆SDn0xX3QT2:2010/05/26(水) 01:32:13 ID:My6LCZZw
- 申し訳ありません。
憂の状態表の思考欄なのですが、2は「辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。」の間違いです。
今回、前話から状態表をかなりいじったので、他にもミスってるかもしれません。
もしおかしな点があれば指摘してください。
状態表以外でも何か問題があれば指摘をお願いします。
- 222 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 14:20:01 ID:5kEmDWis
- 投下乙です
本当に丁寧な心理描写だな…このコンビはもうね…
二人とも浮世離れしてるというか…
腹黒はやっぱり不安定だな
ルルもモモも憂も澪もそれぞれ抱えてるモノが…
そして焼き土下座機とか巨大ピザ専用オーブンとかなんだよw
- 223 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 19:28:12 ID:SiEIcFWM
- >>200
セイバーの首輪が高すぎると思います
小十郎と光秀の首輪合わせても逆転どころかまだ届きませんし
- 224 : ◆mist32RAEs:2010/05/26(水) 19:52:56 ID:dboOq1jg
- >>223
では二億五千万あたりで修正したいと思います。
他にご意見があるかたは代案と一緒にレスして頂けると助かります。
- 225 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 20:15:16 ID:Gl5zhu4k
- 投下乙です!
>伽藍の世界
デュオと式の心情が巧く書かれていたと思います
デュオの月に関する言葉は原作で結構好きだったので、個人的に嬉しかったです
落ち着いた綺麗な話で、とても良かったと思います
>残酷な願いの中で
腹黒の持つチームとしての不安定さが良く示されていたと思います
焼き土下座は中々面白いギミックだと思いました
- 226 : ◆C8THitgZTg:2010/05/26(水) 23:03:51 ID:Z7a/fUBs
- アリー・アル・サーシェス、リボンズ・アルマーク投下します
- 227 :Thanatos. ◆C8THitgZTg:2010/05/26(水) 23:04:37 ID:Z7a/fUBs
- 湯船のある場所から少しばかり離れた休憩室。
地下室の温泉施設の一角で、サーシェスは備え付けのマッサージチェアにふかぶかと腰を下ろしていた。
贅沢にも電源を入れず、肘置きに頬杖を突いて、単なる豪華な椅子として扱っている。
本来ならふてぶてしいことこの上ないであろう仕草も、今は不思議と魅力的に感じられる。
それほどまでに、サーシェスが陥っている肉体と精神の齟齬は大きかった。
「ずいぶんとお早い連絡じゃねぇか。てっきり明日になってからだと思ってたぜ」
サーシェスは向かい合わせに置かれた、もう一脚のマッサージチェアに声をかけた。
座る者のいないその椅子には、人間の代わりに特別製のデバイスが鎮座している。
『状況は刻一刻と変わっている。区切りのいい時刻に拘る理由はないだろう』
デバイスの画面越しにリボンズが口を開く。
背景は暗く、どこで撮影しているのか推測することもできない。
使い捨てるつもりの駒には必要以上の情報は与えない、ということらしい。
だが、サーシェスはそれで構わないと考えていた。
この程度の待遇に文句を言うようでは、傭兵家業などやっていられるものか。
『さっそくだけど、最初の指令を通達させてもらうよ』
「ああ、早いとこ言ってくれ」
待っていましたとばかりにサーシェスが身を乗り出す。
対するリボンズは冷ややかな表情と口調を崩すことなく、淡々と用件を述べていく。
『まずは下山し、市街地に入ってもらいたい。ただし行動範囲は市街地の西半分に限定する。
こちらからの許可がない限り、D-4とE-5の橋は渡ってはならない。
なお、行動区域の逸脱も首輪の爆破条件に含まれるので注意するように。以上だ』
ひどく簡潔で、ひどく曖昧な命令だった。
具体的な目標は一つもなく、漠然と行動範囲を示すだけ。
聞きようによっては放逐にも等しい作戦内容である。
ところが、である。
「へっ……。了解したぜ、大将。
その区域から出なけりゃ、後は俺の好きに動いていいんだな」
意外なことに、サーシェスはリボンズの言葉を全面的に受け入れたのだ。
味気ない命令に拍子抜けするどころか、喜色に満ちた獰猛な笑みを浮かべてすらいた。
『ああ。必要があれば追加の指示を出す。
秘匿性を考慮してテキストによる通信になるかもしれないけどね。
……それにしても、こんな命令で不満はないのかい?』
もののついでといった風にリボンズが問う。
サーシェスは口角を上げて笑うと、おもむろにデバイスを掴み立ち上がった。
「だいたい予想はついてたさ。どうせ山の周りには誰もいないんだろ?
こんな辺境、わざわざゲリラ戦に持ち込むような戦略的価値はないからな」
一つ、二つと階段を上り、館の二階まで昇っていく。
リボンズの顔を映したままのデバイスが、サーシェスの腕と一緒に揺れている。
そんな状態なのに冷静な表情を崩さない様子は、どこかユーモラスですらあった。
「それと、俺みたいなイレギュラーを長々と放置できるってことは、この辺も無人のはずだ。
誰かが館に来てバッタリ鉢合わせなんて、これっぽっちも旨みがねぇ」
- 228 :Thanatos. ◆C8THitgZTg:2010/05/26(水) 23:05:23 ID:Z7a/fUBs
- サーシェスは開け放たれた窓から、下界の風景に視線を投げた。
なだらかに広がる暗闇―――山裾の森林地帯の向こうで、人工的な光が煌々と灯っている。
あれこそが文明の光。
人間が暮らすべき環境の象徴である。
今までの経験からして、この殺し合いには完全な市井の民も含まれているらしい。
そんな連中が、あの光が放つ甘い誘惑を断ち切って、山林に身を潜めることなどできるはずがない。
十中八九、そういった奴らは文明的な施設の中で夜を明かそうとするだろう。
止むに止まれぬ事情がない限り、この行動パターンは揺るぎまい。
哀れな羊は街中に集っている。
ならば飢えた狼どもはどこを目指すのか。
「要するに、俺以外の参加者は殆ど街の中にいるってことだ」
『さぁ、どうだろうね。ともかく要請は伝えたよ』
リボンズは否定も肯定もしなかった。
たとえ見当違いの推理だったとしても、サーシェスは何も損をしない。
山中に潜む者を狩り出すのは大仕事であり、とても一人でやれるようなことではないのだから。
そんな奴は放っておいて、狩りやすい者から狩ればいい。
「ところで、誰かに会っちまったときは何て名乗ればいいんだ?
この見てくれで"アリー"なんて名乗れねぇだろ」
彼のファーストネーム"アリー"はイスラム世界の英雄アリー・イブン・アビー=ターリブに因む男性名である。
ムスリムの男性名としては非常にポピュラーで、こんな少女の風体で名乗るのは多大な違和感があった。
中東の人名に無知な者なら女性名と間違えることもあるだろうが、そんな輩を前提に考えるわけにはいかない。
そもそも人種という点から見ても、アリーという名は似つかわしくないのだ。
『必要になったらこちらから指示を出そう。
万が一、指示が間に合わない場合は……そうだね、どうしても必要なら海原光貴とでも名乗るといい』
聞き覚えのない名前を出され、サーシェスは眉をひそめた。
名簿を確認し、それが死亡した参加者の名であることをようやく把握する。
「おいおい、死人の名前なんか使っていいのかよ」
『その名前の持ち主は、現時点の生存者に殆ど存在を知られていない。
上条当麻……君が行動を共にしていた彼なんかが数少ない例外だろうね』
死者の名を騙る。
それはつまり、死亡宣告に誤りがあったと偽るということ。
リスクの大きさはあえて述べるまでもあるまい。
しかし、名簿にない名前や生存者の名を騙るよりはマシだろう。
急場を凌ぐ手段として、頭の片隅に留めておいて損はないはずだ。
実のところ、光貴というのも元々は少年の名前である。
だが女性名として通用しないこともなく、何より外見との齟齬が遥かに小さい。
本名をそのまま名乗るより格段に適切だと言えた。
『さて、こちらの用件は終わりだ。行動に移ってもらいたい』
リボンズはそっけなく言い、通信を終えようとする。
それを引き止めたのはサーシェスの言葉だった。
「……ああ、ちょっと待った。ひとつ売ってもらいたいものがあるんだが」
『武装面での特別扱いはしないと言ったはずだよ』
取り付く島もないリボンズの態度を、サーシェスは「そういう意味じゃねぇ」と否定した。
「ここの販売機で売ってるモノの一部分をバラ売りしてもらいてぇんだ。
本体ごと買って調達してもいいんだが、なるべく無駄遣いはしたくないからな」
『成程……それは購入対象と用途次第だね』
リボンズからの返事は色よいものだった。
サーシェスはデバイス越しに、必要な物資とそれを用いた計画について語りだした。
「……というわけなんだが、どうだ?」
『…………』
即座の返答はない。
相変わらずのポーカーフェイスだが、この要求を受諾するべきか考え込んでいるようだ。
無理もないことだと、サーシェス自身も理解している。
それほどまでに、彼が語った計画は型破りなものだった。
『了承した。ただし条件はつけさせてもらう』
「そうこなくっちゃな!」
- 229 :Thanatos. ◆C8THitgZTg:2010/05/26(水) 23:05:46 ID:Z7a/fUBs
-
◇ ◇ ◇
通信を終え、リボンズは席を立った。
サーシェスに下した命令は、行動範囲を限定した自由行動。
誰かを殺せとか、どこかの集団を瓦解させろとか、具体的な指示はあえて出していない。
そういう指令はここぞというときに出せばいいのであり、最初から選択肢を狭める利点はないからだ。
また、具体的過ぎる命令はこちらの思考を露呈させる。
誰かを殺害対象に指定するのは、それが自分達にとって不都合な人間であると教えるようなものだ。
サーシェスがその人物と出会ったときに、さり気なく殺害を推奨してやればいい。
わざわざ弱みを与えてやる必要などないのだから。
しかしサーシェスがあんな提案をしてきたのは予想外だった。
大胆と賞するべきか、それとも狂っていると評するべきか。
メリットについて説明を受けても、すぐには理解できなかった。
戦争に狂った男ならではの発想なのだろう。
なるほど確かに、それを実行すれば事態は動く。
大きな戦いを終え、停滞状態に陥りつつあった情勢を揺るがすには充分な原動力だ。
一個人が暗躍するよりも広範囲に影響を及ぼせる点も見過ごせない。
しかし相当に無茶な手段であることも事実だ。
忍野メメが館の仕掛けを"地下"に設置していなければ、とてもではないが了承できなかった。
主催側にとって、地上の建物が付属品に過ぎなかったが故の荒事である。
「さて……彼らはどう動くかな」
折角、少なからぬコストを支払うのだ。
それに見合った結果は手に入れたいものである。
リボンズは踵を返し、暗闇の奥へと歩いていった。
サーシェスから緊急時の偽名を求められ、どうして『海原光貴』と答えたのか。
知る者が少ない死者という基準なら、他にも適切なものがあったはずだ。
『月詠小萌』
『アーニャ・アールストレイム』
『竹井久』
『池田華菜』
『玄霧皐月』
『本多忠勝』
どれも一人か二人しか存在と氏名を把握していない。
最後のひとつは、歴史上の人物故の有名さから除外するとして、それでも候補は数多い。
性別まで一致している候補がありながら、リボンズはあえて『海原光貴』を推薦した。
その理由は―――
「―――蒼崎橙子、か」
荒耶宗蓮の生存。
ディートハルトが上げてきた報告を、リボンズは正直には受け止めていなかった。
何故なら、リボンズが把握している情報の量は、ディートハルトよりも遥かに膨大であるからだ。
参加者の情報のみならず、その周辺環境についても幅広く調べ上げている。
その過程で、どうしても遍歴を調べきれなかった人物のひとり―――それが蒼崎橙子である。
幸いなことに、荒耶宗蓮が彼女と旧友の関係にあったため、必要最低限の情報は確保することができた。
ところが、である。
独自調査の中で得た無価値な情報の一つが、今更になって強烈な意味を持ち始めたのだ。
蒼崎橙子は魔術協会から逃亡している封印指定の魔術師である。
しかし生計を立てるためか、時として表社会の経済に姿を現して、類稀なる才覚を発揮している。
時に精巧な人形を売り。
時に建築のデザインを手がけ。
時に言語療法士として病院に招かれ―――
逃亡者という身の上、そういう場合に偽名を用いることも少なくない。
サーシェスに『海原光貴』と名乗るよう命じた理由もそこにある。
蒼崎橙子が、浅上建設との取引で用いた偽名。
それは『荒耶宗蓮』であった。
つまり、蒼崎橙子の姿をした人物が『荒耶宗蓮』を名乗る事態は初めてではない。
ディートハルトは、こういった事情を知らないために、謎の女と荒耶宗蓮を直接結びつけたのだろう。
しかし全体を統括するリボンズにとって、それは可能性の一つでしかなかった。
内部の造反と高を括り、外部からの干渉を見過ごしたのでは無様なことこの上ない。
故にリボンズは『海原光貴』という名を勧めたのだ。
あの女が海原光貴と行動を共にしていたことは確信できる。
ならば、その名を使う人物が目の前に現れれば、何かしらの反応を見せるに違いない。
海原光貴ことアステカの魔術師・エツァリは姿を真似る魔術を使う。
外見が変わることなど、ごく当然の変化でしかないのだから。
偽者と気取られて殺害されても構いはしない。
殺し方を見れば、女の正体も自ずと分かるだろう。
事態がどう転んでも、サーシェスはしっかりと役に立ってくれるはずである。
- 230 :Thanatos. ◆C8THitgZTg:2010/05/26(水) 23:06:50 ID:Z7a/fUBs
-
◇ ◇ ◇
「ふぅ、やっと終わったぜ」
しばしの力仕事を終えて、サーシェスは額に浮かんだ汗を腕で拭った。
たったこれしきの作業量で疲労を覚えるなんて、今までは考えられなかったことだ。
あまり無理は出来そうにないな―――改めて、失った身体能力を実感する。
館の玄関から屋外に出ると、涼やかな夜の風が火照った首筋を撫でていった。
緩やかな俯瞰風景の向こうに輝く街明かり。
サーシェスの新たな戦場の光である。
「臭いは……残ってねぇな」
肩口に鼻を近付け、臭気を検める。
洗浄剤の香りと、微かな汗。
『アレ』が放つ独特の臭気は移っていないようだ。
先ほど仕込みを終えた行為と『アレ』の臭気は即座に結びつく。
臭いが原因で怪しまれたのではたまらない。
「……さて、そろそろ行くか」
必要最小限の荷物だけを持ち、憩いの館を後にする。
サーシェスは山裾へ通じる坂道を歩きながら、現時点の情報を整理した。
まず、館の周辺を含め、島の北側にほとんど人がいないはずだ。
あの『仕掛け』が早くに効果を発揮しない限り、街に着くまで誰に会うこともない。
山中に潜む変わり者がいたとしても、対処は後回しである。
一方、残りの区域のうち、東半分には渡らないようお達しが来ている。
東側にはサーシェスを向かわせたくない原因があるのだろう。
この情報を考察すれば、現時点での市街地の情勢がおぼろげながら見えてくる。
思いつくのは「サーシェスに殺させたくない誰かがいる」か「まだサーシェスを死なせたくない」かの二つだ。
しかし前者の可能性は低い。
誰某を殺すなと命令すれば済むのだから、回りくどい方法を取る必要はないはずだ。
それに、殺されたくない誰かが東側に移動してきた場合、サーシェスがそれを殺害しても命令違反にはならない。
殺害防止の手段としては不安定過ぎる。
だとすれば、考えられるのは後者。
怪物的な参加者が東側におり、うっかり遭遇して殺されることを懸念したという場合だ。
これならわざわざ移動を禁じた理由として納得できる。
前者と違って、殺されるなという命令は不可能なのだから。
「いや、待てよ」
未舗装の道を下りながら、サーシェスは顎を撫でた。
そこに無精髭や髭の剃り跡の感触はなく、絹のような手触りだけが感じられる。
「俺が殺られたのはE-5エリアだったよな。
てことは、アイツらがまだ西側にいるかも知れねぇのか」
これを考慮すれば、前出の二つとは違う理由が想像できる。
上条当麻が大事そうに背負っていた亡骸と、この肉体はよく似ている。
その類似にどのような意味があるのか、サーシェスは知らない。
だが全くの無関係とは思えなかった。
新たな肉体を得たサーシェスを、上条当麻に合わせたくない―――
前の二つより説得力がある理由だ。
「……ちっ。畜生が、疼いてきやがった」
サーシェスは自らの胸倉を掴み、絞るように握り締めた。
顔は苦渋に歪み、幻の痛みを堪えている。
あんな感覚は二度目だった。
肉体を貫く痛覚の奔流。
それによって浮き彫りになる、圧倒的なまでの生の鼓動。
この世の如何なる衝撃よりも鮮烈な、死という瞬間。
ガンダムパイロットの砲撃で半身を消し炭にされたとき以来だ。
二度はあるまいと思っていたのに、よもやこんな場所で味わうことになるとは。
歪んだ口元に浮かぶ感情は、己を殺した者への憎悪か。
あるいは歓喜―――死を与える歓びか、死を享受する悦びか。
- 231 :Thanatos. ◆C8THitgZTg:2010/05/26(水) 23:07:12 ID:Z7a/fUBs
- 「やっぱ落とし前はキッチリつけさせねぇとなぁ!」
夜空に向かい、サーシェスは吼えた。
その瞬間、遥か後方で憩いの館の一角が炎を上げて爆発した。
窓を割って火の粉が噴き出し、二階の西端が煙を吐いて燃え始める。
サーシェスがリボンズから買い付けたもの。
それはリムジンに積み込まれている燃料であった。
サーシェスはこれを五千ペリカで購入し、憩いの館を燃やす材料としたのだ。
哄笑が夜道に響き渡る。
館がすぐに燃え尽きないよう、燃料の配置に工夫を施してある。
憩いの館は日付をまたいで長々と燃え続けることだろう。
リボンズからは地下に被害を及ぼさないよう条件をつけてきたが、不要な心配だ。
命令待ちの間に調べた限りでは、あの施設の地下室はちょっとしたシェルターじみた代物だ。
たかが火災程度でどうこうなるまい。
廊下の辺りで爆発が起き、夜空に赤い火の粉と黒い煙が舞い上がる。
これは烽火だ。
街の光に包まれて安心し切った連中に、戦争はまだ終わっていないと知らしめる炎だ。
臆病者は震え上がるだろう。
館をアテにしていた奴は嘆くだろう。
紛争介入なんぞやらかしていたテロリストなら、勇んで飛んでくるだろう。
そこに危ない連中が惹かれてきて、潰し合いになれば最高だ。
いずれにせよ状況は動く。
血生臭く、肉の焦げる臭いに満ちた方向へと。
「さぁ―――戦争再開といこうか!」
燃え盛る館を背に、サーシェスは新たな戦場に向けて出陣した。
【D-3/山道/一日目/真夜中】
※憩いの館は継続して炎上中です。
※かなりの広範囲から火災が確認できます。
【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:妹達(シスターズ)に転身状態、体内電流を操作することで肉体の反応速度を上げることが可能、ノーブラ
[服装]:清澄高校の制服@咲-saki-、首輪
[装備]:ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、コルトガバメント(7/7)@現実、予備マガジン×3、接着式投擲爆弾×10@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、濃姫のバンカーバスター@戦国BASARA、399万ぺリカ、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
1:D-4、E-5以西の区域で好きなように立ち回る。
2:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
3:ゼクス、上条当麻、デュオ、式、スザクたちには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
情報収集のためにヒイロ、デュオと接触する方針はとりあえず保留。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
※ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。
※シスターズの電撃能力は今のところ上手く使うことができません。
※特殊デバイスについて
マップ機能の他に『あちら側』からの指令が届く。
それに従わなかった場合サーシェスの首輪は爆破される。
【???/???/一日目/夜】
【リボンズ・アルマーク@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:???
[服装]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:???
?:妹達とサーシェスを通じて運営を円滑に進める。
[備考]
妹達と情報を共有しています。各妹達への上位命令権を所持しています。
- 232 : ◆C8THitgZTg:2010/05/26(水) 23:07:41 ID:Z7a/fUBs
- 以上で投下終了です
- 233 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 23:42:30 ID:zxlmaPVE
- 投下乙です!
このワイルドさがサーシェスだぜ…でも姿かたちは女子中学生
いいねぇ
そして海原の名前が独り歩きしてくるわけか。。。
死んでからの方が参加者に知られるようになるんじゃね、これ
- 234 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/26(水) 23:51:22 ID:jgdGeA82
- 投下乙です
やべぇ、首輪ちゃんが楽しそうだw
故アステカ、よかったじゃないかw
お前の名が一人歩きしていくぞwww
- 235 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/27(木) 00:02:02 ID:7eiMNaQg
- 投下乙です
死亡後に名前だけ目立つとはw
首輪ちゃんは楽しそうだなw
- 236 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/27(木) 00:14:52 ID:TD4aj0Zc
- なるほど、あらやんかどうかを変えって疑うのか。そこまで考える作者すごすぎw
そしてサーシェスも相変わらずやってくれてるww
>>227
>この程度の待遇に文句を言うようでは、傭兵家業などやっていられるものか。
これは「稼業」だと思ったのですがどうでしょうか?
- 237 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/27(木) 00:19:57 ID:TD4aj0Zc
- 作者さんにさんをつけ忘れまして失礼しました
- 238 : ◆C8THitgZTg:2010/05/27(木) 01:16:14 ID:9sFki8h2
- >>236
確かに、そこは稼業の方が近いですね
一族代々の傭兵なら家業ですけど
それと>>230の
>それに、殺されたくない誰かが東側に移動してきた場合、サーシェスがそれを殺害しても命令違反にはならない。
> てことは、アイツらがまだ西側にいるかも知れねぇのか」
は、それぞれ西側、東側の間違いです
- 239 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/27(木) 03:53:41 ID:FbAP53UU
- >◆C8THitgZTg氏
ちょいと気付いたのですが、サーシェスのほうの時間帯が、リボンスの時間帯が夜になっているのはどういうことでしょうか?
細かなミスでしたらWiki入れるときでもにちょちょいと直してやってください
- 240 : ◆mist32RAEs:2010/05/27(木) 10:35:50 ID:jqiKc7b6
- 拙作の【伽藍の世界】において、セイバーの首輪を換金した際の金額を変更しました。
また、ショッピングセンターの支給品販売欄も修正してあります。
- 241 : ◆C8THitgZTg:2010/05/27(木) 18:17:58 ID:9sFki8h2
- >>239
前作品の状態表をそのまま使って直すのを忘れていました
特に意図はないので、そうします
- 242 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/27(木) 18:23:26 ID:FbAP53UU
- >>241
回答ありがとうございました
- 243 :名無しさんなんだじぇ:2010/05/30(日) 18:12:33 ID:57prQKZY
- ★ 連絡事項 ★
◆KEnJlE0kvM氏の予約分が作品投下スレに仮投下されています。
意見のある人は該当スレでお願いします。
- 244 : ◆mist32RAEs:2010/05/31(月) 06:54:38 ID:9qyVd2gM
- では議論スレでの件により、拙作「伽藍の世界」の修正分を仮投下スレに投下します。
変更は最後の式のモノローグと状態表部分のみとなっております。
これはまずいという点などありましたらご意見お願いいたします。
- 245 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/01(火) 00:48:06 ID:ora/ceZc
- 殺人の定義について今更思い悩むのはどうかと思いました
澪に講釈していたのはなんだったのかと
- 246 : ◆mist32RAEs:2010/06/01(火) 17:48:55 ID:nFp9auIo
- >>245
では式はバーサーカーを化物と認識して殺したということで決定します。
よろしいでしょうか。
- 247 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/01(火) 17:52:51 ID:ora/ceZc
- まぁあらやん殺した時も別に葛藤とかしてませんしねぇ
後で橙子が落ち込む式にフォローしたと考えるのも妙な光景だし…
式は命に関する問題に関しては本能的に感じられるような気がしますね
- 248 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/01(火) 19:31:20 ID:BtUbDwcQ
- >>246
それで大丈夫だと思います
- 249 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/01(火) 20:29:08 ID:3eWtdrJY
- ★ 連絡事項 ★
◆LJ21nQDqcs氏の予約分が作品投下スレに仮投下されています。
意見のある人は該当スレでお願いします。
- 250 : ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:12:44 ID:IXScYYu2
- 福路美穂子、衛宮士郎、荒耶宗蓮、阿良々木暦、グラハム・エーカー本投下します
- 251 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:13:06 ID:IXScYYu2
- 真円を描くにはやや足りない月が大地を照らす中、市街地を疾走するジープ。
駆るはグラハム・エーカー。ユニオンの押しも押されもせぬエースパイロット。
同乗するは阿良々木暦。吸血鬼の成れの果てのそのまた子分。
乗り心地というものを徹底的に排除した軍用ジープは、ちょっとした振動も吸収せずに車中の人間にぶちかます。
スピードに乗った状態では喋ることすらままならない。
早口言葉でも話そうものなら、間違いなくその舌を噛み切る事だろう。
かてて加えて対向車や信号、その他の交通規制もない。
ジャジャ馬乗りのグラハムは頓着せずにアクセルを踏み、スピードをいや増す。
車内は激しく上下に揺さぶられ、阿良々木暦にシートベルトの有り難みを、首をガクガクさせながら嫌というほど噛みしめさせていた。
唐突に市街地を抜け、視界が開ける。
地図を頭に思い浮かべて阿良々木暦がはてなマークを頭に浮かべる。
確か薬局から橋に至るまでは市街地の灰色に塗りたくられていたはず。
ではこの平野は一体なんなのだろう?
目の前を見るとやや遠くに闘技場。それも真正面に、だ。
出発した薬局より北西に位置する闘技場が、何故北上しているはずの自分たちの正面にあるのか?
頭の上のはてなマークが増殖するスピードを上げ、
瞬間。
世界が暗転した。
◇
- 252 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:13:29 ID:IXScYYu2
-
当初の予定では既に薬局にたどり着き、さらに北上して憩の館に着き放送を待ちながら休養を取らせていたはずだった。
荒耶宗蓮は衛宮士郎、福路美穂子、二つの駒を従え、歩く。
白井黒子はすでに全快してどうやら船に向かい、こちらは遅々とした歩みでようやく橋を渡り終えたのみ。
それはまだいい。
焦りはないとは言わぬが、それでもまだ二手三手は先を行っている。
阿良々木暦も、遭遇したとしても衛宮士郎らと合流すると言うことはない。
彼らは第一目標である『戦場ヶ原ひたぎ、並びにヒイロ・ユイの確保』を諦めはしない。
何も問題はない。
問題は別のこと。
ただ一箇所。
この会場内において劇的に情勢が変わってしまう可能性のある拠点がある。
結界とは違い、偽装に偽装を重ねたソレを、感づかれることはまずなかろうが、用心は必要だ。
幸い薬局に向かう途上で確認することは出来る。
機会があれば結界の補強、並びにさらなる偽装を施すことも視野に入れるべきであろう。
威容を誇る闘技場を右手に見やり、荒耶宗蓮は南下する。
用心に用心を重ね、目的への最適なルートを模索する彼に、隙はない。
だが、重ねた用心が一転して大きな穴にになってしまうことがあることを、二度の失敗にも関わらず、彼は計算に入れていない。
当然のことかもしれない。
それは奇跡と呼ばれる事象に他ならないからだ。
◇
- 253 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:13:49 ID:IXScYYu2
-
グラハム・エーカーは朦朧としかかる頭を振って意識を強引に取り戻し、倒れた体を起こして周囲を見渡す。
ジープは倒れてタイヤを空回りさせている。傍目にはダメージを負っている様子もなく、ひっくり返せばまだ運転出来そうではある。
軍用らしく簡素ながら頑丈すぎる燃料タンクのおかげでガソリンが漏れ出した形跡も無い。
助手席に阿良々木暦の姿がないのを確認し、途中で振り落とされた可能性を疑い、上を見上げる。
丸い視界にやたらと大きく見える月が映る。
地上まで二十数メートル。ビル5階分であろうか。
丸くくり抜かれた大地の底、クレーターの中心に彼はいた。
あの時。
突然開けた視界と目の前に現れた闘技場にグラハムの意識は奪われていた。
正面への注意がそがれ、大地に深々と突き刺さる碇槍の存在に気がついたときには、もう衝突を待つのみであった。
それでもパイロット史にその名を残すグラハムである。
衝突の瞬間に左にハンドルを切り、完全にかわしてみせた。
…と思いきやクレーターの縁に嵌り、そのまま転落してしまったのである。
「グラハム・エーカーともあろう者が単なる前方不注意で事故を起こすとは!」
しかも民間人を乗せて、である。
瞬時の判断に長ける彼をもってすら、助手席に乗る阿良々木暦を助ける余裕はなかった。
あの高さと断崖とも言える傾斜を落ちたにも関わらず、ほぼ無傷で済んでいることすら奇跡的なのだ。
多大なるGをものともしない、エースパイロットの強靭な肉体がそれを可能にしたと言える。
(しかし、民間人である阿良々木少年は―!)
民間人こそ、軍人である自分が自らの命を捨ててでも守らねばならないはずだ。
現状はどうだ。
不注意から事故を起こし、あまつさえ命欲しさに阿良々木少年を見捨てた。
自己嫌悪で押し潰されそうになり、大地に拳を突き立て、天を仰いで叫ぶ。
「阿良々木暦ぃぃぃー!!」
「グラハムさーん、こっちでーす」
拡声器によって増量された阿良々木少年の声が、奈落のさらに底より響いた。
■
- 254 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:14:09 ID:IXScYYu2
-
「いやぁ、死ぬかと思いましたよ」
クレーターの中央に開いた穴から、グラハムの手を掴んでようやく這い出した阿良々木暦は笑顔とともに率直な感想を述べた。
パンパンと制服にこびりついた埃を叩き、もうもうとした煙が上がる。
「実際よく死ななかったものだ。いや、違うな。すまなかった、全ては私の不注意によるものだ」
腰を折り曲げ、深々と頭を下げるグラハムを暦は慌てて制止した。
「いやいや、しょうがないですって。こんな大きなクレーター、住宅地のすぐ側で開いてるだなんて誰も思いませんよ」
「しかし!」
「お互い無事だったことですし、そういうことは無しにしましょうよ。それに、僕らは急がなくちゃならないでしょう?」
そう言って遙か上方の大地を見上げて、溜息をつく。
どうやら自力では無理そうだと判断したのか、横倒しになったジープに視線を向ける。
「あれ、動きますか?」
「あぁ、車軸も曲がっていないしエンジン系統にもどうやら異常はない。ガソリンもあるから、それは問題ない」
「なんかまずいことでも?」
「おそらくは駆け上がれないだろうな」
このクレーターの形状はお椀状と言うより、バケツ状と言った方が正確である。
ジープの走破性能をもってしても、断崖を駆け上がるのは不可能と言えた。
落ち着いて辺りを見渡すと、どうも元は地下倉庫のような施設だったらしい。
それが大規模な崩落が起きた関係か、元々の地盤の緩さもあって、この大穴が出来たのであろう。
「ここはクレーターというよりはカルデラだな。なんらかの地下施設がここにあったことは確かなようだが」
腕を組んでしばし熟考する。
ふと見ると心なしか阿良々木少年はそわそわしているようにも見える。
それもそうか、と思いを巡らす。
少年の恋人が危険極まりない橋の向こう側に居るのだ。ここでもたついていられないのだろう。
自分も天江衣が危機にあると知った時、居ても立ってもいられずギャンブル船に急行した。
阿良々木少年も飄々としているように見えて、相当に焦っているはずだ。
「ふむ、もしここが地下施設の成れの果てならば、その穴を降りていけばなんらかの通路に出ることができるやも知れないな」
そして自分自身も相当にせっかちで堪え性が無い人間であると自覚している。
即断即決。ジープを穴の近くにまで移動させロープを固定し、阿良々木少年から拡声器を受け取る。
「なにかあったらこれで伝える。そしてもし、ここを通りかかる人間がいたら大声で助けを呼んでくれ」
「そんなことして大丈夫なんですか?もし殺気立った人間が来たら」
「いずれにせよ、我々の状況はかなり絶望的だ。悪意を持った人間が来たら死ぬしか無いさ」
無論最後まであがいてみせるがな、と付け加えて穴を滑り落ちる。
奈落の底へ。
◇
- 255 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:14:29 ID:IXScYYu2
-
「衛宮クンは、麻雀とか出来る?」
福路美穂子がそんなことを聞いてきたのは、静寂に耐えられなくなったからか。疲労を誤魔化したいためか。
おそらくは両方であろう。
「あぁ出来るよ。それなりに打てる」
「ふふ、そうなの。じゃあ今度一局打ちましょう」
今度、という言葉を聞いて士郎はやや安堵した。
先程までの福路は消え入りそうなほどに儚げに見えたから。
明日など諦めてしまったかのように見えたから。
麻雀について話す福路の様子はとても楽しげだ。
少しでも生に対して前向きになってくれるのであるならばと思い、探るように話を続ける。
探るように、というのは福路の話す麻雀を取り巻く環境が、あまりにも士郎の常識とかけ離れていたから、と言うのもある。
競技人口数億人やらインターハイやら世界ランキングやら。
高校野球やゴルフのような巨大なメディア競技なのか。
天江衣がエスポワールで話していた、てんで要領を得ない内容とも符合する。
「福路、天江衣っていう女の子のことを知っているか?」
「知ってるわ。衛宮クン、会ったことがあるの?」
表情がやや曇ったように見えたのは、おそらく気のせいだ。
…
「グラハムさんと言う方は凄い人なのね」
「ん?あぁ、出来た人だよ。俺と黒子と、なにより天江みたいな子供もひとりの人間として扱ってくれたしな」
「衛宮クン、なにを言ってるの?天江衣は貴方と同学年よ」
「うそだろ?!」
くすくすと微笑みながら福路は伸びをするように右腕を天にかざす。
眩しそうに、銀色の月を眺めた。
「そっか。天江衣も衛宮クンも、良い人に出会えて、そして変われたんだね」
「黒子はそんなんじゃ。いや、そうだな。この島で初めて出会えたのが黒子で、本当によかったよ」
もう認めてしまっても構わないだろう。白井黒子は衛宮士郎にとって大切な人間だ。
何故だろうか、福路の視線が痛い。いや、理由は多分分かっているのだが。
◇
- 256 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:14:49 ID:IXScYYu2
-
「私もね、ひとつの出逢いが転機になったの。もう三年も前になるけれど」
執着は愚者のすることだ。
だが愚者それを認めたがらない。
だからこそ愚者なのだ。
結果、執着に引きずられて破滅する。
「上埜さん、ていう人。私を変えてくれた、大切な人」
わざわざ旧姓で答えてみせたのは衛宮士郎に気遣ってか。
それとも単に呼び慣れた名だからか。
「たった一局打った。それだけで私を全て変えてしまった人。だから、多分。好き、だった」
思い出にすがる人間は醜悪だ。
神に祈るだけの人間は怠惰だ。
「上埜って奴が羨ましいな。福路みたいな子に好かれて」
「そんな!私は。それに、もう、」
意図したわけではなかろうが、衛宮士郎は福路美穂子の言を遮った。
「じゃあさ。生きて帰って上埜にハッキリ言ってやろうぜ。自分の気持ちって奴をさ」
衛宮士郎には何気ない仕草に見えたであろう。
福路美穂子は左胸を抑え、次いで左腕の根元を抑えた。
疼くのであろう。
この世全ての悪を飲み込んだ心臓と、悪魔を宿した左腕が疼くのであろう。
「そう、ね。ありがとう、衛宮クン」
思い出の数々が福路美穂子の胸を次々と去来した。
池田華菜、竹井久、片倉小十郎、伊達政宗、平沢唯。
福路美穂子が己の過失によって失ったと思い込んでいる参加者の数々。
死者の思いを受け止めようとする様は、贖罪の代替行為に過ぎぬ。
その裏側には薄汚い願望が隠そうともせず、浮かぶ。
それが表に出ないのは、単に意志の力で押さえつけている為だ。
本当はその手で殺したいのだろう?
池田華菜を殺した平沢憂を。
全てを壊した主催者達を。
片倉小十郎や伊達政宗を見殺しにし、池田華菜に人殺しを決意させ、平沢唯を死地に送らせた
福路美穂子。
お前自身を。
◇
- 257 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:15:15 ID:IXScYYu2
-
クレーターの底に穿かれた穴の直径は三メートルほどであろうか。
大人一人が降下するには十分な広さであった。
底へ進むにつれ、周囲は土から石へ、そしてコンクリートへとその材質を変えていき、徐々にその幅を狭めていく。
ボフッと音がして足が着く。
どうやら底だ。
降りたってはみたものの、周囲はコンクリートの壁があるのみ。
なんらかの地下施設だと言うことは分かるが、これではどうしようもない。
ふと足元を見れば、テンガロンハットを踏んでいた。
何の気なしに拾い上げてみると、一条の光が足元より差し込む。
(カウボーイよ、感謝する!)
光の出所である足元の小さなひび割れを覗いてみれば、眼下に広がるのは何の変哲もない通路。
不意にウィィンという音がして左手の方から2メートルほどのロボットが二体、三体と巡回する。
(あれはオートマトン?!実用化はまだ先だと聞いたが)
暴徒鎮圧用にユニオンで開発中のオートマトンは無人ながら高い能力を誇る。
換装すれば対人兵器としても十分な能力を発揮できるソレ相手では、腰に挿したハンドガンでは少々心許ない。
フラッグさえあれば、と悔やんでも仕方がない。
(ここは撤退する。だが、必ずまたここに戻ってくる!このグラハム・エーカーがな!)
■
- 258 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:15:35 ID:IXScYYu2
-
「よくロープ一本で登れますね」
「パイロットは総合技術を要求される。それはさておき、すまない阿良々木少年。時間を使っておきながら、何も進展することが出来なかった。」
筆談にて地下の様子を伝えると、阿良々木暦は不思議そうな顔でグラハムを見上げた。
「それにしてもグラハムさん、日本語上手ですね」
「うん?いや、私は英語で書いているのだが」
「いや、どう見たって日本語だろ、それ!ネイティブでもそんな綺麗に書けねーぞ、コノヤロオオオオオ!!」
ツッコミ属性を瞬間的に発露してしまった阿良々木暦は、立ち上がってからハッと我に返る。
暦を見つめるグラハムの顔は驚愕に縁どられている。
「すみません!気が、気が立ってたんです。でなければ初対面のハンサムパイロットにこんな罵声を浴びせるだなんて、ありはしないわけで!」
「いや、私も感じていたことではあった。君たち極東の学生が、公用語とはいえ英語をこのように問題もなく解せるものなのかと」
「ですよねぇ〜。いや、僕も突っ込んだら負けだと思ってはいるんですけど、流石に画面上で日本語で手紙とか書いていたら、そりゃ突っ込むだろってな感じですよ!」
確かに会話をリアルタイムで翻訳されていると言うこと自体、驚異である。
エスポワール号でその点を指摘されたときは《魔法》の力であろうとそこで考察を終えてしまった。
だが筆談が言語を越えて通じているということは、我々が解しているのは言葉ではない。
ならば、と思案していると、天の助けが地上より舞い降りた。
「そこにいるのはグラハムさんかー!今ロープを降ろすから待っててくれー!」
衛宮少年である。
なんということだろう。捜索対象が、救難に訪れたわけだ。
思わず苦笑を浮かべてグラハムは垂らされたロープを掴んだ。
◇
- 259 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:16:10 ID:IXScYYu2
-
衛宮士郎の五感が鋭敏であることを荒耶宗蓮は抑えきれていなかった。
奈落からの叫び声に、常人なら気づかないほどの音に、衛宮士郎は反応してみせた。
「助けを呼ぶ声がする!」
《セイギノミカタ》
まさにそれこそが、衛宮士郎の行動原理。
荒耶宗蓮も無論、それは織り込み済みである。
■
荒耶の手を借りてクレーターより這いでた二人は、ディバッグから軍用ジープを取り出しながら、軽い自己紹介を始めた。
阿良々木暦の名を聞いた瞬間、福路美穂子が思わず「戦場ヶ原さんの!」と声を上げた。
また預かり知らない所で名前が広がってるなぁ、と思った暦ではあったが、福路の微妙な表情と台詞で不安は急速に広がった。
「なんかやらかさなかったか、彼女」
「い、いえ!ただちょっとコミュニケーションの取り方が特殊ですよね、あのひと」
その答えと、ひきつったような苦笑だけで暦にとっては十分だった。暦は一歩二歩と後退る。
ただならぬ気配に士郎は思わず警戒し、疲労を押して魔術回路を開放せんとする。グラハムも異常に気づき、臨戦態勢を取る中。
ついに阿良々木暦は切り札を発動した。
「申し訳ないことをしたぁ!」
士郎も福路も、無論グラハムも、さらには長い年月を生きた荒耶宗蓮ですら目を見張る程に、それはPerfect&Beautifulであった。
動物が降参の証として腹を見せるように、万物の霊長ヒトが取る最大の服従ポーズ。
「土下座-Dogeza-」である。
■
- 260 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:16:30 ID:IXScYYu2
-
あれだけ綺麗な土下座を魅せられては、これ以上角が立つはずも無い。
福路は必死で暦を宥めすかし、士郎はグラハムと苦笑いをしながら互いの情報を交換し続ける。
「そうか、あの少女が白井黒子の言っていた政庁の少女か。しかし揃いも揃って、よくもまぁ。盛大に状況をひっくり返したものだな」
「こっちは福路がやり通したようなもんだよ。俺自身は何もやっちゃいない」
視線を逸らした士郎の真意をグラハムは読み取れなかった。せいぜいが照れ隠しであろうと、それだけだ。
なによりも首輪をつけてないアオザキと名乗る女性が気掛かりであった為だろう。
「それで彼女は本当に主催者側の人間なのか。信頼していいのか?」
「彼女は魔術師だ。契約が成立している間はとりあえずは味方だ。信頼していい」
信用はできないが。
そう付け足すことをあえて士郎はしなかった。
■
「浅上さんを説得することが出来たのでしょう?それは素晴らしいことだわ!もっと胸を張るべきよ」
「しかし!」
と顔を上げた瞬間、ぽよんという柔らかな感触としっかりとした質量を 暦は後頭部に感じた。
殴られる!と身構えた暦が見た福路の顔は、柔和な母親のそれであった。
「大丈夫、生きてさえいればきっといいことがあるわ。諦めちゃダメだって教えたのでしょう?」
浅上藤乃が結果的に東横桃子に殺し合いを決意させてしまった事は大きい。
東横の加治木ゆみへの思いの強さを知る福路には、彼女の決意を翻させることは不可能にも思えた。
だがそれも狂ってしまった自分や、魔人とまで言わしめた浅上藤乃を説得出来た二人になら、もしかしたら可能なのではないか。
そう思えてしまうほどに、福路は二人の少年を信頼していた。
そして自分もこの少年たちのような強さを持っていたならば、と後悔しそうになる思いを必死で振り払った。
過去に執着しては駄目だ。諦めた思いに執着しては駄目だ。前に進まねば駄目だ。
執着した結果が政庁でのあのザマだ。
代償は数えきれない。
福路は蒼い瞳に力を宿し、左腕を抑えて歯をくいしばる。
傍から見れば、今現在も思いに執着しているとしか思えぬのに。
■
- 261 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:16:50 ID:IXScYYu2
-
情報をある程度交換し終えた双方ではあるが、それで基本方針を変えるようなことは無かった。
むしろグラハムに至ってはヒイロ・ユイの危機に、焦燥を募らせる結果となった。
グラハムも暦も目的は未達成なままであるし、黒子の全快を知った今でも士郎の方針は変わらなかった。
衛宮士郎は既に選択してしまったのであるから。
アオザキ=荒耶はその間、何も口出しをしていない。
自分がその場にいることこそが、望む結果へ導く最大の要因にほかならないからだ。
故に密かに結界の儀式を行う。
四者が方針を決めたその時、結界は成る。
クレーターの周囲は人払いの結界が仕掛けられ、自覚もないままに近寄ることが出来ぬ場となった。
元々鬼門を封じている関係上、術が施工しやすい神聖な場であったことが幸いした。
とはいえ目的意識のはっきりした人間が立ち入ることは防げない、急ごしらえではあるが。
クレーターの底に居た阿良々木暦とグラハム・エーカーはかの施設を発見した可能性が高く、危険ではある。
だが、アレがなんなのかは見当もつかないだろうし、理想的に事が運べば誰にもかの施設のことを話すことなく命を散らすだろう。
何にせよ今、かの施設を発見され、主催への攻撃を開始されては式の身体を手に入れる隙がなくなってしまう。
それだけは避けねばならなかった。
故に、この施設だけは死守する必要があった。
クレーターと言う奈落の、さらに底にある地獄門。
この島にあって唯一、帝愛でなくリボンズ自身が直接管理する施設。
"首輪爆破信号管理システム"である。
■
- 262 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:17:10 ID:IXScYYu2
-
五人が南北へと分かれようとしたその時、グラハムが妙な質問をした。
「すまんが、アオザキ。奈落の語源を知っているか?」
「元は仏教用語。奈落迦。地獄という意味だ」
「そうか、ありがとう。ついでのようだが、このメモ帳に書いてみてくれないか」
神妙な顔をしてアオザキはすらすらと奈落迦と書きこみ、グラハムは一礼してジープに乗り込んだ。
「また会おう、衛宮少年。万が一の場合は天江衣をよろしく頼む」
「福路さん、浅上によろしく伝えておいてください!」
そのまま橋へと疾走する。
士郎は腰に手を当てて、福路は大きく腕を振って見送った。
「福路も阿良々木と随分仲良くなったじゃないか」
「そうね、"あの"戦場ヶ原さんの恋人っていうから、どんな人かと思っていたけど、あんな優しくて、強い人なら、ね」
福路は二歩三歩と歩いて振り返る。
「それに衛宮クンと違って、女の子の扱いにも慣れてるみたいだし!」
「な?!お、おい、福路!」
はしゃぐ男女を尻目にアオザキは歩を進める。
「急ぐぞ。白井黒子の無事が確認されたとはいえ、放送までにはエスポワール号についておきたい」
士郎も福路もそれにならった。
【E-4/北部/一日目/真夜中】
- 263 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:18:00 ID:IXScYYu2
- 【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:オレンジ色のコート
[道具]:凛のペンダント(魔力残量:極小)@Fate/stay night
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
0:ひとまずはエスポワール号へ向かう。
1:士郎と美穂子の保護と櫓の状況を確認すべく、いったん身体を休められる場所、および工房に向かう。
2:周囲の参加者を利用して混乱をきたし、士郎の異界を式にぶつける。
3:美穂子を士郎の魔力ブーストとして使う。
4:体を完全に適合させる事に専念する。
5:信長を利用し、参加者の始末をしてもらう。
6:必要最小限の範囲で障害を排除する。
7:利用できそうなものは利用する。
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
※海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※A-7の櫓に、何かしらの異常が起きた事を察知しました。
※バーサーカーを倒したのは、ルルーシュであると確信をしています。
※何か強力な武器が手に入ったら、信長に渡す約束をしています。
※信長の首輪が、爆破機能と共に盗聴機能まで失ったかは次の書き手様にお任せします。
もしも機能が失われていない場合、主催側に会話の内容が漏れた可能性があります。
※一方通行の異常に気付きました。
※イリヤが黒幕である事を知っています。
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:アンリ・マユと契約、左腕欠損(処置済み)、疲労(大)
[服装]:黒いロングドレス (ボロボロ)、穂群原学園男子用制服(上着のみ、ボロボロ)
[装備]:聖杯の泥@Fate/stay night、折れた片倉小十郎の日本刀
[道具]:支給品一式*2、伊達政宗の首輪、包帯×5巻、999万ペリカ
ジーンズとワイシャツその他下着等の着衣@現実
[思考]
基本:自分自身には、絶対に負けたくない。失った人達の分まで勝利を手にしたい。
1:ただ己が正しいと信じたことを為し遂げる。
2:衛宮士郎や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
3:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
4:「魔術師」「魔力」などの聞きなれない言葉を意識。
5:死した人達への思い。
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています。
※死者蘇生はレイニーデビルやアンリ・マユを用いた物ではないかと考えています。
※アンリマユと契約しました。
※今は精神汚染を捻じ伏せています。
※エスポワール号に向かう三人(藤乃、黒子、衣)の名前と外見的特徴を得ました。
※東横桃子、平沢憂、ルルーシュが殺し合いに乗っていることを知りました。
※所持していた六爪はエリアD−5のビル郡に散らばりました。
- 264 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:18:20 ID:IXScYYu2
- 【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 疲労(大)魔力消費(大)、全身打撲(治療中)全身に軽い切り傷(治療中)、背中に火傷、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂群原学園制服(上着なし、ボロボロ)
[装備]: 落下杖(故障)
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、 伊達政宗の眼帯、
基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカード(残金5100万)
[思考]
基本:主催者へ反抗する。黒子と共に生きてこの世界から出る。
0:黒子の所に急ぐ。
1:福路美穂子や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
2:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
3:秋山澪と合流する。
4:首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
5:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める。
6:福路のことも、どうにかして助けたい。
7:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする。
8:一方通行、織田信長、黒い魔術師(荒耶宗蓮)への警戒心。
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
※白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。
※「剣」属性に特化した投影魔術を使用可能。
今後、投影した武器の本来の持ち主の技を模倣できるようになりました。
※現在投影可能である主な刀剣類:エクスカリバー、カリバーン、六爪、打ち刀
※イリヤが主催・人質である可能性には現状全く思い至っていません。
※エスポワール号に向かう三人(藤乃、黒子、衣)の名前と外見的特徴を得ました。
※東横桃子、平沢憂、ルルーシュが殺し合いに乗っていることを知りました。
※片岡優希のマウンテンバイク@咲-Saki-は政庁跡に放置されています。
- 265 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:18:53 ID:IXScYYu2
-
◇
ジープに揺られ、橋元に着く。聞いた通りに四輪車ではもう通ることも出来ぬほどボロボロだ。
再びディバッグにジープをしまい込み、徒歩でゆっくりと橋を渡りながら先程アオザキに差し出したメモ帳を見せた。
「なんて書いてある」
「え?奈落迦、と」
「漢字か?」
「えぇ。どうしたんですか?」
グラハムは暦の方を振り返ってこう告げる。
「私にはTartaros(タルタロス)と、英語で書かれているように見えるのだがな」
【D-4/橋の東端/一日目/真夜中】
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30、軍用ジープ@現実
[道具]:基本支給品一式、、ゼクスの手紙、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム〜戦場の絆〜』解説冊子、ヴァンのテンガロンハット
双眼鏡@現実、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル、1万ペリカ、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
0:阿良々木暦とともにヒイロ・ユイ、ゼクスら信頼できる知り合いと合流する。
1:天江衣をゲームから脱出させる。
2:衛宮士郎とヒイロ・ユイを会わせ、首輪を解除する。
3:首輪解除後、『ジングウ』を奪取または破壊する。
4:主催者の思惑を潰す。
5:ヒイロからもっともっとガンダムについて詳しく聞きたい。
6:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。
※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
7:衣の友達づくりを手伝う。
8:夜は【憩いの館】で過ごすべきか。『戦場の絆』も試してみたい。
9:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
10:死ぬなよ…少年。
11:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換しました。
- 266 :奈落 ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:19:26 ID:IXScYYu2
- 【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(中)
[服装]:直江津高校男子制服
[装備]:マウンテンバイク@現実 拡声器@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10
毛利元就の輪刀@戦国BASARA、
土蔵で集めた品多数
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
基本:知り合いと合流、保護する。
0:グラハム・エーカーとともに戦場ヶ原ひたぎら信頼できる知り合いと合流する。
1:憂をこのままにはしない。
2:桃子、ルルーシュを警戒。
3:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
4:千石……八九寺……神原……。
5:太眉の少女については……?
6:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
7:浅上らの無事を願う。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※会場に生まれた綻びは、あくまで偶発的なものであり、今後発生することはありません。
※巨神像はケーブルでコンソールと繋がっています。コンソールは鍵となる何かを差し込む箇所があります。
※原村和が主催側にいることを知りました。
※サポート窓口について知りました。
※衛宮邸は全焼しました。小さく燻っているのみです。
※土蔵にあった魔方陣の効力が消失しました。
※土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※藤乃と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換をしました。
※衣の負債について、気づいていません。
※衛宮士郎と情報交換しました
- 267 : ◆LJ21nQDqcs:2010/06/03(木) 16:20:30 ID:IXScYYu2
- 以上で投下終了します。
仮投下から時間をかけすぎてしまい、申し訳ございませんでした。
ご指摘してくださった皆様、ありがとうございます。
- 268 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/03(木) 19:18:18 ID:iv0cZV6M
- 投下乙です
これも抑止力だというのか…えらい施設がまあw
しらら木さんの土下座がいさぎよすぎるwww
- 269 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/03(木) 19:43:38 ID:mSYYn2kw
- 投下乙です
土下座wwwww まああんな彼女持ってたらな…
それにしても重要な施設が見つかったもんだ
でも守りが堅そうだから普通では攻められんか…
- 270 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/03(木) 23:31:30 ID:Fm7qnmVo
- 投下乙です
やはり修羅々木さんの「土下座-Dogeza-」が一番印象に残るw
しかし、ここで首輪解除フラグか……
展開縛りになるからコメントは伏せるけど、美味しいフラグをありがとうw
- 271 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/03(木) 23:58:07 ID:y4ULeBi2
- 投下乙!
あららさん、日本語で手紙って00ネタですかいw
美穂子のおっぱいぽよんとしちゃうし、ラッキースケベかってのw
きっと土下座した時に美穂子のドレスの下から素晴らしい景色を見たに違いないwww
俺にも揉ませろ!
しかしヴァン…死んでからの方が役に立ってるんじゃね?
- 272 : ◆mist32RAEs:2010/06/05(土) 07:24:25 ID:iMH7YA02
- 拙作「伽藍の世界」再々修正版をまとめにて収録しました。
- 273 : ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:15:36 ID:UdVqFzuY
- 生物語〜すざくギアス〜本投下します。
- 274 : ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:15:58 ID:UdVqFzuY
-
D−5南部住宅街を歩く三人の人間がいた。
枢木スザクを先頭に、C.C.と戦場ヶ原ひたぎが並んで続く。
三者の間に流れる空気は重く、会話はあまりない。
それも、当然のこと。
先程仲間の一人が自殺し、思想の違いからまた一人の仲間と道を別れたのである。
和気藹々と談笑するなんて雰囲気ではとてもない。
元々、相性のいい組み合わせとは言い難いことも相まって、事務的なこと以外は言葉を交えることも僅かだった。
日付が変わる直前――今が一体何月の何日なのかは分からないが――あと、30分といったところだろうか。
住宅地に並ぶ街灯はまちまちで、暗い道をぽっかりと切り取ったように照らす灯がどこか印象的である。
何かしら、人ではないものと出会ってしまいそうだと想起させるほどの雰囲気の中、
それらを一切合切、意にすることなく――勿論、暗闇に敵が潜んでいないかの警戒ぐらいはしているだろうが――突き進む三人の足音だけが静寂を乱し、あるいは調和しながら響いていた。
そのハーモニーが不意に侵される。
一番前を歩いていたスザクが停止したのだ。
それに伴い残りの二人も足を止める。
「―――何か、あったのか?」
その様子から何か気付いたことがあるのだろう、と予測した魔女は口を開く。
「足音が、僕たちの他にも聞こえる。―――誰か近くにいるみたいだ」
低い声でそれに答えるスザク。
なるほど、確かに微かではあるがこうして立ち止まり耳をすませば聞こえてくるアスファルトを叩く音。
しかも、徐々に大きくなりつつある。
誰かがこちらに近づいていると言うことで間違いはないだろう。
では、それは敵か、あるいは味方か―――?
どちらにせよ不用意な接触は避けたい。
レイ・ラングレンが最早いない以上、敵との交戦はなるべく避けたいところであるし、上条当麻の際のようなすれ違いからの対立などもっての他である。
慎重に対応すべきなのは間違いない。
とはいえ、ここは左右をずらりと並ぶ家屋に挟まれた一本道。相対は避けられないだろう。
いざ戦闘となった時のため、ひたぎとC.C.にいつでも逃げられるようにと指示をしておくことをスザクは怠らなかった。
足音は徐々に近づいてくる。その足取りに迷いはない。
たった一人で、この場でそのような行為をとるということがどういう意味を持つのか。
かの人物はよほどの強者か、或いは只の馬鹿か。―――両方、という可能性もある。
どちらにせよ、一筋縄ではいかないだろうと、覚悟を決めて相手を待つ。
無論、武器はいつだろうと取り出せるように準備しておいて。
―――月が雲に隠れて暗さが増す。
スポットライトのように街灯で照らされた空間に、それは一歩ずつゆっくりと踏み出してきた。
- 275 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:18:42 ID:UdVqFzuY
-
こつ。
まず、黒いズボンに包まれた脚が。
こつ。
ポケットに突っ込まれたままの手が。
こつ。
黒と白で奇妙に彩られたシャツが。
こつ。
ニヤついた口元が。
こつ。
そうして、全身が舞台へと上がったかのように光を浴び。
暗闇に潜むはずのスザク達へと目を向け、唇をさらに吊り上げて、笑ってそいつは言った。
「―――ハッ。二人も女連れやがって、随分とお楽しみだったみてェだなァ、おィ」
一方通行、ここに見参。
- 276 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:19:17 ID:UdVqFzuY
-
「……一方通行? 無事だったのか」
公園で別れた彼が十全な姿を持って目の前にいるということにスザクは少し安堵する。
言動こそ少々過激なところがあるが、実力、知性、そのどちらも最高級で、自分と同じゲームの破壊者であることが分かっているからだ。
「まァな。織田信長ともやってきた」
結果としては引き分けのようなものだ。殺せてはいないけれど。
そのような意味のことを言い、一方通行はさも可笑しそうに笑った。
一歩。
彼が近づいた。
「―――それで? こちらの方はどなたなのかしらね。説明して貰えるとありがたいわ」
スザクの反応からどうやら危険な相手ではないと判断したのか。
澄ました顔でひたぎは問いかける。
また一歩。
彼が近づいた。
「ああ、彼は一歩通行。共闘したこともある。……大丈夫、信頼できるよ」
「こンごともヨロシクゥ、ってか。……はァン。なるほどねェ。お偉いお偉い枢木サンはこンな時でも人助けってわけかよォ?」
さらに一歩。
彼が近づいた。
言外に足手纏い扱いされたことに若干苛立を覚えるひたぎ。
自覚がないわけではないので反論はしないけれど、彼女の中で一方通行の評価が下がる。
他人に対しての評価は
「いや、それは……」
「あァ? で、あの死んだ魚みてェな目をした奴はどこだ?」
取りなそうとしたスザクを遮りレイ・ラングレンの不在について問う一方通行。
三者の表情は少し暗くなる。
「―――レイさんは、死んだよ。次の放送で名前が呼ばれるだろう」
「―――……ハ。そうかよ。どうにも長生きしそうにねェ面してたしなァ」
そして一歩。
彼が近づく。
後、二歩程度。
残念だったな。
片目を瞑って白い彼はそう言う。
「……そのあたりも含めてよォ、情報交換といかねェか? コイツの話もある」
コツコツと首輪を叩きながら一方通行はそう告げる。
それは、首輪解除の手がかりが掴めたと言うことか。
その意味を察した三人に拒む理由はない。
少し顔を見合わせた後、代表のようにスザクが頷きを返す。
「ああ、それは願ってもないことだ。是非聞いておきたい」
「―――立ち話っつーのもなンだ。そこらの家でもに入らねェか」
彼は一歩分だけ近づいた。
そう、彼我の距離は一歩分。
手を伸ばせば届く距離。
そして、必殺の距離。
す、と飽く迄さりげなく。
枢木スザクに手を伸ばす―――。
- 277 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:19:48 ID:UdVqFzuY
- 「―――え?」
しかし、伸ばされた腕は彼に届かず空を切った。
バックステップ。いきなりの後ろへ向かっての跳躍。
その瞳に映るのは赤い色。ギアス―――文字通りの呪い、強制の力―――の光。
自己思考することなく、忠実に「生きろ」という命令に従うのみ。
飛びずさり、着地し、そこで初めて正気に返ったように自分の行動を再認識する。
この反応に対する四者―――スザク自身も含む―――は、皆一様に驚き。
戦場ヶ原ひたぎは純粋に行動の意味がわからず。
C.C.はとある可能性を思いついてしまって。
枢木スザクは、それを確信してしまい。
そして、一方通行は。
憤怒の表情を、ほんの一瞬だけその顔に浮かべた。
「……おいィ? 流石に傷ついちまうぜ、枢木さンよォ? 俺ってば軽いスキンシップも許されないほど嫌われてた―――」
「―――……一方通行」
目を剥いた表情を一瞬で殺し、ニヤニヤとした笑いを浮かべて白々しく続ける一方通行を妨げて、スザクは身構えながら尋ねた。
そう、「生きろ」ギアスが発動した。
それは、自分に命の危険が迫ったと言うこと。
一方通行に触られそうになったとき、自分は死にかけていた、という事実。
つまり。
「君は―――殺し合いに乗ったのか?」
―――ヒュッ。
風を切る音が響いた。
言い終わる、直前か、直後か。
それほどの時間に、パチンコ玉がスザクへと飛来したのだ。
「く―――ッ」
自発的な行動を取っている間、人間は普段以上に無防備になる。
その隙をついた、完全なる不意打ちが、スザクに襲いかかった。
普通人ならば到底対応出来ないだろうこの攻撃。
だが、ある程度攻撃が来ることを予測し、ギアスで反応強化されているスザクならば躱すことも不可能ではない。
瞳を染めながらも近距離のそれに対応し回避に成功するが―――。
「ぎゃは」
避けた直後に自分のミスに気付かされる。
そう、スザクが回避したことにより開いた射線上には、未だ事態を把握しきっていない戦場ヶ原ひたぎがいた。
勿論、普通人の枠を逸脱しない彼女に、不意打ちで放たれた弾を発射された後に躱す能力などありはしない。
驚いた顔のままで、無様にそれを受けるのみだ。
―――白い肌を貫き、血が舞った。
- 278 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:20:24 ID:UdVqFzuY
-
ぽたり、血が落ちる。
ばたり、と力なく体が倒れる。
貫かれた体には力は入っておらず、即死とは行かなくとも常人ならば放っておけば死に至るだろう傷。
横たわる二人の体が、赤く染まっていった。
―――二人?
そう、二人だ。
倒されたことで空を見上げ、驚いた顔のままのひたぎに被さるように、C.C.が体を重ねている。
ひたぎよりも状況を把握していた彼女は、咄嗟にパチンコ玉からの盾となったのだ。
―――どうして?
純粋な、そんな疑問の言葉すら発することが出来ずに固まるひたぎを見て、C.C.は苦しそうに息を吐きながら、それでも得意げに言った。
「だから、言っただろう。―――お前の盾代わりになってやるって」
……それを言ったのは私だったような。
そんな、現実逃避じみた感想を浮かべてしまうひたぎ。
「ぎゃははははははははッ!? なンだなンだ、お涙頂戴感動の名作ってかァ!? くゥッだらねェんだよォ!
さァッさと素直に死ンでろっつーンだよォッ!!」
今まで纏っていた仮面をかなぐり捨てて、一方通行は攻撃を続けようとする。
「―――そう、何度もさせるかっ!」
「あァ!?」
一方通行が攻撃の姿勢を見せるよりも早く、スザクはデイパックからとりだした「何か」を視線を遮るように投げつけた。
一つではない。二つ、三つと幾つもそれを飛ばす。
反射的にそれを迎撃してしまう一方通行。
追い打ちをかけるつもりで用意しておいたパチンコ玉が「それら」を貫いていった。
パン。と軽い音がしてそれは弾けて、中に詰まった白い粉が飛び出してくる。
(―――小麦粉?)
解析により粉の成分を割り出した一方通行は考える。
何が狙いなのか。
思い出すことは、かつてのアイツとの戦い。
粉塵爆発を発生させることで、危うく自滅しかけた。
どうしても、心に一抹の警戒心が浮かぶ。
もっとも、密閉空間ではないし、空気中に充満していると言うほどに散らばっているわけでもないから粉塵爆発を起こすことは難しいだろうが。
などど考えているうちに、響く足音。
それを聞いて、一方通行はひとつの可能性に思い当たる。
「―――あァ、なンだ。そういうことかよっ!」
轟、と音を鳴らせベクトル操作。
大気中の空気を操り風を作って小麦粉を吹き飛ばす。
一瞬で舞う小麦粉を吹き飛ばして視界を晴らした一方通行の目に映ったのは。誰もいない道路。
そう、単純に小麦粉の意図は煙幕であり、目的は逃走だったと言うこと。
笑わせるほど単純なその意図を見て、一方通行はほくそ笑む。
「ハハッ、いいぜいいぜェっ! やってやろうじゃねェか鬼ごっこォ!」
↑↑↓↓←→←→ ↑↑↓↓←→←→ ↑↑↓↓←→←→
- 279 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:21:00 ID:UdVqFzuY
-
「―――で、一体どういうことなのかしら」
現在、とある民家の中。
そこの彼、枢木スザクの機転でなんとかあの場から逃げ出すことが出来た私たちはひとつの部屋に集まって相談をしていた。
それと並行しながら、C.C.、あの魔女の手当も行っている。私が。
女性の手当を男性に任せるわけにもいかない―――。それだけ。別に他意なんてないわ。
―――それにしても、これだけの傷。
お腹に二発、胸に一発、右足に一発。抉るような傷口が開いている。
普通だったらすぐに死んでいても可笑しくはないと思うけれど、そこはさすが魔女と言ったところかしら。
自分で運動することはしばらく出来そうも無いにしても、暫くは死にそうにない。
誰かを彷彿とさせるようなしぶとさで、治療と言っても止血して包帯を巻くぐらいしかすることはなさそうだった。
「―――すまない。理由はわからないけれど彼は殺し合いに乗ってしまったらしい。
それにすぐに気がつくことが出来なかったのは僕の落ち度だ。責めてくれていい」
「肝心なところで使えないわね。愚図な男。このブタ野郎。……どうも悪意の調子が今ひとつだわ、いい言葉が浮かばない」
「……お前の冗談は……わかりにくい……。……で、これからどうするんだ……スザク?」
あら、ちゃんと冗談だって分かってるじゃない。むかつくわね(←ツンデレ)。
息も絶え絶えになりながらも彼女が尋ねた質問に、一瞬考えたあとで枢木さんは答える。
「戦場ヶ原さん。C.C.のことを連れて逃げてくれませんか?」
「……あなたはどうするの?」
「僕は、残ります。彼の移動速度は能力を最大限に発揮すればかなり早い。
三人で逃げたところで途中で捕まってしまう。だったら、ここで僕が一人残った方が……」
チッ、と。
不快感を隠そうともせずに私は舌打ちする。
「つまりなにかしら。私たちは足手纏いだと?」
「―――そうですね。そういうことです。大丈夫、最悪でも時間ぐらいは稼いでみせるので、その間に逃げてください
戦場ヶ原さんにはC.C.のことを背負ってもらわななければならなくなりますけど……」
「……それぐらいなら、やるわよ。さっき命を救って貰ったばかりの相手を見捨てるほどに、人間をやめてはいないもの」
「―――ありがとうございます。では、早速……」
「待て」
毅然とした、だがどこか力のかけた声がまとまりかけていた私たちの相談を遮る。
当然、この場にいる全身包帯になったもう一人の女だ。
「私抜きで話を進めるな……」
「何よ。他に何か案があるとでも言うのかしら。そんな死にぞこないの体で。……まあ、さっき庇ってもらった礼もあるわ。
いいでしょう。聞いてあげます。ほら、話してみなさい。私が聞いてあげると言っているでしょう?」
「……私が言うのも何だが……お前は、つくづくコミュニケーションの下手な奴だな……」
……こういう見透かしたようなセリフはどうにも腹が立つわね。
分かったような気にならないで欲しいわ。本当に。
「それで、結局何が言いたいのかしら?」
「ああ―――私を連れて行く必要はない。ここに置いていけ」
耳を疑うような言葉が、聞こえたような気がした。
「……どういうつもり?」
「どういうつもりも何も……。戦場ヶ原、お前は阿良々木暦と合流することが目的なのだろう。
だったら、私なんか連れて行っても邪魔になるだけだぞ」
「―――阿良々木くんはあなたに惚れたりなんかはしないわよ。自惚れないで」
「足手纏いになる、と言ってるんだ。私は暫くまともに動けそうにないしな」
私のボケをスルーして彼女は答える。
……何よそれ。
- 280 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:21:27 ID:UdVqFzuY
-
「何が、したいの?」
「だから、阿良々木―――」
「阿良々木くんを理由にしないで頂戴。それは私の理由よ。あなたがどうしてそんなことをしたいのかって聞いているのよ」
「…………」
沈黙。心底意外そうな顔を見せる魔女。
「……どうしたんだ。お前こそ。そんな風に私なんかのことを気に掛ける奴じゃなかっただろう」
「命の恩人を都合がいいからと喜んで見捨てるほど不義理だった覚えはないわね」
いいから早く話しなさい。
そう言うと彼女はすごく嫌そうな顔をしたけれど、なにか思い直したような表情になり、ぽつぽつと話し始めた。
本当、面倒くさい女ね。
「―――私は、死にたいんだ」
かすれるような声で、懺悔するような顔で。
あの女はそう言った。
「不老、不死。私は長く生き過ぎて疲れてたんだ。死のうと思っても死ぬことは出来ず。
私を愛した奴も、憎んだ奴も。みんな、私を残して死んで行った。だから―――。
だから、私はずっと死にたかったんだ」
そんな私に生き残りをかけた殺し合いなんて馬鹿げているだろう。
と、彼女は濡れた瞳で笑いながら唇を吊り上げる。
「どうやらここなら私も普通に死ねるらしい……。それなら、と積極的に生き残るつもりもなかった」
ふうん、と。
何となく納得する。
そう言われてみれば、だけれど。彼女の危険意識は確かに低かった。
そんなことが理由だったらしい。
まあ、長く生きるほどに生を疎ましく感じるだなんてありがちな話だものね。
枢木さんの方を横目で見るけれど、特に反応はなし。
知り合いが自殺志願者だって分かったというのに、無反応?
ふうん……。まあ、いいわ。
「私を手伝う、と言ったのはどうして?」
「他にやることも……なかった、からな。だったらいたいけなな少女の手伝いも、悪くないか……と思っただけだ」
……いたいけ。痛い気?
ああ、幼気ね。
―――え、それ、私のこと?
どうにも似合ってないような気がするわ。
「じゃあ、私を庇ったのはどうして?」
「ちょうどいい機会だと思ったんだ。……誰かを、庇って死ぬなんて」
…………へえ。
ヒロイズムかしら。
まあ、お話としては綺麗なのかも知れないわね。
「ここに、置いていけっていうのは?」
「もう、私のような死にたがりに付き合う必要はないってことさ。―――だから」
「だから、何かしら」
「戦場ヶ原ひたぎ、私のことなんて気にするな。私はお前が背負うには重すぎる女さ。ここに、捨てていけ」
「――――」
私は一瞬だけ沈黙した。
でも、一瞬だけ。
殆ど即断と言っていい速さで返事をする。
- 281 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:21:59 ID:UdVqFzuY
-
「嫌よ」
「―――は?」
あら。はっきりと発音したつもりだけれど聞こえなかったのかしら。
年をとって耳が悪くなっているとか。いいえ、この場合悪いのは頭なんでしょうね。
頭の悪い人は嫌い。大嫌い。本当に―――腹が立つ。
込み上げてくるのは、押えきれないほどの怒りの感情だった。
「気に入らないのよ、大体。なんなのかしら、その上から目線。私は貴方を気遣ってあげています。年長者としての余裕です^^
みたいな。何よその顔文字。単純な癖に腹が立つわね」
「……え、おい?」
「それに!」
戸惑いの声も、驚いた顔も、知ったことじゃない。
気に入らない。
「……私の前で、もう死にたいだなんて言わないで頂戴。冗談じゃない、冗談じゃないわ。
―――神原が死んだことで、あなただって生きているのよ。その命を必要ないだなんて、言わせない」
神原の名前を口にすると、少しだけこの女の表情が変わった。
見えてくるものは悼み。
神原のことを心苦しく思ってないわけではないらしい。
そして、そのまま口を閉じる。そのことについて言い訳をするつもりはないらしい。
……ああ、でもそれは私も同じか。
勝手に理由にしてごめんなさいね、神原。
あなたはあなたがそうしたいからそうしただけで。
きっと憐れまれるなんて本意ではないでしょうに。
「―――話はまとまったかな。それじゃあ、改めて。戦場ヶ原さん、C.C.のことをよろしくお願いします」
そして、いきなり話に入ってきて、勝手にまとめていく枢木さん。
…………。
なんというか、時折、うざったいわね。この人。
「……ええ、わかったわ」
「…………」
「なによ。あなた、不満なの?」
しかしこの展開に納得はしてなさそうな彼女。
……まあ、いいわ。
早いところ出発しましょう。あの男が追ってこないうちに。
そう考えて無理矢理に彼女を担ぎ上げる。
意志に沿わない、とはいえそこまで強情な態度をとるつもりはないらしい。
特に抵抗はせずに、ちゃんと掴まってきた。
包帯越しの柔らかい感触が背中に触れる。
……あのボロボロの拘束衣は捨ててしまったし、余裕ができたらどこかで服をちゃんと調達してあげたほうがいいのかしら?
余り現状に関係の無いことを少し考えた。
「―――C.C.」
「……なんだ?」
最後に、といった感じで呼びかける枢木さん。
「今の君にこんなことを言っていいのか分からない。だけど、聞いていて欲しいことがある」
「…………」
「ルルーシュは、君の望みを知っている」
「…………え」
「その上で。それでも君に生きていて欲しい、と願ったんだ。だから」
「―――生きろ。いや、」
頼むから、生きてやってくれないか。
そう、彼は彼女に頭を下げた。
背負ったから顔は見えないけれど、彼女も目を伏せているらしい。
―――随分と込み入った人間事情があるようだけど。
私には、関係ないわね。多分。
空気を読まないで、或いは空気を呼んで。
意図的にそれを無視して私は発言した。
「それじゃ、あとのことは任せたわよ、枢木さん」
「ええ、そちらも気をつけて」
「ああ、それと」
「?」
これは、なんとなく言っておかなければ。
「あなたは時間を稼ぐって言ったけれど……別にあいつを倒してくれても構わないのよ?」
↑↑↓↓←→←→ ↑↑↓↓←→←→ ↑↑↓↓←→←→
- 282 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:22:26 ID:UdVqFzuY
-
民家のすぐ近くにある少し開けた公園。
そこで彼を待っていれば……さほど待たずに足音が聞こえた。
ゆっくりと。
最初に会った時と同じぐらいの速度で彼は歩いて登場した。
「よォ……。わざわざ待っててくれるとはなァ、随分と余裕あるじゃねェか!」
「予定通り、なんじゃないのか。君にとっては」
その言葉に笑みを広げて笑う彼。
そう、C.C.の治療のことを考えれば、ずっと逃げ続けているわけにもいかない。
どこかで留まり治療行為を行う必要がある。だから広範囲の移動はできない。
ならば、後は地面に落ちる血の跡をたどられればいけば遠からず見つかってしまう。
だからこその、待ちの体制。
きっと彼も同じように考えたのだろう。
できるだけ、移動に能力は使わないに違いない。
僕の予想ともあっている。
「―――ハ。どうしたンだよ、枢木。いい感じに覚悟決めた顔しやがって。てめェまさか俺に勝てると思ってンのか?」
「―――勝つさ。そして、君をここで排除する」
彼は今やルルーシュと敵対しかねない存在となってしまった。
だったら、ここで取り除いてしまうべきだ。
「……くか。言うじゃねェか。だったら!」
彼の方から湧き上がる殺意が、黒い意志が増大するのを感じる。
これは……!
「素敵に愉快にブチ殺してやンよォォォォォ!!」
轟ッ―――!
先程のパチンコ玉よりも重たい風を切る音が響く。
―――コーヒー缶!
質量、体積ともに大きくなったことで、単純に避けづらく、また威力も高まっている。
……だけど、それは知っている。
当たれば命を落すだろう一撃を、ギアスを発動させながら余裕を持って回避する。
「どっっっこ見てンだ、おらァ!!」
「な―――!」
しかし、回避した先には一方通行がいた。
超高速で移動して、先回りした?!
いや、それだって投擲した瞬間には移動をはじめてないといけない。
つまり、これは。
こっちが回避する方向を予測して……。
いや、最初からそう避けるように誘導されたってことなのか!?
ギアスの反応から予想する所、触れるだけで死ぬらしい彼の手が迫る―――!
「くっ、あああああああああぁああっ!」
回避行動の勢いのまま、慣性により彼の方向に近づいてしまう体を強引に動かす。
地面を蹴り、彼を飛び越えて着地。
今、上を飛び越えた隙に攻撃してこなかったということは。
やはり移動速度事態は高速でも、彼の反応速度事態は大したことはないようだ。
飛び越え着地することで、彼の無防備な背中が目に入る。
ついでなので彼の背後から銃弾を叩き込んでやった。
―――が、反射。
「だっっっから、効かねえんだよ、そういうのはよォォォ!」
反射された銃弾と振り向きざまに放たれたコーヒー缶を僅かな動きのみで回避。
大げさな動きは隙を作るだけだな。
しかし、能力発動はやっぱり自動、か。
いや、それならそれで都合はいい。
- 283 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:22:48 ID:UdVqFzuY
-
「死ね死ね死ねしねェェェ!!」
先程とは打って変わって真っ直ぐに飛び込んでくるだけの彼。
単純な突撃、避けるだけなら容易い。
最小限の動きだけで、それを回避するが―――。
「ははッ、お上手上手ゥ! ほうら、次だぜェェェ!!」
「な、そんな角度で……?!」
回避は容易い。
それは少々甘い考えだったのかも知れない。
空中での方向転換すら可能な彼に慣性なんていう常識は通じない。
避けた、と思えば即座に進行方向が変更。
物理法則的にありえない動きをして、こちらにむかって再突撃してくる。
(まずい……! 近距離じゃ、分が悪いか……!)
一度、二度、三度。
連続での突撃。
単純な速度だけならば彼の方が早いと言うのも不利な状況に拍車を掛ける。
こちらは彼に攻撃を加えることすら出来ないと言うのに、彼は僕に触れるだけで殺せる。
不利なんてレベルの問題じゃない。
反応速度の速さで今のところなんとか回避しているけれど、それだってこのままじゃ時間の問題だ。
だが、こんなところで、死ぬわけに……
「―――俺は、生きなきゃいけないんだ!!」
明日を、作るために!
完全に避け切れなくなる前に彼に向かって突っ込んで行く。
「―――ァ?」
そして、そこに正面からの蹴りをブチかます!
「……何してンだ」
当然、反射されるけれど……その反射を壁の反動と見立てて三角飛び!
足にかかる負担は当然尋常ではないはずだが……タイミングよく体を動かせばなんとかなるだろう。
これが最善の選択肢だと、ギアスが確信させる。
―――そう、触れられないなら触れなければいい!
反射がオートなら、反応速度が遅いなら。こっちからの近距離攻撃も反射してしまうはず!
これで―――!
「てめェ……」
ものすごい勢いで僕の体は弾かれて宙を舞う。
くるくると空中で回転しながらも姿勢制御。
すたん。と音を立てて僕は着地する。
5メートルほどは離れることが出来た。
勿論、彼にかかればすぐに接近することは出来るだろうが、先程の窮地からは脱した。
それに、もう今度はそう簡単に近づけさせない。
「仕切り直しと行こうか、一方通行―――!」
「舐めてンじゃねェぞ、てめェェェェェ!!」
そうだ。
これでいい。
危ない場面はあるものの、ギアスの力を借りればかわし続けることは不可能ではない。
時間は稼ぐことができる。
- 284 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:23:19 ID:UdVqFzuY
-
「オラオラオラオラララララァァァァ!!」
無茶苦茶に振るわれる彼の力。
絶対防御に絶対攻撃。
どんな攻撃も防ぐ力と、触れられれば死ぬしか無い手。
それを、紙一重で去なし続ける。
たまに銃弾を発射し――やはり、それが効かないことを確認しながら。
彼の多彩で多芸な技の数々から致命傷を受けないようにする。
だけど、流石に体力が、厳しくなってくる。
殆ど全力運動がここまで10分ほど。
そろそろ、厳しいか?
いや、まだまだ。
あと、倍ぐらいならなんとか戦って見せる!
「どうしたどうしたァ!? 動きが鈍ってきてンじゃねェのかよっ! 体もそこかしこ怪我だらけ!
もう諦めて楽になっちまえばいいンじゃねーのかよォ!!」
「そういうワケにも……いかないんだ!」
「じゃ、さくっつとプチっと、いっちまいなァ! …………あ?」
彼の手から、缶コーヒーが落ちる。意外そうな顔。
何が起こったのかわかっていない顔。
―――いや、僕には分かる。
最初から、これが狙いだったのだから。
銃弾を牽制気味に何発か発射する。
「―――ひ、だああああああああァァァっ」
大げさな仕草で転がるように躱す一方通行。
だが、避け切れずに何発か銃弾が腕や足を掠る。
―――やはり、時間制限だ。
そう、彼の能力は強力無比。
だからこそ、時間制限がある。
そのためだろう。彼は今までもどうしても必要な場面を除いて能力を使わなかった。
今回だって、逃げられる可能性があるにも関わらず、追跡するときにあの高速移動を見せなかった。
それは、能力に時間制限があるからに他ならない。
彼自身の口からも、それに近いことを聞いたことがあるし、今でもそれは変わらないと思った。
しかし、彼は本来はそんな能力制限などないのだろう。
制限時間に関する注意がどうにも薄い。
通常の場合はある程度意識しているようだが、熱くなるほどにだんだんと考えから外れて使いすぎているようだ。
時間切れに対する警戒心が薄かったと言うのも、この状況に持ち込めた理由の一つ。
―――戦場ヶ原さんには、最悪でも時間を稼ぐ、だなんて言ったけれど。
時間稼ぎ。
これこそが、僕に出来る彼を打倒し得る唯一の方法だった。
「……一方通行、チェックメイトだ」
荒れる息を整えながら宣言する。
「やっべェ……畜生っ!」
顔をこわばらせて後ろを向いて逃走しようとする一方通行。
だが、遅い。
一般人以下の体力の彼では、如何に疲労していようとも僕から逃げるだなんて出来はしない。
「―――終わりだ」
跳躍し、回転しながら放った蹴りが、ちょうど後ろを振り向いた彼の顔面に吸い込まれるように入っていった。
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- 285 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:23:44 ID:UdVqFzuY
-
くるくるくると回転して。
男は吹き飛び、ぐしゃりと派手な音を立てながら墜落した。
脚は折れ、腕は曲がり、口元からも血が流れている。
枢木スザクの蹴りが尋常でない威力をもつということがよくわかる。
どうして、こんなことになったのか。
そんな考えが頭をよぎる。
彼にはまだ確かな理解が出来ていない。
だって、先程までは、確かに自分が圧倒的に有意に立っていたはずなのに。
だというのに。
真逆まさかマサカ。
それらが全て演技だったとでもいうつもりか。
あの攻防も、あの死線も、全て演出に過ぎないと言うのか。
そんなバカな話はない。
嘘だ、そう否定してしまいたいと、考える。
しかし、実際のところ彼は地に伏せる敗者に過ぎず、対する相手はそれを見下ろす勝者に他ならなかった。
そして、勝者は敗者に向かって言葉を向ける。
「ぎゃはははははははははッ!! ずゥいぶんと素敵な面になったじゃねェか枢木サンってばよォォォ? どうしてどうだい今の気分はさァ!?」
―――そう、勝利したのは一方通行で、敗北したのは枢木スザク。
それが結果であり結末であり決着だった。
「ぐっ……!」
「はは、今は感動で言葉もありませン、ってかァ?! しおらしいことですねェ、ほンとゥに!」
スザクは、それにまともな反応を返すことさえできてはいない。
当然といえば、当然。
防御なんて考える必要もないと確信した最大の攻撃が『反射』されたのだ。
肉体的にも、精神的にもそのダメージは絶大だったと言っていい。
「ま……イマイチ何が起きたンだか理解できてねェようだから……説明してやンよ。
くかか、冥土の土産ってやつだ。ありがたく受けとれよ」
「それは……どうも……」
なんとか、言葉を放つがそれが一方通行に聞こえていたかどうか。
だけれども、そんな言葉など全く意に介した様子もなく、勝手に一方通行は話し始めた。
「そもそもよォ……。戦い方を見てりゃてめェが時間を稼ぐ戦い方をしてることなンてすぐに分かンだよ」
ちょっとは戦い慣れてる人間ならな、と言葉は続く。
「時間稼ぎ。そりゃ別に構わねェ。だが、問題は何が目的なのか、ってこった。
先に逃がした女二人のためかとも考えたが……効きもしねェと分かっているはずの銃を何度も撃ってきやがったことからてめェの目的はわかった。
―――てめェは、俺の限界を試してたンだろ?
確かにてめェには一緒にいた頃にちょっと情報を与えすぎちまったからな。俺の時間制限を利用しようが可笑しくねェ。
自然な成り行きだ。でもよォ、それじゃ俺が少しばかり困るわけだな。なぜって、まさに正しく俺を倒す数少ねェ、
いや、唯一と言ってもいい方法が時間稼ぎなンだからよ」
ここだけの話にしてくれよ、最強の座が危うくなる、と一方通行は笑う。
「それでまあ、一計を案じたわけだ。簡単なこった。ちょっと隙を見せりゃ大抵の奴はそこに漬け込んでくるからな。
能力の制限時間は過ぎたと勘違いさせるだけで事足りる。最初からそれを意識して期待してるなら尚更騙されやすくもなるっー寸法だ。
で、後は無様な演技を見せてやれば、あら不思議ィ? アレほど注意深かったアイツがこんなに容易く! ……ってな
皆大好きだよなァ、困難の末の奇跡の勝利って奴はさァ!?」
首輪の点灯するランプの色までベクトル操作で変えてたんだが、気づいたか?
そう言って、上機嫌な様子を見せる。
- 286 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:24:09 ID:UdVqFzuY
-
「―――ただ、それでも不確定なことはあった。てめェが戦闘の最初に見せた超回避。
あれの発動する条件を知りたかった。戦闘中にを暫く観察してみたが、常にあれほど神がかり的な回避をしている分けでもねェ。
つまり、オンオフ切り替わるタイプの能力だよなァ。だったら条件があるはずだ。ンじゃあ、それは何なンだ―――?
よく見てりゃ簡単なこったな。てめぇが超回避するのは死にそうなときだけだ。命の危機に大して覚醒するってか?
格好良いこったな、騎士さんはよォ。
ま、だったらこっちは生かさねェように、殺さねェように、適当に調整するだけだよなァ。
つまり、嬲り殺しにするのが一番確実ってこと……おっと」
話を聞いている振りをして呼吸を整え、逃走しようとしていたスザクの胸のあたりに、銃弾が叩きこまれた。
―――だが、ギアスは反応しない。
肋骨の骨が、折れて肺に刺さる。
アンチスキル用ニニ口径ゴム弾拳銃。
威力としては、教師が生徒に対して使うものなのだから、当然、殺傷能力はなく無力化する程度の力しかない。
つまり万が一にも死なないのなら―――スザクのギアスは発動しない。
異常の域に達している超回避はされなくて済む、ということ。
「いやはや……油断も隙もねェなァ。ちょっと油断するとすぐこうだ。
せっかくのサービスタイムなんだから大人しく聞いてろよ、なァ。
……まあ、てめェがこっちが負け演出しようが構わず嬲り殺しにするようならやばかったかも知れねェが……。
性格からしてねェだろうと思ったんでな。
足手纏いはどこまで行っても足手纏い。危険人物がたくさんいる場所で長時間放置はしたくないだろうよ。
できるだけ早く合流したかったんだよなァ!? だから、勝負を焦り敗北した。そういうこったな」
こうして終わって結果を聞いてしまえば全て一方通行の思い通りにすら感じられる展開。
知性、能力その両方を兼ね備えている。
それが、最強という言葉の重み。
「―――で、まだ聞きたいことはなにかあるか? ……そうか、ねェのか。なら、」
戦闘により排出されていたアドレナリンの影響が少なくなってきて、落ち着いたのか。
それとも単に面倒くさくなってきたのか、彼は返事を聞く前に勝手に言葉を紡ぎ。
「死ね」
スザクの左腕をつかみ。
赤い血の花を咲かせた。
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- 287 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:24:31 ID:UdVqFzuY
-
「枢木さんは大丈夫なのかしらね」
「…………」
「私が流行りそうな格好良い台詞で激励してあげたから大丈夫でしょうけれど」
「…………」
「なにか言いなさいよ。……まだすねてるの?」
「すねてない」
あからさまにため息を付いて見せる戦場ヶ原ひたぎに軽くイラッ、とする。
スザクと別れて20分は歩いただろうか。おぶわれているので正確な距離は測れないが、それなりの距離を進んだはず。
道すがら、特に当てもなくただ歩き続けながらの会話だった。
私も普通に会話ができるぐらいには回復しているけれど、あまり積極的に話す気には慣れない。
いや、別にすねているからじゃない。ちょっと考え事をしていたからだ。
そして、考えはまとまった。
「……なあ、戦場ヶ原ひたぎ」
「何よ、魔女」
相変わらずこの女は私の名前を呼びはしない。
どうせ記号のようなものだからどうでもいいけれど。
「―――私と、契約しないか?」
契約、それは一度完全に一蹴された提案。
そのことを蒸し返していると思ったのか。、戦場ヶ原の声も少し厳しくなる。
「ギアス、という力ならいらないと言ったはずだけれど」
「ちがう、ギアスのことじゃない。契約という言葉気に入らないなら取引と言い換えてもいい。
……とにかく、違う話だ」
「……取り敢えず、言うだけいってみなさい。聞いてあげる」
一人で話し続けるのにも飽きてきているところでもあるのだろう。
そう、戦場ヶ原は答えた。
「ルルーシュに会いたい。協力してくれ」
そんなこいつに自分を偽る気はなかった。おそらく腹芸など無意味だろうし、ストレートに言ってみる。
そうだ。ずっと考えていた。スザクが行ったことの意味を。どうしてルルーシュが私の望みを知っているのか。
どうして生きていて欲しいだなんて思うのか。それが知りたい。
性格から考えても、スザクの狂言と言う可能性は低いだろうし……。
とにかくそれが確かめたい。でないと私は他の何も選べそうにない。
そんな私を感じて戦場ヶ原はふむふむと頷いているようだ。
「ふうん、なるほど、ルルーシュ、ねえ。さっき話題に出てたわよね。あなたに死んで欲しくないとかどうとか」
……何を考えているのだろう。
嫌なことでなければいいが。
「つまりあなたはルルーシュって人と会ったときは人質として使える存在ってことよね?」
最低なことを考えていた。
- 288 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:24:56 ID:UdVqFzuY
- 「冗談よ」
……そうは聞こえなかったぞ。
「ところで私のメリットは何? 契約やら取引だというからには当然私にも利点があるんでしょう?」
「ん、阿良々木暦と会えるまで、お前を守ってやる」
「それはもともとなのでは。……というか、そんな状態で守る、だなんて言われても」
……もっともな話だった。
だが、他に差し出せるようなものがなにかあっただろうか。
ううむ。
「……はあ。まあ、いいわ。契約しましょう」
…………。
いや、お前は本当にどうしてしまったんだ。
あの悪意に満ちた戦場ヶ原ひたぎはどこへ行った。
「断ったからって今更、それじゃ阿良々木くんの探索は手伝わない、だなんて言われたら癪なだけよ」
いや、別にそんなことをいう気はないが。
「それに、もう一度前払いされてしまったのだしね」
……え?
「守ってくれたじゃない、あなた。その恩ぐらいは返すわよ」
「戦場ヶ原……」
「だから、契約をしましょう。―――C.C.」
―――なんて奴だろう。
本当にコミュニケーションが下手な奴だと思う。
言い訳を作り、理論武装して、一生懸命に。
わかってしまえば本当にいじらしく健気なこいつの本質。
少しだけ、背中から回した腕を強くする。
「……阿良々木暦とやらは、お前のそんなところに惚れたのかもな」
「……? 何を言ったか聞こえなかったわ」
聞こえなくてもいい。聞こえないように言ったんだ。
勝手に自己満足しながら、今度はちゃんと聞こえるように、はっきりとした声で伝えた。
「―――ああ、契約だ。ひたぎ」
- 289 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:25:24 ID:UdVqFzuY
- 【D-4 東/一日目/真夜中】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:ポニーテール、戦う覚悟完了
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている、ヘアゴム
スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(1〜3、確認済)、バールのようなもの@現地調達
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
0:スザク、C.C.らと象の像を目指しながら阿良々木暦を探す。
1:ルルーシュを探してC.C.と出会わせる。
2:正直、C.C.とは相性が悪いと思う。
3:…上条君。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
※安藤から帝愛の情報を聞き、完全に主催者の事を信用しない事にしました。
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康、腹部に刺傷(応急手当済み、ほぼ治癒済み)、腹部、胸部、脚部などに大きな傷(治癒中)戦う覚悟完了
[服装]:包帯@現実
[装備]:アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2、赤ハロ@機動戦記ガンダム00
[道具]:基本支給品一式 阿良々木暦のマジックテープ式の財布(小銭残り34枚)@化物語
ピザ(残り54枚)@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:ルルーシュと共に、この世界から脱出。
不老不死のコードを譲渡することで自身の存在を永遠に終わらせる――?
0:ルルーシュに会って答えを聞く。
1:戦場ヶ原ひたぎと行動を共にし、彼女の背中を守ってやる。
2:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない
3:阿良々木暦に興味。会ったらひたぎの暴力や暴言を責める。
4:正直、ひたぎとは相性が悪いと思う。
[備考]
※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『過去 から の 刺客』の間。
※制限によりコードの力が弱まっています。 常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。
通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません
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- 290 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:26:02 ID:UdVqFzuY
-
真っ赤な血が飛び散っていた。いや、ただの血ではない。
骨、肉、皮、その他もろもろ。
人間を形作るものの、破片。かつて“枢木スザク”だったものが、そこらかしこに散らばっていた。
「はァン。悪くねェな。これだけありゃァ」
返り血ひとつ浴びてはいない一方通行は、枢木スザクのデイパックの中身を物色していた。
特に特色のある物品はそれほどなかったものの、装備をかなり充実させることが出来た。
これで、今よりも能力に頼りすぎない戦い方が出来るようになるだろう。
「つっても、もう少し落ち着かねェとな。ここのところ戦闘するとテンションが上がりすぎていけねェ」
自責しながら首輪について考える。
ゼクスを殺した後、その首輪についても調べてみたが……やはり、生きている時と死んでいる時では勝手が違うようだ。
既に死んだ人間の首輪であればもう外せるかもしれないが、やはり生きている人間にとなると不明な点が多く自信はない。
だから、出来れば無力そうな人間を何人か生け捕りに出来ればよかったのだが……。
……逃げられてしまった。
まあ、仕方ない。追うにも能力の残り時間が30秒程度ということを考えると辛い。
追っている途中で信長あたりに出くわせばぎりぎり逃げられるか、という数字。
真っ当に相手をするならもっと欲しいところ。
だからまた、能力制限が回復するまではおとなしくしていることになりそうだ。
「……逃げた奴らもあの傷じゃ死ぬだろうし、首輪は惜しいが、諦めてお仕事完了といくかねェ」
ふわ、とあくびをして。
物色を一旦切り上げて一方通行は近くの民家に侵入することにした。
【D-5 民家/一日目/真夜中】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(完成)、能力残り時間30秒
[服装]:私服
[装備]:パチンコ玉@現実×大量、アンチスキル用ニニ口径ゴム弾拳銃@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式×4、缶コーヒー各種@現実×多数、首輪×3(アーチャー、利根川、ゼクス)、
H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数5/12発/)@現実、3499万ペリカ、おもちゃの双眼鏡@現地調達、
真田幸村の槍×2、H&K MP5K(SMG/40/40発/)@現実、その他デパートで得た使えそうな物@現地調達、ピザ×10@現実
Draganflyer X6(残バッテリー約10分)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実、士郎の首輪解析メモ
デイパック(サーシェスの死体入り)、ノートパソコン@現地調達、オレンジハロ@機動戦士ガンダムOO、9mmショート弾(14発)
救急救命セット@現実、柳刃包丁@現実、工具一式@現実、雑誌@現実×多数、真田幸村の首輪、 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実
タバコとライター@現実、ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、ドラグノフ@現実(10/10)、
GN首輪探知機@オリジナル、平バール@現実、麻雀牌@咲×31個、ユンケルスター@現実×8
コンビニの商品多数(内容は後の書き手さんにお任せします)
[思考]
基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。
0:制限時間が回復するまで身を隠す。
1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)。
2:このゲームをぶっ壊す!
3:首輪を解析する。首輪を解除出来たらあの女(荒耶)をブチ殺す。
4:上条当麻は絶対に絶対に絶対に絶対にブチ殺す。
[備考]
※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
※ライダーの石化能力・藤乃の念動力の制限・信長の瘴気・荒耶の魔術(不完全)を分析しました。
※式の力で、首輪の制限をどうにかできる可能性があると判断しています。
※橙子(荒耶)の名前は知りませんが、首輪の魔術礼装の作者ではないかと考えています。
※ゼクスから士郎が解析した首輪の構造情報を入手しました。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
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- 291 :生物語〜すざくギアス〜 ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:26:24 ID:UdVqFzuY
-
俺は、生きなくちゃいけない。
ギアスが俺にまだ生きろと囁いている。
そうだ。俺は生きなければいけない。
やらねばならないことがある。
たくさんの、罪を犯した。
大勢の人を殺した。
その償いをしなければならない。
ゼロレクイエムを経て。
あの時、謎の攻撃で体ごとバラバラにされそうだった瞬間に、ギアスの力が発動した。
所有していた鉈で一方通行に掴まれた左腕を一閃し、切断。
腕が四散していき、血煙が飛び散ったのを迷彩として逃げた。
幸い彼が追ってくることはなかったが……。運が良かったというべきなのかもしれない。
だくだくと切り裂かれた面、左肩から血が流れ落ちる。
このままでは失血死するのも時間の問題だろう。
だが、生きなくてはならない。
右足は蹴りを『反射』されたときに折れた。それを無理やり動かしているんだから。もう、歩けなくなっても可笑しくはない。
だが、生きなくてはならない。
肋骨も折れて肺に刺さっているのだろう。呼吸することも困難だ。
それでも、生きるしか無い。
俺の瞳からギアスの色が消えることはない。
それは、命の危機が常に迫っている……つまり、体がもう限界だということ。
だけど、生きなくちゃならない。
血反吐を吐き、泥にまみれ、再起不能になろうとも。
あと少しで命尽きることが確かであったとしても。
俺は、それでも、どんなことをしてでも。
生きる。生きる。生きる。
生きなくては、いけない。
【D-5 南/一日目/真夜中】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(極大)、左腕切断、脇腹に銃創、右足骨折、肋骨骨折、「生きろ」ギアス常時発動中 、出血多量
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:ベレッタM1934(5/8)、GN拳銃(エネルギー残量:中) 、鉈@現実
[道具]:
[思考]
基本:生きる
0:生きる
[備考]
※ラウンズ撃破以降〜最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※もしかしたら『敵のアジト』が『黒の騎士団のアジト』ではないかと少し疑っています。
※三回放送の前後に『E−3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランを政宗と神原から聞きました。
※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※政宗、神原、レイ、アーチャー、一方通行と情報を交換しました。
※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
※通常の治療方法ではまず助からないでしょう。
- 292 : ◆1aw4LHSuEI:2010/06/06(日) 23:27:00 ID:UdVqFzuY
- 以上で投下終ります。
まだご指摘のほうございましたらよろしくお願いします。
- 293 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/06(日) 23:43:22 ID:qsmnOI7M
- 投下乙でした。
ガハCペア、いいなぁ。なんとも言えないこの雰囲気が。
ガハラさん頑張れ、もうすぐるるる木さんに会えるぞ!
スザク「ギアスが俺にもっと生きろと囁く」
冗談は抜きにしてヤバイなスザク……上条ユフィ(予定)と会えても回復の見込みは……
- 294 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/06(日) 23:51:50 ID:h0YSzR/6
- 投下乙です!
ひたぎさんいいなーかっこいいし、可愛いし
C.Cとの漫ざおっと友情も円熟みが出て来てる。
というかやっぱ上手いなー。
スザクもビックリするほど健闘したけど死線潜り抜けた一方さんには通用しなかったかー
色々と痛々しいけどがんばれー超がんばれー
- 295 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 00:05:46 ID:N8UOK0eU
- 投下乙です
ひたぎさんかつけーw
それに確かにCCとの関係が強固になってきてるな
スザクは奮闘したが駄目だったか
さて、瀕死のスザクのこの先はどうなる?
- 296 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 01:02:09 ID:6eyCVZ/U
- 投下乙です
スザク、善戦はしたがダメか…命があるだけマシなのかな…
ひたぎさん、アンタはさっさとバララ木さんに会いんしゃいw
- 297 : ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:15:04 ID:fP2VNZ8Y
- 遅くなりました
東横桃子、ルルーシュ・ランペルージ、秋山澪、平沢憂
本投下します
- 298 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:17:08 ID:fP2VNZ8Y
-
TRIGGER 1:『日常のアリカ』
階段を上り終えて、長くて暗い廊下を進んでいた。
天井には蛍光灯がぶら下がっているけれど、安全面を考慮すれば電気を点ける訳にはいかない。
「危険人物に捕捉される可能性がある」などとルルーシュさんに指示されるまでもなく、私にもこのくらいの事は分っている。
危機感を絶やしてはならない。今はもう、この島の全域が戦場なのだと考えるべき。
だから夜間とは言え、室内で安易に明かりを点けるのは危険行為だと。
分ってる。分ってはいるんだ。
その場所が例え、昨日までの私にとっては日常の一部であったとしても……。
廊下の途中で立ち止まり、スライド式のドアをなるべく音を出さないように開いて、おずおずと慎重に内部を伺う。
これほど警戒的な気分で教室に入ったのは初めてだ。
――学校の教室。
室内には、壁に大きな黒板があって、教卓があって、30〜40の机と椅子がずらりと並ぶ。
どこの地域でも変わらない定番の光景だった。
当然、私が通っていた高校と比べても、あまり差異は無い。
だからつい重ねてしまう。
ああ……そうだ、私の席はあそこだ。
いつもそこに座って授業を受けていた。
それから、真鍋和の席はそこ。
二年のクラス替えで軽音部のみんなとは別れてしまったから、彼女が一緒のクラスと知ったときは凄く安心できた。
更に言うと、唯たちの教室ではいつも、唯があの辺に座ってだらけていたな……。
で、律は確かこの辺で、紬が……多分そこで……。
それから……それから……。
「…………」
憶えている。
ぜんぶ、ぜんぶ憶えている。
だって昨日の事だ。
忘れるはずが無い。
昨日までは、ごく当たり前だった光景を幻視して。
なのに、どうして。
私はそれをいま、こんなにも遠くに感じているんだろう……。
「…………ぁ」
こんなにも近くて、なのに遠すぎる日常の風景。
私は、私の席(在るべき場所)に触れ。
こみ上げてくる何かを――。
「――さん? 澪さん? どうかしたんすか?」
吐き出してしまう直前。
すぐ隣から聞こえた声によって、はっと我に帰る事が出来た。
教室の後ろの方で立ち尽していた私。
そのすぐ隣に、東横桃子が立っている。
「あ……え……い、いや、なんでもないよ……桃子ちゃん」
正直言って、彼女の存在を完全に失念していた。
ルルーシュさん達の仲間になるに際、一応の紹介は受けているから、
彼女の……その、『すてるす体質』だとか何とか言うのは聞いている。
実際、彼女の存在感は希薄なんてレベルではなく。
初めてルルーシュさんに紹介されるまでは、まったく居る事に気づけなかったけれど。
まさかここまで近くにいて、しかも居る事を知った後にすら意中から見失うなんて……。
「私が居るってこと、忘れてたっすか?」
- 299 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:17:48 ID:fP2VNZ8Y
- 私の目尻に浮かんだ物に気づいているのか、いないのか。
いや、きっと見られているのだろう。桃子ちゃんが苦笑い気味に聞いてきた。
下手な釈明をするよりも、ここは流してしまおう、と。
開き直るように私は「うん、ごめんね」と頷いて、恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じる。
だがその直後、今目の前に居る少女が先程の一瞬において、私に殺意を抱いていたとしたら。
私はどうしようもなく殺されていたという事実を遅れて理解し、顔の紅潮は一転して肝と共に冷え切った。
「も、もう出よう……とりあえず、この教室には何も無いみたいだし」
目の前の少女に対する少しの恐怖とばつの悪さに、すごすごと教室から出る。
後ろから付いて来る桃子ちゃんを今更のように意識しながら、またしても月明かりを頼りに長細い廊下の道を進んだ。
こみ上げる感傷を押さえつつ、次の教室のドアを開く……。
私たちが今行なっている『学校の探索』。
式達との兼ね合いもあり、ルルーシュさん曰く『迅速に、かつ安全に行なう』だそうで、探索は分担作業になった。
この学校という施設において。
幾つもの部屋をいちいち全員で見回っていては時間が掛かりすぎる。
なのでまずは一階をルルーシュさんが探索し、その間に私と桃子ちゃんが二階を探索。
その後に合流して、全員で三階を探索するという形だ。
という訳で、現在の私たちは役割通りに二階を探索しているのだが……。
このときの私には少なくない危機感が在った。
一階から二階に渡る階段。その二つある内一つが、捻曲がって破壊されているのを見たからだ。
人の力で出来る事とは思えず、また自然現象としても在り得ない光景。
これだけの異変に対して、静まり返っている学校の状況から、おそらくは過去に発生した戦闘の名残だろうとルルーシュさんは言った。
とはいえ、こんなことが出来る者がこの島にはいる。いやもしかすると近くに居るのかもしれない。
なんて考えると、自然に体が強張ってくる。
廊下の中間までの教室を全て見回ったけれど、目立っておかしな点もなく、やはり誰も居なかった。
与えられた通信機を耳に掛け、なれない手つきで通話ボタンを押す。
「二階、廊下の中間まで来たけど、異常は無いです」
『了解した。こっちも今のところ異常なしだ』
こうやって、小まめにルルーシュさんと連絡を取り合う事で、全体の安全面に配慮する。という事らしい。
確かに、固まって移動した所で片腕を骨折したルルーシュさんや、ただの女子高生である私達では纏めて殺されるのがオチ。
ならば各自が散らばって、発見した危険を迅速に他へと伝えた方が効率いい。という事らしいけど。
危険を聞きつけた『仲間』とやらは、果たして助けに来てくれることやら……。
そういえば、どうしてルルーシュさんは、ここまで入念に施設を調べようなんて言い出したのだろうか。
あの人は何かを探している様子だったけれど……。
学校なんて無視してもいい施設だと私は思う。
自販機もはずれだったし、
狭くて戦いになったら危険だろうし、現に桃子ちゃん以外はみんな等しく危険を背負って……。
ってあれ……? 桃子ちゃんは……どこだ?
少し意識の向きを変えていた間にまたしても見失ったらしい。
必死に先程まで彼女がいた筈の背後と、ついでに左右を伺うも、やはり見当たらない。
廊下はシンと静まり返っている。人の気配などどこにも無い。
にわかに……生唾を飲んで……。
背後に隠れられるような場所を探しながら――。
「桃子……ちゃん……?」
「はい、なんすか?」
「うわっ!」
唐突に、苦笑いというより呆れた様子の桃子ちゃんが、ぼやけた輪郭で目の前に立っていた。
「そっちが呼んでおいて、何を驚いてるっすか……」
- 300 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:18:09 ID:fP2VNZ8Y
- 私は「いつまに前方に回りこんだのか」という突っ込みを堪えつつ、彼女の姿をまじまじと見た。
何度か目にした光景とはいえ、どうしても慣れそうにない。というか苦手だ。
突然ドロリと出てこられるのはこちらの心臓に悪い。
それに今は、夜の学校の廊下というシチュエーションと相まって……。
相まって……。
夜……夜の、学校……少女……どろり……。
そういえば前に律が言ってた怪談話によく似たのが――。
「……う」
いやいやいやいやいや。
私はこんな状況でなにくだらない事を連想しているのか。
というかそんな事で怖がれる神経が残っていた事に驚きだ。
いやいやまて、怖がってなんかないぞ。
今更、怪談を思い出してビビるとか……そんな……わけが……。
「……って、桃子ちゃんどこだよぉっ!?」
また見失っていた。
周囲が暗いこともあってか、少し意識が逸れたり、彼女に移動されるだけで見失う。
それとも私の注意力が散漫なのか。
なんにせよ、その時の私は一人きりにされたような錯覚に陥って、あたふたと必死に周囲を見回していた。
実に、ビビりまくりであった。
「しー! あんまり騒いじゃだめっす。一応ここは危険かも知れないんすよ?」
そうして、横から聞こえた小さな声と、発見できた少女の姿に安堵する。と同時に、また赤面するしかない。
これでは年上の威厳ゼロである。
梓といい、桃子ちゃんといい、白井さんといい、私は年下にみっともない姿を見られてばかりだ。
「ごめん……また見失ってたから……」
「それはしょうがないっすよ。今の私はステルス全開っすから。
あの両義って人やデュオって人なら兎も角、澪さんじゃあ例え私がここに居るって知ってても、見失う事だってそりゃあるっす」
相変わらず立っているというより揺らめいているような印象で、制服姿の彼女はそこに在った。
が、「じゃあ、私はまた消えてますから」というセリフと共に再び気配を消し始めたので、私の安堵も消し飛んだ。
「あっ……ちょ……ちょっと、まって……」
ううう、不味い。
これじゃ一人にされているのとなんら変わりない。
とりあえずこの心境で一人きりはちょっと……避けたいというか……。
「はぁ……なんすか……?」
いっそう呆れた様子でありながら、消えるのを待ってくれた桃子ちゃんに向かって。
私は躊躇いながらも、一度恥をかいてしまったのだからもう一緒だ、と開き直る事にする。
「あの……手」
「手?」と、首を傾げる彼女に腕を伸ばす。
「手を……繋ごう」
「え? どうしてっすか?」
「ああほらもしもの時に桃子ちゃんがどこにいるか分らないと困るとかなんとか考えたりしたりしてゴニョゴニョ……」
『この人、いきなり何わけが分らないを言い出すんだ?』
とでも言いたげな様子の桃子ちゃんから、目を逸らしつつ、モゴモゴ答える。
ホントの事を言うと一人にされるのが怖いだけなのだが、流石にそんな事は情けなさ過ぎて言える訳が無い。
本当に情けない。情けないけれど。
この時、私は少しの安堵も感じていた。
子供じみた恐怖を感じている自分。それはいつもの私。
情けない私。だけどそれは間違いなく私の日常に在ったものだから……。
みんな死んでしまって、人殺しに成り果てて、変わってしまった今の私にも、そんな些細な心が残っている。
そんなことに、ほっとしているのかもしれない。
- 301 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:18:31 ID:fP2VNZ8Y
-
「むぅ……しょうがないっすね……」
では。いま私の手を握ってくれたこの少女は、果たして何を思っているだろうか。
桃子ちゃんも、昨日までは私と同じような女子高生だったはず。
ならば私と同じように、ある種の感傷に囚われていてもおかしくない。むしろそれが自然だろうけど。
そもそも、私は彼女の事をよく知らない。
診療所で始めて会った際に、とりあえずの自己紹介を受けたとはいえ、彼女の目的や事情については聞いていない。
どうして彼女はこの集団に入ったのか。
この集団に属しているからには、彼女にだって堂々と言えない目的があるのだろう。
私や、私以上に変わってしまった憂ちゃんのように。
「………」
その事情を聞こうとして、やっぱり止めた。
私は多分、彼女の事を知るべきではない。
ルルーシュさんが言うように、私達は利用し利用されあう関係だ。
今はまだ協力関係かもしれないけれど、この先ゲームが進んでいったら、いつ誰が敵になるかわからない。
いつか、裏切られる時が来るかもしれない。
今は共に歩いている彼女の手を、振りほどかなきゃきけない時が来るかもしれない。
だから、私は隣を歩く桃子ちゃんの事を知るべきではない。
いつ敵になるかも分らない人に、心を傾けちゃいけない。
例えばこの廊下の向こうに、殺し合いに乗った者が居たとしよう。
そのとき私は隣を歩く彼女を犠牲にしてでも、生き残らなければならないのだ。
きっと桃子ちゃんも、そうするだろうから。
――でも私に……本当にそんな事が出来るのかな。
この集団を利用する。
などと言ったものの、実際に裏切ったり、裏切られたりする事態に直面したとき、私は躊躇ってしまうのでは――。
「…………っ」
軽く首を振って、雑念を打ち消した。
弱音なんか吐いていられない。出来る出来ないじゃなくて、やるんだ。
砕け散った日常。
それを取り戻す為ならばどんな犠牲も厭わないって、決めたはず。
望みを果たすまで、私は――弱い自分を肯定する訳にはいかない。
背負った思いがどれほど重くても、今の私には抱えて、耐えて、前へと進む事しか出来ない。
この茨の道を突き進んだ先に、あのやさしい日常を取り戻せる。そう信じることしか……。
「澪……さん? 震えてるっすか?」
「なんでもない……なんでも……ないから」
だけど。
チクリと、心に刺すような痛みが走り続けている。
私は立ち止まるつもりなんて無い。
戦う事に迷いも無い。けれど。
――私は、握った手の平を利用する。
――私の手がもう一度、真っ赤に染まる。
それを心中で思い描くとき。
何故だろう。
私の望む日常がまた一つ遠のいていくような、そんな錯覚に陥ってしまうのだ。
- 302 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:19:39 ID:fP2VNZ8Y
-
TRIGGER 2:『天上の地獄』
――学校っすか。
小学校、中学校、と。
そこでいつも一人だった私としては、別に大した感慨なんて無い……。とか、思っていたんすけどね……。
やっぱり高校以降は、私にとっても特別な場所だったようで。
少しだけ、普段とは違う気分になってしまいました。
それは懐かしいような、寂しいような。微妙な感覚っす。
けれど、どうやら隣を歩く澪さんはもっと複雑な心境のようで。
教室を開ける度に、繋いだ手の平から若干の震えが伝わってきたっす。
というか、この繋いだ手。
よくよく考えたら、けっこう良くないものかもしれません。
例えばこの廊下の向こうに殺し合いに乗った者がいたとして、
私だけ消えてやりすごす、なんて作戦が使えないっすから。
澪さんがそこまで考えて提案したかどうかは兎も角、これは有効なステルス殺しっすね。
なんて考えつつも、先程から考えてきた事柄も思考継続中っすよ。
むしろこれが本題っす。
これから、どう立ち回るか。
生き残るために、準備するべき事。
そのための思慮。
施設の探索は、どうやら澪さんが頑張ってくれてるみたいっすから。
その間に私はちょっとサボタージュして、作戦を練ることにしたっすよ。
私にとって最適のタイミングで、私達を纏めるルルさんを殺す。
これは結構、大変なこと。
何しろルルさん、今は強力な味方っすから。
出来る事なら最大限に利用してから。かつ私の敵になる直前に、消えてもらいたい訳でして。
ではいつ殺すのか、となると。これがなかなかむずかしいっすね。
良い機会が在るとすれば、もうちょっと参加者が減ってから、政庁での乱戦の様な混乱を極めた舞台が巻き起こって。
そこで上手く立ち回り、他の参加者が最大限に減るのを見計らってから、殺す。
これが定石っす、けど……。
そうなる前に、早い内に布石を打っておくべき。
まずは、消したい懸念が一つ。
先程考えた二対一対一の状況についてっす。
私達四人の協力関係が、敵対関係へと切り替わったとき、私は明らかに不利な立場となるっす。
ルルさんと憂ちゃんは確実に組むっすから。
二対一対一。
だから、その状況を前もって解消する為に……。
「ねえ……澪さん……」
私はいま、私の手を握っている人を利用する事にしました。
ルルさんと憂ちゃんが組むとなれば、私は澪さんと組めばいい。
彼女の条件は私と同じ筈っす。
更に言えば、この集団に属している目的も、私に近いものがあるっすから。
明日の敵が明らかならば、今日の友も明白っすよ。
「ん、どうした? 桃子ちゃん」
ここで求める物は密かな協力体制。
いずれ来る崩壊に先駆けた同盟。
けれども具体的な話を切り出す前に、横槍が入ってしまいました。
『こちらルルーシュだ。状況はどうだ?』
「っと、相変わらず異常なしですけど……どうかしたんですか?」
突然、ルルさんからの通信が来て、澪さんが不可解な表情で応答したっす。
私達はまだ、二階の全ての教室を見回ってはいません。
にも関わらず向こうから通信が入ったということは、おそらくルルさんは一階で何かを見つけた、私はそう予想したっす。
- 303 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:20:19 ID:fP2VNZ8Y
-
『一階の図書室に仕掛けがあった……が、片手では満足に調べられそうにない。
桃子か澪……そうだな。澪は一階の東側に下りて俺の手伝いをして欲しい。
桃子は引き続き、二階の探索をステルス状態で続行してくれ』
「だが、くれぐれも無理はするな」というルルーシュさんの言葉で、通信は締められました。
さて、私の予想が見事に的中したわけなんすけど……。
澪さんが居なくなった事で、私の『準備』はここで一旦お休みとなりました。
まあ、しょうがないっすね。
探索を終えて、ホバーベースに戻ってから、ゆっくり澪さんと話せばいいだけっすから。
なんて、そんな悪い事を考えながらも。その時の私はまだ、心のどこかで期待していたのかもしれません。
私はこれまで、ルルさんの策を目の当たりにしてきました。
素直な感想としてあの人の事は本当に凄い人だと思っていました。
憂ちゃん、澪さんを上手く纏めたり、利用したりする手際には心から感心して、自分が生き残る為の参考にもしたっす。
ここまで生きてこれたのは彼のおかげかもしれなくて……だから、少なからず感謝すらしていたんすよ。
それはルルさんに限った話でもなくて。
憂ちゃんも。
最初は発言に引いていたけれど、友達だと言われた時には、少し嬉しかったっす。
澪さんも。
凄く無理をしている印象だけど、悪い人じゃないことは私にも分るっす。
私だって本当は、誰も殺したくなんかない。
特にこの人たちは……。
きちんと認識されて、協力する。必要とされる。
それはとても新鮮なことで、殺し合いの場だというのに、どこか心地よくて。
私は……本当に……本当に馬鹿げた想像っすけど。
ルルさんも、憂ちゃんも、澪さんも、私も死なずに――そして私の望みも叶う。
なんて、ご都合主義的なハッピーエンドを、このときはまだ心のどこかで、期待していたのかも……しれません。
ああ、だけど。それはもしかすると、私にとっての『運命の分かれ道』だったのかもしれない、と。
今はそんなことを思うっす。
この時。
澪さんが一階に降りていったときには、既に殆ど探索できていた二階の教室を全て見て回った後。
手持ち無沙汰になった私が、一人で三階へ続く階段を上る、なんて行為を選択しなければ……。
もっと他の、私も澪さんと共に一階へ下りるとか、おとなしく二階で待っているなりしていれば……。
ただ、私にだけ降りかかった、鮮明で、残酷で、真っ赤な、心境変化。
それを見る事は、無かったかもしれないのに……。
ぎしっ、と。
いま私は、まるで導かれるように一段目を踏み出しました。
地獄へと一直線に昇っていく階段。
その一段目を――。
- 304 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:20:50 ID:fP2VNZ8Y
-
TRIGGER 3:『絶壊心理/つめたいてのひら』
二本の腕を前へと突き出して、静かに空を握りしめた。
まず最初に想像するものは操縦桿。宙に思い浮かべる金属レバーの先端を、私の五指が包み込む。
今私が座っている椅子を狭苦しいコックピットの椅子に見立て、環境を一致させる。
そこまでくれば、後はもう簡単だ。
操縦桿と連動するように、サイト(照準)が目前に思い浮かび、同時にターゲット(攻撃目標)の姿も眼前に現れて……。
「ふふふっ……あららぎさん。今度こそ逃がしませんよ〜」
邪悪っぽく笑って、操縦桿を握る手を前後左右、縦横無尽に動かした。
猛る巨体。走行する装甲兵器。
先程まで体感していたリアル感覚を想起する。
操縦桿の重さや、全身に掛かるGを意識しながら、腕の動きに加えて指先の動きも開始した。
テクニカルな挙動には欠かせないというブレーキ機能を使って、教えて貰った範囲における全ての動きを実現する。
それを終えたら自己流の動きも試してみよう。
握る操縦桿を旋回させると共に突き出して、機体をジャンプさせながら捻りを加える。
半回転。一回転。二回転。三回転。
そして、実際には試しきれなかった四回転すら実現して、着地。
仕上げに。サイトに捉えた目標に向かって、トリガーに添えた親指を冷酷に引き絞る。
狙いの付け方や撃ち方などは教わっているけれど、実際に射撃する経験はまだ無い。
巨大な銃口から鉄塊が吐き出されていく光景も、私の想像が百パーセント。
とはいえ、実際の光景とあまり差はないだろう……と思う。
少なくとも、及ぼす結果だけは変わらない。
だから私の勝ちだ。
「……ふぅ」
大質量の弾幕によってターゲットが跡形もなく消し飛んだ光景を幻視して、私はほうっと一つ息をついた。
「イメトレ……終了」
腕を下ろしながら、乗り出していた身体を後ろに倒す。
ホバーベース操縦席の、大きめの背もたれが私の身体を受け止めてくれた。
一瞬、ふかっとしたシートに脱力状態で見を任せた後。
「う〜〜〜〜〜〜〜んッ!」
っと、一つ伸び。
手足がピクンッと跳ねるのを感じて、また脱力する。
ホバーベースの中は快適だ。
ゆったり広々とした空間に空調まで整っている。
このバトルロワイアルの参加者で、今の私達ほど恵まれた環境で移動している人はいないだろう。
実に
「やくとく、やくとく」
である。
私の役目はルルーシュさん達が戻ってくるまでの間、
操縦席にて肉眼で見える範囲の監視と、橋周辺の様子を盗聴器で警戒しておくこと。
別にそれをサボっていた訳じゃないけれど。
一人ぼっちの見張り役は何だかとても時間が長く感じられて、退屈だった。
だから監視作業と平行して、出来る事をやってみようと考え。
こうして、えーと『ないとめあふれーむ』を動かすイメージトレーニングに励んでいたのだ。
「これで、少しは上達したのかな……」
自信は無い、けど無駄なことでも無い、と思う。
サザーランドは私にとって、現状における最強の武器だから。
もっともっと上手く扱えるようになる事が、私の生存率を上げる結果にも繋がるだろう。
こうして空いた時間にでもトレーニングして、少しでも上達を早める事がきっと大事。
- 305 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:21:27 ID:fP2VNZ8Y
-
でも、イメトレはもうこのぐらいで止めておこう。
先程からこれに熱くなりすぎて、少しだけ監視が疎かになっていたと思うし。
何事もほどほどに、ということだ。
……それにしても。
「静かだなぁ……」
当たり前だけど。
この場所で聞こえるものは、私自身の声と空調の音くらいしかない。
とてつもない静寂に包まれたリラックス空間である。
気を抜けば、目蓋が重くなりそう……。
「退屈だなぁ……」
それに、イメトレを止めてしまえば、もうこの場でやる事が無くなってしまった。
他の手段で時間を潰そうと思うと、どうしても操縦席から離れなければならなくなる。
監視をサボってフラフラするわけにもいかないし……。
「ルルーシュさん。遅いなぁ……」
私が体感しているほど、時間は経ってないと思うけれど。
思ったより、探索に時間が掛かっているのは確かだ。
何か面白い物でも見つけたのかな。
それとも、何かよくない出来事でもあったのかな。
『何かあれば、こちらから連絡を寄こす』
その言葉を思い出し、「異変があった訳じゃないのに、通信を寄こしたりしたら迷惑かもしれない」という思いに駆られて。
通信機へと伸びかけていた腕を止め、もう一度深く椅子に腰掛けた。
とにかく、監視に集中する事にしよう。
「ふーむ……」
やはり何も起こらないのが最良とは言え……。
暇だ。
「キミを見てると いつもハートどきどき」
何気なく歌を、小さな声で歌ってみる。
「揺れる思いはマシュマロみたいにふわ〜ふわ」
うん。
これなら気も紛れるし、監視からそれほど意識が逸れることもないよね。
私はそんなふうに。
暫くの間ぼんやりと歌い続けながら、ライトアップされた夜の景色を眺め続けていた。
「あぁ カミサマお願い 二人だけのDream Timeください」
選んだ曲に、大した意味なんて無い。
ただなんとなく歌を歌おうと思って、なんとなく脳裏に浮かんだ歌がこれだっただけ。
それだけの事だ。
「お気に入りのうさちゃん抱いて 今夜もオヤスミ」
その癖、ビックリするほどすらすら歌詞が思い浮かぶのは何故だろうか。
「ふわふわ……ふぁ……ぁ」
疑問を断ち切るように欠伸した。
『オヤスミ』なんてワードを呟いたせいか、いよいよ本格的に目蓋が重い。
あ、そっか、やけに眠いと思ったら、そいういうことか。
普段の私はこの時間まで起きてる事なんてない、きっとそれが理由。
- 306 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:21:52 ID:fP2VNZ8Y
-
私は早起きして、お弁当を作らなきゃいけないから。
私の分と、それから……お姉ちゃんの分……。
布団に入る時間なんてすっかり忘れていたけれど、身体は憶えていたらしい……。
――刹那の間隙に、意味不明の寒気を感じた。
「いけない、いけないっと」
このまま、眠ってしまうわけにはいかない。
私は二度目のあくびをかみ殺しながら、しゃんと背筋を伸ばす。
軽くほっぺたをつねってみた。
頬肉をぎゅううっとのばして、パチッと離す。
「うう……いひゃい」
でも代わりに、ぼうっとした熱と共に眠気が引いていく。
これでよし。
やっと集中して見張りを……。
――今度は明確な気配を感じて、私はにわかに総毛立った。
「……!?」
誰かに、見られている。
そんな確信に近い予感。
椅子ごしに、私の背中へと突き刺さっている、冷たすぎる視線の気配。
凄まじい質量だった。
まるで部屋が真空になったのではないか、と錯覚するほどの束縛。
恐ろしいまでの閉塞感が場を支配する。
「だ……誰!?」
数秒の時をかけて、何とか首を捻り背後を伺おうとする。
が上手く行かない。
どうしてか、首が上手く回らないのだ。
いや、そもそも体がロープで縛り付けられたかのように、私の意志を受け付けない。
「誰……なの?」
視線の主は答えない。
早く、早く振り向かなければ……。
早く見なければ、消えてしまう。
この視線の正体がなんだったのか、知る機会は永遠に失われてしまう。
そんな、予感があったから。
「っ……ぐ……」
ギシギシと軋む身体を無理やり動かして、なんとか背後を視界に納める事が出来た。
「……あ」
結論から言うと、そこには誰も居なかった。
相変わらずシンとした室内で、警備ロボがせわしなく動いている。
聞こえるのは空調から発せられる音だけ。
確かに誰も、居なかったのだ、が。
「………っ」
息を呑む。
- 307 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:22:42 ID:fP2VNZ8Y
-
私は見た。
一瞬、ほんの一瞬だけ、視界の隅に見えたのだ。
幽鬼のように佇んでいる男の姿が。
「うそ……」
ありえない筈の幻覚。
梓ちゃんを殺して、そして桃子ちゃんに殺された筈の男。
一瞬にして消えてしまったとは言え。
その男の空洞の様な目を、私は直視してしまった。
確かに男は死んだはずなのに。
どうして私は、そんな幻覚を見てしまったのだろう。
分らない。分らないけれど……。
「……なに……これ……?」
この全身を駆け巡る悪寒は本物だ。
「……嫌…」
考えないように、しよう。
ただの幻覚だ。
私が今集中しなきゃいけないのは見張り。
それだけなんだから。
だから、今見た幻覚についての思考は、そこで打ち切ることにした。
ささ、見張りに集中集中。
――そう思って、再び見つめた窓ガラスに、お姉ちゃんの顔が映っていた。
どうしてそんな所に居るんだろう? 私は気にもならないけど。
――お姉ちゃんは哀しそうに、失望するように、私を見つめていた。
だから? 何だというのだろう? どうでもいい。
――お姉ちゃんの両目から、涙が零れ落ちていった。
けれど、私はなんとも思わない。
「…………ぇ?」
――そうして、口の中に流れ込んだすっぱい味に、私はやっと気がついた。
違う、あれはお姉ちゃんじゃなくて。
――泣いていたのは私だった。
- 308 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:23:52 ID:fP2VNZ8Y
- ガラスに映っているのはお姉ちゃんじゃなくて、私だ。
哀しい目、失望した目、涙をこぼす目。
全部、私の目だ。
「へっ? あれっ? おかしいな? なんだろう、これ……」
ぽろぽろぽろぽろ。私の目から涙が零れ続けている。
意味が、分らない。
どうして、私は泣いているんだろう?
私の心は、脳は、何一つ悲しみなど感じていないのに。
なのに決壊した意味不明の涙は、洪水のように垂れ流しになっていて、私には止める方法が分らない。
じくじくと胸が痛む理由など、まったく思い当たらない。
「ははっ……おかしいな……あはははっ……」
だからホントに訳が分らなくなって、
それがなんだか可笑しくなって、私はつい笑ってしまった。
泣きながら、笑った。
「はははっ………あははっ……はははっ……はっ……ははっ……」
泣きながら、笑いながら、凍えた。
先程から寒気がおさまらない。
空調の設定を間違えているのだろうか?
心の芯から冷え切っていくようだ。
「さ、む……寒い……な」
寒くて、たまらない。
どうしようもなく、なにかが足りないのだ。
私に必要なぬくもりが無い。
いつも私を暖めてくれていた何かが、ここには無い。
『……憂ー。あったか、あったかぁー』
脳裏に響く声の意味も、私にはよく分らなくて。
「寒いよ……」
それに伴う、胸を貫くかれるような痛みも、よく分らない。
私は両手で自分の身体を抱いた。
理解できない。理解できない。
だから、これは考えちゃ駄目な事なんだ。
余計な事は考えちゃ駄目なんだ。
『辛い事は考えるな』
私は、ルルーシュさんの言う事を聞いていればいい。
言う事を聞いて、そうやって生き残る。それだけを考えていればいい。
あの人の言う通り、辛い事は考えない。
どうして、考えるのが辛いのか? その理由も考えちゃいけない。
『俺が助けてやる』
その言葉を、信じている。
神様だって、この痛みからは助けてくれなかったけど。でも、あの人なら。
あの人は、きっと私を助けてくれるのだと、信じられる。
信じていたい……。
そうじゃないと、私は――。
「ねえ、ルルーシュさん……早く……早く帰ってきてよ……」
一人にされると、どうしても余計な事を考えてしまうから。
辛い事を、考えちゃ駄目な事を考えてしまいそうになるから。
だから……。
「一人は……一人は嫌だ……」
誰かに、傍に居てほしい。
- 309 : ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:24:54 ID:fP2VNZ8Y
- <分割指定>
- 310 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:25:19 ID:fP2VNZ8Y
-
TRIGGER 4:『孤独な夢』
そこには地獄絵図が広がっていました。
入り口からでもある程度は伺える程の惨状っす。
鼻腔を突き刺す死臭。
運上場側の窓ガラスが赤の斑模様に染められていて。
部屋中に血と肉片が散乱していました。
その状況は凄惨の一言に尽きたっす。
こんなの一秒だって直視していたくない、すぐにでも目を背けたくなる光景。
でも私には到底、そこから目を逸らす事なんて出来なくて――。
そこに何が在るのか。
もしかすると、私には最初から予想できていたのかもしれません。
そもそもよく考えてみれば、私が三階に上ってきた理由である『嫌な予感』だって、ちゃんとした理屈を伴っていたんすよ。
一階と二階を結ぶ階段の破壊。ルルさん曰く、『過去の戦闘における痕跡』がありました。
ということはもっと明確な痕跡が、まだ学校のどこかに残されているかもしれない、ということっす。
そして何より、『対象を捻って破壊する』という所業に聞き覚えがあったからこそ。
その所業と、あの人の死が繋がっていたからこそ。
私はそれを無意識の内に探していたのかもしれません。
「…………ぁ」
だけどやっぱり覚悟なんて、出来ている筈がなかったんすね。
与えられた衝撃によって、私の足は数瞬の間、職員室の中で釘付けになっていたっす。
同時に私の目はそれを見た瞬間、瞬き一つ出来なくなって――。
「…………うっ……」
だって、飛び散った血と肉片、その中心に在るモノは――。
「……う……ぁぁ……」
まるで子供に嬲り殺された昆虫のように。
四肢を千切られ、胴を捻り潰され、首を刎ねられ、爆ぜたように内容物を辺り一面に吐き出したナニカ。
損壊を極めきった、それはもう人体と表現できるかどうかも怪しい。
おおよそ、人の死に方とは思えない死を迎えた少女の亡骸。
「……せ……せ……ぱ……うっ……ぷっ……」
舌がもつれました。
凄まじい嘔吐感によって、急激にせり上がってきた胃液。
咄嗟に口を塞いだ手にあびせかかり、指の間からぽたぽた、床へとこぼれ落ちていきます。
――嫌だ。
心身はハッキリと拒絶を示していたのに。
――見たくない。
なのに足だけは勝手に、一歩前へと。
そこに、踏み入れました。
――今すぐここから逃げ出したい。
一歩、一歩、そこへと近づいて。
その一歩ごとに、
――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクンと。
心臓の鼓動も速度を上げていきました。
- 311 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:26:12 ID:fP2VNZ8Y
-
「せ……せん…………せん……ぱ……」
その死体は、ほぼ全身が真っ赤に染まりきっていました。
上半身と下半身が分かたれたまま打ち捨てられているので。
ハッキリとした背格好なんて、もう誰にも分らないと思うっす。
顔にもなぜかタオルが掛けられていて、人相は知れません。
「……せ……ん……ぱ……ぁ……っ」
けれども、床に肝を溢れさせた上半身に残る、あの制服は間違いなく。
私と同じ鶴賀学園の――。
「…………ぁ……ぁ……ぁ……」
――嫌だ。
――やめろ。
――絶対に後悔することになる。
そう、高鳴り続ける心音が告げていました。
わかっているっすよ。わかっては、いたんすよ。
けれども、私は……抗えない。
だって、私はずっとあの人だけを追い求めて、ここまできたんすから。
あの人に会いたい、もう一度会いたい。
それだけが、私の望みだったのです。
だから今、後悔するって分りきっていたのに。
衝動に抗う事も出来ず、血溜まりの中心に辿り着いてしまいました。
矛盾……してるっす。こんなの。
でも私はもう、心の中がぐちゃぐちゃで。
自分が何を考えているのかも、分らなくなっていました。
「せん……ぱい……」
その隣にストンと膝をついて、ようやく震えた声が意味を成したっす。
床に転がっている生首。
そこに掛けられたタオルを、ゆっくりと取り払ったとき。
いつかの記憶が、私の脳裏に去来していました。
『先輩。私が見えるっすか?』
『ああ、見える』
私がずっと探し、求め続けていた人、先輩は……。
その瞳を、彼女が死の間際に感じたであろう、痛みと恐怖と哀しみと絶望に塗りつぶされたまま――。
「………………」
今はもう、何も見てはいませんでした。
- 312 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:26:59 ID:fP2VNZ8Y
-
「―――――――――――――――――――――――――――ぁ」
ぱりん、と。
私は白滅する視界の中で。
小さな音を聞きました。
それはきっと、心の奥底で大事なものが砕け散る音っす。
先輩と過ごした記憶。
楽しかった事、嬉しかった事、色んな思い出。
それら全てが目の前の、底なしの空洞のような先輩の両目に、上書きされていくようでした。
きっと、私が叫び声一つ上げなかったのは、目前の光景があまりに鮮烈過ぎたからだと思うっす。
私にとって一番大切な人が。この上なく残酷に、どうしようもなく徹底的に破壊されている光景を前にして。
言葉なんて、失くしてしまったように……。
そう、言葉になんか……できないっすよ。
この瞬間、私の胸に灯った感情の炎を、いったいどんな言葉を使って表現したらいいのか。
私の目の前に在るのは、私が何よりも求めていたヒトのはずで。
だけど……。なのに。絶対に見たくなかった、モノでもありました。
変っす、ね。
せっかく、せっかく……もう一度先輩に会えたのに……会えたのに……。
こんな、こ、ん……な、こんなにも、私は……。
胸の炎はどんどん広がって、私の全身を燃やし尽くします。
目の前の先輩のように、私の身体は今にもバラバラに弾けてしまいそうで。
それを必死につなぎ止めるように。
一言も発さないまま、身体を震わせていました。
私の中を駆け巡り続ける炎は、私が今まで感じた事のない感情でした。
怒りとも、憎しみとも、悲しみとも違う感情の波。
いやもしかすると、それら全てが合わさってこの高熱を構成しているのかもしれません。
けれど間違いなく言い切れることは、これが負の感情であると言うこと。
だってこんなにもおぞましい思いを、私は知りません。
こんなにも、熱くて、切なくて、やりきれなくて、そして冷たい。
ああ、もしかすると。
これこそが、あのお兄さんの言っていた――。
『……復讐をしようとは思わないのか』
このままでいいのかと、心のどこかで誰かが問いました。
私にとって唯一の夢を、幸せを、こんなふうに、ゴミのようにぶち壊した人間を、許しておけるのか。
それをやった人間の名前と、顔と、そして所業を知った今でも、私はこの感情を邪魔だと言えるのか。
許せるのか、と。
そんなの――許せるわけがないっすよ
許せるわけが……ない。
自分が生きるためだけに殺したのならまだ分る。
でもこれをやった人間は、明らかに楽しんでいた。
嬲って、散々怖がらせて、ありったけの痛みを与えて、絶望に落とし込んでから殺した。
私の大切な先輩を、玩具にして、弄んでから叩き壊した。
そして今も、のうのうと生きている。
そんなの、許せない。
思い知らせてやりたい。
先輩が受けた痛みを、恐怖を、絶望を万倍にして返してやりたい。
私から先輩を奪った代償を……この手で……。
それは意思じゃなくて、抗いがたい欲望。
醜悪にして甘美な夢。
けど、こんな感情、知りたくもなかったっすよ。
こんな気持ちの悪いものに、私は支配されたくなんかない。
見失いたくない。
私が真に求めるものを、私にただ一つ必要なものを……。
だってわたしには――。
何かを求めるように、先輩に向かって、震える手を伸ばしました。
少しでも、何か残っているものがないかと、期待して。
今はだた、先輩に触れたくて。
でも徹底的に壊された先輩の、どこに触れたらいいのか分らなくなって。
一瞬だけ迷った挙句に、先輩の頬と手の甲へと、私は手を重ねました。
- 313 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:27:45 ID:fP2VNZ8Y
-
けれども、当然のことながら、死後数時間経過した先輩の身体はもう随分と冷え切っていて。
あの日、始めてあった日に、私に触れてくれた先輩の温もりは残っていませんでした。
――ねえ、先輩。
私はたった一人に見てもらえていれば、それでよかったんすよ。
他の誰でもない、ただ一人。
先輩に見て貰えてさえいれば、それだけで私は幸せでした。
ずっと、わたしは満たされていたんすよ。
『私は君が欲しい!』
それは忘れられない言葉。私の宝物。
あの日、私は先輩と出会って。
どこにも存在しないはずの私、ここにいないはずの私を……ただ一人、先輩は必要としてくれました。
世界のどこにも存在しなかった私を、先輩は見つけ出して、拾い上げてくれたんすから。
だから私は先輩の傍で、先輩の為に頑張ろうって決めたんすよ。
それを、私の夢にしたんすよ。
「私は……先輩が大好きでした」
それは今までずっと、私が思っていたことっす。
別に隠していたわけでもなくて、言う必要すらないことで。
でも今は、伝えたくて。
でも今はもう、私の言葉が先輩に届くことはありえません。
「先輩、これで終わりじゃないっすよね?」
諦めるなんて、無理っすよ。
だって、こんな別れ方なんて。これが終わりだなんて。
そんなの悲し過ぎるじゃないっすか。
哀しすぎて、やりきれないじゃないっすか。
「これで終わりなんて……そんなの、私には認められないっすよ……。我慢できないっすよ……」
ねえ、どうして?
どうしてこんな事になってしまったんすか?
こんなの、間違ってるっすよ。
先輩はこんなふうに殺されていい人じゃなかった。
こんな残虐に、訳のわからない狂人の怪物に嬲り殺される道理なんて、どこにもなかった筈なのに――。
いつまで、私はそうしていたのでしょう。
長い間、先輩に触れ続けて。
私はいまこんなにも、先輩の近くに居るのに……。
どうしようもなく、私は『孤独』でした。
ここに、先輩は居ない。
かつて先輩だった、私の夢の残骸があるだけ。
先輩はもう、どこにも存在しない。
だから――。
- 314 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:29:30 ID:fP2VNZ8Y
-
「私はここにいない」
胸の中で燃え続ける感情の炎に相反し。
それはとてもとても冷たい声でした。
発せられた言葉は、まるで祝詞のように、室内に響いて。
「私はどこにも存在しない」
不思議な感覚でした。
私の胸の中で灼熱の感情が燃える程に、私の心は冷たく硬く尖って、凪いでいくのです。
まるで私の内側と外側が断絶していくようでした。
「先輩を取り戻す為なら」
私の中にあった筈の迷いも、ご都合主義への僅かな期待も、ふと気が付けば全て消えうせていました。
ただ、求める物が明瞭となり。
だからコレはきっと、儀式の様なもの。
何かを捨てて、何かを得るために。
そう、それが私にとって、唯一にして最大の武器ならば――。
「私は『孤独』でもかまわない」
その起源とやらを受け入れよう。
「私は……一人でいい……」
もう一度、先輩に会うまでは。
余計なモノなんて要らない。
『手を……繋ごう』
『むぅ、しょうがないっすね……』
――いらない。
『孤独なんかじゃないよ。こんなに近くに友達がいるんだから』
『たはは、なんか照れるっすね』
――これも、いらない。
『いや、桃子は俺の傍に居てくれなければ困る。』
『な、な、な、な、なにを言ってるっすか!?』
――こんなものは全部、いらない。
「私は、先輩が欲しい……!」
求めるものは、最初からそれだけっすよ。
- 315 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:29:50 ID:fP2VNZ8Y
-
TRIGGER 5:『アウト サイド アイズ』
「…………」
秋山澪の警戒心は最高潮に達していた。
階段を慎重に上りきり、長い黒髪をフラリと宙に揺らし、ゆっくりと廊下を覗き込む。
「……見えますか?」
『ああ、お前の姿はこちらから確認できる。そっちはどうだ?』
「突き当たりに人影が見えますけど……手を上げてみてください」
『慎重なのは良いが、あまり緊張しすぎるのはどうかとおもうぞ……これでいいか?』
廊下の向こうに見える長身の影が片手を上げる光景を見、ようやく安堵のため息をついて、歩き出した。
『これ以降、俺達は常に通信した状態で桃子の捜索にあたる。
俺はこちら側から教室を見回っていくから、お前はそちら側から順に教室の状況を確認し、
桃子を発見できたか出来なかったかに関わらず、逐一俺に報告しろ。
最悪の状況に直面した場合はすぐさま互いに危険を知らせて撤退に移るぞ。少しの異変も見逃すな』
「了解」
会話が終われども通信は切らない、耳に小さくルルーシュの息遣いを聞きつつ。
澪はミニミ軽機関銃を前方へと構えながら、木製の床を踏み進んだ。
正に臨戦態勢と言った様相である。
一番手前の教室のドアを開き、内部へと銃口を突っ込む。
「一つ目、異常なし」
誰も居ない事を確認し、ルルーシュに報告したときにはもう、腕に軽い痺れが走っていた。
(やっぱり重い……)
軽機関銃の撃ち方については、渡された際に一応聞いているものの、様になっているとは到底言いがたい。
それどころか、腕力がじりじりと重量に負けて、情けない状態になっている。
つい下がりそうになる銃口をうんしょと上げながら、澪は二つ目の教室のドアを開いた。
「異常なし」
そもそも、少女の腕には不釣合いな武器である。
無装填状態でさえ約六キロの重みが在る軽機関銃。
背に抱えるだけでもバテていたのに、それを構えながら歩くとなれば苦労は更に倍増しだ。
時間が経つにつれて腕の震えは強くなり、銃身はフラフラと纏まらなくなり、これでは精密な射撃など望めまい。
「異常なし」
とはいえ、その火力だけは本物だ。
澪にとって、火器としての真価を発揮する為には三脚をつかった伏せ撃ちを行使するべきなのだが。
すでに銃を抜いている以上、このような狭い空間においてであれば、なお多大な威力を行使できる。
「異常なし」
澪には銃の詳しい扱いなどは良く分らないが、分っていたのだろう。
己が持つ銃の重さ。
そして人の命の軽さというものを。
「…………っ!!?」
だからその時、五つ目の部屋――職員室を覗き込んだ瞬間に感じた死臭に対して。
澪は引き金に指を掛けながら、己から飛び出しそうになった声を何とか抑えた。
そして数歩、後ろへと退いた。
- 316 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:30:14 ID:fP2VNZ8Y
-
『……? どうかしたのか?』
それが、この場では功を奏したといえよう。
「い……いや、なんでもないです。ちょっと躓いただけですから」
澪ではなく。
このとき澪の袖を引いて、職員室から廊下に飛び出してきた東横桃子にとって。
「…………なに?」
澪はマイクの集音を下げながら、目の前で唇に人差し指を当てている少女に向かって問うた。
突然消えたと思っていれば、突然現れた彼女はオフレコの会話をご所望という訳である。
「危ないところだったっすね。ここに入るのはあんまりおススメしないっすよ。
まあ、スプラッタ系のホラーが大好きだって言うのなら、どうぞ。入ればいいと思うっすけど……」
澪は怪訝の表情を隠さずに桃子をじっと見つめた。
「ただし、ゲロゲロ吐いちゃっても私は責任なんて取りません」と軽く言う桃子によって職員室の状況は大体理解できた。
いまだに漂ってくる死臭と覗き込んだ際にチラリ見えた血溜まり。
おそらく直視に耐えないほどの惨殺死体が転がっているのだろう。
そして桃子がその部屋から出てきたという事は、室内には死体以外は何もない、敵は居ないということ。
「なん……なの?」
少しきつい口調になっていた感は否めない。
実際、言われるまでもなく職員室の状況など、ある程度分っていたのだ。
桃子の意図は未だ不明。早く本題に入れと目で告げる。
「せっかちっすね」
そう言って肩をすくめた桃子に対して、澪は今の自分が何故これまで緊張しているのか、その理由を理解した。
先程から、強烈な違和感に苛まれている。
目の前に立つ少女に、凄まじいほどの距離を感じるのだ。
元々親しかったわけでもないのだから、ただの錯覚かもしれない。
けれども二人は憂の仲介によって名前で呼び合うようになり、先程は二人で手を繋いで道を進んだ。
あの時感じた距離感にくらべて、今は目の前の少女が彼方の遠くに行ってしまったような。
そんな気がするのだ。
見た目も言動も変わっていないはずなのに、中身だけが何か違うものに変わっているような。
桃子の背後に恐ろしい存在が在るような。
「…………一応、心配してたんだぞ」
澪は怖気を感じながらも、なんとか声を搾り出した。
返されたものは渇いた笑いだった。
くだらない、と一蹴するような。
「ごめんなさい。
通信機を落としていた、ってことにしておいてくださいっす……」
飄々と言う桃子からは、やはり特定の感情の色は伺えない。
澪の目を真っ直ぐに見つめる視線からも同様に。
「では……単刀直入に言います。澪さん。私と手を組む気はないっすか?」
そこでやっと、澪は桃子の真意を察する事が出来た。
この集団はゲームが進むにつれて、仲間割れの危険性が高まってくる。
時に裏切りも是とする集団。
それならば内部に属する者は当然、その裏切りに前もって手を打っておくことだろう。
目の前の桃子が言っている事はつまりそういう事だ。
「…………後で……桃子ちゃんの部屋で詳しい話を聞かせて」
- 317 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:34:31 ID:fP2VNZ8Y
-
澪は頷かなかったが、その言葉の意味は『了承』と言ってよい。
これは澪にとっても願ってもない話である。
桃子の話に乗る事によって、最低でも桃子の企みの一端を聞く事が出来る。
無論、組むとは言っても澪と桃子とて最終的には敵対する可能性が高いわけだから、桃子の話を鵜呑みにする事は危険である。
だがそれは逆転する理屈でもあり、あくまで二人の立場は対等なのだ。
加えて、澪はこの集団の中では最も新参者だ。
ルルーシュや、変わってしまった憂に関してなど、知らぬ事がたくさん在る。
それを桃子から聞く事が出来れば、集団内でもっと優位な立ち回りが可能となるだろう。
ようは話に乗る代わりに情報を得るという事でもある。
「了解っす。それじゃまた、私の部屋で」
「ああ」
その言葉を最後に、この場において二人の会話は終わった。
澪は桃子より先に、ルルーシュのいる廊下の奥へと歩き始める。
その歩みがなんとなく速まっていることに、特に意図など無い筈なのだが。
本当は、怖かったのかもしれない。
「……いってきます。先輩」
澪には聞こえない声で優しげに呟きながら、カラカラと職員室のドアを閉める桃子。
その、あまりにも玲瓏すぎる横顔が……。
- 318 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:34:59 ID:fP2VNZ8Y
-
■
三つの人影が夜の学校から吐き出され、ホバーベースへと歩いてく。
「結局、空振りだったか」
帰路にて、ルルーシュはそう呟いた。
探索の成果は結果的に言うと、彼の言葉通りの空振りであった。
自販機はハズレ、有効な戦利品を得る事もできなかった。
ただ一つ収穫らしい収穫と言えば、一階の図書室にて隠し扉を発見したくらいだろうか。
散々調べてみたものの、ホールの扉と同じくどうしても開く事が出来ず、更に今度は開放条件すら記されていなかった。
当てが在るとすれば、置いてきたパソコンによる質問メールぐらいである。
「廃ビルでは成果が上がればいいのだが……な」
そう言ってホバーベースに乗り込もうとしたとき、ルルーシュはふと視線を感じて、もう一度学校を振り返った。
ルルーシュには一瞬、屋上に黒いシルエットが見えた、ような気がした。
そして、ルルーシュはその影に見覚えがあった。
ちら、と横目で桃子と澪を見ると、彼女達はちょうどホバーベースに乗り込んでいくところだった。
やはり屋上を見直しても、やはり何も無い。
ホバーベースに乗り込んでいく彼女達に、ルルーシュも続いた。
だが最後にもう一度だけ、振り返る。
「……錯覚だとは思うが……。一応、記憶に留めておくか……」
帰還したルルーシュを最初に出迎えたのは、平沢憂のタックルであった。
全力疾走からの当て身。
いや、飛びつきと言うべきか。
憂の全体重がルルーシュの胴に直撃し、にわかによろめく。
本来ならば転んでしまう所だったが、幸い憂の体重がほぼ消えていたおかげで、数歩下がるだけですんでいた。
「っと、とと」
腹の内部に広がっていく不快感を堪えつつ、視線を下ろす。
抱きついたままこちらを見上げる憂と目があった。
なにやらムッとしている様子だった。
「ルルーシュさん、遅いです」
「ああ……すまない。途中で少しトラブルがあってな」
そこで少し桃子を見やる。
佇む桃子に若干の不可解を憶えたが、今は流す。
「とはいえ、すまなかった。一応連絡しておくべきだったな」
実際、少し赤くはれた憂の目を見、ルルーシュは失敗したと考えていた。
ここ数時間で憂の精神状況は安定しており、少しくらいなら一人にしても大丈夫だろうと楽観していたのだが……。
帰還と同時に飛びついてきた事も鑑みて、またしても不安定な状態になっていた事は明白。
やはり彼女を単独で行動させるには少し問題があるようだ。
「ふんっ……いいですよ、もう。廃ビルの探索には連れてってくれるんでしょう?」
「もちろん。約束だからな」
一転して、「やったっ」とはしゃぎ始めた憂を、ルルーシュは表面上の笑顔で見つめ続ける。
その内面にある物など決して覗かせる事はない。
だが秋山澪は感情を隠す事に慣れていないのか、表情に露骨なまでの懐疑が浮き出ていた。
そこに罪悪感という不純物をブレンドさせて彼女は目を逸らす。
一方、桃子は澪と同じく憂の様子を見ていたが、その目に感情はなく、ただひたすらに冷ややかな視線を送るのみ。
その様相を見、ルルーシュは感じていた不可解を確信に変えて。
この場はひとまず号令を出す事にした。
「みんな、ひとまずご苦労だった。これから廃ビルへと移動を開始する。
到着まで各自で休息を取っていてくれ。」
- 319 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:35:40 ID:fP2VNZ8Y
-
TRIGGER 6:『そして深い霧の中へと』
――くるくるぱしっ。
軽快な音が鳴る。
東横桃子は自分にあてがわれた部屋の中で、ベットに腰掛けながら、秋山澪を待っていた。
一応、考えはある。
これから先どのようにしてに生きるのか、生き残るのか。
自分なりの考えはちゃんとある。
けれども桃子には分っていた。
こと知略や戦略において、あの男を上回る事など不可能である、と
これまで桃子はルルーシュの隣でルルーシュの手際を見ていただけに。
正面きっての殺し合いなら兎も角、知能戦、裏のかきあいでルルーシュに敵うことはない。
と、考えていた。
おそらく、今練っている策戦も、既に察知されている可能性が高い。
澪と組んだ事までも悟られている、と考えて動いたほうがいいだろう。
ならば――。
己があの男の勝てる要因とはなんだ?
ルルーシュ・ランペルージを出し抜けるシチュエーションとはなんだ?
「やっぱり、これしかないっすかね……」
――くるくるぱしっ。
もう一度、軽快な音が桃子の手の中で弾けた。
メモリ大のキーを、付属の紐に指を掛けて廻している。
くるくると廻して、ぱしっとキャッチ。
ソレに目を落とす。
それは桃子にとっての最後の支給品。
桃子はそれを今まで誰にも見せた事はなかった。
ルルーシュにも、憂にも、澪にも。
それがここに存在することは桃子だけが知っていた。
最初はそれが何だか分らなかったのだが。
知れた今となっては虎の子の最終兵器。
これこそが彼女にとっての奥の手だ
既知の概念で上を行かれる相手には未知で攻めるしかあるまい。
ルルーシュの攻略はルルーシュが知らない要因を持って行なう。
よって、おそらく活路を開くとすれば、これであろうと桃子は思っていたのだ。
とはいえ、予想外の事態も当然ありえる。
例えば、それすらも読まれていたり……。
それすら超越した事態の前に、集団そのものが瓦解したり……。
「……上等っすよ」
桃子は含み笑って呟いた。
外の敵も、内の敵も、尽く欺いてやろう、と。
このバトルロワイアルで、盛大な独壇場を演じて見せよう、と。
あの職員室で、とてもとても辛いものを見て以降、驚くほど自信に満ち溢れている。
驚くほど、心が冷たく硬化している。
大切なモノを失って、代わりにとても強い意志を手に入れた。
今の自分はどこにも存在しない、という確信と。
何千何万の命よりも自分にとっては、先輩の命一つが何より重いのだと言う心の在り方。
もう覚悟は決めた。
人を殺す覚悟。仲間すら殺す覚悟。みんな殺す覚悟。
そして、一人だけで生き残る覚悟。
全てここに在る。
ならば、己は誰にも負けない。
そう確信していた。
――こんこん。
軽快なノック音が鳴る。
ようやく、客人が来たようだ。
- 320 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:36:08 ID:fP2VNZ8Y
-
TRIGGER 0:『ゼロ』
「……すぅ……すぅ……」
「眠ったか」
案の定。
憂だけは自室に戻るとは言わなかった。
ならば秋山澪か桃子の部屋に行かせるという考えも会ったが……。
おそらく、いま憂を向かわせればややこしい話になるだろう。
よって、この操縦席に居させたわけだが。
「…………ふふふっ。あららぎさーん、逃がしませんよ〜。むにゃむにゃ」
バンドがどうだの。
その阿良々木暦をぶち殺す!だのとしゃべりまくった挙句に。
彼女はソファで爆睡と相成ったわけだ。
「やれやれ。そんな調子で廃ビルの探索に参加できるのか?」
髪を下ろした憂の寝顔は、見れば見るほど平沢唯に似ていた。
こうして見ている限りでは、あの天然ボケ少女となんら変わらない。
というか、出会った頃はもっとしっかりしていた筈なのに……。
最近の言動は少し姉に近いものが在るように感じる。
眠る憂に毛布を掛けてから、俺はソファを離れ。
操縦席でディパックを取り出した。
「さて、そろそろか……」
どうやら、桃子も澪も仲間内と戦う為の準備を開始したようだ。
初期の頃から予想済みだったとはいえ、これ以降は仲間内にも警戒が必要になる。
駒が扱いにくくなってくる頃合だ。
だが問題は無い。切り捨てるには……脅威にはまだ遠い。
向こうにとって俺が利用対象である間は、俺にとってもあいつ等は利用対象だ。
それまではせいぜい手を取り合って共に行こうじゃあないか、例え背中に殺意を隠しながらだとしてもな。
「…………ふっ。一度死んだところで、こんなものか」
俺は何も変わりはしない。
操縦席に腰掛けて、空を仰ぐ。
別に何一つ心が痛む事はない。
こうなっていく事は最初からわかっていた事だし、化かし合いなどとっくに慣れきっている。
どちらかと言うと、用意周到に動く桃子と澪よりも、
疑いも策謀も起こさない憂の方が、まだ見ていて心に引っかかりを覚えるくらいだ。
だが、この信頼を俺は利用して犠牲にする。
それにすら俺は慣れてしまっている。
裏切る事も、裏切られる事も、殺す事も、殺される事さえも。
俺には出来てしまうだろう。
俺を信じてこんこんと眠る少女ですら、必要とあれば使い潰すことも辞さない覚悟だ。
だが、せめてこれだけは真実として誓う。
「無駄にはしない」
- 321 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:38:22 ID:fP2VNZ8Y
-
俺はこれまでも、そしてこれからも、周囲を欺き利用し切り捨てる。
だがその全てを無駄にはしない。
幾つもの犠牲の上に、俺はなんとしてもスザクを生還させ。
それが終われば後は俺の命など度外視して、この世界を破滅させてみせる。
だから決して無駄ではない。
俺はすべてに嘘をついて。
すべてを裏切って。
世界を壊した。
そして、すべてを引き換えに、世界を造った。
代償として、俺の命すら支払ってまで。
だが、それでいいと思ったのだ。
俺はその先の明日を望んだから。
俺の終わりに、世界が始まるならそれでいいと思った。
だから。
その、終わりに。
こんなふざけた茶番で水を差してくれた連中を、俺は絶対に許しはしない。
「もう一度、壊してやろう」
これを盗み聞いている者共に告げる。
死刑宣告だ。
俺はもう一度裏切ろう、全てを。
もう一度嘘をつこう、全てに。
必ず叩き壊してやろう、俺をここに呼び出した者共のチンケな思惑など。
この俺が、全て。叩き潰す。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」
それをこれから、お前達に教えてやる。
【E-2/都市部(ホバーベース内)/一日目/真夜中】
- 322 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:40:06 ID:fP2VNZ8Y
-
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、右腕の骨折
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス
[装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実、イヤホン@現地制作、
[道具]:基本支給品一式、3500万ペリカ、盗聴機×7、発信機×5@現地制作、通信機×5@コードギアス、首輪×3(キャスター・ヴァン・張五飛)
単三電池×大量@現実、パソコン、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、和泉守兼定@現実、バトルロワイアル観光ガイド
鏡×大量、消化器、ロープ、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本:枢木スザクは何としても生還させる。
1:廃ビルの施設を調査する。
2:メールの返信がないかを確認する。
3:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。
4:デュオと式を上手く利用する。
5:殺しも厭わない。桃子、憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。利用できる物は利用する。
6:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい。
7:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する。
8:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。
9:象の像は慎重に調べる。
10:ライダー、織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。
11:両儀式を警戒。荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感?
12:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
13:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
14:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。
[備考]
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。
※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い、及びその記憶と想いを呼び覚ましました。
(どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手氏にお任せします。 ただし、何か特殊な力に目覚める、イノベイターに覚醒する等は一切ありません)
※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。
※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。
※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。
※盗聴器を一つ、E-2の橋に仕掛けました。
※パソコンで、メールソフト、バトルロワイアルサポート窓口の利用が可能になりました。
※揚陸艇は船着場に繋留したままです。(燃料…残り7キロ分)
※【象の像】で警備ロボットを一台購入しました。
- 323 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:44:43 ID:fP2VNZ8Y
-
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:疲労(小)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、双眼鏡@現実(現地調達)
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実、蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)
小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、七天七刀@とある魔術の禁書目録、発信機@現地制作、通信機×2@コードギアス
死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、キャンプ用の折り畳み椅子@現実、“狐”の面@現実、?????の起動キー@コードギアス
[思考]
基本:加治木ゆみを蘇生させる。
1:ひとまず澪と内密に組む。今後の方針について話し合う。
2:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。
3:もう、人を殺すことを厭わない。
4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。
5:そろそろルルーシュには消えてもらう。そのためにまずはルルーシュの能力を知りたい。
6:最終的に仲間を殺す事にも既に迷いはない。
7:ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
8:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
9:浅上藤乃を許す事は出来ない。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話終了後。
※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場での伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
【秋山澪@けいおん!】
[状態]:両頬に刀傷
[服装]:龍門渕家のメイド服@咲-Saki-
[装備]:田井中律のドラムスティック、影絵の魔物@空の境界、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実
[道具]:基本支給品一式×3、千石撫子の支給品0〜1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
下着とシャツと濡れた制服、法の書@とある魔術の禁書目録、モンキーレンチ@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1
桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、軽音楽部のティーセット、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)、ナイフ、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、中務正宗@現実、ランタン@現実
[思考]
基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
1:ひとまず桃子と内密に組む。今後の方針について話し合う。ルルーシュと憂についての情報を聞き出す。
2:この集団を利用し、目的を果たす。
3:軽音部全員を救う方法を探し、見つけ次第実行する。 手段を選ぶつもりはない。
4:サザーランドを乗りこなせるようにする。
5:式とのコネクションは秘密にしておく。
6:憂の精神状態に相当の疑念。
7:一方通行、ライダーを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
8:伊達政宗のおくりびとが福路美穂子か。
9:正義の味方なんていない……。
10:私は間違ってない……よな?
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。
※黒の騎士団全員の情報を得ました。また、ルルーシュたちの作戦を把握しました。
- 324 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:46:33 ID:fP2VNZ8Y
-
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失
[服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯
S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(6/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着)
[道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード
皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@現実
鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×46、さわ子のコスプレセット@けいおん!
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
0:一人は嫌だ……。
1:睡眠中。
2:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。
3:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
4:桃子ちゃんは友達。澪さんとバンドが組めて嬉しい。
5:阿良々木さんにサザーランドを見せた後、ブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
6:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対しては『日本人』とは名乗らないようにする。
7:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。
8:思いを捨てた事への無自覚な後悔。
9:お姉ちゃんは私の――。
10:死にたくないから、私は……?
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※第2回放送をほとんど把握していません。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
【(腹)黒の騎士団の作戦】
1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。
2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。
3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。
4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。
5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。
6:桃子は集団内の人間をよく観察する。
7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。
8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。
9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて分かれるか、そもそも関わらない。
10:『おくりびと』は見られないようにする。
【ホバーベースについて】
現在はE-2にて廃ビルに向かって北上しています。
- 325 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:46:54 ID:fP2VNZ8Y
-
※下記の道具の入ったデイパックが、ルルーシュの部屋に置かれています。
基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード
モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機
ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、
カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実
※下記の道具の入ったデイパックが、澪の部屋に置かれています。
基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)
ファサリナの三節棍@ガン×ソード、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実
桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5
※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。
※下記の機動兵器が格納されています。
[平沢憂用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[秋山澪用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン
[デュオ・マックスウェル用]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
※警備ロボットが一台、ホバーベース内を巡回しています。警備ロボットの詳細については後続の書き手氏にお任せします。
- 326 : ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:47:19 ID:fP2VNZ8Y
- これで投下終了となります
- 327 :GEASS;HEAD TRIGGER ◆hqt46RawAo:2010/06/07(月) 02:47:42 ID:fP2VNZ8Y
- 指摘感想お待ちしています
- 328 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 02:50:21 ID:fP2VNZ8Y
- 一応、分割の指定は>>309となっております
- 329 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 02:50:50 ID:6eyCVZ/U
- 投下乙です
ヤバイ、モモ怖いよ、モモ
全ての絆を捨てるシーンでは思わず震えてしまいましたw
ルルもかっけーなー
ようやくがっちりとした方針が固まった感があるな
いい繋ぎをありがとうございました
- 330 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 11:31:57 ID:jdLW3JZ6
- 投下乙です。
全員破綻しとる。。。
唯一カッチりしていたモモもここで堕ちたかー。
まぁかじゅが死んだ時点で確定していたわけだけどさ。。。
澪ー、お前だけはまだ戻ってこれるぞー、頑張れー
- 331 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 17:36:52 ID:c5AY7vvY
- 吹っ切った少女と既に吹っ切れている少年、吹っ切るものを失くした少女と吹っ切ろうと足掻く少女。
四者四様の想いが伝わってくる作品でした。
彼と彼女らの未来は悲劇に違いないでしょうがそれでも前に進むこのチームが自分は大好きです。
- 332 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 20:08:00 ID:ghnMuclQ
- ★ 連絡事項 ★
作品投下用スレッド(仮投下スレ)に◆lDZfmmdTWM氏の仮投下が来ています。
意見のある人は該当スレまで。
また、週末に雑談スレで放送に関する話題が出ていました。
書き手氏はログの確認をお願いします。
>◆KEnJlE0kvM氏
仮投下からかなり時間が経過していますが、修正状況はどうなっているのでしょうか?
一度連絡をいただきたいです。よろしくお願いします。
- 333 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 20:30:35 ID:td1/X1jU
- 投下乙です
ああ、腹黒の未来を暗示するような話でした
四人が四人とも暗い未来しか見えん…
ここでモモが完全に堕ちた。ああ、堕ちた…
- 334 : ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:09:41 ID:BvvqvcRY
- お待たせいたしました。
衣、黒子、藤乃、伊達軍の馬、和投下いたします。
- 335 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:10:31 ID:BvvqvcRY
- 「おお、早い!
思ったより早いぞ、こいつ!」
「少し揺れますけど……慣れてくると、面白いですね」
風を切り、軍馬は全力で野を駆ける。
そのスピードは、先頭に座り馬を操る衣の想像ですら超える程だ。
三人の少女を背に乗せている事など、まるで意に介していない……寧ろ、その所為で逆に漲っているのかもしれないが。
流石は奥州筆頭伊達政宗が愛馬と言うべきか。
そして、衣と藤乃もその状況を少なからず楽しんでいる。
「…………」
しかし、その一方。
黒子だけは―――極力表情やしぐさには出さない様にしているものの―――やはり僅かながらの戸惑いが心に残っている。
いや、それは戸惑いと安易に呼べるものではないだろう。
―――明智光秀を殺害したという、秋山澪に関する情報への困惑。
―――敬愛する御坂美琴を殺害した、アリー・アル・サーシェスなる人物への怒り。
―――そして……心の支えたる、衛宮士郎への言葉に出来ない想い。
あらゆる感情が入り混じり、整理がつかない。
言わばこれは、一種の混沌だ。
- 336 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:11:12 ID:BvvqvcRY
- (……駄目ですわね、私は)
そんな己自身に、黒子は内心自嘲するしかなかった。
今は共に歩む二人の為にも、感情を抑えなければならないというのに。
普段やりなれていない事を無理にしている為だろうか、難しいものだ。
兎に角、このまま黙っていては気分的にまた辛くなってくる。
ここは自分も会話に加わり、少しでも気を紛らわせるのが一番だろう。
「天江さん、ギャンブル船に入ったらやはり麻雀を?」
故に黒子は、何気なく発言をした。
これから向かうギャンブル船にて、天江は間違いなく麻雀を行うだろう。
聞けば彼女は、先程もグラハムやヒイロ、ファサリナの為に単身戦いを挑み勝利を収めたという。
その時同様に、今持っている1000万のペリカを更に増やす事。
それは強力な武器や役立つ道具の入手へと直結し、別行動をとるグラハムと阿良々木……更には士郎への援護ともなりうる。
もっとも、衣には多少の負担をかける事となってしまうが……
「うむ、まかせておけ!
勝ってまた、必ず皆の役に立ってみせるぞ!!」
当の本人は、寧ろ望むところという心意気であった……振り返り見せたその笑顔が、それを証明している。
黒子の超能力や藤乃の魔眼、士郎の魔術といった異能の力もなくば、グラハムが持つ様な戦場での心得もない。
そんな彼女がこの場において唯一皆の役に立てることは、麻雀に他ならない。
他者から見れば負担であれど、衣にとっては、共に肩を並べ戦える事が嬉しかったのだ。
「……分かりました、期待してますわよ」
こうあっては、黒子も危険だからやめろとは言えない。
軽いため息をついた後、衣に激励の言葉をかける。
ここは彼女の言葉と力を信じ、見守る事こそが最良に違いない。
それに……もしも自分が同じ立場なら、同じ行動をとっていただろうから。
- 337 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:11:34 ID:BvvqvcRY
-
◇◆◇
「これがギャンブル船……思っていたよりも、ずっと大きいですね」
「なんでも、エスポワールという名前の船らしいぞ」
やがて、しばらくした後。
三人は特にこれといった危機に遭遇する事も無く、無事にエスポワールへと到着する事が出来た。
今はギャンブルルームを目指し、真っ直ぐに船内を歩いている最中だ。
ちなみに言うまでもないが、伊達軍の馬は船の入り口に手綱を繋ぎ止めてある。
流石に、この狭い船内に馬を持ちこむなんて真似は出来るわけがない。
仮にしたとしても、小回りも利かずスピードも十分に出せない通路内では、乗馬は無謀そのもの。
馬に利用価値があるとすれば、精々その巨体を利用して盾にするぐらいだろうか。
「さて……いよいよですね」
そして、いよいよ三人は船の中心部。
目的地のギャンブルルームへと繋がる、大きな扉の前に立った。
ここまで来ると、流石に三人の表情も険しくなる。
藤乃と黒子は、これより始まる衣の闘いに向けての期待と不安が入り混じった思いから。
そして衣自身は、背負わなければならぬ重荷がある故に。
各々が一度、息をのんだ後……衣はゆっくりと、その扉を開く。
「ようこそ、ギャンブルルームへ」
扉を開き、出迎えたのは一人の黒服。
その姿を確認するや否や、衣はすぐに用件を伝えた。
「すまない、これから麻雀をやりたいのだが構わないか?
勝負方式はオンラインで頼む」
「負けた時の支払には最高で2500万ペリカ必要だが、持っているのか?」
「血液で頼む」
最初と一語一句、まるで違わぬ黒服からの言葉。
衣にとっては、既に聞くまでもない内容であり、そして返答も同様だった。
- 338 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:12:03 ID:BvvqvcRY
- しかし……それを聞いて、藤乃がとっさに間へと割って入る。
「ちょっと、待ってください……天江さんは1000万円分のペリカードを持っています。
だったら全部血液じゃなくても、1000万を越えた場合の負け分のみ血液で払うという事は出来ないんですか?」
それは純粋に、衣の事を心配しての質問だった。
この方法ならば、最初から血液を賭けるリスクを無理に冒さなくていい。
万が一負けたとしても、失血死に陥る可能性は少ない筈だ。
ならば、完全にとは言わないものの、衣の安全を少なからず保証する事が出来る。
「可能だ。
その場合は、本来東風戦終了後に行われる血液清算にペリカを用いる事になる。
清算の際は開始時からのマイナス分が100点につき10万ペリカ、超過した分は100点につき10ccの血液採取だ。
また、手持ちのペリカードは清算に使用するので、勝負終了までこちらで預からせてもらう」
当然、主催側もこういった提案が出される事は予想していた。
よって折衷案のルールは前もって用意されており、適用する事は可能。
藤乃はそれを聞き、思わず安堵の笑みを浮かべる。
「よかった……これなら、もしも天江さんに何かあったとしても、少しはマシになりますよね」
「浅上……すまない、礼を言うぞ」
己が身を案ずる藤乃に、衣は素直に礼を言った。
仮に完全な血液清算だとしても、生きて乗り切る自信は十分にある。
しかしここは、彼女の為にも敢えてこのルールでいこう。
友の想いに、そして期待に答える為にも。
「では、血液採取とペリカの折衷ルールで構わないな?」
「うむ、すぐに用意してくれ!」
◇◆◇
(……これは……?)
数分後。
拘束具を身につけ、卓に座る衣の前に予想外の光景が現れた。
今回もまた前回と同様、足りない人員は全て主催側の補充人員なのだが……
問題は、その者達の名前にあった。
- 339 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:12:38 ID:BvvqvcRY
- 東一局
東家 ギャンブル船:25000(親)
南家 UNKNOWN1:25000
西家 UNKNOWN2:25000
北家 UNKNOWN3:25000
(衣以外の三人が、UNKNOWN……清澄の嶺上使い!?)
そう、先刻の対局と比較すればまるで異質。
衣を除く全ての相手は、正体不明のUNKNOWNとして表示されているのだ。
卓に座る衣自身は勿論のこと、傍から見ている黒子と藤乃にとっても、この事態は十分に異常と感じ取れる。
龍門渕の面々が相手であった時と比べて、明らかに意図的と言えるだろう。
そして、衣は先における牌譜を見てこのUNKNOWNが清澄の嶺上使い……即ち宮永咲の木偶であると看破している。
つまりこの勝負……劣化品といえど、衣は三人の宮永咲と対する羽目に陥ったのだ。
(もしかして……天江さんの勝ちを、警戒している?)
黒子はこの異常事態に対し、天江の勝ちを防ぐ為の策だという推測を立てる。
先の一戦においては、天江は大勝を果たし相当数のペリカを入手している。
いや、そもそもそれ以前の段階において、カイジと利根川の馬鹿勝ちがある……
参加者にそう何度も勝たれては、向こう側としても都合が悪いに違いないのだろう。
(だったら、この勝負……天江さんには分が悪いのでは……!?)
この勝負は、四人が競い合うものではない。
事実上、三対一による戦いだ。
麻雀というゲームにおいて、それがいかなるハンデであるかは……
例えルールを知らぬ素人であろうとも、十分に分かる。
(……それでも……衣は、負ける為にはいかないのだ!!)
それでも、衣は引かない。
黒子を助ける為に背負った負債を、必ずや清算する為。
後ろより見守る二人に勝って答える為。
稼いだペリカによってグラハム達を助ける為。
全ては友の為、例え如何なる敵が相手でも衣は戦い抜き勝利しようと意思を固めていた。
- 340 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:13:33 ID:BvvqvcRY
- そして、いよいよ始まる一戦目。
ドラ表示牌は北……即ち、ドラ牌は東。
衣は手牌を確認し、何を切るのが最善かを考慮する。
●衣手牌
一二三九九123ⅠⅡⅢ白白 ツモ牌は北。
(※以下、漢数字を萬子、英数字を筒子、ローマ数字を索子として扱う)
(よし……チャンタ三色、更に白で上がれば役牌もつく。
それなら満貫手で12000、九萬で上ったとしても11600……良い手を引けた)
幸運と言うべきか、衣の手は既にテンパイ状態にあった。
それも30符4飜の良手……ここに白の暗刻が加われば、5飜の満貫手だ。
そして、ツモ上がりならば跳満で18000。
更にダブリーを仕掛ければ、倍満にだって届く。
誰の目から見ても、幸先の良いスタートと言える手だ。
(しかし……ここでのリーチは、出来るならば避けたい)
だが、衣はダブリーを加算しての倍満を狙いはしなかった。
ダブリーはそれだけで2飜稼げるが、同時に相手の手牌に対してまるで防御が出来ない諸刃の刃。
それを、出だしたる東一局目……それも親番である大事なこの場で使うのには、抵抗があった。
ましてやこの勝負は、借金の返済がかかった大一番……
優れた雀力を持つ衣といえども、今回ばかりは慎重な打ちにならざるをえない。
(この勝負……絶対に、衣は勝たなければならない。
慎重にいかねば……!!)
よって、衣はツモ牌の北をダブリーをかけず普通に切る。
基本はこのチャンタ三色、九萬と白によるシャボ待ち。
無論出る牌次第では、待ちの切り替えも考慮に入れている。
そして、四者共にこれといった動きを見せぬまま三巡目に突入。
この時の衣の捨て牌は、北と五筒……そしてツモ牌は八索。
- 341 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:14:23 ID:BvvqvcRY
- (八索……)
このツモ牌に、衣は少し考えさせられた。
と言うのも、この牌を切るのには不安要素がある……それは対面。
西家の捨て牌が、七索と九索なのだ。
(七索と九索切り……しかもこの九索は、ツモしてから捨てるまでの時間が少しあった。
悩んだ結果に捨てた牌、ということは……)
衣の脳裏に、嫌な予感が走る。
この八索……西家は対子で持っているかもしれない。
七索と九索切り、しかも九索は悩んで捨てたとあれば、七八九の索子による順子を狙えた手牌である可能性が高い。
そして、東家の捨て牌は北と一萬、南家の捨て牌は中の対子落としときた。
原材料だけでは、どうしても安全と言いきれぬ……厄介な牌だ。
ならばこれはキープし、役を崩して別の牌を切るか……否。
(しかしまだ三巡目、張っているとも思えない……
もし本当に対子で持っているなら、この牌を最後まで持っておくのは寧ろ危険か……!!)
衣は敢えて、切る決断をした。
まだ勝負は三巡目、相手が張っている可能性は低い。
ならば逆に、牌を切るチャンスは手が完成する今しかない。
鳴かれる可能性もあるが、それはそれで構わない。
八索の明刻とくれば、それなりに相手の手が絞り込めるからだ。
そして、ツモ牌の八索が場に切られる。
しかし……衣の予想通り、西家は確かに八索を持っていたのだが。
- 342 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:14:46 ID:BvvqvcRY
- 『カン』
「明槓……!?」
それは、対子ではなく暗刻だったのだ。
三枚の八索が場に倒され、衣の捨てたそれと合わせて明槓となる。
続けて新ドラ表示牌が開かれ、よりによって現れたのは九萬。
ドラこそ一つ乗るものの、衣の待ち牌は一つ潰されてしまった。
西家はそのまま、嶺上牌を引き……ここで、事態は更なる加速を見せる。
『カン』
「なっ……!!」
何と、嶺上牌による二度目のカンが起きたのだ。
カンされた牌は六筒、捲られる新ドラ表示牌は西。
そして……二度ある事は三度あるとでも言わんばかりに、引き抜かれた嶺上牌は。
『カン』
カン宣言され、場に四枚の南が倒される……!!
新ドラ表示牌は再び北、これで西家は三槓子を達成。
衣の傍から見る藤乃と黒子は、信じられないという様子で画面を見つめていた。
そして、対戦の当人たる衣もまた驚愕の表情を浮かべている。
(……しまった……!!)
油断をしていた。
例え本物には遠く及ばぬ木偶と言えど、相手は清澄の嶺上使い。
その得意とする戦法をとってくる事ぐらい、予想出来た事ではないか。
即ち、この後に襲いくる攻撃は……!!
宮永咲の十八番――――嶺上開花……!!
- 343 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:15:34 ID:BvvqvcRY
- 『ツモ。
三槓子、嶺上開花、8000』
●西家UNKNOWN2手牌
六七ⅤⅤ ツモ牌は五、副露牌は8888 ⅥⅥⅥⅥ 南南南南。
裏ドラは乗らず。
「……大明槓による嶺上開花。
衣の責任払いか……」
通常のツモ上がりと違い、大明槓には責任払いが伴う。
衣は己の捨て牌を大明槓された事により、この8000点を一人で責任払いさせられてしまった。
その上に親番を蹴られるという、痛い出鼻であったが……
(……慎重に打っていたつもりで、焦っていたか……)
衣は、己の敗因が何かを分かっていた。
一巡目の時点では、慎重に打たなければと心がけていた。
しかし三巡目では、その逆……やや強引ともいえる攻めに出てしまった。
あの場では無理にテンパイ維持をせず、手を一度崩し再構築するのが安全だったというのに。
勝ちを焦り過ぎてしまったのだ。
この勝負に『勝たなければならない』という気持ちが強く出過ぎてしまったのだろう。
その結果が、木偶にも負けるこの様だ。
(だけど……まだ取り戻せる。
勝負はここからだ!!)
東一局目 終了
東家 ギャンブル船:17000(親)
南家 UNKNOWN1:25000
西家 UNKNOWN2:33000
北家 UNKNOWN3:25000
- 344 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:17:03 ID:BvvqvcRY
- 【F-3 ギャンブル船・ギャンブルルーム/一日目/真夜中】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康、首輪爆発まであと10時間(現在の負債:1億ペリカ)
[服装]:いつもの私服
[装備]: チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2
[道具]:麻雀牌セット、レイのレシーバー@ガン×ソード、水着セット@現実、エトペン@咲-Saki-
サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
1:友の為、この闘牌を乗り切る。
2:誰にもバレないように、負債を返済する。
3:グラハムを信じる。
4:《はらむらののか》と《清澄の嶺上使い》を救い出したい!
5:ギャンブルではない麻雀をして友達をつくる。
6:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる。
7:皆が望むとあらば麻雀に臨みペリカを入手する。
8:インデックスと友達になりたい。
9:浅上、白井とは友達になれた……?
[備考]
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※帝愛グループに1億ペリカの借金をしました。借金は定時放送を迎えるごとに、倍額になります。
7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります
※1000万分のペリカードは、清算の為麻雀終了まで黒服に預けてあります。
※自分でも気づかぬ内に、勝ちを焦っていると感じています。
- 345 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:17:25 ID:BvvqvcRY
- 【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:衣の事が心配、彼女の闘牌相手の動きに驚愕。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
4:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
5:士郎さんが心配、意識している事を自覚
6:士郎さんはすぐに人を甘やかす
7:少しは士郎さんを頼る
8:アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。浅上藤乃も含む。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。
・ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
・その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※美琴の死を受け止めはじめています。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります
- 346 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:17:45 ID:BvvqvcRY
- 【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
1:衣の事が心配、彼女の闘牌相手の動きに驚愕。
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを探す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※阿良々木と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります
- 347 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:19:02 ID:BvvqvcRY
-
◇◆◇
「…………」
同時刻。
自室にて原村和は、ディスプレイにリアルタイムで映し出されている衣の試合を眺めていた。
和もまた、衣らしからぬその打ち筋には理由共々気づいている。
黒子の治療の為、背負わされたという一億の借金……それが間違いなく、重圧を与えているに違いない。
更に言えば、咲のAIが三人がかりという異常事態もまた、手伝っているのだろう。
(……最低ですね、私は)
和は、衣に三体のUNKNOWNを差し向けた自身を嫌悪した。
彼女がこの様な奇異たる行動を取ったのには、当然理由がある。
『天江衣が背負っている一億の負債を、そう簡単に返させては面白みがない』と。
衣が易々と勝利を掴めぬよう手を講じろと、上からの圧力があったのだ。
和からすれば、それは非情の宣告だった。
自分の友人をその手で妨害する等、彼女にとっては苦痛以外の何物でもないのだ。
しかし、逆らう訳にはいかない……逆らえば、咲の命がどうなるかが分からないのだから。
よって彼女は、衣の闘牌にUNKNOWN三体を差し向けるという案を出した。
本物には劣ると言えど、咲を元にしたAI……それが三体がかりならば、衣も混乱し苦戦するに違いないだろうからだ。
(けど……)
しかし同時に、この策には実は抜け穴も存在している。
それは先の兵頭戦で見せたAIの行動。
死ぬ寸前だった兵頭を振り込みで救うという、和の予想を越える一打だ。
帝愛グループには、咲の行動を元にしたが故の仕様と伝えてある。
そしてこれは、絶対に起こるとは限らない博打。
何も起こらず終わる可能性の方が寧ろ高いだろう。
それでも、もしあの時と同じ事が起きるならば……まるで咲の意思が、衣を救おうとして動くかの様な事があれば。
(……ほんの僅かでも、私は帝愛に対して抵抗を行えたことになる……)
- 348 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:20:36 ID:BvvqvcRY
- 【原村和@咲-Saki-】
[状態]:健康、少々の自己嫌悪
[服装]:私服
[装備]:エトペン@現実
[道具]:デスクトップPC×数台、会場監視モニタ×数台、質問対応マニュアル(電子ファイル)
[思考]
基本:帝愛に従い、咲さんを救う
1:衣の闘牌を見守る。
2:闘牌の展開次第では、僅かでも帝愛の目論見をつぶせる……?
3:役割(麻雀・サポート窓口)をこなす。
4:咲さんが心配。一目だけでも無事な事を確認したい。
5:どうせ打つなら守る為の麻雀を打ちたい。
6:忍野メメを警戒。従ってはいるものの、帝愛は許せない。
7:【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】が帝愛にとっての最重要施設?
8:私には、帝愛に与えられた役割を果たすことしかできないんでしょうか……?
[備考]
※登場時期は最終回の合宿終了後です。
※基本的に自分の部屋から離れられません。
※監視されていること、異世界から集められていることを知っています。
※【櫓】が鬼門封じの重要施設。【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】のどれか、もしくは全てがこの島の最重要施設だと考察しています。
※UNKNOWNのAIが、衣の味方をするか否かに一か八か賭けています。
※以下の事柄はSOA!と思っています。
・死者が蘇る。
- 349 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:22:19 ID:BvvqvcRY
- 【質問について】
参加者の居場所
サポート窓口を利用可能になった時点で回答可能。
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、居場所が分かるのも二人までです。
特定人物を殺害した人間の名前
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、殺害者名が分かるのも二人までです。
殺し合いに巻き込まれた理由、殺し合いの目的
サポート窓口を利用可能になった時点から四回目の放送以降、回答可能。
原村和について
サポート窓口を利用可能になった時点から三回目の放送以降、回答可能。
特定の人物の同行者
少なくとも、サポート窓口を利用可能になってから一回目の放送を越えた時点では回答不可。
※ルルーシュからの質問が回答可能なものかどうかは、後続の書き手氏にお任せします。
- 350 :衣 野性の闘牌 ◆lDZfmmdTWM:2010/06/07(月) 22:23:06 ID:BvvqvcRY
- 失礼、和の時刻表が抜けてました。
状態表の前にこれだけ入れてください。
【???/飛行船・原村和の部屋/一日目/真夜中】
これにて投下終了です。
- 351 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 22:37:46 ID:6eyCVZ/U
- 投下乙です
おっぱいさんがガチや…
これ衣勝てるのか?
しかしここまで細かな麻雀描写あるのは初めてかな
- 352 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 22:52:37 ID:bskgpo2Q
- 投下乙です
まぁ劣化咲三人相手で感覚抜きにやろうとしたら、そりゃ差し込まれるわな
hrmrさん、これでうっかり衣が失血死したら恋敵が消えるね!
じゃなくて、トラウマ以上のものが残るぞ。。。
- 353 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 22:57:47 ID:td1/X1jU
- 投下乙です
これはこのロワ最大の麻雀対決かもな
衣は勝つことが出来るのか?
和はこのままなのか?
- 354 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/07(月) 23:01:29 ID:fNzKA7vg
- 投下乙です
衣頑張れ、超頑張れ
>◆1aw4LHSuEI氏
「生物語〜すざくギアス〜」の分割指定をお願いします
- 355 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/06/07(月) 23:16:38 ID:???
- 書き手の方々はいつも投下お疲れ様です。
ここからは管理人としての連絡を。
最近、複数のスレで、そのスレの趣旨に相応しくない書き込みが行われるケースが目立ってきたように思います。
このしたらばの治安を懸念する声もあります。
住人の皆様には、最低限のマナーを守ること、スレの使い分けの徹底を改めてお願いします。
なお、管理人への苦情・要望・意見等は随時受け付けておりますので、なにかあれば管理人スレまでお願いします。
- 356 : ◆1aw4LHSuEI:2010/06/08(火) 01:23:06 ID:ttoyqNTM
- >>354
wiki収録ご苦労様です。よろしくお願いします。
では、>>285以上を(上)、以下を(下)としてください。
- 357 : ◆hqt46RawAo:2010/06/08(火) 02:42:14 ID:H7ylggeU
- 申し忘れていました。
GEASS;HEAD TRIGGER の分割タイトルにおいて、
分割指定前を(L)、分割指定後を(R)としてください。
- 358 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/08(火) 03:31:53 ID:lcELJJOw
- >>356、>>357
返答ありがとうございました
- 359 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/08(火) 18:46:20 ID:4oTpGMsU
- ★ 連絡事項 ★
◆KEnJlE0kvM氏
最初の予約から二週間以上、前回の仮投下からも既に丸一週間以上時間が経過していますが、
現在、修正の状況はいかかでしょうか?
本投下の目処が立っているかどうかだけでも、連絡いただけたらと思います
- 360 : ◆KEnJlE0kvM:2010/06/08(火) 19:08:58 ID:0HH.DDS2
- すいません、連絡が遅れてしまいました。
修正の状況ですが…、すいません、もう少しだけ時間がかかりそうです。
やむにやまれぬ事情で、4日ほどPCが使えない環境にありましたもので…。
必ず仕上げますので、どうか木曜日までお待ち願えないでしょうか?
- 361 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/08(火) 20:53:38 ID:NqTCFe8U
- ☆ 連絡事項 ☆
議論スレにて◆KEnJlE0kvM氏の投下稿の扱いに関する発議がなされました
意見のある人はそちらでお願いします
- 362 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/09(水) 23:17:33 ID:ufNwM7kY
- ☆ 連絡事項 ☆
議論スレにて話し合われていた◆KEnJlE0kvM氏の次回投下稿に関する扱いが決定したので連絡します
>◆KEnJlE0kvM氏
氏の次回投下稿については以下のような扱いになるので、チェックしてください
・締め切りは2010/06/10(木)23:59:59までとし、それを過ぎた場合予約破棄となり拘束キャラの予約が解禁される
・投下されたSSは仮投下稿としではなく、修正稿(本投下されたSSが修正要求を受け、一度修正が入った状態。問題があった場合、一度だけ72時間という期間の中で修正が可能)として扱う
それではよろしくお願いします
- 363 : ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:55:14 ID:3t.Bi5dA
- 遅れて申し訳ありません。これより、本投下を開始いたしたいと思います。
- 364 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:55:54 ID:3t.Bi5dA
- 「俺が…このフザけた殺し合いなんていう……その幻想を必ずブチ壊すッ……!!」
こう言ったはいいものの、欺瞞と虚飾にまみれた今の心理状態で何がなせるわけでもない。
そう途方に暮れたところでいきなり現れた少女。上条当麻にとっては
とりあえず何も考えずに体を動かし、心を切り替えるいい機会になるハズだった。
肩を貸し、彼女を気遣いながら路地裏から一歩踏み出したとき、
彼は安堵すら覚えていた。
そんな彼に少女は問いかける。
「簡単なことなんですけど…」と。
◇ ◇ ◇
ところで、上条当麻は元来『危機』というものに敏感だった。
それは彼が不幸体質であったことと深く関係しているのだろう。
『ああ、このままこういけばまた事件だ』『ああ、あそこでああした以上
もう厄介事になる』といったことが何となくわかってしまうのだ。
その彼の敏感さが、精神的疲労の極致にあってなお彼を救う。
◇ ◇ ◇
- 365 : ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:56:59 ID:3t.Bi5dA
- 「あなたは日本人ですか?」
少女の放った問いかけ。その、脈絡のなさと声に込められたほんの僅かな不自然な力。
普段なら、「意識を保つための他愛もない問いかけだろう」と
軽く考えていたはずのその言葉に、上条当麻は何故か寒気を覚えた。
判断は一瞬。弛緩しかけていた思考を一気に引き絞り
「っつ!!」
叫び、反射的に少女を振りほどく。
びゅう、と風を切る音がした。
「がッ!!」
左腕に灼熱感。少女から注意をそらさずに僅かに視線を落とし確認する。
左腕が、肩口から肘のあたりまで浅く斬られていた。
少女の右手に握られた、血に濡れててらてらと不吉に光る脇差によって。
不自然に歪んだ笑みを浮かべた少女に、上条は慄然とする。
「くそっ…いきなり何しやがる!」
「そんな反応をする、ということは…、あなた、日本人ですよね?」
「だったら…だったら何だってんだよ!!」
「ごめんなさい、私もこんなこと別にしたくはないんです。でも、
日本人の上条さんには、死んでもらわないと」
「…何言ってやがる」
「私、日本人を皆殺しにしないといけないんです♪ですから…死んでください」
それだけ言うと、少女は再び斬りかかってきた。
「うぉぉぉッ!!?」
あまりの急展開に頭の整理が追いつかないまま右に飛び袈裟掛けの斬撃を躱わす。
避けられたことに顔色一つ変えず、少女は思い切り踏み込みながら
続けざまに逆胴に斬りつける!
(ま、マズ…っ!!狭い路地裏じゃあ満足に避けきれねぇ!!
最初に後ろに下がったのはミスだったか!!)
先ほどの回避でビルの壁にぶつかってしまった上条はこの横の斬撃を
今度は後ろに飛び何とか躱わす。
「あだッ!!」
無理な体勢からの跳躍でバランスを崩した上条はそのまま
7メートル程先の地面に倒れこむ。
- 366 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:57:34 ID:3t.Bi5dA
- 「ふふ…♪」
少女はその無様さを嘲笑いながら一気に間合いを詰め脇差を地面に伏せた上条の
背中に突き立てようとする!
「さあ、死んでくださ「舐めんなぁ!!」!?」
上条は腕のバネを限界まで使い跳ね起きながら、振り向きざまの裏拳で少女が
振りかぶっていた脇差の腹をぶん殴る!
その一撃で脇差は呆気なく少女の両手の中からすっぽ抜け、
血の軌跡を描きながら左の壁にぶち当たる。
(あれ――?ここまでうまくいくか?)
上条の中に生じる違和感。大雑把な太刀筋といい相手は素人か?
そう思いながらも、上条の反撃は止まらない。
さらに上条は呆気にとられている少女の体を、彼女の傷が開かないような最小限の力で蹴りつけ、間合いを取る。
「きゃあっ!!」
とはいえ加減しても彼の蹴りは少女には強すぎたようで、吹き飛ばされた少女は尻もち
をついた体勢からすぐには立ち直れない。
この一連の攻防で、元々精神的な疲労が溜まりきっていた上条の精神力はがりがり
と削り取られていく。しかし彼はそんな自分の状態をおくびにも出さず、
少女に鋭い眼光を向ける。
「痛た…。ふふ、乱暴なんですね。」
少女はそう言って笑むと、蹴りの衝撃で肩から落ちたデイパックに手を掛ける。
「何でだよ…」上条は低く呟いた。
「?何でしょう?」
「何でなんだよ!!何で日本人だってだけで他人の命を簡単に奪おうなんて
できんだよ!!ふざけんなよ!」
「ふざけるな、と言われましても…。私は日本人を殺さないといけないんです。」
感情というものが奇妙に欠落した、歪んだその声に再び違和感を感じつつも、彼は吼える。
- 367 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:58:04 ID:3t.Bi5dA
- 「そんなわけないだろ!!日本人だってことが殺す理由になんてなるわけねぇだろ!!
いや、例えどんな理由を並べたって殺されていい奴なんざいるはずがねぇ!!
自分が助かりたいからって、誰かを殺すなんざ間違ってる!!
何か、何かあるはずなんだ!こんなくだらない殺し合いをぶち壊す、
もう誰も傷つかないで済む、そんな最高のハッピーエンドにつながる方法が!!
何でそれを探そうとしない!何でそんな簡単に諦めて『相手が日本人だから』
なんて言い訳して襲おうとすんだよ!!」
上条の腹の底からの怒号に、しかし少女は歪な笑みで応じる。
その能面が無理やり表情を変えたような笑みに、上条は三度違和感を覚えるも――
「私もハッピーエンドにつながる方法は探しています」
「だったら…」
「でも、日本人は殺さないといけないんです♪貴方こそ何でわかって
くれないんですか?」
「意味がわからねえよ…!!どういう理屈なんだよ!!」
「うふふ…。わからないならそれでもいいんです。
そんな偽善を振りかざさずに死んでくれさえすれば」
会話が成り立たない。理解ができない。怒りの余り視界が歪む。
先程まで感じていた違和感も頭から吹き飛んだ。
何でどいつもこいつも誰かを殺すことを肯定できるんだ。
ある者は復讐の為。ある者は夢の為。ある者は快楽の為。ある者は生き残る為。
そして目の前の少女は人種という壁の為。
この島に来てから上条が出会った者は安藤を除き全て誰かを殺すことを肯定していた。
なるほど、ここは殺し合いの場なのだから、誰かを殺すのは
とても自然なことなのだろう。そして、それで自分が、
自身の大切な誰かが救われるのなら、自分の望みが叶うなら、
それは一見してとても幸せなことにすら見える。
しかし、上条当麻は知っている。
命を奪うことの重みを。奪われた者の、そしてその周囲の人々の悲しみを。
かつて自分もあの幼い少女にその苦しみを与えそうになったから。
傍らに眠る少女がその痛みを今も尚自分に刻みつけるから。
上条当麻は知っている。
人の死体の上に成り立つ夢や幸せの、その脆さといびつさを。
傍らに眠る少女が置かれていた絶望的な状況を覚えているから。
魔術の要塞と化したビルの中で、黄金の錬金術師が行っていた非道と、
その理由を忘れられないから。
だから上条当麻は何があろうと殺人を、そしてその上に成り立つ一切の夢や幸せを肯定できない。
そして、上条当麻はそんな『死』の理不尽を誰にも背負わせたくない、
みんなに笑顔でいてほしいと、ただそれだけを胸に今日まで戦い抜いてきた。
例え何もかもが偽善で塗り固められていたとしても、その想いだけは真実だから。
上条当麻は渾身の力を振り絞り、叫ぶ。
「偽善者と罵られるのも、蔑まれるのも構わねぇ…。俺の理想が
間違ってるって笑うならそれでもいい。…けどな、それでも言わせてもらうぜ!
テメェのやってる事は大間違いだ!!
てめぇが、相手が日本人だってだけで殺す事が正しいなんて思ってやがるなら!!
誰かを殺せば自分が幸せになれるなんて思ってるんなら!!」
「まずは、その幻想を『お前は偽善者ですらない。悪意の扇動者だ』…!?」
◇ ◇ ◇
- 368 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:58:32 ID:3t.Bi5dA
- 気がつくと、目の前にあの男がいた。
「レイ・ラングレン…!?」
『お前は俺の死を見ても、何も変わりはしなかったか…。』
「ふざけんなよ…っ!!あんなもん見せつけられて、一体どうしろってんだ!!」
『お前は結局のところ、自分がかわいいだけの偽善者だ。
そんな男に変わることを期待した俺が愚かだった、というだけの事か…。』
「てめぇ…!!言いたい放題言いやがって!!」
「一体どなたと話していらっしゃるのかわかりませんが…。隙だらけですよ♪」
「!?」
血が放射状に飛び散る。
「ぐぁぁぁッ!!」
空を裂き引き抜かれる穂先。少女がいつの間にか手にしていた槍のようなものが、
彼の左腕を深々と刺し貫いていったのだ。
穴の開いた左腕をかばいながら考える。
(あれはあの女の異能なのか?なら幻想殺しで…!!いや、待てよ。アイツ今
『誰と話してるか知らないが』みたいなこと言ってやがったぞ…。
てことはあれはアイツの異能じゃない…!?くそっ、考えても仕方ねぇ!!)
上条は高速で思考をまとめると、目の前の幽鬼のような男の顔面に
幻想殺しをフルスイングで叩き込む!!
「な…!?」
目を、疑った。
上条当麻の幻想殺しは確かにレイの顔面を捉え、彼の姿は一瞬で掻き消えた。
『都合が悪くなるとこれか…。幼稚極まりないな…。』
だというのに彼は先ほどより三歩後ろの場所に依然として存在している。
『流石だね、上条当麻』
後ろから侮蔑の声がする。
振り向くと、そこには枢木スザクの姿があった。
『全く…。分かり合うことが大切、などとお題目を並べておいて、いざ理解し合えない
相手に出会えば暴力か。なんて半端だ。やっぱりあそこで君を切り捨てておいて
正解だったよ。』
その言葉に顔を歪ませる上条に対し、彼は続けて、
『君は結局のところ何がしたかったんだ?』
と、問いかけてきた。
◇ ◇ ◇
- 369 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:58:57 ID:3t.Bi5dA
-
「何がしたかった、だ?そんなもん決まってるだろ!殺し合いを止めるんだよ!!」
スザクに怒鳴り返しつつ、少女の突きを紙一重で避ける。
『本当にそうなのか?なら何故、サーシェスを殺すことに反対するんだ?
命の重み?笑わせるなよ。それを最初に踏みにじったのは彼だろう』
その言葉は上条の胸を刺し貫く。
その痛みに耐え反駁する。
「ふざけんな!殺し合いを止めるために誰かを殺すなんて矛盾、認められるわけねえだろうが!!」
『…本当に綺麗事以前の問題だな。いいか、殺し合いを止める、ということは主催者に
反抗する人物を集め、主催者と殺戮者を排除するということだ。
誰も殺さないなんて選択肢は存在しない。そこから理解できていない君に、
誰かを守るなんて不可能だ。
精々がその薄っぺらい偽善的な発言で周囲を惑わし、足を引っ張る程度だ』
冷たい視線が、言葉が、上条の信念をがくがくと揺さぶる。
「そんなこと納得できるかよ…!!誰かを殺すことに正当性なんかあるかよ!」
『ありはしないさ。でも、ここは戦場だ。正しいか間違ってるかじゃない、
生きるか死ぬかだけだ。何故そんな当り前の事がわからない?
何故自分だけの理想を他者に押し付けられるんだ』
「それは…!!だって、誰かを死なせるのが当然だなんておかしいだろ!!
どうやったらそんな事を肯定できるんだよ!!」
その言葉に、ふぅ…、とスザクは落胆の息を吐く。
『またそれか…。結局君は他人なんかどうでもいいんだよ。ただ自分にだけ
心地よい世界が欲しくて、そのために正論を盾にして他人の意見を押しつぶそうとしてるだけだ』
「そんな、ことは…」
何も、返せない。言葉が浮かばない。体が、動かない。
心が、壊れようとしている。
「あら、止まっていいんですか?」
「!!」
ずぶり、と。
上条の右のわき腹に槍が突き刺さる。
水風船が割れたかのように鮮血が吹き出す。激痛に視界が一瞬真っ赤に染まる。
「ぐ…あああああああ!!」
その一撃で包丁とモップのつなぎ目がほどけ、槍はその意味を為さなくなった。
腹に刺さった包丁が、ゆっくりと地面に血の赤を引いて墜ちる。
その様はまるで、未練がましく偽善に縋りつき、そして砕かれた彼のカタチ。
少女は槍として使えなくなったと判断し、即座にモップを捨て、今度はデイパックからアゾット剣を取り出し、構える。
- 370 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:59:27 ID:3t.Bi5dA
- 少女がその作業をしている間も、レイとスザクからの罵倒は続く。
それを上条は、ぼんやりとした頭で聞いていた。
『貴様はその少女の死を背負えていない』
『君は夢を壊す事の罪深さを理解してない。それどころかずっとそれから目を逸らして生きてきたんだ』
『夢を殺された者がどうなるか―――まだ解らないか?』
『もう一度だけ言おう。君がアーチャーさんを殺したんだ』
今までに言われたことを繰り返し突きつけられていく。
(俺は、間違っていたのか――――?)
そしてその呪詛にも似た言葉の渦に上条は満足な答えを返せない。
(俺は、どこで間違えたんだ――――?)
それは腹の傷が原因ではなく、彼の心にそれらに答えられるだけの何かが無かったから。
(俺は、何を間違えたんだ―――?)
それは、今の彼では理解しようとしてもしきれないものだから。
(俺は、何で間違えたんだ――――?)
少女がアゾットを振るう。上条は何も反応できずまともに右腕に刀を浴びる。
ボタボタとだらしなく地に墜ちるその血は、こぼれおちる彼の偽善そのもの。
痛みに鈍くなっていく頭が、ふとそんな事を考えた。
次々と振るわれる白刃。その全てをかわす事も出来ずにその身に受けていく。
何故なら今の彼には迷いと後悔と絶望と、それだけしかないから。
次第に追い詰められ、へし折られていく心。
そして心が一つ傷を負うたびに、体にも傷が刻まれていく。
腕を切られ足を削がれ―――信念を嘲笑われ矜持を潰され。
そして遂にスザクが、決定的な言葉を上条に突きつけた。
『君は結局、自分の基準でしか誰かを測れず人を傷つけ、
そして誰かを守ろうとすればするほど周囲を殺す、害悪細菌でしかない』
その言葉は普段の彼ならば打破できただろう。
しかし現にそんなモノになってしまっている今の彼の心は、その言葉で完全に砕けた。
(もう、駄目だ……)
精神と肉体の双方を叩き潰され―――少年は遂に地に墜ちる。
その惨状を無感動に眺めた二人は、
『そこで貴様は終わりか…』
『じゃあな、上条当麻。もう二度と会うこともないだろう』
と言い残し、足元から砂細工のように消えていった。
あれはなんだったのだろうか?誰かの異能?主催の介入?
―――否、答えは出ている。
結局のところアレは、上条当麻本人が作り上げた、
自分自身の迷いを投影した幻覚にすぎなかった。
そして、そんなモノに無様に踊らされた少年の腹の上に、
少女は迷いなくまたがると、アゾットを両逆手に持ちかえ振りかぶった。
- 371 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 22:59:54 ID:3t.Bi5dA
- 少女の顔が再び彼の視界の中に入る。
「―――あれ?」
ノイズだらけの思考に、ほんの一筋だけ走った光。
それは、彼の「助けなければ」という本能が齎した、ひらめきだったのかもしれない。
泣き笑いにも似た、歪な表情。
感情のこもらない紅く穢れた瞳。
どこかねじ曲がったかのように聞こえた、少女の声。
その様が何故か、彼が救わなければならないあの少女に重なって――――
彼は無意識のうちに、彼女の頭に手を伸ばしていた。
ずぶり、と刃が肉に突き立つ音と、
異能が砕ける音が重なった。
その瞬間、呆気なく戒めから解き放たれた少女の体が、後ろへと傾いでいく。
少女の体が地に落ちる音を聞きながら、上条は暗澹とした気分に浸っていた。
少女が操られていると本能で察して、その呪縛から少女を解き放ったまではいい。
だが、今の彼には、この後目を覚まして、自分が犯した罪と向き合わねばならない彼女
に対し、何一つしてやる事が出来ない。
この戦場において、恐らくは戦う力など持ち合わせてはいない少女を守るだけの力も、
犯した罪と向き合えず心が折れるかもしれない少女を支えるだけの精神力も、
今の心身ともに摩耗しきった彼には全く残されていない。
こんな中途半端な状態で、ただ安易に呪縛だけを断ち、少女を地獄へ放り出す。
なんて、偽善。
そして、それを自覚してなお奮い立たぬ己が心に、彼は失望した。
(だけど、もうどうしようもねえ。今まで俺が何かしても、その度に状況は悪化して行ったんだ。
次に俺が何か目を覚ましたコイツに言っても、それもコイツにいい影響なんて絶対に与えない。
いや、間違いなく俺はコイツの心を殺しちまう。コイツの苦悩を察せずに、自分の独りよがりを押し付けて、コイツの全てを壊しちまう。だから、もういいんだ)
あろうことか、己が行動しないことへの言い訳を心の中で始める始末。
だが、確かにそれはこの世界においての真実。今までに突きつけられた現実から、
そう彼は確信してしまっている。
故に、彼は。
(もう、どうでもいい。こんな偽善者には、誰も救えず、目の前の誰かを見捨てて、
独り無様にくたばるのがお似合いだ。そうだろ、スザク――――――)
最後まで無様に言い訳をしながら、
静かに目を閉じた―――
◇ ◇ ◇
- 372 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:00:15 ID:3t.Bi5dA
- 気がつくと、彼は廃墟となった城の中に立っていた。
「…………は?」
思わず間抜けな声を出してしまう。
周囲を見回してみると、ここは深い森の奥に建てられた、西洋風の城の残骸だと
察する事が出来た。
一体いかなる事があれば、これだけの破壊が行えるのか。
階段は崩れ床は無残にもぐずぐずに穿たれ、壁にも所々大穴が空いている。
脳裏にふと学園都市最強との戦いが浮かび、思わず背筋を凍らせる。
気がつくと、全身に刻まれたはずの傷跡も消えている。
「一体どうなってんだよ…」
あまりにも急な状況の推移に呆然とする彼に、彼方から声が掛けられた。
『無様だな、上条当麻よ』
その声の方向に振り返った彼は愕然とする。
「アー……チャー………?」
そこにあったのは、彼が自分の身勝手の果てに死なせた、赤い弓兵の姿だった。
◇ ◇ ◇
- 373 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:00:55 ID:3t.Bi5dA
- 『ふん。私の顔を忘れるほどには意志を失くしていなかったか』
そう呟きながら、彼は階段を下り始める。
視認できる限り、彼は万全とは言い難い状態だった。
上半身に赤い外套は無く、体中に傷が刻まれているのがわかる。
それでも尚、彼の歩みはしっかりとしており、意志の強さを感じさせる。
「お前、死んだんじゃなかったのかよ…。それに、ここはどこなんだ?」
その問いかけに、アーチャーは皮肉な笑みと共に告げる。
『ここか?ここは貴様の夢の中だ。そして、私にとって終焉の地の一つともいえる。
…とはいえ、まさかこの場を作り上げるとはな。よほど貴様の精神は参っていると見える』
「俺の……夢?」
『ああ。貴様のボロボロになった精神状態が、この光景を見せている。だから、
死んでしまった私が目の前にいる。ただそれだけの事だ』
「…そう、か。じゃあアンタも、アイツ等と同じで、俺の心が見せた幻なのか」
『さて、な。案外本物かも知れんぞ?それに……』
ここで彼は言葉を切り、
『どちらであれ、私のすることは変わらん』
上条の目をにらみつけ、こう言った。
『貴様の答えを見せてもらおうか。上条当麻よ』
「俺の、答え……か」
『ああ。貴様は己の毒でこの戦いの場そのものを崩してみせると言ったな。
…あの時の貴様は、己の正しさを微塵も疑っていなかった。
しかしその言葉を貫けぬまま、現実に負け無様に屍を晒そうとしている。
たかが己の間違いを指弾された程度で、今までの何もかもを捨て去って、な。
その様な体たらくで、これから先をやっていけるとは到底思えん。
故に、問おう』
階段を下り終えた彼は、彼めがけ歩を進めながら問いかける。
『貴様は己が間違っていたと認めるのか――?』
その嘲るような問いかけに、上条は力なく吐き捨てる。
「……どうしてアンタが、んな事を聞くんだよ?」
『私には似合わん、か。確かにな。だが言っただろう?これは貴様の見ている夢だと。
私のこの在り様も貴様の無意識の願望が反映されているからだろうよ。
で、どうなのだ?』
男の侮蔑を含んだ口調に、激昂するだけの力さえない上条はただ、
「―――ああ。俺は何もかも間違ってたよ」
と、感情のこもらぬ声を吐きだす。
『―――ほう。そうか』
上条の眼前まで辿り着いたアーチャーは、彼を睥睨しながら言う。
その鋭く冷たい眼光と、言葉に秘められた悪意に、しかし上条は全く反応せずに、
「だって、そうだろう。俺は、自分の独りよがりを押し付けて、偽善に酔ってただけだった。
そしてその結果誰ひとり助けられず、逆にお前を死なせちまった。
しかもアイツに指摘されるまで、その間違い全部から目を逸らしてた。
それが、間違ってる人生じゃなかったら何だってんだよ………」
とぼやくように漏らす。
- 374 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:01:26 ID:3t.Bi5dA
- 心を折られ消沈したその姿は過程こそ違えど、まるで全てに絶望したかつての己のようで。
八つ当たりだとわかっていても、殺意すら湧く程に似通ったその様。
ソレを睨むように眺めたアーチャーは、苛立ちと落胆の入り混じった表情で
『…貴様の知り合いからは、貴様に戦う気力を奮い立たせて欲しいなどと言われていたのだがな。
救えなかった義理を果たすために、気が進まぬ中出て来てみればこれか。
今ここで、ほんの僅かな闘志すら見せられんのならば、奮い立つなど望めまい。
そんな様ではこの場を運良く生き延びても、どこかで周りを巻き込み自爆するのが落ちだろう。
そうなる前に、私が引導を渡してやる。
さあ―――ここで死ぬがいい』
と吐き捨てるように言葉を紡ぎ、両手の剣を十字に走らせ、彼を斬り裂こうとする。
それに目を向けることすらなく、上条は―――――――――――その剣を、砕いた。
「………は?」
思考が追いつかない。己の体がとった行動が理解できない。
『ほう…。まだ体は諦めていないか』
「違う…。俺は…」
『ならば精々覚悟を見せてみろ。その右手で私の体か顔に、一発でも拳を叩きこめ。
それができぬのなら死ぬだけだ。ほら、次だ』
アーチャーは上条の声など無視して、次の干将・莫邪を投影し、今度はその胴を輪切りにしようと水平に刃を動かす。
左右から迫りくるその輝く刀身に、上条は今度こそ己の死を確信し―――その予感を砕いた。
左からの刃に遅れたため、胴体を浅く斬られているが、上条の右手は信じられない
速度でアーチャーの斬撃に食らいついていた。
「何でだ…?どうして、俺の拳は…」
茫然とつぶやく上条。そこへ、
『どうした。何を呆けている』
叫び、三度干将・莫邪を投影し、今度は一方を投げつけてくる。
しかし、その投擲がどれほどの速度を持とうと、上条の拳は彼の意思を無視して
その剣を砕くため、唸りを上げて前に突きだされる。
投擲された干将・莫邪の一方を砕く幻想殺し。だが―――
『――遅い』
それは彼の拳を引き付けるフェイク。彼はがら空きになった上条の懐に入り込み、
左手に持った莫邪で右のわき腹を鋭く斬り裂く!!
その瞬間に流れ込んでくる映像。
無数の屍の山と、その上に蹲るアーチャーの姿。
正義の味方になろうとして、その矛盾を突きつけられた男の人生。
誰かに利用され、それでも正義の味方を貫こうとして、そして全てに裏切られ無数の剣に貫かれ果てる男の人生。
己の理想を追い続け、そして遂に果たせなかった男の人生。
右手で莫邪を砕き、無意識に後ろに下がる。
間欠泉のようにまき散らされる血を気にも留めずに、上条は呟く。
「…何なんだよ、今のは」
吐き気がする。頭がぐるぐると回る感覚に目眩がする。
嫌な予感がする。何か、致命的なものを突きつけられる予感が。
- 375 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:02:10 ID:3t.Bi5dA
- 『ふん。その顔色からして…、どうやら見てしまったようだな、上条当麻。
ここが貴様の夢の中とはいえ、これはどうなのだろうな?
この場を作り上げたことといい、私と貴様の心が混線しているようだが』
止めてくれ。聞きたくないんだ。もういいだろう、これ以上俺を苦しませないでくれよ。
俺は間違ってたんだ、それでいいんだ。もう何も考えたくない。
そんな上条の願いに構わず、アーチャーは上条の予感を肯定する。
『そうだ。それはすべて事実だ。私が歩み…貴様もまた歩むだろう道だ』
突きつけられた現実。アレが、俺が歩むはずだった未来…?
『ああ。偽善の果てに辿り着いたあの光景が、貴様が偽善を貫き通せていた時に同じく至ったであろう場所だ』
ここで言葉を切り、僅かに逡巡した後に彼はこう口にした。
『貴様と人であった頃の私はよく似ていた。救いたいから救うなどといい、己の事を
考えず誰かを救おうとし、そこに一片の疑念もはさまない。そして誰もが幸福で
あってほしいなどとおとぎ話の理想を願い、それを心の底では誰もが思っている
だろうなどと錯覚している人格破綻者。借り物の意志を己の意志と勘違いする半端モノ』
言葉を次々と吐きだしながら、彼は投影した二刀を、振りかぶり上条の頭上から叩きつける。
幻想殺しで受けるも、その受けた衝撃が体をきしませ、足を砕こうとする。
『そんなモノが誰かを救えるはずがない。己のことさえ満足に助けられぬのに、
何故他者を助けられるなどと思うのだ!』
叫び、再び振り下ろす。
それを受け更に軋んでいく骨が、肉が、頭に異常を訴える。
『誰もが心の底では綺麗なのだと錯覚を抱き、善意を向けるべきでないものにまで向け、
理想とそのツケを傲慢にも他者に押し付け空回る!!そんな善意が善意であるわけがない!!』
いつしか弓兵は激昂していた。それは、上条と彼が遠くて近い存在故か。
己のうちにある激情をすべて吐き出すかのように投影され、振り下ろされ続ける二刀。
それを砕くたびに、上条はアーチャーという男と、自身の業を魂に刻み込まれる。
- 376 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:02:37 ID:3t.Bi5dA
- 『誰もが幸福であればいいなどと叶えられるはずもない結果を求めた我々は、その存在が間違っている!!
救いたいから救う?全て救ってみせる?うぬぼれるな!!
貴様にそれだけの力などない!!いや、例えそんなモノがあったとしてもだ!!
救う対象を定めぬというのに、誰かを救えるはずがないだろうが!!』
その血を吐く様な叫びは、上条へのものか、それともかつての自分へか。
恐らくは両方なのだろう。
『正義の味方に憧れた!!それで全てが救えなかったから“守護者”を望んだ!!
どこまで足掻いても全てを救うことなどできはしないのに…!!救う規模を広げれば、
それだけ救えない規模も広がるだけだというのに!!そんな事にさえ気づかず他者へ
無邪気に全てを救うなどと宣言するかつての俺やお前を、誰が認めるものか!!』
踏みしめるその大地ごと上条を砕かんと叩きつけられるその怒りに、思わず一歩後ろに下がる。
『貴様は今まで皆を救えたと思っていたのだろうがな、誰かを救った分だけ貴様は誰か
の夢を砕いている!!その俺がなってしまった正義の味方と何一つ変わらぬありようの
くせして、貴様は何故そうも無邪気に全てを救えると信じられるのだ!!
その正義は貴様のものですらなく…記憶を失う前の、過去の自分からの借り物だというのに!!』
耐えきれなくなっていく。肉、骨、精神全てが悲鳴を上げている。
突きつけられた己の罪深さに愕然とする。
全てを救うという生き物として間違った願い。
誰かに自分の理想を押し付ける事の罪深さ。
誰かの夢を砕きながら全てを救うなどと嘯く傲慢さ。
過去の自分などというあいまいなものから引き継いだ借り物の理想。
自分とよく似た男からの指摘だからこそ、スザクやレイが言うその何倍も深く胸をえぐる言葉。
やはり自分が今までしてきた事は間違いだった。その在り様そのものが罪だった。
なればここで俺が死ぬのは、当り前の事なのだろう。
そう、納得したはずなのに。
この拳はなおも弓兵の武器を砕こうと動き続ける。
体は彼の一撃を受けとめようと戦い続ける。
戦う理由も意思もなく、罪を受け入れた筈なのに、なおもその心と背反する体。
だが、その理由が見つかる前に終わりが来た。
『その正義に今まで何一つ間違いを見いだせなかったのは、貴様が単に
人間として破綻していたからにすぎん。それを知って尚縋るものがそれしか
無いのであれば―――それを抱いて溺死しろ』
瞬間、上条の体は十字に斬り裂かれ、傷跡だけでなく全身から鮮血をほとばしらせていた。
体はとうに限界を超えていたのだ。
それでもまだ起き上ろうとする彼に、アーチャーは冷たく告げる。
『これで―――終わりだ』
その宣告と共に、彼は捻じれた魔剣を上条の心臓に突き立てるべく疾らせる。
(ここで、終わりか―――)
最後にそれだけしか考えられず、彼はただ心臓へ魔剣の切っ先が吸い込まれるのを眺めて―――――
- 377 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:03:07 ID:3t.Bi5dA
- 『とうま!!』
白い少女の声が聞こえた気がした。
ただそれだけで、抜けたはずの力が、より一層強くみなぎって来る。
「ぉ……うおおおおおおおおおおおおっ!!」
咆哮と共に右腕を持ち上げ、魔剣を右手で受け止める。
『…ほう。まだ立ち上がるか』
弓兵の呟きに構わず、上条は全身に力を込め立ち上がる。
彼の脳裏に浮かぶのは、上条が今まで築き上げてきた、たった一カ月程度の短い記憶。
彼を弓兵との戦いに駆り立てた記憶。
巫女服少女を守るため、錬金術師と戦った時の記憶。
御坂美琴を救うため、学園都市最強と戦った時の記憶。
父親を救うため、土御門と殴り合った記憶。
海原光貴の偽物へ誓いを立てた記憶。
異能の体を持つ少女を守るため、巨大な土人形と戦った記憶。
その様々な事件の記憶が、上条に足を止める事を許さない。
どころか、彼の体を一歩ずつ前へと進ませようとする。
こんなことでくじけるなと。ここで諦めてどうすると。
そして、日常の風景。
インデックスにかみつかれたり、美琴に電撃を浴びせかけられたり、
青ピと小萌先生の補習を受けたり、シスコン軍曹と舞夏の騒がしい会話を聞いたり。
そういった何気ない景色が、彼を絶対に屈させない。
そこにある笑顔が、彼に前を向かせる。
そして、何よりも。
全てを失った上条にとっての原風景であるあの病室。
『インデックスは、とうまのこと、大好きだったんだよ?』
泣き出しそうな顔でそう言ったあの少女。
そこで俺は思ったはずだ。こんな顔見たくないって。
俺は誓ったはずだ。アイツの笑顔を守ると。
それをまだ果たせてないのに、こんなところでくたばってんじゃねえ!!
俺が間違ってる?…そうかもしれねえ。
俺が傲慢?…そうだろうよ。
けどなあ、俺はどんだけ倒されようと、どんだけ否定されようと、やっぱり諦めきれねえ。
無様に転ぼうが傷まみれになろうが、俺は戦い続けるんだ。
このくらいの現実で絶望しちゃいられねえ…。だから!!
「負ける事自体は怖かねえ。けどな……。既にテメエ自身に絶望してる、お前には負けらんねえんだよ、アーチャー!!」
叫び、動かぬはずの体を前に突き進ませ、右の拳で殴りかかる。
- 378 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:03:46 ID:3t.Bi5dA
- 『っづ!!』
反射的に左腕で受け止める。―――そのあまりの拳の重さに体がみしみしと音を立てる。
アーチャーの疑問をよそに、上条は言葉を叩きつける。
「ああそうさ。お前の言ってる事は全部正しい。俺の在り様は傲慢で、無神経で、現実
を知らない奴の只の偽善なんだろうよ。けどなあ!!」
叫び、拳を後ろに引く。
「それでも後には引けねえんだよ!!俺の中にあるのが丸ごと偽善でも、それは俺が
足を止めていい理由にはならねえんだ!!」
叩きつける拳。今度は完璧に受け流され、カウンターで顔面に拳を叩きこまれる。
それでも後ろに下がることすらせず、上条は己のうちにあるものをアーチャーに示す。
「誰かが泣いてるんだ!!誰かが傷ついてるんだ!!だったらそこで迷ってなんか
いられねえ。いちいち動く理屈なんか探してられねえ!!正しいかどうかじゃねえ!
俺がそうしたいから助けるんだ!!そこで立ち止まってなんかいられるかよ!!」
弓兵の拳が腹に突き刺さる。その衝撃に負けることなく彼は吼える。
「確かに俺は誰かに理想を押し付けたり、それが正しい事なんて勘違いして失敗した
さ!!
それでも、だからって失敗したまま死ぬわけにはいかねえ…!!一度間違えたならその先へ。
次間違えたらもっと先へ!何度間違えてもそれより先へ!!そうやって間違いを
正して、少しずつ先に進まなくちゃならねえんだよ!!」
上条の猛攻を軽くあしらいながら、弓兵は問いかける。
『ハッ!何故そう言い切れる!!それを誰が貴様に望んだというわけでもあるまい!!』
「ああ。誰も俺にそんな事望んじゃいないのかもしれない。…でも」
一瞬途切れる言葉。
「体じゃなく心が憶えてる。もう二度と戻ってこない『俺』が、そうやって生きてきた
事を。だから俺は立ち止まらない!!望まれてなくても、それが俺なんだよ!!
お前の言うとおり、それは借り物の理想で、偽善なんだろう。
でも、だからってそこにあったかつての俺を否定する事は俺にはできない!!
お前にだって否定なんかさせてやるかよ!!この道を行く事は確かに苦痛だらけ
なんだろうけれども、それでも自分を諦めたテメエを正しいなんて認めるか!!
俺のあらゆるものが間違っていても、その『皆が笑顔でいて欲しい』って感情は本物だ!!だから!!」
論理にならない思考の本流。繰り出される拳も大雑把ででたらめだ。
何度拳を振るっても、それはアーチャーにかすりもせず、逆に彼の体が打ちのめされていく。
その様はどう見ても死に体。一歩下がり、投影した剣で切り裂けばそれで済む話。
―――だというのに、彼はそれを選択しない。そんな自分に腹が立つ。
だが、下がる事は出来ない。
何度打ちのめされても、その度により強い力で立ち上がり、殴りかかって来る、
その滑稽な、しかし誰にも笑うことなどできない戦う姿が、彼に下がるという選択肢を取らせない。
もしコレ相手に下がってしまえば、致命的な何かに負けてしまう気がしたから。
「誰かの夢を壊しちまった事も、確かにあるだろうよ!だけどなあ――それでも俺は止まらない!!
止まれば誰かが泣くことになるって解ってるから!!
これからだって、戦っていく中で、理想を押し付け合ったりしなくても、
それでも誰かの夢を砕いちまうかもしれねえ。
けど、その罪を背負ってでも、いや、それだけじゃない。砕いた相手の人生を背負ってでも、
救いたい奴らがいるんだよ!!今ここで立ち止まったら、それが全部こぼれおちちまう!!」
- 379 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:04:13 ID:3t.Bi5dA
- 『――傲慢が過ぎるぞ、上条当麻!!』
叫び、干将莫邪を振り下ろす。
『貴様はそれでいいかも知れんがな!!それで貴様が夢を砕いた者達をどうするのだ!
まさかそれすらも救ってみせるなどとほざくか!!貴様が傷つけたものに、
貴様の言葉など届くはずがなかろう!!』
叫びながらもアーチャーは予感した。
彼の出した答えは、それさえも踏み越えると。
弓兵の剣と言葉を受け止め、上条は
「ああ、そんな事はわかってる。全ての人を救うなんて人の身には余るってことも、
夢を砕かれた奴に、砕いた張本人の言葉が届かないだろうこともわかってる。
…それでも、届かせてみせる。救ってみせる。俺は絶対に諦めねえ。
正義の味方なんて誰かを切り捨てるモノになんざならねえ。
例え届かなくても、どこまでだって足掻いてやる。
自分が間違ってたからって、そこで諦めちまったテメエなんざ追い越して―――――」
腰を深く落とし拳を引く。
その迷いも間違いも受け入れて、なお突き進むその瞳が。
その、全てを失って尚曲げられなかった信念が―――
アーチャーに防御を許さなかった。
(これが、答えか――――)
「――――この『偽善』を、貫き通してやる!!」
砲弾のような拳が、吸い込まれるようにアーチャーの腹に当たる。
その一撃は、この短い戦いに呆気なく終止符を打った。
◇ ◇ ◇
- 380 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:05:04 ID:3t.Bi5dA
- まだ、戦おうと思えば体は問題なく動く。切り捨てようと思えば、目の前の少年をそうするなど造作もない。
だが、アーチャーは静かにこう告げた。
『…私の、負けだな』
と。
それに上条は。
「…ああ」
とだけ答えた。
アーチャーの体は、音もなく静かに消えていく。
その体が完全に掻き消える間際、上条は一言だけ呟いた。
「…ありがとうよ、アーチャー」
その言葉に彼は、
『…そうか』
と答え、珍しく素直な笑みを浮かべ、消え去った。
◇ ◇ ◇
「…さて、俺も行くか。
戦場ヶ原に謝りに行かなきゃならねえし、一方通行を探したり、
インデックスを助ける算段を整える必要もある。
…それに、目の前のアイツを放ってはおけないよな」
上条はそう呟くと、城の出口まで歩き始める。
誰かに語りかけながら。
「…まだ、一応の答えを出しただけだ。お前の死をどう背負うとか、信長の野郎をどうするとか、
そういった具体的な答えはうまく出てねえ。
…けどさ」
一拍置いて、
「俺はお前の生きてた意味を無駄にしたくないから、少なくとも最後まで諦める事だけ
はしねえ。這いずり回ってでも最高の正解を見つけて、必ずこの戦いを終わらせてやる。
……だから、さ」
そこでもう一度だけ深呼吸して、
「行ってくるぜ……美琴」
と、振り返らないまま言って、城の外へ―――戦場へと帰って行った。
『……頑張んなさいよ』
という声は、彼の耳に届いただろうか―――
◇ ◇ ◇
- 381 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:06:07 ID:3t.Bi5dA
- 私、ユーフェミア・リ・ブリタニアが目を覚ますと、
世界は夜の黒と血の赤で塗り固められていた。
「…え?」
まどろんでいた意識が一瞬で覚醒する。上半身をはね起こして辺りを窺う。
私は今まで何をしていたのだろう?ここはどこなのだろう?ゼクスさんは?
他にも気にしなければならない事がたくさんあるはずなのに、私がまず最初に想った事はただ一つだった。
それだけその一つが衝撃的だったからだろう。
この、あたり一面に広がる血は誰のものなのだろう?
自分のものでない事はわかる。体のあちこちに傷があるけれど、そのどこからも血はもう流れ出てはいない。
暗がりの中で徐々に這い寄る痛みと恐怖と闘いながら、震える体を必死で動かして周りを見渡す。
血の持ち主はすぐに見つかった。当然だ。私が下敷きにしていたのだから。
誰かの上にいる事さえもすぐには気付かないほどに、みっともなく狼狽している。
その事実が私の不安と焦燥を余計に煽る。こんなことではいけない。
私は頬を一つ叩くと、気を失っているであろう、名も知らぬ少年を見据える。
「どうしよう…。こんなに傷だらけじゃ、満足に手当てできるかどうか…」
思わず口を衝いて出る言葉。彼の状態は素人目に見ても危険であるとわかる。
上半身にたくさんの切り傷を負って、脇腹と左腕には深い刺し傷が見える。
「でも、見捨てられない」
誰であれ、傷ついている人を見捨てるわけにはいかない。
極限の状態にあってなお揺るがない私の心。
それをほんの少しだけ誇らしく思い、助けるという決意を込めて呟く。
「何とか、治療できるところまで連れて、いか、ないと………?」
しかし、私は、そこで見てはいけないものを見てしまった。
気づいてはいけない事に気づいてしまった。
いや、それは単にその事実から目をそむけていただけなのかもしれない。
彼は、誰にこんな目にあわされたのか?なぜ、私はそれを一瞬でも疑問に思わなかったのか?
何故、私は彼の上で気絶していたのだろう?
――――何故、彼の左肩に私が持っていた短剣が刺さっているのだろう?
◇ ◇ ◇
- 382 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:06:38 ID:3t.Bi5dA
- 「…え?」
思考に空白が生まれる。理解できない。何が起きていたの?
「そんな。だって」
そんなはずはない。私は、誰かを殺したいだなんて思った事はない。
誰かを傷つけてまで、殺してまで、生き延びたいだなんて思った事はない。
……なら何で、私の持っていたものが彼に突き立っているのだろう?
「でも。こんなのって」
でもおかしい。私がこんな事をするはずがない。私に出来る筈がない。
大体、私が彼をこんな風にしたのなら、なんで彼を傷つけた私が気絶しているの?
………でも、本当に何もしていないなら、どうして私の持っていた武器が辺りに
散乱していて、それらが全て血に染まっているのだろう?
「…………嘘よ」
そう、これは何かの間違い。そんなはずがない。私がこんな事をするはずがない。
だって、私は誰かを傷つける事を何よりも嫌っていたはず。
誰かが傷つくところなんて見たくなくて、誰もが笑顔である事を望んでて。
だから、「行政特区日本」を設立しようとしたんじゃない!!
………なら、どうしてそんなに必死になって否定しようとするの?自分が正しいと、
本当に確信しているのなら、どうしてみっともなく言い訳をまき散らすの?
「嘘よ。嘘よ。嘘よ。」
でも、本当に誰かを殺そうとしていたなら、私は何で死んでいないの?
戦う力なんてない私が、誰かを殺そうとして、何で返り討ちにあって死んでないの?
………都合良く誰かが助けに入ってくれていたじゃない。
槍のお姉さんに襲われていた時には途中の記憶がないけれど、確か男の人が助けてくれていたはず。
馬に乗った侍に襲われた時は、アーニャが。
それ以降は何があっても、ゼクスさんが傍にいてくれた。
そう、只幸運に守られて、私は生き延びてきた。
「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」
違うちがうチガウ。私はそんなものじゃない。誰かを殺した事なんてない。
人を殺す事を肯定なんてできない!誰かを殺した記憶なんてない!!
そんな事を今までしてきた証拠もない!!
………………記憶?証拠?
駄目。それ以上考えちゃ。それに気づいたら、きっともう戻れない。
今それに気づいたら、私は私が既に手遅れだったと知ることになる。…そんなの、嫌。
―――――――でも、私は気づいてしまった。
- 383 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:06:58 ID:3t.Bi5dA
- 「嘘よッ!!」
叫ぶ言葉と裏腹に、私は自分がどういうものか知ってしまった。
誰かを殺した記憶がない?――――当然だ。私の記憶にしばしばあった欠落。
それこそが私が罪を重ねてきた忌まわしい記憶が収まっていた場所。
私は罪を犯し、しかもそれに耐えきれず記憶を封印していたのだ。
証拠がない?―――――――あったじゃない。「トネガワユキオ」という方の首輪が。
誰かを殺すことでしか手に入らないモノ。しかも知らない人のモノ。
論理が飛躍している?―――でも、この記憶の欠落は、それ以外で説明がつくのだろうか?
ゼクスさんは取りつくろうように、「首輪はアーニャが入れたのだろう」なんて
言っていたけれど、本当にそんな事があるだろうか?
……ううん、彼女がそんなことを無断でするような人じゃないと、私はあの短い交流だけで確信できる。
なら、答えは簡単。
『今までに何人もの人々に襲いかかり、少なくとも一人を傷つけ一人を殺している。
そしてそれから目をそむけ、綺麗な人間のふりをしてきた汚らしいケダモノ』
それこそが、私の真実。
「あ、あ」
今まで積み上げてきたものが、ガラガラ音をたてて崩れ落ちていく。
その音を聞きながら、私は。
「ああああああああああああああああああああああっ!?」
絶望の叫びを上げていた。
絶望に沈む中、ふと少年の方に目が向いた。
青ざめたその顔が、濃厚な死の気配を纏っていた。
その苦痛に歪んだ顔が、私の犯した罪を否応なしに自覚させる。
がちがちと歯が鳴る音がする。恐怖が思考能力を奪う。
これ以上こんなモノを見ていたくない。これ以上ここにいたくない。
これ以上ここにいたら、完全にコワレテシマウ。
私は受け入れざるを得ないはずの現実から、尚もみっともなく逃げるように、
のろのろとしか動かない体を必死で動かし、離れようとして、「…待てよ」
「え…?」
ありえないはずの声を聞いた。
◇ ◇ ◇
- 384 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:07:24 ID:3t.Bi5dA
- 上条が現実世界へと立ち返ると、そこには今にも壊れそうな危うい光景が広がっていた。
顔を両手で覆い、痛むであろう傷にも構わず叫び声を上げるユーフェミア。
その鬼気迫る表情に、上条は少女が『自分が何をしたのか』悟ったと察した。
彼女は上条が目を覚ましたことにも気付かず、半狂乱のまま震えてもつれる足で立ち上がろうとする。
(やばい。どう見ても冷静さのかけらもねえ。このまま行かせたら絶対にまずい!!)
咄嗟にそう判断した彼は、少女に制止の声を上げたのだ。
(さて、何とか止めたはいいが、どうするよ?)
上条は焦る思考をまとめようと、まずは目の前の少女に注視する。
(怯えきってるな…。当り前か。自分が傷つけた――殺しちまったかもしれない奴から、
いきなり待てとか言われたらビビって当然か。…にしてもビビりすぎな気もするが。
錯乱されて暴れられたら、今の俺の状態じゃ抑えきれねえ。まずは落ち着かせねえと)
そう結論付けると、彼は彼女を刺激しないように、血を流さないように
できるだけゆっくりと起き上ると、彼女をなだめるように声を出した。
「……落ち着いて、俺の話を聞いてくれないか?今のアンタを放っておくわけには」
「…なさい」
「は?」
「…ごめんなさい」
「え、おい」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「だから落ち着けって」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「おい、落ち着けって言ってるだろ!!」
思わず大声を出してしまった。後悔しながらも少女の反応を窺うが、彼女は
壊れたラジカセのように「ごめんなさい」と呟くばかり。
「おいおい…。どうしろってんだよ…!」
こちらまで彼女の恐慌状態に引きずりこまれそうだ。会話をしなければ落ち着かせられないのに、
会話をすれば相手を無駄に刺激してしまうジレンマ。
(俺が起きて声をかけた事が、アイツを刺激したのは間違いない。けど……、
どうにもそれだけじゃないみたいだな……。
くそっ、原因がわからねえんじゃどうしようも…)
とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかない。
- 385 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:07:49 ID:3t.Bi5dA
- (仕方ねえ…。一か八かの荒療治だ!!)
上条は覚悟を決めると、勢いよく起き上り、少女の両肩を、彼女の傷に触れないようにつかんだ。
「落ち着け!!」
「ひうっ!?」
叫ぶ剣幕と肩に触れられたことで、一瞬気がこちらに向く。その瞬間を逃さずに、上条は
「はい深呼吸!!」
と叫んだ。
「…っ?」
その声の意図するところがわからなかったのか、怯えた目で上条を見つめる少女。
その表情に痛ましさを覚えながらも、上条は促す。
「いいから、ほら、深呼吸!」
こちらに害意がない事を察したのか、それともそうしないと解放されないと思ったのか、
少女はがたがたと震える体を押さえこんで深く息を吸いこんだ。
「ほら、吐いてー」
声に合わせるかのように息を吐く。
「ほら、もう一度だ」
そうして、何度か繰り返すうちに、少女の状態は少しずつ落ち着いていった。
「よし、落ち着いたみたいだな。…もう大丈夫か?」
少女の顔を覗き込み、ゆっくりと問いかける。
彼女は青ざめた顔で、未だ怯えたようにしながらも、
「………はい」
と小さく頷いた。
(驚かせてこちらに無理やり意識を向ける賭けは成功した、か。さて、ここからどうするよ?)
と思案にふける上条。
落ち着くと同時に、私の犯した罪が、逃げられない重さで私を押しつぶそうとする。
(私は、こんなにも想い罪から逃げようとしていたんだ…)
自分への嫌悪感が高まる。
(…私、許されちゃいけないな。こんなことをしたんだもの。それから逃げようともしたんだもの)
そんな内心の苦しさを隠して、彼に尋ねる。
- 386 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:08:22 ID:3t.Bi5dA
- 「どう、して、私を落ち着かせようとしたんですか…?」
「?何でって、そりゃ、助けたいからに決まってるだろ」
傷の痛みを押し隠しながら答える彼を、少女はありえないものを見る目で凝視した。
「…え?」
少女の驚愕に構わず、上条は話し続ける。
「そういうわけでさ、俺はどうすればお前を助けられるのか、できれば教えてほしいんだけど。……どうした?」
少女の表情に怪訝そうな顔を浮かべる上条。しかし、ユーフェミアにとってはそれどころではない。
(私は、この人を殺そうとして、しかもそれを都合よく忘れてしまってる。
それなのに、この人はそんな卑怯な人間を助けたいだなんて…。
どうして、そんな事が言えるの…!?)
驚愕が口を衝いて出る。
「どうして、ですか?」
「ん?」
「どうして、私を助けたいんですか?……私は、あなたを傷つけました。
しかもあなたを襲ったのに、それを思い出せもしないんです…。そんな人間を、何で…?」
「どうして、って言われてもなあ…。
アンタが俺を襲ったのは誰かに操られてたから、なんだけど。
そうでなくても助けてたろうし…。まあ、放っておけなかったんだよ、それだけ」
「操られていた…?私が?いえ、それよりも」
「ああ。……誰なんだろうな、あんな暗示掛けたヤツ。たまたま異能の力だったからうち消せたけど…。
っていうか、やっぱり憶えてないのか?」
上条はユーフェミアの戸惑いに気づかずに、言葉を重ねる。
「え、ええ…。記憶が、所々抜け落ちていて……」
「暗示をかけられてたからだろうな…。所々記憶がないところから見て、
特定の条件が揃ったときに発動して、作動してる間は記憶が残らない能力か。厄介だな…」
ぼやきつつも、決してユーフェミアを責めない上条。
俺を傷つけたのはアンタの意思じゃない、だから気にするな。
そう言いたげな上条の態度に、ユーフェミアの心に昏い感情が浮かんだ。
この人は、私が逃げようとした罪へ、私を振り向かせた。それが意図的なものだったかはともかく。
それ自体はいい。いずれ向き合って、裁かれなければならないんだから。
- 387 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:09:12 ID:3t.Bi5dA
- …でも、彼は、どうして私を責めないんだろう?
どうしてこの人は、私をかばうようなことを言うんだろう。
罪に向き合わせたのに、どうして「裁く」でなく、「助けたい」なんていうんだろう。
理解できない。…私は、助けられちゃいけないのに。許されちゃダメなのに!
罪悪感に押しつぶされそうな心が、彼女に昏い言葉を吐き出させる。
「…でも、私はあなたを傷つけた、それは確かでしょう?」
「あー…、それは、でも、その暗示をかけたやつが悪いんであってだな」
「それに、私は多分人を殺してる」
「……!!」
彼女は震えながらも、己の罪をかみしめるように言葉を吐き出す。
「そうじゃなきゃ手に入らないはずの、首輪を持っていたんです。『トネガワユキオ』という方の。
…あなたのお知り合いじゃ、ないみたいですね。
……他にも、私は多分何人もの日本人の方を殺しています。
だって、日本人の方と会った前後は、確実に記憶が途切れているんです…」
自らの罪を確認する行動が、彼女の体をがくがくと震わせる。
(…自力で暗示の内容、多分だけど『日本人を殺せ』ってのを察したのかよ!
天然そうな印象だったけど、とんだ間違いだった!!
もっと落ち着いてから色々話すべきだったか?くそっ、どう対応すれば…!?)
「……そう、か。でも、それはアンタが一人で気に病む事じゃ」
苦し紛れの上条の言葉を遮るように、ユーフェミアは声を張り上げる。
「どんな形でも、私は、日本人を殺したんです。
…命を、夢を奪われた方に、私がどんな状態だったかなんて関係ない。
ただ目の前の私を憎んで、恨んで、呪いながら死んでいかれたのでしょう…。
私は、そんな事をしでかしたんです。…私の意思じゃないからって、許されていいはずがありません。
それに、それだけじゃないんです。
……誰もが笑顔でいられる世界に、やっと少しだけ手が届きそうだったのに
『行政特区日本』を、やっと成立させられそうだったのに!
ブリタニア人と日本人が、やっと手を取り合える第一歩まで来ていたのに!!
私は、こんな処でそれを台無しにしちゃったんです!!」
己の中にあった恐怖や絶望を全て負の激情へと転化して叫ぶユーフェミア。
その激しさに思わず気圧される上条。
「私は…、誰にも傷ついて欲しくなかったのに!
誰も傷つけたくなかったのに!!
私はこの手で…人を殺してしまったんです!!
『行政特区日本』の旗印だった私が、人を………!!
私を助けてくれた人達の信頼を裏切って、私を信じてくれた日本人の方々を踏みにじって!!」
言葉は止まらない。
「私は、こんなにも汚れてるのに!!私はこんなにも許されない事をしてきたのに!!
あなたは何で私を責めないんですか!?どうして、私へ憎しみをぶつけないんですか!?
…どうして、私を救おうなんて思ったんですか…!?」
尚も感情をぶつけながら、ほんの少しだけ残った相手を思う気持ちが、後悔を齎す。
(私は、私が傷つけた人に、身勝手な言葉をぶつけてる。
駄目だってわかってるのに。彼の事をまず思うべきなのに、自分を優先してる。
やっぱり最低だ…私)
そんな、どうしようもなく見苦しい彼女の姿を見て、上条は、
「……せえよ」
「私は!!……え?」
「……ゴチャゴチャうっせえ!!」
と腹の底から叫んだ。
- 388 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:09:48 ID:3t.Bi5dA
- あまりの声量に、驚いて彼女の言葉が止まる。そこへ彼は続けて、
「さっきから聞いてれば、アンタは自分が絶対に許されちゃいけない、
救われちゃいけない人間だって思ってるみたいだけどなあ!!そんな訳あるかよ!!
ああ、アンタは確かに俺を傷つけたし、誰かを殺したかもしれねえ!
殺された奴に、アンタの状態なんて関係ないだろうよ!
だけど、それがアンタが救われちゃいけない、許されたらだめだっていう
ことには絶対にならない!」
言葉を叩きつけた。
呆けたように動きを止めたユーフェミアに、上条はさらに言葉をぶつける。
「一つだけ答えろ、ユーフェミア!!お前は、誰かを殺して、それを心から
後悔してるやつを前にして、『救われるな、地獄へ落ちろ』なんて言えるのかよ!!」
その言葉に思い出す。
枢木スザクが己の、父親殺しの罪を告白し、彼女の騎士である事を止めた時の記憶を。
あの時私は、彼の苦しそうな、泣き出しそうな顔を見てどう思っただろう?
…笑ってほしいと、その苦しみから救いだしたいと、そう思ったんだった。
「言えやしねえだろ?つまりはそういうことだ。
…確かに、罪は向き合わなくちゃならないし、償わなきゃならないけど…。
救われちゃいけないとかそういうことは絶対にない!ヒトの痛みがわかる奴が、救われていけない筈がねえ!
アンタは救われていい!!救われていいんだよ!俺が保証する!!」
本心からの叫びに、しかしユーフェミアは、
「…あなたはそう言うけど、それは他人事だからでしょう!
私の苦しさを知らないで、上から物を言わないで!!」
愚かしいとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。
その苦しさを察した上条は、こう返した。
- 389 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:10:15 ID:3t.Bi5dA
- 「…わかるさ」
「嘘です!」
「わからないわけ無いだろ!!…俺だって、死なせた奴がいるんだから」
「え…」
あまりの驚きに、言葉が続かない。
この人が…人を死なせた?こんな、人が…?
「嘘、でしょう……?それが本当なら、あなたみたいな人が、平然としてられるわけ無い!
綺麗事ばかりの人が、誰かを死なせて、冷静でいられるわけない!」
相手の心の傷をえぐるような、無様な言葉に、彼は寂しそうな笑みを浮かべた。
「ああ。さっきはあんだけえらそうなこと言ったけど、俺だって自分が許せねえ。
…俺が身勝手な行動をしなけりゃ、アーチャーが死ななかったって突きつけられて、
一度は俺も、裁かれようと思ったよ。……死ぬ事で」
互いの胸をえぐる独白。
「でもな、やっぱりそれは逃げだった。罪に向き合ってるようで、全然向き合ってなかった。
ただ苦しいことから逃げだしてただけなんだよ…。
しかも、俺には謝らなきゃならない奴がいて、やらなきゃならない事があって、
助けたい奴がいたのに、そんなことも忘れて、死に逃げようとしたんだ。
だから、そんな俺の言葉がアンタに届かないのも当然かもしれない。
……だけど、だからこそ言えることもある」
彼はしかし、ただ互いの傷をえぐるだけで終わりはしない。
「俺たちは、どんなに苦しくても、絶対に自分を諦めちゃダメだ!!
どんなに辛くても、この罪を背負って、前に進まなくちゃいけねえ!!
自分を許せなくても、救われたくないと思っても、それでも生きるんだ!!
…それこそが、償うってことだから」
まあ、お前が死にたいとまで思ってたかは知らないけれど、と上条は
呟く。
上条の言葉が頭に響く。
私は、只逃げていただけなんだろうか?自分がしなきゃいけない本当の償いから逃げて、
自分勝手に『裁かれて』、それで満足しようとしていたのだろうか?
…考えがまとまらない内に、言葉が口から出た。
「でも、それはあなたが勝手に思っているだけでしょう…?
死んでしまった人が、そしてその人を大事に思っていた人達が、本当にそんな事を望んでいると思ってるんですか?」
「でも、死んでほしいと本当に思ってるかっていうと、それも勝手な推測だろ?
…気になるんなら、確かめに行こうぜ。俺が連れてってやる」
一言で少女の迷いを切り捨てる。
その迷いのない視線に気圧される。
- 390 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:10:47 ID:3t.Bi5dA
- 「私は…、私にはもう、生きるための夢がないのに、それでも生きていけるの?」
「夢?さっきの、『行政特区日本』とかいうのか?なんでそれが無くなるんだよ」
「だって、ブリタニア人と日本人が融和するための第一歩となる場所の、
その旗印だった私が、よりによって日本人を殺したんですよ…。
そんな汚れきった私が、今さらあそこに戻れるわけ…」
「諦めるなよ」
「でも…!」
「アンタは多分、正しい事をするのは、言っていいのは一度も間違えた事のない奴
だけだと思ってるんだろうけど、そんなことねえんだ。
何度間違えても、何度迷おうと、それが本当に大事なものなら、何度だって
それを手に立ち上がっていい。
…確かに、アンタの夢にとって、今の出来事は信じられないくらいに最低の出来事だろうけど、
でも、だからって本当に諦めきれんのかよ?」
……どう、だろうか。諦められるだろうか?
皇位継承権を捨ててまで、自分の手で初めて為そうとした事を、諦め切れるのだろうか?
お飾りの副総督から、自分で前に進もうとした事を、捨て切れるだろうか…?
無理だ。できっこない。私にとってこの夢は、かけがえのないものだから。
スザクと共に、ルルーシュやナナリー、皆が笑って生きていける世界、
そんなものを作りたいっていう大きな夢を、私はみっともなくも諦めきれない。
こんな穢れた身になっても、まだ追い続けていたいのだ、私は。
葛藤する彼女の顔を見て、上条は頭をフル回転させる。
(あと、何かひと押し…。アイツの心に巣食ってる絶望を、叩き潰す言葉を…。
考えろ、探せ、見つけろ!アイツの心の闇を切り払って、前を向かせるための、最高の言葉を!!)
しかし、上条がそれを見つけるより先に、少女が口を開いた。
- 391 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:11:39 ID:3t.Bi5dA
- 「…確かに、あなたの言う事は正しいのかもしれない。
私は、罪から逃げていただけで、『裁かれて』満足しようとしていたのかもしれない。
私は、許されてはいけないって思いこんでただけなのかもしれない。
…私は、やっぱり夢を諦めきれない。これだけ汚れても、まだ『行政特区日本』を、
そして、優しい世界を作りたいって思ってる。
……だけど」
「だけど?」
「こんな私を、私の大切な人達が受け入れてくれるはずない。
皆を裏切ってしまった私を、受け入れてくれるなんて、そんな都合のいい事、
あるはずない…。
皆の、私への冷たい視線を想像するだけで、体中が震えてくる。
私は、皆に会うのが怖い。どうしようもなく、怖いんです……!」
その、血を吐く様な言葉を、だが上条は否定する。
「お前なあ…。何勝手に相手を見限ってんだよ?
そんなの、相手に失礼じゃねえか。」
「…じゃあ、あなたは、あなたの大切な人が誰かを殺して、それを受け入れられるの?」
「受け入れるさ。そりゃあ、もしインデックスが誰かを殺したら、俺は驚くし、
哀しくなるし、考えたくもないけれど。
でも、アイツが何の理由もなく誰かを傷つけるなんて、絶対にあり得ないって知ってるから。
だから俺は、どんな事があってもアイツを迷いなく受け入れるよ」
一片の迷いも嘘もない即答。それに顔を伏せ動揺する彼女に、上条はたたみかける。
「アンタはどうだよ?…って、聞くまでもないか」
え?と顔を上げるユーフェミア。
「さっきの、『人を殺した奴に「地獄に堕ちろ」って言えるか?』って質問で、
アンタが思い浮かべたのは、その大切な人なんだろ?」
「何で…?」
「アンタがあの質問の時に浮かべた表情が、大切な記憶を思い起こしてるような
気がしたから、だな」
私は、そんな顔をしていたんだ…!ユーフェミアは、こんなときだというのに
気恥ずかしさに赤くなりそうだった。
- 392 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:12:03 ID:3t.Bi5dA
- 「アンタは、大切な奴の全てを受け入れたいって、そう思えるくらいの凄いいい奴だ。
俺はアンタがいい奴だと確信した。………そんなアンタの大切な奴らが、
いい奴じゃないワケ無いだろ?
……そんないい奴らが、都合のよくないアンタだから受け入れないなんて、
罪を犯したからアンタを切り捨てるなんて、そんな事があるのかよ?」
頭の奥を殴られたような気がした。それぐらいの衝撃だった。
…そうだ、私が大切だと思った人達は、そんな薄情な人達じゃなかった。
私の事をいつもしっかりと思ってくれていて、優しく見守っていてくれて、
私が間違えたら叱ってくれて、私を正しい道へ連れてってくれる、
どんな時でも、私を見捨てないでいてくれる、そんな人達だった。
そんな人達へ、受け入れてもらえないなんて思うなんて、私は、とても失礼な人間だ。
……私は、本当に自分勝手だ。
ごめんなさい、皆。
「もしかしたら、アンタが自分の事を嫌いになっちまったから、そんな風に考えちまう
のかもしれないけれど、でもさ。
自分の事を嫌いになったら、周りの事も大切にできねえだろ。
だから、どんなに自己嫌悪に打ちのめされても、自分を見限るなよ。
…これも、ついさっき悟ったばかりなんだけどな」
その言葉が、彼女の記憶を呼び覚ます。
『私を好きになりなさい!その代わり、私があなたを大好きになります!スザク、
あなたの頑ななところも優しいところも、悲しそうな瞳も不器用なところも、
猫に噛まれちゃうところもぜーんぶ!だから、自分を嫌わないで!』
…ああ、私、スザクに言ってたんだった。
自分を責めるあまり、自分を嫌わないでって。あなたも私も、誰かに必要とされているから、って。
なんで、もっと早く思い出せなかったんだろう?
私が言った事なんだから、守らないと、スザクに合わせる顔がない。
「…スザク」
ゆっくりと、彼女の瞳に火がともっていくのを見て、上条は最後の言葉をかける。
- 393 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:12:37 ID:3t.Bi5dA
-
「夢は捨てない、最後まで生きる、皆と会うのももう怖くない。
だったら、もうすることは決まってるだろ。
俺たちを待ってるやつらのもとへ、走っていかなきゃならねえだろ!
そのために、この戦いをぶち壊さねえとならねえだろ!!
…俺達の戦いはまだ終わってなんかいない。いや、始まってすらいねえ。
ちっとばっか重たいプロローグだったけど、ここで絶望してる暇はねえ!!
―――立ち上がればまだ届くんだ。さあ、始めようぜ、ユーフェミア!!」
その、言葉に。
どうしようもない罪を背負っても、それでも戦い抜く事を誓った少年の
心に。
「…私は、どうしようもなく弱くて、自分勝手で、情けなかったけど…。
それでも、まだ諦められない!!これも身勝手だって解ってるけど!」
「私はスザクに会いたい!私は、私の夢を叶えたい!!
どれだけ罪に汚れても、どれだけ間違えても!
私は、私の大切な人も、大切な夢も捨てられない!!」
ユーフェミアは全力で答えた。
「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは!もう最後まで諦めない!!
この戦いを終わらせる最後まで、戦い抜きます!」
「―――おう!
この俺、上条当麻は、その戦う少女を、想い人たる枢木スザクのもとへ
必ず辿り着かせてやる!!」
その心に、上条も最高の笑顔で答える。
「よろしく頼むぜ、ユーフェミア!」
「よろしくお願いします、カミジョウさん!」
何度倒れても立ち上がる少年と、罪を自覚して尚前へ進む少女が交差する時、
物語は再び始まる――――――――。
◇ ◇ ◇
- 394 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:13:06 ID:3t.Bi5dA
-
「…と、感動モノっぽく締められたらよかったんだけどな」
「トウマ!しっかりしてください!!」
あの後。
自らの体調も考えず叫び続けた上条は、すぐに貧血で倒れてしまったのだ。
「やべえ。月が四つに見える」
「しっかり!!すぐそこに診療所があったんです!!そこまで耐えて!」
「…ユフィ」
「何ですか!?」
「すまん。も、ダメ……」
そう言うと、ゆっくりと目を閉じていく上条。
「トウマーーーーッ!?」
その死相すら漂い始めた彼の表情に焦るユフィ。
「…っ!応急手当は済ませたんだし、もう、体を引きずってでもトウマをあそこへ…!!」
悲壮な決意を固め、上条の上半身をつかもうとするユフィ。だが。
「傷だらけで、どこを引きずっても傷が開いちゃう…!!」
万事休すか!?
二人で行動を始めて僅か5分で陥ったデッドエンドに泣きそうになるユフィに、
「お手伝い、しましょうか?」
後ろから掛けられた声。聞き覚えのあるそれに、思わず振り返り、驚愕する。
そこに居たのは。
「………!!あなたは…」
彼女が最初に襲いかかったのであろう、槍を持った女性だった。
◇ ◇ ◇
- 395 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:13:32 ID:3t.Bi5dA
- 「これで、いいでしょう」
ファサリナがそう言うと、ユーフェミアは安堵のため息をついた。
ベッドの上に寝かされた上条は、静かに寝息を立てている。
ここはE-5地区にあった小さな診療所だ。一度使われたのか、いろいろとモノが無くなっていたが、
彼とユーフェミアを治療する程度の医療品は残されていた。
ここに来るまでに、二人は名前を教えあっただけだった。
……ユフィの名を聞いたときに、ファサリナが何か驚いた顔をしていたのが気にかかる。
ともかく、手当のお礼と、初対面時の謝罪をしなければならない。
まずはお礼をと思い、
「ありがとうございます、ファサリナさん」
そう言って丁寧に頭を下げる少女に、小さく頷くと、
「ゼクスさんから貴女の事を聞きました。…貴女が参加者をまとめ上げるに足る器だと」
その言葉に驚いたユーフェミアは、
「ゼクスさんに会ったんですか!?あの人は今どうしていますか!?」
と矢継ぎ早に質問してくる。その表情に浮かぶ期待と不安を見とり、ファサリナは
真実を突きつけなければならないこの状況をほんの少しだけ恨めしく思う。
とはいえ、隠す事などできはしない。
「貴女には辛い話になりますが…」
と前置きして、彼との顛末を語りだした…。
◇ ◇ ◇
- 396 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:15:10 ID:3t.Bi5dA
-
その告白を聞いたユーフェミアは沈痛な面持ちで、
「…そう、ですか」
とだけ呟いた。そんな彼女へ、ファサリナは問いを投げかける。
「貴女は、これからどうなさいますか?」と。
残酷な問いではあるが、少女の器を見極めるためには迷うことなどなかった。
これでもし、『戦いに乗る』や、『現実から逃げだす』などといった行動に出るのなら、
ファサリナは彼女を排除するつもりだった。この少女に嘘はつけないだろうと
見極めたが故の正面からの問いに、彼女は
「…ゼクスさんの遺志を継いで、この戦いを必ず止めてみせます」
と、ファサリナを見据え、苦しそうながらも決意のにじむ口調で答えた。
そこに一片の嘘も見取れなかったファサリナは、更に試すように言葉を続ける。
「ゼクスさんを殺そうとした方が、憎くはありませんか…?」
それにユーフェミアは、
「…憎い、と思う気持ちが全くないと言えば嘘になります。
でも、それをゼクスさんを傷つけた方にぶつけたら、私はそれ以上に後悔することになるでしょう。
私がここに来るまでにしてきた事を否定することになってしまいますから。
それに……、ゼクスさんがそれを望まれるとはどうしても思えません。
あの人が、私にそんな事をしてほしいと仰るところが想像できません。
……偽善者の綺麗事だと罵られても構いません。貴女を、操られてたからとはいえ
襲った者が言うことではないということもわかっています。
……ですが、それでも私は、私のするべきことをしようと思います。
どれだけ泥にまみれても、私が私らしくあるために。
……あの人も私に、そう望んでいたように思いますから」
その淡々とした、ありきたりな綺麗事にも聞こえるそれに、しかしファサリナは深く頷いた。
「貴女には『夢』があるのですね…。それも、自分の在り方を決めるほどに大事な『夢』が」
「ええ。とても、大切で、守りたい、そんな夢です。
…ついさっき、自分の犯した罪に打ちのめされて諦めそうになりましたけど。
自分のしでかした過ちに押しつぶされそうになって、逃げ出そうとしてしまいました。
…でも、彼が気づかせてくれたんです。何度間違えても立ち上がる事の尊さを。
決してあきらめない事の大切さを」
言って、上条の方を振り向く。
「ふふ…。強いですね、貴女も、そこの少年も」
「わ、私なんか強くないですよ!いっつも誰かに助けられてばかりで…。
コーネリア姉様に、シュナイゼルお兄様。ダールトン将軍達にも。
ここでも、アーニャやゼクスさんに助けられてばかりでした。
さっきだって、彼がいなかったら、どうしようもなかったです。
そして…誰よりも、スザクには本当に助けられてばかり。
私、少しずつでも自分で何かをできるようになって、いつか私を助けてくれた人達の
役に立てればいいな、って思ってるんです」
「そうですか…」
聞いたことのない名前ばかりだが、そこにある暖かな感情を読み取り、
微笑みながら頷くファサリナ。そんな彼女に、ユフィは
「あの…、あの時は、すいませんでした。許してください、なんて厚かましい事は言えませんが……」
と言って、深々と頭を下げた。
- 397 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:16:19 ID:3t.Bi5dA
- その突然の謝罪に、彼女は
「…?ああ、最初に会った時のことですか。あの時貴女は操られていたのでしょう…?
それに、貴女はすでに私の求めるものを示してくれました」
「え…?」
驚くユフィに、ファサリナは、
「貴女の求めるものは、私と同志が求める『夢』によく似ている、そんな気がします。
貴女のその姿が、私にそう教えてくれました………。
ですから……、私と、お友達になりましょう……?」
そう言ってほほ笑むファサリナに、ユフィは、
「…こちらこそ、よろしくお願いします!」
と満面の笑みで答えた。
◇ ◇ ◇
「………頭がいてえ」
そんなぼやきと共に上条が薄眼を開けた時、周りには誰もいなかった。
「……………ってはぁ!?」
がばぁっ!!
「ユフィは、ユーフェミアはどこだ!?ってかそもそもここは!?」
叫びベッドから跳ね起きる上条。と、
「いでえ!!?」
脇腹に激痛が走り地獄の苦しみに悶えることとなった。
「大丈夫ですか!?何かあったんですか!?」
「ここで走ると危ないですよ、ユフィ」
叫ぶ声を聞きつけ、駆けてくる足音が二つ。
「……って二つ!?あでえ!?」
叫んで再び脇腹の痛みに苦しむ羽目になる。
「トウマ!!……何してるんですか?」
「さっきまで死んだように眠っていたのに…。ずいぶん元気な方なんですね」
部屋に飛び込んできて、上条の醜態を目の当たりにした二人の第一声がそれだった。
訝しみながらもこちらを気遣うユーフェミアと、落ち着いた感じの妖艶な女性が
上条の視界に映り込んだ。
「…えーと、どちらさまでせうか?」
思わず訛りながら聞いてしまう上条。
「この人は、私とあなたの恩人さんですよ」
「ファサリナ、と申します。よろしくお願いしますね、上条さん」
「あ、ああ。上条当麻だ、よろしく…って恩人?」
「ええ」
そう言って、これまでの経緯を彼に伝えるユフィ。
◇ ◇ ◇
- 398 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:18:09 ID:3t.Bi5dA
- 「…つまり、俺をここまで運んでくれて、俺達の怪我の治療をしてくれた上、
俺が起きるまでユフィを守りながらこの診療所の探索をしてくれてたのか、
ファサリナは」
「ええ、そうです……」
「ありがとう!いや、助かったよ。アンタみたいな人が近くにいてくれて良かった」
礼を言って頭を下げる。
「
お気になさらず…」
そう言ってゆるゆると頭を振る彼女。その謙虚(に彼には見える)な態度に
上条は内心感動していた。
(嗚呼……ッ!思えば今まで上条さんの周りにはわがままな女性ばかりいて、
こういうタイプの人がいなかった!心が現れる気分だぜ…!!)
……背筋が寒くなった気がするが、気のせいだろう。
などと、心の中で一人感動し続けていた彼に、ユフィが
「それでですね、トウマ…」
と言いながら、二つの封筒を差し出してきた。
「ん?それが、ここで見つけたモノなのか?」
目の前に置かれた封筒に目をやりながら尋ねる。
「ええ。エントランスに置いてあった銅像を、ユフィが誤って倒してしまった時に、
偶然台座に扉がある事に気づいたんです」
ファサリナの後を継ぎ、ユフィも語る。
「…それで、開けてみたらその二つの封筒が、中にあったんです」
「…そうか。しかし、あからさまに怪しいな、それ」
言いながら、封筒を薄気味悪そうに見つめる。
「ユフィの事もあるし、迂闊に見るのはどうかと思うんだけど」
とりあえず話し合うことにする。
「でも、中にもし有益な情報があったなら…?」
「…思いきって見ちゃいます?」
「中身も差し出し人もわからないのに、それはどうでしょうか…」
「なら、まずは俺の右手で」
「貴方の右手…?」
「異能の力を打ち消すことができるんだよ、俺の右手はな」
「…ああ、それで彼女の催眠術も……」
「そういうことだ。もし変な力が作用してるなら、俺の右手でそれを無効化できる。
…というわけで、そっちの小さい封筒から試してみようと思うんだけど、どうよ?」
「私は、それでいいと思います。ファサリナさんは?」
「……うっかり見てしまうのは避けたいですし…。お願いします」
「了解。じゃ、サクッといくか。よ……っと」
- 399 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:19:00 ID:3t.Bi5dA
- 言いながら右手で小さい封筒に触れる。
異能の砕ける音と共に、封筒そのものが粉々になった。
「……あれ?」
「中に入ってた手紙も、ばらばらになっちゃった…」
「どういうことなんでしょうか、トウマ?」
「待て!俺は特にミスなんて…!……って、ああ、そういうことか!」
言って頭を抱える。
「どういうことです?」
「これ、多分封筒も中身も、素材から魔術的な何かで出来てるんだ。
見られたくない奴に見れないようにする機能とか、何かあったら爆発する機能とか、
そういうのを付けるために」
「…じゃあ、魔術、でしたか?それで構成されたものなら、あなたが右手で触れば…」
「当然、手紙そのものが砕け散る…ってわけだ」
ファサリナと上条の話を聞いていたユフィは、
「じゃあ、これに何か仕掛けられていても、トウマが触れない以上、読もうと思ったら危険を冒さないといけないんですね?」
と尋ねる。
「ああ。……どうするよ?今ので一層危険度上がったと思うんだけど」
「…開けてみましょう」
「マジか?」
「私とユフィが中身を見ます。貴方は、私達が中身の影響でおかしくなった時の
フォローをお願いします…」
「…わかった、気をつけろよ」
「それじゃあ、開けますね、ファサリナさん」
ユーフェミアが封筒から取り出したものは、『ゼロレクイエム』
と表紙に記されたレポートだった。
- 400 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:20:11 ID:3t.Bi5dA
- 「ゼロ…?」
「ゼロとは、あの危険人物ですか…?」
「あれを見たんですか?…あの人は偽者ですよ。
本物のゼロは、あんな戦争好きな性格じゃないですから」
「成りすましですか…。彼の評判を落とすための策でしょうか?」
「多分そうだと思います」
「二人とも、その文字見てもなんともないか?」
「ええ。…中身に仕掛けがあるんでしょうか?……ユフィ」
ファサリナに促されるままページをめくるユフィ。
そこには、
『このレポートに書かれていることは、すべて真実である』
という一文のみが書かれていた。
それを見た瞬間、ファサリナが頭を抱え、ひざを折り苦しみだす。
「…っあ。……あああ!」
「ファサリナさん!!」
「やっぱりかよ!」
叫びながらファサリナの頭に右手を押し付ける上条。
その瞬間、甲高い破砕音とともに頭への苦痛が消え去る。
「大丈夫か!?」
「しっかりしてください!」
心配する声を上げる二人へ、何とか「大丈夫です」と返事をして、立ち上がる。
「………ユフィは、何ともありませんでしたか?」
「はい。これって、つまり……」
「ああ。ユフィ以外には見られたくないって事だろう。…よっと」
上条は一息つくと、右手を自分の頭に押し当てながらレポートを覗き込む。
「……どうですか?」
「………駄目だ、しっかり見ようとすると頭が割れそうになる。
…幻想殺しの容量を越えて妨害魔術を大量に打ち込んできてやがる。
目を離せば影響から逃げられるから、頭に残った分を打ち消せば頭痛は止められるけれど……」
そう言って、頭を振りながらレポートから目を離す彼。
- 401 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:20:45 ID:3t.Bi5dA
- 「と、いうことは……」
「私以外の人はどうあっても見られないんですね…」
「ここまでやって、洗脳が目的だと思うか?」
「…違う、でしょうね……」
「じゃあ、私に何か伝えようとしてるってことですよね、送り主の方が。
…お二人に中身を見せちゃいけないみたいですし、私、向こうの部屋で読んできますね!」
そういうと、ユフィは病室から出ようとする。
「あ、おい!あといくらもしない内に放送始まりそうだけど大丈夫なのか?」
その後姿に質問を投げかける上条。それに対し彼女は、
「多分それまでには読み終わります!」
振り返らずにそう言うと、彼女は部屋を出て、向かいの診察室へ入った。
医師が座る席に着き、上条たちが万が一にも文字を見ないように角度を色々工夫している。
「カーテンが開いてるから、何かあってもすぐわかるし、あそこなら安全、か」
「ええ。…トウマ」
「何だよ?」
「先ほどの彼女、少し変ではなかったですか?」
「『レクイエム』なんてついてたし、知り合いがなんか危ない目にあってるかもしれないって
思ったんじゃないか?」
「本当に、それだけでしょうか…?」
尚も浮かぬ表情をする彼女に、上条は
「…まあ、不安に思う気持ちもわかるけどさ、今俺たちにできることなんてないし、
信じて待つしかないんじゃねえか?」
とゆっくりと告げた。
「…それもそうですね」
そう言いながらも、内心穏やかではない上条。
ユフィの不安に満ちた表情を見つめ、思う。
(わかってても、見てるしかないのは辛いな…。
……何があっても、俺はお前を支えて、スザクのとこまで必ず連れてってやる。
だから、何が書いてあっても、絶対にくじけるなよ、ユフィ)
上条とファサリナが不安げに見つめる中、ユフィはゆっくりとレポートをめくり始める。
◇ ◇ ◇
そう、少女の言った通り、そこに書かれている事は全て彼女に伝えられるためのもの。
そこに記された文字はしかし、少女の世界を焼き尽くす毒そのもの。
その先にそんな茨の道が待ち受けていると想像さえせずに。
少女はその毒を飲み干していく。
- 402 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:22:09 ID:3t.Bi5dA
- 【E-5/診療所/一日目/真夜中】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神状態良好。上半身に合計8の刀傷、右のわき腹と左腕・左肩に刺し傷(全て手当て済み)。肉体疲労(小)。
[服装]:ボロボロになった血染めの制服
[装備]:なし。
[道具]:基本支給品一式、御坂美琴の遺体
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。御坂の遺体は必ず連れて帰る。
0:もう迷わねぇ…。俺はこの『偽善』を貫きとおしてやる!!
1:ユフィを守る。ファサリナとも同行したい。
2:戦場ヶ原ひたぎを追い駆けて謝罪する。
3:一方通行を探し出す。
4:スザクとユフィを会わせる。…スザクもげろ。
5:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
6:壇上の子の『家族』を助けたい。
7:そういえば、ブリタニアって何だ………?
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
※『ブリタニア』、『行政特区日本』という単語を知りました。
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:全身打身、肩口に刺傷(中)(打撲、刺傷共に治療済み)。疲労(大)。
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:無し。
[道具]:基本支給品×4、アゾット剣@Fate/stay night、
ティーセット@けいおん!、ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、
特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、
ピザ×5@現実、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、
ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他、レイのレシーバー@ガン×ソード、
シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実 、ゼロレクイエムレポート
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする。
0:トウマは信頼できる人。ファサリナさんとも仲良くなれそう。
1:自分が傷つけた人達に謝りたい。
2:ゼクスさんの想いを継ぐ。
3:『ゼロレクイエム』…?ゼロと関係あるのでしょうか?
?:スザクに会いたい。
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアスが解除されました。『トネガワユキオ』を殺したと思っているほか、
黒子とファサリナ、(名前は知らないが)織田信長を襲ったと思っています。
- 403 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:23:01 ID:3t.Bi5dA
- 【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康、移動中
[服装]:自前の服
[装備]:プラネイトディフェンサー@新機動戦記ガンダムW、ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式×2、軽音部のラジカセ@けいおん、シャベル@現実、M67破片手榴弾×2@現実、 イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4、 お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実、 サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考] 基本:主催を倒し、可能ならカギ爪の男やヒイロを蘇生させる。
0:ユーフェミアと上条当麻を連れ、グラハム達と合流。
1: ユフィは仲間にできそう。トウマも大丈夫、だと思う。
2:自分の中で生きているヒイロを守る。なるべく単独行動は避けたい
3:ゼロなどの明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。
4:首輪が解除でき、三節根が手に入ったらダリアを呼んでみる?
5:お友達……。
6:オリジナルヨロイが奪われてはいないでしょうか……
7:あのゴーグルの少女は一体……?
[備考]
※デュオを協力が可能かもしれぬ人物として認識しています 。
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています。
※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています 。
※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています 。
※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 。
※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。
※グラハム・衣と情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※ユフィにはトップとしての役をしてもらいたいと思っています。
※ゼロが偽物かもしれないという情報を入手。半信半疑です。
『ゼロレクイエム』レポート@オリジナル
公式に明らかになったデータやその視点からの評価が詳細に記されたレポート。
追記
「レポート」にはルルーシュ達の本当の願いと世界への影響についての「考察」が(言峰綺礼の視点から記されているもの)付け加えられている。
- 404 :アンサー ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:23:48 ID:3t.Bi5dA
- ※ 銅像の台座には、診療所に入り込んだ人間宛に、言峰を中心とした主催側が作った、
精神を刺激し戦いを煽るための『何か』が送られてきます。
(銅像が台座の上にある場合のみ送られてきます。現在はユフィが元に戻したため、
次に入ってくる人がいた場合、その人宛の何かが送られてきます。
また、対象となる人が診療所から出た場合、中の『何か』は主催者側に戻ります)
送られてくるものは魔術的な防衛機構を持っており、
内容を理解すべき人以外が理解しようとすると苦痛に苛まれるようになっています。
また、対象となった人は内容を誰かに話そうとする気がおきにくくなります(魔術的なものでなく、学園都市内の心理学を応用した精神誘導です)。
素材も魔術的なもので構成されるため、幻想殺し等で防衛機構を無効化しようとすると砕けます。
キャスタークラスの魔術師なら突破できるでしょう。
『何か』が用意されていなかった人物は、
『明智光秀、織田信長、荒耶宗蓮、玄霧皐月、
刹那・F・セイエイ、アリー・アル・サーシェス、
バーサーカー、利根川幸雄、兵藤尊和、船井譲次、カギ爪の男、
トレーズ・クシュリナーダ、平沢唯、上条当麻』
が確定済みです。
他にも何も用意されていない人がいるかもしれません。
※脇差、モップの柄、包丁がE-5地区の路地裏に放置されています。
付近には上条当麻の大量の血痕や、彼の制服の切れはしも残されています。
- 405 : ◆KEnJlE0kvM:2010/06/10(木) 23:26:48 ID:3t.Bi5dA
- 以上で投下を終了させていただきます。
連絡不足等、様々な不手際で皆様にご迷惑をおかけし、
不快な思いをさせてしまいました事、
本投下と仮投下で内容が大幅に変更されたこと等、
ここに謝罪させていただきます。
申し訳ありませんでした。
矛盾点等ございましたら、遠慮なく仰ってください。
- 406 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 15:26:15 ID:RNhBV9Bw
- 投下乙です。すごくよかった。
そして「何か」がちょー気になりますw
- 407 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 20:27:05 ID:4eklEsu.
- 投下乙
いい覚醒話だった
やっぱり上条さんは上条さんしてるのが一番いい
というかもうこれ起源覚醒でいいんじゃねw
ユフィもギアス消えたけど前途多難だな
スザクも瀕死だし
- 408 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 20:30:41 ID:vd13nZdo
- 毒吐きの意見を気にすることはないと思うけどなぁ
基本的に新人には書かせたくないって思ってるやつらばっかだから
- 409 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 20:33:45 ID:fBN.wifQ
- キャラがおかしいなら指摘すべきだろう
実際に違和感しか感じないんだし
- 410 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 20:39:39 ID:JK1B96Wc
- 「キャラがおかしい」は往々にして主観の問題だからな
原作や前話までで断固否定しているような事柄を肯定しているような場合以外は指摘として通らない
- 411 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 20:43:56 ID:xab.nz2o
- とりあえず、まだ予約スレ見てない人は見にいこう
話はそれからだ
- 412 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 20:46:40 ID:4eklEsu.
- ん? あらら破棄かいな……
キャラそんなにおかしかったかな?
最近の上条さんの展開を踏まえてみれば、逸脱した展開ではなかったと思うけどね
- 413 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 21:39:41 ID:EdwzyOFw
- 上条、スザク達と分かれる→上条、ユフィと会う(あまり時を置いてない?)→すざくギアス(放送30分前)
スザクが重傷で南下、一方さんは時間切れ間近で待機、ガハラC.C.は東にそれなりに進んだ(放送10分前?)。
一同がせーのでご対面ということでもなければできないことはないかと。ユフィ上条でどれだけ時間使うかによるかな。>aCsさん
- 414 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 22:31:17 ID:0efjvbNY
- また毒吐きの追いつめによる破棄か
本当にいい加減にしてほしいな
- 415 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/11(金) 23:39:02 ID:hMy35rVs
- そういうとこなんだよ毒吐きは
むしろレポートとか死者による上条さん擁護とか叩かれてた内容がほとんど変わってない作品を投下しといて
わざわざあそこを覗きに行くのが間違ってる
それに破棄してほしくなかったんなら自分が擁護してやりゃ良かったじゃないか
- 416 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/12(土) 00:32:29 ID:ReJQc7EU
- 今回の作品にはケチがついたがあの書き手の文章力とか期待してたんだが…
毒吐きの連中でパロロワから去るにはおしいんだよな
- 417 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/12(土) 00:53:49 ID:CqKWEw5U
- >◆KEnJlE0kvM氏
投下お疲れさまでした。
仮投下から本投下まで間があいたことについては、問題はあったと思いますが
今後注意していただければ十分だと思います。
氏の今後に期待しています。
- 418 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/12(土) 11:44:03 ID:nQC0W7To
- ルール議論スレに、今後の日程や放送の決定方法について発議しました。
意見のある人はルール議論スレまで。
- 419 :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
- 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
- 420 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/12(土) 22:36:55 ID:4Y0p5MY6
- まだ毒吐きの中だけだったんだからいいじゃないか
むしろ毒吐きの評価をまともに受ける方がry
- 421 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/12(土) 22:44:45 ID:Gn9Sx.LY
- >>419
別に毒吐きはその役目を果たしただけだし別に悪くないぞ
あえて言うなら自分から地雷原に突っ込んだ書き手が悪い
- 422 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/12(土) 22:49:47 ID:Gn9Sx.LY
- うお、同じ文中で「別に」を2回も使ってしまった。なんか恥ずかしいな
- 423 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/12(土) 23:15:51 ID:2ILL.vkw
- >>422
一個目のほういらないなw
- 424 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/13(日) 14:08:39 ID:631K61Ss
- ルール議論スレから連絡
放送前の予約の締切を6月21日(月)23:59:59(状況によって延期の可能性あり)とする方向で
話し合いが進んでいます。
反対意見が出なければこのまま正式決定となりますので意見のある人はルール議論スレまでお願いします。
引き続き、放送案の決定方法についての話し合いをしますので意見のある人はルール議論スレまで。
できれば書き手諸氏にも話し合いに参加していただければと思います。
よろしくお願いします。
- 425 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/13(日) 23:59:48 ID:631K61Ss
- 特に反対意見はないようなので、放送前の予約の締切は>>424で決定とします
- 426 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/16(水) 23:20:43 ID:phcF5Dz.
- ☆ 連絡事項 ☆
ルール議論スレにて放送案選出の方法の骨格が出来上がって来たので途中経過を報告します
【放送案の選出方法】
いつもと同じく投票
投票するのはPC、携帯どちらでもOK
ただし多重対策のため、短時間(二、三時間程度)での実施
【多重対策】
いつもと同じく同一IDでの投票は最初の一票のみをカウントし、それ以外は無効票扱いとする
投票終了後に認証時間(一、二時間程度)を設け、投票したIDと同一IDであるうちにもう一度投票スレに書き込むことで認証を行う
認証がなかった票は無効票扱い
【書き手氏の投票について】
トリ出しで投票した場合は認証不要で票数を(1+延長可能回数)票でカウント
ただし同一IDでの無効ルールは適用し、そちらが優先
【印象操作について】
明確に禁止するのは投票途中及び認証中に投票の途中経過を貼りつける行為のみ
後は個々の良識に任せる
でもあまりにひどいと管理人氏に通報されて、レス削除されちゃうかもしれないので、行き過ぎはダメだよ
以上です
明日日付が変わるまで待ち、大きな反対意見がなければこれで決定しようと思うので反対意見のある人はルール議論スレのほうでお願いします
- 427 : ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:44:32 ID:2iWGYU2o
- これより、上条当麻、ファサリナ、枢木スザク、C.C.、ユーフェミア・リ・ブリタニア、阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎ、グラハム・エーカー、インデックス
投下させていただきます
- 428 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:47:35 ID:2iWGYU2o
- C.C.だ。
今回は、私と戦場ヶ原ひたぎが枢木スザクと別れ、何故か壊れかけていた橋を渡り終えてから、
第4回放送までの間にあった出来事を語ろう。
まったく、なんで私がこんなことを。
文句を言いたいところだが、その間に私達がした事を語ることができるのは、私か戦場ヶ原しかいないからな。
何でも戦場ヶ原は、原作においてモノローグや心理描写が無いキャラだから、書きようが無いんだそうだ。
ん?
原作?
キャラ?
……まあ、よく分からないことを口走ってしまったが、大体そういう理由で、その時にあった出来事を、私が語ることになったわけだ。
では、いくぞ。
皇歴2018年。
この世界は――――
何だ?
私のモノローグといったらこれだろう?
……そんな顔で睨むな。
よせ!
文房具をこちらに向けるな!
冗談だ! 冗談だと言っているだろう!
やれやれ。
□ □
「もう、いいぞ」
私がそう言って戦場ヶ原ひたぎの背中から降りたのは、壊れかけた橋を渡り切ってすぐの事だった。
私の傷が治っているのかどうか、この時は自分でもまだわからなかったが、私を背負った戦場ヶ原が肩で息をするようになったからな。
汗もかいていたし、どうやらこのお嬢ちゃんにとって、私を背負ったままここまで歩くのは、かなりの重労働だったらしい。
それもそうだ。
私と戦場ヶ原はそれほど体格も違わないから、体重も同じくらいだろう。
体格差があるならともかく、自分と同じくらいの人間を背負うというのは、男女問わず大変な事だろう。
それでも、戦場ヶ原は文句ひとつ言わずにここまで歩いて来たし、私から降りなければこの後も私を背負って歩くつもりだったのだろうな。
大したものだ。
「重かったわ。私のこのカモシカのような脚が太くなりでもしたら、一体どうしてくれるの?」
……労いの言葉でもかけてやろうかと思ったらこれだ。
私を降ろしたとたん元気を取り戻したように、このお嬢ちゃんは振り向きもせず、大股で歩き始めた。
若いな。
「そんなに簡単には太くならないだろう」
戦場ヶ原がそんな態度だから、私もついその背中を追いかけながら言い返してしまう。
「あら。そんなの分からないじゃない。
普通の女の子なら当たり前の事でしょうけれど、私はこれまでの人生で自分の体重よりも重いモノなんて、持った事が無いのよ。
一体どれほどの負荷が、私のこの華奢な足に掛ったことか」
「それはそうかも知れんが。ん? 待て。今の話だと私がお前より重いみたいじゃないか?」
モノ扱いされた事にも少し引っかかったが、私はとりあえず体重の話題の方に突っ込んだ。
- 429 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:48:36 ID:2iWGYU2o
- 「みたいじゃなくて、そうではなくって?」
「それこそ分からないだろう。私とお前では、そんなに体格も違ない」
私の体重は、あの貧弱な坊やでさえ抱え上げる事が出来るくらいには軽はずなんだぞ。
そんなに重いはずがない。
「口答えはやめなさい。怪我人は大人しくしていればいいのよ」
「残念。もう治ったよ」
私はそう言って包帯をめくり、傷が塞がっている様子を戦場ヶ原に見せてやった。
戦場ヶ原から降りた時にはまだ分からなかったが、ここまで歩いていて傷は全く痛まなかったし、
どうやら、少し前の時点で、私の怪我は治っていたようだ。
「……本当。誰かさんを彷彿とさせるわね。でも、それならもっと早く下りてくれても良かったじゃない。
貴方を背負ってあの橋を渡るのに、この私がどれだけ神経を使わされたと思っているの?」
「ああ、悪かったよ。あの時は、まだ治っているかどうかわからなかったんだ」
私は事実を言っているだけだが、どこか言い訳がましくなるのはなぜだろうな?
「ふうん。そう」
実際、あの時点では私の傷がどうなっているかなんて分からなかったし、私はまだ治っていないと思っていた。
なぜなら、この島では私の回復速度は普段よりも随分落ちていたからだ。
例えば、この島に来て最初に出会ったあの眼帯女に噛まれた傷は、回復するのに結構時間がかかった。
その時の回復速度のままだったら、さっき負った傷はまだ治っていなかっただろう。
ここに来て、回復速度が上がってきている?
いや、本来の速度に戻りつつあるといったところか。
しかし、たとえ心臓を撃ち抜かれても、ものの数分で元に戻る普段の私に比べればまだ遅かったが。
何なのだろうな?
――島の各地で結界や魔方陣が破壊されたことで、私のコードに対する制限も弱まりつつあったなどと、この時点の私は知る由も無かった。
「それで、私の服はどうした?」
めくったことで、私の身体をミイラが巻いている布のように覆っていた包帯が解けてしまったし、
私は戦場ヶ原に私の服を出すように要求したのだが。
「え? あんなボロボロで血塗れの服なんて、持って来ていないわよ」
「なに!?」
戦場ヶ原は涼しい顔でそんな事を言い放った。
まあ、こいつはそうそう表情を変えるやつではないという事は、ここまでの短い付き合いでも分かっていた事だが。
「それでは、他に着るものは?」
私も、今さら人並みの恥じらいなど持ち合わせているつもりは無いが、それでもこの恰好で他の人と出会うのは、気分の良いものではない。
出来れば、誰かに出会う前にどうにかしたいところだ。
「無いわよ。そんなもの」
「では、ずっとこの恰好でいろと言うのか?」
「うーん、そうなるのかしら?」
戦場ヶ原は、わざとらしい思案顔(こういう表情を作ることはよくあるんだがな)でそんなことを言う。
埒が明かないな。
「じゃあ、せめて足に履く物は無いか?」
さっきから、私はペタペタと裸足で歩くはめになっている。
- 430 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:49:51 ID:2iWGYU2o
- 「ああ、そういえば。それも持ってきていないわね」
「やっぱり、背負え」
「もう治ったのでは無かったのかしら?」
「裸足では、足を怪我してしまうだろう」
「すぐに治るのでしょう」
「痛いだろうが」
「私が疲れるじゃない」
「おい、元はといえば…」
「責めたければ好きなだけ責めなさい」
開き直った。
というか、何だその開き直り方は。まあ、そう言うのであれば、お言葉に甘える事にするが。
「肝心なところで使えんな。愚図な女だ。このブタ。……どうやら、私も調子が今ひとつのようだな」
私は枢木スザクと別れる前に戦場ヶ原が言っていた台詞を流用してみた。
それを聞いた戦場ヶ原は、少し顔をしかめたように見えたが、見間違いだったかも知れんな。
すぐに石膏のような無表情で、淡々とした口調で、言い返してきた。
「冗談よ。そこまで言うのなら、私は冗談を口だけにしてあげてもいいのよ」
口だけではないつもりだったのか?
と私が言う前に、戦場ヶ原は私達の進行方向に見えてきた建物を指差して続けた。
「とりあえず、あそこで着られるものと履物を探してみましょう」
戦場ヶ原が指さした建物は、どうやら地図に薬局と記載されている建物だったらしい。
ドアは壊れていたし、入ってみると中も薬の箱が散乱していた様子から、私達以外にも誰かが訪れたのだろうということは分かった。
それが3分前なのか3時間前なのか、私達には判断が付かなかったが。
「ふむ……」
戦場ヶ原が中を見回っている間に、私は自販機をいじってみたが、私達はペリカなど持っていないし、
品揃えの中には、今私が欲しい物(まずは服だ)も無かったので、大した関心は湧かなかった。
精々、施設サービスの治癒魔術というのが、実在するのかどうか少し気になったくらいだ。
「誰かいればと思ったのだけれど、今は誰もいないみたいね」
そうこうしている内に、戦場ヶ原もそれほど広くない店内を一周して戻ってきた。
その手には、ビニールの包装を施された何かと、それからサンダルが握られていた。
「ほら、着物と履物、見つかったわよ。この私が見つけてあげたのだから、一生感謝なさい」
そう言って手に持っている物を突き出してくる戦場ヶ原に「元はと言えば誰のせいだ」という言葉が出かかったが、
とりあえず包装されている物に興味が湧いたので、私はそれを無言で受け取り、ビニールを乱暴に破いて中身を取り出した。
「ん? なんだ? これは」
その中身は、飾り気の無い緑色のシャツのような服だった。
「治療着というのかしらね。病院なんかで検査や治療を受ける時に着る服よ。知らないの?」
「あいにく、病院とは縁がなくてな」
「不老不死の魔女だものね。私は嫌というほど縁があったのだけれど」
そう言った戦場ヶ原は、どこか愁い顔のだった。
昔は病弱だったのだろうか?
そんな戦場ヶ原をよそに、私は早速その服を着てみた。
着てみたのだが……この服、袖も裾もかなり短い。
何とか胴体だけは隠れるが、逆に言えば、腕や脚は全く隠れない。
- 431 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:51:05 ID:2iWGYU2o
- 「おい。他には……」
「さて。ここには誰もいないみたいだし、次の場所へ行きましょう」
「他には無かったのか?」という私の言葉を遮って、戦場ヶ原がそう言い放った。
しかも言い放つだけではなく、そのまま私に背中を向けて薬局の外へと出て行ったので、私もサンダルを履いて後に続いた。
「おい」
「他には、同じようなものが何着かあっただけよ」
戦場ヶ原の背中を追いかけながら声を掛けた私に、戦場ヶ原は振り返らずに答えた。
どうやら、私の言いたい事は分かっていたらしい。
「あとは、三角巾とかを使って作ってあげるくらいかしら」
ズンズンと薬局から遠ざかりながら言われても、そんな事をする気の無いのはまる分かりだ。
相変わらず振り向きもしないし、こいつ、「背中を守る」と「背後に従える」を取り違えているのではないか?
「いや、それはいい。しかし、この恰好も……」
「さっきまでと大して変わらないわね。でも、服として作られた物なだけ、まだマシなんじゃない?」
「……人ごとだと思って」
「人ごとだもの」
私は何か言い返そうと口を開けかけたが、その前に戦場ヶ原が続けて無難な台詞で遮った。
「まあ、他に着られるものがあるかどうかは、道すがら探してみる事にしましょう」
この話題は、これで終わりにしましょうと言っているのだ。
確かにこの話題を続けても何か利があるわけではないし、他に話す事はあるだろうというサインでもある。
「ああ、そうだな。そうしてくれ」
私も、そこは無難な相槌で返しておいた。
「でもまあ、貴女がそこまで元気なら、少し急ぎましょうか。第3回どころか、もうすぐ第4回放送の時間よ」
そう言って、戦場ヶ原は足を速めた。
「象の像へ向かうのか?」
「ええ。誰かが待っていてくれているだなんて、そんな楽観的に考えている訳ではないのだけれど」
「何か手掛かりはあるかも知れない、か」
私も足を速めて、戦場ヶ原の隣に並んだ。
あまり速足で歩くと、ただでさえ短い服の裾がヒラヒラと頼りなく揺れるんだがな。
「そう言えば、その阿良々木暦というのはどんな男なんだ? まだ、詳しく聞いていなかったが」
「私の恋人よ」
「それはもう聞いた。風貌とか、特徴を聞いている。王子様みたいな人というだけでは分からないからな」
「いかさない童貞野郎よ。あんな男と話してくれる女の子なんて、精々私のような行き遅れのメンヘル処女くらいでしょうね」
酷い言われようだ。
「貴女も、もし出会ったら気を付ける事ね。唾を飛ばされて素人童貞が移ったら大変ですもの」
さらに戦場ヶ原は自分の彼氏に対して追い打ちをかけにかかった。
いや、童貞が移るわけないだろう。
- 432 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:52:06 ID:2iWGYU2o
- 「素人童貞というのは、素人娘に対しては童貞で、商売女とは遊んだことのある男のこと、だったな?」
「そうね」
「お前が、商売女……というわけでは無いのだろう?」
「そうね」
「それで良いのか? 彼女として」
「阿良々木くんを貶めるためなら、このくらい何でもないわ」
ああ。どうやら冗談だったようだな。
こいつの冗談は分かりにくい。それにしても……。
「本当に、そいつはお前の男なのか?」
「ええ、そうよ。ああ。阿良々木くんの事が心配だわ。胃がキリキリする」
今度は、随分とわざとらしく彼氏の心配を始めた。
「早く阿良々木くんを虐めてスカッとしたいわ」
……一体、どういう彼氏彼女なんだ?
倦怠期というわけではなさそうだが。
「で、見た目は?」
これまで戦場ヶ原から聞いてきた話の印象だけでは、阿良々木暦が一体どんな男なのか想像もつかなかったが、
この後、容姿を聞いてみると、外見はそれほど変わった男ではないらしいことが分かった。
戦場ヶ原と同じくらいの身長の――
「髪の毛足しても、まだ私の方が高いわ」
「おい。語りの部分にまで口を出してくるな」
「口を出す? 私はただ事実を言っただけよ」
戦場ヶ原よりも少し背の低い、やや痩せ形の日本人男子と言う事だ!
「それで、そっちのルルーシュという人は?」
そしてまあ、会話の流れでこの後はルルーシュの話題になるわけだ。
「鈍くてオクテな童貞坊やさ」
【E-4 (薬局と象の像の間)/一日目/真夜中(放送直前)】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:ポニーテール、戦う覚悟完了
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている、ヘアゴム
スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(1〜3、確認済)、バールのようなもの@現地調達
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
0:C.C.と象の像を目指しながら阿良々木暦を探す。
1:ルルーシュを探してC.C.と出会わせる。
2:正直、C.C.とは相性が悪いと思う。
3:…上条君。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
※安藤から帝愛の情報を聞き、完全に主催者の事を信用しない事にしました。
- 433 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:53:35 ID:2iWGYU2o
- 【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康、戦う覚悟完了
[服装]:治療着、サンダル
[装備]:アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2、赤ハロ@機動戦記ガンダム00
[道具]:基本支給品一式 阿良々木暦のマジックテープ式の財布(小銭残り34枚)@化物語
ピザ(残り54枚)@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:ルルーシュと共に、この世界から脱出。
不老不死のコードを譲渡することで自身の存在を永遠に終わらせる――?
0:ルルーシュに会って答えを聞く。
1:戦場ヶ原ひたぎと行動を共にし、彼女の背中を守ってやる。
2:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない
3:阿良々木暦に興味。会ったらひたぎの暴力や暴言を責める。
4:正直、ひたぎとは相性が悪いと思う。
[備考]
※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『過去 から の 刺客』の間。
※制限によりコードの力が弱まっています。常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も普段よりは遅いです。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。
通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません
□ □
そんなことを話しながら歩いている内に、私達は第4回放送を迎えたというわけだ。
なに?
その阿良々木暦達とは出会わなかったのか、だと?
近くに居たはず?
そういう設定が出てきていた?
そう言われてもな。
現に私達と阿良々木は、第4回放送までには出会わなかったのだから、仕方がないだろう。
そちらのことは、そちら側にいたやつに聞けばいい。
餅は餅屋と言うだろう。
ん、別に専門家というワケではない?
何を今さら。
お前はもう、語るのが仕事みたいになっているじゃないか。
じゃあ、後は頼んだぞ。
□ □
- 434 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:54:17 ID:2iWGYU2o
- とんでもない所からパスがきたー!
と、嘆いていてもそれは何の意味も無い事だし、手早く本題に入ってしまおう。
この僕、阿良々木暦が第4回放送を迎えるまでにあった出来事。
それを語るのが、今回の僕の仕事だ。
向こう(戦場ヶ原達の事だ)と違って、こっちは登場人物も多いし、必ずしも僕が語らなければならない事ではないと思うのだけれど、
ここで語り、というか一人称視点で物語を進めるには、やっぱり僕が適任らしい。
僕が適任と言うのは、原作が僕の一人称だからとか、ここでも僕の一人称は多用されていて書きやすいとか、
どうやらそんな理由のようだ。
それはさておき。
その間にあった出来事は、長い物語の中のほんの一部に過ぎない。
そして、少年漫画のような派手なバトルがあったわけでも、神経をすり減らすような緻密な頭脳戦があったわけでもない。
しかし、それでも、その間にあった出来事は、僕の中で強く印象に残った。
それじゃあ前置きはここまでにして、語り始めるとしよう。
ああ、その前に。これは結論から言ってしまおう。
僕達と戦場ヶ原達は、第4回放送までには出会わなかった。
ニアミスはしていたのだけれど。
□ □
ところどころ壊れている橋を渡り終えた後、僕とグラハム・エーカーは再びジープに乗って、衛宮達が言っていたデパートへ向かっていた。
衛宮達の話を信じるなら、そこで戦いが行われてから結構な時間が経ってしまっている。
もう、決着はついてしまった後かもしれない。
しかし、まだ残った人が粘っているかもしれないのだから、僕達が諦めてしまうわけにはいかない。
いや、客観的に考えれば、諦めるのば早い方が良いとも言うこともできる。
その残った人たち――衛宮とグラハムさんの話を合わせると、ヒイロ・ユイという少年とファサリナという女の人らしいが、
彼らがやられた後に僕達が到着し、同じようにやられてしまう最悪のケースを避けるためには。
でもそれは、そういうケースもありうるという可能性の問題だ。
僕達は、まだ残った人がやられていない可能性に賭けてデパートへと急ぐ。
何かが弾けるような音が僕の耳に届いたのは、そんな時だった。
ジープのエンジン音に紛れてしまっていたけれど、それでもエンジン以外の音だったと思う。
「グラハムさん! 止めてください!」
「ん? 何故だ?」
「何か、聞こえたような……」
グラハムさんは半信半疑のようだったけれど、とにかく車を止めてくれた。
そして、僕は耳を澄ませる。
すると再び、ロケット花火が最後に弾ける時のような破裂音が聞こえた。やっぱり、聞き間違いではなかったのだ。
止まったことで車の音が小さくなっていたから、今度はハッキリと聞き取る事が出来た。
「グラハムさん。今のは?」
「ああ、聞こえた。銃声のようだな。……今の音を聞き取ったのか?」
今度はグラハムさんも聞こえたみたいだけれど、グラハムさんは何か怪訝な顔をしていた。
ああそうか。
元吸血鬼の僕は、五感や身体能力なんかが普通の人間とは少し違うのだ。
最後に忍に血を飲ませてから結構時間は経っているから、そこまで大きな差は無いと思うけれど、
それでも、例えば実際に聴力テストすれば、明らかに分かるくらいの差は出るのだろう。
「フッ。目や耳は、訓練された大人よりも素人の若者の方が良いというのは、常識だったか」
グラハムさんには薬局で情報交換をした時に、僕が元吸血鬼である事を伝えてある。
にもかかわらずその事に触れなかったのは、気を使っての事なのか、それのとも素なのかよく分からなかった。
まあ、本当にグラハムさんの言う理由なのかもしれないのだけれど。
- 435 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:55:01 ID:2iWGYU2o
- 「戦いながら移動したのかも」
「あり得るな。それに、デパート方面からは何も聞こえない。音がした方へ向かうとしよう」
銃声が聞こえたという事は、そちらでは現在進行形で戦闘が行われているという事だ。
僕もグラハムさんも、デパートの方からは何の音も聞き取ることが出来なかったし、
僕達はデパートへ向かうよりも、銃声が聞こえた方へ向かう事の方が優先順位は高いと判断して、そちらへと進路を向けた。
そう判断してからの、僕達の行動は早かった。
いや、僕達と言っても、ほぼ100%車を運転しているグラハムさんの、だが。
「恐らく、この辺りだろう……」
グラハムさんは多分、軍人としての経験や勘から銃声が上がった場所について、おおよその見当を付けていたのだと思う。
そして、ものの1、2分で、その見当を付けていた場所に到着したのか、そう言って車の速度を緩め、辺りを見渡し始めた。
「銃声は…もう聞こえてきませんね。せめて、何か痕跡が見つかれば」
僕も、グラハムさんに倣って周囲を見渡す。
「戦闘の痕跡を探すのはいいが、頭は低くするんだぞ。それから……」
グラハムさんは、さらに何か言いかけたが、その前に僕が、その戦いの跡らしきものを見つけて声を上げた。
「グラハムさん、あれ!」
「む、何か見つけたか?」
「はい。一度降ります」
僕の言葉でグラハムさんがブレーキを踏んだが、僕は数秒の時間も惜しくて、車が止まり切る前にドアを開け、飛び出した。
何故僕がそんなに焦っているかというと、多分、僕の見間違いでなければ、僕の見つけたものは。
「これは、血の跡か」
僕を追って来たグラハムさんが呟いた言葉通り、道路上に点々と続いているそれは、血の跡だった。
「辿ってみましょう」
「ああ。しかし、あの位置からこれを見つけたのか」
ああ、そうか。
元吸血鬼の僕は、普通の人間よりも夜目が効くのだ。
それでも、最後に忍に血を飲ませてから結構時間は経っているから、普通の人ともそこまで大きな差は無いと思うけれど、
例えば、実際に暗がりで視力テストなんかをすれば、明らかに分かるくらいの差は出るだろう。
「僕も、ただの高校生ってわけじゃないんで」
ここで僕がそう言ったのは、駅での、真田とセイバーの事があったからだ。
真田とセイバーは僕を何の力もない高校生だと思っていて、そんな僕を守ろうとして真田が命を落とすことになった。
あの時の彼らの様に、僕をただの高校生としては扱わないでくれという、そんな意味を込めて言ったのだ。
そして、僕とグラハムさんは、一緒に血の跡が続く先へと追跡を開始した。
もっともこの血の跡、どちらが元でどちらが先なのか、僕には明確にわかっていた訳じゃ無いのだけれど、
それでも、何となくこっちじゃないかなと思った方へと追跡をした。
この何となくというのが意外と当たるのだ。
何でも人間の脳には、例えば今回は血の跡だったのだけれど、そういう跡なんかを見ただけでも、
ある程度、何がどうしてそんな跡がついたのか判断できるような、そんな機能があるらしいのだから。
羽川だったら、そういう脳の話も知っているのかなあ。
あいつは何でも知っているから。
まあ、一緒に追跡しているグラハムさんは、軍人としての経験とかで、何か確信があって追跡していたのかもしれないのだけれど。
結果、僕達の追跡した方向は正しかった。
少し走り、曲がり角をひとつ曲がった先で、血を流して倒れている人物がいたのだから。
- 436 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:55:50 ID:2iWGYU2o
- 「く、枢木!」
枢木スザク。
今朝、駅の近くの喫茶店で話をして以来、十数時間ぶりの再会だった。
「枢木! 大丈夫か!?」
僕は急いで枢木を助け起こそうとした。
もしかして、死んでいるのではという嫌な想像が、僕の頭の中を駆け巡っていたが、それは枢木の声で否定された。
「あ、ああ。……ぼ、僕は…………俺は…………生きな、ければ……………」
枢木にはまだ息があった。けれど、この出血は重傷に違いない。
改めてよく見ると、枢木は……左腕が、無い。
そして、そこから大量の血が流れ出ていた。
手当てをしなければと思ったのだけれど、こんな大怪我の手当てなんてどうすればいいのか、僕にはわからない。
不本意ながら、自分の血は見慣れている僕だけれど。
「グ、グラハムさん!」
縋るような気持ちで、僕はグラハムさんの名前を呼び、振り返る。
グラハムさんには、僕が今朝、喫茶店でゲームに乗っていない者同士、情報交換をしたこと。
その時情報交換をした連中の中では、枢木が一番話しやすかった事などを、薬局で話している。
その情報と、今、僕がこうして呼びかけている様子を見れば、こいつが枢木スザクだって、グラハムさんも分っているはず。
「とにかく止血だ!」
僕が振り返った時には既に、グラハムさんはデイパックの中から応急処置セットを取り出していた。
そして、その言葉が号令となり、グラハムさんと僕は、枢木の手当てを始める。
まずは、傷口を上にして、それから、それからどうするんだ?
「手伝います」
今のはグラハムでも僕でもない。
女の人の声だった
「え?」
声のした方を見ると、どこか妖艶な雰囲気の女の人が立っていた。
黒髪を長く伸ばし、紫色の服を着ている女性だ。
彼女の着ている服には、胸と脚の部分に大きな切れ込みが入っていて、そこから肌が露出している。
妖艶な雰囲気だと感じてしまったのは、そのせいだろうか。
否。
それだけではない。
まず、僕が彼女の姿を目にした時に、真っ先に視界に飛び込んできたのは、その豊満な胸だ。
戦場ヶ原はもちろん、間違いなく羽川よりも大きいだろう。
にもかかわらず、全体的なシルエットはとてもバランスがとれている。
胸ばかり大きい人は、どうしてもバランスに難ありの場合が多いけれど、
この人はさらに、程良く引き締まったウェストに、絶妙なふくらみのヒップを併せ持っている。
絶妙のプロポーションだった。
さて。
この状況で、これ以上その女の人を描写するのは、いい加減不謹慎だろう。
断っておくけれど、この時僕がその女性に見蕩れていた時間は、せいぜい数秒間だ。
もちろん、すぐに頭を切り替えて枢木の手当てを続けたとも。
でも、すごい胸だなあ。
「ファサリナ。無事だったのか」
「はい」
- 437 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:56:51 ID:2iWGYU2o
- グラハムさんは、この女の人は知り合いだったらしい。
ファサリナ。
グラハムさん達の協力者で、デパートで戦っていると思われていた人物の一人だ。
「ヒイロ・ユイはどうした?」
「……」
グラハムさんは、続けて彼女の同行者だったはずの人の名前を出したのだけれど、
それに対しては、ファサリナさんは無言で軽く首を振って応えた。
そういう事なのだろう。
くそ!
「……そうか」
「詳しい話はまた後で。まずは、その子の手当てを」
そう言うとファサリナさんは僕の隣に座って、枢木の手当てを手伝い始めた。
こうして、僕達は枢木の手当てをしたのだけれど、ともかく最も深刻だった左腕の止血は、三人ですぐに処置をすることが出来た。
三人がかりだったのが良かったのか、グラハムさんとファサリナさんの手際が良かったのか、多分両方なのだろう。
だが、しかし。
「お、俺は……い、生き、る……」
「ああ、そうだよ! こんな所で死ぬなよ! 枢木!」
手当てが終わっても、うわ言のように繰り返される枢木の言葉。
まるで、気合だけでこの世に留まっているみたいだ。
僕はとにかく声をかけ続けたのだけれど、枢木の顔色は悪く、まるで死人ようで、
もう、いつ死んでもおかしくないのではないかと思えた。
「手当てはしましたが、所詮は応急処置です。もっとちゃんとした治療をしないと、この子は……」
「むう……」
僕の想像をファサリナさんが肯定し、グラハムさんが唸った。
しかし、そうは言ってもこの場には医者もいないし、僕達に出来る事なんて……。
「ともかく、薬局へ戻るか。ここではどの道、これ以上手の施しようが無い」
グラハムさんがデイパックの中からジープを取り出して、そう提案した。
「そうか。薬局の施設サービス」
重傷だった白井黒子を治したという薬局の施設サービスを使えば、枢木を助けることだって出来るかもしれない。
「ああ。うまく使うことが出来ればいいのだが……」
しかし、言いだした本人のグラハムさんは、何だか歯切れが悪い
「薬局の、施設サービスとは?」
ファサリナさんは、当然ながら何の事か飲み込めていないようだった。
「それは、車で説明しよう」
グラハムさんが、車のドアを開きながらファサリナさんに答える。
「そうですね。とにかく、枢木を車へ。ファサリナさん、手伝ってくれますか?」
「あ、はい。分かりました」
「う……生き、なくては……」
そして、僕とファサリナさんの二人は、枢木を車に乗せるために持ち上げようとした。
- 438 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:57:45 ID:2iWGYU2o
- 「スザク!」
その時、ファサリナさんとは別の、枢木の名前を呼ぶ女の声がした。
そして声のした方に視線を向けると、さっきファサリナさんがやって来た方から、女の子が走って来た。
「ぬ!?」
「あら?」
「え?」
ピンク色の髪に、紫がかった瞳の女の子だった。
外国人の見た目の年齢は良く分からないのだけれども、歳はもしかしたら僕より若いかもしれない。
胸は、さすがにファサリナさんよりは小さいけれど、戦場ヶ原より大きいのではないだろうか。
って、これではまるで僕が女の人の胸ばかり見ているみたいじゃないか。
容姿の描写はここまでにしよう。
それで、このピンク色の髪の子。
もしかしてこの子、ユーフェミアじゃないだろうか? 日本人を殺すという。
そうだったらマズい。
ここには、僕と枢木。日本人が二人いるのだ。
しかも、一人は虫の息。
もしも今、あの子が何か武器を持って襲いかかってきたら、枢木を守りきれるかどうか。
と警戒したが、それは杞憂に終わった。
「スザク! スザクなのですね!!」
その子は、一瞬ファサリナさんの方へ視線を向け、戸惑ったような表情を浮かべたけれど、それもつかの間。
車に乗せようと助け起こされていた枢木に向かって来ると、枢木の右手を取って、本当に心配そうに枢木の名を呼んた。
「……ユ…フィ?」
そして、僕らと再会してからずっと弱々しく、生きる生きると呟いているだけだった枢木が、初めて表情を変えた。
心なしか、顔にもほんの少しだけ、生気が戻ってきたように見える。
「はい、ユフィです! 良かった。私が分かりますね? スザク!」
うん?
ユフィ?
ユフィ……ユフィ……ユーフェミア!?
やっぱりこの子、ユーフェミアなんじゃないか!?
日本人を殺すと聞いていたけれど、しかしこの子は、僕や枢木をどうにかしようという気配は無い。
一体どういうことだろう?
「阿良々木少年。その子は?」
このユフィって子が現れた瞬間から、銃を取り出して警戒をしていたグラハムさんが問いかけてきた。
いや、僕に聞かれても困る。
僕だって、この状況について行けないのだから。
「ゼクス・マーキスの手紙にあったユーフェミアとは、彼女ではないか? ファサリナ」
そう、それは僕も思ったことだ。
だけど、この子からは殺意とか殺気とか、そういったものを一切感じない。
勘だけど、多分この子は大丈夫だ。
それに、枢木の手を取って、彼の名前を呼び続ける彼女の姿を見ると、どうしたって危険だとは思えなかった。
でも、それをどう説明したらいいだろう?
「はい。しかし私は、そのゼクスさんから、ユーフェミアさんの保護を頼まれました」
僕が返答に窮していると、ファサリナさんが助け舟を出してくれた。
というか、それは僕も初耳だったのだけれど、ともかく、この子はユーフェミアで間違いないらしい。
- 439 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 20:58:38 ID:2iWGYU2o
- 「む、そうなのか?」
「はい。詳しくは後でお話ししますが、この様子なら、まずは大丈夫なのではないでしょうか」
「……まあ、とにかく枢木を車に乗せよう。えっと、ユーフェミア? これから枢木を薬局まで運ぶところなんだ。良いかな?」
枢木の容体の事もあるし、僕は多少強引にでも話をまとめようと、僕はユーフェミアにそう提案した。
「あ、申し訳ありません。お願いいたします」
そうしてその子の了解も取り付けると、僕とファサリナさん、そしてユーフェミアの三人は、枢木を車の後部座席に乗せた。
「ユフィ!! スザク!!」
そこへ今度はツンツン頭の、僕よりも一つ二つ年下くらいに見える少年が、枢木とユーフェミアの事を呼びながら駆けて来た。
□ □
その時はスザクの体の事もあって時間が惜しかったし、ユーフェミアがそのツンツン頭のことを知っていたので、
とにかくその少年にも車に乗ってもらい、僕達は移動する車の中で、改めて軽く自己紹介をした。
それで僕は、その少年が上条当麻という名前なのだと知るのだけれど。
この辺りでそろそろ、ファサリナさん、ユーフェミア、そして上条の三人が、それぞれどういう経緯を辿って僕達と出会ったのか、
説明をしておいた方が良いだろう。
何せその三人は、その時の僕の視点から語るだけだと、何の伏線も無しに登場したように見えてしまうかも知れないから。
まずはファサリナさん。
彼女はゼクス・マーキスと別れた後、ユーフェミアを探して南東へ向かった。
けれど、それほど小さくないこの島の中で、大まかな方角を示されただけでは、そうそう探し人は見つけられない。
僕だって、原村からのメールで戦場ヶ原が近くにいる事は分かっていたのに、結局ここまで会えずじまいだったのだから。
ファサリナさんも、しばらくはユーフェミアを探したのだけれど、結局のところ手詰まりになってしまったのだそうだ。
そして、ユーフェミアの捜索を切り上ようと考えだした時に、僕達も聞いたあの銃声を聞き取った。
その後は、言うまでもないだろう?
その銃声が、もしかしたらユーフェミアに関係あるかもしれないと考えたファサリナさんは、銃声の聞こえてきた方へ向かい、
そしてグラハムさんが運転する車の音や、僕達の声(枢木!とか叫んだからなあ)を聞き付けてあの場に現れたというわけだ。
次に、ユーフェミアと上条の二人。
僕達と出会った最終的な理由はファサリナさんと同じで、銃声や車の音、それに僕達の声なんかを聞き付けてやって来たのだけれど、
この二人の場合は僕達と出会う前に、当人同士でもひと悶着あったらしいから、そこは回想を交えて説明した方が良いだろう。
――そういうわけで、以下回想。
と言っても、語るのは僕なのだけれど。
□ □
- 440 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:00:31 ID:2iWGYU2o
- この時点で生きている人の中では、もうユーフェミア本人しか知る者のいない事だったのだけれど、
ユーフェミアはこのゲーム開始時に、自分の名簿にしるしを付けていた。
日本人の名前には赤のしるし。
自分の知り合いには青のしるし。
そして、彼女の名簿にある上条当麻という名前には、当然、赤いしるしが付けられていた。
だからユーフェミアは、上条当麻という名前を聞いた時点で、もう何をするか決めていたのだ。
「聞くまでもなかったですね。上条当麻って、日本人の名前ですもの」
そう言って、ユーフェミアは上条を振りほどくと、持っていた脇差を抜いて上条に斬りかかった。
「な、なに!?」
その脇差の刃を抜く動作がもたついたお陰で、初太刀をかろうじて避けることができた上条だったが、頭の中は混乱した。
怪我をしている女の子を助けようとしたら、いきなりその子に斬りつけられたのだから。
「あら? 避けないで下さい。殺せないじゃないですか」
一方のユーフェミアは、そんな事を言いながら脇差を振りかざし、上条へと迫った。
しかし、もともと素人な上に、怪我をしていて疲労も溜まっていたユーフェミアの太刀筋は、
特に武道などをやっている訳ではない上条にも、難無く避けられるほど稚拙だった。
でも、この時疲労が溜まっていたのは上条も同じだった。
肉体的にも、精神的にも。
「くっ、アンタ。このゲームに乗っていやがったのか!?」
「いいえ。わたくしは仲間を集めて、この悪夢のようなゲームから脱出したいと思っています」
「だったら何で!?」
「でも日本人は、殺さなくてはならないのです」
「何だよそれ!? ワケわかんねーよ!」
ヨロヨロとした足取りで近付き、フラフラとした太刀筋で迫って来るユーフェミアの脇差を、
上条は、これまたヨロヨロとした足取りで距離を取り、フラフラとした体捌きで避ける。
お互い、ボクシングで死力を尽くして戦ったボクサーの最終ラウンドか、
はたまた60分一本勝負のプロレスで、制限時間ギリギリの頃のレスラーのような、そんな状態での格闘がしばらく続いた。
「ハァ、ハァ。そんなにわたくしに殺されるのがお嫌でしたら、自殺してはいただけませんか?」
「ゼェ、ゼェ。だから、それがわかんねーんだよ! アンタはこのゲームに乗っている訳じゃねーんだろ?」
「そうですよ」
「だったら、何で日本人を殺すんだよ? 何で日本人が死ななきゃならねえんだよ?
それはアンタの意思なのか? アンタがやりたくてやっている事なのか?」
「そんなものは関係ありません。ただ、日本人には死んでいただかなければならないのです」
格闘をしながらも、上条は説得を試みていたのだけれど、そちらは完全に平行線だった。
主義主張がぶつかり合っているのではない。そもそも会話が全く噛み合っていなかった。
「日本人は皆殺しです! 虐殺です!」
何度目かの斬りつけも避けられてしまったユーフェミアはそう叫ぶと、
今度は斬りつけではなく、まるで体当たりをするように上条へと突っ込んだ。
その動きは、ここまでユーフェミアの太刀筋を見切り、この調子ならば何とか避け切れると、少し油断をし始めていた上条を焦らせた。
「く、くそっ!」
油断と言っても、それは上条がユーフェミアの、日本人を殺すといった言動により注意を向るようになっていたからで、
だから、単純に油断と言ってしまうと、少し語弊があるだろうけれど。
ともかく、予想外の動きに上条が面食らったのは事実だった。
「――オオッ!!」
- 441 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:01:17 ID:2iWGYU2o
- それでも上条は、とっさに右の拳を握りしめて振るったのだから、
流石、普通の高校生などよりも荒事の場数を踏んでいるだけのことはあるということだろう。
彼らのいた薄暗い路地に、鈍い音が響いた。
苦し紛れに振るわれただけの上条の拳だったけれど、その拳は偶然にも、ユーフェミアのこめかみを捕らえていたのだ。
いわゆるテンプルショットというやつだ。
そして、さらに言うなら、いわゆるラッキーパンチというやつだ。
いや、違うか。
上条が幸運だなんて、そんなことは無いだろうから、これはきっと、ユーフェミアの方が不運だったのだ。
上条の右手に、ユーフェミアは自らの持つ幸運を全て、根こそぎ、ぶち殺されたと言う方が、事実に近い表現だろう。
そうしてユーフェミアは意識を失い、上条もその場で腰を抜かしたように尻を地面について座り込んだ。
その後、上条は体に力が入るようになると、まずはユーフェミアの傷の手当をするために、
一番近い街灯の下まで気絶しているユーフェミアを運んで、彼女のデイパックを枕に見立ててそこへ寝かせた。
本当は上条も、もっと落ち着ける屋内に運びたかったのだろうけれど、
ユーフェミアの肩にある傷が、それまでの格闘で広がってしまったかも知れないし、
応急処置だけでも、すぐにした方が良いと考えたのだ。
自分に斬りかかって来た相手の手当てをするなんて妙な気分だったろうけれど、
上条はゲームに乗っていないと言ったユーフェミアの言葉が気になっていたし、何かの誤解だとしたらそれを解きたかったのだ。
それに、この時の上条には、当面目指すべき目的地も無かったという、消極的な理由もあった。
ここで、傷の手当てをするために、上条がユーフェミアの着ているスーツやブラウスを脱がせるシーンなんかがあるのだけれど、
僕が直接見たわけではないし、その部分の細かい描写は紳士的に割愛しよう。
自分が怪我をすることは多くても、人の怪我の手当てなどは慣れていない上条は、
ユーフェミアの手当てに悪戦苦闘したらしいけれど、どうにかユーフェミアの肩に包帯を巻き付けて傷を覆う事に成功すると、
今度は、自分の傷の手当てをした。
ユーフェミアの手当ての途中までは、まだ上条も興奮していて(格闘の余韻的なもので、性的な興奮ではなかったと思いたい)、
気付いていなかったのだが、上条のパンチがユーフェミアに入った時、上条もユーフェミアの脇差によって傷を負っていたのだ。
斬られたというより、脇差の刃が当たっただけの浅い傷だったが。
脇腹にあったその傷に、ガーゼを当ててテープで留めるだけの簡単な手当てをした上条は、そこで一度、気が抜けてしまった。
そうすると体の力も抜けてしまうもので、上条は、その後すぐにはユーフェミアを運んで移動する元気が湧いてこなくて、
そのまま、その場所に座り込んでいた。
そして、その状態は結局、ユーフェミアが目を覚ますまで続いた。
「ここは……」
「よう」
元々、ヨロヨロでフラフラだった上条の、苦し紛れのパンチが入っただけだったのだから、
それほど長く気絶するようなダメージではなかったのだろう。
割とすぐに、ユーフェミアは目を覚ました。
「あなたは……? わたくしは、一体……? ここはどこですか!?」
ユーフェミアは少しぼんやりとしていたが、意識がハッキリしてくると、ハッとしたように身を起こした。
「痛っ……」
しかし肩の怪我が痛み、小さく声を上げて顔をしかめ、体の動きを止めた。
そして、左手だけ動かして肩に巻かれている包帯に手を触れ、上条の方を見た。
「これは……あなたが手当てを?」
「あ、ああ……」
「まあ、それは。どうもありがとうございます」
「あー、……はい」
そう言って頭を下げるユーフェミアの、前までとは全く違う様子に戸惑っていた上条は曖昧な返事をした。
- 442 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:02:13 ID:2iWGYU2o
- 「あ、申し遅れました。わたくしはユーフェミアと申します。ユフィとお呼びください」
「…ユフィ?」
「はい。失礼ですが、あなたのお名前は?」
「えーっと…………。上条、当麻」
出会った時と、概ね同じようなやり取りが行われ、先のユーフェミアの言動などがあったので上条は少し迷ったが、
思い切って自分の本名を、日本人だとわかる名前を名乗った。
しかし、ユーフェミアは「日本人ですね! 死んでください!」などと言いだすことも無く、その自己紹介は穏やかに終わった。
「それでアンタ、…ユフィだっけ? 今まで自分が何してたか、覚えてるか?」
「えっと、ゼクスさんという方と御一緒させていただいていたのですが……。あれ?」
「覚えてねえのか?」
「……はい。申し訳ありません」
上条はユーフェミアにいくつかの質問を投げかけ、ユーフェミアはその質問に素直に答えたが、
彼女は、上条を襲ったことや、その前後のことを覚えていなかった。
「まさか、俺が頭を殴ったせいですか……?」
「え?」
「いや、こっちの話」
上条は、自分がユーフェミアの頭を殴ったせいで、彼女の記憶が飛んでしまったとか、実は彼女は二重人格者だったとか、
そんな漫画のような展開まで頭の片隅に思い浮かべて(まあ、頭を打って記憶が飛ぶなどは、あり得ないことではないが)、
さらに質問を重ねた。
しかし、その結果わかったのは、彼女がバトル・ロワイアルに参加させられている事を正しく理解していることと、
日本人はもちろん、誰を殺すつもりも無いということ。
それからゼクスという人物のことくらいで、
それ以上はいくら上条がユーフェミアを質問攻めにしても、彼女から得られる情報では、
何故、彼女が日本人を殺そうとしていたのか、とか、
何故、今は日本人である上条と平気で話せているのか、などの理由はわからなかった。
「はあ。どうしたもんですかね、これは」
一通り訊きたかった事を訊き終え、上条がこれからのことを決めあぐねていた、そんな時、二人の耳に銃声のような音が飛び込んだ。
「何でしょう? 今の音は」
「……スザクか?」
「え? いま何とおっしゃいましたか?」
「ああ。たぶん今の音、枢木スザクってヤツが持ってた銃だなと思ってさ」
上条は、銃器に詳しいという訳ではないのだけれど、前の枢木とアリー・アル・サーシェスとの戦闘で枢木が撃った銃の音が、
まだ上条の耳に残っていて、この時聞こえてきた銃声がその音に似ていると感じたのだ。
その後、上条は「俺が様子を見に行くから、ユフィはここで待っててくれ」と言おうとしたのだけれど、
それよりも前に、ユーフェミアがすっくと立ち上がり。
「では、向こうにスザクが居るのですね!」
と言うや否や、上条の返事も待たずに、全力でそちらへ駆けだした。
「あ、ちょ、ちょっと待てって!」
もちろん、上条もすぐにユーフェミアの背中を追いかけたのだけれど。
「だああああっ!」
少し走り、街灯の明かりがほとんど届かなくなった暗がりで、上条は何かに躓いて転んでしまった。
「ううぅ、不幸だ……って、そんなこと言ってる場合じゃねえ」
それでも上条は健気に起き上がり、再びユーフェミアを追いかけた。
- 443 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:02:57 ID:2iWGYU2o
- □ □
その後は、さっき語った通り。
この二人もファサリナさんと同じで、車の音や僕の声なんかを聞き付けて、僕達の所へやって来たというわけだ。
ちなみに、上条は転んだ時に膝をぶつけてしまっていて、痛みからどうしても全力で走る事が出来ず、
最後までユーフェミアに追い付けなかったらしい。
それじゃあ、あとは僕達が合流してからの話。
□ □
グラハムさんの運転する車は、あっという間に薬局へ到着した。
途中の壊れかけた橋を渡るときには、いったん車を降りて、皆で車が通れる所まで枢木を運んだのだけれど、
その時間を合わせても、最初に枢木を車に乗せ、走り出してから薬局に到着するまでの時間は、
光の国の戦士が、地球上で戦うことのできる時間くらいだったのではないだろうか。
そんな短い時間だったから、車内でできたことは枢木の様子を見ながら簡単にお互いの自己紹介をすることと、
全員、殺し合いをするつもりは無いという意思の確認。
あとはグラハムさんから、薬局にある施設サービスが治癒魔法による治療だということの説明くらいだった。
その中で僕が自己紹介したときに、上条がちょっと大げさな反応をしたのが少し気になったが、
それも薬局に到着してからの慌ただしさで、すぐに頭の隅へと追いやられていった。
薬局に着いて、すぐにグラハムさんは自販機の端末へと駆け寄り、残った四人で枢木をその近くへと運んだ。
「俺、は、生きなくちゃ、いけ、ない……」
枢木の様子は、ユーフェミアに声を掛けられた時に若干持ち直したように見えたが、
それでも、依然厳しい状態だという事は分かる。
だからこそ、銃弾を受けた白井の傷をキレイさっぱり直してしまったという施設サービスに望みを託すしか無かったのだが、
僕達は1億ペリカなんて持っていない。
でも、天江はペリカ無しで施設サービスを使ったそうだから、何か方法はあるはずなのだ。
「しっかりしろよ、枢木。もう少しだからな」
くそ。
天江達にここで待ってもらっていれば、天江が使った方法を教えてもらう事が出来たかもしれないのに。
どうして僕は、分離行動なんて提案してしまったのだろう。
いや、確かにその時は、それがベストの判断だと思ったのだけれど……。
「くっ! やはりペリカが無ければ使えないか」
自販機を操作していたグラハムさんは、そう言ってダンッとタッチパネルと叩いた。
やはり天江がやったという、ペリカ無しで施設サービスを使う方法はわからなかったようだ。
僕も、近くにあった黒電話を取ってみたりしたのだけれど、
その受話器からはツーツーという電子音が聞こえるだけで、結局何も起こらなかった。
天江が、一体どうやって施設サービスを使ったのか、もっと詳しく聞いておけばよかったな。
今からでも、ギャンブル船へ行って天江を連れ戻すか?
いや、しかし枢木の体がそれまで持つかどうか分からない。
とにかく、一刻も早く治療をしてやらないと。
「ペリカがあれば……。わたくしのデイパックには、ペリカが入っていたはずなのに……」
僕達と合流してから、ずっと枢木に寄り添っていたユーフェミアは、そう言って泣いていた。
どうやら、ユーフェミアが持っていたデイパックの中にはペリカが入っていたらしいのだけれど、
どうも彼女は、どこかでデイパックを落してしまったらしく、僕達と合流した時点で手ぶらだったのだ。
「ユ、フィ……俺、は……生き、る……」
- 444 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:03:55 ID:2iWGYU2o
- 枢木はそんな彼女をどこか虚ろな瞳で見据えながら、生きる生きると繰り返していた。
「なあ、みんな」
そんな中、上条が薬局に来てから初めて口を開いた。
「……こいつの首輪、換金してみてくれないか?」
そう言いながら、上条が自分のデイパックから取り出したのは、額を撃ち抜かれた髪の短い女の子の遺体だった。
「上条……その子は?」
僕は、訊いてから少し後悔した。
この場合、何も聞かずに「わかった」と答えた方が、お互いのためだったろう。
訊く事で、僕達は余計な重みを背負ってしまうだろうし、上条も、話すことで余計に辛くなってしまうかもしれない。
「こいつは、前から……知り合いで……。この島で、会った時には、もう……」
案の定、重かった。
「こいつの首輪が、一億ペリカになるかどうかなんて、俺にもわからねえ。
でも……このまま何もしなかったら、スザクは……。だったら、せめて……」
上条の声は震えていた。
本当は、嫌で嫌で仕方が無いのだろう。
それはそうだ。
もし同じ状況で、そこに戦場ヶ原か、八九寺か、神原か、千石の遺体があったとして、
たとえ死んでいても、その首を切り落とすような決断が僕に出来るかどうか。
理性では、その首輪を使うべきだとわかっていても、感情が絶対に邪魔をするだろう。
しかし、それでも、上条は枢木の、人ひとりの命を助けるために、自分の感情を殺して提案してくれたのだ。
「わかった」
それまで黙って聞いていたグラハムさんが、僕が言いたかった台詞を口にして、まだ何か言おうとした上条の言葉を遮ると、
鉈(枢木が倒れていた路地に転がっていた物だ)を手に、一歩前へ出た。
「すまないが、急がせてもらうぞ」
そう。
枢木は危険な状態だ。
やるなら、早い方がいい。
しかし、グラハムさんの前にファサリナさんが立ちはだかった。
「待ってください」
え?
ファサリナさんは、反対なのか?
「でしたら、私がやります。……この子、女の子ですから」
ああ、そういうことか。
確かに、上条と、その女の子の気持ちを考えれば、男のグラハムさんがやるよりも、
女のファサリナさんがやった方が、少しは気分が楽かもしれない。
女性にそんなことをさせてしまったと、上条は負い目を感じるかも知れないけれど、
グラハムさんがその女の子の首を切り落とす場面を見せられるよりは、後々尾を引かないような気がする。
「……あ、ああ」
「……わかった。そうしてくれ」
上条とグラハムさんの返事を聞くと、ファサリナさんは赤い槍の刃の部分を使って、上条の知り合いだったという子の首を切断した。
- 445 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:05:41 ID:2iWGYU2o
- 「お願いします」
そして、自分よりも自販機の近くにいたグラハムさんに、首輪を投げる。
「ああ」
グラハムさんは首輪を受け取ると、すぐに換金ボックスへ放り込んだ。
その首輪の換金額は――。
9800万ペリカ。
狙ったように、あと200万ペリカ足りない。
帝愛が僕達のやろうとしていることを見て、金額を調整したのではないかと思えるような額だ。
しかし、もしそうだったとしても、今の僕達にはどうにもできないのだが。
「わたくしのデイパックがあれば……」
ユーフェミアが呟いた。
今、足りないのは200万ペリカ。
あと、ユーフェミアのデイパックに入っていたというペリカがあれば、枢木は助かったかもしれない。
しかし、ユーフェミアはどこかでそのデイパックを落としてしまっていて、今、手元に無い。
「ユ、フィ……、俺、は……」
ユーフェミアが一体どんな気持ちなのか、想像するだけでも気の毒だ。
詳しい話は聞いていないけれど、この様子から見て枢木とユーフェミアの二人は旧知なのだろうし、もしかしたら、恋人なのかもしれない。
もし、死にそうになっているのが戦場ヶ原だったら、僕はどうするだろう?
「デイパック……デイパック……。もしかして、あれか!?」
「どうした、上条?」
僕の思考の海へ沈んで行きそうになっていた意識を、上条の声が現実に呼び戻した。
そうだ。今はそんなことを考えている場合では無い。
「ちょっと、ユフィの言ってるデイパックってのに心当たりが」
「本当か?」
「ああ、多分、この辺りの道に落ちてると思う」
上条は、地図を広げるとD-5とE-5の間辺りを指差した。
「グラハムさん!」
「ああ、聞いている」
グラハムさんも後ろから覗きこんでいたらしく、僕が振りむいた瞬間に答えが返って来た。
「少年。それは確かか?」
「あ、いや……確かかと言われると、多分としか……」
意気込んで尋ねたグラハムさんに対して、上条は口ごもった。
どうやら、心当たりはあるというだけで、100%の自信は無いらしい。
「むぅ。この状況は何とかしたいが、不確かな情報で動くわけには……」
「そ、それなら、天江が持っている分を合わせれば!」
僕は、さっき自分の脳内で、一度却下した案を口にした。
「ああ、確かに。天江衣の持つ1000万ペリカがあれば、1億に届く。そちらの方が確実だろう。
だが、ギャンブル船とここを往復する時間、彼が持つか……」
- 446 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:07:50 ID:2iWGYU2o
- グラハムさんは、言いながら枢木に視線を向けた。
やはり、分離行動をしてしまったことが悔やまれる。
今、ここに天江がいれば。
天江がいなくても、あと200万ペリカあれば、ペリカを使った施設サービスの使用という方法で、枢木の怪我を直してやれるのに。
天江にペリカを持たせてギャンブル船へ向かわせたことが、こんな風に裏目に出てしまうなんて……。
「ゲホッ、ゲホッ! お、俺は…ゴホッ!」
その時、枢木が突然咳き込みだした。その口からは、血が流れ出ている。
しまった。
きっと左腕だけではなく、内臓のどこかにもダメージがあったのだ。
まずいな。
ただでさえ酷い出血だったのに、これ以上血を流したら……。
「くっ、迷っている時間は無いな。ギャンブル船へ行ってくる!」
そう言って、グラハムさんはファサリナさんに目配せをし、薬局を出ようとした。
「お待ちください!」
しかし、外へ出ようとしたグラハムさんを、ユーフェミアの声が引き止めた。
そして、ユーフェミアはさらに続ける。
「みなさんにお願いがあります。どうか、スザクを助けてあげて欲しいのです」
もちろん、そのために僕達は枢木をここまで連れてきたし、グラハムさんが今、ギャンブル船へ向かおうとしているのもそうだ。
「わたくしは仲間を集めて、この悪夢のようなゲームから脱出したいと考えておりました」
もしかして、ユーフェミアは錯乱してしまったのだろうか?
そんな考えが一瞬、僕の脳裏に浮かんだけれど、毅然と背筋を伸ばして語るユーフェミアの様子を見ると、そうとも思えない。
「ですが、わたくしには何の力もありません。戦いになれば、みなさんの足を引っ張ってしまうでしょう」
ユーフェミアは、何を言っているのだろう。
考えを話してくれるのは良いのだけれど、そんなの今じゃなくても。
「けれど、スザクは違うのです。スザクは、強くて、優しくて。
この怪我を治すことが出来れば、きっと、みなさんのお役に立ってくれると思うのです」
僕は呆気に取られていたし、それは他の皆も似たようなものだった。
「……スザク」
「……ユ、フィ?」
「皆さんの、お役に立って差し上げるのですよ」
そんな中、ユーフェミアはその場で膝を折り枢木に顔を近づけてそう言うと、はぁ…と、ひとつ溜息をついた。
その手には、いつの間にか(枢木に声を掛けている時に拾ったのだろうが)黒光りする拳銃が握られていた。
それは枢木が持っていたものだ。枢木の手当てをした時に、見た覚えがある。
「まさか……」
もし、同じ状況で戦場ヶ原が死にそうになっていたら、僕はどうするか。
さっき考えていたことが、僕の頭の中に蘇った。
僕は、多分。
「待て!」
- 447 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:08:25 ID:2iWGYU2o
- 男の声がした。
上条だったかもしれないし、グラハムさんだったかもしれない。
もしかしたら枢木だったかもしれないし、僕だったかもしれない。
でも、その声は、一瞬遅れて聞こえた乾いた音に、打ち消されてしまった。
「ユフィ!」
「ユーフェミア!」
「ユーフェミアさん!」
ユーフェミアが、その銃を自分の胸に当てて引き金を引いたのだ。
そして、その場に力無く倒れ伏した。
「……心臓に当たっています。……ほとんど、即死かと」
急いでユーフェミアに駆け寄り、傷を確かめたファサリナさんが言った。
「ユフィ……ぐっ」
それを目の前で見ていた枢木の目からは、涙が流れていた。
「これが、ユーフェミアさんの願い。ユーフェミアさんの夢でしょうから」
ファサリナさんはそう言うと、さっき使った赤い槍を取り出し、
そして、上条の知り合いの子と同じように、ユーフェミアの首を切り落とした。
そして、首輪をグラハムさんに渡すと、ファサリナさんは黙ってユーフェミアの、
今出来たばかりの首の切り口に布(薬局にあった三角巾か何かだろうか?)を巻き、遺体の姿勢を正して身なりを整え始めた。
一方、首輪を受け取ったグラハムさんは、無言でその首輪を換金する。
300万ペリカ。
ユーフェミアの首輪は、上条の知り合いだった女の子よりも随分と金額が低かったが、
それでも、二人分を合わせれば1億ペリカ超える。
それを使って、グラハムさんは黙ったまま施設サービスの起動を試みた。
そうやって大人が無言で動いている間、僕と上条は、黙ってその場に立っている事しか出来なかった。
「手伝います」とか、そんなことすら言えなかった。
この沈黙を壊すのが、何故だが怖かったのだ。
「施設サービスの購入を確認しました。これより、治癒魔術による治療サービスを執行します」
沈黙を破ったのは、その場にいる誰でもなく、薬局の出入り口の方から聞こえてきた第三者の声だった。
「え?」
当然、全員が一斉にそちらへと振り向いたのだけれど、この時、僕は皆と少しだけ違った感情を持っていたと思う。
その声が一瞬、月火ちゃん――僕の二人いる妹の下の方、阿良々木月火の声に聞こえたのだ。
「どなたに治療を施せばよろしいですか?」
けれども、もちろんそこに立っていたのは月火ちゃんではなかった。
インデックス。
オープニングで解説役を務め、その後も定時放送で死亡者や禁止エリアなんかの情報をこちらに伝えてきていた女の子だ。
今まで放送越しだと気にならなかったけれど、この子、月火ちゃんと声が似ているんだな。
「彼の治療を所望する」
僕がそんなことを考えている内に、グラハムさんが枢木を指し示してインデックスに答えた。
- 448 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:09:44 ID:2iWGYU2o
- 「わかりました。それでは治療を行う前に……」
「インデックス!!」
続けてインデックスが何か言おうとしたのだけれど、その前に上条が大きな声を上げた。
「インデックス、お前……」
上条がもう一回、今度は抑え目にインデックスの名を呼ぶ。
この二人も、旧知なのだろうか?
「治療の前に、あなたは薬局の外へ出ていていただけますか? その力は邪魔になりますので」
そんな上条に対して、インデックスは事務的に言い放った。
……上条の力?
「…………わかった。スザクを、頼むぞ」
どうやら、本人は何のことだか分かったらしい。
少し間はあったし、完全に納得はしていない表情だったけれど、上条はそう言って薬局の外へと足を向けた。
「それと待ってろ、インデックス! 絶対、助けるからな!」
最後に上条はそう言うと、薬局から出て行った。
「あ、私も外に出ていますね」
「え?」
「いえ、彼お一人にならない方がよろしいかと思いまして」
そう言うと、ファサリナさんも上条の後を追って外へ出て行った。
確かにファサリナさんの言う事は一理ある。
たとえ僅かな間、さほど離れたところでなくても、こういう場合一人になるべきではない。
集団の中、一人になったところを狙われるというのは、ホラー映画なんかでのお約束だ。
「それでは…あなた。あなたはアメリカ人でしたね」
「私か? いかにもそうだが」
グラハムさんが、インデックスに指さされた。
「この魔術には協力者が必要です。ご協力いただけますか?」
「それは構わないが、何故この私、グラハム・エーカーを指名したのか、理由があるなら、教えてもらおう」
「仮に失敗しても、宗教観の薄い日本人よりは酷いことにならないでしょうから」
どうやら、その魔術は失敗する危険があるものらしい。
そして、その危険度合いは宗教観とやらに左右されるのか。
「その魔術にはリスクがある、と?」
「はい。ですから、こちらの指示を正確にこなしてください」
「ふむ、いいだろう。それと、もう一つ質問だ。数時間前、天江衣も同じことをしたのか」
「はい」
「……了解した」
それだけ聞くと、グラハムさんはもう聞く事は無いとばかりに話を終えた。
「それでは、現時刻をお願いします」
「2357だ」
支給品の時計を取り出し、グラハムさんが軍人らしく答える。
それを聞いたインデックスは、何事か呟きながら、薬局のカウンターテーブルに図形のような物を描き始めた。
魔方陣というやつだろうか?
- 449 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:10:39 ID:2iWGYU2o
- 「そちらの方。足元に落ちている薬の箱をいくつか取ってください」
「え? あ、ああ。」
突然僕の方へ指示が来て少し驚いたが、僕に言うってことは、僕の動きそのものは魔術に直接関わらないのだろう。
指示自体は簡単な事だったし、僕は言われた通り薬局の床に散乱していた薬の箱を5、6個ばかり拾ってインデックスに渡した。
インデックスは僕から薬の箱を受け取ると、それを魔方陣の上に立てたり横にしたりして並べ、錠剤を魔方陣の上にばら撒いた。
その錠剤は、魔方陣の上をまるで意思でもあるかように動き、それぞれが個々に、此処こそが自分の場所だと主張するように、
各々の場所でピタリと止まった。
さらに、インデックスはカウンターテーブルの上にあった小さな人形(何かのマスコット人形のようだ)をいくつか置くと、
いったん手を止めて、グラハムに向き直った。
「ここから先は、あなたの手を借りて、あなたの体を借ります。指示通りになさってください」
「承知している」
グラハムさんは、インデックスを真っ直ぐ見据えていた。
「天使を降臨ろして神殿を作ります。私の後に続き、唱えてください」
そうグラハムに言って、インデックスはある音色を唱えた。
歌詞は無い。
歌というよりは音だった。
宇宙人との遭遇を描いた有名なSF映画に出て来る、あの音色に少し似ている。
グラハムさんは言われた通りその音色を、鼻歌を歌う様にして真似た。
すると、魔方陣の上にある人形が、グラハムさんと同じように歌い出した。
最初は気のせいかと思ったが、違う。確かに歌っている。
しかし、グラハムさんはそれを気にする素振りが無い。
完全に、この儀式のようなものに集中しているらしい。
「リンクしました」
インデックスが言うその声も、人形からと二重で聞こえる。
「思い浮かべてください。金色の天使、体格は子供、二枚の羽を持つ美しい天使の姿を」
天使なんて、急に言われても想像できないんじゃないかと思ったけれど、グラハムさんはすぐに口の中で何事か呟き始めた。
普通の人には聞こえないくらいの小声だったのかもしれないけれど、僕には辛うじて聞こえてしまった。
「天江、衣……」
どうやら、天江のことを思い浮かべていたらしい。
ええ〜〜〜〜っ!?
と、僕が思わず叫びかけた瞬間、この場が光に包まれた。
ように思えた。
「生命力の補充に伴い、この方の生命の危機は回避されました。体力の方は、自然回復を待っていただく事になりますが」
見ると、さっきまで死人のような顔色だった枢木に、血の気が戻っている。
どうやら、本当に助かったようだ。
「…………」
枢木はしかし、眼は開いているし眠っているわけじゃないだろうけれど、無言だった。
ただ、涙を流しながら、ジッと、血に濡れてしまったユーフェミアの遺体を見ている。
……今、枢木は何を思っているのだろうか?
「これを持って、治癒魔術による治療サービスを完了いたします。またのご利用を、お待ちしています」
インデックスはというと、仕事は終わったとばかりに、そう言ってペコリと頭を下げ薬局を出て行った。
- 450 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:11:22 ID:2iWGYU2o
- 「ま、待ってくれ! キミは?!」
それを、僕は慌てて追いかけた。
キミたちの目的は?
本当に帝愛と協力しているのか?
上条とは知り合いなのか?
訊きたいことは色々あった。
しかし、僕が薬局の外へ出ても、インデックスの姿はどこにも無かった。
「あ」
その代わり、ファサリナさんと上条が、向かいの建物の壁に寄り添って座っていた。
手を繋いで。
おいコラ、上条。このたった2、3分の間に何をしていやがった!
という台詞を飲み込んで、僕はファサリナさんに、紳士的に尋ねた。
「今、ここにあの子……。インデックスが来ませんでしたか?」
「いいえ、誰も……」
ファサリナさんは首を振って立ちあがった。
そして、上条の手を取って立たせる。
あ。
良く見ると、上条の膝に、さっきまでは無かった包帯が巻かれている。
そうか。ファサリナさんは上条の、怪我の手当てをしてやっていたのか。
で、今は僕が出てきたのを見て、立ち上がるために手を貸そうとしていた。
そういうことか。
うん、よし、自己解決。
第4回目の放送が始まったのは、この直後だった。
【E-4 薬局/一日目/真夜中(放送直前)】
- 451 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:12:03 ID:2iWGYU2o
- 【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30、
[道具]:基本支給品一式、、ゼクスの手紙、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、鉈@現実
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム〜戦場の絆〜』解説冊子、ヴァンのテンガロンハット
双眼鏡@現実、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル、101万ペリカ、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
1:天江衣をゲームから脱出させる。
2:衛宮士郎とヒイロ・ユイを会わせ、首輪を解除する。
3:首輪解除後、『ジングウ』を奪取または破壊する。
4:主催者の思惑を潰す。
5:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。
※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
6:衣の友達づくりを手伝う。
7:夜は【憩いの館】で過ごすべきか。『戦場の絆』も試してみたい。
8:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
9:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換しました。
- 452 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:12:41 ID:2iWGYU2o
- 【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(中)
[服装]:直江津高校男子制服
[装備]:マウンテンバイク@現実 拡声器@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10
毛利元就の輪刀@戦国BASARA、
土蔵で集めた品多数
[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
基本:知り合いと合流、保護する。
0:グラハム・エーカー達とともに、戦場ヶ原ひたぎら信頼できる知り合いと合流する。
1:憂をこのままにはしない。
2:桃子、ルルーシュを警戒。
3:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
4:千石……八九寺……神原……。
5:太眉の少女については……?
6:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
7:浅上らの無事を願う。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※巨神像はケーブルでコンソールと繋がっています。コンソールは鍵となる何かを差し込む箇所があります。
※原村和が主催側にいることを知りました。
※サポート窓口について知りました。
※土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※藤乃と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換をしました。
※衣の負債について、気づいていません。
※衛宮士郎と情報交換しました
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:自前の服
[装備]:プラネイトディフェンサー@新機動戦記ガンダムW、ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式×2、軽音部のラジカセ@けいおん、シャベル@現実、M67破片手榴弾×2@現実、
イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4、
お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実、ベレッタM1934(4/8)、
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考] 基本:主催を倒し、可能ならカギ爪の男やヒイロを蘇生させる。
1:自分の中で生きているヒイロを守る。なるべく単独行動は避けたい
2:ゼロなどの明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。ユーフェミアに組む価値なしと判断すれば切り捨てる。
3:首輪が解除でき、三節根が手に入ったらダリアを呼んでみる?
4:お友達……。
5:オリジナルヨロイが奪われてはいないでしょうか……
6:ゼクスさんとの約束は、守れませんでした……。
[備考]
※デュオを協力が可能かもしれぬ人物として認識しています 。
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています。
※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています 。
※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています 。
※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 。
※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。
※グラハム・衣と情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
- 453 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:14:36 ID:2iWGYU2o
- 【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)精神的疲労(中)右拳と右膝に擦り傷(処置済み)
[服装]:学校の制服
[装備]:なし、
[道具]:基本支給品一式、御坂美琴の遺体、
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。御坂の遺体は必ず連れて帰る。
0:インデックス……ビリビリ……ユフィ……。
1:一方通行を探し出す。
2:戦場ヶ原ひたぎを追い駆ける?阿良々木暦を探す?戦場ヶ原ひたぎと3匹の猫の安全を確保する?
3:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
4:壇上の子の『家族』を助けたい。
5:俺の行動は間違っていたのか…。
6:ファサリナさん……。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(大)、「生きろ」ギアス継続中
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:GN拳銃(エネルギー残量:中)
[道具]:
[思考]
基本:…………。
0:……ユフィ。
[備考]
※ラウンズ撃破以降〜最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※もしかしたら『敵のアジト』が『黒の騎士団のアジト』ではないかと少し疑っています。
※三回放送の前後に『E−3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランを政宗と神原から聞きました。
※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※政宗、神原、レイ、アーチャー、一方通行と情報を交換しました。
※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
【???/一日目/真夜中(放送直前)】
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ペンデックス?
[服装]:歩く教会
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:???
0:バトルロワイアルを円滑に進行させる。
1:友達………………?
2:助ける?
- 454 :血染め の ユフィ ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:15:57 ID:2iWGYU2o
- 【その他】
ユーフェミアのデイパックは、D-5〜E-5のどこか(上条当麻は見当が付いている)に落ちています。中身は以下の通り。
基本支給品×4、アゾット剣@Fate/stay night、ティーセット@けいおん!、ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、
特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、ピザ×8@現実、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、
ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他、レイのレシーバー@ガン×ソード、脇差@現実
即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)、シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】
- 455 : ◆aCs8nMeMRg:2010/06/18(金) 21:17:09 ID:2iWGYU2o
- 以上で投下完了です
矛盾や問題点などありましたら、ご指摘お願いいたします
- 456 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/18(金) 21:20:36 ID:HFv/7KrI
- 投下乙です
またすれ違いすか、アザラシさんw
ユフィ……ようやく、会えたのにな……
- 457 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/18(金) 21:43:24 ID:mpbh8jcc
- 投下乙です
一点だけお聞きします
スザクの状態表に欠損、怪我の表記がありませんが、
これはそれらは全て再生された、ということでしょうか
- 458 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/18(金) 21:49:18 ID:7IC8XFFA
- 投下乙です
これは読めなかったw ニアミスとは
でもメタ的には逢わない方がよかったかもな
そしてユフィがここで自決とは…これはスザクにとって地獄だわ…
ハムさんは…いや、あくまでも天使のイメージですよね? 禁書ちゃんも子供とか言ってたしw
- 459 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/18(金) 23:17:13 ID:VtRnwnKg
- 投下乙です
いろいろ堪能しました。実に良かったです
象の像に向かわせたのはC.C.の遺跡接触フラグかな?
- 460 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 00:04:11 ID:HphJ9cpg
- ユフィってこんなに高くていいの?
- 461 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 00:08:47 ID:QAWSOwjg
- ビリビリも若干高いような気がするな
- 462 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 00:10:10 ID:FaN954gc
- 何故か踏み台にされてるけどビリビリ自体の戦闘能力は鯖なみではあるとおもうよ
- 463 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 00:32:35 ID:QAWSOwjg
- カタログスペックだけ比べればそんなに見劣りしないけどそれ以外はただの小娘やん
戦わせればそれなりに強いだろうけど本職の戦士じゃないし戦い慣れてるわけでもない
モノホンの戦場をくぐり抜けてきた百戦錬磨の英霊や戦国武将が一億オーバーなのにスペックだけの中学生がほぼ一億というのは高すぎじゃねと思ったわけですよ
- 464 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 00:51:07 ID:P.rpZHuA
- 決定力はあるから殺し合いに勝ち抜くだけのスペックはあるだろう
それ以上変化しない英霊とかと違って成長力も残ってるわけだし
- 465 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 00:55:44 ID:QBxWs6mc
- ビリビリはいいとこ2〜3千万くらいだと思うけどな
ユフィは……高すぎだろ。ギアスだって身体を強化するわけじゃなし
確かリリーナが1万だっけ?
- 466 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 00:57:22 ID:FaN954gc
- >>463
奇襲されたら終わりのロワ環境においてビリビリは文句なくつえーですよ
強すぎてものすごい弱体化受けてるのが常だけど
- 467 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 01:00:54 ID:qeKdzcxA
- だから価格は強さ評価じゃなくて賭けの倍率に比例してるんだってば。
- 468 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 01:19:58 ID:QAWSOwjg
- >>467
じゃあビリビリがそこまで高倍率になると思うか?
お世辞にも殺し合い向きの性格じゃないしゲームに乗るとも考えにくい
能力があるとはいえ戦場経験もゼロでサバイバルに関してもズブの素人
そんなお方に億にも届くくらいのオッズがかかるかと言われれば首をかしげざるを得ないなぁ
- 469 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 01:20:56 ID:c9mgcP5U
- >>463の論法だと一方通行も1億行かないな
- 470 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 01:22:55 ID:FaN954gc
- >>468
んじゃあんなどでかい制限掛けた意味無いじゃん
- 471 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 01:27:37 ID:XGBUjRTg
- >>468
能力制限があるだろ
あとルックスも考慮したらあり得なくもない…かな?
- 472 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 06:59:07 ID:T9LOtJCg
- 能力制限掛けられるくらいの実力者だし、いざとなれば死なない程度に相手をボコれる
電撃槍に砂鉄剣、水ブースターで空も飛べる、機械に対し外部から操作可能等、能力の応用力はピカイチ
単純に能力だけ考えりゃ戦国武将クラスだよ、ビリビリって
乗るか乗らないかはオッズ考慮外だろ普通
- 473 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 07:08:11 ID:T9LOtJCg
- ユフィは確かに少し高いか?
けど、ギアスのお陰で日本人限定のステルスマーダーになってる事を考えれば、リリーナより数倍タチ悪いのは確かw
自分で仕留めた日本人の事覚えてないし
カイジを殺った事でオッズが上昇したともかんがえられるな
- 474 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 08:59:53 ID:3rCRYNGw
- ユフィはロボ動かせるし、マシンガンぶっ放すわで武器の扱い方も一般人よりは上等な筈
リリーナの1ランク上の値段でも問題ないいと思うな
- 475 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 13:11:16 ID:IYAwsxcI
- リリーナよりは高いだろう
- 476 : ◆aCs8nMeMRg:2010/06/19(土) 13:40:47 ID:qqCSfJp.
- 感想等、ありがとうございます
スザクの腕をインデックスの魔術で治すことが可能かどうかは、原作からでは完全に判断することが出来ず、かなり悩んだところの一つですが
治っているとお考えください
首輪の値段は、今まで換金されたことのある首輪の額と、御坂、ユーフェミアの能力を考えて決めました
なるべくおかしくない範囲で振ったつもりです
御坂は仮にも学園都市230万人で7人しかいないレベル5ですので、能力だけ見れば1億以上でもいいのではないかと思いましたが、
やはりまだ中学生ですし、少し下げてあの額にしました
ユーフェミアは能力者では無いですし兵士などでもないですが、銃は撃てるしKMFも操縦できます
そして何より日本人限定ですが、何のためらいも無く人を殺すことができますので、このくらいの値段でいいのではと考えました
まあ、この話の中では、首輪の値段によって展開が大きく左右されてしまいますので、話の都合もあった事は否定できませんが
- 477 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 15:18:43 ID:FGkGl0uI
- 投下お疲れさまです
いくつか指摘があるのであげてみます
氏の作中でのすざくギアス組のキャラ移動と話の進め方にいささか無理がありませんか?
彼ら3人は前話の最後で放送まで10分ほどしか時間がありませんし
D4東にいた毒舌組が橋を渡って薬局まで移動して内部を探索して服を入手、着替えをすませてスザク達が来る前に薬局を出て象の像へと向かえるのか
瀕死スザクの元に時間差で合流した4人が
薬局まで移動して首輪の換金やユフィな自殺があってインデックスの治療行為まで行えるのか疑問です
仮にどちらも薬局まで移動できたとしても毒舌とスザクはぶつかるような
あと上条さんが変です
スザクを助ける為に今まで大事にしていた御坂の首輪を使ってくれと自分からは提案しないかな
あと人質のインデックスを前にした反応があっさり気味だったのも、上条さんなら状況を無視してでもインデックスを助けようとするような
最後に1番の問題点が…
ユフィは誰の銃使って自殺したんでしょうか?
ユフィは銃を所持していませんよ?
表現的にスザクのGN拳銃じゃないっぽいから、それ抜かすと銃を持ってるのはグラハムとファサリナだけど、ペリカが足りない状況になってからどちらからかユフィが銃を奪えるのかというとそういった描写もないし、疑問というか存在しない銃で自殺はできないんじゃないかと
厳しいかもだけど、これも全部話の都合だとしたら無理が多すぎるような気がします
- 478 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 15:25:16 ID:FGkGl0uI
- 先程の指摘にミスがあったので訂正しますスザクの落とした黒い拳銃と書いてあったのですがこれはGN拳銃の事ですか?
この点は読み込みが甘かったので氏にお詫びします
- 479 : ◆aCs8nMeMRg:2010/06/19(土) 18:54:52 ID:3yYDhxis
- >>477-478
まず、1番の問題とおっしゃっていますユフィが使った銃は、スザクが持っていたベレッタM1934(5/8)です
今は、ファサリナが拾って彼女の装具欄にベレッタM1934(4/8)として入っています
時間や移動に関しては、かなり詰まっていてすれすれのタイミングだとはわかっていますが、
この時、C.C.組、阿良々木組共に、かなり急いで行動していますから、不可能か可能かで言えば可能だと思っています
上条は、今にも死にそうな人が目の前にいる状況で、死体を傷つけるのが嫌だからといって見捨てるのかどうか
私は、見捨てないと思うのです
描写に関しては、今回、阿良々木の一人称で勧めていますので、阿良々木の目線で分かる事しか描写していません
上条は、もちろん内心凄い葛藤がありましたが、それは阿良々木からは分かりませんので描いていません
- 480 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 20:44:48 ID:FGkGl0uI
- ◆aCs8nMeMRg氏
お答えいただきありがとうございます
氏のお考えはわかりましたが、それでも移動についてはやはり無理ではないかと思いますよ
少し細かくなりますが、最初に戦場ヶ原がC.C.を背負って移動していますし
もし一般的な女子高生が一人で万全の状態で走ったしても、作中の移動距離(約2キロ?)を走破するだけで9〜10分かかります
陸上部の現役エースクラスであれば8分で走れるでしょうけど、それでも時間が足りません、
ロワ内の例だとすざくギアスではD5からD4に移動だけで20分かかっているのに氏の話では時間が半分の状況で移動だけでも3、4倍に近い速さで動いています
二人はバーサーカーのような超人ではないのですが…
次に仮に5分で薬局に移動した毒舌組がすぐに出発、スザクに出会わなかったとして
移動もそうですが、今度は5分でスザク達の薬局内の出来事が出来るかというと疑問ですので、できればこの辺の時間と移動のイメージを氏にお聞きしたいです
上条さんについては、個人で解釈が異なると思いますけど
これがグラハムや他の人からの提案であればまだわかるのですが、一方通行との再会より御坂の遺体を優先させ、遺体を傷つけたレイに怒った上条さんが首輪換金を自ら提案するのかが疑問ですね
作品がアララギ視点ですから上条の葛藤は描写しない、と氏が言われればそれまでですが、その描写がすっぽり抜けているのでとても違和感を感じました
付け加えればスザクを助けようとするユフィの行動は理解できますが、こちらもアララギ視点の為、上条同様に描写不足だと感じます
- 481 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 20:50:39 ID:qeKdzcxA
- いや、上条当麻は一方通行との再会より死体回収を優先させたりはしてませんが……。
飽く迄、「隣合わせの灰と青春」での移動は合流が主目的。回収はついでです。
結果的に全くの別方向へと邁進する事になってしまったため誤解されるのも無理のないことですが。
- 482 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 20:59:07 ID:nbzXTSr6
- 一方通行との再会やレイとのいさかいと、目の前で死に掛けてるスザクを同じ問題と捉えてるのがすごいね
つまり上条さんにとっては人の生き死により自分の我を通すことが優先されるってことかい?
- 483 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 21:06:48 ID:FGkGl0uI
- そこは書き方が悪かったし言葉が足りなかったかも
簡単に言うと上条さんが自分から提案するがなんかね
- 484 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 21:27:02 ID:mcTLKIkY
- そもそも首輪目的で御坂の遺体を傷付けられるのが嫌だから、遺体を持ち歩いていたわけで、
遺体を物扱いしたくないからデイパックにも入れなかったわけで、
今回それらの決断の間逆を本人の手でやらなきゃいけない葛藤があるはずなのに
御坂の首切り役を人に譲ったりするところに違和感があるんじゃないかな
ここは上条さんに台詞なり行動なりで葛藤に決着を付けさせる必要があるように思える。
アララギ視点だから判りませんじゃなくて、アララギ視点でも判るくらいの苦しみが必要な
シーンなんじゃないかな。
- 485 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 21:38:24 ID:IYAwsxcI
- 今夜、投下予定があるから修正関係は議論スレに移動したら?
- 486 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 22:07:20 ID:T9LOtJCg
- >>482
原作見てると割とそんな気がしないでもないw
けど、やっぱ死体の美琴よりは死にかけのスザクを優先するでしょ普通、「正義のヒーロー」としては
- 487 : ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:08:47 ID:/QxsVXxU
- 立て込んでいる所、申し訳ありませんが
黒子、藤乃、衣、和、言峰の本投下をさせていただきます。
- 488 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:09:48 ID:/QxsVXxU
- 希望の船・エスポワール。
人生の敗者たちが最後の希望を掴む為に集った舞台。
この殺し合いに参加させられた者たちもある意味では人生の敗者に等しいか。
今、この船においてその内の一人の少女が希望を掴む為に奮闘していた。
すなわち、天江衣。麻雀世界が誇る全国区の魔物である。
しかし、彼女の力を持って尚、現状は厳しいものであった。
彼女の前に立ちはだかるはUNKNOWNを騙る3人。
衣の見立てでは自分を唯一破った打ち手、宮永咲を模した物である。
本物ではないにしろ、それに近い力を持った3人に苦戦を余儀なくされていた。
(前局は木偶と侮ったが、ここからはそうはいかぬぞ)
だが、衣はニヤリと笑みを浮かべる。
この緊迫した空気、強者との戦い。
命のやり取りという場ではあるが、これこそが衣にとっての存在すべき場所。
何故、命を惜しんで自らの闘牌の価値を下げようというのか。
まことに雀士にあるまじき姿であると衣は考える。
ここから先こそ衣が本領を発揮する麻雀になる。
東二局(親・UNKNOWN1)
ドラ表示牌・三萬
立ち上がりは四者共に動かず、数巡を経過させていく。
数巡目にして静寂を打ち破る一声がようやく上がる。
「ポン」
最初に動くのはやはり衣。
対面の捨てた一筒をポンする。
(これは……天江の海底コースっ……!!)
衣の後ろで成り行きを見守る黒服が息を呑む。
今局、北家である衣は対面からのポンで海底牌を取る事が出来る。
海底牌でのツモに付く役、「海底撈月」こそ衣の代名詞であり、それは主催や咲に関する世界の人間の多くが知るところである。
(さて、どう出る?)
- 489 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:10:34 ID:/QxsVXxU
- 衣は相手の出方を見つつ、牌を捨てる。
「カン」
それに呼応するは、対面のUNKNOWN2。
鳴かれたお返しと言わんばかりに、すぐさま衣の海底コースを潰しにかかる。
(即座に反応してカン……やはり、衣の海底を警戒しているか)
海底コースは北家の衣から東家、親番のUNKNOWN1に移る。
しかし、カンドラの表示牌は九筒。
衣の一筒明刻にモロ乗りする形になる。
(衣が海底だけで勝ってきたのではないと、刮目させてやるのも一興か)
一巡後、再び衣が動き出す。
「ペーポン、ペーポン」
ペー、すなわち北を下家からポンする。
これでまた海底コースは衣に来る。
(何故、こうも都合よく鳴ける!? なんという常識外っ……!!)
黒服は戦慄する。
一般人全てが理解不能に陥るような打ち方がここに存在していた。
とはいえ、これこそ衣の世界における雀士の最高峰に位置する在り様であり、その世界でも類稀なる打ち手である事は言うまでもない。
「カン」
たまらず、衣から見て上家のUNKNOWN3がその対面、UNKNOWN1からカン。
その瞬間、衣はニヤリと笑う。
上家が牌を切って、次に衣が山から牌を取る。
「海底だけを警戒するようでは衣には勝てん」
取った牌をその勢いで卓に叩きつける。
「ツモ!!」
衣手牌
白白白55七七 北北北 111 ツモ:5
※以下、萬子を漢数字、索子をローマ数字、筒子をアラビア数字で表記する。
「トイトイ、白、北、ドラ3。3000−6000」
東二局 終了時
ギャンブル船:29000
UNKNOWN1:19000(親)
UNKNOWN2:30000
UNKNOWN3:22000
- 490 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:11:16 ID:/QxsVXxU
- これで東一局の失点を取り戻し、トップ者のUNKNOWN2に千点差と詰め寄った。
とはいえ、この程度で満足するような衣ではない。
まだまだ点を稼ぐ気満々である。
「清澄の嶺上使いにしては、いささか陳腐な対応策であったな。
次は衣を楽しませてくれ」
衣はその幼い顔立ちに強かな笑みを浮かべながらそう言い放つと、そのまま洗牌に取り掛かる。
◇ ◇ ◇
天江衣の麻雀を見届けるのはギャンブル船にいる人間だけではない。
ここにいる原村和もまた、その行く末を見守る人間の一人だった。
「やっぱり衣さんは凄い……」
衣の闘牌には純粋に舌を巻かざるを得なかった。
得意技である海底撈月(この時点でオカルトと否定したいが)をチラつかせて他の手で和了るなど、およそ普通の打ち方ではない。
身近に部長の竹井久という心理戦を得意とする打ち手がいたが、それに近いものはある。
だが、それをUNKNOWN……宮永咲もどきを相手にして行える所に衣の強さが垣間見られる。
「下手な小細工をするまでもなかったかもしれませんね」
咲さんのAIが負けるのを見るのも辛いですけれど、と心の中で付け加える。
何にせよ、東二局の衣を見て、和はこれなら大丈夫だろうと安堵していた。
「ほう、始まっているようだな」
そこに悪夢の権化が現れさえしなければ、ではあったが。
言峰綺礼。人の苦痛を快楽とするような者がここに現れてしまった所に不幸があった。
「ッ!? あなたは確か言峰神父……何故あなたがここに?
あなたには他の仕事があるのではないのですか」
「放送をしなければならないから戻ってきたのだよ。
状況を聞くと借金を負った天江衣がギャンブル船に向かったというではないか。
故に、君がどのような心境でいるのかと訪ねてみたわけだ」
- 491 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:11:45 ID:/QxsVXxU
- 形式上は仲間を心配したような口ぶりではあるが、そのような事を言峰がするはずもない。
むしろ、和が苦悩に陥っている様子を嘲る様な雰囲気を醸し出していた。
「余計な心配は要りません。どうぞ、お帰りください」
「フッ、これは失礼した。しかし、随分気持ちに余裕があるようだが、本当に大丈夫なのかね?」
「何がですか」
「私の予想が正しければ、次の局で天江衣の命運が決まるだろう」
「……そんなまさか」
言峰のその言葉に和はモニタを凝視する。
◇ ◇ ◇
東三局(親・UNKNOWN2)
ドラ表示牌・白
前局で跳満をツモった衣に勢いがあった。
流れというものがあるなら、その流れは完全に衣の手の内にあった。
衣手牌
一二三ⅠⅡⅢ1238中中中 ツモ:7
三色にチャンタに中など、高めならドラで跳満も狙える好形。
だが、衣はツモってきた七筒をそのまま切る。
(六筒も九筒もまだ場に1枚も出ていない。止められている可能性が高い)
ならば、チャンタこそ失うが八筒で和了る。
ツモれば満貫、ロンでも3900は削り取れる。
(衣の感覚が正しければ、八筒は必ず来る!)
そう勢い込む衣の眼前でそれは起こった。
「カン」「カン」「カン」「カン」
(何だと……!?)
瞬く間に行われる4回のカン。
それが意味するものは―――
- 492 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:12:17 ID:/QxsVXxU
- ハロ3体から一斉に無機質な音声が流れる。
UNKNOWN3体は相互にカンを4回行った。
そして誰も和了らなかった。
すなわち、四開槓。流局である。
(四開槓……偶然か?)
先程からこの対局相手に違和感を覚えてならない。
ここに来て、一抹の疑念を抱く。
これらは本当に清澄の嶺上使いなのかと。
東三局一本場(親・UNKNOWN2)
ドラ表示牌・七筒
開始から数巡後。
衣手牌
五六七ⅢⅣ23344578 ツモ:8
七筒を切れば、タンピンドラ2、両面待ちの好形。
ツモで満貫確定。ロンでも7700と高い。
リーチ一発ならば跳満もある。
(これを決めてトップに躍り出る!)
「リーチ」
衣は七筒を切り、リーチして勝負に出る。
……だが。
「カン」「カン」「カン」「カン」
「「「流局です」」」
(……違う! こいつらは清澄の嶺上使いではない!!)
衣は違和感の正体に気付いた。
この木偶らはおよそ勝とうという気概で打っているのではない。
プレイヤーを邪魔する為だけにいる存在であると。
そのような存在が清澄の嶺上使い、宮永咲であるはずがなかった。
- 493 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:12:55 ID:/QxsVXxU
- ◇ ◇ ◇
UNKNOWNの打ち筋に驚愕する人間はここにもいた。
当然の事ながら、UNKNOWNを衣にぶつけた和である。
「どうして!? あ、あんな打ち方、私は設定してません!!」
四開槓も一度ぐらいならカンの多いUNKNOWNなので、納得もできる。
しかし2回連続、しかも共に衣の和了寸前にAI間でのカンの応酬。
どう考えてもそうプログラムされているようにしか見えない打牌だった。
同席していた言峰は驚く和の様子を歪んだ笑みで眺めていた。
「どうした? そんなにあのUNKNOWNの設定が気になるのかね」
「……その口ぶり、何か知っているんですか」
ただ愉快そうな様子を示す言峰に何か嫌なものを感じた和はそう尋ねる。
「ふむ、私も詳しくは知らないがな。あのAIはおそらく帝愛製の物だろう」
「そんな……麻雀統括の私も聞いていませんよ!」
「私も小耳に挟んだだけだが、まぁ聞くがいい」
言峰は語る。
あのUNKNOWNは帝愛技術スタッフ製の制裁目的用AIに違いないと。
用途としてはギャンブル船、ネット麻雀で勝ちすぎた者に対する制裁である。
四開槓による時間稼ぎ行為。
これが、参加者にとってどれだけの驚異であるかは言うまでもない。
対局が続く間、特定箇所から離れられない以上、外部からの攻撃に無力である。
ギャンブルルームでは比較的安全かもしれないが、そことて完全に安全というわけではない。
そうして、精神的に追い詰めた所で改めて点数を削り、奪われたペリカを再度回収するという仕組みだった。
……というのは、言峰の虚言である。
麻雀統括である和を無視してそのようなシステムを作り上げるはずがない。
このAI自体も「こんなこともあろうかと」言峰が秘密裏に作らせたものである。
そして「偶然」AIが交換されてしまい、「たまたま」和がそのAIを使用しただけの事。
全くもって不幸な事故だと肩をすくめながら言い放ち、言峰は説明を終えた。
(なんて白々しい嘘を付くんですか、この人は……)
- 494 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:13:27 ID:/QxsVXxU
- 「詳しく知らない」「小耳に挟んだだけ」と言いながら、ここまで詳細を話せるという事実。
そして、終始鼻につくその愉快そうな立ち居振る舞い。
何よりも、この男は四開槓が始まる前から何が起こるか知っていた。
それが意味するものは、この言峰綺礼という男が率先してAIをすり替えたと言う事。
(まさか……内部からAIをすり替えるような人間が出るなんて……!!)
和は外部からの干渉に関しては対策していたが、内部からこのような事をする輩がいるとは思わなかった為、何ら手を打っていなかった。
結果がこの有様だった。
越権・妨害行為だと告発したくもあるが、そのAIを選んだのは自分自身である。
衣の相手にUNKNOWNを選ぶのを完全に見越されていたと言う事だろう。
こうあっては和自身の過失の部分が多く、告発などできるはずもない。
御丁寧にも宮永咲の打ち筋を真似てきた妨害AIを前に、和は悲しくて胸が張り裂けそうになっていた。
「咲さん……衣さん……」
「そう悲観することもあるまい。まだ対局は終わっていないのだからな。
さて、放送の為に離れねばならぬのがどうにも口惜しいが、行くとしよう」
打ちひしがれる和の姿を一通り満喫した言峰は自らの仕事である放送へと向かう。
「あ、あぁ……衣さん、どうか無事で」
項垂れる和に出来る事は最早祈る事だけだった。
◇ ◇ ◇
「「「流局です」」」
「「「流局です」」」
「「「流局です」」」
(くっ……!!)
延々と続けられる四開槓。
衣の力を持ってすら、この状況を打破する手を生み出すことができずにいた。
ただ悪戯に積み棒と時間を積み上げて行く。
- 495 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:13:58 ID:/QxsVXxU
- 「一体何が起こっていますの? 浅上さん、麻雀は分かりまして?」
「いえ、私にも何が起こっているのか、さっぱり……」
そんな異常事態を前に、気が散るからと黙って見ていた同行者である黒子と藤乃も気を揉んでいた。
とはいえ、一介の女学生に過ぎない2人には何が起こっているのか全くの不明であり、それが不気味さをさらに増していた。
「分からない事は聞くに限りますわね。もし、そこのあなた!」
「……ん? 何だ」
黒子は黒服に声を掛ける。
無駄な事は聞けないとはいえ、麻雀のルールなどは教えてくれるはず。
「今、あの場では何が起こっていますの? 私たちには何がなんだか分かりませんの」
「そうか、確かにお前たちには分からんだろうな。とはいえ、何と説明すればよいか……。
端的に言えば、カンという行為を4回行って誰も和了できないと流局という仕切り直しが起こるという事だ」
「……つまり、ずっと同じ事を繰り返しているということですの?」
「まあ、そういう事だ」
「それでは勝負どころではないじゃありませんか。
天江さんを警戒するにしても、度が過ぎるのではありませんこと!?」
「そんなの、俺の知った事じゃない。
現実にそんな事が起こっている。それだけの話だ」
黒服はそんな風に切り捨て、話は終わったとばかりに再び卓に視線を戻した。
黒子や傍で聞いていた藤乃は何もできずに立ち尽くしていた。
「……浅上さん」
「何でしょう?」
「私たちはこの部屋の入口の外に待機しましょう」
「それは何故……でしょうか」
「ここのルールに関しては道中にお話したことかと思いますが」
黒子たちはギャンブル船に向かうにあたり、予めその場所におけるルールを確認していた。
藤乃は全て初めて。黒子は麻雀のルールについて知った。
衣だけはギャンブルルーム・麻雀のルールをすべて把握していたが、黒子の推測までは聞いていなかった。
- 496 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:14:35 ID:/QxsVXxU
- 「はい。確かここは非戦闘区域なんですよね」
「他にも私が補足した事がありましたわよね?」
「……確か、毒物や爆発物での攻撃は黙認。
他にも部屋の外からの狙撃とかも黙認される可能性が高いとか……あっ」
「そう。今の天江さんは麻雀卓から離れられない。容易に狙撃できる状況にありますの」
「それは、かなりまずいですね」
「ええ。だからこそ、私たちは部屋の外で怪しい人物が来ない事を確認するんですの」
「分かりました。ここにいても天江さんの役には立てそうにありませんし」
「……それは同感ですわ」
こうして黒子と藤乃の2人はギャンブルルームの外での警戒に当たる。
入口で一度振り返って衣に心の中で声援を送り、部屋を出て行くのだった。
【F-3 ギャンブル船/一日目/真夜中(放送直前)】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:ギャンブルルーム内に拘束された衣を守る。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:お姉さまを生き返らせるチャンスがあるなら……?
4:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
5:士郎さんが心配、意識している事を自覚
6:士郎さんはすぐに人を甘やかす
7:少しは士郎さんを頼る
8:アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。浅上藤乃も含む。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。
・ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
・その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※美琴の死を受け止めはじめています。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります
- 497 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:14:57 ID:/QxsVXxU
- 【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
1:ギャンブルルーム内に拘束された衣を守る。
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを探す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※阿良々木と情報を交換しました。
※グラハムらと情報交換しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります
- 498 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:15:27 ID:/QxsVXxU
-
◇ ◇ ◇
「「「流局です」」」
「「「流局です」」」
「「「流局です」」」
無限に続くかと思えるこの流局地獄。
しかし、衣はまだ状況の打破を諦めてはいない。
鳴いてみたり、切る牌を変えてみたりと試行錯誤を繰り返している。
死の期限を抱えて尚、その表情にいささかの曇りもない。
勝ちを諦めない。
それはとある大将戦でのとある雀士のようであった。
だが、その想いは天に届かず。
―――(ここから放送開始)
無機質な少女の声。
すなわち、定時放送が始まってしまった。
(放送が始まってしまったか……)
ここに来て衣も顔を歪ませる。
放送ごとに起きる借金の金額倍増。
つまり、1億ペリカだった借金はこの時点で2億ペリカに膨れ上がる。
(未だに1000万ペリカの元手から変わらない……)
「「「流局です」」」
そしてこの流局の嵐。
放送が終わって尚も続いていた。
(如何にせん……)
結局の所、衣に打つ手はなかった。
このまま延々と流局し続け、最後には考えるのをやめるのだろうか、と空しく考えるのである。
そんな衣に止めの一言が加えられる。
- 499 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:15:52 ID:/QxsVXxU
- 「マージャンッテタノシイヨネ!!」
その瞬間、世界が凍った。
「楽しい? こんな麻雀が楽しい……?」
「ホントウニタノシイヨ!」
「イッショニタノシモウヨ!!」
ハロにとっては宮永咲の真似をしただけの事だろう。
その言葉が無情にも衣に突き刺さる。
常人であれば、その皮肉に満ちた言葉に悔しさを溢れさせるだけだろう。
たまらず、衣も顔を上げて叫ぶ。
「……ふざけるな!」
そして、それは起こった。
ギャンブル船停電事件、二回目である。
(な、なんだこれは……っ!!)
黒服は驚愕する。
停電が起こった事に対してではない。
衣から迸る仄かな青い光に未知の恐怖を感じたからである。
そして、再び明かりが灯る。
「このようなものが麻雀だと言うのならば、衣が真の麻雀を見せよう。
ただし、今までに散っていった風越や鶴賀の大将、そして下衆に貶められた清澄の嶺上使いの無念……。
お前たちにそれを思い知らせてやる!」
ここから衣の快進撃が始まる。
- 500 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:16:19 ID:/QxsVXxU
- 東三局十四本場(親・UNKNOWN2)
ドラ表示牌・東
「ポン」
この局、衣は上家からポンする。
すなわち、海底コース。
(……何だ? UNKNOWNたちが動かないだと?)
黒服が後ろで疑問を抱く。
どうしてカンで海底防ぎに行かないのかと。
「まさか……」
黒服が少し左右に移動して、衣の上家・下家の手牌を見ると見事にバラバラだった。
カンはおろか、ポンやチーですらもできそうにない。
(防ぎに行かないのではなくて、防ぎに行けないのかっ……!!)
黒服がそうして驚愕している間にも局は進み、海底牌が衣の下へ。
海底牌を器用な仕草で卓に叩きつけ、衣は滑らかに宣言した。
「ツモ」
衣手牌
三四赤五ⅢⅣ赤Ⅴ34赤57 ⅨⅨⅨ ツモ:7
「三色海底ドラ3。2000−4000の十四本場」
東三局 終了時
ギャンブル船:41200
UNKNOWN1:15600
UNKNOWN2:24600(親)
UNKNOWN3:18600
「今のは風越の大将の分だ。疾く次に参ろうか」
衣の海底撈月を最も多く喰らった人物、池田華菜。
今、誇りを掛けた衣の海底撈月を池田華菜に捧ぐ。
- 501 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:17:14 ID:/QxsVXxU
- 東四局(親・UNKNOWN3)
ドラ表示牌・六筒
この局、衣は南家なので、何もせずとも海底コースである。
UNKNOWNとしてはこのまま勢いづかせての連続海底は避けたい所。
「ポン」
始まって数巡目、衣の対面、UNKNOWN2が二索をポン。
これにより、海底コースがUNKNOWN2に移る。
「ポン」
その一巡後、UNKNOWN2から衣がポン。
海底コースも一巡して再び衣の下へ戻る。
(UNKNOWNがカンできず、天江にまた海底コース……これも支配の一環か)
黒服はそう判断しながら、一巡して再びツモ番が来た衣の手牌を覗き見る。
衣手牌
ⅢⅣ赤ⅤⅥⅦⅧⅨ777 南南南 ツモ:Ⅰ
(ドラの七筒暗刻に赤含み三面張の好形で満貫確定……このままツモ切りか)
しかし、衣はツモってきた一索を迎え入れ、ドラの七筒を切る。
(何っ!? 三面張からドラを捨てて残り一枚の二索を待つだとっ……!!)
黒服はそのあまりにも非合理的な打ち筋に今一度驚く。
しかし、魔物にとっては自分の打ち筋こそ最適解。
その事実はすぐに思い知らされることになる。
- 502 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:17:38 ID:/QxsVXxU
- 「カン」
衣の対面、UNKNOWN2がツモってきた二索を加カン。
そして嶺上牌に手を伸ばす。
「木偶、何をやっている」
「?」
「ロンといったはずだ。その嶺上牌を取る必要はない」
衣手牌
ⅠⅢⅣ赤ⅤⅥⅦⅧⅨ77 南南南 ロン:Ⅱ
「一通槍槓、南ドラ3 12000!
これは鶴賀の大将の分だ」
大将戦にて咲のカンに唯一槍槓で対応した打ち手、加治木ゆみ。
今、衣による槍槓を加治木ゆみに捧ぐ。
そして、多面張を捨てての悪待ち。
それに捧げられるべき人物もいたのだが、衣はそれを知らない。
東四局 終了時
ギャンブル船:53200
UNKNOWN1:15600
UNKNOWN2:12600
UNKNOWN3:18600(親)
(馬鹿な……槍槓だとっ! そんなレア役、何年に一度出るかどうか……っ)
UNKNOWN2が焦ったかとその手牌を見ると、非常に高い手で張っていた。
念のため、監督者権限で嶺上牌を確かめてみると、それはUNKNOWN2の和了牌だった。
(これが天江の支配っ……)
さすがの黒服もこの意味不明な状況に戦慄さぜるを得ない。
無論、衣の快進撃はここで止まらない。
- 503 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:18:10 ID:/QxsVXxU
- 南一局(親・ギャンブル船)
ドラ表示牌・發
「リーチ」
開始直後、親番……すなわち衣がリーチの声を上げる。
最序盤、東一局ではUNKNOWNを警戒して避けたものであるが、UNKNOWNが嶺上使いを汚す打ち手である事に赫怒した本気の衣に迷う事はない。
果たして、UNKNOWNらは何ら身動きが取れず、次の巡。
「ツモ」
衣はあっさりと和了ってのけた。
「ダブリー一発。4000オール」
南一局 終了時
ギャンブル船:65200(親)
UNKNOWN1:11600
UNKNOWN2:8600
UNKNOWN3:14600
「これは……とーかの分だ」
最も近くで衣を支え続けてきた従姉妹、龍門渕透華。
今、稲妻のごとき一発ツモを龍門渕透華に捧ぐ。
南一局一本場(親・ギャンブル船)
ドラ表示牌・西
「カン」
最早、聞きなれたかのようなカンの一言。
だが、その音声は無機質な物ではなく。
(天江がカン……だとっ……!?)
- 504 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:18:37 ID:/QxsVXxU
- 黒服はよもや嶺上開花までする気かと目を見張ったが、衣は普通にツモ切りした。
(さすがの衣も嶺上使いのような事は出来ん。衣は衣に出来るやり方でこやつ等を叩きのめす!)
衣の今回のカンは暗カン。
東家の衣はこれで海底コースに。
「カン」
すかさず、UNKNOWNの迎撃が入る。
(今回はカンできるのかっ……)
目まぐるしく変わる衣の支配に黒服は目を白黒させる事しかできない。
そして数巡後。
「リーチ」
衣からのリーチ宣言。
「ポン」
UNKNOWNの1人が一発消しに走る。
だが、衣がそれにひるむ事はない。
「ツモ」
またもやあっさりと和了る衣。
この局、結果論で言えば、流れを変える余裕は十分にあったが、海底警戒で鳴くのを控えていた為にそれはできなかったのだった。
衣手牌
二三四七七七ⅥⅦⅧ4 6666 ツモ:4
「リーチドラ7。8100オール」
カンドラ1枚目の裏が六萬、2枚目の裏が五筒。
見事に暗刻、暗槓にカンの裏ドラが丸乗って倍満までに至った。
「これが清澄の嶺上使いに捧げる衣の槓の使い方だ」
衣を破り、考えを変革させた打ち手、宮永咲。
今、槓裏丸乗りの高打点を宮永咲に捧ぐ。
「そして、受けてもらうぞ。最後に、衣の分を!!」
その言葉と共に、雀卓一帯の空気はさらに異様さを増す。
次で最後。その言葉通りならば、最も凄惨な事が起こるに違いない。
南一局一本場 終了時
ギャンブル船:89500(親)
UNKNOWN1:3500
UNKNOWN2:500
UNKNOWN3:6500
- 505 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:19:03 ID:/QxsVXxU
- 南一局二本場(親・ギャンブル船)
ドラ表示牌・南
「カン」
一巡目、UNKNOWN1がいきなり仕掛ける。
暗カンである。
一巡目から槓材が揃っているのは劣化コピーとはいえ、宮永咲の能力の賜物だった。
「カン」
そして、そのUNKNOWN1の捨牌にUNKNOWN2が呼応する。
「カン」
そして、UNKNOWN3もまた。
(これはっ……!!)
黒服が目を見開く。
これは前半で衣が再三苦しめられた四開槓ではないか。
さては、先程の次の局で止めを刺すという言葉に反感を覚えたか。
いずれにせよ、これでまた流局か。
そんな考えを抱きながら、黒服はUNKNOWN3が牌を捨てるのを見守る。
―――しかし。
(何だ? 何故カンしないっ!?)
UNKNOWN3の捨牌にUNKNOWN1とUNKNOWN2はどちらも反応しなかった。
そのまま、衣がツモるのを見つめていた。
今のは完全に四開槓のパターンだったはずだが、と黒服は衣の後ろを離れてUNKNOWN1とUNKNOWN2の手牌を見る。
すると、UNKNOWN2にはカンを出来る牌がなかったが、UNKNOWN1には1つだけ3枚抱えている牌があった。
- 506 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:19:26 ID:/QxsVXxU
- (一筒っ……!! この様子だと本来ならこれで四開槓を狙っていたのだろうがっ……)
しかし、一筒は一体どこにいったのか。
黒服は疑問の眼差しで卓上を眺める。
そして局面は進み、ラスト二巡。
「これが、誇りを失った雀士たちの無念……そして衣自身の怒りの結実だ! リーチ!!」
最後の言葉を放ち、衣からリーチが掛けられる。
ラスト一巡。
UNKNOWNたちは何もする事ができず、衣の海底牌ツモを迎えた。
「……ツモ」
衣手牌
2233445678999 ツモ:1
「リーチ、一発、清一、一通、平和……海底撈月。
―――48600」
終局
ギャンブル船:138100(親)
UNKNOWN1:−12700
UNKNOWN2:−15700
UNKNOWN3:−9700
……戦いは終わった。
- 507 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:19:59 ID:/QxsVXxU
- ◇ ◇ ◇
「これが今回獲得した賞金の1億2810万ペリカと先に預かった1000万のペリカードだっ……!!」
「うむ。貰っておくぞ」
「それで、まだ麻雀を続けるのか?」
「無論だ。衣にはまだ稼がねばならぬ理由がある」
「少し待ってもらう事になるぞ。今回より強い者を呼ばなければならないからな……」
「強い者……ハラムラノノカか」
衣が今までここで戦ってきた中で最も強かった者はやはりハラムラノノカ、いや原村和であろう。
原村和と言えば、清澄の嶺上使いこと宮永咲とも並々ならぬ関係を築いていると聞く。
和ならば、今回のUNKNOWNに何を思うだろう。
衣の脳裏にふとそんな疑問が過ぎった。
「さあな……何がどうなるかは俺にも分からん。麻雀統括が考える事だ。
まあ、すぐに用意は出来るだろうから、少し休憩でもしているんだな」
「そうか……そういえば、黒子と藤乃は何処に?」
「この部屋の外でお前の警護をするとかいう話をしていた。
何もなければ、そこら辺にでもいるだろうよ」
「相分かった。情報、恩に着るぞ。黒服よ」
「ん? あ、ああ……」
黒服はさっきまでの衣の威圧感に気圧されたままの状態だった。
所謂、衣が微妙に怖い状態なのだった。
(さて、とりあえずは黒子たちと合流して放送について聞こう)
衣は黒子たちとの合流を図る事にした。
対局中のため、ロクに放送を聞けなかったので、まずはそれを聞いておきたかった。
その胸に抱くは友への慕情。
その行く末に抱くは主催への反抗。
その脳裏に抱くは一抹の不安。
多くの物を抱え、衣は来る次の対局を想念しながら、ギャンブルルームを後にするのだった。
- 508 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:20:26 ID:/QxsVXxU
- 【F-3 ギャンブル船・ギャンブルルーム/二日目/深夜】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康、首輪爆発まであと7時間(現在の負債:2億ペリカ)
[服装]:いつもの私服
[装備]: チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2
[道具]:麻雀牌セット、レイのレシーバー@ガン×ソード、水着セット@現実、エトペン@咲-Saki-
サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20 、1億2810万ペリカ、ペリカード(残金1000万)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
1:黒子たちから放送の内容を聞き、再び麻雀に戻る。
2:誰にもバレないように、負債を返済する。
3:グラハムを信じる。
4:《はらむらののか》と《清澄の嶺上使い》を救い出したい!
5:ギャンブルではない麻雀をして友達をつくる。
6:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる。
7:皆が望むとあらば麻雀に臨みペリカを入手する。
8:インデックスと友達になりたい。
9:浅上、白井とは友達になれた……?
[備考]
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
※帝愛グループに1億ペリカの借金をしました。借金は定時放送を迎えるごとに、倍額になります。
7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。
※阿良々木暦らと情報交換をしました。
※伊達軍の馬はギャンブル船の入り口に止めてあります
- 509 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:20:58 ID:/QxsVXxU
- ◇ ◇ ◇
「良かった、本当に良かった……」
和は対局が無事終わった事に心から安堵していた。
停電後の一転攻勢はどう見てもオカルトなのだが、今の和にはそんなつまらない事にケチを付けているような心理的余裕がなかった。
「どうだね、天江衣の様子は。……ほう、対局は終わったのか」
そんな和の前に再び言峰が現れる。
気が抜けた和はただ視線を向けるだけではあるが。
「放送の後始末で何があったのか分からぬのが惜しいな。牌譜とやらを見せてもらおうか、原村和」
「……分かりました」
和は唯々諾々と先程の衣の闘牌、その全てが描かれた牌譜を言峰に見せる。
「これがそうなのだな。ふむ、なるほどな……」
「麻雀が分かるのですか?」
「こう見えても私は娯楽という娯楽に触ってきているのでな。無論、麻雀もルールは熟知している。
しかし、これはまた……とんでもない打ち方があったものだ」
魔術世界出身の言峰であっても麻雀にその力を発揮する事はない。
もし、言峰が衣と対局したのであれば、瞬殺されてもおかしくはない。
牌譜から感じられる天江衣の能力。それは運命操作か何かの類の能力か。
世界によってここまで能力の大系が異なるものかと感心すらする。
「これは実に面白いことになったな」
「そんな闘牌、オカルトの類です」
「この闘牌の事を言っているのではない。これからの事だ」
「これからの事……?」
- 510 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:21:40 ID:/QxsVXxU
- 和は嫌な予感がした。
またも愉快そうな表情になっている言峰を見たからである。
果たして、言峰は言葉を紡いでいく。
「分からないか? ならば問おう。天江衣は次にどうやってペリカを稼ぐ?」
「……麻雀を使ってじゃないんですか」
「無理だな。見ろ、宮永咲のAIであるUNKNOWN3体相手に13万点も稼いでいるのだぞ。
どうしてそれと同等かそれ以下の打ち手と戦わせられるというのだ」
「それは……」
言峰の言葉は概ね正しい。
今の衣は借金を抱えた状況である。
放送を跨いで倍になったとはいえ、今回の一局でその半分以上を稼いでいる。
ここで宮永咲のAIより弱いであろう打ち手をぶつけるのは借金返済を確定させるだけであり、全く面白くないのである。
「天江衣は勝ちすぎたのだよ。確かに今回の神憑った闘牌に唸る者も中にはいるだろう。
だが、人間は罪深い生き物でな、どんな偉業であっても同じ類であれば、その次は急激に感動が薄れる。
最早、これを観戦しているスポンサー共に天江衣の馬鹿勝ちを望む者は居るまい」
「でも、それを決めるのは私です!」
「それも無理だ。時を経ずして天江衣の麻雀の利用が封じられるだろう。
それどころか、その他にも天江衣の豪運が発揮されそうな場所は全てかもしれんな」
「そ、そんな……」
麻雀を封じられた衣はどうやってペリカを稼ぐというのか。
残り7時間あるとはいえ、まだ必要なペリカは多い。ジリ貧ではないか。
愕然とする和の表情に再び愉悦を感じた言峰はさらに攻勢を掛ける。
「原村和、君の選択肢は3つだ」
「選択肢……3つ?」
言峰は和と同じ世界の住人―――福路美穂子―――の時と同じ言葉を掛ける。
それはまさしく最悪の選択肢。
- 511 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:22:27 ID:/QxsVXxU
- 「1つ目。このまま天江衣が麻雀を禁止されるのを見ている。
これに関しては、特に説明するようなことはあるまい」
「……次は?」
「2つ目。原村和、君が天江衣に挑む」
「え……?」
「何を驚くような事がある。君こそ唯一UNKNOWNに勝る打ち手だろう?
君が出るのであれば、本部も無碍に天江衣の麻雀を封じないだろう。
そもそもすでに1回打っているではないか」
「それはそうですが……」
「なるほど、自分で天江衣に引導を渡すのが嫌と見える」
「ッ!! そんな言い方!!」
「別に天江衣をサポートしても構わんのだぞ?」
「……え?」
和は聞く耳を疑った。
主催側が参加者をサポートしても構わない。
普通に考えれば、そんな事があり得るはずもない。
理解不能のその発言に思考回路が止まってしまう。
そして、そこに悪魔の言葉が入り込む。
「ただし、宮永咲を見殺しにするのならば、だがな」
「!!」
「ククッ、当然だろう? 何の為の人質だと思っている」
「そ、そんな事したら、私はもう働きませんよ!!」
「何を勘違いしているのか知らないが、君の仕事は誰にでも出来る」
「……ッ!!」
「君の最後の見せ場がここだと判断されれば、遠慮なく使い捨てられる運命にある事を忘れてもらっては困る」
「あ、あぁ……」
崩れ落ちる和。
言峰は容赦せず、言葉を続ける。
「なに、宮永咲を助けるために天江衣を倒せば良い。
その場合は天江衣が死んでしまうだろうがな」
「咲さん……衣さん……嫌、そんなの嫌……」
「君自身はどちらも天秤に掛けたくはない、と。
ならば、最後の選択肢を選ぶがいい」
「最後の、選択肢……?」
- 512 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:22:55 ID:/QxsVXxU
- 顔を上げる和。
その表情は誰かに救いを求めたくてたまらないと言った風情がある。
最後の選択肢。そこに救いがあるのならばと。
言峰はここに来て最も愉悦を感じていた。
「3つ目。宮永咲と天江衣を戦わせる。勝てば生き残り、負ければ死ぬ特別ルールでだ」
「……ぁ」
「最もシンプルではないか。君が決められないのであれば、その2人にどっちが生き残るのか決めてもらうのだよ」
「ぃゃ…いやいやいやいや嫌嫌嫌嫌嫌」
嫌としか喋らず、壊れ始める和。
言峰はすかさず和の頬を張り、胸倉を締め上げる。
「壊れてもらっては困る。君自身が選ばねば後悔するのではないか?
そのまま壊れるというのであれば、自動的に1つ目……いや、3つ目になるだけだ」
「でも、嫌なんです……友達を秤に掛けるなんて、そんな事出来るわけありません」
「ならば、そこでどちらかが死ぬのを見ているのだな。
そうだな、対局が始まったら宮永咲の対局映像を君にも見せてやろう。
宮永咲の無事な姿が見れるのだ。喜ぶがいい」
その少し後にはどうなっているか分からないがな、と一言付け加える。
「では、私は準備に取り掛かろう。本部にも掛け合わなければならんしな。
まともな運営が出来る人材が少なすぎるのは困りものだ」
言峰は苦笑と言うべきか、愉悦と言うべきか、そのような表情を浮かべながら和の部屋を去っていった。
「私は……どうすればいいんですか……? 何でこんな事に……」
その後に残された和は絶望の表情を浮かべて呟くのだった。
- 513 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:23:19 ID:/QxsVXxU
- 【???/飛行船・原村和の部屋/二日目/深夜】
【原村和@咲-Saki-】
[状態]:健康、絶望
[服装]:私服
[装備]:エトペン@現実
[道具]:デスクトップPC×数台、会場監視モニタ×数台、質問対応マニュアル(電子ファイル)
[思考]
基本:帝愛に従い、咲さんを救う
1:どうしてこんな事に……。
2:言峰の3つの選択肢から行動を選ぶ。
3:役割(麻雀・サポート窓口)をこなす。
4:咲さんが心配。一目だけでも無事な事を確認したい。
5:どうせ打つなら守る為の麻雀を打ちたい。
6:忍野メメを警戒。従ってはいるものの、帝愛は許せない。
7:【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】が帝愛にとっての最重要施設?
8:私には、帝愛に与えられた役割を果たすことしかできないんでしょうか……?
[備考]
※登場時期は最終回の合宿終了後です。
※基本的に自分の部屋から離れられません。
※監視されていること、異世界から集められていることを知っています。
※【櫓】が鬼門封じの重要施設。【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】のどれか、もしくは全てがこの島の最重要施設だと考察しています。
※何も行動を起こさなければ、衣と咲が対局します。
※以下の事柄はSOA!と思っています。
・死者が蘇る。
【質問について】
参加者の居場所
サポート窓口を利用可能になった時点で回答可能。
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、居場所が分かるのも二人までです。
特定人物を殺害した人間の名前
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、殺害者名が分かるのも二人までです。
殺し合いに巻き込まれた理由、殺し合いの目的
サポート窓口を利用可能になった時点から四回目の放送以降、回答可能。
原村和について
サポート窓口を利用可能になった時点から三回目の放送以降、回答可能。
特定の人物の同行者
少なくとも、サポート窓口を利用可能になってから一回目の放送を越えた時点では回答不可。
※ルルーシュからの質問が回答可能なものかどうかは、後続の書き手氏にお任せします。
- 514 :とある魔物の海底撈月 ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:23:59 ID:/QxsVXxU
- ◇ ◇ ◇
和の部屋を去った言峰は道々にいる黒服に指示を出しながら、本部に向かう。
その途上、指示を出した内の1人の黒服が質問を投げかけてきた。
「これは……越権行為ではないでしょうか。
それに、宮永咲に手を出した黒服があの奇妙な連中に殺されたと聞きます」
奇妙な連中とはもちろん、同じ顔の少女たち。シスターズのことである。
すでに黒服たちの間にもシンプソンという黒服が咲に手を出し、蜂の巣になった事件は知れ渡っていた。
咲を利用しようとしたディートハルトは、丁重に元の部屋に戻した。
何か妙な事をして殺されるのはたまらなかったのである。
「つまらない所で殺そうとするからそうなるのだよ。
参加者を交えて人質の生死を賭ける。そこに何の不都合があろうか。
もし、不都合があるのであれば、前もって『殺すな』『使うな』と命令を出しておくのが筋というものだ」
さらに言峰は越権行為についてこう語る。
「私の他に誰が遠藤の代わりを務めるというのだ。
忍野メメ、インデックス、ディートハルト、原村和……いずれも運営などといった事はできまい。
越権せずにこの状況を収拾できるものか。
それに、私が愉悦を感じる事はおそらくスポンサーにも好評になる。
あちらには私と同じく歪んだ感情の持ち主が多くいるだろうからな」
私の場合は根幹から歪んでいるのだがな、と心の中で自嘲する。
(さて、麻雀世界の住人たちよ。この苦難をどう演出してくれるのか、愉しませてもらうぞ)
愉悦を隠そうともしない言峰は惨劇の準備を着々と整えていく。
その在り様、神か悪魔か。
【???/飛行船/二日目/深夜】
【言峰綺礼@Fate stay/night】
[状態]:健康
[服装]:神父服、外套
[装備]:???
[道具]:???、麻婆豆腐の詰まったタッパー
[思考]
基本:???
1:サーヴァントの死体(魂)を回収する。
2:荒耶宗蓮に陰ながら協力する。
3:原村和の選択を待つか、魔物同士の対局のお膳立てをするか……。
4:この立場でバトルロワイアルを楽しむ。
5:結界の修復を手伝う。ただし1を優先する。
6:敵のアジトの結界の代替地になりそうな場所を探し、結界を設置する。
- 515 : ◆6lyiPawAAI:2010/06/19(土) 23:26:00 ID:/QxsVXxU
- 以上で、投下終了とさせていただきます。
あと、放送開始の部分は収録後に採用された放送案の言葉を入れますので、そこはご了承ください。
- 516 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 23:35:31 ID:ReXzIrMA
- 投下乙です
衣、なんとか勝ったか…
しかし相変わらずマーボーはロワ充してんなあw
- 517 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 23:56:32 ID:FGkGl0uI
- 本投下お疲れ様です
一難去ったと思ったら麻婆の暗躍が…
賭博場所で勝ち過ぎなのは目を付けられますねw
次回で和がどう動くのか楽しみです
- 518 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/19(土) 23:59:05 ID:IYAwsxcI
- 投下乙です
衣は何とか勝てたが未だにピンチだな
マーボーは美少女虐められてノリノリなのかよw
だがこれで和も追い詰められて…
- 519 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/20(日) 00:00:06 ID:lvg/zrX.
- ★ 連絡事項 ★
作品議論スレにおいてに「血染めのユフィ◆aCs8nMeMRg」に対する修正要求が出されましたので、書き手氏及び意見のある方はは該当スレの確認をお願いします。
ttp://jbbs.m.livedoor.jp/b/i.cgi/otaku/13481/1273847651/18
- 520 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/20(日) 00:01:33 ID:WCj.xGIk
- 投下乙です!
衣頑張れ!超頑張れ!
>>517
まぁあんな勝ち方とマナーだったら、お行儀のいい所でも出禁食らうけどねw
- 521 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/20(日) 02:42:51 ID:7cRMOco.
- 死にかけの人がいて、それを助ける為に自分のエゴで渋るような人じゃないよ、上条さんは
自分から言い出しても違和感はないと思います
- 522 : ◆iDqvc5TpTI:2010/06/20(日) 22:48:27 ID:dfpRuikM
- アニメキャラ・バトルロワイアルの皆様、いつも作品を楽しませていただいています
RPGキャラバトルロワイアルにおいて書き手をさせていただいている◆iDqvc5TpTIというものです。
本日報告があり気付いたことなのですが自ロワの地図がスパムにやられ容量過多となり表示できなくなりました。
地図のページに大量に直接英文スパムの投稿がされていたようです
聞くところによれば同じ付箋形式のライダーロワNにも同様の被害があったとのこと
同じ外部の地図を使っているアニロワ3とスパロワ3も同一の被害を被る可能性がありました
スパム自体は単なるサイトのURLなのでウイルスのように地図を開いたからといって被害はないのですが、しかし地図が落ちたとなると企画の進行の妨げになるのは事実
そこであの地図のサイトの制作主様が編集規制をかけることにしたとご連絡がありました
具体的にはパスワードの設定です
アニロワ3においてはユーザー名、パスの順に
ani3
map
と入力すればOKとのことです。
では遅まきながら報告これにて。貴殿のロワによりいっそうの盛り上がりがあることを
長文失礼しました
- 523 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/06/20(日) 23:10:30 ID:???
- したらば管理人◆4Ma8s9VAx2です。
本日はわざわざご連絡いただき、ありがとうございました。
もしサイト制作主様と連絡を取れるのであれば、
今回は迅速な対処をしていただきありがとうございますと伝えていただければ幸いです。
- 524 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/20(日) 23:16:18 ID:dNGCkZxk
- >◆6lyiPawAAI氏
投下乙です
「とある魔物の海底撈月」の分割指定をお願いします
- 525 : ◆6lyiPawAAI:2010/06/21(月) 00:22:06 ID:EoRJ1Gf.
- >>524
>>499の最後までを前編、それ以降を後編ということでお願いします。
- 526 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/21(月) 00:55:25 ID:bQPs9d8U
- >>525
ありがとうございました
- 527 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/21(月) 23:04:28 ID:TLxgDsFE
- 議論スレより、◆aCs8nMeMRg氏ならびに書き手諸氏へ連絡
現在議論スレにて議論中の◆aCs8nMeMRg氏の『血染め の ユフィ』について
本作の時間的矛盾に対する修正の対案として
「話の途中で切って放送直前とする」「放送跨ぎの形にする」の二案が候補に挙がっています。
◆aCs8nMeMRg氏には一度議論スレにて、今までの時間に関する指摘への意見と
仮に上記の内容の修正要求が提出された場合、対応可能なのか、対応の意思があるのかという点を
回答いただけないでしょうか?
また、候補に挙がっている「放送跨ぎの形にする」という案は、デメリットも少なくない為
他の書き手氏からの賛同を得られるのであれば、という意見が多く出ています。
放送跨ぎという形での修正の是非について、書き手諸氏にコメントをいただきたいです。
以上、よろしくお願いします。
- 528 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/22(火) 23:05:21 ID:nwLZ7ptQ
- ◆aCs8nMeMRg氏「血染めのユフィ」に対する修正要求が議論スレにて正式に確定しました。
修正用ルールの項目
6.時間の進み方が異常、もしくは時間を遡った話の投下
7.その他、企画の進行を妨げる可能性のある内容(過度のバランスブレイカーや、リレーが困難になると思われる内容等)
以上の二点が作品の内容に抵触するため、作者氏に修正要求を提示します。
A>・スザクが放送残り10分(作者氏いわく)で作中のような行動をこなすのは無理。他のキャラクター同士の会話も内容に比べて経過時間が短すぎる
B>・腕まで完全回復では、他の治療サービス(黒子の傷・美穂子のアンリマユ・蒼崎の義手)と比べてバランスがおかしい
・Aの問題点への対案
①話の途中で切る形での修正要求を提出 (この場合はおそらく、修正要求後に改めて書き手氏との話し合いが必要)
②放送跨ぎの形にすることを対案として修正要求を提出 (他の書き手氏の同意が必要)>こちらはどうしてもまとまらない場合の最終手段となります。反対意見もいくつかありました。
・Bの問題点への対案
①スザクの腕は切られたままで傷だけが癒えた形にする
備考(その他の指摘。修正は書き手氏の判断で)
・上条のキャラが違う。
御坂の首を切断することを自ら提案、首の切断を他者に任せる等の行為に対する違和感。
・ファサリナやグラハムたちがユフィの自殺を止められない。
・ユフィの自殺に至る心理描写の不足、セリフ(特にスザクへの最期の言葉)への違和感。
・施設サービスで左腕の再生まで行うのはサービスが良過ぎ?
・放送役であるインデックスが、放送の直前ギリギリに会場に来ることについて
- 529 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/23(水) 21:17:34 ID:voHhGg5s
- ルール議論スレにて、予約解禁までのスケジュールが纏まりましたので告知いたします。
2010/06/21(月) 23:55:36 〜 2010/06/26(土) 23:55:36 ◆MwGEcqIDcI氏の作品締め切り
2010/06/29(火) 00:00:00 放送案募集開始、問題なければ前倒しアリ
2010/07/03(土) 23:59:59 放送案締め切り
2010/07/04(日) 20:00:00 〜 22:59:59 放送案投票
2010/07/04(日) 23:00:00 〜 23:59:59 投票認証
2010/07/07(水)00:0000 〜 予約解禁
と、このような形になりました。
ご意見の在る方はルール議論スレにてお願いします。
- 530 :名無しさんなんだじぇ:2010/06/28(月) 22:13:39 ID:7Iixj34Q
- ☆ 連絡事項 ☆
放送案の募集開始が6/29 00:00:00からとなっていましたが、議論スレで議論中の案件が片付かないため延期となることが可能性が高いです
関係者の皆さんはできるだけ早く放送案募集の開始ができる態勢を整えてください
- 531 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/03(土) 23:19:08 ID:zcCbahls
- ★ 連絡事項 ★
作品投下用スレッドに、議論中となっていた◆aCs8nMeMRg氏の修正稿が来ています。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1265070801/959-
意見は議論スレまでお願いします。
- 532 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/05(月) 00:00:31 ID:yHmMGQVs
- 破棄になりそうだから改めて放送案募集に予定決めたら?
- 533 :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!:僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
- 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
- 534 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/06(火) 05:36:44 ID:iUk0Gxw2
- いや、まだ正式に破棄と決まった訳じゃないでしょ
- 535 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/06(火) 16:24:04 ID:zzqKGIuI
- もう破棄でいいだろう
- 536 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/06(火) 18:47:45 ID:???
- >◆hANcxn7nFM(◆LJ21nQDqcs)氏
>◆X5.tKUFx82(◆lDZfmmdTWM)氏
管理人スレに再度、普段の予約や作品の投下の際に使用している端末から
トリップをつけて書き込みしてください。
お手数をおかけして申し訳ないのですが、よろしくお願いします。
- 537 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/06(火) 23:16:18 ID:8R89zARY
- ★ 連絡事項 ★
協議の結果、議論中となっていた◆aCs8nMeMRg氏の修正稿は破棄されることが決まりました。
今後の予定についてはまだ未定です。
- 538 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/06(火) 23:40:30 ID:xnm5uzuM
- ☆ 連絡事項 ☆
上記の破棄決定に伴い、上条当麻とユーフェミア・リ・ブリタニアのパートをどうするかと今後の日程についてルール議論スレにて話し合っているので意見のある方はそちらにお願いします
なお上条当麻、ユーフェミア・リ・ブリタニアのパートの話についてはリレーする書き手諸氏の問題なのでそちらに意見のある場合は明日22時までにトリ付きでお願いします
- 539 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/08(木) 03:13:24 ID:???
- 管理人スレに重要な報告と連絡を書き込みましたので確認をお願いします。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1265034798/161
>◆hANcxn7nFM氏
>◆X5.tKUFx82氏
管理人スレでも言いましたが、対応ありがとうございました。
- 540 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/08(木) 20:12:13 ID:SzNGgr3w
- ☆ 連絡事項 ☆
ルール議論スレにて話し合われていた上条当麻、ユーフェミア・リ・ブリタニアのパートに関する扱いが決まり、放送まで一話を挟めこととなりました
それに伴い、本日21:00:00より24時間全パートが一時的に凍結解除となります
ただし今回は事情が事情だけに予約について以下の特殊な制約が設けられますのでチェックをお願いします
・解禁は07/08(木)21:00:00〜07/09(金)20:59:59
・予約は先着一件のみで必ず上条当麻、ユーフェミア・リ・ブリタニアの二名を絡めること。上記の二人が絡んでいない場合は予約無効。
・解禁キャラに関しては全解放(ただし時間の関係で予約不可な衣、言峰、和の三人は除く)
・最初の上条当麻、ユーフェミア・リ・ブリタニアの二名が絡んだ予約が入った時点で他のパートは予約凍結となり予約をすることはできなくなる
・特殊な事情があるため、今回新規トリは予約できず、過去にSSが本編で採用されている書き手氏にのみ予約する権利がある。ただし『この形での予約形態はあくまで今回に限った話である』。ゆえに今回のケースは今後参考にはしない。
・もし解禁終了時刻までに予約が入らなかった場合は再び全パートが予約凍結となり、07/09(金)24:00:00(10日(土)00:00:00)より放送案募集を開始する
以上の条項を確認の上、書き手諸氏は予約のほうをお願いします
- 541 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/11(日) 21:16:47 ID:???
- 管理人からの緊急連絡です
>◆6lyiPawAAI氏
予約スレ355を確認のうえ、もしトリバレによる他人の騙り行為なのであれば
管理人スレまでその旨と今後使用する新しいトリップの報告をお願いします。
なお、連絡の際は、普段の予約や作品の投下の際に使用している端末から書き込みしてください。
- 544 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/12(月) 19:03:05 ID:UancVQuI
- てす
- 545 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/12(月) 20:22:17 ID:???
- 作品議論のルールの見直しについて、ルール議論スレに発議を行いました。
詳しくはルール議論スレを確認してください。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1273847602/194-
- 546 : ◆C8THitgZTg:2010/07/13(火) 02:13:37 ID:KdTugIh6
- チャットのことが話題に出ていたので、一応モメる前に本人確認ということで
色々と企画のことを心配してもらえるのはありがたいけど、ルールがごちゃごちゃするのも考え物
あれいっぺん整理して書き直したほうがいいんだろうか
- 547 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/17(土) 23:48:12 ID:9vi3HyBA
- ★ 連絡事項 ★
◆mist32RAEs氏の投下が作品仮投下用スレッドに来ています
意見は仮投下スレでお願いします
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1265070801/987-
また、ルールの見直しについての議論が引き続きルール議論スレで行われています
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1273847602/194-
- 548 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/18(日) 12:13:44 ID:Ku7W8mvo
- ★ 連絡事項 ★
放送案募集〜予約解禁までの日程については、現在ルール議論スレが別件で使用中のため
作品議論スレを利用してください
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1273847651/659-
- 549 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/21(水) 21:24:43 ID:S1Qn85DY
- mist氏へ
仮投下されてから約四日間もの時間が経過しました、大きな指摘も出ていないのにもかかわらず未だ本投下されていないのは何故でしょうか。
厳しい言い方ですが、大きな指摘が無い以上未だ本投下をしないというのは遅延行為ととられてもおかしくありません。
本投下する時間が無いというのであれば、こちらで代理投下も出来ますし。
仮投下後、何時までに本投下しなくてはいけないかをルールに明記されていないからと、現在絶賛執筆中という卑劣な事はしてないと思いたいですし。
一度どういう状態であるのか返答を頂けないでしょうか。
また、このレスが付いてから一日が経過してmist氏から応答が無ければ、此方の独断となりますが仮投下されている作品を代理で本投下する事を提案します。
みなさまはどうでしょうか?
- 550 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/21(水) 21:39:40 ID:ogtmDJkg
- 異議無しです
流石に時間食い過ぎです
- 551 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/21(水) 22:46:25 ID:JPV2tsIE
- >>549
異議無し
- 552 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/22(木) 01:50:13 ID:O5EculvA
- 異議なし
- 553 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/22(木) 05:45:04 ID:rOh69.qU
- 連絡よこせってのには同意だけど強制投下には反対。名無しにそんな権限はありませんよっと
大体「卑劣なこと」って何ですか。他の書き手も普通にやってるでしょ
他の書き手も卑劣漢よばわりですか、そうですか。ルール議論スレにでも行けば?
それと何でそんなに上から目線で偉そうなの?連絡が無かったら「何か忙しいことでもあるんだろうな」って心配するのが普通なんじゃないの?
- 554 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/22(木) 13:20:37 ID:W7/6lrY.
- >>549
異議なし
- 555 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/22(木) 17:17:08 ID:23fUb0cU
- これ何してるの?
ここで異議なしが何人集まろうと勝手な本投下なんて無効でしょ
この前議論スレであった勝手な票集めから何も学んでないの?
まずは議論スレで発議するなり何なり出直して来なさい
- 556 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/22(木) 17:22:57 ID:wkR3xTZo
- つーかまだそレぶされてないのか
- 557 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/22(木) 19:58:07 ID:???
- ◆mist32RAEs氏には、一刻も早い連絡をお願いしたいです。
なお、◆mist32RAEs氏本人の了承なしで代理投下を行うことについては、管理人からストップをかけさせていただきます。
現時点では本人以外による本投下は認めません。
- 558 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/22(木) 20:32:12 ID:eqPJCdsk
- じゃあ連絡来るまでずっとこのままか
- 559 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/24(土) 20:56:30 ID:ORXZqB9c
- mist氏から連絡がないまま一週間が経過してます
代理投下も認められないのではこのまま動きようがないのですが
管理人氏はいつまで待つつもりなのかだけお聞かせください
このまま次の動きがいつになるかもわからないのは精神的につらいです
- 560 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/24(土) 22:19:23 ID:???
- ◆mist32RAEs氏の作品の扱いについてですが、現在管理人二人で協議中です。
一応予定としては明日中には結論を出したいと思っています。
仮にこちらで代理投下をした場合、そのままスムーズに放送案の募集へ移行できるよう
当該作品に問題点がないか再度確認のうえ、何かあるなら今のうちに仮投下スレへ指摘のレスをしておいてください。
また、仮に当該作品を不採用扱いとした場合のこととして、書き手諸氏には
上条ユフィパートを再度予約解禁状態として放送前に一話挟む必要があるのかどうかについて意見をいただきたく思います。
上記以外でも何か意見があれば受け付けます。
あと、別件になりますが、ルール議論スレの案件のほうも意見を出していただきたいです。
よろしくお願いします。
- 561 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/25(日) 02:14:12 ID:???
- ◆mist32RAEs氏の作品の扱いについての意見の募集は本日20時までとさせていただきます。
意見を募りはじめてから24時間経たずに締切となりますがご了承ください。
何か意見のある方は、できるだけ早めにお願いします。
- 562 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/25(日) 20:35:04 ID:???
- 特に意見も無いようですので、管理人としての判断を報告します。
◆mist32RAEs氏の作品の扱いについてですが、管理人のほうで本スレへの代理投下を行います。
なお、結果として仮投下後一週間以上に渡り企画進行が停滞したのは事実ですが、
この件が◆mist32RAEs氏による意図的な遅延行為であるとは管理人サイドでは考えておりません。
次いで、放送募集から放送明けの予約解禁までの日程について。
今から日程の話し合いを始めると時間がかかると判断し、管理人から下記の日程を提案させていただきます。
2010/07/26(月) 00:00:00 放送案募集開始
2010/07/28(木) 23:59:59 放送案締め切り
2010/07/30(金) 20:00:00 〜 22:59:59 放送案投票
2010/07/30(金) 23:00:00 〜 23:59:59 投票認証
2010/08/01(日) 00:00:00 (7/31 24時) 予約解禁 ※放送案が決戦投票となった場合は一日順延
本来なら募集開始は、本投下から24時間置くべきなのでしょうが、
今回は事情が事情ですし、仮投下に対しても致命的な問題点の指摘は無かったので、通しになると判断し上記の日程を組んでいます。
日程に関してはあくまでも提案ですので、住人、特に書き手氏のほうで意見があるならそれを反映していただければと思います。
同じ内容のものを作品議論スレに貼りつけておきますので、日程についての意見はそちらでお願いします。
あと、完全に別件となりますが、ルール議論スレの案件については、このまま日付が変わるまでに意見が出ないようなら
ルール議論スレ>>321の内容でルールを改定することを決定事項とさせていただきますので
意見のある人は今のうちにお願いします。
- 563 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/25(日) 20:40:32 ID:zV.fOzVI
- >>562
お疲れさまです
- 564 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/25(日) 21:20:57 ID:encrrtNg
- >>562
管理人氏お疲れ様でした
- 565 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/25(日) 22:57:52 ID:???
- では、代理投下します。
- 566 :そにぶ? ◇mist32RAEs:2010/07/25(日) 22:58:47 ID:zJLhTNwk
-
「――あなたは日本人ですか?」
とある美女が少年に尋ねた。
その目には妖しく輝く呪いの光が宿っていた。
その眼光と目が合って、少年――上条当麻はわずかに身じろぎする。
なぜそんなことを今聞くのか、と疑問が浮かんだ。
上条は美女――ユーフェミアとは初対面だ。
だがそんな彼女が全身に傷を負ってここに現れたことで、上条はまず彼女を保護することが先だと考えた。
それは上条当麻の根幹に位置する感情によるものだ。
誰かが目の前で泣いているならば助けたい、いや助けねばならない。
それはすでに彼自身にもどうしようもないほどのことなのだ。
どんなに自分が辛くても、どんなに自分が傷ついても、どんなに自分が報われなくとも。
そしてそのためにどんなに他人が傷ついてもだ。
ゆえに彼をこう呼ぶものは多い――偽善使い、と。
しかし上条当麻の気持ちは本物だ。
誰かを助けたいと願う感情そのものには一片も嘘がない。
だからこそ、その感情に惹かれる者がいるということも、また事実。
むしろそれゆえに始末が悪いということでもあるのだが。
「……なんでそんなことを聞くんだ?」
「え?」
「ひどい怪我じゃねえか。とりあえず手当てしないと」
「あの、貴方は日本人では……?」
今はどうでもいいだろ――と、上条はユーフェミアの手を掴んで近くの建物へと連れて行こうとする。
なんか手当てに使えるものは持っていないか、などの質問を矢継ぎ早に浴びせながら。
その強引なペースに巻き込まれ、元々は天然かつ素直な性格のユーフェミアは、言われるままに質問に答えてしまっていた。
「ないか……とりあえずどこかの建物に入って、救急箱とか探して……いや、とにかく消毒に使えるものとあとは清潔な布地だな」
「あの、ちょっと待ってください」
「なんだよ、そんなに血が出てるんだから急いで手当てしとかねーと」
「ええ、分かりますけど。でも初対面の殿方に見知らぬ場所に連れ込まれるというのは、流石にちょっと……」
沈黙。
しばらく間が空いたまま二人は見つめあう。
そしてその頭上でピンクのどぎついネオンが彼らを照らしていた。
上条がユーフェミアを連れ込もうとした建物の看板だ。
そこには『CLUBはっぴーべりー ウブな素人の若い子揃ってます!』とある……。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!? 違う、違うからな! ごめん、気づいてなかった!
上条さん一生の不覚です! そういうんじゃないから! 本当に間違っただけだから!」
看板の売り込み文句を確認したとたんに上条は顔を真っ赤にして、土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。
はあ、と小首をかしげたユーフェミアが「ここって手当てするところなんですか?」と無邪気に追い討ちをかける。
すると、もうこれは完璧な土下座である。
- 567 :そにぶ? ◇mist32RAEs:2010/07/25(日) 22:59:28 ID:zJLhTNwk
- 血まみれのドレスをまとったナイスバディの美女に土下座する男子高校生の図がそこにはあった。
というかそれが上条当麻だった。
「なんつーか、とにかく外は危ないから、どっか中でゆっくり落ち着いて手当てしようと思っただけなんです!
他意はないんですー! 本当ですー! つーか何で住宅街だったのに、いきなりこんないかがわしい店立ってんだよ!
周囲の住人から苦情でまくりだろフツー! おかげで上条さん変態のレッテル貼られそうですよ!?」
もはや謝ってるんだか突っ込んでるんだかわからない有様だが、一貫して完璧な土下座の姿勢は保ったままだ。
それを流石というべきかどうかはともかく、何かとにかく誠意らしきものは伝わったらしい。
「あの、お顔を上げてもらえませんか? よくわからないですけど、もういいですからちゃんとお話しませんか?」
「あ、ああ、許してくれるんすか?」
「許すも何も……何もしてないじゃないですか」
「あー、うん、そ、ソウデスネー、ははは……」
乾いた笑いが静寂の空間に染み渡って消えていく。
その音が完全になくなって、後から気まずい沈黙がやってきた。
それを先に破ったのはユーフェミアの問い。
その目には紅い光。
上条は、まただ――と思い、わけもわからず嫌な予感を抱いた。
「あのー」
「はい」
「上条さんは……日本人なんですか?」
「はあ、そうですけど……なんで……それを聞くんすか?」
ユーフェミアの、日本人かという問いに対して、上条は肯定の返事を返した。
肯定した。
肯定して、しまった。
「そうですか――」
感情のないユーフェミアの声。
虐殺のスイッチが入る。
「では、死んで頂けますか?」
◇ ◇ ◇
- 568 :そにぶ? ◇mist32RAEs:2010/07/25(日) 23:00:14 ID:zJLhTNwk
-
とっさに身を引くことができた。
右の耳にざっくりという音がやけに大きく響く。
そして後からやってくる灼熱の感覚。
思わず声を上げた。その声がやけに遠い。
目の前に脇差を構えるユーフェミア。その切っ先は血に濡れている。
触るとぬるりとした液体の手触りがあった。血だ。
真っ赤な血の色で染まる自身の手のひらを見る。
切られたことをようやく理解できた。
「な……」
「あら、外しました」
「なんで……!?」
「だって、日本人には死んでいただかないといけませんから」
そういって上条当麻の眼前で、血まみれの美女は刀を振り上げる。
そういう武術か何かの心得があるのだろうか、その構えはずいぶんと堂に入っていた。
素人やチンピラの類がバットや鉄パイプなどを構えたような間抜けな絵面ではない。
このままでは切られるという確信めいた勘が上条を反射的に動かした。
「……うわあああああああああああああああああ!」
大上段に構えられたユーフェミアの刀がその頭上に振り落とされる前に、上条の右拳が走った。
実戦において、考えながらそのとおりに体を動かすなどできるものではない。
練習で繰り返したとおりに体が勝手に動く、というのはスポーツではよくあることだ。
上条当麻が幾度も潜り抜けた死線の経験が、ユーフェミアの貴族としての訓練経験を上回った。
結果としてはそれだけのことである。
その美しい美貌に無骨な拳骨なめり込んで、肉が潰れた感触が伝わってくる。
あ――と上条が呆然と声を上げたときには、ユーフェミアがどさりと崩れ落ちていた。
K.O!!
- 569 :そにぶ? ◇mist32RAEs:2010/07/25(日) 23:01:10 ID:zJLhTNwk
- 【E-5 住宅街と路地裏の間/一日目/真夜中】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)精神的疲労(大)右拳に擦り傷、右耳、胸部に切り傷と出血
[服装]:学校の制服
[装備]:なし、
[道具]:基本支給品一式、御坂美琴の遺体、
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。御坂の遺体は必ず連れて帰る。
0:とにかくユーフェミアを助ける。
1:一方通行を探し出す。
2:戦場ヶ原ひたぎを追い駆ける?阿良々木暦を探す?戦場ヶ原ひたぎと3匹の猫の安全を確保する?
3:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
4:壇上の子の『家族』を助けたい。
5:俺の行動は間違っていたのか…。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:全身打身、肩口に刺傷(中)、疲労(大)、気絶中
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:脇差@現実
[道具]:基本支給品×4、アゾット剣@Fate/stay night、ティーセット@けいおん!、ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、
特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、ピザ×8@現実、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、
ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他、レイのレシーバー@ガン×ソード、
即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)、シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする。
特殊:???
1:この島にいる日本人は皆殺し……?
2:安全な場所で怪我の手当てをする。
3:体力の回復、武器の調達を行い、日本人を皆殺しにする為の準備を整える。
4:タワーへ向かう。放送、もしくは通信の機材があれば偽ゼロの情報を伝え、同時に日本人を一ヶ所に集める。
5:スザクに会ったら……。
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間は不明。
ロワ開始時点やアーニャと行動を共にしていた時とは、ギアスの発動条件や効果等に変化が起こっています。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※ギアス発動時の記憶の欠落を認識しました。発動時の記憶、ギアスそのものには気付いていません。
※アーニャの最期の言葉を聴き、『ギアス』の単語を知りました。
※幻想殺しでギアスが解除されたかは次の書き手さんにお任せします
- 570 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/25(日) 23:02:31 ID:???
- 以上で代理投下は終了します。
日付変更と同時に放送案の募集を開始します。放送案の投下は仮投下スレに行ってください。
なお、>>562でも言いましたが、募集開始以降の日程については作品議論スレで意見をお願いします。
(こちらで提示した日程案に反対が無い場合はその旨のレスをしてください)
ルール議論スレのほうは反対意見のレスがありましたので現時点での決定は見送ります。
なるべく早く決定できるよう、意見を出していただきたく思います。
- 571 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/25(日) 23:25:59 ID:zV.fOzVI
- 代理投下乙でした
- 572 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/26(月) 00:49:48 ID:VsfMDwvE
- 代理投下乙でした
- 573 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/26(月) 01:26:41 ID:oA2s8Eyc
- ★ 告知 ★
今から〜放送案投票の前日23:59:59まで、第四回人気投票を実施します
投票ルールの詳細は、新・投票スレで確認してください
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1277729163/3-
- 574 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/27(火) 00:38:44 ID:???
- ルール議論スレで議論中だった【修正要求・議論に関するルール】は、ルール議論スレ321の内容を正式決定と致します。
必ず内容を確認しておいてください。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1273847602/321
また、作品議論スレで意見を募っていた放送募集から放送明け予約解禁までの日程は>>562で提示した通りで正式決定とさせていただきます。
これに伴い、現在投票スレで行われている人気投票の締切は放送案の締切と同じ2010/07/28(木) 23:59:59となります。
なお、ルール議論スレにて新たに、議論スレのルールの制定が提案されていますので、住人の方々にはスレに目を通し
意見を出していただきたいと思います。
放送案投票の準備には、作品議論スレをご利用ください。
以上、よろしくお願いします。
- 575 : ◆mist32RAEs:2010/07/27(火) 22:44:03 ID:HpySD91w
- こんばんは
ちょっとのっぴきならぬ事態で病院のお世話になっており、数日間連絡とれず申し訳ありませんでした
管理人氏及び住人の皆様には多大なご迷惑をおかけしました。大いに反省する所存です。
仮投下スレのご指摘をまとめにて修正しましたので謝罪とともに報告させていただきます。
- 576 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/27(火) 23:16:00 ID:AtK/L5ek
- うおお……無事でよかった
いや、病院にいたというのに無事などと言っていいのかは分かりませんが、ひとまず氏が戻ってこれたことはやはりよかった
この時期は忙しい上に、今年は暑いですからね……身体に気を配らねば
何はともあれ、帰って来れたようで何よりです
- 577 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/27(火) 23:20:12 ID:jQR/I4Lo
- 心配していたので連絡があってひと安心です
- 578 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/28(水) 00:40:08 ID:/IsEzPVw
- あらら……タイミング悪く不幸な目に……
本編再開までまだ時間ありますし、養生なさって下さい(往生しちゃ駄目ですよ)
お大事に
- 579 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/29(木) 20:41:53 ID:tb/GWz.s
- ★ 連絡事項 ★
第四回放送案の募集、ならびに第四回人気投票は、本日23:59:59が締切となっております
放送案の投下は仮投下スレまで ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1280058193/
人気投票は新・投票用スレまで ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1277729163/
なお、放送案が複数投下された場合は、明日の夜に投票を行います
- 580 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/30(金) 20:04:07 ID:TPH82I56
- ★ 連絡事項 ★
新・投票用スレで、放送案の投票を実施中です。
2010/07/30(金) 20:00:00〜22:59:59 投票
2010/07/30(金) 23:00:00〜23:59:59 認証
詳しい投票ルールは該当スレで確認してください。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1277729163/12-
- 581 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/30(金) 23:02:47 ID:TPH82I56
- 23:00をもって投票を締め切り、認証時間へと移行しました。
投票された方は23:59:59までに認証の書き込みをしてください。書き込みが無い場合は無効票となります。
- 582 :管理人◆4Ma8s9VAx2:2010/07/31(土) 11:42:53 ID:???
- ★ 連絡事項 ★
放送案投票の結果、第四回放送は
【C】 第四回定時放送 〜二四時間後〜 ◆W.hp1QcmWc氏
に決定しました。
詳しい票の内訳等は投票スレを確認してください。
集計に参加された方はお疲れさまでした。
この決定に伴い、放送明けの予約解禁は予定通り 2010/08/01(日) 00:00:00 (今から12時間後くらい)となります。
なお、以前に管理人スレにて連絡致しましたが、トリバレによる騙り行為が相次いであったことから
場合によっては新規トリ以外の書き手氏にも認証等を求める可能性があります。
予約される書き手諸氏は、しばらくの間は投下前に管理人からの認証依頼がないかを確認するようお願いします。
- 583 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/31(土) 12:29:27 ID:hJSLX14M
- 集計乙です。
放送が決定したとのことで、禁止エリア入りMAPを
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0437.png
一応D-4にあるクレーターを入れてみましたが、位置が違うとかもっとデカイとか別にMAPに書かなくていいという
意見があれば修正しますので言ってください
あと、仮説駅はあと一時間くらいで無くなる予定のようなですが、MAPからは消しちゃったほうがいいですか?
その他、何か意見があれば修正しますのでお気軽にどうぞ
- 584 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/31(土) 21:21:43 ID:WVsypQ52
- 消してもかまわないと思いますよ>地図 位置的に使わない場合が大きいですし。
クレーターは……個人的にはいらないかなあ。個人的には。
- 585 :名無しさんなんだじぇ:2010/07/31(土) 22:21:57 ID:hJSLX14M
- では、仮設駅とクレーターを消したバージョンを
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0438.png
仮説駅はそのままでクレーターだけ消すor仮説駅を消してクレーターは残す、なら
うpする時間込みでも1分くらいでできるので言ってくれればすぐに対応します
それ以外も要望があれば、こちらの技術で可能な範囲であれば応じますので
- 586 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/01(日) 15:02:18 ID:uY/MCnI6
- MAP投下乙です
- 587 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/01(日) 15:34:23 ID:d/nzkKbA
- 個人的にはクレーターはあったほうが場所の目安にはなりますね
- 588 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/01(日) 20:49:55 ID:YSRF/aUo
- クレーターは無くていいです
- 589 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:11:26 ID:yWSxtAhw
- ◆EvXLhHD0yY です
仮投稿から一日以上経過しましたが、本投下してもよろしいでしょうか。
- 590 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/03(火) 22:21:38 ID:4RYzQW7.
- 構いませんが、誤字の指摘を。「士郎」です。「士朗」じゃないですよ。
それとsage指定しておきましょう。E-mail欄に「sage」と入力するだけの簡単なお仕事です。
- 591 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/03(火) 22:24:30 ID:aIVrJpWM
- したらばでsageってやる意味あるのか?
自分はホロウはやってませんので詳しい所までは分かりませんが、個人的には問題ありません
- 592 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:34:02 ID:yWSxtAhw
- では、本投下させていただきます。
士郎の名前等、一部修正してある所があります。
他にも修正が必要な所があれば、ご指摘お願いします。
- 593 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:34:36 ID:yWSxtAhw
-
『夜分遅く失礼します。インデックスです』
夜空に響き渡る少女の無機質な声。
ギャンブル船『エスポワール号』に向かっていた、衛宮士郎、福路美穂子、蒼崎橙子の三人は足を止める。
この島で、これで四回目となる放送が始まった。
そして告げられる連絡事項と禁止エリア。
そして、
【ライダー】
【ヒイロ・ユイ】
【レイ・ラングレン】
【ゼクス・マーキス】
四人の死者の名前。
歯を食いしばる。
手を握り締める。
また守れなかった。
また救えなかった。
ヒイロも、ゼクスも、俺が見殺しにしたようなものだった。
何が『正義の味方』だ。
こんな様で、全てを救うなどと、よく豪語したものだ。
あの時、織田信長を倒せていたら、ヒイロは死なずに済んだかもしれない。
あの時、ゼクスと一緒に行動していたら、ゼクスは助かったかもしれない。
けれど、そうはならなかった。
ヒイロとゼクスは死んだ。
死んでしまった。
夜空を見上げる。
ただひたすらに悔しくて。
ただひたすらに情けなくて。
どうしようもない程に俺は、無力だった。
- 594 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:35:09 ID:yWSxtAhw
-
いつもの様な蔑み、罵倒、激励の後、四回目の放送が終わる。
そしてそれを待っていたかのように、俺たちに声が掛けられた。
「こんにちは、いや、今はこんばんはだな」
落ち込んでいた思考を無理やりニュートラルに戻す。
声のした方向を向けば、まだ十代半ばだろうという少女がいた。
「はじめまして。おたくらは?」
「俺は衛宮士郎。殺し合いには乗ってない」
「福路美穂子です」
「蒼崎燈子だ」
俺の後に続いて、福路、蒼崎が自己紹介をする。
それに少女は満足げにうなずく。
「なるほど。士郎に美穂子に燈子だな。
あんたらは、これからどこへ行くつもりなんだ?」
「今はエスポワールに向かってる。そこに仲間がいるんだ」
「へぇ。仲間ねえ。それってもしかして、あんたのコレかい?」
少女は小指を突き立てながらそう言った。
ピンと立てられた小指の意味。それは恋人を示唆している。
少女が言ってるのは、俺とその仲間が恋人同士じゃないか、という事だ。
俺とその仲間。つまり黒子が、俺の……恋人?
「ち、違う違う! 俺と黒子はそんなんじゃない!」
「へえ。お仲間の名前は黒子って言うのか。そうかいそうかい。
けど満更でもないんだろ?」
「だから違うって!」
「そうかい。じゃあそっちの美穂子ちゃんの方が本命かい?」
「それも違う!」
からかわれてる。
絶対からかわれてる。
その証拠に、少女はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮べてる。
これ以上追及されても困るので、無理やり話しを変える事にする。
何が困るって? それこそ返答に困る。
「あんた、男みたいな喋り方するんだな」
「ああ、これな。直そうかとも考えたんだが、生憎と性分でな」
「そうなのか」
そこまで言って、ある事に気がついた。
けれどそれが、引いてはいけない引き金だった事に、俺は気づかなかった。
- 595 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:35:39 ID:yWSxtAhw
-
「そう言えば、あんた、名前は?」
「俺か? 俺は海原光貴」
「え?」
『海原光貴』
その名前は既に三回目の放送で呼ばれてる。
何故そこで死者の名前が出てくるのか。
そんな疑問が頭をよぎる。
そしてそれは、この少女の前では致命的な隙だった。
バチリ、と火花が爆ぜる音がする。
少女の右腕が跳ね上がる。
残りのセリフが語られる。
「―――しがない戦争屋さ」
眼前には銃口。
既に引き金は引かれている。
もはや衛宮士郎では避けられない。
世界がスローモーションで流れる中、
「衛宮くん……!!」
銃声と共に、もう一人の少女の声が聞こえた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 596 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:36:07 ID:yWSxtAhw
-
その少女は、一目で言えば不思議な少女だった。
未成熟な外見。
男勝りな言動。
大人の様な雰囲気。
違和感のある挙動。
そんな、言いようのない齟齬が少女にはあった。
彼女は今、衛宮くんをからかって遊んでる。
その様子はまるで、気になる子のいる友人をからかう友達の様だった。
それと衛宮くん。そこまできっぱり否定されると、流石に少し傷つくんだけどな。
そんな、和気藹々とした雰囲気がそこにはあった。
けどそれは、衛宮くんが彼女に名前を聞くまでだった。
衛宮くんが彼女に名前を聞いた途端。
ゾクリ、と背筋が凍った。
まるで脊髄に液体窒素を流し込まれたかのよう。
既に私の両目は少女を捉えていた。
覚えのある感覚。
フラッシュバックする過去。
「衛宮くん……!!」
気づけば私は、衛宮くんに向かって走り出していた。
彼女と私。
どちらが先に動いたのかは、多分私だったんだろう。
「衛宮くん、無事!」
「あ、ああ。大丈夫」
でなければ今頃、彼は死んでいただろうから。
ボッと言う音。
それに続くように、舌打ちが聞こえた。
すぐに立ち上がって、少女がいる方向から距離を取る。
先ほどまで少女がいた場所には、凶悪な雰囲気を隠しもしない、ヒトゴロシの姿があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 597 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:36:35 ID:yWSxtAhw
-
海原光貴と名乗った少女、アリー・アル・サーシェスは、士郎が美穂子に助けられ、銃弾を避けられた直後にはもう追撃の行動に入っていた。
紫電と共に銃口を倒れ込んだ美穂子たちへと向ける。
そして引き金に掛けた指に力を入れ、
咄嗟に後ろへと回避していた。
直後、鋭い蹴りが空気を破裂させ、先ほどまでサーシェスがいた空間を穿っていた。
「チッ!!」
続く蒼崎燈子の追撃を、更に後方に跳ぶ事によって回避する。
その頃にはもう二人は立ち上がり、こちらを警戒していた。
しくじった。
最初に一人殺って、その動揺を突いてもう一人。
最後に火力勝負でもう一人、と行く予定だったのだが。
結局誰一人殺せなかった。
「あんた、なんで」
「言っただろ、しがない戦争屋だって」
少年が実に不思議そうな顔で聞いてきたので、当たり前のように答えてやる。
「戦争屋、だって?」
「そう、戦争屋だ……戦争が好きで好きでたまらないなぁ!!」
紫電を纏って突撃する。
少年も反応するが、遅い!
そのガラ空きの土手っ腹に銃口を突き付け、風穴を………ッ!!
空を切る銃による刺突。
そこには既に少年の姿はなく、
「トレース……!」
身に迫る悪寒が早急な退避を命じていた。
「オン……!!」
紫電を奔らせ、そのまま前へと回避する。
鋭い風切り音がすぐ後ろで響く。
素早く離れて振り向く。
いつの間に取りだしたのか。少年の両手には三本ずつ、計六本の刀が、奇怪な握り方で構えられていた。
- 598 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:37:50 ID:yWSxtAhw
-
「へぇ、やるじゃねえか」
「ッ………」
割りと本気の称賛を贈るも、無言の返答。
その代わりに返されるのは別方向からの鋭い蹴り込み。
それに追ずるように少年も迫ってくる。
あっちは六本の刀で、こっちは一個の拳銃。
接近戦では勝ち目がなさそうなので、円を描くように距離を取る。
そのお次には黒い泥が降ってくる。
触れたらヤバそうなのでその辺の木々を壁にする。
どうやら正解だったようで、壁にした木が煙を上げて溶けて行く。
「ひゅう、とんでもねえなソレ」
やはり返事はなし。
突撃してくる少年に試しに一発撃ってみるも、いとも簡単に弾かれる。
そのまま切り掛かられたので素早く撤退。
壁にしていた木は輪切りにされた。
更に速攻で襲って来る掌底を伏せて躱し、足払いを掛ける。
あちらは跳んでかわし、そのままの勢いで後ろ回し蹴りをしてくる。
それを頭が地面に着くほど仰け反って回避、バク転の要領で起き上がる。
また降って来た泥の雨はその辺の瓦礫で凌ぐ。
その後来る上からの刺突を避け、その大きな隙を狙わず逃げる。
思いっきり罠だと主張して見える。
直後に来るのはやっぱり燈子。
その蹴りは凄まじく、その辺の木端なら簡単に粉砕出来るだろう。
だがしかし、当たらなければどうという事は無い……!!
紫電を奔らせ紙一重で蹴りをかわす。
追撃の掌底を後方に飛びつつ左腕で受け、そこから電流を流してやる。
うまくいったのか、燈子の動きが鈍くなる。
その隙をきっちり逃さず鉛玉をプレゼントしてやる。
おかげで左腕が痛い事痛い事。
完璧に防いでこれとは恐れ入る。
骨に罅でも入ったんではなかろうか。
追いでくる黒い泥をやり過ごし、いくつか判った事を確認する。
一つ、あいつらは即席の組み合わせだ。チームプレイが成ってない。
二つ、今俺が使える程度の電流でも、スタンガン程度にはなるらしい。
三つ、衛宮士郎には、圧倒的に殺意が欠けている。切りかかる時も、致命傷になるような場所は避けている。
四つ、蒼崎燈子は危険だ。俺を殺すことに躊躇いが無く、また、何かしらの奥の手も隠しているだろう。
五つ、あの中で一番弱いのは福路美穂子だ。特異な能力を持っているようだが、恐らく元々は平和な世界から来たのだろう。
つまりはこの勝負(センソウ)、俺の勝ちだ……!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 599 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:38:31 ID:yWSxtAhw
-
「大丈夫か、蒼崎」
「問題ない。重要な血管や神経は避けている」
蒼崎は血が流れ出ている左足に、福路が持っていた包帯を巻き付けて応急処置をしている。
今あの少女は、福路の泥を避けて身を潜めている。
巧い。そう思った。
単純な強さや身体能力なら、サーヴァントや織田信長の方が圧倒的に上だ。
だが、“戦場での戦い方”とでも言うのだろうか。あいつは決して一対多になる戦いをしない。
常に俺と蒼崎を自分との直線状に置き、壁になる障害物の近くにいる。
先ほど蒼崎が当てた掌底にしても、左腕で防がれた上に、銃弾の返礼を貰ってしまった。
戦争屋とはつまり、いくつもの戦場を好き好んで渡り歩いてきたという事だ。
圧倒的な経験値の差。それが、今あの少女を倒せない最大の理由なのだろう。
このままではジリ貧になる。
撤退するか否かを蒼崎に聞こうとして、
「行くぜッ……!!」
「くそっ……!!」
銃を構え、少女が突撃してきた。
バチリ、と一際大きく少女の周囲がスパークする。
同時に響く、二つの銃声。
一つは蒼崎に、一つは俺に。
蒼崎は躱し、俺は防ぐ。
しかし、時間差で更に三つ、投擲物が飛んでくる。
それを再び六爪で防ぎ、
「……えっ!?」
ベチャリ、と音を立てて六爪にひっ付いた。
ゾクリと奔った悪寒に従い、即座に六爪を破棄。
前方に投げ捨て、後方へと飛び退く。
直後、六爪が爆散した。
(接着式の爆弾……!?)
そんな驚愕の暇もあればこそ、少女は爆炎を潜り抜け、蹴り込んでくる。
それを腕を交差して防ぐが。
「ガッ……!?」
少女の蹴りの威力ではなく、別の要因で苦痛を覚える。
まるでスタンガンでも当てられたかの様に全身が痺れる。
見れば、蹴り込んだ少女の足は帯電していた。
- 600 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:39:18 ID:yWSxtAhw
-
少女が銃を構える。
その狙いは俺ではない。
銃口はその後ろ、福路に狙いを定めている!
「福路ッ!」
福路も気付いて逃げようとする。
けど遅い。逃れようのない引き金が引き絞られる。
政庁のような時ならともかく、今の福路に銃弾を防ぐ程の能力はない。
痺れて動けない体を叱咤し、強引にその射線上に割り込む。
「ギアッ……ッ!!」
二度響く銃声。
腹に灼熱が生まれる。
傷みを無視して拳を握りしめ、目の前の驚愕している少女に叩きつけた。
「衛宮くん……!!」
殴り飛ばされる少女。
足から力が抜け、そのまま倒れ込む。
福路が悲鳴をあげて駆け寄ってくる。
怪我はなさそうでよかった。
「……ッ、このぉ!!」
福路は怒りを顕わにし、右手を振りかぶる。
それと同時に放たれた泥の量は、先ほどまでの比ではない。
さしもの少女も、逃げに専念する。
そこに、
「返すぞ。受け取れ」
どうやってキャッチしたのか。
蒼崎が先ほどの爆弾を少女へと投げ返した。
「ウゲッ! マジかよ!!」
着弾と同時に爆発。
しかし少女はいまだ健在。
爆弾が投げられるとほぼ同時に、長方形の何かを爆弾に投げつけ、誘爆させたのだ。
「衛宮士郎。動けるか」
「ああ。なんとかな」
蒼崎が隣に立つ。
足に力を入れ、辛うじて立ちあがる。
腹が熱い。生きるために必要なモノが、止め処なく零れて行く。
「私に策がある。いけるか」
「ああ。それであいつを退けられるんなら、やってやる」
「良い返事だ」
そうして聞かされた蒼崎の策に驚くが、すぐに実行に移す。
少女はすでに物陰に隠れ、機を待っている。
躊躇っている余裕などない。
大きな深呼吸を一つ。
覚悟は出来た。
- 601 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:39:42 ID:yWSxtAhw
-
―礼―
「同調、開始(トレース・オン)」
撃鉄を起こす。
全身を駆け巡る魔力。
これから行う奇抜な行為に不安がよぎる。
問題ない。
生涯にて射を外した事は、狙って外した一射のみ。
我が専心は、標的への必中にのみ向けられる。
―足踏み―
「………ッ!」
血が足りない。
腹部からの出血に、意識が朦朧とし始める。
グラリと倒れそうになる体を、福路が支えてくれた。
情けない体に活を入れる。
両足に全身の力を注ぐ。
地面に剣を突き刺すように、大地をしっかりと踏みしめる。
―胴造り―
「投影、重装(トレース・フラクタル)」
右手に剣を、左手に弓を。
それぞれ自分の知る限りで最高の物を投影する。
あまりの過負荷に、魔術回路がスパークし始める。
諸手に握られる、セイバーの剣と、アーチャーの弓。
―弓構え―
“―――己の本質を思い出せ”
そんな言葉を思い出す。
自分の本質など分からない。
けれど、自分が憧れるカタチは在った。
―打起し―
「体は……、―――」
一振りの剣。
決して揺らぐ事も毀れる事もない。
大地に深く突き刺さる、真直ぐな剣のように。
イメージするのは、そんな最強の自分(ツルギ)
だから、―――
「―――体は剣で出来ている」
- 602 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:40:12 ID:yWSxtAhw
-
―引分け―
少女が動き出した。
その手には大筒。
恐らく大砲か何かの部類だと思われる。
―会―
問題ない。
剣はすでに番えられている。
標的に中るイメージも出来ている。
―離れ―
剣という形の矢を放つ。
解き放たれた矢は黄金の閃光となる。
―残心―
瞬間―――世界が、炸裂した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 603 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:40:43 ID:yWSxtAhw
-
「撤退だ。急ぐぞ、時間が無い」
「はい」
蒼崎さんが衛宮くんを担ぎ、走り出す。
衛宮くんは矢を放った後、それが炸裂するのを見届けた途端、気を失った。
血を失い過ぎているらしい。
むしろ、今まで持った方が奇跡なのだとか。
少し後ろを振り返る。
そこには、衛宮くんが作った劫火の壁があった。
『壊れた幻想』
高い魔力の籠った物。
例えば、宝具と称されるような物に含まれる魔力を爆発させ、使い捨ての強力な兵器にする技らしい。
もちろんそんな事をすれば、使った物は壊れてしまう。
故に普通、魔術師やサーヴァントは使わない技だそうだ。
ただ、衛宮くんはその例外なんだとか。
もっとも、魔術師じゃない私には詳しい事など解らないのだが。
前へと向き直る。
蒼崎さんに担がれた衛宮くんの顔色は、刻一刻と悪くなっていく。
急いで衛宮くんを治療できる所に行かなければ。
そう思い、もう少し走る速度を上げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あんにゃろう。とんでもねえ隠し玉をもってやがった」
一人の少女が眼前に広がる炎の壁を見上げる。
その少女、アリー・アル・サーシェスは生きていた。
あの瞬間。
士郎達にバンカーバスターを撃ちこんでやろうとその身を晒した瞬間、生まれてこのかた一度も経験した事のないような、強大な死の恐怖がサーシェスを襲ったのだ。
それは恐らく、長年戦争屋として培ってきた生存本能の賜物だったのだろう。
即座に踵を反し、邪魔なモノを手放し、可能な限りの全速力であの場から逃げでした。
その直後だった。
世界が炸裂したのは。
その圧倒的な破壊力に吹き飛ばされ、気がついた時には気絶していたという有り様だった。
ただ一つだけ解っている事がある。
自分は“生き延びた”のではなく、“生かされた”のだと
それに気づいた時、その顔に浮かんだのは、壮絶なまでの喜悦の表情だった。
「まったく、これだから戦争は止められねぇ……!!」
- 604 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:41:10 ID:yWSxtAhw
-
デバイスを取りだし、マップを開く。
リボンズには市街地へ向かってくれと言われている。
市街地は此処から西へ行けばすぐだ。
だが。
「黒子、とか言ったっけ? あいつの仲間は」
衛宮士郎が仲間だと言っていた少女。
それが今ギャンブル船に居るらしい。
「そっちに行って、衛宮士郎をぶち殺してやりました、と教えてやるのも一興か」
あんな至近距離から二発もブチ込んでやったのだ。
ロクな設備のないこの島では、あの出血量は致命傷だろう。
生き残る可能性が無い訳ではないが、その確率は低いと予想している。
だが、ギャンブル船へと向かえば、市街地からは離れてしまう。
そうすると、リボンズが命令違反として、首輪を爆破するかもしれないのだ。
欲か、保身か。二つに一つ。
「さて、どっちにするかねえ」
【E-3/東部/二日目/深夜】
【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:全身打撲、左頬に腫れ、左腕の骨に罅、妹達(シスターズ)に転身状態、体内電流を操作することで肉体の反応速度を上げることが可能
[服装]:清澄高校の制服@咲-saki-、ノーブラ、首輪
[装備]:ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、コルトガバメント(7/7)@現実、予備マガジン×2、接着式投擲爆弾×7@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、399万ペリカ、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
1:西の市街地かギャンブル船、どっちかに行く。
2:D-4、E-5以西の区域で好きなように立ち回る。
3:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
4:上条当麻、デュオ、式、スザクたちには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
情報収集のためにデュオと接触する方針はとりあえず保留。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
※ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。
※シスターズの電撃能力は今のところ上手く使うことができません。
※衛宮士郎は死んでいる可能性が高いと考えています。
※特殊デバイスについて
マップ機能の他に『あちら側』からの指令が届く。
それに従わなかった場合サーシェスの首輪は爆破される。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 605 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:41:45 ID:yWSxtAhw
-
―――――――――生きる。
――――――生きる。 生きる。
―――生きる。 生きる。 生きる。 生きる。
生きる。生きる。生きる。生きる。生きる。生きる。生きる。
体が重い。
四肢に力が入らない。
意識が遠のく。
この感覚は知っている。
そうだ、これは死だ。
逃れようのない死が、近づいてきている。
十年前のように。
全てを焼き尽くした、あの赤い地獄。
助けられて逃れたはずのソレが、また近づいてくる。
ならばきっと逃げられない。
あの地獄からは逃げられない。
この身を蝕むのはそんな、どうしようもない死だった。
あの時の空を思い出す。
今にも泣き出しそうな曇り空。
ただ「空が遠いな」と思い伸ばした手。
あの時は、その手を掴んでくれた人がいた。
けれど、切嗣は死んだ。
あの月の綺麗な晩に、眠るように死んだ。
『正義の味方』は、もう居ないのだ。
だからあの時のように受け入れた。
受け入れた、筈なのに―――
―――なぜこの身体は、生きようと足掻くのか。
なぜこの心は、生きる事を諦めないのか。
- 606 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:42:07 ID:yWSxtAhw
-
……そうだ。
守りたい約束があった。
果すべき誓いがあった。
目指すべき理想があった。
これらは自分が死んでしまえば消えてしまう。
無意味で無価値な幻想(ユメ)となってしまう。
そうなるのは嫌だった。
だから。
こんな所では終われない。
こんな場所で終わるわけにはいかない。
―――生きる。
そうだ、生きなければならない。
まだ俺は、約束を果たしていない。
まだ俺は、誰一人救えていない。
まだ俺は、一人生き延びた責任を果たせていない。
衛宮士郎は、生きなければならない。
こんなところで死んでやる事なんて出来ない。
命を掛けて果さなければならない誓いがある。
だから俺は、生きる……………!!!!!
それを、
“―――オマエが、オレのマスターになるのなら”
何か、得体の知れないモノが、
“―――契約が続く限り、その望みを叶えてやろう”
聞き届けてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 607 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:42:34 ID:yWSxtAhw
-
象の像より地下通路に入る。
隠し扉は壊され、その先の通路が露わになっていた。
壊され方から見て両義式だろう。
その先の遺跡へと一気に駆け進む。
その道中。
福路美穂子にこれからするべき事を伝える。
「福路美穂子。この先にある遺跡にて、衛宮士郎の治療を行う。
その際、お前の身に刻まれた疑似魔術刻印の一部を、衛宮士郎へと移植する」
「え、それって……どういう……」
「魔力とは即ち、生命力だ。
それを魔術回路によって変質させたモノを、我々魔術師は魔力と呼ぶ。
故に、魔力による生命力の補完は容易だ。
そしてお前の身に宿る無尽蔵の魔力を以って、衛宮士郎の生命力を底上げする」
「……ッ! だ、駄目です、こんなモノを衛宮くんに使うわけにはいきません!!」
その意味に気付いたのだろう。
自身の体内の魔力を使う事は、アンリマユを使う事と同義である事に。
当然のこと、福路美穂子は猛然と反発してくる。
しかし。
「他に方法は無い。
衛宮士郎の出血量は甚大だ。既に命に係わっている」
「で、でもそれなら輸血とか、他に方法が……!」
「不可能だ。輸血用の血液も無く、専用の器具も無い。
更には手段を選択している余裕も、無い」
理詰めの会話。
福路美穂子には、選択の余地などない。
それでも、福路美穂子は躊躇いを見せる。
『アンリマユ』の毒性を正しく理解しているからこそだろう。
しかし。
今この場に、他に方法が無いのもまた、否定できない現実なのだ。
衛宮士郎の命を助けたいのなら、衛宮士郎の心を賭けなければならない。
長い沈黙の後、福路美穂子は絞り出すように言った。
「………ッ、分かり……ました」
「それでいい。遺跡につき次第、術式を開始する」
命は失ってしまえばそれまでだ。
だが心は、自分のように取り戻す可能性もある。
福路美穂子はその可能性に賭けたのだ。
自分より強い心を持つ衛宮士郎が、この悪意の猛毒に打ち勝つ事に。
福路美穂子の返答に満足し、その速度を上げる。
そして今此処に、蒼崎燈子、否、荒耶宗蓮の策は成った。
- 608 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:42:57 ID:yWSxtAhw
-
実を言えば。
ここまでの状況は荒耶宗蓮の策の内だった。
その策とは即ち、
衛宮士郎に重傷を負わせ、その治療と共に福路美穂子と接続する。
というものだ
もちろんその采配は天に任せた所が、多分にある。
アリー・アル・サーシェスが接触してくるかどうか。
衛宮士郎、福路美穂子の両名がその戦いを生き残れるか。
そして、
衛宮士郎が生存可能な、ぎりぎりの重傷を負うかどうか。
無論、サーシェスが接触してこなければ、そのままエスポワール号まで向かったし、みすみす二人を死なせるつりもない。
そして衛宮士郎が福路美穂子を、その身を呈して庇う事も判っていた。
荒耶にとって一番の賭けだったのは、衛宮士郎が負う怪我の度合。
もしそれが軽過ぎれば簡単な治療で済んでしまうし、重過ぎればそのまま死んでしまうからだ。
そして荒耶宗蓮は、この賭けに勝った。
遺跡まではもう間もなく。
福路美穂子も説き伏せた。
あとするべき事は、衛宮士郎を治療し、福路美穂子と接続する事だけだ。
魔術師、荒耶宗蓮はまた一歩、『根源』への道を踏破した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 609 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:43:36 ID:yWSxtAhw
-
「ここは……」
何も無い場所。
美しいまでに透き通った暗黒の鏡面。
終わりも始まりも存在しない、無間に続く虚ろな揺籠。
天(ソラ)に輝く巨大なステンドグラスだけが、この常闇の世界を照らしている。
衛宮士郎が気付いた時には、既にこの世界に居た。
ふと、視界の隅に赤い影がよぎる。
振り向けばそこには、あまりにも見知った姿があった。
黒いボディーアーマーに、赤い外套。
褐色の肌と白い髪に鷹を思わせる鋭い目。
遠坂凛のサーヴァントだった男がそこにいた。
「アーチャー!? なんでここに!?」
他にも、
鉛色の巨人。
長い紫の髪の女性。
紫のローブを被った女性。
そして、
蒼いドレスに銀の甲冑。
黄金の聖剣を携えた、砂金の髪に聖緑の瞳。
忘れない。忘れる事など、出来る筈がない。
「セイ、バー……」
そこには、自らの剣であった少女がいた。
- 610 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:44:02 ID:yWSxtAhw
-
「ようこそ、この何も実らぬ無垢の楽土へ」
「ッ……!」
唐突に背後から、気配も無く声を掛けられた。
弾かれるように振り向く。
そこには、誰でもない“何か”がいた。
異状なまでの存在感と、異状なまでの現実感のなさ。
……見ているだけでおぞましい。
あんな“何か”に話しかける事など、決して、人間に出来る事ではない。
セイバー達の姿はもうない。
元々幻だったのか、あるいは別の何かだったのか。
今この場には、あの黒い影のような“何か”しかいない。
故に話しかけなければならない。
あれに話しかけなければ始まらない。
ここから出る事も、生き残る事さえも。
あの“何か”こそが、この世界の主なのだ。
咽喉がカラカラに乾く。
体を恐怖が雁字搦めにする。
足が縫い止めたれたみたいに動かない。
それら全てを振り来て、あの“何か”に話しかけた。
「……あんた、一体“何”だ」
「おお! よくぞ訊いてくれました!」
のっぺらぼうの影がニヤリと笑う。
表情など無いのに、その感情表現は何よりも明白だった。
「オレはアヴェンジャー。復讐のサーヴァントだ。
だが、おまえが聞きたいのはそんな事じゃないよな。
おまえはオレに“何”だと訊いた。
実にいい質問の仕方だ」
何が楽しいのか、目の前の影、アヴェンジャーと名乗った“何か”はケタケタと笑っている。
いやまて、こいつは今何と言った?
アヴェンジャー。復讐のサーヴァントだって?
遠坂から聞いた話に、そんなクラスのサーヴァントは存在しない。
ならば、目の前のサーヴァントだと名乗る、この得体の知れない“何か”は何だ!?
口に出してなどいないのに、その疑問に“何か”は答えるように言った。
「オレはおまえ達が“悪”と呼ぶ存在。
あるいは“悪神”。
あるいは“悪魔”。
あるいは“英雄”。
あるいは“怪物”。
あるいは“聖杯”。
そして、」
いつの間に近づいたのか。
すぐ目の前、あと数センチ近づけばぶつかる距離に“何か”がいた。
笑っている。哂っている。嗤っている。心の底から可笑しそうに、ワラッテイル。
その“何か”は俺の腕をガシッと掴み、
「―――オレは“おまえ”だ」
ゾクリと、自分が自分でなくなる感覚がする。
見れば、俺の体が四肢の末端からバリバリと、おぞましい異形へと変形し始めている。
それに比例するように“何か”の影が散霧する。
「ヒアッ……!?」
その異状な事態、異状な感覚に悲鳴を上げる。
俺が俺でなくなっていく。
黒いナニカに染められていく。
衛宮士郎という存在が壊れていく。
「―――ここに契約は完了した」
俺の全身が異形に変わるのと同時に、“何か”の顔が顕わになる。
肌や髪は黒い。
奇怪な刺青が全身に浮びあがっている。
けれど見間違いようもなく、
「―――さあ、おまえ(オレ)の願いを叶えよう」
――――――“俺”がそこにいた。
- 611 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:44:42 ID:yWSxtAhw
-
「―――ア、アア、アアア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
ガバリと、空襲にでも遭ったかのように跳ね起きる。
両手を見る。
異形じゃない。
“俺”の手だ。
ちゃんと自分が自分である感覚がある。
「ッ、ハァ……ハァ……ハァ……」
息が上がっている。
心臓(こどう)が治まらない。
全身が汗で濡れている。
「ハァ……ハァ……。
ッ、ハァ……、……あれは夢、だったのか……?」
手で顔を覆う。
汗で濡れた服が気持ち悪い。
あの生々しい感覚を思い出す。
「そうか、……夢か。
はは……。そうか……良かった……」
心からの安堵を吐き出す。
アレがただの夢とは思えない。
けれど、少なくとも現実ではないらしい。
- 612 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:45:53 ID:yWSxtAhw
- ふと、自身の状態に違和感を覚える。
外見は、先ほど確認した限りでは問題ない。
ならば内面。魔術師としての領分だろう。
「……同調、開始(トレース・オン)」
魔術回路を起動する。
すると回路には、溢れんばかりの魔力が流れている。
この魔力はどこから?
更に深く意識を向ける。
張り巡らされた魔術回路。
その深部に、未知の回路が増設されている。
「これは……?」
この膨大な魔力はそこから流れてきているらしい。
そこに更に意識を向け、その流れを辿る。
するとそれは自分の隣。
「福路……?」
福路美穂子から流れて来ていた。
彼女は今、眠っている。
先ほどの叫び声でも目覚めないほど深く。
一体何があったのか。
今この身を流れる魔力は、その大半が福路からのものだ。
その魔力量は、あの聖剣を十発撃っても余りあるほど。
けど同時に、何か良くないモノも流れ込んでいる。
多分、福路が抑えてくれているのだろう。
その量は非常に微々たるもので、通常の魔術行使に影響はなさそうだ。
だが。これは呪詛だ。
人が持ちうる悪性を濃縮して、そのまま純化させたような猛毒だ。
そして恐らくこれが、福路がああなってしまった原因の一端だろう。
「―――アヅッ……!?」
それに反応するかのように、左手の甲に激痛が走った。
まるで焼き鏝を当てられたように熱い。
あまりの激痛に意識が飛びそうになる。
歯を食いしばって痛みの発生源を見る。
「そんな……!?
なんで、なんで令呪が……!!」
左手の甲に刻まれた、三画の模様からなるそれは。
間違いなく、聖杯戦争におけるマスターの証だった。
“―――オマエが、オレのマスターになるのなら”
早鐘のようだった心臓が停止する。
体中の神経が断絶し、血液が凍る。
まるで死体のように動けなくなる。
あの夢の最後に見た“自分”が、嗤っているような気がした。
“―――契約が続く限り、その望みを叶えてやろう”
- 613 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:46:19 ID:yWSxtAhw
-
【F-2/遺跡内部/二日目/深夜】
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 疲労(大)、全身打撲(治療中)、全身に軽い切り傷(治療中)、背中に火傷、額に軽い怪我(処置済み)、軽い貧血、アンリ・マユと契約?(美穂子経由)
[服装]: 穂群原学園制服(上着なし、ボロボロ)
[装備]: 落下杖(故障)
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、 伊達政宗の眼帯、
基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカード(残金5100万)
[思考]
基本:主催者へ反抗する。黒子と共に生きてこの世界から出る。
0:黒子の所に急ぐ。
1:令呪に対する強い疑問。
2:福路美穂子や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
3:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
4:秋山澪と合流する。
5:首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す。
6:黒子を守る。しかし黒子が誰かを殺すなら全力で止める。
7:福路のことも、どうにかして助けたい。
8:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする。
9:一方通行、織田信長、黒い魔術師(荒耶宗蓮)への警戒心。
10:夢で見た“何か”に本能的な恐怖心。
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
※白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。
※「剣」属性に特化した投影魔術を使用可能。
今後、投影した武器の本来の持ち主の技を模倣できるようになりました。
※現在投影可能である主な刀剣類:エクスカリバー、カリバーン、六爪、打ち刀
※『壊れた幻想』が使用可能になりました。
※イリヤが主催・人質である可能性には現状全く思い至っていません。
※エスポワール号に向かう三人(藤乃、黒子、衣)の名前と外見的特徴を得ました。
※東横桃子、平沢憂、ルルーシュが殺し合いに乗っていることを知りました。
※福路美穂子とラインが繋がれました。実質的に、無尽蔵な魔力行使が可能です。
アンリマユによる精神汚染は、現在はありません。
ただし、多量の魔力を使用した時や、福路美穂子に何かが起こった時は、その限りではありません。
※サーヴァント・アヴェンジャーと契約しました。
その顕現方法は、後の書き手にお任せします。
※残り令呪:3画。
ただし、通常の令呪ではないため、衛宮士郎の意思による使用は出来ません。
※片岡優希のマウンテンバイク@咲-Saki-は政庁跡に放置されています。
- 614 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:46:50 ID:yWSxtAhw
-
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:アンリ・マユと契約、左腕欠損(処置済み)、疲労(大)、睡眠中
[服装]:黒いロングドレス (ボロボロ)、穂群原学園男子用制服(上着のみ、ボロボロ)
[装備]:聖杯の泥@Fate/stay night、折れた片倉小十郎の日本刀
[道具]:支給品一式*2、伊達政宗の首輪、包帯×4巻、999万ペリカ
ジーンズとワイシャツその他下着等の着衣@現実
[思考]
基本:自分自身には、絶対に負けたくない。失った人達の分まで勝利を手にしたい。
1:ただ己が正しいと信じたことを為し遂げる。
2:衛宮士郎や蒼崎橙子(荒耶宗蓮)と同行する。
3:蒼崎橙子(荒耶宗蓮)は信頼しきっていない。
4:「魔術師」「魔力」などの聞きなれない言葉を意識。
5:死した人達への思い。
6:衛宮士郎に対する罪悪感
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています。
※死者蘇生はレイニーデビルやアンリ・マユを用いた物ではないかと考えています。
※アンリマユと契約しました。
今は精神汚染を捻じ伏せています。
※エスポワール号に向かう三人(藤乃、黒子、衣)の名前と外見的特徴を得ました。
※東横桃子、平沢憂、ルルーシュが殺し合いに乗っていることを知りました。
※衛宮士郎とラインが繋がれました。
衛宮士郎に流れる呪詛の量は、福路美穂子の精神状態に影響されます。
※所持していた六爪はエリアD−5のビル郡に散らばりました。
【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:オレンジ色のコート
[道具]:凛のペンダント(魔力残量:極小)@Fate/stay night
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
0:ひとまずはエスポワール号へ向かう。
1:士郎と美穂子の保護と櫓の状況を確認すべく、いったん身体を休められる場所、および工房に向かう。
2:周囲の参加者を利用して混乱をきたし、士郎の異界を式にぶつける。
3:美穂子を士郎の魔力ブーストとして使う。
4:体を完全に適合させる事に専念する。
5:信長を利用し、参加者の始末をしてもらう。
6:必要最小限の範囲で障害を排除する。
7:利用できそうなものは利用する。
[備考]
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
※海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※A-7の櫓に、何かしらの異常が起きた事を察知しました。
※バーサーカーを倒したのは、ルルーシュであると確信をしています。
※何か強力な武器が手に入ったら、信長に渡す約束をしています。
※一方通行の異常に気付きました。
※イリヤが黒幕である事を知っています。
[備考]
※E-3/東部にて大規模な爆発が起きました(エリアを超える程ではありません)。
どの程度まで爆音が響いたかは、後の書き手にお任せします。
※濃姫のバンカーバスター@戦国BASARAは破壊されました。
E-3/東部の爆心地に残骸があるかもしれません。
- 615 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/03(火) 22:48:35 ID:yWSxtAhw
- これで、本投下を終了します。
繰り返しになりますが、修正などのご意見があればお願いします。
- 616 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/04(水) 01:36:24 ID:CBYQhPeU
- 投下乙です
あらやんの策が成ったか……
士郎、それやべえよ!
- 617 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/04(水) 19:31:29 ID:QEsKeRgc
- 我慢できる優しい悪魔キター
こいつ人間相手には無敵だから実体化できれば結構やば…くないなよく考えりゃ
信長は英雄枠だろうし主催サイドの妹達はイノベイトだしで『人類に対する絶対殺害権』生かせる相手が一般人どもしかいねえw
- 618 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/04(水) 19:42:34 ID:FikaOT9M
- 信長は戦国BASARAからの参加者だからマダ『人間』のカテゴリーに入るんじゃないんですか?
士郎・・・頑張って生存してくれ
- 619 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/04(水) 21:08:39 ID:W.4eesgg
- 投下乙です
遂に士郎と美穂子のバイパスが繋がったか……
そしてアヴェンジャー……彼奴の宝具は完全に対一方さん向きだが、果たして……
- 620 : ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:24:18 ID:hh.btTtA
- リボンズ・アルマーク、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを本投下します。
- 621 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:24:57 ID:hh.btTtA
- ●
――――――聞かれたことにはすべて答えたわよ。これで満足?
――――――ああ、分かったよイリヤスフィール。君たち魔術師の思想とやらが、僕には全く理解できないことがね。
――――――そうでしょうね。わたしも、理解されたいとは思わないわ。
――――――ああ、君たちの考えは理解出来ないが……君たちが求めるそれが何なのかは十分わかったよ。
――――――え?
――――――あらゆる望みを叶えるんだろう?聖杯は。
――――――………………
――――――そして君は、聖杯の器としての役割を果たしたいと望んでいる。
――――――貴方が、その望みを叶えてあげるとでもいうの?
――――――願望器として死ぬことを望んだ君がこの世界に現れ、叶えてやれるだけの力と、望みを持つ僕と出逢った。
――――――これは運命だと思わないかい?
〇
- 622 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:25:48 ID:hh.btTtA
-
うっすらと、眼を開ける。
霞がかった視界に映るのは相変わらずの闇。
闇には様変わりも色褪せもなく、覆い尽くす幕であり続ける。
現実に光を閉ざされた空間にいるのか、それともあくまで概念的な暗さなのかは判別できないが、
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは闇に居座っていた。
今のは、夢だろうか。懐かしい記憶を観た気がする。
いや、懐かしい、とはどれくらい前のことをいうのだろう。
一年前だったか、半年にも満たない出来事だったのか。
“はじまり”はいつだったか。そんなことさえもうよくわからない。
この殺し合いが始まった時からか。
そのための準備を始めた時からか
彼と出逢った時からか。
死を、初めて恐れた時からか。
別に、なんでも構わないだろう。
既に、自分の命はかき消える寸前。
じきに時間の感覚はおろか自我すら消えて飛ぶ身だ。
イリヤスフィール自身が動くべきことは終え、することといえばたまに歌を紡ぐのみ。
今を自由に生きられず、未来に希望もないのなら、過去に思いを馳せるしかないのも自然だ。
だから私は思い起こす。このバトルロワイヤルのはじまりのおはなしを。
2人が「共犯者」となったはじまりを。
この地獄の釜を作り出したはじまりを。
おわりのはじまりを。
- 623 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:26:22 ID:hh.btTtA
-
●
――――――………………
――――――うん?おかしい点はあったかい?まあ所詮は素人の空想だ。無理と笑われても仕方のないことだろうけど―――
――――――いえ、理論そのものは有望よ。細部を手直しすれば実現は可能だわ。必要な材料と手間を省けばね。
――――――なんだ、それなら問題はないじゃないか。必要なものは取ってくればいいだけだろう。
――――――簡単に言ってくれるわね。けど―――ええ、それでいいわ。
――――――そうか。では早速準備に取り掛かろうか。時間は多くないからね。
――――――……少し呆れてるわ。断片的に話しただけのことでここまで机上の空論を思い付くだなんて。
――――――お褒めの言葉として受け取っておくよ。さあ、はじめようか。
――――――ええ―――聖杯戦争を、続けましょう。
〇
- 624 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:27:12 ID:hh.btTtA
-
必要なのは、世界を渡るための門である。
2人がこの計画のために動き出して最初の課題は安定した平行世界への移動だった。
イリヤスフィールの行った移動はかなりの力技に近い。負担も不安も非常に過多だ。
この「準備期間」には時間制限がある。イリヤスフィールの限界という遠くないリミットが。
リボンズらイノベイダー―――イノベイドの技術であるナノマシンによる治療で幾らかは持ち直したが、
イリヤスフィールの肉体はこれ以上―――聖杯戦争以後の生命活動を考慮されてはいない設計だ。
やがて訪れる限界を押し留めただけであって、本体の生命としての寿命を延ばすことは出来ない。
そのため、なるべく早急にそれらを克服できる手段が求められた。
そしてそれに適合するであろうものを、リボンズは知っていた。
ヴェーダ。
ソレスタルビーイングのミッションプランの提示。
一型情報端末イノベイドの生産。
世界の変革の道を指し示すために生み出された演算処理システム。
数百年世界を記録し続けた圧倒的な情報量。人の想念すらもデータ化する光速の演算機能。
それは、一つの小さな聖杯といってもよかった。
その量子コンピューターにイリヤスフィールの意識をアクセスさせ、『魔法』のデータをとめどなく入力した。
もたらせられた全く未知のデータを律儀に、貪欲にヴェーダは読み込んでいった。
理解不能のバグとして処理されたものもあったが、それでも丹念に租借を続け、
ヴェーダは入力された「イリヤスフィールの魔術理論」の記録を完了した。
これにより、明文化された「平行世界の運行方法」の作成に―――多分に荒削りながらも―――成功し、
以前よりは運行が安定させることができた。
いわばイリヤスフィールという海原を往く船の航海図を、ヴェーダに書かせたのだ。
最古の魔術と、最新の科学との結合。
イリヤスフィールを、聖杯を造り出したアインツベルン家が聞けば卒倒しかねない所業だ。
魔術に関しての矜持など持ち合わせず、あくまで数ある手段の一つとしてしか見なさないリボンズならではの行為だった。
そうして、2人は目的の地に辿り着いた。
神を殺す野望を秘めた男が統べる世界、神聖ブリタニア帝国に。
思考エレベーター。またの名をアーカーシャの剣。
嘘にまみれた世界に生きた男が、「嘘のない世界」を作り出すために生み出した、神を殺す剣。
求めたのはその為の神座へ至る門。
全ての人の記憶、過去の死者の想念すらも集まっている集合無意識。
Cの世界、集合無意識と呼ばれる存在とアクセスするための装置だった。
ある意味で、そこはイリヤスフィールら魔術師にとっての悲願の地でもある。
そしてそこは、その性質上世界の「外」に近い地点だ。
現実では届かない離れた世界に辿り着く、土台という名の仮想空間。
ここでならば、より少ない労力で平行世界への運行が可能となる。そうリボンズは目を付けた。
しかして、その目論みは功を奏した。
平行世界への運行の際のイリヤスフィールの消耗が下界での行使よりも格段に抑えることができた。
そればかりか他の世界を「観測」する程度なら、ほぼリスクなしで行えるようにもなった。
こうして、世界を繋ぐ門が製造された。
門をくぐる先は、枝分かれした数多の世界。
根を張り巡らせた大樹のごとく、2人は搾取を開始した。
- 625 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:27:42 ID:hh.btTtA
-
●
――――――受理しました。これより『聖杯降霊』のための知識を『一〇万三〇〇〇冊の魔導書』から検索します。
〇
- 626 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:28:30 ID:hh.btTtA
-
必要なのは、忠実な駒である。
言うまでもなく、この計画は2人だけで遂行できるものではない。何に於いても数とは重要だ。
思考エレベーターとヴェーダによって負担は多いに削減できたものの、結局は先延ばしに過ぎない。
それに情報の秘匿性においても群を抜く。
こんな計画に好き好んでやってくるような人種は希少だろうし、強制させた人員などたかが知れている。
多量で、リボンズらの命令に絶対かつ精確に動く、優秀な兵隊が即座に必要だった。
そんな余りに都合のいいものが―――どうやら存在していた。
学園都市第3位「超電磁砲(レールガン)」のクローン体、妹達(シスターズ)。
能力は「欠陥電気(レディオノイズ)」、性能はオリジナルの1%にも満たないが、
出力5万ボルトの電撃、外付けの装置での経験、技術の獲得、対人戦闘なら十分に通用する。
同一の脳波パターンを利用した脳波ネットワーク、そしてそれらを統括できる「上位個体」。
どれもがリボンズの目的にかなったものだった。
連れ去ったのは数体のサンプルのみだ。
理由は複数ある。
流石に残数約1万機をまとめて攫っていくのは無理があったこと。
既に日常生活で経験を得た個体が何らかの疎意を見せることを防ぐこと。
なにより元の世界、即ちイノベイドの技術での量産を行うことに大きな意味があった。
イノベイドはヴェーダに造られた人型の情報端末である。
あくまで機械であり自律行動ができないヴェーダに代わり現実世界の情報を送り込む機能がある。
それはヴェーダを介しての情報の共有、支配が可能ということでもある。
これは、妹達の脳波ネットワークに共通するものが多い。
リボンズはこれらを組み合わせて己の意のままに動かせる兵を産み出すことを思いついた。
まず、捕獲したサンプルの塩基配列パターンをヴェーダに登録させる。
そして全個体に全く同じ脳構造に整理した人格、思考パターンに設定し生産を開始した。
学園都市の技術が2000年代の30年先というのならイノベイドの技術は300年先だ。
新たなサンプルの介入による初期の不具合を越えれば、実にスムーズに行えた。
本来妹達の「ミサカネットワーク」は同じ脳構造を持つクローン同士でなくては情報のやり取りに介入できないが、
このミサカ達はイノベイドとして造られたため、接続されているヴェーダを介してリボンズも妹達が集めた情報を共有することができる。
ヴェーダなら情報処理にも事欠くこともない。
また、副次効果としてイノベイドの体を構成するナノマシンで個体の身体能力の上昇にも繋り、
これによりイノベイド製超能力者として妹達の量産が完了した。
同世界に10万3000冊の魔導書、禁書目録(インデックス)がいたことも福音だった。
かねてより魔術分野をイリヤスフィールに一任していたのは不安があった。
他世界での魔術法則の食い違いも懸念されていたし、その考証として非常に役立つ。
自由に制御できる装置が仕込まれていたのも実に都合がいい。
イリヤスフィールの補佐としてはまさに適任であった。
優れた「駒」と「助手」を得、超越者たちは旅を続ける。
目指す先は、更なる高み。
- 627 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:28:54 ID:hh.btTtA
-
●
――――――此処は。私は。
――――――やあ、目覚めたかい?
――――――何者。
――――――そうあからさまに敵意を見せないでくれ。気持ちは分かるがね
――――――聞きたいことは山ほどあるだろうがまずはこちらの問いに答えてもらいたい。それによって君のこれからの処遇が変わるからね。
――――――………………
――――――分かってくれたようでなにより。では問おう。君は、何者だ。
――――――魔術師、荒耶宋蓮。
〇
- 628 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:29:36 ID:hh.btTtA
-
必要なのは、霊地を整える魔術師である。
この時点で万能ともいえる力を有したリボンズだが、それでも彼の心は満足に及ばなかった。
全ての基点となっているのはイリヤスフィールであることは依然変わってない。
彼女が死ねば、今まで溜め込んできたものはその殆どが無為に化す。
それはリボンズにも、イリヤスフィールにも望ましくはない事態であった。
そのための儀式、そのための新たな聖杯戦争。
そのための、聖杯降霊の霊地を必要とした。
だがイリヤスフィールに整えさせるにはやはり負担があるし、禁書目録自身に魔術はほとんど扱えないため、
新たな魔術師、それも結界や陣地作成に長じた人材が必要だった。
そうして目的に適う者を探り出している最中、彼は現れた。
網にかかった得物を掬うように。
海から引き上げられた大魚のように、のっそりと。
それは聖杯に接続したヴェーダが検索項目に該当した人物を引き出したからなのか。
それとも、無に落ちても融け切らない程の強靭な意思が吐き出された結果なのか。
頭髪からつま先まで黒に染められた装束。
目は険しく、苦悩に満ちた顔は永遠に解けない命題に挑む賢者のように深く、昏い。
現れた男にリボンズは問い、イリヤスフィールは問い、男は答えた。
何度かそれを繰り返し、リボンズはこの男が目的に足り得ると感じ、協力を申し出た。
男は、それに応じた。
目覚めるまでの間は刹那か、久遠か。
そうして魔術師、荒耶宋蓮は新生した。
- 629 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:30:09 ID:hh.btTtA
-
●
――――――今……!何と言った……ッ?
――――――聞いてなかったのかい?目の前の相手の話を聞き逃すとは、君の仕事に対する姿勢とはそんなものか。
――――――それとも、こんな小娘の話など聞く耳持たぬ、とでも言うのかい?
――――――い、いや……!聞こえていた。一語一句漏らさず俺の耳には入っていた……!
――――――だが、余りに内容が常軌を逸していて……済まないが、もう一度確認したい……!
――――――まあ、仕方ないかな。いいだろう、もう一度言うよ。
――――――現在、帝愛グループは僕が実権を握った。そして君をその総帥の椅子に座らせてあげよう。
――――――……………ッッッ!!!
――――――条件はただひとつ。これから僕が行うあることに協力を惜しまないこと。それさえ済めば、帝愛グループは完全に君のものだ。
――――――それは……何だ……ッ?
――――――何、か。そういえば名称を考えてなかったな。そうだね―――『バトルロワイヤル』、というのはどうだい?
〇
- 630 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:30:51 ID:hh.btTtA
-
必要なのは、資金を調律するための企業である。
魔術であろうと、科学であろうと、現の世界で事を起こすにはどうしても費用というものが付いて回る。
世界移動についても荒削りであり等価交換の法則からはまだ抜け出せていない。
よって、世界規模で金を回せるような大きな団体が必要だった。
それに選ばれたのが、かの帝愛グループである。
世界に通じるだけのコンツェルンに、幾つもの非合法、非道なギャンブルに手を染めている企業。
狂気の沙汰を起こそうとも、知る者からは新たなギャンブルとしか見なされない。
隠れ蓑として利用するにはうってつけのものだった。
頭を垂れないだろう現総帥の兵藤和尊と、その片腕利根川幸雄を蹴落とし、
操るのに都合のいい人物として、帝愛傘下の遠藤勇次を後釜に仕立て上げた。
そして改革を終えた後、常軌を逸した超人を絡めた極限状態での殺し合いショーとして「バトルロワイヤル」を企画した。
当初は流石に何人か訝しげだったが、幾らか「実演」した結果、すぐさま手のひらを返し、
大勢の好事家達から大金を調達することに成功した。
企画を提案したのは帝愛が存在する世界だけでない。
他にも把握できるだけの他世界に帝愛と、それを催すバトルロワイヤルを紹介し、
資金と、その世界における独自の技術と兵器を効率よく手に入れることもできた。
殺し合いと回りくどい手段になったのはその為。
客受けを良くし、資金と資材をより集めやすくするのと、本来の目的を覆い隠すカモフラージュとして。
経緯こそ違えど、それは儀式から殺し合いへと姿を転じたかつての聖杯戦争と似通っていた。
僅かな皮肉を織り交ぜながら、物語は紡がれていく。
全てが始まる日まで、あと僅か。
- 631 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:31:12 ID:hh.btTtA
- ●
――――――とまあ、こういうわけだ。どうだね、この「バトルロワイヤル」を、君の手腕でプロデュースしてみないかね……!
――――――何を馬鹿な事を。こうして有無を言わさず連れてきた時点で私に拒否権などある筈もないのに。
――――――そんなことはない。君は拒否する権利がある。無論、その後はしかるべき処置を取らせてもらうが。
――――――それを選択肢がないというのです。……仕方ありません、お引き受けしましょう。
――――――ククク……!聡明な君ならそう言ってくれると思っていたよ、ディートハルト・リート……!
――――――お褒めに預かりなにより。―――ご心配なく、やれと言われた以上妥協はしませんよ。
〇
- 632 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:31:44 ID:hh.btTtA
-
そこから、計画は仕上げへと入っていった。
当初の計画の立案の大半はリボンズが率先していた。
イリヤスフィールから聞き及んだ情報を基に彼がプランを組み、それを再度イリヤスフィールが検分し、修正を計る。その繰り返しだ。
構成員が増えるたびに作業を分業していき、
最終的に魔術分野を荒耶と禁書目録、科学分野をリボンズが主に担当していった。
更に追加として、スポンサー連中のご機嫌取りと番組編集係として敏腕プロデューサーと可憐な少女たちを、
聖杯戦争の監督役として任を置いていた神父を招き入れた。
前者のプロデューサー―――ディートハルト・リートと少女たち―――原村和、および宮永咲に関しては遠藤の入れ知恵だ。
これらをエンターティメントとして成立させるには、こうしたスタッフが必要不可欠とのことらしい。
俗物の考えは俗物のみが知りえる、としてリボンズは許容した。こういった面を含めて彼を登用したのだから。
それと、もう少し魔術分野の人材が欲しいということで忍野メメという術師が新たに雇われた。
腕は十分にあり金で動くプロでありながらどこか胡散臭い雰囲気を持つ男である。
あまり詳細は伝えないまま、抑止として荒耶との共同作業にあたらせた。
重要な部分は先の幹部級の者と情報漏洩のない妹達で管理し、
雑事は遠藤指示の元黒服で着々と進行していった。
殺し合いを行う会場も整備が整った。
参加者の監視と、力量のバランス調整、脅しと予防策も兼ねた首輪。
会場全体へと仕掛けた結界による2重抑制。
そして物理的に会場を封鎖した閉じた楽園。
参加者がどれだけ力を引き出そうとそれを抜けることは叶わない。
仮に抜け出せたとしてもそこに待つのは黒い闇、暗い死だ。
必要な資材、機械の搬入が完了し、
残された最後の作業、「参加者の選別」に入った。
イリヤスフィールの限界点かつ、願望器として実現可能な世界の孔の数としてヴェーダから提示された世界の数は12。
そのうち大半は今まで渡ってきた世界から選び抜いてきて、残りは5。
そこからは、多様性に富ませる、という点を覗けばほぼリボンズの趣向と気まぐれで決まった。
己の世界と似た、ガンダムで世界を変革させようとした世界。
辺境の惑星で巻き起こるボンクラ達の世界。
街の中でひしめく『怪異』の世界。
群雄割拠、弱肉強食、戦国乱世の世界。
神秘も科学も一切存在しない、本当に平凡な世界。
普通でありながら、どこか常識の枠から外れた法則の世界。
呼び寄せる人間は各世界につき5、6人。
合わせて64名の贄がここに揃えられた。
選定を終え、参加者を連れ去り、終に殺し合いの幕が上がる。
鮮血の血飛沫をファンファーレに、ここに『バトルロワイヤル』は開始された。
血と死骸にまみれた蟲毒の壺。黒より濃い紅海。ハリボテの空。
開幕直後より鮮血乱舞、烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に付す。
その経緯は、周知の通りの地獄絵図。
- 633 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:32:10 ID:hh.btTtA
-
●
――――――準備は出来たかい?
――――――ええ、小聖杯の設定も変更を終えたし、召喚の用意も整ったわ。あとはもう、合図を待つだけよ。
――――――そうか。これまでご苦労だったねイリヤスフィール。感謝してもし切れないよ。
――――――……それはどうも。
――――――もう君の手を煩わせることはない。あとは僕らに任せていればいい。
――――――ええ……そうさせてもらうわ。
――――――成就までの約2日間、ゆっくりと休んでくれたまえ。誰もが死に尽くし、君が壊れる、その最期まで。
――――――ええ……そう、そうね。もう―――終わりなのね。
――――――シロウ。
〇
- 634 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:32:37 ID:hh.btTtA
-
―――そうして、リボンズ・アルマークは内省を終えた。
意識は光と光と光に包まれた空間にて過去を俯瞰し、過ちがないかを確認する。
この計画を進めてから、常にこうして情報の整理をするのが彼の日課になりつつあった。
殺し合いが始まってからは、放送の度に定期的に観察をしている。
逆説的に言えば、定期交信の際の隙を放送が補ってるといえるだろう。
その姿は遠藤達に見せた妹達の体のまま。
未成熟な肢体に、そこだけ別生物のように輝く金眼。
決して己の姿を捉えられまいとする用心深さからくるものか。
それとも、彼本来の―――リボンズ・アルマークとしての肉体は、どこにもないのか。
思えば、長い道のりであった気がする。
年月で数えればおよそ一年足らず。
不老の存在である彼にとっては瞬きのような短さだが、その密度に於いては過去に並べるべくもないほどに濃い。
違う理に住む聖女との出逢いは滅びの運命にいたこの身を救いだしてくれた。
かつて利用していた男から天使と呼ばれた自分だが、彼女こそまさに彼の天使だろう。
だが、己は天に幸を授けられるだけの存在ではない。
翼の折れた天使を拾い上げ、天界への道を示させた。
彼女が天使なら自分は紛れもなく天を使う者、即ち神の座に就く者に他ならない。
そして手に掴んだ聖なる杯。中身が注がれる時も、間もなく訪れる。
およそ24時間。その間に41の命が殺し合いの中で消えた。
あと半日以内には、確実に決着が付いてるだろう。
その時聖杯は成り、真なる万能の願望器を以て、己の願いを成就させる。
時は近い。
おわりは近い。
はじまりは、近い。
- 635 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:33:26 ID:hh.btTtA
-
【???/???/二日目/真夜中】
【リボンズ・アルマーク@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:???
[服装]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:聖杯を用いて望みを叶える。
?:妹達とサーシェスを通じて運営を円滑に進める。
[備考]
※妹達と情報を共有しています。各妹達への上位命令権を所持しています。
※妹達はイノベイドの技術によって新造された個体です。
※具体的な望みがなにかはのちの書き手にお任せします。
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]:限界に近い
[服装]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:聖杯としての役割を果たして、優勝者の望みを叶える。
1:この殺し合いを完遂し、優勝者の望みを叶える。
2:それまでは死なない。
3:リボンズの望みを叶える。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から一年経過程度です。
- 636 :はじまりのおはなし ◆0zvBiGoI0k:2010/08/04(水) 21:33:52 ID:hh.btTtA
- 以上投下を終えます。
- 637 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/04(水) 21:48:33 ID:.8lTUuf2
- 投下乙です
あらやんは賭けに勝ったな
ヤバいフラグが立ったか
こっちはこっちで二人のこれまでの行動と心のうねりがよく書けてるよ
なるほど、地獄の始まりの始まりはこうだったのか
それにしても残りの世界を選別したリボンズの感性ってどんなんだろう?
よく判らんw
- 638 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/04(水) 21:53:18 ID:.8lTUuf2
- ごめん、抜けてた
一方さんはマーダーなのに解除フラグ立ててるな
そしてそっちにスザクが来るかどうかは…
信長は信長でそっちは…黒子組がヤバい
- 639 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/04(水) 21:55:18 ID:.8lTUuf2
- あ、仮スレと間違えた…orz
- 640 : ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:42:12 ID:4ygncR3w
- 一方通行、織田信長、これより投下いたします。
- 641 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:42:49 ID:4ygncR3w
- 『【ライダー】
【ヒイロ・ユイ】
【レイ・ラングレン】
【ゼクス・マーキス】
以上、4名です。残り参加者は22名となります。
これをもちまして、私からの連絡事項の通達を……』
早くも四回目となる定時放送。
淡々と死者の名を告げるそれに、一方通行は微笑を浮かべつつ耳を傾けていた。
最初は忌々しく思えたというのに、その面影はまるで感じさせられない。
もはやその声には、慣れすらも覚えてしまったのだろうか。
(おいおいおい……何だよ、こりゃぁ?)
そんな彼が、この放送に対して感じた疑問は三つ。
まず一つ目は、これまでの放送と比較すれば誰でも気付く事ではあるが。
(たった四人しか死ンでねぇだと?
幾らなんでも、ペース落ちすぎだぜ……!!)
死者の数が、圧倒的に減少しているのだ。
十人越えがもはやデフォルトと化していただけに、これはとんだ肩すかしだ。
では、どうしてこうなったかと言えば、その理由は至極簡単。
殺し合いに乗った人間の数が減少したか、そう易々とは殺せない実力者ばかりが残り始めたか。
あるいは……その両方かだ。
これは、主催打倒を目指す者達にとっては喜ばしい情報であり。
優勝を目指す者からすれば、同時に警戒すべき事でもあるだろう。
しかし……事、一方通行に関しては、僅かながら事情が異なる。
- 642 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:43:15 ID:4ygncR3w
- (レイの野郎は兎も角、後の三人は……
全員、俺の目の前でくたばった奴じゃねぇか)
そう、一方通行は名を呼ばれた四人全てを知っていた。
その内で唯一、レイのみは彼の預かり知らぬところで死んだのだが。
しかし、後の三人に関しては……全員が、一方通行の目の前で死しているのだ。
―――スザク達からはライダーとかいう名前で聞いていた、ボディコン女。
もはや死に体であったその身に、一方通行はトドメの一撃をぶちかました。
―――あのクソうぜェ女がヒイロって呼んでやがった、ゼクスの仲間。
信長を潰す為、見事な自爆を決めた。
―――そして……ゼクス。
勝つ事の意味を遺言として残し、目の前で爆殺した。
四人中二人、実に半分は一方通行がその命を奪った。
また、ライダーに関しては放っておいても死んでいたであろう重傷を負っていたが、
それは現場の状況からして信長か、ファサリナかヒイロかがやらかしたのだと容易に想像が出来る。
そして、後者の二人は殺し合いには乗っておらず、ヒイロは信長と己の存在が死に追い込んだ。
一方、レイに関してなのだが……どういう事か彼の死体は、スザクから奪ったデイパックの中にあったのだ。
死因は、胸部にある銃創を見ればすぐに分かる……心臓をぶち抜かれての即死だ。
銃撃、それも急所である心臓をピンポイントに撃ち抜いたとあれば、誤射であるとは考えにくい。
ならば、レイの死には少なくとも一人―――殺し合いに乗った人間が絡んでいる可能性が高い。
- 643 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:43:39 ID:4ygncR3w
- (そういりゃ、死体といえば……気になンのはこいつだな)
さて、ここで一方通行は少し考えを切り替えた。
死体と言えば気になるのが、スザクの持ち物の中でも最も特異と言えるソレ。
もう一つ収まっていた、一方通行もほんの数分だけだが会話を交わした男―――アリー・アル・サーシェスの骸だ。
(……おかしすぎンぜ、こりゃよ)
この死体、一方通行からすれば不可解にも程がある。
まず一つ目は、本来あるべき首輪が何故かこの死体には無かった事。
それも、首を切り落として取り外したのなら兎も角、顔と胴体は繋がったままだ。
もしかすれば、首輪を何かしらの方法で解除したのかもしれない。
最初、一方通行はそんな希望にも近い考えを持ってしまったが……すぐにそれを否定する。
死体の首輪が幾らか機能を失っている事は、既に調査済みだ。
ならば、例えばテレポーテーションの能力者が実験的に首輪を外したという可能性も、十分ありうるだろう。
故に、この問題に関してはそう簡単に答えを出す事は出来ないが……はっきり言って、これは些細な事だ。
何故ならば、もう一つ……首輪の件よりもずっと、無視できない問題があるのだから。
(この野郎……どうして、放送で名前が呼ばれてねェんだよ?)
そう、アリー・アル・サーシェスの名前は放送で呼ばれていないのだ。
こうして死体が目の前にあるにも関わらず、だ。
これは流石に、奇妙なんてレベルではない大きすぎる矛盾。
主催側の手違いで、生死についての判別がつかなくなったのだろうか。
いや……そんな温いミスを、主催側が犯すとも思えない。
だとすれば、一体何があるというのか。
- 644 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:44:03 ID:4ygncR3w
- (妹達みたいな、本人そっくりのクローンって事か?)
ありえるとするなら、この死体がサーシェス本人ではないという事。
彼に似た、クローンの様な何者かという事だ。
妹達という存在を知っている一方通行にとって、そう考えるのは容易い事だった……が。
(……いや、首輪の事も含めりゃやっぱおかしい。
偶然にしちゃ、流石に重なり過ぎてるぜ)
しかし、そうだとはやはり断言できない。
何せこの死体には首輪が無く、しかも放送でその名を呼ばれていない。
ここまで奇妙な重なり合いとなれば、単なる偶然とは言い切りにくい。
この死体に何かもっと深い意味があるのだと、どうしても思わせてしまう。
(チッ……駄目だな、流石に材料が少なすぎる。
この死体の事は何か分かるまで放っておくしかねぇな……アリー・アル・サーシェス。
こいつ……一体、何者なンだよ?)
しかし、ここでは考えようにも少々推理材料が欠けている。
この死体に関しては、何でもいいから情報を集めなければ、解決の仕様が無いだろう……
ただ、このまま放置するには不気味すぎる為、いずれかは謎を解き明かさなければならないのだが。
それまで、この奇異極まる死体は当分デイパックの中に封印だ。
それによる、言葉では上手く言い表せない漠然とした不安を、感じつつではあるのだが……
―――この時、一方通行は夢にも思わなかっただろう。
―――己が抱いた『妹達みたいなもの』という考えが、実はかなり的を得ていたとは。
―――アリー・アル・サーシェスが、その『妹達』の肉体を得て生き延びていようとは。
―――それも、殺し合いを目論む首魁の介入によるものだとは。
- 645 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:44:26 ID:4ygncR3w
-
――――――彼が抱いた、言葉に表せない不安は……間違いではなかったという事だ。
◇ ◇ ◇
(となりゃ、当面の問題は……)
さて、ここで一方通行は考えを戻し、ある事について頭を悩ませた。
この第四放送では、先に告げたようにたった四人しか死亡しておらず。
その四人中三人の結末を彼は見届けている……その結果、ある厄介な問題が持ち上がるかもしれない。
(もう殺し合いに乗ってンのは、俺と信長以外じゃ最悪たった二人しかいねぇって事か?)
それは最悪の場合、ここまでの生き残りでかつ殺し合いに乗っているのは、一方通行自身も含めてたった四人しかいないという事だ。
加えて、その場合は内一人が誰なのかは簡単に答えが出せる。
それはライダーと行動を共にし、一方通行自身も交戦をした能力者らしき相手―――藤乃という名の女に他ならない。
その名前はまだ放送では呼ばれておらず、今もなお生き延びている事は間違いない。
ちなみに、ここで彼が三人と判断しなかった理由は、言うまでも無くレイの死因。
殺傷能力の高い能力を持つ藤乃が、わざわざ銃殺という手をとるとも思えないが為である。
(ハッ……こりゃ、残ってる連中はもっと早く仕留めなきゃならねェな、オイ?)
この仮定が真実ならば、能力制限を持つ一方通行にとっては少し不利な状況だ。
何せ生存者22名中、殺戮者がたった4名。
流石に効率が悪すぎる……長期戦にならざるを得ないのはもはや必然である。
また、この仮定が外れていたとしても。
死者の状況からして、殺し合いに乗った人間の数が少なくなってきているのは事実だろう。
ならば、これより求められるのは迅速な殺人。
よりスピーディに、よりスムーズに。
そして……より確実に、相手を殺さなければなるまい。
- 646 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:44:58 ID:4ygncR3w
- (ああ……能力の無駄使いは避けてぇ。
確実に、ブチ殺したって確認できる状況ってのは大事だよな)
それは、一方通行がこの放送を聞いて覚えた、二つ目の疑問。
呼ばれるだろうと思っていた名前が、放送で呼ばれなかった事。
予想とは裏腹に死を避けた参加者が、一人だけいたという事実だ。
(あの怪我で生き伸びてやがるたぁ思わなかったぜ、スザク……?)
枢木スザク。
放送の少し前まで一戦交えた相手であり、一方通行は反射の能力で彼の脚の骨を折り、ゴム弾で肋骨を叩き折った。
その挙句、追いつめられたスザクは苦肉の策として自らの片腕を鉈で切断し、大量出血の末に逃走……
誰がどう見ても、瀕死の重傷に違いない筈の身だった。
事実、一方通行も直に野たれ死ぬのがオチと思っていた。
しかし、その予想を裏切ってスザクの名は放送では呼ばれなかった。
辛うじて放送を乗り越え、その後に息絶えたか。
それとも、幸運にも誰かが助けて手当てをしたか、重傷ながらも根性で生き延びているのか。
考えられる可能性は幾らかあり……そして。
もし彼が今も『生きている』ならば、その行動パターンを読む事は難しい事じゃない。
(ならよ……当然、テメェはここに向かってンだよなぁ)
一方通行は地図のある一点を睨み、そこにスザクが向かっている、あるいは既に到着していると半ば確信した。
それは、ここより僅か1エリア離れただけの施設にして、この会場で唯一傷の治療が行える場。
即ち、E−7……薬局だ。
まさかあの重傷で、スザクが治療を蔑ろにするとは思えない。
こうして近場に施設がある以上、そこへ向かわない理由があるだろうか?
あるとするなら、それは彼が死にたがりだった場合ぐらいだ。
そして、この話は何もスザクに限定したものではない。
戦闘における負傷、今後それを治す為にも薬局に立ち寄る者は必ずいる筈だ。
(ああ……首輪にある魔術礼装ってのをぶち壊せる奴だって、例外じゃねェ……!!)
そして一方通行の狙いは、死に体のスザクだけではない。
いや、寧ろスザクより本命はこちら……
首輪にかかる魔術礼装、それを破壊できるであろう者の存在だ。
それさえ見つける事が出来れば、首輪の解除へと一気に近づく事が出来る。
もっとも、そんな都合の良い人間がいればの話にはなるが……
- 647 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:45:19 ID:4ygncR3w
- (ところがギッチョンってかぁ?
それっぽいのがいやがんだよなぁ……それも二人もよ!)
一方通行の望みを叶えられる人間は、彼が知る限りこの会場内に少なくとも二人いる。
―――力を"殺せ"ば、そんなものあってもなくても同じことだからな。
一人は、両儀式。
この会場内においては唯一、一方通行の反射をぶち破り直接的な攻撃を加えてきた存在だ。
具体的にどの様な能力を保有しているかは知らないが、「力を殺す」という言を信じる限り、十分な可能性がある。
―――歯を喰いしばれよ最強、俺の最弱は……ちょっとばっか響くぞ!!
そして、もう一人は一方通行にとって深い因縁を持つ相手―――宿敵といってもいい―――上条当麻。
もはや彼の能力については、説明するまでも無い。
信長が放つ瘴気ですらも打ち消すその右手なら、魔術礼装の破壊を成す事は恐らく訳ないだろう。
唯一問題点があるとすれば、彼等が必ずしも薬局に現れるとは限らない事だが……
両儀式は兎も角、上条当麻に限っては十分可能性がある。
何せ、彼は困っている者を放っておけない底無しの御人好し……
怪我人を背負ってくる姿を想像する事など、実に容易いではないか。
(イイぜイイぜイイぜッ……!!
三下どもが、待ってやがれよ。
テメェ等はこいつを外す為に、散々利用しつくして……)
力も回復し、状態は万端。
デイパックを手に、一方通行は民家の外へと迷わず踏み出した。
主催をぶち殺す突破口……それがついに、見えてきた。
(襤褸雑巾のように、捨ててやっからよォッ!!)
今……彼の感情はこれ以上無いまでに高ぶっていた。
- 648 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:46:06 ID:4ygncR3w
- 【D-5 南部/二日目/深夜】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(完成)
[服装]:私服
[装備]:パチンコ玉@現実×大量、アンチスキル用ニニ口径ゴム弾拳銃@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式×4、缶コーヒー各種@現実×多数、首輪×3(アーチャー、利根川、ゼクス)、
H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数5/12発/)@現実、3499万ペリカ、おもちゃの双眼鏡@現地調達、
真田幸村の槍×2、H&K MP5K(SMG/40/40発/)@現実、その他デパートで得た使えそうな物@現地調達、ピザ×10@現実
Draganflyer X6(残バッテリー約10分)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実、士郎の首輪解析メモ
デイパック(サーシェスの死体入り)、ノートパソコン@現地調達、オレンジハロ@機動戦士ガンダムOO、9mmショート弾(14発)
救急救命セット@現実、柳刃包丁@現実、工具一式@現実、雑誌@現実×多数、真田幸村の首輪、 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実
タバコとライター@現実、ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、ドラグノフ@現実(10/10)、
GN首輪探知機@オリジナル、平バール@現実、麻雀牌@咲×31個、ユンケルスター@現実×8
コンビニの商品多数(内容は後の書き手さんにお任せします)
[思考]
基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。
1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)。
2:このゲームをぶっ壊す!
3:薬局へ向かい、参加者を待ちかまえる。
もしそこに居たのならば、死に体のスザクは仕留めておく。
4:首輪を解析する。首輪を解除出来たらあの女(荒耶)をブチ殺す。
5:魔術礼装破壊の為、上条当麻もしくは両儀式と接触。
能力を利用した後にブチ殺す、特に上条当麻は絶対に殺す。
6:サーシェスの死体について、何か情報を集めてみる。
[備考]
※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
※ライダーの石化能力・藤乃の念動力の制限・信長の瘴気・荒耶の魔術(不完全)を分析しました。
※橙子(荒耶)の名前は知りませんが、首輪の魔術礼装の作者ではないかと考えています。
※ゼクスから士郎が解析した首輪の構造情報を入手しました。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
※当麻と式の力で、首輪の魔術礼装をどうにかできる可能性があると判断しています。
※最悪の場合、生存者の中で殺し合いに乗った人間は、己を含めて四人しかいないと予想を立てており、
その内の二人は織田信長と浅上藤乃であると判断しています。
※サーシェスの名前が放送で呼ばれなかった事には、死体に首輪が無かった事も含めて、
何か厄介な裏があると見ています。
- 649 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:46:40 ID:4ygncR3w
-
◇ ◇ ◇
「……あの小僧……」
一方通行が民家を出た、そのタイミングだった。
放送を聞いた織田信長は、進撃をすべくデパートより地上へ降り立とうとして。
途中の階より、窓を通して一方通行の姿を確認していた。
一度ならず二度までも、魔王に牙を向けてきた忌まわしき餓鬼だ。
しかし信長は、墳怒の念が沸々と沸き上がるのを感じつつも、敢えてそれを見逃した。
いや、幾らかは見逃さざるを得なかったと言えばいいだろうか。
「……是非も無し」
そうした理由は簡単。
姿こそ確認できども、距離が流石に離れ過ぎていたからだ。
信長がいる階層は、残念ながら地上よりまだ離れている。
その手に銃器の類があるなら兎も角、騎士剣一つでは距離的に攻撃を仕掛けるのは不可能だ。
こうなれば地上に降りてから直接仕掛けるしかないが、その前に一方通行は大きく移動しているだろう。
一応、ここから飛び降りるという大幅なショートカットルートもあるにはあったが……
それを実行しなかったのは、あの魔人の言葉があったからだろう。
「荒耶宗蓮……貴様の言葉に偽りあらば、命無き者と思え」
先の放送直後、荒耶が示した方角。
即ち西方において参加者が集まっているという話を、信長はこれより確かめようとしていた。
これは既にそれなりの時間が経過している現状、一見無意味な行動に思える……ただし。
それは、この第四回放送さえ無ければの話だ。
「その真偽、この目で確かめてみせようぞ」
信長もまた、一方通行程ではないにせよそれなりに考えていた。
たったの四人……死者の数が、片手で数えるほどにしかいなかった事について。
荒耶が言う、信長が望む殺戮には程遠い結果だ。
これが彼に、僅かながらの疑念を荒耶に対して抱かせていた。
- 650 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:47:05 ID:4ygncR3w
- しかし、かといって完全には疑う事も出来ない……何せだ。
―――殺戮を望むのならば、この方角に向かうがいい。
荒耶の言葉には、その方角に殺戮者がいるという旨など一切無い。
あくまで、殺戮を望むならば行けという指示に過ぎなかった。
ならばこれは、西方に殺し合いを良しとせぬ集団がいるとも、単純に取る事が出来る。
無論、信長同様に皆殺しを目的とする者がいた可能性も零ではないが……
だからこそ、信長は事実を確かめる為に動こうとしていた。
西にその様な集団がもしあるというならば、現在地的に考えて、確実にぶち当たれるからだ。
しかし、もしそれが無ければ……荒耶の命運は、決まったも同然と言えよう。
「西方浄土とは、よく言うたものよ……!!」
学園都市最強の能力者、一方通行が薬局を目指し南下を始めたのに対し。
第六天魔王織田信長は、西へとその歩を向ける。
今や生存者の中でも一・二を争う危険人物となった両者は、同じ地点より拡散して動き始めたのだ。
双方共に潰し合いという、他者にとって都合の良い展開は一切起こらず……
真逆の結果として、死の恐怖はより広い範囲へ振りかかろうとしている。
全ては、殺し尽くさんが為に。
【D-5 デパート出入り口/二日目/深夜】
【織田信長@戦国BASARA】
[状態]:ダメージ(中)治療済み
[服装]:ギルガメッシュの鎧
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し。
1:荒耶の言葉を確かめるべく、西に向かい参加者を皆殺しにする。
2:荒耶は可能な限り利用しつくしてから殺す。
3:首輪を外す。
4:もっと強い武器を集める。その為に他の者達の首をかっきり、ペリカを入手する事も考慮。
5:高速の移動手段として馬を探す。
6:余程の事が無ければ臣下を作る気は無い。
- 651 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:47:25 ID:4ygncR3w
- [備考]
※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。
※ルルーシュやスザク、C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。
※視聴覚室の遮光カーテンをマント代わりにしました。
※トランザムバーストの影響を受けていません。
※思考エレベータの封印が解除されましたが、GN粒子が近場に満ちたためです。粒子が拡散しきれば再び封印されます。
※瘴気によって首輪への爆破信号を完全に無効化しました。
※首輪の魔術的機構は《幻想殺し》によって破壊されました。
※具体的にどこへ向かうかは、次の書き手にお任せします。
※荒耶との間に、強力な武具があれば譲り受けるという約束を結びました。
※荒耶からの情報に不備があった場合、問答無用で殺すつもりでいます。
- 652 :拡散スルハ死ノ恐怖 ◆X5.tKUFx82:2010/08/07(土) 01:47:51 ID:4ygncR3w
- 以上、投下終了になります。
- 653 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/07(土) 18:23:29 ID:ADfe.rtk
- 投下乙です
ここはニアミスかあ……
考察する黒一方さんが何か新鮮だ
……これはあらやん、やばくないか?
- 654 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/07(土) 18:28:38 ID:D5BPcNpc
- 投下乙です
マーダー二強が動き出したけどどうなるやら
薬局に向かうキャラがそもそも出るかどうか
それと確かにあらやんがヤバいような
- 655 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/07(土) 21:37:28 ID:xKpT32hM
- 燈子→橙子
宋蓮→宗蓮
この間違い多いよね
- 656 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/07(土) 21:40:13 ID:7xGNahpY
- 投下乙です
マーダーが動き出して最終局面に近づいてきた感じだなぁ
信長、一方を倒せるかどうかが鍵だな
- 657 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:29:00 ID:vcvz0GLk
- インデックス、忍野メメ、宮永咲
本投下します。
- 658 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:29:44 ID:vcvz0GLk
-
「少し、質問を宜しいでしょうか」
その少女に話しかけられた時、彼女――宮永咲が感じたモノは恐怖と、そして僅かな疑問だった。
その時、咲は自室のベッドの隅で膝を抱え、小さく丸まって震えていた。
血で汚れた制服は新しい物が支給され、鼻血もすでに止まってる。
腹部はまだ痛むが、我慢が出来ないほどでもない。
それでも黒服の男に与えられた恐怖と、その男の身に起きた出来事が、咲を未だに怯えさせていた。
「お腹、いたい……。
ひっく……。のどかちゃんに、みんなに会いたいよぉ〜」
ただ小さくつぶやかれる泣き事。
今も何処からか聞こえてくる、小さな歌声も響かない。
咲の心はもう、限界だった。
そんな時だった。
コンコン、と小さくドアがノックされたのは。
ビクリと肩が震える。
先の恐怖に心が締め付けられる。
また嫌な事になるのではと体が縮こまる。
そしてゆっくりと扉が開かれ、白い修道服を着た少女――インデックスが入って来た。
そのすぐ後に言われた第一声が、先の言葉だった。
咲が彼女について知っている事は少ない。
せいぜいが、主催者の仲間の一人で、六時間毎の放送を任されている、という事ぐらいである。
そんな彼女が自分なんかに何の用なのか、咲にはまったく解らなかった。
咲が返答に窮していると、インデックスはどこからか折りたたみ式の小さなテーブルを取りだした。
それにまたどこからか取り出した白い布を掛け、その上に一つの見慣れたケースを置く。
「これって、麻雀牌?
なんでこれを?」
「今の貴女は軽い恐慌状態に陥っています。
その状態では私の質問に対し、正確な返答を頂けないと判断しました。
故に、貴女にとって日常的な物事。つまり麻雀によって、その安定化を図ります」
「麻雀、出来るの?」
「基本的なルールは記憶しています。問題はありません」
機械的に返される返答。
けれどその内容、麻雀を行う事を、咲は拒否しなかった。
前回のとは違う、普通の麻雀をしている間なら、嫌な事を考えずに済むと思ったからだ。
- 659 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:30:13 ID:vcvz0GLk
-
ジャラジャラと牌が混ぜられる。
対局はすでに後半。
その間、咲は一度もアガル事が出来ずにいた。
「麻雀、強いんだね。やってた事あるの?」
「いえ、麻雀を行ったのは今回が初めてです」
「へ?」
その事に素直に感心し、気になった事を聞いてみればそんな回答が返って来た。
咲はその衝撃の事実に絶句する。
その様子を見かねたのか、インデックスが勝てる理由を教えてくれた。
「私は“完全記憶能力”を有しています。
その為、私は一度認識したモノを決して忘ません。
それは直接見聞きしたモノは勿論の事、僅かでも認識可能な範囲にあるモノなら、総ての事象に適用されます。
そしてそれは、どんなに精巧に作られた麻雀牌であっても、例外ではありません」
「へ、へぇ〜……」
よく理解できなかった咲は、曖昧に返事をする。
要するに、どの牌が何の牌か、見れば判ると言う事なのだろう。
とりあえずはそう考え、すごいなぁ〜、と感心する。
「つまりそれって、今の私の手牌がわかるって事だよね」
「はい。その通りです。
ついでに言えば、現在の貴女の手牌は順に、万子が117、索子が69、筒子が4888、四風牌が東、三元牌が中中中、と成っています。
いつも通りの嶺上開花狙いですね」
「うぐっ」
大当たりである。
そこまで判るのなら、勝てないのも道理であろう。
咲がインデックスに勝つには、天和などを除けば、完全な運によるツモしかない、という事である。
咲はその反則じみた状況に、泣く泣く牌を切るしかなかった。
- 660 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:30:45 ID:vcvz0GLk
-
「………………友達とは、何でしょうか」
「え、友達?」
その後、結局一度も咲がアガル事はなく、対局も最終局に突入した。
その時、インデックスが不意を突くような形で訊いてきた。
咲は思わず手を止め、インデックスに訊き返した。
「……どうして、そんな事を聞くの?」
「第四回放送前に、諸事情により天江衣と接触しました。
その際、彼女に言われました。『私と友達にならないか?』、と。
こちらを惑わせる甘言とは、天江衣の人物像からは考え難いでしょう。
ならば何故その様な事を言うのか、私には理解が出来ませんでした。
当初は考えない様にと務めたのですが、気が付けばその事を考えてしまいます。
このままでは業務に支障が出かねないので、早急な解決を検討した結果、天江衣の友達である貴女に訊くのが適切であると判断しました」
「そうなんだ。ころもちゃんが………」
止まっていた手を進める。
友達とは何か。
言われてみれば何なのだろう。
部活の皆は、うん。友達だって言える。
けどそれは、気がつけば友達になっていた、という感じだ。
友達は何かって言う答えにはならないと思う。
「う〜ん…………。
ごめんね、よくわかんないや」
「そうですか」
インデックスの表情は変わらない。
けれどその様子は、何処か落胆しているように感じられた。
だからだろうか。
私は纏まらない思考を集めて、一生懸命考えて言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 661 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:31:16 ID:vcvz0GLk
-
「う〜ん…………。
ごめんね、よくわかんないや」
「そうですか」
その答えは、インデックスにとって予測できた答えの内の一つだった。
『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』全てに該当項目がなかったのだ。
もとより正確明瞭な答えなど期待していなかった。
だからこの事はここで終り。
これまで通り、なるべくその事を考えない様にしよう。
自分に与えられた役割、存在理由を果す為に。
そう考えた時だった。
「けどね、私にとっての友達は、ここの人たちみたいな嫌な事を考えないで、一緒にお話や麻雀を楽しく出来る人たちの事かな」
「……一緒に…………?」
「うん。だからね、きっところもちゃんも、甘言とかそんなんじゃなくて、インデックスさんと一緒に遊びたかっただけなんじゃないかな」
「一緒に……遊ぶ…………」
ノイズ――――――
『はい。 。半分こ』
『―――、―――』
『これがガッコー生活かぁ。いいないいなぁ』
知らない筈の記憶を思い出す。
知らない場所、知らない光景。
そこで私は、知らない誰かと歩いている。
―――ザッ――――――
「私ね、麻雀、最初はあんまり好きじゃなかったの。子供のころ、家族麻雀でお年玉取られてばっかりだったから。
けどね。のどかちゃんや、部活のみんなが……あ、のどかちゃんはね、私の一番の友達なんだ」
「一番の………ともだち……………」
ノイズ――――――
『よく分かんない。でも友達』
『―――――――――』
『よく分かんなくても■■■■は友達だもん!』
そんな筈はない。
知らないなんて事はありえない。
私は“完全記憶能力”を有している。
ならば私は彼女を知っていなければならない。
―――ザァーーーッ―――
「うん、一番の友達。
のどかちゃんやみんなが居てくれたから、私は麻雀を好きになることが出来たんだよ。
だから、のどかちゃんもころもちゃんも、みんな私にとって大切な友達なんだ」
「……たいせつな………………」
ノイズ――――――
『あの……ボタン押さなくちゃ』
『ありがとう。あなた、名前は?』
『……私、――――』
“思い出せ”。私は彼女を知っている。
『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』にはない。
ある訳がない。魔導書はあくまで魔術を記録するモノ。
魔術ではないモノを探そうと思うのなら、その外側を探しだせ。
―――ザザァーーーーーーッ
- 662 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:31:43 ID:vcvz0GLk
-
―――『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』“以外”から『ともだち』を完全一致で検索開始。
所要予定時間約30秒。…………………………………………………………………
………………………………………………………………ファイルプロテクトを確認。
プロテクトを構成する情報より、未知及び既知の複合魔術式による封印と推定。
ファイルプロテクト?
何故そんなモノが……。
いや。今それは後回し。
情報の取得を優先する。
―――『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』によるハッキングの後、再検索を開始。
所要予定時間約70秒。………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………検索終了。該当項目、一件。
……そうだ。彼女は、私の、たいせつな、トモダチ――――――
「……………………ひょうか……………………?」
―――ガギッッッ
「ッ……………………!」
再びこめかみに鋭い痛みが走る。
呼吸が乱れ、思考が乱れる。
痛い。苦しい。何故。
「? インデックスさん、どうしたんですか?」
「ッ……いえ。何も問題はありません」
宮永咲を心配させない様に、外見上は平静を保つ。
その裏で、自身に何が起こったのかを確認する。
―――ファイルプロテクトによる攻性障壁を確認。
これ以上のハッキングは危険と判断。
以降の検索はプロテクトの解除後を推奨。
なお、取得した断片情報により、封印されているのは自己の記憶と推定。
ファイルプロテクトと攻性障壁。
私の記憶を封印し、それを思い出そうとする事を阻害している。
つまりはそう言う事か。
何故、何の為に。
私は一体―――
「あっ、ツモ、嶺上開花!
やった! 最後に一回だけだけどアガレたよぉ」
「……おめでとう御座います。宮永咲さん。
元気も出たようでなによりです」
「うん。ありがとう」
宮永咲は無邪気に喜んでいる。
確かに、前回、彼女が行った麻雀の時と違う。
前回、彼女は勝利したというのに嬉しそうではなかった。
そして今回は、敗北したというのにとても嬉しそうだ。
命が掛っていないからだ、と言ってしまえばそれまでだが、それでも違うと思う。
「いたっ……」
「どうしました?」
「なんでもないよ。大丈夫」
「ふむ……」
そう言えば、彼女は黒服の一人に暴行を加えられたそうだ。
そしてその際に起きた事象で、恐慌状態に陥ったのだった。
「少々待っていて下さい。すぐに戻りますので」
そう言ってインデックスは、宮永咲の部屋から退室した。
- 663 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:32:08 ID:vcvz0GLk
-
それから五分くらい経っただろうか。
インデックスが戻って来た。
ただし、一人の男を連れて。
「どうしたんだい、シスターちゃん? こんな所まで連れてきて。なにか用なのかな?」
「いえ。貴方自身には大して用はありません。
人手が必要でしたので、たまたま近くにいた貴方を呼んだだけです。
それよりも、依頼した仕事は進んでいるのですか?」
「ああ、それなら大丈夫。半分は終わらせたからね。
ここに寄ったのは休憩さ。キッチリ働くのも悪くないけど、根を詰め過ぎると逆効果だからね」
「そうですか。進んでいるのであれば、問題ありません」
あれから依頼された作業の、残りの内二つを済ませた忍野メメであった。
彼は休憩の為に飛行船に戻った所をインデックスに見つかり、ここへと連れて来られたのだ。
「あの、インデックスさん。その人は」
「彼は忍野メメ。私達からの依頼を受けて、働いて貰っている人物です」
「やあ。初めまして、お穣ちゃん」
「こちらこそ初めまして。宮永咲です」
「ああ、君がおっぱいちゃんの友達だね」
「はい? おっぱいちゃん?」
忍野メメの変わった呼称に、咲は首を傾げている。
きっと誰の事を言っているのか判らないのだろう。
確かにあんな呼称では、胸が大きければ誰でも適用出来てしまう。
仕方ないので助け船を出す事にする。
「原村和の事です。
それより、忍野メメ」
「はいはい。それで、僕は何の手伝いをすればいいのかな?」
「彼女に治癒魔術を行使します。貴方はその協力をしてください」
「りょーかい。でもいいのかい? 勝手にそんな事をして。上に判断を仰いだ方がいいんじゃないの?」
「……必要ありません。彼女は原村和に対する人質です。彼女に後遺症等が発生した場合、原村和が反旗を翻しかねません。
上層部とて、それは避けたい状況でしょう」
「そう。君がそれでいいんなら、僕もそれで構わないよ。
さ、始めようか」
これは建前だ。
けど、ならば本音は何か、と聞かれると、自分にも判らない。
そしてそれは、忍野メメにはすぐに分かったのだろう。
その事を一言も洩らさず、忍野メメは準備に入る。
「ではこれより、治療魔術を開始します。
貴女は気を落ち着かせ、安静にしていて下さい」
私も続く様に準備に入った。
- 664 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:32:51 ID:vcvz0GLk
-
「……………………。
術式終了。力場を拡散します」
部屋に満ちていた圧迫感がなくなる。
それと同時に咲は自分の状態を確認する。
「わぁ、すごい! 痛いのがなくなっちゃった」
無邪気に喜ぶ咲。
怪我はちゃんと完治出来たようだ。
もう訊くべき事もない。
本来の業務に戻ろう。
「では、宮永咲さん。私はこれで失礼させて頂きます。
それと、麻雀の道具一式は、このままここに置いておきます」
「うん。ありがとう、インデックスさん!」
「……………………」
“此処”に来てから感謝されたのは初めてだ。
どう返したらいいのか判断がつかない。
何も言わず部屋の出口まで歩いて行く。
その時、咲から話しかけられた。
「あ、そうだ。インデックスさん」
「……何でしょう」
「私と、友達になりませんか?」
友達。
天江衣が言ったのと同じような言葉。
多分、意味も同じ。
ならば私の答えは―――
「……………………………………………………………………………………考えておきます」
「そっか。うん、お返事、待ってるね!」
「はい。分かりました」
熟考の末の返答。にしては曖昧な答えだ。
多分。私の中で答えが出ていないからだろう。
けど、そんな事には目もくれず、咲は待っていると言った。
ならばちゃんと返事をしなければ。その為に、答えを見つけなければ。
そう考えながら、私は彼女の部屋を退出した。
- 665 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:33:17 ID:vcvz0GLk
-
飛行船の廊下を歩く。
後ろには忍野メメ。
何故か未だについて来る。
「……私に何か」
「いや、何も。でも、君の方があるんじゃないのかな。訊きたい事」
私が忍野メメに訊きたい事。
特筆しては無い。
詰問するべき事はあるが、現状では明確な証拠がない。
はぐらかされて終わるだろう。
「現時点では何も。……ですが、そうですね。
参考程度に訊いておきましょう。
友達とは何ですか?」
「友達、ねえ。
ごめんねシスターちゃん。僕はほら、“普通”の友達がいないからさ。君の望む答えをあげることは出来ないかな」
ならば“普通”じゃない友達とは何なのか、とは訊かない。
というか、どうやら訊いた相手が悪かったらしい。
それ以前に、世間一般で言う“普通”に該当する人物が、此処には居ない事を失念していた。
けれど、忍野メメの話はまだ続く。
「けどそれは、君自身が動かなきゃ見つからないモノなのは確かかな」
「私から動く?」
「そう。君から動く。
友達っていうのは作るモノでもあるし、いつの間にか出来ているモノでもある。
けどそれは、他者との接触の中で生まれるモノだ。何もしないで友達が出来るのは、ごく稀だよ」
「そうですか。
有り難うございます。参考にはなりました」
「そうかい。それはよかった。
それじゃあ休憩も終わったし、僕は仕事に戻るとするよ」
忍野メメはそう言って、通路の奥へと消えた。
さて、私も自分の仕事に戻るとしよう。
けれど―――
「自分から動く、ですか。
そうですね。それも良いかもしれません。
百聞は一見に如かず、という諺もありますし」
再び天江衣と話すのも良いかも知れない。
何より、この問題の発端は彼女だ。
彼女なら答えを知っているかもしれない。
もし彼女が借金を返済出来たなら、その確認と言う名目で会いに行けるだろう。
それに。
「…………風斬氷華、ですか」
断片的な記憶しか取得できなかった少女。
何故か無性に、彼女に会いたくなった。
ザァッ―――――――――
『……ひょうか。また遊べるよね……』
『もちろん!』
【?-?/飛行船・通路/二日目/深夜】
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ペンデックス?
[服装]:歩く教会
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:???
0:バトルロワイアルを円滑に進行させる。
1:友達が何なのかを知りたい。
2:天江衣にもう一度会ってみる。
3:自分に掛けられた封印を解除する?
4:友達が何か解ったら、咲に返事をする。
5:風斬氷華とは…………。
※インデックスの記憶は特殊な魔術式で封印されているようです。
- 666 :友達の定義 ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:33:47 ID:vcvz0GLk
-
【忍野メメ@化物語】
[状態]: 健康
[服装]: アロハシャツ
[装備]:???
[道具]: 煙草、通信機
[思考]
基本:この場でのバランスを取る
0:【死者の眠る場所】、もしくは【神様に祈る場所】にある"門"へ向かう。
1:結界を修復する。
2:参加者が主催者を打倒する「可能性」を仕込んでおく。
[備考]
※参戦時期は不明。少なくとも、阿良々木暦と面識はあるようです。
※忍野の主催への推測があっているかは不明です。
※忍野への依頼、達成すれば一億円。
【敵のアジト】、【城】、【神様に祈る場所】、【廃ビル】、【円形闘技場】、【学校】の結界の修復
及び〈太陽光発電所〉の代替地での結界作成、《政庁》での状況確認
※【ホール】に〈太陽光発電所〉の代替地として魔法陣を作成しました。
ただし、従来通りの機能かどうかは判明していません。
※【敵のアジト】の結界は修復しましたが、直後に【敵のアジト】が崩壊しました。
※【憩いの館】に結界を敷きましたが、まだ不完全です。何らかの異常が生じているかもしれません。
※【櫓】を中心としたA-7エリア全体に進入不可能な強力な結界を敷きました。
※上記の他に二つ、依頼された仕事を終わらせました。
その為、[思考] 0番目も終わらせた可能性があります。
“何”を“どう”終わらせたかは、後の書き手に任せます。
※【櫓】がこの島における最重要施設に対する鬼門封じの施設だと考察しました。
※地図の東西南北がずれていることに気付いています(何度ずれているかは後の書き手にお任せ)
【?-?/飛行船・咲の自室 /二日目/深夜】
【宮永咲@咲-Saki-】
[状態]:疲労(中)
[服装]:清澄高校夏服
[装備]:???
[道具]:麻雀道具一式、???
[思考]
基本:のどかちゃんと一緒に帰りたい。
1:死にたくない。
2:インデックスさんの返事を待つ。
3:インデックスさんは、実はいい人?
4:歌を歌う少女にお礼がしたい。
- 667 : ◆EvXLhHD0yY:2010/08/08(日) 15:40:39 ID:vcvz0GLk
- 以上で、本投下を終了します。
- 668 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/08(日) 22:03:58 ID:/Lm6rNLA
- 投下乙です
咲は確かに友達に恵まれてるからな。それとインなんとかさんとを絡めたのは上手い
忍野もいい味出してるなw
よかったですよ
- 669 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/08(日) 22:18:41 ID:5N8.jYLI
- 投下乙です
咲とインなんとかさんの絡みがいい感じだなあ
これはどうなっていくのやら
- 670 : ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:37:13 ID:zn/xQ.MY
- 遅くなりまして申し訳ございません。
本投下させていただきます。
- 671 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:41:50 ID:zn/xQ.MY
- 人は誰しも仮面を被って生きている。
学生としての自分、成績優秀な自分、他者に対して有為である自分。
時により、場合により、場所によって人は様々な仮面を被る。
肩書き、環境、目的、身分。
理由はそれぞれ、人により様々だ。
すべての人が仮面を被るが故に、人は仮面を見て人を判断する。
いつから人は仮面を被るのだろう。
おそらくはオギャアと生まれ落ちた時すらも、無力な赤子の仮面を被っていた。
では仮面の下の本性とは何か。
それはその人の本質そのものだ。
本能、あるいは無意識と言えるのかもしれない。
思えば人生とは己の仮面の下を探る、長い長い猶予なのかも知れず。
だが、多くの人は本質を探ることなく仮面を被り続ける。
せわしなく、何枚も何枚も。
■
ルルーシュ・ランペルージもまた、幾つもの仮面を被り続けてきた男だ。
アッシュフォード学園の生徒、テロリストのリーダー、神聖ブリタニアの皇子、悪逆皇帝、独りの兄。
矢継ぎ早に仮面を変え続け、十重二重の多重生活を過ごし、そして人生に幕を下ろした。
生き残るため、望みのため、逃げるため。
時に無様に腰を抜かしながらも、最終到達点を見極め続け、おそらくは不本意であろうがよりマシな結末へ降り立った。
世界すべての憎悪を悪逆皇帝という仮面に集め、ゼロという仮面に全てを託した。
剣に倒れて哀れに崩れ落ち、全ての仮面を取り払った彼が、最愛の妹の前でどのような人生の総括をしたのか。
だが、彼は今なぜか甦り、ホバーベースの中で舵をとっている。
仮面の呪縛から解放されたにも関わらず、今はまたも幾枚もの仮面を被り生きている。
バトル・ロワイアルという極限状況においてもまだ、仮面を破綻なく被り続け、替え続けている。
少なくとも、これまでは。
そして今も複数の仮面を被り続けたまま、第四回目の放送に傾聴している。
列車の運行状況、禁止エリア、死者報告を聴き終え。
そのまましばしの思案にふけろうとしたその時に、耳障りな声がささやいた。
『その装備は出来るだけ手持ちに確保しておくことだ』
なるほど、と呟いて立ち上がろうとしたその時。
右方で暗闇の中、赤々と燃えて落ちる館を確認した。
それが方角と距離から憩の館であることを見て取ったルルーシュは、鮮やかな炎を網膜に焼き付けながら口の端を歪める。
「一手得だな」
そう一言発して、予定通りデュオ達への通信を開始した。
◇
- 672 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:42:32 ID:zn/xQ.MY
-
「やけに静かじゃないか」
放送が終わって沈黙を破ったのは、式のそんな一言だった。
敵中にあってもウィットな雰囲気を忘れないデュオにしては珍しく、後ろ手に腕を組んだまま無言を保ったままだった。
思案に、ではなく、途方に暮れてるようにもみえる。
一瞬だけ目を閉じる。
それで彼の禊は終わった。
「ん?あぁワリィ。ちょっと呆けてた。おっと、そろそろ定時連絡だな」
傍目にも不自然ではあったが、式は特になにも発さなかった。
彼女から見ても彼は一流のプロであり、余計な口出しは無用と判断したからだ。
■
ごく事務的な通信を終え、サイドカーを走らせること数ブロック。
住宅街から抜けていきなりの断崖絶壁を繋ぐ、パブリックイメージ通りの吊り橋がそこにあった。
ゆらゆらと揺れる吊り橋は幅が1メートルかそこらで、人ひとりが通るだけで精一杯だ。
それが地図を確認した限り、数百メートルは続く。
横風がびゅうびゅうと吹き荒れ、足場は不安定。
ほぼ満月であるとは言っても夜中である為、ライトを付けなければ向こう端は見通せそうにない。
通常ならば夜中に渡る場所ではない。無論ライトも無しに渡ろうなどと正気の沙汰ではない。
「こりゃあバイクじゃちょっと渡れそうにはないな」
「見れば理解る」
辺りを見渡してもコレと言った特徴もない。
暗視スコープ付きのライフルでもあったら、橋の向こう側から狙い撃ちし放題だ。
向こう岸にはなにかあるかも知れないが、ともかくもこんな吊り橋は危険すぎて渡れない。
引き返そうと踵を返そうとすると、式はいきなりサイドカーから飛び降り、躊躇いもせずに渡り始めた。
ぐらぐらと揺れる吊り橋を、一片の揺らぎもなく渡る式のあとを、デュオはサイドカーを慌ててディバッグに入れて追いかける。
オイと言っても、コラと言っても立ち止まろうともしない。
「狙撃されたらどうすんだよ!」
「俺は大丈夫だ。そっちはどうなんだ?」
確かに式ならば狙い撃ちされようと、避けられるだろうし跳ね返せるかもしれない。
だがデュオにそのような人間離れした防御手段など、取れるはずもない。
「くそっ!しょうがねぇな!」
死地に躊躇もなく飛び込む既知の人間を、自衛の手段が無いからといって置いて行くほど、彼は人非人でもなかった。
思えばこの島に来る前からも、このように独断専行する人間を追いかける日々だったように思える。
だが放っておけない。
それが彼の本質なのであろうか。それとも運命なのだろうか。
当たり前の話だが、彼にもそれは判別できないでいた。
◇
- 673 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:44:02 ID:zn/xQ.MY
-
ディスプレイだけが明かりをともす個室にて、原村和はぬいぐるみを抱いてうずくまっていた。
力なく口をついて反復するのは、黒衣の神父が投げかけた命題である。
自分が打つか、宮永咲に打たせるか。
宮永咲は原村和の退路を塞ぐために用意された駒。
選択肢は実質無いようなものである。
自分が殺されるか、天江衣を殺すか。
なによりも、自分が殺してしまうかもしれないという可能性が、和の首を絞めつけていた。
他人を殺す
よりにもよって麻雀で。
多くの絆を生んでくれた麻雀で。
じりじりと悩み続ける中、猶予はどんどんなくなっていく。
次に天江衣が卓に着いたときがタイムリミットだ。
何分経ったかも分からない。
あと何分かも分からない。
どうしてこうなってしまったのかも分からない。
そんな時、目の前のディスプレイからメールの着信音が響いた。
差出人はルルーシュ・ランぺルージ。
貴重なメールをくだらない質問で潰してきた男だ。
常ならばすぐにメールを開封して閲覧するところだが、今はもうそれどころではない。
そして原村和が再び内省に入ろうとしたその時。
天啓のように一つのアイディアが浮かんだ。
◇
- 674 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:45:20 ID:zn/xQ.MY
-
通信を終えたルルーシュは目的地である廃ビルまであと僅か、となったところでノートPCを立ち上げていた。
受信トレイの未読メールに目を通し、新たな新規メールを書きあげる。
今までのやり取りで、メールの内容に関しては今のところ虚偽が無いということは分かった。
まともに聞き出せるのは参加者の位置情報程度のようだが、欲しい情報もそれくらいなので不満はない。
学校に向かう直前のメールでそれらの最終確認は終わった。
居場所を聞き出せるのは二人まで。
ならばこちらと因縁の深い人間二人の情報を探るのが道理であろう、とキーボードを叩く。
『阿良々木暦の居場所を教えてください』
ソファーで熟睡する平沢憂を横目で見ながら、メールを送信した。
その後はだけたシーツをかけ直し、ひと伸びした。
完徹慣れしているとはいえ、身体をリフレッシュする時間程度は欲しい。
軽いストレッチとコーヒー、洗顔を終え、そういえば【おくりびと】はモモに持たせてあったな、と思い出し艦内放送で呼び出そうとした刹那。
ノートPCがメールの受信を告げた。
◇
- 675 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:46:40 ID:zn/xQ.MY
-
「それじゃあ、よろしく頼んだっすよ」
ガチャリと個室のドアが開き、二人の会談は終了した。
秋山澪には陰鬱とした影がまとわりつき、東横桃子は見た目明るく振舞っているように見えた。
まとう雰囲気は対照的な二人だが、共通しているのは強い意志をたたえた瞳だ。
「分かってる。あれ、モモ?」
「なんすか?」
「あぁ、そこにいたか。お前、さらに薄くなってるな」
「ステルスは私の持ち味っすから」
それでも、と澪は思う。
ここまで存在を薄くすることなど出来るのだろうか、と。
対話の最中でさえ、目の前にいるはずのモモの存在を見失いかけた。
学校での一件以来だ。
アレからモモは澪の知らない存在に変わりつつある。
ふと眼を放したわずかの間に、あの場でモモになにが起きたのか。
なにがあれば、人はここまで豹変するのか。
見た目は全く変わらない。むしろ明るくなったようにも見える。
だが、その変わらない姿の内側に、とんでもない化け物が唸り声をあげて潜んでいるように思えた。
「だけど、合図を出すときくらいは姿を見せてくれよ?」
冗談めかして部屋を後にしたが、澪は確信した。
それまでどうにか距離を縮めてきたモモが、ひどく遠く離れた存在に変わり果てた事を。
◇
おそらくは。
澪を送ったモモはドアを閉めて、己のステルスが強力さを増している理由を考えた。
元々この体質は他者とのコミュニケーションを”遮断”して得たモノだ。
それが先輩-加治木ゆみ-という理解者を得て、さらには大会で活躍してクラスメートとの接触が増え。
積極的に他者とのコミュニケーションを行うに至り、自分を”見て”くれる存在が、少しずつだが増えて行った。
それを素直に嬉しく思ったことは確かだったし、報告を受けた先輩も嬉しそうだった。
だがそれも過去の事だ。
今の自分は他者とのコミュニケーションを完全に”排除”した。
思い出も繋がりも友達も、全て。
他者と付き合うための仮面を全て捨て去ったのちに、残った本質は孤独。
誰も自分を見つけることはない。誰も自分に気づくことはない。
世界にたった一人で孤立したとしても、辿り着く先に先輩がいればそれでいい。
友達が増えた事を喜んだ、先輩の意思からは遠ざかっているかもしれない。
だがそれでいい。
先輩が居なければ、友達なんて意味がない。
先輩が居なければ、この世界に意味なんてない。
だから先輩を取り戻すその時まで”消える”。
そう、決めた。
■
深呼吸の後に両の掌で頬を叩いたモモの耳に、艦内放送が響く。
広大なホバークラフトに四人しかいない乗組員。あとはまぁ警備ロボットと死体が一体。
ひと一人呼び出すにはやや大げさっすね、と思いながらドアノブに手をかけた。
その時、ややドアノブが濡れているような気がしたが、気にしないことにした。
■
- 676 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:47:55 ID:zn/xQ.MY
-
「ネット麻雀、っすか?」
呆けているモモを尻目に、受信トレイに入っているメールを見せながら、ルルーシュは続ける。
「そうだ、モモ。ほどなくして行われる麻雀大会。それに参加してもらいたい」
「でも廃ビルの探索があるっすよ。あの建物がそうっすよね?あと式さん達とそろそろ合流する頃合いっすよ」
操縦席の外には朽ち果てたビル群が立ち並んでいる。中には発破のかけ損ないか、崩れ落ちたものもある。
会場内の探索より、デュオたちとの合流より、そんな遊戯を優先するのだろうか。
「探索は俺たちだけで事足りる。そもそもデュオたちにはお前の存在自体秘匿しているから、合流に立ち会う必要もない」
「…なにを企んでるんすか?」
ルルーシュは肩をすくめると最新の受信メール内容を見せた。
> 大会の参加者は天江衣です。
> 彼女はF-3 エスポワール号にいます
> 同行者には浅上藤乃がいます
モモの表情が見る見るうちに変わる。
反応を確かめてからルルーシュは続ける。
「もしお前が参加したくないというのなら、俺が参加するまでだが。どうする?」
モモの中を多くの言葉が通り過ぎているようだった。
そのほとんどを口の中に引き込め、ようやく言葉を絞り出す。
「なんで、参加する必要があるんすか」
「お前も知っての通り、浅上藤乃は殺し合いに乗った危険人物だ。そして天江衣を囲っている。
そして根城にしているのはエスポワール号。ここから導き出される答えは?」
「天江衣に麻雀でペリカを稼がせて、装備を買っているってことっすか」
「そうだ。優勝を目指す者にとっては看過できない問題だ。俺達のアドバンテージは豊富な資金力による装備だけだからな」
じゃあ、とモモがやたら冷えた目でルルーシュを見据える。
「じゃあ私がエスポワールに行って、殺してくればいいだけっすよね」
ルルーシュは軽くため息を付いて艦内モニターを操る。
操縦席内の映像が大写しになった。
コンソールを操るルルーシュ、ソファーで未だに寝息を立てている憂。
当たり前のようにモモの姿もそこにある。
「モモ。お前のステルスにはいくらでも対策のしようがある。事前に知っていれば、それこそいくらでもな」
「だからって、なんでよりにもよって麻雀なんすか。それに、こっちが参加しなければ向こうは稼げないんすよ?」
「こちらが向こうの資金を総取りするチャンス。そうは考えないのか、モモ」
それっきり黙って考え込んでしまったモモにルルーシュはさらに語りかける。
「勝てないと思っているのか、モモ。だが安心しろ、俺がお前を勝たせてやる」
「あの魔物相手にっすか」
「そうだ。俺が勝負に出るのは、勝てると確信した時だけだ」
一息つく。
「ルルさん、この大会のルールはどこっすか?麻雀はローカルルールが複雑っすからね。確認しないと」
◇
- 677 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:50:25 ID:zn/xQ.MY
-
肩で息をしながら、デュオはようやく吊り橋を渡り終えた。
「なんだ、お前も人の事を言えないな。この程度の距離を歩くだけで息が上がるのか」
「こっちゃあ、突撃銃持って銃弾の雨を突進する新参兵の心境だったぜ!」
結局のところ待ち伏せも何もなかった。
だが、匍匐前進も出来ずに逃げ場のない橋の上を、暗闇の向こう側からの狙撃に備えながら歩くのは、なかなかに神経を使う。
「こっちは結構快適だったな。お前が後ろに居たからか」
「あ?」
心の仮面を一瞬脱いで見せた式は再び仮面を被って左右を見渡して続ける。
「どうやらここも外れのようだな」
「死ぬ思いまでしたってのに、空振りとはなぁ。よし、さっさとルルーシュ達と合流しようや」
そういうとデュオはディバッグからサイドカーを取り出した。
目指すはD-1廃ビル群。
二人のバイク行は続く。
◇
- 678 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:52:07 ID:zn/xQ.MY
- PCに向かっていた黒衣の神父はくるりと椅子を回転させて、少女を見上げた。
「現在エスポワールに居る白井黒子のもつノートPC以外にはメールを送った。これでいいかね?」
「ありがとうございます、言峰さん。無理を飲んでくださって」
麻雀大会の開催は和の提案だ。
溺れる者は藁をも掴む。自分に打開策が無い以上、他人に助けを乞う他ない。
そう考えての一手。
幸いノートPCを持つ者の中には、資金力のあるルルーシュのグループがいる。
もしかしたら、彼らが天江衣に一億ペリカを献上してくれるかもしれない。
そうすれば
「いや、私もうれしい限りだ。君が殺し合いに協力的でね」
「どういうことです?」
希望がほの見えたと思っていた和の表情が、にわかに曇る。
「カルネアデスの板、いやトロリー問題か。
君は宮永咲一人を救うために、多くの参加者を殺人麻雀に巻き込む決意をした。
どのような結果になろうとも、最初の条件よりは犠牲者は増える。これは素晴らしいことだよ」
「あ…」
「さて誰が死ぬかな?天江衣か、それとも第二、第三のPCをもつものか」
カツカツと部屋から神父が去る。
ドアが閉められ、漆黒の闇が部屋を包む。
「待って!そんなつもりで提案したのでは!」
ガチャリと、カギが閉められた。
◇
- 679 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:53:08 ID:zn/xQ.MY
-
「あれ?モモさんはどうしたんですか?」
ふわぁとあくびをしながら憂は尋ねる。
澪も所在無げにきょろきょろと見渡す。
「え、居ないんですか、モモ」
「あぁ、モモには別行動をしてもらっている。しばらくの間な」
今モモが臨んでいる麻雀は、持ち点がマイナスになれば首輪が爆発するという殺人ゲームだ。
加えて天江衣はモモが言うには同年代最強の打ち手。
さらにモモの最大の武器『ステルス』はネット麻雀において効果を期待できない。
どう見てもモモには勝ち目がなく、ルルーシュはモモを人身御供に晒したようにしか見えない。
だがルルーシュは、モモが衣に負けぬ、三つの理由を有していることを知っていた。
一、衣は強制された戦いに望んでおり、全力を出せない状態であること。
二、一により衣はモモを倒そうとはするものの、殺そうとはしないはずであること。
三、モモは衣を殺す覚悟が出来上がっているということ。
勝負事というのは、よほどの実力差がない限り、メンタル面での勝負になる。
その点においてモモは圧倒的な優位にある。よほどの実力差がなければ。
ここはモモを信じるほか無い。
ここを乗り切ればモモはさらに有効な手札になる。
来るべき信長や主催との戦いでも切り札になりうる力となろう。
万が一の場合、式やデュオに対するカウンターとしても。
そしてあってはならないことだが、スザクへの対抗手段として。
麻雀大会への誘いと共に返信されてきたメールには阿良々木暦と、そして枢木スザクの現在位置が書き込まれていた。
そして予想だにしない事に、二人が同一エリア、しかも同行して西へ進んでいるという情報まで付随していた。
阿良々木暦はモモと憂が殺し合いに乗っていることを知っている。
自然、彼は二人を従えているルルーシュも殺し合いに乗っていると見るだろう。
それを知っている阿良々木暦と、スザクが組んでいる。
無論、スザクが阿良々木暦を説得している可能性もあるが、逆の場合も考えられる。
そもそも敵同士だった時期から来ている可能性すらある。
ならば直接会って確認せねばならない。
出来ればエスポワール号でナビゲーターを購入しておきたいところだが、肝心のエスポワールは占拠されている。
麻雀大会の結果如何ではエスポワール号を奪取するという事も考慮しているが、そこまで都合よく事が運ぶとも思えない。
数十通りの指針が浮かぶが、なんにせよ、これからの動向次第だ。
「まずはやれることから手をつけるか」
ルルーシュは女子高生二人を廃ビルへ引率した。
◇
- 680 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:56:22 ID:zn/xQ.MY
-
全てを排除したつもりだった。
だが浅上藤乃の名を聞いた瞬間、そして麻雀を悪用していると知った瞬間。
モモの身体が総毛立った。
モモにとって麻雀は先輩との絆そのものであり、浅上藤乃は先輩の仇である。
まだ自分にも棄てきれぬ思いがあるのだと、自覚して愕然とした。
こんなことでは消える事など出来ない。
たったひとつの例外をのぞいて、執着を捨てなければ、なにも叶わない。
すべてを犠牲にしなければ、先輩を甦らすことなど。夢物語に過ぎない。
だから先輩との絆である麻雀を踏みにじって、天江衣を殺す。
麻雀も復讐も捨てる為の、これは禊なのだ。
「先輩、力を貸してください」
主催の思惑を超え、ルルーシュの策を超え、天江衣の支配を超える。
モモの身体が周囲に溶け込み、人の身体ですらなくなり、操縦席に浮かぶひとつの塊となった。
人魂である。
【D-1 廃ビル前(ホバーベース内)/二日目/深夜】
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:疲労(小)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、双眼鏡@現実(現地調達)、パソコン
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実、蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)
小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、七天七刀@とある魔術の禁書目録、発信機@現地制作、通信機×2@コードギアス
死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、キャンプ用の折り畳み椅子@現実、“狐”の面@現実、?????の起動キー@コードギアス
[思考]
基本:加治木ゆみを蘇生させる。
0:天江衣を、麻雀で、殺す
1:ひとまず澪と内密に組む。
2:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。
3:もう、人を殺すことを厭わない。
4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。
5:そろそろルルーシュには消えてもらう。そのためにまずはルルーシュの能力を知りたい。
6:最終的に仲間を殺す事にも既に迷いはない。
7:ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
8:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
9:浅上藤乃を許す事は出来ない。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話終了後。
※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場での伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
- 681 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:58:18 ID:zn/xQ.MY
- 【D-1 廃ビル前/二日目/深夜】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、右腕の骨折
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス
[装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実、イヤホン@現地制作、
[道具]:基本支給品一式、3500万ペリカ、盗聴機×7、発信機×5@現地制作、通信機×5@コードギアス、首輪×3(キャスター・ヴァン・張五飛)
単三電池×大量@現実、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、和泉守兼定@現実、バトルロワイアル観光ガイド
鏡×大量、消化器、ロープ、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本:枢木スザクは何としても生還させる。
1:廃ビルの施設を調査する。
2:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。
3:デュオと式を上手く利用する。
4:殺しも厭わない。桃子、憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。利用できる物は利用する。
5:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい。
6:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する。
7:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。
8:象の像は慎重に調べる。
9:織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。
10:両儀式を警戒。荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感?
11:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
12:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
13:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。
[備考]
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。
※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い、及びその記憶と想いを呼び覚ましました。
(どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手氏にお任せします。 ただし、何か特殊な力に目覚める、イノベイターに覚醒する等は一切ありません)
※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。
※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。
※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。
※盗聴器を一つ、E-2の橋に仕掛けました。
※パソコンで、メールソフト、バトルロワイアルサポート窓口の利用が可能になりました。
※揚陸艇は船着場に繋留したままです。(燃料…残り7キロ分)
※【象の像】で警備ロボットを一台購入しました。
- 682 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 10:59:24 ID:zn/xQ.MY
-
【秋山澪@けいおん!】
[状態]:両頬に刀傷
[服装]:龍門渕家のメイド服@咲-Saki-
[装備]:田井中律のドラムスティック、影絵の魔物@空の境界、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実
[道具]:基本支給品一式×3、千石撫子の支給品0〜1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
下着とシャツと濡れた制服、法の書@とある魔術の禁書目録、モンキーレンチ@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1
桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、軽音楽部のティーセット、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)、ナイフ、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、中務正宗@現実、ランタン@現実
[思考]
基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
1:ひとまず桃子と内密に組む。
2:この集団を利用し、目的を果たす。
3:軽音部全員を救う方法を探し、見つけ次第実行する。 手段を選ぶつもりはない。
4:サザーランドを乗りこなせるようにする。
5:式とのコネクションは秘密にしておく。
6:憂の精神状態に相当の疑念。
7:一方通行を警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
8:伊達政宗のおくりびとが福路美穂子か。
9:正義の味方なんていない……。
10:私は間違ってない……よな?
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。
※黒の騎士団全員の情報を得ました。また、ルルーシュたちの作戦を把握しました。
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失
[服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯
S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(6/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着)
[道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード
皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@現実
鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×46、さわ子のコスプレセット@けいおん!
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
0:一人は嫌だ……。
1:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。
2:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
3:桃子ちゃんは友達。澪さんとバンドが組めて嬉しい。
4:阿良々木さんにサザーランドを見せた後、ブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
5:織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対しては『日本人』とは名乗らないようにする。
6:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。
7:思いを捨てた事への無自覚な後悔。
8:お姉ちゃんは私の――。
9:死にたくないから、私は……?
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※第2回放送をほとんど把握していません。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
- 683 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 11:00:25 ID:zn/xQ.MY
-
【(腹)黒の騎士団の作戦】
1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。
2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。
3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。
4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。
5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。
6:桃子は集団内の人間をよく観察する。
7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。
8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。
9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて別れるか、そもそも関わらない。
10:『おくりびと』は見られないようにする。
【ホバーベースについて】
現在はE-2にて廃ビルに停泊中です。
※下記の道具の入ったデイパックが、ルルーシュの部屋に置かれています。
基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード
モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機
ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、
カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実
※下記の道具の入ったデイパックが、澪の部屋に置かれています。
基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)
ファサリナの三節棍@ガン×ソード、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実
桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5
※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。
※下記の機動兵器が格納されています。
[平沢憂用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[秋山澪用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン
[デュオ・マックスウェル用]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
※警備ロボットが一台、ホバーベース内を巡回しています。警備ロボットの詳細については後続の書き手氏にお任せします。
- 684 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 11:01:52 ID:zn/xQ.MY
- 【D-1 吊り橋/二日目/深夜】
【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数5/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実
COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・9発)@現実
BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、五億ペリカ
首輪×4(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律・竹井久)、手榴弾@現実×10
桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、
ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night
ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1)
[機動兵器]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
[思考]
基本:五飛の分も込めて、ガンダムパイロットとして主催を潰す。
0:ルルーシュと再合流。
1:遺跡や象の像に魔法陣はないのか?
2:リーオーを乗りこなす。憂と澪への機動兵器での訓練を行う。
3:ルルーシュはあまり信用できない。『消える女(桃子)』にも警戒。
4:デスサイズはどこかにないものか。いやこんなリアル鎌じゃなくて、モビルスーツの方な
そういえばあの女(桃子)ビームサイズ持ってたな……。
5:首輪を外すのも魔法陣破壊もゲームの内か……首輪の解析について、色々実験してみる。荒耶の首輪はじっくり慎重に調べる。
6:五飛の死に対する小さな疑問。
[備考]
※参戦時期は月面基地脱出以降。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。
※以下の情報を式から聞きました。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※リーオーはホバーベース格納庫に置いてあります。
【両儀式@空の境界】
[状態]:ダメージ(小)
[服装]:白い和服(原作第五章・荒耶との戦いで着たもの)
[装備]:九字兼定@空の境界
[道具]:基本支給品一式(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0〜1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 、武田軍の馬@戦国BASARA
陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実
[思考]
基本:私は死ねない。
1:当面はこのグループと行動。でもルルーシュは気にくわない。
2:澪との約束は守る。殺そうとしてくるヤツを……殺す?
3:刀を誰かに渡すんだっけ?もったいないな……。
4:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。
5:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。
6:荒耶が死んだことに疑問。
7:首輪は出来るなら外したい。
[補足]
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました
※以下の仮説を立てています。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。
・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。または魔眼の効果を弱める細工がある。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※平沢唯から聞いた信頼できる人間に刀を渡すというプランを憶えています(引き継ぐかは不明)
- 685 :仮面 ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 11:03:01 ID:zn/xQ.MY
- 【???/飛行船・原村和の部屋/二日目/深夜】
【言峰綺礼@Fate stay/night】
[状態]:健康
[服装]:神父服、外套
[装備]:???
[道具]:???、麻婆豆腐の詰まったタッパー
[思考]
基本:???
1:サーヴァントの死体(魂)を回収する。
2:荒耶宗蓮に陰ながら協力する。
3:この立場でバトルロワイアルを楽しむ。
4:結界の修復を手伝う。ただし1を優先する。
5:敵のアジトの結界の代替地になりそうな場所を探し、結界を設置する。
【原村和@咲-Saki-】
[状態]:健康、絶望
[服装]:私服
[装備]:エトペン@現実
[道具]:デスクトップPC×数台、会場監視モニタ×数台、質問対応マニュアル(電子ファイル)
[思考]
基本:帝愛に従い、咲さんを救う
1:どうしてこんな事に……。
2:役割(麻雀・サポート窓口)をこなす。
3:咲さんが心配。一目だけでも無事な事を確認したい。
4:どうせ打つなら守る為の麻雀を打ちたい。
5:忍野メメを警戒。従ってはいるものの、帝愛は許せない。
6:【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】が帝愛にとっての最重要施設?
7:私には、帝愛に与えられた役割を果たすことしかできないんでしょうか……?
[備考]
※登場時期は最終回の合宿終了後です。
※基本的に自分の部屋から離れられません。
※監視されていること、異世界から集められていることを知っています。
※【櫓】が鬼門封じの重要施設。【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】のどれか、もしくは全てがこの島の最重要施設だと考察しています。
※以下の事柄はSOA!と思っています。
・死者が蘇る。
【質問について】
参加者の居場所
サポート窓口を利用可能になった時点で回答可能。
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、居場所が分かるのも二人までです。
特定人物を殺害した人間の名前
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、殺害者名が分かるのも二人までです。
殺し合いに巻き込まれた理由、殺し合いの目的
サポート窓口を利用可能になった時点から四回目の放送以降、回答可能。
原村和について
サポート窓口を利用可能になった時点から三回目の放送以降、回答可能。
特定の人物の同行者
少なくとも、サポート窓口を利用可能になってから一回目の放送を越えた時点では回答不可。
- 686 : ◆hANcxn7nFM:2010/08/11(水) 11:06:48 ID:zn/xQ.MY
- 以上、投下終了です。
ご指摘いただいた皆様ありがとうございました。
◆SDn0xX3QT2氏にはお待たせさせることになってしまい、本当に申し訳ございません。
なにか不都合な点など有りましたら、チャットやこちらでお願いします。
本当に投下が遅れてしまい、失礼しました。
- 687 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/11(水) 18:59:36 ID:jcxm.AcY
- 投下乙です
モモは修正前より殺意高いな。ルルは更なる試練のつもりでけしかけたのか
式神コンビは相変わらず安定してるけどどんどん奥に移動するのか
- 688 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/11(水) 21:32:18 ID:u3.rCIn.
- 投下乙です。ただ一つ指摘を
>>679でルルーシュがスザクは敵対時からの参戦を考えていますが、
第232話「想い の 翼(後編)」でルルーシュはデュオの口から「ナイトオブゼロ」を聞いています。
なので、少なくとも敵対時からの参戦は極めて低いと考えるのでは?
- 689 : ◆3VRdoXFH4I:2010/08/11(水) 23:18:15 ID:HXeHriL6
- 投下乙彼でした。
モモの殺意がストップ高だぜ。なにこのここあい。
モモ対衣か。コンディションも含めれば互角といえるかもだが結果はどうなるだろうか……
俺には書けないがな!
あと>>688さんと同じく、ルルは既にスザクがナイトオブゼロ=敵対はないと知ってるのでその辺だけはカットの方向でいきたいのですが。
それ以外なら異常なく通しに出来ますよー。
- 690 : ◆0zvBiGoI0k:2010/08/11(水) 23:18:41 ID:HXeHriL6
- 鳥ミスったーw
- 691 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/12(木) 00:35:51 ID:ytDI3D0A
- 投下乙です
も、モモが本気だ……
これは恐るべきストップ高
- 692 : ◆hANcxn7nFM:2010/08/12(木) 12:11:13 ID:esR0YZdQ
- >>688>>689
ご指摘ありがとうございます。
以下三点を修正・変更させてください。
>>678
●修正前
> 「現在エスポワールに居る白井黒子のもつノートPC以外にはメールを送った。これでいいかね?」
○修正後
「現在エスポワールに存在するノートPC以外にはメールを送った。これでいいかね?」
>>679
●修正前
>そしてあってはならないことだが、スザクへの対抗手段として。
○修正後
そして次段階において合流出来るであろう、スザクのサポート役としても。
●修正前
> 無論、スザクが阿良々木暦を説得している可能性もあるが、逆の場合も考えられる。
> そもそも敵同士だった時期から来ている可能性すらある。
> ならば直接会って確認せねばならない。
○修正後
無論、スザクが阿良々木暦を説得している可能性もある。
いずれにせよ、直接会って確認せねばならない。
- 693 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/13(金) 19:30:05 ID:lpnyXUkg
- ルルーシュはモモの事を一貫して桃子って呼んでるはずですが?
- 694 : ◆hANcxn7nFM:2010/08/13(金) 19:40:43 ID:M1WLc.7c
- ご指摘ありがとうございます
wiKiの方で修正しておきます
- 695 :......and nothing heart. ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:53:05 ID:s/4eHl/w
- 東横桃子、アリー・アル・サーシェスを投下します。
- 696 :......and nothing heart. ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:53:39 ID:s/4eHl/w
- すぅ、と呼吸を整える。
桃子は操縦席の背凭れに身体を預け、静かに瞼を閉じていた。
制御室には桃子の他に誰も居ない。
使い道の分からない機械がたまに音を鳴らす程度で、眩暈がしそうなほどの静寂が空間を満たしている。
あまりにも静か過ぎて、自分の息遣いがうるさいくらいだ。
「……、……」
口の中で、イメージを短い言葉にする。
麻雀に限らず、勝負事を左右するのはメンタルだ。
開戦の瞬間までに、精神を臨戦状態へ近付けていく。
それが出来ずに勝てるわけがない。
思い浮かべるのは勝利の過程。
天江衣に勝利する自分。
――天江衣を殺害する自分。
……大丈夫、揺るがない。
天江衣の首が千切れ飛ぶ様を思い浮かべても、心が揺るがない。
今すぐ対局に臨んだとしても、躊躇うことなく彼女を死に追いやれるだろう。
桃子はゆっくりと瞼を開く。
準備は整った。
後は開始を待つだけだ。
開幕は数分後か。十数分後か。それとも一時間後か。
天江衣が大会の主催者なのだから、彼女の都合に合わせて開始するはずだ。
仮に、放送の直前まで麻雀で稼いでいたとすれば、大会までに適度な休憩を挟むに違いない。
そうして、最高のコンディションを整えるはずなのだ。
「十五分……っすか」
目を瞑っている間にそれだけの時間が経っていた。
放送後からの経過時間を合算すれば、そろそろ半時間は過ぎようかという頃合だ。
しかし、まだ大会が始まる様子はない。
「随分と待たせるっすね」
こちらの準備はとっくに出来ているというのに。
よもや待たせるだけ待たせて戦意を折る算段ではあるまいか。
そんな考えが脳裏を過ぎったとき、桃子の視界に奇妙なものが映った。
コンソールに並ぶモニタの一つ。
警備ロボットの活動状況を示す画面が報告を表示していた。
桃子は思わず息を呑んだ。
どうして、皆が出払っているこのタイミングで。
――警備ロボットが、人間を感知しているのか――
- 697 :......and nothing heart. ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:54:06 ID:s/4eHl/w
- 「どういうことっすか……!」
モニタの表示を流し読みしながら、購入時に確かめた警備ロボットの仕様を思い出す。
あれは確か、予め登録しておいた画像データを元に味方と侵入者を区別していたはずだ。
具体的には桃子とルルーシュ、澪と憂、そして式とデュオを味方と判断するようにしている。
ただ、仮に侵入者を感知しても、今は『何もしない』ように設定されているのだ。
理由は至って単純。
新しい協力者を引き込んだときの『事故』を防ぐためである。
「えっと、確か……」
現時点での、警備ロボットの行動パターンは次のようになっている。
データ登録済みの人間を見つけた場合は、何もしない。
未登録の人間を見つけた場合は、監視対象とするだけでそれ以上は何もしない。
侵入者が警備ロボットに攻撃を加えたとき、初めて搭載武器による攻撃を加える。
制御室から攻撃命令を送った場合は、これらの条件を全て無視して攻撃する。
今は二番目の条件に該当しているはずだ。
ただし、拳銃ですら1000万は下らない相場において、たったの3000万ペリカで購入した機械である。
搭載されている武装は殺傷能力を持たない警告用のものばかりだ。
「…………」
桃子はモニタの映像を注視した。
警備ロボット搭載のカメラの映像は、ここから遠隔で確認することができる。
今は侵入者の姿を捉えてはいない。
だが警備ロボットが追跡モードにある限り、いつまでも逃げ切れるものではない。
モニタの映像が、格納庫内部へと移り変わっていった。
◇ ◇ ◇
- 698 :......and nothing heart. ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:55:15 ID:s/4eHl/w
- 「ふぅ、危ねぇ危ねぇ」
サーシェスはごろりと仰向けになり、高い天井を見上げた。
機械油の臭いが鼻に付くが、これくらいは嗅ぎ慣れたものだ。
むしろ戦場にいる感覚が強まって心が昂るほどだ。
「この辺りでちと休むか。やっぱりこの身体は貧弱すぎていけねぇ」
サーシェスは放送直後の戦いを終えてからの行動を思い起こす。
あの後、サーシェスは西に進路を向けた。
大した意図があったわけではない。
ちぎれたボタンのコイントスで、西に行くか南に行くかを選んだだけだ。
そうして暫く進んだところで、とある痕跡を発見した。
巨大な何かが路上を通行した痕跡である。
それを見つけてからの行動は早かった。
痕跡を辿り、西へ半キロ、北西へ一キロ半。
駆け足であれば十五分と掛からない道筋を辿り、この場所、廃ビル群前の陸上艦艇に到達したのだ。
地図の上では三エリア分の移動だが、目印さえ決まっていれば短い距離だ。
「入るのは楽だったが、まさかあんな機械が見回ってるとはな。
見たことないタイプだったが、オートマトンとやらの類だったら厄介だぜ」
仮の休憩場所――サザーランドのコックピットブロックの上から、格納庫の様子を睥睨する。
しつこくサーシェスを追っていた無人機械が、格納庫の外へと引き返していく。
陸上艦艇への侵入はかなり容易だった。
もっとも、そのこと自体は想像通りであり、驚くべきことではない。
現在の生存者数は二十三名。
その中で徒党を組んだとしても、人数が十人を上回るとは到底思えない。
生き残りの半数近くを集めたグループなど『あちら側』が看過するわけがないからだ。
だとすれば、艦の乗員は十人未満。
しかも廃ビル群へ向かう三人分の足跡を確認しているので、艦に残留している人数は更に少ないはずである。
人手による見張りがない警戒網など、あってないようなものだ。
たとえ監視カメラを設置しても、監視員と現場に急行する人員がいなければ記念撮影と変わらない。
侵入者を告げるアラームがあっても同じこと。
人数不足を補うには、自動で侵入者の排除ないし確保を行うシステムが必要となる。
だが、こんなしみったれた戦場にそんな上等な装備などないだろう――サーシェスはそう踏んでいた。
「ちいっと認識を改める必要がありそうだな」
確かに侵入そのものは楽だった。
ロックらしいロックも、警報らしい警報もなく、接着式爆弾による爆破の準備も無駄となった。
ところが、侵入した矢先に無人機械のお出迎えである。
あれの火力は分からないが、全くの装備無しというわけではあるまい。
一機や二機ならまだしも、わらわらと沸いてこられたら致命的だ。
「まぁ、そのお陰でこんなのを見つけたんだから、怪我の功名って奴か」
- 699 :......and nothing heart. ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:55:47 ID:s/4eHl/w
- サーシェスは軽く握った拳でコックピットブロックを叩いた。
小さめの人型兵器が二機と、モビルスーツと同程度の機体が一機。
軍隊なら一個小隊から一個分隊に相当するほどの装備だ。
いずれはこの手の装備を持つ輩も現れるとは思っていたが、まさかここまで数を揃えているとは。
カタログによると、ナイトメアフレーム・サザーランドとモビルスーツ・リーオーの二機種らしい。
サザーランドは作業機械かと思われるほどの小型機で、コックピットを外付けしたような外見をしている。
耐久性や火力はともかく、小回りだけは利くだろう。
リーオーはモビルスーツという触れ込みだが、今まで見たこともない機体だ。
機体重量7.1トン……もはやカタログの誤植を疑うほどの軽量である。
飛行可能なユニオンフラッグが67.1トンで、7トンといえば大型のトラックよりも軽い。
それ以前にサザーランドの戦闘重量が約7.8トンと記載されている。
一体どんな素材で作られているのだろうか。
素材をその手の研究施設に売り飛ばせば、それなりの値で買い取ってくれそうだ。
「さぁて、どうしたもんかね」
サーシェスは顎に手を当てて思案する。
最初は艦内で気を抜いている連中を殺してやろうと思っていたが、どうも難しそうだ。
それなら土産代わりに、この中の一機でも貰っていこうか。
ざ、とノイズが走る。
コルトガバメントに手を掛ける。
艦内のスピーカーが音声を発する前触れだ。
『――――侵入者、聞こえているっすか』
女の声。それもかなり若い。
サーシェスは身構えたまま次の言葉を待った。
『取引を、しましょう』
◇ ◇ ◇
艦内放送のマイクに向かったまま、桃子は口を引き結んだ。
後悔しても遅い。
発した言葉は戻せない。
持ちかけた取引をこちらから取り消すなど、できるわけがない。
「この場は見逃してあげるっす。その代わり――――」
……大丈夫。
今も、揺るがない。
天江衣を殺す覚悟を固められたのだ。
もう一人、既に殺すと決めた相手を死なせることに、何の迷いがあるというのか。
「――――もうすぐこの船に戻ってくる、ある男を殺して欲しいっす」
あの男……ルルーシュ・ランペルージに傾ける心はもう棄てた。
けれど、自分の力で殺すには足りないものが多過ぎる。
まず、力量が足りない。
腕力も武装も違いすぎる。
それに憂は奴の味方をするだろう。
そうなれば、手数でも劣ることになってしまう。
次に、知恵が足りない。
単純な知識量は元より、戦いの中での思考にも大きな差がある。
いわばプロフェッショナルとアマチュアの差。
アマがやる気を出したところで、プロに勝てる道理がない。
そして、情報が足りない。
この不足が一番致命的だ。
ルルーシュは自分の能力を知っている。
しかし、自分はルルーシュの能力を何も知らない。
足りないのなら―――補えばいい。
ルルーシュ・ランペルージが想定もしていない、認識の死角からの一撃。
外的の攻撃と、内部の造反……それぞれの対処法は隙なく考えているに違いない。
だが、それらが合わさればどうだろう。
- 700 :......and nothing heart. ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:56:25 ID:s/4eHl/w
- 「こちらはあなたの行動を常に把握しています」
これは嘘だ。
常に把握することなんて出来ない。
第一、今も見失ったままなのだ。
「いつでもあなたを殺せます」
これも嘘だ。
警備ロボットにそんな装備はないし、殺すなら自分から出向かないといけない。
しくじれば最悪返り討ち。
そんなリスクを孕んでいる。
「あえてそうしない理由……汲んでくれると嬉しいっす」
デタラメとハッタリで虚飾した要求だ。
けれど、そうしないといけない。
こちらの底を見切られるわけにはいかないのだから。
「標的の特徴は……」
スピーカー越しに、ルルーシュの外見的特徴を簡単に伝えていく。
重要な情報はあえて与えない。
見れば分かる程度の特徴だけを告げていく。
『男』と限定した時点で誤認の可能性は低いが念のためだ。
先に戻ってきたデュオを殺して満足してしまう可能性もある。
「それと、私を殺そうとしても無駄っすよ。あなたは私を見つけられないから」
放送を切る。
この取引がどう転ぼうと構わなかった。
もし無視されたとしても、取引を持ち掛けなかった場合と何も変わらない。
首尾よく殺してもらえれば御の字だ。
失敗してもルルーシュの能力を暴く手がかりになればいい。
「…………」
桃子は通信機を取り出した。
ホバーベースに侵入者が現れたことをルルーシュに伝えるのだ。
こちらから戻るように仕向けなければ、いつ廃ビルから帰ってくるか分かったものではない。
それと、アリバイ作りの意味もある。
侵入者がいるがどうすればいいかと泣き付けば、よもや自分の差し金だとは思われまい。
仮に侵入者が放送のことを白状しても、証言を信頼される可能性は皆無になる。
『放送があって、黒髪長身の男を殺すように頼まれました』なんて、一体誰が信じるというのだろう。
通信を始める前に、ふと気付く。
ルルーシュはともかく、同行している憂と澪が殺されたら。
そのときは―――
「―――そのときは、ちょっとだけ哀しんであげるっす」
◇ ◇ ◇
「やれやれ、小鳥の巣箱かと思いきや、とんだ巣穴に踏み込んでたみてぇだ」
サーシェスは口の端を上げて笑った。
顔も分からない相手だが、度胸だけは及第点だ。
だが、満点はやれない。
こういうときは自らの力を誇示して相手を威圧するべきだ。
ちょうど、この殺し合いの開幕で帝愛が生贄を爆殺してみせたように。
「武力をちらつかせてこねぇのは、何か企んでんのか……」
単に頭が回っていないのか、それとも、そんな力を持っていないだけなのか。
恐らくは三番目だとサーシェスは推測する。
あの声の主が集団のリーダーだとは思えない。
もしもあの女が首領なら、配下の処分を素性も分からない部外者に任せたということだ。
勿論、厄介な部下を外的の仕業として処理するという考え方もある。
しかしそんなに頭が回る輩が、戦闘技術を持っているかも分からない侵入者を手駒として抜擢するとは考えにくい。
ましてや今のサーシェスは、外見的には可憐な少女である。
選ぶなら、もっと確実に標的を処分できる実力者だ。
つまり、これは造反。
リーダー不在の好機を突いて頭を潰そうという、手足の反逆に違いない。
手段を選ぶ余裕がなく、とにかく可能性のある手段を試そうという考えの結果だろう。
「ははっ……! いいぜ、舞台を拵えてくれるなら願ったり叶ったりだ」
取り引きなんかどうでもよかった。
侵入した時点で、することはもう決めているのだから。
問題はその方法だ。
正面から撃ち抜くか。
待ち伏せて不意を討つか。
一度ここを離れて態勢を整え直すのも選択のうちだ。
- 701 :......and nothing heart. ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:56:52 ID:s/4eHl/w
- 「さて、どう殺してやろうかねぇ」
あの女の失敗は、他ならぬアリー・アル・サーシェスを引き込んだことだ。
標的の男だけを殺して収まるわけがない。
私を見つけられないから?
上等だ、そこまで言われて引き下がれるものか。
それはさながら、病巣を殺すつもりで呑んだ薬が毒となり、身体の隅々までを破壊し尽くすように―――
【D-1 廃ビル前(ホバーベース内・制御室)/二日目/深夜】
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:疲労(小)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、双眼鏡@現実(現地調達)、パソコン
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実、蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)
小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、七天七刀@とある魔術の禁書目録、発信機@現地制作、通信機×2@コードギアス
死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、キャンプ用の折り畳み椅子@現実、“狐”の面@現実、?????の起動キー@コードギアス
[思考]
基本:加治木ゆみを蘇生させる。
0:天江衣を、麻雀で、殺す
1:ひとまず澪と内密に組む。
2:そろそろルルーシュには消えてもらう。そのために侵入者(サーシェス)をルルーシュにぶつける。
3:もう、人を殺すことを厭わない。
4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。
5:最終的に仲間を殺す事にも既に迷いはない。
6:ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
7:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
8:浅上藤乃を許す事は出来ない。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話終了後。
※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場での伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
【D-1 廃ビル前(ホバーベース内・格納庫)/二日目/深夜】
【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:全身打撲、左頬に腫れ、左腕の骨に罅、妹達(シスターズ)に転身状態、体内電流を操作することで肉体の反応速度を上げることが可能
[服装]:清澄高校の制服@咲-saki-、ノーブラ、首輪
[装備]:ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、コルトガバメント(7/7)@現実、予備マガジン×2、接着式投擲爆弾×7@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、399万ペリカ、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
1:ホバーベースで役割を果たす。やり方は好きなようにする。
2:D-4、E-5以西の区域で好きなように立ち回る。
3:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
4:上条当麻、デュオ、式、スザクたちには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
情報収集のためにデュオと接触する方針はとりあえず保留。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
※ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。
※シスターズの電撃能力は今のところ上手く使うことができません。
※衛宮士郎は死んでいる可能性が高いと考えています。
※特殊デバイスについて
マップ機能の他に『あちら側』からの指令が届く。
それに従わなかった場合サーシェスの首輪は爆破される。
- 702 : ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 16:57:16 ID:s/4eHl/w
- 以上で投下終了です。
- 703 : ◆C8THitgZTg:2010/08/14(土) 17:04:52 ID:s/4eHl/w
- 状態表の後に以下の内容を追加します。
【(腹)黒の騎士団の作戦】
1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。
2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。
3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。
4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。
5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。
6:桃子は集団内の人間をよく観察する。
7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。
8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。
9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて別れるか、そもそも関わらない。
10:『おくりびと』は見られないようにする。
【ホバーベースについて】
現在はD-1廃ビル前に停泊中です。
※下記の道具の入ったデイパックが、ルルーシュの部屋に置かれています。
基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード
モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機
ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、
カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実
※下記の道具の入ったデイパックが、澪の部屋に置かれています。
基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)
ファサリナの三節棍@ガン×ソード、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実
桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5
※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。
※下記の機動兵器が格納されています。
[平沢憂用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[秋山澪用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン
[デュオ・マックスウェル用]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
※警備ロボットが一台、ホバーベース内を巡回しています。警備ロボットには殺傷能力のある武器はありません。
カメラの映像をホバーベースの操縦席から確認できます。
- 704 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/14(土) 18:19:29 ID:dKUWL5BY
- 投下乙です
これはステルスが破られないこと前提の策だが…
首輪ちゃんなら…それとも首輪ちゃんでも…
誰の尻に火が付いたのやら…
- 705 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/14(土) 19:22:56 ID:bYBM.wk6
- 投下乙です
まあ首輪ちゃんにステルス破るのは無理だろうな……
さてこれはどう転ぶか
- 706 : ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:50:57 ID:Z7OQemyo
- 長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
上条当麻、ユーフェミア・リ・ブリタニア、枢木スザク、ファサリナ、阿良々木暦、グラハム・エーカー、
C.C.、戦場ヶ原ひたぎ、天江衣、浅上藤乃、白井黒子を投下します。
- 707 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:53:08 ID:Z7OQemyo
-
見下ろすと、アーサーが僕の右手に身体を摺り寄せていた。
こんなふうにアーサーがじゃれてくれることをずっと願っていたけれど、いざ実現するとどうすればいいのかわからない。
なんとなく、動いたら噛みつかれそうな気がして、じっとしていることにする。
この時間がずっと続けばいいのに、なんて馬鹿なことを考えていたら、
お前の考えなどお見通しだと言わんばかりのタイミングでアーサーが僕を見上げてきた。
こういう時はやっぱり笑顔だろう。
そう思って、アーサーに笑いかけようとして―――そして、僕は気づく。
笑えない。
笑いかたが、わからない。
ちょっと顔の筋肉を動かせばいいだけだと、理屈は理解できる。
なのにそれができない。
こんなに嬉しいのに。
……嬉しい?
何故だろう。違う気がする。
僕は嬉しくなんてない。
いや、それも違う。
僕は
「にゃあ」
一声鳴いて、アーサーが遠ざかっていく。
僕はただ、その後ろ姿を見つめるしかできなかった。
何故、笑えなかったのか。
何故、嬉しいと感じた自分の心を疑ったのか。
答えがでないまま、僕はただアーサーの後ろ姿を見送るしかできない。
『スーザクー』
名前を呼ばれると同時に、すっかり馴染んでしまった重みが背中に圧し掛かる。
条件反射的に僕は、もう何度言ったかわからない台詞を口にしていた。
『重いよ、ジノ』
『かたいこと言うなって』
『そういう問題じゃないんだけど。君、僕との体格差、自覚してる?』
『そんなことよりさ、スザク。こんな所に座り込んでいったいどうしたんだ?』
ジノに訊ねられて、辺りを見渡す。
まず視界に入ったのはランスロット。
ランスロットのそばに、ロイドさんとセシルさんの姿が見える。
ここは――
- 708 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:53:49 ID:Z7OQemyo
-
『スザクく〜ん。君ねぇ、ちょっと頑張り過ぎ〜』
僕の視線に気づいたらしいロイドさんが、いつもの調子で僕に言う。
そんなことを言われても、頑張り過ぎと言われるほど頑張った覚えなんて僕には無い。
足りない。まだまだ足りないんだ。
『というわけで、スザク君はお休み〜』
『でもロイドさん、ランスロットのテストは』
『それなら気にしないで。ちょっとシステムのほうに異常が出ちゃって、テストは無理なの。
それに、スザク君は頑張ったんだから、休んでいいのよ?』
『セシルさんもこう言ってるんだから、休めよスザク』
『いや、でも僕は』
『……オコノミヤキ』
僕の言葉を遮ったのはいつの間にか後ろに立っていたアーニャ。
その手にはいつもの様に携帯電話が構えられている。
『オコノミヤキ、食べたい』
『エリア11の庶民料理か、いいな。一緒に食べに行こうスザク。私はヤキタコが食べたいぞ』
『ジノ、違う。ヤキタコじゃない。タコヤキ』
『お好み焼きとたこ焼きじゃどっちも粉物だよ?って、そうじゃなくて。僕は行かないから』
『どうして? テストは中止なんだろ?』
『それならそれで、自主トレとか、勉強とか……僕は君たちと違って、士官学校を出てるわけじゃないんだ。
やらなきゃらならないことはいくらでも』
そこまで言って、アーニャがほんの少し悲しそうな顔をしているのに気づく。
後ろにいるジノも様子がおかしい。
ロイドさんに、セシルさんも……
『駄目。一緒に行く。スザクはもう頑張った』
『そうだぞスザク。だいたいスザクはいつも無理し過ぎなんだ。だから休んでもいい、私が許す』
『アールストレイム卿とヴァインベルグ卿の言う通りよ、スザク君。もう休んでいいの』
『スザク君。君さぁ、もう、十分なんだよ?』
アーニャが、
ジノが、
セシルさんが、
ロイドさんが、
――――優しい。
こんなにも、優しい。
もう頑張らなくていいんだと。
もう休んでもいいんだと。
優しく僕を労わってくれる。包んでくれる。
ああ――
本当に――
- 709 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:54:32 ID:Z7OQemyo
-
―――この期に及んでこんな都合のいい幻を見るなんて、僕はどこまで愚かなんだろう。
.
- 710 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:55:45 ID:Z7OQemyo
-
ジノはもう僕の傍にはいない。
僕が切り捨てたのだから。僕等はもう、敵なんだ。
そう思った瞬間、ジノが消える。
アーニャはもう、どこにもいない。
この島で彼女は死んだ。死んだ人間は生き返らない。
そう思った瞬間、アーニャが消える。
ロイドさんとセシルさんのことを、今の僕は利用しているだけだ。
ゼロレクイエムのために、僕は二人を傷つけている。
そう思った瞬間、ロイドさんとセシルさんが消える。
ランスロットを見上げて、自嘲する。
僕の幻は、本当に僕に都合よくできているらしい。
僕を見下ろすように立つ白い騎士は、アルビオンでもコンクエスターでもない。
第三皇女の専任騎士の愛機だったランスロットだ。
今の僕の機体じゃない。
そう思った瞬間、ランスロットが消える。
僕はゆっくりと、自分の身体へと視線を落とす。
身に纏っていたのは、ユフィの騎士だった頃の白の騎士服。
ナイトオブセブンになってジノとアーニャに出会ってからは一度も袖を通したことはない。
幻さえ矛盾しているなんて、なんて滑稽なんだろう。
今の僕には着る資格はない。
そう思った瞬間、騎士服が消えた。
真田さんの声がした――『枢木殿は某を騙していたでござるか?』
伊達さんの声がした――『Ha! 不甲斐ねぇな、枢木スザク』
神原さんの声がした――『枢木殿。私は、阿良々木先輩に会いたかった』
レイさんの声がした――『スザク。こんなものが貴様の結果か』
罵られ、蔑まれ。
でもその声も、すぐに消える。
すべての幻が消えて、暗闇だけが残った。
僕は目を閉じようとした。
これが正解なのだと。
これが枢木スザクには相応しいのだと、そう思いながら。
- 711 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:56:31 ID:Z7OQemyo
-
「スザク!!」
闇が、切り裂かれた。
「スザク」
ユフィの、声だ。
初めて出会った日。
上から落ちてきた彼女を受け止めた時のように、目の前が、鮮やかな桃色に染まる。
「スザク」
声が震えてる……泣いて、いるの……?
「スザク、私です。ユフィです」
ユフィが僕の頬に触れる。
無意識のうちに、僕もユフィへと手を伸ばしていた。
でも僕の手は、ユフィの体温を感じない。
……ああ、これも、幻、か……
「スザク」
ねえ、ユフィ。
僕は、本当は、ずっと君に逢いたかったんだ。
言いたかったことがある。
あの時の君の言葉の続きを、自分に都合よく解釈して。
本当に身勝手な告白を、してしまってもいいだろうか?
ユフィの姿は、もう見えない。
だから、早く言わないと。彼女の声が、聞こえなくなってしまう前に。
「ユフィ……僕も……、君に…あえ、て……………」
――――もう、何も聞こえなかった。
† † † † †
- 712 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:57:43 ID:Z7OQemyo
-
街灯と月明かりの下、上条当麻はある意味において人生最大の罪悪感に苦悩していた。
視線の先には、血に染まったスーツに身を包み、ぐったりとしたまま目を覚ます様子のない少女。
上条はつい数十秒前、この少女を全力で殴って気絶させてしまったのだ。しかも、殴ったのは顔。
上条は『男が女を殴るなんて最低だ』という程度の常識は持ち合わせている。
女を殴ったことが無いのかと訊ねられれば答えは「NO」なのだが、
少なくとも今までに殴った女性は、普通に戦えば自分より強い相手だけだった。
一発殴っただけで気絶されたのは、記憶にある範囲では初体験。
出来れば一生経験したくなかった初体験に、上条は焦っていた。
気絶していることが一目瞭然の相手に「大丈夫ですか?」と質問をしてしまう程度には、焦っていた。
自分を殺そうとしていた相手を殴って気絶させるくらいは正当防衛として許される範囲だと気づかない程度には、焦りまくっていた。
少女の顔を覗き込み、そこで上条は気づく。
顔が赤い。
自分が殴ったところが腫れて赤くなっているのとは違う。のぼせた時のような、身体の内側からくる赤。
右手でそっと額に触れてみれば、熱がある。
それほど高くはないが、夜のコンクリートの上に寝かせておくわけにはいかない。
肩の怪我の手当てもしなければならないし、頬だって冷やさないと腫れるだろう。
いや、これは、おそらくは冷やしても腫れるだろうが。
とりあえず、適当な民家まで運ぼうと、上条は少女を抱き上げた。
その刹那――
「少しお話をさせていただいてよろしいでしょうか?」
――背後から、女の声がした。
それだけではない。首筋に、刃の感触がある。
一撃で殺される状況だと上条は直感で理解する。だがそれでも、怯みはしない。
「……あんた、殺し合いに乗ってるのか?」
「ああ、すみません。これは念のためです。貴方は殺し合いには乗っていないのですか?」
「当たり前だろ!」
「当たり前、ですか」
「そうだ、当たり前だ。俺はこんな殺し合い、絶対に認めない!!」
上条は告げる。
僅かな沈黙の後、首筋から刃の感触が遠ざかる。
上条が振り返るとそこには、赤い槍を携えた黒髪の女性が一人で立っていた。
「私、ファサリナといいます。私もこの殺し合いには乗っていません。
ただ、ここでは初対面の人にはどうしても警戒心を――」
ファサリナの自己紹介と謝罪の言葉を聞きつつも、上条の視線はファサリナの胸に一直線だった。
これは不味い、と上条は思う。
どうにか豊満な胸に視線が行ってしまうのを抑えようと葛藤する。
そんな上条の苦悩はお構いなしに、ファサリナは言葉を続けた。
「――それで、お訊ねしたいのですが、その少女の名前は?」
- 713 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:58:28 ID:Z7OQemyo
-
ファサリナに問われ、上条は考える。
彼女は間違いなく自分に対して名前を名乗ったはずだ。
だが、思い出せない。
上条にとっては聞き慣れない外国人の名前だ。一度聞いたくらいでは覚えられないのも無理はなかった。
「たしか、ゆーなんとかって」
「……ユーフェミア・リ・ブリタニア、でしょうか?」
「ああ、それ。たぶんそれだ。そんな感じだった。あんた……ファサリナ、だっけ? この子の仲間なのか?」
「私は私の仲間に頼まれて、彼女を捜していたんです。ところで貴方の名前は?」
そう言われて初めて上条は、相手が名乗ったのに自分は名乗っていないというミスに気づく。
元を正せばいきなり背後から武器を突きつけた相手。
名乗るのを忘れたくらいで慌てる必要など全く無いのだが、ファサリナが美女だったことも相俟って、完全に地に足が着いていなかった。
「も、ももも、申し遅れました。私、一年七組、上条当麻です」
明らかに声が裏返っていた。おまけに噛んでいた。どうでもいい情報が含まれていた。
健康な男子高校生(童貞)としては、とても正しい反応なのかもしれないが。
「カミジョウ、ですか?」
「あ、えっと、上条がファミリーネームで、当麻がファーストネーム、って言えばわかるのか?」
「ああ、では、トウマですね」
そう言ってファサリナがくすりと笑う。
「私、もっとトウマとお話がしたいですわ」
「ファサリナが殺し合いに乗ってないって言うんなら、俺も話が聞きたい。情報がほしいんだ。でもその前に」
「ユーフェミアの怪我の手当て、ですね?」
「ああ、このままほっとけないから」
「わかりました。でも、今はそれよりも優先すべきことがありますわ」
『夜分遅く失礼します。インデックスです』
まるでファサリナの言葉が合図だったかのように始まる放送。
ファサリナは手早くデイパックから地図と名簿、ペンを取り出し内容を書き留めていく。
上条もまた、ユーフェミアを抱えたまま放送へと耳を傾けた。
『【ライダー】
【ヒイロ・ユイ】
【レイ・ラングレン】
【ゼクス・マーキス】
以上、4名です』
「……え?」
死者の発表を聞いた上条が、思わず驚きの声を上げる。
(なんでだ? なんでサーシェスの名前が呼ばれない!?)
サーシェスの名前が呼ばれない。それは、サーシェスが死んでいないということだ。
サーシェスが死んでいない。それは、スザクとレイはサーシェスを殺していないということになる。
そして、スザクとレイがサーシェスを殺していないということは、
上条が彼等に向けた言葉の一部は、その前提が間違いだったことを意味している。
――上条当麻は、困惑していた。
◆ ◆ ◆
- 714 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 00:59:19 ID:Z7OQemyo
-
「それで、まともに動けるようになるまでは、あとどのくらいの時間が必要なのかしら?」
放送の内容についての僅かなやり取りの後、戦場ヶ原は背後にいる魔女に訊ねた。
注意の殆どは窓の外へ、残りの少しはデイパックの中で眠ってしまった二匹の猫へと向けられている。
「それは私にもわからないな」
振り返ることをしない戦場ヶ原の背中と、戦場ヶ原の隣におとなしく座っている黒猫の後ろ姿を見ながら、C.C.は答えを返す。
はぐらかしているわけではない。本当にわからないのだ。他に答えようがなかった。
D-4南東部。橋から西へと伸びる大通りから少し北へと入った地点。
五階建てマンションの最上階の一室に二人はいた。
まっすぐ象の像へ向かわなかった理由はいくつかある。
C.C.を背負って移動する戦場ヶ原の体力の限界。
一方通行と交戦しているスザクの心配。
追って来いと告げた上条の存在。
地理的に考えて島の中では人の往来が多いポイントであろう橋に、阿良々木暦が現れるかもしれないという希望――。
互いに互いの考えを見透かして、「どこかの建物で休みたい」とC.C.が提案し、戦場ヶ原がこのマンションを選択した。
橋まではそれなりに距離がある。さらに、周辺の路地が入り組んでいるため、実際の移動距離は直線距離よりもかなり長い。
橋を渡って来た人間と即合流とはいかないが、危険人物がやってくる可能性を考慮すれば橋からある程度離れていたほうがいいとの判断だ。
窓からは橋の様子が窺える。
橋の東側4分の1ほどとその先の20メートルほどは建物の影になっていて見えないが、橋を渡る人間を確認するだけなら十分だった。
「じゃあ、もうしばらくはここにいましょう」
戦場ヶ原の一言を最後に、二人の会話は途切れる。
話すことは特にない。
それよりも、考えたいこと、気持ちを整理したいことがそれぞれにあった。
言葉を交わすことなく時が流れる。
「にゃあ」
沈黙を破るように、窓の外を見つめていた黒猫が鳴いた。
「アーサー、貴方はまだ眠くはないのかしら?」
戦場ヶ原が黒猫、アーサーを優しく撫でる。
戦場ヶ原がアーサーを見下ろし、アーサーが戦場ヶ原を見上げる。
目が合う。
「にゃあ」
悲しそうに。
寂しそうに。
苦しそうに。
何かを訴えるように。
「にゃあ」
アーサーが泣く。
戦場ヶ原はそんなアーサーを見つめ、逡巡し、微かに微笑む。
そして、窓を開けた。
アーサーは身軽に窓枠へ、窓枠から近くの木へと飛び移り、そのまま道路へ降りると東へと走り去った。
「……よかったのか?」
何も言わず、一部始終をただ見ていたC.C.が声をかける。
「人影は見えないわ。少し窓を開けたからといって、誰かに気づかれた可能性は低いと思うのだけれど」
「私が言っているのはそういうことではない」
本当は私の質問の意図くらいわかっているのだろう、と言外ににおわせるC.C.の言葉。
はぐらかす意味もごまかす意味もないのだとわかると、戦場ヶ原は諦めたように口を開いた。
「だってしかたがないでしょう? アーサーには行くべき場所が、居るべき場所が他にあるんだってわかってしまったんだもの。
それが枢木君の所なのかどうかまではわからないけれど、あの子は今行かないと駄目だと判断した。私にそれを止める権利は無いわ」
C.C.が言う。
「お前は猫の気持ちがわかるのか」
口調こそ軽いが、そこにからかいの色はない。
「猫の気持ちがわかるんじゃないわ。私とあの子は同じだからわかるのよ。私にも、私の場所がある」
「阿良々木君とやらの隣か」
「ええ、そうよ」
何の躊躇いも無く即答する戦場ヶ原に、C.C.は苦笑する。
その苦笑が戦場ヶ原に対する呆れなのか羨望なのかは、C.C.自身にもわからなかった。
◆ ◆ ◆
- 715 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:00:26 ID:Z7OQemyo
-
とある民家。
八畳の和室の片隅に敷かれた布団の中で、ユーフェミアは未だ眠り続けていた。
肩の傷はファサリナの手によって処置が施されている。手当ての間もユーフェミアが目を覚ますことはなかった。
ユーフェミアのデイパックの中に入っていた武器の類は、今は上条とファサリナのデイパックに分けて入れられている。
ユーフェミアが眠るのと同じ和室の中央には、ちゃぶ台を挟んで向き合って座り、話し込む上条とファサリナ。
自分の右手が持つ能力、幻想殺し《イマジンブレイカー》のこと。
インデックスのこと。小萌先生のこと。白井黒子のこと。海原光貴のこと。
この地で命を落とした御坂美琴のこと。
大切な人を守って散った神原駿河のこと。
最後までかっこよく戦って死んだアーチャーのこと。
出会えたもののはぐれてしまった一方通行のこと。
自分の目の前で命を絶ったレイ・ラングレンのこと。
自分を『悪意の扇動者』とまで言った枢木スザクのこと。
結局何を考えているのかよくわからなかったC.C.のこと。
そして、守ると約束したのに別れてしまった戦場ヶ原ひたぎのこと。
真剣な表情で話す上条は、ファサリナと情報交換をしている―――つもりになっていた。
上条は自身の持つ情報の殆どを吐き出している。少なくとも、意図的に隠していることは皆無だ。
それに対してファサリナは、嘘こそないものの、提供した情報はごく僅か。
対等な立場での等価交換には程遠い。
しかも、上条はそれに気づいていない。
これは決して、ファサリナが特別話術に長けていたというわけではない。
上条が劣っていたのだ。
”相手の話を聞く”ということに関して。それ以上に、”冷静になる”ということに関して。
上条が一通り話し終えたのを見計らって、聞き役に徹していたファサリナが口を開く。
「当麻は、スザクとレイという人にそこまで言われても、己の信念を曲げるつもりはないのですね?」
その問いに、上条は頷く。
「たしかに俺の取った行動は間違っていたかもしれない。もっと上手い方法があったのかもしれない。
けど、俺がやろうとしたことは、目指そうとしているものは、間違っちゃいないはずなんだ。
だってそうだろ? 誰かが誰かを殺していい理由なんてどこにもない。
誰かを犠牲にするなんて、そんなの絶対におかしいんだ。誰かが死んでも仕方ないなんて、そんな風に諦めちゃダメなんだよ。
本当はみんな、誰かの死なんて望んじゃいないはずなんだ。
だから俺はこんな殺し合いは認めない! あんただってそうだろ、ファサリナ!!」
感情のままに叫び、上条はファサリナを見つめた。まるで縋る様な目で。
上条は、必死だった。
- 716 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:01:10 ID:Z7OQemyo
-
「……当麻が大きな声を出すから、ユーフェミアが目を覚ましてしまったようですわ」
ファサリナの言葉に、上条が振り返る。
布団の上で上体を起こし、無言のままでこちらを見つめるユーフェミア。
怯えた様子で上条とファサリナを見つめる瞳に、呪われた赤は無い。
この時点では上条やユーフェミアを含め、この会場にいる参加者の誰一人として知る由もないことだが――
ユーフェミアは『日本人を殺せ』というギアスに支配されていた。
だが、そのギアスは、上条の幻想殺し《イマジンブレイカー》に殺された。
ギアスが解除されたのは、上条がユーフェミアを殴り飛ばした時ではない。顔に触れただけではギアスは消えない。
幻想殺し《イマジンブレイカー》が発動したのは――ギアスが消されたのは――それよりも少し後。
ユーフェミアの頬の紅潮に気づいた上条が、右手で額に触れた時である。
だが、上条とファサリナは、この事実を正確に把握していない。
上条はファサリナから、ユーフェミアが何者かに操られ日本人を殺すために行動していた可能性が高いという話を聞いた。
その時に上条は、それが魔術なら自分が右手で殴ったその時にその術は解除されたはずだと判断し、
上条の話を聞いたファサリナは、上条が嘘を吐くタイプの人間に見えなかったことから、それを概ね信用してしまったのだ。
「あなた、は……」
ユーフェミアが呟く。その声は恐怖に震えていた。
ユーフェミアにはギアス発動中の記憶が無い。
一緒にいたはずの黒子たちの姿は見えず、自分がいたはずの場所とは明らかに違う場所にいる。
それだけでも恐怖を感じるのには十分だというのに、
このゲームが始まった直後に自分を殺そうとした人物が目の前にいるのだ。
「私はゼクス・マーキスから貴方のことを託されました」
ファサリナが告げる。
突然出てきたゼクスの名前に、ユーフェミアはあげそうになっていた悲鳴を寸前のところで飲み込んだ。
だが、ファサリナの言葉に理解は追いつかない。
状況の把握もできず、ユーフェミアはただ戸惑うことしかできない。
そんなユーフェミアの様子を、ファサリナは黙って見ていた。
上条の話とゼクスの話を併せて考えれば、目を覚ましたユーフェミアが上条を殺そうとしなければ、
その時点でほぼ安全であるとファサリナは考えていた。
だが、まだ、ユーフェミアにかけられていた術が解かれたと断言することはできない。
ファサリナは、それを確かめる為、リスクは高いが最も短時間で行えるであろう方法を選択した。
「そこにいる上条当麻は日本人です。
単刀直入に聞きます、ユーフェミア。貴女は今も彼を……日本人を、殺したいですか?」
この数分後、ユーフェミアは上条とファサリナの口から聞かされることになる。
ゼクスの死を。
そして、自分がスザクの同胞である日本人を殺すために、行動していたことを――
◆ ◆ ◆
- 717 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:01:47 ID:Z7OQemyo
-
自分たちが置かれている状況は最悪。
それが、放送を聞いたグラハムと暦の出した結論だった。
放送によって告げられた死者は四人。今までの放送と比較すると格段に少ない。
参加者が減ったことで戦闘が起こりにくくなっているのか、殺し合いに乗った者同士が潰し合ったのか、
それとも浅上藤乃のように殺し合いから降りた者が他にもいるのか――
理由はわからないが、全体で見れば殺し合いは減速していると考えていいだろう。
だが、死者として呼ばれた四人が問題だった。
【ライダー】
【ヒイロ・ユイ】
【レイ・ラングレン】
【ゼクス・マーキス】
ヒイロとゼクスはグラハムにとっては仲間だった。
特にヒイロは首輪解除のキーパーソン。
この二人の死は、大きな損失だ。
だが、それ以上に差し迫った問題がある。
死者として発表された四人のうち、レイ・ラングレン以外の三人については
グラハムと暦の持つ情報を合わせればその死亡位置をある程度まで推測できる。
D-5、もしくはその周辺。
そう考えて間違いないだろう。
そして、それは同時に、暦の探し人である戦場ヶ原がいる可能性の高い場所であり、グラハムと暦の現在地でもあった。
「誰もいないな。ファサリナや戦場ヶ原ひたぎが見つからないことを嘆くべきか、危険人物に遭遇しないことを喜ぶべきか……」
「僕には、嘆く余裕も喜ぶ余裕もありません。僕等がこうしている間にも戦場ヶ原は」
「すまない阿良々木少年。私の失言だ」
「いえ、僕のほうこそ……」
二人が乗っていた軍用ジープは、今はグラハムのデイパックの中にある。
軍用ジープは細い路地の多い住宅街で人を捜すのには向かないからだ。
周辺に危険人物がいる可能性を考えると大声で叫ぶわけにもいかず、
結果として二人は、土地勘のない街中を虱潰しに歩き回るという非効率な方法を取らざるを得なくなっている。
そんな状況で何の収穫も無く既に30分以上。
もはや、焦りは隠せなかった。
- 718 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:02:12 ID:Z7OQemyo
-
「……え?」
急に、暦がマヌケな声をあげる。
「どうした阿良々木少年」
「猫がいたんです。これくらいの大きさの黒猫で、そこの路地を右から左に走って行ったんですけど」
手で示しながら、暦は自分の見たものをグラハムに伝える。
「こんな街中であれば、野良猫の一匹や二匹いても不思議は無いと思うが」
「僕は今までこの島で野良猫や野良犬は見たことがありません。
それにデイパックに馬が入っていたんです。猫が入ってるってこともあるんじゃないですか?」
「つまり君は、その猫が誰かの支給品だと考えているということか」
暦が猫を見たという方向にグラハムは視線を向ける。だが、既にそこに猫の姿はない。
「しかし、移動手段となり得る馬と違い、猫がこの殺し合いの場で何かの役に立つとは思えないが」
「僕の支給品は、ギターとぬいぐるみとストラップだったんですけど」
「……それは、ただのギターと、ただのぬいぐるみと、ただのストラップだという認識でいいのかね?」
「だたのギターと、ただのぬいぐるみと、ただのストラップです」
「……」
「……」
「……ならば、猫が支給品という可能性も十分に考えられるな」
納得した様子のグラハムに、暦は提案する。
「グラハムさん。猫が来た方向を捜しましょう」
「猫が向かった方向ではなく、来た方向をか?」
「はい。理由や根拠は説明できないんですけど、僕はあの猫は誰かを呼びに行ったんだと思うんです。だから」
言葉を続けようとした暦をグラハムは片手を上げて制する。
聞かずとも、暦の言わんとしていることは理解できた。
誰かを呼びに行く、という行為の目的として考えられることはそれほど多くはない。
現状を考えれば、最も先に思いつくのは『助けを呼びに行った』というケースだ。
とすれば、猫が向かった方向よりも、猫が来た方向に危機に瀕している参加者がいる可能性が高いということになる。
もちろんこれは、暦の勘が当たっていることが大前提の仮説だ。
果たして、支給品にされた猫が見ず知らずの人間のためにそんな行動を取るのだろうか、とグラハムは考える。
だが、暦の瞳を見て、グラハムは決断した。
「――その旨を良しとする。
阿良々木少年、君の提案にこのグラハム・エーカー、乗らせてもらおう」
◆ ◆ ◆
- 719 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:03:39 ID:Z7OQemyo
-
上条、ユーフェミア、ファサリナの三人は、D-5を西へと進んでいた。
この近辺には危険人物がいる可能性が高い、というのが、移動を提案したファサリナが口にした理由だ。
だが、実際は違う。
本当に危険人物がいるのなら、建物の中に隠れていたほうが安全だ。
移動するにしても、西にある橋ではなく、南を目指すべきだろう。
では何故、彼等が西に進んでいるのかといえば、それは単にグラハムたちとの合流を目指すファサリナの都合でしかない。
「大丈夫ですか、ユーフェミア?」
「……え、あ、あの……はい。大丈夫です……」
ファサリナからかけられた言葉に、どうにか答えるユーフェミア。
ユーフェミアはファサリナから言われるがまま、ここまで同行してきていた。
いくら世間知らずのお姫様とはいえ、普段の彼女であれば、自分を殺そうとした人間に対してある程度の警戒心を抱いていただろう。
だが、今のユーフェミアにそれはできない。
ゼクスの死と、これまでの比ではない長時間の記憶の欠落を知った彼女に、冷静な思考などできるはずがなかった。
そして今の彼女には、『自分を殺そうとしていた人間』よりも、遥かに恐ろしいものがあった。
(私は本当に……日本人を……人を、殺そうなんて……そんなこと……)
怖かった。
ただ、怖かった。
ユーフェミアは今までの人生で、誰かを殺そうなどとは考えたこともない。
だから、自分が日本人を殺そうとしていたと聞かされても、俄かには信じられなかった。
だが、上条とファサリナの話を嘘だと断じるだけの根拠もない。
記憶が途切れたことは一度や二度ではないのだ。
上条たちに会う前に至っては数時間分の記憶を失っている。
その間、自分が何をしていたのかなんてことはわからない。
どうしても考えてしまう。
私は本当に人を殺そうとしたのかもしれない、と。
私のことを恨んでいる人がどこかにいるかもしれない、と。
もしかしたら本当に、この手で誰かを殺しているかもしれない、と――
(いや!)
ユーフェミアは、必死に自身の中で浮かび上がった最悪のケースを否定する。
自分が人殺しになったかもしれないという事実に一人で耐えるには、ユーフェミアの精神は疲弊しすぎていた。
そして、ユーフェミアの支えになるべき人間は、今この場にはいない。
自身が犯したかもしれない罪に。
自分自身がわからないという事実に。
ユーフェミアは、ただ怯える以外に術がない。
(いや……いや……たすけて。たすけて、スザク……!)
抱えきれない不安に支配されて、ユーフェミアは心の中で助けを呼び続ける。
ひたすらに繰り返すのは騎士の名前。
(スザク……スザク……お願い、たすけて。ここに来て、スザク)
「にゃあ」
そんなユーフェミアの思考は、一匹の猫の声で断ち切られた。
ユーフェミア達の進行方向に、お世辞にも可愛いとは言えない黒猫が佇んでいる。
- 720 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:04:27 ID:Z7OQemyo
-
「あれ? あの猫、たしか……」
思わず漏れた上条の呟きに、ファサリナが問いかける。
「当麻の知っている猫ですか?」
「ああ、あれは」
「アーサー!!」
「そう、アーサー……って、ユフィ、あの猫、知ってんのか?」
上条のそんな疑問は、ユーフェミアまで届いていなかった。
アーサーに駆け寄り、少しでも目線の高さを合わせようとその場に屈んだユーフェミアは問いかける。
「アーサー。どうして貴方がこんな場所に」
聞きながら、ユーフェミアはアーサーの毛に、僅かに付着している血に気がついた。
「にゃあ」
アーサーが答える。
上条とファサリナにはただの猫の鳴き声にしか聞こえなかったが、ユーフェミアにとっては違う。
ついてこい。
アーサーははっきりと、そう言った。
走り出したアーサーの後をユーフェミアが追う。
わけがわからないままに上条がその後を追い、さらにその後ろにファサリナが続く。
アーサーはまるで、ユーフェミアが追いつくことのできる限界を熟知しているかのようなペースで、入り組んだ路地を進んで行く。
「待ってください、アーサー!」
ユーフェミアは、自分の身体に蓄積されている疲労のことなど忘れていた。
ついさっきまで不安に怯えていたことさえ、今では頭の片隅に追いやられている。
今、彼女の中にあるのは、湧きあがってくることを抑えられない別の不安だった。
何故、アーサーが自分の前に現れたのか。
何故、アーサーは自分に「ついてこい」と告げたのか。
アーサーは自分をどこへ連れて行こうとしているのか。
アーサーに付いていた血は誰のものなのか。
それを考えると、泣きそうなくらいの不安が胸を支配した。
そして、いくつめかの角を曲がった瞬間。
彼女は自分の不安の正体を知ることになる。
ユーフェミアは、足を止めた。
止めざるを、得なかった。
点々と続く血痕の先には、塀に凭れ座り込んだまま動かない身体。
左腕は無く、切断された断面の下には血溜りが作られている。
南から吹いた風に揺れる茶色い髪は、ユーフェミアが心の中で助けを求めた、大切な人のもの。
- 721 :女 の 闘い −悪夢− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:05:26 ID:Z7OQemyo
-
「スザク!!」
あまりに凄惨な光景に立ち尽くしていたユーフェミアが、状況を理解し動きだす。
「スザク」
血で汚れることを厭わずユーフェミアはスザクの傍らに膝をつく。
長い髪がその動きに少し遅れてついてくる。
コンクリートに膝を打ちつけたが、痛みなど感じなかった。
「スザク」
声が震える。涙が零れ落ちた。
「スザク、私です。ユフィです」
ユーフェミアは手を伸ばし、スザクの頬に触れる。
かろうじて目を開けてはいたものの、それまで動くことのなかったスザクの身体が微かに動く。
動いたのは左肩。
……そう、まるで、今は無い左手をユーフェミアに向けて伸ばすかのように……
「スザク」
一人は怖かった。
ずっと、会いたかった。
アーニャやゼクスや他の誰かと一緒にいても、ユーフェミアは常にスザクの存在を求めていた。
でも、こんな再会を望んでいたわけじゃない。
スザクが傷つくことを、望んでいたわけじゃない。
スザクのこんな姿を、見るのは辛い。
だけど、目を逸らさない。ユーフェミアは、スザクの右手を握りしめる。
「ユフィ……僕も……、君に…あえ、て……………」
――――もう、緑色の瞳は見えなかった。
.
- 722 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:08:33 ID:Z7OQemyo
-
「スザク! スザク!!」
「落ち着いてください。彼はまだ生きています」
ファサリナに宥められ、ユーフェミアは叫ぶのをやめる。
聞こえるのはスザクが呼吸する音。
明らかに不自然なそれは、スザクが生きていることの証であると同時に、その命が死に向かっていることの証でもあった。
「……手当て、するぞ」
上条は自分のデイパックから支給品の応急処置セットを取り出し、包帯をスザクの傷口にあてる。
だが、片腕が切断されたことによる出血だ。支給品の包帯だけでは足りるわけがない。
見る間に白い包帯は赤い布へと姿を変える。
「申し上げにくいのですが、この方は手遅れですわ」
ファサリナがそう告げる。
先程出会ったゼクス・マーキスに比べればスザクの状態は僅かにマシではある。しかし、致命傷であることには変わりない。
出血量を考えれば、今生きていることが既に奇跡に近いだろう。
治療できるあてもない状況では目の前の青年が息絶えるのが時間の問題だということは、ファサリナにしてみれば一目瞭然の事実。
しかし、その一目瞭然の事実を決して認めない人間がこの場にはいる。
上条当麻だ。
「なんでだよ……なんでそんな簡単に、手遅れなんて言っちまえるんだ? わかってんのかよ、人一人の命なんだぞ!?
俺たちがコイツのために何をやった? まだ何にもやってないだろうが!
まだできることはあるはずなんだ。やれることは残ってるはずなんだ。諦めるにはまだ早すぎるんだよ!!」
吼える上条。
「ですが、この怪我では素人が普通の手当てを施したところで延命にもなりません」
淡々と答えるファサリナ。
そのファサリナの言葉に反応したのは、上条ではなくユーフェミアだった。
「普通の手当てでなければスザクを助けることができるということですか?」
「貴女は普通ではない手当てができるとでも?」
「私にそんな力はありません。でも――」
ユーフェミアは、自分の持っていたデイパックを漁る。
いくつかのアイテムをバックの中から放り出し、ようやく目当ての物を捜しあてる。
ユーフェミアが取り出したのは、『薬剤/ルイス・ハレヴィ』というラベルの貼られたひとつの瓶。
- 723 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:09:24 ID:Z7OQemyo
-
「それ、どんな効果があるんだ?」
上条の質問に、ユーフェミアは簡潔に「わかりません」と答える。
「いや、わかんないって……」
「デイパックに入っていたということは、帝愛の方が用意した物でしょう?
彼等が本当に魔法を使えるのなら怪我を治す魔法があったっておかしくありません」
「本気でそう思っているのですか、ユーフェミア」
そんなに都合のいい話があるわけがないという意味を滲ませるファサリナ。
「このままでは、私たちはスザクが死ぬのをただ黙って見ているしかないのでしょう?
でしたら私は、少しでも可能性がある方法に賭けます」
「その薬剤が、毒かもしれなくてもですか?」
ファサリナの言葉に、ユーフェミアは絶句する。
「ユーフェミア。私は貴女の賭けに反対するつもりはありませんわ。ただ、覚悟が必要です」
「覚悟、ですか……?」
「そうです。もしその薬剤を飲んだことで彼が死ねば、彼を殺したのは貴女ということになります。
貴女には、彼の命を背負う覚悟がありますか?」
命を背負う覚悟――ファサリナの言うそれは、『スザクを殺してしまう覚悟』を指している。
俯いたまま言葉を発することのできないユーフェミア。
見かねた上条が口を開く。
「なあユフィ。なんだったら俺が――」
最後まで言うよりも前に、ユーフェミアは首を横に振る。
「私たちの中で、いちばんスザクと繋がりがあるのは私です。いちばん強くスザクを助けたいと願っているのも。
ですから、当麻に背負わせることはできません」
きっぱりと上条の申し出を断って、ユーフェミアは身体ごとスザクの方へと向き直る。
スザクの顔を見つめ、左腕があるはずの場所を見つめ。
瓶を持った両手に力が入る。
そして。
ユーフェミアは右手を瓶の蓋へとかけた。
「覚悟は決めたのですね」
ファサリナの問いに、ユーフェミアはただ、しません、と返す。
「ユーフェミア。貴女は覚悟も無く、彼の命を奪う可能性のある選択肢を選ぶというのですか」
ユーフェミアはゆっくりと顔を上げ、ファサリナを見て、微笑んだ。
美しく、綺麗に笑う。
そして、まっすぐに答える。それはあたかも、宣誓のように。
「私はスザクを喪う覚悟なんて絶対にしません。スザクは必ず助けます」
◆ ◆ ◆
- 724 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:10:43 ID:Z7OQemyo
-
「――天江さん、お借りしますわ」
ギャンブル船スイートルーム。
沈黙を破ったのは、黒子の一言だった。
衣の対局後に合流した三人が行った情報交換。
放送で告げられたヒイロとゼクスの死に加え、藤乃の千里眼で周囲を見渡しても士郎やグラハムたちの姿を
確認できなかったことが、三人の間に流れる空気を重いものにしていた。
衣の答えを待たず、黒子はテーブルの上に置かれていた衣の地図を、衣と藤乃が見やすい向きに回す。
「先程の放送で発表された禁止エリアのことなんですけれど、これは参加者を誘導する目的があると思うんですの。
【E-6】が禁止エリアになれば、川より東側の街は南北に分断されてしまいますわ。
仮設駅も撤去されるということですし、島の東側にいる参加者が西側へと移動して来ると考えられます。
工業地帯や私たちのいる船着場に誰かが……殺し合いに乗っている参加者が来る可能性は、
放送の前よりも上がったと考えたほうがいいですわ」
禁止エリアの書き込まれた衣の地図を指差しながら、黒子は自分の考えを一気にまくしたてた。
落ち込んだり悲しんだり心配したりしているだけでは駄目なのだ、と黒子は思う。
人から守られる存在ではなく、人を守る存在でありたい。
そのためには、何かをしなければならない―――その気持ちが焦りなのだと自覚しないまま、黒子はこれからに考えを巡らせる。
「それは、ここからの移動を検討したほうがいいということですか?」
藤乃の質問に対し、黒子は首を横に振った。
「いいえ浅上さん、むしろ逆ですわ。私たちはここから動かないほうがいいと思いますの」
「何故ですか? 白井さんのお話では、ここは危険になるのでしょう?」
「たしかに危険ですわ。でも、私たちが三人だけで移動するのはこの場に留まるよりも危険です。
私たちが移動してしまっては……グラハムさんたちとの合流が難しくなってしまいますし」
意図的に士郎の名前を出すことを避けた黒子は、さらに言葉を続ける。
「それに、多額のペリカが必要とはいえ、禁止エリアに関係なく海上を移動できるというのは大きいですわ。
ここは私たちの拠点となり得る場所だと思いますの。逆に、殺し合いに乗っている人に占拠されるのは避けたいですわ」
「そうですね。でしたら考えるべきは、襲撃を受けた際の対処法でしょうか」
黒子と藤乃の会話は、いざという時の逃走ルートや役割分担へと話題を移していく。
それを衣は、黙って聞いていた。
藤乃がここからの移動と言いだした時、衣は内心で焦っていた。
衣には、期限内に返さなければ命を奪われる借金がある。
この借金を返すためには、ギャンブル船で麻雀に勝つ以外に方法がないのだ。
衣は、怯えていた。
借金を背負ってでも黒子を助けたことに後悔は無い。
もし、このまま借金を返せずに死ぬことになったとしても、黒子を助けなければ良かったなどとは思わないだろう。
だが、後悔していないからといって、死ぬ覚悟ができているわけではない。
死ぬのは怖い。
とても、怖い――――
.
- 725 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:11:31 ID:Z7OQemyo
-
「……あの、天江さん」
藤乃に声をかけられ、衣は死への恐怖に向けられていた意識を藤乃へと向ける。
「どうしたのだ、浅上」
「何か、音がしませんか? その……天江さんのデイパックの中から」
衣たちが囲んでいるテーブルから少し離れた場所に置かれたベッド。
その上に、放送の内容をメモするために名簿と地図を出した後、口を閉めていない衣のデイパックが置かれている。
藤乃が指摘通り、たしかに衣のデイパックから微かに音が漏れていた。
「天江さんの支給品の中には、何か音がするものが入ってますの?」
「……………」
黒子の質問には答えず立ち上がる衣。
ベッドの所まで行くとデイパックを拾いあげ、その中へと手を突っ込んだ。
そして衣がデイパックから取り出したのは、ヘッドセット。
龍のヨロイ・ドラッヘとの戦いに際し、レイ・ラングレンとヴァンが用いた無線通信機だ。
「天江さん、それは……?」
「……カイジたちがギャンブルルームで買った通信用の道具だ」
「通信用ということは、これと同じものがもう一つあるんですか?」
藤乃の問いに、衣は頷く。
一つは衣が持っている。もう一つはカイジが持っていた。
だが、カイジが持っていた物は奪われた。
断言はできない。だがかなりの確率で、この先にいるのはカイジを殺した人間だ。
ヘッドセットを持つ衣の手が微かに震える。
向こう側にいるのは誰なのか。
確かめたくないと、知ることが怖いと衣は思った。
それでも――
――それでも衣は、声を発した。
◆ ◆ ◆
- 726 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:11:58 ID:Z7OQemyo
-
『そこに、誰かいるのか……?』
突然どこからともなく聞こえてきた声に、上条とファサリナは警戒を強め辺りを見渡し、
ユーフェミアはスザクを守るように身体を動かした。
『誰も、いないのか?』
再び聞こえる声は少女のもの。
おまけに”周囲のどこか”からではなく、”自分たちのいる場所”から聞こえている。
音源が、ユーフェミアがルイスの薬剤を取り出す際にデイパックから出してそのまま地面に転がっていたヘッドセットだと気づいたのは、
三人ともほぼ同じタイミング。
「貴方はバトルロワイアルの参加者ですか?」
ユーフェミアがヘッドセットの向こうの相手に問いかける。
ファサリナは二度目に声が聞こえた時に相手が天江衣であることに気づいていたが、あえて何も言わなかった。
『そうだ』
「殺し合いには」
『衣は殺し合いなんてしない』
衣の答えを聞いた瞬間、ユーフェミアは叫んでいた。
「でしたらお願いします! スザクが……私の大切な人が今、重傷を負って命の危機に瀕しているんです!
お力を貸していただけませんか!?」
ユーフェミアは必死だった。
スザクにルイスの薬剤を半ば強引に飲み込ませてみたものの、少なくとも見た目には何の変化もない。
上条とファサリナの手を借りて行った応急処置も、気休めにもならないことは明らかだ。
顔が見えない相手の一言を信じることの危険性を考慮する余裕など、ユーフェミアにはもはやない。
『……お前の名前はなんというのだ?』
「ああ、申し遅れました。私、ユーフェミア・リ・ブリタニアと申します」
『ユーフェミア……』
「はい。この島の中に、怪我の手当てができる場所や道具は――」
『お前なのか?』
ユーフェミアの言葉を遮る衣の声。
それまでとは様子の違う声音にユーフェミアは息を飲む。
『お前がカイジを殺したのか! ユーフェミア・リ・ブリタニア!!』
◆ ◆ ◆
- 727 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:15:00 ID:Z7OQemyo
-
ユーフェミアが必死だったのと同じように、衣もまた、必死だった。
カイジを殺した相手について衣が知っているのは、名前と外見の特徴程度。
実際に見たことのないその存在は、忘れたことはなくとも遠いものだった。
でも、今は違う。
姿は見えない。距離がどれだけ離れているかもわからない。
だけど、声が届く場所にいる。
今までに無かった感情が湧き上がるのを、衣は抑えられなかったし、抑えようとも思わなかった。
『てめえ、いきなり何言ってやがる!』
聞こえてきた男の声にも衣が怯むことはない。
「ユーフェミアがカイジを、衣の友達を殺したのだ! ゼクスの手紙にそう書いてあった!」
『ユフィは人殺しなんかする子じゃない!」
「今衣たちが話すのに使っているのは、もともとカイジが持っていた物だ。だけど、殺された時に奪われた!」
『もし……もしもだ。もし本当にユフィがカイジって人を殺したんだとしても、それはユフィの意思じゃない。
ユフィはさっきまで誰かに操られてたんだ、だから」
「衣はユーフェミアに聞いている! カイジを殺したのは」
『今はこんなこと言い合ってる場合じゃないんだよ! そっちの話は後で聞いてやる。だから今は、こっちの話を』
「カイジは、衣の友達だった!」
『こっちは人一人の命がかかってるんだ! 今はそんなこと、どうでもいいだろうが!!』
「どうでもよくなんてありませんわ!!」
そう叫んだのは、衣ではない。
衣が驚いて振り返れば、そこには唇を噛みしめ握った拳を振るわせる黒子の姿があった。
黒子は、衣を止めるつもりは無かった。口を挟むつもりも無かった。
だが、気がつけば叫んでいた。
御坂美琴の死を知った時の感情が、美琴の仇がアリー・アル・サーシェスであることを知った時の感情が、甦り、黒子の中を駆け巡る。
「その声、上条さんですわよね? 先程の言葉、即刻取り消していただけませんこと?」
『白井、なのか?』
「そうですわ」
『こっちには死にかけてる奴がいるんだよ。お前ならわかるだろ、今はどっちを優先しなきゃならないのか』
「わかりますわ……ええ、わかりますわ。
上条さんの仰る通り、今はユーフェミアさんのことよりも、そちらで重傷を負われているという方のことを優先すべきです」
『だったら――』
「だからと言って、貴方に衣さんの想いを、「どうでもいい」なんて言う資格はありませんわ!!」
衣の目から今まで耐えていた涙がぽろぽろと零れ落ちる。
黒子の瞳もまた、潤んでいた。
藤乃はそんな二人をただ黙って見ているしかできなかった。
藤乃自身、大切な人の死を経験している。衣や黒子の気持ちがまったく理解できないわけではない。
だが藤乃は、自分を”悲しんだ側の人間”ではなく、”悲しませた側の人間”だと思っている。
だから、何もできなかった。
できないと、思っていた。
「上条さんの仰ることは正しいですわ。
でも、いつだって正しいことを感じて、考えて、正しく行動するなんて無理なんですの。
そうありたいと願っても、でもやっぱり無理なんですの。
こんなこと思っては駄目だとわかっていても、憎いものは憎いし、泣いている場合じゃなくたって、悲しいものもは悲しいんですの!!」
黒子が口を開いたのは、上条に責められる衣を庇うためだった。
なのにこれでは、溜めこんでいた感情をぶちまけているだけだ。
しかも口にしているのは、言葉にしてはならない、蓋をしておかなければならなかった感情。
黒子は自覚してしまう。
自分は今もこんなに御坂美琴の死を悲しんでいるのだと。
自分はこんなにもアリー・アル・サーシェスを憎んでいるのだと。
『当麻。私に話をさせてください』
ヘッドセットの向こうで、ユーフェミアの声がした。
◆ ◆ ◆
- 728 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:17:12 ID:Z7OQemyo
-
「コロモさん、でしたよね?」
ユーフェミアの問いかけに、黒子と衣、そして藤乃が改めて名を名乗る。
「衣さんの仰るカイジという人は、日本人だったのですか?」
『そうだ』
衣の答えを聞いて、ユーフェミアは俯いた。そして大きく息を吐く。
再び顔を上げた時、ユーフェミアの表情には、それまでの不安や怯えとは別の何かがあった。
「……私はこの島に来てから、何度か意識が途切れることがありました。
気づいたら全く知らない場所にいたり、デイパックの中に身に覚えの無いものが入っていたり……このヘッドセットもその内の一つです。
上条さんが仰るには、私は日本人を殺すために行動していたと……でも私には、その記憶がありません」
言いながらユーフェミアは、無意識のうちにスザクの手を握っていた。
伝わってくるのは体温と血の感触。
傍に座っていたアーサーが立ち上がり、震えるユーフェミアにそっと寄り添う。
「カイジさんという方のことを私は知りません。
ですが、衣さんのお話しを聞く限り…………カイジさんを殺したのは私なのでしょう」
スザクの手を握る手に力が入る。
「でも私は、知らないのです」
『憶えていないから自分は悪くないと仰りたいんですの?』
「いいえ」
黒子の問いを、ユーフェミアはきっぱりと否定する。
「記憶に無いから罪は無いなどと言うつもりはありません。けれど、知らないものを謝ることはできません。
私がどういった方法でカイジさんを殺したのかはわかりませんけど、ナイフで人を刺す感触も、
生きている人間に向けて銃の引き金を引く感触も知らない私に、人の命を奪った罪を本当の意味で理解することはできないと思うんです。
自分の罪の重さを知らないのにただ謝ることは、衣さんに対してもカイジさんに対しても失礼でしょう」
本当は、自分が人を殺したという事実を認めることさえ怖かった。
その事実を受け入れ向き合う覚悟は、今はまだ無い。
ユーフェミアはそんなに強くない。
だがユーフェミアは、自分に向けられた感情と向き合えないほど弱くもなかった。
「だから私は、知らなければならないと思います。
カイジさんがどういう人だったのか。カイジさんが死んで衣さんがどれだけ悲しんだのか。
殺した時のことを憶えていないのだからせめて、私がカイジさんを殺したことで失われたものと残ったものを知ることが、
今の私にできることであり、私がしなければならないことだと思うんです。
ですから……衣さんたちと直接お会いして、お話ししたいと思います」
その言葉には、聞いていた全員が驚きを隠せなかった。
感じたことはそれぞれに違う。考えたことも違う。
が、予想していなかったという点においては全員が一致していた。
「ただ、今は、スザクのことを優先することを許していただけないでしょうか?」
ユーフェミアは言葉を続ける。
「人の命を奪っておきながら、自分の大切な人は助けたいなどと言うのは身勝手なことだとわかっています。
ですが私はスザクを死なせたくはないのです。スザクに生きていて欲しい。そのために、やれることをやりたいんです。
どうかお願いです。今は私に時間をください。
もしスザクを助ける方法をご存知なら、私に力を貸して下さい。お願いします」
- 729 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:19:59 ID:Z7OQemyo
-
ヘッドセットの向こうへと頭を下げるユーフェミア。
そのユーフェミアに答えたのは衣だった。
『……やっきょく、へ……行くのだ……』
嗚咽混じりの声で衣は伝える。
『薬局に…まじゅつで、けがを治してくれる、サービスが……あるのだ……』
「本当ですか!?」
『ゆーふぇみあは……いちおく、ペリカを…持っているか?』
「一億、ですか……いいえ、そんなに多額のペリカは」
『なら、衣が持っているペリカを、薬局まで……届けるから……』
「ありがとうございます!」
ユーフェミアが叫ぶように感謝の気持ちを示しす。
それまで事の成り行きを見守っていたファサリナが口を開いた。
「聞こえますか?」
『ファサリナさんですの!?』
「はい。ファサリナですわ」
ファサリナは自分たちの今の状況について必要最低限の説明をし、黒子たちからも情報を聞きだしていく。
今から互いに薬局を目指せば同じくらいの時間に到着できるだろうと、薬局で落ち合うことまであっと言う間に決めてしまった。
「では、薬局で。通信は一度切らせていただきますね」
『わかりましたわ』
話しを終えたファサリナが、ヘッドセットをユーフェミアに手渡す。
「これは、貴女が。私たちも薬局を目指しましょう」
「はい」
「あ、でもその前にこれ、片づけないとな」
上条が、地面に散らばった道具を指して言う。
一拍遅れて、それが自分がデイパックから放り出したままにしていた物だと気づくユーフェミア。
慌てて拾い集めデイパックに入れていくユーフェミアにファサリナが手を貸す。
ファサリナは、ユーフェミアを処分することを考えはじめていた。
ただ不安に怯え、流されるままに自分たちについてくるその姿は、足手纏いにしかならない弱者としかファサリナには思えなかった。
その考えが変わったのは、スザクをみつけた後だ。
スザクがユーフェミアにとって本当に大切な存在なのであろうことは、事情を知らないファサリナにも容易に察することができた。
大切な人が死に瀕している状況で見せたユーフェミアの態度。
スザクを喪う覚悟はしないと言い切ったその姿は、弱者のものではなかった。
そして、衣たちに対する応え。
相手の顔は見えないのだから、口先だけでも謝ってしまえばよかったのだ。そのほうがずっと簡単だったはずだ。
なのにユーフェミアはそうはしなかった。
直接会って話すという道を彼女は選んだ。
ファサリナは思った。ユーフェミアはユーフェミアなりの覚悟を見せたのだと。
ユーフェミアが自分たちのシンボルとなり得る人材なのかどうかはまだわからない。
それを見極めるにはまだ時間が必要だ。
だがファサリナは、もう、ユーフェミアのことをただ弱いだけの人間だとは思わなかった。
だから
「君は……ユーフェミアか!」
路地から現れたグラハムがユーフェミアに銃を向けた時、ファサリナは迷わずユーフェミアとグラハムの間に自身の身体を割り込ませた。
「彼女は、安全ですわ」
一言、そう告げる。
今はまだ、ユーフェミアは死なせない。
◆ ◆ ◆
- 730 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:21:41 ID:Z7OQemyo
-
通信を終えた衣に、藤乃が声をかける。
「よかったのですか?」
「何がだ、浅上?」
「えっと……その……ユーフェミアさんに、薬局の施設サービスのことを教えてしまって」
藤乃の質問の意味がわからないと言った様子で、衣は首を傾げる。
「ですから、あの……」
「はっきり言うのだ。浅上」
「……天江さんが何も言わなければ、枢木さんはそのまま死んでいたかもしれません。
そうなればユーフェミアさんは、大切な人が死んでしまったことを悲しんでいたでしょう。だから……」
そこまで言われれば、衣も、横で聞いていた黒子も、藤乃が言いたいことを理解できた。
今もスザクが助かると決まったわけではないが、薬局の施設サービスの情報を伝えなければまず間違いなく彼は死んでいただろう。
彼が死ねばユーフェミアは悲しむ。衣がカイジの死を悲しんだように。
同じ苦しみを味わわせることができたはずだ。
それは復讐になっただろう。
しかし、それは同時に――――
「衣はすざくを、見殺しにすればよかったのか?」
助けられるかもしれない命を、見捨てることを意味している。
「そうじゃありません。そうではなくて……ごめんなさい。
でも私にはわからないんです。
ユーフェミアさんは謝ったわけじゃない。償ったわけじゃないのに、どうして赦せるんですか?」
藤乃が問う。
その声には、戸惑いと不安が混ざっていた。
「浅上。衣は、ユーフェミアを赦していない」
「え? でも……」
「衣は、ユーフェミアも大切な人に死なれて苦しめばいいとは思わなかった。それだけだ。
とーかやカイジのように誰かが死ぬのも、衣のように誰かが悲しむのも、もう嫌だと思った。
衣のせいで誰かが死んだり悲しんだりしたら……それは衣が、ユーフェミアや殺し合いに乗った者たちと同じことをしたということだ。
そんなこと、衣は絶対にしたくない」
衣の言葉に藤乃が息を呑む。
「それにユーフェミアは、衣に会いたいと言った。知らないのに謝るのは失礼だから知りたいと言った。
ユーフェミアは、衣の声に応えようとしてくれたのだと思う。だから衣も、応えねばならないと思ったのだ」
「応える……」
まっすぐに自分を見つめる衣の視線から、藤乃は逃れられなかった。
藤乃は、自分の犯した罪を償うために、謝りたいと思っていた。
謝っても赦されないかもしれない。そう考えると怖かったが、赦されなくとも仕方ないと覚悟していた。
自分の罪を赦せない人間に、殺されることさえ厭わないつもりだった。
だが、謝るという行為は時として、相手に対する償いにはならないのではないか。
ただ頭を下げることだけが、相手の思うようにさせることだけが、償いではないのではないか。
藤乃の中に、疑問が生じる。
「……私も、知らなければ駄目ですね。自分の犯した罪の先にあるものを」
呟く藤乃。
その声は小さいが、決意に満ちていた。
.
- 731 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:23:49 ID:Z7OQemyo
-
「――ところで、薬局へ向かうというお話についてなんですけれど」
黒子が切りだす。
「そうだ、一刻も早く薬局へ向かわねば」
「そのことなんですけれど天江さん。薬局へは、私が一人で参りますわ」
黒子の言葉に、衣と藤乃は驚きを隠せない。
「一人でなんて、危険です!」
先に反発したのは藤乃だ。
衣もそれに続く。
「一億ペリカを持って行くと言ったのは衣だ。それなのに白井一人で行かせることなどできない」
「そうです、三人で行きましょう」
「いいえ、天江さんと浅上さんはここで待っていてくださいな。
そうですわね。天江さんは麻雀を打っていてください。
一億ペリカが無くなってしまうんですし、ギャンブルルームは私の知る限り、この島の中でいちばん安全な場所ですわ」
「白井、衣も一緒に」
「はっきり申し上げますわ。お二人は足手纏いなんですの」
衣がぐっと言葉に詰まる。
「私の力では、何かあった時にお二人を守ることは困難ですわ。
それに、私たちの今の目的は一刻も早く薬局に到着すること。
あの馬だって三人で乗るよりも一人のほうがスピードを出せるでしょうし、私は空間移動能力者《テレポーター》。
自分で言うのもなんですけれど、これ以上適任な人間は他におりませんわ」
黒子にここまで言われては、衣には返す言葉が無い。
事実、衣は戦えないのだ。実際に戦闘に発展すれば、自分の身を守ることさえできないだろう。
それに、単純に早く移動することだけを考えれば、黒子一人で行くことが最善なのは確かだ。
衣は渋々デイパックの中からペリカとペリカードを取り出す。
「これで、一億ですの?」
「いや、衣の全財産だ。一億三千八百十万ペリカある。全部持って行ってくれ」
「それはできませんわ!」
黒子がそう言うのも当然だった。
全てのペリカを持たせてしまっては、衣は麻雀を打つ際、血液を賭けることになる。
「施設サービスを使うだけなら一億で足りる。だが、何があるかわからないだろう? 他にもペリカが必要になるかもしれない」
「ですが、天江さんに血液を賭ける麻雀をさせるわけにはまいりませんの」
「衣の心配はいらない。衣は必ず勝つ」
衣は断言した。
衣にはそれだけの自信があった。
「勝負の世界に、絶対なんてありえませんわ!」
しかし、衣の言葉に黒子が引き下がることはなかった。
口論する二人を見かねた藤乃が口を挟む。
「あの、ここに二千五百万ペリカを残して、残りを白井さんが薬局へ持って行くというのはどうでしょう?」
それは謂わば、衣と黒子の折衷案。
二千五百万ペリカあれば、少なくとも一度の対局は血液を賭ける必要は無い。
黒子と衣もそれならばと、首を縦に振った。
- 732 :女 の 闘い −覚悟− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:25:31 ID:Z7OQemyo
-
「――――では、行って参りますわ」
ペリカを詰めたデイパックを肩にかけた黒子に、見送りの言葉を口にする衣と藤乃。
藤乃の手の中には、「もともと阿良々木さんの持ち物ですから私よりも浅上さんが持っているべきですわ」と
黒子が強引に手渡したノートパソコンがある。
黒子は少し藤乃のことを見つめた後、藤乃に近づき衣には聞こえないように囁いた。
「私、貴女のことを信じますわ。少なくとも、罪を償うと決めたその気持ちに嘘は無いのだと」
そう言った次の瞬間にはもう、黒子の姿は部屋にはなかった。
「白井は大丈夫だろうか……」
「きっと、大丈夫です。白井さんも、他の皆も」
衣は泣いた所為で涙の痕の残った顔を、どうにか笑顔の形に変える。
そんな衣を見ながら、藤乃は思う。
(私は、あの力を使えるの……?)
藤乃は考える。
衣を死なせるわけにはいかない。
黒子の信頼を裏切ることはできないし、藤乃自身も衣に死んでほしくない。
だが、もしこの場に、殺し合いに乗った者が現れ、戦闘になるようなことがあったら、自分は戦えるのだろうかと――
「浅上」
「あ、はい。なんですか?」
「……………」
衣が無言のまま指で示す方向に、藤乃は視線を向ける。
そこにあるのはテーブル。
そして、その上には、先程までユーフェミアたちとの通信に使われていたヘッドセット。
「……白井が持っていくべきだったと衣は思うのだが、今から追いかけて追いつけるだろうか?」
衣の問いに、藤乃は首を横に振るしかなかった。
【?-?/船着場と薬局の間/二日目/深夜】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録、伊達軍の馬@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、1億1310万ペリカ
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:薬局へペリカを届ける。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
4:士郎さんが心配、意識している事を自覚
5:士郎さんはすぐに人を甘やかす
6:士郎さんを少しは頼る
7:お姉さまが死んだことはやはり悲しい。もしお姉さまを生き返らせるチャンスがあるのなら……?
8:アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。藤乃のことは完全に信用したわけではないが、償いたいという気持ちに嘘はないと思う。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
・その他制限については不明。
※エスポワール会議に参加しました。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
- 733 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:27:49 ID:Z7OQemyo
-
ファサリナ。
上条当麻。
ユーフェミア・リ・ブリタニア。
阿良々木暦。
グラハム・エーカー。
そして、枢木スザク。
彼等六人の合流は、少なくとも表面上はスムーズなものだった。
ファサリナとグラハム、暦とスザクがそれぞれに面識を持っていたことが大きい。
それに加え、ユーフェミアたちが通信機越しとはいえ衣たちとコンタクトを取っていたこと、
グラハムと暦は藤乃の一件で殺し合いに乗っていた人間を受け入れる経験を経ていたことも効いている。
これは衣や黒子、藤乃にも言えることだが、『今は枢木スザクの救命を最優先事項とする』という共通認識のもとで
先送りされている問題は決して少なくない。
情報交換もそこそこに、彼等は薬局を目指している。
「施設サービスじゃスザクを治せないって……本当なんですか?」
「私の記憶に間違いがなければ、あのサービスは致命傷には効果がない」
「そんなっ……」
スザクを背負って歩くグラハムからの情報に、ユーフェミアが声を震わせる。
ついさっきまで、薬局まで辿り着くことができればなんとかなると思っていたのだ。
「何を弱気になってんだ、諦めるにはまだ早いだろ!」
沈みかけた空気を破るように上条が言う。
だが、スザクを治療する方法として具体的な対案があるわけではない以上、それは単なる精神論に過ぎず、問題の解決にはならない。
「……なあ、ユーフェミア。天江たちとの通話に使ったっていう通信機、ちょっと貸してくれないか?」
何かを思いついた様子でそう言ったのは暦だ。
断る理由も無いので、ユーフェミアは言われた通りにヘッドセットを暦へと渡す。
歩きながらということもあり、暦はヘッドセットを耳に着ける。
「浅上、白井、天江。聞こえるか? 僕だ、阿良々木だ」
『え? ……阿良々木さん、ですか?』
「そうだ。その声は浅上か?」
『はい、そうです』
『衣もいるぞ!』
『でもどうして、阿良々木さんが……?』
「さっき、僕とグラハムさんもファサリナさんたちと合流したんだ。それで浅上、そこに白井はいるか?」
『いません。一人で薬局へ向かいました』
「なんだって!?」
黒子が一人で薬局へ向かうことになった経緯と、今の自分と衣の状況を簡潔に説明する藤乃。
それを暦が他のメンバーへと伝える。その内容にいちばん表情を曇らせたのはグラハムだ。
- 734 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:28:36 ID:Z7OQemyo
-
『それで阿良々木さん、白井さんに何か用事が?』
「ああ、さっき浅上たちと別れる時に、ノートパソコンを白井のデイパックに突っ込んだんだ。
普通に渡してもどうせ受け取らないだろうと思って……それを使いたかったんだけど、白井がいないんじゃ」
『待ってください、そのパソコンなら、私が預かっています』
「本当か、浅上」
『はい。それで、何をすればいいんですか?』
「サポート窓口を使って、枢木の怪我……致命傷を治す方法が、薬局の施設サービスに無いかを聞いて欲しいんだ。
なんて言うかその……一応の保険ってことで」
『わかりました』
すぐにメールを出して、返信があり次第連絡をするという藤乃の返事を確認し、暦はヘッドセットを外す。
「ありがとう、ユーフェミア」
ヘッドセットを渡そうとする暦に対し、ユーフェミアが首を振る。
「暦がお話している間に、グラハムさんにサポート窓口のことを教えていただきました。
藤乃さんの声は聞こえませんでしたけど、また連絡が来るんですよね?」
「ああ。窓口からの返信がいつになるかはわからないんだけど」
「でも、藤乃さんは暦に返事をしてくるのでしょう? でしたらそれは、暦が持っていてください」
ユーフェミアにそう言われ、少し迷った後、暦はヘッドセットを首にかけた。
「橋が見えたぞ」
グラハムが全員に声をかける。
D-4の橋。渡った経験のあるグラハム、暦、ファサリナは知っているが、この橋は崩落の危機にある。
六人が同時に渡るのはほぼ不可能な状態だ。
ファサリナが他の五人に、橋を渡る手はずを提案する。
まず最初に渡るのはスザクを背負ったグラハム。
次にユーフェミアと暦。
最後がファサリナと上条。
橋を渡り終えた順に、薬局へと先行する。
一時的とはいえ分散するリスクはある。
だが、スザクの状態は一刻を争うことに加え、単独行動を取っている黒子が一人で薬局で待つという状況はできれば避けたい。
少しでも早く薬局へ到着する必要がある。
ファサリナの意見に反対する者はいなかった。
◆ ◆ ◆
- 735 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:31:54 ID:Z7OQemyo
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「あの、天江さん。よかったんですか?」
ノートパソコンを操作しながら、テーブルを挟んだ向かい側でチーズくんのぬいぐるみを抱きしめて座る衣に声をかける藤乃。
「何がだ?」
「さっきのことです。せっかくグラハムさんとお話をするチャンスだったのに」
「よいのだ。すざくたちと合流したのなら、グラハムは先を急いでいたはずだ。衣の我儘で足を止めさせるわけにはいかないからな」
そう言う衣の表情は、少し寂しそうなものだった。
本当は、たった一言でいい。グラハムの声を聞きたかった。
だが、同時に、もしほんの少しでも声を聞いていたら、余計に寂しくなったかもしれないと衣は思う。
聞きたかったけど、聞かなくて良かったのかもしれない。
「それよりも浅上。頼まれたメールはできたのか」
「はい。それは送信しました。けど」
「どうしたのだ?」
「メールが来てるんです」
衣は椅子から立ち上がり藤乃の横まで行くと、パソコンのモニターを覗き込んだ。
表示されているのは、デュオ・マックスウェルと名乗る人物からのメール。
本当の送信者はルルーシュ・ランペルージだが、二人がそれを知る由もない。
しばらく無言のまま画面を見つめていた衣が口を開く。
「浅上。衣は思うのだが、帝愛のサポート窓口に聞いて、死に瀕している者を助ける手段の情報を得ることができるだろうか?」
「それは……」
問われて藤乃は言葉に詰まる。
目当ての情報が得られる可能性は、低いだろう。
殺し合いをさせている側の帝愛がそんな情報を提供して来るとは考えにくい。
そもそも、施設サービス以外の方法など存在しないという可能性も十分にある。
「この、デュオという者に訊ねてみる、というのはどうだろうか?」
「え? このメールの差出人に、ですか?」
藤乃は考える。
このメールの内容通り、デュオ・マックスウェルが殺し合いに乗っていないのであれば、
参加者を助ける方法を知っている場合はそれを隠すことはしないだろう。
サポート窓口に訊くことに比べれば幾分可能性は高い……気がしなくもない。
「でも、このメールが本当のこととは限りません」
「ならばこちらも、本当のことはなるべく明かさないようにすればいい」
「そう……ですね」
結局二人はデュオ・マックスウェルにメールを送ることにする。
__________________________________
From: 沢村智紀
To: ロックオン・ストラトス
――――――――――――
はじめまして
今はまだ私の本当の名前を明かすことはできません。ごめんなさい。
でも、私もあなたと同じように、この殺し合いに乗ってはいません。
私は今、問題を抱えています。
茶色の髪に緑の目をした私の仲間が一人が、重傷を負って死にそうなんです。
勝手なお願いなんですが、もし私の仲間を救う方法があれば教えてください。
お願いします。
__________________________________
危険性を考え、こちらの情報は極力明かさない。それがまず大前提。
デュオ・マックスウェルと枢木スザクは仲間のはずだということで、藤乃の知るスザクの外見の特徴を文面に入れた。
相手がこちらを警戒したとしても、危機に陥っているのが仲間だと分かれば情報を提供してくれるだろうと踏んでのことだ。
仮にメールの送信者がデュオ・マックスウェルでなかったとしても、スザクたちの位置を書いたわけではないので
問題無いだろうと、藤乃と衣は判断した。
「じゃあ、送信しますね」
送信ボタンをクリックすると、画面にはすぐに『送信完了』の文字が表示された。
と同時に、部屋のドアがノックされる。
開けるとそこには黒服が立っていた。
「天江衣。準備が整った」
「うむ。わかった」
衣は知らない。
いったい何の準備が為されたのかを。
知らないまま衣は、新たな対局へと向かう――――
.
- 736 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:32:21 ID:Z7OQemyo
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【F-3/ギャンブル船・スイートルーム/二日目/深夜】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康、首輪爆発まであと6〜7時間(現在の負債:2億ペリカ)
[服装]:いつもの私服
[装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス
[道具]:麻雀牌セット、エトペン@咲-Saki-、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
1500万ペリカ、ペリカード(残金1000万)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
1:ギャンブルルームで麻雀をする。
2:グラハムやスザクたちのことが心配。
3:誰にもバレないように負債を返済する。
4:グラハムを信じる。
5:《はらむらののか》と《清澄の嶺上使い》を救い出したい!
6:ギャンブルではない麻雀をして友達をつくる。
7:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる。
8:インデックスと友達になりたい。
9:浅上、白井とは友達になれた……?
[備考]
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※帝愛グループに1億ペリカの借金をしました。借金は定時放送を迎えるごとに、倍額になります。
7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki、レイのレシーバー@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
1:衣のことを守りたい。でも、歪曲の力を使うのは……
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを捜す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っています。
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
◆ ◆ ◆
- 737 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:32:58 ID:Z7OQemyo
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「随分と長いトイレだったな」
窓の外を眺めていたC.C.は、振り返ることなく部屋に入って来た戦場ヶ原に悪態をつく。
「……生憎だけど、そういったデリカシーのない発言に対してまでいちいち反応してあげるほど私は親切じゃないの」
「おや、それは意外だな」
言いながらC.C.は、ピザの最後の一切れを口へと運ぶ。
「私がいない間、橋のほうで何か変わったことはなかったのかしら?」
「変わったこと、というのは、阿良々木君とやらがあの橋を渡ったとか、そういうことでいいのか?」
「ええそうよ」
「だったら、今まさにその”変わったこと”の真っ最中だ」
「……今、なんて」
「二度言わせるな。自分の目で確かめればいい」
そう言って、C.C.は窓の外を指で示す。
慌てて窓へと駆け寄り、橋の方角を確かめる戦場ヶ原。
その戦場ヶ原の目に映ったのは、阿良々木暦がピンク色の髪の少女と橋を渡り終える光景。
「阿良々木君……」
そう一言呟いた戦場ヶ原は、デイパックを掴み部屋を飛び出して行く。
あまりの勢いに、C.C.には止めることもできなかった。
「まったく……もう少し見ていないと、阿良々木暦がどちらに向かうかわからないだろうに」
呟きながら立ち上がるC.C.。
だが、眩暈を覚え、壁に手をついてしまう。
「まだ、きついな」
怪我は回復したとはとても言えない状態だった。
歩くことくらいはできるだろうが、もし今誰かに襲われれば、戦うことはおろか逃げることさえままならないだろう。
それでもC.C.は、ここから動くことを決めていた。
C.C.はあの橋を金髪の男に背負われて渡ったスザクの姿を見ている。
阿良々木暦と共にいたのがユーフェミアであったことにも当然気づいていた。
そして、飛び出して行った戦場ヶ原。
自分に生きてやってほしいと頭を下げた青年を、
共犯者である男が大切に思っていた少女を、
守ってやると約束した相手を――――みすみす死なせるつもりなど、C.C.には無い。
「……いちばん会いたい奴には会えないのに、どうしてこうも面倒ばかり起こるんだ」
そう言ったC.C.の口元に、微かに笑みが浮かぶ。
魔女と呼ばれるようになってから、死なせたくない人間がこんなにできたのは、初めてかもしれなかった。
【D-4/崩落した橋の近くのマンション/二日目/深夜】
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:腹部、胸部、脚部などに大きな傷(治癒中、自力で歩ける程度には回復)、戦う覚悟完了
[服装]:包帯@現実
[装備]:赤ハロ@機動戦記ガンダム00
[道具]:基本支給品一式 阿良々木暦のマジックテープ式の財布(小銭残り34枚)@化物語、ピザ(残り52枚)@コードギアス
[思考]
基本:ルルーシュと共に、この世界から脱出。
不老不死のコードを譲渡することで自身の存在を永遠に終わらせる――?
1:ルルーシュに会って答えを聞く。
2:戦場ヶ原ひたぎと行動を共にし、彼女の背中を守ってやる。
3:スザクとユーフェミアも死なせない。
4:阿良々木暦に会ったらひたぎの暴力や暴言を責める。
5:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない。
6:正直、ひたぎとは相性が悪いと思う。
[備考]
※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『過去 から の 刺客』の間。
※制限によりコードの力が弱まっています。常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。
通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
※マンションの一室から、橋を渡るグラハム、スザク、ユーフェミア、暦を目撃しました。
ユーフェミアと暦が渡って以降はどこまで見ているかは不明。もしかすると、他にも何か見たかもしれません。
◆ ◆ ◆
- 738 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:35:46 ID:Z7OQemyo
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橋を渡り終えたグラハムたちが薬局へ向けて出発したのを見届けた後、上条とファサリナの二人は橋を渡りだした。
だが、橋の中央まで来たところでファサリナが足を止める。
「ファサリナ、どうしたんだよ?」
数歩進んだところで立ち止まり、振り返る上条。
その上条に、ファサリナが徐に口を開く。
「当麻、確認しておきたいことがあります」
「なんだよ、こんなところで。今は早く――」
「いえ、今でなくてはいけません」
これまでとは違うファサリナの雰囲気に、これはきちんと答えなければならないのだと上条は感じた。
「当麻、貴方は誰も死なせたくないんですよね?」
「そんなの、当たり前だろ」
ファサリナの問いに上条はあっさりと答える。
返答に迷う要素などどこにもない。
上条にとってそれは、本当に当たり前のことだったから。
「でも、当麻は見殺しにした」
「なっ……アーチャーのことを言ってるならあれは」
「いいえ、違います。私が言っているのはレイという人のことですわ」
予想外の言葉に、上条は一瞬沈黙し、次の瞬間に激昂した。
「なんで俺がレイを見殺しにしたなんてことになるんだよ!?」
叫ぶ上条に、ファサリナは淡々と答える。
「先程お話を聞かせていただきましたけど、あの説明を聞く限り、貴方が美琴という人の遺体を放り出していれば
レイと言う人が引き金を引く前に止めることはできていた。
美琴の遺体を背負い続けていたから間に合わなかった。
助けられなかったのではなく、助けられたのに助けなかった。そう思ったのですが……違いますか?」
ファサリナの言葉に、上条は今度こそ沈黙する。
「もう一度だけ聞きます。貴方は、己の信念を曲げるつもりはないのですか?」
沈黙。
そして。
「俺は、曲げない」
上条は、そう答えた。
そうとしか、答えられなかった。
紆余曲折を経て自分の中に揺らいでいる部分があることを、上条当麻は認めない。
故に。
紆余曲折を経てもなお自分の中に揺るがない部分があることを、上条当麻は気づけない。
「……そうですか」
ファサリナは、ゲイボルグを上条へと向けた。
- 739 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:37:11 ID:Z7OQemyo
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「なっ……ファサリナ、あんた!?」
慌てる上条を見るファサリナの目は、冷たい。
「貴方は強いから諦めないのではなく、弱いから諦めることができないだけなんじゃありませんか?」
言って、ファサリナは一歩、上条へと近づく。
「貴方はスザクやレイの考えが理解できないのではなく、理解しようとしていないだけなのではありませんか?」
もう一歩。
「貴方の正義は、ただの思考停止のなれの果てなのではありませんか?」
その言葉と同時に。
上条は右の太腿に熱を感じた。
ファサリナの瞳から外せなかった視線をずらせば、ゲイボルグの先端が突き刺さり、そこから鮮血が流れ落ちている。
命に関わるほどの傷ではないが、これでは歩くこともままならないだろう。
「私は、ヒイロの遺志を継がねばなりません」
ファサリナが、上条の脚からゲイボルグを抜き放つ。
「だから」
ファサリナが跳躍する。
そして、自身の体重を全てかけ、ゲイボルグを橋へと突き刺した。
「私は、貴方の犠牲になるわけにはいきません」
それが、ファサリナの結論だった。
上条はファサリナとは仲間になれると思っていた。もう、仲間だと思ってさえいた。
でもそれは、上条の一方的な勘違い。
ファサリナは上条を仲間だとは思っていなかった。
今までファサリナは観察していたのだ。
手を組む価値があるのかと。足手纏いにならないかと。
ファサリナが目的を果たすためには仲間が必要なのは事実。
だが、その仲間の条件は、ただ殺し合いに乗っていないというだけでは足りないのだ。
しかし、ファサリナが現時点で組んでいる者の中に『不要な存在を切り捨てる』人材はいない。
だからファサリナは、自分が切り捨てる役を負うことを決めた。
そしてファサリナは、上条当麻を切り捨てた。
「貴方は全てが終わるまで、私たちの邪魔にならない場所にいてください」
ファサリナが淡々と告げる言葉を、上条当麻は理解できなかった。
自分が何を言われているのか、わからなかった。
上条に、ファサリナの真意は伝わってはいない。
だから上条は誤解する。
自分は陥れられたのだと。
自分を陥れたファサリナが、危険人物なのだと。
上条当麻は、誤解する――――
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- 740 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:39:07 ID:Z7OQemyo
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凄まじい音を立てて崩れ落ちていく橋。
その崩落を、上条が橋と共に川へ落ちるのを、川の西側で見届けるファサリナ。
「いったい何をやってくれているのかしら?」
後ろから聞こえた声に振り向けば、そこには一人の女――戦場ヶ原ひたぎが立っていた。
自分を睨みつける瞳にファサリナは、少なくとも自分が意図的に橋もろとも一人の参加者を川へ落としたことを知っているのだと感じた。
ゲイボルグで上条の足を刺したところまで見られていたかはわからないが、
どちらにせよ自分が目の前の人物に危険人物だと思われていることは間違いないだろうと判断する。
実際のところ戦場ヶ原は、ファサリナが上条を刺したところは見ていない。
だが、ファサリナが上条と一緒に橋の中央にいたことは知っている。
そして、崩れ落ちる橋をこちらに向けて渡って来た時の動きから、上条を助けようと思えば助けられたはずだと判断していた。
戦場ヶ原は目の前の女・ファサリナを、殺し合いに乗っているのかどうかはわからないが
『阿良々木暦に危害を加える可能性のある存在』と認識する。
ファサリナは考える。
この女をここに放置することはできない。誤解されたままで薬局に向かわせることだけはできないと。
戦場ヶ原ひたぎは考える。
この女をここに放置することはできない。このまま阿良々木暦が向かった場所へ行かせることだけはできないと。
結果として、二人の思惑は一致していた。
互いにそれを知ることはないのだが―――
「お話しを、しましょう」
宣言をしたのは、戦場ヶ原ひたぎだった。
【D-4/崩落した橋の西側/二日目/深夜】
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康、移動中
[服装]:自前の服
[装備]:プラネイトディフェンサー@新機動戦記ガンダムW、ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式×2、イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4
アゾット剣@Fate/stay night、シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実、M67破片手榴弾×2@現実、シャベル@現実
軽音部のラジカセ@けいおん、お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考] 基本:主催を倒し、可能ならカギ爪の男やヒイロを蘇生させる。
1:目の前の女(戦場ヶ原ひたぎ)を薬局へは行かせない。
2:自分の中で生きているヒイロを守る。なるべく単独行動は避けたい。
3:不要な存在を切り捨てる役目は自分が負う。
4:ゼロなどの明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。
5:ユーフェミアについてはもう少し様子を見る。
6:首輪が解除でき、三節根が手に入ったらダリアを呼んでみる?
7:お友達……。
[備考]
※デュオを協力が可能かもしれぬ人物として認識しています。
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています。
※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています。
※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明)。
※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。
※グラハム・衣と情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ユーフェミアが日本人を殺すための行動をやめた理由を、上条がユーフェミアの顔を殴ったことで
彼女にかかっていた催眠術のようなものを消したからだと思っています。実際は、上条がユーフェミアの額に触れたからです。
※戦場ヶ原のことは上条から聞いていますが、目の前の女が戦場ヶ原だとは気づいていません。
- 741 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:39:54 ID:Z7OQemyo
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【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:ポニーテール、戦う覚悟完了
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている、ヘアゴム
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(1〜3、確認済)、バールのようなもの@現地調達
スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん!
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
1:目の前の女(ファサリナ)を阿良々木君の所へは行かせない。
2:ルルーシュを探してC.C.と出会わせる。
3:…上条君。
4:枢木君は無事なのかしら。
5:正直、C.C.とは相性が悪いと思う。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
※安藤から帝愛の情報を聞き、完全に主催者の事を信用しない事にしました。
※ファサリナを『阿良々木暦に危害を加える可能性のある存在』と認識しています。
※橋を渡り終えた暦がどちらに向かったかは把握していません。また、スザクとグラハムが橋を渡ったことは知りません。
【?-?/川のどこか/二日目/深夜】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、右拳に擦り傷、右太腿に刺傷(歩行が困難な程度、命には別条なし)
[服装]:学校の制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、御坂美琴の遺体、脇差@現実、即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。御坂の遺体は必ず連れて帰る。
1:俺は……自分を曲げない……
2:ファサリナからユーフェミアたちを守る。
3:戦場ヶ原たちと合流する。
4:一方通行を探し出す。
5:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
6:壇上の子の『家族』を助けたい。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
※右手で額に触れたことでユーフェミアにかかっていたギアスを解除しました。
上条本人は『ユーフェミアの顔を殴ったことで彼女にかかっていた催眠術のようなものを消した』と思っています。
※ファサリナを危険人物と考えています。
※ファサリナから情報を少しだけ得ました。
D-5周辺に危険人物がいる可能性は把握していますが、一方通行がゲームに乗ったことは知りません。
◆ ◆ ◆
- 742 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:41:27 ID:Z7OQemyo
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「なっ……!?」
グラハムから少し遅れて暦とユーフェミアが薬局へ到着した直後、北からけたたましい音が響いた。
ファサリナが橋を崩落させた音だ。
不安な様子を見せているユーフェミアに気づいた暦が声をかける。
「大丈夫だ、きっと」
「……はい」
(……何者かの襲撃と見るべきだろうな)
グラハムは、そう判断を下した。
あの橋がいくら脆くなっていたとはいえ、上条とファサリナ二人の重みで落ちることがないことをグラハムは知っている。
グラハム自身もあの橋を渡っているのだ。
しかも、人一人を背負った状態で。
総重量でいえば大した差はないだろうが、一点にかかった負荷ということで考えれば
スザクを背負っていたグラハムがかけたそれは他の者たちの比ではない。
その時の橋の状態を考えれば、意図的に力を加えない限り二人分の体重に耐えられないことはありえないと結論付けることは容易い。
(この状況……施設サービスが枢木スザクの怪我に効果があることを期待せずにはいられないな)
ここへ来る途中、ユーフェミアからスザクは軍人だと聞いたグラハムは、是非ともスザクを戦力として仲間に加えたいと考えていた。
現状、グラハムが仲間と呼べる参加者は、その殆どが学生だ。
吸血鬼もどきだったり、千里眼の能力を持っていたり、場を支配する麻雀の打ち手だったり、空間移動能力者だったり、
聖杯戦争のマスターだったりと、いずれも『普通』からは程遠いが、それでもグラハムにとっては『守るべき一般人』であることに変わりはない。
ユーフェミアもまた、この『守るべき一般人』にカテゴライズされる人物だ。
つまり、グラハムには『守るべき仲間』は大勢いても、『共に戦える仲間』はファサリナくらいしかいないのである。
自分と同じ軍人であるスザクが、グラハムは欲しかった。
「ユーフェミア、君は彼と共にここにいてくれ。阿良々木少年はこっちへ」
黒電話が置かれているすぐ傍の壁に凭れかけさせるようにスザクを下ろしたグラハムが二人へと指示を出す。
頷いたユーフェミアがスザクの隣りへ腰を下ろしたのを確認し、グラハムは暦を連れて薬局の奥へと向かう。
暦はグラハムの行動の意図を察した。
ユーフェミアには聞かせられない、もしくは聞かせないほうがいい話があるのだと。
そして、暦にも、ユーフェミアの前ではし難い話がある。
- 743 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:42:32 ID:Z7OQemyo
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薬局の奥。
先に口を開いたのは暦だった。
「僕が上条たちの救援に向かいます」
その言葉に、グラハムが顔を顰める。
「こういう話をするために、ユーフェミアに聞こえない場所を選んだんですよね?
僕らに口論をしている時間はない。だから彼女が会話に入ってこないように」
「その通りだ、阿良々木少年。……そこまで理解しているのなら、私が言いたいこともわかりそうだが」
暦はグラハムの言う「私が言いたいこと」が何なのか、正しく理解していた。
グラハムは自分が行くつもりなのだ。
だが、暦は譲るつもりはなかった。
「グラハムさんはここに残るべきです」
「……君の主張は、救援には自分が適役だということではなく、ここに残るのは私が適役である、ということか」
「そうです」
「何故そう思う?」
「僕は強くはないし、大人でもない。戦場ヶ原のことが心配で、ユーフェミアをちゃんと労われるほどの余裕も無い。
だから僕には、枢木が死ぬかもしれないっていう不安を抱えて不安定な彼女を支えることはできないと思うんです。
それに、白井を出迎えるのは、僕よりも白井との付き合いが長いグラハムさんのほうがいい」
暦の答えに、グラハムは驚きを隠せなかった。
グラハムが考えていたのは、周囲の状況、危険性、そして純粋な戦闘における能力。
ユーフェミアや黒子の気持ちを、暦のように考えていなかったのだ。そんな発想自体が、グラハムの中にはなかった。
自分とはまったく違うものの見方をし、考え方をする目の前の少年に対し、グラハムはこれまで持っていた評価を改めさせられる。
「大丈夫です。僕は戦いのプロってわけじゃないけど、普通の人間よりは死に難いようにできてるし」
「悪いが少年。その提案、賛同するわけにはいかないな」
「いいえ、僕が行きます」
「もしユーフェミアに私のことを訊かれたら、奥で何か使える物がないか探しているとでも言っておいてくれ」
「グラハムさん!」
「つまり、そんな言い訳で誤魔化せる程度の時間で戻ってくるということだ」
「待ってください。だから僕が」
「賛同できないと言った」
「でも」
「阿良々木少年」
グラハムが暦の名を呼ぶ。
その声音は、表情は、暦の知らない、軍人グラハム・エーカーのもの。
「ここも安全とは言えない。ユーフェミア・リ・ブリタニアと枢木スザクを守れ。絶対に誰も死なせるな。それから――」
グラハムはいちばん近くにあった窓を開け、窓枠に足をかけた。
そして暦の方へと振り返る。
「――絶対に死ぬな。阿良々木少年」
それだけ言って、グラハムは窓の外へと身を躍らせた。
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- 744 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:43:05 ID:Z7OQemyo
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【E-4/薬局の北/二日目/深夜】
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30
[道具]:基本支給品一式、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、ゼクスの手紙
双眼鏡@現実、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール、ヴァンのテンガロンハット、水着セット@現実
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20、1万ペリカ
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム〜戦場の絆〜』解説冊子
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
1:上条、ファサリナの救援に向かう。なるべく早く薬局に戻りたい。
2:天江衣をゲームから脱出させる。脱出までの間は衣の友達づくりを手伝う。
3:主催者の思惑を潰す。
4:首輪を解除したい。首輪解除後は『ジングウ』を奪取または破壊する。
5:スザクは施設サービスで治療ができた場合は是非とも仲間に加えたい。
6:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
7:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
8:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
9:可能ならば、クレーターを調査したい。
10:【憩いの館】にある『戦場の絆』を試したい。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています。
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。この情報だけでは首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
【E-4/薬局/二日目/深夜】
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(中)
[服装]:直江津高校男子制服
[装備]:レイのレシーバー@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、マウンテンバイク@現実、拡声器@現実
ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10、衛宮邸土蔵で集めた品多数
[思考]
基本:誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
1:グラハムさん……
2:戦場ヶ原と合流したい。
3:憂はこのままにはしない。桃子、ルルーシュに対しては警戒。
4:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
5:浅上らの無事を願う。
6:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後から参戦。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※サポート窓口について知りました。また、原村和が主催側にいることを知りました。
※衛宮邸の土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※衣の負債について、気づいていません。
◆ ◆ ◆
- 745 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:45:44 ID:Z7OQemyo
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「まるで、アーサーがスザクの騎士みたい」
誰かが入ってくればすぐに飛びかかれるような体勢でドアの前で構えるアーサーを見ながら、ユーフェミアがくすりと笑う。
「ねえ、スザク。スザクを助けるために協力してくれている人がたくさんいるんです。
当麻にファサリナさんに暦にグラハムさん、あと、衣さんと黒子さんと藤乃さんという方も。
スザクが元気になったら、ちゃんとお礼を言わなくてはいけませんね」
ユーフェミアがスザクの左手を握り締める。
その手は微かに震えていた。
ユーフェミアはゆっくりと目を閉じる。
――ねえ、スザク。
私は、人殺しになってしまったかもしれません。
それでもスザク。私は貴方に傍にいて欲しい。
貴方の傍に、私はいたいんです。
自分の罪は、自分で背負います。
自分の為すべきことは、自分で為します。
自分で考えなければならないことは自分で考え、自分で決めなければならなないことは自分で決めます。
私は、強くなりたい。
ちゃんと一人で立てるように。
守られるだけじゃなくて、スザクのことを守りたいから。
スザク。私は、皇女と騎士としてじゃなく、ただのユフィとスザクとして、貴方と共に在りたい。
同じ未来に向けて歩みたいんです。
だから貴方を騎士に任命したんです。
なんだか酷く矛盾しているけれど、これが私の偽らざる本心です。
だからお願い。
死なないで。
生きていて。
そして
『ユフィ……僕も……、君に…あえ、て……………』
ユーフェミアがゆっくりと目を開ける。
「……あの言葉の続きをちゃんと聞かせてください。ね、スザク?」
そう言って微笑むユーフェミアの瞳から、涙が一筋、流れ落ちた。
.
- 746 :女 の 闘い −無知− ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:47:04 ID:Z7OQemyo
-
【E-4/薬局/二日目/深夜】
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:全身打身、肩口に刺傷(応急処置済み)、疲労(大)、発熱(微熱程度)
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:アーサー@コードギアス
[道具]:基本支給品×4、ティーセット@けいおん!、ルイスの薬剤@ガンダムOO
特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、ピザ×8@現実、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、
ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする。
1:スザクには生きていてほしい。スザクのことは必ず助ける。
2:スザクと一緒に生きたい。スザクを守れるように、強くなりたい。
3:スザクが目を覚ましたら、スザクを助けるために協力してくれた人が大勢いることを伝える。
4:殺し合いには乗らない。
5:衣と直接会って話すためにギャンブル船へ向かう。逃げたり、目を背けることはしない。
6:本当に人を殺してしまったのだとしたら……
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※アーニャの最期の言葉を聴き、『ギアス』の単語を知りました。
※上条当麻の幻想殺しでギアスが解除されました。
※ルイスの薬剤の残量は後続の書き手氏にお任せします(中身が無いとしても瓶は所持しています)。
※グラハムが橋へ向かったことには気づいていません。
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:「生きろ」ギアス継続中、疲労(極大)、左腕切断、脇腹に銃創、右足骨折、肋骨骨折、出血多量、意識不明
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:ベレッタM1934(5/8)、GN拳銃(エネルギー残量:中) 、鉈@現実
[道具]:
[思考]
基本:???
1:???
[備考]
※ラウンズ撃破以降〜最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※一回放送の少し前に、政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
※二日目深夜に、ルイスの薬剤@ガンダムOOを飲みました。
※通常の治療方法ではまず助からないでしょう。
- 747 : ◆SDn0xX3QT2:2010/08/15(日) 01:48:29 ID:Z7OQemyo
- 以上で投下終了です。
今回は投下までに時間がかかってしまい申し訳ありませんでした。
問題点があれば指摘をお願いします。
- 748 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/15(日) 16:36:12 ID:GEkYk3o.
- 投下乙です
これは大作だわ!
ユフィはギアスから覚めて自分の罪に向きあう覚悟か
衣もカイジや借金のことがあるのにそれでも、おま…感動した。だが次の対局は…
ふじのんもそれに影響されて何か芽生えたような…
上条さんは今回もずたぼろだな。しかもそれでも底が見えないのがまた…w
ファサリナとガハラはややこしい場面でご対面だな。しかもそこにマーダーが来る可能性があるぞ
CCもグラハムもそこに向かってるし…
最期にスザクはどうなるんだ? 助かるのか?
薬局も色々爆弾あるし…ああ、続きが気になる
待ってた甲斐がありました。GJ!
- 749 : ◆SDn0xX3QT2:2010/08/16(月) 03:19:27 ID:7z1xqhiY
- 感想レス、wiki収録どうもありがとうございます。
申し訳ありませんが、>>733の
「施設サービスじゃスザクを治せないって……本当なんですか?」
「私の記憶に間違いがなければ、あのサービスは致命傷には効果がない」
「そんなっ……」
の部分を
「施設サービスじゃスザクを治せないかもしれないって……本当なんですか?」
「私の記憶に間違いがなければ、あのサービスは致命傷には効果がない。
何を以て致命傷と判断しているのかが不明なだけに、彼に効果があるかどうかはやってみなければわからないが……」
「そんなっ……」
に変更します。
あと、上条さんの状態表に、基本支給品の包帯の消費を書き忘れていましたのでwikiで修正しておきます。
- 750 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/17(火) 01:34:15 ID:DZ/s3Cvg
- 今気がついたんだけど、現在地MAPが差し替えられてた
wiki管理人さん乙です
- 751 : ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:34:30 ID:SXYrcrFs
- 一方通行、阿良々木暦、ユーフェミア、スザク、グラハム、ファサリナ、戦場原ひたぎ、上条当麻、白井黒子、C.C.、インデックス
投下します
- 752 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:36:50 ID:SXYrcrFs
- ◆ 『全て終わった後/迷いと怒り』 ◆
わからないことだらけであった。
自分がいったいどれ程の距離を流されてしまったのか、わからない。
あれからどれ程の時間が経過したのか、わからない。
己が正しいのか、わからない。
それとも、何かを間違えているのか。
――わからない。
「わ……っかんねぇよ……くそッ……!!」
上条はわからなくなっていた。
明白であるのは、流れ着いた何処とも知れぬ場所を踏み締める感覚と、ここが下流の河川敷であるということ。
川に溺れて長らく気絶していたこと、流されている間にデイパックを無くしてしまっていたこと。
じくじく痛む膝の熱、身体中を濡らした川の水の冷たさ、そして己がファサリナに陥れられた事実。
それだけだ。
具体的なことは、重要なことは何もわからない。
「わかんねぇよ……!」
ぼたぼたと水を滴らせながら、上条は河川敷を進んでいた。
川の上流、かなり遠目に倒壊した橋の残骸らしきもののシルエットが見え。
下流、海までの距離を鑑みるに、薬局よりも少し南に流されたようであった。
現在位置はおおよそ見立てられたものの、正確な位置はわからない。
さらにどうしようもないのは時間だ。
黒い空色を仰ぎ見れば、まだ夜であることだけは確定だが、自分はどれ程の間気絶していたのか、その正確な時間がわからない。
だがおそらく、短時間ではすまないだろう。
今から薬局へ向かったところで誰もいない可能性もある。
「……不幸だ」
結局、このセリフを吐きだしてから、上条は薬局へ歩きだした。
他に目指す場所も無く、もしまだ誰かが残っていればファサリナの危険性を伝えねばならないからだ。
なにもわからない状況の中で、そこまで行動方針が定まっているのに。
「……あああああッ……わかんねぇッ……!」
上条はこの場で最も優先順位が低い疑問で頭がいっぱいだった。
「それじゃあ……どうすれば良いってんだよッ……!」
川辺から離れ、入り組んだ住宅街の中を北上し始めても。
「誰かを犠牲にする事が最善の道だからって……そうやって割り切っちまうのがっ……」
激痛に悲鳴を上げる片足を引きずりながらも。
「そうやって諦めちまうのが……正しいってのかよ!?」
その疑問に、迷いに囚われていた。
- 753 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:38:09 ID:SXYrcrFs
-
「俺は認めねぇ!認めたくねぇんだよそんなこと!」
――お前の言葉は毒だ。
――君の願う世界は、自分に優しい世界だ。
――私は貴方の犠牲になるわけにはいきません。
そう言って。
お前の言葉はただの独りよがり、お前の生き方はただの我が儘なのだと。
彼らは上条の叫びを切り捨てた。
そして、彼らは彼らなりの解答を示した。
上条とてその意味が理解できないわけではない。
とはいえ、彼らが示す残酷な摂理を、上条は納得できるほど物分かりが良くはなく。
くだらない戯言だと切り返すには、彼らの言葉はあまりに重かった。
当然である。
彼らの言葉は彼らが長い戦いの中に生きて、そして見いだした彼らなりの答え。
結論なのだ。
完結している。不動と言っていい。
それを知ってなお否定するのならば、相手どるのは彼らの人生全て。
彼らが生きた長き戦いの歴史そのもの。
たった十と数年生きてきただけの、しかもその大半の記憶を失った上条には荷が勝ちすぎる。
彼にあるものは、正義心ですらない、自分なりの生き方だけなのだから。
しかし、それでも。
上条にはそれしかないのだ
転じて言えば、それこそが彼にとっての支柱であったのだ。
自分が守りたいと願った者を守る。
間違っていると断じた者を殴り飛ばす。
それを迷い無く実行できる意志こそが彼の強さ。
そして、自分を知らず、決して己を強い人間ではないと知る上条であっても、
倒すべき敵を目前にした時、為すべきと信じたことを見つけた時は己の道を行き、そして己の世界を守ってきた自負があったのだ。
「俺は……」
故に今、迷いに揺れる彼は。
幻想殺しでも、喧嘩慣れした身体能力でもない、真実最強の意志が揺らいでしまった彼は。
誰よりも、弱い存在に成り下がっている。
「俺は、間違えてるのか……?」
方向性の定まらない迷いと疑問。
優しく答える者はいない。
こんな時、彼を肯定しつつも厳しく、信頼して送り出してくれる仲間が今はいない。
「俺は……!?」
ただし、彼に答えを授ける者は、彼の大切な仲間だけとは限らない。
「……くッだらねェなァ……」
その声に、漸く顔を上げる。
足の痛みと疲労感に気をとられ、下ばかり見ていた上条はここに至るまで気づけなかった。
進む住宅街、その先にいる少年の姿に。
- 754 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:39:30 ID:SXYrcrFs
-
「ほんッとうに……くだらねェわ」
「……な、にやってんだ……お前……?」
間抜けな事を言ったものだと上条にも分かっていた。
だが、問わずにはいられなかった。
――立っていた。
十メートルほど前方、住宅街の交差点に、ゆらりと。
幽鬼のように、悪鬼のように。
一方通行(アクセラレータ)が、血みどろで。
「はぁ? 何をしているかァ? 見てわかンだろ?
ただ歩いてただけだよ。したら、テメエが前から歩いてまいりましたッつー単純な話だ」
交差点の中央線上で、なんでもないように語る一方通行は、しかし誰の目に見ても異様な姿だった。
彼はただでさえ普段から異質な気を放っていたが、血に濡れた今の彼はそれに輪を掛けて剣呑である。
黒い服にべったりとこびり付いた赤黒が街灯に照らされて、蠢くようにテラテラと光る。
そして白髪を染める紅。
交じり合い完成した、あまりに暗すぎる紅滴る白の頭髪は、上条に鬼を連想させた。
「い、いや……まてよ、その血は……?」
「ン、あ? ……ああ、なるほど、こりゃ確かに誤解もするか、俺の能力知ってる奴なら尚更だな」
そして、紅に染まった少年は告げる。
決定的な、一言を。
「こいつは俺の血じゃねェよ。ははッ! やっぱ俺らしくねェよなァ……? 返り血を浴びるなンざよォ?」
上条の視界が、一気に歪んでいく。
「それならよォ、テメエは質問を変えねえと駄目だ」
まるで、見えない鈍器で後頭部を殴られたような衝撃だった。
「お前が知りたいのは俺が何をして『いる』か、じゃねェ……。何を『してきた』か、だ。そうだろ?」
上条は、間違えていたのか?
「そこで、だ。――さァて、問題です」
では今こそ、その疑問に答えよう。
「一方通行(アクセラレータ)は、いまさっき薬局で、いったい何人ぶち殺してきたンでしょうかァ……?
……ははッ! ははははッ! ひゃははははははははははははははははッッッ!!」
悠然と、目の前の宿敵は物語る。
上条当麻は、決して取り返しのつかない間違いを犯していたのだと。
- 755 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:40:30 ID:SXYrcrFs
-
「…………は?」
一瞬、呆気に取られ。
数秒後、一方通行の言葉を漸く飲み込んで。
「……テ……メエ……ッ、テメエェェェェェッ!! ッざけんなァッ!!」
脳髄で爆発した怒りに突き動かされ、上条は地を蹴った。
目の前の少年が悪ふざけでもなんでもなく、真実、上条の仲間を殺した事。
最後に見た時から変わり果ててしまったことを、上条は理解してしまった。
故にこの瞬間、彼は己を縛る疑問を一瞬だけ忘れた。
痛む足の熱を忘れ……。
「……はあァァッ? ……ふッざけてンのはテメエだろォがァァァァッァ!!」
「――ッ!! ……ガ……ァ……ハァッ!?」
それ以上の怒気によって、大きく後ろへと弾き飛ばされていた。
吹き飛ぶ、交差点のコンクリート。
へし折れる電柱。
粉砕される民家の塀。
住宅街を震撼させる。
一方通行を中心に、交差点を薄いクレーターに変えるほどの衝撃。
効率を完全に無視したベクトル変換の能力行使は、純粋な怒りによってもたらされていた。
十メートルほど後方に転がった上条はそれに出鼻をくじかれる。
「なに……を?」
なぜ目の前の敵が、これほどの怒りをぶつけてくるのかを理解できない。
「間違ってるだのなンだのとォ! テメエは何を勝手に腐りきってやがる? いいかァ? テメエはな……! テメエ……は……なァ……!!」
しかし、一方通行もまた己の怒りの正体を正確に捉えることができないのか、その言葉は小さなものとなっていった。
「ああくそッ……まあいい、とりあえず答え合わせといくか?」
上条は亀裂の入った塀を掴み、足の痛みに耐えながらなんとか立ち上がる。
その二十メートル先に未だ立つ人物は、血に濡れた白髪を左手でがしがしと掻きながら、右手の指を数本立てて上条に示した。
「まあ、……こんなところだ。無様だろォ?」
そして、自嘲気味に笑って、一方通行は語り始めた。
もうすでに終わってしまった、絶対にやり直す事のできない、
とある戦いの結末を。
- 756 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:44:07 ID:SXYrcrFs
-
◆ 『はじまりのはじまりに/終わりの足が向かう場所/救いの足が飛翔する』 ◆
――時系列は過去へと巻き戻る。
その時、一方通行は少し考えていた。
D−5南部、都市部を進みながら。
コンクリートを踏みしめながら身体を慣らす。
十分な休息を経て、能力行使の準備も十二分。
体調も万全。
後はもう捉えるべき目標(薬局)へと進むのみだ。
「計算能力もやっぱ絶好調だよなァ……。 あの煩わしい声が聞こえなくなってからか?」
レベル5である彼ですら、未だかつて体感した事のないほどに頭の回転率が上昇していた。
しかし彼は気づけない、気づく必要すらない。
声は聞こえなくなったのではなく、ただ彼の意識がその声に同調しただけなのだと。
そんな瑣末な事には思い当たらない。
「まあ細かい要因なンざどうでもいいか……。ようはブッ殺せばいいンだからよ。
ああ……そうだ、そうだとも、全員ぶっ殺して、アイツを……ッ……!」
ズキリと、頭に鈍い痛みを感じた気がした。
それは彼を汚染した存在の意にそぐわない思考であったからか。
「チッ、今は……、それよりも、だ」
実の所、一方通行にそれほど悩む要素などない。
やる事は決まっているのだ。
装備も準備も体調も万全、目的地も明白。
ならば、後は出向いて殺しつくすのみ。
ここに及んで選択するべき事項など一つである。
「ンじゃまァ、どォいう経路で移動しましょうかねェ……?」
目的地までの道筋。
馬鹿正直にいったん北上して橋を渡るのもよしだが、一方通行ならばその常識的移動経路には縛られない。
「ちっとばかし、試してみンのもいいかもな」
彼がそう呟いたのはE−5北部の川辺だった。
エリアE−5を袈裟に裂くように伸びる川、その向こうに見える西側の岸。
彼の能力――ベクトル変換をもってすれば、一瞬にして川を飛び越える事など造作もない。
いちいち北の橋から回り込んで薬局に向かう時間を大きく短縮できるのだ。
普段の彼なら即決であった、だがこのときばかりは少し思慮を強いられた。
理由はやはり彼だけに設けられた制限であろう。
これから戦場へ向かうというのに、移動のためだけに貴重な残り時間を行使してしまうこと。
川を渡る間だけならば、ほんの少しの消費で済むであろうが、そのほんの少しが戦場で死につながるかもしれないのだ。
「……ンっと、でもま、やるか」
しかし、彼はその選択をした。
二本の足が地を蹴る、その力のベクトルを操作する。
タンッ、という小気味よい音とは裏腹に、一方通行の身体は凄まじい勢いで上空に舞い上がった。
風を切る感覚は、しない。
肌に触れる全ての有害事象は遮断する。
このスピードでは吹き付ける風すら、ダメージとなるからだ。
- 757 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:45:25 ID:SXYrcrFs
-
(なるほどな、はッ……こンなもん、首輪の解析にくらべりゃ、格段にちょろい。……やれそうだな)
普段の一方通行ならば、この選択はしなかったかもしれない。
おそらく時間を掛けてでも橋に向かって歩を進めていただろう。
だが今の彼には、一つ試してみたい事があったのだ。
川の向こう岸へと飛ぶ、一方通行の身体。
やがて勢いは無くなり、空中を踊るように回転しながら自由落下する。
恐れる事もなく。
その時、彼は能力行使を完全にやめた。
空中で目を閉じて、全ての『反射』設定を停止して。
どうしようもなく無防備なまま、ただの脆い人間のまま、落ちていく。
硬い地面の上に五体が突き刺さり、全身を粉々に粉砕される。
一方通行の身体は原型を留めず四散し、鮮血の飛沫が地を染め上げる。
「………ッおッとォォッ!!!」
その寸前に、彼は予定通りに再発動した能力によって落下の衝撃を殺しきった。
しかしそれも最低限の能力行使であったのか、地面からさらに跳ね飛び、
数メートルほど転がってようやく、命がけの幅跳びは仕舞いとなった。
「てッとッ……がァ……ッ……ッつゥゥゥゥ……。
……は……はッ……ははははッ。い、いまちょっとタイミングが遅くなかったかァ!?
ひはははッ! し、死ぬとこだったッ……!」
何故だかは分らないが、彼はそれに対してとても笑えた。
恐怖は無かった。
しかし今、たった一人で無駄死にしそうになったというだけで、なぜか笑えたのだ。
「はははッ……オーケイ、オーケイ。テスト結果は良好だ」
立ち上がる。
外傷は、無し。
なんにせよ、最低限の消費で川を横断し、時間も短縮された。
加えて、制限時間の縛りをほんの少しだけ緩くする貴重な経験も得られた。
これから先は徒歩になるが、それほど時間を掛ける事もなく、目的地に着くだろう。
進む足に迷いもない、己の戦いに疑問もない。
殺し尽くす、殺し尽くす、殺し尽くす。
その思考に違和感すら感じない。
「さァてェ、それじゃ行こうか……」
なぜならばこの瞬間、己が保つべき思考など、一つしかないのだから。
「アイツを……守りになァ」
- 758 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:46:28 ID:SXYrcrFs
- ■
エリアE−4中心近くの都市部。
ヒュン、という空を裂く音と共に直進する影が一つ。
それは駆けると表現するべきか、跳躍すると表現するべきか、飛ぶと表現するべきか。
その人物には、決められた道など無い。
通常の道路上はもちろん、民家の内部、庭、その上空、全てが彼女の通り道。
右折左折交差点、煩わしい回り道を一切合財を無視して、ショートカット。
ただ、真っ直ぐに、真っ直ぐに、一直線に進み続ける。
白井黒子は空間を突き抜けて目的地へと急ぐ。
瞬間移動の連続行使。
彼女がもてる全力だ。
距離はもちろん最大限の81.5m、行使の速度も最大最速。2秒にも満たない。
疲労感など度外視して前へ、前へ、前へと。
「………っ」
若干息が上がっている事など自覚しているが、止まるなど考えられない。
「時間が……ありませんのに……!」
黒子の直線での移動は時速に換算すると288km/hにも及ぶ、にも拘らずである。
彼女はこの時ほど自分の力を矮小だと感じたことは無かった。
「遅い……! 遅すぎますの!」
何故、もっと長い距離を移動できないのか。
何故、もっと短い時間で移動できないのか。
何故、己の能力(チカラ)はもっと強大なものではなかったのか。
時間が無い、時間がないのだ。
救うべき人物は今にも死に掛けているという。
その人を救うために、自分を救ってくれた少女は覚悟を示し、そして自分はその救いを託された。
なのに……。
「もっと、速くッ!」
叶わぬ願いを口にする。
一人になると、どうしても考えてしまう。
もっと強ければよかったのだ。
そうすれば、すぐに救えるのに、今すぐに目的地に辿り着いて、
そしてこの、天江衣が命を掛けてまで得た救いの手段を届けられるのに。
「もっと……!」
叶わぬ願い。
一人になると、どうしても考えてしまう。
もっと強ければ、何も失わずにすんだのだ。
あの人を失う事も無かった。
彼を、一人にする事も無かった。
なのに――
「…………ッ!」
悔しさと焦りは、心のブレは、ただでさえ制限を受けている転移精度を更に落とす。
白井黒子はこのとき、進行が遅れていた。
自分では気づかないほどに、僅かではあったが……。
- 759 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:48:25 ID:SXYrcrFs
-
■
二人の超能力者が薬局を目指して歩を進める。
二つの手がそこへと伸びる。
一つは救いの手。
一つは破壊の手。
辿り着くのは果たして、どちらが先か。
- 760 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:49:35 ID:SXYrcrFs
-
◆ 『行間:橋の端にて』 ◆
「お話を、しましょう」
その言葉が会話の切り口となった。
崩壊した橋のとなりで、戦場ヶ原ひたぎはファサリナと対峙する。
常に即決、即行動であった彼女にしては珍しい様子見という選択。
とはいえ状況は慎重さを要求している。
ひたぎは十中八九、目の前の緑髪の女が危険人物であろうと見切りを付けていた。
速攻で攻撃を仕掛けるのも一つの手ではある。
C.C.に一撃加えたような躊躇いのない先制打。
上手く決まれば、危険要素を速やかに解消できる、かもしれない。
しかしそれはあくまで確実に不意を突けるか、または相手に何らかの隙を見出した場合のみである。
目の前の手合にはそれが無い。
当然、ひたぎに戦いの心得など無いが。
ファサリナが突然現れたひたぎを警戒していることは明らかだ。
無造作に握られている真っ赤な槍は、しかして油断無くこちらに狙いを定めているように感じる。
「お話、ですか……?」
故に慎重に言葉を選ぼうとしていたとき、ファサリナから反応が返ってきた。
表情を伺えば、少しばかり意外そうな顔色である。
「あなたには、聞きたい事があるのでは?」
今度はひたぎの方が少し驚かされた。
目の前の女性はとぼけもしない。
彼女も直球だった。
つまり、悪びれていない。最低でも、悪い事をしたという意識はないようだ。
ただ面倒な事になったという、自分と同質の感想が伺える。
「そう……ね。じゃあ聞かせて貰いますけど。貴女は、上条君を殺したの?」
ならばこちらも直球で答えることにした。
警戒心が臨界点を突破するのを感じながらも、ひたぎは未だに冷静だった。
否、冷静などありえない。
このとき、この選択に阿良々木暦の命が関わるかもしれないと思えば……。
「……いいえ」
「嘘ね」
否定の言葉を切って捨てる。
頭ごなしに。
それは冷静でない事のあらわれか、それとも確信があるのか。
「嘘ではありませんよ。私は彼を殺してはいません。
少し、説明させてもらってもよろしいでしょうか?」
「……、……わかったわ」
そうしてファサリナはひたぎに語った。
自分が上条当麻を陥れた理由。
この殺し合いにおける、かの少年の危険性。
そして、この行為をなせる要員が自分しか居なかったということ。
おそらく上条は下流に流されただけであり、そこから動けなくなるであろうが、命に別状はないだろうということ。
- 761 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:50:29 ID:SXYrcrFs
- 「…………」
ひたぎは暫くの間、なにかを思考して。
「嘘ね」
やはり、切り捨てた。
「何故ですか? 私は何一つ嘘など……」
「あなたの言葉には一つだけ嘘が在る。いいえ、黙っている事があると言った方が正確かしら?」
そう言って、ひたぎはある一点を指差した。
「貴女は本当に、上条くんを殺すつもりまでは無かったかもしれないけれど、殺してもいいとは思ったのでしょう?
そうでなければ、川に突き落とすだけでなく、槍で刺したりはしないはず。
溺れて死ぬかもしれない。動けなくなって、誰かに襲われて死ぬかもしれない。
その可能性を考えなかったわけがない」
ファサリナもその一点を見る。
紅槍の穂先から、一滴の赤が流れ落ちる所であった。
「私にとっては――」
そして、ファサリナが顔を上げた時、既にひたぎとの距離は数メートルも無かった。
「貴女と敵対する理由なんて、それだけで十分!」
両手に握るは数え切れないほどの文房具(凶器)が握られていた。
「――!?」
ひたぎは完全に、不意を突いた。
武器は殺傷が目的ではない。
これで相手が怯めばいい。
少しでも怯んで後ろに下がれば、そこに陸は無い、川なのだ。
(――突き落とす!)
だが相手は、瞬時にその意図を見切っていた。
両の手に握った文房具だけを、槍の一振りで器用に粉砕される。
返す刃を首筋に突きつけられて、ひたぎは動きを止められた。
「あなたは、当麻の仲間なのですか? 彼の事が大切、だったのですか?」
冷や汗が頬をつたうのを感じつつ。
少し冷たい目で自分を見据えるファサリナに向かって、ひたぎは臆する事無く答えた。
「別に、割とどうでもいいわ」
「なら、なぜ?」
「なぜかしらね、なんだかんだで結構気に入っていたのかも……。
まあでも、私の彼氏に比べたらやっぱりミジンコ以下の価値も無いけれど。
私にむかって『阿良々木くんにぜってぇ会わせてやるから』なんて、無駄にカッコいいセリフ吐いたその矢先に、
味方に見限られて川に落とされるなんて、まったく片腹大激痛だけれど。」
本人が聞いたら、泣き出しそうなセリフであった。
「だけど少しくらいなら、怒ってあげてもいいわ」
本人が聞いたら、少しは報われそうなセリフであった。
「そして、なによりも……私の彼氏も、彼に負けないほどのお人よしだから……。
貴女みたいな、危険な人には近づけたくないのよ」
- 762 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:52:10 ID:SXYrcrFs
-
■
結局は彼氏かよ。
的なツッコミを脳内で呟きつつも、ファサリナは逡巡する。
この穂先をいかにするか。
目前の女性は強い。ファサリナが認めるほどに。それはこのやりとりで良く伝わった。
切り捨てる対象には至らない。
しかしこの状況はいかんせん不味い。
いま槍を突きつけている女性は明らかにこちらを敵視している。
自分が彼女を間引く選択を取らなくとも、彼女がファサリナを認めないと言うのだ。
いっそ、この場で消してしまうか。
それも一つの手では在るだろう。
自分にとっての危険要素である事は明らかなのだから。
揺れる穂先、その方向が定まる前に。
「待て、ファサリナ! 何をやっている!?」
結局はファサリナが結論を出す前に、外部からの介入があった。
前方から聞こえてきたグラハム・エーカーの声にファサリナは辟易する。
これでまた、話がややこしくなるのだろう。
- 763 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:53:10 ID:SXYrcrFs
-
■
「君は……もしや?」
グラハム・エーカーは出向いた橋にて、その状況に遭遇した。
予想通りに倒壊している橋の前には、二人の女性の姿。
そこにファサリナは居たのだが、いるはずの上条当麻の姿がない。
代わりに見つけたのは、黒髪の少女であった。
今まで出会った事は無かったのだが、その外見的特長は聞き及んでいた。
「戦場ヶ原ひたぎと申します」
「やはりか」
黒髪の少女は、突きつけられた刃に臆する事もなく。
いや、内心では相当のプレッシャーを感じているのだろう。
だが少なくとも表面上は最大限の虚勢を張って、さらっと自己紹介をやってのけた。
グラハムの予想は的中する。
目の前の少女の正体は阿良々木暦の恋人、戦場ヶ原ひたぎ。
探し人の一人が見つかったことは喜ばしい。
しかし、この状況はどうやら、あまりよろしくないようだ。
ファサリナの得物は真っ直ぐに戦場ヶ原の首に向けられている。
加えて、倒壊した橋に消えた上条当麻。
経緯は不明だが、かなり込み入った事態に陥っている。
「事情を説明してもらう前に、ファサリナ。君は槍を下ろせ」
結局、グラハムはこの場で最も警戒するべき標的をファサリナに定めた。
理由はファサリナに対する信用よりも、戦場ヶ原の恋人である阿良々木暦への信用が上回っていたことに起因する。
「…………わかりました」
この場は全てを正直に話した方が良いと考えたのか。
一つ息を吐いて、観念したようにファサリナは槍を下ろした。
「それでは、これで私の話を聞いてもらえますか?」
「ああ、聞こう」
その矢先である。
「やれやれ、また人が増えているな。面倒なことだ」
この場において、三人目の女性の声が聞こえた。
「お前はまた人に突っかかっているのか? いいかげんほどほどにしておけ、と。悠長な事を言ってられるような時でもないか」
振り返る。
グラハムの更に背後から、
緑の髪が特徴的な、全身包帯だらけの女性が現れていた。
「……あら、まったくね。少しは空気を読みなさい。っていうか、ちょっとあなた達キャラ被ってない?」
「むしろ正反対だと思うが……」
槍の穂先から解放された戦場ヶ原は、答えながら後ろ足にグラハムを素通りして、その女性に近寄って行く。
どうやら二人は知り合いだったらしい。
「君は何者だ?」
グラハムの問いに包帯の女性は一瞬グラハムを見た。
- 764 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:53:51 ID:SXYrcrFs
-
「C.C.だ。悪いが素性を説明する時間もない」
それだけ言って、すぐに目線をそらして戦場ヶ原の瞳を見つめる。
「いいか、先程マンションの上から確認したんだが、阿良々木暦はここから少し南――薬局のある方向に移動したようだ。
それだけなら、良かったんだが……」
ここで、全員の表情が険しくなった。
「南側の窓から、凄まじい速度で、川を横断する影が見えた、ような気がする。
やはり阿良々木暦と同じ方向に移動している。嫌な予感がするんだ。
合流するなら、急いだほうが……っておいッ!」
聞き終わるや否や、すでに戦場ヶ原は走り出していた。
この場に居る全ての人間を置き去って。
背中で、もはやこの場に居る人間全てどうでもいいと告げるように。
事実としてどうでもいいのだろう。そうグラハムに確信させるほどの全力疾走だった。
それを追おうとするC.C.へと、グラハムは一瞬迷った後、告げる。
「彼女に伝えてくれ、阿良々木少年は薬局に居る、と」
「…………」
返事を返す事もなく、戦場ヶ原を追ってC.C.もまた走りだす。
若干、身体を動かす事に苦労している様子だったが、彼女にもある種の決意が伺えた。
残されたのはグラハムとファサリナの二人だけ。
三番目に動き出そうとしていたファサリナを、グラハムは視線だけでおし留めていた。
「私も、胸騒ぎがします。それに誤解されたままで彼女達を行かせたくはありません。
そこを通してはもらえませんか?
事の説明なら薬局にむかいながらでも……」
「…………いや、駄目だ。説明が先だ。追うならば、先に私への説明を終えてからだな。
君は上条当麻に危害を加えたのだろう?
相応の事情が在るとしても、それをハッキリと聞いて、納得するまではここを通す訳には行かない」
グラハムは譲らなかった。
上条当麻と戦場ヶ原ひたぎはグラハムにとって守るべき一般人。
どのような経緯であれ、守護対象に槍を向けたファサリナは、グラハムにとって十二分に警戒にするべき相手となっていた。
だから、まだ動けない。
切迫した事態かもしれない。焦りも在る。
だからこそなおさら、ミスは出来ない。
それらの事情から、グラハムはここで慎重になった。
「ふぅ……わかりました」
一つため息をついてからファサリナは語りだした。
挙動には本心からの焦りが見える。
その説明を聞きながらグラハムは、祈った。
どうかこの選択が、間違いであってくれるなと。
もしかすると彼とて、
無意識の内にその『悪い予感』を感じ取っていたのかもしれない。
- 765 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:55:15 ID:SXYrcrFs
-
◆ 『到着/救いの手』 ◆
早くも、やはり僕には適任ではなかったのだと、確信に至る。
むいていない、と言うかきっと慣れていない。
そりゃそうだ。
この僕――阿良々木暦の20年にも満たない人生の中で、こんな体験は始めてだ。
「…………まだ、か」
薬局の入り口付近で、僕は外の風景を眺めている。
所謂見張り番だ。
白井がここへ到着するまでに、
万一、殺し合いに乗った人物がここに現れた時の為。
重体のスザクはユーフェミアと協力して薬局の奥の奥に寝かせた。
ユーフェミアも奥でスザクと共に居る。
少し規模の大きいスーパーマーケット程度の広さを誇るこの薬局。
出入り口は今僕の正面にある一つしかないものの、薬局最奥には従業員と思わしき休憩室があり、そこには大きな窓が在る。
正面入り口から僕が危険を察知して知らせれば、そこから重傷のスザクもユフィと共に少しの逃げる時間が与えられるだろう。
でも正直、そんな事になったらもう、きっと枢木は助からない。
当然、枢木を見捨てられないユーフェミアも、そしておそらく逃げ場の無い僕も……。
ぶっちゃけ、この状況はかなりヤバイと自覚している。
このタイミングで危険人物に遭遇したりすれば、もう最悪と言い切って良しだ。
自ら背水の陣で待機している。
そこに白井が速く到着すればいいが……。
自分の命どころか、他人の命を背負っているような感覚だ。
しかもその命には時間制限がついている。
僕の力ではどうしようもない、重体だ。
加えて外敵への対応も、僕の力じゃ非力極まる。
ただ救いの手を待つのみ。
どうしようもなく、役に立てず、敵か見方を座して待つのみ。
そんな状況を押し付けられたようなもの。
確かに、確実に異常のあった橋の様子を見に行くよりかは安全かもしれないけど。
僕としてはそっちの方が遥かに気が楽だったし、
ここに残ってあの二人を守る役目は、やはりグラハムさんが適任だったに決まっているのだ。
悪いイメージばかりが先行する。
いけないいけないと、思いつつも止められない。
だからむいていないと言うのだ。
僕はこういう『間』において、すんなりと事が進んだためしがない。
裏目以外を引かない男とまで言われているのだ。
今回も一筋縄で解決する気がまったくしない。
「でも……ま、いまさら言ってもしょうがないよな……」
頭を振って気持ちを切り替える。
こうなってしまった以上はしょうがない。
「今の自分がやれる事をしよう」
今は万が一に備えて、万が一の事を考えよう。
「にしても、こんなもんを渡されてもな……」
ユーフェミアに預かっておいてくれと言われていた、二つの得物。
「どう使えばいいのか、全然分らないぞ」
ずしりと重い、二つの拳銃。
それをかざして見る。
当然、僕はこんな物騒なもの撃った事もなければ握った事もない。
- 766 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:56:21 ID:SXYrcrFs
-
「けど、いざとなったら使うこともある……のか?」
これを人に向けて、撃つ?
どうにもイメージできない。
だが思考を先に進めないと。
右手に握った拳銃の使い方はなんとなくだが、予想がついた。
こっちはテレビか漫画かなにかで見た記憶が在る。
ベレッタなんちゃら、とかいったか。
だが左手に握った方は、いまいちわからない。
少なくとも僕が居た世界ではこんな銃は見た事が無い。
第一印象をストレートに言うと、『おもちゃ』みたいだ。
試し撃ちは……当然よしておくとして。
今はせめて構える練習だけで……。
「――しッ、失礼しますの!」
その時、背後から聞こえた声と凄まじい物音に、
僕は思わず引き金を引いてしまいそうになった。
「うぉわああああああ! な、んだ……?」
振り返ってみれば……そこには商品棚をひっくり返して地面に尻餅をついている白井の姿が!
「もう、制限はこりごりですわ……」
うんまあ、中途半端なフリに乗ってくれてありがとう。
「ていうか、白井……?」
「ええ、お久しぶりですの。阿良々木さん。怪我人のもとに案内してくださいな」
突然背後に現れて商品棚をぶったおして、たくさんの薬ビンを一面に散らかしまくった白井は、立ち上がりながらお尻を払っていた。
えーっと今のが、テレポートってやつか。
なんか制限とやらのせいでミスったっぽいけど、いやそんな事はどうでもいい。
いやほんとはどうでも良くないけど、滅茶苦茶ビックリしたけど!
けど、今は兎に角、白井が速く着てくれたことに心底ホッとした。
これで僕も自分の役目が遂行できる。枢木を見殺しにせずにすむ。
……かも、しれない。
正直言って可能性は殆ど無いけど、明確に今できる事があるのだ。
「ああ、こっちだ白井!」
僕は心苦しくも、どこか救われた心地で、薬局の奥の部屋へと白井を案内した。
さっきまで胸中を占めていた嫌な予感は……まだあったけれど……。
- 767 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:57:21 ID:SXYrcrFs
-
■
「……不可能です。この方の怪我は致命傷にあたります。このサービスでは治療できません」
「まってくれよ、何をもって致命傷かどうかを判断するんだ? 分らないだろ?」
「はい、急遽導入した施設サービスなので、明確な規定はありません。なので私が直接出向いて判断する事になりました。
しかし私の目から見ても、この方の負傷は度を越えています」
「くっ……じゃあ、どうして白井の時は治療したんだ!? 白井だって命に関わる怪我をおってたって、僕は聞いているぞ」
「あの時は……、上から通達がありました。 致命傷にはあたらないと……」
「なんなんだそれは……!? いい加減過ぎないか!?」
「お答えできません。私の判断ではありませんので。それでは私はこれで―――、――!?
………………………………、……………………、………………了解しました。」
「……な、んだ?」
「上からの通達です。枢木スザクの怪我は致命傷にはあたらないとする、と」
「な!? どうして急に……?」
「お答えできません。私の判断ではありませんので。それでは、これより治療を開始します。
ただしこの治療方法には協力者が必要になります。
どなたがなさいますか?」
- 768 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:58:08 ID:SXYrcrFs
-
◆ 『到着/破壊の手』 ◆
喜ばしい状況の、はずだ。
だが、腑に落ちない。
違和感しか存在しない。
「浮かない顔ですわね、阿良々木さん」
その不満が顔に出ていたのか、白井に見咎められてしまった。
治療を承諾したインデックスと治療の協力者を志願したユフィと、治療中のスザクを奥に残して、
僕と白井は再び薬局の入り口付近に戻ってきた。
今度は二人で、見張りの役目が始まる。
しかし、今度は先程までとは全然状況が違う。
このまま何事も無ければ枢木は助かるし、今は白井も一緒だ。
あの息苦しい待ち時間は終わり、やっと一息がつける。
多少は気楽にグラハムさん達を待てる。
はずなのに。
「どうにも納得がいかない」
今までに以上に、僕は落ち着かない心境だった。
「話がうますぎる。嫌な予感がするんだ」
あまりにいい加減な、致命傷の定義。
とってつけたようなルール。
主催者達は、最初僕達にあれほどルールの厳格さをアピールしたしたくせに、自分達はこれだ。
それにあの心変わりはどうやっても納得できない。
結果として、駄目もとの治癒サービスが適応されて枢木は助かる。
しかし、それは主催者達の利にならないはず。
殺しあえと言ってきた奴らが重体になった参加者を治療する?
理屈にあっていない気がする。
「白井も、おかしいと思ってるんだろ?」
「ええ。正直言って、私も同感ですの。凄まじく、キナ臭いお話ですわね」
見れば、白井も僕に負けないくらい浮かない表情だ。
そもそも、白井が治癒されていたあたりから話はおかしいのだ。
彼女もまた致命傷で、しかもペリカが足りなかったと聞く。
それをわざわざ主催者が治療した。
まるで今回、僕が最初に言った屁理屈といっしょだ。
『致命傷の定義など決められていないから――だからどう見ても致命傷だけど治療する』
やつらの立場からすれば、普通は逆じゃないのか?
まさか、とは思うけど。
治療する事が利になるとでもいうのだろうか。
- 769 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/24(火) 23:59:17 ID:SXYrcrFs
-
つまり治療する事が主催者側にとって都合のいい事態に繋がるような。
殺し合いを促進するような。
白井の時も、誰も気がつかなかっただけで、そう言う事態が影で起こっていたとしたら。
そして。
だとすれば。
今回も――?
「どうやら、その悪い予感は的中のようですわね」
そう言って外を見つめる白井の視線を追う。
僕もそれを見た。
ゆっくりと、こちらに向かって歩いてくる人影。
街灯に照らされて浮かび上がった風貌は、まっ白い髪、まっ赤な目、まっ黒い服を着た、少年、か?
僕の知らない人物だ。
この島で、初めて出会うタイプの参加者。
けれど、彼(?)がいかな人物か、断片的には分る。
彼がまとう異様な気配と、
白井の壮絶に青ざめた顔色を見れば一目瞭然だろう。
超 危 険 。
なのに僕は油断していた。
僕はまだまだこの島の異常さを理解していなかったのだろう。
少年は銃を持っているわけではない、ただ缶コーヒーを片手で弄んでいるだけ。
ならばまだ、これほどの距離が在るのだから大丈夫だろう、などと、心の、どこかで、後から思えば自殺レベルの油断を。
少年が片腕を振り上げる挙動を見せていたにも関わらず。
「あ、阿良々木さん……とりあえず逃げ……るッ……時間もありませんのッ!!」
こちらに向かって手を伸ばしかけていた白井の姿が、シュンという音と共に消えうせる。
直後。
代わりに。
さっきまで白井が居た場所に――つまり僕の三十センチほど左の床に、
『何か』が凄まじい音を奏でながら、目にも止まらぬ音速度域で突き刺さった。
のかどうかも、僕には正確に判断できない合間に、
爆散する床下コンクリートによって、視界が黒く塗りつぶされて――――。
「―――――――――――ッ!?」
悲鳴一つ上げられないまま、今の僕は紙切れのように、無様に吹き飛ばされている事だけを理解した。
- 770 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:01:40 ID:4baPhgM.
-
■
果たして気絶していたのは、一秒か、それとも一分か、目を開くのが怖い。
起き上がって周囲を見渡したとき、何が見えるのか分らないからだ。
全身の痛みは、正直ちょっと洒落にならない。
ヤバイ一撃ををもらった事は明らかだ。
だけどまだ、僕は生きている。
生きているんだ。終わりじゃない。
ならばまだ、やる事がある。
立ち上がらなければならないだろう。
「つ……が…………ァ………」
ぶれる視界の中、フラつきながらも立ち上がる。
薬局内部は砕け散ったコンクリと、その下のえぐられた地面の土煙でいっぱいで、視界が悪い。
自分の現在位置すら、つかめない。
だが目を凝らせば煙の中に、二つのシルエットが見えた。
一つはおそらく先程の少年のもの。
もう一つ、頻繁に、細かく位置が変わるツインテールの人物のシルエットは、きっと白井だ。
何をされたのか、未だに分らない。
爆弾でも投げられたのか?
いや、多分、違う。
爆発音も、無かったし、飛んでくる物体の速さが、壮絶だった。
あれはきっと単純に、彼が持っていた缶コーヒーが地面に衝突した、その衝撃だけで――。
「………ァ……ぐっ……」
思ったより酷いぞこれ、痛みで全身の感覚が塗りつぶされている。
全身打撲ってところか。
立ったのはいいけど、動けない。
加えて言えば、耳鳴りもかなりキテる。
音が、良く聞こえない。
「――――さんッ―な―を――る――ですのッ!」
白井の声……か?
駄目だ、やっぱりちゃんと聞き取れない。
なんて、言ってる、んだ?
「あ――ぎさんッ! は――く――せて――くだ――いましッ!」
ああくそッ、駄目だ。
もう、一度。
「は―ゃ―くふせ――」
その時、『白髪の少年』のシルエットが手を振り上げたように見えた。
直感する。
ヤバイ。これは――死ッ。
「……ッ!……ッああああァッ!!!」
思わず、叫んでいた。
『伏せる』という、ただそれだけの事に、全力を尽くす。
戦場にボケッとつったっていた間抜けな僕は、顔面を弾け飛ばされる寸前で命を拾った。
意図的に、転ぶ。
無様に、足を滑らせたように、いや滑らせて転倒する。
またしても銀色の何かが頭上を超高速で通り抜けていった時は、生きた心地なんてしかなったけど。
間に合った。何とか、まだ生きている。
死ぬかと思ったけど。
思いっきり頭を打ったけれど、あの一瞬見えた銀の閃光には貫かれていない。
- 771 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:03:21 ID:4baPhgM.
-
「……ッ……ッ……」
口の中に入り込んだ砂利を吐き出して、僕は這いつくばったまま前進する。
とにかく、あの少年から距離をとらなければならない。
一つ言い訳すると。
思えば、先程の間抜けな棒立ちは、一時的に聴覚が使えなくなった事が要因だ。
無音と聞き分けが付かなくなった僕は、状況把握を焦るあまり、咄嗟に立ってしまったけど。
だいぶ音が戻ってきた今ならば、この轟音轟く薬局内部で、無警戒に立ち上がろうなんて絶対に思わない。
本当に、よく生きていられたものだ。
今のはマジで運が良かっただけだ。二度目は、きっと無い。
「阿良々木さん! どうにかしてッ! 外、にッ!」
薬局全体を震撼させる衝撃と轟音、それと共に白井の声が断続的に聞こえてくる。
かすかに、シュン、シュンと言う音も連続して聞こえてくる。
彼女は今、あの白髪の少年と戦っているのだろう。
ああ、お前の言いたい事は分るよ白井。
早く逃げろって、言ってるんだろ?
確かにアレは駄目だ、到底僕の手には負えない。
アレは、あの少年は、あの規格外の怪物はいくらなんでも無理だ。
今の僕では……駄目だ。
完全な吸血鬼だった頃の僕なら、いや多分それでもきつい位だ。
まだ実際何が起こったのかも、起こっているのかも正確に掴めていないけど。
予想が正しければ、缶コーヒーを投擲しただけであの威力ってことだ。
敵は強大。
なのに既に僕は、たとえ立ち上がれても、満足に動けないほどのダメージを負ってしまっている。
とどのつまりは、足手まとい。
白井は、戦えている。
こんなザマになった僕がまだ生きているのは、白井が正面からあの少年にぶつかっているからだろう。
おそらく、テレポートによるかく乱を仕掛けてくれている。
そうでなければ、僕はとっくにトドメを刺されて死んでいた筈だ。
今の僕に出来る事は……白井の邪魔にならないこと。
ここから離れる事、だ。
それしかない。
生憎、入り口はあの白髪の少年に塞がれているし、奥の部屋は、治癒儀式の真っ最中だから入れない。
白井が言うように、外に出ろってのは、無理だ。
とにかく、今は少しでも薬局の奥へ這って進む。
一つでも多くの商品棚を盾にして……。
――絶対に誰も死なせるな。
本当に?
――それから、絶対に死ぬな。阿良々木少年。
本当に僕に出来る事はそれだけなのだろうか?
グラハムさんにここを任されて、押し切られる形とはいえ、
その役目を担う、責任を持った僕に出来る事は、戦う女の子の陰に隠れて蹲ってるだけなのか?
そんな男に、何が守れるっていうんだ?
- 772 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:03:42 ID:4baPhgM.
-
「…………くそッ……!」
湧き上がる悔しさと、怒り。
分っているんだ。
まず大前提として、僕は死ぬわけにはいかない。
死んだら、全部終わりだ。
最高に自惚れるけど、この命は僕だけの命じゃない。
僕が死んだら、アイツはどうなる?
戦場ヶ原はどうなる?
僕の大切な人がたくさん死んだ。
もう……取り返しは付かない。
でも、まだ、戦場ヶ原は生きてるんだ。
今もどこかで、生きてる。僕を待っていてくれてる。
アイツを、一人にさせる訳にはいかない。
そして、僕は戦わなくてはいけない。
もうこれ以上何も失わないって、決めたのだから。
だから……!
こんな所で、死んでたまるか!
こんな所で、逃げてたまるか!
こんな所で、戦う事を止めたりしてたまるか!
頼む。
誰でもいい、なんでもいい、僕に戦う手段をくれ。
立ち向かう為の力を――。
生き残る為の力を――。
「………っ!」
その願いが届いたのか。
這い進んでいた手が、唐突に何かに触れた。
「っ……これ、か」
それはさっき僕が吹っ飛んだときに、無くしたはずの拳銃だった。
ツイてるな、二挺セットで見つかったぞ。
少々心許ないけど、これで……。
「やって、みるかな……」
戦おう。
僕は絶対に死なないし、絶対に誰も殺させない。
その仕事を、託された責務をやり遂げて。
胸を張って、戦場ヶ原を迎えにいく為に――!
- 773 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:04:28 ID:4baPhgM.
-
■
その頃。
薬局奥、従業員休憩室にて。
「これで、全ての準備が整いました。ではそちらに座ってください」
インデックスは、漸くユーフェミアに下準備の終了を告げた所だった。
「随分と、時間を掛けたのですね……」
ユフィは、冷たい眼差しで目の前の少女を見つめている。
「大掛かりな作業でしたので」
少女はさらりと言ってのけるが、ユフィの目は一層厳しくなった。
「知っていたのですか? こうなる事が、だから貴女は……!」
ずん、と。
先程から、ずっと薬局全体が震撼している。
ただ事ではない、おそらく襲撃をかけられたのだ。
ユフィにもそのくらいは予想できる。
しかし、ことここに至っては、もはや動きようも無い。
明らかな緊急事態の中でユフィは、
一人だけ余裕そうに魔術の準備を進めるインデックスの姿を、ずっと見ていることしか出来なかったのだ。
ユフィはこの時点で、今まさに襲撃現場に居合わせている阿良々木以上に、事の深刻さを理解していた。
要するに、自分達は嵌められたのだと。
「私は治療の許可が下りたので、治療する。それだけです。
早く開始しないと、手遅れになりますが……?」
ユフィは歯噛みする。
悔しくて、申し訳なくて、苦しかった。
自分の身勝手な願いの為に、他人を危険地帯に呼び込んだ。
自分は主催者に利用されたのだと、思い知る。
もしこうなると、分っていれば……。
(ごめんなさい……)
結局、彼女はこの選択を選んだのかどうか。
(私にはもう……祈る事しかできません……)
なんにせよ、今の彼女に出来る事は仲間の無事を祈り。
そして、一刻も早くスザクを助ける事だけだ。
仲間達の善意を、差し伸べてくれた救いの手を無駄にしないために。
(どうか……どうか無事でいてください……)
そして。
(……スザク……お願い……。もう一度、生きて……)
彼に生きて欲しいと願う。
(貴方の為に、皆が助けてくれました。皆が今も貴方と私の為に戦ってくれているのです。
……だから、絶対に死なないで。もう一度、立ち上がって……!)
ユーフェミア・リ・ブリタニアは今。
皇族としてではなく、スザクの主としてでもなく。
ただ、一人の少女として純粋に、スザクの帰還を願っていた。
- 774 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:06:07 ID:4baPhgM.
-
◆ 『対決/LEVEL4 -judgelight- 』 ◆
避けろ、避けろ、避けろ、避けろ、避けろ、避けろ。
死んでも避けろ。
白井黒子はそれだけを思考していた。
「はッ!! 瞬間移動(テレポート)だァ!? おもしれェ!!」
耳障りな声など届かない。
思いは一つだ。
かわせ、かわせ、かわせ。
当たるな。
直撃だけはなんとしても避けろ。
そう、黒子は念じ続ける。
――第二波が来るッ!
正面から飛んでくる二発目のコーヒー缶を、左に二十センチ程テレポートして回避。
逃げた先にも、殺人コーヒー缶が飛んでくる事を見越して、転移後も瞬時に上方へ転移。
予想通り、下方を通り過ぎていくコーヒー缶を見送ってから、更に飛んできた四発目のコーヒー缶に顔面を貫かれる――
直前にもう一度、直下へと転移した。
「――ッ!」
ギリギリ間に合った。
しかし咄嗟の転移により、制限による誤差の修正を怠ってしまった。
ずれた座標に対応できずに、黒子の体が床に叩きつけられる。
今の転移ミスで体が床下にめり込まなかった幸運をかみ締める間も無く周囲も見ずに、暗い視界のまま命がけで大きく左方に転移して。
「っ……と惜しいねェ……」
商品棚の影に隠れた瞬間に、先程まで黒子が蹲っていた床は跡形も無く爆散していた。
「……ッ…………ハァ………ハァ……ッ……」
商品棚の影にて、黒子は息を整える。
休息……ほんの短い休息だ。
すぐに敵の眼前に舞い戻らねば、阿良々木暦が殺される。
隠れていられるのは、ほんの少しの間だけだ。
床と激突した右肩に触る。
痛む、が、十分動く。
(脱臼は……していないようですわね。不幸中の幸いですの)
思えば、初撃を回避できたのは本当に幸運だった。
あの時、一瞬でも外を見ていなければ、敵の接近に気づくのかが遅れていたら。
今頃、黒子の命は無かったことだろう。
敵が最初の目標を自分に定めた事も幸運の一つだと、黒子は思う。
逆であれば、隣に居た少年は確実に死んでいた。
そして己の能力がテレポートでなければ……。
「本当に……運がよかった……ですわね……」
たった数秒間の間に、様々な幸運が重なり合って、今の自分は生きている。
この上なく、生を実感する。
- 775 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:08:25 ID:4baPhgM.
-
「……ふ……ふふっ……」
ガクガクと、膝が震えていた。
手の平にも小刻みに、震えが走る。
(何が、運がよかった……ですのよ……。こんなもの、至上最低最悪の不幸地獄ですわ。
可能なら、叫びだしたいくらいに……。)
事ここに至って、黒子は漸く理解した。
自分達は主催者達に嵌められていたのだと。
この治療サービスの質の悪さに気が付いたのだ。
(なにが……致命傷の定義……ですのよ……。詭弁もいいところですわ)
良く考えればわかった筈だ。
殺し合いを強要する主催者たちが、治療サービスを提供すると言う、この一見して矛盾した行動。
しかして、カラクリはあった。
治療する事が殺し合いの促進になるか。
まさにこの状況がそうだろう。
治療中の襲撃。敵わない敵に対面したとき、逃げる事が出来ない。
治療中の仲間が、それ以外の者の行動を縛る、足枷になるのだ。
現に今、常ならば今頃黒子は阿良々木を連れてテレポートでこの場を離脱していたはずである。
それが治療中のスザクと、治療協力者として留まっているユーフェミアの存在により、この場を動く事が出来ない。
地雷の真価とは、踏んだ者を殺傷することではないと言う。
その本質的な狙いとは、地雷を踏んで動けなくなった味方に気をとられてしまった人間を殺すこと。
今の状況はそれと同じ。
スザクとユーフェミアを見捨てられないから、黒子は死地を抜け出せない。
回復の為の最も重要な事項、致命傷の定義がボカされていたのはその為だ。
なんら争いに発展しかねない状況なら、スザクの治療は行なわれなかったのだろう。
だがおそらく、主催者はこうなる事を知っていた。
殺し合いに乗った者が薬局に近づいて来ることを察知していたのだ。
故に治療を開始した。
この場の人間に足枷を付けた。
良く考えればわかる、単純なシステム。
だが見破るのは至難だろう。なぜなら状況には人命がかかってくる。
大切な仲間の生死、救いたいと言う叫び、それらが目を曇らせる。
そこに潜む落とし穴に気づかない。
誰かを救いたい、死なないで欲しいという、真摯な願いを利用しした、下劣極まりないが実に有効な罠。
それに黒子達はまんまと嵌められた。
(……なんて、卑怯な……)
久方ぶりに、黒子は帝愛の卑劣さを思い知る。
なんにしても、状況は最悪。
確かに危惧していたが、まさかよりにもよってこのタイミングで、アレが目の前に現れるとは……。
(学園都市最強の能力者、一方通行<アクセラレータ>)
想像以上、想定以上、圧倒的だった。
対峙しただけで分ってしまった、アレは次元が違うのだと。
レベル4とレベル5。
数字の上では一つの差だが、まるで違う。
しかしその中でも彼は更に別格の域だ。
自分とレールガンとの間ですら、あれほどの格差は感じなかったのに。
「勝ちは無理……ですわね」
- 776 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:10:54 ID:4baPhgM.
-
先程の一瞬で、格の差を知ってしまった。
根性論とか、一千、一万分の一の幸運を掴んだところで、アレには届き得ない。
そういう次元ではない、圧倒的な存在格差。
身体の震えは、未だ収まらない。
「なら、わたくしのすべき事は……」
天上を見つめる。
蛍光灯の光が目に染みた。
逃げようと思えば、いつでも逃げる事が出来る。
彼女だけは、確実に。
この場で唯一、その手段をもっている。
一瞬だけ目を閉じて、ぎゅっと拳を握り締めた。
そして、誰かの後姿を思い描く。
(お姉さま……、士郎さん……)
『約束する。俺は黒子と一緒に、この世界から出るって』
彼の言葉を思い出す。
そして、
目蓋の裏に想い出される。
誰よりも憧れた彼女が使役するあの雷撃。
その残光が黒子の道を照らしたような気がした。
「わたくしは……」
ゆっくりと、目蓋を開く。
次に飛び出した瞬間に、殺されるかもしれない。
何秒もつか、など分らない。
命が在るのは数分先までか、それとも数秒先までか。
きっと自分は敗北するだろう。
だけど。
「わたくしのすべき事は、一分でも、一秒でも、0.1秒でも、とにかく時間を稼ぐこと……!」
だけど、行こう。
そう決めた。
白井黒子は戦うと決めた。
震えは、もう無い。
意を決して、跳躍する。
最強の超能力者、その眼前へと。
- 777 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:11:35 ID:4baPhgM.
-
「おおッと!? 出てきやがったかよ」
少し意外そうな一方通行を真っ向から見据えて、白井黒子は戦意を示す。
黒子は想う。
きっと、彼女と彼ならば迷う事すらなかったろう、と。
白井黒子が誰よりも憧れた超電磁砲ならば、彼我の実力差に臆する事無く立ち向かう。
この島で出会ったあの危なっかしい少年は、死の恐怖など度外視して戦うだろう。
今の自分は彼女ほど強くないし、彼ほど無鉄砲にもなれない。
自分はまだまだ弱い。
能力ではなく、心の在り方が、あの二人のように頑強には在れない。
けれど黒子はまだ、近づきたいと願っているのだ。
少しでも彼女に。
あの鮮やかな電光に、追いつきたいと。
成し遂げたいと願っているのだ。
彼と交わした約束を。
あの誓いを守りたい、と。
だからこそ、今は戦う。
未だ残る迷いも後回しにして。
今はただ、戦って生き残る事に全力を注ぎきる。
相手が誰だろうと関係ない、勝算なんて関係ない。
戦うべきだから、戦うだけだ。
「この島にはバケモンと足手まといしか残ってねェのかと思ってたンだが…………。
まだアイツ以外にも超能力者は残ってやかったのかよ……。
で、なにやら見覚えある制服着てやがるなァ……テメエはなンだ?」
名を、問われた。
ならば、さあ名乗ろう、いつものように。
己のあり方を示そう。
自分と、そして、自分が守るべき人たちの敵を倒す為の存在。
その証を、右の腕章を突きつけて。
これから立ち向かう敵へと、宣言するのだ。
「――ジャッジメントですの!」
そうして、ここに数分間にも満たない短い時間。
超能力者同士による決闘が始まった。
- 778 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:13:46 ID:4baPhgM.
-
◆ 『行間/悔い』 ◆
その轟音は、市街地を南下していたグラハムとファサリナの耳にも届いていた。
「この音は……!?」
「薬局の方角ですね……やはり、なにかあったようです」
二人で並んで駆けながら、言葉を交わす。
グラハムはファサリナの言葉を聞き、その考えと行動に思うところは在るものの、
ひとまずは早く仲間と合流する、と言う結論に達していた。
これ以上、あの場を阿良々木暦一人に背負わせるわけにはいかない。
自分とファサリナが戻って戦力を固める事が先決だ。
ファサリナと話し合うのはその後でいい、その様に出来うる限り迅速な判断を下したのだが。
「やはり、時間を掛けすぎたのか……。すまない阿良々木暦……!
私はまた選択を誤った……!」
「悔やんでも仕方ありません。それにあの状況ではあれが正しい行動だったと、私は思います」
「ふっ……君にフォローされてしまっては世話無いな……」
グラハム・エーカーは悔しげにそう言って、夜の市街地を走りぬけた。
- 779 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:17:04 ID:4baPhgM.
-
◆ 『対決2/LEVEL4 -judgment-』 ◆
「ひゃはははははッ! こンな所まできてジャッジメントときたかよッ!
面白しれェなァ! ちィとばかし、遊ンでやらァ!」
二度目の対峙における、一方通行の初撃は缶コーヒー五つの同時投擲だった。
その威力は――もはや語る必要もあるまい。
鉄板すら貫くであろう殺人アルミ缶。
ライフル弾もかくやといった速度で、敵へと突貫していく五発の砲撃。
それが全弾――命中せず。
直撃の寸前で目標自体が掻き消えていた。
敵の顔面を叩き潰す筈だったコーヒー缶は、商品棚を次々と薙ぎ倒しながら彼方に消える。
「こちらですの!」
目標がその場から斜め上方に転移していたのを確認する。
ならば、次弾装填。
新たなコーヒー缶を取り出して、構える。
今度は一発ずつ(シングル)だ。
命中させる事を重視して、連続的に射出する。
「…………!」
射出の瞬間、空中でまたしても、目標が消えた。
外れた砲撃が薬局の天井を突き抜けて夜空に上っていく。
砕け散った蛍光灯の破片がチカチカと室内に舞った。
敵の転移先は再び一方通行の正面。
すぐさまそこに一撃、撃つ。
予想通りかわされて。
その後、右上に現れた敵に向かって缶を二発ばかし追撃するが。
やはりそれは天井だけを貫いて、目標を捕らえ得ない。
「そら、そら、そらァァァッ!! 気張ってかわせよォ、テレポーターァッ!!
一発でも当たっちまったらオシマイだよなァ!? わかってンだろォ!?」
最初はこのように馬鹿正直に、相手の正面へと投げ放っていた。
当然これは容易く避けられるだろうと読んでいる。
移動したその先に、もう一発。
やはりかわされる。
放つ、放つ、放つ。
避けられる、避けられる、避けられる。
そのたびに薬局が震撼し、土埃が巻き上がる。
この繰り返しだ。
敵はひたすら避ける。
右へ、左へ、上へ、下へ。
障害物を無視して逃げまくる。
どうやら瞬間移動で一方通行の攻撃を回避することのみに、全神経を注ぎ込んでいるらしい。
(まあ、納得だ)
そうでなければ、これほど連続で一方通行の猛攻をかわし続けることは出来ないだろう。
敵が少しでも攻めに心を傾かせてくれれば、この勝負はもっと手早く終わっていたはずなのだ。
実に適切な判断である。
彼我の実力差から、ヘタに攻撃すれば即死に繋がると知っているようだ。
学園都市の人間であればこそ、一方通行を知っていればこそ、か。
- 780 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:19:14 ID:4baPhgM.
- 相対するテレポーターはちょこまかと飛び回り続けて、、
もう既に30発以上の砲撃をかわしていた。
(そろそろ、かねェ……)
しかし、今度は敵が転移する『先』へと、おおよその位置を見立てて放つ。
「――――!?」
(……ビンゴだな)
一方通行の左前方へと転移していた敵が、顔を強張らせるのが見えた。
移動した地点には、既にコーヒー缶が投げ放たれている。
能力行使に一秒ほどのタイムラグが在るのはすでに看破していた。
あれを瞬間移動でよける事は出来ないだろう。
(……おおッ?)
だが敵はかわしてみせた。
瞬間移動ではなく、移動した時に崩れていた体勢を利用し。
床を手で弾いて身体ごと、コーヒー缶の直撃コースから離脱する。
「…………ッッ!」
鈍い激突音。
敵は思い切り商品棚に突っ込んでいったが、何とか回避しきったようだ。
再び視界から、目標の姿が失われる。
「おーおー、やるねェ」
一方通行は素直に感心する。
いま戦っている少女は大能力まで辿り着きながら、能力だけに頼りきった戦い方をしていない。
身体能力もそれなりにあるようだ。
(しかし、まァ。あの能力でここから逃げねェってことは、こりゃいよいよ予想通りの展開かァ……?)
――ここは、狩場だ。
一方通行は半ばそう確信した。
いかに彼と言えど、逃げに徹されれば多少は困る。
正面から来る敵なら誰であろうと殺してやれる、逃げに徹する敵も大体は殺しつくせるだろう。
しかし万が一、逃げ切られれた時が厄介だ。
彼にとって最大の弱点とも言える、時間制限。
『逃げ切られた状況』は、運が悪ければそこを突かれる可能性が高い。
確率は低いが、『仕留め切れない』という状況は出来るだけ避けたい。
なればこそ、この状況は好都合だ。
テレポーターがこの場から逃げ出さないのはおそらく、この場に居るであろう仲間を見捨てる事が出来ないからであろう。
時間稼ぎをしている訳だ。
ならば、その対象とは当然、現在進行形で治療を受けているだろう誰か――高確率でスザクとなる。
目の前の敵は死ぬまで逃げない。
先程見かけた少年も、まだ生きているかもしれないが、身動きが取れないほどのダメージを与えたはずだ。
後はゆっくり殺すのみ。
あまりのんびりは出来ないが、油断しすぎなければ問題ない。
そして何よりも。
(ここには、まだまだ獲物が寄って来る……)
薬局に襲撃を掛ける寸前に確認したGN首輪探知機には、こちらに向かってくる4つの光点があった。
まさに狩場だ。
適度に戦いを続けて、敵が集まってきた所で一網打尽。
ハイリスク・ハイリターン。
殺人者が少なくなってきた状況に、一歩通行は大きくでた。
(けどま、コイツにはそろそろ死んでもらうとするかねェ……。
客寄せはこのぐらいで十分だろ。まずは、一殺といくか)
そう決めて、一歩通行は僅かに本気を出すことにした。
- 781 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:22:52 ID:4baPhgM.
-
■
「阿良々木さんッ! 聞こえてまして!?」
いっこうに絶えない、コーヒー缶による砲撃の連射。
その只中を舞いながら、白井黒子はこの場に居るはずのもう一人の人物に呼びかけた。
「とにかく……ここからどうにかして、逃げてくださいましッ!」
それだけの集中の乱れで、死の影を見る。
「…………ッ!?」
腹を貫く軌道であった一撃を、すんでのところで瞬間移動で回避する。
今のは危なかった。
阿良々木の無事を確かめるのもこれが限界か。
と、一瞬だけ黒子が周囲を見渡した時。
「ばっ……! なにをしてますの! 早く伏せてくださいましッ!」
視界の隅に、呆然と突っ立っている阿良々木を捕らえた。
咄嗟にその逆サイドの壁に転移し、一方通行の視線をひきつける。
彼は何をやっているのか。
状況が分っているのか。
いや、きっと分かっていないのだろう。
だから叫ぶしかない。
「早くっ、早く伏せてくださいましッ!」
阿良々木の挙動を捕らえたのか、否か。
突然、一方通行が攻撃手段を変えた。
取り出したのは、小さな袋。
そこから、取り出したのは、銀球――パチンコ、玉、か。
それが空中にばら撒かれ――一方通行が手を振り上げる。
「マズ、いッ……ですのッ!」
寸前に、黒子はもう一度伏せろと叫んだ。
一歩通行が、一回転する。
その手に触れた銀球が、全て綺麗に、円形に射出された。
「――――!!!!」
横に死角皆無の全体攻撃。
銀の閃光が薬局の内側で弾ける。
どう考えても、左右にかわす隙間は無い。
故に前進。
迫る円の内側に転移する。
このとき、白井黒子は半ば阿良々木の死を覚悟していた。
もはや自分だけで精一杯だったのだ。
- 782 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:24:40 ID:4baPhgM.
-
そしてチラリと、先ほどまで阿良々木が立っていた位置を見れば――まだ、生きていた。
倒れてはいるが僅かに動いている。
ほっとするのもつかの間。
次に、目に映ったものは少しだけ接近した一歩通行と、それが再度振り上げた手。
(追、撃っ!)
回避。
果たして黒子には直感的に読めていた。
故に瞬時に斜め上方に後退。第二波を回避する。
が、それも読まれていたのか、
(……コレ、は……!? しまった!)
転移先にはもう目の前に、コーヒー缶が迫っていた。
回避不能と、黒子は悟る。
先程から何度か危ない場面があったが、これは流石に無理だ。
瞬間移動が間に合わない、わけではない。
だが、目前に迫るコーヒー缶に気をとられ過ぎていた。
更に既に一方通行は次の銀球を拡散射出する準備を終えている。
それを見てしまった事が、致命。
自分がどこに移動すればいいか分らない。
最適な転移場所、それを考えてしまった。
分らなくなってしまったのだ。気持ちが、乱された。
迷いが、命を奪う。
動揺が黒子の脳の働きを鈍くする。
転移場所の、計算が、出来ない。
(死……ぬ? わたくしは……ここで?)
超速の砲弾が、何故だかスローモーションに見えた。
ゆっくりと、ゆっくりと、近づいてくる死。
それは終わり行く者が見る光景か。
死線をくぐり続けた結果、生成される脳内麻薬(アドレナリン)の効果で見せられた光景か。
(こんな、所で? 何も、出来ないまま。 何も、分らないまま)
自分のすべき事も成せないまま。
己を縛る葛藤に答えを出せぬまま、死ぬと言うのか。
死んで、そのまま解放されて、楽になる、と。
(そんな……ことが……)
そんな、終わりが。
(許されるわけが、ありませんのッ!)
空中でがむしゃらに伸ばしていた手が、何かに触れる。
それを、黒子は自分の僅か一センチ正面に転移させた。
目の前に現れる、商品棚。
折れぬ意志が、またしても黒子に幸運を掴ませる。
『空間を割り開いて出現する棚』はドンピシャのタイミングで絶死の砲弾を巻き込んだ。
まさに空間に割り込みを掛けた『黒子の飛ばせる限界ギリギリの質量』が、
コーヒー缶を空間ごと上に打ち上げ、軌道を逸らす。
「……チッ」
一方通行の舌打ちは、この戦いで始めて彼の意図せぬ事態が起こった事を意味するのか。
だが、幸運はそこまでだった。
黒子は未だ空中にあり、目前の空中に転移させた商品棚を回避する術など無い。
「……づ……ぁ……!」
死は免れたものの、黒子は自分が転移させた商品棚の下敷きになってしまった。
鋭い痛みが走る。
が、死だけは乗り越えた。
(なん、とか……命はつなぎましたわね……)
そうして、気が付けば都合六十発もの砲撃をかわしていた時、
黒子は漸くその違和感に気が付いた。
- 783 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:26:39 ID:4baPhgM.
-
(それにしても、やっぱり……妙……ですわね……)
どう考えても、これまでは手加減されていたとしか思えないのだ。
今のをかわせたのは完全に運だ。
最初からこの猛攻をやられていれば、黒子は瞬殺されていたはずである。
そも、あれが本当に学園都市最強の能力者だとしたら、ここまで粘る事が出来たことがもうおかしい。
確かに強い、圧倒的だがレベル5の第一位はこんなものではない筈だ。
まさか偽者、という事は無いだろう。
対峙した瞬間に感じたあの悪寒は本物だった。
ならば、何故、ここにいたるまで黒子を殺せていないのか。
(考えてみれば、妙な事だらけですわね。何故最初から本気を出さなかったのか?
何故、わたくしを無視して奥の二人を狙わないのか? そして何故、彼はあの場から一歩も動こうとしませんの?)
まるで、何かを待っているような。
何かを待つためにわざと黒子との戦いを長引かせていたような。
あるいは……。
(まるで、なるべく超能力を使わないようにしている……ような?)
極力、力を使わないようにして、戦っているような。
そこまで思考して、黒子の脳裏に電流が走った。
「まさか……制限……?」
考えてもみれば当然の事だ。
レベル4である自分にすら、能力への制限が掛けられていたのだ。
ならば、レベル5である一方通行が無制限で在るはずが無い。
なんらかの、かなりキツイ制限があってもおかしくはない。
先程からの不可解な挙動の要因がそこに在るとすれば。
(付け入る隙は……ありますわね……)
絶望的な状況の中、黒子は一筋の勝機を見た。
しかし――
「でも、やっぱり、ここまでのようですわ……」
「そォだな……まあ結構がんばったンじゃねェか?」
上を見上げっぱなしだった視界に、白髪の少年の顔が映り込んだ。
棚の下敷きにされた痛みによって、瞬間移動は使えない。
今度こそ、打つ手無し。
勝負ありだ。
後は死を待つのみとなる。
音の消えた薬局内。
一方通行の手が伸びる。
白井黒子の顔へと、ゆっくりと、破壊の手が伸びる。
そこに突然、銃声が轟いた。
「待てよ」
視界にあった一方通行の首が、向きを変える。
黒子もその視線を追った。
「……!? なっ……阿良々木さん!?」
薬局の入り口付近の壁際。
そこには阿良々木暦が、銃を天井にかざして立っていた。
「僕が、相手だ」
そう言って、少年は一方通行に、銃を向ける。
「まッ……それは駄目ですの阿良々木さん! 彼は――!」
制止の声は、遅すぎた。
やがて一発の銃声と共に、悲劇の序章が幕を上げる。
- 784 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:31:02 ID:4baPhgM.
-
◆ 『襲撃者/突撃』 ◆
「がはッ……!」
何が起こったのか、何をされたのか分らなかった。
僕の腹に二つの風穴が開いている。
血が、こぼれる。
ドクドクと、流れ出す。
「うぐっ……」
僕は崩れ落ちる。
銃で、撃たれた? 撃ち返された?
どうなってるんだ?
撃ったのは僕だろ? 何故、僕が撃たれてる?
状況が、理解できない。
まさか跳ね返されたとでも言うのか?
顔を上げれば、あの少年の真っ赤な目が僕を見つめていた。
少年が、缶コーヒーを握る手を振り上げる。
不味い、マズイ、まずい、これじゃ本当に注意を引いただけだ。
殺される。
カッコつけた挙句に、かっこ悪く死ぬだけだ。
くそッ。
死にたくない。
死ぬわけにはいかない。
――なのに!
現実は無情に、少年は腕を振り下ろし――。
「なッ――」
きるまえに、右に、弾き飛ばされた。
「ンだとッ!?」
白井も呆気に取られている。
薬局の入り口の砕けたガラスドアが突然、ドロドロの金色の液体に代わったと思いきや。
そこから刃が飛び出してきた。
刃は少年の身体に直撃する直前に、壮絶な黄金光を放って薬局の外へと巻き戻る。
だが少年も同じように刃に押されるように、右に飛ばされて転がっていた。
その時、僕はまたしても大失態をやらかしていたんだろう。
あんな危険な少年から目を離して、薬局の外ばかり見ていた。
最高に命知らずなマネをしていた。
けれど、こればっかりは責められないだろう。
なぜなら、なぜならその時薬局の外に見えたのは。
こちからに向かって全力疾走していたのは、他でもない僕の恋人。
「――阿良々木君ッ!!」
「――戦場ヶ原ッ!!」
戦場ヶ原ひたぎ、その人だったのだから。
- 785 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:33:03 ID:4baPhgM.
-
薬局内に飛び込んだ戦場ヶ原は、その手に持った鎖剣みたいなので白髪の少年を撃つ。
撃ちまくる。
炸裂する黄金光。
刃が戦場ヶ原の元に舞い戻る。
だが戦場ヶ原はその武器を自ら破棄した。
カラカラと音を立てて銃剣は薬局の床を転がっていき。
戦場ヶ原は無手で走り続けた。
彼女の挙動に前後して、白髪の少年が反撃の構えをみせる。
その時、僕の思考は漂白された。
敵の強大さとか、腹の激痛とか、全部どっかに飛んでいった。
思うことは――ただ。
彼女に会えて、嬉しい。
戦場ヶ原、こんな場合だけど。
僕はやっぱりコイツが本当に好きなんだと。
死ぬほど実感した。
ああ、愛しているとも。
だから絶対守る。
何があっても、絶対お前を守ってみせる。
人間強度とかもう知るか。
お前の為に、柄にも無い熱血なんか幾らでもやってやる。
絶対に、死なせて、たまるか!
そう意を決して、僕は手に握る拳銃で、白髪の少年を撃った。
咄嗟のことだったから、二つ持っていた拳銃のどちらを撃ったのか分らない。
ただ、飛び出したのは実弾ではなく、赤い燐光だった。
それは少年の手をかすって、少年は手を弾かれたように、動かした。
どうやら投げ損ねたらしいコーヒー缶は戦場ヶ原に命中せず、
走る戦場ヶ原の少し後方を通り過ぎていった。
そして、内心胸を撫で下ろした瞬間である。
「阿良々木君、伏せといてね」
「……は?」
戦場ヶ原は未だ走り続けながら、
自分のディパックからなにやらでっかい銃を取り出していた。
「これ、撃ったこと無いし。何が起こるか分らないから……」
馬鹿でかい、SFに出てきそうな蒼い銃。
アレだ、ロボットアニメのロボットが持ってそうな仰々しい銃。
それをそっくりそのまま小型化したような……。
って、おい待て戦場ヶ原、お前それを撃つつもりか? ここで!?
玩具ならいい。いや良くないけど。
でも、もしそこから僕の想像通りの『ぶっといビーム的なもの』が飛び出したりしたら……。
この薬局、マジで倒壊するかもしれないぞ。
「――ま、まてッ! 戦じょ……!」
「それじゃ、死ぬ気で生き残ってね、阿良々木君」
引き金が引かれる。
果たして、幸か不幸か予想は現実の物となった。
砲門から射出されたビームが、鮮やかな燐光を散らしながら襲撃者へと迫り行く。
だがそれでもマズイ。
もしあの少年がさきほど僕が撃った銃弾を跳ね返したのだとすれば、順当に言ってあのビームも跳ね返される。
戦場ヶ原が、危険だ。
- 786 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:34:12 ID:4baPhgM.
-
「駄目だ! 戦場ヶ原!」
間に合わないと知りつつも僕は駆け出しかける。
だが、その結果は予想に反した。
「……!? チィィィィィィッ!!!!」
白髪の少年は燐光を跳ね返す事が出来なかった。
だが直撃する事も無く。
少年に触れた燐光は、角度を変えてあさっての方向に弾かれる。
不完全な、反射。
そのような表現が適切だろうか?
「って、うおわッ!」
弾かれた燐光は商品棚を幾つか貫通し、僕の目前を通り過ぎていく。
商品棚を破壊し、壁を貫き、薬局を内部から破壊する。
あぶねえっ。
「ちょ、ちょっとまて戦場ヶ原!」
まじでまずいぞ、それは……。
奥には治療中の枢木とユーフェミアもいるんだ。
ていうか薬局が崩れたら、僕達全員潰されてしまう。
けど僕の止める声も聞かずに、戦場ヶ原は店内を走りながら第二射を放つ。
またしても白髪の少年は完全に弾けない。
ビームに押し負けるように数歩分、よろめくように後退した。
弾かれたビームはやはりあさっての方向へ。
またしても商品棚を貫き、床に直撃。
床が土埃を上げて爆散する。
その凄まじさは白髪の少年が放つコーヒー缶以上の威力だ。
っていうか、滅茶苦茶だ。
周囲に与える被害が半端じゃない。
相変わらず、やると決めたら徹底的。
彼女には迷いが無いし、遠慮がない。
暴力に、ためらいが無い。
ていうか、アレって戦場ヶ原の支給品か?
どんだけチート武装、大当たりを引いてるんだ。
僕なんかギターにぬいぐるみにストラップだったんだぞ。
なんなんだこの差は!?
「ざけンなくそがァッ!」
よろめく少年が銀球を投げ放つ。
まずいっ。
戦場ヶ原の第三射よりも、僅かに速い。
- 787 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:35:24 ID:4baPhgM.
-
「――――!!」
今度こそ、僕にはどうすることも出来なかった。
伏せる事しかできなかった。
走り続ける戦場ヶ原にかわす術などない。
彼女の顔が強張るのが見える。
だが救いの手は未だあった。
「白井!」
「任せてくださいましッ!」
いつの間にか下敷き状態から抜け出した白井が、戦場ヶ原の足首を掴んでいた。
シュン、という音と共に、二人の姿が掻き消える。
数秒の時も置かずに、二人は僕の目の前に現れた。
襲撃者へと、立ちはだかるように。
いやこの状況だけ見たら戦場ヶ原が襲撃者だけど。
「――消えなさい!」
そして放たれた第三射にて、遂に白髪の少年は弾ききれなかった。
燐光に押し負ける形で、薬局の奥にカッ飛んでいく。
それを追うように燐光も飛び、起爆。
瞬殺だった。
薬局奥の爆発を背に戦場ヶ原は、僕に振り返る。
その横顔は、なんだか壮絶にカッコよかった。
「ふぅ……死ぬかと、思ったわ。
私にこんな無茶をやらせるなんて、阿良々木君。あなた責任を取りなさい」
そして、彼女はもう限界と言うように、壁に背をつけた。
そのまま、ずるずると座り込む。
足元を見れば、膝が笑っていた。
「…………」
なんと言っていいかわからない。
彼氏である僕が彼女に命を救われて、なんだがとてもかっこ悪い気がしないでもないけど。
いろいろ状況についていけてないけど。
今はただ、戦場ヶ原に生きて会えて良かったと。
その思いで、僕は頭がいっぱいになっていた。
だからだろうか。
「ああ、お前の為なら、なんだってやってやるとも……」
そんな、後から考えたらこっぱずかしいにも程が在るセリフが、僕の口から飛び出していったのだ。
- 788 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:37:02 ID:4baPhgM.
-
■
若干の感覚をあけて、
手負いのC.C.は漸く戦場ヶ原ひたぎに追いついていた。
「やれやれ、また滅茶苦茶にやらかしたものだな……あの女は」
呆れつつも何故か小さく笑みを浮かべて、C.C.はボロボロの薬局内に足を踏み入れた。
ずん、という衝撃音は今はもう聞こえない。
ジャリジャリと砂とガラスを踏む音をたてながら、酷い有様になった店内を歩く。
その時、その足にコツンと何かが触れた。
「……こんな物を隠し持っていたのか」
それを拾い上げる。
瞬間錬成<リメン=マグナ>、鎖鏃武器。
攻撃した対象を瞬時に黄金化する魔術武装。
C.C.はその正体を知らぬまま手に持ち、更に薬局の奥に歩いた。
視界の環境は依然最悪だったが、左の壁際に三人分の人影が見える。
戦場ヶ原ひたぎと、見知らぬ少女と、見知らぬ少年。
順当に言って、あの少年こそが。
「なるほど、それが噂の彼氏というわけか」
少年、阿良々木暦を指差した。
「ええ、そうよ、紹介するわ。私の彼氏、阿良々木暦よ。
阿良々木君、この人はC.C.といって……」
戦場ヶ原ひたぎが振り返る。
そして誇らしそうに、胸を張って少年を示す。
一見して何のことは無い、ただの頼りない男に見えたが、きっとそれだけではないのだろう。
ひたぎと長く共にいたC.C.はなんとなく感じ取っていた。
「ふふっ……そうか、阿良々木暦、私はお前に言いたい事がたんまりとある」
笑顔で少年に語りかける。
「なんだか、嫌な予感がするな。戦場ヶ原、お前この人になんかやったのか?
すごい嗜虐的な笑顔なんだけど……」
忘れたわけが無い、この男に会った時には、
ひたぎからの毒舌について散々文句を言ってやろうと決めていた。
だがその前に。
「というかお前、そんなとんでもない物を持っているなら、なんでもっと早く言わないんだ?」
ひたぎが抱える巨大な銃を指差した。
『最強の矛』をコンセプトとしたMS。
ヴァイエイトのビームキャノンに他世界のアレンジを加えた武装。
『GNビームキャノン』と呼ぶべきか。
ツインバスターライフルよりも威力は落ちるものの、
ディパックに収納された大型ジェネレータからのエネルギー供給により、
高い威力と高い連射性を両立された反則的銃器。
ただし撃てる回数には限りがある。
そんな事をC.C.は知らない。
とはいえ、このゲームのパワーバランスをひっくり返し得る武器であることは容易に分る。
- 789 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:38:25 ID:4baPhgM.
-
「切り札は最後までとっておくもの、そうでしょう?」
さらりと肩を竦めながら言ってのけるひたぎを見て。
「ははっ、そうだな。大した奴だよ……お前は」
思わず、そんな柄にも無いセリフが口から飛び出していた。
自分でも少し驚いて、C.C.は一つ咳払いをする。
「と、とにかくだ。危機はさったのだろう? だったら状況の説明を頼もうか」
そう言ってひたぎから視線を逸らし、阿良々木暦を見た。
「そうね。私も正直、状況がよく分っていないわ」
二人の女性の視線が阿良々木一人に集まる。
しかし、阿良々木が口を開く前に、三人目の少女が声を上げた。
「そんな余裕ありませんのっ」
白井黒子だけは、未だに緊張感の抜け切らない面持ちだった。
「まだ敵を倒した確証もありませんのに、よくもまあそんな暢気に……」
「暢気って……幾らなんでもあんな攻撃受けて生きてたら、そんなの無敵ってもんじゃ……」
「――無敵ですのよ」
阿良々木のセリフを遮って白井黒子は言う。
「阿良々木さんは、あの人物を知らないから……」
あれほどの決定的な一撃を受けて生きている。
普通なら冗談だろうと笑いとばせそうな事だが、白井黒子の目は本気だった。
「どうやら、敵は本当に反則級らしいな。
それじゃどう動くのが最適だ?」
それをいち早く感じ取ったC.C.は問う。
この場の指揮を任せるのは敵を知っている白井黒子が最適だと判断したのだ。
「とりあえず、敵の生死を確認するのはわたくしが一人でむかいます。
皆さんは兎に角、この場をはなれてくださいな」
「……ん。そうか、なら行くぞ」
C.C.の決断は早かった。
戦場ヶ原の手を取り、歩き始めようとした。
「いや、ちょっと待てよ、それじゃ白井は……」
だが阿良々木は迷いを持った。
「まだ治療は終わってませんの。だれかがここに残らなくては……」
果たしてそれが、そのごく僅かなやり取りが、間違いだったのか。
それとも免れない運命だったのか。
「…………く…………か…………!」
はたして、声は4人の下に届いた。
- 790 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:39:50 ID:4baPhgM.
-
「……か……き……く…………けここかきくけこかきくけこきくかけくこ……!」
地獄の淵から聞こえてくるような、
殺意の集大成のようなおぞましい声。
薬局全体が、再び震撼する。
これまでの衝撃の比ではない。
薬局の入り口から進入してくる何かが、
とんでもない量の何かが、薬局の右奥部――先程一方通行がぶっとんでいった辺りに収束している。
「ヒァハハハハハハハハ!! ひでェザマだなァおい! 一般人に殺されかけるたァよォ! ヒャハハッ!
けどまァ、結果オーライだ。 全部で六人か。 こンだけ集まりゃ十分だろ!」
膨大な風圧によって、舞っていた土埃が霧散する。
立ち上がった一方通行が収束させる、真空の刃によって。
「ようやく、本気でいけるってもンだ。さァ、凌げるもンなら凌いでみろ。
何人生き延びられるか、見ものだなァ!」
拡大する真空の刃。
膨張を続け、遂に臨界点を迎える。
そして、死の風が吹き荒れた。
- 791 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:41:04 ID:4baPhgM.
-
◆ 『選択/退避』 ◆
向かい来る死。
その状況を切り抜けるための、救いの手は届かなかった。
白井黒子が伸ばした手は、誰にも届かぬまま。
死に追いつかれる。
今の彼女に出来た事は……。
「……そんなっ!」
自分一人、薬局の上空に逃れる事だけだった。
- 792 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:41:43 ID:4baPhgM.
-
◆ 『選択/守護』 ◆
阿良々木は迷わなかった。
自分のするべき事は決めていた。
すぐ隣にいた戦場ヶ原を抱きしめる。
彼女だけは守る、と。
命を投げうって。
自分の背中に死が辿り着く瞬間を覚悟した。
- 793 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:42:16 ID:4baPhgM.
-
◆ 『選択/疑問』 ◆
押し倒されていく戦場ヶ原はそれを見る。
自分を抱きしめる阿良々木の背後に確かに見た。
己と阿良々木の正面に立つ人影。
「……どうしてっ……!?」
両手を広げ、死の風の前に立ちはだかる、緑髪の女性の姿を――
- 794 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:43:33 ID:4baPhgM.
-
◆ 『選択/死滅』 ◆
「どうして、か。 どうしてなんだろうな」
C.C.自身にもいまいち分らなかった。
なぜ己が迷い無くこんな選択をしたのか。
誰かの代わりの死を選んだのか。
「ま、契約したしな。お前の背中を守ってやる、と」
しかしそもそも、自分がそこまで義理堅かったのかとも思う。
別にもう、そこまで死にたいとも思っていない。
生きる理由なら今は在る。
自分に生きて欲しいと願ったという少年。
その真意が知りたかった。
けれど――。
「死なせたくないと、思ってしまったんだ……。
それに――ああそうか、そういう事か……」
待ち望んでいたはずの死に包まれる瞬間、C.C.はその答えを見る。
『――大丈夫、必ず助けるから』
その言葉を思い出す。
「私は、知りたかったのか」
あの鮮やかな、どこまでも鮮烈な電光を思い出す。
死に瀕し、か細い息で、だが迷わなかった少女。
なにをしてやった訳でもない、出会って間もない、忌み嫌われていた己を。
最後まで笑顔で、自分の命など省みずに、救おうとした。
救う事に全力を傾けて、そして散っていった一人の少女。
彼女の心を、思いを――C.C.はずっと知りたかった。
だから、どこか自分に似た一人の少女を救えば、その思いを知る事が出来ると思ったのか。
「ははっ……馬鹿だな……」
結局分らない。
あの行為になんの意味があったのか、なんの価値があったのか。
そして自嘲の笑みを浮かべながら。
振り返る。
戦場ヶ原ひたぎの顔を見る。
「けどまぁ、悪くない」
彼女のそんな驚いた顔を見られただけでも、
これまでの仕返しをしてやれたと言うものだ。
それに、こんなふうに命を捨てて、柄にもなく誰かを守ったりして。
何より柄にも無く、『まだ死にたくない』などと考えていたのに。
「これも、悪くない……な」
誰かを守って、そして命を散らせるのも、存外悪くない気分だ。
などと、不覚にも思ってしまったのだ。
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2 死亡】
- 795 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:45:56 ID:4baPhgM.
-
◆ 『明滅/悪鬼』 ◆
「くっ……そっ……」
土煙立ち上る薬局内。
己の状態など二の次として、
阿良々木は腕の中の恋人の無事を確認した。
「大丈夫か、戦場ヶ原……!」
戦場ヶ原の肩を掴み、頭のてっぺんから足まで見下ろす。
外傷は、無い。
「大丈夫よ……私は……」
だが彼女の瞳は激しく揺れていた。
明らかに動揺している。
戦場ヶ原の手は伸ばされていた。
阿良々木暦の背後に、先程まである人物が立っていた場所へと。
「まさか……」
伸ばされた手は、血に濡れていた。
べっとりと。
阿良々木の背中と同様に。
「……!」
焦りと共に背中を触ったものの、怪我らしきものはどこにもない。
つまりその血は阿良々木のものではない。
振り返れば、薬局の天井にも壁にも、血がべっとりと撒き散らされていた。
凄まじい量の血液が散っていた。
まるで人間が一人破裂したような。
いや、正に人一人分の血液量。
「うそ……だろ」
阿良々木にとって、それは先程まで隣にいた人間の死を示していた。
白井黒子か、C.C.のどちらか、あるいは両方か。
「おいおいおいおい。まさか一人しか殺れてねェってかァ?
テレポーターは無理としても、あとに三人はいけると思ったンだが……。
こりゃ本格的に無様だなァ……」
そして響く悪意の声。
二人の前方に、白髪の少年がべったりと返り血を浴びて立っていた。
- 796 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:47:18 ID:4baPhgM.
-
■
実際、危なかった。
突然現れた女が使った、銃器による燐光。
それを一方通行は反射できなかった。
なぜならそれは彼にとって未知の物質。
有害と捕らえていない、解析した事のないものだからだ。
GN粒子。
もし一方通行がこの薬局に辿り着く前に、僅かでも触れていなければ、成す術も無く撃ち殺されていた事だろう。
GN首輪探知機。
それが発するGN粒子に触れ、完全な解析に至らなくとも、兎に角人体に到達しなように解析を続けていなければ今頃は……。
「危ねェ、危ねェ……」
一方通行とて、ツキに見放されてはいなかった。
「けどま、この結果はちィとばかし納得いかねェよなァ」
この場にいる全員の命を刈らんとして行使したベクトル変換。
入り口から吹き付けてくる風を使った攻撃。
ケチりにケチってきた能力行使を最大限発動した。
残り時間をごっそり半分もっていかれる程の全力。
使う力と殺す人数。リスクとリターンがかみ合った瞬間だった。
にも拘らずだ。
「おいおいおいおい。まさか一人しか殺れてねェってかァ?
テレポーターは無理としても、あとの三人はいけると思ったンだが……。
こりゃ本格的に無様だなァ……」
殺す事が出来たのはC.C.だけ。
白井黒子には逃げられ、阿良々木と戦場ヶ原はC.C.が庇っていた。
しかし、一人しか殺せなかった理由はなによりも、一方通行が能力行使を途中で止めたからに他ならない。
「風の操作は……ちと予想以上に残り時間を削りやがるな……」
本当は薬局そのものを吹き飛ばすつもりだった。
だがそこまでの力を使えば、残り時間が残らず失われる危険性があった。
故に一方通行は力の行使を中途半端な所で止めたのだ。
それによって、薬局は原型を留めるにいたり。
一瞬とは言え、能力行使を完全に止めた彼は、
跡形も無く粉砕したC.C.の返り血を真っ向から浴びる事になった。
「やれやれ、こっからはまた節約生活ですかァ……?」
不満げに呟きながら、一歩通行は二人の男女に狙いを定める。
死を待つだけの獲物へと向かい合う。
そして、手に持った銀球を薙ぎ払うように射出した。
これで、三殺となる。
その時だった。
見覚えの在る円盤の群れが、正面に飛来してきたのは。
「おいおいおいおい、てめぇまたかよッ!」
予想が違う事は無く。円盤が構成する電磁フィールド。
数時間前と同じように、一方通行の攻撃を完全に防ぐ。
遅れて、フィールドの内側に滑り込んできた人影は――。
「ええ、先程もお会いしましたね……」
紅槍を握る長髪の女性。
前回の戦場で対峙した人物――ファサリナの姿だった。
- 797 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:48:22 ID:4baPhgM.
-
■
入り口より飛来してきた十個の円盤。
それが僕と戦場ヶ原の前に展開されて、銀の閃光を阻む。
そのすぐ後に、薬局に飛び込んできた人物は――。
「ファサリナさん!」
ここに来るのが遅れていた。
先程、東側のエリアで出合った女性だった。
「あなたは……!?」
戦場ヶ原も彼女を知っていたのか、目を丸くしてその後姿を見ている。
「ここは私が!」
「わ……分った!」
僕は立ち上がり、戦場ヶ原の手を引いて走った。
彼女の足取りは重い。
きっとC.C.のことが心にあるのだろう。
けど今は走れ。
そうしなければ死ぬんだ。
だから走れ!
再び響いてくる壮絶な破壊音。
それに振り返る事無く、僕等は走った。
薬局内をひたすらに駆け抜ける。
だが――。
「逃がすかよッ!」
「伏せろッ!」
二つの声が重なって聞こえた。
一つは背後から。白髪の少年の声。
もう一つは、たしか……。
「って、うおわッ!」
それに思い至る前に地面に引き倒される。
直後、頭上を銀の閃光が通り過ぎていった。
「無事か? 阿良々木少年」
「グラハム……さん?」
ファサリナさんと同時期に薬局に入っていたのか、
橋の様子を見に行っていた筈のグラハムさんがそこにいた。
「とにかく伏せていろ。ここは奴の死角のはずだ。
ファサリナにも限界がある。下手に動けば刺されるぞ」
倒れた商品棚の影に伏せたまま、そうグラハムさんが言う。
確かに、今の一撃が飛んできたってことはファサリナさんは凌ぎきれていないということか。
このままじゃ、動けない。
「彼女も、長くはもちこたえられないだろう。早急に対策を立てる必要があるな」
- 798 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:50:16 ID:4baPhgM.
-
僕も商品棚の影から、チラリとその戦況を見た。
ファサリナさんがあの妙な電気の盾と真っ赤な槍と、自身の凄まじい運動神経を活かして、白髪の少年と戦っている。
だが、どう見ても善戦してはいない。
先程までの白井と同様に、ひたすら戦いを長引かせようとしているだけで、自分から攻撃を仕掛ける事はない。
ただ時間を稼いでいるといった印象だ。
「対策って言っても、どうするんですか……?」
それが分れば苦労はしない。
グラハムさんにも具体的な案は無いのだろう。
ふむ、と考え込んでしまった。
大丈夫なのか……本当に。
「わたくしに、一つだけ考えがありますの……」
そんなとき、だ。
シュンという音の後に響く声があった。
「白井黒子、無事だったのか……」
グラハムさんが現れた白井の姿を見て言う。
「ええ、なんとか……」
現れた白井は、すでにボロボロの様相だった。
致命傷はないものの。
白髪の少年と戦い続けていた際に負ったのだろう、擦り傷や切り傷が身体のあちこちに見当たる。
白井が無事ってことは、さっき死んだのはやっぱり……。
いや、その感傷に浸るのは後でいい。
「お前、その状態でまたここに戻ってきたのか……」
「当然ですのよ。わたくしは、ジャッジメントなのですから……。その責務があります。それに……」
傷だらけの体で、彼女の目には未だ意志の光が宿っているように見えた。
『それに』の後は続けずに、白井はグラハムさんに視線を移す。
「わたくしは……あの敵を知っていますの」
そうして白井は語った。
白髪の少年の名前が一方通行<アクセラレータ>ということ。
その力の強大さ。
勝機が在るとすれば課せられているであろう制限と、もう一つ。
「その銃、ですの」
そう言って、白井は戦場ヶ原が抱えている銃を指差した。
確かに僕の銃撃はまるで通用しなかったのに、戦場ヶ原の銃は一方通行をふっとばした。
トドメには至らなかったけど。それでも通用するのだ。
何故この武器が一方通行に効くのかなんて分らないけが、それが跳ね返す事が困難ならば。
同じく弾く事が困難な武器で同時攻撃すれば、あるいはダメージが通るかもしれない。
と、白井は言う。
「賭けてみる価値はある、か。だがそうなると、その銃器と同質の武器が複数必要になるのではないか?」
「そうですわね。例えばコレ、とか」
そう言って、白井は鎖鏃武器を取り出した。
あれは確か戦場ヶ原が最初に使っていた武器だったか。
そういえばあれも一方通行に効いていたな。
「だとすれば、いま僕が持っている玩具みたいな拳銃もそれにあたるのか……」
「ええ、きっと通用するでしょう。問題はタイミングですの。
同時攻撃、更に言えば距離が近いほうが確実。となると……。一人は陽動に加わらなければ……」
- 799 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:51:33 ID:4baPhgM.
-
誰が適任かは――当然、白井に決まっているか。
あの怪物を相手に出来るのは、今戦っているファサリナさんを除けばこの場で彼女くらいだ。
残る問題は自然、
「誰がどのようにして、これらの銃器を使って同時攻撃を加えるか……だな」
そう言いつつも、グラハムさんの目は半ば自分がやると宣言しているようなものだった。
「でもコレは当然、何の確証も無い。僅かな可能性に賭けた無謀な策。
奇跡的に全部上手く言ったいったしても、結局あの怪物を倒せないかもしれない。
それでも……」
「やるわ」
白井が言い切る前に、戦場ヶ原が呟いていた。
僕はそれに、恐怖すら感じる。彼女は本気だ。
それは僕だけじゃなく、グラハムさんも驚きを隠せていなかった。
きっと彼は、戦場ヶ原には一人で逃げろとでも言うつもりだったのだろう。
分る。僕もその思いは一緒だったからだ。
「お、おい戦場ヶ原。お前は……」
「いやよ。私は、このまま逃げるなんかまっぴらごめんだわ」
その目に、恐怖など欠片も無く、ただ怒りのみを映していた。
「駄目だ。君は一般人だ。私は軍人として、君を危険な戦場に送る事は出来ない
君は阿良々木少年と共に隙を見てここから逃げたまえ」
グラハムさんはそう言っていたが、僕にはもう無駄なのだと分っていた。
なぜなら、彼女はもう意志を決めてしまったのだろうから。
一度決めたことは曲げないし。
生半可な覚悟で選択などしない。
戦場ヶ原ひたぎとはそういう女性なのだ。僕は知っている。
「断ります。私はまだ何もやっていない。
自分に出来る事、しなきゃいけない事、それがまだ残っているのなら……」
そして彼女は口に出さなかったが……。
おそらくは、先程戦場ヶ原を庇って死んだ女性への重いが一番強いのだろう。
彼女の為に出来る事が残っているのなら、きっと戦場ヶ原はここから逃げる事は絶対にない。
そのくらい僕には分ってしまう。
だったら僕の答えも決まっている。
もとよりこの作戦は人数が多いほど成功率が上がる事も確かなのだ。
「もう無駄ですよグラハムさん。僕も、残って戦います。彼女は僕が守りますから……」
グラハムさんの目を見て告げる。
彼は暫し考え込んでいたけれど、かなりの間を置いて、小さく『分った』と呟いた。
「ただし、私が絶対に無理だと判断したら。すぐに逃げてもらう。いいな?」
僕と戦場ヶ原が頷く。
こうして、再び事態が動きだした。
暫しの間、あの怪物を打倒するための、作戦会議をして。
僕たちはもう一度、進む。
死が襲い来る、あの戦場へと――
- 800 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:53:19 ID:4baPhgM.
-
■
「――――れで――――の治療――完了――ました」
話し声が、聞こえてくる。
一人は見知らぬ少女。
もう一人は、ずっと会いたかった少女。
捨て去ったはずの過去。
「腕の再生までは当サービスでは不可能です。別途のサービスにて対処ください。
暫くは動く事も出来ないでしょうが、もうじきに目を覚まします」
ここがどこかも分らない。
自分がどうなったのかも分らない。
何故、
「そう……ですか……」
何故、彼女の声が聞こえるのかも分らない。
体が、動かない。
目を開く事が出来ない。
今すぐにでも彼女の顔が見たいのに……。
許されないと分っていても、やっぱり願ってしまう。
僕は、もう一度、君に会いたい。
君の姿を見たいんだ。
――ユフィ……。
ずん、と。
衝撃が伝わってくる。
いったい何が起こっているのだろう。
ここは、戦場なのか。地盤が振動しているように感じる。
「……スザク」
頬に何かが触れる。
これは、君の手、か。
きっとここは危険なのだろう、ああ今すぐ立ち上がって君を守らないといけないのに……。
なのに身体が動かない。
「貴方に、騎士としての最後の命令を、与えます……」
頬を撫でる手は、酷く優しい。
けれど彼女の声は震えていた。
何か、大きな決意を持ったときの声。
彼女は僕の主として、もう一度告げる。
「……生きて、ね……。生きて、貴方が成し遂げるべき事を、必ずやり遂げて……」
そして、頬の熱が消えた。
隣に座っていた彼女が、ゆっくりと立ち上がる気配がする。
待って、くれ。
待ってくれ。ユフィ。
僕は君に伝えたい事があるんだ。
君に返さなければならない言葉があるんだ。
だから、待ってくれ……。
行かないでくれ。
今、君が行ってしまったら、僕はもう二度と君に会えない気がするんだ。
また君を失ってしまう、そんな予感がするんだ。
「まって……」
搾り出した声に、立ち止まる彼女の気配。
そして彼女は何かを振り切るように。
「生きてね……約束、だから……」
告げる言葉だけを残して――。
そして、扉の閉まる音がした。
- 801 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 00:58:53 ID:4baPhgM.
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◆ 『作戦/結託』 ◆
煌く白銀の閃光。
幾重にも張り巡らされた散弾の波が薬局を内側から蹂躙する。
暴風の如く暴れまわる一方通行による弾幕の嵐。
今度こそ手加減は無い。
至極、全力で。
離脱のための力は残すよう調節しつつも、今の一方通行は本気で敵を殺しにかかっていた。
「ちィ……!」
連射力も威力も申し分ない筈だ。
が、瞬殺、とはいかない。
本日何発目とも定かではない銀球が白井黒子へと放たれる。
瞬間移動での逃げ場を削り削った上での完璧な一撃。
避ける術はない、にも拘らず。
「よろしくお願いしますの!」
「――了解です!」
入れ替わるように前に出たファサリナによって阻まれる。
展開されるプラネイトディフェンサー。
その援軍は鬱陶しいことこの上ないものだった。
「そりゃもうとっくに、見飽きてンだよッ!」
攻略法は先程の戦闘で既に把握している。
電磁の盾は直接触れて突破すれば良い。
だがしかし……。
「頼みます!」
「ええ、跳びますのッ!」
盾を突き破り、ファサリナへと触れる前に、目標が掻き消える。
白井黒子のテレポートだ。
「相変わらずうぜェな、くそがッ!」
絶対の防御兵装、プラネイトディフェンサーとテレポーターの組み合わせは、
持久戦において壮絶な相乗作用を見せた。
かわせない攻撃を電磁フィールドが防ぎ、防御できない攻撃はテレポートで逃れる。
片方を無視して片方を刺そうとしても、もう片方がそれを阻むのだ。
「それにテメエら、闘る気あンのか? ああァ!?」
白井黒子もファサリナも、まるで攻撃を仕掛ける素振りも見せない。
どう見ても時間稼ぎ。
何かを待っている様子、先程までの一方通行と同じだ。
不気味極まりない。
「はッ、だったらいいぜ。そっちがその気ならこうしてやらァ……!」
ちょうど投げる銀球が尽きたところであった。
一方通行は薬局内の商品棚に両手で触れる。
その瞬間、並べられていた薬ビンが一斉に爆ぜた。
宙に舞う無数のガラス。
それらは一方通行の身体に触れた瞬間に、更に細かく鋭くなりて乱れ飛ぶ。
「「――!?」」
ファサリナと黒子は同時に対応する。
様々な軌道を描いて迫ってくるガラス片に対して、防ぐ、避けるを交互に請け負って凌ぎ続ける。
- 802 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:00:13 ID:4baPhgM.
-
「甘ェなァ」
それを凌ぐだけでもはや彼女達は限界であったのか。
一方通行に次なる攻撃に対応する事は出来なかった。
振り上げ、下ろされる一方通行の足。
それが地盤を踏みつけた瞬間に、衝撃が床を伝い。
黒子の足元が突如炸裂した。
「なっ……!」
その隙を見逃さず、一方通行は大きく迂回し、コーヒー缶を投擲する。
「そこだァッ!」
すぐにファサリナがプラネイトディフェンサーを再展開するも、間に合わない。
「ぎッ……がッぐっ……」
形容しがたい悲鳴が黒子の口から漏れ出した。
壮絶な勢いで後方に飛ばされる。
視界には自らの血しぶきと、肩を貫いたコーヒー缶の軌跡。
数瞬の間を置いて、黒子は壁にたたきつけられた。
遅れて凄まじい激痛が、左肩から湧き上がってくる。
これでは痛みによって上手く計算する事など出来ない。
テレポートは、使えない。
それは戦闘続行が不可能になった事を意味していた。
だがしかし、時間はもう十分に稼いだはずだ。
全員が、前もって示し合わせた通りの位置に付けたはずだ。
「後のことは……頼みますの……」
朦朧とする意識の中、黒子は後の全てを仲間に託した。
「これで終いかァ……?」
その一方通行の問いを、ファサリナは肯定した。
「ええ、もう十分でしょう……」
そうして、作戦の開幕を宣言する。
「それでは皆さん。よろしく、お願いいたします」
一番最初に答えたのはグラハム・エーカーだった。
「了解だ!」
奥の商品棚に潜んでいたグラハムは商品棚を飛び越えて、両手に握った銃と鎖鏃を連射する。
一方通行に触れた瞬間に炸裂する黄金光。
「……ッ」
咄嗟に一方通行が投げた薬ビンが鎖鏃を粉砕する。
だが、左手のGN拳銃はいまだ健在。
「今だ! 阿良々木少年!」
後方に向かって叫びながら、グラハムはGN拳銃を連射する。
- 803 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:02:07 ID:4baPhgM.
-
「くそったれ! はははッ! なンなンだよその銃は!」
その燐光を、一方通行はやはり完全に反射する事が出来ない。
なんとか弾くたびに、後方によろめいてしまう。
だがその窮地に、何故か彼は笑顔を浮かべてしまっていた。
「ざけンなよッ! そンなもン反則じゃねェか! はははははッ!」
殺されるというのか、止められるのか、ここで。
そんな思考が彼の脳裏にあった。
何故だろうか、それが最高に笑えたのだ。
「はははッ……あ?」
そして視界の隅に見る。
こちらに向って駆けて来る、二人の人影。
戦場ヶ原ひたぎと、阿良々木暦が、先程自分に脅威を感じさせた巨大な銃器を持って駆けて来る。
「――――!」
このとき、一方通行は敵の意図を悟った。
グラハム・エーカーの銃撃を凌ぐだけで精一杯のこの状況。
目の前の男は弾切れの瞬間に殺してやれるが、その前に新たな銃撃が来る。
あの巨大な銃による。
解析しきれていない攻撃手段が、今度は近距離から打ち込まれる。
確かにそれなら、いかに一方通行といえど凌ぎきれるかわからない。
グラハム・エーカーの銃撃か、GNビームキャノンの銃撃か、
そのどちらかがこの身に届く事も大いにありえるだろう。
「はッ」
今度こそ本当に窮地だと実感して、それでも一方通行は小さな笑みを漏らしていた。
- 804 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:03:26 ID:4baPhgM.
-
◆ 『作戦/疾走する恋情』 ◆
走る。
とにかく走る。
僕は戦場ヶ原と共に、敵に向って走り続けた。
二人で一緒に、唯一の武器だけを抱えて挑む。
これまで見たことも無いほどの強大な敵へと。
恐怖は、ある。
正直逃げ出したくて堪らない。
けれど僕は、立ち止まるつもりなんて無い。
だって、隣には戦場ヶ原が居るのだから。
彼女が闘うと決めたのだ。
ならば僕も共に戦うに決まってる。
それが彼氏の役割ってもんだ。
「…………お………おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
気が付けば、咆哮していた。
それは恐怖を紛らわすためか、自分を鼓舞するためか。
ただ勝つために。
そのために……。
僕は最後に、戦場ヶ原の目を見る。
彼女も僕を見ていた。
口では何も言わなかったが、彼女は目で告げている。
ただ一つ。
信じている、と。
全幅の信頼を僕に預けてくれている。
ならばもう迷いは無い。
行こう、戦場ヶ原。
一緒に闘って、ここを生き残って、そして帰ろう。
いままで失ってきた事もたくさん在るけれど、お前だけは僕が守ってみせる。
だから、絶対に勝とう。
全力で、ぶつかろう。
目の前の敵へと。
「「おおおおおおおおおッ!!」」
咆哮はやがて重なり合い、遂に敵の眼前へとたどり着く。
その時、一方通行の手が、我武者羅に動かされていた手が一つの薬ビンに触れたのが見えた。
それはありえない角度でぶつかったにも関わらず、ありえない軌道で僕等に向って飛来してきた。
かわすことなど到底出来ない。
しかし、それを阻んだのはやはりファサリナさんが使う円盤だった。
僕等の目の前で展開される電磁の盾が、一方通行の攻撃を通さない。
「て、めッ!」
一方通行の顔が青ざめていく。
僕らが引き金を引く瞬間、電磁の盾は示し合わせたように消滅する。
そして――。
カチリ。
そんなあっけない音と共に、終わりの燐光が輝いた。
- 805 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:05:08 ID:4baPhgM.
-
◆ 『破綻/LEVEL5 -accelerator- 』 ◆
視界が、光に包まれる。
一方通行はこのゲームが始まって初めて、己が死に直面しているのを感じた。
「はッ……」
やまり、まだ解析しきれない。
時間が無い。
グラハムからの銃撃。
阿良々木と戦場ヶ原による銃撃。
同時に防ぐ事が出来ない。
「ははははははッ……」
徐々に、燐光に押し負けていく。
死が、ハッキリと見えた。
「はははははははははははッ!」
だが笑う。笑えるのだ。
己の死が、どうしようもなく笑えてしまう。
なぜか、どうしてなのか、それは分らない。
けれど、もしかしたら……。
(なンだァ……。まさか俺は……)
こうなる事を、望んでいたとでも言うのか。
死ぬ事を、殺される事を、狂った自分を止めてもらえる事を。
その終わりを、願っていたとでも言うのか……。
(はッ……それこそ最高に笑っちまうなァ……)
馬鹿げている。
何故ならば……。
『おお、あったかいご飯はこれが始めてだったり、ってミサカはミサカははしゃいでみたり!』
耳に残るその声が……。
『誰かと一緒にいたいから、ってミサカはミサカは……』
その、存在が……。
- 806 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:06:07 ID:4baPhgM.
-
「――死ねるかよ」
己を、縛る。
その逃避(死)を許さない。
決して、絶対に、逃がしはしない。
「死ねるかよォォォォォォォッ!!!!」
そう、だ。
逃げるわけにはいかない。
己が死ねば、誰が……。
誰がアイツを守ると言うのだ。
「ッ……うおォァァァァアァァァアッ!!!!」
叫ぶ。
その思いを叫びに変える。
脳回路を焼ききれるくらい酷使して、未知の二射線を死ぬ気で凌ぐ。
「オォォォォオァァァァァアァァァアァッ!!!!!」
だが長くは持つまい。
故に、射線を殺す。
射手を殺す。
それは直前に閃いた気転。
敵が己に有効な攻撃を頼みにするなら、己は己に無効であり、敵に有効な攻撃を――。
すなわち、自分にはノーダメージとなる自爆技。
それを成せるのはこの島でも一方通行だけだ。
こんな破綻した戦法を有効とするのは、彼だけだ。
一方通行は足元のディパックを思い切り蹴り上げる。
そこから飛び出してきたのは合計78発のショットガンの弾丸。
ただの弾丸ではない、戦国武将が行使する超大の炸裂弾。
その凄まじい量の散弾を、一方通行は意図的に、一斉に、暴発させた。
飛び散る弾丸の嵐は周囲全ての事象を巻き込んで。
小規模な爆発は互いに重なり合い。
この瞬間、一方通行を中心に半径十数メートルの空間が、凄まじい炸裂音と共に吹き飛んだ。
- 807 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:07:37 ID:4baPhgM.
-
◆ 『破綻/永久に』 ◆
僕は失敗した。
それを理解する。
目の前が真っ赤になる。
もう少し、もう少しだったのに。
なのに駄目だったのか。
爆炎と砕けた銃弾の嵐に、僕達は包み込まれていく。
戦場ヶ原と共に握っていた銃器も、爆風に飛ばされていく。
これで終わり。これで死ぬ。
死ぬ。
死ぬ。
嫌だ。嫌だ。
嫌だ。
まだ、終わりたくない。
まだ死にたくない。
だって、これからだったんだ。
全部、ここからだったのに……。
やっと戦場ヶ原と会えて、そして一緒に戦うことを決めて。
そして、そして、絶対に守りきる事を決めたのに。
なのに。
なのに死ぬ。
- 808 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:07:59 ID:4baPhgM.
-
「く……そ……」
僕は死ぬ。
それを知って。
終わりの刹那。
僕は最後に、隣にいる女の子の顔を見る。
「…………」
戦場ヶ原は何も言わない。
言う間もない。
だけど、笑顔だった。
最後に見た彼女は最高の笑顔で僕を見つめていた。
どんな時でも、こんな場合でも。
まるで僕の隣に居る事が、居るだけで、それが幸せなんだと。
胸を張って宣言するように。
僕もそれに返す言葉は無い。
そんな時間は無い。
だから代わりに、繋いだ手をぎゅっと握った。
絶対に、もう二度と離さない。離れないように――。
そして目の前が、黒く染まる。
まるでシャットアウト。
自己と世界が遮断されたような感覚。
無音。
突然。
全て。
これで終わり。
- 809 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:12:17 ID:4baPhgM.
-
■
「……っ」
揺れる視界に構わず、グラハム・エーカーは立ち上がる。
全身にガラスの破片が突き刺さり、体中が血で滲んでいるが、頓着しない。
硝煙と土埃によって再び視界環境は最悪に落ち込んだ。
その中をよろよろと歩く。
歩きつつ叫んだ。
「阿良々木少年っ!」
その少年の名を叫ぶ。
「無事なのか……!? 阿良々木少年!!」
先の爆発は殺傷よりも、グラハムと阿良々木を吹き飛ばす事を目的とされた攻撃だった。
その要因があったからか、傷だらけになりながらも、グラハムは命を拾った。
だがグラハムよりも一方通行に接近していた阿良々木と戦場ヶ原がどうなったのかは分らない。
最悪の事態も想定して、グラハムは煙の中を進んだ。
「……!」
そして見る。
倒れ伏す二人分の影。
間違いなく、阿良々木と戦場ヶ原の二人だ。
「阿良々木少年!!」
近づいて、そして見る。
息を呑む。
そこにはおびただしい血溜まりがあった。
「阿良々……木……」
折り重なるように倒れている少年と少女。
それを中心にして、二人分の血液が流れ出している。
少年には、まだかすかに息があった。
体のあちこちに銃創が有ったが、奇跡的に致命傷を免れたのだろう。
だが少女は……。
「なんという……ことだ……!」
戦場ヶ原ひたぎは、死んでいた。
炸裂した散弾の一発に胸を貫かれ――即死だった。
少女は眠るように目を閉じて、普段の怜悧さなど欠片も感じさせない。
どこか安心したような安らかな表情で、阿良々木の手を握って絶命していた。
「…………くっ!」
グラハムは後悔する。
こうなるのであれば、無理やりにでも逃がしていれば良かったのだ。
こうなることが、分っていれば……。
だが彼は少年と少女の意思に、可能性を見てしまった。
この状況を打開する。その光を見、そして賭けてしまったのだ。
だが賭けはここに敗北を突きつけられる。
グラハムは悔やみながらも、道を見失う事は無かった。
残されたもの、自分に出来る事を考える。
今の自分に出来る事は、残った命を守る事のみ。
意識の無い阿良々木を抱え上げる。
その際、繋がれた二人の手を引き離す事に、強烈な罪悪感を感じながらも。
「……これは……敗北だ……」
- 810 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:14:28 ID:4baPhgM.
-
呟いて、自認する。
自分達は負けたのだと。
もう逃げる事しかできない敗者なのだと実感する。
それも、逃げる事が出来ればの話であったが。
「待てよォ……」
悪寒と共に、背中に突き刺さる悪鬼の声。
振り返ればそこに、想像通りの怪物がいた。
「逃がすと、思うかァ?」
「そうだな……。 見逃してはくれないだろうな……」
煙がはれていく、
そこから現れたのは返り血に濡れた白髪の少年の姿。
風貌は、いまだ無傷。
「化け物め……」
「ヒャハハッ。 言えてるな」
感心したように一方通行は嗤い。
その手に持ったコーヒー缶を振り上げた。
「ここまで、か……」
この状況を打開する術などどこにもない。
見渡せど、脱出口など皆無。
味方は――白井黒子には既に戦闘は不可能。
見渡せば、ファサリナも薬局の床に倒れ伏して、死んでいるのが見えた。
万策尽きた。
それがグラハムの正直な心境だった。
終わりが来る。
数秒もせぬ内に、死神の鎌がまたしても命を摘み取っていく。
その時、一方通行の背後に。
グラハムは桃色の髪の少女の姿が見えたような気がした。
【ファサリナ@ガン×ソード 死亡】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語 死亡】
- 811 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:16:24 ID:4baPhgM.
-
◆ 『救い/優しい幻想』 ◆
どこか凪いだ心境で、ユーフェミア・リ・ブリタニアは戦場に立っていた。
ドアを二枚、壁を二枚を超えたその先は地獄の鉄火場。
危険は承知。
死は覚悟の上。
だがこの戦いだけは逃げられない。
己の我が侭の為に多くの人が戦って、そして命を落としたのだ。
なのに自分だけ逃げる事は出来ない、と。
ゆっくりと、だが力強い足取りで、ユフィは歩く。
もちろん死ぬ気は無い。
己には償わなければならない罪が在る。
知らなければならない、死が在る。
こんな所で、投げ出すわけにはいかない。
けれど今は、ここは立ち向かわなければならない時だと、彼女は決意した。
「…………スザク」
残してきた彼への思いを振り切って、少女は進む。
手には先程爆発音と共に足元に転がってきた巨大な銃器。
足取りは決して軽くは無く、だが力強い。
「行きます」
一瞬俯きかけていた顔を上げ、少女は見た。
己が倒すべき敵の姿を……。
「その敵を……撃つッ!」
こちらに背中を向ける血に濡れた少年。
その背を、狙い撃つ。
燐光が少年へと迫る。
直前で振り返った少年の表情は、確かな脅威を認識していた。
一方通行が伸ばした手がビームに触れる。
またしても彼の対応は間に合った。
むしろ解析が進み、迅速に対応できるようになっていた。
だが背後からの不意打ちという点は大きい。
弾いた燐光の軌跡はこれまでで、一番異質なものとなった。
一方通行を避けるように動くのはこれまで通りだったが、
今回の軌道は上方、天井を突き破って天に飛ぶ。
更には、よろめいて転ぶ一方通行。
それは千載一遇のチャンス。
誰の目にもそう映った。
一方通行は一時的とは言え、このとき完全に敵の姿を視界から外した。
今撃てば、その攻撃は完全に一方通行の認知の外。
この時、この瞬間ならば、あるいは攻撃が通るかもしれない。
ユフィもそう考えたのか、若干焦るように引き金を引いた。
- 812 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:18:25 ID:4baPhgM.
-
「……そ、そんなっ」
しかし、もう燐光は発射されなかった。
彼女は知らない。
この武器の設けられた制限。
驚異的な威力と連射性をかね揃える代償に、撃てる回数は5発のみ。
それ以上撃つためには、何らかの手段によるジェネレータへのエネルギーチャージが必要になる。
故に今はもうなんど引き金を引こうとも、その砲門から勝利の燐光が放たれる事はない。
「そん……なっ……」
勝利の代わりにもたらされるモノは敗北と死。
手に持っていた銃器ごと、ユフィの胸を銀の閃光が貫通する。
「……ぁ……」
崩れ落ちる少女。
光の消える瞳。
消えいく命。
「……」
己の血の海に倒れ伏した少女は最後に願う。
「……スザ……ク」
彼が、どうかもう一度立ち上がることを。
彼が、一人でも多くの人を救う未来を夢に見る。
ユフィは倒れ伏したまま、己がいま開いてきたばかりの扉を見る。
きっともうすぐ、彼はあの扉から飛び出してきて、もう一度闘ってくれるのだ。
きっともうすぐ……。
皆の為に、自分のために、そうあの日のように、ヒーローのように現れて。
そして己すら救ってくれるに違いない。
彼はもうすぐ、皆を守る為に闘ってくれるのだ。
「ああ……」
それはなんて、素晴らしい。
誇らしい光景なのだろう。
それが、彼女の最後の思考となった。
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2 死亡】
- 813 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:23:51 ID:4baPhgM.
- ■
静寂が訪れた。
動くモノは無い。
話すモノも無い。
ここに四つの命が散華した。
残された生命は五つ。
その内の三つは敗北者。
皆、床に四肢を投げ出している。
一つは勝者。
彼だけがここに二本の足で立っている。
「思ったより手間取っちまったが……。これで終いか……」
勝者、一方通行は告げる。
戦いの幕を下ろす。
もはや誰も動けない。
誰も逃げられない。
誰にも邪魔されない。
ならば、全て諸共消し飛ばしてしまえば手間はかからないだろう。
「ふ……は……ははは……ヒァハハハハハハハハハハハハッッ!!」
狂喜の歓声と共に。
もう一度、風を集める。
今度こそは全力。
間違いなく、この薬局全てを吹き飛ばす最大出力。
その行使の後には彼しか残るまい。
倒れ伏す敗北者達は残さず塵芥と化すだろう。
終わり、だ。
これで。
「ハハハハハハハッ! ヒャハハハハハハハハハッ!!………………あァ?」
そんな時、音が、聞こえた。
彼は至極面倒くさそうな顔色で、能力行使を止めて振り返る。
聞こえてくる。
コツコツ、と。
小さな、だが確かな足音。
近づいてくる。
そして、やがて、死した桃色の髪の少女のむこう。
薬局奥の扉がゆっくりと開いて……。
「……よォ、お目覚めかよ」
その一つは挑む者。
最後の挑戦者。
悠然に、
強靭に、
騎士の名に恥じぬ確かな意志と、ただ一つの決意を持って。
だが他の誰でもない。
一人の人間として。
――枢木スザクはそこに立つ。
- 814 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:25:34 ID:4baPhgM.
-
◆ 『対決3/疾走する生命』 ◆
「ずいぶん、暢気にしてたンだなァ……。こっちの仕事は大体終わっちまったよ」
――聞こえない。
スザクは一方通行の言葉に何も返さずに、目の前で既に事切れている少女に歩み寄った。
「後はテメエをぶっ殺して、きっちり皆殺して完了、と」
――聞こえない。
スザクは少女にも、やはり何も告げなかった。
言葉は無かった。
ただ、遂に再会した、終ぞ生きて会う事のできなかった少女に触れる。
その冷たい頬に、手を置いた
結局、最後まで会って話す事は出来なかった。
会う資格も無いと思っていたが、こうして二度と邂逅の叶わない現実を目にしたとき。
どれほど自分が彼女に会いたいと願っていたのかを思い知る。
だが、今は、今だけは。
迷いも、後悔も、悲しみすらも感じない。
当然、怒りも彼方に置いてきた。
残るものは、あの熱、あの言葉。
――憶えている。聞こえていたとも。
『……生きて、ね』
その声を、その命を、その約束を――。
だから今だけは、もう一度だけ、彼女のたった一人の騎士として。
「――生きる」
顔を上げる。
その目は、真紅に染まっていた。
『生きろ』
その目からは、涙が零れ落ちていく。
「俺は、生きる」
その目が、敵を捕らえた。
意思が、闘志が、炸裂する。
「うおおおおおおおォォォォォォォォォッ!!」
咆哮と共に、スザクは駆けた。
「ははッ。イイぜッ! イイぜェ! 来いよォ!!」
――聞こえない。
――もう何も聞こえなかった。
- 815 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:26:52 ID:4baPhgM.
-
■
乱れ飛ぶ銀の嵐。
舞い散る閃光。
駆け抜ける生命。
それは弱小の個。
撃たれれば死ぬ。
刺せば死ぬ。
殺せば死ぬ。
ただそれだけの、つまらない命のはずだ。
だというのに、
心臓を押しつぶそうと狙うコーヒー缶。
逃げ場を潰す銀球の散弾。
かわす隙間など無いガラス片の嵐。
触れればそれで最後となる破壊の手。
その全てが人体には致命打となる凶器の奔流。
真人間にはどれ一つ逃げる事など絶対に不可能な筈の災害事象。
にも拘らず、それらは一撃たりとも命中し得ない。
心臓をおしつぶそうと狙うコーヒー缶は、目視のみで避けられる。
逃げ場を潰す銀球の散弾は、障害物を蹴り跳ねて凌がれる。
かわす隙間などない筈のガラス片の嵐は、ありえない角度と挙動で見切られる。
当然、これほどの超反応を成し遂げる相手に、破壊の手など届きはしない
「馬鹿なッ!」
以前に相対した時はこれほどではなかった。
速すぎる。
幾らなんでも常識を超えすぎている。
否、いまだ人体の常識にのっとった挙動だ。
だがあまりに絶妙な体技と心技で、絶死の散弾がかわされていくのだ。
ガトリングもかくやという程の質量の連射。
それを敵は壁を走り、商品棚を蹴倒して、床を転がって、ありとあらゆる方法を駆使して避ける。
接近を許したと思えば、思いきりとび蹴りをくれる。
が、当然敵は反射の壁に阻まれて後方に飛ぶ。
しかし、その後退の勢いすらも敵の回避を助けているのだ。
止めさえすれば刺せる。
止まりさえすれば殺せる。
たが止まらない。
戦闘が始まって以降、敵はまったく停止する気配を見せない。
マックススピードで駆け抜け続ける。
それはどう見ても偶然、運が良かったと言うしかないギリギリの回避運動。
だがそれがもう軽く数十回は発生しているのだ。
繰り返される偶然とは即ち必然。
これは運ではない、敵は確かな確信を持ってその超回避を成し遂げている。
「なンなンだ、いったいッ!?」
なにが変わった?
以前と何が違う?
- 816 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:27:45 ID:4baPhgM.
-
「その……腕、か? いや違うな」
薬局の治療をもってしても、切断された腕の再生までは為されなかったようだ。
いまのスザクは隻腕となっている。
それが体重を軽くし、的を小さくし、回避率を高めている。
多少はそれも要因となっているだろう。
だがここまでの超回避はそれだけが理由ではない。
「そうか……場所か……」
以前と違うこと、それは闘っている場所だ。
今回の戦場は室内。
しかも障害物がたんまりとある薬局内だ。
一方通行にとっては攻撃が当てにくく。
跳ね回るスザクにとってはかわしやすい、ちょうど良い場になっている。
「だったら……」
ここを見晴らし良くする。
場を崩し、一方通行にとって有利な状況に作り変える。
その考えがあった。
だがその前に……。
「チィッ……そろそろだろォな」
時間制限が近づいている。
二度にわたる全力の能力行使に加えて。
「コイツ相手じゃ力をケチれねえ……」
白井黒子やファサリナに対してかなりの長期戦をなせたのは、
力をセーブしながら戦う事が出来たからだ。
彼女達は積極的に攻撃してくる事はなかった。
それが自滅を誘発すると知っていたからだ。
故に一方通行は隙を見て反射の面積を削ったり、時に完全に止めるほどの余裕を見せていた。
攻撃も散発的で全力には程遠いかった。
だがスザクはそうはいかない。
全力の攻撃も未だに届かない。
しかも、この敵は効かないと承知しているくせに直接攻撃を仕掛けてくる。
なんど弾き返しても、無駄だと分かっているくせに馬鹿の一つ覚えのように蹴りつけてくる。
何かを確かめるように。
これでは反射も万全の状態に保たなければならない。
節約する事が出来ない。
現に今、一方通行の残り時間はみるみる削られていった。
当然の話。
この敵は時間制限を知っている。
粘ればやがて一方通行が力を失うと知っているのだ。
今度は能力切れの演技にも引っかからないだろう。
確実に、なぶり殺しにしてくるはずだ。
「どォする……?」
一方通行は選択を迫られていた。
このまま闘うか、退くか。
すでに時間切れのリスクを負っている。
だがここでスザクを仕留められなければ、一方通行の弱点は広範囲に知れ渡る事になるだろう。
「くそ……」
彼は迷っていた。
迷いながらも力を行使する。
「くッそがァァァァ!」
早く死ね。
今すぐ死ねと、怒りを乗せて。
怒涛の暴力が炸裂する。
- 817 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:28:40 ID:4baPhgM.
- ■
「オオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!」
枢木スザクは咆哮する。
もう、現実の音は何も聞こえない。
薬局内に巻き起こる、炸裂音、激突音、狂気の怒号。
その全ては耳に入らない。
音を置き捨ててスザクは駆ける。
殺意の奔流も、死の刃も、敵の姿すら認識外にあった。
思いは、認識する感情はただ一つ。
その誓い。
その約束。
その命令。
『――生きろ!』
生きる。
『――生きて……』
生きる。
『――生きろ(て)!!』
――俺は、生きる。
生存の意志だけを引き連れて駆け抜ける。
向かい来る閃光を回避する。
眼前の敵に突貫する。
視界を散弾が覆う。
だが回避する。
反転して、敵に挑む。
そして、生きる。生き抜く。
火花散る視界。
白と赤に染まる意識の中。
もはや意味の無い、言葉の羅列があふれ出していた。
――ユフィ。
僕は君に、伝えたい言葉があったんだ。
君に返さなきゃいけない答えがあったんだ。
君に会って、話さなきゃいけない事があったんだ。
君に会えて本当によかった。
僕はずっと君に救われていた。
死にたがりの僕は、君のおかげで前をむくことが出来たんだ。
この理想を目指すことができたんだ。
どれほど感謝してもしきれない。
僕は、本当は……。
騎士とか、主とか、そんな関係じゃなくて。
ただのスザクとして、僕は君が好きだった。
誰よりも、君を守りたかったんだ。
僕は……ずっと、君と一緒にいたかった。
――言葉はもはや永劫に届かない。
叶わない。
それは二度目の離別
短い夢の終わりを知り。
真紅の相貌は疾駆する。
その目から流れ落ちる涙だけを、ただ一つの手向けとして。
- 818 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:30:11 ID:4baPhgM.
-
■
「くそッ! 限界かッ……!」
遂に一方通行は撤退を決意する。
逃げを選んだ。
もう残り時間かが間もない事は自覚している。
ここでスザクを仕留められなかった事は後に響く問題として自覚しているが、
無理に闘って殺されるわけにもいかない。
そうしてベクトル変換で薬局内からの離脱を試みようとした瞬間である。
都合30発目の蹴りが一方通行に命中した。
やはり、反射される。
……だが。
「なン……だ? いまの嫌な感じは……」
それは違和感。
スザクが何度も近接攻撃を試みてくる真意。
最初は能力限界を早めるためだと考えていた。
だが、スザクは一方通行が使う能力の強弱で限界が変わることなど知りるはずがない。
ならば、なにが狙いなのか。
直感的な焦りに任せ、一方通行はガラス片の弾幕を正面に撃ち出して、後方に飛んだ。
その瞬間である。
空に跳び上がり、ガラス片を回避するスザク。
テレポーターですらかわせなかった移動先を読んだ一撃すらも回避せしめ。
天井を蹴って向ってくる。
そして、一方通行の顔面へとその回転キックを繰り出して―−。
「コイツ……まさか……!?」
その蹴りは全力。
反射に対応するための手加減が無い。
つまり。
攻撃が、通る。
通す気が、在るとでも……。
「――ガッ!?」
その蹴りは果たして一方通行に届いた。
反射の壁を抜けて、惜しくも顔面には及ばなかったものの肩口を蹴り飛ばし、一方通行を跳ね飛ばした。
床を三回ほど跳ね、漸く一歩通行は停止する。
「な……にを……?」
やったのかと、その言葉を言い切る前にスザクは答えを口にした。
「これだけ何度も殴っていれば、仕組みと抜け方くらい分る」
それはこの戦いが始まって初めてスザクが一方通行に声をかけた瞬間だった。
「攻撃を自動的に反射される。ならば、その瞬間に自分から攻撃を逆方向に軌道変更すればいいだけだ。
遠ざかる攻撃はお前自身に反射される。 もう……その力は通用しない……。 諦めろ」
- 819 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:31:40 ID:4baPhgM.
-
簡潔な事実。
だが分ったところで到底容易には実行できない絶技。
それを当たり前のように述べ、スザクはもう一度地を蹴ろうとし……。
「…………ッッ!!」
そのときには、一方通行は既に薬局の外へと飛び出していた。
商品棚を引き倒しながら、後ろ向きに。
今度こそ完全に入り口を破壊して、撤退する。
「逃げ……られたか……」
ふらりとバランスを崩しながらスザクは呟いた。
ハッタリは、通用した。
スザクもまた限界だったのだ。
治療を終えたばかりにも関わらず、全身を酷使し。
そして人間の限界を半ば超えた挙動で長時間動いた。
その反動が纏めて襲いくる。
ギアスと同調する意志と、スザクの身体能力は確かにその動きを可能にしていたが、人体として限界は当然ある。
あのまま戦い続けていれば、先に限界を迎えていたのはスザクだったかもしれない。
「…………」
周囲を見回す。
静まり返った薬局内。
立っているのは自分ひとりだった。
だが、生存者は何人かいる。
「枢木……スザク……」
声のした方を見れば、金髪の軍人らしき人物が、
阿良々木暦を抱えて佇んでいた。
「詳しい自己紹介も、礼も、今は後にさせてもらう。
ひとまず、けが人の解放を最優先としよう」
男の声に頷いて、スザクは生存者の保護に動き出す。
けれど最後に、桃色の髪の少女を振り返る。
胸を真っ赤に染め、二度と起きる事のない少女。
二度と会うことの出来ない少女。
終わった幻想の残滓。
もう一度、心が弾けんばかりに、揺れた。
けれど叫びたくなる衝動を今度は押さえつけ。
自分の頬に、手を当てる。
もう、涙は零れていなかった。
■
【E-4 薬局内部/二日目/黎明】
- 820 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:33:32 ID:4baPhgM.
-
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(大)、左腕切断(処置済)、
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:
[道具]:鉈@現実
[思考]
基本:生きて、ユーフェミアの約束(命令)を果たす。
0:ユフィ……。
1:とにかく今は怪我人の介抱を最優先。
[備考]
※ラウンズ撃破以降〜最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※一回放送の少し前に、政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
※二日目深夜に、ルイスの薬剤@ガンダムOOを飲みました。
※一方通行の反射の壁を越える方法を理解しました。
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:疲労(中)、全身にガラスによる刺し傷
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30 、GN拳銃(エネルギー残量:小)
[道具]:基本支給品一式、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、ゼクスの手紙
双眼鏡@現実、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール、ヴァンのテンガロンハット、水着セット@現実
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20、1万ペリカ
『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム〜戦場の絆〜』解説冊子
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
1:怪我人の保護を最優先とする。
2:天江衣をゲームから脱出させる。脱出までの間は衣の友達づくりを手伝う。
3:主催者の思惑を潰す。
4:首輪を解除したい。首輪解除後は『ジングウ』を奪取または破壊する。
5:スザクは是非とも仲間に加えたい。
6:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
7:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
8:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
9:可能ならば、クレーターを調査したい。
10:【憩いの館】にある『戦場の絆』を試したい。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています。
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。この情報だけでは首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
- 821 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:34:10 ID:4baPhgM.
-
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:気絶中、疲労(大) 、全身に銃創(致命傷は無し、治療中)、ただし出血(大)
[服装]:ボロボロの直江津高校男子制服
[装備]:レイのレシーバー@ガン×ソード 、ベレッタM1934(5/8)
[道具]:基本支給品一式、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、マウンテンバイク@現実、拡声器@現実
ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10、衛宮邸土蔵で集めた品多数
[思考]
基本:誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
0:……。
1:――戦場ヶ原……。
2:憂はこのままにはしない。桃子、ルルーシュに対しては警戒。
3:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
4:浅上らの無事を願う。
5:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後から参戦。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※サポート窓口について知りました。また、原村和が主催側にいることを知りました。
※衛宮邸の土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※衣の負債について、気づいていません。
- 822 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:35:04 ID:4baPhgM.
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【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:気絶中、疲労(極大)、全身に切り傷、刺し傷、擦り傷、多数、右肩口をコーヒー缶が貫通
[服装]:ボロボロの常盤台中学校制服、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録、伊達軍の馬@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、1億1310万ペリカ
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:士郎さん…約束…。
1:薬局へペリカを届ける。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
4:士郎さんが心配、意識している事を自覚
5:士郎さんはすぐに人を甘やかす
6:士郎さんを少しは頼る
7:お姉さまが死んだことはやはり悲しい。もしお姉さまを生き返らせるチャンスがあるのなら……?
8:アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。藤乃のことは完全に信用したわけではないが、償いたいという気持ちに嘘はないと思う。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
・その他制限については不明。
※エスポワール会議に参加しました。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※バトルロワイアルの目的について仮説を立てました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
【?-?/???/二日目/黎明】
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ペンデックス?
[服装]:歩く教会
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:???
0:バトルロワイアルを円滑に進行させる。
1:友達が何なのかを知りたい。
2:天江衣にもう一度会ってみる。
3:自分に掛けられた封印を解除する?
4:友達が何か解ったら、咲に返事をする。
5:風斬氷華とは…………。
※インデックスの記憶は特殊な魔術式で封印されているようです。
- 823 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:35:51 ID:4baPhgM.
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◆ 『全て終わった後に/迷いと答え/もう一度』 ◆
「――まあ、そういう事があったわけだ」
長き語りは終わる。
一方通行は自分が見てきた事実をありのまま告げた。
死と生。戦いの行方。嘘はない。
殺した者は『殺した』と。
生きている者は『殺し損ねた』と。
偽らずに、全てを上条に語った。
「それでのろのろと南下してきたところ、テメエとばったりってな」
上条は暫くの間言葉を発する事も出来なかった。
ずっと、一方通行の語る事実をかみ締めるように、拳を握り締めていた。
「なんでだ……?」
漸く搾り出した声は震えていた。
「なんでお前はそんな事を……」
「説明しなきゃわかンねえか?」
「…………ッ」
問いかけつつも、上条は半ば答えに辿り着いていた。
おそらくは、自分のせいなのだ。
上条があの時、無意識に一方通行よりも御坂美琴を優先したから。
あの状況で死体に拘った。
上条なりの生き方を通した結果が、一方通行を凶行に向わせた。
「畜生……ッ」
一層、強く拳を握り締める。
もう取り返しが付かないのだ。
失われた命も自分の間違いも。
あの時こうなると知っていれば、などという言い訳はきかない。
結果が全てであり。
結果的に上条は間違えた。
事実はそれだけなのだ。
(じゃあどうすれば、良かったんだよ……)
既に知らされた間違い。
にも拘らず上条は迷う。
どうすれば良かったかなど明白なのだ。
上条は自分の生き方を貫き、それが結果的に巡り巡って人の死に繋がっただけ。
それは間違いでもあり、同時に避けようもない事故でもある。
だが上条には流せない。
割り切れない。
今までこんな事は無かったのだ。
彼は彼なりに生きて、それで彼の世界を守る事が出来た。
なのに今回はどうしても上手く行かない。
幾ら決意を固めても、全力でぶつかっても好転しない事態が在る。
あげく、自分の生き方、やり方を否定された。
何故なのか?
自分は何も変わっていないはずだ。
だが、全てが否定され、現に全ては裏目に出た。
- 824 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:37:31 ID:4baPhgM.
-
大切な仲間は失われた。
守ると約束した人間はもう死んだ。
その上、確固たる己も否定された。
何も変わっていない筈のに、全てが否定される。
全てが間違いだった。
ならば……。
(俺は……何かを間違えているのか?)
結局はそこに帰結する。
揺らぐ意志が、決して揺らがない生き方を見失う。
「俺は……」
「で、俺がなンでここでお前としゃべくり続けているかというとだな」
上条の呟きを無視して一方通行は話し続ける。
顔を上げた。
当然、一方通行が殺し合いに乗ったのだとすれば、ここで上条と戦う事になる。
だが彼は暢気に話す一方で、未だに自分から仕掛ける事はない。
「最初はな。テメエとちっとばかし喋り終わったらそれでサイナラしようか、とも考えていたンだ……。
なンせ残り時間が後一分もねえ。 その右手と真っ向勝負はちと分が悪りィだろ?」
「なら、なんで……」
何故まだここに留まっているのか。
「ああでも、やっぱ駄目だ。今のテメエは駄目だ……。ふざけンじゃねえぞ?」
その瞬間、押さえつけれられていた怒気と殺意が爆発する
「今のテメエの存在だけは許せねえ。死ンじまえよ、今すぐに……。消えうせろ」
狂気の叫びではなく。
冷たい失望の刃が上条を刺す。
完全にキレていた。
この時、一方通行は己を支配する狂気を超える程の怒りを湛えていた。
一方通行自身にも、その怒りの正体は理解できていない。
彼は今、己の内側から沸きあがる不可解な感情に突き動かされている。
「……勝負だ。リターンマッチだぜ最弱(さいきょう)」
一歩、踏み出した。
一方通行はこのとき、狂気からも、理屈からも乖離した行動をとっていた。
殺意に狂わせる脳裏の存在に従うならば、有無を言わさず出会い頭に上条を殺していた筈である。
未だに残る理性の判断に従うならば、残り時間のリスクから早々にここを立ち去っていた筈である。
今の彼を突き動かすものは、怒り。
目の前の存在が我慢ならないという。
それは、意地という言葉に言い換えることが出来るかもしれない。
もう一歩、踏み込む。
近づいていく。
あの、幻想殺しに。
- 825 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:39:19 ID:4baPhgM.
-
その歩みに、向ってくる敵の姿に上条はたじろいだ。
自分を見失いつつある彼には闘う覚悟も定まらないまま、強大な敵が再び目前に在る。
今はもう、拳の握り方も分らないというのか。
「クソッ! ………ォッ!!」
迷いに答えを出せないまま、揺らいだまま上条は挑んだ。
揺らいだ意志で足を引きずりながら敵へと駆け出した。
一方通行はそれを待ち受ける。
静かに歩き続けながら、約10メートルの距離が縮まっていくことを良しとする。
それは正に勝負だった。
彼は知っている。
住宅街、左右に逃げ場なしというこの状況。
遠距離攻撃徹すれば一方通行に負ける要素はない。
そして近距離は勝機が薄い。
にも拘らず、待ち受ける。
まるで上条当麻とだけは、同じ土俵で闘う事を決めていたように。
距離が詰まっていく。
ぐんぐんと、あっという間に、10メートルは5メートルに、5メートルは1メートルに、
そして、ゼロへ。
「「…………っらァッ!」」
重なる叫び。
同時に腕が伸びる。
拳が飛ぶ。
上条の右腕に、一方通行も己の腕で答えた。
交錯する腕(かいな)、しかしその差は歴然だ。
やはり上条当麻の拳が速い。
一方通行の腕は遅い。
それは分りきっていたはずの展開。
理が逆転することなど当然無く。
一方通行の腕よりも速く、上条の拳が一方通行の頬を殴り抜いた。
「……ギァッ!」
蟲が潰れたような声を漏らす。
無様に、殴られる。
だが一方通行は倒れなかった。
本来ならば、ここで吹っ飛ばされているはずだというのに。
「温りィ……。なンだァ? 今の糞みたいなパンチはァ……?」
殴られ、よろめきながらも一方通行は嗤った。
なんて情けない。
己はこんな無様な拳に敗北したのか、と。
「……!?」
そして上条はその挙動に意表を突かれていた。
敵の能力を知ればこそ、ありえない筈の挙動だった。
両手が、触れただけで死を呼び込む一方通行の破壊の両腕が、
それが通用しないはずの上条の右手を掴み取っている。
- 826 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:40:51 ID:4baPhgM.
-
(何故!?)
その言葉で上条の脳裏が満たされる。
だがマズイ。
嫌な予感だけはヒシヒシと伝わってきた。
このままでは、このまま身体を捕らえたままでは……。
(まさか、コイツ……本気(ガチ)で俺と勝負しようってのか……!?)
缶コーヒーやら銀球やらガラス片やら風やらの、優位な遠距離攻撃をを一切省いた。
完全なる近距離戦。
小細工無しの格闘。
一方通行を知る上条にとって、それが一番意外な選択肢だった。
そして一方通行の手は上条当麻を捉えきれない。
だが唯一、捕らえられる可能性がある場所が在るとすれば。
殴る際、どうしても敵に触れなければならない、その右手に他ならない。
「まさか……!」
一方通行は最初からそこのみに注目していた
だが本来ならばその手を捕らえる事も許さなかったはずだ。
殴り抜いた瞬間、一方通行は血を転がっていた筈なのだから。
けれどそうはならなかった。
それは拳のにぶり。
引き起こした要因はやはり迷いか。
迷いに揺れる意志と、
既に狂気すら飲み込んで前進する意志との差。
一方通行はよろめきながらも、決してその手を離さない。
上条当麻の右手を掴んで離さない。
絶対に逃がさない。
「…………ッッ!!」
そして伸びてくる破壊の手。
遂に届く。
上条当麻の無防備な胴体へと。
そこから逃れる為には、方法は、一つ。
「…………グ、ガハッ!!」
またしても響く打撃音と小さな声。
上条当麻は右手を掴まれたまま、
そのまま再度、一方通行を殴り抜いたのだ。
今度こそ吹っ飛ばされる一方通行の身体。
「はっ。 なンだよ、まだ見所は残ってやがる……。 殺し損ねちまったか……」
地を滑りながらも彼は嗤って言った。
だが上条は、既に満身創痍の体だった。
「ガ……グッ……ゴホッ……ゴホッ……」
体内から大量の血が逆流してくる。
口から流れ出す鮮血。
足の傷口から噴水用に赤が噴出する。
血流操作が中途半端な所で止められたからか。
上条は一方通行に触れられながらも、未だに即死は避けていた。
しかし十分なほど身体の内部を破壊され、凄まじい激痛が前進を巡っている。
- 827 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:42:28 ID:4baPhgM.
-
「ギッ……がぁ……!!」
耐えなられない。
立ち上がる事が出来ない。
死に、瀕する。
そんな時でも上条の脳裏を占める感情はやはり一つ。
己は何を間違えていたのか。
どうする事が正しい道だったと言うのか。
本当に、自分のやり方はただの思考停止の成れの果てであり。
アーチャーやスザクやファサリナの言葉が正しいとでも言うのか。
理想を切り捨てて、犠牲を良しとして生きれば、こんな最後を迎えなかったのか、と。
「俺は……それでも……認めたくねえ……曲げたくねえんだ……」
感情が、知らず言葉となって溢れ出していた。
「何が。悪いんだよ……。皆が助かる道を選んで、最高のハッピーエンドを願って、何が悪いんだよ!! 畜生!!」
知らず叫びとなっていた。
誰にも向けられない、独白。
けれど、それに答える者が、今は居たのだ。
「……なンにも、悪くねえよ。そうさ、テメエはそれで良いンだよ」
思わず耳を疑った。
上条は伏せていた顔を上げる。
その視界は真っ赤に染まっていた。
聴覚にもガタがきている。
だが、聞き間違いではない。
目の前の一方通行は。
他でもない、相対しているこの宿敵は今確かに、上条当麻を肯定したのだ。
「…………な……?」
「ああ? なに驚いた顔してンだよ。 テメエは何も間違えちゃいねェって、言っただけだろうが……」
心底呆れた声で一方通行は話す。
「まあ確かに、テメエはちっとばかしカッコつけすぎだとは思うけどな……。
そりゃ、テメエの考え方に理屈で難癖つけてくる奴も居るだろ」
驚きを隠せない上条へと言葉を紡ぐ。
「けどよォ……テメエはその理想を、現実に変える力を持ってンじゃねえか」
お前は俺とは違うだろう、と。
悪に、闇に落ちなくとも、
正道を行きながらも全てを助けるだけの、強さを持っているだろう、と。
彼は言う。
「何をごちゃごちゃ悩んでやがンだ馬鹿野郎が……。
今のテメエが弱いのはな、あの時テメエの傍に居た誰かがいねェからだろうよ。
だがそれも含めてテメエの力だったはずだ。テメエは、確かに強かったはずだ。
だから許せねェ。そのテメエがこんな所でカスみてェにいじけてやがるザマは、見てるだけで虫唾が走る」
どのような運命の巡りなのか。
この島で誰もが否定し拒絶した上条当麻の理想と生き方。
それを唯一理解し、肯定し、回答を示すのはこの宿敵だった。
「そら、立てよ最強。テメエは何も悩む事なんざねェ。その強さと理想は俺が保障してやるとも。
なぜならテメエ、忘れたなんて言わせねえぞ? テメエはなァ……偶然でもまぐれでもねェ……。
この世で唯一、俺を倒した男なんだろうがッ!!」
- 828 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:44:32 ID:4baPhgM.
-
お前は強い。間違いなどない。
その道を行く事に躊躇いなど憶えるな。
上条当麻にはその理想を成し遂げる強さが在る。
一方通行は本気でそう言っていた。
信じていた。
ここに来て、一方通行はようやく己の怒りの正体に思い至る。
彼は我慢できなかったのだ。
自分を唯一倒した男が腐っていくのが、耐えられなかったのだ。
結局彼だけは、誰よりも上条当麻の強さを信じていたのだ。
他でもない、上条当麻に敗北した者として。
「…………あぁ……」
その言葉を聞いた瞬間、
上条はまるで頭の中の靄が、すべて吹き飛んだような気がした。
全身を激痛で苛まれる中で脳裏だけが何故かすっきりとしている。
「…………そう……だな」
ただ代わりに、憤りが湧き上がってきた。
自分が何を見失っていたのかを理解する。
己の理想に間違いは無かった。
それは目の前の敵が示してくれた。
後はもう一つだけ、上条自身が辿り着かなければならない答えが在る。
ではいったい何が足りなかったのか。
それも既に目の前の彼が示してくれた通りだ。
彼の隣に居た仲間が、今はもう居ない。
そう言う意味で、確かに上条は弱くなっていた。
だから……。
「ははっ……くそ……強くなりてえな……」
本当に情けない。
結局、己は仲間に助けられてばかりだった。
いざ一人になってみれば、現実はこんなものだ。
「俺は……強くなりてぇ……!」
だから今、上条は力を欲した。
たった一人でもすべてを守れる力を。
全ての不条理を殴り飛ばせるほどの力を。
「ああ、だったら……こんな所で死んでらんねぇか……。そうだよな」
そして、前に進む事を選んだ。
迷いはもうない。
己の弱さは自覚した。嫌というほど思い知った。
だが、迷いはもう無いのだ。
ならば後はその先に向って進むのみ。
「悪かったな……手間をかけさせた……」
「謝るなよ。テメエが俺に殺される事実はかわらねえ」
「ははっ……そうかよ。じゃあ、いくぜ」
「ああ、きやがれ」
そうして漸く、上条当麻は立っていた。
自分の戦いの舞台に、確固たる己を持って。
「俺は強くなる。その手始めに、まずはてめえを助けてやる!」
他ならぬ。『幻想殺し』上条当麻の声で、言った。
- 829 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:46:11 ID:4baPhgM.
-
■
――ああそうだ、その眼だよ。
駆け抜けてくる少年の姿に、一方通行はどこか懐かしい思いを感じていた。
――その拳だよ。
こちらを真っ直ぐに見据えるその眼光。
力強く振り上げられたその拳。
――そいつに、俺は負けたンだ。
不思議な感覚だった。
まるであの日に戻ったようだ。
目の前の少年と始めて闘ったあの夜に。
――そして、そいつに俺は……。
思い出す。
目の前に在る。
あの夜、颯爽と現れて、悪であった己を拳一つで殴り飛ばしたあの姿。
絶対に辿り着けないと今も確信する。
忘れられないヒーローの体現者。
その姿に――憧れた。
――俺は……。
確信する。
理屈ではない心のどこかで直感する。
自分はやはり、今回も勝てないのだろう。
絶対にかなうものか、あの眼に、あの拳に、あの上条当麻に……。
――俺はもう一度……。
これで、全部おしまいだ。
悪い幻想(ユメ)は上条当麻が全部殺してくれる。
己は負ける。
――あの拳が俺に届けば、それで終われる。
その確信と共に、一方通行は幻想殺しを待ち受けた。
全ての不浄を払う。
上条当麻を待っていた。
- 830 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:47:11 ID:4baPhgM.
-
◆ 『終幕/はじまりのおわり』 ◆
「……そう、か」
その結果は実の所、意外でもなんでもなかった。
倒れた者はもう動かない。
ならば、未だに立つものこそが勝者だ。
「ああ……それじゃあ、俺の勝ちだな」
即ち、ここに立つ一方通行こそが勝者となる。
路上に倒れた上条当麻には、もう既に息は無かった。
死んでいる。
不完全ながらも血流の逆流を受け。
内臓に重大なダメージを負い。
血を流しすぎた。
その順当な結果。
至極自然に、完膚なきまでに、普通に、死んでいる。
一方通行には分っていた筈だ。
すでに上条には決定的な一撃を与えていた事など。
即死でなくとも、上条は致命傷を負っていた。
それを知っていたにも拘らず、彼は驚いていた。
己の勝利に、上条の死に、疑問を感じている。
「けどよ。なンで、だ?」
何故自分は勝利しているのか。
目の前の幻想殺しと戦って、それで勝ってしまった。
その理由を問う。
答える者は居ない。
上条当麻はもう死んでいる。
この場には一方通行以外の誰もいない。
「いいのか?」
誰にともなく、一方通行は問い続ける。
この世の摂理はこの結果を良しとしたのか。
一方通行がこの先に行く事を認めるというのか。
ヒーローの敗北。
それを是とするのか。
「そういう事なのか?」
答える者はいない。
ならば、残っているのは結果だけだ。
正義が死んで、悪が勝ったという。
それだけだ。
「そう……か。そうかよ…………ヒ、ハ、ヒャハハッ!
ヒャはハハハハハはハハハハはハハハハハハハハはッッ!!!!!!
ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!!」
最後の幕が閉じる。
終わりは勝者の狂笑にて。
それが何を意味していたのかは誰にも分らない。
怒りか。
慟哭か。
歓喜か。
だがいずれにせよ、彼はもう迷う事など無いだろう。
疑問を挟む事もない。
ひたすらに。
どこまでも、この果て無き修羅の道を行くだろう。
その手がいつか、目指した救いに触れるまで――。
【上条当麻@とある魔術の禁書目録 死亡】
■
- 831 :疾走する超能力者のパラベラム ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:48:40 ID:4baPhgM.
-
【E-4 南部の住宅街/二日目/黎明】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(完成)、肩口に打撲、能力使用不可能
[服装]:血みどろの私服
[装備]:アンチスキル用ニニ口径ゴム弾拳銃@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式×4、缶コーヒー各種@現実×多数、首輪×3(アーチャー、利根川、ゼクス)、
H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数5/12発/)@現実、3499万ペリカ、おもちゃの双眼鏡@現地調達、
真田幸村の槍×2、H&K MP5K(SMG/40/40発/)@現実、その他デパートで得た使えそうな物@現地調達、ピザ×10@現実
Draganflyer X6(残バッテリー約10分)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実、士郎の首輪解析メモ
デイパック(サーシェスの死体入り)、ノートパソコン@現地調達、オレンジハロ@機動戦士ガンダムOO、9mmショート弾(14発)
救急救命セット@現実、柳刃包丁@現実、工具一式@現実、雑誌@現実×多数、真田幸村の首輪、 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実
タバコとライター@現実、ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、ドラグノフ@現実(10/10)、
GN首輪探知機@オリジナル、平バール@現実、麻雀牌@咲×31個、ユンケルスター@現実×8
コンビニの商品多数(内容は後の書き手さんにお任せします)
[思考]
基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。
0:――――――。
1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)。
2:このゲームをぶっ壊す!
3:首輪を解析する。首輪を解除出来たらあの女(荒耶)をブチ殺す。
4:サーシェスの死体について、何か情報を集めてみる。
[備考]
※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
※ライダーの石化能力・藤乃の念動力の制限・信長の瘴気・荒耶の魔術(不完全)を分析しました。
※橙子(荒耶)の名前は知りませんが、首輪の魔術礼装の作者ではないかと考えています。
※ゼクスから士郎が解析した首輪の構造情報を入手しました。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
※当麻と式の力で、首輪の魔術礼装をどうにかできる可能性があると判断しています。
※最悪の場合、生存者の中で殺し合いに乗った人間は、己を含めて四人しかいないと予想を立てており、
その内の二人は織田信長と浅上藤乃であると判断しています。
※サーシェスの名前が放送で呼ばれなかった事には、死体に首輪が無かった事も含めて、
何か厄介な裏があると見ています。
- 832 : ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 01:50:13 ID:4baPhgM.
- これで投下は終了です
意見、感想、指摘
待っています
- 833 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 01:52:23 ID:NzIHAAfE
- 長時間に渡る投下お疲れ様でした。
- 834 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 01:55:47 ID:9mjXy/9w
- 投下乙です。
いやあ凄いことになったなあ、怒涛の5人殺しとは。
一方さん、もう避けないな………スザク、グラハム、黒子、そして阿良々木さん……生きろ。
- 835 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 01:59:06 ID:Kja3.VCY
- 投下乙です
鳥肌立ちまくりだった
- 836 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 02:00:33 ID:u88nWkcE
- まずは投下乙です
うん、矛盾も不満もあろう筈がありません
これだけの激戦、久しぶりに楽しませていただきました
そして……しーしー、ガハラさん、ふぁさ姐さん、ユフィ、そして上条さん……お疲れ様でした
最後に一言……GJでした!
- 837 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 02:03:46 ID:XbSSb5CM
- GJ、圧倒的GJ…!
生き残ったのは黒子、ハム、あらららさん、スザク、一方さんか…
なんという無双…一方さん鬼すぎる
なんなんだ、この最狂マーダー兼裏(闇)主人公兼ヒロイン兼最大のライバルは
戦闘能力的には一般人レベルも多い集団だったのに
空気になってるキャラが全然いなくて誰もに見せ場があった
でも一方さんがマジ凄すぎて…5人殺しで一気にキルスコアバーサーカーに並ぶ7人か…
そこまで凄いことやってるのにまるで裏主人公というか闇主人公というかそんな感じで
上条さんと対峙したときはヒロインとライバル属性を兼ね備えたかのようで(ry
スザクが復活したのは戦力的に+ではあるが皆ボロボロで損失は甚大
士郎が式と潰しあい必至の状況で上条さん脱落は首輪解除の面でも相当痛手だなぁ…
なんかもう大作すぎて感想がまとまりないんですが、とにかく超乙でした!
- 838 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 02:09:59 ID:F8InIQKQ
- うわぁ……これは非道い(←褒め言葉です
超大作の投下、乙っした!
展開も描写も何もかも、ただただ凄いとしか言えません。
ただ、重箱の隅をつつく様で申し訳ないのですが、黒子の負傷した肩が、本文と状態表で逆になっていますので、正しいほうに統一をお願い致します。
- 839 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 03:21:39 ID:ujEwHDgw
- 投下乙です
ただ一言だけをいい、今回の感想に替えさせていただきます
ブラボー!
- 840 : ◆hqt46RawAo:2010/08/25(水) 22:08:20 ID:4baPhgM.
- >>838
指摘ありがとうございます。
wiki収録後に修正しておきます
- 841 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 22:44:48 ID:yZ0haVKU
- 一方通行はもうGN粒子の解析を終えたってことでいいのかな
状態表には特に記載が無いけど
- 842 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 23:23:25 ID:/fJsjkic
- >◆hqt46RawAo氏
長編の投下乙です
『疾走する超能力者のパラベラム』の分割指定をお願いします
120KB越えのためお手数ですが4〜5分割でお願いします
- 843 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/25(水) 23:34:59 ID:mSAYEN7o
- まさか一方さんが逆に説教かます側になるとはw
全編通して主役過ぎて惚れるw
生き残った薬局組はスザクがどうなるかだな
あと個人的にはC.C.が御坂を思い出しながら死んでいったのが印象深かった
- 844 : ◆hqt46RawAo:2010/08/26(木) 02:23:22 ID:dy522ohs
- >>842
遅くなって申し訳ありません。
いつもありがとうございます。
>>767までをⅠ
>>783までをⅡ
>>800までをⅢ
>>822までをⅣ
>>831までをⅤ
という形でよろしくお願いいたします
- 845 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/26(木) 13:05:18 ID:lUvr28Go
- >◆hqt46RawAo氏
何度もすみません、『疾走する超能力者のパラベラムⅣ』が1284行で容量の1200行をオーバーしてしまう模様です。
再度指定をお願いします。
- 846 : ◆hqt46RawAo:2010/08/26(木) 21:40:03 ID:dy522ohs
- >>845
了解しました
では>>803までをⅢ
という形に再指定いたします
- 847 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/26(木) 22:42:50 ID:lUvr28Go
- >>846
対応ありがとうございました
- 848 : ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:00:25 ID:QcylVicw
- それでは修正稿を投下します。
- 849 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:01:20 ID:QcylVicw
-
――――――ねえ、イリヤスフィール。
――――――なにかしら。
――――――どうして、人間はこんなに愚かなんだろうね。
――――――不完全だから。……貴方はいつもそう言っていたわよね?
――――――そうだね、そう。完全に作られた僕たちとは違う。
――――――私と貴方を一緒にしないで欲しいけど。
――――――それでも、僕は彼らを救わなくちゃいけない。……ふふ、神もこういう気持ちだったのかな。不思議な気持ちだよ。
――――――リボンズ……?
――――――この気持ち……まさしく愛だ。
――――――愛!? ……いや、多分違うと思うけど。
――――――だが、愛を超越すればそれは……
――――――……リボンズ、貴方もしかして暇なの?
――――――…………。
――――――…………。
――――――…………ふっ。
――――――リボンズ、私は結構疲れてるんだけど……。
――――――イリヤスフィール、ゲームをしないか?
――――――……ゲーム?
† † †
- 850 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:01:54 ID:QcylVicw
-
【廃ビル / 秋山澪】
「……侵入者だと?」
どうしてこう悪いことって言うのは次々やってくるんだろう。
モモからの通信を受けて、私はそんなことを思った。
『ん、そうっすよ。ホバーベース内に侵入者っす。人数は一人……。こっちの呼びかけは無視されました』
私たちの移動拠点ホバーベース。その内部に入り込んだ奴がいるらしい。
そんな報告を受けたのは、廃ビル群の探索をいくらか進めている最中のこと。
呼びかけには答えず、警備ロボットの追跡を振りきり、今は格納庫にいるとのことだった。
「……格納庫! 私のサザーランドは大丈夫ですか!?」
血相を変えて叫ぶ憂ちゃん。
強力な武器ってこともあるけど、なんだかあのロボットに思い入れがあるようだ。
……私と違って随分と乗りこなしてたみたいだしな。
とはいえ私だって憂ちゃんほどじゃないけれど、自分のサザーランドがどうなってるかは気になった。
……まさか奪われたりしてないよな?
「起動キーは自分で持ち歩いてるじゃないっすか。盗られたりはしてないっすよ。
今のところ壊す気もないみたいっすね」
「ほんと? ……よかったー」
喜ぶ憂ちゃんを見ながら、私も安心する。
サザーランドは無事か……よかった……。
…………。
律がいたら。
興味なさそうな振りしといて、報告を聞いて安堵する。
そんな素直じゃない私のことに気が付いて、茶化してきたかもしれないな。
「―――気を抜くにはまだ早いぞ。相手が格納庫に篭城するなら、こちらもナイトメアを使うのは難しいということなんだから」
水を差すようなルルーシュの言葉。
とたんにしょぼんとする憂ちゃん。空気が暗くなる。
だけど、もっともな言葉だ。相手もそれを狙ってるのだろうか?
「そしてあわよくば俺たちを返り討ちにして起動キーを奪うつもりなのかもしれないな」
私がふと発した疑問に答えるルルーシュ。
なるほど……。つまり侵入者は。
頭の回る奴―――というより、抜け目がない奴―――なのか?
「まあ、只の考え過ぎかも知れないが」
『どうであれ、たった今面倒なことになってるのは間違いないっすよ』
「そうですね! 早く戻って桃子ちゃんを助けないと!」
「……そうだな。ここでホバーベースを失うわけにもいかないんだしさ」
憂ちゃんの意見に賛同を返しておく。
それにモモとは秘密同盟の約束もあるんだ。
なのにいきなり死なれたりしたら……困る。
「そして侵入者をブチ殺しましょう!」
「……えっと、うん……そうだな」
「……今回はそれでいいだろうが、一応懐柔できそうなら仲間に入れるという方針を忘れるなよ?」
その元気のいい声に、若干引きつつも賛同した私。
そしてそれに冷静に突っ込むルルーシュ。
内容が物騒なことさえ除けば、仲の良い友達同士にも見えるのかも知れない。
- 851 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:02:34 ID:QcylVicw
-
「桃子、今から戻る。―――それまで、死ぬなよ」
「……大丈夫っすよ。私にはステルスがあるんすから。
そっちこそ、死なないでくださいよ?
今ルルさんに死なれたら困るんすからね」
「ああ、分かっている」
「じゃ、そろそろアレなんで私暫く連絡取れなくなるっすけど……」
二三言適当に言葉を交わして、通信は切れた。
―――白々しい内容だ。
モモはルルーシュを殺すことを狙っているし、ルルーシュだって私たちを使い潰す気だろうに。
「澪」
「……ひゃ、え、な、なに……?」
そんなことをぼんやりと考えていたら、ルルーシュから声をかけられていた。
「いや、少しぼんやりとしていたように見えたからな。驚かせたなら悪かった」
「べ、別にいい……けど」
慣れない。
ルルーシュ・ランペルージという存在に、これから先秋山澪が慣れることなんてあるのだろうか?
元々の人見知りもあるけれど……。
裏切ろうとしている、ということが後ろめたさにつながって、まともに顔を見れる気すらしない。
「……戦闘中に呆けていて、味方を背中から撃ってしまっては笑い話にもならない。
―――誰が敵なのか、味方なのか。よく考えたほうがいい」
「―――え?」
驚いて、逸らしていた目をルルーシュに向ける。
だけど、もう憂ちゃんを伴って歩き始めていて、表情を見ることは出来なかった。
(……バレてる?)
心臓が早鐘を打つように響く。
鎌をかけられただけなのかも知れないけれど……。
少なくとも、私が裏切ろうとしている可能性ぐらいは十分に考えてるって、ことだ。
……どう……する?
二人から不信に思われない程度に離れながら付いて歩く。
楽しそうにルルーシュに話しかける憂ちゃんがどこか遠く見えた。
その時だ。
『……ちょっといいっすか?」
「ひっ……!? あ、ああ。モモか」
個人回線。
先程暫くは連絡の取れなくなるといったモモが。
私だけに連絡を入れてきた。
……これは。
「なんだ……?」
前を歩いている二人に気付かれないように、私はモモに小さな声で答える。
『少し、お願いがあるんすよ』
「…………」
お願い。
それはきっとルルーシュ達を裏切るような種類のものなんだろう。
『リスクは高いけれど……頼まれてくれないっすかね?』
顔は少しも見えないけれど。
通信機の向こう側で、モモが感情のない笑みを浮かべていることを、なんとなく、感じた。
† † †
- 852 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:04:27 ID:QcylVicw
-
【???・麻雀大会 / ???】
東家 原村和 :25000(親)
南家 宮永咲 :25000
西家 東横桃子:25000
北家 天江衣 :25000
さて、厳かに、しめやかに。麻雀大会が開催された。
―――最も、大会などと言ってもそこまで特別な設定がなされているわけではない。
参加者全員が生身の人間であるということが、なにより大きなことだろう。
これまで行われてきた麻雀と、違うものは以下の通りと言える。
まず一つ。
カメラとマイクを通じて互いに不自由なく顔を合わせて麻雀をすることが出来るということ。
これは、生身の人間同士の勝負なのだから、なるべく普通に行う麻雀に近い感覚で行ってもらいたい。
全員の出身世界が同じなのだから、対話も弾むことだろうと配慮された結果である。
つぎにもう一つ。
点棒のレートを従来の五倍とすること。
つまり、点棒100点=50万ペリカ=血液50CC。
そういった設定となる。
これは参加者のなかに時間までに一定のペリカを稼がなければならないものがいることを鑑みた救済処置だ。
一度の闘牌で稼げる金額が多いということは、当然借金をもつものには有利になる。
また、その上で原村和には、2330万ペリカ。宮永咲には5740万ペリカが与えられている。
これは自らがこの殺し合いの場で稼いだ点棒に応じてペリカを支給した、ということだ。
もっとも、何らかの商品が買えるというわけではない。
レートも高くなったことで、僅かな点棒の損失で主催者側が死亡しては興ざめもいいところ。
そう考えられて、血液の代わりに使用できるようにするためである。
では、試合開始前の彼女らの様子でも確認するとしよう。
原村和。結局、これだけの手を打っても友人、宮永咲を巻き込んでしまったことに対する後悔か、その顔は暗い。
対戦相手が全て知人となってしまったということも原因の一つか。
せっかく待ち望んだ対面だろうに、宮永咲とまともに目を合わせることが出来ないようだ。
宮永咲。またしても殺人麻雀に参加させられるということで怯えていたようだ。
さらに、その対戦相手が知人ばかりだということに絶望に近い感情を覚えているのか、瞳に映る感情は暗い。
こうして比較すると、多少なりと覚悟を決めている原村和に比べると場慣れしていないことがよくわかる。
それがどのような結果を生むのか。……実に楽しみだ。
東横桃子。この四人の中で唯一積極的に他人を殺そうとするもの。
参加者でない二名の参戦には少々意外そうにしていたが、特別感情に変化はなし。
誰が参加していようが、自分の目的には変化はないということか。
確かな殺意。揺れぬ感情。恐らくは彼女こそがこの勝負の中心点となるだろう。
天江衣。生きるためにペリカを必要とする少女。
借金総額は残り二億ペリカ。所持金は2500万ペリカ。
差し引き一億七五00万ペリカの金額を返済するのに必要な点棒は35000点。
初期点棒からの差し引きとなるので60000点に達すれば借金は全額返済可能。
だが……それだけの点棒を稼いでしまえば、他の参加者は血液による支払いが確実に必要になる。
死者もでるだろう。
その上で、どうすべきなのか。
原村和と宮永咲が参加者にいることに気が付き、揺れる彼女の選択に期待したい。
東一局。
動揺している者が落ち着くことを待ってはくれず牌は配られる。
そして、始まってしまえば一手十秒で捨牌を選ばなくてはならない。
迷っている時間は与えられない。しかし、彼女らも素人ではない。
雀牌を目にして覚悟が決まったか、自動で牌が捨てられることになったものはいなかった。
当然だ。命をかけてのギャンブル。早々に放棄されては堪らない。
- 853 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:04:48 ID:QcylVicw
-
「ロン ……2000です」
意外なことに、誰よりも早く和了ったのは原村和。
そして、その相手は宮永咲だった。
「……え?」
味方だと思っていた相手から直撃を食らった宮永咲の眼に浮かぶのは驚きの表情。
当然だろう。点棒がそのまま生命線となるこの戦いで、いきなりの失点が一番の信頼していた親友からだ。
「ごめんなさい、咲さん。……でも、私を信じてください。
私たちが誰も死なせないためには、こうやって、出来るだけ早く、安く和了るべきだと思うんです」
何故かって、他人を殺すつもりがある人がいるのだから。
そう言って、原村和は対面の東横桃子を睨むようにして見る。
「う、うん……分かったよ、和ちゃん。……って、え? 東横さん?」
全く事情を知らない宮永咲は驚きの表情を浮かべる。
うっすらと感情のない微笑を浮かべるだけで東横桃子はそれに答えを返そうとはしなかった。
東二局。
―――だが、原村和はわかっているのだろうか?
派手なオカルト麻雀と比較すると、完全なデジタル麻雀である原村和の麻雀は地味にまた早い手が多いように映る。
しかし、それはデジタルの本質ではない。
デジタルとは場や手牌の状況から最も点数を稼ぐ確率の高い方法を選択するというものだ。
つまり、現在原村和が選んだスタイルは、彼女お得意のデジタルとは、ほど遠い、どこか歪なものになってしまっている。
目的のために、やむを得ないとはいえ貫き続けたスタイルを崩した結果―――。
「ロン 4000っす」
「なっ……!」
否定し続けたから見えなくなっているものもある。
天江衣への直撃。リーチありなのに無警戒での振込。
東横桃子のステルスが発動した結果だ。
直撃した天江衣以上に原村和の驚愕は大きい。
牌が見えないなんてありえない、そう思っていたからこそ彼女はそれ自体に何の対策もしなかった。
しかし、今まで彼女が「それ」を捉えられてられていた理由は、デジタルに徹しきっていたからこそ。
それをやめた今、彼女に東横桃子の牌が見える理由など存在しない。
彼女の「孤独」は、そこまで浅いものではないのだから。
「―――機械越しだとか、デジタルだとか。それぐらいで今の私は見つけられないっすよ」
独り言のように、東横桃子はつぶやいた。
「……おまえは、衣を黄壌へと送ろうというのだな」
その、感情を感じ取れない声を聞いて、今まで沈黙を守っていた天江衣が口を開く。
それと同時に現れる水底のような不自由な気配。
パリパリと音を立てて彼女から放たれるのは気迫。
世界最高峰という自負に負けぬ実力が迫力だけで伺える。
威風堂々と、天江衣は言葉を発した。
「だが、衣はまだ死ぬつもりはない。生かされたから、託されたから。それに死んでも命があるように」
少しだけ、口元に笑みを気丈にも浮かべて。
天江衣はまっすぐに対面を見つめた。
「だから、死ねない。
そして、衣は、もう誰にも目の前で死んでほしくない
ともだちが。ともだちになれたかも知れない人間が、いなくなってしまうことはとても悲しい。
そんな思いをすることも、他の輩に同様の思いをさせることも」
「……衣さん」
東三局の牌が配られる。
「―――でも、それと同じくらいに。誰にも誰かを殺して欲しくない。
だって、浅上は、後悔していたのだから。
ユーフェミアは、きっと殺したくなんてなかったのだろうから。
そんなことをしても、誰も幸せになんて慣れないと思うから」
膨れ上がる気配。
画面越しでさえ感じるほどの威圧。
東横桃子の「静」に対するならば、「動」。
息苦しさを感じさせる程の支配だった。
「故に緊褌一番に挑もう―――! 東横、お前を止める!」
「―――そうっすか」
想い人の仇が、殺人を悔いている。
そんな情報を聞いてすら、東横桃子は揺るがない。
「まあ、なんでもいいんすけど」
―――どうせ、全員殺すのだから。
† † †
- 854 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:06:40 ID:QcylVicw
-
【ホバーベース内・廊下 / アリー・アル・サーシェス】
おいおいおいおい。
マジかよ、あのガキ。
驚くしかねえ。体がまともに爆風に晒される。
「やたっ! 当たりましたよルルーシュさん!」
「……ああ、良くやった」
アイツ、投げつけた爆弾を空中で撃ち落としやがった。
そんなこと一朝一夕の訓練で出来る行為じゃねえんだぞ!
撃ちぬかれた爆弾は、当然衝撃によってその場で爆発する。
位置次第によっちゃ空中で爆発することは構わねえんだが、いくらなんでも俺までの距離が近すぎる!
飛び退いた瞬間に吹き荒れる爆風。ゴロゴロと転がって爆発の勢いを殺しながら考える。
今、歴戦の傭兵である俺を驚かせているのは、たった二人のガキと小僧。
特に、俺の感想からすれば、小賢しく指示を出してるイケメンの小僧よりもそれを忠実にこなせているフリフリのガキがやべえ。
空中で動くものを撃ち落としたという事実そのものに驚いてるわけじゃない。
それだけなら玄人でも難しいだろうが(そもそも拳銃は本来狙い撃てるような武器じゃねえ)、狙撃の天才なら不可能ではないだろう。
だが、あのガキはついさっきまで銃の持ち方すらあやふやだったぐらいのド素人だった。
演技や罠ってもんでもねえ。そこまで演技でやる必要はないだろうし、なにより俺の勘がそう言っている。
……ハハ。
つまりなんだ。
俺と闘いながら銃の撃ち方を学んで神業レベルまで到達したってこったか?
……面白くなってきやがった!
―――冗談じゃねえぞ。
「戦争屋舐めてんじゃねえ―――!」
「っ! ……あー、もう。危ないじゃないですか! 殺す!」
銃弾をばらまきながら後退する。
だが―――。
「――――」
銃弾はデカいカニに弾かれた。
ほとんど牽制にもなりゃしねえ!
「うっぜえ! 何だっつーんだ、そのワケの分からねえカニは!」
「何って……神様に決まってるしょうがっ!」
「ああ!? カニ様ぁ? ご生憎とご存知ねえなあ!」
そう、防戦に回ってる最大の理由がガキが乗ってるあのカニだ。
デカさと速度的にぶつかられたらほとんど致命傷だろうし、銃弾程度では一瞬ひるむ程度の効果しかない。
カニにいくら銃で攻撃したって無駄だろう。
丈夫な奴だ。
―――だが、銃弾を上のガキへの命中コースに撃った場合はどうだ?
カニは腕を上げてそれを防御するしか無くなる。
当然、目の前にださせた腕は視界を狭くする。
その状態で無理やりこっちに進ませりゃ、腕が目隠しになって―――。
俺の行動に気付けなくなる。
さあて、どうするかな、っとお!
「いっけ―――!」
「待て、憂! 止まれ!」
「え?」
「ちっ!」
カッ、と音が鳴り激しい爆風が巻き起こる。
俺が死角を狙って放った爆弾が爆発したのだ。
カニのわずか前で起こったそれは直撃すれば無人兵器を破壊できるほどの威力がある。
「ぎゃふっ! ……いったーい! もう!」
「憂、あまり前に出過ぎるなよ」
「わかりました! ブチ殺します!」
「だから、待て。……憂!」
だが、あの小僧が気づいて声をかけたせいでギリギリブレーキして致命傷は防ぎやがった。
つーか、大したダメージはなさそうだ。直撃でもねえと効きそうにもねえな……。
……カニってのは腹の方は薄そうだから、倒しとくにはいいタイミングだと思ったんだが。
……ま、それでも充分な衝撃を与えた。
この隙に全力で走れば振りきれるだろう。
今のうちにちょっと状況の立て直しを測りてえ……。
戦略的撤退といこう。
そう考えて、廊下の角を曲がる。
- 855 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:07:15 ID:QcylVicw
- 「誰だお前」
「…………」
そして、廊下の向こうに居た女に訝しげな表情でそう尋ねられた。
―――そういうお前は確か……名前は聞いてなかったか。
とにかく和服のネーちゃんと、デュオっつーガキが5メートルほど離れてそこにいた。
「バカ! 銃持ってるじゃねーか! さっき聞いた侵入者だ!」
なるほどな。こいつらもこのグループの一員ってわけだ。
しかも報連相も行き届いてるようで、俺のことは連絡済み。
やるじゃねえか。
……あの化物を相手にして生き残った二人と、追いかけてくるデカいカニ。
前門の虎、後門の狼てか?
さあ、どうする!?
決まってるだろ! 正面突破先手必勝ぉ!
まだこいつらの方が手の内はばれてねえ分やりようはあるしな!
立ち止まらずに思いっ切りよく突っ込んでいきながら爆弾を投擲。
数に限りはあるが惜しんじゃいられねえ。大盤振る舞いだ!
持ってきな!
「! 下がれ、式……! って、おい……!」
デュオって奴は戦い慣れてやがるのか。
爆弾と予測して後ろに距離をとりやがったが、女のほうはどうにもよく分かってねえみたいだった。
むしろそのままこっちに向かって歩いてくる。
間抜けが。直撃だ!
喰らえ。ドカン―――!
スパン。
と、そんな効果音が聞こえそうな気がした。
「「は―――?」」
アホ声のユニゾン。
デュオって野郎と俺の声が重なる。
―――嘘だろ。
爆弾をカタナで切りやがった。
まるで抵抗もないようにさっくりと。
いや、それはいい。
行動的にはおかしいけれど、物理的にありえないわけじゃない。ぎりぎり。
……だがよ、なんで爆発しねえんだ!?
「……ちっくしょう!」
何時までも呆然とはしていられねえ。
女まで残り2メートルってところ。
正直な話、今のを見てからじゃあまともに殺り合いたくはないんだが。
ここから方向転換して後ろに逃げようにも……。
「あ、式さん達! そいつ逃がさないでくださいよっ!」
後ろはあのイカれたガキとイケメンがいるし。
―――なにより、この女相手に背中を見せたくない。
……行くしかねえかな、接近戦っ!
- 856 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:07:47 ID:QcylVicw
-
一気に踏み込んで間合いへ。
当然向こうも黙ってはいない。
俺の動きに合わせるようにカウンター気味にカタナを繰り出してくる。
成長しきってない女の体。
徒手空拳に対しカタナ。
射程も速度も相手の方が早い。
近づきゃ不利なのは俺だ。
だが!
ここでいくぜ最後の最後の切り札ッ!
空気中に電流が流れる。火花が散る。
俺にしか認識出来ないほどの僅かな電流。
だが、これが紛れもない俺のワイルドカード。
小さな、されど今俺にできる最大の放電。
体内電流の操作による反射神経の鋭敏化。
つまりは、超速の―――カウンター!
「!」
それを持って神速の剣戟を―――避ける。
わずかに驚いたような顔を見せる女。
直接相対した奴にしか分からないかもしれない、けれど確かな反応速度の向上。
そして作りだしたこの一瞬の隙。
―――ボディががら空きだぜ。
貰った―――!
と、言いたいところだが。
俺は刀を掻い潜って、その女の脇を通り抜けた。
……撤退時に攻撃するなんて妙な色気を見せてる余裕はないんでな!
言われなくてもスタコラサッサだぜぇ!
デュオの奴も銃で足止めしてくるが、この反応速度なら全て躱すこともできる。
女の方を気にしてそこまで自由には撃ててないし、余裕余裕。
こっちも撃ち返して牽制しながら走り抜けた。
最後にちらりと後ろを向いたら、カニがブレーキをかけきれずに思いっきり突っ込んだらしい。
大慌てしていてなかなか愉快だった。
さぁて逃げる逃げる逃げるぜ。
しっかし。
……やっぱ群れてる奴らに一人じゃきつい。
体に慣れてねえこともあるし、あまり不用意に突っ込みたくはねえよなあ。
とはいえ偽名を名乗らざるを得ねえ俺では仲間は作り難いっつーのも問題だ。
やっぱもっと強力な武器を見つける、ってのが一番無難か?
―――ここらでちょいと、機動兵器のみやげぐらいは欲しいよな。
逃走のために走り続けながら、俺は格納庫の光景を思い出してた。
† † †
- 857 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:08:20 ID:QcylVicw
-
【ホバーベース内・廊下 / ルルーシュ・ランペルージ】
「やれやれ……」
戻ってきて早々に侵入者と偶発的に遭遇。
なし崩しに戦闘に入ったときはどうなることかと思ったが……なんとか引かせることが出来たか。
走っていった少女の背中が廊下の奥に消えてから俺、ルルーシュ・ランペルージは溜息をつく。
あちら側にしても不測の対面だったから良かったが、待伏されていればどうなったことやら……。
ホバーベースの損傷も機能的には大して問題はない上に、人的被害も小さい。
最小限の消耗で押さえられたと言い切ったっていいだろう。
先に桃子から侵入者の情報を得ていて警戒していたためとも言える。
しかし……。
「……もう、逃げられちゃったじゃないですか!」
「悪い。けど、あんま乱射しても式に当たりそうだったからな。多少よけられやすくても足元狙うしかなかったんだよ」
「―――お前が蟹で突っ込んでこなかったら、追撃できてたかもしれないけどな」
「む……」
ぐちゃぐちゃに蟹やら荷物やらをぶちまけた憂と式、デュオの会話。
式の言葉に憂は不満げな顔を見せるが、反論はしない。
黒の騎士団の仲間というわけではないから自重しているのだろう。
……まあ、それぐらいの空気は読める。
「やめとけって式。あ、それよりお前、爆弾切ってたよな。あんなことも出来たのか?」
「ん……? ああ、出来るみたいだな。成功してよかったよ」
「おい」
「それより」
両儀式が俺の方に歩いてくる。
相変わらず何を考えているのかわかりにくい顔だ。
「秋山はどうした?」
秋山澪。
彼女は現在ここにはいない―――。というより、先程の戦闘にも途中から参加していない。
後半こそこちらが押していたが、当初憂が蟹をデイパックから引っ張り出すまではむしろ押されていた。
そんなときに爆弾を始めて受け、左右に飛び退いて分かれる。追撃をやり過ごしている間にはぐれた。
それ以来合流出来ていない。……このホバーベースはそれほどに広いというわけでもないのに。
侵入者の少女は終始俺たちと戦っていたから、既に殺されているということはないだろう。
……侵入者がもう一人いるなんてことがなければ。
―――まあ、桃子の話を信じるならば、それはないだろう。
そんなところを、問題の無さそうなところだけ掻い摘んで話した。
「へえ……。じゃあ、やっぱりあれは秋山だったのかもな」
「どういうことです?」
俺の返事には答えずふいと後ろを向かれる。
―――どうにも好かれていないようだ。
鋭いようだし、俺の本性に薄々気づいているのかも知れないな。
彼女の能力は把握しきっていないことだし、あまり目の前で不用意なことはしたくない。
「―――秋山を探しに行ってくる」
「ちょ、待てよ、式」
自分の調子を崩さない彼女に、デュオは未だペースを崩され続けのようだ。
少々共感する。まとめ役は苦労させられるものだよな。
……後で時間が出来たときにでも色々と聞いてみようか。
- 858 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:08:58 ID:QcylVicw
-
「構いませんよ、式。さっきの侵入者と澪が一対一で遭遇してしまう可能性を考えれば、むしろこちらからお願いしたいぐらいです。
……ただ、デュオ。お前は残ってくれないか? こっちも半分怪我人の俺と憂だけじゃさっきの侵入者がもう一度襲いかかってきたときに対応しきれるか分からないんだ」
これは本音だ。
デュオと少し会話を楽しみたいという俺の個人的な意見も混じっているが、な。
「俺はいいけど……式は一人で大丈夫か?」
「ああ、あいつぐらいなら次からはオレ一人で勝てるよ」
誇張を感じさせない少女の意見。
平然としたその顔で言う言葉に嘘が混じってるとは思えない。
少し心配そうにしていたデュオだが、その言葉に折れて頷いた。
「分かった……。だけど、秋山を見つけたらすぐに連れて帰ってこいよ」
「―――お前はオレの保護者なのか? 行ってくる」
「ああ、俺達は制御室にいますので、戻るときはそこまで」
呆れたような顔をして返事をし、走っていく式。
とはいえ、言葉ほど嫌そうには見えなかった。
やはりデュオを信頼しているのだろう。
―――なんだ。意外と読めるものだな、彼女の表情も。
「さてと、式が戻ってくるまで俺達はどうするんだ?」
「先程も言ったとおり、まず制御室に行こう。そこを侵入者に掌握されたら厄介なことになってしまうしな。
……分かったか、憂?」
「はい、ルルーシュさん!」
廊下に散らばった蟹と荷物を片付けながら憂が返事をする。
会話に割り込めそうになかったから片付けをしていたようだった。
……そのくらいの空気は読む。一応。
「……それと。デュオ」
「……ん、なんだ?」
制御室に行こうと若干の警戒を残しながら歩き始めたデュオの横に並んで、話しかける。
「俺の言うことを疑わないで聞いてくれるか?」
「ああ……分かった。なんだよ」
こちらを向いたデュオの瞳を俺は見つめる。
真剣な表情を作り、他の誰にも聞こえないように俺は言った。
「この艦内に……もう一人侵入者が居るかも知れない」
―――さて、桃子。
お前はどうする?
† † †
- 859 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:09:18 ID:QcylVicw
-
【???・麻雀大会 / ???】
天江衣の支配。
同世代最強クラスとまで言われる絶大にして強大なその能力は、
解放すれば、『対戦相手は手が揃わなくなる』。
役が、ろくにできなくなる。
それと対称的に天江衣にはよき牌が揃う。
一言で言うならば、確率を操作している、といったところだろうか。
まさに反則とすら言ってもいい能力。
本人が人間の域を逸脱したと自称するのも理解出来ない話ではなかった。
無論、破る方法が皆無というわけではない。
宮永咲ならば、いつかやってみせたように、それ以上の運命操作とでも言うべき力で乗り越えるかも知れない。
原村和なら、そんなオカルトありえませんとでも言いながら、無効化することが出来るのかも知れない。
だが―――。
「流局、だな」
「…………」
「無味乾燥だと、思うか? 衣とて本意ではない。常に全員に役にならない牌を配り、流局にし続けるというのは」
現在、麻雀大会は南二局が終了。
東横桃子が和了った東二局以来、ここまで四局全て、流局という結果に終わっている。
衣の能力で場を支配。
そして、東横以外はベタオリときては、それも致し方ないことだろう。
無敵とも思えるステルス。
誰にも発見されず、影響されず。
リーチ牌どころか捨て牌すら見えずに危険牌の判断すら不可能というその能力は確かに絶大だ。
本来ならば、今の東横桃子相手にはベタオリすら出来ない。
だが、彼女には圧倒的に欠けているものがある。
それは、場の支配を覆す力。
対人相手に完膚無きまでの力を持つ彼女だが、運命や確率については完全に門外漢。
天江衣に抗う術などはないのだ。もしも天江衣が東横桃子を殺すつもりならとっくに達成されていただろうほどに。
……ここまでお膳立てを整えたが、つまらない勝負になりそうだな。
画面を見つめながら、私はそんなことを思う。
「はは。……正直お手上げっすよ。そんなことされたら」
「諦念に至ったか?」
「まさか」
ステルスの精度を気にしてか今まで殆ど口を開かなかった東横桃子が返事する。
最早そんな行為は無意味だと悟ったか。
「あなたこそ、どうなんすか。わざわざ大会に参加したってことは、ペリカを稼ぎたいんすよね?
……このまま流局続けるなら手持ちのペリカが減るだけっすよ? いいんすか?」
「―――衣に取って麻雀とは自分の全てだと言ってもいい」
「は?」
「衣は、幼年の頃に父母を亡くして以来、ずっと一人だった」
南三局開始。
一手十秒という縛りがあるので手を進めながらも、突然に語り始めた衣に不思議そうな顔を見せる東横桃子。
「衣のことを誰もが遠巻きにした。……衣も、無理に関わろうとはしなかった。
だから誰も、いなかった。衣は一人だった」
「…………」
「でも。麻雀が出会わせてくれた。気づかせてくれた。龍門渕のみんなや、ここにいるはらむらののか、清澄の嶺上使い。
ここに来てからも、麻雀で仲良くなれたものもいる。―――麻雀が衣に家族を、ともだちをくれた」
龍門渕透華や伊藤カイジのことを思い出しているのか。
目に涙を浮かべながらも、衣は東横桃子を見据えて言う。
「―――でも、奪われた。とーかもカイジも死んでしまった! とても悲しくて、辛くて……だから。
だから、衣は嫌なんだ。絶対に、麻雀をそんなことのために使ってほしくないんだ……。
衣に友を与えてくれた麻雀を、人殺しの道具にはしてほしくない」
「……そう、だよ」
目に涙を溜めながら、宮永咲が口を開いた。
それほど積極的な正確とは言えない彼女が。
人殺しになってしまった彼女に向けて言葉を送る。
- 860 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:10:09 ID:QcylVicw
-
「私、あまり麻雀が好きじゃなかった。昔嫌なことがあって純粋に麻雀を楽しむことが出来なかった。
だけど、清澄に入って皆と会って……今は麻雀が好き。それなのに、こんなの、やだよ……。
ねえ、東横さん、やめよう? ……だ、だって。一緒に合宿して麻雀して……東横さんも楽しそうだったよ。だから……」
そのまま、涙を溢れさせる宮永咲。続きはもう言葉になっていなかった。
思えば気丈に振舞っていたものだ。
何も判らないままに拉致され殺人麻雀に参加させられ、殴られて。
心細かっただろう。辛かっただろう。頼りたかっただろう。
本当ならば顔を見た瞬間に友人にすがりつきたかっただろうに。
ことの重大さを考えて我慢していたのだろう。
―――ああ、悪くない。
「―――東横さん。私は、ずっとこの殺し合いがどうなっているのかを見ていました」
宮永咲の後をつなぐ様に、原村和が話し出す。
全てを見ていた、見ていることしか出来なかった少女は。
いったい何を告げるのか。
「……だから、あなたが殺し合いに乗った理由も分かっているつもりです。
加治木さん。彼女を生き返らせるため、ですよね……。
気持ちは、きっと理解出来ている。私だって、私だって多くの人を見殺しにしたようなものだし。
咲さんが同じ目にあったと思うと……もっと積極的な手段に出ていたかも知れない」
「のどか、ちゃん……」
「……でも、だけど。やっぱり、駄目です。だって、そんなこときっと咲さんは望まない。
たくさんの人を犠牲にしてまで自分が生き返ったって。……加治木さんも、高潔な人でした。
あの人だって、そんなことを望んだりは、きっとしません。あなたは、それでも……」
彼女は多くの人間の死を見ていた。
運営側でありながら、脅迫されての協力という特殊な立場。
最愛の少女を目の前にして、仕方ないのだと言い訳をしながらも犠牲を重ねてきた彼女は、言葉を紡ぐ。
「それでも、人を殺すんですか?」
彼女なりに迷ってたどり着いた。
宮永咲自身の姿を直接見て、決意したのか。
今まで迷っていた部分を、しっかりと見据える。
誰かを犠牲にして、誰かを助けるべきじゃない。
その答えに、たどり着いたか。
「―――そうっすね」
黙って聞いていた東横桃子が口を開いた。
「麻雀が、私と先輩を出会わせてくれた。麻雀があるから、鶴賀のみんなといられた。
……合宿も、楽しかったっす。麻雀をするのも……」
「だったら、やめましょう……?」
説得できるか。
そう思ったのか、希望を込めて原村和が声をかける。
「でも」
―――もう、いらない。
「え……?」
「―――東横さ……。?!」
爆音が鳴り響き画面が揺れる。
映し出される部屋の一つが曇り、もうもうと背後で煙が立っている。
「な。……いったい何が!?」
さらに続けて巻き起こる爆音。
視界の悪くなったウィンドウの端に、頭から血を流して倒れる少女の姿が写っていた。
† † †
- 861 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:11:33 ID:QcylVicw
-
サザーランドが弾鉄を引く。
発射されるのは大型キャノンの弾丸。
実際に撃つのは始めてだけど、思った以上に簡単だ。
目標をセンターに入れてスイッチ。
それだけで、目標に命中して爆発する。
二発、三発と続けてスイッチを押す。
それだけで、燃える、爆発していく。消えていく。
命が失われていく。
だけど、あの時と違って、少しも心には響かない。
自分の手で弾鉄を引いてるわけじゃないからか。
相手の姿を認識していないためか。
殺しているという、実感がわかない。
燃え盛る希望の船エスポワールを見つめながら、私はそんなことを考えた。
【ギャンブル船前 / 秋山澪】
モモに頼まれたこと。
それはギャンブル船の直接襲撃。
モモはこれから麻雀で対決をすると言っていた。
その相手一人がギャンブル船にいるとのこと。
とても強い相手なので、恐らく真っ当には勝てない……いや、負ける可能性のほうが高い。
そうすれば―――最悪モモが死亡。相手に大量のペリカが渡ることとなる。
もしも大量のペリカをギャンブル船で稼がれてしまったら?
今の私の数少ない有意であるサザーランドの所持というアドバンテージが失われてしまう。
機動兵器対機動兵器の戦いになってしまえば、私なんてただの素人女子高生にすぎない。
生身を相手にする今動くしか無いのだと、そう言われた。
ギャンブル船を攻撃してもペナルティはないのか不安だったけれど。
恐らく外からの攻撃ならペナルティはないだろう。
行為に対してペナルティが与えられると明言されなかった限り、少なくとも即座に首輪が爆破されるようなことはありえない。
説明していないルールで参加者が事故死だなんてゲームとしてはお粗末もいいところだからだ。
だから、心配せずに直接攻撃して欲しい。
それに前から言われていたことだけど、ギャンブル中って言うのは隙が大きい。
命がけであるならなおさらだ。ほかの事に気を配れなくなってしまうのだから。
そこを直接襲撃すれば一溜まりもないだろう。
―――言われていることはよく分かった。
なかなか合理的だとは思う。
麻雀にかかる時間がどれほどなのかは知らないけれど。
サザーランドの速度なら恐らく麻雀中に襲撃も出来るはず。
仕留めることが出来るだろう。
……しかし、何故私にだけ、秘密の同盟相手にだけ言うのか?
こんなことぐらい、ルルーシュにも発案して憂ちゃんも一緒に行かせてもらえば……。
『一人じゃ不安っすか?』
「……そ、そんなことない」
嘘だ。
怖くてたまらない。
『はは。でも悪いけど一人でお願いするっすよ』
感情を感じさせない笑い声をあげながら、モモが言った。
- 862 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:11:57 ID:QcylVicw
-
「ど、どうして?」
『……簡単に言うと。そろそろ切り捨てられそうなんすよね、私』
「……え?」
少し聞けば分かるようにモモの置かれた状況はとても厳しいものだ。
ルルーシュの命令で、とても勝ち目のない戦いに繰り出されている。
加えて、与えられたのは最低限以下の策。不完全な希望的予測の混じったものしか与えられていない。
……確かにこれではここで始末してしまおうというルルーシュの意思を感じざるを得ない。
しかし、ここまで来て急に何故なのか?
『―――そりゃあ、澪さんと秘密に組んでることを感づかれちゃったからじゃないっすかね?』
「――――――え、あ、そんな……まさか……?」
一気に気温が下がったような気がする。
ぞくっと、背中が震えた。
ルルーシュが頭がいいのはわかってるけど、そんな、まさか。
『……ルルさんに鎌かけられたりしなかったっすか?』
「!」
した。
ついさっきだ。
裏切るんじゃないと、念を押された感じではあったが。
『あー、やっぱりっすか。じゃあ、早めに行動したほうがよさそうっすね。今なら多分すぐ裏切るとは思ってないでしょうし』
「……裏切りに、なるのかな? これをやっただけならまだ言い訳は……」
『んー。多分ルルさん優勝する気なさそうなんすよね』
「は……?」
『だから、敵が増えるこの選択肢は嫌がるんじゃ……』
「え、ちょ、ちょっと待って? どういうこと?」
ふと。
モモのペースに飲まれていることを悟る。
だけど。もう戻れない。
『細かいことは後で言うっすよ。とにかく、頼めないっすかね? ……私が、私たちが切り捨てられるその前に』
「―――分かったよ」
そして、侵入者の少女の襲撃時にわざとはぐれてから、格納庫に行ってサザーランドで出撃。
エスポワールまでやってきて今に至る。
……はぐれるのはやけに簡単だったな。
まるで、そうするために生まれてきたのかと思うぐらいに、自然に体が動いた。
―――起源「逃避」、か。
私は……。
- 863 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:12:21 ID:QcylVicw
- いや、今はいい。
難しいことは考えなくてもいい。
考えてばかりじゃ……一歩も動けなくなる。
目的に向かって進もう。
そう思って反転してホバーベースに引き返すことにする。
別にギャンブルをしている奴の生死を確認する必要はないそうだ。
船を無理に沈めなくてもいい。ギャンブルルーム周辺を適当に攻撃してくれたら。
そう、言っていた。要は麻雀が続けられないならそれでいいらしい。
むしろ半死半生の方がペリカを稼ぐチャンスが多いとも。
……どういうことなのだろう。
ここの特別ルール以前に普通の麻雀すらわからない私には理解の範囲外だ。
とりあえず、三回撃ったぐらいではエスポワールは沈んでいない。
ギャンブルルームのある二階が中心に煙をあげている。
……完全に沈めることもできそうだけど、やめておく。
これからも何か買ったりするかもしれないし。
モモ曰く加減が大切らしいし。
……上手く行けば、まだルルーシュにばれないかもしれない。
完全に裏切る覚悟はした。敵対する覚悟もしている。
でも、裏切りの発覚なんて遅いほうがいいに決まっているのだから。
ばれてそうならモモも連れて逃げることになっている。
その場合、モモと二人でこれからは戦わなくてはならない。
……なんとなく不安だ。
式は……仲間にはなってくれないだろうか?
彼女のことは未だよく分からないけれど。
もしも助けてくれるなら心強いと思う。
それに、憂ちゃん。
唯が助けたあの子。
あの子だってなんとか……いや。
また、考え込んでいる。
今、生き残ることだけに集中しなくちゃいけない。
最後まで生き延びて、ぜんぶ、ぜんぶ取り戻す為に。
最後に、エスポワールを少しだけ眺める。
―――ここに始めて来た頃は、まだ、希望があった。
希望の船。そう、ここは確かに私の希望だった。
衛宮士郎と、白井黒子と出会い、みんなと一緒に帰るために。
ここに、来たんだ。
その船が、燃えている。
私が、燃やした。
希望が、燃えていく。
私の、綺麗だった頃の私の希望が。
……はは。
―――希望なんて最初からなかった。
あったのは、絶望。
希望を感じたのはここからなら。
絶望を覚えたのもここからだ。
梓が死んだと聞いたのもここ。
明智光秀と同行することになったのも、ここ。
絶望の船エスポワール。
……私の希望も、絶望も。
ここで、みんな燃えていけ。
過去を何時までも想ったって仕方ない。
私は未来が欲しかった。
「―――ギャンブル船が……! くそ、黒子は、天江は無事か?!
……っ、おい、お前がやったのか!?」
その時、突然マイクが声を拾った。
……聞き覚えのある声だ。
それは、今、切り捨てたはずの―――。
『……衛宮、くん?』
「―――え? その声、秋山、か?」
―――正義の味方なんて、いない。
† † †
- 864 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:13:15 ID:QcylVicw
-
――――――それで、リボンズ。ゲームってなにかしら?
――――――おや、興味があるのかい?
――――――はいはい。付き合ってあげるわよ。
――――――なに、簡単なことさ。このバトルロワイアルで優勝する奴は誰か当てようって言うね。
――――――……そんなの全然平等じゃないわ。私は誰が生き残ってるか程度の情報しか知らないのよ?
――――――別に僕に有利ならそれでいいじゃないか。
――――――やめるわよ?
――――――…………冗談だよ。別に何を賭けるわけでもないんだから、誰に優勝して欲しいかでいいのさ、イリヤスフィール。
――――――……じゃあ、私はシロウを選ぶわ。
――――――へえ? 愛しの彼かい? 妬けるね。
――――――別に。汚染されていない今の聖杯に、シロウが何を願うのか。少しだけ、聞いてみたいだけよ。
† † †
- 865 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:13:35 ID:QcylVicw
-
「そんな……天江さん!?」
「なに……!? なんなの、これ?!」
「ん。思ったより遅かったっすね。流局作戦で長引いてなかったら駄目だったんじゃないっすか」
突然に乱れる天江衣の映っていた画面。
轟音と爆音。
そして、倒れる天江衣の姿。
まあ、間に合ったからよしとするっすか。
口調も軽く。東横桃子はそう告げた。
「東横さん……? 今のは、あなたが……?!」
「え? ああ、そうっすよ。正確には私の仲間が、っすけど」
優勝までひとりって言うのは辛いっすからね。
まあ、利用しあう関係って奴っすよ。
世間話をするような口調で、続ける。
「―――そんな、酷い。……酷い、酷い酷すぎます! 麻雀を殺し合いの道具に使うだけでもあんまりなのに!
なのに、それすら放棄するなんて! 勝てないから直接攻撃するなんて……!?
あ、あなたは麻雀をなんだと……っ?!」
「だから。いらない、っていったじゃないっすか。もう、いらない。先輩を取り戻すまでは、私には麻雀だって必要ない。
―――あ、それロンっす。」
「っ!?」
東家 原村和 :27000
南家 宮永咲 :23000
西家 東横桃子:31600 (親)
北家 天江衣 :18400
そして、麻雀は、続いている。
たとえ操作をしまいが、時間制限である一手十秒を超えれば自動的に場に手牌からランダムで牌が捨てられ、勝負は続行されるからだ。
しかし、これは当然参加者が全員生存している場合に限られる。
誰かが死亡しているのに勝負が続行されたりはしない。
その場合は即座に持ち点から勝ち分負け分が算出される。
普通の麻雀で一人が飛んだ場合と扱いは同じとなっている。
つまり……。
「天江さんは……まだ、生きている?」
「場の支配がなくなってるみたいだから、意識はないみたいっすけどね」
まあ、心配しなくても大丈夫。
すぐにトドメを刺すっすよ。―――ちゃんと、『麻雀』で。
まだ、ゲームは続行される。
天江衣の所持ペリカは2500万ペリカ。失点は6600点。
レートは五倍になっているので、この時点で800mlの採血が決定している。
ただでさえ小さい天江衣の体。その上、現在は怪我により出血中である。
今でさえ限界に近い。これ以上失点すれば、死亡も十分視野に入るものとなるだろう。
「東横さん……! そんな、こんなことまでして、生き返ったとしても本当に加治木さんが喜ぶとでも思ってるんですか!?」
怒りを伴った原村和に相対する東横桃子の視線。
それはほとんど表情の見えないものであることに変わりはなかったが―――。
「―――さあ。分からないっすよ、そんなこと」
「東横、さん?」
- 866 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:14:13 ID:QcylVicw
-
答えた東横桃子の瞳は。
少しだけ、喜悦の色を浮かべているように見えた。
「私、まだ先輩に本気で怒られたことがない。先輩に泣かれちゃったこともない。私は、先輩のことをちゃんと知らない。
だって、きっと私たち、まだまだこれからだったんすから」
加治木ゆみのことを話す瞬間だけ。
東横桃子に感情が浮かぶ。
「生き返らせることが出来たなら。先輩はどんな顔をするんすかね。喜んでくれる? それとも、怒る? 悲しむ?
―――もしかしたら、こんな私のことになんて、もう気づいてくれないかもしれない。
見えないかもしれない。受け入れてくれないかもしれない。触れてくれないかもしれない。
……でも、それでもいい。どうなるとしても、死んでいるよりずっといい。生きていてくれるなら、他はなんでもいい。
―――たとえ私が先輩の一番となりに並ぶ資格がなくたって」
だって、私。先輩のこと愛しちゃってるので。
たんたんと続けられる言葉。
それはいったい誰に向けられたものなのか。
少なくとも、原村和でも宮永咲でもないのだろう。
独り言のように、だけれども、誰か語りかける相手を求めているかのように聞こえる言葉は続けられる。
「―――でも、出来る事なら。私のことをちゃんと見てくれて。いっぱいいっぱい叱ってくれたら……嬉しいっす」
そう、最後に笑った顔は本当に。
恋する乙女の顔としか表現の仕様がなかった。
胸を刃物で混ぜ返されるような。
私は人生でそう何度も感じたことのない感覚を抱く。
―――ああ、そうか。これが、本当の……。
「そんな……そんなの、愛じゃないよ!」
いいや、それは違う。宮永咲。
―――私、言峰綺礼が神の代行者として宣言しよう。
そう。これこそが、真の愛なのだ。
【???・麻雀大会 / 言峰綺礼】
† † †
- 867 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:14:38 ID:QcylVicw
-
【ギャンブル船・ギャンブルルーム前 / 浅上藤乃】
「う…………」
いったい、何が起きたのだろうか。
体が硬い床に触れているのを感じる。
私……倒れてる?
気を失う寸前の記憶に思いを馳せる。
あのとき、ギャンブルを再び行うという衣さんを守るために、私がギャンブルルーム前の扉にいて。
それで……千里眼で周囲を伺っていたら、あのロボットがやってきて。
どうするべきか対応に迷っていると……攻撃、してきて……!
「天江さんっ!?」
靄のかかっていたような頭が急に晴れ渡る。
天江衣。守ると誓った彼女。
優しくて強い彼女。
彼女は―――どうなった!?
無理に体を起こして周囲を見る。
滅茶苦茶だった。
燃え盛る炎。それを消すべくスプリンクラーから放出される水。
壁にあいた大穴。落下したシャンデリア。
自分の体に目立った外傷がないことが奇跡のように思えた。
叫びだしたくなる心を抑えながら、ギャンブルルームへの扉を開ける。
そこにあるのは扉の外よりも遥かにひどい光景。
少し前まであれほど絢爛な空気を放っていたとは思えない。
教科書やニュースでしか見たことのない、戦場を思わせる景色。
ここの方が酷いということは、ギャンブルルームを狙われた……?
天江さん……! 天江さんはこの中に……!?
天江さんを最後に見たときに座っていた場所へと視線を移す。
中央にある最も大きな机。そこに設置されたモニターの前。
そこに、見覚えのある小さな体が、横たわっていた。
「天江さん……? あ、天江さんっ!」
もう、ろくな言葉が出てこない。
脈拍が激しくなる。息苦しくなる。
もつれる脚をなんとか動かして天江さんの元へと駆け寄り―――。
「―――待て、浅上藤乃。天江衣に触るな」
その手をとろうとしたところで、黒服の人に呼び止められた。
まったくの不意打ちに少しびっくりする。
だけど、ひるんではいられない。睨みつけて言い返す。
「……な、なにを言ってるんですか! 早くしないと天江さんが……そ、それともこのまま死ねって……!?」
「……違う。落ち着け。天江衣は現在麻雀の対局中だ。接触をした場合、ルール違反としてお前も天江衣も首輪を爆破されることとなる。
それは本意じゃないだろう?」
「あ……」
見れば、未だ天江さんの前に表示された画面は動いている。
ゲームは続行中というわけだ。
もし触ればルール違反。ゲーム中の治療行為は勿論禁止。
……危ないところだった。
「……あの、すみませんでした」
「構わんよ。俺もそんなつまらない勝負の着き方では上に怒られてしまうからな」
- 868 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:15:12 ID:QcylVicw
-
ふう、と息を吐きながらその人は言う。
よっぽど緊張していたのか。体は震えている。
……私みたいな殺人者を止めなければならなかったんだから、怖いのは当たり前かもしれない。
よく見ると彼も肩辺りの服が裂け血を流していた。
仕事とはいえ、自分も怪我して、怖がりながら注意してくれたのか。
「……ありがとうございます」
「はあ、もうそれはいい。―――それより、天江はこのままだとまずい状態だな」
「そ、そうなんですか?!」
その人が麻雀のわからない私のために解説してくれたところによると、天江さんはこのままでは所持ペリカ以上の負けをして、血液を奪われてしまうことになるらしい。
さらに、加えてこの出血。これ以上の失点は命に関わる。
「……わ、私が守れなかったから……?」
こうなる前には、天江さんは有利な状況だったようだ。
詳しく聞いたところでルールは分からないけれど。
でも、純粋に麻雀勝負なら、少なくとも命を失ったり擦る可能性は、万に一つも無いほどに。
つまり、あの攻撃を事前に防げてさえいれば。
こんなことにならずに済んでいた―――?
そんな―――。
……私の、せいだ。
何の役にもたてていない。
せっかく、天江さんが手を伸ばしてくれたのに。
白井さんが、信じてくれたのに。
歪曲の力を使うのを迷ったから。
傷つけることを、恐れてしまったから。
自分可愛さに、躊躇いを覚えたから。
―――天江さんが、傷ついている。
死にそうになっている。
やはり、私の能力は、人を殺すためにしか使えないのだろうか。
こんな私には、誰を守る資格も能力もないのだろうか。
視界が、曇る。
涙が、溢れてくる。
―――ああ、また私の前で人が死ぬ。
嫌だ。お願い。死なないで。
助けて、誰か―――。
「―――泣くな、浅上」
はっとして顔を上げる。
真っ直ぐな声だった。
普段の子どもらしい声とは違う。
縋りたくなるような声だった。
「……衣は、まだ生きている。勝負は、まだ終わっていない!
だから―――。泣かないで、衣を信じて見ていてくれ」
「……はいっ」
私の返事を聞きながら。
その服を緋色に染め、燃え盛る炎を背景に天江さんは不敵に笑った。
† † †
- 869 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:15:41 ID:QcylVicw
-
【遺跡内部→ギャンブル船前 / 衛宮士郎】
「―――もう、大丈夫だから。行こう、衛宮くん。白井さんのことが心配なんでしょう?」
「だけど、福路はさっきまで倒れてたんだ。もっと休んだほうがいいんじゃ―――」
「30分ぐらいは休ませてもらったから、私は平気」
「福路美穂子については私も補佐をしよう。―――衛宮士郎。本来の目的を忘れるな。誰を救うべきなのか、履き違えるな」
「―――っ。分かってるさ」
蒼崎により施された処置により、俺の命は助かった。
福路との魔術的なパスが接続されたことで、彼女の持つ魔力を俺が引き出して使えるようになった……らしい。
ただそれだけでない、なにやら奇妙な感覚がある。
福路に言わせれば、それは『この世全ての悪』、らしい。
『悪』
それは『正義』を望む俺にとっては正反対の概念だ。
本音を言えば忌避的な……いや、もっと単純に気持ち悪いものを感じる、といったほうがいいかも知れない。
だが、それで生きながらえていることも事実。
福路が『悪』が流れこむことを抑えてくれていることもあり、今、この瞬間俺の思考がおかしくなっている様子もない。
突然浮かび上がった令呪や、奇妙なあの夢は気にかかるけれども。
それよりも優先すべきこともある。
確かに蒼崎や福路の言うとおり助けるべき奴が他にもいるのだ。
休むことや令呪に付いて調べることなら、合流してからでも可能だろうし。
今はなにより先に進むべきだ。
そうだ。今、黒子のグループには女の子しかいないらしい。
そんな状態で放っていくわけにはいかない。
俺の調子はともかく福路は大丈夫なのか、気になりはしたのだけれども。
結局押し切られるようにして、俺達はギャンブル船に向かって出発した。
そうして辿りついたギャンブル船は―――燃えていた。
「これは……!」
「―――襲撃があったと考えるべきだろうな」
「あれは、ロボット……?」
夜空を赤く染める炎、高く上がる煙。
戦闘行為は禁止されているんじゃなかったのか!?
黒子は……? 天江は……どうなった?
動揺する俺に対して続けられた言葉。
両の目を見開いた福路に反応してよく見ると、4メートル程の大きさの人間型のロボットが、いた。
肩から重火器らしきものを抱えたそいつ。
明らかに、この惨状の原因だ。
「―――あいつがこれを……?! っ、福路はここに居てくれ、蒼崎は福路を頼む!」
「待って、衛宮くん! 何を……!」
「これをやったのがあいつだって言うんなら……あいつを、倒してくる! ―――そうでなくても、話を聞きたい。
危ないかもしれないから、ここで待っていてくれ!」
そう告げて、全力で走りだす。
背後から俺を呼び止める声が響くけれど、そんな場合じゃない。
あいつを……許せない。体が、止まらない。
ペリカで購入したのだろうか。
今なおギャンブル船の前に立つような機動兵器に対抗できる人間は、恐らくそれほど多くないだろう。
体の大きさだけでもそうだし、なにより武器としての質が―――格が違う。
あいつが少し武器を振り回すだけで、一般人ならば、為す術も無く殺されてしまうだろう。
だったら魔術師である俺なら、なんとかなるかといえば……実のところ、難しいかもしれない。
だけど、今回だけの話じゃないんだ。
あいつを見逃せばこれからも力を持たない奴が犠牲になるかも知れないんだ。
そして、なにより俺は―――純粋に、あいつに対して怒りを覚えている。
だから、俺がここであいつを―――止めてやる!
ロボットにまで駆け寄りながら、ギャンブル船を横目に見る。
―――実際に近づいて見てみると、ギャンブル船の損傷具合は痛々しいほどだった。
絢爛豪華な大型客船といった様子は最早なく、戦争に巻き込まれた悲劇の船、という向上が似合いそうに見える。
始めて三人でこの船見たときのことを少し思い出して、感傷的な気分になった。
黒子は、天江は無事なのか……?
怒りと焦りを込めながら、俺はそのロボットに向かって叫ぶ。
「―――ギャンブル船が……! くそ、黒子は、天江は無事か?!
……っ、おい、お前がやったのか!?」
ロボットに向けて叫びながら、ふと思う。
どんな返事が帰ってくるのだろう、と。
信長のように、さっき出会った戦争屋の少女のように。
馬鹿にしたような笑い声でも上げるのではないだろうか。
俺をいらだたせるような戦闘狂が、こんなことをしているに違いないと。
そんなことを予想した。
- 870 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:16:16 ID:QcylVicw
-
でも、帰ってきたのは。
聞き覚えのある、心細そうなただの一人の女の子の声だった。
『……衛宮、くん?』
「―――え? その声、秋山、か?」
すっ、と。
体の中で熱くたぎっていたものが、氷を突っ込まれたみたいに冷めるのを感じた。
自分の耳が信じられない。
だって秋山は。
怖がりで、友達思いで、人の事を傷つけられるような奴じゃなくて。
俺が、探して守ってやらないといけない子の一人で。
それが―――どうして、こんなところで―――。
―――こんなことを、しているんだ?
「なんで……秋山……? お前が、こんなこと……。! 誰かに無理強いされているのか!?」
『―――違う』
俺が思いついたことを即座に否定する秋山。
じゃあ、何故……?
分からなくなる。
『―――衛宮くんたちと別れてからさ、色々、あったんだ。
律と、会えた。ムギと、会えた。唯と、会えたんだ。
会いたかった皆と、私はちゃんと会うことが出来た』
彼女の口から出るのは、あのとき聞いた友人たちの名前。
そうか、再会できたのか。よかった。
彼女と始めて会った時の様子を思い出して、一瞬だけ状況を忘れて喜びそうになる。
だが、待て。
確か。彼女の友人たちの名前は―――
『―――みんな、みんな私の目の前で死んでいったよ』
―――放送で、一人残らず名前を呼ばれていた。
『律は、いつも自分勝手なくせに最後の最期まで私のことを心配してた。
ムギは、ホントは誰よりも優しいのに、狂わされて私たちを殺そうとしてきた。
唯は―――最後までいつもの唯のままで、それで、妹のことを守って死んだ』
言葉が、続かない。
何を言えばいいのか分からない。
俺は、彼女に最初になんと言った。
誰も死なせやしない。
絶対に友達と再会させてやると。
そう言ったのではなかったか。
俺は、今まで、何をしていた―――?
『―――正義の味方なんてさ。いないんだ。誰も助けてなんてくれない。
自分でなんとかするしかないんだ。―――どんなことをしても。どんな目にあっても!』
泣き声が、あたりに響く。
思えば秋山は出会った頃からずっと泣いていた。
そんな彼女を助けなければと、そう思った。
それなのに、俺は―――。
『だから―――私がみんなを取り戻すために』
俺は―――?
『―――死ね、衛宮士郎』
- 871 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:16:38 ID:QcylVicw
- 涙混じりの声の後。
キャノン砲の銃口が俺に向けられる。
明らかに対人相手を想定されていないその武器。
致死を遥かに超えた威力を持っているのだろう。
だけれども、それを理解していながらも、俺はそれに反応することが出来ない。
秋山の言葉が心に響く。
俺は、秋山を守ってやるべきだったんじゃないのか。
俺はもっと、こいつにしてやるべきだったんじゃないのか。
俺が今からでも。こいつに出来ることはないのか。
―――俺は、こいつに殺されてやるべきなのか?
迷いが生まれる。生じた隙は素人の秋山にすら捉えられるほど大きなものだった。
やっと我に帰った俺の直前。
発射された銃弾は、確かにこっちに向かって直進していた。
「駄目っ!!」
突如として目の前に黒い泥が現れ、砲弾を包みこむ。
だが、それだけで大口径の砲弾は勢いは止まらない。
わずかに遅くなった程度でこちらに向かって進み続ける。
そこを思い切り飛び込んできた影に担がれて、俺は着弾範囲から逸れたようだ。
爆発。同時に響く轟音。激風。
今まで立っていた場所が熱で赤くなっているのが分かる。
「―――なにやってるの、衛宮くん!」
「福路……」
俺を助けたのは、置いてきたはずの福路だった。
何故、着いてきたんだ危ないんだぞ。そんな言葉を口にしかけてやめる。
何より危なかったのはさっきの俺だ。
「あなたには、ちゃんと守ってあげなきゃいけない人がいるんでしょう!
だったら、もっとちゃんとしなさい! あんなことしないで!」
「……いや、秋山も、俺が守ってやらないといけなかったんだ。
なのに、俺はずっと放ったらかしで、あいつをあんなに思い詰めさせてしまって……」
「それなら!」
言葉を途中で遮られる。
両目を開いた彼女。
蒼と紅の瞳。
その目で、俺の瞳が凝視される。
「今からでも助ければいいでしょう! あなたのせいで苦しんでいるというのなら、尚更あなたが助けないといけないでしょう!
あきらめちゃいけないんでしょう! 自分の命を! 誰かのために自分を犠牲にしちゃいけないって、あなたは……!」
「―――ああ……ごめんな、福路。そうだった」
開いた両目から溢れる涙を見て、俺は自分を取り戻す。
この瘴気に、秋山の感情にあてられて自分を見失っていたのかもしれない。
言い訳にもならないかも知れないけれど。
今からでも、秋山を止めないと。
だって、あいつには殺人なんてちっとも向いていないんだから。
『……あんた、もしかして福路美穂子か』
「秋山さん……」
福路の声を聞いて、少しだけ、秋山の声が震える。
「秋山さん! 唯ちゃんは優しい子だった!」
『……知ってるよ! あんたなんかより、ずっとずっと私は知ってる!』
「だったら分かるでしょ? そんな唯ちゃんが誰かを犠牲にすることなんて望むわけ無い! もう、こんなこと……!」
『―――そんな唯が、こんなところで、殺されていいわけ、ないだろうがあああああああああああああああああ!!』
激昂した秋山の声。悼むようなその声。
何かをすり減らしているかのように殺人を否定するその言葉は、そのまま自身にも返ることを理解しているのだろうか。
―――ああ、やっぱりこいつには殺人なんて全く向いていない。
だって、誰よりも。
今お前の行為に辛そうにしているのはお前じゃないか。
殴った人も拳が痛いなんて話をよく聞くけれど。
今の秋山は自分で自分を殺しているようなものだ。
助けて、やらなくちゃいけない。
そう誓いなおして、俺は秋山の乗るそれを見た。
- 872 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:17:02 ID:QcylVicw
-
そいつは、まず大きなキャノン砲を放り投げて捨てた。
弾が切れたのか、それともこの近距離では余り役に立たないと感じたのか。
どちらなのかは分からないけれど、攻撃するという意思を失ったわけでないのだけは確かだ。
だって、次にそいつが行ったのは、腕に装着していた武器をこれ見よがしに展開することだった。
そして、それを大きく振り上げて、そのままこっちに叩きつけてくる。
―――たったそれだけの単純な攻撃。けれど、もともとの体のサイズ差が大きい。
何たって、高さだけでも明らかに俺の身長の二倍以上はあるのだ。
いったい重さで言えばどれほど違うのか。すぐには想像もできない。
―――食らうわけにはいかない!
そんな当然のことを考えながら、飛び退いて攻撃を躱す。
福路も上手く避けたようで、攻撃は空振り地面に突き刺さった。
ドン、と一瞬地面が揺れる感覚がする。
見れば、舗装されたアスファルトが陥没している。
感じさせられるのは、圧倒的な質量差。
流れる冷や汗。
一撃でも当たれば、死ぬ。
否が応にもそれを理解させられる。
あの狂戦士と戦ったときにも近い重圧感を覚える。
油断しちゃいけない。
乗っているのが秋山でも。
このロボットには充分人を殺すだけの能力がある―――!
「衛宮くん、右に避けて!」
その声に従って右側へ飛ぶ。
なんとか回避を間に合わせて、またしても地面に向かって叩き込まれる攻撃。
だが。
『な、なんだこれ……!』
ぬる。
地面は舗装されたアスファルトでなくなっていた。
展開されているのは―――黒い泥。
底なし沼のようなそれが渦巻いて、ロボットの腕を掴んでいた。
福路の、アンリマユの力。
「あれは……」
「―――衛宮くん! 私が隙を作るからそこを攻撃して!」
「……分かった!」
『くっ……離せ、離せっ!』
思い切り体を後ろに倒して、それでも泥からては抜けない。
ならばとばかりに秋山は足についたホイールを高速回転させて後方へ下がろうとする。
だけど、それが福路の狙いだった。
泥が、一気に消える。
『えっ……と……うわっ!?』
- 873 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:17:48 ID:QcylVicw
-
当然、いきなり離された機体のバランスは大きく崩れる。
なんとか転倒はしなかったみたいだけれど―――!
「―――今!」
福路の台詞に眼だけで返答する。
―――ああ、分かってる!
「―――投影、開始(トレース・オン)」
―――一本の剣を想像する。
それは王の選定の剣。
それは気高い彼女の剣。
弱者を守ろうとした彼女の象徴。
だから、今。
秋山を助けるために、力を貸してくれ、セイバー!
体に魔力を流して強化する。
―――すごい。
魔術回路が焼き切れるかと思うほど大量の魔力が流れこんでくる。
カリバーンの投影のあとだというのに殆ど消耗も感じない。
普段の魔力をバケツで汲んだ水に例えるなら、今は水道の蛇口のように豊富に、いくらでも。
魔力が湧いてくるような感覚がする―――!
振り切れんばかりの魔力を用いて跳躍。
ロボットの頭と同じ高さに。
バランスの崩れたその体は、後ほんの少しだけ押してやれば倒れるような気もする。
だけど、この質量差。
俺が叩き込むのは全力の一撃でなければならない。
「秋山―――!」
『な……そんな……嘘だ。違う違う違うっ! 私はっ!』
自分がどうなろうとしているのか、気がついたのか。
否定の声を上げる秋山に、俺は思い切り勝利すべき黄金の剣を振り下ろした。
「―――ちょっと痛いけど、我慢しろ!」
溢れる光の奔流。輝かしい光の刃。
潤沢な魔力を余す所なくつぎ込んで激しい衝撃を伝えていく。
後ろに吹き飛ばされるロボット。
激しく半回転して頭部がアスファルト舗装の地面に叩きつけられる。
だが、それでもまだ勢いは完全に殺されない。
さらにそこから頭部を起点に回転は続き、ゆっくりと無防備なまま、仰向けに倒れこみ、やっと回転はそこで終わった。
「―――……」
脚を強化しながら着地。
今まで扱ったことがないほどの魔力を使ったため、体に痺れのようなものが残っている。
やった……のか?
―――冷や汗が、流れる。
耐え切れなくなり福路の方を向く。
福路は、深刻そうな表情で、俺に向かってうなずきを返した。
俺はもう一度ロボットに向き直って言う。
「―――秋山、俺達の勝ちだ」
…………。
―――ロボットは、沈黙を守ったままピクリとも動かなかった。
……やばい。
「……もしかして、やりすぎた、か? 秋山、生きてるよな……?」
「き、きっと……」
違う、ここまでするつもりはなかったんだ……。
滑って転ばせて泥で拘束して、その間にコクピットから引きずり出すつもりだったんだ……。
いや、言い訳しても仕方がない。
目をあわせて頷きあい、俺達は秋山をロボットから引き出すことを決めた。
† † †
- 874 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:18:08 ID:QcylVicw
-
【夢 / 秋山澪】
夢と分かる夢のことを明晰夢というらしい。
夢だと気づく理由は様々だろうけど……やっぱりありえない状況だってことに気づくことが多いんじゃないだろうか。
少なくとも、私が夢だと気付いた理由はそうだった。
「―――澪先輩」
「―――みーお」
「―――澪ちゃん」
「―――みおちゃーん♪」
梓が、律が、ムギが、唯が。
そこにはいた。
―――ああ、夢か。
見渡せば周囲は真っ白だ。
どっちが上か下かも分からない。
なにも目印もない空間。
そんな中に、私たち五人だけが、いつもどおりにそこにいる。
―――いや、私だけは違う。
私だけは、いつもの学校の格好じゃない。
ここに来てから着せられたメイド服、頬についた刀傷。
それは消えていない。
「澪、取り敢えず座れよ」
いつの間にか、気がつけばいつもの部室になっていた。
夢のなかだからか。便利だと思う。
律に薦められたとおりに椅子に座る。
―――みんながいた。
じわり、と。涙が溢れてくる。
恋しかった。嬉しかった。これがたとえ夢だとしても。
この光景をもう一度見たくて、私は戦うと決めたんだ。
だからこそ、情けなかった。
サザーランドまで手に入れて、それなのにこんな簡単に負けてしまった自分が。
悔しかった。
「あー、もう、泣くなって澪」
「そうだよ、澪ちゃんが頑張ってたの私たち知ってるよ!」
律が、唯が慰めてくれる。
こんなどうしようもない私を受け入れてくれる。
そうだ、やっぱり私は。
この光景を取り戻さないといけない……!
「だから、もういいんですよ、澪先輩」
え?
「もう、頑張らなくてもいいのよ、澪ちゃん」
何を……言ってるんだ。梓、ムギ。
足りないよ。
私、まだまだ何も出来ていない。
もっと頑張らないと。
死ぬ気で頑張らないと。
お前たちを生き返らせることが出来ないじゃないか。
「―――うん。だからさ、私たちのことは、もう諦めてくれ」
……なんでだよ。
どうしてそんなこと言うんだ!
思いっきり律に詰め寄る。
律はいつもみたいにへらっと笑って私に言った。
「いやー、だって私たち死んじゃったしな。―――死んだ奴が生き返るなんてさ、おかしいよ」
澪だって、幽霊怖がるじゃーん。
そういう口調は軽いものだったけれど。
律の眼の色はどこまでも真剣で私はとても怖くなる。
似合ってないよ、なんだよ、その眼。
- 875 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:18:28 ID:QcylVicw
-
おかしくてもいい!
変でもいい!
お前たちだったら怖くなんてない!
幽霊でもゾンビでもなんだっていい!
頼むから私の側にいてくれ……!
私は、お前が、お前たちがいないと……。
「―――駄目だなあ。澪は」
駄目、だよ。
私だけじゃなにもできないよ。
お願い。
側にいてよ、ねえ、お願いだから。
律、りつ、……りっちゃん。
「そんな駄目な澪にはさ、人殺しなんて向いてないよ」
こつん、とおでこを私の額にぶつけてくる。
まっすぐな律の瞳が怖い。
「生きてよ、澪。私たちがいなくたってさ。ちゃんと。―――それだけが、私の、私たちからのお願い」
見渡せば、梓も、ムギも唯も頷いている。
なんで、そんな顔で笑うんだよ……。
「大丈夫、澪のことを好きになってくれる人はいっぱいいるよ。今は辛くてもさ、いっぱいの人が心配してくれる。
落ち込んだ澪のこと支えてくれる。―――それで、いつかさ、私の知らない友達を作って、幸せそうに笑える日がきっとくるから。 だから、逃げるなよ、怖がるなよ、「現実」を。きっと辛いと思うけど。でも、抗うんだろ?」
私が、起源を知ったときに決めたこと。
「畏怖」と「逃避」
それから抗うこと。
だけど、ずっと私は逃げていたのかも知れない。怖がっていたのかも知れない。
律たちが死んでしまったという「現実」から。
だけど。
……お前は、律は、それで、いいのか?
私が、お前の知らないところで勝手に笑っててもいいのか……?
「……いいよ。そりゃあさ、一緒に笑っていられる方がいいけど。―――私がいないせいで澪が笑えないよりはずっといい」
流れる涙が止まらない。
何を言ったらいいのか分からない。
言葉に、ならない。
ただ、ただ夢だと分かっていても、律の体を思いっきり抱きしめた。
「―――泣き虫だなあ。澪は」
似合わない真面目な顔で律は言う。
やめてよ。
そんな、もう終わりみたいな言い方は。
いやだよ。やっぱり。
私は―――。
―――律。
「―――なに?」
生きてくれ。私たちがいなくても生きてくれって、言ったよな。
「うん」
し……
「し……?」
「知、る、かあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
そう叫ぶと同時に、私は頭突きを律に叩き込んだ。
† † †
- 876 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:18:54 ID:QcylVicw
-
【ギャンブル船前 / 福路美穂子】
『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』
長い長い絶叫が聞こえてきたのは、ロボットが動かなくなってから、ほんの数十秒ほど後のことだっただろうか。
ロボットの中からどうやって秋山さんを引きずり出せばいいのか考えていた時だった。
声と共に、起き上がるロボット。
妙にその動作だけは手馴れている。
今までの沈黙は内部で気絶でもしていたということなのだろう。
少し驚いた。でも、それ以上に安心する。
よかった、もし死んでしまっていたらどうしようかと思っていた。
……それに、対処方法ならさっきのでだいたい分かった。
ロボット自体の攻撃方法の少なさ、彼女自身が戦い慣れていないという事実。
引き出しが少ないから、弱点を補うことさえ出来ない。
もう、彼女には勝ち目はないだろう。
衛宮くんも分かっているようで、一瞬の安堵の表情の後、厳しく変えた顔で降伏勧告をする。
「秋山、悪いけどもうお前とそのロボットには負ける気がしない」
だから、もう、やめておけ。
そう言って騎士の剣を構え直す衛宮くん。
だけど、秋山さんはそれを聞いていないのだろう。
関係の無い言葉がスピーカー越しに鳴った。
『……ごめん、譲れない。―――譲らない』
その声は、何かが吹っ切れたような。
何かを切り離してしまったような。
そんな嫌な声だった。
『でも、私の幸せを、お前たちが決めるなよ。お前たちが私に生きていて欲しいと思うぐらいには。
―――私も、お前たちに生きていて欲しいんだ』
肩に鉤爪状の武器が二つ発射される。
私を抱えて衛宮くんが跳躍する。
向こうも躱されたのを見て、直接攻撃しようと、脚のホイールを回転させながら進んでくる。
「福路!」
「わかった!」
ロボットの進行ルートの足元を、泥に変える。
生身の人間が触れれば無事では済まないそれも、ロボットならば徐々に腐食していく程度。
先程の使ったことで足止めには最適だと判断した。
脚の仕組みからして主に平地での利用が基本なのだろう。
泥地に足を取られてあからさまにロボットはバランスを崩した。
後はさっきの通り。
大きさが違っても、バランスが崩れたところは弱い。
「無理だ、秋山。もう―――」
『―――あんたなら、諦められるのか? 絶対に無理だから、やめろって言われて!』
「それは……」
『私は―――いやだ! それが“現実”だって、“運命”だって言うんなら、私はそれから逃げきってみせる!』
- 877 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:19:23 ID:QcylVicw
-
肩から発射した武器を引き戻すロボット。
それを、今度は周りの倉庫へと突き刺して……。
! あれは、もしかして……!
「衛宮くん、あのワイヤーを切って!」
「―――! ああ、分かった!」
一拍置いて気がついたのか衛宮くんも力強くうなずき、聖剣が光を放つ。
そして、案の定ロボットを持ち上げて泥から抜けだそうとしていたワイヤーに命中した。
ワイヤーの強度がどの程度だったのかは分からないけれど、ロボットを支えられる程度はあったはずだ。
それが、ただの紐の様に断ち切られる。再度放たれる光の奔流。
ワイヤーを使って泥から体を引っ張り出そうとしていたロボットは、中途半端に上昇して落下する。
そこにあるのは泥の沼。もう、衛宮くんに攻撃してもらうまでもない。
泥を動かして、脚以外にも、腕を絡めとる。
―――これで、あのロボットが持っていた武装は全て封じたはず。
「やったか……?!」
「―――うん、これでもう動けないはずよ」
もしも、無理に脱出しようとしても私の泥も動かすことが可能。
少しぐらいの悪あがきは通用しない。
「さ、衛宮くん。早く秋山さんを下ろしましょう。……抵抗してくるかも知れないから、気をつけて」
「ああ、でも早くしよう。ギャンブル船の方には黒子がいるからもう避難してるとは思うけど……。
もしも、まだ誰かいたら危ないし」
ギャンブル船の炎はまだつづいている。
あの中に人が残っているとは考えたくないけど……もしもいるのなら早く助けないといけない。
そう言って、ロボットに近づいていく衛宮くん。
これから、彼女の説得やギャンブル船の探索と忙しくなるな。
そんなことを考えながら泥の制御をしようとして―――。
―――?
そのとき、なんとなく違和感を感じた。
―――ロボットは、先程から沈黙を続けている。
何故、彼女は悪あがきをしていないんだろう……?
さっきとは違う。泥が少しはクッションになったはずだから、気絶するほどの衝撃が加わったってことはない。
彼女の今までの動向からしても、無理だから、諦めるはずなんて、ないのに。
―――まさか。
ぞくっ、として自分の全感覚を総動員して周囲を見渡す。
―――いた。
衛宮くんは気づいていない。
まずい。
アレがなにかは分からないけれど。
―――絶対に、喰らってはいけないものだ。
考える前に体が動く。
「衛宮く―――!」
彼の背中に体当たりをして、そして。
そして、全ては黒く飲み込まれていく。
全て深く沈んでいく。
―――ああ。残念だけど、それで、私は終わる。
† † †
- 878 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:19:54 ID:QcylVicw
-
【ギャンブル船前 / 衛宮士郎】
思いっきり突き飛ばされて地面に転がる。
はっきり言って不意打ちだった。
全くもって想像だにしない方向からの衝撃。
そして、同時に聞こえた福路の声。
―――まさか、福路に押されたのか?
どうして。
何故。
そんな感情が頭を支配する。
自分は彼女に何か気に触るようなことをしただろうか。
いや、たとえそうであれ、彼女はこんな時にそんなことで応えるような人間だっただろうか。
とにかく福路に問おうと思い、俺は顔を上げた。
そこに、福路はいなかった。
――――――。
え?
俺はさきほど突き飛ばしてきた奴の方向を直接見た。
そこには、福路はいなかった。
いや、誰もいなかった。
黒子じゃあるまいし、人がそう簡単に消えるはずがない。
つまり、どこかにいる、のだ―――?
?
気づく。
足元にいる、黒い、何か、に。
ガリガリと奇妙な音を放つものに。
ネコのようなシルエットを持つソレは、平面だった。
厚みが、ない。
昔どこかで聞いた怪談話を俺は思い出す。
影の、人を食う、怪物。
そいつは、それを俺に想起させる。
「おま、えは―――?」
見れば、よく、みれば。
そいつはその大きな口に「何か」を咥えている。
やめろ。
「何か」は、棒状に見える。
長さも、太さも、そう―――人の腕ぐらいだろうか。
それ以上は―――。
そして、どこかで見たことのある、薄い茶色をした布に包まれていた。
―――ああ、見覚えがあるはずだ。
あれは俺の制服だ。
気づくな―――!
ゴクリ、と。
不気味な音がしてそいつは。
「福 路 の 腕」を飲み込んだ―――!
- 879 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:20:15 ID:QcylVicw
-
「――――――な、」
「衛宮士郎。本当はあんたを狙った」
原因不明の恐怖。
福路のことを案ずるよりも先にそれが体を支配する。
後ずさった俺に追い打ちをかけるように、秋山が、声をかける。
「……お前、なんでそこに。―――いや、俺を狙ったって、」
「ワイヤーが切られる前にコクピットハッチを開けて逃げ出してただけだよ。
……私の起源『逃避』なら。受け入れてしまえば不可能なことじゃない」
久しぶりに見る秋山の姿。
俺は、それから目を離せない。
「―――福路美穂子は、あんたを庇って死んだよ。そのネコに、ぐちゃぐちゃに引き裂かれて。
バラバラになって、生きたまま食われて死んだ。私が、やった」
「秋山―――」
秋山は、嘘をついていない。
それが、どうしようもなく分かってしまい。
ガチン、と。
頭の撃鉄の上がったような音がした。
「二年生なの? じゃあ、私の方がお姉さんなんだ」
そう笑った彼女を、覚えている。
「――それじゃあ衛宮くんは、ここに来る前からずっと戦ってたんだ……」
そう言って、感心したような顔を覚えている。
「今度はわたしが……誰かを救う番なんだと思う」
……あいつはどこか、俺に似ていた。
だから、俺は言ったんだ。
受け売りの。だけど、俺の心に響いたその言葉を。
「だって福路が死んだら、俺が悲しむだろ」
それなのに、福路は、俺を庇って、死んだ―――。
同じように助けなくちゃならないはずの、秋山が。
福路を。
―――殺し、た。
秋山を。どこかで侮っていた。
どこか、見下していた。
あいつに人なんて殺せないと。
あんなものは、子どもが駄々をこねているのと変わりないと。
本気で、人を殺せるはずがないと高を括って。
その結果が―――これか。
「―――あんたも、ここで死ね」
黒いネコが、福路を食ったネコが迫る。
「う、わあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
訳のわからない叫び声を上げて、俺は勝利すべき黄金の剣を投影する。
怒りか、悲しみか、それとも恐怖か。理解出来ない衝動を叩きつけた。
だが、ネコは、止まらない。
「な、なんだ、こいつ……!」
攻撃が効かないのか。
思わず後ずさる。
全身に魔力を用いて逃げれば追いつかれることはなさそうだが、引き離せもしなさそうな速度。
それでも、捕まるわけにはいかないと魔力を引き出そうとして。
パスのつながっていた福路がもう、いないことに気づく。
まずい、このままじゃ―――。
―――だが、魔力は俺に供給された。
- 880 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:20:35 ID:QcylVicw
-
ドクン。
心臓が、震える。
撃鉄が、下りたような音がする。
なんだ……これ?
殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。
殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。
殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。
殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。
殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。
殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。
黒い感情が、心の底から沸き上がる。
それは、混じりけのない純粋な殺意―――。
殺す?
俺が、秋山を?
そんなこと、許されない。
理性的な部分がそう告げる。
―――だけど、それはとても甘美な誘いのように思えた。
「そうだ。殺せ」
「そいつは、悪だ」
「福路美穂子を殺した、悪だ」
夢に見た悪魔が、そこにはいる。
俺と同じ姿をして、俺と違う顔で笑った。
「でも、秋山も、この戦いの被害者―――」
「被害者は加害者にならないとでも言うのか?」
「弱者だから悪ではないとでも思うのか?」
「もう、分かっているだろう?」
「あいつは、紛れもない殺人者だ」
「悪だ」
「生かすな。……そうだろう」
「正義の味方は、いつだって悪の敵でしか有り得ないんだから」
間違っている。
そう、それはきっと間違っている。
だけど。
憎い。
イイヤツだったのに。自分よりも他人のことを先に考えるような奴で。
それなのに、この殺し合いに巻き込まれて狂わされて。
やっとそれから解き放たれて。
これから、もう一度生きていく、はずだったのに。
―――秋山が殺した。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
- 881 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:21:06 ID:QcylVicw
- 俺は、福路美穂子を殺した秋山澪が、憎くて憎くて仕方が、ない。
―――ああ、黒子。
お前の言っていたことがよくわかる。
確かに。確かにそうだ。
満足して死ぬなんて自分勝手だ。
ほら、だって。
俺は今、こんなにも悲しい―――。
変わりゆく意識の中で彼女のことを思う。
そして、最後に俺が見たのは、笑いながら俺に手を伸ばす悪魔の姿。
―――そして、無表情にその手を取る俺の姿だった。
黒い刺青のようなものが体を纏う。
スピードが、跳ね上がる。
福路から魔力を貰った時だって、こんな力は使えない。
最速の英霊を思わせる速度。
手に装備したカリバーンは黒く染まっている。
だけど、そんなものを気にするはずもない。
ネコを置き去りにして一直線に目指すのは秋山澪(フクシュウノタイショウ)。
殺す、殺す、殺す。
「―――殺してやるよ、秋山」
秋山澪は、オレの豹変ぶりをみて驚いているのか、その場から逃げ出そうともしない。
もっとも、たとえ起源で逃げ出そうが今のオレには無意味。
どの道すぐに殺してやっただろう。
無様に悪に相応しく。
秋山は、ただ、オレのことを見ていた。
泣いていた。
思えばこいつはずっと泣いているような気がする。
出会った時から。
再会した瞬間から、ずっと。
弱いくせに。
弱いくせにこいつが福路を殺した。
戦おうとさえしなければ、もう少し長生きできただろうに。
バカナヤツ。
ぽつり、と口が動いたようにも見えた。
「やっぱり、正義の味方なんていない」
そう聞こえたように思ったけれど。
今のオレにはどうでも良かった。
オレは神速を持って、秋山に漆黒のカリバーンを振り下ろした。
† † †
- 882 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:21:28 ID:QcylVicw
-
【ギャンブル船前 / 両儀式】
装飾華美な漆黒の礼剣。
しかし、見た目に反してなかなかの業物であるようだ。
私の好みとは違うけれど、少し惜しい。
そんなことを考えながら、私はそれを“殺す”。
「――――――!」
突然の乱入者に驚いたのか。
そいつは後方に大きく跳躍した。
かなりの反応速度と身体能力。
分かりやすく人間の範疇を超えている。
そして、自分の腕に持った武器がもう、殺されていることに気付いたのか。
それを、投げ捨てた。
「トレース・オン」
そんな言葉と共に溢れ出る魔力と、それにより紡がれる幻想。
私は少し感心する。
それは、私の鑑定眼が狂ったのでなければ、さきほど殺したはずの剣と、全く同じものだったからである。
「―――へえ、いい能力だな。おまえ」
私のために刀でも作ってくれないだろうか。
そんなことを少し考える。
「―――式? え、どうして、ここに? 助けて、くれるの……?」
呆然としたような秋山の声。
なんだそれは。
せっかくこっちは無理して長い距離を走ってきたっていうのに。
「約束だろ。……なんだ、助けないほうが良かったのか?」
「いや、そうじゃなくて……ありがとう。―――式ってさ、なんかヒーローみたいだな」
「―――冗談。そういうのはオレの役じゃない」
涙に濡れた瞳で私を見つめる秋山に背を向ける。
本当に、冗談じゃない。
殺人者を助ける殺人鬼なんて、どう足掻いたって悪役の枠を出られないだろう。
―――秋山。やっぱり、お前に人殺しは向いてないよ。
直接は言わずに、私は心でそう感じた。
「―――そこを、どけ」
向き直った先。
目の前のバケモノが、口を開いた。
私は返事をしないでそいつを眺めた。
精神的にも肉体的にも。
どうみてもこいつは人間じゃない。
「―――どかないっていうんなら」
だったらさ、遠慮する必要はないよな?
あいつが西洋剣を構えるのに合わせて。
私も九字兼定を構えて向ける。
お互いに、考えることは同じらしい。
……いいさ。こいよ、バケモノ。
「「―――お前を、殺す」」
二つの声が重なって、飛びかかる。
殺人鬼とバケモノの、殺し合いが始まった。
† † †
- 883 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:22:00 ID:QcylVicw
-
ここまで計算通りに進むこと事態が、なによりもの計算違いかも知れんな。
蒼崎橙子の姿を借りた存在、荒耶宗蓮は、そう思いながら今始まった戦いを眺めていた。
秋山澪と衛宮士郎をぶつけることで、ともに行動していたらしい式とぶつける理由に出来れば。
その程度の考えだったのだが、まさか布石どころか直接の因果にまでなるとは。
橋を超えた後は火の手が上がっているのに気づいて近づいてきていたらしい。。
秋山澪を追いかけてきた式の前に姿を現して、ギャンブル船まで導いた甲斐があったというものだ。
私が蒼崎出ないことには気づかれたかも知れないが……根源に至れるというのならば最早瑣末事だ。
のちのち機会を見て自滅させて、衛宮士郎と力の間に直接パスを繋ぐ中継器替わりにしようと思っていた福路美穂子も上手く死んでくれた。
式も人間でなくなった衛宮士郎を殺すことに忌避感はないようだ。
これで、後は衛宮士郎が固有結界さえ使用してくれたなら我が望みは成就される。
苦悶の表情を変えぬまま、荒耶宗蓮は戦いを眺めた。
【F−3/ギャンブル船前/二日目/黎明】
【秋山澪@けいおん!】
[状態]:両頬に刀傷
[服装]:龍門渕家のメイド服@咲-Saki-
[装備]:田井中律のドラムスティック、影絵の魔物@空の境界、ミニミ軽機関銃(183/200)@現実
[道具]:基本支給品一式×3、千石撫子の支給品0〜1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
下着とシャツと濡れた制服、法の書@とある魔術の禁書目録、モンキーレンチ@現実、
桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、軽音楽部のティーセット、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)、ナイフ、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、中務正宗@現実、ランタン@現実
[思考]
基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
0:衛宮士郎のことは式に任せる。取り敢えず休みたい。
1:ひとまず桃子と内密に組む。
2:この集団を利用し、目的を果たす。
3:軽音部全員を救う方法を探し、見つけ次第実行する。 手段を選ぶつもりはない。
4:サザーランドを乗りこなせるようにする。
5:式とのコネクションは秘密にしておく。
6:憂の精神状態に相当の疑念。
7:一方通行を警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
8:伊達政宗のおくりびとが福路美穂子か。
9:正義の味方なんていない……。
10:私は間違ってない……よな?
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。
※黒の騎士団全員の情報を得ました。また、ルルーシュたちの作戦を把握しました。
※サザーランドは手と足の部分が多少腐食して稼働率が下がりましたが、まだ動くかもしれません。
損傷の程度はのちの書き手にお任せします。
※コクピットからの脱出時に忍びの緊急脱出装置@戦国BASARAを使用しました。
- 884 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:22:24 ID:QcylVicw
-
【両儀式@空の境界】
[状態]:ダメージ(小)
[服装]:白い和服(原作第五章・荒耶との戦いで着たもの)
[装備]:九字兼定@空の境界
[道具]:基本支給品一式(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0〜1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 、武田軍の馬@戦国BASARA
陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実
[思考]
基本:私は死ねない。
0:澪との約束だし、目の前の男を殺す。……人間じゃないみたいだし。
1:当面はこのグループと行動。でもルルーシュは気にくわない。
2:澪との約束は守る。殺そうとしてくるヤツを……殺す?
3:刀を誰かに渡すんだっけ?もったいないな……。
4:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。
5:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。
6:荒耶が死んだことに疑問。
7:首輪は出来るなら外したい。
[補足]
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました
※以下の仮説を立てています。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。
・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。または魔眼の効果を弱める細工がある。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※平沢唯から聞いた信頼できる人間に刀を渡すというプランを憶えています(引き継ぐかは不明)
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 疲労(中)、背中に火傷、額に軽い怪我(処置済み)、アンリ・マユと契約、精神汚染(大)
[服装]: 穂群原学園制服(上着なし、ボロボロ)
[装備]: 落下杖(故障) 、カリバーン@Fate/stay night
[道具]: 基本支給品一式、特上寿司×20人前@現実、 伊達政宗の眼帯、
基本支給品外の薬数種類@現地調達 、ペリカード(残金5100万)
[思考]
基本:正義のために悪を殺す。
0:正義のために、悪を殺す
1:正義を邪魔するものも悪。目の前で邪魔する女を殺す。
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました
※エスポワール会議に参加しました
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ゼクスの手紙を読みました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※『ペリカの投影』には『通常の投影』より多大な魔力を消費します。よって『ペリカの投影』は今後は控える方向性です。
※白井黒子の能力について把握しました。
※自身の歪みについて気が付きました。
※「剣」属性に特化した投影魔術を使用可能。
今後、投影した武器の本来の持ち主の技を模倣できるようになりました。
※現在投影可能である主な刀剣類:エクスカリバー、カリバーン、六爪、打ち刀
※『壊れた幻想』が使用可能になりました。
※イリヤが主催・人質である可能性には現状全く思い至っていません。
※エスポワール号に向かう三人(藤乃、黒子、衣)の名前と外見的特徴を得ました。
※東横桃子、平沢憂、ルルーシュが殺し合いに乗っていることを知りました。
※アンリマユに直接ラインが結ばれました。魔力を引き出す限り精神は汚染され続けます。
※サーヴァント・アヴェンジャーと契約しました。
※残り令呪:3画。
ただし、通常の令呪ではないため、衛宮士郎の意思による使用は出来ません。
※片岡優希のマウンテンバイク@咲-Saki-は政庁跡に放置されています。
- 885 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:22:50 ID:QcylVicw
- 【荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:オレンジ色のコート
[道具]:凛のペンダント(魔力残量:極小)@Fate/stay night
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
0:式と士郎の戦いを利用して根源へと至る。
1:体を完全に適合させる事に専念する。
2:信長を利用し、参加者の始末をしてもらう。
3:必要最小限の範囲で障害を排除する。
4:利用できそうなものは利用する。
[備考]
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
※海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※A-7の櫓に、何かしらの異常が起きた事を察知しました。
※バーサーカーを倒したのは、ルルーシュであると確信をしています。
※何か強力な武器が手に入ったら、信長に渡す約束をしています。
※一方通行の異常に気付きました。
※イリヤが黒幕である事を知っています。
[備考]
※E-3/東部にて大規模な爆発が起きました(エリアを超える程ではありません)。
どの程度まで爆音が響いたかは、後の書き手にお任せします。
※濃姫のバンカーバスター@戦国BASARAは破壊されました。
E-3/東部の爆心地に残骸があるかもしれません
- 886 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:23:16 ID:QcylVicw
- † † †
さてと、なにか目星いもんはねえかなあ……。
格納庫近くの整備室に入って俺は早速部屋を漁ることにする。
―――戦争屋が、こんなおいしい獲物前にして、手ぶらで帰れるかってんだよ。
と、特別捜すまでもなく、机の上に置かれた一台のノートパソコンを見つける。
……誰かの支給品だったのか?
起動されたままになっている画面に近づき、それを見る。
GAME OVER
東家 原村和 :25500
南家 宮永咲 :24500
西家 東横桃子:32000
北家 天江衣 :18000
「ああ……? なんだこりゃ、よくわからねえな」
恐らくゲームの画面なんだろうが、ルールがよく分からねえ。
つーか、ゲームオーバーってことは、もうこのゲームは終わって成績が表示されてる状態って感じか?
ペリカを賭けたゲームなのかもしれねえが、余り興味はない。
だが、取り敢えず役に立たねえってこたはないだろう。
ゲーム以外の機能もあるかも知れねえしな。
そう考えて、俺はノートパソコンに手を伸ばす。
ザクリ。
…………。
あ?
腹が、熱い。
下を見たら腹から剣が生えてやがる。
いや、剣というよりも、それは東方で使用されるカタナのような形をしていた。
ただ、それにしては奇妙に長い気もする。
そこまで考えて、やっと頭が理解する。
俺は後ろから刃物で刺された。
「ぐっ、なんだこりゃあああ?!」
叫びながら前進。
とにかく体から刃物を抜いて振り向く。
「随分なご挨拶じゃねえか! …………いねえ?」
そこには、誰もいない。
そもそも、俺の体に刺さっていたはずの刃物さえ、影形もない。
どういうこった……?
混乱していたら、思いがけない方向から引っ張られて思い切り床に倒れた。
「いったい、なにが……!」
ヒュンと、振り上げられるカタナがわずかに見える。
神経加速! 首元に伸びてこようとしているそれを、首をずらしてギリギリでかわした。
薄皮一枚切れたのが分かる。
あっぶねえ……。避けなきゃ死んでたぞ、今の。
「くそっ、誰だ! 何のつもりだ!」
「はあ、天江衣は結局殺しそこねるし、侵入者さんはこっちにくるし寸止めは失敗するし……。踏んだり蹴ったりっすよ」
いや、踏んだり蹴ったりは多分俺の台詞だ。
つーか、寸止めるつもりだったのかよ! なら力のかぎり振り上げてんじゃねーよ!
そう思いながら声の元を見る。
さっきまでは誰もいなかったはずの場所。
ゆらゆらと捉えにくいが、そこには確かに一人の女がいた。
なんだ、こいつ。なんで今まで気づかなかった。
光学迷彩でも支給されてやがったのか、それともそういう能力の持ち主なのか?
―――どっちにせよ、厄介そうだ。
- 887 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:23:42 ID:QcylVicw
-
腹の傷は幸い重要な器官は貫かれてないみたいだから、止血さえすれば死なないだろうが……。
痛いし、さすがに長時間こうしてるとやべえ。
さっさと話をつけよう。
「おい……嬢ちゃん」
「嬢ちゃんはあなたもっすけどね」
「何が……目的だ?」
こいつは俺に用があるはずだ。
そうでもなければ不意打ちで殺せただろう俺をわざわざ手間をかけてまで拘束する意味はない。
内容次第じゃ……この絶体絶命な状態をなんとか出来るかも知れねえ。
「んー、そうっすね」
「ぐっ、あ、づぅっ?!」
こっちの甘い考えを読んだかのような攻撃。
ぐりぐりと脇腹の怪我を靴底で踏みにじりながら女は言葉を選ぶようにする。
―――こいつ、いい趣味してやがる!
よほど電流でも流して抵抗してやろうかと思ったが、一撃で仕留めるような威力はないし、ここで機嫌を損ねるのもよくねえだろう。
我慢だ……。絶対後で殺す……。
「―――取引したいんすよ。あなたと」
「―――一方的な命令の間違いじゃねえのか?」
「取引でいいと思うっすよ。―――双方得があればいいんすよね?」
そういうと女はデイパックから鍵状のものを取り出すと、言った。
「―――機動兵器、欲しくないっすか?」
「っ!」
驚いたような俺の顔から読み取ったのか、女は頷いて言う。
「ああ、やっぱり。最初も格納庫で物欲しそうに機体見てたし、ここにも寄ったってことはそうかな、って思ったんすけど。
やっぱりビンゴ、っすか」
もしかしてパイロットなんすか? 人は見かけによらないっすね。
そうつぶやいた女は俺の目の前に鍵をちらつかせる。
「これは、ナイトメアフレーム“パーシヴァル”の機動キーっす。
現物はここには無いけれど、ギャンブル船まで行ってこれを見せれば機体も与えられるみたいっすよ
これ、私には使いこなせそうにもないし、あげてもいいっす」
「―――狙いは、なんだ?」
……本当なら、腹の傷を差し引いたってお釣りが来る。
だが、どう考えても裏があると考えるべきだろう。
罠じゃないかと警戒しないほうが嘘なぐらいにうまい話だった。
「―――戦争」
「―――あ?」
女の口から出たのは、恐ろしいぐらいに聞き覚えのある言葉だった。
「―――いや、ちょっと戦争を起してきて欲しいだけっすよ。出来ればたくさんの人が巻き込まれて死ぬような派手なのを」
「……ハハッ。なんだ、そういうことなら最初から言ってくれよ」
とたんに上機嫌になる俺。
自分でもたやすいものだと思うが、性分なもんで仕方ねえ。
罠かもしれない。
裏があるのかも知れない。
だが、理由は決して嘘ではないだろう。
ようするに、この女には殺し合いが加速して欲しい理由でもあるってこった。
悪くねえ。いや、最高だ。
乗ってやる。
「取引成立、っすかね」
「ああ、受けてやるぜ。戦争屋の名にかけてな」
出来るだけ格好つけてみる。
……この姿とポーズじゃイマイチ閉まらねえが。
つーか無い胸張ってもなあ。
「―――じゃ、頼りにしてるっすよ?」
そう言って、離れる剣。消える気配。
気がつけばいつの間にかノートパソコンも消えている。
あとに残ったのは、俺と機動キーのみ。
「―――ああ、悪くねえ」
機動キーを拾いながら呟く。
はは。しかし、あの女には色々とでかい借りができちまった。
今度会うことがあったら、全部まとめて返してやらねえとな……。
床に零れた血を指ですくって舐めながら、俺は湧き上がる笑い声を抑えた。
- 888 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:24:15 ID:QcylVicw
-
【D-1 廃ビル前(ホバーベース内・整備室)/二日目/黎明】
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:疲労(小)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、双眼鏡@現実(現地調達)、パソコン
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実、蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)
小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、七天七刀@とある魔術の禁書目録、発信機@現地制作、通信機×2@コードギアス
死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、キャンプ用の折り畳み椅子@現実、“狐”の面@現実
[思考]
基本:加治木ゆみを蘇生させる。
1:ひとまず澪と内密に組む。
2:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。
3:もう、人を殺すことを厭わない。
4:先輩が好きだ。それだけは譲らない。
5:そろそろルルーシュには消えてもらう。そのためにまずはルルーシュの能力を知りたい。
6:最終的に仲間を殺す事にも既に迷いはない。
7:ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
8:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
9:浅上藤乃を許す事は出来ない。
10:いろいろな方法で殺し合いを加速させる。自分だけより他人に殺させたほうが効率がいいし。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話終了後。
※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場での伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
- 889 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:24:43 ID:QcylVicw
- 【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:全身打撲、左頬に腫れ、左腕の骨に罅、妹達(シスターズ)に転身状態、体内電流を操作することで肉体の反応速度を上げることが可能 右腹部に刺し傷
[服装]:清澄高校の制服@咲-saki-、ノーブラ、首輪
[装備]:ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、コルトガバメント(1/7)@現実、予備マガジン×2、接着式投擲爆弾×3@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、399万ペリカ、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録 、パーシヴァルの機動キー@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
0:つーかよく考えたらさっさと止血しねえとやばい。
1:ギャンブル船に行ってパーシヴァルを手に入れる。
2:D-4、E-5以西の区域で好きなように立ち回る。
3:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
4:上条当麻、デュオ、式、スザクたちには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
5:影の薄い女にはきっちりとお礼をする。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
情報収集のためにデュオと接触する方針はとりあえず保留。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
※ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。
※シスターズの電撃能力は今のところ上手く使うことができません。
※衛宮士郎は死んでいる可能性が高いと考えています。
※特殊デバイスについて
マップ機能の他に『あちら側』からの指令が届く。
それに従わなかった場合サーシェスの首輪は爆破される。
【パーシヴァル@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
ナイトオブラウンズ専用KMF。ナイトオブテン、ルキアーノ専用機。
あらゆる状況に応じた攻撃を行えるように作られたナイトメアフレーム。
ヴィンセントをベース機として過剰なまでの攻撃兵装を搭載し、突破力に特化している。
なお、この機動キーは第四回放送以後に引き取り可能なものであった模様。
【ホバーベースについて】
現在はE-2にて廃ビルに停泊中です。
※下記の道具の入ったデイパックが、ルルーシュの部屋に置かれています。
基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード
モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機
ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、
カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実
※下記の道具の入ったデイパックが、澪の部屋に置かれています。
基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)
ファサリナの三節棍@ガン×ソード、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実
桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5
※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。
※下記の機動兵器が格納されています。
[平沢憂用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[秋山澪用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン
[デュオ・マックスウェル用]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
※警備ロボットが一台、ホバーベース内を巡回しています。警備ロボットの詳細については後続の書き手氏にお任せします。
† † †
- 890 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:25:05 ID:QcylVicw
-
【ホバーベース内・制御室 / デュオ・マックスウェル】
「―――、っていう感じだな。今まで俺と式が見たことをまとめると」
「なるほど。―――つまり、彼女はサザーランドが橋の方へ向かうことを確認していたため、それを追った可能性が高い、と」
ルルーシュに言われて俺たちは制御室内で情報整理を行っていた。
それぞれ別れていた間の情報を交換する。
「……そうだ。ルルーシュ、さっき言ってた侵入者の話を聞かせてくれよ」
「ん……」
ルルーシュは少しもったいぶって周囲をくるりと見渡した後―――釣られて俺も周りを見たが平沢がヨーヨーで遊んでいるだけだった―――
声を少し低くして逆に俺に尋ねてきた。
「―――デュオは、澪がサザーランドで出たのはどういう理由があると思う?」
「……お前の指示じゃないんだったよな? だったら……そうだな。
さっきの女の攻撃が怖くなって逃げ出した……っていうのはどうだ?」
強がってはいたけれど、あいつどう見ても銃撃戦とか出来そうになかったしな……。
聞いた限りじゃいきなり爆弾投げつけられたらしいし。
俺たちみたいにどっか感覚が麻痺しちまってるんでもなければ、逃げたくなって当たり前だろう。
……ま、それ以外に考えるとすれば―――
「裏切り、離反行為。……その可能性を思いついてないわけじゃないだろう?」
「……でも、秋山だぜ?」
あいつは至極普通のやつだそんなあいつが自分からそんなことをするだろうか。
「ここで話は戻る。―――もう一人の侵入者だよ、デュオ」
……つまり何が言いたいんだ?
「あまり結論を急ぐなよ。―――俺たちがここに戻ってきたとき、違和感を感じたんだ」
「違和感……?」
「ああ……。相対するまでに個人部屋に戻っていたんだが……俺の部屋のペンが2mmずれていた」
…………。
- 891 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:25:28 ID:QcylVicw
-
「ペンだけじゃない。他にもカップやあまりのデイパック……合わせて13点が動いていた。
どれも変わらない一に置くようにしようとする危害は見られたが」
「……お前、いつもそんなこと気にしてるのか?」
「ああ、貴族の嗜みってやつだよ」
……まあ、ルルーシュの言うことだから間違ってはないんだろう。
俺だって仕事柄言われてることの意味は理解できる。
つまり……。
「出会った女の侵入者に対してなんていうか……色が違うってことだよな。侵入者の」
「そういうことだ。―――話が早くて助かるな」
一口に人間って言ってもいろんな奴がいるように、犯罪の手口にだってその人間の性格は見えてくるもんだ。
大胆な奴、卑屈な奴、尊大な奴、慎重な奴、神経質な奴。
今回の例に当てはめて言うなら、あの大暴れした女が、こそこそとバレないように家探ししてるのはどうも変だってことか。
だったら、もう一人侵入者がいるんじゃないか。
そう考えるのはなるほど自然な話だ。
……ああ、なるほど。
なんとなく俺にもルルーシュの言いたいことが分かってきた。
「……つまり、お前はそのもう一人が秋山に接触したんじゃないか、って言いたいのか?」
「流石デュオだな。もう説明は必要ないか」
秋山は普通の奴だ。
でもだからこそ、脅迫や誘惑に弱いと言えるんじゃないだろうか。
特にこの命がけの極限状態。
事の善悪を問う気はねえけど……そういうことが起きてもおかしくはないとだろう。
「……勿論、飽く迄可能性の話に過ぎないさ。ホバーベースが移動拠点である以上、動いたのは振動によってかも知れない。
澪が出撃したのはただの怖がりなのかも知れない。……だが、可能性として充分頭にとどめておいたほうがいい」
そういうと、ルルーシュはニヤリ、と笑う。
……随分と悪そうな顔だな。
「―――両儀式にも気をつけたほうがいいだろうな。どうも、勘が良すぎる嫌いがある」
「あ? なんか言ったか?」
「……いいや、“何も”言っていないさ」
小声で何か言ってたかと思ったけけどな……。
まあ、ルルーシュが言うなら間違いはないか。
だってそうだろう?
ルルーシュの言葉に疑わしいところなんて、何一つありはしないんだから。
- 892 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:25:52 ID:QcylVicw
- 【D-1 廃ビル前(ホバーベース内・制御室)/二日目/黎明】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、右腕の骨折
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス
[装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実、イヤホン@現地制作、
[道具]:基本支給品一式、3500万ペリカ、盗聴機×7、発信機×5@現地制作、通信機×5@コードギアス、首輪×3(キャスター・ヴァン・張五飛)
単三電池×大量@現実、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、和泉守兼定@現実、バトルロワイアル観光ガイド
鏡×大量、消化器、ロープ、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本:枢木スザクは何としても生還させる。
0:桃子、澪を若干警戒する。
1:廃ビルの施設を調査する。
2:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。
3:デュオと式を上手く利用する。
4:殺しも厭わない。桃子、憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。利用できる物は利用する。
5:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい。
6:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する。
7:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。
8:象の像は慎重に調べる。
9:織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。
10:両儀式を警戒。荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感?
11:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
12:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
13:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。
[備考]
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。
※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い、及びその記憶と想いを呼び覚ましました。
(どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手氏にお任せします。 ただし、何か特殊な力に目覚める、イノベイターに覚醒する等は一切ありません)
※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。
※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。
※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。
※盗聴器を一つ、E-2の橋に仕掛けました。
※パソコンで、メールソフト、バトルロワイアルサポート窓口の利用が可能になりました。
※揚陸艇は船着場に繋留したままです。(燃料…残り7キロ分)
※【象の像】で警備ロボットを一台購入しました。
- 893 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:26:14 ID:QcylVicw
-
【平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失
[服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯
S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(2/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着)
[道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード
皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@現実
鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×46、さわ子のコスプレセット@けいおん!
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
0:一人は嫌だ……。
1:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。
2:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
3:桃子ちゃんは友達。澪さんとバンドが組めて嬉しい。
4:阿良々木さんにサザーランドを見せた後、ブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
5:織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対しては『日本人』とは名乗らないようにする。
6:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。
7:思いを捨てた事への無自覚な後悔。
8:お姉ちゃんは私の――。
9:死にたくないから、私は……?
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※第2回放送をほとんど把握していません。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
- 894 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:26:58 ID:QcylVicw
- 【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康 、ギアス「俺の言うことを疑うな」発動中
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数2/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実
COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・9発)@現実
BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、五億ペリカ
首輪×4(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律・竹井久)、手榴弾@現実×10
桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、
ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night
ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1)
[機動兵器]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
[思考]
基本:五飛の分も込めて、ガンダムパイロットとして主催を潰す。
0:ルルーシュの話を疑わない。
1:……もう一人の侵入者?
2:遺跡や象の像に魔法陣はないのか?
3:リーオーを乗りこなす。憂と澪への機動兵器での訓練を行う。
4:ルルーシュはあまり信用できない。『消える女(桃子)』にも警戒。
5:デスサイズはどこかにないものか。いやこんなリアル鎌じゃなくて、モビルスーツの方な
そういえばあの女(桃子)ビームサイズ持ってたな……。
6:首輪を外すのも魔法陣破壊もゲームの内か……首輪の解析について、色々実験してみる。荒耶の首輪はじっくり慎重に調べる。
7:五飛の死に対する小さな疑問。
[備考]
※参戦時期は月面基地脱出以降。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。
※以下の情報を式から聞きました。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※リーオーはホバーベース格納庫に置いてあります。
【(腹)黒の騎士団の作戦】
1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。
2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。
3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。
4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。
5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。
6:桃子は集団内の人間をよく観察する。
7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。
8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。
9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて別れるか、そもそも関わらない。
10:『おくりびと』は見られないようにする。
† † †
- 895 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:27:22 ID:QcylVicw
-
【ギャンブル船・ギャンブルルーム / 浅上藤乃】
スプリンクラーと黒服さん、ハロというロボットの必死の消火活動で火の手弱まりつつあるギャンブルルーム。
外からはいまだ続く戦闘音。
私はそこで、意識を失った天江さんを抱えて途方に暮れていた。
天江さんは結局目覚めることで迎えた最終局で攻撃することはなかったらしい。
黒服さんが言っていたままなのだが、要するに防御に徹しきった、らしい。
他の誰かを犠牲にすれば、自分は失血しなくて済んだかも知れないのに。
最後まで、彼女は一度も誰かを傷つけようとはしなかった。
最終失血量は1000cc。成人男性が死亡する半分の量だが、彼女の小さな体には充分な負担だ。
それに加えて怪我で失った血もある。
できれば、早く輸血するなどの処置を取りたいところだけれど……。
当然、それにもペリカがいる。
輸血の代金はその時々のレートの十倍、とのこと。
だが値段以前に私たちは無一文だ。
何とかする方法なんてありはしない。
ひとまず怪我だけは応急処置したけれど……。
せめて、客室にでも行って寝かせてあげたほうがいいのだろうか?
でも、もしも他の参加者が来てペリカを譲ってくれそうならここにいた方がいいかもしれないし……。
いっそこのギャンブル船からでる?
いや、今ここに居ると知らせてあるし……。
なにより表の戦闘にこの状態の天江さんを連れて巻き込まれたくはない。
……どうしよう。
ちらり、と助けを求めて通信機を見るが、先程から変な音がして繋がらない。
壊れてしまったのだろうか……?
私にはよく分からない。
……どうする?
そうだ。私が頼りにならないなら、他の誰かならどうするか考えてみよう。
もしもライダーさんなら……? もしも阿良々木さんなら……?
意識を失っている女の子にたいしてどうするだろう……?
…………。
……なんだろう。
二人のことはとても尊敬しているのだけれど。
なんとなく、絶対に参考にしてはいけない筆頭のような、そんな気がした。
ああ……。
私はこれからどうしたらいい?
- 896 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:27:52 ID:QcylVicw
-
【F-3/ギャンブル船・スイートルーム/二日目/黎明】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:頭部失血中(応急手当済)、血液1000ccマイナス、気絶中、首輪爆発まであと4〜5時間(現在の負債:2億ペリカ)
[服装]:いつもの私服
[装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス
[道具]:麻雀牌セット、エトペン@咲-Saki-、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
ペリカード(残金0ペリカ)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
1:ギャンブルルームで麻雀をする。
2:グラハムやスザクたちのことが心配。
3:誰にもバレないように負債を返済する。
4:グラハムを信じる。
5:《はらむらののか》と《清澄の嶺上使い》を救い出したい!
6:ギャンブルではない麻雀をして友達をつくる。
7:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる。
8:インデックスと友達になりたい。
9:浅上、白井とは友達になれた……?
10:東横を止めたい
[備考]
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※帝愛グループに1億ペリカの借金をしました。借金は定時放送を迎えるごとに、倍額になります。
7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki、レイのレシーバー@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
0:衣が目覚めるまでなんとか守る。衣に血を輸血したい。
1:衣のことを守りたい。でも、歪曲の力を使うのは……
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを捜す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っています。
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
- 897 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:28:12 ID:QcylVicw
-
【???/飛行船・原村和の部屋/二日目/黎明】
【原村和@咲-Saki-】
[状態]:健康、絶望
[服装]:私服
[装備]:エトペン@現実
[道具]:デスクトップPC×数台、会場監視モニタ×数台、質問対応マニュアル(電子ファイル)
[思考]
基本:帝愛に従い、咲さんを救う
0:やっぱり私にはペナルティが……?
1:どうしてこんな事に……。
2:役割(麻雀・サポート窓口)をこなす。
3:咲さんが心配。早く直接会って救い出したい。
4:どうせ打つなら守る為の麻雀を打ちたい。
5:忍野メメを警戒。従ってはいるものの、帝愛は許せない。
6:【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】が帝愛にとっての最重要施設?
7:私には、帝愛に与えられた役割を果たすことしかできないんでしょうか……?
8:東横さん、天江さん……。
[備考]
※登場時期は最終回の合宿終了後です。
※基本的に自分の部屋から離れられません。
※監視されていること、異世界から集められていることを知っています。
※【櫓】が鬼門封じの重要施設。【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】のどれか、もしくは全てがこの島の最重要施設だと考察しています。
※以下の事柄はSOA!と思っています。
・死者が蘇る。
【質問について】
参加者の居場所
サポート窓口を利用可能になった時点で回答可能。
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、居場所が分かるのも二人までです。
特定人物を殺害した人間の名前
※但し一回の放送ごとに利用できるのは一人までで、殺害者名が分かるのも二人までです。
殺し合いに巻き込まれた理由、殺し合いの目的
サポート窓口を利用可能になった時点から四回目の放送以降、回答可能。
原村和について
サポート窓口を利用可能になった時点から三回目の放送以降、回答可能。
特定の人物の同行者
少なくとも、サポート窓口を利用可能になってから一回目の放送を越えた時点では回答不可。
【?-?/飛行船・咲の自室 /二日目/黎明】
【宮永咲@咲-Saki-】
[状態]:疲労(大)
[服装]:清澄高校夏服
[装備]:???
[道具]:麻雀道具一式、???
[思考]
基本:のどかちゃんと一緒に帰りたい。
1:死にたくない。
2:東横さん、天江さん……。
3:インデックスさんの返事を待つ。
4:インデックスさんは、実はいい人?
5:歌を歌う少女にお礼がしたい。
【???/飛行船・言峰綺礼の部屋/二日目/黎明】
【言峰綺礼@Fate stay/night】
[状態]:健康
[服装]:神父服、外套
[装備]:???
[道具]:???、麻婆豆腐の詰まったタッパー
[思考]
基本:???
0:なかなか興味深い闘牌だった……。
1:サーヴァントの死体(魂)を回収する。
2:荒耶宗蓮に陰ながら協力する。
3:この立場でバトルロワイアルを楽しむ。
4:結界の修復を手伝う。ただし1を優先する。
5:敵のアジトの結界の代替地になりそうな場所を探し、結界を設置する。
† † †
- 898 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:28:33 ID:QcylVicw
-
――――――あなたは、それで誰に賭けるの?
――――――ああ、それはね。最初から決めているんだ。
――――――最初から? この殺し合いを始める前からってこと?
――――――ああ、そうさ。僕は最初から、君に話を聞いた時からずっと、それに賭けていた。
――――――? それはどういう……。
――――――優勝するのは、この僕、リボンズ・アルマークさ。
――――――……リボンズ、あなた何を言って……?
――――――おっと、悪いねイリヤスフィール。少し用事が出来たみたいだ。
――――――待ちなさい、リボンズ! あなたどういうつもり……!
† † †
- 899 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:28:59 ID:QcylVicw
-
【??? / リボンズ・アルマーク】
全く、人間って奴はどうしてこうも不完全なのだろう。
少々の失望感を覚えながら、僕は廊下を歩く。
いくらそういう風に仕込んだとはいえ、この期に及んでまだ首輪の解除すら出来ないとは思っていなかった。
せっかく、内部離反者が出やすい主催側、会場内にいる首輪解除の鍵となる能力を持つ者たち。
首輪制御の仕組みをわざわざ会場内に設置するなんて多大なヒントをだしているのに。
未だまともに解除まで行き着きそうなグループはないようだ。
どうも、僕は人間を過大評価しすぎていたらしいな。
想像以上の人間の愚かさに困らされるとは思わなかった、
イリヤスフィールには自信満々にああ言ってしまったけど、実際に僕が優勝するのはまだ先のことになりそうだ。
そう。
参加者が首輪を解除する。
主催者の陣営で大反乱が起きる。
バトルロワイアルの続行が困難になる。
ただ、その場合でも儀式が失敗したわけじゃない。
制限や首輪とイリヤスフィールの魂の収集は関係がない。
つまり、イリヤスフィールと僕さえ生きているならば、会場や他の人間はどうなったっていい。
だから、その場合は儀式を成功させるために、仕方なく。
―――この僕自身が、出撃するしか無いだろう。
そして、参加者を全員殺すことができれば。
実質優勝者は僕みたいなものだ。
何も問題はない。
―――イリヤスフィールの願い。
優勝者の望みを叶える。
勿論、彼女のこんなささやかな願いを遮るほど、僕は大人気なくはない。
だが、下等な人間に願いを一つだって譲る気はない。
つまり、この方法は。
僕とイリヤスフィールの両方の願いを叶える最良の方法というわけだ。
そのためにも……。
「さあ、早く次のステージに上がってきてくれよ、人間たち」
―――あまり、僕を失望ばかりさせないで欲しい。
【???/???/二日目/黎明】
【リボンズ・アルマーク@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:???
[服装]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:聖杯を用いて望みを叶える。
?:敢えて首輪を解除させて対主催戦に持ち込ませ、最終的に自分が勝利する。
?:妹達とサーシェスを通じて運営を円滑に進める。
[備考]
※妹達と情報を共有しています。各妹達への上位命令権を所持しています。
※妹達はイノベイドの技術によって新造された個体です。
※具体的な望みがなにかはのちの書き手にお任せします。
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]:限界に近い
[服装]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:聖杯としての役割を果たして、優勝者の望みを叶える。
1:この殺し合いを完遂し、優勝者の望みを叶える。
2:それまでは死なない。
3:リボンズの望みを叶える。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から一年経過程度です。
† † †
- 900 :おわりのはじまり ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:29:31 ID:QcylVicw
-
【??? / 福路美穂子】
ガリガリぐちゃぐちゃゴリゴリ
聞こえる。いや、感じている。
私の体が食われて砕かれて潰れていく様を。
不思議と痛みは感じない。
いや、感じなくなったというべきか。
痛覚は体の防衛本能だ。生きることがこれ以上望めないというのに、何時までも抱えているようなものではない。
私は死ぬ。
ガリガリぐちゃぐちゃゴリゴリ
今引きちぎられたのは、私のどの部分だろう?
もう、何が残っていて、何が失われているのかよく判別ができない。
恐れられた、でも、褒めたてくれた人もいる、私の瞳はどうなったのだろう。
何も見えないのは、暗いから? それとももう眼がないからか。
それさえも、わからない。
ガリガリぐちゃぐちゃゴキン
この時間はなんなのだろう。
恐らくだけれど、走馬灯のようなもの、なのだろう。
死に至るまでの時間を永く引き伸ばした。
いわば、私の脳の悪あがき。
少しでも生を感じていたいという、我侭。
永遠という名の一瞬。一瞬という名の永遠。
その狭間が、きっと、今なのだ。
ガリガリぐちゃぐちゃペキペキ
せっかくだから、少しだけ考えよう。
残された時間で僅かばかり。
私の人生についてでも。
いい人生だったと思う。
人が聞けばそうは思わないかも知れないけれど。
私自身はそう思う。
二十年にすら満たない短いものだった。
だけど、その中でも、いいことがたくさんあった。
たくさんのいい出会いがあった。
たくさんのいい思い出があった。
その二つを自信を持って言えるのだから、きっと私は幸せだっただろう。
いやなことが無かったわけじゃない。
つらいことがなかったわけじゃない。
心残りがないわけではないけれど。
最後に、彼を守れてよかった。
あの後、一人で立ち向かわなくてはならない彼が少しだけ心配だけれども。
きっと、大丈夫。そう、信じてる。
ああ、でも願わくば。
優しい彼が私みたいな女のために気に病むことがありませんように。
パキンごりずちゃガリガリガリガリガリ
ああ、そろそろ終わってしまう。
この永い思いの果てを、私はどう幕引けばいいだろう。
いや、特別なことをしなくてもいいか。
いつもどおりに挨拶でもすればいい。
誰に聞こえるわけでもないのだろうけれど。
私は、もうどこにもない顔を笑顔に変えたつもりで、誰かに向けて言葉を放つ。
ごめんね
ありがとう
さよなら
……だいすき
【福路美穂子@咲-Saki- 死亡】
- 901 : ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 00:30:30 ID:QcylVicw
- 以上で投下を終了します。
皆様多くのご意見ありがとうございました。
- 902 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/27(金) 00:43:50 ID:gs27QrEk
- 投下お疲れ様です
美穂子、さよなら
- 903 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/27(金) 00:57:29 ID:6brNv4Qo
- 投下乙です
美穂子、おつかれさま
- 904 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/27(金) 01:22:56 ID:GW22guLY
- 投下乙です。
この作品中の澪の夢との決別は何度見ても最高です!!!
そして美穂子、おつかれさま
……すみません、水を差すようなことですが
……式は支給品の馬を使えば自らの足で走らなくてもよかったのでは
- 905 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/27(金) 01:31:08 ID:cUh/ad/A
- 投下お疲れ様です。
こちらも一気に事態が進展しましたね。
モモ離反行動に出たかあ……しかもルル山さんの手の上くさい
式vs士郎の型月主人公対決もすさまじそう
カマやんしてやったり
首輪ちゃんのホバーベース内での奮闘がどことなく愛嬌があって憎みきれないw
そして自称「人殺しの天才(笑)」マシーンとの相性も最高に良さそうな気がしてならないw
そして美穂子、お疲れ様。
東側をトリバレ氏が大きく動かし、西側をラウさんが大きく動かし。
この二話でアニロワ3の状況が一変しましたね。
非常に面白い状況です。緊張感があってかなり良いです。
お二方に感謝を。
- 906 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/27(金) 10:49:34 ID:3yiIbdZU
- 投下乙です
美穂子、おつかれさま
澪の夢での決別は俺も見ていて…ああ、物哀しいわ
式vs士郎はカマやんうはうはだなw
首輪ちゃんは…w
そしてモモは外道神父の言葉を借りれば真実の愛か…この時のモモの笑顔は凄く綺麗だったんだろうな…
でもマーボー、お前が言うなw
ルルーシュも賢しく動いてるしどうなるやら…
- 907 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/27(金) 23:18:36 ID:a.C2y8zg
- >◆1aw4LHSuEI氏
修正稿投下乙です
『おわりのはじまり』の分割指定をお願いします
110Kb越えのため、4〜5分割でお願いします
- 908 : ◆1aw4LHSuEI:2010/08/27(金) 23:50:39 ID:QcylVicw
- >>904
ご指摘ありがとうございます。
wiki収録後に修正を加えようと思います。
>>907
では、
>>849から>>860を「少女には向かない職業」
>>861から>>>>868を「東横桃子は笑わない」
>>869から>>881を「喝采の澪」
>>882から>>889を「アリー・アル・サーシェスと秘密の鍵」
>>890から>>900を「最後の挨拶」
としてください。
- 909 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/28(土) 02:14:53 ID:2wNvQ19g
- >908
ありがとうございました
- 910 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/29(日) 12:27:27 ID:V4Bvv/Uk
- ★ 連絡事項 ★
雑談スレにて◆1aw4LHSuEI氏の作品についての矛盾点・問題点が話題となっています。
続きが予約されているためルール上は通しが確定になってはいるのですが、
この件について◆1aw4LHSuEI氏からのレスもありますのでログの確認をお願いします。
- 911 :名無しさんなんだじぇ:2010/08/31(火) 02:14:12 ID:EIPTTHaY
- ★ 連絡事項 ★
◆1aw4LHSuEI氏から、先日の問題を受けて修正を行いたいという旨のレスが雑談スレにありました。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13481/1282130182/240
- 912 : ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:31:17 ID:8d./V0pc
- お待ちどうさまでした。
これより 阿良々木暦、枢木スザク、グラハム・エーカー、白井黒子、天江衣、浅上藤乃の本投下を始めます。
……イイヨネ?
- 913 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:34:56 ID:8d./V0pc
-
#1 RETREAT(敗走)―――――――――――――――――――――――――――――
阿鼻叫喚ともいえる戦場跡―――元薬局で枢木スザクとグラハム・エーカーは黙々と作業を続けていた。
正式な名乗りも対話もなしに、ただ「生きる」という共通目的のもとにこうして負傷者の救出にあたっている。
その余裕もないほどに状況は過酷であり、急を要するものだったからだ。
今必要な認識は、自分たちは戦いに敗れた敗残兵ということ。その事実だけだ。
戦い―――あれを戦いといえたのだろうか。
怪我人や非戦闘員も多く含めていたとはいえ5人以上もの徒党で1人を囲み撃つ。
多勢に無勢。言葉にしてみれば惨い虐殺だろう。事実あれは虐殺に近いものだった。
ただし立場は、全くの逆だったが。
死を与える側はただの1人の悪鬼(バケモノ)で、
他は、それに狙われた被害者(イケニエ)でしかなかった。
まさに災害。
嵐や洪水はヒトが立ち向かっていいものではない。
あれは抗うものでなく、逃げるべきものであった。
それでも逃げる選択を取らなかったのは、そこに留まる命があったから。
蜘蛛の糸の様に絡めとられてしまった男の命。
それを救わんと手を伸ばした結果、全員が糸に捕らわれることになり、結果がこの惨状。
あの場に集っていた4つの命を瞬く間に奪い、消して行った。
残ったのは糸から解き放たれた男、スザクと、敵の直接的な殺意を受けなかったため辛くも命を拾ったグラハム。
そして今も眠る白井黒子と、阿良々木暦のみだ。
誰もが浅くない傷を負い、体力も枯渇しかけている。
特に黒子と阿良々木の2名は深い傷を負っており、早急な手当てが必要だった。
「不幸中の幸い、とは……このことをいうのだろうな」
「……そうですね」
ここで数少ない幸運だったのは、施設の自動販売機がギリギリ原型を留めて機能していたこと。
それと、ユーフェミアの持っていた荷物から大量のペリカが見つかったことだった。
その額は現金でおよそ3000万、カードに入っている分も含めて総額は6000万を超す。
破壊の痕を免れていた、スザクの治療魔術が行われていた控え室に置かれていたため戦闘の余波で失われることもなかった。
元はギャンブル船にて伊藤開司を殺して奪われたそれが、ここにきて彼らの命綱となるのは皮肉としか言いようがない。
それでも、正気を取り戻した彼女が最後に残したこの荷物は、
絶望にまみれたこの場においての、唯一の希望といってよかっただろう。
- 914 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:36:10 ID:8d./V0pc
-
薬局というだけあって、品ぞろえは医療品が多かった。
包帯一巻き20m、2000ペリカを5つ。
痛み止めと、注射タイプの麻酔をひとつずつ。
その他適当に治療に使えるものを買い込み、計2万ペリカ。
「生きろよ……2人共……」
青ざめた顔で眠る2人にグラハムは希うように包帯を巻く。
肩口の損傷が酷い黒子に麻酔を打ち、ガーゼをあてがい包帯を巻く。
阿良々木の方は全身に及ぶものだった。体の至る個所に銃創が見られるが、奇跡的に致命傷になる傷は残されていなかった。
元吸血鬼という特異な体質のおかげだろうか。腹部などの比較的重い傷を優先的に処置した。
時間をかけずにごく簡易的な処置に留めたがこれでひとまずは急場を凌げるだろう。
散らばった荷物は集める暇がない。散乱しているデイパックだけを拾い集めた。
瓦礫の山になった薬局では細かいものは見つけられないし、そもそも殆どが大破しているからだ。
戦場ヶ原と阿良々木が放ったGNビームキャノンは砲身が喪失して完全に使用不能。
ファサリナの所持していたプラネイトディフェンサーも流れ弾で何個も損壊している。
探せば無事なのも見つかるかもしれないが、それで効果があるかは疑わしく、また探す時間も到底なかった。
目に付いた程度だけでも拾おうと思ったグラハムの目に付く輝きがあった。暗闇の中でもその存在を誇示する、鮮烈な赤を。
手に取ったそれはファサリナが所持していた槍だった。ゲイボルグという、英霊の象徴ともいえる神秘を宿した武具。
それをグラハムは知る由もないが、仲間の遺品というだけでも手に取る価値はあった。
柄を強く握り締め、短く深く、黙祷の意を示した。
- 915 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:37:12 ID:8d./V0pc
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この場に来ている筈の、C.C.の姿は終ぞ見つからなかった。
印象的な緑髪も、その肢体の一片も薬局には残されてはいなかった。
ひょっとすれば上手く逃げだせたのかと思えたが、赤いペンキをぶちまけたような変色した壁、
そこに落ちていた、血濡れた首輪に掘られた名前を見て、その期待は脆くも砕かれた。
(死んだ……?C.C.が?)
不死者であるC.C.の死。スザクには俄かに信じ切れるものではなかった。
だが、1人の生き残りを賭けた殺し合いという場にいること。
最初の一方通行との戦いの折に体の治りが遅いと漏らしていたこと。
そして、参加者の誰もが嵌められている首輪がここにあること。
ならば歴として残された証拠から、事実は事実として認めなければならない。
彼女は、死んだのだと。
彼女は、これでよかったのだろうか?
永劫ともいえる時を生き続けた不死者。
無意味で無駄で、人としての生の意味が薄れ切り、それでも生き続けるしかない日々。
その苦悩を、苦痛を、スザクは知らない、知る術もない。
そんな無味乾燥な存在の終焉を願っていた魔女も、最後はその願いを拒否した。
ゼロレクイエムの成就、ギアスを持つルルーシュの死にも彼女は異を挟まなかった。
心中はどうあれ望み通りに死を迎えられたここでの彼女と、望みを捨てて呪いの人生を生きていくことを良しとしたいつかの彼女。
それは、いったいどちらが幸せであったのだろうか?
にゃあ、と鈴を鳴らしたような音が意識を現実に呼び覚ます。
見れば足元にアーサーがいる。見上げてスザクを見るその瞳は、いったい何を語るのか。
「ああ……行こう」
首輪の硬質な感触を握る手で確かめる。
不死者の死という不条理も、死者への悼みも後だ。
今は、生きる。それだけを見ていればいい。
- 916 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:38:14 ID:8d./V0pc
-
血の海に倒れ伏す妙齢の美女。生々しい赤に濡れたその様は、誰に施されたのでもなく艶やかな死化粧を象っている。
その遺体―――ファサリナからグラハムは今、彼女の首に嵌められていた首輪を採集した。
元より、彼女の損傷は酷いものだった。
頭に、首に、胸に、内蔵に、全身をくまなく抉り取られた姿はあの時の爆発の凄まじさを如実に物語る。
意図していたかは分からないが、彼女が前にいたことでその後ろにいた少年達は吹き荒れた散弾の暴力を免れたのか。
スザクから、ファサリナの首を刈る提案を受けたグラハムは難色を示しながらもそれを受け入れた。
これほどの傷ではここから運び出すこともできない。衝撃を与えてしまえば五体がバラバラになってしまいそうだ。
そしてそのまま放置することも許されなかった。ファサリナの強さは今し方見せつけられたばかりだ。その首輪より得られるペリカも相当な筈。
一方通行のような危険人物にそれが渡ってしまえば手の付けようがなくなる。
それはそのまま、自分達の生き残る確率の減少だ。捨て置くわけにはいかない。
実に合理的で、まったく正しい選択なのは疑いようがない。
故にグラハムも否定しようがなく、葛藤を胸に秘めながらもその首を落とした。
首も繋がってるようでそうでない位に傷付いていたから、首を落とすのにも殆ど力は要らなかった。
まるで枝が花弁を散らすように、あっけなく首は千切れ落ちる。
細く、虚ろに見開かれた光の無い眼を閉ざしてやることが、彼に出来る精一杯の施しだった。
同様の理由でユーフェミア・リ・ブリタニアと戦場ヶ原ひたぎの遺体も運び出した。
こちらは損傷が最小限だったために首だけ落とすこともなかった。
それだけは阿良々木を案じるグラハムと、スザクにとっても有難いことだったろう。
体力の限界もあり、デイパックに詰め込む形になるしかないのもやむを得ない。
彼女らの首が無残に落とされ、更なる破壊を呼び起こす温床になるよりは耐えられる苦痛だ。
- 917 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:39:26 ID:8d./V0pc
-
「……さて、それではどこへ向かう?」
デイパックよりジープを取りだし運転席に乗り込むグラハム。
ややガタついてるが走行には支障がない。
「できるだけ、ここから離れて下さい。徒歩では簡単に辿りつけない所まで」
後部座席に阿良々木、黒子を横たえさせ助手席にスザクが乗り込む。
眠る2人にとって乗り心地は劣悪だろうがそこは耐えてもらうしかない。
「それはどういう意味だね?」
「説明します」
訝しむグラハムにスザクは説明する。先ほど相対した敵、一方通行(アクセラレータ)の能力と、それにかせられた制限を。
あらゆる事象のベクトルを操作する万能にして不可侵の能力。
それ故に15分という短時間でしか能力を行使できず、再発動には1時間のインターバルを置く必要があること。
「……そうか。力が使えない今なら追われる心配もなく、距離を離せば次に会うまでの時間が稼げるというわけか」
その意図を悟ったグラハムの言葉にスザクも頷く。
一方通行が仮にグラハム達を見つけても制限が解けない限り追跡はできない。
今見つけられたら彼にとっては一巻の終わりだ。絶対に補足されないよう立ち回るだろう。
体力が尽きかけてるスザクやグラハムでは見つけ切れない住宅街に身を潜めてる筈だ。
時間が過ぎても能力で追うわけにはいかない。肝心の戦闘時に時間が切れては元も子もないからだ。
よってこの与えられた1時間で態勢を立て直し、残りの逃げおおせた時間で迎え撃つ準備をしなければならない。
他の殺し合いに乗った者同士での潰し合い、というのは淡い期待だろう。4回目の放送での死亡者の数がそれを裏付けている。
明らかに少ない数。積極的に殺害に踏み切る参加者がかなり少なくなったことを意味する。
そしてここまで生き残ったからには、誰もが一方通行に並ぶ実力者だということ。
そんな者が偶然出会い、戦い、共倒れになることを狙うなどあまりにも見通しが甘い。
あの敵は、いつかまた必ず道を阻みに来る相手だ。
その時の為の対策。装備、戦術、人材を揃えて、打ち倒さなければならない。
そうでなければ、散った命がなにひとつ報われることがない。
- 918 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:40:43 ID:8d./V0pc
-
「了解した。ならば早急に船に戻るのが先決だが、それでは後ろの彼らの体力が持たないかも知れない。
どこかで一端休憩を挟むべきだが……」
「船……ギャンブル船のことですか?」
「ああ済まない、伝え損ねていたな」
グラハムは簡潔にギャンブル船について説明した。
様々なギャンブルでペリカを稼ぎ、商品を購入できること、そこにはKMFを始めとした機動兵器も売りに出されていること。
戦いに向かない者をそこに待機させていることを。
情報交換も兼ねてやはりどこかで息を整えることが必要そうだ
思い至るのは【憩いの館】だが、そこは船とは真逆の位置だ。
それだけではなくそこまでの道を挟む【D-3】はじきに禁止エリアになってしまう。
行きはともかく帰りには多大なロスだ。
だが結局グラハムが憩いの館へハンドルを向けることはなかった。
理由は、まずその異常に気付いたスザクが発端だった。
「……待って下さい。あの方向、煙が出ていませんか」
スザクが指差した方角、北の山岳地帯からうっすらと黒い線が空に伸びている。
深夜を越えたのもありあまり目立たなかったが確かに黒煙が上がっていた。
森が燃えてるにしては限定的過ぎる。延焼もしてないようだ。
そう、森林と切り離された場所にあるものが燃えたら、ああいう風に煙が立つのでは―――
「っもしや、あそこは……っ!」
誤りがなければ、煙が昇る地点と、デバイスの地図上にある憩いの館の地点とは方角が一致する。
戦闘の余波か、意図的に放火したのか。
どちらにせよ安息を得られる場所でないことは容易に想定できた。
「北行きは断念だな……」
「……僕も賛成です」
◇
- 919 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:42:28 ID:8d./V0pc
-
「……誰もいないか。当然だな」
半ば諦めていたとはいえ、それでも表情を曇らせざるを得ない。
ここは【E-3】の象の像。かつてゼクス・マーキスが参加者を呼び集める集合場所に指定した位置だ。
無論、そこには人の姿は一切見えない。集合時間は3回放送の前後だ。
既に4回目の放送を越えた後、6時間以上留まり続ける道理もなかろう。
「ですが、ここに誰かが来たのは確かでしょう」
周囲を見渡していたスザクの視線が指す先は、まぎれもなく人の残した痕跡。
巨大な像の台座の一部に空いた穴。明らかに人為的に崩された隠し扉。
扉の先は一寸先の闇。洞窟特有の風を切る音が耳に響く。
「気にはなるが……今はその暇もないな」
怪我人を背負った疲労困憊の状態では探索もままならない。
闘技場付近で見つけた地下施設といい、調べる対象が多いのは幸運であり、不運でもある。
「販売機は剣や槍が多いようですね。ナイトメアは……ヴィンセント、か」
販売機の品を確認するスザク。「New!」の文字に続く『RPI-212ヴィンセント』【2億3000万】の表記に目が留まる。
ランスロットの量産型として開発された機体だ、そのポテンシャルは高い。
けれども片腕がない今の自分では宝の持ち腐れだ。そもそもペリカもまったく足りない。
『腕の再生までは当サービスでは不可能です。別途のサービスにて対処ください』
目覚めたばかりの途切れ途切れの意識の中、誰かがそう言っていた、気がする。
それは、別の施設でなら腕を繋げるサービスがあるということか?
半信半疑だが、それができるのなら戦力の大きな補強になる。
ここのサービスは―――
【施設サービス:換金律2倍(この換金機で首輪を換金した場合、金額は2倍になる)】
―――そう都合良くはいかないか。
内心でそう独りごちる。
背後を振り返ると、内容を見たグラハムの渋い表情が見える。
- 920 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:43:37 ID:8d./V0pc
-
「グラハムさん、でしたか?この施設サービス、使わない手はないと思いますが」
グラハムの表情の意味を察しながらもあえてスザクはそこを突く。
人物像はおろか名前すらまだ正確に聞いてないが、これまでの短いやりとりからこの男が優れた軍人であることは確かなようだ。
この場で行うその行動の意味と、その有用性にも当然気付いてるはず。
「………………………………」
デイパックよりファサリナの首輪を取りだし見つめるグラハム。
ギャンブル船でヒイロ・ユイと共に出会った妖しい雰囲気を身に纏う女性。
主催を打倒するという意志の元で同調し、短い時を同行した。
上条当麻を橋に落としたことについて言及することこそあれど、嫌悪するまでの理由にはならない。
善し悪しはどうあれ、これが全員のためになると彼女なりに考え起こした行動だ。
上条当麻は無事だろうか。脚を傷付けられ川に落ちたのだ。最悪溺れ死んでいる可能性もある。
だがグラハムは彼を救出するという選択を取れなかった。より言うなら取る余地がなかった。
満身創痍のグラハム達ではこの暗闇の中、川に流された少年一人を見つけ出すなど至難の極みだ。
あの場を全力で退避する以外に自分達が取れる行動はなかった。それほどに余裕がなかった。
その間に襲撃者に会えば自分達は間違いなく全滅する。それはきっと過ちではない。
それでも、グラハム・エーカーが上条当麻を捨てたという事実は、決して覆りはしない。
そして今も、自分達を守るべく戦った女性(ひと)の首を刈り、それを捨てようとしている。
直接的な危機に見舞われていなかった伊藤開司の時とは何もかもが違う。
この行為の如何次第で自分達の生死までもが変わってくるかもしれないのだ。
その葛藤、苦悩もまた帝愛の望み通りなのか。
体中から滲み出んばかりに嫌悪と憤慨がこみ上げてくる。
だがそれは主催、帝愛グループへではなく、グラハム自身へと向けられたものだ。
あの戦いで一番役に立てなかったのはまぎれもなく自分だ。
これ程に戦いで無力感を感じたことなど生涯においてない。ガンダムとの戦いですら。
心の何処かで、侮りがあったのかもしれない。
安寧な時間であったとは決して言えないが、24時間の間一度として戦いというものに直面した機会がなかった。
この島で繰り広げられている「殺し合い」がこれ程に激しく、残酷なものであると思いもしなかったことを、果たして否定できるのか。
いったい幾つの悲劇があったのだろう。どれだけの血と、涙と、慟哭が吐き出されたのだろう。
その全てに責を感じる必要はないかもしれない。
所詮自分はフラッグファイターであり、一介の軍人であり、一人の人間だ。
全ては救えず、誰もが幸福になれる結末など望めない。
どうしようもないと、仕方がないことなのだと切り捨ててしまってもよいのかもしれない。
- 921 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:44:36 ID:8d./V0pc
-
だが散った命は、救われなかった人々の死は、そんな言葉では済まされない。
彼らの、彼女らの人生はここで終えてしまったのだ。
誰もこんな所で、こんな死に方をしていいはずがなかったのに。
ささやかでも誇れる、輝かしい日々が待っていたはずなのに。
意志は元より、純粋な体技が逸脱したファサリナ。
特殊な能力を持ちながらもあくまで一般の学生である白井黒子と阿良々木暦。
非力でありながら想い人の為奮起した戦場ヶ原ひたぎ、ユーフェミア・リ・ブリタニア。
仔細は知らぬが、おそらくは誰かを守るため身を投げ出したC.C.。
先ほどまで半死人でありながら、強靭なまでの「生きる」力を見せ生き延びた枢木スザク。
あそこで散った者も皆、何かの強い思いをその胸に抱いていた。
大切な人の死に悲しむみながらも、黒子は生を続け人を守る道を選んでいる。
阿良々木と戦場ヶ原。愛する者の為に戦うその姿は人の強さを、未来の可能性を感じさせた。
ファサリナには夢があると言った。命を懸けるに値する使命なのだと。
ユーフェミアは己の罪を認めそれに向きあうために、そして掛け替えのない人のために命を尽くした。
「生きる」。単純だが誰もが持つ純粋な希望はスザクをあそこまで燃え上がらせた。
自分には、なにがあっただろう。
軍人に戦う意味というものを問うのはナンセンスだという事は理解している。
だがこうしてこの目で戦う意思を見せつけられると、思う所はある。
己の生きる証。ガンダムの打倒。戦友を、矜持を奪っていった、愛と憎しみが相克する特異点。
個人的な妄執であるのは百も承知だ。承知の上で、阿修羅の道へと足を踏み入れた。
世界など、どうでもいいと言い切る程に。
- 922 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:45:09 ID:8d./V0pc
-
彼らとの違いは、それなのか。
未来のない一つの目的にのみ固執した男と、未来を目指す人々との。
それもやはり承知していた。それが愚かであると弁えていたはずだ。
だから、自分は非力なのか?
故に、己は誰も守れないのか?
「……だとしても、それが私の歩みを止める理由にはならない」
ガコン。
意を決するように、換金機へ手を差し出す。
ゴミ箱にリサイクル品を出したような軽快な音。これが人の生の証と思うには余りにも軽薄過ぎた。
途端、下からバサバサと紙の束が落ちてくる音が聞こえる。
元の金額が6500万。それが倍加し1億3000万ペリカの表示が出る。
それは果たして彼女の価値に足り得る値なのか。
―――問うまでもない。
「――――――行こう。この辺りは工場地帯だ。隠れる場所には事欠かない」
非力も、恥も、屈辱も甘んじて受けよう。罪も罰も、受け入れる。
最も愚かな行為は歩みを止めること。その時グラハム・エーカーは阿修羅から餓鬼道へと身を堕とす。
戦えぬ弱き人々を守る。それが軍人としての責務であり、信念。
ここでグラハムが動く理由にはそれだけで十分だ。
そこに偽りはないと信じ、男は歩みを続けていく。
その象徴ともいえる小さな友を思い浮かべながら。
- 923 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:46:38 ID:8d./V0pc
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#2 REST(一息)―――――――――――――――――――――――――――――――
工業地帯、つまり工場というのは脂臭く、衛生環境に欠けるイメージがあるがそれは誤りだ。
今となってはほぼ全てが機械任せであるが、それでも機械である以上人が制御する管理室というものがある。
それら作業員たちの休憩部屋も当然存在する。機械にだって清潔な整備が欠かせない。
滅菌作業が必須な部屋も多くあるだろう。食料品の生産工場であれば尚更だ。
それらが売買されるにあたって最も重要なのは商品の安全性だ。
不純物や細菌の混入を防ぐためには徹底的な、病的ともいえる程に神経質になる。
グラハム達が訪れた工場も、そういう類に含まれるものだった。
食品工場ではないようだが、某かの精密品を扱う場所であったらしい。
壁は白を基調とした色で揃えられ。一定の大きさの機械が来訪者を迎えるように整頓されている。
人のいた形跡は皆無であり、やや大きめの無人のスタッフルームへと足を運ぶ。
積荷を降ろし、隣の仮眠室と思しき部屋に怪我人を寝かせ、デイパックに詰め込んでいた遺体も静かに横たえる。
薬局での戦いからようやく訪れた休息にスザクも脱力して椅子に腰を下ろす。
「――――――ふう」
深く息を吐いた途端、残りの腕と足に一気に重みが乗せられた。
四肢だけではない。肩、腰、胸、首―――全身の間接が悲鳴を上げ軋み出す。
走ってもいないのに、息が切れる。汗が噴き出す
当然といえば当然の代償。正しい流れなら既に冷たい死体になっていた体だ。
戦いの間はギアスで捻じ伏せてきたがそこから先はスザク個人の意思だけで保ってきた。
一度その意思を放棄した瞬間に、思い出したように体の負担が蘇ったのだ。
あまりに重く、眠ることすら苦痛になりそうだ。
「君も休んでいるといい。あれだけの重傷だ。本調子になるまで治させてはもらってないだろう?」
ガラスの破片で出来た全身の刺し傷に包帯を巻き終えシャツを着直したグラハムが前に座る。
正確には傷自体は完治していても体がそれに馴染み切ってないだけだが、そう大差はない。
「遅くなったが自己紹介だけでもしておこう。私はグラハム・エーカー、見ての通り軍人だ」
「……ナイトオブゼロ、枢木スザクです」
「ナイトオブ……何かの称号かね?」
「そう受け取ってもらって構いません」
「ふむ、まあそこは後々に置いておくとしよう。今は互いの名乗りだけで十分だ。君にも今多く語るのは苦痛だろう」
デイパックから大量のミネラルウォーターのボトルを取りだしながら言葉を続ける。
苦痛というのは肉体のことを言ったのか。それとも、心のことか。
キャップをひねり中の水が外気に晒される。そのまま飲むかと思いきや、それをスザクへと渡した。
一礼をしながら受け取り口へと運ぶ。一口だけと思ったが、喉に流れる水分を感じてから二口三口とのどを鳴らす。
- 924 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:47:39 ID:8d./V0pc
-
「…っ…っ…っ…っ…っ…っ……はぁっ」
息をつきボトルから口を離したときには半分以上も中身が減っている。
そこでようやく自分が乾いていたことに改めて気付いた。
心底喉が渇いた時はただの水でも至高の清水に思えると言うが、どうやら本当らしい。
「食糧も揃えている。気は進まないかもしれないが蓄えられるうちに蓄えた方がいい。
彼らの看病は私に任せて、今は英気を養ってくれ」
サンドイッチやピザの箱を机に並べ席を立つグラハム。
阿良々木達が眠っている部屋を開け、部屋にはスザク一人となった。
「………………」
おもむろにサンドイッチを手に取り片手で器用に封を開ける。中身はレタスに包まれたトマトサンド。
口に運び、租借し、飲み込む―――気が起きないので水で無理やり流し込む。
食指が湧かない。体に必要なのは分かるがそれを受け付けない。疲労した状態ではままあることだ。
せき込みかけながらも1人分を完食し終え、椅子に体重を投げ出す。
部屋の2人が目を覚ますまでこのまま弛緩していようとも思う中で。
一つの黒い影を見た。
「…………アーサー」
呼び声に振り向くことなく一点を見つめる黒猫。白で統一された部屋の中で目立つ黒い毛並みの背中をこちらに見せている。
視線の先には、毛布で隠された大きな膨らみ。
僅かに、赤く滲んでいるのが見える。
油の切れたゼンマイ仕掛けのように鈍い脚を動かし傍まで腰を下ろし片腕でアーサーを抱え上げる。
……中身は、見ない。「それ」を見ても感じるものは先と同じだ。
告げるのはあの一言だけで十分だった。ものいわぬ骸に何を語っても、酷く空しいだけだ。
そのまま席を戻ろうとする途中に、指先に鋭い痛みが走った。見れば、いつものようにアーサーが指を噛んでいる。
その感覚も、今ではどこか懐かしい。
- 925 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:48:05 ID:8d./V0pc
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椅子の近くで下ろし、適当な皿に水を注ぎパンを添える。
と、何が不満だったのか机に昇ったアーサーはそこに置いてあった複数のデイパックのうちひとつを弄っている。
そこに入ってる何かを出そうとするように。
スザクもそれが気になり荷を開く。そこから出てきたのは、
にゃあ。
にゃあ。
…にゃあ。
猫だった。三毛と子猫の。
「……猫?」
こんなにいたのか。主催は何を思って猫を支給したというのか。
自分らにとってのアーサーのように、この猫も参加者が飼っているのものだろうか。
デイパックの中は窮屈だったのか体を大きく伸ばす2匹の猫。アーサーもそれに釣られて体を震わせる。
見た所仲がいいらしい。外に出してやりたかったのかとアーサーの心中を考えてみる。
1匹が3匹に増えたことで水とパンを少し増量する。いずれも地面に降り、近づき鼻をひくつかせている。
やがて揃って水を呑み始めた3匹を見て、今度こそスザクは四肢を投げ出した。
- 926 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:49:01 ID:8d./V0pc
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#3 WAIL(慟哭)―――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに見えたものは天井。
部屋の天井だと分かるのは空と、光があまりに白かったからだ。
まだ目が霞んでいるから、そう判断した。
背中からは、地面よりは柔らかい感触。少ししてそこがベッドの上だと分かった。
まずは起き上がろうとして膝を起こしたら、
「……痛ってぇ…………」
全身を走る様な痛みで崩れ落ちた。
寝起きの第一声。痛え。
情けないものだが、でも実際痛いんだから仕方ない。
それに、そもそも何かを考えることなんてもうないと思っていたんだから。
もう、死んでしまったものだとばかり思っていたんだから。
けれど、体は痛い。
声も出た。
そこから導ける答えは、きっとひとつだけだろう。
「…………あれ、生きてる」
そういうことだ。
あの目前で起こった大爆発に巻き込まれながらも、全身金縛りにあったような傷を負いながらも、生きている。
……なんだろう。変に実感がわかない。
嬉しいことは嬉しい。そりゃ死ぬよりは生きてた方がいいに決まってる。
でも完璧に死んだと思ったからな、アレ。無事どころか頭ごと吹っ飛ぶくらいは覚悟していたんだが。
こうして生きてるのはホントに奇跡的といえるだろう。
そうだ、これは偶然の産物だ。意図しない要因が重なって重なり合ってできた縫い目の隙間にたまたま潜り抜けられたに過ぎない。
こんなこと、もう2度と起きはしないだろう。
2人目にも。決して。
- 927 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:50:20 ID:8d./V0pc
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「目が覚めたか、阿良々木少年」
僕を呼ぶ声に(動けないので首だけをひねるように動かして)振り向くと、そこにはグラハムさんがいた。
所々に傷が見えるが僕よりはよっぽど五体満足だ。心底安堵したように表情を和らげるグラハムさん。
でもさ、どうしてだろう。
グラハムさんの表情から、僕が起きたことに対して何か不安があるような気がするんだ。
首を逆方向に向ける。
隣のベッドには2つに結わえられた髪の少女が見える。小柄な体躯と制服から白井だろう。
慎ましやかな胸がゆっくりと上下し、呼吸の証が表れている。彼女もギリギリで命を拾ったようだ。
それは純粋に嬉しい。彼女が生きていることは喜ばしく、とても感謝したい。
けど、何だ?この落胆は。
白井が生きてたことに悪感情はない。ただそこに『白井しか眠っていないこと』が残念で、とても不安だった。
「安心しろ、ここは安全だ。ゆっくり休むといい。
君の体質とやらなら動けるのにさほど時間はかからないのだろう?」
「……はい、ありがとうございます」
グラハムさん、及び薬局で会った白井、天江、浅上には僕の体質、吸血鬼もどきであることを話した。
駅での失態は僕にも責任がある。あの時に自分がただ守られるだけの、
なんの力もない一般人でないことを話しておけば、僕を探しにセイバーが離脱することもなく真田が死ぬこともなかったかもしれない。
隠しごとが出来るほど余裕のある身分じゃないんだ。持つものは見せ、それを前提に組み込んで行動していかなければならない。
あんなことを繰り返させないためには。
皆からあまり内容は理解されなかったようだがようはその体質、いわば能力を知ってもらえればそれでよかった。
つまり『常人より耐久力や運動力や回復力が高く死ににくい』と知ってもらえさえすればいい。
そう教えておいたからここでグラハムさんも行動を急く必要はない。
致命傷はないから少し待てば歩けるくらいには治ると知ってるから治療を急ぐこともない。
ああ、それはきっと正しい。議論を挟む余地なんてない。
けどさ、ごめんグラハムさん。
たぶん僕は今寝起きでボケてるんだ。脳が覚醒し切ってないから突拍子もないことを考えている。
- 928 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:51:48 ID:8d./V0pc
-
『せめてもう少し何も知らずにしておいてあげたい』なんていう天邪鬼も甚だしい考えを抱いているんだから。
「白井も、無事だったんですね」
「……ああ、肩の傷が酷いがそれ以外は比較的軽傷だ。」
まあいいや。どうせ寝惚けだ。起きてりゃそのうち忘れることだ。
けれど一度疑問を持つとそれを問いたくなってくるのが人の性らしい。
それに聞いた所で問題なんてない。どの道アッサリ答えは返ってくるのだから。
「一通り処置し麻酔も打っておいたが傷口から菌が入り化膿する危険もある。今一度適切な処理を施す必要が―――」
「グラハムさん、」
だから僕は、
「戦場ヶ原は、どこですか?」
躊躇いなく、地雷原に足を踏み入れた。
グラハムさんの表情が、凍る。
ああ、駄目じゃないかグラハムさん。そういう時はスムーズに返してくれなきゃ。
隣の部屋で緑髪の人(C.C.、だったっけ?)とピザを頬張ってるとか。僕の看病も無視して3匹の子猫と戯れてるとか。
真面目な軍人キャラであるグラハムさんにそこまでの芸人属性は期待してない、というかしたくないけど。
そこで押し黙ってちゃ、縁起でもない想像をしちゃうじゃないか。
「っ阿良々木―――」
バネ仕掛けでも付いてたかのように体が起き上がる。
不思議にも痛みは気にならなかった。手に脚に腰に首に力を込めるたびギチギチと骨が擦り切れる様な音が聞こえるけど気にならない。
そんな体の痛みよりも、胸のよく分からない箇所から発する痛みの方が何倍も辛い。
まるで心臓を鷲掴みにされたような怖さ。生物的なものでない痛みの原因を消す方が何よりも先決だった。
グラハムさんが立ち上がり手を伸ばしかけたけど、途中で止まってしまう。
やっぱりいつものグラハムさんらしくない。この人なら無理やりに抑えつけてでも怪我人である僕を制止させようとするものだけど。
それが出来ない理由が、どこかあるのだろうか。自分に止める権利がないという後ろめたさが。
- 929 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:52:39 ID:8d./V0pc
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ナニニ?
ナニガ、ソンナニ心苦シインダ?
コノ扉ノ先ニ、ソレガアル?
(駄目だ、開けるな)
ドコカノダレカが声を荒げる。
けれど止まらない。引力に吸い寄せられてるように体は扉に近づいていく。
その声が正しいと思いつつも、その引力には逆らえない。
その矛盾した思考は肝試しに似ている。
怖くて、恐ろしくて、見るのも聞くのも知るのも厭だというのに何故か興味をそそられる。
ドアノブに手が触れる。後は回せば部屋が開く。
それだけのことだ。それだけのことに、僕は全神経を集中させている。
指先の神経が脳の命令を受諾する。稲妻の早さで命令は実行される。
扉が、開く。
その先には―――
「―――やあ、起きたか阿良々木くん」
3匹の猫に囲まれピザを頬張ってる枢木スザクの姿が。
「……ああ、今起きた。助かったみたいでよかったよ」
知りあいの小汚いオッサンの声に良く似た声に表面的には普段通りの対応をする。
この声でこのイケメンだからアイツを知る僕にとってはどうにも馴染まない。
「やだなあ、アニメじゃ僕も中々のイケメンだったろう?」なんて声は無視した。
「簡単な状況はグラハムさんから聞いている。君達には助けられた。礼を言いたい」
そしてこの声で感謝の言葉を聞かされて以下略。
緊張の糸が弛んだように一気になごみムードになり肩の荷が下りる。
……けれど、胸の動悸は治まらない。
枢木の顔を見つめる。視線を一点にまとめやすい的に集中する。
決して視線を外に向けては、いけない。
「あのさ枢木、」
「僕達にとっても、」
言葉を被せられる。僕は黙り、枢木は続ける。
不満はなかった。
だってそれは、僕が求めていた答えそのものだったから。
- 930 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:53:42 ID:8d./V0pc
-
「そして何より君にとっても、黙っていることは何の得にもならない。
無駄に希望を持たせたくもないから、先に言わせてもらう。
―――戦場ヶ原ひたぎは、死にました」
「――――――――――――――――――――――――――」
……………枢木が、何か言った。
よく、聞こえなかった。
まるで、理解できなかった。
とても、信じたくなかった。
今の僕はこの時、まさしく混乱状態の極みであっただろう。
半ば放心した僕は、枢木が首で刺した方向を何の疑いもなく見てしまう。
綺麗に整頓された部屋の隅が、薄汚れている。
やや黒い、赤い塗料だ。
盛り上がったシーツの一部分が滲んでいるらしい。
ならば血―――もう、そうとしか理解できなくなった―――は、そのシーツの下から漏れ出たものだろう。
一歩、前に出た。それだけで、ひどく疲れた。
体の状態が状態だから当然だけど、理由はそれ以外。
僕は地雷原を何の手がかりもなしに歩いているに等しい。
一歩を間違えば即、ボン!だ。
―――いや、違う。訂正する。
地雷の位置は分かってる。数もだ。一つしかない。
あまりに明々白々で、この上なく目立つ。
けど僕はそれを踏む。位置を知り、数も分かり、その威力も想像できるのに避けられない。
僕は、あの地雷を踏まなければいけない。
何故、そう思い込んでしまうのだろう。
- 931 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:55:04 ID:8d./V0pc
-
二歩。遠い。もっと近くに。
三歩。まだ遠い、あと一歩。
四歩。惜しい、もう少し。
五歩目、無事到着。あとはめくるだけ。
……ああ、喉が渇く。
水が欲しいけど、もう今更引き返せない。
手を、伸ばす。震えた手でシーツをめくる。笑う足で、それを見下ろす。
表れたのは、一人の眠り姫。
永遠に覚めない呪いをかけられ、どんな魔法も効果のない、腐朽の病。
戦場ヶ原ひたぎという、一人の少女に降りた死(やまい)。
「――――――――――――――――――――――――――――――」
膝が折れる。笑い転げる力も失せて地面にこすりつける。
遺体(かのじょ)の顔が、少しだけ近づいた。
よく見ると、その唇は微かに吊り上がっていたのに気付いた。血で塗られた、艶のない微笑みのままに。
その顔は、僕が気を失う前に見た笑みととてもよく似ていた。
似ているだけで、今はもう色褪せて見える。
彼女を輝かせていた大きな魅力は失われている。生きた人が誰しも持つ活力が。
それだけで。
それだけが。
どうしようもない、終わりを示していた。
「ぁ―――――――――――――――――――――、」
小さく、一声だけ漏れた。
これでも必死に絞り出したものだ。もう頭は声を上げるどころじゃなくなっていた。
そう思っていたら、そこからは堰を切ったように音が溢れ出てきた。
- 932 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:55:55 ID:8d./V0pc
-
「あああ―――――――――――――――――――」
放りだされた手を握る。指は最後まで僕の指を握り続けた照明として残っている。
―――冷たい。
それが死の感触だと、脳より肉体が先に理解した。
「うあぁ――――――――――――――――――あ」
強く、折れそうなほどに握り締める。もう一度この手が暖かみを取り戻すことを願いながら。
固く、もう一度握り返すことを祈りながら。
けれど現実は冷たく、正しく、激しく僕を打ちのめす。
それで、心は決壊した。
「う、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
深夜のとある工場で人目も憚らず彼女の死に咽び泣く男子高校生の姿がそこにはあった。
……まぎれもなく、僕だった。
- 933 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:57:41 ID:8d./V0pc
- >>932訂正
深夜のとある工場で人目も憚らず彼女の死に咽び泣く男子高校生の姿がそこにはあった。
↓
深夜のとある工場で人目も憚らず恋人の死に咽び泣く男子高校生の姿がそこにはあった。
- 934 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 21:59:14 ID:8d./V0pc
-
#4 SYMPATHY(共感)――――――――――――――――――――――――――――
その時目を覚ましたのは、生物が備える本能的な機能だったのだろう。
眠っている時に大声が耳に入ったというのもあるが、
それが泣き声だったというのがもっと大きな理由だ。
動物界において声を出すという行為は大事なコミュニケーションだ。人間もそれに相当する。
特にヒト独自の交信手段といえる言葉が使えない幼少期などはより顕著だろう。
赤子は何かあれば大抵は泣く。それが親の気を引き自分を守らせる最適な手段と知っているからだ。
記憶や人格ではなく遺伝子としてそれは根強く刻まれてる。
それを続け、体験していくうちに人は泣き声に敏感になっていると思える。
それが単なる音でなく、何かを訴える感情が込められてると、成長して知ることになる。
それは発作的な癇癪だったり。
堪え切れない怒りだったり。
今回のような悲愴な悲しみだったり。
「………………………」
それへの理解がどうあれわたくし、白井黒子が目覚めた切欠はそういうものだった。
彼女が始めに確認したのは自身の生存。
次いで、気を失う直前の記憶の洗い出し。
薬局での戦い。最強の超能力者(レベル5)。自分は今まで気絶…………、
その瞬間、状況の厄介さを一瞬で理解しベッドから跳ね起きる。
起きようと、した。
「―――ッ!?」
自分の意思に関わらず再びベッドへと倒れこむ身体。
右の肩に力が入らずバランスを崩したのが原因だ。
見ると、袖の辺りまで破られた制服から包帯とガーゼで包まれた肩が露出している。
少しだけ、左の肩より小さく見える。抉られたような欠損が。
「……起きたかね、白井黒子」
- 935 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:00:10 ID:8d./V0pc
-
声のした方向には端正な軍人、グラハムさんが座っていた。
所々に微細な傷が見られるが、それでも自分に比べれば遥かに軽傷だろう。
寝顔を眺められていたことには羞恥心があるがここでは不可抗力というやつである。
ずっと看病してくれていた人に対してそんな態度を取るほど落ちぶれてはいない。
「肩の損傷が酷いがそれ以外に目立った外傷はない。
麻酔を打っておいたから痛みは幾分和らいでるだろうが、動かすことは難しいだろう」
「……ありがとうございます。気を失う前のよりは随分楽ですわ」
指先に力を込めようとするが、殆ど動かない。麻酔のせいもあるが、動かすだけの筋を断たれてしまったのかもしれない。
痛みは確かに引いている。けれどまだ思考を侵すような痛覚が残留している。
以前ほどの正確なテレポートはもう望めないかもしれない。
自分の持つ優位性が失われたことを悔しがる反面、これだけの損害で済んだと思う気も確かにあった。
あの一方通行(アクセラレータ)を相手取り、どうにか生き残れた。
強く課せられていた筈の制限を加味してもあれだけの差だったのだ。全開時はいったいどれほどの存在(もの)なのかなど想像すらしたくない。
あの戦いを潜り抜けられたのは、本当に幸運といえるだろう。
そうだ。彼との戦いの結果はどうなったのか。
どれだけ生き残ったのか。一方通行は倒せたのか。
聞きたいことは多くある。話したいことも山積みだ。
けれど、それはしない。する必要がないと、理解ができてしまう。
もう二度と戻らない人を失ったのだと、聞こえる声は暗示しているから。
「………………阿良々木、さん……」
薬局で会った、片目を前髪で隠した男子高校生。
快楽殺人者であるという浅上藤乃を庇いたてる位にお人好しな人。
誰が死んでも彼は等しくそれを悲しみ、嘆くだろう。
けれど彼があそこまで声を張り上げて泣くことは、きっと誰にも向けられるものではない。
こんなに深く、悲痛な叫びで嘆くのは、彼にとっての特別な人が死んだ時だ。
この悲しみの生まれた死。あの場で思い当たる人物なんて、一人しかいない。
- 936 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:01:04 ID:8d./V0pc
-
「他に……生き残った人は…………?」
「向こうの部屋には枢木スザクもいる。あの場を切り抜けられたのは……我々を含めて4人だけだ」
「……一方通行は―――」
「―――取り逃がした。追い返すまでが、限界だった」
目を瞑り、唇を噛みしめる。全身に乗りかかる虚脱感を柔らかいベッドが受け止める。
今し方の自分の楽観さを呪いたくなる。
幸運?冗談じゃない、
3人。10分にも満たないあの時間で、あの小さな空間で人が3人も死んでいった。
最悪。気持ち悪いほどその言葉が似合う。
もう一度、ベッドから起き上がる。今度は右肩に負担をかけないように気を払って。
眠気か、疲労か、貧血か、立ち上がった際の目眩に足をよろけさせながらも歩く。
「……今の彼には慰めの言葉を聞くだけの余裕もない。もう暫くは―――」
「それは―――分かっていますわ。けれど……」
立ち上がったグラハムさんが手を貸してくれながら言い出す。
体は扉の前にあり、前に進むのを遮るように。
分かっている。何か言うつもりはないし、何を言うべきかも分からない。
けれども、彼が今どんな気持ちであるかは理解できる。
とても失礼なことかもしれないが、この声にどこか共感している部分があるから。
放送で呼ばれた名前。人知れず死んだ大切な人。
その言葉を聞いた時の衝撃は、慟哭は、絶望は、今も焼き付いて離れない。
地面がなくなり、空が落ちてきたような、自分の世界が壊れていく感覚。
- 937 :ひたぎエンド(アナザー) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:01:41 ID:8d./V0pc
-
彼と自分は似ている。
けれど、同じではない。
姿は見えず声も聞かず、ただ胡散臭い放送で名前を呼ばれただけと、
手を握れる距離にいながら目の前で失うこととでは、まるで違う。
彼と私は違う。
だから自分と同じように心が壊れかけてしまうとは限らない。
同じように縋り、心を補強出来る人に会えるとは限らない。
「………………っ………………!」
嗚咽が続く。血を吐くような悲しみが。
それを諌めることなどできない。溜め込むよりは、吐き出すものは吐き出した方がいい。
だから、似た体験にあった人の悲しみを目撃して、封じ込めていた感情が甦ってしまっても、それは耐えなくてはならない。
1人でもこの様だというのに、ここで自分までくず折れてしまえば残りの人にどれだけ負担をかけることか。
理性で分かってる、知識で理屈づける。分解しかける心を緊迫する。
ああ、けど、そうだ。
苦しいんだ。
親しい人が、慕う人が死んでしまうのはこんなにも悲しいんだ。
悲しみに暮れる声を立ち尽くしながら聞く。
扉を開けることもなく、ベッドに座ることもなく。
進むことも引くこともできない、今にも崩れてしまいそうな積み木細工のような危うさ。
ここでこうして 耳を傾けることだけが、自分の限界だった。
- 938 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:02:36 ID:8d./V0pc
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#4 TEARS(涙)―――――――――――――――――――――――――――――――
始まりは、とても幻想的なものだった。
いつものように遅刻ギリギリの登校の中、彼女は空から落ちてきた。
重さは感じず、羽毛のような軽やかさでゆっくりと降りる彼女をとっさに受け止めたのが馴れ初め。
後に口内にカッターを差し込まれホチキスで口元を縫われその幻想はぶち壊されたわけだが。
彼女がかつての僕の様な苦しみを抱いてることを知り、手を貸すことにした。
地獄のような春休み。
悪夢のようなゴールデンウィーク。
あんな思いを体験する不幸な人間は、僕だけで十分だろう。
散々世話になった男にまたしても世話になり、色々あって彼女の思いは返却された。
牛の迷い子の件が終わるころに、僕らは恋人になった。
……何が好きかと問われれば、今となっては何もかもとしか言えない。
それ位入れ込んでいた。
彼女という全存在に、きっと恋して(イカれて)いた。
だから。
なんのフラグも、脈絡もなく彼女が消えてしまうような事態に遭ったら、
僕はきっとイカれて(壊れて)しまうんだって思っていた。
そして僕は今、盛大にイカれて(泣いて)いる。
「あ―――――――――――あああああ――――――――――――あああ――――――!」
泣く。
鳴く
啼く
哭く。
失く。
亡く
……無い。
体から何かがなくなっていくのを感じながら、僕は構わず声を張り上げる。
- 939 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:03:48 ID:8d./V0pc
-
「う―――――――――ううううううううううううううう――――――!」
伝わるのは、手元にある冷たさ。
陶器のように、氷のように冷やかな感触。
とはいえないがそれでもこの世の全てよりも冷たい物質なのだと理解する。
触覚だけでなく、五感で冷たいと感じるからだ。
「っご―――ふ、――――――は――――――――!ああぁ――――――――」
開けっぱなしの口から声以外の何かが漏れる。
赤い、粘性のある水。血であるのは明白だ。
口だけでなく、体中のあちこちから噴き出してるのが分かる。
「!………………っ!―――――――――――――――――――!!!!」
けれど、声を出すことを止めない。
音として出て来なくても、意思として泣き叫ぶ。
声にならない叫びとなって、込みあげる。
だって、もう。
泣いて、悲しんでやることしか、彼女にしてやれることなんてないじゃないか。
「…………ぁ――――――!っっっっっっっっ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
頭の中はやけにクリアだ。雑音が聞こえない。
そこに混乱はなく、錯乱もきっとしていない。実にシンプルな一念だけが脳内を巡り回っている。
- 940 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:05:25 ID:8d./V0pc
-
「は―――――――――!っはぁ――――――――――――ああ、あ」
怖いとか。
痛いとか。
辛いとか。
自分の不甲斐なさを呪うとか。
この声を聞く羽目になってる周囲への配慮とか。
残った人に八つ当たりするとか。
殺した奴が憎いとか。
今までの事とか。
これからの事とか。
彼女の後を追うとか。
生き返らせる為に殺し合いに乗るとか。
そんな余分な事なんて無かったぐらいに。
…悲しかった。
ただ…彼女が死んだ事が悲しかった。
あの笑顔がもう見られない事が。
あの手を取れない事が
あの声がもう聞けない事が。
戦場ヶ原ひたぎという人が死んでしまった事が、例えようもなく……悲しかった。
「うっ………………うう…………ぐっ……あ――――――――――――」
昂りが、治まっていく。
どれだけ悲しいことでも、永遠に泣き続ける事は出来ない。
頂点まで上がり切った感情は時間と共に下がり始める。
けれどこの悲しみは、もう一生消えることはないだろう。
「――――――っ――――――っ――――――っ―――――――っ――――――
――――――っ――――――っ――――――っ―――――――っ――――――
――――――っ――――――っ――――――っ―――――――っ――――――
――――――っ――――――っ――――――っ―――――――っ――――――
――――――っ――――――っ――――――っ―――――――っ――――――
――――――っ――――――っ――――――っ―――――――っ――――――ごめん」
ようやくものを言えるだけの落ちつきを取り戻した口から、やっと言葉らしい声が発せられる。
謝罪の言葉は何に対してか。
- 941 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:06:33 ID:8d./V0pc
-
助けられなかったこと?勿論だ。それはもう、言い訳のしようがない。
目の前で、手を握れる程近くにいてみすみす死なせてしまったのだ。
自分の限界とか、敵の反則さとか、運とか補正とか、そんな理由は関係ない。
阿良々木暦は、戦場ヶ原ひたぎを守れなかったのだ。それが冷徹なる事実である。
だから、この謝罪は別の意味。
「――――――――――――――――――――ごめん、戦場ヶ原」
まだ、お前の後は追えない。
音でなく、心の中でだけでそう吐露した。
約束がある。
彼女が明日を生きてくれるなら、僕もまた今日を生きていくと。
格好良く死ぬよりも、無様に生きててくれと。
それは死に場所を求めていた吸血鬼に向けたものだけど。
やっぱり、今の僕にも言えた事だ。
あの時、お前と一緒に死ねるならそれでもよかった。
一緒の時を生きて、一緒の時に逝けたのなら、それでもいいかなと。
けれど僕は死んでない。戦場ヶ原は死んでしまった。
決して越えられない一線を、彼女は一足先に越えて逝ってしまった。
けれど僕は生きている。戦場ヶ原は生きていない。
まだ、生きているんだ。
それだけは良かったと、思えてしまうんだ。一度死んだ体になった自分には。
生きている以上、人は色々なものに縛られている。ここに来てからも色んな思いに縛られた。
戦場ヶ原は僕にとって一番の人だけど、唯一の人ではないんだ。
彼女への思いは何よりも強いけど、僕はそれ以外にも思いを持っている。
それら全部を捨てるのは、辛いから死ぬなんて選択はどうしても取れないんだ。
助けられなかった人への痛みも苦しみも、全部背負わなくちゃいけない。
当然、彼女を失った悲しみも一生背負って。
格好いいだなんて微塵も言えない。もうここからは最低最悪のバッドルート一直線だ。
その結末も、バッドエンド一筋しか存在しない。
けど、デッドエンドだけは回避させてやる。そんな馬鹿みたいな意地があった。
最後に、血に濡れた手で彫像の様な戦場ヶ原の頬に触れる。
こんな恋人らしい行為も一生ないまま終わってしまった。
触れた肌からは、やっぱり冷たく硬い死の感触がした。
あれだけ泣いたに関わらず、涙は貯蔵されていくが、目から流れるのは必死に耐えた。
みっともなく大泣きするのは、全部終わってからにしよう。
揺らぎ過ぎで、足場も脆くて、今にも壊れてしまいそうな僕の、それは精一杯の虚勢だった。
- 942 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:08:37 ID:8d./V0pc
-
#5 NEGOTIATION(交渉)――――――――――――――――――――――――――――
「改めて、名乗らせてもらおう。私はグラハム・エーカー。ユニオン所属のフラッグファイターだ」
「常盤台中学1年生白井黒子、風紀委員(ジャッジメント)ですの」
「直江津高校3年生、阿良々木暦。……吸血鬼もどきだ」
「神聖ブリタニア帝国皇帝騎士ナイトオブゼロ、枢木スザクです」
そんな少年の必死の葛藤は胸に秘され、生き残った4人はようやく揃って向かい合った。
和やかに親睦を深めるだけの余力も時間もない。片手間に食事を取りながら、各々が持つ情報を簡潔に交換していく。
その中で、早めに答えをハッキリさせたいことがあった。
「急いだ方がいいのは分かってるけど、やっぱこれはここで言っとかないと思うんだ。
枢木、お前の探してるルルーシュについてだ」
そう話を切りだす阿良々木暦。その態度を見る黒子の瞳が揺れる。
この場で最も休息が必要なのは阿良々木暦だ。身体的のみならず、精神的な傷があまりにも大きい。
それを考え黒子はもう少し休息を取ることを勧めたが、阿良々木がそれを拒否した。
時間がないと。自分ひとりの我儘で皆を待たせてられないと。
そんな、あまりにも理論的な解答を出してきたのだ。
思わず黒子は問いかけてしまった。「大丈夫なのですか」と。
それに対し、阿良々木は言った。
『全然、大丈夫じゃないよ。けど死にたくなるくらい、僕は生きていきたいんだ』
自分でもなに言ってんだか分かんないなと、消えてしまいそうな笑みで語るその姿。
- 943 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:10:13 ID:8d./V0pc
- 達観してるわけでもなく、取り乱すわけでもない。
必死に取り繕うこともなく、絶望して思考を放棄することもない。
ただ悲しいと。彼女が死んだ事を悲しむ事以外に余裕がないんだ、今の彼は。
憎むことも怒ることも忘れてしまうほどに。
不安定で、傷だらけで、今にも折れてしまいそうなのに、それでも崩れることのない非常に微妙な境界に彼はいる。
そんな在りように、黒子は何も言えなかった。
「ルルーシュが殺し合いに乗っている……それはまず、ありえません」
「でも実際僕はルルーシュの仲間に襲われた。殺し合いに乗ってチームを組んでるって言ってな」
阿良々木の語る言葉に、スザクも内心動揺を隠せない。
嘘ではない。そもそもここでそんな不和を起こす種を作る意味がない。語られた内容は真実起こった出来事なのだろう。
そしてそれにより自分と、ルルーシュに疑いを持たれている。
場合によれば、ここで彼らと決別しなければならないやも知れない状況だ。
対処自体は不可能ではない。ここにいるのはどれも重態を負った者ばかりだし、ギアスも併用すれば勝てないこともない。
だがここでそんなことをしても意味がないのだ。
為すべきことを見誤ってはならない。至上命題は自分とルルーシュの元の世界の帰還。
体も弱り、単独で対抗できない敵がいる以上短絡的に敵を消せばいいだけでは済まない。
よってここで彼、阿良々木暦とルルーシュとの確執を取り除く必要がある。
「……実際にルルーシュがそう言ったのですか?」
「いや……ルルーシュは気絶してて、東横って子がそう言っただけだけど」
「それならその東横という人だけの考えかもしれない。
むしろ彼女のような危険人物を自陣に抱えて無駄な被害を出さないように上手くコントロールしているかもしれません」
「……やけに彼の肩を持つのだな。君との間にそれほどの信頼関係があるということかね?」
「それは……」
傍からグラハムが口を挟む。それ自体は阿良々木も黒子も考えることだ。スザク自身ですらそう思う位だ。
信頼を得られないのは明白、此方が開示する情報が余りにも少ないからだ。
今まで自分とルルーシュとの関係をひた隠しにしていたツケがここに回ってきたらしい。
だから、ここで切るしかあるまい。
「それは―――僕がブリタニア帝国皇帝を守るナイトオブゼロだからであり、
彼はそのブリタニア帝国第99代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだからです」
「え――――――?」
「何と――――――」
「皇帝って、アイツそんな偉かったのか……」
- 944 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:12:03 ID:8d./V0pc
-
初めて明かすその事実に、スザク以外の3人の顔が驚愕に歪む。
補足として、ブリタニア帝国には敵が多いこと、顔は公に出ているが率先して名乗りたくはなかったこと、
情報を集めブリタニアとは関係のない他世界の住人が殆どだと知って開示したと告げる。
―――日本を始めとした全世界に独裁を強いてきたのは黙っていた。この場では悪印象しかないだろう。
「そもそもルルーシュには優勝する―――ただ一人勝ち残るという選択肢がないんです。僕と彼は互いに生きて帰らねば意味がない。
2人で為さねばならぬことがあるからです。」
「それは、なんだね?」
「そこまでお話しする義務はありません」
グラハムの質問ににべもなく拒否する。ここから先のことは、それこそ本当に話す意味がない。
極秘任務と受け取ったのか、グラハムもそれは分かっていたようで特に不快に思うこともなかった。
「正直言って、僕とルルーシュが確実に帰れるのなら、僕はルルーシュ以外を皆殺しにする覚悟もあります」
臆面もなく本心を表す。3人の表情が一瞬にして強張る。
「……ですがそれが実現できる可能性は現時点で皆無だし、貴方達には命を救われた。そんな真似はなるべくしたくはありません」
これもまた本心だ。3人の表情は、複雑だ。
「だから、貴方達とルルーシュ達が敵対関係にあるというなら、僕はその間をとりなそうと思っています」
ルルーシュを生き残らせる。戦力を集める。その為の交渉役を務める。互いの利害は一致している筈だ。
これが、おそらく最大限の譲歩だろう。
- 945 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:14:04 ID:8d./V0pc
-
「ルルーシュが優勝を狙ってないことは僕が保障します。ですから、あとは貴方達が決めることだ」
自分を信用するか否か。その決断をスザクは阿良々木達に迫った。
重要なのはルルーシュと阿良々木の2人が直接対面する機会を作ることだ。
ルルーシュのことだ。ギアスは絶対に他言していないだろう。そして自分が交渉事に持ち込むと言えばその意図にも間違いなく気付く。
面と向かって話をさせる口実さえ作ればその時点で同盟は締結だ。
極自然に振る舞い、「過去のわだかまりを捨て、手を組もう」と言えばいい。
交渉とは名ばかりの八百長だが、それを悪手とは思わない。
「生きる」ために、この同盟は必ず成立させなければならない。良識を捨ててでも、ゼロレクイエムのように。
何も彼らを切り捨てるわけではない。むしろ感情の行き違いで無用な同士撃ちを防ぐための上策といえよう。
……無論、使わないに越したことはないのだろう。桃色の背中を振り払うようにして、再び阿良々木暦と見合う。
「……けど、少なくとも東横は優勝狙いだ。それに平沢は、完全に僕を目の仇にしている」
「それについては出来る限り手を貸します。どの道僕にとっても敵になる存在だ」
「……そうじゃないんだ。ルルーシュ自身の考えがどうあれ、アイツは平沢を利用してるんだ。思いを奪われてしまってる平沢を……」
「無差別に彼女に暴れ回れるよりは被害は少なくなってる筈です。彼女自身もまだ生きている」
「いや、そうじゃなくてだな……」
平行線を巡る会話。それに終止符を打つべく黒子も口を出して行く。
「……もし、わたくし達とルルーシュさん達との対立が決定的になったら?」
「その時はルルーシュの側に付くでしょう」
躊躇いなく迷いなく、切り捨てるようにそう言った。
そこに余人が入りこむ余地は一切ない、確固たる意志だった。
「……では、そうならないよう尽力するしかないな。阿良々木少年」
「………………分かりました」
渋々といった感じで認める阿良々木。これで妥協するべきと分かってはいるのだ。
この場を切り抜けるために最悪平沢憂は切り捨てなければいけないと、状況が雄弁に物語っている。
それを防げるのは、悪かれ彼女と関わりを持つ阿良々木次第なのだという、新しい重みが増えたのを感じた。
- 946 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:15:50 ID:8d./V0pc
-
□
「さて……考えることは多くあるが今はとにかく時間が惜しい。細かい情報の交換は後にして、まずは現状の確認だけ行おう」
この中での最年長者としての責任か損傷が少ない身故か、自然と話の中心を執るグラハムの言葉に全員が頷く。
「まず我々の状況はお世辞にも万全とはいえない。
天江衣、私達の仲間が残るギャンブル船に戻ることに異存はないと思うが、目下の対策として先程私達が相対した敵について考えを巡らしておきたい」
敵。戦うもの。超能力者。一方通行(アクセラレータ)。
生き残るという共通認識を持つ者の中でこの最大の障害に対して無策というのだけは控えたい。
レベル違いとはいえ同じ学園都市に住む黒子と、しばしの間を同行し直接渡り合ったスザクの意見を元に具体案を構築していくことになる。
学園都市の超能力者7強において頂点に立つ超越者。物理法則のベクトルを自在操作。自分に向かう害意ある物質全てを自動反射する能力。
攻撃移動多種多様に応用可能。一切の隙のない万能性。それ故にかけられた時間制限。
攻撃を通す手段は三つ。
制限時間まで粘るか。反射できない攻撃をするか。『遠ざかる一撃』を与えるか。
「拳を瞬間的に離して反射させる……?そんなことが……!」
「コツは覚えた。次はもっと上手く当てられるでしょう。もっとも一度見せた以上向こうも最大限に警戒してくるでしょうが……」
明らかにされた反射の攻略法に黒子が戦慄する。
確かに理論としては筋が通ってるかもしれないが、そうと分かってそれが出来るか?
ましてや使用者は今の今まで半死人だった男だ。万全の状態だったのなら本当に一方通行を撃破できたのではないか。
頼もしさと恐ろしさを両立させた感想を持ちながらも、黒子は対話を乱さずに続けていく。
「……となると命題は、如何にスザクさんを接近させるかにかかってきますわね。
その為にはもうひとつ、彼の注意を引け付ける要素が必要ですわ」
それが真実なら一方通行への確かな攻撃手段を得たことになるが、それが敵に知れてる以上そう易々と近づけはしないだろう。
あくまで接近しての一撃しかできないスザクと違って向こうは無数の攻撃手段を持っている。
スザクが耐え切れたのは時間限界が近かったからこそだ。余裕があったのならより積極的な攻めに回られてしまう。
体力が戻り切ってない今の状態なら、なおのこと。
- 947 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:17:31 ID:8d./V0pc
-
「そのためにこの銃の様な武器が必要というわけか。薬局と遺跡にはそれらしき武器は見つからなかったがギャンブル船なら、可能性はあるな」
手に持った奇妙な銃を手で弄びながらグラハムが答える。
銃から発せられた光からして、この銃はGN粒子を打ち出すものとグラハムは当たりを付けていた。
それは一方通行の世界になかった技術だ。それがおそらくこの銃がある程度通用した理由だろう。
だがユーフェミアの時に不発したようにもう残量が心許ない。薬局でも遺跡でもそれに類する武器がない以上、ギャンブル船が命綱となるだろう。
「やはり、船に向かうのが先決となりそうですね。すぐに向かいましょう。時間が経つほどわたくし達には不利ですわ」
まずはギャンブル船に急ぐ、というのが黒子の結論だった。
対策も、その準備も、それ以外の情報の共有にも、この場で必要となるのはスピードだ。
1分1秒の行動の早さが、今この状況の明暗を握る。それもまた全員の総意だった。
それを、ひとつの魔が水を差す。
「……?阿良々木くん、その通信機、繋がっていませんか?」
最初に気付いたのはスザクだった。緊張した空気に僅かに走る砂嵐のようなノイズを聞き分けた。
荷物の分配をする中で阿良々木に割り当てられた荷物からの漏れかけた音を頼りに、ギャンブル船の浅上藤乃と連絡がとれるレシーバーが出てきた。
「え?……あ、本当だ。えーもしもし、浅上か――――――」
『!阿良々木さんですか!?』
「浅上――――――!?どうしたんだ?」
そこから走る、浅上藤乃の狼狽した声が部屋中に響く。
鼓膜が刺激されながらも阿良々木が問い返す。
『天江さんが…………天江さんが、大変なんで』」
「今―――――――何と言った!」
- 948 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:18:51 ID:8d./V0pc
-
ここで最速の反応を出したのがグラハムだった。ともすれば通信機上の浅上以上も剣幕で。
そこから天江衣の置かれた状況が伝えられる。
大会と称された、衣の世界の知人同士で行われた吸血麻雀。試合中、突然船の外から放たれた機械兵の砲撃。衣の負傷。
駄目押しに麻雀の敗北による大量の失血。意識もなく容態は危険域。輸血にはペリカが当然必要。現在持ち金0。
「どれほど――――――――――――――――――――」
災害の予兆のように、静かに震える声がかすれ出る。
「どれほど無力なのだ、私は―――――――――――!!!」
テーブルをあらん限りの力で殴った響く鈍い衝撃音と共に吐き出される絶叫ともいえる叫び。
その声に黒子も、阿良々木も、スザクも、誰もが瞠目せざるを得ない。
今まで多くの人の慟哭を目にしながらも、決して自身へ降りかかることのなく俯瞰するのみの立場だった。
本人は決してそう抱いてはいないだろうが、やはりそれは窺い知れぬ他人事であったろう。
それが、ここにきて遂に自身へ降りかかる。
グラハム・エーカーの、それは怨嗟にも似た己への咆哮だった。
「1度ならず!2度までも同じ過ちを繰り返すとはっ!ただの口約束すらも守れないというのか、私はっ!!」
常に冷静たれと言い聞かせていた自制が音を立てて切れる。
あの場所ならば安全だと、思っていたのか。そう高を括っていた結果既に一度危険に晒してるではないか。
彼女だけは守り通せると信じていた。いたいけな少女一人の心を支えるだけの力は待つと。それすらも驕りだったというのか。
だとしたら自分は、何一つ守れてなどいないではないか――――――!
「落ちついて下さい、グラハムさん!」
絶望に呑まれかけるグラハムに現実まで引き戻す声が聞こえる。
阿良々木暦だった。
- 949 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:20:13 ID:8d./V0pc
-
「天江はまだ生きているんです!まだ……助けられるんです」
そうだ。生きている。失血だろうが瀕死だろうがまだ衣は死んでいない。
生きているなら、死んでないならやり直せる。
だから、出来ることがある筈だ。そう10歳は年上の男性を叱咤する。
「阿良々木…………暦……」
その言葉の意味するとこにグラハムは最大の不覚を悟る。
自分は何をしているのか。
たった今、最も大切な人を失った少年を前にし、自分は何故膝折れているのか。
「少し借ります。……浅上藤乃。僕は枢木スザクという」
知らず、壊れそうなほどレシーバーを握り締める阿良々木からスザクが取り上げ通信を続行させる
『え?枢木さんって……あの………』
「言いたい事は後で訊こう。それよりこの事態の収拾が先決だ。
ペリカなら僕らが持ってる。輸血1人分なら十分に足りるだけの額はあるだろう。車で飛ばせば10分もかからない。
襲撃は今もあるのかい?」
『い、いえ……今はもう何も』
「分かった。襲撃者は船の内部に侵入してるかもしれない。適当な個室に入った方がいい。鉢合わせする確率は低いはずだ。
船に着いたらまた連絡するからその時部屋の番号を教えてくれ」
迅速に、最も効果的に指揮を執っていくスザク。その対応に阿良々木と黒子もただ見つめるのみだ。
彼らに恩を売る打算的な意味合いも混じってるかもしれない。
ただ、思ったのだ。こんなのはもういいと。
伝えることは伝えた。通信機をグラハムに差し出す。最後の言葉はこの男が相応しいだろうと。
意を決したように、その手を取るグラハム。
「……………浅上藤乃」
『……はい』
「もう少しだけ待っていてくれ。そして天江衣に伝えてくれ。
――――――必ず、助けると!」
『………はい……!』
絞り出されるその言葉のなんと白々しいことか。
吐いた言葉が返って胸に刺さるのを感じながらも、それを耐え抜き通信を終える。
振り返れば、既に出立の準備を済ませた3人が待ち構えている。
- 950 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:21:05 ID:8d./V0pc
-
「皆……私は非力な男だ。この殺し合いの場で今まで何一つ、為し得たものがない」
思う。きっと自分は弱い。この中の誰よりも。
身体の能力以前に、心が。
折れかかった心は、彼を知る者ならあり得ないと言う卑しき行動を取らせていく。
「私にこんなことを言う資格はもはやないかもしれない。
恥を捨てよう。顔を泥で汚すのを甘んじて受けよう。情けない男だと笑ってくれて構わない。矜持すらも捨てて見せよう。
だから、私グラハム・エーカーという全存在を賭けて諸君らに頼みたい。
彼女を――――――天江衣を―――」
「そこまでですわよ、グラハムさん」
懺悔にも似たグラハムの懇願を黒子が微笑み混じりにぴしゃりと切り捨てる。
「他人任せだなんて貴方らしくもない。何度反故にしても女性を守ると誓ったのなら最後まで貫くのが殿方の義務でしてよ?」
「……頼むなんて言わないでください。助けるんです。グラハムさんと僕達で、一緒に」
「急ぎましょう。時間は一刻を争います」
程度の違いはあれど、3人の中で暗黙の共通の思いが出来ていた。
彼女を、助けようと。
いずれも、自分の大切な人を失ってしまった者だからこそ、そう切に思う。
あんな思いはもう見るのも見せるのもごめんだと。
その姿に、グラハムの中に燻ぶる邪念が晴らされていく。
自然と体は、敬礼の姿勢を取っていた。彼らの胸に秘められる黄金の精神に向かって。
「………………………済まない、諸君。皆を率いていく立場である筈が逆に導かれるとは。
確かに―――私らしくないな!」
足取りは重く、周りに見えるのは絶望だけ。先への道はあまりにか細く、明滅している。
けれどそこにも希望はある。たとえそれが新たな絶望の為に捲かれた種だとしても、そこから芽吹くものには希望があるのだと。
無力さを噛み締めた。
運命の悪戯に涙した。
あとはもう――――――前に進むのみ。
希望の芽を摘み取らせないために、今こそ真の意味で闘う時。
その道が。自分達の進む先(みらい)が、きっと間違っていないと信じて。
- 951 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:23:00 ID:8d./V0pc
-
【E-3/工業地帯/とある工場の休憩部屋/二日目/黎明】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(大)、左腕切断(処置済)、
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:アゾット剣@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式×2、鉈@現実、
スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん!、アーサー@コードギアスR2
イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4
シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実、M67破片手榴弾×2@現実、シャベル@現実
軽音部のラジカセ@けいおん、お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20)、
[思考]
基本:生きて、ユーフェミアの約束(命令)を果たす。
0:ギャンブル船へ急行。
1:態勢を立て直す。当面の目的はルルーシュとの合流。
2:阿良々木とルルーシュとの間の仲裁に入る。その際ルルーシュがギアスを使える状況を作る。対立が決定的ならルルーシュに付く。
3:ギャンブル船で、対一方通行戦に効果がありそうな武器の購入。
4:ユフィ……。
[備考]
※ラウンズ撃破以降〜最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※一回放送の少し前に、政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
※二日目深夜に、ルイスの薬剤@ガンダムOOを飲みました。
※一方通行の反射の壁を越える方法を理解しました。
- 952 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:24:24 ID:8d./V0pc
-
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:疲労(中)、全身にガラスによる刺し傷(処置済み)
[服装]:ユニオンの制服(破損:小)
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30 、GN拳銃(E残量:小)、ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、SIG SG552(30/30)@現実(予備弾30×3)、軍用ジープ@現実、ゼクスの手紙、
双眼鏡、手術用の針、手術用の糸、消毒用エタノール、ヴァンのテンガロンハット、水着セット@現実、
サンドイッチ@現実×10−×、ピザ@現実×10−×、ミネラルウォーター@現実×20−×、
ギャンブル船商品カタログ(機動兵器一覧)第3回放送分@オリジナル、『ガンダムVSガンダムVSヨロイVSナイトメアフレーム〜戦場の絆〜』解説冊子、
ペリカード(3000万ペリカ)、1億7757万ペリカ(端数変動)、包帯(20m)×5−×(変動)、治療に使えそうなもの(1万ペリカ分)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退。
0:必ず助ける、天江衣―――!
1:ルルーシュ(とスザク)には最大限の譲歩を。もし対立が不可避なら……。
2:ギャンブル船で、対一方通行戦に効果がありそうな武器の購入。
3:天江衣をゲームから脱出させる。脱出までの間は衣の友達づくりを手伝う。
4:主催者の思惑を潰す。
5:首輪を解除したい。首輪解除後は『ジングウ』を奪取または破壊する。
6:浅上藤乃を完全に信用しているわけではない。が、阿良々木暦を信用して任せる。
7:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける。※刹那の名を知らない為、相手が既に死んでいることを知りません。
8:モビルスーツが欲しい。できればフラッグ。更に言うならオーバーフラッグ。
9:可能ならば、クレーターと遺跡の隠し通路を調査したい。
10:……無力だな、私は。
【備考】
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。この情報だけでは首輪の解除は不可能です。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ヒイロから【憩いの館】にある遊技台、『戦場の絆』について聞きました。
※衣の負債について、気づいていません。
- 953 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:25:52 ID:8d./V0pc
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【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(大)、全身に切り傷、刺し傷、擦り傷(いずれも処置済み)、右肩口貫通(麻酔処置)、転移能力精度低下
[服装]:常盤台中学校制服(破損:大、右襟排除)、両手に包帯
[装備]:スタンガン付き警棒@とある魔術の禁書目録、伊達軍の馬@戦国BASARA
[道具]:基本支給品×5、ペーパーナイフ×6@現実、USBメモリ@現実、ティーセット@けいおん!
ルイスの薬剤@ガンダムOO、特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、
ピザ×8@現実、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実)、麻酔注射器、痛み止め、
[思考]
基本:士郎さんと共に生きてこの世界から出る。
0:ギャンブル船へ急行する。
1:スザクに頼もしさと警戒。ルルーシュとの同盟は何としても成功させたい。
2:士郎さんが解析した首輪の情報を技術者へ伝え、解除の方法を探す
3:士郎さんが勝手に行ってしまわないようにする
4:士郎さんが心配、意識している事を自覚
5:士郎さんはすぐに人を甘やかす
6:士郎さんを少しは頼る
7:お姉さまが死んだことはやはり悲しい。もしお姉さまを生き返らせるチャンスがあるのなら……?
8:アリー・アル・サーシェス……
9:イリヤって士郎さんとどういった関係なのでしょう?
10:危険人物を警戒。藤乃のことは完全に信用したわけではないが、償いたいという気持ちに嘘はないと思う。
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
・距離に反比例して精度にブレが出るようです。ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が130.7kg。
※エスポワール会議に参加しました。
※帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいるのではないかと考えています。
そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があったのではとも思っています。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※原村和が主催者に協力している可能性を知りました。
※衛宮士郎の能力について把握しました。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
※傷の痛みで空間転移の精度が落ちています。程度は後の書き手次第に。
- 954 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:26:48 ID:8d./V0pc
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【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(大) 、全身に銃創(処置済み、治療中)、失血(大)
[服装]:直江津高校男子制服(破損:大)
[装備]:レイのレシーバー@ガン×ソード 、ベレッタM1934(5/8)
[道具]:基本支給品一式、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、マウンテンバイク@現実、拡声器@現実
ギー太@けいおん!、ピザ@現実×10、衛宮邸土蔵で集めた品多数
[思考]
基本:戦場ヶ原だけじゃなく、個人の意思としてこのゲームから生きて脱出。
0:ギャンブル船へと急行する。
1:―――戦場ヶ原……。
2:浅上らの無事を願う。
3:ルルーシュ達との確執は最大限妥協する。特に憂の事は結果はどうあれ決着を付ける。
4:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
5:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。
[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後から参戦。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※サポート窓口について知りました。また、原村和が主催側にいることを知りました。
※衛宮邸の土蔵にあったガラクタを多数回収しました。武器の類は入ってません。
ひょっとしたらなんらかの特別な物が混入してる可能性もあります。
※衣の負債について、気づいていません。
【補足備考】
※遺跡の販売機に機動兵器『RPI-212ヴィンセント』【2億3000万】が追加されました。他にも追加された商品があります。
※薬局、遺跡で何か買ったかどうかは後の書き手の自由です。ペリカの差し引きはお忘れなく。
※C.C.の荷物(赤ハロ、基本支給品一式 阿良々木暦のマジックテープ式の財布(小銭残り34枚)、ピザ(残り52枚))
は完全に紛失しました。
- 955 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:29:03 ID:8d./V0pc
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#6 PAIN(痛み)―――――――――――――――――――――――――――――――
「天江さん……もう少し、頑張ってください」
意識のない衣を抱えながら藤乃はスザクの指示通り船の個室に入る。
まだ誰にも使われてない部屋だ。ピンポイントでここを探り当てることは不可能だろう。
衣をベッドに寝かし付け、藤乃もその隣へ座る。
(…………汗、)
頬から滴り落ちる汗を拭いながら、看病を続けていく。
衣が小学生並みの体格であるとはいえ、温室育ちのお嬢様として過ごした藤乃にとってはかなりの重労働だ。
中身のギッシリ詰まったダンボール箱もまともに持ち上げられないだろう。
(…………疲れ、)
繰り返しになるが、藤乃は―――それが幸福かどうかはともかく―――上流階級の令嬢として育てられてきた。
毎夜不良グループに連れ出されていたので夜遅くを歩くのは珍しくもないが、
それでも徹夜で殺し合いの時を過ごすだけの体力も精神力もないのは確かだ。
―――自らの本性に気付く前なら、それも苦にならなかっただろうが。
(…………痛み、)
頬や体から出てくるヒリつく感覚。怪我といえるほどもない軽傷だが、そこからは確かに痛みが発生している。
今まで彼女が求めていた、人並みの、生きている証。
「…………あ、」
小さな、感じられないほどの感触を指先に感じる。
自分の手を握る、天江衣。
意識はない。朦朧した状態の中で確かな縁を得たいがためだ。
指先に伝わるのは、柔らかさと、温かさ。
割れ物を扱うように、注意を払いながらその指を握り返す。
触覚が閉ざされ、存在が世界に不適合とされた少女が得た、小さな人(セカイ)との繋がり。
- 956 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:30:17 ID:8d./V0pc
-
(…………これが、生きる?)
体を動すと、暑い。
動けば、疲れる。
疲れれば、汗をかく。
汗をかくと、喉が渇く。
傷付くと、痛い。
人が傷付くと、痛い。
死ぬのが、痛い。
人が死ぬのが、■■い。
生きているのが、嬉しい。
生きてくれるのが、嬉しい。
(ああ…………わたしは生きている)
「……生きて、ここにいる」
無痛症が消え、様々な痛みを味わってきた。
自分が傷つく痛み。人が傷付く痛み。殺人を嗜好する自分への痛み。
罪の痛みと、罰の痛みも理解できている。
許されない咎。不適合な存在。
それでも思ってしまう。人としての感覚を取り戻した今なら。
生きていたいという、ささやかで当たり前の願いを。
「だから、天江さんも……生きてください」
救われなくても、この願いだけは、胸に残しておきたい。
それだけには救いがあると、そう願いたいから。
- 957 :ひたぎエンド(アフター) ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:31:22 ID:8d./V0pc
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【F-3/ギャンブル船・スイートルーム/二日目/黎明】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:頭部失血中(応急手当済)、血液1000ccマイナス、気絶中、首輪爆発まであと4〜5時間(現在の負債:2億ペリカ)
[服装]:いつもの私服
[装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス
[道具]:麻雀牌セット、エトペン@咲-Saki-、水着セット@現実、サンドイッチ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
ペリカード(残金0ペリカ)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る。
0:―――――――――。
1:ギャンブルルームで麻雀をする。
2:グラハムやスザクたちのことが心配。
3:誰にもバレないように負債を返済する。
4:グラハムを信じる。
5:《はらむらののか》と《清澄の嶺上使い》を救い出したい!
6:ギャンブルではない麻雀をして友達をつくる。
7:チーズくんを持ち主である『しーしー』(C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる。
8:インデックスと友達になりたい。
9:浅上、白井とは友達になれた……?
10:東横を止めたい
[備考]
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ユーフェミアの外見的特長を把握しました。
※『黒子の仮説』を聞きました。
※ヒイロ・ファサリナと情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※帝愛グループに1億ペリカの借金をしました。借金は定時放送を迎えるごとに、倍額になります。
7時32分までに借金を返済出来ない場合、首輪が爆破されます。
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:頬に掠り傷(処置済み)、全身に軽い刺し傷(処置済み)、力を使うことへの僅かな恐怖心・及びそれを克服する覚悟
[服装]:浴衣@現実
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録、沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki、レイのレシーバー@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:今までの罪を償っていく
0:衣が目覚めるまでなんとか守る。衣に血を輸血したい。
1:衣のことを守りたい。でも、歪曲の力を使うのは……
2:今まで自分が殺してきた人の知り合いを捜す。
3:阿良々木さん、天江衣、白井黒子を守る。
4:サーシェスを敵視。
5:人を凶ることで快楽を感じていた事を自覚し、その自分に恐怖する。
6:……生きる―――。
7:織田信長を警戒。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っています。
※藤乃の無痛症がどうなっているかは後の書き手にお任せします。
※魔眼を使おうとすると過去の殺人の愉悦の感覚 を思い出してしまいます。
ですがそれらを克服する覚悟も決めています。
※衣の負債について、気づいていません。
※帝愛グループは、ギャンブルに勝ちすぎた参加者側を妨害すべく動いていると推測しています。
- 958 : ◆0zvBiGoI0k:2010/09/05(日) 22:32:18 ID:8d./V0pc
- ……以上で、投下を終了します。
色々待ってます。
- 959 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/05(日) 22:39:48 ID:C1licRYo
- 投下乙です。
スザクが居てくれてよかった!
なんとかあらら木さん側からの妥協が引き出せて、対主催に光が見えたかも
で、グラハムに試練か
このメンバーはグラハム以外最愛の人を失ってるんだよなぁ
ユフィ関連はスザクは既に乗り越えた道だからアレなのか
あらら木さんイキロ
- 960 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/05(日) 23:58:45 ID:YvXMrB46
- 投下乙です。
あららぎさんがポッキリ折れなくて良かった……
グラハムさんが非常に魅力的に描かれていますね。
一方さんにコテンパンにされた敗残兵集団の雰囲気がなんとも良い感じ。
苦境の中でスザクが腹芸見せずに開示したのは非常にありがたい、これで限りなく細いけど道が見える。
今後の展開を楽しみにさせる、大戦後話の良作でした。
乙乙です。
- 961 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/06(月) 00:11:30 ID:iDAiQlig
- 投下乙です
ふぅ、ちらら木さんはなんとか立ち直ったか……
光は見えるがまだかすか……
あ、後お身体はお大事に
- 962 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:35:57 ID:8UZEbHZc
- 投下します
- 963 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:37:00 ID:8UZEbHZc
- 薄暗い部屋に人の気配がある。
「ふぅ……ふぅ……」
その部屋の中で少女のくぐもった声だけが聞こえる。
全身が汗にまみれ、その肢体は微かな電灯の明かりによってぬらぬらと光っていた。
その上にまとった服の白い布地はぴったりと皮膚に張り付き、透けて肌色となる。
「……ぐぅっ!」
痛みにあえぐような声。
いや、実際そのとおりなのだろう。
鋭く尖った異物が少女の柔肉を貫き、そしてずるりと引き出された。
「〜〜〜〜っ!」
苦痛によって手足をきりきりと引きつらせ、歯を食いしばって声にならぬ呻きを漏らす。
やがて痛みが和らいだか、深く息をついて全身を弛緩させた。
だが、それもほんの僅かな時間だけだ。
「……っ! ……っ! うぅぅ……!」
再び鋭いモノが彼女の肉を貫く。
そのたびに全身がビクリと震える。
「〜〜〜〜っ!」
引き抜く。
脂汗にまみれて、おこりのように全身を痙攣させる。
悲痛な呻き声が部屋の中に響いては消えていく。
「……っ!」
何度も。
「〜〜〜〜っ!」
何度も。
「……っ!」
何度も。
「〜〜〜〜っ!」
……
…………
………………やがて事は済んだ。
猿轡の代わりになったシーツの切れ端が、桃色の唇からヨダレ塗れになって吐き出された。
「はぁ……はぁ……」
放心状態の少女は乱れ放題の着衣に頓着する余裕もないまま、手足をだらりと投げ出したままで横たわっていた。
その重みでギシリと軋んだ寝台のシーツには血の染みが鮮やかな朱の円を描いている。
それは大きな傷がその身体に刻まれた証でもあった。
- 964 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:37:47 ID:8UZEbHZc
-
◇ ◇ ◇
「――桃子」
「……ルルさん」
「こちらは制御室だ。今お前はどこにいる?」
「整備室の近くにある空き部屋っす。なんか物音がして侵入者が怖かったんでPC持って移動しました」
「そうか。お前のステルスなら大丈夫だとは思うが……無事ならいい。
こちらはそいつと遭遇した。逃がしてしまったが、こちらに犠牲はないだけよしとすべきだろう。
ところで澪はどうした」
「それは……どういう意味っすか」
「無駄な会話をするつもりはない。制御室なら艦内の様子をかなり把握できたはずだ――報告しろといっている。澪はどうした」
「……わかんないっす」
「PCで監視ロボットのカメラを通じて何か見てはいないのか?」
「制御室から移動するときに、侵入者が怖くて……逃げるので精一杯だったっす。すいません」
「怖いなら、逃げながらでもなおさらPCを見るんじゃないのか? 監視ロボットの映像は安全に侵入者を監視できる貴重な情報だろう」
「……慌ててました、考えが及ばなくて」
「そうか、まあいい。俺が知りたいのは澪が何故そんな行動に出たかだ。心当たりは?」
「………………協力してもらいました、私の対局のために。ゲームで勝てないならプレイヤーを直接仕留めればいい」
そのために、澪さんに……」
「正直だな。すぐバレる嘘を下手に繕わないあたりは、お前もまだ冷静ということか。安心したよ。
こちらとしても危険人物である浅上藤乃が関わる集団なら元から排除する予定だからな、大きな問題はない」
「…………そっすか」
「俺にはまだお前が必要だ。お前も、少なくとも織田信長のような理屈抜きの怪物が生きているうちは俺と組むメリットがある。
裏切るならもう少し後にしたほうがいいぞ」
「……!」
- 965 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:38:32 ID:8UZEbHZc
-
「独断でわざわざ澪を動かしたのは俺に切り捨てられると思ったからだろう。機動兵器の扱いなら憂の方が長けているからな。
俺達にそう申し出ればいいだけのこと……まあ今回、殺人麻雀を打たせたのは、お前が人数が少なくなってきた今の状況でどう出るか試すためだ」
「手のひらの……上っすか」
「確かお前の世界では麻雀が盛んだったな……そのルールにもあるだろう。
最終的に目指す役の為には、不要ならば高得点が加算されるドラのような牌でもいつかは切らなければならない。
俺とお前では目指すアガリ役が違うがゆえに、いつかは不要牌を――お互いを切り捨てなければならない」
「……ええ、そうっすね」
「だが、その牌にも切り時というものがある。今はその時ではない、と俺はそう思っている」
「不問にする――と?」
「お前と澪とのラインを知ることができたのは成功だ。だがこれについても今すぐどうこうするつもりはないから安心しろ」
「……」
「あと忠告しておくが……デュオに独断で接触しようとするのはやめておけ」
「どういうことだって……聞いてもどうせ答えてはくれないんっすね」
「お前のためだ。式という女も……アレがそう簡単に手に負えるタマじゃないことぐらいはわかっているだろう?」
「……」
「ではな、指示を出すまではおとなしくしておけ。澪も帰ってきたら悪いようにはしない」
「………………了解っす」
「切るぞ」
ブツッ ザー ザー ザー
◇ ◇ ◇
「おい」
部屋の外からおもむろに声が聞こえた。
気配を消して一切の音を潜める。
心臓の鼓動すらも消す意識で臨めば、それはその通りになることを長年の経験で知っている。
「いるのはわかってるんだ、おとなしくしとけよ。変な物音がしたら外から直接グレネードぶちこむぜ?」
思わず舌打ちをしてしまう。
おそらくはかなり前からこの部屋の外で気配を消したまま待っていたのだろう。
治療――脇腹の傷を縫合する作業に集中するあまりに気付くことができなかった。
今しがた治療したばかりの己の腹部を見る。包帯の上から血が僅かに滲んでいた。
なんせ麻酔なしだ。舌を噛みかねないため猿轡を必要とするほどの激痛だった。
自己治療中に部屋の外に意識がいかなかったとしても、それは責められるべきことではないだろう。
- 966 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:41:12 ID:8UZEbHZc
- だが、結果としてこの窮地。
アリー・アル・サーシェスはこの傷を負わせた謎の少女――姿は見えないが女の声ではあった――を恨む他になかった。
この傷さえなければ格納庫から脱出してギャンブル船へ一直線のはずだった。
しかしそうはいかず、治療を優先してどこかの部屋へ隠れた挙句がこの始末だ。
どうにか、どうにかしなければならない。
相手が有無をいわさず攻撃してこないのは、グレネード云々がハッタリか、それともなるべく戦いたくないと考えているか。
付け入るスキがあるとすれば、そのあたりか。
腹の傷を軽く撫でると、少女の肉体に走る痛みが朦朧とした意識を明確にした。
顔をしかめながらも、逆転の一手を求めて思考をフル回転させる。
「なあ――俺達の仲間にならないか?」
なんといきなりこう来たか。
話が早過ぎるというか、かえって怪しいレベルだ。
「いいか、よく聞けよ。俺達は会場内の施設を利用して、首輪を解析する手がかりを発見した。
この意味を良く考えてくれ、わかるか」
だから何だというのか。こちとら先程まで大絶賛出血中だった身分だというのに。
襲いかかってこないのは有り難いが、こっちは脳みそへ送る血が足りない上、傷の痛みでイラついている。
さっさと本題に入れというのだ。
「でもおかしいだろ? なんでわざわざ会場にそんな手がかりを配置するんだ? つまり……首輪を外すのも殺人ゲームのうちなんじゃないか?」
……。
確かに。
最後の一人になるまで殺しあうのがルールだが……抜け道があるとしたら?
もし本当に首輪を外せば、当面殺しあう必要はなくなるが……いや、まて。
こいつの話――首輪を外せるかもしれないという話が本当なら、という条件が大前提だ。
たしかにどいつもこいつも必死で殺し合ってる横で、実は抜け道がありますよ〜なんて糞意地の悪い真似はいかにも連中がやりそうだが……。
――そこまで考えて、己の特殊な状況に考えを巡らせる。
自分はこの殺人ゲームで火種となり、多くの参加者を殺すことが仕事だ。
それに従わなくては主催のリボンズから首輪を爆破されてしまう身の上である。
だが、どう考えてもこの状況で馬鹿正直に正面から突っ込むのは自殺行為だ。
むしろ、この話に従うふりをして反撃のチャンスを伺うほうが得策。
(……まあ、その程度には信用されてると思いたいねえ。なあ、大将?)
本気で主催に歯向かうわけではない、あくまでこの窮地を凌ぐための方便である。
それを向こう側が理解してくれれば問題はない。というか、そうしてくれないならどちらにしろかなりまずいことになる。
「……つまり、殺し合わなくても済む手段を、わざわざあちらさんが用意してくれてるってわけかい?」
「ああ、その通りだ。そっちから強制しておいて胸糞悪い話だけどよ……もしそうなら話を聞く価値くらいはあるだろ?」
「そうだな……会場全部が禁止エリアになるにはまだまだ時間がある……今、ここで、今すぐ殺しあうって必要性は薄い、なぁ」
「そうだ、だからゆっくりそこから出てきてくれないか? 悪いようにはしねえさ。俺は逃げも隠れもするが嘘はつかない」
この声は、あの三つ編みのガキ――デュオ・マックスウェルかと思い至る。相方の和服女のことを式って呼んでいたことも。
あの化物――鎧姿の大男とぶつかってよく生きてたものだと感心する。
もうひとりいた張五飛というガキはくたばったようだが。
- 967 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:43:20 ID:8UZEbHZc
-
「わかった、わかった……これでいいかい。お前がこっちに物騒なもんを構えてるうちは、悪いがこっちも獲物は手放さねえぜ?」
「ああ、それでいい。こっちに来てくれ。俺の仲間が紹介のついでに、詳しく説明してくれるはずだ……歩けるか?」
そういって促すとデュオは心配そうにこちらのケガの具合を伺ってきた。
どうも本心から心配しているように見える。
なんとも甘いガキだ。よくも今まで生き延びてきたものだと内心でサーシェスは呆れる。
「さっき怪我してたのか……? それとも前からか?」
「別にいいだろう。どうでもよ」
小娘(と思われる)に手ひどい目に遭ったことをわざわざ自分から吹聴する趣味はない。
話を逸らすついでに、目の前の少年について感じていたことを素直に口にした。
「よくもまあ、そこまで甘ちゃんで生き延びてこれたもんだなあ。見逃してもらっていうのも何だがよ、随分と余裕じゃねえか」
「ま、俺はガンダムのパイロットだからな! ……って言ってもわからねえか。ははっ」
へえ……と、サーシェスは内心で好戦的な感情が沸き立つのを感じる。
ソレスタル・ビーイングのガンダムパイロットを全員知っているわけではない。
己が育てた元ゲリラの少年や、自分がかつて所属したゲリラ組織を恨んでいたパイロットとは別なのか。
それともゼクスがかつて言っていた、サーシェスが知るのとは違うガンダムが本当に存在し、それを操る者であるのか。
目の前のデュオと名乗る少年は、笑いながらも一切隙を見せずに自分の横を歩く。
近すぎず遠すぎずの距離、奇襲するにも難しい間合いだ。すくなくとも素人ではない。
ガンダムのパイロットだということも、もしかしたら真実かもしれないと思わせる。
「……ルルーシュか。ああ、話を聞いてくれるらしい。今からそっちにいく」
デュオが通信機で仲間と連絡をとっている。
そういえば、今からここに戻ってくる男を殺してくれと頼まれていたが――さて、それはおそらくあの細身の男だろう。
これも取引材料の一環として使えるかもしれないと考えつつ、サーシェスは歩くたびに響く脇腹の痛みに顔をしかめた。
◇ ◇ ◇
――まずい。
ルルーシュ達と合流しようとする二人の後ろでステルス中の東横桃子は己が窮地に陥ったことを悟った。
あの女が自分に殺害を頼まれたことを喋れば、一度は許すといったルルーシュの判断もまた変わるかもしれない。
いまここで殺すか。
自分の約10メートル程先を歩くデュオとセーラー服の女。
だが単独ならばともかく、二人同時に速やかに始末できるか。
自分のステルスが強力化しているのは自覚しているが、殺人という一大事において完璧なステルスが出来る保証はどこにもない。
ましてデュオは桃子とは面識がない。
- 968 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:46:10 ID:8UZEbHZc
- 女を殺した瞬間の姿を見せて、しかも害意があると認識されれば即座に攻撃されるだろう。
殺意という言葉がある。人を殺そうという感情はとても強いものであると言われている。
自分でセイバーを仕留めたとき、ステルスできるほど冷静であったか自ら判断できるとは思わない。
だがおそらくその瞬間、桃子の姿は誰かに見えていただろう。仕留められたのは獲物が瀕死であったからだ。
人を殺すときの強い感情と動きまでも完全にステルスするのはいかにも難しいという逡巡が桃子を躊躇わせていた。
殺すべきか、殺さざるべきか――
「――あっ、ルルーシュさん、きましたよー!」
ぶんぶんと手を振って無邪気にデュオを出迎える憂の姿が通路の先から見えてきた。
その後ろにルルーシュ。
その目を見つめる。一瞬目があってドキッとする。
だが桃子には気づかず目線を動かし、デュオたちを見る。
気づかれていない。
ステルスは出来ている。
殺して逃げるか。
そのまま逃げるか。
いっそ逃げずにすべて殺すか。
殺せるか――?
【D-1 廃ビル前(ホバーベース内・制御室前)/二日目/黎明】
【東横桃子@咲-Saki-】
[状態]:疲労(小)
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:FN ブローニング・ハイパワー(自動拳銃/弾数15/15/予備30発)@現実、双眼鏡@現実(現地調達)、パソコン
[道具]:デイパック、基本支給品×2(-水1本)、シティサイクル(自転車)@現実、蒲原智美のワゴン車@咲-Saki-(現地調達)
小型ビームサイズ@オリジナル(現地調達) 、七天七刀@とある魔術の禁書目録、発信機@現地制作、通信機×2@コードギアス
死亡者・おくりびと表示端末、【第1回放送までのおくりびと】のメモ、キャンプ用の折り畳み椅子@現実、“狐”の面@現実
[思考]
基本:加治木ゆみを蘇生させる。もう、人を殺すことを厭わない
0:殺すか?
1:このジリ貧状況をどうにかしたい。
2:ルルーシュを利用し(利用され)、優勝する。
3:そろそろルルーシュには消えてもらう。そのためにまずはルルーシュの能力を知りたい。
4:浅上藤乃を許す事は出来ない。
5:あらゆるファクターを利用して効率よく殺し合いを加速させる。最終的に仲間を殺す事にも既に迷いはない。
6:ステルスを使う時は麻雀で対局相手の当り牌を切る時の感覚を大事にする。
7:ライダー、織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話終了後。
※カギ爪の男からレイに宛てて書かれた手紙は中身を確認せずに破り捨てました。
※荒耶宗蓮が主催者側の魔術師である事を知りました。
※自分の起源を知りました。起源は『孤独』。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
※闘技場での伊達政宗達やバーサーカーの戦いの顛末を見ました。
※【A-7】での爆発に気付きました。
- 969 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:47:51 ID:8UZEbHZc
- 【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:全身打撲、左頬に腫れ、左腕の骨に罅、妹達(シスターズ)に転身状態、体内電流を操作することで肉体の反応速度を上げることが可能
右腹部に傷(治療済み)
[服装]:清澄高校の制服@咲-saki-、ノーブラ、首輪
[装備]:ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル、コルトガバメント(1/7)@現実、予備マガジン×2、接着式投擲爆弾×3@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、特殊デバイス、救急セット、399万ペリカ、常盤台の制服@とある魔術の禁書目録 、パーシヴァルの機動キー@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:雇い主の意向の通りに働き、この戦争を勝ち上がる。
0:とりあえず話を聞いてみる
1:ギャンブル船に行ってパーシヴァルを手に入れる。
2:D-4、E-5以西の区域で好きなように立ち回る。
3:迂闊に他の参加者と接触はしない方がいいかもしれない。
4:上条当麻、デュオ、式、スザクたちには慎重に対処したい。余裕があれば暦に接触してみたい。
5:影の薄い女にはきっちりとお礼をする。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※五飛からガンダムWの世界の情報を取得(ゼクスに関してはやや誤解あり。ゼクス=裏切りもの?)。真偽は保留にしています。
情報収集のためにデュオと接触する方針はとりあえず保留。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※スザク、レイ、一方通行がアーチャーに接触した可能性があるとみています。
※ライダーとはアーチャーが、藤乃とは式が、それぞれに共通した敵であると伝えました。
※シスターズの電撃能力は今のところ上手く使うことができません。
※衛宮士郎は死んでいる可能性が高いと考えています。
※特殊デバイスについて
マップ機能の他に『あちら側』からの指令が届く。
それに従わなかった場合サーシェスの首輪は爆破される。
【デュオ・マックスウェル@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康 、ギアス「俺の言うことを疑うな」発動中
[服装]:牧師のような黒ずくめの服
[装備]:フェイファー・ツェリザカ(弾数2/5)@現実、15.24mm専用予備弾×60@現実
COLT M16A1/M203(突撃銃・グレネードランチャー/(20/20)(1/1/)発/予備40・9発)@現実
BMC RR1200@コードギアス 反逆のルルーシュR2、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
[道具]:基本支給品一式×2、デスサイズのパーツ@新機動戦記ガンダムW、五億ペリカ
首輪×4(荒耶宗蓮・兵藤和尊・田井中律・竹井久)、手榴弾@現実×10
桜舞@戦国BASARA(一本のみ)、
ラッキー・ザ・ルーレットの二丁拳銃(4/6)@ガン×ソード、莫耶@Fate/stay night、干将@Fate/stay night
ヒートショーテル@新機動戦記ガンダムW、特上寿司×3人前@現実、ジャンケンカード×3(グーチョキパー各1)
[機動兵器]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
[思考]
基本:五飛の分も込めて、ガンダムパイロットとして主催を潰す。
0:ルルーシュの話を疑わない。
1:……もう一人の侵入者?
2:遺跡や象の像に魔法陣はないのか?
3:リーオーを乗りこなす。憂と澪への機動兵器での訓練を行う。できればガンダム(さらにいえばデスサイズ)が欲しい。
4:『消える女(桃子)』にも警戒。そういえばあの女(桃子)ビームサイズ持ってたな……。
6:首輪を外すのも魔法陣破壊もゲームの内か……首輪の解析について、色々実験してみる。荒耶の首輪はじっくり慎重に調べる。
7:五飛の死に対する小さな疑問。
[備考]
※参戦時期は月面基地脱出以降。ゼクスのことはOZの将校だと認識している。正確にどの時期かは後の書き手さんにお任せします。
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました。
※以下の情報を式から聞きました。
・荒耶が殺し合いの根幹に関わっている可能性が高い。
・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用があるかもしれない。
・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてあるかもしれない。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
※リーオーはホバーベース格納庫に置いてあります。
- 970 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:49:19 ID:8UZEbHZc
- 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、右腕の骨折
[服装]:アッシュフォード学園男子制服@コードギアス
[装備]:ニードルガン@コードギアス、ククリナイフ@現実、イヤホン@現地制作、
[道具]:基本支給品一式、3500万ペリカ、盗聴機×7、発信機×4@現地制作、通信機×4@コードギアス、首輪×3(キャスター・ヴァン・張五飛)
単三電池×大量@現実、USBメモリ(会場地図)@現実(現地調達)、USBメモリ(ダモクレス設計図)@現実(現地調達)
荒耶宗蓮の工房から回収した不明品多数、蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界、和泉守兼定@現実、バトルロワイアル観光ガイド
鏡×大量、消化器、ロープ、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本:枢木スザクは何としても生還させる。
0:桃子、澪を警戒する。
1:廃ビルの施設を調査する。
2:第四回放送後、黒の騎士団の機動兵器を上位機体に乗り換えさせる。
3:デュオと式を上手く利用する。殺しも厭わない。桃子、憂、スザク、C.C.、ユフィ、澪以外は敵=駒。
5:阿良々木暦を排除したい。または(ギアスで)懐柔したい。
6:スザク、C.C.、ユフィと合流したいが、C.C.、ユフィは参戦時系列の考察により、相応の警戒を持って接する。
7:C.C.と合流出来たら遺跡(思考エレベーター)を調べたい。
8:象の像は慎重に調べる。
9:織田信長、浅上藤乃、一方通行を警戒。
10:両儀式を警戒。主催者側の魔術師である荒耶宗蓮の工房から回収した品を見せる?式に既視感?
11:“金で魔法を買った”というキーワードが気になる。
12:首輪の解除方法の調査、施設群Xを調査する?
13:刹那と本田忠勝の想いを受け継ぐ。
[備考]
※参加者が異なる時間平面、平行世界から集められている可能性を考察しています。
デュオとの情報交換から、『異なる時間平面』についての考察を確定させました。
※桃子から咲の世界の情報を得ました。主要メンバーの打ち筋、スタイルなどを把握しました。
※自分のギアスも含めて能力者には制限が掛っていると考えています。
※トランザムバーストの影響を受け、刹那・本田忠勝・バーサーカーの戦い、及びその記憶と想いを呼び覚ましました。
(どこまで記憶の影響を受けたかは後述の書き手氏にお任せします。 ただし、何か特殊な力に目覚める、イノベイターに覚醒する等は一切ありません)
※発信機により東横桃子と平沢憂、秋山澪の位置を把握出来ています。
※式、デュオ、五飛と情報交換をしました。3人に阿良々木暦は殺し合いに乗っていると吹き込みました。
※ダモクレスが会場内にある可能性を危惧しています。また主催内に自分達を援護する工作員の存在を考えています。
※盗聴器を一つ、E-2の橋に仕掛けました。
※パソコンで、メールソフト、バトルロワイアルサポート窓口の利用が可能になりました。
※揚陸艇は船着場に繋留したままです。(燃料…残り7キロ分)
※【象の像】で警備ロボットを一台購入しました。
- 971 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:50:10 ID:8UZEbHZc
- 【平沢憂@けいおん!】
[状態]:拳に傷、重みを消失
[服装]:ゴスロリ風衣装@さわ子のコスプレセット
[装備]:ギミックヨーヨー@ガンソード、騎英の手綱@Fate/stay night+おもし蟹@化物語、拳の包帯
S&W M10 “ミリタリー&ポリス”(2/6)、 発信機@現地制作、通信機@コードギアス、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×7個(in腰巾着)
[道具]:基本支給品一式、CDプレイヤー型受信端末、リモコン、日記(羽ペン付き)@現実、カメオ@ガン×ソード
皇帝ルルーシュのマント、洗濯紐包帯と消毒液@逆境無頼カイジ、阿良々木暦のMTB@化物語、“泥眼”の面@現実
鉈@現実、燭台切光忠@現実、忍びの緊急脱出装置@戦国BASARA×1、38spl弾×46、さわ子のコスプレセット@けいおん!
[思考]
基本:ルルーシュとバンドを組みたい。阿良々木さんはもう絶対殺す。
0:一人は嫌だ……。
1:辛いことは考えない、ルルーシュさんを信じる。
2:ルルーシュさんの作戦、言う事は聞く。
3:桃子ちゃんは友達。澪さんとバンドが組めて嬉しい。
4:阿良々木さんにサザーランドを見せた後、ブチ殺してお姉ちゃんのギー太を返して貰う。
5:織田信長、浅上藤乃(と思われる黒髪の少女)、一方通行、ユーフェミアを警戒。ユーフェミアに対しては『日本人』とは名乗らないようにする。
6:梓を殺した荒耶宗蓮への憎悪。
7:思いを捨てた事への無自覚な後悔。お姉ちゃんは私の――。
8:死にたくないから、私は……?
[備考]
※ルルーシュの「俺を裏切るなよ」というギアスをかけられました。
※中野梓についていた「おもし蟹」と行き遭いました。姉である平沢唯に対する『思い』を失っています。
※第2回放送をほとんど把握していません。
※ユーフェミア・リ・ブリタニアの外見的特長を把握しました。
【(腹)黒の騎士団の作戦】
1:戦力増強のため、超人レベルか達人レベルの戦力を有する対主催派集団に入り込む。または作り出す。
2:ルルーシュと憂と澪は無害を装い。桃子はステルス状態で同行。
3:内側からギアス等で集団を都合よく操る。策を弄する際の連絡役は桃子。万が一の不意打ち役も桃子。
4:出会う参加者に阿良々木暦の悪評を伝える。
5:邪魔になる人物や戦場ヶ原ひたぎは排除するか、ルルーシュが懐柔。
6:桃子は集団内の人間をよく観察する。
7:集団内に殺し合いに乗った人間が居たら、懐柔するか排除する。
8:阿良々木暦に遭遇した場合は混乱に乗じて排除するか、ルルーシュが懐柔。
9:戦力にならない集団とは阿良々木暦の悪評だけ伝えて別れるか、そもそも関わらない。
10:『おくりびと』は見られないようにする。
※下記の道具の入ったデイパックが、ルルーシュの部屋に置かれています。
基本支給品一式、歩く教会@とある魔術の禁書目録、手紙×2、遺書、カギ爪@ガン×ソード
モデルガン@現実、ミサイル×2発@コードギアス、“夜叉”の面@現実、揚陸艇のミサイル発射管2発×1機
ジャージ(上下黒)、皇帝ルルーシュの衣装(マント無し)@コードギアス、ゼロの仮面とマント@コードギアス、
カセットコンロ、 混ぜるな危険と書かれた風呂用洗剤×大量、ダイバーセット、医薬品・食料品・雑貨など多数@現実
※下記の道具の入ったデイパックが、澪の部屋に置かれています。
基本支給品一式×6、ゼロの剣@コードギアス、ゼロの仮面@コードギアス、果物ナイフ@現実(現地調達)、ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)
ファサリナの三節棍@ガン×ソード、刀身が折れた雷切 @現実、遠坂凛の魔力入り宝石@Fate/stay night×3個、薔薇の入浴剤@現実
桜が丘高校女子制服(憂のもの)@けいおん!、メイド服@けいおん! 、ポンチョのようなマント@オリジナル(現地調達)
桃太郎の絵本@とある魔術の禁書目録、2ぶんの1かいしんだねこ@咲-Saki-、シアン化カリウム入りスティックシュガー×5
※冷蔵庫内に大量の食糧が入っています。
※下記の機動兵器が格納されています。
[平沢憂用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、アサルトライフル、メーザーバイブレーションソード
[秋山澪用]:RPI-13サザーランド
スラッシュハーケン、スタントンファ、大型キャノン
[デュオ・マックスウェル用]:OZ-06MS リーオー
ビームサーベル(リーオー用)×2、シールド(リーオー用)、ビームライフル(リーオー用)
※警備ロボットが一台、ホバーベース内を巡回しています。警備ロボットの詳細については後続の書き手氏にお任せします。
- 972 : ◆mist32RAEs:2010/09/06(月) 01:50:51 ID:8UZEbHZc
- 投下終了です
お待たせした割に短くてすいません
タイトルは「殺意の火薬庫」です
- 973 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/06(月) 14:17:47 ID:acASVggI
- 投下乙です
これは内紛の前触れかな
破局するのかそれとも…
問題は次だろうな
- 974 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/06(月) 19:01:58 ID:LeE.H2sY
- 投下乙
ルルモモコンビが細い糸だけど繋がりが残った感じが、このコンビ好きとしては嬉しいな
さっそく引きで運命の分かれ目が来てるけどw
- 975 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/06(月) 22:39:40 ID:TovoY5Tw
- 投下乙です
>◆0zvBiGoI0k氏
「ひたぎエンド(アナザー)」が若干容量オーバーの為、
お手数ですが再度分割指定をお願いします。
なお、「ひたぎエンド(アフター)」が32KBとギリギリなので
2分割での収録よりは宜しければ3分割での指定をお願いします。
- 976 : ◆0zvBiGoI0k:2010/09/06(月) 22:59:09 ID:RSWpNNk2
-
>>913〜>>925までを「ひたぎエンド(ビフォー)」
>>926〜>>>>941までを「ひたぎエンド(アナザー)」
>>942〜>>957までを「ひたぎエンド(アフター)」
で、お願いします。いつもありがとうございます。
- 977 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/07(火) 00:19:24 ID:5Dgk7aMU
- >>976
ありがとうございました。
健康にはくれぐれもお気をつけ下さい
- 978 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:07:18 ID:giIs9CLg
- これより式、士郎、荒耶、澪、本投下します。
- 979 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:07:43 ID:giIs9CLg
-
衛宮士郎と両儀式。
互いに相手の存在の抹消を宣言して始まった二人の戦い。
ここに来るまでの生き方、ここに来てからの戦闘経験。
それら全てにおいて式が勝っている。
その差は、両者が遭遇した信長との戦いが顕著に示している。
式はガンダムチームの2人と組んで立ち向かい、劣勢ではあったものの無傷でその場を切り抜けた。
一方の士郎は信長を相手にして生きながらえているものの、ほぼ限界まで力を使い尽くし、少なからずの犠牲を払った。
ここに至ってアンリ・マユによる強化を受けた士郎だが、それでも式には及ばない。
直死の魔眼による士郎の死。
それがこの場で最も可能性が高い展開。
―――しかし。
「うおおおおおおおーーーーー!!」
「チッ……!!」
この剣戟が重なり始めてから十数分。
両者は未だ傷一つないままに戦いを続けていた。
「―――トレース・オン(投影開始)」
士郎は式に剣を叩きつけつつ、すかさず投影を開始する。
これに対し、式は叩きつけられた騎士剣を殺しつつ、体勢を整える。
「またそれか……さて、”次は”どっちだ?」
- 980 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:08:12 ID:giIs9CLg
-
◇ ◇ ◇
時は戦闘開始時まで遡る。
出会い頭の邂逅において、士郎が持つ漆黒の騎士剣はただの一撃で”殺された”。
これによって、凄まじいまでの違和感が士郎を襲う。
いくら贋物とはいえ、士郎が持ちたるは騎士王の幻想。
いかな名刀が相手であろうとも一手に壊されることは考えがたかった。
故に、士郎は相手に何らかの能力が備わっていることを確信した。
他ならぬ剣特化の魔術師である士郎だからこそ、その判断が真っ先についていた。
剣閃が邂逅し、騎士王の剣が殺され続けること、数度。
ここで両者共に動き出す。
「そろそろその能力にも飽きてきた。次で殺すぜ」
珍しい能力だと様子見しながら戦っていた式だが、既に士郎の太刀筋を見切り始めていた。
このまま続けるのであれば、次で殺す。
そのような気概を込めて、九字兼定を振る。
「―――トレース・オン(投影開始)」
「―――トレース・オン(投影開始)!」
だが、士郎はここで一気に2つの投影を行う。
そして両手に携えたそれをこれまでと同じように式に叩きつける。
「こいつ……!!」
いきなりの二刀流を前に、さすがの式も僅かばかり対応を遅らせた。
加えて速さだけなら達人レベルまで達している士郎が相手。
両の手の騎士剣を殺すことは出来たものの、宣言通りに担い手を殺すことは出来なかった。
ここで、両者共に間合いを遠くする。
「……ようやくお前の能力が分かってきた」
「―――へえ。今までのでそれを確かめてたって訳か」
面白いじゃないかと呟きつつ、式は突進する。
士郎はその場に留まり、次の手に出る。
- 981 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:08:55 ID:giIs9CLg
-
「―――トレース・オン(投影開始)」
士郎の手に現れたのは漆黒の騎士剣ではなかった。
式の持つ九字兼定と同じく日本刀、それも竜の爪と呼ばれる刀であった。
独眼竜の生き様を表すかのようなその絢爛な佇まいも、今は瘴気をまとい邪悪竜の爪といった様相になってしまっていた。
「やっぱり日本刀も作れるんだな。敵にしとくにはもったいない能力だ」
ここで殺すんだけどなと嘯きつつ、式は攻撃を仕掛ける。
得物を変えたとはいえ、相手の太刀筋は見切っている。
二刀流も次は通用しない。
普通に考えれば、もう負ける要素は無い。
―――それならば何故、死の気配を感じるのか。
「……ッ!!」
急に立ち止まる式。
その眼前を”予想外の角度”から通りすぎる剣閃。
さすがの式もこれには驚きを隠せなかった。
「……太刀筋がまるで違う」
士郎が格上と渡り合える理由はここにあった。
今の士郎自身には、確固たる太刀筋があるわけではない。
それを持つには一対の短剣が必要になるが、士郎はそれを持ち得ない。
であれば、今現在の太刀筋はどこから生み出しているのか。
それは剣の記憶。
騎士剣に刻まれた騎士王の剣舞。
竜の爪に刻まれた独眼竜の爪撃。
士郎は得物を変えた瞬間から、すぐさま太刀筋を別物に出来た。
それは見切りに長けていればいるほどに惑わされるという一種の達人殺しのような能力。
これも剣に特化した士郎にしか為し得ない唯一無二の技。
「DEATH FANG Blade Works―――」
「面白い芸当だが、それでもオレは殺せない」
下段から斬り上げる士郎に対し、式は九字兼定を振り抜く。
その瞬間、式は士郎の太刀筋を「クリア」していた。
見切りが通用しないのならば、端から全て初見と思えば良い。
起源が『虚無』である式ならではの芸当。
- 982 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:09:56 ID:giIs9CLg
-
「くっ―――トレース・オン(投影開始)!」
騎士剣を楯にして後方に跳ぶ士郎。
式も騎士剣を殺しつつ、士郎を追う。
だが、士郎もまた次の武器を投影し、むしろ突っ込んできていた。
「ライナー/エア・ブレードワークス!!」
突進しながら漆黒の騎士剣を突き出す士郎。
剣が纏う瘴気を警戒して、式は横に大きくステップを踏む。
そこに合わせて士郎は横に薙ぐが、その剣閃は騎士剣を殺される事で消滅する。
今度は六爪を投影して袈裟斬りするもこれまた避けられ、その次の邂逅で竜の爪が折られる。
投影しては殺され、殺してはまた投影される。
ただひたすらに騎士王と独眼竜の幻想が殺され続ける戦いが繰り広げられる。
九字兼定を持ち、万全である式ですら、今の士郎を相手にしては攻めあぐねていた。
今やどちらが勝っているとか劣っているとか、明確な判断がつかない。
ここに生死を紙一重とした互角の攻防が実現していた。
式以上の使い手でない限り、士郎にしか為しえぬ快挙。
しかし、その互角は長時間保たれるものではなかった。
もう何度目になるか分からない邂逅を終え―――両者の何らかの思惑が一致したのか―――大きく距離を置いて対峙した。
「いい加減面倒だ。そろそろ決めるぞ」
時間は有限であり、周りの情勢は刻々と移りゆく。
ここでいつまでも敵と剣戟を交わしているような余裕はない。
式は己が集中力を最大限まで高めていく。
強力すぎるためかあまり発揮されない自らの能力。
今、この一瞬だけでもソレを行使し、この難敵を斬り伏せる。
「―――トレース・オン(投影開始)」
- 983 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:10:34 ID:giIs9CLg
-
一方、士郎もまたこの敵を相手に一切の余裕がなかった。
これまでの邂逅で判明した敵の能力は「何らかの条件であっさりと物質を斬る」力。
試す気はないが、人体ですら例外なく斬れると見た方が良いだろう。
全てに死が連想される一撃を受け続け、士郎の精神は次第にすり減らされていた。
今は無尽蔵の魔力があるとはいえ、投影する身はただの人間に過ぎない。
投影するたびに魔術回路を駆け巡る刺激にも、慣れた訳ではない。
故に、敵が乾坤一擲の勝負に出たのを幸いと、自らも勝負に出る。
「―――憑依経験、共感終了」
脳裏に描くは無数の剣。
それらの設計図を準備していく。
そのほとんどはこの地に来てから見たもの。
これまでの士郎と剣の結びつきをこの一手に篭める。
「―――ロールアウト(工程完了)。バレット(全投影)、クリア(待機)」
極限まで高められる殺気と戦気。
両者の準備は整い、あとはきっかけがあれば爆発するだろう。
二人はそのきっかけを、待つ。
―――そして。
『う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』
1つの悲鳴が響き渡る。
それは驚愕と恐怖が入り交じった叫び。
(秋山……!?)
思いもよらぬきっかけが到来し、式の心に僅かなゆらぎが起こる。
その隙を今の士郎が見逃すはずもなく。
「―――フリーズアウト(停止解凍)、ソードバレルフルオープン(全投影連続層写)!!」
空間より出現した無数の剣が式に向けて射出される。
「チッ……!!」
式は思考を切り捨て、目の前に迫る死へと向かう。
一瞬の後、凄まじい音が辺りに響き渡る。
- 984 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:11:07 ID:giIs9CLg
-
◇ ◇ ◇
舞台はまた遡って戦闘開始直後。
自分を殺そうとする士郎、自分を守ろうとする式。
その二人を省みず、澪は自らの行いを回想する。
桃子に頼まれて、ギャンブル船を攻撃。
士郎・美穂子との戦闘。
美穂子の殺害と、自分に憎しみを向ける士郎。
「そうだ……私が殺したんだ」
自分の意志で。あの女を。
澪にとって美穂子は決して相容れてはならない相手だった。
唯を通じて出会った二人。
その出会いは決して穏やかなものではなかった。
澪は唯の信頼を勝ち得ていた美穂子に嫉妬し、死地へと誘った。
当然、死んだと思った。
これからは自分が唯を守るのだと意気込んだ。
だが、結果は逆だった。
死地に向かわせたはずの美穂子は生き残り、自分が守るはずだった唯は死んだ。
第三回の放送を聞いた時、澪は内心動揺を隠せなかった。
そして、思ってしまった。
『もしあの女が唯と一緒にいたままなら、唯は死なずに済んだのではないか?』
ルルーシュらと共に歩む事に必死だった澪はその疑問をあまり考えずに済んだ。
だが、ここに来て美穂子を一目見た時、その疑問が大きく膨れ上がっていた。
それからいいようにやられ続け、澪の精神は極限までに達し、あれほど嫌った起源を受け入れた。
そして―――
- 985 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:12:26 ID:giIs9CLg
-
「そうだ、殺してやった!! あのいけすかない女を!!」
澪は見た。士郎をかばって死んだ女の最期を。
生きながらに咀嚼された女の最期を。
自らが劣等感を感じた女の最期を。
「私があいつを殺した以上、私はあいつより強い。
なら―――あいつがいたとしても唯は守れなかった!」
単純にして酷く歪んだ真理を澪は導きだす。
仮に美穂子より澪は強いとしよう。
だからといって何が変わるのだろうか?
澪は自己の正当化のために美穂子の死を利用した。
それは一種の『逃避』。
澪は全てから『逃避』し続ける。
罪からも、敵からも、そして現実からも。
そこまで考えた澪はようやく心を落ち着かせる。
そして、未だ危険な場所にいる事を思い出し、辺りを見回す。
一番に飛び込んでくるのは、眼前で戦っている式と士郎の姿。
「そうだ……式を助けないと」
思惑はどうあれ、窮地だった澪を救ってくれた式。
不安を抱くほどに変質した桃子に比べ、式は出会った時から何一つ変わっていない。
そんな式だからこそ、澪は今や一番の信頼を置くに至っていた。
澪は再度周りを見回し、自らの乗機・サザーランドへ近づく。
先程の戦いで損傷したとはいえ、動けないほどではないはず。
このサザーランドで、殺す。
「私を助けてくれない正義の味方なんているもんか……!!
衛宮士郎、お前は私が殺してやる!!」
「それは困るな、秋山澪」
- 986 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:12:52 ID:giIs9CLg
-
後方からの声。
え、とこぼしつつ、澪が振り返ったときにはもう何もかも遅かった。
「、王顕」
呟かれた言葉と共に射出される右腕。
それが唖然とする澪の腹部に叩き込まれ、そのまま振り切られる。
「ぐあっ……!?」
強烈な衝撃と共に澪の身体が吹き飛ぶ。
数メートルほど飛び、接地したあともゴロゴロと転がり、ようやく止まる。
その最中にドラムスティック以外の手荷物は手放してしまっていた。
「あ、あ……?」
何が起こったのか分からない。
あまりの痛みと唐突な展開に頭の中が真っ白になる。
一時的に焦点が合わなくなった目を辺りに向けると、近づいてくる人間が見えた。
「う、うあっ、うあああぁあ!!」
咄嗟にオレンジ色のトランクケースに手を伸ばす。
この魔物でアレを殺す。
「不具、」
「……なんで!?」
「金剛、」
「な、動かな……!?」
「蛇蝎、」
「ぐっ、ぐぅぅ……」
だが、荒耶による六道結界により、まず伸ばした腕を静止され、足を静止され、身体も静止された。
身動きの取れない澪は呻きをあげつつ抵抗を試みるが、全く何も出来ない。
- 987 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:13:44 ID:giIs9CLg
-
「ここまでの舞台を作ってくれたお前には感謝するが、ここから先に介入することは許可できんな」
「ぐぅぅ……お、お前、誰だ……?」
「私か? 私は魔術師、蒼崎橙子。まぁ、お前に覚えてもらっても意味の無い名だが」
そんな事を語りつつ、荒耶はトランクケースを取り上げる。
あっ、と澪がその様子を見て声を挙げる。
「そ、それはっ、私のっ……!!」
「ほう、これを使いたいというのか。お前にその覚悟があるか?」
「何を言って……」
私はこれまでそれを上手く使ってきた、とでも言いたげな表情を澪は作る。
荒耶はその様子を睥睨しつつ、言葉を重ねる。
「なるほど、今まではお前の思う通りに動いたのだろう。
だが、今となっては状況が違う」
「デタラメを言うな! それは私のモノだ!!」
「そうか。そう思うのなら使ってみるがいい」
「……え?」
荒耶はあっさりと六道結界を解き、あまつさえトランクケースを澪に手渡す。
あまりの出来事にまたも澪の脳内は真っ白に染まっていく。
「な、何で……?」
「使いたいのだろう? 是非使ってみるといい」
好きに使いたまえ、と余裕の塊のような態度を取る荒耶。
だが、その態度こそ、澪をさらなる疑問へと落とし込んでいた。
(これを使うとどうなるっていうんだ……!!)
疑問が胸を渦巻き、どうしても開けることが出来なかった。
「ふむ、私の言葉と態度が気になって仕方が無いようだな。
理由を聞きたいかね?」
「……」
- 988 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:14:25 ID:giIs9CLg
-
澪は沈黙を以て返事とした。
すなわち、肯定。理由を聞きたいと。
「よかろう。それの中に入っているモノは福路美穂子を捕食した。そうだな?」
「あ、ああ……」
コレが美穂子を喰らったこと。
それは他ならぬ澪こそが最もよく知る事実。
「だからだ」
「……なんだって?」
「『福路美穂子を喰らった』。それこそがその魔物の使役を困難にする要素だ」
「そ、そんな!! あの女のせいで!? そんな事が……!!」
信じられない。
澪に浮かんだのはそのような面持ち。
本当にそれが事実だと言うのならば、どこまで私の邪魔をするのだろうか。
もしや、私を死へと誘う気なのか。
澪に浮かんだのはそういった類の思考だった。
「正確にはアレ自身が作用しているわけではない。アレの中にいたモノがその要因だ」
「福路美穂子の中にいたモノ……?」
「アンリ・マユ。この世全ての悪と称される異物だ」
「この世全ての悪……?」
「お前では説明してもわかるまい。
そうだな、今の衛宮士郎と同じ状態にあると言えばわかるか」
「衛宮士郎と同じ……?」
ここでようやく澪の顔に怯えの色が浮かぶ。
この世全ての悪だとか、そういった言葉では全く分からなかった。
だが、今の士郎の状態と同じというのであれば、澪にも理解が及ぶ。
美穂子が殺された途端に澪を殺しにかかった士郎。
それと同じような状態にあるものを使役できるはずもない。
「だが、もしかしたら、正常のまま使役できるかもしれんぞ?」
「……」
- 989 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:15:10 ID:giIs9CLg
-
やってみなければ分からない。
荒耶は暗にそう言ってのけた。
影絵の魔物が狂気に染まっているのかいないのか。
それはトランクケースを開けてみなければ、分かることはない。
まさしく、シュレディンガーの猫を彷彿させる状況だと言う事。
澪はハッタリだと思う気持ちと、本当かもしれないという気持ちで揺れ動いていた。
そもそも、美穂子を喰らってから士郎への攻撃も上手くやっていた。
汚染されているというのならば、美穂子を喰らった時点で言う事を聞かないのではないか?
その一方で、あれが魔物の独断でやったことなのかもしれないとか、時間が経った今だからこそ狂気に染まっているのかもしれないという思考も浮かぶ。
結局の所、どちらとも分からない。フィフティフィフティ。
そんな可能性の中、澪が取った行動は―――。
「……ッ!!」
何も出来なかった。
むしろ、そのケースを手放した。
澪は恐ろしかったのだ。
自分も美穂子のように生きたまま咀嚼されるのかと思うと、手の震えが止まらなかった。
「なるほどな。秋山澪、お前の起源は『畏怖』と『逃避』か」
「!! どうしてそれを……」
「私は人の起源を見ることに長けている。それにしても、起源を認識していたか」
「そ、そうだ! でも、『畏怖』だとか『逃避』だとか、そんなものが起源だと言われたって今更私は変わらない。
その起源を利用してでも、私は生き続けなきゃならないんだ!!」
澪は宣言した。起源を受け入れてでも生き延びてやると。
それを聞き、荒耶は少なからず感心した。
『畏怖』と『逃避』。およそいいイメージを抱きはしないだろう言葉。
澪自身も嫌悪しただろう。
だが、それを受け入れてでも自分は目的を果たすと言ったのだ。
同じ世界出身の中野梓とは大違いで、及第点と言ってもいい。
「では、この私から『逃避』してみせよ、秋山澪」
「ひっ……!?」
唐突に会話を終了させ、構える荒耶。
その構えと威圧感に先程の痛みを思い出し、震え始める澪。
その姿は紛れもなく『畏怖』。
- 990 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:15:56 ID:giIs9CLg
-
「……行くぞ」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
叫び声を上げながら後ずさる澪。
荒耶はそれを油断なく見つめながら距離を詰めていく。
そして、距離は荒耶の拳の射程圏内に入る。
「、戴天」
言葉と共に再び撃ち出される右腕。
その軌道は澪の顔面を正確に捉えるものであり、下手をすれば頭蓋を砕かれかねない。
「こ、こんな所で死ねるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だが、澪はここであえて足を突っ掛け、後ろに身体を倒す。
一瞬後に自分の顔があった場所、そして自分の顔の鼻先を通り抜ける拳を見て息を飲む。
仰向けに倒れた衝撃で一瞬息が止まるが、それを無視して素早く荒耶から距離を取る。
いや、荒耶にとっては狙う隙などいくらでもあったのだが。
「ハァ……ハァ……!!」
少し大立ち回りをしただけで息を上げてしまう澪。
それを冷ややかに見つめる荒耶はそのまま構えを解く。
「この場から去れ、秋山澪」
「……え?」
「二度は言わんぞ。死にたくなければ今すぐここから去れ。
さもなくば……」
「……ひっ!!」
再び構えを取った荒耶を見て再び畏怖を覚える澪。
逃げるのならば、危害は加えない。
ならば、一にも二にも逃げを打つのが上策じゃないか。
- 991 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:16:45 ID:giIs9CLg
-
……でも。
でも、自分を助けに来た式はまだここにいる。
その式を放って自分だけ逃げるのか。
葛藤を始めようかという澪。
だが、それに対し、圧力を掛ける荒耶。
(っ……大丈夫。式は強い。足手まといの私は早くここから逃げたほうがいいんだ!!)
結局、澪はこの場から逃げることを選択した。
何故、蒼崎橙子が自分を見逃すかは分からないが、この機を逃す手はない。
向かう先はルルーシュや桃子のいるホバーベース。
今は誰でもいい、この場所をなんとか出来る人間を探し求めるのみ。
「式、待っていてくれ。必ず助けに戻るから!」
優勝を目指すとはいえ、未だ仲間を見捨てるという境地までには至らない。
少女はただひたすら北西へ向かう。
今や偽りとなった仲間たちに助けを求めに。
- 992 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:17:10 ID:giIs9CLg
-
【E-3/南西/二日目/黎明】
【秋山澪@けいおん!】
[状態]:両頬に刀傷、全身に擦り傷、腹部に痛み
[服装]:龍門渕家のメイド服@咲-Saki-
[装備]:田井中律のドラムスティック
[道具]:基本支給品一式×3、千石撫子の支給品0〜1個(確認済み)、FENDER JAPAN JB62/LH/3TS Jazz Bass@けいおん!
下着とシャツと濡れた制服、法の書@とある魔術の禁書目録、モンキーレンチ@現実、
桜が丘高校軽音楽部のアルバム@けいおん!、軽音楽部のティーセット、発信機@現地制作、通信機@コードギアス
ジャンケンカード×5(グーチョキパー混合)、ナイフ、一億ペリカの引換券@オリジナル×2、中務正宗@現実、ランタン@現実
[思考]
基本:もう一度、軽音部の皆と会うために全力で戦う。
0:ルルーシュか桃子に助けを求める。
1:ひとまず桃子と内密に組む。
2:この集団を利用し、目的を果たす。
3:軽音部全員を救う方法を探し、見つけ次第実行する。 手段を選ぶつもりはない。
4:サザーランドを乗りこなせるようにする。
5:式とのコネクションは秘密にしておく。
6:憂の精神状態に相当の疑念。
7:一方通行を警戒。ユーフェミアに対して『日本人』とは名乗らないようにする。
8:蒼崎橙子……一体何がしたいんだ?
9:正義の味方なんていない……。
10:私は間違ってない……よな?
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※エスポワール会議に参加しました。
※ブラッドチップ(低スペック)の影響によって己の起源を自覚しました。起源は『畏怖』と『逃避』の二つ。
※黒の騎士団全員の情報を得ました。また、ルルーシュたちの作戦を把握しました。
※サザーランドは手と足の部分が多少腐食して稼働率が下がりましたが、まだ動くかもしれません。
損傷の程度はのちの書き手にお任せします。
※コクピットからの脱出時に忍びの緊急脱出装置@戦国BASARAを使用しました。
- 993 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:18:00 ID:giIs9CLg
-
◇ ◇ ◇
眼前を埋め尽くす圧倒的な死の気配。
男の掛け声と共にそれらは飛来する。
男の狙う先には一人の少女。
すなわち、両儀式。
その式はこの状況にあってまだ戦意を高く保っていた。
「ふっ……!!」
式が動く。
それも、射出された剣が届く”前に”。
やがて到達した剣閃は先を読むかのような式の行動により、ことごとく避けられていく。
終盤に至ると的確な回避ではなくなっていくが、式に致命傷を与えることはなく、結局は肌を数回浅く斬ったのみに終わる。
命の危機が去ったのと同時に式は眼前の敵を打ち捨て、悲鳴が聞こえた方向へ走る。
そこに待ち受けていたのは蒼崎橙子”らしきモノ”。
「式か。戦いを捨ててくるとはお前らしくないな」
「秋山はどこへ行った」
「ああ、アレなら逃げたよ。目的地は決まっているのか、一目散に北西へな」
澪が逃げていったとする方向を指差す荒耶。
その方角はホバーベースがある方向であり、式も澪が逃げるのならその方向だろうと納得した。
そして、式は目の前の”誰か”に対してさらなる問いを出す。
「……それで、お前は誰だ」
「おいおい酷いじゃないか、式。私の顔を忘れ―――」
その直後、荒耶は振り切られた刀を避けていた。
「……何のつもりだ?」
「生憎、お前じゃあいつの嫌な感じを再現する事なんか出来ない」
「フッ、奴も嫌われたものだな」
魔術師という人種はどこかが破綻している場合が多い。
蒼崎橙子もその例に漏れず、気に入らない相手を一人除いて全てぶち殺した事績のある人物である。
そんな人物をトレースするのは荒耶を以てしても、無理が生じるというものだった。
- 994 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:18:43 ID:giIs9CLg
-
「やっぱり生きてたんだな、荒耶」
「さすがにお前には気付かれるか、両儀式」
「色々小細工してるみたいだが、ここでまた殺してやるよ」
「フン、その心意気は買うが、私一人に固執していていいのか?」
「……ッ!!」
思わせぶりな言動をする荒耶をよそに、式は殺気漲る後方へ振り返る。
そこには高く跳躍する士郎の姿。
「PHANTOM DIVE Blade Works―――!!」
「チッ……!!」
さすがに受け切れないと判断した式は小さく跳んで後退。
士郎は重力に導かれるままに両手に携えた六爪を地に叩きつける。
「なんていう刀の使い方だよ、お前」
式の眼に映るは奇怪な刀の用い方をする男。
今は亡き独眼竜が用いた六爪流。
それを体現する最後の人間がここにいる士郎だった。
式から見るとそんな握り方で威力が出るものかと思うのだが、現にその刀を叩きつけられた地面は抉れていた。
何の冗談かとも感じられる。
「衛宮士郎、まずは刀を狙え。そこの女は刀がなければ弱体化する」
「……分かった」
式が脳内で六爪流に突っ込みを入れていると、荒耶が士郎に助言する。
式との再戦の機を期した荒耶は式について入念な調査を加えている。
これも式を制する上での策の一つである。
士郎は味方と考えている荒耶からの助言に素直に頷き、得物狙いへ目的を変える。
(さすがにこの状況は面倒だな……秋山も退いたみたいだし、オレもこの場を離れるかな)
荒耶と士郎が組んでいる事を理解した式はここからの脱出を図ることにした。
士郎一人ですら全力を出さないと討ち果たせそうにないのに、荒耶まで介入してくるとあっては式といえども勝利は難しかった。
「後退は許さんぞ、両儀式」
- 995 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:19:31 ID:giIs9CLg
-
だが、いざ退こうとした式の後ろを鉛玉が数十発ほど飛来していく。
飛んでくる方向を見れば、そこには澪の手から離れたミニミ軽機関銃を設置してトリガーを引く荒耶の姿。
「ここでお前を逃がすわけにはいかんな、両儀式。大人しく衛宮士郎と戦え」
「何を考えてるんだ? 今、ソレでオレを狙えば殺せたじゃないか」
「お前をただ殺すだけでは根源には到達できん」
「またそれか。魔術師って連中はよくもまあ飽きないな」
「お前に魔術師の悲願はわかるまい。そら、無駄話していていいのか?」
またも示唆する荒耶。
言われるまでもなく、式は眼前の敵に少したりとも油断はしていない。
六爪流となった士郎は今まででも最強の状態―――
「うおぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!」
「ふっ……!!」
再度繰り返される剣閃の応酬。
状況は先程までと変わらず、投影しては式が避け、さらに斬りかかっては得物を殺され、その隙を突こうとする式を新たな投影で牽制する。この繰り返しだった。
しかし、この繰り返しは回数を増すごとに速さを増して行き、すでに常人には全く反応できない領域まで加速していた。
その様子を鋭い目付きで見つめる荒耶は両者の速さ・立ち位置を勘案した、自身に有利な状況を待ち続ける。
そして、その状況は訪れた。
「衛宮士郎、私に策がある。大技を使え」
そう言い放つや否や、荒耶は再度弾を撃ち始める。
それは式が士郎の投影に対して体勢を立て直そうとした時の事だった。
「くっ……!!」
式は自分が進もうとしている方向に死があることを直感して、無理に大地を踏みしめる。
そのおかげで体勢を立て直すどころか、むしろ崩れていってしまう。
「WAR DANCE Blade Works―――!!」
そこに士郎による竜の乱舞が襲いかかる。
後ろには圧倒的な制圧力を誇る無数の銃弾。
前には剣に特化した魔術師による六爪流の爪撃。
この絶体絶命な状況においても、式はひるまず前に出る。
- 996 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:20:26 ID:giIs9CLg
-
「「……ッ!!」」
交錯する刀。
そこから決定的な破壊音が奏でられる。
交錯を終えて離れた式の手元には折れた九字兼定が握られていた。
あの一瞬、体勢を崩しながらも式は迫る士郎の剣閃に対応して、竜の爪を殺していった。
刀を持ち、生死の境目に立った式ならば、これほどの事でも不可能というわけではない。
しかし、英霊に近い速度まで達するようになった士郎の攻撃を前に、全てを殺しきることが出来なかった。
それ故に生まれた鍔迫り合い。
それだけならば九字兼定が折れることはなかっただろう。
だが、九字兼定にとって不幸だったのは、敵がアンリ・マユをその身に宿した士郎だということ。
絶えず刀から放出される瘴気に九字兼定はその刀身を腐らせられ、ついには折れてしまう。
九字兼定が折れた勢いを利用し、式は上手く士郎の攻撃をいなす。
後方を顧みれば、機関銃の弾は尽きたのか、すでに鉛玉の雨は止んでいる。
式はそのまま大きく間合いをとってデイパックから次の得物を取り出―――
「はあぁぁぁぁぁ!!!!」
「チッ……!!」
せない。
さすがに取り出そうとする隙を見過ごす訳も無く、士郎が前に出る。
刀を失った式では、士郎の反応速度には到底ついていけない。
左手に持っていたデイパックを薙ぎ払われ、デイパックが遠くに飛ばされていく。
しかし、この一瞬の間にもデイパックの中から柄らしきものを掴んでいた式は迷うことなくそれをデイパックから引き抜いていた。
「よりによってこれか……」
式がデイパックから引き抜いたもの。
それは期待していた刀ではなく、ルールブレイカーという短刀だった。
もっとも、長さのある日本刀を引きぬく余裕はなかったとも言え、得物になるものを取り出せただけでも僥倖と言えた。
刀でない以上、式の戦闘力はガタ落ち。
九字兼定がない以上、結界も使える。
最早、迷う余地なし。
荒耶はこれを機として、最後の勝負に出る。
- 997 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:21:10 ID:giIs9CLg
-
「衛宮士郎。荒療治だが、この場こそお前の力を引き出す好機だ」
「……俺の、力?」
「そうだ。お前の本質は、お前の起源は『剣』。
己が本質を胸に抱き、己が心象風景をこの世界に刻むがいい」
荒耶は言葉を紡ぐ。
士郎に固有結界を使わせるべく。
衛宮士郎の本質を。
衛宮士郎の在り様を。
衛宮士郎の理想を。
その全てを続けざまに言葉として士郎へと送る。
「? ……!?」
いきなり浴びせかけられた荒耶の言葉の数々に切羽詰ったものを感じつつも、士郎にはそれが理解できずにいた。
要するに、何が言いたいのか。
困惑する士郎の心中に入り込むかのように、荒耶の言葉は続く。
―――悪を殺すのだろう?
そう。衛宮士郎は悪を絶対に許すことはない正義の味方。
悪は、殺さなければならない。
―――ならば迷うことはない。その理想を世界に見せつけるがいい。
俺の、理想―――?
正義の味方になるという俺の理想を世界に見せつける―――?
―――そうだ。お前にはその力がある。固有結界という力が。
そんな馬鹿な。
固有結界とは大量の魔力を消費するという、魔術師の神秘中の神秘。
それを投影しか出来ない落ちこぼれの魔術師に使えるはずが―――
―――使える。なぜならば、お前の中にはすでに剣の世界が広がっている。
―――後はその世界を開放するだけだからだ。
剣の、世界?
俺の中の剣の世界―――?
―――そうだ。今こそ世界に侵食させよ。お前の固有結界、「Unlimited Blade Works(無限の剣製)」を―――
Unlimited Blade Works。
俺の固有結界……剣の世界。
本質が『剣』である俺の―――
「―――I am the bone of my sword.(身体は剣で出来ている)」
- 998 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/07(火) 01:22:08 ID:cnWX2.qc
- 次スレ立ててきまー
- 999 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:22:22 ID:giIs9CLg
-
◇ ◇ ◇
荒耶と士郎が問答を交わしている間、その敵たる式はどうしていたか。
式は完全に待ちの状態に入っていた。
式の立場として最も重要なのはデイパックの回収である。
あの中にある二振りの日本刀のうち、どちらかを握ることさえ出来れば、今度こそこの窮地を脱することが出来るだろう。
だが、肝心のデイパックを取るには機関銃の射線に入らなければならない。
未だ軽機関銃のトリガーに指を掛けている荒耶は問答の間にも、油断なく式の行動に目を光らせている。
うかつに飛び込めば、蜂の巣になる恐れもある。
式の身体自体を欲する荒耶が下手に式を殺すとは思えないが、目的を達成できないとあらば、どんな行動に出るかは未知数。
そんな未知数に頼って死地に赴くほど、今の式は生へのしがらみを捨ててはいない。
故に、待ち。戦略的な待機。
その眼は相手の致命的な隙を探すために絶え間なく動かす。
隙があれば、どう動くか。
その行動パターンを数通り考えついてはいた。
どちらにせよ、今は動けなかったのだが。
そして―――
「―――I am the bone of my sword.(身体は剣で出来ている)」
事態は大きく動き出した。
(ここに来て詠唱? ……嫌な予感がする)
剣士として十分に通用する敵がいきなり魔術師としての詠唱を始めたことに式は警戒。
詠唱を阻止せんと士郎に迫る。
だが、それに追従するモノが1つ。
それは式に追いつき、そして襲いかかる。
「……こいつっ!!」
「衛宮士郎の邪魔はさせぬ」
- 1000 : ◆W.hp1QcmWc:2010/09/07(火) 01:23:26 ID:giIs9CLg
-
式に襲いかかったのは、澪の持っていた影絵の魔物。
すなわち、蒼崎橙子の使い魔。
澪にはアンリ・マユに汚染された可能性があると脅して使わせなかったそれだが、荒耶はあっさりと使用。
結局の所、荒耶が澪に語った事柄は全てブラフだった。
影絵の魔物はアンリ・マユを喰らったとて次回にその影響が出るような代物ではない。
全ては澪からこれを奪うために行った演技。
「―――Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で心は硝子)」
大口を開けて迫る魔物の線を切り払う式。
だが、魔物は霧散しても再度集合して式に襲いかかる。
士郎に比べれば、なんてことのない野生の雑な攻撃。
とはいえ、式も日本刀を失い、弱体化した身。
下手を打てば、殺される可能性もある。
「そこで足止めされ続けていろ、両儀式」
「……まずはこいつから片付ける必要がありそうだな」
一旦、詠唱の阻止を意識の外に置き、魔物を操る荒耶を狙う。
式はそう考え、魔物へと向き直る。
「―――I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)
Unaware of loss.(ただ一度の敗走もなく)
Nor aware of gain.(ただ一度の勝利もなし)」
当初は機関銃を警戒していたが、どうやらすでに弾は尽きていたらしい。
荒耶も最早機関銃をブラフに使う気はなく、魔物の操作に集中していた。
その様子を眺めつつ、徐々に荒耶への距離を縮める式。
あくまで時間稼ぎに終始する荒耶の戦法にあえて乗りつつ、着実に目的を達成する。
そんな式の堅実さが実を結んだか。
突如、影絵の魔物はその姿を消す。
「―――む」
「なんだか分からないが、この機に仕留める!!」
あるいはこれ自体が罠かもしれぬとも思うが、今はそれに構ってはいられない。
魔物が消えた次の瞬間には式は荒耶目掛けて疾駆していた。
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