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【SS】艦これで見る太平洋戦争・第十七駆逐隊の航跡 Part.2
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※第一話
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1432538570/
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真珠湾攻撃の後、第十七駆逐隊は南洋を忙しく駆け回っていた。
ジャワ方面への進出。クリスマス島砲撃。補給部隊の長距離護衛。その度に私達第十七駆逐隊は果敢に、獰猛に戦い、多くの敵艦を水底に沈めた。あまりに好戦的な戦いぶりだったからか、弾薬魚雷を節約しろと司令部から小言を言われるほどだった。
西へ東へ出撃し、ろくろく休めない日々が続いたが私達4人はいささかも疲労を口に出さなかった。全員が充実感と勝利の高揚感を味わっていた。作戦に参加すれば連戦連勝。いつしか周りから「海軍最強の駆逐隊」と呼ばれるようになっていた。
事実、あの頃の私達は強かった。
元々高い性能と技術に経験が上積みされ、昼でも夜でもスコールの日でも、一糸乱れぬ連携を発揮した。私達自身も、精鋭・第十七駆逐隊の隊員であることに強い矜持と使命感を持つようになっていた。
しかし、いつからだったのだろう。
その自信とプライドが、隊の誰にも、いや、軍全員の誰も知らないうちに、「慢心」という破滅への引き金に変わっていったのは--。
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第二話「ミッドウェーの衝撃」
http://imgur.com/EtENp6M.jpg
谷風「……っとまあこれが谷風が聞いてきた作戦概要だよ」
指令書をクルクル丸めると、谷風はそう言ってニカッと笑った。
谷風「長旅になりそうだから準備はしっかりしないとな」
磯風「ミッドウェー島…えらく遠い島だな。わざわざここまで出張るのか」
浦風「偉い人は難しいこと考えるけぇのう、ウチらが考えるだけ無駄じゃて」
浜風「与えられた任務を完遂することだけを考えよう」
磯風「…二人の言う通りだな、あまりあれこれ考えても仕方ない。我々にやれることをやるべきだろう」
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谷風「そーそー。それに一、二航戦に加えて大和さんとかも出てくるらしいよ、すぐにカタがつくさ」
浦風「長旅ならお弁当いっぱい作っていかんとねえ」
浜風「私も手伝うよ。明日は早いし、磯風は早く寝るといい」
磯風「それなら私も…」
谷風「ふっ、二人に甘えてさ、今日は休んじゃおうぜ磯風、な?」
磯風「そうか…?」
翌日、私達は出撃し、本隊と合流した。護衛対象は真珠湾以来ほとんどの海戦で行動を共にしていた、南雲機動部隊。
彼女たちが十七駆に頼みたいと言ってくれてると聞いて私達は天にも昇るほど嬉しかった。赤城、加賀、蒼龍、飛龍…彼女たちの名声は今や生き神様のようで、事実凄まじい戦果をこの半年で挙げ続けてきた。
そして私達は帝国海軍の勝利と栄光を目の前で見続けてきたのだ。
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ーーー
磯風「暑いな…」
6月の日差し照りつける南洋のただ中を、私達はミッドウェーへ真っ直ぐ向かっていた。
艦娘の制服には体温調節や防水防風といった機能がついてはいるが、それでも暑いものは暑い。
まして太平洋の真ん中では日陰なぞ何処にもない。
大和さんの電探のアレはやはり日傘代わりでもあるのだろうか…と下らないことを考えていると、突然大きなプロペラ音がして私は顔を上げた。
磯風「何だ!?」
バシャーンと派手な、しかし艦載機相応の小さな水しぶきを上げながら、一機の零戦が私の足元の海面に不時着した。
恐らく私の前を進む蒼龍さんに着艦しようとした偵察機が、目標を誤ってここまで滑降してきてしまったのだろう。
私が屈んで小さな零戦を拾い上げると、搭乗員妖精が恥ずかしそうに中からひょっこり顔を出した。
磯風「こんなミスは初めて見たぞ…弘法も筆の誤りとは言うが」
とはいえトンボ釣りも駆逐艦の立派な仕事。速度を上げて蒼龍さんの横につけ、零戦を届けた。蒼龍さんもやはり恥ずかしそうに苦笑いをしながら礼を言ってくれた。
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こんな事件があったが、道中は総じて--護衛艦としてあるまじき気の持ちようではあるが--暇であった。
今回十七駆が任されていたのは南雲機動部隊の後方、蒼龍・飛龍さんの随伴護衛。先行する一航戦は軽巡・長良さんと、先日就役した陽炎型の次世代艦・夕雲型の子たちが守っていた。
これまで常に先駆けをしていた私達としては入ったばかりの新参に…という思いが無いでもなかったが、命令なので仕方ない。
後方の随伴というのは、前を走る艦隊の後に続けばいいので気は楽である。先行の水雷部隊がソナーをかけてるので対潜警戒もこれまでのように頻繁にしなくてもいい。
日差しは暑く、景色は変わらず、長い間ただ淡々と航行していると流石に頭がボーッとしてくる。
大作戦であるのだから気を確かに持たねばと頬をつねってみたりもしたが、いかんともしがたかった。
やはり私以外も同じ気分だったらしく、あの生真面目な浜風がスカートをパタパタして涼を取っているのが見えた。
後ろを見てみるが後詰めの水上打撃部隊の姿はまだ水平線の向こうで、影すら見えない。索敵の関係で空母機動部隊が先行するのは常であるが、もう少し近くを進めばよいものを。そう思ったが危機感というほどのものでもない。私達の心はこの大艦隊の隊列のように間延びしていた。
…そしてそれは、十七駆だけでは無かったのだ。
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動きがあったのは6月5日の明朝だった。先行する空母たちの動きがにわかに慌ただしくなったかと思うと、未明の空に長弓から艦載機が次々に放たれた。
ミッドウェー島への空襲部隊だ。
浜風《始まったね》
磯風「そのようだ」
無線にそう返事すると空を見上げる。ミッドウェーへまっしぐらに飛ぶ編隊の偉容は真珠湾の頃と少しも変わらない。
守備隊も少なく、周辺に敵艦隊がいないことも索敵で判明している。そう時間はかからないだろう。
実際日が昇った頃に攻撃隊は帰還してきた。
谷風《第一次攻撃は成功!んでももうちょい叩きたいとかで、第二次攻撃するってさ。輪形陣の持ち場を保って対潜対空警戒厳に!》
磯風「了解。対潜対空警戒厳に」
勝ったな、と思った。
目視にも、ソナーと電探にも敵の姿は全く見えない。
早々に防衛を諦めたのだろうか。
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ところが第二次攻撃隊はなかなか発艦される様子が無かった。
浦風《なぁ、まだなん?》
谷風《なんでも、雷装の艦攻を全部爆装に変えるとかで、妖精さんがてんてこ舞いなんだってよ》
私達艦娘の艤装には「妖精」と呼ばれる小さな生き物が乗り込んで、擬装や機関の操作や行っている。乗ってる感触や重さは全く無いのだが、どこに入ってたんだというくらいたくさん乗り込んでいるのだから不思議だ。
言葉は話せないが人語は解するらしく、私達がいちいち声に出して行動しているのも妖精たちへの指示のためだ。練度を上げるというのは自分自身の技術もさることながら妖精との連携をスムーズにする営みでもある。
艦載機のパイロットや整備員も妖精であるため、妖精たちが仕事を終えない限り艦娘は動けず、待つしかない。
磯風「畑違いで詳しくないが、爆装への転換というのはこれほど時間がかかるものなのか」
浜風《…少し、気が急くね》
そうしてまんじりともせず第二次攻撃を待っていたその時。
先行していた水雷戦隊旗艦・長良さんから入った緊急無線で、私達の運命の針は動き出した。
長良《11時の方向、敵航空編隊見ゆ!》
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磯風「敵機!?」
そんなバカな、敵空母は確認されてないはず…基地航空隊?
混乱している間に遠く水平線に小さな黒点の群れが、やがて近づき雲霞のように押し寄せてくるのが見えた。
谷風《十七駆、対空戦闘用意ー!》
磯風「対空戦闘用意!」
くよくよする暇はない。即座に艤装の機銃を展開する。
空母からもすぐさま直掩の戦闘機が迎撃に飛び出した。
少し離れたところからであったが、私は改めて南雲機動部隊のパイロット妖精たちの恐るべき練度を目の当たりにした。
数こそ多いがてんでばらばらに襲いかかってくる敵編隊に対し整然と応戦。あっという間に先頭の数十機を叩き落とした。特に赤城・加賀さんら一航戦の部隊は別格で、逃げ惑う敵機を猟犬のように追い回したやすく撃墜していた。
一航戦の方から夕雲型の幼い子らのやんやという歓声が聞こえた。
浦風《見事なもんじゃのう》
磯風「ああ、この分じゃあっという間に…」
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この時、私達は空を見上げていることしか出来なかった。確かにそうだったと思うが、私達は後になっても何か出来たのではないか、避けられた事態だったのではないか、と後悔し続けた。
私達の知恵の鏡は慢心で曇りきっていたのだ。
そして一声、遠く前方から恐ろしい悲鳴が上がり、悪夢の時が訪れた。
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磯風「何だ!?」
凄まじい轟音とともに、前方に火柱が上がった。次いで、無線に凶報が入る。
長良《赤城・加賀、被弾!先行隊は救護・応戦中!二航戦は--》
その声は敵機のおどろおどろしい駆動音で掻き消された。
浜風《直上!》
浜風が叫ぶと同時に、敵の爆撃機が二航戦と私達めがけ真っ逆さまに急降下を仕掛けてきた。
磯風「回避!面舵--」
舵が回った瞬間に、世界が衝撃と水柱に包まれた。
前が見えない中、機銃を振り回しながら缶を全開に炊き、回避行動を取る。
磯風「ッ……!」
背中に強い衝撃と痛みが走った。歯を食い縛って耐え、之字を描きながら大きく旋回。2、3機に機銃を見舞ったが打ち落とせたか確認もせぬまま、必死で爆弾の雨を抜けた。
後ろを振り返り見えたのは、到底信じられない、信じたくない光景だった。
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磯風「ああ…ぅあ…」
蒼龍さんが燃えていた。激しい炎に包まれ、誘爆による爆発が次から次に起こっている。
あまりにショッキングな光景に声にならない呻きが洩れたが、長年の訓練の賜物かすぐ我に返り、まず自分の被害の確認をした。
至近弾を受けたようだ。というより、直撃していたら駆逐艦の防御力だと今ごろ海の底だろう。制服もところどころ破れているが、行動はできる。問題ない。そこは僥幸といえたが、運の悪いことに機関に損傷があった。タービンを回すと異音がする。航行は出来そうだが、これでは最高速は出せないだろう。
浜風「磯風!!」
振り返ると、浜風が全速力でこちらに向かってきていた。飛龍さんの方へついていた谷風と浦風も遠くの方から近付いてくるのが見えた。
磯風「浜風!谷風と浦風も…よかった、みんな生きてる…!」
仲間の安否がわかりホッと安堵していると、目の前までやって来た浜風はいきなり私の肩をつかみ、あちこちを触り出した。
浜風「…見せて!」
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磯風「大丈夫だ、航行できるし主砲も魚雷も動く…もっとも機関が少しダメージを受けてしまったようだが」
どうも自分で思ってる以上に私は損傷してるように見えるらしい。
浜風は私の艤装を一通り調べ、機関に何か施そうと試みた後、ふぅーっと一息吐いた。
浜風「火は出てないし、誘爆の危険性も無さそうね。ただやっぱり機関は入渠しないと…戦速が出せるかどうか」
磯風「20ノットも出れば何とかしてみせるさ…みんなはどうだ」
谷風「問題なしっ!」
浦風「運良く当たらずに済んだみたいじゃ」
そうこうしてるうちに合流していた谷風と浦風が頷く。
あたりは黒煙が立ち込め見通しが利かず、状況がわからない。こんな大混乱の中ひとまず全員生き残れたことを神に感謝した。
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磯風「こうしては居れない…蒼龍さんを助けなくては…飛龍さんは?」
谷風「すごいスピードで離脱していったから見失っちまって…見てた限りだと被弾はしてなかったんだけど」
磯風「うむ…では谷風と浦風は飛龍さんの捜索、私と浜風で蒼龍さんを救援する」
浦風「そうじゃな…一航戦の方も気になっけど…磯風は損傷しとるんじゃけえ無理せんようにのう」
磯風「無理はするさ。その為の駆逐艦だ。でもありがとう…また4人で生きて会おう!」
応!と威勢のいい返事を残して二人は去っていった。
浜風「きっと第二次攻撃隊が来る。それまでになんとかしないと」
磯風「ああ…曳航索を繋いでこの海域を離脱しよう」
私と浜風も蒼龍さんに近付き、救援を試みた。
が、すぐに私達はもはや蒼龍さんがどうあっても救えないということを認めざるを得なくなった。
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燃え盛る炎とその熱で横付けするまで近付くこともかなわない。誘爆はいよいよ激しさを増し、真っ二つに折れた飛行甲板は海上に漂い、燃えさしになっていた。
曳航はおろか消火も不可能なほど火の手が回っていた。
磯風「そんな…」
浜風「蒼龍さん、聞こえますか!十七駆の浜風と磯風です!蒼龍さん!!」
すると、炎の間から蒼龍さんが、苦しそうに、しかし何かを言おうとしていたが、炎の音のためか何も聞こえない。
磯風「浜風、海面に!」
聞こえなかったが、ふと海面を見た時私は彼女が言おうとしていることを察した。
海面には蒼龍に乗ってたであろうたくさんの妖精たちが漂っていた。
浜風「……カッターを!」
私と浜風はすぐさま妖精用の短艇を取り出し、妖精たちの方へ放った。彼女はいつも妖精たちを大事にしていたのを思い出したのだ。
全ての妖精をカッターに収容したのを見届けたからか、蒼龍さんの表情がフッと穏やかになった。そして、一際大きな誘爆が起こり、蒼龍さんはゆっくり沈み始めた。
磯風「蒼龍さん!!」
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浸水した蒼龍さんの体は最初はゆっくり、次第にどんどん海へと飲み込まれ、最後の爆風が消えたときには、海面からその姿は完全に消えていた。
それが私が初めて目にした艦娘の死だった。
長良《第十七駆逐隊、聞こえますか!》
茫然と蒼龍さんが消えた海面を見つめていると、長良さんからの無線が鳴った。
無理矢理意識を海面から引き剥がし、耳を傾ける。
長良《10分前をもって、南雲機動部隊の司令権は赤城さんから私に委譲されました。これから言うことを落ち着いて聞いてください……》
長良さんが語った戦況は、考えうる限り最悪のものだった。
長良《加賀、沈没…赤城、大破航行不能、今なお炎上中…水雷戦隊にも被害多数、現在確認中…》
そこで私は、魂の抜けたような声で蒼龍さんの轟沈を告げた。
一瞬の沈黙の後、長良さんは動揺を振りきるように声を一段上げて言った。
長良《航空母艦・飛龍の健在が先ほど判明しました。大きく西に逃れたようです。これより私達は飛龍さんを守って撤退します。座標を送るから救難活動を終え次第合流を…》
その時、私達の頭上に再びプロペラ音が轟く。ドキッとして見上げると、それは見慣れた日の丸印の編隊だった。
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磯風「飛龍隊…!?」
西の方から飛龍からと思われる航空隊が真っ直ぐ敵がいる方角へ進んでいく。
その姿からは、一矢報いて意地を見せ、三人の無念を何としてでも晴らすという飛龍さんの断乎とした意志が感じられた。
浜風「そんな、逃げるんじゃ…」
磯風「飛龍さんはまだ戦いを諦めてない。私達に出来るのは早く合流して敵の第二次攻撃に備えることだ」
浜風「うん。急ごう」
私達は送られた座標を頼りに飛龍さんの方へ針路を向けた。しかし傷ついた私の機関は、せいぜい強速18ノットが精一杯のようで、逸る気持ちに反して思うように速く進めない。
磯風「くそっ!ポンコツめ…浜風、お前だけでも先に」
浜風「バカ、そんなことできるわけないでしょ。それに駆逐艦が単艦で行ったところで出来ることはたかが知れてるわ。私達は4隻で軍艦1隻分なのよ」
磯風「そんなことは分かってるが…!」
その時、またしてもプロペラ音。
今度は耳障りな虫の羽音のような駆動音--敵の第二次攻撃隊だ。
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磯風「対空戦闘用意!」
機銃を構えるが、今回は敵編隊がこちらに急降下してこない。
敵編隊は二手に分かれ、一方は火の手が見える一航戦の方……そしてもう一方は私達の向かう方へ。
浜風「赤城さんと飛龍さんに止めを刺す気だ!」
さっきの飛龍隊を見るに、迎撃用の直掩機はろくに残って無いのではないか。
飛龍さんが危ない。
こんな時に…!
忸怩たる思いで機関に活を入れ、再び前進しようとすると、前方からやって来る二人の姿が--谷風と浦風だ。
浜風「どうしたんですか!何で引き返して…飛龍さんは!?」
見ると、二人とも悲痛な面持ちだ。
浦風「……飛龍さんが、ここはいいから、一航戦とその妖精たちの助けに行けって…ウチらもそういうわけにはいかんって何度も強う言ったんじゃけど…」
谷風「しまいには『艦爆をけしかける』とか言い出して……」
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恐らく反撃の矢を放つと決めた時に、飛龍さんは知っていた。「これを放てば、次の攻撃は防げない」と。
その悲壮な覚悟に随伴まで巻き込むまいと、谷風と浦風を追い出したのだ。
磯風「そんな…」
浜風「……助けよう。一人でも多くの艦娘と妖精を。そして戻って飛龍さんを連れて帰ろう」
浦風「ああ。『終わったら助けに来てね』って言うとったわ」
谷風「絶対戻ろう。磯風、救援の指揮を頼んだぞ」
そう言うと谷風はスイーっと飛び出した。
磯風「待て、どこに行くんだ!」
谷風「爆弾が降り注ぐ中じゃ救援も何もあったもんじゃないからねぇ……駆逐艦にも、1隻で動いた方が都合のいい時ってのがあるもんよ」
瞬間、谷風が何をしようとしているか察した。
磯風「ダメだ!」
谷風「誰かがやんなきゃいけないだろ?それに、卒業試験じゃ爆撃回避が一番だったのはこの谷風だよ」
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谷風は敵編隊を一人で引き付け、一航戦のいる付近から遠ざけようと言うのだ。
当然止めたいが、しかしこの江戸っ子気質の駆逐艦娘が、一度言い出したら聞かないということは3人ともよく知っていた。
磯風「…生きて戻れよ」
浜風「約束です」
谷風「あたしゃ第十七駆逐隊の谷風だよ?絶対避けきってみせるから、そんな怖い顔すんなって」
ケラケラと笑いながら、谷風は機関の出力をぐっと上げた。
谷風「そんじゃ行こうか…両舷最大戦速!谷風に…お任せ!しゅつげーき!」
大きな白い飛沫を上げて、谷風は赤城に群がる敵編隊へと向かった。
磯風「私達も続くぞ!」
私達も後ろに続いて、赤城さんの救援に向かった。
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ーーー
谷風「へっへー!遅い遅い!当てれるもんなら当ててみやがれ、お尻ペンペーン!」
谷風の操艦は神がかっていた。
機銃や主砲を振り回しながら注意を引き付けていくと、既に大炎上してる赤城さんへの攻撃をやめたのか、あれよあれよという間に敵機のターゲットは谷風に集まり、今やその数100にも達しているように見える。
にも関わらず全く当たる気がない。
海面を滑るように、踊るように駆け、時に最大戦速のまま180度ターンを決め、振り切っていく。一瞬遅れて、谷風が描いた航跡の上をドドドドドッと爆弾の雨が降り注ぐ。
谷風「オラオラ出直してきな!」
時折放つ機銃の掃射が敵機に当たり火を吹かせる。
爆弾をかわされた爆撃機は口惜しそうに引き返していき、その数を次第に減らしていく。
磯風「谷風に負けるな!」
私達も谷風の奮闘を無駄にすまいと夕雲型の子らと協力して赤城・加賀から逃れた妖精たちの救援に当たる。そのうちにほとんどの敵機は爆弾を失いすごすご引き返していった。
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谷風「ほれほれぃ!」
残り5機になった敵機を谷風が挑発する。
そのうち2機が落とした爆弾を右に回頭してかわし、時間差でそこを狙った1機の爆弾を即座にバックしてかわす。
正面から急降下を仕掛けようとした1機には機銃が命中。火を吹き上げて脇へ逸れていった。
谷風「もう終わりか?やーいポンコツ、どんなもんだーい!」
磯風「谷風、後ろだ!」
谷風は最後の1機を見落としていた。
谷風が振り返った時、既に最後の爆弾が谷風目掛けてまっ逆さまに放たれていた。
ドーンと水柱が上がり、谷風が見えなくなった。
磯風「谷風ェェェェ!!」
私は機銃を乱射した。そのうち一発が当たったのか、急降下したラストの敵機は海へ墜落した。
浜風「谷風!谷風!!」
私達が駆け寄ろうとしたその時、水柱から、谷風が転がるように飛び出してきた。
谷風「いっててててて」
そしてクルクル回転しながら、私達の足元で尻餅をついて止まった。
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磯風「谷風!大丈夫か!?」
谷風「ッテテテ、最後のは危ない危ない、ちょっと焦げちゃったよ」
谷風は苦笑いしながら焦げた制服の袖を振る。
浦風「アホ!無茶してからに!」
浦風が谷風を抱き締める。谷風は苦しい苦しいとじたばた。
谷風「……っと、約束守ったぜ。全弾避けきってやった」
浜風「うん。本当にすごかったよ。いままで見た中で一番」
磯風「おかげでこちらも救援活動が一通り終わった。ただ…」
煙と油の臭い立ち込める海上には、既に加賀さんの姿はなく、赤城さんはなぜ浮いていられるのか不思議なくらいひどく傷つき、燃え上がり、蒼龍さんと同じく手の施しようが無い状態だった。
谷風「飛龍さん…飛龍さんのところに行かねえと」
磯風「そうだ!早く…私は浜風と行くから、二人は先に!」
うん、と頷くと、谷風と浦風は飛龍さんのいた方へ全速力で戻っていった。
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日が沈みかけていた。
谷風「飛龍さん!飛龍さーん!!」
赤く染まる海原に、谷風が叫び、呼び掛ける。
敵は完全に撤退し、私達は飛龍さんの捜索に当たっていた。
しかし、夕方になるまで捜しても、飛龍さんの姿は何処にも無かった。
--海面に浮かんだ、山吹色の袖の切れはしを除いては。
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磯風「……谷風、日が暮れる。気持ちは分かるが…」
谷風「…何で」
谷風が肩を震わせた。涙が次から次に海へ落ちる。
谷風「…助けに来てって、言ってたのに…これじゃあ何にも出来ないじゃねえかよ…飛龍さん…」
谷風の艤装には、飛龍さんが遺した妖精たちが溢れんばかりに乗っていた。みんな一様に泣いていた。私は妖精が涙を流すのを初めて見た。
浦風「帰ろう。また敵が来んとも限らんけえの」
浦風は後ろを向いて鼻をチンとかむと、気丈な面持ちでそう言った。
浜風「みんなを待たせてる。早く合流しないと」
ややあって谷風が頷く。私達は後ろ髪を引かれる思いで、ミッドウェーの夕闇の中を引き返した。
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航空母艦4、重巡洋艦1喪失。
大破1、中小破多数。
ミッドウェーの戦いは取り返しのつかない大損害を残し、これまで築いてきた栄光は跡形もなく崩壊した。
護るべきものを護れなかった私達第十七駆逐隊にも、このミッドウェーでの光景は最後まで重くのし掛かることになった。
そして、これは更なる試練の幕開けに過ぎなかったのだ。
第二話 完
第三話「ソロモンの風」に続く
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乙シャス!
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本格戦記風SSいいゾ〜これ
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谷風カッコいいゾ〜
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イイネ・
坊ノ岬で雪風と17駆のあいだにどんなやりとりがあるのか楽しみです
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はえ^〜すっごい…初めて見ました
ソロモン海戦ってミッドウェーの後だったんですね…(小声)
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長い
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残ってたらここ
落ちてたらまた建てて投下します
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