この日になると、目覚まし時計よりも先に目が覚めてしまう。
それは、ある夢を見るから。
その夢の感触を確かめながら顔を洗い、軽くストレッチをして、今日は休暇なので私服に着替える。
私服といっても華やかなものではなく、今日は黒いスーツにループタイ。
そう、毎月の９日に私は必ず休暇を申請する。
戦況が悪くない限りは必ず。
それは私にとって、この日は必ずやらなければいけない事があるから。
そう、今日は土佐の月命日だ。
.
ドックの周辺と、港を軽く歩いて見回る。
異常はない、良かった。
その足で鎮守府の近くにある生花店にむかう。
ここの店主のご婦人とも、もう顔馴染み。私が顔を見せると、いつもの物を持ってきてくれた。
白い和紙に包装された、一輪の白い薔薇だ。
私は代金を支払い、それを受け取る。
落としてしまわないように両手で持ち、バス停へ向かう。
バスを待って程なく、バスが到着。乗り込むと私以外には誰もいない。
エンジン音と運転手の方のアナウンス以外に音がしない車内で、私は今朝見た夢を思い出していた。
私が軍刀でたたき切って、無理やり割るとようやく安心して眠りについた。
そこから一気に時間が飛び、『あの日』になった。
私はすかさず抱き止めて、結果を伝えた伝令を睨んだ。
軍縮会議で土佐の建造中止が決まってしまった。これは、土佐にとって死刑宣告のような物だった。
私達艦娘は心臓等の主要臓器を改造する。当時、この技術は外部に出す事が禁じられていて、艦娘が軍隊を除隊するのは死亡した時しかできない。
今回の決定は、土佐の建造中止。
土佐を除隊させなければ軍縮として認められない。つまり、土佐は死ななければ除隊ができない。
私は唇を噛み締めながら、土佐を宿舎まで運んでいった。
まだ、ショックで口が聞けないようだった。
私は土佐の肩を支えて、土佐の部屋まで付き添った。土佐の肩は、酷く震えていた。
土佐はベッドに倒れると、私に手を握っていて欲しいとせがんだ。私は静かに頷き、手を握った。
私は手を握ったまま、土佐と眠りについた。
それが、いけなかった。
私は部屋を飛び出し、土佐を探した。
何故、起きていなかった！何故、気づけなかった！そんな思いが頭の中でごちゃ混ぜになっていた。
方々走り回り、最後にたどり着いた土佐が建造されていたドック、その中で。
土佐は、割腹を遂げていた。
あまり、深くまで刀を入れられなかったのか首の急所を小刀で突いてもいた。
私は、土佐の肩を抱き、泣いた。
上官達が、どかどかと走り込んで来るまで、声もなく泣いていた。
私は、上官達に引き剥がされ床に倒れてしまう。
倒れた私の目に、土佐が書き残した遺書が見えた。その遺書をすかさず自らの懐に入れて、私はドックを飛び出した。
遺書には、夢なかばで死ぬ事の口惜しさ、私との思い出、そして死後は水葬で葬って欲しいことが書き記されていた。
私は遺書を握り締め、泣いた。
声をあげて泣いていた。
土佐の入った棺は汽船に曳かれ、海に沈んだ。
私もいっそ共にと思ったが、私の艦娘としての使命、なにより土佐の遺書にあった「姉様、何卒御存分に活躍なされますよう」その一文が私を思い留まらせていた。
人気もなく、静かな場所。
土佐の冥福を祈るにはちょうど良い場所。
本来は水葬をした呉港でするべきだけど、呉港は騒がしくて、私と土佐との思い出が掻き乱されてしまうようだから。
http://i.imgur.com/KC86ewH.jpg
声がした方向を見ると、第六駆逐隊の娘達が走っている。
その中の電が私を見ると、声をあげて走り寄ってきた。
他の娘も寄ってきて、話しかけてくる。
暁の提案で観音崎まで走り込みにきたとのこと。
私の言いつけを守って、トレーニングに励んでいるようだ。感心、感心。
この娘達は、私を姉と慕ってくれる。
妹を守れなかったこの私を。
響に何故ここに居るのか聞かれたので、土佐の月命日で冥福を祈りに来たと答えると全員押し黙ってしまった。
話は聞いたことがあるのだろう、なにせ赤城さんが事ある毎に吹聴しているのだから。
そして、電が口を開いた。
私は少し、吃驚した。
てっきり、帰ってしまうかと思っていたから。
本当に良い妹を持つことができたものだ。
私は静かに頷き、波止場に足を向けた。
波に漂い、流れていく白い薔薇。
私の誇れる妹への白い薔薇だ。
私は薔薇に向かい敬礼をする。第六駆逐隊も続いて敬礼をした。
土佐、お前を守れなかったこの私にも新しく妹ができた。
私は今度こそ、この小さな駆逐艦の妹達を守り、育てようと思う。
土佐、貴女の所へ逝くのはまだ先になるだろう、だが貴女にもどうか海からそっとこの小さな妹達を見守っていて欲しい。
潮騒の中に土佐の懐かしい笑い声が微かに聞こえていた。
お昼に立てた
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20196/1412827989/
これの加賀さん視点でした。
土佐のご冥福をお祈りします...
http://i.imgur.com/OWjVoeH.jpg
http://i.imgur.com/jKoCUgE.jpg
http://i.imgur.com/6GlfYbO.jpg
http://i.imgur.com/7GnXVVY.jpg
http://i.imgur.com/OLOgMR2.jpg
http://i.imgur.com/N02TwEA.jpg
艦これSSが増えてウレシイ…ウレシイ…
この建造半ばの姿が本当に見ていて辛いものです
完成してないですもんね、さぞかし無念な...
沈没の瞬間の写真が、このSSを読んだ後だと、さらに身に沁みます
それが出来るのは今の生活が豊かである証拠だよ（HGKM）
そもそも艦これ自体が無機物に命を吹き込んでるからね（擬人化ともいうが）
軍艦のことを「彼女」というしな、それの究極系が艦これなのかもしれない