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(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです- 1 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 19:01:22 ID:WLOO322.0
- 当作品は、部屋を明るくして、画面から離れて
犯人予想はメル欄のみで行って、読んでください。
※毎週土曜日の20:00-21:00に連載予定。
- 2 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 19:03:06 ID:WLOO322.0
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◆シリーズ過去作品リンク(敬称略)
・(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです
ブーン芸 →ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwari.htm
文丸新聞 →ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/lie/lie.htm
・(´・ω・`)とある忘れられた事件のようです
ブーン芸 →上に同じ
文丸新聞 →上に同じ
・(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
ブーン芸 →ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
文丸新聞 →ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/stronghold/stronghold.htm
・(´・ω・`)アルプスの風に吹かれるようです
ブーン芸 →上に同じ
文丸新聞 →上に同じ
◆その他リンク
・提供元
小説板2 →ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/16305/1361008882/
・質問、生存確認など
作者ブログ →ttp://itsuwari777.blog.fc2.com/
.
- 3 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:00:10 ID:WLOO322.0
-
「おい、知ってるか」
「なんですか」
朝早くに船を乗ったのも束の間、すっかり時刻は昼過ぎになっていた。
二月十七日と、もう春が目の前に迫りつつあるのに、その冷え込みは一向に変わらない。
船の中にいても、多少ましになるとは言え、暖房を効かせなければ大差なかった。
揺れにもいい加減慣れてきたので、気がつけば他愛もない話を交わすようになっていた。
いまのも、その一環である。
「ニゲットチキンって、キタコレでしか育たないのは知ってるよな」
「まあ、一応。揚げるとうまいやつですよね」
それを聞いて、彼はにやりと笑う。
相手は、嫌な予感がした。
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- 4 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:00:47 ID:WLOO322.0
-
「ニゲットチキンの羽って、布団とかにもなるんだよ。羽根布団」
「ふ、布団?」
「ほら、キタコレは極寒だろ。そんななかを生き抜こうと、
. ニゲットチキンは保温性に優れた羽毛をいっぱい生やしてだな、それで体温を保つんだ。
. そしてその羽毛は、最高級もいいくらいのすんばらしい素材となるんだよ」
トレンチコートの彼は、流暢にそう語り終えて、満足そうな顔をした。
一方、深緑のコートを身に纏う男は、面倒くさそうな顔をしていた。
語り終えた彼は、一呼吸してから、再び続ける。
「尾羽を加工して羽ペンにすれば、これまた高級品だ。
. しっかりしてるのに手に馴染む柔軟さがあるから、書きやすいんだって」
「使ったことがおありで?」
「あるわけねーだろ」
さも当然であるかのようにそう言ったが、ならば今の語りはなんだったのだ、と言い返したくなった。
言っても仕方がないことはわかりきっているので、彼は黙る。
しかし、トレンチコートの彼の話はまだ終わらない。
満面の笑みをかみ殺したような顔をしながら、追い討ちでもかけるかのように一つ言った。
「こんなもん、ジョーシキよジョーシキ」
語り終えて、得意げな顔をいっそう強く浮かべる。
「もういいだろう」と、相手は視線を彼――の、手元に遣った。
なにやら雑誌のようなものを握っている。
やっぱりか――深緑の男は、ため息を吐いた。
彼がなにか変に得意げになったときは、だいたい、その背景になにかがあるのだ。
それを、呆れきったような声で言ってあげることにした。
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- 5 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:01:43 ID:WLOO322.0
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「ジョーシキはジョーシキでいいんですが」
「なんだよ」
「その、見えてますよ、パンフレット」
「……あ」
隠し持っていたパンフレットが、実は隠せていなかった――
そうわかって、トレンチコートの男は照れ笑いをした。
それを見て、更に深緑の男は呆れた。
これ以上相手をしても疲れるだけだ――そう思い、窓の外、出航時以上に荒れている天候を見た。
呆れられた本人も、それにつられて窓の外を見やる。
天気予報で雪が降ることはわかっていたものの、それでもこの荒れ様はないんじゃないか、と思った。
「荒れてますね」
「荒れてるな」
「大丈夫ですかね」
「なにが」
「豪雪、ですよ。もしきたら、船も出せなくなるでしょ」
「なーに弱気になってんだよバーカ」
「………」
ふんぞり返って、彼は隣にいる男の顔を見上げた。
いつにも増して彼らしく、嫌味ったらしい笑みがこぼれていた。
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- 6 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:02:24 ID:WLOO322.0
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(´・ω・`)「そんなものはな、このショボンヌ様にまかせなさい!」
( <●><●>)「まかせて何になると言うんですか……」
(´・ω・`)「え、えっと……傘代くらいならだしてやる」
( <●><●>)「はぁ………」
最後のこれは呆れた返事ではなく、ただのため息だった。
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- 7 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:03:06 ID:WLOO322.0
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イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
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第一幕 「 最果ての地で 」
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- 8 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:05:31 ID:WLOO322.0
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パンフレットを広げていた彼は、隣の若手ワカッテマスにそれを見せた。
この国のなかでも最果てに位置する、極寒の地とされるキタコレにまつわるパンフレットだ。
キタコレに向かう船、RY(Round Yacht)の店内で彼が買ったらしい。
名物のコーナーに彼は目がいったようで、それを隣の男にも見せた。
「はあ」と、興味のないような声で返した。
そこには、ニゲットチキンと呼ばれる、キタコレでしか育たない希少種の鶏が載っていた。
奇妙なかたちの口をしていて、不遜な態度でもとるかのような開き方をしている。
が、これは餌となるタン芝――これもキタコレでしか生えない希少な草――を
どっかりと積もった雪から見つけ出しては食べるために進化した形状なのだ、と隣のコラムの欄に書き出されていた。
鶏らしく彼らはよく雪の上を歩くのだが、よく転び、雪煙を撒き散らしながら滑る様がテレビなどで映し出される。
それはワカッテマスでも知っていたが、さすがに口のことまでは知らなかった。
(´・ω・`)「肉よりも羽のほうが高いなんて、可哀想だよな」
( <●><●>)「また、どうして」
(´・ω・`)「バーカ。あんたの場合だと、体よりも服のほうが価値があるってことだぞ」
( <●><●>)「……それを、感情移入させますか。しかも鶏に」
(´・ω・`)「感情移入なんてしないと、刑事なんてやってらんないよ」
確かにそうだ、と笑う一方で、「捜査に私情を挟むのはタブー、なのでは」とワカッテマスがいじわるを言う。
言われた彼、ショボーンは、後輩の彼に揚げ足をとられたのを悔しく思った。
後輩、とはキャリアに限った話ではない。地位として、ショボーンのほうが格が上なのだ。
また、ショボーン自身が言ったように、彼らは、刑事である。
刑事であるワカッテマスより地位が上の、刑事――
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- 9 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:06:37 ID:WLOO322.0
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( <●><●>)「『偽りを見抜く敏腕刑事』の名が廃りますね」
(´・ω・`)「執念だけは遺族から受け取らなくちゃだめだろ。僕はだな、そーゆーのを……」
( <●><●>)「え、なんですって? イツワリ警部」
(;´・ω・`)「わざと言ってるだろ!」
( <●><●>)「パンフレットで得た知識を、自分のものだと偽って語るような人に……」
(;´・ω・`)「わかったって、僕が悪かったよ!」
ショボーンがプライドを捨てて謝る。
ワカッテマスはそんなつもりまではなかったのだが、どこか気分が晴れたような気がした。
しかし、それでも窓の向こうは、雪が降っていた。
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- 10 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:08:12 ID:WLOO322.0
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――キタコレは、この国のなかでも極寒の地とされる。
縦に伸びた地形の、その北端にあるため、南方に位置する地域と比べると
まるで国境を越えたのかと疑わずにはいられないほど、風土や気温が変わってくるのだ。
この国では、シベリアも寒い土地として有名で、あちらもよく豪雪が降る。
冬限定で言えば、その独特な季節風の影響でアルプスも冷えるのだが、
この二つを、キタコレは凌駕する。
氷点下なんてざらで、だからこそ居住人も少なく、「田舎」が似合う地域とすらされている。
しかし、だからこその自然の恩恵もあった。
そのひとつが、パンフレットに載っていたニゲットチキンだ。
『雪の上を歩く鶏』と称されるように、極寒の土地で生活をする、変わった鶏である。
極寒の地だからこそ、体温を保つために食べた餌のエネルギーを蓄えているのだが
それゆえ、ニゲットチキンを揚げると、その脂も相俟って美味になるとされる。
また一方で、その体温を保つために、羽毛も発達していった。
今しがたショボーンがワカッテマスに語っていたのは、このことだった。
当然、パンフレットに全て、記載されている。
ほかには、アーボンオレンジと呼ばれる果実が有名だ。
が、オレンジと名がつくだけで、味には期待できない。
これは香りの面で、かなり名を広めているのだ。
もともと生産数が少ないのに、そのなかの香りの成分を更に凝縮してやっとできた香水は、高級品の筆頭とされる。
名物以外には、国内でも特異の動物ばかりを集めたPLZ(Preciously Lakeside Zoo)が観光地の代表として挙げられる。
従来は白いニゲットチキンだが、その羽毛が赤くなったサンゲットチキンなんて鶏も展示される。
『腕を組む熊』として知られるツラレクマも、このPLZでしか見ることができない。
だからとは言え、人間ではこの寒さにはなかなか抗えない。
キタコレの、そういった名物を次の世代に受け継ごうとする地元の人々は皆、都会に逃げていくのだ。
年々減少傾向にある人口は、政府では食い止めることができない。
が、自然の恵みに満ち溢れているその要因は、この寒さである。
寒くなければ自然の恵みはなかったし、しかし寒いからこそその恵みを保護し受け継ぐ者が減る。
現地の人にとっては、なんとも皮肉な話であることだろう。
パンフレットを読み終えて、ショボーンはそんな感想を抱いた。
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- 11 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:09:00 ID:WLOO322.0
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( <●><●>)「それ、有料でした?」
(´・ω・`)「ん、千円」
( <●><●>)「せ」
パンフレットとは、そんなに高いものなのか――?
ワカッテマスが戸惑うが、それを見ないで、ショボーンは彼にパンフレットを押し付けた。
背もたれに体重を深くかけ、大きく息を吐く。
(´・ω・`)「千円なだけあって、なかなかのパンフレットだぞ。発行されたの、今年だし」
( <●><●>)「はあ」
言われて、ワカッテマスもぺらぺらとページを繰り始めた。
千円だろうが、ショボーンが買ったものを読む行為だとどのみち無料に違いない。
そんな楽観的な思考のまま、彼は紙面に写された活字とイラストに目を落とす。
ワカッテマスは読んだまま、ショボーンに話しかける。
読むと話す、その両方を一度にこなすのか――とショボーンは驚いたが、気にしない。
ワカッテマスは普通の人間よりも、いわば「できた」人間なのだ。
世間では彼を、天才ともてはやす。
その才能は、事件のときに本領を発揮する。
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- 12 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:09:38 ID:WLOO322.0
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( <●><●>)「警部」
(´・ω・`)「なんじゃい」
( <●><●>)「いくら招待されたからといって、三日も有給をとる必要はなかったんじゃあ――」
(´・ω・`)「べっつにー? たまには、こうして羽を伸ばすのも大事なんだよ」
( <●><●>)「しかし、私は……」
そう言ったのを、ショボーンがすぐに制する。
(´・ω・`)「だーかーらー、あんたは働きすぎなんだって。ドクオ一課長に怒られるんだよ、僕が」
( <●><●>)「はあ……」
ショボーンとワカッテマスは、この国のなかでも比較的のどかなVIPの人間だ。
刑事として彼らが出勤するのも、VIP県警である。
また一方で、事件の捜査にさいして他の地区に出向くこともある。
いまや有名となった一年と少し前のとある事件に関しては、彼らはシベリアに足を運んだ。
そのときも、今日ほどではないにしろ、とことん冷え込む気候だったことをワカッテマスは覚えている。
しかし、今日、二人がキタコレに向かうのは、事件の捜査のためではなかった。
ただの休暇である。
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- 13 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:10:17 ID:WLOO322.0
-
――二月に入って少しした頃、ショボーンのもとに一通の手紙が届いた。
緒前(おまえ)モナーという男からである。
何年前になるだろうか、ショボーンはある日、事件でこの男とかかわりを持った。
そのときのショボーンに助けられて以来、モナーは、ショボーンに送る年賀状を欠かした年はない。
そのモナーの手紙だが、よく見ると招待状であることがわかった。
ショボーンと、もう一人分の、である。
これは当時、モナーを助けた刑事がショボーンともう一人いたから、なのであるが――
招待の内容は、実に簡単なものであった。
モナーはこのたび、キタコレにホテルを建てることになったのだ。
それも、観光客に焦点を絞った、キタコレにしては大規模なホテルである。
大手から企業を誘致し、また源泉かけ流しの温泉をも確保しているようだ。
その名も、WKTK(With Kaleidoscopic Traveler's Knitting)ホテル。
オープンに先立って、モナーは世話になった人を呼んでは、小規模なオープン記念のパーティを開こうと言うのだ。
ショボーンがワカッテマスを呼んだ理由は、先ほど言ったとおりである。
ワカッテマスが、携帯電話の辞書機能を使いながらこの名を
訳してみると、「絶え間なく変わる旅人の編み物とともに」になった。
これはどういうことだ、とワカッテマスが思うと、ショボーンが笑った。
(´・ω・`)「それはな、モナーさんのキーワードだよ」
( <●><●>)「キーワード?」
モナーのことを知らないワカッテマスが、聞き返す。
ショボーンが再び浮かべた笑みに、彼らしさは籠められていなかった。
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- 14 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:11:05 ID:WLOO322.0
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(´・ω・`)「『絆』」
( <●><●>)「絆?」
(´・ω・`)「モナーさんは、人と人との絆を大事にする。親子でも、夫婦でも、会社の師弟、でもだ」
(´・ω・`)「そうだな、暇だったらこの話、してやろうか」
( <●><●>)「あ、これ読んでるんでいいです」
(;´・ω・`)「ばッ! ……そこは、素直に『聞かせてください』だろ!」
( <●><●>)「警部が読めって言ったんじゃないんですか……」
ワカッテマスがしょぼんとする。
「あーめんどくさいな」とショボーンは頭を掻くが、気持ちはワカッテマスも一緒だった。
ただ、この名前の由来には純粋に興味があったので、ワカッテマスはパンフレットを閉じた。
パンフレットはいつでも読めるので、上司の言葉を優先しよう、と思ったのだ。
彼らしいといえば彼らしい判断であった。
ショボーンがそれを見て、こほん、と咳払いをする。
この男がまじめに話をするときは、その飄々とした態度は本当にどこかにすっ飛んでしまうのだ。
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- 15 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:11:36 ID:WLOO322.0
-
(´・ω・`)「わかると思うが、キタコレは観光地として有名だ」
( <●><●>)「さすがに、それは」
(´・ω・`)「だが、キタコレの観光地に向かうまでの道のりは、ひどく険しい」
( <●><●>)「ただキタコレに向かうだけなら列車や船を使えばいいが、
絶景を見たりするにはその分過酷な旅を覚悟しなければ――という意味ですね」
(´・ω・`)「そうだ。その旅は、目まぐるしく変化する。
. キタコレなんて、気候ひとつで千変万化の世界だ」
( <●><●>)「KTの部分ですね」
(´・ω・`)「そして、当然だが防寒具を着るよな。いまの僕とあんたみたいに」
( <●><●>)「防寒具といっても、重ね着の上にいつものコートを羽織っただけですが」
(´・ω・`)「偶然だな、僕もだ。……それはいいとして」
(´・ω・`)「モナーさんは、その『防寒具』を、編み物と表現した」
( <●><●>)「ニット帽やマフラーとかですね」
(´・ω・`)「変わりゆく旅のなか、その編み物はずっと旅人から離れず、ぬくもりを与えてくれる」
( <●><●>)「なるほど、それが『絆』というわけですか」
ワカッテマスはなんとなく話が読めたので、芯の通った声で言った。
しかし、ショボーンはそれをおどけた様子で否定した。
.
- 16 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:12:08 ID:WLOO322.0
-
(´・ω・`)「ぶっぶー。そんだけじゃないんだなあ、これが!」
( <●><●>)「……?」
(´・ω・`)「なんで、モナーさんが『編み物』なんて言葉を使ったのがわかるか?」
( <●><●>)「………いいえ」
(´・ω・`)「『絆』ってのは、人と人とがかたくつながる様子を指す」
(´・ω・`)「それと編み物と、どこか似てるような気がしないか?」
( <●><●>)「ああ、なるほど」
(´・ω・`)「手紙で、そんなことが書かれてあった」
( <●><●>)「なかなか面白い話ですね」
(´・ω・`)「だろ」
ほめられて、ショボーンはまた調子に乗った。
が、この話を聞かされて、ワカッテマスは素直にそう思ったのだ。
「きれい」に縁のない刑事生活を送っていると、たまにそんな言葉を聞きたくなる。
ショボーンがペットボトルのお茶を飲んだのを見て、ワカッテマスも同じく飲む。
少し話しすぎたせいで渇いた喉を、苦味のあるお茶が潤していく。
キャップを閉めながら、今しがたの話を反芻した。
すると、ワカッテマスはあることに気がついた。
.
- 17 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:12:42 ID:WLOO322.0
-
( <●><●>)「あ、でも警部」
(´・ω・`)「なんだい」
気がいいのか、ショボーンはにやにやとしてそちらに向く。
その笑みを、無表情のワカッテマスがつぶした。
( <●><●>)「編み物って、ひとつの糸から成ってませんでしたっけ」
(´・ω・`)「はっはっはっ、なにを急に――」
(´・ω・`)
(´・ω・`) …!
(´・ω・`)「ワカッテマス」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「そのことは、モナーさんには黙っておけ」
( <●><●>)「わかりました」
そこから、会話はすっかり途絶えた。
.
- 18 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:13:17 ID:WLOO322.0
-
◆
キタコレの地は、やはり一面が白く染められていた。
そして天気予報は当たっていたようで、雪がなおも降っている。
吹く風の一つひとつが、ショボーンとワカッテマスに「極寒」を与える。
その華々しい観光スポットや名物のイメージとは打って変わって、その道中はかなり過酷なものとなった。
バスやタクシーが頻繁に連絡していたらよかったのだが、それはWKTKホテルオープンから始動するようである。
招待状を頼りにショボーンが先導して、道を歩いていく。
ホテルは近くの山の上に建てられている。
本数の少ないバスに乗って、なんとか近いところまでは向かうことができた。
が、それでもまだ距離がある。
こんなので、果たして観光客を集めることができるのか、とショボーンは訝しく感じた。
途中で、観光客だと思ったのだろう、地元の老人たちが二人に声をかけてくれた。
彼らにとっても、観光客はやはりうれしいものなのだろう。
適度に受け答えしながら歩くとやがて、前方にひときわ大きな建物が目に入った。
それはいいのだが、やはりキタコレは、VIPやシベリアと比べて極端に建物が少なかった。
キタコレの県警なんか、真南にある。
ここは北のほうで、また所轄署も各地区にちいさなそれが一つずつ建てられている程度である。
そんなので、事件に迅速に対応できるのか。
ワカッテマスはふと思ったが、そもそもキタコレでの犯罪件数の少なさは全国でずば抜けて一位らしい。
ショボーンが呆れた顔でそう言った。
確かにこの寒さでは、犯罪する気も失せる。
青いカラーは人の犯罪意欲を抑制する効果があるらしいが、
キタコレはその青色で支配されているようなイメージなのだ。
.
- 19 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:14:16 ID:WLOO322.0
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そのまま歩くこと、数十分。
招待するのならタクシーくらい手配してくれ――ショボーンは思ったが、口にしないことにした。
こんな田舎では、それは都会の人間のわがままにすぎないのではないか、そう思ったからだ。
「都会」のイメージが嫌いなショボーンは、そのわがままを言うことができなかった。
そんな田舎のキタコレの景観にそぐわない建物が、いよいよ目の前に迫ってきた。
白いカラーで統一された壁、窓は特殊なものを使っているのか、ここからだと群青色に映えて見えた。
徐々に雪が強くなってくる。
開通していない鉄道や、バスのないバスターミナルを見ると、どんどんと雪で積もっていくのが見えた。
明らかな設計ミスではないか――と思ったが、キタコレの人の考えることはわからない、と割り切った。
そしてようやく、WKTKホテルにたどり着いた。
近づいてあらためて見てみると、確かに大きい。
ここに着くまでに見た建物はどれもこじんまりとしていただけあって、対照的にこれがいっそう大きく映って見えた。
円柱のように広がっている自動ドアを二枚潜り抜けると、いかにもホテルのフロントらしき場所に着いた。
キタコレのイメージを払拭するような、床も壁も天井も一面のオレンジ色。
おそらく、「極寒」をここで洗わせるために、と考えたのだろう。
が、人が少ない――いない。
オープンはしておらず、これはモナーの個人的な意向で催される
小規模なパーティであるため、余計な人員は用意していないのだろう。
しかし、案内人は――
「あ、すみません」
(´・ω・`)「?」
二枚目の自動ドアを抜けて、十メートルほど歩いた。
中央辺りにたどり着いたところで、右手のほうから声をかけられた。
続けて、柔らかい絨毯の上を駆けてくる音が聞こえる。
声といい、足音といい、女性だ。
案内の人か、と思い、二人は右手に向いた。
|゚ノ ^∀^)「えっと、招待された人ですか?」
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- 20 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:15:11 ID:WLOO322.0
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服装だけは、仕事のこなせるキャリアウーマン。
しかし、その砕けた口ぶりといい、カチューシャといい、あまりそういったイメージは抱けなかった。
彼女は、ショボーンとワカッテマスを見比べてから、訊く。
招待されたのはあくまでショボーンなので、彼が応対した。
彼が捜査のときに見せるような、淡々とした態度で、である。
(´・ω・`)「はい、ショボーンです。刑事の」
( <●><●>)「同じく、若手ワカッテマスです」
すると、女性は手を叩いた。
「ああ」と遠く通るような声と同時だったため、その名に心当たりがあったのだろう、とわかった。
満面の笑みを浮かべ、両手を胸の前であわせながら、歩み寄ってきた。
|゚ノ ^∀^)「お話は聞かせてもらってます! 確か以前、社長を助けていただいた、とか」
(´・ω・`)「そういうあなたは」
「あ、ごめんなさい」と謝って、すぐに畏まった態度をとる。
しかし口角が見せる笑みまでは、拭い取ることができなかったようだ。
|゚ノ ^∀^)「モナー社長の秘書を務めさせていただいております、レモナと申します」
(´・ω・`)「は、はあ」
互いの挨拶が済むと、さっそくと言わんばかりに、レモナが二人の前に立った。
そして二人を先導するかのように、前に歩き出した。
|゚ノ ^∀^)「社長をはじめ、招待されたうち何人かは10Fのメインホールに集まってます。案内しますね」
(´・ω・`)「お願いします」
二人もそれにしたがって足を進める。
その間も、彼らの間に会話が絶えることはなかった。
.
- 21 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:16:03 ID:WLOO322.0
-
|゚ノ ^∀^)「いやはや、こんな寒いなかに、ようこそいらっしゃいました!」
(´・ω・`)「ほんと寒いですよ。雪のシャワーを浴びてしまった」
|゚ノ ^∀^)「アハハ、キタコレの雪は一味違いますからね。
. 一度ふぶきだすと、おんなじ方向をびゅーびゅー襲うので」
(´・ω・`)「ちょうど、僕たちを追い返すかのごとくふぶいてたんですよ。
. なんだってモナーさんは、こんなところに……」
|゚ノ ^∀^)「あ、当ホテルの方針をお聞きでなくて?」
(´・ω・`)「一応、モナーさんから名前の由来は聞きましたが……」
大げさに相槌を打ちながら、「ふむふむ」となにかを考え込んだ。
秘書、というよりは、保険のセールスマンのような印象を持たされた。
|゚ノ ^∀^)「キタコレって、すごく寒いですよね。なのに、観光地としてはすばらしい」
(´・ω・`)「それは、パンフレットでさんざん見ましたよ」
|゚ノ ^∀^)「ですよね? でも、寒いし、田舎のせいで、観光ビジネスはそこまで発展しなかったんです」
(´・ω・`)「それはどうして」
|゚ノ ^∀^)「そこまでする規模を持つ人が、現れなかったんですよ。
. まず、アクセスの幅を広げなければならない。
. 観光客に層を絞ったホテルを建てようと、その人たちがたどり着けないような立地にしてしまえば
. たちまちそのホテルは廃れてしまい、過去に何件かあったように、廃業してしまいます」
「確かにアクセスは悪かった」と、ショボーンは苦々しく言った。
それはついさっき、身を以て体感したことだった。
.
- 22 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:16:47 ID:WLOO322.0
-
|゚ノ ^∀^)「アクセス、つまりバスやタクシーの幅を広げて、交通網を整備しなければならない。
. 国内でも一番田舎なところですから、まずはそこからしないとビジネスが成り立たないんですよ」
(´・ω・`)「ほうほう」
ショボーンが腕を組み、若干身を前に乗り出す。
だんだんと、レモナの話に興味を持ってきたのだ。
それは、その話の内容もさることながら
レモナの話しっぷりが、実に興味を惹きつけるのにうまいものだったためである。
|゚ノ ^∀^)「次に、土地の問題。田舎なだけがあって、山や平野はほとんどが大地主の所有物となってます。
. 開発……という言い方もおかしいですが、ホテルを建てるのにふさわしい環境づくりをするには、
. その開発費だけでなく、そういった別方面での問題も顔を出すわけなんですよ。
. さっきのアクセスの件もふくめて、かなり大規模な計画で進めないと、ホテル運営なんて無理だったんです」
(´・ω・`)「で、それをモナーさんがこなしてみせた、と」
上司、それも社長のことを褒められるのはうれしいようで、レモナは顔いっぱいに笑みを浮かべて、うなずいた。
慕われている社長でよかった――と、恩師の考えそうなことをショボーンは考えていた。
(´・ω・`)「しかし、それはどうやって。まさか、単身で?」
|゚ノ ^∀^)「……」
(´・ω・`)「?」
レモナが、一瞬黙る。
なにかわけありか、とショボーンはどきりと感じたが、それも杞憂だったようだ。
|゚ノ ^∀^)「資金を提供してくれた人がいたってのもそうですが、ほかにもう一つ」
|゚ノ ^∀^)「あるグループが、企業の誘致やそこらへんのいざこざをまとめてくださったんです」
(´・ω・`)「グループ?」
|゚ノ ^∀^)「アンモラルグループ、ってご存じですか?」
(´・ω・`)「あんもらる?」
.
- 23 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:18:04 ID:WLOO322.0
-
|゚ノ ^∀^)「いまや世界的に勢力を伸ばしてる、それはもう大きなグループです。
. おにぎり一つからベンチャー企業発足まで、なんでもしちゃうすごいところなんです」
(´・ω・`)「興味ないや。三日だけ覚えときます」
|゚ノ ^∀^)「いやいや、覚えといても仕方がないですよ。話を続けても大丈夫でしょうか?」
(´・ω・`)「……え、あ。はい」
一瞬呆気にとられたショボーンだが、続きを促す。
すると再び、レモナは流暢に話しはじめた。
エレベーターに着く。
三人を乗せて10Fまで向かうのだが、その間も、彼女の語りは続いていた。
|゚ノ ^∀^)「こうして、土台はできあがった。じゃあ、当ホテルの方針が問題になるわけですが」
(´・ω・`)「メインですね。どうぞ」
|゚ノ ^∀^)「キタコレに観光事業を導入し、絶景や動物園を見にくる観光客を当ホテルに動員するんですよ。
. 冷たい風に吹かれて、心身ともに疲弊したところを、広げた交通網でここまで案内し、至福の時を提供する。
. 当ホテルには、キタコレのおみやげというおみやげが一通りありますし、サービスはどれも一流のものばかり。
. ……そうそう、露天風呂もあるんです」
(´・ω・`)「ほう! それはいいですね」
|゚ノ ^∀^)「でしょ? たとえば、PLZに寄った、しかしその感動を帰り道でつぶしたくない。
. キタコレ観光を日帰りで……は、交通網のせいで厳しいですからね。
. そこでホテルにきていただければ、おみやげは揃うし、おいしいごはんは食べられるし、と」
(´・ω・`)「まさに観光客のオアシス、ってところですか」
|゚ノ ^∀^)「そういうことです! ――が、実は本命はそちらじゃないのです」
(´・ω・`)「ほうほう」
|゚ノ ^∀^)「当ホテルのほうで観光プランを練って、それを旅行代理店のほうにまわしていただくんです。
. 寝泊りは当ホテルで、そこから日程にしたがってキタコレを縦横無尽に観光しに回る。
. 観光面と宿泊面の、二重でビジネスを運営できる、画期的なアイディアなんですよ」
(´・ω・`)「これだけ大規模なホテルなら、それが可能でしょうな」
|゚ノ ^∀^)「ええ! ……と、話しすぎてしまいましたね」
.
- 24 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:18:58 ID:WLOO322.0
-
レモナが身をひくと、エレベーターは10Fに着いた。
電子音が鳴ったと思うと、扉が開かれる。
そのまままっすぐ歩くと、目の前には、ドーム球場ほどの空間が広がっていた。
高さはそれほどでもないが、しかしなんらかの催し物をするには充分すぎる広さだった。
レモナに案内されてなかに入る。
小規模、なだけあって、メインホールを入ってすぐのところにはなにもないが
ホール前方には、いくつかのテーブルと、食器だけが並べられている。
そして、ショボーンと同じく招待されたのであろう人が数人、その前方に点在していた。
「あちらに社長が」といわれたのでそちらのほうを見ると、ショボーンの顔は急にほぐれた。
以前となんら変わらぬ様子のモナーが、後ろで手を組んでそこに立っていたからだ。
刑事とは基本的に一期一会を痛感させられる職業なのだが、たまにこうして昔の人と会うと、どこか感動を味わえる。
|゚ノ ^∀^)「社長」
レモナが駆け寄って呼ぶと、モナーは振り返った。
レモナを視界におさめると同時に、その後方にショボーンとワカッテマスが映る。
その瞬間、モナーの顔はとたんに穏やかなものになった。
ショボーンも続いて、軽く会釈をした。
モナーはいよいよ、嬉しさを抑えきれないようになった。
(´・ω・`)「お久しぶりです、モナーさん」
( ´∀`)「いやいや、いやいやいやいや、こちらこそです! ショボーン警部補!」
(;´・ω・`)「あ、もう警部です!」
( ´∀`)「モナにとっては、ショボーン警部補はショボーン警部補ですモナ」
.
- 25 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:19:43 ID:WLOO322.0
-
(´・ω・`)「まあ……いいですけど。どうでも」
( ´∀`)「で……そちらは?」
( <●><●>)
(´・ω・`)「あ、ああ。僕の部下の、若手です」
( ´∀`)「ワカテなんですか……新人教育に精が出ますね。して、お名前は」
(;´・ω・`)「いや、若手ワカッテマス、って名前なんです。ワカテにゃあ違いありませんが」
( <●><●>)「……VIP県警捜査一課、ワカッテマスです」
( ´∀`)「おー、それはそれは失礼」
ワカッテマスがムッとして挨拶する。
モナーは悪びれた様子は見せず、同じく軽く挨拶した。
相変わらずだな、とショボーンは思った。
.
- 26 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:20:20 ID:WLOO322.0
-
( ´∀`)「時に、あの刑事さんは?」
(´・ω・`)「ああ、あいつですか」
( <●><●>)「?」
ワカッテマスが、なんの話をしているのだ、と思い、きょとんとする。
それをショボーンが察した。
(´・ω・`)「紹介が遅れたな。まだあんたがいなかった頃、事件で会ったモナーさんだ」
( ´∀`)「よろしくモナ」
( <●><●>)「いえ、それはいいのですが、あの刑事、とは?」
(´・ω・`)「当時、僕と一緒にその事件を解決した男だ。
. 躯がでかいくせになにかと小心者な、からかいがいがあった奴だよ」
( <●><●>)「そ、そうですか」
「からかいがいがあった」と聞いて、ワカッテマスはその名も知らぬ人に同情した。
きっと、泣き出したくなるほどいじめられたのだろう。その情景が、簡単に想像できた。
互いの認識をすり合わせたところで、モナーが手を叩いた。
刑事二人が、モナーに体を向ける。
.
- 27 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:21:06 ID:WLOO322.0
-
( ´∀`)「パーティだけど、18時から開催するモナ」
(´・ω・`)「えっと、今は……」
ショボーンが腕時計に目を遣る。
16時28分。まだ一時間半ほどの猶予が残されている。
どうやって時間をつぶそうかな、と思った矢先。
( ´∀`)「ここで、なーんもなしで話をするのもアレだモナ。
挨拶もほどほどに、積もる話はパーティのときにしたいモナ」
(´・ω・`)「それもそうですね」
( ´∀`)「だから、このWKTKホテルをうろちょろして、時間をつぶしてほしいですモナ」
(´・ω・`)「う、うろちょろって……いいんですか?」
( ´∀`)「いいモナ。客室や入られちゃ困るところは全部閉めてるし。
それに、モナが招待した人たちのなかに、悪さをするなんて人がいるはずないモナ」
(´・ω・`)「そりゃ、そうですが……」
オープンを控えているのに、それでいいのか。
喉まででかかった言葉を、なんとか呑み込む。
( ´∀`)「どーせオープンは来週だモナ。柱を折ったりされない限り、問題ないモナ」
|゚ノ ^∀^)「だから、来週だと早いですって。いい加減諦めてください」
( ´∀`)「モナは来週がいいモナ!」
.
- 28 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:21:45 ID:WLOO322.0
-
(´・ω・`)「……? なにかあったのですか」
|゚ノ ^∀^)「本来は、来週にオープン予定だったんですが……
. ほら、雪がひどいせいで、列車のほうが予定通りに運行開始できそうにないんですよ」
(´・ω・`)「ああ……」
言われて、ショボーンはメインホール上部に取り付けられた窓に目を遣る。
吹雪と見間違えそうなほど、キタコレでは激しい雪に見舞われていることがわかった。
どうやら、自分たちが来たときよりも、いっそう雪は激しさを増しているようである。
思わぬところで打撃を喰らった――と、モナーが渋い顔をした。
レモナは対照的に呆れたような顔をして、続ける。
|゚ノ ^∀^)「でも、社長、わがままですから。『絶対来週なんだモナー』とか言って、聞かないんです」
(´・ω・`)「あなたらしいですね」
( ´∀`)「予定は意地でも貫き通すモナ。しょっぱなから気候に負かされてちゃあ、幸先が悪いモナ。
それに……」
(´・ω・`)「それに?」
( ´∀`)「……まあ、とにかくなんとしてでも来週にはオープンさせてみせますモナ」
(´・ω・`)「まあ、僕に言われても仕方がないですがね」
( ´∀`)「まったくですな」
そう言って、二人は笑った。
そのまま、モナーはどこかにすたすたと歩いていく。
レモナはそれを見送りながら、「ったく……」と、呆れた様子を見せた。
まったく秘書らしくない秘書だな、とワカッテマスは不思議な心地でレモナを見ていた。
.
- 29 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:22:36 ID:WLOO322.0
-
そこでいったん、四人が黙る。
話そうと思えば話せたのだが、パーティに向けてお楽しみとしてとっておこう、とショボーンは思っている。
そのせいで気まずくなったなあ、とショボーンは頭を掻いた。
頭を掻いた矢先で、ショボーンは向こうのほうにいる何人かの人に目がいった。
誰だろう、と思い、何気ない雑談のつもりでレモナに訊いた。
(´・ω・`)「ところで、ほかにはどんな……」
|゚ノ ^∀^)「あ、せっかくなんで紹介しておきますね」
語尾を濁すと、レモナはショボーンの言いたいことを汲み取ってくれた。
ホール前方のステージと向かい合って左手に、男女がなにかを話している。
片方は渋い男性で、もう片方は化粧の濃い、レモナと同じくキャリアウーマン風な女性だ。
ショボーンもそちらに顔を向ける。
気配を察したのか、二人のうち男性が、ショボーンのほうに振り返った。
爪'ー`) ゙
|゚ノ ^∀^)「あの人が、オオカミ鉄道総裁の、大神――」
(´・ω・`)「ふぉ、フォックスさん?」
|゚ノ ^∀^)「あ、ご存じでしたか」
爪'ー`) …?
爪;'ー`) !
|゚ノ ^∀^)「走ってきた…」
(´・ω・`)「なんで焦燥を浮かべるんだ……」
.
- 30 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:23:22 ID:WLOO322.0
-
ショボーンのことを認識した彼、大神(おおがみ)フォックスは、慌てた様子でショボーンのもとに駆けてきた。
女性が続けて、なにがあった、と歩み寄ってくる。
が、それよりも早く、フォックスがショボーンに深くお辞儀をした。
爪;'ー`)「いやいや、どなたかと思えば、ショボーン警部じゃありませんか」
(´・ω・`)「お、お変わりはありませんようで」
|゚ノ ^∀^)「やっぱり、事件かなにかで?」
レモナが訊く。
すると、ショボーンがなんてことはないと言いたげな様子で、しかしスケールの大きなことを言った。
(´・ω・`)「去年――だよな。少し前のとある事件をきっかけに、ね」
爪;'ー`)「その節はどーもです、ショボーンさん」
( <●><●>)「(どうしてここまで腰が低いんだ)」
|゚ノ ^∀^)「去年……オオカミ鉄道……」
レモナが、顎に手を当てる。
それとほぼ同時に、フォックスの後ろから女性が顔を出した。
化粧こそ濃いが、その見た目のわりには歳を喰っていそうな女性だった。
目じりや首筋の小じわが、それを雄弁に物語っている。
「こないだゆーたら、アレとちゃいますのん。オオカミ鉄道の、バクダン事件」
.
- 31 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:24:33 ID:WLOO322.0
-
爪;'ー`)「! ご、ご存じでしたか!」
(´・ω・`)「彼女は……」
|゚ノ ^∀^)「あ、紹介しますね」
レモナが体の向きを変えながら
(゚A゚* )
|゚ノ ^∀^)「アンモラルグループの、下呂(げろ)のーさんです」
(゚A゚* )「アンモラルグループの代表できました、のーって言いますー。
ま、なにとぞよろしくお願いします……っと」
( <●><●>)「(アンモラル……彼女が代表となって、今回オオカミ鉄道となにかをしてるということか)」
挨拶されて、ショボーンも挨拶を返そうとした。
しかし、それよりも前に、のーが今の話に食いついてきた。
(゚A゚* )「ほら、去年ゆーたら、オオカミ鉄道のナントカっちゅー駅で、バクダンがありましたやん!」
|゚ノ ^∀^)「…あ! あなたの顔、どこかで見たことあると思ったら、そういやあのときテレビに出てましたね」
(;´・ω・`)「は、はは。なかなか喜ばしくないですね」
――年が明ける前、十二月。
世間を震撼させた、ある事件が起こった。
フォックスが総裁を務めるオオカミ鉄道だが、そのレールはほぼ全国に行き届いている。
そのなか、シベリアで運行中の列車に、爆弾にまつわる大きな騒動が起こったのだ。
幸い大きな被害は出ずに済んだのだが、おかげでオオカミ鉄道は、
数週間の間はお茶の間で常に話題にあがるようになった。
それがいい意味で、ならよかったのだが――
.
- 32 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:25:34 ID:WLOO322.0
-
爪;'ー`)「ま、まあまあ、その話はいいじゃありませんか」
( <●><●>)「(あの事件を思い出したくないから、こんなに焦ってるんだな)」
(゚A゚* )「ンなカタいこと言わんと、聞かせてくださいなー!」
爪;'ー`)「のーさんには敵いませんよ、ホント。
. ……パーティのあと、11Fのレストランで。ごちそうしますから、この話はそのときにでも」
(゚A゚* )「え、ホンマに? うれしいわぁ、あのハナシ考えとくなー」
爪;'ー`)「ええ、ええ、ぜひ前向きに検討お願いします。いや、ホント」
(^A^* )「かまへんて。ウチとオオカミさんの仲やん!」
爪;'ー`)「は、ははは……ハハ。」
(´・ω・`)「(……なるほど)」
( <●><●>)「(そういえば、オオカミ鉄道はアンモラルに頭があがらないハナシがあったな)」
オオカミ鉄道は、大神フォックスが総裁を務める、全国的にそのレールを広げている列車の会社だ。
その本社はシベリアとVIPとの境界線、VIP寄りにあり、その存在感を存分に周囲に知らしめている。
特にショボーンはオオカミ鉄道が好きで、列車に乗る必要があるときはだいたいオオカミ鉄道を利用するのだが
その裏では、決してきれいではない噂が、常に飛び交っているのだ。
そのうちのひとつが、アンモラルグループとの関係である。
買収される、なんて噂があったり、なにか「黒い」取引をしているのではないか、とまことしやかに囁かれたり、と。
フォックスは、テレビや新聞では否定こそしているが、
どうやら、彼が金と権力に弱いことだけは、いまはっきりとしたようだ。
ショボーンもワカッテマスも、半ば同情するようなまなざしでフォックスを見守っていた。
フォックスの接待の誘いに気をよくしたのだろう、
アンモラルグループ代表ののーは、手をひらひらさせては、そのままホールの出口へと向かった。
いまから気まぐれに散策でもするつもりのようだ。
のーがホールからでて、十秒ほどの間
フォックスは面白いくらい、ずっとぺこぺこしては、愛想よくふるまっていた。
.
- 33 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:26:12 ID:WLOO322.0
-
爪'ー`)「……ふう」
(´・ω・`)「お疲れのようで」
爪'ー`)「いろいろと……噂はされますがね」
(´・ω・`)「はあ」
爪'ー`)「どうしてもこの世界にいると、避けては通れないモノがあるわけですよ」
(´・ω・`)「どろどろとしたモノが見えるとか、見えないとか」
「まあ」と、苦々しい口調でフォックスが言った。
どうやら、彼は日頃からストレスを溜め込んでいるようだ。
爪'ー`)「ああ……胃が痛い。キセルでものもうかな」
|゚ノ ^∀^)「まことに申し上げにくいのですが、ここは禁煙でして……」
爪'ー`)「あ…いえ。わかりました」
フォックスが残念そうな顔をする。
久々に会ったからだろうか、ショボーンは、どこかフォックスの人が違うな、と思った。
しかし、それを問うのも野暮だろう。
邪推をするなら、きっとアンモラルグループとの関係でなにかあったのだろう――
今のショボーンには、その程度のことまでしかわからなかった。
.
- 34 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:26:48 ID:WLOO322.0
-
(´・ω・`)「フォックスさん」
爪'ー`)「はい」
(´・ω・`)「あなたも、モナーさんに呼ばれたんですよね」
爪'ー`)「ええ。今回のWKTKホテル建設にしたがって、ウチの鉄道をそこらじゅうに張り巡らせましたからね」
(´・ω・`)「…!」
ショボーンはこの一瞬で、さすがはオオカミ鉄道だ、と思った。
いくら裏で嫌な噂を流されたり、こうしてアンモラルグループに弱い一面を見せようと
その実態は、全国をまたにかける大規模な鉄道グループなのだ、と再認識させられた。
いくらキタコレが田舎で、交通網が発達していないとは言っても
それをそこらじゅうに張り巡らせるなど、並大抵の資金や計画ではうまくいかないだろう。
それを平然とやってのけるとは――ショボーンは、オオカミ鉄道の本領を目の当たりにした気がした。
爪'ー`)「で、ウチでできる限りはこのホテルを宣伝するよう契約しましたし。
WKTKホテル主催のツアーも、こっちでいろいろ手回ししてますから。
このツアーの移動は、ほとんどがウチの列車ですよ」
(´・ω・`)「ほ、ほう。さすがですな」
爪'ー`)「いやいや。こうでもしないと……ね」
オオカミ鉄道は、こうしてみると一大グループのように思われるが
その実態は、新勢力として台頭してきたニュー速鉄道に押されつつあった。
だからオオカミ鉄道は、そのたびに奇策や凝ったアイディアを出して、なんとか苦境を切り抜けてきた。
今回も、それらのうちの一つなのだろう。
.
- 35 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:27:52 ID:WLOO322.0
-
|゚ノ ^∀^)「今回のホテル建設に際しまして、オオカミさんにはいろいろ援助してもらったんですよ」
(´・ω・`)「ほう。具体的には」
爪'ー`)「トンネル開通用などで使うウチのダイナマイトとか。余るほど提供したよ」
(´・ω・`)「(なかなかの力の入れようだな……そりゃあ招待されるわけだ)」
|゚ノ ^∀^)「実を言うと、ショボーンさんみたいに恩で呼ばれる人はほかにはおらず、
. 残りの人はフォックスさんみたいに、何らかの形で援助していただいた人を招待してるんですよ」
(´・ω・`)「というと、ほかにもいらっしゃるようですね」
|゚ノ ^∀^)「ええ。少数ですが。当ホテルの建設デザインを担当していただいた、
. あの榊原(さかきばら)マリントンさんもいらっしゃいます」
レモナが言ったのを聞いて、ショボーンは「へえ」としか返さなかった。
しかし、ワカッテマスはまた違った反応を見せた。
その名を、知っていたのだ。
( <●><●>)「たまに建築系のテレビ番組でいらっしゃいますよね」
|゚ノ ^∀^)「はい。建設界じゃ、すごい有名人なんですよ」
(´・ω・`)「堂々たる面々、というわけか」
|゚ノ ^∀^)「ほかに、当ホテルに美術品を提供していただく……予定の、
. アスキーミュージアムの館長にもお越しいただきました」
( <●><●>)「確かに、堂々たる面々ですね」
.
- 36 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:28:46 ID:WLOO322.0
-
アスキーミュージアムとは、この国の首都、アスキーアート(通称AA)にそびえる国が運営する美術館で
この国の八割の文化財は、基本的にここに収められていると言ってもいいほどの規模を誇るものだ。
そこから美術品を提供してもらうとは、確かに「堂々たる」が似合うだろう。
しかし、レモナの口調に違和感を感じたのは、ショボーンだけではなかった。
ワカッテマスも同様に、いまの口ぶり――「予定」――が気になった。
( <●><●>)「しかし、予定、とは」
|゚ノ ^∀^)「申し上げにくいのですが……」
レモナが少し言葉を濁す。
|゚ノ ^∀^)「館長の黒井シラヒーゲさんですが、現在、提供するか否かを悩んでいらっしゃるようなのです」
(´・ω・`)「まあ……そう簡単に提供なんてできるもんじゃないですしね。国の許可もいる」
|゚ノ ^∀^)「だから、社長は、実際にホテルにきてもらって、ここの良さを知ってもらうと同時に
. パーティでご機嫌をとって、なんとしてでも美術品を譲ってもらう――なんて作戦らしいです」
(´・ω・`)「(やってることはフォックスさんと一緒だ…)」
( <●><●>)「まあ、それはいいとして。ほかにはどんな人が」
|゚ノ ^∀^)「あと、そうですね。都村ビコーズさんには多額の融資をしていただきました」
.
- 37 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:29:42 ID:WLOO322.0
-
(´・ω・`)「ほう。その人は、どんな……、……え?」
( <●><●>)「つ、つむら?」
|゚ノ ^∀^)「え? あ、今日はビコーズさんはいらしてないですので、かわりにお孫さんが――」
(´・ω・`)
( <●><●>)
|゚ノ ^∀^)「……え、えっと……。どうなさいました?」
都村ビコーズ、という名に続けて放たれた、孫という言葉。
それを聞いて、二人は、かなり嫌な予感がした。
首筋のあたりを、冷や汗が伝う。
突如として生まれた静寂を、ショボーンはなんとか破った。
そして、核心を突く。
(´・ω・`)「えっと……変なことをうかがいますが、そのお孫さんの名前って……」
|゚ノ ^∀^)「? 都村、トソンちゃんですが」
(´・ω・`)
( <●><●>)
|゚ノ ^∀^)「ほら、あちらのほうに――」
いったい二人に何が起こったのかはわからないも、ステージに向かって右手に手を向けた。
がばッと、二人が振り返る。
その先では、二人の女性が、こちらを向いては固まっていた――
いや、固まっていたのは、そのうちの一人、茶髪の少女だけだ。
刑事二人、特にショボーンの顔を凝視しては、口をぐにゃぐにゃに曲げている。
.
- 38 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:30:43 ID:WLOO322.0
-
(゚、゚;トソン「……あ、ははは…?」
(´・ω・`)
( <●><●>)
(´・ω・`)
( <●><●>)
(´゚ω゚`)「!?」
( <○><○>)「!!」
(゚、゚;トソン「ちょ、警ぶ―――」
「なにイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィッィイ!!?」
.
- 39 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:31:15 ID:WLOO322.0
-
広いホールは、音を反響させるのにも優れているようで、
刑事二人の絶叫は、以後五秒もの間、ホール内にこだまを残すことを成功させた。
しかし、一見和やかに見えるこの光景、
実は、最果ての地、キタコレで引き起こる、惨劇の幕開けに過ぎなかったのだ―――
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第一幕
「 最果ての地で 」
おしまい
.
- 40 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/16(土) 20:35:15 ID:WLOO322.0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
.
- 41 :同志名無しさん:2013/02/16(土) 22:37:15 ID:WJCY0XrI0
- 乙!
小説2にようこそ!
- 42 :同志名無しさん:2013/02/17(日) 03:21:35 ID:UNwGSxos0
- 乙!
新作ktkr!
- 43 :同志名無しさん:2013/02/17(日) 11:31:14 ID:r6IEexQ.0
- これは面白い
期待
- 44 :同志名無しさん:2013/02/18(月) 15:57:40 ID:.v9eocSo0
- 小説板2での投下量一位だな
- 45 :同志名無しさん:2013/02/19(火) 16:49:59 ID:9vTQIbD6O
- 好きな路線だったので打ち切りに落胆していたが
復活してくれてよかったよ
- 46 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 17:54:46 ID:m80x5cnY0
- あまりにも暇すぎるので、今日最終話書ききったら第二幕を投下します
いきなり予定を破ってごめんなさい
- 47 :同志名無しさん:2013/02/20(水) 18:05:35 ID:z6Ph6BEo0
- おつ!
最近の作品で好きなシリーズだ
次回も楽しみにしてる
- 48 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:16:04 ID:m80x5cnY0
-
(゚、゚;トソン「ちょ、ちょっと……」
|゚ノ ^∀^)「……お知り合い、ですか?」
二人の異常を察知して、レモナが訊く。
しかし、返事が返ってきたのは、二呼吸挟まれたあとだ。
(´・ω・`)「えっと……知り合い、です」
|゚ノ ^∀^)「――のわりには、すごい驚きようでしたけど……」
(´・ω・`)「いや、彼女となにかあった、ってわけじゃなくて……」
そこで、駆け寄ってきたトソンも合流する。
彼女は、どこかあたふたとしていた。
(´・ω・`)「もう一度お聞きしますが。彼女のおじいさん、このホテルに多額の融資を……?」
|゚ノ ^∀^)「額までは言えませんが、そりゃあもう、多額です」
(´・ω・`)「………」
|゚ノ ^∀^)「な、なにか」
ショボーンははッとした。
一瞬、ぼうっとしてしまったのだ。
慌てて平生を取り繕う。
.
- 49 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:16:38 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「い、いや。ただ、知られざる事実が発覚したものですから――」
(゚、゚;トソン「違います違います! いや、違わなくはないけど、違います!」
(´゚ω゚`)「だァーらっしゃい!!」
(゚、゚;トソン「ひっ」
都村トソンは、このショボーン警部と、ただならぬ関係――いや、因縁があった。
彼女は、その肩書きや背景になにがあろうと、普段はふつうの女子高生である。
警察とはなんのかかわりも持っていない、一般人だ。
一方でショボーン警部は、警部というだけあって、捜査一課の刑事として事件を追うのだが
どういった因果か、その行く先々で、たびたび彼女と出くわすのだ。
追う事件ごとに会うわけではなく、ショボーンのこなす事件数から見たら
その遭遇する確率は低いほうなのだが、何度もめぐり合うという時点で、異常だ。
事件や不幸を呼び寄せる「事件体質」なるものがあるんじゃないか、とトソンが本気で悩むほどである。
そのため、気がつけば、「ただの知り合い」で済ませてはならないような関係――絆が、結ばれていた。
日頃ではショボーンがトソンをからかったりするが、
最近のトソンは彼の扱い方に慣れてきたようで、しばしば反撃をするようになった。
.
- 50 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:17:12 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「まあ。別に彼女が富豪の孫とわかったところで、何かが変わるわけでもないですが」
(´・ω・`)「……あ」
( <●><●>)「なにか」
(´・ω・`)「いやあ。あ、そうか。だから鳳凰学園にいたんだ、ってね」
(゚、゚トソン「………」
(;´・ω・`)「あ……ごめん」
そして、トソンとショボーンが遭遇する事件では、トソンは、なにかと悲惨な目に遭っている。
数週間前、そのVIPのとある私立高校で殺人事件が起こったのだが、そのときも彼女は悲惨な目に遭った。
あの事件で二人の絆はいっそう深まったのだが、ここで詳述はしない。
(゚、゚トソン「い、いいんです。もう、慣れたし」
(´・ω・`)「で、おじいさんの代わりって?」
話を変えようと、それとなくショボーンが訊く。
トソンはよどみのない声で答えた。
.
- 51 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:17:55 ID:m80x5cnY0
-
(゚、゚トソン「おじいちゃんが招待される予定だったんですが、来なくなって、代わりに私がきたんです。
. めったにない機会だから、ってことで……」
(´・ω・`)「ひとりできたの?」
(゚、゚トソン「いや、それなんですが――」
(´・ω・`)「?」
トソンは、語尾を濁した。
そのまま、右後ろに目を遣る。
するとそこから、先ほどいた二人のうちのもう一方が出てきた。
レモナやのーと似たようなスーツを着た、若い女性だった。
( ‘∀‘)「はじめまして、モナーの娘のガナーです」
(゚、゚トソン「この人に、案内してもらったんです」
(´・ω・`)「娘さんでしたか。どうも、VIP県警捜査一――」
(゚、゚トソン「タクシーとか手配してくれて、寒さを味わうことなく来れました!」
(´・ω・`)「!」
(゚、゚トソン「……警部?」
(´・ω・`)
(´・ω・`)
(´゚ω゚`)「くるあぁぁぁぁぁあああああああアアアアアアアッッ!!」
(゚、゚;トソン「ひぇッ!?」
.
- 52 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:18:35 ID:m80x5cnY0
-
(´゚ω゚`)「こ、こっちは、寒い中、バスと徒歩で来たってのに!!」
(゚、゚;トソン「し、知りませんよ! 無計画だった警部が悪いです!」
(´・ω・`)「ぐッ」
(゚、゚トソン「……けいぶ?」
トソンにそう言われて、ショボーンはとたんにしょぼんとした。
もともと垂れがちな眉が、更に垂れている。
( <●><●>)「どうやら、痛いところを衝いたようですね
(゚、゚トソン「い、痛い…」
( <●><●>)「お久しぶりです、都村さん」
(゚、゚トソン「刑事も。お久しぶりです」
( <●><●>)「できれば会いたくなかったです」
(゚、゚;トソン「ど、どういう意味ですか!」
( <●><●>)「いや……なんか、不吉な気がしてならない、というか……。
あなたがいると、なにか事件が起こりそうで……」
(゚、゚トソン「そんな、アニメみたいな話がありえますか」
( <●><●>)「ありえますからそんな気がするんですよ」
(゚、゚;トソン「も、もう!」
そこで、トソンの隣にいたガナーが笑う。
ショボーンもようやく我に返ったようだ。頬を叩き、気付けなんかしている。
.
- 53 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:19:11 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「それはそうと、レモナさん」
|゚ノ ^∀^)「はい」
(´・ω・`)「いま来てる招待客は、これで全部ですかな」
|゚ノ ^∀^)「いや、このホテルのどこかにあと数人いますよ。
. 先ほど申し上げました、マリントンさんやシラヒーゲさんもですし」
(´・ω・`)「挨拶でもしてまわろうかと思うので、教えてもらってかまいませんか」
|゚ノ ^∀^)「わかりました。まず、招待客ではなくこちらの人間ですが、ホテル副支配人の笑野(しょうの)プギャーさん。
. で、朝曰新聞記者のアサピーさん。宣伝記事を書いてもらうんです。
. あと、とある格闘ゲームの強さが全国一位の……えっと、ナントカさんもいらしてます」
(´・ω・`)「途中で不吉な名前が聞こえたが無視しよう。その、ナントカさんとは?」
当初「ナントカ」という名前なのだろうか、とショボーンは思ったが、
イントネーションやその文脈的に、ただ名前を忘れただけなのか、という結論に至った。
招待客の名前を忘れるとは、と力なく笑うものの、それを顔には出さない。
|゚ノ ^∀^)「当ホテルには3Fにゲームコーナーがあるのですが、そちらには
. アーケードゲーム……つまり、筐体を多数そろえているのですよ」
(´・ω・`)「筐体か……懐かしい」
|゚ノ ^∀^)「で、そのなかに、以前圧倒的人気を博し現在欠番となっている『JKファイター』なる筐体があるのですが
. そのナントカさんはこのゲームの国内王者で、彼に来てもらうことで
. そういった格闘ゲームファンからの集客もねらっている、というわけです」
(´・ω・`)「JKって、なんの略ですか?」
|゚ノ ^∀^)「女子高生」
(´・ω・`)「あ、ああ……」
.
- 54 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:19:46 ID:m80x5cnY0
-
|゚ノ ^∀^)「――と、招待客は以上ですね。
. 社長の個人的な事情で開かれるパーティなので、その他スタッフはいません」
(´・ω・`)「業者などは」
|゚ノ ^∀^)「今日一日だけ、席を外していただいております。
. 今朝は料理などを搬送してもらったりしましたが、今はいません。
. 社長、人でごみごみしてるのを好みませんので」
(´・ω・`)「(エゴイズムなのは昔からか)
. わかりました。じゃあ、時間もあまってますし、挨拶まわりでもしてきますね」
|゚ノ ^∀^)「案内は――」
(´・ω・`)「いや、大丈夫。代わりに、地図かパンフレットかをいただけませんか」
( ‘∀‘)「パンフレットならありますよ。はい、こちらを」
(´・ω・`)「いいんですか」
( ‘∀‘)「まだ大量にあるので」
(´・ω・`)「それもそうか。ありがとうございます
私物として持っていたパンフレットを、ガナーは躊躇いなく差し出してくれた。
パンフレット、というだけあって、各フロアの地図だけでなく、そのそれぞれにフロアの説明がびっしりと書かれてある。
これだけ書いてあれば、迷うことはないだろうな、とショボーンは笑った。
時計を見ると、いまのでもう十分も話していたことに気がついた。
ずいぶんと話させてしまったなあ、と軽い罪悪感に見舞われながら、ショボーンは一礼して、出口に向かった。
レモナやガナーが同じく一礼するなかで、ワカッテマスとトソンがショボーンのあとを追いかけた。
ホールの真ん中あたりで、ショボーンは振り返る。
.
- 55 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:20:17 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「あんたはどうすんの」
( <●><●>)「個人行動してもしかたないでしょ。私は警部についていきます」
(´・ω・`)「で……トソンちゃんは?」
見るとトソンは、先ほどまでの様子とは違い、どこか嬉しそうな顔をしていた。
――が、それも当然のことだった。
このような最果ての地で、知り合いは誰一人としていない。
そんななか、偶然知り合い、それも仲のいい人が現れたのだから。
その安心感を全面に押し出すかのように、彼女が答える。
(゚、゚トソン「えっと、警部とお話したいなあ、って……。事件の、とか」
(´・ω・`)「そんなに人が死ぬ話が大好きか」
(゚、゚;トソン「いやいや、人聞きの悪い! ……退屈なんですよ」
(´・ω・`)「あれだ、あと一時間ちょっとしたらパーティがはじまるだろ。
. そのときに、このショボンヌ様がたっぷりと語ってあげましょう」
(゚、゚トソン「まだそのニックネーム使ってたんですか。似合わないのでやめたほうがいいですよ」
(´・ω・`)「ぐッ」
(゚、゚;トソン「け、警部?」
( <●><●>)「また痛いところを衝いたようですね」
(゚、゚;トソン「…? ……?」
「なんでもないよ」とちいさな苦笑を浮かべて、ショボーンが言う。
そのまま手をぷらぷらと振り、しょぼんとしたままショボーンが歩いていく。
トソンは、いまここで退屈しのぎとしてショボーンの話――事件の話を聞きたいと思ったが
確かに、パーティのなか、おいしいものでも食べながらするほうがいいなと納得したようで
ショボーンが自分から離れていくのを、トソンが追うことはなかった。
.
- 56 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:20:56 ID:m80x5cnY0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
. 第二幕 「 WKTKホテル 」
.
- 57 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:21:31 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「さて、どこにいく」
( <●><●>)「挨拶しに回るんじゃなかったんですか」
(´・ω・`)「バーカ、遊べるときに遊びたいだろ。道中でグーゼン会ったら挨拶すりゃあいいのさ」
( <●><●>)「我ながら最低な上司ですね」
(´・ω・`)「やかましい。……そうだなあ」
ホールを出てエレベーター前で、ショボーンがパンフレットを広げる。
まずどこから回ろうか、と思ったのだ。
ワカッテマスも横からそれを覗き込む。
簡略化された地図が、一面に描かれていた。
.
- 58 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:22:05 ID:m80x5cnY0
-
5F-9Fは客室で、5Fに制御室、9Fにスタッフルームがあること以外はどのフロアも目立った違いはない。
1Fは受付とギフトショップを兼ねており、宿泊客は当然ここでチェックインとアウトをするのだが
この階層に限り、宿泊予定のない一般人も出入り可能だとある。
コラムによると、日帰りや、別の旅館をとっている人にもおみやげを買ってもらえるようにと考えられた設計らしい。
そのおみやげの種類が確かに豊富で、このギフトショップだけでキタコレのおみやげは制覇できそうなものだった。
2Fは大浴場だった。おそらく、キタコレの旅で冷えた身体を真っ先に温めてもらうつもりなのだろう。
また、北方には屋外に続く扉があり、そこから露天風呂に入れるとのことだ。
露天風呂にたどり着くまでの冷えも考慮したのか、扉を抜けて一歩踏み出せばそこは露天風呂の湯気で溢れかえっている。
これも紙面上の情報なので、実際に入らないとその湯気を味わえないが、ショボーンは想像しただけで身体が温かくなった。
3Fには先ほどレモナから紹介してもらったゲームコーナー、
4Fにはカフェや軽食、また美術品の展示スペースもフロア半分ほどを使って設けられている。
美術コーナーのほうは、まだ誘致が決まっていないためか、詳細は書かれていなかった。
「不定期で展覧会を行う予定」とだけ書かれている。いまのショボーンには関係のない話だった。
10Fはメインホールで、ほかには「搬送用エレベーター」たるものが北西にあった。
メインホールでなにかを催す際、このエレベーターで必要なものを一気に運び入れるらしい。
通常のエレベーターよりも三倍以上大きく、非常時にはこちらも稼動するようだ。
しかし、もともと搬送用のエレベーターというだけあって、1Fと3Fと10Fにしか止まらない、とある。
「確かに、こんなでかいのが各階にあったらめざわりだ」とショボーンは笑った。
.
- 59 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:22:42 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「搬送用なんだから、でかくて当然でしょ。非常時にも動くんだから、大きいほうが有利だ」
(´・ω・`)「非常時には、ねえ……」
(´・ω・`)「…? 1Fと10Fをつなぐのはわかるんだけど、なんで3Fにもとまるんだ?」
( <●><●>)「……あ、コラムに載ってますよ」
ワカッテマスが指をさしたところを見ると、それらしきことについて言及されていた。
最初はなんと親切な、と思ったが、読むとその理由がわかった。
(´・ω・`)「………」
( <●><●>)「どうやら、時々10Fで格闘ゲームの大会を開くときに
これを使って、ここにある筐体を次々に運び入れる考えのようですね」
( <●><●>)「で、これをアピールすることで、レモナさんの言ってた
そういった層の集客も狙っている……んだと、思います」
(´・ω・`)「……なんか、考えることがいちいちやらしいな、モナーさんは」
( <●><●>)「私に言われましても」
.
- 60 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:23:20 ID:m80x5cnY0
-
二人はそこで、会話をいったん切る。
そしてなんてことはない様子で、再び、パンフレットに目を遣った。
建物全体としては東西にやや長い長方形で、エレベーターは東につけられている。
階段も当然あるのだが、客室フロアの5Fまでが東側に階段があり、以降は西側、といった構造になっていた。
それも、どうやらメインホールで催し物をした際、階段をエレベーターと同じ東側につけた場合
混雑が予想されるから、という配慮のもとなされた設計のようだ。
「へえ」と、ショボーンは素直に感嘆の声をあげた。
パンフレット、つまり宿泊客に配るものであるだけあって、わかりやすい地図だった。
コラムというかたちで、それぞれのフロアの解説が書かれているのが、ショボーンにとってはありがたかった。
一通りの地形を把握したところで、「よし」と声を出す。
(´・ω・`)「ゲームコーナーに行こう」
( <●><●>)「動いてるんですかね」
(´・ω・`)「わかってないな、『稼動してないゲームセンター』の魅力」
エレベーターに乗って3Fに向かいながら、二人は続ける。
.
- 61 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:24:15 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「警部はゲームセンターがお好きで?」
(´・ω・`)「前に一度、クレーンゲームとやらをやってみた」
( <●><●>)「どうでした」
(´・ω・`)「それだけど、あれ、『手』の力が弱すぎなんじゃないの!?
. 千円つぎ込んでもまったく取れなかったんだよ。ぼったくられた」
( <●><●>)「まあ、そういうゲームですから。
あと、あれは『アーム』です。『手』なんて言ってたら、恥かきますよ」
(´・ω・`)「……いま、かいた」
若い者にはついていけない――ショボーンは、そう実感すると、しょぼんとした。
だが、それでも、ゲームセンターの雰囲気は華々しい感じがして、ショボーンは好きだった。
少し静寂が生まれて、その間、エレベーターの無機質な音が断続的に聞こえる。
エレベーターの両側の壁には、気が早いのか、もうなんらかの広告が貼られてあった。
もともと広いエレベーターだから、中央に立っていたらあまり気にならないのだが。
ふわっとした感じがすると、電子音が鳴って、扉が開いた。
アナウンスまでしてくれる。ここはデパートか何かではないのか、とショボーンは思った。
.
- 62 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:24:46 ID:m80x5cnY0
-
通路を抜けると、確かに目の前にはゲームコーナーが広がっていた。
傍らに休憩スペースなのか、簡単なテーブルと自動販売機が置かれてある。
自動販売機には、ジュースやコーヒーはもちろん、サンドイッチやフライドチキンが陳列されている。
ホテルに備えるゲームセンターとしては、やはり大規模だ。それがショボーンの第一印象だった。
――いや、第一印象はそれではない。
むしろ、彼らの第一印象はもっと根本的なところにあった。
( <●><●>)「動いてますね、ゲーム」
(´・ω・`)「ひぇー。これで遊んでくれってか」
オープンしていないのだから稼動しているはずもない。
そう思われていたゲームコーナーが、平常運転のように稼動されていたのだ。
黒い壁に、カラフルな電球。
それぞれの機械から発されるのであろう、さまざまな音が交じり合った不協和音。
近くにあったゲーム筐体を見ても、プレイデモムービーが流れていたりしている。
一瞬不審に思いこそしたが、ショボーンはそのままフロアのなかに足を踏み入れた。
そして、胸に昂揚感が生まれるのを実感した。
ワカッテマスも遅れないように着いていく。
.
- 63 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:25:18 ID:m80x5cnY0
-
(*´・ω・`)「動いてる、動いてるぞ!」
( <●><●>)「年甲斐もなく……いや、元からないか」
(´・ω・`)「え、なんて?」
( <●><●>)「なんでもないです」
そのまま、ショボーンとワカッテマスは、フロアのなかをしばらく歩くことにした。
筐体やマシーンの間を、縫うようにして進んでいく。
直径一メートル強のドーム状のものや、大きな椅子とハンドルを備えたゲーム機。
電子ドラムやおもちゃのギターなんかも見えた。やはりどれも、カラフルで実に華々しかった。
ワカッテマスが哀れむような目でショボーンの背中を見るなか、
当の本人はどれで遊ぼうかなあ、と、少年のような無邪気な様子であちらこちらに目を遣っていた。
これをトソンに見せたら、今後しばらくの間はからかってくれるのだろうと思うが、ワカッテマスはそこまではしない。
.
- 64 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:26:18 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「おお、格闘ゲーム。懐かしいな、高校の頃に遊んだ記憶がある」
( <●><●>)「コマンド入力したり必殺技を使ったりするんですよね」
(´・ω・`)「急に画面が暗くなったりするからな。と思ったらなんか必殺技喰らってたり」
( <●><●>)「それは暗転といって――」
(´・ω・`)「はんぺん?」
( <●><●>)「……なんでもないです」
ワカッテマスは「やっぱりいい」と言いたげな顔をして、そう言った。
しかし、ショボーンが聞き違えるのも無理はなかった。
パチンコ店ほどではないにしても、やはりなかなかうるさいのだ。
二人の声も、自然のうちに大きくなっていた。
ショボーンはワカッテマスは気にせず、近くにあったひときわ目立つ筐体に駆け足で向かった。
「面白そうだな」といいながらその画面を見た直後、ショボーンはぴたりと止まった。
( <●><●>)「? どうしました」
(´・ω・`)
( <●><●>)「…?」
あるものを見て固まったため、ワカッテマスもそちらに向かう。
すると、嫌でも、ショボーンと同じものに目がいった。
可愛らしい少女たちが、可愛らしい声をあげながら戦っている画面だった。
巻き髪だったり、長い黒髪だったり、犬を連れていたり。
そして、その筐体の上部、名前の部分に目を遣る。
そこには「JKファイター」という文字が派手に描かれていた。
.
- 65 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:26:53 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「こ、これか。そのナントカさんを釣る餌」
( <●><●>)「確か、一時期社会現象すら巻き起こしていた気がしますが」
(´・ω・`)「これじゃあ、一部の層しか釣れないだろ、常識的に考えて」
( <●><●>)「まあ、でも実際に大人気でしたから――ん?」
(´・ω・`)「どうした」
ワカッテマスが話していると、なにかを見つけたようで、「あっ」と言っては話を切った。
向かい合わせになっている台に人がいるのを、見つけたのだ。
ショボーンよりも背が高いので、背伸びをせずともその人の頭が見えた。
このホテルには、関係者三人と招待客が十人弱しかいない。
すると、その人もおそらくは招待された人。
ワカッテマスがショボーンに「挨拶しないんですか」と耳打ちをした。
だが、ショボーンは少々躊躇した。
それよりも早く遊びたい気持ちでいっぱいなのだ。
しかし、それはそれでまた面倒なことになりそうだったので、ショボーンが渋々出向く。
筐体の列を迂回して、向かい。
そこには円く厚いめがねをかけた、オーバーオールで躯の大きな男性が座っていた。
必死にレバーを握りボタンを押しては、画面を凝視している。
.
- 66 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:27:26 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「あの、すみません」
(∴)◎∀◎∴)「……」
(´・ω・`)「えっと、もしもし」
(∴)◎∀◎∴)「……」
(´・ω・`)「あのー」
直後。画面に映っていた少女が、不恰好な動きをした。
なんだ、と思った直後、ついにその青年がショボーンのほうに顔を向けた。
しかし、険しい表情である。
ショボーンは嫌な予感がした。
.
- 67 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:27:56 ID:m80x5cnY0
-
(∴)◎∀◎∴)「うるさいヲタ!! さっきから、いったい何ヲタか!!」
(´・ω・`)「え、あ、すみませ……」
(∴)◎∀◎∴)「せっかく目押しを繋いでたのに、貴殿のせいで失敗してしまったヲタよ!!
謝罪と損害を請求するヲタ!!」
(;´・ω・`)「あ、あの」
(∴)◎∀◎∴)「なんだヲタ!!」
(;´・ω・`)「怒るのはいいんですが、その間にガンガンやられてますよ」
(∴)◎∀◎∴)「え――」
はッとして、青年が画面を見やる。
すると、青年のプレイキャラクターであろう少女が、次々に襲われている様子が映し出されていた。
(∴)◎д◎∴)「ヲタァァァァァァァァッァア!! し、しぃちゅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
(´・ω・`)「……」
( <●><●>)「……」
.
- 68 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:28:35 ID:m80x5cnY0
-
◆
(´・ω・`)「――では、あなたが」
(∴)◎∀◎∴)「小生の名は『ヲタ』でいいヲタ」
青年、ヲタが落ち着いたところで、ショボーンは本題に入っていた。
軽い挨拶を済ませ、ヲタという人物をさぐる。
しかしその前に、彼の語尾のほうが気になった。
(´・ω・`)「ところで、そのヲタという語尾は、いったい」
(∴)◎∀◎∴)「あ、ああ……ネットでキャラ付けのつもりで言ってたのが、つい癖になっちゃったでヲタwwww
でも、ほかにもござる口調やナリ口調もできるでござるwwww」
(´・ω・`)「は、はあ。キャラ付けってなんだ」
( <●><●>)「『私はこういう人なんですよ』というのをアピールする行為です」
(´・ω・`)「そ、そうなんだ」
.
- 69 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:29:21 ID:m80x5cnY0
-
(∴)◎∀◎∴)「『JKファイター』王者の名は伊達じゃないヲタよwww」
(´・ω・`)「じゃあ、今回のWKTKホテルに招待されたのは」
(∴)◎∀◎∴)「コポォwwwww小生としては嬉しい限りヲタwww
立派なホテルには呼ばれるし、そこでまさかもう一度コレができるとはwww
人生、捨てたモンじゃないヲタねwwww」
(´・ω・`)「そういえば、一度欠番になったようですね、コレ」
目の前の「JKファイター」の筐体を指しながら、言う。
ヲタは二度、大げさに首肯した。
やけに気持ち悪い笑みを浮かべているなあ、とショボーンは思う。
(∴)◎∀◎∴)「『DSファイター』が出てから少ししたら、こっちのアーケード版は全部撤廃ヲタとかwwwありえないwwww」
(´・ω・`)「…い、いまのも、キャラ付けで?」
(∴)◎∀◎∴)「おっと失礼wwwwまさかロジカるとはwwwwヲタヲタwww」
(´・ω・`)「(帰りたい)」
ショボーンが嫌な顔をする。
それを見て、ワカッテマスが助け舟を出した。
.
- 70 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:30:04 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「なにやら宣伝をする、と聞きましたが」
(∴)◎∀◎∴)「一応小生も有名人ヲタから、SNSとかで拡散するヲタ」
( <●><●>)「拡散……?」
(∴)◎∀◎∴)「『我らの魂、JKファイターが復活した。同志たちよ、いますぐWKTKホテルに来るんだ!』……と」
(´・ω・`)「(ふつうに話せるなら、そうしてほしいよ……)」
( <●><●>)「なるほど」
ヲタの説明を聞いて、ワカッテマスが納得した。
ただ、このゲームが強いから、という理由だけで招待されるとは思わなかったのだ。
続けてヲタが、たまにメインホールで大規模なゲーム大会が開かれると聞いた、とも言った。
それを踏まえて、ヲタが招待されたことに納得がいった。
それはショボーンも一緒だったようだ。
.
- 71 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:30:46 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「ヲタさんは、いつまでこちらに」
(∴)◎∀◎∴)「確か、18時にパーティヲタね?」
(´・ω・`)「はい」
(∴)◎∀◎∴)「だったら、そのときまでずっとここでコレしてるヲタ。
というか、そのためにこんな寒いところにきたヲタよww」
(;´・ω・`)「そ、そうですか。遅れないよう気をつけてくださいね」
(∴)◎∀◎∴)「コポォwwwwそちらも気をつけるでござるwwwいけない、また口調がかわ」
(´・ω・`)「よし、行くぞ」
( <●><●>)「は、はあ」
ショボーンは、そのまま延々と笑い続けるヲタをあとにして、フロアの奥のほうに向かった。
なるべくヲタに関わらないような場所で、なにかゲームをしようと思ったのだ。
先ほどの筐体から少しのところに、クレーンゲームが密集しているゾーンがある。
そこに、ショボーンは吸い込まれるかのように向かっていった。
どうやら、これをするつもりのようだ。
百円を入れて、意気揚々と声をあげる。
(´・ω・`)「見てろよワカッテマス、あの大きなぬいぐるみをとってやる」
( <●><●>)「あれ、って」
ショボーンが指をさしたのは、このケースのなかでも一番大きなぬいぐるみだ。
そしてその宣言を聞いて、ショボーンがゲーム下手な理由が、なんとなくわかったような気がした。
.
- 72 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:31:33 ID:m80x5cnY0
-
◆
結局、ショボーンは千と二百円をどぶに投げただけで終わった。
ぶすっとした顔をして、逃げるように早足でその場を去る。
ワカッテマスは、どう慰めればいいのか、わからなかった。
一帯を抜けて、3Fの通路に出る。
そして、ショボーンは時計を見た。
(´・ω・`)「もう17時だ」
( <●><●>)「結構熱中してましたもんね」
(´・ω・`)「くそ、ゲームセンターなんて大嫌いだ。金と時間を一方的に奪ってくる」
( <●><●>)「警部、それを世間では逆ギレと言うようです」
(´・ω・`)「う、うるさい。はやく次の場所に行こう」
( <●><●>)「といっても、次はどちらに?」
(´・ω・`)「そうだなあ……」
ショボーンはパンフレットを広げる。
適当にページを繰りながら、「うーん」と唸る。
.
- 73 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:32:10 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「4Fにいきますか」
(´・ω・`)「なんで」
( <●><●>)「美術品が展示されるのは4Fでしょ。すると、館長さんがいらっしゃるかもしれない」
(´・ω・`)「まじめちゃんだなー。ま、することもないし、そうしよう。
. 喫茶店もあるみたいだし」
( <●><●>)「招待客がいないということは、店員もいないってことですよ」
(´・ω・`)「……あ」
( <●><●>)「まあ、座れるだけでありがた――」
(´・ω・`)「違う。前、前」
( <●><●>)「?」
ショボーンが前に顎で注目を促した。
なんだと思うと、階段から二人の足音が聞こえた。
一緒に、どこか、騒がしい話し声が聞こえる。
いや、話し声というより、一方的に話しかけてくるような感じだ。
気がつくと、刑事二人はそちらのほうに足を進めていた。
そして、その姿が露わになった。
ヲタのそれに似ためがねをした男性と、聡明で精悍な顔立ちをしている若い男性だ。
その二人のうち、若い方はショボーンたちの存在に気づいたようだ。
.
- 74 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:33:15 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「あ、どうも。ショボーンと申し――」
(-@∀@)「――とか言いながら、実は裏取引とか、そのたぐいでしょ?」
( ;^Д^)「ちょ、人いますから! やめてくださいって!」
(-@∀@)「またまた、そうやって真実を隠――んん?」
(´・ω・`)「げ」
(-@∀@)「これはこれは。私、朝曰新聞社のアサピーと申します。以後お見知りおきを」
(´・ω・`)「え、あ……これはどうも。僕は、」
(-@∀@)「いえいえ、おっしゃらなくとも、存じておりますよ。ショボーン警部」
(;´・ω・`)「ですよねー……。は、ハハ」
(-@∀@)「……ですからね、プギャー副支配人。私としては――」
( ;^Д^)「ど、どーも! このホテルの副支配人を務めさせていただきます、笑野プギャーです!」
(´・ω・`)「こちらこ」
(-@∀@)「なにをいまさら自己紹介を。そうか、これが嘘をついているという証拠にちが」
( ;^Д^)「いや、あなたに言ってないから! こちらの人に捕まって、ずっとここで――」
(-@∀@)「なるほど、WKTKホテル副支配人は卑怯な男、という認識でよろしい、と」
.
- 75 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:34:03 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「……行くか」
( <●><●>)「ですね」
( ;^Д^)「違いま――あ、助けて! 見捨てないでええええええ!!」
(-@∀@)「逃がしませんよ、真実を話していただきます」
( ;^Д^)「待ってえええええッ!!」
――朝曰新聞は、書くことこそ面白いのだが、その大半が誇張された話ということで有名だ。
本社は「真実しか載せていない」と頑なに主張しているが、しかし内容はどれもゴシップ記事と同等のものばかりである。
それは警察に対しても変わらず、何度か朝曰新聞社に、あることないことをでっち上げられた記憶が、刑事二人にはあった。
ショボーンはそういった、取材と称した誤認の押し付けを何度か経験してきた。
そのため彼は、特にアサピー記者に対して、好い印象を持っていなかった。
かわいそうだと同情こそしたが、見ず知らずのプギャー副支配人を助けようとは思えなかったようで
ショボーンとワカッテマスは、そのまま何も見なかったかのように、エレベーターのほうに向かった。
――が、点灯するランプを見て、二人はきびすを返し、プギャーの声を無視しながら階段をのぼっていった。
二人が階段を使った理由は、誰かがエレベーターを使っていたからだ。
9Fから10F、とランプの点灯が移動されていたので、おそらくは10Fに向かっているのだろう。
エレベーターを待つよりも、階段をのぼるほうがはやい。二人とも、無言のうちにそう同意しあった。
(´・ω・`)「ツイてないや」
( <●><●>)「誰かがホールに向かったのですね」
(´・ω・`)「それにしても、あの人も懲りないね」
( <●><●>)「もしかして、あの人が、このホテルの宣伝記事を書く、と……?」
階段を一つひとつ踏みしめながら、心配そうな声で、ワカッテマスが言ってみた。
それに対し、ショボーンは彼を弁護するようなことを言えなかった。
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- 76 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:34:34 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「ま、まあ……モナーさんのことだから、なんとかやるだろ」
( <●><●>)「ヲタさんといいあの記者といい、変わった人ばかりが呼ばれてますね」
(´・ω・`)「そりゃーどういう意味だ」
( <●><●>)「まあ、建築デザイナーの榊原さんと美術館館長の黒井さんは大丈夫でしょう。行きますか」
(;´・ω・`)「お、おい! そりゃーどういう意味だっての!」
ワカッテマスがふんと鼻を鳴らす。
ショボーンをほうって、ずいずいと階段を上り始めた。
今度はショボーンが彼の後を追う番だった。
4Fでは軽食が楽しめるほか、美術品が展示されるとは先ほどの通りだ。
エレベーターや階段を出てすぐのところに、その展示スペースが並ぶ。
本来なら、なにもない壁には美しい絵画がいくつも飾られているのだろう、
しかし当然ながら、なにも寄贈されていない今日は、とくになにも飾られていなかった。
絵画、ガラスケースらを照らす予定のライトが、淡くさみしくそれらを目立たせる。
その展示ゾーンを抜けると、フードエリアだ。
夜のみレストランが開かれるのだが、こちらでは朝の6時から22時まで開かれている。
アンモラルグループの傘下にある全国チェーンのファストフード店から
キタコレでのみチェーン展開されているうどん屋まで。ホテルが運営するカフェ以外にも、多数の店があった。
が、こちらも当然ながら、どこも営業されていない。どころか、スタッフすらいない。
さみしいものだな、と思いながら、ショボーンとワカッテマスが歩く。
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- 77 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:35:12 ID:m80x5cnY0
-
やがて、WKTKホテルが運営している喫茶店に入った。
この4Fのなかでも展示ゾーンの次に大きなスペースを持っているためか、ゆったりとした空間でくつろぐことができる。
ワカッテマスも、その雰囲気は気に入ったようだ。
(´・ω・`)「カフェ、にしちゃあなかなかの規模だな」
( <●><●>)「まあ、ワンフロアまるまるを他の企業から誘致するのも問題があるでしょ」
(´・ω・`)「だな」
( <●><●>)「しかし、いませんね。黒井館長」
(´・ω・`)「まあ、関係者とはいえ常に4Fにいるわけじゃあるまい――」
他愛もない話をしながら、とりあえず座ろうとショボーンが思うと、それを見つけた。
入店してからまっすぐ歩き、振り返ったときだ。
入り口のわき、死角となるところの席に、人が二人いたのだ。
ワカッテマスもそちらに目を遣る。
五十台前後であろう男性が二人、テーブルを挟んで席に就いている。
そして、入店してきたショボーンとワカッテマスを見つめていた。
ショボーンが「あ」と言ったところで、互いに会釈を交わした。
そして、ショボーンはそのテーブル席に向かう。
.
- 78 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:35:47 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「どうも、お話中を失礼。ショボーンと申すものです」
こんなとき、名刺があればなあ――
ショボーンは毎回、そのようなことを考える。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「こりゃどうも。このたび、このホテルの設計を任された、榊原っちゅーもんですわ」
( ´W`)「アスキーミュージアムの館長、黒井…です」
(´・ω・`)「お二人も、モナーさんに招待されたんですよね」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ま、このホテル建てたん、言ったらワタシなわけですから。トーゼンでしょーな」
(´・ω・`)「(面倒なジジィだな)
. では、シロイさんも?」
( ´W`)「クロイです。シラヒーゲなんて名前ですが、実はクロイです」
( <●><●>)「(白いけど実は黒いのか)」
(´・ω・`)「あ、失礼――」
( ´W`)「構わないんですがね……ハァ」
すると、黒井は露骨にため息を吐いた。
どうやら、彼はなにかを悩んでいるような様子だった。
ほかに話すこともないショボーンは、そこをうかがうことにした。
ただの、時間をつぶすための世間話である。
.
- 79 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:36:22 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「なにかお悩みのようで」
( ´W`)「いや……ね」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「美術品を誘致するかどうかで、悩んどるみたいなんですわ」
(´・ω・`)「ああ。しかし、一応は国営でしょう。どうしてあなた個人が悩むのですか」
( ´W`)「国からは、今回の件に関しては細かい条件を出されただけで、その条件の範疇のものなら
. なにを寄贈するにしても、全部ぼくの判断で決まるんですよ。
. 面倒な仕事を押し付けられたものだ」
(´・ω・`)「はあ」
( ´W`)「はい」
(´・ω・`)「……」
( ´W`)「……」
もとより、互いに話がうまいわけではない。
時間をつぶそうにも、その前に、さっそく話が切れてしまった。
.
- 80 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:36:56 ID:m80x5cnY0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そちらさんは、なにをしにいらしたんですかな」
それを察したのか、なんてことはない様子でマリントンが訊く。
(´・ω・`)「いや、どこか落ち着ける場所はないかなあ、と」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ワタシも同じこと考えてここにきたんだがな、なーんもありゃせん。
きてみたら、この人しかいなかった。メシは、18時までお預けのようですわ。ほっほっほっ」
(´・ω・`)「そうなんですか……わかりました」
4Fにきた、しかし食べられるものはない、とわかった。
これを口実に、せっかくだし切り上げよう。ショボーンはそう思った。
いくら暇だとは言え、気まずい空間のなかをただ呆然と立ち尽くすのは嫌だったのだ。
しかし。
ショボーンが折り合いをつけて帰ろうとするのを、ワカッテマスが制した。
( <●><●>)「ちょっと待ってください」
――そして、この言葉が、いわば若手ワカッテマスという男の代名詞でもあった。
捜査中から、犯人を突き止めるときから。
なにかにつけて、彼はこの言葉で相手の話を止め、反論を開始するのだ。
.
- 81 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:37:43 ID:m80x5cnY0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「どうしたんですかいな」
( <●><●>)「ちょっとお聞きしたいのですが、
本当にここに来たとき、黒井さんしかいらっしゃらなかったのですか?」
(´・ω・`)「? なんでそれを」
( <●><●>)「考えても見てください。ここに来る前、男性が二人、いらっしゃったじゃないですか」
(´・ω・`)「プギャーさんとアサピーさんだな。階段ですれ違った」
(´・ω・`)「……!」
( <●><●>)「おわかりいただけましたか」
( <●><●>)「階段で降りた――ということは、特別な理由がない限り、4Fから降りたってことになります。
とすると、先ほどまで、あの二人はここにいた、ということになるのです」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ほう! よくわかりましたな」
( <●><●>)「というと」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「おっしゃるとおり、ワタシがここに来たとき、階段でプギャー副支配人とすれ違うたんですよ」
( <●><●>)「やはり――笑野副支配人、だけ?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「へ? そーですが」
マリントンが、虚を衝かれたような顔をする。
なぜ、そんなことを訊くのだ、と。
答えるように、ワカッテマスが返す。
.
- 82 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:38:18 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「朝曰新聞社のアサピー記者、も一緒じゃありませんでした?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「? おっしゃる意味がようわかりませんな」
( <●><●>)「私たちがここに来るとき、笑野さんとアサピー記者の二人とすれ違ったのですよ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「………?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……! あ、そーゆーことでしたか!」
( <●><●>)「どうしたのですか」
マリントンが急に声色をかえる。
釈然としていなかったものが明瞭になった――そんな感じだった。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ワタシがここに入るときにね、陰に人のケハイっちゅーの、感じたんですわ」
( <●><●>)「はあ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「で、この人も、ワタシが来る少し前まではプギャーさんと話しとったんですが、
どーやら人のケハイを感じてたみたいなんですよ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「なるほど、あの記者が隠れておったか。そりゃー感じるわ、ケハイ」
――アサピーはやっている行動はどうであれ、一度見つけたネタはどこまでも追いかける記者だ。
マリントンも、一応は世に名を馳せる建築デザイナーなので、彼のことはよく知っているのだろう。
その、彼の持つ、強迫観念か執念に近い探究心を。
そしてプギャーに執拗に迫っていたのを見ると
物陰に隠れてプギャーとシラヒーゲの対話を盗み聞きし、
後ろからやってくるマリントンを隠れてやり過ごしてから
喫茶店から出てきたプギャーを追いかけ、
そしてショボーンたちが見たような光景に持ち込んでいた、そうなるのだろう。
ワカッテマスが、自然のうちにそう推理していた。
当初思っていたほど、あまり面白い話ではなかった。
.
- 83 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:38:52 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「わかりました。失礼しました」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「いやいや、あの記者のことを言ってくれたんは助かりましたわ。ワタシも気をつけんとなァ……」
(´・ω・`)「ではこれで。また18時にお会いしましょう」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そーですな。では」
( ´W`)「………」
そこで、刑事二人は、職業病のようなものだろう、敬礼をしてその場を去った。
マリントンとシラヒーゲも、軽く会釈して二人を送り出す。
ショボーンは、喫茶店をあとにしたとき、なぜか胸に妙なものを感じた。
しかし、その心情も捨てる。
これで、全ての招待客と顔をあわせた。
そうなると懸念材料はない――つまり、あとは遊びたいように遊べるのだ。
そう思うと、余計なことを考えず、とにかく今のうちに遊ぼう、と思った。
.
- 84 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:39:25 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「まだ45分もあるなあ」
( <●><●>)「そうですね」
(´・ω・`)「よし、じゃあゲームコーナーに行くぞ」
( <●><●>)「さっき懲りたんじゃないんですか。温泉にいきましょう」
(´・ω・`)「バーカ、風呂はパーティ終わりって決めてるんだ。いきたいなら、あんた一人で行け」
( <●><●>)「はあ。では、そうさせて―――」
そこで、ワカッテマスは口を開いたまま、一瞬黙った。
彼の、咄嗟にわいてきた思考が言葉を遮った、と言ってもいい。
「ショボーンを一人でゲームコーナーに向かわせて、大丈夫なのだろうか」と思ったのだ。
もう人生の折り返し地点を越えているショボーンだ、そんな彼が
この手のゲームに熱中してしまうと、何が起こるかがわからない。
お節介焼きに近いものを感じながら、ワカッテマスは「いや、私も行きます」と言った。
ショボーンは怪訝な顔をしつつも、うなずいて、階段を下りて3Fに向かった。
今度は誰ともすれ違わなかった。
.
- 85 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:40:15 ID:m80x5cnY0
-
◆
(´・ω・`)「今度はなにしようかなー」
( <●><●>)「クレーンゲームみたいな『成功するか否か』のゲームはお勧めできませんよ」
(´・ω・`)「だよな」
( <●><●>)「メダルゲームなら、楽しめると思います」
(´・ω・`)「メダル……ねえ」
ワカッテマスの助言も参考に、ショボーンは両替機のほうに歩きながらそう声を漏らした。
メダルゲームとは、現金をメダルに換えてそのメダルを増やしたりする遊びを指す。
コストがなかなかかからず、そのわりにボリュームを味わえるゲームが多いので、ワカッテマスはそれを推した。
千円札をメダルに換えることもできるが、さすがにショボーンもそこまで遊ぶつもりはなかった。
百円玉十枚にして、そのうちの一枚をつまむ。
(´・ω・`)「競馬だったり、コイン落としだったり、スロットだったり。ここらは昔からあまり変わりないみたいだね」
( <●><●>)「ホテルゆえにストックはできないので、換えるのは最低限必要な分だけでいいでしょうね」
(´・ω・`)「ストック?」
( <●><●>)「……百円分だけでいいと、私は思いますよ」
(´・ω・`)「言われなくても」
ちいさなメダルケースに、出てきた十一枚のメダルを入れて、ショボーンはメダルゲームのコーナーに向かった。
じゃらじゃら、とメダル同士がかち合う音を聞くと、どこかリッチな心地になれた。
なるほど、メダルゲームを愛好する人の気持ちもわかる、と彼は思った。
ものは試しに、と近場にあったスロットの台に就く。
ワカッテマスがそれを傍らから見守るかたちだ。
スロットは、やはり若者の人気を惹くのが狙いだろう、アニメキャラクターが題材となった台だった。
.
- 86 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:40:54 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「スクォーク? とりあえずやってみるか」
( <●><●>)「はあ」
ショボーンがメダルを投入すると、豪華な音が鳴った。
ここからは、ほうっておいても勝手に遊ぶだろう。
そのため、ワカッテマスは手持ち無沙汰を感じ、周囲を見渡すことにした。
派手な内装に、派手な音楽に、派手な照明。
やはり、自分には合いそうにもない空間だ。
すると、目に「JKファイター」の文字が留まる。
そういえば、先ほどまで、ヲタとやらが熱心にプレイしていたな――
( <●><●>)「あれ」
(;´・ω・`)「なんだこいつ! 僕そっくり! うわ、マッチョ!」
( <●><●>)「ちょっと、警部」
(´・ω・`)「え、なに?」
ショボーンの意識を、ゲームの世界から呼び起こす。
そして注意を、ワカッテマスの視線の先、「JKファイター」が並ぶエリアに向けさせた。
ショボーンが「なんだよ」と言うも、少しすると、「あ」と声を漏らしては反応を見せた。
急にまじめな顔になる。それを見て、ワカッテマスが言った。
( <●><●>)「ヲタさん、でしたっけ。あの人、ずっとあの台にいる、っておっしゃってましたよね」
(´・ω・`)「……」
( <●><●>)「……なにか、あったんでしょうか」
(´・ω・`)「………」
ショボーンは、神妙な顔つきになる。
ヲタが座っていた台の画面がコイン未投入のデモムービーを流していたので、
トイレや飲み物を買いに行った――とも、考えにくかった。
.
- 87 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:41:47 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「気になりま」
(;´・ω・`)「あ、くそ! ずれた!」
( <●><●>)
――しかし、ショボーンはすぐに気を取り直して、リールをまわした。
下段に7、7、と続いたが、三つ目のリールの下段にはチェリーがきた。
それを見てショボーンが嘆く。
ワカッテマスは、一瞬妙なものを感じたのだが、すぐにどうでもよくなった。
また、しょっぱなから目押しはできないのですよと言いたくなったのを、我慢した。
むしろ、もっとはずしてしまえ、と思うことにした時だった。
おもむろに時計に目を遣る。17時20分。
( <●><●>)「まだ時間があるとは言え、遅れないように気をつけてくださいね」
(´・ω・`)「わかってるって」
◆
(´・ω・`)「遅れてしまった」
( <●><●>)「どうせこうなることはわかってました」
.
- 88 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:42:19 ID:m80x5cnY0
-
◆
走りながら時計を見ると、もう18時を過ぎていた。
それに気づいたのが18時05分で、メダルの処理などをしてフロアを飛び出すと、もう18時10分だった。
問題は、ワカッテマスの推理ミスだった。
メダルゲームなら、クレーンゲームと違ってひとつのものに固執することもなく
コスト的にもゲーム内容的にも問題はないだろう、と読んだのだが
ショボーンは、メダルを増やす楽しさを知ってしまった。
メダルがじゃらじゃらと出てきて、それをケースにいれて、という楽しさを。
ショボーンは年齢もあり、ゲームが苦手である。
メダルが増えることよりも減ることのほうがしょっちゅうだったので、
その分メダルの両替機との往復にも時間がかかる。
加え、スロットとはフラグを立て、リーチ目を見てから当たりを狙う――と
メダルゲームのなかでも、プレイ時間が長引き、また所要時間が不安定なものである。
時間をぎりぎりまでつぶすゲームとしては、スロットは問題外のチョイスだったのだ。
中途半端に余ったメダル、しめて十数枚をポケットに突っ込んで、ショボーンも10Fのメインホールに向かう。
ワカッテマスの、呆れに呆れきった表情を見ないようにして、エレベーターに足を進める。。
誰かが乗っていたら大きなタイムラグにつながるところだったが、もう18時を超えているのだ、エレベーターに乗る人は――
.
- 89 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:43:44 ID:m80x5cnY0
-
( <●><●>)「……あ」
(;´・ω・`)「くそ! 使用中か!」
――エレベーターの、現在とまっている階数を表示するランプが8Fから9Fへと移っていた。
つまり、それは誰かが乗っている、ということだ。
その分、エレベーターを使いたければ、待たなければならない。
そして待つということは、今以上に大幅な遅刻をかますことになる。
軽く呼吸を乱しながら、ショボーンはエレベーター横の壁を力なく殴った。
若く、またふだんから走り慣れているワカッテマスとは違い、ショボーンは体力に衰えが見え始めている。
喫煙こそやめるようになったものの、それでも咄嗟のダッシュには身体が耐えなくなっていた。
( <●><●>)「自業自得です。甘受するしかありませんね、遅刻を」
(´・ω・`)「まあ……これが、小規模なパーティで助かったよ」
( <●><●>)「アサピー記者になにか言われそうですけどね」
(´・ω・`)
( <●><●>)
( <●><●>)「……警部?」
アサピーの名を出すと、ショボーンは固まった。
続けて「あ」と発してから
(;´・ω・`)「走るぞ! 少しでも上の階からエレベーターに乗る!」
( <●><●>)「え、どうして」
(;´・ω・`)「あの人になんか書かれたら、怒られるんだよ、僕が!」
( <●><●>)
――冗談で言っただけなのに。
その一言はショボーンの耳に届かなかったようだ。
しかし、確かに一つでも上の階からエレベーターに乗ったほうが、気持ち時間は短縮できる。
遅刻する者の、せめてもの罪滅ぼし――というわけなのだろう。ワカッテマスはその話にのった。
.
- 90 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:44:28 ID:m80x5cnY0
-
◆
ショボーンはメインホールの扉を抜けて、よたよたになりながら人の集う場所へと向かった。
ワカッテマスの顔はもはや虚無そのものとなっている。
ポーカーフェイスの、更にもう一段階上を行ったような顔だ。
ホール前方に見えるのは、並べられた、白いクロースのかけられた長テーブル。
上には人数相応よりやや多めと思える料理の数々で、
それぞれのテーブルの中央にある花瓶にはきれいな花が生けられていた。
その料理の数々から、食欲をそそる香りが漂う。
しかしショボーンにとって、そんなことはどうでもよかった。
ひとつ。階段を駆け上がるだけで一気に襲われた、疲労感。
もうひとつ――
(;´・ω・`)「ぜェ……、……」
(´・ω・`)「………? なんか、様子が変だぞ」
( <●><●>)「わかってます」
.
- 91 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:45:01 ID:m80x5cnY0
-
時刻は、もう18時16分だ。
とっくに、パーティが始められてもいい頃合である。
しかし、パーティとは言っても、所詮小規模なものだ。
自分たち二人を待とうと、パーティの開始時刻を遅らせたのだろうか。
――いつもならそう推理するのだろうが、このときに限っては、刑事二人ともそんな推理はできなかった。
文字通り「様子が変」だったからだ。
招待客は皆、揃っている。
が、様子は限りなく変だった。
どこか、落ち着きがないのだ。
きょろきょろしていると、近くにいたトソンと目があった。
彼女もどうやら、ずっとショボーンたちのことを待っていたようだ。
刑事二人を見つけた途端、すぐに駆け寄ってきた。
(゚ー゚トソン「警部、遅刻ですよ」
(;´・ω・`)「はいはい、どぉーもスイマセンねぇ!」
(゚、゚トソン「――それはそうと」
(´・ω・`)「?」
ショボーンをからかったかと思えば、トソンはすぐ、まじめな顔をした。
.
- 92 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:45:33 ID:m80x5cnY0
-
(゚、゚トソン「警部、あの人を見ませんでした?」
(´・ω・`)「あの人?」
(゚、゚トソン「モナーさんですけど」
(´・ω・`)「?」
( <●><●>)「……もしかして、パーティが遅延されているのは」
わかった気がしたワカッテマスが、訊いた。
トソンは依然、自分の胸の前に右の拳を当てながら大きくうなずいた。
(゚、゚トソン「肝心の主催者がまだいらっしゃらないので、どうしようもないんですよ」
(´・ω・`)「はーん。じゃあ、わざわざ走る必要もなかったじゃん」
( <●><●>)「言ってる場合ですか」
(゚、゚トソン「だから、レモナさんが慌てて――」
トソンが言おうとすると、彼女の更に向こうのほうから騒がしい声が聞こえた。
女性のものだ。
駆け寄ってくる音と同時に放たれたので、ショボーンはそちらを見やる。
.
- 93 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:46:08 ID:m80x5cnY0
-
|゚ノ;^∀^)「ショボーンさん!」
(´・ω・`)「は、はい。なんですか」
慌しい様子で、レモナが言う。
|゚ノ;^∀^)「社長がまだお見えにならないんですよ。どこかで見かけませんでした?」
(´・ω・`)「いや、ここで別れたきり見てないですけど」
|゚ノ;^∀^)「そ、そうですか……」
そう聞いて、彼女は露骨に肩を落とした――いや、手を膝につけた。
ずいぶんと走り回ったのだろう。華奢な女性なのだから、疲れるのは当然だ。
しかし、レモナの慌てぶりを見て、ようやく現状の重大さを把握した。
確かに、招待客を待たせてパーティを遅らせるとは、なにかあったのかもしれない。
モナーの場合、どうせ寝ているか泥酔しているだけだが――
(´・ω・`)「あ」
|゚ノ;^∀^)「心当たりが?」
(´・ω・`)「いや、酒」
|゚ノ ^∀^)「ハ?」
(´・ω・`)「モナーさん、お酒が大好きらしいんだ。で――」
ショボーンがパンフレットを広げ、11Fに指をさす。
レストランと、バー。二つのうちの後者に、指を突きつけた。
.
- 94 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:46:44 ID:m80x5cnY0
-
(´・ω・`)「バーにはうかがいました?」
|゚ノ ^∀^)「私も思いましたけど、まだお酒は入ってないんですよ。各国から取り寄せている最中なので」
(´・ω・`)「そうか……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ちょいと、いいですかな」
(´・ω・`)「? あ、はい」
ショボーンとレモナ、傍らにトソンとワカッテマス。
その後ろから、マリントンが声をかけた。
どうしたのだ、とショボーンが振り返ると
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ほら、ワタシゃ建築担当でしょう。
で、今日閉めるエリアの鍵を持たされてるんですが。
あ、閉めるエリアってのは、客室の5Fから9F全域と11Fなんですがねェ」
(´・ω・`)「はあ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「今の話を聞いてねェ、昼間、モナーさんに
バーの鍵を貸してくれ、と言われたのを思い出したんですわ」
(´・ω・`)「へえ」
(´・ω・`)
(´・ω・`)「!」
|゚ノ;^∀^)「ほ、ほんとうですか!?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「いやあ、うっかりしとった。
あそこは景色がええからの、ひょっとしたら寝とるかもしれませんぞ」
マリントンはおっとりとした、クセのある声で言った。
それを聞いて、レモナが取り乱す。
秘書として、そこら辺りの責任感と罪悪感を感じているのだろう。
さっそく、レモナは行こうとした。
.
- 95 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:47:16 ID:m80x5cnY0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「あ、行くんならワタシも行ってええですかな。
忘れんうちに鍵も預かっておきたい」
|゚ノ;^∀^)「すみませんが、急ぐので……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そ、そーですか……わかりました」
(´・ω・`)「じゃあ、僕がついていってもいいですか。走るのは得意ですよ」
( <●><●>)「よく言いますよ……」
ショボーンは気になったので、レモナについていこうと思った。
レモナは一瞬悩んだが、彼女はショボーンが現役の刑事であることを知っている。
刑事ドラマの影響で、刑事といえば走る――そんな印象があったため、彼の同伴には別段文句はなかった。
つまり、ご老体のマリントンにはついてこられると足手まといになる、ということである。
|゚ノ ^∀^)「そう……ですね。じゃあほかの皆さんは待つようお願いします」
( <●><●>)「わかりました」
(´・ω・`)「いきますか。寝てたら、僕が起こしますよ」
|゚ノ ^∀^)「助かります」
そして、二人は駆け出した。
.
- 96 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:47:59 ID:m80x5cnY0
-
◆
11Fは、フロアの四分の三以上がレストランであり、残りがバーである。
レストランは非常に大規模なものであり、厨房だけでそこそこの広さがある。
両方ともに、規模こそ違うがステージが設けられており、レストランなら歌姫やパフォーマニスト、
バーならジャズバンドを招きいれ、簡単な演奏なんかを楽しむこともできる。
が、なによりも特徴的なのは、バーもレストランも、
東西に面した大きな一面のガラスを隔てて、そのキタコレの絶景を楽しむことができるということだ。
平生では雪が降っていることのほうが多いシベリアだから、雪のない景色を楽しむことは難しい。
そのため、降雪がない夜はチャージ代を二千円払わないと、入店することすらできない。
ここから眺められる夜景は、それほどの絶景なのである。
その窓ガラスだが、バーのそれは西に、レストランのそれは東に面している。
そのため、バーかレストランかによって、見える景色が異なってくる。
一度の宿泊で、その両方の、それも降雪のない夜景を見納めるのは、ほぼ不可能だろう。
レモナとショボーンは、エレベーターを降りて、バーに向かって駆け出す。
昼間や、もしくは今日のように使わない日は、鍵を閉めている。
しかし、現在行方不明であるモナーが鍵を持っているとなれば、バーにいる可能性が高い。
いや、むしろバーにいなければどこにいるのだ――そんな心積もりで、二人はバーの前に立った。
レモナの、乱れた呼吸が聞こえる。
ショボーンも息を急き切りたかったが、刑事としてのプライドがそれを抑える。
.
- 97 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:48:41 ID:m80x5cnY0
-
|゚ノ;^∀^)「はァ……ふぅ」
(´・ω・`)「勝手に開けても、よろしいんですかね」
|゚ノ ^∀^)「時間を守らない社長が悪いんです。……では」
呼吸を無理やり整えてから、レモナはバーのドアに手をかけた。
そのまま、前に押し開く。
―――なにかが、引っかかったような手ごたえ。
続けて、かたいものが床に落ちたような、音。
最後に、ドサッと、大きなものが床に転がり落ちたような音。
後押しでもしてくるかのように漂ってくる、レモナの嗅ぎ慣れず、ショボーンの嗅ぎ慣れた臭い――
.
- 98 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:49:24 ID:m80x5cnY0
-
|゚ノ ^∀^)「?」
|゚ノ;^∀^)「 ――――ッッ!!?」
(´・ω・`)「どうしまし――」
不審に思ってバーに一歩足を踏み入れた、レモナ。
入って右にカウンター席があり、左にちいさなステージがある。
捜しているのはモナーなので、当然右に目を向ける。
直後、レモナは絶句して、そのまま突き飛ばされたかのように後方にしりもちをついた。
目は見開かれ、顔からは血の気がどんどんと引いてきて、腕や顎は小刻みに震えだす。
さすがに不審がったショボーンが、しゃがみこんだレモナの躯を乗り越えて、店内に入った。
ショボーンも、絶句した。
.
- 99 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:50:21 ID:m80x5cnY0
-
( ;: ∀`;)
(;´・ω・`)「―――ッ!! モナーさん!!」
――モナーは、腹部から大量の血を流しては、カウンター席の近くで倒れこんでいた。
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第二幕
「 WKTKホテル 」
おしまい
.
- 100 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/20(水) 19:52:04 ID:m80x5cnY0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
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- 101 :同志名無しさん:2013/02/21(木) 08:15:36 ID:f5Oih7vo0
- 乙
- 102 :同志名無しさん:2013/02/21(木) 17:20:52 ID:hLNUQdps0
- こりゃ続きが気になるぜ
- 103 :同志名無しさん:2013/02/21(木) 17:29:41 ID:spQW3Z/o0
- 乙乙!
細かいとこ言うと、「パフォーマニスト」では無く、「パフォーマー」では
- 104 :同志名無しさん:2013/02/21(木) 19:50:23 ID:I/MrDGp60
- こっちにきたのか!
乙!
- 105 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/21(木) 23:31:25 ID:ypCG0.bM0
- _| ̄|_ //ヽ\
| '|/ / ノ "´ ̄ ̄''''‐-...ノヽ
|__|'' ̄! ! / 丶 |
,‐´ .ノ'' / ,ィ \
ヽ-''" 7_// _/^ 、 `、
┌───┐ / / 、_(o)_,;j ヽ|
|┌─, .| /. - =-{_(o)
└┘ ノ ノ |/ ,r' / ̄''''‐-..,> >>103
// { i' i _ `ヽ 「-ist」と「-er」の違いがわからないとです
 ̄フ i' l r' ,..二''ァ ,ノ
n / 彡 l /''"´ 〈/ /
ll _ > . 彡 ;: | ! i { . >>103のおっしゃるとおり
l| \ l 彡l ;. l | | ! >>96の「パフォーマニスト」は「パフォーマー」です
|l トー-. !. ; |. | ,. -、,...、| :l.. お話とはまったく関係がないので、お気になさらないようお願いします。
ll |彡 l ; l i i | l
ll iヾ 彡 l ;: l | { j {
|l { 彡|. ゝ ;:i' `''''ー‐-' }
. n. n. n l 彡 ::. \ ヽ、__ ノ
|! |! |! l彡| ::. `ー-`ニ''ブ
o o o l :. |
- 106 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:07:02 ID:KcS6WLfk0
-
モナーは、いま刺されたばかりなのかと錯覚しそうなほど
すさまじい勢いで、腹から血をどくどくと流しだしていた。
それも、刑事を務めるショボーンでさえめったに見ることのないであろうほどの大量出血である。
モナーに生気は感じられないが、体温はホテル内の暖房の効果もあって、若干ではあるが保たれていた。
気絶はしているようだが、脈をとったところ、まだ死んだわけではないようだ。
かろうじて、なんとか生き長らえている――そんなところであろう。
だが、いますぐ病院に運んでも絶命する可能性のほうが高いであろう。
そう思わずには、いられなかった。
|゚ノ; ∀ )「え……ッ…あ……、……」
(´・ω・`)「見てはいけません」
すぐさまモナーに駆け寄って、ショボーンはまず現状把握から務めた。
知り合いとしてのショボーンではなく、一刑事としてのショボーンがモナーと接した。
傷の原因は、鋭利な刃物。おそらく、近くに転がっているナイフが凶器だろう。
それも、腹部から刺されたにも関わらず、背骨にまでその傷は達しているようだ。
傷口の大きさとナイフの大きさを見比べた結果、そうわかった。
言うまでもないが、モナーは気絶していた。
出血多量による血液不足ではなく、刺されたことによるショックだろう。
ショックで即死しないだけ、まだ助かったと言えた。
が、応急処置をしない限りにはどうしようもない。
ショボーンは携帯電話を取り出して、冷静にボタンを押した。
発信先は、ひとつ下の階にいるワカッテマスである。
.
- 107 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:07:47 ID:KcS6WLfk0
-
『はい』
(´・ω・`)「……今から言うことを、よく聞け」
『――はい』
ワカッテマスは、ショボーンのその声を聞いて、声色を変えた。
この声は、平生の、飄々としたショボーンではなく、『イツワリ警部』としてのショボーンだったからだ。
(´・ω・`)「モナーさんが、刺された。おそらく、死ぬ」
『――ッ! なん――』
(´・ω・`)「いいから、今から言うことを聞け。
. まずあんたは、メインホールに僕とレモナさん以外のみんなが
. いることを確認した上で、招待されたみんなを、ホールから一歩も外に出すな」
(´・ω・`)「次。モナーさんは、まだ絶命したわけじゃあない。が、出血がひどい。
. 誰か――プギャーさんか、マリントンさん、ガナーさん。
. このホテルに詳しい人なら、誰でもいい。応急処置の準備をさせろ。
. その人にだけ、ホールから出してこっち、バーに向かわせるんだ」
(´・ω・`)「そして、すぐにキタコレ県警に通報しろ。もちろん救急車もだ」
(´・ω・`)「通報し終えたら、最後に残りのみんなに、事情を説明しろ。
. 警察であることを明かせば、話は通じるだろ」
『警部は――』
(´・ω・`)「データが足りない。調べられることは、全部調べるさ。
. 急げ、手遅れだけは許されないぞ」
『はッ』
.
- 108 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:08:24 ID:KcS6WLfk0
-
そこで、ショボーンは通話を切る。
ポケットに入れては、しゃがみこみモナーを介抱しながら、周囲を見渡した。
第一印象は、「暗い」だった。
電気を消したのは犯人か、それとももとから点いてなかったのか――
マリントンの話を思い出すと、どうやら後者であると思われる。
そしてまず目に入ったのは、凶器のナイフだ。
根元にまで、その赤黒い血はびっしりとついている。
が、着眼点はそこではなかった。
柄に、紐が結び付けられているのだ。
その紐は、バーのドアの取っ手につながっている。
長さとしては、目測で言えば、ちょうど目の前の席とドアとをつなぐほど。
あわせると、ドアとナイフとが、一本の紐が伸びきった状態でつながれていたということだ。
そうわかれば、今しがた起こった出来事にも説明がいった。
ナイフとモナーの転がり落ちた音。直後に噴き出してきた、血。そして、二つをつなぐ紐。
刃物を人体に突き立てても、その時には大げさな出血は起こらない。
刺した刃物自身が、その傷口の蓋となるからだ。
しかし、それを引き抜けば、途端におぞましい量の血が噴き出されることになる。
おそらく、レモナとショボーンが来るまでは、モナーにこのナイフが突き立てられたままだったのだろう。
それも椅子に座らされていた状態――いまの体勢から見ると、
転がり落ちる前は扉のほうに顔を向けていたと思われる――で。
しかし、扉が開かれた瞬間、そのナイフが抜かれ、出血させてしまうことになった。
すると、あるひとつのことがわかった。
.
- 109 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:08:59 ID:KcS6WLfk0
-
(´・ω・`)「(ドアとナイフとを紐でつないで、だ……。
ドアを開けば、自動的にナイフが抜ける仕組みとなっていたのか)」
そうとわかって、ショボーンは深刻な気持ちになった。
この事実から、あるひとつのことが連鎖的にわかるからだ。
(´・ω・`)「(つまり……これは、計画殺人……ってことか)」
(´・ω・`)「(計画殺人………つまり)」
―――モナーは、今日このホテルに招かれている誰かに、計画的に殺された。
.
- 110 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:09:31 ID:KcS6WLfk0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第三幕 「 招かれざる客 」
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- 111 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:10:27 ID:KcS6WLfk0
-
( <●><●>)「皆さん、聞いてください!」
ワカッテマスの声は、彼らが勤めるVIP県警のなかでもずば抜けて大きい。
そして、大きいだけに、よく通る。
持ち前の声の大きさを使って、ワカッテマスはホールの最前列から振り返って、言い放った。
直後、その場にいるショボーン、レモナ、そしてモナーを除く皆がワカッテマスに注目する。
先ほどまでざわめいていたのが嘘のように、静まり返った。
ワカッテマスの声を聞いて、なにか異常なことが起こったのだ、とわかったのだ。
それは好都合だ。
ワカッテマスは、矢継ぎ早に続けた。
( <●><●>)「私は、VIP県警捜査一課、刑事の若手と申します」
( <●><●>)「そして皆さんに、11Fに向かったショボーン警部から伝言を預かっております」
(゚A゚* )「! ジブンら、ケーサツやったんか!?」
( ;‘∀‘)「警察って……え、ちょっと――」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ま、待て! ちゅーことは、もしかして――」
自分の身分を明かすと、それぞれの理由で知らなかった人たちが騒ぐ。
なにも、自分に後ろ暗いことがあるから――ではない。
モナーが、まだパーティ会場に来ない。
突如として警察を名乗った男が、アナウンスをしている。
この事実から、各々は、不吉なことを予想してしまったのだ。
.
- 112 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:11:00 ID:KcS6WLfk0
-
( <●><●>)「落ち着いて、聞いてください」
( <●><●>)「緒前モナーさんが、何者かによって、刺されました」
爪;'ー`)「え……」
(゚、゚;トソン「っ!?」
(∴);◎∀◎∴)「ヲタぁぁ!?」
( <●><●>)「何者か、つまり、このなかにいる誰か、です」
( ;^Д^)「なっ――」
(-@∀@)「…ッ」
(;´W`)「………!」
.
- 113 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:11:39 ID:KcS6WLfk0
-
ワカッテマスが事情をそのように説明し終える頃には
残りの九人の間に、予想していた不吉な戦慄が走っていた。
ここで騒がしくなるか、と思ったが、むしろ先ほど以上に静まり返った。
いまのうちに、と、ワカッテマスが続ける。
( <●><●>)「そのため、ここにいる皆さんは、その場を動かないでください。それが、一点」
( ;^Д^)「ま、まだあるのか!?」
( <●><●>)「笑野さん、ひとついいですか」
( ;^Д^)「な…なんだ」
すっかり取り乱したプギャーに、ワカッテマスが歩み寄る。
皆の、鋭い視線が二人に注がれる。
ワカッテマスの慣れているものだった。
( <●><●>)「応急処置を施したいのですが、なにか、そういったたぐいのものはありませんか」
( ;^Д^)「そういうことか……いや、あるには、ある」
( <●><●>)「――というと?」
( ;^Д^)「あるのだが――1Fにしかないんだ」
( <●><●>)「…ッ。各階に備え付けられていないのですか」
( ;^Д^)「そういった細かいところは、後日、スタッフを総動員させてするつもりだったんだ。
. 救急セットを用意するには……10分。探すのも含めて、10分ばかりかかる。問題、ないですか」
( <●><●>)「……それでも、用意するに越したことはない。ぜひ、お願いします」
( ;^Д^)「わかりました。……でも、単独行動して、いいんでしょうか」
.
- 114 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:12:12 ID:KcS6WLfk0
-
ワカッテマスとしては、そんなことはどうでもいいから早く行ってくれ――と思うところだ。
しかし一方で、プギャーのその懸念も、仕方ないことだった。
モナーが刺され、その犯人がこのなかにいて――
そのうちの一人に、プギャーも入っているからだ。
警察である以上、その判断を違えるわけにはいかない。
――が
( <●><●>)「あなたが無実なら、なにもおそれる必要はない。
人命最優先です。至急、お願いします」
( ;^Д^)「わッわかりました!」
ワカッテマスは、以前、ショボーンにあることを教えられた。
警察官がなによりも死守しなければならないものは、人命である、と。
そのため、プギャーの持つ懸念ももっともだが、そこは見逃した。
警察官として、この判断は間違っていないだろう――ワカッテマスはそう割り切った。
皆が固まり、痛いほどの静寂が一帯を制するなか
プギャーが慌てて、転びそうになりつつもエレベーターに向かって走り出した。
彼を目で追う者はいたが、疑いをかける目ではないだろう。
これで、ワカッテマスは命令を二点まで済ませた。
次は、通報である。この一瞬一瞬が生死を分けることは知っていたので、
若干冷静を失いながらも、彼は携帯電話を取り出す。
その間、場内に、誰一人として声を発する者はいなかった。
.
- 115 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:13:19 ID:KcS6WLfk0
-
◆
(´・ω・`)「遅い……ッ」
ショボーンは、ある程度までは一帯のことを調べ終えていた。
結果、刺されたのはそう前ではないだろう、とわかった。
控えめに見て、三十分から一時間。それが、モナーの刺された時刻だと思われた。
トレンチコートを脱いで、せめてもの止血に、とそれをモナーの腹部に巻きつけた。
しかし、それもほんの足掻きに過ぎなかった。
このコートはそこそこ分厚い生地でできているのだが、それを、あふれ出す血はあっさり貫通してしまったのだ。
生地越しに、血痕が浮かび上がってくる。
それは徐々に広がっていき、やがて、そこからも血が滴り落ちるようになった。
スーツ姿になったショボーンは、5分経っても遣いが来ないことに、半ば苛立ちを覚えていた。
救急セットくらい、どこにでもあるのではないか――そう思ったのだ。
が、あくまでもこのホテルは、まだ一般にはオープンされていない。
そう考えると、ひょっとすると救急セットなど、ないのではないか――そんな嫌な予感が、胸をよぎる。
不吉なことを考えていてはだめだ。
ショボーンが、顔を横にすばやく数回振るう。
深呼吸をし、気を落ち着かせたところで、ショボーンは窓を見た。
壁の上半分が窓ガラスで占められており、それにあわせてテーブルが設けられている。
景色を楽しむための配置、と見ていいだろう。
その窓ガラスの両端には、大きいカーテンが取り付けられている。
カーテンを閉めると、椅子も覆い隠すことになるのだが、これで埃や景観を守るつもりなのだろうか。
だが、カーテンは束ねられていた。見ようと思えば、景色を見ることはできた。
しかし、モナーの座っていたであろう席は、カウンターだ。
この景色に、背を向けて座っていたことになる。
せめて、刺される前にこの景色でも見ていたら。
ショボーンはふと、センチメンタルな気持ちになった。
.
- 116 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:14:01 ID:KcS6WLfk0
-
(´・ω・`)「……いや」
そこで、自分の考えを否定する。
いざ見てみると、窓ガラスからは、決して景色を見ることができなかったからだ。
窓ガラスを破るかの勢いで、雪が降り注がれている。
そのようなコーティングにしたのだろうか、その雪が窓に積もることはないが、
だからこそ、その豪雪の規模を目で知ることができた。
最初にここを訪れたときよりも、数倍、激しくなっている。
ここまでくれば豪雪、ではない。「吹雪」だ。
外に出れば、目を開くことすらできないであろう。
そう思うと、彼は寒気を感じた。コートを脱いだから、だろうか。
――否。ショボーンは、もっと別のところで、それもかなり不吉なケースを想定してしまったのだ。
以前、シベリアの豪雪に見舞われたから、そしてその豪雪よりも
はるかに凄まじい豪雪をいま目の当たりにしているからこそ、言える推理である。
(´・ω・`)「おい……冗談じゃないぞ」
(´・ω・`)「ひょっとすると……」
そこで、握っていた携帯電話が、音を鳴らした。
別段動じず、落ち着いた様子で応対する。
すると、ワカッテマスの、平生では絶対に聞くことのできない、焦燥に満ち溢れた声が飛んできた。
.
- 117 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:14:37 ID:KcS6WLfk0
-
『警部、大変です!』
(´・ω・`)「手当ての用意はまだか」
『そろそろ着くはずですが――それどころじゃありません!』
(´・ω・`)「……言ってみろ」
今抱いたばかりの不吉な予想が、現実味を増す。
少し、心臓の鼓動が速くなったような気さえ、した。
『キタコレ県警に通報したところ――』
『雪があまりにもひどすぎて、とても出動できるものじゃあない、ということです!』
(;´・ω・`)「―――くッ!」
――ショボーンの不吉な予想。
「吹雪」の影響で、出動ができない。
それが、見事に的中してしまった。
.
- 118 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:15:19 ID:KcS6WLfk0
-
(;´・ω・`)「なにか、向こうは対策をしてなかったのか!」
ほぼ八つ当たりに近いことを言う。
相対的に、ワカッテマスは落ち着いた様子で答えた。
『この規模の豪雪は、現地の人に言わせても稀にしか見られないもののようです。
. また、対策をしていたとしても、この規模だと物理的に出動は不可能でしょう。
. まして、ここは山の上で、近辺の列車も機能していないですから』
(;´・ω・`)「……わ、わかった」
『私はどうしましょう』
(´・ω・`)「取り調べをしてくれ。犯人が僕たちのなかにいることには、違いないんだから」
『わかりました。…では』
そこで、断続的に電子音が聞こえる。
それを聞き届けて、ショボーンは携帯電話をズボンのポケットに仕舞った。
まだ、応急処置の用意は持ってこられない。
せいても仕方のないことだが、逸る気持ちを抑えることもできない。
気がつけば、出入り口のところに足を進めていた。
出入り口――というより、レモナのもとに、である。
.
- 119 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:15:51 ID:KcS6WLfk0
-
(´・ω・`)「……レモナさん」
|゚ノ; ∀ )「………」
(´・ω・`)「………?」
ショボーンはベテランの刑事だ。
血まみれの死体にも、その人にのこされていく遺族にも、数え切れないほど出会ってきた。
そして、心理学に精通するわけではないが、それでもだいたいの人の様態は熟知するようになった。
しかし、レモナを見ると、どこか不思議な気持ちになった。
確かに、殺されたことでショックを受けたり、大量の出血を見て嘔吐する人もざらにいる。
だが、レモナの様態は、そういったそれとはどこか違って見えた。
目を見開き、服の胸の辺りを鷲づかみにして、咳や嗚咽に近い呼吸をしている。
ショックも当然感じられるのだが、彼女の様子から、ショック以上に、狂気すら感じられたのだ。
彼女は、ショックを受けただけじゃあない。別の何かも負ってしまったのではないか。
ショボーンはふと、そう思った。
元気付ける意味も含めて、ショボーンはレモナの隣にしゃがみこんだ。
肩に手を当て、宥めるようにぽんぽんと叩く。
精神的に不安定な人には、人のぬくもりというものを与えれば、幾分か落ち着く。
そんなケースが、多かったからだ。
.
- 120 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:16:31 ID:KcS6WLfk0
-
(´・ω・`)「レモナさん」
|゚ノ; ∀ )「……っ」
|゚ノ;^∀^)「は…はい」
(´・ω・`)「大丈夫ですか?」
|゚ノ;^∀^)「……な、なんとか」
大丈夫そうでないことは、様子を見ればショボーンでもわかる。
しかし、彼に心配をかけまいと、レモナは強がるように振る舞う。
その様子がどこか健気で、ショボーンの同情の気持ちはいっそう深まった。
――彼女が、モナーを刺したかもしれないのだが。
このときは、なるべくそれについては考えないでおこう、とショボーンは思っていた。
(´・ω・`)「いきなりで酷ですが……お話をうかがってもよろしいですか」
|゚ノ ^∀^)「私の……ですか?」
(´・ω・`)「はい。今は……18時半過ぎ、か。ここに来るまでの、あなたの動きを、です」
|゚ノ ^∀^)「アハハ……なんだか、ミステリードラマのワンシーンみたいです」
(´・ω・`)「実際に、そうですからね」
笑わないで、ショボーンは強く言った。
確かに、一般人のレモナにとっては半ば信じられない光景だろう、事実だろう。
しかし、これはまぎれもない現実で、それを甘受しなければならないのだ。
そうさせるのが刑事のつらいところではあるが、ショボーンはそれでも認識させる。
これが、現実なのであるということを。
.
- 121 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:17:03 ID:KcS6WLfk0
-
|゚ノ ^∀^)「私は……ずっと、メインホールにいました」
(´・ω・`)「僕たちがホールに着いた頃から?」
|゚ノ ^∀^)「はい。18時のパーティに向け、ガナーさんと一緒に料理を並べていってました。
. ガナーさんに聞けば、証明されると思います。
. というより……私が、社長を、殺……すハズがありません」
(´・ω・`)「僕もそう信じたいんですがね、そういう私情を呑むわけにいはいかないんですよ。
. ……まあ、ずっとホールにいた、っていうのは本当そうですが」
|゚ノ ^∀^)「あと、トソンちゃんもずっといたような気がします。
. かまってあげることができず、ずっと見ていたわけでも
. ないので、途中で抜け出していたかもしれませんが……」
(´・ω・`)「ということは、ガナーさんとあなたは、一度もホールから出てない、と」
|゚ノ ^∀^)「今朝倉庫に置いておいた料理をとったりはしましたが、10F以外には行ってません」
(´・ω・`)「ガナーさんとぴったり一緒になって倉庫などを出入りしていた……んですか?」
調子を取り戻してきたレモナだったが、その時、言葉を少し詰まらせた。
ちょっと強く訊きすぎたかな、と言ってからショボーンは後悔する。
|゚ノ ^∀^)「……いや。さすがにそのときは互いに目を離していたと思います」
(´・ω・`)「はあ」
|゚ノ ^∀^)「まあ、それも毎回一分に満たない時間ですから、問題ないと思いますけど……」
(´・ω・`)「それもそうですね」
レモナの精神を気遣って、ショボーンはそれ以上詮索するのをやめた。
あとでガナーに聞けばいい話でもあるし、
「自分は10Fを離れていない」という証言は本当のように聞こえたからだ。
ワカッテマスには再三「捜査に私情を挟むな」と教えてあるが、
主観にしたがって行動しなければならないことは、数え切れないほどある。
いまのも、言わばそれの一環だった。
.
- 122 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:17:45 ID:KcS6WLfk0
-
「お、お待たせしました」
ショボーンは後ろから、声をかけられた。
足音が聞こえていたので、別段驚くべきことでもなかったようだ。
レモナとともに、そちらに目を遣る。
プギャーが、頼まれていた医療セットをようやく持ってきてくれたのだ。
不満を垂れることはなく、ショボーンは迎え入れた。
( ^Д^)「遅れてすいません」
(´・ω・`)「いえ。きっと、まだちゃんとしたものを置いてなかったんだろうなって思ってました」
( ^Д^)「よくわかりましたね。まだ準備期間だからと、ワンセットしかなかったんです」
(´・ω・`)「とにかく、早く応急処置をしましょう」
( ^Д^)「はい。あ、自分に任せてください。多少の心得はあります」
(´・ω・`)「はあ。こちらです」
プギャーは、レモナと比べれば、多少は落ち着いているように思えた。
しかし、言葉の欠片が、ところどころで上ずっていた。
やはり彼も、少なからず動揺しているようだ。
白い箱から、大きな包帯のようなものとマットを取り出す。
ショボーンも、その職業柄、司法医学にはある程度精通している。
筋肉の硬直やらから死亡推定時刻を特定したりする程度には、知識に覚えがあった。
そんなショボーンだが、プギャーに処置を任せる。
先ほど何度も呼びかけたが、モナーに応答はなかった。
――いや、まだ命を取り留めているとはいえ、意識を呼び起こしてはだめだろう。
そう考え、ショボーンは、プギャーの応急処置を、ただわきから見届けるだけにした。
( ^Д^)「……こ、これでいいのか…な」
(´・ω・`)
.
- 123 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:18:16 ID:KcS6WLfk0
-
少しして、それは終わった。
だが、法医学に通ずる者の見解としては、プギャーの応急処置はとても褒められたものではなかった。
患部にマットを当てて、むやみに包帯で巻いただけである。
その程度で、よく心得があると言えるものだ――ショボーンは呆れた。
が、それを責めることはできないように思えた。
プギャーの応急処置を終えた手が、震えていたのである。
そこで、プギャーが振り返る。
レモナもショックを振り払えたようで、立ち上がることができていた。
ショボーンはここで、刑事として、彼らに次にとるべき行動を指示する義務があるのだ。
次はプギャーに話を聞くか、とショボーンは決めた。
( ^Д^)「刑事さん」
(´・ω・`)「ん、はい」
が、その前にプギャーに先手をとられた。
( ^Д^)「警察は……ここまでこれる、んでしょうか」
(´・ω・`)「というと」
( ^Д^)「俺、これでもこのホテルをもつことになって、数ヶ月間キタコレに住んでるんですが
それについて言えば、ここまでひどい雪、見たことないですから」
自嘲するように言いながら、プギャーは窓のほうを見た。
依然変わらぬ――どころか、先ほどにも増して強くなった雪が、窓を叩きつける。
ありえないことだが、窓が割られそうな気がしてならなかった。
.
- 124 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:19:18 ID:KcS6WLfk0
-
( ^Д^)「あちこちの電車は止められるだろうし、道路もきっとスリップが原因で事故が多発するだろうし。
……ひょっとすると、パトカーもおんなじ目に遭ってる気がしたんですよ」
(´・ω・`)「その予感は、当たってますね」
( ^Д^)「……やっぱり?」
(´・ω・`)「パトカーも、救急車も、アウトです」
ショボーンも、同じように自嘲するように吐き捨てた。
視線を窓から、プギャーに戻す。
(´・ω・`)「でも、その間にでも僕たちにできることはある。
. いまにおけるそれは、僕があなたからお話をうかがうことです」
( ^Д^)「取り調べ……ってやつですか。なんでも聞いてください」
(´・ω・`)「事件が発覚するまでの、あなたの動きです」
訊くと、プギャーは少し難しい顔をした。
話す順序を考えているか、何をしていたかを思い出そうとしているようだ。
( ^Д^)「難しいですね。逐一覚えていることでもないので」」
(´・ω・`)「あいまいでもいいので」
( ^Д^)「今朝ははやくからここに来て、運び込まれる料理を、10Fの倉庫に――」
(´・ω・`)「あ、そこらへんはかまいません。もうちょっと先のことを」
( ^Д^)「えー、じゃあ……そうだな」
(´・ω・`)「それじゃあ、16時くらい――二時間半ほど前あたりからでお願いします」
( ^Д^)「それでも結構遡りますね。社長が存命でいらっしゃるじゃないですか」
(´・ω・`)「まあ、この取り調べはなにもアリバイ確認のためだけじゃないですから」
.
- 125 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:19:51 ID:KcS6WLfk0
-
「ふーん」と興味のなさそうな返事に続けて、プギャーはゆっくり、言葉を選びながら答えた。
( ^Д^)「あ、そうだ。刑事さんは、WKTKホテルに誘致される予定の美術品の話、知ってますか」
(´・ω・`)「クロヒーゲさんが館長を務める美術館の、でしたっけ」
( ^Д^)「シラヒーゲです。わざと間違えてませんか」
「あれっ」と、ショボーンは照れ隠しに笑った。
どうやら、素で間違えたようだ。
(´・ω・`)「はは、内緒でお願いします。
. ……アスキーミュージアムから美術品を寄贈するかどうか、で悩んでいた、とか」
( ^Д^)「寄贈――というよりも、レンタルですね。所有権が移るわけでもないので」
(´・ω・`)「一定期間ごとに展示物が変わる、ということですか」
( ^Д^)「はい。で、今日のパーティにシラヒーゲさんを呼んだんですがね、
実は、その話に決着をつけるために呼んだんですよ」
(´・ω・`)「決着……」
( ^Д^)「彼は、美術品をこのホテルに展示されるのを、どこか嫌がっていましてね。
でも、社長としても、どうしてもホテルに華を持たせるために、その話に躍起になっていますし。
それを、俺が社長の代わりに説得することになってたんです」
(´・ω・`)「だから、4Fの喫茶店で話し合っておられたんですな」
ショボーンは、何気ない様子で言った。
だが瞬間、プギャーはどこか、動揺したように見えた。
「あれ」と思って、ショボーンが目を少し大きく開く。
が、プギャーが何か大きな反応を見せることはなかった。
気のせいか――ショボーンは、彼が続ける言葉に耳を傾ける。
.
- 126 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:20:35 ID:KcS6WLfk0
-
( ^Д^)「ご存じでしたか。ほら、オープン一週間前でしょ?
どの美術品を譲っていただけるかで、宣伝記事にも影響がでてくる。
だから、せめてパーティが始まる前に、話をつけておきたかったんですよ」
(´・ω・`)「一応聞くと、それでどうなりました」
( ^Д^)「もう、譲ってもらえると思います」
(´・ω・`)「…? そうですか」
今の言葉に、どこか釈然としないものを感じつつも、ショボーンは相槌を打った。
続けてそのときの時間を訊いたが、さすがにそこまでは覚えていなかったようだ。
が、ショボーンとマリントンの話から、17時くらいだろうと考えた。
モナーは、16時半辺りから消息を絶っている。
ショボーンと話した後に彼はホールを出て行ったし、
18時すぎのレモナの様子から、以降誰もモナーの姿を見ていないとわかる以上、これは確かなことだ。
モナーの、16時半以降の消息を知る者は、犯人のみ。
そう考えると、長らくの間、犯人はモナーと一緒にいたと見るのが自然だろう。
もっとも、バーにいたことを考えると、犯人がモナーをそこに残して席を外した――
ということも考えられるので、一言にそう断定することはできないが。
たとえば、プギャーの場合、モナーとバーを訪れてから
いったん席を外してシラヒーゲと寄贈の話をした、とも考えられるのだ。
証拠も根拠もない、ただの憶測に過ぎないが、可能性はあった、というように。
.
- 127 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:21:30 ID:KcS6WLfk0
-
(´・ω・`)「そういえば、僕とすれ違ったとき、あなたは3Fに向かいましたよね」
( ^Д^)「……」
(´・ω・`)「どうしました?」
( ^Д^)「…」
( ;^Д^)「え? いや……うろちょろしてたもんで」
(´・ω・`)「はあ。具体的には」
( ^Д^)「ゲームコーナーをぐるっと回った後、2Fをうろちょろしたり」
( ^Д^)「暇だったし、自分もなかなか内装を見て回る機会がなかったもんですから」
(´・ω・`)「アサピーさんはどうやってあしらったのですか」
「ああ……」と、面倒くさそうな顔をする。
それはショボーンに向けられたのかアサピーに向けられたのか、判断できない。
( ^Д^)「走って撒いたに決まってるじゃないですか。
これでも俺、足には自信がありますから」
(´・ω・`)「(あ、あの人から走って逃げられたのか……)
. でも、18時になってあなたはパーティに出席してましたよね」
( ^Д^)「それがなにか。これでも副支配人ですよ」
(´・ω・`)「いやあ。あのアサピーさんなら、
. そこで邂逅してまた捕まえるんじゃないかな、って思ったんで」
.
- 128 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:22:27 ID:KcS6WLfk0
-
( ^Д^)「だろうと思ったから、パーティには少し遅れて向かったんです」
(´・ω・`)「遅れて?」
( ^Д^)「18時ちょっと過ぎに。でも社長はこないからパーティがはじまらないでしょ。
これはまずい、と思ったけど、あの記者には捕まらなかったですよ」
(´・ω・`)「あの人はなにかしていたのですか」
( ^Д^)「アンモラルからの遣いの人、いたでしょ」
(´・ω・`)「のーさん、でしたっけ」
( ^Д^)「あの人に絡んで、ネチネチなにか訊いてたような気がする」
(;´・ω・`)「は、はあ。そうですか」
(´・ω・`)「……オホン。話は戻しますが、あなたがゲームコーナーを
. うろついていたとき、誰とも会わなかったですか?」
( ^Д^)「?」
(´・ω・`)「ほら、僕とすれ違ったあと、3Fをうろついたんでしょ。
. そのとき、僕の推理がただしければ、ある人と会ったはずなんですが」
( ^Д^)「あ、ああ。もちろん会った――いや、見かけましたよ」
(´・ω・`)「どなたを?」
少し含み笑いを浮かべて、訊く。
こういったところから、ショボーンは《偽り》を見抜いては、事件の真相に一歩ずつ近づくのだ。
プギャーがなんともないような顔をして、口を開く。
ショボーンは息を呑んだ。
( ^Д^)「あの、格闘ゲーマーでしょ」
――が、一瞬抱いた望みはあっという間に消えてしまった。
まあ、そんな簡単に「偽り」を見抜けるはずもないか、と割り切る。
.
- 129 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:23:16 ID:KcS6WLfk0
-
(´・ω・`)「…」
( ^Д^)「え、あれ、違った?」
(´・ω・`)「い、いや。合ってますよ。なんでもないです」
( ;^Д^)「……よかった。ほかに誰かいたのか、って一瞬思ったよ」
(´・ω・`)「ということは、ほかには誰も」
( ^Д^)「そんときはいなかったですね」
(´・ω・`)「そうですか」
ショボーンがプギャーとすれ違ったのは、17時頃である。
どうやら、この時間、3Fではおかしなことはなかったようだ。
そうとわかれば、とショボーンはその話を切る。
いつまでものんびりと、ここで話しているわけにはいかないのだ。
ショボーンは立ち上がる。
レモナとプギャーが、彼を見上げた。
|゚ノ ^∀^)「どうしましたか」
(´・ω・`)「僕も一応警察なんでね。10Fに戻って、やるべきことをしないと」
( ^Д^)「社長は……どうしましょう」
(´・ω・`)「僕らの目の届くところに安置しておきたいんですが……
. その傷じゃあ、動かすだけで悪化するでしょ。
. 二人で、モナーさんを見てもらってよろしいですか」
|゚ノ ^∀^)「ここで……二人きりで?」
( ;^Д^)「な、なんだよその言い方! 俺が犯人だってか!?」
(´・ω・`)「いやいや、彼女の心理はもっともですよ。
. まあ……ちょくちょく様子を見にきますから。
. なにか、様態に変化があれば僕に知らせてください。
. 意識が戻ったら、何度も呼びかけて、なんとか意識を保たせるように」
.
- 130 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:24:03 ID:KcS6WLfk0
-
|゚ノ ^∀^)「………」
( ^Д^)「わかりました」
(´・ω・`)「レモナさんは……」
|゚ノ ^∀^)「…………。」
プギャーはこの場にもう馴染んだようだったが、レモナはそうではなかったようだ。
モナーが殺され、そしてその犯人がこのホテル内にいるということで、
半ば疑心暗鬼になっているように見受けられる。
そして、十秒ほど長考を挟んだあと、レモナはようやく
|゚ノ ^∀^)「……わかりました」
(´・ω・`)「では、これで――」
|゚ノ ^∀^)「ショボーンさん!」
(;´・ω・`)「は、はい!」
.
- 131 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:24:38 ID:KcS6WLfk0
-
ショボーンが去ろうとすると、ひときわ大きな声を以てレモナに呼び止められた。
反射するように、ショボーンが振り返る。
|゚ノ ^∀^)「トレンチコート、ここに置いておいても、よろしいのですか」
(´・ω・`)「え? ああ……」
ショボーンのコートは、応急処置をするさい、傍らの椅子にかけておいた。
バーに入ってすぐ右手にある、端っこの席だ。
コートは背中のあたりが血でまみれており、クリーニングに出してもその染みが落ちることはないだろう。
そう思い、ショボーンは少し残念そうな顔をした。
(´・ω・`)「どうせもう着ませんし、いま持っててもかさばるだけだし。
. 帰るときに、持っていきます」
|゚ノ ^∀^)「わかりました」
(´・ω・`)「では」
ショボーンは今度こそ、と思いつつ、敬礼しながらバーを去った。
残されたレモナとプギャーを、途端に痛いほどの沈黙が包む。
が、ショボーンはそれにばかり気をつかっていることもできなかった。
彼には彼で、やるべきことがあるのだ。
.
- 132 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:25:15 ID:KcS6WLfk0
-
◆
メインホールに戻ると、ワカッテマスはうまく立ち回ったようで、
どうにか混乱だけは防ぐことができていたようだった。
ショボーンはまずそれを知って安堵する。
が、ワカッテマスには必要最低限のことしか指示していない。
ここからが大変だ――ショボーンは気付けした。
( <●><●>)「警部っ」
(´・ω・`)「お」
ショボーンと落ち合うように、ワカッテマスもホール前方から駆けてきた。
ホール中央辺りで落ち合い、ワカッテマスが先に口を切った。
( <●><●>)「一応、指示されたことは一通り済ませておきました」
(´・ω・`)「応援は」
( <●><●>)「……」
ワカッテマスが苦い顔をする。
やはり、それだけはどうにもならなかったようだ。
突如として降り出した、吹雪。
運が悪い、で済ませていいのか、策略を感じ取るべきなのか。
キタコレの人間でないショボーンにその判断はできなかったが、だからこそするべきことがあった。
脱出不可となっている今のうちに、犯人を突き止めるのだ。
.
- 133 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:26:02 ID:KcS6WLfk0
-
ショボーンの登場で、先ほどまで沈黙が痛かった空気から一転、ざわめきが生まれた。
いよいよ彼らも、リアリティーを感じだしたのだろう。
なんといっても、ショボーンは刺されたモナーをもっとも近くで見ていた人物なのだから。
ワカッテマスは声が大きいが、自分はそうでもない。
それを自覚しているも、ショボーンは久しぶりに、腹の底から声を出すことにした。
マイクがあればなあ――と思うが、それを用意する手間すら惜しく感じられる。
(´・ω・`)「皆さん、聞いてください」
その一声が、ホール全体に響き渡ることはなかった。
が、一応皆に聞こえたようだ。
周囲の反応からそう実感し、ショボーンは続ける。
(´・ω・`)「こいつに聞いてると思いますが、モナーさんが刺されました。
. 現在生死の境目――救急車の早期到着が望まれない以上、危険です」
救急車が来れない、ということを知って、悲しみに暮れる声が聞こえた。
救急車が来れないということは、パトカーも来れない。
能動的に考えても、自分たちがこのホテルから出ることすらままならない、ということなのだ。
つまり、それまでの間、自分は犯人と一緒の空間にいる――
(´・ω・`)「そこで、いまから簡単な取り調べを行いますから
. 18時、ここに集合するまでにとっていた行動とその時間帯を、なるべく明瞭に思い出しといてください。
. ……特に、死亡推定時刻の17時半からのことを」
(´・ω・`)「……ワカッテマス。そっちは任せたぞ」
( <●><●>)「はい」
走り出しながら言ったので、その声はぶれた。
だが、ワカッテマスはおそらく、このときのショボーンの声が
聞こえていなかったとしても、黙って取り調べに移っていただろう。
ワカテで天才の彼は経験以外なら揃っており、
またこういった場面での経験なら、もう積んでいるのだ。
.
- 134 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:26:37 ID:KcS6WLfk0
-
そして、ある程度のことは把握することができた。
レモナ曰く、トソン、ガナー、レモナはずっとこのホールにいた。
それは17時半からにでも言えることであり、
またその時点で既にホールに来ていた人もいるので、彼女たちにはアリバイがある。
また一方で、17時半頃にホールに来たのは、マリントンだ。
モナーを刺した犯人は、その部屋――バーに、大掛かりなしかけを施している。
それに費やす時間も考えると、彼にもこの犯行は難しいだろうと思われた。
が、残りの皆は、ばらつきこそあれど、五十分前後にここに来たと言った。
そのため、重要なのはその間、どこで何をしていたか、である。
(´・ω・`)「のーさんは、いったい」
(゚A゚* )「ウチなー、風呂はいろーかな、思うてましてん」
(´・ω・`)「ほう、2Fですな」
(゚A゚* )「でも、ほら、時間が押してたから」
(´・ω・`)「というと、何時ごろですか」
(゚A゚* )「どーやろ……。もう集合三十分前やった気がする」
(´・ω・`)「三十分……風呂に入るにはビミョーな時間ですな」
(゚A゚* )「やろ? やから、もうせっかくやし早いうちにホールに行こう思いましてやなあ。
エレベーターに乗って10Fに直行しようか思うたんですよ」
(´・ω・`)「思った、ということは、やめた?」
(゚A゚* )「いや、乗ったっちゃ乗ったけど、9Fで降りて。スタッフルームに用があったんですよ」
(´・ω・`)「スタッフルーム……?」
「そういえばパンフレットにも載っていたな」とショボーンは思い出す。
スタッフルームはスタッフルームなので、なかに何があるか、などはわからなかったが。
のーは、直接的な関係者ではないが、アンモラルグループの代表としてこのホテルに深く噛んでいる。
スタッフルームと彼女をつなぐものがあったとしても、なんらおかしくはない。
のーが、水色のチョーカーをいじりながら答える。
.
- 135 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:27:43 ID:KcS6WLfk0
-
(゚A゚* )「ちょいとしんどくてなァ……。風邪薬かなんか置いてへんの、って思うて。
スタッフルームっちゅーねんから、なんかありそーでしょ?」
(´・ω・`)「まあ、実際は1Fにしかなかったわけですが。それも、内服薬はないみたいです」
(゚A゚* )「ホンマなー、そーゆーところがあの人のビジネスあかんところや思いますねん」
(´・ω・`)「あの人、とは」
(゚A゚* )「モナーさんやん、モナーさん!
なよなよしてて、せっかくウチらがアドバイスしても、まるで聞きよれへん!
ウチら、あのアンモラルやで? 言うこと聞いてたら、セイコウ間違いなしやのになァ。
そーですやろ!? 刑事さん」
(;´・ω・`)「すみませんが、僕、そのナントカって企業、存じてないので」
(゚A゚* )
ショボーンが申し訳なさそうに言うと、のーは絶句した。
侮辱された――というよりも、信じられない――と言いたげな絶句だった。
(゚A゚*;)「……う、嘘でしょー。シャレになりませんよソレ」
(´・ω・`)「は、はあ」
(゚A゚* )「ま、ウチらは商業関係者と若い人らに知られてるから。
リーマンさんや公務員さんが知らんのもしゃーないこっちゃって!」
(´・ω・`)「そうですか」
(゚A゚* )「で、ほかに聞きたいことはありますの?」
(´・ω・`)「一応、あなたの当時の行動を証明してくれる人がいたら教えてください」
(゚A゚* )「うーん……あ」
(´・ω・`)「いますか?」
(゚A゚* )「17時50分くらいかな。ウチがホールに向かうとき」
「そんときに、シラヒーゲさん見ましたよ」。
のーに対する取り調べは、その言葉で締めくくられた。
.
- 136 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:28:48 ID:KcS6WLfk0
-
そう簡単にアリバイが成立するはずがない。
それはわかっていたのだが、やはり「パーティがはじまるまで自由行動」というのがなかなかに厳しかった。
ショボーンは続いて、話に挙がったシラヒーゲを対象に取り調べた。
が、彼は喫茶店にずっといた、としか言えなかったようだ。
美術品提供のことで、ショボーンの想像できないほどに頭を悩ましていたらしく
「気がつけば時間になっていたから、エレベーターに乗って10Fに向かった」とのことだ。
(´・ω・`)「喫茶店にいたことは、17時少し前から証明されているんでしたっけ」
( ´W`)「そうですね…。あなたと、マリントンさんに……」
(´・ω・`)「あれ、そういやプギャーさんと何か話しておられたようですが」
( ´W`)「おっと、忘れておりました」
(´・ω・`)「彼とは、具体的には何時から……?」
( ´W`)「すみませんが……断言できることではありません」
(´・ω・`)「あいまいに、でもいいんです。なんなら、腹時計から推察しても」
「なんですかそれ」と力なく笑うシラヒーゲ。
やはりどこか、元気がないようだ。
提供が決まったからだろうか。
本人はその件で悩んでいると思われるので、今はそこを突かないようにするが。
.
- 137 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:30:19 ID:KcS6WLfk0
-
( ´W`)「ここにきてわりとすぐに彼と話をはじめたので……そうですね。
. 16時頃には既に、喫茶店で話をしていたような。
. マリントンさんと話すときに座っていたテーブル席ではなくて、当時はカウンターでしたが」
(´・ω・`)「ということは、一時間近くも話していたのですか。
. あそこ、コーヒーとか出せないんでしょ」
( ´W`)「いえ、飲み物は頂戴しました」
(´・ω・`)「へ?」
( ´W`)「3Fに、ゲームコーナーがあるでしょ。その傍らの自販機から。
. それを話す前に、つまり16時ちょっと過ぎでしょうか。そのときに彼が買いにいってくださったのです」
(´・ω・`)「ほう」
プギャーは、見た目と粗雑な言葉遣いから、若干気が荒い人ではないのか、とショボーンは思っていた。
だが、まじめな話をするときは、やはりまじめな対応をとることができる男のようだ。
確かにそれほどの人材でないと、このホテルの副支配人を務められるはずもなかろう。
( ´W`)「で、マリントンさんは早めに行くとおっしゃっておりまして、20分頃には喫茶店で別れました。
. だから、17時20分以降のアリバイはありません。が、その後もぼくはずっと喫茶店にいましたね」
(´・ω・`)「のーさんから、ホールに着いたときにあなたと出くわしたとおうかがいしましたが」
( ´W`)「ああ。50分過ぎにエレベーターに乗ったんですが、降りて少し歩いたら、
. 階段のほうからやってくる彼女を見かけましたね、そういえば」
(´・ω・`)「階段……」
のーは、10Fに向かおうと思ったところで、スタッフルームに寄ろうと9Fで降りたと言う。
そしてようやくホールに向かおうとしたとすると、エレベーターは当時、シラヒーゲが乗っていたことになる。
だから、のーは階段を使って10Fに向かったのだろう。そう考えると、きれいにつじつまがあった。
また、一階分程度なら、階段のほうがはやいケースもある。
集合時刻とその移動方法については、これで証明されたな、とショボーンは脳に刻んだ。
.
- 138 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:31:09 ID:KcS6WLfk0
-
( ´W`)「……ほかには」
(´・ω・`)「そうですね――」
(-@∀@)「ショボーン警部!」
(´・ω・`)「は、はい」
ショボーンが続けて取り調べをしようとすると、右前方からアサピーに威勢のいい声で呼ばれた。
苦手な声であり、またそれがひときわ大きかったので、ショボーンの鼓膜はいつも以上に震えた。
不吉な予感をいだきながら、応対する。
(-@∀@)「あくまで、殺人犯はこのなかにいるんですよね?」
(´・ω・`)「え? あ、たぶん…」
(-@∀@)「でも、残りのみなさんは無実なわけですよ」
(-@∀@)「善良な市民を凶悪な犯罪者と同じ空間にいつまでいさせるおつもりですか!」
(;´・ω・`)「え、ええ…?」
アサピーが矢継ぎ早にそう言ってくる。
もともと記者ゆえに早口には慣れているし、加えてショボーンの苦手な人であるため、
その並べられた文句のひとつにも、ショボーンは反論することができなかった。
.
- 139 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:31:49 ID:KcS6WLfk0
-
(-@∀@)「私はね、いますぐにでもレポートをまとめて、本社に電送したいんですよ。
そのまえに殺されちゃあ、たまったもんじゃない!」
(´・ω・`)「(あ、あくまでレポート優先か……)」
――無実の自分が、取り調べに時間を割かれる。
それにいかる人は、いままでにもいた。それも、多くだ。
そのため、アサピーの今の主張は、半ば仕方ないもののように思えた。
彼の場合、動機はいささか不純でこそあるが――
しかし、アサピーのよくあるクレームとして、そこでとどめておけばよかった。
問題は、そのアサピーの主張がきっかけで、導火線に火が点いてしまったということだ。
(゚A゚*;)「そ、そーやん! 思うたら、こンなかに犯人がいてるんかもしらんねんやろ!?
. はよ返してェや! いやや、ウチ怖いわ!」
爪;'ー`)「そ――そうだ! 早くワレワレを解放してくれ! いや、してください!」
(-@∀@)「あなたは、善良な市民の恐怖を煽り立ててまでこの場で取り調べをなさるおつもりですか?」
(;´・ω・`)「くッ……(なんでここまで言われなくちゃだめなんだ!)」
――が、主張はもっともだ。
ショボーンとワカッテマスは殺人に慣れているからそこまで動揺してはいないが、
その他大勢の皆は、殺人なんてめったなことがない限りでは遭遇すらしないのだ。
まして、その犯人と隣り合わせになっているのかもしれない――となれば、その恐怖心は倍増されることだろう。
どうしたものか――と、ショボーンが思ったとき。
事態を聞きつけたワカッテマス、と彼が今しがた話していたのであろうマリントンが、駆けつけてきた。
.
- 140 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:32:36 ID:KcS6WLfk0
-
( <●><●>)「警部」
(´・ω・`)「あ、ああ……あんたからも言ってくれよ。こっちだって好きでしてるんじゃないって、さ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「まー、不可抗力ってやつでしょ」
(´・ω・`)「………で、あなたはいったい、なにか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ああ、そのことですがねェ」
( <●><●>)「閉鎖された空間ということもあって、皆さんの恐怖心は増しています。
だから、一人きりになれる空間を用意して、まずは安堵させるのが先決ではないのか、とこの人が」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ほれ、テキトーに客室の鍵を用意してやった。これを皆さんに配ってあげなさい」
(´・ω・`)「…!」
ショボーンが見ると、マリントンのしわくちゃな両手の上には、人数分の鍵が載せられていた。
数字――階数と、アルファベット――同フロア内でのナンバーが書かれたプレートがついてある。
5-Cや6-Aなど、隣り合わせになるような組み合わせのものは一切なかった。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「一応、離れ離れになるよう鍵を選んだつもりですぞ。
誰かと一緒にいたい、とおっしゃる人にゃー好きにさせたらいい。
とにかく、今はこっちの騒ぎをなんとかしてくれませんか」
(´・ω・`)「い、いいのですか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「鍵の管理はモナーさんに任されておる。好きになさい」
(´・ω・`)「わかりました」
そこで、ワカッテマスがタイミングを見計らい、大きな声でアナウンスをした。
「個室の鍵を配りますので、必要な方はとりにきてください」、と。
すると、のーやフォックス以外にも、団体でいると落ち着かない人がほとんどだったようで
ぞろぞろと、マリントンのもとに集まっては、無造作に鍵を受け取っていった。
( <●><●>)「では、また後ほどお部屋に向かいますので、そのときに改めて取り調べをさせていただきます」
.
- 141 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:33:08 ID:KcS6WLfk0
-
そう言うと、フォックスとアサピーは走って、残りの皆はそれぞれの速さで
10F、メインホールを後にした。
(´・ω・`)「………」
ショボーンは、そのそれぞれの背中を、見送るだけだった。
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第三幕
「 招かれざる客 」
おしまい
.
- 142 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/23(土) 20:34:16 ID:KcS6WLfk0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
.
- 143 :同志名無しさん:2013/02/24(日) 00:16:16 ID:kwOlGDMA0
- うむ・・・まさか
- 144 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/25(月) 18:55:52 ID:c8V4XLSg0
- 芸さんにまとめてもらいました
セリフで改行してるところが微妙にずれて見えるのが気になる人は、ぜひ下記ページでどうぞ。直ってますよ
シリーズ通じてこれで三回目。ありがとうございます!
→ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIII.htm
ituwariIIIのIIIがかっこよすぎて
- 145 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:53:34 ID:cDezfdzI0
-
取り残されたショボーンとワカッテマスは、このメインホールの広さを痛感させられた。
張り詰めた空気のようなものに、押しつぶされそうに感じられたのだ。
広いからこそ、そのなかの粒にすぎない自分たちの身分をわきまえさせられる。
はあ、とため息を吐いたのは、ショボーンだった。
なにか、嫌な予感がしたのだ。
(´・ω・`)「なあ、ワカッテマス」
( <●><●>)「なんですか」
(´・ω・`)「現場がどういう状況だったか……知りたくないか?」
( <●><●>)「私の意志がどうであれ、知らなければならないはずです」
(´・ω・`)「はは、そういうと思ったよ。あんたはそういうやつだからな」
( <●><●>)「で」
(´・ω・`)「ジョークすら言わせてくれないのか……」
ワカッテマスが一歩、歩み寄る。
平生と捜査時とではショボーンは人が変わるのだが、
それは自然とそうなるのではなく、あくまで意識的に変えているのだ。
そしてショボーンは、その捜査時のような堅苦しい雰囲気が苦手だった。
.
- 146 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:54:11 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「凶器はナイフ、とうかがいましたが」
(´・ω・`)「いいか、よく聞け。これはありえない犯行なんだ」
( <●><●>)「な、なんですか」
ワカッテマスが首を傾げる。
同時に、不吉な予感がした。
(´・ω・`)「モナーさんは、カウンター席で、ドアから近いところに安置されていた。腹にナイフを刺されて、な」
( <●><●>)「その時点で、なかなか奇妙ですね」
(´・ω・`)「奇妙なのはここからさ。そのナイフには、紐がくくりつけられていた」
( <●><●>)「……ハ?」
(´・ω・`)「ちょっと話を戻すけど、ナイフは、あくまで僕とレモナさんが着くまでは、刺さりっぱなしだったんだ」
( <●><●>)「それはわかりましたが……」
「腹にナイフを刺されて安置されていた」と聞けば、そのことは容易に予想がついた。
――と、それを脳内で再現すると、ひとつおかしなことが起こった。
( <●><●>)「――ちょっと待ってください。矛盾していませんか」
(´・ω・`)「というと」
( <●><●>)「あくまで、警部が緒前さんを発見したとき、大量の血を流していたんですよね」
ショボーンは言葉を発さない。
その代わり、こくり、とうなずいた。
ワカッテマスは、いまから自分が何を言おうとしているのかこの人はわからないのか、と思った。
.
- 147 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:55:04 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「……あの、ですね」
(´・ω・`)「なんだ」
( <●><●>)「もしかして、緒前さんに刺さっていたナイフを抜いたのは、警部なんですか」
(;´・ω・`)「ばッ! ……アホ!」
( <●><●>)「いや、しかし」
(´・ω・`)「あんたに考えさせた僕が悪かった。
. ……が、その矛盾こそが、僕の言う『ありえない犯行』につながる」
そこで、ワカッテマスは黙る。
(´・ω・`)「モナーさんにナイフは刺さりっぱなしだったんだけど、
. 僕とレモナさんがバーの扉を押し開けたとたんに、そのナイフは抜かれてしまったんだ」
( <●><●>)「ハ?」
(´・ω・`)「そこで、『紐』だよ」
( <●><●>)「……?」
(; <●><●>)「……ッ!?」
(´・ω・`)「犯人は、モナーさんを刺して、柄に紐をくくりつけた。
. その先を、ドアの取っ手にもくくりつける。
. ピン、と張った状態で、な」
(´・ω・`)「そして、モナーさんはドアを抜けて右側に安置されていたわけだが、
. 扉は左前方に押し開けるような構造になっている。……つまり」
( <●><●>)「誰かが彼を発見すると、同時に彼から大量の血が噴き出されることになる」
.
- 148 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:55:48 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「理由はわからない。が、たぶんこういうことだろう。
. 刺した時点では返り血を浴びなかったとしても、そのナイフを抜けば、必ず返り血をもらうことになる。
. しかし、ナイフを抜かなければモナーさんを失血死させることが叶わなくなるかもしれない。
. だから、自分は返り血を浴びず、しかし確実にモナーさんを殺せるような仕掛けを施したかった。
. その結果が、このトリックだ――ってね」
そこまでは、ワカッテマスも理解できた。
しかし、それのどこが「ありえない犯行」なのだろうか。
ワカッテマスでも、そこがわからなかった。
いや、彼でもわからないからこそ、ショボーンはこの話をしているのだろう。
ワカッテマスはその結論に行き着いた。
そのため、黙って続きを促す。
(´・ω・`)「しかし――というより、大前提として、窓の外は大雪が降ってるよな」
( <●><●>)「そりゃ」
二人はメインホール上部に取り付けられたガラス張りの壁に目を遣る。
西から東に、豪雪がそれを強く叩きつけている。
(´・ω・`)「つまり、窓からの逃亡は不可能だ」
( <●><●>)「? 逃亡?」
「なんの話ですか」とワカッテマスが続けようとすると、ショボーンが遮った。
まだ本題に触れてないのだ。
(´・ω・`)「考えてみろよ。その仕掛け――紐をつないだのは、扉だ。
. 『誰かがきたら失血死』のからくりをつくるのに一番適した場所は、
. というか唯一条件を満たすのは、扉なんだから」
(´・ω・`)「そして仕掛けを組み終えるとき、犯人はまだ室内にいる」
( <●><●>)「?」
(; <●><●>)「―――ッ!! ちょっと待ってください!」
(´・ω・`)「どうだ。『ありえない犯行』だろ?」
.
- 149 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:56:49 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「あくまで、ピンと張らなくちゃだめなんだ。
. 扉をちょっとだけ開けてそこを覗いたらモナーさんがいた――だから紐を切る――とか、
. いったんバーの外に出て、上体だけを室内に入れてから紐を取っ手に結んでいると、ナイフが抜けた――とか。
. さまざまなアクシデントが考えられるからな」
(´・ω・`)「でも、ピンと張るように仕掛けをつくるとなると、
. それを施す人、つまり犯人は室内でそれをこなさないとだめだ。
. 一方で、もちろん、犯人はみごとその室内から脱出しなければならない」
(´・ω・`)「……さあ、ワカッテマス。この『ありえない犯行』のどこに……
. 《偽り》が潜んでいると思う?」
( <●><●>)「……ッ」
そう訊かれて、ワカッテマスは答えに窮した。
現場を訪れていないのでまだはっきりとは言えないが、
ショボーンのことだ、室内は見渡したのだろう。
その上で「ありえない犯行」と行き着いたのだから、
おそらく自分が現場を見ても、そのしかけがわかるはずがない。
少し経っても口を開こうとしないワカッテマスに見切りをつけて、ショボーンが代わりに口を開いた。
いつまでもここで推理ごっこをしていては、捕まえられる犯人もみすみす逃がしてしまうのだ。
(´・ω・`)「……まあ、心配しなさんな。このショボンヌ様が、《偽り》を見抜いてやるよ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ついでにワタシの捜し物の在り処も見抜いてはくれませんか」
( ´・ω・)「ん? 別に、捜査のついででよければ――」
( ;´゚ω゚)「!?」
(; <●><●>)「い、いつから――!?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そ、そんな驚かんでくれ。なに、ちょっとイジワルしようとだな……」
.
- 150 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:58:02 ID:cDezfdzI0
-
( ;´・ω・)「……いまの話、聞いてました?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「? すまん、ほとんど聞いておりませぬよ」
(´・ω・`)「なら、いいんですが」
あくまで、捜査上飛び交う情報の全ては、基本的に極秘となっているのだ。
そうでなくても、彼が犯人であるかもしれない以上、そういった話は聞かせたくなかった。
気を取り直して、ワカッテマスが問う。
( <●><●>)「あなたは個室をとらなくて、いいんですか?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「構いはしませんよ。ワタシは殺される理由もないし、犯人を恐れる必要もない」
( <●><●>)「…ッ」
マリントンが穏やかな口調で、しかしワカッテマスの心に響くような言葉を放った。
少し、ワカッテマスがひるむ。
(´・ω・`)「それはいいのですが、捜し物、とは?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ユメとキボーかの……」
(´・ω・`)「捜査妨害で逮捕するぞ」
|;;;;| 。゚っノVi ,ココつ「ッ!? じょ、ジョーダンですわ、ジョーダン!!」
(´・ω・`)「まあ……だいたい、見ればわかります」
( <●><●>)「鍵、ですか?」
マリントンは、鍵がいくつも通されている、少し大きめな鉄のリングを握っていた。
そこに、先ほど皆が持っていった客室のそれと同じような鍵が多数、ほか形状の違う鍵がちらほら見られた。
マリントンは、ここから適当に十個弱の鍵を拝借したのだろう。
.
- 151 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:59:04 ID:cDezfdzI0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「さっきまでは、これは倉庫にかけといたんですわ。ワタシが常に持っててもしゃーないし」
(´・ω・`)「鍵が、なくなったのですか?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「5F、制御室の鍵だけが、どーも見当たらんのですわ」
( <●><●>)「制御室?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「このホテルの電力を制御する部屋、ってところでしょーな。ワタシにはようわからん。
その部屋の鍵がなくなってしもーて……なくしたのがバレたら、モナーさんに怒られますわ」
ここで、モナーが生きている未来を前提にしてそう言ったところに、ショボーンは好感を持った。
だが一方で、ショボーンの先ほど抱いていた嫌な予感が、膨らむことになった。
しかし、それを顔に出してはいけない。
そう思って、ショボーンは平生を取り繕う。
.
- 152 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 20:59:36 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「わかりました、見つけたらまた持ってきます」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「頼みましたよ。ワタシはこのフロアにおりますから」
(´・ω・`)「ちなみに、この鍵はどこに置いていたのですか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「倉庫ですわ、倉庫」
(´・ω・`)「倉庫……料理が運びこまれてた、とか言う?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そーそー。いつもはスタッフルームに置いとくんですが、今日だけ臨時で置いてたんですわ」
(´・ω・`)「最後に鍵を確認したのは、いつですか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「16時ちょい過ぎ……だったと、記憶しとります」
(´・ω・`)「(結構近いな……)」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「モナーさんにバーの鍵を渡したんで憶えとりますわ」
(´・ω・`)「わかりました」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「いやね、あんたのホテルでしょーから勝手にもってけばええじゃないですか言うたら、
『おまえに任せてるから、どこにあるかわかるはずないモナー』、ちゅーんですよ」
(´・ω・`)「それはいいとして、ちょっとお話をいいですか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「? 取り調べならさっきそっちの人からされましたが」
( <●><●>)「彼は17時までは入浴していて、それから4Fで黒井さんと対話、17時半にここにきたとのことです」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「よう憶えておりますわ。若いっちゅーんは、ええもんですな」
マリントンが、ショボーンに横目をちらちらと使いながら言う。
それに、ショボーンは少しムッとした。
.
- 153 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:00:43 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「僕はまだまだ若いぞ」
( <●><●>)「それはいいとして。警部、彼に、ほかになにか?」
(´・ω・`)「ホールにはいち早く着いたんですね?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「言っても30分ですがな」
(´・ω・`)「じゃあ、覚えている限りでいいので、
. 招待客がこのホールに集合した順とその時刻を聞かせてください」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そんなモン、憶えてるわけなかろ」
(´・ω・`)「だから覚えている限りでって言ってるでしょ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「さ、最近の刑事っちゅーもんは怖いですな。わかりましたわ、ちょっと待ってくだされ」
(´・ω・`)「ったく……」
( <●><●>)「(警部は、老いを気にしておいでか)」
マリントンは腕を組み、「ふーん」と長い間うなった。
その考えるそぶりが大げさで、年寄りとしての印象がより強まる。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……あんま憶えちゃおらんが、18時を遅れてきよった人がいたのは確かですわ」
(´・ω・`)「僕たちのことじゃないですよね」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「あー、あんたらは論外」
( ;´・ω・)「ッ…」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「確か、あれは……」
もったいぶるつもりか、徐々に思い出しつつあるのか、そこでマリントンの言葉はゆっくりになった。
語尾を濁すように伸ばして、少し間を置いてから、言った。
.
- 154 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:01:36 ID:cDezfdzI0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「プギャー」
(´・ω・`)「?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「プギャー副支配人が、数分ばかし遅れてきよった記憶がありますな」
(´・ω・`)「……話は合ってるな」
( <●><●>)「?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ま、そんときはモナーさんとプギャーさん含め、四人も遅刻かましとったから、
彼ひとりの遅刻をとやかく言う人も、気にする人もおりませんでしたが」
(´・ω・`)「どーも、悪かったですねえ!」
( <●><●>)「まあまあ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「まあ……いざモナーさんが刺された、となると、彼にそこらへんの話を聞くべきかと」
(´・ω・`)「わかりました。ほかはなにか覚えてませんか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そーですなあ。
……ふーむ…。
…あ、そーいえば」
(´・ω・`)「ありますか」
.
- 155 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:02:16 ID:cDezfdzI0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「オオカミの人おったでしょ」
( <●><●>)「大神フォックスさん、ですね」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「あの人は時間に間に合っておりましたが、どこか顔色が悪かったようでしたぞ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「まあ、あーいう性格なんかもしれませんがな」
(´・ω・`)「(確かに)」
( <●><●>)「以上でしょうか」
話が逸れる前に、とワカッテマスが先手を打つ。
マリントンは自信なさげにうなずくことしかできなかった。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「時間が経てば、また何か思いだすかもしれんが」
(´・ω・`)「ま、そんときはまた来ますよ」
そう締めくくって、ショボーンは去ろうとした。
しかし、マリントンの「待ってくだされ」という声が、彼を引きとめた。
踏み出そうとした足を引く。
振り返ると、先ほどとは違ってどこか真剣さを増したマリントンが、眉間にしわを寄せていた。
その顔に、どこか心打たれるものすら感じられる。
.
- 156 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:03:33 ID:cDezfdzI0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「なんとか……」
(´・ω・`)「?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「なんとか……モナーさんを刺したヤツを、捕まえてはくれませんか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「モナーさんとは、昔からの……昔からの仲なんですわ」
(´・ω・`)「……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ワタシにできることがあれば、なんでも言ってくだされ。協力しよう」
――マリントンは、モナーのことを好く思っていたのだろう。ショボーンは、そう感じた。
当然、こんな態度を示したからといって彼が犯人候補から除外されるわけではない。
しかし、ショボーンに感心を与えるには充分な態度だった。
.
- 157 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:04:03 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「そうですね、ではさっそく」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「なんですかな」
(´・ω・`)「モナーさんのエピソードでも聞かせてくれませんか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「は? ……い、いや、かまいませんが」
( <●><●>)「?」
ワカッテマスもマリントンも呆気にとられるが、それを言葉にはしない。
降雪の音以外で静けさが増すホールのなかで、マリントンは少しずつ、言葉を発するようになった。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「なんちゅーかの、もう二十年以上の仲でしてな」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「なにから話せばええんか……」
(´・ω・`)「なにか、モナーさんにまつわる、興味深いエピソードなんかがあれば」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「興味深い……」
(´・ω・`)「……ない、ですか?」
ショボーンは残念そうな目をする。
事件を捜査するさい、もちろんアリバイや目撃証言などは大事であるが、
一方で、こういった、事件とは関係のない、人物間でのエピソードなども同様に大事だ。
ショボーンはそう考えているため、そういった話も聞きたかったのだが――
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……いや、ないわけじゃなくてですな。
その……言うてええもんかどうか………」
(´・ω・`)「…?」
ショボーンの不安ははずれた。
マリントンは「話すものがない」のではなく「話せない」ようだった。
なにか、人には言いづらいエピソードがあったのだろう。
最初は言うのをためらっていたようだが、
ショボーンの、人の警戒心を削ぐ和やかな視線を受け止めていると、
やがてマリントンは、「別にいいだろう」と思ったのか、ゆっくり口を開いた。
.
- 158 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:04:51 ID:cDezfdzI0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「あんましええ話と違いますんで、口外せんっちゅーことで……」
(´・ω・`)「わかりました。なんですか?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「モナーさんがようけ会社引き連れてるっちゅーのはご存じですな?」
(´・ω・`)「ええ。それが、なにか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「陰でうわさされとるレベルなんですがねぇ……
モナーさん、例のグループにええように使われとるっちゅー話ですわ」
(´・ω・`)「例のって……」
ショボーンは、どきりとした。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「アンモラルグループ、ですよ」
( <●><●>)「また、アンモラルか……」
ショボーンとまったく同じ心地になったワカッテマスが、言う。
マリントンは大きくうなずいた。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「あくまでうわさァ言いますがねェ、ワタシも実際に怪しいモンは見てるもんで」
(´・ω・`)「というと?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「モナーさんチに行ったら、なんか黒服の人がぞろぞろ出てきよって……
入れ違いで家に入ったら、モナーさん、荒れとったな。もう、ものごっそ昔ですが」
(´・ω・`)「(モナーさん……)」
.
- 159 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:05:36 ID:cDezfdzI0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「こんな暗い話は、まあええやないですか。それより、もっと明るい話ならしたりましょ」
(´・ω・`)「そうですね。でしたらここにいらっしゃる、ガナーさんの話でも」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ムスメか。ええですぞ、ワタシとモナーさんしか知らないことを教えてやりましょう」
(´・ω・`)「え? ……い、いきなり凄い話だな」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「二十年ちょっと前の、ちょうどこないなふうに雪のひどい日ィでしたわ。
誕生日はいつやったかのォ……まあ、それはエエとして」
(´・ω・`)「ほうほう」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「実はね、あの子の首筋、うなじのあたりに、でっかいホクロがあるんですわ。
いやー、もう十何年も見んうちにベッピンさんになりよって……ええのぅ……」
(´・ω・`)「帰るぞ、ワカッテマス」
( <●><●>)「はい」
.
- 160 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:06:08 ID:cDezfdzI0
-
|;;;;| 。゚っノVi ,ココつ「な、なんでや! ……じゃない、なんでですか!」
(´・ω・`)「歳をくうと性欲が減る、なんて聞きますが、あなたは例外のようですね」
|;;;;| 。゚っノVi ,ココつ「ほ、ホクロの話ひとつで、ワタシを変態扱いせんといてくだされ!!
だいたい、あんたがしてくれー言うからにワタシは――」
( <●><●>)「いきましょうか」
(´・ω・`)「おう」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「〜〜〜ッ! ええやろが、うなじに見惚れたかて!
. しかもそん時はまだ赤子! 情なんざ覚えるわけが……って、聞いとるのか! 待て!」
(´・ω・`)「……僕も歳とったら、ああなるのかなぁ」
( <●><●>)「私に聞かないでください」
.
- 161 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:06:52 ID:cDezfdzI0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第四幕 「 雪の調べ 」
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- 162 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:07:23 ID:cDezfdzI0
-
ショボーンはエレベーターの前に立って、あることを思い出した。
誰が――まではいいにしても、どこに皆がいるのかがわからないのだ。
それをワカッテマスに言うと、ワカッテマスはにんまりと笑った。
彼がこう笑うと、本人はただの不敵な笑みのつもりなのだろうが、どこか不気味である。
そんなことを気にすることもなく、ワカッテマスは続けて口を開いた。
( <●><●>)「一応、どの鍵が選ばれたかは把握しております」
(´・ω・`)「そ、そうなの」
( <●><●>)「まず、5Fは――」
( ;´・ω・)「メモを頼む」
( <●><●>)「口頭でいいでしょうに……」
(´・ω・`)「覚えられっか、そんなもん」
( <●><●>)「……あ、そうでしたね。老化と記憶力の低下は因果関係にある、と聞い」
( ;´・ω・)「黙って書け!」
( <●><●>)「わかってますよ」
いまのくだりはただの彼らしいジョークだったようで、
彼は、はじめからメモにその鍵のことを書くつもりだった。
言われて、スムーズに手帳を取り出してはサラサラ、とペンを走らせる。
ショボーンは何歳だった。
ワカッテマスは手を動かしながらふと思ったが、よく考えたら、
この男が過去に自分のことを話したことなど、あまりなかったことを思い出した。
「独身らしい」「昔は泣き虫だった」程度の噂しか、知っていない。
まだVIP県警に勤めて五年くらいしか経っていない。
まだまだこれからなのだろう。ワカッテマスはそう割り切った。
.
- 163 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:07:55 ID:cDezfdzI0
-
そして、ワカッテマスはその、マリントンがチョイスした部屋をメモに記し終えた。
それをショボーンに手渡す。
5-C、5-G、6-B、7-A、8-I、9-E、9-J。
マリントンが選んだ鍵にはあと6-H、7-D、8-Aが残っていたが
マリントン本人とレモナとプギャーは鍵を受け取っていないので、数としてはあっている。
それを見て「確かにばらばらだなあ」とショボーンは思った。
マリントンは平生がどこか抜けているだけで、その実態は気の利く優秀な人材なのかもしれない。
プギャーといいマリントンといい、侮れない者ばかりだ、とショボーンは笑った。
が、笑ってばかりはいられない。
ここから、各部屋に回って、より詳しい話をしなければならないのだ。
考えたくはないが――連続殺人の可能性が、あるのだ。
ショボーンは最初、その考えを「ミステリードラマの見すぎだ」と自嘲したが
マリントンとの会話のなかに、そんな不吉なものを臭わせるものがあったため、
気がつけば、真剣にそれを警戒する気持ちが溢れてきていたのである。
(´・ω・`)「制御室」
( <●><●>)「?」
――制御室。
そのくだり、だ。
.
- 164 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:08:27 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「エンジンルームみたいなものらしいな。
. それを聞いて、ふと思ったんだ。今回の事件のことを。
. クロッズド・サークル……制御室……ありえない犯行……」
ワカッテマスは、ショボーンがそうつらつらと言ったのを聞いて、
彼がいったい何を言いたいのかわからない男ではない。
嘲笑するように口に手の甲を当てた。
( <●><●>)「どうしました、警部」
(´・ω・`)「イヤ〜な予感がするんだよ。
. それも、小説の世界でしか見られないような事件がはじまるんじゃね、っていう、ね」
( <●><●>)「都村さんに聞かせてあげたいですね。彼女も笑いますよ、きっと」
(´・ω・`)「でも、なあ……。ワカッテマス、お前はどう思う?」
( <●><●>)「はい?
(´・ω・`)「制御室の鍵が――盗まれた、としたら?」
( <●><●>)「……ッ」
.
- 165 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:08:59 ID:cDezfdzI0
-
ワカッテマスは、笑うのをやめた。
ショボーンの「不吉な予感」というのは、そんなフィクションの強い事件ではなく
ひょっとすると、はじめから、そちらに向いていたのかもしれない。
「制御室の鍵が、盗まれたとしたら」。
モナーを刺した際も、計画性のうかがえる仕掛けが施されていた。
加えて、そこに盗難計画があったとしたら、それらをつなぐことで導き出される「フィクション」のリアリティが、増す。
ワカッテマスは、笑えなくなった。
少し、黙る。
ショボーンの持つ嫌な予感に言及しようと、思考をめぐらせたのだろう。
だが
( <●><●>)「………暗闇や寒冷は、人にネガティブな思考を促進させます。
警部の予感は、ただの考えすぎでしょう。……不吉なことは、言わないでください」
そうとしか、いえなかった。
.
- 166 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:09:41 ID:cDezfdzI0
-
◆
(´・ω・`)「とりあえず、だ。あんたは、この……」
ショボーンは、今しがた受け取ったメモを見せる。
(´・ω・`)「どの部屋に誰が住んでいるのか、まで把握してるのか?」
( <●><●>)「まさか。いくら私が若くても、そこまでは」
(´・ω・`)「てめえ」
ワカッテマスの、ショボーンに対する扱いがだんだんと杜撰になってきつつあるため
ショボーンは軽く怒ると同時に、自分が情けなく思えてきた。
それを察したか、まではわからなかったが
ワカッテマスはその話を続かせようとはしなかった。
.
- 167 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:10:15 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「しかし、都村さんの部屋はわかってますよ」
(´・ω・`)「トソンちゃんの? これまたどーして」
( <●><●>)「だって……」
ワカッテマスは、記憶をそのときにまで遡らせる。
( <●><●>)『(これで全員分行き渡ったか?)』
(゚、゚トソン『…』
( <●><●>)『(都村さんがもの欲しそうな目で見ている)』
(゚、゚トソン『…』
( <●><●>)『どうしましたか、都村さん』
(゚、゚;トソン『へ? ……いやあ、あっはは』
( <●><●>)『部屋、いらないのですか?
考えにくいことではありますが、ひょっとすると一日を
ここで過ごさなければならないのかもしれないのですよ』
(゚、゚トソン『……ひとりになるのが、怖くて』
( <●><●>)『と、言われましても……』
(゚、゚トソン『でも、寝る部屋がないのは困ります。ひとつください』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『てきとーに持っていきなさい』
(゚、゚トソン『刑事、選んで』
( <●><●>)『なぜだ……』
.
- 168 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:10:51 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「……と」
(´・ω・`)「最近、あんたにも心を開いてきたんだな、トソンちゃん」
( <●><●>)「警部、私には未だにあの人の〝ヒト〟がわかりません」
(´・ω・`)「おドジな女子高生さ。……せっかくだし、あの子のとこから行くか。どこの部屋だい」
( <●><●>)「5-Fです。北寄りの部屋なので、エレベーターを降りて少し歩かないといけません」
パンフレットで見た地図の情報を思い出しながら、ワカッテマスが言う。
よし、と言うとショボーンは手を叩いた。
(´・ω・`)「いくか」
( <●><●>)「私はどうしましょう」
(´・ω・`)「別行動をとったほうが効率的なんだけどなぁ。
. とりあえず今は一緒にきてほしい。まだ、僕の中で方針が定まってないんだ」
( <●><●>)「手分けして取り調べしたほうがいいと、私は思いますが」
(´・ω・`)「そうなんだけど……僕も歳かな。制御室の鍵のことが気になるんだ。
. キリがいいところで単独行動を任せるから、さ」
.
- 169 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:11:53 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「わかりました。しかし警部」
(´・ω・`)「なんだ」
( <●><●>)「一応個室を用意したまではいいのですが、
ずっと自室に籠もっていなければならないわけではありません。
自室にいないで、どこか――温泉やゲームコーナーにいる人がいるかもしれないことをお忘れなく」
(´・ω・`)「あとであんたにそっちのほうを任せるよ」
( <●><●>)「面倒ごとは全部部下の仕事。わかってます」
( ;´・ω・)「いちいち小言が過ぎる部下だなあ!」
( <●><●>)「これもジョークです。……いきますか」
(´・ω・`)「……そうだな」
二人は待機させておいたエレベーターに乗り込んだ。
時刻は19時をやや過ぎている。
吹雪の影響もあって、いっそう冷え込む時刻だ。
気分まで冷え込まないうちに、と二人はさっそく5F、トソンのいるフロアへと向かった。
.
- 170 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:12:25 ID:cDezfdzI0
-
◆
都村トソンとショボーン警部は、事件を通して何回出会っているのだろうか。
数えるのも億劫になりそうなほど、トソンは、一般人にしてはそのエンカウント率があまりにも高かった。
といっても、捜査をするうえで、彼女はほとんど通りすがりでしかなかった場合もある。
数ヶ月前の、オオカミ鉄道の爆弾事件のときも、そうだ。
彼女はたまたま、そのときショボーンが捜査するさいに乗り込んだ列車に乗り合わせただけだ。
一方で今年、彼女の通う学校で殺人事件が起こったのだが、その意味に追いては彼女は事件に深く噛んでいた。
「事件体質」はもはや、ショボーンですら笑うことのできなくなった、トソンの持つ一つの特性である。
――そして、今回も、か。
扉をノックする際、ショボーンはそう思った。
しかも今回は、ワカッテマスが冗談半分でそれに言及している。
深く考えていなければいいのだが、と心配して、彼は扉をノックした。
(´・ω・`)「……トーソーンーちゃーん」
( <●><●>)「そんな小学生みたいな……」
(´・ω・`)「あの子のことだから、部屋から出てどっかに行く、なんてことはなさそうだけど――」
直後、扉がいきおいよく開かれた。
ショボーンはそのとき、ワカッテマスのほうに振り向いていた。
その一瞬を、扉が襲い掛かった。
(´゚ω゚`)「ギャ――」
(゚、゚;トソン「はッはい!」
(゚、゚トソン「あ、刑事だったんですか――」
(゚、゚トソン「……、……? 刑事、なんで警部は倒れてるんですか」
( <●><●>)「……扉を開く前に、一度覗き穴というものを覗きましょう」
.
- 171 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:13:07 ID:cDezfdzI0
-
肩甲骨の間と後頭部をするどく打ち抜かれ、ショボーンは床に倒れこんだ。
ワンクッション挟んでから、ショボーンがその箇所をさすりながら起き上がる。
「トホホ」とでも言いたげな、哀愁漂う表情がこの男らしかった。
(´・ω・`)「あのねぇ」
(゚、゚;トソン「え? あっ……すみません!」
( <●><●>)「ドジ、という話は信じておきましょう」
(´・ω・`)「うるせーやい。それよりも、トソンちゃん」
(゚、゚トソン「は、はい。……立ち話もなんですので、なかで」
(´・ω・`)「そーいうところにだけ機転は利くんだ……」
トソンがショボーンたちを招き入れる。
どうやら、「さみしい」という気持ちは消えたわけではなかったようだ。
客室は、ホテルにしてはそこそこな広さとベランダ、簡素なジャグジーが備え付けられており
寝室とリビングとが分けられていて、そのどちらも、機能性とデザイン性の両方を重視した造りとなっていた。
まだオープンすらしていない、ということで、その内装は整っている。
フローリングの上に敷かれた楕円形の絨毯は床を覆いつくしており、歩くたびにその柔らかさがわかった。
一方でその上に載っているソファーも、じゃっかん沈みすぎではないのかと思うほど、腰を下ろすとその弾力性がわかった。
ショボーンは一度そのソファーに腰掛けてから、内装に目を遣った。
目の前にある長方形のガラステーブルの上には、キタコレやこのホテルのことを載せたであろうパンフレットがある。
トソンがせわしなく動いている――というよりあたふたとしている――ため、
ショボーンは手持ち無沙汰を感じ、そのパンフレットのうちの一つに手を伸ばした。
.
- 172 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:13:38 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「規模が大きなだけあって、客室もすごい内装ですね」
(´・ω・`)「……え」
( <●><●>)「どうしました」
ワカッテマスが簡素な感想を言うと同時に、ショボーンは虚を衝かれたような声を発した。
パンフレットを開きながらそれに目を通すと、あることがわかったのだ。
(´・ω・`)「これ……僕が船で買ったやつだ」
( <●><●>)「ぶっ」
(゚、゚;トソン「お、おまたせしました!」
ショボーンの嘆きに間髪いれずに、トソンがやってくる。
まだ緊張感というか、そういったものが抜けていない彼女は、刑事たちの向かいに座った。
刑事二人が彼女と向かい合うと、彼女はジュースをコト、とテーブルの上に置いた。
(´・ω・`)「そんな気を遣う仲でもないでしょーに。
. いつもどおりさぁ、無駄話感覚でいこうよ」
(゚、゚;トソン「と、取り調べを無駄話感覚!?」
( <●><●>)「……このジュースは?」
(゚、゚トソン「? そこの……」
.
- 173 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:14:13 ID:cDezfdzI0
-
ショボーンがその果汁100%のオレンジジュースの、プルタブをひく。
そのときトソンは、リビングの隅にある冷蔵庫に指をさした。
彼女が口を開いたのは、ショボーンがためらいなくジュースを口に含んだときだった。
(゚、゚トソン「冷蔵庫から」
(´゚ω゚`)「ブ――ッ!!」
(゚、゚トソン「!?」
( ;´・ω・)「ま、待て! ってことはコレ、商品じゃんか!」
(゚、゚;トソン「…? だ、だめなのですか?」
(´・ω・`)「……あのね。僕たちは、正式な宿泊手続きを踏んでるわけじゃないんだ。
. 勝手にそーいうのに手をつけちゃだめだよ」
(゚、゚;トソン「………! 警部、お金、まかせました」
(´・ω・`)
( <●><●>)「(おドジな女子高生……フム…)」
.
- 174 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:14:43 ID:cDezfdzI0
-
疲れたのか、ショボーンが汗を拭う動作を挟む。
いつまでも彼女のペースにあわせていると、できる捜査もできなくなるだろう。
やはり彼女が絡むとなにかしら面倒なことが起こる。ショボーンの、ジンクスだった。
(゚、゚トソン「そういえば……コート、脱いだんですね」
(´・ω・`)「へ?」
言われて、ワカッテマスも彼を見る。
特徴的なベージュのトレンチコートではなく、紺色のスーツが目についた。
(゚、゚トソン「なんだか、珍しいですね」
( <●><●>)「私は見慣れているのですが……」
(´・ω・`)「ああ。さっきね、バーで脱いだんだ。止血に使おう、って」
(゚、゚トソン「…! もう着れなくなっちゃうじゃないですか」
(´・ω・`)「だーいじょうぶ。あんなの、僕の財力にかかれば――」
(゚、゚トソン「コレのお支払い任せました」
( ;´・ω・)「!」
(゚ー゚トソン「……」
ショボーンの反応を見て、トソンが勝ち誇った顔をする。
そして、握っていたぶどうの缶ジュースを口にした。
――どうやら、落ち込んではいないんだな。
そうとわかっただけ、ショボーンはよし、とした。
.
- 175 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:15:15 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「……まあ、キャンディーは全部コートに入ってるから。あとで取りにいくよ」
( <●><●>)「……そろそろ時間も押してきているので、本題に入りましょう」
(´・ω・`)「そうだね。いいかい?」
(゚、゚トソン「……い、いいですけど。私、なにも見てないですよ」
(´・ω・`)「うん、どーして真っ先に目撃証言が浮かぶんだ」
( <●><●>)「あなたが、ずっと10Fにいたことはわかってます」
(゚、゚トソン「……知ってたのですか?」
(´・ω・`)「レモナさんとガナーさんの証言で、ね。
. それで聞きたいんだけど、16、7時から18時までの間で、なにか変なことはなかった?」
(゚、゚トソン「なにかって……」
トソンは、どうやらあらかじめ答えは用意していなかったようだ。
ジュースをテーブルの上に置いて、澄ました顔をして首を傾げる。
呑気なもんだ――としか、ショボーンは思えなかった。
(゚、゚トソン「あの、髪が灰色の人、いらっしゃるじゃないですか。たまにテレビにでる……」
('ー`トソン「こんな顔の」
( <●><●>)「大神さんですね」
(゚、゚トソン「あの人の顔がすぐれなかったなあ、ってことしか……」
(´・ω・`)「理由はわかる? 電話してた、とか、返り血を浴びてた、とか」
(゚、゚;トソン「……さらっとヒドいこと言いますね。違いますよ、ただなんか、そわそわしてただけで……」
.
- 176 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:16:51 ID:cDezfdzI0
-
(゚、゚トソン「……そうそう。前の記者会見のときみたいに」
――オオカミ鉄道総裁の大神フォックスは、よくテレビや新聞、はたまたゴシップ記事にまで載ることがある。
が、そのどれもが、だいたいの場合において、芳しいものではない。
最近の例を挙げると、オオカミ鉄道がアンモラルグループの傘下に
加わるかもしれないが、フォックスはその噂を否定している――などである。
そのときのフォックスは、16時半前、のーとの対談時に見せていたぺこぺことした様子と似ていた。
普段の、総裁としてのプライドなど全て捨て去った姿である。
(´・ω・`)「マリントンさんと同じ証言だけど……どう思う?」
( <●><●>)「まあ、聞いてみるに値するとは思いますね。
それに、あの人なら、ある程度強く言えばなんでもしゃべりそうな気がします」
(´・ω・`)「同感だ。
. 本題に戻るけど、ほかには?」
(゚、゚トソン「ほか……たとえば」
(´・ω・`)「そうだな。じゃあ確認の意味をこめて訊くけど、
. ほんとうにガナーさん、レモナさんはずっと10Fにいた?」
(゚、゚トソン「そんな、ずっと見てたわけじゃないのに」
(´・ω・`)「悪いわるい。……ほんとうに、ずっと一緒だった?」
悪い、とは思いつつも、ショボーンはあくまで念を押して聞いた。
この場において、アリバイはもっとも大事な要素だからだ。
もし、事実は違うのに安易にアリバイを容認していくと
事件の解決は永久に不可能になるか、無実の人を捕まえてしまうことになる。
そのことは、トソンでも知っていた。
だから、じっくり考えては、ゆっくり声を発した。
.
- 177 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:18:32 ID:cDezfdzI0
-
(゚、゚トソン「……ガナーさんとは、一緒にいましたよ」
(´・ω・`)「へえ。―――え?」
( <●><●>)「いま、なんと?」
(゚、゚トソン「? いや、だから……」
(´・ω・`)「レモナさんとは、一緒じゃなかったのかい?」
(゚、゚;トソン「……? い、いや、いましたけど……」
( <●><●>)「! でしたら、聞き方を変えましょう」
( <●><●>)「レモナさんは、いつから一緒でしたか」
(゚、゚トソン「いつからって……16時半前、警部たちが来てからかと……」
(´・ω・`)「どうもはっきりしないね」
(゚、゚トソン「……重要なこと、なんですよね」
(´・ω・`)「一応はね」
そう聞いて、ショボーンはうなずく。
そのため、トソンはもう一度、首をねじった。
手の甲、人差し指の付け根辺りを口につける。
.
- 178 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:19:08 ID:cDezfdzI0
-
(゚、゚トソン「…あ」
トソンは手を叩いた。
(゚、゚トソン「17時」
(´・ω・`)「17時?」
(゚、゚トソン「そのときまでは、レモナさんは倉庫から料理やテーブルなどを出して、
. ガナーさんはそれを並べて……って、忙しかったんです。
. ひと段落あって、落ち着いたあたりからは、レモナさんも一緒だった、って断言できます」
(´・ω・`)「17時ねぇ……」
( <●><●>)「一応、アリバイは成立ですね。しかし、都村さん」
(゚、゚トソン「はい?」
( <●><●>)「いくら忙しい、といっても、レモナさんが料理をだして、それをガナーさんが並べて……なら
その受け渡しの段階で、互いに顔を見合わせるか、その作業している背中を見るはずです。
どうして、それがわからなかったのですか?」
(゚、゚トソン「……」
( <●><●>)「……答えてください」
(´・ω・`)「(…なにか、あるのか?)」
ショボーンがそう思ったのは、トソンの意味深な沈黙のためである。
彼女は、嘘をつくのがへただ。
そのため、この不用意な「間」は、ショボーンに、刑事としてより友人としての違和感を与えた。
.
- 179 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:19:40 ID:cDezfdzI0
-
(゚、゚;トソン「……ッ」
トソンが明らかに動揺した。
黙秘を貫こうとして、しかし、ワカッテマスの眼力にやられた、そんな様子であった。
ショボーンは、「彼女はなにか隠している」と確信した。
そのため、身を乗り出しては両肘を腿について、前かがみになって訊いた。
(´・ω・`)「見抜いたよ、《偽り》を」
(゚、゚;トソン「な、何の!」
(´・ω・`)「君、嘘をついてるね」
( <●><●>)「(見ればわかります)」
ショボーンが、さながら名探偵のように言う。
その指摘は矢になって、トソンの心を射た。
血を吐く代わりに、彼女は本音を吐いた。
(゚、゚;トソン「お、怒りませんか?」
(´・ω・`)「うん。え?」
――予想外の言葉に、ショボーンの思考が一瞬停止する。
思考はさせまい、と、トソンが矢継ぎ早に「弁明」をはじめた。
.
- 180 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:20:59 ID:cDezfdzI0
-
(゚、゚;トソン「確かに、私は力がないですよ? でもですね」
(゚、゚;トソン「食器って、ほら、軽いって思うじゃないですか!」
(゚、゚;トソン「レモナさんとガナーさんのお手伝いをしようと、皿がいっぱい」
(゚、゚;トソン「載ったワゴンを気合をいれて押そうと思ったんですがね、ほら」
(゚、゚;トソン「なんというか、なにかにつまずいたらしくて? いや」
(゚、゚;トソン「私はつまずいてないですよ。ワゴンの駒が、なにかにひっかかった」
(゚、゚;トソン「みたいなんです。それも、押した瞬間にひっかかったもの」
(゚、゚;トソン「だから、私の体重とかけていた力が一気にワゴ」
(´・ω・`)「つまり、皿を割っちゃったんだね」
( 、 ;トソン「〜〜〜ッ!! 割った、なんて作為的なものではなくてですね、
. ほら偶発的というか、事故というか――」
.
- 181 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:21:42 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「……ああ、そういうことですか」
(´・ω・`)「わかった?」
( <●><●>)「つまり、都村さんが二人のお手伝いをしようと思った矢先で、
彼女の、言うところの『ドジ』が発動されたわけですね」
(゚、゚;トソン「さ、最後まで聞いてください!」
( <●><●>)「……あとは聞かなくてもわかります。
ワゴンが横転して、皿が次々に割れていって、
その後処理に追われてレモナさんどころではなかった――
まあ、そんなところでしょう」
(゚、゚;トソン「……! なんですか、千里眼の持ち主ですか!?」
( <●><●>)「さすがの私の眼も、そこまですごくはないですよ」
(´・ω・`)「ははーん。まあ、合点は行ったよ」
――でも。ショボーンは、心のなかでつぶやく。
(´・ω・`)「(あのホールに……『つまずくもの』なんて、あったか…?)」
.
- 182 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:22:12 ID:cDezfdzI0
-
(゚、゚トソン「……警部?」
(´・ω・`)「あ、うん。なんでもない。それよりひとつ、いいかな」
(゚、゚トソン「ひとつじゃ済まないでしょ」
(´・ω・`)「僕たちが来たときは、ホールにはフォックスさんやのーさんもいた気がするけど……
. あの人たちは、どうしたの?」
(゚、゚トソン「あ、ああ……。警部たちが出て行ったところで、レモナさんとガナーさんが
. 『私たちも準備をはじめましょうか』ってなったので、ホールに残っていたほかの皆さんも出て行きましたね。
. だから、以降から17時半にあのおじいさんが来るまでは、ほかには誰も来ませんでした」
(´・ω・`)「あーはいはい。そっか」
(´・ω・`)「(……つまり、残りのみんなには犯行のチャンスがあった……ってこと、だよな)」
その事実を再認識して、ショボーンはありがとう、と言った。
ショボーンは、トソンの電話番号を知っている。
またなにかあれば、いつでも聞ける――つまり、彼女の場合、融通が利く。
そのため、今はここで話を切り上げても大丈夫だろう、と思った。
だから、いったん彼女を取り調べるのはここらでやめよう、と。
しかし、立ち上がったショボーンを見て、トソンもつられて立ち上がった。
どこか、焦燥の帯びた様子であった。
出て行こうとするショボーンとワカッテマスをぱたぱたと追いかけて、
ショボーンがドアノブに手をかけたあたりで、彼は振り返る。
.
- 183 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:22:56 ID:cDezfdzI0
-
(゚、゚トソン「……」
(´・ω・`)「どしたの」
(゚、゚トソン「………」
(´・ω・`)「……ああ。さみしいんだ」
(゚、゚トソン「…! い、いや……その」
(´・ω・`)「大丈夫。君はどうせ、『また事件が起こるんじゃないか』って思ってるんでしょ」
(゚、゚トソン「………」
トソンはおそらく、今が怖いのだろう。
豪雪のなかのホテル、という密室のなか、それも身近なところで殺人が起こったのだ。
いくら彼女が「事件慣れ」しているといえど、一介の女子高生にすぎない彼女が、怖がらないはずがない。
それを、付き合いの長いショボーンは見抜いた。
そして、その不安を吹き飛ばすかのように、どん、と自分の胸を拳で叩いた。
(´・ω・`)「僕を誰だ、と思ってるんだ。イツワリ警部だぜ」
(゚、゚トソン「!」
.
- 184 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:23:30 ID:cDezfdzI0
-
トソンが、反応する。
ショボーンは続けた。
(´・ω・`)「仮に続けて何か事件が起こされるとしても」
(´・ω・`)「その犯人を捕まえて、これ以上の惨劇は防いでやるよ」
(´・ω・`)「……だから、部屋で待ってなさい。部屋にこもってたら、
. 少なくともトソンちゃんがなにかひどい目に遭うことはなくなるさ」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「……はい」
トソンは力なくうなずいた――いや、うつむいた。
ショボーンは、トソンにとっては充分信頼に足る人物だ。
だからこそ、この胸に抱く心細さも、振り払うことができた。
ショボーンが「じゃ」と言って部屋を出たとき、彼女は今度は追いかけてこなかったのだ。
扉を閉めると、オートロックが作動した。
その電子音を聞いて、ワカッテマスは「あっ」と言った。
( <●><●>)「これ、オートロックですよ。皆さんには知らせてないのですが、大丈夫ですかね」
(´・ω・`)「………まさか、そんな『ドジ』が………あっ」
ショボーンは、笑うことができなかった。
.
- 185 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:24:48 ID:cDezfdzI0
-
◆
廊下に出て、ショボーンは辺りをきょろきょろする。
5-Gの客室はどこだと思い、案内板を探していたのだ。
ワカッテマスがそれを見つけ、そちらに向かって歩き始める。
最初は互いに黙っていたが、やがて、トソンの部屋が見えなくなったのを見て、ワカッテマスが口を開いた。
( <●><●>)「警部、あんなでまかせ、約束してよかったんですか」
(´・ω・`)「え?」
( <●><●>)「確かに、これから事件が連続する、という保証は、ない。
でも、犯人確保が約束されてないのに、いたずらに安心させちゃあ――」
(´・ω・`)「バーカ」
( <●><●>)「え」
.
- 186 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:25:33 ID:cDezfdzI0
-
「そんなんだからいつまでも経験が増えないんだよ」と、ショボーンが嘲る。
が、ポケットに手を突っ込み、視線は前方、それもちょっと見上げている、そんな体勢だ。
心の底から彼を嘲っているつもりではないのだろう。
(´・ω・`)「弁護士や検事のつく嘘はだいたいが悪い嘘だけどな、
. 刑事のつく嘘は、だいたいが『良い』嘘だ。その理由、わかるか?」
( <●><●>)「……わかりません」
(´・ω・`)「弁護士が相手取るのは検事か依頼者で、検事が相手取るのは弁護士か犯罪者だ」
(´・ω・`)「でも、僕たちは『一般人』を相手にするんだぞ」
(´・ω・`)「嘘だろうとなんだろうと、僕たちはまず第一に彼らの安全を保証しなくちゃならない。
. でも、あんたの言ったとおり、そんな保証、ほとんどの場合は確保できないさ。
. だからこそ、これが嘘となるんだよ」
(´・ω・`)「つまり、『保証できないから』『確実じゃないから』なんて言ってよけいに相手を不安がらせるくらいなら
. 大嘘……それこそ事実を偽ってでも、相手を安心させなくちゃならないってことさ」
( <●><●>)「よくわかりませんね」
(´・ω・`)「……ま、そのうちわかるさ。…と」
そこで、刑事二人は歩みを止めた。
扉につけられたプレートに、彫刻された5-Gの文字があるのが目に留まったのだ。
ここで間違いないな、とショボーンは確認し、ノックする。
(´・ω・`)「もしもーし。ショボーンですが――」
「うひゃあああああああああああああッッ!!!」
.
- 187 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:26:04 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「ッ!」
(; <●><●>)「もしもし、大丈夫ですか!」
――突如として、悲鳴が響き渡った。
ショボーンとワカッテマスに、途端に、緊張が走った。
ワカッテマスが扉を破るいきおいで殴りつける。
しかし、反応がない。
事件を察知し、ショボーンが一歩後ろに下がった。
(´・ω・`)「ワカッテマス、体当たりだ。扉を破るぞ」
( <●><●>)「は――はいッ」
ワカッテマスも一歩ずつ下がる。
扉の向かいの壁にまでさがっては、唾を呑み込んだ。
少し、間を置く。
そして、「よし」とショボーンが言ったのを契機に、二人は突進した。
――直後、扉は開かれた。
爪'ー`)「―――え?」
( ;´・ω・)「!!」
(; <●><●>)「よけ―――」
フォックスは、二人の突進をまともに喰らって、リビングの奥にまで吹き飛ばされた。
.
- 188 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:26:36 ID:cDezfdzI0
-
◆
爪#)ー`)「お騒がせしました」
(´・ω・`)「こちらこそ、失礼しました」
フォックス曰く。
表では強がって、冷静なふりをしていたが
内心では、叫びだしたくなるほど、怖かったそうだ。
ホールから鍵を受け取っては一目散にその部屋にまで逃げ込み、
布団をかぶってはぶるぶると震えていたと言う。
そんなときにいきなりノックされたため、溜まっていた恐怖心が一気に爆発した――と。
爪ぅー`)「しかし、昼間からといい、なかなか情けないところを見せてばかりですな」
(´・ω・`)「気にしてませんから、お気遣いなく。
. (もとからだいたいわかってたしな)」
爪'ー`)「……ところで、取り調べでしょうか」
(´・ω・`)「はい。ワカッテマス、彼には何か聞いたか」
( <●><●>)「さっぱり」
(´・ω・`)「わかった。フォックスさん、とりあえずイチからお話をお願いします」
爪'ー`)「イチ?」
(´・ω・`)「今日一日……少なくとも16時から18時までの、あなたの行動ですよ」
.
- 189 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:27:10 ID:cDezfdzI0
-
言われて、フォックスは少し困ったような顔をした。
記者会見などで表舞台に立つことこそ多いフォックスだが、
警察の取り調べというものには免疫がないのだろう。
しかし、相手が知り合いのショボーンで助かった、とフォックスは思った。
これが見ず知らずの刑事だったら、おそらく黙秘権のひとつ、行使していただろう、と。
言うべきことを整理して、フォックスは証言をはじめた。
思えば、彼の行動だけがはっきりとしていないのだ。
爪'ー`)「行動、ですか……」
(´・ω・`)「16時半頃、僕たちがホールに着いたときは、なにやらのーさんと話されていたようですが」
爪'ー`)「ああ……商談、みたいなもんですよ」
(´・ω・`)「ナントカってグループの人みたいですからね」
爪'ー`)「一番敵に回しちゃあいけないところだよ、あそこは……」
(´・ω・`)「え、もう一度お願いします」
爪;'ー`)「あ! いや……と、とりあえず、あれからの話をすればいいんですね?」
(´・ω・`)「…? はい」
ふぅ、とフォックスはため息を吐いた。
一瞬慌てた自分を、落ち着かせようとしたのだろう。
.
- 190 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:27:43 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「僕たちが去ったあと、あなたもホールを出たということは既に証言があがってます」
爪'ー`)「あ、知ってたんですか。じゃあ話ははやい」
(´・ω・`)「というと」
爪'ー`)「あのとき、のーさんと話していたときにもあがってましたが……要は『接待の下見』ですよ。
マリントンさんから鍵を借りて、レストランにちょっと、ね」
(´・ω・`)「ああ、そういや……」
爪;'ー`)『……パーティのあと、11Fのレストランで。ごちそうしますから、この話はそのときにでも』
当時の情景を思い出して、ショボーンがうなずいた。
その「ごちそう」の下見だ、とフォックスが言った。
爪'ー`)「インフォーマルにしちゃあ、この接待は今後のウチの社運を左右しますからね」
( <●><●>)「あれ。でも、レストランって今日はまだ営業しないのでは」
爪'ー`)
( <●><●>)
爪;'ー`)「……そ、そうなの?」
(´・ω・`)「た、たぶん」
4Fの喫茶店は、営業していなかった。
11Fのバーも同様である。
こうくると、レストランも営業予定はない、と見たほうがいいだろう。
第一、コックがいないのだ。
.
- 191 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:28:14 ID:cDezfdzI0
-
爪;'ー`)「しまった……! ど、どうしよう! 悪い心証が……あああああああああ!!」
(´・ω・`)「落ち着いてください。
. 『パーティのあと、つまり後日ってことですよ。キリッ』とか言えばいいじゃないですか」
爪;'ー`)「ど、どうりでコックもいないし、冷蔵庫のなかも空っぽだなあ、と思ったよ」
(´・ω・`)「はあ……え?」
爪;'ー`)「あ、今のはナシ!」
思わず発してしまった失言に、またフォックスが動揺する。
しかしそれを見逃すショボーンではなかった。
きらり、と目を光らせて、追究の姿勢にはいった。
(´・ω・`)「ほーぉ。つまり、あなたは16時半以降、レストランにいたのは間違いない、と」
爪;'ー`)「れ、冷蔵庫の話は聞かなかったことにしてください!
. つい、ほんの出来心なんですよ! 『どんな豪華な食材があるんだろう』って――」
爪;'ー`)「だって、あんな大きな荷台があったら、気になるでしょ? なりませんか?
. 無礼は詫びますから、だから――」
(´・ω・`)「へ? ……え? いや、……わかりました」
爪;'ー`)「お、お願いしますよ……ホント」
(´・ω・`)「(……あれ? レストランでなにかあった、ってわけじゃないのか)」
「なーんだ」と、ショボーンは自分の勘違いを責めた。
一瞬、「フォックスはレストランに向かったが、そのことを隠したかった。
その理由は、なにか後ろ暗いことがあるからである」――というような背景を推理したのだが
それはまったくの当てずっぽうであることがわかったのだから。
やはり、彼にそんな後ろ暗いことはないか。
そう残念がるも、とりあえず話を進めた。
.
- 192 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:28:46 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「もっと詳しく訊いてもいいですかね」
爪'ー`)「のーさんとね、今夜も商談を交わすつもりだったんですよ。
絶景、それも夜の絶景は、人のキゲンを良くする。
だから、どの席からの夜景が一番きれいかな、と思って、ぐるっと一周してましたね」
( <●><●>)「(行動はともかく、発想は最低だな)」
爪'ー`)「……で、その……いい景色だったんで、本来の目的も忘れて、見惚れる……
そう、その絶景に見惚れてました。ホールに向かったのは17時の、えっと……50分は過ぎてたかな。
急いでたから、鍵をかけるのは忘れていたよ」
(´・ω・`)「…!」
ワカッテマスの冷たい眼差しに気づかないまま、フォックスはたどたどしい口調で続けた。
どうやら、証明こそできないが、16時半から一時間ほどは、レストランでその夜景を見ていたようである。
アリバイがないのは、フォックスに限った話ではない。それはわかっていた。
だが、それを抜きにしても、ショボーンは訝しげな気持ちになった。
その話が本当ならば、フォックスは事件のことを知っているかもしれないのだ。
――同じフロアのバーで起こった、事件のことを。
.
- 193 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:29:21 ID:cDezfdzI0
-
( <●><●>)「……警部」
(´・ω・`)「ん」
ワカッテマスが、ショボーンに耳打ちをする。
その間も、フォックスはその空気が嫌だったのか、ひとりでぶつぶつと何かを言っている。
冷や汗を垂らしながら「いやー、どうだったかなぁ」だの「しっかし、いいケシキだったなぁ」だのといった
ただの場つなぎにすぎない、他愛もない言葉をしきりに並べていた。
そして、その様子が妙であることは、ワカテのワカッテマスでもわかることができた。
( <●><●>)「なにか、様子がおかしくないですか」
(´・ω・`)「んなもん、見ればわかる。それよりも、だ」
( <●><●>)「……彼。なにか、事件について――」
(´・ω・`)「知ってるな。……そして」
( <●><●>)「なんですか」
ショボーンの言いたい本題がまだ先にあるとわかって、ワカッテマスは口を閉ざす。
フォックスにも聞こえるような声で、ショボーンが言う。
(´・ω・`)「いまの証言には、《偽り》がある」
( <●><●>)「ほう」
爪;'ー`)「えっ、なに、イツワリ? ない、ですよ。……ええ、思い過ごしはあるかもだけど、そんな、決して」
そのフォックスの姿が滑稽で、ショボーンは「ふふ」と笑った。
そして、時間が惜しいこともあって、すぐにショボーンは《偽り》を衝いた。
.
- 194 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:29:58 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「フォックスさん、テレビを見てても思うのですがねぇ」
爪;'ー`)「は、はあ」
(´・ω・`)「あなたに、嘘はつけない」
爪;'ー`)「うう、嘘だなんて! ついてないですよ、ええ。ホントに」
(´・ω・`)「じゃあ、教えてくれませんか?
. ……その、レストランからの、絶景を」
爪;'ー`)「ッ! ……えっと、それは……っ」
フォックスは、言い逃れをしようとする。
その前に、とショボーンが先手を打った。
(´・ω・`)「おかしいな、こんなに雪がひどいのに、絶景をあなたは見ることができたのですか?」
爪;'ー`)「雪によって、メイジョーしがたい感動がですな――」
(´・ω・`)「いいや、あなたはケシキを見なかった。いや、見たとしても、ちらっと、だ」
(´・ω・`)「そうでなければ、あんな――」
(´・ω・`)「雪が視界を覆い隠す景色を見て、『絶景』だなんて言うはずがない!」
( <●><●>)「!」
爪;'ー`)「ぐッ……! こ、言葉のアヤってやつです!」
(´・ω・`)「とか言いながら、ほんとうは別のもの――
. なにか、『見てはいけないもの』を見てしまったのでは……?」
爪;'ー`)「………っ」
( <●><●>)「(あの記者のような聞きっぷりだ……)」
.
- 195 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:30:29 ID:cDezfdzI0
-
半ば呆れながらも、ワカッテマスはふんふんうなずく。
話によれば、フォックスがレストランにいたのは16時半すぎから17時50分までだ。
その間、彼は、ずっと景色を見ていたと言った。
しかし、その証言が崩されかけた。
降雪のせいで視界が悪くなる景色を、フォックスが絶景と言ってしまったせいで。
もし、ショボーンの推理がただしかったとするなら、フォックスは別のなにかをしていた、ということだ。
しかし、だ。
一時間以上もの間、景色を楽しんでいなかったとしたら――
フォックスは、何をしていた、というのだ。
その、ワカッテマスが抱いた疑問に自分なりの答えを見つける前に、フォックスが反論した。
切羽詰った様子である。
ますます、彼が疑わしく思えてきた。
爪;'ー`)「いやいや、ほら、あれでしょ! ほら、ぼく、都会育ちなんで、雪には慣れてないんですよ。
. だから、雪そのものが珍しくて、それを絶景だ、って言ったんです」
(´・ω・`)「オオカミ鉄道はシベリアとVIPの境界線に在り、あそこはよく雪が降る。
. 雪が珍しいからそれを絶景と呼んだ――とは、考えにくいですなぁ!」
爪;'ー`)「そりゃ、慣れてるよ、雪そのものは。で、でも、ほら、アレは珍しかったんだ!」
(´・ω・`)「アレ、とは?」
爪;'ー`)「窓を、雪が打ち付ける様に決まってるじゃないですか」
(´・ω・`)「ほう―――」
(´・ω・`)「………え?」
ショボーンの肌を、寒気がなぞった。
.
- 196 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:31:15 ID:cDezfdzI0
-
爪;'ー`)「よっぽど風がひどくないと、あんな光景、見ることができないですよ。
. シベリアの雪もひどいけど、窓に打ち付けることなんてないし――」
(;´・ω・`)「ちょ、ちょっといいですか!」
爪'ー`)「……はい?」
フォックスが続けて弁明しようとするのを、ショボーンが止める。
その様子がどこか異常で、フォックスはぴたりと弁明をやめた。
ショボーンは、胸に、気味の悪いものを抱いていた。
(;´・ω・`)「あなたは、この証言を全部ほんとうだ、と誓えますか?」
(;´・ω・`)「『16時30分から17時50分までの間、窓を打ち付ける雪をレストランで見た』、と」
その、気味の悪いものを確認する意味で、問う。
するとフォックスの言葉は詰まった。
濁った言葉を、ぽつぽつと並べる。
爪;'ー`)「………ちか……え…、……いや、ほら、勘違いってあるでしょ。だから誓えない……ですね」
――その瞬間、ショボーンは確信した。
(;´・ω・`)「……僕は、いま、とんでもない偽りを、見抜いてしまった」
( <●><●>)「な、なんですか?」
(´・ω・`)「ワカッテマス。パンフレットだ、パンフレットを開け。11Fのページだ」
( <●><●>)「はい」
爪;'ー`)「……?」
.
- 197 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:31:51 ID:cDezfdzI0
-
言われて、ワカッテマスはそのページを開いた。
レストランは東に面しており、バーは西に面している。
それを指差して、ショボーンは言った。
(´・ω・`)「わからないなら教えてあげましょう」
(´・ω・`)「『窓を打ち付ける雪』は、レストランでは、決して見ることができないんだ」
爪;'ー`)「!!」
( <●><●>)「どうしてですか」
(´・ω・`)「んなもん、簡単さ」
(´-ω-`)「雪は、西から東にふぶいており、
『窓を打ち付ける雪』が見られるのは、したがって西に面している窓からのみ、だ」
( <●><●>)「…?」
(; <●><●>)「……あ…ッ!!」
.
- 198 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:32:35 ID:cDezfdzI0
-
(´・ω・`)「そう! つまり、『窓を打ち付ける雪』を見るためには」
(´・ω・`)「バー ――そう、事件現場にいないと、だめなんですよ!」
(´・ω・`)「フォックスさん……あなた、事件現場に遭遇しましたね?」
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第四幕
「 雪の調べ 」
おしまい
..
- 199 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/02/27(水) 21:33:31 ID:cDezfdzI0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
.
- 200 :同志名無しさん:2013/02/28(木) 01:19:58 ID:ablJCCQY0
- 乙
- 201 :同志名無しさん:2013/02/28(木) 11:50:53 ID:5zkvODc6O
- また、あまりにも暇になったんだな
まあ、読むほうとしては喜ばしいことなんだが
- 202 :同志名無しさん:2013/02/28(木) 23:13:03 ID:JZ2.VuBQ0
- おもしれー
書ききったらしいから投下を楽しみにしてるよ
- 203 :同志名無しさん:2013/03/02(土) 09:16:42 ID:RZ5K3vPU0
- おつ
細かいけど>>133の時点でショボーンが死亡推定時刻言うのはいいのか?
間違ってなかったらすまん
- 204 :同志名無しさん:2013/03/02(土) 09:47:45 ID:Q3yMmdpYO
- 今日は土曜日、予定日だな
- 205 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 09:54:00 ID:m4deWffE0
- >>203
ごめんなさい…「死亡」は間違いです…
>(´・ω・`)「そこで、いまから簡単な取り調べを行いますから
>. 18時、ここに集合するまでにとっていた行動とその時間帯を、なるべく明瞭に思い出しといてください。
>. ……特に、犯行が起こったと思われる、17時半からのことを」
上記のように訂正お願いします>読者さん及び芸さん
- 206 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:05:10 ID:m4deWffE0
-
爪;'ー`)「……ッ!!」
(´・ω・`)「……」
ショボーンが、黙ってフォックスを見つめる。
その瞳から察すると、睨んでいる、というほうが語弊は生じないだろう。
二人の間に沈黙が生まれ、それを雪の降る音が埋める。
また一方で、その音が、フォックスの平常心を削りつつあった
時間が経つにつれ、だんだんと、落ち着きを失っていくのがわかる。
二人の静寂を破ったのは、その二人でもない。
外部の、ワカッテマスだった。
( <●><●>)「ちょっと待ってください。その推理は、あまりにもトッピではありませんか」
(´・ω・`)「なんで?」
ワカッテマスは、ショボーンの推理にわずかでも穴があれば、そこを衝こうとする。
が、ショボーンの推理がただしかった場合、その反論は、よりショボーンの主張を強めるものとなる。
そのため、結果的にではあるが、ワカッテマスの反論はショボーンを味方することにつながるのだ。
これも、ショボーンの推理力が優れているからこそ、のたまものであった。
.
- 207 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:06:15 ID:m4deWffE0
-
( <●><●>)「大神さんは、ほんとうはレストランで景色を見ていなかった。
……ただ、それだけだったのではないのでしょうか」
(´・ω・`)「?」
( <●><●>)「窓の外から聞こえる音は、当然、吹雪を連想させる。
『雪に慣れている』大神さんだからこそ、考えられることでしょう。
そして、レストランで何か、人には話せないことをしていた。
それをごまかそうとしたあまり、『窓を打ち付ける雪』の話をでっち上げてしまった、と」
(´・ω・`)「発想はいいけどね、その推理は穴だらけだ」
( <●><●>)「……」
否定は、できなかった。
ショボーンの推理が突飛だったがためだけに、反論に転じたのだ、彼は。
そのため、今しがたの反論に穴が多く見られたとしても、なにも言い返せなかった。
(´・ω・`)「まず、逆だ」
( <●><●>)「というと」
(´・ω・`)「吹雪の音を聞いたらなおさら、『窓を打ち付ける雪』なんて情景は浮かばない。
. それも、あんたの言うとおり『雪に慣れている』から、だ」
( <●><●>)「……」
(´・ω・`)「もしフォックスさんの動向が、いまあんたの言ったとおりだったとすると、彼はこう証言するよ」
(´・ω・`)「『窓の外を強い吹雪が覆っていた』――そう、シベリアの雪を想像しながらね」
( <●><●>)「…。」
このときのワカッテマスの沈黙は、首肯を示す。
ショボーンは少し声を低くしてから、続けた。
.
- 208 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:07:25 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「そして、フォックスさんがわざわざ『窓を打ち付ける雪』を証言したのには理由がある」
( <●><●>)「なんですか」
(´・ω・`)「印象的だったからだよ」
( <●><●>)「……!」
(´・ω・`)「事件現場に遭遇してなかった、事件が発生する前の
. なにもなかった時間帯にバーでその光景を見た――
. それでも、構わないんだ。フォックスさんがその光景を一度見ただけで、
. その光景は、彼の脳裏に深く刻み込まれるんだから」
( <●><●>)「! じゃあ――」
ワカッテマスは、いまのショボーンの言葉に、反論の余地を見つけた。
身を乗り出し、その発言に突っ込もうとするが、ショボーンのほうが一枚上手だった。
(´・ω・`)「だからこそ、『フォックスさんは事件現場に遭遇した』――と、断言できる」
(; <●><●>)「ハア!?」
爪;'ー`)「な、なぜだ! ……いや、なぜですか!」
(´・ω・`)「いいですか? もしほんとうにあなたがなにもないタイミングでバーからの景色を見たなら、
. 最初から『バーにいた』って証言できるはずなんですよ。」
爪;'ー`)「……っ!」
.
- 209 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:07:58 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「人がなにかを偽るには、必ず理由がある。……そして、今回の場合、ポイントは
. 『どうしてフォックスさんはレストランから景色を見たと言わなければならなかったのか』…だ」
(´・ω・`)「フォックスさん、あなたは見てしまったんだ。
. バーで安置されているモナーさんの……その腹に刺さったナイフを」
爪;'ー`)「!!!」
(´・ω・`)「そのとき、偶然……か、どうかはわかんないけどさ。
. あなたは一緒に、バーの窓に目を遣ったときにあるものを見た。
. そう……『窓を打ち付ける雪』……ですよ。そうでなければ、話が合わないからね」
(´・ω・`)「でも、なにか理由があったのか、それともただ疑われたくなかっただけなのか――
. あなたは、自分がバーにいたことをバラすわけにはいかなかった。
. だからそこに、《偽り》が生まれたんですよ」
爪;'ー`)「………ッ!」
(´・ω・`)「以上、だ」
そう言って、ショボーンは顔を数度うつむけた。
今一度、フォックスとワカッテマスに、状況を整理させるための時間を与えたかったからだろう。
しかし、彼がうつむいた理由は、なにもそれだけではなかった。
〝これからのこと〟を考えると、寒気がしたのだ。
.
- 210 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:08:28 ID:m4deWffE0
-
爪;'ー`)「……」
爪'ー`)「………」
顔一面に焦燥を浮かべていたフォックスが、徐々に平生を取り戻す。
深呼吸を数回、挟んだ。
そして向かいにいるショボーンに、動揺を押し隠した声で、反論――に近い、発言をした。
爪'ー`)「……いやはや、お見事ですね」
そう言って、彼が自分より格下の者に見せる、余裕の含まれた笑みを浮かべた。
中途半端にあせったため、却って肝が据わったのだろう。
声を低くさせて、彼は続けた。
爪'ー`)「おっしゃるとおり。確かにぼくは、見てしまいました。
モナーさんが、腹にナイフを刺され、うつむいているのを」
.
- 211 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:09:08 ID:m4deWffE0
-
( <●><●>)「! どうして言ってくれなかったんですか!」
爪;'ー`)「……あのねェ、簡単に言うけどね、疑われるじゃないですか!
. ただでさえ普段からロクでもない噂たてられてるのに、
. その上ヒトを刺したなんて言い振り回されちゃ、ウチはおしまいだよ!」
( <●><●>)「あなたが無実なら、それはやがて立証されるじゃないですか。
科学捜査も、進歩している。だから、たとえ自分が疑われると思っても、嘘はつかないでください」
爪;'ー`)「このさい、無実だの、犯人だの、関係ないんですよ! ウチは信用商売なんでね!
. 一度疑われたからってだけで掲示板や口コミで叩かれるなんて、ザラだ!
. まして、最近じゃあの朝曰新聞もそのうちのひとつだ! またゴシップを載せられる!」
爪;'ー`)「『オオカミ鉄道? ああ、総裁がヒト刺したんだってね』
. 『やめとこうよ、そんな会社の列車に乗るだなんて』……なんてのが、ほんとうに起こり得るんだよ!」
( <●><●>)「そういった層にこびを売るよりも、信じてもらえる層をより丁重に扱うべきでしょう。
まして、裁判でも似たような証言をしてみなさい、偽証の罪で罰せられますよ」
爪;'ー`)「わかってない、わかってないんだきみは!
. ウチらの業界が生き残るには、そんなこと考えてちゃだめなんだよ!
. どうでもいいような噂が、社運滅亡の危機につながるんだ! わかるのか!?」
( <●><●>)「…っ。確かに、わかりませんが――」
.
- 212 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:09:40 ID:m4deWffE0
-
爪;'ー`)「ショボーンさんなら、わかっていただけるでしょ! ぼくが嘘をついた、その実のところを!」
( <●><●>)「しかし、だからといってそれが正当化されるわけでは――」
二人の話がヒートしたところで、二人は仲介を求めようとショボーンのほうに向いた。
だが、彼の様子を見て、二人とも、途端に勢いを失ってしまった。
ショボーンが、なにやら難しい顔をしていたのだ。
それも、長くともに捜査をしているワカッテマスでも、まれにしか見ることのできないほど、深刻な顔だ。
そのため、二人は自然のうちに、ぴたりと声としぐさを止めてしまった。
( <●><●>)「……警部?」
(´・ω・`)「………」
( <●><●>)「警部」
(´・ω・`)「! な、なんだい」
( <●><●>)「どうされました」
(´・ω・`)「いや……逆に聞くと、あんたはわからんのか?」
( <●><●>)「わからないとは……なにが、ですか」
「やれやれ」と呆れ顔をして、一度目を閉じる。
一呼吸挟んで彼が目を開くと、呆れつつも、やはりどこか真剣味を帯びた顔を浮かべた。
.
- 213 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:10:18 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「いまの一連の証言に、あっきらかにひとつ、
. 〝存在してはならない証言〟が含まれていたじゃないか」
( <●><●>)「……存在してはならない……?」
(´・ω・`)「いや……よく考えると、そもそも、ありえない話なんだよ」
( <●><●>)「もったいぶらないで、はやく言ってください」
(´・ω・`)「簡単に言うと、だな」
ショボーンは、ちいさな、しかし、ずしりと胸に響くような声を、放った。
(´・ω・`)「『ナイフが刺さっているモナー』。
. 犯人以外がこの光景を見ることは、できないんだ」
.
- 214 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:11:14 ID:m4deWffE0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
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第五幕 「 見てはいけない 」
.
- 215 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:11:44 ID:m4deWffE0
-
(; <●><●>)「な……なんですって!?」
爪;'ー`)「ぼ、ぼくがハンニンだっていうのか!? ジョーダンじゃない!」
ショボーンのその言葉に、二人は耳を疑った。
いや、ここに、実際にその光景を見た人がいるじゃないか――
(´・ω・`)「よし、じゃあ話を振り返るぞ」
(´・ω・`)「モナーさんは、ナイフを突き立てられた。
. そして、そのナイフにはある仕掛けがほどこされていた」
(´・ω・`)「その仕掛けは――ドアにも施されていた、って言ったよな」
( <●><●>)「ええ。そういや、言って……、……え?」
(´・ω・`)「僕が現場に立ち会ったとき、まさか扉をすり抜けてバーに入ったってか?」
( <●><●>)「―――あ」
(; <●><●>)「……あああああああああああッ!!」
爪;'ー`)「え、なに、どういう意味なんだ!」
(´・ω・`)「そう。モナーさんの、ナイフが刺さった光景を外部の人が
. 見るには、当然、バーの扉を開けなければならない。
. しかし、そうすると、自然と腹に刺さったナイフが抜けるようになってるんだ。
. 犯人が、そうなるように仕掛けを施したんだからな。至極当然だ」
(; <●><●>)「し――しかしッ! ……い、いや、警部!
. ということは、フォックスさんが、殺――」
爪;'ー`)「な、なに!?」
.
- 216 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:12:17 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「最後まで聞け。だとするとまた一方で、おかしな矛盾が生まれる。
. フォックスさんがバーから夜景を見た、というのは、ほんとうなんだ。
. そして、その夜景を見たというタイミングが事件発生後……というのにも、偽りは、ない」
(´・ω・`)「それに、もしほんとうにフォックスさんが犯人だったら、今度は証言がおかしくなる。
. そもそも、アリバイもないのに『レストランにいた』なんて証言をするはずがないんだ」
(; <●><●>)「ちょっと待ってください!
. ……ちょっと待ってください」
(´・ω・`)「せめて、反論材料をそろえてからにしてくれ……」
しかし、ワカッテマスが動揺するのも、無理はなかった。
あきらかに、これは矛盾しているのだから。
モナーは、確かにナイフで刺された。
腹から血を流す光景は、ショボーンも見ている。
しかし、『モナーの腹にナイフが刺さっている』という光景を見ることができたのは、犯人だけだ。
犯人が、自分の次に誰かがバーを訪れた時にモナーの腹に刺さったナイフが抜けるような仕掛けを施したためである。
そのため、いまの話を統合させると、犯人はフォックス――という結論に至る。
だが一方で、また別の問題があった。
事件発生『後』にフォックスがバーを訪れ、夜景を見た、というのは先ほどショボーンが証明したばかりである。
また、仮に彼が犯人だとしたら、そもそも『レストランにいた』などという証言をするだろうか。
それが、ショボーンがこの段階でひとまず行き着いた疑問である。
( <●><●>)「……! ちょっと待ってください!」
(´・ω・`)「!」
――そこで、ショボーンは目を少し大きく開いた。
長い間、この男の、このセリフを聞かされてきたため
その声色と表情から、それから彼のする反論がどれほどのものなのか、がわかるようになったのだ。
そしていま、彼はようやく、反論材料を用意したようである。
.
- 217 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:13:02 ID:m4deWffE0
-
( <●><●>)「確かに、ここがふつうの建物だったら、
『レストランにいた』という証言はしないで、
もっと別の、疑われないような証言をするでしょう」
( <●><●>)「しかし、彼は、『レストランにいた』と証言するしか、なかったんですよ」
爪'ー`)「いや、ぼくはほんとうに……」
( <●><●>)「黙っててください」
爪'ー`)「はい」
(´・ω・`)「(……この時点で、この推理が違うことがわかるんだけど……まあ、いいか)」
( <●><●>)「なぜなら、ここはホテル。フロアを上り下りするには、階段かエレベーターが必要。
また一方で、当時は17時半以降。10Fのホールに、着々と人が集いだす時間だ」
( <●><●>)「もし、大神さんが、たとえば『その時間は2Fにいた』なんて証言するつもりだったとして、だ。
11Fから下りてくる様子を誰かに見つかってしまえば、その時点で真っ先に疑われるわけですよ」
( <●><●>)「だからこそ、そんなリスクを踏むよりも、大神さんはあえて
『レストランにいた』という証言をすることに決めていた――そうは、考えられないでしょうか」
( <●><●>)「その証拠に、『冷蔵庫の中身は空だった』と、
レストランにいたことを示す証言を用意しています」
( <●><●>)「まあ、それはいつの時刻でも知り得ますし、
そう証言するから容疑の目から免れる、なんてことはありませんが……
少なくとも、ほかのフロアにいた、なんて証言をするよりはよっぽどリスクが低いと言えるでしょう」
(´・ω・`)「つまり、フォックスさんが犯人だ、と」
( <●><●>)「それ以外では、この現状につじつまを合わせることができません」
.
- 218 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:13:34 ID:m4deWffE0
-
爪'ー`)「だから、ぼくは――」
( <●><●>)「黙っててください」
爪'ー`)「はい」
(´・ω・`)「……」
ショボーンは、ごほんと咳払いをした。
いまのフォックスの反応が、既にその推理を打ち崩しているのだが――
ワカッテマスの言い分からすると、彼は、フォックスを犯人として仕立て上げるつもりのようだ。
――いや、彼の場合、「それ以外に現状を説明できないから」という理由で、
フォックスの犯人説を打ち立てているつもりなのだろうが。
そのため、彼が「ほんとうにレストランにいた」と証言をしても、それを嘘、とみなしてかかっている。
そうすると、現状もあいまって、ワカッテマスの推理が一番合理的なもののように思えるだろう。
――だから、ショボーンは、話の根本を打ち崩しにかかった。
.
- 219 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:14:16 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「いい推理だ。だからこそ、肝心なとこを衝かせてもらうよ」
( <●><●>)「どうぞ」
(´・ω・`)「あの犯行現場を再現するには、最低ひとつのものをあらかじめ用意する必要がある」
( <●><●>)「あらかじめ?」
(´・ω・`)「なーに寝言いってんだよ。……『紐』が必要じゃないか」
( <●><●>)「……?」
(; <●><●>)「あっ……」
ワカッテマスはそれを思い出して、動揺した。
そう、根本的に、この犯行は「計画的」なものなのだ――
(´・ω・`)「紐を用意して、それで部屋からの脱出法――こっちはわかってないけど、それも用意して。
. ここまで計画的な犯行を練っているのに、どうして肝心なアリバイづくりを用意してないというんだ。
. まさか『そこは犯人の思慮不足だった』とか言うわけじゃあるまい?」
(; <●><●>)「ひ、『紐』は、バーにあらかじめ備品としてあったとか――」
(´・ω・`)「いつかはそう言われると思ってバーカウンターの裏も見てみたけど、ほんとうに何もない。
. 電球の紐すらない現場の、どこから『紐』を調達したっていうんだ。
. これは、『計画的な犯行』なんだよ」
(; <●><●>)「………ぐッ」
ワカッテマスが怯む。
根本的な見落としをしてしまった自分を恥じたところもあるが、
それ以前に、「だとすると現状にどう説明をつけるのだ」という謎に対する、畏怖を感じたのだ。
しかし、ショボーンの反撃はまだ止まらない。
彼は更に、『計画的な犯行』よりも更に根本に眠る問題を衝いた。
.
- 220 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:14:56 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「そして、だ。ここでフォックスさんを犯人扱いするなら、
. ナイフの仕掛けをつくってからの犯人の脱出経路も同時に立証しなくちゃならない。
. フォックスさん、そのモナーさんと雪の光景は、扉から入ってみましたよね?」
爪;'ー`)「そ、そりゃあ……」
(´・ω・`)「換気扇や通気口から顔を覗かせた――とかではなくて」
爪;'ー`)「そんなこと、二流の推理小説ですら見かけないですよ。
. ぼくはちゃんと、扉から入ってその現場を見てしまったんだ」
( <●><●>)「裏口なんかがあるんじゃないんですか」
(´・ω・`)「バーカ。僕が捜査に向かったとき、店内を見たけど。
. ぱっと見で言えば、そんなのはなかったよ」
(; <●><●>)「な、ならば、おかしいことになりますよ!」
(´・ω・`)「……ほら」
(; <●><●>)「な、なにが『ほら』なんですか」
(´・ω・`)「これでひとつ、立証――とまではいかないけど、可能性の高いことがわかったじゃないか」
(; <●><●>)「…?」
(´・ω・`)「『ナイフの仕掛けのなかった時間帯が存在していたのかもしれない』……
. 突き詰めて言うと、『僕たちはまだ事件の本質に気づけていない』ということだ」
( <●><●>)「…!」
.
- 221 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:15:37 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「だから、現状で判断するのは不可能。
. いまから現場に赴いてもいいんだけど……取り調べが優先だ」
そう言って、ショボーンは元の、飄々とした「ショボーン」の顔つきに戻った。
元に戻った彼から漂うオーラが、フォックスの緊張をほぐす。
――もともと、彼はいまの二人の話に
まったくついていけていなかったが――なにはともあれ、助かったとわかったようだ。
爪'ー`)「ええと……つまり、どういうことですか」
(´・ω・`)「ひとまずは保留ってことです。
. それより、念のため、現状をもう一度だけ細かく話してもらっていいですか」
爪'ー`)「いいですよ。そうだなあ……物音がしたから、ぼくはバーに……」
( <○><○>)「ッ!!」
( ;´・ω・)「なにッ!?」
爪;'ー`)「なな、なんですか」
( ;´・ω・)「物音…? 具体的には、どんな」
爪'ー`)「覚えてたら、そう証言しますよ。
それか、ただなんとなくでバーに向かっただけなのかもしれないし」
あっけらかんとした様子で、フォックスが言う。
ショボーンは、その物音が、犯人が逃げるさいに残した音ではないのか――
と推理したのだが、当のフォックスにそう言われては、それ以上の推理はできない。
.
- 222 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:16:25 ID:m4deWffE0
-
(;´・ω・`)「……つ、続けてください」
爪;'ー`)「はあ。それでバーの中を覗いてみたんですが……第一印象は、『暗い』でしたね。
. あなたも、現場に行ったんでしたらわかるでしょ」
(´・ω・`)「暗くて、窓の外のほうが明るかった気さえします」
爪'ー`)「まったく一緒だ。だから最初に、窓に目がいったんですよ。そのときに『窓を打ち付ける雪』を見た」
(´・ω・`)「モナーさんを見たのはその次、だったんですか?」
爪'ー`)「情けないことに、そこに人がいるなんて――って気持ちがいっぱいだったね。
ふと、暗い室内に、人影が見えた。一瞬、金縛りにあったみたいになって……」
(´・ω・`)「それはなぜ?」
爪;'ー`)「だ――だって、暗い部屋の中で、人が座ってるんですよ!? どー考えたって怖いじゃないですか!
. 一瞬腰が引けて、怖くなったけど、向こうはぼくに気づいてなかったから、どうしたんだろうと思って、凝視したんです」
(´・ω・`)「(扉を抜けたら、モナーさんがこっち見てるんだぞ……)
. はあ。続けてください」
爪'ー`)「すると、目が慣れてきたのか、腹になにかあることがわかった。……ナイフだ」
爪'ー`)「もうなにも考えられなくなって、そのまま逃げた……ってわけです」
爪'ー`)「そのときの印象が強すぎて、てっきり、レストランの話をするときに
『窓を打ち付ける雪』のことを思い出しちゃったんですよ。すまないね」
(´・ω・`)「心中お察しします。
. (どうやらいつもの調子に戻ったようだ)」
フォックスは話し終えて、その重圧と恐怖から解放されたためか、急にだらしない姿勢になった。
身体中の筋肉を強張らせていたのが、すべて一気にゆるんだかのような動作だった。
それを見て、やはり強がっている内心では怖かったのだろう、とショボーンは思った。
刑事として、そういった人間は過去に何人と出会ってきた。
.
- 223 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:16:59 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「……だいぶ話しこんじゃいましたね」
そう言って時計を見ると、もう19時40分を超えていた。
フォックスも自分の腕時計を見ては、「みたいだね」と余裕そうに言う。
フォックスのほうは気が楽になったのかもしれないが、刑事二人は違う。
犯人に逃げられないうちに、はやく取り調べと現場検証を済ませて、最低限目星だけでもつけておきたいのだ。
そのため、ショボーンはフォックスとは対照的に、声のスピードをあげた。
(´・ω・`)「いったん僕たちは次に行きますね」
爪'ー`)「犯人の目星は……ついたのですか?」
(´・ω・`)「現状で一番怪しいのはあなたですが」
爪;'ー`)「そう――ええええええええええええッッ!?」
(´・ω・`)「はは、ジョーダンですよ。
. (八割ホンキだけど……)」
爪;'ー`)「お、おどかさないでください」
(´・ω・`)「それはそうと、フォックスさんはこれからどうするのです」
爪'ー`)「ぼくはね、落ち着いたら、露天風呂にいこうかと思ってたんですよ。
2Fの。パンフレットにもあったでしょ」
(´・ω・`)「ああ……。動いてるのですか?」
爪'ー`)「あくまでモナーさんは、ワレワレには一日泊まってもらうことを
考えてたみたいで、そこらにぬかりはないみたいです」
(´・ω・`)「(だったらせめて4Fに人員を割いてくれよ……)」
おなかの空いたショボーンは、そう思った。
だが、仕方のないことだ。
傷害――もう、手遅れだろう――事件が起こって、呑気に食事をとれるはずもなかった。
それが刑事となれば、なおさらである。
.
- 224 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:17:30 ID:m4deWffE0
-
爪'ー`)「……そ、そこで、お願いがあるんですけど」
(´・ω・`)「…へ?」
逆恨みに近い感情を、誰にでもなくぶつけようかと思っていると、フォックスがちいさく言った。
調子が戻ったかと思えば、また臆病な一面を見せ付けている。
なにがしたいのだ、とショボーンが思うと
爪;'ー`)「ひ、一人になるのが、怖いんですよ」
( <●><●>)「ぶっ」
(´・ω・`)「は、はあ」
頬をぽりぽりと掻きながら、フォックスは続ける。
爪'ー`)「そこで、ちょっとそこまででいいのでついてきてくれないかなあ、と……」
(´・ω・`)「そういうことならコイツがお供しますよ」
( <●><●>)「はあ」
( <●><●>)
( <●><●>)「え?」
.
- 225 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:18:06 ID:m4deWffE0
-
ショボーンは、フォックスの頼みにワカッテマスを指さしながら答えた。
途端に満面の笑みを浮かべるフォックスとは対照的に、ワカッテマスはわけのわからなさそうな顔をした。
それこそ「あっけにとられた」ような顔をしている、と言ってもいいだろう。
ワカッテマスがショボーンの真意を汲み取りきれないうちに、フォックスが廊下に出た。
刑事二人も外に出る。
爪'ー`)「ついでだし、きみも一緒に入るかい?」
(´・ω・`)「そういやあんた、風呂に入りたがってたな。
. どうだ、上司公認で休憩時間をやるぞ。……ぶひゃひゃひゃ!」
( <●><●>)
( <●><●>)「理不尽な」
ショボーンはワカッテマスをここぞとばかりにからかったが、
その嫌な笑みも、ものの数秒で消えた。
いまは、笑っていられる事態ではないのだ。
.
- 226 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:18:56 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「……まあ、市民を守るって意味じゃあ、あながちおかしくはないことだ」
( <●><●>)「わかってますよ。……とりあえず、私は
露天風呂の手前で待機しておけばいいんでしょ」
爪'ー`)「話がわかって助かるよ。大丈夫、ぼくはこう見えてカラスの行水だから」
(´・ω・`)「(なにをアピールしてるんだか……)
. じゃあワカッテマス、フォックスさんのお供を任せたぞ」
( <●><●>)「過去最高のしょぼい任務ですよ。
それはそうと、警部はこれからどうなさるのですか」
(´・ω・`)「僕? やだなあ、僕は刑事だぞ。取り調べを続行する以外ないじゃん」
( <●><●>)「ああ、そーでしたね」
(´・ω・`)「投げやりな言い方するなよ……ただのジョークじゃないか……」
ショボーンがしょぼんとする。
が、この和やかに見える雑談も、ここまでだ。
ワカッテマスは任務が任務だからいいとして、彼が捜査から抜ける分、
いっそうショボーンにかかる責任は重くなったのだから。
ショボーンは、ワカッテマスのいない分もまとめて、取り調べに徹底しなければならない。
ワカッテマスは、ああ言いながらも彼は自分に休憩を与えてくれたつもりなのだ、と解釈した。
(´・ω・`)「それに、男の風呂になんて同伴したくないからね」
( <●><●>)「……どうして、そこまで同性が嫌いなんですか」
(´・ω・`)「誰かさんのせいで、僕にホモ疑惑がだな……」
爪;'ー`)「き、気持ちの悪いことは言わないでくれ!」
(´・ω・`)「とりあえず、時間もある。僕は先に失礼しますね」
( <●><●>)「あとでそちらに電話をいれて、合流するようにします」
(´・ω・`)「わかった。じゃーね」
.
- 227 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:19:40 ID:m4deWffE0
-
◆
ワカッテマス、フォックスと別れ、ショボーンは6FのB室に向かおうとした。
しかしそこで、ぴたりと足を止める。
フロアの地図が描かれているプレートを見て、あることを思い出したのだ。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『5F、制御室の鍵が、どーも見当たらんのですわ』
( <●><●>)『制御室?』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『このホテルの電力を制御する部屋、ってところでしょーな。ワタシにはようわからん。
その部屋の鍵がなくなってしもーて……なくしたのがバレたら、モナーさんに怒られますわ』
(´・ω・`)「(そういえば、制御室もこのフロアだったな……)」
マリントンの「人」がどうであれ、制御室の鍵がなくなった、というのは事実のようだ。
そして、ショボーンはその一報を聞いて、どこかしら不吉な予感を抱いている。
――もし、モナーの事件と鍵紛失の事件の犯人が同一の人だったら?
現在、このWKTKホテルはひとつの大きな。
その現状に便乗して、もし、壮大な殺人事件の計画を練られていたとしたら。
――と、そこまで考えて、ショボーンは自嘲する。
このホテルを密室に仕立て上げているのは、雪だ。
そんな、悪天候を前提に据えた「計画的な連続殺人」なんて、考えにくいだろう。
どうやら、フォックスの臆病が自分にも移ったようだ。
そう結論づけるが、それとこれとがつながるわけではないので、一応制御室に向かう。
.
- 228 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:20:18 ID:m4deWffE0
-
制御室は、フロアの北に位置するのだが、ここにきて、
東西を行き来する通路はこの北部にしか通ってないことがわかった。
それだけならなにも思わなかったところだが、5Fに限り、そこは異彩を放っていた。
5Fの下りの階段は北東にあり、上りは北西にあるため、階段で5Fを経由しようものなら
その道中、北側にその制御室の扉が見受けられる。
この制御室がなかなかに異彩を放っていたのだ。
それは壁の色に同化した色の扉で、「関係者以外立入禁止」の文字が掲げられている。
「いかにも、な部屋だな」とショボーンは思った。
歩み寄って、まず、耳を当てる。
が、防音加工でもしているのか、それとも誰もなかにいないのか、音は聞こえてこなかった。
聞こえてきたらそれはそれで大変なのだが、そうではないとわかってひとまずは胸を撫で下ろす。
次に、ノブを握り、力を籠める。
これが平生ならば、勝手に入れば怒られるだろうが、いまは事件の捜査の真っ最中だ。
まして、いまここでショボーンが勝手に部屋に入って、怒る人もそういるまい。
(´・ω・`)「…………」
扉を、開こうとした。
.
- 229 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:20:52 ID:m4deWffE0
-
そのとき、左手、すなわち西のほうからショボーンは呼び止められた。
誰かが、駆け寄りながら「なにをしてるんですか」と大声で言われる。
ショボーンは一瞬どきっとして、後ろ暗いことがばれたかのように動揺した。
ノブから手を離し、慌てて振り返る。
キャリアウーマンのようなスーツ、黒いショートヘアーのガナーが、ショボーンめがけて走ってきていた。
( ;‘∀‘)「刑事さん……でしたか」
(´・ω・`)「これはこれは……えっと、ガナーさん」
ガナーがショボーンのもとにつくと、膝に手を当て、呼吸を整えだした。
女性らしく、体力がないのだろう。
似たような境遇の刑事がいるので、それを見てもなんとも思わなかった。
呼吸が整うまで、ショボーンは黙る。
ガナーは十秒もすると、回復したようで、元の体勢に戻った。
( ‘∀‘)「どうしました、こんなところで」
(´・ω・`)「それは僕のセリフ……でもありますよ」
自分のしていた行為を思い出して、言葉を訂正する。
それを見て、ガナーは笑った。
( ‘∀‘)「刑事さんがここに向かってるのを見かけたもので……制御室になにか?」
(´・ω・`)「はは、一応捜査の一環です」
( ‘∀‘)「おかしいな……立ち入り禁止の看板、置いてなかったかなぁ」
(´・ω・`)「見ての通り、ないですよ。まあ、あっても勝手に入ってましたが」
( ;‘∀‘)「だ、だめですよ! なんのための『立ち入り禁止』なんですか」
( ;´・ω・)「じょ、ジョークですよ!
. (怖いな……)」
ショボーンが慌てると、ガナーはそれを見て再び微笑をこぼした。
それを見て、ショボーンは「おや」と思った。
.
- 230 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:21:29 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「こう言ってはなんですが……お気の毒、でしたね」
( ‘∀‘)「いえ……ありがとうございます」
(´・ω・`)「事件が起こってすぐに訊くのもアレなんですが、
. 一応お話をうかがってもよろしいですかね」
( ‘∀‘)「ここではなんですから、私の部屋にきてください。
ここから一個上のフロアのB室なんです」
(´・ω・`)「あ、6-Bはガナーさんだったんですか。いやはや、今から話を聞こうって思ってたんですよ」
そう言って、ショボーンは刑事としてたまにこぼす微笑をこぼした。
しかし、どうもうわべだけの会話は苦手だ。
ショボーンはそう思って、頭を掻いた。
トソンやフォックスといった、少しでも面識のある人のほうが取り調べはしやすいのだ。
ガナーに先導され、左手にある階段を上って6-Bに向かった。
何事もなかったかのように、二人は制御室を去る。
その制御室だが、ショボーンは、ガナーに呼び止められて振り返った直後、
ばれないようにノブを回して、鍵がかかっているかどうかを確認していた。
結果、鍵はかかっていた。
物音がせず、施錠されていたのをふまえると、まだ鍵を盗んだ犯人がなかに入ったわけではなさそうだった。
そもそも「盗まれた」と決まったわけではないのだが、それでもショボーンは、少し安心することができた。
「第二の事件」の計画があったとして、それはまだ実行に移されていないというわけだからだ。
――フォックスの話が思いのほか重要なものであったため、彼ひとりに随分と時間を費やしてしまった。
それで失った時間を取り戻すように、これからの取り調べはてきぱきとこなさなければならない。
だが一方で、取り調べに費やす時間を節約すると、いつそのしっぺ返しが来るかがわからない。
詰まるところ、時間がかかるのは仕方がないといえた。
.
- 231 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:22:06 ID:m4deWffE0
-
ガナーのとった部屋、6-Bに入ったが、内装はトソンやフォックスの部屋と似ていた。
部屋の位置が違うため、そういった点における内装は変わっていたものの、
壁紙だの、絨毯だの、インテリアだの、基本的な内装は統一されているようだった。
ガナーに促されて、ショボーンはソファーに腰をおろした。
いつもは立ったまま話を聞くのだが、どうも、このソファーの柔らかさが気に入ったようだ。
( ‘∀‘)「……えっと」
(´・ω・`)「?」
( ‘∀‘)「す、すみません……取り調べ、なんて、されたことないので……なにをしたらいいのか」
(´・ω・`)「僕の質問に答えてくれるだけでいいんです」
( ‘∀‘)「へぇ……そうなんです、か」
ガナーに気を遣わせてしまったかな、と思い、ショボーンはさっそく口を切った。
(´・ω・`)「だいぶ、落ち着いていらっしゃるようですね」
( ‘∀‘)「父のこと、ですか?」
(´・ω・`)「疑うとかそういうわけじゃないんですが……」
( ‘∀‘)「父のことだから、気がつけば『あー痛かったモナ』とか言って
ひょいと顔をだしそうだな……とか考えてたら、気が晴れたんです」
(´・ω・`)「(ありえそうだから却って笑えない)」
( ‘∀‘)「でも……ドラマで見るように泣き崩れたりとかは、してない……です」
(´・ω・`)「そうですか。じゃあさっそくおうかがいしますね」
( ;‘∀‘)「お手柔らかに……」
( ;´・ω・)「(取り調べをなんだと思ってるんだ……)」
. は、はい。では」
.
- 232 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:22:38 ID:m4deWffE0
-
ガナーはモナーの娘だが、それにしては若そうな印象を受けた。
見て呉れで言えば、二十代前半ではないのか、と思わせられる。
もともと肌がきれいなのか、薄化粧のわりには顔が映えて見えるのだ。
加えて瞳も大きいので、ショボーンも歳が歳なら見惚れてしまうようなものだった。
そんなガナーが、緊張しているのか、じゃっかん顔の筋肉が強張っている。
これは刑事としてより、一人の紳士としてエスコートしなければならないな、などとショボーンは考えていた。
(´・ω・`)「じゃあ……あ、そうだ。あの眼のでっかい、深緑のヤツに取り調べはされました?」
( ‘∀‘)「いや……。マリントンさんと話されたかと思うと、倉庫のほうに行って……」
(´・ω・`)「(イチから訊かないとだめなわけだな)
. そうですね。じゃあ16時くらいから事件発覚までのあなたの行動を……」
( ‘∀‘)「16時半くらいからホールで料理を出してましたね」
訊いてから、ショボーンは「あ、そうだった」と思い出した。
てきぱきと、効率よく取り調べをしなければならないのに、と自分を責めた。
.
- 233 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:23:08 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「それまではなにを?」
( ‘∀‘)「ホールでトソンちゃんとおしゃべりしてました。
あの子、ほかに誰も知り合いがいなかったみたいだったから、寂しいんだな、って思って……」
(´・ω・`)「珍しいな、あの子が人になつくだなんて」
( ‘∀‘)「! 刑事さん、あの子のお知り合いなんですか?」
(´・ω・`)「因縁みたいなもんですよ……」
ショボーンが、残念そうな声色で言うと、ガナーは対照的にほがらかな様子になった。
どうやら、トソンのことを案じていたようだ。
( ‘∀‘)「トソンちゃん、しっかりしてるように見えるけど、
やっぱり女子高生らしいなってところがいっぱいあって」
(´・ω・`)「ほうほう?」
「面白い話が聞けそうだ」と思って、捜査そっちのけでショボーンは耳を傾けた。
ショボーンは、トソンをからかうのが好きなのだ。
( ‘∀‘)「これ、言ってもいいのかな……」
(´・ω・`)「?」
( ‘∀‘)「……あ、トソンちゃんにはナイショですよ?」
(´・ω・`)「僕は刑事ですぞ! その点はごアンシンを!」
( ;‘∀‘)「そ…そうですか? じゃあ……」
(´・ω・`)「(あとでからかいぬいてやる)」
.
- 234 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:24:05 ID:m4deWffE0
-
( ‘∀‘)「私とレモナさんが料理を並べ始めてから少しして、
トソンちゃんは手持ち無沙汰だったのかな、私たちの手伝いを申し出てくれたんですよ」
(´・ω・`)
( ‘∀‘)「で、倉庫から出された、お皿の積み上げられたワゴンを運ぼうとしてくれたまではよかったんですが……」
(´・ω・`)
( ‘∀‘)「運ぼうとワゴンを押した瞬間、ワゴンが横転したんですよ」
(´・ω・`)
( ‘∀‘)「力の入れ方を間違えたのか、張り切ってたせいか……
それでお皿が一気に割れちゃって、トソンちゃんが泣きながら――」
( ‘∀‘)「……あ、あれ。どうしましたか」
(´・ω・`)
( ;´・ω・)「へ? …あ、そーだったんですか! 確かにあの子らしい」
( ;‘∀‘)「……? と、とりあえず、トソンちゃんにはナイショで……」
( ;´・ω・)「わかりました」
(´・ω・`)「(言えない……『もう知ってる』だなんて、言えない……っ)」
.
- 235 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:24:35 ID:m4deWffE0
-
◆
「話が逸れてしまったな」と反省して、ショボーンはようやく、本題に入った。
この調子だと、取り調べを終える頃に応援が到着するんじゃないか、と思った。
それはそれでいいのだが、そうだとすると自分の無能ぶりを見せ付けられたような気になってしまう。
半ば不純な動機を抱きつつも、じゃっかん早口になって、ショボーンは取り調べを進めた。
いや、進めようと、した。
(´・ω・`)「(思えば、彼女のアリバイも事件前の動きも、もう特定できてるんだよな……)」
レモナとトソンの証言により、またマリントンの存在もあって、彼女の動きはもう特定できている。
加え、トソンの、ずっと一緒にいたという証言は確かなものと言えるので、追究する必要もない。
なにか、訊かなければならないトピックはあっただろうか――と想像をめぐらせたところで、
「無理して話を引き伸ばすよりも、さっさと話を切り上げろ」という答えが真っ先に返ってきた。
そのため、ショボーンは「さて」と言いつつおもむろに立ち上がる。
ガナーは顔に疑問符を浮かべた。
( ‘∀‘)「どうされました?」
(´・ω・`)「だいたいの話は聞けたので、いったん切り上げようかな、と」
( ;‘∀‘)「お皿の話しかしてないような……」
( ;´・ω・)「あ、その……きっと、いまの話は事件解決の役にたちます!」
( ;‘∀‘)「は、はあ……そうですか」
ガナーに露骨に呆れられる。
ひょっとすると、自分はガナーとおしゃべりをしたかっただけじゃあないのか、という答えが生まれた。
確かに、あのモナーの娘にしては、美人だ、とこそ思うが――
.
- 236 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:25:09 ID:m4deWffE0
-
(´・ω・`)「あ、そうだ」
( ‘∀‘)「?」
(´・ω・`)「あなたにとって、モナーさんとはどういう人ですか?」
( ‘∀‘)「……? あ、ああ…」
少し溜めて、ガナーは答えた。
( ‘∀‘)「……多くの会社をもって、尊敬できる父です」
(´・ω・`)「あなたは、モナーさんが好きですか?」
( ‘∀‘)「………え……?」
その突然の言葉に、ガナーは少し狼狽する。
どうして、そんなことを――
と考えているうちに、ショボーンが続ける。
(´・ω・`)「こんなことを言っちゃあだめだと思うんですが……」
(´・ω・`)「どうも、あなた、モナーさんを好いているように思えないんですよ」
( ‘∀‘)「…………っ」
(´・ω・`)「なにか……あったのですか?」
.
- 237 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:25:58 ID:m4deWffE0
-
ショボーンの引っかかった点は、そこだった。
ガナーは、もう成人しているだろう。
物腰の柔らかく、淑やかな女性だ。しっかりしている、のイメージにふさわしく。
だが、そうだとしても、どこかモナーに対する態度がぎこちないように思えたのだ。
いままで多くの遺族や被害者家族と接してきただけあって、そういった点にはショボーンは敏感だった。
実の父親が襲われた、わりには、どこか落ち着きすぎではないのか――
それが、ショボーンの疑問だった。
図星だったのだろうか、ガナーはそう言われて、顔を少し歪めた。
どこか困っているような素振りを見せる。
( ‘∀‘)「……こんなこと、人さまに話してもどうかと思うんですが……」
(´・ω・`)「はい、なんですか」
ためらいを見せながら、ガナーは言った。
( ‘∀‘)「私……父のことは、好きじゃないのです」
(´・ω・`)「………」
.
- 238 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:26:38 ID:m4deWffE0
-
( ‘∀‘)「ドラマとかで『仕事優先で、家族に愛を与えない』なんて話がありますが、
それに近い境遇で育てられたものですから……」
(´・ω・`)「……モナーさんは、あれでも、やり手の人だ。
. 仕方ない――で片付けるのもアレですが、やっぱり仕方なかったのでは……」
( ‘∀‘)「違うんです。確かに日頃から仕事仕事、とうるさい人ですが……」
( ‘∀‘)「昔から……父には、キツくあたられてきて……それが、怖かったんです……」
(´・ω・`)「……!」
泣きそうな声を、ぽつりぽつりと、つむぐ。
そのことを聞いて、ショボーンは「まさか」と思った。
あの、温厚なモナーである。
とても、家庭内で暴力をふるうような人には思えないのだが――と。
( ‘∀‘)「当時はすごく忙しかったようで、お酒もギャンブルも女性問題もなかったんですが、
仕事のストレスを、私にあたることで発散させているような……」
( ‘∀‘)「ドラマみたいに『愛を与えない』だけなら、まだよかったかもしれないですが……
とても……この歳になっても、やはり、その畏怖…?は拭えない、って言うのか……」
( ∀ )「ほかの人には温厚に接してる父なのに……
どうして……私には、優しく接してくれなかったのか……」
(´・ω・`)「………」
涙がこみあがってきたのだろうか、ガナーは顔をうつむけ、目を裾でごしごしと擦った。
それを隠すかのように勢いよく立ち上がって、ぎこちない笑顔を浮かべる。
ほんとうはつらいのに、それを他人には見せまいと、必死に強がっているのだろう――
ショボーンは、ふと、そう感じた。
( ‘∀‘)「ハハ……いまの話、ナイショですよ」
(´・ω・`)「……わかりました」
そこで、深刻な空気は取り払われた。
苦笑を浮かべ、クセなのだろうか、ガナーは後ろ髪を指で巻く。
.
- 239 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:27:32 ID:m4deWffE0
-
( ‘∀‘)「なんか、刑事さん相手だと、いろんなことをぺらぺらしゃべっちゃいます」
(´・ω・`)「よく言われますよ。なんでだろ、これでもケーサツなんだけどな……」
( ‘∀‘)「失礼かもですが、まったくそんな感じはしませんね…」
( ;´・ω・)「………ほ、ほんとうですか?」
( ‘∀‘)「アハハ…っ。でも、いいと思いますよ、そっちのほうが」
(´・ω・`)「そ、うですか……」
ガナーは、モナーの話をしていたときこそ別の意味で落ち込んでいたが、それも回復したようだ。
そうわかると、ショボーンは安心した。
( ‘∀‘)「つまんない話をしちゃって、ごめんなさいね」
(´・ω・`)「いえ、貴重なお話をありがとうございます」
( ‘∀‘)「これから刑事さんはどうなさるのですか」
(´・ω・`)「引き続き、ここにいる皆さんからお話をうかがいますよ」
( ‘∀‘)「そうなんですか! じゃあ、引き止めるのも悪いですね」
(´・ω・`)「また時間があれば、こちらに寄りますよ。安否の確認も兼ねて、ね」
( ‘∀‘)「……そのときは、よろしくお願いします」
(´・ω・`)「…? あ、は、はい」
.
- 240 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:28:22 ID:m4deWffE0
-
ショボーンはいまの言葉に、なにか形状の保たれていないものを感じた。
が、それを咀嚼することもなく、ショボーンは頭を下げては、部屋を出て行った。
扉まで見送りにきてくれたのには好感を持てたが、胸の霞は払われない。
さっきから、不吉なことを考えてばかりだな――
そう思いつつ、ショボーンは6Fをあとにした。
まだまだ、取り調べをしなければならない人物は大勢いる。
先にそちらを済ませないと、そもそも話にすらならない。
ショボーンは刑事としてのショボーンに戻り、次の場所、7Fへと向かった。
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第五幕
「 見てはいけない 」
おしまい
.
- 241 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:29:18 ID:m4deWffE0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五章 「見てはいけない」
.
- 242 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/02(土) 20:37:37 ID:m4deWffE0
- ※お知らせ
ブログでは以前から告知してたけど、この作品の連載予定は「毎週土曜の20:00-21:00」から
「毎週水曜と土曜の20:00-21:00」に変更してます
こちらではまだ報告してなかったことを思い出しました。ごめんなさい
週二投下の理由は、まあ、暇だから…ってのと、はやく作品全体を読んでもらいたいからです
- 243 :同志名無しさん:2013/03/02(土) 21:04:17 ID:90SS5CrM0
- 出先から乙
あとでじっくり読もう
- 244 :同志名無しさん:2013/03/02(土) 23:08:43 ID:UU5pMBkQ0
- なんでそんな暇やねーん
- 245 :同志名無しさん:2013/03/03(日) 00:59:25 ID:4OqHcgxo0
- 乙やねーん
- 246 :同志名無しさん:2013/03/03(日) 01:35:43 ID:cBYiNH46O
- 暇なら、残りの分毎日投下でもいいかもよ
- 247 :同志名無しさん:2013/03/03(日) 02:10:45 ID:tCY1Y1dU0
- 期待します
- 248 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:06:13 ID:Vh.wwukY0
-
ショボーンは7Fにあがった。
7Fにいる招待客は一人だけで、その人は7-Aにいる。
5F、6Fとなんら変わらないフロアを歩くと、すぐにA室についた。
ショボーンはこのときにして、ようやくフロア内の客室の配置を把握していた。
7-Aの扉をノックして、少し待つ。
しかし、反応がない。
少し不審に思い、「ここであってたかな」と不安を募らせつつ、もう一度ノックする。
しかし、それでも反応はない。
いよいよ不安になって、ショボーンは声をかけながらノックをした。
このフロアには、ほかに人はいない。
周囲を気にせず、大きな声を発した。
(´・ω・`)「刑事のショボーンですが、いらっしゃらないのですかー」
そこで、ショボーンはワカッテマスの言葉を思い出した。
いくら客室を解禁したといっても、皆が皆そこに居座るわけではないのである。
フォックスが浴場に向かったように、ほかの人も浴場に向かったり、気晴らしに散歩をしたり、というケースがありえる。
事件現場であるバーと、フロアを同じくするレストランに自ら行きたがる人はいないとして、
それでも2Fの浴場と3Fのゲームコーナーに行きたがる人はいてもおかしくない。
特に、ヲタの場合がそうだ。
と、そこでショボーンは、この部屋の主がヲタであることを考慮した。
すると、彼は今頃ゲームコーナーに向かっている可能性が高いため、
いつまでもここでノックしていては無駄ではないか――と思った。
――しかし、その予想ははずれた。
なかにいたのは、ヲタではなかったのだ。
ショボーンがひたすら声をかけた甲斐あって、それを面倒くさがった中の人が、ようやく反応を見せた。
.
- 249 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:06:47 ID:Vh.wwukY0
-
扉が開かれる。
中にいたのは、アサピーだった。
(-@∀@)「………ったく、なんなんですかさっきから! 私はレポートを作成してるのですよ!?」
(´・ω・`)「ああ、すみません。取り調べがまだなものでして――」
アサピーは、やはりと言うべきか、荒れていた。
それも、自分の仕事を妨害されたため、である。
アサピーは記者としての義務や使命をまっとうする男である。
そのためには、警察が相手であろうと全く臆するところを見せない。
(-@∀@)「緒前モナー殺人事件! 現地にたまたま居合わせた記者が綴る、実録二十四時!
……書くことが多すぎて、それどころじゃないんですよ!」
(´・ω・`)「……えっと、取り調べ…」
(-@∀@)「〜〜〜〜……たく!」
ショボーンが眉をより垂らして言うと、アサピーは何かを考えたが、
やがて、そう言っては扉を開いたまま、部屋の奥へと戻っていった。
おそらく、ショボーンに入室を許可し、それをうながしているつもりなのだろう。
ショボーンは「おじゃまします」と言って、おそるおそるなかに入っていった。
アサピーにとって、レポート作成業務はどうやら自分の命よりも大切なのだそうである。
しかし、そのエゴを貫いていると、なんだかんだと言って肩書きは刑事であるショボーンの手前、
自分、及びその自分の勤める新聞社になにやらよろしくないことが起こるのではないか――
そう考えたがゆえの判断だったのだろう。
ショボーンとしては、別に取り調べができればどうでもよかった。
.
- 250 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:07:30 ID:Vh.wwukY0
-
内装になにやら変わった点は見受けられなかったが、しかし床が散らかっていた。
取材用の道具なのだろう、なにやら細工が加えられたカメラとマイク、そのレコーダー、
そして何より、ガラステーブルの上にノートパソコンが置かれていた。
アサピーはソファーに腰を下ろしては、テーブルが低いのもあって
ずいぶんと前かがみになり、取り憑かれたかのように、タイプをはじめた。
カタカタ、と、まるで何かが迫ってくるのかと錯覚しそうなほどの音が室内を支配する。
機械に弱いショボーンは、その音を聞くだけで耳がキンキンと痛く感じられるようになった。
少し狼狽して、ショボーンはアサピーの向かいのソファーに腰を下ろした。
ノートパソコンから、マウスや電源を補給するアダプタなどのケーブルが伸びていた。
それが気持ち悪くて目を逸らすと、今度はコンセントから伸びた、無線を飛ばすのであろう機械があった。
ルーターというより、それはモデムではないかと思われるが、
ショボーンはそもそも、それが無線を飛ばすものなのかどうかすらわからなかった。
とにかく、アサピーはがんばってるんだなあ、それがショボーンの印象だった。
タイピングの音が止まったかと思うと、アサピーは傍らに置いていたぼろぼろの手帳を手にとる。
口ぐせなのか、「くそ」と事ある毎につぶやいており、今もそうつぶやいた。
いつ切り出せばいいのだろう、と思うと、意外なことにアサピーのほうから口を切った。
アサピーとしても、いつまでも目の前に刑事がいたら、迷惑なのだろう。
先に用件を済ませようと思ったようだ。
(-@∀@)「―――で!」
(´・ω・`)「は、はい?」
(-@∀@)「おたく、なにか私に用なのでしょ? さっさと済ませてください!」
(´・ω・`)「取り調べをしたいんですが……」
.
- 251 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:08:09 ID:Vh.wwukY0
-
ショボーンはそう言っては語尾を濁した。
目で、アサピーのノートパソコンを見る。
「作業を止めてもらわないと取り調べができない」と言いたいのだ。
すると、アサピーは、意識といい視線といい手帳とパソコンの画面にしか向いていないはずなのに、
作業を続けながらショボーンの言いたいことに返答した。
(-@∀@)「別に答えるのはコレしながらでもかまわないでしょ?
訊きたいことがあればさっさと訊いてさっさと帰ってくださいよ。
あなたは記者という善良な市民に世間の大事なニュースを届ける使命を
持った一人の善良な人間に一方的に迷惑のひとつをかけるおつもりですか?」
( ;´・ω・)「(すごい……ぺちゃくちゃしゃべりながら作業できるのか……)」
アサピーは、依然目まぐるしい速さで作業を続けながら、言う。
その姿にショボーンは圧倒されたが、しかし話ができるなら、言われるとおりさっさと済ませよう、と思い至った。
ショボーンとしても、この場にはいつまでもいたくなかったのだ。
(´・ω・`)「……そうですね。16時から18時頃までの、あなたの動向を……」
(-@∀@)「17時まではホテル内で記事になりそうなことを!
17時から18時までは副支配人にお話を!
それだけです! さ、お引き取りください! さもないと、出るトコに出ますよ!」
アサピーはまくし立てるようにそう言って、脅迫まがいなことまで言った。
おそらくアサピーとしてはただ報告書をまとめたいだけなのだろうが、
それでもショボーンに刑事としての誇りを取り戻させるのには、充分な発言だった。
圧倒されていたのも今は復活し、むしろ口角を吊り上げ、彼特有の笑みを浮かべた。
アサピーはショボーンの顔には目もくれないで、ただひたすらキーボードを叩く。
.
- 252 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:08:51 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「アサピーさぁん、一応こちらもケーサツなんですよ。
. いい加減なことを言うようでしたら、後日重要参考人としてコッチにきてもらいますよ」
(-@∀@)「ケーサツともあろうお方がキョーハクですか! 明日の一面、楽しみにして――」
(´・ω・`)「その前に、偽証をしたってことでこっちは連行もできるんだ」
(-@∀@)「……!」
アサピーが一瞬、手を止める。
しかし、それもコンマ数秒のことであった。
ふん、と鼻を鳴らしては、すぐさま作業に戻る。
(-@∀@)「――おっと。あやうく、あなたの罠にひっかかるところでしたよ。
最近の警察は、どうも善良な市民をだまして捜査を適当に進めることが多い」
(´・ω・`)「なに……?」
(-@∀@)「いいでしょう。なら、その証拠を聞かせてください」
(´・ω・`)「…?」
(-@∀@)「私が適当なことを言ってる――
そうおっしゃりたいのであれば、それが嘘であることを証明してくださいよ」
一応、アサピーもショボーンとは面識があるが、しかし友好的な感情は一切ない。
ただ、スクープという名の飯とそれに喰らいつくハイエナ、という関係でしかなかった。
そのため、アサピーもショボーンも、相手を思いやる――なんてことは、ほとんどないと言っていいだろう。
平生ならばあるかもしれないが、このように互いに自分の仕事をまっとうするときなんかは、そうだ。
そして、一度は記者のアサピーが押したが、今度は刑事のショボーンが押した。
声色で脅しでもかけるかのように、力強くショボーンは言った。
(´・ω・`)「いいでしょう」
(-@∀@)「―――なんですって?」
.
- 253 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:09:42 ID:Vh.wwukY0
-
思わず、アサピーは手を止める。
今度は、一秒ほどは動かなかった。
(´・ω・`)「あなた、17時以降はずっとプギャーさんに取材していた、とおっしゃいましたね?」
(´・ω・`)「だが残念だ、その証言は真っ赤な嘘なんですよ」
(-@∀@)「……ッ」
ショボーンは事件発生後、医療セットを持ってやってきたプギャーに話を聞いていた。
そこで、プギャーは言った。
(´・ω・`)『アサピーさんはどうやってあしらったのですか』
( ^Д^)『走って撒いたに決まってるじゃないですか。
これでも俺、足には自信がありますから』
(´・ω・`)『(あ、あの人から走って逃げられたのか……)』
(´・ω・`)「プギャーさんは、あなたを『撒いた』とおっしゃった。それも、17時以降の話です」
(-@∀@)「……きっと、私から取材されたのを隠しておきたかったのでしょう。
あの人は、私の嗅ぎつけた『真実』を話すのを頑なに拒んでいらっしゃった。
それは、ショボーン警部もご存じでしょう?」
(´・ω・`)「いや、それは通らない」
(-@∀@)「なんですって?」
.
- 254 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:10:19 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「17時以降、というのは、当然犯行時刻も含まれている。
. もしほんとうにあなたからの取材を受けていたなら、
. たとえ芳しくないことがあったとしても、確かなアリバイが成立する以上
. 素直に証言するはずなんですよ、『アサピーさんから取材を受けていた』と」
(´・ω・`)「しかし、いわば、そのアリバイを放棄してまでプギャーさんは『撒いた』と言った。
. つまり、いま言った理由から、この証言も確かなものと断定できます。
. よって、プギャーさんを取材していた、という今の証言は、真っ赤な嘘――偽り、だ」
(-@∀@)「……!」
ショボーンの刑事としての実力が、発揮されるときだった。
(´・ω・`)「さあ、これであなたが適当な証言をした、と証明できた。
. 穏便に事を済ませたいなら、ちゃんと証言してもらいましょうか。
. ……それも、あなたが日頃執着している『真実』で、ね」
(-@∀@)「………」
そこで、アサピーは、黙った。
完全に手が止まり、視線はショボーンのうつむき気味な顔に向けられている。
そして
(-@∀@)「……………グッ」
(´・ω・`)「(……すかっとした)」
.
- 255 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:10:49 ID:Vh.wwukY0
-
アサピーは、負けを認めた。
再び手を動かし始めるが、その速度は、先ほどよりもだいぶ落ち着いている。
少なくとも、ショボーンが逃げ出したくなるほどの音ではなくなった。
(-@∀@)「……さすがは、ショボーン警部だ。
『真実』を追い求めるその力は、私でもなかなか及びませんね」
(´・ω・`)「違いますよ。『真実』……か、どうかは置いといて……
. 僕は、情報を求めるのがうまいわけじゃない」
(´・ω・`)「ただ、《偽り》を見抜く力があるだけです」
(-@∀@)「……そう、ですか」
.
- 256 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:11:19 ID:Vh.wwukY0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第六幕 「 おぞましい真実 」
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- 257 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:12:01 ID:Vh.wwukY0
-
アサピーは、偽りを見抜かれたことで、昂揚していた気分が冷やされたのだろう。
すっかり、記者としてショボーンに食って掛かることはなくなった。
(-@∀@)「無礼を、お詫び申し上げます。
レポートを優先したかった、その気持ちだけでも汲み取ってほしいところです」
(´・ω・`)「わかってますよ。では、本題に入らせてもらっていいですか」
(-@∀@)「わかりました。今日一日の行動、ですね?」
(´・ω・`)「関係のなさそうなことでも、事細かにお願いします」
アサピーは、うなずいた。
が、この落ち着きようから、先ほどのような適当な証言はないだろう、とこそ思うものの、
それでも、ショボーンは不安だった。
.
- 258 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:12:39 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「私は一日中、取材続きでしたね」
(-@∀@)「ここにきたのは、朝9時過ぎ。朝一の、キタコレ行きの列車に乗りました」
( ;´・ω・)「あ、朝9時! すごい意気込みですね……」
(-@∀@)「? トーゼンでしょう。むしろ、交通網の都合で
そんな時間からでないと取材をはじめられなかったのが残念です」
(´・ω・`)「キタコレに前日から泊まっておけば……」
(-@∀@)「これでも、私は忙しいのです。昨日は夜の3時まで仕事をしてましたね
睡眠時間は二時間にも達していないと思います」
( ;´・ω・)「よ……3時! …二時間!!」
(-@∀@)「つまり、ワレワレ記者にとって時間とは大切、どころのものではないのですよ。
今もそうだ。続きを言ってもいいですか」
( ;´・ω・)「あ、ハイ……」
ごほん、と咳払いをして、アサピーは続けた。
それも、作業を続けながらである。
人間性はどうであれ、その仕事に費やす情熱はすばらしいものだ、とショボーンは感心した。
(-@∀@)「朝からはずっと、ホテル内をひたすら歩き回って、記事になりそうなものをメモ。
そうですね、厳密に言えば、9時半すぎに――」
(´・ω・`)「すみません、16時くらいからの動向をお願いします」
(-@∀@)「そちらのほうが助かります」
.
- 259 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:13:17 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「16時頃から……ある場所で、あることを、ゴクヒで取材していましたね」
( ;´・ω・)「ちょ、ちょーっと待った!」
(-@∀@)「? なんですか」
(´・ω・`)「ちゃんと、言ってくれないと、困りますよ!
. 事件とは関係のない時間帯でも、ここらのことは把握しておきたいんです」
(-@∀@)「黙秘します」
(´・ω・`)「そう――え?」
ショボーンは、どきっとした。
取り調べ中にもっとも聞きたくない言葉を言われた気がしたからだ。
(-@∀@)「この取材は、ある意味、モナー殺人事件よりも興味深い、いわばトクダネです。
いくらあなたからの取り調べだとしても、こちらとしてもそうやすやすと言うわけにはいきません。
それに、事件とはまったく関連性がない、と思いますしね」
(´・ω・`)「(モナーさんはまだ死んでないんだけど……)
. 関係ないかどうかを決めるのは、僕です」
(-@∀@)「なにがどうであれ、黙秘することに何ら問題が?」
(´・ω・`)「………ぐ」
.
- 260 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:17:11 ID:Vh.wwukY0
-
先ほどは鮮やかにショボーンが勝ったのだが、今度はアサピーが優勢だった。
黙秘権は、当然、こういった取り調べでも適用されるのだ。
そして、ショボーンの経験則でいうなら、黙秘されるトピックほど、
事件に深く関わってくることのほうが多い。
黙秘の理由の大半が、事件と自分が何らかの形で関わっており、
言うと、なにか己にまずいことが起こるからだ。
アサピーの場合、その理由から外れるようだが、
しかし「トクダネ」と言われては、事件に関係ない、と言い切るほうが難しい。
ひょっとすると、なにか、決定的な瞬間を見てしまったのかもしれないのだ。
相手が言わないつもりなら、ショボーンのとることは、諦めだろうか。
――まったくの逆だ。
ショボーンの場合、その内容を予測し、黙秘されるその内容を言い当てていくのだ。
今回の場合、ヒントはある。
まず先ほど、アサピーは言った。
17時からは、プギャーに接触した、と。
取材したことは嘘だったが、接触したことそのものはほんとうなのだ。
それはプギャーの証言からして正しいし、ショボーン自身がその現場に遭遇している。
――そうだ、あのとき。
そこまで記憶を辿らせると、ショボーンはあることに気づいた。
(´・ω・`)「(……そういえば、あのとき、アサピーさんはプギャーさんと一緒に……)」
(´・ω・`)「(〝階段を使って3Fにまでやってきていた〟)」
つまり、プギャーのときとまったく同じ推理をすればいいのだ。
階段を使った、つまり、それまでは4Fにいた、ということ。
5Fから、という可能性も否めないが、5Fは客室の集うフロアだ。考えにくいだろう。
17時まで、喫茶店にいた。
そして、プギャーを追いかけて、取材をしようとした――
(´・ω・`)「!」
―――ショボーンの脳内に散らばっていたロジックが、一本につながった。
.
- 261 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:24:45 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「わかりましたよ、『トクダネ』がなにか」
(-@∀@)「な……なに?」
アサピーが動揺する。
さすがに、そこまではわからないだろうと思っていたからだ。
一方で、知られたら困る、という気持ちもあった。
ショボーンは大きく息を吸う。
キーボードを叩く音が響き渡るなか、その音だけは二人の耳に届いた。
(´・ω・`)「あなたは、シラヒーゲさんとプギャーさんとの会話を、盗み聞きしていましたね?」
(-@∀@)「……ッ!! どうして、それを……、……あっ」
(´・ω・`)「いまのがいい証拠です」
(-@∀@)「……当てずっぽうは、いけませんよ。
ロンキョを示してください、確かなロンキョを」
(´・ω・`)「あなたは、プギャーさんに取材を試みながら、4Fに降りてきた。
. つまり、降りる前、4Fにいたときからそうしていたと思われる」
(´・ω・`)「そして、問題は『どうして取材をしていたか』、だ。
. 少なくとも、ただホテルの話を聞きたかっただけではないことは確かだ」
(-@∀@)「なぜ」
(´・ω・`)「あの時の、ご自身の聞きっぷりを思い出してください」
(-@∀@)『――とか言いながら、実は裏取引とか、そのたぐいでしょ?』
( ;^Д^)『ちょ、人いますから! やめてくださいって!』
(-@∀@)『またまた、そうやって真実を隠――んん?』
(´・ω・`)『げ』
.
- 262 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:25:43 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「―――ッ」
(´・ω・`)「これは、プギャーさんのとった何かの行動に対する、いわば追究です。
. 追究、つまり、アサピーさんはプギャーさんがなにかしたのを見て、こんな質問をしていた」
(´・ω・`)「そしてプギャーさんは、4Fをあとにする直前までは、喫茶店で
. アスキーミュージアム館長のシラヒーゲさんと、話をしていました」
(´・ω・`)「あなたがこの件以外に追究できるトピックは、ない」
(-@∀@)「……、……」
アサピーは反論しない。
図星なのだろう、と考え、ショボーンは続けた。
(´・ω・`)「だとすると、説明が行くワードがあるんですよ」
(´・ω・`)「『裏取引』……最初はなんの話かと思ったが、この二人の話を盗み聞きしていたなら、合点がいく」
(´・ω・`)「美術品の提供。シラヒーゲさんがやや否定気味だったのを踏まえると、
. プギャーさんはなにやら強引な手を使って話――いや、もう商談だ。商談を進めたんじゃないんでしょうか」
(´・ω・`)「そこから察するに、その商談を進めるさい、プギャーさんはなにか、
. あなたの鼻を引くつかせるような、芳しくないことを言った」
(´・ω・`)「17時、商談が終わって帰ろうとするプギャーさんに、ここぞとばかりに食いついたのでしょう。
. そうすると、全ての疑問に合点がいく」
(´・ω・`)「一方で、こんな証言もあります」
.
- 263 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:26:16 ID:Vh.wwukY0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『ワタシがこの喫茶店に入るときにね、陰に人のケハイっちゅーの、感じたんですわ』
( <●><●>)『はあ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『で、この人も、ワタシが来る少し前まではプギャーさんと話しとったんですが、
どーやら人のケハイを感じてたみたいなんですよ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『なるほど、あの記者が隠れておったか。そりゃー感じるわ、ケハイ』
(´・ω・`)「『ケハイ』と一言に言いますが、二人が同じ証言をしている以上、
. おそらく呼吸音や布擦れの音が聞こえていた、と考えるほうが自然でしょう」
(-@∀@)「………」
(´・ω・`)「さあ、以上が根拠です。わかっていただけましたか?」
(-@∀@)「…………」
.
- 264 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:26:48 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「……そこまで、わかっておられるのですか。
しかし、私としたことが、ケハイを察知されるとは」
(´・ω・`)「観念していただけましたか?」
ショボーンが、勝った、と思って、得意げに聞く。
しかし、それは見当違いだった。
(-@∀@)「別に、それはいいんですよ」
(´・ω・`)「…え?」
(-@∀@)「ほんとうは、この二人の密談そのものを知られたくなかったのですが……
別に知られても、そこまでこのスクープに支障はきたされない。
問題は、その内容、ですからね。
……そういえば、モナー支配人の話も、密談にあがっていたような気がしますが……」
(´・ω・`)「…!」
その言葉に反応し、ショボーンが身を乗り出す。
それを読んでいたようで、アサピーは淡々とした様子で釘を刺した。
(-@∀@)「しかし、それでも教えません」
(´・ω・`)「なぜ!」
(-@∀@)「モナー支配人の話も挙がっていましたが、
それと犯行とが結びつくとは、思えなかった。
証言するに、何ら値しませんね」
(´・ω・`)「それを判断するのは――」
(-@∀@)「それは結果論の話だ」
(´・ω・`)「ッ」
(-@∀@)「結果論的それが値するだの、しないだの、もはや関係ないのですよ。
私は、このスクープに価値が失われるのだけは、阻止しなければならない。
そのため、私は黙秘権を行使します」
(´・ω・`)「……くそっ」
.
- 265 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:27:22 ID:Vh.wwukY0
-
ショボーンは、勝った、と思っていた。
しかし、結果的に言えば、最初から勝っていなかったのだ。
アサピーに黙秘権を行使させる以上、その話を聞きだすことはできない。
最初は、それでも、アサピーの動きさえわかればいい、と思っていた。
しかし、「トクダネ」にモナーが関わるのであれば、聞き逃すわけにはいかない。
ショボーンはどうしたものか、と思った。
アサピーは平静を取り戻したようで、再び作業の速度をはやめた。
もう一度、室内にショボーンの嫌いな音が鳴り響く。
それが、ショボーンに冷静な判断を下させるのを妨害した。
そこでショボーンは、ため息をついた。
投げやりになって、アサピーに、世間話でもするかのように話しかけた。
(´・ω・`)「そうですか……それではしかたがありません」
(-@∀@)「わかっていただけましたか。
いやはや、おかげで助かりましたよ。
この事件が終わって無事帰れたら、すぐに記事を書かないといけないので――」
(´・ω・`)「一応、あなたも容疑者の一人なんですけどね……」
(-@∀@)「 」
(´・ω・`)「……? アサピーさん?」
――すると、急に、アサピーが固まった。
手も、視線も、その気味の悪い笑みも、全てがぴたり、と止まった。
かすかに、呼吸する音だけは聞こえる。
ただでさえ気味が悪かったのが、よけいに気持ち悪く思えたため、ショボーンは声をかけた。
.
- 266 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:28:10 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「ど、どうし――」
(-@∀@)「は、ハハ――しょ、ショボ…ン警部も、なかなか……ごジョーダンがお上手で」
(´・ω・`)「は? いや、冗談なんて、ぜんぜん……」
カ ワ
すると、アサピーは豹変った。
(;-@∀@)「よ、ヨーギシャ!? この、私が!?」
(;-@∀@)「ちッ違う!! 私は、なにもしてない! ただ、取材をしていただけなんだ!」
(;-@∀@)「確かにアリバイはないが――で、でもですね!」
(;-@∀@)「殺人事件を取材することはあれど、殺人事件を引き起こすことなんて、ゼッタイ!」
(;-@∀@)「ゼッタイに、ありえません!! この、私が!」
(´・ω・`)「……あ、アサピーさん?」
(;-@∀@)「もしかして、犯人が捕まらなかったら、明日もあさっても、
ケーサツの皆さんが私のもとに――ひいては、本社のほうにまでやってきたりするのですか!?」
(´・ω・`)「え、ええと……まあ、そーなるでしょうね」
直後、作業することを完全にやめて、ショボーンの足元に飛びついた。
懇願でもするかのように、アサピーはショボーンにすがりつく。
.
- 267 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:28:52 ID:Vh.wwukY0
-
(;-@∀@)「わッ私はなにもしてないぞ! ほんとうだ、記者生命に誓って!!」
(´・ω・`)「そー言われましても……」
(;-@∀@)「わるいジョーダンだ! 私がいない朝曰新聞社に、未来はないんですよ!」
(´・ω・`)「はあ」
(;-@∀@)「はやく――そ、そうだ、明日には帰るつもりなんだ。
今日中に、事件を解決してくださいよ! ショボーン警部っ!!」
(´・ω・`)「でしたら、スクープのことを僕に話してください」
(;-@∀@)「え……?」
(´・ω・`)「一刻でもはやく、犯人逮捕を願うのであれば」
(´・ω・`)「我々警察を信用して、ご協力ください」
(´・ω・`)「……それが、善良な市民の、ギムです」
.
- 268 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:29:26 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「……!」
「義務」と聞いて、アサピーの顔は、またも豹変った。
しかしそれは、より険悪なものになったわけではなく、その逆である。
アサピーはぽかんとした顔をして、数秒後、ばつの悪い顔をした。
たとえそうだとしても、アサピーとて、簡単にはスクープを渡すわけにはいかない。
一方で、犯人逮捕に貢献しなければ、記者としての活動に大きな支障が生まれる。
だから、その葛藤に悩まされたのだ。
(´・ω・`)「おわかり、いただけましたか?」
(-@∀@)「………」
(´・ω・`)「……」
(-@∀@)「わかりました。お話し、しましょう」
(´・ω・`)「!」
(-@∀@)「しかし、ゼッタイに、口外無用です」
(-@∀@)「犯人確保のさいに、どーしても、どぉぉーしても言わなければならないとき以外。
そのとき以外では、ゼッタイにこのことを言っちゃあだめです」
(-@∀@)「いまから話すのは、ショボーン警部を信用しての、証言です」
(´・ω・`)「……感謝します」
(-@∀@)「では、一度しか言わないので、聞いてください」
(´・ω・`)「はい」
ショボーンがうなずくと、アサピーは元いた場所に戻った。
深刻な顔のまま、ぽつり、ぽつりと取材内容を漏らしていった。
.
- 269 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:30:02 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「まず最初に……ショボーン警部」
(´・ω・`)「はい」
(-@∀@)「今回の事件ですが――プギャー副支配人が、アヤシイですよ」
(´・ω・`)「…! なぜ――」
(-@∀@)「私は、おっしゃるとおり、喫茶店にて、
プギャー副支配人とシラヒーゲ館長の密談を聞いておりました」
(-@∀@)「内容によれば、どうやら、シラヒーゲ館長が美術品を提供するかどうかで
両者の要求が、みごとに食い違っていたようです」
(´・ω・`)「っ!
. (シラヒーゲさんの言い分と違うぞ……)」
(-@∀@)「一応、その場に居合わせたわけではないので、
小声で話されたことは聞き取りにくかったのですが――」
(-@∀@)「なにやら、奇妙なことを話されてましたね」
(´・ω・`)「奇妙、と」
(-@∀@)「ええ。WKTKホテルとアスキーミュージアムとの取引のはずなのに、
どうしてか、関係ないはずの存在の名があげられたのですよ」
(´・ω・`)「……! それって、もしかして…」
(-@∀@)「その予想とあってるかはわかりませんが……」
一呼吸置いて、アサピーは言った。
結果的に、そのショボーンの予想はみごとにあっていた。
(-@∀@)「アンモラルグループですよ」
(´・ω・`)「(やっぱり……か)」
ショボーンの胸に、なにか熱いものが宿る。
それに気づかず、アサピーは重苦しい様子で続けた。
.
- 270 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:30:32 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「しかも、そのアンモラルの名は、プギャー副支配人のほうから放たれていた」
(-@∀@)「どうやら、アンモラルを笠に、取引を有利に進めようとしていたみたいです。
ワレワレの背後にはアンモラルグループがついている、みたいな感じでした」
(´・ω・`)「しかし、アスキーミュージアムはあくまで国営だ。
. その名を出したところで、シラヒーゲさんには――」
(-@∀@)「私もそう睨みましたが、ですね。
ここでシラヒーゲ館長は反論しました。
すると、プギャー副支配人は、もっと奇妙なことを口走ったのですよ」
(-@∀@)「『アンモラルグループに逆らうと、どうなるかわかっているのか』」
(´・ω・`)「……なに?」
ショボーンがけわしい顔をした。
訝しげに思う気持ちは、アサピーも一緒のようだ。
(-@∀@)「おかしい。確かに、このホテルにアンモラルグループは企業を誘致したりしていますが……
ホテルとアンモラルグループとは、直接的な関係にはありません」
(-@∀@)「そこで私は私なりにスイリしてみたのですよ。
プギャー副支配人は、アンモラルグループになにか手をまわされたのではないか、と」
(´・ω・`)「! じゃ、じゃああの『裏取引』っていうのは……」
(-@∀@)「そうです」
(-@∀@)「アスキーミュージアムとWKTKホテル間……ではなく、
WKTKホテルとアンモラルグループ間で、裏取引があったのではないか――
そういう、意味です」
.
- 271 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:31:03 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「(どういうことだ……?)」
(-@∀@)「確かに、このホテルに人気のある美術品を提供させることができれば、より集客が望める。
4Fのフードエリアといい、ギフトショップや自販機で取り揃えられている商品といい、
このホテルのいたるところにアンモラルグループの手が回されているわけなのだから、
より大きな集客を成功させれば、その分アンモラルグループの宣伝効果も増すわけです」
(-@∀@)「もしこれが真実だとするならば、これほど大きなスクープはない。
期待の大型ホテル、WKTKホテル。国際的に名を馳せている、アンモラルグループ。
その両者に、後ろ暗いところがあった、ということなのですから」
(´・ω・`)「……ほう」
ショボーンはそこで、いったん状況を整理した。
今しがた話された「真実」を、自分なりに解釈する。
アンモラルグループ――それが、いったいどのようにこのホテルと関係しているのか、を。
そして、その「裏取引」に対応したのはプギャーだが、あくまで支配人はモナーだ。
ひょっとすると、そのこととなにか関係があるのではないか――
そこで、ショボーンはあることに気づいた。
アサピーの話を聞いていても、どこにもモナーの名が出てこないからだ。
それを訊くと、アサピーは少しうつむき、めがねを中指で支えた。
(-@∀@)「それですがね……また、小声の会話がはじまって、私は聞き取りづらかったのですが……
シラヒーゲ館長が、言ったんですよ。
『最終的な判断は、モナー支配人とじきじきに交わしたい』と」
(-@∀@)「するとプギャー副支配人は、だ」
(-@∀@)「『俺は、副支配人だ。支配人がいないときは、俺が全権を握るんだからな』……そう言ったんです」
.
- 272 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:31:40 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「…ッ」
(-@∀@)「当時は、ただプギャー副支配人の裏の顔が見えただけ……
そう思っていたのですが、モナー支配人の殺されたいま、
このセリフの意味が変わってくるように思えるのですよ」
(´・ω・`)「モナーさんが刺される前までは、この言葉は『俺を嘗めるな』程度にしか聞こえないのが……
. モナーさんが刺された今となっては、そんな意味じゃ、捉えにくい」
(-@∀@)「ええ。むしろ、こう聞こえるわけです」
(-@∀@)「 『支配人は、そのうち、俺がなるのだ』 ……と」
(´・ω・`)「………ッ!!」
――ショボーンの肌を、稲妻のようなものが走った。
これではまるで、犯行動機を自ら語っているようなものではないか、と。
むろん、これが犯行を証明するわけではない。
むしろ、いまの話のどこにも、プギャーが犯人だ、という証拠などない。
だが、捜査を進める上で、これはこの上ない証言となった。
少々遠回りをしたが、これは大きな収穫だ――と、ショボーンは思った。
.
- 273 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:32:15 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)「まあ、あくまで記者としての予想ですが、ね」
(´・ω・`)「……」
(-@∀@)「どうされましたか」
胸に熱いものを感じつつ、ショボーンは答える。
(´・ω・`)「貴重なお話、ありがとうございます。捜査の役にたちそうです」
(-@∀@)「当然。私の独占スクープ、なんですからね」
(´・ω・`)「それはそうと……アサピーさん」
(-@∀@)「まだなにか」
アサピーが、半ば面倒くさそうに言う。
だが、ショボーンは一つ、どうしても気になっていたことがあったのだ。
ショボーンの声は、徐々に、重苦しくゆっくりなものとなった。
.
- 274 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:34:50 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「あなたにとって……『真実』とは、なんですか?」
(-@∀@)「……なぜ、それを」
(´・ω・`)「実を言うと、僕は、そちらさんの出す記事を好ましく思っていない。
. ゴシップ同然の、一方的な憶測と批判しか書かれてないではないか、と」
(-@∀@)「………」
(´・ω・`)「これは、詩的に言うなら、『真実』への冒涜だ」
(´・ω・`)「しかし、あなたの仕事にかける熱意を見ても、今の話を聞いても、だ。
. ……まったく、そんな様子がうかがえないのです」
(´・ω・`)「『真実』を追い求め、それを市民に届ける働きは、それこそが『真実』なのだから」
(-@∀@)「…………」
(´・ω・`)「だから、捜査とは関係ないですが……教えてくれませんか」
(´・ω・`)「あなたにとっての、公表することに使命と義務を覚える『真実』とはなにか、を」
.
- 275 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:35:23 ID:Vh.wwukY0
-
(-@∀@)
(-@∀@)「……記者としていろんな質問をすることはありますが……」
(-@∀@)「そのような質問を、しかも私のほうがされたというのは、未曾有のことですね」
(´・ω・`)「……」
(-@∀@)「『真実』、ですか」
(-@∀@)「私が本社の代表となって言ってよろしいのなら、こう言いますね」
(-@∀@)「真実とは、イビツな紙粘土だ」
(´・ω・`)「……かみ、ねんど………」
.
- 276 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:38:11 ID:Vh.wwukY0
-
ショボーンが、息を呑む。
アサピーの、「アサピー」に見られなかった一面が見られたからだ。
(-@∀@)「私たち記者は、真実を公開するのが仕事ですが……」
(-@∀@)「その、公開されるべき真実は、そのままではひどく醜い」
(-@∀@)「政治家の汚職事件、教育現場における体罰、産地偽装のされた肉……
とても、そのままだと公表すらできない、おぞましいものだ」
(-@∀@)「紙粘土は、それをこねて、美術品のように形を整わせて遊びますよね?
私たちがやっていることは、それとなんら変わりません」
(-@∀@)「真実という、醜い紙粘土をこねて、形を整え、きれいにする。
そうしてできたものを、公表するのですから」
(´・ω・`)「……」
(-@∀@)「しかし、あなたがおっしゃるようにそれを好く思わないのは、
こねてできあがったソレが、ただお気に召さないだけか――」
(-@∀@)「……形にこだわりすぎて、紙粘土としての本質を失ってしまったのか。
その、どちらか、でしょう」
(´・ω・`)「!」
それを聞いて、ショボーンは、二つのことに驚いた。
ひとつは、その表現を聞いたため。
もうひとつは、アサピーの声が、明らかに日頃と比べ、低くなっていたため、だ。
平生のアサピーは、鼻にかかったような、やけに高い声をしている。
.
- 277 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:38:42 ID:Vh.wwukY0
-
それを自覚していたのか、アサピーは再び、手を動かし始めた。
手帳に目を遣ったりもしている以上、再び報告書をまとめはじめたのだろう。
まだだんまりとしているショボーンを物音のしない現状から判断して、
アサピーは邪魔者でも扱うかのように、不機嫌な声を発した。
(-@∀@)「……お話しできることは、以上です」
(´・ω・`)「そう、ですか」
(-@∀@)「私は、やっていない。17時からは、いま話した『トクダネ』を文字におこしていました。
プギャー副支配人に逃げられたので、ゲームセンターの傍らにコレを広げて」
そう言って、ノートパソコンを顎で指す。
ショボーンは「そんなもの持ち歩いていたのか」と思ったが、この男ならやりかねない。
(-@∀@)「誰とも会わなかった――というより、ずっとコチラに集中していたので、
あの人と会った、とか、そういうことはまったくわかりません」
(´・ω・`)「ゲームコーナーのなかを覗いたりは」
(-@∀@)「さっぱり」
(´・ω・`)「でも、あそこ、うるさいでしょ。レポート、書けたんですか?」
すると、アサピーは自慢げに言った。
(-@∀@)「キーボードを叩き始めて一分もすれば、まわりの音なんて聞こえなくなりますよ」
.
- 278 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:41:30 ID:Vh.wwukY0
-
◆
アサピーの取り調べは、結局、そこで終わった。
7-Aを出て、8Fにエレベーターで向かいながら、ショボーンは思索にふける。
アサピーのアリバイは、ない。
ゲームコーナーの休憩スペースにいたと言っているため、
もしかするとほかの誰かがその様子を目撃しているかもしれない。
もしそうとわかれば、確証はないが、おそらくアサピーも犯人ではないだろう。
ショボーンはそう考えたところで、次のステップへと思考を進めた。
では、誰であれば彼を見ている可能性があるか。
その答えは、まっさきに出た。
格闘ゲーマーの、ヲタだ。
彼は、ゲームコーナーにずっといる、と言っていた。
そのさい、ジュースなんかを買ったりすることもあるだろう。
そのときに、ひょっとするとアサピーを見ていたかもしれない。
一方で、ヲタに対する取り調べは、進んでいない。
ワカッテマスは、ガナーの証言からすると、
一度ホールで集まったさい、マリントンとともに倉庫に足を運んでいた。
そのため、取り調べに関しては期待できなかった。
次のターゲットが決まった、と思い至ったところで
ちょうど、8-Iの部屋にたどり着いていた。
残るは、ヲタとシラヒーゲとのーである。
後者二人の取り調べはショボーン自ら行っているため、実質的に、あと一人だった。
.
- 279 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:43:32 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「すみませんが、お話を――」
ノックしながら訪ねると、思いのほか、すぐに反応がきた。
扉の鍵を開ける音が聞こえたのだ。
まるで、ショボーンの来訪をあらかじめわかっていたかのように。
なかから顔を出したのは、脂ぎった、量の多い髪が中分けされている男性だった。
顔に浮かべる脂汗といい、にきびといい、めがねといい、唇の太さといい、身体の大きさといい、
ショボーンが求めていたヲタ、その人だった。
(∴)◎∀◎∴)「……?」
(´・ω・`)「ど、どーも。ショボーンですが」
(∴)◎∀◎∴)「……」
(∴)◎д◎∴)「………!」
(´・ω・`)「?」
だが、ヲタは、どこか挙動が変だった。
来訪者がショボーンとわかった途端、その力の籠もった笑みは、とたんに消えてしまった。
なにがあったのかわからず、ショボーンは首を傾げる。
(∴)◎д◎∴)「……では」
(´・ω・`)「はい―――え」
( ;´・ω・)「―――ちょーっと待った!!」
(∴)◎д◎∴)「小生は貴殿が嫌いヲタ」
( ;´・ω・)「それはどーも……って、だから閉めるな!」
.
- 280 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:44:27 ID:Vh.wwukY0
-
ヲタは、ショボーンの話に応じようとせず、扉を閉めにかかった。
すぐさまショボーンの半身がそれを防ぐ。
苦笑いと汗を浮かべながら、ショボーンはそれを制止した。
ヲタは、どこか迷惑そうな顔をする。
(∴)◎д◎∴)「きッ貴殿じゃないヲタ! 帰ってほしいヲタ!」
(´・ω・`)「……? 誰か、待ち人が?」
(∴)◎д◎∴)「…! ちちち違うヲタ! だから帰るヲタ!」
(´・ω・`)「(誰か待ってたんだな。どーでもいいけど)」
(∴)◎д◎∴)「困るヲタ、帰るヲタ!」
(´・ω・`)「取り調べを拒むなら、後日、署にきてもらいますが」
(∴)◎д◎∴)「! それも困るヲタ!」
(´・ω・`)「では、僕をなかに入れて、取り調べをさせてください。実は、けっこう痛いんです」
(∴)◎∀◎∴)「………わ、かった……ヲタ。どうぞ」
(´・ω・`)「失礼」
ショボーンは、胸の骨のあたりを撫でながら、中に入った。
.
- 281 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:45:03 ID:Vh.wwukY0
-
◆
もう、内装を見るまでもない。
ショボーンはうながされる前に、自ら進んでソファーに座った。
ヲタが虚を衝かれたような顔をするが、ショボーンは気にしないで、背もたれに体重をかけては腕を組んだ。
その不遜すぎる態度を見て、ヲタはいっそうショボーンのことを悪く思うようになったが、
一方でショボーンも、今の扉の件でヲタに対する心証が悪くなったところであった。
落ち着きのない様子で、ヲタも向かいのソファーに座る。
ガラステーブルの上にはなにもない。
そのことに妙な違和感を覚えたが、気に留めなかった。
(∴)◎∀◎∴)「用は……何ヲタか」
(´・ω・`)「モナーさんが刺されたことは、ご存じですよね」
(∴)◎∀◎∴)「小生を疑ってるヲタか?」
(´・ω・`)「無実と証明できるわけではないですが、疑っているわけでもない」
(´・ω・`)「そのどちらに傾くかを知るために、お話ししていただきたいのです」
ショボーンがやんわりと言う。
だが、それのどこにトゲを見つけたのか、ヲタは逆上した。
(∴)◎д◎∴)「え、小生は、ずっと、JKFをしてたヲタよ! 貴殿も見たでござろう!」
(´・ω・`)「JK…F?」
(∴)◎д◎∴)「『JKファイター』の略だヲタ」
(´・ω・`)「(うすうす感づいてたけど……キタコレ、略語多いな)」
.
- 282 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:45:55 ID:Vh.wwukY0
-
(∴)◎д◎∴)「ささッ、刺されたのは、バーなのでござろう!?
小生には犯行は不可能だヲタ!」
(´・ω・`)「ええ、犯行現場は11Fのバーです。
. しかし、どの階にいようと、3分もあれば刺すだけならできるのですよ」
(∴)◎д◎∴)「ヲタァァ!?」
それが意外だったのだろう、ヲタは露骨に驚いた。
ひょっとして、自分の容疑を否定するがあまり、ほかのことはなにも考えていないのではなかろうか。
ショボーンは、ふとそう思い、哀れんだ目をした。
(´・ω・`)「エレベーターがあるじゃないですか」
(∴)◎∀◎∴)「…!」
(´・ω・`)「11Fにあるエレベーターを1Fに呼び寄せてから11Fにいく――
. そんな無駄な時間がかかることを踏まえても、5分だ。5分あれば、刺すだけならできる」
そしていよいよ、ショボーンの姿勢が前かがみになる。
そのときの眼は、一度相手を捕らえると逃がさない、鷲のそれに似ていた。
.
- 283 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:46:35 ID:Vh.wwukY0
-
(∴)◎д◎∴)「だッだがしかしィ、小生はずっと、JKFをしていたのであってェ!」
(∴)◎д◎∴)「小生はァ…王者であるぞッ! そしてJKFは、ファンの間でずっと復活を望まれた、名作!」
(∴)◎д◎∴)「小生がJKFをし続けていた、と、信頼に足る証言ではなかろうか?!」
(´・ω・`)「……ちなみに、僕たちとあの筐体の前で会ってから18時まで、一度も、その場を動いてないですか?」
(∴)◎д◎∴)「…………当然ッッ! 至極、当然ッ! 自然の摂理である!!」
(´・ω・`)「(興奮して、性格……いや、『キャラ』が変わったか)」
(´・ω・`)「(まあ、いい。この証言……明らかな偽りがあるから、そこを衝くとしよう)」
興奮して、いまにも掴みかかりそうな勢いでまくし立ててくるヲタを前に、
ショボーンはただ冷静に、いまの証言を分析していた。
まあ、今回の場合、分析するまでもなかったが――
(´・ω・`)「ヲタさん、あなた、疑われたくないのですよね?」
(∴)◎д◎∴)「当然ッッ! 至極、当ぜ」
(´・ω・`)「なら、偽りの証言をされちゃあ困るわけですよ」
(∴);◎д◎∴)「………ヲタ?」
ヲタが一瞬、興奮を忘れて素に戻る。
ショボーンは、それを好機と見た。
.
- 284 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:47:05 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「僕たち、あそこで何回会いましたっけ」
(∴)◎д◎∴)「……一度きり、じゃ……」
(´・ω・`)「うん、そう。合ってるよ」
(∴)◎д◎∴)「じゃあ、何が問題なんでござろう?!」
(´・ω・`)「問題は、だね」
(´・ω・`)「僕たちは、あのあと、もう一度ゲームコーナーに行ったってことだよ」
(∴)◎д◎∴)「………」
(∴);◎д◎∴)「ヲタァァアアアアアア!?」
(´・ω・`)「時刻は、確か17時20分頃」
(´・ω・`)「例の筐体のほうを見たんですが……あれ、おっかしいなあ」
(´・ω・`)「いなかったんですよ、『ずっとゲームをしてた』と言ってる人が」
(∴);◎д◎∴)「…! ……ッ!!」
.
- 285 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:48:04 ID:Vh.wwukY0
-
ヲタが、動揺する。
なにか、あるな――自然のうちに、ショボーンはそう推理した。
フォックスといい、アサピーといい
隠そうとするトピックにはだいたい、事件と密接に関わる証言が隠されている。
ショボーンとしては、なんとしてでも、「ヲタが筐体から席を外した理由」を掴んでおきたかった。
(∴)◎д◎∴)「それと犯行と、なんの関係もないのではなかろうか!」
(´・ω・`)「わからないの? 17時20分だよ?」
(∴)◎д◎∴)「………」
(∴);◎д◎∴)「………あっ!!」
(´・ω・`)「そう。犯行時刻は多めに見積もって17時半から18時までの間……」
(´・ω・`)「あなたがいなかった時間と犯行時刻とが、みごとにかぶるのですよ!」
(∴)◎д◎∴)「異議ありッ!!」
(´・ω・`)「へ」
ヲタはいきなり、ガラステーブルを手のひらで叩いて、左の人差し指でショボーンを突きつけてきた。
唐突にしてあまりの奇行を見せ付けられ、ショボーンは一瞬、勢いを忘れ、きょとんとしてしまった。
(∴)◎д◎∴)「犯行時刻は、30分から。小生が席をはずしていたのは、20分前後。
そして、どこの階にいても、せいぜい5分あれば犯行が可能……
しかし貴殿は、『みごとにかぶる』と言った!」
(∴)◎д◎∴)「これは、明らかにムジュンしています!」
(∴)◎д◎∴)
(∴)◎∀◎∴)
.
- 286 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:48:34 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「(勢いのいいわりには、しょぼい反論だな……)」
(´・ω・`)「えー…オホン。さっきの話、聞いてました?」
(∴)◎д◎∴)「……え?」
(´・ω・`)「5分もあればどの階にいても〜ってのは、ただ『刺すだけの犯行』だったら、の話だ」
(´・ω・`)「あなたは、バーに向かってモナーさんと会ったと同時に刺す、とでも?」
(∴)◎д◎∴)「しょッしょしょ、ショーセイは、刺してないヲタ!
そもそも、刺す理由がないヲタ!」
(´・ω・`)「そう、問題は動機ですよ」
(∴)◎д◎∴)「!」
(´・ω・`)「その『刺す』という行為にいたるまでの、なにかのキッカケを生むか、もしくは話をする…その、時間。
. それを考えると……あなたの先ほどの反論は、むしろ逆になるわけですよ」
(´・ω・`)「『犯行時刻は、30分から。小生が席をはずしていたのは、20分前後。
. そして、どこの階にいても、せいぜい5分あれば犯行が可能……』
. ――だからこそ、ぴったり時間と合うのだ、と!」
(∴);◎д◎∴)「ヲタアアアアアアアアアアアッッ!!」
(´・ω・`)「(……さわがしいな)」
おほん、とショボーンは咳払いをした。
どうも、ヲタのような、どこかがズレている人に取り調べをするのは苦手のようだ。
先ほどのアサピーの時点で、それは痛感させられていたのだが、ヲタは更にその上を行っていた。
.
- 287 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:49:16 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「……さて。ほんとうのことを話してもらいましょう」
(´・ω・`)「ずっとゲームをすると言っていたのに、どうして17時20分頃、あなたはいなかったのか……?」
神妙な口ぶりで、訊く。
ヲタは、この刑事にこれ以上「ずっとゲームをしていた」で押し通すのは難しいだろう、と判断した。
そうすると、逮捕されそうな――そんな気がしたのである。
そのため、存外早く、観念したのか、口を開いた。
(∴)◎д◎∴)「……う…え」
(´・ω・`)「?」
(∴)◎∀◎∴)「両替機……が、壊れていたヲタよ」
(´・ω・`)「(『キャラ』は戻った、か)
. ほう、両替機が」
(∴)◎∀◎∴)「やっとブランクを埋められた、って矢先でこれだヲタ。
だから、店員を見つけて、クレームついでに
両替機を直してもらうか両替してもらおうと思ったんだヲタ」
(∴)◎∀◎∴)「そのとき、たまたま貴殿がきただけであるからに……」
(∴)◎∀◎∴)「………でも、店員はいなかった……し、
パーティのこともあったから、小生はそのままパーティ会場に向かった……」
(∴)◎д◎∴)「…………それだけ、ヲタ」
(´・ω・`)「………」
.
- 288 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:49:52 ID:Vh.wwukY0
-
ショボーンが、少し黙る。
いまの話は、一見、もっともらしく聞こえた。
ヲタの、ゲームにかける思いは強い。
長らくアーケード版がなかったため、それに慣れようとゲームをし続けるのにもうなずける。
そして、だからこそ両替をするのも、おかしい話ではない。
両替機を直してもらおうと店員を探すことなど、至極当然の話だろう。
加え、このホテルに店員なんて存在しない。
――しかし、ショボーンは。
この話を聞いて、まったく「もっともらしい」とは思わなかった。
(´・ω・`)「ヲタさん、これが最後の忠告だ。
. 嘘をついたら、署にきてもらいますよ」
(∴)◎∀◎∴)「嘘じゃないヲタ。みな、まことヲタ」
(´・ω・`)「おかしいなー。じゃあ、どうしてだろう」
(∴)◎∀◎∴)「なにがヲタ?」
(´・ω・`)「あのとき、僕の千円を両替してくれたのは、なんの機械だったのかなぁ」
(∴)◎∀◎∴)
(∴)◎∀◎∴)
(∴)◎д◎∴)
.
- 289 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:50:25 ID:Vh.wwukY0
-
(∴);◎д◎∴)「ヲッタアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
(´・ω・`)「(……ほんとうにさわがしい)」
ショボーンが言うと、ヲタは、叫んだ。
それも、ゲームコーナーが成す轟音の渦と同じくらい、うるさく聞こえた。
ショボーンは顔をしかめるが、ヲタにその意思は伝わらない。
(∴);◎д◎∴)「う、嘘はやめていただきたい所存でござる!!」
(´・ω・`)「嘘じゃないよ。ほら」
言われると思って、ショボーンはあらかじめ、ポケットを取り出しておいた。
それの小銭入れから、じゃらじゃら、と小銭を七枚だした。
そのどれもが、銀色に輝く、百円玉だった。
(∴);◎д◎∴)
(´・ω・`)「まず、千円を両替して、百円玉十枚に。
. で、それらが尽きたから、もう一度両替して。
. 余った百円玉が、これですよ」
(∴);◎д◎∴)「嘘ヲタ! 嘘ヲタっ!!」
(´・ω・`)「嘘だと思うなら、賭けませんか?
. のちに警察がきますが、そのときに」
(∴);◎∀◎∴)「な、何の……」
(´・ω・`)「両替機のなかにある千円札のうち二枚に、僕の指紋があるかどうか、ですよ」
.
- 290 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:50:55 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「両替機のなかにある千円札のうち二枚に、僕の指紋があるかどうか、ですよ」
(∴);◎∀◎∴)「…」
(∴);◎∀◎∴)「……」
(∴);◎∀◎∴)「………」
彡 ◎⌒◎
彡
(∴) 3Д 3∴)「をたあああああああああああああああああああああああああああ
ああああおおおおおおををををアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアイヤアアアアアアアアアアアああああああああああああ
ああああしぃちゅわああああああああああああん!!にぎゃああ
あああひぎィィィィトソンちゅわあああああああん!!!いやああ
あああおおおおおおおヲヲヲヲヲッヲオオオオおおおッッ!!!」
.
- 291 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:51:27 ID:Vh.wwukY0
-
◆
( ;´・ω・)
(∴) 3Д 3∴)
(´・ω・`)「……」
(∴)ぅДて∴)「……」
(∴)◎∀◎∴)「………」
――ひとしきり叫んだかと思うと、ヲタはやがて、落ち着いた。
吹き飛んだめがねをかけては、ふう、とため息をつく。
ため息をつきたいのは、ショボーンのほうだった。
ヲタの抵抗が完全に消えた、いまこそが好機だ。
そう感じたショボーンが、ゆっくり、立ち上がりながら話し出した。
この手の人には、やんわりと脅しを叩きつけると、証言をしてくれるケースが多いのだ。
少しためらわれる手ではあるが、脅しといっても事実を述べるだけなので、
ショボーンは心を鬼にする。
.
- 292 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:52:05 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「……そうです、か。残念です」
(∴);◎∀◎∴)「を、ヲタ!?」
(´・ω・`)「今度こそ、ほんとうに話してくれる……そう、信じてたのですが――」
(∴);◎∀◎∴)「ま、待ってほしいヲタ!」
(´・ω・`)「はい? まだ、なにか?」
ヲタは、ソファーから身を乗り出して左手をテーブルにつき、右手をショボーンに伸ばした。
まるで、ショボーンを掴もうとするような動きである。
それを見て、そう冷静に返す反面、内心では「うまくひっかかった」とほくそ笑んでいた。
(∴);◎∀◎∴)「は、話すヲタ! そのとき、ヲタが何をしてたのか、を!」
(´・ω・`)「……今度こそ、ほんとうにまことでただしい確かな証言、ですね?」
(∴);◎∀◎∴)「ほんとうにまことでただしい確かな証言ヲタ!」
(´・ω・`)「………」
(∴);◎∀◎∴)「頼むヲタ!! もう、嘘はつかない!」
ショボーンはわざと、もったいぶる様子を見せた。
それにヲタが、声を更に上ずらせる。
この調子で、さすがにもう嘘はつかないだろう。
そう確認したショボーンは、もう一度ソファーに腰を下ろした。
.
- 293 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:52:38 ID:Vh.wwukY0
-
(´・ω・`)「……わかり、ました。で、あなたはなにをしていたのですか?」
(∴);◎∀◎∴)「信じて、くれるヲタ?」
(´・ω・`)「あなたが『真実』を話してくれたら」
(∴);◎∀◎∴)「じゃ、じゃあ………」
ヲタが、荒れていた呼吸を、整える。
落ち着いてきた頃に、ヲタは、いままでになかった真剣な表情をして、ショボーンと視線を交わした。
そして、ショボーンは痛感することになる。
『真実』とは、そのままでは、ひどく醜く、そしておぞましいものである、ということを――
.
- 294 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:53:23 ID:Vh.wwukY0
-
(∴)◎∀◎∴)「モナー氏が……」
(´・ω・`)「!」
(∴)◎∀◎∴)「モナー氏が、誰かと一緒にいたんだヲタ」
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第六幕
「 おぞましい真実 」
おしまい
.
- 295 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/06(水) 20:54:17 ID:Vh.wwukY0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五章 「見てはいけない」
>>248-294 第六章 「おぞましい真実」
.
- 296 :同志名無しさん:2013/03/06(水) 21:01:02 ID:Vh.wwukY0
- 退屈な話はここまで
次回第七幕、「次なる被害」からがこのお話の本番です
- 297 :同志名無しさん:2013/03/06(水) 21:58:35 ID:Uu8CQaak0
- 超絶乙
お前さんみたいに名作を量産できるようになりたいぜ・・・
- 298 :同志名無しさん:2013/03/06(水) 23:45:42 ID:tmTaacJw0
- アサピーうざいなーってずっと思ってたけどそれだけじゃないんだなぁと印象変わった
- 299 :同志名無しさん:2013/03/06(水) 23:50:42 ID:6BoVsITI0
- 逆転裁判っぽくて楽しく読めるのがいいな
- 300 :同志名無しさん:2013/03/07(木) 08:55:29 ID:OJvJfA7Y0
- 面白いなぁ
- 301 :同志名無しさん:2013/03/09(土) 06:07:42 ID:3.AwaBFU0
- 今日だっけ
- 302 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:39:49 ID:yIq06eDU0
- マウスの電池が切れたので今しばらくお待ちください
- 303 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:45:38 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「―――な」
(;´・ω・`)「なんですって!? 詳しく聞かせてください!!」
ショボーンは思わず、取り乱してしまった。
ずいと身を乗り出して、ヲタに顔を近づける。
シンと静まり返った部屋の中で、ショボーンの荒い呼吸だけがきわだっていた。
(∴);◎∀◎∴)「ちょ…順を追って説明するから、落ち着いてほしいヲタ」
(´・ω・`)「……失礼」
はッとして、いまの自分の取り乱した様を、詫びる。
きわだっていた呼吸はすぐに存在感を消して、再び静けさが鼓膜を襲うようになった。
ショボーンは乗り出した身を引っ込め、言われたとおり、落ち着いた。
ヲタが口を切ったのは、それを確認してから、だった。
(∴)◎∀◎∴)「……小生が席をはずしたのには、理由があるヲタ」
(´・ω・`)「両替の話は嘘、と」
(∴)◎∀◎∴)「そのとおりヲタ。でも、聞いてほしいヲタ」
(´・ω・`)「わかってますよ。どうぞ」
.
- 304 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:46:10 ID:yIq06eDU0
-
(∴)◎∀◎∴)「バトルを終えたところで、ふう、と一息ついたヲタ」
(∴)◎∀◎∴)「すると気のせいか、物音が聞こえたんだヲタ」
(´・ω・`)「どんな音でした? また、それはどこから?」
(∴)◎∀◎∴)「クレーンゲームが並んでるところだヲタ。音は……」
(´・ω・`)「……? 思い出せませんか?」
(∴)◎∀◎∴)「……わ、笑わないヲタ?」
(´・ω・`)「ええ。どうぞ」
なぜ、ここでもったいぶるのだろう――
このときはそう思ったショボーンだが、続けて放たれたヲタの言葉を聞いて、それも納得した。
ヲタは頬を紅潮させ、にやにやとしたのだ。
(∴)*◎∀◎∴)「お……おにゃのこの……喘ぎ声みたいな、声だったヲタ」
(´・ω・`)
(´・ω・`)「は?」
.
- 305 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:46:46 ID:yIq06eDU0
-
思わず、ショボーンがきつく言う。
一瞬、冗談にしか聞こえなかったのだ。
「おにゃのこ」とは、「女の子」と言ったつもりなのだろう。
そこまではよかったのだが、「喘ぎ声」のほうに納得がいかなかった。
しかし、その反応を読んでいたのか、ヲタはすぐさま困ったような顔になった。
(∴)◎д◎∴)「ほッほんとうに聞いたんだから、しかたがないヲタ!」
(´・ω・`)「……」
(∴)◎д◎∴)「悲鳴をかみ殺したような……」
(∴)*◎д◎∴)「ちょ、ちょっぴりえちぃ声でござった」
(´・ω・`)「は、はあ。それで」
(∴)◎∀◎∴)「気になって、小生は声のしたほう……クレーンゲームのエリアまで行ったヲタ」
(´・ω・`)「じゃあ、僕が来たときにあなたがいなかったのは」
(∴)◎∀◎∴)「たぶん、そのときだヲタ」
(´・ω・`)「わかりました」
.
- 306 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:47:18 ID:yIq06eDU0
-
(∴)◎∀◎∴)「えっと……そ、そうそう!」
(∴)◎∀◎∴)「最初は、その…けッけしからん声は、聞き違いだと思ったんだヲタ」
(´・ω・`)「まあ、そう思いますよね」
(∴)◎∀◎∴)「だから、こっそり、そこに行って真偽を確かめようと思ったら……」
(´・ω・`)「……」
(;´・ω・`)「…! ま、まさか、そこに――」
(∴)◎∀◎∴)「モナー氏の後ろ姿と……黒髪の女性が、見えたんだヲタ」
(;´・ω・`)「………一応聞きますと、その二人は、いったい……?」
問われるだろう、と思っていたことを問われて、ヲタは上機嫌になりながら答えた。
(∴)*◎∀◎∴)「せッ………、……」
(´・ω・`)「……せ?」
(∴)*◎∀◎∴)「セップンを……交わしてたヲタ!!」
(´・ω・`)
.
- 307 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:47:49 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「え?」
(∴)◎д◎∴)「ほんとうヲタ! なんだ、その目はァ!」
(´・ω・`)「……いやいや、その」
ショボーンは、自分の耳を疑いながら、呆れた様子で訊いた。
しかし、どうやら聞き違いではなかったようだ。
(´・ω・`)「セップンって……その。いわゆる、キスですか?」
(∴)*◎∀◎∴)「そそッそんなストレートに言わないでほしいヲタ!
. こう見えて小生、ふぁーすときっすはまだでござって……」
(´・ω・`)「……えぇぇ…?」
にわかには信じがたい話だった。
モナーと黒髪の女性は、どうやら接吻を交わしていた、というのだ。
黒髪の女性、と言えばのー、ガナー、レモナの三人がいるが
三人とも、モナーの妻や愛人、というわけではない。
ガナーなら娘だから、考えられるかもしれなかったが
それでも、モナーの性格や二人の仲を考えると、考えにくい話だった。
しかし、ヲタが嘘をついているようには見えなかった。
そうでなければ、顔を真っ赤にしながらここまで饒舌に話すわけがないだろう。
そのため、よけいに、ショボーンは混乱してきた。
.
- 308 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:48:37 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「一応、見た光景を、もっと詳しく話してください」
(∴)◎∀◎∴)「いいヲタが……細かいところまでは見れてないヲタよ?」
(´・ω・`)「え? どうして」
(∴)◎∀◎∴)「小生、クレーンゲームのガラスケース越しで見たんだから。
しかも、そのお二人さんは、そこから五メートルほど離れたところにいたんだヲタよ」
(´・ω・`)「(ガラスケース越し……とすると、見える光景はぼやけることになるな)」
(´・ω・`)「しかし、だったらなぜ、二人がキスをしてた、ってのがわかったんですか」
(∴)*◎∀◎∴)「そりゃあ、二人が顔を……あッあそこまで、近づけてたら……」
どうも、話がすっきりしない。
ショボーンは本題を衝くことにした。
左手を右肘に、右手を顎に当て、ショボーンは改まった声を出す。
.
- 309 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:49:09 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「その光景を、あいまいでいいので詳しくお願いします」
(∴)◎∀◎∴)「えっと……モナー氏が小生に背を向けてて、その向こうに、おお、おにゃのこが……」
(´・ω・`)「モナーさんはどんな体勢でしたか?」
(∴)◎∀◎∴)「そうヲタね……。相手の頭を両手で押さえて……みたいな感じだったような」
(´・ω・`)「…!」
(∴)◎∀◎∴)「おにゃのこのほうも首から上が見えていたヲタけど……
位置的に、どーもセップンをしているようにしか見えなかったヲタねぇ。
さッ、最近のワカモノは、貞操が乱れているから困る! けしからんでござる!!」
(´・ω・`)「(若くないだろ、モナーさんは……)」
しかし、そこまで具体的に言えるということは、やはり、あるがままを見たのだろう。
認めたくなかったが、ショボーンは彼の証言を認めざるをえなかった。
認めるからこそ、彼はひとつ、確認しなければならないことがあった。
言うまでもない。その「おにゃのこ」が誰か、である。
(´・ω・`)「ところで、ヲタさん」
(∴)◎∀◎∴)「ヲタ?」
(´・ω・`)「ずばり訊きますよ」
(´・ω・`)「その、相手の女性………だれ、でしたか」
(∴)◎∀◎∴)「……」
.
- 310 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:49:44 ID:yIq06eDU0
-
先ほどから、彼は「おにゃのこ」と、代名詞しか使っていなかった。
確かにこの男が、今日このホテルにいる女性と面識を持っているとは思えない。
しかし、それでも名前――せめて、どんな人か、は言えるのではないか。
そう思ったがゆえの、質問だった。
しかし、ヲタはヲタで、なんとかそれを思い出そうとしているようだが
ショボーンの納得のするような答えを言うことは、できなかった。
(∴)◎∀◎∴)「髪の毛が黒くて、スーツみたいな畏まった服を着てた……までは、わかってるヲタけど……」
(´・ω・`)「ここに女性は四人いますが、その条件だけだと三人が当てはまりますよ」
(´・ω・`)「秘書の、レモナさん。娘のガナーさんに、えっと……のーさん」
(´・ω・`)「一方で、レモナさんとガナーさんは、ずっと10Fにいた、とされている。
. 少なくとも、17時20分頃だと、この二人が10Fにいたことは証明されていますね」
(´・ω・`)「……とすると、その女性は、のーさん……ってことで、大丈夫ですか?」
ショボーンは、自然な推理をして、そう訊いた。
トソンの証言から、17時以降にはレモナもガナーもいたことは確かだ、となっている。
一方でトソンの髪は、茶髪だ。
とすると、その接吻をしていた、とされる女性は、のーしかありえない――となるのだ。
しかし、ショボーンが驚いたのは、ヲタの反応だった。
彼は、目を丸くしたのだ。
.
- 311 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:50:19 ID:yIq06eDU0
-
(∴)◎∀◎∴)「………え?」
(´・ω・`)「え?って……」
(∴)◎∀◎∴)「いや、その……」
(´・ω・`)「なんですか?」
(∴)◎∀◎∴)「のー氏って……あの、おばちゃんヲタよね?」
(´・ω・`)「ま、まあ。三人のなかで年長であることは確かです」
(∴)◎∀◎∴)「ヲタも、そのおにゃのこが誰か、を考えてたんだヲタけど……」
(∴)◎∀◎∴)「のー氏だけは、違う。……そう思っていたヲタよ」
(´・ω・`)「……え?」
(∴)◎∀◎∴)「なぜかはわからないけど……あの人じゃあないな、って、気がするんだヲタ」
(´・ω・`)「いや、そんなはずが」
ショボーンが動揺する。
ヲタはそれを見て、なぜそう言えるのかを自分なりに説明しはじめた。
(∴)◎∀◎∴)「18時になってみんなが10Fに集まったヲタね?
そのとき、おにゃ……女性を、見てったんだヲタ」
(∴)◎∀◎∴)「で、のー氏を見たとき……『コレジャナイ』感がしたヲタ。
なぜかはわからないヲタが……」
(´・ω・`)「い、いやいやいや……だとしたら、誰だと言うんです」
(∴)◎∀◎∴)「小生に聞かれても困るヲタ。誰かわかってたらそう言うヲタよ」
(´・ω・`)「………妙だ」
.
- 312 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:50:50 ID:yIq06eDU0
-
むろん、証言とは当人の主観を介して話されるものであるため、
鵜呑みにするわけには、いかないときがある。
そして、平生のショボーンなら、今回がそうであろう、と割り切っていた。
しかし、どうしてか、今回はそれを信じるしかないような気がした。
ヲタは、接吻という、非日常的な光景を目の当たりにしている。
見慣れない光景だからこそ、そこに主観を挟む余地など、ないのではないか――そう思ったのだ。
やっぱり、そう反応されるか――ヲタはそう思って、ため息をついた。
うなだれるかのように、少し、顔をうつむける。
そして、力なく、声を発した。
(∴)◎∀◎∴)「……わかってるヲタ。どーせ、信じてもらえないヲタ。
だから最初は話すつもりなんてなかったヲタ」
(´・ω・`)「そ、そんなことは」
(∴)◎∀◎∴)「とりあえず、小生が話せるのはここまでヲタ」
(´・ω・`)「ちなみに、ソレを見てからの行動は?」
(∴)◎∀◎∴)「もう一度JKFをやろうと思ったけど、そんな気になれなかった上に
もう時間も押してきてたゆえ、小生はそのまま10Fに向かったヲタ」
(´・ω・`)「時間は覚えてますか?」
(∴)◎∀◎∴)「わからない……いや、17時40分くらいでござろうか。たぶん」
(´・ω・`)「まあ、わりと早い時間だった――と認識しておきます」
.
- 313 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:51:23 ID:yIq06eDU0
-
(∴)◎∀◎∴)「……け、刑事さん」
(´・ω・`)「はい」
(∴)◎∀◎∴)「もう話すことはないヲタ?」
(´・ω・`)「(一応、なにをしていたかも聞いたし……ないかな)」
(∴)◎∀◎∴)「ないなら、はやく出てってほしいヲタ」
( ;´・ω・)「え、えぇぇ……、……」
(´・ω・`)「………! いや、ヲタさん、まだ、話していただなければならないことがあります」
(∴)◎д◎∴)「ヲタぁぁ……」
そこで、ショボーンは思い出した。
自分がここにきたときの、ヲタの奇行を。
(´・ω・`)「ヲタさぁん。あなた、僕に隠し事をしてると、ロクでもないことが起こりますよ」
(∴)◎д◎∴)「おッ脅しヲタか!?」
(´・ω・`)「違いますよ。ひとつ、あなたは隠し事をしている」
(∴)◎д◎∴)「小生の見たことは、全部言っ――」
「違います」。
冷静に、しかし不敵な笑みを浮かべて、ショボーンは短く言った。
.
- 314 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:51:54 ID:yIq06eDU0
-
(∴)◎д◎∴)「じゃ、じゃあ――」
(´・ω・`)「あなた、誰かを待ってますね?」
(∴);◎д◎∴)「を、ヲタッ!!? どーしてソレを……あっ」
(´・ω・`)「僕がここにきたとき、すぐに扉は開かれた。
. どうも、すぐに応対できたのは、グーゼンとは思えないのですよ。
. 開いたかと思えば、僕の顔を見ては、すぐに閉めたんだから」
(´・ω・`)「とすると、あなたは誰かを待ってて、ドアの前で待機していた、と捉えるほうがいい。
. ……あなたが呼んだ、誰かを待つため、に」
(∴);◎д◎∴)「………」
(´・ω・`)「そこで、だ」
(´・ω・`)「誰を呼んだのか――それを、言ってもらいましょう」
(∴);◎∀◎∴)「事件とはカンケーないヲタ!」
その動揺は、「なにかあるな?」とショボーンの目を光らせるのに、充分だった。
そして、やはり言ってはくれないか、と思いつつ、ショボーンは腕を組んだ。
目を細め、睨むかのようにヲタを見る。
.
- 315 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:52:32 ID:yIq06eDU0
-
(´-ω-`)「(……もっとも、だいたいの予想はつくんだけどな……)」
(∴);◎∀◎∴)「た、確かに小生は人待ちヲタ! でも、でも……ッ」
(´・ω・`)「(さっきこの人が口走った、あの言葉。
. 本来なら、言うはずのない言葉が、全てを物語っている)」
(´・ω・`)「(一方で、いま思えば、あのときのあの人の言葉も、これを示唆してたのかもしれん)」
(´・ω・`)「(動機も……まあ、この人だったら、言わなくてもわかるな)」
脳内で推理を再確認する。
その間、ヲタはそわそわとして、なんとかショボーンを追い返そうとする。
それを煩わしく思ったショボーンは、本人にはかわいそうだが、その隠し事を暴いてみせようと思った。
事件とはなんら関係がない。
ただ、胸中のモヤモヤを晴らしておきたかったのだ。
(´・ω・`)「まあ、あなたが誰を呼んだのか、だいたいの目星はついてますよ」
(∴);◎∀◎∴)「ヲタァァ!?」
(´・ω・`)「当ててみせましょう」
(∴);◎∀◎∴)「わかるはずが――」
(´・ω・`)「都村、トソン。違いますか?」
.
- 316 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:53:08 ID:yIq06eDU0
-
(∴) 3Д 3∴)「ッ!!」
(´・ω・`)「(やっぱり……)」
(∴)ぅДて∴)
(∴)◎∀◎∴)
(∴);◎д◎∴)「ど、どーして!!」
(´・ω・`)「さっき、あなたがめがねを飛ばしながら絶叫したときのこと、覚えてないのですか?」
(∴)◎д◎∴)「……?」
言われて、ヲタはつい先ほどのことを思い出す。
次々と嘘が見抜かれていって、取り乱したとき――
(∴) 3Д 3∴)『をたあああああああああああああああああああああああああああ
ああああおおおおおおををををアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアイヤアアアアアアアアアアアああああああああああああ
ああああしぃちゅわああああああああああああん!!にぎゃああ
あああひぎィィィィトソンちゅわあああああああん!!!いやああ
あああおおおおおおおヲヲヲヲヲッヲオオオオおおおッッ!!!』
.
- 317 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:53:41 ID:yIq06eDU0
-
(∴);◎∀◎∴)「…ッ!」
(´・ω・`)「見ず知らずの人の名を、それもちゃん付けで呼ぶとは、考えにくい。
. すると、あなたが彼女となんらかの形で接した、と考えるのが適当」
(´・ω・`)「また、僕たちが3Fで会ったときも、あなたは『しぃ』と叫んでいた。
. おそらく、ゲームのキャラクターか、アイドルの彼女か……
. 共通していることは、『自分が好いている』であろうということだ」
(∴);◎∀◎∴)「ぐ…、……ゥゥゥウっ!!」
(´・ω・`)「ということは、あなたはピンチに陥ると、つい自分の好いている
. 女性の名を叫んでしまうクセがあるのかもしれない」
(∴);◎∀◎∴)「所詮、貴殿の憶測ッッ! ショーコは……」
(´・ω・`)「一方で、だ。少し前、僕はあの子の部屋を訪れたんですが……
. あの子もあの子で、妙なことを口走ってたんですよ」
(゚、゚トソン『あ、刑事だったんですか――』
(´・ω・`)「――彼女は当初、その来訪が違う人のものかと思っていた。
. でも、実際は僕ともう一人の刑事だったから、こう言ったんだ。
. そう考えると、全ての辻褄があう」
(´・ω・`)「あんたは、トソンちゃんが可愛いばっかりに
. おしゃべりでもしようと思ったんでしょーけどな、
. 向こうはあんたに構ってくれないから、それでソワソワしていた――」
(´・ω・`)「そんなところでしょ?」
ショボーンは、じゃっかんムキになりながら、そう言った。
その迫力は、犯人を追い詰めるときに通じたものがあった。
ショボーンが無駄に時間を費やしてまでこれを明かしたかった理由は、ショボーン本人にはわからなかった。
.
- 318 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:54:25 ID:yIq06eDU0
-
(∴);◎∀◎∴)「ちょ、ちょっと!! なれなれしく、あの天使ちゅわんを――」
(´・ω・`)「ちなみに、僕、あの子の友だちだけど」
(∴)◎∀◎∴)「!」
(´・ω・`)「…?」
(∴)◎д◎∴)「た、頼みます! トソンちゅわ……トソン氏と、ををを、をしゃべりを……」
(´・ω・`)
(∴)◎д◎∴)「せ、せめて、アイサツくらいはしたい所存でござる…!!」
(´・ω・`)
(∴)◎д◎∴)「……け、刑事殿?」
(´・ω・`)
(´・ω・`)
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!! ぶッひゃひゃひゃ!」
(∴)◎д◎∴)
.
- 319 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:55:02 ID:yIq06eDU0
-
(´;ω;`)「あ、あんた、なんかアヤシイなって思ったら、ぶひゃひゃ!
も、もしかして、ヒトメボレ……ぶっひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
(∴);◎д◎∴)「わわわ、笑うでないヲタ!! 小生は、小生はァァァッ!!」
(´;ω;`)「ち、ちなみに、……ぶひゃ…、あの子のどこがイイのよ」
(∴);◎д◎∴)「トソン氏をばかにするでない!!
. トソン氏は、二次元から舞い降りた、小生の天使だヲタ!!」
(´;ω;`)「てん……ぶっひゃひゃひゃ!!」
(∴)◎∀◎∴)「茶色がかった、艶のある髪! ポニーテール!!
澄ました顔に、控えめのムネに、イイ感じのくびれ!!
高飛車でエスなお嬢様かと思いきや、実はなかなかのおてんば!!
顔、性格、どれひとつをとっても、スンバラシイものヲタよ!!」
(´・ω・`)「ちなみに、あの子はあんたのこと、キショイって言ってたけどな」
(∴)◎∀◎∴)
(´・ω・`)
(∴)◎д◎∴)
(´・ω・`)「?」
(∴)◎д◎∴)
.
- 320 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:55:36 ID:yIq06eDU0
-
(∴)。◎д◎。∴)「を、ヲタアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
(´・ω・`)「ごめん、嘘」
(∴)◎д◎∴)
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃ! あ、あんた面白いな!」
(∴)◎д◎∴)「帰れ! さっさと帰るヲタ!!」
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃひゃ! い、言われな、くても帰るヲタよ!」
(∴)◎д◎∴)「小生のアイデンティティーを奪うでないでござる! 帰るヲタ!」
(´ぅω-`)「あーはいはい……。
(ふう……すっきりした)」
どうやら、ショボーンは、ヲタにただならぬストレスを感じていたようだ。
それを発散し終えて、ショボーンは言われた通り、ソファーから腰を持ち上げた。
ヲタがご立腹のなか、ショボーンはやれやれ、と思い、部屋から出ようとする。
.
- 321 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:56:19 ID:yIq06eDU0
-
そのときだ。
ショボーンの携帯電話が、音を鳴らした。
(´・ω・`)「……? もしもし」
『け…警部!』
(´・ω・`)「……どうした?」
電話をかけてきたのは、いまは2Fにいるであろうワカッテマスだった。
受話口から聞こえてくる彼の声は、ただならぬ焦燥を帯びていた。
事件発生直後、車を出動させることが不可能とわかったときに彼が見せた焦燥よりも、それは強かった。
笑っていたのも忘れて、ショボーンはすぐに、まじめな顔になる。
それを見て、ヲタも、なにかがあったのだろうか、と思った。
『いま、どちらに…?』
(´・ω・`)「ん…? ヲタさんの部屋だから……8FのI号室かな」
(∴)◎∀◎∴)「……?」
ショボーンは、どうしてそれを訊くのか、と思った。
また、こうも焦燥を帯びた声で質問をされることそのものに違和感を持った。
『でしたら、彼を連れて、いますぐ2Fにまできてください!』
(´・ω・`)「待て、なにがあったんだ」
.
- 322 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:56:51 ID:yIq06eDU0
-
たとえ焦るべき状況であっても、近くに自分以上に
焦っている人を見ると、相対的に落ち着く、ということがある。
ワカッテマスが大げさなほどに周章を見せるため、
ショボーンは逆にだんだんと平静を取り戻しつつあった。
――が、そうしていられるのも、ここまでだった。
説明を促されて、ワカッテマスが呼吸を整えてから、なにがあったのか、を説明しだした。
『笑野さんが………』
(´・ω・`)「プギャーさんが?」
『笑野さんが、転落死しました』
.
- 323 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:57:24 ID:yIq06eDU0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
. 第七幕 「 次なる被害 」
.
- 324 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:57:55 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「…………な」
(;´゚ω゚`)「なにイイイイイイイイイイイイイッッ!!?」
――突如としてワカッテマスが放った言葉は、
ショボーンの築き上げた平静を崩すのに、充分すぎた。
予想外を衝かれたショボーンが、絶叫する。
ショボーンが電話を切って、ヲタを引きつれ、
部屋を飛び出してはエレベーターに乗って2Fのボタンを押したのは
ショボーンの絶叫による反響が消えかかったときだった。
ワカッテマスが続けて何か言おうとしたのを、通話を切ることで遮る。
ここで呑気に話す前に、自分が現場に赴いたほうが早い、と思ったのだ。
ヲタは、見た目どおりというべきか、走るのが苦手だったようだ。
いきなりショボーンに連れられエレベーターのところまで走っただけで、呼吸を乱していた。
――いや、それはただ、急に走ったから、だけではないだろう。
わけもわからず引っ張られエレベーターに乗り込まされたヲタは、
エレベーターが5Fを経過するあたりで、ようやく声を絞り出すことができた。
.
- 325 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:58:26 ID:yIq06eDU0
-
(∴);◎∀◎∴)「な……にが、あったヲタか?」
(´・ω・`)「……プギャーさんを、知ってるか?」
(∴)◎∀◎∴)「副支配人でござろう?」
(´・ω・`)「その、プギャーさんが………亡くなった」
(∴)◎∀◎∴)「……」
(∴);◎д◎∴)「―――ナアアアアッ!? まことでござるか!?」
(´・ω・`)「あいにく、僕の部下にユーモアをわきまえたやつはいなくてね。
. 加えて、あいつは、人が死んでるかどうかの判断を違えるようなやつじゃない。
. 信じたくないけど……たぶん、ほんとうなんだろうね」
(∴);◎д◎∴)「……………っ!」
ショボーンは、何度も言うように、刑事だ。
こういった、突然の誰かの死など、何度も経験している。
しかし、ヲタは、たとえ一般人とはどこかズレていても、あくまで一般人なのだ。
モナーが刺されたと聞いただけで動揺しているのに、続けざまに
こうも人が死んでしまっては、とても平生のままでいられるわけがないだろう。
口があんぐりと開かれては、そのまま、顎がガクガクと震えている。
全身の筋肉が強張っているのも見ると、やはり、それほどショックなのだろう。
ヲタのそんな様態を見て、ショボーンも、ただならぬものを感じていた。
.
- 326 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:58:56 ID:yIq06eDU0
-
やがて、エレベーターが2Fにつく。
扉が開かれると同時に、ショボーンは全速力で、言われた場所へと向かった。
――いや、ワカッテマスは2Fとしか言っていない。
それなのに、ショボーンが現場を言われるまでもなく特定した理由は、その死因にあった。
転落死。
2Fにおいて――いや、このホテルの敷地内において、
唯一転落死を実現させることのできる場所がある。
それが、2Fの、屋外――露天風呂、である。
転落死、となると、自然と現場は2Fの北側しかありえなくなる。
ヲタがひいひいと言いながら必死についてくるが、彼のことなどまったく意に介さず
ショボーンは、さげられた案内標識と記憶を頼りに、現場へ急行した。
現場には、四人の男がいた。
一人は、深緑のロングコートを羽織る、若手ワカッテマス刑事。
一人は、腰を抜かして声にならない悲鳴をあげている、大神フォックス。
一人は、目を丸くして、ただ「それ」を見ている榊原マリントン。
最後の一人は――
( ゙Д゙)
( ;´・ω・)「……プギャー…さん……」
.
- 327 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 20:59:27 ID:yIq06eDU0
-
頭蓋骨が砕かれたのか、頭部から大量の血を流してはうつぶせで倒れている、笑野プギャー副支配人だった。
現場は、露天風呂の広がるエリアに、入ってすぐのところである。
2Fの屋内、それも露天風呂専用の更衣室を抜けた先であり、
扉を開いた先で、プギャーが血を流して横たわっていた、というわけだ。
ショボーンがすぐさま駆け寄る。
開かれた扉からは吹雪の成す冷たい風が吹き込まれてくる。
が、それをまったく気にしないようすで、ほかの三人は、皆違ったかたちで焦燥をあらわしていた。
ワカッテマスが、駆け寄ってきたショボーンと合流した。
少しして、ヲタが遅れてやってきた。
これで、現場には六人の男が集ったことになる。
( <●><●>)「死因は、高所からの転落によるものと見られます」
(´・ω・`)「……なにがあったのかを、説明してくれ」
落ち着き払った様子で、ショボーンが言う。
ワカッテマスもそれにあわせた調子で、答えた。
.
- 328 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:00:03 ID:yIq06eDU0
-
( <●><●>)「はい。あのあと、大神さんと私でここまできたのですが、
鍵がかかっていて、入るに入れない状態だったんです」
(´・ω・`)「鍵…?」
( <●><●>)「豪雪のため、榊原さんがあらかじめ鍵を閉めていたようで。
当時も、おそらく榊原さんなら鍵をなんとかしてくれるだろう、ということで
10Fのホールに向かってから、彼に事情を説明した上でここまできてもらった」
( <●><●>)「そこで、榊原さんと大神さんが、雪と温泉をめぐって言い争いをはじめたのです。
温泉に入らせてくれ、雪がひどいからだめだ……そんなやりとりを」
(´・ω・`)「で、その最中に……?」
( <●><●>)「ええ。なにか、大きなものが落ちてきて……
なんだと思ってガラス越しに見てみると、笑野さんが、頭から血を流していたわけです。
……あとは、すぐさま屋外に出て、私が彼を調べてみた、と」
(´・ω・`)「わかった。ほかになにか、わかったことは」
( <●><●>)「まだ死因の特定しかしていないので、ほかのことはさっぱりですが……
これだけは、断言できます」
(´・ω・`)「なんだ?」
( <●><●>)「これは、他殺です」
.
- 329 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:00:56 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「……ッ」
ショボーンが、舌打ちをする。
だがそれは、ただ殺人が起こったから――というわけではなかった。
かねてより抱いていた「不吉な予感」が、かたちこそ違えど、的中してしまったからだ。
連続殺人――なのかは不明だが、それに似たような現状であることには違いない。
そしてやはり、モナーの事件と一緒で、犯人はこのホテルのなかに、いる。
この二点が、ショボーンに舌打ちをさせたのだ。
(´・ω・`)「一応、聞く。どうしてだ」
( <●><●>)「首元に、赤い痕が見られました。おそらく、犯人は当初、絞殺を試みたようです」
(´・ω・`)「首……」
( <●><●>)「しかし、あくまで死因は転落。
窒息が原因ではないので、おそらくは、絞殺を試みるも失敗、
そのため犯人はとっさに彼を突き落とすことにした――
そう見るのが、妥当でしょう」
ワカッテマスは、勝手な憶測でものを話すような男ではない。
彼の推理の背景には、ほぼ必ず、なんらかの根拠がつきまとってくる。
今回の場合もそうで、ショボーンは、その推理でただしいのだろう、と判断した。
そこでショボーンがとった行動は、ワカッテマスの推理にケチをつけたりするものではなかった。
また被害者が出て、その加害者がこのホテル内にいるのだ。
ショボーンとしては、そちらを確保するほうが優先課題となっていた。
屋外、つまり被害者であるプギャーのもとに駆け寄りながら、ショボーンは大きな声を出した。
(´・ω・`)「ワカッテマス、いますぐホテル内にいるみんなをここに集めろ!」
( <●><●>)「わかりました」
(´・ω・`)「僕はこっちで捜査をしておく。いない人よりもいる人を優先して、ここに連れてくるんだ」
( <●><●>)「はッ」
.
- 330 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:01:59 ID:yIq06eDU0
-
ワカッテマスが威勢よく返事をすると、コートを風にのせてはその場をあとにした。
そしてショボーンは、すぐさまなにがあったのかを把握するよう努める。
フォックス、マリントン、そしてヲタは、ただ吹雪の音を聞きながら、だんまりとするしかできなかった。
(´・ω・`)「……確かに、首に痕が残ってるな」
ショボーンが最初に目をつけたのは、そこだった。
首に、なにやら赤い痕が残っている。
しかし、紐かなにかではなく、手で絞められたであろうことがわかった。
そこから、犯人のあきらかな殺意を汲み取ることができた。
頭蓋骨が割れているのは、屋外、つまり露天風呂のエリアの地面が
硬い石のようなものでできているから、もあるのだろうが
おそらく、高所から突き落とされたというのもあるだろう。
すなわち、彼は、2Fで殺されたわけではない、ということだ。
彼が突き落とされた場所、つまり犯行現場も、特定しなければならない。
次にショボーンは、頭部ではなく全身に目を遣った。
服装は最後に会ったときと何ら変わらぬ、スーツ姿である。
頭部以外には、異常と呼べる異常はなかった。
(´・ω・`)「……ん?」
すると、死体から少し離れた位置に、なにやら光るものが見えた。
露天風呂に似つかわしくないものなので、嫌でも目に入る。
近寄ってそれを手にとって、嘗め回すように見る。
それは、金色に輝くネックレスのようなもので、鎖の部分がちぎれている。
が、よく見ると、これはネックレスではなく、ロケットであることがわかった。
同じく金色の容器があって、それが開閉されるようになっている。
ショボーンは、おそるおそる、そのロケットを開いた。
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「……ッ! これは……、………?」
.
- 331 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:02:31 ID:yIq06eDU0
-
ロケットのそのちいさな容器のなかには、ある人物の写真がおさめられていた。
ショボーンもよく知っている、人物である。
ショボーンは、無意識のうちに、その人の名を発していた。
(´・ω・`)「これは……どういうことだ」
(´・ω・`)「モナーさん………?」
――ロケットには、緒前モナーの写真がおさめられていた。
それも、若かりし日のものと思われる。
目の横に小じわがないのが、いい証拠だ。
背景を見る限り、おそらく公園で撮られたものであろうことまではわかるが、それ以上のことはわからない。
しかし、写っているのがモナーだ、というのがわかっただけで、充分だった。
それよりもショボーンが不思議に思ったことがある。
現在ホテルにいる人物のなかで、このロケットを所有する可能性のある人が、一人しかいない、ということだ。
(´・ω・`)「……ガナー…さん?」
緒前ガナー。モナーの、娘。
マリントンもモナーとは二十年以上の仲だと聞くが、彼がロケットを持つとは思えないだろう。
すると、やはりガナーの私物、と考えるのが適当だった。
しかし、すると新たな疑問が生まれる。
まず、このロケットの持ち主が犯人であることに関しては、疑問はなかった。
首を絞めようとした、しかし失敗した――というのを考えると、
殺されると思ったプギャーが抵抗しようとして、このロケットを引っ張った、と自然に推理できるのだから。
問題はそちらではない。
持ち主が犯人――とすると、ガナーが犯人となるのだが、
そうだとすると〝動機がわからない〟のだ。
ガナーとプギャーに、なにか関係があっただろうか――
.
- 332 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:03:04 ID:yIq06eDU0
-
なにはともあれ、ロケットが引きちぎられたのを見ると、犯人とプギャーは争った、と見るのが妥当だ。
そう思い、ショボーンは再び、プギャーの身体を調べ始めた。外傷を探すのである。
しかし、五分たっても、それらしきものは見当たらなかった。
そうなると、別の推理が浮かび上がってくる。
犯人とプギャーは、別に争ったわけではなかった――という、推理が。
犯人は一度、プギャーの首を絞めようとした。
しかしプギャーは、それを振り払い、危険を察知したためか、反撃にでた。
が、そこで犯人は咄嗟に、プギャーを窓の外に突き落とそうとした。
そこでプギャーは手を伸ばして、犯人のつけていたロケットを握り、そのままここまで転落してしまった――
ショボーンがそこまで推理すると、ある疑問にひっかかった。
もしこれが実際に起こっていたとするならば、犯人は見えるところにロケットをさげてないといけない。
しかし、ショボーンの記憶がただしければ、誰も、ロケットはおろかネックレスすらつけていないのだ。
するとますます、このロケットの持つ意味がわからなくなってきた。
(´・ω・`)「……」
そのため、ショボーンは視点を変えた。
ロケットや転落死という状況ではなく、
「殺されたのはプギャーなのである」という点から思考をめぐらせることにした。
というのも、ショボーンは、殺されたのがプギャーと聞いて、ただならぬものを感じたのだ。
ワカッテマスからプギャーの名を聞かされたとき、彼は、まっさきに「あのこと」を思い出していた。
あのこと、つまり、アサピーの証言である。
アンモラルグループとWKTKホテルとがつながっているのではないか、という「トクダネ」だ。
その、プギャーにまつわる「トクダネ」を聞く限り、ショボーンも、
モナーの事件に関して、プギャーが怪しいものだとばかり思っていた。
しかし、そのプギャーが、殺されてしまった。
これはなにを意味するのだろうか――
.
- 333 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:03:41 ID:yIq06eDU0
-
( <●><●>)「警部ッ!!」
(´・ω・`)「…お」
――しかし、それ以降の推理は、ワカッテマスの声によって遮られた。
もう、ワカッテマスが、人を引き連れて帰ってきたのだ。
しゃがみこんでいたショボーンは立ち上がって、彼と合流する。
ワカッテマスの後ろには、集められたであろう人が息を急き切っていたのだが
しかし、その人数を数えると、ショボーンは怪訝な気持ちになった。
あきらかに、頭数が足りないのだ。
というのも、ワカッテマスは二人しか連れてきていなかったのである。
(-@∀@)「また人が……」
( ´W`)「………プギャーさん…!」
アサピー記者と、黒井シラヒーゲ館長だ。
血を流すプギャーを見て、二人とも、より深刻な顔つきとなった。
ショボーンがその二人を見て、事情をワカッテマスに訊いた。
(´・ω・`)「おい、僕は全員を集めろ、と言ったぞ」
( <●><●>)「申し訳ありません。部屋に残っていたのは、この二人しかいなかったのです」
(´・ω・`)「……なに?」
ショボーンは、その言葉にどきっとした。
つまり、ここにいない人物は、ワカッテマスがやってきたとき、部屋を留守にしていた、ということである。
.
- 334 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:04:21 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「ガナーさん、のーさん、レモナさん、そして……トソンちゃん」
(´・ω・`)「どうして、女性だけが皆、消えたっていうんだ」
( <●><●>)「わかりません」
ワカッテマスが申し訳なさそうに言う。
この短時間で、その女性四人を見つけることはできなかったようだ。
ショボーンの指示はあくまで「短時間で」ということだ。
だから、せめてこの二人だけでも連れてこよう、と思い至ったのだろう。
その点については、ショボーンは彼を叱ることができなかった。
(´・ω・`)「ほかの人はともかく……レモナさんは、バーにいたはずだぞ。
. バーにも当然行ったんだろうな」
( <●><●>)「そのことなのですが……」
(´・ω・`)「?」
( <●><●>)「バーにももちろん向かったのですが、鍵がかけられていましたよ」
.
- 335 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:05:18 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)
(´・ω・`)「な……なんだって!?」
( <●><●>)「緒前モナーさんのこともあるから、
てっきり、警部が手回しされたものかと思ったのですが……」
きょとんとして、ワカッテマスが言う。
どうやら、そう信じては疑っていなかったようだ。
(´・ω・`)「ばかな。僕はなにもしてないぞ!」
(; <●><●>)「……なんですって!?」
そこでようやく、ワカッテマスも事の重大さを把握する。
ショボーンとワカッテマスは、胸に、不吉では済まされない何かを抱き始めていた。
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。
彼らは、常に、迅速な行動を要求されているのだ。
そのため、ショボーンは、その要求されている次なる行動にでた。
(´・ω・`)「とりあえずだ。パンフレットを出してくれ」
( <●><●>)「なにをするおつもりですか」
(´・ω・`)「決まってるだろ。プギャーさんが、どこから突き落とされたのかを調べるんだよ!」
(´・ω・`)「幸い、この出入り口の真上に位置する部屋を調べるだけでいいんだ。
. あとは、その部屋の主を……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「言うと思っとったがの、それは無理ですぞ」
(´・ω・`)「……マリントンさん?」
――が、ショボーンのその行動を否定したのは、それまでずっと黙っていた、マリントンだった。
冷静なまま、しかし早口で、言葉をつむいでいく。
.
- 336 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:06:11 ID:yIq06eDU0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「この露天風呂への扉もそうですがの、
今日みたいに雪のひどい日には、客室のベランダへの戸は開かんようになっとるんですわ。
ここは鍵で開くようにしとりますが、客室の場合は、スタッフルームで
ロックを解除せんことにはベランダに出られんようになっとる」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ほいで、ほかに人を突き落とせそうな場所は、ありませんぞ」
(;´・ω・`)「……なんですって…!? じゃあ、プギャーさんはどこから突き落とされたって言うんですか!」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「わ、ワタシに聞かんといてくだされ! ワタシはただ、鍵を預かっとるだけですわ」
もし客室からの殺害が無理だとなったら、いったいどうやってプギャーは突き落とされた、というのだ。
それが、この場における、一番の謎だった。
すぐさま、記憶を遡らせる。
客室以外に、プギャーの頭蓋骨を割るほどの高所で、人を突き落とせる場所など、あったのか――
その答えを真っ先に見つけ出したのは、マリントンでもショボーンでもない、ワカッテマスだった。
( <●><●>)「――ッ! 警部、あるじゃないですか、ひとつだけ『人を突き落とせそうな場所』が!」
(´・ω・`)「な、なに? どこだ」
ショボーンが、その言葉に反射的に食いつく。
( <●><●>)「制御室ですよ! 鍵を紛失した、って言ってたじゃないですか!」
|;;;;| 。゚っノVi ,ココつ「……あッ! そ、それや! アソコなら確かにいけるぞ! 窓もあるさかいに!」
.
- 337 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:06:57 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「制御室……っ!」
言われてすぐに、ショボーンはパンフレットのページを繰った。
5F、北側に配置されている制御室の位置と露天風呂の位置を見比べると、ちょうど二つが重なることがわかった。
そしてワカッテマスの言うように、制御室の鍵は、紛失――いや、何者かに盗まれていた。
それを考えると、プギャーが突き落とされたという犯行現場は制御室で間違いない、とショボーンは思った。
そこからの彼の行動は、はやかった。
パンフレットをワカッテマスに押し付け、そのまま駆け出そうとしたのだ。
思わずワカッテマスが、呼び止める。
( <●><●>)「どうしたのですか!」
(´・ω・`)「制御室を調べるんだよ!」
( <●><●>)「ですが、鍵が開いているとは限りません!」
(´・ω・`)「でも、行かないことにはわからないだろ。それに……」
( <●><●>)「……それに?」
(´・ω・`)「女性をエスコートしないで、男は務まらないからね」
( <●><●>)「……警部?」
(´・ω・`)「じゃあ、あんたは引き続きそこを捜査して、取り調べも行ってくれ。
. 心配するな、すぐに戻ってくる」
(; <●><●>)「けッ警部!」
ショボーンはワカッテマスの制止に応じず、そのまま走り出した。
今度は、ワカッテマスがどんなに大きな声を出そうとも、止まることはなかった。
そしてワカッテマスは、非論理的ながらも、なにか嫌な予感を覚えた。
なにも根拠はないが――なにか、悪いことが起きるのではないか。そんな、不吉なものを。
.
- 338 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:07:37 ID:yIq06eDU0
-
◆
エレベーターを降りたショボーンが真っ先に向かおうとしたのは、当然制御室だ。
北側に位置するので、エレベーターを降りて、少し走らないといけない。
ワカッテマスの抱いたそれとは少し違う、不吉なものを胸に抱きながら、一歩を踏み出した。
(´・ω・`)「………ッ」
そこで、ショボーンの足はぴたりと止まった。
なにかあった、というわけではない。
ショボーンの脳裏を、あるものが掠めたのだ。
(´・ω・`)『ガナーさん、のーさん、レモナさん、そして……トソンちゃん』
(´・ω・`)『どうして、女性だけが皆、消えたっていうんだ』
( <●><●>)『わかりません』
(´・ω・`)「(……そうだ、トソンちゃんも部屋にいなかったんだ)」
そうわかると、同時に、別の面で気になることが浮かんできた。
トソンの取り調べを終えたときの、彼女とのやり取りである。
.
- 339 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:08:25 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)『……だから、部屋で待ってなさい。部屋にこもってたら、
. 少なくともトソンちゃんがなにかひどい目に遭うことはなくなるさ』
(゚、゚トソン『……』
(゚、゚トソン『……はい』
(´・ω・`)「(部屋にいなかった、ってことは、当然どこかに出かけていた、ということだけど……)」
(´・ω・`)「(トソンちゃんの性格から考えて……
. この現状で、特に意味もなくぷらぷらと外にでるとは思えない)」
(´・ω・`)「(だとすると……)」
ショボーンは、向かう先を修正して、南に走り出した。
5-Fは、エレベーターを降りて少し南のところにある。
そして、程なくして、そこについた。
扉に耳をつけるが、中から物音はしない。
しかしショボーンは、中にトソンがいるのではないか、と推理したのだ。
ノックをして、「トソンちゃん」と声をかけながら、思考にふける。
(´・ω・`)「(ワカッテマスはおそらく、何回かノックをして、いないと判断したら次の部屋に向かった)」
(´・ω・`)「(でも、ほんとうはトソンちゃんは中にいたんじゃないかな)」
(´・ω・`)「(たぶん……彼女は、アレだ。寝てるわ、これ)」
.
- 340 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:09:01 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「トソンちゃん、いる? 僕だよ、ショボーン」
彼女の性格を考慮して、ショボーンは、トソンは寝ているか風呂に入っているかではないか、と思った。
そのため、危険を察知して、念のため5-Fに立ち寄ろうと考えたわけだ。
ノックの音が、その場にむなしく響く。
仮に寝たり風呂に入ったりしていても、つい先ほどワカッテマスがやってきたわけだから、
もしショボーンの読みどおりトソンが室内にいたら、いまの応答には反応できるだろう、と思う。
しかし、それも三十秒したあたりから、どうも訝しげに思えてきた。
足音はおろか、彼女の声すら聞こえてこないのだ。
トイレにいたとしても、この呼びかけは聞こえるだろう。
もし彼女が室内にいたら、何らかの反応を示すと思うのだが――
と考えたところで、ショボーンは諦めた。
ひょっとすると、考えにくいことではあるが、やはりトソンは客室から出て、どこかに向かったのではないか、と。
しかし、それはそれで、困ったものだとショボーンは思った。
彼女は、日頃からショボーンと出会うのを見ればわかるように、根っからの「事件体質」なのだ。
考えたくないことだが、もしかすると、トソンは――
(´・ω・`)「……待て待て…。さすがに、それはジョーダンじゃないぞ……」
(´・ω・`)「じゃあ……どこに行った、というんだ」
トソンは、今回の事件の犯人が誰であれ、誰とも、大したつながりを持っていない。
そのため、本件が計画性をはらんだ連続殺人事件だとして、彼女が狙われる可能性はないだろう。
――しかし、運が悪くも彼女が事件を目撃したり、などしてしまえば、その推測は意味をなくす。
そう都合よく事件を目撃する、とは思えないが、彼女の場合だとありえてしまうのだ。
彼女とただならぬ「因縁」にあるショボーンは、そう考えると、全身の毛穴が開き、どこか寒気を覚えた。
.
- 341 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:09:48 ID:yIq06eDU0
-
(;´・ω・`)「…………クソッ!」
だが、たとえトソンが心配だとしても、自分は刑事だ。
私情に踊らされて一人の少女を優先させる、なんてことがあってはだめだ。
ショボーンは、刑事として、
ワカッテマスの言葉のなかにあった、ひとつの違和感――
( <●><●>)『バーにももちろん向かったのですが、鍵がかけられていましたよ』
その、鍵の閉められたバー、について調べなければならない。
ショボーンの推理――いや、「不吉な予感」がただしければ、あることを断言できるからだ。
(´・ω・`)「(そこに……犯人が、いる)」
――まず、バーには、モナーの重体が横たわっている。
が、救急車の到着が望めない今、おそらく、もうモナーは命を落とすだろう。
一方で、バーには、第二の被害者、プギャーがいた。
彼が殺されたのを踏まえると、どうも、バーの鍵が閉まっていた、というのは、不自然すぎる。
この三転を踏まえれば、非論理的であろうと、そこに犯人がひそんでいる――と考えられるのだ。
ショボーンは刑事としてのカンとその義務を感じて、5-Fから走り出そうとした。
バーも気になるが、まずは制御室だ。
トソンのことは、とにかく、無事を祈るしかない。
自分のなかの邪念を振り払いながら、ショボーンは駆け出した―――
(゚、゚トソン「あ、警部」
(´゚ω゚`)「ハァァ―――ン!!?」
(゚、゚;トソン「ッ!?」
.
- 342 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:10:19 ID:yIq06eDU0
-
――直後、背後から、トソンに声をかけられた。
一瞬思考回路が停止し、ショボーンは大げさに転んだ。
駆け出そうとした足が、もつれたのだ。
ショボーンの突然の転倒に、トソンがぱたぱたと駆け寄ってくる。
「痛てて…」と額をさすりながら、ショボーンは起き上がった。
そして、傍らにやってきたトソンの顔を見る。
なにがあったのかわからない、と言いたげなその表情が、ショボーンの緊張を少しほぐした。
(゚、゚トソン「えっと……なにしてるんですか?」
(´・ω・`)「こっちのセリフじゃ……いてて」
(´・ω・`)「さっき、ワカッテマスが部屋に向かったろ。なにしてたんだ」
(゚、゚トソン「…? あ、ああ……」
すると、トソンはきまりの悪い顔をした。
(゚、゚;トソン「えっと……えっと、ですね」
(´・ω・`)「…?」
(゚、゚;トソン「その……」
時間がないんだ。
そう言おうとしたときに、トソンがようやく、答えた。
.
- 343 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:11:13 ID:yIq06eDU0
-
(゚、゚;トソン「部屋に、オートロックがかかる、だなんて知らなくて……」
(´・ω・`)
( <●><●>)『これ、オートロックですよ。皆さんには知らせてないのですが、大丈夫ですかね』
(´・ω・`)『………まさか、そんな「ドジ」が……、……あっ』
(´・ω・`)
(´・ω・`)「嘘……だろ……」
(゚、゚;トソン「で、で、どうしよう、と思って……」
(´・ω・`)「なんで、部屋を出ようと思ったんだい?
. 部屋にいな、って言ったつもりだったけど……」
(゚、゚トソン「その……あの、からだのおっきな男の人、いるじゃないですか。あの人に、パーティのとき呼ばれて。
. 最初は会いに行くのをためらってたんだけど、心細くなったから会ってみようかな、って」
(´・ω・`)「でも、いなかった」
(゚、゚トソン「はい。だから帰ってきたんですが……その、ドアが閉まってて」
(´・ω・`)「ふーむ……」
辻褄はあっている――というより、トソンならやりかねないことだったため、何ら不審なことはなかった。
それよりも、その「トソンを呼んだ人」が気になった。
その人物について、一人、真っ先に浮かんだ人がいたため、
ショボーンはその予想があっているかを確認する。
.
- 344 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:11:45 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「……ところで、その、君を呼んだ人って、デブ?」
(゚、゚トソン「デ……ウエストの、大きな人」
(´・ω・`)「もしかして、めがねをかけて、息が臭い人?」
(゚、゚トソン「あ、はい。……息は知らないですけど」
(´・ω・`)「……やっぱり」
トソンの言う特徴を聞くと、真っ先に、あの人物が浮かんだ。
トソンにひとめぼれした、格闘ゲーマー、自称「ヲタ」だ。
そしてその人物は、みごとに、ショボーンの予想と合致していた。
(´・ω・`)『まあ、あなたが誰を呼んだのか、だいたいの目星はついてますよ』
(´・ω・`)『都村、トソン。違いますか?』
(∴) 3Д 3∴)『ッ!!』
(´・ω・`)『(やっぱり……)』
(´・ω・`)「あんニャろ……」
(゚、゚;トソン「…? ……?」
(´・ω・`)「…いや、こっちの話。続けて」
そうとわかった途端、ショボーンはヲタに苛立ちを感じた。
その理由ははっきりとしないのだが、生理的に、彼を悪く思った。
が、それはいま考えるべきことではないので、ショボーンは先を促す。
そもそも、ここでしゃべっている暇すら、本来はないのだ。
.
- 345 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:12:26 ID:yIq06eDU0
-
(゚、゚トソン「それで、9Fにスタッフルームがあるってパンフレットにあったんで
. そちらに向かったんですが、鍵が閉まってて、しかたなく帰ってきたんです」
(´・ω・`)「そもそも、スタッフはいないじゃないか」
(゚、゚;トソン「……はっ!」
ショボーンはその反応を見て、呆れ顔になる。
このときだけは、今が緊急事態なのを忘れられた。
しかし、それもほんの一瞬だ。
トソンの事情を把握できたところで、ショボーンは本題に戻った。
(´・ω・`)「……まあ、いいさ。トソンちゃん、はやく君も2Fに向かうんだ」
(゚、゚トソン「そういえば……なにか、あったのですか?」
(´・ω・`)「人が死んだ」
(゚、゚;トソン「………ッ!?」
その事実を、ショボーンはなんのためらいもなく、言った。
その理由のうちのひとつは、トソンは事件慣れしているから
ショックは受けるにしてもそれほど大きくならないだろう、と考えたため。
もうひとつは、へたに真実をごまかすより、あるがままを伝えて2Fに行かせようと思ったためである。
のー、レモナ、ガナーの三人が未だ行方不明で、その三人のなかに二人を襲った人がいる可能性も高い。
一方で、2Fにはワカッテマスもいるため、ここでうろちょろしているよりもそちらのほうが安全だ、と思ったのだ。
.
- 346 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:13:10 ID:yIq06eDU0
-
だが。
ショボーンは、トソンという人物を、読み違えた。
(´・ω・`)「僕は、ちっくら捜査を――」
(゚、゚;トソン「い、いやです! 怖い! 私もお供します!」
(;´・ω・`)「なッ――。いいから、はやく2Fにいけ! あっちにはワカッテマスもいるぞ!」
(゚、゚;トソン「でも怖いです! 警部と一緒がいい!」
(;´・ω・`)「―――ッ」
「2Fに死体がある」。
それを知ってしまったトソンは却って、ワカッテマスのところにいるのを拒んだのだ。
先を急ぐ事態であるからといって、ショボーンは、ひとつ面倒なミスを犯してしまった。
本来なら、無理を言ってでも彼女を2Fに連れて行くべきなのだが
トソンの事情を把握する上で、彼は無駄に時間をとってしまった。
背に腹はかえられない――制御室の方角をちらちらと見ながら、ショボーンはそう腹をくくった。
.
- 347 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:13:41 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「………走るぞ」
(゚、゚トソン「へ?」
(´・ω・`)「これは、『捜査』だ」
(´・ω・`)「今からは、僕はショボーンじゃなくて、イツワリ警部だ」
(´・ω・`)「君の安全は……保証できないからね」
深刻な声で、ショボーンは、そう言った。
トソンに、事の重大さを知らしつけようと思ったのだ。
だが。
ここでもショボーンは、トソンという人物を読み違えた。
彼女はショボーンの読みとは対照的に、不敵な笑みを浮かべたのだ。
(゚、゚トソン「……わかりました」
(´・ω・`)「来い」
(゚ー゚トソン「………はい」
こうして、イツワリ警部の捜査を、臨時的に、都村トソンが手伝うことになった。
向かう先は、5F北に位置し、笑野プギャーを突き落としたと考えられる制御室だ。
.
- 348 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:14:23 ID:yIq06eDU0
-
◆
制御室の鍵を持っているのは、制御室の鍵を「盗んだ」人――
つまり、プギャーを殺害した犯人であると思われる。
そして、犯人ということは、現場が捜査されることを望むとは考えにくい。
そのため、制御室には鍵がかけられているだろう――
そんな懸念が、少なからずショボーンのなかにはあった。
しかし、それは杞憂で終わった。
制御室のノブを捻ってもなんの抵抗もなく、そのドアは開かれたのだ。
ショボーンは少し虚を衝かれた気になりつつも、中に足を踏み入れる。
トソンも、ぜえぜえと荒い呼吸をかみ殺しつつ、ショボーンに続いた。
(´・ω・`)「……窓は、ある」
(゚、゚;トソン「…?」
ショボーンが真っ先に目をつけた点は、そこだった。
部屋の北側に、大きな窓が、それも、開かれていたのだ。
そこから、キタコレの冬を痛感させる、冷たい風が少し入ってきていた。
雪は東西にふぶいているため、吹雪が北側に位置するこの窓に直撃することはない。
しかしそれでも、やはり極寒を連想させるにふさわしい寒さが、室内を支配していた。
トソンもそれは同じようで、軽装だった彼女は、腕を胸の前で交差させた。
ショボーンはすぐにその窓に駆け寄った。
窓から身を乗り出そうとはしない。さすがに、それは危険だと思われたためだ。
窓の下で、ショボーンはしゃがみこむ。
ここに、なにかの痕跡が残っていればいいのだが――
.
- 349 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:14:55 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「………」
(゚、゚トソン「警部、私はなにをしたら……」
(´・ω・`)「…………」
(゚、゚トソン「け、警部?」
トソンが、訝しげに思ってショボーンのもとに駆け寄る。
傍らに就いたとたん、ショボーンはちいさく、しかし重みのある声を発した。
(´・ω・`)「……ない」
(゚、゚トソン「?」
(´・ω・`)「くそ……指紋採取できないのが痛いな」
(゚、゚トソン「警部……」
そこで、ようやくショボーンは彼女の存在を思い出した。
柔和な笑み、の裏にきまりの悪いものを浮かべ、ショボーンは応じた。
(´・ω・`)「ああ、ごめん。なんだっけ」
(゚、゚トソン「私、なにをしたらいいかなって……」
(´・ω・`)「(自分からついてきてこれかい)
. じゃあ、ここに、なにか妙なものがないかを探してくれ」
(゚、゚トソン「みょー?」
(´・ω・`)「『あれ、これってなんだろう』ってなものだね」
言うと、トソンはさっそく、室内をきょろきょろ見回し始めた。
そしてすぐに、トソンは「あっ」と声をあげた。
ショボーンは「いきなりか」と、少し期待を寄せて、躯の向きをそちらに向けた。
.
- 350 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:15:39 ID:yIq06eDU0
-
(´・ω・`)「なんだい」
(゚、゚;トソン「警部、みょーな機械がいっぱいあります」
言われて、ショボーンはその「機械」の数々に目を遣った。
そして、ショボーンは呆れた。
ここは制御室とあるが、かつてマリントンが言ったように、ここは、このホテルの電力をまかなう場でもあった。
動力室と制御室を兼ねた部屋、という捉え方のほうが正確だろう。
機械が作動している証拠なのだろうか、ゴゴゴゴ、といったような音が断続的に聞こえてくる。
そして、トソンが指をさしたものは、その機械の数々だった。
いくつものつまみやレバー、ボタンのある機材のような大きな機械が、目についた。
(´・ω・`)「……そりゃあ、ねえ」
(゚、゚トソン「あ……なんか、カウントダウンしてるものも」
(´・ω・`)「勝手にさわっちゃだめだよ」
(゚、゚トソン「え、ちょ……」
ショボーンはトソンを適当にあしらって、捜査に戻った。
彼には部下に白髪混じりの刑事がいるのだが、こういう、捜査をしても
なにも見つかりそうにないときに、よく彼の顔が脳裏に浮かび上がる。
やつなら、頼まなくても、ここからなにか有益な情報を見つけ出してくれるだろう。
VIP県警の捜査一課で、唯一自分よりも年かさの増している刑事なだけに、そういった面に関してはワカッテマスよりも信頼が置けた。
だが、歳が歳であるため、定年退職に向けてカウントダウンを刻みつつあるのだが――
(´・ω・`)「―――え」
.
- 351 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:16:15 ID:yIq06eDU0
-
トソンの言葉と自分の思考のなかの「カウントダウン」というワードが重なったとき、
ショボーンは、ぴたりとしている作業を止めた。
いや、止めさせられた、といったほうがいい。
ショボーンは、がばっと上体を起こして、もう一度トソンのほうに向いた。
しかし今度は、立ち上がって彼女のもとに駆け寄りながら、である。
(´・ω・`)「と、トソンちゃん。カウントダウンって、なんの話?」
(゚、゚トソン「いや、そこの……」
(´・ω・`)「どれ―――」
内心、心臓の鼓動が速まってくる。
どきどきとしながら、しかし慎重さを欠いた所作で、ショボーンは彼女が指をさすほうを見た。
十字に伸びた、黄色と黒のバー。
それに包まれるようなかたちで、黒い箱のようなものが、機材の上に鎮座している。
その十字のバーの中央には、黒字に赤い文字で、数字が映されていた。
そして、その数字は、ストップウォッチのように、デジタルで時間を表示していた。
ストップウォッチと違うのは、それが、カウントダウンを刻んでいる、ということだった。
ショボーンが目をつけたのは、そのディスプレイが、残り五秒を示していたということだ。
――時限爆弾。
.
- 352 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:17:44 ID:yIq06eDU0
-
(;´゚ω゚`)「―――ッ!! 危ないッ!!」
(゚、゚;トソン「えッ……?」
――ショボーンのそこからの行動ははやかった。
トソンを抱きかかえ、すぐに制御室から飛び出したのだ。
思わず壁に激突する、ショボーン。
その、直後。
(;´゚ω゚`)「――――ッ」
(゚、゚;トソン「―――!」
.
- 353 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:18:39 ID:yIq06eDU0
-
制御室を中心に、大爆発が起こった。
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第七幕
「 次なる被害 」
おしまい
.
- 354 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/09(土) 21:20:02 ID:yIq06eDU0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五章 「見てはいけない」
>>248-294 第六章 「おぞましい真実」
>>303-353 第七章 「次なる被害」
.
- 355 :同志名無しさん:2013/03/09(土) 21:24:57 ID:yIq06eDU0
- 次回、第八幕「二つの矛盾」を含め、残すところあと四話
再来週の今日に完結予定ですので、それまでお付き合いください
- 356 :同志名無しさん:2013/03/10(日) 07:41:45 ID:TQnKKjTg0
- 乙
乙
乙
- 357 :同志名無しさん:2013/03/10(日) 23:51:04 ID:vkrcMo8UO
- 面白いなぁ
再来週まで生きる理由が出来た
- 358 :同志名無しさん:2013/03/11(月) 21:53:34 ID:GQFiZG5o0
- 乙
楽しみだ
今までの偽りも全部読んできた
おもしろいな
- 359 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:02:02 ID:w86D6G/w0
-
※第八幕以降を読むにさいして
演出として、作者はYouTube利用によるBGMの採用を推奨しています。
しかし、小説としての雰囲気を大切にしたいとお思いの場合は無視してください。
.
- 360 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:03:05 ID:w86D6G/w0
-
鼓膜が破れるのが必至となるほどの、文字通り、爆音。
肌を焼かんとする熱をもってやってくる、爆風。
目をくらますのかと思うほどの、まぶしい光。
五秒前ではまったく予想だにしなかった光景が、いま、目の前に広がった。
(;´・ω・`)「ッッ!」
( 、 ;トソン「――っ」
ショボーンは、あの「カウントダウン」を見た直後、本能的に、部屋を飛び出した。
同時に、制御室の扉に背を向け、トソンの耳を塞いで。
自分も、首を傾げることで右肩に右耳を押し付けて、なんとか片方の耳だけでも、と動いた。
その直後に背後で起こった爆発は、いくら刑事歴の長いショボーンでも、味わったことのないものだった。
こんな至近距離で爆発をその身に浴びるなど、この国では考えることすらできない事態だ。
しかし、その「考えることすらできない事態」が、たったいま、目の前で起こったのだ。
静寂を打ち壊した轟音は、徐々にキタコレの猛吹雪に掻き消されてきた。
ぱらぱら、と、瓦礫の落ちる音が聞こえる。
が、ショボーンの場合、その音を認識することはなかった。
左耳の鼓膜が破け、血が流れてきたのだ。
突如として起こった爆発、続いて目の前の知人が血を流すという事実。
それを見て、トソンは、軽いパニック症状に陥った。
.
- 361 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:04:21 ID:w86D6G/w0
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(;´・ω・`)「……なんだ、これは……」
(゚、゚;トソン「警部! み、耳…っ!」
(´・ω・`)「………」
左耳に手を当ててはじめて、その事実にショボーン自身も気づくことができた。
寒さが充満しつつある今、その生暖かさだけは、独立していた。
そのぬくもりに触れることで、ショボーンは、冷静に現状把握に努めることができた。
――制御室の機材には、時限爆弾、それも大きさと形状から考えて、ダイナマイト。
それが爆発することで、どうやら、このホテルの動力源がみごとに壊されてしまったようだ。
先ほどまで廊下を照らしていた煌びやかな照明は、ぱたり、と消えてしまったのがいい証拠である。
動力源がやられたか――
ショボーンがそうわかった次の瞬間、再び、先ほどよりは規模のちいさな爆発がもう一度起こった。
制御室内のなにかが、いまの爆発に触発されて、異常をきたしているようなのだ。
それであらためて、ショボーンは現状を把握した。
――このままでは、危ない、と。
(;´・ω・`)「逃げるぞ!」
(゚、゚;トソン「警部、そっちにエレベーターは――」
ショボーンはトソンの手をひいて、ホテル、西側に向かって走り出した。
時限爆弾を見た直後、とっさに制御室を出たのだが、そのとき制御室より西側に出ていたのだ。
制御室からは煙と炎があがっている。
それを見せられて、本能的に、より西側に逃げるのは何らおかしいことではないのだが――
ショボーンはトソンの言葉を聞いて、ショボーンはあることを思い出した。
エレベーターは東側に備え付けられており、また、地上に向かう階段も東側にある、ということを。
つまり、いま自分が向かう西側には、地上に降りる術がない。
.
- 362 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:05:10 ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚;トソン「警部、こっち――」
(;´・ω・`)「危ない!」
( 、 ;トソン「――ッ!!」
トソンはそのことを覚えていたようで、ショボーンに引き返すよううながす。
しかし次の瞬間、再び、制御室のあたりから爆発が起こった。
次々と、黒い煙が天井を這うようにしてこちらのほうに迫ってくる。
ショボーンはつないだ手を、思いっきり引っ張った。
(;´・ω・`)「無茶だ、戻れない!」
(゚、゚;トソン「で、でも…でも――っ!!」
(;´・ω・`)「いまは避難が優先だ!」
(゚、゚;トソン「―――ッ」
ショボーンはトソンをつれて、上のフロアへと向かった。
5Fの西側にあるのは、上のフロアへと向かう階段のみである。
彼らが逃げるとすれば、自然と、そのルートを使うしかなかった。
――また、制御室の、それも動力源を爆破されたため、おそらくエレベーターを使うことはできない。
6Fの東側に向かってエレベーターに乗り込もうにも、それは叶わないだろう。
そのため、彼らは、地上に降りる術を失ったことになった。
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- 363 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:05:40 ID:w86D6G/w0
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
. 第八幕 「 二つの矛盾 」
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- 364 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:06:15 ID:w86D6G/w0
-
制御室の爆発は、その真下、プギャーの事件現場にいる皆にも伝わった。
轟音がしたかと思えば、頭上から瓦礫のようなものが降り注いでくる。
爆発を聞きつけ、そちらを見上げたワカッテマスは、すぐにその脅威に気がついた。
(; <●><●>)「皆さん、下がって!!」
すぐに自分も屋内に向かう。
突進して、屋外に足を踏み出していたマリントンとアサピーを屋内に突き飛ばした。
が、それについて咎められることはなかった。
一瞬後に、そこに、一メートルを超える瓦礫の数々が降り注がれたのである。
工事現場から発せられる、硬いものと硬いものとがかち合ったような音が連続して鳴り響いた。
制御室の壁と見受けられるもので、もしこれの下敷きになれば、骨折どころでは済まないだろう。
その轟音が吹雪に掻き消されたところで、その場にいる皆に、ようやく現実味を帯びた緊張が走った。
フォックスなんか、悲鳴をあげては耳を塞ぎ、物陰に避難したほどだ。
遅れて、ワカッテマスがおそるおそる、その瓦礫に目を遣る。
普段冷静なこの男でさえ、このときばかりは、まともな思考ができなかった。
(; <●><●>)「が……れき…?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「この断熱材……間違いない。制御室に使ったもんですわ」
( <●><●>)「制御室!?」
その言葉を聞いて、ワカッテマスの焦燥が一気に掻き消された。
制御室に向かったショボーンの顔が、脳裏に浮かんだ。
.
- 365 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:07:33 ID:w86D6G/w0
-
(-@∀@)「今度は……なにが起こったというんですか!」
(;´W`)「……また、事件ですか……?」
( <●><●>)「ここは危険です! 皆さん、2Fの広間にまで避難してください!」
爪;'д`)「死ぬううううあああああああああああああああああ!!」
( <●><●>)「わかってるなら、あなたもはやくッ」
ワカッテマスはフォックスの手を強引に引っ張り、
その場にいた男性五人とともに、その場から逃げた。
直後、再び轟音。
爆発は一度では済まなかったようだ。
ますますワカッテマスはショボーンのことが心配になった。
フォックスを抱え、自分も2Fの、売店などが立ち並ぶエリアに向かっているとき。
ワカッテマスは走りながら、未だに降りかかってくる瓦礫のほうに目を遣った。
プギャーの死体が、瓦礫の、下敷きに――
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- 366 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:08:20 ID:w86D6G/w0
-
しかし、いま、そのことについて考えることはできない。
ワカッテマスは彼のことを見捨てることに罪悪感を覚えつつ、やがて、そのエリアにまで避難した。
ヲタのように走り慣れていない人からアサピーのように体力に自信のある人まで、
体力の差に関係なく、避難してきた人は皆、荒く大げさな呼吸をしていた。
いきなり走ったから呼吸を乱しているわけではない。
呼吸を荒げる理由は、いちいち聞くまでもなかった。
ついに誰もが、この事件の残虐性に戦慄を覚えたのだ。
フォックスをおろして、ワカッテマスはすぐさま、携帯電話を取り出した。
慣れた手つきで電話をかけたその相手は、つい先ほど制御室に向かった、ショボーンである。
彼の安否を、確認しないではいられなかったのだ。
不吉なことを考え、ぞっとする。
が、幸い、その危惧を吹き飛ばすように、ショボーンはわりとすぐに電話に応じた。
怒鳴りかけるように、ワカッテマスが呼びかける。
ショボーンはそれとは相対的に、落ち着いていた。
(; <●><●>)「警部、大丈夫なのですか!!」
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- 367 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:09:00 ID:w86D6G/w0
-
◆
(´・ω・`)「ああ……服が焼けて左鼓膜がもっていかれたけど、一応大丈夫だ」
(゚、゚;トソン「刑事…?」
ショボーンは階段の手すりを頼りに、一歩ずつ、上へ、上へと向かっていた。
スーツの端がじゃっかん黒く滲み、顔の左側面には血の垂れた跡が目立つ。
そんな様態を見て、トソンが彼を心配しないはずがなかった。
が、その心配を押し切るかのように、ショボーンは右耳で電話に応じていた。
心配なのは電話先のワカッテマスも同じようで、いつになく慌てた様子で彼は続けた。
『いったい、何があったのですか!』
(´・ω・`)「痛てて…。制御室に、バクダンが仕掛けられてたんだ」
『爆…弾……』
左耳の鼓膜が破れた状態で、右耳だけ機能させるのはなかなか厳しかったようで
ワカッテマスの、鼓膜を裂かん勢いで放たれる言葉を聞くたびにショボーンは顔をしかめた。
.
- 368 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:09:34 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「で、僕とトソンちゃんはいま、6Fから7Fに向かってるところ」
『都村さ――! ちょっと待ってください、まさか上にあがってるのですか!?』
( ;´-ω・)「ちょ、もっとちいさくしゃべってくれ。左耳が痛いんだ」
『しかし――なぜ、上に向かうのですか』
火事が起こったさい、ヘリポートに向かうとかでない限り、より上へと向かうのは自殺行為とされる。
一酸化炭素など有害な物質を含んだ煙も、上へ上へと向かうからだ。
しかし、ショボーンはそれを知っていてなお、上へと向かっていた。
5Fより上の階に、ヘリポートはおろか外へ出ることのできる手段などない。
つまり、自ら早死にを選んでいるようなものなのだ。
ワカッテマスが、トソンの安否以上にそちらに気をとられるのも、当然のことだった。
(´・ω・`)「西側に残された、動力源も断たれた――つまり、もとより地上に向かう手段がなくなったってことなのさ」
『…………ッ!』
(´・ω・`)「ひょっとしたら、エレベーターには非常電源とかが入ってるかもしんないけど……
. そのまえに、僕は行かなくちゃだめなところがある」
『ばかな。都村さんがいるなら、なおのこと。いますぐ、エレベーターが動いてるか――』
(´・ω・`)「トソンちゃん以外のみんなとは、まだ合流してないんだ」
『―――!』
.
- 369 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:10:12 ID:w86D6G/w0
-
そこで、ワカッテマスは現状を把握した。
5Fから地上に向かう階段とエレベーターは、東側にある。
一方の西側には上へと向かう階段しかないのだが、ショボーンは、その西側に残されている。
また、いったん6Fにあがったところでエレベーターを使おうにも、
非常の動力源が確保されているかなど、わからない。
そのロスタイムのうちに、更に爆発をするか、制御室の真上に位置する場所が陥没するか――
とにかく、危険であることには違いなかった。
ここまでなら、ワカッテマスは、その危険を冒してでもエレベーターに向かえ、と言ったところだっただろう。
しかし、彼はひとつ、見落としをしていた。
これは、トソンと合流することができた、ということではない。
トソン以外の三人とはまだ合流できていない、ということなのだ。
『しッしかし、その三人がどこにいるのか、など――』
しかしそれでも、ワカッテマスは慎重な行動を優先させる男だ。
その三人を救おうとして、ショボーンとトソンもろともが危害をこうむれば、本末転倒である。
だからといって見殺しにするわけにもいかないのだが――そこは、苦渋の決断、といったところだったようだ。
そしてショボーンは、その考えには賛同できなかった。
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- 370 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:10:42 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「見当なんてとっくについてる」
『…ッ。どこ――』
(´・ω・`)「バーだ」
『!』
そこでワカッテマスは、バーの鍵が閉められていた、という謎を思い出した。
確かに、そこに女性三人のうち、誰か一人くらいはいそうだが――
『……救援隊を、要請しますから。
. 警部も、一被害者にかわりはありません。どうか、安全な行動をとるよう、努めてください』
(´・ω・`)「煙はそうすぐにはのぼってこないだろうし、
. 空気が乾いてるわけでもないから、まあなんとかなるさ」
『で、ですが――』
ワカッテマスが言い返そうとするのを、ショボーンは強引に遮った。
(´・ω・`)「……悪い。耳が痛くなってきたから、いったん切るぞ」
『―――ッ』
そう言い残して、ショボーンは無理やり電話を切った。
なにもなかったかのように胸ポケットに入れて、歩を進める。
いまの電話のうちに、二人はもうもう7Fから8Fへの階段も上り終えていた。
電話をしまったのを見計らって、トソンが心配そうな声をだす。
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- 371 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:11:12 ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚トソン「……警部」
(´・ω・`)「ん?」
(゚、゚トソン「その、まだ合流していない人を助けたところで……
. どうやって、脱出する、というのですか?」
(´・ω・`)「……」
(゚、゚トソン「警部!」
トソンの高い声が、耳にきんきん響いてくる。
それをつらく思ったが、トソンの手前、それを顔にだすことはなかった。
むしろ、それを打ち消すくらいの柔和な――否、不敵な笑みを浮かべた。
(´・ω・`)「助手のトソンくんに、イイことを教えてあげよう」
(゚、゚トソン「…?」
(´・ω・`)「刑事は、拳銃よりも好んで使う鉄砲がある」
(゚、゚トソン「……はい?」
浮かべる不敵な笑みとは対照的に、
発せられる次の声のトーンは、ひどく落ち着いていた。
(´・ω・`)「無鉄砲さ」
.
- 372 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:12:10 ID:w86D6G/w0
-
◆
8Fから9Fへの階段を上り終える頃には、爆発を喰らったことによる負担はほぼ回復していた。
いや、ダメージは残っているし、疲労感に近い負荷を背負っていることには違いないのだが
ショボーンが刑事として動くことができる程度には、体力は回復していた。
トソンの発見で、制御室内で爆発を喰らわずに済んだのが大きかったようだ。
もし、あのときトソンが爆弾を発見していなければ――
いやそもそも、もしトソンを連れてきていなければ。
それを一瞬考えたことを、ショボーンは後悔した。
この前の事件といい、今回といい。
トソンは、爆弾にまつわるエピソードが豊富だな、と笑うことでショボーンは気を紛らわせた。
そこで、ショボーンは以降呑気なことを考えるのをやめようと、頬を叩いて気付けをした。
楽観を体内から追い出し、かわりに能動的に緊張を押し込める。
そして、「うし」と、気合いを籠めるための声を発した。
(´・ω・`)「トソンちゃん、走るぞ」
(゚、゚トソン「警部……大丈夫なんですか」
(´・ω・`)「僕を誰だと思ってるんだ。この程度でくたばってちゃ、ケーサツなんて務まんないよ」
(゚、゚トソン「………ですよ、ね」
トソンがなんとか、自分を納得させる。
心配がる様子を見せていると、ショボーンのせっかくの志気を削ぐことになるし
なにより、そう不安に思う自身の元気が失せてくることになる。
ショボーンは、自分の中では信頼に足る人物だ。
彼に、無理を言って同行を頼んだ以上、トソンはショボーンに全てを任せることにした。
.
- 373 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:12:47 ID:w86D6G/w0
-
そして、二人が暗黙のうちにうなずきあったかと思うと、階段を数段飛ばしで走りはじめた。
間近で爆発を喰らった者とは思えぬ動きで、先ほどまでの三倍以上の速度を見せた。
9Fについたばかりだったのが、もう10Fだ。
少し前までは、皆がにぎやかにしていたメインホールを横目で見る。
数時間前には戻れないのだな――トソンの胸を、むなしいものが掠める。
が、それも一秒足らずのこと。
ショボーンに急かされて、トソンは疲れを感じつつも、再び走り出した。
階段を一気にのぼると、その分想像以上の疲労に襲われる。
それは18時すぎ、ショボーンとワカッテマスが急いでメインホールに向かったときと似ていた。
それが数時間前の話であるということが、彼には信じられなかった。
と、そこで、トソンを急き立てておきながら、自分も人のことを言えないな、とショボーンは自嘲した。
邪念を捨てて足を進めること数秒、二人は目的地、11Fについた。
ショボーンがここに来るのは、事件が発覚したとき以来、数時間ぶりである。
あのときのルートを思い出して、ショボーンはトソンを先導しつつ、まっすぐバーへと向かった。
嘗てフォックスがいた――と主張されている――レストランへとは、まったく方角が違う。
バーの、いたって一般的な、木製の扉を前にする。
しかし中を覗くことはできず、また、そこでなにが起こっているのか、判断ができない。
かといってそこでとどまるわけにもいかないので、ショボーンは扉に飛びついては、扉のレバーを握った。
開いていてくれ――そう願ったが、やはり、そう都合のいいことは起こらなかった。
扉が開かれるのを、鍵が拒む。それにさいして、がた、と音が鳴った。
バーの鍵は、モナーが持っていた。
そしてショボーンは、それを持ち帰ってはいない。
扉を開けたまま、ショボーンはレモナとプギャーを残してバーを去ったのだから。
考えられることは二つ。
一つは、犯人がモナーの服から鍵を見つけては盗み、施錠してどこかに逃げた。
もう一つは、いま、この扉を挟んだ向こうに犯人がいて、扉を閉めている。
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- 374 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:13:27 ID:w86D6G/w0
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――ショボーンは、後者だと確信した。
扉ががた、と音を鳴らした直後、なかから破裂音、そして悲鳴が聞こえたのだ。
(;´・ω・`)「ッ!! もしもし、誰かいるのですか!」
(゚、゚;トソン「……っ」
呼びかける。
トソンは、その事態を前にして、足腰に力が入らなくなった。
ショボーンにしがみついて、なんとか腰を下ろさないようにしよう、と務めた。
悲鳴の主はわからない。
しかし、いまこの瞬間、この扉の向こうで人が二人いることがわかった。
破裂音――銃声、悲鳴。そしてその次に、人が倒れる音がしたのだ。
ただ悲鳴をあげただけなら、嘗てのフォックスと一緒で、誰かがきたことそのものに驚いた可能性も否めない。
しかし、その直前に銃声がした、そして人が倒れたとまでなれば、その悲鳴は別の意味を担ってくる。
――ショボーンの到着を知って、誰かが誰かを撃ち、その人が悲鳴をあげた。
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- 375 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:14:15 ID:w86D6G/w0
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(;´・ω・`)「―――クソ!!」
(゚、゚;トソン「け…警部……」
この扉の向こうに犯人がいると見て、ほぼ間違いない。
とすると、この扉が開かれることはないだろう。
そうわかって、ショボーンは扉を力いっぱい殴った。
その焦燥に満ちた様子が、トソンが知っているショボーンとはまるで違うように見えて、彼女は動揺した。
(;´・ω・`)「おい、開けろ! 聞いてるのか!」
『…………』
なかから、人の気配はする。
息を殺しているような、そんな気配が。
その間も、銃で撃たれた人がいるのだ、と思うと、ショボーンは冷静を保つことができなくなった。
なんとか、不恰好ながらも説得をはじめる。
声が聞こえていれば、逮捕は不可能でも説得はできるのだ。
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- 376 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:14:48 ID:w86D6G/w0
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(;´・ω・`)「いいか、よく聞け! 先ほど、5Fの制御室で、爆発が起こった! 人為的なものだ!」
中の人は応じない。
しかし、ショボーンは続ける。
(;´・ω・`)「いまはまだ大丈夫だけど、いつまでもここにいると、そのうちここら一帯は煙で満たされる!
そうなったら、ここにいるみんなに、命の保証はなくなる!
だから、はやくそこから出てこい! 出てくるんだ! ……出てきてくれ!!」
ショボーンも日頃見せることのない、必死な態度。
扉を殴りながらの説得であるため、その説得力は言葉だけ、よりも強いもののように思えたが
なかから、やはり反応はなかった。
(;´・ω・`)「し、死ぬ気なのか! おい!」
ショボーンの毛穴がもう一度、開かれる。
すると、ショボーンの懇願が通じたのか、なかから声が返ってきた。
――しかしそれは、事態が予想以上にひどいものであることを知らせるだけのものであった。
『入ったらあかん! 撃たれ――』
直後、銃声。
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- 377 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:15:27 ID:w86D6G/w0
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(;´・ω・`)「ッ!! お、おい!」
( 、 ;トソン「………、……」
声の主――のーだ。
のーが声を発したかと思うと、銃声が響いた。
直後、苦痛をかみ殺したような声がかすかに聞こえた。
それを聞いて、ショボーンは、扉の向こうの状況を理解することができた。
(;´・ω・`)「(女性三人が……ここにいる……のか?)」
まず、バーの鍵を閉め、銃を握っていると思われる、犯人。
次に、ショボーンが来たと同時に撃たれた、女性。
三人目が、今しがた声を発した上で撃たれた、のー。
声の高さから、最初に悲鳴をあげた女性とのーとが一緒でないことはわかった。
そのため、この向こうに、探していた三人がいるであろうことは確信した。
しかし、問題があった。
のーが口を開いた直後、撃たれたのだ。
とすると、ある情景が目に浮かんだ。
扉に一番近いのが、犯人。
その犯人は、銃を握って、バーの奥側にいるのーにそれを突きつけている。
のーが妙な動きをしないように、銃でけん制している――そう見るのが、妥当だった。
そして、傍らで、今しがた撃たれた女性――ガナーか、レモナ――が倒れている。
とすると、犯人はショボーンが来るより前、その二人に銃を突きつけていた、ということだ。
つまり、犯人は、その女性二人に、明確な殺意を持っている―――
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- 378 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:16:00 ID:w86D6G/w0
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(;´・ω・`)「くそ……クソッ!」
ショボーンは、どうやってこの状況を打破しようか、考えはじめた。
扉を蹴破ることは、まず不可能と思われる。
まず、負傷しているため、全力を出し切れない。
また、この扉は新品で、蹴破るには相当な力が要求されると思われるのだ。
そして何より、もし蹴破ろうとすれば、女性二人は――殺される。
そのため、蹴破るという選択肢は、一番のタブーだった。
(;´・ω・`)「考えろ……考えろ……」
今日一日経験してきたことを、思い出す。
浮かんでくる記憶の一つひとつのなかに、現状をうまく打破するヒントが隠されてないかを探る。
しかし、緊張と焦燥がそれを邪魔するのか、うまく思考が働かなかった。
(;´-ω-`)「扉を破る以外での……バーに入る、その方法……っ」
バーには一度、足を踏み入れている。
モナーが刺されたときに、現場を捜査する名目で、室内を見渡した。
その情景を、必死に思い出す。
その記憶のなかに、必ず、ヒントは隠されているはずなのだ。
そう言えるのは、なにも、刑事としてのカンだけではなかった。
「バーの出入り口」については、以前より問題にあがっていたではないか、と。
網膜には、ワカッテマスとの、メインホールでの会話が再現されていた。
このときも、今と同じようなことで、頭を悩ませていたのだ。
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- 379 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:16:40 ID:w86D6G/w0
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(´・ω・`)『しかし――というより、大前提として、窓の外は大雪が降ってるよな』
( <●><●>)『そりゃ』
(´・ω・`)『つまり、窓からの逃亡は不可能だ』
( <●><●>)『? 逃亡?』
(´・ω・`)『考えてみろよ。その仕掛け――紐をつないだのは、扉だ。
. 「誰かがきたら失血死」のからくりをつくるのに一番適した場所は、
. というか唯一条件を満たすのは、扉なんだから』
(´・ω・`)『そして仕掛けを組み終えるとき、犯人はまだ室内にいる』
( <●><●>)『?』
(; <●><●>)『―――ッ!! ちょっと待ってください!』
(´・ω・`)『どうだ。「ありえない犯行」だろ?』
犯人は、モナーに、紐を使った仕掛けを施していた。
誰かが入れば、大量出血。そんな、からくりを。
しかし、そのためには、ある大前提が必要となる。
通常の出入り口とは別の、犯人自身の脱出口の存在だ。
だが、ショボーンが室内を見渡しても、それらしき出入り口は見当たらなかった。
.
- 380 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:17:22 ID:w86D6G/w0
-
そこで、ショボーンの網膜に映ったのは、メインホールとはまた別の景色だ。
豪華な、しかしシンプルな内装の施された、客室。
大神フォックスの、取り調べである。
(´・ω・`)『フォックスさん、そのモナーさんと雪の光景は、扉から入ってみましたよね?』
爪;'ー`)『そ、そりゃあ……』
(´・ω・`)『換気扇や通気口から顔を覗かせた――とかではなくて』
爪;'ー`)『そんなこと、二流の推理小説ですら見かけないですよ。
. ぼくはちゃんと、扉から入ってその現場を見てしまったんだ』
このときのフォックスの証言には、大きな矛盾が潜んでいた。
ナイフの刺さったモナーを目撃した、ということだ。
これは、現状では決してありえないことなのだ。
しかし、フォックスは見た、と言った。
かといって、その目撃が嘘だ、とも考えられなかった。
ショボーンもワカッテマスも、モナーがどのような状態だったのか、は言ってないのである。
それを言い当てた以上、彼の目撃証言はほんとうだ。
ショボーンは、そのときは「検証不足」ということで推理を放棄したが――
いまが、その推理を再開させるときだ。
ショボーンは今一度、彼の証言を検証しはじめた。
.
- 381 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:18:22 ID:w86D6G/w0
-
(´-ω-`)「(フォックスさんは、『扉から入ってその光景を見た』と言ってる)」
(´・ω・`)「(一方で、『扉から入ってその光景を見るのは不可能』なんだ)」
(´・ω・`)「……トソンちゃん」
(゚、゚トソン「な、なんですか」
(´・ω・`)「イイことを、教えてあげるよ」
(゚、゚トソン「…?」
ショボーンは、熱くなった脳を冷ますかのように、トソンに小声で話しかけた。
が、それは厳密に言えば、彼女に話しかけたわけではない。
彼女ではなく、自分にあることを言い聞かせるために口を開いたのだ。
(´・ω・`)「難解な事件や犯人のアリバイには、必ずなんらかの《偽り》がひそんでいる」
(゚、゚トソン「は、はあ」
(´・ω・`)「しかし、だ。偽りと矛盾は、一緒のようで、実は違うんだよ」
(゚、゚トソン「…?」
(´・ω・`)「わからないかい」
トソンは、軽く首を傾げた。
ショボーンの心情と、一緒だった。
(´・ω・`)「矛盾ではあるが偽りでない点。それが、事件を解く鍵となる」
.
- 382 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:19:13 ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚トソン「……!」
トソンに自分を投影して、ショボーンは、そう「自分」に言い聞かせた。
するとどこか、嘗ての冷静さを取り戻せたような気がした。
再び、ショボーンは口を閉じて、少しうつむいた。
(´・ω・`)「(……そうだ。『この二つの、どちらかが間違っている』わけじゃない)」
(´・ω・`)「(見ることができないはずの、モナーさんの姿。実際に見てしまったと言う、フォックスさん。
. 『この二つの、どちらもが現実に起こりえた』んだ)」
(´・ω・`)「(一見ムジュンしているこの光景だが、どちらも偽りでないというのなら――)」
もう一度、ショボーンの網膜を、嘗ての光景が埋める。
「バーの出入り口」について、重要なのはやはり、フォックスとのやり取りだ。
あのなかに、全てを解決するヒントが――
偽りが、ある。
.
- 383 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:20:20 ID:w86D6G/w0
-
( <●><●>)『裏口なんかがあるんじゃないんですか』
(´・ω・`)『バーカ。僕が捜査に向かったとき、店内を見たけど。
. ぱっと見で言えば、そんなのはなかったよ』
ポイントは、「例の扉以外に出入り口はなかった」こと。
そして、『もうひとつ』。
ショボーンの脳に、ずっと引っかかっていたことが、このときになって浮かんできた。
(´・ω・`)「…………?」
.
- 384 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:21:08 ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「………あ、あ……あああああああああああああッ!!」
(゚、゚;トソン「警部? どうし――」
――わかった!!
それまで、扉の向こうの犯人に触発しないように
小声で話してきたのを忘れて、ショボーンはひときわ大きな声を発した。
その言葉に、トソンはもちろん、ショボーン自身が驚いていた。
しかし、いちいち悩む時間などない。
ショボーンはトソンを引っ張って、走り出した。
走りながら、いま浮かんだ「それ」を咀嚼する。
(;´・ω・`)「(僕とフォックスさんの間にあった唯一の食い違い。それは、やっぱり『ナイフの有無』だ。
僕も、フォックスさんも、『扉から見た』ことは共通しているのに、そのことで食い違っていた)」
(;´・ω・`)「(でも、考えたら、もうひとつ、『あきらかに食い違っていたこと』があったじゃないか!!)」
(´・ω・`)「(それは――――)」
爪;'ー`)『だ――だって、暗い部屋の中で、人が座ってるんですよ!? どー考えたって怖いじゃないですか!』
(´・ω・`)『(扉を抜けたら、モナーさんがこっち見てるんだぞ……)』
.
- 385 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:23:27 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「―――『方角』ッ!!」
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=MDyUvZkJiSc
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- 386 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:24:22 ID:w86D6G/w0
-
ショボーンは、曲がり角を抜けてもなお、速度を緩めない。
そして、エレベーターの前を通り抜けていった。
それを見て、トソンは不思議に思った。
(゚、゚;トソン「警部、どこに向かうんですかっ!」
(´・ω・`)「バーだ」
(゚、゚;トソン「ハァ!? しかし、方角は、真逆ですよ! この先はレストランです!」
(´・ω・`)「いや、僕の推理がただしければ――」
(´・ω・`)「『レストランからバーへの、隠された道がある』!」
(゚、゚;トソン「…ッ!?」
.
- 387 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:25:14 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(……そう。フォックスさんの証言をまとめると、こうなんだ)」
爪'ー`)『だから、どの席からの夜景が一番きれいかな、と思って、ぐるっと一周してましたね』
爪;'ー`)『ど、どうりでコックもいないし、冷蔵庫のなかも空っぽだなあ、と思ったよ』
爪'ー`)『いいですよ。そうだなあ……物音がしたから、ぼくはバーに……』
(´-ω-`)「(――バーとレストラン、正反対の方角に位置する両者。
フォックスさんは、はたして、ほんとうはどちらに向かったのか?)」
(´・ω・`)「(正解は、決まりきっている。 ……『両方』だ)」
(´・ω・`)「(のーさんを接待しようと思っていたのは、事実だ。
. むしろ、レストランに向かわないとは、考えられない)」
(´・ω・`)「(その証拠に、彼は呑気にも、冷蔵庫の中身まで確認している。
. 『フォックスはレストランにいた』という、何よりの証拠だ)」
.
- 388 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:26:09 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(だがあのあと、妙なことを言っていた。
. 正反対に位置するはずのバーからの物音を、聞きつけたっていうんだ)」
(´・ω・`)「(物音を聞きつけたからといって、わざわざ、今みたいに
. エレベーターの前を通過して、ぐるっとバーのほうまで行くとは考えにくい)」
(´・ω・`)「(……そして、この――)」
爪;'ー`)『ぼくはちゃんと、扉から入ってその現場を見てしまったんだ』
(´・ω・`)「(あたかも事件を錯綜させるかのような証言……
. これは一見、『開けることができないはずの扉を開けた』という証言のように見えるが……
. 『レストランからバーに向かった』というのをふまえると、これの持つ意味はがらっと変わってくるんだ!)」
爪;'ー`)『だ――だって、暗い部屋の中で、人が座ってるんですよ!? どー考えたって怖いじゃないですか!』
(´・ω・`)「(『レストランからバーに向かった』、『こちらに向いているモナーに気づかなかった』。
. この二つが紡ぎだす真実は、ひとつしかない)」
.
- 389 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:26:40 ID:w86D6G/w0
-
ショボーンは、誰に言うでもなく、自然のうちに声を発した。
(´・ω・`)「フォックスさんは、『別の扉から』、『本来とは違う方角で』モナーさんの姿を目撃したんだ!」
(´・ω・`)「そして、フォックスさんの言った『扉』とは―――」
やがて、レストランに着く。
ショボーンは、レストラン内部における西、つまりバーへの方角に向かって走った。
そこで、ショボーンはあるものを見つけた。
(´・ω・`)「ここだ!!」
――横幅が、三メートル以上もある大きな観音開きの扉。
それめがけて、ショボーンの駆け足はより力強いものになった。
.
- 390 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:27:15 ID:w86D6G/w0
-
(゚、゚トソン「……なんですか、この倉庫みたいな、門みたいな……」
(´・ω・`)「トソンちゃん、考えてみな。バーには、ステージがある」
(゚、゚トソン「ステージ……あ、ああ。パンフレットにありましたね、ジャズバンドとかが来るって」
(´・ω・`)「でも、あんな狭いバーの扉を、ドラムとかが通り抜けられると思うかい?」
(゚、゚トソン「……確かに」
(´・ω・`)「そう考えたら、この扉の意味がわかる」
(゚、゚トソン「……あ!」
(゚、゚トソン「レストラン経由で、楽器類を運び入れる――というわけですね!」
(´・ω・`)「そう。そして、これだと二つの疑問も一気に解消できる」
(゚、゚トソン「?」
(´・ω・`)「フォックスさんが、これを『扉』だと勘違いした理由」
(´・ω・`)「僕が、バー店内を見回しても『扉』に気づかなかった理由」
(´・ω・`)「それは―――」
ショボーンは、その観音開きの扉を、ゆっくり押し開けた。
すると。
その扉の向こうには、〝ひな壇のステージが続いていた〟。
.
- 391 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:27:49 ID:w86D6G/w0
-
――まさか、初見で、ステージの背景が門になっているとは気づけまい。
一方で、フォックスさんはそこがステージであることを知らず、レストランの例の扉から足を踏み入れた。
また、ステージの上には楽器もなにもないので、それがステージだと知らされなければ、
ただ入り口だから一段高くあげているだけ、と思ってもしかたのないことだろう。
すると、そのひな壇のステージは、ステージとしてではなく、「客人を豪華に出迎えるための入り口」と捉えてしまう。
そう捉えてしまえば、この不自然に大きな扉のほうも「客人を豪華に出迎えるための大きな扉」と捉えてしまうんだ。
フォックスさんは、この扉の近くにまで来ていたときに、たまたま、物音を聞いた。
この扉をバーの正式な扉だと勘違いしたフォックスさんは、これをゆっくり押し開く。
モナーさんは、正式なほうの扉に躯を向けられていたから、この扉から彼を見てしまうと
そこから見えるモナーさんは、『こちらには向いていない』。
バー店内は暗く、外の景色のほうが明るいため、フォックスさんは最初にそちらに目が行った。
しかし、ここから物音が聞こえた、ということを思い出して、店内をきょろきょろ見やる。
そのときに彼が見たのは『暗い部屋の中で、人が座ってる』という光景だったのだ――
ショボーンはその推理にたどり着くと――すべての《偽り》をつなぐと、すべてに納得が行った。
『扉ははじめから二つあった』のだ。
BGMここまで
.
- 392 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:29:01 ID:w86D6G/w0
-
◆
「ッ!?」
(゚A゚*;)「あ、え!?」
(´・ω・`)「……動くな。警察だ」
ショボーンは、ステージの上で、その立っている二人に制止を呼びかけた。
二人とも、ショボーンやトソンと同じく、まさかステージの背景が扉になっているとは気づかなかったようで
突如として、それも意外なところから現れた彼に、驚きを隠せなかった。
ショボーンもワカッテマスも非番であるため、拳銃は持っていない。
しかし、彼女たちにとっては、そこに警察が現れたというだけで、一種のけん制効果をもたらされていただろう。
実際に、拳銃を握っている彼女も、ショボーンの顔を見て、目をまるくしていた。
その女性に、ショボーンは、柔らかくも重みのある声をかけた。
(´・ω・`)「……なにがあったのかは、聞きません。その代わり、黙ってその拳銃を床に置きなさい」
「………」
(´・ω・`)「僕は、警察だ。それはモナーさんからも聞いてるだろ」
(´・ω・`)「へたに抵抗をしたら……君は、これ以上罪を重ねることになる」
(´・ω・`)「だから……お願いだ。拳銃を置いて、まずは落ち着いてほしい」
.
- 393 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:29:33 ID:w86D6G/w0
-
そして、ショボーンは目を閉じて、浅い呼吸を数回重ねたかと思えば、
その一度閉じた口を、ゆっくりと開いた。
(´-ω-`)「………もう、プギャーさん以外の犠牲を、出さないでくれ」
(´・ω・`)「…………レモナ………さん」
|゚ノ ∀ )
レモナの、ショボーンに向けた拳銃を握る手は、震えていた
.
- 394 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:30:20 ID:w86D6G/w0
-
◆
バーには、予想どおり、横たわるモナーに加え、三人の女性がいた。
のー、ガナー、そして――レモナ。
ガナーは右手を左手で握りつつ、その場に倒れている。
その手を見てみると、血が流れてきているのがわかった。
それを見て、右手を撃たれてそのまま気絶したんだな、とわかった。
のーも同様に、左の二の腕のあたりを右手で押さえていた。
やはり、そこからは血が流れてきている。
先ほど、声を発したさいに、撃たれたのだろう。
そして、二人にその銃創を負わせたのは、レモナだ。
ためらいもなく二人を撃ったのを見ると、少しでも選ぶ言葉を間違えれば、すぐに発砲されかねない。
まして、銃を握っているレモナ自身が
|゚ノ ;∀;)「…………………」
こうも泣きはらし、精神状態が不安定となっていたとなれば、なおさらだ。
.
- 395 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:31:10 ID:w86D6G/w0
-
ショボーンは、そっとトソンをレストランのほうに返した。
レモナはショボーンしか目に映ってないようで、
トソンがレストランのほうに避難するのには気づかなかった。
そして、ショボーンとレモナは対峙する。
窓を打ち付ける雪の勢いは、以前と比べてだいぶ落ち着いているようだ。
(´・ω・`)「……レモナさん」
|゚ノ ;∀;)「ッ」
ショボーンが呼びかけると、レモナは反射的に身体をびくつかせた。
これは、相当メンタルに多大な負担がかかっているな、とショボーンは思った。
まさに、一触即発。
まして、女性の場合だとなにを言っても無駄、というケースが多いので、
ショボーンはどうやってこの苦境をくぐり抜けようか、と頭を回転させはじめた。
(´・ω・`)「………」
しかし、自分は拳銃を持ってない上に、レモナにこう先手を譲ってしまっているため
ショボーンはいわば、金縛りに遭ったかのように、動くことができなくなっていた。
手元が震えているため、なんらかのショックを与えれば
狙いの定まっていない発砲を誘発させ、その隙に取り押さえることができるかもしれないが。
それは、成功率という面でもレモナのメンタル面においても、リスクが高すぎる気がした。
レモナは興奮し混乱もしているため、説得も功を成さない。
せめて、一瞬でもレモナの気を逸らすことができたら―――
.
- 396 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:31:50 ID:w86D6G/w0
-
(゚A゚*;)「あんたァ!!」
|゚ノ ;∀;)「!?」
(´・ω・`)「!」
――と思った直後、のーが、声を張り上げた。
レモナはびっくりして、倒れこむかのように体勢を崩しながらのーのほうを向く。
その隙を、ショボーンが狙わないはずがなかった。
この一瞬でレモナに飛び掛るのは不可能と判断したため、
〝レモナよりも近い位置にあったカウンター席に移動した〟。
|゚ノ ;∀;)「―――ッ?!!」
ショボーンが動いたのを知ったレモナは、半狂乱になりながら
もう一度ショボーンのほうに向き、銃を彼に向けて、引き金を引いた。
だが、ただでさえ照準が定まっていないのに、動いているもの、
それも場数を踏んでいる刑事にその弾丸が命中するはずもなかった。
静寂を切り裂いた銃声の反響音が消える前に、ショボーンは「それ」――
かつてモナーの止血に使った、自分のトレンチコートを握った。
それで何をするのだ――とのーは思ったが、それを口にする前に、レモナがまたも銃口をショボーンに向けた。
これで、レモナとの距離は、先ほどの半分ほどになった。
あとはもう一度、レモナの気を散らせば、彼女を取り押さえることができる。
のーがもう一度叫んだところで、レモナは今度は動じないで引き金を引くだろう。
そうなると、今度は、ショボーンに命中してしまう可能性が高い。
それを察したのかはわからないが、のーが次に声を発することはなかった。
.
- 397 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:32:25 ID:w86D6G/w0
-
しかし。
ショボーンは先ほど、今日一日の記憶をめぐらせたさいに
副産物的に、あるものの存在も一緒に思い出していたのだ。
レモナに察知されないように、コート内部に手を突っ込む。
コートに滲んでいたモナーの血は、すっかり固くなっていた。
やがて、ポケットのなかから、その「あるものの存在」を掴み取る。
レモナのメンタルは、震え具合からみて、もう限界だろう。
この一瞬に賭けるしかない――そう腹をくくって、ショボーンはがばっと体躯を低くさせた。
突如として音と動作を見せることで、相手を動揺させるのだ。
|゚ノ ;∀;)「ッッ!」
レモナは、それにまんまと食いついた。
すぐさま、銃口は重心を低くさせたショボーンに向けられる。
――だが、その一瞬前に、ショボーンは、ポケットから抜き出した「それ」を、前に放り投げていた。
.
- 398 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:33:43 ID:w86D6G/w0
-
|゚ノ ;∀;)「!?」
(゚A゚*;)「ナ――ッ!」
レモナに向かって投げられたものは、この暗い室内に、点々とした明かりをもたらした。
レモナものーも、その光景を見て、仰天した。
―― 十枚前後の、メダル。
それが、レモナめがけて飛び掛っていた。
あまりに突然のそれを喰らい、レモナは動転した。
思わず照準をそのメダルに向ける。
そしてすかさず、引き金を引いた。
しかし、その隙に、レモナはショボーンの接近を許した。
|゚ノ ;∀;)「――!」
(´・ω・`)「形勢逆転……だ」
ショボーンはレモナの手を捻り、彼女の手から銃を奪い取った。
ショボーンは、その柔和な顔つきと飄々とした性格ゆえ刑事とは思いにくいが、
それでも県警の警部をつとめる、ベテランの刑事だ。
細腕の女性から銃を奪うことくらい、造作もないことだった。
メダルが床や窓ガラスに当たり、転がる。
その全てが転がるのをやめる頃には、先ほどまで銃を握っていたはずのレモナに、その銃が向けられていた。
ショボーンがレモナの動きを止めるべく、銃を突きつけたのだ。
そして、レモナはそのときになって、今投げられたのはメダルで、それが陽動に過ぎなかったことを理解した。
.
- 399 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:34:27 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「レモナさん」
|゚ノ ;∀;)「あ……あ……っ」
ぼろぼろと大粒の涙を流し、オーバーに震える。
先ほどにもまして、精神面が不安定になったのだろう。
ショボーンの持つ銃口からのがれようと、しりもちをつき、後ずさりする。
(´・ω・`)「妙な動きを見せたら、いくらあなたでも……撃つ」
|゚ノ ;∀;)「………、……ッ」
ショボーンの目は、本気だった。
三度も四度も、ためらいなく発砲した彼女を相手取る以上、それほどの覚悟を
担っていないと、レモナを落ち着かせるのは不可能だと思ったのだ。
しかし。
このまま話をうかがおうか悩んでいると、その前に
|゚ノ ;∀;)「―――」
|゚ノ ∀ )「――――」
.
- 400 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:34:57 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「……ッ…」
レモナは、気絶した。
どうやら、もともと精神が崩壊していたのが、加えて唯一の護身となる銃を奪われ、
ましてそれを突きつけられたため、もう精神が耐え切れなくなったのだろう。
それは、ショボーンにとっては好都合だった。
へたに抵抗されて発砲を余儀なくされるよりも、手間と保護の二点において、こちらのほうがよかった。
数秒間、彼女の様子を見てから
ショボーンは彼女に向けていた銃口を下ろし、銃をポケットにしまった。
そしてゆっくりと、ショボーンは右手に向きを変える。
苦い顔を浮かべていたショボーンは、彼女、のーと向かい合った。
左腕からは、少量の血が滴り落ちている。
(´・ω・`)「腕……」
(゚A゚*;)「……大丈夫。動かしたらズキズキするだけや」
(´・ω・`)「………そうですか」
.
- 401 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:35:33 ID:w86D6G/w0
-
少し、静寂が生まれる。
だが、レモナと対面したときのように緊張で張り詰められたものではなく、
どちらかというと気まずさに支配されたような、そんな静寂だった。
その静寂を破ったのは、ショボーンだ。
ここにいると実感はわいてこないが、危機が迫りつつあることには変わりないのだ。
制御室にある動力装置を爆破された結果、連鎖的に爆発と火災が発生し、煙がどんどん蔓延している。
早急にショボーンは、決着をつけなければならないと思った。
騒ぎがおさまったことを察したのか、扉の陰からトソンがやってくる。
ショボーンの後ろに隠れるようにして、彼女もバーに入った。
(´・ω・`)「……のーさん」
(゚A゚*;)「なに?」
(´・ω・`)「聞かせてくれませんか。……19時以降、いったい、なにがあったのか」
(゚A゚* )「……」
(゚A゚*;)「………あかん」
(´・ω・`)「なんですって?」
その返答に、ショボーンは虚を衝かれた。
思わず、顔をしかめる。
そのしかめっ面に、動揺が少し、混ざっていた。
.
- 402 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:36:19 ID:w86D6G/w0
-
(゚A゚*;)「う、ウチな。怖ぁて、ようクチ利けん。また今度にしてーな」
(´・ω・`)「……だめです。これは、取り調べの一環です」
(゚A゚*;)「別にケーサツショに連れてかれてもええから、今はカンニンして……。な?」
(´・ω・`)「なぜ、拒むんですか」
(゚A゚*;)「やから、ほら。ウチも、いまはこーして虚勢張ってるけど。
. 内心、めっさヤバいねん。ソッコーで泣きそうや、気ィ抜いたら」
(´・ω・`)「……」
ショボーンは、のーのその態度が、嘘であることを見抜いた。
論理的な理由はない。
自分のカンと経験が、彼女のその言い分を、嘘だと決めてかかっている。
そしてショボーンは、それに賛同していた。
彼女の言葉にどこか、ぎこちないものを感じたのだ。
そうなると、問題は、『どうしてのーが話したがらないのか』だ。
メンタルが不安定だから――も、当然あるだろうとは思う。
しかしそれ以上に、ショボーンは別の理由を想定していた。
『話すと、なにか自分に不利益が生じる』。
たとえば――事件。
.
- 403 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:36:58 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「……?」
「事件」。事件? いったい、どの事件を指しているというのだ。
プギャーの殺害? いや、それはレモナだ、と確信している。
制御室の爆破? ガナーへの発砲? ――それも、レモナだろう。
だとすると――いや、待て。
しかし、コレは――
(´・ω・`)「―――ッ!」
――そこまで来て、ショボーンの思考は、再び活発に働きだした。
「バーの出入り口」の推理に関して、フォックスとのやり取りが脳に浮かんだように。
今度は、また別の場面が、網膜に再現された。
今回の事件の、全てのおおもと。
緒前モナー ――「殺人」事件。
.
- 404 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:37:47 ID:w86D6G/w0
-
――レモナは、ここにきて、謎の犯行を重ねてきた。
なら、モナーの殺害も、彼女がしたというのか?
……いや、違う。
(゚、゚トソン『17時』
(´・ω・`)『17時?』
(゚、゚トソン『そのときまでは、レモナさんは倉庫から料理やテーブルなどを出して、
. ガナーさんはそれを並べて……って、忙しかったんです。
. ひと段落あって、落ち着いたあたりからは、レモナさんも一緒だった、って断言できます』
――レモナさんには、決定的なアリバイがある。
一方のモナーさんも、一時間以上もナイフを突き立てられたままだった、とは考えられない。
つまり、『犯人は別にいた』ということになるんだ。
――そうなると、問題となるのは『モナーの動き』だ。
彼は、17時半以降にバーで刺されるにいたるまで、何をしていたというのだ。
――いや。それについては考えるまでもない。
一人だけ、『事件前のモナー』を目撃した人がいたじゃないか。
.
- 405 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:38:21 ID:w86D6G/w0
-
(∴)◎∀◎∴)『モナー氏の後ろ姿と……黒髪の女性が、見えたんだヲタ』
(∴)*◎∀◎∴)『セップンを……交わしてたヲタ!!』
――事件、直前。ヲタさんは、そんな不自然なシーンを目撃していた。
その内容はどうであれ、ポイントは『事件直前は3Fにいた』ということ。
これが事件直前である以上、犯人は、このあとですぐにバーにモナーさんを連れて行ったことになる。
でも……
(; <●><●>)『ひ、「紐」は、バーにあらかじめ備品としてあったとか――』
(´・ω・`)『いつかはそう言われると思ってバーカウンターの裏も見てみたけど、ほんとうに何もない。
. 電球の紐すらない現場の、どこから「紐」を調達したっていうんだ。
. これは、「計画的な犯行」なんだよ』
(; <●><●>)『………ぐッ』
.
- 406 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:38:58 ID:w86D6G/w0
-
――そう。元はと言えば、これは「計画的な犯行」なのだ。
ということは、ナイフと紐をあらかじめ用意していたということになる。
じゃあ、どうして、犯人はゲームコーナーにいったんモナーを連れてきてたんだ?
――呑気なことに、そこでヲタさんに、モナーさんと一緒にいた姿を目撃されている。
『計画的な犯行』である以上、これは実に考えにくい。ゲームコーナーに来る理由など、ないではないか。
――違う。本件を『計画的な犯行』と考えるから、辻褄が合わないままでいるんだ。
行き詰まった場合は、視点を変えなければ、『真実』は見えてこない。
(´・ω・`)「……真…実…?」
.
- 407 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:39:31 ID:w86D6G/w0
-
(-@∀@)『私たち記者は、真実を公開するのが仕事ですが……』
(-@∀@)『その、公開されるべき真実は、そのままではひどく醜い』
(-@∀@)『政治家の汚職事件、教育現場における体罰、産地偽装のされた肉……
とても、そのままだと公表すらできない、おぞましいものだ』
――ひょっとすると、僕はこの「本件は計画的な犯行だ」というのを『真実』だと思い込んでたけど、
実はその固定観念こそが、間違いだったのかもしれない。
――『本件が計画的な犯行だ』という視点で見るのではなく、
『本件は実は突発的な犯行だった』という視点でとらえれば、それは見えるかもしれないんだ。
それこそ、それによって見えるものが、おぞましい姿をしていたとしても――
――だとすると、問題となるのは、『どうして犯人はナイフと紐を持ち歩いていたのか』だ。
たとえ事実としては突発的な犯行だったとしても、前提として、犯人はナイフと紐を持ち歩いていたのだ。
そうでなければ、あのナイフと扉をつないだからくりを用意することは、できない。
――あらかじめ殺傷力を持つ凶器を携帯していた、ということは
とある人に、とてつもない恨みや、そういった負の感情を日頃から持っていたか、もしくは――
.
- 408 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:40:09 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(……もしくは……)」
(´・ω・`)「(ある計画のもと、最初からその人を殺そうと思っていた……?)」
そのとき、ショボーンの脳裏を、あの光景が掠めた。
アサピーから『真実』を聞いていたときのことだ。
(-@∀@)『それですがね……また、小声の会話がはじまって、私は聞き取りづらかったのですが……
シラヒーゲ館長が、言ったんですよ。
「最終的な判断は、モナー支配人とじきじきに交わしたい」と』
(-@∀@)『するとプギャー副支配人は、だ』
(-@∀@)『「俺は、副支配人だ。支配人がいないときは、俺が全権を握るんだからな」……そう言ったんです』
(´・ω・`)『…ッ』
(-@∀@)『当時は、ただプギャー副支配人の裏の顔が見えただけ……
そう思っていたのですが、モナー支配人の殺されたいま、
このセリフの意味が変わってくるように思えるのですよ』
(´・ω・`)『モナーさんが刺される前までは、この言葉は「俺を嘗めるな」程度にしか聞こえないのが……
. モナーさんが刺された今となっては、そんな意味じゃ、捉えにくい』
(-@∀@)『ええ。むしろ、こう聞こえるわけです』
(-@∀@)『 「支配人は、そのうち、俺がなるのだ」 ……と』
(´・ω・`)『………ッ!!』
.
- 409 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:40:46 ID:w86D6G/w0
-
すると、ショボーンのなかに、新たな推理が顔を出した。
そうだ。ここに、〝このときからすでに因縁はあった〟のだ、と。
――犯人は、モナーさんを殺すことを前提にして、別の目的を果たそうとしてたんじゃないか?
プギャーさんだけでなく、これは美術品を守るという名目で、シラヒーゲさんにも言えることだ。
そして………
(´・ω・`)「(それは、モナーさん自身にも……言える……?)」
(´・ω・`)「……」
(;´・ω・`)「………ッ!!」
.
- 410 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:41:38 ID:w86D6G/w0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『陰でうわさされとるレベルなんですがねぇ……
モナーさん、例のグループにええように使われとるっちゅー話ですわ』
(´・ω・`)『例のって……』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『アンモラルグループ、ですよ』
(-@∀@)『おかしい。確かに、このホテルにアンモラルグループは企業を誘致したりしていますが……
ホテルとアンモラルグループとは、直接的な関係にはありません』
(-@∀@)『そこで私は私なりにスイリしてみたのですよ。
プギャー副支配人は、アンモラルグループになにか手をまわされたのではないか、と』
(´・ω・`)『! じゃ、じゃああの「裏取引」っていうのは……』
(-@∀@)『そうです』
(-@∀@)『アスキーミュージアムとWKTKホテル間……ではなく、
WKTKホテルとアンモラルグループ間で、裏取引があったのではないか――
そういう、意味です』
.
- 411 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:42:09 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「(言えるとしたら……、…………あ)」
急にショボーンが黙ったかと思えば、急に態度が変わった。
先ほどまで、落ち着いていて、のーと対峙していたのが、だ。
突如として、その落ち着きが欠如されたように見えた。
(゚A゚* )「な…、どうしたん……?」
のーが、その様子を見かねて、声をかけたとき。
返事でも、応対でもなく、誰に言うでもない言葉を、ショボーンは発した。
.
- 412 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:42:49 ID:w86D6G/w0
-
(;´・ω・`)「―――つ、つながった!! この事件の……《偽り》が…!!」
(゚、゚トソン「!」
(゚A゚*;)「な、なに? やからどーしたんって!」
道具を取り揃えた上で行われた、計画的な犯行。
犯行直前までゲームコーナーにいた、二人。
ヲタの見た、ゲームコーナーでの奇妙な光景。
そして――ヲタの感じた、違和感。
その、さまざまなロジックの一端が、ひとつにつながった。
そしてショボーンは、のーを視界の中央に据えて、ひときわ大きな声を放った。
(´・ω・`)「あなたが、いまここで取り調べを断る理由、わかりましたよ」
(゚A゚*;)「や、から、……ウチはいま、しんどいっちゅーか……」
(´-ω-`)「ああ。確かに、心が苦しいでしょう」
(´・ω・`)「〝刑事の前に、いると〟」
(゚A゚*;)「ッ!!」
.
- 413 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:43:21 ID:w86D6G/w0
-
(´・ω・`)「下呂、のー」
(´・ω・`)「あんたを、緒前モナー殺人事件の犯人として、逮捕する」
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第八幕
「 二つの矛盾 」
おしまい
.
- 414 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/13(水) 20:44:41 ID:w86D6G/w0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五幕 「見てはいけない」
>>248-294 第六幕 「おぞましい真実」
>>303-353 第七幕 「次なる被害」
>>359-413 第八幕 「二つの矛盾」
.
- 415 :同志名無しさん:2013/03/13(水) 20:53:39 ID:XdwoGn5Y0
- モツカレー
次にも期待
- 416 :同志名無しさん:2013/03/13(水) 20:53:40 ID:w86D6G/w0
- 次回、第九幕 「偽りをつなぐ」
偽りシリーズ過去最多の伏線回収ラッシュがスタートします
あと、注意書きし忘れたけど、BGMは基本的に「逆転検事2」からお借りしています。
逆裁ファンでまだこのゲームが未プレイだ、という人がいましたら言ってください。
代わりのBGMも用意しておきます。
- 417 :同志名無しさん:2013/03/13(水) 20:58:05 ID:y/oFOLXM0
- おっつん
- 418 :同志名無しさん:2013/03/14(木) 04:08:24 ID:s.xwbDPQ0
- 乙
- 419 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 13:21:50 ID:NTzB/vv20
- 今日か
期待
- 420 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:09:50 ID:LPOyqarA0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第九幕 「 偽りをつなぐ 」
.
- 421 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:10:23 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「…………な、……なんやて……?」
ショボーンが言い放つと、のーは、あきらかに狼狽した顔になった。
せっかく化粧でごまかした顔にも、しわが目立ってくる。
このときばかりは、左腕に当てた右手の力は抜けていたようだ。
押さえられていたのであろう血液が、一筋の血となって左の手先に向かい流れた。
(゚A゚*;)「じょ……ジョーダンも、たいがいにしーや! なんかショーコでもあんのか!」
(´・ω・`)「あなたは……目撃されていたのですよ、『殺人現場』を」
(゚A゚*;)「……ハァ?」
のーは、犯人だと言われたわりには、どこか落ち着いていた。
ショボーンの言葉が非現実的すぎて、あまり実感がわかなかったのだろうか。
しかし、そうだとしても、暴れられるよりはこちらのほうがショボーンにとっては好都合だった。
今のうちに、と、ショボーンは饒舌になった。
.
- 422 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:10:53 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「あなたが犯人なのだから、当然知ってるでしょ。
. 扉を開くと、モナーさんの腹部に突き立てられたナイフが抜ける、というからくりのことを」
(゚A゚*;)「あんな、ウチ、これでも誘導尋問とかひっかからんで」
(´・ω・`)「なら説明しよう。モナーさんは何者かに刺されて、そこのカウンター席に安置された。
. そして、『そのナイフの柄と扉とを、あるものでつないだ』んだ」
(´・ω・`)「それが……そこにある、『紐』だ」
指をさされた先には、その紐があった。
依然ナイフがくくりつけられており、そのもう片方も依然ドアの取っ手に結びつけられている。
のーもそれに一瞥を与えた。
(´・ω・`)「このからくりを用意する以上、犯人は当然、
. 最初からこの『紐』を用意していなければならなかった」
(゚A゚*;)「ちょい待てや! ウチが、んなチンケな紐、ずっと持ち歩いてた、っちゅーんか!」
ショボーンがこの犯行の『計画性』に触れたとき、のーはその点を真っ先に衝いた。
最初にその弱点を見抜くことができたという以上、のーはショボーンの思っている以上に賢い。
賢いからこそ、そこを突っ込んだ。
そして、そこに突っ込んだせいで、結果的に、ショボーンの攻撃の手をはやめることになってしまった。
.
- 423 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:11:24 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「それが、ずっと謎だったんですよ。本件が『計画的な犯行』だとすると、
. どうしてもひとつ、釈然としないものがあったのですから」
(゚A゚*;)「……なん、なん」
(´・ω・`)「とある人の……あの格闘ゲーマーの、目撃証言ですよ」
(゚A゚*;)「あんデブ……?」
(´・ω・`)「ここ、バーでの犯行の直前に、なぜか、
. 犯人とモナーさんは二人そろって3Fのゲームコーナーにいた」
(´・ω・`)「『計画的な犯行』だったのなら、どうしてそんな
. 誰に見られるかわからない場所を、モナーさんと一緒に訪れたんだ。
. このもやもやが、頭から取り払われなかったんです……つい、さっきまでは」
(゚A゚*;)「……?」
のーが、首を傾げる。
いまいち、ショボーンの言いたいことの本命が、見えてこなかったのだ。
だが、のーがそう思った直後に、ショボーンはそれを言いはじめた。
.
- 424 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:12:01 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「しかし、これは、『そもそも計画的な犯行ではなかった』」
(´・ω・`)「犯人は、ナイフはどうであれ、『紐』は持ってなかったんですよ」
(゚A゚*;)「! じゃ、じゃあその『紐』はどないしたっちゅーんや!」
のーが、わめきたてる。
すると、ショボーンは、このモナーの事件の根底に眠る《偽り》を、言った。
(´・ω・`)「簡単ですよ」
(´・ω・`)「『紐』を持っていたのは、モナーさんだった」
(゚A゚* )「ッ!!」
ショボーンは目をほそめ、腕を思いっきり前に突き出し、人差し指をのーに突きつけた。
.
- 425 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:12:34 ID:LPOyqarA0
-
(∴)◎∀◎∴)『モナー氏の後ろ姿と……黒髪の女性が、見えたんだヲタ』
(;´・ω・`)『………一応聞きますと、その二人は、いったい……?』
(∴)*◎∀◎∴)『せッ………、……』
(´・ω・`)『……せ?』
(∴)*◎∀◎∴)『セップンを……交わしてたヲタ!!』
(´・ω・`)「ヲタさんが見た、ゲームコーナーでの、この光景こそが!」
(´・ω・`)「ほんとうの 『殺人』 現場だったんだ!!」
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=MDyUvZkJiSc
.
- 426 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:13:21 ID:LPOyqarA0
-
( A゚*;)「――――ッ!!」
(゚A゚*;)「どーゆー意味や! 現場は、どー見てもここやろ!
. バーでしか、血ィは流れてへんはずや!!」
(´・ω・`)「そう」
(゚A゚* )「!」
(´・ω・`)「この、ヲタさんの見た、光景。これの問題は、『はたしてほんとうはなにをしていたのか』だ」
(´・ω・`)「当然、こんなところで、キスなどするはずがない。まして、する相手がいない」
(´・ω・`)「すると、この『セップン』というのは、事実ではなく――
. ヲタさんの知りうる限り、もっとも近い言葉で表現した結果。
. それが『セップン』だった……ということなんだ」
.
- 427 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:14:14 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「じゃ、じゃあ……なんやった、ゆーねん!」
(゚A゚*;)「あのデブが見た、『セップンしているように見えた光景』の、そのホンマの姿は!」
(´・ω・`)「そもそも、だ。どうして、ヲタさん、彼はこの光景をキスと見間違えたんだろう」
(゚A゚*;)「し、知るかいな…。」
(´・ω・`)「考えてみてほしい。キスとは、互いが顔を近づけてはじめてできる行為だ」
(゚A゚*;)「そ、そら……」
(´・ω・`)「つまり、二人の顔の位置は、それをキスと見間違えるほど、近づいていたということ」
(´・ω・`)「言い換えれば、二人の『身長』が同じくらいにまで迫っていた、ということだ」
(゚A゚* )「………」
(゚A゚*;)「あ……あああああッ…!!」
(´・ω・`)「ここまで来れば、わかったかな?」
.
- 428 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:14:47 ID:LPOyqarA0
-
(∴)◎∀◎∴)『えっと……モナー氏が小生に背を向けてて、その向こうに、おお、おにゃのこが……』
(´・ω・`)『モナーさんはどんな体勢でしたか?』
(∴)◎∀◎∴)『そうヲタね……。相手の頭を両手で押さえて……みたいな感じだったような』
(´・ω・`)『…!』
(∴)◎∀◎∴)『おにゃのこのほうも首から上が見えていたヲタけど……
位置的に、どーもセップンをしているようにしか見えなかったヲタねぇ』
(´・ω・`)「そもそも、『相手が女性だ』とわかること自体が、おかしいんだ」
(´・ω・`)「ヲタさんがその光景を見たのは、あくまでクレーンゲームのガラスケース越し。
. つまり、足元は見えないだろう。それに、彼はそっちには言及していなかった」
(´・ω・`)「彼がモナーさんと一緒にいたのが女性だとわかった理由は、『首から上が見えていた』から」
(´・ω・`)「でも、モナーさんがこちらに背を向けていて女性がその向こうにいるのに」
(´・ω・`)「そして、二人の間には明らかな身長差があるのに、どうして、ヲタさんはその女性の『首から上』が見えたんだろう」
(゚A゚*;)「…ッ! ……ッ!!」
(´・ω・`)「答えは簡単だ」
(´・ω・`)「モナーさんが、相手の女性の首を、持ち上げていたんだ」
.
- 429 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:15:20 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「ど、どーゆーこっちゃねん……」
(´・ω・`)「ふつう、身長差のある二人がキスをするなら、背の低い女性が男性にあわせるんじゃなくて、
. 背の高い男性が女性にあわせて、かがんだりするよね。
. なのに、今回は違う。モナーさんがかがんでいたなら、彼はそう言っていただろうからね」
(゚A゚*;)「い、言い忘れてただけとちゃうん? ホンマは、ホンマに、二人は口付けしとったんや!」
(´・ω・`)「それはありえない。彼が見たのは『背中』だ。
. もし、背中に『かがんでいた』などの特徴があれば、それも一緒に見ることになる。
. 当時のモナーさんの様子を語るさいに最初に触れたのが『背中』である以上、
. もしその背中に特徴があれば、一緒に言うことになるからね」
(゚A゚*;)「で……でもな、やったらなんで『実は首を持ち上げてた』っつー結論になんねん!」
(´・ω・`)「ヲタさんの証言によれば、モナーさんはその両手を相手の女性の頭部に近づけていた」
(゚A゚*;)「口付けンとき、相手の顔を押さえてただけやろ!」
(´・ω・`)「この事実が『キスをしていたわけではない』『身長が低いはずの女性の、首元までが視認できた』
. という二つの条件にあわされば、この証言は、まったく別の意味を持つことになるのです」
(゚A゚*;)「なッ……」
.
- 430 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:15:58 ID:LPOyqarA0
-
(´-ω-`)「『紐』を持っていたのは、モナーさん」
(´-ω-`)「彼は、ゲームコーナーで、あなたの首を絞めようとしたんだ」
(´・ω・`)「……そう、『紐』はナイフのからくりをつくるためのものではない」
(´・ω・`)「 『もうひとつの凶器』 だったのだよ!!」
.
- 431 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:16:30 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「………?」
(゚A゚* )「……! なんや、それ。笑えるなァ!」
(´・ω・`)「なにがおかしい」
ショボーンが一連の謎に説明を加えていくと、のーは笑った。
(゚A゚* )「なんや、もしそーやとしたら、犯人はウチやない!」
(゚A゚* )「ウチはむしろ、被害者――」
(゚A゚* )「被害者と加害者の立場が、逆転するやんか!!」
――しかし、それ以上の笑みを、ショボーンは浮かべた。
(´・ω・`)「そう、それだ」
(゚A゚* )「…?」
(´・ω・`)「それこそが、『事件の計画性』と『事件の突発性』の両方を示すんだ!」
(゚A゚* )「突発……?」
(´・ω・`)「あなたは、はじめから、モナーさんを殺そうとしていた」
(´・ω・`)「しかしその一方で、『モナーさんも』、あなたを殺そうとしていたんだよ!」
.
- 432 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:17:03 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚* )「………」
(゚A゚*;)「――――ッ!!!」
(´・ω・`)「なにをしていたかはわからないが、モナーさんとあなたは、ゲームコーナーにいた」
(´・ω・`)「そこで、あなたが何かをし、それがモナーさんに殺人のキッカケを与えた」
(´・ω・`)「そして、隠し持っていた凶器の『紐』で、あなたを――絞めた」
(゚A゚*;)「さっきからペラペラと憶測ぬかしよって……」
(´・ω・`)「ロジックと偽りが導き出す、当然の推理だ」
(゚A゚*;)「そないやったら、出せや証拠ォ!!」
(´・ω・`)「証拠?」
(゚A゚*;)「『口付けしとったんやなくて、実はウチを絞殺しようとした』っつーのを立証するショーコや!」
(´・ω・`)「……ヲタさんは」
(゚A゚* )「…?」
(´・ω・`)「あの人は、なにも偶然、あなたとモナーさんの『セップン』の様子を目撃したわけじゃない」
(´・ω・`)「彼は、然るべき動機をもって、その光景を見たんだ」
(´・ω・`)「それは―――」
.
- 433 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:17:42 ID:LPOyqarA0
-
(∴)◎∀◎∴)『すると気のせいか、物音が聞こえたんだヲタ』
(´・ω・`)『どんな音でした? また、それはどこから?』
(∴)◎∀◎∴)『クレーンゲームが並んでるところだヲタ。音は……』
(∴)*◎∀◎∴)『お……おにゃのこの……喘ぎ声みたいな、声だったヲタ』
(゚A゚*;)「――――?!!」
(´・ω・`)「あなたは、首を絞められたとたん、咄嗟に苦痛をかみ殺したような声を発した」
(´・ω・`)「それを、あろうことかヲタさんに聞きとられてしまったんだ!」
(゚A゚*;)「そ、それがただしいっちゅーショーコは……」
(´・ω・`)「証拠がどうこうじゃない。こう考えないと、現状に辻褄があわなくなるんだ」
(´・ω・`)「まず、頭を押さえていたように見えた、という両手。
. これは、あなたの首を、『紐』で絞めていたため」
(´・ω・`)「女性側の頭部が見えた理由。
. それは、首を『紐』で絞めたあと、より確実に絞殺するために、それを持ち上げたからだ」
(´・ω・`)「そして、女性の苦痛に喘ぐ声。首を絞められたとたんの悲鳴、と考えると、話が通る」
.
- 434 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:18:17 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「んな……ぜ、ゼンブ状況証拠やないか! どれも直接的なモンやない!」
(´・ω・`)「それなんですけどねえ。ヲタさんは、その相手の女性が誰かと訊かれたとき、
. 誰かわからず、あいまいとしていたのにも関わらず、ひとつだけ断言したことがあったんですよ」
(∴)◎∀◎∴)『ヲタも、そのおにゃのこが誰か、を考えてたんだヲタけど……』
(∴)◎∀◎∴)『のー氏だけは、違う。……そう思っていたヲタよ』
(゚A゚*;)「な、なにを言うか思えば……」
(゚A゚*;)「なんや、ウチがシロやって証明したいんか?」
(´・ω・`)「違う。『逆』なんだ」
(゚A゚*;)「逆……?」
(´・ω・`)「誰も気づけなかった、あなたに存在する『違和感』」
(´・ω・`)「それを、ヲタさんだけが、見抜いた」
(´・ω・`)「ほかの誰よりも、頭部――『首』に注目していたヲタさんだからこそ、気づけたんだ!」
.
- 435 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:18:48 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「あなたの首の、その『チョーカー』に!!」
(゚A゚* )「…………な」
(゚A゚*;)「なんやてええええええええええええ!?」
事件前は、年齢を雄弁に物語っていた、首の小じわ。
それが、事件後は、その小じわを見ることができなくなっていた。
〝いつの間にかはめられていた水色のチョーカー〟のせいで。
.
- 436 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:19:25 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「そう! ヲタさんが『少なくとも、キスをしていた相手はのーではない』と言えた理由!」
(´・ω・`)「それは、『その光景で見えていた首と事件後の のー の首とが、違っていた』からだ!」
(゚A゚*;)「……ぐッ………!」
(´・ω・`)「首を強く絞められたら、赤い『痕』が残る」
( <●><●>)『首元に、赤い痕が見られました。おそらく、犯人は当初、絞殺を試みたようです』
(´・ω・`)『首……』
(´・ω・`)「あなたはなんとしても、その首の赤い痕を隠さなければならなかった」
(´・ω・`)「だから、チョーカーをつけたんだ! 自然に、その痕を隠すために!」
.
- 437 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:19:56 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「ち、違………」
(´・ω・`)「じゃあ、とってくださいよ」
(゚A゚*;)「…ッ!」
ショボーンが、一歩前に出た。
(´・ω・`)「もしあなたが潔白なら、そのチョーカーをとって、首を見せてくれればその証明できる」
(゚A゚*;)「あ、アカン!」
(´・ω・`)「どうして?」
(゚A゚*;)「な…なんでもや! とにかく、アカンもんはあかん!」
(´・ω・`)「……」
.
- 438 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:20:37 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「それに、や」
(゚A゚*;)「あんた、この事件が突発的なもんやったら、コッチはどう説明すんねん!」
(´・ω・`)「コッチ、とは」
(゚A゚* )「ナイフや、ナイフ!!
バーん中に、ナイフなんかなかったんやろ! じゃあ、ウチはどないしてモナーさん刺せば――」
(´・ω・`)「そんなの、答えるまでもない。
. あなたは、紐こそ用意してなかったが『最初からナイフだけは用意していた』んだ!」
(゚A゚* )「な――」
(´・ω・`)「モナーさんが最初からあなたを殺すつもりで『紐』を持っていたのと、まったく一緒だ」
(´・ω・`)「あなたもあなたで、『モナーさんを最初から殺すつもり』だったんだ!」
(゚A゚*;)「なんでそないなこと言い切れんねん!」
のーが、強く前に出る。
が、ショボーンもひるむわけにはいかなかった。
.
- 439 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 20:21:00 ID:k6mv6hy.0
- なんだってー!?
- 440 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:21:10 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「それに、や」
(゚A゚*;)「あんた、この事件が突発的なもんやったら、コッチはどう説明すんねん!」
(´・ω・`)「コッチ、とは」
(゚A゚* )「ナイフや、ナイフ!!
バーん中に、ナイフなんかなかったんやろ! じゃあ、ウチはどないしてモナーさん刺せば――」
(´・ω・`)「そんなの、答えるまでもない。
. あなたは、紐こそ用意してなかったが『最初からナイフだけは用意していた』んだ!」
(゚A゚* )「な――」
(´・ω・`)「モナーさんが最初からあなたを殺すつもりで『紐』を持っていたのと、まったく一緒だ」
(´・ω・`)「あなたもあなたで、『モナーさんを最初から殺すつもり』だったんだ!」
(゚A゚*;)「なんでそないなこと言い切れんねん!」
のーが、強く前に出る。
が、ショボーンもひるむわけにはいかなかった。
.
- 441 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:22:26 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「あなたには悪いですがねぇ、僕は知ってるんですよ?
. あなたと、WKTKホテルとの間にある関係を」
(゚A゚*;)「………ただ、店とか置いたっただけ――」
(´・ω・`)「違う。あなたは、このWKTKホテルを、のっとろうとしていた」
(´・ω・`)「それも、『あなたのトコからスパイとして派遣された』プギャーさんと一緒にね!」
(゚A゚*;)「―――ッ!!」
(´・ω・`)「(そうだとすれば、あの発言にも、納得がいくんだ)」
(´-ω-`)「(……すみませんが、あの約束……いま、破らせていただきます)」
.
- 442 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:22:59 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「……『真実』を求めるとある人が、聞いたんだ。あんたらの関係を」
(゚A゚*;)「ッ!」
(-@∀@)『プギャー副支配人は、アンモラルグループになにか手をまわされたのではないか、と』
(-@∀@)『WKTKホテルとアンモラルグループ間で、裏取引があったのではないか――』
(-@∀@)『「俺は、副支配人だ。支配人がいないときは、俺が全権を握るんだからな」……そう言ったんです』
(´・ω・`)「プギャーさんとあなたとは、いわば同盟関係にあった」
(´・ω・`)「アンモラルグループの遣いの者であるプギャーさんがこのホテルの支配人になることで、
. このWKTKホテルをアンモラルグループの傘下に置く、そんな目的のもとで――ね」
(´・ω・`)「……そうなれば、あの疑問にも答えが出るんだ」
.
- 443 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:23:36 ID:LPOyqarA0
-
( ^Д^)『警察は……ここまでこれる、んでしょうか』
(´・ω・`)『というと』
( ^Д^)『俺、これでもこのホテルをもつことになって、数ヶ月間キタコレに住んでるんですが
それについて言えば、ここまでひどい雪、見たことないですから』
( ^Д^)『あちこちの電車は止められるだろうし、道路もきっとスリップが原因で事故が多発するだろうし。
……ひょっとすると、パトカーもおんなじ目に遭ってる気がしたんですよ』
(´・ω・`)『その予感は、当たってますね』
( ^Д^)『……やっぱり?』
(´・ω・`)『パトカーも、救急車も、アウトです』
.
- 444 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:24:08 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「あのとき、まだモナーさんは生きてたのに、プギャーさんは『警察はこれるのか』としか聞かなかった」
(´・ω・`)「あの人は……最初から、救急車なんか呼ぶつもりはなかったのです」
(´・ω・`)「もしここで生き返られてしまうと、自分がこのホテルの支配人になることが叶わなくなりますからね」
(゚A゚*;)「よ、様態はひどかった。やから、死んだって思い込んでもおかしないんとちゃうん?」
(´・ω・`)「確かに、プギャーさん以外にも『モナーさんは死んだ』と思いこんでいた人はいた」
(´・ω・`)「しかし、だ。彼はほかにも、妙なことを言ったんだ」
( ^Д^)『ご存じでしたか。ほら、オープン一週間前でしょ?
どの美術品を譲っていただけるかで、宣伝記事にも影響がでてくる。
だから、せめてパーティが始まる前に、話をつけておきたかったんですよ』
(´・ω・`)『一応聞くと、それでどうなりました』
( ^Д^)『もう、譲ってもらえると思います』
(´・ω・`)『…? そうですか』
.
- 445 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:24:43 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「………『もう』……?」
(´・ω・`)「そうだ。プギャーさんは、つい口を滑らせてしまってたんですよ」
(´・ω・`)「この言い方だと『さっきまではだめだったけど、モナーさんの刺された今なら、大丈夫になったんだ』……
. そう捉えることができる」
(゚A゚*;)「『最初は断られとったけど、説得しおえた今なら大丈夫』っちゅー捉え方もできんで!」
(´・ω・`)「確かにそうです。でも、まだあるんですよ。
. 『プギャーさんが、ホテルの支配権を狙っていた』という根拠が」
(゚A゚*;)「なんやて…?」
のーの顔に、だんだんと脂汗がにじんでくる。
ショボーンは、傍らのモナーに指をさした。
腹には、包帯を雑に巻かれている。
(´・ω・`)「気になったのは、応急処置をするさいの、彼の言葉だ」
(´・ω・`)『とにかく、早く応急処置をしましょう』
( ^Д^)『はい。あ、自分に任せてください。多少の心得はあります』
.
- 446 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:25:21 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「……しかし、その結果が、これだ。
. これなら、小学生のほうが上手にできるよ」
(´・ω・`)「それに、僕はあくまで刑事だ。ふつうの人よりも、手当てには慣れている」
(´・ω・`)「でも、それを知っていてどうして、自分がしゃしゃりでてまで、しかもこんな雑な手当てをしたのか?
. 言うまでもなく、答えは明白だ」
(´・ω・`)「あえてへたに処置することで、モナーさんが死ぬ確率を少しでもあげようとしたんだ」
(゚A゚*;)「………ッ」
(´・ω・`)「ここまで話が通ると、もはや、言い逃れはできまい。
. プギャーさんとのーさん、あなたは、協力関係にあった!」
(゚A゚*;)「あ、あんのドアホ……!」
(´・ω・`)「……いまのは自白、ということでいいんですね?」
それを気づかされて、のーは慌てて口を閉じた。
だが、もう遅い。
遅い上に、たとえ失言しなくても、どのみち変わりはないだろう。
のーは開き直った。
.
- 447 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:25:56 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「確かに、プギャーはウチんとこのモンや。でも、それと事件とはカンケーない!」
(´・ω・`)「そうかな?」
(゚A゚*;)「なにィ?」
(´・ω・`)「プギャーさんがスパイだった事実から、わかることがあるんだ」
(´・ω・`)「アンモラルグループがWKTKホテルを狙っていたのが『真実』である、ということさ」
(゚A゚*;)「そ、それが事件となんの――」
(´・ω・`)「つまり、モナーさんがあなたを、あなたがモナーさんを……
. そう、『互いに』 殺す動機が生まれる」
(゚A゚*;)「……あっ!!」
のーはそこで、いっそう動揺を強めた。
顔はゆがみ、喜怒哀楽のどれにも属さない表情が浮かべられている。
.
- 448 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:26:26 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「まず、モナーさんとあなたが、ゲームコーナーの例の場所で、揉める。
. そしてカッとしたモナーさんはつい、持っていた紐であなたの首を絞めた」
(´・ω・`)「殺してしまったと勘違いしたモナーさんは、急いでここ、バーにまで避難してきた。
. ここを選んだ理由は、自分が鍵を持ってて、加えて誰もこないであろう場所だったからだ。
. もともと、モナーさんはここであなたを殺すつもりだったんだろう」
(´・ω・`)「だが、幸か不幸か、あなたは生きていた」
(´・ω・`)「バーに避難してのーさんをどこかに寝かせた。
. そしてどうしようか、とモナーさんが悩んでいたとき、だ」
(´・ω・`)「あなたは目を覚まし、咄嗟に、隠し持っていたナイフをモナーさんに突き立てた」
(´・ω・`)「しかし、そのまま引き抜くわけにもいかないし、なにより、その場には自分を絞めた紐が転がっていた。
. 不自然に紐が転がっていれば、そのうち、自分のチョーカーに白羽の矢がたつかもしれない。
. だから、あなたは現場を工作したんだ」
(´・ω・`)「『ナイフを引き抜かず』『紐が絞殺用でなかったと思わせる』……
. この両方の条件を満たすトリックが……あの、からくりだったんだ」
(゚A゚*;)「……っ」
.
- 449 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:26:58 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「そして、あなたはスタジオの扉から脱出した。
. あとは何食わぬ顔で10Fのメインホールに戻ればいいんだけど……」
.(´・ω・`)「ここで一つ、問題が起こった」
(´・ω・`)「エレベーターは、使うわけにはいかなかったんだ」
( <●><●>)『なぜなら、ここはホテル。フロアを上り下りするには、階段かエレベーターが必要。
また一方で、当時は17時半以降。10Fのホールに、着々と人が集いだす時間だ』
(゚A゚* )「……!」
(´・ω・`)「だから『階段』を使ったんだが……そう考えると、あの人のあの証言とも辻褄が合う」
.
- 450 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:27:48 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)『のーさんから、ホールに着いたときにあなたと出くわしたとおうかがいしましたが』
( ´W`)『ああ。50分過ぎにエレベーターに乗ったんですが、降りて少し歩いたら、
. 階段のほうからやってくる彼女を見かけましたね、そういえば』
(´・ω・`)『階段……』
(゚A゚*;)「………ああああああッ!」
(´・ω・`)「僕は、この証言にすっかりだまされていた。
. 『のーは9Fから10Fに階段を使ってやってきた』とばかり思ってたんだけど……
. 実は、この『逆』だった」
(´・ω・`)「シラヒーゲさんが見たのーさんは、上りの階段からやってきた姿ではない!」
(´・ω・`)「 『下りの階段からやってきた』姿だったんだ!!」
.
- 451 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:28:27 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「……ッ…」
(´・ω・`)「……おわかりいただけたかな?」
(゚A゚* )「っ!」
舌打ちするのーを、ショボーンが視線で貫いた。
ショボーンは、もうこれでおしまいだ、と確信した。
(´・ω・`)「……これが、事件の真相だったんだ」
――だが、のーはそれでも降参はしない。
続けて、のーの持つ、最後のカードをきった。
(´・ω・`)「……これで、証明でき」
(゚A゚* )「まだや! まだ終わってへん!」
(´・ω・`)「……!」
BGMここまで
.
- 452 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:29:12 ID:LPOyqarA0
-
そこで、ショボーンも、気づかされた。
この推理では、ひとつ、あからさまな穴があることに。
(゚A゚* )「確かに、辻褄が合うてるように見えるわ」
(゚A゚* )「でもな、あくまでウチが首絞められたァ言うんは、3Fの話やろ!」
(゚A゚* )「そっから、どーやってバーにいくんや!」
(´・ω・`)「…え?」
(゚A゚* )「モナーさんが殺られたん、18時前やろ。その時間は、パーティがはじまる直前!
エレベーターなんか使うて11F、ここまできたら、その途中でバレてまうわ!
いま、ジブンでそう言うたやんけ! 忘れたんか!」
(´・ω・`)「!」
(゚A゚* )「しかもまさか、ウチを担いで3Fから11Fまで歩いたァ言うんか! 時間がかみ合わんぞ!」
(;´・ω・`)「……ッ!」
.
- 453 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:29:45 ID:LPOyqarA0
-
ショボーンははじめて、動揺を感じた。
気がつけば、立場が逆転していたというのだ。
ナイフと紐の、事件の計画性は立証した。
ヲタの見た謎の光景の真意も、立証した。
モナーとのーの両者に眠る動機も立証した。
しかし。
そういった「目に見える謎」しか考えていなかったショボーンは、今になって、そのことに気づかされた。
「まだ、目に見えていなかった謎が残っているのだ」ということに。
(゚A゚* )「……まさか、あんたァ…」
先ほどまで、追い詰めていたはずが。
気がつけば、のーのほうが優勢に立っていた。
それを彼女自身もわかったようで、彼女は、先ほどよりも強気に出てきた。
一歩、更に彼女はショボーンに詰め寄る。
(゚A゚* )「憶測と妄想だけで、ウチが犯人やァ決めたんか?」
(´・ω・`)「憶測と妄想だけだろうが、証拠はある」
(゚A゚* )「なんやて?」
.
- 454 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:30:20 ID:LPOyqarA0
-
だが、ここでショボーンが自分の推理の穴を認めてしまえば、
せっかくここまで追い詰めたのが全て無駄になってしまう。
捜査で犯人を追い詰める際、もっともしてはいけないのは相手を安心させることだ。
相手を追い詰めるところまで追い詰めて、最終的には自白――
それがショボーンの手口であり、リスクも少ないのだから。
そのため、ショボーンはショボーンで虚勢を張るしかなかった。
のーがモナーを刺したのが真実だ。ショボーンは、そう睨んでいる。
だからこそ、それを武器にのーを揺さぶっては時間を稼ぎ、残された「最後の偽り」を解こうとした。
(´・ω・`)「そのチョーカーだよ」
(゚A゚*;)「……」
(´・ω・`)「もし、あなたが犯人でないなら、そこに赤い痕が残ってるはず……」
(´・ω・`)「だから、それをとったら――」
(゚A゚*;)「……」
(゚A゚* )「……!」
(´・ω・`)「――……?」
.
- 455 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:30:52 ID:LPOyqarA0
-
――しかし、予想外のことが起こった。
のーは、ショボーンにそう言われて最初は戸惑ったが、
少しするとその戸惑いを顔色から消し、チョーカーに手をやったのだ。
ショボーンは「もしかして」と思った。
(゚A゚* )「そないにチョーカーが気になンなら、とったるわ」
(´・ω・`)「(……なに?)」
のーが、チョーカーを取る。
その手つきに、躊躇している様子は見られなかった。
(゚A゚* )「ほら」
(´・ω・`)「……!」
チョーカーのとられた首には、やはり、年齢を物語る小じわが。
そして。
赤い痕は、確かにあった。
あったのだが――
.
- 456 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:31:22 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「……これで、証明され――」
(゚A゚* )「ちゃうねん」
(´・ω・`)「―――え?」
のーは、その赤い痕を見せたが、しかし首を振った。
ショボーンはいやな予感がした。
(゚A゚* )「ホンマのこと言うたらな、ウチ、アンモラルの新製品試しててん」
(´・ω・`)「……なに?」
(゚A゚* )「ほら、もう春も近いってのに、めっさ寒いやん?
やから、アンモラルグループの商ぎょ…そやな、特許とか開発したりする研究班が
そこに目ェつけて新製品開発しよってん」
(´・ω・`)「(なにを言い出すんだ……?)」
(゚A゚* )「それが、磁石の出す電磁波でカラダをポカポカにしますよー云うやつ。
その磁石はネックレスみたいに首につけて、ぶらさげんねやけどな?」
(;´・ω・`)「…ま、待て……」
.
- 457 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:31:54 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚* )「ホテル内ィ言うても、ほら、ケッコー冷え込んできよったから。
その新製品のお試し版をな、ものはためしっちゅーことで使うてみてん」
(゚A゚* )「ほんだら、や!
紐デカいなー思うて調整してみたら、なんのミスか知らんけどな、首が絞まってもうてんよ!
すぐに緩めよ思うてんけど、なんか、その長さ調整するツマミがなかなか見当たらんかってなァ」
(;´・ω・`)「つまり、その新製品の欠陥のせいで、その赤い痕が残った、と」
(゚A゚* )「そんなけやで。ホンマ」
(;´・ω・`)「…!」
ショボーンのいやな予感が、的中した。
――適当なことをこじつけて、追究の手から逃れる。
.
- 458 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:32:26 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚* )「ほんま、磁石のなんたらようわからん性能重視すんのはエエねんけどな、
実際に使うてみて実用面で支障ないかどーか確かめなアカンで、アイツら。ホンマ。
こないなん世間に出してみ、ソッコーでウチの信頼はアウトや」
(;´・ω・`)「そ、その新製品はどこにあるんだ!
なかったら、証明はできないぞ!」
(゚A゚* )「あーソレやけどな」
のーはあっけらかんとした様子で言った。
もう、先ほどまでで与えたダメージからは、すっかり回復していたようだ。
顔に、まったく、緊張や焦燥といったものが見られない。
(゚A゚* )「めっさハラたってな、どっかに捨てたわ」
(;´・ω・`)「なに……?」
(゚A゚* )「ほら、ヒトってイライラしたらなんかにアタりたなるやん?
ウチな、その新製品にものごっそハラたって、なんも考えんと、捨ててん。
惜しいことしたわ、アレ研究班に出したら慰謝料とかもらえたかもしれんのになー」
(;´・ω・`)「証拠がなけりゃ、それはただのでたらめだ!」
(゚A゚* )「ソレや」
(;´・ω・`)「…?」
のーは、まったく悪びれる様子を見せない。
.
- 459 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:33:00 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚* )「せやねん、ショーコがないんよ。ウチの、この話」
(゚A゚* )「やから、さっきあんたにチョーカーとれェ言われたとき、戸惑ってん」
(゚A゚* )「こっちはな、グーゼンやけど、赤い痕が残ってて」
(゚A゚* )「疑われるなァ思うたから、言うたら、『取られへん』かってん」
(;´・ω・`)「……!」
(゚A゚* )「なんやったら、ウチんとこのその研究班に証言してもらおか?
『磁石使うた新製品やけどな、アレほんまに作ってるやんな?』……って」
(;´・ω・`)「………ぐ…、……」
ショボーンは、黙らざるをえなかった。
実際にその新製品で首に痕を残したかは別として、
その新製品が実在することはほんとうのように思えたからだ。
そうでなければ、警察、それも自分を疑ってかかる相手に
そのようなハッタリをかますなど、リスクが高すぎる。
.
- 460 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:33:38 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚* )「どないしよ? ま、ここまで言うて疑われたらさすがにウチも証言してもらうけど……」
(゚A゚* )「ソッチの憶測とかしょーもない妄想だけでウチを犯人扱いされてやな……
ホンマやったらコレ、即裁判モンやで、刑事サン」
(;´・ω・`)「し、しかし……」
(゚A゚* )「しかしもクソもあるかァ。どないしよ、言うてんねん。ハッキリせーや」
(;´・ω・`)「…!」
のーの語調が、ひときわ厳しいものになった。
ドスの利いた声に、この独特な方言があいまって、女性なのに威圧感を覚えてしまう。
そこで、ショボーンは思い出した。
彼女は、アンモラルグループの、それも上の地位に座る者なのだ。
生半可な実力や頭脳では、とうていその地位にまでのし上がることはできまい。
そして、ショボーンが慢心ゆえ隙を見せたとたん、彼女はその隙を見つけては、ここまで状況をひっくり返らせた。
(;´・ω・`)「だとしたら、ヲタさんの見た光景はなんだったんだ!
あの時間にあそこにいることのできた女性は、あんたしかいないんだ!」
(゚A゚* )「知るかいな。どーせあんデブの見間違いやろ」
(;´・ω・`)「見間違いだと……?」
ショボーンが低い声で言った。
だが、それは自分が怒っているから低くなったのではなく、
窮境を実感しているからこそ、自然に高い声は出せなくなっていたのだ。
.
- 461 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:34:08 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚* )「確かに、ウチにアリバイはないよ。でもな」
(゚A゚* )「モナーさんとは会ってへんし、しかもそん頃はアレや、風邪薬探しててん」
(´・ω・`)「風邪……」
「そうそう」と言って、のーは続ける。
(゚A゚* )「で、スタッフルーム行ってんよ。
スタッフルームに風邪薬はなかった、それ知ってるんがショーコや」
(;´・ω・`)「………」
ショボーンは、言いくるめられた。
反論しようにも、反論の術が浮かばない。
ここで、ほんとうにスタッフルームに風邪薬があるかどうかを調べるのは無意味だ。
そもそも、たとえ営業中であれ、スタッフルームに風邪薬が置かれているとは思えないのだ。
のーはおそらく、それを知っていた上でそう証言しているのだろう。
あたかも、自分はほんとうにスタッフルームに行ったのだ、という主張がただしいことを強調するために。
しかし――いや、だからこそ、ショボーンは反論の術を持てなかった。
肝心なところで、詰めが甘かった。
万事休すか――と、ショボーンは肩をすくめることしかできなかった。
.
- 462 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:34:39 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚* )「……わかった?」
(;´・ω・`)「………」
(゚A゚* )「わかったなら、ええねんよ。ほら、ウチやないけど、
犯人はほんまにおんねんから。しゃーないしゃーない」
(゚A゚* )「そやな、そこのレモナさんがアヤシイんとちゃう?
チャカ持ってんねんやし、実際にウチら撃たれてんねんやし」
(;´・ω・`)「(……レモナ、さん……?)」
ショボーンは、のーが指をさしたとおりに、そちらに振り向いた。
顔一面が、涙で濡らされている。
いったい、彼女になにがあったのか――それも、あとで考えなければいけない。
しかし、いまはもっと優先すべきことがある。
目の前の――
(゚A゚* )「秘書やったらな、なんかドーキとかありそうやん?」
(´・ω・`)「……」
モナーを刺した犯人、のーに罪を認めさせることだ。
ショボーンは、そのことしか考えていなかった。
.
- 463 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:35:13 ID:LPOyqarA0
-
しかし、推理にはひとつ、穴があった。
どうやって犯行現場、バーまで移動したかがわからない、という点だ。
さまざまな場面に隠された、さまざまな《偽り》。
その、一見脆弱にも思えるか細い偽りの数々を、ひとつにつないだ。
そして一本になったその『絆』が、のーを犯人だ、と示しつけている。
しかし。
その『絆』を力強いものにするためには、あとひとつ、偽りが要る。
それが、いまのショボーンには、およそ見当すらつかなかった。
|゚ノ ∀ )
(´・ω・`)「(……レモナさん……)」
(´・ω・`)「……ん?」
レモナのほうに顔を向けると、ふと、自分の後ろに人がいたことに気がついた。
先ほどまで、のーとの対決に夢中で、まったく気配を感じ取れていなかったのだ。
なんだ、と思って振り返ると、トソンが、ふるふると震えながらそこに立っていた。
そうか、この場には彼女がいたな――なんてことを思うと、トソンはゆっくり、口を開いた。
しかし、そこから続けて、声は放たれない。
緊張かなにかで、声帯が震えないのだろう。
.
- 464 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:35:44 ID:LPOyqarA0
-
(゚、゚トソン「……」
(´・ω・`)「あ、トソンちゃん」
(゚、゚トソン「……」
(´・ω・`)「ここは危ない。ちょっと下がっ――」
(゚、゚トソン「け、警部」
(´・ω・`)「…? なんだい」
(゚、゚トソン「いまの、あの人の……」
(゚A゚* )「?」
(´・ω・`)「のーさん、だね。なにか?」
トソンが指でちょこんとのーを指す。
のーもショボーンも、きょとんとした。
(゚、゚トソン「あの人の言葉で、なにかが引っかかったような……
. そんな気がしたんですが……」
(´・ω・`)「引っかかった?」
.
- 465 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:36:14 ID:LPOyqarA0
-
ショボーンが復唱する。
トソンは「うん」と言いたげに大きくうなずいた。
(゚、゚;トソン「あ、気のせいかもしれませんが――」
(´・ω・`)「いや、君の直感はどーしてかよく当たるんだ。自信を持っていいよ。
. なにに引っかかったか、わかる?」
(゚、゚トソン「いや……でも、ただなんとなく、『あれ…?』って思うことが……」
(´・ω・`)「わかった、わかった。ありがと」
そこで、ショボーンは彼女を宥めた。
一般人のトソンに、その「なにか」を突き止めることは難しいだろう。
また一方で、一般人のトソンでも気づけた、その引っかかった「なにか」。
ショボーンは、それを考えることにした。
都村トソンは、人一倍、直観力があるのだ。
.
- 466 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:36:50 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「な、なあ、あんた」
(´・ω・`)「(トソンちゃんが……『なにかに引っかかった』?)」
(´・ω・`)「(ばかな。僕が気づかないことを、彼女が気づくはずが……)」
(゚A゚*;)「そないなあいまいなコト考える暇あんねやったらな、ウチら連れてはよ避難してや。
. 『違和感』とか、どーせ、そのお嬢サンの思い過ごしやって。な? な?」
のーが何かに慌てて、ショボーンを急かす。
しかし、ショボーンはそれに応じなかった。
それどころか、彼女の声すら、耳に入ってくることはなかった。
(´・ω・`)「(……待てよ?)」
――そこで、つい先ほど言った、自分の言葉が脳裏に蘇る。
(´・ω・`)『誰も気づけなかった、あなたに存在する「違和感」』
(´・ω・`)『それを、ヲタさんだけが、見抜いた』
(´・ω・`)『ほかの誰よりも、頭部――「首」に注目していたヲタさんだからこそ、気づけたんだ!』
.
- 467 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:37:21 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「(……そうだ。僕が気づけないでいて、トソンちゃんが気づいたってことは)」
(´・ω・`)「(ヲタさんのときと一緒で、トソンちゃんはその『違和感』に、より近い存在となってる)」
(´・ω・`)「(つまり、『僕にはなく、トソンちゃんにはある、なにかの経験』が、
. トソンちゃんに、のーさんの言葉との食い違い――『違和感』を与えてるってことなんだ)」
(´・ω・`)「(僕のしたことと言えば、ゲームコーナーで遊んだり、喫茶店で休んだり……)」
(´・ω・`)「(一方で、トソンちゃんはゲームコーナーや喫茶店には向かってないけど、
. その代わりに、トソンちゃんは『僕のしてない何か』をした)」
(´・ω・`)「(それを思い出せば……僕も、気づけるんじゃないか?)」
(´・ω・`)「その……『違和感』に」
.
- 468 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:37:52 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)『さっき、ワカッテマスが部屋に向かったろ。なにしてたんだ』
(゚、゚トソン『…? あ、ああ……』
(゚、゚;トソン『部屋に、オートロックがかかる、だなんて知らなくて……』
(´・ω・`)『なんで、部屋を出ようと思ったんだい?
. 部屋にいな、って言ったつもりだったけど……』
(゚、゚トソン『その……あの、からだのおっきな男の人、いるじゃないですか。あの人に、パーティのとき呼ばれて。
. 最初は会いに行くのをためらってたんだけど、心細くなったから会ってみようかな、って』
(´・ω・`)『でも、いなかった』
(゚、゚トソン『はい。だから帰ってきたんですが……その、ドアが閉まってて』
(゚、゚トソン『それで、9Fにスタッフルームがあるってパンフレットにあったんで
. そちらに向かったんですが、鍵が閉まってて、しかたなく帰ってきたんです』
(´・ω・`)『そもそも、スタッフはいないじゃないか』
(゚、゚;トソン『……はっ!』
.
- 469 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 20:38:59 ID:LPOyqarA0
- すみませんが数十分ほどCM挟みます
- 470 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 20:57:44 ID:CzgjVtAw0
- jc.jkエロ画像
http://tutlyuyhk.blog.fc2.com/
- 471 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:09:46 ID:LPOyqarA0
- 再開します
- 472 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:10:47 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「…………」
(´・ω・`)「……ッ!」
(;´・ω・`)「……! そうか、わかった!」
ショボーンも、ようやく、それにたどり着いた。
のーの言葉と食い違う、「ショボーンはしておらず、トソンはした、ある経験」。
トソンの今日一日の行動を振り返ることで、その『違和感』に、彼女と同じくたどり着くことができたのだ。
(゚A゚*;)「な、なんやねんさっきから!」
(゚、゚;トソン「警部?」
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- 473 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:11:32 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「下呂、のー!」
(´・ω・`)「あんたの、アリバイ……」
(´・ω・`)「それは、たった今――崩れた!!」
(´・ω・`)「あんた、スタッフルームに行ってないな!?」
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=MDyUvZkJiSc
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- 474 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:12:30 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「なッ―――なにをぬかすねんアホンダラ! まだウチがハンニンやァ言うんか!」
(´・ω・`)「あんたの、事件当時の動き……まとめると、こうだ」
(゚A゚* )『どーやろ……。もう集合三十分前やった気がする』
(´・ω・`)『三十分……風呂に入るにはビミョーな時間ですな』
(゚A゚* )『やろ? やから、もうせっかくやし早いうちにホールに行こう思いましてやなあ。
エレベーターに乗って10Fに直行しようか思うたんですよ』
(´・ω・`)『思った、ということは、やめた?』
(゚A゚* )『いや、乗ったっちゃ乗ったけど、9Fで降りて。スタッフルームに用があったんですよ』
(´・ω・`)『スタッフルーム……?』
(゚A゚* )『確かに、ウチにアリバイはないよ。でもな』
(゚A゚* )『モナーさんとは会ってへんし、しかもそん頃はアレや、風邪薬探しててん』
(´・ω・`)『風邪……』
(゚A゚* )『で、スタッフルーム行ってんよ。
スタッフルームに風邪薬はなかった、それ知ってるんがショーコや』
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- 475 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:13:03 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「あんたは、不調を感じた。だから、風邪薬を探しに、スタッフルームに向かった。そうだな?」
(゚A゚*;)「な……なにがオカシイねん!」
(´・ω・`)「しかし、その数時間後。あなたと同じく、スタッフルームに足を運んだ人がいた」
(´・ω・`)「都村トソン、この子だ」
(゚、゚;トソン「……」
(゚A゚* )「それがどないしてん!」
(´・ω・`)「トソンちゃん、さっきスタッフルームに向かったよね。スタッフルーム、どんな感じだった?」
(゚、゚トソン「どんなって言われても……」
(゚A゚* )「…?」
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- 476 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:13:34 ID:LPOyqarA0
-
(゚、゚トソン「『鍵が閉まってた』から……入れなかったです」
(゚A゚* )「……」
(゚A゚* )
(゚A゚*;)「な――なんやてええええええええええええッッ!!?」
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- 477 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:14:06 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「事件当時、あんたはスタッフルームに入ることができなかった!」
(´・ω・`)「なぜなら――」
|゚ノ ^∀^)『――と、招待客は以上ですね。
. 社長の個人的な事情で開かれるパーティなので、その他スタッフはいません』
( ´∀`)『いいモナ。客室や入られちゃ困るところは全部閉めてるし。
それに、モナが招待した人たちのなかに、悪さをするなんて人がいるはずないモナ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『ほら、ワタシゃ建築担当でしょう。
で、今日閉めるエリアの鍵を持たされてるんですが。
あ、閉めるエリアってのは、客室の5Fから9F全域と11Fなんですがねェ』
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- 478 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:14:37 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「今日はオープンではなく、あくまでパーティ。
. 『スタッフは一人もいなくて』、『入られたら困るから』
. 『5Fから9Fの全域』の部屋の鍵を、閉めていたんだ!」
(゚A゚*;)「―――ッ!? んなアホな!」
(´・ω・`)「アホもクソもない。さあ! 下呂、のー!」
(´・ω・`)「事件当時、スタッフルームに入ることはできなかった、のにどうして!」
(´・ω・`)「『スタッフルームに風邪薬はない』とか言えたんだ?」
( A゚*;)「――ぐううぅぅッッ……!!」
(´・ω・`)「答えは、簡単だ!
. 『そもそもスタッフルームを訪れてなかった』んだ!」
(´・ω・`)「ならば、そのときはどこに――」
(゚A゚*;)「ちゃう! ウチは、スタッフルームにおった!」
(´・ω・`)「――なに?」
(゚A゚*;)「ほら、ウチ、しんどうなったからな、マリントンさんに、そんとき鍵借りてん!」
(´・ω・`)「それは、ありえない」
(゚A゚*;)「なんでや!」
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- 479 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:15:11 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「あなたが、マリントンさんに鍵を借りることができたのは、いつか」
(´・ω・`)「――16時半」
(´・ω・`)『僕たちが来たときは、ホールにはフォックスさんやのーさんもいた気がするけど……
. あの人たちは、どうしたの?』
(゚、゚トソン『あ、ああ……。警部たちが出て行ったところで、レモナさんとガナーさんが
. 「私たちも準備をはじめましょうか」ってなったので、ホールに残っていたほかの皆さんも出て行きましたね。
. だから、以降から17時半にあのおじいさんが来るまでは、ほかには誰も来ませんでした』
(´・ω・`)「パーティの準備をはじめるとき、16時半過ぎだ」
(´・ω・`)「そして、それ以降のマリントンさんにはアリバイがある」
( <●><●>)『彼は17時までは入浴していて、それから4Fで黒井さんと対話、17時半にここにきたとのことです』
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- 480 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:15:55 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「シラヒーゲさんも、ホールにいた女性たちも、誰もあんたのことを証言していない」
(´・ω・`)「そうなると、あんたが鍵を借りる機会は、なかったことに……」
(゚A゚*;)「16時過ぎくらいにいっぺんみんなでホールに集まってたやろ! そんときにやな――」
(´・ω・`)「それは、もっとありえない」
(゚A゚*;)「なんでや!」
(´・ω・`)「そのときは、16時半より前。一方で、あんたが不調を感じたのは、17時半前後」
(´・ω・`)「まさか、一時間未来の体調を予測して、あらかじめ鍵を借りてたというのか!?」
(゚A゚*;)「……!!」
(゚A゚*;)「……」
(´・ω・`)「(観念したか…?)」
(゚A゚* )「まだや! まだ終わっとらへんでェ!」
(´・ω・`)「…ッ」
.
- 481 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:16:28 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「確かに、マリントンさん本人からは借りとらへん」
(゚A゚* )「言いにくかったからずっと黙っとってんけどな、『勝手にハイシャクした』んや」
(´・ω・`)「鍵を、ですか?」
(゚A゚* )「それで、スタッフルームに……」
(´・ω・`)「……確かに、マリントンさんは言ってた。『鍵を紛失した』と」
(゚A゚* )「! ……ほら、な?」
(´・ω・`)「だけど、違うんだ。彼が紛失した鍵は――」
(´・ω・`)『鍵が、なくなったのですか?』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『5F、制御室の鍵だけが、どーも見当たらんのですわ』
( <●><●>)『制御室?』
(´・ω・`)「たった、ひとつだけ。制御室の、鍵だ」
(゚A゚*;)「…!」
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- 482 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:17:02 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「『制御室の鍵だけが』と強調して言ってるのをみると、
. スタッフルームの鍵は紛失してないってことがわかる」
(´・ω・`)「つまり、スタッフルームの鍵を開けることは、できなかった!」
(゚A゚*;)「か、勝手にハイシャクしたあとな、本人に『落としてましたよ』言うて返してん!」
(´・ω・`)「じゃあ、訊こう」
(゚A゚*;)「…?」
(´・ω・`)「鍵は、どこにあった?」
(゚A゚*;)「……な、なんや…そーゆーことか」
(゚A゚* )「マリントンさんが、常に持ち歩いてんねんやろ?」
(´・ω・`)「……」
(゚A゚* )「で、あの人、いっぺん鍵のリング落としよってなー。そんときに……」
(´・ω・`)「……残念、実に残念だ」
(゚A゚* )「ジブンの推理が外れて残念なんか?」
(´・ω・`)「違います。……マリントンさんは、こうも言っていた」
.
- 483 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:17:36 ID:LPOyqarA0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『さっきまでは、これは倉庫にかけといたんですわ。ワタシが常に持っててもしゃーないし』
(゚A゚*;)「……倉庫……?」
(´・ω・`)「これでまたひとつ、あんたがでまかせを言ってると証明できた」
(゚A゚*;)「……ちゃ…ちゃう! 気が動転してただけや! そうや、思い出した!
. ウチはそういや、倉庫から鍵をハイシャクしたんや!」
(´・ω・`)「ほう、倉庫に忍び込んで、勝手に取った、と」
(゚A゚*;)「笑うなら笑え! そや、ウチって人見知りやからな、
. 『借りてええですか』って聞くんがはずかしかってん!」
(´・ω・`)「それは何時頃?」
(゚A゚*;)「17時半……前後」
(´・ω・`)「なら、あなたは倉庫である人と会っていたはずだ」
(゚A゚*;)「ある人……?」
.
- 484 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:18:34 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「……わかりますよね。 ね、トソンちゃん」
(゚、゚;トソン「…?」
(´・ω・`)「君もパーティの準備を手伝ってたんだったら、わかるよね。
. 『その時間帯、倉庫には誰がいたのか』」
(゚、゚トソン「……? え、ええ。確か――」
(´・ω・`)「待って。答えるのは、のーさんだ」
(゚A゚*;)「…………、……ッ!」
のーは、また焦燥しきった顔に戻っていた。
そわそわとしている。
(゚A゚*;)「……あ、ああ……そーいや、おったなァ」
(゚A゚*;)「………マリントンさんが」
.
- 485 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:19:05 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「なにをしていました?」
(゚A゚*;)「鍵を、見とったよ。うん、倉庫に鍵かけててんやろ? マリントンさん以外、ありえへんやん」
(´・ω・`)「……そうか」
(゚、゚トソン「け、警部…?」
(´・ω・`)「よし、トソンちゃん。答えあわせだ」
(゚A゚*;)「?」
(´・ω・`)「ほんとうは、その時間帯、倉庫には誰がいた?」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「………レモナ、さん」
.
- 486 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:19:55 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「……ハ…? な、なんでレモナさんが……?」
(´・ω・`)「彼女は、あらかじめ倉庫に待機させておいた料理を、ホールに運び入れていた。
. だから、もしその時間帯に行ったら、レモナさんと鉢合わせするはずなんだ」
(゚A゚*;)「い、いや! そんときは、たまたまレモナさんはホールに出てた!
. ウチが行ったときは、ちゃんとマリントンさんがな、鍵を見ててん!」
(´・ω・`)「……もうひとつ。今の証言にはあきらかな偽りがある」
(゚A゚*;)「な、なに……?」
(´・ω・`)「マリントンさんが、その時間帯に鍵を見ていたはずはない」
(´・ω・`)「彼が、事件発生前で、最後に鍵を見たのは、もっと前!」
(´・ω・`)『最後に鍵を確認したのは、いつですか』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『16時ちょい過ぎ……だったと、記憶しとります』
(´・ω・`)「16時過ぎ……つまり、僕がここにくるよりも前だ!」
(゚A゚*;)「――――ッ!!?」
(´・ω・`)「さあ、観念しろ! あんたはスタッフルームには行ってなかった!
. じゃあ、その時間帯、あんたはどこにいたんだ! 答えろ!!」
.
- 487 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:20:27 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「………………………。」
(´・ω・`)「……おそらく」
(゚A゚*;)「!」
(´・ω・`)「それは、『わからない』のでしょう。あんた自身でも」
(´・ω・`)「その頃……あんたは、モナーさんに首を絞められ、『気を失っていた』のだから」
(゚、゚トソン「…あ!」
(゚A゚*;)「………」
(´・ω・`)「だから、無難な偽りを述べて、なんとかごまかそうとしたんだ」
(´・ω・`)「『その時間帯、モナーさんに気絶させられたところを、バーまで運ばれていた』
. というのを、偽るために……」
(゚A゚*;)「……」
.
- 488 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:21:04 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「………確かに、その点も加えたら、ウチがハンニンにしか見えんようになるわ」
(´・ω・`)「…?」
(゚A゚*;)「でも、でもな。じゃあ、ウチはどないしてバーまで運ばれた、っちゅーねん」
(゚A゚*;)「あんたの話によったら、17時20分頃、ウチはゲームコーナーで気ィ失った」
(゚A゚*;)「で、そっからちょっと経って、モナーさんが刺されるまで」
(゚A゚*;)「その間、モナーさんは、どーやってウチを運んだんや?」
(;´・ω・`)「…ぐッ……」
(゚A゚*;)「言っとくけど、さっき言ったみたいに、
. そんときは、わんさか招待客がエレベーター使う時間帯やぞ」
(゚A゚*;)「もう一個エレベーターがなかったら、トーテー無理なハナシとちゃうんか!」
(´・ω・`)「! もう一個の……エレベーター……?」
(゚A゚*;)「…? なに言って…」
.
- 489 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:21:45 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)『…? 1Fと10Fをつなぐのはわかるんだけど、なんで3Fにもとまるんだ?』
( <●><●>)『……あ、コラムに載ってますよ』
( <●><●>)『どうやら、時々10Fで格闘ゲームの大会を開くときに
これを使って、ここにある筐体を次々に運び入れる考えのようですね』
(´・ω・`)「……あ」
(;´・ω・`)「ああああああああああ!!」
(;´・ω・`)「(――つながった! 3Fと10Fとをつなぐ、唯一の道が!!)」
.
- 490 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:22:18 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「……ま、まさか。まさかホンマに、『もう一個のエレベーター』があるわけ――」
(´・ω・`)「あんたを運んだ、『もう一個のエレベーター』は―――ある!」
(´・ω・`)「搬送用のエレベーターだ!!」
(゚A゚*;)「……な…なんやて……?」
のーが、驚きを隠せないでいる。
ひょっとすると、のー自身もそれまでわからなかったのかもしれない。
『もう一個のエレベーター』たる存在が、あったことを。
(´・ω・`)「一般客用のエレベーターとは別にもうひとつ……大型のエレベーターがあった」
(´・ω・`)「しかも、それが止まるエリアは――3Fと、10Fだ!」
(゚A゚*;)「―――ハアアアアアアアアアアッ!? ま、待て! じゃあウチは、そのエレベーターで……」
.
- 491 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:22:49 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「――モナーさんは、のーさんを『殺して』しまったとき、動転した」
(´・ω・`)「そのときに最初に抱いたケネンは、いまのーさんが言ったのと、まったく同じ――」
(´・ω・`)「『どうやって、人目に見つからずに11Fまで逃げるか』――だ!」
(゚A゚*;)「ッ!」
(´・ω・`)「むろん、普通のエレベーターを使うわけにはいかない。すぐに、ばれるからな」
(´・ω・`)「だが、搬送用は違う。基本的に、一般人は立ち入りできないんだ」
(´・ω・`)「……でも、今回、乗ろうとしたのは、モナーさん。……この、ホテルの、支配人だ」
(゚A゚*;)「あッ…」
(´・ω・`)「支配人だからこそ、彼は、唯一! 搬送用エレベーターを使って、バーまで逃げることができた!」
.
- 492 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:23:26 ID:LPOyqarA0
-
(゚A゚*;)「でも、つながっとるんは10Fまでやろ! エレベーターから出た瞬間――」
(´・ω・`)「違う。通常のエレベーターと搬送用のエレベーターは、東西において、真逆に位置する」
(´・ω・`)「そして、階段が位置するのも、搬送用のエレベーターがある方角――『西』だ!」
(゚A゚*;)「ッ!!」
(´・ω・`)「だから、モナーさんは誰にも見つからずに、階段を使って、なんなくバーに向かうことができたんだ」
(゚A゚*;)「それでも階段は階段や! 誰か、ほかの人が使わんとも限らん!」
(´・ω・`)「10Fの下、9Fは……客室なんだよ」
(゚A゚*;)「……あ!」
(´・ω・`)「9Fだけじゃない。5Fから9Fまで、全域が客室だ」
(´・ω・`)「たとえエレベーターに先着がいても、まさかその五階分の階段を上るってか?
. ハン、ばかばかしい。そんな労力を使うくらいなら、エレベーターがやってくるのを待つさ」
(゚A゚*;)「……! …………ッ!」
.
- 493 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:23:58 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「……さて、こうして3Fと10Fはつながった」
(´・ω・`)「一本の、まるで絆のように頑丈なエレベーターで、ね」
(゚A゚*;)「ちょ……待って………」
(´・ω・`)「これで、すべての謎が絆となってつながった結果」
(´・ω・`)「ひとつ、わかることがあるんだ」
(゚A゚*;)「!!」
.
- 494 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:24:30 ID:LPOyqarA0
-
(´・ω・`)「下呂、のー!」
(´・ω・`)「あなたが犯人だ、ってことが、ねえ!!」
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第九幕
「 偽りをつなぐ 」
おしまい
.
- 495 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/16(土) 21:25:38 ID:LPOyqarA0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五幕 「見てはいけない」
>>248-294 第六幕 「おぞましい真実」
>>303-353 第七幕 「次なる被害」
>>359-413 第八幕 「二つの矛盾」
>>420-494 第九幕 「偽りをつなぐ」
.
- 496 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 21:28:52 ID:XINeVQBs0
- 乙!
- 497 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 21:29:18 ID:LPOyqarA0
- 今回は長かったけど、次回、第十幕 「ほんとうの絆」 は50レスいくかな?って程度です
まだ未回収の伏線は多数残ってるので、気長に待っていてください
- 498 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 21:33:23 ID:PelNtYi.0
- おつ
- 499 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 21:38:57 ID:k6mv6hy.0
- いやぁ謎の解決シーンはテンションあがって良いなぁ
乙ー
- 500 :同志名無しさん:2013/03/16(土) 22:46:02 ID:NTzB/vv20
- 乙
絆の文字がでたときおおっとなった
- 501 :同志名無しさん:2013/03/17(日) 06:01:16 ID:VMmjHUA60
- おおおおつつつつ
- 502 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:01:21 ID:bOUc1VgI0
-
(゚A゚*;)「あ……あ………」
(´・ω・`)「……」
ショボーンが、今までのなかで一番大きな声を発した。
まるで怒鳴りつけるかのように、言った。
するとのーは、先ほどまでの威勢のよさが嘘のように、小刻みに震えだした。
もう、血がかたまったのだろうか、銃創から流血は見られなかった。
代わりに、どす黒い、かさぶたのような塊が見られる。
――もう、そんなに時間がたっていたのか。ショボーンは思う。
(´・ω・`)「………」
( A *;)「……っ…!
少し、ショボーンは黙ることにした。
黙って、沈黙をもって、のーを真正面から見つめる。
そうすることで、彼女のなかにある罪意識を、増幅させるのだ。
――そして。
.
- 503 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:01:53 ID:bOUc1VgI0
-
( A *;)「……違うんや! ウチが悪いんとちゃう!!」
( A *;)「う、ウチは……なんも悪くないんや!」
( A *;)「あンの、クソヤローが……モナーが! アイツのせいで!!」
( A *;)「アイツは……コマなんや!
あんなオイボレに運営任せるより、ウチらに任せてもろたほうが万年黒字!
そンためにウチらはあんだけキョーリョクしたったのに!! あのアホンダラは―――」
『わかるモナ? モナは、ビジネスだの、売り上げだの、考えてないんだモナ』
『せ、せやかて……』
『確かに、ソチラのごキョーリョクは……助かったモナ』
『数々のチェーン店舗。キタコレに展開されるチェーン店は、ほんの少ししかない』
『キタコレの人にとっても、いろんな面において、このホテルは重宝されて然るべきものとなったモナ』
『や、やろ? やから――』
『……でも』
『――?』
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- 504 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:02:29 ID:bOUc1VgI0
-
『キタコレに、そんなビジネスだの、発足だの、黒字だの……』
『そんな、裏でドロドロしたものが広がる、偽りの栄光なんて……必要ないモナ』
『……な、なに言うてはんの、シャチョーさん……?』
『モナは、実際にここに住むようになって、わかったものがあったんだモナ』
『わかったもの…?』
『キタコレ民の……その、心の豊かさ。広さ。大きさ。……そして、きれいさ、モナ』
『……え?』
『最高級のサービスに、より取り見取りのおみやげに、至高の食事……』
『そんなものじゃあ、キタコレの人の心は、癒せないモナ』
『あ、んなァ……いちお、ターゲットは観光客や! キタコレ民のこと考える必要は、ない!』
『……モナ?』
『な、なんや…? ウチは正論言っただけやで…!』
『……正論、か』
『なにがおかしい言うねん!』
『観光ビジネスというものは、観光する人とされる人とが、ひとつになって……そう』
『絆……を築き上げて、互いに笑顔で終わる……そういうものの、はずなんだモナ』
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- 505 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:03:12 ID:bOUc1VgI0
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『……き、絆…?』
『おまえの話は……ただ一方的に、キタコレを食い散らかそうとするだけの、侵略行為モナ』
『ちゃう…ッ! う、ウチはそんな……』
『キタコレ民の善良な心につけこんで、こちらの都合のいいようにあれこれさせる……』
『絆もへったくれもない、ヒトとしてサイテーな行為モナ』
『こちらは、キタコレ民に了解を得て、こういうビジネスをするわけじゃない』
『でも、キタコレ民からの了解は、ビジネスの「これから」を見てもらった上で……得る』
『それが、観光ビジネスという、人様の恩恵をお借りした上で運営させていただく者にとっての、最低限の礼儀モナ』
『な、なに言うとんねん! んなキレイゴトで、このご時世、やってけるゥ思うてんのか!!』
『……なんだって…?』
『なにが絆や! なにが礼儀や! なにが、ヒトとしてや!』
『んなもん、ゼンブはりぼて! 商業の自由が許されてる以上、ヨウはカネもっとるもんのほうがエライんや』
『やから、キタコレ民がウチらのビジネスに反対やろーと、カネがない限りは知るかいな!』
『エサはエサらしく、そこでおとなしゅーしとけっちゅーハナシやねん!』
『………黙れ……』
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- 506 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:03:43 ID:bOUc1VgI0
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『シャチョーさん、あんたトコの営業方針見せてもらったからハッキリ言わせてもらうけどな』
『こないな、ドーラク同然のビジネスに、ウチは手ェ貸されへん』
『せやから、ウチが誘致した企業は、ゼンブ撤廃させてもらう』
『困るやろ? 困るやろ。でもな、ビジネスっちゅーんは、つまりそーゆーこっちゃねん!』
『強いやつが生き残り、弱いやつが死に絶え、強いやつに食われる……それが、ビジネスの大前提や!』
『……とか言うても、企業誘致するだけで、コッチもケッコーカネはろてんねん』
『求人とか、店呼んだり、宣伝費もアホほどかかっとるし』
『何より、このビジネスが成功するっちゅー前提でコッチはカネ用意してんねん』
『やから、ウチらの言うこと聞いてもらわれへんねんっちゅーやったら……』
『………!!』
.
- 507 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:04:18 ID:bOUc1VgI0
-
( A *;)「う、ウチは、正論しか言うてへん!!」
( A *;)「確かに、聞こえは悪いわ。食い散らかしとるだけェ言われてもしゃーない」
( A *;)「でも、ビジネスや! これは遊びやないねん! 慈善事業でもないんや!」
( A *;)「それを、アイツは……!」
.
- 508 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:04:50 ID:bOUc1VgI0
-
『――――ッギ――!』
『だ……黙れ…! おまえは、何もわかっちゃいない!!』
『――――――ッ…――』
『自分たちが偉かったら、ほかの人のことは考えないつもりか!!』
『おまえの言うビジネスは、やりすぎだ! いきすぎだ!』
『そこまでカネを稼いで、することと言えば、高いサケを飲んで、高い家で寛いで……』
『一般人からカネを搾取して、それで一人だけがのうのうと暮らす!』
『奴隷の上に君臨する暴君……それが、ほんとうにビジネスだとでも、言うのか!!』
『――ガ――ッ―――――』
『その高いサケも、高い家も、ぜんぶ……全部! ほかの人との助け合いのもとで、つくられてるんだ!』
『なのに、それを当然だと思い込んで、その人のことは何も考えず、毎日カネと大切なものを奪っていく……』
『――――――』
『………許さない……ッ……!!』
『 』
.
- 509 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:05:22 ID:bOUc1VgI0
-
( A *;)「――いきなり、首を絞めてきよった! 殺されるか思ったわ!!」
( A *;)「あの目……あの声……あの力……どれも、……怖かった……ッ!!」
(゚A゚*;)「でも、なんとかウチは目を覚ました。よかった、生きてたんやァ思った矢先で――」
(゚A゚*;)「アイツが、おったんや!!」
(´・ω・`)「……で、持っていたナイフで…?」
(゚A゚*;)「ちゃう、違うんや…! もともと、このナイフはただの脅し用やってん!」
(゚A゚*;)「脅し用やってんけど―――」
(´・ω・`)「気がついたら……刺していた、と」
(゚A゚*;)「……やって、しゃーないやん!! 目の前に、ひッ…人殺しが、おってんで!」
(゚A゚*;)「……そうや。これは、正当防衛や!! 計画もクソもない、ただオノレ守るためだけに……仕方なく!」
(´・ω・`)「……」
(゚A゚*;)「確かに、刺した。取り調べも、されるやろ思う」
(゚A゚*;)「でも、事実として、モナーはウチを殺しにかかった。やから、正当防衛が適用されて、ウチは無罪や!」
(゚A゚*;)「そーやろ!? 刑事さん!!」
(´・ω・`)「……」
.
- 510 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:05:57 ID:bOUc1VgI0
-
のーが、身を乗り出して訊く。
その勢いに圧倒され、トソンはちいさく悲鳴をあげながらショボーンの後ろに隠れた。
のーに問われた、ショボーンは。
少し残念そうな顔をして、答えた。
(´・ω・`)「……確かに、事実としては正当防衛だったのでしょう」
(゚A゚* )「! ほ、ほら――」
(´・ω・`)「しかし」
(゚A゚* )「ッ」
(´・ω・`)「あなたのそれは、『過剰防衛』に値するのですよ」
(゚A゚*;)「……過剰防衛……?」
.
- 511 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:06:28 ID:bOUc1VgI0
-
なにやら聞きなれない単語を放たれ、のーはきょとんとした。
だが、その言葉から予測できる意味とショボーンの様子から、のーは嫌な予感がした。
(´・ω・`)「いまの話は……おそらく、ただしい。激情したモナーさんが、あなたを絞め殺そうとした」
(´・ω・`)「それに命の危機を覚えるのは、しごく当然のことと言えるでしょう」
(´・ω・`)「ナイフでモナーさんを攻撃した――ここまでは、やはり男女差もあり
. モナーさんも確実に絞殺する、という理由で
. 紐を使っている以上『武器対等の原則』…にとやかく言われることはないでしょう」
(゚A゚*;)「じゃ、じゃあなにがあかんのや……」
(´・ω・`)「『モナーさんが失血死するからくりをつくった』ことですよ」
(゚A゚*;)「!」
.
- 512 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:07:05 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「ナイフで抵抗する、まではよかった」
(´・ω・`)「でも、あなたはナイフと扉を紐でつないで、
. モナーさんが必ず失血死するようなからくりを用意してしまった」
(´・ω・`)「腹にナイフを刺して気絶させた時点で、防衛はできてたんですよ。
. でも、あなたはそれ以上のことをしてしまったから……」
(゚A゚*;)「……」
(゚A゚*;)「………ほな、アレか。ウチは、人殺しになるわけか」
(´・ω・`)「……」
(゚A゚*;)「………ツが」
(´・ω・`)「…?」
.
- 513 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:07:38 ID:bOUc1VgI0
-
(゚A゚*;)「アイツが……アイツが!」
( A *;)「全て、モナーが!! ハナシはパーティのあとォ言ってたのに!!」
( A *;)「『ちょっと話をしよう』やと!?」
( A゚*;)「アイツのせいで!! アイツが、あんときにウチに話を持ちかけへんかったら!!」
( A *;)「ほんまは、パーティのあとで! プギャーと二人がかりで落とすはずやったのに!」
( A *;)「ウチは!! ウチは……!!」
( A *;)「ウチはああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」
.
- 514 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:08:20 ID:bOUc1VgI0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第十幕 「 ほんとうの絆 」
.
- 515 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:08:50 ID:bOUc1VgI0
-
(;A;* )「―――ッ……、……っ…!」
(´・ω・`)「……」
のーは、胸のうちに潜んでいたものを全てぶちまけて、そのまま床に突っ伏した。
年齢をごまかすための化粧など、もはや意味を成さなくなっている。
むしろ、実年齢よりも老けて見えるようになっていた。
ショボーンは、彼女に手を差し伸べるべきかどうか、悩んだ。
確かに、彼女は、モナーに殺されかけたのだ。
一方で、彼女は正当防衛という名の殺人トリックをモナーに仕掛けた。
また、そもそも、彼女がモナーを脅すつもりがなければ、ナイフはなかった――
つまり、殺人事件そのものが起こりえなかったのだ。
そう考えると、彼女の「正当防衛」を肯定するわけにはいかない。
――なんてことを考えていると、トソンがショボーンのスーツの裾を引っ張った。
.
- 516 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:09:27 ID:bOUc1VgI0
-
(゚、゚;トソン「警部、警部」
(´・ω・`)「…? なんだい」
(゚、゚;トソン「な…なんだろう。ケムリが……」
(´・ω・`)「……ケムリ……?」
ショボーンはトソンに言われて、彼女の指さす方向を見てみた。
すると、バーの扉の隙間と、背後の扉から、黒い煙が見えた。
ショボーンは悪寒が走った。
.
- 517 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:10:04 ID:bOUc1VgI0
-
(;´゚ω゚`)「―――ッ!! ああああああああああああああああッ!」
(゚、゚;トソン「……気のせいか、息苦し――」
( ;´・ω・)「おい、のーさん!」
(;A;* )「……」
( ;´・ω・)「――ッ」
のーは、ついに諦めたのか、そもそもその煙に気づいていないのか、ただ呆然としていた。
ショボーンが呼びかけても、応じない。
のーを追い詰めることで頭がいっぱいだったが、
ほんとうは、追い詰めるよりも先にするべきことがあったのだ
5Fからやってくる黒い悪魔の手に捕まらず、一刻も早く脱出する――
(・ω・`; )「……チッ…!」
しかし、それには足かせが幾つもあった。
まず、この場に動ける人が、ショボーンとトソンしかいないのだ。
モナーはついに絶命し、レモナは気絶。
ガナーも同じく気絶し、のーは自我を保てないでいる、と。
一方で、悪魔――煙は、ついに最上階、11Fにまでやってきている。
つまり言いかえると、このホテルは5Fより上の全域が煙に支配されているというわけなのだ。
こうも短時間でここまできたということは、急がなければ、すぐにこの部屋も――
.
- 518 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:10:34 ID:bOUc1VgI0
-
( ;´・ω・)「くそッ!」
(゚、゚;トソン「どうするのですか?」
(;´・ω・`)「トソンちゃん、助手としての任務を頼まれてくれ!」
(゚、゚;トソン「え…え?」
トソンがきょとんとする。
この事態を前に、認識能力が追いつけていないのだろう。
ショボーンはモナーを右肩、のーを左肩に担いだ。
二人を引きずるようにして、ゆっくり歩く。
(;´・ω・`)「いますぐ、ここを抜け出す! でも、僕だけじゃとても四人は運べない!
それにこの調子だと、二往復なんてしてるうちに煙に追いつかれる!」
(;´・ω・`)「無茶だとは思うけど……二人、持てる? ガナーさんと、レモナさんを」
(゚、゚;トソン「やってみます……けど、どうやって抜け出すんですか!?
エレベーターが動くかどうか、というのは……」
(;´・ω・`)「搬送用エレベーターだ!
あれは、非常時にも稼動する! パンフレットに、あった!」
( <●><●>)『搬送用なんだから、でかくて当然でしょ。非常時にも動くんだから、大きいほうが有利だ』
(´・ω・`)『非常時には、ねえ……』
.
- 519 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:11:07 ID:bOUc1VgI0
-
(゚、゚トソン「!」
(;´・ω・`)「とにかく、急いでくれ!」
(゚、゚トソン「は、はいっ…」
トソンは駆け寄ってきて、倒れているガナーを持ち上げてみた。
女性といえど、人間は運ぶ分には重い。
成人女性なのだから、どれだけ少なく見積もっても40キロはある。
10キロの米袋すら持つのに四苦八苦するトソンで、なにもなしに40キロの人を運ぶのは無理だった。
(゚、゚;トソン「………」
(;´・ω・`)「……できない?」
(゚、゚;トソン「も、もう一度がんばっ――」
言うと、めらめら、と何かが燃える音がした。
黒い煙の量も、一気に増える。
また、意識せずとも悪臭が感じ取れるようになった。
ショボーンは嫌な予感がしたため、そちら――バーの扉をひらいた。
モナーとのーをいったん降ろし、鍵を開けて。
すると。
.
- 520 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:11:45 ID:bOUc1VgI0
-
(゚、゚;トソン「……!」
(;´・ω・`)「…………まずい」
制御室でも少し、ぼや程度の規模で見ることができた炎が、
廊下一面を覆う巨大な火事となって、そこまで迫ってきていた。
制御室――つまり、エンジンルーム。
なにかに引火したと考えれば、納得することはできた。
しかし。こんなときに、彼は辻褄などを求めるはずもなかった。
トソンのことを気にせず、大声を出した。
( ;´・ω・)「のー! 起きろ! のーッ!!」
(;A;* )「……………」
再びモナーとのーを背負う前に、のーを揺らしながら、呼びかける。
しかし、生気すら感じられない。
――いや、そうでない。彼女は、きっと、ここで死のうとしているのだろう。
追い詰めすぎてしまった――と、ショボーンはこのときになって後悔した。
.
- 521 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:12:17 ID:bOUc1VgI0
-
( 、 ;トソン「きゃあッ!」
(;´・ω・`)「な、なん――」
トソンの悲鳴を聞いてそちらを見ると
(;´゚ω゚`)「――――ッ!?」
――もう、バーの扉に炎が移っていた。
いつまでもここにいると、のーが正気を取り戻す前に、皆焼死してしまう。
そのため、ショボーンはやむなく二人を担ぐが――
(゚、゚;トソン「え、えっと、えっと……ッ…」
トソンがなんとか片方だけでも持ち上げようとするが、
うまく自分の体の上にガナーを載せることができない。
細腕の彼女に、人を運ばせることすらお門違いなのだ。
それはわかっているのだが――
.
- 522 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:12:49 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「―――」
(;´・ω・`)「――モナー…さん…」
( ;: ∀`;)
そこでショボーンは、傍らに見えるモナーの頭を見て、つぶやいた。
刑事のショボーンでなくとも、わかる。
モナーは、もう死んだ。当然のことだ。
当然、緊急事態において取捨選択に迫られる場合、死人よりも、生きている人を優先すべきだ。
ここでレモナとのーを担いで、トソンがなんとか引きずってでもガナーを運ぶことができれば――
(;´・ω・`)「………」
――しかし。
ショボーンの脳裏を、ある言葉が掠める。
.
- 523 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:13:20 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)『「絆」』
( <●><●>)『絆?』
(´・ω・`)『モナーさんは、人と人との絆を大事にする。親子でも、夫婦でも、会社の師弟、でもだ』
(;´・ω・`)「……絆………」
(;、;トソン「…い……ッ…もうちょっと……」
トソンは、なんとか背中にガナーを載せることはできたが、
そこから第一歩が踏み出せない状態になっていた。
これでは、ガナーもろとも焼死体になるか、もしくは一酸化炭素中毒で絶命してしまう。
それはわかっている。
生きている人のほうを、死んだ人よりも優先するべきなのだ。
刑事のショボーンは、なにより、人命を優先すべきであり
それは警察官としての掟である、と、部下のワカッテマスにも何度も言ってきた。
( <●><●>)『あなたが無実なら、なにもおそれる必要はない。
人命最優先です。至急、お願いします』
.
- 524 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:13:52 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「なにを悩んでるんだ、僕は……!」
ここでモナーを見捨てれば、残りの皆が生還できる可能性は高い。
裁判をするさいに面倒なことにはなるが、裁判と人命とじゃあ、
刑事のショボーンにとってはどう考えても後者のほうが重いのだ。
――だが。ショボーンが悩んでいたのは、そういうことではなかった。
ここで、モナーとの『絆』を、断ってしまっていいのだろうか。
.
- 525 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:14:23 ID:bOUc1VgI0
-
(;、;トソン「警…ッ部……ご、めんなさい…」
(;´・ω・`)「……くそ、くそ……!」
トソンが自分の責任を感じ、涙を流して、そう言いはじめた。
このままほうっておくと、彼女ものーと同じように、自我を保てなくなるだろう。
そうなってしまえば、全滅以外の道はなくなる。
もしモナーを切り捨てるなら、今、この瞬間に捨てなければ、
ただでさえ引きずっての移動である以上、時間がなくなる。
捨てろ、置いていけ。自分のなかの生存本能が、そう叫ぶ。
――しかし、ショボーンは、モナーの言う『絆』を、むげにすることはできなかった。
.
- 526 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:15:01 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「(モナーさんも……ほかのみんなも……助ける!)」
(;´・ω・`)「……ハハ……やることはひとつ……しか、ないじゃないか」
(´・ω・`)「全員脱出……だ!」
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=MDyUvZkJiSc
.
- 527 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:15:31 ID:bOUc1VgI0
-
その瞬間だけは――いや。
その瞬間から、この絶望に負けない、強い「希望」がショボーンのなかに生まれた。
――そうだ、迷うことはなかった。
モナーが死んでいようが、関係ない。
「見捨てる」なんて選択肢など、はじめからなかったのだ
刑事の肩書きなど、関係ない。
一人の人間として――そこに、『絆』を持つ一人の男として。
断じて、モナーも、トソンも、倒れている女性の皆も、見捨てない。
(´-ω-`)「(どこかに、活路が……)」
ショボーンは必死に、脳を働かせることにした。
どこかに、道が――
自分たちと命とをつなぐ絆がないか、と。
.
- 528 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:16:02 ID:bOUc1VgI0
-
(´-ω-`)「(この際、だれがハンニンとか、どうだっていい!)」
(´-ω-`)「(バーの扉からの脱出は――無理。だとすると、活路があるとすれば、レストラン)」
(´-ω-`)「レストラン……レストラン………」
(;´-ω-`)「……れすとらん……、………?」
.
- 529 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:16:41 ID:bOUc1VgI0
-
(. )『あのとき、のーさんと話していたときにもあがってましたが……要は「接待の下見」ですよ。
マリントンさんから鍵を借りて、レストランにちょっと、ね』
爪 )『ど、どうりでコックもいないし、冷蔵庫のなかも空っぽだなあ、と思ったよ』
爪; ー )『れ、冷蔵庫の話は聞かなかったことにしてください!
. つい、ほんの出来心なんですよ! 「どんな豪華な食材があるんだろう」って――』
爪;'ー`)『だって、あんな大きな荷台があったら、気になるでしょ? なりませんか?
. 無礼は詫びますから、だから――』
.
- 530 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:17:13 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「――――ッ!」
(;´゚ω゚`)「!!! 荷台ッ! それだッ!!」
(;、tトソン「け、警部…?」
トソンが涙を拭いながら顔をあげると、ショボーンはモナーとのーをその場に乱雑にほうり、走り出した。
レストランに向かって、一人で。
(;´・ω・`)「(大きな荷台……それを、フォックスさんが見た!)」
(;´・ω・`)「(あるとすれば、それはどこだ――?)」
ホール。
キッチン。
ステージ。
入り口。
――大きな荷台があったとすれば、この四箇所のうちの、どこかだ。
どこかに向かって、そこに荷台がなければ――もう、タイムオーバーと見るべきである。
たった一度の、大きすぎる賭け。
はずすわけにはいかない、賭け。
.
- 531 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:17:48 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「(考えろ……フォックスさんは、大きな荷台を見たからこそ、
冷蔵庫に、それだけ多くの食材があると思い込んでいた)」
(;´・ω・`)「(ならば、キッチンか? ……違う。
彼は、どこかで荷台を見たから、したがってキッチンに行った、と考えるべきなんだ)」
(;´・ω・`)「(ということは、フォックスさんが自然と訪れるような場所に、荷台はあった。
彼の行動を辿れば、見えてくるはずだ。……荷台の、場所が)」
(;´・ω・`)「(フォックスさんは……なにをしていた?)」
爪'ー`)『あ、知ってたんですか。じゃあ話ははやい』
(´・ω・`)『というと』
爪'ー`)『あのとき、のーさんと話していたときにもあがってましたが……要は「接待の下見」ですよ。
マリントンさんから鍵を借りて、レストランにちょっと、ね』
.
- 532 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:18:23 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「(……彼は、下見といってこのホールをぐるっと回ってた。
…でも、それはほんとうなのか?)」
(;´・ω・`)「(彼は、ほんとうはレストランからバー――そう、あの裏口を通って、バーに向かったんだ)」
爪'ー`)『ええと……つまり、どういうことですか』
(´・ω・`)『ひとまずは保留ってことです。
. それより、念のため、現状をもう一度だけ細かく話してもらっていいですか』
爪'ー`)『いいですよ。そうだなあ……物音がしたから、ぼくはバーに……』
(;´・ω・`)「(……物音!)」
(;´・ω・`)「(彼は、物音を聞きつけた。だから、バーに……)」
(;´・ω・`)「(でも……それ、よく考えたら、おかしくないか?)」
.
- 533 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:18:54 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「(物音を聞きつけたからバー……ってことは、フォックスさんはレストランにいたんだ)」
(´・ω・`)「(一方で、当時、物音と要因となるもの――それは、のーさんの犯行だけだ!)」
(´・ω・`)「(でも、もしフォックスさんが物音を聞きつけてバーに向かったとしたら……のーさんと出会うはず)」
(´・ω・`)「(だというのに、フォックスさんは現場から逃げてくのーさんを見てない)」
(´・ω・`)「(物音がして現場に駆けつけるまでは数秒のラグがあるけど……見るだけなら、一瞬だ)」
(´・ω・`)「(しかし、のーさんはその一瞬よりもはやく現場から逃げ出した……?)」
(´・ω・`)「(まさか。レストランに、そんな死角や裏道など、ない)」
(´・ω・`)「(だとすると……)」
(´・ω・`)「(フォックスさんが聞きつけた音は、犯行時のものではない。
. 『犯行後の、事件とはまったく別のものが原因で鳴った』と考えるべきなんだ)」
(´・ω・`)「まったく、別のもの………」
(;´・ω・`)「……ッ!!」
ショボーンは、そこで、走る方向を変えた。
彼は、いったんキッチンに向かおうとしていた。
しかし――彼は、『引き返した』。
.
- 534 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:19:25 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「(そうだ! 荷台は、キッチンとか、ホールとか、そんなところにあったんじゃなかった!)」
(;´・ω・`)「(『のーさんの逃走経路』にあったんだ! そうじゃないと、『物音』に辻褄が合わない!)」
(;´・ω・`)「(『フォックスさんが目撃できる』ところで
. 『逃走経路の妨げ』となる上
. 『バーの方角』に位置する場所――そこに、荷台はあった!)」
(;´・ω・`)「それら全てを満たすのは―――」
ショボーンは、引き返した。
その先――観音開きの、バーのステージにつながる扉。
そちらに向かうと、トソンが飛び出してきた。
ショボーンがなぜ飛び出したのかがわからなかったのだろう。
ショボーンを慌てて呼ぼうとする。
(゚、゚;トソン「警ぶ――」
(;´・ω・`)「トソンちゃん、その門の奥っ側のほうを、閉めてくれ!」
(゚、゚;トソン「え?」
(;´・ω・`)「(僕とトソンちゃんがここにきたときには、気づかなかったけど……)」
(´・ω・`)「(さっきの条件のすべてを満たすのは――ここしかない!)」
.
- 535 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:19:55 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「荷台は、その扉の陰に隠れている!!」
(゚、゚;トソン「―――あッ!」
トソンがそちらの扉を閉めると。
銀色でコーティングされた、確かに「大きな」荷台があった。
ショボーンとトソンがここにきて扉を開けたさい、
荷台はその開かれた扉の陰に隠れてしまったのだ。
(゚、゚;トソン「警部!」
(;´・ω・`)「ああ! 脱出だ!」
BGMここまで
.
- 536 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:20:32 ID:bOUc1VgI0
-
◆
トソンのような細腕でも、なんとか人を引きずることはできる。
彼女にしては切羽詰った声を掛け声に、気合でなんとかガナーを引っ張る。
ショボーンはモナーとのーとレモナを、一斉に引っ張った。
――直後。バーの扉から、火が噴き出してきた。
ショボーンは無意識のうちにこれを予知して、一度に三人を引っ張ったのだろうか。
真偽のほどはわからなかったが、わかったことは
(;´・ω・`)「扉を閉めるぞ!」
(゚、゚;トソン「はい!」
ショボーンが宣言したとおり、「全員脱出」の希望が見えていたことだ。
いったんバーから動けない四人を引っ張り出しては、観音開きの扉を閉めた。
これで少しの間は、時間を稼げるだろう。
その間に、ショボーンとトソンは協力し合って荷台の上に四人を載せた。
そして二人で、荷台を一気に押した。
コマの、さびを感じさせないスムーズな動きが幸いして、
背後の扉から炎や煙が顔を出す前に、充分速いスタートダッシュを決めることができた。
ショボーンたちにとって幸いだったのは、火の手はバーのほうに向かっていたことで、
レストランには煙こそあれど火はまだやってきていなかったということだ。
そのうちに、ショボーンは脳内でパンフレットを開き、搬送用のエレベーターに向かった。
.
- 537 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:21:04 ID:bOUc1VgI0
-
搬送用のエレベーターは、西にある。
現在位置が西寄りにあるため、希望は見えた。
搬送用のエレベーターは、非常時にも動く。
地下に、非常電源でもあるのだろうか。
その用意周到さが、実際にそういった人たちを助けることに貢献しつつあった。
(゚、゚;トソン「あとは、この角を…」
(´・ω・`)「右だ」
二人は息をあわせながら、煙には気をつけて、足を進める。
先ほどまでの焦燥とは一転、荷台という大きな味方が手を貸してくれたおかげで、
少なくとも、トソンの精神状態を安定させることはできた。
(゚、゚;トソン「……」
(´・ω・`)「……」
自然と、二人の間に言葉はなくなった。
もともと、この非常事態にそうたやすく口を利けるのもおかしいのだが、
この二人にしては、沈黙が生まれるなどというのは実は珍しいことだった。
ショボーンにも安心や落ち着きが生まれてきたあたりで、ふと、携帯電話が気になった。
あのとき――ワカッテマスと通話していたときだ。
ショボーン側の人間が窮地に立っていたのにも関わらず、一方的にショボーンのほうから電話を切った。
ワカッテマスという男の性格を考えると、彼から電話が来ている、とは思うのだが――
.
- 538 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:21:34 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「…あ」
と思ってショボーンが電話を取り出すと、その予想はみごとに的中していた。
一度、彼からの着信が入っていた。
番号は、見るまでもない。ワカッテマスだ。
ショボーンはひと段落ついたということで、彼に一報をいれようと電話をかけた。
一方、片手で、しかし荷台のバランスを崩さないように、それを押し歩く。
向こうも心配でしかたがなかったのだろう、わりかしすぐにワカッテマスは応対した。
(´・ω・`)「…もしもし、ワカッ」
『警部ですか!』
(´・ω・`)「じゃなかったら誰だ。僕だよ」
『現状は』
(´・ω・`)「モナーさんを刺…殺したハンニンは、わかった。
. いまは搬送用エレベーターに――」
.
- 539 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:22:07 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「…?」
ショボーンがなんとなしに言うと、電話の向こうがなにやら騒がしいように思えた。
騒がしい――その声の主は、マリントンだった。
ワカッテマスとマリントンが何かを言い合っていたようで、
少し雑な音が入ったかと思えば、次に耳に入ってきたのは、マリントンの声となった。
『も、…もしもし』
(´・ω・`)「どうしたんだ――どうしたんですか」
『あ、あんたら、搬送用って――西のエレベーターか?』
(´・ω・`)「そう、ですが……」
もう、向こうのほうに見えてきた。
速度を徐々に殺しつつ、ショボーンは言う。
実際に、エレベーターが目に見えてきたところでショボーンのもとに訪れる、安堵感。
それが、次の瞬間に途絶えるとは、ショボーンは思ってもみなかった。
.
- 540 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:22:50 ID:bOUc1VgI0
-
『な……どえらいコトになってしまった……!』
(;´・ω・`)「な…なんですか」
『ええか、よぅ聞け! そのエレベーターはな……』
『今は、ロックがかけられとる!』
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=gDduNMXCTJM
.
- 541 :※今までとBGM違います ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:23:48 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「……! なんだって!?」
(゚、゚トソン「警部…?」
突如として放たれた、ショボーンの焦燥に満ちた声。
それを聞いて、トソンは途端に不安げな顔を浮かべて彼の顔を見た。
彼は彼で、電話の向こうから聞こえてくるマリントンの声に、不安を感じていた。
『勝手に使われんようにってな、モナーさんがロックをかけたんよ!
. 一応、その場で開けることはできるが――』
(;´・ω・`)「ちょ、ちょっと待ってください! そんなこと言われても――」
ショボーンは荷台から手を離して、エレベーターに駆け寄る。
大きい。こんな荷台など、すっぽり収まるだろう。
そんなエレベーターの、呼び出しボタンのあるほうに向かう。
なにか、意味がありそうな機器こそ、ある。
しかし。
(;´・ω・`)「テンキーとか、そんなのはないですよ!?」
.
- 542 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:24:32 ID:bOUc1VgI0
-
一般用ではないエレベーターに、いたずらされないようにとロックをかけるのは当然の話だ。
しかし、ロックを開けるといえば、テンキー――0から9まであるボタン――があって然るべきなのに。
そこには、そのような「押せるもの」は、いっさいなかった。
「そう」とマリントンが続ける。
いつの間にか、トソンもショボーンの隣にいた。
『ほら、そのエレベーター使うんな、だいたいがギョーシャさんですわな』
『ギョーシャさんは両手が空いとらんことが多いからってことで、認証対象を「声」にしたんですよ』
(´・ω・`)「声……?」
『暗証番号の代わりに、そのスピーカーみたいなモンあるでしょ、
. そこに、決められた単語をひとつ言って、認証されたら開くっちゅーシステムですわ。
. 俗に言うところの「合言葉」、ヤマとくればカワってやつですな』
(´・ω・`)「スピーカー……」
言われて、ショボーンはその機器をよく見る。
暗くてわかりづらかったが、網状のものがあることから、それが「スピーカーみたいなモン」であることがわかった。
スピーカーとはいうが、実際はマイク搭載なのだろう。
.
- 543 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:25:04 ID:bOUc1VgI0
-
『ほんまは非常時――停電時とかにはロックはかからんようにする予定だったんですがな……
. 今日はほら、特別な日じゃないですか、言ったら』
(;´・ω・`)「……だから、非常時でもロックは解けないままになるようにしてしまった、と」
『すまぬ! ワタシが憶えとったら、モナーさんに言っとったばっかりに……!』
(´・ω・`)「いえ……。そうか、単語か……」
『スピーカーの下にある赤いボタンを押せば、マイクが反応するようになる』
ショボーンはマリントンのその言葉を聞いた途端、即座にボタンに手を触れた。
もう、考えている暇はないのだ。
(゚、゚;トソン「ケムリに追いつかれた……」
(´・ω・`)「……」
たとえ観音開きの例の扉が炎を閉じ込めていても、十分もしないうちに耐え切れなくなるだろう。
それか、扉の隙間から炎が移ってくる。
耐火性かはわからないが、耐火性であっても煙がやってくる。
時間との勝負は、まだ終わってなかった――否。
むしろ、ここからがほんとうの勝負だったのだ。
.
- 544 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:25:34 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「……一応聞くと、マリントンさんもその合言葉は」
『……すまぬ。ロックをかけたのは、ほかならぬモナーさんですから』
(´・ω・`)「モナーさん………」
『………モナーさんは、…やっぱり』
(´・ω・`)「いまは憂えている場合じゃない。では、なんとかこちらで合言葉を当ててみせます」
(゚、゚;トソン「あい……言葉……? 当てる?」
『ムチャ……言いますな、あんたは。単語ですぞ? 数字よりもその組み合わせはよーけある!』
(´・ω・`)「だが一方で、言葉ならある程度まではしぼれる。モナーさんの人間性こそが、ヒントとなるからだ
. モナーさんが言いそうな言葉を、五十個でも試せば……」
『いや、ワタシが言いたいんはそーいうんじゃないんですわ』
(´・ω・`)「…え?」
マリントンの、深く息を吸う音が聞こえた。
そのせいでよけいに、次の言葉が重くのしかかった。
.
- 545 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:26:09 ID:bOUc1VgI0
-
『いたずら防止用兼セキュリティー重視っちゅーことで……合言葉の認証には、制限があるんですよ』
『そうですな……確か、最初の入力から24時間につき、当たるまで反応する言葉は最初の含めて、みっつ』
『合言葉を三回連続で間違えたら、その時点でエレベーターは開かんようになる』
.
- 546 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:26:39 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「……なんだって……!?」
ショボーンは、ボタンに触れていた手に、力を籠めようとするのをやめた。
むしろ、触れているだけで手が震えてきそうだった。
『それも、5Fからならその制限は取り払えるんですがな……いやはや、爆破されるとは……』
(;´・ω・`)「こ、心当たりは!?」
『…………。』
(;´・ω・`)「……ッ……くそ!!」
(゚、゚;トソン「け、警部! ケムリが……こほっ…。」
(;´・ω・`)「! マリントンさん、電話はいったん切ります!」
『だ、大丈夫か? いけるか!?』
(;´・ω・`)「切り抜けてみせますよ。これでも、苦境はなんども味わってきた」
『―――みんなを、任せましたぞ!』
(´・ω・`)「…………はい。」
.
- 547 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:27:14 ID:bOUc1VgI0
-
そう言い電話を切っては、ふう、と息を吐いた。
それを見たトソンが、口を利く。
状況はそこまで把握していないだろうはずなのに、周章を味わっていた。
(゚、゚トソン「警部……なにがあったんですか?」
(´・ω・`)「……合言葉を入れれば、エレベーターは動く」
(゚、゚トソン「! じゃあ――」
(´・ω・`)「まだだ」
(゚、゚トソン「…え?」
(´・ω・`)「合言葉を入れられるのは、三回まで」
(´・ω・`)「その三回を失敗すれば………完全に、逃げ道を失う」
.
- 548 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:27:51 ID:bOUc1VgI0
-
(゚、゚;トソン「………っ!」
トソンの手に、汗がにじんできた。
彼女がそれを言葉にしようとする前に、ショボーンが先に動いた。
もう、煙は目に見えてここら一帯をも呑みこもうとしているのだ。
意識せずとも、その異臭が感じられるようになってきた。
また、電源が落とされて暖房が効かなくなったはずが、どこか暑く感じられてくる。
しかし――いや、だからこそ、ショボーンは急ぐしかなかった。
ボタンを押して、一つ目に挑戦する。
(;´・ω・`)「………『きずな』」
『ニンショウ シッパイ』
.
- 549 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:28:22 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「……なに……?」
(゚、゚;トソン「警部っ!」
単調な電子音が、その誤りを言った。
それを聞いて、ショボーンは絶句した。
(;´・ω・`)「(待て……このロックをかけたのは、モナーさんだ。
それも、今日一日限りのロック! つまり、業者と打ち合わせする必要がないから……)」
(;´・ω・`)「(ロックをかけるとするなら、
『自分が日頃から重んじている言葉』をキーにする可能性が高いはず……!)」
(;´・ω・`)「なのに……『絆』じゃないだと……?」
(゚、゚;トソン「………っ! 炎が見えてきた!」
(;´・ω・`)「なんだって!?」
慌ててそちらに目を遣る。
視線の先にあるのは、曲がり角だ。
その曲がり角から、炎がちらっと見えた。
――もう、ここまで燃え移ってきたのか!?
ショボーンも、手のひらから汗がどんどんにじんできた。
こうしちゃいられない。ショボーンは、そう思った。
.
- 550 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:28:53 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「(ほかに考えるんだ! 『モナーさんが日頃から重んじていそうな言葉』……を!)」
(;´・ω・`)「(しかし、座右の銘……は、知らない。キーワードの、『絆』ではなかった……か)」
(;´・ω・`)「(『モナ』……口ぐせや一人称的にはありえそうだが……
しかし、そんな偶然で開きそうなロックにするか?
仕様を知らない人でも、『モナーさん』とか言えば勝手に開きそうなもんだぞ……!)」
(゚、゚;トソン「『ガナー』なんてどうですか!?」
(;´・ω・`)「ガナー……娘さんか」
(゚、゚;トソン「ほら、パスワードとかかけるとき、自分よりも、
そういった身近な人を語呂合わせにする、とかありますし」
(´・ω・`)「……試すか」
ショボーンは、もう一度ボタンを押す。
そして、誤認されないようになるべくスピーカーに顔を近づけた。
(´・ω・`)「『ガナー』」
.
- 551 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:29:23 ID:bOUc1VgI0
-
『ニンショウ シッパイ』
(゚、゚;トソン「そんな……っ」
(;´・ω・`)「キーワード…『絆』でもなければ、娘…の『ガナー』でもないだと……!?」
(;´・ω・`)「じゃあ、モナーさんはいったい……なにを言ったっていうんだ!!」
ついに冷静さも欠けてきた。
しかし、それも当然だろう。
もう、曲がり角から徐々に、こちらに炎が向かってくるのだ。
自分たちのいる場所までの距離、目測――二十メートル。
また一方で、彼らが焦燥を隠せないはずもなかった。
.
- 552 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:29:56 ID:bOUc1VgI0
-
(゚、゚;トソン「あと、チャンスは………一度……だけ?」
(;´・ω・`)「……ッ!」
それを再認識させられて、焦らないはずがなかった。
あと一度、間違えてしまえば―――
永久に、脱出不可。
.
- 553 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:30:27 ID:bOUc1VgI0
-
(゚、゚;トソン「警部、きっと『ワクテカ』ですよ!」
(;´・ω・`)「なんだ、それ」
(゚、゚;トソン「『WKTKホテル』の、愛称だそうです。パンフレットにあった……」
(;´・ω・`)「わくてか……? いや、しかし……」
(゚、゚;トソン「ロックなんだから、きっと単調なものです!」
(゚、゚;トソン「ホテルの名前なんだから、なにも考えないで出てくる単語じゃないですか」
(;´・ω・`)「(……違う! モナーさんは、そこまで安直な人じゃない)」
(;´・ω・`)「(のーさんを絞めるときにも、言ってたじゃないか。礼儀……だの、絆……だの)」
(;´・ω・`)「(そこまで情を重んじる人なんだから、きっと……そういった、心的な何かがキーワードとなっている!)」
炎との距離、目測――十五メートル。
.
- 554 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:31:00 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「思い出せ……今日一日の、モナーさんの………言葉」
(;´・ω・`)「モナーさんが、『絆よりも、ガナーよりも大切にしていたもの』……」
(;´・ω・`)「僕の直感でいえば……それが、合言葉だ!」
|゚ノ ^∀^)『実を言うと、ショボーンさんみたいに恩で呼ばれる人はほかにはおらず、
. 残りの人はフォックスさんみたいに、何らかの形で援助していただいた人を招待してるんですよ』
(;´・ω・`)「(しかし……トソンちゃんの考えた、『人名』。これは、いいぞ。人名の可能性は、高い)」
(;´・ω・`)「(人が一番情を感じることができるのは……人。人間に、礼儀とか、絆を感じるんだ)」
(;´・ω・`)「(そしてそれは、このパーティに呼ばれた人の可能性が高い、と見ていい)」
(;´・ω・`)「(もし、モナーさんがそこまで絆を感じていた人なら呼ばれるからな)」
(;´・ω・`)「(しかし、一方で……)」
(´・ω・`)「(『恩で招待された人』は、僕しかいない)」
(´・ω・`)「(……僕が、合言葉なのか……?)」
.
- 555 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:31:32 ID:bOUc1VgI0
-
(゚、゚;トソン「はやくしないと、アウトですよ!」
(;´・ω・`)「チッ!」
炎との距離、目測――十メートル。
(;´・ω・`)「トソンちゃん、なにかないか! 人名だ!」
(゚、゚;トソン「人名……?」
(;´・ω・`)「モナーさんが、一番『絆』を感じていた人物だ!」
(゚、゚;トソン「絆………やっぱり、ガナーさんでは……? 親子の絆は……カタいですし」
(;´・ω・`)「(――そう。僕じゃ、ないんだ。あくまで、僕とモナーさんは、あの事件一回きりの仲。
恩義を感じていても、さすがに娘以上の『絆』を持つとは、考えられない)」
.
- 556 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:32:04 ID:bOUc1VgI0
-
(;´・ω・`)「こうなったら……絞り込む!」
(゚、゚;トソン「なにをっ?」
(;´・ω・`)「なんの証拠もないけど、『このホテルに招待された、
ガナーさん以上の絆でモナーさんとつながっている人物』!!
……合言葉、最後の一つはそれで決めよう!」
(゚、゚;トソン「む――ムチャです! 親子以上の絆!? それだったら、夫婦とか――」
炎との距離、目測――七メートル。
( 、 ;トソン「――きゃっ!」
(;´・ω・`)「(思い出せ、今日一日の、モナーさんにまつわるエピソードを!)」
(´・ω・`)「(そのなかに、きっと……!)」
.
- 557 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:32:34 ID:bOUc1VgI0
-
( ‘∀‘)『私……父のことは、好きじゃないのです』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『なんとか……モナーさんを刺したヤツを、捕まえてはくれませんか』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『モナーさんとは、昔からの……昔からの仲なんですわ』
.
- 558 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:33:06 ID:bOUc1VgI0
-
( ‘∀‘)『昔から……父には、キツくあたられてきて……それが、怖かったんです……』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『陰でうわさされとるレベルなんですがねぇ……
モナーさん、例のグループにええように使われとるっちゅー話ですわ』
.
- 559 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:33:37 ID:bOUc1VgI0
-
( ‘∀‘)『当時はすごく忙しかったようで、お酒もギャンブルも女性問題もなかったんですが、
仕事のストレスを、私にあたることで発散させているような……』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『モナーさんチに行ったら、なんか黒服の人がぞろぞろ出てきよって……
入れ違いで家に入ったら、モナーさん、荒れとったな。もう、ものごっそ昔ですが』
.
- 560 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:34:07 ID:bOUc1VgI0
-
( ‘∀‘)『ドラマみたいに「愛を与えない」だけなら、まだよかったかもしれないですが……
とても……この歳になっても、やはり、その畏怖…?は拭えない、って言うのか……』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『実はね、あの子の首筋、うなじのあたりに、でっかいホクロがあるんですわ。
いやー、もう十何年も見んうちにベッピンさんになりよって……ええのぅ……』
( ∀ )『ほかの人には温厚に接してる父なのに……
どうして……私には、優しく接してくれなかったのか……』
.
- 561 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:34:40 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)『……』
(´・ω・`)『……ッ! これは……ロケット…?』
(´・ω・`)『これは……どういうことだ』
(´・ω・`)『モナーさん………?』
―――あのロケットは、いったい―――
.
- 562 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:35:11 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「―――ッ!」
(;´・ω・`)「!! も、もしかして―――ッッ!」
(゚、゚;トソン「へ?」
炎との距離、目測――四メートル。
ショボーンは、突然振り返った。
ガナー、レモナ、のー、そしてモナーを載せている荷台のほうに。
急いで載せたためか、うつぶせのまま、頭や足が荷台からはみ出ている。
――その光景の、ある点を見て、ついに、この結論にたどり着いた。
今までの『絆』を、根底からひっくり返すような―――結論、に。
.
- 563 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:36:06 ID:bOUc1VgI0
-
BGMここまで
(;´゚ω゚`)「!!! そ……そうか! そういうことだったのか!!」
(゚、゚;トソン「け、警部! もう火が! そ、そこぉ!!」
(;´・ω・`)「ま、待ってね。いま、開けるから」
(゚、゚;トソン「………え……? わかった、のですか?」
(;´・ω・`)「(―――見つけた! 偽りの絆なんかじゃない、ほんとうの―――)」
(´・ω・`)「(ほんとうの―――絆を!)」
ショボーンは、トソンに荷台を押す準備をしろ、と指示した。
一方のショボーンは、ボタンを押して、マイクに口を近づける。
そして
.
- 564 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:36:38 ID:bOUc1VgI0
-
(´・ω・`)「『レモナ』」
.
- 565 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:37:39 ID:bOUc1VgI0
-
『ニンショウ セイコウ』
.
- 566 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:38:13 ID:bOUc1VgI0
-
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
第十幕
「 ほんとうの絆 」
おしまい
.
- 567 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/20(水) 20:39:01 ID:bOUc1VgI0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五幕 「見てはいけない」
>>248-294 第六幕 「おぞましい真実」
>>303-353 第七幕 「次なる被害」
>>359-413 第八幕 「二つの矛盾」
>>420-494 第九幕 「偽りをつなぐ」
>>502-566 第十幕 「ほんとうの絆」
.
- 568 :同志名無しさん:2013/03/20(水) 20:42:44 ID:bOUc1VgI0
- 次回、3/23で、この作品は完結します
長さは今までの二倍あるので、単純計算で100レス以上あるけど…
最後までおつきあい願えたら、うれしいです
- 569 :同志名無しさん:2013/03/20(水) 22:16:48 ID:EkzTNltw0
- 乙
- 570 :同志名無しさん:2013/03/21(木) 00:35:07 ID:JCX0TxSo0
- BGM入れるって歯車みたいだな
ワクワクするね
- 571 :同志名無しさん:2013/03/21(木) 00:47:37 ID:Y26.TSvwO
- 終わりっぽかったのにまだ続くのね
終盤盛り上げてくれるね、今までの偽りのなかで一番面白い
伏線に凝ってるのはやはり歯車の影響があるのかな、タイトルにもあるし
- 572 :同志名無しさん:2013/03/21(木) 23:04:09 ID:L3hdkUaU0
- 乙
いいね
次回も期待
- 573 :同志名無しさん:2013/03/22(金) 22:33:47 ID:y.3oZ4vM0
- おつ
冒頭のニゲットチキンが前作のアーボンオレンジみたいに事件に絡まなかったのが少し寂しい
今作も面白かった
最終話も期待してる
- 574 :同志名無しさん:2013/03/23(土) 19:43:25 ID:T1oGMwVw0
- 作者です
投下は少し遅れます
- 575 :同志名無しさん:2013/03/23(土) 20:20:21 ID:zBrSuJDg0
- 期待
- 576 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:13:07 ID:6.gT5oTU0
- お待たせしました。
なんとか、日付が変わる前には投下しきれそうです
では、今から、最終回を投下します
- 577 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:13:51 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚トソン「!!」
(;´・ω・`)「押せっ!」
炎との距離、目測―――
(>、<;トソン「――ッ!!」
―――トソンが、少し荷台から距離をとったかと思えば
ショボーンの合図と同時にダッシュし、荷台に突進して、体当たりを決めた。
またショボーンも荷台を横から持ち、前に滑らせる。
エレベーターに入って、荷台を完全になかに入れてから
トソンを引っ張り、同時に扉を閉じるボタンを押す。
.
- 578 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:14:22 ID:6.gT5oTU0
-
――その、わずか一瞬あとを
――――炎が駆け巡っていった。
.
- 579 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:14:53 ID:6.gT5oTU0
-
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
終幕 「 愛されたくて 」
.
- 580 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:15:29 ID:6.gT5oTU0
-
(;、;トソン「……ああああああああああっ!!」
(´・ω・`)「よく、がんばった。君のおかげで、みんな助かった」
エレベーターの扉が閉まったところで、トソンはその場にへなへなと座り込んだ。
すると、とたんに目から涙が大量に溢れてくる。
ショボーンがそれに気づくと同じ頃、トソンは大きな声をあげて泣き始めた。
先ほどまでずっと緊張状態にあったなか、こうして危機から脱出できたとわかると
その緊張はみごとにゆるみ、ショボーンは脱力、トソンは号泣――へと至ることになった。
(´・ω・`)「…ひゅー」
額から脂汗がぶわっと噴き出してくるのが、わかった。
スーツの腕の部分でさッとそれを拭い、壁に背をあずける。
すると、そんな間抜けな声が、無意識のうちに出てきた。
しかし、それを情けないとは思わなかった。
ただ――安堵を、実感することができた、のだから。
(;、;トソン「…っ……、…ッ………!」
( ;´・ω・)「そろそろ泣きやみなって。みんなと合流するんだから」
(ぅ、tトソン「……げいぶッ…に、は……わがんない……、…ッんです……!」
(´・ω・`)「ハハ……そーだな。確かに、そうだ」
.
- 581 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:16:02 ID:6.gT5oTU0
-
――まず、制御室に仕掛けられた、爆弾。
それが爆発することで、メインの動力源は破壊され、ショボーンとトソンは逃げ道を失った。
続いて、バーから聞こえた、発砲事件。
レストランからの裏口を発見したおかげで、なんとか殺人事件を食い止めることができた。
バーのなかに入ることこそできたが、次は、興奮したレモナと対峙。
間近で銃声を鳴らされては、とても冷静なままではいられない。
そこから、モナーを殺した犯人――のーとの、対決。
このときの彼女の気迫に、トソンはずいぶんと参っていただろう。
そして、煙と炎が、同時にやってきたのだ。
逃げようにも、動ける人が大人一人と女子高生一人。
とてもではないが、この状況から脱出するのは、ほぼ無理だった。
フォックスの言っていた、荷台の存在に気づかなかったら。
フォックスの言葉とのーの行動から推理した結果、その荷台を見つけ出すことで
そこから、いったんは悪魔の手から逃げ出すことはできた。
このときは、これで脱出できる――と、二人とも、信じて疑わなかった。
しかし、だ。
最後の最後で待ち構えていたのは、人間でも自然でもない、機械。
「モナー」という人間を知っていなければ、やはり、ここでおしまいだったに違いない。
そんな、いくつもの苦境を、一時間もしないうちに経験してきたのだ。
ショボーンならともかく、まだ成人すらしていないトソンが、それらに精神的に耐えられるはずもない。
.
- 582 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:16:32 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「…ついた。降りるよ」
(゚、゚;トソン「ま、待ってください」
チャイムではなく、ブザーが鳴って扉が開かれた。
二人は荷台を持ち、完全に扉が開かれたときに、ゆっくり引っ張る。
――二人にとって予想外だったのは、そこで肉声が聞こえたことだ。
「警部!!」
「よかった! ほんまに、よかった!」
(´・ω・`)「…え?」
ショボーンが顔だけを後ろに向ける。
すると、そこに
.
- 583 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:17:02 ID:6.gT5oTU0
-
(;´W`)「助かったのですね……」
爪'ー`)「さすがは、ぼくの見込んだ刑事だ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「よぅ言うわ。さっきまで泣き叫んどったクセに」
黒井シラヒーゲ。
大神フォックス。
榊原マリントン。
(∴)◎∀◎∴)「ぶ、ブジだっ――」
(゚、゚トソン「あ」
(∴)◎∀◎∴)
(∴);◎∀◎∴)「コポォwwwwwヒィwwwwwwwwwwww」
(゚、゚トソン「…逃げた」
(-@∀@)「騒がしいな……」
ヲタ、アサピー。
ホテルに招待された皆が、西のエレベーター前にまで集まっていたのだ。
歓喜と祝福で、なにやら騒がしい。
が、それは、心地の良い騒がしさだった。
.
- 584 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:17:33 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「…! みんな、来てたのか……」
( <●><●>)「応援も、きていますよ」
(´・ω・`)「へ」
荷台を引きずりだしながらその場に立つと、思いのほか冷え込みを感じた。
暖房が途絶えている上、ここは1Fである。それも仕方のないことだろう。
だがこのとき、ショボーンはとても寒さなど感じられなかった。
(;`・д・)ゞ「み、耳から血が!」
(;`・ー・)ゞ「なッ――死人が、こんなに!?」
(*`・∀・)ゞ「腕がなる!! いくぞてめぇらアアアアアアア!!」
( `・д・)ゞ「お…応!」
(´・ω・`)
(;´・ω・`)「―――! ま、待て! 死人は男性だけだ! それと搬送は待ってください!」
( <●><●>)「…え?」
.
- 585 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:18:03 ID:6.gT5oTU0
-
駆けつけたレスキュー隊が、荷台に載っている四人を全員運び出そうとした。
しかし、実際にモナーは死に、のーとガナーは銃創を負っている。
様態はどうであれ、いますぐにでも搬送しなければならないのだが――
ショボーンはまだ、彼らを搬送させるわけにはいかなかった。
( <●><●>)「警部。見たところ、流血沙汰があるじゃないですか。いますぐ、搬送させないと」
(´・ω・`)「いや……それじゃあ、だめなんだ」
( <●><●>)「え?」
(´・ω・`)「というのも――」
(;`・∀・)ゞ「くッくそ! ここに、オレたちの伝説を妨げるやつが!!」
(;`・ー・)ゞ「なんて、なんて非道! これがゲスの極み!」
(´・ω・`)「――まずはコイツらを黙らせてくれ!」
( <●><●>)「あーはい。すみません、ちょっと下がって――」
.
- 586 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:18:35 ID:6.gT5oTU0
-
そして、ショボーンはこのときになって疲労感が
押し寄せてきたのか、身体が重くなっていくのを感じた。
そのため、荷台に背を預けるように、しゃがみこんだ。
すると近くに、この騒ぎについていけないトソンがきた。
頬に汗を垂らし、「わけがわからない」と言いたげな顔をする。
ショボーンは笑った。
(´・ω・`)「……」
(゚、゚トソン「……」
なんとなしに、二人はその光景を見る。
ワカッテマスはレスキュー隊三人と情けない諍いを交わし
マリントンとフォックスも似たような諍いをして、シラヒーゲがそれを宥める。
アサピーは手帳を取り出し、なにやら大量の文章を書き上げていた。
ヲタは――近くの建物の陰から、トソンに熱く湿った視線を送る。
これで一応――最悪の事態は回避できたのだな、と、心の底から実感できた。
そのため、二人とも、意識せずとも柔和な笑みを浮かべた。
すると、レスキュー隊に勝ったワカッテマスが、やってきた。
ショボーンもそれに応じて立ち上がる。
トソンも、意味はなくとも立ち上がった。
.
- 587 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:19:06 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……で」
(´・ω・`)「ああ、そうそう。まずは報告からいこうか」
( <●><●>)「簡潔にお願いします」
(´・ω・`)「まず、制御室で爆発が起こった。ダイナマイトだ」
( <●><●>)「…!」
(´・ω・`)「で、逃げ道を封鎖された僕とトソンちゃんは、バーに向かった」
(´・ω・`)「バーに着くと――発砲事件。撃ったのは、レモナさんだ」
( <●><●>)「…」
(´・ω・`)「ガナーさん、レモナさんがともに気絶したのを好機に、僕はのーさんと対決したよ」
(´・ω・`)「ま、僕の完全勝利?」
(゚、゚トソン「よく言いますよ…」
( <●><●>)「あとで聞かせてください」
(゚、゚トソン「はーい」
(;´・ω・`)「! ちょ――と、とりあえずだ!」
.
- 588 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:19:36 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「とりあえず――そこからこの荷台を見つけて、このエレベーターで脱出してきた……
. こんなところかな」
( <●><●>)「下呂さんが、ハンニンで?」
(´・ω・`)「そうさ」
( <●><●>)「彼女は――」
(´・ω・`)「……荷台で、倒れている。おそらく、気絶しているんだろう」
そう言って、二人は荷台に横たわるのーを見る。
もう、暴れだしそうな気配は感じられなかった。
( <●><●>)「では、もう何もすることはないのでは――」
(´・ω・`)「……違うんだ」
( <●><●>)「?」
(´・ω・`)「のーさんは、確かにハンニンだ」
(´-ω-`)「……モナーさんを殺したこと、においてな」
.
- 589 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:20:09 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「…?」
( <●><●>)「……!」
ショボーンが意味深な声色で言う。
最初、ワカッテマスは彼の言いたいことがわからなかったが、じきに、その意味が理解できた。
そのため、徐々に顔が青くなっていく。
(; <●><●>)「ちょっと待ってください。
. 笑野さんを殺したのは……彼女じゃないというのですか!?」
(´・ω・`)「のーさんがプギャーさんを殺す動機は、ない。
. 彼女とプギャーさんは、いわば協力関係にあったんだから」
( <●><●>)「協力関係……」
(´・ω・`)「プギャーさんが副支配人になることで、
. アンモラルグループがWKTKホテルを操れるように、ってね。
. その点はのーさんから直接聞いたから、間違いない」
( <●><●>)「では、だれが―――」
ワカッテマスが当然のことを訊こうとしたとき
荷台のほうで、物音が聞こえた。
のそり、と、誰かが起き上がる音だ。
ショボーンとワカッテマス――と、レスキュー隊がそれを見遣る。
すると、この騒がしさで目が覚めたのか――
.
- 590 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:20:42 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ; ∀ )「……ッ、………?」
(´・ω・`)「……」
( <●><●>)「――?」
レモナが、目を擦りながら上体を起こした。
それを見計らって、ショボーンが手を差し伸べる。
レモナはその手の意味を理解したのか、意識が覚醒してから、その手に右手をのせた。
ショボーンはぎゅっと握って、そのままレモナを立ち上がらせた。
まだどこかふらついている。
目には依然、泣き腫らした跡が残っていた。
レスキュー隊が駆け寄ろうとするのを、ワカッテマスが制する。
彼は、ショボーンの眼を見て、いったいこれから彼がなにをするのか、わかったのだ。
.
- 591 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:21:12 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「……レモナ、さん?」
|゚ノ; ∀ )「……」
|゚ノ;^∀^)「………あ、ショボーンさん……」
(´・ω・`)「もう、大丈夫ですか?」
|゚ノ;^∀^)「じゃっかん頭に血が足りませんが……」
( `・∀・)ゞ「! 輸血パックだ! 輸血パックを用意しろ!」
( `・д・)ゞ「しかし、何型だ?」
( `・ー・)ゞ「この淑やかさ……わかった、Rh+Oだな?」
|゚ノ ^∀^)「? …あ、私は――」
(´・ω・`)「A型。違いますか?」
|゚ノ ^∀^)「――! ど、どうして……」
レスキュー隊が威勢のいい声を放って、近くのバッグのようなものから輸血パックをさがす。
その隙に、ショボーンはレモナと数メートルの距離を開けて、対峙した。
――自分が発砲したこと、覚えていないのか?
そう思うが、混乱のせいでそこらの記憶が飛んだのだろう、と割り切ることにした。
いまはそれよりも追究するべきことがあるのだ。
(´・ω・`)「とりあえず、レモナさん」
|゚ノ ^∀^)「は、はい」
.
- 592 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:21:45 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「あなたを、笑野プギャー殺害容疑で逮捕する」
.
- 593 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:22:15 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ^∀^)「…!」
(; <●><●>)「――ッ」
(゚、゚;トソン「え!?」
――先ほどまでお祭り状態という言葉がふさわしかったはずのこの場が
ショボーンがその言葉を放つときだけ、一瞬、静まり返った。
皆が、ショボーンと――レモナのほうに、視線を遣る。
当のレモナは、わけがわからない、と言いたげな顔をしていた。
.
- 594 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:22:47 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ^∀^)「な……なにを、急に……というか、プギャーさん、亡くなった……?」
( <●><●>)「ちょっと待ってください。
警部、彼女の精神はまだ安定しきっていません。いま、その話は――」
(´・ω・`)「今じゃないと……だめなんだ」
(´・ω・`)「ほかの誰にも邪魔のされない、いまじゃないと……」
( <●><●>)「……!」
そう言われて、ワカッテマスは黙った。
彼の声色の背景に、なにか黒く大きなものが居座っているのが感じ取れたのだ。
もっと具体的に表現するなら、ウラの世界で暗躍する――そんな、存在があることを。
.
- 595 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:23:19 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ;^∀^)「ま、まず、状況を説明してくださいよ」
(´・ω・`)「いいでしょう。ここでおさらいだ」
ショボーンは腕を組み、渋い顔をした。
(´・ω・`)「笑野プギャー、彼は突き落とされた。5F、制御室からだ」
( <●><●>)「そして2Fの露天風呂に直行、むき出しの岩に頭をぶつけて頭蓋骨損傷――
転落が、直接的な死因と言えるでしょう」
|゚ノ ^∀^)「転落……」
(´・ω・`)「が、この前に一度、犯人とプギャーさんは争っている」
( <●><●>)「笑野さんの首にあった赤い痕……
喉仏を重点的に絞め付けていたのを見ると、人の手によるものと見て問題ありません」
(´・ω・`)「まとめると、だ」
(´・ω・`)「犯人は5F、制御室でプギャーさんを絞め殺そうと――いや、気絶だけでいい。
. 気絶させようと思ったのか、首を絞めた。が、プギャーさんが抵抗。
. そのいざこざの結果か、プギャーさんが気を失ったか――まではわからないが、
. プギャーさんは5Fの窓から突き落とされた。ロックのかからない窓だ、問題ない」
.
- 596 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:23:52 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「で、彼の死体が回収できればよかったんだけど、……回収は」
( <●><●>)「申し訳ありません。生存者を避難させるだけで――」
(´・ω・`)「わかった。だろうなあ、と思ったよ。それこそが犯人の狙いなんだから」
( <●><●>)「……え?」
(´・ω・`)「わからないのかい? 犯人は、プギャーさんを突き落としただけじゃ済まなかった。
. 逃げる際……ダイナマイトを、設置したんだよ。それも、大量に」
( <●><●>)「…!」
(´・ω・`)「そして、逃げた。上に逃げたか、下に逃げたか……は、結果論でいうなれば上だ」
(´・ω・`)「レモナさん、あなたが犯人だからだ」
|゚ノ ^∀^)「……」
(´・ω・`)「じゃあ、僕がレモナさんを逮捕する理由を話す」
(´・ω・`)「文句があったら、言い返していいからね……レモナ、さん」
|゚ノ ^∀^)「………」
.
- 597 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:24:26 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「犯人は、いま僕が言った手順で犯行を進めた」
(´・ω・`)「が、この計画を進める上でひとつ、問題となるものがある。それはなんだ?」
( <●><●>)「言うまでもありません。『ダイナマイト』です」
( <●><●>)「この国で一般人がダイナマイトを手に入れようものなら、
かなり面倒な手順が必要となりますからね」
(´・ω・`)「だが、犯人はダイナマイトを簡単に用意できた」
|゚ノ ^∀^)「……私が用意した、と?」
(´・ω・`)「いや、違う」
( <●><●>)「え?」
当然肯定する――かと思えば、ショボーンは否定した。
思わず、ワカッテマスは疑問に思った。
が、それもすぐ納得した。
.
- 598 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:24:56 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「あなたは、なにもダイナマイトを用意する必要がなかった。
. ……たまたま、譲り受けていたのを使っただけなんだから」
|゚ノ ^∀^)「…っ」
( <●><●>)「ちょっと待ってください。
譲り受けた……と一言におっしゃいますが、なにを根拠に」
(´・ω・`)「思い出せよワカッテマス。僕たちが、このホテルにきた当時のことを」
( <●><●>)「……?」
(´・ω・`)「僕が、レモナさんの案内でホールにきて……だ」
(´・ω・`)「フォックスさんとの会話、そこに答えがあった」
|゚ノ ^∀^)『今回のホテル建設に際しまして、オオカミさんにはいろいろ援助してもらったんですよ』
(´・ω・`)『ほう。具体的には』
爪'ー`)『トンネル開通用などで使うウチのダイナマイトとか。余るほど提供したよ』
( <●><●>)「……あ!」
|゚ノ ^∀^)「……」
.
- 599 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:25:27 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「あなたは、そのダイナマイトを利用することを思いついた。
. 秘書、という立場なら、難なくそのダイナマイトを用意することができたでしょう」
|゚ノ;^∀^)「だ、だとしたら工事担当の人に断らないといけな――」
(´・ω・`)「ダイナマイトは、『余るほど』提供されたんだ。
. それに、ホテルが建設された時点で、もうダイナマイトは用済み。
. あなたは、危機管理の目さえかいくぐれば、意図も容易くそれを用意できたんだよ」
|゚ノ;^∀^)「そ…それなら、私だけじゃない!
ほかの人も、ダイナマイトを手に入れることができる!」
(´・ω・`)「というと?」
|゚ノ;^∀^)「プギャーさんと、フォックスさんですよ!」
爪;'ー`) !?
(´・ω・`)「……まず、可哀想だからフォックスさんのほうから証明しよう」
(´・ω・`)「フォックスさん、彼にはカンペキなアリバイがあるんだよ」
(´・ω・`)「なあ、ワカッテマス?」
( <●><●>)「ええ。爆発の前――でしたら、私は彼と一緒にいました。
途中で数分離れましたが、その数分間では当時2Fにいた彼に犯行は不可能だ」
|゚ノ;^∀^)「あらかじめ、制御室にしかけてたってことは……」
(´・ω・`)「?」
.
- 600 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:25:58 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ;^∀^)「あらかじめ、フォックスさんはダイナマイトを
あの時間に爆発するようにセットしておいた」
|゚ノ ^∀^)「それと、プギャーさんの件とが偶然重なった……とは、考えられませんか」
(´・ω・`)「…っ……」
そのとき、ショボーンは軽い戦慄を覚えた。
なにも、この反論が的確だから、ではない。
レモナの内面を、かいま見れたような気がしたからである。
彼女は、気絶からの立ち直りで不調を訴えているが、それは建前なのではないか。
その裏では――
(´・ω・`)「……ここでのポイントは、場所が制御室だってことさ」
|゚ノ ^∀^)「?」
(´・ω・`)「『場所が制御室であること』による、問題。ワカッテマス、答えてみろ」
( <●><●>)「言われるまでもありません」
( <●><●>)「『鍵が盗まれていた』……に尽きます」
.
- 601 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:26:30 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「ああ。ということは、この『鍵を盗んだ人』が『ダイナマイト』をセットし、
. また『プギャーさんを殺した犯人』である、となる」
( <●><●>)「鍵、ダイナマイト、そして動機……
この犯行を可能にしたのは、この三つが条件となりますね」
|゚ノ ^∀^)「だから、何……」
(´・ω・`)「レモナさん。精神に堪えると思いますが……」
(´・ω・`)「この三つを満たせたのは、あなたしかいないんだ!」
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=MDyUvZkJiSc
.
- 602 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:27:03 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ;^∀^)「…!」
( <●><●>)「……」
(゚、゚;トソン「れ、レモナさんが…?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「しかし、『鍵』はなんだったんですか!
ひょっとすると、ワタシがただボケただけかもしれないのですぞ!」
(´・ω・`)「(自分で言うなよ…)」
(´・ω・`)「……そう、『鍵』だ。ここで、『犯人がいつ鍵を盗めたのか』を考えてみればいい」
( <●><●>)「確か、あれは榊原さんが……」
.
- 603 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:27:39 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)『ちなみに、この鍵はどこに置いていたのですか』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『倉庫ですわ、倉庫』
(´・ω・`)『最後に鍵を確認したのは、いつですか』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『16時ちょい過ぎ……だったと、記憶しとります』
(´・ω・`)「彼がホールを去った16時頃から、戻ってくる17時半まで――
. となるのですよ」
|゚ノ;^∀^)「それなら、盗めた人はいくらでもいるじゃないですか!
フォックスさんも、のーさんも、そして……あなたも」
(´・ω・`)「確かに、この条件だけなら、ね」
( <●><●>)「! まだあったのですか?」
.
- 604 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:28:09 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「まず、フォックスさんやのーさんにスポットを当てよう。彼らがホールを出たのはいつかな?」
(゚、゚トソン「……あ! 警部たちが去ったあと、です!」
(´・ω・`)『僕たちが来たときは、ホールにはフォックスさんやのーさんもいた気がするけど……
. あの人たちは、どうしたの?』
(゚、゚トソン『あ、ああ……。警部たちが出て行ったところで、レモナさんとガナーさんが
. 「私たちも準備をはじめましょうか」ってなったので、ホールに残っていたほかの皆さんも出て行きましたね。
. だから、以降から17時半にあのおじいさんが来るまでは、ほかには誰も来ませんでした』
(´・ω・`)「そう。そして、これと同時に、倉庫はある人が入り浸るようになった」
(´・ω・`)「あなただ、レモナさん」
|゚ノ;^∀^)「……!」
( <●><●>)「ちょっと待ってください。それだけでは、まだ弱いです。
彼女が倉庫からでていた隙に、盗み出せた可能性も……」
(´・ω・`)「そもそも、だ」
( <●><●>)「!」
(´・ω・`)「『鍵が倉庫にあった』とは、誰も知らなかったはずなんだよ」
.
- 605 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:28:42 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)『ちなみに、この鍵はどこに置いていたのですか』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『倉庫ですわ、倉庫』
(´・ω・`)『倉庫……料理が運びこまれてた、とか言う?』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『そーそー。いつもはスタッフルームに置いとくんですが、今日だけ臨時で置いてたんですわ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『モナーさんにバーの鍵を渡したんで憶えとりますわ』
(´・ω・`)『わかりました』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『いやね、あんたのホテルでしょーから勝手にもってけばええじゃないですか言うたら、
「おまえに任せてるから、どこにあるかわかるはずないモナー」、ちゅーんですよ』
(´・ω・`)『鍵は、どこにあった?』
(゚A゚*;)『……な、なんや…そーゆーことか』
(゚A゚* )『マリントンさんが、常に持ち歩いてんねんやろ?』
.
- 606 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:29:13 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ;^∀^)「―――ッ!!」
(´・ω・`)「もともと関係者に『鍵のありか』を知らされていたとして、
. 彼らが知っている『鍵のありか』はスタッフルーム!」
(´・ω・`)「今日は、特別な日だ。スタッフルームも閉めることになっていたから、
. マリントンさんは臨時で、また『独断で』倉庫に鍵を置いておくことにした」
(´・ω・`)「関係者ののーさんはおろか、モナーさんですら知らなかった『鍵のありか』!
. どうして、フォックスさんや僕が知ることができたっていうんですか?」
|゚ノ;^∀^)「………ぐ……」
(´・ω・`)「……だが。レモナさんだけは、違う。
. 唯一、誰にも言われずに『鍵のありか』を知ることができた人物なんだ」
( <●><●>)「倉庫を出入りしていた……確かに」
.
- 607 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:29:45 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ;^∀^)「……『鍵のありか』を知っていたから、というだけで犯人だ、
っていうのはいささか横暴ではありませんこと?」
(´・ω・`)「ダイナマイトの件もそうだ。仮にマリントンさんなどほかの人が鍵を盗んだとして、
. ダイナマイトを用意することはできなかった。できたとしても、調べればすぐわかる」
(´・ω・`)「あなたは、あらかじめ倉庫で制御室の鍵を盗んだ。
. ……そして、のちに。プギャーさんを、制御室に呼び出した」
|゚ノ;^∀^)「な、なにを根拠に……」
( <●><●>)「そうです。確かに鍵とダイナマイトには説明がいきますが、
どうして彼女が殺害を犯す必要があったのか。その立証が、必要となります」
(´・ω・`)「ああ、そうだ。……動機なんて、簡単だよ」
(´・ω・`)「プギャーさんが裏切り者であると、知ってしまったんだ」
.
- 608 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:30:16 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「……なんだと!?」
|゚ノ;^∀^)「……なんのことだか、さっぱりです!」
(; <●><●>)「警部は下呂さんから聞き出せたとして、だ。
. どうして、レモナさんが笑野さんと下呂さんの関係を知ることができたんですか!」
(´・ω・`)「確かに僕は、のーさん自身から聞いたさ。でも――」
(´・ω・`)「今日、僕が聞いたとき以外で、もう一度だけ、二人の関係を知る機会があった」
(´・ω・`)「そしてレモナさんは、それを聞いてしまったんだ!」
|゚ノ;^∀^)「ッ!」
(; <●><●>)「ちょっと待ってください! いったい、いつ、どこで、誰がそんな話を!」
(´・ω・`)「……プギャーさんと、シラヒーゲさんだ」
.
- 609 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:30:48 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「……なんだと!?」
|゚ノ;^∀^)「……なんのことだか、さっぱりです!」
(; <●><●>)「警部は下呂さんから聞き出せたとして、だ。
. どうして、レモナさんが笑野さんと下呂さんの関係を知ることができたんですか!」
(´・ω・`)「確かに僕は、のーさん自身から聞いたさ。でも――」
(´・ω・`)「今日、僕が聞いたとき以外で、もう一度だけ、二人の関係を知る機会があった」
(´・ω・`)「そしてレモナさんは、それを聞いてしまったんだ!」
|゚ノ;^∀^)「ッ!」
(; <●><●>)「ちょっと待ってください! いったい、いつ、どこで、誰がそんな話を!」
(´・ω・`)「……プギャーさんと、シラヒーゲさんだ」
.
- 610 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:32:03 ID:6.gT5oTU0
-
(;´W`)「…え?」
(-@∀@)「……そうか!」
(´・ω・`)「アサピーさんはわかったみたいだな」
(; <●><●>)「なにがあったというのですか!」
(´・ω・`)「今日、喫茶店でプギャーさんとシラヒーゲさんが密談を交わしていた。
. ……その内容から推理すれば、自然とわかるんだよ。
. 『プギャーが裏切り者である』ということが」
(´・ω・`)「おそらくレモナさんは、二人が密談するのを知って、
. 陰に隠れてその話を盗み聞きしたんだ」
(; <●><●>)「しかし、何を根拠に、レモナさんがその場に居合わせていた、と」
(´・ω・`)「二つの証言の、食い違いをたどるんだ」
( <●><●>)「…え?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『ワタシがここに入るときにね、陰に人のケハイっちゅーの、感じたんですわ』
( <●><●>)「はあ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『で、この人も、ワタシが来る少し前まではプギャーさんと話しとったんですが、
どーやら人のケハイを感じてたみたいなんですよ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『なるほど、あの記者が隠れておったか。そりゃー感じるわ、ケハイ』
.
- 611 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:32:34 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「…? なにが、おかしいのでしょうか」
(´・ω・`)「順を追おう。まず、シラヒーゲさんが密談中に感じた、『人のケハイ』だ」
( <●><●>)「言うまでもない。この記者でしょ」
(-@∀@)「……」
(´・ω・`)「では一方で、マリントンさんの感じた、『人のケハイ』は?」
( <●><●>)「…? 一緒に決まってるじゃないですか」
(´・ω・`)「おかしいんだよ、それだと」
( <●><●>)「え?」
(´・ω・`)「まず、アサピーさんだ。彼は、密談が終わったとき、すぐにプギャーさんの後を追った」
(´・ω・`)「これに問題はないな?」
( <●><●>)「そりゃ」
(´・ω・`)「一方で、マリントンさんが喫茶店に『入るとき』に感じた『人のケハイ』。
. これを考えてみれば、わかる」
( <●><●>)「『入るとき』……?」
( <●><●>)「……!」
(; <●><●>)「あ…あああああああああああああッ!!」
(´・ω・`)「わかっただろ? この『人のケハイ』は、アサピーさんではありえないんだ!」
.
- 612 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:33:05 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ;^∀^)「どういうことですか!」
(´・ω・`)「問題となるのは、『いつアサピーさんが喫茶店を発ったか』だ」
(´・ω・`)「アサピーさんは、プギャーさんを追った。それは、いつか」
(´・ω・`)「プギャーさんが、喫茶店を出て――すぐ。そうでなければ、話があわなくなる」
(´・ω・`)「マリントンさんは、『階段で』プギャーさんとすれ違った。
. このときには既に、アサピーさんはプギャーさんを追いかけていたんだ」
(; <●><●>)「し、しかし! 榊原さんは、アサピーさんを見ていません!」
(´・ω・`)「アサピーさん。……そのときは、どちらに」
(-@∀@)「………答えるしか、ないようですね。いいでしょう」
(-@∀@)「私は、喫茶店から彼が出て行ったのを見て、足音を殺して向かった。
もし私が取材をしようとしているのがばれたら、逃げられますからね」
.
- 613 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:33:42 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「ということは……」
(-@∀@)「彼が階段に差し掛かったところで、彼は――振り向いた。
私のケハイを察知したのでしょう。しかし、私はそこで見つかるわけにはいかなかった。
まだ、距離が十メートルはありましたから。いくら私でも、逃げられる。そう思ってね」
(´・ω・`)「そのときにアサピーさんは隠れて、なんとかプギャーさんの視界からはずれることができた」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「…! じゃ、じゃあワタシが階段ですれ違うたときは――」
(´・ω・`)「問題は、足音です。アサピーさんはきっと、マリントンさんの足音を
. 『こちらに引き返してくるプギャーさんだ』と勘違いした。
. だから、自分の隠れている場所に来るまで、息を殺していたのでしょう」
(´・ω・`)「……だが、違った。やってきたのはマリントンさんで、
. アサピーさんの隠れていることなど知りもせず、まっすぐ喫茶店に向かった。
. だからアサピーさんは、大急ぎでプギャーさんのところに向かった。違いますか?」
(-@∀@)「……やはり、ショボーン警部は違いますね。そのとおりです」
|゚ノ;^∀^)「…………」
.
- 614 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:34:14 ID:6.gT5oTU0
-
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「しかし……それとレモナさんと、どう関わってくる?」
(´・ω・`)「まだ、『二つの証言の食い違い』に触れていません。
. ここで問題となるのは、マリントンさん、あなたの証言だ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「え?」
(´・ω・`)「あなたが『人のケハイ』を感じたのは、『喫茶店に入るとき』でしたよね?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「そーですが……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……! ま、待ってくだされ! じゃあ――」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ワタシの感じた『人のケハイ』は、いったい誰だったと言うんですか!!」
.
- 615 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:34:45 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ;^∀^)「ッ!!」
(-@∀@)「…なに?」
(´・ω・`)「そう。人数が、合わなくなるのです。これはなぜか?」
(´・ω・`)「あのとき――」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『ワタシがここに入るときにね、陰に人のケハイっちゅーの、感じたんですわ』
( <●><●>)『はあ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『で、この人も、ワタシが来る少し前まではプギャーさんと話しとったんですが、
どーやら人のケハイを感じてたみたいなんですよ』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『なるほど、あの記者が隠れておったか。そりゃー感じるわ、ケハイ』
(´・ω・`)「シラヒーゲさんとプギャーさんの密談を聞いていたのは、『二人いた』んだ!」
.
- 616 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:35:19 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「な、なんだと……?」
(-@∀@)「……だから、か」
(´・ω・`)「おそらくあなたは、不思議に思ってたのでしょ?
. 『どうしてケハイを察知されたのだ』と」
(-@∀@)「当然。私がそのようなヘマを犯していたなど、考えられなかったのですよ。
しかし、そこにもう一人いた、と考えれば、納得できる」
|゚ノ;^∀^)「……それが私だった、なんて考えるおつもりですか?」
(´・ω・`)「ええ。あのときのプギャーさんの言葉を聞いて、あなたは確信したんだ」
(´-ω-`)「『笑野プギャーは、アンモラルグループからのスパイである』と」
.
- 617 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:35:50 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚;トソン「――あ! 警部、でもそれはありえないですよ!」
(´・ω・`)「なぜだ」
(゚、゚;トソン「その時間帯、教えてください!」
( <●><●>)「私たちが来た、つまり密談が終わっていたのは……17時頃」
( <●><●>)「……! 警部、確かにありえません! 彼女には決定的なアリバイがあります!」
(´・ω・`)「なにが?」
( <●><●>)「レモナさんは、16時半過ぎから、ずっとホールにいた!」
( <●><●>)「その間、彼女が持ち場を離れていては、すぐにガナーさんと都村さんにばれます!」
|゚ノ;^∀^)「……」
.
- 618 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:36:23 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「……そう、それ」
( <●><●>)「…?」
(´・ω・`)「それとはまた別の、同時刻に起きた妙なできごと」
(´-ω-`)「ずっと、頭にひっかかっていた、『あるハプニング』があるんだけど」
(´・ω・`)「それが、密談を聞いていた『もう一人の存在』を明示していたんだ」
( <●><●>)「なんですって…? そのハプニングとは、いったい、なんですか!」
(´・ω・`)「……トソンちゃん、ごめん」
(゚、゚トソン「え?」
ショボーンはぼそっと、トソンにそう言った。
トソンが理解する前に、ショボーンは続けた。
(´・ω・`)「実を言うと、レモナさんに、その時間帯のアリバイは――ないんだ」
.
- 619 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:36:53 ID:6.gT5oTU0
-
(; <○><○>)「ッ!?」
(゚、゚;トソン「え…ええええええッ!? いや、でも――」
(´・ω・`)「17時以降は、確かにレモナさんのアリバイは確認されている。
. でも、それまではレモナさんの存在を、トソンちゃんは断言できなかった。
. トソンちゃん、それはなぜかな?」
(゚、゚;トソン「え……そ、その」
(゚、゚トソン「お皿を……割ってしまって」
( <●><●>)「皿…?」
(´・ω・`)「そう。ここで一度、お皿のハプニングを思い出してほしい」
.
- 620 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:37:24 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚トソン『17時』
(´・ω・`)『17時?』
(゚、゚トソン『そのときまでは、レモナさんは倉庫から料理やテーブルなどを出して、
. ガナーさんはそれを並べて……って、忙しかったんです。
. ひと段落あって、落ち着いたあたりからは、レモナさんも一緒だった、って断言できます』
(´・ω・`)『17時ねぇ……』
( <●><●>)『一応、アリバイは成立ですね。しかし、都村さん』
(゚、゚トソン『はい?』
( <●><●>)『いくら忙しい、といっても、レモナさんが料理をだして、それをガナーさんが並べて……なら
その受け渡しの段階で、互いに顔を見合わせるか、その作業している背中を見るはずです。
どうして、それがわからなかったのですか?』
.
- 621 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:37:58 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚;トソン『確かに、私は力がないですよ? でもですね』
(゚、゚;トソン『食器って、ほら、軽いって思うじゃないですか!』
(゚、゚;トソン『レモナさんとガナーさんのお手伝いをしようと、皿がいっぱい』
(゚、゚;トソン『載ったワゴンを気合をいれて押そうと思ったんですがね、ほら』
(゚、゚;トソン『なんというか、なにかにつまずいたらしくて? いや』
(゚、゚;トソン『私はつまずいてないですよ。ワゴンの駒が、なにかにひっかかった』
(゚、゚;トソン『みたいなんです。それも、押した瞬間にひっかかったもの』
(゚、゚;トソン『だから、私の体重とかけていた力が一気にワゴ』
(´・ω・`)『つまり、皿を割っちゃったんだね』
( 、 ;トソン『〜〜〜ッ!! 割った、なんて作為的なものではなくてですね、
. ほら偶発的というか、事故というか――』
.
- 622 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:38:29 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……?」
(´・ω・`)「トソンちゃんのこのハプニングで、トソンちゃんとガナーさんは掃除に駆り立てられた。
. だから、掃除にひと段落がつく17時頃まではレモナさんには構えなかった、と捉えるべきなんだ」
(´・ω・`)「だから、レモナさんはその隙に倉庫を抜け出して、喫茶店で例の話を盗み聞きした」
( <●><●>)「警部。ひとつ、決定的な見落としがあります」
(´・ω・`)「なんだ」
( <●><●>)「都村さん自身が言っています。これは、言ったら『偶発的』なハプニングだったんですよ」
( <●><●>)「仮にレモナさんがこの隙に逃げ出すことが可能だったとして、
『計画的』にハプニングを引き起こすことはできないのです」
(´・ω・`)「言いたいことはわかる。つまりグーゼンじゃねーか、ってことだろ?」
( <●><●>)「ム……そうですが」
(´・ω・`)「残念だが、これは『偶発的』なんてモンじゃない」
(´・ω・`)「きちんと、『計画的』に引き起こされたハプニングだったんだ」
.
- 623 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:39:00 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「なんですって…?」
(゚、゚;トソン「っ! わ、私、なにもしてないから! ほんとです、ホント――」
(´・ω・`)「違う。トソンちゃんは、なにもしてない」
( <●><●>)「…! つまり、『どこかにこのハプニングが仕組まれていた』ということですね」
(´・ω・`)「そう」
( <●><●>)「しかし、どこにそんな――」
(´・ω・`)「考えろよ。僕が、ずっとこのハプニングを不思議に思っていた理由を」
( <●><●>)「――というと?」
(´・ω・`)「このハプニングには、決定的におかしいところがある」
.
- 624 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:39:30 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚;トソン『なんというか、なにかにつまずいたらしくて? いや』
(゚、゚;トソン『私はつまずいてないですよ。ワゴンの駒が、なにかにひっかかった』
(´・ω・`)『(あのホールに……「つまずくもの」なんて、あったか…?)』
(´・ω・`)「『つまずくもの』がないのに、トソンちゃんは『なにかにつまずいた』――この、矛盾だ」
( <●><●>)「しかし、都村さんが張り切りすぎてバランスを崩した、とかは考えられないですか」
(´・ω・`)「確かに、ガナーさんもそう証言していた。だが」
( ‘∀‘)『運ぼうとワゴンを押した瞬間、ワゴンが横転したんですよ』
(´・ω・`)「それだと、少し前に進んで、したがって横転する。
. でもな、ガナーさんもトソンちゃんも、ちゃんと断言してるんだよ」
(´・ω・`)「そうだな、この二つの証言をつなぐと、こうだ」
(´・ω・`)「『運ぼうとした瞬間』に『なにかにひっかかった』から、ワゴンは横転した」
.
- 625 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:40:04 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「………?」
(; <○><○>)「……ッ!! まッ、まさか…!!」
(゚、゚;トソン「え、え…? なに? どういうこと?」
(´・ω・`)「トソンちゃん。お皿のハプニングは、君のせいで起こったんじゃない」
(゚、゚トソン「え…?」
(´・ω・`)「君の運ぼうとした……それも、大量の皿を載せたワゴン。それには、『ある仕掛け』があったんだ」
(´・ω・`)「コマに、ストッパーがかけられていた」
.
- 626 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:40:50 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚トソン「……!」
(´・ω・`)「レモナさんが倉庫から皿の載ったワゴンを運びだしたあと、
. 何者かがそのワゴンの前輪、それも片方にストッパーをかけたんだ」
(´・ω・`)「そうとは知らず、君は思いっきりワゴンを押した。すると、どうなるか――」
(゚、゚トソン「……横転……ッ」
(´・ω・`)「そう。結果、大量のお皿が割れて、その後処理に二人は駆り出される。
. 犯人はその隙をうまく衝いて、4F――密談の現場に向かったんだ」
(゚、゚;トソン「で、でも、どうしてレモナさんが……」
(´・ω・`)「さっき、僕はわざと『犯人』と言ったけど……言うまでもない。
. この現状において、ワゴンにストッパーをかけられるのは、レモナさんしかいないんだよ」
|゚ノ; ∀ )「…………」
(´・ω・`)「そうやって、レモナさんはホールを抜け出した」
( <●><●>)「しかし、その証拠はあるのですか?」
(´・ω・`)「直接的な証拠は――ない」
( <●><●>)「では――」
(´・ω・`)「しかし、だとすると『あのこと』にも合点がいく」
( <●><●>)「――え?」
.
- 627 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:41:35 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)『ツイてないや』
( <●><●>)『誰かがホールに向かったのですね」
(´・ω・`)「僕たちが喫茶店に向かうとき――そう、17時頃。何者かが、エレベーターを使っていた」
(´・ω・`)「それも、1Fや2Fではない。9Fより上のフロア――メインホールだ」
( <●><●>)「大神さんの可能性は……」
爪;'ー`)「! ぼ、ぼくはレストランにはいきましたよ。ええ、エレベーターでね!」
( <●><●>)「この通りですが」
(´・ω・`)「いろいろズレてしまうんだ、それだと。
. まず、彼がエレベーターに乗ったとしたら、それは16時半過ぎの話。
. しかも、乗るとしたらメインホールからだ。9Fにランプがともされるのは、おかしい」
( <●><●>)「じゃ、じゃあ……」
(´・ω・`)「レモナさん……しか、ありえないんだ。時間も、行き先も、結果論的にも」
|゚ノ; ∀ )「……ッ、……」
.
- 628 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:42:18 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「これで、ここまでで見つかった全ての謎をつなぐことができた」
(´・ω・`)「あなたは、プギャーさんの秘密を知ってしまった。だから――」
(´・ω・`)「モナーさんの事件後、唯一人を突き落とせる制御室で……彼を、殺した」
BGMここまで
.
- 629 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:42:49 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ; ∀ )
(; <○><○>)
(゚、゚;トソン
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ
(-@∀@)
(´・ω・`)「……以上、だ」
.
- 630 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:43:40 ID:6.gT5oTU0
-
ショボーンが言うと、その場にいた人々は、
いったい先ほどのお祭り騒ぎはなんだったのだ、と思いたくなるほど、一斉に静かになった。
発言する言葉があるかないか、以前に
そもそも発言したくない、できない、させてくれない――
そんな空気が、その場に充満していたのだろう。
ショボーンにとっては、いつものことだった。
( `・д・)ゞ「…ん?」
その静寂を最初に破ったのは、なんとレスキュー隊だった。
レモナのほうに目を遣ったとき、彼らはようやく見つけたのだ。
ガナーの手のひらあたりに見えた、血痕を。
(;`・ー・)ゞ「――ッ! おい、アレ…」
( `・∀・)ゞ「ポンチョ、いますぐ手当ての用意だ!」
( `・д・)ゞ「おう!」
レスキュー隊は一斉に動き出した。
その飄々とした、まるで緊張感を感じさせない三人ではあるが
その動きの俊敏さ、コンビネーションの巧みさを見れば、確かにレスキュー隊であると思わせられた。
忘れてた――
なんてショボーンが思っているうちに、ガナーへの応急処置が施された。
続けて、のーの応急処理が。こちらは腕であるため、ガナーのよりも手当てはじゃっかん遅れた。
.
- 631 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:44:15 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……警部」
( ;´・ω・)「ん?」
( <●><●>)「さっきの搬送するかどうかのとき……
手当てだけでもさせておいたほうが、よかったのでは」
( ;´・ω・)「は、ハハ……本部には黙っといてくれ」
( <●><●>)「ったく……命に別状がないから、いいものの」
( `・д・)ゞ「ちなみに、拳銃は……」
(´・ω・`)「ああ、僕が預かっている。鑑識がきたら、渡すよ。……で、鑑識は?」
( <●><●>)「キタコレ県警は遠く、もう少しかかるそうです。
所轄署は出動するにできなかった状況で、同じく」
(´・ω・`)「……いまのうちに、レモナさんに罪を認めさせるんだ」
ショボーンが、耳打ちして言った。
ワカッテマスは疑問符を浮かべた。
.
- 632 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:44:51 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「しかし、鑑識を待ったほうが手っ取り早く犯行を証明できるのでは」
(´・ω・`)「それじゃあ彼女は『やむなく認めた』ってことになる。
. そうじゃない。僕は、あくまでここで、それも彼女の自白で事を済ませたいんだ」
( <●><●>)「解せません。なぜ、人がいない今にこだわるんですか。さっきも……」
( <●><●>)『ちょっと待ってください。
警部、彼女の精神はまだ安定しきっていません。いま、その話は――』
(´・ω・`『「今じゃないと……だめなんだ』
(´・ω・`)『ほかの誰にも邪魔のされない、いまじゃないと……』
( <●><●>)『……!』
(´・ω・`)「……それは、今にわかる」
( <●><●>)「しかし……ん?」
.
- 633 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:45:23 ID:6.gT5oTU0
-
( ; ∀ )「……、……?」
(´・ω・`)「ガナーさん」
( ;‘∀‘)「……あれ? 私……」
ワカッテマスが追究しようとすると、ガナーが起き上がった。
手当てをされたり、周囲であれほど騒がれたりしたため、目を覚ますのはむしろ当然だった。
ショボーンがレモナのときと同じように、手を差し伸べる。
ガナーの覚醒ははやかったようで、「あ、すみません」と言ってからその手を受け取った。
( ‘∀‘)「えっと……なにが…?」
ガナーが周囲を見渡して最初に言ったのは、それだった。
自分は先ほどまで、バーにいたはず。
それが、気がつけばまったく別の場所にいて、しかも皆がそろっている――
どころか、血の気が盛んな三人組までいるのだ。
疑問符を浮かべないはずがないだろう。
そして、ガナーは丁寧に処置を施された銃創を見て、ようやく記憶が正常に動き出したようだ。
「あっ」と小声をあげては、近くにいるレモナを見て、一歩後退した。
.
- 634 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:45:54 ID:6.gT5oTU0
-
( ‘∀‘)「……レモナ、さん…?」
|゚ノ ∀ )
思い出したことで傷が疼いたのか、包帯を手で押さえて、呼びかける。
しかし、応答はなかった。
ただ呆然と立ち尽くしては、うつむいていた。
ガナーは撃たれたにもかかわらず、
彼女にそこまで強い恐怖はいだいていなかったようだ。
(´・ω・`)「……さて、ワカッテマス」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「僕は、まだここで彼女を逮捕しない。その理由は、わかるか?」
( <●><●>)「犯人に自ら罪を認めさせ、円満に――」
――答えようとして、返ってきたのはショボーンのため息だった。
ワカッテマスは「あれ」と思った。
(´・ω・`)「いつもはそうだが、今は違う」
(´・ω・`)「まだ、立証されてないことが……あるんだ」
.
- 635 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:46:24 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……なんですって!?」
(゚、゚;トソン「え…でも、警部、いまあんなにはきはきと――」
ワカッテマスもトソンも、似たような反応を見せる。
しかし、ショボーンはぽつり、ぽつりと言葉を落とすだけだった。
(´・ω・`)「……まだひとつ、謎があるんだ」
(´・ω・`)「僕はその謎の示すところを、ほぼ確信している」
(´・ω・`)「だが、僕一人の力じゃ、それをカンペキには立証できない」
( <●><●>)「……警部。一応うかがいます」
ワカッテマスが、腕を組みながら、言う。
( <●><●>)「その、最後の謎。それは、なんですか?」
.
- 636 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:46:55 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「いまの、一見一本につながった、ロジック。
. ……そのなかにひとつ、『前提が満たされてないもの』があるんだ」
( <●><●>)「ハ?」
(´・ω・`)「わからないか。その調子じゃ、いつか誤認逮捕するぞ」
( <●><●>)「……もったいぶっているうちに、応援の人がきますよ。言うなら、早く」
( ;´・ω・)「あのなァ」
ショボーンは呆れたような顔をした。
しかしワカッテマスが言うことも事実だ。
ショボーンは「しかたない」とぼやいてから、本題に入った。
(´・ω・`)「……不思議に思わないのか?」
( <●><●>)「なにを」
(´・ω・`)「『どうして、レモナさんは密談を聞こうと思ったのか』だよ」
.
- 637 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:47:30 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……! た、確かに」
(´・ω・`)「アサピーさんのほうは、理由がなかろうとナットクできる」
(-@∀@)「……なかなか、失礼なことをおっしゃいますね」
(´・ω・`)「――が、レモナさんの場合は別だ。
. 二人に美術品の件で話がされる、というのをあらかじめ知っていても、
. 別になにも思わないはずなんだ。秘書として、もともと知っていることなんだから」
( <●><●>)「それもそうです。どうして、レモナさんは密談を盗み聞きしようとしたのですか」
(´・ω・`)「それが、この事件の根底に横たわるんだよ」
( <●><●>)「この事件、というと」
(´・ω・`)「プギャー殺害……よりも、前」
(´・ω・`)「そして、モナー殺害……よりも、前だ」
( <●><●>)「……」
(; <●><●>)「………いま、とんでもないことを言いませんでした?」
(´・ω・`)「なに?」
.
- 638 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:48:00 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「モナー殺害よりも……前ですって!? いったい、どういう……」
(´・ω・`)「……ごめん、それはあとにさせてくれ」
(; <●><●>)「しかし――」
ワカッテマスの当然の質問を、ショボーンがどうしてか遮る。
腑に落ちないワカッテマスではあるが、ショボーンが強引に話を戻した。
自分で切り出しておいて――とワカッテマスは思った。
ショボーンは、レモナと再び対峙した。
レモナは、うつむいている。が、生気を失ったわけではない。
なにも言えないし、動けない。そんな状況なのだろう、とわかった。
だから、ショボーンのほうから口を切った。
しかし、相手は、向かい合っているレモナにではなく隣のワカッテマスに、だ。
(´・ω・`)「さっきの『最後の謎』の答えは、簡単だ」
(´・ω・`)「僕の推理がただしければ――レモナさんは、薄々感づいていたんだよ」
(´・ω・`)「プギャーさんとアンモラルとがつながっていたことを」
(´・ω・`)「……なぜなら、レモナさんは、おそら――」
.
- 639 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:48:39 ID:6.gT5oTU0
-
「待って!!」
( <○><○>)「!」
(゚、゚;トソン「!」
(´・ω・`)「…ッ」
( ;‘∀‘)
( ;‘∀‘)「……どうしたんですか…?」
.
- 640 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:49:10 ID:6.gT5oTU0
-
( ;‘∀‘)「れ、レモナ……さん……」
|゚ノ ;∀;)「言わないで! お願い!」
(´・ω・`)「…くっ」
――ショボーンが続きを言おうとしたとき、レモナはショボーンに飛び掛った。
―――ナイフを、喉元につきつけて。
.
- 641 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:49:42 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「――警部ッ!!」
(゚、゚;トソン「警部…!?」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「なッ……」
(;´W`)「また――」
爪;'д`)「ななッナイ――ナイフッ!!」
その場にいた皆に、戦慄が走った。
せっかく和やかになり、皆の緊張が解けてきたときに、だ。
その銀色に輝く鋭利なナイフは、皆に再び恐怖を与えるのに、充分すぎるものだった。
.
- 642 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:50:12 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;∀;)「……認めッ、…る…! 認める、か…ら……言わないで……ッ!!」
(´・ω・`)「……認める、とは、なにを?」
かつて、のーとガナーを撃ったときと同じように
レモナは目から大粒の涙を流し、ナイフを突きつけながらも、そう言った。
ひび割れ、涙で震えた声を、なんとかしぼりだして。
一方のショボーンは、対照的に、すっかり落ち着いていた。
いや、落ち着いていないと、このように激情した相手の対応などできないのだ。
|゚ノ ;∀;)「殺した! 殺し…ッたか、ら……ぷぎゃ…さんを……!」
(´・ω・`)「残念だが、動機が証明されない限りには……」
|゚ノ ;∀;)「裏切り者! やっぱり、裏切り者だったから……殺し――」
(´・ω・`)「ちょっと待った。『やっぱり』って?」
|゚ノ ;∀;)「……っ!」
.
- 643 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:50:42 ID:6.gT5oTU0
-
そこで、レモナは動揺した。
つい、口を滑らせてしまった――
と、その隙を衝き、ショボーンはレモナの腕を捕らえた。
手首を捻って、ナイフを持つ手を外に向ける。
が、レモナもレモナで強く握っているようで、彼女の持つナイフが下に落ちることはなかった。
少しして、レモナが後ろに下がった。
ショボーンの掴んでいた手は、そのときに離してしまった。
荷台のほうにレモナが後退する。
一番近くにいるショボーンとの距離で、およそ五メートル。
なんとか、ナイフで刺されるという事態を回避することはできた。
――が、本番は、むしろここからだった。
(´・ω・`)「……そう。もともとレモナさんがプギャーさんのことを疑っていないと、
. あのとき、盗み聞きを働こうだなんて思わなかったんだ」
(´・ω・`)「そして、その理由は、なんとなくではあるが――わかっている」
|゚ノ ;∀;)「や………やめて……」
( <●><●>)「一応、訊きましょう」
( <●><●>)「なぜ、ですか」
(´・ω・`)「それは―――」
.
- 644 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:51:14 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「彼女が、モナーさんの娘だからだ」
.
- 645 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:51:46 ID:6.gT5oTU0
-
( <○><○>)
(゚、゚;トソン
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ
(;´W`)
爪;'д`)
( ;‘∀‘)
.
- 646 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:52:16 ID:6.gT5oTU0
-
( ;‘∀‘)「………よ、…呼びました……?」
(´・ω・`)「? 呼んでませんよ」
( ;‘∀‘)「い、いや……だって……」
( ;‘∀‘)「いま、娘……って……」
(´・ω・`)「ああ、娘は呼びましたね。……レモナ、さんを」
( ;‘∀‘)「………え……?」
ガナーの顔が、みるみる青くなっていく。
ショボーンの言っている意味が理解できない――のではなく、理解したくない一心であるようだ。
視認するのも難しいほどちいさく、ゆっくりかぶりを振っている。
ガナーが発狂しないうちに、ショボーンは本題を切り出した。
.
- 647 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:52:46 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「今回の事件を、思い出してほしい。 全て、だ」
(; <●><●>)「……ま、まず、緒前さんが、刺された」
(´・ω・`)「問題は、その次だ」
(; <●><●>)「プギャーさんが、殺された……そして、制御室が爆破された」
(´・ω・`)「のーさんが彼を殺していないことはわかっている。
. だとすると、問題は、どうしてプギャーさんは殺されなくてはならなかったのか、だ」
(; <●><●>)「なんだ、と言うのですか!」
(´・ω・`)「いったんこれは置いといて、次の事件も考えよう。
. ……そうすれば、自ずと見えてくる」
( <●><●>)「……ああ、発砲事件ですね?」
(´・ω・`)『バーに着くと――発砲事件。撃ったのは、レモナさんだ』
(´・ω・`)「そう。それで、狙われたのは?」
( <●><●>)「えっと……」
.
- 648 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:53:20 ID:6.gT5oTU0
-
( ;‘∀‘)
( A * )
( <●><●>)「ガナーさんと……下呂さんです」
(´・ω・`)「そこに、プギャーさんを入れてみろ」
( <●><●>)「はあ」
(´・ω・`)「……共通点が、見えてこないか?」
( <●><●>)「下呂さんと笑野さんだけなら、アンモラルグループからの回し者とわかるのですが
しかしそこにガナーさんが入ると――…、―――ッ!!」
(; <●><●>)「ちょ、ちょっと待ってください! あなた、まさか――」
(´・ω・`)「そう。共通点は『みんなアンモラルグループからの回し者』ということだ」
.
- 649 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:53:59 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「そうはいきません! ガナーさんは、なんの関係も持っていないはずです!」
(´・ω・`)「ああ。ガナーさん自身は、なにも持っていない。
. ……言うなれば、彼女も『被害者』なんだからな」
( <●><●>)「と、いうと……?」
(´・ω・`)「マリントンさんの言葉を、思い出してよ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『モナーさんチに行ったら、なんか黒服の人がぞろぞろ出てきよって……
入れ違いで家に入ったら、モナーさん、荒れとったな。もう、ものごっそ昔ですが』
(´・ω・`)「当時から、モナーさんはなにやら黒いつながりを持っていた」
(´・ω・`)「おそらく、マリントンさんの話からすると、みんなアンモラルグループだ」
( <●><●>)「そ、それはそうですが……それと、どうガナーさんがつながるんですか」
(´・ω・`)「次に、この証言を思い出してほしい」
( <●><●>)「……?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『実はね、あの子の首筋、うなじのあたりに、でっかいホクロがあるんですわ。
いやー、もう十何年も見んうちにベッピンさんになりよって……ええのぅ……』
.
- 650 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:54:35 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「それが、いった―――」
(´・ω・`)「ガナーさん、失礼ですがうなじを見せてはくれませんか」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……?」
( ;‘∀‘)「え、え…? 別に、構いませんが……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「………、……」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「――ッ!! ま、まさか――」
ガナーは、なにやらよくわからないと言いたげな様子で
背をショボーンたちに向け、その短い髪を上にあげた。
そして彼らは、うなじを見つめた。
〝本来あるべきはずのものが、見当たらなかった〟のだから。
.
- 651 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:55:10 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……あ」
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=MDyUvZkJiSc
(; <○><○>)「ああああああああああああああああああああああああッ!!」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ホクロが……『ない』!?」
( ;‘∀‘)「え? え?」
(´・ω・`)「……荷台を運んでいたとき。自然と髪が垂れていたガナーさんのうなじを見て、確信したよ」
(´・ω・`)「ガナーさんは、アンモラルグループから送り込まれた、いわば 『最強の刺客』 だったんだ!」
( ;‘∀‘)「えッ!?」
(; <●><●>)「し……しかし! ……いや、つまりこれはどういうことですか!」
(´・ω・`)「ほんとうは……モナーさんのもとに生まれた娘は、レモナさんだったんだ」
.
- 652 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:55:54 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;∀;)「!!」
(´・ω・`)「しかし、アンモラルグループがモナーさんを操ろうとしたのか、また別の理由か……」
(´・ω・`)「レモナさんとガナーさんとを、取り替えてしまったんだ」
(; <●><●>)「操ろうと……?」
(´・ω・`)「モナーさんは、アンモラルグループにいいように使われてきた。ですよね、マリントンさん?」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「う、ウワサに過ぎぬが……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『陰でうわさされとるレベルなんですがねぇ……
モナーさん、例のグループにええように使われとるっちゅー話ですわ』
(´・ω・`)『例のって……』
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『アンモラルグループ、ですよ』
.
- 653 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:56:26 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「……モナーさんとアンモラルグループの因縁は、このときからはじまっていたんだ」
(; <●><●>)「しかし、その推理はいささかトッピすぎでしょう!」
(´・ω・`)「しかしこうだとすると、ある点にもナットクがいく。
. ……モナーさんの、ガナーさんに対する扱いのひどさ、だ」
(; <●><●>)「…?」
( ‘∀‘)『当時はすごく忙しかったようで、お酒もギャンブルも女性問題もなかったんですが、
仕事のストレスを、私にあたることで発散させているような……』
( ‘∀‘)『ドラマみたいに「愛を与えない」だけなら、まだよかったかもしれないですが……
とても……この歳になっても、やはり、その畏怖…?は拭えない、って言うのか……』
( ∀ )『ほかの人には温厚に接してる父なのに……
どうして……私には、優しく接してくれなかったのか……』
(´・ω・`)「……モナーさんは、せっかく子どもに恵まれたのに、いわばそれを、取り上げられてしまった。
. いくら温厚で『絆』を重んじるモナーさんでも、これにはさすがに穏やかにはいられない」
(´・ω・`)「だから、やつあたりとは言え、アンモラルグループに対する憂さを彼女に向けるしかなかったんだ」
(´・ω・`)「彼は、なによりも『絆』を重んじる」
(´-ω-`)「こんな、『偽りの絆』を押しつけられて……モナーさんも、ガナーさんも、可哀想だ」
( ; ∀ )「……そんな……ッ…!」
.
- 654 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:56:56 ID:6.gT5oTU0
-
ガナーの顔がだんだん白くなっていく。
――が、ショボーンもここで足をとどめることはできなかった。
心を鬼にして、続きを言う。
(´・ω・`)「レモナさんはなにかがきっかけで、そのことを……自分の境遇を知ってしまった」
(´・ω・`)「秘書になってから知ったのか、そのことを知ったから秘書になったのか――はいいとして、だ」
(´・ω・`)「レモナさんにとって、いわばアンモラルグループとはもっとも憎むべき相手だったんだ」
(´・ω・`)『興味ないや。三日だけ覚えときます』
|゚ノ ^∀^)『いやいや、覚えといても仕方がないですよ。話を続けても大丈夫でしょうか?』
( <●><●>)「あ…っ」
ここにきたときのレモナとの会話を、ワカッテマスは思い出した。
あのときに感じた、レモナから汲み取れたわだかまりの正体は――
.
- 655 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:57:28 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「……そして、モナーさんが刺された」
( <●><●>)「! レモナさんは、そこで――」
(´・ω・`)「ああ。あらかじめ、プギャーさんとシラヒーゲさんの密談から、
. プギャーさんの正体には目星をつけてあったからな」
( <●><●>)「しかしですね、裏切り者だからといって犯人につながるわけでは――」
(´・ω・`)「違うんだ」
( <●><●>)「?」
(´・ω・`)「プギャーさんにとってサイアクの失敗は、この密談の内容ではない」
(´・ω・`)「その発言の……乱雑さ、だったんだ」
.
- 656 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:58:00 ID:6.gT5oTU0
-
(-@∀@)『それですがね……また、小声の会話がはじまって、私は聞き取りづらかったのですが……
シラヒーゲ館長が、言ったんですよ。
「最終的な判断は、モナー支配人とじきじきに交わしたい」と』
(-@∀@)『するとプギャー副支配人は、だ』
(-@∀@)『「俺は、副支配人だ。支配人がいないときは、俺が全権を握るんだからな」……そう言ったんです』
(´・ω・`)『…ッ』
(-@∀@)『当時は、ただプギャー副支配人の裏の顔が見えただけ……
そう思っていたのですが、モナー支配人の殺されたいま、
このセリフの意味が変わってくるように思えるのですよ』
(´・ω・`)『モナーさんが刺される前までは、この言葉は「俺を嘗めるな」程度にしか聞こえないのが……
. モナーさんが刺された今となっては、そんな意味じゃ、捉えにくい』
(-@∀@)『ええ。むしろ、こう聞こえるわけです』
(-@∀@)『 「支配人は、そのうち、俺がなるのだ」 ……と」
(´・ω・`)「このとき、裏では、今夜にのーさんとプギャーさんが
. 手を組んでモナーさんを落とす計画が進められていたんだよ」
(´・ω・`)「そう考えると、プギャーさんは、ほんとうはただ
. 『モナーは今夜、支配人をやめる』という意味でしか言ってなかったんだ」
(´・ω・`)「でも、だ。そのあとで、モナーさんが刺された」
.
- 657 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:58:31 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「レモナさんは、この発言をあらかじめ聞いていた手前、おそらくこう思ったんでしょう」
(´・ω・`)「『プギャーが、支配人になるためにモナーを殺した』……と」
( <●><●>)「!」
(´・ω・`)「いわば、プギャーさんは『カン違いで』殺されたんだ」
(; <●><●>)「しかし、だったら制御室の爆弾や、バーでの発砲事件はどう説明するのです!」
(´・ω・`)「レモナさんは、モナーさんの命までをも奪われた」
(´・ω・`)「きっと彼女は……このホテルで、アンモラルグループの回し者と一緒に死ぬつもりだったんだろう」
(´・ω・`)「制御室の爆弾は、そういう意味で使われたんだ」
( <●><●>)「あ!」
(´・ω・`)「制御室を爆破すれば、それより上にいる人は、逃げることができなくなる。
. あらかじめガナーさんとのーさんをバーに呼び出しておけば……
. これで、あとは死しか残っていない密室を作り出すことができた。
. 警察が出動できない、というのを聞いて、この密室を作ったのかもしれないな」
( <●><●>)「ですが、実際にガナーさんたちが呼ばれたとは――」
(´・ω・`)「それは本人に聞くのがいいんだけど……
. ガナーさんに限って言えば、それは僕でも証明できる」
(; <●><●>)「なんですって!?」
.
- 658 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:59:03 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「僕は一度、制御室に向かった。鍵のことを確認しようと、な」
(´・ω・`)「すると、だ」
( ‘∀‘)『どうしました、こんなところで』
(´・ω・`)『それは僕のセリフ……でもありますよ』
( ‘∀‘)『刑事さんがここに向かってるのを見かけたもので……制御室になにか?』
(´・ω・`)『はは、一応捜査の一環です』
( ‘∀‘)『おかしいな……立ち入り禁止の看板、置いてなかったかなぁ』
(´・ω・`)『見ての通り、ないですよ。まあ、あっても勝手に入ってましたが』
(´・ω・`)「彼女は、『僕が制御室に向かうのを見たから止めにきた』と言ったが、これはおかしい」
(´・ω・`)「彼女の部屋は6Fにあり、『僕が制御室に向かう』のを見ることは本来できないんだ」
( <●><●>)「ガナーさんがあなたを止めたこと。それが、なにを意味するのですか」
(´・ω・`)「簡単だ。……彼女自身が、制御室に向かうところだったんだよ」
( <●><●>)「ッ!」
.
- 659 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 22:59:37 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「おそらく、こういうことなんだ」
(´・ω・`)「彼女はなにかを介して制御室に呼び出された」
(´・ω・`)「で、向かったのはいいが――まだ、そのときに呼び出した本人はいなかった。
. そのときに、彼女は見たんだろう」
(´・ω・`)「立ち入り禁止の看板、を」
( <●><●>)「!」
(´・ω・`)「ガナーさんはあくまで娘であって、関係者ではない。
. それなのに看板があることを知っていた理由はなぜか……これに、納得がいく」
( <●><●>)「……? ちょっと待ってください。警部がそちらに向かったときは……」
(´・ω・`)「……そう、なんだ。あのとき、僕が訪れたとき、そこは―――」
( ;^Д^)『……』
|゚ノ ∀ )『………』
(´・ω・`)「すでに、制御室を訪れたプギャーさんが、命をねらわれていた!」
.
- 660 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:00:08 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「…!」
(´・ω・`)「なにかの手違いがあったのか、単純にすれ違いか……」
(´・ω・`)「だが、とにかくそこでレモナさんは彼を殺すしかなかった。
. おそらくガナーさんには、のちに、制御室ではなくバーにこい、などと手紙かなにかで言ったんだろう」
( <●><●>)「で、爆弾は……」
(´・ω・`)「いくつかの用途があった。まずひとつが、このホテルを密室にすること」
( <●><●>)「まだおありで?」
(´・ω・`)「ワカッテマス、お前現場にいたから知ってるだろ」
( <●><●>)「?」
(´・ω・`)「プギャーさんの死体の上から降りかかってきた――瓦礫だよ!」
.
- 661 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:00:38 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「……あッ…! ま、まさか――!!」
(´・ω・`)「用途、その二。間接的に、プギャーさんに関する殺害の痕跡を消し去ること」
(´・ω・`)「そして、三つ目だ」
(; <●><●>)「まだ、なにかあるのですか……?」
(´・ω・`)「プギャーさんの死体を消し去ったと同時に、犯人はその制御室の痕跡を消したんだ」
( <●><●>)「ああ、確かに……副産物的にではありますが、そうなりますね」
(´・ω・`)「……で、最後」
(; <○><○>)「ッ!?」
(; <●><●>)「じょ、冗談じゃない! まだ、なにがあるというんですか!」
(#´・ω・`)「冗談じゃないのはコッチのほうだ! 危うく、死にかけたんだぞ!」
( <●><●>)「――――ッ!!」
.
- 662 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:01:09 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「犯人がなにより恐れたのは……刑事である僕たち、だったんじゃないかな」
(´・ω・`)「なにも今回の場合、犯人が恐れるべきなのは逮捕、ではなかった」
( <●><●>)「『逮捕ではなかった』、と……?」
(´・ω・`)「考えてもみろよ。犯人は――レモナさんは、ここで死ぬつもりだったんだよ?
. あんたなら、どうする。現場に駆けつけたら」
(; <●><●>)「そりゃあ、止め……あっ!」
(´・ω・`)「……そういうことさ」
(´・ω・`)「プギャーさんをわざと突き落として、その死体を周囲に知らしめることで、人をそこに集める。
. その隙に自分は、共に死ぬ相手――ガナーさんとのーさんを、バーに呼ぶ。
. 時限爆弾が爆発することで、動力源を落とし、退路を絶ち、犯行の痕跡を消して、追っ手も消す」
(´・ω・`)「……これが、爆弾のほんとうの意味だったんだ」
.
- 663 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:01:39 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚;トソン「で、でも警部!!」
(´・ω・`)「なんだい?」
ショボーンの推理に、トソンが首を突っ込んだ。
彼女も――認めたく、ないのだろう。
レモナが、ほんとうはモナーの娘で、このような惨劇を生み出したのだ――という事実を。
(゚、゚;トソン「警部の推理は、ぜんぶ、『レモナさんがほんとうの娘である』という前提で……す、よね?」
(´・ω・`)「ああ」
(゚、゚;トソン「じゃ、じゃあ……まだ、決まってないのでは?」
(゚、゚;トソン「まだ……ほんとうの親子、と立証されたわけでは……」
( <●><●>)「……いや。DNA鑑定をすれば、一発で――」
(´・ω・`)「どうだろうな」
( <●><●>)「け、警部?」
.
- 664 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:02:09 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「そのアンモラルグループとやらは、とてつもなく大きく……そして、後ろ暗い組織なんだろ?」
( <●><●>)「ご存じないのですか。
……いや、後ろ暗いかは知りませんが、とにかく大きいことには違いありません。
いまや、世界をまたに駆ける大企業、と言えるでしょう」
(´・ω・`)「そんなアンモラルグループが、娘を入れ替えた……
. そもそも、血筋もDNAもあるのに、そう簡単に入れ替えることはできないんだ」
( <●><●>)「…」
(´・ω・`)「それをやってのけた、しかもそれをエサにモナーさんを操っていた。
. となれば、血液検査をしようとしたところで、そのグループに事実を捻じ曲げられるんだと思うんだ」
( <●><●>)「……! じゃ、じゃあ……あの――」
( <●><●>)『ちょっと待ってください。
警部、彼女の精神はまだ安定しきっていません。いま、その話は――』
(´・ω・`『今じゃないと……だめなんだ』
(´・ω・`)『ほかの誰にも邪魔のされない、いまじゃないと……』
( <●><●>)『……!』
( <●><●>)「あの、言葉の意味は……!」
.
- 665 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:02:45 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「いま、この場で全てに決着をつければ、そのグループの
. 干渉を受けないうちに『真実』を叩きつけることができる」
(´・ω・`)「だから、血液検査をして隙を見せちゃあだめだ。 『いま』、『ここで』、二人の……
. モナーさんとレモナさんとのつながりを、証明してみせる」
( <●><●>)「! そうか、ホクロが見つかれば――」
(´・ω・`)「それもある。が、ホクロだったらいくらでも言い訳ができる」
( <●><●>)「では――」
(´・ω・`)「語るのは、そんな証言じゃない」
(´・ω・`)「揺るぎようのない、証拠だよ」
.
- 666 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:03:15 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「証拠……!」
(゚、゚;トソン「で、でも、警部は持ってるんですか!」
(゚、゚;トソン「その……証拠を!」
(´・ω・`)「………それが、さっきの言葉につながる」
(´・ω・`)『……まだひとつ、謎があるんだ』
(´・ω・`)『僕はその謎の示すところを、ほぼ確信している』
(´・ω・`)『だが、僕一人の力じゃ、それをカンペキには立証できない』
.
- 667 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:03:47 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「警部一人の力じゃ…?」
(´・ω・`)「僕の推理がただしければ、モナーさんも『あるもの』を持っているはずなんだ」
( <●><●>)「…? モナーさん『も』? 『あるもの』を?」
(´・ω・`)「……レモナさん」
|゚ノ ;∀;)「ッ!」
(´-ω-`)「ここまできて、最後に僕が証明しなくちゃいけないこと」
(´-ω-`)「それは、あなたとモナーさんとの、つながりだ」
(´-ω-`)「それも、モナーさんとガナーさんのような『偽りの絆』ではなく――」
(´・ω・`)「『ほんとうの絆』――だ」
.
- 668 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:04:19 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「それが証明できる、というのですか!」
(´・ω・`)「ワカッテマス。今から言うのを調べてくれ」
(; <●><●>)「……はい?」
そう言って、ショボーンはワカッテマスに耳打ちをする。
ワカッテマスは「え?」と上ずった声を発したが、逆らいはせず、すなおに言われたとおり動いた。
荷台のほうに駆けては、しゃがみこむ。
このときレモナは、荷台よりも後ろ――閉まったエレベーターの扉に背をつけていた。
(´・ω・`)「さあ……これで、最後だ」
|゚ノ ;∀;)「!!」
(´・ω・`)「君とモナーさんとをつなぐ、証拠品……」
(´・ω・`)「………これこそが」
BGMここまで
.
- 669 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:04:55 ID:6.gT5oTU0
-
「 親 子 の 絆 だ 」
ショボーンがポケットから取り出したのは
モナーの写真の入った、ロケットだった。
.
- 670 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:05:28 ID:6.gT5oTU0
-
◆
( <●><●>)「…!」
ショボーンがそれを突きつけた直後、ワカッテマスも声をあげた。
モナーのポケット、血のついてないほうに手を突っ込むと、なにやら硬いものが手に当たったのだ。
丸いものがあって、そこから鎖がつながっている。
それをポケットから抜き出した直後、ワカッテマスはがばっと立ち上がった。
「警部」とやや大きい声を発しながら、ショボーンに駆け寄る。
彼が提示してきたそれは、紛れもないロケットだった。
金色の容器とチェーン。
それは、ショボーンの持っているロケットと同一の形状。
それを見たショボーンは、柔和な笑みを浮かべた。
(´・ω・`)「開けろ」
( <●><●>)「はっ」
ワカッテマスはその容器の開閉部分をいじる。
手袋をつけたままであるため、じゃっかん苦労はしたが、難なく開けることができた。
そこには、女性の――赤ん坊の姿が、おさめられていた。
.
- 671 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:06:04 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……これは」
(´・ω・`)「幼くはいるが……レモナさん、のようだな」
( <●><●>)「と、すると……」
|゚ノ ∀ )
(´・ω・`)「……これで証明ができた、な」
(´・ω・`)「僕が現場で見つけた、このロケットと――」
ワカッテマスのロケットを握るほうの手首を掴んで、前に提示する。
(´・ω・`)「モナーさんが持っていた、ロケット。二つがつながることで」
( <●><●>)「…!」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「じゃ、じゃあ……やっぱり……」
(´・ω・`)「……」
マリントンが、戸惑ったような声で訊いてくる。
それにショボーンは、黙ってうなずくことしかできなかった。
.
- 672 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:07:18 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「……おそらく」
(´・ω・`)「パーティがはじまる18時になっても姿を現さないモナーさんを見て、あなたは不安がったのでしょう」
(´・ω・`)「そのまえに、プギャーさんの密談を聞いてしまっている」
(´・ω・`)「密談を聞かされていた上での、モナーさんの遅刻」
(´・ω・`)「……もしかして、プギャーさんになにかされた……? って」
(´・ω・`)「……今思うと、あのときの――」
|゚ノ;^∀^)『ショボーンさん!』
(´・ω・`)『は、はい。なんですか』
|゚ノ;^∀^)『社長がまだお見えにならないんですよ。どこかで見かけませんでした?』
(´・ω・`)『いや、ここで別れたきり見てないですけど』
|゚ノ;^∀^)『そ、そうですか……』
.
- 673 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:07:49 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「あなたが見せた焦燥。あれは、人を待たせることによる焦りじゃなくて……」
(´・ω・`)「モナーさんの身になにかあったのではないか、という危惧……だったんじゃないのでしょうか」
(´・ω・`)「だから、マリントンさんの同伴は断っておきながら、刑事である僕の同伴は認めた」
(´・ω・`)「限りなく、嫌な予感が、したから」
(´・ω・`)「でも――いや、やはり、というべきか。その不安が的中してしまった」
(´・ω・`)「だから、僕が去ったあと、プギャーさんにあなたは問い詰めたのかもしれない」
(´・ω・`)「殺したのはあなただったのか、と」
(´・ω・`)「――だが、そのときの場所はバーだ」
(´・ω・`)「結果的にプギャーさんは無実だったが、実際には後ろ暗いことがある身」
(´・ω・`)「いつ刑事が来るかわからないこの場所で、その話をするのは好ましくない」
(´・ω・`)「そこであなたは、制御室でモナーさんの話をすることを持ちかけた」
(´・ω・`)「ひょっとすると、自分がほんとうの娘であることを明かしたのかもしれないね」
(´・ω・`)「プギャーさんもプギャーさんで、自分が支配人になる話を内密にレモナさんと進めておこうと思っていた」
(´・ω・`)「利害の一致から、二人は一緒に向かった――いや、時間差をつくって、別々で向かった」
(´・ω・`)「そうしないと、レモナさんがガナーさんとのーさんを呼ぶチャンスがないからね」
(´・ω・`)「その隙にダイナマイトを設置して……あとは、さっき僕が言ったとおり」
.
- 674 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:08:19 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「しかし、だとするとあのロケットは……?」
(´・ω・`)「あの、って、どっちだ」
( <●><●>)「現場に落ちていたほうですよ」
( <●><●>)「私の記憶がただしければ、16時半にレモナさんと会ったとき、
彼女はそのロケットを首からさげていなかった」
( <●><●>)「だとすると、どうやって笑野さんはあのロケットを……」
(´・ω・`)「簡単だ。首からさげてなかった、ということは、ポケットとかにいれてたことになるな」
(´・ω・`)「プギャーさんに問い詰めるとき、自分がほんとうの娘であることを、明かしたのかもしれん」
(´・ω・`)「……ロケットを、前に突きつけて」
( <●><●>)「…!」
.
- 675 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:08:55 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「プギャーさんは、『レモナさんがほんとうの娘である』という真実を恐れて、
. おおかた、そのロケットを奪おうとでも思ったのだろうな」
(´・ω・`)「そのやり取りのさい、レモナさんが窓から突き落とした――そう考えたら、辻褄は合う」
( <●><●>)「ちょっと待ってください。なら、拳銃はどう説明するのです」
(´・ω・`)「というと?」
( <●><●>)「レモナさんは一度、彼の首を絞めています」
( <●><●>)「拳銃があれば、最初からそれを――」
(´・ω・`)「僕が思うにね、この拳銃は、最初はプギャーさんの持ち物だったんだと思う」
( <●><●>)「――え?」
(´・ω・`)「のーさんとプギャーさんは、今夜、モナーさんを脅すつもりだったんだ」
(´・ω・`)「そのさい、のーさんはナイフを用意していたが……
. なら、プギャーさんもなにか用意していたんじゃないか。
. そう考えたら、真っ先にこの拳銃に行き着いた」
( <●><●>)「ああ……なるほど」
.
- 676 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:09:38 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「あのとき、レモナさんはロケットを突きつけた。
. 自分の身分を明かすことで、相手にほんとうのことをしゃべらそうとしたのか……」
(´・ω・`)「プギャーさんにとって、レモナさんの存在ってのは、言っちゃあ最悪の弱みだ。
. まして、この場にはあのアサピーさんがいる。
. 彼に自分の身分と今回のプギャーさんたちの計画を一緒にばらされてしまえば、その時点でプギャーさんたちはアウトだ」
(´・ω・`)「だから、プギャーさんはモナーさんに使う予定だった拳銃を、突きつけたんだと思う」
( <●><●>)「はあ」
(´・ω・`)「……ひょっとすると」
( ‘∀‘)『どうしました、こんなところで』
(´・ω・`)『それは僕のセリフ……でもありますよ』
(´・ω・`)「プギャーさんが拳銃を突きつけた直後に、
. 僕とガナーさんが運よくあそこにきてたのかもしれないな」
(´・ω・`)「なんせ、拳銃を抜いて、返り討ちにあうなんて――考えにくい」
( <●><●>)「警部が制御室にきたことで、どうしてレモナさんに反撃のチャンスがきたことになるのですか」
(´・ω・`)「あのな、僕は刑事だぞ? なのにそこで銃声がしてみろ。
. 一般人ならなにかの音と勘違いするかもしれないが、僕は銃声くらい聞き分けられる」
(´・ω・`)「あのときにプギャーさんが発砲していたら、その時点で逮捕される。
. プギャーさんはおそらく、あのとき、行動を制限されていたんだよ」
(´・ω・`)「証拠こそないが、な」
.
- 677 :同志名無しさん:2013/03/23(土) 23:09:46 ID:.yvhaXhc0
- 支援
- 678 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:10:10 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「……! そうか、それで笑野さんが動けないのを見て、レモナさんが飛び掛って――」
(´・ω・`)「首を絞めた。その反動で笑野さんは拳銃を落としてしまった」
( <●><●>)「そして、必死の抵抗のすえ――」
(´・ω・`)「レモナさんのロケットを掴んで、そのまま2Fまでまっさかさま――こんなところだろう」
(´・ω・`)「……違いますか、レモナさん」
|゚ノ ∀ )
|゚ノ ^∀^)
|゚ノ ^∀^)「………」
.
- 679 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:10:43 ID:6.gT5oTU0
-
レモナは、顔をあげた。
涙は長さず、若干いびつな笑みを浮かべている。
ショボーンは、黙って彼女を見つめた。
彼女とショボーンの間にはなにもなく、彼女の後ろに荷台、そしてエレベーターがある。
ワカッテマスも、いまは彼女から離れて、自分のすぐ後ろに控えている。
今、ここから歩み寄って、連行の旨を告げるべきなのか――
そう思っていると、レモナはいびつだった笑みをやめ、くっきりとした笑みを浮かべた。
|゚ノ ^∀^)「……ええ」
(´・ω・`)「……そう、ですか」
その笑みを見て、ショボーンは、ようやく安堵というものを手に入れたような気がした。
ついに、彼女が罪を認めてくれたからだ。
笑野プギャーの、殺害。
WKTKホテルの、爆破。
ダイナマイトの不当所持。
拳銃の不当所持及び発砲。
彼女の残した罪は、ショボーンのように刑事でなくともわかる。
あまりにも、多く、あまりにも、重い。
だから、ショボーンは今すぐにでも逮捕して、連行しなければならない。
だが、それもそれで酷だ、と思う自分がいた。
「捜査に私情を挟むのはタブーだ」と日頃から言っているのだが、やはり、非情には成りきれない。
ここに来る船に乗っていたときのように、またワカッテマスに笑われるな、とショボーンは思った。
.
- 680 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:11:14 ID:6.gT5oTU0
-
すると、レモナは口を切った。
|゚ノ ^∀^)「だから――」
(´・ω・`)「?」
|゚ノ ^∀^)「さよなら」
(´・ω・`)
――そして、持っていたナイフを、己の首の、頚動脈にまで近づけた。
.
- 681 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:11:47 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=gDduNMXCTJM
(;´・ω・`)「―――ッ!! な――」
|゚ノ ^∀^)「こんなことなら……最初から、あなたに頼ればよかったです」
(;´・ω・`)「………ど、…どういう意味ですか?」
|゚ノ ^∀^)「最初からあなたにだけはほんとうのことを言って……」
|゚ノ ^∀^)「アンモラルグループの後ろ暗い部分を、次々明かしていってもらえばよかった」
(;´・ω・`)「……?」
.
- 682 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:12:27 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ^∀^)「――あ。でも、それもだめか」
|゚ノ ^∀^)「どうせ、アンモラルの人らに、情報を消されるんだから」
|゚ノ ∀ )「………アッハハハハハハハハハハハハハハ!!」
|゚ノ ∀ )「ハハハハハッ…アッハハハハハハハッ! ハハハ!!」
|゚ノ ∀ )「ここで、私もろとも、あの三人と共死にできていたらなあ!!」
(; <●><●>)「警部、彼女は――」
(;´・ω・`)「………頚動脈を切って、自殺するつもりだ」
(; <●><●>)「―――ッ!」
現状を把握して、ワカッテマスもとたんに顔一面に焦燥を張り巡らせた。
――まだ、ナイフを持っていたのか。
そのことに気づくにしては、あまりにも、遅すぎた。
.
- 683 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:12:58 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「そうだ、拳銃で腕を撃てば――」
|゚ノ ∀ )「一歩でも動いたら!」
( <●><●>)「ッ!」
ワカッテマスが言うのを、レモナが大きな声で制した。
――が、威勢には満ちていなかった。
涙声で、枯れていたのだから。
|゚ノ ∀ )「一歩でも動いたら―――」
|゚ノ ;∀;)「―――死ぬ」
.
- 684 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:13:47 ID:6.gT5oTU0
-
(;´・ω・`)「な、なぜだ! なぜ、死ぬ必要がある!」
(;´・ω・`)「おとうさんの仇を討たなくて、いいのか!?」
ショボーンが遅れて、説得に入った。
だが
|゚ノ ;∀;)「アッハハハハハハハハハハハハハ!! 無駄じゃない!
. あんな大きい組織相手に、仇討ちなんてできるはずないじゃん!
. 実際に、こうして戸籍とかちょろまかされたんだから!!」
――レモナには、まるで効きそうにはなかった。
そのため、ショボーンも、徐々に手のひらに汗がにじんできた。
ここで、レモナを止めなければならない理由は、いうまでもなかった。
彼女に罪を償わせる必要がある、のも当然だが、
大前提として、警察官として、人命をいたずらに捨てさせるわけにはいかなかったのだ。
.
- 685 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:14:20 ID:6.gT5oTU0
-
(;´・ω・`)「君の要求は、なんだ! なにをしたら、そのナイフを下ろしてくれるんだ!?」
|゚ノ ;∀;)「アハハ……じゃア、…え、えっと、ね。 こ……ッ…ここで―――」
(・ω・`; )「……?」
レモナは開いているほうの手で、奥のほうに指をさした。
その腕はひどく震えていて、彼女の精神状態が崩壊寸前であることをあらわしていた。
ショボーンは指の向けられるほうに、顔を向けた。
そこには、真っ白な顔のガナーが立っていた。
ショボーンはまさか――と、思った。
――そして、それは、的中していた。
|゚ノ ;∀;)「彼女が、し、死んでくれたら――」
.
- 686 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:14:50 ID:6.gT5oTU0
-
( ; ∀‘)「……………、………え……?」
(;´・ω・`)「ば、ばかげたことを言うな!
どうして、彼女の命がいるんだ! 彼女は被害者だ、って、言っただろ!」
|゚ノ ;∀;)「じゃあ――」
レモナが、ぐい、と頚動脈にナイフを近づける。
その様子に躊躇はなく、ほんとうに、ここで死ぬつもりのようだった。
(;´・ω・`)「―――くッ」
(; <●><●>)「警部!」
(;´・ω・`)「……なんだ」
事の重大さを理解したワカッテマスが耳打ちをした。
視線はレモナから逸らさず、ショボーンは耳を傾ける。
.
- 687 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:15:20 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「もうじき、応援がきます。そのときに、確保してもらうのが――」
(´・ω・`)「………たぶん、ここにほかの誰かがきたら、彼女は迷わず死ぬだろう」
(; <●><●>)「じゃ、じゃあどうやって彼女を止める、というのです!」
(´・ω・`)「僕に聞くな。そんな方法があれば、とっくにしてるさ」
(; <●><●>)「…………ッ!」
ショボーンに殴られたかのように、ワカッテマスは怯み、よろめいた。
ここで、プギャーの持っていた拳銃を彼女に撃つことができれば
その隙を衝いて、彼女の動きを拘束することもできるのだが――
まえもって彼女に動きを制されていては、どうしようもない。
ワカッテマスは、どうすればいいのか、と、頭を悩ませた。
彼が事件の捜査で頭を悩ませるなど、めったにないことなのに。
.
- 688 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:16:15 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;∀;)「ほら、ほら! ほらッ!!」
(;´・ω・`)「………」
レモナが、急かすようにショボーンに言ってくる。
彼女は、いま、冷静な思考ができないでいる。
時間をかけて頭を冷やさせれば、なんとか彼女を自害から救い出すこともできるのだが
それは、そのうちやってくるであろう警察の応援によって妨げられるだろう。
この短時間で、彼女を自害させずに済むには―――
ショボーンはわき目で、ガナーをもう一度見た。
ガナーは自分の出生の事実を知り、なにも考えることができないでいるようだ。
半ば放心状態に近いものの、辛うじて自我だけは保っている――そんな様子だった。
警察官として、人命を犠牲に人命を救うなどは、決してしない。
もとより、レモナの要求など呑むつもりがない。
しかし―――
(;´・ω・`)「(どのみち……誰かが死ぬ、ということなのか)」
.
- 689 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:17:24 ID:6.gT5oTU0
-
考えてみるまでもなかった。
いま、レモナは、頚動脈を切って自害する素振りを見せており
また、その意志はかたく揺るがないものとなっているようだ。
実の父親だったモナーの死去を前に自害するなど、考えられないことではない。
一方で、彼女の要求は、モナーの偽りの娘だった、ガナーの死。
つまり
(;´・ω・`)「(レモナさんか、ガナーさんの……どちらかが、死ぬ)」
ふざけるな――と、ショボーンは大声で怒鳴りたくなった。
しかし、その衝動でレモナの握るナイフに力が入ってしまえば、おしまいである。
また、どこか不自然な挙動を見せるだけで、おそらくレモナはためらいなくナイフに力を入れるだろう。
タイムリミットも、ある。
行動に制限も、ある。
許される行動は、レモナの自害を見届けるか、ガナーを差し向けるか、のどちらかだけ。
ショボーンは、両者の生還しか考えていない。
しかし――それを実行させるのは、不可能のように思えた。
.
- 690 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:18:09 ID:6.gT5oTU0
-
(;´・ω・`)「………ハハハ……。なんだ、僕、ほんとうに刑事かよ」
( <●><●>)「け、警部?」
(;´・ω・`)「人命最優先ってポリシーの僕が、まさか………」
(;´-ω-`)「人命の放棄、を考えるなんて……な」
.
- 691 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:18:51 ID:6.gT5oTU0
-
(゚、゚;トソン「!」
(; <●><●>)「警部!?」
|゚ノ ;∀;)「………そ、うですか。わかりました」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「ッ! 待ちなされ、レモナさん!」
爪;'ー`)「なんだったら、ウチの秘書にでもなるかい? 厚遇を約束するから、さ!」
(;´W`)「………刑事さん……。」
.
- 692 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:19:23 ID:6.gT5oTU0
-
ショボーンは目をつむって、ちいさく、しかしその場にいる皆に聞こえるような声で言った。
それは、要求を呑まない――つまり、レモナの命を捨てることを、意味する。
その言葉を聞いて、ワカッテマスとトソンは、驚愕した。
いや、この場にいた誰もが、驚愕した、と言ってもいいだろう。
ショボーンのこの言葉に、作為は感じ取れなかった。
油断させた隙に、レモナを――などという裏は、ないように思われた。
彼が、ほんとうに落胆を感じさせるような声を放ったためだ。
慌てて彼女の自害を防ごうと、マリントンたちも説得を試みる。
が、ほんの一定期間の間でしか関係を持たなかった彼らに、それを成功させるのは不可能だった。
彼女を止めるには、やはり、彼女を今もなお苦しめ続けている『偽りの絆』を――
ガナーとモナーとの関係を、断ち切るよりほかにない。
そしてショボーンは、それをすることが、できなかった。
.
- 693 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:19:59 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;∀;)「………」
|゚ノ ∀ )「…………じゃあ」
BGMここまで
.
- 694 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:20:32 ID:6.gT5oTU0
-
「………さようなら………」
.
- 695 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:21:14 ID:6.gT5oTU0
-
.
- 696 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:22:37 ID:6.gT5oTU0
-
「そう簡単には死なさせへんで」
.
- 697 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:23:07 ID:6.gT5oTU0
-
(; <●><●>)「ッ!」
(゚、゚;トソン「っ!」
( ; ∀‘)「……!」
―――レモナの持つナイフが、頚動脈に食い込もうとしたとき
そんな、しわがれた声が放たれた。
.
- 698 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:23:37 ID:6.gT5oTU0
-
(;´・ω・`)「………?」
(´・ω・`)「……っ! あ、あなたは――!」
(゚A゚*;)「よう撃ってくれたなァ、レモナさん」
|゚ノ; ;∀;)「―――ッ!!」
.
- 699 :同志名無しさん:2013/03/23(土) 23:23:54 ID:v7BW74/c0
- 支援
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4068187.jpg
iPhoneでPCの絵撮ったやつだから
汚いけど
- 700 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:24:08 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「ッ!!」
(; <●><●>)「あッ! ……そういえば、荷台には―――」
( <●><●>)『彼女は――』
(´・ω・`)『……荷台で、倒れている。おそらく、気絶しているんだろう』
――荷台で倒れていたのーが、彼女の傍らに忍び寄っては、レモナの両腕を捕らえていた。
レモナははッとして後ろを横目で見やるが、もう遅い。
のーの両腕は、確かに、レモナの腕を固定していた。
当然、ナイフも、頚動脈に近づくことはなくなった。
|゚ノ ;∀;)「―――――!! ッッ!」
(゚A゚*;)「刑事さん、はよきてや! こっちはケガ人やで!」
.
- 701 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:25:02 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「!」
( <●><●>)「!」
「今だ!」
そう声にすることはなかったが、のーの声を聞いて、二人は一斉にレモナに飛び掛った。
のーを横目で見ていたレモナが、視線を前方、刑事二人に向ける。
その瞬間、レモナは、恐怖の真髄を目の当たりにしたかのような顔をした。
(´・ω・`)「――よし!」
( <●><●>)「緒前、レモナッ! ……殺害等の容疑で、身柄を拘束する!」
.
- 702 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:25:34 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;∀;)「―――ッ!」
|゚ノ ;Д;)「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
. あああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
.
- 703 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:26:06 ID:6.gT5oTU0
-
「……なんで! どうしてッ!!」
「気がついたら、孤児として育てられてて……」
「どんなおとうさんか……どんなおかあさんかがわからないなか……」
「あの、ロケットが……ロケットだけが、私の、ほんとうのおとうさんで……!」
「ずっと、いつか、また、このロケットのなかのおとうさんと暮らせる、って信じてて……!」
「そのおとうさんが、ちょっとしたグループの社長だって知って…」
「でも、あの人は私のことを知らないみたいで……だから、他人のそら似かな、って思って……でも!」
「それでも、一緒にいたいって思えたから、秘書になるように一生懸命がんばって………」
「そしたら、秘書になることができて、おとうさんと一緒に働くことができて……」
.
- 704 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:26:40 ID:6.gT5oTU0
-
「幸せだった……そのときは、幸せだった………けど……」
「ある日、知らない人から手紙がきて……そのときに、『真実』を教えられて……」
「『モナーはお前の実の親だ』『ガナーはアンモラルから差し向けられたニセの娘だ』って……」
「だ、だから、それからは毎日、ずっと、ずっと、アンモラルとおとうさんとの、関係を、調べて………!」
「で、今日、例の、美術品の話を、することは、最初から聞いてたから、念のためにって、ダイナマイトも用意して……」
「そしたら、ほ、ほんと……ッ、ほんとうに、アンモラルから、の、差し金で……」
「お、とうさ、んが……ッ、……あ……もら…にッ……ッ……して……、――…殺され………ッ!……」
.
- 705 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:27:20 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;Д;)「ね゙え! 教え゙てよ!」
|゚ノ ;Д;)「どうじて、わたじは、おとうざんと暮らすことを、ゆる゙されなかったの!?」
|゚ノ ;Д;)「どゔして、おとゔさんば、わたじを――」
|゚ノ ;Д;)「わ゙たしを、愛しでくれな゙がったの゙!?」
(´・ω・`)「……」
|゚ノ ;Д;)「こだえてよ!! ジョボーンざん!!」
ワカッテマスに両手首をつかまれ、抵抗が許されない状態になって
レモナは、今までにないくらいの涙を流し、顔をくしゃくしゃにさせた。
そして、ショボーンが彼女と向き合うと、レモナが、そう、悲観に満ちた声をもって言い放った。
.
- 706 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:27:51 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;Д;)「ずっと、ずっとイ゙どりぼっちで!!」
|゚ノ ;Д;)「お゙ど……ざんは、ずっどたイ゙んのふりで!!」
|゚ノ ;Д;)「わ゙だじがきらいだがらずてたんたああ゙あ゙あ゙あ!!」
(´・ω・`)「………」
(´・ω・`)「………これは、なんの論理性もない、当てずっぽうな推理ですが」
|゚ノ ;Д;)「……?」
ぜェ、ぜェ、とレモナが荒い呼吸をする。
一方で、向かいのショボーンの呼吸音は、ほとんど聞こえなかった。
.
- 707 :同志名無しさん:2013/03/23(土) 23:28:09 ID:XERiGoNE0
- 支援
- 708 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:28:25 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「今日の昼も……あなたとモナーさんとで、意見の食い違いがありましたよね」
(´・ω・`)「……そうそう、確か―――」
( ´∀`)『どーせオープンは来週だモナ。柱を折ったりされない限り、問題ないモナ』
|゚ノ ^∀^)『だから、来週だと早いですって。いい加減諦めてください』
( ´∀`)『モナは来週がいいモナ!』
( ´∀`)『予定は意地でも貫き通すモナ。しょっぱなから気候に負かされてちゃあ、幸先が悪いモナ。
それに……』
(´・ω・`)『それに?』
( ´∀`)『……まあ、とにかくなんとしてでも来週にはオープンさせてみせますモナ』
.
- 709 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:29:00 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「――来週――に、オープンさせる、と」
|゚ノ ;Д;)「………ぞれが……」
「どうした」
そう言う前に、ショボーンが続けた。
(´・ω・`)「ひょっとすると……来週の………そう、『二月二十四日』……って」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ『二十年ちょっと前の、ちょうどこないなふうに雪のひどい日ィでしたわ。
誕生日はいつやったかのォ……まあ、それはエエとして』
.
- 710 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:29:33 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)「あなたの、誕生日じゃないんですか?」
.
- 711 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:30:07 ID:6.gT5oTU0
-
|゚ノ ;Д;)
|゚ノ ;Д;)「 」
|゚ノ ;Д;)「 ‥‥‥ ! 」
(´・ω・`)「あなたの誕生日に、みごとオープンさせたときに」
(´・ω・`)「ひょっとするとモナーさんは、あなたに、ほんとうのことを打ち明けるつもりだった――」
(´・ω・`)「……そうだった……んじゃないかな、って、思います」
|゚ノ ;Д;)「ッ!! ……、―――――………。」
.
- 712 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:31:18 ID:6.gT5oTU0
-
―――まだ、その場に聞こえる雪の調べは、消えそうにない。
むしろ、ここから、その旋律は見せ場にはいるのではなかろうか。
雪の持つ、淡く、儚いその音色は、クライマックスになろうとしている。
しかし、そうだというのに。
その雪の音を、レモナの泣き声が、すべて掻き消してしまった。
が、だれも、それに顔を歪める者はいなかった。
そのときのレモナの、涙の絶叫は
この雪の調べよりも、淡く、儚く、そしてさみしいもののように聞こえたのだから。
.
- 713 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:32:01 ID:6.gT5oTU0
-
.
- 714 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:33:45 ID:6.gT5oTU0
-
BGM推奨
http://www.youtube.com/watch?v=I6QOYPNr8H4
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イツワリ警部の事件簿
File.3
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
― END ROLL ―
.
- 715 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:34:30 ID:6.gT5oTU0
-
爪'ー`)『ああ……胃が痛い。キセルでものもうかな』
|゚ノ ^∀^)『まことに申し上げにくいのですが、ここは禁煙でして……』
爪'ー`)『あ…いえ。わかりました』
⇒大神フォックス 【オオカミ鉄道総裁】
爪'ー`)「まさかね、ウチがあげたダイナマイトが、あんなふうに使われるとは……思ってもみなかったよ」
爪'ー`)「ほら、例のWKTKホテル爆破事件の……ですよ」
爪;'ー`)「おかげで、またよからぬウワサが……ああ、胃が痛い……」
爪'ー`)「まあ、アーボンオレンジの香水をもらったから、これでリラックスするとするよ」
爪'ー`)「……え?」
爪'ー`)「……爆弾の管理ができてなかったから、ウチにもその責任がまわってきた……だって?」
爪'ー`)「え、なに、この請求書」
爪'ー`)
っ| ̄ic
爪;'ー`)「………ッ!? な、なんだこのガク!! え!? ウチが払うの!?」
爪;'ー`)「ちょ、ちょっと待ってよ! ウチはちゃんと正式な手順を踏んでだね……」
爪;'ー`)「じょ、ジョーダンじゃない!! 待ってよ、ウチに払う義理はないから、いや、ホント!」
爪;'д`)「――ちょ、ちょっと! 帰らないで! ちょ……ねえ、待ってください! ちょ――」
.
- 716 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:35:04 ID:6.gT5oTU0
-
(;´・ω・`)『そ、そうですか。遅れないよう気をつけてくださいね』
(∴)◎∀◎∴)『コポォwwwwそちらも気をつけるでござるwwwいけない、また口調がかわ』
(´・ω・`)『よし、行くぞ』
( <●><●>)『は、はあ』
⇒ヲタ 【格闘ゲーマー】
(∴)◎∀◎∴)「支配人、副支配人以外で死人はでなくて、めでたしめでたし……」
(∴)◎д◎∴)「―――って、なんだそれ! JKFはどうなったんだヲタ!!」
(∴)◎д◎∴)「今回の事件で、JKFはまた全部撤収されたんだヲタよ?!」
(∴)◎д◎∴)「小生、まだしぃちゅわんしか使ってないというのに!!」
(∴)◎д◎∴)「た、頼むヲタ! 一台、一台だけでいいから、あの筐体、譲ってほしいヲタ!」
(∴)◎д◎∴)「頼むヲタよ! 小生の、小生の魂がこもった土下座なら何回でもするヲタ!」
(∴)◎∀◎∴)「頼……? トソン……氏が、いったいどうし……え?」
(∴)◎∀◎∴)
(∴);*◎∀◎∴)「ぬほォwwwwwwwあ、あのあと、小生の部屋にきたヲタか!?wwwwwww」
(∴);*◎∀◎∴)「ししししかも、一人で不安だったから!? さみしかったから!!?」
(∴);*◎∀◎∴)「みwwwwなwwwぎwwwwっwwwてwwwwきwwwたwwwwwwww」
(∴)◎д◎∴)「――! あ、JKFの話はどうなったヲタ!?」
(∴)◎д◎∴)「ちょ、逃げないで――待つヲタ! 待つでござる! 待てええええええええ!」
.
- 717 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:35:36 ID:6.gT5oTU0
-
(-@∀@)『「真実」、ですか』
(-@∀@)『私が本社の代表となって言ってよろしいのなら、こう言いますね』
(-@∀@)『真実とは、イビツな紙粘土だ』
(´・ω・`)『……かみ、ねんど………』
⇒アサピー 【朝曰新聞社記者】
(-@∀@)「例のWKTKホテル爆破事件、並びに緒前モナー・笑野プギャー殺人事件ですが」
(-@∀@)「ええ、ええ。そりゃあもう『真実』をこねにこねくりまわして、最高の記事ができましたよ」
(-@∀@)「……そして、私のパソコンのなかで、静かに眠っています」
(-@∀@)「……そう。どうしてか、かかってしまったのですよ。……『報道規制』が!」
(-@∀@)「はい。報道規制、つまり、このたびの事件は『なかったこと』にされた……ということです」
(-@∀@)「理由? 知りませんよ、そんなもの。私だって怒りで頭がいっぱいなのです」
(-@∀@)「…! ひょっとすると……」
(-@∀@)「例の、アンモラルグループが、なにか絡んでいるのかもしれませんね」
(-@∀@)「レモナ秘書とモナー支配人の関係、アンモラルグループとのつながり」
(-@∀@)「そちらのほうもトーゼン記事にしたのですが……門前払いでしたよ。タイトルすら読まれなかった」
(-@∀@)「これは……ひょっとすると、ひょっとするかもしれませんね」
(-@∀@)「それはそうと、私、思ったのですよ。ショボーン警部がいると、スクープがしゃれこんでくる、と」
(-@∀@)「ですが、よく考えると、あの女の子が事件を呼んでいるのではないか……そう、思うのです」
.
- 718 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:36:13 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)『歳をくうと性欲が減る、なんて聞きますが、あなたは例外のようですね』
|;;;;| 。゚っノVi ,ココつ『ほ、ホクロの話ひとつで、ワタシを変態扱いせんといてくだされ!!
だいたい、あんたがしてくれー言うからにワタシは――』
( <●><●>)『いきましょうか』
(´・ω・`)『おう』
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ『〜〜〜ッ! ええやろが、うなじに見惚れたかて!
. しかもそん時はまだ赤子! 情なんざ覚えるわけが……って、聞いとるのか! 待て!』
⇒榊原マリントン 【建築デザイナー】
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ひょっとするとモナーさんは、アレを予想して」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ワタシに赤子を見せたんやないんかァ思うてますんよ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ホクロの話をしたのも、いつか、モナーさんとレモナさんの関係に……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「『ほんとうの絆』っちゅーもんに、気づいてくれ……ちゅー、ね」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「まあ、ワタシはものの見事に気づかんかったわけですが……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……へ? テレビの出演依頼? 懐かしいですな。ええですぞ」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「今度はなんですかな? また『劇的! マエートアート』かいの?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「………? 『全国のフェチシズム選手権大会』?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「――あ、阿呆ぬかしなさんな! うなじフェチ? ふざけるな! 断じて違うッ!!」
|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「あッ、待ちなされ!! 違うと申すに!! こら、待たんかアアアアアアアアッ!!」
.
- 719 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:38:59 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)『では、シロイさんも?』
( ´W`)『クロイです。シラヒーゲなんて名前ですが、実はクロイです』
( <●><●>)『(白いけど実は黒いのか)』
⇒黒井シラヒーゲ 【アスキーミュージアム館長】
( ´W`)「警察から、アンモラルグループとの関係について取り調べされるだろうなあ……」
( ´W`)「なんて思っておったのですが、あそこに関する取り調べは一切なし、だったんですよ」
( ´W`)「どうしたんでしょうかねえ。……まあ、なんとかなって、助かりましたが」
( ´W`)「……提供をしぶっていた理由?」
( ´W`)「簡単ですよ。……モナーさんから、言われておりましたから」
( ´W`)「『誰になにを言われようとも提供しちゃだめモナ』……」
( ´W`)「いま思えば……彼は、こうなることを予想していたのでしょうかね」
( ´W`)「あそこですなおに提供しておけば、プギャーさんが死ぬことはなかった……」
( ´W`)「そう思うと、やっぱり、罪悪感は感じますね……ええ」
( ´W`)「……白髪が増えた、って?」
(;´W`)「ふ、増えてませんよ。むしろ、黒い毛が増えておりましてね。ええ」
(;´W`)「そのうち黒井クロヒーゲ、なんて呼ばれる日がきますからね、後悔させますよ」
( ´W`)「……そういえば。彼は、どうなんでしょうかねえ」
( ´W`)「ショボーンさんですよ。彼、もう四十は超えていそうな風貌でしたが……」
( ´W`)「……また、彼とはバーで飲んでみたいものです」
.
- 720 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:39:32 ID:6.gT5oTU0
-
(´・ω・`)『見ての通り、ないですよ。まあ、あっても勝手に入ってましたが』
( ;‘∀‘)『だ、だめですよ! なんのための「立ち入り禁止」なんですか』
( ;´・ω・)『じょ、ジョークですよ!
. (怖いな……)』
⇒緒前ガナー 【モナーの娘】
( ‘∀‘)「……一応、落ち着くことはできました」
( ;‘∀‘)「精神病院で、薬を処方してもらって……いまは、それを飲んで静養中です」
( ‘∀‘)「取材……いいですよ。なんですか?」
( ‘∀‘)「……アンモラルとの関係……です、か」
( ‘∀‘)「正直言って、私も、よくわかりません。ずっと、モナーの娘だ、と思っていましたから……」
( ‘∀‘)「でも、DNA鑑定とかされるんだろうなあ、と思ってたら……そういうのは、まるでなかったんです」
( ;‘∀‘)「私としても、あまりそういうのは、その……好かないので。 助かった……と、捉えるべきなんでしょうが」
( ‘∀‘)「確かに、父は苦手でした。でも……」
( ぅ∀‘)「……ッ、……」
( ‘∀‘)「………失礼」
( ‘∀‘)「でも、一度くらいは……」
( ‘∀‘)「一度くらいは、父と、お酒を飲んでみたかった……ですね」
.
- 721 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:40:34 ID:6.gT5oTU0
-
爪;'ー`)『のーさんには敵いませんよ、ホント。
. ……パーティのあと、11Fのレストランで。ごちそうしますから、この話はそのときにでも』
(゚A゚* )『え、ホンマに? うれしいわぁ、あのハナシ考えとくなー』
爪;'ー`)『ええ、ええ、ぜひ前向きに検討お願いします。いや、ホント』
(^A^* )『かまへんて。ウチとオオカミさんの仲やん!』
爪;'ー`)『は、ははは……ハハ。』
⇒下呂のー 【アンモラルグループ幹部】
(゚A゚* )「あンときにレモナさんを止めた理由?」
(゚A゚* )「……なんでやろーな。こっちとしても、死んでもろたほうが助かってたんやけど……」
(゚A゚* )「………やっぱり」
(゚A゚* )「やっぱり、ウチんなかにも、あったんとちゃうんかな」
(゚A゚* )「ほら、モナーさんが言うてた……『絆』とか、『礼儀』とか……そーゆーもんが」
(^A^*;)「……言うてみたものの、あんまガラちゃうな。恥ずかし。いまの聞かんかったことにして」
(゚A゚* )「……まあ」
(゚A゚* )「ウチ、ほら、クチで言うんは簡単やけど、その……」
(゚A゚* )「ひどいこと、してもうたから……な」
(゚A゚* )「その罪滅ぼし……ってところがブナンやと思う」
(゚A゚* )「モナーさん殺してもうた代わりに、あの子の命だけでも――みたいな?」
(^A^*;)「ま、まあ……気にせんといて。死にぞこないのタワゴトや」
.
- 722 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:42:53 ID:6.gT5oTU0
-
(;`・ー・)ゞ『――ッ! おい、アレ…』
( `・∀・)ゞ『ポンチョ、いますぐ手当ての用意だ!』
( `・д・)ゞ『おう!』
⇒ポンチョ含む三人 【レスキュー隊】
(*`・∀・)ゞ「お、取材? まじかアアアアア! 腕がなるぜえええ!」
( `・ー・)ゞ「お前が出たら、騒がしくて取材にならないだろ。代われ」
( `・∀・)ゞ「ハア? オレが適役だろ! なあ、ポンチョ!」
( `・д・)ゞ「なんで俺に振るんだよ……」
( `・ー・)ゞ「お前は引っ込んだほうが身のためだぜ」
(;`・∀・)ゞ「なに!? おい、オレがリーダーじゃねーのか?」
( `・ー・)ゞ「え? 俺だろ?」
( `・д・)ゞ「なにを。俺に決まってるじゃねーか」
( `・∀・)ゞ「なんだと? いい度胸してんじゃねーか」
( `・ー・)ゞ「またDSFで決着決めるのか?」
( `・д・)ゞ「昨日までの俺とは一味違うぜ。なんせ、あのJKF王者に手ほどきもらったから――」
( `・ー・)ゞ「――……え? 帰る?」
(;`・∀・)ゞ「!! ちょっと待って! あ、もう誰でもいいから取材にこたえろ!」
(;`・д・)ゞ「そ、そうですね! えっと、あの事件は――」
(;`・ー・)ゞ「―――ッ! ま、待って! 帰るなら、せめて名前だけでも――」
.
- 723 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:45:16 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)『……それでも、用意するに越したことはない。ぜひ、お願いします』
( ;^Д^)『わかりました。……でも、単独行動して、いいんでしょうか』
( <●><●>)『あなたが無実なら、なにもおそれる必要はない。
人命最優先です。至急、お願いします』
⇒若手ワカッテマス 【VIP県警捜査一課の刑事】
( <●><●>)「あなたとも、これで三回目ですね」
( <●><●>)「……いえ。あまり、あの事件は、思い出したくないのですよ」
( <●><●>)「あのときの、警部の言葉――」
( <●><●>)「――『人命を放棄』……。私としても、受け止めたくない現実がわかりましたから」
( <●><●>)「言うまでもないでしょう。『必ず人命を救い出せるわけではない』という、現実ですよ」
( <●><●>)「いままで――というより、あの誘拐事件の日から」
( <●><●>)「私は、人命救助をなによりも――それこそ、犯人を逃そうと優先するつもりでいたのですが……」
( <●><●>)「それはそれで、まだ刑事として最善の行動をとれていたわけではない、とわかったので」
( <●><●>)「警部も、あれから、あの事件のことはあまり口になさらなくなったのです」
( <●><●>)「彼も……やはり、ショックが強かったのでしょうか。そのことと言い、緒前さんのことといい……」
( <●><●>)「……? 有給? ああ、この事件の後始末に追われて、それどころじゃなかったですよ」
( <●><●>)「三日とも、ずっと、事情徴収をかっ喰らった気がしますね」
( <●><●>)「まあ、もともと私に無駄な休暇など必要ないのですが――」
( <●><●>)「たまには、旅行というのもなかなかいいものですね」
.
- 724 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:45:46 ID:6.gT5oTU0
-
BGMここまで
.
- 725 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:47:58 ID:6.gT5oTU0
-
◆
二月二十一日、VIP県警捜査一課、朝早くに出勤した若手ワカッテマス刑事は
自分のデスクに就いてそうそうに邪険な顔をした。
いかにも不機嫌さがにじみでてきているので、
捜査一課を共にする他の刑事は戦慄を通り越して滑稽さすら感じ取っていた。
( ゚д゚)「なるほど……だから不機嫌だったのか」
( <●><●>)「世間一般に公開されることはないのがせめてもの救いでしたが」
( ゚д゚)「ん? でも、例の記者がいたんじゃないのか?」
( <●><●>)「私も、それが気がかりなのです」
('、`*川「あの人のことだから、存分に嘘を盛った記事とかばら撒きそうなんだけどねぇ……
. あ、コーヒー淹れてー」
( <●><●>)「それを警戒して、記者会見に向けて理論武装をしていたのだが……
……あなたのほうが近いじゃないですか」
('、`*川「だって、歩くの、たるい」
( <●><●>)
.
- 726 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:48:32 ID:6.gT5oTU0
-
伊藤ペニサス刑事が手をぷらぷらさせたところで、ついに東風ミルナ刑事が笑った。
ワカッテマスは細めた目から冷たい視線を彼女に浴びせたが、
当の彼女はまるで悪びれた様子を見せなかった。
――早朝から、「白衣の女刑事」として注目を集めているペニサスと
「千里眼」の異名を持つミルナは、数日前のキタコレでの事件の話を聞いていた。
もとより、ショボーンとワカッテマスが戦線を離脱するのはわかっていた。
その名目が「キタコレへの宿泊旅行」だった、というのも同様だ。
だが、その旅行の土産話でさえ事件で埋め尽くされることになるとは、彼らにとっても心外のことだっただろう。
どこまでも、刑事。
もはや職業病だな、とミルナは思っていた。
('、`*川「でも、警部がまたちゃちゃっと解決したんでしょ? よかったじゃん、警部が一緒で。
. あ、ミルクお砂糖たっぷりで」
( <●><●>)「それは自分でしてください」
('、`;川「なッ――無駄骨じゃない!」
( <●><●>)「……まあ、警部がいたおかげで、二人で役割分担ができたのは運が良かったです」
('、`;川「もう! そんなんじゃモテないよ?」
( ゚д゚)「怠慢な女もモテないと思うがな」
('、`;川「わかりましたよーもー」
ワカッテマスが席にその大きな躯を載せると同時に、今度はペニサスがたった。
暖房が効くとはいえ、まだ冷え込みを感じる二月下旬。
日頃から怠慢な性分を持つペニサスは、室内を動くことですら億劫に感じていた。
.
- 727 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:49:20 ID:6.gT5oTU0
-
( ゚д゚)「しかし、イツワリさんは左耳を破ったそうだな」
( <●><●>)「なんでも、雑菌が入って、通院が必要になったとか」
( ゚д゚)「よくまあ、爆発から生還したものだよ」
( <●><●>)「あの人なら、大洪水からでも平気で生還しそうですがね」
( ゚д゚)「違いない」
ペニサスがふくれっ面で席に戻ると、彼女とは相対的にミルナは声を出して笑った。
ワカッテマスも愉快なのか、リラックスした様子を見せている。
それが、ペニサスにとってはつまらなく思えた。
.
- 728 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:49:51 ID:6.gT5oTU0
-
('、`*川「そんなこと言ってると、聞き耳たててる警部にまたなにか言われますよー」
(´・ω・`)「そうそう。あることないこと、でっち上げるよ」
( ゚д゚)「不吉なこと言わないでくださいよ、イツワ――」
(;゚д゚)「――えええええええええッ!?」
(´・ω・`)
――突如としてペニサスの背後からぬっと現れたショボーンを見て、
ミルナは絶叫をあげながらガタッと立ち上がった。
それにつられて、ペニサスもワカッテマスも、同様に仰天した。
('、`;川「い、いつの間に!?」
(; <●><●>)「通院はいかがなさったのですか?」
(´・ω・`)
(´・ω・`)「あんたら、まとめてぶち殺すぞ」
.
- 729 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:50:22 ID:6.gT5oTU0
-
ショボーンはしょんぼりとした表情のまま、声色だけを変えて、そう言った。
――彼は、才能こそあるのだが、人格はその正反対であった。
その嫌な性格が、部下たちに「仕事では尊敬できるけど私生活では共にしたくない」と言わしめるのだ。
ショボーンはそれを薄々感づいてはいるが、怒る気にはなれないでいた。
(´・ω・`)「だいたいだな、そうやって上司の悪口を言うから、あんたらは平のままであって――」
('、`*川「――あ、電話」
(´・ω・`)「おい」
ショボーンが長話をはじめようとすると、それを遮るべく、一本の電話が鳴った。
「仕組んでいたのか」とショボーンは恨めしい表情を浮かべるが、
それに気をとられず、ワカッテマスがそれに応じた。
こんな時間から、いったい――
それは、別に考える必要もなかった。
.
- 730 :後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:51:05 ID:6.gT5oTU0
-
( <●><●>)「はい、捜査一課」
( <●><●>)「……わかりました」
何度かうなずくワカッテマスは、少ししてその短い会話を済ませ、受話器を置いた。
そしてショボーン、ペニサス、ミルナを見渡して、いつもの様子で言う。
( <●><●>)「事件です」
( ゚д゚)「場所は」
( <●><●>)「とある公園の池に、死体が浮かんでいたとのことです」
(´・ω・`)「行くぞ」
「はッ」。
短い三人のその声で、先ほどまでの和やかなムードが一転、
皆がいっせいに、「刑事」としての雰囲気を漂わせた。
カップに残っていたコーヒーを飲み干し、四人のうちペニサスが最後に捜査一課をあとにする。
そしてまた今日も、彼らはいつものように事件を解決へと導いていくのだ。
.
- 731 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:52:38 ID:6.gT5oTU0
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|`ヽ /|
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礀 !
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く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
イツワリ警部の事件簿 .丿 '、__,l ヽ、::::::::::::::::::` >;;::;;:|
File.3 ./ ` ..' ,,..、 丶、 冫:::::::::::::/>;;;;;;;;\
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ニ .ノ . ‐┼‐ ___ `` / | -┼ | l ..,,_ .::::::::::/;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
ノ ヨ ノ .|.ヽ _ノ し αヽ 釗/ .. '/ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
ノ i `―、;:;:;/, ;;::|
. ノ _ソ 〈__/ ヽ|ノ  ̄V'' |
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/ lノ.-―┴┐ レ ! /Τヽ ノ|ヽ ̄Τ ̄ x‐ ,i:
. | ハヽヽ丿 / し' ノ. | | (_ ,,'
、
--―ヽ ‐ナ ヽ ノ ゛ ├ ,―、 -― ゛ -┼‐
ノ ノ σ \ σ‐ ノ (_ . 9
ご 愛 読 あ り が と う ご ざ い ま し た !
続 編 も た だ い ま 製 作 中 !
.
- 732 :同志名無しさん:2013/03/23(土) 23:55:47 ID:QsUekBRI0
- 乙!
今回も面白かった
- 733 :同志名無しさん:2013/03/23(土) 23:58:01 ID:ftTJogXg0
- 投下乙でした!
次回作も期待してます!
- 734 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/23(土) 23:58:35 ID:6.gT5oTU0
-
【 目次 】
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五幕 「見てはいけない」
>>248-294 第六幕 「おぞましい真実」
>>303-353 第七幕 「次なる被害」
>>359-413 第八幕 「二つの矛盾」
>>420-494 第九幕 「偽りをつなぐ」
>>502-566 第十幕 「ほんとうの絆」
>>577-713 終 幕 「愛されたくて」
>>714-731 後日談
.
- 735 :同志名無しさん:2013/03/24(日) 00:01:18 ID:oO7ugyH60
- 乙!
今回もおもしろかった
次回も楽しみに待ってる
- 736 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:03:21 ID:4Tl7y8tM0
- ぎりぎり日付が変わるまでに投下しきれた…
これで、シリーズ第三弾はおしまいです。おつきあい、ありがとうございました!
また、もう三度目にもなるのに引き続いてまとめてくださった芸さんも、ありがとうございます!
>>699
!
私、スレで支援絵をいただいたのははじめてです!ショボーンかわいい!
この感動、なんて書けばいいかわかりません!とにかく、ありがとうございます!
- 737 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:06:39 ID:4Tl7y8tM0
- それと、終わってすぐにこれはくどいかもですが…
新作の予告編(30レス弱)が残っているので、すみませんがいまから投下します
- 738 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:07:54 ID:4Tl7y8tM0
-
i. i'ヽ、 ,
、 !ヽ、 _ i.ヽ,.--、 i ノヽ ./i _,.-
ヽ丶、._ ノ,.._ヽヽ ̄ヽ,._ヽ、`' ´_,.!ヽ 、__ /. | _. -'./
ヽ _.. '´ iヽ、i. '´ .`'´,.ィ ."'´〉.< !、 __..-‐' ´ /
___ ..`''´ ._. -'! 、.!-‐'´ _ .. -<' _,. .'´'´、 <ヽ  ̄ /
< _..-'! `''´.、 .ヽ、,シ'´_.ィ',.:'´、.'i i'.ゝ'、ヽ / ___
i `-'´,. !-' _ノ i、_-'´_._-、. r'" ,. ヾ、_.ィヽ ____ /´ `ヽ、
! !.-'´_,.、 !_'´ヽ_> 、´" .'´ : ';'、 /´ >! ヽ..__ ヽ、 `.i、.,' iヽ
. i ,ri `'´_i ''"´ `! i'´! .、-‐ヾィ.、 `'''´ .i´ `)ヽ.! ! i ,. ' _!
_,`r'"_, `'´_,.._. =ニ、.'i !''、_/i ) _> ̄ヽi /´,、.ィ| .i i / /
ーニ_,. >'´ -、ヽ. ノ!_.ノ i'ヽ! '´_... _ノi ! /./. 〉! .|| / /、_
ヽ_,..イ / ソ ,.-'´ノ、ー-'‐'´ i''、-‐ 、二! .'' .| .,' !. ‖ / /---‐'
>' / .ハ、_,.:-'´. ヽ、__ノ,i '´ ,.、_ ヽ. `iノ /.| ,:' /
. < '´_.,.-'´ .>'´_, !' /. /!. !`'´ _.-' .!i /
`´/ _. - ' ´ヽ / / ! / // // _..:‐'´_.. -'ノヾ、ヽ
. /, -'´ | _!、_ '、/ .,、!,_/'_.-'/_ : ' _. -'´ r'´ ヽ、ヽ
-'´ !./ ヾi、__/. 人 _/-'´_ 、'.i' ヽ_ ...-'. !`ヽ
! .ヽ--' < _ -'´ ヽ `ー‐''´
`
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- 739 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:08:25 ID:4Tl7y8tM0
-
/\ ./ 、
/ \ ./ 、
/ \ / `.
/ ヽ、 ,ノ ヽ
/ ,;:´ ‐ー一 `、
/ ´ ` 、 ト
.,′ `,
ノ \
,´ `、
,i i|,
| / \ |
|i ../ ..\ i!
':,, \___/ u ,,,/
\ ヽ / ,,,,/
ヽ,, ..,,,,`、 ノ ,,,, ... ::;;;ノ
', ..i'' i,,,, ''i''' i } /
,.、-‐‐┤ : ! ! } ! ノ ノ‐--、,_
,、-''" ヽ ヽ ヽ丶 ! ノ ノ / `‐-、,_
,、-'" \ \ ヽヽ ! / // `'‐、,_
/ \ヽ、,,__ ヽ、,, i/ // / \
/ \ ヽ `r-、, _/ / / / i
┌‐────┐ ヽ \ノ二ヽ / / / |
│ サイバンチョ .! ヽ i i / /,、- |
├───‐─┴───────────────────────────‐‐
| !
|
└─────────────────────────────────‐
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- 740 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:09:01 ID:4Tl7y8tM0
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_ ,, - 、
, - ´ ヽ
,:' ,・=:,,_ ヽ
i' ,, `''' ',
! =''´. , ○ ',
! ○ r.-‐7 ,
',. ヽ、ノ , ,'-、
ヽ ., ::::::;;ノ、: :`- 、_
'` 、,,, ,,,,, ::::::;;/:::::i: : : ',: : :`: :‐‐---,,,,,_
,,'ノ、` - 一 r K:::::::::::!--=ニ__: : : : : : /: : : :ヽ
_,/: /:::::::::ヽi i l' ヾ:::::!__: : : : ;': : : : : ,': : : : : : ',,
/: : : :i- 、_:::::i__ i l i_i/:::::/: : : ;': : : : : :i: : : : : : : : :',,
i: i: : : :i: :/:::::! `- l/i::::::::/: : : : i: : : : : :.i: : : : : : : : : ` i
.';:'; : : :'; : :ヾ、::\ ‡ l::::/l: : : : ::i: : : : : : i: : : : : : : : : : ノ、
.';:';: : : '; : : : i:::::::\l .l:/:::l: : : : ::!: : : ヾ、: '; : : : : : : : : : : : '、
ζ:' ; : :.'; : : :';: !:0::l: : : : :!___;,;┐: ヾ'; : : : : : : : : : : : :'、
'; : ヾ、:'; : : :i: .;!:::::l: : : : !___,,,,-': : : : iヾ : : : : : : : : : : : ',
!: : : :';::'; : : ! j::::::!: : : :!: : : : : : : : : :!: :!ヾ: :/: : : : : : : ::',
!: : : : :' 、'; : '、 /:::::::'; : : :!: : : : : : : : : : : ;'/: : : : : : : : : : :i
┌‐────┐ .,': : : : : : :'; : : \_/::::::::::::'; : :!: : : : : : : : : : :,' >: : : : : : : : : : : ;'
│ ジョルジュ| .i: : : : : : : : :',: : : ';:::::::::::::::::'; :!: : : : : : : : : : `ノ: : : : : : : : : : :/
├───‐─┴────────────────────────
| ‥‥お?
|
└─────────────────────────────‐
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- 741 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:09:39 ID:4Tl7y8tM0
-
/\ ./ 、
/ \ ./ 、
/ \ / `.
/ ヽ、 ,ノ ヽ
/ ,;:´ ‐ー一 `、
/ ´ ` 、 ト
.,′ `,
ノ \
,´ `、
,i i|,
| / \ |
|i ../ ..\ i!
':,, \___/ u ,,,/
\ ヽ / ,,,,/
ヽ,, ..,,,,`、 ノ ,,,, ... ::;;;ノ
', ..i'' i,,,, ''i''' i } /
,.、-‐‐┤ : ! ! } ! ノ ノ‐--、,_
,、-''" ヽ ヽ ヽ丶 ! ノ ノ / `‐-、,_
,、-'" \ \ ヽヽ ! / // `'‐、,_
/ \ヽ、,,__ ヽ、,, i/ // / \
/ \ ヽ `r-、, _/ / / / i
┌‐────┐ ヽ \ノ二ヽ / / / |
│ サイバンチョ .! ヽ i i / /,、- |
├───‐─┴───────────────────────────‐‐
| いま、異議を唱えたのは‥‥どなたですかな?
|
└─────────────────────────────────‐
.
- 742 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:10:11 ID:4Tl7y8tM0
-
/\ ./ 、
/ \ ./ 、
/ \ / `.
/ ヽ、 ,ノ ヽ ヽ‐z
/ ,;:´ ‐ー一 `、 ', Z
/ ´ ` 、 ト i >
.,′ `, ,'r`
ノ \ ´ '
,´ `、
,i i|,
| / \ |
|i ../ ..\ i!
':,, \___/ u ,,,/
\ ヽ / ,,,,/
ヽ,, ..,,,,`、 ノ ,,,, ... ::;;;ノ
', ..i'' i,,,, ''i''' i } /
,.、-‐‐┤ : ! ! } ! ノ ノ‐--、,_
,、-''" ヽ ヽ ヽ丶 ! ノ ノ / `‐-、,_
,、-'" \ \ ヽヽ ! / // `'‐、,_
/ \ヽ、,,__ ヽ、,, i/ // / \
/ \ ヽ `r-、, _/ / / / i
┌‐────┐ ヽ \ノ二ヽ / / / |
│ ??? .| ヽ i i / /,、- |
├───‐─┴───────────────────────────‐‐
| 私だッ!
|
└─────────────────────────────────‐
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- 743 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:10:41 ID:4Tl7y8tM0
-
_ ,, - 、
, - ´ ヽ
,:' ,・=:,,_ ヽ
i' ,, `''' ',
! =''´. , ○ ',
! ○ r.-‐7 ,
',. ヽ、ノ , ,'-、
ヽ ., ::::::;;ノ、: :`- 、_
'` 、,,, ,,,,, ::::::;;/:::::i: : : ',: : :`: :‐‐---,,,,,_
,,'ノ、` - 一 r K:::::::::::!--=ニ__: : : : : : /: : : :ヽ
_,/: /:::::::::ヽi i l' ヾ:::::!__: : : : ;': : : : : ,': : : : : : ',,
/: : : :i- 、_:::::i__ i l i_i/:::::/: : : ;': : : : : :i: : : : : : : : :',,
i: i: : : :i: :/:::::! `- l/i::::::::/: : : : i: : : : : :.i: : : : : : : : : ` i
.';:'; : : :'; : :ヾ、::\ ‡ l::::/l: : : : ::i: : : : : : i: : : : : : : : : : ノ、
.';:';: : : '; : : : i:::::::\l .l:/:::l: : : : ::!: : : ヾ、: '; : : : : : : : : : : : '、
ζ:' ; : :.'; : : :';: !:0::l: : : : :!___;,;┐: ヾ'; : : : : : : : : : : : :'、
'; : ヾ、:'; : : :i: .;!:::::l: : : : !___,,,,-': : : : iヾ : : : : : : : : : : : ',
!: : : :';::'; : : ! j::::::!: : : :!: : : : : : : : : :!: :!ヾ: :/: : : : : : : ::',
!: : : : :' 、'; : '、 /:::::::'; : : :!: : : : : : : : : : : ;'/: : : : : : : : : : :i
┌‐────┐ .,': : : : : : :'; : : \_/::::::::::::'; : :!: : : : : : : : : : :,' >: : : : : : : : : : : ;'
│ ジョルジュ| .i: : : : : : : : :',: : : ';:::::::::::::::::'; :!: : : : : : : : : : `ノ: : : : : : : : : : :/
├───‐─┴────────────────────────
| ほぉー。 こいつァ、驚いた。
| ‥‥いいぜ、聞いてやらァ!
└─────────────────────────────‐
.
- 744 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:11:14 ID:4Tl7y8tM0
-
__,, -- ,,_
, - ,,, ` ヽ
, '´ ,=・''' `、
! ○ ..:::,
__ ! r--┤ .::::::::,
r--、-、'´ ` 、__,- 、__. '、 \ノ ..::::::::::::i
_,>-┴'v‐' !:::i: : : :`: : : ‐-. . . ___ ヽ ::::::::::::::,'
r-‐ '´ _,,,,,,)、 ゝ____,イ.ノ:::!: : : : : : : : : : : : : : :` - _ _,,,,,,__ ` 、. ..:::::;;;;;;;;<__
ゝ-‐''´ゝ,-、)、 ,,-、___,-'__:.:!: : : : : : : : : : : : : : : : : : :`‐-----、''、´: : : ヽ`-、``" ./''´:::/ ', /';::::` ‐
', ''、'´ ./,! !::!: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヾ ヾ: : : :'; : :\ ̄:::::::::::/ ', ';::::::i´’;、
`‐--'--' `ー-- ___: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヾ ヾ: : : '; : '; ''''´7::::::ヽ- 、 ' ,i.';::::'、_: :ヽ
` ‐---- 、: : : : : : : : : : : : : ヾ: ヾ: i: : : '; : : `-、:::::ヽ. \‡', (;:::::::て
` ‐- 、_: : : : : : : : : :ヾ' ;i: : : : ' ; : : : ' ;:::::::', ν ';:/: :`┐
`──ヽ: : : : ヾ!: : : : : ' ; : : : ';:::O', ヾ:::',.',i : : :.i
'; : : : :!: : : : : : : '; : : : ';::::::', 、 : f: :l: i`ヽ
';: : /: : : : : : : :.'; : : : ';::::::', ヽ l: i: i: : : `i
';: i: : : : : : : : : :'; : : : i:::::::\ |:::::i: : l: : : : : :!
┌‐────┐. ';: :'; : : : : : : : : : '; : : l:::::::::::::`'´::::l: : !: : : : : :リ
│ ジョルジュ|. '; :'; : : : : : : : : : :'; : :l:::::::::::::::::::::::l: : !: : : : : ノ
├───‐─┴───────────────────────────────────――‐
| ‥‥その、バカでかい声で! 言ってみなッ!
|
└─────────────────────────────────────────―‐‐
.
- 745 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:11:45 ID:4Tl7y8tM0
-
,,.. -- .,,_
,.-'´ `ヽ
, '" "" '、
. ,.' ,.- 、 . ,, ,, ',
/ ,i ,.i.r'´-、_ .,
,.' ./'、ゞ! ,. "''‐、_ リ
, '_,, -'-ミ!`i ''‐-' , 'ー´
,.....、--'ニ" _,,.ィ'´ヽ、'、 .i ,´
. / ヽ `フ .|、. \'.、. - , '
/ ', / |-',-、_ ノ、`ー´ `i、
. / i `"''_,- ト-,,_ | '、. ,' ',
. / .ノ 、'" ! : : : :':'ー-! ヽ‐' / !
/ ,.' _,. ヽ l : : : : : : : : `i ' /, ' ',
i' .,.' \ l: : : : : : : : :/i /' !
/ /i ヽ.|.: : : : : :/ ! ' |
! ,. -‐.、ノ..ノ ',.!: : : / .l ',
. | ´ ',´ ,. ', l : / .,', ヽ,
. | ヽ !,! _,,,..ノ .', , '" ヽ
. l ,. -‐―ヾヽ / '、 `''ー- 、_
__!,'__ヽ, \.\`'.-、_ ./ `' 、 `'ー,-__
 ̄ ̄ ̄`""'''゙'' ― '------ ....,,,,__ `'- 、 ,. '´ 、_ `,'ー- 、
――――------ .....,,,,,__  ̄ ̄``""" '''' ――`'- `=`-`= ..,,,
┌‐────┐
│ ジョルジュ|
├───‐─┴────────────────────―────
│ ‥‥‥‥素直 クールッ!!
|
└─────────────────―────────────‐
.
- 746 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:12:16 ID:4Tl7y8tM0
-
,,.. -- .,,_
,.-'´ `ヽ
, '" "" '、
. ,.' ,.- 、 . ,, ,, ',
/ ,i ,.i.r'´-、_ .,
,.' ./'、ゞ! ,. "''‐、_ リ
, '_,, -'-ミ!`i ''‐-' , 'ー´
,.....、--'ニ" _,,.ィ'´ヽ、'、 .i ,´
. / ヽ `フ .|、. \'.、. - , '
/ ', / |-',-、_ ノ、`ー´ `i、
. / i `"''_,- ト-,,_ | '、. ,' ',
. / .ノ 、'" ! : : : :':'ー-! ヽ‐' / !
/ ,.' _,. ヽ l : : : : : : : : `i ' /, ' ',
i' .,.' \ l: : : : : : : : :/i /' !
/ /i ヽ.|.: : : : : :/ ! ' |
! ,. -‐.、ノ..ノ ',.!: : : / .l ',
. | ´ ',´ ,. ', l : / .,', ヽ,
. | ヽ !,! _,,,..ノ .', , '" ヽ
. l ,. -‐―ヾヽ / '、 `''ー- 、_
__!,'__ヽ, \.\`'.-、_ ./ `' 、 `'ー,-__
 ̄ ̄ ̄`""'''゙'' ― '------ ....,,,,__ `'- 、 ,. '´ 、_ `,'ー- 、
――――------ .....,,,,,__  ̄ ̄``""" '''' ――`'- `=`-`= ..,,,
┌‐────┐
│. クール. |
├───‐─┴────────────────────―────
│ ‥‥検事は、確かに言ったな?
| “イツワリ警部がいなかったら、迷宮入りの事件が増えていた” ‥‥と。
└─────────────────―────────────‐
.
- 747 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:12:54 ID:4Tl7y8tM0
-
――― 「 偽 り を 見 抜 く 敏 腕 刑 事 」 が い な い 世 界
. . . .
本 来 解 決 さ れ て い る ハ ズ だ っ た
数
々
の
捕 ま っ た 彼 ら は
難
事 い っ た い
件
二 度 と 裁 か れ る こ と は な い の だ ろ う か ――― ?
.
- 748 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:13:26 ID:4Tl7y8tM0
-
r-― -_
/ "・ー-- `ヽ、
,' ''"''' ヽ
, ー―' リ .i
i, `i ノ |
! ` ノ
\ へ ノ
_ト ヽ /.ト、`<
_ ‐'´ l、. // l. / `i__
'´ )、 /ノ i /.i' ,. !_/.、__i . `ー 、_
__,.-//ノ .i ` '´|// > `ー、 `=-、
i'/ / !. ! /l /,ィ'´ / / i
! | | |.、 .∨ ,l/!,i / / |
. | .| |. |ヾ、/‡ /i ! ,' ./ i i .i
. | ! i | .| 〉 ヽ〈 |i ,' / ̄ `i ,' !、
,.'ヽ.'| l. l| |li i.. / ̄ ̄ヽ i. / i
. l ', ! || | i / ノ'i / i
┌────┐. ! ', !. || | i / . /! i .i
│ジョルジュ.|. i ', ! || | i / i / ∧| i
├────┴──────────────────────――――
| ああ、言ったね。 言ったさ。
| ‥‥それが、なにか?
└───────────────────────────――――
.
- 749 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:13:57 ID:4Tl7y8tM0
-
,,.. -- .,,_
,.-'´ `ヽ
, '" "" '、
. ,.' ,.- 、 . ,, ,, ',
/ ,i ,.i.r'´-、_ .,
,.' ./'、ゞ! ,. ,;_ ,"''‐、_ リ
, '_,, -'-ミ!`i 'ヒン' , 'ー´
,.....、--'ニ" _,,.ィ'´ヽ、'、 .i ,´
. / ヽ `フ .|、. \'.、. - , '
/ ', / |-',-、_ ノ、`ー´ `i、
. / i `"''_,- ト-,,_ | '、. ,' ',
. / .ノ 、'" ! : : : :':'ー-! ヽ‐' / !
/ ,.' _,. ヽ l : : : : : : : : `i ' /, ' ',
i' .,.' \ l: : : : : : : : :/i /' !
/ /i ヽ.|.: : : : : :/ ! ' |
! ,. -‐.、ノ..ノ ',.!: : : / .l ',
. | ´ ',´ ,. ', l : / .,', ヽ,
. | ヽ !,! _,,,..ノ .', , '" ヽ
. l ,. -‐―ヾヽ / '、 `''ー- 、_
__!,'__ヽ, \.\`'.-、_ ./ `' 、 `'ー,-__
 ̄ ̄ ̄`""'''゙'' ― '------ ....,,,,__ `'- 、 ,. '´ 、_ `,'ー- 、
――――------ .....,,,,,__  ̄ ̄``""" '''' ――`'- `=`-`= ..,,,
┌‐────┐
│ ク ー ル .!
├───‐─┴────────────────────―────
│ それは‥‥‥‥!
|
└─────────────────―────────────‐
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- 750 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:14:28 ID:4Tl7y8tM0
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,. -‐ ''''' ‐ .,
, '´ `'.、
,.' , `、
,.' ,. ''',、 ,.."'',,,_ ',
, ' ! ‐r ' r'7ヽ`'=,,_ ,!
/ '、。'. ゙''´ ,.'r!, ノ
/ ,'`i ___ 、,!./ ,... -‐ ''ー‐------.、
, ' ,' '、 ,:' ノ .ノ ,,... --‐ ''''"" /  ̄ 、_ .ィーr、―― '' ゙
,. ‐'´ ,.r'""'''ー `. '-;'=´ -‐ ''ヽ..-、_,,,,,,,,........ _,.-‐ '''" ´ ./......、__,,,,_`ヽ! .l !
,._- ;'- , -‐、=',. : : : : : :.,.‐'` "! ,. ' , ' ,. ‐ '" / ./`ー ''''`=‐'-'
-''",. '´, , / ,',. 、‐''./: : : : : :, oヽ''"" ' ' '" .,' ,.'
/ , ,' ' / ,. '´ '、 ,' : : : ;;:: r‐ ''" _,....=' ...,,,__ ,' /
ヽ',.',.' , ;' ,' ゞ'‐'" ./ ..::::::: , :::::: / ̄  ̄ ̄ ̄ `'ー- .,,,__l,. '
ヽ ,.'// !:::......::::く!...::::::::::!:::::::::::::::::: ./
'、 ,.' '.、;;;::::-::!--:::::::::!:::::::::::::: /
ヽ, ,!::::::::::| ::::::: ,' ,.'
`7 l::::: | .l .,.'
, '´ ,.!:::: l ! /
┌‐────┐::: ! l i
│ ク ー ル .!:::::::::| .! ,'
├───‐─┴────────────────────―────
│ お か し い ッ ! !
|
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- 751 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:15:04 ID:4Tl7y8tM0
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_,.-‐''''""''‐-
,:‐'"''''''―-:、. `:、
/ ヽ ヽ
i ,、iヽ ',. .';
l i.| `ヽ、,, i-:、 i.
i ,,| .__,,,`! |'' l リ
'、,,ri!t;i ‐i't;i'"| |) / ,.'
|.i '、 *| !"| ,,ノ
! ヽ_ ‐- ,.| ,'-‐ノ_
,' r`ーi‐r‐'、 `、
ノノiノ i'"/iレ _,i i.,_
( ,;;i ノ.ノ ト',, __,,, ,!ィ
j`,.':゚0゚ | i ,'
.i' _ |.. ','
.i|,`v´: :`i :|:::. ',
||: : : : : :ノ .:|:::::::::... ',
'|.: : :/ :|::::::::: ',
'i.:,;′ |:::::: ',
'i |:: i
.| ..| ',
.ト ヽ______,-i‐;;'i"´
┌‐────┐ .|l | | ,|
| し ぃ | .|li:. .| |' li
├───‐─┴────────────────────
│ ‥‥だから、毎回毎回、声張るところオカシイですよ‥‥。
|
└─────────────────────────‐
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- 752 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:15:39 ID:4Tl7y8tM0
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_,. r --- 、 ,,,
,:‐'"''''''―-:、 `:、
/ ヽ ',
/ ,ト、iヽ ', ;
l ノ `ヽ、, i-:、. ,
i. ,7,_ _;;_ヽ | l i
'、,,ri!t;:j ' ` Y / リ ,.'
|.i '、 _, * ノ !"| ノ
! ヽ_ .| ,'-‐'‐,'
ノ r `ーi‐,,, -r' ,l
て ノ i/ i;. _,i i.,_
(. ィ ./ ノ `- .ト',, __,,, ,!ィ,'
`j:'0 ゚ | i ,'
.i' _ |.. ','
.i|,`v´: :`i :|:::. ',.
||: : : : : :ノ .:|:::::::::... ',
'|.: : :/ :|::::::::: ',
'i.:,;′ |:::::: ',
'i |::: i
.| ..| ',
.ト ヽ______,-i‐;;'i"´
┌‐────┐ .|l | | ,|
| ク ー ル .! .|li:. .| |' li
├───‐─┴────────────────────
│ そ、そうかな‥‥。
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- 753 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:16:14 ID:4Tl7y8tM0
-
増え続ける凶悪犯罪の数々
無実を訴える容疑者の大勢
『 真 実 』 は
『 倫 理 』 は
どうなるのだろうか
『 偽 り 』 は 『 偽 り 』 の ま ま な の だ ろ う か
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- 754 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:16:45 ID:4Tl7y8tM0
-
_ ,, - 、
, - ´ ヽ
,:' ,・=:,,_ ヽ
i' ,, `''' ',
! =''´. , ○ ',
! ○ r.-‐7 ,
',. ヽ、ノ , ,'-、
ヽ ., ::::::;;ノ、: :`- 、_
'` 、,,, ,,,,, ::::::;;/:::::i: : : ',: : :`: :‐‐---,,,,,_
,,'ノ、` - 一 r K:::::::::::!--=ニ__: : : : : : /: : : :ヽ
_,/: /:::::::::ヽi i l' ヾ:::::!__: : : : ;': : : : : ,': : : : : : ',,
/: : : :i- 、_:::::i__ i l i_i/:::::/: : : ;': : : : : :i: : : : : : : : :',,
i: i: : : :i: :/:::::! `- l/i::::::::/: : : : i: : : : : :.i: : : : : : : : : ` i
.';:'; : : :'; : :ヾ、::\ ‡ l::::/l: : : : ::i: : : : : : i: : : : : : : : : : ノ、
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ζ:' ; : :.'; : : :';: !:0::l: : : : :!___;,;┐: ヾ'; : : : : : : : : : : : :'、
'; : ヾ、:'; : : :i: .;!:::::l: : : : !___,,,,-': : : : iヾ : : : : : : : : : : : ',
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!: : : : :' 、'; : '、 /:::::::'; : : :!: : : : : : : : : : : ;'/: : : : : : : : : : :i
┌‐────┐ .,': : : : : : :'; : : \_/::::::::::::'; : :!: : : : : : : : : : :,' >: : : : : : : : : : : ;'
│ ジョルジュ| .i: : : : : : : : :',: : : ';:::::::::::::::::'; :!: : : : : : : : : : `ノ: : : : : : : : : : :/
├───‐─┴────────────────────────
| 言ってくれるじゃねーか。
| じゃあ、アンタはどうしてくれるってんだ?
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- 755 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:17:18 ID:4Tl7y8tM0
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__,, -- ,,_
, - ,,, ` ヽ
, '´ ,=・''' `、
! ○ ..:::,
__ ! r--┤ .::::::::,
r--、-、'´ ` 、__,- 、__. '、 \ノ ..::::::::::::i
_,>-┴'v‐' !:::i: : : :`: : : ‐-. . . ___ ヽ ::::::::::::::,'
r-‐ '´ _,,,,,,)、 ゝ____,イ.ノ:::!: : : : : : : : : : : : : : :` - _ _,,,,,,__ ` 、. ..:::::;;;;;;;;<__
ゝ-‐''´ゝ,-、)、 ,,-、___,-'__:.:!: : : : : : : : : : : : : : : : : : :`‐-----、''、´: : : ヽ`-、``" ./''´:::/ ', /';::::` ‐
', ''、'´ ./,! !::!: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヾ ヾ: : : :'; : :\ ̄:::::::::::/ ', ';::::::i´’;、
`‐--'--' `ー-- ___: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヾ ヾ: : : '; : '; ''''´7::::::ヽ- 、 ' ,i.';::::'、_: :ヽ
` ‐---- 、: : : : : : : : : : : : : ヾ: ヾ: i: : : '; : : `-、:::::ヽ. \‡', (;:::::::て
` ‐- 、_: : : : : : : : : :ヾ' ;i: : : : ' ; : : : ' ;:::::::', ν ';:/: :`┐
`──ヽ: : : : ヾ!: : : : : ' ; : : : ';:::O', ヾ:::',.',i : : :.i
'; : : : :!: : : : : : : '; : : : ';::::::', 、 : f: :l: i`ヽ
';: : /: : : : : : : :.'; : : : ';::::::', ヽ l: i: i: : : `i
';: i: : : : : : : : : :'; : : : i:::::::\ |:::::i: : l: : : : : :!
┌‐────┐. ';: :'; : : : : : : : : : '; : : l:::::::::::::`'´::::l: : !: : : : : :リ
│ ジョルジュ|. '; :'; : : : : : : : : : :'; : :l:::::::::::::::::::::::l: : !: : : : : ノ
├───‐─┴───────────────────────────────────――‐
| アンタが、代わりに捜査でもするってのかァ!?
|
└─────────────────────────────────────────―‐‐
.
- 756 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:17:49 ID:4Tl7y8tM0
-
,,.. -- .,,_
,.-'´ `ヽ
, '" "" '、
. ,.' ,.- 、 . ,, ,, ',
/ ,i ,.i.r'´-、_ .,
,.' ./'、ゞ! ,. ,;_ ,"''‐、_ リ
, '_,, -'-ミ!`i 'ヒン' , 'ー´
,.....、--'ニ" _,,.ィ'´ヽ、'、 .i ,´
. / ヽ `フ .|、. \'.、. - , '
/ ', / |-',-、_ ノ、`ー´ `i、
. / i `"''_,- ト-,,_ | '、. ,' ',
. / .ノ 、'" ! : : : :':'ー-! ヽ‐' / !
/ ,.' _,. ヽ l : : : : : : : : `i ' /, ' ',
i' .,.' \ l: : : : : : : : :/i /' !
/ /i ヽ.|.: : : : : :/ ! ' |
! ,. -‐.、ノ..ノ ',.!: : : / .l ',
. | ´ ',´ ,. ', l : / .,', ヽ,
. | ヽ !,! _,,,..ノ .', , '" ヽ
. l ,. -‐―ヾヽ / '、 `''ー- 、_
__!,'__ヽ, \.\`'.-、_ ./ `' 、 `'ー,-__
 ̄ ̄ ̄`""'''゙'' ― '------ ....,,,,__ `'- 、 ,. '´ 、_ `,'ー- 、
――――------ .....,,,,,__  ̄ ̄``""" '''' ――`'- `=`-`= ..,,,
┌‐────┐
│ ク ー ル .!
├───‐─┴────────────────────―────
│ ‥‥ “法廷” だ。
|
└─────────────────―────────────‐
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- 757 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:18:20 ID:4Tl7y8tM0
-
_,, - ‐'''‐ 、
./ .ヽ
r'. ' === '
i ) _, ○ ',
! ` ,ノ ,
'i, ノ
"ヽ'=‐- ‐-t',,_
'ノ,. . , -'´ //i:::::::!、
_, ‐'::::::::! ! //::::/: :',- 、
´ フ::::::/ /,, !/./:::/-、__!: : :` -. ._
_, - ': <:::::l ! /:::/: : : 7: : : : :, -─、
/: : :r': : i::::::', /::! !:::/: : : : /: : : : :/: : : : :i
i: i : :.i: : :.i:0::::/:::::!.!::/: : : : /: i: : : /: : : : : :i
i: !: : i: : : i:| \ ‡|:!!::/: : : :/--、: : ,': : : : : : :i
.ノ: '; : i: : : i:| `,!|!:/: : : :/---'、: i: : : : : : : :'、
'; : : ',: i: : :.i:| |!/: : : /: : : : : '、!: : : : : : : : :i
,': : : '; :i: : :i:| |:;': : :./: : : : : : : !: : : : : : : : :.',
,': : : : '; :i: : i::| |:;': : :/: : : : : : : : >: : : : : : : : :i
,': : : : : :'; i: : i::| i':i: : /: : : : : : : : :/ '; : : : : : : : ',
,': :` 、: :/: :i: :.i:::l !i: :./: : : : : : : : :(_ 、: : : : : : : :',
'; : : : : i : : :i: :i::::l /:i: ;': : : : : : : : : : </: : : : : : : : :/
┌‐────┐ i: : : : i: : >:.i: !::::l /:::';:': : : : : : : : : : : /: : : : : : : : /
│ジョルジュ | !: : : : :ヽ: :/:::::レ::::::::'; : : : : : : : :, '´: : : : : : : : :/
├───‐─┴──────────────────────
| ‥‥‥へ?
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└───────────────────────────‐
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- 758 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:18:50 ID:4Tl7y8tM0
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,,.. -- .,,_
,.-'´ `ヽ
, '" "" '、
. ,.' ,.- 、 . ,, ,, ',
/ ,i ,.i.r'´-、_ .,
,.' ./'、ゞ! ,. ,;_ ,"''‐、_ リ
, '_,, -'-ミ!`i 'ヒン' , 'ー´
,.....、--'ニ" _,,.ィ'´ヽ、'、 .i ,´
. / ヽ `フ .|、. \'.、. - , '
/ ', / |-',-、_ ノ、`ー´ `i、
. / i `"''_,- ト-,,_ | '、. ,' ',
. / .ノ 、'" ! : : : :':'ー-! ヽ‐' / !
/ ,.' _,. ヽ l : : : : : : : : `i ' /, ' ',
i' .,.' \ l: : : : : : : : :/i /' !
/ /i ヽ.|.: : : : : :/ ! ' |
! ,. -‐.、ノ..ノ ',.!: : : / .l ',
. | ´ ',´ ,. ', l : / .,', ヽ,
. | ヽ !,! _,,,..ノ .', , '" ヽ
. l ,. -‐―ヾヽ / '、 `''ー- 、_
__!,'__ヽ, \.\`'.-、_ ./ `' 、 `'ー,-__
 ̄ ̄ ̄`""'''゙'' ― '------ ....,,,,__ `'- 、 ,. '´ 、_ `,'ー- 、
――――------ .....,,,,,__  ̄ ̄``""" '''' ――`'- `=`-`= ..,,,
┌‐────┐
│ ク ー ル .!
├───‐─┴────────────────────―────
│ これからは、法廷で 《真実》 を追究する。
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- 759 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:19:21 ID:4Tl7y8tM0
-
_,,,, ,,,,_
,, -‐ ''' ` - 、
/ `' 、
/ `' 、
,.' \
. ,.', ' ヽ―――
/ , ., '、
___/ ./ _ ,,.., ; \ , .',
// ,.-.、 -―_,,.二´ -',、,_ \ , ',
. /' / ' ,.、ヽ , -‐ , '´ `'ー、_ ` , ' ., l
/ i ,,.!. ',_, ,.'´. `'-、 , ' ,' .l
_____, ' /: :! / l, , ヽ-' ,.-―r-;.、'-、 , ,'
. ,.' /: : ', ヽ// ',! .!-'::::i' `ー,',', .,' / /
/ . /: :,' '、 ヽ ` ゞ- i . ''/ / .,.' , '
. / . . / ,.': : : :/'、(_) ' i ./ ./
/ ´: : :./:.:/ `ー! !'"i´--------
_ / `"´ : :/: :/ l !/
'´ `''ー_、 / : : ://! '、 '' ,-;'
,. -‐ '" `'ーr.、 ,,,.. イ´ ヽ. ヽ ,.-、―‐- ., .,.'―
/ | \. \ '、- .ニ'ヾ/, '
/ | \ `' 、 `"ニフ,、'
┌‐────┐ ! `'ー.、 .>、 _,,. '、 ――――
│ ク ー ル .!. | `'ー / ` ‐ '' \
├───‐─┴────────────────────―────
│ この私が、彼の後釜を継ごうではないか!
|
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- 760 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:19:53 ID:4Tl7y8tM0
-
/\ ./ 、
/ \ ./ 、
/ \ / `.
/ ヽ、 ,ノ ヽ
/ ,;:´ ‐ー一 `、
/ ´ ` 、 v
.,′ `,
ノ \
,´ `、
,i i|,
| / \ |
|i ../ ..\ i!
':,, \___/ ,,/
\ ヽ / ,,,,/
ヽ,, ..,,,,`、 ノ ,,,, ... ::;;;ノ
', ..i'' i,,,, ''i''' i } /
,.、-‐‐┤ : ! ! } ! ノ ノ‐--、,_
,、-''" ヽ ヽ ヽ丶 ! ノ ノ / `‐-、,_
,、-'" \ \ ヽヽ ! / // `'‐、,_
/ \ヽ、,,__ ヽ、,, i/ // / \
/ \ ヽ `r-、, _/ / / / i
┌‐────┐ ヽ \ノ二ヽ / / / |
│ サイバンチョ .! ヽ i i / /,、- |
├───‐─┴───────────────────────────‐‐
| “法廷で” ‥‥すなわち、今、この場でワレワレが
| していることを指す‥‥のですかな?
└─────────────────────────────────‐
.
- 761 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:20:27 ID:4Tl7y8tM0
-
_,, - ‐'''‐ 、
./ .ヽ
r'. ' === '
i ) .○ ',
! ―'''" ,
'i, ノ
"ヽ'=‐- ‐-t',,_
'ノ,. . , -'´ //i:::::::!、
_, ‐'::::::::! ! //::::/: :',- 、
´ フ::::::/ /,, !/./:::/-、__!: : :` -. ._
_, - ': <:::::l ! /:::/: : : 7: : : : :, -─、
/: : :r': : i::::::', /::! !:::/: : : : /: : : : :/: : : : :i
i: i : :.i: : :.i:0::::/:::::!.!::/: : : : /: i: : : /: : : : : :i
i: !: : i: : : i:| \ ‡|:!!::/: : : :/--、: : ,': : : : : : :i
.ノ: '; : i: : : i:| `,!|!:/: : : :/---'、: i: : : : : : : :'、
'; : : ',: i: : :.i:| |!/: : : /: : : : : '、!: : : : : : : : :i
,': : : '; :i: : :i:| |:;': : :./: : : : : : : !: : : : : : : : :.',
,': : : : '; :i: : i::| |:;': : :/: : : : : : : : >: : : : : : : : :i
,': : : : : :'; i: : i::| i':i: : /: : : : : : : : :/ '; : : : : : : : ',
,': :` 、: :/: :i: :.i:::l !i: :./: : : : : : : : :(_ 、: : : : : : : :',
'; : : : : i : : :i: :i::::l /:i: ;': : : : : : : : : : </: : : : : : : : :/
┌‐────┐ i: : : : i: : >:.i: !::::l /:::';:': : : : : : : : : : : /: : : : : : : : /
│ジョルジュ | !: : : : :ヽ: :/:::::レ::::::::'; : : : : : : : :, '´: : : : : : : : :/
├───‐─┴──────────────────────
| ‥‥へッ。 おもしれェ、おもしれェよ、アンタ。
| サイコーだぜ‥‥ッたくよォ!
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- 762 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:21:03 ID:4Tl7y8tM0
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_ ,, - 、
, - ´ ヽ
,:' ,・=:,,_ ヽ
i' ,, `''' ',
! =''´. , ○ ',
! ○ r.-‐7 ,
',. ヽ、ノ , ,'-、
ヽ ., ::::::;;ノ、: :`- 、_
'` 、,,, ,,,,, ::::::;;/:::::i: : : ',: : :`: :‐‐---,,,,,_
,,'ノ、` - 一 r K:::::::::::!--=ニ__: : : : : : /: : : :ヽ
_,/: /:::::::::ヽi i l' ヾ:::::!__: : : : ;': : : : : ,': : : : : : ',,
/: : : :i- 、_:::::i__ i l i_i/:::::/: : : ;': : : : : :i: : : : : : : : :',,
i: i: : : :i: :/:::::! `- l/i::::::::/: : : : i: : : : : :.i: : : : : : : : : ` i
.';:'; : : :'; : :ヾ、::\ ‡ l::::/l: : : : ::i: : : : : : i: : : : : : : : : : ノ、
.';:';: : : '; : : : i:::::::\l .l:/:::l: : : : ::!: : : ヾ、: '; : : : : : : : : : : : '、
ζ:' ; : :.'; : : :';: !:0::l: : : : :!___;,;┐: ヾ'; : : : : : : : : : : : :'、
'; : ヾ、:'; : : :i: .;!:::::l: : : : !___,,,,-': : : : iヾ : : : : : : : : : : : ',
!: : : :';::'; : : ! j::::::!: : : :!: : : : : : : : : :!: :!ヾ: :/: : : : : : : ::',
!: : : : :' 、'; : '、 /:::::::'; : : :!: : : : : : : : : : : ;'/: : : : : : : : : : :i
┌‐────┐ .,': : : : : : :'; : : \_/::::::::::::'; : :!: : : : : : : : : : :,' >: : : : : : : : : : : ;'
│ ジョルジュ| .i: : : : : : : : :',: : : ';:::::::::::::::::'; :!: : : : : : : : : : `ノ: : : : : : : : : : :/
├───‐─┴────────────────────────
| もうちっとばかし、オレに教えてやくれねーか。
| ‥‥その、アンタの “目的” ってヤツを、よ。
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- 763 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:21:33 ID:4Tl7y8tM0
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,. -―‐ - ..,
,. '´ `'‐、
/ '", ',
!/ .,'´`!,'-.,,_ l
i ! (, `' - ,,/l !
! iヽ゚! "''‐ i´'7‐'
! _l;;i. '、 ‐'/
_,!/´'7`'‐ヽ, ‐- .ノ ,. --.、
,.....∠ ィ '´ヽ, `'‐ 'r´ i' ニヽ)
. ,. '´ 、. i..,,,,_ヽー---'.ヽ l .,ニヾ
i ヽ ,. -‐'. \: : : : : ヽi lー'´
l ',`'‐ ,、. \.: : :/ヽ /
ヽ. 'r.、 `'‐ .,_ ヽ,.' `ヽ
'、 .>‐ヽ__ `,.' \
ヽ ´r',´、'ァ,! / /!
'、 ´ ヽ ゝ' ./ .i
. ', / ,.;j'´ i'、
. ', / ノ、 ',
ヽ ../  ̄ " ''''´''"'ヽヽ
'、 ,イ l
┌‐────┐!ー '' "', ノ ,'
│ ク ー ル .! ! !´ _,,...........ノ
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│ ‥‥いいだろう。
| ‥‥‥‥‥ただし!
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- 764 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:22:06 ID:4Tl7y8tM0
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,. -‐ ''''' ‐ .,
, '´ `'.、
,.' , `、
,.' ,. ''',、 ,.."'',,,_ ',
, ' ! ‐r ' r'7ヽ`'=,,_ ,!
/ '、。'. ゙''´ ,.'r!, ノ
/ ,'`i ___ 、,!./ ,... -‐ ''ー‐------.、
, ' ,' '、 ,:' ノ .ノ ,,... --‐ ''''"" /  ̄ 、_ .ィーr、―― '' ゙
,. ‐'´ ,.r'""'''ー `. '-;'=´ -‐ ''ヽ..-、_,,,,,,,,........ _,.-‐ '''" ´ ./......、__,,,,_`ヽ! .l !
,._- ;'- , -‐、=',. : : : : : :.,.‐'` "! ,. ' , ' ,. ‐ '" / ./`ー ''''`=‐'-'
-''",. '´, , / ,',. 、‐''./: : : : : :, oヽ''"" ' ' '" .,' ,.'
/ , ,' ' / ,. '´ '、 ,' : : : ;;:: r‐ ''" _,....=' ...,,,__ ,' /
ヽ',.',.' , ;' ,' ゞ'‐'" ./ ..::::::: , :::::: / ̄  ̄ ̄ ̄ `'ー- .,,,__l,. '
ヽ ,.'// !:::......::::く!...::::::::::!:::::::::::::::::: ./
'、 ,.' '.、;;;::::-::!--:::::::::!:::::::::::::: /
ヽ, ,!::::::::::| ::::::: ,' ,.'
`7 l::::: | .l .,.'
, '´ ,.!:::: l ! /
┌‐────┐::: ! l i
│ ク ー ル .!:::::::::| .! ,'
├───‐─┴────────────────────―────
│ “本編で” ‥‥なッ!!
|
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- 765 :予告編 ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:22:51 ID:4Tl7y8tM0
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イツワリ警部がいなかったら――‐
ミステリーシリーズ 「偽り」 のスピンオフ作品
『イツワリ警部がいない』 というパラレルワールドで描かれる
新米弁護士 素直クールが、イキオイとノリで 《無罪》 を掴みとってゆくお話
r ニニ 7 .n n i , .フ
// // ,――‐, l.! | ! /i l -― ニ エユ .rt‐ナ‐、 r‐-、
'' //  ̄ ̄ .リ..| レ.ノ レ 、_ 、ノ ノ\_ しヽ ノ α
〈/ ′.レ′
___ ___ ___ __ ___ _ . __ ._
] ./__)// / .=./ /===ゝ. .=/ /= = ) )lヽ../ //>/// /
`‐'二/ /二/∧/ />__,-, ==/_/=/ /=>/ノ/ ///// /
/'''''>/ // // ///≠//ヲ ,ー‐' .=/´/=/ //>.=/ /=/// /
`/ /ー/ノ''ー'//≠// //l`、__ノ メ/>.l ´ノ .=/ /=>/// /. 、
__/∠_ニ二,,,,,, =/ /=/ ム! .) フ ';;) )ノ く1 / / `_/ / /Τヽ ├ ,―、 -― ゛ -┼‐
l/ゝ------/ / / レ‐''''し''.レ''´と‐'´ヽ__,) ∠,/ )/ し' ノ σ‐ ノ (_ . 9
にア File.1 「逆転のバレンタイン」
にア 近日、VIP or 小説板Ⅱにて連載スタート!
にア ※大型AAは登場しません。
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- 766 : ◆wPvTfIHSQ6:2013/03/24(日) 00:24:55 ID:4Tl7y8tM0
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【 目次 】
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
>>2 リンク集
>>3-39. 第一幕 「最果ての地で」
>>48-99 第二幕 「WKTKホテル」
>>106-141 第三幕 「招かれざる客」
>>145-198 第四幕 「雪の調べ」
>>206-240 第五幕 「見てはいけない」
>>248-294 第六幕 「おぞましい真実」
>>303-353 第七幕 「次なる被害」
>>359-413 第八幕 「二つの矛盾」
>>420-494 第九幕 「偽りをつなぐ」
>>502-566 第十幕 「ほんとうの絆」
>>577-713 終 幕 「愛されたくて」
>>714-731 後日談
川 ゚ -゚)クールに決める逆転裁判のようです
>>738-765 予告編
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- 767 :同志名無しさん:2013/03/24(日) 00:26:33 ID:ePp/wezE0
- ほほう! 逆裁ファンとしてこりゃあ楽しみだ
- 768 :同志名無しさん:2013/03/24(日) 00:27:07 ID:3ctBsbSg0
- おつ!逆転裁判楽しみにしてるぜ
- 769 :同志名無しさん:2013/03/24(日) 00:28:31 ID:4Tl7y8tM0
- 今度こそ、投下はおしまいです。気を悪くなされたらごめんなさい
もしよかったら、BGM導入がよかったか悪かったかだけでも言っていただけると、今後の参考になります
では、最後までおつきあい、ありがとうございました!
- 770 :同志名無しさん:2013/03/24(日) 00:29:03 ID:JgG.VUSI0
- 超面白そうじゃねーか
ジョルジュがこんな形で出てくるとは
- 771 :同志名無しさん:2013/03/24(日) 00:36:16 ID:8H/KillM0
- BGM臨場感出て俺は好きだよ
乙
- 772 :同志名無しさん:2013/03/24(日) 17:31:30 ID:waeWwQLQO
- 推理シリーズ続くんだ、よかった
ただ、(´・ω・`)←こいつの出番がなさそうなのは寂しい
- 773 :同志名無しさん:2013/03/25(月) 19:47:44 ID:dnfaVjTA0
- vipか
リアルタイムで遭遇できて良かった
- 774 :同志名無しさん:2013/03/25(月) 22:40:00 ID:dnfaVjTA0
- 乙
- 778 :同志名無しさん:2013/11/09(土) 18:00:11 ID:4RK9JCSQ0
- 逆転裁判投下しないのー?
- 779 :同志名無しさん:2013/11/09(土) 19:16:06 ID:1U.kL2rA0
- 年内には二話探偵パート前編だけでも投下したいです
- 780 :同志名無しさん:2013/11/11(月) 01:50:23 ID:1oA0exQI0
- まじか!期待!
- 781 :同志名無しさん:2013/11/12(火) 00:35:58 ID:Lj2Bj44w0
- まじでー!?wktk
- 782 :同志名無しさん:2013/12/14(土) 18:06:42 ID:TYviO8ZQ0
- ほんっとうにごめんなさい。先にほかの現行優先させてください
いたずらに期待させて、ほんとうにごめんなさい
- 783 :同志名無しさん:2013/12/23(月) 01:49:43 ID:aPiVaYMk0
- 他の現行ってどれ!?全力で読みに行く
- 784 :同志名無しさん:2014/03/08(土) 03:41:14 ID:yKMH4NE60
- ブログ消しちゃったんだね…
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