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渋谷凛「Tonight,Tonight」
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モバマスSSです
キャラ崩壊してたらごめんなさい
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ふと流れてきた音楽に耳を澄ます。
壮大なストリングとバンドサウンドが奏でる前奏の後に繰り返される、切なさを含んだギターのアルペジオ。
(またこの曲)
現場への送迎などに使われる車でのBGMとして、彼女の担当を彼が受け持ってから何度も聴いた音楽だった。
その日の気分で変えるのかは知らないが、曲の展開を覚えるほどにはリピートされている。
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P「Time is never time at all〜♪」
凛「プロデューサー、この曲好きだよね」
P「You can never ever leave… …ん?まぁな。どうして?」
凛「だってよく流れてるし。あと鼻歌じゃなくてちゃんと歌う曲って少ないし」
P「え、そんなこと・・・あるな」
凛(気づいてなかったんだ・・・)
P「おお、確かに少ない。よく気づいたな」
凛「これだけ一緒にいれば気づくよ。何回プロデューサーの車に乗ってると思ってんの?」
P「はは、それもそうか」
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<font color="#000000">そう言ってまた歌いだす。
なんとなく、自分を蔑ろにされた気分になってちょっとむっとなる。
別にそんなつもりもないのだろうけど。
凛「誰の曲なの?」
P「凛に言っても分かんないと思うな…ちょっと昔の曲だし。アメリカのロックバンドなんだけどな」
凛「ふーん…でもあんまりロックって感じしないね」
P「まぁ確かにそうかも」
凛「こういうのもロックなんだね…今度李衣菜に聞いてみようかな」
P「あんまあいつのこといじめてやんなよ…」
凛「?」
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P「ほら、着いたぞ」
凛「ありがと」
P「終わり頃になったらまたくるから。頑張れよ〜」
凛「うん、行ってきます」
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<font color="#000000">最近は送迎だけしてプロデューサーが他の現場に向かうことが多くなった。
これには勿論理由がある。
まずプロダクションに所属するアイドルがどんどん増えていってること。
いつ間にスカウトしてきたのか、気がついたらすごい大所帯になっていた。
凛(スカウトしないと死ぬ病気でもかかってるのかな…)
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次に自分自身が仕事を覚えてきたこと。
ニュージェネレーション、トライアドプリムスというユニットを掛け持ちしてる分、仕事は1人だったときより格段に増えている。
そしてプロダクションの初期メンバーでもあることから他の子よりも現場慣れしてる…その上この持ち前の性格。
自惚れるわけではないが『1人でも出来る』ことが前より増え、そして『自信』に繋がってきている。
凛(プロデューサーも、私なら1人にしても大丈夫って思ってるんだよね)
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期待。長く付き合ってきたことからの信頼もあると思う。
信じられている…そう思うと不思議な気分になる。
凛(なら応えなくちゃ、ね。)
「渋谷さーん、出番でーす!」
スタッフの声が響く。
凛「ふぅ…よし、いこう」
意識を切り替えるように一言、そう呟いて楽屋を出る。
だってこの部屋から出たらいつもの渋谷凛ではなく、
凛「___よろしくお願いします!」
アイドルとしての『渋谷凛』なのだから。
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P「お疲れ様、凛」
凛「あれ、見てたんだ」
P「卯月の現場がはやく終わったからな。久しぶりにじっくり見せてもらった」
凛「そっか。どうだった?」
P「いやはや流石、まさに歌姫と呼ぶに相応しいお姿でしたっ」
凛「ふふっ、なにそれ」
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こんな他愛ない会話が心地良い。
冗談めかして言ってるけど、本心から言ってるのが伝わるからかな。
相手がプロデューサーだからかな。
P「はは、変だったか?」
凛「だいぶおかしい」
P「こりゃ手厳しい」
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いつまでも、こんな
凛「いつまでも…」
P「え?何?」
凛「ん…何でもないよ」
いつまでも変わらずにこんな時間が続けばいいのに、なんて。
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凛(なんて思ったり)
勿論、そんな都合の良いことはなくて。
それでも思わずにはいられないんだ。
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――事務所
ガヤガヤ
ガチャッ
凛「おはようございます」
未央「お、しっぶりーん!おはよ!」
卯月「おはよう凛ちゃん!」
凛「わっ…おはよう2人とも。なんか騒がしいね」
未央「そらそうだぜ!なんたってまた始まるんですからなー」
凛「また?…なんだろ」
卯月「総選挙だよ!第3回シンデレラガール総選挙!」
凛「…あぁ」
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また、始まるんだ。
そう思ったら何故か変な気分に襲われる。
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未央「いやー今度こそ!目指せシンデレラガール!!シンデレラガールに私はなぁーる!!」
卯月「私も!頑張るよ!」
なんだろう、予感のようなもの。
何かが音も立てず忍び寄るような、そんな感じ。
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未央「前回はしぶりんにがっつり置いてかれちゃったし、今回は頑張んないと!!」
卯月「えっと…私もその…頑張るよ!!島村卯月、頑張ります!!」
目の前が真っ暗になって、何も見えなくなって…
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未央「なんかさっきから頑張るしか言ってなくない?」
卯月「そ、そんなことないよ!?ね、凛ちゃん!」
足元からゆっくり、呑み込まれていくような――
卯月「…?凛ちゃん?」
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凛「…えっ、あ…」
未央「どったのー?ハッ!まさか既に作戦を練っている…!?恐るべししぶりん!!」
凛「…まぁそんなとこ、かな。負けられないからね」
卯月「わぁ…流石凛ちゃんだね」
未央「くっそー!こうしちゃおれん!!特訓だぁー!!特訓じゃあー!!!!」
卯月「ちょ、ちょっと未央ちゃん!?」
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バタバタと駆けてゆく2人。
凛「…」
第1回目の19位から、5位に一気に上がった第2回。
あれで満足なんてしていない。
むしろ悔しくて更にレッスンを重ねてきたんだ。
凛(次こそ)
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現場だってライブだって何度も成功させてきたんだ。
今度こそ。
凛(シンデレラガールに…)
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――なれなかったら?
凛「っ…」
ふと頭をよぎった。
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――もし、もし今度なれなかったら…
凛「はぁ…やめやめ。何考えてるんだか」
私らしくない…『渋谷凛』らしくない。
凛「やってみなきゃわかんないんだし。…レッスン行こ」
ただこの時、気づいていないだけで
既に私は呑みこまれ掛けていたみたいで。
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この日を境に
順調で、変わらなかった私の日常が少しずつズレはじめていった。
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マストレ「渋谷ッ!!ペースを崩すな!!」
凛「はい!」
マストレ「軸がブレているぞ!!リズムに囚われすぎだ!!」
凛「…っ、はい!」
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最初に違和感を覚えたのはダンスレッスンだった。
マストレ「よし、15分休憩ッ!…渋谷、どうした?」
凛「…すみません」
マストレ「いや、責めてるんじゃないんだ。怪我はしないようにな」
凛「…はい」
いつもは出来ていたステップが何故か踊れない。
いつもやっていたレッスンなのに上手くこなせない。
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…原因は、『完璧に踊れていない』ことだった。
今までより確実に進歩している私は、それまで気づいていなかったミスや苦手な部分に気づけるようになった。
それが仇になっていた。
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凛(駄目だ…これじゃ1位には、シンデレラガールにはなれない…!)
人間である以上、たとえどんなに『完璧』を目指してもミスはする。してしまうものだ。
しかし私はそれを許せなかった。
凛(もっと…もっと完璧に…最高のダンスを踊らなきゃ…)
パーフェクトを求め、何かをクリアしても新しい難関が出てくる。
『完璧主義者』であるが故の終わらない悪循環に陥るのにそう時間はかからなかった。
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もちろんそれはダンスだけではなく、歌やトークにまで影響していった。
歌えば些細なピッチのズレ、微妙なビブラートの違いに苛立ちを覚え
番組に出れば出演後に収録中の立ち振る舞いや自分のトークに粗をみつけてしまう。
上手にやればやるほど上手くいかない。
私は、徐々に疲弊していった。
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――事務所
凛「おはようございます…」
未央「しぶりん、おはよ…大丈夫?」
凛「なにが?…何か変かな」
未央「いや…なんていうか疲れてるっていうか」
凛「まぁ仕事してたら疲れるよ…そんなの当たり前」
未央「そ、そりゃあそうだけど!でも最近のしぶりん――」
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凛「大丈夫」
未央「っ、」
凛「大丈夫だから…私レッスン行くね」
未央「…凛ちゃん」
あぁ、心配かけてる。
でも本当大丈夫だから。冷たくしてごめん。
そういってあげればよかったかな、なんて。
また失敗してしまった――
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「…お疲れ様でした」
長かった収録が終わる。
ライブをしたわけではないのに、疲労がどっと押し寄せてきてその場に座り込んでしまいそうになる。
重い。
気なのか、身体なのか、どっちかは分からないけどひたすら重い。
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あれからしばらく経った今でも、私はこの輪から抜け出せずにいた。
(なんで…)
収録中のことが何度もリフレインする。
もっとこうすれば。あの時こう動けば。
(駄目…全然駄目。あんなの、なんで…!!)
深みに嵌っていく。
考えれば考える分だけ沈んでいく底なし沼だ。
(こんなんじゃ…総選挙なんて――)
P「よっ、お疲れ様」
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凛「…プロ、デューサー」
P「お、なんだホントにお疲れだな。なんかあったか?」
凛「いや…ないよ」
P「そか。この後直帰だろ?送ってくよ」
凛「…ありがと」
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車に乗り込む。
心なしかいつもより空気が重い。
どうやって話してたっけ、なんておかしなことを考えていた時だった。
P「緊張してる?」
凛「…なんで」
P「いや、最近なんていうか…ピリピリしてるだろ」
バレてる。
いや…当たり前か。この人のことだ、きっと前から気づいて、気に掛けてくれてたのだろう。
こういうことにはすぐ気づく人なのだし。
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P「総選挙も近づいてるしな。…なんかあった?」
凛「ん…ちょっと、ね」
また無言になる。
会話は途切れ、ただひたすら私の家への道を――
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凛「?…プロデューサー。道、違うよ?さっきの交差点を右に―」
P「いや、こっちであってるよ」
凛「へ?そんなわけ」
P「いいからいいから。たまにはちょっと寄り道して、」
P「海でもみてこようぜ」
</font>
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車を飛ばして数十分。
P「綺麗だろ?」
凛「うん…落ち着くね」
P「やっぱ海はいいな〜」
波の音が心地良い。
落ち着く…だけどそれでも私はどこかそわそわとしていたと思う。
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凛「ねぇ、なんで急に海なんて」
P「そりゃあお前、凛が焦ってるように見えたからな」
凛「…焦ってる?」
P「そう。良く言うだろ?海を見たら落ち着くって」
凛「まぁ言うかもしれないけど…それだけで?」
P「ん?そうだよ」
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思わず呆然。
なんていうか
凛「物凄い行動力だね…」
P「良く言われる。じゃないとスカウトなんて出来ないし!」
そりゃそうか。
妙に納得してしまった。
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P「で、凛は一体、何を思いつめてるんだ?」
凛「…相変わらず直球だね」
P「よせやい照れるわ」
凛「褒めたつもりはないんだけどね…」
P「まぁ聞かなくても分かるけどな。お前、不安なんだろ」
P「総選挙、3度目だもんな。今度こそ1位をとらないともうチャンスはない、って思ってるんじゃないか?」
</font>
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凛「うん…そうだね」
P「後はそうだな、何もかも完璧にこなそうとして、それが出来なくてイラついてる…そんなところか?」
凛「イラついてるって…」
P「でもそうだろ。許せないんだろ、今の自分が」
凛「…本当、私より私のこと分かってるね」
P「プロデューサーだからな」
凛「超能力者なんじゃない?」
P「魔法使いだよ。シンデレラへと変身させる魔法使い」
凛「今のはちょっとクサすぎ」
P「自分でも今のはないなって思った」
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凛「…なんでだろうね。今までこんなことなかったのにさ」
P「そういうこともあるだろ」
凛「やらなきゃわからないって、でもどうしても悪いほうに考えちゃって」
凛「真っ暗な闇にいるような…そんな不安に押し潰されそうなんだ」
P「…」
P「なぁ凛、ちょっと歌ってくれよ。」
</font>
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凛「…え」
P「ダンスも一緒にさ。自分が1番好きなやつ」
凛「でもここ砂浜だし…それに」
P「上手く出来る自信がない?」
凛「っ…うん、前みたいには…出来ない」
P「あんなに綺麗に魅せれてたのに?レッスンだって人1倍努力してたじゃないか」
凛「それは!…それはそうだけど…今は…」
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<font color="#000000">P「…自分を信じれない?」
凛「…無理だよ」
P「…そっか。じゃあさ」
P「俺を、信じてくれ」
凛「…え」
</font>
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<font color="#000000">
「昨日まで、さっきまでは駄目だったかもしれない。でも今夜変わるんだ、さっきまでの渋谷凛とは違う」
「もう望みなんてない、無理だってお前は思ってるんだろう」
「でもそんなことはない。変われるよ、凛。君が1歩踏み出せたら」
「不可能なんてない、全部可能なんだよ。凛なら出来るって俺は本気で信じてる。だから」
「俺がお前を信じるのと同じくらい、俺のことを信じてくれ」
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<font color="#000000">
凛「プロ、デューサー」
P「真っ暗なんかじゃないさ」
あぁ、不思議。
P「だって海が見えてるだろ」
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<font color="#000000">
P「俺達が乗ってきた車だってここから見える」
普通の人が聞いたら笑い飛ばすくらい、おかしな物語で
P「足場の悪い砂浜だって、不安そうな凛の顔も見えてるよ。だって」
</font>
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<font color="#000000">
それでもこんなに胸がときめくのは今夜――
P「今夜はこんなにも明るいんだから」
――こんなにも月が綺麗だからだろう。
</font>
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――――――
―――
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『〜♪』
「おーい、そろそろ出る時間だぞ」
「…ん、今行く」
「いやーシンデレラガールになってから今まで以上に忙しくなって…ん?なに聴いてたんだ?」
「ちょっとね。最近お気に入りの曲があって、今度弾いてみようかなって」
「おお、ギターで弾くのか?」
「んー、ギターボーカルの曲なんだけどベースが女性だから、ベース弾きながら歌えたらなぁってね」
「いいじゃんいいじゃん。で、何て曲?」
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<font color="#000000">
「…秘密。でも弾けるようになったら、1番に聴いてもらいたいな」
Believe in me as I believe in you, tonight...
</font>
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終わりです
かなり遅れましたが総選挙1位おめでとう
前に杏で書いた以来忙しくてSS書いてなかったけど
通勤中にこの曲聴いてたらふとしぶりんが思い浮かんだので書いてみました
次は杏かナナさんで書けたらなぁって思ってるんでみかけたらよろしくです
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超乙
すごいよかった
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二人ともかっこよかった
乙
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ありがとうございます。
キャラも曲の雰囲気もあったので少しクサい台詞回しになっちゃいました。
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まさかこんなとこで今更総選挙SSに触ることになるとは・・・
滑稽な茶番にしか見えなくてすまんな
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良かった!!乙
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スマパン!乙!
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