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ユミル「バレンタインデー?」
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進撃の巨人SS
エレユミ要素あり
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よし来い!
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ユミル「それがどうした?」
クリスタ「どうしたって、ユミルも知ってるでしょ? 次の休日の2月14日がバレンタインデーだってこと」
ユミル「そりゃ知ってるけど、だから何なんだよ」
クリスタ「ユミルは誰にチョコあげるの?」
ユミル「は?」
クリスタ「誰にチョコあげるの?」
ユミル「……いや、誰にもやらねーよ」
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エレユミ久々期待
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クリスタ「どうして? せっかくのバレンタインなんだよ?」
クリスタ「チョコレートは貴重だからウォール・ローゼでは三年に一度しか販売されないのは知ってるよね?」
クリスタ「つまり事実上私たちにとってバレンタインは三年に一度!」
クリスタ「それに毎日訓練に明け暮れてる私たちが女の子らしいことをするまたとない機会なんだよ?」
クリスタ「楽しもうよバレンタイン!」
ユミル「あー、わかったわかった! わかったから少し落ち着け!」
クリスタ「……あ、ごめんね。ちょっと興奮しちゃってた。で、でも、ユミルもたまには女の子らしいことしてみたいでしょ?」
ユミル「……まあ確かに訓練訓練また訓練の毎日に、少しは潤いがあってもいいかなとは思うけどよ」
クリスタ「でしょ? だったら――」
ユミル「そうは言っても渡す相手がいないだろ、私には」
クリスタ「チョコを渡す相手はなにも好きな人限定というわけじゃないんだよ?」
クリスタ「仲のいい人とかいつもお世話になってる人とかに、親愛の意を込めて送る場合だってあるんだって」
クリスタ「そういう人はいないの?」
ユミル「親愛、ねぇ」
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"
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ユミル「……つーか、そういうお前はどうなんだよ」
クリスタ「え?」
ユミル「私は自分があげる相手よりも、クリスタがあげる相手の方が気になるな」
ユミル「チョコレートが販売されるのは2月14日の一日だけ。それも女性限定だったよな?」
ユミル「つまり男は女から貰う以外にチョコを手に入れる方法がないわけだ」
ユミル「そんな男どもの誰に、優しいクリスタはチョコをあげるつもりなんだ?」
クリスタ「え、えーと、それは……」
ユミル「おいおい、あれだけ私に吹いといて自分は決まってません、てか?」
クリスタ「決まってるよ! でもいざ言うとなると恥ずかしくて……」
クリスタ「……えと、アルミンとライナーにあげようかなって」
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ユミル「は!? なんだってその二人に!?」
クリスタ「アルミンにはよく座学で分からないところを教えてもらったりしてるし」
クリスタ「ライナーは訓練中に手助けしてくれたり色々気遣ってくれてるから……ダメかな?」
ユミル「……別に。お前が自分で決めたんだろ? なら文句なんてあるかよ」
ユミル「で、残りの一つは? 一人三個まで買えるはずだろ。もしかして自分用か?」
クリスタ「ううん。最後の一つはユミル、あなたに」
ユミル「私に? いいのかよ?」
クリスタ「女の子にあげちゃダメって決まりはないし、それにユミルは、いつも一緒にいてくれるから……」
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ユミル「――感動した。さすが私のクリスタだ。お礼に私のチョコも全部クリスタにやるよ」
クリスタ「えぇ!?」
ユミル「これで私があげる相手も無事決まったな。よし、さっさと寮に戻って寝ようぜ」
クリスタ「ちょ、ちょっと待ってユミル! ユミルの気持ちは嬉しいし私もチョコ食べてみたいけど、一つで十分だよ!」
クリスタ「残りは誰か男の子にあげようよ。ユミルも女の子らしいことしたいって言ったじゃない」
ユミル「あれ、私そんなこと言ったか?」
クリスタ「うん! 言ったよ!」
ユミル「……でもな、クリスタ以外に相手がいないんだって」
クリスタ「いいなぁとか、悪くないなぁ、ていう人はいないの?」
ユミル「あー……まぁ、寝る前にでも考えてみるからよ。寮に戻ろうぜ」
クリスタ「……あ、本当だ。もうすぐ消灯時間だね。そうしよっか」
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消灯後 女子寮
ユミル(……バレンタイン。三年に一度の行事、か)
ユミル(いつ巨人に殺されるとも知れないこのご時世で、すでに訓練兵を卒業してる三年後に生きていられる保障なんてどこにもない)
ユミル(私には一生縁がないと思っていたんだがな)
ユミル(クリスタの言うように、たまには羽目を外して女らしいことをしてみるのも悪くないかもしれない)
ユミル(けど肝心の相手がいねーんだよな。せっかく渡すんだから適当にはやりたくねーし)
ユミル(しょうがねぇ。積極的に渡したい相手がいない以上、消去法で削っていって渡してもいいかって思える奴を探すか)
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ユミル(まず、明確に好きな相手がいる奴に渡してもつまらないよな)
ユミル(例えば、フランツ……ハンナとイチャイチャしてろ)
ユミル(次にジャンとライナー)
ユミル(ジャンはミカサ一筋だろうな。まったく相手にされてないくせに諦めねぇし)
ユミル(ライナーの奴は完璧にクリスタを狙ってるだろ。クリスタを見る目が時々キモイ)
ユミル(んで次はジャンやライナーほど明確じゃないが、おそらく好きな相手がいる奴は……アルミンとベルトルさんだな)
ユミル(アルミンはむしろライナーやジャン寄りか。こいつもクリスタを見る目が他の女に対するものと違う)
ユミル(つーかライナーとアルミン二人ともがクリスタから貰えるってどういうことだ。もしかしてあいつ分かってるのか?)
ユミル(ベルトルさんは……確証があるわけじゃないが、チラッチラ見てる気がするんだよなぁ、アニのこと。目線以外態度に出さねーから分からんが)
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ユミル(最後は、好きな相手がいない、もしくはいるかいないか分からない奴。私があげるとしたらこの辺か)
ユミル(まずはマルコ。こいつと一番絡みがある異性つったら……ミーナだよな)
ユミル(互いにどう思ってるのかは定かじゃねーが、一番仲がいいのはミーナのはず)
ユミル(そこに私が水を差すのもなぁ。今度ミーナに探りを入れるか)
ユミル(次はコニー……最悪の場合、こいつはバレンタインの意味を知らなさそうだ。迂闊にあげるわけにはいかねぇ)
ユミル(最後はエレンか。ミカサがいるからバレンタインの意味を知らないってことはないだろうが、死に急ぎ野郎だしなぁ)
ユミル(巨人のことしか頭にねぇだろうし、そもそもあいつ色恋に興味あんのか?)
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ユミル(……)
ユミル(結局、誰一人いねーじゃねぇか)
ユミル(くそう。訓練兵にはあれだけの数の男がいるってのに、なんでチョコをあげたいと思える奴が一人もいないんだよ、おかしいだろ)
ユミル(……いや、原因はわかってる。私自身がこれまで恋愛に興味がなくて、そういった対象として男を見てなかったからだ)
ユミル(いきなり男にチョコ渡せと言われて、はいどうぞと渡せるはずがない。そのツケをこんなところで払うことになるとはな)
ユミル(でもせっかく女として男にチョコを渡すって決めたんだ、諦めるかよ)
ユミル(でもでも、相手がいない)
ユミル(……今日はヤメだ。寝て頭をすっきりさせて、明日また考えよう)
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期待だよぉぉ
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期待!期待!
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翌朝
クリスタ「ユミル、おはよう」
ユミル「おう」
クリスタ「……えっと、その、昨日はごめんね」
ユミル「あ? 何のことだ?」
クリスタ「バレンタインのこと。ユミルは乗り気じゃなかったのに無理強いしちゃって……」
ユミル「何だそんなことか。ウジウジ気にしてんなよ。それに私は自分でチョコあげることを決めたぞ」
クリスタ「えっ? 本当に?」
ユミル「……ま、たまにいいかなと思ってよ」
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クリスタ「そっか、良かった。やっぱりユミルも女の子なんだね」
ユミル「うっせー」
クリスタ「もしかして照れてる? こっち向いてよ」
ユミル「だからうっせーて」
クリスタ「ふふ。それで渡す相手は決まったの?」
ユミル「いや、まだだ。昨日考えてみたが、どうにもな」
クリスタ「うーん、そっか……」
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ユミル「つーわけで、今日は他の訓練兵に聞き込みをすることにした」
クリスタ「聞き込み?」
ユミル「一人で考えてても埒が明かねぇからな」
ユミル「他の女子が誰に渡すとか、本命なのか義理なのかとか、いろいろと聞きまわって参考にするのさ」
ユミル「それにもし参考にならなくても話のネタとしちゃ十分楽しめるだろうしな」
クリスタ「つまりそれって興味本位ってこと?」
ユミル「そういうことだ。まさかダメとか言わないよな? 年頃の女なんて色恋話に花咲かせるもんだし、クリスタだって聞きたいだろ?」
クリスタ「うん、聞きたい聞きたい」
ユミル「なら決まりだ。飯食ったら早速いくぞ。訓練始まる前に数人は聞けるだろ」
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ミーナ「はぁ……今日は朝から立体機動の訓練かぁ。キツそう」
クリスタ「ミーナ、ちょっといい?」
ミーナ「クリスタ。それにユミルも。何か用?」
クリスタ「うん。もうすぐバレンタインデーでしょ?」
ミーナ「そうね。確かチョコを販売する人たちがわざわざこの訓練施設に来るんだったっけ」
ユミル「確実に訓練兵にも売るためだろうな。その日は休日だし邪魔にならなけりゃ教官から文句も出ない」
クリスタ「そう。それでよければミーナが誰にチョコあげるのか聞きたいなって」
ミーナ「え?」
クリスタ「も、もちろん無理にとは言わないよ。完全な好奇心だし」
ユミル(まぁホントは私のためでもあるんだが)
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ミーナ「うーん、そうねぇ。あなたたちも教えてくれるならいいけど?」
クリスタ「そ、そうだよね。聞くだけじゃ不公平だし……」
クリスタ「わ、私はライナーとアルミン、それとユミルにあげるつもり」
ミーナ「えーっ! ライナーとアルミン!? どうしてどうして!?」
クリスタ「ち、近いよミーナ。ふ、二人とも時々お世話になってるし、そのお礼も兼ねて……」
ミーナ「そっかそっか。確かにライナーは頼りになるしかっこいいところもあるよね。アルミンは顔がかわいくて頭いいし」
ミーナ「で、クリスタはどっちが好きなの!?」
クリスタ「えぇ!?」
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ミーナ「わざわざチョコあげるんだから、それなりにいいなって思ってるんでしょ!? さあどっち? それとも両方狙ってるの!?」
クリスタ「ち、違うよ! そんなつもりは……」
ミーナ「ホントにぃ? 隠してもいいことないぞぉ?」
ユミル「そこまでだミーナ。クリスタが否定してるんだからそれ以上の詮索はなしだろ?」
ミーナ「あ、そっか。ごめんクリスタ。女神がチョコをあげる相手だから抑えきれなくて」
クリスタ「う、ううん。大丈夫」
ユミル(まぁ私も本音を言えば、クリスタが本心でどう思ってるのか知りたくはあるが)
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ミーナ「で、三つ目はユミルね。これは友達へのものでしょ? ユミル、あなたは誰にあげるの?」
ユミル「私もクリスタにあげるぜ。残りは決まってねぇけど」
ミーナ「えーっ、ちょっとずるいなぁ。まいっか。私のあげる相手はね」
クリスタ「うんうん」
ユミル「うんうん」
ミーナ「一つは自分用。もう一つはよく班行動で一緒になるエレンに」
ミーナ「最後の一つは……その、マルコに」
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クリスタ「エレンとマルコかぁ。確かにミーナはマルコとよく話してるよね」
ミーナ「そ、そうかな?」
ユミル(ミーナの奴、マルコの名前言う時だけちょっと頬染めやがって)
ユミル(エレンは完全に義理って感じの言い方だったし、これはミーナの本命はマルコだな)
ユミル(……ちょっとからかってやるか)
ユミル「ほーう、エレンとマルコねぇ。んで、ミーナさんはどっちが本命なんだ?」
ミーナ「えぅっ!?」
クリスタ「ちょっとユミル! さっき自分でああ言っておいて……」
ユミル「いーや、クリスタにあれだけ詰め寄ってたんだ。まさか自分は言えないなんてことはねぇよなぁ?」
ミーナ「え、えーとぉ、それは……」
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ミカサ「ミーナ」
ミーナ「ひゃあうっ!?」
クリスタ「み、ミカサ!?」
ユミル「どっから現れやがった!?」
ミカサ「何をそんなに驚いているの?」
ミカサ「それよりも、さっきミーナがエレンにチョコをあげると言っていたと思うのだけれど」
ミカサ「それは本当?」
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ミーナ「えっと、う、うん。本当だけど……いけなかった?」
ミカサ「そういうわけではない。けれど……」
ミーナ「で、でも義理よ義理!」
ミーナ「わわ、私の本命はマルコなんだから!!」
クリスタ「えぇっ!?」
ユミル(勢いに任せてぶちまけやがった! ミカサからの圧力に耐えきれなかったか)
クリスタ「ミーナ、それ本当!?」
ミーナ「あ、あぁう。い、言っちゃった……ほ、他の人には内緒にしといてよ?」
クリスタ「う、うん、もちろん」
ミカサ「なんだか怖がらせてしまったようで悪かった。私はただエレンがチョコを貰えるのかを確認したかっただけ」
ミーナ「ううん、気にしないで」
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クリスタ「それにしてもマルコかぁ……バレンタインでミーナの気持ちが伝わるといいね」
ミーナ「あはは、がんばってみるよ」
クリスタ「そうだ、ミカサにも聞いていい? バレンタインのチョコ誰にあげるか」
ミカサ「私?」
ミーナ「それ私も聞きたい。こっちは本命まで暴露させられたんだから聞く権利があるはず」
ユミル「自分で勝手にばらしたんだろうが」
ミカサ「別に構わない。隠すことでもない」
ユミル「聞かなくても大体予想できるけどな」
ミカサ「私があげるのは、エレンとアルミン。もう一つは自分で食べるつもり」
ユミル「やっぱりか」
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ミカサ「……三年前のバレンタインでは、二人にチョコの欠片しか渡すことができなかった」
クリスタ「え? どういうこと?」
ミーナ「あ、そっか。十二歳未満の子って女性でもチョコは一個しかもらえなくて、大きさもすごく小さいやつだったはず」
ミカサ「そう。三年前はその小さなチョコをさらに三人で分けたから、本当に一口分もないくらいで」
ミカサ「それでも二人は喜んでくれたけれど、やっぱりもっと大きなチョコを食べて欲しくて」
ミカサ「だから、今年のバレンタインは大きなチョコと目一杯の愛情を二人に渡すことができる」
ミカサ「私は、それがとても嬉しい」
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クリスタ「ミカサ……」
ミーナ「……いい話聞かせてもらっちゃったね。お釣りあげたいくらい」
ユミル「……」
クリスタ「ユミル? どうしたの?」
ユミル「あ? ああ、なんでもねぇよ。それよりそろそろ訓練が始まるな。さっさと準備しちまおうぜ」
クリスタ「あ、ホントだ。確か立体機動だったよね。ミーナにミカサ、話聞かせてくれてありがとう」
ミーナ「ううん、私も楽しかったし。それになんだかやる気出ちゃった」
ミカサ「それは訓練? それとも告白?」
ミーナ「ど、どっちもよ!」
クリスタ「がんばって!」
ミカサ「私も応援する」
ミーナ「あ、ありがとう」
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訓練終了後
ユミル「あー、きつかった」
クリスタ「ユミル、お疲れ」
ユミル「クリスタぁ」
クリスタ「ち、ちょっと、くっつかないでよ。私だって疲れてるんだから」
ユミル「いいだろ、ちょっとくらいさ」
クリスタ「もう……それより今のうちに他の子に聞いて回ろうよ、バレンタインのこと」
ユミル「お、それもそうだな。訓練から帰ってきた奴に聞いてくか」
クリスタ「分かったなら離れてってば……あ」
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サシャ「疲れましたぁ。早く夕食になりませんかねぇ」
クリスタ「サシャ!」
サシャ「はい? 何ですか? もしかして私に夕食のおかずを恵んでくれるんですか?」
ユミル「ちげーよ芋女」
クリスタ「そうじゃなくて、サシャがバレンタインに誰にチョコをあげるのか知りたくて。良ければ教えてくれる?」
サシャ「バレンタインですか? もちろん全部自分で食べますけど」
ユミル「は、やっぱりか。常に食い意地張ってるお前が、わざわざ自分から食いもん手放すわけが」
サシャ「そう、以前までは思ってたんですけどね」
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ユミル「あ?」
クリスタ「それじゃあ……誰かにあげるの?」
サシャ「はい。聞いたところによるとチョコは女性にしか販売されないようですし」
サシャ「もちろん自分用も残しますけど、一つぐらいは誰かにあげてもいいかと思いまして」
クリスタ「うんうん! そうだよね!」
ユミル「……マジかよ」
クリスタ「それで、具体的に誰にあげるか決まってる?」
サシャ「コニーです。なんだかんだで一緒にいることが多いですしね。まぁいいんじゃないかと」
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クリスタ「うん! きっと喜んでもらえるよ!」
サシャ「だといいんですけどね。でもコニーがバレンタインを知ってるか少し不安ですけど」
ユミル「私もそれ考えたがさすがに全くの無知ってことはないだろ。街に出ればいくらでもチョコの宣伝されてるしな」
サシャ「それもそうですね。それにもし知らなくてもチョコを喜んでもらえたらそれで十分ですし」
サシャ「あはは、柄じゃないですかね?」
クリスタ「そんなことないよ。誰かに喜んでもらいたいって気持ち、すごく大事だと思う」
サシャ「はは、照れちゃいますよ」
ユミル「……よし、そろそろ次いくぞクリスタ」
クリスタ「あ、うん。ありがとねサシャ」
サシャ「はい、それでは」
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ユミル「……ふぅ、結構な人数に聞けたな」
クリスタ「うん」
ユミル「聞いた奴らは全員、誰かしらにはあげるみたいだな」
クリスタ「訓練兵といってもみんな女の子だし、やっぱり楽しみなんだよ」
ユミル「だな。んであと聞いてない奴って言うと……」
クリスタ「うーん、そういえばアニはまだだったよね」
アニ「私が何だって?」
クリスタ「わひゃっ!? アニいたの!?」
ユミル「お前といいミカサといい、突然現れるのやめてくれ。心臓に悪い」
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アニ「そんなつもりはないんだけど。それで何?」
ユミル「ああほら、そろそろバレンタインだろ? そこでアニさんが誰にチョコをやんのか気になってな」
クリスタ「そうなの。もし嫌じゃなかったら教えて欲しいなって」
アニ「……」
ユミル(こいつもバレンタインなんかに興味あるとは思えないんだが、どう出る?)
アニ「……ライナーとベルトルトにあげるつもり。残り一つは、決めてないけど」
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ユミル「なん、だと」
クリスタ「アニもバレンタインに興味あったんだ!」
アニ「なんであんたが嬉しそうなの? それに興味というほどでも……」
ユミル「あ、あんたとその二人に大した接点があったようには思えないんだが……何でだ?」
アニ「そこまで話す気はないよ。もう行っていいかい?」
クリスタ「あ、うん。ありがとう」
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ジャン・・・・・
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ユミル「……」
クリスタ「アニもライナーにあげるんだ。ベルトルトもだけど、アニは背の高い人が好みなのかな?」
ユミル「……」
クリスタ「ユミル? 聞いてる?」
ユミル「……ああ、聞いてるよ」
クリスタ「そう? あ、もう夕食の時間だね。たくさん聞いて回ったけど、参考になった? ユミル」
ユミル「そりゃもう十分過ぎるくらいにな」
クリスタ「よかった。私も楽しかったし、バレンタインデーが待ち遠しくなっちゃった」
ユミル「……そうだな」
クリスタ「ユミル? さっきから変だよ?」
ユミル「何でもねぇよ。さっさと食堂行こうぜ、サシャに食い尽くされる前にな」
クリスタ「う、うん」
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消灯後 女子寮
ユミル(……まさか、誰にもあげるつもりのない奴が一人もいないとは思わなかった)
ユミル(大抵の奴は仲のいい男子に、ミーナのように親愛以上の感情をチョコに乗せて渡す奴もチラホラ)
ユミル(ミカサもバレンタインには並々ならぬ思い入れがあるようだったし)
ユミル(それどころか、周りから芋女呼ばわりされてるサシャや、男なんか興味ありませんって感じのアニまで、すでに渡す相手を決めてやがるとは)
ユミル(クリスタに促されるまで何も考えてなかった自分が、ひどく浮いてるようで、少し恥ずかしい)
ユミル(……いや、だからこそ今年のバレンタインを頑張るんだろうが)
ユミル(最高の相手に最高の気持ちでチョコ渡して、最高のバレンタインにしてやりゃ何の問題もねぇ)
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ユミル(だが、最高の相手もいないし最高の気持ちもないのが現状だ)
ユミル(今日聞いた範囲でも、昨日の夜候補に挙げた男子のほとんどがチョコを貰える)
ユミル(そりゃあげたい男がいるなら、そいつがどれだけ貰うかなんて気にする必要もないんだが)
ユミル(例えば、マルコがミーナの本命で、そのまま告白までされるかもしれないと知った今、そのマルコにチョコをあげるかと聞かれりゃ、答えは否だ)
ユミル(くそ、聞き込みしたことで逆に候補が減ってないか?)
ユミル(ぬあぁ、もう寝よう。そんで明日は男子に聞き込みだ)
ユミル(そこで最高とはいかないまでも、あげたいと思える奴を見つけよう。そうしよう)
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キースに渡してクリスタの順位上げ交渉は……無いか
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翌朝
ユミル「ふあぁ……んん」
ユミル(ここ二日、夜に考え事し過ぎて寝不足だ)
クリスタ「おはようユミル。眠たそうだね」
ユミル「いや女神の顔を見たおかげで眠気なんぞ吹っ飛んだ」
クリスタ「またそんなこと言って。それよりもバレンタインの相手は決まったの?」
ユミル「うっ……まだ。だから今日は男子にも聞き込みだ」
クリスタ「男の子に?」
ユミル「女子ほどすんなり話してくれるとは思わんが、チョコを貰ったらどう感じるかぐらいは聞けるだろ」
ユミル「それにクリスタが聞いてくれりゃ、意中の相手についても口を割るかもな」
クリスタ「そ、そうかな。でも普段は男の子からそういう話って聞けないから、いい機会かも」
ユミル「だろ? 吐きそうな奴からは根掘り葉掘り聞いちまおう」
クリスタ「聞いちゃおう!」
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クリスタ「ライナー! ベルトルト!」
ライナー「クリスタ!? ……それにユミル」
ユミル「明らかについでで私の名前呼んだろ、お前」
ライナー「ああいや、そういう訳じゃない。ただクリスタしか俺の視界に入らなかっただけだ」
ユミル「余計ひどいぞ。その気持ちには全面的に同意するが」
ベルトルト「それで二人はこんな朝早くからどうしたんだい?」
クリスタ「あ、うん。二人に聞きたいことがあって。無理に答えてくれなくてもいいんだけど」
ライナー「何だ? 俺らに出来ることなら協力するぞ。なぁベルトルト?」
ベルトルト「え? ああうん、内容にもよるけど」
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クリスタ「えとね、二人はバレンタインに女の子からチョコ貰ったらどう思うかなって」
ベルトルト「えぇ!?」
ライナー「んなっ!?」
クリスタ「あ……やっぱり嫌だったよね? ごめん変なこと聞いて」
ライナー「いっ、いやっ、そんなことはないぞ! も、もちろん嬉しいに決まっている!」
ユミル(クリスタの前だからって動揺しすぎだ、ライナー)
ライナー「むしろ嬉しくないなんて言う奴の気が知れん。お前もそう思うだろベルトルト?」
ベルトルト「えっ!? う、うんそうだね。チョコは貴重だし、それをくれるんだから嬉しいよ」
クリスタ「そ、そっか。じゃあ……」
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クリスタ「この人から貰えたら、もっと嬉しいなって人はいる?」
ライナー「ぬあっ!?」
ベルトルト「うぅっ!?」
クリスタ「いる?」
ライナー「そ、そりゃあ俺も男だからな。そういう相手の一人くらいは……というか、むしろ目の前に」
ベルトルト「ライナー! そこまで言っていいのか!?」
ライナー「し、しまった! いやクリスタ、最後のは忘れてくれ、何でもないんだ」
クリスタ「う、うん?」
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ユミル「ほうほう、ライナーのことはよーく分かった。んでベルトルさんはどうなんだ?」
ベルトルト「ぼ、僕?」
ユミル「ライナーは喋ったぜ。まさか自分だけ黙秘はしないだろ?」
ライナー「そうだぞ。何も名前を言うわけじゃないんだ。お前もここで吐いてしまえ」
ベルトルト「うう……」
クリスタ「もうユミル! ライナーまで! ごめんねベルトルト、本当に言いたくないなら」
ベルトルト「……い、いるよ。僕にだって、貰いたい相手の一人くらい……」
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クリスタ「わぁ……そうなんだ」
ライナー「よく言ったぞベルトルト。今のお前は男だ」
ベルトルト「うぅ」
ユミル(あのベルトルさんが赤面とはね。やっぱ相手はアニか?)
ユミル「よし、聞きたいことは聞けたな。次行こうぜ次」
クリスタ「うん。二人ともありがとう。その人から貰えるといいね」
ライナー「ああ。役に立てたようで何よりだ」
ベルトルト「じ、じゃあまた」
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ユミル「にしても、あんなに慌てる二人はなかなかお目にかかれないよな」
クリスタ「そうだね。普段の訓練では二人とも冷静で頼りになるけど、さっきのはちょっと可愛かったかも」
ユミル「反応としては女子より面白いな。一番可愛いのはクリスタだが」
クリスタ「二人の想い人って誰なんだろう? さすがにそこまでは聞けないし」
ユミル(どう考えてもライナーはクリスタだろ。本当に分かってないのかこいつ?)
ユミル(つーかライナーにしろベルトルさんにしろ、その想い人からしっかりチョコ貰えるんだから、勝ち組だよな)
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クリスタ「次は誰に聞こう? ……あ、ちょうど良かった! アルミーン!」
アルミン「クリスタにユミル。おはよう」
クリスタ「うん、おはよう! えっと、今時間いい?」
アルミン「構わないよ。朝食はもう少し先だし。何だい?」
クリスタ「バレンタインが近いよね? もしアルミンが女の子からチョコ貰えたらどう思う?」
アルミン「えっ、バレンタインのチョコ?」
ユミル(ライナーたちの時もそうだが、この聞き方だとクリスタが自分に気があるんじゃないかと勘違いする奴もいそうだな)
ユミル(まぁライナーとアルミンに関しては勘違いじゃないわけだが)
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アルミン「えーと、そうだね。月並みな答えだけど、すごくありがたいと思うよ」
アルミン「実は三年前のバレンタインにミカサからチョコを貰ったことがあるんだ」
アルミン「まだ子供だったミカサは小さなチョコしか配って貰えなかったんだけど、それでも僕とエレンに分けてくれた」
アルミン「それがすごく甘くて美味しくてね。ありがたいなって気持ちしか浮かんでこなかったんだ」
アルミン「……と、少し話し過ぎちゃったかな? あはは」
クリスタ「ううん、そんなことないよ」
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クリスタ「それじゃあ、アルミンが特別にこの人からチョコ欲しいなって思う人はいる?」
アルミン「えぇ!? 特別にって、つまりそれは」
ユミル「お前が好きな女ってことだ。名前出せとは言わねぇから、いるかいないかぐらい良いだろ?」
アルミン「え、えっとぉ」
クリスタ「やっぱり、駄目かな?」
アルミン「うっ……い、いるよ、好きな人。そ、それも目の前に……」
アルミン「はっ。ち、違うんだクリスタ! 最後のは忘れて!」
クリスタ「う、うん?」
ユミル(ライナーの時と同じ流れだぞ。しかもクリスタが好きなのも、そのクリスタからチョコ貰えるのも同じって、どうなってんだよ)
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クリスタ「やっぱりアルミンもいるんだね。男の子だもんね」
アルミン「う、うん。そ、そうだクリスタ。君は誰にチョコあげるか決まって――」
ジャン「おいアルミン、こんな所にいたのかよ」
アルミン「じゃ、ジャン?」
ジャン「エレンがお前のこと探してたぞ。たく、なんでオレがあいつの使い走りに」
ジャン「ん? 何だお前ら、何話してたんだ?」
クリスタ「あ、それはね」
ユミル「あー何でもねぇ何でもねぇ。どうせお前はミカサだろ? 聞くまでもねぇよ」
ジャン「は? ミカサがどうしたって?」
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アルミン「確かにジャンはミカサだよね」
クリスタ「あ、それは私でも分かるかも。ジャンはミカサだって」
ジャン「は、はあ!? おいどういうことだよ、オレがミカサ!?」
ユミル「おいクリスタ、さっさと次行くぞ。じゃあなジャン。お前は間違いなくミカサだよ」
クリスタ「あ、うん。ごめんねジャン。確かにジャンはミカサだって分かり切ってるから。アルミンは聞かせてくれてありがとう!」
ジャン「お、おい待てお前ら! オレがミカサの意味を教えろ! いつからオレはミカサになった!?」
アルミン「それは君が初めてミカサと会った時からだと思うよ、ジャン」
ジャン「わ、訳が分からん」
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コニー「今日の飯は何だろうな。サシャに取られねぇよう気を付けねぇと」
クリスタ「コニー」
コニー「うん? あぁお前らか。何か用か?」
クリスタ「そうなの。いきなりだけど、コニーはバレンタインにチョコ貰えたらどう思う?」
コニー「バレンタイン?」
ユミル「ああ、いくらお前でもチョコ貰えりゃ何かしら思うだろ?」
コニー「ああ、バレンタインな、バレンタイン」
コニー「……バレンタイン、て何だ?」
ユミル「……」
クリスタ「……」
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ユミル「おいマジかよ。コニーの奴本気で知らないみたいだぞ」
クリスタ「う、うん。まさかそんな人がいるなんて」
ユミル「私とサシャの最悪の予想が当たっちまったな」
コニー「おい、何コソコソ喋ってんだよ? バレンタインて何だよ?」
ユミル「このままサシャがチョコ渡してしまったら、いくらなんでも不憫だな」
クリスタ「うん。サシャは喜んでくれるだけで十分って言ってたけど、やっぱり本来の意味で受け取って欲しいはずだよね」
クリスタ「よし、少しお節介かもしれないけど、コニーにバレンタインの意味について教えてあげよう!」
ユミル「サシャがコニーに渡すことさえ伏せてりゃ問題ねぇよ」
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コニー「おーい、お前ら聞いてるか? 聞いてねぇんなら俺もう行くぞ」
クリスタ「コニー!」
ユミル「ちょっと待った!」
コニー「お、おぉ? 何だよ急に」
クリスタ「今から私たちが!」
ユミル「お前に!」
クリスタ「バレンタインとは何かを!」
ユミル「教えてやる!」
コニー「あぁ!?」
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クリスタ「――ていうのがバレンタインなの!」
ユミル「分かったかバカ?」
コニー「当たり前だろ? 俺は天才だぜ? 女が男にチョコを渡す日で、その女は男が好きなんだろ?」
クリスタ「すごい! 完璧!」
ユミル「やるじゃねぇかバカ!」
ユミル(天才ならバレンタインくらい知っとけってのバカ)
コニー「だろ?」
クリスタ「じゃあ頑張ってねコニー!」
ユミル「頑張れよバカ。じゃあな」
コニー「え、あれ? お前ら俺に用があったんじゃ……おーい」
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クリスタ「――あ、コニーにいろいろ聞くの忘れちゃった」
ユミル「あいつはもういいよ。話してるだけで疲れる」
クリスタ「本当に知らなかったんだね、バレンタインのこと」
ユミル「街に出れば嫌でも広告の類を目にすると思うんだがな」
クリスタ「ホントにね。あ、もうすぐ朝食の時間だ。今日も訓練後に聞き込みする?」
ユミル「ああ、まだ決まってないし」
クリスタ「私も手伝うよ。良い人見つけよう?」
ユミル「ありがとなクリスタ」
ユミル(しかし、すでに候補から落ちてる奴らから聞いて回ったのは失敗な気がしてきた)
ユミル(まぁあいつらの反応は面白いし、クリスタも楽しんでいるようだからいいんだが)
ユミル(これでホントに相手が見つかんのか? 少し不安になってきたぞ……)
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夕食後 食堂
ユミル「今日の飯も大して美味くなかったな」
クリスタ「あはは、お腹に収まればいいって感じのばかりだしね。栄養はあるんだろうけど」
ユミル「こんな飯に毎日がっつけるサシャはある意味すげぇよ」
クリスタ「狩猟民族だったらしいし、食糧を大切してるんだよ。そこは見習わないと」
クリスタ「それでユミル? 訓練後にも聞き込みしたけど、成果はどう?」
ユミル「……すまんクリスタ」
クリスタ「わ、私に謝る必要なんてないよ」
ユミル「何でかなぁ。そろそろ決めねぇと手遅れになっちまう」
クリスタ「焦ってもいい結果が出るとは限らないし、じっくりやって行こう」
ユミル「この状況じゃクリスタの励ましが唯一の癒しだな」
-
ユミル「んで、あと話を聞いてない男っていや……」
エレン「おい、まだ誰か残ってんのか? そろそろ消灯時間だぞ」
クリスタ「エレン?」
エレン「クリスタにユミル? こんな遅くまで何してんだよ?」
ユミル「そりゃこっちの台詞だ。お前こそ寮にも戻らず何してた?」
エレン「倉庫の備品整理だよ。オレの担当した所だけ異様にごちゃごちゃしててな」
エレン「他の奴らが自分のとこだけ終わらせてさっさと帰っちまったから、こんな時間までやる羽目に」
クリスタ「そうなんだ、お疲れ様」
-
クリスタ「あっ、そうだ。エレンにはまだ聞いてなかった」
エレン「ん?」
クリスタ「バレンタインがもうすぐでしょ? それで、エレンは女の子からチョコ貰ったらどう思うか聞きたいの」
エレン「バレンタイン?」
ユミル「おいおい、まさかお前までバレンタインって何だ? とか言うんじゃねぇだろうな」
エレン「バカにすんなよユミル。それぐらい知ってる。んで、チョコ貰ったらどう思うか、か」
エレン「んー、考えたことないけど、普通に嬉しいんじゃないか。チョコ食べてみたいし」
クリスタ「だよね! じゃあじゃあ、エレンが特に貰いたいなって思う女の子はいる?」
エレン「特に貰いたいって、どういう意味だ?」
ユミル「だからよ、お前の好きな女だよ好きな女。何とも思ってない女より好きな女から貰った方が嬉しいだろ?」
-
エレン「ああ、そういう意味か。んー……あんまりピンと来ねぇな」
エレン「ミカサから貰えたら嬉しいだろうが、好きかって言われるとなぁ。家族としては大事な奴だが」
エレン「あとは、やっぱり可愛らしい子がくれたら嬉しいと思う。例えば……クリスタとか」
クリスタ「えぇっ!? 私!?」
ユミル「おい待て! クリスタが可愛いことに疑いの余地はないが、まさかてめぇクリスタを狙ってんのか!?」
エレン「はぁ!? 違うって! 誰だって可愛い子からチョコ貰えたら嬉しいだろ!?」
エレン「その例えとして挙げただけでクリスタを好きとは一言も言ってないぞ!」
クリスタ「うぅ……そう言われるのも複雑」
-
ユミル「本当だろうな?」
エレン「嘘つく必要がねぇだろ……そもそも何でそんなこと聞くんだよお前ら?」
ユミル「え? あ、あー、えーとぉ、それはだな」
クリスタ「た、ただの好奇心だよ! 誰にあげるとか、誰から貰いたいとか、そういうこと話すの楽しいから」
エレン「まぁそうか。じゃあクリスタは誰にあげるんだよ?」
クリスタ「え」
エレン「いやだってそういう話をするんだろ? オレも興味あるし。よければ教えてくれよ」
クリスタ「そ、そうだね。うんと、チョコは一人三個までって知ってるよね?」
クリスタ「だから、わ、私は、ユミルと、ライナーとアルミンに……あげるの」
ユミル(男相手だからか暴露に照れてる。可愛い)
-
エレン「へぇ。ライナーは喜びそうだな。あいつ時々クリスタが可愛いとか独り言言ってるし」
ユミル「ライナーの奴そんなこと言ってんのか。ますますキモイな」
エレン「アルミンはどうだろ。よく分からんが、クリスタから貰えて嬉しくない男はいないだろうな」
クリスタ「ち、ちょっとエレン、恥ずかしいよ」
エレン「はは。にしてクリスタは三個全部やっちまうんだな。自分で食べないのか?」
クリスタ「あ、それは大丈夫。ユミルにあげる代わりに私もユミルから貰うから」
ユミル「相思相愛だからな、私たちは」
エレン「そうなのか。クリスタと違ってユミルは全部自分で食うんだろうな、男に渡しそうにないし」
ユミル「――は?」
クリスタ「え?」
-
期待
-
ユミル「……おい、そりゃどういうことだお前。ちょっと詳しく言ってみろ」
エレン「え? そのまんまの意味だぞ」
エレン「お前バレンタインとか全く興味なさそうだし。好きな男なんていないだろ?」
エレン「それにさっきも自分でクリスタと相思相愛とか言ってたじゃねぇか」
ユミル「あ、あのなぁ……エレンてめぇ」
クリスタ「ちょっとエレン! そんな言い方ないよ! ユミルだって女の子なんだよ!」
エレン「えぇ? だって全くそんな感じしねぇぞ。特に女らしいとこも見たことないし――」
ユミル「てめぇに何が分かる死に急ぎ野郎!」
-
エレン「お、おぉ?」
クリスタ「ユミル!?」
ユミル「私だって年頃の女だ! バレンタインに興味津々だっつの! とっくに渡す男も決まってんだよボケ!」
エレン「わ、分かった分かった! 悪かった! だから襟から手ぇ離してくれ」
クリスタ「ユミル! やりすぎだよ!」
ユミル「はぁはぁ……ちっ」
クリスタ「エレン大丈夫? でも今のはエレンが悪いよ」
エレン「あ、あぁ。確かに……言い過ぎたかもしれん」
エレン「すまん、ユミル」
ユミル「……もう行くぞ、クリスタ。消灯時間だ」
クリスタ「え? ちょっとユミル、待ってよ!」
エレン「あ……」
クリスタ「ごめんねエレン。また明日!」
エレン「おう……」
-
クリスタ「ユミル! 待ってったら!」
ユミル「……ち。あの野郎、好き勝手言いやがって」
クリスタ「う、うん。ちょっと失礼だよね。あれじゃあユミルのこと女の子として見てないって言ってるようなものだし」
ユミル「ああ。だが、よくよく考えてみればあいつの言ってることは尤もだ」
ユミル「実際、バレンタインも男もどうでもよかったしな。エレンでなくとも私の印象はあんなもんだろうよ」
ユミル「クリスタみたいに可愛くもないし、女らしくないっていうあいつの言い分は妥当だよ」
クリスタ「ユミル、そんなこと」
-
ユミル「でも、それは数日前までの話だ」
ユミル「今の私は、本当に年頃の女らしく、バレンタインに興味津々なんだよ」
クリスタ「そうだよ! 今のユミルは悩める乙女みたいで、すごく可愛い!」
ユミル「……まぁ、渡す男が決まってるってのは嘘だったわけだが」
ユミル「その嘘も、もう嘘じゃねぇ」
クリスタ「え? それって……」
ユミル「ああ。たった今、渡す相手を決めた」
クリスタ「ホントに!? だ、誰か聞いていい?」
ユミル「もちろんだ。クリスタには散々手伝って貰ったしな」
-
ユミル「私がチョコを渡す相手は――エレンだ」
クリスタ「嘘!? さっきまでエレンが女扱いしてないことに怒ってたじゃない」
ユミル「だからこそだ。当初の目的を思い出してみろ。何のために私はバレンタインを楽しむのか?」
クリスタ「えっと……たまには女の子らしいことをする?」
ユミル「そうだ。女として男にチョコをあげる、それだけが重要だと思っていた」
ユミル「けど違ったんだよ。いくら私が乙女心満載でチョコを渡したところで、相手が私を女として意識してなきゃ何の意味もない」
ユミル「まず男どもに私を女だと認識させることが先だった」
ユミル「つまり、私にとってバレンタインの本当の目的は、男に女として見て貰うことだ」
ユミル「だから、私を女だと露ほども思ってない、あの死に急ぎ野郎に渡すのさ」
-
ユミル「どうだクリスタ?」
クリスタ「どうだって……ちゃんとユミルがエレンに渡したいと思えてるなら、いいと思うよ?」
クリスタ「つまりユミルはエレンに、私は乙女なんだ! って伝えたいんだよね?」
ユミル「まぁ、端的に言えばそうなるんだが。そういう言い方やめろ」
クリスタ「でも、すごく女の子らしい理由だよ! 頑張ってきた甲斐あったね」
ユミル「いや、今までの頑張りが報われるのは、あいつにちゃんと女扱いされてからだ」
クリスタ「あ、それもそうだね。頑張ってねユミル!」
ユミル「あいよ。クリスタも付き合ってくれてありがとな」
クリスタ「うん! お休みユミル!」
ユミル「ああ、お休み」
-
消灯後 女子寮
ユミル(ようやく、渡す相手が決まった。あとはバレンタイン当日を待つだけだ)
ユミル(……エレン、か)
ユミル(はは、最高の相手には程遠いな)
ユミル(あいつの印象としては、死に急ぎ野郎、巨人バカで夢見がち。ぱっと思いつくのは悪いものばかり)
ユミル(長所は点数の低い対人格闘術ぐらい。他に大した取柄もなさそうに見えて、それでも常に上位の成績を維持してるな)
ユミル(対人格闘といや、アニ相手にボコボコニされてるのを何度か見たが、エレンの格闘術が上達したのはアニのお陰か?)
ユミル(そういえばアニの奴、最後のチョコをどうするか決めてないと言ってたな)
ユミル(自分用にする可能性もあるが、誰かに渡すとなると……まさかエレンか? 今考えてみるとアニとエレンはそこそこ絡んでる気がする)
-
ユミル(エレンに渡すのが確定している奴は、ミーナとミカサ)
ユミル(私もあげるんだから、最低でも三つは貰えることになる)
ユミル(おいおい、聞き込みした男の中で一番多いぞ。訓練兵には群を抜いて人気の男がいないのも確かだが、マジかよ)
ユミル(ぬぬ、渡す相手の女人気なんかどうでもいいと思っていたが、いざそいつがたくさん貰ってるとなると、少し複雑かも)
ユミル(そもそも私は女扱いされてないんだから、その時点でだいぶ後れを取っているわけだが)
ユミル(いやいや、他の女のことなんざ気にしてどうする)
ユミル(今回のバレンタインは、エレンにチョコ渡して女として意識して貰う。これだけに集中だ)
ユミル(……結局、いろいろ考え込んでるじゃねぇか。もう寝よ寝よ)
-
バレンタインデー前日
クリスタ(ついに明日はバレンタイン)
クリスタ(バレンタインが近付くに連れて、女の子も男の子もそわそわし始めるのが微笑ましかった)
クリスタ(ユミルと一緒にいろいろ聞いて回ったのも、皆の違った一面が見れて楽しかったな)
クリスタ(ユミルもちゃんと渡す相手も決めれたし、エレンに気持ちが届くといい)
クリスタ(あれからのユミルはエレンを意識し過ぎちゃってて、可愛らしい反応が見れたのも貴重だったかも)
クリスタ(ふふ、やっぱりユミルも女の子なんだなぁ)
クリスタ(私はアルミンとライナーに……喜んでくれるかな)
クリスタ(よし、明日に備えて早く寝よう!)
-
エレユミ(要素)ですか
-
ミカサ(三年ぶりのバレンタインデー)
ミカサ(前に三人で分け合ったチョコレートの味は今でも覚えている)
ミカサ(その時の、二人の笑顔も)
ミカサ(私にとって、大切な思い出)
ミカサ(今年のバレンタインも、負けないくらい大切なものになればいい)
ミカサ(エレン、アルミン。待っていて)
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サシャ(遂に遂に! 明日は待ちに待ったチョコレートが食べられる!)
サシャ(嬉しい……)
サシャ(でも一個はコニーにあげるんだから、自分で全部食べてしまわないよう気をつけないと)
サシャ(コニーは、喜んでくれるだろうか)
サシャ(いや、きっと喜んでくれる。そう信じよう)
-
アニ(バレンタイン、か)
アニ(ライナーとベルトルト……あの二人と表立って接触することはなるべく避けるべきなんだけど)
アニ(訓練兵時代でたった一度のことだし、チョコを渡すくらい構わないはず)
アニ(それに私だって少しは、そういうのに興味あるし)
アニ(でも、最後の一個……自分で食べるっていう選択肢もあるけれど)
アニ(……やっぱり、あいつに渡そう)
-
ミーナ(あ、明日マルコに、こ、告白する)
ミーナ(クリスタたちに暴露してから、なんかマルコの顔まともに見れなくなっちゃったし)
ミーナ(それに緊張がすごい……こんなんで明日大丈夫なのかな)
ミーナ(い、いや、大丈夫大丈夫)
ミーナ(今日は羊の代わりに大丈夫を数えて寝よう)
ミーナ(大丈夫が一匹、大丈夫が二匹、大丈夫が三匹……)
-
いいね
-
ユミル(ここ数日、まったく眠れてない)
ユミル(バレンタインとエレンのことばかり考えてしまって、寝不足だし)
ユミル(寝る前どころか訓練中まで意識してしまうのは困りもんだ)
ユミル(私だけでなく他の奴らも、期待や不安から挙動不審になっているが)
ユミル(それに比べてクリスタは堂々としたもんだ。アルミンもライナーもあくまで義理だからか?)
ユミル(いや私だって義理だし。それどころか義理かどうかも疑わしい)
ユミル(好意を伝えるわけでも告白するわけでもない。ただ女として見て貰うだけだ)
ユミル(だから意識する必要なんてない……何度そう考えたことか)
ユミル(もう開き直ろう。こんな調子じゃ明日チョコを渡すなんて出来やしない)
-
ユミル(……しかし、あの夜以来エレンの方が私をチラチラ見てる気がするのは、自意識過剰か?)
ユミル(まぁたとえそれが本当だったとしても、あの時の私に面食らって気になっただけだろうが)
ユミル(訓練兵になってから、あんなに感情をぶちまけたことはなかったからな)
ユミル(つーかあんなことがあって、エレンはチョコを受け取ってくれるのか?)
ユミル(いやいや、貰えたら普通に嬉しいと言ってたし、平気だろ)
ユミル(でも、もし受け取ってくれなかったら……)
ユミル(あーもうくそっ、全然眠れねぇ! 早く明日来いよバカ!)
-
バレンタインデー当日
クリスタ「ユミル起きて!」
ユミル「……んん? んぁ、クリスタか」
クリスタ「クリスタか、じゃなくて早く起きて! もうすぐ広場でチョコの販売始まるよ!」
ユミル「ふあぁ……んん、ホントか? ならさっさと支度しねぇと」
クリスタ「うん。もう結構な人数が並んでるから、遅くなると待ち時間が長くなっちゃう」
クリスタ「あ、訓練兵団の在団証明書忘れないでね。それがないと売って貰えないらしいから」
ユミル「ああ、本人確認のために必要なんだったな。えーと、どこやったっけ」
クリスタ「ほら早く! 何で昨日までに用意しておかないの?」
ユミル「急かすなよ。売り切れることはないはずだ。女性一人三個を徹底するための本人確認だろ?」
クリスタ「そうだけど、でも早く早く!」
ユミル「分かってるって。お、あったあった。ほら、着替えるから外で待ってろ」
クリスタ「うん早くね! 十秒で早着替えね!」
ユミル「無理だろ……」
-
寝落ちかな?
乙
-
ジャンはヒッチからもらえるはず(´;ω;`)
-
乙乙
-
このジャンはヒッチと関わりないだろww
-
広場 チョコレート販売所
ユミル「おお、長蛇の列ってのはこういうのを言うんだろうな」
クリスタ「ほとんどの子が買うだろうからね。私たち何番目ぐらいかな?」
ユミル「んー、ざっと四十番ぐらいじゃねぇか?」
クリスタ「結構待ちそうだね。でもこんな行列に並んでると、遂にバレンタインが始まったんだな気分になって、わくわくしちゃう」
ユミル「そりゃ言えてるな。お、チョコの販売始まったぞ」
クリスタ「一番に並んだ人って誰だろう? あれは……」
-
サシャ「やったー! 一番に買えたー!」
ユミル「サシャか。さすがの執念だな」
クリスタ「いつから並んでたんだろう?」
サシャ「おっ! おっ! 美味しいぃぃっ!」
ユミル「あいつ早速食ってるぞ」
サシャ「こ、こんな美味しいものが食べられるなんて、幸せすぎておかしくなりそう。んぐんぐ」
クリスタ「サシャ!」
サシャ「んぐ? あ、二人とも。おはようございます」
クリスタ「おはよう。チョコ一番乗りだね」
-
サシャ「ふふふ。早朝四時からここで待機していた甲斐がありました」
ユミル「バカだろお前。にしてもいい匂いだな、チョコってやつは」
クリスタ「本当に。甘くてすごく美味しそう」
サシャ「でしょう? 想像以上の絶品ですよこれ。これならいくらでもいけちゃいます。んぐんぐ」
ユミル「勢いで全部食っちまうなよ。コニーにやるんだろ?」
サシャ「わ、分かってますよ、失礼ですね。今食べるのは一個でお終いです」
サシャ「では私は食堂に行きます。もうすぐ朝食ですしね」
クリスタ「うん。じゃあまた」
-
ユミル「相変わらずだな。チョコなんて美味そうなもん食った後で、よくあの朝食を楽しみにできるもんだ」
クリスタ「それは確かに……チョコと比べると流石に見劣りしちゃうよね」
ユミル「数段な。お、サシャと話してる間にそこそこ進んだぞ」
クリスタ「十人ぐらいかな? あ、ミーナだ」
ミーナ「ユミル、クリスタ」
ユミル「チョコは買えたみたいだな。確かミーナはそのチョコで誰かさんに告白だったよな?」
ミーナ「ええそうよ。今日の私は一味違う。昨日の夜、大丈夫を四百三十五匹数えたのだから」
クリスタ「え? 大丈夫を、数えた?」
ユミル「何言ってんだお前」
-
ミーナ「ふふ、あなたたちには分からないでしょう。四百三十五の大丈夫と共にある今の私に死角はない」
ミーナ「必ずやあの人を堕としてみせる!」
クリスタ「すごいミーナ! その意気だよ!」
ユミル「よく分からんが、お前の気合がすごいのは伝わった」
ミーナ「でしょう? それじゃあ私は先に食堂へ行ってるね」
クリスタ「頑張ってねミーナ」
-
クリスタ「ミーナの気持ち、報われるといいね」
ユミル「ああ、そうだな」
クリスタ「もちろん、ユミルの気持ちもね」
ユミル「……おう」
クリスタ「ふふ。あ、今度はアニ」
アニ「あんたたちか」
ユミル「三十番目ぐらいか? 結構早くから並んでたんじゃねぇか?」
アニ「まあね。遅くに並んで長々と待たされるのも面倒だし」
クリスタ「そうだ、最後のチョコどうするか決まった?」
アニ「ああ、一応ね。一応……人に渡すことにした」
-
ユミル(まさか……)
クリスタ「だ、誰にあげるの?」
アニ「……いや、言う気はない。じゃあね」
クリスタ「あっ、行っちゃった。ライナーとベルトルトは教えてくれたのに」
ユミル「その二人は義理なんだろ。もう一人は本命だったから言えなかったとか」
クリスタ「それはあるかも。アニの本命って誰なんだろう。気になるなぁ」
ユミル(本命と決まったわけでも、その相手がエレンだと決まったわけではないが……)
クリスタ「ユミル? そろそろ私たちの番だよ?」
ユミル「ああ、分かってるよ」
-
朝食時 食堂
ユミル(チョコを買った後、食堂に行くと朝食の時間が始まる)
ユミル(私とクリスタが朝食を食べ始める頃には、すでにほとんどの女子がチョコを買い終えたようだ)
ユミル(その女子たちが食堂に集まり、思い思いに食事を摂り始めると気付くことがある)
ユミル(食堂にあるほとんどの椅子が埋まっていることに)
ユミル(普段の休日なら、朝早くから外出して朝食時にはいない者も少なからず存在する)
ユミル(だが今日に限っては、チョコを渡すこと、渡されることを期待して、訓練兵のほぼ全員が施設内に残っているのだ)
ユミル(それは朝に限ったことではなく、特にチョコを貰いたい側の男子には、終日外出しない者も少なくないだろう)
ユミル(さらに女も男も、何気なく異性に視線を送ったり、会話していても上の空だったり、面白いくらい挙動不審だ)
ユミル(ただ、全員がバレンタインを意識しているからといって、すぐさまチョコの受け渡しが始まるかといえば、そうではない)
ユミル(皆の視線が一斉に集中するであろう食堂で、堂々とチョコを渡す猛者はなかなか存在しない)
ユミル(義理ならまだしも、本命チョコをこの場で渡すものはほぼ皆無といっていい)
ユミル(しかし――)
-
ハンナ「はいフランツ! バレンタインのチョコレートよ! 受け取って!」
フランツ「ありがとうハンナ! すごく嬉しいよ!」
ハンナ「たっぷり愛情を詰め込んでおいたから、ちゃんと味わって食べてね」
フランツ「もちろん! あれ、でも三つ全部くれるの? ハンナも食べたいんじゃない?」
ハンナ「え? そ、そうね。本音を言えば食べてみたいけど、フランツに喜んでほしいから全部あげたくて……」
フランツ「ハンナの気持ちはすごく嬉しいよ。でも二人で一緒に食べた方がもっと美味しく感じると思うんだ」
フランツ「ハンナの愛情たっぷりのチョコを僕が半分食べる。そして残りの半分に僕の愛を上乗せして食べさせてあげる」
-
フランツ「ね、これでどう? 一緒に食べようよハンナ」
ハンナ「フランツ……じ、じゃあ! 私が最初にフランツに食べさせてあげるわ」
ハンナ「ほら、口開けて。あーん」
フランツ「あーん……うん! すっごく美味しいよ! こんな美味しいの初めてだ! ハンナの愛情が詰まってるお陰だね!」
ハンナ「もう、大げさよ。じゃあほら、私にも」
フランツ「うん。はい、あーん」
ハンナ「あーん……本当に美味しい! フランツの愛のお陰ね!」
フランツ「ハンナ……」
ハンナ「フランツ……」
-
ユミル「――ある意味すげぇな、あいつら」
クリスタ「お互いの愛が深い証拠だと思う、私は」
ユミル「周りの奴らは軽く引いてるが、同時に羨ましそうでもあるな」
クリスタ「あんなに堂々と愛を誓い合えるんだから、羨ましくないはずがないよ」
ユミル「あそこまでできるのは、自他共に認めるバカ夫婦、もといお似合い夫婦のあいつらだけだろうけど」
クリスタ「あはは。あ、そうだ。もう食べ終わったし……はい、ユミル」
ユミル「ん?」
クリスタ「チョコレート。いつも私と一緒にいてくれて、ありがとう」
クリスタ「その、感謝の気持ちだよ」
ユミル「クリスタ……」
-
ユミル「実際に貰ってみると嬉しいもんだな。気持ちのこもった贈り物ってのは」
ユミル「ありがとう、クリスタ」
クリスタ「うん」
ユミル「じゃあ、私からもだ。ほら」
クリスタ「ありがとう。あ、二個もくれるの?」
ユミル「ああ。ここ数日特に世話かけたからな、その礼だ」
クリスタ「そう、なら貰っちゃうね。ありがとユミル」
-
クリスタ「うーん、二個あるなら、今一個食べちゃおうかな」
ユミル「それなら私が食べさせてやるよ。フランツとハンナみたいにさ」
クリスタ「えぇ!? いいよ、恥ずかしいし」
ユミル「何だよ、私たちの愛の深さはそんなもんか? 羞恥心なんかに負けるのか?」
クリスタ「あ、愛って……もうっ、からかわないで。自分で食べるから」
ユミル「ちっ、つまんねぇ」
クリスタ「わぁ! すごく美味しい! 甘さの中にほんのりとした苦さがあるのがまた良い!」
ユミル「そうやって笑顔で語るクリスタを見ながら食うチョコはもっと美味い」
-
クリスタ「あれ、私たち皆に見られてない?」
ユミル「ああ、もしかしたらクリスタに貰えるかもしれないと期待してる奴らだろ」
ユミル「その可能性が三人から二人に減ったことに消沈してるのさ」
クリスタ「そ、そうなんだ。ほとんどの人の期待には応えられないけど……」
ユミル「一人三個までと決まってる以上、仕方ねぇことだ。気にすんな」
クリスタ「うん。その代わりライナーとアルミンにしっかり渡すよ」
ユミル「そうしとけ」
-
クリスタ「だんだん食べ終わった人が食堂から出ていくね」
ユミル「食堂にいても膠着状態が続くだけだからな。積極的な奴らは自分から動きだすもんだ」
ユミル「逆に、人がほとんどいなくなった後にここで渡すという手もあるわけだが」
ユミル「けどそうやっていろいろ考えるのも面倒だ。早速渡してくる」
クリスタ「え、もう? せっかくだから二人きりの時に渡せばいいのに」
ユミル「そんな大層なもんでもないだろ。ただチョコを渡して、私は女だって伝えるだけだ」
ユミル「逆に二人きりとか本命と勘違いされそうで嫌なんだよ」
クリスタ「そう? あ、でも今ミカサが食堂に入ってきてエレンたちの所に」
ユミル「あん?」
-
ミカサ「エレン、アルミン。おはよう」
アルミン「あ、おはようミカサ」
エレン「今日は珍しく遅かったな。オレたちもう食い終わっちまったぞ」
アルミン「ミカサの分の朝食は持ってきてあるから」
ミカサ「ありがとうアルミン。私が遅れたのはやることがあったから」
ミカサ「それより二人とも、少しいい?」
エレン「ん? 何だよ改まって」
-
ミカサ「二人にこれを」
アルミン「あ、これってもしかして」
エレン「チョコレート、か?」
ミカサ「そう。今日は私たちにとって三年ぶりのバレンタインデー」
ミカサ「エレンとアルミン。あなたたちは私にとって本当に大切で、掛け替えのない存在だから」
ミカサ「だから、そのチョコレートには二人への感謝の気持ちと愛情をたくさん入れてある」
ミカサ「受け取って、欲しい」
-
アルミン「すごく嬉しいよ。ありがたく頂くね、ミカサ」
エレン「愛情とか面と向かって言うなよ。こっ恥ずかしいだろ」
エレン「でも……ありがとな」
ミカサ「うん。二人が喜んでくれて、私も嬉しい」
アルミン「溶けちゃったら駄目だし、早速いただこうか……あれ? 僕のとエレンのとじゃ包装が違わない?」
エレン「本当だ。包んである紙も結んであるリボンも全然違うな」
ミカサ「それは、その、私が自分で」
-
アルミン「え? ミカサが?」
ミカサ「う、うん。販売されているチョコの包装は全て同じだから、自分なりに新しく作ってみた」
ミカサ「二人には皆と同じようなものではなく、特別なものを渡したかったから」
ミカサ「でもチョコには手を加えようがないから、せめて包装だけでもと……」
ミカサ「だ、駄目だった……?」
アルミン「そんなことない。ミカサが僕たちのために頑張ってくれたんだ。嬉しいに決まってるよ」
エレン「アルミンの言う通りだ。可愛らしくていいじゃねぇか。すごいなミカサ」
ミカサ「あ、ありがとう」
-
アルミン「あ、もしかして朝食に遅れたのは、これを作っていたから?」
ミカサ「そう。なかなか上手くいかなくて苦労した」
アルミン「ならしっかり味わって食べないとね」
エレン「確かチョコって三つまで買えるんだろ? 他に渡すんじゃなけりゃミカサも一緒に食おうぜ」
ミカサ「うん! 三人で一緒にチョコを食べる。私はこの瞬間を三年前から今か今かと待ち望んでいた」
エレン「はは、なんだそりゃ」
アルミン「大袈裟だよミカサ。あはは」
ミカサ「ふふ」
ミカサ(ああ……幸せ)
-
やっぱエレミカアルは仲がよいな
-
良い……
-
幼馴染三人組の友情はいいな
-
エレン「いやぁ、めちゃくちゃ美味かったな! 三年に一度しか食べられないってのが残念だ」
アルミン「でも、その分食べた時のありがたみが増すんじゃないかな」
アルミン「もちろん、チョコを貰えた時の嬉しさもね」
エレン「それもそうだな。ありがとなミカサ、本当に美味かったぞ」
アルミン「ごちそうさま、ミカサ」
ミカサ「うん、私も嬉しかった」
エレン「うし。飯も食ったし、ちょっと外出てくる」
アルミン「えっ! い、今から?」
エレン「そうだけど、何だよ? 問題あったか?」
-
アルミン「いやその、今日はバレンタインデーなんだよ?」
エレン「知ってるって。チョコ食べたばっかじゃねぇか」
アルミン「そうじゃなくてさ。バレンタインなんだから……」
ミカサ「エレン。もしかしたらあなたにチョコを渡そうとする人がいるかもしれない」
ミカサ「なのにあなたが施設内にいなくては、その人は渡す機会を失ってしまう。だから外出は控えた方がいい」
アルミン「そう! そうだよエレン。何か特別な用事があるわけでもないんだろう?」
エレン「あー、けど俺にくれる奴なんてミカサ以外にいるか?」
アルミン「可能性では十分あるよ。訓練兵にもたくさんの女性がいて、それぞれチョコを三個買えるんだから」
-
ミカサ「……私は、エレンにチョコをあげるつもりの女性を一人知っている」
エレン「え、本当か?」
ミカサ「実際にその人の口から聞いたことだから間違いない。せめてその人から貰うまであなたは施設内に残るべき」
アルミン「ほら、やっぱりいるじゃないか。エレンもチョコ貰いたいでしょ? 残ろうよ」
エレン「まぁそうか。何が何でも行きたいわけじゃないし」
エレン「でもなぁ、ここに残ってもすることが特に……」
ユミル「お、おい。え、エレン」
-
エレン「んー? ゆ、ユミル!?」
ユミル「あ、あーそうだ、私だ私。私に決まってるだろ? 当たり前、だろ?」
エレン「な、何か用か? もしかしてまだ前のこと怒ってんのか?」
ユミル「へ!? い、いや私はもう怒ってなんか……じゃなくて! き、今日はそのぉ」
ユミル「その、な。今日は、えっとぉ、その、ば、ば……」
エレン「ば?」
ユミル「ば……だから、つまりだな。ち、ち……」
エレン「ち? ば……ち……ばち? ばちばち?」
ユミル「違う! そうじゃなくてだなぁ」
エレン「お前大丈夫か? 何か顔赤いぞ?」
ユミル「んな!? そ、そんなわけあるか! ば、バカ! ち、痴漢!」
エレン「はあ!? 何だその暴言!?」
ユミル「うっせー!」
-
アルミン「……行っちゃったね」
エレン「何だったんだ。やっぱり怒ってんのかな、あいつ」
アルミン「怒ってるって、何をしたのエレン?」
エレン「いや……何でも、ない」
ミカサ(怒っているようにはとても見えなかった。むしろエレンに対して照れていたように見える)
ミカサ(ば……ち……)
ミカサ(ユミル、あなたまさか……)
-
クリスタ「もう! 何やってるのユミル!」
ユミル「いや、その」
クリスタ「早速渡してくる! って格好よく言ってたじゃない!」
ユミル「そうなんだけどさ、あいつを目の前にするとどうにも調子が狂っちまって」
ユミル「それに隣にはアルミンとミカサもいたし……」
クリスタ「何それ。二人きりは嫌なんでしょ? だから皆がいるときに行ったんじゃないの?」
ユミル「うぅ……やっぱり二人きりの時にしようかなぁ」
クリスタ「もー、そんなことでちゃんと渡せるの?」
ユミル「いや、ほら。まだ時間はあるんだし、ちゃんと気持ちの整理がついてからにする」
クリスタ「分かった。確かにユミルが一番納得のいく形で渡すのがいいと思うし、ゆっくり考えて。それじゃ」
ユミル「どこに行くんだ?」
クリスタ「私はアルミンとライナーに渡してくる。また後でね!」
ユミル「全く緊張してない。ちょっと尊敬するぞ、あいつ」
-
クリスタ(ユミルったら。恥ずかしいのは分かるけどあんなにしどろもどろになるなんて)
クリスタ(心配だけど、二人きりの時に渡すなら何も手伝ってあげられないし、ユミルが一人で何とかするしかないよね)
クリスタ(頑張れユミル!)
クリスタ(それに私は私でちゃんとしないとね)
クリスタ「アルミン、エレンにミカサ。おはよう!」
アルミン「く、クリスタ……おはよう」
ミカサ「おはよう。私たちに何か用?」
クリスタ「えと、三人にじゃなくてアルミンに用があるの」
アルミン「ぼ、僕に? な、何かな?」
-
クリスタ「これ、バレンタインのチョコ。アルミンにあげる!」
アルミン「え!? いいの!?」
クリスタ「もちろん! アルミンにはよく座学でお世話になってるし、そのお礼」
エレン「良かったじゃねぇかアルミン! 早くも二個目だぞ」
ミカサ「アルミンやエレンが他の人から好意を持たれているのが分かって、少し安心した」
アルミン「……う、嬉しいーっ! ありがとうクリスタ! まさか君から貰えるなんて! やったぞ! 今日は最高の日だ!」
クリスタ「わわっ、はしゃぎ過ぎだよアルミン。嬉しいけど」
エレン「ミカサから貰った時より随分と嬉しそうだな」
ミカサ「明らかに喜び方に違いがある。あのアルミンが人目も憚らず叫ぶだなんて」
ミカサ「はぁ……どうやら私からのチョコとクリスタからのチョコでは、アルミンにとって天地の差があるようだ」
-
アルミン「あ、や。ち、違うって! ミカサから貰えるのは何となく予想できてたけど、クリスタからは完全に予想外だったから」
アルミン「その、その分喜びがより前面に出ちゃったというか、止められなかったというか」
アルミン「と、とにかく! どっちもすごく嬉しいことに違いはないから!」
エレン「おいおい、焦り過ぎだぞアルミン。はは」
ミカサ「ごめんなさいアルミン。ほんの冗談。私からのチョコも喜んでくれたこと、ちゃんと分かっているから」
アルミン「う、うぅ。ひどいよぉ」
クリスタ「ふふ、やっぱり三人は仲いいね」
クリスタ「それじゃあ、皆またね。アルミンはこれからもよろしく!」
アルミン「う、うん! 分からないことがあったらいつでも聞いて」
クリスタ「ありがとう!」
-
クリスタ(アルミン、すごく喜んでくれたみたい)
クリスタ(それにちょっと意外な一面も見られたし、バレンタイン楽しいな)
クリスタ(あとはライナーだけど……もう食堂にはいないよね。ベルトルトと一緒に出て行くの見たし)
クリスタ(よく食後の運動に二人で走ってるところ見かけるから、外にいるかな?)
クリスタ(あ、やっぱりだ)
クリスタ「ライナー! ちょっとこっち来てくれるー?」
ライナー「クリスタ!? 待ってろ、すぐに行く!」
ベルトルト「速っ!?」
-
ライナー「はぁはぁ、待たせたなクリスタ。俺に何か用か?」
クリスタ「あはは、そんなに急いで来てくれなくても大丈夫だったんだけどね」
ライナー「いや、クリスタが呼んでいるんだ。俺はいつでも飛んでいくぞ」
クリスタ「ふふ。じゃあ、そんないつも優しいライナーに、これあげる」
ライナー「こ、これは……まさか!?」
クリスタ「うん、チョコレートだよ。ライナーに貰って欲しいの」
ライナー「なっ……!?」
クリスタ「訓練中いつも気遣ってくれて、ありがとう」
ライナー「……」
クリスタ「ライナー? もしかして私からのチョコ、いらない?」
ライナー「……い、いや、そんなことはない。嬉しいぞクリスタ」
クリスタ「良かった! 私も嬉しいよ!」
ライナー「……」
-
ベルトルト「はぁはぁ、速過ぎだライナー。あれ? もしかしてそれ、クリスタから貰ったの?」
ライナー「あ、ああ。そうだ……」
ベルトルト「ライナー? クリスタに呼ばれた時の勢いはどこに行ったんだい?」
ライナー「……いや、何でもない。これは大事に食べさせてもらう、クリスタ」
クリスタ「うん、ちゃんと味わってね!」
ライナー「ああ……」
クリスタ「じゃあ私はこれで。二人ともさよなら!」
ライナー「ああ……」
ベルトルト「うん、また」
-
クリスタ(ふふ。アルミンもライナーも喜んでくれてたよね。良かった)
クリスタ(ライナーは途中から固まっちゃってた気がするけど、大丈夫かな?)
クリスタ(まぁ何かあってもベルトルトが一緒だし、何とかしてくれるよね)
クリスタ(……でもこれで、私のバレンタインデーはもう終わり。あっという間だったなぁ)
クリスタ(早くに渡しすぎちゃったかも? でも渡せる時に渡しておきたいし、これでいいよね)
クリスタ(楽しかったな。三年に一度のことだけど、十分満喫できたと思う)
クリスタ(あとは、ユミルとミーナのバレンタインがうまくいくことを願うだけ)
クリスタ(頑張れ、二人とも)
-
サシャ「やっと見つけましたよ、コニー!」
コニー「あ? サシャか。お前が休日に外出しないなんて珍しいじゃねぇか」
サシャ「あれ? 私ってそんな頻繁に外行ってます?」
コニー「町の食べ物食い尽してやるとかなんとか言ってんだろ、いつも」
サシャ「あ、そうでした。今日はその、用事がありまして」
サシャ「……その、コニーに」
コニー「俺に? 何だよ」
サシャ「これ! 貰ってやってください!」
-
コニー「お? えらく可愛い包みの……おおっ! こりゃもしかしなくてもチョコレートだよな! そうだよな!?」
サシャ「はい。今日はバレンタインですから、コニーにあげます」
コニー「マジかよサシャ! お前のことだからチョコなんて買った瞬間全部食っちまうもんだと思ってたぜ!」
サシャ「ひどいですよコニー! 私だってバレンタインを楽しみたいんですから! そんなこと言うなら返してもらいます!」
コニー「冗談だって。まさかお前から貰えると思ってなかったからな、嬉しいぜサシャ!」
サシャ「まったくもう……でもコニーがちゃんとバレンタインを知ってて良かった。少し不安でしたから」
コニー「おいおい、それぐらい知ってて当たり前だろ?」
-
コニー「……というのは嘘で、実はちょっと前にクリスタとユミルから聞いたんだけどな」
サシャ「え? クリスタとユミルですか?」
コニー「ああ。何かバレンタインについて聞いてきてよ。そんなもん知らねーって言ったら、すごい迫力で教えられた」
コニー「あれが何だったのか未だに分けんねぇ」
サシャ「そうですか、あの二人が……」
サシャ(もしかして、私がコニーに渡すことに気を遣って、わざわざそんなことを?)
サシャ(もしそうなら、二人には感謝しないと。お陰でコニーに喜んでもらえた)
-
コニー「けどサシャさ。お前、俺のこと好きなんだろ?」
サシャ「はぇっ!? な、何故そんなことを!?」
コニー「は? バレンタインにチョコを渡す女は、その男が好きなんだろ? クリスタとユミルはそう言ってたぞ」
サシャ「え、あ、えーと、確かにそういう場合もありますが、本命チョコとは別に義理チョコというものもありまして」
サシャ「義理チョコについて、二人から聞きませんでしたか?」
コニー「んー、そんなこと言ってなかったような」
サシャ「そ、そうですか。と、とにかく! バレンタインにチョコを渡せば、絶対に恋愛として好きという訳では……」
コニー「なぁんだ、そうなのか」
サシャ「け、けど!」
コニー「ん?」
サシャ「私があげたチョコは義理チョコですけど……」
-
サシャ「……コニーのことは、嫌いじゃないですから」
コニー「何だそうなのか。俺も嫌いじゃないけどな、サシャのこと」
サシャ「ふぇうっ!? ほ、本当ですか……?」
コニー「当たり前だろ? ほら、そんなことよりチョコ食おうぜチョコ!」
サシャ「は、はい。では一緒に」
コニー「おおぉっ!? 何だこりゃ!? チョコってこんなに美味かったのかよ! すげぇ!」
サシャ「でしょう? 感謝してくださいね、コニー」
コニー「ああもちろんだ! ありがとな!」
サシャ「どういたしまして。では私も……んぐんぐ。やっぱり絶品です!」
サシャ(……けれど、買った直後に食べたチョコより、今の方が甘く感じるのは、気のせいだろうか)
サシャ(なんだか顔が妙に熱を帯びてるし……コニーがあんなこと言うから)
サシャ(でも、たまの休日に男の子と二人でチョコを食べるこの状況は……)
サシャ(ふふ、悪くないかも)
-
サシャ乙女だよサシャ
-
ミーナ(もうお昼過ぎか……エレンには渡せたけど、マルコにはまだ)
ミーナ(けど、これは私の計画通り)
ミーナ(その辺で告白しても、ウロウロしてる男子や女子に聞かれてしまう可能性がある)
ミーナ(一世一代の告白だし、やっぱり二人きりじゃないと)
ミーナ(私の調査によれば、休日のマルコは昼食を食べ終わった後、図書室で読書をしているはず)
ミーナ(普段の休日なら図書室にもそこそこ人はいるけれど、何といっても今日はバレンタインデー)
ミーナ(図書室のような密室にこもって、むざむざ出会いの機会を潰すはずがない)
ミーナ(けれど一度二人きりになれば、人も寄ってこないし声も漏れない図書室は、告白にうってつけの場所)
ミーナ(ふふふ、完璧よミーナ!)
-
ミーナ「さて、図書室にマルコは……あれ、いない?」
ミーナ「どうして? さっき食堂から図書室の方へ向かうのを見たのに……はっ!」
ミーナ「しまった! 今自分で言ってたじゃない! バレンタインデーの図書室に人がこもるはずないって!」
ミーナ「もしマルコが普通の男子みたいにバレンタインに興味あるなら、図書室にいるわけがない」
ミーナ「何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。うぅ、私の計画が台無し……」
マルコ「ミーナ? 図書室の前で何をぶつぶつ言ってるんだい?」
ミーナ「わっひゃう!」
-
マルコ「だ、大丈夫? どこか具合でも悪くなったとか?」
ミーナ「ま、ま、マルコ……ど、どうしてこんな所に」
ミーナ(何で背後から現れるのよ。心の準備ってものが……)
マルコ「どうしてって、本を読みに来たんだよ。図書室なんだから当たり前だろう?」
ミーナ「そ、そうだよね。図書室だもんね。当たり前だよね、ははは」
マルコ「本当に大丈夫? 辛いなら僕が連れてってあげるからさ、医務室へ行こう?」
ミーナ(そんなに優しくしないでー! ますます頭がこんがらがっちゃうよ!)
ミーナ(で、でもでも、幸い図書室には誰もいないみたいだし、今は絶好の機会!)
ミーナ(ええい! もう開き直れミーナ! ここまで来て怖気づいてどうする!)
ミーナ(私には! 四百三十五の大丈夫が付いている!)
-
ミーナ「マルコ! ちょっと来て!」
マルコ「え? うわぁ! 引っ張らないでよ!」
マルコ「そんな強引に図書室の中に連れてこなくても。それにドアの鍵まで閉めて一体どういうつもり……」
ミーナ「そんなこといいから! これを受け取って!」
マルコ「わっ! ……あ、これってチョコレート?」
ミーナ「そう! バレンタインデーのチョコ、マルコにあげる!」
マルコ「わぁ。わざわざありがとう、ミーナ」
ミーナ「それと、もう一つ伝えたいことがあるの!」
マルコ「え? 伝えたいこと?」
ミーナ「そう。とても、大事な話。聞いてくれる?」
マルコ「もちろん。他ならないミーナの話だからね、しっかり聞かせて貰うよ」
ミーナ「ありがとうマルコ」
ミーナ(ようやくここまで来た……あとは、私の気持ちを正直に伝えるだけだ)
-
ミーナ「――そのチョコは本命チョコです」
マルコ「え……」
ミーナ「私は、あなたのことが好きです! お付き合いしてください!」
マルコ「ミーナ……」
ミーナ「……」
マルコ「……」
-
マルコ「……嬉しいよ、ミーナ」
ミーナ「え……?」
マルコ「まさかミーナが、僕と同じ気持ちだったなんて。こんなに嬉しいことはない」
ミーナ「そ、それじゃあ」
マルコ「うん」
ミーナ「ま、マルコ……」
マルコ「はは、本当は僕の方から告白したかったんだけど、いつもいつも怖気づいちゃって」
マルコ「仲良くしてくれるミーナとの関係が壊れちゃったらどうしよう、とかいろいろ考え込んでしまっていた」
マルコ「でもミーナの思いを聞いて、やっと決心がついた。だから、改めて僕からも言わせてほしい」
マルコ「――君のことが好きです。こんな臆病者の僕でよければ、お付き合いしてください」
ミーナ「――はい! 喜んで!」
-
書いてる奴は女だろうな
余計な出費させる義理貰って嬉しい奴なんか居ねえし
-
義理は要らないけど、サシャが自分は食べないでこにいに渡すとは考えづらいからやはりチョコ複数ないとな。幼なじみ三人のこともあるし
-
アニ(何だか遠くでミーナの歓声が聞こえた気がする……空耳かな?)
アニ(昼も過ぎたし、私もそろそろ渡さないとね、チョコレート)
アニ(ライナーとベルトルトは……いた)
アニ「ライナーにベルトルト、ちょっといい?」
ベルトルト「アニ? 僕たちに用事?」
アニ「まぁね。二人にこれ、あげようと思って」
ベルトルト「あっ……これ、チョコレートだよね?」
アニ「そう。バレンタインデーだし、一人三個まで買えるみたいだったから」
-
ベルトルト「あ、ありがとう! まさかアニが僕にくれるだなんて、感動だよ!」
アニ「そう? そこまで喜んで貰えるとは思ってなかった」
ベルトルト「喜ぶに決まってるじゃないか! あのアニから貰えたんだから!」
アニ「あんたにとって私はどういう印象だったわけ?」
ベルトルト「この喜び! これはライナーの気持ちも分かるね!」
アニ「ちょっと、話聞いてる?」
ベルトルト「あ、ああ聞いてるよ。嬉しさのあまりちょっと興奮しちゃっただけで」
アニ「そう、とにかく喜んで貰えたなら渡した甲斐があったかな」
ベルトルト「ああ、もちろんだよ!」
-
アニ「……ところで、さっきから微動だにしないこいつは何?」
ベルトルト「ライナーか。朝にクリスタからチョコを貰えたのがよっぽど嬉しかったらしくて」
ベルトルト「その衝撃からか、全く動かなくなってしまったんだ。ここまで連れてくるのに苦労したよ」
アニ「はぁ、だったら私からのチョコなんていらないかもね」
ベルトルト「そんなことはないさ。ライナーだって意識があればちゃんと喜ぶはずだよ」
アニ「なら、そいつが元に戻ったらあんたから渡しといて」
ベルトルト「ああ、任せてくれ」
アニ「頼んだよ。それじゃあね」
ベルトルト「本当にありがとうね、アニ!」
アニ「はいはい」
-
アニ(結構喜んで貰えるもんだね。そんなに嬉しいのかな、チョコを貰うのって)
アニ(あいつも、喜んでくれたらいいけど)
アニ(さて、あいつが休日に何してるかなんて知らないし、一体どこにいるのやら)
アニ(……と、何とも都合よく見つかるもんだ)
アニ(あれは、格闘術の自主訓練か?)
アニ「ちょっとあんた、休日くらい休もうって気にならないの?」
エレン「あ? ああ、アニか。お前も一緒にやるか?」
アニ「冗談。休日潰してまで評価に繋がらない格闘術の訓練に励むなんて、あんたぐらいのもんよ」
エレン「確かに休日返上はオレもやり過ぎだと思ってる。けど他にやることがねぇんだよ。時間を無為に潰すより少しでも有効活用したいだろ?」
アニ「だったら座学でもやったらどう? 得意じゃないでしょ、あんた」
エレン「う、痛いとこ突きやがって。座学は全く捗らないからやる気がな……」
-
エレン「それで何だよ? まさかオレの邪魔しに来たのか?」
アニ「まさか、そこまで酔狂じゃないよ。ちょっとあんたに渡すものがあってね」
エレン「アニがオレに? 珍しいな」
アニ「……これ、やるよ」
エレン「おおっ、チョコだよな? いいのか?」
アニ「ああ。休日返上してバカみたいに汗流してるあんたへの、ほんの差し入れ」
エレン「そっか、ありがとな! けどバカはねぇだろバカは」
アニ「ふ、それじゃあ確かに渡したからね」
エレン「あ、待てよ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
アニ「なに?」
-
エレン「チョコって三つ買えるだろ? 他の二つどうしたか聞いていいか?」
アニ「え?」
エレン「言いたくないなら無理にとは言わないけど」
アニ「……ライナーとベルトルトに渡したけど、何でそんなことを?」
エレン「そうか。ならオレにくれるのは半分でいいよ。もう半分は自分で食べたらどうだ?」
アニ「え、いや。でも」
エレン「オレはミカサとミーナから丸々一個ずつ貰ったから、チョコの味は十分楽しんだし」
エレン「アニだって食べてみたいだろ? なんたって三年に一度しかあり付けないんだからな」
アニ「そりゃ、興味はあるけど……けど、それは」
エレン「無理すんなって。もちろんアニの気持ちはちゃんと全部受け取っておくからさ」
アニ「……う。あ、あんたがそう言うなら、半分だけ」
-
エレン「おう。ほれ、半分」
アニ「どうも」
アニ(……まったく、ほんの差し入れって言ったでしょ)
アニ(全部受け取っておくとか、そんな大層なものじゃなかったはずなのにね)
アニ(でもそう思いつつも、微かな期待を込めて渡したのも事実)
アニ(その結果、こいつは喜んでくれて、隣り合ってバレンタインチョコを食べることになるなんて)
アニ(少し出来過ぎ、かな)
エレン「うん、やっぱ最高に美味いな! どうだアニ、チョコの味は?」
アニ「そうだね、確かに美味しい。けど……」
アニ(……私には、ちょっと甘過ぎるみたいだよ、エレン)
-
乙!アニきゃわわ
-
>>134
ひゅ~~かっくぃ~~w
-
ジャン(くそっ、くそっ。もう夜になっちまったぞ)
ジャン(今日はバレンタインデーだってのに、まだ一つもチョコを貰えてねぇ)
ジャン(何でだ? チョコって一人三つまで買えるんだろ? だったら一つぐらいオレにくれる奴がいてもいいじゃねぇか)
ジャン(それに、まさかマルコの奴がミーナからチョコ貰って、告白されるとは思わなかった)
ジャン(確かにあいつら仲良かったし、マルコは前からミーナのこと好きだったみてぇだが、今日告白までいくかよ)
ジャン(まぁ、二人が付き合い始めた。これに関しちゃ祝福してやるしかないが)
ジャン(聞けば他の成績上位者も一つは貰ってるようじゃねぇか)
ジャン(エレンの野郎は案の定ミカサから貰ってやがるし。予想通りとはいえ、これが一番腹立つ)
ジャン(何でオレだけ貰えないんだ、ちくしょうめ)
-
女性訓練兵「あ、あの」
ジャン「あ?」
女性訓練兵「ジャン・キルシュタインさん、ですよね……?」
ジャン「そうだが……?」
ジャン(何だこいつ? 妙にでかい帽子目深にかぶりやがって。俯いてるから顔も分からねぇし)
ジャン(声と体格で女だってことは分かるが)
女性訓練兵「これ、どうぞ!」
ジャン「あぁ? 何だ急に……こ、これは!」
女性訓練兵「それではまた!」
ジャン「はぁ? おい待て! 正体明かさずに帰るな! 名前教えてくれー!」
女性訓練兵「無理ですー!」
-
ジャン「……行っちまいやがった」
ジャン「これ、間違いなくチョコレートだよな。マジかよ」
ジャン「ふ、ふふ。つ、遂にオレにもチョコが……いや、春が来た」
ジャン「……う、うおぉぉ! やったぜぇぇ!」
ジャン「本当はミカサから貰えたら最高だったが、一人でもオレに好意を持ってくれてる奴がいただけでも十分過ぎる!」
ジャン「最高だ! 最高の日じゃねぇかバレンタインデー!」
ジャン「ははっ……エレンへの僻みなんぞいっぺんに吹き飛んじまいやがった。恐ろしいな、バレンタインチョコ」
ジャン「よし、さっそく味を……」
ジャン「うんめぇぇぇっ!」
-
先にいおう
ドンマイ
-
クリスタ「ええっ! まだ渡せてないの!?」
ユミル「あ、ああ」
クリスタ「何やってるの! もうバレンタインデー終わっちゃうよ! いい加減渡さないと!」
ユミル「そりゃあ分かってるんだが、ミカサと楽しそうに喋ってたりアニといい感じでチョコ食べてたりしてるんだよ、あいつ」
ユミル「そういうの見ると決心が鈍るというか、邪魔しちゃ悪いんじゃないかって」
クリスタ「でも、一日中誰かと一緒にいるわけじゃないでしょ? 一人の時だってあるはずだよね?」
ユミル「う……やっぱり、その、恥ずかしくて」
クリスタ「ユミル。照れちゃうのは分かるけど、それだってユミルの女の子らしさなんだから、ありのままを伝えよう?」
クリスタ「恥ずかしくても、緊張しちゃっても、気持ちを込めれば、きっとエレンも分かってくれるよ」
ユミル「クリスタ……」
クリスタ「ね?」
-
ユミル「……やっぱりお前は女神だよ、クリスタ」
クリスタ「ま、またそんなこと」
ユミル「お前に励まして貰うと大丈夫だと思えてくる。誰にでもできることじゃない」
クリスタ「ふふ、ありがとう。じゃあユミル、消灯も近いし急がないと」
ユミル「ああ、早速エレンを探して――」
エレン「ユミル、ここにいたのか」
クリスタ「エレン!?」
ユミル「うっ。え、エレン……てめぇは本当に出鼻を挫くのが上手い野郎だ」
エレン「何だそりゃ? それよりユミルと話したいことがあるんだ。できれば二人きりで」
ユミル(二人きりで話しだと? そりゃこっちの台詞だぞ。何のつもりだこいつ?)
-
ユミル(いや、こいつがどんなつもりだったとしても、これは)
クリスタ「またとない好機だよ、ユミル」
ユミル「分かってる。まさか向こうからやって来てくれるとはな」
エレン「おい何話してんだよ。どうなんだユミル、今から大丈夫か?」
ユミル「ああもちろん。ちょうど私もお前に用があったところだ」
エレン「そっか? じゃあついて来てくれ」
クリスタ「よし! 頑張れユミル! かましてこい!」
ユミル「おう!」
エレン「さっきから何なんだよ、こいつら」
-
エレン「ここでいいか」
ユミル「確かにここなら周りに誰もいないし、声も響かないだろうな」
ユミル「じゃあまずはお前の話から聞こうか。私に話ってのは?」
エレン「ああ……その、やっぱりちゃんと謝っておいて方がいいと思って」
エレン「すまんユミル。あれは無神経な発言だった」
ユミル「は?」
エレン「本当はもっと早くに謝りに行くべきだったんだが、なかなか言い出せなくて遅くなってしまった」
エレン「そのことも含めて改めて謝る。悪かった」
ユミル「おいおい、ちょっと待て。話が見えないぞ。何を謝ってんだ、お前?」
-
エレン「え? いやだから、少し前にバレンタインの話した時、その、お前が女に見えないって言ったことだよ」
エレン「やっぱりまだ怒ってたんだろ?」
ユミル「な、何だお前。まだそんなこと気にしてたのかよ。朝に食堂でもう怒ってねぇって言っただろうが」
エレン「怒ってないなら何で今日オレのことジロジロ見てたり、妙にソワソワしたりしてたんだよ」
エレン「あれでオレ、まだユミルは怒ってるもんだと」
ユミル「き、気付いてたのか。いやそりゃ気付くか。くそ、それはそれで恥ずかしいぞ」
ユミル「と、とにかく! あれに関してはもう怒ってねぇから」
エレン「そうか? なら良かったんだけど」
-
エレン「それでユミルの用って何だよ? さっきまで本気で怒られるんじゃないかと思ってたんだが、違うみたいだし」
ユミル「……はぁ、あのなぁエレン。今日という日に女が男に用があるって言ってんだぞ」
ユミル「ちょっとは考えてみろよ、すでにお前も何度か同じようなこと経験したろ?」
エレン「え、今日? ええっと……あ」
ユミル「ようやく思い至ったか? 鈍感野郎」
エレン「え、いやでも、まさか」
ユミル「……ほら、受け取れよ。バレンタインのチョコ」
エレン「ええっ!? ユミルが、オレにチョコ!?」
-
ユミル「な、何だその驚きようは!? 文句あんのか!?」
エレン「いやだって……じ、じゃああの時言ってた、チョコを渡す男ってオレのことだったのかよ!?」
ユミル「そ、それは」
エレン「だったらお前の今日の変な行動もこれのためか? いやそんなはずないだろ?」
ユミル「あ……」
エレン「まさかユミルがこんなことするなんて、思ってもみなかった」
ユミル「……そ、そんなに」
エレン「え?」
ユミル「そんなに、私がチョコを渡すのがおかしいかよ?」
エレン「ゆ、ユミル?」
ユミル「……やっぱり、お前にとって私はそういう奴なんだな」
ユミル「さっきも謝りはしてくれたが、そう思ってるのは事実だったんだろ? 女らしくないって」
エレン「いや、待てよユミル」
-
ユミル「……でもさ、私だって女なんだよ」
ユミル「あの時言ったようにバレンタインに興味津々で、でもいざ男を前にすると緊張してなかなか踏ん切りがつかないような」
ユミル「そんな、女の子なんだよ」
ユミル「だから、チョコを渡したんだ。お前にそれを分かって欲しくて」
ユミル「クリスタに何度も励まして貰って、なけなしの虚勢張って、でも内心は不安いっぱいで、渡したんだ」
ユミル「でも、お前の反応を見るに、無駄だったみたいだな」
ユミル「だよな。たかだかチョコくらいで女と思ってくれなんて、そんなうまい話があるわけない」
ユミル「は、あれだけやって結局、骨折り損のくたびれ儲けってか」
エレン「おい」
ユミル「……これで、私が言いたいことは全部だ。もう用はない。じゃあな」
ユミル「私なんかからのチョコじゃ嬉しくもないだろうが、せめてチョコの味だけでも楽しんでくれ」
-
エレン「待てよユミル!」
ユミル「……何だよ、離せって。私に言い残すことはねぇ」
エレン「お前にはないかもしれないけど、オレにはある」
ユミル「……言ってみろ」
エレン「……オレの言い方が悪かった。まさかユミルがオレにくれるとは思わなくて、驚いただけなんだ」
エレン「だってそうだろ? あんな失礼なこと言った男に対してチョコを渡すなんて、考えられないし」
エレン「ユミルが渡すとしたら、もっと女心の機微に敏感な奴だと思ってたから」
エレン「オレはお世辞にも敏感とは言えないからさ、多分ユミルに誤解を与えてしまってるんじゃないかと思う」
エレン「だから、ちゃんと伝えたいんだ」
-
ユミル「……だ、だったら! 私からチョコ貰ってどう思ったか、正直に言ってみろ」
エレン「オレも、あの時言ったはずだろ?」
ユミル「え……?」
エレン「チョコを貰えたら普通に嬉しい、って」
ユミル「あ……」
エレン「それと、可愛らしい子がくれたら嬉しいとも言ったよな」
ユミル「そ、そうだっけ?」
エレン「間違いなく言ったぞ。忘れてんなよ」
ユミル「う、うるせぇ」
エレン「ユミルの気持ちを聞いて、お前が普段の言動通りの奴じゃなくて、それどころか真逆な面も持ってるんだと分かった」
エレン「バレンタインをすごく真剣に考えてて、照れながらチョコをくれる所なんて、まさにそうだ」
-
エレン「そんなユミルは、すごく女らしくて、その、可愛いぞ」
ユミル「――う、あ」
エレン「だから、ユミルからチョコを貰えて、すごく嬉しい」
ユミル「あ……うぅ」
エレン「これが、オレの正直な気持ちだ」
ユミル「……」
エレン「……」
ユミル「……」
エレン「……ユミル?」
-
ユミル「……いつまで手、握ってんだ」
エレン「え? あ、ああ、悪い」
ユミル「それとなに顔赤くしてんだ、気持ち悪い」
エレン「気持ち悪ってひどいな。お前だって真っ赤じゃねぇか、人のこと言えんのかよ」
ユミル「う、うるせぇっ。お前に当てられただけだ。それに本人の目の前であんな台詞吐きやがって」
エレン「何だそれ、お前も正直に言えって言ったろ」
ユミル「う……で、でもな」
エレン「ん?」
ユミル「……でも、可愛いって言ってくれて、嬉しかった」
エレン「……ユミル」
ユミル「ありがとう、エレン。すごく、すごく嬉しい」
-
ユミル「これが、私の正直な気持ちだ」
エレン「あ……ユミル。お前、目に……」
ユミル「ああ、男に泣かされるなんて初めてだ。お前のせいだぞエレン」
エレン「そ、そうなのか? わ、悪い」
ユミル「責任、取って貰わないとな」
エレン「責任!? い、一体どうしろってんだよ?」
ユミル「そうだな……じゃあ」
エレン「うわっ! ゆ、ユミル!? 何抱きついてっ……」
-
ユミル「――これからもずっと、女の子として見て」
エレン「……う、あ、う」
ユミル「ダメか?」
エレン「だ、ダメじゃ、ない」
エレン「と、というか、もう俺の中でお前は完全に女の子だよ、ユミル」
ユミル「そうか? 嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
ユミル「けど、だったら責任は、違う形で果たして貰おうかな?」
エレン「今度は、何だ?」
ユミル「……もう少しだけ、このままでいさせてくれ」
エレン「……ああ、わかった。お前の気持ちが済むまで、いくらでも抱きしめてやるよ」
ユミル「ありがとう、エレン」
-
クリスタ「あ、ユミル。お帰り」
ユミル「待っててくれたのか、クリスタ」
クリスタ「うん。ここまできたら最後まで見届けたかったの」
クリスタ「それで結果は……ふふ。聞く必要、ないみたいだね」
ユミル「ああ。ちゃんと気持ち、伝えられたと思う」
クリスタ「そう。よかったね、ユミル」
ユミル「クリスタのお陰だ。最後まで、ありがとな」
クリスタ「ううん。ユミルが自分の力で頑張ったから、伝わったんだよ」
ユミル「ふ……そろそろ寮に戻るか」
クリスタ「もう消灯時間だしね」
ユミル「三年に一度のバレンタインデーも、終わりだな」
クリスタ「うん。私はすごく楽しかった。ユミルは?」
ユミル「ああ、私もだよ」
-
消灯後 女子寮
ユミル(……思い返してみると、随分と大胆なことをしたもんだ)
ユミル(今までの人生からはとても考えられない、私らしくない一日だった)
ユミル(でもこれからは、そんな私らしくない私が、日常になっていけたらいいと、そう思う)
ユミル(……まだ頬が熱いな)
ユミル(頬だけじゃない。涙を流した目頭も、握られた手も、早鐘を打っていた心臓も)
ユミル(そして、抱きしめられた体全てが、すごく熱くて、心地良い)
ユミル(エレン。お前を想うだけで私はこんなにも安らかな気持ちになれる)
ユミル(胸に灯るこの気持ちが、私が女であることの証だ)
ユミル(――ああ、今夜は久しぶりに、ぐっすりと眠れそうだ)
おわり
-
乙
-
乙カレー
-
とても良かったです!!!
-
こんなバレンタイン送りたかった…男からならいっぱい貰ったけど女からが良かった
とにかく乙
-
乙乙
-
いいのみた
-
本命だと思っているエレンがあたふたする続編カモン
-
ユミル視点のホワイトデー期待
"
"
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