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o川*゚ー゚)oゼロケイが呼んでいるようです
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飯テロだったり。
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1.びっくりチキン
夏がまた、この街の敷居を一歩またいだようだ。
私といえば全くそれに気づかなかった、
夏はちゃんと、私の背中のところまで来て、
今にも肩をぽんと叩きそうだったのに。
遠い再会を喜びあうような蝉の鳴き声すら聞こえはじめて、
私の体もこれから夏を端っこからぐぐぐと飲み込んでいって、
そして数ヶ月掛けて消化し、やがて吐き出すのだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ「あちー」
キュートの家は二階建て。
見上げれば二階の窓からは、水色の象のぬいぐるみのぶどうのような
つぶらな瞳がのぞいている。
おそらくあれがセンサーなんだろう、
キュートはいつも私の訪問のタイミングを分かっている。
玄関ドアの前で首に掛けていたタオルで額の汗を拭い、
チャイムを押すとピンポーンのポのあたりでドアが勢いよく開いた。
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o川*゚ー゚)o「ツン!」
ξ゚⊿゚)ξ「ほらね」
o川*゚ー゚)o「なにが」
ξ゚⊿゚)ξ「いや、」
私は右腕に持っていた白い紙箱を掲げて、キュートに見せた。
とたんに箱の隙間から立ち上る、油とスパイスの欲をかき立てるような香り。
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、びっくりチキン、持ってきたよ」
o川*゚ー゚)o「ありがとうー!あたし、ちょうどトリ肉食べたかった」
飛び跳ねるような声を出して、
キュートは箱をつかんでいる私の右腕を引っ張り家の中へ招き入れた。
その勢いによろめきながら、私はぶらぶらと足を振って靴を脱いだ。
長年の訓練の成果か、私は手を使わずに靴を脱いでも、ちゃんと靴が揃うのだ。
自信があった、生きていくことよりよっぽど。
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外とはうってかわってクーラーのがんがん効いたダイニングに着くと
テーブルの上に箱を置くやいなや、キュートはその蓋を開いた。
そして中から一枚の名刺サイズのカードを取り出して、そこに書かれた文面を読み上げる。
o川*゚ー゚)o「結婚は人生の墓場である、だってさ」
ξ゚⊿゚)ξ「まーた、反応に困るメッセージね」
o川*゚ー゚)o「うん。まぁ、こまるわ。えい」
キュートは指で軽くカードを曲げると、そのままピンと弾いた。
カードは手裏剣のようにクルクル回りながら飛んでいき、
テーブル端の「町内盆踊り大会のお知らせ」の上に着地する頃には
すでに彼女は一本目のフライドチキンにかぶりついていた。結婚は人生の墓場。
o川*´ー`)o「うまいなぁ、至福だ」
トリ肉をもむもむと噛む彼女の唇が波のようにうねる。
目尻がとろんと垂れ下がっている。
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ξ゚⊿゚)ξ「はぁ、いい顔するなあ」
遅ればせながら、私も油でまだら模様に染まった紙箱の底から
骨付きチキンを一本取りだして、かぶりつく。
上下の歯で大きく身を剥がして口の中へエスコートすると、
同時にあつい汁がどっと流れ込んでくる。
ξ;゚⊿゚)ξ「あひあひ」
チキンはスピードが命であると先人たちも言っている、
慌てて汁と肉を同時に咀嚼すると、スパイスの刺激的な味が舌をくすぐる。
肉を飲み込み、次に骨にこびりついた肉片を前歯でこそぎ、
最後に骨をちゅうちゅうと吸って、
すっかり裸になった骨を紙ナプキンの上にぺっと吐き出した。
撃ち終えた薬莢のように骨は転がった。
一仕事終えたぜ、と私はテーブルの真ん中に鎮座する
ティッシュ箱から2枚引き抜いた。
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o川*゚ー゚)o「もうちょっと上品に食えんもんかな」
骨を葉巻みたいに口にくわえたまま、キュートは呆れた表情で言った。
私は脂まみれのてかてかの唇をティッシュで拭って答える。
ξ゚⊿゚)ξ「チキンはこれが一番上品な食べ方と思いますね」
o川*゚ー゚)o「まあねー」
びっくりチキンは、味も見た目も至って普通のフライドチキン。
じゃあ、なにがいったいびっくりなのかと言えば、
チキンの詰まった箱を開けるとまず最初に飛び込んでくる
「明日やろうは馬鹿野郎」などの店主直筆のメッセージがびっくりな要素。
けれど私たちはこのチキンをずっと食べ続けてきているので
今では全くメッセージにも心動かされることはない。無風だ。凪だ。
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さて、と私は鞄の中から手帳をとりだし、
背表紙に挿していた小さなボールペンを抜き取ってペン尻をノックする。
そんな私の準備動作を、いすの背もたれにあごを乗せたままキュートは見つめる。
o川*゚ー゚)o「食べ物の写真を撮る子は多いけどさ」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
o川*゚ー゚)o「そうやって、食べたもんを文で残すのって、ツンくらいだ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうかな」
o川*゚ー゚)o「写真のほうが楽じゃない?」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ……写真は、あくまで写真だから」
o川*゚ー゚)o「というと」
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ξ゚⊿゚)ξ「画像として残した食べ物なんて、食品サンプルと変わんないじゃない。
それがどんな味で、どんな匂いで、だなんて分からないし」
o川*゚ー゚)o「なるほどね」
その言葉とは裏腹にいまいち納得していない様子のキュート、
この説明にもうちょっと味付けできないかと私は考えて、
一つのキーワードを思い出す。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたは、あなたの食べたもので出来ている」
o川*゚ー゚)o「え?」
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、味の素のキャッチコピーにそういうのあったじゃん」
o川*゚ー゚)o「あー、あったね」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしが食べたものをしっかり、文章として残しておけば、
あたしがもう一人出来上がるって寸法よ」
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でもさ、とキュートは困った顔で呟く。
o川*゚ー゚)o「ツンがもう一人出来たら、どっちと付き合えばいいか分かんないよ」
ふっと目を伏せて私は、チキンの香りの残る息を吐きつつ答える。
ξ゚⊿゚)ξ「どっちとも両方、存在することはないから大丈夫」
言い終わると手帳に目を落として、ボールペンを走らせる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今日はキュートの家でびっくりチキンを食べた。
びっくりチキンの味はいつも通り美味しかった。
手が油まみれになるのもいつも通りだ。
カードの言葉は「
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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そこまで書いて、いったん手帳から顔を上げて、
スマートフォンを片手でいじるキュートに私は尋ねる。
ξ゚⊿゚)ξ「キュー、カードどこだっけ?」
o川;゚ー゚)o「え?あ、どこだっけ」
しまった、という顔でキュートはスマホから目を離し、
きょろきょろと首を振って辺りを探す、
しかし彼女より先に私は名刺サイズのカードを発見した。
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あったわ」
テーブルの端に落ちていたカードを拾い上げ
「結婚は人生の墓場である」と手帳のつづきに書きなぐると、
カードがあった場所の「町内盆踊り大会のおしらせ」にふと目を留める。
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ξ゚⊿゚)ξ「盆踊りかー」
o川*゚ー゚)o「今年は誰がくるんだっけ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと待って」
閉じた手帳を鞄に押し込んで、盆踊りのチラシを眺める。
チラシの二段落目ほどには、でかでかと錦糸卵のような黄色い字で、
「特別ゲスト、ジョルジュ長岡!」と自信たっぷりに書かれていた。
ξ゚⊿゚)ξ「んー!ジョルジュ来るってさ」
o川*゚ー゚)o「マジで?バイバイバードの人喜ぶかな?」
ξ゚⊿゚)ξ「いやあ、あん人も別にジョルジュの歌が好きってワケじゃないでしょ」
o川*゚ー゚)o「まあ、そっか。都合がいいだけだもんね」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、都合都合」
つごうつごう、と節付けて調子っぱずれに小さく歌うキュートを尻目に、
私は盆踊りの開催日時を確認し、そして彼女に悟られないようにそっと喜んだ。
まだ、間に合う。
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2.かちかちクーヘンバウム
ξ゚⊿゚)ξ「「かんぱーい!」」o川*゚ー゚)o
私とキュートは、皿の上で渦を巻くかちかちクーヘンバウムを
小振りなトンカチでふたり同時に叩く。
カーンと勢いよく音響かせて、
クーヘンは失恋を表すハートマークのようにまっぷたつに割れた。
ξ゚⊿゚)ξ「まだまだ」
o川*゚ー゚)o「もいっちょ」
ふたり、目を見合わせて頷き、そして腕まくり。
まだ、口に運ぶにはいささか大きすぎるのでもう一度叩き割る、
今度はふたりともタイミングがずれ、ぽこぽこと木魚のリズムで音が鳴る。
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「おかしとフルーツの有栖川」の隅の席で向かい合わせに座る私たちは、
四分割されたバウムのひとかけらを指で摘んで口に運んだ。
ξ゚⊿゚)ξ「かってー」
o川*゚ー゚)o「絶対インパクトだけの食べもんだよこれ」
苦笑しながら、ぼりぼりと石ほど固い焼き菓子の生地をかみ砕く。
よく噛まないと甘ささえ感じることが出来ないこの食べ物を
けれど私たちは愛していた。
この食べものの由来については、
メニュー表の裏表紙に枠で囲って、書かれている。
以下のようなことが。
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本来、バウムクーヘンとは船乗りたちのために考案された菓子である。
中世のヨーロッパ、大航海時代。
厳しい船旅を続ける船乗りたちの疲れを少しでも菓子で癒せないかと
ひとりの心優しい菓子職人が頭をひねって考えていた。
そしてとうとう思いついたのがこのバウムクーヘンだ。
薄いビスケット生地をぐるぐる巻いておけばボリュームを増せるので
長い航海の間でもなかなか無くならない。
そして痛むことのないように、水分一滴も残らないようにかちかちに焼き上げる。
こうして考え出されたバウムクーヘンは、
目論見通りに船乗りたちに愛され、彼らは甘いものが欲しくなると
これを少しずつ割ってデザートとして楽しんだという。
現在、世で広く出回っているバウムクーヘンは
中世の頃より食べやすく美味しいものに仕上がっているが、
当店ではあえて当時のバウムクーヘンを完全再現し、提供する。
と、まあこんな感じだ。
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もちろん、そんな伝説はこれっぽっちも残っていない、全くの創作だ。
よくもまあ、そんな嘘を堂々と思いついて商品として売り出したものだと、
私は呆れたものだが、しかし同時にいい試みだと思った。
この、下手すると歯より固いんじゃないかという食感と、
砂場から砂金を掘り出すような淡すぎる甘さが、
かえって遠い大航海時代のロマンを思わせてくれるのだ。
ぼりぼりとクーヘンをかみ続けるキュートの顔を
じっと見つめていると、ここが菓子屋の店内ではなく、
帆船の甲板の上で、照りつける太陽の中、
見果てぬ新大陸に夢を馳せているような気分になる。
o川*゚ー゚)o「制服、セーラーだったら良かったのにね」
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ぽつりと呟くキュートの言葉に、
私はかみ砕いたクーヘンを飲み込んで、
口の中に粉末として残った生地を舌でもごもごと舐め取りながら頷いた。
ξ゚⊿゚)ξ「そ、ね」
o川*゚ー゚)o「美府ってセーラーの学校あったっけ?」
ばっと私の脳内で学校名簿が開かれる。
中学生の頃に駅で見かけた高校生たちの中にセーラー姿がいないかと
記憶を高速でスライドさせて探して見るも、ヒットしない。
ξ゚⊿゚)ξ「ない、まったく」
o川*゚ー゚)o「あー、確かにないわ」
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o川*゚ー゚)o「くしょー、ロマン不足だ」
両腕を柳のようにしならせて斜め後ろへ伸ばすキュートは
その勢いで思わず椅子ごと倒れそうになり、
慌てて右腕だけ戻してテーブルをつかみ事なきを得る。
o川;゚ー゚)o「あー、びびった」
ほっと息をつくキュートへ店内の注目が集まり、
それに気づいた彼女はえへへと微笑んで彼らの視線を散らす。
彼女の最大の武器が、今光った。
o川*゚ー゚)o「あご疲れない?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、かなりすり減った気がする」
o川*゚ー゚)o「わかるー、まだ三個もあるし」
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私は皿の横のスパニッシュオレンジに手を伸ばし、
グラスの底をコースターに押しつけて水滴を拭くと一口だけ飲んだ。
喉をひっかくような酸味が走り抜ける。
ξ゚⊿゚)ξ「どぎつミルクレープにすればよかったかな?」
そうこぼした私にキュートは首を振る。
o川*゚ー゚)o「いや、あれホントにどぎついからやめた方がいいよ」
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり?」
o川*゚ー゚)o「うん、あれ食べると晩御飯ぜったいギブアップする」
ξ゚⊿゚)ξ「あー」
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ξ゚⊿゚)ξ「だいたいあれ、なんか頼みにくいし」
どぎつミルクレープを注文しないと、
パティシエはいつも悲しげに顔を伏せるのでやりきれない。
それは客商売としてどうなのかな、と私は思ってしまう。
o川*゚ー゚)o「あたしはあじさいチョコだなー、うん」
ξ゚⊿゚)ξ「まだ売ってるっけ?」
o川*゚ー゚)o「売ってなーい、6月限定」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしあれ、結婚式で食べるイメージあるよ」
o川*゚ー゚)o「うん、あたしもいとこのお姉ちゃんが何年か前に結婚したとき、そこで食べた」
そこでいったん言葉を区切り、キュートは目を閉じて唇を結んだ。
おいしい記憶を思い出すときの彼女の癖だ、私はそれがたまらなく可愛くて好きだった。
まぶたに遮られた彼女の瞳は、遠い向こうに立つ思い出をまっすぐ見ているんだろう。
o川*´ー`)o「美味しかったなあ」
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ふん、と鼻を鳴らすキュート。
ξ゚⊿゚)ξ「めっちゃ食べにくいけどね」
o川*゚ー゚)o「そうそう、どうやったら綺麗に食べれるんだろ、練習したいな、
だれか結婚してくれないかなあ、6月に」
もう6月は過ぎてしまった。
そのことを思い出し、彼女の言う6月という言葉に寂しさを覚えて
私は鞄から手帳を取り出した。
o川*゚ー゚)o「え、ここで書くの?」
キュートは驚き、目をぱちぱちと瞬かせた。
まつげが犬のしっぽのようにふるふる震える。
ξ゚⊿゚)ξ「忘れないうちにね」
o川*゚ー゚)o「感心」
テーブルから身を乗り出してキュートは私の頭を撫でてくれた。
乾ききった私の心のヒビに、如雨露でかけたように水が染み込んでいくようだった。
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一旦区切って、少ししたら再開します。
あと、スケジュール勘違いしてて、飯テロ期間内に終わりません、
ごめめんなさい
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3.チーム・うるさい中華
もろもろの用事を済ませれば時刻は午後3時、
朝からクリームりんごパンしか口にしていない私は
とにかくお腹が空いていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「ひえー、おなかすいたぁ」
りんごもクリームもパンさえも、私を離れいったいどこへ消えていったんだろうか。
胃の中はゴムボールのように空っぽで、思わず小さなげっぷが出た。
私には、空腹の時にむしろげっぷが出るという変な癖がある、
そのときのげっぷは、本当に胃の中の空気がそのまま通ったような空虚な味がする。
これを危険信号と受け取るならば、速やかに食事が必要だ。
ξ゚⊿゚)ξ「お金はあるけど、家にもご飯あるしな」
家にたどり着くまでに、行き倒れちゃうかな?
いやいやまさか、と問答を繰り返した末、
私は意を決して近くの中華料理屋に飛び込んだ。
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中華料理専門店の「チーム・うるさい中華」の店内は相変わらず、
工事現場かと思うほど騒がしかった。
ドアを開けた瞬間、これでもかと耳の穴へ飛び込んでくる喧噪に
顔をしかめながら足を踏み出す。店名に偽りがなさ過ぎる。
皿にレンゲがぶつかる音、とろみのあるスープをすする音、
鉄鍋におたまをたたきつける音たちをかき分けて進み奥の席に腰を下ろすと、
私の姿を見かけた店主の伊藤さんが厨房から声をかけてきた。
('、`*川「いらっしゃ、あ、ツンちゃん!おひさー」
同様に「おひさー」と返したところでこの店内じゃ伝わるわけはないので、
私はピースサインを作って返事のかわりとする。
立てかけてあるメニューを開き、一瞬で閉じた。
私の注文はいつも決まっているのでメニューはいらない、
ただ、その料理が現在も存在していることが分かればそれでいい。
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しばらくしてお冷やを持ってきた伊藤さん。
この店には小学校の頃から通い詰めているので顔なじみだ、
そして最初に訪れたときからずっと変わらないお団子ヘアーも相変わらず。
伊藤さんは突き刺すような勢いでテーブルにお冷やを置いた、
コップから飛び散った少量の水がクロスをわずかに濡らす、
それを気にすることもなく、エプロンに挟んでいた伝票を取り出した。
('、`*川「天津飯?」
私が注文するより早く、伊藤さんは伝票にさっと「天」と記す。
あまりに素早く書いたので、それは「夫」とも読めそうな字になっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「はい」
頷くと同時に彼女は厨房の方を振り向いて叫ぶ。
('、`*川「あいよ、てんしんはーん!」
厨房の方から「あーい」というカドのない声が返ってくると、
('、`*川「じゃ、待っててね」
まるで台風のように、彼女は私のテーブルを去ると他のテーブルへ移った。
中華料理店というのは得てして戦場だなあ、と思う私だった。
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('、`*川「はい、天津飯おまちど」
注文して5分も経たないうちに、
私のテーブルにはほかほかと飴色の湯気を立てる天津飯が運ばれた。
いつもながら料理が出てくるまでがとても早いので驚いてしまう、
まるで私が来るのを待っていたようだ、と思えば、
毎度私の訪問を目ざとくさとるキュートの姿と重なった。
ξ゚⊿゚)ξ(愛されてんね)
手を合わせていただきます、と小さく呟く。
私は凹んだ方を手前に向けてレンゲを掴むと、黄色いドームへ突き刺した。
卵と、その卵に守られるような形で隠れていたご飯を貫通して
レンゲが皿に当たれば、かちりと音が鳴る。
この音が、店内に満ちる騒音たちの中に加わることで、BGMの一部となる。
だから、"チーム"うるさい中華、ということらしい。
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('、`*川「中華ってのは、うるさければうるさいほど、おいしいのよね何故か」
ずっと前に伊藤さんは私にそう話してくれた。
和食にしろ洋食にしろ、音を立てずに食べるのがマナーとして正しいけれど、
中華に限っては食事の騒がしさが逆に調味料として作用するんだと。
はじめは納得できなかったが、
この店で何度も天津飯を食べるうちに次第に理解できていた。
昔から中国って人口が多いから、料理も多人数用にチューンされて、
騒がしい方が美味しくなるように出来ているんだろう。
突き刺したレンゲを手前に引き寄せてすくい上げる、
とろとろのあんと、薄く柔らかな卵と、白くまぶしいご飯を
ひとまとめに口に運べば、ほどよい甘酸っぱさが舌を震わせる。
ξ゚⊿゚)ξ「これこれ、これよ」
思わずこぼれる微笑みをぶらさげたまま、頷く。
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まるで金魚すくい名人のように私は、
天津飯をレンゲで口に運ぶという動作を素早く繰り返す。
店内の騒がしさと食事のハイペースさが一つの音楽のようになり、
私の胃が秒刻みに幸せを取り戻していく。
数分後、オーケストラが最後に鳴らすシンバルのごとく、
胃が完全に満足するのと同時に皿の上も空っぽになっていた。
ξ゚⊿゚)ξ「はー」
そしてげっぷが出る、今度のげっぷに空虚さはこれっぽちもない。
私はわずかに張り出た気がするお腹をわざと前につきだして、
妊婦のように優しく撫でると、「よかったな、お前」と心で呟く。
そして胃からの返事を待たずして、伝票を掴んで立ち上がった。
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レジカウンターに居るのは伊藤さんではない、アルバイトの中国人だ。
( `ハ´)「テンシンハン、ロッピャクハチジュウエン、デス」
カタコトで告げる言葉はぎこちなさ過ぎてうまく聞き取れないが、
どうせいつも天津飯しか頼まないので値段は分かっている、
私は財布から千円札を取り出して彼に渡した。
( `ハ´)「イタダキマス」
何を頂くの?とつっこみを入れたくなるのをこらえて、
お釣りの320円を受け取ったところで、伊藤さんが通りかかった。
('、`*川「ツンちゃん、いつもありがとねー」
伊藤さんは、大皿に乗った八宝菜を抱えたまま微笑んだ。
私は、言おうか言うまいか少し悩んで、口を開いた。
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ξ゚⊿゚)ξ「わたし、ここにくるの、今日で最後かもしれません」
('、`*川「え?」
伊藤さんはつっかけたサンダルのつま先を床でとんとん叩き、
('、`*川「そうなの?」
ぽかんと口を開いてこちらを見つめてきた。
そんな彼女の姿に申し訳なさを覚えつつ、答える。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、家庭の事情で」
('、`*川「あらー、……残念ねえ、ほんと」
ほんと、の声が彼女のお団子ヘアーの陽気さに全く似合わず曇っていて、
わずかに顔を屈めて、眉まで垂れ下がる伊藤さんを見ていると、
私は改めてチームうるさい中華の威力を知るに至った。
うるさいままでいさせれば、良かったのに。
-
ξ゚⊿゚)ξ「では、また機会があればいつか」
('、`*川「あ、ちょっと!」
もはや彼女の顔を見ていられなくなり
急いで店から出ようとドアを開けようとする私を、
伊藤さんが射抜くように制止した。
ξ゚⊿゚)ξ「あ、はい」
('、`*川「くち、開けて」
言われるがまま、ツバメの雛のごとく丸く口を開ける私、
伊藤さんは、レジ横のつまようじ立てから一本を抜き出し、
片手で抱えていた八宝菜の中のうずらの卵に軽く突き刺す。
そしてそれを、ひょいと私の口へ放り込んだ。
うずらの卵のつるつるとした表面が、私の舌の上を転がった。
-
( `ハ´)「アネサン?」
中国人アルバイトが信じられないという顔で伊藤さんを見つめる。
ξ;゚⊿゚)ξ「こ、こえ」
舌がうまく動かせないのでろれつが回らない私に
伊藤さんは再度微笑みかけ、
('、`*川「ないしょね」
そういって、また台風のようにレジのそばから離れていった。
だれに、内緒にすればいいんですか?と思いながらも、
口の中に残るうずらの卵を前歯で噛むと、
ぷちんと弾けて粉っぽい黄身が舌の上に溢れてくる。
私はいつまでも飲み込めずに、黄身のざらざらを舌で伸ばし続けていた。
さよなら、チーム・うるさい中華。
-
一旦終わります、明日続くます。
ありがとうございました。
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乙!
かちかちクーヘンバウムちょっと食べてみたい
あとチーム・うるさい中華の破壊力強すぎだろ
店内の描写で腹減ったは
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>>1です、間に合わなかった以上、飯テロ祭りには不参加といたします。
すみません
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今現在の投下文でも問題ないとは思いますが…本日中(26日)で投下が完了する場合に限りOKとします。※投下開始時間が遅かったため
楽しみにしてますのでよろしくお願いします
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ご飯の描写が抜群に上手いな
チキン食いたくなった
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ツンとキュート
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たまんねぇ
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