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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
1semi★:2007/02/01(木) 00:07:48 ID:???0

書いた赤石サイドストーリーをひたすら揚げていくスレッドです。
技量ではなく、頑張って書いたというふいんき(ry)が何より大事だと思われます。
短編長編はもちろん関係ありませんし、改変やRS内で本当に起こったネタ話などもOKです。
エロ、グロ系はなるべく書き込まないこと。エロ系については別スレがあります。(過去ログ参照)
職人の皆さん、前スレに続き大いに腕を奮ってください。

【重要】
このスレッドは基本的にsage進行です。
下記のことをしっかり頭にいれておきましょう。
※激しくSな鞭叩きは厳禁!
※煽り・荒らしはもの凄い勢いで放置!
※煽り・荒らしを放置できない人は同類!
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。
※どうしてもageなければならないようなときには、時間帯などを考えてageること。
※sageの方法が分からない初心者の方は↓へ。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1117795323/r562

【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1117795323/

【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1127802779/l50

【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/

2名無しさん:2007/02/01(木) 00:10:35 ID:penNydHM0
2get!?

3名無しさん:2007/02/01(木) 00:13:49 ID:fA84Z9yw0
ストーリーをまとめて投下してくださる職人さんたちが多いので先に次スレを立てました。
前スレを使い切ってからこちらに投下してくださるようお願いします。

前スレ
【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/

なお、前スレ及びテンプレミスのスレッドでの意見から、エロ・グロ用のURLは省かせてもらいました。

4名無しさん:2007/02/01(木) 02:13:19 ID:HQAu5IhY0
テイマー「ここが古都ブルネンシュティングかー。」
やっとたどりついたテイマーは古都の噴水に腰をかけてあたりを見回した。
露店看板をだして座っている人や、ドラゴンツイスターを連射してる厨房などがいてにぎやかだった。

すると1人の戦士が声をかけてきた、
「まだ若葉マークみたいだね。俺がレベルあげ手伝ってやるよ。一緒にアルパス地下監獄いかない?あそこなら檻とかあっていろいろなプレイできるしね。」
なにもしらないテイマーは、俺TUEEEE手伝いをつかまえたと喜び戦士のあとについてアルパスへ向かった。

5名無しさん:2007/02/01(木) 15:29:47 ID:lxbFWgRc0
前スレ1000の話、すげー感動した!
まさに1000にふさわしい話といえよう・・・

仲間に病気移さないように殺されようとしているコボルとにうっ
内心かなり怖がってるのにそれでも耐えようとしてるコボルとにううっ
別れを覚悟して出会いを胸にきざみつけるコボルとにうううっ
バインダーに取って代わられたことを悟ったコボルとにううううっ
別れた後、また殺されるために花畑に立つコボルとにもう・・・
ありがとうって、ありがとうって・・・

もう後半かなり泣かされました
テイマ作ってコボルととずーっと冒険してやろうかなって思ってしまった
花畑がまた儚いつか切なさをさらに引き立ててる感じがグッドす
たった1000字で泣かせる話かけるあなたがすげー、んですげー羨ましいぞ
きっと想像力がすごすぎてどっかで発散させないとダメなくらいの人なんじゃないだろうかと勝手に想像
すげー短時間で話かきあげてるみたいだから、なかなかおいつけねーorz
これからもちょくちょく書けるときには感想かかせてもらうんでよろしく

どーでもいいけど、このスレに投稿している人たちって本業にでも出来そうなくらい話作りうめーよな

6 ◆21RFz91GTE:2007/02/01(木) 16:14:41 ID:t80sBG8k0

■唐突番外短編シリーズ No1


 とても寒い夕暮れ時、突如としてこの世界は姿を現した。
中世ヨーロッパのような街並みとそこで暮らす人々、突如として現れたそれは極普通の生活を送る人々の姿に見えた。
 私はコート一枚でそこに立っている、場所は賑わう商店街のような場所だった。沢山の冒険者と、それ人達にこの世界の物を売る商売人。本当に賑やかな場所だった。ここはちょっとした観光名所なのかもしれない、この地域を基点とした冒険者達の露店が沢山並んでいる。武器、防具、アクセサリー、指輪…数多くのアイテムが売られている。その中でも一際儲かっているのか、やたらと露店に並べている商品を取り替える人々の姿も有る。
 暫くの間、物珍しい街並みを歩いて回り噴水の近くにまでやってきた。とても綺麗な噴水が街の中央に設置されている。その周りには色々な冒険者達が待ち人を待っているようにも見える。多分ここが待ち合わせの場所として都合がいいのだろう。歩き疲れたのか、少々足に重さを感じた私は噴水の近くで腰を下ろさせてもらう事にした。
 懐から一つのタバコを手に取り、口にくわえて火をつける。一呼吸置いて煙を肺に通し、二酸化炭素と一緒に口から煙を吐き出した。寒いこの青空の下ではタバコの煙と吐いた息が同じような色をして煙上に空へと舞った。のどかな物だ、騒がしくも無く、静かでもない。丁度いい具合の会話や鳥の囀りが心地よく聞こえる。そして、私の直ぐ後ろで流れる噴水の音。これがまたなんとも眠気を誘うものだった。
 ふと、空を見上げた。
何処までも青く、澄み渡るこの青く遠い空。今もこの空の下誰かが冒険に出かけているのだろう。誰かが私と同じようにのんびりと同じ時間を過ごしているのだろう。
「あの〜…。」
あまりの気持ちよさに多少ウトウトとしていた私の耳に一つの声が入ってきた、ゆっくりとまぶたを上げその声をする方向を見ると、一人の戦士が立っていた。
「君も、僕達と一緒に出かけないか?」
始めて声をかけて来てくれたその戦士の後ろには、数名の冒険者が笑顔で私の答えを待っている。とても人の良さそうな彼ら、その笑顔には従来のこの世界での生き方を私に教えてくれるかのような笑顔にも見えた。
「えぇ…ご一緒させていただきます。」
何処までも広がるこの青く遠い空の下、こうして誰とも分からない人と一緒に冒険に出る事も多くなるだろう。一期一会の出会いかもしれない巡り合わせと共にこれから始まる冒険の旅に出かけるのも悪くない、そう心の中で呟き彼らと同行した。


赤い宝石が奏でる、幾つも物命の物語


END

7 ◆21RFz91GTE:2007/02/01(木) 16:18:22 ID:t80sBG8k0
どうも、お騒がせ21Rです…。(´・ω・`)

まず、スレがパート4まで行った事について。
スレ住人の皆様おめでとう御座います。
まさかここまで続く物だとは思って無かったので、俺自信もちょっと嬉しいです。

さてさて、前スレの1000をお取りになったドギーマンさん、GJですb
と言うわけで、気分転換に短編物を一つ投稿させていただきます。

因みに実話なのですが、この後リダが落ちるとかで5分で解散したのは内緒です(ぉ

では、四冊目もがんばっていきまっしょい!(ぁ

8名無しさん:2007/02/01(木) 23:43:08 ID:Ju82naOY0
>>前スレ ドギーマンさん
1000字の病気コボなSSも良かったですが、やっぱりガディウスの話が気になります。
短期間で書かれたとは思えないほど伏線が生きていてとても面白いです。

>>21Rさん
知らない者同士がパーティを組んで冒険に出かける。MMOってほんとに良いですよね。
今ではすっかり当たり前になったそんな世界も改めて考えると凄いものなんだなと思います。

9殺人技術:2007/02/01(木) 23:59:45 ID:E9458iSQ0
>>1
スレ立てありがとう。
なんか立て方分からず迷ってたら立ってた(´ω`)

>>前スレ1000 ドギーマンさん
1000レス目で1000文字で書くっていう発想自体が良いですw

ところで、前スレにリンクしたい場合にはどうすればいいんですかね。
こんな事聞くの自分だけでしょうけど……(´・ω・)

10名無しさん:2007/02/02(金) 00:02:54 ID:1W/DC2sE0
例えば3冊目の3に飛ばしたいなら
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1139745351/3 ←レス番

でも過去ログいったら意味無くなりますが。

1110:2007/02/02(金) 00:07:27 ID:1W/DC2sE0
>>9
ごめんなさい、途中で書き込んじゃいました。
過去ログ倉庫に送られた後でリンクするなら、
3冊目の900さんみたいなリンクのやり方でいいと思います。
過去ログ倉庫行きにならないことにはURLわかりませんが。

12第35話 仮説:2007/02/02(金) 01:37:48 ID:BnZCUtXo0
安全安心が売りがモットーのRMT業者。
元々個人売買では詐欺がまかりとおり、被害者が後を絶たないので出来た隙間商売だ。
隙間商売や新興業種はいつだって法律整備の前に出来上がる。
そしていつだって犯罪組織の餌食になるものだ。
・ゲーマーが通貨を余す→仮想通貨を欲するゲーマーに販売
これが図式が変わって、
・売り通貨→RMT業者→買いたい人
となる。
当然、業者は儲けがないと商売としてなりたたないから安く買い、高く売る。
中間マージンで利益を出すわけだ。
年間150億円規模のRMTの取り引きから業者はそのうちの数パーセントを市場から抜くわけだ。
佐々木はここに、RMT業者の存在に犯罪の匂いが感じられた。
何かが引っかかるんだが、どうしても推察できないでいた。
「田村さん。彼らはなぜわざわざ買い取り価格が落ちるRMT業者に売るのでしょう?」
「やつらも安全に取り引きして利益出したいんじゃないのか?w」
「それでは人を殺す連中にしては遠回りしているように思えますが?」
「うーん、考えすぎじゃないかぁ?」
「詐欺が出来ない以上は個人売買で1円でも多く取り引きしたほうがいいと思うんですがね、
そんな手間かけるより手っ取り早く業者なんですかねぇ?」
「銀行口座と同じように考えたほうがいいのかな?」
「たとえばなんですか?」
「キャラの売買は本業だったよな? その途中で口座を見つけたら、危険を冒してでも奪った」
「ですよね。これを通貨に当てはめると・・・口座は組織の金の送金用だったから・・・
組織の何かを守るために業者を利用してる?」
「何か? 利用しているか・・・?」
佐々木は思わず声をあげた!
「あ! そうゆうことか!」
「ん? 続けて」
「業者もグルなんですよ! 端からまっとうな営業なんかじゃないんですよ!
彼らの何を守るって、金を守るためですよ! 彼らの汚れた金を綺麗にするためなんです」
「RMTで利益を上げて税金を納めてちゃ意味ないんじゃないか?」
「業者が金を’吐き出す’ことに目的があるんです。いいですか? 不正に入手した仮想通貨を’買う’んです
そしてそれを売る。ここで若干の利益は出しますが、収支をトントンにしておけば納税する義務がありません」
「それじゃ儲からないだろってーの」
「儲けるのが目的じゃないんですよ。不正に通貨を獲得した時点で儲けなんです。今度はそれをどうやって
綺麗な金にするのかが問題なんですよ。図式はこうです

普通は仮想通貨を仕入れます
    ↓
  現金が必要
    ↓
仕入れたものを商品として買い付け価格より高く売りに出す
    ↓
  売買に成功
    ↓
数%の利益を出すことになる

いいですか?経営上の帳簿バランスは+-0になるはずです。しかし僕の仮定が正しいと
 
不正に入手した仮想通貨を買いつけたことにして売りに出す
    ↓
  売買に成功
    ↓
100%の利益を出す

つまり劉を利用してた奴らはRMT業者を隠れみのにして、実際はボロ儲けだったはずなんです。
仮想通貨には実際の通貨のようにナンバリングしてありませんから、買い付け先も売った相手もわかりません。
つまり経費がまるっきりごまかせるんですよ! これでは税金の支払い義務が生じないでしょうね。
・・・マネーロンダリングの完成です」
「レッドストーンってゲームでそんなに儲けられるのか・・・」
「違うと思いますよ。劉はレッドストーンの担当だっただけじゃないでしょうかね。今頃違う奴が担当になってるでしょう」

13ドギーマン:2007/02/02(金) 07:39:15 ID:LqS319xY0
『オアシス』
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996

4:傷

グレイの左腕は砂漠に埋められた。時が経てばどこか分からなくなってしまうだろう。
グレイは穴に放り込まれ、砂をかけられる自身の左腕を見てハンクに言った。
「この傷は私のものであると同時に、お前の心の傷になっただろう。だがな、傷ついてこそ人の心は強くなれる」
「ああ」ハンクは左腕を埋めた跡を見下ろして言った。
ハンクは一言だけ答えると、気持ちを整理するようにしばらくその場から動かなかった。
グレイは離れて見ていたガディウスに近づくと残った右手を彼の肩に乗せた。
「ガディウス君」
「はい」
ガディウスの目を見てグレイは続けた。その眼はいつもの優しい彼の眼だった。
「少しいいかね」
ガディウスは黙って頷いた。
ガディウスとグレイは町のなかを歩きながら話し合った。
「これは、本来は君に頼むべきことではないのだが・・」
そこで止まったグレイの言葉をガディウスは補足した。
「エレナのことですね」
グレイは頷いた。
「今回の件で一番傷ついているのはあの子だ」
「はい」
ガディウスはずっと塞ぎこんだままのエレナの姿を思い返した。
「私は傭兵引退ということになるだろう。
 今のハンクなら、もう前のような事も無いだろうから安心して引退は出来る。
 だが、ずっと家を1人で任せきりだった娘には、私は正直どう接してやればいいのか分からない」
グレイはガディウスの目をじっと見つめた。
「ガディウス君。本当に身勝手な頼みだが、あの子を支えてやってくれ」
「はい」
今回の件は全て自分がこの家に来たことから始まる。ガディウスは責任を感じていた。
「しかし、私はもしかしたら皆さんにとって疫病神なのかもしれません」
グレイは頭を振った。
「君が居なければ、あの時ハンクは死んでいた。私はむしろ君は神の使いなのではないかと思うのだよ」
"神の使い"という言葉に何か不思議な感覚を覚えながら、
ガディウスは微笑むグレイに不安そうな表情を向けていた。
「エレナはな、優しすぎる子だ。人の痛みを自分のことのように感じようとする。
 幼少の頃はそのせいで大変だったよ。いつも泣いて帰ってくるんだからな」
そういってグレイズは苦笑した。
「妻が死んだときも、エレナは今みたいな様子だった。
 あの時は少しずつ自分自身の力で立ち直っていっているように見えていた。
 だが、実際は違ったらしい。あの子は気丈に振舞ってきていたが、きっとまだ傷を埋めることができないでいる。
 ガディウス、君なら出来る。エレナの心の傷を癒してやってくれ」
「分かりました」
ガディウスは頷いた。
「さて、家に帰ろうか。エレナ1人では心配だ」
ガディウスの脳裏に初めて出会ったときのエレナの顔がよぎった。
「そうですね」
2人は家に向かって歩き出した。

14ドギーマン:2007/02/02(金) 07:41:08 ID:LqS319xY0
二日もすると、塞ぎ込んでいたエレナはいつもの気丈さを取り戻していた。
しかし、ガディウスには彼女は人目を避けて哀しそうな表情をしているのを知っていた。
グレイは傭兵を引退し、家で隠居生活を始めた。
家事に参加しようとはするが、まだ左腕の傷も治っていないためにエレナに止められている。
仮に傷が良くなっても、彼女は許さないかもしれない。
いまは退屈そうに家でのんびりしているが、そのうち家出してしまいそうだった。
ハンクはというと、他の同僚と組んで砂漠を見回っている。
境界内に入ったモンスターと戦うことはあるそうだが、必要以上のことはしなくなったらしい。
そしてガディウスは家事を手伝いつつ、たまにやってくる患者たちの治療を行っている。
彼の場合、1度で完治させてしまうせいで何度も通う必要がなく、最近はほとんど患者は来なくなった。
さすがに、働き手が1人減ったせいで収入は減ってしまったが、
町の人はガディウスを慕って食べ物を分けてくれたりしたので食べるのには困らなかった。
その日の家事を一段落させると、エレナがお茶を淹れてきた。
お礼を言ってガディウスとグレイは茶を受け取った。
3人で火のない囲炉裏を囲んで座ると、グレイはガディウスに言った。
「君も、すっかり日に焼けたな」
ガディウスは最初の頃より日焼けでずっと黒くなっていた。
「はい、おかげさまで」
ガディウスは笑ってみせた。
「君がきてからもう3ヶ月か、何か思い出せたことはあるかね?」
ガディウスは器の中で揺れる液体を見ながら答えた。
「いえ、何も」
「そうか」グレイは残念そうに言った。
「ガディウス、焦ることはないわ。ゆっくりと思い出すのを待ちましょ」とエレナが言った。
「ああ、分かってる」
何度か思い出してみようとはしたが、結局何も出てはこなかった。
地図を見て自分の故郷がどこなのか、知っている名前を探したがどこにもなかった。
「もしかしたら、この世界には私の帰る場所なんてないのかもしれない。そんな気がするんです」
その言葉にエレナはすぐに反応した。
「そんなことないわ。どこかにきっとあなたを待ってくれている人が居るはずよ」
ガディウスはじっと自分を見るエレナにすこし驚いたような表情を向けると。
すぐに笑みの形にして「ああ、そうだね」と言った。
「ガディウスさんは居るかい?」
誰かが訪ねて来たようだ。
「今行きます」そう返事をしてガディウスは立ち上がった。
戸口の方へ歩いていくガディウスの背中を見送って、グレイは娘に言った。
「本当に、お前はそれでいいのか?」
エレナは少し俯いた。
「何言ってるのお父さん。あの人にだって本当の家族がきっと居るわ」

15ドギーマン:2007/02/02(金) 07:42:02 ID:LqS319xY0
その日の晩、最後の患者を診終わってガディウスは外で夜風に当たっていた。
昼は猛暑の砂漠でも、夜は信じられないくらい冷え込む。
冷たい風に髪が揺れて頬を撫でた。
「お疲れさま」
ガディウスが振り向くと、エレナが立っていた。
「ああ、お疲れさま」
エレナはかぶりを振った。
「私はいつも後ろで見てるだけだから」
「そんな事はないよ」
「本当にそう思う?」
「ああ」
ガディウスの言葉に、エレナはしばらく黙っていたが口を開いて言った。
「いいえ、この前だって、わたしはずっと立って見ていることしか出来なかったわ。
 お父さんも、お兄ちゃんも、あんなに傷ついて苦しそうにしてたのに」
そう言って俯くエレナの肩にガディウスは触れた。顔をあげたエレナの目をじっと見てガディウスは言った。
「エレナ、ハンクの傷も、グレイさんの傷も、時が経てばいずれ癒えて痛みは消える。
 むしろ傷ついて苦しんでいるのは君のほうだ」
「私?」
ガディウスの顔を見上げてエレナは呆けたような顔で言った。
ガディウスはエレナの両腕を掴んで、彼女の目を見つめて言った。
「身体の傷はいずれは癒える。だが心の傷は治らない。君はずっと今までの傷を抱え込んだままにしている」
エレナは戸惑っているようだった。
「エレナ、1人で苦しまないでくれ」
エレナの二の腕を掴むガディウスの手にぼうっとした光が灯った。
『お父さん・・・お兄ちゃん・・・・』
「グレイさんも、ハンクも、2人とも全て納得の上で戦って傷ついた。それに対して君が傷つくことはない』
「でも・・・」
ガディウスの眼に腕を焼くグレイの顔が見えた。
「グレイさんはハンクの目を覚ますために腕を捨てたんだ。あれ以上ハンクが苦しまないために」
『いや、お母さん。死なないで!』
「君のお母さんだって、決して君にいつまでも悲しんでいて貰いたいとは思わなかったはずだ」
ガディウスの手の光はエレナの中に吸い込まれるように消えていった。
『エレナ、お願いだから泣かないで。お母さんはね、あなたの涙は見たくないの』
「・・・・・」
エレナは黙っていた。
「エレナ、もう君が傷つく必要はないんだ。もし君が傷ついても、私が癒してみせる」
「でも、あなたは・・・」
「私はどこへも行かない。私の家族はここに居る」
向き合って立っている2人をグレイは笑みを浮かべながら眺めていた。
「なあ、メシはまだかぁ?」
家の中で間抜けな声をあげるハンクに「砂でも食ってろ」と吐き捨て、
グレイは砂漠の中で身を寄せ合う2人を見守っていた。

16ドギーマン:2007/02/02(金) 07:43:11 ID:LqS319xY0
5:変化

さらに三ヶ月が経った。
ガディウスとエレナは結婚し、ガディウスは家族を得た。
抵抗はあったが、ガディウスは癒しの力で生計を立てることにした。
自分を必要としてくれる人たちとの生活は、彼の心に安らぎを与えてくれた。
しかし、自分の過去に対する思いを完全に断ち切れたわけではなかった。
どこにも行かないとエレナと約束したが、それでも自分が何者なのか知りたかった。
ガディウスはあの声が忘れられず、たびたび話しかけようとした。あの声の主なら自分のことを知っている気がした。
だが、あの日以来返事は全く返ってこなかった。そんなある日のこと、
"頼む、答えてくれ"
その日も彼は椅子に座って俯き、声を発信していた。
「ねえ、あなた」
顔を上げると、エレナが見下ろしていた。
「最近ぼーっとしてるわよ?」
「あ、ああ」
エレナは呆れたようにため息をついた。
「もぅ、しっかりしてよ」
「すまない」ガディウスは少し疲れたような表情を向けた。
エレナはその表情を見て少しばかり心配そうにしたが、すぐに話を変えるように「そうそう」と言った。
「髪、切らないの?」
ガディウスの髪は来たときからほとんど伸びていないが、それでも顎まである長い髪は鬱陶しそうだった。
「いや、別にこのままでもいいよ。伸びているわけでもないし」
ガディウスは、何故か髪を切るのを拒んだ。
エレナは少し考えると、
「そうね、じゃあ後ろで纏めましょ。いい?」
「ああ、頼む」
エレナはガディウスの後ろに回ると、紐を口に咥えて髪を梳かし始めた。
ガディウスは前を向いたまま、また心の声で交信を試みた。
"返事をくれ"
「あら、白髪?」
エレナはガディウスの黒髪に白い髪の毛が一本混じっているのを見つけた。
"レッドストー・・"
プチッ
ちくっとした痛みと共に突然返ってきた声は途切れた。
「痛っ」
ガディウスは思わず声をあげた。
「あ、ごめんごめん」
エレナは頭を抑えるガディウスに笑いながら謝った。
「ん、どうしたの?」
ガディウスの顔にはなんとも言えない、ショックを受けた顔があった。
「エレナ、さっき声が聞こえなかったか?」
「ん?いいえ、別に何にも聞こえなかったけど」
「そうか・・・・いや、なんでもないんだ」そう言ってガディウスは前に向き直った。
エレナは何か悪いことをしたような気がしたが、髪を梳かし続けた。
オールバックになったガディウスを見て、ハンクは相当ビビっていた。
驚く兄を見て、エレナはくすくすと笑っていた。グレイも「中々渋いじゃないか」と笑っていた。
当の本人も結構気に入ったようで、それからずっとガディウスは髪を自分で束ねることにした。

17ドギーマン:2007/02/02(金) 07:44:03 ID:LqS319xY0
ガディウスは雲の上に立っていた。
ガディウスの背には大きな白い翼があったが、当人は全くそれを気にしていない。
まるで、それが当然のことであるかのように。
ガディウスは自分の頬をかすめて飛んでいった光弾を放った天使を睨みつけた。
"何者だ?"
目の前の天使は笑みを浮かべると、身体をふわりと宙に舞い上がらせた。
"待て"
ガディウスは天使を追って雲の世界の空に身を躍らせた。
霞を突き抜け、雲の隙間を潜り抜け、突然急降下する。2人の天使は追走劇を演じた。
"止まれ。これは警告ではない。命令だ"
しかし、前を飛ぶ天使の背中はガディウスの言葉を無視した。
それどころか身を翻し、新たに手の中に生み出した光弾を飛ばしてきた。
ガディウスは今度はそれを避けずに右手で握りつぶすように受け止めた。
バジュ!と音を立ててガディウスの手の中で光弾が炸裂した。
ガディウスの手から湯気のような煙がたったが、ほとんどダメージは受けていないようだった。
"この魔力は火の力・・・・貴様、天使ではないな"
"天使でなければどうすると言うのだ?兄弟よ"
"兄弟と呼ぶな、悪魔めが!"
ガディウスは大きく広げた翼に力を集め、放った。
翼から数十枚の羽が方々に飛び出して宙に留まると、天使の姿をした悪魔に向かって収束するように飛んでいった。
悪魔は飛んで逃げようとしたが、大量の羽が悪魔の後ろを追尾していった。
悪魔は避けきれぬと悟ると両手を振り上げ、
「フレイムストーム!」と叫んで両手から巨大な炎を放って羽を焼き払った。
炎が悪魔の視界を埋めつくしたとき、火炎の中からガディウスが飛び出してきた。
"死ね"
ガディウスの手の中からで生まれた十字架のような光の剣が悪魔の胸を貫いた。
「ふ・・・ごぉ・・」
炎の中を突っ切ってきたにも関わらず、ガディウスの身体は光の膜に覆われて傷一つなかった。
"どうやって侵入したかは知らぬが、悪魔ごときが天上界で天使に敵うと思うたか"
そう言ってガディウスは傷口を広げるように剣をぐぐっと持ち上げた。
「はがっ・・・ぁぁ」
ガディウスによって胸を刺し貫かれた天使は、身体をガクガクと震わせ次第にその正体を現そうとしていた。
天使の肉体がぱらぱらと乾いたペンキのように落ち、その中から赤い皮膚が覗いた。
"クク・・"
胸を刺し貫かれ、苦悶の表情を浮かべる赤い天使はガディウスに笑みを向けた。
"何が可笑しい"
"確かに、我らごときでは天上界に侵入したところで貴様ら天使には敵うまいよ。しかしだ・・・"
悪魔はクハハハと笑って続けた。
"我ら赤い悪魔は、火を糧とする。この意味が分かるか?"
ガディウスの表情が一変して曇った。
離れようとするガディウスの腕にがしっとしがみ付いて悪魔は言った。
"待て、どこへ行く兄弟。もう少し私に付き合って貰うぞ。クハハハハハハ"
ハハハハハハハハハハハ!!!
不気味な嘲笑にガディウスはガバっと身体を起こした。
頬に汗で濡れた髪が張り付いている。
ガディウスは自分の手に触れる暖かい感触にふと隣に目をやった。
エレナが眠ったまま、無意識に彼の腕を捜していた。
ガディウスは愛しい人の手を握った。
夢の内容はほとんど頭から消えうせていたが、不気味な笑い声だけが彼の脳裏に張り付いていた。

18ドギーマン:2007/02/02(金) 07:44:45 ID:LqS319xY0
翌日、
ガディウスは元同僚の傭兵の怪我を診ていた。
「グレイのおやっさんはどうしてる?」
怪我が治ると傭兵が聞いてきた。やはり見なくなった重鎮の近況は気になるらしい。
「元気なもんだよ。最近は菜園に手を出しててね。私達にもやれってうるさいんだよ」
「ははは、そりゃ災難だな」
エレナは傭兵に聞いた。
「お兄ちゃんは最近どうしてる?」
ハンクは家を出て、傭兵達の宿舎のほうで寝起きしていた。
エレナとガディウスに遠慮したのだろう。
「あ〜、ハンクのやつか」
傭兵は口を押さえて笑いを堪えた。
「どうしたの?」
エレナは怪訝な顔で傭兵に聞いた。
「ほら、道具屋の子、確かアシャっつったけな。最近あの子にご執心らしいぜ」
「まあ」エレナは喜んでその話に耳を傾けた。
「馬鹿みたいに毎日毎日ポーション買いに通ってんだよ。そのくせまだまともに会話も出来てねえ。
 意外と肝っ玉の小さい奴だ。ははは」
「ははは、でもあいつらしいじゃないか」
そうして談笑していると、突然ガディウスの様子が変わった。
"・・・・・・"
「そうだ、レッドストーンって知ってるか?」
「なんだそれ?」
傭兵は興味深そうに聞いた。
そのとき、エレナはガディウスの異変に気づいた。
ガディウスの黒髪が、だんだんと白く染まっていっているのだ。
"レッドストーン、天上界より地上にもたらされた至宝"
「レッドストーン、天上界より地上にもたらされた至宝」
ガディウスの瞳は白く濁り、表情はなかった。
"この世のどこかにある。天上の至宝"
「この世のどこかにある。天上の至宝」
そこでようやく傭兵もガディウスの異変に気づいた。
「お、おい、なんか変だぞお前。大丈夫か?」
"探せ、求めよ、卵が孵る前に"
「探せ、求めよ、卵が孵る前に」
「あなた、しっかりして!」
エレナはガディウスの身体を揺すった。
"赤い悪魔から奪い返すのだ"
「赤い悪魔から奪い返すのだ」
「あなた!」
エレナの声にガディウスは我に返った。
瞳に元の輝きが戻り、髪も黒くなっていった。
「む・・・」ガディウスは頭を抑えて膝をついた。何か、身体が自分の物でないかのように力が入らない。
「お、おい、大丈夫か?」
傭兵とエレナはガディウスの身体を支えた。
「あなた、きっと疲れてるのよ。少し休んで」
「あ、ああ・・・」
ガディウスは2人に支えられて寝室に運ばれた。
「一体どうしたんだ、あいつ」
寝室にガディウスを寝かせてエレナと傭兵は戻ってきた。
エレナは何も答えられなかった。ただ、彼に何かが起こっていることしか分からなかった。
「とにかく、俺はそろそろ行くよ。仕事があるしな」
「ええ」エレナは小さな声で短くそう答えた。
傭兵を見送って、ふと部屋を見ると、ガディウスが座っていた椅子の下に何かが落ちていた。
拾い上げるとそれは眩しいほどに真っ白な一枚の羽だった。
エレナは言い知れない不安と共に、その羽を握りつぶした。
その日から町にレッドストーンに関する噂が流れ始める。
噂の出所はガディウスからだった。

19ドギーマン:2007/02/02(金) 08:05:48 ID:LqS319xY0
あとがき

少々主人公の影が薄くなってしまいそうだったので、
一気に話を元の路線にもどしました。
もうちょっと、時間をかけて二人をくっつけてもよかったんですが・・・・。
話全体を考えると、長さが私には耐え切れないw

>21Rさん
懐かしいですね・・・・拉致とかなかった頃、
街中で突然声かけて組んだりするっていうのありましたね。

>きんがーさん
マネーロンダリング・・・くどいけど、すごい、すごいリアルです。
マネーロンダリング=スイス銀行なんていう構図しか思い浮かばない自分にはない発想です。
こうやって読んでると、確かにマネーロンダリングに利用されてそうな気がしてきますね。

>>5>>7>>9
ありがとうございます。
苦労して1000文字にまとめた甲斐がありましたw

20名無しさん:2007/02/02(金) 23:55:56 ID:Ju82naOY0
>>きんがーさん
経験談か、そういう仕事をされてるのかと思うほどリアルですね。
私も全く今まで考えた事もない世界で話が展開しているのを読んでいて小気味良いです。
ぎゃおすさんたちの復讐が終わっただけで話は終わっていなかったんですね。続きを待っています。

>>ドギーマンさん
核心に迫ってきた感じですね。長くなってしまうのは仕方ないくらいの濃い内容ですよ。
折角幸せを手にしたガディウスをこのまま引き離したくないという気持ちが強いのですが・・
このまま最後まで突き進んで欲しいです(笑)

21ドギーマン:2007/02/03(土) 00:21:17 ID:LqS319xY0
とある狩場にて、数人の男女が狩りに勤しんでいた。
そのパーティーで支援をしていたウィザードは、
近くに倒れているモンスターの傍らに何かが落ちているのを見つけた。
あ、あれは!!→高速テレポ
「ん?」
アチャ子が突然のウィザードの不自然な動きに振り向いた。
「い、いや、なんでもない。なんでもないよ」
そう言ってウィザードはそれをコートの中に隠した。
訝しげに見ているアチャ子に、
「そ、そろそろ時間だから行くわ!じゃあな!」
PTメンバーは突然の言葉に驚いていたが、ウィザードは無視して帰還の巻物を使った。

古都ブルンネンシュティグ
周囲に人が居ないのを何度も用心深く見回して確認すると、
ウィザードはさっき拾ったブツを取り出した。
ワンダーワンド
彼は手の中にある小さな杖をぶるぶると震える手で眺めていた。
「ふ・・・ふふふ・・・ふははははははは」
ウィザードは思わず高笑いしていた。
ユニークアイテムを拾った感動もあるかもしれない、
しかし、そんなことよりも彼にとって重要なのは、
この杖は装備すると、透明になれるということ!!
「これさえあれば・・・・風呂だろうと着替えだろうと・・・」
覗き放題!!
「ククク・・・・よし、早速・・・いざ行かん、桃源郷!!」
そう叫んでウィザードはワンダーワンドを高々と掲げた。

「ふ〜ん、そういうことだったの」
え?
突然の背後からの声に振り向くウィザード。
そこにはアチャ子が立っていた。
「いや・・・あの・・」
「没収します」
ウィザードの顔から汗がどっと沸き、目に涙が滲んだ。
ウィザードは杖を振りかぶり、透明になった!
がしぃっ アチャ子にコートを掴まれた。
「没収」
「・・・・」
ウィザードは身体をぶるぶると震わせた。
「はやく出しなさい」
「うおおおおお!!」
ウィザードは掴まれたコートを脱ぎ捨て、古都の水路へダイブした。
だばぁーんと水しぶきを上げてウィザードは水の中に飛び込んだ。
「まて!女の敵!」
ダダダダダダダダと水の中にアチャ子の矢が飛び込んでくる。
しかしウィザードは水の中でテレポを連射してアチャ子を振り切った。
ククク・・・誰にも俺は止められん!!

アチャ子は何か手がかりが無いかとコートを調べた。   水からあがったウィザードは水浸しの服を脱いで絞った。
「ん・・・これは・・・」               「あ・・・・」
「財布と通帳・・」                  「全財産が・・・・」

22ドギーマン:2007/02/03(土) 00:23:59 ID:LqS319xY0
あとがき
息抜きに書いてみました。
最後のとこ、ちょっとズレちゃいましたが・・・・。
やっぱり、透明になるのは男のロマンってやつですよね。
みなさん、透明になれたら何します?w

23名無しさん:2007/02/03(土) 05:31:53 ID:N1B0JemI0
〜これが漢の浪漫(いきるみち)〜

 時は20XX年。RSワールドは改悪アップデートと、バグ実装の災禍に包まれた。
 弱体化していくスキルに、ドロップ率の低下。
 そして、凶悪なまでの課金戦略により、世は課金廃人達の天下となった。
 だが、漢の誇りはまだ、消え去ってはいなかった。
 これは、今も生きる真の漢達の全記録である。

 世界は拝金主義が跋扈する、正に魔境と化していた。
 悪鬼羅刹が如くPKを繰り返すPK厨に、卑劣極まりない方法で狩場を荒らす俺TUEEEE廃人達。
 そんな中、一等星が如く輝く男達が集うギルドがあった。
 その名もマッスル委員会。
 ギルドマスター、ライル・セパードを始めとして、どのギルドメンバーも己の筋肉に、絶対の自信と誇りを持ち合わせた者達だ。
 そのギルドの信条は、筋肉! 筋肉! 筋肉!
 文字通りの筋肉絶対主義の塊だった。だが、彼らは肉体に頼ることを良しとはしない。
 真に必要なのは心の筋肉。つまり、絶対的な信条だった。
 利己的な権力者がのたまう偽りの正義を怖れず、悪法を背くことを厭わずに、いかなる時も弱者を守りきるその精神力こそが、最も崇高なものだと信じて疑わない。その心こそが、彼らが求めるべき筋肉であると、信じている。
 彼らは、未だに天使よりも眩しく輝いていた。

 ここは古都、ブルンネンシュティグの中央に位置する噴水広場。数多くのボッタクリ露天と、スキル乱発厨が溢れるその真ん中で、筋肉が唸りを上げていた。
「フンッ! マッスルインフレーションッ!」
隆起した筋肉は、複雑な模様を描く。その筋肉の網目を縫うように汗が迸り、辺りに霧散する。
 マッスル委員会ギルドマスター、ライル・セパードは、古傷が無数に走る壮絶な筋肉を躍らせていた。それも、一糸纏わぬ全裸で。
 腰みのさえ取り払った下半身は、上半身への力の移動を見事に、その筋肉の脈動で表現している。大腿筋が膨らみ、腹筋が上下し、大胸筋が振動する。世の彫刻家全てが表現することを羨望する芸術を、ライルはただ一人、誰の手も借りずに余すところ無く表現している。
 だが、いくら芸術的行為とはいえ、ここは公共の場である。当然、広場には女性や、年端も行かない少女が歩いている。
 しかし、誰一人ライルを気に止める者はいない。ライルは透明OPが付いた指輪を装備していたのだ。
 透明になってしまえば、誰にも気兼ねなく肉体美を表現できると考えたのだ。
 彼の目論見どおり、どんな人ゴミで全裸プレイをしても、お咎めは無かった。
 誰にも見られない芸術に意味があるのかと思う者も居るだろう。最もな質問だが、彼にとって観客が居るかどうかは問題ではなかった。
 ただ、自分の信じるがままに肉体美を表現することが全てであり、賞賛や感嘆の吐息等どうでも良かった。
 ある意味、芸術性とナルシスティックの極みともいえるライルの思想に、賛同する物はそう多くは無い。
 大抵の者は、
「キモウザ厨氏ねwwww」
と罵詈雑言を放って、秋風落葉の露と化した。
 だが、ライルに出会い、共感した者は涙を流してギルド参加を申し出たと言う。
 孤高のエクソシスト、マニエル。森羅万象を極めしウィザード、ガルド・オズベル、その他数多くの半裸グラ系剣士に、力極武道家などが彼の元に集った。
 そして、透明装備を所持している全てのギルドメンバーが、ライルの横で列を成して、透明全裸プレイを行っていた。
 祈るたびに、はちきれんばかりに膨らむ大腿筋。杖を振るたびに昂ぶる上腕二頭筋。怒号とともに霧散する汗。
 皆見えないとはいえ、壮絶な光景だった。その近くでゴム跳びをしている少女など、漢達の汗でずぶ濡れだ。
 そんな彼らの元へ、駆け寄る気配が一つ。
「ギルドマスター!」
「その声とオーラはフレデリックか!」
ライルの声音が心なしか弾む。フレデリックは、RS黎明期から一緒に活動していたライルのリアル友達兼、マッスル委員会副マスターだった。だが、RSのバグ実装の酷さに一時、プレイを休止していたのだった。
「俺も、とうとう透明装備を身に付けたぜ!」
フレデリックの声は、コロッサスを一人で仕留めたあの頃の様に、嬉々としていた。
「これで、やっと仲間に戻れたよな!?」
「ふっ、装備など無くとも、その心がある限り仲間さ。だが、その心意気は嬉しい限りだ! さぁ、姿は見えなくとも肉体美を存分に感じさせてやれ!」
「おうよ!」
フレデリックの返答が、小気味良く広場に響き渡る。広場に集る他のギルドメンバーも、そのやり取りを温かく見守っていた。
「ふぅ〜……」
呼吸を整える音が響き、辺りに独特の緊張感が漂う。

24名無しさん:2007/02/03(土) 05:34:13 ID:N1B0JemI0
「マッスルインフレーション!」
サラマンダーの咆哮より凄絶な叫びが、広場のタイルを揺らした。
 フレデリックの肉体は、ブランクがあったとは思えないほど見事だった。どの部位も日差しを浴びてさんさんと輝いている。
 彼は、古都で一番輝いていた。
 突如、周りの女たちが顔色を変え悲鳴を上げる。
と、同時にどよめきが波となり、古都を飲み込んだ。
「いやぁっ! 変質者!」
「なにあれ最低〜」
「あら、いい身体。っぽ」
「きゃあああああ〜〜〜〜、良い男だわぁぁぁぁぁぁっ!」
真っ青になってワールランリングするランサーに、冷やかな視線で見つめるテイマー。そして、頬を染めるトンキンに、金切り声を上げるリトルウィッチ等が、羽虫の群れより纏まり無く蠢く。
 その真ん中で一人、フレデリックは呆然としていた。その手が突然持ち上げられる。
「おい! これって……ブラーOP指輪じゃないか!?」
透明化したライルは、フレデリックの指輪を見て血相を変えた。そう、ブラーOPはスキルを使った時、その効果が切れる。
 だが、フレデリックが仮引退した時には、ブラーが1億以上した時代だった。フレデリックにとって、透明もブラーもその効果は大差ないように思えたのだ。
「とにかく、コレをはめて鎧を着ろ!」
ライルは、余っていた透明指輪をフレデリックに付けさせると、急いで鎧を着始めた。周りのギルメン達も服を着ているらしく、あちこちで金属音がなった。
「やばい、警備兵だ!」
ギルメンの誰かが叫んだ。古都での全裸ボディビルディングプレイは猥褻物陳列、及び軽犯罪法違反の立派な迷惑行為、もとい違法行為だ。 それを犯した者の罪は重い。捕まれば怖いお姉さんが待ち構える牢獄行きで、最悪キャラデリートだ。
 だが、ライルは冷静だった。
「大丈夫だ! みんな落ち着いて街を出る準備をするんだ! 移動する時は一言も喋るな!」
そう指示を出すと、古都脱出のプランを練り始めた。だが、その思考もギルメンの叫びによって中断される。
「ペロペロだぁ〜!」
その声は泣き声だった。
 ペロペロ。それはリンケン村名物の最凶生物兵器だ。LVはゆうに500。戦闘能力は計り知れない。
 だが、ライルはもっと恐ろしい事実を思い出していた。
 古都警備隊のペロペロは、ボスクラスで致命打、決定打、その他全ての状態異常に抵抗を持っている。
 そして、飼育されているペロペロの数は……
「さ、三十匹もいるぅ! もうおしまいだぁ〜〜〜」
そう、三十匹。アウグスタ半島を三時間で制圧できる数だ。
 ライルは覚悟を決めた。
「もう、逃げるのはよそう」
場違いなほど、澄んだ声が辺りに響く。
「俺は剣士だ。だが、仲間を守りきれなかった事は数知れない。逃げ出した事もあった」
ギルドメンバーの悲鳴が止んだ。広場の喧騒も何故か、収まっていた。
「しかしだ! もう、逃げるのはよそう! 無様な死しか道が無いのなら、俺はその死出の道を、汗と漢臭(メンズスメル)で満たしてやる!」
ライルが、突如透明化を止めて姿を現し、手に持った指輪を投げ捨てた。その指輪にブーン厨が群がり必死に拾おうとしている。
『それは他の人の持ち物です、それは他の人の持ち物です、それは他の人の持ち物です……』
 無機質なアナウンスが、嘲笑の気を帯びてブーン厨を包む。
 それにも構わず、ライルはウォークライを轟かせ、上腕筋を躍らせた。
「来い! 貴様らが死と言う運命ならば、俺とこの信条をねじ伏せ、深淵に叩きこんで見ろ!」
そのまま、ペロペロの群れにファイナルチャージングしたライルは、唸り声に飲み込まれた。
 だが、それでは終わらなかった。副マスター、孤高のマニエルが、賢者ガルドが、そしてマッスル委員会ギルドメンバー全員が、上半身を晒してペロペロの群れに突っ込んでいった。無論フレデリックは、ライルが散ったそばから突撃していった。
 その日、また熱い漢達が消え去った。

 だが、それで熱血漢が死に絶えたわけではない。まだ、RSの何処かに、熱い男達はいるのかもしれない。 
〜劇終〜

 後書き-透明指を手に入れたからって、調子に乗るもんじゃあない。

25 ◆21RFz91GTE:2007/02/03(土) 11:29:28 ID:t80sBG8k0
■唐突番外短編シリーズ No2


 山道、険しくも時折見せる絶景の風景を楽しみながら上る人、または自分自身への修行のために上る人。登山愛好家。さまざまな人がこの山を上っている。
一本道、何処までも続く山の勾配を利用した坂道。綺麗に整えられていて時折階段と踊り場を見つける事が出来る。山頂までは成人男性の足で約2時間程度の道のり。決して遠くは無いその山道を登る事1時間半、もう少しで山頂へと到達するであろう場所の踊り場にて辺り一面が急に開けた。
 さえ渡る山鳥の鳴き声と共に姿を現した絶景と言うべき景色、ここまで上ってきた人達に癒しと潤いを与えるかのように設置されたその展望台。まさに登山をするにあたって山頂に到達するまでの余興の一つでもある。
 右手にしっかりと握られている山登りを専用に使う杖を両手で腰の辺りで握る、さわさわと流れる風が火照った体には丁度心地よく感じられる。
 広渡る景色の中には古代に栄えた一つの帝国が目に写る、冒険者の始まりにして帰る場所である古都ブルネンシュティング。それは何時も私たち人に生きる力を与え、時には厳しく現実を見せてくれる母なる街。
そしてここも、またそんな母なる街の一角にある登山道。修行に訪れる人も数多く見受けられるこの場所の山頂にはいくつかの墓地がある。修行中に行き倒れになった者、崖から転落して命を落とす者。一つのかすり傷が後の致命傷になって死ぬ者。
さまざまな人達が眠るその墓地、そこに私の親友も眠っている。
 遠い辺境の街から旅を続けて早2年、彼と出会い彼と冒険した日々を手紙につづりその眠る墓地に手紙を届ける最中の事だった。
 日差しが強く、少し上っただけでも汗が滴るこの季節。緑萌える木々の間をすり抜け一歩一歩ゆっくりとだがかみ締めてその道を登る。これがまた何とも言えない登山の醍醐味。
 ”前略…アレから幾年が過ぎました。皆は元気です、何も変わらない日常と何も変わらない生活の中で君がいない事を抜かせば本当に何も変わらない日々が続いています。僕はと言うと、もう旅に出るのはお終いにしようかと考えています。君の居ないこの世界で、僕は大事な事を失い…そしてそれ以上に大切な物を君から与えられました。もう一度、君と一緒に冒険に出たいって時折考える僕が居ます。いなくなってしまった事にまだ僕は実感がわいていないのかもしれません。二年と言う歳月の中で僕はそんなことを考えては忘れ、また思い出しては忘れ…。何時の日か僕もこんな風に思わせるような事があるのでしょうか?それを考えると時々心が痛くて眠る事が出来ません。
それでも僕は元気です、君は…どんな空の下に居ますか?君の見ている空は何色ですか?”

赤い宝石が奏でる、幾つも物命の物語


END

26 ◆21RFz91GTE:2007/02/03(土) 11:32:33 ID:t80sBG8k0
おはよう御座います、お騒がせ21Rです…。(´・ω・`)
年のせいか…最近朝起きるのが早くなってしょうがないです…。
寒いのも中々辛いですよね、冷え性の俺には軽く地獄です…。(´・ω・`)

と言うわけで、さっさと続編の続き書いてきますね…。(´・ω・`)

PS:拉致が無かった時代…良き時代でしたねぇ〜。
思えばシフ実装から狂い始めましたねRS…orz

と言うわけで、RS始めて2年が経ちました(ぁ
そんな二年間で引退した人達に向けての一本です。

27名無しさん:2007/02/03(土) 12:10:20 ID:a8zYjkNA0
>>どぎーまんさん
透明になれたら・・。
透明状態で出かけていきなり友人の目の前に現れて脅かしたい・・などというちっちゃな夢が(笑)
昔は色々想像してたのになぁ・・。今じゃ夢や想像力が低下したような気がするorz

>>23-24
思わず笑っちゃいました!
筋肉ってイイですよね・・やっぱり語尾に「!」は常識でしょうか?
表現力というか・・ともかく何もかも凄いです(笑)
筋肉ギルドさんは女人禁制みたいですが、女性でも凄い人は凄いですよ(笑)

>>21Rさん
2年ですか・・私はほんの1年前ほどに始めた若輩者です。
ちょうどそのシフ実装直後くらいだったかも。古都西に黒い姿が目立ってた頃でしたね〜。
MMOは色々やってきましたが、知人などで引退した人の事を思うと本当に悲しいですが
本当にその人の事を思うなら、笑って見送ってやらないと・・といつも思います。でもやっぱり悲しいです。

28ドギーマン:2007/02/03(土) 14:01:26 ID:LqS319xY0
『オアシス』
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996
4:傷    >>13-15
5:変化   >>16-18

6:声の主

ガディウスは何かの意思によって操られているかのように町に噂を流し続けた。
人が変わったように町を出歩いては人に話しかけている。
そして、1人になったかと思うとブツブツと何か呟いているのだ。
エレナは不安で仕方がなかった。
ガディウスは夜、砂漠に呆けたような表情で立っていた。
その髪は白く輝き、白い瞳は何の光も反射せず夜空を向いていた。
"使命を果たせ"
「使命?」
"レッドストーンを探せ"
「それが使命・・」
"お前は赤い悪魔を見たはずだ"
「赤い・・悪魔?」
"急げ、卵が孵る前に"
「そうか、急がなければいけないのか」
"・・・・・"
「あなた・・」
ガディウスはエレナに気づいて振り向いた。それと同時に髪も瞳も黒に戻った。
「あなた、いま、誰と話してたの?」
「誰とって・・」
"・・・・・"
「・・・・・」
ガディウスの瞳に一瞬光が宿った。
「あなた?」
「話していたとは、何のことだ?」
エレナはガディウスに詰め寄った。
「何も覚えてないの?」
「何のことだ?エレナ、私はただ・・」
そこでガディウスは止まった。そして手で頭を押さえて言った。
「ただ・・・私は、何をしていたんだ?」
「あなた・・」
エレナはガディウスの胸に顔をぶつけると、表情を埋もれさせて泣いた。
「エレナ・・」
自身の胸に額を押し付ける妻をガディウスは抱擁した。
「すまない・・・だが、私は・・・」
「私は何か、やらなければいけない事がある気がするんだ」
エレナは額をガディウスから引き離し、ガディウスに涙があふれ出た目を向けた。
「どこにも行かないって言ったじゃない!」
「エレナ・・」
「お願いよ・・あなたのままでいて、ずっとそばに居て」
ガディウスは黙っていた。
「お願い、答えて。どこにも行かないって。ねえ?」
ガディウスは不安だった。
何も覚えいないにも関わらずいつの間にか過ぎていく時間。
そしてそれを今まで何の疑問もなく過ごしていたこと。
ガディウスにはそれが自分の意思なのかどうかすら怪しくなっていた。
いや、もしかしたらそれが本当の自分の意思なのかもしれない。そう思った。
「ねえ、何で何も答えてくれないの?」
「私は・・」
エレナは震える手でガディウスの頬を撫でた。
「お願い・・」
涙を流す妻を前にしても、ガディウスははっきりと答えられなかった。
嘘でもいいから妻を安心させるために何か言うべきだったのかもしれない。
エレナは力なく腕を落とすと、ガディウスに背を向けて俯いたまま家に歩いていった。
ガディウスは小さくなっていく妻の背中を見つめて立ち尽くした。

29ドギーマン:2007/02/03(土) 14:03:00 ID:LqS319xY0
ガディウスは夜の砂漠の町を見渡した。
明かりが家々の中から灯っている。近寄ればきっと暖かい家族の声が聞こえてくるだろう。
自分の安住の場所、そう思っていた。
しかし何かがおかしい。何かが変わってしまった。
あんなに落ち着けた場所なのに、今は逸る気持ちを引き止める足かせのように感じている。
―何だ、この気持ちは・・・。
ガディウスは自分のなかから沸々と湧き上がるような一つの感情に驚いた。
―苛立っているのか?いや、何かが憎いのか。
ある何かを殺したい。引き裂きたい。そういった破壊的な衝動。
しかし、何を殺したいのかが分からない。
思わず何かに八つ当たりしてしまいそうな怒り。
「何なんだ、これは」
訳が分からずガディウスは頭を抱えた。
「私は何者なんだ」
変化のきっかけはあの声と交信しようとしてからだ。
―私はあの声の主に操られているのか?
ガディウスは自分の中にある怒りの矛先を声の主に向けた。
"おい、答えろ"
返事はない。
"お前は誰だ"
"兄弟、汝と同じだ"
初めてまともな返答をしてきた。
ガディウスは空を睨みつけて声に言った。
"私に干渉するな。私を操ってどうするつもりだ"
"・・・・・"
"答えろ!"
"明日、直接会いに行こう"
"何?"
ガディウスは何度も呼びかけたが、結局何の返事もなかった。
ガディウスが諦めて家に帰ると、グレイが待っていた。
「ガディウス君、何があったんだ?」
グレイは厳しい表情をしていた。
エレナは家に帰るなりベッドに入り、ずっと塞ぎ込んでいるという。
「最近の君の様子はおかしい。教えてくれ、何があった」
ガディウスには答えようが無かった。何も覚えていないのだから。
何も答えないガディウスをグレイは静かに見ていた。
「あの子を、これ以上悲しませないでやってくれ。君に任せたはずだ」
「すみません・・」
ガディウスにはそう答えるしかなかった。

30ドギーマン:2007/02/03(土) 14:35:26 ID:LqS319xY0
>>23-24
まさか、こんな形で返答(?)がくるとは。
題名も漢の浪漫だし・・・w
とても面白かったです。
表現が素晴らしい、特に筋肉の。
嫌でも以前に見たボディービルディングのチャンピオンの映像を思い出しましたよ。
笑顔でポージングしてるシーンが鮮明に。
熱いというか暑苦しい愛すべき馬鹿達に合掌です。

>21Rさん
引退してしまった友達を思い出しました。
私も2年前に始めたんですよ。ただ、間に2度引退を挟んでます。
久しぶりにINしてみると、当時の友達が誰もINしてなくて・・・。
みんな居なくなっちゃったのかと寂しくなりましたよ。
今はサーバーを変えて3キャラ目です。
当時の2キャラは消すに消せず当時のまま健在ですが、動かす気が全く起きないんですよね。
フレンドリストを眺めて懐かしむだけでしたが、もうずっと前にリスト消滅しちゃいました。
別れはいつか来るものだから、今を大切にしたいですね。

>>27
脅かしたいっていうのもいいですよねb
私は犯罪方面のことが真っ先に浮かんじゃいましたよ。
想像力が豊かなのも素晴らしいことですが、いい事ばかりでもありません。
例えば、映画を見ていて先の展開が読めてしまったりとか・・・。
もうね、そうなると折角のドキドキした緊張感が半減ですよorz

31きんがーです^^:2007/02/03(土) 14:57:03 ID:8xrz7S720
>ドギーマン
あなたが映画の展開を読めるのは、読解力があるからですよ〜^^
想像力は小説のほうで豊かなのはすごくわかります^^
映画も小説も伏線が潜んでいるものですよね。
私は伏線が見えない時があるので最後まで楽しめます。
あなたの速筆に憧れます^^

32第36話 三人:2007/02/03(土) 15:44:03 ID:8xrz7S720
キンガーさんから頼まれたものを探しに例のサイトへ飛んでみた私。
見つかったからといって「けりをつける」と言っているあの人に伝えていいんだろうか?
なんか良くないことが起こりそうで気が進まなかった。
相手を傷つけてほしくなかったから・・・それでは奥さんも気の毒だし。
相手と会ってキャラが元々キンガーさんの物だったなら、警察に突きだす事を条件に教えようかしら?
考えすぎかなぁ。

よく考えると所有者はキンガーさんなんだから大きなお世話と思い、該当するURLをメールした。
最後に
「とっちめようなんて思わないで、警察に突き出してね^^」
と付け加える程度にしておいた。

「おい、幸一どっかに行ったのか?」
今日は久しぶりにパパが内に帰って来ている。
普段は仕事でなかなか帰ってこられないでいた。
「また合コンでもしているんじゃないのぉ?」
「まったく、俺の頼んだことしておいてくれたのかなぁ・・」
「なんだかちゃんとやってるみたいよ〜」
「それならいいんだがな。それが条件でPC買ってやったんだから」
「心配しなくていいわよ。ああ見えてきちんとした子よ^^」
「ゲームばっかりされたらかなわんからな!」
ドキ! 私の事を言われたようで焦る。
「い、息抜きは必要よ・・」
パパは久しぶりに帰ってきても、お風呂に入ってご飯を食べたらさっさと寝てしまった。
もう少しくらい話しをしたかったが、疲れているのだろう。
私は少し狩りをしてから寝ることにした。
十字架の良品を探す旅に出てしばらくたつが、いまだに回り逢えない。

狩りの途中でデルモから耳がきた。
fromデルモ こんばんは^^
toデルモ  こん^^
fromデルモ こないだは楽しかったですね^^ また行きましょうよ!

しばらくこんな調子で会話しながら、キンガーさんの例の話をしてみた。

fromデルモ 私も現場にいく! 面白そうだし
toデルモ  いいわね! 頼んでみましょうよ
fromデルモ どんな奴か見いてみたいし、一人より三人のほうが安心よ

33携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:22:16 ID:mC0h9s/I0
前スレ第1話>645-646第2話>692-694第3話>719-721第4話>762-764第5話>823-825

あらすじ
幻の石、レッドストーン――――それを手に入れれば全ての富を得られるという。
実在しないとまで言われていたが、そんな中でその石に辿り着いた5人の冒険者達がいた。
5人は互いに奪い合い、殺し合った。
結果、1人だけが生き残り、石を手にすることができた。しかし、手に触れた刹那、石は5つに砕け謎の大爆発を起こした。
焼け跡からは夥しい血の痕だけを残し、5人の体は消え去っていた。

彼等は生きていた、日本という国で。
しかし肉体は朽ち、幽霊という存在にまで堕ちていた。
彼等を生きる世界まで変えてこの世に繋ぎとめていた物は、赤い石の欠片だった。彼等はその胸に秘めた赤い石の欠片を核とし、協力者を探し彷徨った。

そして、現代で起こる赤い石の争奪戦が始まった。


登場人物(一部のみ)

○矢島 翔太(17)
主人公。本来普通の高校生。オタクのような趣味がある。人見知りが激しく、人と会話することが苦手。
○ニーナ=オルポート(22)
翔太に憑いている霊。弓矢が得意で、戦闘では主に光属性の矢を使う。
○赤川 梨沙(16)
女学院に通うお嬢様。ふとしたことでヘルベルトと出会う。
○ヘルベルト=ディンケラ(25)
蒼髪、蒼眼の剣士。秀麗な容貌。基本は無口。
○吉沢 鉄治(18)
翔太と同じ高校で3年。不良。ある事件で退学となった。
○ラルフ=カース(27)
吉沢と契約した、暗殺者。生前は盗賊ギルドをまとめるリーダー。
○佐藤 洋介(17)
翔太と同じ学校の生徒。軽い性格。ちなみに翔太の席の1つ前。

備考
○リディア(矢島 翔太命名)
翔太のフィギュア。メイド服。第2話でさりげなく登場。

少し間が空いたという理由で、調子に乗ってあらすじと登場人物をお恥ずかしながら書いてみました。まとめるの難しいorz

34携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:24:04 ID:mC0h9s/I0
『孤高の軌跡』

新たなる幕開け


PM11:50
町の中でも十本の指に入る豪邸の一室。
そこで一人の少女が弾力のある寝台の上に腰を掛けていた。

すると扉に小さなノックが二回叩かれた。
「どうぞ」
少女の声に次いで音もなく扉が開かれ、初老の男性が現れた。
「お嬢様、そろそろ御休みにおなりください」
困ったような表情の男性に対し少女が優しく微笑む。
「ええ。貴方ももうお休みになって」
そう言われ、初老の男性は恭しく礼をし、また音もなく扉を閉めた。

無音の中で部屋の片隅に佇む巨大な針時計の時を刻む音だけが響いていた。
“執事とは君もやるな”
何もない空間から声が響き、静寂を破る。
それに対して少女は驚いた風もなく、無表情のまま口を開いた。
「笑ってくれても構わないわ」
少女の声に応えるかのように再び無人の空間から声が返ってくる。
“いや、君を貶した訳ではない。それより今日はどうするのだ?”
「今日も行くわ。でももう少し、町が完全に眠りについてからよ」
“そうか”
声が返ると、突如声の出処の空間が歪み、そこから人影が現れる。
人影は次第に鮮明になり、それが男だと判る。
その男は寝台の中央で静かに鎮座し、眼を閉じ瞑想にふけっていた。
男の服装は薄く汚れた白い布の衣と、この部屋に場違いなほど質素な物だった。
また、その服の下には布地を押し返すような鋼の筋肉が伺え、男の実力を雄弁に語っていた。
しかし、何よりも目を惹く物は秀麗な容姿をさらに際立たせるその蒼い頭髪だった。
少女は、空気と半分同化している男の様子を眺めながら、男と出会ったときのことを思い出していた。

35携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:24:46 ID:mC0h9s/I0
それは三日前、木曜日の夕刻のことだった。

そのとき少女はいつものように学院の帰り道を歩いていた。
当然車での送迎も可能だが、それは彼女自身が嫌がり己の意志により徒歩で通っていた。

夕刻の商店街。辺りにはたくさんの人々が賑わっている。
その中で、一際目立つ容貌をした青年が人混みの中心に立っていた。
そう、ただ立っていた。
(外人……?)
不審に思い、少女は立ち止まり青年を眺めた。
すると青年の背後から二人組の高校生の男女が歩いてきた。
二人は青年に気づく気配もなくぶつかった。
いや、そうなる筈だったのだ。少女はこの光景に目を疑った。
二人はぶつかる瞬間、青年からすり抜けた。いや、青年がすり抜けたのだった。
(あれは――――!)
少女は青年に向かって走り出した。
(何であれほどの者に気付かなかったのよあたしっ!)
少女は青年の目の前まで行くと、腕をひっ掴み物陰へと走り出した。
「む……?」
瞑想中だった青年は突然の事に困惑の声を上げたが少女は無視した。

「はぁ…あんた何者よっ!」
店と店の陰に隠れ、肩を上下させながら少女が怒声を上げた。
「いや、君こそ何者だ。何故私の姿が見える?」
鋼のように重い口調で青年が問う。
「あたしは生まれつき霊感体質なのよ。それよりあんたの方が珍しいわよ」
すると青年は腕を組み瞳を閉じると再び瞑想を始めた。
「聞きなさいよっ」
再び少女の怒声が飛ぶ。青年はゆっくり瞳を開くと心底困った表情を浮かべた。
「それが私にも判らんのだ」
そして重々しく息を吐く。
「……貴方に興味が沸いたわ。ついて来て」
少女は平静を取り戻し、本来の秀麗な容貌に戻っていた。


「――――で、あなたは別世界から来たわけね。……信じられない話だけど大体は理解したわ」
少女は青年を自宅に連れてきていた。
家族に霊感はないらしいので特に問題はなかった。
「なら、あたしが契約者になってあげる」
「む、本当にいいのか? 危険かもしれないのだぞ」
「構わないわ」
青年はしばらく悩む動作を見せ、意を決したように髪と同じ蒼い双眸を見開いた。
「だが、それではこちらがすっきりしない。契約する代わり、一つだけ君の願いを聞き入れよう」
青年は責任感が高いのか、一方的に契約して貰うことを嫌がった。
「別にそんなのいらないのに。……そうね、ならあたしに絶対服従なんかは?」
「む」
青年の端麗な容貌が僅かに歪む。
「あ、そう言っても決断権や判断権を持つってだけだから」
少女は腕を振り急いで付け加える。
「ふむ、よかろう。なら手を前に」
青年の言う通りに手を出すと、青年の分厚い掌が重なった。
「これにて契約は確立し、私は君の剣となり盾になろう」
「ありがとう。あ、そういえば名前聞いてなかったわね。あたしは赤川梨沙よ」
「私はヘルベルト=ディンケラだ」
「じゃ、ヘルね。よろしく、ヘル」
そう言い少女は青年に向かって手を差し出した。
青年はいきなり名前を略されたことにより表情を歪めたが、素直に手を伸ばした。
分厚く男らしい掌と白く華奢な掌が重なった。


「そろそろ時間だ、リサ」
少女の背後から重い声が響いた。
それにより少女は現実に引き戻された。
「ええ、行きましょう、ヘル」

少女は寝台の下からブーツを取りだし履くと、窓を全開させた。
深夜の涼しい風が少女の白い頬を撫でる。
ヘルベルトは少女を抱き上げると窓から飛び出した。

そして二人は闇夜に溶けていった。

36携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:25:30 ID:mC0h9s/I0
暗い深夜の町。そこに一人の若い女性が長い仕事を終え、帰路についていた。
帰ったらまずは風呂に入り、一日の疲労を汚れと共に流し、
溜っている録画したドラマのビデオを片付けてから明日に向けて眠る、いつもと変わらない日常。

――――そう、今日もそんな変哲のない一日が過ぎると思っていた。

女性の仕事はあまり早く終わるものではなかったが、今日は特に遅くなってしまった。
早道をしようと、彼女は近くの公園を通ることにした。

――――それが、大きな過ちだった。

カップルさえいない無人の公園。
彼女はそこに足を踏み入れた。
その瞬間、どこか異質な感覚を覚えた。
つい早足になる。公園の中央付近に来たとき、彼女は闇にうごめく“何か”見た。

――――気づいた時にはもう手遅れだった。

彼女は何かに囲まれていた。助けを呼ぶにも誰もいる訳がない。走り出す。
そのとき、急に足の力が抜け落ち、ガクンと膝から倒れた。
見ると、足に黒い“何か”が纏わり付き、皮膚を、肉を、筋肉を喰っていた。
必死に振り払おうとバックで叩き落とそうとするが、バックを持った腕ごと断ち切られる。
「あぁああぁああああっっ!!!!」
鮮血が噴き出す。彼女は片腕と片足の消失による激痛に悶える。
さらに次々と黒い物体が全身に飛び掛り、彼女の肉を引き千切ってゆく。
「いぎっいぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ――――」
悲痛な絶叫も喉に大穴が空き止んだ。

彼女はその寸前、自分を喰らう異形の生物を見た。

37携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:26:12 ID:mC0h9s/I0
深い眠りについた深夜の住宅街。
住居のほとんどが暗く、灯りは電灯のみで、その電灯の内のいくつかは消えたり付いたりを繰り返していた。

二人の間に特に会話もなく、ただ二つの靴音だけが響いていた。

そんな中、口を開いたのはヘルベルトの方だった。
「他愛無い話だが」
「なに?」
「君が言う学院という場所や屋敷での他人との接し方を見ていて思うのだが、
リサ、君は私と会話しているときと性格が変わってはいないか?」
鋼の戦士の意外な問いに梨沙は少し吹き出した。
それを見ていた戦士は秀麗な表情を少し歪める。
「いや、違うのよ。あまりにも意外だったから」
梨沙が涙を拭き取りながら言った。一呼吸置いて続ける。
「えっと、仮にもあたしはお嬢様な訳だから人前では成績優秀、容姿端麗でおしとやかな赤川梨沙でいないといけない訳。でも人外は例外でしょう?」
「私は半人半霊だ」
梨沙の冗談混じりの発言に対しヘルベルトは眼を閉じながら真面目に返した。

赤川梨沙の両親は町でも有数の資産家で、その名に泥を塗らないよう、彼女は幼少の頃から厳しい躾の下で育てられた。
家柄の為か、彼女に友人は少なかった。
また、同年齢の仲間達のように遊ぶことすら制限された。
故に、今の彼女が本来の赤川梨沙なのだろう。

長い沈黙の後、再び鋼の表情のヘルベルトが口を開く。
「ふむ…それと一つ。リサ、君は何故私と組んだのだ?」
それに対して梨沙は答えることは出来なかった。
しばらく悩む動作を見せる。
「……あたし自身分からないわ。でも、しいと言えば刺激が欲しかったのかな?」
そう言うと再び悩む動作をした。
「不確定な理由だが、そんな君だからこそ私にふさわしい。…リサ、今日はどこへ行くのだ?」
「そうね、今夜はまず、この住宅街を巡回したら街中に行くわ。前みたいにあっちから来るかもしれないし」
「あのシーフか。あれはもう来ないとは思うが。来るとしても奇襲くらいだろうな」
笑っているのか、ヘルベルトは僅かに口元を引き吊らせた。
「ああ、あと今夜は最後に町の公園に行こうと思っているわ」
「そうか」
「そうと決まったらお喋りはここまでにして急ぐわよ!」
ヘルベルトが無言で頷き、梨沙はそれを見もせずに一人張り切る。
少女は鼻歌を奏で弾んだ足取りで歩を進めた。
このほんの少しの時間だけ、彼女は優等生の赤川梨沙から本来の赤川梨沙になれた。
彼女にとってこれほどまでに嬉しいことはなかった。
この無愛想の男と組んだ理由は、実はこの為なのかもしれない。
しかし、この真偽が分かる人物などはいない。

「そういえばヘルって生前は何してたの?」
「悪いなリサ。私はしばし瞑想に入るのだ」

38携帯物書き屋:2007/02/03(土) 22:42:13 ID:mC0h9s/I0
久々に書き込みました、携帯です。
前に言ったような気がしますが題名を付けてみました。ちなみにこれは友人から考えてもらいました・・・w

今回は違う人物を主点に書いてみました。(何だかいきなり暗いスタートの予感)


>>ドギーマンさん
相変わらず執筆速度が早い。結果→過程みたいな話の進め方は割りと好きです。
ドギーマンさんの作品は恋愛シーンも多いですね。自分は苦手です。
因みに透明になれたら、男の欲望は置いておいて、嫌いな人物へ復讐でもしますかね。
もちろん50メートル以上離れて。
・・・・・・冗談です。

>>23-24
何だか熱いものを感じました。面白かったです。
マッスルっ!

>>21Rさん
RSを始めた頃を思い出しました。自分が始めたのは白鯖できてからですかね。
何度か引退復帰を繰り返し今に至ります。現在は引退中ですが。
もし小説スレギルドみたいな物があったら入ってみたいものですが・・・

>>きんがーさん
何できんがーさんなんだろう・・・。
とてもリアルです。よく仕組みを知らないと作れませんよね。
自分は何気に佐々木さんファンです〜w
彼なら何かやってくれそうな気が・・・・・・

39名無しさん:2007/02/04(日) 00:16:41 ID:a8zYjkNA0
>>きんがーさん
まだまだ話が続きそうで楽しみです、個人的に弟の携わってる仕事が怪しくて・・
ぎゃおすさん中心に色々な事が巻き起こっていますよね、彼女も知らないうちに。
現場で果たして何が起こるのか。続きを待っています。

>>携帯物書き屋さん
この話待っていました!キタ━(゚∀゚)━!!な心境です(笑)
新しい剣士が現れてしまいましたが・・ニーナとは協力できる関係なのかそれとも・・。
私の剣士のイメージとドンピシャなのが嬉しいです、シフもカッコ良かったし。
つい残る二人の想像もしてしまいますが、またまた続き待っていますー!

40ドギーマン:2007/02/04(日) 01:48:09 ID:LqS319xY0
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996
4:傷    >>13-15
5:変化   >>16-18
6:声の主  >>28-29

7:真実

次の日、
町の民家の陰の暗がりの中、空間が突然歪み。
捩じれてへこんだかと思うと、渦潮のようにへこみは捩じれながら深くなり、
空間に穴を開けた。穴は中で曲がっており先は見えない。
その穴の中を小さな光が潜り抜けてきた。
光は膨らんで人の姿を形作ると、その男を包み込んでいた光は消えた。
空間の穴も逆に捩じれて元に戻っていった。
そして音もなく、まるで水面のように空間は波打って穴は閉じた。
男は辺りを見回して誰にも見られていないことを確認すると、民家の陰から町の広場に出た。
「暑いな。こんなところに居るのか」
しかし気配は確かに感じる。
男は彼の気配を辿り、他の家々と同じような趣の民家の一つへと歩いた。
玄関の扉をノックもなくガチャリと開き、丁度診療している彼を見つけた
「兄弟よ、久しぶりだな」
「お前が・・」
ガディウスは突然の来客に驚いたようだったが、男の顔を睨みつけるように見上げていた。
男は、ガディウスと向き合って座っている状況を飲み込めないでいる老人に手をかざすと、
手から光を放って彼の咳を止めた。
「これが証拠だ。ご老体、お引取り願おうか。今から彼に用があるのでね」
老人は戸惑いながらも、へこへこと頭を下げて家から出て行った。
老人が出て行ったのを目だけで見送ると、男は目を閉じた。
彼の頭上に白い靄のようなものがぱっと広がって消えた。
男は目を開くと、「奥に1人だけか、寝ているようだな。落ち着いて話せば聞こえる心配はあるまい」
と言って老人の座っていた椅子に腰掛けた。
ガディウスは男を睨みつけたままだった。

41ドギーマン:2007/02/04(日) 01:50:39 ID:LqS319xY0
男はガディウスの目を静かに眺めながら、問いを待っているかのように黙っていた。
「お前は何者だ?私を兄弟と呼んだな。なら私の正体をしっているはずだ。教えろ、私は何者なんだ」
男はしばし話せることと話せないことを選別するように顎に手をあてて思案すると、口を開いた。
「私の名はエニール。神の尖兵にしてその意思の代行者の1人」
「神?ではお前は、私は、天使だというのか」
「人では無いと言うことはお前も分かっていたはずだ」
ガディウスは予感はしていたが、改めて現実を突きつけられて衝撃は隠せなかった。
「何故、私は地上に居る?」
「レッドストーンの探索のためだ。私も、他の兄弟たちも皆そのためだけに地上に墜とされた」
「レッドストーンだと?」
「そうだ、天上の火の神獣フェニックスの卵だ。
 汝はそのフェニックスの卵を守護する天使のなかで特に重要な立場に居た。守護天使長という立場にな」
「私が?」
「汝は愚かしくもレッドストーンを奪いに来た悪魔をたった一人で深追いし、陥れられた。
 汝の失態によってフェニックスは殺され、多くの兄弟も悪魔どもに殺された。
 責任を追及された汝は天使としての力を完全に奪われ、永久に地上に追放されるはずだった」
ガディウスは黙ってエニールの口から語られる自分の過去を聞いていた。
「だが汝はそれに抵抗し、あろうことか天使の姿のまま地上に向かおうとした。
 仕方なく、我々は地上に逃げる汝を攻撃し、私は汝から右翼を奪った。
 その結果、汝は地上に墜ちて記憶を失った」
ガディウスはエニールの口から語られる真実を整理する前に、怒りに任せた。
「何故私を操った!?元から追放されるはずだったのなら、記憶のない私をなぜそっとしておいてくれなかった!!」
「操ったのではない、汝の意識に刺激を与えて天使の本能とも呼べる潜在的な意識を呼び覚ました」
「黙れ、なぜ放っておいてくれなかったんだと聞いている!」
「レッドストーン探索には天上界のほぼ全ての兄弟が汝と同じように翼を折られ地上に遣わされた」
「それが何だ」
「兄弟たちは既にほとんどが悪魔に殺されたからだ。
地上において片翼の天使の力は本来の半分以下に制限された」
「つまり、人員不足になったから記憶を無くしていた私まで利用しようとしていたのか?」
「まあ、そういうことだ。汝は天使としての能力は群を抜いていた。
 下手に刺激すれば暴走する恐れがあったからな、他の兄弟たちには汝には接触させず、
 私だけが汝に接触を持つことになった」
「・・・・・・」
ガディウスは男を怒りの目で睨んでいた。
エニールには彼が何故ここまで自分に憎悪の目を向けているのか分からなかった。

42ドギーマン:2007/02/04(日) 01:51:27 ID:LqS319xY0
「とにかくだ、汝は真実を知った。
 汝にはこれから天使としての意識を持って、使命のために我々と共に行動してもらう」
「使命だと・・・?」
「そうだ。神の意思に従い使命を果たすことだけが我々の存在理由だ」
「・・・・・」
「さあ、立て。時は迫っている」
「嫌だ」
「何?」
「私は、この町で大切な人と出会った。彼女に約束したんだ。どこにも行かないと。
 ずっと、そばに居ると・・・」
エニールには一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。
そして、奇人を見たかのような目で言った。
「まさか人間と・・」
「分かったら、失せろ」
「それがどういう事か分かっているのか?天の理に反する行為だ!」
「天の理など知らん。私は彼女と共に人間として生きる」
「馬鹿な。我らの命に比べれば人間の脆弱な魂などあっという間に消える。
 汝は愛した人間とやらと同じ時は生きられぬ。老いもせぬ汝に恐怖するに決まっている」
「何・・・?」
「分からないのか?いくら汝が人間のつもりでも、所詮人間とは別の存在なのだよ」
「・・・・・・」
「分かったら立て。汝は神の意思に身を任せておればよい」
「それでも、私は約束したんだ・・・」
「何度言わせる。汝は人間ではない。人間との約束など関係ない」
「私は人間として彼女の側に居続ける!」
ガディウスのしつこい叫びにエニールは怒りを感じていた。何故だ。
このおぞましき者の言葉がエニールの怒りを掻き立てている。
「たとえ人間になれずとも、私は彼女のために人間であり続ける。
 彼女が先に死ぬと言うのなら、彼女の死の瞬間まで共に居続ける。
 私は、彼女を愛しているのだから」
ギッと男は歯軋りした。しかしなんとか冷静を装って言った。
「そうか、残念だ。今日はこれで失礼する。さらばだ、兄弟よ」
男はすっと立ち上がるとさっさと扉をバタンと閉じて出て行った。

43ドギーマン:2007/02/04(日) 01:52:08 ID:LqS319xY0
ガディウスはエレナの寝ている寝室の前に立つと、部屋には入らずに言った。
「エレナ、起きてるか?」
返事はなかった。
それでもガディウスは妻に呼びかけた。
「決着はついたよ」
ガディウスは少し黙って言葉を考えた。
「私はもうどこへも行かない」
暗い部屋の中、エレナは黙って毛布をぎゅっと握り、静かに泣いていた。

砂漠の中、エニールは彷徨った。
天使であった頃のあの男はエニールにとって苛立たしい存在だった。
そして今も、いや以前よりも苛立たしい。
愛しているだと?人間を?くだらん。
エニールは何故こんなにも彼に腹を立てているのか、自分自身にも分からなかった。
エニールは空間に穴を開けると、リンケンの町をじっと睨みつけ、光の弾となって穴に飛び込んだ。

44ドギーマン:2007/02/04(日) 02:01:32 ID:LqS319xY0
もうすぐ、終わります。
オチの知れている話を長々としてごめんよ。

>携帯物書き屋さん
続編来ましたね。またあの興奮する戦闘シーンを期待してます。

>キンガーさん
読解力ですか。なるほど。言われて見れば想像力とは違いますね・・・。
私も毎回毎回先が読める訳ではないですが。
特にキンガーさんの作品は先が読めなくて面白いです。

では、おやすみなさい。

45名無しさん:2007/02/04(日) 17:53:55 ID:MrI79L4k0
>>ドギーマンさん
メインクエもLv低くてクリアできない私はレッドストーン関係の話は全然知りません(笑)
それに結末を知っていてもそれまでの過程を読むのが好きな性格なのでOKですよ。
ゲームとか推理小説とかEDや犯人などネタバレしても普通に楽しめますし(苦笑)
シリアスな雰囲気の話も好きなので、最後まで読ませてください。

46ドギーマン:2007/02/05(月) 00:24:50 ID:LqS319xY0
8:オアシス

エニールがリンケンを訪れてから1週間が経った。
ガディウスは声の束縛から解放され、エレナと再びもとの生活を取り戻していた。
しかし、エレナは町の市場で買い物をしているとき、そこにあの男は現れた。
「失礼」
「はい?」
エレナはいきなり肩を叩かれて振り返った。
「婦人、少々お話が」
「はあ」
「ここでは少し」
男は周囲を見回して言った。
「あの、どなたですか?」
「ご主人についてのことなのですが」
エレナは身を強張らせた。
「・・分かりました」
エレナと男はリンケンを囲む外壁のそばで話した。
遠くに人の姿が見えるから叫べば助けを呼ぶことも出来る。
「で、お話というのは?」
エレナは落ち着いた表情で男に聞いた。
「自己紹介がまだでしたな。私の名はエニールと申します」
「エレナです」
エレナは小さく会釈した。
「それで・・」
「あなたのご主人、名はなんと言いましたかな?」
「ガディウスです」
「なるほど、砂漠と同じ名前ですか」
「それで、話というのは?」
エレナはエニールを急かした。
「落ち着いてください。いいですか?ガディウス氏は人間ではありません」
エニールは落ち着いた顔で言った。しかしその目は少し笑みの形になっているようだった。
エレナは少しも取り乱すことなく、「知っています」と言った。
これには逆にエニールが動揺した。
「いいですか、婦人。彼は・・」
「天使なんでしょう?」
「・・・・・」
「この間、いらっしゃいましたね。ようやく思い出しました。お話は聞こえて居ましたよ」
エレナは耳がよかった。ベッドの中からでもガディウスとエニールの話し声がところどころ聞こえていた。
エニールはエレナの不意打ちに動揺しながらも、なんとか平静を保った。
「そうですか、それなら話は早い」
「今さら、あの人に何の用があるというんです?」
エレナはぎゅっと手を握りこんで男を正面から睨んだ。
エニーリはエレナの眼に臆することなく言った。
「あなたのご主人を人間にしてさしあげよう」
「え?」
「我々としてはもはや彼は用済みだ。むしろ天使としての力を持っている限り危険な存在でしかない。
 だから、彼にはただの人間になってもらう。天使の力を全て失い、寿命も人間のものとなる」
「・・・・・」
突然のことに今度はエレナが動揺する番だった。
「彼をこの町の北にある大きなオアシスに明日の昼に連れて行き、水面に自分の姿を映させるんだ」
「そうすれば、本当に彼は人間に?」
「ええ」と言ってエニールは頷いた。
黙って俯いて立ち尽くすエレナの横を通り過ぎてエニールは言った。
「明日の昼。いいですか、これは人間になるという彼の望みも叶えることだ。
 間違いのないよう、頼みましたよ」
そしてエニールは歩き去っていった。
「待って」
そう言って振り向いたエレナの目の先には、エニールの姿は無かった。
エレナは立ち尽くし、どうすべきかを考えた。
その思考は、すでにエニールの望む方向に傾いていた。

47ドギーマン:2007/02/05(月) 00:25:33 ID:LqS319xY0
翌日、
エレナとガディウスは連れ立って砂漠を歩いた。
突然のエレナの誘いにガディウスは驚いていたが、彼女が立ち直ってくれた証と取ったらしい。
エレナははやる心を抑えながら砂漠を歩いた。
「エレナ、あまり急ぐな。町の近くでもモンスターは出るんだから」
「ええ、でも大丈夫よ。あなたが居るから」
ガディウスはどことなく落ち着かない妻の様子に首をかしげたが、黙ってついていった。
そして、オアシスについた。
他に人は居ない。町の中にあるオアシスで水は事足りるため、ここに来る人はまず居ない。
その大きなオアシスは波一つなく、鏡のように空を映し出していた。
ガディウスとエレナはその美しさに見とれた。
天をゆく雲と同じ景色がオアシスの水面に映っている。
まるでオアシスではなく天に浮く砂漠の中にぽっかりと空いた穴のように。
エレナは呟いた。
「きれい」
「ああ」
ガディウスもその姿に感嘆した。しかし、何か嫌な予感がした。
エレナはオアシスのそばに寄ると、水面を覗き込んだ。
「ほらあなた、早く来て。本当に鏡みたいよ!」
「あ、ああ」
ガディウスは戸惑いながらも、ゆっくりと水面を覗く妻の後へ歩いていった。
「ほら、早く」
妻に急かされてガディウスは水面を覗き込んだ。
そこに映っていたのは。
ガディウス自身の姿ではなく、白銀の髪に折れた翼を背負った天使の姿だった。
その姿を見た瞬間、ガディウスの脳裏に電流が流れるような衝撃が走った。
ガディウスは驚愕の表情を浮かべて動けなくなった。
息が荒くなる。
「あなた・・?」
水面を覗きこんだまま動かない夫にエレナは問いかけた。
「エレナ・・なんで、こんなものを私に見せるんだ」
「えっ」
エレナは身を強張らせて動けなくなった。

48ドギーマン:2007/02/05(月) 00:26:17 ID:LqS319xY0
"ハハハハハハハハハハ!!!"
"離せっ"
"いいや、駄目だね。今頃フェニックスは我が同胞たちの手に落ちている。
 あの火の鳥にさえ到達すれば貴様ら天使どもなど・・・"
天使はしつこくすがり付く悪魔の胸に刺さっている光る十字架をねじり込んだ。
「ぐがああああ!!」
悪魔の叫びに問いかけた。
"何が目的だ!"
悪魔は口いっぱいに牙を並べて笑みを浮かべた。
"知れたこと。フェニックスの成鳥を殺し、卵を奪う・・・。
 生まれた雛を手なずけさえすれば、我らは無限の火の魔力を手に入れたも同然!
 神に復讐することも出来ようというもの"
天使はぐっと歯をくいしばると。悪魔の肩に足を押し付け、剣を思いきり持ち上げた。
「ぐおおおおおおお!!」
悪魔の断末魔が響いた。
絶命し、地に落ちていく悪魔を見送ることもなく天使は来た空を戻っていった。
"どういうことだ。何故奴らは侵入できた。しかもこんな時に"
フェニックスの甲高い鳴き声が響いた。
彼は音よりも早く飛んだ。
巨大なフェニックスに赤い靄がまとわりついている。
それは全てあの赤い悪魔どもだった。
灼熱の鳳の翼に飛び込み、その力を肥大化させては集まってくる兄弟たちを焼き払った。
特に火に対して高い耐性を誇るはずの火の守護天使たちは一瞬で灰となっていった。
すでに事態は手を付けられないところまで悪化していた。
火の神獣は翼に悪魔どもの爪や牙を突きたてられ逃げるに逃げられないでいる。
彼は火の鳥に向かって突っ込んでいった。
しかし、力を得た悪魔達の炎に焼かれて雲の大地に落ちていった。
他の兄弟たちのように一瞬で灰になることは無かったが、それでも酷いダメージを受けていた。
落ちて行く彼を1人の天使が支えて飛んだ。
"む・・"
"しっかりして下さい。天使長殿"
それはエニールだった。
"既に事態は打開不能です。天使長1人が向かって行ってもどうにもなりません"
"しかし、兄弟・・"
"無駄に死ぬことはありません"
彼はもう身体が動かせなかった。
そしてエニールの腕に抱えられながら考えた。何故悪魔たちが侵入できたのか。
地下界から地上に出るだけでも大変なのに、さらに地上から天上界に来るのは
まず無理なことである。監視の目に引っかかることなく侵入するなどということは不可能に思われた。
しかも、彼以外の監視が交代するために最も警備が手薄になるときを狙ってきた。
これはつまり、内通者が居る。
燃やされる火の守護の兄弟達の中、エニールだけが無傷だった。
―まさか・・・。
彼は飛びつづけるエニールの顔を見ていた。
兄弟達が死んでいっているにも関わらず涼しい顔をしていた。

49ドギーマン:2007/02/05(月) 00:26:57 ID:LqS319xY0
火の守護天使はほぼ全滅、フェニックスは死に、レッドストーンは悪魔と共に地上に墜ちた。
フェニックスの死と共に天使全軍が赤い悪魔達に総攻撃を開始し、
悪魔達は掃討された。しかし、1匹の悪魔だけはレッドストーンを持って逃げた。
事件の後彼には審判が下され、地上へ永久追放されるはずだった。
しかし、彼はエニールだけは許せなかった。
エニールを追って天上の牢獄を脱走した。
兄弟達の捜索を振り切り、彼はエニールに到達した。
"待て、裏切り者"
"裏切り者、とは?"
エニールは特に動じた様子もなく言った。
"貴様が悪魔どもに内通し、手引きしたことは分かっている"
"何のことやら。戯言が過ぎますぞ元守護天使長"
彼はエニールに向かって飛んだ。
"しらばっくれるな。貴様だけは許しておけん。死んで兄弟達に詫びろ"
彼はエニールに向かって羽を飛ばした。
エニールは飛び来る羽をテレキネシスで空中に止めた。
羽は力を失って宙をゆっくりと落ちた。
しかし、彼はその間に彼の頭上に巨大な鉄槌を生み出していた。
落ちてくる鉄槌をエニールは叩きつけられた。
「くっ」
エニールは声を漏らした。鉄槌は彼から力を奪った。
彼は宙に光の輪を一度に5個生み出した。
"終わりだ"
"あなたが、ね"
"何?"
次の瞬間、彼の背中に衝撃が走った。
"脱走者を見つけた"
振り向いた彼の視線の先には、彼を追ってきた兄弟達が居た。
"貴様だけは・・"
そう言って彼はエニールのほうに向き直った。
次の瞬間、光を身体に受けて彼はバランスを崩して落ちた
「う・・」
突然のエニールの攻撃に他の兄弟たちは驚いていた。
落ちる彼をエニールは追ってきた。彼が兄弟達に捕まれば自身が危ういからだろう。
"あなただけは許せない!"
エニールは見ている兄弟たちに響くように言った。
"貴様、何を・・"
"黙れ"
そう言ってエニールは光弾を放った。
彼は右手の甲でそれを弾こうとした。
だが、完全には弾ききれずに彼は右翼の先を吹き飛ばされた。
「うお・・」
そこにさらに彼は頭に光弾を受けた。
墜ちていく彼をエニールは見下ろしていた。
彼はそこで、意識を失った。

50ドギーマン:2007/02/05(月) 00:27:45 ID:LqS319xY0
全てを思い出してしまった。
ガディウスだった男は、今は天使の姿をしている。
もう、エニールの声を聞かずとも聞こえる。
自分の中から、"使命を果たせ"と衝動のような声が聞こえる。
神への絶対的服従、それが天使の本能であり、存在意義。
天使の記憶を取り戻したいま、彼はその本能に忠実だった。
しかし、その前にどうしてもやっておかなければならない事があった。
「エレナ・・何故だ・・・」
「そんな」
エレナは天使を前にして愕然としていた。
「私はもう、君と一緒には居られない」
「・・・・・・」
「もう私はガディウスではない。聞いてくれ、私の本当の名を」
「いや・・・聞きたくない」
耳を塞いでうずくまる彼女の頭の中に、直接彼の声が響いた。
「いや・・いや・・」
「私は、もう行かなければならない」
「待って、あなたの子はどうするの?」
天使はエレナに背を向けて言った。
「天の理に背いて生まれた子だ。幸せになどなれまい」
「待って、お願いよ・・・・行かないで・・・」
天使は空間に穴を開けると、消えていった。
オアシスのほとりに座り込んだエレナの涙は、鏡のようなオアシスに波紋を広げた。
そして、オアシスは次第に鏡のような姿を失っていった。

51ドギーマン:2007/02/05(月) 00:27:45 ID:LqS319xY0
全てを思い出してしまった。
ガディウスだった男は、今は天使の姿をしている。
もう、エニールの声を聞かずとも聞こえる。
自分の中から、"使命を果たせ"と衝動のような声が聞こえる。
神への絶対的服従、それが天使の本能であり、存在意義。
天使の記憶を取り戻したいま、彼はその本能に忠実だった。
しかし、その前にどうしてもやっておかなければならない事があった。
「エレナ・・何故だ・・・」
「そんな」
エレナは天使を前にして愕然としていた。
「私はもう、君と一緒には居られない」
「・・・・・・」
「もう私はガディウスではない。聞いてくれ、私の本当の名を」
「いや・・・聞きたくない」
耳を塞いでうずくまる彼女の頭の中に、直接彼の声が響いた。
「いや・・いや・・」
「私は、もう行かなければならない」
「待って、あなたの子はどうするの?」
天使はエレナに背を向けて言った。
「天の理に背いて生まれた子だ。幸せになどなれまい」
「待って、お願いよ・・・・行かないで・・・」
天使は空間に穴を開けると、消えていった。
オアシスのほとりに座り込んだエレナの涙は、鏡のようなオアシスに波紋を広げた。
そして、オアシスは次第に鏡のような姿を失っていった。

52ドギーマン:2007/02/05(月) 00:28:32 ID:LqS319xY0
エニールはオアシスの水面を挟んでエレナを小さく眺めていた。
彼女の腹を見ていた。
自分と同じ存在を。
地上に翼を持って生まれ、受け入れられずに父に連れられて天上界に着いた彼を待っていたのは、
半人天使に対する差別的な目だった。誰も彼を兄弟とは呼ばなかった。
しかし、唯一あの男だけは彼を兄弟と呼んだ。
その男は彼が生まれたときから得ることを諦めざるをえないものを全て持っていた。
やがて順調に守護天使長に昇格した男をエニールは嫉妬していた。
そして、そのくせ惨めな自分をただ1人兄弟と呼ぶ男を尊敬し、同時に憎んでいた。
だから、悪魔に奴を誘い出すことを条件に手を組んで奴を貶めてやった。
他の天使どもがどうなろうと知ったことではない。
半人の自分に天使のような神に対する絶対的忠誠心などない。
男がトドメをさす前に天上界の境界を抜けて地上に落ちたのは大きな誤算だった。
そして今、地上において男は愛を手にしていた。
母親に見捨てられた彼にとって、奴が愛を得るなど許せないことだった。
しかしそんな事も、エニール本人は分かっていなかった。
ただ、奴が羨ましかった。
エニールは踵を返すと、砂漠を去った。

数ヵ月後、
砂漠の墓の前に数人の人が参列していた。
兄は道具屋の娘と共に立ち、俯いていた。
父は沈痛な面持ちで、娘の墓に花を手向けた。
砂漠の悲劇はその真実を砂の大地に埋もれさせ。
後に右腕だけの男の手によって後世に伝えられる。
2人を決別させたあのオアシスは、
"忘れた記憶のオアシス"と呼ばれ今もリンケンの北に静かに広がっている。

53ドギーマン:2007/02/05(月) 00:45:47 ID:LqS319xY0
1:追放天使 >前スレ973-976
2:力    >前スレ983-985
3:英雄   >前スレ988-996
4:傷    >>13-15
5:変化   >>16-18
6:声の主  >>28-29
7:真実   >>40-43
8:オアシス >>46-52

あとがき
終わりました。
>>45
えと、オチが知れているというのは、
前スレ>932にこの話を1レスに纏めたのを書いちゃったからです。
後から長いのを書いてみたくなって、書いたのがオアシスです。
フェニックスとかはメインクエのアイノの報告書を読んで見つけた情報ですが、
この話は私の作り話なので、実際にあるクエとは一切関係ないです。
忘れた記憶のオアシスの由来をあれこれ考えているうちに出来上がった話ですから。
ちなみに、公式設定では火の守護天使長は赤い悪魔に殺されているそうです。

長々と失礼しました。おやすみなさい。

54名無しさん:2007/02/05(月) 02:28:09 ID:MrI79L4k0
>>ドギーマンさん
完結しましたね〜!終わりが近いと思っていて定期的にリロードしてました(笑)

この話の元になっている(?)、前回書かれていた天使のお話も勿論読ませてもらいましたよ。
それを読んでいてもじゅうぶんに楽しめる(楽しい話ではないですが)内容でした。
なんというか、この話がどうやってあの結末に結びつくんだろう・・激しく読んでいました(苦笑)
ハンクとグレイの話などの追加されたちょっとした逸話もとても良かったです。

今度からはそのオアシス付近をゲーム内で通るたびに思い出しそうな話です。
地名ひとつひとつにも隠された物語があると想像するだけで楽しいですよね。

55海風:2007/02/05(月) 07:22:52 ID:HitJUyNY0
「そろそろ時間だな、準備はいいか?」
私は皆に確認する。

ギルド戦。毎日行われるギルド同士の実戦形式の試合。
とはいえ、さまざまな武器を帯びた戦士たちが普段相手にするのは人ならざるモンスター、
その威力を抑えるため、ギルド戦は特別な魔法のかかったフィールドで行われる。
フィールドに魔法をかけるのは「DAMEON」と呼ばれる謎の集団。今週は“特別強化週間”(何が強化かは不明)と発表されており、皆もいつもより張り切っている。

私はこのギルドのマスターで、ビショップの“ライ”。ギルドメンバー20人あまりを率いる。

「始まったみたいね、入ろう」
副マスターのランサー“イブ”が言う。
ギルド戦の行われるフィールドへは、DAMEONが施した魔方陣に入ることによって転送される。

メンバーが全員入ったのを確認し私も魔方陣に入り、少しの間白につつまれフィールド「砂漠の疾走」へと降り立つ。

・・・・・?
少ない。
「これだけか・・?何人だ?」
  「10人ね」
イブが答えた。

56海風:2007/02/05(月) 07:23:35 ID:HitJUyNY0
・・・10人。魔方陣に入ったのは20人。半数しかフィールドに来ていない。
半分の人数とは痛いが、仕方ない。私はPTを編成する。

「よし、支援いいな? 行こう。」
        ギルド戦が、始まる。

−同刻 古都ブルンネンシュティグ
「ったく、どうなってるんだ。」
ライのギルドに所属する剣士は、気がつけばギルド戦の行われる砂漠の疾走ではなく古都に立っていた。
「お、お前らもか。」
同じギルドの仲間を見つけ聞く。
「ああ、10人くらいだな、お前含めて。突然周りが真っ黒になって、どこからともなく15秒接続をお待ち下さいとかわけのわからない声が聞こえてきやがった。で、気がつけばここさ。」
ここにいる奴の大半は同じ目にあったようだ。
「最近は少なかったのにな・・まったく、何が強化週間だ」
  「まったくだ。・・・・・DAMEONめ・・。」

                          続く  の?

57海風:2007/02/05(月) 07:26:51 ID:HitJUyNY0
初めての投稿です。
普通の小説も書いてたんですが、DAMEONと書きたくて書きました。
多分続きます。

これからよろしくお願いしますー

58ドギーマン:2007/02/05(月) 17:31:56 ID:LqS319xY0
『ディスプレイスメント』

ゴドム共和国 古都ブルンネンシュティグ
このフランデル大陸中最も長い歴史を誇る都市はいま、殺人鬼の出現によって恐怖の街と化していた。

アーチャーが酒場でカウンターに座って飲んでいた。
そこにウィザードがやってきた。
「隣、いいかな?」
アーチャーは周りを見回したが、空席はいくらでもある。
アーチャーは椅子の背もたれを持っているウィザードの顔を見上げた。
「う〜ん、ど〜しよっかなぁ」
「おごるよ?」
アーチャーは目を輝かせて椅子を引いた。
「どーぞ!」
顔も悪くない。ウィザードが座ると、
「マスター!」
カウンターの向こうに居る男にアーチャーは声をかけた。

2人ともほろ酔い気分で街を歩いていた。
「あ〜、そろそろ帰らないとなぁ」
「ん、まだまだいけるクチだろう?もう2件くらい回ろう」
「う〜ん、そうしたいのは山々なんだけどねえ」
「何かあるのかい?」
「知らないの?最近この時間帯に出る殺人鬼の話」
「ああ、なんか聞いたことがあるよ」
「それなら、今日はもう帰らせてよ。また飲むの付き合ってあげるからさ」
「しょうがないなあ。じゃあ、またにしようか」
「ごめんね。じゃあ、またね」
そう言ってアーチャーはウィザードと別れて通りを歩き出した。
やがて、人けのない通りにさしかかったとき、
「わっ!」
「きゃあ!」
女が背後から大きな声と共に肩を掴まれ、驚いて声を出した。
慌てて後ろを振り返ると、大きな獣が立っていた。
「きゃあああ!!」
「わっとと、そんなに大声出すなよ。こっちがビックリしたよ」
そこにはウルフマンが居た。
「なによもう、あなたウルフマンだったの?」
「ははは、ビックリした?」
「もう、脅かさないでよね」
女は不機嫌そうな顔で怒った。
「ごめんごめん、まさかそこまで驚くとは思わなかったよ」
「もう、殺人鬼かと思ったじゃない」
「ははは、何を言ってるんだい?殺人鬼は君じゃないか」
「え?」
そう言って見上げたアーチャーの眼とウルフマンの眼が合った。
するとアーチャーは急に固まり、ウルフマンはぐらりと身体を力なくアーチャーにもたれかけた。
倒れこんできた"自分の身体"を支えると、アーチャーはウルフマンを路地の端っこにもたれかけさせた。
「クフフ・・」
アーチャーは低く笑うと、腰に差していた弓を手に持った。
そしてしばらく街を歩くと、今夜の獲物を見つけた。
夜の街を歩く小さな影、女らしい。
アーチャーは笑みを浮かべると弓に矢をつがえると、人影に向かって弓を構えた。
ぞくぞくとした背筋をはしる感覚にアーチャーは笑みを浮かべ、
弓の弦がブンと音を立てた。
今夜も1人、いや、殺人鬼の犠牲者が2人増えた。

59ドギーマン:2007/02/05(月) 17:45:20 ID:LqS319xY0
あとがき
この話は続きません。
ウルフマンの究極のネタスキル、
ディスプレイスメントをネタに書きたかったんです。

>海風さん
初めまして。
Gvを題材にした話は初めて読みます。
続きを期待してますよ。

DAMEONにはいつものことながら本当に辟易させられますね。

60名無しさん:2007/02/05(月) 18:06:53 ID:WzZp9zxg0
>>海風さん
Gv、自分は経験はほとんど無いんですがこの仕打ちは酷い(笑)
Gvの話はギルメンの心がひとつになれるイベントって感じで想像力だけは膨らみます。

>>ドギーマンさん
狼で憑依スキル取っちゃいました(笑)
結構面白いんですよね。みんな支援かけてくれるのはちょっと困りますが(苦笑)
この話みたいにPTメンバーの人にも憑依できる・・とかだったらちょっと面白そうです。

61ドギーマン:2007/02/06(火) 18:16:34 ID:s7gQQorw0
鉱山の街ハノブ
日は既に傾いており、山の先にかじられたような夕日が男の顔を照らしている。
男は帰宅の途であった。
手には古都ブルンネンシュティグで旅の冒険者から買った指輪が握られている。
早く彼女に届けたい。
指輪を眺め、彼女の喜ぶ顔を想像しながら男は義父と愛する人の待つ家へ急いだ。
家まであと少し。
思わず顔を緩ませながら角を曲がると、
「はぁい、お兄さん」
挑発的な黒いボンデージに身を包んだ女に出くわした。
赤い長髪に赤い眼、真紅の唇を引き伸ばして妖しい笑みを浮かべていた。
スラリとした白い身体を黒く鈍い輝きを放つボンデージが強調している。
何よりその妖艶な雰囲気は、男ならば心をくすぐられることだろう。
「な、なんですか」
男が目のやり場に困りながら答えると、
女はいきなり男の首に手を伸ばし、
ぐいっと男の顔を唇が触れ合いそうなほどに自分の顔の前に引き寄せると、
ふっ、と男の顔に向かって息を吹きかけた。
男はその息の官能的な甘い香りに、脳に痺れる様な快感を覚えた。
「は、ああ・・・・」
男の身体から力が抜けていく。
手に握っていた指輪が、地面に落ちて跳ねた。

62ドギーマン:2007/02/06(火) 18:17:42 ID:s7gQQorw0
数年後

名前すら知られない古代遺跡の地下に広がる洞窟、
動きやすい革鎧姿のランサー、ミーシャはついに仇に辿りついた。
遥か昔からこの場所を照らし続ける明かりの下、
憎き悪魔を前にしてミーシャは槍を構えて対峙した。
うおおおぉぉ・・・ぉぉ・・
遠く闇の向こうから聞こえる獣のような雄叫び。
それを耳にしたリムルは、
声がしたほうを眺めながらまるで面白い余興が始まるかのように言った。
「あ〜あ〜、あの男。やっちゃったみたいねえ」
そして、ミーシャのほうに顔を戻して付け加えた。
「あんたの新しいの、死んだわね」
新しいの、という言葉に苛立ちながらミーシャは言い返した。
「別にあたしの男じゃないわよ」
「ふぅん。あっそ」
ミーシャの素っ気無い反応にリムルはつまらなそうに言った。
「で、かかってこないの?」
ミーシャは槍を構え、リムルと一定の距離を取って円を描くように歩いている。
ミーシャが背後に回っても、リムルは腰の鞭に手をかけるでもなくお構いなしに喋り続けた。
「戦うんじゃないのぉ?つまんないわねえ」
ミーシャは冷静だった。
リムルが喋りながらも足元に魔力を集中しているのが分かっていた。
すなわち、近寄った瞬間に何らかの攻撃をしかけてくる。
なかなか近寄ってこないミーシャを唇の端を吊り上げニヤニヤと笑いながら眺めるリムル。
「戦う気がないのなら、ちょっといいことを教えてあげましょうか」
ミーシャは聞く耳持たないという感じで目の前の悪魔の隙を突く方法に考えを巡らせていた。
「あんたの父親ねえ。私が殺したんじゃないのよ」
「何をたわ言を」
「あんたの男が殺したのよ」
ミーシャの動きが止まった。
その目の輝きは動揺に揺れていた。
「あの男、わたしがちょっと誘惑してやったら簡単にかかってさ。
 わたしが殺せって言ったら本気で刺し殺してるのよぉ?」
リムルは吹き出る笑いを堪えながら話し続けた。
「それで、その後がまた面白いの。
 何でもするから連れてってくれってさ。あなた様の奴隷ですってさ!」
「うそよ・・」
ミーシャはさっきまでの冷静さを完全に失っていた。
「鬱陶しいから燃やしてやったんだけどさ。
 あの男、死ぬ間際だってあんたのことなんて頭ん中なかったわよ。
 死ぬ瞬間ですら思い出して貰えないなんて、哀れな女!あはははははは!!」
悪魔的なリムルの笑い声をミーシャの叫びが消した。
「うそよぉ!!」
涙に塗れた瞳に怒りの炎を宿し、ミーシャは槍を構えてリムルに向かって走り出した。
その滲んだ瞳に写るリムルは笑みに歪んだ顔をさらに歪めている。
ミーシャの槍の一突きがリムルの胸に触れようとした瞬間。
魔力によって生み出されたクモの巣のような網がリムルの足元を中心に周囲の地面に広がり
その中に踏み込んでいたミーシャは身動きが取れなくなった。
槍を前に突き出したまま動けないミーシャにリムルはゆっくりと近づき、
ミーシャの頬を右手の人差し指でなぞった。
魔力の明かりによって照らし出された二人の影はまるで、
蜘蛛が網に引っかかった哀れな蝶に噛み付いているかのようであった。
リムルはミーシャの顎を掴み、指を柔らかい頬に食い込ませた。
「嘘だって?」
リムルはミーシャの顔をぐぐっと自分に向けて言った。
「あんたも分かってたんでしょ?あのジジイの腹に刺さってた剣、あんたの古いののだもんね」
そう言って、後ろに下がると腰の鞭を抜いた。
ヒュンッ パシーン!
地面を一度鞭で叩くと、鞭を手元に戻し、指先ですすっとしなる鞭を撫でた。
ミーシャの顔が曇った。
「心配しなくても、すぐには殺さないわ。あんたを殺したら、またしばらく玩具に会えなそうだもの」
怒りで身体が熱いにも関わらず、ミーシャの身体はピクリとも動かなかった。
フヒュン!と風音を立てて鞭がしなり、ミーシャに向かって振り下ろされた。

63ドギーマン:2007/02/06(火) 18:19:17 ID:s7gQQorw0
「ひっ・・ぐ・・ふっ・・・・は・・・はぁ・・」
腹、脚、腕。肢体中に鞭による蚯蚓腫れが走り、ミーシャは痛みに耐えていた。
「なかなか良い声で啼くじゃない」
そう言ってリムルは指をパチンと鳴らして蜘蛛の巣を消した。
ふっと糸が切れた人形のようにミーシャは崩れ落ちて膝をついた。
その様子を眺めてリムルは恍惚とした表情を浮かべた。
「そう、そうよ。跪いてちょうだい。もっと私を憎んでちょうだい。そう、いいわその眼!」
ミーシャは足をぶるぶると震わせて槍を支えになんとか腰を持ち上げ、槍を構えてリムルを睨みつけていた。
リムルは完全に自分に酔っていた。圧倒的優位に立って相手を見下す自分に陶酔していた。
「はぁぁぁぁぁぁ・・」
リムルはミーシャの憎悪の目を見て、深くため息をついた。
「最高の玩具ね」
「誰が・・あんたの玩具よ」
ミーシャはぐぐっと槍を重たそうに持ち上げた。その意思とは裏腹に、槍の穂先は揺れていた。
「別にあなたに限らないわよ?人間はみんなわたしの玩具よ」
ミーシャは目の前の悪魔に虫唾が走った。
「絶対に、殺す」
その言葉にリムルはふふっと笑った。
「好きよ。その言葉」
ミーシャは槍に魔力を込めて走り出した。
「うああああ!」
槍を大きく頭上で回すと、ミーシャは連続で突きを繰り出していった。
それを半身で避け、束ねた鞭で叩いて逸らした。余裕の表情は崩れない。
「殺してくれるんじゃなかったの?動きが鈍いわよ」
後ろに下がって避けるリムルに追いすがるミーシャ、
それに合わせる様にリムルは手を振り上げた。
「ほらっ!」
ミーシャの足元から黒い数本の矛が噴き出すように突き出した。
「くっ」
ミーシャは寸での所で横に跳んで避けた。
ミーシャに距離を取らせると、リムルは再び足元に魔力を集め始めた。
「休んでる暇はないわよ!」
鞭がしなる。せまる鞭をミーシャは槍で打ち落とそうとした。
「はっ!」
その動きをあざ笑うかのようにリムルは手首をひねった。
鞭は生きているヘビのように槍をするりとくぐると、ミーシャの腹を叩いた。
「うぐっ」
ミーシャは顔をしかめた。
しかし、今は怯んでなどいられない。攻めなければいけない。
ミーシャは痛みを堪えて複雑なステップを踏んで鞭を避けながらリムルに迫った。
手足を躍らせるたびに腫れた身体に鈍い痛みが走る。
「い、・・やぁっ!」
払う、とフェイントをかけつつも不意を突くように背面から槍を繰り出す。
リムルフェイントに引っかかったが、元から受けるつもりだったのか、槍を左手の平で受け止めた。
リムルの黒い手を槍が貫通し、手から血が噴出した。
「あっはは、無駄無駄」
リムルは痛がる様子も無くそのまま手を貫く槍をぐっと握ると、
驚いているミーシャの足元に大きな顎を出現させた。

64ドギーマン:2007/02/06(火) 18:20:29 ID:s7gQQorw0
顎は実体無く透けているが幻ではない。その牙に痛みを乗せてミーシャの足に噛み付いた。
「くっ、この」
槍を無理矢理リムルの左手から引き抜き、地面から生えている顎を突き刺した。
槍には手応えはあるが、顎はしぶとく噛み付いたままだ。
リムルは血まみれの左手を振って、顎を壊そうとしているミーシャの身体に血を飛ばした。
「ほら、頑張って。もう少しで壊れるわよ。ふふふ」
「このっ」
身体に付着した血に気をかけるでもなく、ミーシャは槍で顎を壊した。
ミーシャが隙だらけにも関わらず、リムルは攻撃を加えなかった。
ようやくミーシャがリムルに槍を向けたとき、リムルはミーシャを指差して逆十字架をきった。
すると、ミーシャの身体に付けられたリムルの血がミーシャの胸に集まり、赤い逆十字架を形作った。
血の逆十字架が赤い輝きを放って消えると、ミーシャはぐらりと崩れる身体を槍で支えた。
ミーシャは突然の胸の痛みに訳が分からずにリムルを見上げると、
リムルの左手の傷がゆっくりと閉じて消えた。
「あはは、折角私を傷つけられたのに、残念でした!」
リムルはミーシャの表情を楽しんでいた。
しかし、ミーシャの心はまだ折れてはいなかった。
胸を貫くような痛みに息を切らしながらも、それでも槍を構えた。
リムルはその様子を見て言った。
「まだまだ楽しめそうね」
「言ったでしょ、絶対に、殺す!」
「いいわねぇ、そういう諦めの悪いところ。あなたが男だったらペットにしてあげてもよかったのに」
「誰があんたなんかの・・」
「心配しなくっても、女には効かないわ」
そう言ってリムルはミーシャに背を向けて、歩いて離れていった。
無防備な背中に関わらず、ミーシャには手出しできなかった。近づけばやられる。
リムルはミーシャから距離をとって離れた。
「さて、言っておくけれど、もう近づいたらあなたの負けよ」
そういってリムルは足元を親指で指し示した。
既に魔力は整い、近づけば即動きを封じられる。
「あなたの槍じゃあ、わたしに近づくしか無いわよねぇ?」
ミーシャは勝ち誇る悪魔の笑みを肩で息をしつつ睨んでいた。
「さっきから槍に魔力を集めてるようだけど、どんな策があるのかしら?」
ミーシャは答えなかった。
黙って槍を構えると、リムルを中心に円を描いて走り出した。
リムルは一歩踏み出した。すると円も一歩踏み出した分だけ動いた。
一歩下がると、元に戻った。
「ふぅん」
リムルはミーシャの動きを試すように動いていた。
「じゃあ、姿が見えないとどうするつもりなのかしら?」
すると、リムルの周囲に緑色の霞が噴出し、リムルの姿を覆い隠した。
ミーシャはその霞の正体を致死性の毒ガスであると判断すると、
慌てて距離をとり、微妙な空気の流れを読んで風上に向かって走り出した。
すると、同じ方向に向かって毒ガスの中からリムルが飛び出してきた。
「当たり!」
中からも外が見えなかったはずだから、予想が当たったということだろう。

65ドギーマン:2007/02/06(火) 18:22:34 ID:s7gQQorw0
ミーシャは槍を回すとランサー独特の走法で素早く距離を取った。
リムルはミーシャに向かって追いすがるように鞭を振るった。絡めとられて引っ張られれば終わってしまう。
ミーシャは横にステップを踏んでまた鞭を避けると、隙と見て取ったのかリムルに向かって槍を投げようとした。
リムルは待ってましたと言わんばかりに鞭を手元に引き寄せた。
槍を投げる以外に攻撃する手段はないと思っていたリムルは思わず笑みを浮かべていた。
ミーシャの振りかぶった槍は光を発し、槍本体を残して光の槍がリムルに向かって飛んだ。
リムルはまた左手で受け止めるつもりだった。
しかし魔力の塊の光の槍は左手を貫通してリムルの右肩を貫いた。
「あぐっ」
リムルには訳が分からなかった。肩を貫いた光はリムルの背後の闇に消えた。
そして、ミーシャは怯んだリムルに対して槍を振るった。槍が届く距離ではないのに。
次の瞬間、リムルの余裕の表情が崩れた。
槍が伸びてリムルの胸を貫いていた。
槍は穂先に氷、反対側のもう一端に炎を纏って伸び、
三倍ほどの長さに伸びた槍の氷の穂先がリムルを貫いていた。
「え?」
リムルは呆けた表情で自分の体の中心を貫く氷と炎の槍を見下ろしていた。
魔力を帯びた槍は縮んでリムルの胸から抜けると、氷と炎は槍の柄を持つミーシャの手元で散った。
リムルは胸の穴から噴出す血を押さえて膝をついた。
「くぅ・・」
「終わりね」
ミーシャは冷たい眼差しでうずくまるリムルを見た。
「う・・く・・・はっ・・・・・あはは・・終わり?何勝ったつもりでいるのよ!」
リムルはしゃがみ込んだまま鞭をミーシャに向けて振るった。
鞭はミーシャの腕に巻き付いた。
リムルはその細腕からは考えられない力でミーシャを自分のほうに引っ張った。
引っ張られたミーシャが射程に踏み込んだところでリムルはミーシャの影を蜘蛛の巣に絡め取った。
動かないミーシャに左手の平を向けてリムルは高らかに笑った。
「死ぬのは、はぐっ・・・あんたよ・・・毒で即死、させたげるから覚悟なさい」
しかし、ミーシャはまるで人形のように表情がなかった。
リムルがそのことに気づいた頃にもう遅かった。
本物のミーシャの手から投じられた槍がミーシャの幻を突き抜けてリムルのわき腹を貫いた。
リムルのわき腹を突き抜けた槍は地面に刺さった。明かりに照らされた蜘蛛の影は標本のように留められた。
見上げるリムルの前のミーシャはぼうっと薄れて消えた。
その後方から、蜘蛛の巣が消えたのを見て取ってミーシャが歩いてきた。
「なによそれ・・私が・・・・殺される?人間に?」
その顔にあの笑みはない。

66ドギーマン:2007/02/06(火) 18:23:19 ID:s7gQQorw0
ミーシャはリムルのそばに立つと、槍を乱暴に引き抜いた。
「ぐぁ」
リムルは力なく冷たい地面に背を押し付けた。
ミーシャの冷ややかな視線をリムルは可笑しそうに笑った。
「あはは・・・・そう、あんた、もう人間じゃないわね。納得したわ」
その言葉にミーシャはピクリと揺れた。
「その眼、今まで何人・・・・・ふっ、殺してきたの?」
ミーシャは静かに震える声を抑えるように言った。
「私は人間よ」
「いいえ・・・・、人間はそんな眼はしないわ。
 うぐっ・・・ゴホ、その眼は、他者の命を、平気で奪える悪魔の眼よ」
ミーシャは何も答えられなかった。
リムルはミーシャの反応に満足したように笑みを浮かべると、指にはめていた指輪を抜いた。
「ほら」
そう言ってミーシャに向かって指輪を指ではじき飛ばした。
「あげるわ」
受け止めて手の中の指輪を見下ろすミーシャにリムルは言った。
「あんたの男が持ってた指輪よ」
ミーシャの瞳が揺れた。
手の震えに合わせて手の中の指輪も小さく震えた。
指輪の内側には"K to M"と彫られている。
そのミーシャの顔を見てリムルはニヤリと笑みを浮かべた。
「私に捧げられた指輪だけどね」
しかし、指輪をじっと見つめるミーシャの耳にその言葉は届いていなかった。
チッとリムルは舌打ちすると、地面に横たえた頭を持ち上げて首に鞭を巻きつけ始めた。
そこでようやくミーシャはリムルの様子に気づいた。
「何をしてるの」
「火葬の準備よ」
「何?」
「この先、生きてあいつに会ったら・・・・あんたにも分かるわ。
 いい?あいつにもし負けて殺されることになったら、う・・ゲホッ・・
 そのときはどんな方法でもいいから、自分の死体は残さないようになさい。
 永久に地獄を見ることになるわよ。オルカートのように・・・・」
「どういう・・」
しかし、リムルはミーシャの言葉を無視した。意識がそろそろ危なかった。
「最後に・・・・教えて、あげるわ」
リムルははっはっと短く息をついていた。赤く地面に広がっていく血溜りが彼女の残り時間を示す水時計だった。
「あの男の、最後の言葉・・・・」
リムルは黙っていた。
「愛してる・・」
ミーシャはその言葉に彼の笑顔を思い出した。
「リムル様ってね!あはははははははは!!!」
嘲笑を残して悪魔の鞭は炎を纏い、リムルの身体は一瞬にして灼熱の炎に包まれた。
あっという間に人の形を崩していくリムルに向かってミーシャは槍を振り下ろした。

全てを奪われた女は長い戦いの日々の末に、
唯一の心の寄り所だった愛さえ奪われてしまっていたことを知った。
燃え盛る悪魔の死体に憎しみの全てをぶつけ、彼女の眼は人の光を失おうとしていた。

67ドギーマン:2007/02/06(火) 18:31:14 ID:s7gQQorw0
あとがき
元ネタは公式サイトのランサーのあれです。
仇役に悪魔を使ってみました。
ええと、仇を討ててハッピーエンド。なんてことにはなりませんでした。
相手は悪魔ですからね。救いのないラストです。
続く、かも?続いたほうが、いいのかなあ。
あいつとか色々前振り的なこと書いちゃったし・・・。
何も考えてないなんてことは無いんですが。

68名無しさん:2007/02/06(火) 22:26:40 ID:vMR3h0JU0
>>ドギーマンさん
いつもながら書き上げの速さと構想の速さにびっくりです。
そこまで言われると続きが気になりますよ(笑)
あいつとかオルカートとか続きに出てきそうな名前がちらほらと・・
恋人関係の話、もし自分が小説やSSを書くとしても絶対書けない分野なので楽しみです。
是非とも続きお願いしたいです。

69第37話 後3日:2007/02/07(水) 19:04:00 ID:VACg.rqk0
貧しさは犯罪を犯したときのエクスキューズにはならない。
財布の厚みは傲慢に生きる免罪符にはならない。
「人を欺くな」
田村の父親の言葉だ。

電子課に監視を頼んであった8件のうち5件はネット上のみの取引か、不成立で
身柄を押さえられそうにはなかった。残り3件が実際に会って取引に及びそう
だとの報告だった。とにかく何か共通点はないか佐々木に訊いた。

「ありません。総ての取引は[1deal-1mail]です。過去同じメアドが使用された
事は一度もありません。」
「総てレッドストーン関係か?」
「いいえ、他のゲームもあります。張は組織が関係しているものをピックアッ
プしたんでしょう。」
「残り3件を徹底的に監視してくれ。」

田村は一応、課長に状況を伝えておくことにした。
電子課にメールを監視させていることや、張との面会及びやらせていることは
まだ黙っていることにして。

「・・・田村、それじゃ上が納得しないぞ。線が細くて動員できるとは思えな
いぞ。ゲームが発端でその上口座を狙った?全く・・・」
「4件の殺しの共通点が口座だけでしょうが? しかも違法移民が持っていた
それが今回の合同捜査になっていながら、私のは線が細いと?しかもネカフェ
での映像からホシを割り出そうってのより、こっちのほうが確実ですよ!」

方針で課長と口論になっているときに電話が入った。佐々木からだ。

「例の1件が取引まとまりそうです。新宿の東のネカフェで来週日曜に交渉です」
「口座の話は出たのか?」
「そうではないですが、現金でなくとも良いとの内容でした。つまりネット送金
ですから、口座の存在を相手に知られたかとおもいます」
「東側には何件のUSB端子を使えるネカフェがあるんだ?」
「・・・これから調べます」

後3日だった。日曜までに店舗を調べて協力を仰いでおかなければ・・・。

70名無しさん:2007/02/08(木) 04:39:16 ID:bYCWHswk0
>>きんがーさん
今までの話をまとめてひとつの本にしたいくらいです。
(今でも読みながら何度かいままでの話を参照しながら読んでます(苦笑))
結末が全く見えません。

71第38話 二兎:2007/02/08(木) 20:00:42 ID:NwlOS0pk0
「日曜に取引することになったよ」
キンガーさんからの短いメールだった。
私とデルモちゃんが一緒に行きたいと思っていることを伝えると
「うーん、やめておこう。一人で行くよ」
そんな返事だったけど、食い下がり、どうしても一緒に行くと言って約束させた。
しかしながら私とデルモちゃんは遠巻きで見るだけとのこと。
それでも一人にさせておくよりはなんとなく安心だった。
相手が取引しようとするキャラは「キンガー」なのだろうか?
それとも全く別のキャラなんだろうか?どちらにしろ買うことはないだろうなぁ。
ただで取り戻すか、取引不成立なだけ。
もう一度例のサイトを覗いてみた。

----交渉中----

後3日で判ることよね。でもドキドキするわ。

「姉ちゃん、またそんなとこ見てるの?」弟の幸一だ。
「あぁ、これね。今度の日曜に私の知り合いがこれを取引するみたいなの」
「へぇ〜。どこで?」
「多分、新宿」
「ネカフェ?」
「でしょうね。私も付いていってくるつもりなの」
「面白そうだね!俺もいきたいけど、用事あるしなぁwそんな現場滅多に見れないから
なんだか羨ましいよ^^」
「そうよねぇ。滅多にみれないよねw 何着ていこうかなぁ?」
「ばっかじゃないの? お見合いじゃあるまいし。だいたい姉ちゃんは関係ないのにw」
「それもそうだぁww」

そんな話をした後にRSにログイン!
デルモちゃんに事の次第を連絡して日曜にまた会うことを約束した。
何着て行こうなんて思ったのも、女としてデルモちゃんに負けたくないからでもある。
詳しい日程が決まったらキンガーさんに「コール」してもらうことにしたw


調度同じころ田村に佐々木から連絡が入っていた。
「もう1件取引がありそうです。場所は確定していませんが日曜です」

72第39話 願い:2007/02/09(金) 00:32:07 ID:NwlOS0pk0
佐々木が少し疑問に思うことを口にしてきた。
「田村さん、現場で監視するのはいいのですが一体どうゆう容疑で逮捕拘留するんですか?
何も起こっていない状況でワッパかけれないでしょう?でも放っておけば殺しになるかもしれないし」
「そこでだよ。おそらく確実にホシは身分を偽っていると思われるだろう?」
「公文書偽造容疑ですか?」
「それは2番目だ。最初はもちろんオーバーステイか密入国容疑でいく。拘留期間をあらゆる容疑で延ばす作戦だ」
「管轄が違うでしょうが?」
「俺の娘をなんと心得る?入管だぞw ちょいと親孝行してもらうさ。それからガラをこっちにもらう」
「拘留期間を延ばしたところで自白がなけりゃ終わりですよ?」
「お前さん、大事なことを忘れている。俺たちには味方がいるじゃないか?敵と言うべきかもしれんがなw」
「どこにですか?」
「誰かはまだわからん。しかしな、なぜ張が俺たち側に付いたか忘れたか?」
「組織に全部喋った事がバレたからでしょう?でも今回のホシは喋らない」
「喋ったことにしてしまえばいいんだよ」
「でもどうやって奴等にそれが判るんですか?」
「まずは捕まえてからだ。細かいことは後で話す。ホシが囀るようにしなきゃなぁ^^」
「ますます判りませんよ!」
「ホシは日本の警察より組織の幹部が怖いはずさ。張と一緒だよ」
「うーん・・・・・」
「だが、俺たちにも怖いことがある。それを今回は同時につぶすつもりだよ」


その頃、塀の中で張はいやな夢といい夢を見ていた。
一つは、刑期を終えても組織は自分をいつまでも追いかけてくること。
一つは、大きくなっているだろう自分の息子と再会している夢だった。
汗ばんだ額を拭いながら起きた張は明日自分の拠り所をもう一度確認しようと誓った。
それしか希望は湧いてこない。
祖国の務所よりはずっと天国のようなこの場所でも、自由が満喫出来ないのは辛い。
なんで自分はこうなってしまったんだ?どうして奴等の思うがままになって、全てを無くしてしまったんだ?
全て・・・・いや、自分にはあの金があったか。
失ったものの方が多いような気がしてきた。
女房のことよりも子供のほうが気になるとは思ってもみなかった。
田村との約束は守った。奴も守ってくれるといいのだが、いや、日本人は約束を守るさ
そうじゃなきゃ、あんなに詐欺をできなかったさ。皮肉なもんだ。
ここを出たら二度と詐欺をするもんか! 
トイレに行くのにも人に了解を得る生活なんてまっぴらだ!!
張は娑婆に出ても誰にも遠慮せずに、普通にトイレへ行こうと出来るか不安に思いながら
もう一度布団の中に潜り込んだ。
もう一度、息子に逢える事を願いながら。

73携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:26:39 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>34-37

『孤高の軌跡』


冴え冴えと蒼く、弧を描く月下の夜。
冷たく、優しい光が華奢な少女と長躯の男を照らしていた。

「結局、住宅街周辺には何も出なかったわね」
少女がさも残念そうに息を吐く。
それに対し男は終始無言だった。仕方がなく少女が続ける。
「そんな訳で街中に来たのだけど、ヘル、何か感じる?」
無言だった男が重々しく口を開く。
「私に魔力を感じ取れというのは専門外だな。私が感じ取れる物は殺気と気配、そして悪感くらいだ」
「もう少しましな物を感じ取りなさいよ。例えば、お金の気配とか」
「そんな胡散臭い物を感じるのはごめんだな」
「はいはい…。とりあえず予定通り近くの公園に向かうわよ」
そうして少女は歩を早める。

突如、無言で付いていた男の足が止まった。
「どうしたの、ヘル?」
「………血の臭いだ」
一瞬少女の表情が固まる。しかしすぐに平静を取り戻す。
「ヘル、行くわよ」
「ああ、先を急ぐ故しばし捕まっていろ」
そう言うと男は少女を片腕で抱き上げ、跳躍する。
その跳躍力は人体の限界を超え、連なる建造物を飛び越して行く。
無音で一つの電灯に着地し、再び跳躍し闇夜の風を裂く一つの閃光となる。
二人の眼下に夜の街中の景色が広がった。
「そこだ」
男が臭いの源を嗅ぎつけ、高度を下げ手近の電柱の側面を蹴りつけて方向転換する。

心地よい靴音と共に軽やかに着地。
二人が辿り着いた場所――――そこは二人が行く予定だった町の公園だった。
「貴方のソレは心臓に悪いわね…。ところで、ここ公園だけど?」
少女が好奇心と疑問が混じり合ったような表情を向ける。
「……そうみたいだな。しかしここに間違いない」
「なら、行くわよ」
十分に警戒しながら二人は公園に踏み込んだ。
突如、激しい悪感が駆け巡り二人を襲うっ!
明らかにこの場の空気は異常だった。
「ヘルッ!」
少女が叫び声に近い声を上げた。
「判っている――――!」
男が唸り声を上げると同時に少女が駆け出す。男もそれに続く。
ある程度走ると公園の丁度半分辺りに大きな“物”が落ちていた。
その正体に感付いた男が少女を追い越し右手で視界を遮るように行く手を阻んだ。

それは残劇としか言えなかった。
辺りには闇夜の黒より深い黒が海のように広がっている。
その中心、黒い海の中央に位置していた“物”は人の形をした地獄そのものだった。
服は破れ千切れ、露出した肌には肌ではなく骨、僅かに残った肉は所々喰い荒らされ、腹部からは桃色の腸や内臓が溢れ、それすら貪り喰われていた。
さらに片腕が千切れ、必死に抵抗した形跡があった。
顔面からは片方の眼球が飛び出し、その表情からは恐怖や絶望が読み取れた。
血にまみれた肌から僅かに覗かせる白い肌から以前は美しい女性だったのだろう。


「ぁ………ぁ……」
男の背後から声無き叫びが聞こえた。
「う――――!」
「吐くなよ」
この残劇から耐えられなくなり地に手をつき嘔吐しようとした少女を男が止める。
「嘔吐物から私達に繋がっては面倒だ。特に君は令嬢だからな」
「分かって……いるわよ……」
呼吸を整えながら少女が立ち上がる。
「それにしても酷いわね。一体何の為に……」
「さあな」
すると男が女性の方へ歩み寄った。黒い血溜まりに足を踏み入れ、パチャパチャと湿った不快な音を立てた。
男は女性に黙祷を捧げると、恐怖に見開かれた目を静かに閉じさせた。
「切り傷に刺された傷、食い千切られた痕まであるな。……使われた武器は刃物から槍までということか」
少女が僅かに表情を濁らせる。恐らく目の前の女性の苦痛を想像してしまったのだろう。
男が地面に指を付け血を掬う。
「まだあまり時間が経っていない。模索すれば犯人が見つかるかもしれんぞ」
「行くわよっ!」
少女が怒りを噛み殺しながら叫ぶ。深黒の瞳には焦りと怒りが渦巻いていた。
「む――――!」
男が走り出そうとした少女の腕を掴み飛翔した。刹那、二人が居た場所に爆発が起こる!
女性の遺体が僅かに焼け、焦臭い臭いを発する。
着地した男が苦々しげに口を開く。
「リサ、どうやら想定外の人物が現れたようだ」

74携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:27:33 ID:mC0h9s/I0
男――――ヘルベルトが少女の前に立ち塞がる。
爆煙から二つの人影が現れた。煙が薄れ輪郭がはっきりしてくる。
それはどちらも男だった。しかし二人は歳が大きく離れていた。

一人は暗そうな黒髪の若い男。
もう一人は白髪混じりの長髪に同じく胸元まで伸びる顎髭を携え、深緑の外套を纏い、先端に宝玉が付く太く長い杖を持った初老の老翁だった。
その老翁の周りには何とも言えない禍々しい空気が漂っていた。

「貴様は確かスマグの博士……。貴様がこれの犯人か?」
ヘルベルトの左眼が悲惨な最期を遂げた女性へ僅かに向けられる。一方で眼前の老翁を見据えていた。
すると老翁は静かに首を振り否定の意思を見せた。
「知らぬな。愚老は強い魔力を感じた故辿って来たら此処に着いたまで。そなたとは例の洞窟の戦い以来だの。と申しても愚老は金色の魔弓使いに殺られたのだがな」
老翁が深い皺が刻まれた喉を震わせしわがれた声を発し笑った。
すると老翁の周りの異様な空気が膨張した。
対するヘルベルトも射殺すような目線を老翁に向けている。
両者の間に不可視の殺気が空中で絡み合う。

一方で梨沙は、自分が別次元に居るような異様な感覚を感じていた。
(これが闘い……? 駄目だ、耐え切れない)
この空気に耐えられなくなり叫び出しそうになった梨沙の眼前にヘルベルトの分厚い手が現れた。
「心配するな。私は君の盾になると言ったのを忘れたのか?」
囁くような声。しかしそれは梨沙の胸に強く響いた。
「いえ、忘れていないわ」
梨沙が小さく微笑む。

「ではそなたの欠片を頂こう」

「――――!!」
黙り込んでいた老翁が殺気の籠った声を発した。
反応してヘルベルトが梨沙の前に身を乗り出すと同時に老翁の杖先から現れた五条の火球が唸りを上げて二人を襲うっ!
ヘルベルトの前で爆発が起こる。梨沙は爆風だけで飛ばされそうになりながらもゆっくりと瞼を開けた。

初めに映った物は鋼の背中。次にその頂上に位置する蒼い頭髪が目を奪う。
ふと更に前方を覗くと身を覆うような巨大な盾が二人を爆発から阻止していた。もう片方には様々な装飾が飾られている心を奪うような細長の長剣を握っていた。

「大丈夫か」
あまり感情が含まれない声。既にヘルベルトの意識は眼前の老翁に絞られていた。
「犯人の捜索を阻害された事は不快だったがこれも良い。久々の闘いだ。さあ、貴様の限界を私に見せろ!」
言葉と同時に老翁が杖を振るい、十条の火球が飛び出す!
それをヘルベルトが十字を描かれた巨大な盾で防ぐ。
老翁の攻撃は止まない。次にヘルベルトの足元の大地が裂け、そこから火が噴き出す。
ヘルベルトは梨沙を長剣を持った腕で抱き上げ跳躍。炎をかわす。
それでも老翁の攻撃は止まず、杖を振るうだけで異常現象を発生させる。
次いで爆炎が、雷撃が、風刃が、氷塊が二人を襲うっ!
「どうした、貴様の力はその程度か?」
着地したヘルベルトが、悠然とした態度で老翁を煽る。
「よかろう。愚老の最大の術で死にたいなら望み通りに」
そう言うと老翁中心に巨大な魔法陣が幾重にも描かれていく。
老翁の口からは不可解な言葉が紡がれていた。
「む、この呪文は禁忌の術か」
ヘルベルトの口元が不気味に引き吊る。
「――――いいだろう。ならば此方も全力で行くぞ」
すると盾を前方に掲げ、何かを呟き出した。
「――――光の加護を受けし盾よ、その力を完全解放する」
突如、盾の十字が光を発し前方に分厚い光の膜が生成し始めた。
同時に老翁の呪文も完成した。

「メテオシャワーッ!!」
「ディバインフォートレスッ!!」

同時に怒号が上がった。
老翁が紡いだ呪文により宙界から召喚された隕石が轟音を纏い降り注ぐ。
対してヘルベルトが紡いだ呪文は完全に護りの魔法だった。
それによって現れた光の障壁が隕石とぶつかり合うっ!
耳を貫くような轟音。次いで視界が白に変わった。

梨沙が瞼を開けると、ヘルベルトが盾を構えた状態のままで悠然と佇んでいた。
「な、なんと……」
老翁が驚愕の表情を浮かべる。無理もない、自己の最高の術が完全に防がれたのだから。
「禁忌の術まで使うとは予想外だった。それでは私の番だ」
ヘルベルトが一歩踏み出す。
そこで立ち止まると、半分だけ振り向き、梨沙に不器用な笑みを向ける。
「大丈夫だ。リサ、暫し下がっていろ」
再び戦鬼の表情に戻ると、長剣を構え老翁と正面から向き合った。

75携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:28:55 ID:mC0h9s/I0
老翁――――レオン=バックスはスマグで最高の魔術師であり、博士だった。
幼い頃から知力と魔力に恵まれ、周囲は彼を天才だと称えた。
それは彼も誇りに思っていたし、その力を世間に役立てようと必死に勉学にふけった。
青年程にもなると、彼は世界中を回る旅に出た。だがそれが彼のどこかを変えてしまった。

美しいと思っていた世界が、愛で満ち足りていると信じていた世界が、逆転した。
彼が旅で見た世界は汚れ、憎悪で満ち溢れていた。
彼は絶望した。この世界に。人間という生物に。
遂に彼は部屋に閉じ籠るようになる。

数ヵ月後、彼に転機が訪れる。
レッドストーン。幻の石の存在だった。その日を期に彼はレッドストーンの研究を始めた。
存在しないとまで言われた石を必死に探し、探し、探し、情報を手に入れたときには既に老人になっていた。
それでも彼は夢を追い、富んだ知力と魔力を武器にその場所に向かった。
ただひとつの願いを胸に籠めて。

あの石さえあれば、あの石さえあれば世界は生まれ変われる――――!


「馬鹿な」
老翁が言葉を零した。己の誇りでもあった魔術が悉く破壊されてゆく。
「ぬううっ」
三条の雷撃を放つ。だがそれも眼前の男の俊敏な動きでかわされてしまう。
弾かれたように男が飛び出す。
老翁が接近戦を避けようと自己に風の加護を掛け、軽くなった体で後方へ跳ぶ。
「くだらん」
突如ヘルベルトの持つ長剣が煌めいた。光が集結し、黄金に輝く。
振り抜く。すると一条の閃光が剣から放たれた。
老翁は瞬時に防御魔法を紡ぐが、そんな物なかったかのように貫通し、老翁の杖を持つ腕ごと両断っ!
腕と鮮血が宙を舞う。
「ぐおぉ……」
すぐさま残りの腕で治癒魔法を紡ぐが、ヘルベルトが魔風の如く接近し、もう片方の手首を撥ね上げる。
老翁がくぐもった悲鳴を上げる。両腕を失ったのでは魔術どころではない。
「エクスカリバーだ。貴様も聞いたことくらいあるだろう」
ヘルベルトがエクスカリバーと呼んだ剣を老翁の首筋に向ける。
「か……は……それ、その石さえ、あれば…私の夢は………世界は……!」
老人がヘルベルトに寄りすがるように近づく。手首を失った腕でヘルベルトの胸に手を伸ばした。
「…すまんな、老翁。せめて静かに眠れ」
エクスカリバーが一閃される。その軌跡は老翁の頭から股へと垂直に振り下ろされていた。
断面から噴き出す血潮がヘルベルトの全身を汚した。

ヘルベルトは向き変えると、今まで隠れていた老翁の契約者の若い男へと剣先を向けた。
「ひ、ひいいっ」
老翁によって生気を消費し疲労して座り込んだまま男は後ずさった。
「覚悟はできていたのだろう?」
ヘルベルトの無情の剣が男の鼻先に向けられる。
「やめて、ヘルっ!」
赤川梨沙の声で戦鬼の動きが止まる。
「リサ、こいつは…」
「自分で言った事、忘れたの?」
その言葉で戦鬼の表情が濁り、渋々剣を納める。
「あ、ありが、とう…」
男が間の抜けた声で梨沙に目を向けた。
「あんたも男の癖にだらしないわねっ! 見逃して貰ったのだからさっさと失せなさい!」
「ひいいっ」
腰を抜かしながら男が逃げて行く。

「荒れているな」
「荒れてなんかないわっ!」
「そういうことにしておこう。私はこれが手には入れば文句はないのだがな」
ヘルベルトが老翁から出た石を拾い上げた。すると胸に吸い込まれて行く。
「これがレッドストーンね…」
ヘルベルトが顔を向けると梨沙が魅せられたような表情をしていた。ヘルベルトは鼻先で笑った。


梨沙はこのとき決意と確信を同時に感じていた。
(この事件を起こしている犯人はあたしが絶対に捕まえて見せる。そして、今夜の闘いで確信した。ヘルが味方なら誰にも負ける気がしない)

孤高の剣士は、彼女の判断で少し嬉しそうだった。

76携帯物書き屋:2007/02/09(金) 14:49:07 ID:mC0h9s/I0
どうも。自分の執筆速度の遅さに半ば絶望中の携帯です。まあ、携帯なのが原因なんですけど・・・。
やはり自分専用のPCが欲しい・・・でも買っちゃうと大赤字なので手が出せず。

最近他の方々の作品を見て赤石が急にやりたくなって復活しようと思ったのですが、
知り合いもほぼいなくなっていたので断念。しかし無言で引退しても未だにギルドに所属していたのは少し感動でした。
蹴るのが面倒なだけかもしれませんが。

なんだか独り言になってしまいましたね・・・汗
今度は明るいほのぼの話が書きたいなーとか思いながら書きましたがだんだん暗くなってしましました。

>>ドギーマンさん
オアシス完結お疲れ様です。それと今度はまた長編物の予感・・・・・・?
気になる言葉を残して死にましたしね、リムル様。
それと恋愛話が書けるのは恋愛経験が豊富だからなのでしょうか?

>>海風さん
昔のギル戦のワープ時に泣かされたことを思い出しました。
DAMEONとは何なんだろうか・・・。自分赤石の設定やらはほぼ知らないので分からなかったorz
何者なのだ・・・DAMEOM――――! ライ達は果たして勝てるのでしょうか? 続きをお待ちしております。

>>きんがーさん
いいな・・・幸一。PC買ってもらって。
日曜日はどうなるのでしょうか。先が読みづらい展開にワクドキしながら待ってまーす。

77ドギーマン:2007/02/09(金) 15:03:38 ID:s7gQQorw0
ミーシャと分断されたカインは、甲冑の男と対峙していた。
曲刀に小ぶりな丸盾、ショルダーパッドといった動きやすい装備。
青い髪に精悍な顔立ち、隆々とした体躯にはところどころ傷跡が見える。
カインは曲刀を抜き放つと、甲冑の男に剣を構えた。
甲冑の男、全身を黒金色の鎧に身を包み大剣を持って無言で立っている。
「俺の・・・・・名は、オルカート・・」
カインは驚いた。この男が喋るところは初めて見たからだ。
「カインだ」
「カイ、ン・・」
「奴らと一緒に居る割には、礼儀正しいんだな」
「エリプトの戦士は・・・・・一対一の決闘の際には、名を・・・名乗らなければならない」
「エリプトだと?」
カインは遥か昔に滅んだ大国の名が突然出てきたことに不審な顔をした。
「エリプト人の末裔か?」
「・・・・・」
オルカートは何も答えずに大剣を鞘から抜き放つと、鞘を捨てて剣を構えた。
カインとオルカートはしばし無言で向き合っていた。
カインは息をゆっくりと吐き、走り出した。

剣を構えて突っ込んでくるカインにオルカートは大剣を払うように振るった。
唸りを上げて空を斬る剣をカインは頭を下げて避けた。
頭上を剣が通過する。カインは立ち上がりざまに剣を振り上げた。
ガンと音を立てて鎧に剣が弾かれる、かなり分厚い鎧らしい。
剣や矢を弾くほどの鎧は4、50キロの重量があるという。
オルカートは手首反して逆に剣を払ってきた。
左側から迫る剣を盾で受け止めてカインは隙だらけな胸当と腰当の間に剣を滑り込ませた。
鎧の間から血が噴出し、筋肉を切り裂いて内臓を突き抜ける感触がカインの手に伝わった。
手応えあったとカインは思った。しかし、オルカートは全く苦痛の声をあげなかった。
「なに?」
カインは兜に隠れたオルカートの顔を見た。カインの眼とオルカートの兜から覗く眼が合った。
オルカートの眼は、生きている人間のそれではなかった。瞳孔が開き、生きている輝きを感じさせない。
はぁっとオルカートは深く息を吐いた。その息の臭いを嗅いでカインは顔を歪めた。
凄まじい腐敗臭が漂うのだ。あまりの臭さにカインは鼻と口を押さえて顔を逸らした。
そこにオルカートの蹴りが飛んできた。
「ふぐっ」
カインは吹っ飛ばされて地面に倒れこんだ。慌てて身を起こすと、
カインの頭目掛けてオルカートの腹に刺さったままだった剣が飛んできた。
「うおっ」
体を寝かせて剣を避ける。剣はカインの後方の地面に突き立った。
カインは立ち上がると、オルカートを睨んだ。
「なんだよあの臭い・・」
鼻に臭いがまだ残っていて、吐きそうだった。
カインの視線の先でオルカートは腰当に垂れた血に手を濡らし、じっと自分の血を見ていた。
カインは動かないオルカートの様子を見ながら、後ずさりして剣を拾いに行った。
オルカートは自分の血を見て手を振るわせた。自分の血に記憶を重ね合わせていた。
オルカートの脳裏によぎるのは、自分の手の内で倒れる女の姿。
自分の手で殺してしまった女の姿だった。女の血で塗れる手と、自分の血が重なる。
剣を引き抜くカインの前で、オルカートは血に塗れた手をぎゅっと握りこんで雄叫びを上げた。

「 う お お お お お お お お お お お ! ! ! 」

78ドギーマン:2007/02/09(金) 15:05:14 ID:s7gQQorw0
空気がビリビリと震え、カインはひるんだ。
「なんなんだよ一体。致命傷のはずだろ」
カインは剣を引き抜くと再び走り出した。
カインは気づいていなかった、オルカートの腹からの出血はすでに止まっていることに。
「があ!」
オルカートも走り込んできて、
軽く飛んでさっきより遥かに素早く剣を振り上げると、全体重をかけて右肩から斜めに振り下ろした。
ぶぉんと音を立てて剣が風を切り裂く。カインはあと一歩のところで踏みとどまった。
余りの剣の速さに盾が反応出来なかった。もし、あと一歩踏み込んでいたら殺されていた。
ダンと音を立てて爆発するように剣が叩きつけられた地面が弾ける。
体勢を立て直される前に懐に入ろうとするカインよりも早く剣が振り上げられる。
オルカートは頭上に大剣を振り上げ、大きく踏み込んでカインに垂直に振り下ろした。
カインは攻撃を先読みして左前に大きく踏み込んで避けた。そして、そのまま兜の下に剣を滑らせて首を切り裂いた。
オルカートの大剣が地面を割いて刃先を埋めた。
首を斬ったはずなのに曲刀にはこびり付く程度の血だけで、ほとんど首からは出血が見られない。
カインはそれに戦慄を覚えた。相手は人間ではない。
オルカートの剣が引き抜かれ、カインに向かって払い斬りが飛んできた。
カインの手元から盾が飛び、宙に浮いてオルカートの剣を受け止めた。
ガン!と鈍い金属音を立てて剣をぶつけられた盾がへこんだ。
盾を手元に戻して飛び退くカインの目の前でオルカートは唸った。
「グ・・・う・・・ウぅ」
喉を切り裂かれているにも関わらずもう声を出し始めている。
カインは踵を返して走り出した。
「不死身の化け物なんか相手にしてられるかよっ」
オルカートも甲冑をガシャガシャと鳴らしてその後を追いかけてきた。
カインは全速力で走った。軽装なこっちに比べて鎧を着ているオルカートは走るのに向いていないはず。
すぐに振り切れると踏んでいた。
しかし、オルカートのやかましい鎧を揺らす音が途切れたのが気になって後ろを振り返ると、
オルカートの姿がない。何か嫌な予感を感じてカインは目の前の地面に身を投げ出した。
ズン!と音を立てて地面に鉄の塊が落下してきた。オルカートだ。
へこんだ地面の中、ゆっくりと立ち上がり、ごふぅっと息を吐いた。
カインは倒れこんだ身体を仰向けにし、尻を地面につけたまま後ずさりした。
「ちょっと待てよ・・」
オルカートはゆっくりとカインのほうへ歩いてきた、足を引きずっている。
あの重量で10メートル近い跳躍を見せたのだ、足がどうにかなってもおかしくは無い。
しかし、それもじきに治る。
カインは震える足を言うことをきかせるように叩いて立ち上がると、
再び背を向けて走り出した。ガクガクと恐怖に震える足をなんとか前に進める。
「ウゥ」
オルカートは剣に魔力を込めて大きく振りかぶると、地面を突いた。
ドドドドドドドン!と突かれた地面から一直線に地面が吹き上がり、
突然足元から突き上げてきた衝撃にカインは吹っ飛んで倒れこんだ。
カインは悟った。逃げられない。
足が治ったらしいオルカートは、カインに向かって走ってきた。
そして、地面を蹴って跳躍すると剣を振り上げてカインに向かって落ちてきた。
落ちてくるオルカートを見上げて、カインは叫んでいた。

79ドギーマン:2007/02/09(金) 15:05:55 ID:s7gQQorw0
カインが横に身を転がせると、カインがさっきまで倒れていた地面が吹き飛んだ。
カインは息を震わせながらなんとか立ち上がった。
どうすればいい?どうすればいい?
考えるほどに混乱してくる。
無理やりに呼吸を落ち着けようとする。狙うはオルカートの首しかない。
いくら不死身でも。首を落とされたら死ぬ。昔話に聞いたことがあった。
そんな発想を出す時点で、すでに冷静ではなかったのかもしれない。
カインは近づいてくるオルカートの次の攻撃に備えて集中した。
オルカートは大剣を振り上げた。そこに一気にカインは懐に跳び込もうとした。
そのカインの目にオルカートの斧が3本見えた。幻ではない。
垂直に振り上げられた剣と、左に水平に構えられた剣、そして、真っ直ぐにカインに切っ先を向けた剣。
カインはその異様な姿に飛び込むのを躊躇して止まってしまった。
振りぬかれる三本の剣に咄嗟にへこんだ盾を構えると、カインはまた後方に吹き飛ばされた。
身体を起こして膝を突いているカインは目の前で自分を見下ろす鎧を見上げた。
無理だ。あんな攻撃されて懐に飛び込むどころの話じゃない。
オルカートは剣を振り上げた。今度は剣が何本も重なって見える。
やけに景色が遅く見えた。
死の直前にはそう見えるらしい。
カインは絶望していた。
しかし、彼は完全に生き残ることを諦めていたわけではなかった。
オルカートの顔に向かって盾を飛ばした。
盾はオルカートの兜にぶつかり、オルカートの兜は上を向いた。
オルカートの大剣は一瞬動きを止めたが、すぐさま振り下ろされた。
10本ほどの剣が高速で次々と降り注いで行く。
剣が叩きつけられ、地面が弾けていく。
そしてその剣を振り下ろすオルカートの身体の後ろで、オルカートの兜が地面に転がった。
カインは、はぁはぁと呼吸を荒げた。
首のない鎧が膝をついてガシャンと倒れた。
「や、やった」
そう言って倒れる鎧を見下ろすカインの下で、兜がかすかな唸り声を上げた。
「フ・・フ・・・・ォ」
「え?」
カインは兜を見下ろした。
見たくも無い兜の中身が、兜の外に転がり出ていた。
「う・・」
カインは顔を歪めて口元を押さえた。
なんと言おうか、ゾンビよりも新鮮な死体?
とても300年以上活動し続けたアンデッドとは思えない。
ガシャリと鎧が音を立てた。
「え?」
「ウ・・・ォォ」
カインの足元でオルカートの顔が呻く。
ノロノロと立ち上がろうとする首なし鎧。
カインはオルカートの顔を思い切り蹴飛ばした。
遠くに転がっていく首、ガシャガシャと立ち上がって首を追いかけていく鎧。
カインはオルカートを蹴った靴を地面にこすり付けると、
全速力で走り去った。
「一対一の決闘に不死身は反則だろうが」
そう言って広い地下通路を走り抜けた。

80ドギーマン:2007/02/09(金) 15:08:13 ID:s7gQQorw0
あとがき
>>61-66の続きです。

81ドギーマン:2007/02/09(金) 15:11:40 ID:s7gQQorw0
――何かを得るためには、相応の対価を支払わなければならない。
  ならば、己の持つ全てを捧げたとき、人は何を得るのか。


遥か昔に滅んだ大国、エリプト帝国。
かの国にはオルカートという戦士が居た。
オルカートは強かった。帝国のなかで指に数えるほどに。
しかし帝国滅亡の直前、悪魔に恐れをなした彼は妻を連れて逃げ出した。
砂漠を彷徨い、ブルンネンシュティグに落ち延びた彼らはそこで新しい人生を歩むことに決めた。
だが、彼らのあとに帝国から落ち延びてきた移民たちを見て、
オルカートは自責の念に襲われた。
自分は戦士として帝国のために最後まで戦うべきではなかったのかと。
たとえ死んだとしても、帝国の戦士として誇り高く死ぬべきではなかったのかと。
彼の後悔の心は日増しに大きくなり、やがて酒に溺れるようになった。
毎日酒に酔っては暴力沙汰を起こして帰ってくる日々。
それでも妻は彼が立ち直ることを信じていた。

ある日、オルカートの前にジャシュマと名乗る人物が現れた。
鉄仮面に顔を隠した正体の知れない人物。
ジャシュマは自分は悪魔だと言った。
そして、オルカートに交渉を持ちかけてきた。
もう一度、戦士として誇り高く戦える場所を提供する。
代わりに、オルカートが持つ全てを自分に捧げろと。
オルカートは思い悩んだ末に、再び戦士となることを選んだ。
そして自分を信じていた妻を、自らの手で、殺した。

約束を守ったオルカートの前に再びジャシュマは現れた。
オルカートは約束は守った。さあ連れて行けと言った。
しかし、ジャシュマはまだ捧げていないものがあると言った。
それは、彼の命だった。

ジャシュマはオルカートを殺した。
殺されて後、オルカートの死体はむくりと起き上がった。
オルカートはジャシュマに死すらも奪われ、悪魔の尖兵となった。

82ドギーマン:2007/02/09(金) 15:23:42 ID:s7gQQorw0
あとがき
不死身のオルカート君の過去です。

>キンガーさん
幸一と張を除いて全ての人物が日曜日に集結しようとしてますね。
どういう展開になるのか、楽しみです。

>携帯物書き屋さん
犯人との対決になるかと思いきや、予想外の展開でした。
リサを守るヘルがかっこいいです。

83第40話 令状:2007/02/09(金) 19:15:48 ID:NwlOS0pk0
「パパちょっと待って! 令状とらなきゃ動けないわよ!しかも後2日しかないし!」
美香は少し大きな声で話した。当然だろう、日曜に取り締まることなんて滅多にない。
緊急を要する時でもないかぎりほとんどないからだ。
しかも父から連絡があったのが木曜の夜。裁判所に行けるのは金曜の今日だけだからだ。
おまけに容疑者不詳ときている・・・無理な相談だった。
「まったくどうかしてるわよ!一応上司に相談してみるけど期待しないでよ?」

電話を切った田村は頭をかきながら佐々木に振り返った。
「お役所仕事って参るぜ。犯罪に曜日なんか関係ないっつーの!」
「そいつは困りましたねぇ。うちだって踏み込むときは土日はあんまり動きませんからね
月曜の日の出と共にってのが普通ですから」
「今回は容疑者不詳でしかも動く標的ときてる。職質から逮捕までつなげなきゃならん」
「万が一、書類上問題がない人間なら何もできませんしねぇ。」
「必要な居留証明書があったら手をだせないなこりゃ。入管うんぬんではないかもしれん」
「不必要なものも携帯しているかもしれませんよ?」
佐々木が思い出したようににやっとした。
「刃物だなw」
「銃刀法違反ですよ!それだけでも現行犯でいけますよ!」
「容疑じゃなくて刑事被告にできるなw」

ある程度、逮捕に目処がたったときに美香から電話が入った。

「もぅ! パパのせいだからね! あたし初めて裁判官に嘘をついたわよ!
もしこれが空振りだったら承知しないからね!」
「おぃおぃ。嘘をつけといった覚えはないぞ^^; ちなみになんていったんだ?」

「連続殺人の容疑者が不法滞在者で日曜にその動きがあるって言ったわよ。」
「本当の事じゃないか?」
「容疑は何も固まってないのよ?判ってるの?こういわれたのよ私
『それなら令状はいらない。管轄が警察だよ君。入管は出る幕じゃない』
それで、殺人の容疑はなくとも、間違いなく不法滞在者ですって言い返したわ」
「そうか・・・で、結果は?」
「とれたわよ、令状。あぁどうしよ?バレたらただじゃすまないわ;;」
「よし!よくやった!感謝する!」

取引に現れる人物が日本人か、もしくは合法滞在者で
しかも刃物等も所持していなかった場合、田村親子は首が飛ぶ。
しかし田村には確信があった。
奴は絶対に現れる。張の勘を信じようじゃないか。

美香は電話を切ってから少し微笑んだ。
「感謝する!」
か。生まれて初めてパパに言われた・・・って、そんな場合じゃないわよ!
空ぶったらあたしは終わりなのよ。もぅどうなっちゃうの?

田村親子の電話が終わるのを待って、佐々木は状況報告をした。
「例のUSBの件なんですがね、東にあるネカフェではどこも接続できないみたいです」
「なんだと?それじゃネットバンクに不正アクセスする手立てがないじゃないか?」
「もう一度チェックしてみます。ちなみに取引のある2件は両方とも待ち合わせ場所が確定しました」
「そこからツケルしかないのか・・・とりあえず、ネカフェの件を洗いなおしてくれ」
「はい。後、最後の1件なんですが、どうやら不成立に終わったみたいです。1,2度メールでやりとりして
以後、動きがありませんでした」
「了解。あとは当日の職質、身体検査の手順整理だな」

84第41話 予定は未定?:2007/02/09(金) 19:18:19 ID:NwlOS0pk0
キンガーさんから日曜の予定が決まったと連絡が入った。
「相手との待ち合わせ場所が決まったよ。君たちとはその前に先に待ち合わせしよう」
いよいよね。
相手を見つけられなかったらどうするのかしらと思い聞いてみた。
「一応、携帯の番号の交換をしてある」
なるほどね。現地についてから連絡とれるのね。

幸一が気になるのか質問してきた。
「日曜どうなってるのさ?w」
「相手とは午後2時に落ち合うことになったわよ」
「わくわくするな〜」
「あんたどうしても来れないの?」
「だめだよ。レポートだもん;;」
「ふwご愁傷様w」
「あいあいw」

とりあえずデルモちゃんにもメールして日曜の予定を伝えておいた。
彼女の興奮気味らしいw

85ドギーマン:2007/02/09(金) 20:29:36 ID:s7gQQorw0
カムラはいつものブルンネンシュティグの街の中で立っていた。
黒髪の小さな女の子は大事な友達を探してキョロキョロしていた。
往来を行きかうのっぺりとした顔のない人々。
カムラは彼らを気にかけるでもなく、ただ友達を探して辺りを見回していた。
カムラは駆け出した。
小さな身体を大人たちの足元に滑り込ませ、人間の柱を避けて走る。
友達の名前を呼んだ。
すると、カムラの目の前に通りの端っこに座り込むウルフマンが見えた。
カムラはウルフマンに向かって手を振って走り出した。
ウルフマンは尻尾を振ってカムラに笑みを向けると、地面に伏せて背中を示した。
カムラはウルフマンの大きな背中に飛び乗った。
ウルフマンの背中に揺られながらカムラは友達を探した。
小さなカムラよりも小っちゃい友達だから、カムラは何度も首を振って目をこらした。
ウルフマンが急に早く走りだした。
カムラは驚いて、慌ててウルフマンの背中にしがみ付いた。
どうしたのかと思って後ろを振り向くと、
のっぺり人間たちがウルフマンのように四つん這いでカムラ達を追いかけてきていた。
カムラは身を震わせてウルフマンの暖かい毛むくじゃらの背中に顔を押し付けた。
ウルフマンは優しい声でカムラに言った。
「心配しないで。ボクがついてる」
ウルフマンはさらに早く走った。
顔を上げたカムラの目の前に見えたのは、
何故か古都の街に無いはずの水路に切り取られた行き止まりだった。
カムラはウルフマンの背中にぎゅっとしがみ付いた。
ウルフマンは全くの躊躇もなく、水路の上へ飛び出した。
向こう側に届くかと思われたが、カムラ視界の中を向こう側の石畳が上へ通り過ぎた。
深い深い崖のような水路を落ちながら、ウルフマンは言った。
「大丈夫、しっかり掴まって」
水路の冷たそうな水面が目の前に迫ってきた。

ダタタン!!
激しい音を立ててカムラは目を覚まし、身体を起こして床の上で目を擦った。
またベッドから落ちちゃったらしい。
カムラの腕の中、ウルフマンぬいぐるみがおはようと言った気がした。

86ドギーマン:2007/02/09(金) 20:32:45 ID:s7gQQorw0
あとがき
前スレのカムラお散歩で登場させたカムラでまた書いてみました。
夢オチです。

87名無しさん:2007/02/09(金) 21:46:23 ID:mwo5Pd0M0
>>携帯物書き屋さん
来ましたね〜、ヘルの戦闘シーンが目に浮かぶようです。
やっぱり誰かを守るって姿が剣士だと思いますよ。剣よりも盾の存在感が大きくて嬉しいです。
メテオシャワーすら跳ね返すのはまさに戦神ですね。カッコイイ。

>>きんがーさん
> 「お役所仕事って参るぜ。犯罪に曜日なんか関係ないっつーの!」
なんか本当に現場の声、というかリアルさが伺えます(笑)
面白半分のぎゃおすちゃんたちと真剣な田村・佐々木ペアの二つの視点が面白いです。
警察二人、応援したくなるなぁ。

>>ドギーマンさん
オルカートの話、以前書かれていたヘルメルとバルガのお話を連想しました。
アンデッドとして生きるってどんな気分なんだろう・・バイオハ○ードすら怖がる私には想像は無理でした。
カインが生きててくれて何よりです。できれば、ミーシャとまた会えれば良いな・・なんてすぐ考えてしまう。
カムラとウルフマンの話も和みました。悲劇の後には和みというサンドイッチがドギーマンさん凄いですね(笑)

88ドギーマン:2007/02/10(土) 23:07:03 ID:s7gQQorw0
そいつは両手に余るほどの大きさの卵形の赤い石を抱いて立っていた。
背の低い、ダボダボのコートと革ズボンに身を包み、身の丈に合わない大きな手袋と靴。
肌を一切露出させぬ姿だった。子供が大人の格好をして遊んでいるとも取れる。
その顔は奇妙な形状の兜に隠され、格子状の闇間から奇怪な眼光が漏れている。
その小人、ジャシュマの足元でガーゴイルのような赤い悪魔が事切れていた。
ジャシュマにだけ見えていた。石にすがる様に擦り寄る赤い悪魔の魂が。
ジャシュマが「消えろ」とだけ言うと、その魂は吹き消される蝋燭の火のようにかき消された。
ジャシュマはククっと笑って赤い石を撫でていた。
「その石、よこしなさい」
背後からの声にジャシュマは振り向いた。
「やあ、無事だったのかい。と、いうことはリムルは死んだのかな」
「ええ」
「そうかそうか、ならあとで死体を回収しなくてはな」
ジャシュマは男とも女とも分からない声を弾ませた。
「灰になったわ」
「・・そうか、残念だ」
ジャシュマは声だけで残念がって見せた。
ミーシャは槍を構えた。ジャシュマを見るその眼は真っ直ぐで、冷たく鋭かった。
ジャシュマはミーシャに向き直った。その胸に付けた穴の開いた太陽を模ったような飾りは、
その中の闇がまるで逆にミーシャを覗き込んでいるようだった。
「カイン君はいいのかい?彼ではオルカートには勝てないよ」
「どうでもいい」
「つれないんだな」
「もう、黙って死んでくれる」
ミーシャは走り出した。
「悪魔を殺した女か。面白そうだ」
ジャシュマは低く笑った。

「ウゥオォォォ・・」
遠くから聞こえる叫び声、ガシャガシャと喧しい鎧の音。
「くそ、しつこいヤツだ」
どこまでも追いかけてくる不死身の化け物にカインは辟易していた。
おそらく、ジャシュマを殺すしかオルカートを止められる方法は無い。
しかしこのままジャシュマのもとへ向かっても、二人を相手にしなくてはならなくなる。
なんとかオルカートを振り切る方法を考えなくてはならない。

89ドギーマン:2007/02/10(土) 23:07:43 ID:s7gQQorw0
「いやぁ!」
槍を振り上げてジャシュマに突撃するミーシャ。
「その程度で僕を殺せると思っているのかい?」
ジャシュマの言葉は不思議な響きをもってミーシャの鼓膜を振動させた。
すると、ミーシャの身体からガクンと力が抜けていった。
突然のことに驚いて、ミーシャはジャシュマの前で動きが止まってしまった。
ジャシュマの右手が袖の中に引っ込むと、袖の中から剣が伸びてきた。
ミーシャは身体を反らして剣を避けると、よろよろと後退した。剣に斬られて頬を血が伝う。
身体が重い。まるで力だ入らない。疲れているとかそういう類のものではない。
「ふふふ、お疲れのご様子だね」
「くっ、なに?」
「ははは、僕は魂を支配すると前にも言ったろう?言霊を操つることなど造作も無い」
そう言って石を持った左手は袖の中に引っ込み、次に手が出てきたときには石は消えていた。
今度はジャシュマがふらふらのミーシャに向かって走ってきた。
ジャシュマの右袖から伸びてきた剣を槍で防ぐと、ミーシャはたたらを踏んで後退した。
「あまり動かないでくれないか。戦うのは苦手でね。あまり傷をつけずに殺してあげたいんだ」
ミーシャはリムルの言葉を思い出した。
「死体を、どうするつもり?」
ジャシュマはクククと笑った。悪魔という連中はこんなにもよく笑うものなのだろうか。
「死んでからのお楽しみさ」
そう言うと、ジャシュマの足元から黒い霞が湧いた。
そして、黒い霞を剣に纏わり付かせて槍で地を突いて身体を支えているミーシャに向けた。
「もう、この剣にほんの少しでもかすれば君はそうやって立っていることも出来なくなる」
「いつまで持つかな?」
そう言うと、ジャシュマは低く笑ってミーシャに向かって走ってきた。

「グゥゥ・・・・カイ、ン」
カインは再びオルカートと対峙していた。
正直気が進まなかったが、このままこの化け物を連れて走り回っているわけにもいかない。
オルカートが首を拾いに行ったのを見て、カインには思いついたことがあった。
カインはベコベコにへこんだ盾を前に構え、臭いがこびり付いてしまった曲刀をぎゅっと握った。
「お前のせいで装備一式買い替えだ」
カインがそう言ってオルカートを睨んだ。
「ウオオオオオ!!」
オルカートが雄叫びを上げて走ってきた。
「うおおお!!」
カインも叫んで走っていった。

90ドギーマン:2007/02/10(土) 23:08:37 ID:s7gQQorw0
「ほら、ほら!」
振り回される剣を防ぐたびにミーシャはよろけている。
戦うのは苦手と言うだけあって、ジャシュマの動きは隙だらけだった。
しかし、思うように力のこもらない身体では攻撃にも転じられない。
「避けてばかりでなく、少しは攻めてきたらどうだい」
ジャシュマの言葉にミーシャは悔しがった。しかし悔しがっても力が入らなくてはどうにもならない。
『あいつにもし負けて殺されることになったら、
 そのときはどんな方法でもいいから、自分の死体は残さないようになさい』
こんなときにリムルの言葉が思い出された。自分は殺されるというのだろうか。
『永久に地獄を見ることになるわよ』
地獄ならもう見ている。
ミーシャの脳裏に過去の記憶がよぎった。
ズタズタに切り裂かれて剣を突きたてられた父、黒い灰になって床に張り付いたカイン。
そこで何故か、あのカインの顔が出てきた。
殺された恋人のカイン、復讐の手がかりとして現れたカイン。
二人は名前は同じでも全くの別人だった。
しかし、ミーシャはそこに運命を感じていた。
復讐の運命を。
「こんな状況で考え事とは余裕だね」
ミーシャははっとして迫る剣を槍で受け止め、倒れこみそうなのをなんとか堪えた。
「それなら」
「目が見えなければどうかな」
ジャシュマがそう言うと、ミーシャの視界が突然闇に包まれた。

カインはオルカートの激しい斬撃になかなか近づけないでいた。
オルカートは不死身を盾に防御など考えずに全力で剣を振り切ってくる。
もうさっきみたいな不意打ちはもう効かないかもしれない。
カインは腹を括ると、ボロボロにされた盾を宙に浮かせた。
曲刀を水平に構え、両手で柄を握り締めるとオルカートに向かって走り出した。
オルカートは頭の上に剣を振り上げ、剣先が後ろの地面に付きそうなほどに振りかぶった。
「ガァ!」
「うらぁ!」
目が追いつかないほどの速さで振り下ろされたオルカートの剣を宙に浮いた盾が受けた。
盾が鈍い音を立てて剣に二つに割られた。
カインは構わず曲刀をオルカートに向かって振りぬいた。

突然の暗闇にミーシャは戸惑っていた。何も見えない。
瞼が閉じたり開いたりする感覚はある。ただ目が見えなくなっている。
身体は相変わらず重たく、ミーシャは平衡感覚を失って思わずよろけて膝を突いた。
これではもう避けることもままならない。
近づく気配を感じとって反撃に転じるしかない。
ミーシャは槍を握って、見えない目の瞼を閉じ、意識を集中した。
そして、背後に突如現れた気配に振り向いて槍を突き出した。
次の瞬間、すっと左脇腹に鋭い痛みを感じた。
「かっ・・・・は・・」
ミーシャは身体から力が抜け、うつぶせに倒れた。
冷たい土の感触がミーシャの肌にへばり付いた。
脇腹の傷は少し斬られた程度の浅いもの、決して致命傷ではないようだ。
「ははは、自分が何を指したか見てみるかい?」
ジャシュマの声が響くと、ミーシャの視界に光が差し込んだ。
ぐいと乱暴に髪を引っ張られ、ミーシャの顔が持ち上げられた。
ミーシャの目に入ったもの、それは槍に貫かれて立っているリムルの姿だった。

91ドギーマン:2007/02/10(土) 23:09:24 ID:s7gQQorw0
ミーシャは愕然として声も出なかった。いや、声を出す力もなかった。
「驚いたかい?まあ、偽物だけどね」
リムルの姿はふっと消えてガランランと槍が地面に落ちて跳ねた。
ジャシュマはミーシャの顎を持ち上げ、鉄仮面を彼女の顔に近づけた。
ミーシャの視界いっぱいに鉄仮面の格子の中の闇が広がった。
「やはり、先に話しておこうか」
ジャシュマは何も喋れないミーシャに構わず話し始めた。
「君はこれから死ぬ」
そんな事はとっくに覚悟が出来ていた。
ミーシャは全てを失ったあの日から自分は死んだと思っていた。
「ただし、君の魂は死んだ君の肉体に留まることになる」
「君は痛みも感じず、どんな傷を負っても治る。しかし、肉体の腐敗はゆっくりと進んでいく」
リムルはこれを恐れていたのだ。
「君は僕の魔力がある限り永遠にその肉体で生き続けることになるんだ」
それなら、その肉体でお前を殺してやる。ミーシャはそう思った。
すると、まるでミーシャの心を読んだかのようにジャシュマは言った。
「リムルならともかく、君には無理だ。現にこうして無力に倒れている」
「それに、人質も居る」
「君のお父さんだよ」
父はとっくに死んでいる。死んだ人間が人質になるわけが無い。
ジャシュマのくぐもった笑いがミーシャに聞こえた。
「よく耳を澄ませてごらん」
ジャシュマは自分の胸の穴にミーシャの顔を近づけた。
「ミー・・シャ、ミーシャ・・」
かすかにだが、それは紛れもない彼女の父の声だった。
再びジャシュマはミーシャの顔をぐいと持ち上げた。ミーシャの瞳はぶるぶると震えていた。
「今のは少しだけ僕の肉体を貸してあげた。分かったかい?
 君のお父さんの魂は、死んだときからずっと僕の中にある」
「つまり、君のお父さんの魂を生かすも殺すも僕次第なんだよ」
「いや、生かすも殺すもは適切じゃないな。消すか、消さないかだ」
ミーシャの顔をさらにジャシュマは鉄仮面を触れそうなほどに近づけた。
「魂が消えるっていうのを、死ぬのと同じように考えないでくれよ。もっと恐ろしいことだ。
 何も感じなくなるとか、苦痛に苦しむとかそんなことでもない。ただ、完全な消滅だ」
ジャシュマの闇がミーシャの前に広がった。
ミーシャは心が冷えるという感覚を初めて感じていた。
心臓を締め付けられるような、体中が芯から冷えて震えている。
ミーシャの中の奥底に向かってジャシュマの見えない冷たい手が侵入してくる。
「分かったかい?君はもう僕に逆らえないんだよ」
ミーシャの細い息が震えていた。
心の中の、何かとても大切なものに向かってジャシュマの冷たい手が伸びてくる。
身体が、心が、魂が寒さに震えた。ミーシャは普段意識できない自身の魂の存在を感じた。
「さあ、もうすぐ君の魂に手が届く。どうだい?生きながらにして魂に触れられようとする感覚は」
ミーシャは何も答えられなかった。ただ、ひどい孤独感と喪失感を感じていた。
「人間の精神なんて脆弱なものだ。ただ朽ちていく自身の肉体を見つめさせて、
 この先に永遠に続く時間を見せつけてしまえば、君達人間の心とやらは簡単に壊れてしまう」
「オルカートでさえ10数年で壊れてしまったからね。さて、君はいつまで持つかな?」
ミーシャの精神をジャシュマの闇が覆おうとしていた。
「そこまでだ、彼女から離れろ」
ミーシャの心にカインの声が響いた。

92ドギーマン:2007/02/10(土) 23:18:32 ID:s7gQQorw0
あとがき
ジャシュマ登場です。で、続きます。

>>87
鋭い・・・・。
確かに私の中ではバルガ≒オルカートです。

93名無しさん:2007/02/11(日) 01:08:54 ID:uSJzr8SQ0
>>ドギーマンさん
良いところですね、続きがとても気になります。
ヘルメルとバルガの話は気に入っていたので記憶も鮮明でした。
ジャシュマ、味が出ていて良いキャラです、個人的に好きかもしれない(笑)
ネクロはRSではやった事は無いですが、やっぱり戦闘は苦手っぽいですよね。

94第42話 劉、再び:2007/02/12(月) 01:52:36 ID:vX9Amrn60
「田村君、日曜日は他に誰か必要かね?」
美香は入管の上司に言われた。まずいなぁ・・・。
「今回のは警察の要請だよね?必ず身柄を拘束するためにこちらの力を借りたいと」
「はぃ。あくまで補助的になので、現場の頭数は足りています。こちらからは私一人で十分だと思います」
「そうですか。休日出勤ごくろうさまですね。がんばって下さい」
他人事のように上司は言う。
実際、今回は逮捕者が出ないと、この上司も呑気に構えていられなくなるのに。
「手順は、おそらく最初にうちで身柄を預かって、その後警察に引き渡すことになるでしょう」
「劉という学生の時と一緒かね?」
「そうですね。劉はどうなっていますか?」
「何も話さないらしい。おそらく強制国外退去で落着でしょう」
「服役もないんですか?」
「不正アクセスも被害届けがろくに出ていないんだよ。口座のタイムキーも彼が殺人に
関わった証拠にすらならん」
「ただのオーバーステイ扱いだけですか?」
「いや、二度とこの国の地面は踏めない」
「それでも処分が甘いと思います」
「この国はイギリスとは違って、法律が時代にあわせて変化しないんだよ」
「融通がきかないんですね」
「立法が司法に改正を求められているような時代だ。それにね融通のきかなさは、万人に平等とも言える」
「・・・劉はいつごろ釈放されてしまうんですか?」
「判りませんね。早ければ10日以内でしょう。もう容疑もないですから」
「身柄は現在、電子センターの方ですか?」
「そうだ。しかし全ての事で否認している。田村君、こんな状況でも土日に仕事したいかね?」
「え?」
「外国人は多少の犯罪を犯してでも日本で稼ごうとする。何故だか判るかね?」
「リスクが少ないからですか?」
「リスクはあるさ。答えは簡単だよ。祖国の刑務所より楽だからさ。日本の刑務所はアジアでは最高に
素敵な刑務所なんだよ。囚人同士のもめごとも少ない、食事はきっちり当たる。まず、死なないんだよ
おまけに懲役がとんでもなく楽なんだよ。・・・・そして簡単に騙せる国民。まさに黄金の国だよここは」
「一体何が・・・・」
「初犯に優しいのがいけないんだよ。全ての原因はそこだ。ほとんど国外退去で終わる・・・しかも税金でだ
こんな状況でも、土日をつぶして仕事するのかね?」
「緊急ですから!」
「それでいい。緊急のものはそれに合わせ、そうでないものは金曜までに済ませる。そうやって追うものは区切りが
あるほうがいい。追われる者には最初から休日はないのだからね。ちなみに刑務所にも休日があるんだよ。知ってた?」
「知りませんでした^^;」
「ま、いいでしょ。・・・日曜日の拳銃の携帯を許可する!必ず持っていくように!」
「はぃ!」
「しかし・・・君の親父さんも博打打ちだねぇ」
「え?」
「君が裁判所で嘘をつくとは思わなかったよ。こちらから出来る限りの筋はとおしておいたから
良かったけどね。先日、田村刑事の部下の佐々木君とやらが来て、事の次第を全て話していって
くれたんだよ。うちとしてはGOサインだせる程じゃなかったけど、個人としては納得出来たからね」
「まずいですよね・・・」
「おかげで嘘の上塗りをしましたよ。裁判所が信用してくれたでしょう?」
「するとまさか?」
「田村君、君のせいで僕も首の危機ですからねwこれで組織まで辿り着ければいいんですがね^^」
孤立無援ではなかった事が判って、少しほっとした美香だった。

95携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:55:41 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>73-75

『孤高の軌跡』

瞼にカーテン越しの陽光を感じたが、目を開けるのが辛い。
寝返りを打ち陽光から避ける。ちょうど目覚ましが鳴り出した。
…………うざいから殴り飛ばす。
感触からして高く飛んだらしい。あ、何か音がした。
暫しの間の後、頭に激痛が走る。
「〜〜〜〜!」
諦めて重たい目を開くと、視界には宝石の様な瞳があった。
それはメイド服を着ていて、小さくて俺の隣に横たわっていた。
「うおっリディアアァッ!! 誰がこんな酷い悪戯をっ!」
自らの人形に話しかけてみる。いかん、末期だ俺。
その前に何故こんな事になっているか考えてみる。
……………………あ、俺か。
起き上がり落ちてきた人形を元の場所に戻してやる。さて、学校の準備でもしますか。

朝食の食パンをくわえながら着替えていると、ふとある物が目に入った。
――――銀色のエア・ガン。
それは、以前ニーナから謎の力で強化してもらい、威力なら短銃に匹敵するほどの破壊力を誇る立派な銃だ。
恐らくこれがなかったら俺は吉沢にやられていただろう。
これを見ているとついある顔が蘇ってくる。
「思えばあいつが来たのは四日前なんだな」
つい零してしまう。ま、正確には共に過ごした時間は二日間なんだけど。
――――と、思わず感傷に浸ってしまった。
エア・ガンを視界の隅に追いやり、再び準備を始める。
何だか気分が朝からブルーになっているのでこんな時は良い記憶でも思い出して忘れよう。

えーと……………………特にない。
まだだ、最近じゃなくてもっと古い記憶を!
うーん……………………ないな。
何だか急に自殺してきたくなってきた。これでよく生きて来れたな、俺。
小学校三年生の記憶まで遡ってやっと良い記憶に辿り着くとか異常だ。

再び死にたくなっているともう結構な時間になっていた。
急いで学生服に着替えると、今時髪のセットもせずに家から飛び出した。

玄関を開けて広がる景色。それはマンション六階ならではの絶景。
小鳥が群れをなして飛び、仲良し同士の学生達がはしゃぎながら学校へ向かう光景。
俺はこの光景が好きだ。
清々しい空気を吸いながら軽く伸び。それから叫ぼうとしたがご近所さんがうるさそうなのでやめておこう。

暇潰しに小石を蹴りながら歩く。この時間にもなると見渡す限り学生ばかりだ。
吐き気がするほど。
因みに俺が住んでいるマンションはちょうど都市と住宅街の境界線みたいなんだが、向こう側と比べて本当にこっち側は何もない。
俺の行き付けの怪しい店も向こう側にある。因みにリディアの故郷も向こう側。
ここで携帯を取り出し時間を確認してみる。
みるみる血の気が引いて行く。見渡すとさっきまで吐き気がするほどいた学生が全くいないっ!
無言でダッシュ。以前知人に「お前の走り方は女走りだ」と言われた記憶を思い出したが構わずダッシュ。

「セ…セーフ」
過呼吸気味に息を吸いながら靴を履き替える。
これも俺の運動不足と、来るまでに交通事故に一度なりかけ、犬の糞を二回発見し、猫の死害を一匹見てしまうような不幸な俺を生んだ母さんのせいだ!

悪態をつきながら廊下を歩き、やる気無さげに教室の扉を開ける。
黙って鞄を机の脇に掛けて、授業が始まるまで寝てようかと思っていたら嫌な顔が視界に入ってきた。
前の席の佐藤洋介だ。
「ねえねえ矢島ぁ」
人懐っこい笑みを浮かべながら話しかけてくる。
俺はこういう奴が一番嫌いだ。
「何?」
俺の数少ない特技の一つ、“無関心な態度”が発動した。
それを食らっても洋介は意を介した風もなく続けた。
「ねえねえ矢島知ってる?」
悪戯な笑みを向けてくるが俺の“無関心な態度”は止まらない!
「昨夜さ、また通り魔事件が起こったんだって」
「え――――?」

96携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:56:53 ID:mC0h9s/I0
今聞いた言葉に思わず呼吸が止まる。
「あれ? 知らなかったんだ。今朝のニュース見なかったのか? どこもそのニュースでいっぱいだったのに」
いかにも信じられないといった表情で俺の顔を覗き込んでくる。
俺は動揺を隠すように出来るだけ平静を保った。
「そ、それはどんな事件だったんだ?」
「だから通り魔事件だよ。殺人が付くけど」
「詳細を教えてくれ」
「俺も詳しくは知らないけど、とにかく酷い殺し方だって。やり口からして金曜のと同一犯って線が濃いらしいよ。
綺麗に腕を断ち切るなんて余程の者だろうね」
同一犯? そんな訳あるか。現に犯人であるラルフ=カースはニーナに倒されている。
よって通り魔事件はもう起こらない筈だ。
俺の推理は続く。

いや、待てよ。そんな偉業ができる人物はまだいるじゃないか。もっと身近に!
気がつくと洋介が俺の顔をまじまじと見ていた。
「そ、そうか。サンキュー」
それを聞いて満足したのか、洋介は立ち上がると俺から離れ、元の友達の所に歩き出した。
最後に「矢島も気をつけろよ」なんて言葉を残して。

授業が始まったが俺の思考はずっと同じ事を考えている。
やっぱり、人から何かを奪う事をあんなに嫌がっていたニーナがあんな事をする筈がない。
なら別に犯人が?
思考をそれに絞ってみる。思い出せ、ニーナが残した言葉を。思い出せ、思い出せ、思い出せ。
――――――!
ふと、ある言葉が脳裏を過った。
『そうと言っても砕けた欠片よ』
そうだ。忘れていたがニーナは砕けたレッドストーンという物の欠片を探していたんだ。
更に記憶を高速検索する。
『大きさからして5分の1程度ね』
ニーナは欠片を核にして動いていた。あのラルフも同じだ。
…………そうか。
仮定に過ぎないが俺の中に確信めいた物が浮かんだ。
“アレ”はまだニーナを含め“四人残っている!”
だがその仮定では矛盾が生じる事に気づいた。
――――なら何故ニーナは俺の前から姿を消したのか?
それだけが疑問だ。だがとりあえず現場に行ってみよう。


授業が終わり、俺は今昼休みに洋介から聞き出した現場の公園に向かっている。
その公園は都市と住宅街を繋ぐ広い公園だ。
ただ広いだけという謎の公園で、主に利用者は都市から近道に使う人か、若いカップル。

無駄な思考を巡らしていると間もなくその公園に着いた。
中では警察官達が写真やらを撮ったりと黙々と捜査を行っている。
その中心の白い布を被っている物が恐らく犠牲者なのだろう。
入口には『keep out』と書かれたテープが貼られ無関係の人物の侵入を防いでいる。
その外ではマスコミやら野次馬やらがうじゃうじゃしていて気持悪い。

俺はマスコミや野次馬を押し切って最前列まで来てみた。
「――――!!」
突如激しい違和感が俺を襲うっ!
確かに現場からは激しい異臭や黒い血のりが地面に付着しているがそんな物じゃない。もっと暗い物。
急に視界が闇に包まれる。否、あの白い布しか見えなくなっただけ。
違和感はそこからではなかった。もっと先。
気づくと白い布から細長い微光が地面を伝い、ずっと先まで続いていた。
「そうか。そこか」
意識もしていないのに言葉が漏れた。
自然と足が動き、何かに手を引かれるように進む。
テープを跨ぎ、更にその先の犠牲者の前まで進み――――――
「ちょっと。ここは一般人立ち入り禁止だよ」
「――――――」
両肩に何かが触れる感触を感じると、視界が復活し、俺の両肩を押さえた警察官が居た。
みるみる冷静な思考が戻ってくる。
「君、聞いてる?」
「え、あ……すいません」
気づくとその警察官だけでなく、その場の全員が視線を俺に向けていた。

この状況に気づくと、俺の顔は沸騰した。
無言で回れ右をしてテープを飛び越え野次馬達をかきわけて走る。
この速さ世界新じゃね? とか考えていられるから落ち着いてきた証拠だ。

何とか遠くまで来た。
そこで俺は微かな頭痛に気づいた。
気にせず歩いているとさっきと違う違和感が駆け巡った。
それは頭上から。
勢いよく振り向くが、何もない。
気のせいかもしれないが、金色の残光が見えた気がした。

97携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:57:41 ID:mC0h9s/I0
重い足取りで帰宅すると、初めは何ともなかった頭痛が強くなってきていた。
こんなんじゃ料理にもなりそうにないので今日の夕飯は――――空気。

流石にきつくなってきたのでベッドに沈むように倒れこんだ。
無言でひたすら天井を眺めていたら急に瞼が重くなってきた――――……。

「たっだいまぁー!」
謎の奇声で俺は目が覚めた。
時計を見てみると時間は11時を過ぎていた。
程なくして扉が開かれる音。
「たっだいまぁー! 翔太!」
俺の頭の温度は入ってきた人物の表情や態度により急速上昇した。
「今更何だよ、母さん」
眼前の人物は俺の母親だった。だが帰ってきたのは数ヶ月振りだ。
「冷たいわねぇ。お腹減ったから翔太、ご飯」
「それくらい自分で作れよ」
自分でも信じられない程の冷たい声が漏れていた。
それにより母さんは少し表情を歪めた。
「なによぉ、人がせっかく翔太の為に帰ってきてあげたのにぃ」
その一言で俺の頭の温度は急速上昇し遂には沸点を通り越した。
「俺の為に帰って来ただと? ふざけんなっ! どうせまた新しい彼氏に振られただけなんだろうが。
その軽い性格が癇に触るんだよ。判ったらさっきと失せろ」
気がつくと俺は荒い息を上げていた。
母さんも同時に俺を睨み返していた。
「私がこうなったのも――――父さんが死んだのはあんたのせいでしょう?」
それに俺は何も言い返せなかった。
ただうつ向き、噛み締めるように言った。
「いいから消えてくれ……」
母さんは「ふんっ」と鼻を鳴らし部屋を出ていった。

俺はしばらく下を向いたままだったが、やがて睡魔が襲ってきたので静かに眼を閉じた。

98携帯物書き屋:2007/02/12(月) 10:58:25 ID:mC0h9s/I0
同時刻――――赤川梨沙は電子画面が映し出すモニターを睨みつけていた。
“今まで聞かなかったが、リサ、君は何をしているのだ?”
梨沙の背後から姿無き声が聞こえた。
それに対し梨沙は表情を変えずに答える。
「パソコンよ。この世界の便利な機械。今それでこの事件の事をまとめているのよ」
梨沙がキーボードを弾くとモニターはたちまち地図に変わった。
背後から感嘆の声が響く。
「これがこの町の全体図。それでこれが――――」
梨沙はマウスを動かし点を二ヶ所に付ける。
「事件があった場所よ。それで次にこの二点を結ぶわ」
付けられた二点が線で交わり、その中心に更に点が付く。
次いで中心点から他の一点を半径に円が描かれた。
“これは?”
「あたしの仮定でしかないけど、この円の範囲に犯人の住処はあるわ」
“ほう。と言うと?”
「もしこれらが同一犯だとし、住処が同じだとしたらわざわざ遠くまで出向く意味は無いでしょう?
だとしたら犯人の住処はこの二点を結んだ線の中央辺りの可能性が高いわ。
仮にこの中央の点を住処とすると金曜は一点の、住処から北へ。昨夜はもう一点の、住処から南へって考える事も可能よ」
再び背後から感嘆の声が上がる。
“確かに、言われてみればそうだな。わざわざ遠くへ出向く道理はない”
しかし梨沙は重い息を吐き出した。
「でも情報がこれだけじゃ物凄く不確かよ。ここらに行っても気配を感じる可能性すら危ういし」
“それもそうだ”
背後からは納得したような声がした。
「でも、今夜は行かないわ」
“む”
「だって貴方浪費しているでしょう? 昨夜の戦闘で」
背後からは重い声が響く。
「だから明日行くわ。この、円の中に」

99携帯物書き屋:2007/02/12(月) 11:31:56 ID:mC0h9s/I0
こんにちは。

さて、この前久々にINしてGv出てみたのですが・・・・・・久々のせいか楽しかった!w
自分はBISで出たのですが、何とか着いていけました。
やっぱり赤石のGvは楽しいです。

今回はショウタを中心に書きました。(主人公なんですけど)
そのせいか日常生活でかなり赤石とは離れてしまった・・・。

>>ドギーマンさん
ミーシャとカインの2つの戦闘。どっちもどうなるか気になります。

>>きんがーさん
思わず「あなたは警察官ですか!?」と聞きたくなるほど詳しく書かれています。
いやぁーすごい。警察達を応援してます〜

100名無しさん:2007/02/12(月) 12:56:29 ID:39Bhlv/s0
>>携帯物書き屋さん
ショウタ君の普段の生活ぶり(?)が読めて面白いです。
お母さんとの会話もそうですが、彼も何か過去があるみたいですね。
話が進む上で明らかになりそうで楽しみです。

それと、Gvお疲れ様です。私はBISや支援職は苦手ですorz
Gvも未経験ですが、楽しいんでしょうね。機会があったら参加してみたいとは思っていますが(苦笑)

101ドギーマン:2007/02/12(月) 13:31:48 ID:s7gQQorw0
左手にミーシャの髪を掴んだまま、ジャシュマはカインに向き直った。
「生きていたのかい」
「まぁな」
「オルカートはどうしたのかな?」
「こいつのことか?」
カインは脇に抱えていた鎧の右足の膝下を地面にガシャンと落とした。
「ロクでもねえもん作りやがって、臭い上に重たいんだよ!」
カインは足元でガシャガシャと喧しく動いている足を靴の裏で蹴った。
「お前の自慢のゾンビ野郎はずっと向こうでズリズリやってる。あとはお前を殺すだけだ」
そう言ってカインは曲刀を構えた。
盾は捨てたらしく、無くなっていた。
オルカートとの戦いでついたのか、身体のあちこちが砂にまみれ、擦り傷だらけで所々腫れていた。
走ってきたらしく、息を荒くして汗を額に浮かべ、疲労が目に見えていた。
「ふむ・・・」
ジャシュマは動いている鎧の足を見下ろした。
動けないで居るミーシャは力なくジャシュマに髪を引っ張られながらカインを見上げていた。
「折角いいところだったのに、仕方ないな」
そう言ってジャシュマはミーシャの顔を地面に落とした。
ミーシャは小さく呻いて冷たい地面に頬を押し付けた。
「僕はね、邪魔されるのが嫌いなんだ。こういういい所で水を注されるのは特にね」
ジャシュマは鉄仮面の奥の冷たい闇をカインに向けて、抑揚の無い声で言った。
「カイン君、僕の邪魔をしたことを後悔させてあげるよ。こう見えて今僕は怒ってるんだ」
「わかんねえよ」
「・・・・・・君は殺しても、君の魂はすぐには消さない。
 低級なアンデッドにでも憑依させてあげるよ。
 そして、君の目の前で、君の死体をオルカートに踏み潰させてやる」
「ああそうかい。なら俺はこの臭い剣をお前の死体に突っ込んでやるよ。俺も頭にきてるんだからな!」
カインは走り出した。ミーシャは地面に顔を伏せたまま、逃げてと言えなかった。
「人間風情にこの僕が殺されるわけがないだろう」
ジャシュマの発した言葉の魂はカインの鼓膜を震わせて力を奪った。
「う・・く・・・」
ミーシャと同じようにカインは突然の身体の異変によろめいた。
そこに黒煙を立ち昇らせてジャシュマの剣が迫ってきた。
カインはジャシュマの剣を曲刀で受け止めると、よろめきながら後退して剣と膝を地に突いた。
「ほら、終わりだ!」
カインに追いすがって右袖から生える剣を振り上げるジャシュマ、
カインは地面の土を握ってジャシュマの鉄仮面の格子の中へ放り込んだ。
「ぐっ」
格子を押さえてひるむジャシュマからカインはよろよろと立ち上がって離れた。
ふらふらと定まらない足を踏ん張ると、カインはにやりと笑った。
「へっ、ちゃんと眼はあるんだな」
顔を押さえるように鉄仮面に手袋を当ててジャシュマは呻いた。
「くう・・」
そう呻くと、ジャシュマの足元から立ち昇る黒煙がより激しく、濃さを増した。
3人の方に向かってガシャリガシャリと彼方から小さな金属音が近づいている。
ただ一人そのことに気づいていたミーシャは喋る力もないことに無力感を覚えていた。

102ドギーマン:2007/02/12(月) 13:34:12 ID:s7gQQorw0
ジャシュマは鉄仮面を押さえ、首を振って呻いたいた。
「ははは、眼を擦りたかったらそれ外せばいいじゃねえか」
カインはジャシュマの様子を見て笑っていた。
「ぐ・・うぅ・・・。なら、君の眼も見えなくすればいい」
「む・・」
急にカインの眼が暗闇に包まれた。
「ははは、どうだい、これでお相子・・」
「ああそうか、良かったな」
カインの剣がジャシュマの左肩を切り裂いた。
「なっ・・」
カインの視界に光がすぐに戻った。
カインは自分が振った曲刀に振り回されるようによろけると、また膝を突いた。
「なんで・・・」
「くそ、外したか」
カインは疲れたように膝に手をついて腰を上げてジャシュマに向き直ると、なんとか倒れまいと堪えていた。
「馬鹿かお前、ごちゃごちゃ喋ってないでとっとと動けばよかったんだよ」
ジャシュマの切り裂かれたコートの左肩からは中身は見えず、ただ黒い闇が覗いていた。
「やっぱり、お前は戦い慣れてないな。今までオルカートやリムル任せで自分じゃ動かなかったんだろ」
「く・・・」
ジャシュマは図星を突かれて立ち上がると、右袖の剣をカインに向けた。眼は見えてきているようだ。
「ほんの少しでもかすればいいんだ。それだけで君はお終いなんだ。
 戦い慣れてるからってなんだというんだい?
 そんなふらふらで、もう剣を振るう力も残ってないんだろう」
カインの額に汗が滲んだ。重たい身体を支えているだけで体力を使う。
実際剣を持ち上げるのがやっとで、振るう力などもう出ない。
しかしカインは息を荒げながらも強気に言った。
「お前程度なら、これぐらいのハンデでも余裕だ」
「もう君のその不快な減らず口はたくさんだ。黙って死んでくれないか」
ジャシュマはカインに走り寄って袖から剣を突き出した。
カインはそれをなんとか曲刀で受け流す。
続けて繰り出されるジャシュマの剣を受けるたびにカインは顔を歪めてよろめいた。
カインはふらふらと後退してジャシュマから離れると膝をついた。
「終わりだ!」と叫んで剣を振りかざして迫るジャシュマに、カインはまた地面の土を握った。
カインの投げた土をジャシュマは左手袋で受け止めた。
「馬鹿か、何度も同じ手が通用するもんか!」
そう言って膝を突いているカインの頭に向かって剣を振り下ろした。
カインの口元は笑みを浮かべていた。
カインは身体を右に傾けると、振り下ろされたジャシュマの剣を左肩のショルダーパッドで受け止めた。
カインの肩当はただの肩当ではない。バディトラストと呼ばれる盾としても使える優れものだ。
実際のところ盾として使うのはカイン自身これが初めてのことだが、
しっかりと性能を発揮してジャシュマの剣を弾いてみせた。
カインはそのままジャシュマに向かって倒れこむように体を預けると、
全体重をかけて曲刀をジャシュマの腹に突き刺した。
後ろに倒れたジャシュマの上にカインは重なるように倒れこんだ。
「力は入らなくても、体重をかけるくらいは出来るんだよ」
「ぐっ・・あ・・うぅお」
ジャシュマが苦痛に呻く声を漏らすと、カインとミーシャの身体がふっと軽くなった。
「これで、終わりだ」
「ック、クク、君は・・・・、オルカートを、甘く見すぎだ」
「なに?」
ジャシュマは圧し掛かるカインの顔に向けて鉄仮面の中から低い笑い声を漏らした。
動けるようになったミーシャは顔をあげてジャシュマの上に圧し掛かっているカインに叫んだ。
「早く逃げて!」
その声にカインは曲刀を引き抜いてジャシュマから離れようとしたが、ジャシュマの手がカインの腕を掴んだ。
ドドドドドドドドドォッ
カインとジャシュマは下から突き上げる衝撃に吹き飛ばされた。
ミーシャの視線の先には、大剣を杖のように地面に突いて身体を支えている右足のない鎧が立っていた。
「カ・・・イン、・・・・カイ・・・・・ンゥ」
甲冑は兜の中から不気味にくぐもった声でカインの名を呼びながら近づいてきていた。

103ドギーマン:2007/02/12(月) 13:36:50 ID:s7gQQorw0
オルカートは片足だけで高く跳ぶと、一跳びで自分の足のもとに到達した。
そして、右足を掴み上げると乱暴に自分の膝を叩きつけるように押し付けた。
まるで粘土のように、それだけで膝下はひっついた。
跳躍の衝撃で折れた左足を強引に引き伸ばし、不死身の戦士は再び立ち上がった。
「ぐうぅオオ・・・・カインぅ・・」
「くっ・・う、は、ははは・・・・いいぞオルカート、あの男を・・・・・早く殺せ」
吹き飛ばされて地面に仰向けに横たわるジャシュマは、頭を少し起こしてオルカートに命令した。
腹を包む革ズボンはカインの曲刀に穴を開けられていたが血は出てこなかった、
しかしそれでもその穴を押さえてジャシュマは苦しんでいるようだった。
オルカートはジャシュマの言葉に唸り声を上げると、大剣を構えた。
ジャシュマと同じく全身を強く地面に打ちつけてうつ伏せに倒れていたカインは身体をぐぐっと持ち上げた。
ここにきて今の衝撃と蓄積した疲労でなかなか立ち上がれなくなっていた。
目の前に突き立った曲刀に手をかけてなんとか身体を起こす。
「う・・・くそ・・」
「何してるの。早く逃げて!」
ミーシャは立ち上がって槍を拾い上げると、槍に魔力を込めながら動けないカインに向かって走った。
オルカートも倒れているカインに向かって走ってきた。
「グガアアア!!」
オルカートは一声叫ぶと、地を蹴ってカイン目掛けて跳んだ。
「はぁ!」
ミーシャは走りながら槍に魔力を込めると、振りかぶって槍を投げるように振るった。
光り輝く魔法の槍がオルカートに向かって飛び、宙に浮いていた鎧を貫通して胸を貫いた。
「グァ!」
撃ち落されたオルカートは地面に背から落ちて土埃を立てたが、
すぐに何事もなかったかのように身体を起こした。
ミーシャはカインのもとへ走り寄ろうとしたが、ジャシュマの声がこの地下空間に響いた。
「そこまでだよミーシャ、動くな!」
ミーシャはびくっと身体を震わせると、足を止めた。
ジャシュマはいつの間にか腹を押さえながらオルカートの後ろに回っていた。
ジャシュマの胸の穴から「ミーシャ・・」と父の呼ぶ声が聞こえた。
「君は自分の立場を忘れたわけじゃないだろう?」
「くっ」
ミーシャの父の魂はジャシュマに囚われている。
逆らえば、消されてしまう。
彼女の目の前で立ち上がれないでいるカイン、大剣を構えて迫るオルカート。
ミーシャは選択を迫られていた。

104第43話 からくり:2007/02/12(月) 19:08:25 ID:vX9Amrn60
拘置所の中は寒い。
だから拘置所に差し入れと言えば「布団」がほとんどだ。
刑務所とは違い、地獄の沙汰も金次第な場所。
現金さえあれば「ご飯」も出前が取れる。もちろんタバコもだ。
しかし自分には差し入れしてくれる人間はこの国にはいない、そう劉はひしひしと感じていた。
自分は使い捨てだったのだ。替えの利く駒にすぎなかった。
祖国に残してきた両親の事を考えるようになった。自分がしてきたことに恥じているのかもしれない。
病気がちの母親の医療費を稼ぐためにこの国にやってきた。
汚れた金で母親は元気になった・・・とてもその出所を言えなかった。
生きてもう一度母親の顔をみたかった。
選択肢は1つだけ・・・全て話す事。
話せば組織に狙われる。
−−−全て話せば、誤認逮捕で釈放する−−−
これが条件だった。
言われたとおりに全てを話した劉。
−−−釈放されたら組織に戻れ−−−
何事も無かった様に過ごせと言うのだ。
−−−お前は組織内の動きを報告しろ、組織をあげることが出来たら
        本当の意味で釈放だ。母親の元へ帰れるだろうよ−−−
自分は全て話したのに話していないことになっていると言う。
連絡は動きがあった時のみ、その都度メールせよとのこと。
うまくやれるだろうか? 劉は取り調べの事を思い出しながらそう思った。

「お前の役目はなんだったんだ?なぜ銀行のカードを所持していなかったのだ?」
「お、俺は・・・」
「何も知らないじゃ済まされないんだよ。お前が生き残れるのは全て話した時のみだ
黙っていれば殺されないで済むとおもっているんだろう?そうはいかない」
「殺される・・・」
「言うとおりにすれば、何も喋らなかったことにできるぞ? そうすれば故郷に帰れるかもしれない」
この言葉が劉の背中を押したのだった。
「判った、整理したいから1日くれ」
「1時間だ。気が変わっても困るからな」
正確には1時間半後、たどたどしい日本語で説明しはじめた劉。
内容は合同捜査本部の一部にしか教えられなかった。
田村の警察学校の同期、岡崎がこの事件の管理官であって、田村同様管轄内に「おしゃべり」がいると
睨んでいたためである。もちろん同期のよしみで田村の上申を聞き入れたからでもある。

「俺は・・・ネットゲーム上で金持ちを探す役目だった。組織からアカウントを与えられ、それを運用する
役目で、担当は主に「レッドストーン」と言うゲームだった」
「で?」
「アカウントは組織所有で、俺たちにはただそれが割り当てられるだけだった。俺がこうしてここにいても
どこかで俺が扱っていたアカウントは利用されている。ただのオペレーターだったわけだ」
「金持ちを見つけたらどうするんだ?」
「交渉する。そして売りつける。そのなかでネットバンクの口座を持っている奴がいればAランク扱いで
組織に交渉を戻す・・・それがゲームでの役目だった」
「他は?なぜネットバンクのタイムキーを持っていた?」
「あれは自分の関わったものか判らない。しかしそれが郵便で届けられるんだよ。誰のものかも知らされない
とにかくあの口座を使って、送金をさせられる。どこかのATMから入金されたものを送金するわけだ」
「なぜカードは持っていないんだ?」
「送金するのに必要はないし、それで引き落とすやつが他にいるんだろう」
「仕入れたゴールドはどうするんだ?」
「!?・・・そこまで判っているのか?」
「どうするんだ?」
「RMT業者に納品するんだよ。俺は1月だけ集金マシンの担当をしたことがある。
それをゲーム内で渡すんだよ。高額な値段で置いてあるアイテムを買ったようにして
ゴールドを渡すんだよ。取引が済めばアイテムを返す。これでゲーム運営会社にはばれないのさ」
「その業者は?」
「判らない。知らされないんだよ」
「他には?」
「為替がわりに使うこともあった」
「とゆうと?」
「例えば20万ウォンでゴールドを買ったとする、それを3万円で売ったりするのさ」
「・・・おぃおぃ、それじゃ1万程の儲けじゃないか?」
「それを色んな通貨でやって儲けを出すのが仕事だった。ま、「レッドストーン」は
世界各国でやっているわけじゃないから限られた通貨でしか出来なかったが」
「仮想通貨が為替の代わりかぁ・・・違法な両替だな」
「マネーロンダリングの一種だよ。手数料もとられずにしかも儲けも出す。こんなところだ」

細かいところはかなり時間をかけて話した。最初の聴取だけで1週間はかかった。
確認の聴取は同じくらいの時間をかけて矛盾がないか何度も繰り返し聴取された。
後は警察の犬に成り下がり、娑婆に放流されるのを待つだけだった。

劉は自分が本当に出来るのか不安だった。

105名無しさん:2007/02/12(月) 22:44:20 ID:mC0h9s/I0
>>98
「物凄く不確かよ」を「物凄く不確定よ」で訂正お願いします・・・。何かツッコミになってたorz
何せ勢いで朝の3時までやっていたので・・・。

>>ドギーマンさん
選択を迫られたミーシャ、どちらを選ぶのでしょうか。ドキドキしながら待ってます。
自分がミーシャなら3つ目の選択肢「2人を捨てて逃げる」を選択するでしょうね。
ダメ人間の第一歩ですよー!

>>きんがーさん
犯罪者にもいいところがありますね・・・。これだと警察が悪者にも見えます。
でも田村さん達は応援してますー!

>>100
いつも感想ありがとうございます。お陰で何とか書き続けることができますー!

これからももっとSSスレ盛り上がる事を期待してます。

106名無しさん:2007/02/13(火) 00:56:37 ID:39Bhlv/s0
>ドギーマンさん
アンデッド状態のオルカートの書き方がリアルで怖がってます(怖)
こんな状態になっても生き続ける、オルカートがかわいそうで仕方ありません。
ジャシュマは人じゃなかったというのに半ば驚きを隠せません、ちょっと考えればそうなんですが・・
でも悪役は好きだ。(笑)

>きんがーさん
劉さんにも国があって家族がいて、と考えるとやっぱりかわいそうに思えてきますね。
確かにテレビで警察のやり方を見ていると、全て自供したのにまだまだって感じで絞り上げたりありそうです。
別の話で刑務所の事を「臭い飯食べに行く」と呼んでいるのを聞いてびっくりした記憶が・・(苦笑)
そしてやっぱりきんがーさんやぎゃおすちゃんたちも気になります、続き期待しています!

>携帯物書き屋さん
おぉ、コテハンも使ってないのに特定してくれた(笑) ←でバレるか…
ずっと拙い感想ばかり書いてますが、皆さんの小説は楽しみに毎日チェックしてます。
最初は小説を投稿しよう!とこのスレに来たのに、いつの間にか(苦笑)

107名無しさん:2007/02/13(火) 12:37:13 ID:oiyCvrLg0
今までしたらばには来てもこのスレを見たことはなかったのですが、
今日の早朝にふと覗いてみてから
今までずっと過去ログから読みふけってしまいました。
みなさん非常に物を書くのがお上手ですねえ。
私などは文の正確さ・美しさなどには気をつけて
物を書くようにしているのですが、
いかんせん創作においては肝心なイメージの泉が
枯渇している人間なので羨ましいです。

以前のアラステキさんのように感想を書いてくれる方が少なくて、
書いてくださる方々のモチベーションが
上がりづらいといった書き込みがあったので早速書き込んでみました。
素敵な作品がありすぎてそれぞれにはとてもコメントを付けられませんが、
いずれも楽しく拝見させていただきましたよ!
今続いてる作品も新しい作品も首を長くして待ってますので。
よろしければこれからちょくちょくコメントさせていただこうかなと思います。

 追記:前スレ1000のドギーマンさんの病気のコボルトのお話大好きです。
    内容・言葉の選び方・文章の組み立て方、全てが素晴らしかったです。
    あれで1000文字の制約があるんだから脱帽です。

108名無しさん:2007/02/13(火) 17:01:32 ID:AVvrSL020
>>前スレ1000のドギーマンさん
ここ赤石自体から遠ざかっていたのですが、久々にスレを見て物凄い感動しました。
大抵のテイマーにとって、病気のコボルトは最初の相棒となりますからね。
なかなか別れ難くて困ります。例えペットを変えてしまっても、飼育記録にして取っておける、というのはこのゲームの良いところかもしれませんね。
おかげで私のキャラの銀行は飼育記録で埋め尽くされてますが(苦笑

健気なコボがとてもかわいかったです。
量が多いですが、少しずつ本編の方も読ませていただきますね。
それでは、これからも頑張って下さい

追伸 病気のコボルトでも育てればコロすら倒せます。
ソロッサスを成し遂げた時はちょっぴり感動しました〜

109ドギーマン:2007/02/13(火) 21:24:05 ID:VVuASkOI0
彼女は一瞬でも迷うことを許されなかった。
ミーシャは槍を回して走り一気にカインまでの距離を詰めると、
カインの頭上を跳び越えて彼を守るようにオルカートの前に立ちはだかった。
「自分が何をしているのか分かっているのか!?」
ジャシュマの言葉にミーシャは何も答えなかった。
彼女自身も分からなかった。
ただの復讐の手がかりとしか考えていなかったこの男を父を危険に曝してまで何故守るのか。
「ミーシャ・・?」
「早く立って!」
ミーシャはカインに怒鳴った。
大剣を振り上げて走りくるオルカートはミーシャを障害と認識し、彼女の頭上に大剣を振り下ろした。
ミーシャの頭を大剣が二つに割った。
大剣が地面に到達すると、大剣が身体を通過したミーシャの幻影は消え去った。
オルカートの横に彼女は立っていた。オルカートが振り向かないうちに彼女は瞬時に動いた。
ミーシャはカインに切断されたばかりのオルカートの右膝を槍で切りつけてバランスを崩すと、
そのまま反対側の柄の先でオルカートの兜を殴ってオルカートを押し倒した。
そしてジャシュマに向かって走り出した。
オルカートが起き上がる前に、父が消される前に、
あいつを殺せば全て終わる。
「馬鹿な女だ」
ジャシュマはそう言うと胸の穴に手を当て、中から一つの魂の灯火を引き出した。
ジャシュマの手の平の上で揺れる小さな火。
ジャシュマにしかにしか見ることはできないが、その動作からミーシャは父の危機を感じ取った。
「やあああ!!」
ミーシャは槍をジャシュマに向けて突き出すように振るった。
ミーシャの槍は炎と氷を纏ってジャシュマに向かって伸びた。
「――――!!」
魔力によって形成された長槍はジャシュマが何か言う前にその胸の穴を貫いた。
「はっ・・・あぐ・・」
胸を槍に貫かれて足を宙に浮かせたジャシュマは、小さく呻くように言った。
「消え・・ろ・・」
ジャシュマの手の中の小さな魂の火が吹き消された。
ミーシャには見えていなかったが、その言葉の意味することを理解して膝をついた。

110ドギーマン:2007/02/13(火) 21:25:05 ID:VVuASkOI0
彼女の心を反映するかのように、炎の槍は掻き消え、氷の槍は砕けた。
ジャシュマは地面に身体を落として何か呻いている。
ミーシャの手から槍が落ち、彼女はただ座り込んで地下の闇を目を見開いて見上げていた。
あの日に枯れたはずの涙が心の奥底から押し寄せるように帰ってきて、彼女の目から流れ出した。
「あ・・・あ・・・・ぁ・・・・・・」
ただ小さな嗚咽を喉の奥から漏らして、口を開けて呆然と彼女は座り込んでいた。
「あ・・が・・・・はっ・・・まだだ、まだ・・・・僕は生きている」
倒れていたジャシュマが起き上がった。あの膨らんでいた身体が少し萎んでいて、
袖、裾、仮面、コートに空いた穴、至る所から黒い霞が漏れていた。
その鉄仮面の中を隠していた闇が薄れ、その中にミイラのように頬のこけた悪魔の顔が覗いた。
「本当に・・・・、馬鹿な女だ。父親を、消滅・・・・・させるとは、な。
 ああ、なんてことだ。折角集めた魂が逃げていく」
聞こえているのかいないのか、ミーシャはただ呆然とかすかな嗚咽を漏らすだけだった。
「君のせいだ。君のせいで消えたんだ」
ジャシュマのその言葉に、ミーシャは突然の叫びがこだました。
うずくまっているミーシャの後方でオルカートは立ち上がった。
「ぐぅおおお・・」
オルカートの呻きにミーシャは顔を上げて振り向いた。
彼女の目の前で、カインも危機を迎えようとしていた。
オルカートのミーシャに斬りつけられた脚がグチグチと音を立てて再生するのがカインの耳に届いた。
なんとか立ち上がっていたカインは呆然とミーシャの様子を見ていたが、オルカートの唸り声を聞いて我に返った。
カインは重たい身体を動かしてオルカートの脇を通り抜けてミーシャのほうへ行こうとした。
しかし思うように足が動かず、よろめいて膝をついた。
オルカートは低く唸って大剣をゆっくりと振り上げた。
「彼も、君のせいで死ぬんだ」
ジャシュマの途切れ途切れの笑い声をミーシャは聞いた。
「グアア!」
オルカートの叫びに、咄嗟にミーシャは槍を拾い上げてカインに向かって投げた。
槍は瞬時にカインのもとに飛び、彼の頭上で静止すると、オルカートの大剣を受け止めた。
鋼鉄の柄がオルカートの剣の衝撃で折れ曲がった。
ミーシャには分からなかった。何故彼をここまで守るのか。まだ生きているから?
「ふっ・・う・・・ミーシャ」
カインは立ち上がってよろよろとまた進み始めた。
行った所でいまのミーシャを救えるはずもないのに、カインはそれでも足を進めた。
続けて振り下ろされるオルカートの斬撃を、ミーシャの折れた槍は防ぎ続けた。
ジャシュマが弱っていることに反応してか、どことなくオルカートの動きも鈍かった。
カインはミーシャの横まで来ると、ジャシュマの胸の穴を見下ろした。
オルカートの剣を受け止め続けた槍はぐしゃぐしゃに折れ曲がって使い物にならなくなってしまっていた。
薄くなった闇の中から、微かに漏れる赤い輝きを見ていた。
「ミーシャ、すまない」
それだけ言うと、カインはミーシャの横を通り過ぎてジャシュマに向かって歩き出した。
曲刀を手に迫る男にジャシュマは後ずさりしてうろたえた。
「く、くるな・・・・何をしているオルカート、早く殺せ!」
しかし、そこでオルカートは動かなかった。
ただ立ち止まって剣を地に捨て、誰かを見ていた。
オルカートが見ていたのはカインでも、ミーシャでも、ジャシュマでもなかった。

111ドギーマン:2007/02/13(火) 21:25:47 ID:VVuASkOI0
カインはジャシュマの前に立つと、目の前の小人を見下ろした。
膨れていた服は萎んでいて、仮面の格子の中にはアンデッドのような悪魔の正体が覗いた。
「ジャシュマ、今度こそ終わりだ」
そう言ってジャシュマに詰め寄って胸の穴に手を突っ込んだ。
「やめ、ろ・・・何をしているオルカート!早く殺せ!」
オルカートは動かなかった。
「・・アイ・・・シャ」
女の名前を呟いて立ち尽くしていた。
ジャシュマにも見えた。自分の身体から出て行った魂の一つが、オルカートのほうへふらふらと漂って行くのを。
「すまない、私が愚かだった」
「馬鹿な、とっくに・・・・壊れたはずだ」
カインはジャシュマの胸のなかの赤い輝きを掴んだ。
ジャシュマのコートのなかは酷く冷たく、手を突っ込んだだけで体中に寒気が走った。
「やめろ、それは僕のだ・・」
ジャシュマの言葉を無視してカインは赤い石をジャシュマの中から引き抜くと、
代わりにその穴に曲刀を突っ込んだ。
「ぐ・・・・う・・ああ・・・ガガ」
ジャシュマは身体から黒い煙をぼふんと噴出すと、あとには黒い粉の入ったコートと鉄仮面が残った。
カインとミーシャの背後で、甲冑もガシャンと崩れ落ちた。
300年の時を取り戻すように不死身の男は一気に風化して鎧を残して砂となった。
遺跡の下の深い地下のなか、魔力の明かりに照らし出されて、
カインは赤い石を手に握っていた

112ドギーマン:2007/02/13(火) 21:27:03 ID:VVuASkOI0
街に生還したミーシャは、カインと別れてハノブに帰った。
父と恋人の墓石に花を手向けてミーシャはしゃがみ込んでいた。
全ての始まりは父がレッドアイの元幹部だったことに始まる。
父が死んで後、追い求めた父の過去は彼女の知っている優しい父のものとは思えなかった。
冷酷で残虐な男。しかし、母との出会いが彼を変えたらしい。
二人の間に何があったのか、娘のミーシャにも分からない。ただ、父は母と共に逃げた。
そして、レッドストーンを追い求める悪魔達は父に目をつけた。
わずかな手がかりもないレッドストーン探索。父は悪魔の目にも怪しく思えたことだろう。
しかし、父は何もレッドストーンの確かな情報など持って居なかった。
それでも、殺された。カインも巻き込まれて死んだ。
復讐のためだけに始まった旅は、死んだ恋人と同名の男が手がかりとして現われ、遂に仇にたどり着いた。
カインはレッドストーンをどうするつもりなのだろう。
あの男にとって、自分はレッドストーンを手に入れるために協力させたに過ぎないはず。
自分もあの男を復讐のための手がかりとしか考えていなかったはず。
それなのに何故私はあの男を助けたんだろう。父の魂を犠牲にしてまで。
ミーシャは握りこんだ手を開いた。その中には指輪があった。
そこでリムルの笑う顔が脳裏をよぎった。
恋人の墓石を見る。
「嘘、よね?」
嘘だと思いたかった。死んでいるのだから、嘘だと思いたかった。
長い旅を支えてくれた彼への思いを悪魔の手によって打ち崩されたことを。
しばらく黙り込むと、ミーシャはカインの墓石の前に指輪を置いた。
そして、立ち上がって父の墓石に目をやった。
消え去った魂に、墓石など、手向ける花など、意味があるのだろうか。
ミーシャは愛する二人の墓に背を向けて歩いていった。
日差しは残酷なほどに暖かくて、墓場に咲いた花は風に揺れて美しくて、明るい町は平穏そのものだった。

113ドギーマン:2007/02/13(火) 21:28:58 ID:VVuASkOI0
数日後、ミーシャの前にカインが現れた。
ミーシャの眼は復讐に燃えていたころとは打って変わって、ひどく曇ってしまっていた。
父が死んでからしばらく支えてくれていた叔父のもとに戻って生活をしていた。
ミーシャの前に突然現れたカインに、彼女は何も言わずただ黙って立っていた。
「久しぶり、だな」
「・・・・・」
たった数日ですっかり変わったミーシャの様子にカインは戸惑った。
思えば、今の彼女は生きる理由を全て失っていた。
言葉に詰まるカインにミーシャは静かに言った。
「何の用?」
その言葉を受けてカインはようやく口を開いた。
「君に、会わせたい人が居るんだ」
ミーシャの光のない眼はカインをじっと見据えていた。
「もう、私の復讐は終わったわ。あなたと関わる理由も、もうない」
「確かにそうだが・・・・。頼む、ついてきてくれ」
「・・・・・どこに行くの?」
「ビガプールだ」
結局ミーシャは叔父に挨拶をして、カインについてビガプールに向かった。

114ドギーマン:2007/02/13(火) 21:29:53 ID:VVuASkOI0
ビガプールでミーシャはカインに連れられて小さな協会の近く、
小さな子供達に囲まれている男に面会した。
男はカインとミーシャを見て取ると、子供達から離れてこちらに歩いてきた。
男は天使だった。折れた右の翼、彼も何らかの戦いを経験していたらしく、
身体のあちこちに傷跡を残しながらも優しい眼差しを浮かべていた。
「アルケオルさん、彼女がミーシャです」
「よく来て下さいました。アルケオルと申します」
カインの紹介に、アルケオルは丁寧に会釈した。
「ミーシャです」
アルケオルはミーシャの眼を見て言った。
「随分と、辛い道を進んできたようですね」
「・・・・・」
「カインさんから聞きました」
ミーシャは黙っていた。
「実は、是非あなたにやって頂きたい仕事があるんです」
そう言って後ろの方で走り回っている子供達に目をやった。
「あの子達は皆、孤児なんです」
ミーシャは黙って子供達に目を向けた。
「カインさんとあなたのおかげでレッドストーンも見つかり、私もようやく天上界に帰ることが出来ます。
 ただあの子達だけが気がかりでして、あなたにあの子達を任せたいんです」
「あの子達もまだ幼いうちに、あなたと同じく大事な人を亡くしてしまいました。
 今でこそ笑っていますが、心の支えを求めています。彼らを支えてやって欲しいんです」
アルケオルの頼みにミーシャはうつむいて答えた。
「無理です」
「何故?」
「私は、大事な人の魂を消してしまいましたから・・・」
カインはその言葉に動揺していた。自分を守るために彼女は父親を犠牲にしたのだから。
「大丈夫です。あなたのお父上の魂は消えてなどいません」
「え?」
顔を上げたミーシャの眼にアルケオルは優しく言った。
「魂は一人の者の意思によってそうそう簡単に消されたりするものではありません。
 きっとあなたの聞いたお父上の声は悪魔の作り出した幻聴でしょう。
 カインさん、あなたにはミーシャのお父さんの声は聞こえましたか?」
「え?いや、聞こえませんでした」
突然話を振られてカインはしどろもどろと答えた。
「ミーシャさん、あなたのお父さんの魂は今もあなたの心の奥深く、魂のそばに居ます。
 私には見えていますから。あなたの愛した男の人も、あなたのそばに居ます」
「そう、ですか・・・」
「話はそれだけです。ゆっくりと考えてください」
ミーシャはうつむいて黙りこくった。
カインは子供達に向かって呼びかけた。
「おいお前ら!ちょっとこっち来い!」
「カインさん、"お前ら"は・・」
「あ、すいません」
子供達が駆け寄ってきた。
「ほらみんな、こちらのお姉さんに挨拶してください。この前教えたでしょう?」
子供達は一斉に大きな声でバラバラにミーシャに向かって挨拶した。
「おいおい、順番に言えよ」
カインは頭を抱えて息をついた。
「ねーねー、それよりお姉ちゃんも遊ぼう?」
「え、でも・・」
戸惑うミーシャの手を掴んで、子供達は彼女を引っ張っていった。
「カインとアルもぉ〜!」
「ああ、ちょっと待ってろ。アルケオルさんともうちょっと話したらな」
カインとアルケオルに助けを求めるように顔を向けるミーシャに軽く手を振って、カインはアルケオルに言った。
「アルケオルさん、さっきの話本当なんですか?」
「本当じゃないと、いけませんか?」
「いや、そんなことは無いですけど。でも、さすがに気づいてるんじゃないですか?」
「たとえ気付いていても、彼女は自分のなかで何らかの言い訳を作るしかないんです。
 それ程に彼女は傷つき過ぎていますから。それで彼女が立ち直れればいいじゃないですか。
 あとはあの子達が彼女を助けてくれます。カインさん、あなたもそうだったでしょう?」
「そうです、ね」
カインは過去の自分を思い返した。
「カイーン、アルー!」
二人を呼ぶ大きな声が響く。
「いま行きます。ほら、カインさん」
カインははぁっと大きくため息をついた。
「また、日が暮れるまでつき合わされるのか」
カインとアルケオルも子供達のほうに向かって歩いていった。

115ドギーマン:2007/02/13(火) 21:30:48 ID:VVuASkOI0
ミーシャはアルケオルに説得され、しばらく協会に居候することになった。
どうせ、叔父のもとに帰っても何もすることがないから。そう思っていた。
そうして1週間が過ぎ、毎日戸惑いながらも子供達の世話をしていた。
毎日子供達を起こし、修道女や年長の子達と共に家事をし、勉強を教え、遊びに付き合った。
子供達の明るい笑顔の前でも、ミーシャは笑うことはなかった。
笑顔でいていいのか分からなかった。
復讐を誓ったあの日から、彼女は笑ったことなど無かった。
何故、この子達は笑顔で居られるんだろう。辛くないのだろうか?
ある日の晩、ミーシャはアルケオルに頼まれて子供達の様子を見に行った。
燈台を片手に暗い廊下を歩き、廊下から部屋をちらっと見ては子供達が寝静まっているかを確認するだけだった。
ミーシャが廊下を歩いていると、子供達の部屋から小さな泣き声が聞こえた。
部屋を覗くと、部屋に並ぶ小さな子供達の寝台の一つの上で、
女の子が膝を抱いて、毛布を握って泣いていた。
「どうしたの?」
明かりを片手に歩いてくるミーシャを女の子は涙目で見上げていた。
アミルという子だった。
「お母さんがね、お母さんがね・・・」
「夢に見たの?」
「うん・・」
そう言ってまたぐずりだした。
ミーシャは黙って燈台を置いてアミルの寝台に座ると、アミルを抱き寄せた。
ミーシャは知った。ここに居る子供達は、決して辛くないから笑っていたわけじゃない。
辛いのをなんとか忘れて、明るく精一杯に生きているだけなんだと。
ミーシャの腕の中で、小さな女の子は毛布を顔に押し付けて泣いていた。
「アミルのお母さんの魂は、あなたの心の奥深く、あなたの魂のそばに居るわ。だから心配しないで」
「ほんと?」
見上げるアミルの小さな顔に、ミーシャは優しく言った。
「ええ」
その顔を見上げて、アミルは小さく「あ」と言った。
「どうしたの?」
「いま、ミーシャ笑ってたよ」
ミーシャは気付かないうちに、アミルに優しい笑顔を向けていた。
笑顔の仕方を忘れていた女は、ようやく思い出した。ただ、気持ちに素直になればいい。
「ありがとう」
「何が?」
すっかり涙のやんだアミルは、きょとんとした顔でミーシャを見上げていた。
廊下の壁にもたれ掛かっていたカインは、壁から背を離すとアルケオルの部屋へ向かった。
翌日、ミーシャはアルケオルにあの頼みを受けることを告げた。

116ドギーマン:2007/02/13(火) 21:32:22 ID:VVuASkOI0
アルケオルの天上界に帰る日が来た。
フォーリンロードの中間、目立たない荒野の真ん中で見送りをすることになった。
空は白い雲に覆われていた。
アルケオルは子供達には理由は言わずに行くらしい。
見送りはミーシャとカインと、あと数人の協会の関係者だけだった。
「アルケオルさん、ありがとうございました」
ミーシャはアルケオルに言った。
アルケオルはミーシャに優しい笑顔を向けると、いいんですよと言った。
「レッドストーンは?」
「ああ、カインさんが持ち帰ってきてくれた日にすでに天上界に送りました。
 他の兄弟達も既に帰っているらしいので、私が最後ですね」
「子供達のためですか」
「いえ」
アルケオルの言葉にミーシャは怪訝な表情を向けた。
「実は、とっくに天上界に帰るように天命は下っていたんですが、少し我侭をしてしまいました」
そう言ってアルケオルは笑った。
「カインさんから、レッドストーン探索に協力して下さったあなたの話を聞きまして」
「じゃあ・・」
「子供達のこと、頼みましたよ」
そう言うと、天を覆う雲の切れ目からアルケオルにだけ光が差した。
神々しい光に包まれて、アルケオルの右翼が光り輝いてかつての完全な天使の姿を取り戻した。
アルケオルの身体が宙に浮き、光の差す雲の切れ目に向かって小さくなっていった。
空に消えたアルケオルを見送ると、カインはミーシャに言った。
「帰るか、みんなが待ってる」
「ええ」
ミーシャとカインは、家族が待つ教会へと帰っていった。
帰り道の途中、空を覆う雲から差し込んだ光が遠くに見える二人が帰る街を照らした。
その美しい景色にミーシャは自然と笑顔が浮かべた。

117ドギーマン:2007/02/13(火) 21:46:23 ID:VVuASkOI0
あとがき
終わりました。
戦闘シーンの連続に頭を痛めてました。

>>107>>108
ありがとうございます。
やっぱり1行だけでも感想貰えるとモチベーションがわいてきます。

118名無しさん:2007/02/14(水) 05:05:56 ID:F4qgBAtA0
>ドギーマンさん
執筆お疲れ様でした。
自分のワガママも聞いて書いてもらって本当にありがとうございました。

ところで、"カイン"が死んだ恋人と同名の別の男というのに気が付くのが遅かった・・orz
てっきり同一人物かと思っていたら死んだ事になっていたし、あれれ?と(笑)
でも、ハッピーエンドで良かったです。オルカートもある意味では助かったし・・。

確かに読み返してみればほとんどのシーンが戦闘中ですね。
さり気なくF&IやMMMが戦闘中に織り交ぜられていて読み応えありました。
レッドストーンが発見されてから追放されていた天使たちはどうなるのかとか想像すると面白いです。
ドギーマンさんのまたの作品お待ちしています。

119名無しさん:2007/02/14(水) 10:51:59 ID:oiyCvrLg0
>ドギーマンさん
楽しく読ませていただきました。
以前戦闘シーンが苦手といったようなことを
おっしゃっていたと記憶しておりますが、
なかなかどうして迫力あるものに仕上がっていたと思いますよ。
そしてドギーマンさんの真骨頂とも言える
それぞれの登場人物のキャラクターと心情の細やかな描写が
今回も大変素晴らしかったと思います。
ジャシュマですら愛すべき生き生きとしたキャラクターを
持っているのがさすがだと感服しました。

また次の作品も楽しみにしています。

120ドギーマン:2007/02/14(水) 18:44:10 ID:VVuASkOI0
『ケルビン・カルボ手記』
ブルン暦4930年 ●月●●日
古都ブルンネンシュティグ
ゴドム共和国の中心都市にして、フランデル大陸で最も長い歴史を持つ都市。
冒険者の街としても有名である。
この街で私は大変珍しい物を見つけた。
冒険者が露店に並べていたものだが、"シュトラディバリの悲劇"と呼ばれるホール。
かつて、ブルン王国最後の王アラドンが用いたとされる武器である。
武芸に長けたこの王はこのホールで邪魔な政敵を葬り去ったという・・・・。
こういった、逸話のある武具防具の類の多くは本物を真似た模造品でしかない。
このホールも多少は魔法の力が付加されているようだが、本物ではあるまい。
しかし、私が興味を持ったのはこのホール自体ではない。その名の由来である。
何故、このホールは"シュトラディバリの悲劇"と呼ばれるのか。
この冒険者も勘違いしていたようだが、シュトラディバリとはアラドンを差す名ではない。
アラドンの家の名はこの街と同じブルンネンシュティグである。
シュトラディバリとは、ブルンネンシュティグ王家と血縁関係にあった名家の名である。
シュトラディバリ家といえば、ブルン王国を崩壊させたあのバルヘリ・シュトラディバリが有名である。

4805年、当時のブルン国王アラドン・ブルンネンシュティグと王室直轄機関レッドアイの会長アイノ・ガスピルが
突如相次いで謎の失踪を遂げた。
王国崩壊と共に当時の記録のほとんどは失われてしまったが、王の謎の失踪による当時の王宮の混乱振りは想像に難くない。
その後2年間、王宮は王不在のままだったらしい。
王の捜索が続けられる中、早急に新たな王を立てるべきか否か、王族たちの間で相当な覇権争いがあったようだ。
当然、その王族の中にはシュトラディバリ家も含まれている。
そして4807年、バルヘリ・シュトラディバリは大勢の貴族たちを率いて反乱を起こし、王宮を攻め落とした。
この反乱によって王国は崩壊し、現在古都の北に見られるように王宮は瓦礫の山と化している。
その後バルヘリは共和国主義を唱え、それにより貴族達と軋轢を生じさせるのだが、それはまた別の話。

さて、ここからは私の憶測に過ぎないのだが、
当時、アラドンが本物の"シュトラディバリの悲劇"で葬り去った政敵とは、
シュトラディバリ家の者ではないだろうか。
シュトラディバリ家に何らかの悲劇をもたらしたことが、あのホールの名の由来になっている。
そしておそらくバルヘリは復讐のためにアラドンを暗殺し、
そして貴族達を扇動して王国を崩壊させた。
アイノの失踪との関連は不明だが、
古都の北に広がる崩れた王宮の跡に私はバルヘリの王室に対する憎悪を見た気がする。

121ドギーマン:2007/02/14(水) 18:45:02 ID:VVuASkOI0
●月▲日
鉱山町ハノブ
木造の民家が並ぶ町。
鉱山の麓にあるこの小さな町は、鉱物の採掘によって成り立っている。
つるはしを担いだ鉱員達が行き交っている。
丁度昼飯時であったため、スイカを食べている者も居た。
私も近くで果物を売っていた老婆からスイカを買って食べてみた。
小玉のこのスイカは、老婆が自分で育てたものだという。
甘く、シャリシャリとしていてとても美味しかった。

さて、この町は良質な鉄鉱石が取れることで有名であるが、
その鉄鉱石の他にも有名なものがある。
天才武具職人のハギン氏である。
私は早速そのハギン氏に会いに行ったのだが、残念なことに現在病気により療養中とのこと。
仕事は休んでいるそうだ。
そこで代わりに私は一つだけハギン氏に質問させて貰った。
最高の防具とはどんなものかと。
氏は私の質問に笑うと、しばらく真剣に悩んで答えた。
"戦わないことこそ、身を守る最高の防具だ。
防具とは身に着けている者の命を守るためのものだからな。
最高の防具が職人には作り得ないとは皮肉なことだ"
そう言うハギン氏の目は、どこか哀しそうに見えた。

この町で私はもう一つ、鉱員から興味深い話を聞いた。
その鉱員の知り合いの息子がウィザードをしているらしいのだが、
彼がスマグに魔法の修行に行った際、ウルフマンの変身について研究したところ追放されたというのである。
一体何故なのだろうか?
私は鉱員にそのウィザードを紹介して貰い、
魔法都市スマグへ向かうことに決めた。

122ドギーマン:2007/02/14(水) 19:08:14 ID:VVuASkOI0
あとがき
今回はケルビン・カルボという人物に全都市回らせてみようかなと、
そういう思いつきで書き出してみました。
全部、書ききれるかなあ。
載せてから不安になってます・・・。

参考資料に前スレ>139の年表をまた使わせて頂きました。
ハギンはハノブの鍛冶屋です。
あと、ウルフマンの変身について〜のところに関しては、
ハノブの鉄鉱山入り口の鉱員NPCの発言からです。
どうやらウルフマンの変身について調べるのはスマグではタブーのようですね。


>>118-119
ああ、やっぱり混乱を招いちゃいましたか。すいません。
ミーシャの恋人に関しては名前どうしよっかなあって考えてて、
一緒にしちゃえばいいか。"運命"って単語使えるし。
と、短絡的な理由で同名にしちゃいました。
戦闘シーンは今まででものすごく短かったので、
一番力を入れて書いてみました。
読んでくださってありがとうございました。

123携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:11:40 ID:mC0h9s/I0
『孤高の軌跡』〜side story〜

「悲劇のバレンタインデー」


狭い上に薄汚い部屋。
それよりも薄汚い寝台の上に俺は寝そべっていた。
目線を棚へと泳がせる。
そこにはずらりと様々な俺の趣味の産物が並んでいる。
中でもメイド服の格好のリディアは、俺の中でも金の次に大切な人形だ。
リディアに笑顔を向けてからさらに目線を棚から箪笥へと平行移動させる。
その上には無秩序と非常識を足して二で割らないような幽霊が腰を掛けていた。
そいつは金色の髪と燃えるような緋色の瞳が特徴の美人だ。
ただし人間限定で。
そいつは俺の視線に気づいたのかその真紅の瞳を俺に向けてきた。
「ねえショウタ、暇」
「そうだな。目を閉じて耳を塞いで息をする事をやめてみろ。楽しいぞ」
無気力気味に答える。箪笥の上の女、ニーナは俺が言った事を忠実に再現していた。
「苦しい」
「だろうな」
「暇」
「俺もだ」
「遊んで」
「疲れる」
「遊ぼ」
「気が向いたらいいよ」
「それはいつ頃?」
「お前が遊びたくないとき」
そんな不毛な会話がしばらく続き、やがて沈黙。

俺が天井にできた染みの数を数えるという不毛な作業を続けていると、ニーナが再び目を向けてきた。
「そうだ。ショウタの昔の話聞かせてよ」
ニーナは目線だけでなく体ごとこっちに向けると、悪戯な笑みを俺に向けてきた。
「やだよ。俺の過去話って言っても楽しい事なんて全然ないし」
「それでもいいよ。面白そうだし」
俺はしばらく考えた後、天井の染み数えを止め体を起こした。
「そうだな……。まずこの世界では二月の十四日にバレンタインというイベントがあるんだ」
「ばれんたいん?」
「そう。要旨は女の子が好きな男にチョコをプレゼントするというものだ。
どうだ、ロマンがあるだろう?」
そこで言葉を切りニーナの様子を伺ってみると、ニーナは目を煌めかせながら聞き入っていた。
恐らくこっちの文化を聞いて興味を示しているのだろう。
ニーナの反応に満足した俺はさらに続ける。
「そこでこれから話す事は今から三年前――――俺が中学校二年のバレンタインデーの日のことだ」
俺は目を細めながらあの日の記憶を紡いで行く。
決して忘れる事のない一日を。

124携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:12:22 ID:mC0h9s/I0
俺はその日、落ち着かない足取りで中学校に着いた。
何故なら今日は男にも女にも大イベントであるバレンタインデーだからだ!

玄関に着き、まずは下駄箱をチェック。
――――よし、ないな。
まああっても困るのだけれど。

軽い足取りで教室の扉を開けると、クラス全員の視線が俺に向けられた。
分かっていたがあまり気持よい事ではない。
女子はすぐに元のお喋りを始めたが、男子は俺の目線と烈しく交錯し火花を散らしてから視線をそらした。
まあその視線を翻訳すると『何でお前生きてるんだよ』だろう。
俺はそんな死の視線を涼しい顔で受け流し、優雅に席に着く。
もちろん椅子に設置された画鋲を払ってから。

告げよう。ここは戦場だ!

思うがこんな日に休むなんて輩は狂っている。俺なら重病で俺がいるだけでクラスの全員にまで
病気を移してしまう、という病気でも来るだろう。

もう一度言おう。ここは戦場だ!

席に着き、他の男子達と目線で牽制し合っていると、教室の扉の開く音が聞こえた。
思わず目を向けてしまう圧倒的な存在感。
だからと言って巨体な訳ではなく、背丈なら俺の首元辺りだろう。
その人は純白の外套を纏い、それと真逆の流れるような長い黒髪をなびかせ、
誰にも目を向けずに、そのしなやかな細足で歩きながら席に着いた。
ただ教室に入って席に着いただけなのに、その人がするとドラマのワンシーンにも見えてしまう。

そう思ったのは俺だけではないらしく、ふと周りを見渡すと男子達からは甘い吐息が漏れていて気持悪い。
女子も同様か、厳しい目線で睨みつけているかのニ択だった。

再びその人に目線を戻すと、本を開き黙々と読書をしていた。
その人は容貌だけでなく、成績も優秀だった。
だからこそ、彼女が学年全ての男子の憧れの的である理由と言ってもよい。
それもその筈、彼女は何と言っても正真正銘のお嬢様で、その名も、り……あれ、り……?
何故か俺の全細胞が反抗し思い出せない。じゃあ“り”ってことで。

間もなく始業のベルが鳴り、授業の始まりを告げる。
程なくして先生が入ってきて授業が始まるが、誰一人真面目に聞いている者はいないだろう。
あ、“り”を除いて。
クラスの奴らの思考は今バレンタインの事しか考えていない。俺を含めて。

常識的にバレンタインは俺みたいな男には無関係なイベントだが、そんな俺が楽しみに待つのにも理由がある。
その理由とは、まずうちの学校には変わった風習がある。
それはこうだ。『必ず女子はチョコを一つだけ持参し、クラスの男子に渡す。また、既に貰った男子には渡す事は出来ない』
変わったどころではないと思う。
だが、そのお陰で不幸な俺にも福が回ってくるのも事実。異常な風習を作った人達に感謝!

考え方を変えればこうも考えられる。「あの“り”から貰える可能性がある!」
その可能性が教室の張り詰めた空気と俺のわくわくの源であった。

午前で最後の授業となりぴりぴり感は増していく。
何故なら昼休みで大半の女子は渡してしまうからだ。
いつも仲良しのあの二人。ずっと友達だと誓っていたあの二人。
全てが睨み合っている。
どんな友情も崩壊させてしまう大イベント、それがバレンタインデーだ!

何度でも言おう。ここは戦場だ!

125携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:13:09 ID:mC0h9s/I0
授業の終わりを告げるベルが鳴り、昼休みが始まる。
皆一斉に立ち上がり、憧れの男、お喋り友達のあの男子へ我先と渡して行く。
よし、俺にくれる子は――――!


いなかった。ちょうど席が窓側なんでつい飛び降りたい衝動に駆られる。
待て。早まるな、俺。仕組み上貰えない男は存在しない。
何故ならこのクラスは男子15人女子15人だからだ。
見渡してみると俺以外にも貰えていない男子もいるみたいだ。
嗚呼、モテない男は辛いよ。なあ、みんな。

肝心のあの“り”はというと、まだ渡していないみたいだ。
――――よし、俺にも福が。モテない俺を作ってくれた神様ありがとう!


遂に放課後がやって来る。
これまでにもちょくちょくと貰えない男子は減っていき残りは俺を含めて二人。
“り”もまだ渡していない。だんだんと希望が湧いてくる。
教室からもどんどん人が減り、俺と“り”、そしてもう一人の男子が残る。
その男子の名前は確か丸山だ。通称“おに君”
由来は肉が好きな事と切れたら止められないだかららしい。

俺はおに君へ近づきそっと声を掛ける。
「残念だったな。あの子の本命は何を隠そうこの俺だ」
対するおに君も丸い頬を震わせ返してくる。
「え、君みたいなのがあの子から貰うというのかい? 駄目だよ。あの子に君の不幸が移る」
「お前に渡してデブが移るよりはましだろ?」
その声で短気なおに君が俺の胸ぐらを掴もうとしたが背後の言葉でそれは止まった。
それはまだ渡していないもう一人の女子だった。
頬のそばかすが特徴の小柄な女の子。
その子は頬を染めながらチョコをおに君に突きつけた。
「こ、これ…」
それだけ言うとその子は走り去っていった。
おに君は嬉しいのか悲しいのか判らない表情で立っていた。
やったなおに君。やったな俺!
「おめでとう」
俺はおに君の肩に手を置き、優しく囁いた。
おに君も優しく微笑みながら出ていった。
グッバイ、おに君。

さて。あとは“り”から貰うだけだ。
しかし、いつになっても“り”は座ったままだ。
もしかして照れているのだろうか? この俺に。
こいつ、こいつぅとか一人で呟いていると“り”が急に立ち上がり、俺と正反対の扉の方へ駆け出した。
緊張すると方向感覚も失うのかな? とか思っていたら誰かが教室に入ってきた。
それは俺達の担任だった。
“り”は、うつ向きながらその男教師にな、なんと。チョコを渡しやがった!
そして“り”は走り出し、教室を去った。

思考と呼吸が止まっている俺にその教師は言う。
「あれ、矢島まだ居たのか? 早く帰れよ。じゃ」
そうして教室には俺一人だけになった。
わーお。これって史上初? 貰えないの俺だけ? 俺って何? 虫以下? ゴミ以下? 屑以下?
ほろりと俺の頬に温かいものが流れ落ちた。

「神様ああああああぁぁぁぁぁっっ!!」
俺の悲痛な雄叫びと同時に下校のベルが悲しく鳴り二つの音は不協和音となり教室に木霊した。


「………次の日俺が休んだ事は言うまでもない…っと。ま、こんなところだ」
俺は話を止めニーナを見た。
ニーナは複雑な表情をしていた。
「ショウタって可哀想なんだね」
その言葉でちょっと泣きそうになったが、堪える。
ふと窓を見てみれば結構な時間だった。
「さて。夕飯としますか」
ニーナの緋色の瞳が輝いた。

――――あ、食材切れてた。

今日も夜は長そうだ。

126携帯物書き屋:2007/02/14(水) 23:17:12 ID:mC0h9s/I0
まず謝ります。すいませんでしたorz

なんとなくバレンタインデーということで書いてみました。
もう時間も迫っていたので勢いだけで書きました。無計画この上ないです。書き込んだあとに後悔・・・。

>>ドギーマンさん
完結お疲れ様です。最後にミーシャも笑えるようになって良かったです。
書いたその日にまた新しいのとはその執筆速度に感服です。

127第44話 それぞれの決戦:2007/02/15(木) 00:38:41 ID:vX9Amrn60
「あら?あんた日曜だってのに早いのねぇ?」
幸一は朝食を一人でとっている時だった。一番上の姉は人の事を言えない。
日曜に仕事だからだ。
「姉さんは仕事なんだろ?休日出勤かよ」
「大人は辛いのよ。あんたもそのうち解かるわよ。みっこはまだ寝てるの?」
そう、私のは名前は実希子。家族や友達からはみっこと呼ばれている。
「ねえちゃんは10時位にならないと日曜は起きないよ。ま、今日はなんだか用事があるみたいだけど」
「珍しいわねぇ。デートかしら?」
「いや、違うよ。新宿で友達とネカフェに行くんだよ」
「ネットならうちでいいじゃないの?」
「ま、姉さんには解からない事さ」
「はぃはぃ。じゃ、あたしは行くわよ」
「いってらっしゃい〜!」

私は幸一の予想通りに10時少し前に起きた。
「いってらっしゃい〜!」と幸一が言うのを布団の中で聞いてから2度寝したのだった。
ぼさぼさの髪の毛をそのままに茶の間のソファーに腰掛けながらテレビのリモコンを探した。
「何時に出かけるのさ?」幸一はレポートを書く手を休めて聞いてきた。
「11時半位かなぁ・・」
「約束は2時なんでしょ?」
「その前に3人でお昼食べようかと思ってるの」
「そっか。後で詳しく教えてよ?」
「はぃはぃ」

田村と佐々木は署内で打ち合わせをしていた。
田村の娘の美香は一度、入管に立ち寄ってから父親のいる署に向かっていた。
もちろん拳銃を取りに行ったのである。

「確認するぞ、いいか?」
「はい」
「今日の重要なところは、容疑者がナイフ等の刃物の所持、及びUSBフラッシュメモリーもしくは、
携帯型のHDDの所持のチェックだ。身分証の不携帯や偽造身分証のチェックも当然行う」
「どの時点で職質、身体検査にいきますか?」
「待ち合わせ場所からつけていき、ネカフェに同伴を確認後、我々も入店、USB端子が使用出来る店なら
全て監視した後に職質になる。USB端子が無い場合も同様だが現金の移動の確認が出来れば確保してくれ」
「USB端子については、全店チェックしておきました。端子を使えないところにいくでしょうか?」
「判らない、だが監視は必要だ」
「了解です」
「パスポート等の不携帯の場合、美香につまり、入管に引き渡す。いいな?」
「身柄の移送は?」
「本部の岡崎に頼んである。車は岡崎が新宿駅で待機してくれる」
「手柄を渡すんですか?」
「捜査手順をすっとばすんだ、それで済むならいいじゃないか。不満か?」
「岡崎さんを守るためでもあるんですね?」
「・・・そんなところだ。失敗は俺だけがかぶる」
「でも・・・」
「気にするな。これは始まりでしかない。容疑者逮捕をなんとしても達成するぞ」
「はい!」

待ち合わせ場所から1時間位離れた場所にそいつらは居た。
少し寂びれたビルの3階に事務所を構えて数年・・・所有者は日本在住30年の華僑らしい。
「你去那里? 」
「是的,我会.」
「 好运.」
短い言葉が交わされた後、黒いジーンズと黒い革ジャンに身を包んだ細身の男はそのビルを後にした。

128名無しさん:2007/02/15(木) 07:45:17 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
全都市ですか、壮大な計画ですね。日記形式なのが本当に旅行記みたいです。
これはやっぱりドギーマンさん自身RS歴が長いからこそできるお話でしょうか。
田舎町のバリアートが好きなので登場してくれる事を願っています(笑) 都市じゃないけど…
カインの話は大丈夫です、最後にちゃんと明らかにしてくれてますし。むしろ読解力が足りなくて申し訳ないorz

>携帯物書き屋さん
バレンタイン逸話、良かったです。いや笑っちゃいけないんだけど…。
ショウタ君の悲しい過去のひとつという感じで、それでも笑い話のように納まっていて面白かったです。
とんでもないラストでしたね(苦笑) "り"は、やっぱりリサちゃんなんだろうか…
逆に言えば女性の教師からショウタ君はチョコをもらえた可能性があったかもしれないですね(笑)

>きんがーさん
いよいよ当日になりましたね。
誰がどうやって繋がっているのか予想もできない展開で面白いです。
いつも読んでいて思いますが、一人っ子の私にはみっこたちの姉妹が羨ましいです(笑)

129第45話 待機:2007/02/15(木) 16:20:21 ID:vX9Amrn60
12時にまず3人だけで待ち合わせをした。
デルモちゃん推薦のお店に直行し、しばらくご飯を食べながら談笑した。

「そういえば、私たちが女でびっくりしたでしょ?」と私。
「実はそうでもない。デルモはびっくりしたけどねw」
「なんで?ぎゃおすは女だって気づいてたの?」
「私はぎゃおすは男だと思ってたわ」とデルモ
「いや、ぎゃおすが心配してメールくれたじゃんか?あの時に判ったよ^^」
「え?ど、どうして?」
「メアドがmikkoriだったでしょ?つまり【みっこ】って呼ばれてるわけでしょ」
「あちゃー!そうゆうことかぁ^^;」
「ちなみにデルモは1987年12/15生まれ・・・当たってる?」
「www携帯のメアドでバレタかwww」
「そうゆうこと。女の子って判り易いよね」
「気をつけなきゃ、あっとゆうまに個人情報抜かれちゃう時代ですね」
「あたしもメアドから誕生日抜こうかなぁ」
「変えたら教えてね^^」
「もちろん!^^」
しばらくそんな話をした後に本題に入る。
「そういえばこれからどうなるの?」
「まず新宿駅にいく。そこで時間になったら電話するのさ」
「それでお互いを確認ですね?私たちはキンガーさんの後ろから離れて付いて行けばいいと」
「そうみたい。それからネカフェに行って、アカウントをチェック。んで、交渉だね」
「自分のキンガーアカウントだったらどうするんですか?」
「警察に突き出すさ。そして取り返す」
「違うIDだったら?」
「取引不成立で解散w」
「うまくいくといいですね^^」
「そうだな^^ やっぱり愛着あるんだよね、あんなに時間掛けたからさ」
「その気持ち判ります!」とデルモ。
約束の時間に遅れないようにお会計を済ませ、私たち3人は店を出ることにした。


田村親子と佐々木は新宿駅で約束の時間の1時間前から張り込みをしていた。
「該当しそうな人物はいるか?どうぞ」と無線でやりとりをする。
「見当たりません。後15分ありますからそろそろでしょうが。どうぞ」
「こちらも見当たらないわ。どうぞ」
約束の時間が来たときだった。
「該当者発見!黒い上着の男と黒いキャップを逆さに付けた男2人だ。佐々木の方に向かっている。どうぞ」
「了解。やりすごして後につきます」
「すぐに追いつきます!」と美香。
「二人が合流したらカップルのつもりでついていってくれ。俺はその後ろにつく」
「了解」と二人。
どうやら東方面に向かうらしい。
「佐々木!入店しそうな店が判明したらUSBが使えるか連絡してくれ」
「了解」
例の男2人がついに目的地と思われるネカフェに到着、少し話をしてからお互いの了解を得たのか
入店していった。
「入店・・・USBが使用できない店舗です」
「二人で続いて入ってくれ。店員に身分を明かしていいぞ。容疑者の使用するPCを教えてもらえ!」
「了解。田村さんを待ちますか?」
「待たなくていい。そちらが確保出来るまで店外で待機する。以上」

130ドギーマン:2007/02/15(木) 18:11:38 ID:VVuASkOI0
●月■日
魔法都市スマグ
魔法都市というだけあって、ウィザードが多い。
しかし、都市という割には規模も小さく、まるで村のようだった。
この街はゴドム共和国の勢力下にあるが、実際のところウィザードギルドが統治している。
あの鉱員に聞いたウィザードに直接尋ねてみたところによると、
ウルフマンに変身する能力を持つのはスマグ生まれのウィザードだけで、
他の地域で生まれたウィザードは決して変身することは出来ないという。
スマグの北に広がるアラク湖と、スウェブタワーの一帯に発生している魔力場の影響が彼らの体質に変化をもたらしたらしい。
アラク湖の水には微弱ながら魔力があり、この水がスマグの街やスウェブタワーの魔法機器を稼動させている。
また、この水を飲んで生活することで、体内に魔力が長い年月をかけて次第に蓄積していく。
それが、スマグの強力なウィザード達を生み出す要因だそうだ。
スマグのウィザード達がどのようにして生み出されたかは分かった。
では、ウルフマンは?
ウルフマンという存在は昔から居たわけではない、ここ50年間の間にウィザード達が変身する能力を持ったらしい。
もしアラク湖の水が原因だとするならば、もっと昔からウルフマンが存在してもいいはずだ。
全ての謎の鍵はスウェブタワーにある。
あのウィザードはウルフマンがどのように生み出されたのかを知るため、
スウェブタワーを調べていたところ、突然退去命令が出たという。
私はその理由を知るべく、スウェブタワーについて調査を開始した。

スウェブタワー、アラク湖北西に位置する大陸中最大の高層建築物である。
地上20階、地下13階という巨大なウィザード達の研究施設。
スウェブタワーが建設されたのは約100年前、当時のウィザードギルドマスターの指示により建設された。
当時スマグが持ちえた魔法技術の粋を集めて建築され、
あの塔にはアラク湖の水から魔力を抽出し、貯蓄するという機能が備わっているらしい。
もしそれが本当ならば、あの塔には現在膨大な量の魔力が貯まっているはずである。
私がスマグの資料施設"ウィザードの研究室"で調べ得たのは、ここまでだった。

●月×日
魔法都市スマグ
ウィザードの研究室にはあれ以上これといった資料は見つからなかった。
スマグのウィザード達に対して表立って聞いて回るわけにもいかない。
私はスマグのグローティング酒場で街の住民や傭兵たちに聞き込みを始めた。
そこで、私は住民から気になる情報を得た。
どうやら、この街はかつてかなりの規模を誇っていたらしい。
その勢力は凄まじく、ブルン王国領にありながらブルンネンシュティグを凌ぐ勢いだったそうだ。
しかし、120年前にシュトラディバリ家の反乱において王国に味方した多くの優秀なウィザードが戦死し、
それに伴いスマグの勢いも衰えてしまった。
現在では、都市とは名ばかりで東端の小さな村の一つとなってしまったそうだ。
シュトラディバリ家の反乱後、多くの王族がこのスマグに逃げ込んだ。
今ではスマグの街はおろかウィザードギルド内部にまで王族の末裔と彼らの支持者が大勢居るらしい。
私にその話をしてくれた住人もブルン王族の支持者らしく、
現在の共和国制をいつか打ち倒して王国を取り戻すと酔った勢いに任せて息巻いていた。
彼の話によると、スウェブタワーを建設したウィザードギルドマスターから、
現在のギルドマスターのゲンマ長老までの全てのマスターが王族支持者だという。
どうやらスウェブタワーとウルフマン誕生には、
彼ら王族支持者にとって人に知られては都合の悪い裏があるようだ。

131ドギーマン:2007/02/15(木) 18:39:17 ID:VVuASkOI0
あとがき
さて、どうしよう。
あとの展開ほとんど考えてません。
まあ、なるようになるでしょう・・・・。
ちなみに、現在スマグではレッドアイにスウェブタワーと地下道を占拠されていますが、
この話の舞台はそうなる前という設定です。

>>128
バリアートですか。もちろん行かせますよ。
もう少し先のことになると思いますが。
別にRS暦が長いから、というわけではなく公式サイトを覗いて公式設定の情報を見たり、
あとは街を回ってNPCの話を読んだりして情報を集めてます。

>キンガーさん
ついに来ましたね。続きが気になります。

>携帯物書き屋さん
ショウタには悪いですが、少し笑ってしまいましたw
こういう話を読むと、ニーナには早く帰ってきてほしいなと思います。

132名無しさん:2007/02/15(木) 19:41:37 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
なるほど、そうでしたか。失礼しました(汗)
メインクエでスウェブタワーに死ぬ気で突撃してNPCを見つけるたびに話を聞いてました(笑)
「ウィザードこそ地上最強!」のような事を言っているNPCが居て面白かったです。
ウルフマンについて何か分かってくるのでしょうか。続きを楽しみにしています。

133ドギーマン:2007/02/16(金) 00:00:10 ID:VVuASkOI0
●月○日
魔法都市スマグ
思ったより長居することになってしまった。
調査のほうも行き詰ってきている。
これは、直接スウェブタワーに行ってみるしかないのだろうか。
しかし、スウェブタワーへの通路の途中にはカスターとかいう盗賊たちが居座っているという。
これでは、到着する前に殺されてしまうかもしれない。
ウィザードたちはどうやってスウェブタワーに行っているのだろうか。
何か、別のルートがあるのだろうか。

今日も酒場で聞き込みをしていた。
すると、酔っ払ったウィザードが何か喚いていた。
もうたくさんだ。いつまでも王国の影にしがみついて・・・・・、シルバを忘れたのか。
その老齢のウィザードの一言に酒場の雰囲気が一変したのが分かった。
私はテーブルに突っ伏していた彼のそばに行くと、バーテンダーに彼の酒代を払って彼を強引に外に連れ出した。
彼の左手の平は小指から中指にかけて何かに食いちぎられたように半分しかなかった。
酔っ払った老人の体を私は支え、彼を家に送ることにした。
老人はふらふらとした足取りで私に家を教えてきた。

老人は小さな家に着くと、すぐに寝てしまった。
家の中は掃除などずっとされていなかったのだろう。かなり散らかっていた。
しかし、テーブルの上だけは他のものに混ざらないように、
大事そうに小さな白い紙だけが置かれていた。
それは手紙のようだった。差出人の名はシルバと記されている。
私はそれを読もうかと思ったが、やめた。
翌日また老人を訪ねることにする。
何か話が聞けそうだ。

134ドギーマン:2007/02/16(金) 00:01:20 ID:VVuASkOI0
●月△日
魔法都市スマグ
老人は私のことを覚えていてくれた。
二日酔いが残っているそうだが、訪ねてきた私を快く家に招きいれてくれた。
相変わらず散らかった部屋で、お茶を出してくれた老人に私は聞いた。
シルバとは誰なのかと。
何故そんなことを聞くのかと言う老人に、私は全てを話した。
老人はしばし悩んでいたが、やがて決心すると私に話してくれた。

シルバとは老人の死んでしまった息子の名で、
シルバもまたウィザードギルドで研究するウィザードの一人だった。
男手一つで育てあげた自慢の息子だったという。
2代前のウィザードギルドマスターのケインスルのもと、シルバは助手としてその研究に携わっていた。
ケインスルが行っていた研究、それはウィザードの肉体強化だった。
魔力の扱いに長けるウィザードに肉体的な強さが備われば、完全無欠となる。
共和国の転覆を考えていたケインスルにシルバは同調し、その研究に没頭した。
そしてスウェブタワーの地下には捕らえられた実験用のモンスターが集められた。
それらはモルモットとしてだけではなく、モンスターの強靭な体力を研究するためだった。
そして、研究は最終段階を迎えた。
人体実験である。
シルバは、彼の反対を押し切って自ら進んで被験体となることを志願した。
シルバは実験の成功を信じていた。
この実験はきっとスマグに新たなる発展を呼び、
そして共和国を打ち倒し、スマグにかつての繁栄を甦らせる礎となる。そう信じていた。
しかし、彼の目の前でそれは起こった。
彼はシルバの父親であり、また高位のウィザードであったということで、
内容は事前に知らされなかったが特別に実験への立会いが許されていた。
老人は震える声で見たんだと何度も言っていた。
ひどく取り乱し、私には老人が何と言っているのか分からなかった。
ただなんとか聞き取れた部分を総合すると、シルバは父の目の前で怪物となった。
ケインスルはその怪物に古代語で"狼"を指すバリンをかけて"シルバリン"と名付けた。
怪物は最初はバリンの意識を保っていたが突然暴走し、ケインスルを始めとするウィザード達を襲い始めたという。
取り乱す老人は、顔を手で覆いながら何度も
バリンは、バリンはと呟いていた。

老人が落ち着いてから、私は聞いた。
テーブルの上のバリンからの手紙のことを。
老人は泣きながら再び話し始めた。
シルバリン、いや、バリンは彼の左手を喰らってから自我を取り戻した。
そして父と、返り血に染まった自身の体を見て逃げ出した。
実験場で生き残ったのは彼とケインスルだけだったという。
彼が家に帰るとバリンの姿は無く、代わりに手紙が残されていた。
私は老人に許可を得て、その手紙を読ませてもらった。
ここにその内容を記すことは出来ない。
ただシルバは謝りながらも、この実験はきっと将来スマグ発展をもたらすと頑なに信じているようだった。

その後、ケインスルは彼の反対を押し切って研究を強行した。
彼はシルバをウィザードギルドで捜索してくれと何度も主張したが、周囲の反応は冷淡だった。
街を出て行ってくれた怪物をわざわざ探す必要はない。
危険を冒してまで怪物を捜索することは出来ない。
そして、一番の理由はケインスルが言い放った一言だった。
実験体シルバリンは非常に不安定な失敗作であり、おそらく肉体を1週間と維持できずに死亡するだろう。
その言葉を発する老人は怒りに顔を歪ませていた。
シルバリンではない、シルバだ。失敗作だと、貴様を信じていた息子に対する仕打ちがこれか。
そう泣き叫んだ。

私はそのシルバに聞き覚えがあった。
その昔オロイン森に現れ、人々に恐怖を振りまいた怪物の名だ。
怪物はすぐに消えたが、その正体が最初のウルフマンだったとは。

135ドギーマン:2007/02/16(金) 00:02:23 ID:VVuASkOI0
●月□日
魔法都市スマグ
私が泊まっている旅館の一室にウィザードたちがやってきた。
そして、ウィザードギルドの令状を私に見せ付けて退去命令を下した。
即刻出て行けと彼らは言った。
抵抗することは出来なかった。

去り際にあの老人が私を黙って見送っていた。
もしかしたら、彼が私をウィザードギルドに通報したのかもしれない。
彼の目を見て私はそう思った。
退去命令だけで済んだということは、老人は私に話したことを黙っていたのだろう。

結局私はもう二度とスマグに入ることは出来なくなった。
現在居るウルフマンに変身可能なウィザードたちは果たして大丈夫なのだろうか。
王族の末裔やその支持者たちは時が来たら彼らをシルバのようにしてしまうのではないか。
振り返った私の目に、スウェブタワーの頂から発せられる怪しい魔力の輝きが見えた。

136ドギーマン:2007/02/16(金) 00:07:11 ID:VVuASkOI0
あとがき
スマグ編終わりました。
結局またシルバリンをネタにすることになりました。

スマグの住民がゴドムの共和国制に反感を持っていて、
王国の復興を望んでいるのは本当なようです。
ただ、そこにこういった話があるかはまた別ですが。

137ドギーマン:2007/02/16(金) 00:14:51 ID:VVuASkOI0
>>134
ああ、ミス発見。
途中でシルバの名前がバリンに変わっちゃってる・・・・。
思いついたままに急いで書いたからかな。
脳内変換をお願いします。

138名無しさん:2007/02/16(金) 07:53:50 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
ウルフマンはそう考えるとかなり異質な存在なんですね。
サブでウルフをやっているのでなんだか他人事じゃないように思えます。
そしてやっぱり、犬ではなくて「ウルフ」なんだと…声を大にして言いたい(笑)
ドギーマンさんは以前のいくつかの話もそうですが、政治的な裏話などもお得意ですね。

名前の部分は了解しました。
私も自作の小説では登場人物によく本名と愛称を設定するのですが、本名を完璧に忘れます(苦笑)
それにしても思いついたままに急で書いてこれだけの内容ですか。つくづく脱帽です。

139ドギーマン:2007/02/16(金) 22:18:10 ID:VVuASkOI0
▲月●日
神聖都市アウグスタ
やはり、この街に来たからには大聖堂に寄らねばなるまい。
開け放たれた大扉に近づくと、中から聖歌が聞こえてきた。
どうやら、たまたまミサの最中だったらしい。
中に入って見渡すと、広い大聖堂に街中の人間が集まっているのか長椅子に空席はなく、立っている人が多かった。
皆目を閉じて聖歌隊の少年少女達の歌声に耳を傾けている。
信者でもない私は、その雰囲気に何故か気まずさを覚えた。
逃げるように外に出ると、出口のところに立っていた神父が話しかけてきた。
神父なのにミサの最中に外に出ていていいのだろうか。
取り留めのない挨拶を交わすと、私は神父にそのことを聞いた。
神父は笑いながら大丈夫だと言った。
ミサに出席するのは大事なことだが、
それよりも一人でも多く迷える仔羊を救うことのほうが尊いと考えているのだそうだ。
どうやら、彼には私は"迷える仔羊"に見えたようだ。
私は彼に自分はグリーク教信者ではないし、神を信じている訳でもない。教えを受ける資格はないと言った。
それに対して神父はそんなことは関係ないと言う。
私は彼に興味を覚え、しばらく彼の話を聞くことにした。

彼が言うには、
皆人に迷惑をかけずに、互いに助け合いながら素直に生きれば、別に信じなくても神は見えてくるのだそうだ。
彼の信じる神とは決して天の上から見守るだけの存在ではないようだ。
そんな彼はどうやら周囲から見ても異質なようで、無神論者だとさえ言う者も居た。
私にはそうは思えない。
むしろ、彼ほど神の教えを伝えるに相応しい人は居ないとさえ思えた。
しかしそれでも私は宗教というものが苦手だ。
グリーク教の歴史を見ればそう思えてしまう。

グリーク教の起こりは定かではない。
遥か昔、地上に遣わされた一人の天使が伝えたとされる教えがその元となっていると言われている。
アウグスタのあちこちに立つローブをまとった大きな天使の像がそれだという。
宗教は国をまとめる上で大いに役に立つ。
ブルン王国はグリーク教を取り込み、グリーク教はブルン王国の力を借りて極東の全域に広がった。
しかし、グリーク教は王国に広まると同時にその力を増大させ、国政に対しての発言力を持ち始めた。
ブルン国王はそれに対して圧政で対抗し、グリーク教は弾圧された。
こうして、王国の弾圧に抵抗するグリーク教急進派の戦いが始まる。
彼らは弾圧を逃れるように各地に散らばって潜伏し、
彼らを支持する貴族達の支援を受けて王国打倒の機会を狙っていた。
その彼らの影響を強く受けたのが現在の神聖王国ナクリエマである。
彼らは自分達を"キングダム・クルセーダー"と呼んだ。
シュトラディバリの反乱においても、ストラウスの反乱においても、
彼らグリーク教急進派の影はあった。
神の教えを伝えるという宗教がその実戦争と大きく関わっているのだ。

それだけではない、グリーク教は他の宗教に対しても否定的で弾圧的だった。
排他的な宗教と言っていい。
森の中で素朴に暮らす先住民達にすら、異教徒だと言って改宗させようとするのだから。
私はそういった宗教の側面を知っているがために、信者にはなれない。
しかしこの話をこの神父にしたとしても、きっと彼は否定も肯定もすまい。
彼にとっての神は歴史の中にも、天上にも居ない。
彼自身の心の中に居るのだから。

140ドギーマン:2007/02/16(金) 22:26:04 ID:VVuASkOI0
あとがき
アウグスタも終わりました。

今回の話に登場する神父は、
アウグスタの121.32に居る神父NPCがモデルになっています。
なおグリーク教の歴史に関しては、
セットアイテムの急進派兵器庫のアイテム情報等から推測しました。
あの天使像が最初に教えを伝えた天使だというのはNPCから得た情報です。

他にも、アウグスタの葡萄畑やワイン工場は教会が運営しているようです。
ミサの際にはワインを持っていくのが慣例になっているようで・・・・・。
終わったら酒盛りでもするのかな?w

141名無しさん:2007/02/17(土) 00:36:39 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
何か、歴史の本を読んでいるような重量感があります。
アウグスタのワイン畑もそうですが、確かにRSって町ごとにちゃんと特色がありますよね。
今まで通過点にしかしてなかったアウグスタも次回行ったらちゃんと探検してみよう(苦笑)

ところで、ドギーマンさん自身も実際都市を回られてるんですよね。取材お疲れ様です。
次はどこの町に行くのかな〜…楽しみです。

142名無しさん:2007/02/17(土) 02:42:43 ID:wEUlJYbY0
>>ドギーマン氏
 面白い視点での話ですね。
 グリーク教の聖職者の中には、ワインを愛好する者が多そうですね。
 あるクエストNPCも、昼間っから飲んでるようです。
 ちなみに、某キリスト教では、ワインをキリストの血に見たてるそうです。
 聖餐・エウカリストという儀式の中で、それを使うとか。
 そう考えるとグリーク教は、そのものずばりキリスト教的な、血生臭い性格の宗教としてデザインされているのかもしれませんね。
 クルセイド然り、異端者・異教徒然り。でも、街中には異端者を断罪する処刑台や、ギロチン台がない。

 公式サイトには、’辺境’アウグスタ半島出身の剣士達は、両手持ちの大剣を愛用するとあります。
 つまり、これは戦士に関する記述です。彼らの得物の中に、ある大剣があります。
 エクゼキューショナーズソード。日本語訳で、「処刑人の剣」。
 しかし、アウグスタの街中には、大剣を持った戦士達は見えず、ギロチン台が無い。あるのは、聖堂の前などにあるベンチの様な白い台ばかり……。
 思うに、戦士達の技は、異端者を公開処刑する為に発達したモノだったのではないでしょうか。
 そう考えると、ディレイクラッシングの性能や、二段打ち下ろしのスキル難度、街中にある白い台も説明がつきます。
 それが異端者審問が落ち着いて、段々処刑人達が傭兵となって戦士と呼ばれたり、戦士を目指す者達によって実戦向きに実用化されたのではないか、と考えています。
 だから、戦士スキルは実戦たる『ギルド戦争』ではあまり使えず、狩りや、プレーヤー誰もが知らない『他の分野』で活躍しているのかもしれませんね……。

 PS.妄想爆発なので、真に受けないでくださいm(_ _)m

143名無しさん:2007/02/17(土) 10:00:44 ID:yZqWB8n60
>>142
でも、辻褄が合っていますね。
処刑人=戦士と短絡的に結べなくてもそう言われてみると納得できます。
そうなるとスキルアップ装備の名称の「勇者」というのも何か皮肉めいたものを感じてしまう…。

144名無しさん:2007/02/17(土) 15:55:29 ID:QAoLKcsw0
たかがゲームでもしっかりとした設定があるんですね・・・
見てて面白いです。

145ドギーマン:2007/02/17(土) 19:19:48 ID:VVuASkOI0
▲月▲日
港街ブリッジヘッド
アウグスタ半島最南端に位置する港街。
大陸一の治安の悪さで有名な犯罪の街。
かつては小さな漁村にすぎなかったこの街も、やがて海運の中心地となり、
今やそこにT・H連合ギルド、世間で言うシーフギルドが結びついている。
今でも昔ながらの漁業を営む者もいるが、街の殆どの男がシーフギルドの関係者となっているらしい。
海で海難に遭って死ぬ者よりも、陸でギルド間の抗争に巻き込まれて死ぬ者のほうが多いそうだ。
しかし、それでもシーフギルドがこの街を支えているのも事実だ。
シーフギルドの麻薬を始めとする禁制品の密輸がこの街を支えている。
それに拍車をかけるように、街を守る衛兵の数も他の都市に比べて極端に少ない。
この街で唯一警備が厳重な場所と言えば、銀行くらいなものだ。
それでも街の人間はブリッジヘッドの銀行は利用しない。
わざわざアウグスタの銀行まで出向いて預金する。
それだけこの街では信用というものが危険なのだ。

もちろん街の住人もそれで黙っているわけではない。
ナクリエマ士官学校に要請して研修生を派遣させているようだが、
その研修生達もこの街の雰囲気に当てられてしまい、生活態度が乱れているそうだ。
中には麻薬を買う者すら居て、教官まで派遣される始末だ。
あのやる気のない衛兵達と一緒に居ては、それも仕方のない気もする。
その一方で金のある者は傭兵を雇って身を守っている。
この街で出会った女傭兵の話によれば、この街は仕事こそ少ないが収入はいいそうだ。
その仕事にかかる危険と天秤にかけても見合う報酬なのかは分からないが。

そんな危険な場所であるからこそ、私の好奇心をそそるものがある。
私は街が夜になるのを待って酒場に足を伸ばした。
暗い顔のバーテンダーが運んできたビガプール産のウイスキーを飲みながら客の様子を眺める。
その多くは船員であり、グループを作って酒を飲み交わしながら談笑していた。
どうやら彼らの間ではシーフギルドは"組合"と呼ばれていて、
その所属する組合によってグループが分けられているようだった。
酒場の中央に位置するカウンターで一人私は彼らの話に耳を傾けていた。
そこに、船員の一人が仲間から外れて私の隣に座って話しかけてきた。
心中で身構える私に、その船員は意外なことを聞いてきた。
私が旅をしている人間と察したのか、農業をやるにはどこの土地がいいかと聞いてきたのだ。
私は彼にバリアートがいいと思うと言ってやり、そして何故そんなことを聞くのかと尋ねた。
どうやら彼は船員の荒々しい生活に嫌気がさしてきたらしい。
見れば他の船員ほど若くは無い。
契約の関係でまだしばらくは船員を続けなければならないが、
契約が終われば船員を辞めてのんびりと田舎で農業をしたいのだそうだ。
彼の二の腕には刃物によるものだろうか、大きな傷が見えた。
彼はこれまで何を見てきたのだろうか。
私が彼にさらに話を聞こうとすると、突然背後が騒がしくなった。
彼はすぐさま席を立って私の腕を引っ張ると、
強引に酒場の出口まで私を引っ張って、もう戻るなと言って私を外に押し出した。
どうやら、喧嘩が始まったらしい。外にまで中の叫び声やガラスの割れる音が聞こえる。
彼は騒ぎが大きくなる前に私を外に逃がしてくれたのだろう。
私は彼の気遣いを無駄にしないためにすぐに走り出して酒場から離れた。
途中、振り返ると酒場の明かりに数人の走る人影が酒場に吸い込まれていった。
衛兵には見えないから、おそらくシーフギルドの者だろう。
衛兵よりもシーフ達が騒ぎの沈静化に動くとは――――。
もし、彼が居なければあのシーフ達に目をつけられていたかも知れない。
私は夜の港町を宿に向かって歩きながら、明日早朝に発つことに決めた。

そう、私は酒代を払っていないのだから。

1461:2007/02/17(土) 19:41:04 ID:EGmOaby.0
世界は甘くないという言葉を、今まさに思い出していた。
ヤッ!と何とも勇ましい声をあげて剣を振るい、盾でガードして戦うのは、エルフである。
これが味方ならば、どんなにか此度のクエストも楽だったろう。
初心者クエストなんていうのは名前だけ、実際の”初心者”、つまり若葉では、太刀打ちできないようなモンスターを相手にするのだ。
否、モンスターではないのかもしれない。彼は、ギルバートは、本当はヒトだった。
今回のクエストは、初心者にうってつけだと知り合いのランサーに薦められ、受注したクエストだった。
内容はごく簡単、ドレスを注文して引き取ってくるだけだ。だが、どこで何を間違ったのか、洞窟の奥深くのギルバートを倒す破目になった。
本当は彼を助けてあげたいのだが、こういう場合、往々にして救われない。
中では何度も死にかけたが、何とかギルバートに止めをさして洞窟を出てきたら、突然これだ。目の前にエルフが一匹いたのだ。
攻撃命令を下す暇もなく、私はエルフから逃げるのに必死だった。
ご主人様の危険を察知して、攻撃命令を下さずとも反撃するペットと召喚獣。
がるるる、と低くケルビーが唸った。盾で跳ね返されて、痛かったのだろう。
可哀想に、怪我して血を流しているのはコボルトだ。病気で弱っていたところをテイムし、少ない知識で看病して、今こうやってペットとして連れている。
例の先輩ランサーから聞いた、MPKという言葉が脳裏を過ぎった。
MPKという言葉の派生元は知らない。ただ、その意味は知っている。
出入り口にモンスターを連れてきておいて、何の準備もできていない冒険者を殺す。そんなことをして楽しむお馬鹿もいるのだ。
MPKじゃなくても、とても私に太刀打ちできる相手じゃなかった。
何しろこの地方のモンスターは、まだ若葉を卒業したばかりの私には強すぎる。
可哀想にも死なせてしまったウィンディを召喚解除し、今度はスウェルファーを召喚する。
こういった、動きの早い相手には、魔法攻撃が良いとランサーに聞いたからだ。
けれど彼らもそこまで強いわけではない。案の定回復が追いつかずに、召喚獣は二匹とも尽き果てようとしていた。
コボルトはもはや戦えるような状態ではない。

1472:2007/02/17(土) 19:41:55 ID:EGmOaby.0
私自身、もう体力が随分削られていて、持ってきた赤ポットはギルバート戦で使い果たし、召喚獣どころか私の命さえ危うい状況だった。
もう死んでしまうのかもしれない。そんな諦めさえ浮かんでいた。
死ぬのならば、ペットといっしょがいい。一人で死ぬのは怖いし、嫌だ。
もしかしたら、さっき倒したギルバートだって、殺してくれなんて言いながらも本当はこんな気持ちだったのだろうか。
「コボルト、ゴー!」
笛を使ってエルフを指す。よろよろとなりながら、勇敢にもコボルトはエルフに立ち向かって行った。
私はもう、笛でエルフを殴ったりはしない。無駄な抵抗はしないことにした。
いつのまにかエルフは召喚獣への攻撃をやめ、私に切りかかってきていた。これで死んでしまうのだろう、短い人生だった。
そうして目をとじた。できたら、楽に死なせてくれたら嬉しいのだけれど。
鈍い音が数発聞こえて、断末魔の叫びが辺りに響いた。最初はコボルトが死んだのかとも思ったが、コボルトの声ではなかった。
恐る恐る目をあけると、黒い服をまとった男が立っていた。彼の足元には、先ほどまであれほど私を脅かしていたエルフが転がっている。
「大丈夫?」
彼はまっすぐに私を見つめ、問うた。
「怪我してるな。あまり無理はするな、死にたいのか?」
呆れたような口調で言いながら、彼は私の腕をとった。痛みに眉根を寄せる。
気がつかなかったが、いつの間にか切り傷ができていた。血がだらだらと流れている。見ていて、あまりいい気はしない。
「これはあくまで応急処置だから、ビショップかウィザードに手当てしてもらえ」
そう言いながらも彼は、私とコボルト、そして召喚獣に応急処置を施してくれた。
「見たところ、まだそんなに強くはないみたいだが……どうしてここに?」
先ほどのエルフの断末魔の叫びにつられ、寄って来たもう一匹のエルフを軽々と片付けながら、彼は訊いた。
どうやら彼は武道家のようだ。シーフと武道家の見分けは、正直に言うとつきにくい。しかし戦い方を見れば一目瞭然だ。
彼は体を使い、簡単に敵を倒していく。武道家である何よりの証拠だ。
ちなみに、ビーストテイマーは、そう簡単にサマナーとの違いを見分けられない。
サマナーでもペットを連れている人はいるし、テイマーでも私のように召喚獣を出している人もいるからだ。
私は初心者クエストのことを話した。すると武道家は驚いたように言う。
「いくらテイマーとは言えど、まだこのクエストは辛いだろうに。手伝おうか?」
「いいえ、もう終ったので大丈夫です」
「そうか、よかった。気をつけて帰るんだぞ」
最初は少し怖い雰囲気の人だと思ったが、彼はにっこり笑って去っていった。
彼の後姿を見つめながら、さっきエルフと戦ったときとは違う感覚で心臓が高鳴っているのに、私は気がついていた。

後日。
「一人で行ったの!?」
クエストの結果をランサーに告げると、彼女は驚いていた。
「誰かいっしょに行ってくれる人がいるとばかり思ってたのに……。なんならあたし呼んでくれてかまわなかったのよ?」
「そんなの、早く言ってよ」
唇を尖らせながらあたしは不満を述べた。
彼女はいつだってそうだ、どこかしら抜けている。腕は確かなのに、これでは勿体無い。
「で、その時武道家の人が通りかかって、私を助けてくれたんだ」
「へぇ、優しい人も居たモンね。あたしなら、横取りするなって言われそうで、助けてなんてあげないけど。
 最近のテイマーは、マナーのなってない子が多いしねー」
私は本当に、この女の友達でいていいのだろうかと思う。
テイマーの私を目の前に、よくもそんなことを言ってくれる。
「ま、あんたはなかなかしっかりしてると思うよ」
ばしん!と勢い良く背中を叩かれた。コボルトよ、どうして彼女を攻撃しないの?お前のご主人様は今、背中に10のダメージを負ったよ。
「また会えたらいいよね、その武道家」
彼女の言葉に、私は小さく頷いた。

1483と言うかあとがき:2007/02/17(土) 19:45:35 ID:EGmOaby.0
始めてこのスレに書き込みます。
いつもみなさんの小説を読んで、楽しませてもらっています。
一回目のレスでsageそこねてしまってすみませんorz

この話は、例の初心者クエのラストをテーマに書いてみました。
私自身「初心者」という言葉に騙されて、30くらいで行って、何度も死んだ思い出があります。
みなさんのように感動する話も笑える話も書けませんが、
読んで少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

149ドギーマン:2007/02/17(土) 19:46:14 ID:VVuASkOI0
あとがき
ブリッジヘッド終わりました。
今回の話に登場する船員はブリッジの143.92の船員がモデルです。
あと、一行だけですがバーテンダーは88.188の住民です。

気になる情報ですが、まだ未実装エリアと思われるジェイブ島への連絡船がブリッジから出ているそうです。
世界地図を見ると、ブリッジヘッドの面した海に小さな点々がありますね。
あれはクリペの墓という暗礁地帯だそうです。
メインクエのストーリーが進めば関わってきそうですね。
なんでも幽霊船が出るそうですから。
あと、シュトラセラトから南の地図外へ向かって伸びる線。
あれは大陸を南に迂回してのエリプトへの直通航路のようです。

>>141-144
普段何気なく見過ごしているNPCからでも、何かしら情報は見つかるものですね。
断片的なものばかりなので自分で色々想像してみると面白いかもしれません。
>>143
なるほど、面白いです。
戦士の起こりは意外とそういうところにあるのかもしれませんね。

実は、アウグスタのNPCの発言で街の北にはスラム街があるというのがありました。
おそらく麻薬巣窟のことを指しているのだと思いますが、
街の中と街の北の納骨堂、アウグスタには二つの墓場があります。
街の中にあるのは教会のために死んだ人の墓場、どれも立派な作りです。
しかし一方では街から離れた小さな納骨堂に他の死者と一緒に埋葬される人も居る。
神聖都市の裏側を見ているようです。

150ドギーマン:2007/02/17(土) 19:59:03 ID:VVuASkOI0
>>148
初心者クエは確かに初心者には厳しいですよね。
スマグまで行かせたりとか移動距離も長いですし。
ギルバートのところに行くまでに何度オーガに殺されかけることか・・・。
次を期待しています。

151第46話 確保:2007/02/17(土) 21:22:05 ID:vX9Amrn60
まだなのか・・・佐々木から無線がこない。
入り口で待機する田村、通りを歩く人たちに注意深く視線を投げながら、万が一逃亡されることがないようにする。
頼む、確保してくれ。今は佐々木と美香だけが頼りだった。
事前の打ち合わせでは、佐々木の助言を受け入れた。

「田村さん、おそらくアカウントを確認するのにもゲームクライアントがPCに入っていないとどうもなりませんよ」
「どうゆうことだ?クライアント?」
「ネカフェのPCに目的のゲーム本体が入っていないと確認しようがないということです」
「それじゃネカフェを利用する意味がないじゃないか」
「ネカフェですからね、当然ネットからダウンロードします。5〜10分くらいでしょうねぇ、かかる時間は」
「それじゃ、そのクライアントが入ってない場合はダウンロードを待つのか?」
「でしょうね。しかし容疑者か取引の相手がHDD等にクライアントを入れて持ってきた場合はインストールするだけで済むでしょうね」
「では入店しても目的の動きがあるまではしばらくタイムラグが生じるのか・・」
「つぶさに監視しなければいけないでしょう」

この店はUSBが使えない・・・つまりクライアントのダウンロードが先なのか?
中の状況が判らないのはもどかしかった。

「クライアントをインストールし、アカウントの確認が行われ取引の動きがあれば身柄確保でいいですね?」
「そういうことになるか・・・判断は佐々木にまかせる!いいな?」
「任せてください!」
「取引不成立はどうしますか?」
「不成立時でも二人とも確保して職質してくれ。当りかもしれんからな」
「判りました」

入店してから15分経過していた。動きはないのか? 
イヤホンからザザッというノイズの後佐々木から無線が入った。

「えー現在インストール中、目標は視認できています。店側の協力で全部屋ドアを開けてもらっています」ザザッとノイズ。
「店の出入り口を美香に確認させてくれ。佐々木、お前はそのまま監視続行だ」ザザッ
「了解」

永遠とも思えるほどの時間の後、再度無線が入る。

「裏口が一つありましたが、こちらの前を通らないと抜けられないようです」
「判った。このまま入り口で待機続行する」

5分後音割れしたような無線が入る。

「確保!確保!押さえました!応援ねがいます!」
「了解!!」
逸る気持ちを抑えなるべく他の客たちに迷惑にならないよう入店する田村。
小さく店員にささやき身分を明かし、同僚の元へ案内させる。
佐々木と目が合い美香も小さくうなずく。
目標の二人はキョトンしたまま、何が起きたのか判らないようだった。
田村は警察手帳をさりげなく提示してこういった。

「判るな?警察だ。身分証の提示をお願いしする」

152名無しさん:2007/02/18(日) 00:40:41 ID:yZqWB8n60
>ドギーマンさん
ブリッジヘッドってアリアンに次いで露店が多いんですよね。
初めて来た時(露店クエストを受けに来た時)にびっくりしたのを覚えています。
シーフギルドAに迷い込んで瞬殺されたのも懐かしい話です(笑)

>>148
初心者クエのギルバートの話が好きな人を前にもこのスレで見かけました。
私も一度だけ(しかもテイマで)やりましたが、PCの前で泣きたくなりました(笑)
しかし、武道カッコイイ…メインなんですがあんまり日の目を浴びる事が少なくて色々感動してます。
こんな風に颯爽と登場してみたいよ…。

>きんがーさん
な、なんという場面で…現在考案中か執筆中でしょうか?
続き激しく待っています!

153名無しさん:2007/02/18(日) 06:10:45 ID:wEUlJYbY0
-LUNATIC Life-

 酒の匂いに混じって、独特の臭いが鼻を突き刺す。中年の男が発する加齢臭に、汗やら何やらが混じったあの臭いだ。
 一般的に男臭いと表現されているが、男の俺でさえ辟易しているこの悪臭に、よくウェイトレス達は耐えているのものだ。
 カウンターにたむろする女たちを見ながら、素直にそう思う。昼間であるにもかかわらず薄暗い酒場にいるのは、私と目の前の中年男と、数人のえたいの知れぬ連中。どれも、路地裏ではお会いしたくない手合いだ。
 改めて、目の前の男を観察する。
 テーブルを挟んで踏ん反り返る、いや、だらしなく椅子に身を任せる男は、中年太りまっさかり。
 剥げた頭に両端の髪の毛を這わせめかし込んでいるつもりだろうが、それが余計に貧しい頭を強調している。
 表情と服装はだらしなく緩み、ウィスキーをボトルごと煽る姿は、なんとも情けない。見ているこっちが痛々しいほどだ。
「あん! いい加減止めてよ」
 そして、時折そばを通りかかるウェイトレスの尻を撫でては、下卑た笑いを女に向けている。
 どうみても落伍者。飲んだくれのスケベオヤジといった風体の男に、今ほど尻を撫でられた三十路程のウェイトレスが詰めよる。
「全く、バルドさんと来たら、お店じゅうのお尻を撫でないと済まないのね」
「ひぇ、ひぇ、へ。俺が触りたいんじゃないさ。この手が触っちまうんだよ。悪いなぁ〜、この手は俺のバカ息子についで聞かん房でな」
 『バカ息子』と言いながら、自分の股間を指差す男の仕草に、私は頭を抱えた。
 年頃の娘なら憤慨するか、泣いて逃げるのだろうが、三十路の女は微笑んだ。
「そんなに聞かん房なら、お二階でお仕置きしまちょうか? 足腰立たないくらいお相手してあげまちょうかね?」
 さすが、伊達に歳は食っていないようだ。三十路の女は幼児語混じりに、客取りを始めた。
 この酒場は売春宿も兼ねている。一階は酒場で、二階では濡れ雫というわけだ。
 私は軽く咳払いをした。
 何かに気付いたように目の前の中年男――バルドと年増女はこっちを見てから、女は仕事に戻り、バルドはだらしない笑みを私に向けた。
「わるいわるい。あの女と来たら、すっかり俺にメロメロでよぉ〜、俺を誘惑しねぇと気がすまねぇんだ。それはそうと、何の話だったか、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と?」
「バルドさん、貴方の話をお聞きしたい。」
「ああ〜、そうだったそうだった。いやぁ〜、人間歳を取りたくねぇな〜」
悪びれた様子も無く、バルドはそう言うと、本題に入り始めた。
「それじゃ何から話そうか〜。おっかぁから出てきた話から始めても仕方ねぇから、俺が剣闘士やってた頃から始めるかい?」
「ぜひともお願いします」
私は筆記具を用意し、バルドの言葉に耳を傾けた。
「剣闘士か。懐かしい響きだ。沸き起こる歓声に、降り注ぐ拍手。そして、ヒリツクような風が、俺をビンビン斬り刻む。いいもんだぜぇ〜? 剣で相手の肉を裂くたびに、観客が絶叫するんだ。殺せ! 殺せ! もっと派手に! もっと残酷に! 豚よりも無残に、山羊よりも惨く屠るんだ! ってな。そして、相手の恐怖にゆがんだツラを打ち砕くたびに、更なるスタンディングオベーション!」
昂奮して語る彼の口調は、熱い。表情はまるでコロセウムの観客の様だ。
 剣闘士。それは、死合を見世物にする闘士達。死合とは、デスマッチ、決闘といえばピンと来るだろうか。互いに剣を持ち、どちらかが死ぬまで闘う。だが、そこには大儀も誇りも無い。ただ、観客を楽しませるだけの命のやり取り。非人道的な娯楽だった。
 ある者は奴隷として明日の為に、ある者は名声を得るために、殺しあった。観客はただ、暇潰しの為に、それを見て悦んだ。
 バルドは、勝つ事でしか生きる事が出来ない奴隷だった。
「最初こそ、おっかなかったがな。回数を重ねるたびに、そんなもんは吹き飛ぶんだ。代わりに何が入ってくると思う? 殺人欲と恍惚感だよ。早く殺したい。そして、殺した暁に降りかかる拍手喝采! たまんねぇぜ。イカレテルと思うかい? 思うだろ? いや、遠慮すんな。ツラにそう書いてあるし、俺だってイカレテルと思うよ。だがな」
 そこで、言葉を切るとウィスキーを煽ってから、私を見つめる。

154名無しさん:2007/02/18(日) 06:13:22 ID:wEUlJYbY0
「イカレなきゃ、やっていけないのよ。生き延びたいとか、仕方が無いとか、小難しい、女々しいことをぬかした奴は墓ん中へ直行さ。嘘じゃない。俺が知ってる奴で、そういう奴はみ〜〜〜〜んな墓の下さ」
 私は知っている。極限状態に置かれた人間がどうなるかを。私の場合は戦場だったが、彼はもっと過酷な剣闘奴隷だったのだ。その時の彼に、逃げ場も安全も、上官も仲間も無い。自分の正気を保つ為の休息すら無かっただろう。
「ま、テツガク的なことはおいて置いてよ。俺も試合数を重ねて何回かぶち殺しているうちに、いつしか人気者になっちまったのさ。あの場所じゃ人を殺すってのは、善行なのさ。観客は天上人で、観客が喜ぶ事は何よりも尊い。そして喜ぶ事と言えばよりエキサイティングなぶち殺しって訳だ。そうしたら、どうなったと思う?」
バルドは上半身を可能な限り乗り出した。
「晴れて自由民になっちまったのさ。そん時はわかんなかったがな。何でもチャンピオンになって、観客からも気に居られると、衣食住と自由が保障されるんだとよ。それで、自由になったが、ここが問題。なんにもする事がねぇの。産まれてこの方、殺し合いしかしてこなかったから、シャバに馴染めねぇ、趣味もねぇ。最初は戸惑ったぜ。なんせ、人を殺しちゃいけなかったんだからな。そんな訳で、酒を飲んでみたり、女とよろしくやったりしたさ。あん時は観客席にいた女とだぜ? 他人は夢みてぇだろとか言ったさ。だが、俺はどうとも思わなかったね」
 奴隷身分の剣闘士でも、試合を重ね、群集の寵児となれば自由になれる。しかし、試合を重ねるとは、全ての死合いに勝つ事を意味する。つまり、あらゆる猛者を相手に全戦全勝。バルドは軽く言ったが、多くの奴隷が夢に見た偉業を成し遂げたのだ。彼の影でどれだけの人間が自由を渇望しながら、死んでいったのだろう。
 だが、自由はバルドを救いはしなかった。
「それから、また闘技場でぶち殺したりしたが、なんともねぇ。もう、観客は俺が勝って当然と思ってやがるからよぉ。俺が生きてちゃ面白くねぇのよ。試しに、ワザとヤバい振りしたら、観客総立ちで喜んでやんの。バルドが死ぬぞ! あのチャンピオンを倒す猛者が現れた! ってな。冗談じゃねえ。その猛者とやらを、観客席の阿呆供の期待と共にぶっ潰してやったら、もう闘技に出る事はなかったな」
「それで、お終いではないでしょう?」
「おうよ。グリーク教知ってるだろ。悪名高いグリーク教。そのグリーク教の異端者狩り真っ最中の時に、お呼びがかかったのよ。異端者の首を跳ねてくれってな。俺としては、縛られた人間の首なんざ跳ねても詰まんなそうだったから、最初は断ったがな。そうするとやっこさん、顔を真っ赤にして、『神聖なる仕事を拒否するとは、異端者か悪魔か!?』とか言うのよ。異端者って知ってるだろ。火あぶりにされたり、轢き殺されたりするアレ。俺は、無抵抗に殺されるより殺すほうが良かったから、そう言われたら引き受けるしか無かったのさ」
 また言葉を切り、ウィスキーを煽るバルド。不思議と店内は静まり返っている。ウェイトレスも、えたいの知れぬ連中も、じっと耳を傾けているようだ。話の最中に店内に入ってきた客はいても、出て行く客はいなかった。
「それで、処刑人を引き受けたのさ。布の袋をかぶって、エズゼ? エクゼクーソン……まぁ、処刑剣携えて会場に行った時には、異端者はもう台に乗せられていたね。アウグスタに白い台があるだろ。腰かけるのに丁度いいアレ。あの台に異端者は寝かせられていたのさ。アウグスタにある台の幾つかは、そういう事に使われてたらしいぜ。なんせ、街中全部が処刑会場。異端者と処刑人と台が揃えば、いつでも始められたからな。今度アウグスタに行った時、台を調べてみな。剣を打ちつけた傷のあるヤツが幾つかあるぜ、きっと」
 またウィスキーを煽る。ぞんざいな口調とは対称的に、呂律は回っているバルドを見るにつけ、私は不思議に思う。バルドが飲んでいるのはウィスキーなのだろうか。それとも別な何かだろうか。
「人間てのはつくづくイカレテル。俺はイカレテルが、連中はもっとイカレテル。俺が首を跳ねると拍手喝采の狂喜乱舞。闘技の比じゃなかったね。何か知らんが、俺をよいしょよいしょと持ち上げるのさ。人殺しのロクで無しなのにな。そして今は飲んだくれのスケベジジイ……っと、これは関係ねぇな、ひぇひぇ、へ」
 異端者を処刑すると言うのは当時、一種のお祭りだった。日頃の鬱積を晴らすために、異端者を罵倒し、祭り上げて残虐な方法で殺されるのを、喜んで見たのだ。

155名無しさん:2007/02/18(日) 06:14:35 ID:wEUlJYbY0
 私はブルン生まれで、両親が無益な殺生を好まなかった為に、目の当りにすることは無かった。だが、そんな私でも、その情景を容易に想像できるほど、バルドの説明は克明で、残虐で、容赦が無かった。
 気が遠くなるほどの、何か汚泥混じりの腐肉の塊をしゃぶる様な状況を説明されている途中、私は用を足すと言って席を立った。そして、裏の川で胃に収まった昼飯を全部、吐き出した。
 戦場を知っている者は、こと残虐な描写に対しては想像力豊かだ。自分は剣士であった事を恨めしく思いながら戻ると、私の席にコップ一杯の水が用意されていた。バルドから促され、それに口を付ける。
「ひぇひぇ、へ。ちと悪かったなぁ。まぁ、かいつまんで話すと、俺が異端者の首を跳ねる、観てる奴らは喜ぶ。そしてお祭り騒ぎが始まる。そうまとめといてくれや。お祭り騒ぎの内容は、今考えても正気の沙汰じゃねぇし、お子様やお上品なオ方々には刺激が強すぎるだろ」
 私は、ひどく納得してからペンを進めた。人々は、公開処刑に闘技とは違った娯楽性を求めていたらしい。彼らは腕のいい処刑人をいたく尊重し、時に英雄視した。そして、異端者への残虐な行いを何よりも喜んだ。
 バルドはもっとも尊重された処刑人の一人だったらしい。彼の放つディレイクラッシングは、どんなに骨太の首でもたちまち切断した。
 一瞬で首を跳ねる事がもっとも美しい処刑法なのは、疎い私でも知っていたが、バルドが持てはやされた理由はそれだけではない。
 その様は勇壮にして、流麗。綺麗に重なる分身達は、居合わせる全ての者達を魅了したらしい。事実、私も初めてバルドのそれを見た時は、感動の身震いが止まらなかった。
「全くイカレテル。俺のディレイクラッシングで首を跳ねられるのが、一番楽で、人道的な処置の仕方だってんだからな」
ウィスキーを深々と煽るバルド。話が進むにつれ、飲む量が増えているような気がする。床には、さっき手に持っていたボトルが空となり、転がっていた。
「ま、それも長く続かねぇ。異端者狩りが一段落、というより廃れ始めたら、俺の仕事も無くなったのさ。そしたら、例の話が俺の所に舞い込んだ」
「レッドストーンと赤い悪魔」
「そう、それだ」
心なしか、バルドの眼に輝きが戻った気がする。表情も生き生きとし始めた。
「それから、戦士と名乗って傭兵やったり、いろんな場所に行ったりしたもんだが。後は、お前さんとの旅したり、戦場を駆けずり回った話になるから、もういいだろ」
「いえ、ぜひともバルドさんから見た話をお聞かせ願いたい」
私はブルン出身の誉れ高き剣士だ。以前、私とバルドと、何人かの仲間たちとで旅をしたのだ。
 最初、バルドを見た時は、なんともだらしの無い男だと思った。いつも酒瓶を離さず、仲間の尻を撫でまわしていたのだ。俺も撫で回されたので、よく尻の穴を引き締めたものだ。
 戦いにおいても、積極的に動くわけでもない。私の様に身を挺して仲間を守るわけでもない。その大剣はお飾りかと詰め寄ったことも、何度かあった。それでも、だらしの無い笑みを浮かべてはぐらかされたのだ。
 当時の私はよく憤慨していた。私自身、何度か戦場を経験していたので、パーティの中で最も場数を踏んだリーダーのつもりだったのだ。

156名無しさん:2007/02/18(日) 06:15:29 ID:wEUlJYbY0
「何から聞きたい?」
「そうですね。まず私や、当時の仲間たちをどう見ていたのか」
「お前さんのケツはいいケツだった。どこの女よりもいいケツだった。パーティの女達なんかオードブルに過ぎなかった」
「ははは、それはどうも。だが、私が聞きたいのはそれではない」
「ふっ。若造、それがお前の第一印象ってヤツだ。おとぎ話の英雄譚を真に受けてた、血気盛んな葱坊主だ」
「それはどうも」
「剣士ってのは華がある。戦場では勇ましく振るまい、女からは持てはやされ、仲間達からの信頼を一身に背負う。だが、あの時のお前さんは気張りすぎだった。俺みたいに適当にやっておけばいいのによ」
 当時の私は、仲間への攻撃を一手に引き受けていた。デュエリングで敵の注意を私に向け、その攻撃を全て受けていたのだ。
 当然、仲間達から信頼されていた。バルドとは違って。私はその事に優越感を抱いていた。だが、それは青二才特有の驕りだった。
「適当と言いながら、貴方は人一倍働いていた」
「よせやい。ただ、お前さん方が危なっかしくて見てらんなかっただけだ。間合いの取り方もしらねぇ、戦略性もねぇ。知ってるか? 闘技ってのは一対一とは限らねぇんだぜ」
 そう、一対多の時も有れば、多対多の時もある。バルドはその当時、誰よりも場数を踏んでいた。どんな不利な状況でも、闘技で経験済みだったのだ。
 だから、いつでも悠々としていた。不遜なほどの余裕は、彼の経験と直感に裏打ちされたものだったのだ。
 彼は目立った動きをしなかった。目立つ必要が無かったのだ。だから、私を含めたメンバーは彼が動いている事に気付かなかったのだ。
 目立つと言うことは、それだけ動きに無駄があると言うことだ。私は、それに気付くのに何年か掛かった。
 半ば戦いに昂奮した仲間達を尻目に、一人冷静に状況判断をし、もっとも危険な因子を排除し続ける。そして、真の意味で仲間を護りきる。それがどれだけ難しいかは、今の私なら判る気がする。
「覚えているか? お前がエルフを七・八人も同時に相手しちまったこと」
「ええ、さすがにダメだと思いました。しかしその時、貴方が居たから私もここに居る。本当にありがとう」
「へ、気にすんな。人から感謝されるのは性にあわねぇ」
 バルドは笑っていた。何故かウィスキーは煽らなかった。
 代わりに、床のボトルを拾おうとしたウェイトレスの尻を撫でた。
「もう、何するのよ」
「ひぇひぇ、悪い悪い。あんまり君が可愛くてなぁ。スケベオヤジには毒なくらい魅力的だ」
 打って変わったバルドは、先ほどの話が、まるで作り話か何かと思えるほどだらしが無い。だが、彼が歴戦の勇士であり、それを行動で示し続けた事は、私が知っている。
「なぁ、お前もかみさんばっかとよろしくしてねぇで、もっと若い娘と遊んだらどうだ? 女ってのはいいぞぉ〜、酒よりも熱く、剣よりも柔らかい」
 なにそれ、と女に聞かれても笑うばかりのバルドは、尻を撫でた女と、もう一人の歳若い娘を連れて二階へ行ってしまった。私も誘われたが、丁重にお断りした。いくら剣士の私でも、妻の悪態を受け切る自信は無い。下手をすれば……、いや、考えるのは良そう。

 剣よりも柔らかい。そういえば、バルドが寝る時は、いつも大剣を抱いていた。それは危険に対する備えなのか、それとも別な何かなのか。その事も含めて後日、また話を聞こうと思いながら、酒場を後にした。
 だが、その機会が訪れる事は無かった。
 その数日後、彼は天に召されたのだ。酒が祟ったのか、女遊びが祟ったのか、歴戦の猛者としては余りにもあっけない最後だった。

 彼の墓の前で一人、私は物思いに耽る。彼はお世辞にも善人とはいい難いだろう。血塗られた人生を送ったと言っていい。
 だが、私を含め、英雄を目指す者や、英雄と呼ばれた者達はどうなのだろう。
 戦場で何かを護ると言うことは、誰かを殺すと言うことだ。それは、自分を護る為に、誰かを殺すのとどう違う?
 そして、それを持てはやす群集。
 一体、誰がこの墓で眠る男を、非難できようか。
 やめよう。例え誰から非難されても、きっとバルドは気にも止めない。あの笑みを返してはぐらかすだけだろう。
 それは、熾烈な人生から産まれた、確固たる自信があるからだ。

「戦士ってのはダイヤモンドの弾丸だ。だから、守りを固める必要など無い。砕けようが、用さえ成せばそれでいいのだからな」
 砕けること無き苛烈なる勇者よ。無窮にきらめきつづけよ。

157名無しさん:2007/02/18(日) 06:32:10 ID:wEUlJYbY0
あとがき。
以上、思い付きで、設定をでっち上げで書いて見ました。
妄想大爆発で、公式設定の検証をしていないので、笑ってやってください。
真面目に受け取らないで下さい、お願いしますorz
マスターキートンの『臆病者の島』に出てくる、ダメっぽい親父をイメージして書きたかったんですが、中々難しいです。
少年漫画的な主人公もいいですが、こう一筋縄で無いいぶし銀なキャラも魅力的で、好きなのです。

158名無しさん:2007/02/18(日) 10:58:17 ID:yZqWB8n60
>>157
>>142での話を小説にしてくれたのでしょうか?
想像ながらちゃんとまとまっていて、ここまで昇華させられれば凄いですよ。
バルド、良いキャラですね。そしてジワジワとカッコイイ。
浦沢直樹の漫画は「Monster」しか読んだ事は無いのですが、こういうキャラが出てきてもおかしくないです。
戦士も狩り等中々目立たないですが、実は秘められた輝く物を持っている。そんな気にさせてくれますね。

159第47話 内ポケット:2007/02/18(日) 12:07:36 ID:vX9Amrn60
「なんですか?一体・・・」黒いキャップを被った男が言った。
「もう一度言う。すまないが身分証の提示をお願いする!」田村は語気を強めた。
その瞬間、黒い上着の男が胸の内ポケットに手を入れた。
「動くな!」
ピタッと動きを止めた男。
「ゆっくりとポケットの中のものを出してくれ。そうだゆっくりだ」
黒い上着の男が出してきたものは都内の高校の学生証だった。
「そちらの方もお願いします」と佐々木。キャップを被った男に促す。
出てきたものは免許証だった。署に照合を頼むと神奈川の大学生だった。
「すみませんが身体検査をさせていただきます。断ることも出来ますが署に着て頂く事になりますので
ご了承ください」と佐々木。
この時点でほぼシロだとみんな気づいていた・・・1件目は空振りだ。
所持品にも大したものがなく、安全であり目標の人物ではないことが判った。
田村は佐々木だけを先に出店させ次の待ち合わせ場所にいかせた。2件目の待ち合わせまで時間は10分程しかないからだ。
田村は美香と残り、学生たちに事情を説明し「ご協力」ありがとうと伝えた。

「ご、誤認逮捕だ! 訴えますよ?」
おかしなことに交渉が成立していたんだろう、片方が現金を手に持ったままだった。
「貴方達の安全を守るためだったのですよ。お邪魔したのは申し訳ない」と美香。
「いやこんなの絶対に赦さない!訴えてやる!」ともう一人の男。
妙に意気投合してしまったのか、危機に対して一時共同体になってしまったのか・・・。
田村は斜め上にずれた権利ばかりを主張する輩が大嫌いだった。だいたい逮捕の意味もわかってないじゃないか。
ここで時間を浪費するわけにもいかず、誤解されるのもいやで、お灸をすえていくことにした。
「いまここで取引されたアカウント情報を記録したよ。規約では売買は認められてないらしいな?」
「うっ!」と二人。
「君たちはアルバイトしてるのかね?してるならその現金の移動も税務署に確定申告してもらわなきゃなぁ?」
「いやっこれは・・・」
「我々も時間がない。逮捕したつもりもない。いいね?」
「・・・はぃ。」と意気消沈の二人。
「では、ごゆっくり。市民のご協力に感謝してます。失礼します」とその場を田村親子は後にした。
言い過ぎたかなぁと考えつつ、店長にお邪魔したことを丁寧に詫び、佐々木が先行している現場に向かった。

不安そうな顔で美香が並走しながら言った。
「次よね?次が容疑者よね・・・」
「あぁ、そうだ!必ず”奴”だ。用心しろよ」

次の待ち合わせ時間まで後2分と迫っていた。

160153-157:2007/02/18(日) 23:51:45 ID:wEUlJYbY0
>>145 ドギーマン氏
牧歌的な雰囲気のRSも、闇の部分はありますよね。
それにしても、スマグといい、危ない目会ってばかりですねw

>>146->>148
あそこのエルフは硬いですよね。
逃げ回ってた頃を思い出しました。

>>158
ご感想ありがとう御座います。
とりあえず、『剣闘士>戦士>勇者を辿る戦士はどんな感じだろう?』と言う事で、バルドを142の話に当てはめて見ました。
ただ、RS本編に剣闘士に関する情報が無いのが残念です。ギルド戦会場はあっても、闘技の巡業者、コロセウムは無いんですよね。
せめて本編に、キャラ個人でPvPできる施設があれば、でっち上げで済まないのですが^^;
後、『戦士>勇者』に至る過程も書ききれなかったのが、心残りです。

>>159
さて、いよいよお待ちかねの……

161ドギーマン:2007/02/19(月) 01:15:15 ID:VVuASkOI0
『Zef』

ブルン暦4855年 ビガプール
第三代国王バルンロプトによる貴族の大粛清により多くの貴族が弾圧され、
逆らうものは皆処刑された。
その家族も同罪とされ、老若男女問わず大勢の貴族が殺された。
ただ彼の母は連行される直前にそれを察知し、まだ幼かった彼を協会に連れて行った。
協会の神父は彼の母の懇願を快く引き受け、彼を引き取った。
その後彼の母は屋敷に戻り、その日のうちに連行された。
そして、その2週間後に父と共に公開処刑された。
協会に引き取られて後、教会は彼の里親となる人物を探した。
神聖王国と名乗るだけあり、教会の国に対する影響力は強かった。
しかし時の王バルンロプトはかなり強硬な人物であり、
たとえ教会であろうとも彼を無理矢理に連行する可能性があった。
そんなところに運よく、いや運悪くとも言おうか。
ベルゼフという人物が現れ、彼を引き取ると申し出た。
ベルゼフはシュトラセラトに住む漁師を名乗り、
妻との間に子供が出来なかったためにどうしても引き取りたいと言った。
教会の神父はその申し出を受け、彼をベルゼフに引き渡した。
ベルゼフに連れられて彼はビガプールの街を後にした。
シュトラセラトに着くと、彼は何故かブリッジヘッド行きの船に乗せられた。
彼の他にも沢山の子供が狭い船室にぎゅうぎゅうに乗せられており、
彼は何も知らぬまま密航船で運ばれていった。
夜のブリッジヘッドの港で子供達はバラバラになり、
彼を含めて二十数人がベルゼフに連れられた。
ベルゼフはシーフギルド倉庫の中の小さな部屋で彼らにボソボソのパンを出した。
腹を空かした彼らはパンに食いついた。
ベルゼフはパンを貪る彼らに言った。
「いいか、今日から俺がお前達の親だ」

162ドギーマン:2007/02/19(月) 01:16:09 ID:VVuASkOI0
彼らはベルゼフに親から貰った名前を奪われ、新しい名前を与えられた。
彼が貰った名前はゼフだった。
名前を付けていくうちにベルゼフは名前に悩みだし、一番最後の彼に自分の名前の半分を与えたのだ。
ゼフ達はシーフギルドに拾われ、シーフとして育てられた。
厳しい環境のなかで雑用をさせられ、ベルゼフからシーフとしての技術を叩き込まれた。
ベルゼフは冷酷な男、子供相手でも決して容赦はしなかったが、教官としては一流だったかもしれない。
ゼフ達に読み書きや計算を教え、罠の仕掛け方、短刀や手裏剣の投げ方、あらゆる鍵の開錠の仕方、
隠された危険を察知する能力を磨き上げられ、格闘術まで全て叩き込まれた。
一番辛かったのは、毒を体で覚えさせられたことだった。
毒を飲まされ、しばらく苦しみ続けたあとようやく解毒剤を与えられる。
そんな過酷な訓練を毎日のように繰り返し、ゼフ達は少しずつ一流のシーフとして教育されていった。
ゼフが物心が付いてきた頃、年長の子が訓練の最中に急に泣き出した。
その子はゼフよりもずっと大きかった。皆と同じく黒髪を短く刈り込まれた子だった
「もういやだ・・・・お母さぁん・・」
ベルゼフはずかずかと歩み寄ると、その子の胸倉を掴み顔に平手打ちをくわえて怒鳴った。
「黙れ!死んだ人間にすがるな!」
そして、ベルゼフはその子の胸倉を掴んだままゼフや他の子供達を見回して言い放った。
「いいか、お前達の親は俺が殺した!」
その子が泣き止んだ。
ゼフの隣に居たその年長の子は、目から涙を流し、鼻水を垂らし、ベルゼフを見上げていた。
ベルゼフはその子に目を戻し、大きな声でその見開いた丸い目に怒鳴りつけた。
「どうだ、俺が憎いか!?」
何も答えないその子をガクガクと揺らしてベルゼフは続けた。
「俺が憎いなら強くなれ、強くなって俺に復讐してみろ」
「それまで俺に口答えすることも、訓練を拒むことも許さん」
そう言ってその子の体を床に叩きつけた。
その子は小さく呻きながら床に手をついてまた泣きだした。
「立て!」
ベルゼフはその子を引っ張って無理矢理に立たせた。
「早くダートを握れ、的に向かって投げろ」
"的"とは、ゼフ達の前に並べて縛り付けられた野良犬だった。
ゼフ達が投げたダートを体のあちこちに立てて、体を赤く染めて鳴いていた。
「お前が止めを刺せ」
そう言ってその子にダートを握らせた。
ゼフを含め、全員が手を止めてその子を見ていた。
その子は震える手で握ったダートを見下ろしていた。
「どこを見ている。的を見ろ」
そう言ってベルゼフはその子の髪を引っ張って顔を上げさせた。
目の前の"的"は足をぴんと伸ばして痙攣を始めていた。
その子は涙目でダートをゆっくりと振り上げた。
そして、そこで急に振り返って後ろで腕を組んでいたベルゼフに向かってダートを投げた。
ベルゼフはそれを予測していたのか、事も無げに投じられたダートを掴み取った。
「言ったはずだ。強くなってからだと」
そう言ってベルゼフはそのダートを握り直してその子に詰め寄ると、全員に響くように大きな声で言った。
「いいか、俺を殺せなければこうなるんだ!」
そう言ってその子の頬にダートの刃を滑らせた。
その子はゼフの前でうずくまり、頬を押さえる手をあふれ出る血が濡らしていた。
ベルゼフは立ち上がってゼフを見下ろして言った。
「応急処置の方法は教えたな。ここで実践してみろ」
ゼフはベルゼフをちらっと見上げた。
「早くやれ」
ベルゼフの冷たく鋭い声にゼフは黙って動き出し、頬を押さえてうずくまっているその子の応急処置を始めた。

163ドギーマン:2007/02/19(月) 01:17:02 ID:VVuASkOI0
その晩、ゼフは寝台の中で考え込んでいた。
広く暗い部屋の中、沢山の二段寝台が並んでいる。
他の子たちが早朝の訓練のために早く寝静まっているなか、ゼフだけが起きていた。
おかあさんってなに?
あの子が言った言葉だ。その言葉に感じた、何か懐かしくて暖かい感覚。
そしてベルゼフの言った言葉。
"お前達の親は俺が殺した!"
おやって、ころしたって?
ゼフはそれが何なのか、どういう事なのか分からなかった。
殺すという言葉の意味は、ナイフで相手を動かなくすることだと学んでいた。
でも、親とはベルゼフのことだ。
ベルゼフがベルゼフを殺したとはどういう事なのか。
ゼフは暗い二段寝台で、上の寝台の真っ暗な底を眺めていた。
「なあ」
ゼフは突然呼びかけられて声のした方を見上げた。
上の寝台の端から真っ黒い逆さまの人影がゼフを見下ろしていた。
ゼフはその人影を黙って見上げていた。
「おい、寝たのか?」
「おきてる」
ゼフはぼそりと返事をした。
声の主は上の寝台から降りてくると、ゼフの寝台に勝手に入り込んできた。
暖かい人の感触にゼフは思わず寝台の端に離れた。
それまで自分が暖めて居た場所から、そいつが入ってきたせいで布団の温まっていない場所に追いやられた。
「なに?」
ゼフは黒い人影に聞いた。
「ありがとな」
「え?」
「ほら、手当てしてくれたろ」
ゼフは思い出した。ベルゼフに頬を切られたあの子だ。
「うん、それで?」
ゼフの言葉にその子は言葉に詰まった。
「いや、お礼を言いたかったんだけど・・」
「おれい?」
ベルゼフから一通りの言葉を学んでいたが、そんな言葉は無かった。
「人に何かいい事をして貰ったら、"ありがとう"って言わなくちゃいけないんだよ。それがお礼」
「いいこと・・?」
「ほら、傷を手当してくれた」
ゼフはそんなことで何故ありがとうと言うのかよく分からなかったが、そういう物なんだなと思った。
「ものしりだね」
「お前より年上だからな」
ゼフはその言葉を気にせず、聞かなかったかのようにその子に聞いた。
「ねえ、"おかあさん"ってなに?」
「ん・・お母さんも知らないのか?」
「ねえ、なんなの?」
その子はしばらく悩んでから、ゼフに言った。
「すごく、暖かくて、優しくて・・・・・俺達を生んでくれた人だよ」
「おれも?」
「ああ、お前も、お前のお母さんから生まれたんだよ」
ゼフはそれを聞いて少し考え込むと、その子に聞いた。
「ねえ、おれのおかあさんはどこにいるのかな」
ゼフの言葉に、その子は黙りこんだ。
「どうしたの?」
その子は急に布団の中でゼフに腕を伸ばすと、ゼフの小さな体を引き寄せて抱きしめた。
その子の肩に口を押し付けて、ゼフには何が何だか分からなかった。
その子は泣いているようだった。体の震えを押さえ込むようにゼフを抱きしめて小さくゼフの耳元に囁いた。
「あいつが、ベルゼフが殺したんだ。俺のお母さんも、お父さんも、お前のお母さんやお父さんも・・」
ゼフにはよく分からなかった。
泣いて小さくしゃくり上げるその子に抱きしめられたまま、ゼフは暗い部屋の中を眺めていた。
やがて、その子は離れてゼフに聞いた。
「お前、名前は?」
「ゼフ」
「違う、お母さんやお父さんに付けて貰った名前だよ」
「しらない、ゼフでいいよ」
「そっか・・」
「きみは、あるの?」
「俺はメリル」
「メリル?」
「ああ、ここではお前だけだよ、俺の名前を教えたのは。言っとくが他の奴の前ではバルって呼べよ」
「わかった」
「そろそろ戻るよ、おやすみ」
「うん」
「おやすみって言われたら、おやすみって返すもんだ」
「・・おやすみ」
そしてその子は上の寝台に戻っていった。
ゼフはようやくその子が陣取っていた布団の中央に戻れた。
枕が少し湿っていたけど、布団はとても暖かくなっていた。

164ドギーマン:2007/02/19(月) 01:17:42 ID:VVuASkOI0
翌日、ゼフは朝の訓練を終えて食堂で朝食を盛られたトレイを持ってメリルと顔を合わせた。
メリルの右の頬にはベルゼフに付けられ、ゼフが処置した切傷が痛々しく残っていた。
メリルはどこかゼフと違っていた。
他人だからとか、そういう意味じゃない。
メリルはゼフの顔を見下ろすと、何故か顔を赤くしていた。
「どうしたの、バル」
「なんでもない」
メリルは席について食事を始めた。
ゼフも大きなメリルの横に座って食事を始めた。
ゼフはちらっとメリルを見て気づいた。
ゼフの目はメリルの小さな胸の膨らみに注がれていた。
そこが違っていた。
「ん?」
メリルが自分を見ているゼフに気づいて彼を見下ろした。
ゼフは無言で目線を前に戻して静かに食事を再開した。

それからメリルは時々他の子が寝静まってからゼフの寝台に入り込んでくるようになった。
ゼフはメリルからたくさんのことを学んだ。
ベルゼフが絶対に教えてくれないことだった。
どうやらメリルは何か辛くなるとゼフの寝台にやってくるようだった。
ゼフを抱きしめてはメリルはいつも泣いていた。
ゼフには何でメリルが泣くのか分からなかった。
ただゼフにはメリルは温かくて、柔らかくて、とても懐かしい感じがした。
そしてメリルの震える声を聞くたびに、震える手で抱きしめられるたびに、ゼフも何故か辛くなった。
なんでだろう。
ゼフはメリルの涙に胸の奥を締め付けられる感覚を感じていた。
なんだろう、この・・・なに?いったい・・・・・・。
ゼフはそれに戸惑っていた。ただ、メリルのために何かしてやりたいと思った。
ゼフから離れて自分の寝台に戻っていくメリルにゼフは言った。
「メリル」
「なに?」
「メリルって、あったかいね」
「・・お前もな」
メリルは暗闇の中で梯子を登っていった。
ゼフはメリルの温もりが残る布団を顎までかぶって目をつむった。

165ドギーマン:2007/02/19(月) 01:18:24 ID:VVuASkOI0
ゼフはある日、自分の周囲の変化に気づいた。
ゼフとメリルを除く他の子供達の目が、光を失って曇っていたのだ。
ただ、機械的に黙々と動く。
ギルドから与えられた作業を黙々とこなし、
訓練では生きた的を顔色一つ変えずに動かなくする。
ゼフも皆と同じようにその的にナイフを突き立てたが、心の中に何かを感じていた。
自分を見つめる的の目に、思わずナイフを握る手に力がこもった。
そのゼフの横で、メリルは少し呼吸を乱していた。
投げたナイフが中々的に当たらない。
いつもそうだった。だから的の止めはいつもゼフが刺していた。
ベルゼフが何かに気づいて歩み寄ってきた。
「おい」
ベルゼフはメリルの肩を引っ張った。
メリルは驚いてベルゼフを見上げた。
ゼフも釣られるようにベルゼフの顔を見た。
ベルゼフはゼフを睨んだ。
ゼフは慌てて目を目の前の動かない的に戻した。
他の子供達は皆、そんな事など起こっていないかの様に目の前の動かなくなった的の急所にナイフを投じ続けていた。
ベルゼフは的に向かってナイフを投じるゼフをしばらく眺めたあと、メリルに目を戻した。
そしてメリルの短い髪を掴んで上に引っ張ると、ベルゼフは腰を曲げてメリルの顔を覗き込んだ。
メリルは「あうぅ」と呻いた。
「お前・・・・わざと外しているな?」
ゼフの投じたナイフが的を逸れて床に突き立った。
幸い、ベルゼフはそれに気づいていなかった。
メリルは髪を引っ張られて痛みに顔を歪め、恐怖の目でベルゼフを見ていた。
息を震わせているメリルの眼をしばらく睨むと、ベルゼフは顔を上げた。
「やめ!」
ベルゼフの声にゼフを含め全員がナイフを投げるのを止めた。
そして、指示を待つように機械的にベルゼフに向き直った。
ベルゼフはメリルの髪を掴んだまま、後ろに立つ見張りのシーフに言った。
「おい、新しい的を持って来い。ここにだ」
シーフは小さく頷くと走り出し、しばらくして鎖につないだ小さな仔犬をつれてきた。
そしてベルゼフは引っ張られた頭を抑えるメリルから手を離し、メリルの手を乱暴に掴んでナイフを握らせた。
そして、メリルの眼を睨んで言った。
「殺せ」
そう言ってメリルの背中をどんと押して仔犬の前に立たせた。
メリルはナイフを握ったまま、目の前の仔犬を見下ろしていた。
仔犬は母犬を的にされたことなど気づいていないように、愛らしい姿をメリルに見せていた。
メリルは息を荒くして、仔犬に近づいてしゃがんだ。
そして、仔犬の首根っこを掴んで押さえつけるとナイフを持つ指にぎゅっと力を入れた。
他の子供達は微動だにせずその様子を眺めていた。
ただ、ゼフだけはぎゅっと手を握りこんでいた。手の中は汗が滲んでいた。
メリルはナイフを握る手を震わせて、止まってしまった。
「どうした、早くやれ」
ベルゼフの冷たい声が響いた。
それでもメリルは動けなかった。
やがて仔犬はメリルの手に抵抗し、押さえ込んでいる左手の親指に噛み付いた。
親指から血が滲み、メリルはナイフを床に落とした。
そして仔犬を抱き上げて呟いた。
「ごめんね・・」
そして大声で泣き出した。
ベルゼフは無言でメリルの背後に歩み寄ると、ナイフを拾い上げてメリルの髪を掴んで立たせた。
仔犬はメリルの手から離れて床に降り立った。
ゼフはメリルの泣く顔を見て、握りこんだ手に力が入った。
うごかなきゃいけない。なんとかしなきゃいけない。メリルがないている。
そう思ったが、動けなかった。どうすればいいのか分からなかった。
ベルゼフはナイフを仔犬の顔に向かって投げた。
メリルの悲鳴が響いた。
その悲鳴にゼフは胸を締め付けられていた。
ベルゼフはメリルの顔を自分に向けさせて言った。
「お前は、"処分"だな」
そう言って仔犬を連れてきたシーフにメリルを突き出した。
「連れて行け」
シーフは仔犬の死骸を無造作に拾い上げ、泣き叫ぶメリルの髪を掴んで部屋の外へ引っ張っていった。
「全く、変に知恵付いたガキはこれだからな。次からはもっと小さいのを選ぶか。だがそれだと頭数がな・・」
そうぶつぶつと一人で呟き続けた。
そして、ベルゼフは気づいたように声をあげた。
「次だ!走れ!」
その号令とともに、ゼフ達は次の訓練のために走った。

166ドギーマン:2007/02/19(月) 01:19:51 ID:VVuASkOI0
その晩、ゼフは寝る前に上の寝台をちらっと見た。
誰も居なかった。
布団に潜り込み、待っていたが誰も上の寝台に来る人は居ない。
見回りにきたシーフが部屋を覗いて消灯する。
真っ暗な闇に飲み込まれて、ゼフは何故かひどく寒かった。
身体がではない、心が。
上には誰も居ない。その事実だけで心が寒かった。
メリルはどうなったんだろう。
"処分"とは一体何なのか。
ゼフは身体を抱いて、寒さに耐えた。
なんでだろう。
何故か眼から涙があふれて来る。
ただメリルが居なくなっただけで、とても大事なものを無くした気がする。
とても寂しくて、辛い。
ゼフは分かった。
何でメリルが自分のところに来たのか。
何でメリルは自分を抱き締めていたのか。
寒くて、辛くて、苦しい。
ゼフは腰を曲げて、肘をぎゅっと握り、歯を食いしばっていた。
気が付けばメリルのようにしゃくり上げていた。
ゼフは、メリルの温もりが欲しかった。

それから毎日、ゼフの隣にメリルの姿は無かった。
ゼフはベルゼフの前では平静に、他の子と同じように、
歯車の一部になりすまして機械的に動いていた。
でも、寝る前には必ず上の寝台を見ていた。
そして、誰かが梯子を登らないかと、降りてこないかと待っていた。
誰も居ない。誰も来ない。
ゼフはようやく理解した。
もうメリルには会えないと。
ゼフは幼くして"死"を理解した。
と同時に、酷い後悔が心の中に押し寄せてきた。
なんで、あのときうごけなかった。
自分はメリルのために何もしてやれていない。
心の中から関を破って涙が眼に溢れてくる。
自分が無くしたものがようやく分かった。
メリルはずっとくれていたんだ。
"いいこと"をしてくれていたんだ。
「・・メリル・・・・ありが、とう」
震える声で、ゼフは初めてお礼を言った。
メリルはもう居ない。
なんで、いきているうちにいってやれなかったんだろう。
ゼフは眼から溢れる涙を搾るように眼をぎゅっとつむった。
そして、ベルゼフに対する憎悪を心の中にたぎらせた。

167ドギーマン:2007/02/19(月) 01:20:54 ID:VVuASkOI0
その日も、いつものように生きた的の前に立たされていた。
ゼフはダートを持って、目の前の的を見た。
そしてダートを振りかぶって、止まった。
メリルの気持ちが分かった。
メリルはここに居る誰よりも物知りだった。
無抵抗で、無力で、ただ目の前で吼えているだけの的。
それを殺すことは、とても"わるいこと"だ。
ベルゼフが教えてくれず、メリルが教えてくれた事だ。
ベルゼフが動かないゼフに気づいて歩み寄ってきた。
「どうした」
ゼフはダートを握ったまま動かなかった。
「おい」
背後から呼びかけてくる声に、ゼフは目の前に並べられているダートを素早く拾い上げて振り向いた。
「うあああ!!!」
叫びながらゼフはダートを素早い手つきで7本同時に投げた。
「むっ」
ベルゼフは仰け反りって避けた。
しかし避け切れなかったのか、ダートの一本がベルゼフの右目の上の眉を切った。
血が噴出してきて眼の端から中に入った。
ゼフは視界を奪った右に回って、残った一本のダートを握って跳んだ。
狙いはベルゼフの首筋の頚動脈だった。
ベルゼフ自身から教え込まれた暗殺術。
しかし、振るわれたダートはベルゼフの手に止められた。
「殺気を出しすぎているな。狙いが簡単に分かる」
そう言ってゼフの頭を掴んで床に叩きつけた。
「ぶぐっ」
ゼフは顔を床に打ち付けた。
鼻血が噴出してくるのにも構わずに立ち上がろうとすると、その背中をベルゼフは踏みつけた。
「ふん、まだまだだな」
見張りのシーフが走り寄ってきてゼフに手を伸ばした。
「待て、"処分"はしない」
「は?」
シーフはベルゼフを見上げた。
ベルゼフは手の平で右目を拭いた。
そして手の平に付いた血を見下ろしてにやりと笑った。
「この小僧、もしかしたら"逸材"かも知れんぞ」
「では・・」
「"再教育"後、特別訓練だ。まさか実戦前に見つけられるとはな」
そう言ってゼフから足を離すと、立ち上がるゼフをシーフに押さえ込ませて彼の頭を掴んだ。
自分の頚動脈を狙ったダートを握ると、ゼフの右頬に滑らせた。
そして痛みに唸るゼフに当身を食らわせて意識を奪った。
力なくシーフの腕の中に倒れこむゼフを見下ろして、ベルゼフは言った。
「連れて行け」

半年後
ゼフは他の子供達と共に特別訓練を受けていた。
子供達は実戦のせいか、ゼフを含めて10人ほどに減っていた。
皆暗く曇った目で、ベルゼフの言うままに苛烈な訓練を受けていた。
そこに、一人の髭面の男がやって来た。
「どうだ?」
男に聞かれ、ベルゼフは子供達を眺めたまま言った。
「商品化もまもなくだ」
「そうか」
そう言って男は笑みを浮かべた。
「で、報酬は本当にいいのか?」
「ああ、俺は俺の持つ全てを伝えられれば、それで構わん」
男はベルゼフの言葉を興味なさそうに聞き流すと、子供達を眺めていた。
今では的は生きた人間になっていた。
そして、顔色一つ変えることなく子供達は一つの作業をこなすように命を奪っていた。

168ドギーマン:2007/02/19(月) 01:21:45 ID:VVuASkOI0
そして、その日は来た。
子供達は皆ベルゼフから配られた服を着ていた。
闇に溶け込む黒い帽子、黒い奇妙な形状のマント、腰には投擲武器を収納するホルスター。
ベルゼフは子供達を並べて言った。
「今日で全ての訓練は終了だ。明日からはお前達にはそれぞれ仕事が与えられる」
「明日から、お前達の親はこの方だ」
そう言ってベルゼフはにやにやと笑みを浮かべる髭面の男を示した。
「シーフギルドが家族であり、親はこのマスターだ。
 子供は親の言うことには忠実に従わなければならない。
 親が死ねと言えば死に、親が殺せと言えば殺す。わかったな」
ゼフを含め、子供達は皆新しい親を見上げた。
ベルゼフは自身の最高の傑作、ゼフをじっと見下ろした。
「では、今日は以上だ。各自明日に備えて休め!」
全員敬礼し、寝室に向かって行った。

ゼフは消灯後、寝台のなかでしばらく眼を閉じていた。
そして、全員の寝息を感じ取ると眼を開いて身体をゆっくりと起こした。

翌日、
男はベルゼフに怒鳴っていた。
「どういうことだ、全員死んだだと?ふざけるな!」
ベルゼフは誰も居ない訓練場で椅子に足を組んで座って、男に言った。
「全員ではない。一人を除いて、だ」
「そんなことを聞いているのではない!」
ベルゼフは腕を組んで男に言った。
「俺の自慢の息子が他のそこそこ使えるだけの商品を潰し、
 見張りの役立たずどもを殺した。それだけだ」
ベルゼフはにやにやと笑うと、全てが終わった跡を思い返した。
「見事なものだった。
 役立たず共はともかく商品のほうは気配を察知することはそこらへんの者よりは優れていたのにな」
「全員首をかき切られて声を上げる暇も無く死んでいたよ。ははははは」
そう言って笑いながらベルゼフは右頬に付けられたばかりの傷を撫でた。
「黙れ!」
男は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「これにどれだけの金をつぎ込んだと思ってるんだ!
 貴様のせいだぞ、この責任は必ず取ってもらうからな。
 もちろんそのゼフとか言う小僧もだ。覚悟しておけよ!」
「ふん」
ベルゼフは鼻で笑った。
「別に放っておけば向こうから来る。俺を殺しにな」
「黙れと言ったはずだ!とにかく、覚悟だけはしておけよ」
そう言って男は取り巻きを連れて帰ろうとした。
「待て、忘れ物だ」
「何?」
男が振り返ると、男と取り巻き達に向かって5本ずつ手斧が飛んだ。
ズタズタになって赤い絨毯に倒れこむ男達の死体を眺め、ベルゼフは笑っていた。
「ククク、ゼフ。待っているぞ。俺を超えたことを、俺を殺して証明してみせろ」
ベルゼフは笑いながら死体を踏み越えてシーフギルド倉庫を後にした。

ゼフは街道の中、振り向いて遠くブリッジヘッドの街を眺めた。
"再教育"でベルゼフの言った言葉を思い出した。
『お前にだけは俺の全てを伝えてやる。他のクズ共を全て殺し、俺を殺しに来い』
ゼフにはベルゼフの言った言葉の意味が分からなかった。
"再教育"ではベルゼフに殺しの技術を叩き込まれただけだった。
ゼフの中のベルゼフに対する憎悪は決して消されることはなかった。
いつか必ず、殺してやる。
ベルゼフだけは殺し損ねてしまった。
『まだまだだな。もっと強くなってこい』
そう言ってベルゼフはゼフをまた当身で気絶させた。
気が付けば街の外で寝ていた。懐には札束が詰め込まれていた。
殺せたはずなのに、何故奴は命を狙う自分を生かしたのか。
ゼフには分からなかった。
ただ、まだ奴を殺すことは出来ない。それだけが分かった。
広い世界を歩きながら、ゼフは温かい日差しを見上げた。
「メリル・・」
ゼフは日差しの温かさに、メリルをだぶらせた。

169ドギーマン:2007/02/19(月) 01:35:07 ID:VVuASkOI0
あとがき
シーフギルドで思いついた話です。
シーフの生い立ちみたいな感じで考えてたんですけど、
年代的に言うと80年ほど前の話なんですよね。
続きません。

>>153-156
いいですね、こういうキャラ。私も好きですよ。
どこか憎めないといった感じがいいです。
あと、公式設定は気にしなくていいです。
あまり忠実だと、やりにくいですから。
私も妄想で書いてますしね。
『手記』のほうも出来るだけ設定に忠実にやろうとしてみてるだけで、
妄想で補っている部分が多いです。

>キンガーさん
ついに来ましたね。
てっきりあっけなく犯人捕まっちゃったのかと思いました。
続きが楽しみです

170名無しさん:2007/02/19(月) 12:33:33 ID:yZqWB8n60
>>160
「戦いで人を殺した時は勇者でも、その後はただの犯罪者だ」という言葉が頭をよぎります。
コロセウムはあるという事にしてしまいましょう!(笑) あっても全然おかしくないですし。
むしろそういう史実があるから潰されてしまった、と勝手に作ってもいいと思いますよ。

>きんがーさん
実はこの二人が本当は・・とか裏を読んでしまいそうになる(笑)
犯人は誰なんだろう。頑張れ警察陣!

>ドギーマンさん
"シーフになる"というのは他の職よりも簡単ではなさそうですよね。
シーフギルドのシーフもほとんど普通に敵ですし(苦笑)
名前も分からないまま成長して初めて殺すと本気で思った相手が名付け親だったとは…
ゼフがその後明るい太陽の下で元気でいてくれてる事を願ってます。

171名無しさん:2007/02/19(月) 16:14:56 ID:f0SX/jL60
戦いの描写をふいに書いてみたくなったので書いてみました。中身はありませんが・・。


やわらかい風が心地よい、春の夜だった。こんな日はほろ酔いで家路に帰るのが
ユアンの一つの幸せである。愛刀フランベルジュを腰に履き、微かに顔を赤らめて
ユアンは馴染みの酒場を後にした。

「ダンナ、気をつけて帰りなよ。最近物騒だからねぇ。」
「はっは、通り魔如きに俺を襲う度胸があるかってんだよぉ。」
「あんただから危ないってんだよ。女子供を歩かせるよりよっぽど心配だよ」

だみ声でがなりたてるオカミから逃げるように店をあとにする。通り魔か・・・。

今月に入ってからというもの、アリアンは通り魔の話で持ちきりだった。
名だたる冒険家や騎士などの強者が立て続けに殺害されると言うものだった。
通り魔は絶対に一般人は襲わず、必ず「その筋で名の知れた」実力者ばかりを
狙っているようなのだ。そしてユアンは、そういう見方をするならば、十分通り魔の
嗜好に合った名うての戦士である。

しかし・・やつに殺された奴らの中にはレッドストーンの探索任務を公式に受けるほどの
実力者も居た。それほどの奴が、何の目的で無差別に強者を狙う?

ぼんやりと考えながら、夜風を受けてふらりと歩くユアン。酔い加減を計り間違えたか、
思ったよりも足がふらつく。自分自身の草鞋を踏んで、思わず前のめりになる。


その刹那、開幕の一撃は音も無く、闇夜の静寂の中から突然繰り出された。
咄嗟に上体を捻る。空間を切り裂いて放たれた一撃は頚動脈の脇をかすめ空を穿った。

抜刀し、捻った勢いで横に一閃薙ぎ払う。こちらの一撃も
空を切ったが、牽制はできたようだ。
抜き放たれたフランベルジュから放たれる赤い光が辺りを照らし、
朧げに相手の姿を照らし出す。

目の前には黒装束の男が居た。短刀を逆手に構え、微動だにせずユアンを
見ている。顔は覆面に覆われ表情を見て取ることはできない。


「てめぇ、流行の通り魔だろ」・・返事はない。


ゆったりと息を吐き、愛刀を正眼に構える。


「目的は、何だ?」・・・・やはり返事はない。

そのままジリジリと間合いを詰める。未だ男は動かぬままだ。


「ダンナ、財布忘れてるよ!」
背後から酒場のオカミのダミ声が響いた。刃を振るう最後の一間は唐突に
訪れる。その刹那、ユアンの体がユラリと揺れ、男の頭上に容赦無い
刃の雨が一瞬のうちに降り注いだ。神速の斬撃は確実に相手の脳天を
捉えたかに見えたが、次の瞬間、男の姿は霞の如く掻き消えていた。分身・・!

背後から男の必殺の一撃が繰り出される。体を落としそれをかわすと、
腕を振り切り無防備となった胸目掛けて剣を突き出したが、男はそれをヒラリと
かわすと、まるで曲芸のように剣の切っ先からユアンの懐まで一気に滑り込んできた。
たまらず、力任せに剣を振るって通り魔を振り落とし、すんでのところで間合いを取り直す。


「アワワワワ・・・」必死の体でもと来た道を走り出すオカミ。

172名無しさん:2007/02/19(月) 16:15:58 ID:f0SX/jL60
再び正眼の構えを取り、息を深く吐く。やはり通り魔はぴくりともせず、携えた
短刀を逆手に構えている。


「おめぇさん、何でわざわざ正面から襲ってきた。確実に殺るなら背後からって
のがセオリーだろ。」


やはり何も答えず、その代わり、手に持った短刀を投げつけてくる。
短刀を剣で跳ね上げ、間合いに踏み込んでくる男に3方向からの斬撃を見舞うが、
男のほうが一瞬間だけ速く剣の「死に間」に踏み込んだ。十分に勢いを得ることの
できない斬撃はその切れ味を失い、刀身は衝撃とともに男の腕に吸収される。

くそっ、巧ぇじゃねえか!

素早く体を「にぎり」に絡みつかせると、そのままの反動でユアンの顔を目掛けた
踵落としが放たれる。頭部への直撃を避けるため、首をよじり肩当てで踵を受けると、
そのままむんずと掴んで放り投げたが、勢いを殺され懐深くに踏み込まれてしまった。

まずぃ、来る・・!

男の体が一瞬沈んだかと思うと、その深みからユアンの丹田目掛けて
勢いよく拳が跳ね上がる。ユアンは、避けきれないと、咄嗟に体を密着させ勢いを殺す。

そして、互いに押し引きならない膠着の時が続いた。


「はっ、急所ばかり狙ってくるから分かりやすいんだよ」
「・・・・このほうがスリルがある」
「あぁ?」
「・・・・背後から襲うなど、面白みがない」



次の瞬間、何かが男の掌で弾け、ユアンの腹部には大槌で打ち抜かれたかの
ような衝撃が走った。
ユアンの屈強な体躯は勢いよく弾き飛ばされ、背後の壁に叩きつけれた。

「かはっ・・!?」

あまりの衝撃に声も出ず、ズルズルと壁の元に崩れ落ちるユアン。

「そ、その・・・技・・・・一体・・」
「これを俺に見せた男は、烈風撃と呼んでいた」

男の右掌には大気の塊が集まり、僅かにその周りは歪んで見えた。
アバラを何本か持って行かれたらしく、苦痛に顔が歪む。ゆっくりと
近づく通り魔。最期を覚悟したその時、

「いたぞ!あそこだ!」

警備兵の一群が奔ってくるのが視界に映った。オカミが呼びに行ったのであろう。
具足のぶつかる音が近づくなか、男はユアンを見下ろすと、

「中々楽しめた。続きはまたの機会に取っておこう。」

と言い残すと、闇夜に消えていった。ユアンは、己の剣が届かなかったことを
ただ歯噛みするしかなかった。

173名無しさん:2007/02/19(月) 16:18:02 ID:f0SX/jL60
だめだ、難しいなorz

投稿続けてる皆さんは凄いと改めて思った。がんばって下さい。

174名無しさん:2007/02/19(月) 19:30:38 ID:yZqWB8n60
>>172
武道(ハイブリかっ(笑))が登場しただけで私は大満足です!(こら)
戦闘シーンって本当に難しそうですよね。簡単に体験できませんし。
例えば剣と剣の戦闘ならばまだ分かりますが、魔法などが出てくると本当に想像力のみです・・

読んでいる方もその情景を目の前に思い描きながら読んでいます(笑)
自分で想像しているくせに、ユアン君の動きと相手の男の動きが目に追えない・・orz

175姫々:2007/02/19(月) 20:43:59 ID:5flRjIeE0
初投稿、姫物語。書く速度はあんまり速くないですけど、
アイデアが浮かび次第書いていこうと思うのでどうかよろしくお願いします。

・・・

・・・

・・・

(ぽかぽかぁ〜・・・、あったかぁい・・・)
暑くもなく寒くも無い、暖かい陽気。こんな日は昼寝に限る。
が・・・、その眠りを妨げる鬱陶しい存在があった・・・。
「ひーめーさーまーぁ、どこですかー?」
と、侍女が叫んでいる・・・。私を探しているのだ。
(見つかってたまるか・・・)
そう身を潜ませるが、私の行動パターンはバレバレらしい、
突如洗濯物かごをひっくり返される。と、私はその中に隠れていたわけなので
ひっくり返されるという事は必然的に床に落ちるという事になるわけで・・・。
「まったく・・・、兎に変身して洗濯物に埋もれてお昼寝するのは、やめていただけませんか?」
「いったぁ・・・、いいじゃないのよぉ・・・」
落ちた時に、頭を打ってしまったらしい。頭をさすりたいのだが、兎のままじゃ
腕が頭にとどかない。
「よくありません・・・、まぁこの話はここまでにして・・・。女王様がお呼びです。」
女王様?私のお母様な訳だけど、はっきり言ってあまり行きたくは無い。
「えー、やだよー。どうせいつもの小言なんだもんー」
「それは姫様が毎日毎日誰かを困らせるからですよ。」
そうはいわれても困らせているつもりは微塵もないんだからそれは冤罪というものじゃ
ないだろうか・・・?

・・・・・・と、この姫、名をルゥと言うのだが、このルゥは毎日のように洗濯物に埋もれ、
勉強をサボり、都合が悪くなると、また兎になって逃げ出しては兵士の武器に変身して
まんまと逃げ切るという・・・、それ以外にも多々いたずらをしているのだが、
書き始めるともはや書き切れないので割愛する事にする。・・・・・・何にせよ「自覚が無い」
訳だから何かと問題である。

「とーもーかく。女王様の所に行って下さらないと困ります。」
「むー・・・、やだー・・・」
「膨れてもダメです。私が連れて行って差し上げましょうか?その姿のままなら
 連れて行って差し上げる事も容易ですが。」
と、そこまで言われて、まだ自分が兎の姿のままだったということに気づき。
変身をとく。
普段なら兎の姿のまま走れば逃げれるだろうが、寝起きの今じゃ、
この行動パターン読みまくりの、侍女からは逃げれる気がしない。
「分かった、行けばいーんでしょ?行けば」
「はい、女王様の部屋までお付き添いしますね」
「えー、いいってばー」
「ダメです。そう言って何度逃げられたと思っているんですか・・・・・・」
ちっ・・・、逃げ道をふさがれた・・・。いや、武器変身という手段があるにはある、
が、あれには媒体になる人がいないと変身できないという難点がある。そして残念ながら
身の回りにはこの侍女しかいない。
「はーい・・・、分かりましたー・・・」
私は観念して、お母様、もとい女王様の元へと半連行される事となった。

・・・

176姫々:2007/02/19(月) 20:46:08 ID:5flRjIeE0
「なんでしょうか、女王様・・・」
「ルゥ姫、前置きは無しで本題から参りましょう・・・」
う・・・・、はっきり言ってこの雰囲気は苦手だ・・・、この話の切り出し方で、
私が疲れなかったことはただ一度としてない。
「・・・ルゥ姫、貴女には隣の星まで修行に行ってもらいます。」
「・・・・・・・・・・・・は?」
いや、隣の星にも人間がいる、というのは勉強したので知っている、
けどなんで私が行かなければならないのだろう・・・。
「は?ではありません、貴女の悪行には、皆ほとほと呆れています、
 自身の教養をつける―、という意味でも修行のつもりで行ってらっしゃい」
「嫌ですよ、なんで私が行かないとダメなんですか?」
「既に旅支度は済んでいます。頑張ってくださいね」
ニコリと言うが、この女王様も話を聞かないという面ではルゥと同じでは無いだろうか・・・。
「で・・・でも行く方法が分からないんですが・・・」
「それはウィザード達が魔方陣でポータルを開いてくれるので安心して下さい」
いよいよ逃げ道が無くなって来た・・・、とは思ったが、ふと考え直してみると、
これは逃げる必要はあるのだろうか?いや、無い。何故なら、もう私は
小言を言われずにすむし、毎日勉強しなくていい、それに小うるさいあの侍女
から逃げ回る必要も無い。そう考えると割と悪くもない気がしてきた。
「分かりました。わたくしルゥは修行のため、隣の星に行ってまいります。」
「ふふ、気をつけてね。これは私からの餞別です。『――アストラルスピリット』」
そう呟くと、何かが私の周りを回りだした。
『あー、ルゥちゃんだー。お久し振りー、元気にしてたー?』
って何か喋りだした!!?
「その子は星の精ですよ。名はスピカと言います。」
そういわれて見ると昔見たことはある。けど実際に見たのは何年ぶりだろう・・・。
それに名前は今知った。
「で、この星の精は何をしてくれる訳でしょうか・・・?」
「それはもう、付近の探査から危険の察知という察知能力だけなら誰にも負けません」
だけ・・・、って事は雑用をやらせるのは無理と言う事だろうか・・・。
「あとは・・・リリィ、いらっしゃい。」
と、呼ばれた。
「お母様、リリィって誰ですか?」
「貴女を今ここにつれて来た侍女でしょうが・・・」
と、振り向いた先にはさっきの侍女がおどおどしながら私の横に立っている。
(あ、この人か・・・・・・・・・。ってこの人そんな名前だったのか・・・)
「姫様・・・、私は悲しいです・・・」
そういい、侍女・・・じゃなくてリリィは女王様の方を向き、一礼する。
「リリィ、貴女には引き続き教育係兼、ルゥの護衛という任務についてもらいます」
『・・・はい?』
私とリリィが同じ感想を漏らした。そりゃそうだ。私は一人で行くと思っていたし、
リリィは別の人がその任をまかされると思っていたのだから。
「女王様っ、教育係と言うのは置いといて、この侍女に私の護衛が勤まるのですか!?」
勤まるはずが無い、そう思った・・・が・・・。
「何を言っているのです、リリィは優秀なウィザードですよ?そもそも無能な者に
 あなたの教育係を任せるはず無いじゃないですか」
・・・む、言われて見ればそうだ・・・。弱い無能な人に面倒は見られたくない・・・。
「・・・分かりました、このリリィ。全力で姫様を見守る事とさせていただきます」
「任せましたよ」
ニコリとお母様・・・もとい女王様が笑う。
「では、地下実験場へ。ポータルもそろそろ開く頃でしょう。」
そう促される。が・・・
「地下実験場・・・ってどこ・・・?」
そんな施設、私は聞いたことは無い。
「リリィとスピカが知っています。二人について行って下さい。」
「はーい・・・」
私は一礼してから振り返り、部屋を出ようとする。
「まって、ルゥ」
と、女王様に止められた。
「なんでしょう?」
「頑張ってね。貴女のが立派になって帰ってくるのをずっと待っていますから。」
それは女王様ではなく、母としての私への言葉だったんだろう。
だから私も姫としてではなく、娘として答える。
「うん、頑張ってくるねっ!」
と・・・。
『ルゥちゃん、急いで急いでーっ!ポータルもそう長くは持たないんだからっ!』
と、星の精、スピカに急かされ、私は長い廊下を走る事となった。

177姫々:2007/02/19(月) 20:48:23 ID:5flRjIeE0
「リリィ、着替えは!!?」
まさかこのかっこのまま行くわけじゃないだろう。・・・と思った私が甘かった。
「いえ、時間がありません。このまま行きますっ!」
「えーっ!?」
流石にプリンセスドレスで行く事になるとはだれが予想しただろうか。
いや、間違いなく私以外の全員はそうなると予想していただろう。
「仕方ないのです。ポータルは一度閉じれば再び開くのに1〜2ヶ月は掛かります、
 そんなに待つことは出来ませんっ!」
「そんなぁー!」
私は引っ張れ、地下実験場に到着、走っている間に聞いた話では、ここは
リリィ達ウィザード達のための実験施設らしい。
そこには10人位のウィザード達がいて、魔方陣を囲んで呪文のような物を
唱えていた。
「行きますよ、ゆっくり歩いて魔法陣の中に入ってください。」
「・・・うん」
リリィに言われ、私は魔方陣の前に立ち、1回大きく深呼吸をして、
気持ちを落ち着かせてから、魔方陣によって輝いている床へと歩き、入って行った。


・・・

・・・

・・・

・・・


「――――――――――!!!!」
何かが叫んでいる。私はどうなったんだろう・・・。
分からない、わからない、わからない・・・。
「―ゥ――き―く――い!!!!」
なんだろう、なんと言っているのだろうか・・・。私は必死に聞き取ろうとする・・・。
「―ゥ様―起き―くだ―い!!!!」
ん・・・、何なんだろう・・・。聞き覚えのある声、誰だったっけ・・・。
それになんて言ってるのか、少しずつ判ってきた気がする。
そうだ・・・・、私は魔法陣に入ってそれから・・・・・・。
「ルゥ様っ!!!!、起きてくださいっ!!!!!!!!」
「ってうわぁ!!」
「ひゃぁ!!ビックリするじゃないですかっ・・・!」
たたき起こされた身にもなってほしい・・・。ってここはどこだろう・・・。
「もう・・・、大変だったんですよ?ただでさえルゥ様のかっこは目立つんですから・・・」
「えーっと・・・?ここどこ・・・?」
はっきり言って気絶したのは私の本意じゃないんだから私は悪くない。
それに目立つと言われてもそれは私の不備じゃないだろう。
「もう隣の星についていますよ、ここはその星の街「ブルンネンシュティグ」。
 旅人達の集う街、と呼ばれています。」
「へー・・・」
窓の外を見ると、さすがさすが。剣と鎧でその身を覆う剣士、槍を背に担いだランサー、
ローブを着込んだウィザード、ホールを持つビショップ、ダートを持ち、
黒衣に身を包むシーフ等などと、他にもさまざまな武器を持つ人たちが、
さまざまな姿で何かの祭りのようにその街の中を歩いていた。
「すごーい・・・すごいよリリィっ!!うわぁ、面白そーっ!」
と、言っていると、リリィが呆れ顔で言ってくる。
「あのですね・・・ルゥ様・・・。私達は観光に来たのではないのですよ・・・?」
「分かってるよー。で、私達は今からどうするの?」
「んー・・・、そうですねー・・・。街に出てみましょうか。少しお買い物が残っていますので。」
そうリリィが提案する。
「賛成賛成っ!いこいこっ!!」
ルゥはリリィが調達してきたのであろう服に着替え、そう言っている。
「まったく、お姫様と来たら・・・、まぁ折角ですし行きましょうか」
仕方ない、と言うが、リリィもルゥの笑顔を見るのは嫌いではなかった。
いや、むしろ好きだったと言っていいだろう。なんせこの無垢な笑顔を見るため、
毎日を過ごしているようなものだったのだから。
「って姫様ぁ!置いてかないでください!!」
そのおかげで、こんな困り者の姫様の召使が勤まっていたわけだ。

178姫々:2007/02/19(月) 20:49:30 ID:5flRjIeE0
「って、あれ?」
私が叫ぶとルゥがぴたりと足を止めた。いや、止めて当然と言えば当然なのだが、
普段のルゥなら止めるはずがなかったから疑問に思ったのだ。
(どうしたんだろう?)
と、追いついて顔を覗き込むと、目を輝かせてドアの外を見ている。
その方向を見てみると・・・、あぁなるほど。輝かせるのもわからなくは無い。
その方向には一匹・・・いや、一人のウルフマンの姿があった。
「わー、すごーい、なにあれー!!?」
と、思いっきり指をさして叫んでいる。一応はプリンセスなんだからその辺りの
礼儀はわきまえて欲しい・・・・・・。などといっている場合ではない。
「あ?何だ、ガキ」
「うわー、フワフワだー」
明らかに相手のウルフマンは不機嫌だ。それを無視して姫はウルフマンの体を触っている。
そういえば未熟なウィザードがウルフマンに変身すると、
自我が歪んで性格が凶暴になることがある・・・とか、そんな事を聞いたことがある。
「鬱陶しいっ!邪魔だ、どけっ!!」
ウルフマンが爪を立て、大きく腕を振って、ルゥを振り払う。
と・・・、リリィは目を疑った。
いや、目の前で起こったことを信じたくなかった・・・、というのが正解だろう。
「ぇ・・・・・・・・?」
「ルゥ様っ!!!!?」
ルゥの服は大きく裂かれ、鮮血が飛び散っている。リリィはルゥに駆け寄って叫ぶ。
「姫様っ!!しっかりっ!!!」
リリィが呼びかけるものの、ピクリとも動かない。
『リリィっ!!落ち着いて、まずはアースヒールをっ!!』
スピカが叫び、我に返ったリリィが懐から小さい杖を取り出し、アースヒールに
よる治療を施す。
「よし・・・」
パッと見、出血はしていないようだし、息もある。もう命は大丈夫だろう。
が、やはり許せない。いくらこちらが悪かったとはいえ、あんなにする必要は
あったのだろうか・・・?いや、無いだろう。
「あなた・・・、私の姫に・・・っ!!!」
「ひ、姫・・・!!?ってちょっと待てよ、俺は服を裂いただけだぞっ!!!
 あんなに血が出るはずねぇじゃねえかっ!!!」
とんでもなく鋭い眼光に睨まれ、呆然と見ていたウルフマンは後ずさりをしながら、
弁解を始める。
「だから・・・、どうしたと言うのですかっ・・・!!」
そう言うと同時、リリィが杖を高々と天に向け、詠唱を始める。
「・・・Мετεο――・・・」
メテオシャワー・・・、ウィザードの最強呪文・・・。文字通り隕石を宇宙から
召喚して、地上に落とすスキルなのだが、こんな街中でそんな事をすると
被害はどうなるか分かった物じゃない。が、そんな事、今は重要じゃない。
ルゥに無詠唱で防御のスキルを掛け、後のことはどうなってもいいと思っていた。
「やめてくれぇえええっ!!」
しかし、とんでもない速さで相手のウルフマンが逃げた事により、その呪文が
発動される事はなかったわけだが。
「く・・・、ヘイストかっ・・・」
自分もヘイストをかけて、追いかけたいのは山々だが、いくら何でも
ルゥをほったらかしにする訳には行かない。
いや、そんな事より今はルゥ様だ・・・そう思い、ふり向くと、目に涙を浮かべつつ、
フルフルと震えているルゥがいた。
「姫様っ、ご無事ですか・・・っ!」
と、妙に思う。いくらアースヒールでも、それは気付けじゃないんだから気絶してる
人間がそんなに早く目が覚め、こんなに元気になっているはずが無い。
「姫様・・・、まさか・・・?」
「ぐすっ・・・、ごめんなさい・・・」
お得意の悪戯だった・・・という訳か・・・。確かによく見てみると、
服に染み付いた赤い液体は血液じゃない。臭いをかいだ感じ、ただのポーションだろう。
多分いつものように私を困らせようとしたのだ。
袋にポーションの中身を詰めて、着替える時に服の中に仕込んだのだ。
「姫様・・・、どれほど心配したと思っているのですかっ・・・!!」
「ごめんなさいっ・・・。本当にごめんなさいっ・・・・・・!」
私がかがんで姫を抱き寄せると、ルゥも私の背中に手を回してきた。
「お願いです、私はどれだけ貴女に困らせられても私は貴女の元を離れません、
 けど・・・、あまり心配はさせないでください・・・」
「ごめんなさいっ・・・!!!ほんとうに・・・ごめんなさい・・・」
この時、初めてルゥは思った、こんなに自分を心配してくれる人が、
母以外にいたのか・・・と。

179姫々:2007/02/19(月) 20:50:48 ID:5flRjIeE0




「さて・・・、まずは服ですね。まぁお金は女王様にたくさん預かってますし、
 とびっきりの服を買いましょうか。」
「え!?ほんとっ!!?」
あれからシュンとしていたルゥだったがそう聞くと、パッと元気になった。
「ふふ、げんきんですねぇ。まぁ行きましょうか。」
とりあえずさっきの服は破れてしまったので、宿屋にあった布の服を代理として使い、
服屋へと向かう。と、服屋へと向かう途中、冒険者が話していた。
「なぁなぁ、レッドストーンって本当にあると思うか?」
「どうなんだろうなぁ・・・、あれがあれば世界が手に入るって噂もあるが・・・」
などと話していた。と、リリィはハッとした。こんな面白そうな話し、
ルゥに聞かせたらどうなるか・・・。そう思い、ルゥを強引にでも引っ張っていこうと
目をルゥのほうに移すと、以外にも「興味が無い」、という顔をしている。
「あれ・・・?興味ないんですか・・・?」
などと、ついつい聞いてしまった。
「え、何に?」
意外だ・・・。意外すぎる・・・この元気の塊のような姫様が興味無しとは・・・。
「いや、レッドストーンにですよ。さっきの冒険者が話していたでしょう?」
「あぁ。うーん・・・けど世界ってもう手に入ってるじゃん。2個もいらないよ」
・・・なるほど・・・、そういえば私達の星の未来の女王様なんだから、言う事は
ごもっともだ。
「では。女王様になるために明日からはお勉強しましょうね。」
「・・・え?」
「え?ではありません。頑張りましょうねっ!」
輝くような笑顔でリリィがルゥにそういった。が・・・、その言葉にルゥは一瞬
考え、ハッとした様に顔を上げて言った。
「決めたっ!!私、レッドストーンを探すっ!!」
「・・・はい?」
今度はリリィがさっきのルゥと同じ反応をする。
「実践は何よりも経験になるんだよっ!リリィっ」
「い・・・、いや、確かにそうですが・・・」
「そうだっ!そのためにお母様はスピカとリリィを私につけたんだと思うよっ!」
そう言えばそんな気がしなくも無い・・・。あの女王様、ああ見えて宝石類には
目がなかったな・・・。などと考えていた。
「ダメです、危険ですっ!!」
「だからー、護ってねっ!!リリィ!!」
完全無垢な、普通の少女のような笑顔。こうなるとリリィとしてはルゥに逆らえない。
「・・・、わかりました・・・。では早速準備を・・・。2週間でレッドストーンについて
 調べ上げて参ります。」
リリィの目は真面目だ。いや、むしろ面白がっていたのかもしれない。
姫様との外の世界の冒険をすぐ近い将来に見て・・・。

180ドギーマン:2007/02/19(月) 22:01:53 ID:VVuASkOI0
▲月▲●日
大きな町バリアート
帝国、共和国、王国、どこからも遠く離れた地理に、
肥沃な土地と東海の豊かな海洋資源を持ち、酪農も盛んである。
全ての権力から独立した独自の文化を持つ自由都市と呼ばれるバリアート。
しかし実際は町の半数以上の住民がメディッチ家の小作人に占められており、
"自由"とは名ばかりのものだとも言われている。
それでもメディッチ家は随分と昔からこの土地を支配していたようだし、
街の住民のメディッチ家に対する評価はそれほど悪くない。
いや、むしろ他の国家の支配者層に比べればずっとマシである。
何故なのだろうか。
どうやらその秘訣はメディッチ家に代々続く治め方にあるようだ。
まず、メディッチ家が雇っている小作人達には解放される可能性があるということ。
通常小作人といえば、雇っている小作農家から土地、籾種、農具を賃借りて農耕を行い、
出来た作物を小作農家に納めて賃金を得る。
しかしその次の年も食べるにはまた小作農家からそれらを賃借りしなければならず、
豊かな生活を送れないのは勿論のこと、まずその生活から脱出できることはない。
一度小作人に堕ちれば、一生小作人のままである。
特に、不作に遭えば死を覚悟しなければならない。
しかし、メディッチ家では違う。
小作人といえどもしっかりとした契約に基づいて仕事が与えられ、頑張ればその分だけ給料も増えるという。
町の小作使用人に契約書を見せて貰ったが、決して難しい言葉では書かれていなかった。
堅苦しい内容でもなく、実に単純な内容。農民にも分かるようにという配慮だろう。
給与等の内容は伏せるが、どうやら契約を結べば土地、籾種、農具は無料で配分されるらしい。
たとえ不作に陥っても最低限度の給与は支払われるという。
地道に働いて金を貯めれば、小作人を脱出することも可能だというわけだ。
小作人から解放された農民は、望めばメディッチ家から土地を買って小作農家となって小作人を雇うことが出来る。
だが、それではいずれ立ち行かなくなるのではないか?
そう思ったが、どうやらそうはならないらしい。
町にある唯一の麦の風車製粉所はメディッチ家の所有であり、
いくら農民が独立しようとそこに作った麦を通さないことには売ることはできない。
つまり、契約している小作人以外はそこに料金が発生するのである。
メディッチ家は放っておいても勝手に農家から収入を得られるのである。
同じように町の各商店、酒場から宿に至るまで全てをメディッチ家が所有している。
バリアートで生活する限り、メディッチ家には必ず何らかの形で金を払わなければならないのだ。
そんなメディッチ家だから、さぞかし華やかな生活を送っているのだろうと思ったが、
メディッチ家の屋敷を見て私は驚いた。
確かに他の民家よりは豪奢な作りではあったが、一つの町の支配者の屋敷とは思えぬほど小ぢんまりとしていた。
ゴドムやナクリエマの貴族の華やかな屋敷に比べれば、少し裕福な住民の家に見える程度である。
家の使用人に尋ねてみても、生活のほうも質素なものだという。
なんでも、一代で町を作り上げた初代の言葉を忠実に守っているのだとか。
メディッチ家が今のままである限りは、バリアートは安泰かもしれない。
現在のどかなバリアートの雰囲気に憧れて移住して来る人や、
そのまま定住してしまう旅人も増えているそうだ。
私もこの町を魅力的だとは思ったが、まだ一所に落ち着くつもりはない。

余談だがバリアートの酒場は非常にユニークだった。
当店ではたくさんの座席を用意しております。
壁際の席を除いてお好きな座席にお座りください。
主人がにやにや笑いながらそう言うのだ。
椅子は確かにたくさんある。
普段は座れそうにないような豪華な椅子が、壁際にたくさん並べられているのだ。
そして、肝心のテーブルの周囲には椅子はほとんどない。
何故このような事をこの酒場ではしているのだろうか。

後に聞いた話では、あの主人が現メディッチ家当主だそうだ。
どうやら、かなりお茶目な人物らしい。

181第48話 お気楽3人:2007/02/19(月) 22:23:42 ID:vX9Amrn60
キンガーさん、デルモちゃんと3人で駅に向かって歩いていた。

あれ?なんだろう?見たことある後ろ姿だなぁ・・・・お昼ご飯かな?
まさかね。
駅から遠ざかっていく後姿に見覚えがあったけど、私はその考えを振り払った。
それよりもこれから起こるであろうことに興奮気味だったからw
まだ待ち合わせまで時間がある・・・少しは慣れたけど、まだ会話が止まりがちで何を話せばいいんだろう?

「ねぇ、キンガーさん?」
「なんだい、ぎゃおすw」
「その名前で呼ぶときは小声で・・・w」
「^^;」
「あのですね、相手が連連とは限らないですよね?」
「違うかもね。てゆーか、アカウント窃盗グループの一人だとは思う」
「なるほど・・・。でもなぁ・・・」
「どしたの?」とデルモ。
「いやさー、目的のアカウントだとして、どうやって取り押さえるの?」
「うーん・・・考えてなかったなぁ^^;警察くるまでに逃げられたらどうしようかw」
「ですよねー」
「ねね、アカウントが当りだったら、私たちになんかサイン送ってください!私たちが警察に連絡しますから!」
「いいねぇ!そうしよ! その警察がくるまでなんとか時間稼ぎすればいいんだな?」
「うわぁ〜わくわくするwww」
3人で噴き出してしまった。

182ドギーマン:2007/02/19(月) 22:42:07 ID:VVuASkOI0
あとがき
バリアートも終わり、かな。
書き足りない気もする。
まあ、続けようと思えば続けられるのが一話完結のいいところですし。
さて、次はあそこかあ・・・。
どうしよう。

>>171-172
戦闘シーンは難しいですよね。
細かい動作や魔法ももちろんですが、
こうこう、こうしたから勝てたっていう"決め手"を考えるのが難しい・・・。

>姫々さん
途中、ウルフマンが出てきたのがちょっと嬉しかったですw
ちょい役でも出てくると、かっこよくても情けなくても注目してしまいます。
頼りになるリリィがかっこいいです。
3人のこれからの旅に期待してます

183ドギーマン:2007/02/19(月) 22:44:45 ID:VVuASkOI0
>キンガーさん
待たなくても傍に警察が張っているとも知らずにw
こうやって3人の視点から見ると、どんな反応するか楽しみになってきますね。

184第49話 焦燥する3人:2007/02/19(月) 22:56:13 ID:vX9Amrn60
こんなにキョロキョロしていてはただの挙動不審な人物じゃないか?
佐々木はそう自嘲しながら田村に無線を入れた。
「こちら動きは見られません・・・とゆうか、一人では監視しきれません」
悲痛な連絡が入ったときには田村親子はすでに駅に到着していた。
「ぎりぎり駅に着いたぞ。それらしいのは居たか?」
「いえ、前後10分以内に二人の人間が合流した様子はありません。僕はこのまま北を向いて監視しますか?」
「頼む。俺は西から南を監視する。美香は東方面の人物を見てくれ」
「了解」
メールで約束された時間から3分経過していた。
田村と佐々木はさすがに少し焦っていた。
「どうだ?動きはないか?」
「こちらはないです。どうぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「美香!そっちはどうなんだ?」
美香から返事が来ない。

そのころ美香は容疑者を追って駅から遠ざかっていた。
なんで無線から返事が返って来ないのかしら?
まさか無線が壊れてる?
確認すると無線がイヤホンから先が消えていた・・・走ってた時に落とした?

美香は目標を見失わないようにしながらポケットの中のまさぐり、携帯を探した。

185携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:24:25 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>95-98 ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

まだ外気が冷たく、吐息が白く染まる時間。
ゴミ収集車が早朝の街を走り、ゴミ捨て場の前に停止する。
同時に作業服姿の2人が飛び降りる。

作業員たちがゴミを漁さる鴉たちを追い返し、慣れた手つきでビニール袋を収集車の後部口へと放り投げていく。
追い返された鴉たちが電線の上で恨めしそうにそれを眺めていた。

作業員の1人が、大量のゴミ袋の海の中に、袋で包まれもしない長いゴミが埋もれている事に気づいた。
「まったく。曜日くらい守れよな」
作業員の男が舌打ちをしながらその上のゴミ袋を退かしていった。
すると、そのゴミが背広姿の男性だという事実に気づいた。
視線を這わせていくと、その男性はゴミ袋を掛け布団にして寝転がっていた。
「ちっ、酔っ払いのおっさんか? 困るんだよね、こんな所で寝てもらっちゃ」
苦い顔をしながら作業員の男はその男性を揺さぶった。
「こんな所で寝てちゃ風邪引きますよ。起きてください」
しかし男性の返答は沈黙だった。
作業員の男は2度目の舌打ちをした後、乱暴に男性に乗っているゴミ袋をはぎとった。
上半身部分の袋を取り払うと、自分の掌に紅い液体がこびりついている事に気づいた。
そのまま視線を落とすと、その男性には人間が持つべき物を持ち合わせていなかった。
よく見ればその必要な物はすぐ上に転がっていた。苦痛に歪めた男の顔が。
人間の首を、文字通り真っ二つに切られた死体だという事実に、作業員の男が悲鳴を上げる。

その悲鳴に反応してゴミ収集車の所にいたもう1人の男が駆け寄り、その惨状に気づき呆然と立ち尽くす。

そして寒空の朝に、続いた絶叫が響いた。

186携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:25:05 ID:mC0h9s/I0
「はぁ、はぁ、はぁ」
俺は広い草原の中を疾走していた。
「はぁ、はぁ、は――――」
息を切らしながらも走る。後ろを振り返りもしない。
―――止まったら、殺られるっ!

だが、草原も遂には終点に着いてしまった。
先は断崖絶壁。見下ろせば、その遥か下方では波の激流が岩をも削り取らんと荒れ狂っている。
俺は完全に追い込まれてしまった。

後方の草を踏む音に、全身の毛を逆立てながらも振り返る。
そいつは、ナイフを俺に向けながらゆっくりと近づいてくる。
「く、来るな!」
全力で威嚇するがそいつは足を止めようともしない。
「許さないわ、翔太…」
俺にじわじわと近づいてくる人間は女だ。
「何でこんな事をするんだよ…」
「何でですって? それは私の台詞よ。何で…何であの女を選んだのよ!」
眼前の女は長い黒髪を振り乱し、大きめな瞳に大粒の涙を溜め泣きわめいた。
「誤解なんだよ…」
「誤解なんかじゃないわ! あいつが来てから翔太はあいつの事しか考えなくなった。
あいつが居なくなっても翔太の頭の中にはあいつの事ばかり……」
女はうつ向いていたが、やがて決心したようにさらなる一歩を踏み込んだ。
「お、落ち着けって!」
「私は落ち着いているわ。理由を聞かせて、私よりもあの金髪女を選んだ理由を」
即座に「胸」と答えそうになったが、押し黙る。
そんな俺を見かねたのか、女はさらに踏み込んでくる。
「何よ…答えられないって事? 分かったわ。翔太を殺して私も死ぬ! やあ
あぁぁっ!」
凄まじい絶叫を上げながら女が向かってきた。いかん、このままじゃ死ぬ。
「やめろ、リディア!」
俺の決死の叫びも届かず、女は間合いに入りナイフを振りかざしてくる。
強烈な袈裟切りを、ぎりぎりでかわし、大きく後方へ跳躍!
だがそこで俺は大事な事に気づいた。
後方は断崖絶壁だった!
「ぎゃあああぁぁす!」
今時漫画でも発しないような悲鳴を上げながら、俺は荒れ狂う波の海へ堕ちていった。


「がふ」
全身の強烈な痛みと共に目を覚ます。
気づけば俺は寝台から落ちていた。
気だるく体を起こすと、全身に冷や汗を掻いている事に気が付いた。
……どうやら嫌な夢でも見ていたらしい。
額の汗を拭き取りながら少しばかり早い朝を向かえる。
カーテンを全開させると、眩しい陽光が部屋に侵入し、部屋が一気に明るくなる。
そのまま恒例の、棚の上の妖精(人形)リディアに朝の挨拶をしようとしたところ、ピタリと体が固まった。
何だか、リディアが恐い。というか怖い。
何でかなと首を傾げながらリディアと向き合った。
うむ、いつもと変わらない可愛らしい笑顔だ。

いかん、本当に末期だな俺……。

部屋を出ると、全く人の気配が感じられなかった。
どうやら母さんはもう出ていったらしい。
まあ、いつもの事だ。フラれては、また新しい男を探す。
母さんには男など遊び相手程度に過ぎないのだろう。
だから昨夜もあんな態度で振る舞えたのだ。
頭の中が急速に熱くなっている事に気づき、一気に冷却させる。
俺は家族に関する事に対して少しばかり熱くなりやすいらしい。
気を取り直して朝食の準備を始めることにした。
「えーと、昨晩のメニューは……窒素に酸素に二酸化炭素に…まあ、空気だったらしいな」
思い出せば、昨晩は疲労の為調理を放棄したのだった。
今日は少し重めの朝食を食べてから学校へ向かう事にしよう。


起きた時間が早かったせいか、教室の中の人数も疎らだった。
席に着くと、当たり前のように1人の男が近寄って来た。
言うまでもなく前の席の佐藤洋介だ。
「よう、矢島」
日に日にこいつは馴れ馴れしいぞ度が上昇してきている。
「何」
判るように無感情な声で返す。
しかし洋介は気にした風もなく、悪戯な笑みを返してくる。女子に言わせると、この笑みは愛嬌があって良いらしい。
因みに洋介は中々モテる。時々数人の女子を連れて下校しているところを見るくらいだ。
「今朝さ、また殺人が起きたらしいぜ。それも2件」
「また…? だが何故それを知っているんだ?」
「ああ、それは友人から聞いたんだよ。俺は顔が広いからね」
「でも何故俺に教えるんだ?」
「矢島は何か興味があったみたいだからね。ま、気を付けろよ」
そう言って洋介は颯爽と教室を出て行った。

187携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:25:53 ID:mC0h9s/I0
放課後。

俺は昼休みに洋介から聞き出した情報から、2件の内近い方の、ゴミ捨て場へ行くことにした。
「えっと…ここら辺かな」
その場所はすぐに判った。付近に野次馬やマスコミが溢れているからだ。

正直、何故ここに来たのか俺にも判らない。
だが、俺の意思とは別に足が勝手に惹かれるように動いてしまうのだ。

「――――っ!」
近寄ると、昨日と同じ違和感に襲われた。
しかし今度の違和感は遥か後方からだった。

――――追って、みるか。

意識をさらに集中すると、違和感は何か違う感覚に変わった。
その感覚は次第に鮮明となり、直線となって感じられた。

感覚という名の道を進むと、ある豪邸に着いた。
その場所から強い違和感が感じられる。

この街には豪邸が2軒ある。1つは赤川邸。そしてもう1軒がここだ。
誰の家かまでは覚えていないが…。

無用心にも門が開いていたので、好奇心に任せて俺は吸い込まれるように入った。
インターホンを押すと、男の声が返り、ほどなくして扉が開かれた。
「あれ、矢島?」
「洋介…? 何でお前がここにいるんだ」
「何でって…俺の家だからに決まってるだろ」
「なっ――――!」
さ……サプライズだっ!
洋介がこんな豪邸に住んでいるなんて。くそっ、失敗した。これならもっと仲良くしておけば良かった。
「入るか?」
硬直したままの俺を見つめながら洋介が入るよう促した。
「いいの? 不幸入っていいの?」
「いいよ。ほら」
手招きされ、俺は佐藤邸に足を踏み入れた。
中の造りは洋式で、俺のボロマンションと敢えて比べるならば、
野球で喩えると150対0の4回コールドでノーヒットノーラン負けだ。
そんな思いをよそに、違和感が段々強くなってきているのも事実だった。

間もなく洋介の部屋に着いた。
部屋だけで俺の部屋の3倍はある広さだった。
ガチャリという音を背中で聞く。
振り向けば、洋介が部屋の鍵を閉めていた。
「何しているんだ?」
そう、言おうとした。しかし、言葉が紡がれる事はなかった。
代わりに――――
「がっ!」
その声が自分の物だと気づいたのは、俺が倒れていると気づいた後だった。

「お前が1人でここに来るとは予想外だったが、まあいいや。お前にも大事な用事があるからね」
俺は最後に、洋介の冷たい笑みと、異形の生物を見た。

188携帯物書き屋:2007/02/19(月) 23:49:01 ID:mC0h9s/I0
こんばんは。ええと、まず流してしまってすいませんでした・・・。
そして今回、レッドストーンとの関係0%です。すいません・・・。

>>128
あんな痛々しい話でも笑ってくれてありがとうございます。正直、叩かれることを覚悟で投稿しました。
何故だか自分のギャグセンスはどうも痛々しくなってしまいます。もっとさっぱりしたギャグも書いてみたいものです。

>>ドギーマンさん
それぞれの町の話、イイです。こう見ていると、赤石の設定ってなかなか面白いのですね。
ゼフの話も素敵でした。続かないのが残念なくらいです。あと、あんな話で少しでも笑ってくれてありがとう。

>>146-147
初心者クエですかぁ〜。自分はどこで受けるかも分からない次第ですorz
武道家さんがカッコイイ。低レベ時は自分より高レベルの人に憧れる物ですよね。

>>153-156
文章も纏まっていて、それで尚物語も面白かったです。
戦士さんが良いキャラ出していました。戦士だって強いですよね。
自分の友達で、戦士でも剣士に勝てることを証明してやる! と張り切っている人がいました。(過去形)

>>171-173
戦闘描写ですか〜。自分も毎度苦しめられます。
苦しんで気づくと「うがぁ〜!」とか言っています。
スピード感があってよかったです。

>>姫々さん
時間がなくてまだ読んでいませんが、時間があるときにじわじわと読ませてもらいます。
そりゃあじわじわと。もしかして続くのかな? 長編でしたら続き激しく待っています!

>>きんがーさん
ぎゃおすさん3人の軽さと、警察たちの緊迫感がいいです。
でもなぜか佐々木さんが好き。頑張れ、佐々木。

ところでみなさんはバレンタインの日チョコ貰えましたか?(過ぎましたけど)
自分はもちろん、0個です。

189名無しさん:2007/02/20(火) 01:02:11 ID:yZqWB8n60
>姫々さん
女性WIZという妄想に頭が膨らんでます(笑) リトルウィッチではなくてWIZというのが良いですね。
どうしてもルゥがおてんば姫を連想してしまいます…古。可愛いキャラですなぁ。
公式設定だとプリンセスも他の惑星から来たみたいな感じで書かれていますし、ピッタリ来ると思います。
今後どのような旅を展開するのか楽しみです。

>ドギーマンさん
おぉ、バリアートだ!
しかし続けようも無くバリアートって何も無いところですよね・・orz
アリアンからバリアートまで徒歩で行こう!と一人でチマチマやっていた事があったのを思い出します。
次はあそことは…期待させてくれますね、楽しみです(笑)

>きんがーさん
こっちも修羅場ですね、犯人を逮捕できるんでしょうか…。
逆にきんがーさんたちが犯人だと思われてたりするんだろうか…ワクワク。
ところでもう50話なんですね。かなりの大作になってますよ、完結まで楽しみに読ませてもらいます!

>携帯物書き屋さん
携帯さんは風景の描写と、ところどころに挟まれているユーモアがお得意ですね。
緊張した場面でも笑ってしまいそうになったりほのぼのしたりさせてもらってます。
しかし、早くニーナに会わせてあげたい…ヤバそうですし。
チョコですかー…ageる側なのですが、特に誰にもあげませんでした(笑) むしろ自分で食べ…

190名無しさん:2007/02/20(火) 04:00:02 ID:wEUlJYbY0
戦闘描写でちょっと思い付きました。
魔法といっても、用法は現代・近代戦における兵器と変わらない物が多いのではないかと。
例えば、
ファイヤーボルト等の単発魔法…ライフル
マシンアロー……軽機関銃
ファイヤーストーム……火炎放射器
メテオシャワー等の範囲……砲撃や航空支援(爆撃)
モータルクラウド…BC兵器(毒ガスや細菌兵器)
ドレイクに乗ったマシンアチャ……戦闘ヘリみたいな航空機

と、言う事で、近代戦術とかも調べて見ると意外とイケるかも。
ただ、戦争ものになってしまう点と、それが果たして剣と魔法のファンタジーと呼べるのかどうかが問題ですが。

 後、決め手に困ったら、実際の格闘(格闘技等もあわせて)を参考にすれば良いと思います。
 Youtebeなんかで見られると思います。
 動画を繰り返し見て、両者が何を狙っているのかを考えながら見れば、執筆の助けになりますよ。

191名無しさん:2007/02/20(火) 04:30:06 ID:wEUlJYbY0
ちと探して見ました。合気道だそうです。
(変なリンクバナーとかはクリックしない様に)
ttp://www.youtube.com/watch?v=eDC2MS5wozI

私見ですが、こんな所に注目するといいかも。
・急所と人間の特徴を熟知している。
・相手と真正面に立たない。
・タイミング取る事と、足から全身を使って力を出す。

これは、酒場とかでおどけたシーフが、ひょいひょいと相手をさばくシーンとかに使えますね。
後は、しゃがんで避けたり、足を踏んづけたりというのがうまくいった場合、相手に致命的な隙が出来ます。
なので、戦闘の決め手になると思いますよ。

>>171->>172
本格的な描写に脱帽です。
剣の「死に魔」などの玄妙なやり取りは、勉強になります。

192名無しさん:2007/02/20(火) 13:28:38 ID:yZqWB8n60
>>190-191
実際のアクションや戦争ドラマ、映画などは見てるだけで役に立ちますよね。
合気道や剣道、柔道など実際やって来られた人なら飲み込みも早そうですね…
そう考えると回復・支援魔法以外は相当現実のものに置き換えられるんだなぁ。

193ドギーマン:2007/02/20(火) 18:16:39 ID:15.0WHzI0
▲月■日
オロイン森
私はバリアートで老人に昔オロイン森に現れた怪物の話を聞いた。
シルバのことである。
彼はオロイン森で油虫から油を集めて生計を立てているらしい。
犠牲になった4人もそうだったという。
老人は昔を思い出しながら私に話してくれた。
あれは夕暮れ時のこと、
油を集め終えてそろそろ帰ろうかという時のことだった。
そう老人は語り始めた。
途中友人と合流し、帰ったら酒場で一杯やっていこうと話していたのだという。
そこに怪物は現れた。
身の丈は森の木々に迫ろうか、
全身を黒い毛に覆われた、狼のような。
当時、ウルフマンはまだ居なかった。
その怪物は突然降ってきて、友人に圧し掛かると、
友人の頭を一噛みで食いちぎったのだという。
老人は思い出すのもおぞましいといった感じで、
私が奢った酒を口に流し込んでからまた話し始めた。
あまりの恐ろしさに腰を抜かして怪物を見上げ、
友人がそばで食いちぎられるさまをただ眺めていたのだという。
そこで、信じられないことが起こった。
怪物が動きを止め、友人の押しつぶされた亡骸から離れて頭を抑えて呻きだした。
そして老人に向かって、言った。
逃げろと。
怪物が喋ったんだ。確かに聞いたんだ。
老人は興奮気味に言った。
早く逃げろ。
そう言われて老人はわき目も振らずに逃げたのだそうだ。
途中何度も振り返ったが怪物は追ってこなかった。
老人は話し終えると、酒のお代わりを注文した。
友人と、他の犠牲者の亡骸は森の中に葬られたそうだ。
彼は私にその場所を教えてくれた。
そこで、思い出したように続けた。
もう一つ、誰が立てたのか分からないが墓があるという。
犠牲者の者かとも思ったが、町で犠牲になった者はその4人だけで、
その墓が誰の者かは知らないそうだ。
私はその場所も教えてもらい、そして今その墓の前に立っている。

ボロボロの墓石に、辛うじて読める字が彫られている。
"シルバ"
誰が作ったのだろうか。
あのシルバの父だろうか、それとも・・・・。
森の奥深く、ひっそりと隠れるように立っている。
近くの海からだろうか、波の音が聞こえる。
私は全てを知った者として、何故かその墓に花を手向けずには居られなかった。

194ドギーマン:2007/02/20(火) 18:27:12 ID:15.0WHzI0
あとがき
犠牲者のものと思われる墓はオロイン森73.119にあります。
4つまとまって立ってます。
探さないと見つかりませんが、238.398にも1つだけひっそりと立っている墓があります。
シルバリンのじゃないかなあっと、思うんです。

>携帯物書き屋さん
「やめろ、リディア!」で吹きましたw
危なそうな雰囲気で続きますね〜。
続き待ってます。

>>190-192
確かに、そういう風に現代の兵器のイメージに置き換えられるかもしれませんね。
回復魔法なんかは、やっぱり生々しく傷口がゆっくり閉じていくみたいな・・・・。
ちょっと怖いかもしれない。

>>189
懐かしいですね。手紙クエですか。
わたしも若葉時代に走りまわった記憶が・・・w

195名無しさん:2007/02/20(火) 21:45:26 ID:WCQCuaeM0
>>194
確かに、オロイン森にありますね。
昔、鎧クエでオロイン森に立ち入った時に見つけて
「誰の墓なんだろ?」と思っていましたが、これで納得です!

196名無しさん:2007/02/20(火) 21:45:38 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
今まで執筆されたウルフマンが登場したいくつかの小説からも分かりますが、
ドギーマンさんはやっぱりウルフマンや狼が好きなんですね(笑)
ウルフマンは確かに悲劇の産物というか、一番過去が悲しいジョブだと思います。アチャ/ランサや天使も悲しいですが…
ドギーマンさんの手で少しずつ謎が解き明かされていくようです。

手紙クエストというのはご明察です。
でも、無課金な私はその後もバリアートやスマグなど徒歩主体で行っています(笑)
天使のエバキュエイションが欲しいと思ってしまうこのごろです。

197姫々:2007/02/21(水) 02:49:23 ID:5flRjIeE0
>>175-179 から続きます。
(ここ・・・、どこ・・・?)
少女の視界は霞んでいる。それに焦点も合っていない。
(もう・・・ダメ・・・です・・・・・・)
私をここまで連れてきてくれた召喚獣も、かなり傷ついている。
私が治療すればいいのだが、もうそんな体力は残されておらず、召喚獣は
透明に透けていく。このままでは10分と持たず、元の霊体に戻るだろう。
(情けないなぁ・・・・・・・・・、レッドストーンを探しだすーって言い張って村を出てきたのにな・・・)
少女の頭には、走馬灯のように村の人々の顔が思い浮かんでいた。
(みんな・・・、ごめんね・・・)
そこで少女の意識は途絶え、召喚獣も幻のように消えた。

・・・

・・・

・・・

あれから1週間、リリィは昼はどこかへ出かけてしまっていた。
そして一週間経った時、私に「この街での情報収集は終わりです」
と言ってきたのだった。
2週間と言っていた物を1週間で調べつくしたわけだから、流石だろう。
「とりあえずこの街で集まると思われる情報はあらかた集めました、
 しかしどれもレッドストーンと繋がりそうにはないですね。」
「えー・・・、残念・・・。じゃあこれからどうするのー?」
姫―、ルゥが尋ねる。
「唯一まともであった情報ですが・・・、「ラピ・ド・セイジ」という方に会いに行きます。
 ここからは姫もご同行お願いできますか?」
リリィが不安そうに尋ねてくるが、返事は決まっていた。
「もちろん行くに決まってるよっ!」
そう返事をすると、リリィは満足そうに頷き、言う。
「では、決まりですね。目的地は明日言います。今日はもう休みましょう」
そう言い、私達は横になる。明日かー、楽しみだなぁー・・・。
そう考えると、眠れない。が、時間をかければ興奮は収まってくる、
今は眠ろう・・・、明日のために・・・。と、ルゥは目を閉じ、意識を自分の奥底に沈めていく・・・。

<<タ ス ケ テ・ ・ ・ ・ ・ ・>>
なんだろう・・・、何かが私を呼んでいる・・・?これは何なんだろう・・・夢・・・かな・・・。
ここはどこ・・・?森・・・?けど近くに道があるように見えるし、
冒険者の数もかなり多い所をみると、この街の近くだろう。
<<オ ネ ガ イ ・ ・ ・ ・ ・>>
夢だ、夢だ・・・。これは夢なんだ・・・。
<<ワ タ シ ノ・ ・ ・ マ ス―――>>

198姫々:2007/02/21(水) 02:54:11 ID:5flRjIeE0
「はっ・・・!!」
目が覚める・・・、何となくとんでもない夢を見ていたような・・・。
あぁ・・・そうだ・・・思い出した・・・。あの声はなんだったんだろう、夢にしては
実感がありすぎた。とはいえ、眠っている間に聞いたことなんだからやはり
それは夢なのでは無いだろうか・・・。それより気になる・・・、私の・・・マス・・・って何?
「おはようございます、少しばかりうなされていたようでしたが、気分は悪くないですか?」
リリィが心配してくる。気分は悪いというより不思議な感じだ。
「ねぇねぇ、リリィ、「私のマス―」に続く言葉って何と思う?」
何となくリリィに聞いてみる。すると「そうですねー・・・」と考えた後
「私のマスター・・・とかではないですか?」
と、私に言ってきた。なるほど、確かにそれなら文脈的にも合っている気がする。
が、それなら私に助けを求めるはずはない。リリィに求める方がよっぽど確実だろう。
「ところで、それがどうしたのですか?」
リリィが不思議そうな顔で言ってくる。とりあえずあまり心配させるべきではないだろう。
ルゥはあのウルフマンとの一件以来、リリィには信頼を寄せるようになっていた。そんな人を
あんまり心配させるべきではないと。それだけでもかなり大きな進歩だが、
けど、やはり「自覚が無い」いたずらは減らないのが困った所だ。
「ううん、別になんでもないよっ!夢の話夢の話っ!」
「はぁ・・・、そうですか・・・?」
と、それから少しの間をおき、リリィが話を切り出す。
「では、昨日も言ったとおり、少しお出かけをしようと思います。」
「そうそう、どこに行くのっ!?」
ルゥが眼を輝かせて言う。
「今日はそれほど遠くないです。ここから西にある旧レッドアイ研究所という所ですよ。」
「研究所??」
「えぇ、大昔はレッドストーンについて調べていたようですが・・・、まぁ今は廃墟ですね」
「そんなところに人がいるの・・・?」
と、そういうとリリィが難しい顔で言う。
「悪党の巣窟となっているようですね・・・、まぁ問題はありません。セイジさん
 は老いたウィザードらしいですので。」
優しい人ならいいなーなどと思いつつ頷いておく。
「では、善は急げです。早速出発しましょう。」
と、リリィがポーションなどの入った荷物を持った時、ルゥが話しかける。
「ねぇねぇ、リリィ?」
「なんでしょう?」
「ケーキ食べたいなー・・・」
ルゥがお店に並んでいるケーキを指差し言う。
「太りますよ。デザートは晩御飯の後だけです」
「むー・・・、じゃあ武器はー?私もリリィみたいになりたいー」
「姫にはまだ早いですよ・・・」
「やだよー、私だって自分の身くらい出来るだけ護りたいんだもん・・・」
と、今度は引かない。仕方ない・・・、この姫様でも使えそうな軽くて
それなりに武器っぽいもの・・・といえば・・・。
(さて・・・、なんだろう・・・)
思い浮かばない・・・と、ふと顔を左に向けると、子供達が遊んでいた、
ペイントボールだろうか?広場では衝撃を与えると割れて絵の具が飛び出す
卵大の玉を使い、遊んでいる子供達の姿があった。
そしてリリィはあれだっ!と思う。
子供達が持っていたのは手持ちの投石器「スリング」だった。あれならこの姫でも
扱えるだろう。幸い、スリングを売っているお店はすぐに見つけることが出来、
一番軽くて力がなくても使えるものを姫に与える。
「これでしばらくお願いします」
「むー・・・、杖とかでリリィみたいに魔法でバーンってやっちゃいたいのにー・・・」
不満そうだが、私達の使う魔法は元から体内にある魔力を杖の力で
外側に誘導して増幅しているに過ぎない。そのため、殆どが素質に左右されるのである。
残念ながら、ルゥにも魔力は宿っているものの、それは自身を変身させるための
魔力であり、外に流してしまってはいけないものであった。
「だめですよ、杖は危ないのですから。何人もの未熟なウィザードが自分に合わない
 杖を持って爆死したものです。」
と、嘘を言っておく。いや、自分に合わないものを使うと、魔法の制御が効かなくなり、
非常に危険なのは確かなので、あながち間違ってはいないだろう。一人くらい爆死した未熟者
もいたかもしれないし。
「・・・それは危ないね・・・」
「でしょう?だから姫様はこれで我慢してください。」
そう言い、スリングを渡す。
信じてくれて助かった。こういう「危険」ということに対しては、素直な分助かる。

199姫々:2007/02/21(水) 02:57:49 ID:5flRjIeE0
「あ、じゃあ100ゴールドちょうだいっ!」
「え・・・?はぁ・・・、まぁその位なら・・・。」
ケーキどころかキャンディーすら買えない。その位なら別に問題はないだろう。
と、100ゴールドを手渡す。
と、タッタッタとさっきスリングを買った店に走って行ったかと思うと、6,7センチ
位の小さなボトルに入った、赤みがかった液体を、50本ほど買ってきた。
「ルゥ様・・・、それはなんでしょう・・・?」
「え?スリング用の弾だよ?」
さぞ当たり前のように言うが、聞きたいのはその液体が何か・・・という事だ。
「んー・・・なんなんだろうねー・・・、「投げてみたら分かるよ」。としか聞いてない」
・・・嫌な予感がする・・・、が買ってしまったものは仕方ないだろう。
「まぁ、行きましょうか」
何かとバタバタしたが、やっとの事で古都を出発し、旧レッドアイ研究所へと向かった。



「そういえばスピカはー?なんか今日は静かだけど」
そう私が言うと。リリィもさぁ・・・と首を傾げる。と、その時
『ここにいるよー』
と、私の服の中から出てきた。
「うわぁっ!ビックリしたー・・・、そんな所で何してるのー・・・」
リリィはこの時(姫様も昨日兎になって私のかばんの中に隠れてた訳ですが・・・)
等と考えていたわけだが。
『ん・・・、ちょっと考え事をね・・・。なんか昨日の夜から変な感じが私の
 意識に介入してくるの・・・』
変な感じ・・・?昨日の夜・・・?そう言われ、忘れていた今日見た夢を思い出す。
が、思い出したころには、もうかなり歩いてしまっていて、
冒険者の数もまばらとなり、夢で見た景色とは大きく違っている。
「うーん・・・、魔力供給のラインが混線しているのでしょうか・・・、かなり
 女王様と離れてしまっていますし・・・」
リリィがうーん・・・と考えているが、私は何となくだけど違う気がした。
夢で見た景色の場所を、後で調べてみよう・・・そう思ったのだ。
『何も無いなら私はまた戻っておくねー、私の感じられる範囲には罠とかは無いし、
 探査とかが必要そうならまた呼んでねー』
そう言い、私の服の中に引っ込んでしまった。
「ルゥ様、あそこが研究所です」
そう言い、指をさす先は・・・、なるほど。廃墟に相応しいなと思った。
入り口は崩れ掛かり、ツタに侵食されている。まさに「自然に帰る過程」という表現が
ぴったりだろう。
「ファイアボルト」
そう一言呟くと、リリィが杖の先に火がともり、入り口を覆うツタを焼き払う。
周りに燃えるものがツタ以外何もないので、火事になる心配は無いだろう。
中に入るとそこは薄暗く、杖先に灯った火を明かりにして進んでいく。
途中野良犬や、そこに居つく悪党などがでてきたが、リリィの敵ではない。
杖を振って、先に灯った火を悪党に向かって飛ばすだけで、逃げ去っていく。
そして奥深く、髭を生やしたウィザードが一人、何をするでもなく、
眼を閉じて立っていた。

200姫々:2007/02/21(水) 03:02:22 ID:5flRjIeE0
「あなたが、セイジ様でしょうか?」
「珍しいの・・・、こんな廃墟に客とは・・・、確かに私がセイジだが―なんだろうか・・・?」
リリィが話しかけると、老人が眼を閉じつつ言う。
「レッドストーンについて、知っている事を教えていただきたいのです。」
「ふむ・・・、かまわんが質問は3つまでにしてもらいたい・・・、この老体では
 会話もなかなか体に負担が掛かるでの・・・」
「分かりました、では早速・・・。レッドストーンは本当に存在するのでしょうか?」
「ふむ・・・、わしにははっきり「ある」とは言えない・・・、しかしあの数の天使と
 悪魔が地上に来ている時点である可能性はかなり高いだろうの・・・」
「次に・・・、レッドストーンとはそもそも何なのでしょう?」
「それはわしには分からん・・・、不思議な力があるという噂もあれば、ただの巨大なルビー
 という説までさまざまじゃよ」
「では最後に。これ以上のレッドストーンの情報を得るにはどこに行けばいいでしょう?」
「・・・・・・、港町、ブリッジヘッドのシーフギルドが一番手っ取り早いじゃろうな・・・」
・・・?一瞬訝しげな顔をしたのは気のせいだろうか?
「分かりました、ありがとうございました。では私達はこれで・・」
そう言い、立ち去ろうとする。と、
「待たれい・・・、その服装であそこに行くのは控えなさい・・・、あそこはシーフという名の
 暗殺者の温床じゃ・・・。見た所かなり高貴な貴族であろう・・・、気をつけられよ・・・」
「ご忠告、感謝します。」
リリィがそうお礼を言い残し、今度こそ私達は研究所を後にした。


・・・

・・・

「さーて、ルゥ様、これからどうしましょう?」
研究所を出た私達は、これからの事を話していた。
「私つかれちゃったよぉー・・・」
もう足はガタガタだ。近いといっていたがとてもそうは思えない。
「ふふ、では今日は帰って休みましょうか。そういえばスピカ?」
リリィがスピカに呼びかける。と、私の服の中からスピカがひょこりと顔を出す。
『んー?なーに?』
「来る時、なにか変な感じがするといっていましたが、どうなりましたか?」
『えーっとねー、だんだん介入の頻度も質も小さくなっていってる』
「うーん・・・、やはり魔力の混線だったようですね」
本当にそうなのだろうか・・・?なにか胸騒ぎがする・・・。
急がないといけない、もう時間が無い・・・。何かにそう訴えかけられている、
そんな感じ。
「リリィ、ちょっと気になる事があるから、私歩いて帰っていいかな?」
帰還の巻物を広げているリリィにそう言ってみる。
「え・・・?いや私は別に構わないのですが、姫様がお疲れなのでは・・・?」
「私はいいのっ!!けどちょっと急ぐねっ!」
「はぁ・・・、そうですか。」
このとき、リリィは「どうせいつもの悪戯だろう・・・」としか思っていなかった。
「急いでっ!」
しかし、兎に変身してまで、焦ったように走り出すルゥをみて、何かあると
感じた。だから自身にもヘイストを掛け、追いかけることにした。

・・・

201姫々:2007/02/21(水) 03:06:07 ID:5flRjIeE0
「この辺・・・と思うんだけど・・・」
夢で見た気がするのはこの辺りだろう。冒険者の数、周りに生えている木から、
そう予想する。
「姫・・・さま・・・、お速いですね・・・」
後ろから追いついたリリィが言う。この際だから言っておくと、
ルゥは変身技術の天才であった。ルゥの故郷では2分間兎状態を
維持できれば優秀といわれていた。そんな中、数時間、もしかすると
丸1日兎変身状態を維持する事ができるこのルゥは、紛れもなく天才というに
相応しい力の持ち主だった。
リリィ達、ウィザードの見解によると、体内に秘めた魔力量が並外れている
のだろう―という事だったが。
「うーん・・・。おっかしいなぁ・・・」
「どうしたのですか?探しものなら手伝いますが・・・」
探し物・・・なんだろうか・・・。そもそも何で来たんだろう・・・。
『また変な感じが・・・。なんだろう・・・。』
けどスピカにも違和感があるらしい。この辺に間違いはないと思うんだけど・・・。
「スピカっ、この辺の森の中、調べてくれない?お願いっ!」
『うんっ、任せてよー。ちょっとだけ待っててねー』
「姫様・・・?何があるのですか・・・?」
リリィに聞かれるが、なんだろう・・・、私にだって分からない・・・。
そして数分経ったころだろうか、
『ル、ルゥちゃんー・・・、こっちっ!早く早くー・・・」
と、そこにスピカがふらふらと飛んでくる。その見た目は明らかに尋常じゃない。
「リリィっ!」
「はいっ!!」
スピカが飛んできた方向に走る。と、そこには人が倒れていた。
それは・・・ルゥより4つか5つほど年上の―。顔立ちは整っているが幼さが残っていて、
美人というよりはかわいいといった感じの少女だった。
『し・・・、死んじゃってる・・・?』
「滅多な事をいうものじゃありません。まだ生きてますよ」
と、リリィが少女の傍らにかがみ、この前私にしたようにアースヒールを施す。
「そうとう衰弱していますね・・・。全身の怪我は治しましたが、このまま目を
 覚まさないとなると少しばかり危険です。」
「そんなっ・・・、どうすればいいの?」
「そこのカバンからチャージポーションを取ってください。青いほうです。」
「これだよね・・・?」
「そうです。」
私はリリィにチャージポーションを渡して尋ねる。
「あと・・・、そのボトルもとってください。」
と、茶色のボトルも渡す。これは・・・お酒?
「これを1対2の割合で混ぜまして・・・と・・・。」
「何それぇ・・・、凄い匂い・・・」
「気付け薬ですよ。体力の回復作用はありませんが・・・。まぁ『良薬は口に苦し』です。」
そう言いつつ、それを少女に飲ませる。
「ん〜・・・」と、かなり辛そうな表情を浮かべていたが、その直後うっすらと眼を明ける。
「気が付いた、もう大丈夫ですよ」
ニコリと笑ってリリィが言う。
「・・・れ・・・?」
何か言いたげだが、呂律が回らないのだろう。言葉になっていない。
「今は眠っていた方がいいでしょう・・・、起きているのは辛いでしょう?」
「・・・・・・。」
コクリと頷き、少女は何かが抜けたように眠りに付いた。
「ルゥ様、荷物をお願いします。私はこの方を宿に連れて行きますので」
「う、うん。分かった」
私はリリィに言われたとおり荷物を持ち、さっきの少女を背負うリリィの後を続いた。
宿は古都に入ってすぐ所、その宿屋にはいると、宿屋の主人が驚いた顔で、
3人用の部屋を提供してくれた。その主人に感謝しつつ、少女をベッドに寝かすと、
リリィが呟くように言った。
「うーん・・・、ロマの方ですか。なかなか珍しいですね」
「ロマ?」
「えぇ、精霊から魔物まで、大半の種族と会話を交わすことが出来る民族ですよ。
 大抵は集団で移動するので、こんな所に倒れているはず無いのですが・・・」
「うーん・・・、まあ今日は休みましょうか・・・。明日、眼を覚ましたら事情を聞きましょう」
明日はどうなるんだろう、少しの不安と少しの期待を胸に、私は眠りに付いた。

202姫々:2007/02/21(水) 03:09:38 ID:5flRjIeE0

「―〜〜――♪―――――〜♪――♪♪」
「・・・ん?」
朝、と言っても太陽もまだ遠くの山に隠れているとき、私は何かの演奏によって眼をさます。
なんだろう・・・、不思議な感じがする。
私はその音色に誘われるように、宿屋の外にでた。
「〜〜―〜――〜♪〜〜―♪―――♪」
音色は宿屋の裏手から聞こえる。この裏はたしか小さな広場になっていたはずだ。
私は宿屋の裏手に回る。そして、そこに広がる光景に言葉を失った。
そこには、倒れていた少女がいた。
笛を吹きつつ、周りを囲む不思議な生き物達と戯れる姿は、まるで踊っているように見えた。
と、私の接近に気づいたのだろう。深紅の犬が私に向かって一直線に走ってきた。
「ひゃぁ!!」
私は驚いて、しりもちをついてしまう。
「あいたたた・・・、ひゃっ・・・!」
顔を舐められ、さらに驚いてしまう。そんな姿を見ていた少女が驚いた顔で言う。
「あ・・・、ごめんなさい。・・・こらぁ、ケルビー、だめでしょー?」
ちょっと舌足らずな喋り方でそう言い、私とケルビーと呼ばれた犬を引き離す。
「えーっと・・・、元気になったなの?」
「はぃ、あなたたちのおかげです、ありがとうございました」
そう言われ、深々と頭を下げてきた。さっきまで少女のそばを周っていた
不思議な生き物達も、私の周りを周っている。
「えっと・・・、この生き物達って何・・・?」
私は周囲の生き物達を指差しつつ言う。
「そうですねぇー・・・簡単に言うと精霊さんですねー。とーってもいい子なんですよー、
 でもその子達になつかれるあなたも、とってもいい人です。」
それは・・・、誉められているんだろうか・・・?
『うーん・・・どうしたのー?ルゥちゃん・・・、って何これ、なんでこんな所に精霊が!?』
珍しくスピカが驚いている。
「ふふ、あなただって精霊さんじゃないですかー。」
そう目の前にいる少女が笑いながら言っている。
『うそ・・・、私の事見えるんだ・・・、ルゥちゃんとリリィ以外には見えないようにしてた
 つもりなのに・・・。』
そうスピカが言っている。なるほど、確か街中を普通に飛び回っても誰も何も言わないわけだ。
そういうことだったなら納得がいく。
「では、わたしはそろそろ行きますねー。探さないといけないものがありますのでー」
「ぁ・・・」
待ってっ!!と、そう言おうとした時、言う前に少女の足が止め。
ふわふわとした笑顔のまま言う。
「あはは・・・、ここ・・・どこですかー・・・?」
この子・・・、物凄い方向音痴か、物凄くドジなんだ・・・。だからあんな入る必要の無い
森の中で倒れていたんだ・・・。と、私は確信を持ってそう思う。
「また倒れちゃうよ?今夜は泊まっていってよ。ね?」
そう言うと、少女はうーん、と考えた後。
「じゃあ、おことばに甘えさせてもらっちゃいます」
そう、笑いながら私に言ってきた。

そして夜が明けたころ、私とリリィが少女に尋ねる。
「昨日は助けていただいてありがとうございましたぁ。私はセラ、この街に向かう途中、
 倒れちゃってたところを、あなた方に助けてもらったと言うわけです」
リリィが言うには、彼女の連れている精霊が同じく精霊であるスピカに
助けを求めてきたのだろう、とのことだった。
「それはそれは・・・、ところであなたはどこから来たのでしょうか?」
リリィが尋ねる。

203姫々:2007/02/21(水) 03:16:12 ID:5flRjIeE0
「私の故郷はビスルっていう小さな村なんですよー。自然に囲まれたいい所ですー」
「え、村?ロマって旅をしてるんじゃないの?」
今度は私が聞く。昨日、ロマは旅をするものとリリィに聞いてたからだ。
「うーん、そぅですねー・・・、私達が特別なんでしょうねー。きっと」
はぁ・・・と、私とリリィが聞いている。この子と話していると、少し疲れるのは何故だろう・・・。
「ビスルとは何処にあるのでしょうか?」
それでもリリィがこの子に尋ねる。
「えーっと、港町、ブリッジヘッドのずーっと東ですねー。山を越えないといけません」
「ん・・・?ブリッジヘッドってここの南東ですよね・・・?」
と、リリィがそう言うと、私も「ん?」と思う。
「どうして古都の西側で倒れていたのですか・・・?」
そうだ・・・、南東から来た・・・と言うことは倒れているとしても東側か南側、
間違っても西側で倒れるはずが無い。
「うーん、わたしってちょっと方向音痴なんですよねぇ・・・。素直にテレポーターに
 運んでもらえばよかったですねー」
えへへ、と笑って言う。それを聞いて何となくガクッと疲れた気がする。
これはちょっとどころじゃない・・・、なんで街が見えてるのに入れず倒れるんだろう・・・。
「では、わたしはそろそろ行きますねー、探し物がありますので。助けていただき、
 ありがとうございました。」
そう言い、深々と頭を下げた後、宿屋を出て行こうとする。
「まってっ!何処に行くの?」
何処に行こうが私には関係が無いのだが、何故か私はそう訊いてしまった。
「・・・どこなんでしょうねー・・・?」
・・・、そう聞いて、またまたがくりと疲れた気がする。
「ていうかセラってさ、何探してるの・・・?」
そう私が聞くと、うーんと考えた後、信じられない単語を口にした。
「レッドストーンっていう宝石を捜してるのですよー」
と。
「え!?ちょっと待って、私たちもそれを探してるの!!?」
そういうと、あら・・・という驚いた表情をして言う。
「奇遇ですねー。私もなんですよー」
と、笑いながら言うが、そんな事に構わず私は話を続ける。
「何処に行くの!?情報があるなら教えてくれないかなっ!!?」
「・・・・うーん・・・・・・・・・。」
そういうと、上を向いて、口に手を当てて考えつついう。
「ごめんねー・・・、私何も分からないんだー・・・」
と・・・。まぁ何となく予想は出来ていたけれど・・・。
「って、じゃあ何処に行く気?」
「んー、何とかなるんじゃないですか?お金もありま・・・」
と、ポケットに手を入れて、そこで言葉を止める。
「あははー・・・、お金、何処かの街の近くで盗賊に取られちゃったんでしたー・・・」
と、そういえばこの子、倒れていた時傷だらけだったな・・・、盗賊に襲われた
と言うことだったのか・・・、そう言えばあの廃墟の研究所に言ったとき、近くに
いったときに盗賊っぽい人がいたような・・・。リリィを見た途端逃げてったけど。
と、他に突っ込みどころがあった気がするが、ルゥは考えないようにしていた。
と、その会話を聞いていたリリィが「はぁ・・・」とため息をつき言う。
「ならセラ、私たちと一緒に来ませんか?」
と。
「え・・・?そんなぁ・・・、悪いですよー・・・」
「いえ、私たちは港町に行くのです。街の案内役をしていただけませんか?
 目的はレッドストーンの情報です。あなたにも情報は役に立つと思います、
 任されてくれませんか?」
「えーっと・・・。うーん・・・」
「お願い、私もっとセラとお話したいの。一緒に来てくれないかな?」
私からもセラに言う。正直な話、私もちょっと疲れるけどこの子は嫌いじゃない。
リリィとお母様以外に殆ど人と話したことが無いということもあったけど、
それだけじゃなくて、この子とは友達になれる、という漠然とした自信があったのだった。
「うーん、じゃあ・・・、これから少しの間、おねがいしますー」
と、笑いながらセラが言った。
「ほんとっ!?来てくれるの!!?ありがとーっ!私はルゥ。よろしくっ!セラ。」
「お礼を言うのはこっちですよー、よろしくね、ルゥちゃん」
と、リリィに止められるまで、手を取って跳ね回っていた。

「ルゥ様、着替えは終わりましたか?」
「うん、終わったよーっ」
セイジさんの忠告を守り、私たちは目立たないように旅人用の服に着替えていた。
セラも会った時着ていた服がボロボロになってしまっていたので、同じ服を、
買って貰って着ていた。
「では、二人とも、行きましょうか。」
「「はーいっ!!」」
リリィの言葉に私とセラは同じ同じタイミングで返事をして、二人顔を見合わせて笑った後、
港町『ブリッジヘッド』へと向かうべく、宿を出た。

204姫々:2007/02/21(水) 03:25:40 ID:5flRjIeE0
早速ネタに詰まって新キャラ出しちゃった愚か者です。こんばんは。
皆さんに見てもらえると言うのはやはり励みになります。
今日から2週間ほど、あまり時間が無いので皆さんの作品を読むことも、
お礼の言葉を書くことも続きを書くことも出来そうにありませんが、
また時間が出来た時ゆっくりと読ませていただきます。

一応物語の成り行きとしてはメインクエストですね。
新キャラはサマナーって設定で召喚獣だけでペットをつれていない理由は
また今度の機会にでも書くことにします。
何となくRPGなら4人PTというイメージがあるのでもう一人くらい新キャラ
でてくるかなと言う感じです。剣士/戦士、ランサー/アーチャー、
或いは意表をついてネクロマンサー/悪魔というのが予定ですが・・・。
では、また次回、ネタが浮かぶことを祈り、
私の後付けはここで終わりとさせていただきます。

205名無しさん:2007/02/21(水) 05:23:45 ID:PHhw..Kc0
過去の作品:
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html#960
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#139
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#389

今作品
1: ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#960
ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#961
2:3冊目>>556
3:3冊目>>900-902
4:3冊目>>957-960


 もう何分経ったのかしら?
 もしかしてまだほんの数秒? それとも数時間?
 悪魔はさっきから硬直して全然動かない。私はいつまでも宙吊りのまま。
 さっきから大きく目を見開いている。時折歯がガチガチと鳴り、体をブルブルと震わせて"ここには存在しない何か"を見ている。
 正確には"見ている"と言うよりは"見ているような気がする"だけなのだが…。
 本当は見たくない。悲しいから。見るのも辛いものだから。あまりに恐ろしいものが目の前に広がっているから。それなのに目を離すことが出来ない。目には涙が浮かんでいる。
 泣いてるの?まるで子供ね…。
「あっ、そっかそっか、アレに似てるわ。」
 そう、そうだ、やっとわかった。子供の瞳だ。何か悪いことをして、叱られている子供。
 叱られているのが嫌なのか、自分がしてしまった事への罪の意識からなのか、そこから走り去ることも出来ずにじっと震えている様子。
 今のこの赤いヤツにピッタリじゃないかしら?
 そう思うと急に勇気が湧いてきた。今、この赤いヤツの腕を振りほどくことが出来れば私は逃げることが出来る。
 いや、殺してしまうことだってできるんじゃないかしら。でも殺してしまうのはやり過ぎかしら? ん〜。
 こいつには散々酷い目に遭わされたんだし、大事な髪の毛も少し燃やされた。まぁ、どうせ"すぐ元に戻る"からいいやもうどーでも。
 我ながら随分と甘い考え方だなって思う。結果的に殺されずに生きているからかしら?
 この洞窟に来る前の私なら間違いなく殺してた。こんなに大きな隙を見逃す事なんてしなかった。自分に危害を加えようとするなら尚更だ。
「あ〜もう、アレさえ見ていなければねぇ…」 
 そう、あの光景さえ見ていなければ。
 私はあの光景を見ちゃったから。見えてしまったから。
 今は殺せない。だってまだ聞こえるんだもの。『殺したかったんじゃないんだ、ただ外に出たかっただけなんだ』って。
 この赤いヤツは何処かに閉じこめられていたのかしら? コイツを閉じこめていたのは白い翼をもった人間なの? だから殺してしまったの?
 ここでコイツを殺してしまえばもうこの頭の中に直接飛び込んでくるような言葉は聞こえなくなるのに。
 だけどできない、やっと外に出られたのなら、そんなに辛い想いをしてまで見たかった"外の世界"なら、私にはそれを奪うことはできない。
 私だってそうだったもの。自分の知らない新しい世界、それが見たくてこの星にやって来た。
 きっともうすぐこの赤いヤツは正気に戻る、さっきみたいに私を襲ってくるかもしれない。
 私はどうしたら良いんだろう、もし襲ってくるなら戦わなきゃいけない、今度こそ殺されるかもしれない。
 でもその前に、ちゃんと伝えたい。私は天界からの追跡者じゃないってこと。今聞こえている謎の声が聞こえなくなるようにしてくれるなら危害は加えないってこと。
 話せばわかってくれるかもしれない、だってちゃんと罪の意識をもっているんだから。自暴自棄になっていなければ大丈夫。
 腕に力を入れて赤いヤツの手を私の首から離す。
 支えを失った体は地面へと一直線。
 ズデン!
「っつぅ〜〜」
 お尻をさすりながら立ち上がる。着地はあまりにも優雅に、そして軽やかに失敗した。
「イテテ…」
 少し視点を上に向ける。
 別に『着地失敗してたのを見られてたら恥ずかしいな』なんて考えて赤いヤツを見上げた訳じゃない。いや、本当に。
「誰に言い訳してんのよ…、それにしても」
 赤いヤツはまだ動かない。私がその手の中からいなくなっていることに気付いている様子はない。 
「いつまでも何を見てるのよ…」
 何が見えているのかは大体わかるけどさ、文句の一つも言いたいじゃない。
 聞こえてくる声は少しずつではあるが小さくなってきている。もう少し待ってみよう。

206名無しさん:2007/02/21(水) 05:24:44 ID:PHhw..Kc0

 待っている間に色々と考える。
 私は寝不足でとても怒っていたはずで、この赤いヤツに文句を言いに来たはず。
 姿を見たら怖くなって、逃げようとして…それなのに今私はここで逃げずに待っている。
 何もかもが思い通りにいかない。考えていたことも行動も全部裏目にでる。
 そもそも嫌いなカエルに化けてまで逃げようとしたのに…カエルなんて食べようとしないでよ…
「本当にコイツ最悪だわ…」
 本当に…本当に最悪、ブン殴ってやりたかった。さっきまでは。
 首を絞められたときに見えてきた光景。この赤いヤツが白い翼を持った人間の命を奪う光景。
 この赤いヤツは憎んでいた、あの翼人を。そして悲しんでいた、自分が誰かの命を奪ってしまうということを。
 口では強がっていた、相手を挑発していた。
 弱音を吐くまいと必死に笑い、自分が閉じこめられていた空間を破壊したあと
 そうでもしないと吹っ切れなかったのね、コイツは。
 哀れみを込めた目で赤いヤツを見つめる、いまだ夢の中といったところか、体を震わせ涙を流している。
「あれ? 何でかしら」
 気付けば私も泣いていた。変ね、別に悲しいのは私じゃないのに。
 涙が頬を伝う感触。冷たいような、とても熱いような、なんだかよくわからない。涙が止まらない。
「ヒッ、なん、で私が、ヒック、泣かなきゃダメなのよ、グスッ」
 汚いとは思いつつ鼻をすする。誰もいないところで本当に良かった。こんなところ誰にも見せられない。
 誰にも見せられないくらい私は顔をくしゃくしゃにして泣いている。
 コイツの近くにいるとなんだか悲しくなる。涙を止めようとすると余計に涙が溢れる。
 とても悲しい、でも目の前にいるコイツはその何倍も悲しいみたい。なぜだかそれがわかる。
 大きな大きな悲しみが私に少しずつ流れ込んでくる。
 ズザッ!
「っ!」
 音に驚き前を向く。
 赤いヤツが膝をついているのがわかった。表情は視界が滲んでよくわからない。
 もしかしたら正気に戻ってるかもしれない。すぐに距離をとらないといけないのかもしれない。
 それでも私はコイツに近づいた。
「こんなの私の性に合わないんだけど…」
 今私が感じている悲しみがコイツから伝わってきたモノなら、慰めてあげたかった、少しでも安心させてあげたかった。
「辛かったわね、悲しかったわね。」
 赤いヤツの頭を抱きよせる。
 涙で服が濡れる。いつもなら服が汚れるからこんな事はしない。
 でも今だけ、今だけはそんなこと気にしなくても良いかなと思えた。
 私の体格では少々抱きしめにくかったがそれはしょうがない。
 コイツは何もわかっていないんだろうなぁ、いつの間にか自分が涙を流しているなんて。
「大丈夫よ、大丈夫。何も怖くないわ。アンタの涙が止まるまでこうしててあげるわ」
 何を言っているんだろうか私は、私自身が泣いているのに、ほんの少し悲しみが伝わってきただけで涙が止まらなくなっているのに。
 
 十数分くらいしてやっと涙が止まった。
 気付けばあの悲しい声は聞こえなくなっていた。赤いヤツの震えも止まっていた。
 頭に回していた腕をほどき、赤いヤツから離れる。
「ん…う〜ん」
 夢から目覚めたように赤いヤツがこちらを見る。
 話し合うにせよ、戦うにせよ、ここで決着つけとかなくちゃ。そろそろ覚悟を決めましょっかね。
 さぁ、やってやろうかしら。
「やっとお目覚めかしら? 泣き虫さん。随分と待たせてくれたわね。」
 出来れば戦いたくは無いなぁ。と考えながら私はスリングを手に持ち、赤いヤツに近づいていった。

207名無しさん:2007/02/21(水) 12:00:57 ID:ndV96f8.0
>姫々さん
リリィがお姉様的なWIZならセラは天然少女って感じで個性がちゃんと出ていると思います(笑)
冒険小説は大好きです。シフ/武道は敵側として出てくるのだろうか…。続きを楽しみにしています。

>>205-206
心の内面を描写するのが凄く上手いと思います。
この赤い悪魔と姫さんの間には何が隠されているのだろうか…。続きお待ちしています。

208elery_dought:2007/02/21(水) 18:02:52 ID:Y4wtUzM60
シン「くそ…ちとやべぇなぁ…。ギル、今どこにいる?」
ギル「茂みに隠れてるよ。今テイマー2人とシーフがそっちに行った。探知されんなよ? んであと2分くらいだからテイマーは避けて一番柔らかそうなシーフを狙えば多分勝てる。」
「わかった。返り討ちだぜ。」
-終了まであと1分です。-

(きた…。)
シン「おらぁ!」
掛け声とともに木の陰から飛び出し、作戦通りシーフにパラをかました。
シーフ「くそぉ…ばた」
-ギルド「0×△」との対戦で…
シン「じゃ、帰るかぁ。」


シン「ふぅ…危なかったな」
ギル「ああ、もう2人だけはごめんだぜ」
と、ここは俺の入っているギルドの寮。
主なメンバーは俺と武道家のギルと、ランサーのミーネ。
あとWIZさん、シフさんそして不気味なネクロだ。
シン「みんなGvサボって何やってんだか…」
ギル「WIZさんとシフさんは図書館行くとか…。」
シン「ぜってぇーミーネとネクロサボりだぜぇ?」
今日のGvは俺とギルしか出なかったのでとても不機嫌だ。
シン「まぁいいや…ちょっと出かけてくるね。」
ギル「わかった。9時から会議間に合うようにな」
シン「わかってるって」
と言って扉をしめた。

ミーネ「ごめん!買い物行ってた!」
ギル「ああ、おかえり。」
ネクロ「お菓子買ってもらったんだ!ギル兄ちゃん一緒に食べよ!」
ギル「一緒に行ってたのか。いいよ、食べよう」
テーブルでお菓子を食べ出す二人。ミーネはすぐ夕飯の支度をはじめた。
ミーネ「今日やっぱりシンとギルだけだったの?」
ギル「そうだよ。」
ミーネ「怒ってる?」
ギル「…いや…別に。」
ミーネ「ごめんね;今日特売だったから;」
ギル「いいって、2人でやったのもなかなか面白かったし」
ネクロ「おまけもらっていい?」
ギル「いらないから;」
ネクロ「やったー!」
ギル「そういえば、あの2人はまだなの?」
ミーネ「ああ…朝早く出て行ったのにねぇ。」
ギル「まぁ9時にはくるか…」
ミーネ「なんか用でもあるの?」
ギル「いや、ちょっと気になっただけだよ」
ミーネ「そっか…」
しばらくの沈黙。なべの煮える音が響く。

ミーネ「あ、そうそう。」
ギル「……」
ミーネ「聞いてる?」
ギル「ぇ?あ、寝てた…」
ミーネ「寝るならベットで寝てよね。それで明後日の個人戦のトーナメント申し込んどいたから」
ギル「うん、わかった。」
ミーネ「明日時間ある?」
ギル「うん、あるよ。」
ミーネ「買い換えたい装備あるから付き合ってほしいんだけど…。」
ギル「ちょうど俺も買いに行こうと思ってた。いいよ。」
ミーネ「じゃあ、よろしくね」
ギル「ぁ…おう…」
少し照れながらまた睡魔に襲われた。
なべの煮える音が響く。

初投稿です。
文章滅茶苦茶ですが頑張ります^^;

209名無しさん:2007/02/21(水) 19:27:00 ID:kohE0f8U0

「ギル戦で使われたらやばそうな技」スレの>>736氏のネタから書かせていただきました。
許可はとってありません。勝手に使って申し訳ございません。


ウィザードは紙と呼ばれ、体力が少ないと思われがちである。
体力に自信のあるウィザードというのは少ないだろうし、実際に私もお目にかかったことがなかった。
かく言う私も、ギルドやパーティーのメンバーからは紙と馬鹿にされ、何かを倒しに行くこともできず、味方の補助をしていることが多かった。
「ウィザードさん、蘇生するのが大変ですから、敵に狙われないよう注意してくださいね」
ギルド戦争が始まる前、同じギルドのビショップがそう言ってきた。
確かに私は、よくターゲットにされることがあった。簡単に死にやすいからだ。
「わかっている」
私は頷きながら、ロングコートの中に隠し持っている薄いノートを確かめていた。
メンバーにファイヤーエンチャントとヘイストをかけ終わったのを確認して、私はフィールドの真ん中へと走り出した。
ビショップの制止する声が聞こえたような気がしたが、私には考えがあった。
いつもならば、敵から身を守りながら味方支した後は敵に注意しながら、味方の状態に気を配っていた。
しかし、今の私にはこのノートがある。先日古都の隅の方で拾った黒く薄いノートだ。
普段ならば見向きもしないが、何故かその日は、その落ちていたノートに興味を抱いた。
町のなかにアイテムが落ちているなんて珍しい。アイテムはモンスターが落とすものなので、モンスターのいない町ではドロップなどできないのだ。
アーチャーの矢を避け、私はフィールドの中央に氷柱を立てる。
その上に飛び乗ると見晴らしはよく、その柱を壊さない限り私に攻撃がくることはなかった。
「氷柱だと、卑怯だぞ!」
敵方の戦士が足元で叫ぶ。
卑怯だと? 笑わせるな。小さく呟いた言葉は、彼に届きはしなかった。
いつも、通りすがりの私を捕まえては「エンヘイおね」だとか、マナーも何もない頼みをしてくるくせに、氷柱を出して何が悪い。
私はコートから、例の黒いノート取り出して、冷たい地面に広げた。
「まずはお前からだ!」
先ほどの戦士が、眉根を寄せるのがよく見えた。今までより格段に視力があがっているのだ。
頭の上には、戦士の名前が見えている。その名前をノートに走り書きした。
「何が俺からなんだ、紙のくせに!早く降りて来い、俺にもポイントを稼がせろ!!」
地上で吼える勇者は急に顔を歪めた。そして崩れ落ちる。
「どうしたの!?」
慌てて敵方のアーチャーが駆け寄ってきた。
小さな鞄からフェニックスの羽を取り出し、それを用いて戦士の蘇生を試みる。だがそれよりも早く、私は彼女の名前をノートに書き写していた。
彼女も戦士と同じように、急に苦しみだして、地面に崩れ落ちた。
いつもはポイントプレゼンターでしかない、”紙”の私が、体力や防御力に自信のある相手を素早く倒すことができる。
このノートは、そんなノートなのだ。
「削除、削除、削除、削除、削除……」
常人では見えないような遠くの敵の名前までも、よく見えていた。私は一心不乱に、ノートに名前を書き込み続けた。
まだ私のギルドでは誰も殺されていない。死人ゼロで圧勝という素晴らしい業績を、私は作るのだ。
初めてギルドに貢献できる。私は、それが嬉しくてならなかった。
やがて、フィールド上に死体しか見えなくなったころ、私はあること気がついた。
「……誰もいない」
そう、生き残っているのは私だけで、見えた名前を手当たり次第に書き込んでいた私は、味方までも殺してしまっていたのだ。
「嘘だ!」
氷柱から飛び降り、慌てて味方を探す。
先ほど注意してくれたビショップも、たまに喋るシーフも、誰も生きてはいなかった。
残念ながらウィザードは、味方を蘇生する能力は持たない。ビショップ一人でも生きていればと思ったが、みんな死んでしまっていた。
生憎フェニックスの羽も灰も、銀行の中である。
私はただ呆然とし、死体で溢れかえるフィールドの中央に立ち尽くしていた。
暫くするとギルド戦争終了を告げるアナウンスが流れ、私たちは強制的にそのフィールドからはじき出された。

その日、一人のウィザードが行方不明になった。
友達登録をしていた人が確認したところ、”監獄”にいるらしいということだけがわかった。
監獄がどこにあるのか、監獄がどんな場所なのか、誰も知らない。彼は未だに監獄から出てこない。
一つわかるのが、「24時間監獄から出られません」ということだけだ。

210209の後書き:2007/02/21(水) 19:28:18 ID:kohE0f8U0
先日、初心者クエの話を書いた者です。
感想や励ましを有難う御座いました。嬉しかったので、もう一度投下させていただきました。
最初に述べたように、ギル戦で〜のスレ内のネタを使わせていただきました。元ネタが好きなので、書いていて楽しかったですww
Gvも出たことがないので、Gvがどんなものか分からないので、想像で書きました。
最後の監獄は私は行ったことはありませんが、実際にあるフィールドで、通報されると転送されるそうですね。垢BANギリギリのラインだとか?

ギャグにしたかったのですが、あまりギャグになっていないような……。
ネタは素晴らしかったので、あとは脳内補完で肉付けしてください。
読んでくださってありがとうございました。

211名無しさん:2007/02/21(水) 23:15:33 ID:yQlXMAfA0
これは・・・もしや・・・デスノートなのか?
たしかに使われたらヤバスw

212171:2007/02/22(木) 15:31:29 ID:f0SX/jL60
なんか単発投稿なのにコメントいただいてしまって恐縮っす。

>>190

魔法=兵器というのは面白いですね。たとえば魔法に付き物の「詠唱時間」
(RSには存在しない概念ですが)にその考え方が応用できるような気がしてきました。

せっかくなので自分も「戦闘描写」に特化して時々参加してみます。
皆さんみたいに物語掘り下げる力ないんでorz

213名無しさん:2007/02/22(木) 15:33:11 ID:ndV96f8.0
>>208
Gvだけの小説かと思いきや、ギルメンさんたち同士の情景が細かく書かれていますね。
こんな風にそのまま"家族"みたいなギルメンって憧れます。
同じ寮に住んでいる・・というのもイイナァ(*´д`)
続くのでしょうか?お待ちしています。

>>210
ギル戦で〜スレは行った事ないですが、思わず笑ってしまいました(笑)
デスノート…確かにあったらやばそうですね。名前確認もすぐできますし。
最後味方まで殺してしまったというのが笑っちゃいけないような現実味がひしひしと(怖)

214名無しさん:2007/02/22(木) 15:35:34 ID:ndV96f8.0
>>212
「戦闘描写」に特化するだけでも普通の小説と同量かそれ以上のボリュームになると思いますよ!
(実際>>171で執筆された小説がそうだと思いますし)
是非、また書いてください。楽しみにしています。

215ドギーマン:2007/02/22(木) 17:47:32 ID:15.0WHzI0
▲月○日
ロマ村ビスル
ロマの村はこの大陸中のあちこちにあって、常に移動しているらしい。
それこそ、一家族のテント程度のものから村という集団まで。
しかし、ビスルは違うらしい。このソゴム山脈の山々に囲まれた谷の中で定着して生活している。
豊かな牧草地の広がるこの場所なら、家畜を飼うのにも苦労はすまい。
しかし、この村に行くには炎の神獣たちが大勢居る赤山を越えなければならない。
そこでブリッジヘッドで旅の冒険者に護衛を依頼しようと思ったのだが、
彼が言うにはその必要はないのだそうだ。
赤山の炎の神獣たちは大人しく、こちらから手を出さない限りは大丈夫だという。
半信半疑ながらも来てみれば、確かに大人しかった。
近くで平気で昼寝していたり、小さな子供の神獣がじゃれあっていたり。
なかなか見られない光景であった。
しかし、さすがにあの燃え立つ身体に触れてみようという気にはなれなかった。
かくして、私はビスルに何の問題もなく到着できた。
恐ろしい魔物が守っているという話はデマだったらしい。

さて、私はこの村でロマ達の独特な文化を目の当たりにした。
ビーストテイマーやサマナーたちは笛の音色を介してであらゆる動物や精霊と意志の疎通が可能らしい。
しかし、ビーストテイマーやサマナーとなれるのはロマの中でも女性のみ。
どうやら彼女達には我々には聞こえない獣達の"声"が聞こえるらしい。
その声が聞こえない限りは、獣達の気持ちを理解することも、笛でそれを表現することも出来ないのだそうだ。
彼らの生活ぶりはとても質素なもので、
山を越えて川の水を汲みに行き、家畜の世話をし、皮をなめし、大蜘蛛の糸を紡ぎ、機を織り、
肉を干し、時には他の都市へ生活必需品や海産物を買い付けに行く。
ずっと昔からその生活を続けているそうだ。
他の村のロマ達は、街を獣や家畜を連れて巡ってはそれぞれに興行をして次の街へ移っていく。
親戚に会うのにさえ予め連絡を取れなければいつまで経っても会えないのだという。

私が彼らの生活ぶりを眺めていると、一人のロマの女の子が泣いていた。
どうしたのかと聞いてみると、今日飼っていた豚を食べるために殺したのだという。
家畜を殺すのは男衆の仕事で、女は決して傍に居てはならない。
しかし、彼女はずっと育ててきた豚が気になって仕方がなくてテントの中を覗いた。
豚は、ずっと彼女を呼び続けていたそうだ。
動物は彼女達にとって本当に人間と変わらない家族らしい。

216ドギーマン:2007/02/22(木) 17:48:31 ID:15.0WHzI0
▲月○△日
ロマ村ビスル
私はあの女の子の家族に一晩泊めて貰う事が出来た。もちろんタダではなかったが。
昨日の晩は豚料理だった。
私は美味しく頂いたのだが、あの子はテントの奥に引っ込んだままついに出てこなかった。
家族はじきに慣れると言っていたが、少し心配である。

さて、その家族に色々と質問をさせてもらった。
なぜロマは定住しないのか。なぜビスルのロマだけは定住しているのか。
それはロマの伝承に関係があるらしい。
遥か昔、
谷に一人の女の子が生まれた。
その子は生まれつき人に非ざる者の声を聞き、
獣を従え、姿無き獣に形を与えた。
悪魔ですら彼女の前に屈服した。
当時谷にやってくる悪魔どもは多く。
女の子は谷を守るために多くの火の神獣を連れてきて谷を守らせた。
谷の人々は彼女を称えたが、
同時に人々は彼女を恐れた。
やがて女の子は大人になり、
旅に出るとだけ言い残して谷を出た。

その数百年後、ある一族が谷にやってきた。
その一族はロマと名乗り、村を出て行った女の子孫だという。
その一族はしばらく谷に居座って後、
一族の男達だけが谷に残って、女達はまた旅に出た。
女は旅を続けよ。あの女は死の間際に一族にそう言い残したそうだ。
谷の男の何人かは一族の女達について行き。
一族の男達は谷の女と子をなした。
一族の男の子供達は、女にだけあの力が備わっていた。
しかし谷に生まれた女達は谷に留まった。
旅する女達は今も世界を巡っている。

さて、何故ロマが移動を続けるかは分かった。
だがもう一つ気になることがある。
ロマの若々しさである。
ロマは年齢ほど見た目が変化しにくい。歳をなかなか取らないし、老けにくい。
ビスルの人々を見ても、老人はほとんど居ない。
ブリッジヘッドで防具を売っているロマに聞いたところ、
"ロマの秘伝"なるもののおかげらしい。
私はそれもその家族に尋ねたが、教えてはくれなかった。
一体、ロマの秘伝とは何なのだろうか。謎である。

217ドギーマン:2007/02/22(木) 18:02:29 ID:15.0WHzI0
あとがき
ロマ村ビスルも終わり。
ようやくアウグスタ半島のほうは全部終わりました。
ビスルはNPC少なくて情報も少ない・・・。
赤山のイフリィトとかは襲ってきますが、
あれは正気を失っているからだそうです。(メインクエ関連)
この話は、その前っていう設定です。

随分とこのスレも賑やかになりましたね。
嬉しいです。
随分とレスが進んでるので今からゆっくり読ませてもらいます。
>>212
戦闘描写に特化した作品ですか。いいですね。
次回作を期待してます。

218elery_dought:2007/02/23(金) 13:20:47 ID:Y4wtUzM60
「夕飯できたよー」
誰かが俺の体を揺すっている…。
ギル「うう…」
目を開けるとリビングに座っていた。
やっぱり寝てしまったらしい。
メンバーもみんな揃っている。
ミーネ「ベットで寝てって言ったのに、もう」
ギル「ごめん」
シン「寝顔可愛かったぜ?」
嘲笑するシン。みんなもつられて笑っている。
ギル「ぇっ、うるさい!」
顔が熱くなっていくのがわかる。
ネクロ「とにかくはやく食べようよ!」
シン「そうだな、カレーは好物だし!」
ネクロ「いただきまーす!」
みんな一斉に食べ始めた。
他愛もない会話が飛び交う。
シフ「ミーネさん、明日のGvは出られそうです。」
ミーネ「そう、明日はTOP250で人数多いから気合入れてね!」
シフ「はい」
シン「明日は手応えありそうだな!」
ネクロ「俺も出るー!」
シン「毒舌ぶちかましてやれ!」
初対面の時からシンとネクロは仲が良くて、ちょっとうらやましい。
シフ「ん、なんか虫飛んでますね。」
ギル「ほんとだ、まぁほっとけばいいよ」
シフ「……」
ギル「お…おい…」
シフの目は強く開き、素早い虫を追っている。
そして右手がダートのケースに伸びる。
ギル「何する気だ!」
やがてシフは目を細め、瞬く間に一本の細い針のようなモノをなげた。
「シュッ」
虫は貫かれ、針と共に壁に突き刺さった。
突然の行動にみんなシフを見た。
シン「何にやってんの!」
シフ「すみません、ああいうの気になってしまうので」
ミーネ「まぁ、怪我なくて良かったけど…」
ネクロ「ごちそうさま!」
WIZ「ごちそうさま」
ギル「あ、おれも…」
ミーネ「もう食べ終わったの。早いね」
ネクロ「シン、こっちでゲームやろうよ!」
シン「ちょっと待って今行くから!」
と、言ってシンは皿を持ち上げ、チャカチャカカレーを口に頬張って
シン「んんんんんん!」
と、リビングを出て行った。
ギル「なんて言ったんだ?」
ミーネ「ごちそうさまかしら…?」
WIZ「じゃあ私はもう寝ますね。」
シフ「ぁ、僕も」
ギル「俺も寝よっと」
ミーネ「はいはい、おやすみなさい」

俺は部屋に戻り、すぐベットに倒れこんだ。
ギル「明日は出掛けるんだっけか……」
そのまま眠りに就いた。

リクがあったので続きを書きました。
感想をくれた方ありがとうございました!

219名無しさん:2007/02/23(金) 15:15:46 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
ビスルは私もかつて興味本位で行こうとして、バリアート←MAPの蟲に集られてだめでした。
そして炎の神獣ことイフリートにも無謀に挑戦し…空を見上げる結果となりました(笑)
でも、この話を見ていると倒そうとする事自体が悪い事のように思えてしまいますね。
遠くまで取材お疲れ様です。

>>218
ギルメンの皆さんの特徴がとても良く分かります。
こうした和気藹々とした夕食風景はとても和みますね。
Gvがまた予定されているようですし、また続きを楽しみにしています。

220姫々:2007/02/24(土) 01:10:57 ID:5flRjIeE0
多少時間が出来たので導入部分だけ書いてみます。
それに一度に載せてしまうと結構な長さになってしまうような気がしたので。
最初に言っておくとリリィ視点です。そのうちルゥに視点は戻りますけど。
では前置きはこの辺で。
>>175-179 >>197-204 から続きます。


私達はテレポーターにブリッジヘッドへと送ってもらうため、
テレポーターを探していた。
「えっと・・・、オベリスクの近くと言われたのでこの辺りだと思うのですが・・・」
地図と辺りを交互に見回している。すると、紫色のローブを着込んだウィザードの姿を見つけた。
「あ、きっとあの方ですね」
そう後ろを付いてきている二人に言い、そのウィザードの所へと歩いていく。
「あの、すみません。テレポーターの方でしょうか?」
私はテレポーターのウィザードに私が話しかける。と、それに気づいたように、
フードで顔の上半分を隠したウィザードがこちらを向く。そして―
「はい、そうですが―ってリリィ!!?」
何故かテレポーターに私の名前を呼ばれた・・・。
「はい・・・・・・?何故私の名前を・・・?」
「やだなー。私よ私っ!」
と、そのウィザードがフードを外して言う。
「あら・・・、あなた、もしかしてスィラバンダさん・・・?」
「あったりーっ!久し振りねー。っていうか何であなたこっちに来てるのー?」
「それはこっちの台詞です。いつの間にかお城からいなくなったと思ったら
 何でこんな所に・・・?」
スィラバンダというのは私の先輩の宮廷魔道師なのだが・・・、ある日突然
お城からいなくなってしまったのだった。それが何故こんな所でテレポーターなど・・・。
「あはははは、女王様の宝石を魔力の増幅補助のためにちょいと借りたら転送魔術が
 暴発して借りてた宝石全部どっかに転送されちゃったんだよねー」
笑いながら言うが、笑って言う事じゃないだろう。
「で・・・、追放されたと?」
「まっさかー、まだばれてないよ。ただ宝石が何個か無くなってる事には気づかれちゃった
 から、ちょっと・・・ね?」
はぁ・・・、この先輩は転送系統の呪文は物凄く上手いんだけど、性格がこれだから困る・・・。
「っていうかさ、もしかして隣のその方って・・・」
私の隣にいるルゥ様を見て言う。
「ルゥ様ですよ。ルゥ様はおそらく初めてお会いになる方ですね。」
「うん。初めましてスィラバンダ。ルゥです、以後お見知りおきを。」
スカートの両端を軽く持ち上げ、小さく礼をする。
家臣にする挨拶でもない気はしたが、私としては久し振りに
ルゥ様が姫らしい事をしている事に少し感動してしまった。
「うわー、やっぱルゥ様ですかっ!ご無礼をお許しください。」
絶対無礼と思っていない口調で言うが、余りかしこまられると、
目立って仕方ないので今は別にいいとしておこう。
「ねねっ、ルゥ様って今何歳?」
私に耳打ちしてくるが、どう考えても回り全員に聞こえている。
「今10歳ですよ。」
まぁ隠すことではないので言ってもかまわないだろう。
「わぁー、じゃあリリィ、あなたは25歳?って事はもう3年もあってないんだー」
「まだ24です。「じゃあ」と言いつつ間違えないでくださいっ!」
あぁ・・・、何故かこの人を相手にすると私のペースを乱される・・・。
「リリィー、別に1歳くらいいいじゃないー」
「っ・・・そっ、そうよー?そんな細かいこと気にしてたらすぐ老けちゃうんだからー」
ルゥとあからさまに笑いをこらえているスィラバンダが言う。
そして私は姫にもそのうち1歳の重さを分かる時が来るんだから今は我慢我慢・・・。
と自分を押さえ込む。
「はぁ・・・、もう何でもかまいません・・・。スィラバンダさん。私達をブリッジヘッドへ
 と送って欲しいのですが」
私はもう反論することを諦め、スィラバンダさんに言う。
「いいわよー、本当は1万ゴールド貰うことになってるんだけど貴女達からはお金は
 取れないわ。ところでその子も知り合い?私知らないんだけど。」
後ろで今の会話を聞いていたセラを指差し言う。
「え、わたしですかー・・・?そうですねー・・・」
セラは遠慮して、「はい」と即答できないらしい。別に気にしなくていい事なのに・・・。
「そうですよ。だから私たち3人を送って欲しいのです。」
だから私がセラの代わりにそう言う。
「オッケー、じゃあ眼を閉じてー。3,2,1・・・で転送をはじめるから
 終わるまで目を開けないでねー」
そう言われ、私たちは目を閉じた。

221姫々:2007/02/24(土) 01:21:03 ID:5flRjIeE0
「じゃ、行くわよー、3―・・・、2―・・・、1―・・・・・・・・・・・・」
最後にパチンと指を鳴らしたかと思うと、世界が反転したような錯覚に陥る。
が、それは一瞬だけで、その感覚がなくなったとき、眼を開けると、
そこは灯台が立ち、船着場が存在する大きな港町だった。
「ってセラ!?どうしたの!!?」
ルゥが叫んでいる。どうしたのだろう、と眼を下に向けると、
セラが倒れていた。これは・・・、まぁどうなっているのか予想が付く。
「テレポート前に眼を開けてしまったのでしょうね・・・。あれは私も一度
 やってしまったことがありますがとても意識を保っていられません・・・」
テレポート中は世界がとんでもない勢いで回転しているように見えるのだ、
よって眼を開けていると、眼を回して倒れてしまう事が多々あるのであった。
「とは言っても・・・・・・。仕方ないですね・・・、この気付け薬を・・・」
そう言い、カバンから昨日の余りの気付け薬を取り出したとき、
「ひゃーっ!ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ!!!」
「わっ・・・びっくりしたー・・・。、元気じゃんセラー、心配させないでよー・・・。」
バッと勢いよく眼を覚まし、突然凄い勢いで謝ってくる。もはや「気付け薬」
という単語がトラウマになってしまっているらしい。
(この気付け薬・・・、そんなに酷い味がするのでしょうか・・・。
魔道書どうりに作っているし、分量を間違うはず無いのですが・・・。)
そう思い、少しだけ指につけて舐めてみる。
「うぐ・・・・・・・・・」
なんでだろう・・・、ほんの少しだけのはずなのに全身に電撃が走ったような感じがして、
舌がぴりぴりとする。確かに効きそうだが、私でもこれはトラウマになるかもしれない。
この辺りの改善も今後の研究事項に加えておこう・・・。
「さて・・・、とりあえずシーフギルドですが・・・。あの人に聞いて見ましょうか」
と、倉庫の前でテキパキと指示を出し、荷物の搬入を行っている中年の男性に
尋ねてみることにする。
「お?なんだ、シーフギルド?俺になんか用かよ?」
「俺?と言う事は・・・ここがシーフギルドなのでしょうか?」
「そうだよ。何だあ?お前らみたいなのがシーフギルドに用か。はっはっは、
 度胸のある女もいるもんだ。で、何のようだ?言ってみろよ。」
そう豪快に笑っていって来た。シーフというともっと違うものを想像してしまっていた。
「レッドストーンについて、情報を提供していただきたいのです。」
と、それを言った途端に男の表情と雰囲気が変わった。
「・・・本当に度胸のある女が来たな・・・。当たり前だがただで情報は教える事はできねえぞ?」
「はい、分かっています。しかしどうすればいいでしょう?」
「簡単だ、俺の担当の地域でレッドストーンの資料を探してもらう。そこで見つけた
 資料はここで解読してから教えてやる。まぁアルバイトと思ってくれ。」
「なるほど・・・分かりました。しかしどこに行けばいいのでしょうか?」
「そうだな。オート地下監獄と言う所に行ってもらおうか。古都の東側にある監獄の
 跡地だよ。まぁ色々魔物もいるがな、そいつらがたまーに資料持ってるんだわ。」
なるほど・・・、しかしそれは危険そうだ。いや、私ではなく姫が・・・、と言うことである。
「ルゥ様、そういうわけですが・・・」
「大丈夫だってー、リリィは心配性だなぁ」
それはもう星にとっても私自身にとっても大切な人なんだから心配はするだろう。
「セラ・・・あなたは・・・・・・大丈夫そうですね」
「はいー。多分大丈夫ですよー」
セラはすでに4体の召喚獣を召喚している。これだけいればある程度は自力で自分の身を
守ることは出来るだろう。
(あれ・・・?)
何となく引っかかることはあったものの、何に対して疑問に思ったのか、自分でもよく
分からなかったため、宿に戻ってから考えようと思い直す。
「っと、では行きましょうか。またテレポーターを利用する必要がありそうですね。」
と、行こうとするとその男に呼び止められる。

222姫々:2007/02/24(土) 01:24:38 ID:5flRjIeE0
「おっと、言い忘れてた。あんまり俺が資料を持ってくるように頼んだとか言わないほうがいいぞ。
 レッドストーン関係の資料は売れるところでは結構な高値で売れるんでな。
 特にNo.1〜9と名乗ってるシーフには言うな。・・・まぁ奴らは自力で嗅ぎ付けるかもしれないが・・・
 まぁなんにしても出切るだけバレないようにな。バレて暗殺されても責任は持てねぇぞ」
と、物騒なことを言っている。暗殺か・・・、そういえばここは暗殺者の温床って聞いたな・・・。
「分かりました、ケブティスさん。貴方の忠告はありがたく受け取っておきますね」
「ん・・・?俺の名前・・・あぁ、そうか。はっはっは、いい眼をしてやがる。
 あんたらなら必要なかったかもな」
そう言い、私たち3人は今度こそ歩き出した。
「ねぇねぇ、リリィ、なんであの人の名前分かったの?」
「簡単ですよ、襟に小さく書いてあったのを見つけただけです。」
「うわーっ・・・、よく見てるねー・・・。私全然気づかなかったのに・・・」
姫は感心しているがある意味見るようになったのはこの姫様のおかげである。
「ふふ、誰かさんのおかげで細かい所まで注意が行くようになってしまったのですよ」
つまりは・・・、まぁ悪戯好きな姫様の悪戯に引っかからないようにしていたら
注意深くなっていたと言うことなわけだが。
そんな事を話しながら私たちはブリッジヘッドのテレポーターの元へと向かった。
・・・
・・・
・・・



と、今はここまでです。読み返してみると台詞外でリリィがルゥを呼び捨てに
しちゃってるみたいになってる所がある気がしますけど、ナレーション的な
物と思って多めに見てください。あと誤字脱字は自力で適当につなげて頂けると
幸いです。

223名無しさん:2007/02/24(土) 02:22:28 ID:ndV96f8.0
>姫々さん
スィラバンダ、男性だと思ってました(苦笑) それにスィラ「パ」ンダだと…(●(エ)●)
あんな風にほがらかに対応してくれたら楽しいのに…ついでに値下げして欲しい。
メインクエのそのあたりは色々なところに行きますよね。このトリオがどんな旅をするのか楽しみです。
続きの方、無理なさらずゆっくりでOKですよ。お待ちしています^^

224ドギーマン:2007/02/24(土) 03:08:57 ID:15.0WHzI0
赤い空の日よりも昔、
大陸の東端、ハンヒ山脈の向こうにゴルンドという小国があった。
ゴルンドは当時エリプト帝国に対抗するために勢力を広げていたブルン王国に攻められ。
いまついに最終防衛戦線、スバイン要塞で最終決戦を迎えようとしていた。

深い谷の中に存在する難攻不落のスバイン要塞。
高い木造の柵の上にいくつも設けられた見張り台の上で弓兵が立っている。
弓兵の一人の女が背後を振り返った。
要塞の中の街が広がっている。民家や商店の建物が軒を連ねている
民家の中から人々が兵士に誘導されて中央兵舎の地下に避難のために誘導されていく。
彼女の家族はもう避難しただろうか。
「おい」
横に立っていた男の弓兵が女に呼びかけた。
「ごめん・・」
女は短く謝った。男もそれ以上何も言わなかった。
女は赤い瞳を遥かに見える小さな明かりの群れに向け、弓をぎゅっと握り締めた。

中央兵舎の二階、作戦会議室で将軍は報告を待っていた。
そこにけたたましい音を立てて斥候が駆け込んできた。
「どうだ?」司令は斥候に顔を向けて聞いた。
斥候は曇った表情で報告した。
「敵の数は四万から五万の大軍です」
「やはりか。で、応援のほうは?」
「ダメです。どうしても連絡が取れません」
「わかった、下がれ」
斥候は部屋を出て行った。
「クソッ、どういうことだ」
司令は机をダンッと叩いた。
「もしかしたら・・・」
指揮官の一人が口を開いた。
「馬鹿な、今回の作戦を持ちかけてきたのは彼らだぞ?」
「その作戦自体が罠だとしたら・・」
「・・・・・」
「将軍!」
「もうこの要塞より後はない。戦うより他に道はないんだ!」
誰も、何も言えなかった。

鎧に身を包んだ兵士達が並んでいる。剣に、槍に、メイス、思い思いの武器を持って立っていた。
彼らの前で指揮官が叫んでいた。
「お前達!思い浮かべろ!」
「家族を、友人を、愛する人を!」
指揮官は兵士達を1度見渡してから握り拳を振るってまた口を開いた。
「守るんだ!俺達の手で!ブルンの下衆どもに指一本触れさせるな!」
ウオーー!!と雄叫びがあがった。
要塞のあちこちからも雄叫びがあがり、要塞の空気を振るわせた。
準備は整った。あとは迎え撃つのみ。

ボォォーーー、ブボオォォーー・・・
遠くから角笛の音が響いた。金属音と、雄叫びの入り混じった音が聞こえる。
見張り台の上でアーチャーの一人が「構え!」と言った。
全員が弓を天に向かって構えた。
要塞の入り口は切り立った崖に挟まれており、いくら大軍で攻めようとも一度には通れない。
彼らと、この地形があるからこそこの要塞は難攻不落と言われていた。
「まだだ、まだ引き付けろ」
弓を構えたままリーダーのアーチャーは言った。
そして、まもなく射程に入ろうと言う所でブルン王家の紋章の旗印が急に異常な速さで接近してきた。
「なっ!?うてぇぇ!!」
その掛け声に弓の弦が次々と弾んだ。
天に打ち上げられた矢は大量の火矢の雨となって敵に降り注いだ。
盾を頭上に掲げて火矢を防ぎながら敵兵が迫ってくる。
それでも大量に降り注ぐ火矢に辺りは火の海となりブルン兵達を焼いていった。
だが、生き残ったブルン兵たちは火を振り切って風の如き足の速さで要塞の門の前まで迫ってきていた。
「門に近づけるな!」
門に迫るブルン兵をアーチャーはランドマーカーで次々と仕留めていった。
そしてアーチャーが次の指示を出そうとした次の瞬間、
ヒィィーーーン・・・ズドドドドォォ!!
巨大な炎の塊がアーチャーの居た見張り台を直撃した。
爆発が起きて炎を纏った木片が弾けて散った。
「隊長ぉ!」
隣の見張り台で女弓兵が叫んだ。
「メテオシャワー!!」
その声と共に女の視界は宙に投げ出され、炎に包まれた身体が地に落ちた。

次々と見張り台が隕石のような巨大な炎の塊に破壊されていった。
「スマグの老いぼれどめも・・・・裏切ったか!!」
将軍は門のほうで立ち上がる炎を見て叫んだ。
「将軍、いかがなさいますか?」
隣で腹心が聞いてきた。答えはとっくに出ている。
「戦うしかないと言っただろう。最後の一人まで!」
そう言って将軍は腰の剣を抜き放って、兵士達に見えるように歩み出ると者どもに向かって叫んだ。
「命を惜しむな!ゴルンドの魂を見せつけてやれ!」
将軍の言葉に、兵士達は要塞を揺るがす雄叫びで答えた。
門が爆発し、ブルン兵の甲冑がなだれ込んできた。
「ゆけえええ!!」
剣を抜き放って走る将軍の声は、雄叫びの中に混じって掻き消えた。

225ドギーマン:2007/02/24(土) 03:22:36 ID:15.0WHzI0
あとがき
前に書いてあった魔法を兵器に見立てるって話で、
何か書けないかなあと思いつきで書いてみました。
中途半端だけど、続きは無理かな。
イメージが沸かないんです。なにか、参考になるものがあればいいんだけどね・・・。

みなさんはワールドマップを注意深く見てみたことあります?
実はワールドマップの右上の端っこに、
GODOME(ゴドム共和国)やNACRIEMA(ナクリエマ王国)と同じような赤い大文字で、
GORUNDって書いてあるんですよ。
で、それをネタに書いてみたんですけど・・・・。
スバイン要塞の上にありますからね〜、何か関係あるのかな。

>姫々さん
視点なら大丈夫ですよ。
スィラバンダが面白くていいキャラですね。
3人の旅のこれからの展開に期待してます。

226elery_dought:2007/02/24(土) 11:14:27 ID:Y4wtUzM60
「へくしゅ!」
昨日は布団の上から寝てしまって、起きて早々寒気がする。
ギル「風引いちゃったかな…」
クラクラする頭を右手でおさえながら、1階に下りる。
ミーネ「おはよう!」
ギル「ああ、おはよう…」
ミーネ「今日は朝ごはん食べたら、すぐ出掛けちゃいましょ」
ギル「うん」
ミーネ「顔色悪いよ?大丈夫?」
ギル「全然大丈夫だよ!」
ミーネ「ホント?ちょっと熱測ってみて!」
と言って体温計を棚から取って、差し出す。
ミーネ「ずるしないでね!」
ギル「うう…」
脇に体温計を挟み、昨日と同じ椅子に座る。
しばらくすると、反対側の扉からネクロとシンがきた。
シン「ギル、ミーネおはよう!」
ミーネ「おはよう!」
ネクロ「昨日シン、ゲームでずるしやがったんだぜー!」
シン「何言ってんだ!俺の腕が良かったんだよ!」
ネクロ「裏技使ってたくせに!」
ミーネ「今ギル体調悪いから騒がないで!」
シン「え、そうなの!」
ネクロ「大丈夫?」
ギル「いや!大丈夫だって!」
直後体温計がピピッと鳴る。
シンとネクロが駆けつけてきた。
シン「いくつなんだよ!?」
ギル「えっと…38…」
ネクロ「ほらやっぱりぃー!」
ミーネ「だから言ったじゃない。今日はこれ飲んで、寝てなよ。」
目の前にコーンスープが出される。
ギル「うん…ありがとう。あち!」
シン「いいなー俺も飲みてー」
ミーネ「もうないわよ、シンたちはちゃんと食べなきゃ。」
シンとネクロには目玉焼きとパン、サラダが出された。
ネクロ「パン焼くやつは!?」
ミーネ「壊れちゃったからそのまま食べて;」
ネクロ「ェェー」
WIZ「ちょっと貸してください。」
シン「うわ!いたのかよ!おはよう;」
ネクロ「どうすんのさ…」
疑いの眼差しでパンを渡すネクロ。
WIZはパンを手にすると何やら呪文を唱え始めた。
WIZ「えい!」
一瞬ボッと炎が上がり、パンはこんがり焼けていた。
ネクロ「すげェー!」
シン「俺もやって!」
WIZはまた呪文を唱え始めた。
コーンスープもちょうど冷めてきたので一気に飲み干した。
ギル「じゃあ…部屋戻ってるね」
ミーネ「うん、気をつけてね」
クラクラする頭をおさえながら階段を上る。
部屋に入ると、布団に潜り込む。
ギル「はぁ…」
体がだるい、寝付けない。
 ミーネはスタイルも良くて顔も悪ないし、実は一緒に出掛けるのを楽しみにしていた。
(ちくしょう…)


「調子はどう?」
どこからかミーネの声が聞こえる。
ギル「んん…」
寝ていたらしい。目の前にはミーネがいた。
ミーネ「もうお昼だよ。これ食べて、体温も測って!」
ギル「ぁ、うん」
看病してもらってどこか恥ずかしいが、嬉しい…。
上半身を持ち上げる。
ミーネ「はい、あーん…」
オカユをスプーンぬすくって口に近づける。
ギル「自分で食べれるって!;」
顔が真っ赤になってる。
(これはこれでいいかも…)
また体温計がピピッと鳴る。
ミーネがすぐそれを取って
ミーネ「37かぁ…まだ出掛けられそうにないねぇ」
ギル「あ、ああ…ごめんな」
ミーネ「いいよ!いつでも時間あるし」
ギル「うん;」
口にオカユを運びつつ。
ミーネ「食べ終わったらすぐ寝なよ」
ギル「うん、わかった」
ミーネは部屋を出て行った。
俺はそのあとすぐ食べ終わってしまった。
ギル「Gv出れるかなぁ…」
クラクラする頭に誘われ枕に倒れこむ。

すみません、Gvは次回になってしましそうです。
戦闘描写にはあまり自信が無いのであしからずです^^;
感想ありがとうございました!

227携帯物書き屋:2007/02/24(土) 17:54:10 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>185-187 ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

最初に見たものは窓越しの闇。
次いで闇と対照的な白の壁が視界に飛込む。

俺は見たこともない部屋の中心に佇んでいた。
何故ここに居るのか考えるも、思い出せない。
「――――っ」
じくりと後頭部が痛んだ。
確か俺は放課後洋介の話を聞いて殺人現場へ行き、それから違和感を感じ、それを辿って――――

――――そ、そうか。俺は、あの後……

「よう矢島。目を覚ましたみたいだな」
「――――!」
気が付くと洋介が俺の脇に立っていた。そうだ、あの後俺はこいつに――――!
「洋介っ!」
怒りが沸騰し、後先考えず洋介に飛び掛る。
――――が。
「ぐっ!」
手足が全く動かず、気付けば俺は床に伏していた。
「馬鹿じゃないの? 何も考えずに飛び掛ってくるなんてさ。
まあ仕方ないか。人間というものは理性より感情の方が先に働いてしまうからね」
見上げると口元に薄ら笑いを浮かべながら洋介が見下ろしていた。
動こうとするも、俺は両手両足を椅子に座ったまま縛られた状態で動けなかった。
「忠告しておくけど、矢島、余り抵抗するなよ」
そう言いながら洋介は俺の後方へ指を差した。
振り向くと、そこには“異形の生物”がいた。
それはフードを被り鋭利な槍を持つ犬のような生物に、緑色の頭髪に長い耳を持った生物だった。
「なん、だこれは……」
思わず声が漏れた。俺の反応に洋介はさぞ満足そうに口元を歪めた。
「異界の魔物だよ。“一連の事件の犯人”と言った方が判りやすいかな?」
「なん、だと……?」
止まりそうになった息を大きく吸い、言葉と共に吐き出した。
「洋介、お前――――!」
「そうさ。俺は契約者だ。……まあ面倒な話をせずに済んだ。矢島、お前のを出せ。
そうすればお前を解放してやらないこともないぞ?」
その言葉に俺は硬直した。
眼前の生物が一連の事件の犯人だという事実。
洋介が俺と同じような異界の人と契約した人間だという事実。
そして洋介が俺とニーナの事を知っているという事実。
「なん、で、お前知って……?」
既に言葉はまともに出てこなかった。
「簡単だよ。俺には霊感がある」
「なら、初めから…」
「ああ。どうやってお前に近づくか苦しんだもんだよ」
あはは、と洋介はさぞ愉快そうに笑う。
俺はそんな様子をただ眺めるしかなかった。
笑い飽きたのか、洋介が再び俺に目を落とした。
「だから、さっさと呼べよ。その暁には解放してやるからさ」
「知らない。ニーナはもう俺と離れた」
洋介の笑い顔が硬まった。
「とぼけるなよ」
そう言った洋介の瞳には冷酷さが含まれていた。
だが、俺は“知らない”としか答えようがない。
「……まあいいや。人質として使えるから生かしておいてやるよ」
そう言うと、洋介は異形の生物を引き連れ俺を残したまま部屋の出口へ歩き出した。
扉の前で止まると振り返りもせずに俺に最後の言葉を投げた。
「矢島、明日だ。明日出さなかったら、殺す」
それは、俺にとって死刑宣告も同然だった。
それから洋介は扉の向こう側の闇に向かって呟いた。
「エミリー、見張っていろ」
そう言うと洋介は今度こそ闇に消えた。

しばらくすると、硬直している俺の前に1人の少女が現れた。
こいつが――――洋介の契約した人間。
だがその少女はその割りには迫力がなかった。
ラルフのような威圧感も、ニーナのような優美さも持ち合わせていない。
あるのは、可憐さ。
少女は椅子に座っている俺と余り身長が変わりなかった。目測から140前後だろう。
茶色のフードを被り、その奥に覗かせる幼い顔はまるで彫刻の様。
雪より白い頬と翠色の瞳。そして流れるような長い銀髪がそれぞれの美しさを引き立たせていた。
「あっ――――」
思わず声が漏れた。気を抜けば心を吸い取られそうだ。
しかし、幼い体つきから美しいというより可憐という言葉の方が似合っているだろう。
その妖精の様な少女は俺に少し近づくと、腰から笛を取り出した。
そして静かに瞳を閉じ、笛に唇を付けると、部屋中に静かな音色が鳴り響いた。
「――――っ」
ほどなくして急激に瞼が重くなった。
それがこの音色によるものだと気づくことにそう時間はかからなかった。
だが、両腕を動かせず、耳を塞ぐこともできなかった。
そして俺は静かに深い眠りに陥った。

228携帯物書き屋:2007/02/24(土) 17:55:14 ID:mC0h9s/I0
漆黒の闇夜の中、闇の黒を塗り潰す一陣の黄金の風が吹いた。
その風は地を蹴り、柱を蹴り、縦横無尽に吹き荒ぶ。

その風の正体は黄金の髪と深紅の瞳を持ち、優美な顔立ちの女性だった。

その女性の先には、逃げ惑う黒い影があった。
更に速度が上がり、疾風となり黄金の風は黒い影を追う。
その速さは、一般人の肉眼では捉えることさえ不可能だろう。

距離が縮む。
黒い影は異形の形をした奇妙な生き物だった。
片手に槍、もう片方には人間の生首を握っていた。
「キキィッ!」
槍を振り上げ威嚇する。一般人ならそれだけで硬直してしまうだろう。
しかしその女性は臆ともせず、異形の生物の遥か上空に舞い上がった。
女性は手を掲げる。
するとその手には小さめだが、精巧な造りの弓が握られた。
弓を構える。瞬間、煌めいたかと思えば、放たれた矢は異形の生物の胸を貫いていた。
断末魔の叫びさえ許されず、異形の生物は己の胸を不思議そうに眺めたまま息絶えた。

暫しの間のあと、女性が軽やかに着地する。
そして己が殺した生物の元へ歩み寄った。
「これは……インプ?」
女性はそれに手を当て探った。
「間違いない。……となるとこれが通り魔の正体か…。人間の血の臭いが染み込んでいる」
突然異形の生物の肉体が腐敗し始めた。やがて灰となり、風と共に消えた。
残った物はその生物が持っていた槍と、人間の頭部だけだった。
「残り滓に近いけどまだ匂いが残っている。――追ってみるか」

女性は再び黄金の風となり、連なる家々を飛び越していく。
風が止む。
その辿り着いた場所は洋館の豪邸だった。
彼女はそのまま踏み入ろうとしたが、急に足が止まった。
(――――この感じ……ショウタ?)
彼女は眼を閉じ、意識を集中させた。
(間違いない。でも何故ショウタがこの中に)
その女性――ニーナは前々からここの家主を怪しんでいた。
そう、初めて見たあの日から。
その人物の気配がここから感じ取れた。その意味が成す事実は容易く推測できた。
(ショウタが危ない)
しかし、安易に踏み込む訳にもいかなかった。
中には未知の敵。踏み込めば十中八九戦闘となるだろう。
そうとなれば翔太の命の保障はない。
逆に翔太を救出するにしても、そう簡単にはいくまい。
彼女に残された魔力は丁度戦闘1回分。
補給元である翔太と契約を切った今、彼女が生き残るには確実に1回で勝ちきり、
魔石の欠片を手に入れるしかなかった。つまり、戦闘を制し翔太をも救出する魔力は残っていない。
彼女は己の誇りと赤い石を選ぶか、翔太を選ぶかの選択に迫られていた。
だが、答えなど初めから判っていた。
(ごめんショウタ――――少し待ってて)
彼女は彼の命を選んだ。

彼女は身を翻し、闇に溶けていった。

229携帯物書き屋:2007/02/24(土) 17:55:56 ID:mC0h9s/I0
同時刻、等身大の針時計の音だけが響いている。
「むうぅ……」
“リサ、何度睨もうがその硝子の絵は変わらないぞ”
「判ってるわよ!!」
“私に当たるな。だがそれも事実だ。真摯に受け止めろ”

赤川梨沙は、この数時間パソコンの液晶画面を睨み続けていた。
その画面にはこの街の地図が映し出されている。
「よりにもよって同時刻に、しかも全く違う2箇所で殺人が起こるなんて……これじゃあ推理もやり直しだわ」
梨沙は大きく息を吐いた。
こんな姿を執事にでも見られたら3時間は説教されそうだ。
“心当たりなら、多少はあるが”
「へ?」
間の抜けた表情と声で梨沙が反応した。
“我等の世界ではビーストテイマーという魔物使いが居る。その者たちは己の魔物を使役し、闘う”
「それよっ! 何で黙ってたのよ、ヘル」
“君がそれを睨むことに熱心で大変そうだったからだ”
「う……。でも、敵の正体が判ったからには攻めるべし、よ。時間になったら行くわよ」
“構わんが、何処へ?”
「決まってるじゃない。……しまった。肝心の居場所が判らないんじゃまた手詰まりだわ」
“2体同時に使役し、それぞれ違う方面へ放ったことから自分から出てくるタイプではなかろう。
ビーストテイマーはそういう職業だ。言っておくが魔力感知は騎士の仕事ではないぞ”
それとも私が霊体となり一軒一軒探すか? など皮肉を付け足してヘルベルトが皮肉気味に笑う。
しかしその先の梨沙の表情は真面目そのものだった。
“む…リサ、まさか”
「そのまさかよ」
そう言って梨沙は場違いな満面の笑みを繰り出した。
“わ、私はやらんぞ。騎士の誇りにかけて”
「そんな誇り捨てなさい! あなた絶対服従でしょう!」
“待て。そこまで言った記憶はない”
「同じよ。いいから滑稽でも探しに行きなさい! って何出てきてるのよヘル」
気が付けばヘルベルトは霊の状態から肉体を持つ実体となって、梨沙に背を向けていた。
更に剣、盾、鎧と次々に装備されていく。
ヘルベルトは窓の奥を見つめていた。
「下がっていろ、リサ」
そう言い剣を構えた。
梨沙は驚きながらも下がりつつヘルベルトの視線の先を見た。

その先。窓の奥には1人の女性が宙に浮いていた。
「わざわざ討たれに来たか、アーチャー」
低く威圧感のある声をヘルベルトが放つ。
浮遊している者は、霊の状態のニーナであった。
しかし、ニーナは両手を上げ危害がないことを示した。
「何の真似だ」
ヘルベルトが睨み付け、聖剣に魔力を流し込んでいく。
そこでようやくニーナは口を開いた。
「戦闘の意志はない。貴方たちに交渉を申し込みに来たわ」

230携帯物書き屋:2007/02/24(土) 18:16:00 ID:mC0h9s/I0
こんばんは。えっと・・・妄想が爆発しました。むしろ大爆発。

>>190-191
なるほど・・・本格的ですねえ。
やはり「闘い」を知っているほど濃厚な描写ができるのでしょうか。

>>205-206
このままプリと悪魔は戦闘になっちゃうのでしょうか・・・。
続き待ってます。

>>姫々
見させてもらいました〜wルゥのお転婆(死語)がいいですねえ。
もう1人はいるのか・・・男キャラポツリと入ったらウハウハですね・・・w

>>209
これは・・・・・・w元ネタ知ってるとつい笑ってしまいますね。
こんなのあったら本当に「やばそう」ですね。

>>ドギーマンさん
戦争物ですか〜。実際リアルに戦ってみたらWIZめちゃ強そうですよね。
それにしてもドギーマンさんはよく隅々まで見ていますね。素晴らしいです。

>>elery_doughtさん
ミーネがいい子ですね。ギルとミーネの関係が幼馴染みたいな感じで微笑ましい。
次はGvですか。今度こそ全員出れるとよいですね。続き待ってます。

231ドギーマン:2007/02/24(土) 19:05:31 ID:15.0WHzI0
『Devil』

闇に包まれたエルムの素顔を見た者は居ない。
彼女はその外見のために常に周囲から奇異の目で見られていた。
しかし、それでも彼女は素顔を晒す事を拒み続けた。
何故なのか、その理由を知る者は居ない。
ある日彼女は久しぶりに食料の買い付けに古都を歩いていた。
石畳の上を全身を覆うぶかぶかの青いコートを着て歩く小さな姿。
その後ろをさらに小さな子供のような骸骨がついて歩いている。
頭には鉄製の重く丈夫な兜をかぶっており、その中は外からは窺い知れない。
兜の中には彼女の姿を隠す魔法が施されており、
この姿である限りいくら光を当てようと服や兜の中は真っ暗で彼女の素顔を見ることはできないのだ。
頭の上には、その魔法を維持するために青白い炎が灯っている。
周囲から見れば実に奇妙な姿である。
もう慣れているつもりでも、気にしないようにしていても、やはり彼女には辛かった。
彼女の歩く先には誰も居ないし、誰もが彼女と眼を合わせようとしない。
街の誰もが彼女を避けていた。
人々の会話が急に途切れ、そしてひそひそと聞こえる話し声、その視線が彼女に向かって降り注ぐ。
小さな子供達が目を丸くしている。親が慌てて抱き上げた。
気になってちらっと目を向けただけでも子供がびくっとしてお化けを見たような表情を向ける。
街を歩くのは彼女にとってとても辛く、疲れることだった。
それでも食料のために連れのアンデッドに荷物を持たせ、露店を巡っていた。
やがて周囲のことも気にならなくなってきてキョロキョロと余所見をしながら歩き始めた。
鉄仮面のせいで視界が狭く、首を思い切り左右に振らなければいけない。
そうしていると、突然何かにドンとぶつかった。
尻餅をついて見上げると、黒いマントを羽織った男が彼女を見下ろしていた。
「おい、どこ見て歩いてんだ」
人と殆ど話したことのないエルムは固まってしまった。
怖くてどうしたらいいか分からず。ただ怖い顔で見下ろしている男を見上げていることしか出来なかった。
黒い鍔の先が尖った帽子、黒いツバメの尾のようなマント。
武道着に身を包んで、腰には鉄製の手に装着する鉤爪が下がっている。風貌から言って武道家だろう。
「なんとか言えよ。それとも謝り方も知らねえのか。ああ?」
武道家は黒ズボンのポケットに手を突っ込んだままエルムに言った。
ただちょっとぶつかっただけなのに何故こんなにも怒るのだろうか。
「ギャアア!!」
エルムの骸骨が叫んで彼女の前に出た。名前はフェロー。
コボルトの洞窟で出会ってからずっと彼女について来た、彼女の唯一の友達だ。
「うるせぇ!」
武道家のサッカーボールキックが小さなフェローを吹っ飛ばした。
フェローは彼女の身体にバラバラになってぶつかり、その後ろの古都の石畳に骨片をばら撒きながら頭蓋骨が跳ねていった。
彼女は自分のお腹の上に散らばるフェローの身体の一部を何も言えずに眺めていた。
「おい、こっち向け」
「ひっ・・・」
エルムは睨みつける武道家を再び見上げた。
表情は定かではないが、泣いているのかもしれない。
「おら、なんか喋れよ。それとも口が無いのか?」
武道家は靴のつま先で彼女の仮面をトントンと蹴った。
周囲の人間達は彼女に目を向けてはいたが、決して武道家を止めようとはしなかった。
関わるのを避けるように遠巻きから様子を眺めているだけであった。
エルムの後方では骨片がゆっくりと動き、フェローの頭蓋骨が「キ・・・キ」と鳴きながらカクカクと動いていた。
今の彼女にはそんなことには全く気が回らない、ただ今すぐにでも消えてしまいたかった。
「もしも〜し、き・こ・え・て・ま・す・かぁ?」
武道家はしゃがみ込んで何も喋れないエルムの鉄仮面をコンコンコンと小突いた。
武道家の顔は赤くなっており、昼間なのに酒臭い息の臭いが漂った。
そして、彼女の仮面の鉄格子の中の闇を覗きこんでにやりと笑った。
「おい、これ取れよ」
「え?」
「お、聞こえてるんだなちゃんと」
エルムの反応を武道家は面白そうに笑った。
武道家は彼女の鉄仮面をがしっと両手で掴むと、無理矢理持ち上げようとした。
彼女は手袋で覆われた手で頭を押さえて必死に抵抗した。
自身の忌むべき素顔を絶対に人には見せたくなかった。
もし素顔を人前にさらせば、きっと彼女はその羞恥と恐怖に耐えられない。
しかし武道家の力は強く、彼女の兜はゆっくりと持ち上がっていった。
嫌だ、やめて・・・・。
闇の中で恐怖から眼に涙が滲み出てくる。
「暴れんな!」
彼女の涙で歪んだ視線の先で、格子状に切りとられた武道家の顔が残酷に笑っていた。

232ドギーマン:2007/02/24(土) 19:08:08 ID:15.0WHzI0
「やめろ」
誰かがそう言った。
「ああ?」
武道家に頭を押さえられて動かせない彼女の視界のなかで、武道家は横を向いた。
「やめろって言ってるんだ。お前こそ耳がついてるのか?」
誰?
その声は闇の中に埋もれた彼女の心に深く入っていった。
武道家はエルムから手を離して立ち上がると、拳を振るった。
武道家の手から自由になった彼女は仮面を深くかぶり直して慌ててあの声の主に目をやった。
上半身を露出した半裸の男が路上に倒れこんでうずくまっていた。
「おい、偉そうなこと言っておいてなんだよ。クソ弱えじゃねえか」
武道家は男の腹をドスドスと蹴りながら言った。
「や・・・やめて」
彼女は心を震わせて言った。
その言葉は不思議な響きを持って武道家の鼓膜を振動させた。
「う・・おぉ?」
武道家の身体から力が抜けていき、武道家はよろけて膝をついた。
彼女が嫌われる理由はその外見だけではない。
彼女の発する言葉は独特な響きを持って周囲の者から力を奪うのである。
「この・・」
うずくまっていた男は、倒れたまま膝をつく武道家の顔を蹴飛ばした。
「う・・くそ」
顔を抑えて立ち上がろうとする武道家。しかし力が思うように入らない。
その間に男は背負っていた大きな剣を腰に下ろし、柄を握って武道家を見下ろしていた。
「まだやるか?」
「・・・・・・」
武道家は黙ってよろよろと立ち上がって男を睨むと、酔っ払いの千鳥足で歩き去っていった。
彼女は尻もちをついたまま一部始終を眺めていた。
男はエルムの前に歩いてくると、手を差し出した。
「大丈夫か?」
エルムは武道家に殴られて早くも頬が腫れてきていた男の顔をただ見上げていた。
剣で戦う者の多くが好むショルダーパッドを肩につけ、肩から大剣の柄が覗いている。
口の中を少し切ったのか、唇の端から血が滲んできていた。
青い髪に青い眼の戦士だった。
「ほら」
戦士は座り込んだまま動かない彼女の手を掴むと、引っ張って立ち上がらせた。
「あ・・」
そこで彼女はようやく大事なことを思い出した。
「フェロー!」
彼女は地面に落ちた骨片を拾うと、振り向いて路上に散らばった骨片も拾い集め始めた。
たとえバラバラになっても、骨とフェローの魂さえ揃えば元通りに出来る。
「キィ・・」
エルムの大きな手袋の中で小さな頭蓋骨が鳴いた。ちゃんと魂は留まっていてくれたらしい。
急いで骨を拾い集める彼女のそばで、戦士も拾っていた。
「ほら、これで全部か?」
見回して辺りにもう落ちていないのを確認すると戦士は彼女の手袋に集めた骨を手渡した。
彼女はそれらを丁寧に確認しつつ袋に入れると、戦士に言った。
「あの・・、ありがと・・う」
彼女の精一杯の言葉だった。
「いいよ」
戦士がそう言ってエルムに落ちていた彼女の荷物を手渡すと、遠くから女の声がした。
「マイス!あんたなにやってんの!」
「悪い、俺もう行かなきゃいけないから。じゃあな」
そうエルムに言い残してマイスは女の方へ走って行った。
女に謝りながら歩き去っていく彼の背中を眺めながら、彼女は立ち尽くした。
そして、気が付いたように渡された自分の荷物を抱きしめてゆっくりと帰途についた。

233ドギーマン:2007/02/24(土) 19:08:53 ID:15.0WHzI0
古都の地下に広がる地下水路。
そこにエルムの生活があった。
闇に隠れた扉を開け、蝋燭に頼りなげな明かりを灯して彼女だけの隠し部屋に入る。
街の部屋など借りられないのだ。この暗い部屋だけが、彼女の唯一落ち着ける安息の場所。
彼女は鉄仮面を外して、ふうっと息をつくと、袋の中のフェローを机の上に並べた。
「フェロー、狭かったでしょ?ごめんね」
そう言うと手袋を外し、コートを脱いで椅子に座ると、細い指先でフェローを組み立て始めた。
折れた骨を魔力を込めて丁寧に引っ付けて一つ一つ接合していく地道な作業。
「ごめんね、ごめんね。私なんかのために」
ひたすら震える声で謝り続けながら彼女は骨をつなげていった。
「ギィィ」
彼女を慰めるようにフェローは鳴いた。
「うん、ありがとう」
彼女達にしか分からないやり取り。
揺れる明かりの中でエルムはようやくフェローを元通りに組み上げた。
フェローは身体の調子を確かめるように飛び跳ねた。
「どう?どこかおかしいところはない?」
「キィ!」
「そう、よかった」
そう言って彼女はフェローを人形を抱くように抱き上げた。
そして、マイスのことを思い出した。
あの人と・・・・ううん、無理よね。私なんかじゃ。
エルムはフェローをぎゅっと抱き締めた。
「ガギャギャ!」
「あ、ごめん・・」
エルムは慌ててフェローを降ろした。強く抱き締め過ぎたようだ。
それからエルムは思い出したように食事の仕度を始めた。
しかし、何をしていてもすぐに彼のことが頭をよぎっていた。

あれから二日が過ぎた。
エルムのマイスに対する思いは募っていくばかりだった。
気分転換にフェローと一緒に街の外に出かけていても、彼のことで頭がいっぱいだった。
エルムは薄暗い部屋に帰るとフェローに言った。
「フェロー、私・・・・あの人にまた会いたい」
「キィキィ」
「無理よ・・私なんかじゃ、きっと相手になんてされないよ」
「ギィ・・」
でも、会いたい・・・・・。
生まれ変われたらいいのに・・。
そんなエルムの脳裏に、ある物がよぎった。
そうだ、もしかしたら。
彼女は小さな部屋を占拠する綺麗に整理された本棚を次々に見ていった。
そのどれもが死霊術や交霊、降神に関する書物で、中にはウィザードの魔法に関するものもあった。
ない、ない。どこにもない・・・。
そこで彼女はいつも本の整理をフェローに手伝わせていたことを思い出した。
「フェロー、悪魔書を出して」
「ギァゲェ!?」
「お願い」
「・・・・」
「フェロー、お願いよ」
フェローはしばらくの間彼女に空洞の目を向けると、のろのろと動き出して隠していた一冊の本を持ってきた。
エルムはその本を手に取ると、しばらく躊躇するかのように本の表紙を眺めていた。
使うことは無いだろうとは思っていたが、一応持っていた本。怖くていままで一度も開くことの無かった表紙。
真っ黒な表紙には金に光る文字で悪魔書と書かれている。
しばらく立ち尽くしたあと、彼女は迷いを振り切るように机の上に本を広げ、読み始めた。
ぶつぶつと呟きながら、何かにとり憑かれたかのように読み続けた。
フェローはそんな彼女をただただ黙って見上げていた。

234ドギーマン:2007/02/24(土) 19:10:23 ID:15.0WHzI0
やがて数時間が過ぎた。食事も、寝ることも忘れて読み続けた本を閉じると、彼女はそこで再び迷った。
エルムは悪魔になれば今の自分を捨てて、生まれ変われると思った。
ここで言う悪魔というのは便宜上そう呼ばれる者であり、決して地下界の住人を指すものではない。
悪魔書によれば"それ"は彼女の中に潜む悪魔の本性を曝け出す。
"それ"は自身の欲望を体現すると書かれているが、詳細は分からない。
精神も全て別の人間になること、それは死に限りなく近いことなのかもしれない。
先人の記録にも、「全くの別人になってしまったようだ」という記述しかない。
それ以外の適切な表現がなかったのだろう。
その悪魔が自分なのか、そうでないのか、それはやってみなければ分からない。
エルムはしばらく黙り込んでいた。
フェローは彼女が思いとどまるのをただただ期待するばかりだった。
俯いていた彼女は顔をあげて、覚悟を決めてしまった。
「フェロー、ベッドの下に隠れてて」
「ギギャギャ!!」
エルムの言葉にフェローは大声で鳴いて抗議した。
彼女は素顔をフェローに向けて言った。誰にも見せられない、フェローだけが知っている彼女の素顔。
「お願い・・・・、今のままじゃ、私・・」
「・・・・キィ」
フェローは小さく鳴くと、小さな身体をベッドの下に潜り込ませた。
「ありがとう、きっと大丈夫。終わったらフェローって呼ぶからね」
エルムは両手を胸の前に構えて目をつぶると意識を集中した。
フェローは彼女の様子をベッドの下から心配そうにじっと見上げていた。
やがてエルムはボソりと何か呟いて両手を冷たい地下の天井に向かって掲げた。
すると、フェローの視線の先で次第に彼女の身体は真っ黒な闇に飲み込まれていった。
足元から少しずつ彼女の身体を闇が登っていく。
「ギャァァ!!」
フェローは彼女に向かって叫んだ。
エルムはそこで何か冷たい感覚に襲われてようやく自分の身体に眼をやった。
身体が黒く染まっていく。それはエルムの手を、足を、次第に包み隠していった。
心を、魂すらも覆うような。光を一切反射せず、全てを飲み込む真っ黒な闇。
「い・・いや・・・」
身体が動かせない。エルムは首を曲げてフェローに助けを求めるかのように目に涙を貯めてベッドの下の彼を見た。
次の瞬間、彼女の恐怖の表情を闇は覆い、飲み込んでいった。
彼女の形をした闇は一度形を崩すと、ビクンと一度震え、音もなく高く、上のほうへ伸びた。
そして人の姿を形作ると、闇はそれの身体のうちに吸い込まれていった。
真っ赤な長髪に赤い眼、真紅の唇。頭の上で髪が二本の角のように立っていた。
スラリとした身体を挑発的な黒いボンデージに包み、首には黒光りする逆十字架のロザリオが下がっている。
女は妖しい笑みを浮かべて立っていた。
そして身体の調子を確かめるように手を握っては開き、首を動かし、背筋を伸ばしたりしていた。
フェローは黙って変わり果てた彼女を見上げていた。
もし彼に眼があったなら、このとき彼は涙を流せたかもしれない。
女はすでにやる事が決まっているかのように真っ直ぐに部屋を出ようとした。
「キイィ!!」
フェローはベッドの下から飛び出して、出て行こうとする女に叫んだ。
「ん?」
女はフェローをじろっと見下ろした。赤い瞳はフェローを冷たく睨んでいた。
「キィキィキィ」
「・・・・・・」
「ギャギャ!」
「・・・・・・」
女は不機嫌そうな表情をフェローに向けると、
「うるさい」
そう言って腕を振るった。握り込んだ手の中から炎が鞭のようにしなった。
炎の鞭でフェローの首を刎ね飛ばすと、女は部屋を後にした。
ガシャリとフェローの骨の身体が崩れ落ちた。
「キ・・・」
首だけのフェローは床に転がったまま動かなくなった。

235ドギーマン:2007/02/24(土) 19:20:48 ID:15.0WHzI0
あとがき
続きます。
この前書いたジャシュマと違って、今回のネクロは女の子です。

>携帯物書き屋さん
最後の一人はビーストテイマーでしたか。
てっきりウルフマンかと思ってましたw
ニーナの決意にヘルベルトはどう応えるのでしょうか。
続き待ってます。

>elery_doughtさん
団欒がほほえましくていいです。
Gv、どうなるんでしょうか。また二人きりだったりして・・・。

236名無しさん:2007/02/25(日) 00:33:18 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
小さく書いてあるのは気が付いていましたが、まさかそれをちゃんと出して小説化してくれるとは…凄いです。
戦争風景を思い浮かべてつい読み入ってしまいました。
スバイン要塞は最近狩りに行ってきたので思い入れもありました。今は完全に廃墟になってしまっていますよね。
ワールドマップを見ていると山や島など今後何か新しいMAPが追加されそうで楽しみですが、どうなんだろう…。
もう一個の方も読ませてもらいました、ってか書くのが早い!
武道が登場してて嬉しいです、悪役でも(・∀・)イイ!!
女の子版ネクロのお話、楽しみにしてます。マイスとの絡み?も楽しみです。

>elery_doughtさん
いいなぁ…家族っていいなぁ…(謎)
たくさんの登場人物がいながらちゃんと個性が出ていて読んでいて楽しいです。
主人公を決められないくらいそれぞれが生きてますね。Gv編楽しみにしています。

>携帯物書き屋さん
ニーナ登場ですね!ショウタ君を助けに来るのか、それとも…
ヘルとニーナが協力すれば天下無敵みたいな感じですがそう簡単にはいかなそうですね。
テイマはこちらに来ても強い…これは激戦が予想されますね。楽しみです。

237姫々:2007/02/25(日) 03:11:38 ID:5flRjIeE0
時間が出来たおかげでついつい書いてしまいました。
本当はザックリとシーフギルド編終了まで書いたのですけど、
結構な長さになってしまったので2回に分けようと思います。
>>220-222 から続きます。

と、今度はテレポーターに代金を払い、古都へと向かった。
今度はだれも倒れることなく古都に到着、東側から外に出てオート監獄へと向かう。
「う・・・」
と、リリィが足を止める。
「リリィ、どうしたのー?」
私が聞いてみる。すると、「いえ・・・」と呟き言う。
「少し蜘蛛は苦手なだけです・・・、行きましょう・・・。」
確かによく見ると周囲には巨大な蜘蛛が、まばらながらたくさんいる。
「へー、リリィって蜘蛛苦手なんだー」
私がからかう気で言ってみると
「えぇ、昔からどうもあの形状は好きになれません・・・」
と言う返事が返ってきた。これは・・・、もう少し小さいのを捕まえてカバンにでも入れてみたら
どうなるだろう・・・、面白い反応を見れるかもしれない・・・。などと考えてしまうわけだった。
「ルゥ様・・・、本当にやめてくださいね」
と、まさに心を読んだように私に言ってくる。
「あれ?私何かするって言った?」
そう言ってみると
「ルゥ様はすぐお顔に出るんですよ・・・」
とリリィに呆れ顔で言われた。うーん・・・何か面白くない・・・。
そう考えつつ、丘の上にあったオート監獄の中へと入る。
その中は、もはや空気がよどんでいると言ってもいい。あの廃墟となった研究所も酷かったが
ここはもうあれの比じゃない。
「わー、ここ来ましたよー。古都に行く途中にー、ここなら案内できるかもしれないですー」
と、セラが言い出す。私は「突っ込まない突っ込まない突っ込まない・・・」と、自分の心の中で
3回呪文のように同じ言葉を呟き、言葉を飲み込む。
「では案内をお願いします。」
リリィがそう対応する。流石、リリィはもうセラの言葉に動じることは無いようだ。
私は「何で古都に来る途中にこんな所に・・・」と言葉に出しかけてしまったが。
「えーっとですねー。まず魔物の情報ですがサソリは毒はもってませんし、兵士さんも
 もう体はとっくの昔に死んじゃってるようなので気を使う必要はないと思いますー。」
そう私たちに教えてくれる。ロマって魔物の情報にも詳しいんだろうなー。なんたって
会話することができちゃうんだよねー・・・。などと考えていると、すぐ横に何かの気配を感じた。
《フッ・・・フー》
と、なぞの生物が出現して突然鳴きだした。というか見た目がなかなかかわいい。
「わぁー、何この子ーっ!かわいーっ!!」
そう抱き上げようと手を伸ばすと、バッと後ろに飛んで避けようとする。
そしてチョコチョコと走り出した。私はそれを追いかける。
「あーっ、逃げないでよーっ!!」
そう追いかけていると、それに気づいたセラが言う。
「ルゥちゃん、それ、ダメーっ!」
「え・・・?」
と、その声が聞こえた時にはもう遅い、そいつは口に火を溜め、今にも私に向かってはき出そう
としている。
《フッー!》
「ひゃぁっ!!」
私は驚いて後ろに倒れたおかげで、何とか炎を避けることが出来た。
「行って!皆っ!」
セラが召喚獣を私のところに向かわせてくれるが、あの速さじゃ間に合わない。
リリィは手をこまねいている、理由は私がいるからだろう。リリィの魔法は強すぎて
私まで巻き込まれてしまうのだった。防御のスキルは、私が離れすぎて掛けれないのだろう。
「えいっ!!」
私は手に持っていたスリングに昨日買ったボトルをセットして、思いっきり振りぬく。
「パリィン」と気持ちがいい音がして、ボトルが割れて中身の液体が
そいつに掛かる。と、ボゥと勢いよく燃え出した。投げてみれば分かるといわれた
瓶は火炎瓶だったのだったのだろう。
「って炎を食べてるっ!!?」
食べてると言うか吸い取ってると言う感じだろうか。ただ炎は意味が無いどころか
その魔物を元気にしてしまったらしい。

238姫々:2007/02/25(日) 03:17:35 ID:5flRjIeE0
と、その次の瞬間、また炎を吐こうと私のほうを向く。今度こそダメだ、ボトルなんか
投げずに逃げればよかった・・・。そう思ったとき、後ろから何かが飛んできて、
私の脇を抜け、その火を吹く小悪魔に突き刺さる。そして逃げようとしたとき
「動くなっ!!!!!!!」
「ひっ・・・!」
大きな声で叫ばれ、私は体が萎縮してしまった。その直後、再び何かがその魔物に何かが
突き刺さる。
《フー・・・フーっ・・・》
そう鳴きつつ、その魔物は背中を向けて逃げようとするが今度は私の目の前を
黒い何かがとんでもない速さですり抜けたかと思うと、その火を吹く魔物を
思いっきり蹴り飛ばしていた。
「わぁ・・・・・・・・・」
私が言葉を失っていると、リリィとセラが駆け寄ってくる。
「ルゥ様っ!お怪我はありませんかっ!?」
「ごめんねー、もっと早くあれの事も言わないとダメだった・・・」
「大丈夫、怪我は無いよ。それに今のセラのせいじゃないよ・・・」
っと、そうだ。お礼言わないと・・・。
「ありがとうございます、助かりましたっ!」
「あぁ、よかったな」
と、その人は笑ってそう言った。顔の下半分がスカーフで隠れてしまっていて、顔は
よく分からないが歳はセラより少し年上位じゃないだろうか・・・?
セラが14,5だとすると16,7と言った感じだろう。
「つーかなんで女3人でこんな所来てんだよ。あぶねえだろ?」
「むー、ブリッジヘッドでここにレッドストーンの情報あるって聞いたから
 探しに着たんだよーっ!」
「ルゥ様っ!!」
「ぁ・・・。」
言ってから「しまった・・・」と思う。さっきリリィとあの人が話してたことをつい忘れていた。
「ブリッジヘッドって・・・、ケブティスさんだなぁ?まったく・・・、あの人も物好きな・・・」
とその人はため息をついて言う。
「はぁ・・・、No.一桁の奴にそれ言ったらお前ら死んでたぞ・・・」
と。そういえばシーフギルドでも同じようなことを聞いたような・・・。
「まさか・・・・、貴方もシーフなのでしょうか?」
「ん?あぁ、まいったな・・・。聞かれちまったか。そうだよ、俺もシーフだ。シーフギルドのな。
 まぁ俺のことを呼ぶならNo.23とでも呼んでくれ。貴方とか呼ばれるのは慣れてないんだ。
 ちなみに俺らが本名を名乗るのは、ケブティスさんとか一部以外禁則事項だからその辺はよろしく。」
それを聞いて私たちは身構える。その様子を見ていたそのシーフがさらに言う。
「あぁ・・・、何聞いたかはしらないが人殺しをするのは№1〜9の連中だけだよ、他のやつらは
 一介のトレジャーハンターだ。」
お喋りなシーフだなー・・・。そんなに内情喋りまくっていいものなんだろうか・・・。
などと、№23と名乗ったこのシーフさんの心配をしてしまう。
「そうなのですか・・・?」
と、さっきのシーフさんの発言にリリィが尋ね返す。
「あぁ、心配なら後でケブティスさんにでも聞けばいい。」
「いえ、信じましょう。貴方・・・いえNo.23さんは嘘は言っていないのでしょう?」
「ほー。信じてくれるのはありがたいが、俺があんた達を騙してるのかもしれないぜ?」
「ふふ。これでも人を見る眼は養っているつもりですが?」
そういって二人、不敵な笑みで見つめ合っている。・・・というか睨み合っている?
「ははは、分かった。あんたは騙せねぇよ。俺の負けってことにしておいてくれ」
そう先にNo.23が折れ、そう言う。けどNo.23って長いし呼びにくい・・・。
うーん・・・、そうだっ!23なんだからー・・・
「でもありがとっ!にーさんっ!!」
「・・・は・・・?」
「え?23だからにーさん。ダメかな?」
「い・・・や・・・・・・・別に何でもいい・・・。」
そう言い、背中を背けてしまう。と、それを見ていたセラが、笑いながら私に言ってくる。
「ルゥちゃん、あのねー、ああいう人には「おにーちゃんっ」って言ってあげると喜ぶんだよー」
「え?そうなの?」
私はシーフさんの背中を引っ張ってみる。と、バッと振り返って言う。
「ダメだっ!!それは禁止っ!!」
「えー、何でー?」
「何でって・・・何でもだっ!!」
と、そんな事をしていると、リリィがコホンと咳払いをしていう。
「あんまりまんざらでもない顔をするのはやめてください。あとルゥ様も命の恩人を
 からかわない様に。セラもあまり妙な事を吹き込まないでください・・・。」
「はーい・・・」
「すみませんー」
と二人、リリィに返事をする。
「ぐ・・・、俺は悪くねぇぞ・・・」
と、そのシーフさんは独り言を言ってた。私は確信する、この人は面白い人だ・・・と。
「でだ、資料を探してたんだよな?」
と、突然真面目な顔に戻って言う。

239姫々:2007/02/25(日) 03:24:37 ID:5flRjIeE0
「はい、そうですが・・・。」
「ならこれでも持ってかえれ。俺にはさっぱり読めんからいらん。」
と、巻物とボロボロの文章ファイルを渡される。
「え・・・?いいんですか?」
「あぁ、別に――」
とそう言い、つかつかとリリィの隣の通路の前に立ち、
「かまわねぇよっ!!」
と言い正拳を繰り出し、音もなく接近してきていた巨大なサソリの甲羅を一撃の下、破壊する。
「そんなもん、こいつらがいくらでも持ってやがる」
と、サソリの体内に手を突っ込んで、引き抜いたかと思うと、その手には
巻物が握られていた。
「そういうわけだ。それだけあればまぁいいだろう?」
「・・・はい、ありがとうございます。しかし何でここまでしてくれるのですか・・・?」
リリィがシーフさんに尋ねている。
「・・・・・・・・・・・・・・・からだよ・・・・」
何か小声で言った気がするが、ほとんど聞き取ることが出来なかった。
「はい?」
「いや、別に。ただ危なっかしくて見てられなかっただけだ。だからとっとと帰れ。」
ぶっきらぼうにそう言い、背中を向けてしまう。だから私は最後にこういっておいた。
「うん、ありがとっ!おにーちゃんっ」
「うぎゃぁあああああああああああああ!!」
「あははははっ」
「はいはい、行きますよっ、ルゥ様っ!!No.23さん、ありがとうございました。」
私が笑っていると、リリィがそう言い、帰還の巻物を広げすらすらと中身を読んだかと思うと、
次の瞬間私たちは古都の中に立っていた。

・・・・・
・・・・・
・・・・・

「ったく・・・俺も焼きが回ったもんだな・・・」
三人が去った跡をぼんやり眺めていると、足音もなく、誰かが近づいてくる。
しかし気配探知は心得ているので半径5mに入る頃にはどれだけ相手が気配を
消そうとしてようが、そいつが生きてさえいれば接近は分かる。
「何しに来たんだ?」
「叫び声が聞こえたが、何かあったのか?」
そうは言うが心配して来たわけではない。俺が死んでいた場合、俺が手に入れていた
資料を回収するためにここに来たのだ。
「いや、こっちは特に問題ない。そっちは何か見つかったのか?」
「うむ、まぁ色々とな。そちらは何が見つかった?」
「速達電報の巻物が1本。ハズレだよ」
「なんだ、それだけか。まさかサボっていたのではないだろうな?」
本当は上げちまったんだが・・・、口が裂けてもそんなことは言えない。
・・・いや、逆だな、言ったらこの人に口を裂かれる。そして口以外にも色々と。
「まさか。真面目に探してたさ」
「それならそれでいい。まぁここでの探索はここまでだ、次に行こう。」
「あぁ・・・そうだな。」
「後始末をしてくる。先に出ていろ」
そう言うと、その人は俺に背を向けもと来た通路を歩いていく。
・・・が、立ち止まり背を向けたまま、俺にこう言って来た。
「・・・あと、ボーっとしていたがまさか過去でも思い出していたのか?」
「・・・そんな物忘れたよ、№6・・・。とっとと後始末を終わらせて来てくれ。」
「うむ。」
そう言い残しNo.6は今度こそ通路を歩いていった。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「ほー、早かったな。なかなか見所があるじゃないか。でもまぁこれはハズレだな。」
ハッハッハと笑いながら言う。
「ハズレ・・・とは?」
「オート地下監獄の敵からは碌なもんはみつからねえんだわ。今も部下が後付で探してるが・・・
 まぁ期待は出来ないな」
「ならどうして私たちをそんなところに・・・?」
リリィが明らかに不機嫌そうな口調で言う。
「ああ、悪い悪い。テストだテスト。俺のところに来るやつは結構いるんだが、
 資料が見つかる所だけ聞いて逃げちまう奴も結構いてね。だから最初はあんまり
 期待できない所を言っておいて、ちゃんと帰ってくるかテストしてるんだよ。」
「はぁ・・・、なるほど・・・。」
「まぁあんたらは見込みあるよ。じゃ、次は地下監獄のさらに東、路上盗賊団のアジト
 へ行ってもらおうか。おっと、盗賊団って言ってもシーフギルドとは何の関係も無い
 からな、好きなようにすればいい。資料はまたそこの魔物たちが持っているはずだ。」
「こちらは何か見つかるのでしょうか?」
とリリィが尋ねるとケブティスさんはふむ・・・、と考え
「まぁ奴らも落ちぶれてるとは言えシーフだからなあ、そこそこの物は持ってるんじゃないか?」
「またいい加減な・・・。」
「はっはっは、まぁ無駄足させちまったしなあ。テレポート代全額とまでは行かないが―、ほれ。」
そう言い、リリィにお金を渡している。

240姫々:2007/02/25(日) 03:27:40 ID:5flRjIeE0
「欲しいのはお金ではないのですけれどね・・・」
そう呟いていたが、貰ったお金を懐にしまい私の手を取ると、
「行きましょうか。次の目的地は路上盗賊団のアジトです」
と笑いかけてきた。
「路上盗賊団・・・、ですかー・・・」
珍しくセラが何か真面目な顔で考え事をしている。
「それ、どこなんですか?」
「ん?あぁ、ここだよ。譲ちゃん」
・・・?セラがケブティスさんに場所を尋ねてる。どうしたんだろう。
「覚えた?ウィンディ」
《・・−・ −・−・。・・−・− ・−−・ −・−− −・−−・。》
「・・・うん。任せたよ。」
私には今どんな示しあわせをしたのかまったく分からない・・・。
そう言うと今度はセラが両目を閉じ、ウィンディと呼んだ精霊に向けて手をかざす。
「………φη」
何か一言呟いたかと思うと、ウィンディと呼ばれた精霊が巨大な鳥に姿を変える。
その途端、どこかに飛び去ってしまった。
「うわぁ・・・」
セラにはどうもほわーっとしたイメージしかなかったため、私は今起こったことに
圧倒されてしまっていた。
「あ・・・、ごめんなさい、待たせちゃいましたかー・・・?」
セラが不安そうに聞いてくる。
「え?いえ・・・、セラは本当にサマナーだったのですね・・・」
「そうなんですよー、みんなとってもいい子ですよー」
リリィの言葉に、いつか聞いたような気がする台詞を笑顔で返す。
「って言うか今何してたのっ?」
私は聞いてみる。すると、ニコリと笑ってセラが言う
「ちょっと先に下見に行ってもらったの」
「下見・・・?」
「うん、レッドストーン以外に探し物があるんだー。」
さっきの真面目な顔から一転、またいつものほわほわとした笑顔で言う。
「大切なものなの?」
「大切だよー?私の中で4番目くらいに。」
4番目・・・、なんか微妙っていうか現実的な数字だなぁ・・・、と思ってしまう。
「じゃあ1〜3番目って何?」
そう尋ねると、また表情が変わる。いや、笑顔は笑顔なのだが眼が笑っていない。
真っ直ぐに私のほうを見て言う。
「一番目は自分の命・・・、2番目と3番目はねー・・・今は内緒、探し物を見つけたとき、一緒に言うね。」
そう言うと、ニコリと笑って視線を元に戻した。
私は今のセラの表情を見て、始めてセラは私より年上なんだな・・・と実感する。
さっきの視線の先は本当に私を見ていたのだろうか・・・、何となく私の内面を
見られていた気がした。
いつもはふわふわしているけど、一人旅をしていた位だ。
私なんかよりずっと芯は強いんだろう、その事に私は今になって気づいたのだった。
「そろそろ行きましょう。地図で見た感じ、古都から少し距離があります。
 今から行っても今日中に帰れるか微妙です。」
「ああ、その事だが別にどれだけ時間かかってもいいぞ。でもあそこで手に入るもんは
 少しばかり解読が難しくてなあ、ここ以外だと2,3ヶ月は解読に時間掛かっちまうだろうよ」
はっはっはと笑いながらいっている。後で聞いた話だが、ここでは半日から1日程度で
解読が完了するらしい。リリィ曰く「魔法の類でも使っているんでしょう」
との事だった。
「どうしましょうルゥ様、今日は宿に戻って明日出発にするのもよいと思いますが・・・。」
「うーん・・・、けど今日行こうよ。セラの探し物もあるし」
「ふふ、分かりました。それでは早速行きましょうか」
微笑みながら手を向けてくる。
「うん」
その手に私も手を伸ばしリリィと手を繋ぐ形となった。
「リリィ・・・。」
「はい?」
「私も早く大人になりたい・・・」
そう言うとリリィは少し驚いたような顔をしたが、すぐさっきの表情に戻り言う。
「私が全力で応援させていただきますよ、ルゥ様。」
と。
それからはテレポーターに再び古都に転送されるまで、3人は無言だった。

・・・
・・・
・・・

241姫々:2007/02/25(日) 03:29:57 ID:5flRjIeE0
「古都っー!!」
「はは・・・・・・、姫様・・・」
「なーにー?」
「・・・いえ、何でもありません」
この姫様が大人になるのはずっと先だろうな・・・、と将来に少し不安を持ってしまう。
いや、立ち直りが早い・・・と言えばそれも長所にもなるのだろうか・・・。
「まあ、早く行こうよっ!私、野宿は嫌だからねー!」
「はいはい、行きましょうか」
しかしまぁ・・・、姫はこうでないと私も調子が出ないですね、などと思いつつ、
私たちは古都を東に出て、路上強盗団のアジトへと向かう。
さっきも言ったとおり、アジトは古都を東に出てずっと東に真っ直ぐ。
古都を出たときは、何の問題もなかった。
が、1時間ほど道のりをあるいて、アジトまであと半分くらいの所まで行った時、異変が起こった。
「どうしたのっ、セラっ!?」
私は一番前を歩いていたので、ルゥ様のその声で気づいた。
振り返ると、膝と肘を突き、苦しそうに肩で息をしているセラの姿がある。
その姿は明らかに普通じゃない。
アースヒールを施してみても体調はよくならないらしい。依然として肩で息をしている。
「とりあえずそこの木の陰に・・・」
とりあえず運ぶため、セラを仰向けに寝かせる。と、右手で私の手を掴んで、
セラが話しかけてくる。
「い・・・え・・・、へいき・・・で・・・す・・・・・・」
と、今にも消えそうな細々とした声で。
「どこがっ!!全然平気そうに見えないよおっ!!」
ルゥ様の言うとおり、何度か倒れていたがその時とどう見てもまったく様子が違う。
半分開いている目は視点も焦点も合っておらず、息も荒い。脈をとってみても弱くて早い。
「このままで・・・すぐ・・・、よくなり・・・ます・・・。」
確かに呼吸は落ち着いてきているように見えるが・・・。大丈夫なんだろうか。
とりあえずは、2,3分待ってみよう・・・、それでこれ以上よくならないようなら
強引にでも運ぼう。そう思っていたが、幸いなことにその2,3分で少しずつ
ながら呼吸も落ち着き、視点もあってきている。脈は計るまでも無いだろう。
「セラ、喋れますか?」
「はい・・・、ありがとうございました・・・」
「今度は何があったのですか・・・?」
「すみません・・・、あの子と同調しすぎたようです・・・意識まで同調したのはしっぱいですねー・・・」
あの子・・・?セラが「子」と付けるのは召喚獣だけだし、3体はここにいるから、
同調していたのは残りの一体、ウィンディと呼ばれた召喚獣言うことになるのだが・・・。
「あの召喚獣に何かあったのですか?」
「落とされちゃったみたいですねー・・・。」
落とされた・・・?あの召喚獣が?やはりアジトのシーフにだろうか。
「大丈夫?セラ・・・」
「うん・・・、大丈夫。行こう、ルゥちゃん・・・。いいですか?リリィさん・・・」
「私はかまいません。立てますか?」
私はセラの手をとり、軽く引っ張る。と、一応は立ったがふらついている。
大丈夫だろうか・・・、やはりもっと休んだ方が・・・などと思っていると、セラが小さな声で、
「ケルビー・・・、おいで」
と手招きする。ケルビーとはあの犬型の召喚獣のことだろう。
走ってくる召喚獣に、セラがよいしょ・・・と腰をかける。
「すみません、この子に乗っていってかまわないですかー・・・?」
また不安そうに聞いてくる。
「ダメな理由なんかありません。どうぞ、自分の身体を大切にしてください」
とセラに言う。
「ありがとうございますー」
と、にこにこと笑いながらこたえが返ってきた。
「いえいえ、しかしこのままでは日が暮れてしまいます、急ぎましょう。ケルビーとはどの位の速度で
 移動できるのですか?」
私は尋ねる。
「うーん・・・。多分ここから真っ直ぐ古都に行くなら10分くらいで着きますー・・・
 って言って分かるでしょうか・・・?」
1時間の道のりを10分・・・、なら時速20〜25km位か・・・、なかなか早い・・・。
それなら余裕で日暮れに間に合うだろう。
「分かりました。ルゥ様、急ぎましょう。兎になってカバンの中に入っていただけますか?」
「え?うん、分かった。」
そう言うと、ポンッと音を立てて変身したかと思うと、私のカバンの中に飛んで入る。
「セラはついてこれそうですか?」
「はい、頑張ってねー、ケルビー」
私はその返事を聞いてから、自身にヘイストをかけて、路上強盗団のアジトへ向かって走った。
・・・
・・・
・・・

242姫々:2007/02/25(日) 03:35:15 ID:5flRjIeE0
私たちは10分程度でアジトに到着する。が・・・
「あぅ・・・酔ったぁ・・・」
リリィがカバンを持って走っていたため、その中にいた私はカバンに揺られて酔ってしまった
のだった・・・。
「すみませんルゥ様・・・、歩けますか・・・?」
「うー・・・、歩けるよー・・・歩けるけどねー・・・」
頭がボーっとして多少吐き気がする。今になって思えば私は
兎になって自分で走ればよかったんじゃないだろか・・・。船酔いとかならまだしも
鞄酔いは情けなさ過ぎる・・・。
「まあ・・・、行こうよ・・・・・・」
とりあえず吐き気を堪え、歩いているうちに体調もよくなってくるだろうという
希望を持ち、リリィ達に言う。
「本当に大丈夫ですか?足取りが頼りないですよ・・・?」
「うん、大丈夫大丈夫・・・」
「ルゥちゃん、あんまり大丈夫そうに見えないよー・・・?」
さっき私が言った台詞を、今度はさっきまで苦しがっていたのが嘘のように回復した
セラに言われる。
「心配しないで、もうましになって来たから・・・」
こんなやり取りをしてる間に、吐き気も収まってきたし頭もはっきりとしてきた。
「うん、大丈夫っ」
殆ど空元気だが、頑張って言って見る。
「はぁ・・・、まぁ・・・、大丈夫そうですね。」
と、リリィは信じてくれたらしい。セラも「よかったー」と言っていた。
「まあ行きましょうか。とりあえず地下2階に行ってみましょう、そこが一番資料がある可能性が
 高い、との事でしたので。」
私たちは階段を下へと降りていく。盗賊団のアジト、と言う割りには盗賊はいなくて、
ゾンビや堕落した魔法使いなどがうようよいただけだった。
その魔物たちも、リリィの魔法とセラの召喚獣によって倒されていく。
ここでは私も、スリング+ファイアーボトルでの援護も多少は出来たかな・・・?と思う。
しかし思うことは魔物がいる割には、廃墟にはなっていない。やはり盗賊がいるのは確か
なのだろう。しかし、地下2階に下りると雰囲気は一変する。そこは埃っぽい、石造りの
壁に覆われた通路だった。
「うわっ・・・、埃っぽい・・・。さっさと見つけて出ちゃおー?」
私はリリィにいう。すると、リリィは難しい顔をしていた。
「おかしい・・・」
「何がぁ?」
私が訊いてみると、リリィは視線を上げたまま、言葉を続ける。
「セラが連れているのは召喚されて力が落ちているとはいえ、精霊です・・・。
 あの程度の者達に落とされるはずが無い・・・」
さっきのことを思い出しているのだろう、言われて見ると確かに引っかかる。
「もっと強い魔物がいるって事・・・?」
「ええ・・・――っ・・・そこっ!!!」
リリィが叫び、バッと振り向き杖を向けたかと思うと、物凄い勢いで杖の先に
赤い光が集まってくる。しかし
「あら・・・?」
とリリィが呟いたかと思うと、杖の先の光はパシュンと言う音と共に消える。
「ったく・・・、何でまた会っちまうんだよ・・・」
と、呆れ顔であーあ・・・と呟くシーフの姿があった。
「にーさんっ!?」
「あーそうだよっ、つーかその呼び方も考えてみたら誤解生むぞっ!」
それはオート地下監獄でであったNo.23と名乗ったあのシーフさんだった。
「今度はこれでも持って帰れっ!!今ちょっと・・・いや、かなりやべえんだ」
と、1冊の濡れた本を私に押し付けてくる。
「えっ!?いいの?」
「あぁ、だから急いでここを出ろ、帰還の巻物位もってんだろ?」
と、私がリリィの方を見上げると
「あー・・・、補充を忘れてしまっていたようです・・・」
と、バツの悪そうな顔で言った。
「マジかよ・・・、何にしてもとっととここを出るんだ」
と、最初に会った時にはまったく見せなかった焦りようで言う。
「ルゥ様、何か分かりませんが急ぎましょう。」
「え・・・、うん。ありがとっにーさん」
「・・・・・・。あぁ・・・、じゃあな」
と既に背中を向けていた私たちに言ってきた。
・・・
・・・
・・・

243姫々:2007/02/25(日) 04:07:36 ID:5flRjIeE0
・・・
・・・
・・・
俺は階段を上っていく3人の姿を見送ろうと思ったが、目の前の気配から集中を
途切れさせる事は出来なかった。
「見てたか・・・?」
「ああ。」
俺の前にいる男が言う。
「何ですぐ出てこなかった・・・」
「殺しを知らない奴が2度も死に出くわすのは流石に精神の崩壊に繋がるだろう?お
 前は有能だからな、まだ俺のそばに置いておきたいだけだ」
「ちっ・・・、あの子は関係ねえだろ・・・。」
「お前、資料を渡していただろう?それが問題なんだ」
しまった・・・、早く遠ざけようとしてあの本を渡したのが裏目に出たらしい・・・。
「あの子を・・・、殺すって言うのか・・・」
「もちろんだ。」
気持ちいいくらいの即答・・・。こっちとしては気分が悪い。
「・・・・・・・・・・」
「忠告しておく、邪魔はするな。」
No.6が背中で言ってくる
「・・・・・・・・・あぁ・・・」
俺は、目の前の気配にそう応えるしかなかった・・・。
・・・
・・・
・・・




と、今はここまでです。本当はもっとルゥにオート監獄で絡んでもらおうとか
思ってたんですけど、すでに自己満入りまくってるので泣く泣く却下しました。
ちなみに余談ですが、ウィンディの台詞はモールス信号で「ウン。ミツケル。」
だったはずです・・・、私もあんまり覚えてませんけど・・・。

>ドギーマンさん
戦争って感じ、出てると思いますっ!今後の参考にさせていただきますね。
あと悪魔が悪って感じでてますねー。そういうのも好きです。
今後も期待してますー。

>elery_doughtさん
団欒って感じでいいですねー。それに読みやすくて私的には
好きですー。

>携帯物書き屋さん
そんな感じの設定私も好きですよ!今後も楽しみに読ませて
いただきます。

244携帯物書き屋:2007/02/25(日) 15:01:24 ID:mC0h9s/I0
こんにちは。最近飼い猫(♂)が嫁が欲しいと必死で大変です。
違う猫がメス猫とじゃれ合ってる姿を見ようモンならもう・・・。
ウチ猫なので、子どもができないようにしてあるのでそう思うとちょっとかわいそう。

珍しくPCを触れる時間ができたので感想を。

>>236
毎回感想をご苦労様&ありがとうございます。
そのお陰で書き続けられることに繋がってるのは確かです。

>>ドギーマンさん
何だか自分好みの予感・・・・・・!
ハッピーエンドには簡単にさせてくれそうもない雰囲気ですね。
何だかフェローに和みましたw時代は骸骨の時代だ!

>>姫々さん
ちょっと時間が空いただけでこんな量書けるのはすごい・・・。自分が遅すぎなのかなぁ。
女の子3人ですがちゃんとそれぞれ個性が出てますね。
23さんもいいキャラですねぇ。でも23でこんなに強いのに6って・・・。
自分は姉しかいないので「おにーちゃんっ」なんて言われるともうグッときそうですw

それでは〜

245第50話 走れ!:2007/02/25(日) 15:35:16 ID:HsZUAnj20
美香は慌てて父親に携帯で連絡をつけようとしたが、電波が届かない。
電源が入ってないのか?
目標の人物二人はどんどん歩いていく。
とりあえず、美香は距離を空けない様に尾行することにした。
・・・どうしたらいいの?私一人で逮捕できないわ!

そのころ田村は佐々木と無線で矢継ぎ早に連絡をしていた。
「美香と連絡が取れない! お前からつながるか?」
「いいえ!こちらからも応答がありません!どうします?」
「該当しそうなやつはいるか?」
「こちらもみつけられません!」
「まいったなあ」
「携帯はつながりますか?」
「それだ!」
ポケットから携帯を出す田村。
美香に発信をした。
一度だけのコールで美香はすぐに出た。

尾行を続けながら携帯を握り締めていた美香は左手がブルッとしたのがわかった。
「もしもし?」
「俺だ!どこにいる?」
「今西口からさらに西に向かってるわ!」
・・・・・・・え? 切れてる? 折り返しかけるが、繋がらない;;

田村は携帯を見つめていた・・・電池切れだ。
最後に何を言っていたかうまく聞き取れなかった。
「今西口・・・」で切れたからだ。
とりあえず佐々木に連絡をした。
「すまん!携帯の電池が切れた!」
「どうなってるんですか?」
「西口に向かえ!そこにいなければ最寄のネカフェ向かうんだ!」
「了解!」
佐々木は走り始めた。途中、うまく人を避けることができずぶつかってしまったが
走って走って走りまくった。

246名無しさん:2007/02/25(日) 19:41:03 ID:ndV96f8.0
>姫々さん
もうにーさんファンになりますよ!23→にーさんってネーミングも良い(笑)
ルゥ、リリィ、にーさんの三視点からのお話になってきましたね。
鞄酔い笑っちゃいました。でもヘイストして駆け抜けていくWIZさんを見ると羨ましさのあまりストーカーしたくなりますね。
セラも好きです。同調し過ぎてやばい事に…って凄く健気ですね。可愛いやい。
今後のにーさんたちシーフの絡みも含めて楽しみにしてます。

>携帯物書き屋さん
小説を読んで感想を書くのはもはや日課みたいなものになってます(笑)
こっちもとても楽しませて(時に悲しませて)もらってますし、皆さんの小説で勉強させてもらってます。
しかして今だUPできるほどの自作小説が書けないのは申し訳ないです(汗)

>きんがーさん
警察陣のパニックぶりが伝わってきます。
監視ネカフェでの犯人接触至らずですか…。運が悪い事に携帯まで不通とは。
なんとか犯人逮捕までこぎつけて欲しいですね。きんがーさんたちの方も気になりますが…。
続きお待ちしてます。

247ドギーマン:2007/02/25(日) 23:54:47 ID:15.0WHzI0
▲月□日
港町シュトラセラト
ブリッジヘッドから船に揺られること・・・・
分からない。
かなり酔ってしまって船室でずっと横になっていた。

ブリッジヘッドとの交易によってナクリエマ王国の商業的中心となっている都市。
かなり入り組んだ町並みで、発展とともに次々と建物が乱雑に立ち並び、
今では通りはかなり狭くなってまるで迷路のようになっている。
この街を支えているのは、意外にも貴族達である。
ただし、この街の貴族はブルンネンシュティグやビガプールなどといった都市の貴族とは性質が違う。
この街の貴族達は最初から貴族だったのではなく、元々は商人たちだった。
彼らは莫大な資産を持った財産家であり、それと同時に強い志を持った人たちであった。
ナクリエマが独立を果たした際も彼らによって大量の資金が投入された。
だが、第一代国王のトラウザーは貴族の傀儡と化してしまっていた。
その時の彼らの王国に対する失望はいかほどのものだったろう。
だが、第二代国王バルンロプトの代で王国に転機が訪れる。
バルンロプト王はそれまで王政に介入してきていた貴族を全て弾圧し、強力な王権を確立した。
そしてそれまで貴族によって操作されていた悪政を改善するためにシュトラセラトの財産家達の資金を必要とした。
そのために彼らを貴族にし、爵位を与えて重税を課した。
彼らは国の発展のために抵抗することなく、王に賛同し進んで多額の資産を投入していった。
シュトラセラトの港は組織的に整備され、街の周辺のモンスター討伐のための警備隊も組織された。
現在のナクリエマの発展は、彼らの力なくしてあり得なかったと言っても過言ではない。
そんな彼らをビガプールの貴族達には"金で爵位を買った"と罵る者も居るが、
元々地位になど興味を持たなかった彼らとの衝突は現在も見られていない。
だが、時代の進行と共に人々にも変化は訪れる。
かつての貴族達の家督は引き継がれ、現在の貴族達の中にはシーフギルドと繋がりを持ち始めた者もいるようだ。
一つの国を支える彼らの財力がシーフギルドと結びつけば、
国家を裏から支配することも十分に考えられる。
今はさすがにそこまではいかないだろうが、どうかこの街の平穏が続くことを祈るばかりだ。

さて、噂に名高いブルームビストロの料理を食べようと思ったのだが、
なかなかその店名が見当たらない。
今日は諦めて明日また探すことにする。

248ドギーマン:2007/02/26(月) 00:01:33 ID:15.0WHzI0
あとがき
シュトラセラトです。
なかなか見所の多い街ですね〜。

>姫々さん
NO.6に狙われることになってしまった3人、どうなっちゃうんでしょうね。
にーさんはどうするのか、続き待ってます。

>きんがーさん
いきなりやばいですね。
緊迫のシーンだけに本当にどきどきしてきました。

249姫々:2007/02/26(月) 05:15:42 ID:5flRjIeE0
おはようございますー。何度か見直しましたが軽く誤字脱字
はあるかもしれません。でも一応はこれでシーフギルド編は
完結します。長さ的に3回じゃなくて5回くらいに分けても
よかったかもしれませんね。では、>>237-243から続きます
・・・
・・・
・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
私たちは走る、今度は兎になって私の足で走っているが、
やはり二人についていけないことも無い。そこに、古都の入り口が見えた。
「古都・・・、ついた・・・」
ここまで来たら安心だ・・・、何から逃げていたのかは分からないが・・・。
とにかく私たちは宿へと向かった。
「ふー・・・、今日は疲れたねー」
「そうですね・・・、とりあえず今日はもう遅いです。ブリッジヘッドへは明日戻りましょう。」
「うん、そうだね」
私たちは宿に入り、歯を磨いて、着替えてからベッドへと向かう。
今日は本当に疲れた・・・、考えてみたら古都と港町を2往復したのだから疲れるのは
当たり前だろう・・・。とそんな事を考えていたら、まぶたがだんだん落ちてくる、
明日も頑張ろう・・・・、とそこで私の意識は闇に落ちる。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・。
『ギィイイインッ!』
「ぇ・・・?」
突然のことだった、金属がぶつかる音が私の顔の真上で響いた。何があったのかわからない。
ただ―
「逃げろっ!!!!急げっ!!!!」
と、男の人に怒鳴られた。えっと・・・、なんで男の人が二人もいるの・・・?
これは・・・、夢・・・?
「ルゥ様、失礼します!!!セラも早くっ!!」
「え・・・っ?なにっ!?」
私は何がなんだか分からないまま、リリィに抱きかかえられ、宿から出ることになった。
ここで私の意識は覚醒し始めて、夢じゃないということを実感する。
「リリィ、どうしたのっ!?」
「襲撃ですっ!!おそらくケブティスさんが忠告していたNo.1〜9の誰かに気づかれたのですっ!」
「えぇっ!!?」
「そして助けてくれたのはNo.23さん、彼が時間を稼いでくれるそうですっ!」
そうか・・・、それで男の人が二人も・・・・・・・。
「とにかく、今からブリッジヘッドへと急ぎます。セラの召喚獣に伝書を頼んだので、
 ケブティスさんが待ってくれているはずですっ!!」
「って、ケブティスさんも信用していいの!?あの人もシーフなんでしょっ!?」
「初め忠告してくれたのは彼なのですから、信用できるはずですっ!それに万一の事があれば
 メテオシャワーを使ってでも脱出しますっ!!」
私はリリィにつれられ、古都のテレポーターの元へと急ぐ。
「あら・・・?リリィ、あなた朝早いのねー」
そこにいたのはスィラバンダだった。何故か少しほっとしてしまう。
「スィラバンダさんっ!急いで私たちをブリッジヘッドへ送ってくださいっ!!」
「急ぎのようね・・・、分かったわ。早速いくわよ。3人とも、目を閉じて―。3―,2―,1・・・」
初めて会った時と同じように、スィラバンダはパチンと指を鳴らし、私たちを港街へと
送ってくれた。

250姫々:2007/02/26(月) 05:19:03 ID:5flRjIeE0
・・・
・・・
・・・
「ふん、来たいと言うからつれて来てやったらこれだ。邪魔はするなと言っただろう?」
No.6が眼前で言う、いつものように淡々と、ゆっくりと。
ただいつもと違うのは殺気の濃さだろう。俺とこいつは俺がシーフギルドに入った時からの
付き合いだからそのくらいは分かる。
「悪いな、手が動いちまった。」
「まだあの時のことを引きずっているのか」
俺を睨みつつ、同じ調子で言う。
「・・・あぁ・・・・・・、もう否定はしねえよ・・・」
あの時のこと・・・、2年前ブリッジヘッドに住んでいた俺の家族が俺以外誰かに全員殺された。
俺はその頃からシーフをしていて、家にいなかったため助かったが、他の皆は全滅だった。
気が狂いそうだった。・・・けど、ケブティスさんは俺を気遣ってくれた。
それが救いになったから、俺は今でもシーフをやっているわけだった。
「家族など必要ないだろう。仕事に差支えが出るだけだ。」
「そうかも知れねえが、俺にとっては大切だったんだ」
確かに差し支えることは多い。事実俺も、シーフなどやめろと親と顔を合わせるたびに
言われていた。けど、俺が帰る場所は結局はあそこだったのだ。
「まったく・・・、お前が自分で縁を切らないから俺が手を下してやったというのに。」
その時、俺は背筋が凍った。待て、今こいつ何て言いやがった・・・?
「もう一回言ってくれ・・・、ちょっと聞き取れなかった・・・」
まさか・・・、まさか・・・、そう思ってもう一度、訊いて見る。と、数度後ろに跳び、
間合いを開け、俺に言う。
「ああ、こう言ったんだ。お前の家族を殺したのは―」
No.6が懐から小型の斧を取り出し言葉を続ける。
「俺だ、と」
それと同時、両手の斧を同時に投擲してくる。
「くっ・・・!」
俺は横に跳び、斧を避ける。と、回転して勢いを増した斧は壁に刺さるどころか
突き破って外へ出て行ってしまった。
「お前は有能だから残してやったんだが・・・、見込み違いだったようだ。」
「キ・・・サマ・・・っ!!!」
俺の家族を殺してた奴と2年も手を組んでたって言うのか・・・?そう考えると俺自身
が許せない。が、やはり一番許せないのは目の前の男だった。
俺は構える、シーフ用の手投げ武器ではなく、両手の拳を・・・である。
「お前は格闘が得意だったな、俺とは真逆のタイプだ」
「だからどうした・・・」
「特に意味は無い。」
そう言い、再び小型の斧を投げつけてくる。
「ラァッ!!」
俺は、右に跳び攻撃を避け、着地してからとび蹴りで一気に接近する。No.6はタンッと左に跳び、
俺の攻撃を避けてから、斧で俺を切りつけてくる。
「当たらねえよっ!」
それをしゃがんだり、斜め前に踏み込んだりして避ける。後ろに跳ぶと、また投擲を
される恐れがあるので、俺としては出切るだけ接近状態を保たなければならないのだ。
(よし・・・・、接近戦ならこっちに分がある・・・)
俺は確信する、確かに離れてしまうとこちらが圧倒的に不利だが、接近している限りは
五分五分かそれ以上に戦えるだろう。
「ぐっ・・・・・・!!」
相手の斧を左腕を使いつつ流し、右手の拳を的確に顎に叩き込んでいく。顔の下半分を
隠すスカーフも防御用の素材を使っているので、大したダメージにはなっていないようだが、
全く効果が無いことも無いだろう。
「ふんっ!!」
No.6が俺に間合いを開けさせるためか、大きく斧を持つ左手を振りぬいてくる。
が、それは俺にとっては大チャンスでもあった。
「むっ・・・」
俺は仰け反ってそれを避け、上半身をひねり、驚くNo.6の右の側頭部に回し蹴りを
喰らわせる。
「が・・・ぁ・・・・・・」
ふらふらと後ろによろめきながら後ろに下がるが、見逃すわけには行かない。
「まだまだっ!!!」
俺は追撃せんと再び、とび蹴りを仕掛ける。
「俺とお前は真逆といっただろう・・・?」
「なっ!!?」
ふらふらとしていたNo.6が突然顔を上げて俺を睨みつけてきた。
今のは演技・・・?いや、そんなはずは無い、確実に捉えた、手ごたえもあった。
当たり所をずらされたのだろうか、再び俺のとび蹴りを避け言う。
「死ね・・・」
その手には、どこから出したのか分からないが、右手に4本、左手に3本の手投げ用の斧。
(まずい・・・。)
あの本数をこの距離で投げられると流石に回避は難しい。
が、しかし、そいつは躊躇なく投げてきやがった。

251姫々:2007/02/26(月) 05:21:00 ID:5flRjIeE0
「ぐ・・・」
6本回避して、残りの1本が左肩を切り裂く。被害は最小限にとどめたといった感じだが、
左腕を動かすたびに激痛が走り、さっきのように動かすのにはかなり辛い。
「ふん・・・、避けたか、だがまだ行くぞ」
再び、7本の斧を手に持ち言う。本当にどこから取り出しているんだろうか、そう思い、
俺の隣に転がっている1本を見てみると、刃の全体に呪文が刻み込んである、何か魔法
の類であることは明白だった。
それに壁を貫通する威力だ、家具を盾にしてもおそらく意味が無い。
「くそ・・・」
右側に跳んで避けるが、今度は3本の手投げ斧が左脚を切り裂き、俺は倒れこむ。
この部屋の広さでは、避けるのも限界だったのだ。
「終わりにしよう。」
そう言い、再び7本の斧をどこからか取り出していう。
(わりぃ、俺ここまでっぽいわ・・・、生き延びてくれよ・・・)
ああ・・・、そう言えば名前聞き忘れたな・・・、まぁいいや別に・・・と思いつつ、俺は
生きていることを諦めかけた。・・・その時だった。
《――――――――ッ!!》
「なっ!!!」
俺も驚くが、眼前で斧を構えて勝利を確信してた奴はもっと驚いたことだろう。
深紅の大型の犬が突然ベッドの下から飛び出したかと思うと、No.6の右腕に
噛み付いたのだった。
「邪魔だっ、離れろっ!」
そう言い、右腕を大きく振りまわして、その大型の犬を引き離し、その犬に向かって7本の
手投げ斧を投げつける。そして7本全てが着弾したその犬は、アジトの外でこいつが落とした
巨大な鳥と同じように、煙となって消えていく。
何だったんだろうとは思ったが、今はそんな事を気にしてはいられない。俺にとってこれは
最後のチャンスなのだから。
「ラァアアアアアアッ!!」
右足で思いっきり跳躍し、一気に接近する。着地の時、左足の痛みで倒れそうになるが
歯を食いしばって耐える。
「しま・・・っ!!」
膝裏に一発、胴に一発、側頭部に一発ずつ右足を叩き込む。
「つぅ・・・」
俺は痛みを我慢できず倒れてしまうが、向こうもふらついている。俺は倒れてた状態で、
払い蹴りで脚を払い、No.6を床に倒す。
「がは・・・っ」
仰向けに倒れているNo.6に這い上がってまたがり、両腕を膝で押さえつけ、
「終わりにしよう・・・」
と、さっきとは逆に言ってやる。
「やっ・・・やめろっ・・・!!」
その言葉を無視して、俺は右手の拳を思いっきりNo.6の顔面に叩き込んだ。
・・・
・・・
・・・

252姫々:2007/02/26(月) 05:22:44 ID:5flRjIeE0
「・・・っ!」
港町の中を3人で走っている途中セラが、一瞬顔をゆがめる。
「どうしたの!?セラ」
「ううん、何でもないよー、今回は殆ど同調して無いからー・・・」
昨日の事もあるし、その言葉から、召喚獣に何かあったのか予想はつく。よく見るといつも4体
つれているはずの召喚獣が2体しかいない。いないのは鳥型の召喚獣、ウィンディと
犬型の召喚獣、ケルビー・・・だったっけ?名前はまだ覚えてないがその2体だ。
「伝書は通ってるはずなので大丈夫ですよ。ウィンディから返事があったので確実ですー」
という事は何かあったのはケルビーのほうだと思うのだが、今はそれどころじゃない。
「セラ、走れる!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね」
私たち3人は、リリィにヘイストを受けて、全力で走っていた。
「いたっ!ケブティスさんっ!!」
目の前にケブティスさんとウィンディの姿があった。私たちの姿を見ると、ケブティスさんは
右手を上げて迎えてくれる。
「おう、お前ら。ほんとに来やがったか。まさかと思って出て来てよかったぜ。」
「この本を・・・。」
私は持っていた本をケブティスさんに渡す。
「これは・・・。ほおー、珍しな、これはどうしたんだよ?」
「アジトの地下で、に・・・No.23さんがくれたんですっ!」
「No.23?って事は多分No.6だなあ?お前らを襲ったのは。よく生きてたもんだ。」
「それで・・・、この本は・・・!?」
私はつい大声で尋ねてしまう。
「まぁ待て、これはアイノの報告書って言うんだ。よくもまあこんな珍しいもんをNo.23も
 ・・・・・・って待て、譲ちゃん、顔をよく見せてくれ。」
話していたのが殆どリリィだったため、私の顔は殆ど見ていなかったらしい。
私に目線を合わせるように屈んで言う。
「似てるなあ・・・、あの子に・・・」
と―。そしてまたリリィに言う。
「おい、お前らが襲われた時。襲って来た奴以外に誰か来なかったか?」
「え・・・、ええ、No.23さんに助けていただきました。そうでなければこの方はおそらく・・・」
と、リリィが私を見て言う。私は死んでいただろう。おそらく、ではなく確実に・・・。
「だろうなあ・・・。まあ宿の部屋はぶっ潰れちまってるかも知れねえが、弁償は俺のほうでして
 おこう、お前らはアリアンへ行け。アリアンはクロマティガードって奴らが治安を守っている、
 そいつらのボスにアイノの報告書について聞いてみろ。」
「はい、ありがとうございます。きましょう、ルゥ様、セラ」
そう言い、リリィが私たちの手を引く。
「おい、譲ちゃん。」
そこでケブティスさんに呼び止められた。
「お前は死んだNo.23の妹にそっくりなんだ、少なくとも顔はな。たまに兄貴にくっついて
 遊びにきてただけだから俺も顔以外は知らないが・・・。まぁ、だからって訳でもねえけど、
 お前は死ぬんじゃねえぞ。」
「・・・はいっ」
「あとNo.23はこっちに任せな、救護班を向かわせてある。生きてたら強引にでもここに
 つれて来るように言っておいた。」
「ありがとうございますっ!」
「姫・・・、そろそろ・・・。」
リリィに手を引かれ、私たちはまた走り出した。
そうだったのか・・・、だからあの時、あの監獄であんな反応をしたのだろうか・・・。
そして私たちは、太陽も隠れている早朝、テレポーターによってアリアンへ到着したのだった。

253姫々:2007/02/26(月) 05:45:42 ID:5flRjIeE0
「・・・っ!」
港町の中を3人で走っている途中セラが、一瞬顔をゆがめる。
「どうしたの!?セラ」
「ううん、何でもないよー、今回は殆ど同調して無いからー・・・」
昨日の事もあるし、その言葉から、召喚獣に何かあったのか予想はつく。よく見るといつも4体
つれているはずの召喚獣が2体しかいない。いないのは鳥型の召喚獣、ウィンディと
犬型の召喚獣、ケルビー・・・だったっけ?名前はまだ覚えてないがその2体だ。
「伝書は通ってるはずなので大丈夫ですよ。ウィンディから返事があったので確実ですー」
という事は何かあったのはケルビーのほうだと思うのだが、今はそれどころじゃない。
「セラ、走れる!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうね」
私たち3人は、リリィにヘイストを受けて、全力で走っていた。
「いたっ!ケブティスさんっ!!」
目の前にケブティスさんとウィンディの姿があった。私たちの姿を見ると、ケブティスさんは
右手を上げて迎えてくれる。
「おう、お前ら。ほんとに来やがったか。まさかと思って出て来てよかったぜ。」
「この本を・・・。」
私は持っていた本をケブティスさんに渡す。
「これは・・・。ほおー、珍しな、これはどうしたんだよ?」
「アジトの地下で、に・・・No.23さんがくれたんですっ!」
「No.23?って事は多分No.6だなあ?お前らを襲ったのは。よく生きてたもんだ。」
「それで・・・、この本は・・・!?」
私はつい大声で尋ねてしまう。
「まぁ待て、これはアイノの報告書って言うんだ。よくもまあこんな珍しいもんをNo.23も
 ・・・・・・って待て、譲ちゃん、顔をよく見せてくれ。」
話していたのが殆どリリィだったため、私の顔は殆ど見ていなかったらしい。
私に目線を合わせるように屈んで言う。
「似てるなあ・・・、あの子に・・・」
と―。そしてまたリリィに言う。
「おい、お前らが襲われた時。襲って来た奴以外に誰か来なかったか?」
「え・・・、ええ、No.23さんに助けていただきました。そうでなければこの方はおそらく・・・」
と、リリィが私を見て言う。私は死んでいただろう。おそらく、ではなく確実に・・・。
「だろうなあ・・・。まあ宿の部屋はぶっ潰れちまってるかも知れねえが、弁償は俺のほうでして
 おこう、お前らはアリアンへ行け。アリアンはクロマティガードって奴らが治安を守っている、
 そいつらのボスにアイノの報告書について聞いてみろ。」
「はい、ありがとうございます。きましょう、ルゥ様、セラ」
そう言い、リリィが私たちの手を引く。
「おい、譲ちゃん。」
そこでケブティスさんに呼び止められた。
「お前は死んだNo.23の妹にそっくりなんだ、少なくとも顔はな。たまに兄貴にくっついて
 遊びにきてただけだから俺も顔以外は知らないが・・・。まぁ、だからって訳でもねえけど、
 お前は死ぬんじゃねえぞ。」
「・・・はいっ」
「あとNo.23はこっちに任せな、救護班を向かわせてある。生きてたら強引にでもここに
 つれて来るように言っておいた。」
「ありがとうございますっ!」
「姫・・・、そろそろ・・・。」
リリィに手を引かれ、私たちはまた走り出した。
そうだったのか・・・、だからあの時、あの監獄であんな反応をしたのだろうか・・・。
そして私たちは、太陽も隠れている早朝、テレポーターによってアリアンへ到着したのだった。

254姫々:2007/02/26(月) 06:04:22 ID:5flRjIeE0
254,253が2重になっちゃってます・・・ごめんなさい。
それに長さ的に3回じゃなくて5,6回に分けたほうがよかったかもしれません。
とりあえずブリッジヘッド編はこれで終わりです。
オチがありきたりとか、シーフ殆ど出てきて無いじゃんとか、No.23は
シーフとかいいつつやってる事9割以上武道家じゃんとか突っ込みどころ
満載ですけれども。
あと仲間はやっぱり4人って言うより3+1人って感じにしようと思います。
4人にしちゃうと間違いなく誰か一人喋れない人が出てきそうなので・・・。
(ていうかスピカが既に喋ってませんしね・・・。アリアンでは喋らせます、
ええ・・・、喋らせますとも・・・)
戦闘も書いてみたはいいんですが投稿してから読み返してみると表現に
若干の不安が残る箇所がちらほらと・・・。この辺りも改善のため、
勉強していきます。

さて、アリアンで出てくる職はやっぱ私の中ではあれしかないんですが
問題はキャラですよね、性別とか性格とか武器とか主要スキルとか。
その辺りも考えつつ、後書きも終わらせていただきます。
長々とありがとうございました。
以下感想↓
>きんがーさん
刑事物は私も昔書いてみようとして悲惨な結果になった事があったりしたり・・・。
まだ殆ど読めていないので、今度最初から読ませていただきますっ!

>ドギーマンさん
シュトラセラトは書く所多そうですよねー。
頑張ってくださいね。次も待ってます。

その他感想をくれた方々へ。
私の小説は皆様の感想により成り立っておりますっ!
お褒めの言葉、ありがとうございますー。

255名無しさん:2007/02/26(月) 06:17:42 ID:ndV96f8.0
>ドギーマンさん
シュトラは色々な意味で良く行きました(笑) 初心者クエもここが主体で行きますよね。
いつもながら歴史の話が興味深いです。この辺もNPCが話してくれるのでしょうか?
ところで、どうして古都からエバキュエイションできないのだろう…。何か理由があったりして。

>姫々
武道イイ。殴りシーフイイ。(狂喜)
武道×サマナが好きなのでもう勝手に妄想が膨らんでます。
公式設定でも"シーフは身体面の強化を図る過程で肉体を鍛えた"みたいな記述がありますし、無問題だと思いますよ。
たくさん登場人物が出てくると書き分けが大変ですよね。とても分かります。
私は適当に理由をこじ付けまくってお茶を濁す事が多いです。スピカは地球(?)の空気が肌に合わないから調子が悪いとか…(笑)

256名無しさん:2007/02/26(月) 06:21:38 ID:ndV96f8.0
>>255 申し訳ないです、姫々「さん」をつけるのを忘れてましたorz

257第51話 人込み:2007/02/27(火) 01:21:22 ID:HsZUAnj20
駅に着いた私達3人は、およそ10メートル程離れた。
勿論、デルモちゃんと私が遠くから観察することに。
しばらく経って、約束の時間からちょっと過ぎた頃、キンガーさんがなにやら携帯を構えた。
おそらく相手に電話を入れるのだろう。
すると、私達二人の真横の男も電話で話し始めた。
男は電話をかけながらキンガーさんの方へ近づいていった。
なんとその男がキンガーさんの取引相手だったのだ。
デルモちゃんは私にこう囁きかけた
「ねね、変なイントネーションだったね?」
「さぁ?私には普通に聞こえていたよ?」
「そうかなぁ? なんかこう・・・聞きなれない方言だったような」
「・・・ぁ。行っちゃうよ!ついて行かなきゃ」
私達は人込を縫うように後をついていった。
後姿で判断するには、キンガーさんよりは15センチ程背が低い男だった。
それにしても日曜の新宿は込んでいるなぁなんて思いながら付かず離れずの距離を保った。
「痛っ!」
後ろから私を抜き去っていく人が肩にぶつかって行ってしまった。
「大丈夫?」とデルモ。
(少しくらい謝れってんだ!)と小心者の私は思った;;
「うん?平気よ^^;」


田村は駅に待機している岡崎の車へ向かった。
携帯を借りるつもりで走った。
この件が片付いたらタバコをやめるぞ!と感じるほどに息を切らせて走った。
幸い、美香の電話番号は手帳につけてある・・・刑事の癖とでも言おうか。
なんで公衆電話を減らしたんだ?
便利になればなるほど必要な時に壊れやがる!


その頃、張は独房で一人考え事をしていた。
田村に教えたメールアドレスの中に必ず該当しているものがあるはずだ。
それにしてもRMTか・・・。
たかがアカウントやゴールドをどうしてみんな買うんだ?
そんなに欲しい物なのか?
ゲーム内で稼げばいいじゃないか?
だいたいRMT業者なんてほとんどがゲーム会社が陰で操っているじゃないか。
二重に金を払ってるようなもんじゃないか。
・・・俺に学があれば、ゲーム会社を作るんだけどなぁ。

258171:2007/02/27(火) 13:34:35 ID:f0SX/jL60
どうもこんちゃ。書いていたら意外と長くなってしまったので、とりあえず途中まで
投下しようかと。


AM5:30

男は焚き火に薪をくべながらぼんやりと周りを空を見上げていた。徐々に空が明るくなって
行く。視界の両脇にそびえる崖が空を、ちょうどT字を逆さにしたような形で切り取っている。
朝の静けさの中、パチパチと薪の弾ける音だけが聞こえた。

「やっと我が家に帰れるのか・・」

空を見上げ、誰にともなくつぶやいた。男は、宝石商協会の運営する鉱脈開拓のためのキャラバンの
参加者だった。北方での鉱脈調査は難航を極めたが、半年に渡る粘り強い調査の末、ついに豊かな鉱脈を一つ
探り当てることに成功した。成果を持って凱旋できるのだ。これほどうれしいことはない。
今キャラバンは、凱旋の帰途、旅人の利用する休憩所で寝静まっている。
本当なら今日のうちに凱旋できるはずだったのだが、先日の大雨のせいか河にかけられた
橋が流されてしまっていたため、仕方なく休憩所で野営をすることになったのだ。日が昇ったら早速
橋をかける作業をしなくてはならないが、それでも2、3日中には成果の報告を終え、各々の生活に戻ることができるだろう。
帰ったらゆっくりと風呂に入って一杯やって、凝り固まった半年分の疲れを溶かすんだ、そんなことを思いつつ焚き火の炎に視線を落とす。






視界に、嫌な影が、映りこんだ。
はっとして影を・・・見やる。






心臓が早鐘のように打ち始めた。全身から冷たい汗が一気に噴出す。
男は声にならない声を上げるとと飛び上がり、最も大きな小屋に駆け込んだ。
「オーガが!オーガの群れが!」







戦慄の一日が幕を開けた。




AM6:15

ヴァリアーは躊躇した。流行のパーマをかけたばかりの栗色の髪を弄りながら、ため息を漏らす。
任務後、もう家に帰って布団にもぐりこむつもりでいた、疲れきった状態で、救難信号を見つけてしまったからだ。

はっきりいって無視してしまいたい。が、救難信号を打ち上げるということは並々ならぬ事態であることを
意味している。そのような必死のサインを無視することを彼の、そして彼のギルド精神が許すはずもなかった。
襟元の紋章に魔力を送る。即座にギルドの専用チャットチャンネルがリンクし、管制官の眠そうな声が聞こえてきた。

「は、ぁ〜い、こちら管制部」
「こちらヴァリアー。お休みのところ悪いね。」
「ば、バカ、誰も居眠りなんぞ・・・]

言いかけて咳払いをする。苦笑いをかみ殺すヴァリアー。整った顔立ちから笑みが微かに笑みがこぼれる。

「で、どうした?任務終了の報告ならもうこちらで処理済みだが?」
「救難信号を見つけた。」

緩みきった声が一気に引き締まった。

「場所は?」
「バヘル大河、東バヘル川中流域N地帯。救援に向かう。」
「了解した。状況を把握次第連絡をくれ。こちらでも増援の手配をしておく。」
「助かるよ。では通信を終了する。」
「了解した。Good Luck」

通信を切り、手早くマッチを擦ると、腰から愛用の魔法杖を抜きマッチの火を近づけた。
杖が帯びた魔力に火が燃え移り、杖の倍ほどもある炎の刃が杖の先から伸びる。

残り火を腰にぶら下げた小さなランタンに放り込むと、ヴァリアーは全速力で信号の方へ走り出した。

259171:2007/02/27(火) 13:40:18 ID:f0SX/jL60
改行がおかしいことになってますねorz


AM 10:15


バヘル大河、東バヘル川中流域。エルフやリザードマン、オーガなどの所謂
「亜人種」が多く住処を設けている地帯であり、この地域はこれら亜人種の
紛争地域でもある。一見危険なこの地域だが、紛争と言っても各部族の「血
の気の多い奴」が小競り合いを繰り返す程度である。
オーガは穴倉の中で生活しているものがほとんどなので、こちらから仕掛けない限りは
何をされることもない。また、エルフやリザードマンについては意外にも商才があり、
それ相応の通行料を払うことで比較的安全な北方への抜け道を提供しているくらいだ。
通常であれば大きく迂回せねばならぬ道程をおよそ1週間分ほど短縮できるので、
実は利用者が多い「裏道」なのである。


その地域に高速で迫る3人のウィザードがいた。スマグの職人によって編まれた
良質の魔法の絨毯を駆り、砂ほこりを巻き上げ疾風の如く飛んでいく。


それを目にしたリザードマンの男が慌てて追いすがりながら、しわがれ声で叫んだ。

「待て!まダお代ヲ貰ッてないゾ!」

その声に対して、3人の先頭を行く女が、懐から布袋を掴んで投げつけた。

「それだけあれば十分だろう!」

袋をモロに顔面でレシーブした亜人は怒鳴りつけようとしたが、袋の重さに気づいて
それを抑えた。袋の中には、両手の指で数えられないくらいの金貨がギッシリと詰まっている。

体格のいい男が、遠くで袋を抱えて小躍りする亜人を振り返りながら、先頭の女に話しかけた。

「おいセシル、いくらくれてやったんだ?」
「交渉する手間が惜しかったんでな、相場の10倍は包んでやった」
セシルが、銀色の長髪をかき上げながら、険しい表情で答える。

「おいおいおい奮発しすぎだろ、なあエリー」
驚きを共有したいとでも思ったのか、最後尾を飛ぶ短髪の女に話題をふる。

「ええ、まあ・・でも私達はその分、たくさん戴いてますから。」
穏やかな笑顔で言葉を返す。

「え、あ、そ、そう?ふーん」
「ダン、酒と煙草を止めればコレくらいのユトリは生まれるはずだぞ?」
痛いところを突かれて、屈強そうな体を何となく縮こめるダン。

「で、そろそろか?」
少々のバツの悪さを抱えつつ、「本題」へと話を移す。
「ああ、もうすぐN地帯に入る。・・・何事もなければいいが。」
セシルの美しい表情がいっそう険しくなる。



救難信号を発見したヴァリアーからの連絡が途絶えた。

セシル達のパーティに急報が届いたのは今から2時間前。最後の連絡から
2時間が経過しても報告が一切入らず、不審に思った管制官が通信しようと
したところ、ヴァリアーの魔力をリンクできず、連絡が途絶えていたことが判明した。

「すまない、ヴァリアーに限ってこんな事になるとは思っていなかった。判断が
甘かった。」

暗い表情の管制官。確かにヴァリアーはギルドでもトップクラスの実力者であり、
ギルドメンバーはもとより運営部からの信頼も厚い。セシル達も、ヴァリアーの力を
よく知っていた。だからこそ。

「救難信号」「連絡が途絶える」・・・・嫌な予感がどうしても拭えない。



「隊長?」
エリーの呼びかけでハッと我に返る。
「ああ、すまない。どうした?」
「N地点に入ります。定点連絡を行います。」
「ああ、頼む。」

エリーが管制官と通信を開始する姿が視界の端に映る。・・・ヴァリアー、何があった?

「心配すんなセシル」
ダンが後ろから声をかけた。
「あいつのことは、俺らが・・つか、お前が一番よく分かってるだろ。」
「・・ダン・・」

「以上、通信を終わります。」
「了解した。気をつけてくれ。Good Luck」

通信を終えたエリーが、「アレ」に気づいた。

「隊長!あれは!?」

エリーの指した方向、はるか遠くにうっすらと立ち上る赤色の煙。

「・・・救難信号・・!」3人の表情に緊張が走る。
「ビンゴだな。急ごうぜ!」


続く。

260171:2007/02/27(火) 13:57:30 ID:f0SX/jL60
戦闘シーンだけ先に書き上げてからと思ったんですが、思ったようにいかずorz
とりあえず、エンチャを近接格闘武器に見立ててみました。他のは続きでやって
みたいと思ってます。


>ドギーマンさん

遅レスですが、戦争らしい描写だと思います。やはり兵器と、それによって破壊される様の
描写が難しいですよね。

>きんがーさん

やっとさかのぼって読んで追いつきましたorz
いざというときに使えない携帯、すげぇよく分かりますorz
展開が一気に転がりはじめましたね。

>姫々さん

武道家・・・!自分もこれだけでグッと来ちゃう人なんですなんかすみませんw

261名無しさん:2007/02/27(火) 20:14:04 ID:j2X4P.9o0
>きんがーさん
伏線があるようで無いようであれもこれもが疑わしくなってます(苦笑)
> だいたいRMT業者なんてほとんどがゲーム会社が陰で操っているじゃないか。
裏の事実といいますか、真実味がありすぎます。
ところで、確かに公衆電話って減りましたよね…携帯の簡易充電器すら買えない時は本当に困ります。

>171さん
戦闘シーンだけではなく状況の描写も上手いと思います。
こういう緊張感が高くなりつつの状態で続くとは…!続きを大いに楽しみにしてます。
ところでギルドチャットやパーティチャットなどの機能をリアルに表現するのは難しいですよね。
紋章同士で会話する、という発想は面白いと思います。

262ドギーマン:2007/03/01(木) 02:17:31 ID:189sm5pY0
■月●●日
港町シュトラセラト
ブルームビストロをようやく見つけた。
なんてことはない、長い行列が並んでいるあの店がそうだったのだ。
だが店の看板にはシルバーホエールバーと書かれている。
なぜ皆ブルームビストロと呼ぶのか。
その理由はブルームビストロというのはこの店の昔の店名で、
現在は名前を変えているが常連客の間では昔のままの名前で通っているらしい。
いくら看板を探しても見つからないわけだ。
並んでいる間人に聞いた話によると、
昔白銀色の鯨が捕まり、その肉をこの店に持ち込んで調理してもらったところ実に素晴らしい味の料理が出来たそうだ。
とても大きな鯨だったらしく、何日も何日も料理して周辺の人々に配ったらしい。
その料理の噂は周辺の小都市のみならずビガプールの王室にまで響き、
料理を取り寄せるよう勅令が下ったほどだという。
そうしてこの店の名はナクリエマ国内に広まっていった。
それを記念して、以来この店はシルバーホエールという名前になったらしい。
さて、長い時間行列に並んでようやく料理にありつけた。
店の名物というフィッシュエッグが実にうまかった。
それを肴にビガプール産の麦酒を飲みながら歌姫の美しい歌声に耳を傾ければ、
えもいわれぬ気分に浸ることができる。
ついつい酒が進みすぎて店を出るころには酔いすぎてしまった。
そういえばあの歌姫の歌は聴いたことの無い言語だった気がする。
異国の歌だろうか。

街を漂う潮の香りの中に立つ大きな建物、ブルームビストロと並んで有名な高級ホテルオクトパスだ。
その名の通りタコの足のような奇妙な形状をした建物だが、部屋もサービスも素晴らしいのだそうだ。
残念ながら放浪の身の私には1泊するだけの金もない。
今日はスラムの安宿に泊まって明日経つことにする。
もう一度ブルームビストロの料理を食べていきたいが、
それではいつまでも出立出来ない気がする。

263名無しさん:2007/03/01(木) 08:56:39 ID:j2X4P.9o0
>ドギーマンさん
ブルームビストロ、はて?と思っていたら昔の名称だったのですか。
もしかしてちょっと前のRSではそういう名前だったという事でしょうか?私もRSを始めて日が浅いものです…。
あの行列は気になってしまいちょっと並んでみた事がありました(笑)
ホテルもありましたね。中に入れないのが残念。

264171:2007/03/01(木) 14:35:37 ID:f0SX/jL60
前回>>258 >>259

切り立った崖の合間細々と立ち上る救難信号に向けて疾走する。接近するにつれ、赤い筋を
護るかのように逆巻き上がる竜巻の姿が見えてきた。


「おい、あれ!」ダンが野太い声を張り上げた。
「障壁魔法です!ヴァリアーさんですよきっと!」
エリーがセシルに、弾んだ声を投げかける。

セシルに、チラリと安堵の表情が戻る。・・ヴァリアー・・・!

しかし、ダンは一人疑問を抱えていた。障壁?
ヴァリアーほどの男が、一体何に対して護りを固める必要があると言うのか。

セシルの安堵もつかの間、ダンの予感は的中する。

崖の上から煙の元に視線を落とすと、悲惨な光景が目に映った。
本来あったはずの小屋は全て瓦礫となり、さらにそれらを埋め尽くさんほどの、おびただしい量の
オーガの死骸と、それに混ざり、人の形を既に留めることすらできなかった、人体の断片が見て取れた。

その断片にむさぼりつくオーガが目に入り、思わず顔をそむけるエリー。

「・・・これは・・・・っ」

「何てことだ・・」
セシルも流石に顔を歪めずにはいられなかった。
さらに3人を驚愕させたのは、死骸の量を軽く凌駕するほどのオーガの軍勢が周囲を取り囲んで
いたことである。その軍勢を押し留めるように、魔法の竜巻が風を巻き上げ、近寄るものを
切り裂いていた。竜巻の中の様子は見て取れないが、生存者はきっと、あの中にいるのだろう。
ヴァリアーと共に。

セシルは、すばやくヴァリアーの魔力を探った。リンクはやはり途切れたままだ。苛立ちが募る。

「この数は尋常じゃないぞ。どうするセシル」
ダンは、しかめ面で煙草に火を付けた。渡来物独特の甘い香りが、煙と共に辺りに広がる。


セシルは少し思案すると、言い放った。
「どうするも何もない。この状況で生存者を確実に助けるためには、危険を全て排除するしかないだろう。」
「だな。それしかねぇな。」
「ヴァリアーの魔法がいつまでもつかも分からない。要請を上げて、最寄のギルドから応援を回してもらってくれ。」
「了解しました。」

通信を開始するエリー。・・・だが。

「・・・隊長・・・管制部とリンクできません・・・!」
「何!?」

慌てて管制部とのリンクを試行する。が、まるで何かに妨害されているかのようにリンクが成立しない。
くっ、こんなときに何故!思わず歯噛みするセシル。・・・かくなる上は。

265171:2007/03/01(木) 14:36:39 ID:f0SX/jL60

「・・選択の余地は、ないな。」
「ああ・・トンダ博打だな。」
煙草の火を、使い古された鋼鉄製の長杖に押し当てる。燃え移った炎は灼熱の刃を模した。
杖を振り回し、ずいと前に進み出るダンの頭上から、柔らかい大気の衣が舞い降りる。
体が、まるで羽のように軽く感じた。

「ないよりはマシでしょう?」
立て続けに風を編み、大気の衣をセシルに羽織らせるエリー。
「いや、こいつは上等なプレゼントだぜ、エリー」
「長くは持たないと思います。無理は避けてくださいね。」

「よし、前衛手はダン!エリーは隙を見て障壁に潜入、生存者の確認と負傷者の救護を!」
「了解!!」
自慢の魔法杖を地面に突き立て、魔力を練り上げる。
「私は最大火力のスタンバイに入る。・・・・残らず駆逐するぞ!」
セシルの両掌が圧縮された魔力で歪む。空気中の水分が掌の上で凝固を始めた。


「作戦、開始!」

「Good Luck!!!」

AM10:30、増援の望みも分からぬまま、危険な賭けがスタートした。



「さーて、行きますかぁ!」
自分を鼓舞するように声を張り上げると、一気に崖を踏み切り、ダンはオーガの群れ中央目掛けて飛び降りた。

落下の勢いを利用して、真下にいたオーガの脳天に得物を突き立てる。勢いと、そして
魔法の力を得た杖はさながら槍の如く、敵の鉄兜を貫通し腸まで到達した。
ぐしゃりという臓物の破れる音と共に、嫌な感触が手に残る。

オーガ達は、空からの来襲者を見るや否や、猛然と襲い掛かった。黒色の波が四方八方から
ダン目掛けて押し寄せる。

ダンは、得物を屍から力任せに引き抜くと、魔物の密度が最も薄い点目掛けて鋭く飛び込んだ。

・・エリー、相変わらずいい仕事だ。体が軽いぜ!・・

目の前で図太い棍棒を振り上げるオーガを袈裟懸けに打ち据え、一投足にて魔物の集団をかいくぐると、
得物を地面に突き刺し、立ち上る"火種"に両手を突っ込む。引き抜いた両手指にはコインほどの大きさの
火球が燈っていた。全ての指に炎が燈り、ちょうど燭台のようにも見える。

「火傷程度じゃ済まねぇぞ!」

迫り来る魔物目掛けて火球を勢いよく投げつける。高速で飛び出す炎のつぶてが、オーガの分厚い胸板を
撃ちぬいた。手当たり次第につぶてを投げつけ、迫るオーガを撃ち抜いていく。が、オーガは一向に
怯む気配も見せず、猛然と襲い掛かってくる。

「くそっ、指10本じゃたりねぇっての」

手足の運びも軽やかに群れの間をスルリとすり抜け、洞窟から離れるように移動する。
頭上はるか高くから打ち下ろされる致命的な一撃の嵐を見事な体裁きで流すと、逆袈裟に眼前の魔物の
股間を強打する。悶絶して倒れこむオーガを一瞥し、大きく息を吸い込むと、一気に息を
噴出した。呼吸に乗せた魔力に煙草の火が引火し、火吹き竜さながらの炎の帯が放射される。
炎の帯は辺り一帯を焼き尽くすが、倒れた巨体はまだほんの一握り、
見渡す限り、暗褐色の肌と生臭い吐息が広がっている。再び襲い掛かる凶悪な暴力を
いなしながら、ダンはチラリと崖上を見やった。

移動を開始したエリー、そして、セシルの両掌の上で、今にも破裂せんばかりとなっている巨大な水の塊が目に入る。

「仕込みは上々だな・・!」

266171:2007/03/01(木) 14:37:46 ID:f0SX/jL60
「こちらもいけるぞ、ダン・・!」

チラリと横目で、エリーが走っていく姿を目で追うと、掌でしぶきを上げる巨大な水の塊を
二つに分け、一つを杖にかざした。杖のオーブが塊を一瞬で吸収し、激しく輝き出す。オーブの
放つ波動で、あたりがかすかに震えだした。

「SET」


来る!

股間を押さえつつ起き上がろうとする哀れなオーガの首を炎の刃で焼ききると、その巨躯を踏み台に
飛び上がり、魔力を一気に開放した。超重力のフィールドを展開され、一所に密集しすぎた
オーガの群れが、ダンにひれ伏すように、地面に押し込められ、折り重なる。

「READY!」


その様子を確認し、光り輝くオーブにそっと手を当てると、セシルは一気に魔力の波動を流し込んだ。

「F. I. R. E.」

鈍く、恐ろしく大きく響く轟音と共に、オーブから巨大な水球が勢いよく発射される。発射時のあまりの衝撃に後ろによろめくセシル。
巨大な水の塊はしぶきを上げながらオーガの群れに着弾し、強烈な衝撃波とともに爆散した。
寸前でフィールドを解き、自らの周囲に大気の障壁を形成するダン。衝撃波の勢いを得た水の塊は鋭利な刃物のように、
飛び散り、周囲の魔物を細切れに切り裂いた。押しつぶされ、弾き飛ばされ、切り裂かれたオーガの屍と、恐怖と怨嗟に色変わり
した咆哮が辺りを埋め尽くした。事なきを得た群れの残党が浮き足立つ。

必勝の一撃は開幕直後よりも、動きの流れが出来始めた中盤以降、突如叩き込んだほうがより効果的だ。
危険は伴うが、相手へ与えられるダメージはより大きくなる。

エリーが障壁に近づくのを横目で確認し、完全に色を失い混乱する群れに次の一撃を打ち込むべく、"砲撃"の準備に移る。

・・いけるか・・・!

駆逐は順調、このまま火力で押し切れると、微かに作戦の成功を思うセシル。だが。





まだ3人は、影に蠢く邪悪な何かに、気づかない。


続く。

267姫々:2007/03/01(木) 14:38:02 ID:Cc.1o8yw0
またちょっとだけ時間が出来たので導入部だけ書いたのを載せてみようと
思います。ちょっとづつ忙しさもましになってきたので来週くらいからは、
ちょっとづつ書けるかな?という感じです。では、時間もそれほど無いので
早速。>>249-252から続きます。

「さて・・・、なんとか旅館が開いていて助かったわけなのですが・・・。」
「だねー」
太陽がやっと顔を出しはじめた早朝、私たちは旅館の中にいた。
ここはオアシス都市アリアン、広大なオアシスを中心にレンガ造りの建物が立ち並んでいる。
オアシスがあり交易路の途中にある都市と言う事もあり、商業が盛んで古都の次に
冒険者が集まる都市でもあった。
「では、忘れないうちにこれを渡しておきますね。」
そう言い、何かを渡してくる。その手には一枚の布。
「これって・・・何?」
「チャドルと言うものですよ、砂漠で外に出るときは着てください。
 日焼けはお肌の大敵ですので」
「うーん・・・、でもこれ物凄く暑そうじゃない・・・?」
「わがままはダメですよ」
ピシッと言われる。最近主従関係が逆になりつつあるのは私だけだろうか・・・。
「はいはい・・・、リリィも偉くなったんだねー・・・」
渋々ながら受け取るが、こうなたら皮肉の一つも言ってやりたくなる。
「ふふ、教育係のあるべき姿ですよ」
と、私の皮肉は笑顔で流された。私としては思い出したくなかったが、リリィの本業は
ウィザードとかではなく、こっちの方だったのだった。
「さて、問題は二着しかないわけですが・・・、仕方ありません、今から調達してきますので、
 こちらはセラに渡しておきますね」
そう言い、リリィがセラにチャドルを手渡そうとする。
「あ、私は必要ないですよー」
が、セラはやんわりと断っていた。
「え?いやしかし・・・。」
「ふふふー、遊牧民族を甘く見ちゃダメですよー」
いつものようにふわふわと笑って言う。というかいつの間にか服装が変わっている。
いや、ただ単にいつもの服装の上に、フード付きのマントみたいな服を着ているだけだが。
「これで前のボタンを留めて、フードを被れば完璧ですー」
そうボタンを留めつつ言っている。
「なるほど・・・、流石はロマと言ったところですか。」
リリィは感心しているが、ここで着る必要はあったのだろうか・・・。
私としてはつい口に出してしまいそうになるが、ぐっと言葉を飲み込む。
(いい加減慣れよう。うん、そうしよう)
と、第一目標をそれに定める事にした。そして私がそんな葛藤をしている間も、
リリィとセラは二人、ロマの服装について話していた。

268姫々:2007/03/01(木) 14:39:43 ID:Cc.1o8yw0
「場所を選ばないので便利なんですけどねー、やっぱり暑いんでよー・・・。」
「でしょうね。その服は通気性はあまりよくなさそうです。」
「でもー、そんな時はスウェルファーにー・・・あれ?」
と、セラが周りをきょろきょろし始める。何か探し物のようだが、私には何か分からない。
「セラ、どうしたのー?」
私が訪ねてみても、「おかしーなー・・・」と、周りをきょろきょろし続けている。
そして、一通り部屋の中を見回したかと思うと、私の方を見てこう言うのだった。
「うーん・・・、スウェルファーがいなくなっちゃったんです。この街に来た時は
 いたんですけど・・・」
「スウェルファー?」
始めて聞く名前だ。まぁ召喚獣ということは分かるけれど。
「ほらー。私の周りを飛んでるお魚さんですよー」
あの丸くてフワフワとセラの周りを浮かんでた魚か・・・と私は頭に思い描く。
「まあ・・・そのうち戻ってくると思いますよー」
笑って言う。あれ・・・?精霊と言えば・・・
「ねえねえ、そういえばスピカは?この2,3日見てないけど・・・」
「あら・・・、そういえばそうですね・・・。」
ブリッジヘッドへ行く日から、私たちは星の精スピカの姿を見ていない。
その星の精霊の事を今思い出した
『はいは〜い・・・、私はここですよー・・・』
と、元気の無い声がリリィの鞄の中から響き、ヒョコリとスピカが顔を出す。
「もー、心配してたんだよー?今まで何してたのー?」
『今思い出したくせに・・・。いやねー・・・、私って女王様から魔力供給のラインで
 繋がってるって話したっけ?』
「うん、この前リリィが言ってた」
セラに会う前、リリィが魔力供給のラインがどうとか言っていたのを私は思い出す。
『でもラインを伸ばしすぎてるせいで、女王様の魔力は私をこの星に存続させる分しか
 届かないの。だから私が活動するためには自力でこの星の魔力を集めるしかないわけ。
 ここまでは分かる?』
「うん、その位なら分かるよー」
つまりはスピカは今は存在するためと、活動するための2本の魔力供給のラインを
持ってるわけだ。
『で、問題はそこから。この星って空気中の魔力がそんなに濃く無いからラインを
 繋げれる場所ってのは制限されるわけなの。で、最初は何処かの塔にラインを繋げて
 その塔から魔力を貰ってたんだけどねー・・・。』
「「ねー・・・。」って言われても・・・。何かあったの?」
私が尋ねてみると、はぁ・・・、とため息をついて言う。
『いやー・・・、その塔でなんかあったっぽくてさ、魔力の供給が止まっちゃったんだよねー・・・、
 だからリリィの鞄の中で使えそうなラインが無いかずっと捜してたってわけ。』
「ラインってそんな簡単に見つかるもんなの?」
『うーん、まあ割りとね。あの塔が一番よかったんだけどねー・・・、今はその近くに結構な
 魔力を持ってる町を見つけたからそこに繋いでるんだよね。』
成り行きは分かった。けどもそうなると、私としては言っておきたい事があるわけで。
「へー・・・。で?」
『反応悪いなー。「で?」って何よー』
この精霊は分かっていないらしい、昨日港町と古都であった事を話してやろう・・・。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・

269姫々:2007/03/01(木) 14:40:29 ID:Cc.1o8yw0
「―――って、わけ。どれだけ大変だったと思ってんのよーっ!」
何か話してる間に腹が立ってきた・・・。危険に対する探知能力だけなら誰にも負けないとか
お母様は言ってたけど肝心な時にいないんじゃ意味が無い。
『あー・・・。あはは・・・、ごめんねー、ルゥちゃん。私もライン探してる間は眠ってるような
 もんなんだよねー、まあ街なら簡単にどうにかなる物でもないしさ。今後はこんな事無いよ。
 ・・・・多分』
「不安だなぁ・・・」
つい声に出してしまう。まあ事実今後が心配なのだけれども。
『ごめんねー。今度何かあげるから』
「はいはい・・・。」
このノリの軽い精霊に期待するだけ無駄な気がして、私は適当に返事を返してしまう。
『むっ、信用して無いなー?みてなさいよーっ?』
リリィは苦笑いを浮かべつつ、こちらの様子を見ている。セラはと言うと、他の召喚獣と
戯れていた。そしてそんなやり取りが終わったところを見計らって、リリィが口を開く。
「ではまだ外も暗いですし、お疲れでしょうから二人は少し休んでおいてください。」
「リリィはー?」
鞄を持って、チャドルを纏っている辺り、何処かへ出かけるというのは分かるけど、
一応訊いてみる。
「私は少し街の様子を把握してきます。あ、そうだセラ、お願いがあるのですが・・・」
「はい?私にですか?」
召喚獣と戯れていたセラがリリィのほうを向いて言う。
「ええ、召喚獣を1匹貸していただきたいのです。緊急時には召喚獣を通して私に
 知らせていただきたいので。」
そうリリィが言うと、セラは「なるほどー」と頷いている。
「そう言うことなら喜んでー。じゃあー・・・、ケルビー行ってきてくれないかな?」
《−−− −・−》
と、また私には分からない言葉でのやり取りの後、リリィとケルビーは宿を出ていった。
「じゃ、私はもう一回寝るねー・・・。セラはどうするの?」
「わたしも一休みさせてもらいますー。」
私がベッドに寝ころんでから尋ねると、セラもそう言いベッドに横になる。
「うーん・・・あの子に枕になってもらうと気持ちいいんですけどねー・・・」
と、セラはまた何か言っていたが私は聞かなかった事にしておいた。

270171:2007/03/01(木) 14:48:04 ID:f0SX/jL60
途中、洞窟とか出てますが、障壁の間違いっす・・

下書き部分が残ったままだったorz

今回は、

・ファイアボール=ショットガン
・フレイムストーム=火炎放射器
・ウォーターキャノン=主砲級の火力

というイメージにしてます。


>ドギーマンさん


歌姫の歌・・・リトルウィッチですかね、レストランで歌手とは何とロマンティックな。
ところで、フィッシュエッグって、どんな料理なんでしょう?キニナル

271姫々:2007/03/01(木) 15:17:05 ID:Cc.1o8yw0
うーん・・・、必要部分での主語の欠落・・・、誤字脱字・・・、やっぱり
私は最低3回くらいは見直さないとダメっぽいですね。
さて、砂漠編開始です。今回はスピカが久し振りにいっぱい喋ってます。
でも今回は正直それだけな気がします。
個人的な課題はここで出す職のキャラとあのクロマティガードの
やたらと長い台詞をどうまとめるかかなあとか。まあ頑張ってみます。

>>ドギーマンさん
ブルームビストロの料理は食べてみたいなーとか思うことが多々あります。
シュトラセラトの次はどこに行くのか楽しみにしてますね。


>>171さん
特に台詞外の表現がほんとに上手と思います。私も頑張ってその辺り
の表現が上手になれるように努力していきます。
あと戦闘描写も私もどこかで書く事があれば参考にさせていただきます。
次回も期待してますね。

272名無しさん:2007/03/01(木) 21:01:10 ID:j2X4P.9o0
>171さん
何か凄くドキドキします。緊張の連続というのがまさに当てはまる。
戦闘についてを熟知してないと書けない内容ですね。
何気なく使っている魔法やスキルも一般人の目から見ればとてつもない事のように思えます。
ヴァリアーさんたちは無事なのか、邪悪な何かとは何なのか。続き待ってます!

>姫々さん
チャドルって最近セスナの道を探検した時に売っていて、その時に初めて見ました。
装備者が女性限定となりつつネクロだけ除外されてて何でだろう、と思った記憶が…。
スピカの事が上手くまとめられていつつ今後行く予定のスウェブタワー(じゃなかったら申し訳ないですが)の伏線にまでしていて凄いです。
ところで私もメインクエのクロマティガードあたりの話は完璧に忘れてる…orz

273ドギーマン:2007/03/02(金) 08:53:28 ID:Df0BVMic0
『Devil』
>>231-234

マイスはその日の狩りの成果を換金し終え、道を急いでいた。
古都を照らす日は西の果てにその身を沈め始めて朱色に染まり、人々の影を石畳の上に引き伸ばした。
騒がしい子供の姿は消え、賑やかな仕事帰りの大人たちが街をうろつき始める。
露店は店を閉じ始め、馬車も通れないほど窮屈だった路地は広く歩きやすくなった。
少し急がなければならなかった。自然と歩幅が広がり歩みも速くなる。
マイスは角を曲がって早くも酒場へと吸い込まれていく人々を尻目に歩いていた。
人を避けて歩いていると、そこに突然横から声をかけられた。
「マイスさん」
マイスは通り過ぎてしまってから声のしたほうに慌てて振り向くと、
後ろから黒いボンテージ姿の女が歩いて追いついてきた。
夕日はほとんど沈み、勝手に灯った街燈の輝きが二人を照らしていた。
黒光りするボンテージは女の肌にぴったりと張り付いてその肌の白さを際立たせ、
その柔らかな感触を想像させるように少し食い込んでいる。
端整な顔立ちの女はマイスの前で立ち止まって紅い唇を少し引き伸ばして妖しい笑みを浮かべると、
二の腕まである黒い手袋に覆われた腕を組んで胸を強調するように持ち上げた。
道行く男達が女の姿ににやけ面を浮かべて通り過ぎていく。通り過ぎた後も振り向いてにやにやして眺めている。
その目はこう語りかけている「にーちゃん、やったな」
女の姿に驚いてマイスは何も言えなかった。そして目のやり場に困って視線をさ迷わせた。
女はその様子をさも面白そうに眺めて、唇を動かした。
「こんばんは、三日振りね」
マイスはその言葉を聞いてようやく目の焦点が女の顔に合った。
女の切れ長の眼と目線が合うと、女はマイスを待つようにただ妖艶な雰囲気を漂わせて立っていた。
全く覚えが無い。三日前といえばつい最近のことだが、どう考えても初対面にしか思えない。
だが、さっき確かに自分の名前を呼んだ。
「えっと・・・・」
困惑するマイスがようやく口を開くと、女は足を踏み出して身体をマイスに近づけた。
女の胸の上で暗黒を象徴する装飾が小さくあしらわれた黒い逆十字架のロザリオが揺れた。
「ねえ、そこの酒場にいかない?やっと会えたんだからあの時のお礼をさせて。もちろん奢るわ」
女は早口にそう言ってマイスの左腕に抱きついて引っ張った。柔らかな胸の感触が腕に張り付く。
赤い女の髪からいい匂いが漂ってきて鼻腔の奥をくすぐった。
マイスは心が揺らいで足が浮きかけたが、なんとか踏みとどまった。
「ちょっと、待ってくれ!」
マイスは女を制止した。女はマイスの手を掴んだまま離さないが、振り払うわけにもいかなかった。
振り向いた女は驚いた表情をマイスに向けた。まるで予想外だとでもいうような。
目の前の女には何か男の理性を惑わす不思議な力があるように思えた。
単に肉体的に魅力的なだけでなく、何か別の力が引き寄せようとしているかのようだった。
だがマイスはその力に耐えて冷静に女に向かって言った。
「お礼だって?悪いんだが俺は君と以前に会った覚えはない。人違いじゃないか?」
女は少し悲しそうな顔を小さく左右に振った。
「いいえ、あなたのことを間違えたりなんて絶対にないわ。
 あなたは覚えてないかもしれないけれど、あなたは私を助けてくれた」
そう言われてマイスは頭が混乱してきた。
「助けた、だって?」
本当に身に覚えが無い。こんな派手な格好の美女を助けたなら、絶対に覚えているはずだ。
「ねえ、もう立ち話はいいでしょ?」
そう言って女の黒い手が引っ張るが、マイスは動こうとしなかった。
マイスの脳裏には目の前の女とは別に金髪の女のいつもの怒る表情がよぎっていた。
「悪いんだが、また今度にしてくれないか。待たせている人が居るんだ」
女は残念そうな表情で顔を少し下に向けると、手を離した。
「そう・・」
「すまない」
謝るマイスにエムルはいいのよと言った。
「私の名前はエムル。また会いましょう」
そう言ってエムルは一人で酒場のほうへ歩いていった。
見送るマイスに見せ付けるように尻を隠す腰布を左右に揺らして、エムルは酒場の小さな扉を左右に開いた。
「にぃちゃん、惜しいことしたなぁ」
マイスが振り向くと年老いた乞食が路上に座ってマイスの顔にひゃひゃひゃと下卑た笑いをおくった。
マイスは目が合った乞食に目線で頷くと、小銭を乞食の前に置かれた汚ない皿に放り込んだ。
「ありがとよ!」という乞食の言葉を背中に浴びてマイスは微笑んだ。
そして辺りがすっかり暗くなったていることに今更気づいて走り出した。

274ドギーマン:2007/03/02(金) 08:55:00 ID:Df0BVMic0
マイスが宿に帰ると一階の小さな食堂の奥を女が一人で占拠していた。
約束の人物は待ち合わせの場所には居なかった。
きっとさっさと帰ってしまったのだろうと思いマイスはこの宿に戻ってきたのだ。
一番奥の壁際のテーブルで壁を背に一人腕を組み、足を組んで椅子に座ってその人物は彼を待っていた。
俯いたままの表情は食堂の入り口からは定かではないが、店内の雰囲気は異様だった。
飯時を少し過ぎたとはいえいつもならまだ世間話に花が咲いている時間。
だが店内の常連客は皆静かで酒も入っておらず、その女から離れるように遠くの席に集まっている。
マイスはまずカウンターの向こうの宿の主人と、女から離れてカウンターの席に座っている男に小さく頭を下げた。
宿の主人は軽く手をあげ、カウンターの男も小さく頭を下げて返した。
二人とも同情するような目線をマイスの背中にを送った。
「悪い、遅れた」
そう言ってマイスは背中の大剣を下ろしてテーブルに立てかけると女の前の席に座った。
女は少し俯き加減のまま前に座ったマイスの顔を見上げるように睨んだ。
普段着のように来ている鎧を着替えて白い布の服に身を包んだ女、リズはかなり立腹の様子だった。
顎まである金髪のセミショート、目の上に少しかかった長めの前髪をどけるように首を横に振って顔を上げると、
ルビーのような赤い瞳にマイスの不安そうな顔が赤く映っていた。
リズがバンッと思いきりテーブルを叩くと、それに合わせるように彼女の髪が揺れた。
「話があるって言っておいて、待たせるとはいい度胸じゃない」
「違うんだリズ」
マイスは慌てて弁解しようとした。だがリズは外にまで響きそうな声で怒鳴った。
「何が違うのよ。知ってるでしょ?私はね、待たされるのが嫌いなのよ!」
いきり立つリズをマイスはなだめるように言った。
「聞いてくれ。実は行く途中で人に会って・・」
「・・それで?」
リズは少し声を落ち着けてマイスの言い訳に耳を貸した。
「向こうは俺を覚えてるみたいなんだけど、どうしても思い出せなくて」
「あーあー、あるわねそういうの」
マイスの話が終わらないうちにリズの声が割り込んできた。
「それで話してて遅れたっていうの?どうせ他の女の尻でも眺めてたんじゃないの?」
マイスはエムルの尻を思い出して思わずドキリとした。
そのマイスの分かりやすい反応にリズはむっとした。
「なによそれ、ほんっと呆れたわ!」
「違うんだ、誤解だ」
必死に弁解しようとするマイスの反応は火に油を注いだようだった。
リズは無言で席を立った。
マイスが聞いてくれと言ってリズの顔を見上げると、リズの赤い目の輝きがマイスを石化させた。
「テーブルに聞いてもらったら?」
そう言い残してマイスの脇を通り過ぎると、
リズはカウンターの横にある階段を怒りを表すように一段一段大きな音を立てて二階へあがっていった。
そしてバタン!と二階からドアを激しく叩きつけるように閉じる音が聞こえてきた。
マイスはテーブルに両肘をついて頭を抱えると、はぁぁっと深いため息をついた。

275ドギーマン:2007/03/02(金) 08:57:57 ID:Df0BVMic0
遠巻きに眺めていた常連客たちがマイスにようやく近寄ってきて、口々に声をかけていった。
「まあ、そう落ち込むなよ」
「明日にはリズも機嫌直すさ。うちのカミさんだって・・」
「元気出せって、落ち込んでもしょうがないさ」
「なあ、とりあえず飲めって。まだメシ食ってないんだろ?」
だが、そこで誰かが言った。
「なあ、ところで何の用事でリズを待たせてたんだ?」
この一言で皆の興味はそっちに移っていった。
「ああ、そうだ。なんか言ってたな。何だったんだ?」
「教えろよ。なあ」
肩を揺すられているマイスは何も答えずにテーブルに頭を預けていた。
カウンターに座っていたあの男が見るに見かねてマイスを囲む常連客を彼から引き離していった。
「みんな、それぐらいにしてやってくれ」
「イスツールさん・・」
マイスは顔を上げてイスツールと呼んだその男を見上げた。
常連客達は気になって仕方がないようだったが、それでもイスツールの言葉に大人しく従って席に戻っていった。
イスツールはリズがさっきまで座っていた席に座るとマイスの顔を見た。
リズと同じく鎧を脱いでいて、代わりにローブを着込んでいた。
長い黒髪を後ろで束ね、浅黒い肌に厳格そうな顔つきの男。
首元には細いチェーンが輝いている。ローブの中に入っていて見えないが、その先には白銀色のロザリオが輝いている。
ローブ姿でも分かるほどに隆々とした体躯で、マイスよりも戦士向きに見えるがこれでもれっきとした聖職者なのだ。
「マイス」
そこまで言ってイスツールはマイスの背後のほうに居る人々に目をやった。
皆、気になって仕方がない様子でちらちらとこちらを盗み見て、聞き耳を立てているのが分かる。
注意しても仕方ないだろう。ふうっとため息をついてイスツールは続けることにした。
「リズが怒るのはいつもの事だからあまり気にするな。
 明日また話せばいいじゃないか。なんだったら、私が代わりに話してもいい」
マイスはテーブルの上を見つめて答えた。
「いえ、俺の口から言おうと思います・・」
「そうか」
イスツールは短くそう答えた。
いつも頼りにしているイスツールだが、今回ばかりはマイスは彼を頼るわけにはいかなかった。
「俺の口から言わなきゃいけないんです。それにきっと、どの道リズは怒ったと思います」
「・・・・・・」
イスツールは何も言わずに黙っていた。
しばらく二人の間で重苦しい沈黙が続いた。
イスツールはマイスをじっと見つめてその視線は動かない。そして、ようやくマイスは口を開いた。
「実は」
店内の耳はマイスの次の言葉に集中した。

276ドギーマン:2007/03/02(金) 08:58:37 ID:Df0BVMic0
「冒険、やめようと思うんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
店内を重たく静かな空気が包んだ。
イスツールの表情はまったく変わらなかった。
長年冒険を続けてきたベテランには、彼の内面の変化がなんとなく掴めていたのかもしれない。
「怖くなったか」
「はい」
マイスは俯いたまま小さく答えた。
マイスは一度だけ戦闘中に瀕死の重傷を負って死に掛けたことがあった。
背中の心臓のあたりの位置に何かが突き刺さったような傷跡が小さく残っていた。
イスツールの助けによって一命は取り留めたものの、以来そのときの死の恐怖が彼に付きまとった。
生への執着心が強まり傷つくことを恐れ、殺すことを躊躇するようになった。
だが、それでは冒険者としてはやっていけない。相手は人ばかりではないのだ。
なんとかトラウマを克服しようと頑張ってはみたが、どうしても止めのところで踏みとどまってしまう。
そのためにリズやイスツールに迷惑をかけてしまった事もあった。
もう自分は足手まといでしかないと悟ったマイスは、冒険者を引退することを決めたのだった。
だが、
「確かに、リズが怒るだろうな」
イスツールはテーブルに肘を立てて頬杖を付くと、マイスから視線を逸らしてそう言った。
「ええ、あいつを冒険者に誘ったのは俺ですからね。引っ張り込んでおいて勝手に自分だけ引退じゃあ身勝手過ぎますよね」
リズを冒険者にしたのはマイスだった。
グリムトというナクリエマの小さな農村に住む少女の弓の腕に惚れ込んで、マイスがスカウトしたのだった。
マイスの目に狂いはなく、リズはめきめきと腕を上げて今ではかなりの実力になっていた。
だがマイスの方はというと、一流と言われた剣の腕も今では見る影も無い。
いつしかリズとの立場は逆転してしまっていた。
「怒るだけじゃないだろう」
イスツールの言葉にマイスは答えられなかった。
「君が引退するとなれば、彼女はどう思うかな」
「だから、俺の口から言わなきゃいけないんです」
今度はイスツールが黙る番だった。マイスの決意は固かった。
二人の重い雰囲気に聞き耳を立てていた店の常連客達も黙っていた。
賑やかなはずの時間は静かに、ゆっくりと過ぎていった。

277ドギーマン:2007/03/02(金) 08:59:30 ID:Df0BVMic0
マイスと別れてからエムルは酒場の中で汚い男たちの視線を浴びていた。
露出しているのとほとんど変わらないほどに身体にぴったりと張り付いた黒い薄布に男達の視線が集中する。
挑発するように尻を振って男達の視線の中を通り抜けてカウンターの空いている席に腰掛けると、
長い脚を組んで黒いブーツから伸びるタイツの端と花びらのような形状の黒いスカートから太ももをちらりと覗かせた。
胸をちらちら見ている若いバーテンダーに酒を注文する。
やがて目の前に出されたグラスを取り、その中できらめく琥珀色の液体を揺らす。
エムルはその液体を少し口に含み、その香りを口の中で揺らしながら考えていた。
どうしたらあの人を手に入れられるか。
相変わらず自分をちらちらと見ているバーテンダーに笑みを送ってやる。
バーテンダーは慌てて目を逸らしてグラス磨こうとして、グラスを落として割ってしまった。
カウンターの向こうで狼狽しながら湾曲した硝子片を拾い集める男にエムルは思わず笑いがこみ上げてきた。
クックと閉じた口の奥から堪えきれない笑いがこぼれて来る。
やはり、あの人はこうは簡単にはいかない。
エムルはグラスを持ち上げて、店を薄暗く照らす明かりにかざした。
琥珀色の液体を通して緋色の火の輝きが揺らめいている。
しばらくその美しさを眺めた後、一気に口の中に流し込んだ。
身体の奥に液体が流れていく感覚が走る。奥から焼くように熱い感覚が返ってくる。
自分の肉体の奥の感覚を味わいながら、同時にエムルは自分の中に閉じ込めたもう一つの存在を感じた。
真っ黒な闇の牢獄に閉じ込めたもう一つの自分。
正直それが自分と同一の存在だったとは認めたくない。
だがそれが今の自分を生み出した母であり、いまの彼女の望みは母の望みと同じなのだ。
いや同じではない、それより遥かに強い望みだった。
絶対にマイスを手に入れる。永遠に自分から離れられないようにする。ただそれだけが今の彼女の全てだった。
そのために、今の自分に使える力を試しておきたかった。
エムルが首を後ろに向けると、テーブルのほうから男達がエムルを眺めていた。
彼らの手には小さな紙片が握られており、誰が声をかけるかをカードで決めているようだ。
エムルはバーテンダーにおかわりを注文すると、背後の男達のほうを向いて軽く唇を内にすぼめて開いた。
手を使わない投げキッスに男達のゲームも白熱していった。
カウンターに向き直ったエルムはあまりの可笑しさに笑い声が漏れてしまいそうだった。
本当に馬鹿な人たち。生贄になるためにゲームに勝とうと必死になってる。
だが、ゲームに参加していない人間も居た。
少数ではあったが野次馬に混じるでもなく店内の端のほうで興味なさげに酒を飲んでいる。
どうやら彼女の魔力の影響が及ばない、抵抗を持った人間も居るようだ。
マイスもどうやらそういった実力者の一人だったのだろう。
店内を見渡してそういった連中を一人一人観察してみる。
杖を傍らに置いた裾の長いコートを着ている長髪のなかなかハンサムな男。
剣を腰に差したマイスと同じようなショルダーパッド姿の無精髭を生やした剣士風の男。
槍を抱いたまま酒を飲む女。女も誘惑できるのかは分からないが。
そうして次々と視線を走らせていくとある人物で目がとまった。
あの時の武道家だった。何かに不満があるのか、かなり酔っ払っているようだった。
酒瓶を4本横にして尚も手のグラスに酒を注いでいる。
エムルはじっとその武道家を見ていたが、向こうは酒を飲むことに夢中でこちらに気づいていないようだった。
「よっしゃ、イフリィトとビビッドブラックのダブルだ!」
ゲームのほうで騒がしくなった。どうやら勝負が決まったらしい。
エムルは振り向いて歩み寄ってくる男に顔を向けた。
いかつい体で頭にバンダナを巻いた男だった。シャツからこぼれる筋肉は威圧感がある。
「なあ」
声をかけてきた男にエムルはふっと笑みを浮かべると、
バーテンダーに「彼のおごりね」と言ってグラスに残っていた酒を流し込んだ。
「いいわ、いきましょ」
そう言ってエムルは椅子から立つと男の太い腕に自分の細い腕を回して歩き出した。
男は鼻息を荒くしてカードの対戦相手達に「どうだ!」と空いた腕でガッツポーズを送った。
エムルはそんな事は気にせずにただ前を向いて笑っていた。
その血の色の瞳は狂気の光を宿していた。

それっきりその男を見た者はいない。

278ドギーマン:2007/03/02(金) 09:29:46 ID:Df0BVMic0
あとがき
続きです。
エラーだらけで細かく切っちゃう羽目になりました。
悪魔というキャラクターに私個人が抱いているイメージで書いているので、
前に書いた話に登場させたリムルというキャラと名前だけでなくキャラも結構かぶってくるかも。

ブローチや十字架の模様をカードゲームのネタに使ってみましたが、
ルールとかそんな細かい設定は一切考えておりません。
でも、あっても良さそうですよね。ギャンブル的なカードゲーム。

>>263
昔そうだったという設定に基づいて書いているだけで、
決して昔のRSではそうだったという訳ではありません。
シュトラセラトが実装されたときからブルームビストロの看板はシルバーホエールでした。

>>171さん
キャラクターたちの息の合ったチームプレイが想像できていいですね。
戦闘シーンでの連携っていうのは自分には無かったので面白いです。
フィッシュエッグはですね・・・・NPCからの情報なので想像でしかなありませんが。
数の子とか、イクラとか、キャビア的な何かかな?
歌姫は店内で歌を歌っているNPCをモデルにしましたが、もしかしたらリトルかもしれません。
何度も話してると歌詞が変わるんですよ。

>姫々さん
出番がなかなか無かったスピカが久しぶりの登場ですね。
スピカの今後の活躍にも期待しています。

279名無しさん:2007/03/02(金) 11:55:24 ID:j2X4P.9o0
>ドギーマンさん
おぉ、この話の続きもお待ちしてました。
悪魔というのは私も嫉妬深いけど好きな人には怖いほど一途…みたいなイメージです。
RSは中世が舞台だと漠然ながら個人的にも思っているのでカードゲームはピッタリですよ。
単純にエムルとマイスの話というだけではなく広がってきましたね。

> 昔そうだったという設定に基づいて書いているだけで・・・
これはまたまた失礼しました。リアルな話だったのでつい勘違いを(苦笑)

280171:2007/03/02(金) 12:28:55 ID:f0SX/jL60
>姫々さん

スウェルファーが「丸くてフワフワ」と言われてハッとしました。触ッテミタクナル
リリィが夜の街でどんないけないことをするのか楽シミゲフンゲフン

>ドギーマンさん

あのチビッコが突然ナイスバディに化けたら、そら気づかないという話で、てか
ナイスバディな人を助けたらそら記憶に残るわなと思ってニヤニヤしてしまいました。

orz

悪魔っ娘は果たして幸せになれるのでしょうか・・


あ、あと、何だかいろいろコメントもらって相変わらず恐縮デス

281名無しさん:2007/03/03(土) 09:08:02 ID:0OX18WuUo
>>[DEVIL]
ちみっこエムルに幸せになってほしいな(´・ω・`)

282ドギーマン:2007/03/04(日) 04:11:46 ID:Df0BVMic0
■月●■日
新興王国ビガプール
ついにナクリエマ王国の首都に到着した。
ブルンネンシュティグと双璧を成す大都市である。
さて、私はここで古い友人と出会うことが出来た。
リエンモリとハウマンである。
世界を渡り歩いている私と違って二人は専らナクリエマの、
それもストラウス王家の歴史研究に従事していた。
もう一人友人が居るのだが、現在はビッグアイの士官学校のほうに赴任しているらしい。
久しぶりの再会を祝いつつ、私たちは懐かしい昔話に花を咲かせた。
彼らとはかつて世界正史を纏めようとしていたときに出会った。
そのときは最初は快く参加してくれていたのだが、国の違いからか衝突してしまった。
だが今は違う。彼らとは打ち解け、互いに国家の枠組みに拘らずに歴史の真実を求めて語り合っている。

さて、ビガプールの歴史の話になるが、実はゴドムとナクリエマでは歴史の記録に多少の差異がある。
どちらにしても事実にはさほど影響を与えないのだが、やはり国家の名誉に関わってくる問題のために一筋縄ではいかない。
それはゴドム共和国初代大統領バヘルリ=フォン=シュトラディバリに関するもの。
ゴドム共和国での歴史では、トラウザー=フォン=ストラウスの反乱においてバヘルリが勝利し、
敗れたトラウザーは貴族達と共にビガプールへ逃亡。
神聖王国ナクリエマを建立したとされている。

では、ナクリエマ王国のほうではどうなのか。
バヘルリはシュトラディバリ家の反乱でブルン王国を崩壊させた後、
新たなる国を建立しようとするがトラウザーの反乱によって失敗。
追放された後にブルンネンシュティグに戻ってゴドム共和国を建立する。

お分かりだろうか。
ゴドムではトラウザーの反乱にバヘルリが勝ったとされており、ナクリエマではバヘルリが負けたとされている。
どちらにしても二つの国が出来た事実には変わりがないのだが、どちらが正しいのかは不明だ。
どちらの国も互いの考える歴史を主張し押し付けあっていて一向に纏まる気配がない。
だが私個人の考えとしてはナクリエマ側の歴史を推したい。
その理由としてはナクリエマの太祖トラウザー王の人間性が挙げられる。
一部推測を交えながら説明する。

トラウザーは余り利口な人物では無かったらしい。
彼の生涯は貴族に利用され続けていた。
貴族に不利な国を作ろうとするバヘルリに対抗し、トラウザーがナクリエマ王国を作り上げたと言われているが、
実際は彼が王になる前に国家としての枠組みはバヘルリの手によってほぼ完成されていたのだ。
ただ、バヘルリが立国の宣言をする前に支配者がトラウザーに変わってしまったために、
トラウザーがナクリエマ王国を立てたとされている。
恐らく、バヘルリの反乱からトラウザーの反乱までの間に21年間もの間がある理由はそこにある。
貴族達はバヘルリに大人しく従う振りをして国の基盤を築かせ、
そして国としての基礎が固まったところでトラウザーを祭り上げて反乱を起こした。
バヘルリにしてみれば20年の歳月を懸けて築き上げたものを全て横から奪われた形だ。
トラウザーは貴族達に担がれるままに王になり、そして貴族達の傀儡と化してその生涯を終えた。
トラウザーには元々王国を築き上げるような力も、求心力も無かったのだ。
ただ貴族達が彼に求めたのは王族という血筋と無能さである。
その一方でバヘルリはというとブルンネンシュティグに戻ってゴドム共和国を築きあげた。
20年間の歳月の努力が水泡に帰したときの彼の悔しさは如何ほどのものだったろう。
彼にしてみれば遷都のつもりで豊かな土地を持つビガプールを新たなる国の地に選んだのだと思うが、
それが失敗したために街としての強い基盤が出来ていたブルンネンシュティグを選ぶほかなかったのだろう。
その時には彼に残された時間は僅かしかなかったのだから。
以上が私の考える歴史の真実だ。
これが正しいとは絶対には言い切れないが、トラウザー王が貴族の傀儡となっていたのは事実のようで、
貴族に操られるような人物が国家を築きあげることが出来たとは到底考えられない。

私は再会を祈りながら愛すべき友人であり、共に真実を求める仲間でもある二人と別れた。

283ドギーマン:2007/03/04(日) 04:19:50 ID:Df0BVMic0
あとがき
またまた前スレの>139を参考資料に利用させてもらいました。
リエンモリとハウマンはビガプールの歴史クエのNPCです。
>139の年表を書いた人も一部憶測を交えているのではないかと思われるので、
そのままそれが正しい歴史設定だと信じきることはできませんが、
敢えてゲーム内で得た情報との矛盾点をネタにさせて貰いました。
もちろん私が書いているこの話も憶測を交えているため、
あまり信用しないでください。

284名無しさん:2007/03/04(日) 17:22:31 ID:dNgvWosA0
>ドギーマンさん
推測に乗っ取ってのお話と言うことですが、それを含めてもうひとつの史実が存在するかのようです。
以前に執筆された「Ring」などの内容を踏まえた、ドギーマンさんなりのRS史実といいますか…。
例えRSでは曖昧にされていて真実はどのNPCも語っていないとしても
もうドギーマンさんの想像や推測を含めた歴史として完成されたものがあるように思います。

うーん、上手く言えないですみません。
でも、読み物としてだけで読んでもRSを知る上でも大変面白いと思います。
前スレ>>139の資料とも上手く符合していますし。

285名無しさん:2007/03/05(月) 10:31:24 ID:f0SX/jL60
>ドギーマンさん

史実の裏側を読んでいるようですごく面白いっす。
異なる思想・国家間で歴史の解釈が異なるのは事実どこにでもありますからね。

286ryou:2007/03/05(月) 23:09:45 ID:CMdLinhg0
某氏の小説を久々に読んで思わず自分も書きたくなってしまいました。
初めてなんでつまらないかもしれませんが……。

『とあるギルドの話』

ここはフランデル大陸の中央に位置するナクリエマ共和国。
国土のほとんどが砂漠に覆われているが、豊富な鉱産資源に恵まれ、
なんといっても東西を結ぶ貿易路が貫通していることもあって人の多い賑やかな国である。
その中でも隣国ゴドム共和国に近く、最も活気のある都市アリアンに二人はいた。
様々な肌色の商人が行き交う中、ひときわ目立つ格好をした男女……冒険者のダヴィとレナである。
楽しそうに喋る二人、一見すると仲のいい父娘のように見えるがそうではない。
実は冒険者集団であるギルドのマスターとサブマスターなのである。
背丈は普通だが屈強な体つきのダヴィ、彼は重厚で大きな斧を背負った戦士である。
そして本来は騎馬兵が使う背丈より長い槍をかかえたレナはランサーだ。
しかし彼女はあまりにひ弱で、病人かと思うほど。
あんな長い槍を使いこなせるとは到底思えない。
しかし実はこの彼女がそのギルドのマスターなのだ。
二人はとある小さな酒場に立ち寄り、並んで腰掛けた。
「実はうちにとびきりすごい依頼が来たのよ。」
「マスターとサブマスターだけでの話ってことはよっぽど大事な依頼なんだろうな。
それにしても皆遅いな。まだ来ねぇのか?」
「集合時間はまだでしょ。あなたが早く教えろって急かすからこうして……」
「分かってる分かってる。とにかくその依頼を話してくれ。」
レナは頬を膨らませたが、渋々話し出した。
「実はね、ついに私たちのギルドも紋章を作ることができそうなの。」
「本当かそりゃ?紋章を練成するには相当な金と貴重な素材が必要だろ?」
「ええ。そのための資金と材料はメンバーが少しずつ分け合ってだいぶ集まってきたわ。
そしてもう一つ必要なものがあるの。紋章を具現化させる呪術が記された数百年前の貴重な古文書よ。
今回の依頼はある敵を倒すこと、そしてその敵を倒せばその古文書も手に入るのよ!」
「まさかそんな昔の古文書なんて普通転がってないだろう。一体どんな奴を倒すんだ?
スマグの大ウィザードか?それとも共和国の貴族か?」
ダヴィは呆れて笑ったが、レナの顔は真剣そのもの。それにいつにも増して顔色も悪い。
「いいえ、これから倒しに行くのはネクロマンサーよ。」
カランカラン……鈴の音とともにドアが開く。
酒場に新たに二人の男と一人の少女が入ってきて、ダヴィとレナの元へ寄ってきた。

287ryou:2007/03/05(月) 23:14:27 ID:CMdLinhg0
彼らはギルドのサブマスター達である。
容姿は端麗だが全く手入れの行き届いていないぼさぼさの長髪、
そして曲がりくねった杖を手にした男、ウィザードのシドである。
修道服をはおった大柄な男はザック、主に回復魔法を操るビショップだ。
そしてまだ成人の儀はまだなのだろう、顔にあどけなさを残す少女はソフィ。
その姿に似合わず、恐ろしい魔物たちを操るビーストテイマーである。
「ネクロマンサー?あの可愛い女の子達をどうするつもりですか?」
笑いをこらえながら尋ねるシドにソフィが横目で睨みつける。
一般的にはネクロマンサーとは、怪しげな装束に身を包み、
魂を降ろしたり呪術を駆使する幼い少女たちのことを言う。だが今回は違った。
「いいえ、私が言っているのは辺境の塔を支配する亡者の王のことよ。」
皆の表情が固まる。
ネクロマンサーの少女は、はるか昔に人間とともに暮らし始めた
悪魔の血を受け継いでいるといわれている。
しかし今回のターゲットは純血の、しかも最上級クラスの魔物である。
「塔のネクロマンサーを倒すだって!?本気で言ってるのかお前!」
ダヴィが怒鳴ってテーブルを叩いた。グラスが踊り酒がこぼれる。
「もちろん本気よ。目的の古文書は奴が隠し持っている。
そして奴を倒せばこの地域一帯に広がる魔力も薄れて街は安全になるわ。
自治府が私達のギルドの力を見込んで依頼してくれたのよ。
こんなチャンスもう二度とないわ。」
「そうは言ってもあそこは危険すぎます。命の保障なんてありませんよ。」
怪訝そうな表情を浮かべるシド。
「そうでしょうか?きっと大丈夫ですよ、そんな時のために私がいるんじゃないですか。
しかもネクロマンサーは風と炎の気を操ります。対魔法は私の得意分野なんですよ。」
ザックはにっこりとレナに微笑みかけた。
「そうよ、ザックがいれば絶対安全よ。せっかく沢山のお金や素材を集めたわけだし、
行かない手はないわよ!今まで磨いてきた自慢のスキルを思いっきり使いましょう!」
ソフィはすでに乗り気である。
「そうですね、今まで紋章生成のために苦心してくれたマスターのためにも行くしかないでしょう。
私もいち魔術師として風と火炎魔法のプロである奴と一度戦ってみたかった。
ダヴィも勿論行きますよね?」
黙り込んでいたダヴィもゆっくりと頷いた。
「みんなありがとう!これで決まりね。じゃあ作戦開始は一週間後の午前10時、
集合場所はアリアン南部辺境地帯の名の無い塔入り口よ。全員心して準備してきてね。」
「了解!!!!」

288ryou:2007/03/05(月) 23:16:18 ID:CMdLinhg0
一週間後、五人は名の無い塔の入り口に集まった。
皆普段は使うことのないとびきりの装備を身に着けている。
ソフィは普段のような軽装にいつもと同じ魔物……下等な悪魔の眷属であるゴブリンを連れている。
しかし実は対魔法のための呪術が施された鎧、魔力を高めるための指輪や腕輪、
肩からは魔力を制御する刺青が覗いている。
ザックは戦闘用にオーダーメイドした鎧のような修道服を身に纏い、
武器を持つことを禁じられているはずなのに痛そうなトゲだらけの鈍器を手にしている。
シドはというと身だしなみのいい加減さは相変わらずだが、
足元まで延びる長いコートには魔法を召喚するための経文がびっしりと記され、
また随所に魔力を高める装備を身につけている。
そしてレナは美しくシルエットを描く細い体に密着したプレートアーマー。
そしていつもかかえている鋭く長い槍。スピードと攻撃力を最大まで高めるためだろう。
何よりも独特な格好をしているのがダヴィだった。
いつもの磨き上げられてギラギラと光る斧とは違い、
今日手にしているのは赤黒く血の染み込んだ斧……コスウェールという伝説の逸品だ。
普通は持ち上げることすら不可能なこの斧を彼は軽々と担いでいる。
そして鎧。通常、戦士は肩を守る程度の軽装や全身を覆うプレートアーマーを愛用する。
だが彼が着ているのは強い獣臭さを放つ黒く薄汚れた怪しげな鎧。
「ねぇ、あなたのその鎧、一体何なの?少し臭うんだけど。」
「これはある上級クラスの魔物の鋼皮を使った鎧なんだ。
こいつの魔力を借りないとこの斧は振るうこともできないんでね。」
苦笑いするダヴィ。
「仕方ないわね、とにかく早く最上階まで行きましょう。ザック、探知お願い。」
「わかりました。」
そういいつつザックはしゃがみ込んで祈りを唱え、そして体力増強の加護魔法、
盾のように身を守る加護魔法を慣れた手つきで全員に施した。
「おっと長い移動なら私の魔法も。」
シドは魔力を高める呪文を詠唱する。コートに記された経文がボウッと光りだした。
そして炎の気を武器に纏わせる攻撃補助魔法、風の気を足元に纏わせる移動魔法を全員にかけた。
「これで準備万端ね。」
「じゃあ行きましょうか。ここには魔力を吸って大型化した獣が沢山いるわ。みんな気をつけてね。」
作戦が始まった。
塔の最上階までの道のりは長く、若い冒険者ではたどり着くことは不可能だ。
だが彼等はほとんど獣や魔物と戦うこともなく最上階へと辿り着こうとしていた。
それもそのはず、ザックが最も安全な道を探して案内しているからだ。
驚いたことに彼の背中には一本だけ翼が生えている。
高位のビショップは、まれに神からその力の一部を授かり、不完全ながら天使の姿になれるのだ。
そして彼等は魔力を探知していとも簡単に魔物を見つけ、避けることができる。
「つきました。この扉を開ければ最上階、ネクロマンサーの王室です。」
「ついにここまで来たか。みんな、絶対死ぬんじゃねぇぞ!」
皆の緊張が高まる。そして扉は開かれた。

289ryou:2007/03/06(火) 01:48:33 ID:CMdLinhg0
ゴウッ!!!
轟音とともに炎が襲い来る。ネクロマンサーの近臣達だ。
奴らもネクロマンサーの一族、風の気に炎の気を織り込んでメンバーを焼き尽くそうとする。
しかし対魔法に長けたザックがいるだけあってそう易々とはいかない。
魔法攻撃を軽減する加護魔法が掛けられると同時にメンバー達は一斉に飛び出した。
レナがまず近臣たちをおびき寄せ、分身術を巧みに使って華麗に舞う。
重く長い槍がまるで翼になっているようで、普段のひ弱な彼女とは似ても似つかぬ様相である。
そこへシドがネクロマンサーの苦手な氷結魔法を召喚し、凍りつかせる。
最後はダヴィの分身術による高速の斬撃、ソフィの操る怒り狂ったゴブリン二体の攻撃。
本来魔物の中でも最上級レベルのネクロマンサー一族と
下等な悪魔の眷属であるゴブリンでは格が違いすぎるが、
長い戦いの中で鍛え上げられてきた彼女のゴブリンは近臣達に全く引けをとらない。
「みんな威勢がいいですね。あんまりはしゃぎ過ぎないでくださいよ。」
猛烈な勢いで近臣達を倒す四人にザックが忠告する。
「分かってますよ。でももう近臣どもは始末できましたから大丈夫です。」
流石少数精鋭として名高い彼らだけのことはある。
並の冒険者なら束になってかかっても歯が立たないであろう近臣達をいとも簡単に片付けてしまった。
「さて、きっともうすぐ王が現れるわよ。」
やがて周囲の魔力が急激に濃くなり始めた。王室の中央から煙が湧き出し、床が自然発火を起こす。
「やれやれ……誰だね私の臣下を殺したのは。」
重く響く声とともに現れる塔の主。大きい。桁外れの大きさだ。
強力な魔力の振動でビリビリと皮膚が痺れる。
加護魔法が無ければこの周囲の魔力だけで体を焼かれていたかもしれない。
「ほう、これは驚いた。こいつ喋れるのか。
人間並みの知能を持っているなら、バカな獣しかいねぇここじゃぁさぞ寂しかっただろう。」
ネクロマンサーがダヴィを睨みつける、と同時に炎が巻き起こって彼を包まんとする。
が即座に飛びのきかわすダヴィ。
「冗談のつもりだったが気に障ったかね。図星ってことなら案外寂しがり屋の王様なんだな。」
笑いをこらえるメンバー達。
ネクロマンサーはチッと舌打ちしたかと思うと、強烈な熱風を彼らに撃ちつけた。
ザックが前に出て加護魔法を大きく張り出し、熱風を受け止める。
「奴も乗り気のようです。ここはさっさと片付けてしまいましょう。」
「ええ、勿論よ。回復魔法を頼んだわ!」
一斉に飛び出しネクロマンサーを囲む。
シドが巨大な火球、上級のウィザードが操る究極魔法を召喚し、ネクロマンサーに落下させる。
爆風が吹き荒れ、轟音とともに床が大きくへこんだ。
しかしネクロマンサーは燃え尽きるどころかその衣服さえ焦げていない。
間髪あけずにダヴィが水龍を召喚する。
水龍はとぐろを巻いてネクロマンサーを締め上げ、首元に鋭い牙を突き立てる。
だがネクロマンサーの発した強大な魔力によって引きちぎられ、消えてしまった。
「私に魔法攻撃は効かないのだよ。」
薄っすらと笑みを浮かべるネクロマンサー。
ならばとレナは分身術を使って四方八方から槍をざっくりと深く突き刺す。
ソフィは怒り狂って顔を真っ赤にさせたゴブリン達を差し向ける。
……手応えはあった。
しかしネクロマンサーは気にも留めずに猛烈な炎を幾度となく吹き掛ける。
あまりの高熱に、ソフィの身に着けている衣服が焼け落ち、白い柔肌がむき出しになる。
泣き崩れる彼女をとっさにかばうザック。
「うぅ、ごめんなさい、ありがとう。」
「いいから早く後ろへ下がって。攻撃はゴブリンたちに任せましょう。」
「なんて勢い……どこからこんな魔力が沸いてくるんでしょうか。」
シドも氷結魔法を使って自分の身を守ることで精一杯だ。
「知りたいかね、なら教えてやる。ここら一帯は元々魔力の強い地域だ。
そしてこの塔はその魔力を精製・濃縮し、この最上階まで運んでくれるのさ。
私を倒せばここらの魔力が薄まると思っていただろうがそれは違うのだよ。
勿論すでに亡き者である私が死ぬこともないがな。」
「まさか……死なないですって!?ならあの依頼はなぜ……くっ!」
レナがあまりの熱さに顔をゆがめる。
「金属製の鎧は私の炎をよく通す。このままでは大事な肌が焼けただれてしまうぞ?」
だがレナは攻撃をやめようとしない。
回復魔法によって必死に炎に耐えながら、龍の心臓を握り潰し、
精神力を最大まで高めるその血をあおり、何度も何度も槍を突き刺した。

290名無しさん:2007/03/06(火) 07:12:04 ID:kN5pct/k0
>ryouさん
古文書は私も欲しくてどの敵が落とすのか調べているうちに嫌になりましたorz
こうしたギルドメンバー同士での戦闘、Gv非Gv問わずは読んでいてワクワクします。
装備品の描写や魔法・スキルについてもちゃんと書かれていて分かりやすいです。
「金属製の鎧は私の炎をよく通す。」などは小説でなければ気が付かない点ですよね。
続きを期待してます。

291名無しさん:2007/03/06(火) 10:47:17 ID:f0SX/jL60
>ryouさん

「金属製の鎧は私の炎をよく通す。」・・・たしかに!!これは早速オマージュ(ry

ビショップが元天使ではなく、不完全ながら天使の力を授かれるというのは素敵な発想ですね。
面白い発想が随所に出ていて、続きが楽しみです。

292ryou:2007/03/06(火) 16:20:17 ID:CMdLinhg0
>>290
>>291
お褒め頂きどうもありがとうございます<(_ _)>
情景描写などはくどくならないか不安になりつつ書きました。
ファミ→ゴブリン、リッチ→ネクロなど一部名前を変えていますが
ご了承くださいませ。

293ryou:2007/03/06(火) 16:22:47 ID:CMdLinhg0
「今から最大出力で氷結魔法を奴に召喚します、長くは持ちません。
ダヴィ、その隙にもう一度水龍を召喚してください、
龍の心臓を使って出来る限り沢山の数を!さぁ早く!!」
シドは詠唱によって最大限の魔力を手元で濃縮させる。
辺りに立ち込める熱気がさっと吹き飛び、空中の水蒸気が凍りついてキラキラと光る。
しかし、ダヴィはなぜか動かない。その拳はかすかに震えている。
「駄目なんだよ……そんなことじゃぁ……」
「どういうことですか!?急いでください、もうマスターも、ソフィのゴブリンも限界です!」
「奴の負の魔力は無尽蔵に湧き上がるんだ。この程度の正の魔力じゃ打ち勝てない。
奴を倒すには……いや、俺にはできねぇ!!」
「あなたなら出来るわ。あの時みたいに。」
「レナ、お前まだ憶えていたのか!?」
はっと振り返るダヴィ。
「勿論よ。あんなこと忘れられるはずがないわ。あの日からあなたはマスターを辞めた。
ギルド模擬戦争にも出なくなった。愛剣を替えたのもその頃だったかしら。」
「もう犠牲は出したくない。」
「一体何の話ですか、私がここに入る前のことでしょうか?」
皆の視線がダヴィに集まる。
ダヴィはかつて起こった出来事を話し始めた。
「俺はかつてこのギルドのマスターを務めていた。
ある日ギルド紋章練成の話が持ち上がった。
情報を集めるうち、この塔のネクロマンサーを倒せば紋章練成への重要な手がかりを掴めると聞いた。
そして俺とレナを含む当時の主力メンバーでネクロマンサー討伐へ向かったんだ。
だが作戦は難航した。強力な近臣どもにも手を焼き、
ネクロマンサーが出現した瞬間に俺達は返り討ちに遭った。
物陰に逃げ込んで退避のための策を練っていたとき、俺の愛剣が突然震えだしたんだ。
当時使っていた武器、それはガイスターストック。
かつて百年以上罪人を処刑してきた怨念の結晶のような大剣だ。
それがこの塔の魔力に同調して強力な魔力を発し始めたんだ。
俺は閃いた。これなら奴らを根こそぎ倒せるんじゃないかと。
強力な負の魔力を発するこの剣なら、亡き者である奴らでもぶった斬れると。
俺は皆の制止を振り切って一人で奴らに立ち向かった。
思ったとおり、普通の魔法や物理攻撃じゃ死ななかった奴らを、
いとも簡単に斬り捨てることができた。
だがネクロマンサーと対峙したとき、ガイスターが暴れだした。
俺の制御を無視して繰り出される強力な斬撃は、ネクロマンサーに致命傷を与えられた。
しかし周りの柱、床、全てをズタズタに引き裂き……一人の大切な仲間をも失ってしまったんだ。
結局ネクロマンサーを倒すことなく、残った俺達は命からがら逃げ帰った。
この後、レナ以外の仲間達は皆他へと移ってしまった。
俺はマスターをレナに譲り、ガイスターも封印した。」
メンバー達は炎の届かない物陰へと一度退避し、ダヴィの話に聞き入った。
「まさか昔そんなことがあったとは。だからあの時あなたは反対したんですね。」
皆に治癒魔法を施しながらザックが呟く。
「近臣どもに手をこまねいてそのまま逃げ帰ることになると思って了承したんだ。
それが結局王様まで出てくることになるとはな……」
「みんなの力を舐めちゃ駄目よ。それにあなただってこんなとびきりの装備まで着ているじゃない。」
「いや……これはちょっと違うんだよ。」
王座からネクロマンサーが叫ぶ。
「用が済んだならとっとと逃げ帰るがいい。私は貴様らのような雑魚には飽き飽きしてるんでね。」
「ちっ、お喋りな王様ね。いくら寂しがり屋さんでもあんな高慢な奴は嫌よ。」
「ダヴィ、あなたにどんな秘密があるか知りませんが、私達を舐めてもらっちゃぁ困りますね。
これでもこのギルドの精鋭同士でしょう?そう簡単には倒れませんよ。
出来ることなら私達にもあなたの本気の力を見せていただきたいですね。
そのもう一本の剣を使って。」
ダヴィの大きな袋の中から引っ張り出されたもう一本の大剣、
だがそれは呪文の記された布と強固な鎖でがっちりと固められている。
「封印はしたものの、結局手離せなくてな。今日も持ってきちまった。」
照れくさそうに笑うダヴィ。だがすぐに真剣な顔つきに戻る。
「よし決めたぜ、今からあの時のリベンジをしてやる。
みんな、手助けはいらねぇ、とにかく自分の身を守ってくれ。」
「了解!!!!」

294ドギーマン:2007/03/06(火) 17:56:07 ID:yvbhphlM0
食事を終えて二階へ上がっていくマイスを見送ったイスツールは、カウンターで店主と向き合って座った。
静まり返った店内には人の姿は彼ら二人だけで表には"閉店"の表札が返されており、常連客は皆帰ってしまった。
店主はイスツールのためにアウグスタ産の赤いワインを陶製のコップになみなみと注いで出した。
聖職者である彼に唯一飲むことが許された酒だ。
酒とはいっても酔うことなど出来ない。ほとんどジュースに近い代物。
少し口を付けて喉を潤すとイスツールは口を開いた。
「すまないな」
「いいさ、俺たちの仲だろう」
渋い髭面の店主は食器を拭きながら答えた。
「いや、店の雰囲気をうちの若いのが壊してしまったことだ」
その日は何一つ盛り上がる事無くずっと静かに時間だけが過ぎていた。
「気にするな。いつもうるさ過ぎるくらいだからな。こういう日があったっていいさ」
イスツールは「違いない」と笑って陶器の中で黒くなっている赤い液体の芳醇な香りを楽しんだ。
静かに過ぎていく時間の中で、カシャカシャと食器を動かす音だけが響いた。
店主は何か思うところがあったのか、カシャンと皿を積むと手を止めた。
「引退か・・」
店主が呟くように言った言葉にイスツールはちらりと店主の顔を見上げた。
「仕方あるまい。一度心に負った恐怖はそう簡単には取り去ることは出来ないからな」
イスツールはコップに眼を戻した。その中の液体は表面に反射した白い光を張り付かせて揺れている。
「いや・・」
店主は小さな声で否定すると、イスツールの眼をじっと見た。
「お前の話だ」
その言葉にイスツールの身体はぴくりと揺れて固まった。
調理台のうえに手をついて店主は続けていった。
「お前ももういい歳だ。いい加減引退を考えたらどうだ?」
「老体をいたわってくれてるのか。坊主」
店主はふっと笑うと食器を再び拭き始めた。
「まだまだ現役か」
「当たり前だ。あと20年はいける」
「20年前も同じことを聞いたな」
そう言って20年前から全く姿の変わらない友人に笑みを浮かべると、
店主は店内の壁に飾りのように掛けてある剣を懐かしそうに眺めた。
捲り上げた店主の左袖からは刀傷痕が手首まで伸びていた。
「マイスは、あいつは自信ばかりで自分の力量にすら気づけなかった愚かな私とは違う。
 素晴らしい剣の腕があるし、それにまだまだ若い。なんとかなるだろう」
そう言って左腕の傷跡を撫でた。自身の力量をわきまえずパーリングダガーを装備したために負った傷だ。
左腕に装着する補助的な役割をするその短剣を扱うには敵の攻撃を受け流す特殊な技術が必要で、
通常の盾に慣れきった者が装備するとこうなってしまう。
リハビリで軽い物なら持ち上げられるようになったが、もう戦うことは出来ない。
「お前とマイスとでは状況がまるで違う」
イスツールは店主に言い聞かせるように言った。
長い間色んな冒険者と時間を共にしてきた彼にはマイスはもう立ち直れない部類に入っていた。
「そうだが・・・だが、リズがかわいそうだとは思わないのか。だってあいつは彼女のために・・」
「リズも、とっくに気づいているはずだ」
そう言ってコップを空にしてカウンターの上に置いた。
「マイスをずっと避けているようだが、どうせ時間の問題だろう」
「本当に、もう無理なのか」
イスツールはカウンターに目を向けたまま何も答えなかった。
店主はイスツールの前の陶製のコップを取り上げると、答えを待つようにゆっくりと洗い始めた。
そして最後の食器を拭き終えると、食器棚に積んだ食器を入れ始めた。
結局イスツールの口はそれ以上何も語らなかった。

295ドギーマン:2007/03/06(火) 17:56:59 ID:yvbhphlM0
リズは小さな自室の寝台の上にうつぶせに横になって本を読んでいた。
彼女の部屋の中には沢山の本が散乱しており、そのどれもがボロボロになるまで読み古されていた。
いまリズが手にしている本はその硬い表紙が何度も開いたためか角は崩れて丸くなっている。
小さな子供のためのおとぎ話の絵本だが、字が読めなかった彼女の勉強のためにマイスが最初に買ってくれた本だった。
リズは指垢に少し汚れたページをめくりながら、マイスが読み聞かせてくれていたときのことを思い出していた。
彼は子供に読み聞かせるのと同じように隣に座って本を膝の上に開き、字を指で追って読んでいた。
それを隣から覗き込むように身を乗り出して夢中になってマイスの指の先に目を走らせていた。
いつも彼女の傍に居て、一番多くのことを教えてくれたのはマイスだった。
イスツールも勉強を教えてくれてはいたが、堅い内容ばかりで彼女にとっては難解でつまらなかった。
リズは仰向けに寝返ると読んでいた本を枕元に置いた。そしてマイスと会ったときのことを思い出した。
ナクリエマが統治する小都市の一つグリムトで彼女は生まれ育った。
都市とは言っても農村と言っていいほど小さな町で、彼女はそこでトランの森の獣を狩って生計を立てていた。
父を幼いうちに事故で亡くし、母は病に倒れて彼女は弓の腕一つでなんとか生活を支えていた。
やがて母も亡くなり、身寄りを全て亡くした彼女の前に偶然現れたのがマイスだった。
マイスは彼女の弓術の腕に惚れ込んで、一緒に来ないかと誘った。
それが彼女が冒険者となったきっかけだった。
幼い内から病弱な母のために全てを懸けてきた彼女には字の読み書きなど全く出来なかった。
小さな頃から学校に行けて、遊んでいられる他の子供達が羨ましかった。
そんな彼女のために、マイスは色んなことを教えてくれた。
それほど歳の離れていないのに学の無い彼女を決して侮蔑することなく、彼は丁寧に教えてくれた。
字の読み書きだけではない。簡単な計算や、都会で生活するための基礎知識。
冒険を通して世界がいかに広いかを、いかに美しいかを教えてくれた。
きっと、あの頃のグリムトの子供達で同じように世界を見れた人は居ないだろう。
リズにとってマイスはいつしか勉強を教えてくれる先生というだけでは無くなっていた。
それはマイスにとっても同じことのはずだった。
仰向けに寝転がってぼうっと天井を眺めていると、コンコンとドアが鳴ってリズはびくりとした。
ドアをじっと見つめると、しばらくしてまた誰かがノックした。きっとマイスだろう。
リズは寝た振りを決め込むことにして何も答えずに静かにしていた。
ドアには鍵がかけてあるので開けられる心配はない。
諦めたのかドアの前の気配は足音を立てて廊下の奥へ去っていった。
彼は私がまだ怒っていると思っているだろうか。
今は怒ったように見せておけばしばらくは口を利かずに済む。そういった打算が彼女にはあった。
もしいま彼を部屋に入れてしまえばきっと引退話を持ち出すであろうことは分かっていた。
ずっと傍にいた彼女にはマイスが弱気になっていることは容易に知れていたのだ。
盾を持たない彼にとって、痛みを恐れて敵に対して踏み込めないということは致命的だった。
マイスをそうしてしまったのは自分だと思い責任を感じていたリズは、
なんとか彼に奮起して貰おうと敢えて彼に対して冷たく当たって居た。
ずっと自分を支えてきてくれた人が小さく見えることに苛立ちを感じていたのもあったが、
それでも彼が立ち直ってくれることはなかった。
今ではリズは何とか口実を見つけてはマイスから逃げるようになっている。
だがリズは諦めた訳ではなかった。数日前にマイスが本気で戦おうとしているように見えたときがあった。
人ごみでよく見えなかったが、マイスが誰かに対して街中で剣を抜こうとしていた。
もしかしたら単なる脅しのつもりだったのかも知れない。
だが彼女には直感的にそれが本気で剣を抜こうとしているように見えていた。
邪魔な人垣を退けてマイスに声をかけたときには、誰か子供のような相手と話していた。
そこで何故かリズは大きな声で怒鳴っていた。相手は男か女かも分からなかったのに何故か。
彼女は読むでもなく枕元に散らばった本の一つに手をつけると、適当なページを開いてみた。
ページには細かく単語の意味が書きこまれていて、ただ眺めるようにページの上に視線を滑らせた。
そして小さな書き込みの中の一語に目が止まった。
"勇気"

296ドギーマン:2007/03/06(火) 17:58:34 ID:yvbhphlM0
割と小奇麗に片付けられた部屋の中でマイスは目を覚ました。
彼は寝台の上で裸体を起き上がらせると、背筋をのばし腕を大きく開いて身体の眠気を覚ました。
そして反射的に身体にかけていたシーツを払いのける。
すると昨日寝る前に読んでいた本が寝台の上からバタンと大きな音を立てて床に落ちた。
数年前に偶然手に入れた、誰が書いたのかも分からない旅行記を拾い上げて枕の上に放る。
マイスは床に足をついて立ち上がるともう一度大きく伸びをした。
服を着るかと思ったとき、椅子の腰掛の上に置かれたショルダーパッドが目に付いた。
マイスはそれから目を逸らしてクローゼットから適当に服を引っ張り出して着込むと、
昨日いつもの習慣で研いでいたテーブルの上の大剣から逃げるように部屋を後にした。
廊下を開け放たれた木窓から差し込んでくる朝の陽気が明るく照らし出していた。
窓の外から覗く街の景観はとても落ち着いていて、千年間変わらないと言われている古い町並みが視界の果てまで広がっている。
いつも通り早起き出来たようだ。廊下の途中でリズの部屋の扉をちらっと眺めた。
リズは朝に強いわけではない。きっとまだ寝ているだろう。
ギッギと鳴る床板を踏みしめて廊下を通り抜け、突き当たりの階段を下りていく。
「おはよう」
1階に着くといつもの様にカウンターの向こうから店主が朝の挨拶をしてきた。
「おはようございます」
マイスは店主に丁寧に返すとカウンターの席に座った。
静かな朝の食堂は明るい外の光に照らされて、二人しか居ないその空間はどこか寂しく冷たい雰囲気があった。
朝食を出す準備をしている店長の前に座ったマイスは、両肘をついて握った両手の上に顎を乗せて待っていた。
「リズならかなり早くに出て行ったよ」
店主の言葉にマイスは視線を上げた。
しわが目立つ主人の顔は下を向いていて、その腕はせわしなく動いている。
マイスは目線を下げると「嫌われちゃいましたかね」と言った。
「だろうな」
カツンと卵の殻を割って油をひいたフライパンの上に透明な卵白がぷるんと揺れた。
「いつまでも下を向いているお前に愛想をつかしたのかもな」
そう言って厚めのベーコンも焼き始めた。
マイスは何も言い返せなかった。
店主はフライ返しで目玉焼きとベーコンをひっくり返すと、そこに塩と胡椒を振った。
「今日は冒険をするには持って来いのいい天気だろう」
そう言って店主はマイスの格好をちらっと見た。
「でも、俺は・・」
「マイス」
店主はそう言って取り出した四角いパンの上にレタスをのせ、焼きあがったベーコンと目玉焼きを積み重ねると、
その上にパンを載せてぎゅっと上から押さえた。
「俺の宿は冒険者だけを泊めている」
作ったサンドイッチを皿に載せて包丁で斜めに二つに割った。
引き抜いた包丁にはとろりと黄色い黄身がこびりついていた。
「俺の作るメシも、冒険者にだけ出している」
そう言うと店主はその皿をマイスの前に置いた。
「お前にはまだその資格がある。だからそれ食ったらさっさと着替えて来い」
マイスは目の前に置かれた朝食を見ると、分かりましたと言って一先ず店主を安心させた。

297ドギーマン:2007/03/06(火) 18:00:29 ID:yvbhphlM0
半ば店主に追い出されるように宿を出て、マイスは大剣を担いで外に出た。
通りは朝から人で溢れ返っていて、マイスは雑踏に埋もれるように街の中を当ても無く歩いた。
街の住人、露店を開いている商人、そして荷物を担いでどこかへ向かう冒険者。
どの人も目的を持って歩いているようで、マイスは今の自分がひどく惨めに思えた。
そこそこの狩場でならなんとかなるが、やはり収入は乏しい。
まだ貯えは残ってはいるものの、それもいずれ尽きる。リズやイスツールを頼るわけにもいかない。
食っていくためにはもっと上の狩場に行く必要があった。だがそれは今の彼には無理に思われた。
他の冒険者と組んでも迷惑をかけるだけなのも目に見えている。
マイスはうろうろと街の通りを彷徨うと、やがて目に付いた水路のふちに座り込んだ。
見下ろした水路の中で浅い水の流れが日差しを反射してきらめいていた。
ぼんやりと暗い様子でいるマイスの背後から誰かが歩み寄ってきた。
「おはよう、マイスさん」
マイスはその艶っぽい声に振り向くべきかどうかしばし迷った。
しかし、返事をしないわけにもいかなかった。
「おはよう、エムルさん」
そう言って振り向いたマイスの視線の先には、予想通り恐ろしく場違いな格好の女が立っていた。
温かい日差しの中の女は一見上半身を完全に露出しているかのように見えた。
だが実際は、炎をかたどった様な飾りが谷間を露にした乳房を隠しており、
そのくびれた腰から下は下腹部まで露出していて昨日よりも長めの腰布が尻を覆い隠してはいたが、
前のほうはかなり短く頼りなげな小さな薄布が隠すのみだった。
その余りにも昼間の街にそぐわない姿には、周囲の人間も呆然と彼女を眺めていた。
彼らと同じような表情でマイスは笑顔を輝かせているエムルを見上げていた。
「名前、覚えていてくれたのね!」
「え、あ・・・ああ」
マイスはぽかんと開けた口の喉の奥からなんとか肯定の言葉を吐き出した。
エムルは彼の様子を気に止めるでもなく、近寄ってきて隣に座り込んだ。
間隔など開けず太ももと肩が密着し、角のように逆立った赤い髪から男を惑わす香りが漂ってくる。
周囲の視線はエムルからマイスのほうに移っていった。
マイスは心なしか身体を少し反対側に傾けて密着した身体を少し離した。
するとまるで逃がすまいとするようにエムルのしなやかな指が小さな白蛇のようにマイスの腕に絡みついた。
「ねえ、暗い顔してたけど何かあったの?」
「いや、大したことじゃないんだ」
ほぼ半裸の身体を密着させてくるエムルの質問にマイスはたどたどしく答えた。
昨日会ったばかりの人物に話すような事ではないと思ったのだ。
エムルの体温が彼女の手を通して腕に伝わってくる。柔らかな手は触れているだけで愛撫してきているかのようだった。
彼女はマイスの言葉の様子に何かを感じ取ったのか詰め寄ってきた。
「お願い話して。言ったでしょ、私はあなたにあの時のお返しがしたいのよ。
 何か悩み事があるのなら相談に乗らせて頂戴」
助けた覚えなど全く無かったが、ぎゅっと腕を掴んで見つめる女にマイスは押し倒されそうなほど傾けた身体を支えながら
「わかったよ。とりあえず場所を変えよう」と慌てて言った。
周囲の好奇の視線が気になって仕方がなかった。

298ドギーマン:2007/03/06(火) 18:01:43 ID:yvbhphlM0
それからしばらく歩いて、わざわざ離れたところにある小さな飲食店に入った。
あの宿の近くでエムルと一緒に居るところを知り合いに見られでもしたら、リズとの関係が余計拗れる恐れがあったからだ。
目立たないところにあった寂れた感じのその店は案の定客など一人も見当たらず、
朝から退屈そうにしていたやる気の無さそうな店主がマイスとエムルを見て慌てて準備を始めた。
二人はその狭い店内の奥の小さなテーブルに向き合って席に着いた。
マイスはお茶だけを注文し、エムルも同じものを頼んだ。
店主は二人の注文に少々顔をしかめていたが、エムルの姿を見ると顔を緩めた。
お茶を淹れながらにやにやとだらしない笑みを浮かべてエムルの胸を凝視し続けていた。
やがて運ばれてきたティーカップに注がれたあまり美味しくも無いお茶を一口飲んで、
マイスはおもむろにエムルにそれまでの経緯を話し始めた。
最初は興味深げに耳を傾けていたエムルだが、リズの名前が出てくるようになると顔をしかめ、
話が終わる頃には水路のふちに座っていたときのマイスのような表情になっていた。
だがマイスは自分のことを話すことに集中していてエムルの様子の変化に気がついていなかった。
やがて話が終わると、エムルは紅い唇を上下に開いた。
「それで」
エムルは目を細めてマイスの顔を睨んだ。
「それで、あなたはそのリズって子のことが好きなのね」
マイスはようやく顔を上げてエムルの目を見た。じっと見つめる彼女の眼は彼には真剣に相談に乗ってくれているように映った。
「ああ、出来れば彼女を傷つけずに引退したい。だけど、無理だろうな」
「そう・・」
エムルはそう言うと手元のティーカップの取っ手をぎゅっと摘まんだ。
そして口元に運んで少し飲み込むと、カチャンと皿の上にカップを戻した。
「引退する必要はないわ」
「え?」
鋭い目のエムルの言葉にマイスは耳を疑った。
エムルはテーブルの上に身を乗り出した。ほとんど露になった胸がテーブルの上に乗った。
「要は痛いのが怖くなったのよね?」
「あ・・ああ、でもどうしても克服できなかったんだ」
彼女の挑発するようなその動作にマイスは少し目を逸らした。
エムルは何か思いついたのか、さっきまでの表情は消えていつもの妖しい笑みを浮かべた。
「いい方法があるわ」
「いい方法?」
マイスに向かってエムルは満面の笑みを浮かべて言った。
「私と契約を交わすのよ」

299ドギーマン:2007/03/06(火) 18:17:19 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234
>>273-277
↑最初に書くの忘れてました。

あとがき
グリムトは未実装エリアで、シュトラセラトの↑のあたりにある街です。
農耕が盛んな場所のようですが、村なのかは不明です。
昔はハノブから道が続いていたそうですが、ナクリエマ独立と同時に道は破壊されたそうです。

鎧じゃないのでってことでエムルのコスチュームも変えてみました。
今回のは何も装備していない初期状態のときの格好です。

>ryouさん
細かで面白い設定が効いていますね。
続きをお待ちしています。

300名無しさん:2007/03/06(火) 18:31:29 ID:3e/NR.12o
>devil
マイス逃げてー!ちみっこエムルが泣いちゃう(ノД`。)
リズもかわいい。不器用なとこがマイスとそっくり、きっと指先は繊細なのに。
あとマスター、こっちにも半熟目玉焼きのサンドイッチ下さい。冒険者専用ですか、そうですか(´・ω・`)

>ryou
>辺りに立ち込める熱気がさっと吹き飛び、空中の水蒸気が凍りついてキラキラと光る。
これで不敵?なシドのファンになりました。
私がネクロならこの大胆な魔道師を真っ先に、、むむ、でも粘着する槍子も邪魔だな、テイマ本隊も打たれ弱そうだし、
訂正、私がネクロなら誰を狙うか迷いました。
前回の鎧といい、熱風や冷気の風を感じさせる表現が活き活きして素敵です。
ガイスターストックの描写が楽しみです。

301A:2007/03/06(火) 18:39:14 ID:FE3apLKw0
皆さんの素敵な小説を見てたら書きたくてどうしようもなくなりました。
ですが、書き方が全く違うのでどうなんだろうな・・と心配しております。
あまり背景描写などはしていないので、酷く分かりにくいと思いますがお付き合い頂けると嬉しいです。

------------------------------------------------------------------

 あぁ、貴方。
 何でそんな事までするの。


 ◆pair


 囲まれた。
 ギラギラと血走った目で、ヤツ等は自分達を睨んでいた。

 昔はこうではなかった。
 木の精霊である、トランクマン達がそう漏らしていたのを思い出す。
 何故このような事になったのか、理由を聞いても彼等はただただ首を横に振るだけであった。


「どうしようかネクロちゃん」
 メテオの言葉にハッと我に返る。
 記憶を漁ってる場合ではない。
 どんな場面でも緊張感の足りない自分に、少し嫌気がさす。

「・・突破できる場所は無いよね」
 今、自分達は大量のエルフとトランクマン達に囲まれていた。
 お互い死角を補う為に、背中を向けた状態で構えている状況である。
 少しでも動けば、連中が襲い掛かってくるのは用意に想像できた。

「残念だけど、逃げられそうにないね」
 本当にどうしようか。
 焦り色を顔に浮かべながら、メテオはそう呟いた。

 ティンバーマンだけならば、対処は簡単だった。
 だが、エルフがいるとそうは行かないのだ。
 ヤツ等は低下抵抗が高い。
 いちいち一人一人の抵抗を打ち消すなんぞ、わざわざミンチにして下さいと言っている様なものだ。

「タゲが来たら一瞬でお陀仏だよな」
 彼の言葉に嫌な汗が浮いた。
 ここでコイツと一緒に切り刻まれろと?
 馬鹿な。遠慮願いたいものだ。

「仕方ない・・ボクが囮になるよ」
「え?何言ってるんだいネクロちゃん!いくら君だってこの量じゃ危険――・・」
 とっさに動こうとしたメテオを、シッ、と合図して止まらせる。
 全く、まだたった数週間しかペアを組んでないというのに、彼の反応は早かった。
 何でこっちの示す事がそう分かるんだか。

「大丈夫。トランクマンの攻撃なら怖くないし、エルフの攻撃も上手く避けてやるさ」
 だからアンタは先に逃げるんだ。
 ハッ。
 メテオが笑った。

「馬鹿かい君は」
 寂しそうな声だった。

「一緒に切り抜けるからこそペア組んでるんだろ?」
「・・・・・」
 アンタがここを耐えられるわけがないのに。
 自分1人なら、辛うじて逃げれる自信はあった。
 どれ程のダメージを受けるかは想像すらつかなかったが。


 沈黙。
 風の音すらしない。
 するのは、耳を突く無音だった。


「・・・低下をかけたらすぐに打ち込んでやれ」
「・・了解。喉からさないでね」
 笑うな阿呆。
 アンタは自分の心配をしてればいいんだ。


 ザッ

 足を動かす。
 連中がすぐに反応したが、ヤツ等の方が一瞬遅かった。

「何が森の守護者だ。笑わせるなよ」
 さぁ、ここからが本戦だ。
 アンタ、自分がここまでやってやるんだ。
 死んだら許さないぞ。



 ◆End

302A:2007/03/06(火) 18:45:33 ID:FE3apLKw0
改めて読み返したら、誤字を発見しました・・。
打ち込んで→撃ち込んでに脳内変換お願いしますorz

303ryou:2007/03/06(火) 20:35:20 ID:CMdLinhg0
>>ドギーマンさん
ありがとうございます。
今ドギーマンさんの作品を過去ログ遡りつつ読んでいます(´∀`*)
>>300
ありがとうございます。
シドはちょい役でいいかなーと思ってましたがなんだか強くなりましたw
>>Aさん
ネクロさんカッコヨス!
話の切り方がこれまたなんとも・・・w

304ryou:2007/03/06(火) 20:43:42 ID:CMdLinhg0
>>286-289
>>293の続き

ダヴィはガイスターストックに巻かれていた鎖を断ち切り、布を引き裂いた。
リイィィィィィン!!
ガイスターが周囲の魔力に反応して鳴きだした。
ザックは体力増強、対魔法の加護魔法を、
シドは風の移動魔法、炎の攻撃補助魔法を全員に施す。
「行くぞ。」
ダヴィは今まで着ていた魔物の鋼皮の鎧を脱ぎ捨てた。
「えっ!?」
「実はこいつで今まで魔力を抑え込んでいたんだよ。今は全力を出し切る!」
部屋が一瞬にして彼の放つ濃厚な魔力に満たされる。そしてそれは紛れもない負の魔力。
ゆっくりと息を吐くと、トッと地を軽く蹴り、ひらりと飛び上がった。
すでにベテラン戦士の彼だが、年齢を感じさせない身のこなしである。
そして即座に空中から斬撃を放つ。マントを翻し斬撃をかわそうとするネクロマンサーだが、
鋭い斬撃はマントを切り裂き、その下の体に深く傷を負わせた。
そして空中から一気に間合いを詰め、間髪いれずに二撃目を撃ち込む、
が、強固な鋼皮をまとう大きな腕に阻まれる。
ボウッとガイスターの姿がぼやけ、幾重にも重なるように震える。
と思うと魔力の振動を放った状態で分身術を繰り出し、
十連発の斬撃をネクロマンサーの腕に向かって浴びせかける。
粉々に飛び散る鋼皮。崩れ落ちる大きな腕。
最後に最上段に構え脳天を狙って剣を振り下ろそうとした……
しかしその瞬間、ダヴィの首元から激しく血が噴き出る。
鎧も着ずにネクロマンサーの放つ高速の火球をかわすのは不可能だった。
「大丈夫か!?」
「問題ない!そのまま回復魔法を切らさないでくれ!」
「今に蜂の巣にしてやる!!」
ネクロマンサーが頭上におびただしい数の火球を召喚する。
しかし突如地面から現れた何本もの氷柱、それがネクロマンサーを取り囲んで動きを封じる。
「柱が崩される前にやってしまってください!」
シドが叫ぶ。
「悪いな。」
ダヴィは一度に数個の龍の心臓を握り潰し、その血をあおった。そして数匹もの大きな水龍を召喚する。
水龍は部屋に充満する魔力を取り込みながらネクロマンサーを何重にも締め上げた。
負の魔力から生み出された魔法なので、ネクロマンサーの負の魔法によって相殺することは出来ない。
「貴様アァァァァァァァッ!!!」
ガイスターの魔力をネクロマンサーの魔力に同調させてゆく。
リイィィィィィィィィィィィィンッ!!!
よりいっそう高く鳴り響くガイスター。
そこへ塔から湧き上がる魔力、自らの魔力を限界まで注ぎ込んだ。
その圧力に耐えかね、刀身がビキビキと音を立てる。
今にも暴れださんとする剣を支える腕も限界に近い。
皮膚が焦げ付き、ところどころ血管が破れ出血し、骨が軋み、筋肉がはちきれそうになる。
ネクロマンサーに同調し、磁石の如く強力に引き付かんとするガイスター。
「グググ……貴様、そんなことをしたらどうなるか……ヌアァァァァッ!!」
ネクロマンサーは渾身の魔力を振り絞って風と火炎の魔法を召喚し、
あたりを炎の嵐に巻き込もうとする。
だが氷柱と水龍にはばまれ、炎は逃げ場を失って天井を虚しく焦がすのみ。
ダヴィがおもむろに地を蹴った。剣が引き付く力を利用し神速で突進する。
肉体の限界を超えるパワー・速度で剣を振るった。
……と、その瞬間刀身が砕け散った。
そして限界点を越した腕の骨も折れ、肉が裂け、血が噴き出す……終わりだ。
だが砕けたガイスターの幾千の破片が音速を超え、
衝撃波とともにネクロマンサーの体を引き裂いた。何度も何度も。
そして空間中に広がる衝撃波。
ザックは最大出力で何重もの防御魔法を召喚し、仲間達を囲む聖域を形成した。
力を使い果たした彼の翼の羽根が舞い散る。
ネクロマンサーを形を残さないほど木っ端微塵に引き裂いたガイスターの破片とその魔力は、
しかし未だ衰えず臨界状態のままになっている。
そして自然ともう一つの魔力源……ダヴィに向かって襲い掛かった。
「ダヴィ!!!!!」
魔力を使い果たし、加護魔法を召喚できないザックが無力に叫ぶ。
仲間達は思わず目をそむけた。

305ryou:2007/03/06(火) 20:47:28 ID:CMdLinhg0
ガキイィィィィン!!!!!
金属と金属がぶつかる鋭い衝撃音。
ガイスターの破片を受け止める身幅の広い重厚な斧……そうそれは彼のコスウェール。
ガイスターと同じく幾多の人々を切り捨ててきたこの斧が、自らを振るってきた主を護ったのか。
ガイスターの魔力をコスウェールがゆっくりと吸収する。
力を失い、単なる金属片となってパラパラと落ちるガイスター。
そしてよりいっそう赤黒く輝きを増したコスウェール……。
「……ようやくコイツは自由になれたみたいだ。」
ぐったりと床に伏したまま、散らばった金属片を拾い上げるダヴィ。
安堵の空気が辺りを包む。おもわず皆の顔に笑顔がほころぶ。
「あっこの破けた本……」
ソフィの拾い上げた本、そう古文書だ。
「ついに紋章を練成できるのね!」



ギルドの本部に戻った彼等は、休養の後に紋章練成にとりかかった。
集めた素材を元に、専門家の監修を受けつつ全て手作りで加工する。
そして強力な魔力を封じた筆、塗料、紙を作り上げた。
そして古文書に記されている呪術を使い、マスターの手によって一気に描き上げる。
「いくわよ。」
呪文を唱えると、ポウッと道具が光りだす。
美しく光り輝く紋章をついに描き上げた……がその瞬間、
バタァァン!!
強力な魔力に耐えかねてレナがブラックアウトしてしまった。
「マスター!大丈夫ですか!?」
とたんに光を失う道具、そして魔力が抜け去り、全て灰となって風に舞い散ってゆく……。
「アーッ!道具が!紋章があああぁぁぁぁっ!!!!!123」
「ちょwwwwwwwだからあれほどちゃんと休んでおけって言ったのにwwwwwwwwwww」
「うはwww数ヶ月かかったのがまたやりなおしwwwwwww
おkwwwwwwwwwwwマゾいの大好きwwwwwwwwwwwwww」
「( ゚д゚)ポカーン……


( ;゚д゚)ハッ!


( ゚д゚ )こっち見(ry」



- 完 -

306携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:12:22 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 
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『孤高の軌跡』

「ん………」
うっすらと眼を開くと、空はもう朱に染められていた。

おかしな朝だなあと立ち上がろうとすると、身動きが取れなかった。
あれれー、と周りを見渡すと、目の前には犬のような生き物を枕にして寝ている白い少女がいた。
目の前には何気に露出度が高い変わった服装をした美少女。
そして俺は縛られている……と。
何だか良からぬ妄想が次々と膨らんできたぞー。
いや、待て。ない。“俺に限って”そんなことする筈ないじゃないか。

ふと少女を覗き見ると、腰に木製の縦笛が刺さっていた。
――――思い出した。
俺はこの笛の音色で……。
とりあえずここから出ないと話にならない。
この隙ありすぎな警備はチャンスだ。この内に俺の脱出作戦を決行する!

もがく。頑張ってもがく。もうこれしかない。
「こんのぉぉおおっ!」
「ん………」
少女が薄らと眼を開き、動きを止める。
その目線は確実に俺を捉えていた。
俺と少女の間に非常に気まずい空気が流れた。
「に……ニーハオ…」
「…………」
少女は静かに俺を見つめたままだった。
「いや、これはね、逃げようとしたわけじゃないんだよ。つまり、ほら、あの、俺の性癖だ」
「セイヘキ?」
何とも素直に返してくる少女に俺は続ける。
「そう。俺はね、一定時間にもがかないといけない体質なんだ。だから、これも、仕方がない」
「そうなんだ」
「だから、もう少しもがいていていいかな?」
「無理」
呆気なく断られた。仕方がないので諦める。
そこで時計を見ると針はちょうど4時を指していた。
……夕方?
俺は無謀にもこの少女に話しかけてみることにした。
「あのさ、洋介は?」
「……学校」
迷ったのか暫しの沈黙の後に返ってくる。
「じゃあ君は?」
「見張り」
「何で俺を捕えるんだ? 洋介は何故殺人をする」
「ヒトジチって言ってた。他は知らない」
聞いてみると案外返ってくるもんだ。
俺はもう1度確認をする。
「じゃあ君は、洋介のパートナー?」
「うん」
「もう1つ。あの生き物は? 洋介が命令してたみたいだけど」
「あたしの友達。ヨウスケには少し貸しただけ」
俺は若さという素直さに感動する。
それのお陰でだいたい話は掴めた。後はどう逃げるかだが……。
「ねえ、あたしが怖くないの?」
――――と、俺が考えていると少女が不思議な疑問をぶつけてきた。
「いや、別に」
そう言うと、大人しいとばかり思っていた少女の表情が明るくなり、俺にずいと近づいてきた。
「ねえ、お話ししよ」
「お話し……?」
「うん。……もしかして、イヤ?」
不安そうな顔を少女は俺にぐいと近づける。
男として女の子の願いを聞き入れない訳にはいかない……のだが。
「嫌じゃないんだけど、何話せばいいか全く」
それが問題だった。どこから来たのかも判らない人間にこちらの常識が通用するのだろうか?
それに普通こんな状況で呑気にお話しなんてできるわけない。
「あなたの好きなお話しでいいよ」
少女はそんな俺の気も知らずに期待したような顔を向けてくる。
「じゃあ……こっちの世界の話でいいかい? 俺、そっちの事情知らないから」
「うんっ」

307携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:13:05 ID:mC0h9s/I0
とりあえずこの世界について話すことにした。
俺の話すことに、少女は時に大笑いしたり、時に困った表情を見せた。

俺が“世界と社会の裏の裏”という題の話をしようとしたとき、突如俺の腹が鳴った。
考えてみればずっと何も食べていない。
「お腹減ったの?」
「そうみたいだね。俺は大丈夫なんだけど、俺の腹が限界みたいだ」
そんな俺のくだらない冗談にも少女は笑い、何か取ってくると言い部屋を出て行ってしまった。
いや、参った。まさかあの子があそこまで陽気な子とは思ってもいなかった。

暫くして少女が戻ってきた。
「はい。これ」
少女はパンを取ってきたらしく、それを俺に手渡そうとする。
だが、俺は手を縛られているので受け取ることはできなかった。
「その、縄をほどいてくれると嬉しいな」
無理を覚悟で言ってみると、少女はあっさりと手の縄をほどいてくれた。
そして俺は少女から渡された久々の食糧を口にした。
少女もまた自分用のパンを持ってきたのか、俺の隣で頬張っていた。
すると静かだった生き物たちが寄って来ては、少女から千切ったパンを分け与えられていた。

食べ終り腹も膨れたところで再び口を開く。
「そういえば、自己紹介がまだだったな」
「ジコショカイ?」
「えっと……お互いのことを教え合うことだよ」
「へぇ」
また1つ、この世に不思議が生まれた。といった感じの顔の少女をよそに、俺は自己紹介を始める。
「俺の名前は矢島 翔太。ショウタでいいよ。君は?」
「あたしは、エミリー」
「じゃあ、よろしく、エミリー」
俺が右手を差し出すと、エミリーはいかにもはてな? といった顔をした。
「ああ、握手っていうんだ。仲良くなった2人がやるんだよ」
今度は、ぱあっと明るい表情になり、エミリーは俺の右手を掴むと、ぶんぶんと上下した。

再び会話を始め、俺はニーナたちに共通して言える疑問をエミリーに聞いてみることにした。
「なあエミリー、君たちってあの石を手に入れたら何をするんだ?
生き返って元の世界に帰るってのは判るんだけど、他にもやりたいことがあるんだろ? やっぱり、世界征服とかなのか?」
「違うよ、少なくともあたしは」
考えてみればこんな子が世界征服なんて物騒なこと望まないか。
では、この子は何を望むのだろうか。
「じゃあ、エミリーは何がしたいんだ?」
気軽に聞いたつもりだったが、エミリーはどこか悲しく、遠くを見つめるような眼を見せた。
「家族……欲しい」
「え?」
「家族……あたしにはいないから」
「――――」
気軽に聞いたつもりなのに、少女は己の暗い過去を話し始めた。
「あたしの種族はね、ロマっていうんだけど、ロマは動物とイシソツウができるの。でもね、あたしは会話もできてイタンだから捨てられたの。
だから、あたしは悪魔の子なんだって。でも、寂しくなんてないよ? あたしにはこの子たちがいたから」
そう言いエミリーは近くの犬を抱き寄せた。

俺はこの眼を知っている。これは、孤独の人間がそれを紛らす為に見せる眼だ。
――――そう、これは数年前の俺の眼そのものだ。
子どもは、自分は愛されているものだと思っている。それが当たり前なんだと。
そして、それは違うのだと、現実を知りながら成長していく。
この少女は、初めからその現実を知ったんだ。

愛という物を知らない。
――――それは、どんなに辛いことなのだろう。

愛を必死に求めるが、与えてくれる者がいない。
――――それは、どんなに苦しいことなのだろう。

俺には想像もできない。
俺のように愛を知り、それを失う苦しみと、彼女のように初めから知らない苦しみ、一体どちらの方が苦しいのだろうか……。
これなら俺に懐くのも不思議ではない。
そして、判ることはもう1つ。こんなことは間違っているということだ。
「なあエミリー、あの……俺なんかでも良かったら、家族になってやるよ。
父親は無理があるけど、兄なら大丈夫だろう。まあ、キモかったら別にいいんだけどさ…」
照れ混じりに言うと、エミリーは俺に抱きついてきた。というより飛込んできた。
「ありがと、お兄ちゃんっ!」
エミリーの温もりは、柔らかく、そして温かかった。
俺はそんなエミリーの頭を優しく撫でた。

308携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:13:57 ID:mC0h9s/I0
暫く時間が経ち、日も暮れた。

俺とエミリーが他愛もない話をしていると、突如背後から扉が開く音がした。
それは、言うまでもなく洋介だった。
「ずいぶん遅い帰りじゃないか。洋介君」
「皮肉はいいよ。で、お前のパートナーはどうした?」
「言っただろ、知らないって」
「ふん。まあ12時までは待ってやるよ。死にたくなければさっさと呼べよ」
言われて思い出した。
俺は今日中にニーナを呼ばないと他の犠牲者と同じ運命を辿ることになるのだった。
時計を見てみると、既に11時を回っていた。
そこで、俺はふと疑問を感じる。
「洋介。お前の家族はどうした。こんな広い屋敷に2人だけって訳じゃないだろう」
すると洋介は笑いを堪えるような顔をして、こんな事を口にした。

「ああ、そんな物は殺した」

それは信じられない一言だった。
こいつは確かに、己の肉親を殺したと言ったのだ。
「な……」
「だってウザイじゃん。それにしてもあれは楽しかったなあ……」
それは、人間が他人に恋するように。
「洋介、お前正気かっ!」
「ああ、正気だよ」
「なら、通り魔の理由も……」
「そうさ。あれは単なる俺の暇潰しに過ぎない。
なあ、お前も素晴らしいと思うだろ? 俺が殺した奴の犯人を、俺を! 警察が必死に探すんだぜ?
そして殺人はどんどんエスカレートしていく。そしてこの街は俺の玩具だ」
今の洋介は将来の夢を語る子どもに酷似していた。
1つ違うことは、その夢は狂っていることだ。
「狂ってる…」
俺は禁句を口にしてしまっていた。
洋介は冷たい目線で俺を捉えると、静かに口を開いた。
「気が変わった」
そう言って洋介は手近の犬のような生物から強引に槍を奪い取ると、そのまま振り上げた。
「死ね、屑」
「――――洋介。結界内――屋敷に侵入者が」
槍が止まる。俺はエミリーのお陰でなんとか生き延びられたのだ。
「へえ……」
洋介の表情が狂喜で歪む。
「喜べ矢島。愚かな侵入者のお陰で数分延命できたぞ」
やはり。こいつは初めから俺を生かす気なぞなかった。
「さて。これはただの獲物かな? それとも上等な獲物かな……」

答えは早く出た。
間もなく、下の階から大きな爆発音が聞こえた。

309携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:14:55 ID:mC0h9s/I0
「ほら来た……エモノがさ!」
何がそんなに楽しいのか、洋介が声を上げて笑う。
「おい、エミリー」
洋介にそう促され、エミリーは手を前に突き出すと、その手に1冊の赤い本が握られた。
そして、エミリーは本を開き何か呟いた。
すると、エミリーが何か言う毎に彼女の周りに1匹、また1匹と様々な生物が現れた。

18匹目が現れると、エミリーは本を閉じ、人差し指を突き立てそれを音がした方へ向けた。
そうすると、それらは部屋から飛び出して行った。
間もなく、2度目の爆発音がした。恐らく先程エミリーが出した生物と戦闘になっているのだろう。

暫くして音が止む。不気味な程の虚無感。
「さて。それでは愚かな侵入者の面を見物しに行きますか」
上機嫌な洋介が部屋の出口に向かおうとする。
すると――――

――突如、部屋の扉が吹き飛んだ。
「な、何だっ!」
驚きのあまり洋介が悲鳴を上げる。
同時に、小柄な少女と大柄な男が部屋に飛込んで来た。
「何なんだお前たちはっ!」
半狂乱気味の洋介が2人に向かって叫ぶ。
しかしその2人は沈黙を守っていた。

暫しの後、少女の方が口を開いた。
「貴方が、矢島 翔太君ね」
「え……? ああ、そうだけど。だ、誰?」
その少女はあろうことか俺に問掛けてきた。
「貴方を助けに来たわ」
「へ――――?」
何者かも知れない少女は当たり前のように信じられない事を口にした。
それにより俺の口からは間抜けな声が発せられる。

「させるかよ!」

茅の外だった洋介が我に帰り、予め持っていた槍を俺の喉元へ突きつけた。
「ははっ、そう簡単にいくかよ! こいつに死なれたくなかったらさっさと武器を捨て――――」
洋介がそう言いかけた刹那、突然脇の窓ガラスが弾けた。
驚くより先に、俺は自分が宙に浮かぶ感覚を覚えた。
「あだっ!」
勢い余って俺は壁に頭をぶつけた。失神しそうになるのを抑え、見上げるとそこには
俺がずっと求めていた人物の姿があった。
「ニー……ナ?」
「説明は後。今は貴方を救出するのが先よ」
言いながら俺を縛っていた縄を切る。
間違いない。この声は、この匂いはニーナの物だ。でも何故? 次々と起こる出来事に俺の頭は混乱寸前だった。

「――――では、後は私の番だ」

突然、終始無言だった大男が口を開いた。
予め持っていた長剣を構えると、その剣を中心に眩しい光の渦が巻き始める。
男は、光の衣を纏った剣を前方に突き出した。
その剣先には、エミリーが居た。
「やめろ――――!」
「ちょっと、ショウタ!」
気付くと、俺はニーナを振り切りエミリーの所へ走り出していた。
前に洋介が言った。人間は理性より感情が早く働く生き物だと。
正にそう。俺は男の前に立ちはだかっていた。
「お兄……ちゃん?」
すぐ背後からエミリーの声がした。その声には疑問が含まれている。
「馬鹿な。敵を庇うなど」
男が信じられないといった面持ちで呟いた。
「ちょっと貴方、正気?」
半ば怒りを含みながら男の傍らの少女も言う。
今、全ての人間が俺を見つめていた。
「どけ、小僧」
「どかねえ!」
男の威圧に押し潰されそうになりながらも、俺は必死に叫んだ。
「仕方がない。ならば共に死ぬがいい」
残酷な一言。続いて剣が一閃される。
剣先から、纏っていた光の奔流が一条の閃光となり俺とエミリーを襲う!

しかし痛みは無く、俺は耳元で轟音を聴いた。
気付くと、俺はニーナに手を引かれぎりぎりで光をかわしていた。
「エミリーッ!」
しかし光に巻き込まれたエミリーは無事の筈はない。
光の閃光で起こった爆発から小さな輪郭が現れた。
エミリーは生きていた。いや、傷さえ受けていなかった。
「む……それは魔石の類か。ならば直接斬るまでだ」
男は驚きながらも剣を構え、低い姿勢をとった。
「やめ――」
再びエミリーに走り寄ろうとするが、ニーナに引き戻された。その勢いのままニーナは俺を抱きかかえた。
「ここは危険よ。退くわ」
言うと、ニーナは飛込んで来た窓に駆け、跳び、屋敷から脱出する。

最後に振り向くと、一瞬エミリーと目が合った。
その深緑の瞳は、激しい失望感に溢れていた。つい俺の胸が痛んだ。

そして屋敷を背に俺は爆音を聴いた。

310携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:15:46 ID:mC0h9s/I0
ニーナに抱えられ、間もなく俺たちは家に着いた。
そんなに時間は経っていない筈なのに酷く懐かしく思えた。

無言のまま歩き、部屋の電気を点ける。
そのまま寝台に腰を落とし、大きく息を吐く。そして俺は改めてニーナと向き合った。
俺にはどうしてもニーナに聞いておかないといけないことがある。
「ニーナ、どうして……」
「実はね、あの2人に協力を頼んだの。居場所を教える代わりに相手の注意を引くようにって。
男の方は拒否したんだけど、女の人が了承してくれたのよ」
「そうじゃない。俺が聞きたいのは。ニーナ、何故急にいなくなったんだ?
言っておくが、これでも俺は怒っているぞ」
「それは……」
ニーナの言葉が詰まる。
「言わないと、許さないからな」
こうなったら、我慢勝負だ。
「それは……ただ、ショウタにこれ以上負担をかけたくなかったから……」
ニーナがバツが悪そうな表情をする。それ以上に、俺は意外な答えにどんな表情をしていいか困った。
嫌われたと思っていたので、ついニヤけてしまいそうになるが、堪える。
「何言っているんだよ。そんなもの、出会った日からだろ?
だから……もう何処にも行くな。判ったか」
照れ隠しで目を背ける。すると、ニーナが「ショウタ」と声をかけてきた。
目を向けると、そこには満面の笑みがあった。
「ショウタ、ただいま」
「――――ああ。おかえり、ニーナ」

311携帯物書き屋:2007/03/06(火) 23:35:53 ID:mC0h9s/I0
こんばんわ。
言い訳ですが、リアルの事情と、好き勝手に進めたせいでプロットが波紋して・・・・・・orz
進んでないみたいだからこっそり投稿しようかと思っていたらなんだか賑やかになってますね。

>>171さん
濃厚な戦闘描写ごちそうさまでした。
言っていたように魔法が銃弾や火器みたいです。「Good Luck!!」って台詞がいいですね。
さて、ダンたちに何が近づいているのでしょうか?

>>姫々さん
アリアン編ですね〜。スピカの出番もあって良かったです。
自分の偏見かもしれませんが、キャラの性格はルゥ→お転婆(死語)リリィ→1番まともだけど変わった人。セラ→天然。
なのかなぁ・・・違ったらすいません。

>>ドギーマンさん
2作品を同時進行させるとはさすが。自分はそんな器用な真似できません・・・。
町の話は本物みたいですごいですよ。参考にさせてもらってます。
悪魔の話も楽しんで読ませてもらっています。続きを待っています。

>>Aさん
ネクロイイw実に続きを・・・・・・と思っていたらENDなのですね。
次回作に期待しています。

>>ryouさん
お疲れ様でした。ギルメンの連携がすごいものですね。
オチが・・・・・・w Mが混ざってますね?

312名無しさん:2007/03/07(水) 05:41:50 ID:N7WG.OoQ0
>ryouさん
完結お疲れ様です。同じくオチに悶絶しそうです(笑)
戦士って強いですよね。知識戦士さんが身近に居ないので感動しています。
ドラツイは聞いたところによればかなりCPを使う大変なスキルだそうですね…orz
無骨な知識タイプというのも新鮮でした。また別の作品もお待ちしています。

>ドギーマンさん
この、なんとも言えないエムルの誘惑vs幼馴染的なリズがマイスの心の中で葛藤してそうですね。
エムルもエムルでマイスを助けるフリをして何かを企んでいそうで怖い…。しかしエムルさんかなり扇情的ですね!ドキドキ
色んな意味でマイス頑張れ〜…(笑)

>Aさん
自分独自の書き方ってとても羨ましいです。
短いながらも状況の逼迫さ、ペアの二人の性格が分かりますし、終わり方のタイミングがとても良いです。
やっぱり二人は恋人同士だったりするんでしょうか…後で色々読み側が妄想できる小説ですね。

>携帯物書き屋さん
このお話、お待ちしてました。ついにニーナと合流できましたね!
ショウタ君も色んな経験を積んでだんだん強くなっている感じがします。
しかしエミリーかわいい(*´д`) 洋介君の魔王的な性格と見事に対照的ですね。
思えばマスターと冒険者各人の関係って読み返してみると結構面白いですね。
ショウタ君とニーナ、リサとヘルは見ていて安心感があるペアですが、エミリーと洋介やテツジとラルフあたりは今にも壊れそうな関係で…。
続き待っています。

313姫々:2007/03/07(水) 16:00:35 ID:Cc.1o8yw0
さて、一応は用事も終わり、特にすることが無くなった訳ですので、
また書いてみました。まあ今回は張れるだけ伏線を張った・・・、という
感じです。多分いくつか使わないものがある気はしますが・・・まあ今から
考えても仕方ないでしょう。では、>>267-269より続きます。
追記、ごめんなさい、皆さんの感想はちゃんと読んでから書かせていただきますorz
では今度こそ。
・・・
・・・
・・・
・・・
「さて、見るべきものは見ました。ケルビー、そろそろ行きましょうか」
《−−− −・−》
なんと言ったかは分からないが、同意の言葉だと言う事は雰囲気で分かった。
この街の商店、地形、大体の広さ、そしてクロマティガードの詰め所、主要そうな施設は全て頭に
入っている。後は帰るだけで、私もそうするつもりだった。が、私は宿に向かう途中、
ふと視界にオアシスに、何の気まぐれかそこに足を運ぶ事にしたのだった。

・・・

「(その選択が間違いだったのでしょうね・・・)」
オアシスに着いて2分後、私はここに足を運んだ事に大いに後悔していた。
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何でもありません・・・」
「それならいいんだけどさ、今夜俺とどう?」
「(やはりそう来ますか・・・)」
いわゆるナンパという物で、私は軽鎧を纏った男に絡まれているのだった。
「んー?乗り気じゃねえなぁ。俺じゃ不満か?」
はっきり言うとそんな今思いついたような言葉で誘ってくるような男では不満なのだが、
言葉に出して言うと間違いなく気を悪くするだろうから、一応の配慮はしようと別の言葉を探す。
「いえ、少し事情がありまして。あまり夜は外に出たくないのです、なのでお断りさせてください」
嘘は言っていない、もちろん本音はただ単にナンパに乗る気がなかっただけだが。
「ん?言っとくけどここ、そんなに治安悪くねーぞ?それに終わったらあんたが泊まってる所まで
 送っていくよ、その位はするさ。」
しかし男は的外れな返答を返してくる。
「いえ、そういう事ではないのですが・・・、というか私がこの街の人間ではないとは何故分かりました?」
この男、私達が「泊まっている」と言った、つまりこの男は何故か私達がこの街の人間ではないと知っている。
「簡単だ、この街の女はもっとノリがいい。あとそれ以外にも・・・そうだな、色で表すとここの
 女は赤とかピンクって感じだが、あんたは青とか白って感じだな。」
はっはっは、と笑っていっているが、とても失礼な事を言われた気がする。
「それは私に対する侮辱と受け取って構わないのでしょうか?」
「誉めてんだよ。この街の女は俺の肌に合わねぇ、1時間と持たずに飽きて逆に鬱陶しくなってくる。」
私から視線を逸らして、顔をしかめつつ言う。
「あれを誉め言葉と言うなら、言語を一から勉強し直す事をお勧めします。」
「それそれ、あんまり棘があるのはどうかと思うが、その位の棘は持ってる方が俺好みだ。」
私の言葉に対して、私を指差しそう言ってくる。それはつまり・・・。
「あなた、マゾシストですか?」
「あ?流石に切れるぞ。」
頬を引きつらせつつ男が言う。
どうも違うらしい。つまりはかなりサディスト傾向ということだろう。と、そこで無駄な事を考えている
自分に気づく。それにしても、どう断ろうか。本音を言って一方的に別れてしまえばそれで一応は終わるが、
それでは私まで無礼者では無いだろうか・・・、私としてはそれでは気分が悪い。
と、その時私の頭の上に「正当防衛」「実力行使」という二つの四文字熟語が浮かんだのだった。

314姫々:2007/03/07(水) 16:02:00 ID:Cc.1o8yw0
(流石にそれは・・・。まあもう一度断ってみて、それで諦めてくれなければそれも已む無しでしょうか・・・。)
私は、ため息をつき、一拍間を置いて言葉を切り出す。
「どうあろうと、私は貴方のお誘いに対して首を縦には振れないのです。それでも私を連れて行くと言うなら、
 力ずくで私を引っ張っていってください。」
そこまで言ってから、「しまった・・・」と思う。何で私はこの男を挑発するようなことを・・・。
しかもそれでは遠まわしに私がこの男に対して「もっと誘ってくれ」と言っているようなものだった。
けれど、その後の男の行動は私の予想に反したものだった。
「んー・・・、まあいいや、別にそこまでする気ねえし・・・。じゃあなー、気が向いたらまた来てくれ、
 朝はいつもここにいるし。」
と、あくびをしつつ背中を向け、左手を振りながら何処かへ歩いていってしまったのだった。
何だったんだろう・・・、と思って何となく男を見ていると、左手の指がキラリと光った。
(あれは・・・、呆れた、既婚者ではないですか・・・)
つまりこれはナンパではなく浮気だったと言う事だろうか。まあ断った以上、私には関係ない事だ。
今度こそ宿に戻ろうと、来た方へと戻るのだった。
・・・
・・・
・・・
「不思議ですねー・・・、何でなのでしょうねー・・・」
私が目を覚ますと、リリィはまだ帰ってきていなくて、セラはモグラの姿をした召喚獣を抱きかかえつつ、
珍しく真面目な顔で何か考え事をしていたのだった。
「んー・・・?何がよー?」
私は尋ねてみる。後で考えてみると「尋ねてしまった」と言う表現が正しい気がする。
まあ何にしても、私の問いに対してセラは真面目な顔をしてこう言うのだった。
「「地」っていう文字があるじゃないですかー。あれの読み方は「ち」でしょー?」
「・・・・・・は?」
「でも「地面」と書くとその「地」は「ぢ」じゃなくて「じ」なんですよー、何でなんだろうねー・・・?」
そう独り言のように言った後もセラは「うーん・・・」と考えている。
(ど・・・、どうでもいい・・・・・・)
ダメだ、私にはセラの奇行に慣れれそうに無い・・・。というかそんな事で時間を潰せたらどれだけ幸せなんだろう。
とかそんな事を考えてたら頭が痛くなってきた、リリィが帰ってくるまでもう一度寝ておこう・・・、
そう思い、再びベッドに身体を預けた時だった。カチャリとドアが開き、リリィが姿を現す。
「ただ今戻りました。セラ、ケルビーをお返ししますね」
「はいー、お帰りなさいケルビー」
セラはモグラの召喚獣を床において、駆け寄ってきたケルビーの頭を撫でていた。
「お帰り・・・、いいタイミングで帰ってくるね・・・」
「?・・・、と言うより疲れているように見えますが・・・、お休みになれませんでしたか?」
「いや、休めたよー、休めたんだけどねー・・・」
休んで回復した分、さっきのやり取りで疲れただけだ・・・。
「なら、もう少しお休みになられますか?時間に制約はそれほど無いのでゆっくりされても構いませんが・・・」
「いや、大丈夫。行こうよ」
「・・・分かりました。まずはクロマティガードの詰め所に行きましょう。まずはそこで情報を集めるのが
 確実です。」
「うん、分かったっ!」
そう言い、部屋を出ようとすると、リリィに肩を掴まれた。
「待った、チャドルは着ていただきますよ?」
あれは着たくない物だ・・・。ならば私のとるべき手段は一つ。

315姫々:2007/03/07(水) 16:04:36 ID:Cc.1o8yw0
「はーい・・・、・・・・・・・・・・・・・隙ありっ!」
「む・・・っ、逃がしませんっ!」
私は隙を付いて兎変身、何とか逃げ・・・ようと思ったのだが、兎になった時は、いつも着いている
マントを掴まれてしまう。
「あっ!!それダメっ!!離してっ!!」
「暴れないでください、外れてしまいま・・・って言ってるそばから外れてしまいましたが・・・、これは
 そんなに大切なものなんですか?」
「あーっ、ダメなんだってーっ!!」
マントが外れた事により、リリィの手から解放された私は走ってベッドの中にもぐりこみ、
布団に包まった後、変身を解く。まぁこの時の私の状況は今からの会話で察して欲しい。
「ほー・・・、変身中、服はどうなっているのかと考えた事はありましたが・・・よもやこういう仕掛けとは・・・」
「だから離してって言ったのにー・・・っ!!返してよぉ・・・」
私は泣きながらリリィに言う。・・・もちろん嘘泣きだけれども。
「嘘泣きされて言われても・・・。しかし、これはどういう原理なのですか?」
速攻で嘘泣き看破・・・、仕方が無いので私は布団から顔だけ出して、リリィに言う。
「服に私自身の魔力を通して一緒に形を変えてたのっ!だから返してよぉ・・・」
まあ要するに今、布団にくるまっている私は、リリィに極小のマントの形に変えていた服を取られて
しまったため「何も服を着ていない」と、言う事なのだった。
『あはははははっ、ルゥちゃんかわいーっ!っていうかおもしろーいっ!』
スピカはお腹を抱えて笑ってる。なんて精霊だ・・・。
「スピカーっ!助けてよーっ!」
『べっ・・・別に恥ずかしがらなくてもいいじゃん、ここ女の子ばっかりなんだからさっ』
少なくともリリィは「子」とつける歳でもないと思う。
「そんなことじゃなくてーっ、嫌なものは嫌なのっ!」
そう言うと、「ふーん」と変な笑みを浮かべたまま私を見た後、スピカが私に言ってくる。
『じゃあ、借りを返してあげよっか?この前助けてあげれなかった分の。』
「もう何でもいいから服返してよーっ!」
『はい来たっ、それじゃあ行くよっ』
そう言った途端スピカを光が包み、その一瞬後には何事もなかったかのようにフッと光は消えていた。
その光が消えた直後には、私は今までリリィが持っていた服をいつの間にか再び着ていたのだった。
「あら不思議・・・。スピカ、何をしたのですか?」
『ふふふー、この部屋の中の時間をちょいと逆行させただけよー』
「時の逆行って・・・、あなたはどれだけ高等な魔法を無詠唱で使っているのですか・・・」
呆れているのか驚いているのかよく分からない表情でリリィがスピカに言う。
『えーっ?何言ってんのよーリリィ、私は星の精霊だよ?最高位精霊だよ?神様の次に偉いんだよ?
 それだけの事をする魔力さえあればこれ位の事は出来るんだからー。あ、けど安心してね、女王様
 からは魔力取って無いし。ちゃんとここの星から貰ってるよ。』
私はスピカの言う事を信じられずにいた、というか本当だったとしたら私は神様の性格とかを
考え直さなくてはいけない気がする。
『まぁこれだけの事をそうポンポンとしてたら街1個分くらいの魔力はすぐ無くなっちゃうから
 ホントは頼まれてもしちゃいけないんだけどねー、けど今回は特別、借りがあったしね。それに
 貰った魔力もこれ位の規模なら1日もあれば回復するだろうし。』
何にしても助かった・・・、私はベッドから出てスピカに言う。
「ありがとう。スピカって凄いんだねー・・・、ていうか他にも何ができるの?」
私はスピカに聞いてみる。これまでが何もしていないに等しかったので、私としては興味がある。
『んー、私は時間軸の操作だけかなー。ほら、星が外的要因・・・例えば隕石とかで星が
 大被害を受けたとき、時間を逆行させてある程度、復旧可能な状態まで元に戻したりね。
 そういう「滅亡の危機に対する守護」って言うの?まあそれが私達、最高位精霊の役目なんだー。』
「へー・・・」
なんだか規模が大きすぎて、私には実感が沸かない。

316姫々:2007/03/07(水) 16:05:49 ID:Cc.1o8yw0
『そうだ、ルゥちゃん、今度大人になってみない?結構面白いかもよー?』
また変な笑みを浮かべて言う。というより時間操作は頼まれてもしないんじゃなかったのだろうか・・・。
『あ、大丈夫大丈夫、一時的な物としての操作だから魔力は殆ど使わないんだー、だから安心してね』
私の考えている事を読んだかのように、スピカが笑って言った。
「・・・、また今度ね・・・」
少し興味はあったものの、不安がとんでもなく大きかったので今は断っておいた。
と、言っている間に退屈のせいか寝てしまっていたセラを起こし、今度こそ部屋を出ようとする。
「待ってください。」
「う・・・」
そして再びリリィに肩を掴まれた。
「チャドルは着ていただきますよ。そもそも何故嫌がるのですか・・・」
「だって暑そうなんだもんー・・・」
「はあ・・・、砂漠で暑いのは仕方ない事なのですが・・・」
と、顔を手で覆い、ため息をついている。
「隙あり!!」
と、私は再び兎変身、今度は完全に油断しきっているため、捕まえられないだろう・・・と思った私が甘かった。
「Γοсκ・・・」
リリィが一言何か呟いたかと思うと、私の周りを一瞬にして石が囲む。言葉で表現すると・・・、
多分井戸に落ちたらこんな感じなんだろうなと思ったりする。
「姫・・・、そのマントを私に取られたままお留守番か、チャドルを着るか・・・、どちらか好きな方を選んで
 いただきましょうか・・・」
うわ・・・、リリィが怒った・・・、こうなるとリリィは本気だろう。というか怒ったリリィは本当に怖い。
私がお城にいた時、リリィを避けていた理由の大半がこれであった。
「分かったよぉ・・・着るから怒らないで・・・」
私は降参して、変身を解く。こっちの星に来てからリリィが私に対して怒った事は一度も無かったので、
私は完全にリリィに対する耐性を無くしてしまっていたのだった。
そして、半分泣きながらリリィに渡されたチャドルを着るのだった。
「うわ・・・、やっぱり暑い・・・」
「まあそれは否定しませんが・・・、では、この杖を持っておいてください、氷の魔法を施してあります。」
と、私に杖を渡してきた。その杖はひんやりと冷たくて、持っていると気持ちいい。
「わー、リリィありがとー、けどやっぱ服取った事は許さないからね?」
「ふふ、ではその償いはその内、という事でいかがでしょうか?姫様」
「うむっ、構わんぞっ!なんてねー、いいよ別にー。」
「ありがたきお言葉。このリリィ、感謝のあまり言葉も出ません。」
そんなやり取りの後、私達はお互い顔を見て笑う。
『やっぱりさ、相性いいと思わない?』
「ですねー、うらやましいです」
そんな私達を見て、スピカとセラがそう話していた。そして私達は、今度こそ宿を出るのだった。

317姫々:2007/03/07(水) 16:13:55 ID:Cc.1o8yw0
さて、なんかリリィが当初の予定を越えるサゾっ気を見せつつある上に、
それを遥かに凌ぐ勢いでスピカがとんでもない事になってる気がします。
まあ大勢には影響無いと思うのであんまり気にしないでください。
さーて、なんかそれっぽい男の人を出してみたわけですけど職はあれ
ですよ、ええあれです。剣士戦士じゃありません、期待した方本当に
ごめんなさい。

てなわけで今から皆さんのを読んできます。次回にはちゃんと感想を
用意してきますので今日は許してくださいっorz

318名無しさん:2007/03/07(水) 16:21:05 ID:kohE0f8U0
このスレのまとめwiki作ろうと思ったんだけど、wikiの弄り方が分からなかったorz
長編の職人さんが多いので、まとめサイトがあったほうがいいと思うんですが、いかがでしょう?

319名無しさん:2007/03/08(木) 00:48:46 ID:hfEu8LLQ0
>姫々さん
神の次に偉い、ってスピカって実は凄い存在なのですね(笑)
「時間逆行が得意」、そう考えればプリンセスがリトルウィッチに変身できるのも頷けます。
あれはプリンセスが成長した状態と考えても面白いですよね。
それと、変身中は裸に…というのも面白かったです。ウサギになるとバンダナだけになるのが可愛いですよね。
女性四人旅は何かとナンパさんなど危険も付きまといそうですが、楽しそうな事この上ありません。

>>318
まとめサイトは大いに賛成です(執筆側ではないのですが)。
逐一保存するのも手なのですが、まとめサイトがあった方が楽というのは確かですよね。
wikiをどうのこうのする知識は自分も無いですが、手伝える事があれば手伝います。

320ryou:2007/03/08(木) 02:06:10 ID:CMdLinhg0
>>携帯物書き屋さん
>>312さん
読んでいただき&感想どうもありがとうございます。
私は戦士がメインなためついつい戦士主役で書いてしまいました。
あとオチは……反省していますwでも後悔は(ry

それでは私はまたROMに戻り、
皆さんの素晴らしい作品を楽しませていただきます。
もし次回作が出来ればまた投稿させていただきますね。

321ドギーマン:2007/03/08(木) 07:46:21 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234
>>273-277
>>294-297

「契約?」
マイスはエムルの目にオウム返しに問いかけた。
「そう、契約するの」
エムルは胸の前で両手の指を絡み合わせ、妖しい笑みを浮かべていた。
「それは何の契約なんだい?」
「何も痛みを感じなくなる。そして、どんな傷を負ってもすぐ治る。そういう契約よ」
エムルの真紅の唇はマイスを誘惑するように言葉を吐いた。
「どんな傷も?」
「ええ、私との契約が続く限りね」
マイスにはエムルの言う話が俄かには信じられなかった。
不審そうに見るマイスにエムルは続けた。
「私の手を握って、ただ一言"契約する"と言えばいいのよ。ただそれだけで契約は成立するわ」
そう言ってエムルは黒い手袋に覆われた手をマイスの前に差し出した。
その腕に胸が隠れて、カウンターの向こうから二人の様子を覗いていた店主がチッと舌打ちした。
マイスはその手をじっと見て、ふと思った疑問を聞いた。
「即死の場合はどうなるんだ?」
「即死の場合は、ちょっと分からないわね。たぶん大丈夫じゃないかしら?」
彼女自身もよく分からないという感じで答えた。
マイスはそのエムルの答えにあてにならないなと思った。
そして、自分に向かって右手を差し出したままの彼女に向かってもう一つ質問した。
「それで、君の要求は?」
「何もないわ」
「え?」
契約なのに、何も要求するものがないとはどういう事なのか。
「言ったでしょ。私はただあなたにお礼がしたいの。あなたの為なら何だってするわ」
じっとマイスの目を見るエムルの顔からは妖艶な雰囲気は薄れ、真剣さが伺えた。
だがマイスはエムルから目を逸らすと手元のお茶を一気に飲み干した。
まだ熱く湯気が立っているお湯を一気に喉に流しこんでマイスは席から立ち上がった。
エムルは立ち上がったマイスを表情を変えずに見上げた。
「悪いが君を助けた覚えはないんだ。だから君に助けられる義理もない。それに」
「分かるわ。疑ってるんでしょ」
マイスは黙った。それが肯定の意思表示だった。
「残念だわ」
マイスはそう言うエムルの前でテーブルに立てかけた大剣を持ち上げて担いだ。
「すまない」
「いいのよ」
エムルの表情はさほど残念そうには見えなかった。
カウンターのほうに歩いていくマイスにエムルは言った。
「でも、あなたはきっと私と契約するわ」
マイスは背中でその言葉を聞いて、店主に自分の分の代金を支払って店を後にした。

彼の背中を見送ったエムルはお茶を一口すすってふふっと笑った。
あの人の心が今はリズとかいう女に向いていても構わない。
絶対に手に入れてみせる。どんな手を使っても。
濡れた唇が笑みを形作っていた。
そのための方法はすでに頭の中で出来上がっていた。
エムルはいやらしい目つきでずっと自分を眺めていた飲食店の店主に代金を払って店を出ると、
すぐに計画のための次の行動に移ることにした。
それはある人物を探すこと。
その人物の名前は分からないが、その風貌とかなりの酒好きであることは分かっていた。
エムルは昼間の古都の歓楽街を歩き回ってその人物の情報を求めた。
すると拍子抜けするほど呆気なく情報は得られた。
どうやらなかなかに有名な人物らしい。
エムルは酒屋の主人に近づけていた身体を離すと、ありがとねと言って店を出た。
「お、おい!」
と腹の出た主人が大きな声をあげた。
一体何を期待していたのか。豚に許していい身体ではない。
エムルは歩きながら通り中から自身に集まる視線をまるで日光浴でも楽しんでいるかのように身体いっぱいに受け止めた。
だがそれら全ての視線は彼女にとっていささかの価値もない。
たった一人の視線を除いては。
せいぜい全ての視線はそのたった一つの、あの人の視線を自分に向けるための道具にすぎない。
そして今そのたった一つ視線を物にしているリズも、道具として利用することにした。
エムルは昼間から大勢の人々が行きかう賑やかな歓楽街の通りを逸れて裏路地に入った。
古都ブルンネンシュティグの裏の顔が垣間見えそうな場所。
薄暗く狭い、湿気の溜まった建物の隙間を歩いていく。
エムルは細長い蛇のように蛇行した路地を通り抜けて、小さな安酒場の裏口の扉の前で止まった。
こちら側は昼間から開いているらしい。
エムルは扉の前で立ち止まると、少し緊張した面持ちになった。
今回の相手には話を持ちかけるだけ。誘惑は効かないことは分かっていた。
エムルは扉を開くと、黒い内幕をのけて店内に入っていった。

322ドギーマン:2007/03/08(木) 07:49:44 ID:yvbhphlM0
ゲンズブールはその日も朝から酒に溺れていた。
後悔と絶望と苛立ちを消す方法は酒を飲むこと以外に彼には無かった。
黒い鍔の尖った帽子。黒いツバメの尾のような形状のボロボロのマント。
ぼさぼさの銀髪にはフケが大量についていて、首を少し動かしただけでも辺りに散らばりそうだ。
そのどんよりと曇った鉛のような眼は怒りと憎しみと、ほんの少しの哀しみを湛えていた。
ぼろぼろの武道着は洗って居ないのだろうか、少しキツい臭いを放つ。
だがそれも彼の身体から滲み出る酒臭さと近寄りがたい雰囲気に比べればまだマシかもしれない。
不潔な彼でも腰に下げている鋼鉄の鉤爪だけは鋭く光り輝いていた。
彼は魔力を全く持たずに生まれた。
たとえウィザードで無くともこの世界の人間は個人差による多寡はあれど全ての人間が魔力を持っている。
現在では魔力を扱うことは当然のように日常生活で行われている。
火を起こし、明かりを灯し、彼がいま飲んでいる酒を冷やすのにも魔力は使われている。
全てはスマグでの魔法技術の向上により、魔力によって稼動する機器が一般に普及したことによる。
彼のように魔力を全く持たずに生まれてくる人間は極稀であった。
それは一種の障害と言ってもいい。今の世の中では魔力が無いというのはそれほどのネックとなっている。
幼い頃からそのために両親は弟だけを可愛がり、友達など出来ずいじめの対象とされてきた。
そしてそのたびに殴り合いの喧嘩をしていた。
魔力が使えない。魔法の授業に参加できない。
それを馬鹿にしていた奴がぶん殴れば鼻血を垂らしてうずくまっている。
幼少のゲンズブールは思った。魔力なんて無くても殴れば解決する。
やがて身体が大きくなってくると彼は家を飛び出し、
ある武道家のもとに通いつめて魔力に頼らない肉体の強さを求めることにした。
彼の腰の鉤爪には皆伝を表す刻印が刻まれていた。
だが、彼は決して皆伝を認められたわけではない。
それがあること自体が皆伝を認める証拠ではあったものの、彼の師である武道家はそれを彼に直接渡す前に死亡した。
それも、魔力を扱う者の象徴とも言えるウィザードの手によって。
決して超えられない壁とさえ思えた人物が、魔法に負けて死んだというのだ。
結局は魔力を使える者が勝つのか?それがない自分の今までの努力は?
ゲンズブールは武道家が彼に残したと思われる鉤爪を持ったものの、今では喧嘩屋を稼業に酒に溺れている。
そしてその日も昼間から旨くもない安酒を飲んでいた。
止めると暴れるため、周囲の者は皆諦めて放置してしまっていた。
どうせ血生臭いことで手に入れたであろう金でも、ちゃんと払ってくれるので店主も黙っていた。
いずれは身体を壊して行き倒れる未来が見えているそんな男に、久しぶりに声をかける人物が現れた。

323ドギーマン:2007/03/08(木) 07:50:35 ID:yvbhphlM0
「こんにちは」
そう言って女は勝手にゲンズブールの隣の椅子に座った。
やたらと露出度の高い姿の女に酒場の少ない客の眼が集まった。
しかし、隣にいるのがゲンズブールだと分かると全員顔を背けた。
だがやはり気になるようで、ちらちらと視線を女に向けていた。
ゲンズブールは挨拶を返すでもなく、おもむろに女の膝に手を伸ばした。
女はゲンズブールの手を叩き落すと、「そんなつもりで話しかけたんじゃあないのよ」と言った。
ゲンズブールはつまらなそうに女をよどんだ眼で見ると、酒瓶に口をつけた。
他の男達のそれと違って、決して彼のは彼女の魅力の虜になっての行動ではない。
「あなた、この間男に蹴られて逃げてたでしょ」
そう言って女はクスクスと笑い出した。
ゲンズブールは手を止めて女に顔を向けた。その顔には怒りが滲んできていた。
「あんな大勢の野次馬の前で恥かいて、ねえ"凶犬"さん?」
「なんだてめぇは・・」
ゲンズブールは女の顔に向かって投げつけようと酒瓶を振りかぶった。
目の前の女が何者なのか。そんなことを考えるよりも行動が先に出た。
「仕返ししたくない?」
酒瓶が止まった。ゲンズブールは女の笑みをじっと睨んでいた。
「別に仕返しなんざ趣味じゃねえ」
「恥かいたままでいいの?言っておくけど、あなた仕返しがとっても大好きそうに見えるわよ」
そう言って女はまた口元を押さえてクスクスと笑った。
「俺を馬鹿にしてんのか!?」
「そう聞こえなかった?趣味じゃないなんて言って格好つけてるつもり?今のあなた、すごく惨めよ」
ゲンズブールは口元から酒を涎のように垂らして悔しそうに歯を食いしばっていた。
「誇りを無くしかけてるのね、あなた」
女は彼の眼を見て言った。そして腰の爪を見た。
「でも、完全に無くしたわけではないようね」
ゲンズブールは何も答えずに顔を背けると酒を一口呷った。
「誇りを完全に失いたくなければ、復讐することね。格好つけたって今のあなたじゃ滑稽なだけよ」
女はそう言ってゲンズブールの返事を待つようにじっと彼を眺めていた。
「どこに居るんだ、あいつは」
女は妖しく笑みを浮かべると、「その前に」と言った。
「私の名前はエムルよ」
「・・ゲンズブール」
「そう、よろしくね」
そう言ったものの、エムルは握手など求める素振りも無い。
不潔な彼の風貌に触れるのを拒んだのか。それとも必要ないと判断したのか。
「その男に復讐する前に、あなたにはその男の女を叩いて欲しいの」
「女に手をかけるのは」
「別にそんなこと言っても格好よくないわよ」
エムルはゲンズブールに釘を刺した。
「ただ殺しても面白くないでしょ。自分がやったことをとことん後悔させないと」
「・・・・」
「相手も素人じゃないわ。本気でやらないと、あなたもタダでは済まないわ」
「わかった。で、どこに居るんだ」
「まず酔いを醒ますことね」
そう言ってエムルは席から立った。
「今夜、広場の噴水で会いましょ。あと、身体洗いなさい」
そう言い残してエムルは店内の男達の視線を振り切るようにさっさと店を出て行った。
ゲンズブールは手元の酒瓶を一度だけぐいっと呷ると、飲みかけの酒瓶を置いて席から立ち上がった。

324ドギーマン:2007/03/08(木) 07:52:37 ID:yvbhphlM0
マイスはエムルと別れたあと、逃げるように店から足早に離れた。
重い大剣を背負って街の人の海に混ざっていく。
"契約"とは何なのか気になってはいたが、
あれ以上彼女と関わっていてはいずれ要らぬ誤解を招くことになるかもしれない。
今はリズのことだけが彼にとって大事だった。
帰ってきたら今夜こそ話を切り出そう。
歩きながらそう思って狩りのためにオベリスクの方へ歩いた。
しかし、その晩リズは無事には帰れなかった。

狩りから帰ったリズはテレポーターによって古都の中心に転送された。
そこから宿のほうへ歩いていく。広くなった通り、賑やかに歩く仕事帰りの人々。
日はすでに沈んでいたが、それはマイスとエムルが出会ったあの日とほぼ同じ状況だった。
もちろん全く同じではない。
酒場の前の角を曲がったのはリズだし、そこで彼女に声をかけたのはゲンズブールだった。
いきなり肩を掴んで「お前がリズか?」と言う鋭い目つきの男。
「そうですけど・・」
いきなり肩を掴まれて振り向いたリズはそう言って男の姿を不審そうにじろじろと眺めた。
「やっと当たりか・・」
当たりかとはどういう事なのだろう。まさかずっとここでこうやって人に声をかけていたのだろうか。
男はリズの眼をじろっと睨むと、ドスの効いた言葉で言った。
「今からお前と戦いたい」
「あなた、誰」
リズは街燈の明かりの下で緊張した面持ちで身構えた。
「お前の男を殺したがっている者だ」
リズはその言葉に目を見開いた。そして男を睨んで言い放った。
「そんなこと、させない」

エムルは通りの反対側の建物の影から二人のやりとりを眺めていた。
やがてゲンズブールは歩き出し、その後にリズはついていった。
さすがに街中でやりあう事はないだろう。
エムルは笑みを浮かべながら通りを歩いていく二人の後を追っていった。
その顔にはまるでこれから始まる余興を楽しみにしているかのような笑みが張り付いていた。

325ドギーマン:2007/03/08(木) 08:18:48 ID:yvbhphlM0
あとがき
おはようございます。
武道家再び登場です。一通りのキャラクターはやってみた経験がありますが、
シーフ/武道家は魔法が全くないんですよね。
知識スキルは一応罠がありますけど、魔法とは違う気がしますね。
分身とか、魔法と言えなくもないですが。

>>318
wikiですか。
私はサイト管理とか経験ないので・・・。
ただ、まとめがあれば便利そうですね。
他の方はどうなのでしょうか。

>姫々さん
スピカがすごいことになってますね。
しかし、後のリトルウィッチ変身を予感させるいい複線だと思います。
続きを期待しています。

>携帯物書き屋さん
ニーナがようやく帰ってきましたね。
でも、果たしてショウタはエミリーと戦えるのでしょうか。
気になります。

>ryouさん
オチがちょっと予想外でした。
好きなキャラクターを主人公に持ってくるのはいいと思いますよ。
私もウルフマン好きなので、ウルフマンの登場頻度が高いです。
やっぱり好きなキャラを書くときは楽しいですよね。

>Aさん
ネクロマンサーとウィザード。
体力的に脆そうな二人ですが、互いに相手のことを思いながらも
信頼しあえる関係はいいですね。
次回作を期待しています。


ウルフマンの次に悪魔が好きだったりもします。
でも、この二人を話の中でカップリングするのはかなり危険ですね。
悪魔のU鞭「調教鞭」と、U首「ピエンドルガン」(見た目が…)の出番になってしまいます。

326318:2007/03/08(木) 11:58:33 ID:kohE0f8U0
http://www27.atwiki.jp/rsnovel/
http://rsnovel.tyabo.com/

>>319、ドギーマンさん
一応予定地を2つ作ってみました。
HTMLの知識であれば少しならあるので、私一人で管理できればHTMLで作ってもかまわないのですが……。
何分ログが膨大な量ありますので、一人での管理は難しいかと思います。
wikiを弄れる方にお手伝い願えれば幸いです。

327名無しさん:2007/03/08(木) 17:54:16 ID:aXn8yiYI0
>ドギーマンさん
「魔法を全く使えず荒んだが、自らの力で這い上がった」というのは個人的にサガフロ2を思い出します(笑)
武道にも一応(ほんとに一応)烈風撃なんてスキルがあったりなかったり…。
以前知識武道さんとPTを組んだ事がありますが、烈風連打という凄まじい狩り方でした(笑)
リズとの対決もエムルが仕組んだと思うとやっぱり怖いです。続きお待ちしています。

>>318さん
素早いお仕事ありがとうございます。
wikiは本家(?)の方ならば少しだけ記事投稿した事もあるのですが
あそこと同じように書いてしまっていいものでしょうか…?
どうやらヘルプもあるようなので少し勉強してみます。
やはり、作者ごとにまとめた方がいいのでしょうね。

328携帯物書き屋:2007/03/08(木) 23:09:15 ID:mC0h9s/I0
>>318さん
自分も大いに賛成ですが、知識も時間もないので(携帯で執筆してるくらいなので)製作に協力はできそうにないですorz
力になれなくて申し訳ありません・・・。
言われている通り作者ごとにまとめた方が見やすそうですね。
ただ、コテ使ってなかったり話が途中で切れてたりしている人の作品をまとめるのは難しいのかな・・・・・・?

329名無しさん:2007/03/09(金) 07:24:48 ID:Y4A7YiRIO
>>327
武道家の烈風は力依存の物理攻撃ですよ

330名無しさん:2007/03/09(金) 09:24:44 ID:aXn8yiYI0
>>329
おぉ、そうだったのか…orz
以前知識依存だと入れ知恵されてからそう思ってました(苦笑)
ご指摘ありがとうございます。ドギーマンさん、申し訳ないです。

331171:2007/03/09(金) 13:22:22 ID:f0SX/jL60
ちょっと遅筆に。ああ、なぜか長くなる。


前々回>>258 >>259
前回>>264>>265>>266

エリーは崖を一気に踏み切り、着地すると脇目も振らず障壁へ駆け寄った。綺麗に整えられた短めの金髪がふわりと弾む。
彼女に追いすがろうとするオーガもいたが、ほとんどのオーガは先ほどの"砲撃"で完全に混乱し、エリーのことなど眼に
入っていないかのようだった。難なく障壁に近づくと、瞼を閉じ、障壁の魔力に同調、嵐の中に飛び込む。
迎撃も兼ねた障壁魔法、風の刃が成す壁に、怖れ・敵意は格好の餌である。無心で寄り添えばスルリと道は開けるのだ。
無心で逆巻く風の中、歩を進める。10歩も進んだ頃だろうか、身を取り巻く激しい嵐が途絶え、空気が変わった。


目を開けると、そこには疲れきった様子でお互いに寄り添い、震えるキャラバンの人々が居た。
生存者だ・・・!気が緩みそうになる自分を戒め、ありったけの声で叫ぶ。

「救護班です!負傷者は居ますか!」

予想外の来訪者に、どよめきが走る。・・救護班?・・俺達助かるのか?・・神よ・・!
安堵の声に混じり、大声で泣き出すものもいた。

「こっちだ!頼む!」
緊迫した声がエリーの耳に入った。人を押しのけ、声のほうへ急ぐ。
声の主はキャラバンに同行した司祭だった。
「重傷者ですか!?」
「重症も重症だ!タチの悪いものに当たった、手を貸してくれ!」
力みがかった低い声が響く。熟練の司教が行使する蘇生術から漏れ出す白い光が、
彼と、彼の横で同様に処置に当たる若い司祭の、汗だくの険しい表情を照らし出していた。
そして、エリーは、「負傷者」の元にたどり着く。



「・・・・ヴァリアーさん・・・・!」



そこには、左足をもがれ、気を失い、死んだように横たわっているヴァリアーの姿があった。
傷口からは絶えず血が滲み出し、肌は土気色で生気がなく、端整な顔立ちはやつれ果てている。
尊敬する先輩の惨状を目の当たりにして、エリーはこみ上げて来る涙と嗚咽を無理やり
押し込めた。

「知り合いか。」
司教が横目で問いかけてくる。
「はい・・ギルドの先輩です。」
「そうか・・大した御仁だ。気を失ってなお魔法の行使を続けられるとは。」
ヴァリアーの腕に握られた杖は休むことなく魔力を放出し、嵐の障壁を巻き起こしていた。

「何でこんな・・足は・・?」
「・・オーガの・・腹の中に・・」
若い司祭が、苦々しい表情を覗かせる。足の蘇生は無理なのか。エリーの表情が歪んだ。

傷だらけの体に寄ると、体中から立ち上る冷たい邪気が、まるで取り付いた者をくびり殺そうとする
蛇のように律動し、ヴァリアーの体中を締め上げていた。

「これは・・呪い・・・!」
「飛びきり強烈な呪いだ。2人掛かりの蘇生が意味を成さん。」

傷口に注がれた癒しの光が細胞の再生を促し、血漿が生まれる。が、邪気の帯がうねるたびに傷口の血漿が
破れ、血が噴き出す。聖職者2人が行使する蘇生術を持ってしても、邪悪な意思によって生み出された
強烈な負の力を押し切ることはできずにいた。

332171:2007/03/09(金) 13:23:28 ID:f0SX/jL60
「呪いを浄化したいが手が足りん。お嬢さん、蘇生術の心得は?」
「任せてください、私の専門分野です。」
即座に地脈に呼びかけ、大地の気をヴァリアーの体に廻らせる。健やかな気の力が
ヴァリアーの体を包み込んだ。3人分の治癒の力が、僅かに呪いの力を上回り、傷の蘇生が早まる。

「お嬢さん・・・いい仕事だ。」
「よく言われます。」
作り笑顔で返す。見事な施術と気丈な態度に、老司教は思わず感嘆した。

「よし、呪いの洗浄に注力する。2人とも、私が施術する間、頑張ってくれ。」

「了解しました。」深く、ゆっくりと呼吸し、魔力を強く練り上げる。
「はい。・・・主よ、我が脆弱なる魂をお導き下さい。」若き聖職者が十字を切ると、
高位の蘇生術が処法される。
「先生・・・、長くは持ちそうにありません・・・っ」司祭の体中から血管が浮き出し始める。
皆、とうに限界は超えているのだ。
「分かっている。」


老司教の蘇生術が解かれた。力の拮抗が崩れたことで邪気のうねりが激しさを増し、傷口から
血が溢れ出す。

エリーは歯を食いしばり、練った魔力を思い切り送り出した。大地が育んだ暖かな正の気流が湧き上がり、
呪いのうねりを押さえ込む。状況は再び拮抗した状態に持ち込まれた。それを確認すると、司教は祝福の言葉を口にした。
辺りに柔らかな光が溢れ、ヴァリアーの体を照らし出す。呪いの洗浄を始まったのだ。


しかし、高度な知能を持たぬオーガと戦っていたはずのヴァリアーが、なぜこれほどに強力な呪いを受けて
いるのか。蘇生の魔法を行使しながら、エリーは目を覚まさないヴァリアーに問いかけた。

・・・貴方は一体、何と戦っていたのですか・・・・?


続く。

333171:2007/03/09(金) 13:37:38 ID:f0SX/jL60
野戦病院の風味で書いてみたけどヨウワカリマシェン

呪い・・闇属性攻撃とか、まあそんな風味
蘇生術・・ヒーリング
大地の気脈(なんじゃそら)・・アースヒール

あと1回で収まれば・・いいなあ。

>携帯物書き屋さん

ああ、エミリー・・助からないのかしら・・
パートナーが翔太だったらと思ってしまいます。

>姫々さん

スカーフをはがしてみたくなりうあなにをするやm

>ドギーマンさん

自分もサガフロ2を思い出しました。できない人が蔑まされるのは世の常。
武道・・ つД`)

>Aさん

簡潔に纏められた文章と行間が素敵っす。詩を読んでるようでした。

334318:2007/03/09(金) 15:00:58 ID:kohE0f8U0
作者ごとにまとめ、コテハンでない方はレス番+タイトルでどうでしょうか。
タイトルがない場合は、簡単な説明で。
あと、もしかしてwikiはパスワード等がないと弄れないのでしょうか…?

335171:2007/03/09(金) 15:28:55 ID:f0SX/jL60
>>334

wikiサイトの設計次第だと思いますが、2つのうち前者については、ファイルの作成・編集・公開は
できるようですね。ファイルの削除のみが出来ない状態なので、不特定多数の編集にも対応可能かと。

基本方針はそれでいいのではないかと思います。

336ドギーマン:2007/03/09(金) 16:03:51 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234
>>273-277
>>294-297
>>321-324

古都の郊外にひっそりと存在する廃墟。
廃墟とは言っても実質はかつての姿の10分の1も残さず崩れた瓦礫の山でしかない。
旧王宮跡、そこは120年前に崩壊したブルン王宮よりずっと前の王宮があった場所。
崩れかけた壁面を月明かりの下にさらし、そこにいま居るのは二人の人間と亡霊たちのみ。
ゲンズブールは立ち止まると、リズにゆらりと向き直った。
細い鎖を編んだだけの鎖帷子のようなライトアーマーを着込んだ女。
膝を保護する腰当は革で出来ており、身軽さを重視したのか靴は布製のようだった。
背には矢筒を背負い、その腰には狩猟用の弓を差している。
鼻にかかる金髪を夜風が揺らし、赤い瞳が闇夜に狼の眼のように輝いていた。
ゲンズブールは身体を軽く上下にゆらした。水と指を使って酒を抜いた身体はかなり久しぶりで、妙に軽い気がした。
だが、その指先は細かく震えていた。長きに渡って蓄積した酒が彼を蝕んでいたのは当然のこと。
「はっ・・・ははぁ・・ヒヒヒィ」
何故か突然ゲンズブールは笑い出した。リズが不審そうな目で見ている。
この女、なんでまだ獲物を構えていないんだ?俺がまだ爪に手をかけていないからか?
・・・それとも、俺が酒にやられちまってるからか?
「ヒははははっ」
ゲンンズブールは駆け出すとリズに向かって飛び蹴りを放った。
リズは咄嗟に両腕を交差させてゲンズブールの鉄板が埋め込まれた靴の踵を受け止めた。
細い腕を覆う皮手袋に踵がめり込む。リズの表情が歪んだ。
たまらず後退するリズに追いすがって拳を握り固める。
ゲンズブールの振りぬいた拳がリズの頬を弾き飛ばした。
吹き飛ばされたリズの身体が水平な地面を滑った。
「うっ・・く・・」
リズはすぐさま身体を起こして腰の弓に手を回した。口の端からは血が滲んでいた。
ゲンズブールの表情は本人の意識から外れて残酷な笑みを浮かべていた。
エムルに利用されているようで最初は気に食わなかったが、今の彼は自身の行為に酒を味わっているかのように酔っていた。
もうどうでも良かった。
この女には恨みはないが、今の自分を忘れさせてくれるなら、もっと酔わせてくれるなら。
彼の指先の震えはピタリと止まっていた。
ゲンズブールは腰の爪を手の甲に装着し、感覚を確かめるようにぎゅっぎゅと二度握りこんだ。
リズはというと、なんとか弓に矢をつがえていた。
激しい衝撃を受けた手が細かく震えて力が入らないようだった。その顔に余裕は見えない。
ゲンズブールは容赦なくリズに向かって動き出した。
リズはゲンズブールに反応して弓を引くが、腕に走る激痛に顔をしかめて矢を地面に落とした。
ゲンズブールは右手の爪をリズに向かって振り下ろした。
リズは弓でゲンズブールの腕を叩いて爪を弾いたが、そこに続けてふくらはぎに下蹴りが放たれた。
堪らずリズは腰を落とした。ゲンズブールはリズの金色の頭を見据えて爪を振り上げた。
しかし次の瞬間、ゲンズブールは仰け反るとそのまま後方に向かってバック転して離れた。
酔っているどころか危険な笑みさえ浮かべているゲンズブールの前で膝をついたリズの手には先ほど取り落とした矢があった。
ゲンズブールの首を狙った矢尻は当たらなかったものの、彼を警戒させるには十分だったようだ。
ゲンズブールは腰を落とすと、足を肩幅よりも開き、腕をだらしなく下げた。
鋼鉄の鉤爪の先が地面を傷つけている。その姿はさながら小柄なウルフマンを思わせる。
ゲンズブールは手負いの獲物の精神をすり減らそうとするかのように、じっとリズの様子を伺った。
リズの赤い瞳は彼に対する怒りを増大させたかのように爛々と輝くと、その背中の矢筒から矢が数本、勝手に動き出した。
矢はリズの周囲で宙に留まると、ゲンズブールの方にその矢尻の先を向けた。
ゲンズブールは気に入らないという様子で一度舌打ちした。
「魔法か」

337ドギーマン:2007/03/09(金) 16:05:06 ID:yvbhphlM0
リズは宙に浮かべた矢のそれぞれに行き渡らせた魔力を意識した。
まるで自身の身体の一部であるかのようにそれぞれの矢から感覚が返ってくる。
じっとこちらを見据えている男を睨むと、リズは手の中にある矢を弓に再びつがえた。
弦を引く指に力を入れるたびに右手首が痛んだ。踵を受け止めた衝撃が腕の筋肉を押し潰していた。
手袋を外せば内出血で赤黒くなっていることだろう。
油断していた。細かく震える男の手を見て、まともに戦えるわけがないと高を括ってしまっていた。
顔を歪めながらもリズは弦を握る親指に力をこめた。
目の前の黒い男は相変わらずこちらを眺めているだけだ。
ただ眺めているだけだが、男が発する鋭い殺気は油断を許さず神経に見えない鉤爪を突き立てる。
リズは集中力を高めていった。かつて、トランの森で獣を狩っていたときの感覚を身体で思い出した。
赤い目を見開き、夜の闇の中に浮かぶ標的、黒い男の姿をくっきりと浮き上がらせる。
呼吸を押さえ込み、心拍を安定させ、身体の必要の無い箇所から力を抜いていく。
呼吸をゆっくりと吸い込み、鼻から出す。眼は獲物を狙う鷹の如く鋭さを増し、男の呼吸すらも読み取る。
リズは男の殺気に対抗するように神経を鋭く、硬く、刀剣の切っ先のように研ぎ澄ませていった。
リズは吸い込んだ息を飲み込むと、動き出した。
一気に弓の弦を引いて弾く。つがえた矢は男に向かって飛んでいった。
と同時に宙に浮いていた矢が同じ標的目掛けて収束するように飛んだ。
男は矢の群れを爪で横になぎ払うと、リズに向かって距離を詰めようと走り出した。
リズは接近してくる男と等間隔に距離を保とうと後方に足を進めながら上空に向かって矢を放ち始めた。
矢筒から次々と矢が飛び出し、自動的に弓につがえられていく。
リズはただひたすら弦を引いてそれらを上空に放っていく。
矢筒の中には矢は一本しかなく、その矢はリズの魔力に反応して次々と分身を作り出していった。
先ほど男がなぎ払った矢は折れて地面に落ちた途端に実体を失って消えていた。
リズは男の胸の中心に意識を集中し、渾身の力を込めて弦を引いた。
男は胸へ一直線に飛んだ矢を追尾するように手元に来ていた矢は弓につがえるまでも無く次々と飛び出していく。
と、同時に上空に打ち上げていた矢は男に向かって落ちていった。
男は矢を爪で弾き、半身になり、しゃがみ、跳び、捻り、潜る。
巧みなステップを刻んで複雑に上方と前方から飛び来る矢をことごとく交していく。
完全に避けきれるわけはないはずだが、それでも矢は男の服を刻むことしか出来なかった。
距離を狭めようとする男に対してリズは燃え立つ矢を地面に横一直線に放って男の接近をけん制した。
地面に刺さった火矢は爆発し、燃え上がった地面に男は足を止めた。
闇の中、廃墟の崩れた壁に囲まれて二人の姿が浮かび上がった。
互いに互いの姿が火の向こうでゆらゆらとすこし揺れて見える。
接近を許せば殺傷能力は男の鉤爪が圧倒的に上回る。
絶対に男を寄せ付けず、常に距離を取って戦い、そして…
確実にこの男を殺さなければならない。
「女の割には、やるじゃねえか」
男が炎の向こうで唇の端を吊り上げて言った。
「女にだって、命を賭けて守るものはあるのよ」
リズはそう言い返すと、再び上空に矢を放った。

338ドギーマン:2007/03/09(金) 16:06:30 ID:yvbhphlM0
夜の闇のなか、黒い影が金色の影を追い続けていた。地を蹴り、矢が空を切り、爪が夜風を切り裂いた。
リズの矢はゲンズブールにことごとく避けられ、未だに傷一つ付けられていない。
蓄積していく疲労と持続する緊張は彼女の集中力を削ぎ落としていく。
リズの表情には焦燥の色が浮かんでいた。当然だろう。攻撃が全く当たらないのだから。
黒い男の眼は冷徹にリズの眼をじっと見据え続けている。
完全に攻撃を読まれている。リズは思った。
闇の彼方から亡者たちの呻き声が聞こえてくる。
死闘の気配を感じ取って、仲間が増えることを祝っているのだろうか。
腕の痛みが激しい。集中力で押さえつけても、蓋の端から外へ飛び出してくる。
もはや腕を動かさずともずきずきと痛みが走る。
もうどれほどの時間が過ぎたのだろう。マイスは心配してくれているだろうか。
早く帰らないと。
リズはぐっと歯を食いしばった。殴られた頬から鈍い痛みが走る。
火矢を一直線に飛ばして地面を燃え上がらせる。男の動きを制限してそこに矢を連続で乱れ撃っていく。
しかし男は仰け反って大きく跳ぶと、火の壁を跳び越えてみせた。
驚きながらもリズは男に向かって矢を放ち続けたが、男は次々と飛び来る矢を素早く爪で弾き飛ばして突き進んできた。
そしてリズに接近してヒヒっと笑って裏返った声で言った。
「もう終わりだ」
鋼鉄の爪が月明かりを反射して白く、冷たく輝いた。
「くっ」
リズは弓を男の顔に向かって振るった。
しかし男は顔に向かってきた弓をするりと避けて爪を振り上げた。
リズの顎から右頬にかけてを赤い三本の線が走った。
「つあっ!」
顔に走る鋭い痛みに声を上げて後ろに下がろうとするリズの腹を男の足が追い打ちをかけた。
弾き飛ばされたリズの身体は廃墟の壁に激突した。
「ふっ・・・・う・・」
頭を壁に打ち付けたリズはずきずきと痛む頭を押さえた。
切り裂かれた頬のめくれ上がった皮膚の間から真っ赤な血が首を伝っている。
「ヒ・・ヒ」
黒い男は気持ち悪い笑い声を洩らしてリズが放った火の壁を背に真っ黒な影を彼女の視界に映し出した。
帰らなきゃ、いけにのに。
瓦礫に手をかけて立ち上がろうとする彼女を男は立って待っていた。
動けなくなるまでなぶるつもりなのだろうか。
リズは身体を起こして弓を拾い上げると、よろよろと立ち上がった。
そして数本の矢を浮かせて手元に持ってくる。
はぁはぁと息を荒くし、リズは男の顔に張り付いた笑みを睨んだ。
そして大きく息を吐くと、思った。
私は、何て馬鹿なんだろう。さっき自分で言ったことを忘れるなんて。
命を賭けて守るって、言ったじゃない。
リズはぎゅっと弓を握り締めると、矢を弓につがえた。
それを合図に黒い男の影が跳ねた。
走り寄って来る男にもうリズは矢を撃たなかった。
次に接近を許せば命は無いかもしれない。それは分かっていた。
しかしリズも男に向かって走り出していた。
男はリズがやけくそになったと取ったのだろうか、怪しむことなく彼女に対して爪を振り上げた。
リズはその手の届く間合いで最後の攻撃をしかけた。
男の鉤爪のほうが早く彼女の身体に到達した。肩口から侵入してライトアーマーの鎖を断ち、その下の胸を撫でるように切り裂く。
自身の身体から吹き上がる血を前にしても彼女は止まらなかった。
弓の弦を高速で引いては弾いていく。数十本の矢が瞬時に打ち出された。
男は驚いた表情で腕を交差させて防御したが、その腕、腹、足に矢の先端が次々と埋まっていく。
この距離では決して避けきることのできないであろう数の矢の嵐。
男の身体は宙を舞って吹き飛んでいった。
リズは弓を手から落とし、胸の傷を押さえて膝をついた。
はっはと息を短く吐き出す。
そして倒れている男を見据えてかすかに笑った。
鎧に守られたお陰で幸い傷は浅く致命傷には至らなかったようだ。
リズはふらふらと立ち上がるとマイス達が待っているであろう古都に向かって歩き出した。
早く、帰らなきゃ。

339ドギーマン:2007/03/09(金) 16:07:52 ID:yvbhphlM0
ゲンズブールは夜の空を見上げていた。
なんだ?なにがあった?何で俺が上を向いている?
腕にも、膝にも、腹にも矢を受けていた。
そしてそれらの矢はリズが去っていったと同時に霧散して消えた。
ゲンズブールはかつて彼の師が生きていたときのことを思い出していた。
陽気で強引で、生来から陰気な性格の彼にとってはやり難い人物だった。
ただ武道を教えてくれさえすればいいと思っていた彼にとって、師の性格は不快なものだった。
「う、く・・」
疲れ切って立てないでいる彼を見下ろして師は笑っていた。
「おいおい、まだ動けるだろう。さっさと立て」
立てねえよ馬鹿が。
「動けねえ時はな、とにかく声を出せ!何でもいい、うわー!でも、ぎゃー!でも。
 とにかく声を張り上げて気合を入れろ。動けなくても気合次第で人間の身体は動かせるもんだ」
無茶苦茶な言葉だった。
しかし、ゲンズブールはそれを思い出してペッと喉の奥から込み上げる血を吐き出した。
そして大きく息を吸った。
「 う お お お お お あ あ あ ! ! ! 」
矢が突き刺さっていた腕がぶるぶると動き、彼の身体が起き上がった。
「ふぐ・・おお」
喉の奥から唸り声を上げる。不思議と血があまり噴出してこない。
彼は自分の身体を見下ろした、穴が大量に空き、自身の血でびしゃびしゃに濡れていた。
これでまだ生きている自分が信じられない。
師のガハハという不快な笑い声が聞こえてきた気がした。
「くそっ」
一人毒づいてゲンズブールはリズが去っていった方向に眼をやった。
帽子は脱げてどこかに行ってしまっていたが、彼にはそれよりも優先すべきことがあった。
左手の鉤爪を捨ててふらふらと立ち上がると、右手の爪を重たそうに持ち上げた。
「ぶっ・・・・ころしてやる。クソアマ」
足を引きずりながらリズの消えたほうへ進んでいく。
だが、ヒュルルと音を立てて彼の腕に何かが絡まった。
それはぐいっと彼の腕を後ろに引っ張ると、彼を後方に転倒させた。
全身の激しい痛みにゲンズブールは呻き声を上げた。
顔を上げるとそこには彼の帽子を持ったエムルが立っていた。
その手からは炎の鞭が伸びており、すぐに彼女の手の中に吸い込まれるように消えた。
「邪魔、すんじゃねえよ・・」
ゲンズブールの言葉にエムルはふふっと笑った。
「なかなか面白いショーだったわ」
「ふざけるな、あの女と戦えと言ったのはお前だろうが」
エムルは腕に下げていた皮袋の中から大きな瓶を取り出すと、彼の頭にそのなかの液体をバシャバシャとかけ始めた。
「別に私は叩けと言っただけで、殺せなんて一言も言ってないわ。どうせ後で殺すけど、今は都合が悪いのよ」
瓶の中からドポドポと音を立てて流れ出るその赤く透き通った液体をゲンズブールにかけながらエムルは言った。
「ふっ・・エホッゲホッ、誰が、お前の指図を」
口に入った液体に咳き込みながらゲンズブールは文句を吐いた。
エムルは空になった瓶を捨てると、またもう一本取り出して彼の頭にかけ始めた。
薬臭い。それは代謝機能を促進して傷口の再生を促すヒールポーションだった。
「やめろっ」
ゲンズブールの銀髪が顔に張り付いて、水分を吸った髪がてらてらと光っている。
エムルはあはははっと笑って言った。
「頭冷やすついでには丁度良いでしょ」
「ふっ、ざ、けるなと言ってんだろが!」
ゲンズブールは鉤爪を持ち上げるとエムルに向かって振り上げた。
しかし、突如目の前に現れた赤く輝く格子に阻まれて爪は弾かれた。
いや、光り輝く檻が瞬時に現れて彼を閉じ込めていた。
エムルは檻の中に入れられた彼を見てクスクスと口元を押さえて笑った。
「ケダモノにはお似合いね」
ゲンズブールがギリギリと歯軋りしてエムルを睨んでいた。
「あの女も、あなたも、別にどちらが死んでもそれはそれで構わなかったのだけど。
 どちらも生かしておけるのならそれが一番理想的なのよね」
ゲンズブールは格子をぎゅっと握ってエムルに怒鳴った。
「俺を何だと」
「ただの道具よ」
彼が言い終わらないうちにエムルは冷めた口調で言い放った。
「じゃ、これここに置いとくわね」
そう言ってゲンズブールの帽子を赤い液体でグチャグチャになった地面に捨てると、
エムルは檻の中の彼を放置して歩き去っていった。
やがて檻が消えると、ゲンズブールはバシャっと地面に手を突いてエムルの去った方向をただただ悔しそうに睨んでいた。

340ドギーマン:2007/03/09(金) 16:17:18 ID:yvbhphlM0
あとがき
あれだけ苦手だった戦闘シーンを書くのが、
最近ちょっと楽しくなってきたかもしれません。
ほんの3、4行で終わってしまった時もあったので
長く書けるようになったなあとしみじみ思っています。
まあ、長くなっただけで肝心の中身が抜けてるなんて指摘されることにならなければいいのですが・・・。

一応、スキルや無限矢を自分の解釈で色々と書いてます。
ランダンドマーカーを前にじゃなくて横一直線に撃って壁作れたら便利だなとか思ったりして。
絶対命中のインターやテイルが避けられているのも、私の勝手な解釈ってやつです。
だって、絶対に当たったら勝負がすぐに・・・w

ロマサガ2、ギュスターヴのことでしょうか。
私はあれは体験版をちょっとやっただけで、別に意識したわけではないのですが。
でも、ちょっと意識した部分はあったかもしれません。
ただあの主人公と違ってこちらの武道家はもっとダークな感じです。

烈風撃は私も最初知識スキルだと思ってたので気にしないでください。

341ドギーマン:2007/03/09(金) 17:01:28 ID:yvbhphlM0
>318さん
覗いてみて試しに一度編集をクリックしてみたのですが、
よく分からない部分が多くて…w
確か、前々スレのほうでまとめがしてあった気がします。
まずはそちらからまとめていくと良いかもしれませんね。
とりあえず一度説明をよく読んでみます。

>171
野戦治療という感じは出ていると思います。
呪いに対抗して治療を行うというのは面白い発想ですね。
今後の展開に期待しています。

342第52話 予想外:2007/03/09(金) 17:17:15 ID:SEJl89Sk0
私達はキンガーさん達の後を追って付いていった。
しばらくすると、このネカフェでいいのかどうか相談しているのだろう、立ち止まり二人で話しているのが見えた。
私とデルモちゃんも一旦、立ち止まり、事の成り行きを見守った。
先頭の二人は納得したのだろう、その店に入って行った。

「いよいよね。私達も入りましょう」とデルモ。
「そうね・・・」と言いかけて私は驚いた。
キンガーさん達に続いて入っていったのがさっき見かけた人物だったからである。
「え?なんで?」
「どうしたの?ぎゃおすちゃん?」
「まさかね。なんでもないわ。行きましょ」
1,2分後に入店した私達。すでにキンガーさんたちは手続きを済ませ、PCコーナーに行ったみたいだ。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人です。パソコン使えますか?」
「あいてますよ〜^^ では、こちらに記名をお願いします」

少し慌てつつも、手続きを済ませ、飲み物コーナーに急いだ。
そこでキンガーさんと一旦合流し、どこに座っているか教えてもらう手筈だったからである。
カウンターから5,6歩歩いた時だった。

「お姉ちゃん!? え? 今日は仕事じゃなかったの?」
「みっこ?! え?あ? 仕事よ。」
「仕事って・・・法務省勤務でしょう?」
「法務省だけど、私は入国管理局の人間なの。今は張り込み中」と小声で話すみっこの姉。
「お姉さんなの?」とデルモ。
「そう。一番上の美香姉ちゃんよ」

343名無しさん:2007/03/09(金) 22:16:26 ID:tOXoJltE0
>171さん
野戦病院ですか、確かにそんなイメージですね。
呪いっていうのもまたリアルにはなかなか遭遇しにくい状況ですよね。
でも「手を尽くしても怪我が治らない」というのは単純なように見えて深刻な事態だと思います。
足が?がれた、血が吹き出す、などの描写がリアルで怖いくらいです。次回でラストなのでしょうか、お待ちしています。

>wikiについて
ちょっと試しに1スレ目の最初の方にあった小説をひとつUPしたのは私です(汗)
もし方針と異なるようでしたら削除して書き直しますのでなんなりと…orz

>ドギーマンさん
苦手な戦闘シーンを書いてるうちに楽しくなってきたというのは何よりですね。
本当に武道って攻撃が当たらないですよね…。自分も武道やっててそう思います(笑)
スキルなどの自分解釈は全然OKだと思いますよ。気合の使い方は思わず感動しましたよ!
「何事も気合で何とかなる」。もしかしたら、本当にそうなのかも…(笑)
ロマサガ2はご名答、ギュスターヴです。あのゲームは個人的に結構好きだったのでつい連想してしまっただけです(苦笑)

>きんがーさん
お久しぶりです。やっと続きが…!
と思ったら遂にお姉さんたち警察側と鉢合わせしてしまいましたね。
どうなってしまうんだろう、続きを待ってます。

344:2007/03/09(金) 22:18:19 ID:tOXoJltE0
× ロマサガ2
○ サガフロ2
すみませんでした…orz

345ドギーマン:2007/03/10(土) 01:24:18 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339

リズは小さな墓の前でしゃがみ込んでいた。
葬儀などして貰えるわけもなく、ただ隣人達の手によって埋められた母の墓の前で。
簡素に土が盛り上がっているだけの墓。そこに母が埋まっているというのが信じられない。
リズはそこに花を置いた。なんでそうするのかは彼女には分からなかったが、そういうものだと聞いていた。
もちろん金の無い彼女にはちゃんとした死者に贈るための花など買う金などない。
森の中を探し回って摘んできた名も知れない花をかき集めてきたのだ。
土だらけの指で、強く握ったために茎がぐしゃぐしゃに折れ曲がってしまった花の束。
それがこんもりと盛り上げられた土のこぶの周囲に際限なく沢山に散りばめられていた。
十日間ずっと、毎日毎日花をひたすら供え続けていた。
まるでそうする事で居なくなった母へ思いを伝えようとしているかのようだった。
「おかーさん・・」
リズはただ眼を擦ってしゃくり上げていた。頬に泥が擦りついて花束のようにぐしゃぐしゃの顔を汚していった。
ボロボロの土色の布服に身をつつんだ彼女は、まるで子供のように泣きじゃくっていた。
「リズ」
背後からマイスが声をかけた。だが彼女は振り向かず泣いているばかりだった。
聞こえていないようにも見えたが、声は構わず彼女に訴え続けた。
「リズ、行こう」
「いや」
リズは駄々をこねる子供のように彼の言葉を突っぱねた。
「立つんだ」
「いや、ここにいる」
マイスはリズに詰め寄ると、その腕をぐいと引っ張った。
リズは腕を掴むマイスを晴れ上がった濡れた赤い眼で睨んだ。
「立つんだ。いつまでここに居るつもりなんだ」
「ずっといる」
「約束したろう」
「しらない」
リズはマイスから眼を逸らし備えられた花の群れに埋もれた墓に眼をやった。
「リズこっちを見るんだ」
マイスはリズの泥だらけの顔を掴んで強引に自分のほうに向き直らせた。
「いつまでもここに居ても仕方がないだろう。君のお母さんはもう居ないんだ」
「いや!」
リズはマイスの手を振り払った。だがマイスはすぐに彼女の腕を掴むと、暴れる腕を押さえ込んだ。
「リズ、俺を見るんだ」
リズは自分を見つめるマイスの青い目を少し怯えた表情でじっと見ていた。
「強くなるんだ。頼むから俺を信じてついて来てくれ」

346ドギーマン:2007/03/10(土) 01:26:05 ID:yvbhphlM0
リズははっと眼を覚ました。身体を起こすと彼女は自室の寝台に横にされていた。
そこにガチャリとドアを開けてローブ姿のイスツールが入ってきた。
「む、起きたか」
イスツールは相変わらずの仏頂面で言った。
「イスツール・・」
そう言ってイスツールの顔を見上げると、リズは自分の状態に気づいてばっとシーツを被った。
服を脱がされていて、裸体を露にしていたのだ。リズは顔を真っ赤にした。
「気にするな。別に私はそんなものを見てもどうとも思いはしない」
"そんなもの"と言われてリズは余計に顔を紅潮させてイスツールを睨んだ。
「仕方ないだろう。脱がさずに傷の治療はできん」
イスツールはリズの様子を勘違いしながらも、表情を変えずに返した。
そこでリズは部屋にもう一人いる男の姿にようやく気づいた。
椅子に座って腕を組み、首をうな垂れて眠っているマイスだった。
イスツールはリズの視線を追ってマイスを一瞥すると言った。
「ああ、鎧を脱がすのを手伝って貰った。血を拭き取るのもな。自分の部屋で寝ろと言ったんだが聞かなくてな」
リズはシーツの端を握る手に震えを感じた。枕をイスツールの顔に投げつけてやろうかと思った。
イスツールはまたリズに仕方ないだろうと言った。
「私一人で鎧を全部脱がすのは無理だ。それにこの宿には他に男しか居ないんだからな。
 それとも店の常連連中に脱がして欲しかったのか?」
リズはそう言われて押し黙ったが、外から女の人呼んで来るとか出来なかったのかと気の利かないイスツールに内心毒づいた。
ぶつぶつと何か言っている彼女を気にしていない様子でイスツールは続けた。
「傷は完全に塞いでおいた。多少痛みやぎこちなさはあるかも知れんが、しばらくすれば消えるだろう」
「そう」
リズは短く返事をしてイスツールをじっと見上げた。
「なんだ?」
「服を着たいから出て行って欲しいんだけど」
ああと言ってようやく思いついたようにイスツールはマイスを起こした。
「マイス、起きるんだ」
「え、あ」
身体を揺すられて顔を上げたマイスは少し寝ぼけた様子で部屋を見回した。
そしてベッドの中からじっと見ているリズに気づいて立ち上がった。
「リズ、大丈おぶっ」
咄嗟に近寄ろうとするマイスの顔にリズは枕を投げつけた。
「マイス、出るぞ」
「え?」
よく分かっていないマイスにようやくイスツールは状況を説明した。
「着替えだ」
「さっさと出てってよ!」
リズは大きな声で二人に怒鳴りつけていた。
バタンとドアが閉じるとリズはふうっと息をついてベッドから降りた。
身体を動かすと胸が少し痛んだ。ちらっと見下ろすと左肩口から胸の上を三本の線が走っていた。
皮膚の引きつりが生んだその線を見下ろして、リズは部屋の隅に置いてある鏡台の鏡を動かした。
顔の右側、顎から頬に向かって振り上げられた三本の線がくっきりと残っていた。
リズは黙って顔に残された傷跡を撫で、寂しそうにそれを見ていた。

347ドギーマン:2007/03/10(土) 01:27:02 ID:yvbhphlM0
マイスは廊下で少しそわそわとしていて落ち着きがなかった。
「落ち着け」
壁に持たれて不動で居るイスツールはマイスに言った。
「あ、はい」
マイスは体の動きは止まったが、視線はきょろきょろと廊下の中を彷徨った。
ふんっとイスツールはため息のように鼻息を吐いた。
やがてコンコンと部屋の中からノックされると、マイスはすぐさまドアを開いて部屋に入った。
イスツールはマイスの背中を見送ると、ドアを閉じて廊下を歩いて一階へ降りていった。
リズは布服に身を包んだ背中を向けていて、ベッドに歩いていくとその上に座った。
しかしマイスのほうを見ずに顔を背けて横を向いていた。
マイスは部屋に入るとさっき自分が寝ていた椅子を持ってきてリズの前に置いて座った。
「具合はどうだ?」
「大丈夫、大したことないわ」
「そうか」
マイスは自分のほうを見ようとしないリズが気になってはいたが、ほっとした様子で言った。
「何があったんだ?」
「・・・・・・」
リズは何も答えなかった。顔を背けたままで、不機嫌そうに見えた。
「教えてくれ、誰にやられたんだ?」
「やられてなんていないわ。気にしないで」
突き放すように言うリズにマイスは問い詰めた。
「気にするなと言われたって無理だよ。頼むから俺を見るんだ」
リズはマイスの言葉を無視して眼を逸らしたままだった。
「大丈夫よ、生きてるんだから。だからもう気にしないで」
「リズ」
マイスは椅子から立ち上がるとリズの顔を掴んで強引に自分の方に向き直らせた。
リズは驚いて咄嗟に手で自分の頬を隠した。
「離して!」
そう言うとリズはマイスの手を払って立ち上がると彼の胸に手の平をぶつけて突き離した。
後ろに突き飛ばされたマイスの足が椅子にぶつかり、ガタンと椅子が倒れた。
そして彼に背を向けて大きな声で言った。
「出てって!」
「リズ・・」
驚いた様子でマイスは背を向けて俯く彼女を見ていた。
「早く出てってよ!」
リズの大きな声が部屋の中に響いた。
マイスは仕方なく黙ってリズの部屋を出ると、ドアをバタンと閉じた。
部屋の中、一人残されたリズはベッドの脇にへたり込んだ。
そしてシーツをぎゅっと握ると顔をベッドに押し付けた。
部屋の隅の鏡台の鏡は返されていて、部屋にはしゃくりあげる彼女の呻きが響いていた。

348ドギーマン:2007/03/10(土) 01:35:06 ID:yvbhphlM0
あとがき
当初の予定を超えてかなり話が長くなりつつあります。
もちろん『手記』のほうも進めるつもりですが、
どうにもネタが・・・w
なんとか頑張ってみます。

>>344
ごめんなさい、俺がロマサガ2って書いちゃったおかげで・・・w

>キンガーさん
続きお待ちしておりました。
警察側との接触、同じ人物を見ているとなると・・・。
相手は二人の予想外に危険な人物ですからね。
果たしてキンガーさんは無事に犯人を捕まえられるのでしょうか。
捕まえるのは一緒に張り込んでいる警察ですが。

349名無しさん:2007/03/10(土) 17:56:37 ID:kUDUqKYk0
>ドギーマンさん
恋愛的なお話が入るとどうしても長くなってしまうのは仕方ないと思いますよ。
私はこの三角関係(?)を読むのが面白いですから気になりませんよ。
ところで最初(ネクロの頃)のエムルも好きなのですが登場してくれるだろうか…(笑)
手記は実際に取材されてるんだろうなぁ…町中のNPCの話を聞くだけでも大変そうです。
ロマサガにつてはお気になさらず(笑)

350ドギーマン:2007/03/11(日) 07:51:51 ID:yvbhphlM0
■月●○日
小都市ビッグアイ
ビガプールに隣接する小都市とは名ばかりの廃墟の町。
ナクリエマ仕官学校があることで有名なこの場所には、現在多くのテントが建っている。
私はここでビガプールで会えなかったもう一人の友、ウォルドに会うことができた。
彼はテントの群れの中で兵士達と共に生活していた
どうやら現在は兵士や仕官候補生よりも傭兵達のほうが多いらしい。
たくさん立っていたテントは傭兵達の住居らしく、何かに対する防衛のために彼らは雇われたらしい。
聞いてみたところ彼ら自身何故雇われたのかは分かってはいないそうだ。
現国王タートクラフト=カイザー=ストラウスの命令で彼らは雇われているらしいが…。
ウォルドに聞いたところによるとどうやら重大な国家機密に関わることらしいが、話してくれた。
かつて、ビッグアイが小都市であったときのこと。
正体不明の怪物が突如街に襲来し、激しい戦闘が起こった。
町並みは跡形も無く破壊され、多くの兵や住民が死亡した。路石の黒ずみはそのときの血だという。
結局その怪物は消えうせ、倒したともまだ生きているとも言われていた。
だが、その後街の復旧作業中に唯一破壊されずに残った監視タワーの地下から大きな獣の呻き声が聞こえてきたのだという。
住民達は不安がり、ついに現国王が直接視察に訪れた。
そして監視タワーの地下、火酒倉庫にあの怪物が潜んでいることが分かったのだ。
しかも怪物はそこで多くの魔物を次々と生み出し、そこは既にモンスターの巣窟と化していた。
王は復旧作業の中止を命令し、そして厳戒態勢が敷かれた。
兵力をビッグアイに集め、そして多くの傭兵達を雇い入れて警備に当たらせた。
街は、さながら巨大な前線基地と化した。
獅子身中の虫、いや虫どころでは済まないかもしれない怪物が国の中心のすぐそばに居ると知れれば、
国民は混乱し、ゴドム共和国に付け入れられる恐れがあった。
いくら関係は緩和されていても他国であることには変わりはないのだ。
街一つを壊滅させるほどの怪物。並みの兵力では太刀打ちできないだろう。
繁栄を見せるナクリエマに、大きな陰りが見えた。

351ドギーマン:2007/03/11(日) 07:54:22 ID:yvbhphlM0
あとがき
ビッグアイです。
狭いためNPCからの情報が少ないです。
メインクエと絡めてなんとか形にはなりましたが。
う〜ん・・・

352ドギーマン:2007/03/11(日) 07:58:57 ID:yvbhphlM0
マイスは少し寝不足な様子で、腫れぼったい眼で少し眠たげに一階の食堂に降りてきた。
イスツールが主人の出してくれたワインに口を付けていた。
イスツールは一階に下りてきたきり黙ったままのマイスの隣の席に座ると、「何かあったのか?」と問いかけた。
だがマイスは何も答えなかった。
建物の外は真っ暗で、まだ深夜だった。
実際のところリズが傷だらけでこの宿に帰って来てからそれほど時間は経っていないようだ。
マイスは椅子で眠っていたせいか首が少し痛かった。
背に手を回してうなじの辺りを押さえて、う〜んと唸って伸びをして目をしょぼしょぼと瞬きした。
睡眠時間はかなり短かったし、もう忘れ始めているがリズを旅に連れ出したあの日の夢を見た気がした。
とっくに食器をしまい終えている主人はカウンターの向こうでイスツールが飲み終えるのを待っている。
「自分の部屋で寝てきたらどうだ。朝にはまだ早いぞ」
「はい」
そう返事をしたもののマイスはカウンターに座ったまま動かなかった。
マイスはリズに何があったのだろうと考えていた。
顔の傷のことならリズが戻ってきたときに既に見ているし、
治療のときにも傍にいたから傷跡が残ってしまっている事なら知っていた。
マイスはそんな事など気にしていなかったのだが冒険者としてはまだ日の浅いリズにしてみれば、
それは初めてついた大きな傷跡であり、しかも顔に残ったとなれば。
女性である彼女にとってはショックだったのだろう。
マイスはふぅっとため息をついて配慮の至らなさを恥じた。
ずっと子供に物を教えるように接してきたせいか、彼女が一人の大人の女性だという認識に欠けていたのかもしれない。
あとで謝ろう。
それにしても、何故リズは誰に襲われたのかを話してくれないのだろう。
彼女の方から仕掛けたからだろうか。だがそれは無いように思われた。
いくら気性の激しいリズでも自分から進んで他人に攻撃を仕掛けようとはしない。
それぐらいの分別はあった。彼女の教育係でもあったマイスにはその確信があった。
では一体何故。
マイスはリズの身体に付けられた傷跡から誰にやられたのかを推理した。
複数の等間隔に並んだ鋭利な刃物による刀傷。鉤爪だろうか。
爪を扱う者はそう多くはない。モンスターを除けばウルフマンや武道家だけだ。
だがウルフマンの爪ならあそこまで綺麗な等間隔に傷は付かない。それにもっと傷口が荒れる。
武道家。素手を好む者が多い中、中には鉤爪を扱う者も居る。
そしてマイスにはようやく思い当たる人物が居た。
あの時の酔っ払いか。
そしてリズが話そうとしない理由に納得した。
突然席を立ったマイスは宿の主人に怪訝な表情を向けられながら二階へ上がっていった。
そしてしばらくして大剣を担いで戻ってくると、
「すいません、思い出したことがあるので行ってきます」と言い残してさっさと外へ出て行こうとした。

353ドギーマン:2007/03/11(日) 07:59:48 ID:yvbhphlM0
「待て」とイスツールはマイスの背中に呼びかけた。
「何か思うところがあるのかも知れないが、やめておけ」
イスツールは陶製のコップに注がれたワインを楽しみながら言った。
マイスは足を止めた。
確かに、あいつが何処に居るかも分からない。
もしかしたらリズが倒してしまったのかも。
それにもしまだ生きていたとしても、
「今のお前に何が出来る?」
イスツールは歯に衣着せず言い放った。
「おいおい」と完全に外野扱いにされていた主人が今の言葉の意味は察したのか横槍を入れてきた。
「イスツール、言いすぎだ」
気にした様子もなく飲んでいるイスツールにそう言って主人はマイスに顔を向けた。
「マイス気にするな。俺は信じてる。お前はやるときゃやれる男だ」
だがそんな主人の慰めも今のマイスには憐れみとしかとれなかった。
「そいつに何を言っても無駄だ」そう言い放ってイスツールは知らん顔でコップを煽った。
「おい!」主人は怒鳴ってイスツールを睨みつけた。
「やめて下さい」
カウンターから走り出て座っているイスツールに食って掛かる主人をマイスは言った。
イスツールが座っていた椅子が倒れて床で背もたれが跳ねた。
マイスは主人を取り押さえようとしたが、イスツールは動くなとマイスに言った。
ローブの胸倉を掴まれたイスツールは表情を変えずに主人に言った。
「そのろくに力も込められない左手で俺を殴るのか?そんなもの私には効かない」
主人はチッと舌打ちすると、イスツールの顔を左拳で殴った。
イスツールは頬を殴られて顔を少し逸らしたが、本当に効いていないようだった。
「前々から気に入らなかったがな、お前のその人の気持ちを考えない言いようはなんだ!
 何百年も生きていて、人の気持ち一つ理解できないのか!」
イスツールは胸倉を掴む主人の手首をぎゅっと握り、強引に引き剥がした。
手首を強く握られて痛みに顔を歪める主人にイスツールは言った。
「本当の事を言って何が悪い?私はお前達人間とは違う。
 ただ神と、志半ばに死んでいった同胞のために使命を全うするだけだ。そのためだけに私は生きている」
主人は握られた腕を引き戻し、手形が残る手首を押さえながら言った。
「へっ、ならさっさとマイスと別れちまえばいいじゃねえか。その使命とやらのために俺を見限って捨てた時のようによ。
 誰よりもこいつが立ち直るのを期待してるのはお前なんじゃねえのかよ!なんで素直にならないんだ」
イスツールはその言葉に何も答えなかった。
黙って椅子を立ち上がらせてカウンターの下に突っ込むと、主人の脇を通り抜けた。
そして「馳走になった」とだけ言って二階へ上がっていった。
マイスはただただ立ち尽くしてイスツールを見送っていた。
主人はイスツールが残していった陶製のコップを掴み上げると、カウンターの向こうに戻って洗い始めた。
「全く、図星だとだんまりを決め込むんだからな。いつもそうだ、自分勝手な奴でよ。
 本当の事ばかり言うくせに、本当の気持ちはちっとも言わないんだ。タチが悪いぜ」
マイスは黙って主人の顔を見た。主人は少し笑っているようだった。
「おい、さっさと寝ろ。お前達のせいで寝る暇がほとんど無くなっちまった。迷惑な客だよ全く」
「・・はい」
そう言い残してマイスは二階へ続く階段をあがって行った。
洗い終えたコップを拭きながら、主人は壁に掛けた剣を眺めた。

354ドギーマン:2007/03/11(日) 08:00:33 ID:yvbhphlM0
前後上下左右の感覚が全くない、真っ暗な闇の空間の中にエムルは居た。
そしてその闇の空間の中心、周囲との判別もおぼろげながら、一層濃い闇色の玉が彼女の前にあった。
エムルは意識のなかで作り上げた自身の身体を抱いて、
遠く闇を眺めながらまるで辟易したという様子でその玉に言い放った。
「毎晩毎晩、呼び出さないでくれる?」
「お願い、もうやめて」
エムルを生み出した母、肉体の前の宿主、エルムの声が真っ暗な空間に響いた。
悲痛な叫び声を聞きながらも、エムルは顔色一つ変えなかった。聞く耳持たないという様子で玉から眼を逸らしていた。
「今更遅いわ。もう誰にも私を止められない」
「体を返して」
エムルは玉を冷たい表情でじろと睨みつけた。
「あなたがくれたんでしょ。今更返せと言われて、はいそーですかといくもんですか」
「こんなこと・・」
エムルは前髪を掻き揚げると、はっ!と嘲るように言った。
「こんな事ですって?これは全てあなたが望んだことよ」
「違う」
エムルは顔を突き出して黒い玉に顔を近づけた。
「いいえっ、違わないわ。あなたが望んだから私は生まれた。
 あの人が欲しい。あの人を支配したい。あの人を独占したい。その欲望が私を生んだのよ」
「違う!私はただ・・」
エムルはふんっと言って顔を離すと、玉を汚ない物を見るかのような目つきで見た。
「煩いわね。あなたは黙ってここから見ていればいいのよ」
「もう、やめて・・」
エムルは苛立ちを隠せない様子で玉を睨みつけていた。
そして黒い玉に対して笑みを浮かべて蔑んだ。
「あなた以前の自分の姿忘れたの?あの酷い、醜い姿。
 仮面を被ったほうがマシだなんて。あんななりでよく生きてこれたわね」
「・・・・」
「あなたなんかじゃあ、あれっきり二度と彼と目を合わすことも出来なかったでしょうよ」
「・・・・」
「暗い地下の部屋でおぞましい骸骨と一生慰めあって生きるなんて、考えただけでゾッとするわ」
「フェローを悪く言わないで。私の大切な、友達なのよ」
はっ!とエムルは大きく吹き出すと、堪えられないという様子で腹を抱えて笑い出した。
あははははははとエムルの大きな笑い声が響いた。
その笑い声をただ聞くことしか出来ないでいる黒い玉は、打ち震えているようだった。
あー、と言って笑い終えたエムルは唇の端を吊り上げて玉に言った。
「あの紛い物の命が友達ですって?どうせ人形みたいにあなたが操ってたんでしょ。
 人形に話しかけて、人形から返事して貰った気になって、本当に寂しい人ねあなた」
「操ってなんかない。フェローの意思に干渉したことなんて一度もないわ。彼は本当に、本当に私の友達だったのよ・・」
確かに彼女達の魂が分離し、入れ替わった後もフェローは変わらず活動し続けていた。
「あ、そう」
エムルはつまらなそうに素っ気無くそう答えた。
「とにかく、あなたなんかが身体を持ってもどうせ何も出来ないでしょ。彼だって、あなたなんか気にもかけないわ」
「もういい、それでもいいの。こんなこと間違ってる」
「もう遅いって言ったでしょ。私のおかげで彼をここから見ていられるんだから。せいぜい幸せに思いなさい」
エルムは泣いているのだろうか、泣き声交じりの叫び声を上げた。
「お願い、もうやめてぇ!こんなこと望んでない」
「しつこいわね。何を言ったって無駄って分からないの。じゃあ、私はもう行くわ」
そう言うとエムルは踵を返して玉から離れていった。
「待って!」
闇の彼方に消えていこうとするエムルに牢獄に閉じ込められた魂は叫んだ。
暗い、真っ暗な闇の空間の中に彼女の声は響きもせずかき消された。
やがて闇にすっと横一線に切れ目が走り光が差し込んだ。
エムルは目を開いた。

355ドギーマン:2007/03/11(日) 08:01:42 ID:yvbhphlM0
エムルは宿の前でマイスが出てくるのを待っていた。
昨日の晩、負傷したリズの後を追ってこの宿を知った。
そしてマイスもそこに居ることも知った。
エムルは昨晩、宿の戸を開けた傷だらけのリズを抱いて中に運んでいくマイスの姿を見ていた。
マイスの腕の中に抱かれたリズの姿を目の当たりにしたとき、彼女は嫉妬の感情に支配されかけた。
だが、なんとか感情を抑えていた。
エムルはマイスに声をかけたあの日と同じ黒いボンデージに身を包み、道行く人間達の注目を一身に集めていた。
しかしいつもと様子は違うようで、その表情にはいつもの妖しい笑みはなく、何かに苛立っているようだった。
だがすぐにその表情も晴れた。
待ちに待った人物がようやく姿を現したのだ。
だが人物はすぐ道の反対側に居る自分と眼が合ったにも関わらず、すっと視線を逸らしてさっさと道を歩き出した。
エムルは彼のつれなさにショックを受けたが、すぐにその後を追って足を進めた。
「ねえ」
そう声をかけたエムルをマイスは無視して歩き続けた。
「ねえ、待ってってば」
「悪いが用事があるんだ」
マイスはエムルには目もくれず歩き続けた。
長い髪を揺らしながら彼の後ろに追いすがるエムルは、仕方なく止まらない彼に言った。
「闇雲に探したってあいつは見つからないわよ」
その言葉にマイスは驚いてようやく立ち止まった。
「知っているのか?」
エムルはそう言って振り向いたマイスの顔に笑みを向けた。
当たり前よ。私が仕組んだんだから。
内心でそう呟いた。
「ついて来て」
そう言っていま歩いていた道を反対に進みだした。
今度はマイスがエムルの後を追いかける番だった。

356ドギーマン:2007/03/11(日) 08:03:45 ID:yvbhphlM0
小さな洒落た喫茶店の中、不釣合いな姿のエムルはじろじろと眺めるウェイトレスにモーニングセットを注文した。
朝食はまだなのだそうだ。
エムルに続いて興味深げに見られるマイス、絶対に誤解されているだろう。
マイスはウェイトレスにお茶だけを注文してさっさと引っ込んで貰う事にした。
そして周囲の視線を何とか意識の外に追いやろうと努め、エムルを見た。
エムルはというとテーブルに両肘をつき、両の指を絡め合わせていた。
黒い手袋に覆われた人差し指の先が紅い唇に触れている。まるでマイスにそこを意識させるかのように。
その紅い瞳はじっとマイスだけを見つめていて、見惚れているかのように目元が緩んでいた。
マイスは何も話を切り出そうとしないエムルについに我慢できなくなり、口を開いた。
「君は、何を知っているんだ?」
そう言われてエムルは思い出したように話し始めた。
「全てよ」
「全て?まさか・・」
マイスは目を見張った。思わず腰が椅子から浮いた。
エムルはマイスをなだめる様に両手の平を彼の方に向けた。
「勘違いしないで。私も命を狙われてるんだから」
「・・どういう事なんだ?」
マイスは腰を再び椅子に落ち着けた。
エムルは喫茶店の開け放たれた窓の外に目を向けた。
朝から賑やかな都会の往来が見える。
「ここに来るまでに通った商店街の道、覚えてる?」
エムルの横顔が発した言葉に、マイスは表情で疑問符を浮かべた。
「ねえ、覚えてる?」
エムルはマイスに目を戻してもう一度聞いてきた。
マイスにはそれとさっきの言葉におよそ繋がりがあるとは思えなかった。
しかし、思い当たるところがあったので彼女の質問に答えた。
「あの酔っ払いに殴られた場所だ」
「それだけじゃないわ」
エムルは顔を小さく左右に振ってそういった。
「私達が初めて出会った場所よ」
「何を言ってるんだ?」
あの時、エムルと思われる人物はあの場には居なかった。
野次馬の中にも、たぶん見かけなかったはずだ。
マイスの表情にエムルは悲しそうに眉を寄せた。
「言ったでしょ。私はあなたに助けられたって」
そう言われて、マイスは目を見開いて驚愕した。
「まさか・・」
「そう、あのとき、あの酔っ払いにからまれてたのが私よ」
「いや、でも・・」
余りにも違いすぎる。顔こそ見えなかったが体型が、身長が余りにも違いすぎる。
「信じられないのも無理もないわ。でも私は姿を変えて生まれ変わったのよ。
 そして、あなたと同じく今もあの男に命を狙われているわ」
マイスは呆然として何も言えなかった。そして信じられないという表情でエムルの姿をじっと見ていた。
エムルは顔を両手で覆って突然泣き出した。
「あなたが拾い集めてくれたあの骨、友達だったの、本当に・・大切な・・・・フェローって名前で・・・、
 だけど、だけど、あの男に・・・・・私を守ろうとして・・・」
マイスは慌てて彼女を慰めた。
「すまない、そういう事情だったとは知らずに、俺は・・・。君の事を疑っていた。本当にすまない」
エムルは目を擦りながら顔をあげた。
「いいのよ、ごめんなさい。取り乱してしまって」
エムルは落ち着きを取り戻すと、これまでの経緯を再び話し始めた。
あの日マイスに助けられたあと、ずっとあの男に付け狙われていたらしい。
執拗に追い詰められ、フェローは彼女の身代わりになってあの男に殺されてしまった。
怖くなったエムルは姿を変えて男の目を振り切った。
だが何とかフェローの仇を討ちたくて、それとなくマイスに接触を図った。
他に頼れる人が思い当たらなかったのだそうだ。
だがその時には既に男の照準はエムルからマイスに移されていた。
あの男はマイスには特に強く恨みを持っているらしく、マイス本人を狙う前に彼の周囲の人間を狙い始めた。
そしてその犠牲となったのが・・・、
「リズか・・」
「ええ」
「あの男はここ最近あなたに接触を持った人間を無差別に襲うつもりよ。だから、私もいずれ・・・」
そう言ってエムルは俯くと身体を震わせた。
マイスはテーブルの上のエムルの手をぎゅっと握った。
「大丈夫だ。俺が、君を守ってみせる」
その言葉にエムルは喜びの表情を見せたが、すぐに表情を曇らせた。
「でも、あなたはいま戦えないんでしょ・・」
マイスはそう言われて押し黙ってしまった。
エムルはマイスの手を自分の手から外すと、逆に彼の手を上から握り返した。
「でも、手が無いわけじゃないわ」
「え?」
顔を上げたマイスに向かってエムルは妖しい笑みを浮かべて言った。
「私と契約を交わすのよ」

357ドギーマン:2007/03/11(日) 08:14:41 ID:yvbhphlM0
あとがき
実は最初のほう読んで頂けると分かりますが、
ネクロマンサーの名前はエルム、悪魔の名前がエムルなんです。
同一名は紛らわしいかなあと思って別にしたんですが、
エルムのほうの登場があまりにも少ないために
読み手の方からはエムルで統一されてしまったようですね。
同一にしとけば良かったなあと今反省しつつ、
もう書き込んでしまったので分けることにしました。

>>349
登場しましたよネクロのちみっこエルムが。
言われたからではなく、そろそろエルムとエムルに会話させようと思って書いてましたからね。
ちょっとドキっとしました。

358名無しさん:2007/03/11(日) 11:02:32 ID:xjutXW.c0
>ドギーマンさん
ビッグアイ、ダメルと同じくらい寂れているような気がするのはそんな理由が…。
「大きな目」という名前も「見張り」という意味のように聞こえますね。
メインクエ、私は火酒倉庫から先に進めずはや一ヶ月。ここさえクリアしちゃえば楽そう…でもないのか(苦笑)

おぉ、偶然にも登場してくれましたね、ちびっこエルム!
ところでイスツールも結構好きになってきました。厳しい性格の天使さんっていうのも何となく新鮮です。
エルム、エムルの名前は失礼しました…orz どうしてもセクシー悪魔なエムルさんの方が印象強くて(笑)
契約というのは何だろう…悪魔の契約系スキルなどはまったく知識が無いのでどうなるのか楽しみです。

359名無しさん:2007/03/11(日) 12:07:30 ID:2BEKkPTQ0
テスト

360318:2007/03/11(日) 13:40:36 ID:kohE0f8U0
>>343さん
レス遅くなってしまってすみません……orz
携帯から書き込もうと思ったのですが、規制されてるみたいでした。
確認させていただきました! あんな感じで良いと思います。
私も更新の仕方など調べて、まとめたいと思いますので、どうか手伝っていただけると嬉しいです。

361ageパン:2007/03/12(月) 02:13:40 ID:S5RP8Cs.0
   2本目のタバコ

 天気の良い暖かい穏やかな日だった。私は噴水のふちに座りタバコを吸っているとふと
視線の先に見えたブルネンシュティグ魔法高等学校の屋上で、タバコをふかしている生徒
の姿が目に入った。この時間は授業の時間だが、こんな天気を授業のためにフイにしてし
まうにはもったえないと思ったのだろう。彼の気持ちは理解できる。私が生徒ならそうし
たであろうから。そういえば私が初めてタバコを吸ったのもあの場所だったきがする。私
はそのとき、ふと一人の男のことを思い出した。

 昔、神童と呼ばれた男がいた。古都の工業区を古くから取り仕切る一家に三男として生ま
れた彼は、初・中・高と魔法学校をトップの成績で卒業という快挙を成し遂げ、そしてさ
らにその上の大学を特別推薦で入学、将来を有望視されていた。だが彼は大学入学半年後、
暴力事件を起こし退学となり古都を去っていった。有名な話だが彼の人付き合いは決して
まともとは言えず、中等学校卒業の頃には裏社会でも顔のきく不良達の親分になっていた。
そんな彼と私が知り合ったのは、私が高等学校三年ころのことだった
ある日、私が授業をサボって校舎屋上のベンチで本を読んでいたときのことだった。彼は
どこからともなくやってきて私の隣に座り胸のポケットからタバコを取り出して言った。
「吸っていいか?」
「ああ。」
 高級なタバコであることは見た目と香りでわかった。
「あんたも吸うか?」
「いや、私はたばこはやらない。」
 それから私たちは会話を交わさなかった。校内でのうわさで私は彼のことを知っていたが、
多少の落ち着きをもったその雰囲気があの噂にどうつながるのかがわからなかった。無論、
タバコを平然とベンチで吸うあたりの感覚とその派手な身なりはまともであるとは言えな
かったが。彼はタバコを吸い終えるとベンチの金具にタバコをこすり付けて火を消し、内
ポケットからケースを取り出すとタバコの吸殻をそれに捨てた。彼はスッと立ち上がると
遠くを眺めて、それから去っていった。
 その日の午後、高校での授業を終え古都の井戸付近を自宅へ向けて歩いていると、道の反
対側を歩いていた数人の不良たちに肩をぶつけた運の悪い女がいた。女は懸命に謝罪して
いたが男たちはニヤニヤしながら建物と建物の間にある細い裏道へと女を引っ張っていっ
た。その数人の不良の中にはあの彼の姿もあった。あたりに人通りはなく、目撃したのは
私くらいのものだった。私は彼らの後を追った。

362ageパン:2007/03/12(月) 02:15:07 ID:S5RP8Cs.0
 細く暗い路地の奥で女はしゃがみこんですすり泣き、不良たちはそれを囲んでいやらしい
笑いを浮かべていた。彼はあの時と同じタバコを吸いながら不良たちのしていることを眺
めていた。私は不良たち後方の物陰に隠れ様子をうかがった。
「いてえなぁお譲さん。」
「彼、腕が折れてしまったかもしれないねぇ。」
「そんな…肩があたっただけで腕が折れるとは思えません。でもぶつかってしまったこと
はあやまります。」
 女は必死にあやまっていたが彼らはそれすら楽しんでいるようにみえた。あの男は相変わ
らずつまらなそうにタバコをふかしていた。
「詫びをもらおうか…」
 不良のうちの一人が懐からナイフを取り出し女が着ている服の胸元を滑らせると、服が裂
かれ肌が露出し女は手でそれを隠した。不良たちは口笛を吹いて目を細めた。私は腰にか
けていた杖を手に持ちかえた。あの男を含め全部で4人。不意をつけば一瞬だ。私は杖を
かざししゃがみこんでいる女にミスティッグフォッグをかけると同時に不良たちに向かっ
て走り出した。突然起きた変化に驚いた彼らはやみくもにナイフを構えたが無駄だった。
私にとって一番手前にいた男の左わき腹をクリティカルヒットでたたきつけると、驚愕の
表情をみせていた二人目の男の腹部を蹴り上げ、下がった顎めがけ左下から右上に杖を振
り上げた。三人目の男はナイフで私に切りかかったが、それをよけると同時に足をかけて
転ばせ、うつぶせに倒れたところに無防備の延髄を杖の柄で叩き気絶させた。私はしゃが
みこんでいる女を一瞥すると、あの男へ視線をうつした。彼はすこし驚いた表情をみせ私
をじっと眺めている。ウィザードというにはあまりにもがっちりとした体格、背は180
センチ以上だろうか。髪は短髪で金髪のオールバック、両側頭部が黒く染めてある。黒の
タートルネックに金のネックチェーン、黒のズボンに金のバックルのブランド物のベルト、
鈍く輝く茶色の革靴。そして袖を通さずに羽織っている白い毛皮のロングコート。見るか
らにいかつい男だった。そして彼が少し動くたびに見える腰にかけられた銀色の杖…鋼の
杖。彼はコートの内側のポケットからケースを取り出すと、レンガの壁に押し付けて火を
消したタバコをそれに捨てた。

363ageパン:2007/03/12(月) 02:16:31 ID:S5RP8Cs.0
「なんだお前ら、そのくらいで伸びちまいやがって…。なさけねえ。」
 彼はそういいながら腰にかけていた鋼の杖を手に取り、普通のウィザードが持つよりも少
し長めに持ち、私をにらみつけた。
「何のようだ。まさか道を聞きに来たわけじゃねえだろうな。」
 彼は低く響く鋭い声でそう問いかけたが私は返事をしなかった。だが彼は私の反応とは関
係なしに私の顔をしげしげと眺め何かを思い出したようにいった。
「あぁ、あんた昼間屋上のベンチで本読んでた兄ちゃんじゃないか。邪魔しねえでくれよ、
せっかく人が楽しんでたところなのに。」
「ぜんぜん楽しんでいるようには見えなかったが。」
 私がそういうと彼は軽く笑った。
「ははっ、…やっぱりわかるか。そう、面白くねえんだこれが。まったくもって何にも面
白くねえ。行く先々でトラブル起こしてはみるものの全然面白くねえんだ。でもよ、今か
らはそうでもなさそうだ。おい、女。」
 彼がそういうと、私の後ろでしゃがみこんでいた女は突然の指名におどろいてかん高い声
でそれに「はいっ。」と答えた。
「この兄ちゃんが俺の相手してくれるっていうからよ、あんたはもう消えてもいいぜ。」
 女は私の顔をみあげて私の返事を待っていた。私はいった。
「いいよ、行ってくれ。私がなんとかしておく。」
 女は立ち上がると深々と私に頭を下げると男をキッとにらみつけて走り去っていった。そ
んな視線などおかまいなしに男は二本目のタバコに火をつけた。
「あんな女助けてなんになるってんだ。正義のヒーローでも気取りたかったのか?」
「不意打ちで三人なぎ倒してお前を追っ払ったところで、あの女をいただいちまおうと思
ったのさ。最近女を抱いてないものだからね。」
「はは…ははははは!そうか、助けた女を抱いちまおうとしてたのか!そりゃいいや!し
かしあんた分からねえ男だ。授業をサボって屋上なんかにいると思えばおとなしく本なん
か読んでやがるし、女を襲ってる暴漢をとめに入ったかと思えばその女をいただいちまお
うとたくらんでやがる。俺はシャラク。シャラク・マーロウってんだ。あんたは?」
「私はアレキサンダー・ヒューネン。」
「ふーん、でアレックスよ、止めに入ったはいいがこの収拾をどうつけるつもりだ?この
伸びちまったやつらはいいとして、俺はまだぴんぴんしてるんだぜ?まさかこのまま帰る
とはいわねえよな?俺は退屈してるんだぜ。」
「できれば君とはことをかまえたくない。」
「おいおい、いきなり三人のしといて言う台詞じゃねえな。女を逃がしちまったのはかま
わねえが、部下がやられた以上俺も黙っておくわけにもいかねえんだ。ケジメだけはとっ
てもらおうか。」

364ageパン:2007/03/12(月) 02:21:07 ID:S5RP8Cs.0
 その瞬間、彼は吸っていたタバコを私の顔めがけて投げつけた。それをよけた私の顔面に
鋼の杖が振り下ろされが、私は上体をそらし攻撃を避けバックステップで距離をとると杖
を回し気を集中させ魔力を溜めた。それを見たシャラクは嬉しそうに笑みを浮かべると私
に答えるように杖を回し始め魔力を溜め、杖を振りかざした。一瞬シャラクの体を光の翼
が覆った。ヘイストだった。私はおどろいた。教科書やかなり高度な技術をもったウィザ
ードくらいからしか見たことのない魔法を、彼は齢17,8にして扱うことができていた
のだ。神童の呼び名は伊達では無かった。シャラクはすさまじい勢いで私の懐まで飛び込
むと杖を水平になぎ払い、それをしゃがんでよけた私のみぞおちに続けざまに前蹴りを食
らわした。壁に叩きつけられた私を彼は休ませてはくれなかった。自分の背中につきそう
なほど振り上げた鋼の杖をすさまじい勢いで振り下ろしてきた。私の振り上げた山登り杖
と鋼の杖とがぶつかり合いシャラクと私の視線が交錯した。鍔迫り合いになったが彼は左
手で私の胸ぐらをつかみ引っ張ると足をかけて私を転ばせた。私がそのいきおいにまかせ
前転し態勢をもちなおし立ち上がろうとしたところにシャラクはすばやく距離をつめなぎ
払いを一撃放ったが、私の唱えたトルネードシールドがその攻撃を阻み彼を吹き飛ばし壁
に叩きつけた。今度は私の番だった。私は4つのファイヤーボールを浮かばせると壁によ
りかかっている彼めがけありったけの力をこめて放った。彼はそれに反応し鋼の杖をかま
えると打ち落とす体勢をとったが、続けざまに唱えたロックバウンディングが不意を付か
れた彼の身動きを取れなくさせ、瞬時のテレポーテーションで彼の背後を取った私は隙だ
らけの背中にチリングタッチを放った。普通ならこれで終わるはずだった。だが彼は違っ
た。私の放ったファイヤーボールをウォーターキャノンでかき消すと、完全に決まりきる
前のロックバウンディングをレビテイトでかわし、振り向きざまのクリティカルヒットで
私のチリングタッチを受け止めた。あまりのすさまじさに冷気が裂かれ杖のきしむ音が聞
こえた。あまりにも完璧な対応だった。私は彼との鍔迫り合いを強引に押し払って距離を
とると、苦し紛れに放ったクリティカルヒットが思いのほか彼の側頭部をとらえた。彼の
頭が勢いよくはじかれ上体がのけぞり、鮮血がほとばしった。が、彼は自分の鋼の杖をみ
つめたままその場を動かなかった。
 私が彼との距離を一定に保ちながらその様子をうかがっていると、彼はレンガの壁のほう
に体を向け自分の杖をレンガの壁に叩きつけた。鋼の杖は音を立てて砕けた。
「こんな硬ぇ鋼でも、冷気にさらされりゃあこんなもんか…。杖がなけりゃウィザードな
んて商売あがったりだ。俺の負けだな。…好きにしな。」
「なんでウォーターキャノンが撃てるのに私のチリングタッチをクリティカルヒットで受
け止めたんだ。チリングタッチで受け止めていればそうはならなかったはずだ。」
「俺には俺のやり方があるんだ、戦い方まで口出しされる覚えはねえ。」
「怒らないでくれ。素手の君とやりあっても勝てるとは思ってない。」
「なんだそりゃ、トドメをささねえのか。あまいよアンタ。」
「私には私のやり方がある。口出しされる覚えはない。」
「………」
「それに」
 私は杖を腰にかけなおすとあたりを眺めてからいった。
「こんなごたごたに首を突っ込むものじゃないな。儲からないし疲れるし、女の名前を
聞くのも忘れてた。」
「気づくのが遅ぇよ。」
 彼は笑っていった。

365ageパン:2007/03/12(月) 02:24:51 ID:S5RP8Cs.0
 それ以来、私が校舎の屋上で本を読んでいたり昼食をとっていると時々彼がやってきて話
をするようになった。彼とは気が合った。物事の考え方や価値観が似ていたこともあるだ
ろうが、なにより私の興味を引いたのは時折彼が口にする世界観が一般的な人間のそれと
はかけ離れているときがあったこともある。だがそれは大金持ちの家で育った彼らしく、
私が一般的な感覚で物事を述べると私が驚いたように彼も驚いていた。
「それにしてもよ、お前はなんでいつもこんなところに一人でいるんだ?」
「友達がいないからだ。」
「友達を作りに学校に来てるわけではないだろう。」
「それもそうだけどね。だけど特に気が合いもしないやつらと一緒にいるのは、それだけ
で気が疲れるものだ。疲れるのはいやだ。勉強なんてここでもできるしな。」
「したことないくせに何いってやがるんだ。」
 思わず私たちは笑った。
「君はいつも大勢の人間と行動をともにしてるが、ずいぶんと人望があるみたいだね。」
「皮肉はよせよ。あいつらはただ俺が怖いからついてきてるだけだ。邪魔でたまらねえ。
向こうは俺のことを利用しようと思ってるだけで、それは力を持ってる人間なら俺じゃな
くて誰でもいいんだ。人間ってのは自分にとって利益のある人間としかつながりを持たな
い生き物だが、それだけが目的でしかもそれが見え見えの付き合いほど吐き気をもよおす
物もねえよ。だがそれももうどうでもいい。以前はいつかはそれが役立つかもしれないと
思っていたが、最近になって考え方が変わったよ。一人のほうが楽でいい。ゴミなんて持
っててもいつまでもゴミのままだった。」
 シャラクはマッチをすってタバコに火をつけた。その先端から立ち上る煙が彼の額のすぐ
真上の髪を軽くなで風に揺られて消えた。彼はベンチから立ち上がると手すりのところま
で歩いていき手すりにもたれながら校舎の下を見下ろした。校庭では野外の授業を行って
いるグループがいくつかあった。
 私は彼の隣に行くと手を差し出した。
「なんだ。」
「私も一本もらおう。」
「吸い方知ってるのかよ。」
 彼はそういいながら笑い、ケースを軽く振り一本だすと私に差し出した。私はタバコを口
にくわえると彼がマッチの火をくれた。
「火を先端につけたら息を吸うんだ。」
 私が息を思い切り吸い込むのを彼はにやにやしながら眺めていた。私はそれを不思議に思
っていたが次の瞬間それを理解した。私は思い切りむせタバコを足元に落とした。
「ははは!」
 私がなんども咳き込み、目に浮かんだ涙をぬぐっているとなりで彼はまだ笑っていた。
「おいおい、このタバコ高いんだぜ?落とすなよ。」
「まさかこんな味のするものだとは思わなかった。どうやったらそんなにうまそうに吸え
るんだ。」
「悪党ってのはタバコをうまそうに吸うものなんだ。俺はこの町一番の悪党だからな。だ
からうまそうにタバコを吸えるのさ。」
「君が悪党だって?それは違うよ。君は正義を語るには身なりが悪すぎるが偽善を語るに
は正直すぎる、でも悪を語るにはやさしすぎるよ。」
「そうか…それじゃあお前と一緒だな。」
 彼はそういうとタバコのケースを軽く振り、私に2本目のタバコを差し出した。


            -fin-

  他の作品 三冊目 >545〜546

366名無しさん:2007/03/12(月) 16:00:34 ID:4rEwZdOw0
>ageパンさん
WIZ同士の戦闘シーンも読み応えがあって凄まじいですが
なんか良い親友…というよりは戦友みたいな二人が最高です。
二人のその後なんか妄想してしまいます。良いコンビになってるんだろうなぁ。
次回作もお待ちしています。

367ドギーマン:2007/03/12(月) 18:18:09 ID:yvbhphlM0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356

「契約・・」
マイスは昨日の朝エムルから聞いたことを思い出した。
痛みを感じなくなり、傷を負ってもすぐに治る。
確かにそうなれば痛みに対する恐怖から逃れられるかもしれない。
昔のように戦えるようになれるかも知れない。
そうすれば、引退せずに済む。リズと共にまた冒険の旅に出られる。
「あなたの大事な人が守れるのよ?」
エムルはマイスの手を握ってじっと彼の目を見て言った。
迷うべき事ではない。だが、それでもマイスには迷いがあった。
いま一つはエムルが本当にあの時助けた人物と同一人物とはとても信じられないということ。
マイスはまだエムルに対する疑心が晴れたわけではなかった。
もう一つは痛みを感じなくなるという事に僅かながら恐怖を感じていた。
痛みを感じず、傷を負ってもすぐに治る。果たしてそれは人間と呼べるのだろうか。
エムルは黙ったままのマイスに焦れているようだった。
そこにウェイトレスがモーニングセットとお茶を運んできた。
エムルの手がマイスの手から離れた。
ウェイトレスは見るからに夜の女のエムルに手を握られていたマイスを見てクスっと笑った。
「どうぞ、ごゆっくり」
そう言って若いウェイトレスはにやにやしながら引っ込んでいった。
「誤解されちゃったようね」とエムルは嬉しそうに言った。
誤解されているのは始めからだ。
エムルは小さな器の中に盛られたサラダにフォークを突き刺してドレッシングがかけられた野菜を口に含んだ。
唇の間にフォークの先を挟んだままもぐもぐと口を動かして、小さく喉を動かした。
フォークを口から離すと、水を少し飲んでからマイスに言った。
「いい?これは私とあなただけの問題じゃないのよ」
マイスはティーカップの摘みを握ってエムルを見た。
「相手はゲンズブールっていう、界隈では有名な喧嘩屋。とても危険な相手よ。
 酒に狂って、頭のいかれた狂人よ。異常者よ。衆人の前で恥をかかされたのをとても恨んでるわ。
 狙われているのは私とあなただけじゃない。リズさんが生きているとなれば彼女はまた襲われるかも知れない。
 彼女だけじゃないわ。他のあなたのお友達だって」
マイスはリズやイスツール、宿の主人に食堂の常連客たちを思い返した。
みんな冒険者だが、とっくに引退した宿の主人はとても戦えないし、
身体にも心にも傷を負わされたばかりのリズが今また襲われればただでは済まないかも知れない。
しかも、事の発端は自分にある。
これ以上誰も傷つけたくない。そして、ケリは自分の手で付けたかった。
「・・わかった。契約しよう」
マイスは決心した。そしてエムルに手を差し出した。

368ドギーマン:2007/03/12(月) 18:19:38 ID:yvbhphlM0
エムルは唇の両端を引き伸ばし、これまでに見たことのないような妖艶な雰囲気の笑みを見せた。
彼女はサラダの器を脇にのけてマイスの手をすぐさま両手で握ると、目を閉じた。
「さあ言って。あの言葉を」
マイスは目を閉じたエムルの顔を見ながら、言った。
「契約する」
マイスはそう言った瞬間、何かが身体の奥に侵入してくる感覚を覚え、身震いした。
それは快感だった。体中を撫で回すような感覚と身体を内側からくすぐるような感覚。
何故かリズの顔が見えた。そして次々に人の顔が現れた。
さっき思い返した彼にとっての大事な人々が次々と溢れてくる。
まるで死の淵を彷徨ったときの走馬灯をまた見ているかのようだった。
そして、ようやく身体を震わせて喫茶店のテーブルに彼の意識は帰って来た。
それはとても長かったような気がするし、とても短かったような気もする。
曖昧な時間感覚に夢を見ていたかのように頭がクラクラした。
マイスは机の上に投げ出した右手にさきほどの快感に似た感触を覚えた。
顔を上げると、エムルが彼の手を握ったままその手の甲を愛おしげに撫でていた。
マイスは背筋にぞっとするものを感じて手を慌てて引っ込めた。
エムルは一瞬玩具を取り上げられた子供のような表情を見せたが、すぐにマイスに笑みを浮かべた。
「どう?」
そう聞かれてマイスはようやく自分の身体に異常がないかを調べ始めた。
特に何も変わったところは見られない。
いや、目に見えての変化はあった。ただそれは彼からは見えなかった。
マイスの背中にある、あの日に付けられた傷跡。
リズを守り、彼の命を死の淵に追いやり、そして彼に死の恐怖を植え付けた傷。
それが徐々に小さくなり、消え失せた。
「いや、何か変わったという感じは・・」
マイスは戸惑いながらもそう答えた。
「そう、でもすぐに分かるわ」
そう言ってエムルは食事を再開した。
手袋を脱いで細い白い指先を露にすると、パンを千切って食べ始めた。
「君はこれからどうするんだ?」
エムルは口元を押さえて隠しながら答えた。
「約束どおり、あなたに守ってもらうわ。たぶん次の標的は私だもの」
「何で分かるんだ?」
平然とそう言ってのけたエムルにマイスが怪訝な表情でそう聞くと、
「実はあの男には私はあの時ぶつかったのと同一人物だってことはバラしてあるの。
 だから奴は当初の順番通り私を優先してくると思うわ」
「なんでそんなことを」
「事の発端は私だもの。それに、フェローの仇も討ちたかったから」
そう言ってエムルは俯いた。
「分かった。宿の方には他に仲間も居るしリズは大丈夫だろう。俺は君を守ろう」
「デートね!」
俯いていたエムルは顔を上げて嬉しそうに言った。
何故そうなるのだろうか。
マイスは表情をすぐに変えるエムルに唖然としてしまった。

369ドギーマン:2007/03/12(月) 18:21:29 ID:yvbhphlM0
エムルとマイスは喫茶店から出ると、マイスはとりあえず宿に戻りたいと言った。
イスツールはリズを看ていてくれているだろうが、一応彼女を守ってやってくれと言っておきたかった。
今朝から姿を見せなかったリズの姿も気になっていた。
顔の傷のことを謝ろうとしても、部屋の中に入れてくれない。
エムルは何故か嫌がったが渋々ついてきた。
商店街の通りを二人並んで歩く。
「少し離れて歩かないか?」
マイスは腕に身体全体を密着させてくるエムルに動悸を抑えて言った。
きゅっとした感触のボンデージと柔らかい彼女の肢体が腕に押し付けられる。
彼女の熱い体温と緊張が連動して手の平に汗が滲んできた。
だが、エムルはマイスの言葉を全く無視して顔を肩に押し付けてきた。
足を蹴ってしまいそうなほどの密着。さわさわと赤い髪が肩を撫でる。
「あいつがどこから狙ってくるかと思うと怖くって」
そう言ってエムルは全く怖がっている様子も無くマイスの腕に絡ませた指先を食い込ませた。
「昼間の人目がある間は大丈夫だ」
そう言ってもエムルは離れなかった。
周囲の眼が集まる。マイスの意思に反して中には敵対心を滲ませた視線もあった。
それでもエムルは一向に構わないようだった。
マイスは仕方なくエムルの肩を掴んで強引に引き離した。
「離れてくれないと、いざという時に動けないだろう」
とマイスは彼女と自分自身に言い聞かせた。
エムルは渋々と彼から離れ、隣を歩き出した。
マイスはほっと安堵をついて宿に向かって歩いていった。

370ドギーマン:2007/03/12(月) 18:23:31 ID:yvbhphlM0
マイスはエムルを宿の前で待たせて中に入っていった。
中までついて行くと言われたらどうしよう思ったが、それは無かった。
エムルは「彼女をいたわってあげてね」と言って意味深そうな笑みを浮かべていた。
宿に入るとテーブルを拭いていた主人が「早い帰りだな」と声をかけてきた。
「リズが心配で」
それだけ言ってマイスはさっさと二階へあがっていった。
リズの部屋の前で立ち止まり、二回ノックする。
相変わらず返事は無かった。
「リズ、開けてくれ」
「リズ!」
もう一度ノックした。
「そんなに叩かなくっても、開いてる」
中から小さく声がした。
マイスは部屋の中に入った。
木窓は全て締め切られていて部屋は暗かった。
テーブルの上に宿の主人が運んだのだろうか、食事が手を付けられた様子も無いまま置かれていた。
おそらくその時からドアの鍵は開いたままなのだろう。
リズは部屋の寝台の上でマイスに背を向けてシーツを顔まで被っていた。
マイスは部屋に入ると、まず窓の方に歩いていった。
「窓は開けないで」
リズは細い声で言った。
「おねがい」
マイスは窓の前で立ち止まって、寝台の上の彼女を見下ろした。
まるでマイスの視線を避けるように彼女は寝返りをうち、シーツを顔に引っ張りあげた。
「すまない、リズ」
マイスの言葉にリズは身体を曲げて小さく震えていた。
「なんで、あなたが謝るの」
「俺は、君の気持ちを考えて居なかったのかもしれない」
「私の気持ちなんて関係ないわ」
「いや、俺にはそれが一番大事なんだ」
マイスは自分を見ようとしないリズに言った。
「リズ、俺を見るんだ」
マイスは立ったまま、今度は無理矢理振り向かせようとはしなかった。
「頼む」
リズはのろのろと目をマイスのほうに向けた。
顔の下半分はシーツで隠したままだった。
「顔をよく見せてくれ」
「いや・・」
リズは首を振った。目は涙ぐんでいて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
マイスは窓を開けた。真っ白な眩しい光が暗い部屋に差し込んだ。
「いやぁ!」
リズはまた顔を背けてシーツを頭から被った。
「リズ、あの日のことを覚えているか?」
「・・・・」
「あの日、背中に受けた傷跡は俺にとっては誇りなんだ」
「そんなこと・・。だって・・・・、そのせいであなたは・・」
マイスは差し込む光に包まれていた。
「お前を守りたくて受けた傷だ。そのためにあの時死んでいたとしても、命に代えてお前を守れたことに満足したはずだ」
リズは黙っていた。胸に受けた傷跡が疼いていた。
リズはシーツをのけて身体を起こした。寝巻き代わりの白い布の服に身を包んだ彼女の頬の傷は照らし出された。
「リズ・・」
「私も、あなたの事を守りたかった」
リズは顔をあげた。髪は乱れきっていて、眼は赤く腫れていた。
そして頬の傷に指先で触れながら言った。
「あなたに見られたくないなんて思ってた。あなたの傷も、見たくなかった。
 馬鹿よね。気持ちが見えてなかったのは、私のほうだった」
マイスは寝台のそばに歩いていった。
リズはマイスの身体に顔を埋めた。
マイスは顔を押し付けるリズの頭を抱いていた。
あの日からだったろうか、こうして触れ合うことすら無くなったのは。
リズは怖かったのだろう。マイスの背中の傷跡が。
だが、その傷跡は今は消えていることに二人は気づいていない。

371ドギーマン:2007/03/12(月) 18:25:00 ID:yvbhphlM0
「う・・・」
リズは小さく呻いた。
泣いているのかとマイスは思ったが、どうやら違うようだった。
急に頭を抱えて苦しみだした。
「う・・あ・・・あああ!!」
「リズ?おい、大丈夫か!?」
マイスは手を伸ばしてリズの肩に触れた。
するとその瞬間ビクンとリズの身体が跳ねた。マイスは驚いて手を引っ込めた。
リズの声を聞きつけたのかドアが開いてイスツールが入ってきた。
「どうした。何かあったのか?」とマイスに聞いた。
「リズの様子が変なんです!」
マイスはうろたえながら大きな声でイスツールに言った。
イスツールはリズの傍に駆け寄ると、彼女の手を強引に頭から引き剥がして顔をじっと見た。
「出て行け」
イスツールはマイスにそう言った。
「え?」
「早く出て行くんだ!」
「どういう事なんだ。リズはどうしたんだ?」
イスツールはマイスのほうを向いて口を開いた。顔には焦燥の色が伺えた。
「闇の魔力に侵されている。原因は今から調べる。だから出て行け」
そう言ってマイスに詰め寄ると彼を強引に部屋の外へ押し出そうとした。
押されてマイスがよろけたとき、急にイスツールが床に膝を突いた。
「む・・・」
「イスツールさん?」
マイスは急にうずくまったイスツールを心配そうに見下ろした。
イスツールは頭を抑えてマイスの顔を見上げた。
苦悶の表情を浮かべて痛みを堪えているかのようだった。額には汗が滲んでいた。
「マイ、ス・・・・お前・・」
マイスは身体を強張らせた。そして慌てて部屋を出た。
まさか、あの契約は・・・。
廊下を走り抜けてすぐに階段を駆け下りた。
宿の主人が不審そうにマイスを見た。
「おいマイス、どうしたってんだ慌てて」
「近寄るなぁ!!」
マイスは主人に大きな声で叫んだ。
「マイス?」
主人はマイスの声に驚いてひるんだ。
マイスは声を何とか落ち着けて言った。
「リズと、イスツールさんが上で倒れています。すぐに行って下さい」
そう言い残してマイスは宿から出ていった。
「お、おい!」
宿の主人の声を振り切って、マイスは通りの雑踏に姿を眩ました。

372ドギーマン:2007/03/12(月) 18:38:27 ID:yvbhphlM0
あとがき
悪魔の契約スキル、「魔の約定」が元ネタです。
他の全ての契約スキルを使うためにまずかけなきゃいけない基本とも言えるものです。
相手のHPを徐々に回復させる代わりに、相手の周囲の味方に闇ダメージを与えます。
実際の仕様ではHP回復量は結構ありますが、闇ダメージはとても小さいです。

>ageパンさん
最後まで読んでまた最初の回想に入るシーンを読み返すと、
その後二人の間で何かがあったのを想像させるようですね。
戦闘シーンのウィザード同士の戦いも迫力がありました。

373名無しさん:2007/03/12(月) 20:13:09 ID:C3RWAfjA0
とりあえずローカルに反してないみたいなのでちょっと短編書いてみますよ。


石畳。古ぼけた町並みに、活気のある声。
道端を子供が数人横切り、その隣で、何か食べモノの類を持った男が、奇妙な秤の上にそれを乗せていた。
俺はその中ただ一人、重そうなカバンを背負って歩いていた。

「・・・・ふう・・残りはこれだけか。」
街の中央で、奇妙な光がしきりに現れている。そして大金を持った女や、ギラギラと光る斧を抱えた同業者・・尤も、俺の職業は冒険家だが。・・が絶えることなく辺りに散っていく。
心なしか、何か切ないものを感じた。・・・自分の持っている斧が、どんなに研ぎ澄ましても光を発さないポンコツだからではない。
どうも最近、センチメンタルになっていけないな・・。

「あいよ。全部で45万だ。・・・兄ちゃん毎度だが、良くこんなに集めて来るな。俺も助かるよ。」
武器屋の親父は、相変わらず俺と同じ雰囲気がした。
何か大切なものがあって、だがそれを忘れてしまった。いや、自ら捨てたとでも言おうか・・・そんな匂いがした。
「これが今の俺の食扶持だからな。チョキーの旦那。」
そういうと親父さんは、ただ何も言わずにふっ、と笑って金の勘定を始めている。
・・・・だがその動作には、何処と無く虚っぽいものがあった。

俺はそこで何も言わず、後ろを振り返って、歩き始める。
「また・・狩りか。」
心なしか、最近独り言が増えた。
背中に背負った斧が、今日はもうくたびれた。と言わんばかりに鎖を鳴らす。

「ねぇ、そこの貴方?」
ふと、間の抜けた様な声が後ろからした。同時に肩をポンと叩かれる。
俺は静かに後ろを振り返った。・・・銀色の、すらっとした槍を構えた、長身の女性。
「・・・何か用か?お譲さん。」
俺は肩から斧を下ろし、地面に置いた。・・・・自分の足元にまで、その重みが響いてくる。
「突然で申し訳ないんだけど・・一緒に狩りに行かない?」
「・・俺にデートする程縁のある女はいない筈だが?」
俺はさらっとそう言ってのけた。・・・最近の女ってのはどうもいけない。
この前も確か、テレポーターで飛んだ先の港町で、女に良い品を狙われ、しつこく付き纏われた。
目の前の彼女は、静かに此方に近寄って、無垢な笑みを見せた。
「・・・よっぽど腕に自信があるのね?貴方。」
「・・何故、そう思う?」
俺は女の姿を改めて見てみた。・・・・ライトアーマーの類か、チョッキの様な形の鎧に、女性用の下半身鎧。
・・新品の所を見ると、買い換えたか、新米か・・・
だが俺は、それと同時に左肩のショルダー・パッドを見ていた。
斧槍兵の一撃や、エルフ達の剣の跡が、生々しく残っていた。
女はそれもじろじろと眺めながら、俺の周囲を回る。
俺はまた、ふー、と、長いため息を付いた。
だがその横で、彼女の声が聞こえてくる。
「ねね、アルパス地下監獄って・・知ってる?」
「ああ、あの拷問施設か・・・廃棄になったと聞いたが?」
彼女は俺の斧をじっと見つめると、やがて顔を上げ、なぜか首を縦に振った。
「決まり!私と一緒に行こう?」
「何だって?」・・俺は少々困惑したような表情で、彼女を見つめ返した。
・・・冒険者の間柄と言うのは、もう少し殺伐としていた筈なのだが。
「良いでしょう?どーせ暇そうなの知ってるんだから。」
「・・・あんた、後を付けていたのか?」
無垢な子供の様に、俺の周りをぐるぐると回る彼女。・・・丸でバカにされている気分だが。
「そんな怖い顔しないでよ。さ、薬買って行くよ?」
彼女は突然、俺のショルダーパッドをつかみ、強引に引っ張った。
「ま、待て、まだ俺は行くとは・・」
「私はロゼリー・シュアロット。よろしくね。」
俺は困惑した表情で周りを見た。
・・・その奥で、チョキーが此方を見つめながら、手をゆっくりと振る。
まるで、行って来い兄ちゃんとでも言わんが如く。
「・・ちっ、仕方ないな。」
俺はしぶしぶと、ピクニックに行くようにぴょんぴょん飛び跳ねる彼女を横目で見ながら、ゆっくりと歩いていった。



なんかこれ続きそうです。

374姫々:2007/03/12(月) 20:20:58 ID:Cc.1o8yw0
さてこんばんは、何故か久し振りな気がします。
とりあえず前置きは無しにして、早速行って見ましょう、>>313-316より続きます。

「あれ・・・?」
暑くない・・・、いや暑いといえばそりゃ暑いけど、想像していたよりはかなりましだ。
「どうしました?」
私の疑問符に、すぐさまリリィが反応してくる。
「いや・・・、思ったより暑くないなって」
「それはまあ・・・、オアシスのおかげでしょうね」
「なんだー・・・、それなら言ってよー」
私としては裸にされたうえ、あれだけ怒られてこの結果な訳だから納得いかない。
「ふむ・・・、言ってませんでしたか・・・、これは失礼。」
「むー・・・、リリィー。嫌いになっちゃうよ?」
ほっぺたを膨らませて言うとリリィはクスリと笑い、私の頭をチャドル越しに撫でてきた。
「ふふ、それは困ります、今後は気をつけさせていただきますね」
とかそんな事を話していると、セラが宿の前で、周りをきょろきょろと見まわしている。
「どうしたの?セラ」
そう私が尋ねると、うーん・・・と一度オアシスの方を見つめた後、私のほうを向いて口を開く。
「いえー・・・、スウェルファーがまだ帰ってきていないだけですー」
「あの魚の?後で探そっか?」
私がそう言うがセラは首を横に振り、笑いながら言う。
「いいですよー、多分水が恋しくなっちゃったんでしょうねー」
そう言い、セラは「ふふふ」と再びオアシスを見ながら笑う。まぁここはオアシスがあるし、
泳いでいても不思議ではない。むしろ魚が空気を泳いでる方が不思議だ。けど・・・、
「やっぱりあの魚・・・スウェルファーだっけ。水の中泳ぐのに水無くて大丈夫なんだね、
 普段浮かんでるし」
私が冗談のつもりで笑ってそう言うと、セラがまたふふっと笑って言う。その顔は、港町での
時と同じ、セラが真面目な話をするときの「いつもと違う笑顔」だった。
「そんな事は無いんですよ、あの子だって水の精霊です。あの子が生きていけるだけの水が
 この星の何処にも無ければ、あの子は生きていけないんです。水だけじゃありません、大地、
 木々、空気―、この星の全ての自然そのものが、この子達そのものなんです。だから自然を
 守っている限りはこの子達も私達人間の召喚に応じ、そして守ってくれるんですよ。」
そうケルビーを撫でつつ、優しく・・・私以外にも、この星全ての人達にも語りかけるように、
そう話してくれた。
ロマだからこそ自然に対する共感を忘れず、自然に触れ合えるのだろうか。そして私達が
精霊を召喚できないのは自然に対する気持ちが薄れているからだろうか・・・。そんな気がする。

375姫々:2007/03/12(月) 20:22:31 ID:Cc.1o8yw0
と、精霊といえば、例の星の精霊もそうなのだろうか。
「スピカも精霊なんだよね?スピカもやっぱり召喚されてるの?」
『私?まっさかー。大昔にお城の近くで遊んでた時に先代の女王様に会ってさー、成り行きのまま
 契約したって感じ?いやー、だって女王様って神さまなんかよりずーっと優しいんだもん。
 私感動しちゃったよー。いつかその時のこと話してあげるねっ!』
・・・、まぁこのノリの軽い精霊はこんなもんだろう・・・、予想は出来ていたけれど・・・。
「って、神様ってホントにいるのっ!?」
『え?信仰上の偶像って思ってた?ちゃんといるよー、多分イメージとは全然違うけど。
 ルゥちゃんもこの世に生まれたことは神様に感謝すべきだねっ』
ケラケラと笑いつつ、スピカが言う。こうみてるとスピカって本当に凄いのか疑問に思えてくる。
・・・と、話がだいぶ逸れてるな。ここは一気に話を戻してみよう。
「でさ、後でスウェルファー探す?」
まぁ、実の所オアシスに行ってみたいと言うのが一番の理由だけど。なんたってオアシス都市と
言われているくらいなんだから、それなりに大きくて綺麗に違いない。
「え・・・、悪いですよー・・・・。それに一回召喚を解除して再召喚すれば私の傍にまた帰ってきますし・・・」
「それじゃ、泳いでる途中に突然連れ戻されたスウェルファーがかわいそうだってっ!」
と、その言葉に口元に手を当てつつ、何か考えた後、手を離し私のほうを向いて言う。
「じゃあ、同調したら場所は分かるので、後でお願いしますー」
・・・同調できるなら帰ってくるように言える気がする、けどそうせずにそう言ったのは
何となく私が探すと言った理由が分かったから・・・?まさかね、なんたってあのセラだし。
「それよりさ、詰め所って何処なの?」
私がリリィにそう訊いてみると、あちらですよ、と指をさす。
「って、もしかしてあれ・・・?」
「ええ、あれです。」
詰め所は宿の目の前にあった・・・。
「チャドル着る必要ないじゃんよー」
私はリリィにそう抗議する。こんな着にくくて暑いものホントは着たくなかったのだから。
「いえ・・・、なんとなく砂漠を歩き回る羽目になりそうな気がするのです・・・」
「・・・?」
私の頭上には「?マーク」が浮かんでいたに違いない。まぁそのリリィの予感は、完全に的中する事に
なるのだが。
・・・
・・・
・・・
「すみません、ここの団長さんはいらっしゃいますか?」
私達がクロマティガードの詰め所に入るとすぐ、リリィが事務の若い女の人に話しかけている。
「ええ、いらっしゃいますよ。少々お待ちください。―グレイツさん、お客様がお見えになっています。」
クロマティガードのリーダーさんはグレイツというらしい。しばらく待っていると、
全身を高そうな防具で包み、大剣を携えていると言う「いかにも」と言う感じの男の人が歩いて来た。

376姫々:2007/03/12(月) 20:25:03 ID:Cc.1o8yw0
「やあ、ようこそ。今ここを任されている者だ。歓迎しよう、君達は今からここの新たな隊員だっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。言葉を失うとはこのことだろうか。一瞬何が言いたいのかわからなかった。
「・・・。いえ、私達はそんな事のために――」
「遠慮しなくていいぞっ!何せ今は人手不足でなっ!猫の手でも借りたいところだったのだっ!!」
リリィの言葉に耳すら傾けない。多分この人は相当な度胸の持ち主か、魔力感知能力が皆無なのか、
ただ単に空気が読めないかのどれかなんだろうと予想を立てる。
「・・・、いえ、だから私達は――」
「はっはっはっ!!!では君達に最初の任務を与えようっ!!」
「私達の話を―・・・」
と、言っていると事務の人が私に耳打ちしてくる。
(気をつけてね、ああやって強引に傭兵団に引き込もうとするのがあの人のやり方だから・・・)
と。つまりはこの人もそうやって入れられたんだろうか?そう考えると、イヤリングをして、
スカートを穿いている女の人が、傭兵団にいてもおかしくは無いけれど。
その会話をリリィが横目で見ている。この万能なウィザードなら、唇の動きで何を話しているかを
理解できそうな気がするが、事実今回もリリィのその万能振りを見せ付けられる結果となった。
「ふむ・・・「正当防衛」「実力行使」ですか・・・、今朝はせずに済みましたが、まあ今回は
 仕方ないでしょう。」
と、唐突にそう言い、リリィが右手の人差し指を天上に向けると、そこに直径40センチ位の炎の球が発現し、
フワフワと浮遊している。
「この魔法の特性上、二つ以上作り出すには詠唱が必要なのですが・・・、まぁ一つで大丈夫でしょう。
 さて、「私達に任務」・・・でしたっけ?」
あぁ・・・、今一瞬、「悪魔の微笑み」っていう物を見た気がする・・・。
それに対して流石にこのグレイツって人も生命の危機を悟ったのであろう。
「ふむ・・・、性別、年齢も問わないが・・・、流石に子供に傭兵になってすぐ任務に行けと言うのは外道か・・・」
そう言うと、私のほうをちらりと見た。
「これは失礼。とりあえずはその禍々しい炎弾はしまってくれないか?」
それと同時、リリィの指先から50センチほど上を浮遊していた球体は、ポンと音を立てて消滅した。
「私達の話を聞いていただけるのでしょうか?」
「まあな。ここは何でも屋ではないから聞けない願いもあるが、とりあえず言って見てくれ」
今度はさっきまでのテンションの高さは何処に行ったのやら、淡々と話す。
「アイノの報告書と言う物の情報を探しているのです。ここで聞けると訊きました」
と、「アイノの報告書」という言葉を聞いた途端、ピクリと眉毛が動いた。
「どこで誰がそんなこと言ったんだ。ここで情報を聞けるとなど」
目つきが厳しくなっている。そんなに知られたくない事だったのだろうか。
「ブリッジヘッド、シーフギルドのケブティスさんと言えば分かるでしょうか?」
「・・・・・・。あの外道集団か・・・。あの集団に聞いたと言うならただでは情報はやれん。」
それは聞き捨てならない。少なくともケブティスさんや、にーさんは外道なんかじゃないと断言できる。
それに人間的に気に入らないと言うなら私はこの人の方が気に入らない。
「・・・ではどうすれば教えていただけるのでしょうか?」
そう言うリリィの口調も、僅かながらに棘が見られる。付き合いが長い私にしか分からないだろうけど、
間違いなく私と考えている事は同じなんだろう。
「一つ、任務を請け負ってもらおう。なに、大した事は無い。最近デマが横行していてな、どこぞの悪魔
 の仕業とは思うのだが、それによって傭兵達の士気が大きく落ちている。」

377姫々:2007/03/12(月) 20:25:44 ID:Cc.1o8yw0
「デマと言うのはどのような物ですか?」
そう尋ね返すリリィの口調はさっきのまま。
「焦るな、今から言ってやる。任務で警備傭兵の墓付近まで行った隊員がそのまま消えてしまう
 と言う噂が広がっていてな。いや、本当のところは調べてみるとデマなのだが。しかし、デマと
 知らない隊員がいてな、そいつらに知らせて欲しい。」
「はい、その位ならお安い御用ですが、それだけでしょうか?」
あれだけ私達を毛嫌いしていたのに、これだけの事ではいどうぞと情報をくれるはずは無い。
私だってその位は予想はつく。
「察しがいいな、まだあるぞ。つまりだ、火の無い場所に煙は立たない。君達には警備傭兵墓に行き、
 デマを流している輩がいれば、そいつにデマを流すのはやめるように言ってきてくれ。以上だ」
「・・・、子供に任務は外道・・・では無かったでしょうか?」
「ふん、等価交換だ。情報を知りたければ行ってくるんだな。」
リリィの言葉を完全に突っぱね、グレイツはあくまでも高慢な態度を取り続ける。
「・・・分かりました。行きますよ、ルゥ様、セラも起きてください。」
こんな話の中でも、立ったまま寝ていたセラをリリィが起こし、私達は詰め所を後にした。
・・・。  
「・・・そういう事ですか・・・。まあ予想は出来ていましたが・・・」
詰め所を出る直前、リリィが呟く。表情は平静を装っているが、おそらく心の中は穏やかでは無い。
「どういうこと?」
私には何のことか分からない。と、スピカが服の中から顔を出す。
『聞かないほうがいいわよ、ルゥちゃん。にしても気に入らないわね・・・、あの男・・・』
「ええ、何とか一泡吹かせてやりたいものですが・・・、どうしたものでしょうか・・・」
スピカも聞いていたらしい。
・・・後でリリィに聞いた話だが、グレイツは私達に向かって、
《お前達は墓の魔物に殺されればいい》
そう呟いていたらしい。

378姫々:2007/03/12(月) 20:49:15 ID:Cc.1o8yw0
こんばんはー、お久し振りです。なっかなかグレイツさんのキャラが決まらず
やっとしっくりしたかな?って時には物凄く嫌なキャラになってました'`,、('∀`)
ここからの展開は決まってるのでそれなりに早く書けると思います。
ちなみに私の中ではアリアン編はあと3話で完結する予定です。
てことはあの面倒な報告書集めの話の内容もそろそろ考えないとダメですか。
まぁあれはとことんカット出来るので楽そうといえば楽そうですが。
あそこで出てくる職はあれでしょうねー。ちなみにスウェブ行くからWIZとか言う
軽い真似はしません。WIZはリリィ一人で十分です。予定では二職出すのでこうご期待です。

では、長々と書きましたが以下感想です。
>ドギーマンさん
手記は調べるの大変そうですねー。けど私もメインクエ関係の小説なので
私の話と食い違い出たりしてもその時は許してくださいorz
あとエルム&マイス話も面白いですね。葡萄葡萄っ!アチャ子アチャ子っ!
剣士戦士っ!!・・・はい、意味わかりません・・・、ごめんなさい。
けどやっぱ表現とか見習う所は多いです。参考にして私もいいものを書けるように
頑張っていきます。

>ageパンさん
男WIZっ!・・・いや、それが普通なんですよね・・・・リリィが特別なんですよね。
学生WIZ的なのもいいですね。WIZ=紳士だった私のイメージをいい意味で粉砕してくれました。
今後の登場人物の性格にバリエーションが増えそうです。
戦闘シーンもよかったと思います。

>373さん
ロゼリー可愛いなあ・・・、槍子か・・・、うん、私も頑張ります。

379姫々:2007/03/12(月) 20:55:17 ID:Cc.1o8yw0
・・・やっぱ自分でも意味わからない事書いてちゃ感想って呼びませんか・・・。
そんなわけで感想修正。
>ドギーマンさん
やっぱ悪魔って感じのキャラしてますよねー。武道家も悪方面っ!って感じで
すが、利用されてる悲しい人なんですよね。私としては大好きです。
リズはどうなるんでしょうね。今後に期待しつつ、今回はこれで〆させていただきます。

で、この場を借りて。再び感想かけてない方、ごめんなさい・・・

380名無しさん:2007/03/12(月) 22:57:50 ID:4rEwZdOw0
>ドギーマンさん
なるほど、悪魔の契約スキルはそういうものでしたか。勉強不足でした…orz
しかし対象を人にしたらこのマイスのようになってしまうと思うとゾッとします。
全てを手駒にしてでもマイスを手に入れようとするエムル、その描写が細かいです。
最後はどうなってしまうんだろう…続きを待っています。

>373さん
以前はRSもこんな風に道端でいきなりPTを組んだりしたんですよね(笑)
今でも無言PT要請、とあんまり良くない意味で言われてますが、個人的にはそんなPTでも嬉しかったり。
偶然にもアルパスで私も初心者さんと知り合った事があって、一緒に狩りしました。
アルパスはそういう意味では思い入れが深い場所です。続き、待ってますよ(笑)

>姫々さん
この三人娘の旅、お待ちしてました(笑)
グレイツってこういうキャラにしても楽しいですね!メインクエのこの辺ももう記憶の彼方です…。
なによりセラが良い味出してます。天然ボケに見えて意外と色々考えてたりしそう。
時に見せる「違う微笑み」にヤラれましたよ。ロマっていいなぁ!(謎)

381名無しさん:2007/03/13(火) 13:54:24 ID:mbprtLNA0
>ドギーマンさん
いつも楽しく読ませてもらってます。
普段は携帯での観覧なので感想書き込めませんでしたが・・・
前スレから様々な作品を読ませて頂いてますが今回の作品には
激しく期待してます。これからも頑張ってください^^

P.S
殺人技術者さんのチョキーファイルはまだ続いてますよね?

382第53話 サーバー&お知らせ:2007/03/13(火) 15:15:19 ID:j4.cmSxE0
「みっこ、あんた達はここで何してんの?」とちょっとイラつきながら美香は訊いた。
「実はね・・・」
と事の次第を手短に話した。
「え? 私達が追っている事件もRMTなのよ? そのお友達はどこ?」
「うっそー!? もう中にいるよ〜! てゆーか、同じ人なの?」
「メールでやりとりしてた?」
「うーん最初はね。途中からチャットで取り決めとか話してたみたいだけど・・・」
「チャットかぁ・・・違う人かもね・・・」
「あそこでどこに座っているか教えてもらう手筈なのよ」
と、みっこは飲み物のサーバーを指差した。3台並んでいるサーバーには数人が列をなしていた。

その頃田村は、自分の娘姉妹がネカフェで偶然出会っていることも知らず、岡崎の車に到着していた。
「なんだ?空振りか?」
「違う!まだわからん! 携帯を貸してくれ! 入管の方と無線がつながらん!」
「お前のを使えよ〜」
「電池切れだ」
「可哀想な娘だな、こんな親父を持って。ほらよ、使いな」
ポイッと携帯を投げてよこした岡崎だった。経費で100%落ちればなぁとかぼやきながらバックミラーを眺めていた。


佐々木は西口に美香がいないのを確認したのち、また走り始めた。
最寄のネカフェから全て当たっていくつもりだった。
最初の1軒目は該当人物はいなかった・・といっても美香が来たかどうかだけだった。
取引をする人物の容姿はまったくもって判らないからだ。

「じゃ、私行ってくるね。あそこにほら、もう並んでいるからさぁ」
みっこはジュースサーバーに向かっていった。
美香も目標の人物が見て取れた。同じ人間なんじゃないかしら?
みっこが話しかける人物を見定めようとした時、携帯が鳴動しはじめた。
・・・知らない番号だ。こんな時にどうして・・・・?
あれ? これって・・この番号は警察に割り当てされている番号じゃない?


「早く出てくれよ〜! まったくぅ!」と田村。
「あらら?知らない番号でも父親と判ったんじゃないか?」と岡崎。
「だったらどうだってんだよ!?」
「お前さ〜年頃の娘だよ? 父親の電話が一番うざいじゃないか。居留守されてる時なんか結構あるはずだよw」
「あほか!今は勤務中だぞ!・・・なんでお前はいつもそんなに呑気なんだよ!」
「だから出世したんじゃないかwww」
「おっ、もしもし?俺だ!」 ようやく美香が電話に出たらしい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最近、ちょっと仕事が忙しいです^^;
連載のくせに遅筆でごめんなさい。
ではまた^^

383携帯物書き屋:2007/03/13(火) 15:19:59 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>306-310  ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

「ふぁぁ……」
目覚まし時計を恨めしそうに睨みながら俺は起き上がる。
寝た時間も時間なので流石に寝不足気味だったりする。
「ショウタ、おはよー」
言われて顔だけ向けると、ニーナが箪笥の上に腰を掛けていた。

俺たちはあれから、再契約とやらを行った。
相変わらず、した瞬間はわからなかったが。
それからニーナはみるみる内に元気になっていった訳である。


少し早い登校。起きた時間が早かったせいもあるが、理由は別にある。
俺たちは今豪邸の前に立っている。
そう、ここは洋介の屋敷である。
外から見ている分には特に大きな損傷はないが、中は酷いのであろう。
ニーナが言うには、この屋敷には結界が張られてあり、範囲内の気配を察知する他、物音も外から遮断するのだという。
「…………」
ここにいると、どうもある少女の顔が頭をよぎる。
耐えかね、俺は屋敷を後にした。

学校の教室に着く。
教室内はいつも通り正常に異常。何が楽しいのか、まるで祭りのように賑やかである。
1日来ないだけで何故か懐かしく感じた。

何も変わらず、どこも変化もなく授業は始まる。
1つだけ変わったことを挙げるとしたら、それは前の席の洋介がいないことだった。
恐らく、洋介が再び学校に来る日はないだろう。
もし来るときが訪れるとしたら、それは俺の死を表しているのである。


夜。窓の向こうには綺麗な弧を描いた蒼白い月が覗いている。
夕飯をコンビニの弁当で済ませ、やることもないのでニーナと軽く雑談することにした。
しかし、当のニーナは何故か俺から少し距離を置いていた。それも朝から。
その疑問をぶつけてみることにする。
「おい、何でずっと微妙に俺から遠ざけているんだ?」
そう言うと、ニーナは無言で俺の頭上へ指を差した。
見上げてみると、天井を這っているクモの姿があった。
「クモか?」
「違うよ。もしかしてショウタ見えてないの?」
相変わらず意味不明発言のニーナさん。
「おかしいなあ……ショウタなら見えてると思ったのに」
「えっと……判りやすく説明してくれ」
そう言うとニーナは急に真面目な顔になり、正面から俺と対峙した。
「ショウタの頭上に若い女性と中年の男性が浮かんでいるわ。ショウタ、一体どこから連れてきたの?
ショウタくらいなら、意識すればしっかりと見えるはずなんだけど」
「な、何を馬鹿なことを……」
ニーナの強い眼差しについ気圧されてしまう。
逃げるように再び目を上に向けるが、やはり見えるのは汚い天井。
「嘘じゃないわ。ほら、今だってそこに。あ、ショウタにのしかかった」
「と、取れ! 早く、早く!」
ニーナのリアルな説明に思わず背筋がゾッとする。
俺の泣きそうな叫びにニーナは面倒臭そうに立ち上がると、俺に向けて手を前方にかざした。
すると、ニーナの手が光り、瞬く間に俺を光が包んだ。

“ありがとう”

(え――――?)
思わず見上げると、そこには笑顔を浮かべた若い女性と中年の男性がいた。
俺は呆気に取られる。
2人はゆっくりと浮いていき、天に近づくにつれてその姿も希薄になっていく。
やがて、光の粒となって消えた。

2人が消えると同時に周りの光も消失する。
「は、はは、本当に……いたんだな」
俺はしばらく外を眺めた。
いつの間にか雲は晴れ、全身を露にした月は誇るようにただ輝いていた。

384携帯物書き屋:2007/03/13(火) 15:21:24 ID:mC0h9s/I0
次の日もやはり洋介は来なかった。
まあ、来たら来たで大変なのだが。


今日は帰りにスーパーに寄って行くことにした。流石にコンビニ弁当も飽きてきたからである。
後方ではしゃぐニーナを尻目に俺は小声で囁く。
「ニーナは何が食べたい?」
後ろで悩む動作をする透明な浮遊物。
ニーナにはできるだけ公共の場では消えてもらうようにしている。何故なら視線が痛いからだ。
俺とニーナではお世辞にもお似合いのカップルとは言い難いだろう。
「えっと、前に食べた細くてにょろっとしたやつ」
一般人には理解不能だろうが、俺は即座にラーメンのことだと理解する。
野菜を買い、スーパー袋を片手にスーパーを後にした。

家に帰るとすぐに夕食の支度を始める。
衛生上かなり問題アリな台所のまな板に買ってきた野菜を広げ、似合わないエプロンを装着!
「よし、調理を開始しますか」


数十分後、ラーメンが完成する。
テーブルに2つ並べ、ニーナが我先と椅子に着く。
「どうだ、俺の(チャーシューないのはご愛嬌! 代わりに野菜たっぷり)ラーメンは」
「んん、美味しい!」
何も知らない人間がはしゃいで食う。
「でも、前食べたのとちょっと違うね」
「えっとだな、それは個性の問題だ。気にするな」
苦しくなってきたので、俺は話題を変えることにした。
ふと思い付き、以前エミリーに聞いたことをニーナにも聞いてみることにする。
「あのさ、ニーナって生前はどうだったんだ? いや、何と言うかレッドストーンを手に入れたら何がしたいんだ?」
今まで猛烈の勢いで動いていた箸がピタリと止まる。
「それは……」
言葉を濁し、考え込むように下を見つめる。
「ただの、くだらない夢よ」
そう言い、ニーナは自嘲するような笑みを浮かべた。
「そういえば、ショウタの両親って見たことないけどどうしているの?」
ニーナが無理矢理に話題を変える。しかし、それにより俺は黙り込む。
俺は言うべきか悩んだが、言わないのも変なので言ってしまうことにした。
「両親はいるよ。いや、居たって言う方が適切か」
「どういうこと?」
ニーナが怪訝な表現を向ける。
俺は箸を弄びながら過去を語る。
「父さんは8年前に事故で死んだ。母さんは今でも時々帰ってくるけど俺のことなんか見ちゃいない。でもまあ……」
「ご、ごめんね、ショウタ!」
俺が言い終わる前にニーナが挟む。
そんなニーナの様子に俺は思わず苦笑した。
「気にするな、昔の話だ。今は気にしてないよ」
そう言って俺はニーナに微笑む。
――――と。俺は自分が笑っていることに気が付いた。
この話題で、例え作り笑いだとしても笑える自分がいることに自分で驚く。
(俺も強くなったもんだな……)
「どうしたの?」
俺が内心で苦笑していると、ニーナが怪訝な表情で除き込んできた。
そこで俺は我に返り、ニーナにラーメンを促した。
「ラーメンっていうもんはなあ、時間が経つと伸びちまうんだぞ。つまりは生きているんだ。判ったらさっさと食え」
いつか父さんが言っていた。
今を楽しめ、と。大雑把な言葉かもしれないが、俺もそうだと思う。
今は、今のこの時間を大切にして。

385携帯物書き屋:2007/03/13(火) 15:40:44 ID:mC0h9s/I0
こんにちは。
ここがRSの小説の掲示板ってこと忘れている気がしてきましたorz
前回との差が約70レス差もあるのはちょっと遅すぎますね、すいません・・・・・・。
ちなみに>>383の2人というのは>>36>>185に出てきた人です。

>>ドギーマンさん
エムルとエルムって名前違ったのですねorz似ていたので気がつきませんでした。
ハラハラする展開ですね、続き待ってます。

>>姫々さん
何だか読んでいたらスピカってすごい人(?)だったのですね。
時間止められるって最強・・・・・・w
続き待ってます。

>>373さん
RSの味が出ているというか・・・昔を思い出すような小説ですね。
続きに期待しています。

>>きんがーさん
む・・・もう53話かぁ。
遂にぎゃおすさんと美香さんが会ってしまいましたね。
この先を期待しております。
あと、お仕事お疲れ様です。執筆速度の方は大丈夫だと自分は思いますよ。自分もっと遅いですし・・・^^;

386名無しさん:2007/03/13(火) 16:39:00 ID:Zx1A1ayg0
>381さん
同じく殺人技術者さんを待っているのですが…このスレになってから一度も続きが無いようです(悲)

>きんがーさん
警察側ときんがーさんたちの追う人物は同一人物では…という想像はしていましたが、さてどうなるんだろう…。
無理なさらずゆっくりでも大丈夫です。続きを待っていますよ。
いつも良いところで終わってしまうし(笑)

>携帯物書き屋さん
なるほど、ニーナは幽霊のような存在も見る事ができるんですね。これはちょっと面白いです。怖いけど…orz
私も時折金縛りなどに遭う体質のようで、そんな最中に頭に謎の声が響くなんて事もあるので実に親近感が沸きます(苦笑)
こうしたショウタ君とニーナの日常的な風景も読んでいて和みます。ショウタ君の過去も分かりましたし(笑)

書くのが遅いというのは気にしなくても良いと思いますよ。
まとめサイトの方でまとめればいつでも全部読めますし(笑) そういえば、少しUPしてみました。

387姫々:2007/03/14(水) 17:27:33 ID:Cc.1o8yw0
前置きを書こうとしましたが何も書くことがありません。
てな訳でさっさと行っちゃいましょう、アリアン編第4話、>>374-377より続きます。

私達は宿を出て、任務に向かう。あんな男の言うことは聞きたくないが、レッドストーンの
ためだ、背に腹はかえられない。
「さて、傭兵さん方にデマと伝えなければならないのですが・・・、何処から回りましょうか」
私にはまず行こうと思っていたところがあった。
「オアシス行かない?スウェルファーも探せるしさ」
「あぁ、なるほど。セラは構いませんか?」
と、振り向くとセラは何か呟いていた。その目は虚ろ、周りの音さえも聞こえているか疑問である。
「セラ・・・?大丈夫・・・?」
顔を近づけて話しかけるとピクリと反応し、目に光が戻ってくる。
「あ、うん。大丈夫ですよー」
「今度は何してたの?」
セラはえへへー、と笑いつつ言うが、たまにセラは何をしているのか分からない事がある。
「精神とかをスウェルファーに全部くっつけてたのー。うわー、冷たくてきもちいー」
って言うことは今セラはオアシスの中を泳いでいるのと同じなのか・・・なんて便利なんだ・・・。
「まあ行きましょう。それとセラ、多分注意しておいた方がいいですよ、口元とかに。」
「「?」」
私達二人は、リリィの最後の言葉に揃って疑問符を浮かべた。

オアシスは歩いてもすぐいける距離だった。そりゃそうだ、オアシスのすぐ隣が宿なのだから。
「さて、クロマティガードの方は鎧姿でしょうからその方々に噂の事を―――」
そう話している時だった。
「うっしゃぁあああ!!!晩飯フィイイッシュ!!!!!」
「いひゃぁあああああああああああああああっ!!!!!」
っと言う叫び声が同時に聞こえたのは。
そして叫び声を上げた張本人のセラを見ると、口元を押さえ、うずくまっている。
それを見たリリィがやれやれと言う。
「言ったではないですか・・・、スウェルファーが釣り上げられないように注意しなさいと・・・」
「しょほまへいっひぇまひぇんよー・・・・」
セラが涙目でリリィを見つつ言うが、正直な話なんと言っているか分からない。
っていうかやっぱリリィも暑かったのか・・・。
「って魚じゃなくてこれ召喚獣じゃねえか・・・。ちくしょう・・・、誰だよ全く・・・」
と、スウェルファーを釣り上げた鎧姿の男がブツブツと悪態をついている。っていうか鎧姿?
「ひょのほ、わひゃひのれしゅー」
未だに口元を押さえて、今にも泣きそうな顔をしているセラが立ち上がってトテトテと走っていく
「あ?これ譲ちゃんのかよ。ほれ、返すぞ。」
驚いた。何よりあの言葉が通じたことに。そして、返してもらうとすぐに、
スウェルファーに手をかざして何かをしている。多分治療の類だろう。

388姫々:2007/03/14(水) 17:29:09 ID:Cc.1o8yw0
「って、あなたはっ!!!」
「んあ・・・?おう、今朝の姉ちゃんじゃねーか。何?この子達妹さん?あー、なるほど、
 夜外に出れないってこう言う事だったのか。そりゃ出れないわなー」
あっはっは、と笑いながらそんな事を言っている。どうやらこの人とセラは面識があるらしい。
「妹ではないのですが・・・、それよりあなた、仕事中に釣りとは・・・」
「んー・・・、いいんじゃね?俺の仕事この辺の見張りだし、釣りしながら見張ってるって」
どう見ても釣りに熱中してたように見えたんだけど・・・。
「あなた・・・、軽いですね・・・。」
「はっはっは、あんたは俺の誘いに乗らない辺り軽くないなっ!」
大笑いしながら、見当違いな返答をしている。
「ところで、あなたもやはりクロマティガードの一員なのでしょうか?」
「ん?まあなー。いつでも抜けれるんだけど今はそういう事になってるなー。」
何故か意味深な言葉があった気がしたのは私だけじゃないと思う。
「では、噂話のことはご存知でしょうか?」
一応任務だ。この男の人はどう見ても士気が落ちているとは言いがたいけども、
知らないなら教えてあげないといけない。
「あぁ、あの話か、警備傭兵の墓に行った奴が死んで数日後に首だけ木に吊るされるって奴だろ?
 この前あるにはあったがあれはアリアンの人間じゃなかったな。」
私は寒気がした、何で?デマじゃなかったの・・・?
「デマ・・・と聞いたのですが・・・」
リリィが動揺を押し殺して聞いている。
「ん?あぁ、噂はデマだぞ。あったのは二回だけだし、それに何より警備傭兵墓なんかで死んだら
 首どころか骨すら残らねーよ。あんなもん、俺の管轄じゃないから興味は無いが。」
そう言いつつ、小魚を釣り上げては「これじゃ腹は膨れねえなあ・・・」とぼやいている。
「というより・・・、毎日釣りをしてるんですか?」
「ああ、節制だ節制」
何か違う気がする・・・
「まさか・・・、晩御飯は毎日・・・?」
「ああ、魚だな。そして釣れなきゃ晩飯抜き、干からびちまうぜ全く」
あっはっはっはっはと大笑いしているが、笑い事ではない。
「私はあなたの奥様がかわいそうでなりません・・・」
流石に呆れ顔をしているリリィを横目に、再び小魚を釣り上げつつ、男が呟く。
「奥さん・・・か・・・。」
?・・・なんだか今一瞬表情に影が見えたような・・・、それもとんでもなく濃い、世界の終わりみたいな・・・。
「あぁ・・・、あんたみたいなのが俺の嫁ならなぁ・・・」
あろう事かリリィにそんな事を口走ってる。
「いえ、私はそんな気はさらさら無いのでご安心を。」
「ちっ・・・、けどやっぱあんた位が好みなんだよなあ・・・」
「気持ち悪いこと言わないでください・・・。とにかく、私達は任務があるのでこれで失礼します」
「なにぃぃいい?ってちょい待て、任務って何だ任務って。本職の俺は見張りだぞ?任務なんか
 ここ3ヶ月来たこと無いんだぞ?」
どう考えてもそれは釣りばっかりしてサボってるからではなかろうか。
「たはー・・・、もうやってらんねぇなあ・・・、転職しようかなぁ・・・ボディガード辺りなら・・・」
と、何やらぶつぶつ言っているが、ボディガードになって釣りなどしてたら一発でクビだ。
「で、任務って何だよ。まさかさっきのあの噂聞かせるのが任務ってか?」
「え?そうですが何か」
「あぁ・・・?あんなもんグレイツしか信じてねえよ、少なくとも俺の仲間は全員デマと思ってる。
 俺も含めてな。」
「ふむ・・・、それなら私達は今から警備傭兵の墓へと行くことにします。」
「警備傭兵・・・・・?何でだよ」
顔はオアシスの方を向けたまま、目線だけをこちらに向けてきいてくる。

389姫々:2007/03/14(水) 17:30:20 ID:Cc.1o8yw0
「デマの大元がそこらしいのです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
その言葉には傭兵は反応せず、オアシスの方を向きなおって、釣り糸を垂らしている。
何なんだろう・・・、雰囲気が変わった・・・というか暗くなった?
「それよりも・・・、奥様がいるならあなたも自分の仕事を責任持って―」
「死んだ」
小声で、しかしはっきりと、男の人はそう言った。その背中は、それ以上踏み込むな、
と語っているかのようだった。
「・・・すみません・・・・・・」
男に説教していたリリィの勢いが途端に無くなる。
「はっ・・・、謝りどころは間違わねえんだな。」
「いえ・・・、立ち入った事でした、気がすまないなら何度でも謝りましょう」
「いらねーよ。そういや姉ちゃん、あんた名前何て言うんだ?」
さっきより多少調子を戻したような声で、男は言う
「呼ぶときはリリィと呼んで下さい。」
「じゃあ俺は、そうだな・・・。ロイって呼んでくれ、あいつにもそう呼ばれてた。」
「はい。なら次ぎあった時にでも。では、私達はそろそろ行きます。」
「待て、あんな噂信じてるのはさっきも言ったとおりグレイツだけだ。別に知らせなくて
 いいんじゃねえか?」
ロイが振り返って言う。・・・もちろん手に持つ釣竿は離さずに。
「警備傭兵の墓なあ・・・。そうか、あそこか・・・。」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。けどあそこも何にも無いと思うんだよなあ・・・」
それは私達に言ったのだろうか・・・?何となく違った気がするのは何でだろう。
「何も無ければ無い方が好都合です。私達は行きますね」
「あぁ、またな」
そう言い、再びロイは釣りに戻る。
「・・・、また会うことがあれば。」
その言葉にもロイは背中を向けたまま、魚を吊り上げていた。
・・・
・・・
そして、私達は砂漠を移動するための水を補給し、警備傭兵の墓へと向かった。
アリアンから東に真っ直ぐ、道なりに進めば1,2時間という所に、それは存在していた。
私達は、墓へと続く階段を下りていく。暗く、死臭が漂う墓の中へと。

390名無しさん:2007/03/14(水) 17:40:16 ID:kFNpLHbQ0
>姫々さん
単なるNPCに命が吹き込まれたようで、読んでいて本当に楽しいです。
グレイツにしろロイにしろ、ルゥやリリィたちとの絡みが丁々発止としていて小気味良いというか。
その上でメインクエとして話も進んでいますね。この三人が本気で狩りをしたらある意味強そうですが(笑)
さて、この次にどんな職が出てくるのだろうか…楽しみにしています。

391みやび:2007/03/14(水) 17:52:08 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [1/6P]

 じめじめとカビ臭い“客室”には明り取りの窓さえなく、通路に据えられたかがり火のゆら
めきだけが手がかりだった。
 もっとも“客室”はうさぎ小屋のように狭く、どこにいても手を伸ばせば壁に振れることがで
きた。通路側は頑丈な格子と錠で守られていて、かれらに許された行動といえば、舌打ち
をしながら億劫に寝返りをうつことくらいだった。
 “客室”はかれらにあてがわれた粗末な牢屋だ。そこは軍部所有の定期船の中で、その
船底に放り込まれてから何日が過ぎたのか、もはやかれらに日付の観念はなかった。船
内にせわしく立ち働く人の気配がないことで、かろうじて今が夜だとわかる程度だ。それさ
えかれらにとっては何の慰めにもならなかったが。

 静まり返った夜半、船体にあたる波の音だけが微かに響いていた。
 その囁きにまじり、ふいに声がした。
「もし……もし……」
 声をかけられた男はため息をついて寝返りをうった。
「どうしたブラザー(神父さん)? 悪いが懺悔をする気はないぜ。ほかをあたってくれ」
「はは……そうではありません。それに――」と、神父は暗がりで宙をあおぎ「ここに居る時
点で、私はすでに聖職者ではないのですから……」
 男は鼻を鳴らした。
「ふん……。あんた――何をやらかした?」
 神父は答えなかった。
 しばらく沈黙が続いたのち、男が小さく声をあげた。
「そうか……! あんたホドラーだな!? ひと月前にビスル村を灰にしたろう」
「私は――」神父は言いよどみ、嗚咽のようにもらした。「主の御声に導かれたのです……」
 男はくっくと笑った。
「そりゃあまた大義だが――かなり辛そうだぜ? どうやらあんたの神様は人間が嫌いらし
いな。いっそ宗旨変えでもしたらどうだ? 天国に行けるかもしれないぜ」
「おそらく……言っても信じてはもらえないでしょう」
「あんたが人殺しだってのは信じるぜ」
 神父は黙り込み、それからまた静寂が続いた。
 先に口を開いたのは男のほうだった。
「俺が誰だか知ってるか?」
「ええ……。看守から聞きました。同じ房だからと脅かされましたよ……ミスタ・イザン」やや
間を置き「通り名はたしか“片目のイザン”……でしたか?」
「だったら俺が“殺人鬼”だって事も知ってるよな。ブラザー(兄弟)……?」
 神父はええ、と無言でうなずいたが、暗闇のなかでその動作は見えなかった。
「ついでにもうひとつ覚えておくことだ。……いいか、俺の左側には立つなよ。絶対にな」
 そう言って男は失笑すると、神父に背を向けた。
「わかったらもう寝てくれ。おしゃべりはおしまいだ」
 だがしばらくすると、神父は再び男に呼びかけた。
「ねえ、ミスタ・イザン?」
 イザンは答えなかった。そうして半分は絶望しながらも、どこかではまだ逃げ出す方法を
考えていた。

392みやび:2007/03/14(水) 17:53:04 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [2/6P]

 軍の連中は魔法を無力化できると信じ、牢屋の周囲に特別な魔方陣を描いていたが、そ
んなものはイザンの魔法には何の効果もなかった。彼がその気になれば、一瞬で船を消滅
させることだって可能だ。問題はそこが“海の上”だということだ。いかにイザンの魔法であっ
ても空を飛ぶことだけはできない相談だった。
 それにもうひとつ、多勢に無勢、というやつだ。彼が捕まったのも、数百という兵隊に隠れ
家を包囲されたためだった。
 と、神父が再び同じ台詞を口にした。
 イザンはやれやれ、と思いつつ神父に相槌をうった。
「予知を――信じますか?」
「……。千里眼か?」
「いえ……もっと具体的な未来視眼ですよ」
「それがどうした」
「見えるんです……。私には――」
 イザンは仰向けになると、真っ暗な天井を見つめた。
「見えるって、何が」
 神父は息を止め、静かに言った。
「この船が……沈む光景です――」
 イザンは無言だった。
 しばらく待っても答えが返ってこないので、神父はかぶりをふった。
「……いや失礼。とんだお邪魔を――」
 神父が横になると、イザンは天井を見つめたまま言った。
「なぜそれを話した……。本当だとして、どうにかなるもんでもなかろう? 俺たちは囚人な
んだぜ。どのみち移送後はあの世だ」
 イエス。と神父。
 じゃあなぜそんなことを? そう問われ、神父は答えた。
「実は――もうひとつ見えるものがあるんです。私とあなたが……どこかの島にたたずんで
いる光景です。そう……どこか小さな島です。あれは……」神父は予知で見たその光景を
思いだし、心のなかに描いてみた。「とても天国には見えませんでしたが……」
 イザンは沈黙したあと、大きく息を吸った。
「地獄かもしれんぜ」ため息とともに吐き出す。
 神父は自嘲ぎみに笑った。
「それでも、ここより幾分か空気は良さそうでしたよ」
 ふたりは長いこと波の音を聞き、それからイザンが言った。
「……おい、坊さん」
「はい」
「あんた、泳ぎは出来るんだろうな」
「え……?」
「泳げるならそれでいい。それだけだ。……俺は寝るぜ」
 イザンは沈黙に戻り、数分後には言ったことを実行した。
 神父は隣に横たわる殺人鬼の寝息を子守唄に、ゆっくりと眠りについた。

     主よ――これは運命なのですか?

     あなたはいずこにおいでか――

     どうか、主よ……

393みやび:2007/03/14(水) 17:53:58 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [3/6P]

   *

 執務室に入ってきた参謀は神官に敬礼すると、話しを切り出した。
「神官殿。例の『エンデバー号』捜索の件ですが……いかがいたしましょう?」
 参謀の曇った表情を見て神官は肩をすくめた。
「その顔だと進展はないようだな」
「はい。まだ残骸さえ……」
「船が沈没してからどれくらい経ったかな?」
「はっ――少なくとも捜索を開始してから……」几帳面な参謀は懐中時計に目を落とし「今
でちょうど八日と……それから五時間と七分です」顔をあげて答えた。
 そうか……。と神官。
 目を閉じてなにやら考えた末、神官はひとりごとのようにもらした。
「あの魔法使いの殺人鬼はいいとして……共に移送していた神父だが――」
 参謀は神官が何を言わんとしているのか察した。「例の噂……ですか?」
「噂で済めば問題はないのだがな……いにしえの“堕天使”だなどと……」
 おそれながら……と参謀。
「尾ひれのついたゴシップについては心配無用です……。しかしごく少数ですが、信頼に
足る人物の証言に関しては……わたくしもどう対処してよいのやら……」
 神官は唸った。「神父の背中に琥珀の翼が生えていた――というやつか」
「真相はともかく、すでに古都の評議会がその噂に興味を持ち始めております……」
「わかっておる。見聞の名目でうちに居座っている議員の手下どもであろう? まったく見え
透いた言い訳を使いおって……シュトラディヴァディの亡霊どもが」神官は吐き捨てるように
呟いた。「やつらがレッド・ストーンなる石に国費を割きたいと思うならさせておけば良い。こ
ちらとしても都合がいい……」
 参謀は同意して頭をたれた。
「面白くないのは、そのことで我がアウグスタの信徒が浮き足立つことだ。それだけはなんと
してでも避けたい――」
 神官は部屋を横切り、窓から中庭を見つめた。
 そして参謀に背を向けたまま言った。
「捜索については明後日をもって打ち切る――移送中の囚人は“死体で回収された”と公表
しろ。報告書にもだ……わかったな」
「はっ――」

394みやび:2007/03/14(水) 17:54:48 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [4/6P]

   *

「……なあフロル。やばいって――そりゃあまあ……ここらで手柄のひとつも立てたいのは
俺も同じだぜ? このままじゃあ俺たち、今月の査定では間違いなく降格だからな……。で
もさ、軍を追い出される訳じゃないんだし……。これから先も挽回のチャンスはあると思うん
だ……。それより、もし何の手がかりも得られなかったら……どうする気だ? こんな単独行
動しちまって……降格どろこじゃ済まないぜ、きっと? いや――下手すりゃ懲戒処分かも
しれない。ああ、そうなりゃ年金も全部ふいだ……! おいフロル……聞いてるか?」

 男の前を歩いていた女は立ち止まった。
「ああ、もう……! さっきから黙ってれば――あんた男でしょ? 腹を決めなさいよ!」
 女の剣幕に男はたじたじだった。「そんなこと言ったって……」
「だからいつまでもうだつが上がらないのよ。あたしはもうウンザリなの。『階級』と『軍歴』だ
けの序列世界なんて、数十年前の体系だわ」
 男はしどろもどろになり、いや、だから……地道に昇進試験受けてだなあ……と消え入り
そうな声で抗議した。
「なにが試験よ。教官が合格点を与えるのは“自分達に都合のいい無能な連中”じゃない」
 それが事実であることを知っているだけに、男は言葉を失った。

 ああ。たしかにお前の言う通りだよ。でもな……。出る杭を打つのが連中の本質なら、そ
れこそこんな行為は連中にとって格好のカモなんだ。たとえどんな手土産を持参したところ
で、手柄を横取りされたあげく、代わりに俺たちが受け取るものといえば処分通告書くらい
なもんだぜ?
 男は女の丸い背中に、心のなかでそう問いかけた。

 前を歩く女性はフロル・テレス。その背中を見つめている男はランス・テレスといった。
 ふたりは戸籍上の姉弟だったが、血はつながっていなかった。
 フロルはハノブという鉱山町の町長の娘で、その町に行き倒れ同然に流れつき、命を落
とした冒険者の息子がランスだ。フロルが十二、ランスが九歳のときだった。
 正式に町長のもとに引き取られたランスは愛情と教育を受け、それまで外の世界を知ら
ずにいたフロルのほうはと言えば、短い人生経験ながらあまたの冒険談を語るランスに感
化され、いつしか町いちばんの跳ねっ返りに成長してしまった。
 そして彼らが二十歳を過ぎた頃、ソゴム山の深部にあるビスルの村が一夜にして消滅す
る惨事が起きた。
 ビスル村はロマという一族の村で、ロマの民は昔から“神獣使い”の末裔として畏怖の対
象とされていた。そんな村でも一夜にして消滅するという出来事は、近隣の集落にとっては
自治を脅かすに充分な事件だった。
 その犯人が聖職者であり、しかも伝説で語られている“堕天使”だという噂が広まるにい
たっては、軍事力を誇示したい連中が手をこまねいていられるはずもない。
 事実上、このフランデル大陸の極東を支配しているのはゴドム共和国という大国であり、
その中枢を担うのが古都ブルンネンシュティグだ。
 しかしかつて五十年の長きにわたり戦乱に荒れ、勝利を収めた国もないままに盟約と密
約で仮初めの平定が訪れたに過ぎなかった。
 つまりゴドム共和国という姿は諸外国に対する外交的な外殻でしかなく、ゴドム内の主要
都市の多くは自治権を許され、それぞれに極東全土を掌握する画策を腹に秘めているのが
現状だ。

395みやび:2007/03/14(水) 17:55:35 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [5/6P]

 形式的とはいえ国土の頂点に君臨する古都が、怪しげな研究機関を使ってまで探し求め
ている伝説の一端を手中に収めるということは、それを材料に古都に対する政治的なテコ
入れが可能だということだ。
 多くの都市がビスル村壊滅のニュースと、そして“堕天使”の噂に色めき立ったが、いち
早く犯人探しに乗り出したのは神聖都市アウグスタだった。
 アウグスタは古くからソゴム山脈一帯の所有権を主張していて、かつて戦乱の一時期に
は実際に領地としていた過去もあった。さらに容疑者が神父であったことも手伝い、聖職者
の聖地であるアウグスタが名誉をかけて乗り出したとなれば、古都としてもその行動を黙認
せざるを得なかった。
 アウグスタは直属の精鋭部隊を調査に派遣する一方で、この事件を口実に広く兵隊を募っ
た。
 日頃から町を飛び出す機会をうかがっていたフロルにとって、願ってもないチャンスだった。
 そしてついに町を飛び出し、ランスとともにアウグスタ軍へと身を投じたのだった。

   *

 ふたりは地図にも記載されていない小さな島にいた。
 小さいといっても、ふたりだけで探索するにはあきれるほどの広さだ。
 フロルたちは正規の軍から離れると、独自の調査――その大半はフロル持ち前の“女の
勘”というやつだったが――によって船の沈没地域を特定し、そこからいちばん近いこの島
に目をつけたのだった。
 ランスにしてみれば、はなから彼女の勘が当るとは思っていなかったし、むしろ空振りに
終ってくれたほうが良かったのだが、最悪なことに島に上陸して間もなく、アウグスタ軍船
の備品と思われる漂着物を見つけてしまっていた。
 意気揚々と歩き続けるフロルのあとを追いながら、ランスはどうやって彼女に諦めさせよう
かと思案に暮れていた。
「なあ……フロル。たとえその――天使だか何だか知らんが……そいつを見つけたとしても
昇進は無理だと思うぜ?」
「ふん。誰が昇進したいなんて言った?」
 彼女の言葉にランスは面食らった。
「どういうことだ……?」
 少し休憩しましょう。そう言うとフロルは立ち止まり、椰子の葉を器用に敷き詰めてその上
にあぐらをかいた。
「いいこと? この件を究明して――ううん、究明までは無理よね。犯人がここに流れついて
いるとしても、すでに死んでいると思うし。……でも、せめて死体だけも持ち帰れば、評議会
へのいい土産になると思うの」
 ランスはすっとんきょうな声をあげた。「おい、評議会ってまさか――古都の!?」
「そうよ」フロルは涼しい顔で、さらに言った。「それともレッド・アイ研究所のほうがいいかし
ら?」
 おい、君ってやつは何を考えているんだ!? ランスは狼狽した。
「なんて顔してるのよ。大丈夫。あたしたちには天使の死体以外にも、アウグスタ軍の内部
情報っていう手土産まであるのよ? 古都にしてみれば、あたしたちの頭のなかに埋もれ
ている情報は是が非でも欲しいはずだわ……。どんなことをしてでも身の安全は確保してく
れるわよ」
 笑顔でそう語る彼女とは反対に、ランスは表情を強張らせ、背中にじっとりと汗をかいて
いた。

396みやび:2007/03/14(水) 17:57:30 ID:9kbN.JKE0
      『神の機械 (一)』  [6/6P]

 幼い頃から父に連れられ各地を放浪し、それなりに修羅場をくぐりぬけ、剣の腕前もそこ
いらの似非剣士には遅れをとらない自信はあったが、今こうして自分が政治的な流れに巻
き込まれようとしているとは――いや、すでに巻き込まれているのかもしれない――なんて、
考えただけでも背筋が凍る思いだった。
 このじゃじゃ馬のお姫様が軍に入ると言い出したときには、せいぜい剣豪の真似事で終
るとばかり思っていたのだ。そこが戦場であれば彼女を守ることなど容易いことだ。たとえ
自分の命を犠牲にしてでも、フロルを死なせない覚悟が彼にはあったから。
 だが事が政治がらみとなると話しは別だ。それこそ政治というやつは、ひとりの人間の手
に負える代物ではない。たしかにどんな歴史書を開いてみても、その時代の分岐に大きく
関わった人物は存在するが、彼や彼女のそうした行動でさえ、目に見えない大きな力によっ
て必然として起こされたものなのだ。
 ランスはそのことを旅で巡った国々を見て学び、父の教えによって補足し、そして自身の
直感によって確信していた。
 深刻な表情のランスに気付き、フロルは眉をひそめた。
「ねえ、どうしたの?」
 どこか底無しの穴に落ちてゆく感覚にとらわれながら、ランスは言葉もなくフロルを見つ
めていた――。

     ◆
     ◆
     ◆
     ◆

 ――あとがき――
 最近までこんなちゃんとした小説スレがあることに気付きませんでした(←馬鹿です)。
 で、覗いてみたら力作がいっぱい!
 そんな訳で小一時間ほど小躍りしてしまって……はい。ごめんなさい。ほぼ勢いで書き
なぐってしまいました(汗)
 骨組みは頭のなかにあるのですが、上で言った通り“勢い”で手をつけてしまったので、
続きを書くためにはおそらくつじつまが――あーごにょごにょこ……。
 面白くなかったらスルーしておいてください。続きは自主規制しますです。
 ――と言う前に地味過ぎたかも(汗)

 ※推敲が甘いので誤字・脱字は脳内変換で……(恥)

397姫々:2007/03/14(水) 18:26:25 ID:Cc.1o8yw0
さてさて、複線は張りつくした感じかな?あとは次に1個なんか回想話挟んで
その次にアリアン編完結と言った感じでしょうか。戦闘シーン入れたいんですけど
何処に入れるか決まってないのが悲しい所です。
・・・そして読み返してみると何故か3行ほど会話が飛んでたり・・・、
何となく話は繋がってるし大勢に影響はそれほど無い気はするのでこのままに
しますけれども・・・。うーん・・・、誤字脱字に続いてこんな罠が…。

では、以下感想、って事で。


>きんがーさん
ちょっとずつ今20位まで読ませていただきましたけど面白いですねー。
追いついたらちゃんとした感想を書こうと思うので執筆もお仕事も頑張ってくださいっ!!

>携帯物書き屋さん
父親が単身赴任な私にとっては多少共感できる部分が・・・orz
とりあえず今後も期待してますね。

>みやびさん
ビスルが灰に…(´;ω;`)
そして気になる所で切れちゃってるのでぜひ続きを書いていただきたいものです。

そして感想に時間掛けすぎな私乙orz

398ドギーマン:2007/03/14(水) 19:26:17 ID:WMFiyZTk0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356>>367-371

エムルは人通りを割って進んでいた。
すれ違う人々は皆彼女に振り返り、その姿をじっといつまでも見ている。
エムルは歩きながら笑っていた。その笑みは見る者には魅力的とも取れるが同時に恐怖感を与えた。
「ふ・・ふふ・・あはは、アハハハハハハハハハ」
ついに堪えきれずエムルは大きな声をあげて笑い出した。
この世に生まれてほんの数日しか経っていないが、人生で一番愉快な気分だった。
これでもうあの人は私だけのもの。もう誰にも触らせない。
あの人に触れていいのは私だけ、あの人が触れていいのも私だけ。
だけどそれだけではまだ足りない。
邪魔者を近づけないために、より強い魔力を込めて契約を更新するべきだろう。
そのためにはもっと多くの魔力が欲しかった。
一応そのための下準備はしてある。
彼女の行う契約は人に対し一方的に結ぶ事も可能である。
ただ、マイスに対してだけはより強く効果を得るために彼の意思による承諾を得る必要があった。
せっかく結んだ契約をビショップどもによって消されたくなかった。
エムルは次の生贄、ゲンズブールのことを思い返した。
あの男、きっと傷が早く治ったのを私がヒールポーションをかけたからだと思っていることだろう。
実は最初に会ったときから契約は結ばれていた。
まだ生まれたばかりの彼女の弱い魔力では、一方的な契約では周囲に対してほとんど影響を与えない。
せいぜい気分が悪くなる程度。しかもあの男に近寄ろうとする者はまず居ない。
でなければあの女との戦いで死んでいたはずだ。即死さえしなければまず死ぬ事はない。
その事は最初に酒場で自分から生贄になりにきた男で実験済みだった。
いまその男は地下水路の排水の底で寝ているが、契約を通してその魔力だけは頂いてある。
一人分の魔力でここまでの事が出来るのだから、ゲンズブールの魔力も手に入れればより幅が広がる事だろう。
エムルはずっとついて来て人ごみの中からこちらの様子をじっと伺っているゲンズブールに目をやった。
エムルには彼の頭上に契約の証である赤い輪が輝いて見えていた。あれで気づかれていないつもりだろうか。
そして、もう一つそれが見えた。マイスだった。
マイスは「待て!」と叫ぶとゲンズブールの脇を通り過ぎて自分に向かって走りだした。
役者が揃った事にエムルは笑みを浮かべると表通りを外れて小走りに裏通りに入っていった。
二人ともあとを追いかけてくる。エムルはさらに角を曲がった。
細い道を通り抜けて人気のない路地裏に入る。
散乱しているゴミや、建物の壁には不潔なシミが目立つ。
少し離れたところに持たざるものが倒れこんでいるが生きているのかは定かではない。
石畳が敷き詰められた表通りとは裏腹に剥き出しの土面がその場所の暗さを一層引き立てていた。
そこでエムルは立ち止まると、マイスが追いついてきた。

399ドギーマン:2007/03/14(水) 19:28:18 ID:WMFiyZTk0
「俺を、騙したのか?」
怒気をはらんだマイスの声をエムルは一笑にふした。
「別に騙してないわ。ただちょっと説明不足だっただけよ」
まるでマイスの怒る顔を楽しんでいるかのように笑みを浮かべた。
「契約は破棄する。早く解除しろ」
そう言われてエムルはあははと声をあげて笑い出した。
「あなたに契約をどうこうする権利はないのよ。結んだ以上、私の意思が全てなのよ」
「ふざけるな、早く解除するんだ!」
そう言ってマイスはエムルに詰め寄った。
エムルはふぅっとため息をついてやれやれという風に首を振った。
「出来ない事じゃないわ。でも、その前にやる事があるでしょう?」
「何?」
「私を守りきらないと、そんなこと出来ないわよ」
そう言ってマイスの背後の人物に目をやった。
マイスはエムルに注意を払うように彼女の顔をちらっと見てからゆっくりと振り向いた。
そこには全身を長めのコートで隠すようにして立っている男がいた。
男は羽織っていたコートを脱ぎ捨てると、腰に提げた鉤爪を両手に装着した。
そしてエムルの前に立っているマイスに対して「どけ」とでも言うかのようにぎらりと殺気をみなぎらせた眼差しを向けた。
エムルはマイスの背中に言った。
「契約の力を試すにはうってつけの相手だわ。さあ、私を守るためにあいつを殺すのよ。
 それに、あなたにもあの男を許しておけない理由があるでしょう」
マイスに選択肢はない。エムルに契約を解除する意思があろうがなかろうが、
彼女を殺されてしまえばもう二度とみんなの元に帰る事が出来なくなるかもしれないのだ。
彼女が死ねば解除できるという保障もどこにもない。
マイスは背中に背負った大剣を腰に下ろしてスラリと引き抜くと、鞘を捨てた。
「下がっててくれ」
マイスがそう言うとエムルは彼から離れて歩き出した。
大剣を構えてゲンズブールに戦いを挑む彼を尻目に、エムルは唇の端を吊り上げていた。
いくら二人とも契約を交わしていても、より強い契約の力に守られているマイスにゲンズブールが勝つことは出来ないだろう。
マイスに戦いに対する恐怖心を克服して貰い、同時に死んだゲンズブールの魂から魔力を頂く。
かなり強いようだから大きな魔力を期待できる。
マイスは自分の手で、あの女をさらに自分から遠ざけることになるのだ。
エムルは楽しげにどこから二人を眺めるかを悩み始めた。

400ドギーマン:2007/03/14(水) 19:29:29 ID:WMFiyZTk0
イスツールは部屋に入ってきた宿の主人に「大丈夫か!?」と身体を支えられた。
「大丈夫だ、一人で立てる」
そう言いながらも少し辛そうな表情は晴れなかった。
マイスが去ってから闇の魔力の発生はなくなったが、痛みの余韻がまだ残っていた。
イスツールは立ち上がるとリズのそばに行った。
リズも先ほどのイスツールと同じくまだ少し辛そうにしていたが大丈夫そうだった。
「彼は、どこ?」
リズは顔を上げてイスツールに聞いた。
「出て行った。もう戻らないだろう」
「なんで?」
冷静な面持ちのイスツールの顔を見上げてリズは訳が分からないという様子だった。
「マイスはいま、呪いを受けている」
「呪いだって?」
主人が話に割って入ってきた。
「話に聞いたことがある。契約と呼ばれる呪いだ」
「契約?」
主人は問いかけ、リズはただ呆然と顔を向けるばかりだ。
イスツール自身も詳しい事は分かっていなかった。
「悪魔と呼ばれる者達が扱う特殊な種類の呪いだ」
「悪魔だと?」
宿の主人は恐らくイスツールの敵を想像したのだろう。表情が曇った。
「悪魔とは言っても地下界の住人ではない、そう呼ばれているだけであってれっきとした人間だ。
 魂を操つる力を持った者達が自身の魂を操作して変身した姿らしいが、詳しいことは私にも分からん」
「それで、その契約ってえのはどんなもんなんだ?」
「さあな。契約者が親しい者と接触を持ったときに周囲に闇の魔力をばら撒く。恐らくそんなところだろう。
 だが、マイスの呪いを見た限りはさほど強い呪いには見えなかった」
イスツールがそう言うと、リズはすぐにベッドから降りて立ち上がった。
「じゃあ、解呪は出来るのね?」
その問いにイスツールは首を振った。
「いや、呪い自体の力はそれほど強くないが、どういう訳かマイスの内面に強く結びついていた。
 恐らくマイスが自分の意思で呪いを受け入れたのだろう」
イスツールは表情を変えずにリズをじっと見て続けた。
「解呪は不可能だ」
「そんな・・」
リズは信じられないという表情をしていた。
なぜマイスはそんな呪いを受け入れたのだろうか。
主人が大きな声で息巻いた。
「何か手はないのかよ!」
「呪いをかけた悪魔を見つけ出して、解除させるしかないだろうな。誰かそれらしい人物に見覚えはないか?」
そう言ってイスツールは二人に交互に目を向けた。
二人とも首を横に振った。
イスツールもマイスとはここ最近ほとんど行動を共にしていない。
「なら、マイスを探すしかないな。まだそれほど遠くには行っていないはずだ。
 恐らく悪魔と行動を共にしているか、でなくとも張っていればそのうち接触をもつはずだ。だが、あまり時間はないかもしれない」
「どういうこと?」
リズは不安そうに聞いた。
「より強い魔力でもって呪いが強化されれば、もう我々はマイスに近づくことすら出来なくなる恐れがある。
 さっきは触れられただけで意識を奪われかけたのだ。いずれは近づいただけで命が危険に曝される」
リズは目を見開いた。
ようやく分かり合えかけたのに、もう二度と近づく事さえ出来なくなるということが信じられなかった。
イスツールは突然主人の腕を掴んで部屋の外へ引っ張っていった。
「お、おい何だよ」
「着替えだ」
イスツールのその言葉にはっとしてようやくリズは動き出した。
二人が部屋を出てドアが閉まってから服を脱いでいった。
するとすぐにドアがノックされた。
「まだよ」
「いや、このまま話を聞いてくれ」
ドアの向こうからイスツールの声が聞こえた。
「もし、マイスの呪いが解除されない場合。私はマイスを殺さなければならない」
その言葉にリズの着替えの手が止まった。
「どういうこと?」
「呪いが解けなければマイスはただ生きているだけで私の使命にとって大きな障害となる。
 近づいただけで攻撃を受けるのではな。だからそうなる前に殺さなければならない」
ドアの向こうから、全く微動だにしないイスツールの声が響いた。
主人がなにか怒鳴っているが、それ以上は今のリズの耳には入らなかった。

401ドギーマン:2007/03/14(水) 19:40:36 ID:WMFiyZTk0
あとがき
さて、次は戦闘シーンに入ります。
またゲンズブール視点も交えたいなあと思ってます。
さて、どういう風に戦わせようかな。

結構レスが進んでいるので、いまからゆっくりと読ませていただきます。
みやびさん、初めまして。

402名無しさん:2007/03/14(水) 23:03:29 ID:C3RWAfjA0
>>373の続きです。


アルパス地下監獄。
嘗て、罪人を拘束し、拷問や処刑すらしていた場所。
それは時に敵の捕虜だったり、若しくは捕らえたモンスターだったりもしていたらしい。
・・・・それも、だいぶ前に閉鎖されたようだが。
「・・・ここがそうなのか。」
俺は静かに斧を持ち上げた。・・・外観は、その施設の重苦しさと残忍さはしっかりと残しておきながら、やはり廃墟の匂いがした。
・・・だが、中からは何かの叫び声や、人外の者のうめき声が響いている様だ。
「・・もしかして、ここは初めてなの?」
傍にいる彼女・・ロゼリーが、槍を地面に立てて呟いた。
「・・・死んだ奴をまた殺す趣味は無いんだがな。」
俺はそう言いながら、ゆっくりと中へと入っていく。
開け放たれた金属製の鉄格子の様な扉の奥に、崩れた柱と、その破片が散らばったままの階段が見えた。

壁の蝋燭の炎は、依然と点ったままだ。恐らく魔力か何かの炎であろうか。
だが俺は、それとは別の点で驚いていた。
「・・・ここには誰も人がいないのか?」
そうだ。今までは何処へ足を向けても、そこには必ず誰か別の冒険家がいた気がする。
だがここだけ、なぜか本当に何かから呪われたかの様に、人が一人もいない。
「ええ。今はなぜか冒険家すら寄り付かないのよ。」
「・・・良くそんな場所に行く気になったな。」
暗闇の奥の方から、ガチャガチャと不可解な音や、腐った様な鳴き声が響いてくる。
と、ロゼリーが勢い良く駆け出した。
「おい待て、何があるか分からんぞ?」
俺も斧の刃を前に構え、一緒に走る。
「大丈夫。道は分かるわ。」
そう言いかけた途端、柱の傍から奇妙な影が現れた。
此方の姿を見たその途端に、真っ赤に燃え上がる炎が飛び出し、ロゼリーの腕を直撃した。
「ひゃあっ!熱っ!」
俺は静かに舌打ちしながら、斧を地面に向けて一気に振り下ろした。
同時に斧の先端の空間が歪み、ゴウッと言う音を響かせながら、何かが柱に向かって飛んでいく。
そしてすぐさま柱の壁が抉れ、そのままその奥にいた影に当たった。
「ガァァッ!」
人ではない声と、バラバラとした音が響く。ロゼリーが腕を労わる様に押さえながら、柱の奥へと槍を向けた。
「・・デイムジェスターね。油断したわ。」
柱の傍に骨の様なものが転がっている。先ずは仕留めたらしい。その中で落ちた金貨を拾い、かばんの中に入れる。
「どうやら人がいない内に魔物が敏感になっている様だな。」
俺はロゼリーの前に立ち、ゆっくりと目を凝らし、周囲を見渡した。
誰もいない鉄格子たちの中とは裏腹に、廊下には骸骨と化した剣士や、ゾンビとなった魔術師が我が物顔で歩き回っている。
その数は多く、ざっと見えるだけで7〜8匹はいるであろう。
ロゼリーは早速、先ほど購入した薬を腕に塗りつけて、包帯を巻いていた。
「・・おかしいわね。この辺りは前まで魔物が寄り付かない筈なのに・・」
「向こうはやる気満々なんだ。・・油断しているとやられる。」
ロゼリーは槍を持ち直し、ゆっくりと歩き始めた。
俺も周囲の敵が気づくか気づかないか、目を凝らしながら足音を忍ばせる。
暫く行くと、ロゼリーが足を止めた。
「どうした?」
「何?あれ・・・」
ロゼリーはそっと身をかがめ、柱の崩れた所から、そっと向こうのほうを覗き込んだ。
俺も同じ様にし、斧を置き、ゆっくりと目を凝らしてみる。

403名無しさん:2007/03/14(水) 23:04:29 ID:C3RWAfjA0
「・・・おい、都へ攻めに行く話だが、どうなったんだ?」
「・・・ああ、近いうちにやりに行くらしい。」
「今の内に武器やなにやらを調えたほうが良いですな」
「コロッサスの部族にも伝令を届けなければならん。」
「奴ら、今頃酒でも飲んで俺たちの事は忘れているに違いない。」

真っ赤な炎を取り囲んで、人ではないが分かる様な言葉を話す奴らが座り込んでいた。
「・・・ジャイアントね。」
「巨人族か?」
その様子をじっと見つめながら、俺とロゼリーは呟きあう。
「・・そう言えば北部開拓や廃坑の開拓で、大量のジャイアントが拘束されたと聞いたな。」
「・・・多分そいつらよ。最近討伐隊も来ないから、こっちに攻めてくるつもりなのね。」
そう言いながらロゼリーは、紙に何かを書き込んでいた。
「何をしているんだ?」
俺はじっとそれを覗き込もうとするが、彼女は俺の目の前からそれをどけてしまった。
「ただの報告書よ。私は外の情報収集の仕事もしてるからね。」

「誰だ?其処にいるのは。」

突然近くで声がした。見ると、ジャイアントが一匹、此方の様子を伺っている。
「こっちにも居たのか。」
俺が斧を振り上げようとするが、ロゼリーが止めた。
「待って。迂闊に武器を振らない方が良いわ。・・彼等は目が悪いから、逃げたほうが良いわよ。」
ゆっくりとジャイアントが近づいてくる。俺は斧を音を立てないように持ち上げながら、すぐさまロゼリーが「こっちよ。」と言いながら走っていく後を追った。

「ふぅ。危なく集団とやりあうところだったわ。」
ロゼリーが足を止めた場所は、また何かの入り口らしき場所の壁だった。
耳を澄ましても、確かに魔物の声は小さくなっている。
「ここの奴らはそんなに手ごわいのか?」
俺は先程やっつけた奴の事を思い出していた。そんなに強くなかった様な気がするんだが・・
ロゼリーは静かに頷き、俺に一枚の紙を渡した。
それは、この監獄の中の大雑把な地図・・恐らく、このぽっかりと空いた奥への入り口の中なのであろう・・だった。
「この先は手ごわいわ。見た目以上に頑丈な敵も多いの。・・でもその先に、結構な宝物があるって噂なのよね。」
宝物か・・。俺はそう呟いて、火元に照らしつつその地図を眺めた。
迷路の様な中。その奥にまた階段がある。
「その階段の奥深くに、宝物があるらしいの。気合入れていくわよ。」
「其処まで分かってるのなら、一人で行けば良かったんじゃないのか?」
斧を背中に背負い、俺はロゼリーに言ってみた。すると彼女はむっとした顔をしながら、
「何よ今更。意地悪な人ね。・・・女の子をこんな所に一人で行かせる精神の持ち主なの?あなたは。」
「・・そうでは無いが・・あんな奴らも倒せない様じゃな。」
ロゼリーは槍を担ぎ、腰から小ぶりの弓を取り出した。彼女のボディラインの様にスラリと伸びた、精巧そうなものだ。
「言ったでしょ。宝物を取って帰れさえすればそれで良いのよ。」
「だが、この奥の魔物達はここより手ごわいんだろう?」
俺は肩をすくめ、相手を見た。・・ロゼリーはまた、俺を誘った時の様に無垢な笑いを浮かべる。
「そのために貴方がいるんだから、頑張ってよね。」
なるほど・・そう言う事か。俺は「わかった。」と一言呟くと、一人先にその奥へと足を踏み入れた。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ。」



なんか前回に比べてgdgd感が否めませんが・・その内また続きを書きます。

404名無しさん:2007/03/15(木) 06:47:20 ID:ML7Qxj860
>みやびさん
入りの部分の謎めいた事件だけでなく、単独捜索をするフロルとランスも緊張感がありますね。
政治的なものが背後にあるというのがまた興味を引きます。
この、未来予知というのがそもそもの発端だとして、それが解明されていくのが楽しみです。
私もしたらばにこんなスレがあったと気が付いたのが前スレも終わりくらいの頃でした(笑)
いつも楽しみに皆さんの小説を読ませてもらっています。

>ドギーマンさん
ゲンズブールは魔力を持っていない、という事をエムルは知らないんでしたね。これは計略失敗になるのでしょうか、それとも…?
「頭の上に輪」とは、まさに"手駒"ですね。最初の目的だったマイスすらも利用しようとしているように思えてきます。
リズとこのまま触れる事もできないままだと思うとやっぱり悲しいです。続きお待ちしています。

>402-403さん
「冒険者が寄り付いていない」という話と、今のアルパスが過疎化しているという事実とが一致していて面白いです。
巨人さんが物騒な話をしていますが、ロゼリーの行動も気になります。何か秘密がありそうですね。
最深部には何があるのだろうか…。単純な宝探しでは無さそうな予感がひしひしと。

405海風:2007/03/15(木) 17:21:36 ID:lUdZh.hM0
−重厚な鎧を観に纏った騎士 左に巨大な盾を帯び 剣にはいまだに手を伸ばさず
−ショルダーパッドに守りを任せ 軽快に動く剣士 操る曲刀が 騎士を捕らえる

急所に向けてすばやく突き出された曲刀は、現れた巨大な盾によってはじかれる。
すぐに間合いを空け、再び攻撃を繰り出す剣士

盾に防がれることを意識しながらも、目にも止まらぬ速さでさまざまな角度から曲刀を振る
‘スウィングインフィニティ’
その全てを盾によって防ぎながらも、徐々に後退する騎士
剣士は手ごたえを感じながら、攻撃を続ける。

瞬間、騎士の盾が左に‘逸らされた’ 剣士はすばやく、空いた右へと曲刀を繰り出す。

ギィンッ

それは、刹那の出来事。
         ‘ソードブロッカー’
騎士の右腕につけられた、小さな悪魔。 騎士に痛恨の一撃を与えるはずであった曲刀は その悪魔に捕らえられ 濁った、苦痛の声を上げながら 折られた。

折られた先が 地面に落ちた時には、騎士の解き放った水晶剣が 剣士の心臓へと向けられていた


「マスター、よく守ってくれた。15秒も経っていないな、さすがだ」
周りから歓声が上がり、勝負の終わりを告げる。

攻城戦。
互いのマスターが剣を帯びたもの同士であったゆえ、一騎打ちとなった今回の戦い。
騎士は、仲間たちの結束の象徴であるギルドの紋章を守るために。
剣士は、名誉とギルドホール獲得のために。

騎士は、地面へ装備していた巨大な盾を置く
そして、その上に手を当てる。
周りの仲間も集まり、手を重ねてゆく。
そして、勝利を祝い、戦った相手を称える。

その巨大な盾には、ギルドの紋章が 描かれていた。

406海風:2007/03/15(木) 17:23:20 ID:lUdZh.hM0
攻城戦実装楽しみですね

ってことで短編を書いてみました。
え?自分? 最近もっぱら戦はBIS、天使ですよ。やること変わるのかなあ

407名無しさん:2007/03/15(木) 17:45:05 ID:K5WXc.Wk0
今スレが建ったあたりから色々あって全然読めなかったんですが、
久しぶりに来てみて二日かけて今スレやっと全部読み終わりました・・(笑

>ドギーマンさん
相変わらず執筆が早く、多数の作品を楽しませてもらいました。
ドギーマンさんの作品は恋愛&別れがあって、毎回泣いてしまいます・・・。
「HERMEL」や「Zef」がお気に入りで、男女の別れ系がツボみたいです。
今回の「Devil」もどうなるか凄い楽しみです。

>携帯書き物屋さん
毎回凄い楽しんで読ませて頂いてます。
所々笑えるとこがあったりと、とても読みやすくて面白いです。
ヘルとニーナが組んだ辺りが凄いワクワクドキドキでした(笑
エミリーは死んでしまったのかな・・やっぱりそういう所で泣けます・・。

>姫々さん
キャラの個性が凄い出てて、面白いです。
リリィとルゥの会話が微笑ましくて好きです(笑
にーさんは無事救護され、また会えるんでしょうか・・。
続き楽しみにしてます。

>elery_doughtさん
ほのぼの家族みたいなギルド憧れます、いいですね〜。
GMの何気ない会話のやり取りなど、見てて凄い面白いです(笑
次回はGvですよね・・続き楽しみにしてます。

>みやびさん
○/6Pとあってもう少しで終わっちゃう・・と思いつつ読んでて、最終的に続く事にホッ(笑
天使+イザンとフロル+ランスが島で出会うんでしょうか・・続きが楽しみです!

>373さん
確かにアルカンは過疎ってて、現状と同じですね。
そういえば小説スレでコロを見かけたの初のような気がします。
廃坑B9から来るとなると大変ですが・・(笑
ロゼリーも何か企んでそう・・今後の展開楽しみにしてます。

>171さん
水大砲、凄いかっこよくて良いです(笑
スキルを色々武器に仕立てて発想が面白いです。
オーガだけじゃなくて他にも潜んでるみたいですね。
続き楽しみにしてます。

408みやび:2007/03/15(木) 19:50:13 ID:blNlRQMM0
 ダメ出し食らってたらどうしよう、と思って来てみたのですが、ホッとしました。(←小心者)

>姫々さん
 む。もしかしてテイマーさんでしょうか。
 実は私もテイマーです。なのでビスルを灰にするのはちょっと抵抗あったんですが、どうし
ても消えてくれないと困るので(作者の都合ってやつですね)心を鬼にしました……。シクシク
 続き頑張ります!

>ドギーマンさん
 初めまして。
 ところでここを覗いて最初に目に映ったのがドギーマンさんでした(笑)
 作品のほう、これから読ませていただきますね。

>404さん
 きっとここはいつもsageられているので気付かなかったんですね。私もそう。
 私がしたらばを知ったのはスキル情報収集のためでしたが、住人の多いスレって大抵は
定期的にageられて(笑)いるので今まで「スレ一覧」を見ることはなかったんですよね。
 たまたま普段覗いているスレが沈んでいたので、一覧クリックでここを発見しました(笑)
 っと、続き、ちゃんと書きます。その前に他の方の作品を読みたいのでしばしお待ちを(汗)

>407さん
 ありがとうございます!
 基本的にショート・ショート書きなので、続き物ってなんだか慣れなくて……。(最初から
読みきりで書けばよかった……と今気付きました(汗))
 でも切り所が難しいですね。次はもっとスムーズに書けるといいなあ。

409名無しさん:2007/03/15(木) 21:54:53 ID:FtEewTTE0
>海風さん
剣士ってカッコイイですよね…自分が操作した事はほとんど無いのですが
このような小説を読むと惚れ直すというか、やっぱりカッコイイ。
攻城戦も楽しみと言いたいですが、当方Gv未体験者でしてorz
でも友人や知り合いが良く話しているので楽しく夢を聞かせてもらっています(笑)

>みやびさん
そうですね、基本sage進行のようです(実は最近テンプレ見直して気が付いたorz)。
一時期は過疎ってしまっていたようですが、最近は書き手さんが増えてくれて読み手としては嬉しい限り。
皆さんのレベルの高い小説、最初からまた読み直したいという心境に駆られます。
どんどんまとめサイトを手伝っていかないと…(汗)

410ドギーマン:2007/03/16(金) 08:00:00 ID:WMFiyZTk0
『手記』
>>120-121>>130>>133-135>>139>>145>>180>>193>>215-216>>247>>262>>282>>350

■月●△日
砂漠村リンケン
ブルン王国の最西端の国境付近に位置する小さな村。
かつてエリプト帝国が砂漠を支配していた時代。
この村はそれ自体がブルン王国の前線基地としての役割を担っていた。
この村と、当時エリプト帝国の支配下にあったアリアンとの間で起きた戦闘は数知れない。
砂漠には未だに戦争で死んだ者たちの屍が埋もれている。
だが、この戦争における主な戦死者は決してブルン、エリプトの両国の国民ではない。
それは砂漠に生きる傭兵たちであった。
彼らは砂漠における戦闘のプロであり、
衝突を繰り返していたリンケンとアリアンは彼らにとって格好の稼ぎ場であった。
だが戦争が激化していくにつれ、
傭兵である彼らは時には血を分けた肉親同士ですら戦わなければならなかったそうだ。
両国にとっても、自国民を犠牲にするよりは彼らを積極的に利用した。
私が昔見た非公開の文書の中で傭兵達を高額な契約金で確保し、
死地に置いて契約金の支払いを削減せよといった内容を見たことがあった。
酷いものではたとえ死ななくとも、支払いを先延ばしにして再び激戦区に派遣せよといったものもあった。
まるで傭兵達を殺すために戦争をしていたかのようである。
当時の軍の指揮官達の狂気ぶりが伺えた。
リンケンの北の砂漠にある傭兵達を埋葬した地下墓地郡には、
当時の傭兵達の無念が生み出した強力な死霊達が今も呻き声をあげているという。

411ドギーマン:2007/03/16(金) 08:01:09 ID:WMFiyZTk0
■月●□日
グレートフォレスト
フランデル大陸中部の砂漠と東部の平原の間に存在する広大な森林。
街道を逸れて森の暗がりに足を踏み込めば、もはや引き返す事は叶わないと言われている森である。
かつて、この森もエルフ達の領域であったことを知る者は少ない。
今では木々は切り開かれてこの通り街道が通り、僅かばかりの獣達が住んでいるのみである。
この森のどこかに今もエルフ達の王宮があり、
エルフの王の元で復讐の機会を伺っているという噂もあるが真偽のほどは定かではない。
さて、私はこの場所で地図を広げてただ無駄に時を過ごしていた。
材木町ブレンティルに向かいたかったのだが、かの街までは街道が整備されておらず、
どのように向かったら良いのかが分からなかったのである。
考えられる進路は二つ。
このまま最短で一直線にグレートフォレストを北東に向かって進む進路と、
一度グレートフォレストを出て迂回し、クェレスプリング湖の脇を進む進路の二つである。
どちらにしろブレンティルの手前で北バヘル大河の上流とぶつかるのだが、橋でも架かっているのだろうか。
悩んだ末に、私は前者を選択した。
一度ブルンネンシュティグに寄っていっても良かったのだが、
迷いの森の真偽を確かめてみたかった。
果たして、本当に二度とは戻れないと言われるほどのものなのかと。
かつてこの森がエルフ達の領域であった頃、
彼らは侵入者を排除するため、また王宮に近づけぬためにこの森に結界を張ったという。
これまで何度もこの好奇心のために命の危機を感じたことはあったが、
今回ばかりはさすがに後悔してしまった。
気づいた頃には私は完全に方向を見失ってしまっていたのだ。
いくら歩けど森を抜ける気配はなく、やっと抜けたと思えば砂漠に戻されていたり、
目印に木に傷をつけてもみたが何度も同じ目印の木の元に戻され、
ふと気づいたときには目の前の木々すべてに全く同じ傷が付けられていたのを見たときには、
気が狂ってしまいそうだった。
もう駄目かと思ったとき、一人の男が私を見て笑っていた。
彼の名はアベルといい、冒険家をやっているらしい。
彼が言うには闇雲に進むだけでは駄目なのだという。
特に目印を付けるというのは最もやってはならない行為で、幻に惑わされてしまうそうだ。
彼の眼には私が同じ場所をずっと行ったり来たりしているように見えたそうだ。
では、どうすればブレンティルへ行けるのか。
一度砂漠に出て、そこから森の脇を進み、再び森に入るのだという。
つまり、砂漠が見えた時点で引き返していた私には一生辿り着くことは出来なかったということだ。
私はその日彼の親切に甘えて、森の中に作られた彼の住居に泊めて貰う事にした。
明日にはブレンティルまで送ってくれるという。

広大な迷いの森に一人で生活し、森を知り尽くした男。
私はそんな彼に興味を持ち、色々と尋ねさせて貰った。
まず、何故こんなところに居るのか。
彼が言うには、幻と言われるエルフの王宮を探しているのだという。
そしてそのために娘を街に残してきたのだという。
娘としては心配なことだろう。
だが、往々にして冒険をする者はこのような人物である。
我侭であり、自由であり、そして迷うことを捨てている。
かく言う私も、そういった人種の一人だ。



訂正しよう。
迷うことを捨てたのではない。
捨てたいと今も足掻いているのだ。

412ドギーマン:2007/03/16(金) 08:11:11 ID:WMFiyZTk0
あとがき
アンカーまとめてみました。
リンケン、歴史的なネタが全くないんです。
昔アリアンと仲が悪かったみたいですが、詳しいことは何にも・・・。
ってことで、今回は参考にするものはほとんど無いわけですね。
どうやら砂漠の方ではグリーク教はあまり浸透していないようです。
で、何か別の宗教があるようなのですがそれに関しても情報なし。
おかげでしばらく放置してしまいましたが、何とか先に進めたいと思います。
あと、クエストで有名なアベルを登場させてみました。
グレートフォレストが昔エルフ達の領域だったかは、知りません。
でも、街道周辺を除けばグレートフォレストが関わるほとんどのエリアにエルフが居るんですよね。
なのにそれらの中央に位置するこのエリアには居ないんですよね。
さて、次は遠いですがブレンティル行ってきます。

413みやび:2007/03/16(金) 09:09:55 ID:fGZPE8s20
 おはようございます。
 昨夜少しだけ皆さんの作品を読み進めてみました。(睡魔に負けて感想も書かずに寝て
しまいましたが……)
 と、感想を載せようと思ってやって来たら早速ドギーマンさんのUPが。むー、早い。

>ドギーマンさん
 ほかのシリアスな作品も良かったのですが、なぜかエロガッパWIZの小話が気に入って
しまいました(恥) はやり透明は男の人にとって浪漫なんですね(笑)
 私なら透明になれたら……うーん。やっぱり男風呂に! ……入りたくないです(笑)
 まそれは置いておきまして。天使のお話も好きですが、『ディスプレイスメント』も面白かっ
たです。そうかこういう手もあったのか。と感心したところで、私はあまりスキルには詳しく
ないので、スキルを元に書くのは思いつかなかったですね(汗)
 それにしてもドギーマンさんはモチーフが豊富。しかも早い!(←重要) 遅筆へっぽこな
私としては羨ましいかぎりです。
 『ケルビン・カルボ手記』については正直やられた! です。私もNPCの台詞収集に凝っ
ていた時期がありまして、いつかまとまったら文章に起こしてみようと目論んでいたので
すが……(苦笑)。ともかく、それもあって興味深く読むことができます。
 グレートフォレストにエルフが多い理由を考えてみるのも面白いかもしれませんね。
 個人的に、最後の御話はカルボ本人の逸話で〆てほしいです。(身勝手な好み(汗))
 ブレンティル楽しみにしてます。

>姫々さん
 ルゥの天然ぶりも好きですが、やっぱりリリィ可愛いです。でもリリィって、しっかりしてそ
うで実は根っこの部分で天然ですよね(笑) まあそこがいいってのもありますが。
 ブリッジのあとがきでシーフ=武道云々の愚痴がありますが、大丈夫です。(なにが)
 私なんてシーフと武道のスキルをほとんど知りませんから(笑) DFと3連? 程度しか知
らないので、オリジナルを土台にしたらシフ/武道の書き分けは私には無理……。
 戦闘シーン楽しみです。

 さて。今日はバイトもないのでゆっくりと自分の続きを――。……できれば書きたいです。
 でもRSしちゃいそうな気もするな……。まだ目を通していない他の方の作品もいっぱい。
 一日はなぜ二四時間しかないんだろう。

414名無しさん:2007/03/16(金) 15:28:16 ID:/21BLwCko
>ドギーマンさま
グレートフォレストもエルフの居住地(だった)かもしれないというのは目からうろこです。
そうえいば、砂漠に隣接してグレートフォレストがあり、それを超えると肥沃な大地が広がる。
もしかしたら、森を砂漠から守っているのもまたエルフ達なのかもしれませんね。

>みやびさま
書式がしっかりしていてとても読みやすいです。
ただ、……と――の違いがわかりません。
教会のうさんくささがリアルでいや…いいです。

415姫々:2007/03/16(金) 18:00:38 ID:Cc.1o8yw0
さて、やっと新職感はありますが、予想してた人が一人くらいはいてくれた
事を祈ります。アリアン編第5話、ルゥたちと離れ、某人の回想となります。
>>387-389より続きます。
・・・
・・・
・・・
「奥様…ねぇ…」
左手の薬指にはめられている、かざりっ気の無い白銀の指輪が太陽の光に反射して光っている。
あいつに会ったのは2年前の事、俺が22歳の時だった。


その日、俺はアリアン傭兵ギルド「クロマティガード」の入隊試験を受けていた。
(ったく……傭兵ギルドごときの入隊試験なんかちょろいもんだぜまったく…)
ルールは簡単、試験生相手に1対1の模擬戦を5戦して4勝すればその時点で合格というものだ。
まぁ俺は全試合10秒以内で圧勝して入隊を決めたわけだが、その時からこんな噂が流れていた。
≪とんでもなく強い槍使いがいる。全試合開始と同時に勝ちを決めたそうだ≫
と。それだけなら別にどうという事は無い、ただそいつは女だというのだ。
とは言っても、別にそこまで大きな興味は無かった。
それはそもそも俺に、女が弱いなんて観念は持ち合わせていなかった為だろう。
ただ、「美人ならいいな」とかは思っていたかもしれない。

入隊の日、その女はいた。合格者30名の中でも、紅一点という事でそいつはかなり目立っていた。
見た感じ年下だろうか、しかし整った顔立ち、凛とした表情―、結構な美人には間違いは無い。
なら俺がする事は一つ。
「なあ、今夜俺とどう?」
と、入隊式が終わり次第、声を掛けていた。しかし周りの男達はそんな俺を見て一歩引いている、
何故だ?…そうかっ、羨ましいんだな?などと考えていた俺が馬鹿だった。
気づいた時には俺は首元に短剣を突きつけられていた。
「失礼と思いませんか?」
顔は無表情のまま、しかし口調に棘をむき出している。途端に周囲がざわめきだした。
短剣を持つ手を俺は「まあまあ」と、左手でどける。
「悪かった、確かに名前は名乗らないとな。俺はロイ、あんたは?」
「フェリシアといいます。あなたの方が年上の様ですしフェルで結構です。…じゃなかった…」
さっきとは打って変わり、またやってしまったという表情で、短剣を懐にしまいつつ、
右手を額につけている。
「ん?どうしたよフェル。」
俺は聞いたばかりの名前を呼んでみる。うん、何となくしっくり来るいい名だ。
「いえ…、名乗られれば名乗ってしまう癖があるんですよ」
「それはいい癖だな。ていうかどう?マジで今夜。」
忘れている気がするので、もう一回言ってみる。
「ええ、いいですよ。」
なんとあっさり。自慢じゃないがこの口説き文句で成功した試しは無かったんだが
変えなくてよかったっ!!!そしてざわめく周囲の男共、もっとその羨ましそうな目で
見てやがれ、この俺をなっ!!

416姫々:2007/03/16(金) 18:02:55 ID:Cc.1o8yw0
「ただし、一度私と本気で勝負してくれないですか?あなたも相当強いと噂されてますので」
「ん?ああ、かまわないぞ?」
強いと噂されてるのか、そりゃ嬉しい。と、その条件を安受けあいしてしまう
「ホントですかっ!?嬉しいー、ここ最近本気で勝負する機会が無くて困ってた所なんです」
「ん?そうかっ!!はっはっは、それは俺も嬉しいぞ、じゃあ20分後、アリアンの門の外な」
「はいっ!また後で会いましょう」
手を振って、今までの無表情が嘘のような、とんでもなく綺麗な笑顔で走って行った。
それを俺も手を振って見送るわけだが、周囲の声が何故かざわめきからどよめきに変わっている。
そして、俺と同期の一人が、肩にポンと手を乗せて静かに言った。
「死ぬなよ…」
と…。
「はい…?」
俺はとんでもなく嫌な予感がしたのだが、約束してしまったものは仕方ない…、まあ
そこまで悪いようにはしないだろう。という希望を持って、約束の時間に門の外に出るのだった。


……
(甘かった…、この女本気だわ…)
目の前の槍使い、フェルが手に持っている得物は、本人の身長を遥かに越える長槍、
どうみてもそれは騎乗用の物で、持ち歩くには不便で仕方なさそうなのだが、
それを片手で軽々と持ってやがる。
で、俺はというと…
(こんなんじゃ無理そうだわなぁ…)
という感じの、向こうが持ってるのに比べたら細くて短い投げ槍。いや、一応はそれなりの
投げ槍なのだけれど。
「あなたねー…、ランサーじゃないでしょ?本気お願いします。」
呆れ顔で言われる。まぁ背中にこんなでかい弓背負ってれば当たり前か…。
事実俺はランサーでは無くアーチャーだ、槍はあくまでも自己防衛に過ぎない。
「本気…か…。OK、始めようか」
周りはギャラリーで埋め尽くされている、いよいよ俺は逃げられなくなったわけだ。
槍に魔力を込め、手を離す。
「ミラーメラーミスト…、魔法使えるのね」
「まあな、アーチャーとしては自己防衛の手段だ。」
今、手を離した槍は、霧を纏いつつ俺の周りを旋回している。俺に対する攻撃に
自動的に反応し、攻撃を遮断してくれるという優れものだ。これのおかげで俺は
攻めに専念できる。
「じゃ、私から行きますね」
「おう」
そう返事をした瞬間、ヒュンと残像を残して消える。そして背中で「カァン」という金属音。
「なぁっ!?」
振り向くがそこには誰もいない。
槍の盾が無ければ一瞬で勝負が決まっていただろう。さっきまで僅かに残っていた希望を
蹴り飛ばし、俺は目を凝らす。
(見ようと思えば見れなくも無いか…)
見ようと思えば見れるが、早すぎてどうも標準が合いそうに無い。が、こう突っ立ってばかりも
いられない。俺は矢を番える。

417姫々:2007/03/16(金) 18:06:02 ID:Cc.1o8yw0
(行けっ!!)
心の中で叫ぶと同時、魔力を込めた矢を放つ。それは「標的に当たるまで追いつづける矢」
これならまず外す事は無い。が…、「チッ」っという金属が擦れる音だけ残し、
まるで手ごたえが無い。確かに当たるには当たったが、掠っただけだったようだ。
続けざまに同じように三射するが、どれも結果は同じ。掠るだけで決定打にはならない。
「参ったな…」
確実に当たるなんて技術はこれ以外に持ち合わせていない。
「終わりなら、次は私の番―」
その声が聞こえた時、俺は「8人の」フェルに囲まれていた。しかも、そいつらは全員
俺に向かって槍を構えている。
「なっ…!!くそっ!!」
分身の類だろうが、何にせよこの手の攻撃法の打開策は一つしかない。
「ゥオオオオオオオオオオオ!!!」
出来る限り腹に力をいれて叫びつつ、8人の中の一人を弓でなぎ払う。
そいつは「ドカッ」という鈍い打撃音と共に吹き飛び消滅する。
俺はその開いたスペースに飛び込んで槍の檻からの脱出に成功するのだった。
(手ごたえあり?で、本体が無傷って事は分身に実像を持ってたって事か?)
それなら相当厄介だ、さっき高をくくって槍の防壁に任せていたら、俺の身体は
穴だらけになっていたかもしれない。
「やるわねー、結構本気なんだけど…」
「はっはっは、男を舐めるな」
強がりだ、俺だって全力なのだから。が、フェルの足が止まった、多少の疲労はあるという事か。
(ならまぁ…、試してみる価値はあるわな…)
俺は矢束から8本の矢を掴み取り、その内の一本に魔力を込める。
そして魔力を込めた矢を番える、そのときも残り7本は握ったままだ。
こんな無茶な事しても、魔力を込めているおかげで、ちゃんと真っ直ぐ飛んでくれる。
「ちゃんと飛んでくれよ…」
「………」
相手方、フェルの足は止まったまま。俺を真っ直ぐ見つつ、前方に槍を構えている。
「ビット―」
精神を前方に集中する。目標までの距離は僅か10m、放てば1秒と掛からず着弾する。
依然槍兵は微動だにせず、真っ直ぐ俺を見ている。「来い」と挑発するような目で。
しかしそれ以外は何もしていない。槍を前方に構えているだけ。ならば俺から仕掛けるのみ、
「グライダーッ!!!」
叫び、矢を放つと、8本の矢が拡散する。そのうち真っ直ぐ飛ぶのは魔力を込めた1本のみ、
だがそれでいい、その1本をアンカーにして、拡散した7本は魔力に引き寄せられ、収束する。
つまり、敵には8本全てがさまざまな角度から命中する事になる、それら全てを捌くのは至難、
さらには10mという距離から打ち出される矢を、放たれてから避けるのは不可能。
なら俺の勝ちだ、そう確信していた。
『カァン―』
響いた金属音は一度だけ―。その一度で…
「8本の矢を全部…弾いたのか…」
フェルはクルリと槍を一回転させ、腰元に構え直している。

418姫々:2007/03/16(金) 18:08:41 ID:Cc.1o8yw0
これを防がれるのなら、俺に勝ち目は無い。無い…のだが、フェルがはぁ…とため息をつき、言う。
「私の槍はあなたに届かない。あなたの矢も私には届かない。それに私には奥の手って物は無い、
 手は出し尽くした。」
?…何が言いたい。
「あなたには奥の手ってある?あるなら見せて、それを看破できれば私の勝ち、
 出来なければ負けってことじゃ駄目かな?」
奥の手か…、あるにはあるな…。
「ある、俺には一つだけ。」
「見せて、私はここから動かない。」
「あぁ、」
俺は自身の周りを旋回する槍を手に持ち、それを弓に番える。
放つ矢はボア・クラン。手から離すと確実に相手を貫き、確実に致命傷となる魔槍―
勝負は一度、これで決まる。
「最後だ―。」
俺は限界まで弓を引き絞り、手を離した。
これで駄目ならもはや俺に攻撃手段は無い。しかし、その矢に宿る魔法は呪いの類にまで
昇華している。避ける事など不可能。
(ってちょっと待てっ!!)
戦いに夢中になってしまっていたが、あれじゃ本当に死んでしまう。
しかも弾くならまだしも、槍を構えずに上体を起こしている辺り、回避に徹する気だろう。
しかしそれはまったくの無駄だ、弾いて地に落とさない限り槍は対象を貫くまで追いかける。
「弾けっ!!!!!!」
俺は叫ぶ。しかしフェルは着弾の寸前、残像を残して真横にテップしてかわす、
しかしもちろん槍はそんな物お構い無しにフェルの左胸を貫いた。

…勝負は決まった。
「俺の、負けだな…」
「ええ、私の勝ち。」
どういう魔法か、フェルは残像に実像を持たせたのだ。つまりフェルはその時だけ二人いた、
両方本物なのだから、槍はわざわざ方向を変えずに真っ直ぐダミーの方を
貫いたのだった。
「ったく…、美人にゃとことん縁がねえなぁ…」
目標を外し、地面に転がっている槍を拾い上げつつ言う。
「縁?まあいいけど、今夜は楽しみにしてるね」
「え?」
「え?って、あなたから誘ったんだよ?責任持ってくれないかな?」
身長170あるかないか位の女に怪訝な顔で見上げられる。
「勝負、俺の負けだぞ?」
「あ、じゃあおごってくれるの、うれしーなー」
何故棒読み。「はあ?」って顔をしていると、再び怪訝な顔で俺に言う
「冗談よ、っていうか私に勝たないと一緒に行ってあげないとか言ってないよ?」
「あら…?負けたら来てくれないんだと思って俺は全力で戦ったんだが…。」
「え?もちろんよ。「全力で戦う事」を条件に夜に付き合うって言ったの。
 勝ち負けは関係ないわよ?」
つまりは断る気はさらさら無く、全力で戦えばなんでもよかったらしい。
「けど嬉しいわよ。あなたは強い、私が戦ったどんな男よりも。」
笑顔で右手を俺に向けてきた。
「ああ、そうか。そりゃ光栄だ」
俺も右手を出し、フェルと握手する。
まあフェルは強すぎだ、俺にとっても俺が戦ったどんな相手よりも強かった。

419姫々:2007/03/16(金) 18:10:04 ID:Cc.1o8yw0
「じゃ、夜は楽しみにしてるわよ。日没に宿の前集合、遅れたら刺すからね?」
あっさりと物騒な事を言い残し。いつの間にか俺に対するしゃべり方が敬語からタメ口に変わっている
女は走り去っていった。

その日の夜、酒場で色々な事を話した。フェルはエリプト出身の槍兵で、
人並み以上に魔力を持っていた。だからこそ残像に実体を持たせたりできるらしい。
傭兵になった理由を聞くと「家族を魔物に殺された」と、一言だけポツリと言った。
あまりに空気が重く暗かったので、
「じゃあ俺と家族にならないか?」
と、暗い雰囲気を跳ね飛ばす為の冗談としていったのだが、
「それもいいかもね…」
と、酒に酔っているのか、はたまた別の理由か…顔を赤くしつつ、またポツリと言った。
・・・
・・・
・・・
で、あれが複線になったのか…、あれから1年と少し付き合った結果、
俺とフェルは結婚に至ったのだった。まぁお互いに傭兵業という役柄から、
二人だけの本当に小さな結婚式だったが。
「子供とか欲しいか?」
そう笑って尋ねてみると
「将来的にはね」
と笑い返していた。それから僅か3ヵ月後だった、リンケンがアリアンの貿易隊を襲い、
その事から抗争が始まってしまった。フェルは前線に送られ、弓兵の俺はアリアンの最終防衛線に
配備されて、離れ離れになってしまった。
抗争は数的に圧倒的に勝っているアリアンが勝利、さらに捕虜にされていた貿易隊を開放するという
条件で、抗争は終結するのだった。どうもリンケン側が何の知らせもせずに大集団で入ってきた
アリアンの行商隊を盗賊の類と勘違いした所からこの抗争は始まったらしい。呆れた話だ。

しかし、抗争が終わってから、フェルがアリアンに帰ってくることは無かった。
俺も砂漠を探したが、死体どころか遺留品も見つかることも無く、月日が過ぎて行った。
・・・
・・・
・・・
(そうか…墓か…)
はっと昔を思い出していた俺は我に帰る。あの3人娘が言っていた事がふと頭に引っかかった。
確かに何処を探しても死体は見つからなかったが、警備傭兵墓のある方へは行っていない、
あっち方面に配備されていたなら、もしかしたらフェルの槍くらいは見つかるかもしれない。
(どうせ見張ってても何も起こらねーしな…)
俺は釣竿を立てかけ、おれ自身の得物を担ぎ警備傭兵墓へと向かう事にした。

420姫々:2007/03/16(金) 18:16:13 ID:Cc.1o8yw0
回想終わりっ!!!
イメージはランサー/アーチャーです。
男アーチャーがいてもいいじゃない、って事で書いてみました。
そして次回アリアン編最終回っ!

>みやびさん
私は名前どおり姫だったり(以下略
けれどもロマ=セラの故郷イメージが強かったりします'`,、('∀`)

そして他の方の作品読まずに先走って投稿して感想もって無い私乙orz
また感想に1時間もかけるのも嫌なのでまた今度でお願いします。

421名無しさん:2007/03/16(金) 18:37:44 ID:ZSL4idM60
>ドギーマンさん
初めてグレートフォレストに行ってみた時の頃を思い出しながら読ませてもらいました。
道端にある箱を目指して走り回っていたら、絶対に抜け出せなくなってしまって…最後は死に戻りました(笑)
そういえば、エルフは全くいませんよね。何か謎がありそうです。
ブレンティル楽しみです。アチャの故郷のように扱われる事も多いですが、武道のマスタクエができる場所なんですよね(笑)

>姫々さん
飄々としているロイにこんな過去があったとは…輪をかけてこのキャラが好きになってしまいました。
軽いノリを貫いていると思えば時に真剣になったり、そんなロイだからこそフェルもついてきたんだろうなぁ(*´д`)
それと、リリィやロイのようにゲーム内の職性別が違うというのも面白いです。女WIZに男アチャ、今後登場するキャラも楽しみです。
ロイがフェルの忘れ形見に出会える事を祈って続きをお待ちしています。

422姫々:2007/03/16(金) 18:52:01 ID:Cc.1o8yw0
よし、読んできました。ちなみに420の一番したの行の3,4文字目は後書き
って変換してくれるように脳内に頼んでくださいorz

>ドギーマンさん
悪魔はまるっきり分からなかったんですけどちょっとづつ分かってきました。
私もいつかは出さないと駄目な気がするので勉強させてもらいます。
で、手記ですが、リンケンは私も傭兵以外におもいつきません。
そして何かのクエのときアベルに会いに行こうとして迷いまくったのを
思い出しました。

>402,403さん
アルパ懐かしいな…そういえばアーチャーかランサーのマスタクエの
称号って偵察学とかそんな感じでしたね。
そしてジャイアントは1stキャラで行った時は強かったorz

>海風さん
攻城戦実装楽しみですが姫な私もやる事変わるのか疑問です'`,、('∀`)
お互い頑張りましょうorz

423みやび:2007/03/17(土) 12:05:19 ID:Hb0bzE3U0
 こんにちは。仕事はないのにリアルで来客のため、今日は筆はお休みです(泣)
 取り急ぎちょいとレスだけ。

>414さん
 本当は中身で勝負したいとろなのですが……自信がないのでせめて書式だけは、とい
つも気を配るようにしています。私の環境ではこの掲示板と同じ改行を再現できないのが
残念。
 そういえばここ、タグ使えたのかな? <PRE>で固定ピッチフォント入れて強引に……
なんて一瞬考えてしまった。(あるいはタグ使えても実際の使用はタブーとか?)
 いや。基本的に掲示板でタグを使うのはどうも好みではないので、やりませんが。
 そんなこと言うと「傍点使いたい!」という欲求が……。

 「……」と「――」のちがい。
 昔教わったような気もしますが……今は日に数百万の脳細胞が死滅していて忘れてし
まいました(羞) ←正確には教わったかどうかを思い出せない(汗)
 ただ、自分ではずっと「……」は沈黙の意に多用(まあこれについてはお馴染みですね)。
 「――」に関しては、装飾の一部として使われるほか、本文では「説明的な文面」の場合
は()や「」といったカッコの代用に使われ、「口語的な文面」の場合には「会話の遮断、中
断(言葉を詰まらせたり、またそれまでの会話の打ちきり→別な内容に受け渡し。といった
場面ですね)」に用いられることが多い。と解釈しております。ので、自分でもそのような使
い方をしております。はい。
 ただ私、国語の成績は最悪でした……。
 なので「学問としての国語」の正解はわかりません(羞)

>姫々さん
 今回UP分、客追い出したら読みますね(笑)
 あー姫さんでしたか。失礼(汗) 姫……いちどはやってみたい(ある程度は完成させてみ
たい)職。でもヘタレなくせにソロしかしない私には敷居が高いわ(泣)

 明日は一日フリーなので『神の機械』の(二)を進めたいと思います。
 でも無理そうなら読み切りでも書きます。(下書きだけで放置しているのがあるので……)

424みやび:2007/03/18(日) 18:57:19 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[1/13P]


 閉じ忘れたカーテンの隙間をぬって、午後の淡い陽光が室内にさし込んでいた。
 その優しい光りに頬を撫でられ、エレノア・スミスは目を覚ました。
 ベッドで上体を起こし、部屋の装飾がいつもとちがうことに戸惑い、すぐにその理由を思
い出した。

 ああ、そうか。もうわたしは傭兵ではないのだ――と。

 彼女は昨日、十年のあいだ籍を置いていたアリアン傭兵ギルドを満期退職した。
 そうして三十路前の女性としては身分違いな額の退職金と、年金の保証とを受け取り、
荘厳な隊列とラッパと称賛の雨のなか、ビロードの絨毯を行進し、退屈なお偉方の祝辞
を聞かされ、数々の勲章、そのた諸々を授与されたのち、仲間と新兵の喝采に見送られ
て式典をあとにすると、兵舎を引き払って手近な宿に飛び込み、元同僚たちと段取りをつ
け、夜がふけるまで飲み明かし、語らい、ほろ酔い気分で寝床についたのだった。
 彼女は昨夜のことを反芻した。
 いちばん付き合いの長いオーロは終始泣いてばかりだったが、笑い上戸なシリカが湿っ
ぽい空気を忘れさせてくれたし、古老のジャンはその笑顔で皆に安堵感を与えてくれた…
…。覚えている。はっきりと。つい昨夜のことだ。
 たが、その記憶には違和感があった。どうにも現実味がないのだ。
 まるでいっきに十も歳をとってしまったような、そんな奇妙な感覚に襲われた。
 このぬるま湯に浸かっているような違和感は何だろう?
 目を閉じれば――あるいは目覚めたとき、思い返せばいつだって自分の足元には生と
死が横たわっていたはずだ。
 それが今となってはガラス越しのドレスのように、いくら手を伸ばしても触れることがか
なわない。あの壮絶な日々――命を賭けて戦場に身を投じた日々は、遥か彼方の蜃気
楼のように儚げだった。あまたの武勇も、仲間の死も、槍使いとしての名声も――なにも
かもが、今では手の届かない遠い過去のように思えてならなかった。
 この日、《槍使いのエレノア》はただの女に戻った。

 階下にゆくと、宿の女主人が目を輝かせた。
「まあまあ、これはこれは傭兵さん! よく眠れたかい?」
 その脂ぎった女の顔には、あぶく銭を掴んだ成金からお金をせしめてやろうという魂胆が
貼りついていた。
 もちろんエレノアは気にしなかった。
「ええ、充分に休んだわ」
「それで、ねえ兵隊さん」手揉みをする女主人。
「わたしはもう兵隊ではないわ」
「ああ、そりゃあまあ、ね。……ところで、ここにはいつまで――」
 その言葉を遮り、エレノアは「今から発つわ」と言ってやった。
 女主人はなんとか取り入ろうとしたが、エレノアはそれを無視して一泊分の宿代をカウン
ターに置くと、その足で宿屋をあとにした。

 通りへ出ると、アリアンの市街にはせわしなく行き交う人、人、そして喧騒。
 エレノアは軽い眩暈を覚えた。
 先を急ぐ冒険者も、露店を広げる行商人も、布教に忙しい神父や、走り回る子供たちや
噂話に余念がない婦人たちも――すべてがいつになくよそよそしく、排他的で、現実感の
ない夢の中の光景のように感じた。

425みやび:2007/03/18(日) 18:58:32 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[2/13P]


 わたしたち兵隊は彼らのために戦った。たしかにそうだ。
 傭兵になって最初の三年で五人の仲間を失った。次の二年間で二四人。残りの五年で
は一三六の同僚が命を落とした。わたしの知らない、他の隊の連中も含めると数百――い
や千にものぼる死者だったろう……。彼女は思った。

 それでも普通に暮らしている人々には預かり知らない出来事だ。たとえそれが自分たち
の財産と命を守るためだとしても、実際にその火の粉が頭のうえから降り注ぎでもしない
限り、戦争というのは庶民にとって常に非現実的なものだ。むしろ日常で出くわす殺人者
や、強盗といった連中から身を守ってくれるクロマティガードのほうが、市民にとってはより
現実的な守護者なのだ。
 エレノアが槍使いの傭兵であっても、あるいはそうでなくても、彼らにはいっさいの不都合
もなければ感慨もない。
 そのことに不満があるのではない。それが兵隊というものだし、彼女は自ら傭兵という職
を選んだのだから。
 ただこうして、傭兵だった自分がある日を境に平和な日常へと放り出されてみると、まる
で異世界に迷い込んでしまったような、そんな錯覚を感じずにはいられなかった。自分の
居場所がないのだ――この平和な世界の住人にとって戦争が非現実的だというのなら、
戦争に身を置いて生きてきた彼女にとってもまた、平和という世界は非現実的なのだ。
 優秀な兵士には二種類の人間が存在する。ひとつは良い意味での利己的な職業軍人
で、そうした連中は退役後の人生設計を見据えているものだ。もうひとつのタイプはどちら
かと言えば“生き方が下手”な人種で、戦場にいるとき以外には役立たずな場合が多い。
 エレノアは後者のほうだった。傭兵だったときには辞めることなんて考えたこともなく、退
役したあとになって生甲斐を失ったことに気付くのだ。

 これからどこへ?

 彼女は途方にくれた。
 男を作って逃げ出した母親のことは顔も覚えていない。
 飲んだくれて自分に手を上げることしかしなかった父親は、彼女が九つのときに川にはまっ
てくたばった。
 エレノアは酒臭い男の死に心のなかで舌を出し、その日のうちに町を飛び出して以来、産
まれ故郷に戻ったこともなければ、ついぞ思い出すことさえなかった。
 今の彼女に帰るべき場所はもうない。ないも同然なのだ。

 と。どこからともなく罵声が聞こえた。
 騒ぎのほうに目をやると、冒険者らしい大男が老人に向かって怒鳴っているのだった。
 大きな街ではよくあることだ。弱い者をみつけては何かと言いがかりをつけてうさ晴らしを
する――あるいは小銭でも巻き上げようというのだろう。
「おい、クソ爺! 俺様の大切な斧を――いったいどうしてくれるんだ!? ええ!」
 大男は拳を振り上げようとしたが、その試みは失敗した。
 エレノアが背後から男の手首を掴んだのだ。
「このっ――なにしやがる、手前ぇ!」
 エレノアが手を離すと、大男は彼女に向き直り、背中にかついでいた斧を抜いた。
 周りで見ていた野次馬の中からいくつかの悲鳴があがる。
「やめなさい。今なら見逃してあげるわ」
 自分の半分ほどの身の丈もない華奢な女にそう言われ、男は顔を赤らめて吠えた。

426みやび:2007/03/18(日) 18:59:21 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[3/13P]


「貴様……どうやら死にたいらしいな」
 男が斧を持ち上げた瞬間だった――
「え……」
 男は自分に何が起こったのかわからなかった。ただ、振り上げていたはずの斧の重量が
ふっ、と消えた。そしてゆっくりと頭上に視線をやり、その光景に絶句した。
 男の両手は手首から先がなくなっていた。
 エレノアの槍の切っ先が、常人にはとらえることのできない速度で孤を描き、男の手首を
切断したのだった。
 両手付きの斧が男の足元にドサリと落ちた。
「あ、う――」
 とたんに男の膝が笑い、次いで全身がガクガクと震えた。振り上げられた両の手首から
勢いよく吹き出す鮮血が、男の頭に降り注いだ。
「お、お――おまおごがごあっ……!!」語尾へいくにつれ男の叫びは人の言葉ではなく
なり、やがて調律の狂った楽器の音になった。
 真っ赤に染まった巨体をカラクリ人形のように震わせながら、それでも死ねずに見開いた
目で女を凝視し続けた。
「馬鹿ね……だから忠告したのに」そう言うとエレノアは槍をひと振りした。槍の先端に残っ
ていた血のりが地面にパッと飛んだ。
 そこへ人ごみを掻き分け、数人のクロマティガードが駆けつけた。おそらく野次馬の誰か
が通報したのだろう。
「なんだこれは――!?」
 血に染まって痙攣している男を見て、ガードたちは腰を抜かした。
「貴様がやったのか? おい、そこの女!」槍を手にしているエレノアに向かって短剣を突
きつけた。
「だったらどうなの?」
 振り向いたエレノアの顔を見て、ガードたちは直立した。
「スミス殿!?」
 とくに顔見知りのガードではなかったが、彼らのほうはエレノアのことをよく知っていた。
 位の高い傭兵ともなると、その顔や名前、功績といった情報が傭兵ギルドを通じてガード
たちにも公示されるからだ。大陸でも五人といない《ファースト・ランサー》の称号を持つエレ
ノアにいたっては、その名声はすべての都市にまで届いていた。
「どうしたのですか!? すでにアリアンを発ったとばかり――」
 当然、彼女が傭兵を退職したこともすでに知れ渡っていた。
「それはこっちの台詞よ。こんな物騒な男が大手を振ってうろついているなんて……」
 エレノアが事情を説明すると、ガードたちは恐縮して何度も頭を下げた。もちろん、そのあ
いだも壊れた大男は放置され、地面をのたうち回っていた。規律が厳しいこの都市では罪
人――あるいはそうでなくても罪人と同等の頭しか持ち合わせていない連中――には、ま
ともな人権は与えられないのだった。その馬鹿な大男は正規の治療も受けられず、おそら
く死ぬだろう。運良く命をとりとめたところで、両手から全身に壊疽がまわり、獄中で死を迎
えるはずだ。
 ガードたちが男を引きずりながら立ち去ると、やがて野次馬の輪も消え、辺りはいつもの
喧騒に戻った。
 エレノアは老人のところへ行くと、声をかけた。
 べつに礼を期待していたわけではないが、老人の態度は予想外のものだった。
 老人は何も言わず、ただこぶしを握りしめ、肩を小さく震わせていた。
 その目には釈然としない怒りが満ちていた。

427みやび:2007/03/18(日) 19:00:25 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[4/13P]


 この老人は死にたがっている――。

 エレノアは直感した。
 それと同時に、彼の姿に今の自分を重ねた。
 おそらく八十に近いであろう老人は、歳相応に背が縮み、腰も少しばかり曲がってしまっ
たとはいえ、その“かくしゃく”とした風貌――ピンと張られた胸や、そして深い奥行きをもっ
た眼差しと引き締まった表情から、己の信念にしたがって生きて来た人物であることがう
かがえた。
 彼女はひとめ見て、老人の背後に横たわる濃密な人生を感じ取った。

 なぜだ――なぜわしを逝かせてくれんのだ?

 物言わぬ老人の瞳は彼女にそう語りかけているようだった。
 エレノアは老人に情を感じた。ある種の愛に近いシンパシーだったのかもしれない。少な
くともそれは同情ではなかった。
「そんなに死にたいの……?」
 老人は初めて目の前の女に気付いた、とでもいうように驚いた。
「なんだと――!?」
 エレノアはもういちど言った。なぜ死に急ぐのか。と。
 老人は口を開こうとしたが、ふと何かを感じたように目を見開き、言葉を飲み込んだ。
 それから肩の力を抜いてうなだれた。
「そうか……お前さんにはわかるんだな」顔をあげ、再び彼女に向けられた目には達観した
優しさがあった。「頼むから放っておいてくれ……わしはもうこの世に未練など――」
 そうなのかもしれない。と彼女は思う。
 たとえばある朝目覚め、ふと妻の名を思い出せないことに愕然とし、枕元の銃に弾をこめ
たい衝動にかられる老人は多いのだろう。あるいは就寝前、食べたはずの夕食を娘に催
促している自分に気付いて、この先の生を悲劇で彩ってしまう老婆がいるのかもしれない。
 今の彼女にはそれが理解できた。糧や希望を失った人間は脆いものだ――余命わずか
と知れる年寄りであればなおだ。
 たとえここで老人の命が救われたとしても、彼は明日の朝いちばんに、朝食をとる代わり
に自分の喉にナイフを突き立てるにちがいない。
「じゃあ、死に場所を探しましょう」
 エレノアの口から、自然とそんな台詞が出ていた。
 老人はきょとんとした。
「すまんが……もういちど言ってくれんかね?」
 エレノアは微笑し、言った。これからふたりで、あなたの最後に相応しい場所を探しに行く
のだと。人はそれぞれ相応しい場所で死ぬべきだ。わたしは腕のたつ傭兵だから、このわ
たしを雇ってくれさえすればいい。お代はあなたと共にする冒険で結構。それともあなたは、
長い人生を苦労してきたあげく、その最後を道端のゴミと一緒に終えたいのか。とも言い、
あなたにはもっと相応しい最後があるはずだ。と、そんなふうに。
 無言で一点を見つめていた老人は、エレノアの話しを聞き終えると豪快に笑った。
「あんたはいい女だ。もっと早くに出会いたかったよ。そうすればわしの人生も――」そこま
で言ってから、老人は失言だと気付いて舌打ちし、肩をすくめておどけてみせた。
「そうそう。わしの名はミゲル――ミゲル・ランダだ」老人は歩き始めた。
「どうしたね? さあ、ゆこうじゃないか。あんたはもうわしの傭兵なんだろう?」

428みやび:2007/03/18(日) 19:01:19 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[5/13P]

   *

 老人の希望により行き先はシュトラセラトに決まった。なにやら理由はありそうだったが、
エレノアはあえて尋ねなかった。
 傍目には祖父と孫のように映るふたりは露店を冷やかしながら、テレポーターのところへ
と向かった。
 《テレポーター》というのは魔法師たちが総べるスマグという魔法都市で開発された技術
だ。もともとウィザードが使っていた瞬間移動の魔法を改良し、跳躍先の座標を固定するこ
とで、詠唱の簡略化と長距離の移動を可能にしたものだ。もちろん有料で、一回の動作で
人ひとりを運ぶのがやっとだが、物騒な道中を避けたい場合、冒険者にとって不可欠なシ
ステムとして大陸中に普及していた。
 エレノアがテレポーター管理者に行き先を告げると、老人がそれを訂正した。
「ああ、すまんな。その……わしは船で行きたいんだよ。歩きでも魔法でもない。船だ。かま
わんかね?」
 エレノアは承諾した。
 シュトラセラトまで船を出しているのはブリッジヘッドしかない。そこから船で、時化にさえ
遭わなければ三日の渡航だったはずだ。
「では行き先の変更を――ブリッジヘッドまで飛ばしてちょうだい」
 代金を受け取ると、テレポーター管理者は呪文を唱えた――。

   *

 ブリッジヘッドで船に乗りこみ、ふたりはシュトラセラトを目指した。
 航海は順調で、予定通り三日で目的地まで行けそうだった。
 そしてシュトラ港到着前日の夜――。

「レッド・ストーン……というのを知っているかね?」
 船内にあるバーの片隅で、老人はアルコールを胃袋に流しながら切り出した。
 もちろん、傭兵をやっていてその名を知らない者はいない。
 エレノアは知っている、と答え、真実かどうかもわからない噂だけだ、とも付け足した。
「ふむ。まあ当然だろうな……。そもそもあの石は、多くの連中が思っているような代物じゃ
あないんだから――根本から求めるべき対象を見誤っているのさ。……なにか探し物をし
たいと思ったときに、それがあるべき場所を探さないことには、一生を費やしたって見つか
りっこないのと同じだよ――」老人はバーテンにボトルを追加注文すると、「その前に、まず
はわしのことを話さなくてはならんな……」手元のグラスに残った酒を飲み干した。
 エレノアは万一のことを考えてジュースを注文していた。それを飲みながら、暖炉の火に
煽られて浮き上がった老人の顔を眺めた。
 たとえば彼の顔を想像のなかで若返らせ、多少は手心を加えたとしても、その顔はお世
辞にも美男子とは言えないものだった。ずんぐりとした大きな鼻、がっちりとした顎、それと
は不釣合いなつぶらな瞳――。
 それでも彼が蓄えてきた人生は確実に彼の魅力としてその皺に刻まれ、彼という男に容
姿では推し量れない充分な味を持たせていた。
 エレノアは彼を、実の祖父のように感じた。恋人でもいい。そう思った。
 やがて老人の顔に深く刻まれた皺がゆっくりと形を変えた。
「わしは昔、船乗りをしていたんだよ。船に乗りたいと言ったのも、だからさ。はは……我な
がら感傷的だな。まあいいさ。お前さんには全てを話すと決めたんだから……。さて、では
話そうか――」

429みやび:2007/03/18(日) 19:02:05 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[6/13P]

   *

 当時、わしはまだ鼻っ柱の強い若造だったが、船乗りとしての腕前と自負はもっていた。
 わしの専門は漁師で、それも特種なやつだ――まあ、あんたと似たようなもんだよ。街の
貴族たちに雇われて、一般の船に悪さをする怪魚やら、ときには海賊みたいなやつらを相
手にしていたってわけさ。
 シュトラには行ったことが? ――ああ、じゃあ知っとるかな? あそこにある《白鯨》とい
う食堂だが……元々の名はブルースビストロというんだ。わしがしとめた鯨があまりに巨大
でなあ……店の主人に頼まれて譲ってやったんだが……その鯨の料理だけで数ヵ月は街
の連中と旅行者の胃袋を満たしたもんだ。それからさ、あの店が鯨の名で呼ばれるように
なったのはな……。
 おっと、どこまで話したかな――ああ、そうそう。それでわしは、くる日もくる日も、海の怪
物や海賊たちと追いかけっこをしていたんだが……その頃わしには娘がいた――いいや、
わしは結婚なんぞしたことはない。もちろん恋人もいなかったさ。
 その子は孤児だったんだ。晴れた日の海よりも真っ青できれいな瞳をしていて、長い黒髪
がよく似合っていた。ほんとうに利口でかわいい子でな……。男やもめで粗野なひねくれ者
が、身も心も捧げてしまうほどだった……。
 ――ああ、すまん、ついな……。いや、心配はいらん、もう昔の話しだ。
 わしが馬鹿だったのさ……。あの子が九つのとき、留守中のわしの家に盗賊が入ってな
……連中は家に火を放って逃げたんだ。普段はあの子も航海につれて行くんだが、あいに
くとそのときあの子は“はしか”にかかっていてな……近所の世帯者に看病を頼んで、仕事
に出掛けたのさ……。
 わしは絶望した。世の中すべてを呪ったよ。なんども死にたいと思い、そのうちの半分は
実行に移した――それでも神様は意地悪でな……そのたびにわしをこの世に送り返すん
だ。そのうちにわしは近所の連中や、部下たちに監視されるようになって、うかつに死ぬこ
とさえできなくなっちまった……。
 まあ、しばらく時間が経っちまうと、いつの間にかわしの自殺癖もなくなったが、相変わら
ず自暴自棄だった。
 そんなある日――仕事に復帰したわしは、海賊船を深追いしちまったんだ。わしが普通の
精神状態だったら、そんなことは絶対にしなかっただろう。わしだって海のプロだが、海賊な
んぞやっている連中は、それ以上にプロだからだ。
 やつらは一帯の海流はもちろん、季節ごとの風の変わり目や、星がなくても方向を見定め
る術を持っているんだ。こっちは潮の流れを読んで風をつかむので精一杯さ。霧がたちこめ、
コンパスが狂って星まで見えなくなっちまったときには、もうお手上げだったね……。
 そんなときさ――わしの船は操舵不能の状態で、ひとつの島にたどりついた。おそらくあ
れはジェイブ島だろう――その島のことは知っているかな? ――ふむ。さすがは傭兵といっ
たところか。……だがジェイブ島には“幻の島”という噂以外に“忘却の島”という名がつけら
れているんだ。つまりその島の正確な位置を特定できる人間がいないのさ。たとえ最初は
偶然たどりついたとしても、二度目はない、というわけさ。わしが出くわしたのはジェイブ島
だよ。まあ勘だがな……。
 それでどうしたかって? もちろん上陸したさ。ほかにやることもなかったんでな。
 だが事件はすぐに起きた。今でもあの光景は忘れることができん……。
 部下のひとりと食料を探しているときだった――。

430みやび:2007/03/18(日) 19:02:55 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[7/13P]


 ジャングルが開けた直後さ。
 そこに“あの子”がいたんだ――!
 わしが見間違えるはずもなかった。あの子だったんだよ! わしが愛したマリアだった!
 わしが拾い、この手でおむつを替え、ミルクを与え、愛情をそそぎ、育て……天使のように
微笑み返してくれたマリアだ……!
 だがな……“そう思ったのはわしだけではなかった”んだ。
 一緒にいた部下のジョルジェも、自分にとって“いちばん大切な人”の姿を見ていたのさ。
「ヘンリエッタ――!? お前なのか!」
 ジョルジェは“わしのマリア”にそう叫んだ。
 そのとたん、マリアの姿は見ず知らずの女に変った――!
 わしは面識はなかったが、ジョルジェのやつは女房を病で亡くしていてな……その奥方の
名がヘンリエッタさ。たぶん、マリアが姿を変えた女性は、そのヘンリエッタだったんだろう…
…。
 しかしそのときのわしは半狂乱だった。
 許せなかったんだ。そんなことはあるはずがない――あってたまるものか……! それし
か頭になかった……。
「よせ……やめろ。ちがうっ――お前はマリアなんだろう? いや、マリアだ! お前は俺の
マリアなんだっ……!!」
 わしが叫ぶと、ヘンリエッタは表情を歪め、またマリアの姿に戻った。
 わしらは馬鹿だったんだ。わしもジョルジェのやつも、自分のことしか考えていなかった。
 だがそのときのわしらに――失ったはずの愛する者をみつけてしまったわしらに、それ以
外になにができたっていうんだ?
 マリアは泣いているようだった。それでもわしは呼んだ。叫んだ。
 ジョルジェのやつも同じだった。大の男がひとりの女性を取り合い、泣き、叫び、狂ったよ
うに愛する者の名を呼び続けた。
 そのたびにマリアはヘンリエッタに――ヘンリエッタはマリアに姿を変えなくてはならなかっ
た……。それが“そいつ”にとっては負担だったのさ。当然だ。心も体もひとつきりなのに、
目の前には自分を求める男がふたりいるんだからな……。そのうちに“そいつ”は、自分が
いったいどっちの心をもち、どちらの姿でいればいいのか、わからなくなっちまったんだ。
 すでにマリアでもヘンリエッタでもない、単に人のかたちをした“そいつ”は言った。
「……いや……やめて……わたし、を……離して……」
 苦しんでいた。泣いていた。もがき、体を明滅させ、なんどもそう繰り返した。
「いやだ! 離すもんか! お前は俺のものだっ――ヘンリエッタ!!」
 ジョルジェが飛び出したとき――わしの手が無意識に動いていた。
 少しの間を置き、ジョルジェが地面に崩れ落ちた。
 わしの投げナイフが、ジョルジェの背中に突き刺さっていた。
「ヘンリエッタ……一緒に……」
 ジョルジェはそう言うと、それきり喋らなくなった――。

431みやび:2007/03/18(日) 19:03:38 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[8/13P]


 わしは我に返った。
 自分の両手を見つめ、ジョルジェを見つめた。
「ああ、迎えに来てくれたのね!」
 それはマリアの声だった。
 顔をあげると、そこにはもうヘンリエッタに変ることのない、本当にわしだけのマリアがい
た。
 だがマリアの声は背後からも聞こえた。
「あたしはここよ。パピー」
 すると今度は別なほうから――
「パピー。ディア……!」
 そしてまた別の場所から――
「来て、来て! ここよ!」
 わしは血走った目で右を見、左を見、うしろを振り返り、前を見据えた。
 そのすべてにマリアはいた。
 気付くとわしの周囲には八人のマリアが存在していた。
 そのときになって、わしはようやく事態を把握し始めた。
 これは罠だ――! 人の心にとりつく底無し穴だ――!
 見ると、彼女たちの足元には赤いガラス玉が転がっていた。
 ああ。それさ。そいつがレッド・ストーンだったんだ……。
 なぜかって? 本人がそう言ったのさ――
「この……このっ――この! 恥知らずの悪魔めッ!!」
 わしは腰の短剣を抜き、ひとりのマリアに突き立てた。
 実体のないマリアは悲鳴をあげて煙みたいに消えた。同時に足元のガラス玉が音を立て
て砕け散った。
 わしは錯乱していた。だが意識は保っていた。しかし姿だけはマリアなんだ……。胸が張
り裂ける思いだったよ。それでもわしは突いた。切りつけ、振り回し、切断した――。

   “なぜ……酷い――愛していたのに――やっと会えたのに―
   ―愛してくれないの――なぜ――なぜ――どうして――”

 イミテーションのマリアは口々に言った。
 わしは泣きながら剣をふるった。
 そうして最後のひとりになった。
 相変わらず“そいつ”はマリアのなりをしていたが、口調も声もちがっていた。
「どうして……?」その声は女性でもあり男性でもあった。「あなたは心のなかであの子を求
めていた――いいえ、今も求めている」
「あいにくと俺は本物嗜好なんだ……模造品に用はない! それに――それにマリアはも
う死んだんだ! 眠っているあの子を呼び起こすのはやめろっ!」
「それは嘘だ――あなたはあの子を欲している」
「ちがう……」
「いいやちがわない。それでも我々は存在するのだから――」
「いったいお前たちは……」

432みやび:2007/03/18(日) 19:04:20 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[9/13P]


 そいつは語った。
 自分たちがある種の精神体であるということ。相手の記憶を瞬時に読み取り、その人間
がもっとも欲している者に姿を変え、その性格や声までも、記憶を元に完璧に再現する。そ
うすることで、連中はその人間からわずかな精神エネルギーを吸収し、糧にして生きていた。
 連中がこの星にいつ誕生したのか――それはやつら自身にもわからなかった。気がつい
たときには人々のかたわらにいて、夢見がちな人間に見せかけの希望を灯し続けたんだ。
 あるときは妃に先立たれた王への貢物として――またあるときは戦利品として――石は
人々の歴史とともにあった。
 やがて人々は連中を“レッド・ストーン”と呼ぶようになったのさ。
 今日伝わっている伝説は、あまりに長いこと真実に辿りつく人間がいなかったせいで、歪
曲されたり付け足された話しが広まったものだ。
 そして今、連中は死にかけていた。実際には仮死に近い状態だが、それは生命としての
本来にそぐわない姿だ。だから彼らは人間を欲していた。生きてゆくために。
「だから……ディア。お願い――」
 そいつはいつの間にかマリアの声に戻っていた。
「パピーがこんなにしてしまったのよ……もう残ったのはあたしだけ」
「よせ、やめろ……」
「ねえ、愛しているんでしょう?」
「来るな――!!」
 わしは一目散に駆け出した。
 背後からいつまでもマリアの声が聞こえた。
 かまわずに走った。
 日が沈み、また昇っても駆けていた。
 そしてどこをどう走ってきたのか、わしは自分の船に生還した。

   *

 暖炉の薪がパチンと弾けた。
 老人は煙草をくゆらせ、目を閉じた。
 その瞳に光るものがあったが、エレノアは見なかったことにした。
「そこに……行きたいのね」
 老人はうなずいた。
「もういちどだけ……わしには確かめたいことがあるんだ」
「命を引き換えにしてでも――でしょ?」
「できれば……あんたには見届けてほしい。だが危険な渡航だ……あんたには断る権利
がある――なあに。ここまで世話をしてくれただけで充分だ」
 エレノアは立ちあがると、彼の頬にキスした。
「もう寝るわ。明日は港に着いたら、真っ先に船を調達しなくてはならないもの」
 老人は目をぱちくりさせた。
 そして微笑し、目を閉じた。
「ああ――お休み。わしはこいつを飲み干してから寝るよ……」
 立ち去ろうとするエレノアの背後から「ありがとう」と老人が言った。
 彼女は振り返らずにバーを出た。

433みやび:2007/03/18(日) 19:05:17 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[10/13P]

   *

 
 翌日、日が昇るのと同時にシュトラセラト港に到着した。
 エレノアは倉庫街を駆けずり回り、老人の希望にかなう船を捜した。
 一方彼のほうも、更新された最新の海図やら、高性能なコンパス、そしてジェイブ島に関
する情報を集めてまわった。
 夕方になると、ふたりは示し合わせていた《白鯨》で落ち合った。
「まあ。いったいどうしたの?」
 遅れてきた老人があまりにしょぼくれていたので、彼女は言った。
「ああ……その――あんたから預かった金だがな。必要なものを買っても、まだかなり残っ
ていたんだが……」
 その表情をみて、エレノアはピンときた。
「もしかして……ジェイドのこと?」
 老人は唇を噛み、うつむいた。
「わしにはこんなことしかしてやれん……せめてあいつの墓を建て替えたいと思ってな」
 エレノアは最上の笑みで、老人の手をとった。
「さ。座って。料理が冷めちゃうわ」
「……すまん」
 しばらくは消沈していた老人だったが、エレノアが最高の船を手に入れたと告げると、そ
の顔がパッと咲き乱れた。
「なに――そうか。最新式の蒸気か……」
 船乗りとしての血が騒いだのか、老人はにわかに血色がよくなり、気概に満ちた表情で
料理を口に運んだ。
 それは彼女も同じだ。エレノアは思った。彼は死に場所を求め、わたしはその手助けをし
ているというのに――わたしたちはこんなにも生き生きとしているなんて。

   *

 翌日。
 エレノアは老人を連れて予定の船着場に向かった。
 必要な物資は昨夜のうちに手配済みで、船への積みこみは終っているはずだ。

「おい、こりゃあ――」船を前にして、老人は目を丸くした。
 エレノアは最新式の蒸気機関を積んだ船を手に入れたと言ったが、魔法汽船だとまでは
言わなかった。それはひと目で“普通の船ではない”とわかる外観だった。
 マストはあるが、あくまで非常用の帆であり、とてもコンパクトに設計されていた。船体そ
のものも半球状をしていて、横腹から羽根のようなものがスラリと伸びていた。
 その材質は金属なのかガラスなのか、陽光を照り返してキラキラと光っていた。
 魔法汽船の存在はスマグによって広められたが、実際にそれを所有しているのは一部
の富豪だけだった。そのなかにはシーフも含まれている。富豪という意味ではたしかに彼
らも巨万の富を持っているのだ。
 この街の倉庫エリアにシーフたちの隠れ家があるという情報は以前から知っていた。
 彼女はそれをみつけだし、首領に掛け合ってこの船を手に入れたのだ。傭兵のときに手
に入れた称号と名声をフルに使って――どだい肩書などというものは、そんなとき以外に
は鼻紙よりも役には立たないのだ。

434みやび:2007/03/18(日) 19:06:25 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[11/13P]


「こんなものをどうやって……」
「わたしは腕利きの傭兵だと言ったでしょう。さあ、あなたが船長よ」
 老人は子供みたいに嬉々とし、船体を撫で、さすり、あちこち叩いてまわっては満足そう
にうなずいた。
「おい、まてよ……こいつには舵がないぞ!」
「ほら。そこに丸い水晶みたいなものがあるでしょう? それに手を添えるだけでいいの」
 老人は彼女の言う通りにした。
「あなたは考えるだけでいいの。それを船が読み取り、動力や舵に伝える仕組みよ」
 老人は目を閉じた。
 やがて船はぶるぶると身震いすると、物凄い勢いで海の上を滑った。
「こいつはいい。すごいぞ!」
 老人は思いつくままに操舵し、船は乗り手の思考を読みとって忠実に動いた。
「ねえ――もうちょっと静かにやってちょうだい! 危ないわ!」
 波しぶきの騒音に対抗してエレノアは大声で言った。
「なあに。わしの手にかかればちょろいもんさ――どんなモノでも船にはちがいない!」
 エレノアは頬を膨らませて小言を言ったが、内心はそんな彼の姿を見て嬉しかった。

   *

 それから彼らは一週間ほど大海をさ迷った。
 とくに不安はない。海中に潜む化け物たちは、船から放出される特種な音を怖れて近付
いては来なかったから。
 何度か海賊には遭遇したが、船はどんな大砲にもびくともしなかったし、接近しての白兵
戦でも、エレノアの槍に敵などいなかった。
 ふたりが心配するのは島の位置だけだ。
 そしてちょうど一週間目を過ぎたときだった。
「ねえ、あれ!」
 視界の彼方にうっすらと島影が見えた。
「やっと着いたな……まちがいない。ジェイブ島だ」
 老人は慎重に操舵し、船を島に寄せた。

   *

「ここからはひとりで行く……」
 島に降り立つと、老人は言った。
「馬鹿なこと言わないで! わたしの役目は見届けることでしょう?」
「わしも最初はそのつもりだったが……だが、もしわしの考えている通りなら、そこで待って
いてくれたほうがいい」
 老人の決意は固かった。
 エレノアは彼のしたいようにさせた。
「ありがとう……」
 老人はぽつりと言うと、いちども振り返らずに島の奥へと消えた。
 エレノアはそれをいつまでも見送った。
 それが、彼女が彼を見た最後だった。

435みやび:2007/03/18(日) 19:07:09 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[12/13P]

   *

 あれから五年近くが過ぎ去った。
 今、わたしには娘がいる。
「ねえ、ママ、マミー!」
 娘は表から帰るなり、汚れた足で駆けてきた。
「まあ、なんですか“マリア”!」
 わたしがたしなめると、マリアは台所から雑巾を持ちだし、しぶしぶ床を拭き始めた。
 拭きながら、「ねえ、マミー、聞いて! さっきね、街道で王様に合ったのよ!」その顔は
上気していた。
「王様? それで、どうしたの……?」
「うん……王様がね、『この近くに槍使いの名手はいるか?』って、そうあたしに聞くの」
 わたしは口元を強張らせたが、「ほら、まだそこ――汚れが残っているわ」娘には悟られ
ないように装った。
「それで、お前は何と答えたの?」
「う……ん。だってマミー、傭兵のお話をするといつも恐い顔するんだもん……だから」
「知らない――って答えたのね?」
「うん」
「そう……そうなの」
「でもマミー。なぜなの? だってマミーは槍の名人だったんでしょう? うんと強くて、それ
でたくさんの人の役に立ったんでしょう? それはとってもいいことだと思うわ」
「そうね……でもわたしは今のままで幸せなの。昔の名声を誰かに自慢したいと思ったこと
はないわ」
「ちがうの! そいうのじゃなくて――その……」
 わたしは微笑み、娘を見つめた。
「さあ。もういいわ……おいで」
 マリアはそそくさと駆け寄り、わたしの胸に飛び込んだ。
 わたしは娘の頭を撫でながら、そっと、つむじを掻き分けた。
 先月までうっすらと見えていた“赤い宝石”の姿は、今ではほとんど消えかかっていた。
「いい子ね……あなたがもう少し大人になって、今よりずっと心が強くなっていたら……すべ
てを話してあげる」
「すべて……?」
「そう。すべて――なにもかも」

436みやび:2007/03/18(日) 19:07:54 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』  読切[13/13P]


 老人と島へ渡ったあの日。
 わたしの元に戻ってきたのは、老人ではなく小さな女の子だった。
 それが老人の言っていた“マリア”だということは、直感でわかった。
 マリアには一切の記憶がなかった。
 わたしは彼女を連れ返り、自分の子として育ててきた。

 果たして老人が確かめたかったことが何であったのか――それを知ることはできない。
 自分の命と引き換えに、精神体であるはずのマリアに実体を与えたのか。それとも連中
が生きるために老人の命を吸い取り、それが本物のマリアになったのか……。
 ただ、はっきりとしていることは、彼の望みが叶ったということだ。
 ここにいる、マリアの存在がその証拠だ。
 かつて彼が愛した少女が、ここにいた。彼が愛したままの心と、愛くるしい顔をして。
 わたしにできるのは、彼の分までこの子に愛情を捧げることだ。
「ああ、愛しているわ……ほんとうに、マリア――」
「変なマミー……?」
「それでも。愛しているのよ」
「うん、あたしもよ。マミー……」







―――――――――――――――――――――――――― Fin ―――――――-

437みやび:2007/03/18(日) 19:08:42 ID:XTPBa2Mk0
      『赤い絆』 

 ――あとがき――
 例によって誤字・脱字は脳内変換をお願いいたします(汗)

 さてさて。本当は二、三日くらいは寝かせてから再度推敲をしたほうが良いのですが、前
レスで「書きます」なんて自分を追い込んでしまったので、発酵させずに掲載します。
 結局、自分を追い込んだ“だけ”になってしまいました……。
 しかし地味ですね……。もっとエレノアの槍使いっぷりを描いてもよかったかなあ? とい
う気がします。途中、筆が走ってしまったのはご愛嬌。(ちょっと息切れしちゃいました)

 元々この話はシュトラの「ブルースビストロ」をモチーフに、エイハブ船長ネタとか、あるい
は『老人と海』みたいな感じに仕上げる予定で下書きを進めていましたが、今回手をつけて
みると話が曲がる曲がる(汗) もうどうにも手に負えなくなってしまい、最終的にこのような
お話になってしまいました……。
 あと作中に「ブルースビストロ」の歌姫“エルレイド”の歌の歌詞も挿入予定でしたが、作
者の都合によりカットになりました。

 ふう……。ちょっと疲れたので、感想はのちほど(汗)

438みやび:2007/03/18(日) 20:06:18 ID:XTPBa2Mk0
 連投してしまいます。
 なぜって……最悪。
 読み返していたらとんでもないミスを発見。

>>433
「もしかして……ジェイドのこと?」

 正解は 「もしかして……ジョルジェのこと?」 です。
 老人の部下であったジョルジェのことですね。

 最終的に単語を検索→ミスっていたら修正。を繰り返してチェックしたので、そのときに間
違えて修正してしまったと思われます。
 しかしジェイブ島とかぶって「ジェイブ」になっているならわかるんですが、なぜジェイド!?
 謎。というか大ショック!!
 あ。別の誤字も発見……。う。泣きたい……。

439名無しさん:2007/03/18(日) 20:24:28 ID:QNo35LhM0
>みやびさん
執筆お疲れ様です。連作を一度に書き上げてしまうのはなかなか大変ですね。でも、一気に読んでしまいました。
腕を切り落とした…などのシーンから、少し怖い印象をエレノアに持ってしまったのですが
最後にはとても愛情深い一人の母親の姿になっていてちょっとホッとしたというか(笑)
決してハッピーエンドとは言い切れないのでしょうが、ミゲル老人が別の意味で救われたのだと思うと良かったような気もします。
エレノアの娘という形でマリアがまだ"生きて"いるんですね。

ところで魔法汽船、何かのゲームで実在してもおかしくないほどの船ですね。
実際のRSに無いような物を登場させるのは世界が広がる感じで読んでいて面白いです。
もしかして、こんなのあるのかな?という気持ちにさせてくれます。
本当に実在していたら申し訳ないです…RS内の全世界、全MAPを回った事がないのでorz

440名無しさん:2007/03/18(日) 20:26:25 ID:QNo35LhM0
>>438
ええ、そこはちょっと不思議に思ってしまったのですが脳内補完して読みました(笑)
文章の流れから「ジョルジェにしてやれる事はこれしかない」という文章なんだろうなと(笑)
大丈夫ですよ〜。

441ドギーマン:2007/03/18(日) 20:47:16 ID:WMFiyZTk0
捨てたコートが暗い裏路地を吹き抜ける風に乗って地面を泳ぐように流れていった。
そんな事など気にもかけずゲンズブールはマイスの後方に佇む女を睨んでいた。
穴だらけで血まみれになった道着は着替えたらしいが、それでも汚いのは同じだった。
溢した酒が胸の辺りで染みになっていて、白いはずの道着全体も少し黄ばんでいた。
こちらに向き直ったマイスが背の大剣を抜いて構えた。邪魔するつもりらしい。
正直この男にはほとんど興味などなかった。どの道引導は渡してやるつもりだったが、それは後でいい。
ゲンズブールは踵を返して歩き去っていくエムルを追って駆け出した。
剣を構えているマイスが眼中に入っていなかった訳ではなかったが、
最初にあった日にこの男が自分よりもずっと弱いということは分かっていたために殆ど気にかけていなかった。
あの女、体中ズタズタに引っ掻いて二目と見れないようにしてやる。
ゲンズブールの身体が怒りに熱くなって爪を握る手に力がこもった。
そして彼の脳裏に血生臭い残虐な景色を作り上げた。
ゲンズブールは剣を右に下げて構えているマイスに気を配りながらも、その横を通り過ぎようとしていた。
マイスの大剣が動き出した。ゲンズブールはそれを余裕で交わしてエムルの背中に鉤爪を突き立てるつもりでいた。
だが、横一文字に払うように振るわれた剣は周囲の空気を巻き込むようにまとい、振りぬかれた剣から放たれた空気の塊は爆ぜた。
マイスから放たれた強烈な風が剣を避けきっていたはずのゲンズブールを弾き飛ばした。
吹き飛ばされたゲンズブールは路地の壁に身体を擦り付けて地面に落ちた。
なんとか受身を取ったものの、意表を突かれたことに対する驚きは大きかった。
立ち上がったゲンズブールはマイスを改めて鉛のような瞳でじっと睨んだ。
ショルダーパッドに腰布だけという軽装に重い獲物を扱うためか、鋼鉄で覆われた重そうな靴を履いている。
その手にあるのは真っ直ぐな刀身に飾り気のない柄、シンプルな作りのエリートソードだった。
その刀身の周囲の景色は歪んでいて、高い密度の空気を渦巻くように纏って揺れているようだった。
ゲンズブールはあのウルフマンのような構えを取ると、マイスの眼をじっと見つめた。
戦う気があるのか無いのか、よく分からない不安げな様子が見て取れた。
それを見たゲンズブールはマイスに対しても怒りを感じていた。
臆病者は消えろ。俺の邪魔をするな。そんな意思を持って殺意を向けた。
エムルの姿は既に見えず、マイスごときに邪魔された事に対する憤りはゲンズブールの顔に鬼の形相を張り付かせていた。
ゲンズブールは再び駆け出した。今度はエムルに向かってではない。
マイスの首を引き裂いて噴きあがる血飛沫を脳裏に思い描いて。
マイスが大剣を振りかぶって素早く振り下ろすと、剣を包む風の魔力は一振りの刃となってゲンズブールに迫った。
その透明の刃は正面からはほんの僅かな空気の歪みにしか見えず、ましてや高速で飛ぶ。
目で見て避けることなどまず無理なことだった。だがゲンズブールは攻撃を読むことにかけては天才であった。
マイスの目線と動作、そして先ほどの風の魔力から瞬時にその攻撃の性質と方向、大よその威力まで読みきって避けて見せた。
リズのときと同じだった。次々と繰り出される風の刃を見せ付けるように全て避けて心を折る。
仰け反り、転がり、跳ね、捻り、そして風の刃を爪で引き裂いて掻き消す。
何をしても無駄だということを思い知らせるように。
やがてマイスの顔に焦燥の色が見え始めるとゲンズブールは仕上げに入ろうと間合いを詰めた。
マイスの大剣に周囲の空気がさらに渦巻いて収束していく。
ゲンズブールはその瞬間マイスの眼にぎらりと鈍い殺意を持った眼の輝きを向けた。
マイスの大剣がぴたりと動きを止めた。
人を殺す覚悟がまだないマイスは、その眼の輝きに怯んでしまったのだ。
ようやく身体が反応して動き出した頃にはもう遅かった。
ほんの刹那の間のことだったが、既にゲンズブールの爪はマイスの大剣を持つ腕に爪を突き立ててその動きを制し、
もう片方の爪でマイスの首を横に切り裂いていた。

442ドギーマン:2007/03/18(日) 20:48:10 ID:WMFiyZTk0
マイスはやられたと思っていた。だがゲンズブールは大きく目を見開いて退いていた。
不審に思ったマイスは切り裂かれたはずの首に手をやった。
喉仏の感触をまず手の平に感じた。
なんともない。外したのだろうか。
ゲンズブールはチッと舌打ちすると吐き捨てるように言った。
「化け物か・・」
その言葉にマイスはどきりとした。
マイスは大剣を包む風の魔力を切ると、ただの剣と化したその刀身に恐る恐る手の平を押し付けた。
手の平を刃が滑り、皮膚を、肉を切り開いていく。
身体の中に硬い物が入り込んでくる異物感を鮮明に感じながらも、痛みを全く感じなかった。
手は止まらず、そのまま手の平のさらに奥へ剣を導いていく。
やがて刃は骨に達して、骨を削る感触と振動が伝わってくる。
痛々しい光景であるはずなのに、血が出てこないためにまるで緊張感が無い。
手を刀身から離すと、裂けた手の平からは鮮やかなピンク色の肉が覗いていた。
そして傷口はまるで一つの生き物であるかのように蠢くとすぐに閉じて消えた。
これは、人間ではない。
マイスが自分の手の平を見つめて愕然としていると、ゲンズブールの爪が胸に侵入してきていた。
「大人しく死んどけ!」
ぐぐっと力を込められて爪が胸の中に押し込まれてくる。
肋骨の隙間を的確に狙って差し込まれた刃はマイスの心臓にまで達していた。
だが、マイスは身体に爪を突き立てられた瞬間にほとんど気づかなかった。
穴を開けられた心臓は変わらない鼓動を刻み続けていた。
身体の中に感じる冷たい異物感。それだけを感じてようやくマイスは自身に起きた事態に気づいた。
マイスはゲンズブールの腕を掴むと、力を込めて胸からゆっくりと爪を引き抜いていった。
「化け物・・・・がっ!」
ゲンズブールは眉間にしわを寄せて同じ事をまた言っていた。
爪が完全に引き抜かれるとほぼ同時に傷は消えうせた。
痛みを全く感じなくなり、どんな傷を負ってもすぐに治る。
最初から分かっていたことだった。
そして、その契約はいま自分の前にいるこの男を殺すために結ばれた。
「そうだ、お前を殺すために化け物になったんだ」
マイスはそう言うとゲンズブールの腕をぐいっと引き寄せてその顔に頭突きを食らわせた。

443ドギーマン:2007/03/18(日) 20:49:05 ID:WMFiyZTk0

エムルは二人からそれほど離れていない、賃貸の一室から二人の戦いを眺めていた。
裏路地に面した建物の薄汚れた部屋、この辺りでは一番高い所にある部屋で見通しが良かった。
都市開発の一環で建てられたのだろうが、今ではすっかりスラムの一部になっているようだった。
窓に身体をもたれ掛けているエムルの背後で部屋の住人の女が少し怯えた様子でエムルを見ていた。
女は見たところ娼婦といった感じで、先ほどまで寝ていたらしく髪は寝癖で乱れていた。
何人もの男の相手をしてきたであろうベッドの上に女は膝を抱いて座っていた。
手首にはエムルの炎の鞭によってつけられた火傷が見える。
端金で簡単に部屋に入れてくれた女には目もくれずエムルはマイスの動きをじっと眺めた。
戦うところは初めて見るが、どうやら大剣を使って風を操るらしい。
大剣という力強さの象徴のような武器を扱う割には意外なことだった。
マイスはゲンズブールに向かって攻め始めている。
だがすぐに畳み掛けないところを見て取って「まだ時間がかかりそうね」と呟いた。
ふと街の景色に目を走らせると、表通りに面したマイスの宿が小さく見えた。
そこからあの女が出てきて遠くへ走って行った。
マイスたちの方向へは反対方向だが、いずれ辿り着かれるかもしれない。
その女に続いて出てきた浅黒い肌の黒髪の男。
初めて見る顔だが、あの女のすぐあとに出てきたところを見るとマイスの仲間だろうか。
胸当てに描かれた大きな十字架が目立つ。ビショップらしい風貌の男。
様子を見ていると男は急に顔を上げてこちらをじっと見た。
エムルは目が合ったことに慌てて窓から下がって部屋の中に身を隠した。
あの距離でこちらに気づけるはずが無い。エムルはそう自分に言い聞かせていたが嫌な予感を感じていた。
エムルは振り向いて部屋の女をじろっと睨んだ。
女はびくっと身体を震わせた。目には涙が浮かんでいた。
エムルはその女の怯えた様子を見てふっと唇だけの笑みを浮かべると、「もういいわ」と言って部屋を出た。
"口止め"は必要ないようだった。
軋む廊下を歩きながらエムルは少し焦りを感じていた。
あのビショップの眼を見たからだろうか、あの真っ直ぐにこちらを見る眼に生まれて初めての恐怖を感じていた。
気のせいだとは思うが、念のため少し急いだほうがいいだろう。
マイスがゲンズブールを殺しきれなかったとしても、そのときはまた別に生贄を用意してやればいい。
ゲンズブールには代わりに別の役割を与えてやろう。
ともかく今は彼の死が絶対条件なのだから。

444ドギーマン:2007/03/18(日) 21:15:30 ID:WMFiyZTk0
あとがき
うーん、特に大した考えも無く主人公を戦士にして、
特に考えも無く風ダメスキルというマイナースキルを使わせちゃいました。
ディレイとか、物理スキル使わせたほうが強そうなんですけどね。
でも、風使い(今思いついたフレーズ)ってなんか繊細な感じがしますよねえ。
それだけの理由なんですけどね。
それにしても、戦闘シーンなんだけどただの解説みたいな内容に…。
まだ終わったわけじゃないので次で頑張ってみようと思います。

>みやびさん
哀愁漂う始まりから、最後の感動に持っていくまでの複線が素晴らしいですね。
生きる目的を見つけたエレノアの幸せなその後を想像させるようです。

誤字脱字は私もいっぱいありますから気にしないでください。
と、言っても気になるのが書き手ですね。
読み返してチェックしても、いざ書き込んだのを読んでみると見つかる見つかる…。

>名無しさん
まとめサイトのほう、お疲れ様です。
そしてありがとうございます。

445みやび:2007/03/19(月) 01:29:52 ID:5vjJh76g0
 自分のあまりの間抜けさにギャフンとなり、ふて寝してしまって今頃目が覚めてしまいま
した(汗)←(就寝時間幼児だよそりゃ……)
 そんな訳で感想とレス行っちゃいます。

>姫々さん
 アチャとランサーの対決というのは、バリエーションが豊富で良いですね。
 あとロイみたいなキャラは好きです。普段はとぼけているんだけれど、いざというときには
火事場の馬鹿力――でもやっぱり本質は三枚目? みたいな部分が母性をくすぐる気が。
 やはり現実でも小説でも恋はギャップが命!?(笑)

>439さん
 エレノアは実は戦場だともっと非情だったりします(汗) でも人物設定としては愛に満ちた
女性ですのでご安心ください(笑)
 どちらかというと私の小説は「感傷的」プラス「グロ」プラスアルファ「エロ」が本分だと自己
分析しているのですが、エログロはさすがにテンプレで釘を刺されていますので、逆に意識
してしまって戦闘、ラブシーンの描写には頭をかかえてしまいます(汗) 戦場である以上は
流血は前提ですし、日常生活を描けば性描写もかかせない要素ですし。問題はどういうス
タンスどこまで描写するか――にかかっている訳ですが、それらは主観的な要素があまりに
も強過ぎますからね……。できるだけ万人向けにソフトにソフトに――と書こうとすると、これ
はこれで難しいです(汗)

 魔法汽船は公式設定にはないものです。こういった小道具を考えるは楽しいので、登場
させるとついつい描写にスペースをさいてしまうのが難点(ページが嵩む(笑))。今回のは
あえて最小の表現で済ませております。本当はもっと細かく描写したかったです(笑)
 ジョルジェの表記ミスについては脳内補完してくださって感謝!!(汗)

>ドギーマンさん
 風スキルいいですね。再現を楽しみながら書いているのが伝わってきます。もっとも本人
的には苦しんでいたのかもそれませんが。そこは作者と読者のちがいということで(笑)
 風使い(このネーミング好きです)イコール繊細――というのはまったくですね。
 次が楽しみです!

 誤植に関しては……やっぱりへこみますよねえ(泣)
 実は小説書きって、作品の評価よりも書いたあとで誤字・脱字・表記ミスを発見すること
による精神的なダメージのほうが強いんじゃないかしら。と思うことがあります(笑)
 いや実際笑えないんですが……(汗)
 お互いに頑張りましょう!おー!(ちょっと空しい叫び)

   *

 どうしよう……。たっぷり四時間も寝ちゃったから眠れないぞ。うーん……。
 これは『書け』ってこと!?(ひー)

446名無しさん:2007/03/19(月) 03:25:14 ID:QNo35LhM0
>ドギーマンさん
ほんとに武道って避ける事にかけては天才的だなぁ…と別の感動をしてます(笑)
戦士は実はやった事がないのですが、剣閃を飛ばして攻撃するというのはカッコイイですよね。
剣士スキルにも竜巻みたいなのがあったと思うし、剣士戦士って風使いなのか…!?
エムルの天敵はイスツールでしたか。両者が出会ったらまたひと騒動ありそうです。

>みやびさん
エログロは私個人としては全く気にせずに読んでみたいと思っていますが
このしたらば自体が年齢制限がない場所ですからね…完全フリーというわけにいかないのが辛いところですね。
いっそ個人サイトを作って隠しか何かにして書いて欲しい…とか無理な注文してしまいそうです(ニヤニヤ)
エレノアについては「戦争がある=血がある」というので納得しました。どうやら私の頭の中まで平和ボケしているようです(苦笑)
またの小説お待ちしています。今度はどんな想像小道具が出てくるのかな(笑)

447ドギーマン:2007/03/20(火) 00:49:11 ID:WMFiyZTk0
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356>>367-371>>398-400>>441-443

漆喰が剥がれて積み上げられた煉瓦の覗く建物、それらに挟まれた狭い路地の中を突風が吹きぬける。
痛みが無いことに最初は戸惑っていたものの、今のマイスに躊躇は無くなろうとしていた。
より強い力を求めて彼の大剣は周囲の空気を集め、風は彼の意思に従って吹き荒れた。
死ぬ事を恐れなかった頃の感覚が帰って来ようとしていた。
それは懐かしくもあり、喜ばしくもあり、そしてまた恐ろしくもあった。
何者も近づくことを許さぬ風にゲンズブールの帽子は遠く彼方へ消え去り、
彼は今吹き飛ばされぬように、はためく黒いマントに引っ張られているかのように足を踏ん張って耐えていた。
マイスは小さく助走をつけて踏み切ると、風に乗って高く跳躍した。
まるで翼でも生えているかのように高く高く。見上げているゲンズブールに自身の影を落とす。
ゲンズブールは横に飛んでマイスの飛び降りざまの斬撃を交わすと、
続けて払うように繰り出された大剣を爪で弾こうとした。
だが刀身を防いでも風は容赦なく彼を襲い、弾き飛ばす。
風に身体の自由を奪われ、ゲンズブールは避けることも間々ならなくなっていた。
ゲンズブールはざざっと地面に足の裏を擦り付けて着地した。
その後もマイスは大剣を振り回して風を作り出し、ゲンズブールに見えない斬撃を繰り出していった。

魔法も使えず、接近するしか攻撃の手段がない彼にとってマイスは相性の悪い相手であった。
ましてや建物に挟まれた狭い路地の中ではその風はより強さを増していた。
道着はあちこちに切れ目が走り、小さくところどころに血が滲んでいた。
マイスは大剣を再び構えると、ゲンズブールに向かって突進していった。
ゲンズブールは右手の爪だけを捨てるとぐっと右拳を握り固めた。
爪が手の平に痛いほどに食い込んでくる。
あのリズとの戦いでの、彼女の最後の反撃のときの表情が思い出された。
そしてそれを師の最後の時の表情にダブらせた。
ゲンズブールは気に入らないと思った。こんなに酔えない、つまらない戦いはない。
意識しないうちに強く噛み合わされた歯がキリッと不快な音を立てた。
走りこんできたマイスは大剣を持ち上げて突きの構えを取った。
ゲンズブールは左爪を前に出して、握りこんだ右拳を脇腹の横に構えた。
捻り込むように放たれたマイスの突きに向かってゲンズブールは左爪を差し出した。
爪が剣に触れた瞬間、剣から放たれた小さな風の刃が彼の左手を撫でた。
左手を赤い線が次々と走り、刻まれた指の皮が捲れ上がった。
道着の袖は風に捻じれてズタズタに引き裂かれていく。
それでもゲンズブールの爪はマイスの剣を横に押しやり、そのまま滑るように相手の懐に潜り込んでいった。
そして「ふっ!」と息を吐くと同時に繰り出された彼の右拳は、マイスの顎を捻り込むように捉えて弾き飛ばした。

448ドギーマン:2007/03/20(火) 00:51:18 ID:WMFiyZTk0
マイスは顎を首に対して横に、ほぼ直角にまで弾き上げられて吹っ飛ばされた。
首の筋肉が鈍い音を立てて断裂し、左右に脳が大きく揺さぶられた。
だが痛みが無いために全く苦しげな声を上げることはなかった。
仰向けに倒れこんだマイスは首を真っ直ぐにすると、すぐに起き上がった。
しかし、激しく頭を揺さぶられた彼の視界は歪んでいて、すぐには立ち上がれなかった。
そこにゲンズブールの鉄板を仕込んだ靴のつま先が再び顎を捉えてマイスの視界を空へ向けた。
「化け物になったからって調子こいてんじゃねえぞ。カスが!」
ゲンズブールの掠れた声が響いた。
彼の左腕はマイスの風にズタズタに引き裂かれて血にまみれていた。
だらんとぶら下げて、ボロボロの道着の袖と捲れ上がった皮膚が絡み合っていた。
血に塗れた手に握られた鉤爪は刃先が少し曲がっていて、マイスの風の強烈さを物語った。
倒れたままのマイスの顔をゲンズブールは何度も踏みつけていた。
リズの腕を一撃で破壊したゲンズブールの踵が何度も顔に打ち付けられる。
だが、マイスは全く痛みを感じていなかった。
頬骨や鼻骨は何度も折れては再生を繰り返す。
踏まれながらマイスは眼を閉じてぼんやりと考えた。
これが、俺が望んだものなのか?
こんな事のために、俺は・・・。
マイスはリズやイスツール、宿の主人・・・彼が守りたいと思った大切な人たちの事を考えた。
俺は彼らを守るためにエムルと契約を結んだ。
でも、それは本当に彼らのためだったのだろうか。
宿の主人は言っていた「俺はお前を信じてる。お前はやるときゃやれる男だ」
マイスに背を向けて階段を上がっていくあの時のイスツールの背中。
寝台の上でマイスを見上げていたリズ。
「私も、あなたの事を守りたかった」
そうか。俺はエムルの言葉に踊らされてしまっていたんだな。
リズは襲われたのではなく。自分の意思で、俺を守るために戦ったんだ。
マイスは背中に傷を受けた日のことを思い出そうとした。
決まってそういう時には傷が痺れるように疼くのだが、今はそれが無かった。
なんてことだ・・・・・。
マイスは酷い喪失感を感じていた。
痛みを捨てるということは、同時に絶対に守らなければならなかった何かも捨てるということだった。
今思えば、皆マイスが自分の勇気と決断でもってトラウマを克服することを望んでいたはずだ。
なのに、俺は・・・・。
どうしようもない馬鹿だった。
マイスは墜ちてしまったと思った。
失ってようやく気づいた。痛みや苦しみ、そして恐怖は消し去るものではない。
怯えながらも、それでも乗り越えて行くべきものだと。

449ドギーマン:2007/03/20(火) 00:52:42 ID:WMFiyZTk0
ゲンズブールはマイスの顔面を踏みつけながら、それでも込み上げる怒りは枯渇することはなかった、。
いくら踏みつけても、マイスの顔は汚れることはあっても決して傷つかない。
「くそが!」
そう言って怒りに任せながら目をつむっているマイスの顔を踏みつけた。
まるで踏まれている事にすら気づいていない、眠っているかのような表情。
それはゲンズブールのプライドを酷く傷つけていた。
だがゲンズブールははたと足を止めた。
マイスの閉じた目に涙が滲んでいるのが見えた。
ゲンズブールはチッと大きく舌打ちしてマイスから離れた。
何なんだこの男は。
俺を殺すために化け物になっただとかほざいておいて、泣いてやがる。
マイスの何もかもが気に食わなかった。
出来ることならば殺したかった。
「くそっ、苛々してきやがる」
そう言ったところで、ゲンズブールはある事に気づいた。
あれほど激しくマイスによって切り刻まれた左腕の出血が完全に止まってしまっていた。
それどころか、身体のあちこちに付いていた細かい切傷、左腕の傷も早くもほとんど治りかけていた。
ヒールポーションを使った覚えは全く無い。
ゲンズブールの誇りをさらに傷つける事態だった。
奴だけじゃない。俺も化け物にされちまってたのか。
ゲンズブールは師の幻影に吐き捨てた。
どうやら、あんた言っていた気合とやらは関係なかったらしい。
少しでも信じていられたほうがどれ程マシだったか。
怒りが収まらず、手が震えてきた。
そうしていると、エムルの声が響いた。
「あら、もう戦わないの?」
そう言って彼女はマイスの後方に立って首にかけた黒い逆十字架のロザリオを指先で玩んでいた。
マイスはその声に起き上がって振り返り、
ゲンズブールは怒りをぶつける捌け口を見つけたことに笑みを浮かべた。
「エムル、契約を・・」
マイスがそこまで言ったところでゲンズブールの黒い姿がマイスの横を一瞬で通り過ぎた。
ゲンズブールはどろどろと身体の中で淀んでいる怒りをぶちまける宛てを見つけて狂喜に顔を歪ませた。
「ひ・・ヒ!」
怒りなのか喜びなのか分からない。リズを苦しめていたときに近い感情。
ゲンズブールの左手に握り締めた歪んだ爪はエムルの余裕の笑みを浮かべる顔を目指した。
だが、その爪が彼女の顔に届くことはなかった。
ドクンと彼の心臓が大きく跳ねて、どす黒い何かが身体の中に弾けるように撒き散らされた。
ゲンズブールの視界のなかに浮かぶエムルの笑みは上に消え、気づけば彼は冷たい地面を見ていた。
身体を地面に叩きつける衝撃。路地裏の舗装されていない地面はひんやりとしていて、彼はその冷たさに顔を埋めた。
酷い吐き気が込み上げてくる。急に気分が悪くなった。
込み上げて来たものが喉を焼く、耐え切れなくなった彼は咳き込んで血を吐いた。
何があったのか全く分からなかった。
手足の感覚が無くなっていく。視界が何故か酷く揺れていた。
誰が俺を揺すってるんだ。
彼は痙攣を始めている自分に気づいていなかった。
ゲンズブールは雄叫びをあげようとした。既に意識は朦朧としていたが、それで助かる気がした。
「・・・・ふっ・・・・ぉ・・・・」
かすかに喉の奥から漏れたそれは、すでに怒号などではなくなっていた。

450ドギーマン:2007/03/20(火) 01:13:12 ID:WMFiyZTk0
あとがき
エムル登場。そして倒れるゲンズブール。
イスツールやリズは蚊帳の外で話は進行していきます。
さてこれからどうしよう。

451名無しさん:2007/03/20(火) 05:11:56 ID:QNo35LhM0
>ドギーマンさん
連続する戦闘シーンにハラハラしてます(ドキドキ)
戦士と武道家、この両職が決闘する展開を想像した事が今まで無かったので楽しんで読ませてもらいました。
ついにエムルの計画が実行されたのでしょうか…ゲンズブール、好きなキャラでした…。
ってまだ死んだりしてないのに(苦笑) でもピンチには変わりないですね。
リズとイスツールも実は動いているのでしょうか。ともかく続きが気になります。お待ちしてますよ!

452みやび:2007/03/20(火) 12:28:32 ID:Lyw03.360
 こんにちは。昨夜は寝てしまって感想書けなかったみやびです(汗)

>ドギーマンさん
 マイス、ゲンズブールの不死身という力に対するとらえ方の相違が面白いですね。
 しかしその虚無感を悟ったマイスが、果てして私(読者)の予想通りの行動を起こすのか、
それとも読者を裏切って――もちろんこれは作家につきものの“読者を裏切りたがる性質”
という肯定的な意味の裏切りですが――くれるのか。次回が楽しみです。

>446さん
 個人サイト……。自堕落なため管理が続かないです……はい(泣)
 その分こちらへの投稿に励みたいと思います。

 ― 記 ―
 前スレの>139氏による年表。
 私のキャラはもれなくメインクエを終えてしまっているため、今となっては確認できない部
分もあるのですが、同年表に漏れやミスがないのであれば、次スレからテンプレに載せる
というのはいかがでしょう? 漏れ等は発見した人が申告して、そのつど修正すれば良い
事ですし、公式の設定に忠実に書きたい、という方もいらっしゃると思いますので。

453名無しさん:2007/03/20(火) 14:18:06 ID:B3kEUPL20
ゴドム共和国中等学校歴史教科書より抜粋、『旧ブルン暦、フランデル大陸興亡史』。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4423年 「赤き空の日」 RED STONE降臨
4556年 追放天使の流した、RED STONEの噂。
       その真相調査を開始したエリプト帝国が悪魔の襲撃により崩壊。
4658年 帝国崩壊後、エリプト帝国の元傭兵等を集め、
       ブルン王室が王室直轄機関『レッドアイ』を設立。
4805年 『レッドアイ』会長失踪。ロムストグバイルの書記にて詳細判明。※資料1
       同年、ブルン国王アラドン失踪。
4807年 『レッドアイ』RED STONEを遂に発見。
       しかし同年、バヘルリ・シュトラディバリ主導による『シュトラディバリ家の反乱』
       が勃発。ブルン王国は崩壊。
4828年 共和国主義を唱えるバルヘリに対し、自らの地位を危惧した貴族らがバルヘリの母方
       ストラウス家のトラウザー主導による再反乱を起こす。
       しかし戦況の不味により貴族らはビガプールに亡命、トラウザーを王に立て王国
       ナクリエマを設立。混乱のまま戦争は終結。
       バヘルリは古都ブルンネンシュティグに残り、ゴドム共和国を設立する。
      バヘルリを初代大統領に議会政治開始。
4850年 ナクリエマ王権を息子バルンロプトへ移しトラウザー隠居、後年死亡。
4854年 バルンロプトは貴族の政治介入を疎んじ、貴族に対し『絶対的弾圧』を行う。
4856年 貴族は絶対的弾圧に対しバルンロプトの王権解除を望み、バルンロプトの息子が王にな
       る様企む。
       しかしバルンロプトを恐れた一部の貴族がそれを暴露し、企んだ貴族は反乱罪で処刑、
       当の息子は王にならないよう、バルンロプトにより幽閉される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4931年 現代。レッドアイ狂信者によるスマグ襲撃事件発生。狂信者はスマグ地下道を占拠。
       現ナクリエマ国王タートクラフト・カイザー・ストラウスがビックアイに傭兵を送り込み、
       謎の警戒態勢に入る。


※資料1 レッドアイ会長の失踪直前に記された、『補佐官スロムトグバイルの手記』 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「汝らの求めるREDSTONEは、汝らが思うような至高の宝ではない。
天空から複数略奪された、盗品の1つに過ぎぬのだ。
だからもしや、汝はあの宝をその手に入れ、富と名誉をも掴む事になるやも知れぬ。
だが忘るな!あれは至高の宝ではないのだ。それを忘れ暴走すれば、必ず汝を破滅に引導するだろう。
―――あの、ブルン終末の王と、●●●●●●●。」

 ブルン暦4805年12月8日 王室直轄機関『レッドアイ』会長 アイノ・ガスピル

 口頭筆記 会長補佐官スロムトグバイル
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●部分は黒で塗りつぶされている。



※追記
 
年代の一部はNPCの発言より創作
そのほか、『補佐官スロムトグバイルの手記』は公式より推敲

454ドギーマン:2007/03/20(火) 14:39:48 ID:B3kEUPL20
一部、人物名の修正 バルヘリ→バヘルリ・シュトラディバリ
ゲーム内、公式HPなどからこちらの名前が多く使われているようなので。
シュトラディバリの悲劇というUもありますしね。

バルンロプトにバヘルリが王権を譲るという点を修正
→トラウザーよりバルンロプトへ

いま読み返すと、バヘルリに出来てないところが・・・・
バヘルリ・フォン・シュトラディバリらしいです。

不明点・矛盾点
ビガプール歴史クエストでは、
バヘルリがブルン王国崩壊後に新国家の建設を開始。
しかしトラウザーの反乱によって追放され、古都に帰ってゴドム共和国を建てる。
とされておりますが、どっちが正しいのかは・・・。
そのクエの内容では、
ナクリエマを独立させたのはバヘルリで、
初代国王の座についたのはトラウザーらしいです。
でも、分からない部分が多すぎるのでその部分には手を加えておりません。

テンプレにするというのは賛成です。私も何度も利用させて貰いましたから。

455名無しさん:2007/03/20(火) 20:33:24 ID:WDt8ANrA0
>年表
テンプレ案に私も一票。
公式にもなかなかこの手の資料の詳細は掲載されてませんしね。
メインクエストなどを自分で進めて調べるというのも、手持ちキャラのLvによっては辛い部分もあると思いますし(実際私がそうです)。
でもどうしても曖昧な部分や二人のNPCが別々の事を語る矛盾点などはあると思います。
その辺も勝手に想像して書いてしまうか、あえて触れないで書いてしまうかは書き手さんの自由という感じで。
RSの歴史的小説を書きたい、あるいは小説の中で政治的部分を挿入したい場合には必須の年表だと思います。

456第54話 ヒント:2007/03/21(水) 11:00:02 ID:MtBfXOKk0
「もしもしパパ? 途中で切れるんだもん! 今どこなの? 私は西の○▲っていうネカフェよ!」
「やっぱり尾行してたのか。俺は今、駅の東、岡崎の車からだ。この番号は岡崎の電話だ。大丈夫か?」
「う、うん。それより今みっこも一緒なの」
「はぁ?なんで?」
「実は・・・」
美香は事の次第を田村に伝えた。
「お前の追ってた奴と同一人物なのか?」
「確認しようとしたら、パパから電話きたんだもん!」
「・・・みっこの友達が危険だなぁ・・・佐々木はいるか?」
「え?パパと一緒じゃないの?」
「くそっ! こっちで連絡する。多分、俺より先に応援にいけるだろう」
「応援って、そっちのヤマでしょうが!」
プツッとノイズとともに電話は切れていた。用件をだけ伝えたらさっさと切ってしまうタイプの田村だった。


佐々木は1軒目のネカフェを出てから、これでは埒があかないと携帯を手にとった。
「○○署の佐々木です。至急、張を電話に出してください!」


張は緊急の電話だと刑務官に言われ、駆け足で電話代に向かわされた。
一体なんだってんだ?電話に出ると相手は一言「佐々木です、質問に答えて」と。
「どうしたんだ?」
「5番を見失った。ヒントはないか?」
予め、8件のメールアドレスには番号を割り当てていた。
最後まで残った2件が3番と5番だった。
「ヒント?5番は判らないよ。それより何故5番なんだ?」
「実際の取引までいったのは3番と5番で、3番は空振りだった。だから残る5番てわけだが?」
「いや、8番はどうしたんだ?あれが一番怪しいと言っただろう!」
「数回メールのやり取りをしてそれで流れたみたいだ」
「馬鹿!8番は俺も監視してたが、チャットでやり取りしてただろうが!しかも今日が取り決めの日程だぞ!!」
「なんだって?電子課からそんな連絡なかったぞ!」
「Gmailはお互いログインしていれば、メールクライアント上でチャットできるんだよ! それを見逃したんだ!」
「ヒントをくれ!」
「チャットログ上では2軒名前が出ていた・・・確か、■×店と○▲店だ」
「ありがとう!」と佐々木は電話を切った。
張は退屈な日曜に刺激を与えてくれた事に感謝しながら警察の間の抜けぶりに微笑んだ。
例のGmailは、売主はログを保存しない設定をしていたが、買主がそれを設定していなかったのが幸いだった。


佐々木は○▲店に向かった。USBを使えるのはその店だけだったからだ。
そこに田村から無線が入った。
「佐々木!○▲に向かえ!」


田村は佐々木の返事に驚いた。
「もう向かっています!」
「何故判った?」
「8番がいるんです!」
「あん? 追っているのは5番だぞ?」


その頃、ネカフェではみっこが戻ってきた。ジュースサーバーでキンガーからどこに座っているか教えてもらったのだ。
美香はちょっと疑問に思っていることをみっこに訊いた。
「そういえば、そのお友達はアカウントを購入するつもりなの?」
「どっちにしろ買わないw」
「どうゆうこと?」
「取引成立なら姉ちゃんたちに引き渡す。不成立ならうちらは関係ないの。そっちで好きにしてw」
「ちょっと!きちんと説明しなさいよ!」
何故、自分達がこんな取引現場にいるのかをみっこはキンガーさんが座っているほうを眺めながら説明した。

457復讐の女神:2007/03/21(水) 17:07:41 ID:D684MnD20
フェリルが空を飛んで数分。
ボイルは、普段と違い無口であった。
ジェシの前で、今までただの一度とてこのようなことはなかった。
その表情は真剣そのものであり、ジェシはなんとなく居心地の悪い思いをしていた。
「ん? ジェシ、どうかしたのかい?」
「…なんでもないわ」
じっと見ていたのに気づいたのだろう、ボイルは笑顔でジェシを見つめる。
「あぁ…はは、私の真剣な顔を見るのはもしかして、初めてだったかな。惚れ直したかい?」
「最初から無いものを、どうやって直すのよ」
やはり、気のせいだろう。
この男は、何も変わってはいない。
ジェシは、ため息をつき、空を眺めた。蒼い空に、白い雲が幾筋か、流れている。
こんなに良い天気は、久しぶりでは無いだろうか?
そう思った時だった。
視界が急にぼやけ、ぶれ始めた。平衡感覚が怪しくなり、嘔吐感が沸き起こる。目に見えるのは、白と黒の世界。
(こい!)
頭の中に響くその声を聞き、一瞬のブラックアウトを体感する。
次の瞬間。
ボイルとジェシの姿は、その場から掻き消えていたのだった。

空間を跳躍し、ジェシはその場にひざまづきそうになった。
視界は元に戻っているが、体に痺れが残っている。
「この空間跳躍も、なかなか慣れられませんねぇ」
「ふむ、しかしこれが一番早くて確実だからな…」
「…ジェシ、大丈夫かい? 私がささえ」
「大丈夫」
槍を杖代わりに、体勢を立て直す。
空を見上げて数瞬、ジェシの体のバランスは整った。
改めて周囲を確認すると、そこは村への入り口だった。
簡素な村ではあるが、家の数を見る限り、それなりの人口がいるらしい。
村の奥に田畑が見えるところから、農村といったところだろうか。
ただ、ありがちなことではあるのだが…山に囲まれているのが、厄介といえば厄介だろうか。
視線を仲間に戻すと、ボイルが地面に膝を付いていた。
「あら、ボイルどうしたの? もしかして、まだ気持ち悪いとか?」
「は、はは…いやなに、大丈夫さ」
ボイルは力ない笑みを残し、立ち上がる。
その様子を、フェリルは呆れながら見守っていた。
「さて、そろそろ村長殿に挨拶に行かねばな」
すでに羽の消失させたフェリルは、村の中へと入っていく。
「あ、ちょっと…!?」
ジェシは慌ててフェリル後を追う。
その姿を、ボイルは優しい瞳で見守っていた。
「君は、私のことを…」
そのつぶやきは、果たして紡がれることなく、風に消えた。
「ボイル、早く来なさい!」
ジェシにせかされ、ボイルはゆっくりと歩き出した。

458復讐の女神:2007/03/21(水) 17:08:27 ID:D684MnD20
村に入ると、子供たちがこちらを見ていることに気づいた。
ジェシは、視線だけでその動向を観察する。
子供たちは、ただこちらを眺めているだけだ。
警戒しているところをみると、モンスターに相当怯えているようだ。
もしかしたら、自分たちが一連の事件の黒幕とすら思われているかもしれない。
「考えすぎだ、ジェシ」
横を歩いているフェリルが、そっとつぶやいた。
視線は前を向いたままだ。
「あの子供たちだって、さすがにそれくらいの事はわかる」
「そうそう。心配要らないよ、私のジェシ。どんなことがあろうと、絶対に守って見せるから」
「……何のこと?」
後ろから聞こえてくるボイルの声を、ジェシはあっさりと切り捨てる。
ジェシは、それなりの実力を持っている。
ボイルに助けられずとも、生き残る自信はあるのだ。
子供以外にも、こちらを見る視線を感じる。
家の中などから、隠れるようにこちらを注目している。
(これほど怯えているなんて…)
この世界では、モンスターの存在など普通すぎるくらいだ。
少しばかりの数では、放って置くことすらある。
「かなりの数…もしくは、それくらいの知恵があるようね」
「そのようだね、村全体が怯えているのがわかるよ」
ボイルの相槌は、かすかに震えている。
助けに勇んできた人間が、震えていてどうするのだろうか。
ジェシが何か言おうかと口を開きかけたとき。
「おぉ、フェリル殿!」
老人と分かる、かすれた男の声が響いた。
声が聞こえた方向を見ると、そこには肌を日に焼けさせた老人がいた。
いや、老人といっていいものだろうか?
健康的で無駄の無いからだをしているのは、畑仕事のおかげだろう。
杖は突いておらず、腰も堂々としている。
鋭い眼光は、辺境での長い暮らしによるものだろうか。
「間に合いましたな、お久しぶりです村長」
フェリルと、村長と呼ばれた男が手を取り合って握手をする。
なるほど、二人は知り合いらしい。
2・3の言葉を返しあうと、私たちを呼んで紹介を始めた。
「こちらはジェシ、槍と弓の名手で、ブルネンシュティングでも、なかなかに有名な方です。もう一人は
ボイル、魔術師です。知識も豊富で、頼りになります」
「はじめまして、ジェシです」
「よろしく頼むよ」
おとなしく頭を下げるジェシに対して、ボイルは尊大にうなずいた。
このあたりの違いは、生まれや生活の差だろうか。
村長がジェシとボイルに向かって頭を下げる。
「さあ、こちらに来てください。現在の状況をお教えします」

459復讐の女神:2007/03/21(水) 17:09:21 ID:D684MnD20
案内された村長宅には、包帯を所々に巻いた男が2人待っていた。
腕に巻かれた包帯に血がにじんでいるのが、痛々しい。
「話の前に、傷を癒しましょう。見せてください」
フェリルは他のことなど目に入らないかのように、二人に近づき包帯をさっさと取り払ってしまう。
血がすでに流れ出していないところを見ると、少なくとも今日受けた傷ではなさそうだ。
「神よ、奇跡の欠片の行使をお許しください」
フェリルが呪文を唱えると、その手から湧き出した水蒸気が二人を包み込みだす。
回転しながら二人の周りを回る水蒸気は、小さな竜巻を連想させる。
「抵抗しないで下さい、効果が最大限まで発揮されません」
体を緊張させていた二人の男は、フェリルの言葉に従い体から力を抜く。
すると、二人の周りを回っていた水蒸気が吸い込まれるように二人に吸収されていく。
そして、水蒸気がなくなると…二人の傷口もふさがっていた。
「これで大丈夫でしょう。怪我をしてすぐであったなら、傷跡も残らないのですが…」
先ほどまで穴の開いていた腕をさすりながら、男たちは苦笑する。
「いいえ、ありがとうございます。おかげで、助かりました」
「それに、体も幾分か軽くなったような気がします」
なるほど、二人の血色が先ほどよりもずいぶんと良くなっている。
腕を上下させ、痛みが無いことを確認した男達は、嬉しそうに礼を言う。
「どうやら、毒にも犯されていたようだね。フェリル司祭の周囲は特殊なフィールドになっているから、毒などを浄化して
くれたのだろう」
ボイルは当然とばかりに頷く。
なるほど、二人が受けた傷から毒が入り込んでいたのか。
「傷跡からみて、蜘蛛にやられたようですね。あなた方が見たのは、蜘蛛のモンスターだけですか?」
「エルフの印があったので調べていたら、急に頭上からやられたんだ…巨大な蜘蛛で、少なくとも2匹はいたはずだ」
彼らの話によると、兆候は1ヶ月前からあったらしい。
蜘蛛たちの攻撃の届かない場所から弓で狙い、一匹ずつ倒してきていた。
蜘蛛を倒したら巣に火を放ち、蜘蛛の卵を巣ごと燃やすのが、セオリーなのである。
そもそも、蜘蛛は単独行動をする生き物だ。一度に何匹も相手にすることの無い、比較的倒しやすい生き物なのである。
だが、最近になって、倒しても倒しても、一向に減る様子がなく、寧ろどんどん増えていっているという。
「もちろん、俺達は巣を発見しだいつぶしていってる。でも、そんなんじゃ対処しきれなくなってきたんだ」
「このままじゃ、いずれ蜘蛛はこの村にまでやってきて、俺達を食料としだす。頼みます、村を救ってください」
いつの間にやってきていたのか、ジェシたちの後ろには幾人かの村人がやってきていた。
全員が頭を下げ、自分達に全てを託そうとしているのを、ひしひしと感じ取ることが出来る。
「安心してください、皆さん。我々は、この依頼を受けるためにこの村に来たのです」
フェリルの一声で、全員から歓声が上がった。

460名無しさん:2007/03/21(水) 20:22:45 ID:WDt8ANrA0
>きんがーさん
RS、と言うよりもネトゲをプレイしている人々全てを対象とできそうな小説ですよね。
3番、5番、8番という三人の容疑者が浮き上がってきましたが…。
やっぱりこの手の犯罪者と言うのはネットやPCに詳しい人物が多いのでしょうね。警察陣、頑張れ!

>復讐の女神さん (小説のタイトルでしたら申し訳ない)
一瞬、続編なのかと思ってログを検索してしまいました(笑)
コーリングや回復魔法に関して独自の描写をされているのが良いです。特にコーリング。
空間跳躍…確かにそういう魔法(?)ですよね。そして気分が悪くなるというのも面白い。"飛ぶ"というのはエバキュエイションでしょうか?
普段何気なく使うスキルだと見落とす部分も多いですよね。BIS/天使スキルは実は私も良く知らないのですがorz
冒険物語になるのか、はたまた別の物語になるのか。どちらにしろ楽しみに続きを待っています。

461携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:10:57 ID:mC0h9s/I0
あらすじ&キャラ紹介>>33 前回>>383-384  ネタ話>>123-125

『孤高の軌跡』

『くはははは、世界は我の物だ!』
『そんなことはさせない! 行くぞっ、みんな!』
『おう!』
「ねえショウタ」
『く……強い』
「ショウタってば」
『こうなったらアレでいくぞ!』
「ショウタッ!」
「なに?」
声のした方向へ振り向くと、不満と好奇心が入り混ざった表情のニーナが居た。
「それ、何?」
ニーナはそう言って前方に指を差した。
その先にはテレビと、テレビの手前にある機械を指していた。
俺は面倒だったが仕方なく教えてやる。
「ああ、これね。これはテレビゲームって言うんだよ」
「テレビゲーム?」
ポカンとした表情のニーナに俺は更に教えてやる。
「要は遊びだよ。テレビにこの機械を組み合わせることによって様々な遊びができる」
説明不十分だがニーナには十分だろう。ピコピコ
「それで動かすの?」
いつの間にか傍らに寄って来ていたニーナがコントローラーに指を差す。
俺は目も向けずに口を開く。ピコピコ
「そう。これはコントローラーって言って操作する道具だ」
言って俺は画面に集中することにした。ピコピコ
すると傍らのニーナが更に近づいてきた。ピコピコピコピコ
「ねね、それ貸し……」
「無理」
光速の速さで即答する。何故なら今はいいところだからだ。
するとニーナは不満を隠そうともせずに睨んできた。
「ケチ」
「あのなあ、今は世界を手に入れようとしている魔王を主人公たちが捨て身の攻撃と勇気でなんとか解決!
って勢いで魔王を倒し世界に平和が訪れ主人公とヒロインが結ばれるって王道的なラストの場面なんだぞ!」
早口口調で熱く語る俺。それによりニーナは当然呆気にとられる。
実はというと、これから第2、第3形態に魔王が変化したりするのだ。ニーナにそんなことは知る由もない。
「でも、何で6人も仲間がいるのに4人しか戦ってないの? 大事な戦いなんでしょ?」
うわ、ニーナが鋭い突っ込みを放ってきた。
俺は咳で動揺を隠しながら何も知らない素人に優しく説明して差し上げる。
「ニーナ。それは言っちゃいけない。つまりタブーなんだ。
他にも主人公が何故か剣を使い、ヒロインが何故か治癒魔法を使うとか、主人公は何故か10代後半だったりだとか、
主人公の町の周りの魔物は何故か雑魚ばっかりだとか、主人公たちは斬られても撃たれても何故か平気だとか、
正義の主人公が知らない人の家に当たり前のように入り、その上その家の物を盗むのも、ぜーんぶタブーだ。絶対に突っ込んじゃいけないんだ!」
「そ、そうなんだ……」
それから長く気まずい時間が流れる。
再び咳で誤魔化して俺はゲームに専念することにした。


魔王が滅び、世界に平和が訪れ、主人公とヒロインが結ばれた頃。
画面を珍しそうに眺めていたニーナが口を開いた。
「ねえ、ショウタ。天気も良いし外行かない?」
「そうだな……今日は休日だしそうするか」


そんな訳で今俺たちはビルが連なる町中に来ている。
実体化しているニーナは、俺の服を着ているにしろ、やはり注目を集めてしまう。俺は全力で他人のふりをする。
特に目的も無くふらついていると、あまり遭いたくない人物に遭遇してしまった。
「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
『あ』の4重奏。俺たちの前には蒼髪の大男と、小柄の少女が立っていた。

462携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:11:50 ID:mC0h9s/I0
「ああっ、お前たちはあの時の!」
2人を交互に指を差しながら俺は叫ぶ。
「そっちこそ。こんな場所で何してるのよ」
平静を保っている黒髪の少女が口を開く。
その少女は高価そうな春物の服や、鞄や装飾品で身を飾っていた。
「気分転換だ。悪いか。そっちこそ何やってんだ」
「これがデートに見える? ただのショッピングよ」
「リサ。余りその男と話すな。間抜けが移るぞ」
リサと呼ばれた少女の背後から出てきた蒼髪の男。
黒いスーツに蒼髪が良く映えていた。
「お前は……」
この男は、忘れる筈もない。俺とエミリーに剣を向けてきた男だった。
俺の敵意に気づいたのか、男が軽蔑の目で俺に目を向けてきた。
「どうした。まだあんな些細な事に固執していたのか?」
どうも俺はあの男が好きになれないらしい。あの話し方は俺の癇に触る。
「俺に剣を向けたことはもういい。それよりあの後はどうした」
俺が遠回しに問うと、男は口を不気味に吊り上げた。
「あの小娘のことか。殺した。……と言いたい所だが、逃げられた。魔石を使い何処かへ移動したのだろう」
「そうか」
そう言いながら俺は心の中で胸を撫で下ろす。
とにかく、エミリーが生きていて本当に良かった。あの子は幸せになるべき人間なのだ。

互いに言うこともなくなり、無言が続く。
耐えかねたのか、黒髪の少女が口火を切った。
「そうだ、貴方たち。良かったら一緒に付き合わない? あの店にでも」
そう言い俺たちの後方へ指を差す。そこは特徴もないデパートだった。
ニーナと目を交し、互いの意思を確認。ニーナの目が輝いていたので、俺も仕方なく付き合うことにする。
「ああ、別に構わないよ」
「よし。じゃ、行きましょう」
嫌がる男の手を引き、ずんずん突き進んでいく少女。
俺たちも後に続いた。

「で、どうするんだ?」
「そうね……あ、そうだ。もう何着か服が欲しいわね。貴方も来る?」
その言葉は俺の傍らのニーナに向けられた。
「え、私?」
「そうよ。貴方素材は抜群だし、そんな服じゃ可哀想だし。って事でヘル、後はよろしく」
「待て。リサ」
言うが遅し。少女はニーナの手を引っ張りブランド店に入っていった。

呆気にとられた俺と、不機嫌丸出しの男だけが残された。さ、最悪だ……。
男は俺を見ようともしない。ただ不機嫌そうに腕を組んでいるだけだった。
「おい」
「何だ」
男の無機質の声が返ってきた。そこに感情は無い。
「どうするんだよ、これから」
「知らん」
本当にいちいち癇に触る男だ。
こいつの傍にいると俺の清潔な脳細胞が次々と死滅していくので、とりあえず離れよう。
「おい。何処へ行く」
「さあな。というかついて来んな!」
「気にするな」
「…………」
疲れるのでこれ以上言うことはやめた。

仕方がないので俺も気分転換にゲームセンターに行くことにした。
邪魔物がいなければ満喫できたのだが……。
「おい、俺の範囲内に入るな」
「私も同じ言葉を返そう」
「あ、そういえば蒼髪って今頃アニメでしか流行らないぞ。もしかしてお前宇宙から来たのか?」
「この世界の言語はレッドストーンの魔力で此方の言語に変換されている筈なのだが、貴様の言葉は解析不能だ。
貴様が話している言葉はこの世の物なのか?」
俺の皮肉に男も負けじと返してくる。
ふっ、望むところだ。
「あ、判った。お前の髪の毛の原因はお前が宇宙人と宇宙人のハーフだからなんだ。そうに違いない!」
「貴様の低脳は最早人類では修正不可能だ。死ぬことをお薦めする」
「お前こそ宇宙的に死ぬことをお勧めするよ。それとさっきから眼を閉じてるようだが眠いのか? それとも病気か?
確かそんなときは首を吊ると治るらしいぞ」
「よくそこまで減らず口を叩けるな。舌が反乱でも起こしているのか?」

そんな皮肉を言い合っているとゲームセンターに着いた。
後でこいつを何とか撒いて迷子のアナウンスでこいつを呼び出そうと考えていたら、こいつが話し掛けてきやがった。
「おい、あれは何だ」
男が指差す方向には、モグラが穴から顔を出し両端にハンマーが刺さっている機械。
つまりモグラ叩きがあった。

463携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:12:45 ID:mC0h9s/I0
「え。もしかしてお前あれやりたいのか……?」
俺が必死で笑いを堪えながら何とか言葉にすると、男は重々しく頷いた。

「1回だけだぞ」
何だか面白そうなので、俺の奢りという形でゲームは始まった。
金を入れて、鈴の音の様な電子音が鳴る。
「ルールは判るのか?」
「安心しろ。1度リサの屋敷でテレビという物で見たことならある」
言いながら男はハンマーを手に取る。
同時に1匹目のモグラが飛び出してきた。
瞬間、男の腕は水平に振られ、モグラの側頭部に見事に命中。モグラはプラスチック製の体をブチ撒けながら場外へ吹き飛ぶっ!
続いて第2のモグラが顔を出す。男は腕を振るった勢いを利用し回し蹴りを放つ。
見事に顎を貫き、本来なら『いてっ!』と可愛らしい声を出す筈のモグラは、『びべぇっ!』と悲痛な断末魔と共に完全沈黙した。
男の猛攻は更に続く。
一発目の攻撃でハンマーが折れた為、ハンマーを投げ捨て、片方の手でモグラの頭を握り潰し、
もう片方でまだ出てきていないモグラの穴に手を突き入れ、無理矢理にモグラを引き抜いた。

やっと我に返り、俺は目の前の男を止めんとする。
「おい、頼むからこれ以上はやめろ!」
「闘いの最中に話し掛けるな。それに闘いは始まったばかりだぞ」
真剣そのものの男の声が返ってくる。
遂に最後のモグラまで破壊され、ここのモグラ叩き機は完全に使い物にならなくなった。
「こんな実力で私に挑むとは……程度を知れ」
何に話し掛けているのか判らない男に近づき、腕を掴むと一気に走り去る。
そろそろ通報されそうなので急がなくては。
「む。何故勝利者の私が逃げなくてはならぬ」
宇宙人の言葉は無視し、階段を駆け上がる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」
俺たちは今屋上へ逃げ延び、身を隠している。
若干1名理解できていない輩が居るが無視。
呼吸を整え、俺は言いたいことを隣の不機嫌面にぶつける。
「お前、テレビを見ておいてどうしたらあんな結果に繋がるんだ?」
「む。あれはモグラをいたぶりストレスを発散するという遊びではなかったのか?」
男の素直な返答に俺は思わず頭を抱える。
「ストレス発散は合ってるかもしれないけど……あれは遊びじゃないだろが!」
「覚えておく」
反論する気も失せ、俺はコンクリの地面に腰を着いた。
いつしか風は冷たく、俺たちの頬を撫でていた。

暫く無言の時間が続く。
しかしあまり気まずくはなく、逆に清々しい気分にも感じた。
口火を切ったのはなんと男の方からだった。
「小僧。あの女に生前の事を問うたことがあるか?」
「え? まあ、あるにはあるが……誤魔化されたかな。お前はどうなんだ?」
問い返すと、男は俺に向き直り、俺は見上げる形になった。
「私も以前リサにそれを問われた」
「何て答えたんだ?」
すると男の目は鋭い物となり、俺は一種の恐怖を感じた。
「ただの国の駒。私は騎士に過ぎない。だが、誇りなら在る。
何せ、私はその誇りの為にこの戦いをしていると言っても過言ではないのだからな」
「じゃあ、お前が勝ったら、赤い石を手に入れたらどうするつもりなんだ……?」
「そんな物は王にでもくれてやろう」
俺は愕然とした。エミリーの場合も、真っ直ぐに愛を求めるというもので驚いたが、
こいつの場合は夢など無いのだ。こいつはただ、己の誇りの為に戦うというのだ。
人は、ここまで強くなれるものなのだろうか?
俺が言葉失っていると、追い討ちをかけるように男が問掛けてきた。
「小僧。あの女の事が知りたいか?」
「ニーナの事? お前はニーナの生前を知っているのか?」
「少しばかりはな。どうなのだ、貴様にはあの女の真実を知る責任が持てるのか訊いている」
それはちっぽけな俺には重たい言葉だった。
もし、ここで知りたいと答えれば、もう引き返すことは出来ないと思った。
でも、それでもここで逃げる訳にはいかない。ここで逃げては過去の繰り返しだ。
「知りたい。ニーナの事を。頼む、教えてくれ」
その時の男の顔は笑っているのかよく判らなかった。
「いいだろう。ならば教えてやろう、あの女の真実を」

464携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:13:31 ID:mC0h9s/I0
「まずは我々の世界について知る必要があるな」
無人の屋上に男の重く低い声が響く。
「我等の世界の大陸には様々な国があるが、その中で政治に長けた7国――――ハノブ、アウグスタ、
ブリッジヘッド、アリアン、シュトラセラト、ビガプール。
そしてその中でも最も有力な国がブルンネンシュティグだ。これらは7国同盟と呼ばれ、テレポーターによって行き来が可能になっている。
他にも独立しているスマグなどがあるがここでは触れないことにしておこう。……ここまでは判ったか?」
「ああ、何とか……」
俺の足りない想像力を総動員させ、何とか話についていく。
男が満足気に頷き、更に続けられる。
「ここで注目すべきは、ビガプールだ。あの女がビガプール人ということは知っていたか?」
「聞いたような気がするようなしないような……」
聞いたことがあるような単語だが、いつ聞いたかは思い出せない。
「まあいい。ここからが本題だ」
俺は息を飲む。これを聞いたらもう引き返すことはできない。
「あの女はその国の王だ」
「え?」
思わず口が疑問符を紡いでいた。
だが、驚くと同時に納得する自分も居た。
ニーナには、何か血にまみれた冒険者とは思えない気品さが感じられるからだ。
「王と言っても、形だけだ。当時は王女だったからな」
「どういうことだ?」
「先程政治に長けた国と言ったが、ビガプールは形だけで現在は崩れかけた貧困の国だ。あの女が冒険者になった理由もそこにある」
長い間を置き、男が続ける。
どうやらご丁寧にも俺の整理する時間を与えてくれているのだろう。
「ビガプールは激しい財政困難により、民衆から税を巻き上げる他なかった。
しかし、それが原因で国は民衆から激しい反発を買った。国を建て直す為に税を上げるが、民衆からは反発を買う。悪循環の完成だ」
「もしかして、ニーナが冒険者になった理由って……!」
鈍い俺でも何となくだが予想できた。それは恐らく……。
「そう。当時王女だった女は持ち前の弓の腕と、生まれつきの強力な魔力を武器に国を離れ、噂に聞くレッドストーンを探す旅に出た。
くだらなくて吐き気さえ感じるが、それしか方法は思い付かなかったのだろう。
それからは、国を奪おうとする他の同盟国と戦争になり、その過程で当時の王は死に、後継者も居ない為にあの女が形だけの王となった。
これが、ニーナ=オルポートの全てだ」
俺は、言葉が出なかった。
だが、男の言葉は追い込むように紡がれる。
「お前は、あの女の全てを受け止めるだけの責任を持てるか?」
俺は答えられなかった。
しかし、男は構わずに続ける。
「持てないのなら、そんな物辞めてしまえ」
男の言葉は俺の胸に深く突き刺さった。
俺は、勇気を出して聞いたことに後悔した。
それから、俺も、男も言葉を発することは無かった。
風は相変わらず冷たく、無情にも俺の体をすり抜けていった。


暫くすると、2人の影が俺たちの前に現れた。
「何してんのあんたたち。こんな所で」
「やっと見つけた〜! 探したんだからね、ショウタ」
それはリサという少女とニーナだった。
少女は両手に大量の袋を装備していた。
ニーナも服装が変わり、可愛らしい白いワンピースになっていた。
ニーナは嬉しさを表すように、くるくると回って見せ、俺に感想を求めるように目を向けてきた。
俺は作り笑いを浮かべるだけだった。
「ほら。あんたの分も買ったんだからこれ、持ちなさいよね」
向こうでは、少女と男がやりとりをしていた。
「どうしたのショウタ?」
そんな俺の様子を不審に思ったのか、ニーナが覗き込んでくる。
「いや、何でもないよ」
「そっか」
そう言ってニーナは笑顔を浮かべる。
しかし今の俺にはニーナの笑顔は無理矢理作っているように見えてしまい、笑顔を浮かべる度に俺の胸を締め付けた。

465携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:14:37 ID:mC0h9s/I0
あれから俺たちは少女たちと別れ、2人でいろいろな場所へ行った。
しかしどうも俺は楽しむことができなかった。

頭の中には男の言葉が繰り返され、他に何も考えることができなくなっていた。
俺はそのことをニーナに言うべきか迷ったが、迷った挙げ句逃げた。
とても今言える程俺には勇気が無かった。

ニーナの正体が、異国と言えど女王だと知り、僅かながらもニーナと会話することにも抵抗が生じた。
考えている内に、俺がこのままニーナと関わっていていいのか疑問を感じた。
果たして、何もかもが中途半端なこの俺に、彼女と関わり続けることができるのだろうか?
いや、今は大丈夫でもいつか耐えきれなくなる日が来るだろう。
何せ、俺は全ての責任から避けるため、様々な事から逃げて生きてきたのだから。
彼女の、我が身を犠牲にしてまで国に懸けるその果てしなく高い孤高とも呼べる理想に、俺は分かち合うことはできないだろう。


日が暮れて、町はすっかり夜になる。
店という店を回り切ったので、俺たちは帰宅することにした。
町から少し離れただけで灯りは頼りなくなり、電灯を頼りに歩く。
コンクリでできた急斜面。その頂上にそびえ立つ2つの影があった。
「待っていたぞ、小僧」
俺は素早く反応し、上を見上げ身構える。
そこには数時間前まで一緒にいた2人が居た。
「何故……?」
「敵は少ない方が良い。わざわざ見逃す程我々はお人好しではないのでな」
気づいたときには既に男は飛び出していた。
剣を抜き放ち、敵を斬らんと魔風の如く距離を詰める!
金属音。
男とほぼ同時に飛び出していたニーナが男の剣撃を槍で受け止めていた。
「ショウタ、引くわよ!」
「させん!」
槍を押し返した刃が、銀光を放ち夜の大気と共にニーナの左肩から右脇腹まで駆け抜けた。
「ニーナァァッ!!」

466携帯物書き屋:2007/03/22(木) 00:28:26 ID:mC0h9s/I0
こんばんわ。プロットを書いたノートを失くしてしまった携帯です。
公式の設定に忠実に逸れていますです。ハイ。

もしかしたら>>461は必要なかったかもしれません・・・。自分でもイタタで冴えないギャグなのは分かっています。
でも冴えるギャグを書く才能は自分には・・・・・・orz

他にも頭にあることを文章にすることにかなり悩まされました。
自分が考えていることを文章化するのはやはり難しいですね。
最近進みも早くみさなんの作品を読みきれていないので感想はそのときにしておきます。

>>407
感想ありがとうございます。
こういった感想を貰えるだけでかなりモチベーションが上がります。
モチベーションが下がったときに使わせてもらいます。

それと、まとめサイトの方もお疲れ様です。

467名無しさん:2007/03/22(木) 01:28:50 ID:Y4A7YiRIO
>>460
復讐の女神さんはの小説は前スレからの続きですよ
>>復讐の女神さん
前スレからずっと続きを待ちわびていました
これからも楽しく読ませていただきます

468名無しさん:2007/03/22(木) 02:27:36 ID:rG5eCNr20
1:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html#960
2:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html#556
3:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html#900
4:ttp://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html#957
5:>>205-206


 こういう時って、できるだけ相手を刺激しないようにした方が良いのかしら?
 どうやって話しかけたら私の事を敵じゃないとわかってくれるだろう。
 どんな顔をしたら私への警戒を解いてくれるんだろう。
 困惑したような表情を浮かべている赤いヤツを見つめながら考える。
 少し考える。しばし考える。小一時間…考えている時間は無いわね。
 ダメね、やっぱり育ちが良くないせいかしら、何も思いつかないや。
 とりあえず何でも良いから話しかけておけば何とかなるかもしれない、という安易な考えを実行してみる。
「まぁまぁ、そんなに睨まないでよ。アンタが混乱してるのはよくわかってるから、とりあえず落ち着いて。
落ち着いて私の話を聞いて。私はね、別にアンタを捕まえに来たとかそういうのじゃなくって、えーっと、
なんでかわからないけどアンタの声が聞こえてきたと言うか、なんかそんなので寝不足でアンタを黙らせにここに来たというか、
あれ、いや、黙らせるじゃないわね、えっとただ眠れないから静かにして欲しくてその、む〜。」
 とても酷い状況だということは私自身よくわかっていますよ、はい。
 何を話すかちゃんと纏めていなかったせいだ、子供がその場を誤魔化すために必死に嘘を考えて喋っているような感じになってしまった。
 うわっ、恥ずかしっ! だんだん自分でも恥ずかしくなってきた…、頬が熱いし顔も赤くなってるかも…。
 いや、待った待った、そんな事考えてる場合じゃなかった。
 前をチラッと見ると赤いヤツがさっきよりも険しい表情で私を見てる。やばいやばい、どうしよう。
「いや、そのね、つまり私がアンタに言いたいのは、私は天界? とかいうところから来たんじゃないって事なのよ。
でね、あっとそのだから私とアンタが争う必要はっ、ってわわわわわ!」
 突然飛んできた火球をギリギリのところで避ける。大丈夫今回はどこも焦げてない、ってそうじゃない!
「ちょっと、何すんのよ! 危ないじゃない!」
 あまりに驚いたせいで違うところに意識が飛んでいきそうだったのを無理矢理引き戻し叫ぶ。
 本当に何考えてるんだろ、コイツは。人が喋ってるのにいきなり火の玉飛ばしてくるなんて。当たったらケガするじゃない。
「アンタね、人がせっかく誤解を解こうとしてるのにそういうことしないで、ってわひゃ!?」
 またも火球が飛んでくる。今回も私はギリギリのところで避ける。というかギリギリでしか避けられなかった。
 コノヤロウ…二回も火の玉撃ってくるなんて、しかも今回はかなり間抜けな声も出しちゃって恥ずかしいじゃないの…。
「あーはいはい、わかったわかったわよもう。そんなに私と話したくないならもういいわよ。」
 スリングを持つ手に力を込めてゆっくりと構える。
 私はついさっき考えていた事など、もうどうでも良くなってしまっていた。
 結局のところ私の怒りっぽい性格じゃ話し合いなんて出来るはずなかったんだ。
「もうアンタは話さなくていいわよ、私の話を聞いてるだけでいいわ。聞きたくないなんて言わないでよね、アンタは話し合いを拒否したんだもの。
私もいちいち火の玉避けながら話したくないからさ、だからアンタが私の話を聞くしかないような状態になってもらうからね。
少し痛い目みてもらうわよ、途中で気が変わったって遅いんだからね。アンタが悪いのよ!」
 持っていたスリングを大きく振り回し少し後ろに飛ぶ。
 赤いヤツとの距離は4〜5m位かしら、これだけ距離があれば大丈夫ね。
「アンタって本当にバカね、手加減はできないから頭に当たって死なないように気をつけなさい!」
 スリングから数発の鉄の弾丸が放たれる。私自身も何発くらい飛んでいったかよくわからない。飛んでいく方向もバラバラだ。
 ただ一つわかることは、飛んでいった弾丸は最終的に赤いヤツに当たるってことだけ。
 絶対に外れない、昔あんなに練習したんだもの。
「何処を狙っている、そんなの当たるわけないだろ…なっ!? ぐっ!」
 勢いよく赤いヤツが横に飛んで壁にぶつかる。
「ちぇっ、避けたか」

469名無しさん:2007/03/22(木) 02:28:29 ID:rG5eCNr20

 狭い洞窟の壁にぶつかって跳ね回る弾丸の軌道に気付くなんてビックリね。あっという間に終わると思ってたのに。
 でも一発避けたところで何の意味も無い。さっき避けた弾丸はまた壁に当たって跳ねながらアイツに向かって飛んでいくし、まだまだ沢山の弾丸が跳ね回っている。
 必死に逃げ回っているのを見ていると何か変な気分だ。私はこんなヤツに殺されかけていたのか。
「逃げるだけで精一杯なんて無様ね、さっきみたいに炎で私を攻撃してみたらどう? まぁ、今のアンタじゃたいした力出せないだろうけど」
 それを聞いて赤いヤツの足が止まる。
「お前、なんでそれを知って…ぐあっ!」
 3発(くらい?)の弾丸が赤いヤツに当たった。
 この状況で足を止めるなんて、何考えてるのかしら。バカね。
「お前何で俺が強い力を出せないと知っているんだ!」
 次は必死に弾丸を避けながら聞いてくる。
「お前お前ってうるさいわね、私はお前なんて名前じゃないわよ。私は…あ、やっぱりアンタみたいなヤツには教えてあげな〜い」
 スリングを振り回し弾丸を放ち続ける。よくこれを避けていられるもんねぇ。もしかして腕が鈍ったかしら?
「いいから答えろ! なんでそんなことをお前が知っているんだ!」
 ちょっと動揺しすぎなんじゃないの? その態度が私が言ったことが事実だって証明してるだけなのに。
「そんなの今までのアンタの行動見てたらわかるわよ。それに私はアンタが翼が生えた人間を殺したときのあの力を見たもの。」
 赤いヤツがやっぱり知っていたのかというような顔をする。
「お前…俺が天使を殺したところを見ていたのか?」
 やっぱりそうなるわよね。というか天使ってなんだろう? まぁ、いいや。後からゆっくり聞こう。
「別にその場にいて目撃したわけじゃないわよ、何度も言うけど私は天界とかいうところの人間じゃないんだから知ってるわけ無いでしょそんなの。
勝手に見えてきたの。勝・手・に!」
「勝手に見えてきた? そんなことあるわけが…」
「私にだってわからないわよそんなの! だいたい変な声といいさっきの映像といいアンタが意図的に私に見せてるんじゃないの? いい加減にしてよ迷惑だから!」
 迷惑だからやめて欲しい。ついに私は声を大にして言ってやったわ! 少しスッキリした。気分が良い。
「まぁ、いいわ話を戻しましょう。何で私が"アンタが力を出せないか"を知っているかだったっけ? あくまで予想でしかなかったんだけどね。
さっきのアンタの態度見てて間違いじゃなかったのかなって思ってるところよ。とりあえず必死に跳弾を避けながら私の考えでも聞いてなさい、話してあげるから」
 さっきから結構弾丸が当たってるはずなのになぁ、意外とタフね。まぁ、そのうち倒れるでしょ。
「アンタに首絞められた時にさ、アンタが天使?だっけ、その天使を殺すところが見えたわ。とても巨大な炎が天使に襲いかかって、そのまま天使は灰になってた。
アンタにはそれだけ強大な力があるのはわかったんだけどさ、でもアンタそんな力があるのに私にはそんな力使ってこなかった。
私を捕まえたときにあの力を使っちゃえば私を殺せたかもしれないのに。私がカエルだったときもそう。
自分で炎を出せるんだから肉を焼くくらいすぐ出来るはずじゃない? それなのにアンタはわざわざ焚き火をおこしたわ。
おかしいわよね、焚き火なんて。そんなのアンタに必要無いんじゃない?」
 私が考えていたことを話す。最初からこういう状況にしとけばゆっくり話せたのかな?
「そ、それはただそんなことに力を使う必要が無いと…」

470名無しさん:2007/03/22(木) 02:29:33 ID:rG5eCNr20

 赤いヤツが言い訳しているみたいだ。なんとなくそう言うとは思っていたけど。
「本当にそう思ってたのかしら? アンタさ、今あの天使を殺したときのような炎出せる? 無理でしょ? だって体がその力に耐えられないもんね」
 赤いヤツがギクッという音が聞こえてきそうな顔をした。なんてわかりやすいヤツ。
「この洞窟に来たときにね、私見ちゃったのよ、体から炎が吹きだして苦しんでいるアンタを。見た感じ誰かに襲われてたって様子じゃ無かったし。
あれはアンタ自身の炎よね? 自分の炎で苦しむなんて変だわ。これってその力に体が耐えられて無いってことよね、やっぱり。」
 結論に至るまでかなりショートカットしたような気もする。でも間違いない、私の考えは的中している。
 弾丸を必死に避けている赤いヤツの手のひらを見れば一目瞭然。
「アンタさっき私に向かって火の玉2回飛ばしてきたわよね、あの時左手で火の玉作って飛ばしたでしょ? 手のひら焦げてるわよ、気付いてた?」
 とっさに赤いヤツが開いていた手をグーにする。今さら隠しても遅いのに。
「あの火の玉あんまり大きくなかったわね。あの程度の炎を出しただけなのにもう体は耐えられなくなってるじゃない。
それにね、あの時はビックリしたしケガしたくなかったから避けたけど、あんな炎じゃ私は倒せないわよ。当たってもすぐ治るわねあの程度じゃ」
 あの娘が私を護ってくれるから大丈夫。あの時からずっと私を護ってくれている。
 この洞窟に来てから火傷したし髪も焦げた。でも全部元通り、傷は完治している。大丈夫、私は彼女を信じてる。
「私ね、今のアンタには全然負ける気がしないわ。だからさっさと倒れて楽になっちゃいなさいよ」
 流石に言い方が良くなかったかしら。赤いヤツが今までになく不機嫌そうな顔をしている。
「フンッ! 残念ながら全部外れだ。俺の体はそんなにヤワじゃない。全部お前の思いこみなんだよ。お前怖いんだろ? 俺に本気を出されるのが」
 まだそんな強がり言うかコイツは。
 こんな事言われたらいつもの私なら怒っているところだろうけど今回は…やっぱり腹が立ったわ。
「あーそう、そんなに言うならアンタの本気ってヤツを見せて見なさいよ!」
「言われなくてもそうしてやるさ!」
 赤いヤツは叫びその場に立ち止まった。当然飛び跳ねる弾丸が赤いヤツに襲いかかる。
 バシッ! ドゴッ! ベキッ!
 結構やばそうな音が何回も聞こえてくる。赤いヤツはそれでも耐えてその場に踏みとどまってる。
 なるほど、そうやって自分が全快の状況だってアピールしたいわけですかそうですか。
 でもどう見ても大丈夫そうじゃないんだけどねぇ。
 バゴッ! という音と共に最後の一発が命中する。あ、もしかして全弾命中? やっぱり私って凄い!
 関係ないところで喜んでいる私を睨みつけながら赤いヤツが口を開く。
「ハァ、ハァ…ど、どうだ、お前の攻撃なんて俺には通じないんだよ!」
 おーおー足にきてる足にきてる。そんなに息を切らして言われてもなぁって感じね。
「なに? アンタの本気って耐えるだけなの?」
 少しバカにしたような口調で言ってみる。
「ハッ、すぐにそんな減らず口叩けないようにしてやるさ!」
 その言葉の直後だった。
 目の前に巨大な炎。狭い洞窟の中じゃ避けられないくらいの大きさ。
「え!? ちょっと待っ! きゃっ!」
 ゴオオォォォォ! と炎が私に襲いかかる。
 とっさに腕を前でクロスさせてガードのポーズをとる。
 炎が洞窟内を凄いスピードで駆け抜ける。炎が通り過ぎた跡には何も残ってはいなかった。
 いや、残っていないはずだった。少なくとも赤いヤツは何も残らないと思っていたのねこの顔は。
 目の前には赤いヤツが信じられないという表情を浮かべている。
「私が灰になってなかったのがそんなに残念? でもね、そんな炎じゃ私は死なないわよ」
 体が若干焦げ臭いのが気になるけど、とりあえず大丈夫だった。やっぱり護られてる、熱かったけどさ。

471名無しさん:2007/03/22(木) 02:30:32 ID:rG5eCNr20

「そ、そんな…ただの人間相手に俺の炎が効かないなんて…」
 私がピンピンしてる事が余程ショックだったのか、赤いヤツは自分の手のひらを見てなんかブツブツ言ってる。
「今のがアンタの限界? ふふふ、残念ね本当に」
 反応がない。私の声が聞こえてないのかしら。
「う、嘘だろ…、このままじゃ天界に連れ戻される…また閉じこめられる! い、やだ…嫌だ嫌だ! ここで、ここで捕まるくらいならいっそ…」
 なんか嫌な予感がする。なんか赤いヤツが絶対にしちゃいけない覚悟をしたような気が…。
 怖いくらい真剣な目をしてこっちを見てるし、そういえばこの星に来てから嫌な予感は凄まじい的中率だったような。
「ハハハ、悪かったな。人間だと思ってナメてたよ。お前の望み通りにしてやるよ、ここからが俺の全力だ!」
 まさか…。いや、そんなはずは…だってそんなことしたら!
「ちょっと! アンタ本気なの!? そんなことしたらアンタの体も燃えて無くなるわよ!」
「うるさい! ここで捕まるくらいなら…あんな所に戻るくらいならこの方がマシだ! お前もあの天使みたいに死にたいんだろ? だったらそうしてやるよ!」
 どうしよう、追い詰めすぎた。まさかこんなことに…。
 全然予想してなかったわけじゃない。でも普通ならこんな行動に出ないと思ってた。普通じゃない、コイツは普通じゃなさすぎた。
「死ねぇ!」
 声を張り上げ、赤いヤツがさっきよりもさらに強大な、とても真っ赤な炎を放つ。
 やばいやばいやばい! さっきのは耐えられた。当たる前から大丈夫だと思ってた。
 でもこれはわからない。今までこんな炎に出くわした事なんて無かった。
 私が一番怖いと思っている状況になってしまった。
 初めて見る生物は怖くてしょうがなかった。だって凶暴なのかどうかわからないもの。
 初めて見る攻撃が怖かった。もし彼女の力でも手に負えないケガをしてしまうかもしれないから。そうなったら私は死んでしまう。
 彼女の力は私の傷を癒してくれる。でも防いではくれない。
 いけるかしら? 今からでも逃げるべき? どこに逃げるの? どこにも逃げる場所が無かった。ここは狭い洞窟だったんだ。
 結局最後はこうなるのね…、信じるしかないのね彼女を。
「あーもう! 信じてるからね! ちゃんと護ってよ!」
 炎にのまれる。さっきとは比べものにならないほどの灼熱。
 皮膚の焦げる臭い。嫌な臭いね。
 あ、もしかして服も燃えるんじゃないのこれ? でもさっきは大丈夫だったし…でもでも…、あー熱い熱い! 頑張れ私! 服も頑張れ!
 遠くから赤いヤツのうおおおぉぉぉぉ! って声が聞こえる。本当になんてバカなことしてくれてるのよ。
 熱い。本当にこのまま灰になっちゃうんじゃないかと不安になる。
「ぐわああぁぁぁぁああぁぁ!!」  
 その悲鳴と共に私の不安は払拭される。
 炎が徐々に弱くなっていく。ここが限界みたいね。とうとう赤いヤツの体が耐えられなくなったんだわ。
 炎の勢いが弱くなって、そして消えた。
「けほっ、けほっ」
 煙で前がよく見えない。息も苦しい、肺が灼けるように痛い。
 赤いヤツがどこにいるのかわからないじゃない、もしかして倒れてるとか?
 徐々に煙も薄くなり、前が見えてくる。そこには誰もいなかった。
「うそ…、もしかして灰になっちゃった? こうなるのだけは避けたかったのにぃ!」
「ああ、俺も灰にならなくて良かったよ本当に」
 後ろから声。間違いなく赤いヤツの声。
 いつの間にか後ろをとられていた。額から嫌な汗が流れる。
「うっそ…で…しょ? アンタいつの間に…」
 振り向くことが出来ない。逃げることも出来ない。体がまだ回復しきっていないから。
「お前の言うように俺はもう全力は出せないらしい。得意じゃないがここからは肉弾戦しかないみたいだ。とりあえず先手はとらせてもらう!」
 〒※●§☆!!???
 なんか凄い音がしたような気がする。周りの景色が流れる。私は宙に浮いていた。
 頭がグワングワンしてる、これって脳が揺れるってヤツよね。ひどく懐かしい感覚だわ。
 凄い勢いで壁に向かって飛んでいるはずなのに周りの景色はゆっくりと流れていく。そうだ気になっていたことがあったんだ。
 チラッっと確認する。
 ドッガァーン! ガラガラガラ!
 予想通り壁に頭から突っこんだ。痛い。崩れた岩も落ちてくる。痛い。
 痛かったけど私は安心していた。本当に良かった。
 服は無事だった。

472名無しさん:2007/03/22(木) 05:21:49 ID:WDt8ANrA0
>467さん、復讐の女神さん
> 前スレからの続き
それは大変失礼しましたorz
自分がここに来たのも前スレ最後あたりからだったもので、それより以前の話はチェック不足でした。
烈風撃の事と言い、ご指摘ありがとうございます。失言ばかり申し訳ないです。

>携帯物書き屋さん
RPGを語るショウタに突っ込むニーナという展開、面白いですよ(笑)
言われてみれば王道と言われるRPGはだいたい話の展開の相場が決まってますよね。六人居るのに四人しか出てないって事はD○かな?(笑)
もぐら叩きに熱中しつつ逃げる理由も分かっていないヘルが良いです。思わず笑ってしまった…w
楽しいショッピングの後にいきなりニーナが負傷してしまいましたね。続きお待ちしています。

>468さん
この姫さんの危険な場面に居つつの冷静さにほとほと脱帽です(笑)
こんな状況で相手の出方を伺い、言葉巧みに動揺させてしまうとは…。でもピンチには変わりないですね。
姫さん、助かってくれると良いのですが…続きお待ちしています。

473ドギーマン:2007/03/22(木) 14:15:57 ID:B3kEUPL20
『Devil』
>>231-234>>273-277>>294-297>>321-324>>336-339>>352-356>>367-371>>398-400>>441-443>>447-449

マイスはエムルの前で突然倒れたゲンズブールの姿を呆然と眺めていた。
何が起きたのか分からなかった。ただ、突然ゲンズブールが倒れたように見えた。
しかし痙攣しているその姿から、彼が危険な状態にあることは見て取れた。
そして彼をそうしたであろう張本人のエムルは突っ伏しているゲンズブールを冷たい眼差しで見下ろしていて、
痙攣し続けている彼の頭をブーツで踏みつけてその顔を横に向けた。
その姿は彼女の容姿にしっくりとくるのだが。それでも許されるべき行為ではなかった。
マイスは「やめろっ」と言った。
しかしエムルはマイスの言葉を聞き流して握りこんだ手の中から炎の鞭を伸ばした。
炎の鞭は蛇のようにしなり、意思を持っているかのようにゲンズブールの首に巻きついた。
そしてぐいっと一気にエムルが鞭を引き上げると同時に鞭は激しく燃え上がって彼の首から離れた。
一瞬で喉を焼き潰された彼の体が完全に意思を失うまでそう時間は掛からなかった。
エムルはゲンズブールの頭を踏んだまましばらくヒールの先で横向きの彼の顔を上下に揺らしていた。
その光景を見たマイスは、背中に走る悪寒に身を震わせた。
人の命を奪っておきながらエムルのその表情には笑みが浮かんでいた。
自身がした行為を全く悪びれる様子も無い残忍な笑み。それでいて、妖艶な美しさは保たれていた。
いやそれどころか、彼女の場合はその美しさがより引き立ったとも言えた。
そしてそんな場面を目の当たりにしながらマイスは全く動けなかった。
エムルのその美しい微笑に言い知れぬ恐怖を覚えていたから。
だが彼女のその笑みは直ぐに曇った。
「なにこれ、おかしいじゃない。死んでるのに何で魔力がこないのよ?」
マイスには彼女の言っていることが理解出来なかった。
エムルは紅い唇の隙間からぐっとかみ締めた白い歯を覗かせ、細い眉を吊り上げて怒りの表情を見せると
ブーツの裏をゲンズブールの頬に擦り付けるようにして踏みにじった。
熱を失っていく彼の顔は無様に歪んで、エムルのブーツの裏にこびり付いていた地面の泥に汚されていった。
そうしてようやくエムルはゲンズブールから足を離し、
髪を掻き揚げて頭を抑えたまま苛立ったような表情でマイスに向かって歩いてきた。
ぶつぶつと不満げに何かを呟いている。
その彼女の背後で、ゲンズブールは泥に塗れた横顔をマイスに見せながら、
だらしなく口を半開きのまま虚ろな瞳をスラムの冷たい壁に投げかけていた。

474ドギーマン:2007/03/22(木) 14:16:52 ID:B3kEUPL20
エムルは気がついたようにマイスの顔を見ると、先ほどまでの事は何も無かったかのように小走りに寄ってきた。
「大丈夫?顔が汚れてるわ」
そう言って地に膝を突いたままのマイスのそばにしゃがみ込んで彼の頬に手を添えると、
その薄いボンデージのどこから取り出したのか分からないハンカチでゲンズブールに踏まれて泥だらけの彼の顔を拭き始めた。
マイスはエムルに対して心の奥底から湧き上がる恐怖に必死に抵抗しようとしていた。
彼の顔を覗き込む彼女の瞳は先ほどの残忍さを微塵も感じさせず、まるで小さな小動物を愛でるような、そんな女の顔だった。
実際、いまのマイスは恐怖に怯える小動物のような眼をしていた。
恐怖を乗り越えると覚悟したばかりだと言うのに、足が、腕が、まるで何かに縛られているかのように動かない。
彼の眼にはいまエムルの赤い瞳だけが大きく見えていて、そこに自身の固まった顔が見えていた。
そしてようやくそれが感覚や幻で大きく見えていた訳ではないことに気づく。
エムルの顔はだんだんと近づいてきていて、彼の小さく震える吐息に甘い香りを混ぜていた。
頬を撫でる彼女の手は親指がマイスの唇に触れ、指先でゆっくりとそこを撫でた後に顎の下にまわった。
そこでようやくマイスははっとして「やめろ、近づくな」と言って立ち上がり、エムルから離れた。
「どうしたの?」
しゃがんだままのエムルは一瞬残念そうな表情を見せながらも、そんなマイスの様子を可笑しそうに笑っていた。
マイスは心臓が気味悪く大きく高鳴っているのにようやく気づいた。
先ほどから自身の体に対する感覚が怪しくなっていた。痛みが消えたからだけとは思えない。
「一体、君は何者なんだ・・・」
「何者って?言ったでしょ、あなたに助けられ」
「そんな事じゃない!」
エムルの口を大声で遮ったマイスの顔には嫌な汗が滲み出てきていた。
「人を殺したんだぞ?なんで、笑っていられるんだ・・」
マイスも素人ではない。命を奪いながら笑みを浮かべる人間は多くはないが見たことはある。
だが、それでも彼女の笑みはそれらとは全く異質なものだった。
大抵の者は、ゲンズブールのように戦いに快感を見出した異常者。もしくは死の光景に興奮を覚える変質者。
だがエムルのは異常者や変質者のような壊れた人間のそれではない。
小さな子供が無邪気に昆虫の足をもぎ取るように、全くそれが残酷なこととは理解していない笑顔に近い。
そしてマイスはいまのエムルと同じ笑みを見せた者に出会ったことがある。
かつてマイスを死の淵に追いやったその者は、人が現れる以前からこの世に在った。
太古の昔から生きてきた彼らの寿命に比べれば、人のそれは丁度人にとっての蚊の寿命と同じなのだという。
蚊を叩き殺すのに、躊躇する者などこの世に居るだろうか。
そう、マイスは覚えていた。そして何故これ程までに彼女に恐怖を覚えるのかを理解した。
エムルの笑み、それはまるで・・・
「・・悪魔」
マイスは微笑みを向けるエムルに呟くようにそう言った。

475ドギーマン:2007/03/22(木) 14:17:53 ID:B3kEUPL20
「そう呼ばれることもあるわ」
エムルの答えにマイスは身を強張らせた。
「人間じゃあ、なかったのか」
マイスのその言葉にエムルは驚いて慌てて否定した。
「待って。そう呼ばれることもあるってだけで、私はれっきとした人間よ」
マイスが言った悪魔とは当然、地下界の住人たちのことである。
とは言え、ゴブリンやリザードマンのような地上界にも居ついているほぼ獣と同等の低級な連中のことではない。
闇の眷族にして貴族。神に背き背徳を美とする者たち。
いくらエムルが自分は人間だと弁解したところでマイスにはやはり奴らと同じ存在に思えた。
マイスは手の中の大剣の柄をぐっと握って、その信頼できる確かな金属の感触に僅かな安心を求めた。
そんなマイスの様子に気づいていないのか、それとも気にしていないだけなのか、エムルは全く表情を変えなかった。
「もう、なにをそんな怖い顔してるの?」
「あ、もしかしてあいつを殺したのを怒ってるの?」
そう言いながらエムルは半身になって背後のゲンズブールを指差した。
「どの道あなただってあいつを殺すつもりだったんでしょう?それならいいじゃない」
マイスは小さく首を横に振った。
そんな事ではない。そんな事ではないんだ。
なんで、君は人間でありながら奴と同じ笑みを浮かべられるんだ?
「ねえ、それより契約の感想を聞かせて」
警戒を強めているマイスの表情に半ば呆れたように、エムルは話を変えた。
「・・おかげでまた戦えそうだよ」
「そう!」
エムルはマイスの言葉に満足げに胸の前で手を合わせて満面の笑みを見せた。
「だが、今すぐに契約を解除しろ」
「何でよ。今のあなたは無敵なのよ?誰にも負けない力を捨てるの?」
「そんなものはもう要らない。もっと大切なものに気づいたからね。それに俺には、リズや他の仲間達が必要なんだ」
エムルの表情が歪んだ。信じられないというように。
「分かったら、契約を解除するんだ」
「無理よ。そんな事したらあなたが死んじゃうもの」

476ドギーマン:2007/03/22(木) 15:38:37 ID:B3kEUPL20
あとがき
今度は悪魔スキルの魂の契約と契約破棄が元ネタです。
契約破棄は悪魔の闇ダメスキルの中では最大のダメージ量のスキルで、
魔の約定の効果を打ち消して大ダメージを与えます。
でも、魔の約定以外の契約スキルの効果は消えません。
魂の契約は魔の約定をかけた相手にだけ使えるスキルで、
相手の死後の魂に関する権利を譲り受けるという悪魔の契約っぽいスキルです。
かけた相手のFAをとった人がCP回復します。

契約破棄なんか、小説で書いたらこんな感じでしょうか・・・。
契約結んでおいて、解いたら殺されるとかかなり反則な気もしますが、
悪魔の契約なんだからこんな不条理、不合理は当たり前かなと。

477みやび:2007/03/22(木) 16:08:31 ID:y5ik7mpA0
 ◆関連作 『赤い絆』……>>424>>436
   [註釈]本作には上記に登場した人物が出てきますが、人物説明の
   記述を端折っていますので、まだの方は前作からどうぞ。
●――――――――――――――――――――――――――――――――――――
      『赤い絆(二)』  [1/7P]

 その年――グレートフォレスト一帯に久方ぶりの短い冬が訪れた。
 マリアはこの季節がいちばん好きだった。
 野蛮なエルフたちはすっかり姿を消し、物騒な生き物の多くが“なり”を潜めるから。
 いっさいの気配が消えた地上には雪のささやきだけが舞い降り、すべてを白一色に染め
あげる。
 その白銀の絨毯に道を刻むのが好きだった――女に産まれたというだけで月に支配され、
男たちにも虐げられる“さが”を背負った者が、征服し、しるしを刻むことが許された数少な
い聖域だ。もっとも“力”のある彼女がそうした侮蔑にさらされたことはないのだが、ほかの
多くの女性がそうでないことはたびたび目にしていたし、時代そのものが封建的なのは確
かだ。
 そのことがないにしても、ひとが何かに対して心を奪われるのに、ただ“美しい”という以
上のことが必要だとは思えなかった。
 つい嬉しくて遠回りしたい気持ちを押え、マリアは足を進めた。
 一時間ほど歩いたのち足をとめ、周囲を見渡す。
 情報が正しければ、おそらくこの辺りのはずだ。
 彼女は“巣”を張ることに決めた。
 ひとつの大樹に目をつけ、痕跡を残さないよう慎重によじ登り、山栗鼠みたいに器用な動
作で巣をこしらえると、そこに腰を落ちつけた。
 それから今しがた歩いて来た道筋を見つめた。
 やがて自分の足跡が雪で覆われてしまうと、ようやく安堵して息をつく。
 ポーチから永久ランプを取り出すと、真鍮製のフードを取り去り、むき出しになった発光体
を懐へと忍ばせた。
 やさしい熱が、胸元からほんのりと体に広がるのを感じながら、そのときを待った。

 マリアはアリアン傭兵ギルドきっての弓使いで、専門は狙撃手だった。
 彼女は今、本部の指令を受けてひとりの男を待っている。その男がターゲットだ。
 男がこの道を通ることはわかっているが、それがいつかは特定できていない。そして彼女
が男について知っているのは、年恰好と顔だけだ。
 狙撃手にとってそれ以上の情報は必要なく、また彼女が標的のことについてあれこれと
想像することもなかった。標的を待つこの時間をいかにやり過ごすか――それにより、真に
優秀なスナイパーとそうでない者が分かれるのだ。
 良い狙撃手の条件は動揺しないことだが、未熟な者はまずそこで脱落する。
 狙撃という任務のほとんどは待つことだ。標的が目の前に現れるまで、じっと耐え、ただ
ひたすらに、ときには何日も、何週間でも、息を殺して身を潜めていなくてはならない。
 そんなとき、心の脆い連中は余計なことを考える。想像力は人間だけに与えられた素晴
らしい能力だが、それが平常心を求められる状況においてはマイナスに作用する。
 本当に標的はやってくるのか――そいつはどんな人間なのか――陽気な性格か――私
生活では優れた人格者か――家族はいるのか――愛する者はいるのか、また愛されてい
るのか――。そんなことを考え始めたときには手遅れだ。いざ標的が姿を現しても、おそら
くは相手を射抜くことができないだろう。想像の中のターゲットに感情移入し過ぎたのだ。
 そして矢を射るタイミングを逸するか、相手に気取られて返り討ちに遭うかのどちらかだ。
 その点、マリアはこれまでにいちどたりとも、これから自分が殺す相手について考えたこ
とはない。だからこそ彼女は二十二の若さで最高の狙撃手と称えられるまでになったのだ。
 彼女はそのことを、母親に教わった。

478みやび:2007/03/22(木) 16:09:15 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [2/7P]

   “もしあなたが、本当に自分の身を守り、仲間の命を救いたいと
   思うなら、戦場にいるときだけは情を捨てなさい。それができな
   いなら、最初から武器なんて手にしないことよ……。
    もちろんあなたには、そんな世界に首を突っ込んでほしくはな
   いのだけれど……”

 そう言い、彼女の母親はよく泣いたものだ。
 かつては大陸中に名を馳せた傭兵あがりの母が、そんな話しをするときだけは人前で涙
を流すのだった。
 母の愛情はわかり過ぎるほど理解していたが、おてんばだった彼女にとって、傭兵か冒
険者になること以外、自分が自分らしい姿でいられる場所を思いつかなかった。
 結局、マリアは母親の反対を押しきるかたちで傭兵の世界に飛び込んだ。
 傭兵になってわずか二年――マリアはすでに弓使いの頂点にいた。
 今の自分を母がみたら、きっと悲しむにちがいない。マリアは思った。
 休暇のたびに同僚たちが帰省するなか、彼女がいちども家に戻らなかったのはそのこと
があったからだ。
 彼女は母のことを想った。
 ひっそりとした家で、今頃はきっとひとり分の昼食を作っているのだろう……。それともあ
たしのことを想ってくれているのだろうか。あるいは――こんな親不孝な娘は、とうに死んだ
ものと思っているのだろうか……。

   *

 自分のためだけに作った味気ないスープをかき混ぜながら、エレノアはぼんやりと窓の外
を見つめていた。
 とくに何を見ているというわけもなく、ただとりとめもなく、娘のことを考えていた。
 それが彼女の日課になっていた。風に運ばれた小石や木屑が戸口にあたるたびに、息を
飲んで振り返る毎日。もしかしたら今日こそは、あの子の訃報を知らせる便りが届くのでは
ないか――そんな不安に脅える日々。
 ふと、スープが煮立っているのに気付いてあわてて火をとめる。
 ため息をつき、ひとり分の小皿をテーブルに運び、黙って自分の席についた。
 スプーンで皿の中をこね回し、口にするでもなく娘の席に目をやる。
 そしてまたため息……。
「どうしたね。お前さんらしくもないな」
 視線をやると、そこに老人が座っていた。
 しばし沈黙したが、エレノアは当たり前のようにつぶやいた。
「まあ、どうしましょう……わたしはとうとう気がふれてしまったのかしら」
 老人は笑った。
「あんたが狂ったりするものかね。絶対だ。賭けてもいいな」
「でも、あなたはもう――」
「ふむ……。たしかにわしはこの世のものじゃないが、それがどうしたというんだね? べつ
にあんたを迎えにきたわけじゃないさ」
 今度はエレノアが微笑んだ。
「そうね……」

479みやび:2007/03/22(木) 16:09:59 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [3/7P]

 ところで――と老人。
「なんて顔をしているんだ? あんたにそんな顔は似合わんよ」
 エレノアはうつむき、寂しげに目をふせた。
「ふん。あの子のことだな。そうなんだろう?」
「わたしは――」母は言葉を詰まらせた。
 老人は優しく言った。
「あの子を血生臭い世界に送り込んだのは自分だ。あんたはそう思っている。ちがうか?」
「マリアを引きとめることができなかったんだもの……。同じことだわ」
 老人はやれやれ、とかぶりを振った。
「いったいどうしてしまったんだ? あんたほどの女が――いいかい、あの子には素養があっ
たのさ。それだけのことだ――もしかしたらあの子の本当の親は冒険者か、軍人だったの
かもしれんな……。だがそれだけさ。おしめを替えてミルクを与えたのはわしだし、そのあと
を引き継いであの子を育ててきたのはあんただ。なあに、育て親の愛情は血よりも濃いん
だ。後天的な人格を指す場合はね……。あの子が“冒険好き”なのは持って産まれた資質
だが、それ以外はすべて後天的な環境に依存するんだ。お前さん、あの子に『草花を理由
もなく踏み潰すこと』なんて教育したのかね?」
 母親は首を振った。
「じゃあ、『汝、隣人を憎め』とでも?」
 いいえ、とエレノア。
「あるいは『困った人を助けるのは割に合わない』は?」
 母は否定した。
「ふん。だったら不備はないさ」老人は鼻を鳴らした。
「でも――わたしはあの子に、普通の女の子になってほしかった。それなのに……戦場で
の生き方を教えてしまったわ」
 老人は目を丸くして両手を広げた。
「当然だ! でなきゃあの子はとっくに“こっち側”に来てるはずさ。どんなに望まなくてもそ
れが不可避であるなら、いったいどこの世界に、自分の子に『戦場で敵に出遭ったら真っ先
に武器を捨てること』なんて教え込む親がいるんだね!? それこそ神への冒涜だ」
「けれど……わたしはとめられなかった」
「しっかりしてくれよ。お前さんはまだ若いんだ」
「そんなことはないわ……もう四十過ぎのおばあちゃんよ……」
 老人は椅子から立ちあがった。
「このわしをからかうつもりかね? それともこの家には鏡ってものがないのかい? あんた
は充分に若いし、それに魅力的だよ――わしがあと十年若くて、こんな体でなけりゃ、あん
たにあの子の弟か、それとも妹でも産ませてるところさ」
「まあ、からかってるのはどっちかしら?」
 母親は少女のように笑った。
「そうそう。その顔だ。あんたにはまだ元気でいてもらわんとな……。あの子にはまだ母親
の愛情が必要なんだ。それにいざってときには、あの子を守ってやれるのはあんたしかお
らんのだからな」
「そうね……もしあの子が、ここへ戻ってくるようなことがあればね」
 エレノアは肩を落とし、うなだれた。
「今にわかるさ……」
「どういうこと? あの子が帰ってくるというの?」
 顔をあげると、老人の姿はどこにもなかった。
 エレノアは席を立ち、いちどだけ老人の名を呼ぶと、首を振り、微笑して腰を降ろした。
 それからゆっくりと、スープを口に運んだ。

480みやび:2007/03/22(木) 16:10:39 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [4/7P]

   *

 雪がやむ気配はなかった。
 だが視界の妨げになるほどではなく、むしろマリアにとっては心を癒してくれる束の間の
ショーだった。
 それでも時間がたつにつれ、指先の熱が少しずつ奪われてゆくのを感じた。
 彼女は片方の手袋を外し、ポケットからニレイの根を取り出してひと口噛んだ。
 しばらく待つと、胃の中で分解されたニレイの成分が作用し、体全体が火照り始めた。
 それから手袋を嵌め、愛用の弓を手にした。
 その弓はマリアが自分のためにあつらえた特別なものだった。
 一般的な弓の長さは最大でも二メートル強といったところだが、彼女の弓は三メートル近
くもある大弓だった。そのため彼女は弓を斜めに構えるスタイルをとっていた。
 もちろん、弓は長いほうが張力も増すが、二メートルを越す長身の男でも、おそらくそれだ
けの大弓を使いこなすのは難しいだろう。だがマリアは平均的な女性の身長と腕力で、そ
の大弓を難なく扱うことができた。あまりに巨大な弓と彼女との対比には、見る者を圧倒す
るものがあった。
 そして彼女が大弓を使うのは、威力だけが理由ではない。弓の長さに比例して矢の軌道
が安定するからだ。
 普通、弓兵の第一射は静的な構えから矢を放つことが多く、そのあとの連射においても
大抵は前衛に守られ、後方からの射撃が主なスタイルだ。
 しかし狙撃手ともなれば、身を隠す場所、現場の地形、そして標的とどんな状況で遭遇す
るか――それによって瞬時に体勢を変え、あらるゆ構えから矢を放たなくてはならないのだ。
 隠れる場所によっては取りまわしが楽な小型の弓を使う狙撃手もいるが、標的を外す確
率は増し、最悪の場合は命中しても致命傷を与えられないことがある。
 だが彼女の大弓であれば、標的が射程内にいる限り、たとえ相手がミスリルの鎧を身に
まとっていたとしても、確実に心の蔵を射抜くことが可能だった。
 マリアは弓をしならせ、弦の張りを確かめた。
 弓と彼女の体がほぐれてきた頃、遠くに黒い点が現れた。
 ひとだ――!
 マリアはゆっくりと矢を番え、点が近付くのを待った。
 点はやがてひとのかたちを作り、歩いている様が見えるまでになる。
 まだ弓は引かない。相手の顔が確認できるまで待つ。
 今の彼女に聞こえるのは自分の鼓動だけだ。神経を集中させ、息を乱さず、視線だけが
標的の顔をとらえるためにフル稼動した。
 そうして、男の顔がぼんやりと浮びあがる。
 まちがいない――標的だ。
 マリアは音もなく、まるで真綿を撫でるような軽い動作で、長い弓を引いた。
 彼女の体のあらゆる部位が、訓練と実戦とで染みついた的確な動作を独立して行い、標
的の胸を確実にとらえる。気温による弓と弦の張力変化――矢の重量――風向き。その全
てが瞬時に計算され、さらに自分とターゲットの距離が変化するたびに、彼女に備わった天
性の勘がそれらすべてを補正する。
 静寂のなか、男が最適な距離に入った瞬間、矢が放たれた。
 だが――
 男の体に触れる直前、矢は勢い良く弾かれた。

 《思念球》だ――!!

 マリアは自分のミスに気付いた。

481みやび:2007/03/22(木) 16:11:28 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [5/7P]

 《思念球》というのは、スマグの魔法師たちが生み出したある種の護符だった。とくべつな
鉱石に簡単な呪文が折り込まれていて、魔法を使うことの出来ない者たちが、武器や道具
の代用として身に着けていることがある。
 それと気付いた瞬間には、マリアは木から飛び降りていた。
 音もなく、静かに、次の矢を番え、標的に向かって疾走した。
「えっ……!?」
 男は何が起こったのかさえわかっていなかった。するどい音とともに自分の胸元で閃光が
弾けた。それが《思念球》の働きによるものだなどと、想像さえできなかった。
 そして彼が気配を察知したときには、目の前に女が立っていたのだ。巨大な弓を自分に向
けて――。

「ま――待てッ!!」
 男はその場に尻をついて転んだ。
「やめろ! 誰に頼まれた!」
 マリアに答えてやるつもりはなかった。そんなことをしていては、彼女はこれまで生き延び
ていなかっただろう。
 が、男の懐から転がり出たものを見て、彼女の思考がとまった――。
 小さな玩具だった。奇しくもそれは、マリアに見覚えのあるものだった。


「わあ、ありがとう。マミー……!」
 それは今までに見た事もないくらい、色鮮やかに着色された笛だった。しかも笛には鳥の
飾りがついていた。
 その見事なまでの可愛らしさに、あたしは目を奪われた。
「ロマのひとたちが作っているのよ」
「ロマ……?」
「そう。わたしたち普通の人間が失ってしまった、動物や精霊と心を交わす能力を今でも持
ち続けている、不思議な種族よ」
「ふうん……」
「さあ。吹いてごらん」
 あたしは力まかせに吹いたが、笛から飛び出したのは空気の漏れる音だけだった。
「……ん、音……出ないよ?」
「貸してごらん」
 母が息を吹き込むと、笛はとても不思議な――けれどもとても優しい音色を奏でるのだっ
た。
 それと同時に、ただの飾りだと思っていた鳥が、音の変化に合わせて羽ばたいた。
「ずるい、ずるい! あたしのよマミー! あたしが吹くの!」
 あたしはべそをかき、足踏みをして手を伸ばした。
「はいはい……」
 笛を手渡しながらそう言うと、母は目を細めてあたしを見つめた――。


「そうか――わかったぞ! あんた、傭兵だな。傭兵ギルドの差し金なんだな!」
 不覚にも、マリアは思い出に心をとられ、番えていた手をゆるめてしまった。
「私は――死んでも手を引くつもりはないぞ! 悪魔に魂を売り渡すつもりはない……!」
 その言葉に、マリアはようやく正気を取り戻した。
「……どういう意味?」

482みやび:2007/03/22(木) 16:12:13 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [6/7P]

 もちろん、彼女が標的と口をきくのは初めてのことだった。
「ふん。今更どぼけるのか……。あんたら傭兵が古都の襲撃を計画しているのは判ってる、
証拠もあるんだ! それを古都の評議会に報告しようとしているのを知って、この私の命を
奪いにきたんだろう――」

 なんですって!?

「人間の皮を被った獣め! よりにもよってシーフどもと手を組むなんて……それもレッド・ス
トーンとかいう、存在すら疑わしいもののために――あんたたちは何の罪もない市民を――
女や子供たちを皆殺しにしようというのか!」

 この男はいったい、何を言っているの……?

 マリアは混乱した。
 と――雪に半分埋もれた玩具の笛に気付くと、男は急いでそれを手に取り、大事そうに
胸に抱えた。
「た、頼む――私はどうなってもいい。娘だけは……あの子だけは見逃してくれっ!!」

 嘘だ。逃げるための口実だ。騙されるな――!

 マリアは自分に言い聞かせ、再び弓に矢を構えた。
 男はなんども繰り返し、懇願した。玩具の笛をわが子のように抱きしめながら。

 この――黙れ。黙れ……!

 マリアは矢を放った。
「うわ――!」男は叫び、長いことその場で固まったあと、ゆっくりと目を開いた。
「なんだ……これは――」
 マリアが放った矢は男の顔を避け、地面に突き刺さっていた。
「おい、あんた……」
 男は上体を起こすと、尻をついたままあとずさった。
「もしかして……見逃してくれるのか――!?」
 マリアは答えない。
 そして男が恐る恐る立ちあがるあいだも、弓を構えることはなかった。
「本当にいいんだな? 見逃して……くれるんだな……?」
 男はそう言いつつも、なんども後ろを振りかえり、振りかえり、雪景色のなかに消えて行っ
た。

483みやび:2007/03/22(木) 16:13:08 ID:y5ik7mpA0
      『赤い絆(二)』  [7/7P]

 傭兵として初めて獲物を取り逃がした弓使いは、白い世界に取り残された。
 あの男の話しが真実かどうかはわからない。ただ、傭兵ギルドがマリアを見逃さないこと
だけはたしかだ。
 連中は地の果てまでも彼女を追うだろう。決してあわてず、急がず、彼女を仕留めるまで。
 自分の居場所を自ら捨ててしまったことを、マリアは悟った。
 そうしてうなだれ、空虚な心を連れ立ち、ゆっくりと歩き始めた。
 やがておもむろに足をとめた。
 彼女はまだ自分に、帰る場所が残されていることを思い出したのだ。
 天を見上げると、雪がやんだ。

 そうだ。帰ったらママにうんと甘えよう……。

 マリアは白銀の世界を歩いた。
 真っ白い絨毯のうえに、彼女の足跡がいつまでも残った。






●――――――――――――――――――――――――― Fin ――――――――

484みやび:2007/03/22(木) 16:13:55 ID:y5ik7mpA0
●――――――――――――――――――――――――――――――――――――
      『赤い絆(二)』

 ――あとがき――
 ※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。

 えーと。紛らわしくてごめんなさい……。
 前作の『赤い絆』は、もちろん読切のつもりで書上げたのですが。今回、同じ登場人物を
出すにあたり、紙面の都合で(嘘です)人物の紹介を端折ってしまったので、急きょ、連作
の形式に変更してタイトル末尾に(二)をつけての掲載と相成りました。
 ま。それはいいとして。(開き直ってますが)
 なにを隠そう前回を書いたとき、実は登場人物たちに『もっと出番を増やせ』と脅迫されて
しまいまして……。(いや、ぶっちゃけここだけの話し、いわゆる『キャラに愛着が沸いた』と
いう小説書きの“仕様”です。べつに気が狂ったわけではないですよ、ええ)
 そんな訳で、今後も本作の人物は登場すると思われます。
 しかしまあ……やはりというべきか、地味です(汗)
 予定としては、こんな感じで地味なエピソードを紹介しつつ、背後で微妙にRSストーリー
が進みます。どちらかと言えば地味なエピソードのほうがメインな気も……。うは。

 ほかの方の作品はのちほど読みにうかがいますね。

485名無しさん:2007/03/22(木) 21:59:59 ID:XQDUDiP60
>ドギーマンさん
エムル怖いなぁ…いわゆる「悪魔」なんだからこその行動なんだろうけど、とても無慈悲ですね。
悪魔スキルの説明までありがとうございます(笑) 私もRSwikiも見てスキルについて多少分かったような気がします。
マイスもこのまま契約解除したら契約破棄の効果でただならぬ事になってしまいそうですね。
契約を解除する方法が他にあるのでしょうか。何とか助かって欲しいですが…。続きお待ちしてます。

>みやびさん
前回のエレノアの話を読ませてもらった者としては嬉しい登場人物たちの内容でしたよ(笑)
マリアとエレノアのその後という感じで続編としてスムーズに読めました。
特にミゲル老が幽霊(?)の姿になってまでエレノアを励ましに来てくれたというのが良かったです。前回、死に別れてしまいましたしね。
また永久ランプとか思念球とか面白いアイテムが登場してますね(笑) 実際のRSにもこういうの欲しい…。

486名無しさん:2007/03/23(金) 10:00:28 ID:lWtbAJi.0
まとめのWiki作成者さんへ

21R氏のまとめサイト投下しますので参考にしてみてください
ttp://bokunatu.fc2web.com/trianglelife/sotn/main.html

487姫々:2007/03/23(金) 16:58:14 ID:Cc.1o8yw0
一週間ぶりくらいですね。アリアン編完結を目指したら締めに苦労して
大分時間がたっちゃいました。それにリアルのほうで色々あって忙しく…
まあそんな前置きは置いといて、アリアン編最終章です。>>415-419より続きます。

「く・・・、やはり死霊共の巣窟と化していますね・・・」
警備傭兵の墓に降りてすぐ、私達は、動き剣を持つ骸骨達に囲まれてしまった。
その数は目視できるだけで50体は軽く越えている。
「ゴーレムの類でしょうか。1匹1匹は大した事無いでしょうが、あまりに多すぎますね…
 無傷で突破するのは難しそうです。」
「リリィ、どうするの?」
「そうですね…、一匹ずつ倒していくしかないでしょう。アースヒールがあれば
 即死で無い限り大抵の傷は治せますし。」
この狭い空間では、メテオシャワーで一掃…という訳には行かない。3人全員を巻き込む
恐れがあるし、なにより地下に出来ているこの墓の天井が崩れる可能性があるのだ。
「それでいいですか?セ…ラ…?」
リリィが言葉に詰まる。その声で私も振り向くと、ウィンディに手をかざすセラの姿があった。
「―――――φη」
セラの呪文により、ウィンディが巨大な鳥に姿を変える、しかしまだセラはウィンディに手を
かざし、何かを呟き続けている。
「―――――――дφη…」
そこでセラが詠唱を止める、その瞬間鳥型の召喚獣、ウィンディはさらに姿を変え、
鳥とはまったく別物の、人型に近いものへと姿を変えるのであった。
「セラ…、これは…?」
リリィが警戒しつつ、尋ねる。と、セラが背中を向けたまま言う。
『先へ進め人間―。ここはワタシが引き受けよう。』
「な…、セラ…?」
と、声はセラのまま、口調は明らかに別人となっているセラが答える。そしてセラの後ろには
人型に姿を変えたウィンディが腕を組みつつ浮遊している。
『そうか、君達とちゃんと話のは初めてか…。ゆっくり話したいのは山々だが今は先へ行ってくれ。
 この子の魔力にも限りがある、いくらそれが膨大でも私達がこの姿になると長くは持たないのだ』
セラなんだけどセラじゃない…。そしてこの発言から考えるといま喋ってるのは…
「ウィンディ…なんですね?」
『そうだ、一時的に「この子」と完全に同調する事でこの世界に発現する魔力を確保しているのだ。
 ワタシが道を開けよう、そこを走りぬけるんだ。』
そういった直後、セラの後ろにいるウィンディが手をかざすと、ウィンディを中心に、
風が渦を巻き始める、そして、その「風」は目視できるようにまでなっていく。
それは巨大な魔力の収束―、私達はウィンディの加護により、なんとも無いが、
「風」に触れた骸骨は切り刻まれ、ばらばらになっていく。抗う者も当然いるが、抗うのが精一杯
のようで、私達に向かってくるものは唯一体として存在しない。
「ここはセラに任せて行きましょう、ルゥ様」
「うん、分かった…、頑張ってねセラ、ウィンディ。」
私達はこの場をセラ達に任せ、骸骨の合間を走り抜けるのだった。
・・・
・・・
・・・

488姫々:2007/03/23(金) 16:59:27 ID:Cc.1o8yw0
『予想より残ったな……、残念だ。ここまで多いとこの姿で無いと骨が折れる。』
本当はこの少女も一緒に行かせてやりたかったが、離れると魔力の供給ラインが
細くなってしまう。そしてこの姿を保つのは、この距離が限界なのだった。
『お前達も何故二度も死ぬ必要がある…、やはり人間界というのは無粋な所だな…』
それは目の前に未だ大量に存在する、骨人像達への言葉―。
『分かっているよ、あれは人じゃない。魔力を注がれている操り人形に過ぎん、ただの
 ゴーレムさ』
それは、自分に身体を預けてくれている少女への言葉―。
そして、カラカラと骨を鳴らしながら、近づいてくる1体の骸骨を風の魔力を帯びた
拳で、粉砕する。
『言葉が通じる連中でもないか、ならば早々に終わらせよう。』
その言葉を言い終わえと、ウィンディの右腕に膨大な魔力が収束を始める。

―この時、感情を持たないはずの骸骨達は僅かな危機感を抱いていた、
何故だ、こいつも今までの奴らと同じのはず、ならば一斉に掛かれば一瞬で殺せるはず、
現にそうして仲間を増やしてきた…、なのに―
【逆にこっちが殺される】
と、そんな直感じみたもの。無理も無い、自分達が元人間だろうが何だろうが、相手は
台風なのだ。自分達が何万、何十万…はたまた何億といようが、抗いようの無い自然の驚異。
しかし、結局は感情が無いのだから、直感で何を感じようが取る行動パターンは一つしか
ない。目の前の標的に一斉に切りかかるのみなのだ。
しかし、直感とはやはり素晴らしいもので、一斉に切りかかりに掛かる相手はウィンディではなく
セラ。魔力を集中しているウィンディは、対処しきれない。そして数十の刃がセラを襲った。

「………………???」
しかし、確実に切ったはずなのに、手ごたえは全く無く、刃はその少女の身をすり抜けてしまった。
『無駄だ、この子の身体はワタシの加護の下、今は精霊界にある。ワタシがいる限り、かすり傷一つ
 負わないさ』
その言葉を聞いても、何も感情の無い骸骨達は、絶対に切れない幻影を切り続ける。
『何も聞こえないだろうが、最後だ。聞け、怨霊共』
臨界点まで達した魔力を、押し留めつつ言う。
『再び地に落ちるような事はあってはならぬぞ―』
その言葉と同時、巨大な魔力と共に圧縮した空気を、目の前の哀れな骨人達に叩き込むのであった。
・・・
・・・
・・・
「今の音は?」
「さあ…なんだろ…」
さっき来た道で、何か轟音が響いた。
気になったが、今私達は目の前の物体のせいで足を動かす事ができない。
≪君達は魂か、はたまた肉体か…。このような所まで何をしにきたのだ?≫
喋りかけてきたそれは異形…、3メートルはあろうかという巨大な浮遊する骸骨のような物なのだ…。
しかし、デマを流している存在がいるとしたらこれしかないだろう。
「あなたがアリアンでデマを流しているのですか?」
リリィが尋ねると、異形は真っ直ぐこちらに目を向けたまま、静かに答える。
≪デマ?ここに来た者が首だけ木に吊るされるという噂話の事かい?≫
「知ってるという事は…、やはりあなたが…」
≪まて、私はこの通りしがないダークリッチにすぎない。それに私とて魂の集合体なのだ、
 ここに寄り集まってくる死者の魂からその程度のことは聞き出せるさ。≫
見た目は怖いが案外礼儀正しいこの存在は、どうも自分が犯人ではないと言うらしい。
「なら、誰がそのような噂を?」
≪・・・・・・≫
なんだろう…、この間は…、
≪ここからは私の独り言だ。いいかい?≫
それにウィンディもあの姿を保つのに魔力をかなり消費ような事を言っていた。

489姫々:2007/03/23(金) 17:02:34 ID:Cc.1o8yw0
「ええ、私達はたまたまここにいるだけで、たまたま独り言を聞いた人達です。」
・・・?なんだろう、このやり取りは…。そんなに人に話してはいけないことなのだろうか。
≪半年前、リンケンとアリアンで紛争が起こった、私はリンケン側のウィザードだったのだが、
 あえなく戦死してしまったのだ≫
そこで言葉を切り、再び言葉を紡ぐ。
≪しかし、戦いが終わった直後、懐かしさに負けてアリアンの近くまで行ったのさ。そこで
 見た物は首だけとなっていたが、共に戦った私の仲間だった。≫
「な…………、そんな…。」
??リリィが言葉に詰まっているが、私には話がよく分からない。そんな事は無視して、
目の前のダークリッチは話を続ける。
≪あれは誤解から起きた紛争、もちろん戦死した兵士の中にも、家庭を持っていた者
 もいたわけだ…。もちろんその家庭には、今後の生活費などを保障しなければならない。
 家族を奪った方の街がだ。しかし、人ではなく魔物に殺されたとなれば―≫
そこで再び話を切る。まるで私たちの反応を見るかのように。
≪デマの大本か…、今の話で分かるだろう。誰が流したかは私からは言わないが。
 私の話は短いがここまでさ。そして、そこに隠れている者、出てきなさい。≫
その言葉で、私たちは後ろを振り返る。
「チッ…ばれてたか…。俺の偵察術も落ちたもんだな…」
≪いや、私が気づいたんじゃないよ。ここにいる魂が教えてくれたのさ≫
そこいたのは傭兵、ロイだった。そしてその背中に負ぶさっているのは…
「セラッ!?」
「ん?ああ、入り口で寝てたからな、つれて来た。あんなとこで寝てちゃ危ないだろ?」
そう言い、私たちにセラの身を預けてくる。見た感じ怪我は無い。それどころか気持ちよさそうに
スウスウと寝息を立てている。
「魔力切れでしょうか…、召喚獣も皆消滅していますし…。」
あの数を一人で引き受けてくれたんだ、そりゃ身体への負担も少なくは無いだろう。
それにウィンディもあの姿を保つのに魔力をかなり消費ような事を言っていた。
「で、本題だ。今の話は本当か?」
≪嘘を言ってどうするのだね?あんな噂など流しても、私には何の得も無いのだよ?≫
ダークリッチがそう答える。確かにこのダークリッチは嘘はついていないだろう。
それは雰囲気で分かる。
「そこじゃねえよ。砂漠の霊魂がここに集まるって話さ。」
あれ?何を聞き出すんだろうか…?私もてっきり噂話の方を聞きだすのかと思っていた
んだけど…。
≪ん?ああ、間違いない。大抵の霊魂はここを通り過ぎていくよ。特にアリアンや
 リンケンの傭兵達のはね。≫
ふむ?と何かを考えるようなそぶりをしつつ、ダークリッチが伝える
「そいつらの死んだ場所とかはわからねえか?」
≪分かるぞ。その位ならばな≫
「なら教えてくれ、お前が死んだ抗争で、アリアンの傭兵の女がひとり死んでると思う、
 何処で死んだか教えてくれ」
女…?と、そこでふと左手の指にはめられた指輪に気づく。そういえば、この人の
奥さんって亡くなったって聞いたんだっけ…。死んだ場所を聞くってことは…、
まぁここから先は考えないようにしよう。
≪ふむ…女…。覚えが無いな…。アリアン側といえば最前線以外死者は出ていないだろう…?
 最前線に出る女は珍しいからそんな霊魂、見れば忘れるはずが無いんだが…≫
「な…に…?つまり…?」
その表情は驚愕?狂喜?よく分からないが間違いなく暗い表情ではなかった。
≪生きてるな。しかしその様子だと行方不明なのだろう?≫
「ああ、まあな。」
ダークリッチの言葉で現実に引き戻されたのだろう、ロイの表情は再び元に戻る。
≪なら赤い悪魔に魅入られたのかもしれないな。当ては無いか?≫
「・・・・・・・・・」
ロイは眉間にしわを寄せ、何かを考えている。
「無いな…、残念ながら…。」
≪ならば私に少し心当たりがある、頭に入れてやるから少し近寄りなさい。≫
ロイを手招きしつつ言う。そしてロイが近づいていくと、ロイの額に人差し指をあてて、
何かの詠唱を始める。
「ここは…ビッグアイか…?」
≪知っているのか。そこに悪魔が巣食っているという噂を少し前に聞いたのでな。≫
「ああ、俺も聞いた事がある、そうか…あそこか…。」
≪うむ、まあいるかは分からないが、当てが無いなら言ってみなさい」
「ああ、分かった。つーかお前見かけによらずいい奴だな」
≪ふむ…、大抵の人間はこの姿をみると逃げていく。そう言われるのは初めてだ≫
そして二人、ハッハッハと笑いあう。…気があってる?不思議な人だ。

490姫々:2007/03/23(金) 17:04:14 ID:Cc.1o8yw0
「でだ、後の話も本当か?」
今度は険しい顔つき、鋭い目つきで尋ねる。
≪…本当だ。この言葉に偽りは無い。≫
そのダークリッチの口調さっき以上に真面目だった。
「ちっ…グレイツの野郎…」
その表情にはさらに怒りの表情を帯びていく。それをリリィが制止した。
「怒りは分かりますが今は押さえてください、今はまず帰りましょう。」
≪ならば私が送ってやろう。その位の魔力はある≫
そうダークリッチが言うと、再び魔法の詠唱を始める。
「ありがとう、感謝します。」
リリィが言うのとほぼ同時、私たちの足元に魔方陣が現れ、まばたきして目を開けると
そこはアリアンの街の中だった。
最後、ダークリッチは私達にこう言った…≪真実に驚くべきと感じたら、それをありの
ままに伝えるのだ≫と。
「詰め所に行きましょう。私たちは真実を知っています」
「うん、リリィ」
そして背中にセラを背負うロイと共に、私たちは傭兵ギルドの詰め所へと向かうのだった。

・・・

「グレイツさん、任務。ただ今終わりました」
来る途中、気絶しているセラは宿屋に寝かせておいた。
「帰ってきたのか…。ふむ、ご苦労だった。それでちゃんと全員に伝えたのだろうな?」
怪訝な顔でそう言われる。やはり相当嫌われているらしい。
「ええ、そこで言われたとおり警備兵墓にも行きましたがそこで気になる事を言う人が
 いましてね。」
「な…っ!!奴に会ったのか!!」
「ええ、とても紳士的な方でしたよ。あなた方も一度行ったようですがあの姿を見て逃げ帰った
 そうですね?」
そうリリィの頬は一筋の汗が伝っている、かなり緊迫しているようだ。
「奴はそこまで言ったのか…」
「いえ、しかし彼は≪この姿を見た人間は大抵逃げ帰る≫といっていました。あんな所に行く
 理由があるのはあなた方しかいませんもの」
言われて見ると確かにそうだ、あんな所に行く必要があるのは、真実を知ってるものを消すため。
そう考えると、行くのはこの人達しかいない。
「あなたが戦死者をあのような葬っていたのですね。木に首だけ吊るすという、死者を二度も
 殺すような方法で。」
「…ちっ、予算問題で仕方なかったんだ。リンケンへ保障金を出す予算など抗争のせいでこちら
 には無かったからな。」
簡単にグレイツは認める、その言葉は淡々としていて、悪びれている様子もない。
「その言葉、嘘は無いんですね?そしてその噂を流したのもあなたなのでしょう?」
「ああ、もちろんさ。だから―」
言葉の途中、グレイツは腰に携える大剣に手をかけ、私達に切りかかろうとしてきた。
「――ッ!!…く…」
しかし、大剣を振り上げるより一瞬早く、リリィが杖をグレイツに突きつけいてた。さらに
ロイもグレイツに向かってリリィの背後で弓を引いている。まさに指1本でも動かせば命は
無いと言わんばかりに。
「く…、貴様もクロマティガードだろうっ!!バレたら俺達はタダじゃすまないんだぞっ!!!」
そう言うと、「ああ…」と小さく呟き、ロイが言う。
「悪い、んなもん今抜けた。」
そう、あっさり言い放ったのだった。
「そんな勝手がっ―」
「いやさあ、別に契約書とか書いた記憶ねえし。それに入隊式で抜けたいなら抜けろって
 言われたし。だからさ、抜けるわ。」
怒鳴るグレイツの言葉を押し潰し、ロイが淡々と話している。そのやり取りを聞いていた
リリィが、グレイツに杖を突きつけつつ言う。
「今の話を街の人全員に伝えたらどうなるでしょう?」
「ふん、無駄だ。そんな事、誰も信じんよ」
と、その言葉を聞くと、フッと小さく笑い、呟く―「それはどうでしょうね…」と。

491姫々:2007/03/23(金) 17:04:54 ID:Cc.1o8yw0
「だ、そうです。聞きましたか?スピカ」
『ええ、バッチリよー。じゃ、逆行スタートっ!』
そう言い、スピカを光が包んだかと思うと、光はパッと消える。すると、何処からともなく
こんな声が聞こえてくるのだった。
【「あなたが戦死者をあのような葬っていたのですね。木に首だけ吊るすという、死者を二度も
 殺すような方法で。」「…ちっ、予算問題で仕方なかったんだ。―】
と、さっきのリリィとグレイツのやり取りが一字一句、声も全く違わず、聞こえてきたのだった。
「な・・・に・・・?」
グレイツの表情は凍っている。無理も無い、聞こえるはずの無い自分の声が聞こえてきたのだから
「空気の時間を戻させていただきました。声は空気の振動ですから話していた時間まで戻れば
 ばっちり聴こえます。」
『これ、拡声器だよね?この大きさなら街全体に響きそうだね。スイッチ入れていいかな?』
「ええ、どうぞスピカ。この街の全ての人に今のやり取りを聴かせて差し上げましょう」
笑顔を浮かべたまま、帯電する杖をグレイツ突きつけ続けつつリリィが言う。
「やめろっ!!!やめてくれっ!!!!」
そこで、我に返ったグレイツが叫んだ。
「ほー、ではあなたはどうします?まさか私達がやめてそれで終わりではないでしょう?」
チッと舌打ちしつつ、グレイツが言う。
「レッドストーンの情報をやるっ!!ハノブにいるクリスティラっていう奴に会ってみろ、
 そいつが今アイノの報告書について調べてるはずだっ!!」
「ええ分かりました、それで?」
口から笑みは消え、真っ直ぐにグレイツを見つつ言う。
「まだいるのかよ…、ここにはお前らの知りたがってる事は何も無いぞっ!」
「いえ、あなたが処分した戦死者の方々は、これからどうするつもりですか?」
ゆっくりとリリィが尋ねる。杖の先にはさっき以上の魔力の収束が感じられる。おそらく一般人
でも可視できるほどになった魔力の塊が杖の先にあった。
「…墓を作ろう。そして、きちんと葬ろうと思う。」
その言葉を聞くと、魔力を留めたまま、リリィは杖をおろした。
「約束ですよ。」
その言葉を残した後、私達はリリィと共に、詰め所を去るのだった。



「追ってきませんでしたね…。てっきり傭兵団を率いてくると思っていたのですが…」
ここは、寝たおかげで魔力を回復したのであろうセラと共にアリアンのテレポーターの
すぐ近くだ。私達はハノブのクリスティラに会うため、早々にアリアンを発とうとしていた。
「まああれだけの魔力を眼の前で見せ付けられたらな…、っていうかあんた街を灰にしかねねえ…」
「失礼な…そんな危険人物ではありません…」
嘘だ…、この前ブルンネンシュティグのど真ん中でメテオシャワーを放とうとしたのは
何処の誰だったのだろうか…。
「では、ハノブへ行きましょう。ロイさんは?行く所があるならご一緒に…」
そうリリィは言うが、いやいやと手を振りつつロイは笑って言う。
「いや、俺は準備とかあるしな。準備が終わってからゆっくり行くさ。」
「そうですか。では、また縁があれば。」
「ああ。またな」
そして私達はテレポートのため、目を閉じるのだった。

492姫々:2007/03/23(金) 17:08:52 ID:Cc.1o8yw0
書ききって速攻でここに持ってきたので一応読み返しましたが誤字は多い気がします
特に488、【本文が長すぎます】って言われて戻ったときに一番下の行消し忘れた
ようで変に残ってますorz

とりあえず今からまたハノブのアイノの報告書集めを「カットしまくりで」
書いてくるので、感想もその時に書く事にします。

493みやび:2007/03/23(金) 21:21:57 ID:jXr8QT5o0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>携帯物書き屋さん
 感想を書くつもりでしたが、レスを遡ってみると、すでにかなりお話が進んでいるようで…
…こりゃ腰を落ちつけて読まなくちゃ。ということで、感想のほうは完読してから寄せたい
と思います。ごめんなさい、読むの遅いんです(汗)
 プロット紛失。心中お察しします。これは悲しいですね……。私の場合はPC内だけに保
存していて、PCが死んだときにデータの復活ができなくて……それがまたシャレにならな
い量でしたので、しばらく立ち直れなかったことがあります。失恋よりショックでした(汗)
 文章の難しさ。そうですよねー。頭の中では映画のように完璧な世界が出来あがってい
るもんだから、つい『なぜそれが文章にできないの!? きーっ!』とかアホなことを本気
で思ったりしています。ギャグはとくに難しいですよね。

>ドギーマンさん
 むー。悪魔の不条理……。ギャグは別として、本気で腰の低い悪魔がいたら返って不気
味かもしれません。気が弱くて卑屈で妙にへりくだっている博愛主義の悪魔とか(笑)
 冗談はともかく、私はどちらかというと非情なエムルが好きですね。主義主張や感情で
動く人物より、存在自体が彼や彼女の言動を決定付ける、ある種システムの一部みたい
な人物に、なぜか心を惹かれます。いや、もちろん虚構中の登場人物の話しです(笑)
 エムルの行く末を見守りたいと思います。

>485さん
 そういっていただけると救われます。ミゲルは私自身も好きなじーちゃん(笑)なので、こ
の先も登場させますよ。
 思念球は前回のテレポーター(文中に詳細記述はありません。裏設定です(笑))にも使
われている技術です。今回の簡易的な護符をより複雑にしたものがテレポの思念球です。
 ほんと、これはRS内の消耗品として私も欲しい(笑) 制作クエにして、クエの成績に応
じて球に封入する魔法の選択幅が広がるとか……。うわー便利すぎ(笑)

>姫々さん
 お疲れ様です。
 骸骨五十匹はちょっと嫌かも(笑) でもメテオ……実際ならどう考えても長距離用の魔法
ですよね。でなきゃ呪術者も仲間も見境なく黒焦げに(汗)
 しかしウィンディ頼もしいわ……。私はマイナー・ペットがお供なので、いつも土竜とお魚を
連れていますが、たまにはウィンディも召還してあげようかな。なんて気持ちになりました。
 と。やっぱりロイの相方は生きてるのかしら。次が楽しみです。

 ふー。とりあえず読むのが遅いので、他感想は読み終えたのち順次超亀レスしたいと思
います(汗)。
 では、待たせている馬車が南瓜に変わりそうなので、おいとまいたします(意味不明)。

RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

494名無しさん:2007/03/23(金) 23:45:01 ID:Xk9EL35w0
>姫々さん
グレイツと傭兵団の真相が垣間見えてしまいましたね…ダークリッチ良い人だ(*´д`)
メインクエのNPCの会話やストーリーは一度しかやってないせいもありほとんど覚えていないのですが
それよりも波乱万丈なストーリーに仕上がっていますね、登場人物も個性的だし。
「〜〜の墓」があの辺に多いのは昔死んだ者たちが骸骨化した、というだけではなくて
その後に死んだ者もあえてあそこに放り込まれていた…と考えると恐ろしいです。
ところでメテオって難しいですよね。やっぱり室内では使えないor使いづらい魔法なのでしょうか。
ゲーム内ではWIZさんがガンガン使いまくってるのは大変な事なんだなぁ(笑)

>みやびさん
妄想スレなどに色々考えたアイテムやシステムをたまーに書いてみたりしてるのですが
こういうのをみやびさんのように小説にして書いてしまえば使った気になれそうでお得ですね(笑)
これからも新アイテムを開発していってください!
>>493の下と上の仕切り(?)もカッコイイです(笑)

495みやび:2007/03/24(土) 16:29:15 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――Red stone novel−Props[№001]
 これまでに登場させた小道具の設定を整理してみました。
 今後も私の小説では共通の設定として使うつもりなので、根回しということで(汗)

【テレポーター】――――――――――――――――――――――――――――――
 スマグの《魔法院》※が活動費捻出のために開発したもの。ウィザードのテレポート魔法
を元に造られた座標固定式の長距離移動技術。
 今日では公的サービスとしてあまねく普及しているが、設置都市とスマグの間に契約関
係はない。これは軍事利用が現実的でない(一回につき一名+荷物の移動が限界)ことと、
移動手段の常備が治安維持に貢献しているため。
 そうした意味合いでは共生的な依存関係にある。
 運用に大掛かりな装置は不要で、操作者は《思念球》※と呼ばれる水晶に似た球体に、
設定された“キー”となる短い呪文を囁くだけで良い。
 このとき呪術者が頭の中にイメージしている利用者および行き先を《思念球》が読み取り、
人ごみの中でも対象者だけを安全に目的地まで飛ばしてくれる。
 操作者は一般に「テレポーター管理者」と呼ばれ、《思念球》の扱いは彼らに一任されて
いて、無造作に足元に置かれていることもあれば、宙に浮いている場合もある。
 《思念球》自体は設定されている“キー”と声紋以外には反応しないため、盗難などの対
策はとられていない。

 ※註釈[魔法院]
 本来はスマグの行政と立法を受け持つ機関。今日では政治的な色合いは皆無。
 魔法使い種の安寧と各種魔法の研究が主な活動。

 ※註釈[思念球]
 特種な鉱石に魔法を施して安定させた球体。自然界の鉱石にみられる電波や音波への
反応と異なり、取り込んだ音を蓄積させて外部作用により吐き出す特質を持つのが思念石
であり、一種の録音・再生機器として利用されたのが始まり。
 これを発展させ、声紋と簡単なキーワードの組み合わせを使い、あらかじめ織り込んでお
いた魔法を出力できるようにしたものが《思念球》。単に呪文を吐き出すのではなく、呪文の
圧縮と加速、また複数の呪文を同時に使ったり、出力させた呪文でさらに別の呪文を呼び
出すなど、高度な使い方が可能。また触れることでその人間の思考を読み取るものもある。
 より簡単な魔法の場合、声紋やキーワードが不要な場合もあり、様々な魔法が封印され
た簡易的な《思念球》が闇市に出回っている。指輪の石に加工されたタイプが多く、それら
は魔法が使えない者にとって武器や道具の代用になっているが、一定の時間を経て壊れ
てしまう。
Red stone novel−Props[№001]――――――――――――――――――――――◇

496みやび:2007/03/24(土) 16:30:01 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――Red stone novel−Props[№002]

【魔法汽船】――――――――――――――――――――――――――――――――
 スマグの《魔法院》が開発した蒸気船。通常スチーム機関の燃料は薪や石炭だが、魔法
汽船は太陽光を利用。このため半恒久的な動力を有し、無限の航続距離を誇る。
 一国の王でも購入には触手が鈍るほど高価で、物量を常とする軍隊には不向きなために
軍事利用はされていない。メンテナンスにも《魔法技術者》※の知識と技が必要。維持費だ
けでもそれ相応の覚悟がいる。
 船体のほとんどが希少金属“ケルチ鋼”※で造られ、既存の砲や魔法攻撃をまったく受け
つけない。船の形状は半球体で、球状部を海中に沈めている。普段は半開させているドー
ム型の天涯(太陽光を収束するパネルも兼ねる)を閉じると完全な球体になる。この状態で
防御の死角がなくなり、数時間程度の潜水も可能。
 また船体の両サイドから翼のようなものが生えているが、これは機関部の熱を逃がすため
の放熱フィンで、同船に飛行能力はない。タイプによっては非常用のマストを持つ。
 コントロールはすべて《思念球》を介して行われるため、人員が不要。最悪ひとりでも長期
航海が可能。現在ごく少数の物好きな王族と、シーフが所有していることが知られている。

 ※註釈[魔法技術者]
 基本的には“魔法師”のことで、ウィザード等に代表される魔法使い種を総称して魔法師と
呼ぶ。このうち魔法の技術を研究したり、またそれを使った装置の開発、管理、維持、修理
できる能力を持った者を技術者と呼んでいる。

 ※註釈[ケルチ鋼]
 その鉱脈の場所も製法もスマグしか知らない。
 とても希少で製鉄には時間と技術を要し、盾をひとつ造るだけでも小さな集落がそっくり買
えるほど。ミスリルに匹敵する軽量さをもつが、剛性はその比ではない。既存の爆薬、砲弾
はもちろん、物理魔法攻撃を一切受けつけない。そのコストゆえに軍事利用は非現実的だ
が、ケルチ鋼で作られた武具は市場に流通している。そのことはしばしば争いの元にもなり、
欲に駆られた武将が小都市を滅ぼしたという例もある。
Red stone novel−Props[№002]――――――――――――――――――――――◇

497みやび:2007/03/24(土) 16:30:42 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――Red stone novel−Props[№003]

【永久ランプ】―――――――――――――――――――――――――――――――
 世界各地の古代遺跡から発掘されている品。鉱石だと言われているが実際には不明。
 形は棒状でサイズは手の平に収まるものから棍棒程度まで。手に取ると体温で発光す
ること、出土する場所、そして量の多さから「手持ち式のランプ説」が有力。一部にはそれ
を裏付ける形状の金属、革製の装飾が施されたものが発掘されている。
 ただし現存する文献にはなぜかその姿は描かれていない。
 学者たちは遺物の不当な扱いに抗議の声をあげているが、出土する量があまりに多く、
市場への流出があとを絶たないのが現状。
 割れても欠片が発光能力を失うことはなく、恒久的な光源として普及している。手の平
サイズのものだと明るさは一般的な手持ち松明と同程度。流通する製品は真鍮、銀製の
グリップやフードを付けたものが多い。また発光には多少の熱をともなうため、砕いたもの
を袋に詰めて防寒用としたり、非常の際にはランプを直接肌に当てて暖を取る場合もある。
Red stone novel−Props[№003]――――――――――――――――――――――◇

498みやび:2007/03/24(土) 16:31:41 ID:wBZMCMK.0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce
 というわけでお目汚し設定を持って来てしまいました。

>494さん
 妄想は楽しいですよね(笑)
 そういった意味では、設定が曖昧で、しかも2Dという所なんか、RSは妄想のし甲斐があ
るってもんですね! 私はどうも想像力を挟む余地のない3Dゲームは苦手……(汗)
 仕切り――。なんだか味気ないので装飾してみました。他にも記号とかで作ってみたんで
すけど、改行コードのせいかしら。貼りつけると表示がズレるんですよ(汗) 実際に送信すれ
ば直るのかもしれないけど……恐いので無難な所で良しとしました。

   *

 さて。日曜までに作品出せるかなあ……。

Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

499名無しさん:2007/03/24(土) 17:30:44 ID:4mIra/620
>みやびさん
うーん、ここまで妄想が発展するともはや妄想と言うよりは一個のオリジナルストーリーができそうですね。
最近ちょっと興味があって関連書籍やサイトを見ていたのですが、いわゆるTRPGにありそうな設定だと思います。
まだまだ他にも創作アイテムがありそうですね。今後の小説で登場するのをお待ちしてます(笑)

私もRSで曖昧になっているというか、個人的な疑問として翼系武器の使用法や装備法が気になる…。
U翼のエア・ウェイダーの説明もちょっと面白かったし(急用の多いアークエンジェルたちの間では人気…らしい)。
こういう部分も自分で妄想してみると楽しいんだろうなぁ(笑)

500ドギーマン:2007/03/24(土) 22:19:08 ID:B3kEUPL20
500字SS『トレントの手紙』

いと小さき人よ、我のために涙を流してくれた唯一の人間よ。
汝は覚えているか、我らの邂逅の時を。
汝の故郷ブレンティルの北東、汝ら人間が我らの木を伐採していた場所。
森を守るために立ち上がった兄弟達は傭兵を名乗る人間共に次々に討ち取られてしまった。
だが汝は危険を顧みず間に割って入り、戦いに一応の決着をつけた。
汝のおかげで確かに木の伐採量は減った。
だがそれも昨年までだ。
我は再び兄弟達と共に立ち上がることにした。
森は我らの母なのだ。
母の命を救うために戦うのは汝ら人間も同じだろう。
恐らくこの戦に我らは敗れる。
だがそれでも戦わなければならないのだ。
母の命がある限り、弟達はいくらでもまた生まれてくる。
そのためにこの命を捧げられるならば、私は喜んで差し出そう。
しかしただこの命を捧げても母は助かるまい。
どうか町の人間達に気づかせてくれ。
このままでは母は死に、汝らもいつかきっと後悔することになるだろうと。
こんなことを頼れるのは汝しかいない。
出来ることなら成長した汝に再び会えればとは思ったが、この手紙が届く頃には我はもう生きてはいまい。
冒険者に託したこの手紙が無事に汝のもとに届くことを願っている。
さらばだ友よ。

501ドギーマン:2007/03/24(土) 22:42:15 ID:B3kEUPL20
あとがき
なんかいい感じで500レス目が開いてたので、
前スレの1000文字SSに続いて500字SSを書かせて貰いました。

>姫々さん
ダークリッチのあの姿は本当に怖いですよね。
でもいい人な彼がいい味でてました。
最後のグレイツを追い詰めるところも小気味よくていいです。

>みやびさん
面白いアイテムに細かい設定まで。
これから次に登場してくるアイテムが楽しみです。
私はレイメントオブザードが気になりますね。
古代の魔法王国ザードってところがスマグとの繋がりを想像させるようで、
何故滅んだのかっていうのと現在のスマグの発展に繋がりを持たせる妄想をしてみたり・・・。

502みやび:2007/03/25(日) 01:41:18 ID:CvPpOHm.0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce
>499さん
 エアの説明は確かに面白いですよねー。説明だけ読むと翼をランドセルみたいに背負
う天使の姿を想像してしまいます(笑)
 でも翼の場合、まだ「体に外付けされている」というイメージも可能なので、リアルな設
定を作る場合、なんとかこじつけできそうな気もします。
 しかし閉口してしまうのが牙……。翼と比較すると「据え付けタイプ」の器官。というイメー
ジが拭えません。装備交換にリアルで説得力を持たせるとすれば……やっぱり「入れ歯」
なんでしょうか(汗) 確かに入れ歯なら現実的ではありますが……絵にならない(笑)

>ドギーマンさん
 内容プラス手紙という部分で、切なさが活かされていてよかったです。
 あ。あと500おめでとうございます(笑)
 もうキリ番小説はドギーマンさんで決まりですね! 余裕があれば次もお願いします(笑)

 木系といえば、昔は苗木クエっていつ行っても人が居ましたよね。記憶して狩りの合間
に覗きに行って……エイティングが空くのを一ヵ月近く待ったのを思い出します。
 しかもやっと「人がいなくなった!」と思えば沸き時間がアレですし……(汗)

 ザード――「滅び」という言葉は魔力ですよね。想像は無限に広がりますから。む。これ
でひとつ小説書けそうですね(笑)
 私は『地上の権勢』の説明――地上の権能や貪欲が凝縮された冠――というのを見て
呪われそうだなあ……と思ってしまいました。
 笑ったのは“パパ手”を初めて見たとき。
 「幼い頃のお父さんの大きな手を覚えているか? その手が優しかったか、怖かったか
は別として」
 ――って、装備の説明になってません(笑)

   *

 今日は徹夜モードで頑張ろうと思ったのですが。なかなか筆が進みません……(汗)

RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

503名無しさん:2007/03/25(日) 04:15:50 ID:4mIra/620
>ドギーマンさん
おぉ、500文字小説流石です。
トレントはあのシュトラ西の方にいる木の人たちでしたっけ…何か会話できるのがいましたね。
なんとなく指輪物語のトレントたちと被るのは仕方ないでしょうか(笑)
前回の1000文字小説もそうですが、キリ番の文字数で書くのはほんとに大変そう…。
私がやったらもみくちゃにした挙句尻切れトンボで終了しそうです(笑)
みやびさんと同じく次回キリ番もまた書いてくれると嬉しいです。

>みやびさん
牙…たしかに入れ歯とする以外だと取り外しが想像できませんね。姫の武器変身も大変だ(笑)
U装備品の説明ひとつだけで小説が一本書けそうな気がするのは同じくです。ただ私は構想を練るだけで精一杯ですが(苦笑)
U鞭「イクストラクター」の"脂を搾り取る…"という説明に恐れおののいてます(笑)
パパ手の説明も装備の説明にはなっていないものの、何か意味深ですよね。

504みやび:2007/03/25(日) 09:56:18 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[1/4P]

 いつもは自堕落なあたしでも、今日ばかりは目覚ましが鳴る前に飛び起きた。
 なぜって、今日は久しぶりのデートなのだ!
 あ――念のために言っておくけど、あたしの目的はあくまでお金――美味しいもの食べ
て、ショッピングして、あとはハイ、サヨウナラ! これ常識ね。

 鼻歌まじりでシャワーを浴び、化粧が終る頃にはほどよい時間になっていた。
 約束の時間まであと五分――か。
 あたしは携帯を取り出し、少し考え――短縮ボタンを押した。
「――メリルちゃん!? マジで!?」ラインが繋がるなり相手は言った。はーはーと息が
荒いのがわかる。
 こいつは天使の――えーと、名前なんだっけ? ……。まいっか。とにかく、あたしの携
帯に入ってる“その他大勢”のなかのひとりね。
「ねえねえ。今から迎えに来て欲しいの」
 あたしは“しな”を作って言ったが、気分的に携帯は顔から遠ざけていた。
「もちろんだよ!」
 え――声が近い!? と思ったら、天使は“私の隣”に座っていた。
「ギャーッ!」
 悲鳴をあげたのはもちろん天使。
 あたしのケルビーが天使の尻に噛みついたのだ。
「ちょっと! 飛んで来るなら来るで、先に言ってよね! っていうか電話してる意味ないじゃ
ない。まったく……ケルビーを召還しておいて正解だったわ!」
「ご、ごめんなさい……」
「はっ! それより時間がないわ! 早く送ってちょうだい、古都よ古都!」
「あの――いや、その前に……」
「なによ。他の天使を雇ってもいいのよ」
 あたしが言ったのと同時に、どこからともなく拡声機の声が響いてきた。

『格安で街タクしますよ〜。どこでも行きまっせ〜』

「さ。メリルちゃん、忘れ物はないかい!」
 街タクの声を聞くなり天使はCPを溜め始めた。


 ――古都ブルンネンシュティグ

「ふん。やればできるじゃないの」
 天使にコールしてもらい、時計を見ると約束の三分前だった。
「じゃあね。ありがと♪」
 立ち去ろうとするあたしの袖を天使が掴んだ。
「あの、メリルちゃん……」
「タクに使ってあげただけでも感謝しなさい。まさかあたしとデートできるだなんて思ってない
わよね? 十年早いわ」
「いや……そうじゃなくてコレ……」
『グルルル……』
 天使のお尻にはケルビーが噛みついたままだった。

505みやび:2007/03/25(日) 09:57:23 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[2/4P]

 足代りの天使と別れたあと、あたしは時間ぴったりに待ち合わせ場所に立った。
 だがいくら見回しても、あいつの姿はなかった。
「むう……遅いわ!」
 時計に目をやると約束の時間を十秒も過ぎている。
 いい度胸じゃないの。これはそれなりに埋め合わせしてもらわなきゃ!
 あたしがぶつぶつ言っていると、見るからに軽薄そうなウィザードが杖をグリングリン回し
ながら近付いてきた。
「やあ、お嬢さん。ステキなロマの衣装ですな!」
 そう言うとケルビーとあたしにお得意のヘイストをかけた。
 うーん。この感じだと……せいぜいスキル・レベル30ってところね。
「どうです。これから僕とペアハンにでも行きませんか?」
 思った通り、そのウィザードはナンパしてきた。
「不合格」
 あたしは言ってやった。
「はい?」
「ヘイ・マスなら少しくらい付き合ってあげてもよかったんだけど……もうちょっとレベル上げ
て出直してきてね」
 ウィザードは顔を真っ赤にした。
「こ、このっ――」
 彼は言葉を失っていたが、杖のグリングリン度は非常に激しかった。今にも手首がちぎれ
そうだ。CPの溜め量からすると、メテオでも撃つ気かしら?(てかNチャージっぽいけど)
 あたしはバッグから飼育記録書を取り出し、ページを選ぶとペットを具現化した。
『ウキャキャキャ!』
 ウィザードとあたしのあいだに原始人の“一号”と“二号”が立ちはだかった。
「ひっ」男はあわてて杖の速度を上げたが、あたしが一号、二号に命令を出すほうが早かっ
た。
『ウキャキャキャ……!!』
 一号と二号が笑いながら交互にウィザードを殴る。
「ちょ、おま――」
 たちまちウィザードのCPがマイナスになった。
 そして体中アザだらけになりながら、やっとのことでわずかなCPを確保するとテレポで逃
げだした。
「覚えてろよー!」
 その姿がほぼ点になるほど遠くからウィザードは叫んだ。
「誰が覚えてあげるもんですか」あたしは舌を出した。

506みやび:2007/03/25(日) 09:58:12 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[3/4P]

 ペットを仕舞うと、あたしは再び時計を見た。
 すでに時間は十五分もオーバーしていた。
 なんてやつなの! このあたしを五分以上も待たせた男は初めてだわ……!
 あたしは携帯を取り出し、そいつの番号を消去した。やっぱりクラブで逆ナンした金持ち
のボンボンはダメね。今度はもうちょっとマシなのにしよう。
「行きましょケルビー」
 ケルビーに跨ると、あたしはその場をあとにした。
「でもまいったなあ。今日は一日予定を空けているから、暇になっちゃったわ……」
 このまま部屋に帰るのも悔しいので、あたしはケルビーの上でマツケンサンバを歌った
りショート・コントをやったり肩を「チラッ」と出したりしたが、どういう訳がその日に限っては
ひとりのイケメンも食いついてこなかった。
 うーむ。今日は不調ねあたし……っていうかマツケンサンバはちょっとブーム過ぎちゃっ
てたわね。これはレパートリーから外すか。
 すると携帯の着信音。
 表示を見ると、相手は幼馴染みのリッキーだった。
 と言っても彼はウィザード。
 子供の頃、ちょっとした乙女心でイフリートの巣に爆竹を投げ込んだことが原因でロマの
村を追い出され――ちなみにそれ以来、村の周辺にはイフリートとサラマンダーが徘徊す
るようになった――流れついたスマグで隣に住んでいたのがリッキーだった。
「久しぶりねえリッキー。どうしたの?」
「やあメリル――今なにしてるの? 暇かい?」
 あら珍しい。彼がそんなこと言うなんて。
「実はタワー洞窟の地下道にいるんだけどさ……」
「ふーん。あんたも暇ねえ……。あ、でも狩りなら間に合ってるわ。今ちょっと気分じゃない
のよね」
「いやちがうんだ――お金持ちの年寄りと少年に出遭ったんだけどね。奪われた家宝を取
り戻して欲しいって頼まれ――」
「すぐ加勢に行くから待ってて!」
 あたしはそう言うと、通話を切ってリダイヤルを押した。
「――あれ。メリルちゃん、どうしたの!?」先ほどの天使が出た。
「早く来て、あなたの力が必要なの!」

 そして、あたしは“一歩も動くことなく”無事にタワー洞窟の入口まで着いた。
「はあ、はあ……で――これから何処へ?」天使は全速力で走ったらしく、まだ肩で息をし
ていた。
「こっちよ」
 洞窟に入ると、あたしは透明魔法が付加された指輪を嵌めて奥へと進んだ。背後でシー
フの笑い声と天使の悲鳴が聞こえたけれど……まあでも、天使にはロープを括りつけてケ
ルビーにつないでいるから、問題ないだろう。
 地下道の中央まで進むと、シーフたちと格闘しているリッキーの姿が目に止まった。
「ハーイ、リッキー♪」
 あたしは声をかけた。
「お。やけに早いんだね」
「まあね。優秀な天使がいるから」
 振り向くと、全身切り傷だらけでボロボロになった天使がいた。
 天使はさっきより息があがっていた。
「はぁ、はっ――あの……これはいったい?」
「あんたビショップのスキルもあるんでしょ? これから三人でひと仕事よ!」

507みやび:2007/03/25(日) 09:58:57 ID:raciaAIc0
◇――『それゆけメリルちゃん!』―――――――――――――Red stone novel[4/4P]

 天使は口をあんぐりと開いた。
「えーっと……その、ちょっと急用を思い出して――」
「ケルビー!」
「やりますやりますッ――なんでもしますからぁッ!」
 天使はビショップに変身すると、なぜか泣きながら支援の仕事を開始した。

   *

 あたしたちは結局、カスターとかいう盗賊の親玉から奪われた家宝を取り戻し、依頼者か
ら百万ゴールドの報酬を得た。
 リッキーはそもそもお金とか、そういうのには興味ないタイプだし、天使はあたしの下僕だ
から……もちろん取り分は全額あたし。
「うふふ。今日はツキに見放されたと思ってたけど、なんとかなるものね〜♪」
 あたしはベッドでお金を数えながら、やがて心地好い眠りについた……。

   *

 ――その頃、天使の家では。

 天使はベッドの上でうんうん唸っていた。
「ああ……眠れない……」
『ガルルル……』
 天使のお尻にはケルビーが食らいついたままだった。




◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

508みやび:2007/03/25(日) 10:00:09 ID:raciaAIc0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『それゆけメリルちゃん!』

 ――あとがき――

 書こうとしてた『赤い絆』のほうはどうしても筆が乗らず。思いつきでギャグにしました(汗)
 しかもちょっと淡白すぎましたね……。
 眠いので今回は推敲なし! ふらふらです。ではおやすみなさい。

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

509名無しさん:2007/03/25(日) 17:36:45 ID:zK/QR0gM0
>みやびさん
面白かったです!
メリルちゃんとテイマのイメージがぴったりと嵌ってしまった…いや、もちろん良い意味で(笑)
天使は完全に運転係ですね、これもぴったりだ(笑) ケルビーもヵヮ。゚+.(・∀・)゚+.゚ィィ!!
WIZのチャージってヘイスト状態だと本当に腕が千切れるばかりに振り回しますよね…。
前に杖を外して素手状態でチャージすると単に応援してるみたいだとか遊んでた記憶が(笑)
「赤い絆」の方もまた落ち着いてからゆっくりでも構いません、お待ちしています〜。

510ドギーマン:2007/03/25(日) 20:12:59 ID:AepyIIHk0
『ザ・ストライダー』

彼は高台に登って街の遥かを見渡していた。
無限に広がりを見せるようにどこまでも、視界の外まで広がる壮大なる古の都。
街灯や窓から漏れる光は空の星と見紛うようで、彼は闇の中に浮かびあがる光の群れにしばし心奪われた。
昇った満月は暗雲を振り切ってようやく空の頂きに到達し、街を高慢に見下ろしている。
街灯に照らされ浮かび上がった通りを歩く人々の姿を彼は嘲るように笑みを浮かべた。
男も女も、誰もが常に何か新しい刺激を求めて飽きもせず夜の街を練り歩いている。
全くもってくだらない。どれだけそんな事を繰り返しても、結局誰かと同じでしかない。
彼はいつも背負っていた大事な相棒、彼と共に何年も歩んできた大斧を部屋に残してきていた。
長年命を預けてきたそれとしばしの別れを告げ、彼は自分だけが新たに手に入れた刺激に身を委ねることにした。
「いくか」そう呟いて彼は街の光の群れ背を向けて少し離れると、再び振り返って光のほうに歩み始めた。
黄金に輝く金属板に覆われた靴がカチャカチャと音を立てる。
さあ、また俺を楽しませてくれ。
段々と歩幅を広げていきそして走り出す。高台の端が迫ってきた。
すると靴に付けられた小さな羽飾りが立ち上がり、小さく震えた。
彼の足は高台の端を踏み出し、彼はそこから街の光の群れに向かって身を投げ出した。
瞬時にして後方へ過ぎていく景色。彼は高台からたった一歩で先ほどまで眺めていた光の群れの中に飛び込んだ。
遥かから疾んで来たというのに通りの石畳に突いた足はとても軽やか。
突然目の前に現れた彼の姿に目を丸くする人々。
彼はにやりと笑みを見せ付けてすぐに姿を消す。
街の景色は光の線となって彼に通常では見ることを許されない景色を見せる。
風よりも早く、誰も彼に追いつけない。
誰の眼に止まることもなく街を走り抜けていく。
そして石畳を蹴り、壁を踏み、夜空へ飛び上がって街を夜空から見下ろした。
街を見下ろす彼は夜空の支配者となった気分だった。
「ヒィィィィィヤッッッハァァァァァァ――――!!!」
彼はその快感に歓喜の叫びを上げた。
街の人々が見上げるがそこに彼の姿は無い。
民家の屋根に足を突いた彼は既に遠く夜の街を駆けていた。

部屋に帰った彼は壁に立てかけられた大斧に目を向ける事も無く寝台に向かい。
そして靴を大事そうに撫でて寝台の下に入れて、そのまま眠ってしまった。
かつての相棒はすねたように刃に小さな錆を浮かべていた。

511ドギーマン:2007/03/25(日) 20:24:55 ID:AepyIIHk0
あとがき
一度SSを書くとまた書きたくなってきました。
少々同じものを書き続けるのに飽きが出てきまして・・・。
すいません。
勿論書き上げるつもりはあるのですが、
少々文章が雑になってきた部分もあるので他の話に浮気します。
本当はDevilはあんなに長いはずじゃなかったのに、どこでどう間違えたのやら。
あれ終わったら一旦以前みたいに一話完結に戻ろうと思います。

走り回るというのでイメージ的にシーフを主役にしてもよかったのですが。
ジャンプがあるので戦士にしました。

>みやびさん
面白かったですよ。
天使が最後までかわいそうでw

5121/3:2007/03/25(日) 21:08:43 ID:b8WsiwNoo
レスに代えて。

ペインシーカー秘話

ちょっと待て!ダークリッチはいい奴なんかじゃねぇ!
魔道士を名乗っちゃいるがありゃその魔道士の魂と記憶を喰っただけだ。
墓に流れ着いた魔道士の、いんや魔道士だけじゃねぇ傭兵全部の魂に喰らいついて放さねぇ。
そうやって永遠の知識と魔力を得ていく化けもんだ。
第一、おかしいと思わねぇか。
あんななんもないとこで骸骨が生きた人間を何度も何度もいつまでも襲うんだ。
ありゃダークリッチのやつが手引きしてんだ。
なんにも知らねぇで死んじまった魂を言いくるめて墓の尖兵としてこきつかってやがるのさ!
とんでもねぇ奴だ。

まぁ聞け。
やつがあそこで何をやってるかなんて想像つくだろう。
ひとーつ、砂漠で死んだ亡霊どもを掻き集めて天上へ上るのを邪魔してる。
ふたーつ、砂漠で死んだ英霊たちの体を利用して自分の手足になる兵団をつくる。
みーっつ、魂を喰らって自分の魔力と知識を無限に増やし続ける。
おかげで砂漠で死んだら神様んとこに昇ることもできずに永遠に穴倉の中に閉じ込められるのさ。
あんたも気をつけな。
やつの悪行はそれだけじゃねえぜ。
まだ生きてた頃の話だが――。ハ?誰がってダークリッチの奴に決まってるだろう?
なに、あれは元人間だぞ?当たり前じゃねぇか。
天界人なら魂を昇天させて導こうとするし、地下人なら連れ去って使役にでもつかうさ!
なんだそんなことも知らねぇで聞いてたのか、しょうがねぇ順を追って話してやろう。

さて、どこから話してやろうか。
あぁそいつの名前?そこまでは知らねぇな。
ただ、記録に書かれるときは最初の屍術士とかネクロマンサー呼ばれてるがな。
やつは生れ付き死者の声が聞こえたんだ。そのせいで親に捨てられたんだろうなぁ。
ん?あぁ育ての親はアリアンの長老だ。長老って行っても酋長のことじゃねえぞ。
一番の長生きのじいさんのことだ。錬金術士だったらしいがいまは関係ねぇな。
隠し事を死者に探らせて言い当てたり、取り憑かせて体の自由を奪っちまうのさ。
やつが一言しゃべるだけでそうなっちまう。
長老がやつを町外れの墓守に追いやったときは街中から安堵のため息が聞こえたもんだ。
だがそれがいけなかった。死者の声が聞こえる奴を死者の一番集まる場所に留めた。
折りしもアリアンの砂漠が戦場になっていたときだ。墓に来るのも力のある英霊ばかり。
街の人間が墓守のことなんて忘れて十数年も経った日のことだ。
長老が街の人間に一言だけ告げた。やつが死んだとな。
それすら忘れられて数年経ったときにはもう墓はダークリッチの住処になってたのさ。

うぅちょっと失礼。酒が回ると便所が近くなっていけねぇな!

5132/3:2007/03/25(日) 21:09:28 ID:b8WsiwNoo
おう、ただいま。さてなにを話してたか。
あぁあいつの話かい。あいつはなぁ赤ん坊の頃に捨てられたんだ。
長老が捨て子だって連れてきたんだから間違いねぇ。
長老ってのは酋長じゃねぇぞ。村長でもねぇ。一番の年寄りのじいさんだ。
錬金術士だったがいまは関係ねぇな。いま思えば”砂漠の人”の子どもだったんじゃねぇかなぁ。
あぁ、砂漠の人ってのはなぁ―

―砂漠に忘却された民族あり。
彼らは自然の声を聞き、道なき砂漠で星を見ず方角を知り、指標なく乾いた大地に水を得。
精霊の導きに従い枯れた大地に命を吹き込まんとその生涯を捧ぐ。起源をロマに等しくす―

―どこで聞いたか忘れたがそんなもんだ。
無口な子供でなぁ。いつも空ばかり見上げてた。たまに口を開くと変なことをいう。
死人しか知らない失くし物を言い当てたり、砂漠から誰のかしらねぇ形見を拾ってきたり。
訳のわからんやつでなぁ、誰も近づかなかった。
あぁ?いじめなんてとんでもねぇ!長老のじいさんとこの子供だぜ。街に居られなくなる。
周りのガキどころか大人だっておっかながってたさ。
たまにお礼にいく遺族ってぇのか、それも居たが無愛想に突き返してありがとうも言わせねぇ。
頼まれただけだって言いだすから怪しまれて調べられたこともあったな。

そうだ、一遍だけ怒ったのを見たことがある。
山陵に盗掘が入ったときさ。あぁ山陵ってのは墓場のことだ。お偉いさんのな。
長老が街の自警団に盗掘が入ったって教えに来てな。
自警団が墓場についたときにはもう片は付いてた。あいつが一人でやったんだ。
何があったのかわからないが生き残りの盗掘屋はすっかり振るえあがっちまって、
助けてくれ、死にたくねぇ、仲間が消えただのガチガチなる顎で訳がわからねぇことを言う。
その後だな。
あいつが墓守に志願して長老が送り出したのは、まだ二十歳にゃなってなかったはずだ。

5143/3:2007/03/25(日) 21:10:22 ID:b8WsiwNoo
折りしもアリアンとリンケンの戦争の最中。
死人の声が聞こえるあいつにとってみたら無念の声がそこら中に響く世界だ。
しかも、リンケンの後ろ盾のなんとか教会は砂漠のやりかたを異端と呼んで認めねぇ。
砂漠には砂漠の霊への礼節があるってんだ!
あいつは砂漠で死んだやつらにもちゃんと安息の地を与えたかったんじゃねぇかな。
人里から離れた墓場の奥で一人、大勢の死人と向き合う暮らしを始めた。
あいつは優しすぎたしかなりのおせっかいだったんだな。
無念に死んじまった”口無し”どもの言葉をいちいち残そうと考えた。
生者が夢見る時間に比べれば死者の眠る時間はあまりに長い。
命にしばられた人間の姿じゃ死者の無念を綴り続けるには時間も記憶も足りなすぎた。
やつは屍術に手を出した。師匠は墓場に彷徨う英霊達。知識だけはいくらでもあった。
完成した屍術で、いやありゃ屍術なんてもんじゃないただの呪いだ。
あいつは自分自身の魂を触媒に墓と砂漠のすべての魂のために捧げたんだ。
死者に与えられた永遠の時間を安らかに眠りの中に沈め、語るべき記憶は自分の中に取り込む。
彼らの無念を代わって果たす役目を自分が引き受けることで彷徨わずにすむようにしたんだ。

あいつがあそこで何をやってるか想像がつくか!
っひとつ、異端と服従を強要する教会から亡者の誇りを守ってるのはやつだ!
っふたつ、英霊を指揮して無粋な盗掘者から死者の形見を守ってるのもやつだ!
っみっつ、無念の声を残した口無しどもの言葉を永遠につむぎ続けてるのがやつだ!
砂漠の亡霊たちに穏やかな穴倉を与え、無念の叫びを残す彼らに語る声を与えた。
永劫の時間に安らかな眠りを与え、磨き上げた戦士の肉体に最後の戦場を与えた。
あんたにわかるかい。
あいつの名残はそれだけじゃねぇぜ。
あいつが死んでからの話だが赤き空の日のあと、奴の能力を真似したやつが次々と出てきた。
中身は地下の悪魔だって話だが、性格はあいつとは似ても似つかねぇ。
言葉に乗せて他人に憑依させるくらい朝飯前だったろうが、見たのは墓荒し退治の一度きりだ。
いまになってあいつの本当の力を知るたぁ、いまさら恐ろしくて震えがくる。
教会の奉る頑固な神様にゃあいつも悪魔も一緒にされちまったが砂漠の誇りにかけて言おう。
あいつは本物の英雄で砂漠の墓守だ。

わかったか!ダークリッチはいい奴なんかじゃねぇ!超いい奴だ!!
闇の眷属(ダークリッチ)を名乗っちゃいるがありゃ自分の魂と記憶に呪いをかけただけだ。
墓に流れ着いた戦士だけじゃねぇ旅人の魂一つ一つを導いて喰らいついてでも話しぬく。
そうやって永遠の時間ってぇ業の中で大義に動く化けもんだ。
第一、おかしいと思わねぇか。
あんななんもないとこで死者の声がなんの縁もない生者に真実を語るんだぜ。
ありゃダークリッチのやつが手助けしてんだ。
なんにも知らねぇで死んじまった魂に最後の寝床を与えて自分は眠らず守ってるのさ!
とんでもねぇ奴だ…。

5154?/3:2007/03/25(日) 21:12:56 ID:b8WsiwNoo
あーすっかり酔っちまった。なんか余計なことまで話したか?

とにかくだ!墓には怖いネクロマンサーが居るから近づいちゃいけねぇ。
んー?わしはたたの砂漠の年寄りだ。くどい話につき合わせて悪かったなぁ。
またな、若造。

516ペインシーカー秘話:2007/03/25(日) 21:30:00 ID:b8WsiwNoo
姫姫さんのダークリッチことペインシーカーに感化され、
私自身の思う傭兵の墓一帯のありようを語らせてみました。

酔っ払いのたわごとなので2度読んでもらえると、語る年寄りの真意をご理解いただけるかと思います。

まめなレスはつけられませんが、職人の皆様いつもありがとうございます。

517名無しさん:2007/03/25(日) 21:44:09 ID:C3RWAfjA0
>>402-403の続きです。

「ねぇ、ちょっと待ってよぉ。」
ロゼリーが俺の後を追ってくる。
「いや、待てない。」
俺は静かにそう言った。
「え?」
ロゼリーの足が一瞬止まった。そして、「なんで?」と言う。
「・・見ろ。その地図は多分違うものだぞ。」
ロゼリーは静かに、俺に見せた地図を見返した。
「・・何を言っているの?これはアルパス地下監獄のものよ?」
俺は静かに、壁をこんこんと叩く。
「・・さっきからおかしいと思っていた。モンスターのおとなしさ、ジャイアントが何故地上付近にいたか。」
ロゼリーは静かに、俺の話を聞いている。
「・・・匂わないか?あんたのその地図、一体何処から手に入れた?」
ロゼリーは再び、此方に地図を突きつけた。
「うちの情報網だけど・・組織名は赤いコブリン。」
俺は、ふむ。と口元に指を当て、暗闇の奥を見据えた。
「あんた、もし俺が断ったらどうしていた?」
ロゼリーはなぜか、ここで黙ってしまった。ゆっくりとうつむき、上目遣いで俺の事を見ている。そして静かに、
「・・・組織に言われたわ。貴方なら断ることは無いって。」
そうか。と俺は呟いた。・・・俺の中で何かがつながるのを感じる。
俺は静かに肩を竦め、狭い通路・・それも、端には蝋燭が据えた油のにおいを漂わせているだけの、暗い通路を少し往復した。
「・・俺の名前はカレイド・・カレイド=ラビンスだ。」
ロゼリーははっと顔を上げ、俺の顔を見つめた。そしておびえた様に後ろへ一歩後ずさる。
「いや、怖がる事は無い。俺は情報組織の問題物の殺しだけが任務じゃない。」
「・・全部、知っているのね?」
ロゼリーは恐る恐る、と言った感じで、俺の方を見つめた。
「ああ。・・今日、黒い伝書鳩から手紙が届いてね。一人女の始末を頼むと来た。名前は・・」
「アリス・シュヴァンツァ。私の本名よ。」
ロゼリー、基そう名乗った女は、ふぅ、とため息を付き、その辺の壁へともたれかかった。
「で、殺るの?私の事・・・」
「そう急ぐ事は無いんじゃないか?」
俺は静かに相手に近づく。・・・相手は怯えているとも、怖がっているとも言えない表情を見せてきた。
「・・ど、どうとでもしなさいよ。・・もう、分かりきってる事なんだから。」
震えた声でアリスは呟く。俺はふっ、と鼻で笑い、
「・・・よく言った。アリス。」
「え?」俺はアリスの身体をおもむろに退かした。アリスは驚いて地面へと倒れる。
そして俺は斧を振り上げ、静かにアリスのもたれていた場所へと振り下ろした。
「キャッ!」
途端に、レンガの壁が崩れ、目の前に奇妙な空間が映し出される。
「・・・アリス、あんたはこれから俺と一緒にちょいと仕事をして貰う。」
俺は静かに言った。
「え?」
アリスは槍を杖代わりにして、よろよろと立ち上がった。
「どうなっても良いんだろ?・・それとも、今此処で本当に死にたいのか?」
アリスは静かに首を横に振る。
「それよりこれは何?」
ぽっかりと空いた壁。その奥に見える奇妙な空間。・・・周囲とは打って変わり、地面には謎の紋章が描かれ、その前には巨大な鉄製の様に冷たく輝く扉があった。
「・・・あんたの探しているその宝ってのを持ち帰れば、向こうは許してくれるんだろ?」
アリスはこくりと頷く。・・俺は静かに笑った。
「それじゃ決まりだ。この奥に多分その宝ってのがあると思うぜ。」


はい。何かガラリと変えてしまって申し訳ないです。
ただなんかオリジナリティーを出してみたかったと思っていたらこんなのが出来てしまいました。

518名無しさん:2007/03/26(月) 02:06:22 ID:zK/QR0gM0
>516さん
確かに死んでしまった者が骸骨などになっている姿はよくあるアンデッドモンスターと括られていますが、
良く考えると(考えるまでも無いですが)悲しい存在としか思えません。死んでもなお生きているという不条理といいますか。
ダークリッチの前身だった屍術使いの彼が死後もまだ霊たちを慰めていると思うと…より一層ダークリッチが良い奴、いや超良い奴に見えます(笑)
語り口調の小説の書き方も良いですね。また機会があれば是非お書きください。

>517さん
最初はロゼリーの方が男をリードしていたのに、いまや既に立場が逆転。二人を繋ぐ組織やその宝物というのも気になります。
扉の先は本来のアルパスとはまた違う場所なのでしょうか。まだ何かありそうですね。
どんどん真相が分かっていく感じで、全く先が読めません。
オリジナリティーはガンガン出しちゃっていいと思いますよ(笑) それを踏まえての続きをお待ちしています。

519名無しさん:2007/03/26(月) 02:16:28 ID:zK/QR0gM0
途中で送信してしまったorz

>ドギーマンさん
戦士、カッコイイです。
ジャンプ攻撃と言うのも戦士の特権といいますかあれだけ大きな武器を持って叩き潰す…
やっぱり傍目で見ているととっても楽しそう。スパイダーマンみたいだ…。
個人的にはウルフマンの突撃系スキルもなかなか楽しそうだと思いますよ、特にスマートボールみたいな動きのスキル(笑)

520みやび:2007/03/26(月) 03:56:57 ID:yxWLPC3c0
◇――――――――――――――――――――――RED STONE NOVEL−Responce

>503さん
 構想だけと言わず、ぜひ書いてください!
 姫が牙に……はう。これだけは再現する勇気ありません(汗) どなたかに譲ります(笑)

>509さん
 メリルの設定は『傲慢でわがままで他力本願で自己中でお金大好きで面食い。あまつ
さえナルシスト』という究極なものなんですが(笑) 最初は絵的に、それが似合うのはリト
ル(お嬢様っぽいし、あくまで見た目)だろうと思いました。でもいかんせん姫リトルはプレ
イの実体験がないので、やはり文章にも説得力が出ないだろう――ってことでテイマにし
ました。
 いえ、決して自分が“無課金赤貧完ソロテイマ”だから小説上で欲求を満たそうと思った
訳では……(笑)
 これからもメリルは好き放題暴れると思うので、暖かく見守ってください。

>ドギーマンさん
 なるほど。ネタスキル(たぶん)を地でやるとこういう具合になるんですね。
 ある種ネタですが、滑稽であり狂気であり皮肉であり快楽でもある。なんだか不思議な
雰囲気でした。
 あ。天使は自分でも「ちょっと可哀相だな」と思いつつ最後まで苛めてしまいました(笑)

>516さん
 面白いですね。二重の代弁者といったところでしょうか。
 シラフで語らせるには老人はナイーブ過ぎた訳ですね――というよりは作者自身がそう
であるために、老人にはどうしても酔ってもらう必要があったのですね。なるほど。
 ――と勝手に言ってますが、聞き流してください(笑)

>517さん
 にわかに状況が動き出した感じですね。緊迫感という意味では状況の暗転、急展開は
有効だと思いますよ。気にせずにガンガン突っ走ってくださいね。
 果たして監獄の奥がどうなっているのか――その後の展開(二人の関係についても)が
気になるところですね。続き待ってます。

   *

 という訳でおはようございます。(はや!)
 いや、これからまた寝ますけど(笑) どうも金・土で生活が乱れると日・月まで引きずっ
てしまいますね(汗) で、生活サイクルを少しずつ戻すわけですが、いちどには戻らない
ので火曜、水曜……と費やしていると、またすぐに金曜が巡ってきます(ループかい:汗)
 では、おやすみなさいませ(汗)
RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

521名無しさん:2007/03/26(月) 14:42:49 ID:xkNyOfX.0
>みやびさん
すみません、>>503>>509は同一人物です、つまりどっちも私ですorz
今までこのスレでは感想しか書いてないのですが、いい加減コテハンにした方がいいのだろうか…。
回線環境のせいでIDが変わりまくりんぐなのです(汗)
かといって皆様のような良いコテハンも考え付かない…ウーンorz

522ドギーマン:2007/03/26(月) 15:33:34 ID:AepyIIHk0
『ケルビン・カルボ手記』
>>120-121>>130>>133-135>>139>>145>>180>>193>>215-216>>247>>262>>282>>350>>410-411

■月▲日
伐木町ブレンティル
古都ブルンネンシュティグの遥か北、ネイブ滝のすぐそばにある小さな町。
この町の周囲では良質の材木が採れることで有名で、弾性に富み、柔らかく加工しやすいのだという。
私達が普段使っている物の一つには必ずこの町で取れた木材が使われているそうだ。
この町に入ってまず目に付いたのが大きな柵である。
入り口に高くそびえる見張り台も設けられたこの柵はカルデン氏が私財を投げ打って建築中の壕なのだそうだ。
彼が言うには近年町の北東の伐木場に木人達が出没し、木の伐採が出来なくなったのだそうだ。
そのために町の女子供は皆古都に非難し、現在彼は町の安全を確保するために要塞を作ろうと思い至ったそうだ。
言われてみればこの町には男ばかりで女も子供も姿が見えず、異様な雰囲気であった。
しかしいくら木人達が伐木場に現れたとしても、それだけでここまでする必要はあるのだろうか。
カルデン氏にその点について尋ねたところ、彼は今は廃墟となったスバイン要塞での戦いの生還者なのだという。
モンスターの大群に攻め込まれて全滅したというあの場所で、彼は何を見たのだろうか。
言われてみれば、町の様子はどことなくかの地に似ているようだった。
彼が言うには、モンスター達は必ず攻めて来る。だから急がなければならないという。
何か彼にしか分からない気配があるのだろうか。
何にせよ町を守りたいという彼の情熱は確かに感じられた。
しかし、そんな彼の思いも決して全ての町の人々に歓迎されているわけではないようだ。
酒場の主人などは店の前のいい景色に突然デカい壁を建てられて迷惑していると怒鳴っていた。
確かに、窓に目を向けても壁しか見えないのでは酒も美味くないだろう。
要塞の完成を静かに見守っている他の町の人も、
モンスターが団結して攻めて来るというカルデン氏の主張を決して信じているわけではないようだった。
カルデン氏の予想が外れてくれればよいのだが、
彼のあまりの熱意に私は心のどこかでそれが真実であって欲しいとも思っていた。

523ドギーマン:2007/03/26(月) 15:42:40 ID:AepyIIHk0
あとがき
ブレンティルのカルデンの話によると、
彼が若い頃にスバイン要塞で戦いがあったようです。
それしか分かりませんでしたが。
スバイン要塞の存在はミステリアスですよね。
Gvの対戦場所にも使われてますし、あのモンスターの叫びも何か関係あるのかもしれません。

524名無しさん:2007/03/27(火) 02:12:47 ID:xkNyOfX.0
>ドギーマンさん
ブレンティルとスバイン要塞にはこんな関係があったのですね。
一度クエストで行った事がありますが、確かに「伐木場」と言いつつトレントばかりだったような。
Gvは知らないもののMAPだけを見てみました。なるほどスバイン要塞は"Ruined Sbain Fortress"というMAPとそっくりですね。
叫びというのも気になる…それを聞くためだけにGvギルドに入ってみ…やめておきますか(笑)

525復讐の女神:2007/03/27(火) 04:18:34 ID:RFjVOdzo0
村長の家の中の一室に、ジェシたち3人は集まっていた。
「さて、そういうことになった。良いな、ジェシ、ボイル」
「ええ、問題ないわ」
「当然ですよ、フェリルさん。私の雄姿をジェシに見せる、絶好の機会なのですから」
肩に触れてきたボイルの手を、ジェシは払い捨てる。
この男は、ここまできてこの調子なのか…。
ジェシはあきれ果てると、ボイルから一歩遠のいた。
「それで、この周辺の地図なのだが…ジェシ、こちらを見ないか。ボイル君も、ジェシをからかってないで集中したまえ」
フェリルは怒気をはらませた声をあげ、二人の注意を自分に向けさせた。
ジェシ、は自分がいつになく集中できていないことに、戸惑った。
今、自分は戦場にいるのだ。なぜ、これほど集中できていないのだ。
戦場での迷いは、死を呼ぶ。いったん考えることを中断し、ジェシはフェリルの説明に耳を傾けた。
「まず、蜘蛛の分布は村の左右両側に広がっている」
先ほど、ほぼ全ての人間から目出してもらった目撃情報を、写し取った村の地図に書き込んでおいた。
フェリルの説明道理、蜘蛛は不自然に村を両端から挟み込んでいる。
「ひどいわね…」
ジェシは経験上、蜘蛛の怖さを十分に理解していた。
蜘蛛は、繁殖能力が非常に高く、吐き出される糸はどんな生き物だろうと絡め取ってしまうのだ。
「まったくだ。蜘蛛の集団など、見るに耐えん」
嫌悪感を隠そうともせず、ボイルは吐き捨てる。
たしかに、蜘蛛の集団に襲われるなどぞっとしない。
「うむ。そして、ここがゴブリンの痕跡が発見された場所であり……ここが、エルフの印を発見した場所だ」
フェリルが地図に、新たに印を書き加えた。
ゴブリンの痕跡は蜘蛛のいる領域に重なっており、エルフの印は、村の入り口から見て裏側、蜘蛛の領域を左右する場所にある。
「なるほど、エルフは非常に強力な魔物だ。さすがの蜘蛛やゴブリンも、避けていると見える」
ボイルの言うとおり、エルフは非常に強力な魔物だ。独自の剣や弓矢を用い、戦闘能力も高い。
エルフの印と言えば、その先へ行くものは生きて帰れないとすら言われ、戦場に行くことの代名詞として使われるくらいなのだ。
「本当に、それだけかしら?」
ボイルの言うことにも一理あると思いながらも、ジェシは納得できないものを、地図に感じていた。
「まったくその通りだ」
ジェシの一言に、ボイルはあっさりと自分の意見を取り下げた。腕を組み何度も頷く姿は、ジェシにはふざけているようにしか見えない。
フェリルもボイルと同じようにジェシの意見に頷いていなければ、ジェシはまた怒り出していただろう。
「ん? あぁ、別にふざけている訳ではないぞ。冒険の経験が一番豊富であるジェシの意見なのだ、尊重するのは当然だろう。それに、
私の出した意見も、単に思いついたことを言ったまで。いわば、あてずっぽうさ」
「いちゃつくのはそれくらいにして、まず何をするかを決めよう。ジェシ、君の意見を聞かせてくれ」

ジェシの出した意見は、現状の確認と、蜘蛛とゴブリンを出来るだけ駆除すること。
ちょうどよく分布が重なっているため、平行して行えるだろう。
問題はエルフなのだが、元々エルフの集落が近くにあったわけではないという事から、こちらに来ている数はかなり少ないと思われる。
それに、エルフの印にもいくつか種類があり、一時的なものから長期にいたる縄張りと、種類が分かれる。これも確認しなくてはならない。
長期の場合は、エルフの数によっては撃退する必要もあるだろう。
一時的なものの場合は、どれくらいの期間いつづける可能性があるか調査して、その間近づかないよう警告すればよい。

「まだ、私達は何も分かっていないわ。私としては、これくらいしか作戦が思いつかない」
少々投げやりにも聞こえるが、冒険者として長年やってきたジェシの、これがいつものスタイルだった。
臆病になってはいけない、しかし大胆になりすぎてもいけない。リラックスできるくらいが、ちょうど良い加減だと、彼女は思っている。
「ジェシの意見に、賛成だ。何をするにしても、まずは自分達の目で情報を確認しなくては、まともな作戦など作れまい」
フェリルはニヤリと笑うと、地図を畳んだ。
「さあ、明日は日が昇ると同時に行動開始だ。忙しくなるぞ」

526復讐の女神:2007/03/27(火) 04:19:15 ID:RFjVOdzo0
鎧の留め金をはずし、ベットのそばにそっと立てかける。鎧油を用いて鎧を磨きあげながら、強度やほころびを確認する。弓の弦をはず
すと、矢筒を取り出して鏃の点検をすませる。槍の刃を研ぎ、切れ味が鈍っていないか確認する。指輪を一つずつはずしては、ひび割れ
ていないか、他の指輪にするべきかを思考しながらしまう。
鎧下のまま行う作業は、見慣れぬものにとって多少変に映るかもしれないが、冒険者にとっては日常なのである。
これらの点検を、ジェシは毎晩かかさずに行ってきた。故に、いまの命があることを承知している。
すっかり装備をはずし終わり、ジェシは身軽になった体をベットに横たえた。
ここ最近、ずっと一人で旅をしてきたため、誰かと一緒に行動した今日は妙に疲れていたのだ。
知らず知らずのうちに出る嘆息は、ランプの光に照らされる部屋の中にすぐに溶け込んでいく。
村長の家と言えども、部屋の数は限られている。
ジェシは気にしないと言ったのだが、ボイルが頑なに一緒の部屋であることを拒み、都合、彼らはこの部屋より小さな部屋の中に2人で
寝る羽目になった。
「私がジェシと一緒の部屋で寝てしまうと、ボイル君が安心できまい」
いたずら顔でフェリルは言い放っていたが、これも気遣いだとジェシはもちろん気づいている。
戦いの場に赴くたびに、私は女性であるからというだけで特別な待遇を受けてきた。
戦場に立たせてもらえないこともあったし、夜に私を犯そうとしてきた輩もいた。
それが嫌で一人旅をしていたのだが、おかしなことになったものだと、ジェシは笑みを浮かべる。
胸元を飾るペンダントを手に取り、そっと中を確認すると、ぼんやりと男の名前が彫ってあるのが確認できる。
「………」
唇が意味のある動きをするが、声は出てこない。
昔の思い出であり、まだ鮮明に思い出せる後姿。
ペンダントを閉じてぎゅっと握り締めると、体を丸めて小さくなるようにジェシは眠った。

予定道理朝日が出る前に、ジェシたちは行動を開始した。
まず村の左側から確認することにし、あまり足音を大きくしないよう注意しながら進む。
「おじ様の探知能力が、頼りだものね」
見ると、フェリルの姿は既に天使のそれになっており、背中からは雄雄しくも痛々しい羽が広がっていた。
フェリルによると、羽自体には痛覚は無く、折れて欠けているという事が重要なのだと言う。
「昔は、この能力は対ジェシ専用だったのだがね」
フェリルの頭の上からは、数秒間隔で白いもやのようなものが出ては広がって消えていく。
ジェシも最近になって知ったことなのだが、このもやが間隔のバイパスとなり、たとえ姿を消していようとも気配を察知するのだ。
たとえ姿を消していようとも、この超感覚からは逃れられない。
ただし、欠点として、気配のみで察知しているため、それが何なのか、誰なのかまではわからないそうだ。
「どうですかな、フェリル司祭」
一人、宙に浮いているボイルは、あくびをかみ殺していた。
宙に浮くなんて、足場が不安定になり行動しづらいだけだと思うのだが、ボイルいわく。
「このほうが、集中できるのだよ。それに、別に足場も不安定と言うわけではないのさ」

527復讐の女神:2007/03/27(火) 04:20:20 ID:RFjVOdzo0
地面から自分の存在する座標軸を云々と、魔術師らしい薀蓄をたれていたが、あいにく私には理解できそうも無かった。
実際、宙に浮いているにもかかわらず、ボイルの足取りはしっかりしており、まさに宙を歩いている。
「蜘蛛の分布は、意外と広くは無いようだな。離れた集団も見当たらないところをみると、コボルトは群れで来たわけではなさそうだ」
「そう、それは朗報ね」
コボルトは、頭が弱く攻撃能力もそれほど高くは無いのだが、武器を使うモンスターであり、集団で行動するので十分に脅威なのだ。
「離れた集団がいない…か。フェリル司祭、あなたの探知能力の広さはどれくらいですかな?」
難しそうな顔をして森の中を睨みながら、ボイルはフェリルに質問をした。
フェリル本人には分かっても、他人にはわからない情報なため、できるだけ多くのことを事前に知っておかなければいけない。
「そうだな…ふむ、ここは村の端だが、村の中央くらいまでの半径はあると思ってくれ」
ジェシたちは今、村と山を分ける境目として使っている畑の端にいるため、正確な表現ではないのだが、村の中心からここまで、歩いた感覚では100m前後であった。
なるほど、かなり広範囲であるとみえる。
「それだけあれば、この山の向こう側までは範囲内ですな。なるほど、便利な能力ですな」
フェリルの感覚を頼りに、モンスターに遭遇しないように山の中に入っていくが、奥の山にはモンスターの気配はないということだった。
反対側の山も調べに入ったが、結果は先ほどと不自然なくらいに同じであった。
そもそも、山には熊やリーチなどの動物も存在するのが普通で、そういった動物も探知してしまうフェリルの超感覚なのだが、その反応すらないということは、どういうことだろうか。
「エルフが来たことで、逃げたのではないかしら?」
動物は、危機感知能力とでもいうべき感覚をもっているので、ここは危険だと直感的に悟ると逃げてしまうことが多い。
「いや、それにしては異常だ。本当に、一匹も引っかからん」
確かに、それでも全ての動物がいなくなるということは、ありえない。動物の中には、攻撃的なものもいるのだ。
「結論を出すには、早すぎるよジェシ。フェリル司祭、問題のエルフについて調べてみましょう」
日はとっくに上がっており、ジェシやボイルでも視線で不自然な点を調べることが出来るようになっている。
万が一などないだろうが、エルフには姿を消す能力を持つものもいるため、油断はできない。
「そうだな…む、待ちたまえ。何か、移動する生き物が現れた。エルフかもしれん」
緊張が顔に表れるフェリルの睨みつける方向にむけ、ジェシは弓を構えた。
エルフの印のあった方向だ、可能性は高いと見える。
「すぐにこちらに向かってくる様子ではないな。ふむ、効率よく生き物を見て周っているようだ」
フェリルの感覚には、エルフと思われる気配が、蜘蛛と思われる気配を順に見て周っているように感じられた。
「どういう、こと? ううん、あまりぐずぐずしている暇はなさそうね。どのみち、こちらに近づいてきているのでしょう?」
「同感だ、この場から一刻も早く逃げよう」
3人同時に、腰に下げておいた巻物を手に取り、紐を解いた。
次の瞬間には、その場から3人の姿は消えていた。

528名無しさん:2007/03/27(火) 13:25:07 ID:xkNyOfX.0
>復讐の女神さん
村人たちに依頼されてモンスター退治というストーリーが好きです。
しかし、何か正体不明のモンスターがいて様子を伺っている、そんな恐ろしい感じがします。ホラー小説みたいな…。
RSはそういえば、エルフが普通のモンスターとして扱われていますよね。他の話では比較的人間派(?)な立場なのに。
このへんにも理由があるように思えて仕方ありません。
天使のディティクはシーフの足音探知よりも広い範囲を探知できるそうですね。
スキルが上手く小説の内容に乗せられているのが面白い。続きお待ちしていますね。

529みやび:2007/03/27(火) 18:09:10 ID:yvRP3PPY0
 ●『赤い絆(一)』>>424>>436 ●『赤い絆(二)』>>477>>483
_____________________________________
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[1/4P]

 見渡す限り、干乾びた大地がどこまでも続いているだけだった。
 なにひとつ目標物はなく、方向を定めることもできないままに、ふたりはひたすら地平線
の彼方を目指した。

 男が言った。
「なあ……さっきの話しだが――本当なんだろうな?」
 隣を歩いている女は答えなかった。
「ふん。だんまりかよ。まあいい……嘘だったらお前の喉を切り裂いてやるからな」
 ふたりは一メートルほどの距離を保ったまま歩き続けた。
「本当よ……」女はぼそりとつぶやいた。「槍兵になる前は商船の護衛をしていたの。その
とき船員に、星を見て方角を確かめる方法を教わったのよ……」
「やめてくれ――船だなんて!」男は大地を蹴った。「くそっ。海水でもいいから桶いっぱい
飲みたいぜ」
「海水よ……死にたいの?」
「もう我慢ならん。喉が焼けそうなんだ……この乾きが消えるなら死んだっていい」
 そう言われると、女も確かにそう思うのだった。
「……そうね」
 それからまたふたりは黙り込み、長いこと歩いた。
 やがて女が言った。
「ねえ、あたしたち――なぜ戦っていたのかしら……」
「なんだ。暑さで頭でもやられたか?」
「茶化さないでよ……」
「わかりきってるだろ、そんなこと……。俺たちは傭兵なんだぜ? 互いに敵対する勢力に
雇われた――それだけさ」
 女は男の返答に苛立ちを覚えたが、疲れきっていて感情を表に出すことはできなかった。
「そうじゃなくて……いったい何の意味があったのかってことよ」
「仕事分の報酬を貰う意味はあったさ」
「そのあげくにこの仕打ち?」
「ああ。そうだな……ひでえ話しだ」
 ふたりが歩き始めてどのくらい経っただろうか――だが頭上のギラついた太陽はいやらし
く腰を据え、いつまでも位置を変えようとしなかった。
 彼らがいる場所はガディウス砂漠のどこかだ。方角さえわかれば、街か集落に辿りつく
のはそう難しいことではなかった。しかしそれは砂漠に住み付く者か、あるいは地図やコン
パスを持つ者だけに与えられた特権だ。
「くそう、もうだめだ――」
 そう言うと男は座り込んだ。
 女はそれを無視して歩いたが、少し進んだところで立ち止まると、男を振り返った。
 男は大地に仰向けになり、ピクリとも動かなかった。
 女は腰に手を当ててうつむき、肩をすくめると、男の元に引き返した。
「なぜ戻ってきた」男は目を閉じていたが、女の気配を感じて言った。
「だって……」
 女は男のかたわらに座り込んだ。
「ねえ、やっぱりあたしたち……もう助からないのかしら……」
「あそこで皆と一緒に死んでたほうがマシだったかもな」
 彼らがいた部隊――そして部隊を雇っていたふたつの勢力は共倒れに終った。生き残っ
たのは彼らふたりきりだった。

530みやび:2007/03/27(火) 18:09:59 ID:yvRP3PPY0
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[2/4P]

 女は天を見上げた。
 照りつける太陽が容赦なく熱を放出していた。
 もう汗さえ出ない――出るには出るのだが、空気に触れた瞬間には蒸発してしまう。
 あと数時間もすれば、彼らのどちらかは脱水症状で歩けなくなるだろう。ふたり一緒かも
しれない。だがどちらにしても、助かる見込みはわずかだ――もし夜まで生き延びることが
できたとして、夜空に星が見えなければ、だ。
「星は……見えるかな」
 男はつぶやいたが、女は答えを躊躇した。
 その代わりに切り出した。
「……この砂漠にはね、悪魔がいるのよ」
 男は緩慢な動作で寝返りをうち、女の方に体を向けた。
「突然どうしたんだよ……それとも“おとぎばなし”でもしてくれるのか?」
 女はかまわずに続けた。
「前にね……いちどだけ評議会の文献を目にする機会があったの」
「へっ、すげえや。よく潜り込めたな……」
「ううん。たまたまなのよ。偶然ある男と知り合ってね……その男は評議会に席を置く貴族
のひとりだった――スタイナーという男よ」
 聞いたことないな、と彼。
「そう……とにかく、そいつの屋敷で文献を見つけたの」
「それで……何が書いてあった?」
 女はもういちど太陽を見上げ、それから男の隣に体を横たえた。
「まるで読めなかったわ――古代の文字なんて習ってないもの」
 ふたりは力なく笑った。
 笑いがおさまると、女は続けた。
「でも――あるページだけは読めたの。あとから付け足されたように見えたわ……おそらく
文献中の、重要な部分だけを抜き出して翻訳したものね」
 男はまるで恋人にするように、女を促した。
「レッド・ストーンのことはもちろん知っているわよね。その文献によると、悪魔は石の誕生
とともにこの世に姿を現したの」
「ああ――そういえば聞いたことがあるな……。なんでもネクロマンサーとかいう化け物が、
悪魔の仮の姿だって話しだ。たしか……ハノブにある廃棄された望楼の地下に、そんな名
の怪物がいるって噂もあったな――行ったことは?」
 女は首を振った。
「でも文献にはそのことも書かれていたわ……。記述では、ネクロマンサーというのは悪魔
から派生した亜種らしいの――いいえ、悪魔から枝別れしたのは確かだけれど、種として
の成功を勝ち得なかった不具の生命体ね」
 男は嘲笑した。
「出来損ないって訳か……まるで俺みたいだな」
「自然界では普通のことよ……。絶滅してしまった多くの種は、枝葉をたどれば別な生き物
から派生してきた亜種だもの。そうやって生き物は、種を残すために可能性を探るのよ」
 男は舌打ちした。
「俺は神様なんて信じないが――目に見えない運命ってやつはたしかに存在すると思って
いる。聖書や伝説を綴った本のなかには、そうした事実の一部が記録されている――とね」

531みやび:2007/03/27(火) 18:10:54 ID:yvRP3PPY0
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[3/4P]

 男は両手を顔の上にかざして陽光を遮った。
「だがどの書物でも、神様ってやつは戒律を犯した勝者を救いはするが、欲に目が眩んだ
負け犬にメシヤはお遣わしにならないぜ? もちろん“そいつ”が本当に神様だとは思っちゃ
いないが――少なくとも、運命のレールをせっせと敷いている鼻持ちならない連中の存在
は感じるね。……たとえそいつらにお茶に招待されることがあっても、俺はネクロマンサー
の家の戸をノックするだろうな」
「それは、あたしもそうだと思うわ……。でもあたしが言っているのは悪魔のほうよ。あなた、
悪魔については?」
「さっき言った通りさ。それ以上のことはあまり知らんな。その文献になにか書いてあったん
だろう?」
 女は沈黙し、唇を噛んだ。
 そして意を決したように、口を開いた。
「悪魔っていうのはね……どうやら“死人使い”らしいの」
「“しびとつかい”……?」
「ええ。だからあたし、驚いたのよ。彼ら悪魔は人間にとって最悪の存在として伝わってい
るけれど、本当はそうじゃなかったの」
「どういうことだ?」
「やつらが糧にするのは、文字通り屍だけよ。墓を暴いて、そこに眠っている遺骨に血と肉
を与え、生前とそっくりの記憶を――あるいは別な記憶を与え、復活させるの。もちろん蘇っ
た人間は、自分がいちど死んだことには気付かないの……その部分の記憶については抜
き取られているから――。彼ら悪魔は、そうやって墓々をまわり、死者を復活させてひとつ
の集落を形成するの」

 “亡者の街”――

 そんなフレーズを思い浮かべ、男はぞっとした。
 女はさらに言った。
「――そして彼ら悪魔たちは、その集落で暮らす人々から僅かな精神エネルギーを吸って
糧にしているの。つまりは人間の家畜化ね――たとえ元は屍だとしても……」
 しばらく沈黙が続き、最初に男が言った。
「だがわからんな……。その話しが本当なら、悪魔ってのは俺たち人間よりも弱く、ときに
は悲しい存在にも思えるぜ。まるで人間やほかの生き物たちを狩る力がないばかりに、屍
を――要するに俺たち人間の“おこぼれ”をすすって生きているみたいじゃないか」
 女は目を閉じた。
「あたしね。ブレンティルの田舎で育ったの……」
「うん? また別の話しか?」
「でもね……どうしても思い出せないのよ。そんなに大昔のことでもないのに……隣に住ん
でいた人……仲の良かった友達……好きだったあの子……そして、それから……父や母
の顔さえ――」
 男が女の口を塞いだ。女の顔に覆い被さり、自分の唇を女の乾いた唇に重ねた。
 ふたりは長いことそうしていた。
 男は女から離れると、また大の字になって空を仰いだ。
「なにか感じたか? 俺は感じたぜ――俺たちはこうして生きているし、傷を負えば痛みも
感じる。馬鹿な考えは捨てるんだな。こっちまでおかしくなりそうだ」
 だが、女は泣いていた。汗はすぐにでも大気中に消えてしまうのに、不思議と涙だけは
彼女の頬に足跡を残して流れた。
「その文献にはね……こうも書かれていたの」

532みやび:2007/03/27(火) 18:11:43 ID:yvRP3PPY0
◇――『赤い絆 (三)』―――――――――――――――――Red stone novel[4/4P]

 男はやめろと言ったが、女は続けた。
「人間の屍には生前の記憶が残るの。一本の髪の毛に……一片の血肉に――でも、時間
とともにそれらは崩れ、そこに宿っている記憶も薄れるのよ。亡者を復活させた悪魔たちは、
蘇った者たちが疑念を抱かないように記憶の穴を埋め、つじつまを合わせ、とりつくろう。…
…でもそれだって完璧ではないの。なかには記憶の矛盾や喪失に気付き、自分の存在に
疑問を抱く者も出てくるのよ。ねえ、あなた……あなたは覚えている? なにもかも……?」
 返事がないので女は男のほうを見た。
 男はそこにじっとしていたが、その足は先から砂のように崩れ始めていた――。
「ちくしょう……思い出したよ――自分の記憶があやふななことを……」
 女は男にとりすがった。
「ああっ――ごめんなさい! 嘘よ……なにもかもあたしの作り話なの! だから……お願
いだから行かないで……!!」
 女は男に口づけした。
 重なり合った男と女は、砂浜に作られた砂の城のように、風に運ばれて消え去った。

 やがて彼らが横たわっていた場所に、少女が現れた。なにもない空間から、ひょっこりと
生まれ落ちたみたいに。
「やっぱり古い素材はだめね。記憶も定着しないし……」少女はこぼした。
 それから大きく息をして、「まあ、少しはお腹の足しになったけれど」と、辺りを見回した。
「それにしても、本当に何もないところね……」
 十ほどに見える少女は真っ白い肌をしていた。一枚の薄い絹で出来た衣装を通して、そ
のみずみずしさがはっきりとわかる。職人の手が創りだす彫刻みたいに端正な顔には、澄
んだ灰色の目と小さな桜色の唇――そして無垢な微笑みが貼りついていた。その背中に
翼でも生えていれば、天使に見紛うばかりの美しさをたたえていた。
「さてと……長いこと眠っていたから、お腹がぺこぺこだわ」
 小さな白い悪魔は歩き始めた。
 疲れることも、死をも知らない足取りで。

 彼女が目指す方角の遥か彼方には古都がそびえていた。






◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

533みやび:2007/03/27(火) 18:12:36 ID:yvRP3PPY0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『赤い絆 (三)』

 ――あとがき――

 今回は新しい登場人物です。悪魔なんですが、公式とはかなり異なる味付けにしていま
す。ネクロに関しては、悪魔の影として同じ幹から派生したものの、最終的には進化に失
敗した“かたわ”の存在として設定し、それを高台望楼のネクロとしました。
 と――今回はほかの面子が登場していませんが、エレノア、マリア、ミゲル老人はもちろ
んレギュラー枠ですので、今後もちゃんと出てきます(笑)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

534みやび:2007/03/27(火) 18:13:23 ID:yvRP3PPY0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

>521さん
 そうでしたか。こちらこそ気を使わせてしまいました(汗)
 『必殺感想人』なんてハンドルはだめですか?(ごめんなさい嘘です)
 いっそ作品を書いてしまいましょう。うんうん。それがいちばん!
 うふふ。楽しみだな〜♪ とメリルみたいな口調で言っておきます(笑)

>ドギーマンさん
 スバインとの絡みは面白いですね。
 そういえばあそこには監獄という名のMAPもありまたが――ちがったかな? いずれにし
ても「牢屋」ではあったはず。MAPの造りと、要塞に居座っているモンス(鷲とアーチャー、
あと爺でしたっけ?)も含め、なにかしらつながりを含む意味があるのかも……。
 ろころでリアルRSの話しで言えば、適正の頃はスバインに篭ってました。あの雰囲気が
とても好きで、なぜか落ちつくの(笑) 普段はBGMを切っているんですが、あそこに篭って
いるときは人も来ないし、大して重くならないからBGMはONにして狩ってました。

>復讐の女神さん
 まだ読めてません(汗) 他の方の長編のほうを読書中です。
 どんくさいなあ自分……。
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

535名無しさん:2007/03/28(水) 01:14:17 ID:xkNyOfX.0
>みやびさん
なるほど、この"白い少女たち"というのがミゲル老が出会った少女たちでありマリアなのですね。
こうして外伝のような違う話同士が頭で繋がると嬉しいです(笑) 単体で読んでも問題無い内容ですしね。
職業としてのネクロマンサーとモンスターとしてのネクロマンサー、確かに完璧に別種とは言い切れないのでしょうね。
そしてその根幹には"悪魔"という存在が繋がっている。なかなか考えさせられました。

感想文で既に拙い文章なので小説を書き出したらどうなる事やら(汗)
それでなくても皆さんの小説レベルは高いというのに…orz
何か良いものが書けるように精進します(笑)

536318:2007/03/28(水) 13:25:11 ID:kohE0f8U0
>>486
教えてくださってありがとうございます。
21R氏は作品が多く、探すのが大変だと思っていたので助かりました。
21R氏のまとめサイトがあるのであれば、まとめずともwikiからリンク
すればいいかも…?

時期が時期でRSもなかなかできなくて寂しいです。
皆様の小説を楽しみにしていますので、創作頑張ってください。

537名無しさん:2007/03/28(水) 14:15:08 ID:wce37qy60
こんな末期ゲーやってないで完美やろうぜ
http://perfect-w.jp/?rk=01001rgk001lr2
http://kanbisekai.wikiwiki.jp/
http://jbbs.livedoor.jp/game/34383/

538みやび:2007/03/28(水) 18:05:03 ID:OXKobASg0
 ●『それゆけメリルちゃん! (一)』>>504>>507
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[1/4P]

 窓からさしこむ心地良い日の光に照らされ、メリルはキッチンのテーブルでオート・ミール
を頬張っていた――いや、正確にはスプーンを口に運んだ瞬間、睡魔に襲われてそのま
まの格好で寝てしまったのだ。
「むにゃ……おかね……」
 などと寝ごとを言っていると、いきなり玄関の戸が開いた。
「おーい、今帰ったぞー」
「かえったぞー」
「たぞー」
 最初に言ったのは巨大な剣をかついだ剣士だった。
 次に言ったのは玩具の剣をかついだ子供剣士。
 次のはその弟だった。
 もっとも子供剣士は全部で一ダースほどもいて、口々に父親の台詞を真似たが、書くの
が面倒なので割愛する。
「お。なんだ母さん、寝てるのか」
 剣士はメリルの背中をバンバンと叩いた。
「うえ!? ななな、なになに!? 火事!? 地震!?」
 叩き起こされたメリルは辺りをきょろきょろ見回した。そして目の前の剣士と、家の中を引っ
掻き回している子供サイズの剣士を見た。
「えっ――」
 彼女は言葉を失った。
「おい、大丈夫か? それよりメシだメシ!」
 そう言いながら剣士はがははは、と豪快に笑った。
 子供剣士も口々に「かーちゃんめしー」とハミングした。
「え――と。あーはいはい、ご飯ね」(……そういやあたし、結婚したんだっけ……)
 なにか腑に落ちないものを感じつつも、メリルは亭主と子供たちの昼食を作るためにキッ
チンに向か――おうとしたのだが、行く手に山積みになった(もちろん泥だらけの)子供たち
の衣装が目に止まった。
 振り向くと一ダースのガキンチョは全裸で走り回っていた。
「こらあーっ! もうあんたたちは!」
「おおーい母さん、メシは?」と剣士。
「今それどころじゃありません! 少しくらい待ってなさい!」
 亭主にそう言うと、メリルは逃げ回る子供たちを捕獲して歩いた。
「わあー妖怪鬼婆だぁ」「にげろー食われるぞー」などと言いつつキャイキャイはしゃぐ子供
たち。
「誰が鬼婆だ誰がっ!」メリルは子供達を両脇に抱えると、そのまま風呂場に持って行って
湯船に放りこんだ。
「ちょ、オレ泳げないよー」「うぎゃーオレもー」
「ちょうどいいじゃない。水泳の練習でもしなさい!」そう言い放ち、メリルは風呂場の戸を
ピシャリと閉めた。
「はぁ〜……」どっと疲れが出た。まだ二十歳にもなっていないというのに、まるでいっきに
中年にでもなった気分だ。
 しかし主婦としての仕事を怠るわけにもゆかず、子供たちが放り出した玩具の剣を拾い集
め、それを仕舞うとキッチンに向かった。
 巨大な鍋で大量の食事を作っていると、またしてもけたたましい音をたてて玄関の戸が開
いた。

539みやび:2007/03/28(水) 18:05:56 ID:OXKobASg0
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[2/4P]

「おい、メリル! メシはまだか? すまんが急ぎなんだ!」
「急ぎなんだ」
「なんだ」
 入ってきたのはシーフだった。
 もちろん剣士のときと同様、そのあとには子供サイズのシーフが一ダース……。
「よ。お前か。追われてるのか? 今度はなにやらかしたんだ?」
 テーブルで食事を待ちながら缶ビールを飲んでいた剣士が言った。
「ああ。ちょいとリンケンの宝石店を襲ったんだが……傭兵ギルドがしつこくてな」
 シーフがテーブルに着くと、剣士はコップを出してきてビールを注ぎ、それをシーフに振る
舞った。
「ふむ。手伝いが必要か?」
 シーフはぐい、とビールをあおった。
「いや。相手は一個師団程度だ、なんとかなるだろう」
「そうか。やばくなったらいつでも言ってくれよ」
「ありがとよ――ところでメシはまだか?」
「ああ、今俺たちのハニーが作ってるところだ」
「そうか――」シーフはキッチンに視線をやった。「メリル、すまんが急いでくれ。もたもたし
てると敵の団体さんがやってきちまう」
「子供たちはどうするんだ? 後学のために連れて行くか?」
 剣士がそうシーフに聞くと、メリルはキッチンから怒鳴った。
「なに馬鹿なこと言ってるの! 子供たちはだめよ! 怪我したらどうする――」と、そこま
で言ったところで部屋の隅に山積みにされた子供シーフたちの衣装が目に止まった。
 一ダースの子供シーフたちは裸できゃっきゃと走り回っていた。
「わーなんだようかーちゃん」「やめれー」と泣き叫ぶガキンチョシーフを両脇に抱え、メリル
はそれらを湯船にたたきこんだ。
「わ! おい満員だって!」「このっ……誰の足……うぶっ」
 二ダースの子供たちを飲みこんだ湯船はパニック状態だった。

(まったく……なんだってあたし、結婚なんてしたんだろう)

 そう思いつつも、なぜか使命感に燃えながらキッチンに直行した。
 ちなみにメリルには他にも天使とウィーザードの亭主がおり、それぞれにやはり一ダース
ずつの子天使と子ウィザードをもうけていた。
(やばい。急がなきゃ……この状態であとふたりの旦那が帰ってきたら手が回らないわ!)
 メリルは電光石火の早業で昼食の支度を続けた。
 と――。

『あーあー。テステス……おい、これちゃんと電源入ってるのか?』
『入ってますよ隊長。あなたが難聴なだけです』
『そうか……うむ』

 などと、家の外から拡声機の音声が聞こえてきた。
「ちっ……追いつかれたか」シーフはそう言って窓に駆け寄った。

『おーい。きみたちは完全に包囲されている……おとなしく武器を捨てて投降したまえ。き
みたちの母親は泣いているぞー』

540みやび:2007/03/28(水) 18:07:17 ID:OXKobASg0
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[3/4P]

「はん。あいにくだがオレのお袋は先月笑い過ぎで死んだぜ!」
 窓から顔を出し、シーフが叫んだ。
 その瞬間、数百もの矢がシーフ目掛けて飛んできた。
「のわッ!?」
 間一髪シーフは矢をかわしたが、代わりに室内の壁や床がそれらを受けとめた。

(いやーん! 先週リフォームしたばかりなのに!!)

 ボロボロになった室内を見てメリルは腰を抜かした。
「このっ――投降勧めといて撃ってんじゃねーよ!」
 シーフが外に向かって叫ぶ。

『あー、いやすまん。手違いだ。……あれ? ……おーい、聞こえてるかあー? 本当に手
違いなんだー。もしもーし……』

「やっぱり手伝おうか?」
 テーブルで二本目のビールを飲みながら剣士は言った。
「むう……」シーフは唸った。

 すると今度は外のほうが騒がしくなった。

『なっ、隊長――本気ですか!? あいつらはまだテスト段階で、制御できませんよ!?』
『いいじゃないか……このところ地味な仕事しかしてないんだ……少しくらい目立つことした
いもん!』
『いい歳したハゲオヤジが「もん!」なんてやめてくださいよ! てかちょ――まじで使うん
ですか!?』

「なんだ……?」
 そのやり取りを聞き、シーフはそっと窓から顔を出した。
 家を取り囲む傭兵の一団の後方に、巨大な檻に入れられた大量のモンスターがいた。
 ざっと見ただけでもパブル鉱山やスウェブタワー、モリネルに巣くっている高レベルのモン
スたちが確認できた。
 シーフは叫んだ。
「おい、こりゃまずいぞ! あいつらMPKする気だ!」
「なに!? マナーの悪い連中だな!」剣士は憤慨した。
 メリルは砕けた腰で床を這っていた。
「ちょっと――どどっどうするの!? まだ死にたくないよー。ね、逃げよう!」
「ふん。騎士道精神にはな、敵に背中を向けるなんて言葉はないんだぜ」剣士はビールを
飲み干すと立ちあがった。
「ま。盗賊にもそれなりに気概ってもんがあるしな……」シーフも剣士の隣に立った。

(ああ……だめだこりゃ――)

541みやび:2007/03/28(水) 18:08:43 ID:OXKobASg0
◇――『それゆけメリルちゃん! (二)』――――――――――Red stone novel[4/4P]

 メリルはせめて子供たちだけでもと、風呂場に向かった。
 そのときだった――
 家外に目も眩む閃光が走ったかと思うと、一帯は大地震のような揺れに包まれた。
 そして聞くもおぞましいモンスターたちの呻き声――。

「ちっ――もう来やがったか!」
「いくか、相棒!」
「ちょっと、あんたたち――!」
 メリルの制止を無視し、剣士とシーフは外に飛び出した。


   *


「う〜ん……う〜ん……」
 テーブルに突っ伏して、メリルは夢にうなされていた。

『プクプクプク……』
 ああ。いったいどんな恐ろしい夢を見ているんだろう……。
 そう思い、おろおろするスウェルファーなのだった。





◇―――――――――――――――――――――――――Red stone novel[−Fin−]

542みやび:2007/03/28(水) 18:09:48 ID:OXKobASg0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Postscript
※本編中の誤字・脱字は脳内変換をお願いします。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      『それゆけメリルちゃん! (二)』

 ――あとがき――

 息抜きシリーズその二です。
 前回に増して筆が走っているのはご愛嬌ということで……(笑)

 『全職と結婚してそれぞれ一ダースの子をもうけたメリル』というのが浮んだとき、すべての
亭主を登場させる気満々だったのですが……テンポが崩れそうだったので端折りました。
 夢オチなので、あまり引っ張るのもくどいだけですし(汗)

Red stone novel−Postscript――――――――――――――――――――――――◇

543みやび:2007/03/28(水) 18:10:43 ID:OXKobASg0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

>535さん
 そういうふうに言ってもらえると、書き手としては冥利につきます。
 元々は短編執筆がメインだったというのもありますが、単体で読めるように――というのは
いつも目指してます。ただ「連作」という意識が邪魔をして、完全な読み切りに比べると個々
の話しは中途半端になりがちですが……(汗)
 書いてくれるのですか。楽しみにしてます!

>536さん
 そういえばご挨拶が遅くなりましたね(汗) Wikiのまとめ発見しました。(今頃……)
 作業、お疲れ様です。
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

544名無しさん:2007/03/28(水) 18:11:35 ID:ySeS01zM0
,.イ´| ̄`ヽr<´ ̄  ̄`ヾ´ ̄ `ヽx''´ ̄「`丶、
       / _|ノ   ├〈,.-―     ;. _  ,ゞ--'、:\___lヽ.
       ,':∨::\  /´ ̄  ̄`ヽ ヽ/´  `ヽ、-.、 \::::::::::',
 見 違  |、_;/ /  /´   ,.     、  、  \. \ \―|   同
 .え. う  ’、  /  /  ,.  / / ,ハ ',.  ヽヽヽヽ  \ヾ/   じ
 .る 板   \_/:/:/:./ , / .,' / // | l | , l: | ', ',. ! l  :',!|     板
 不 に      |/:/::/:/:/:! l | { /|:!  l l } !ノ|::,!l | :| |::|:::::::|ノ     に
 思. コ      |:/l/:/:::,|::|:{イ⌒lヾゝ ノノイ⌒lヽ|:::!::}:;!::l::::::/      コ
 議. ピ     |::/|/l::/l';:{ヾlー''!     lー''!/リノノ/::/:l::/     ピ
 な. ペ       || |:/リ、|::l;ゞ ̄´´  ,.  ` ̄" ハ:lリノノノ'        ペ
 キ す       リ |' __,⊥!、 " " r===、 " " /ノノ  ||         す
 チ る     '/´\:: : \   ヽーノ  /`ーァ-、 ヾ、.      る
 ガ と    _ /     li : . ',.`ヽ、 _ ,.イ´ /.ノ::l|  ヽ \____.  と
 イ .お /'/       |l   ヽ `Y´ / './ . :l|   |、 /  /. そ
 子. っ \l      |l,   \\_!_/ ‐ ´   、!|   | |\ ̄´   の
 コ ぱ   |      /; ´     ` ‐  ,     ヽヾ   ! \|     ま
 ピ い    |    /       ヽ::/      `ヽ |        ま
 ペ が.   |     ,'        `         ', !      だ
  ゜ .ポ.   |   |::: *             *  .:| .|       け
    ロ    |   '、:::.:.. .     ―       . .:.:::,' !       ど
    リ    ',.     \_:::.: : :_二二二:_: : : : .:.:.:.:::/ ,'        `
    と    ':、   ト、 ̄ ´.:.:.::::::::::.:.:.:.` ―┬ '′ /
          \  |l ヽ            l|  /
.             `/,'  ヽ \         ',/
            ∧ヽ   \ \:.:.:..    ∧

545名無しさん:2007/03/28(水) 18:39:59 ID:xkNyOfX.0
>みやびさん
またまた面白かったです!
登場しているだけでも4人の旦那にそれぞれ1ダースの子供。総勢52人+1人の超大家族ですね(笑)
これはメリルちゃんでも一人では流石に大変だ…ましてやシーフが旦那じゃ毎日が逃げ隠れ生活でしょうね(笑)
メリルちゃん、子作りもほどほどに…あ、夢でしたか…w

小説は…善処しますorz

546みやび:2007/03/29(木) 21:15:54 ID:rWQQIeuk0
>携帯物書き屋さん
 やっと最新分まで完読しました。(それにしても遅い……)
 とても面白かったです。
 あとがきでは再三、内容がRSに関係ない――というのを気になさっていますが、必要に
して充分なRS小説だと思いますよ。サイドストーリーのチョコ話しも、ちゃんと伏線が張られ
ていましたし。(ちなみにバレンタインは女の子にとっても「戦場」ですよ(笑))
 あるSF作家の言葉を借りると、小説が物語として成立する定義というのは『彼、または彼
女――あるいは“それ”――が、直面している問題をいかにして解決するか』というその過
程が描かれていることだそうです。
 もっともその作家にしてみれば、しかるに主人公が人間である必要さえないSFやFTといっ
たジャンルこそが、純文学やほかのあらゆる形態の小説には決して真似のできない、真の
物語を構築できる優れたジャンルである――と、文壇からバッシングを受けた際に武器とし
て投げかけた台詞なのですが。
 話しが逸れてしまいました。『孤高の軌跡』はしっかりと人物が描かれていますし、展開
も手馴れていて、読者としては続きを読むのが楽しみになりますね。
 個人的にはやはり、ニーナや翔太をさしおいてエミリーの行く末が心配な私です(笑)
 ちょっぴりリディアの活躍も期待……。(どうやって活躍するかは謎ですが、妄想の中で
はすでに翔太・ニーナと三角関係だし(笑))
 この続きも待ち遠しいです。ぜひお願いします。

>545さん
 うーん。ほら、あれですよ。ロマの民は基本的に迫害されているので、子孫繁栄に子作り
は道理なんですよ。RSの文明レベルだと娯楽も少ないだろうし……ってここマジレス部分
じゃなかった!?(笑)
 でもまあ、子剣士とか子シーフとか一ダースいたら、可愛いかもしれません。ちょっと欲し
いです(笑)
 小説頑張ってくださいね!(わくわく)

RED STONE NOVEL−Responce――――――――――――――――――――――◇

547殺人技術:2007/03/29(木) 21:52:21 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル

だいぶ時がたってしまいました、久しぶりだけど書きます。
忙しいので執筆速度遅いけどね……。
まだ覚えてくれている人いるのかなぁ……知らない人は興味あったら3冊目漁ってね。

1−3>>656-658
4−5>>678-679
6−9>>687-690
10−14>>701-705
15-17>>735-737
18-20>>795-797
21-22>>872-873
23-27>>913-917
28-31>>979-982

上記は全て前スレ、(3冊目)のレス番号です

548殺人技術:2007/03/29(木) 21:53:39 ID:E9458iSQ0
ごめんなさい、間違えて上げてしまいました……許してください。

チョキー・ファイル(32)

 「……終わった……か?」
 会場を埋め尽くすひんやりとした霧に乗って、カルスは呟いた
 ぴきぴきと空気が凍結する音と共に、白い帳が会場を包み、周りを確認する事すら困難だった。
 赤マントの少女も切羽詰まった顔で笛を握り締め、幾筋もの氷の槍が集束する中空を睨みつける。
 力無き身の貴族たちやアレクシス議長、商人のチョキーは物言わず、少女の顔に不安がよぎった。
 ファミリアの声が聞こえない、まさか、悪魔にやられたのか? しかし、その悪魔も見えては来ない。
 「終わっただと?」
 会場の空気が、強烈な毒気を孕んで振動し、その場の全員の肌が鳥肌を立てる。
 悪魔の声が、地下界から這い出てきたおぞましき物が、彼らの希望を粉々に打ち砕き、焼き払う。
 濃霧を吹き払いながら2つの何かが、異常な速度で床に落ちると、絨毯を貫通し、人の背2つ分ほど陥没して姿を晒す。
 磨かれた大理石を爆砕した場所には、少女の使役していたファミリアが力なく横たわり、緑の毛をその血液で赤く染めている。
 その体の上に、ぱらぱらと氷の粒が降りかかる。
 白い靄の中、ただ一点だけが、睨むように赤い光りを湛え、熱気が下々の物達を打ち据えた。
 「自分を、焼いたのか……!」
 カルスが口惜しげに唸った刹那、晴れてきた霧から飛来する火球がカルスに突撃し、カルスはすんでの所で防いだが、勢いで床に強かに叩き付けられ、気絶する。
 「ピエンドは獄炎より生まれし悪魔、成人の儀には器に注いだ炎で身体を清めるのだ」

549殺人技術:2007/03/29(木) 21:54:05 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(33)

 霧が水滴となって絨毯を濡らし、床に無様に倒れるカルスを見て、白い身体を熾らせながら、楽しそうな笑みを浮かべた。
 「ウィンディ! スウェルファー!」
 少女が暫し狼狽し、不意に頭を振って気丈に声を張らせると、右手側と左手側から光りと共に、表面を鱗で覆う巨人と、青い滑らかな布を纏う白金の甲冑が現れた。
 「ほう、サマナーか」
 燃える悪魔がそう呟くと、少女が笛で差した方向――ピエンドの心臓めがけて、2つの自然の力は重力を無視した動きで、突進した。
 まばらに残る霧をウィンディが吹き払い、立ち込める熱気をスウェルファーが冷却する。
 ピエンドは自らを包む炎を服でも脱ぎ捨てるかのように消すと、右手と左手を、それぞれ向かってくる召還獣達に合わせた
 左手には不気味に黒光りする液体が現れて、短剣の形を作り、右手には強烈な光を出して轟く稲妻が生まれ、細長い槍を形作る。
 召還獣達もそれを黙って待つ訳もなく、スウェルファーは両手に水を圧縮した鋭い剣を持ち、ウィンディはプラチナの鋭い爪をむき出しに、つむじ風と一体化して音速で悪魔の心臓を鷲掴みにするべく襲いかかる。
 「まず1匹」
 音速で間合いを詰めたウィンディの戦いは、それをさらに上回る速度――光速で終了した。
 白金を雷の槍が貫き、強烈な電撃は召還獣を一撃で葬るのに十分すぎるエネルギーを有していた。
 「いくら風の速さで動こうと、光の速さには勝てない」
 ウィンディの体が中空で分解されて、光の粒になって消えると、スウェルファーがピエンドの背後に回り込み、水の剣をマントの無いむき出しの背中に薙ぎ払う。
 だが、達人レベルの速度で背中に水の剣が食い込むよりも、悪魔が余裕を持って振り返り、左手の短剣で太刀筋を受け流す事のが速いなどと、誰が想像できただろう。
 右手の剣が流され、悪魔に対して両手を広げる格好となったスウェルファーに、左手の剣を振りかぶるより速く動く短剣を避けるなど、出来る筈もない。
 悪魔は瞬時の内に、右手でスウェルファーの頭を下に押し込み、宙返りしながら無防備な首筋を掠め切る。
 「鈍い」
 切り口から清らかな水が噴き出し、スゥエルファーが怯むことなく、回転しながら二つの剣を背後の存在に叩き付ける、しかし今度は受け流される所か、触れられもしなかった。
 今度は下方から、軽快に海を泳ぐ海豚の様に回転しながら、背中を下から上へと一直線に切り裂いた。
 今度は色とりどりの泡があらゆる角度から飛来したが、それらは全て、ピエンドの操る炎の蛇によって、全てむなしく弾けさせられてしまう。
 スウェルファーは奮闘するが、いくら攻撃してもその剣はピエンドをとらえられず、やがてスウェルファーの体が切り傷で一杯になると、ピエンドは不思議なことに、スウェルファーから間合いをとって、左手の短剣を宙に浮かべた。
 最初はピエンドの拳4つ分はあった短剣は、いつのまにかまともに持てないくらいに小さくなり、ピエンドはそれを見て笑い、スウェルファーは訳が分からないとばかりに首を傾げた。
 だが、宙に浮いた短剣が突如、火を上げて燃えた瞬間、その理由は火を見る様に明らかとなった。
 スウェルファーの傷口から、水の満ちる体内でも消える事なき炎が上がり、スウェルファーの血管を縦横無尽に暴れ、焼き尽くす。
 黒光りする、原油の短剣は黒煙を出してピエンドの手の平で消え、スウェルファーも同じ様に黒煙を上げて、最後には灰の雨となって燃え尽きた。
 少女がその一部始終を目に焼き付け、悔しげに喉を鳴らし、もう打つ手が無いと言う様にへたり込んでしまった。

550殺人技術:2007/03/29(木) 21:54:36 ID:E9458iSQ0
チョキー・ファイル(34)

 ……会場は死んだ様に静かになり、事実、そこに居る人々の目は、もう生きては居ない。
 「さて、晩餐とさせてもらおう」
 悪魔はそう言うと、下方で円を作って倒れている屍の群に両手を向け、そっと瞼を閉じると、その両手がまた、禍々しく赤く、輝き始める。
 瞬間、警備員達の亡骸に青い炎が灯り、その抜け殻を焼き尽くすと、美しい七色に輝く光球へと変貌し、それらが悪魔の両手へと吸い込まれる様に浮き上がる。
 収束した光球は悪魔の両手で一つの結晶に変わり、煌然とした光を放つ、悪魔はそれを大口を開けて頬張り、牙でかみ砕いて嚥下した。
 悪魔にとって、それはとても美味で、高尚な食べ物なのだろう、暫し悪魔は体を震わせてそれを味わい、大きく息をついた。
 後には屍は愚か、血液すら残っておらず、まるでそこで人が死んだなど嘘の様だ、しかし死んだ人は戻らず、悪魔の腹で吸収された魂は、二度と救われる事はない、いずれこの悪魔が死んだ時、新たな悪魔として生を授かるのみだ。
 「では、残りの食材も調理するとするか」
 その言葉が人々の耳に入ったその時、人々は死んだ、頼みの綱の傭兵達は戦えず、自らには力がない、外には悪魔のマントが大口を開いて待っており、目の前には空飛ぶ悪魔が、牙をむき出しに笑っている。
 だが――
 「ファウンテ