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穂乃果「雨の日の二人」

1 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 20:38:55 NufjC.3o
穂乃果「真姫ちゃんって、バイオリンは弾けるの?」

穂乃果(ふとそんな質問をしてみたくなったのに、大した理由は無かった。強いて理由をつけるとしたら、雨のせいで部活が休みになり暇だったせいだろうか)

真姫「どうしたのよ、急に」

穂乃果「ううん、ピアノが弾けるんだからバイオリンも弾けるかな、って思って」

真姫「両方楽器だけど、関連性は一切無いわよ」

穂乃果(まあ、と前置きし、真姫ちゃんは灰色に濁った空を窓越しに眺める)

真姫「弾けないことも、ないけど」


2 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 20:44:04 NufjC.3o
穂乃果「作曲も出来てピアノも弾けて、その上バイオリンも弾けるなんて凄いんだね」

真姫「そういうの、いいから」

穂乃果「別におべっか使った訳じゃないよ。素直に凄いなって、思ったから」

真姫「そこは疑ってないわよ。凄いとか、そういうの言わなくたっていいってだけ」

穂乃果(恥ずかしいじゃない、なんて言って。真姫ちゃんは赤くなった耳を隠すように髪を手櫛で梳く)

穂乃果(そんなだからからかいたくなるんだ、なんて言葉は言わないでおいた)

穂乃果「弾いてみてよ、バイオリン」

真姫「嫌よ、弾けるとは言っても子供の頃習って以来だもの」


3 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 20:48:14 NufjC.3o
穂乃果「えぇ、聞きたいよ。真姫ちゃんのバイオリン」

穂乃果(徐々に雨は強くなっていく。風に煽られ銃弾と化した水滴が、容赦なく窓を叩き付ける)

穂乃果(一瞬の光に、遅れて鳴り響いた轟音に真姫ちゃんは一瞬身を竦めた)

真姫「あー、もう。分かったわよ」

穂乃果(渋々、といった風に真姫ちゃんは椅子から立ち上がった)

真姫「音楽室に置いてあるわよね、バイオリン。取ってくるわ」

穂乃果「本当? ありがとう!」

真姫「海未がいたら我が儘を言うなって叱ってくれるのに、もう……」


4 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 20:52:47 NufjC.3o
穂乃果「海未ちゃんかぁ……」

穂乃果「そうだよね、海未ちゃんが居ればきっと私にお説教してくれたよね」

真姫「いない人の事を言ってもしょうがないでしょ。取ってくるから、待ってて」

穂乃果(真姫ちゃんが部室を出ていくと、途端に薄暗いこの教室が何か恐ろしいものに思えてくる)

穂乃果(二人でも広すぎるというのに、一人になると広すぎて広すぎて、嫌になる)

穂乃果「着いていけばよかったかなぁ」

穂乃果(雨脚が強い。空は太陽を忘れてしまったように、灰色と黒に覆われている。びしゃびしゃと、飛沫が飛ぶ音がする)

穂乃果(雨は、嫌いだ)


5 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 20:56:50 NufjC.3o
穂乃果(早く、やんでくれればいいのに)

穂乃果(がらりと引き戸を引く音がして、私はつまらない考えを止める。扉の先では真姫ちゃんが、不機嫌そうな顔で此方を見ていた)

真姫「湿気でやられてるみたい」

穂乃果「本当だ、何だか黴臭いね」

真姫「これじゃあ、まともに音は出ないわよ」

穂乃果「えっと、何だっけ? チューニングって、出来ないの?」

穂乃果(真姫ちゃんはゆるゆると首を振る)

穂乃果「そっか、残念だね」

真姫「そうね、折角取ってきたのに」


6 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:02:53 NufjC.3o
穂乃果「うーん、じゃあ、音が悪くてもいいから弾いてみて」

真姫「嫌よ、まともな曲にならないし……こんな黴臭いもの抱えたくないもの」

穂乃果「曲は貴重な娯楽なんだよ?」

穂乃果(ラジオでも聞けていればまた変わったのだろうけど、電波が無いのかラジオ自体が壊れたのかうんともすんとも言ってくれない)

穂乃果「ね、いいでしょ? 久しぶりに聞きたいな、真姫ちゃんの音楽。お願い」

真姫「そこまで言うなら……」

穂乃果(真姫ちゃんはやはり嫌そうにそれを抱えると、弦に棒を添える)

穂乃果(バイオリンを弾く人は皆あの棒を使うけれど、私はその棒の名前を知らない。きっとこれからも知ることはないのだろう)

真姫「いくわよ」


7 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:05:35 NufjC.3o
穂乃果(割れた音が、辺りに響いた)

穂乃果「うわっ」

穂乃果(雨の音に負けじと真姫ちゃんはそれをぎこぎこ弾いてくれるけれど、やはり何度聞いてもそれは音楽ではなく耳障りな音にしか聞こえなかった)

真姫「だから言ったじゃない、まともな音が出ないって」

穂乃果「ここまでとは思わなかったよ」

真姫「じゃあ、私、これ返してくるから」

穂乃果「待って、私も一緒に行くから」


8 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:13:20 NufjC.3o
穂乃果(暗い廊下を二人して歩く)

穂乃果(今が昼だったか夜だったか覚えていないけれど、この雨雲の中ではどちらも関係ないのだろう)

穂乃果(通りすがりの教室の壁掛け時計は4時20分を指している。午前なのか、午後なのかは数字盤だけのそれからは察することは出来なかった)

穂乃果(廊下に居ても教室に居ても、ただただ、耳に入ってくる雨の音がうるさくて仕方なかった)

穂乃果(止まない雨は無いって誰が言った言葉だっけ? そう聞くと、真姫ちゃんはこともなげに)

真姫「さあ? 倉嶋厚かシェイクスピアでしょ」

穂乃果「真姫ちゃん、本当に一年生だよね? 何でそんなこと知ってるの?」

真姫「たまたまニュースを見て知ってただけよ。穂乃果はあまりテレビは見ないの?」


9 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:16:20 NufjC.3o
穂乃果「私はドラマくらいしか見ないなぁ。あ、でもドラえもんとサザエさんは毎週見てるよ」

真姫「へえ、羨ましいわ。私の家は、アニメは見させてもらえなかったから。プリキュアの存在も中学に入ってから知ったぐらいよ」

穂乃果「厳しい家なんだね」

真姫「厳しい家だったのよ」

穂乃果「……雨、止まないね」

真姫「いつになったら、家に帰れるのかしらね」

穂乃果「家に帰ったら何する?」

真姫「そうね、やらなきゃいけないことは色々あるわ」


10 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:20:57 NufjC.3o
穂乃果「私もいっぱいあるよ。シャワーを浴びたいし、ママやパパや雪穂と話したいし、ふかふかの布団でぐっすり寝たい」

真姫「私も。作曲も滞ってるから、それも仕上げたいわね」

穂乃果「今日は雨で部活がお休みだけど、晴れたらまたアイドル活動しなきゃいけないもんね」

穂乃果(一瞬、真姫ちゃんがぎょっとした顔で私を見た気がした)

真姫「そうね、今日も部活はお休みだったわね」

穂乃果「今日は、だよ?」

真姫「ええ、そう……ごめんなさい。今日はお休みよね」


11 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:24:48 NufjC.3o
穂乃果(ようやく着いた音楽室は真っ暗で、お化けでも出そうな雰囲気だった。真姫ちゃん、よくここに一人で入れたね)

真姫「お化けなんてもう怖くないわ」

穂乃果「そうなの?」

真姫「当たり前じゃない」

穂乃果「ふうん、私はイヤだなぁ。お化けって怖いし」

穂乃果「絵里ちゃんがここにいたら、きっと泣き出しちゃうね」

真姫「絵里がここにいたら……確かに、泣いて希にしがみついてるかも」

穂乃果(言って、笑い合う。雨はまだ止んでくれない。窓が突き破られそうな程に、風がガラスを殴り付けている)


12 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:29:43 NufjC.3o
穂乃果「じゃあ、バイオリンも置いたしもう帰ろうか」

真姫「部室に?」

穂乃果「うん、雨が降ってるからまだ家には帰れないし」

穂乃果(止む気配の無い雨は、いつまで私達を学校に縛り付けるのだろう。早く家に帰らなきゃいけないのに。きっと、皆帰りが遅いって心配してるのに)

真姫「そうよね、じゃあ早く戻って寝ちゃいましょ」

穂乃果「……ねぇ、真姫ちゃん」

真姫「何?」

穂乃果「はやく、やんでほしいね」

真姫「大丈夫よ、もうやんでるわ」

穂乃果(窓から見た校庭は、まるで海のようだった)





13 : ◆UBJU4NwTVE :2017/06/16(金) 21:31:37 NufjC.3o
SS祭り企画集計用スレ [無断転載禁止]���2ch.net
http://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1497151430/


14 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/06/18(日) 20:14:27 GySUTEPw
雰囲気は凄く好きなんがよく解らない


15 : 名無しさん@転載は禁止 :2017/06/21(水) 09:43:02 k0LD22SA
なんかこわい


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