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藍物語(投稿・感想・雑談専用=隔離)スレ

1 枯れ木も山の賑わい :2014/03/26(水) 23:49:11 ID:sdeCrXLs0
藍 ◆iF1EyBLnoU の 投稿と
投稿に対する感想・雑談の為に立てた専用スレです。
レスの都合上コテハン推奨ですが、匿名の書き込みも勿論OK。
非難の書き込みは「作品に関する話題・雑談」スレで存分に。
こちらへ書き込まれた場合は(可能ならば)削除します。

2 枯れ木も山の賑わい :2014/03/27(木) 00:00:52 ID:GPB.fCyQ0
本当にスレ立て出来ました。
ご助言下さった方々に心からお礼申し上げます。
姉がどうしても投稿を続けたいと言うのなら、
『邂逅(中)』以降はこちらで投稿するよう説得してみます。

姉の投稿と、それに関する感想・雑談・質問をご自由に。
ただ、趣旨から外れると判断した書き込みは削除します。
姉の投稿は読みたいが、雑談は御免だという方は、まとめサイトへどうぞ。
雑談は全て飛ばして読むことも可能です。棲み分け、大事ですよね。

3 枯れ木も山の賑わい :2014/03/27(木) 00:38:09 ID:GPB.fCyQ0
練習中。

4 名無しさん :2014/03/27(木) 00:42:37 ID:6raWni6Y0
スレ立てありがとうございました。
皆さんこの物語が大好きで、投稿を心待ちにしているのは同じなのに、「投稿のあり方」について意見が分かれるのを、心の痛む思いでみておりました。
『邂逅(中)』、期待してお待ち致しております。

5 名無しさん :2014/03/27(木) 00:45:01 ID:6raWni6Y0
すみません。「投稿のあり方」ではなく「書き込みのあり方」の間違いです。

6 :2014/03/27(木) 01:07:02 ID:Jxh/5loY0
枯れ木様へ
私のレスのせいで嫌な思いをされたであろう事、深くお詫び申し上げます。
それから、専用スレを立てていいただいて感謝感謝です。
スレ立て本当に有難うございました。

7 名無しさん :2014/03/27(木) 13:29:14 ID:OHesBZy20
>>1-2 枯れ木も山の賑わいさん
管理人からサポーターに指名されていない限り、スレを立てただけの人にレスの削除はできません
今一度したらばのヘルプ( http://jbbs.seesaa.net/ )をご確認下さい

8 枯れ木も山の賑わい :2014/03/27(木) 20:14:08 ID:GPB.fCyQ0
>>6
いいえ、姉への応援として有り難く読ませて頂きました。
今後もどうか宜しくお願いします。

>>7
なるほど、そう言うことでしたか。お陰で無駄な時間を費やさずに済みました。
お知らせ頂きありがとうございます。ただ、それはそれで結果オーライかな。
今後の書き込みを全て姉が読めれば、判断の材料になりますから。

>>これまでご迷惑をおかけした皆様
今回の騒動に関して、責任を感じております。
身内可愛さのエゴ、どれだけ非難されても仕方ありません。
私の意見はあくまで「投稿終了・過去の投稿削除」ですが、
姉の選択ががココ以外へ投稿だった場合、笑いものになるのも覚悟です。
姉が何時戻るか分かりませんが、成り行きを見届けて下さい。

9 名無しさん :2014/03/29(土) 19:42:38 ID:TsLH.DmI0
俺は藍さんの投稿を楽しみにしてたから静観してたけど
勝手に(?)スレを立てたり、やりすぎと思う
自分の感情が最優先な人という印象
凄く女っぽい人だなと感じる

10 名無しさん :2014/03/29(土) 19:46:24 ID:TsLH.DmI0
>凄く女っぽい人だなと感じる
これは一応訂正しておきます

凄く女っぽいか、幼い人だと感じる

11 名無しさん :2014/03/29(土) 22:07:01 ID:Mu8YS5XA0
>>9-10
誰でもスレ立てていいんだから、何も問題ないでしょ
女性蔑視?

12 枯れ木も山の賑わい :2014/03/29(土) 22:11:51 ID:aJAw9s3g0
>>9
>>10
本当に、移動前のスレを読んでのコメントでしょうか。
コテハンを含む方々へ執拗な雑談禁止のコメントが相次ぎ、
姉は「雑談に触発されることも多いので大目に見て下さい」と書き込んでいます。
それでも同様の書き込みが続き、更に、隔離スレが立てられました。
そこに移動した後も雑談禁止の書き込みは止まず、
雑談OKのスレを立てざるを得なかったという経緯です。

また、このスレを立てたのは私です。あちこち調べたつもりですが
事前に掲示板管理人様の了承が必要だとは知りませんでした。
それもルール違反でしたら、管理人様にスレごと削除して頂きたいです。
このスレが削除されても、姉が投稿したいと思うなら
私の説得とは関係なく投稿を続けるでしょう。そういう、人ですから。

13 名無しさん :2014/03/29(土) 23:13:24 ID:ZHyt.yTo0
>>1
非難の書き込みは削除しますって・・・まあ、管理人じゃないからできないんだけど、言論統制ですか?
そういうこと書くから非難されるんじゃないの?

14 名無しさん :2014/03/29(土) 23:34:49 ID:Mu8YS5XA0
>>13
だから、そういう書き込みは前スレでしなよ。
貴方の書き込みは非難そのものなんだから。

15 名無しさん :2014/03/29(土) 23:39:31 ID:aLdCsLlM0
いい物語を読むと思わず書き込みたくなってしまいます。
雑談も目くじらを立てることではないと思います。
枯れ木も山の私情もいいと思います。
削除してほしくなるような非難もありますので、できるかどうかは別として、削除を言い出されてもそう不当なことではありません。

まあまあ落ち着いて、藍さんのご到着をお待ち致しましょう。

16 名無しさん :2014/03/30(日) 00:32:19 ID:srgrGWhQ0
枯れ木氏もなぜそこまで言われたのか再考されてはいかがか。
酔っ払っての雑談などは見ていて気持ちのいいものではなかった。何事も節度は必要と思う。

>>14
書き込みの内容や可否を貴方に判断していただかなくても結構。

17 名無しさん :2014/03/30(日) 01:54:42 ID:gwJ/Dkn60
枯れ木さんも反省しておられるのだと思いますよ。

18 名無しさん :2014/03/30(日) 03:00:54 ID:6YdbRQhA0
藍氏の投稿と投稿に対する感想・雑談の為に建てた専用スレです。

弟さん、自分で書いたんだからまずこれを自分で守ってみないか?

非難されてるのは藍氏じゃなくて貴方ですよ

19 枯れ木も山の賑わい :2014/03/30(日) 05:17:22 ID:W1xv87sc0
>>13
>>16
>>18
おかげさまで良い流れになってきました。
「専用スレ立てて他所でやれ」という意見に対応しても
結局何も変わらないということが良く分かります。
私にはレスが削除できない仕様で本当に良かった。
このスレだけで、説得するのに十分な材料が揃いそうです。

20 名無しさん :2014/03/30(日) 08:19:19 ID:/e1hCWUI0
皆が使う掲示板なのだから皆と同じように用途に合わせた使い方をしてほしいんだが。
雑談は雑談スレでと複数の意見があった。
しかし投稿者の意向云々でやめず専用スレまで立てたのは貴方では?
自分ルールで単発スレ立てれば叩かれますよ。

21 名無しさん :2014/03/30(日) 18:32:52 ID:U0EmFcmQ0
>>12
本人(藍さん)の知らないところで自分の考えだけで
スレを立てたりすることが勝手だと言ったのです

ついでに言うと、他のスレで
>そろそろ潮時
>「一期一会」の後を続けたのが、姉と知人さんの誤りでした
なんていっているけど、それを判断するのは第三者であるあなたではないんだよ

>ココが公の掲示板である以上、それこそ「やりすぎは良くない」のです。
やりすぎなのはあなたの言動なんです

22 と、徳島です :2014/04/02(水) 02:32:08 ID:Puf4iUas0
枯れ木様、新しいスレッド有難うございます。色々お手数をおかけしましてすみません
しかしながら、この問題は危機であるとともに、異体同心、支えあう人々の結束の場にもなると思うのです

個人的には
投稿と言う「オリジナリティ」に関してきちんと尊敬をするのは勿論、投稿者様を支えるお身内の方、知人さんなどの半オブザーバーの方を尊重・感謝するのは当然ではないでしょうか?
今回の藍さんのことだって、元凶の私が言うのもなんですが、知人さんや枯れ木さんのおとりなしがあっての事ではなかったですか?

もう少し、感謝の気持ちってのは形に現れてもいいのではないでしょうか?
過去の発表した物語に関しては、一定の制限はあるのも止むなしと思われますが、「今後の物語」に関しましては、お身内の方も含めた総意になりませんか?(これを言ったら殺し文句ですが)

皆様、今一度再考願いたいと思います

23 名無しさん :2014/04/02(水) 08:12:34 ID:bRGg6.ec0
藍氏にはみんなが感謝している。

誰が邪魔だと思われてるのかわかってる?

24 名無しさん :2014/04/04(金) 08:59:20 ID:BxtXojq6O
辛辣な言葉を書き込む人たちも、皆さん、知人さんと藍さんの投稿には深く感謝していることは確かだと思います。この物語がこのまま消えてしまわないことを願っていますが…

25 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/05(土) 21:52:12 ID:3SM9.lMk0
テスト中です。

26 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/05(土) 22:31:06 ID:3SM9.lMk0
皆様今晩は、藍です。

始めに、お詫びを申し上げます。
「ルールを守らずそれを他人にも推奨する」という書き込みが、
まさに私を言い表していると思います。

感覚の違いで他人との関わりを上手く持てなかった私にとって、
投稿した物語、そして物語の作者である知人との出会いは特別なものでした。
けれど、それを誰かに読んで欲しいと思ったのが間違いの元だったのでしょう。

こちらで知人の作品を投稿し、コメントを下さる皆様との雑談が何よりの楽しみでした。
初めて自分の居場所を見つけた気がして、本当に嬉しかった。
でも、その時間を少しでも長く続けようと、皆様にご迷惑をかけてしまいました。

これまで何度も私自身が「雑談はお目こぼし下さい。」とお願いしてきましたから、
弟は確信犯で、徳島さんはご厚意で「叩かれ役」を買って出てくれました。申し訳無いと思っています。
此処で本当に邪魔なのは、変化した流れに眼を瞑って投稿を続けた私でしたのに。

始末の方法を検討中ですが、「公開」すれば、また同じ結果を招くでしょう
これ以降、作品は投稿致しません。本当に、申し訳有りませんでした。
気持ちの整理が付きましたら、始末の方法を管理人様にお願い致します。

27 :2014/04/05(土) 23:23:06 ID:FNRLHx0.0
こんばんは、藍さん。

お気持ち、お察しいたします。
長い間、本当にご苦労様でした。
続きが読めないのは本当に残念ですが、藍さんのご決断ですので文句などなございません。

どうかお気持ちを落とさずに、くれぐれもお元気でお暮らしください。

さよならです。藍さん。
ですが、また何処かでお会いしたい気持ちでいっぱいです。
今まで、本当に有難うございましたm(__)m

28 名無しさん :2014/04/05(土) 23:51:55 ID:qoQCGxcc0
あーあ結局またこうなった
徳島てめえのせいだよ

29 名無しさん :2014/04/06(日) 09:15:25 ID:W7D0aJBQ0
>>28

30 名無しさん :2014/04/06(日) 09:29:04 ID:W7D0aJBQ0
>>28
本当に言いたいこと隠してコテハン叩くのはヤメレ。こんな奴はしっかり言ってやらないと分からんのよ。

>>26
また「消す消す詐欺」じゃないだろうな。粗大ゴミは今度こそ残さず削除してもらえ。
普通なら隔離スレ立てられた時点でお察しだろ。空気読めない奴が取り巻きもろとも自滅の典型的なパターン。
巣に引き籠もって二度と出てくるな。それがアンタ含めたみんなのため、分かる?
ハバア向けのラノベもどきなんて誰も読みたくないつーの。厄介払いできて朝からメシウマだわ。

31 本当にあった怖い名無し :2014/04/06(日) 11:07:10 ID:eH7vCryo0
鹿島さん、、、知ってる?

32 名無しさん :2014/04/06(日) 14:28:59 ID:EbQagjHQ0
>>26
藍さん

続きが読めないのはとても残念ですが、一言

ありがとう。

33 名無しさん :2014/04/06(日) 16:01:32 ID:O1/cE/lI0
まとめ作業の労力考えたら簡単に削除しろとか言えないはずだけどな
読みたい時に読めないのはいただけない。残ってることに何か不都合がない限り残して欲しい

34 名無しさん :2014/04/06(日) 19:51:27 ID:AGjtwwAoO
藍さん
ネットの「ルール」を知らない「信者」などと非難されている、いち読者です。ご迷惑をおかけした一人ともいえます。お詫び申し上げねばなりません。
藍さんと弟さんが、そして間違いなく知人さんも、とても純粋な魂と清い心をお持ちの方たちなのだと思います。それゆえに、ネット経験の多い方たちの意識とのズレが埋めがたいものであることが、次第に顕わになっていました。これ以上続けるのはもはや無理なのではないかと危惧して拝見致しておりました。
この物語が途絶えるのは、本当に残念でなりません。悲しみに胸が塞がる思いです。しかし、藍さんたちの選択としてはほかにはないのでしょう。他人ながら、これ以上は心が持たないだろうと思います。悲しいことですが、今は人間の影の部分の方が勝(まさ)ったということでしょう。
書いている方が自らの品位を落とされるような、口汚い書き込みがこれ以上されないことを願っています。ここはあの巨大掲示板とは異なると信じていました。
古来稀なる価値のある、神と人とが語り合い、人と人とが語り継ぐべきこの物語が、人々の記憶から消えてしまわないことを祈ります。またいつの日にか、別の陽がさして、別の風が吹いたときに、どこかの場所で(そこはこの掲示板ではないのでしょうが)、この物語が再びつむぎ始められることを祈っています。
今まで本当にありがとうございました。

35 名無しさん :2014/04/06(日) 20:38:49 ID:bsLDwZgk0
>>26 藍さん
> 気持ちの整理が付きましたら、始末の方法を管理人様にお願い致します。

わたしはこちらの管理人氏が自ら管理人であると明かして書き込んでいる例を過去見た事がありません
裏方に徹しておられるのだと感じます(私生活がお有りでしょうし、お忙しいのかも知れません)
ですので、公の掲示板への投稿その他で個別対応を前提に考えるのはおやめになった方が良いと思います
一般論となりますが、掲示板管理人は消しゴムでもシュレッダーでもないのです

36 名無しさん :2014/04/07(月) 00:11:17 ID:RF4ishRw0
何でみんな藍さんがらみの多少の雑談くらい「お目こぼし」できないんでしょうね。
雑談や弟さんを非難する書き込みの方が、読むに耐えないものでした。
「ルールを守れ」「私物化するな」、そんなことを厳格に人に求めるほど、みんな世の中のルールを守り、公共のものを大切にしているんでしょうか?
そう書いている人たちの言い方を見ると、とても疑問に思えます。
この掲示板は、もっと優しい人たちのオアシスだと思ってました。
この物語を断絶させたのは、藍さんでも徳島さんでもありません。
藍さん、何もできず申しわけありませんでした。

37 名無しさん :2014/04/07(月) 00:22:19 ID:UIrlLcwI0
藍氏投稿打ち切るならまず、
この物語が好きで続きが読みたいという書き込みをした人に謝罪と感謝伝えたら?

これ常識ね

38 名無しさん :2014/04/07(月) 00:41:02 ID:UIrlLcwI0
36さん、弟はわざと煽ってたんですよ。
読むに耐えないものということは弟も含めて非難してるんですよね?

39 名無しさん :2014/04/07(月) 01:20:30 ID:27WqbQXc0
だから〜みんな気分良いのは分かるが余計なこと書き込むなって。
折角厄介払い出来そうなのに、変なこと書いたら大量の粗大ゴミが残ったままになる。
投稿済みは残して欲しい → 何とか続けて欲しい → また頑張ります って流れになったら最悪だろ。前科もある。
雑談はするなお前は投稿だけしてろってみんなが忠告したのに聞かなかったんだら自業自得。
投稿者様のご意向は尊重されるべきなんてワガママを放置したらなめられるだけ。また次の勘違い野郎が湧く。
隙を見せたら被害者面して戻ってくる。ルール守れない奴は徹底的に駆除。仕上げが肝腎なんだよ。
掲示板の秩序を守るためなんだから管理人&サポーターも頑張ってくれるさ。

40 名無しさん :2014/04/07(月) 01:54:44 ID:UIrlLcwI0
39はちょっと言い過ぎ

ここは怖い話や不思議な話を投下する掲示板です。

これが管理人が決めたルールだよね?じゃあ自分の思ってる事書き込んでる私も含めて全員がルール違反なんだからさ
私、駆除されたくないです。

41 名無しさん :2014/04/07(月) 02:34:44 ID:/dwufOM20
>>36氏の言うところの「ルールを守れ」の人の多くは、既に彼らなりのルールに則って別のスレに移動し発言してますよ
藍氏が筆を断ってしまった以上主目的を失ったスレとなってしまいましたが、まだこのスレでこの話題続けるんですか?

42 名無しさん :2014/04/07(月) 14:09:57 ID:nDumc0CU0
反応欲しいのならpixivでやっていれば幸せになれたのにな。

とりあえず俺的には徳島が自分解釈をやって悦に入ってるのが、
それが藍氏の意図通りだとしてもウザくて仕方なかった。

43 名無しさん :2014/04/07(月) 16:12:34 ID:oiAoe/RM0
まあ、投稿者と読者が過度に馴れ合えば、結局、こうなるよね。
徳島氏の自分解釈やその他の雑談なんて読みたくないから、彼や弟氏が沸いてきてからは、まとめしか見ていないけれど。
ここは君等のチャットじゃないんだよと。
書き手さんも、苦労した書いた自分の作品に愛着が有るだろうし、それに肯定的な反応が有れば嬉しいのは判らないではないけれどね。
藍氏の作品を読めなくなるのは非常に残念だね。

44 名無しさん :2014/04/07(月) 18:59:31 ID:y/IMesCYO
なるほど
pixiv
という手があるんですね。

45 名無しさん :2014/04/07(月) 23:49:41 ID:27WqbQXc0
一体お前らなんなんだよ。
折角追い出しに成功しそうなとこでpixivとか言い出して。
枯れ木とかいう弟がいるんだしずっと前にも「別の方法」も仄めかしてたんだからそんなの知らないはず無いだろ。
他に方法があるのにここで延々と雑談続けようとしたから叩かれて自滅したんだよ。
「そんなに続き読みたいのか?え?」ってつけこまれるだけ。何よりこの掲示板管理人に失礼だって。

>>41
な、お前管理人か?IDって一日限りだろ。
発言した人の動向どうやって特定してるんだ?
それ出来たら糞投稿者と取り巻き共をもっと楽に追い込める。
管理人じゃ無いなら、やり方教えてくれ。

46 名無しさん :2014/04/08(火) 00:19:20 ID:cg9mERZg0
>>35
「公」の掲示板って、何?
管理人自身が「なんとなく独自に集めたくて作ってみました。気長に集まるのを待ってます」
って書いてるけど、これって私的な興味で開設した掲示板って事でしょ?違うの?
研究目的で国やら県やらが開設した掲示板じゃあるまいし「公」とか、笑わせんな。
「祟られ屋」が中断した後は藍さんの書き込みが無ければ、廃れた過疎スレだったよな。
>>39じゃ有るまいし「出てけ。でも作品は引き続き他で公開しろ。読んでやるから。」とか、
どんだけ恥ずかしいのか分かってないのか。それこそオカルトだわ、阿呆くさい。

47 名無しさん :2014/04/08(火) 00:37:41 ID:SJxtpl8A0
公って国や県のみにしかあてはまらねーのかよwすげーなお前wwww

48 名無しさん :2014/04/08(火) 00:52:18 ID:rl0BEtI20
46さんのおっしゃることはわかります。ここは「公」などと称することができるほどの場ではありません。
だからこそ貴重なんだと思います。しかし、なぜここの「ルール」がそんなに絶対になるんでしょう。
投稿する気が失せるような罵声を浴びせてまで守るべきことなんでしょうか。
社会の片隅で偶然出会い、同じ物語を読み、語り合う人たちの中で、「駆除」とか「追い出し」というのはあまりに悲しい言葉です。

49 名無しさん :2014/04/08(火) 02:46:29 ID:cg9mERZg0
国やら県やらって書いてるが、国や県のみなんて書いてない。良く読め。もしかして
「公」に当てはまる(と思われる)もの全て書かないと理解出来ねーのかよwすげーのはお前だwww
目的が「自分が怖い話集めたい」、これこそ「私的」だろーがw 違うなら説明してみろ馬鹿www
都合の悪いところは敢えて無視、一方で「ルール守れ」の連呼。ホント恥ずかしいな。
お前自身が「ココで雑談してるルール無視集団」の一員なんだよ。みんなお仲間wwwww
藍さん追い出してそんなに気持ち良いか?自分には劇甘の偽善者は楽で良いよな。また頑張れよwww

50 名無しさん :2014/04/08(火) 03:03:57 ID:cg9mERZg0
>>48

>>ここは「公」などと称することができるほどの場ではありません。
そう、「だからこそ貴重」も同意。雑談だろうが手前勝手解釈だろうがスルーすれば良いだけ。
読まなきゃ良いのにわざわざ読んで「お前らの雑談は禁止」、で「批判レスだけは別で正義」。
「まとめしか読んでない」はずなのにココに書き込み出来る超能力者もいるしな。
そりゃ誰でも投稿したくなくなる。あたりまえだろ。
俺の立場は基本的に>>36と同じ。アンタに質問される理由が分からん。
すげー腹が立ってるんで、言葉遣いが荒いのは大目に見てくれ。

51 名無しさん :2014/04/08(火) 08:09:58 ID:DeghvqbU0
マテ。
誰も藍氏のことは罵倒してないし追い出そうとしてないと思うんだが・・・

52 名無しさん :2014/04/08(火) 08:34:50 ID:yxEp44rcO
>>51
30、39、45(同一人物?)

53 名無しさん :2014/04/08(火) 09:01:29 ID:Qlc.fRMUO
優しい藍さんにとっては、身内である弟さんが罵られるのは身を切られるほどつらかったはずです。
確かに弟さんの行動は直情的だったことは否定できません。ある方たちにとってはそれは許しがたいルール違反に見えたでしょう。しかしそれはおそらくは傷つきやすく、感受性がありすぎる姉の心を思いやるがゆえの行動だと思います。
「感覚の違いで他人との関わりを上手く持てなかった」という藍さんも、これまで純粋であるがゆえの誤解、軋轢に苦しんできたことでしょう。様々な言葉を浴びせられる弟さんの姿に、藍さんが耐えられなくなるのは火を見るより明らかでした。
何千万のネットユーザーの中で、偶然同じ物語を読み、楽しむ経験を共有できた者同士が叩き合うことだけは、もう終わりにしませんか。

54 名無しさん :2014/04/08(火) 11:36:08 ID:nzaJHmkY0
>>49
公の掲示板っつーレスに対して国や県なんて極端な話を持ち出したのはあんたじゃねーかww「公」に当てはまるもんなんて「個」以外大概そうだろwお前は掲示板の存在が「公」なのか目的が「公」なのかごっちゃになってるみたいだけどな。
都合の悪いところ無視とかはお前らもそうだろ。つか多分言ってもわかんねーと思うからもういいわ。お前も俺にレスしなくていいからな。

55 名無しさん :2014/04/08(火) 15:23:26 ID:r3N1BVQQ0
54 単純にうざい。

56 名無しさん :2014/04/08(火) 19:43:34 ID:o89N8LxI0
姉は雑談をたのしみにしていましたが、確かに度が過ぎる部分もあるかもしれません
その点は姉や皆さんの意見をすり合わせて検討したいと思います

見たいな対応をすればよかったと思うんだけどね
弟は下手にでしゃばりすぎなんだよ。空き放題やった挙句に放置だし

57 名無しさん :2014/04/08(火) 22:15:05 ID:cg9mERZg0
単純に俺は藍さん達の物語が好き、「邂逅」の続きが読みたい。でも、出来ることが何にも無くて悔しい。
藍さんの書き込みは週末に集中するから始末の方法が書き込まれるのも多分次の週末。それまでに何か出来ること。
それで前々スレ、前スレ読み直して気付いた事がある。「シリーズ物スレ」を立てたのが誰かってこと。
藍さんはそれが管理人さんだと思ったから素直に移動に応じた。そこなら雑談が許されると信じて。
でも、管理人以外でもスレ立て出来るように変わってたから常連さん達の一部が反発した。

それに藍さんが反論するのを止めさせようと、弟さんや徳島さん始めコテハンが雑談OKを強く言い出して
逆に「雑談はルール違反」って流れが強くなっちまった。つまり誤解の連鎖で、この時点まで誰にも悪意はない。
だったら、ここに打開の鍵があるんじゃないのか。

コメントの削除が出来るのは管理人とサポーターさん達だけ。当然だよな。管理人さん=この掲示板のルール。
コメントを削除されても誰も文句は言えない筈。だから例えば管理人さんが一度このスレのコメントを全て削除する。
そのあとでココは「藍さんの投稿と雑談OKの専用スレ」と宣言する。
藍さんの断筆宣言も一時無効の形にして、ローカルルール遵守を条件に再考して貰う。
グレーゾーンを維持する形で藍さんが投稿できる環境を作ろうってことだ。
もちろんコテハンは感想と考察以外の行き過ぎた雑談を自粛する。
常連さん達は感想と考察には眼を瞑る。無理かな?俺の考えは無茶でも良い。
ココには俺より頭良い奴一杯いるだろ?何か方法を考えてくれ。頼む。

58 名無しさん :2014/04/08(火) 23:11:31 ID:huTDguoA0
1.このスレを削除してシリーズ物スレもしくは怖い話スレに移動。怖い話スレに移動した場合は、(シリーズ物スレに他の作者諸氏の投稿が無ければ)シリーズ物スレは削除。
2.雑談は基本雑談スレで。
3.投稿者以外名無し推奨。

誰が投稿者でも関係ない。1.2は特に。

59 名無しさん :2014/04/08(火) 23:20:52 ID:huTDguoA0
連投すまない
>>57
言い方がキツくなって申し訳ない。
中途半端だと結局繰り返しになる。だから荒れる前の環境に戻し、ルールは守ってもらわないと意味無い、ということが言いたかったんだ。
そして本来このレスもシリーズ物を語るスレでするべき。
これ以上続けるなら移らないか?

60 名無しさん :2014/04/09(水) 03:06:50 ID:xN6BN.vM0
とりあえず、この掲示板は管理人さんが話を集めたくて私的に作った掲示板ですが、ネット上にあり誰でも閲覧できるので公の場所ですよね。
そしてここは怖い話を投下する場所でそれ以外の感想・雑談・討論等は全部管理人の作ったルールに違反してます。

しかし、話を読んだら感想や読者または作者の雑談で盛り上がる気持ちもわかります。
でもそうなると、作品だけ読みたい人に迷惑だし、管理人さんがまとめるのも苦労しますよね?

だから皆に迷惑が掛からないように雑談スレが建てられた。ということですよね?
別に難しい話じゃない、皆が閲覧できるものだから整理して迷惑にならないようにしようってだけ

あと作品に対しての悪い書き込みがあるからスレ移動しないという理由がありましたが、悪い書き込みって結局作品読んだ上でのその人の感想じゃないですか、読まないと何が悪いかもわからないと思います。
色んな人間がいるんだから、これは良い物だから悪い感想書くなという非難はしちゃいけないと思います。ただ悪い言葉使いは見てる人が不快に思うので、その辺は考えて書き込んでって事でいいんじゃないですか?

最後に私は藍氏の投稿を楽しみにしてた者ですが、悪い書き込みには異常に反応するのに作品を好きで続きが読みたいという書き込みはスルーしてる所が残念です。
なんか良いと思われる事は当然だと、読者を少し見下してるように私は感じました。

誰かが書いてましたが、やはり感謝の気持ちは大切だと思いますよ。
純粋で真っ白て感じに表現された方がいましたが、私はそれで連想されるのは赤ん坊でした

続けちゃってすみません。雑談スレで書いても読んで欲しい人が見てないかも、と思いま書き込んでしまいました。

61 名無しさん :2014/04/09(水) 06:05:57 ID:gWJSXX220
>>60
「悪い描き込みには異常に反応する」「読者を少し見下してる」「感謝の気持ちは大切」
本当にこれまでの流れを読んでそう思う?それを読んで欲しい人って誰?

藍さんは良い反応にも悪い反応にも「全レスウザい」と言われるほど丁寧にレスをして、
「有り難う御座います」「感謝します」が決まり文句だった。掲示板でもまとめでも同じ。

藍さんが投稿を止めると反応したのは「作品を貶されたから」じゃなくて「投稿のあり方がルール違反」という流れになったから。
そこをわざと混同して何が言いたいのかな?投稿者をかなり見下しているように感じるよ。

62 名無しさん :2014/04/09(水) 07:44:13 ID:zgo.QduQO
ところで弟と徳島は?

63 名無しさん :2014/04/09(水) 09:04:04 ID:YfM33cEkO
藍さんは雑談がモチベーションのひとつになって投稿していた。
しかし、「『ルール』を守って投稿しろ」と言ったので、藍さんが来なくなった。
最後の投稿までおおらかに見ていたかったんですが…。

64 名無しさん :2014/04/09(水) 09:06:09 ID:xN6BN.vM0
61さん言葉が足りなくてすみません。

削除してくれと書いた時からは、いつも書いてたという感謝の言葉が無いですよね?
私はこれまでまとめしか読んで無いのでその前の事件?とかよく知らないのですが最後になるって時に感謝の気持ちを書
いてないから残念だと書きました。最後までそれを貫いてたらそんな受け取り方しなかったと思います。

投稿のあり方がルール違反て流れになったとありますが、上にも書きましたが管理人が怖い話等を投下する掲示板と書いてるんだから最初から投稿以外ルール違反ですよね?
私も貴方も、そして全員が管理人からみたらルール違反なんだと思います。

立ってる場所が違うと見え方も違ってくるわけで、自分と他の人の感じ方が食い違うのは当然ですよね。
私の書き込みが不快に感じたのならすみません。迷惑かもしれませんが私の書き込みに反応してくれた貴方のこと嫌いじゃ無いです。
ありがとうございました。

65 名無しさん :2014/04/09(水) 17:22:57 ID:CITHUPm20
投稿そのもののあり方がルール違反って誰か言ってたっけ?
雑談がウゼェからヨソでやれって言ったのを藍氏は全部の投稿がって勘違いしてるだけだと俺は認識してるんだが。


まぁそれも徳島は別にして他の中の人は同じだから全部ごっちゃにしてしまったんじゃないの?
って勘ぐってしまう訳だが。

66 名無しさん :2014/04/09(水) 22:25:47 ID:gWJSXX220
>>64
ああ、まともに返信してくれてアリガト。何か救われた気分だよ。もう1つ、分かって欲しいのは「削除してくれ」以降の部分。
多分この週末、削除依頼が書き込まれると思う。でも、良く読んでくれ。まだ今回の件について藍さんから削除依頼は出ていない。
このスレが立ってからは、好意的な描き込みにもそうで無い描き込みにも、藍さんは個別の返信をしていない。
もう投稿できないと感じた投稿者が、「続けてくれ」「もっと読みたい」という書き込みにどんな返信ができるだろうか。
今までの好意的な反応に感謝しているからこそ、申し訳無くて描き込みが出来なくなると思わないか?
そして、俺たちを含めてこれだけルール違反の書き込みがあるのなら、藍さんがらみの雑談を大目に見ても良かった、そう思う。
俺も、もうこれで書き込みは止めるよ。結局、何も出来なかった。それが、本当に残念だ。

67 名無しさん :2014/04/10(木) 01:14:07 ID:hERpRzEcO
>>66
アンタ、優しい人なんだね。
それにしてもさ、俺たち何に縛られて、何を大事にしてきたんだろ。
いちばん大切なモンを失っちまったよな。

68 名無しさん :2014/04/10(木) 20:11:14 ID:w5Kj20a60
何だ何だ辛気臭ぇな。
ま〜だ、粗大ゴミ有り難がって。そんなに駄文の続き読みたいか?じゃ任せとけ。

『邂逅(中)』
いよいよ本家VS分家の最終決戦開始。RとLの大ピーンチ。

『邂逅(後)』
RとLのコンビで起死回生。本家大逆転勝利。

『邂逅(結)』
みんな幸せ。メデタシメデタシ。

こんな感じで主題決めればあとは適当に膨らますだけ。
中学くらいの文学少女でももっとマシなラノベもどき書くだろーよ。
大体がコテハン含めても数人しか読者いないんだから、削除依頼出たら管理人大喜びだって。
まとめの手間省けるし、目障りな大長編駄文を一掃できるし。良いことばっかり。

週末待ち遠しいなw完全勝利目前www

69 名無しさん :2014/04/11(金) 00:47:34 ID:qUeK1g.Q0
>>68
そうか。アンタもホントは愛読者だったんだ。
よく読んでるよね。

70 名無しさん :2014/04/11(金) 04:11:48 ID:Vaf94uSQ0
68...あ〜イラつく、めっちゃ腹立つ。侮辱するのも大概にしろって感じ。
ただ、実際藍さん達の物語、愛読者がどのくらいいるのか見当付かないから反論しにくいんだよな。
例えば愛読者がこれだけいるって具体的な数が分かれば『愛読者の方がずっと多い』って応援できるんだけど。

ぶっちゃけ藍さん達の物語って、愛読者はどのくらいいるんだろ? 10人?50人?100人?
例えばスレでもまとめでもない「投票所」にみんなで投票・コメントしてその数をもとに藍さんに再考して貰うとか。
でも、数を集めるのに失敗したら「愛読者はほとんどいない」って証明することになるし。難しいな、やっぱ。

71 名無しさん :2014/04/11(金) 08:37:24 ID:nvy.guisO
知人さんなら愛読者の数はわかってるはずですよ。

72 名無しさん :2014/04/11(金) 14:15:04 ID:MPLEolmo0
藍さんと弟って同居してるの?

73 名無しさん :2014/04/11(金) 19:37:42 ID:k9KO1c160
そうだよ、よく気づいたね
仲良く一つの体に同居中。皆はそこ踏まえて話してるんだから君も宜しく

74 名無しさん :2014/04/11(金) 20:02:58 ID:Vaf94uSQ0
何だかまた妙な流れになって来てるな。

>>71
どうやったら知人さんに愛読者の数が分かるんだよ。管理人でも無理なのに。

>>72
最初から二人で住んでるって書いてるぞ、前スレ・前々スレ読んでみろ。

>>73
69で論破されて隠れ愛読者が作戦変えたか?恥ずかしいな。
今夜も必死で過去スレ読んで揚げ足取りの準備してろ。

75 名無しさん :2014/04/11(金) 20:22:06 ID:Vaf94uSQ0
実は俺も下衆の勘ぐりしてたんで、偉そうに他人のこと言えないんだけどな。
藍さん達、同人誌か何か出版する為にココから作品消そうとしたのかなと思ってさ。
でも、週末の金曜日。まだ削除依頼が出ないってことは同人誌とか関係なさそう。
締め切り考えたら出来るだけ早く削除した方が良いからね。

したらば掲示板の注意事項では「著作権は著作者にあり。ただし掲示板ごとのローカルルール有効。」
でも、この掲示板のローカルルールには「著作権の相乗り、著作者人格権の不行使。」が含まれていない。
藍さんが削除依頼出したら管理人は応じざるを得ないってことになるな。

それなら別に「投票所」での投稿なんて必要ない。

読者がほとんどいないなら管理人は削除依頼に粛々と応じる筈。
68の言う通り、この機会に厄介払い出来るからな。

逆に読者が俺たちの予想以上に沢山いるなら管理人から何か意思表示があるだろ。
「掲示板の投稿は削除するけどまとめは残して置きたい。」とか。
いよいよ週末。藍さんの発言と管理人の反応を注視させてもらおう。

76 名無しさん :2014/04/11(金) 20:27:38 ID:k9KO1c160
69?お前が書いたの?

77 名無しさん :2014/04/11(金) 22:05:25 ID:nvy.guisO
知人さんは術者だからね。少なくとも書き込んでる人の数くらいわかると思うよ。なお、藍さんは3人(2人?)もの人格を作れるほど器用な人じゃないって。
まだ削除依頼をしていない理由は、藍さんたち自身がこの物語を愛していて、無にしてしまいたくないと思ってるのと、愛読してくれた人たちに対する思いからなんじゃないかな。
たとえすべてが削除されても、この物語は俺の心の底できらめいている。

78 名無しさん :2014/04/12(土) 01:04:13 ID:iH5BzRc20
術者がどうやって書き込んだ人の数を把握するのか興味があるので、その辺り詳しく教えてください。

79 名無しさん :2014/04/12(土) 01:26:14 ID:C8ybWRC20
>>78
(^×^ )ソレハイエナ-イ

80 名無しさん :2014/04/12(土) 01:44:33 ID:C8ybWRC20
ちなみに、藍さんが削除依頼つったって、権利者は知人さんなのか藍さんなのかも不明だし、その点はおくとしても、そもそも匿名の掲示板で著作権者が特定できていないんだから、管理人にとってはその要請が本当に権利者によるものかどうかも把握できない。
管理人さんとしてはどうしようもないと思うよ。

81 名無しさん :2014/04/12(土) 03:58:44 ID:Fj.ysgUgO
それは編集者(共著者?)であり投稿者である藍氏が全権を委任されてるとの判断でいいんじゃない。
作品を削除したところで、著作権を持つ者が不利益を被る訳じゃないからね。
逆に作品を削除しない場合も、現状は誰かが不利益を被ってないから削除依頼に応じる義務があるのか疑問。
投稿者サイドの精神的苦痛といっても証明出来ないだろうし…
全ては管理人さんの良心に依ることになると思うよ。

82 名無しさん :2014/04/12(土) 04:09:00 ID:T6iXhgV.0
>>80
何の為に固定トリップ使うと思う?
削除依頼が投稿者と同じ【iF1EyBLnoU】からであれば、同一人物と判断するべき。


ところで藍さんと弟が同一人物と言う書き込みは何が目的?
>>65の【徳島は別にして他の中の人は同じ】は、
知人さん(作者)=藍さん=弟=管理人 って意味?
その設定に何の意味があるのか分からんが、これが事実だとしたら
こんなややこしい設定して、矛盾する書き込みが1つも無いのは奇跡的だね。
...もしかしたら藍さん(=知人さん?)って、実は文章が本職?
出版社で没になった企画を好きなように書いてココに投稿したとか?


長文失礼。
藍さんのモチベが【読者の雑談】なら、
そしてもしまだ削除依頼を出すかどうかを迷ってるなら、
こんな風に【雑談】を続けることで藍さんの【決心】を先送りにできたらと思った。
そしてもしかしたら。

83 名無しさん :2014/04/12(土) 09:19:06 ID:9ZyoDces0
ここで雑談してたらまた同じ事になると思うんだけどね。信者ってホントに痛いやつばっかだな。

84 名無しさん :2014/04/12(土) 12:51:28 ID:/0CdOM6oO
おっしゃることは分かりますが、称賛混じりの雑談を敵視しすぎる声が激しくなったから藍さんは来なくなったわけで…。
ちなみに、ファンが多かれ少なかれ信者っぽくなるのは、大小説家でも、タレントでも同じ。信者っていうレッテル貼りは、たいていの場合、本質を見誤らせるから、私は使いませんけどね。

85 名無しさん :2014/04/12(土) 15:19:14 ID:UWIVnOcY0
>>84
言葉が過ぎました。申し訳ありません。
しかし賞賛含めたとは言え、雑談が過ぎた結果のこの状況。
雑談スレの活用を考えるべきでは?

86 名無しさん :2014/04/12(土) 20:07:57 ID:/0CdOM6oO
大人のご発言に感謝致します。
藍さんの最後の発言がここだったことから、雑談者は、皆さんは、たとえ希望は薄くとも、ここで藍さんの再臨を待っているのです。

87 名無しさん :2014/04/12(土) 23:10:37 ID:dYTLFhzA0
確かに。大多数の方は藍さんのお話を楽しみにされていたと思います。

88 名無しさん :2014/04/14(月) 00:09:44 ID:pYfcT3f.0
たまたま最初の投稿に遭遇して以来藍さんの作品が楽しみだった。
当時、藍さんも雑談スレを使ったことがある。
主人公の1人Sさんを滅茶苦茶にこきおろすレスがあって
藍さんは丁寧に対応したけど結局は何一つ建設的な話にならないまま。
正直藍さんはこれで投稿止めるんじゃ無いかと思った。
藍さんはそれがトラウマになっただろうし、コテハン達がそこを配慮して
雑談スレを使うのを避けた事情は分かる気がする。
スレが違うと投稿を目の前にしない分、批判的なレスが過激になり易いし。

まあ駄文だの粗大ゴミだの贋作だのこれだけ酷いレスが付いてしまったら藍さんには
今はこのスレの方がトラウマだろうね。つまり藍さんが投稿できる場所は何処にもない。
結局そういうこと。本当に残念だ。

89 名無しさん :2014/04/14(月) 03:23:54 ID:8A8gtYg20
わざわざ酷いレス集めて書き込まなくてもいいのに

信者が止めを刺しにきたんですか?

90 名無しさん :2014/04/14(月) 16:54:52 ID:b5DRKaOg0
自分は怖い話も不思議な話も好きだけど、藍さんの話は創作臭が強いのに文章も稚拙で読みにくい上に長くて苦手だから一本もまともに読めた事が無い
登場人物もラノベみたいにキャラ付けばっかりでなかなか話が進まない
本人も言い訳ばかりで誉められるのは大歓迎だけど突っ込みは悪口認定して被害者ぶるのがイライラしたからコメントも初期にしただけで黙ってた
だから決してこの人もこの作品も好きではないし信者ではないけど、これだけの長編を書き続けたことは純粋に凄いと思ってた
でもここで作品の投下を止めるなら本当にただの誉められたがりな人でしかないと思う
色んな理由で投稿を止めざるを得ないこともあると思うけど今回のはただの我が儘でしかない
悪口言う人がいるからって専用スレまで立てて、挙げ句に逃げるのは応援してた人に失礼だとは思わないのかな
散々シリーズスレを掻き回して新スレ立てて…誉めてくれる人しかいらないならブログとか自分が管理人になって「悪口や突っ込みする人はお断り」で再開したら?

91 名無しさん :2014/04/14(月) 20:35:09 ID:8A8gtYg20
これラノベじゃないの?

92 名無しさん :2014/04/14(月) 21:35:04 ID:f40Thyjs0
シーッ

93 名無しさん :2014/04/15(火) 00:18:23 ID:QjJdcjb20
ラノベに謝れ

94 名無しさん :2014/04/15(火) 01:59:19 ID:vCdJIzcw0
了解した、ラノベさんごねんなさい。

95 名無しさん :2014/04/15(火) 02:00:15 ID:vCdJIzcw0
ごめんなさいね

96 名無しさん :2014/04/15(火) 04:14:37 ID:h3PrK/Ls0
本人も弟もダンマリ決め込んで何考えてるのか分からんが
以前の騒動で既に削除依頼は出ていて本人がいつ削除されても文句はないと書いてる。
管理人はルールを守れない池沼共を責任をもって排除すべきだろ。何で放置してんの?
目障りだからコイツ等関係のゴミはまとめて削除して欲しい。再開する気になったらどうすんだよ。

ま、やっぱ何より行動だよな。

>>管理人
iF1EyBLnoU
この固定トリップを使って書き込まれた投稿とそのまとめの削除を希望する。『1票目』

害虫駆除までもう一息。賛同してくれる人は削除依頼に協力してくれ。
このスレでコイツ等を非難するレス書き込んだ人たちが賛同してくれたらさすがに管理人も仕事してくれると思う。
この機会に皆の意見を目に見える形で管理人に伝えよう。

97 名無しさん :2014/04/15(火) 04:38:11 ID:Rq6n2cR20
削除依頼『2票目』

98 名無しさん :2014/04/15(火) 09:10:30 ID:vCdJIzcw0
選挙始まった!

俺この作品そんな好きじゃないが、管理人が趣味で集めたのを読ませてもらってるって考えなんで賛同は出来ないな。

ごめんね

99 名無しさん :2014/04/15(火) 10:54:03 ID:.NQMfw9.0
削除 反対

100 名無しさん :2014/04/15(火) 11:19:17 ID:Q3GpRyjs0
削除 反対
 
しかし、今回の騒動の元凶の一人である徳島は、この事態をどう考えているんだろうねぇ?

101 名無しさん :2014/04/15(火) 15:24:34 ID:5B0p8cjs0
もう一回読み直してみたんですけど、枯れ木氏言うところの「姉に対する批判」
ってのは、一貫して枯れ木氏本人か徳島氏へ向けてされていたものだ。
それを枯れ木氏本人が姉への批判と勘違いしているというのが、全く話がかみ
合ってない原因だ。

どうして自分が批判されてたってことに気付かず「姉に助言」みたいなワケワカラン
行動に出たんだろうな。

102 名無しさん :2014/04/15(火) 15:26:00 ID:ISjDaggA0
本人が削除希望してるなら削除も有りかと

実は同人誌や商業で出版が決まったとか
今回みたいに誹謗中傷が増えたとか
話してはいけない内容になってしまった、
なんて理由もあるだろうし

なので本人の希望があるという条件下でのみだけど

削除に1票

103 名無しさん :2014/04/15(火) 16:07:49 ID:K4ywPLI.0
>>101

藍氏=弟だったら話がかみ合うんじゃね?

でも、これ言っちゃいけないルールらしいから内緒ね

105 名無しさん :2014/04/15(火) 20:38:18 ID:T.SblMf.O
人のことを「害虫」とか「駆除」とか平気で言える…悲しい人ですね。

106 名無しさん :2014/04/15(火) 21:28:26 ID:VlDZg09M0
投稿者の身内は大抵自演だからなあ
自分はいい子ちゃんでいたいから
悪役や扇動役を担うパペットが必要になる
中の人は同じだから、うっかり間違えたのか
自分を非難するのは投稿者を非難するのと同じだと
圧力を掛けたかったのかは分からんがね

107 名無しさん :2014/04/15(火) 21:31:47 ID:VlDZg09M0
書き忘れたけど
削除希望4票目ね

108 名無しさん :2014/04/15(火) 23:06:42 ID:IBKB3TII0
この掲示板は誰がどんなレスをしているのかバレバレですよ
まさかIDが変わってるから自演しても大丈夫だとは思ってないでしょうねえ?
あとからIP晒されて恥かかないように

削除反対に一票

109 名無しさん :2014/04/16(水) 08:02:21 ID:hlUeybUQO
>>108
いやいや釣りだって(笑)

皆の賛同を得たいのに、あんな汚い言葉使わないでしょ?

本当だったら、なぜ削除依頼するのか理由をきちんと文語体で箇条書きにするはず。

投票にしたって投票日を事前に告知して、投票も1日のみにするはず。

煽って楽しみたいだけだって(笑)

110 名無しさん :2014/04/16(水) 15:54:28 ID:jza9g3rc0
>>109
文語体じゃなきゃダメなの?
俺は戦後生まれなんで、戦前の文章形式は難しいんだが

111 名無しさん :2014/04/16(水) 16:03:22 ID:jza9g3rc0
そんなんどっちでもいいよ

112 名無しさん :2014/04/16(水) 16:04:39 ID:jza9g3rc0
バレバレの自演してみた

すまん

113 名無しさん :2014/04/16(水) 20:54:49 ID:8jApezfU0
>>108
プライベートIPは変動する。それが晒されても最近の自演がバレるくらい。
そのうち別のIPで書き込みが可能になるんだよ。
ココが荒れないための抑止力になると思ったんだろうけど、
かえって荒らしを刺激することになりかねない、自重して欲しい。

ところで、ココで藍さんの書き込みは1つだけなのに軽々と100レス越えたね。
とても異様な感じがするけど、それだけ影響力のある物語だって事を証明してる。
アンチの数=愛読者の数として、ロムまで含めたら数百人の読者がいそうだ。

削除反対に一票。

114 名無しさん :2014/04/16(水) 22:14:19 ID:fIXuCYW2O
>>113
ご慧眼。
削除希望の書き込みも、読者とみなすのが正しい。本当はこの物語を愛読してる仲間なんですな。

115 名無しさん :2014/04/16(水) 23:05:38 ID:2Fonjeoc0
>>114
愛憎は紙一重だしね。
ここに来てる時点で愛読者。

116 名無しさん :2014/04/16(水) 23:20:47 ID:j0hAJMKg0
違うよ、皆ここが邪魔で他の話が全然投下されないから退屈なんだよ

117 名無しさん :2014/04/17(木) 02:12:50 ID:lnvmABsE0
うん
俺も正直削除とかはどうでもいいけどこの騒動にムカついて書き込みしてるだけだから
管理人が必要だと思ってIP晒しても恥ずかしくない
つか削除希望派はみんなそうじゃない?
逆に削除反対派は実は同じIPでしたーとか、別人装って賛辞量産してたのがばれて恥ずかしい思いする可能性の方が気の毒

118 名無しさん :2014/04/17(木) 08:13:07 ID:uhKl/s/k0
当然俺も含めたゴミ書き込みは消そうが消すまいがどうでも良いけど、
作品は残して欲しい
川の神様が絡むやつ、好きなんだわ

119 名無しさん :2014/04/17(木) 15:31:25 ID:oTSi1W8w0
削除反対派は自演してて、削除希望は自演してないって断言してるけどどんな根拠があるんだか
最初にこの投票を呼びかけてるやつ(削除希望派)からして作者も管理人もバカにした発言してる時点で、そんな意見には絶対ならないけどな

120 名無しさん :2014/04/17(木) 16:15:00 ID:7XteI1KI0
>>119
>>117の事ならちょっと違う
削除希望派は、最初の人からして釣りとか荒らし目的の人っぽいから自演がバレても恥ずかしくないと思うけど
削除反対派の人の方が万が一自演があった時にバレたら恥ずかしいと思うんじゃないかな…ってこと

恥ずかしくない=潔癖ってことじゃないよ

121 名無しさん :2014/04/17(木) 22:13:16 ID:oTSi1W8w0
>>113
>プライベートIPは変動する。それが晒されても最近の自演がバレるくらい。
そのうち別のIPで書き込みが可能になるんだよ。

なんか勘違いしてるようだけど、プライベートIPではなくてホストだよホスト
ホストはプロバイダ情報とかがある。プロバイダが変動するわけ無いわなw
掲示板が荒らされた時にそのホストをブロックしても変動してまた荒らされたら意味ないだろ

122 名無しさん :2014/04/17(木) 22:31:51 ID:YZtKYHa20
例えば日付が変わるとIDも変わる訳だが、わざわざそれを待って
削除希望繰り返すアンチと削除反対繰り返す愛読者のどっちがキモイかなんて言うまでも無い。
隔離スレの隔離スレまで粘着。雑談禁止を言いながら、
自分が藍さんたちを叩く雑談は正義だからOK。で、軽々と100レス越え。ホントに不思議な基準。

全く価値の無いものに、これ程のレスがつくはずがない。
善悪は別として、優れた文章が紡ぎ出す魅力的な物語だから
賞賛も反発も極端になりがち。その結果がこの騒動。
他で継続するとかでなければ、是非残しておいてほしい。
いつかココに辿り着いてこの物語を読む誰かのために。

123 名無しさん :2014/04/17(木) 22:40:28 ID:YZtKYHa20
>>121
まあ、何を信じるかは君の自由。でも調べて見ても絶対に損はしない。
ホスト規制すると巻き添え食う人が多いから、今はアドレスごとの規制が可能になってる。

そういえば藍さんも管理人以外スレ立て出来ない過去の仕様を憶えてたから
管理人さんが隔離スレを立てたと信じて移動、それがこの騒動の一因になったんだっけ。
アンチでも信者でも投稿者でも、誤解って怖いよな。それさえなければこんな事も無かったろうに。

124 名無しさん :2014/04/17(木) 23:08:27 ID:ykZ8zGhoO
>>122
これで結論が出た。投票は終了。まともな社会人なら、これ以上削除希望を書く人はいない。

125 名無しさん :2014/04/17(木) 23:27:58 ID:Ghxs82Vg0
>>124
まったく異論なし。

126 名無しさん :2014/04/18(金) 00:03:06 ID:x272aLAwO
124です。
言葉が過ぎて、これまでの削除依頼者さんが気を悪くしたらごめんなさい。
オープンな掲示板を運営する管理者の良心として、するはずのない削除を議論すること自体が、もはや不毛だということです。不毛な疑似投票はもうやめましょう。

127 名無しさん :2014/04/18(金) 00:05:50 ID:uS5Z3slk0
>>123
信じるもクソも、したらば掲示板なんて誰でも借りられるんだから確認済みなんだよ
したらば掲示板の管理ページでは日付の後にホスト→IDだよ
規制はホスト規制のみで、アドレスごとの規制なんてないんだが?

128 名無しさん :2014/04/18(金) 00:07:28 ID:eN7sRDcA0
125です。確かに。私もごめんなさいです。

129 名無しさん :2014/04/18(金) 00:18:31 ID:aDfhiiHk0
勝手に結論だされてもねぇ…
雑談禁止なんて誰が言ったんだろうねぇ…
ミスリードって怖いねぇ…

130 名無しさん :2014/04/18(金) 01:49:13 ID:qJvBEapE0
>>122
少し違うかな

ここ釣り堀だから100レス越えたんだよ

俺アンチでも信者でもないが投稿無いから書き込んじゃったんだな、勘違いさせてごめん

131 名無しさん :2014/04/18(金) 02:12:00 ID:qJvBEapE0
あと、弟キャラとか数人の愛読者の方々…

感想と非難
使い方少し違う人いるね、辞書検索してみて

132 名無しさん :2014/04/18(金) 05:18:20 ID:QJKsLnBQO
きのう投稿されてる話ってパロディかな?

133 名無しさん :2014/04/18(金) 14:37:11 ID:PIc4smNA0
新 藍物語 完結!

投下したいのに迷惑、この話これで終了!と言いたいんじゃね?

俺このゴミスレ上げるのやめる。すまなかった

134 名無しさん :2014/04/18(金) 20:20:57 ID:uS5Z3slk0
雑談がうざがられたのはみんなも知ってるように、元凶の「徳島」が自分の近況を語りだしたからでしょ
それまで雑談がどうのこうの言われたことなかったしな
何度か「ちょっと度が過ぎるんじゃないの?」って言われてもやめなかったから叩かれた

135 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/18(金) 20:54:02 ID:hvxGhMWM0
テスト中です。

136 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/18(金) 21:25:28 ID:hvxGhMWM0
皆様今晩は、藍です。本日戻りました。

>>管理人様
掲示板のルールを理解しないまま、長期間にわたって
ルール違反の投稿を続けて参りましたこと、心よりお詫び申し上げます。

「大長編駄文」・「ラノベもどき」・「粗大ゴミ」等の評価があるのも承知しておりますし、
本来、ルールに反して投稿された作品をこちらに残しておく道理はありません。
私がこれまで私が投稿した作品がこちらの掲示板にふさわしくないとお考えでしたら、
どうぞ全て削除して下さい(作者である知人の同意も得ております)。
ただ、管理人様がこの書き込みを読んで下さったことを確認する術が私には有りません。
これから『邂逅(中)』以降を投稿いたしますが、不適当であればアクセスを遮断して下さい。
以降一切の書き込みをせず異議を申し立てないと誓約いたします。
また、作業がご迷惑であれば『邂逅(中)』以降はまとめずに放置して下さって構いません。

>>これまで作品を読んで下さった皆様
事情は説明できませんが『邂逅』の投稿を再開いたします。
もし楽しんで下さる方がおられましたら嬉しく思いますが、もちろん非難のコメントもどうぞご存分に。。
とりあえず11時まで様子を見て、削除が始まらないようなら投稿を再開します。
削除が始まる、または11時を過ぎて投稿が始まらないようなら事情をお察し下さい。それではごきげんよう。

137 名無しさん :2014/04/18(金) 23:52:17 ID:fNS/4yRY0
たんたんと話だけ投稿してそれ以外書き込まなきゃいいんじゃないですかね
レスしてきた結果これだと思うんですよね
投稿のバックボーンとか読んだ人の感想とか興味無いのでシリーズまとめで楽しく読んでたのですが
たまたま掲示板開いたら変な流れになってて残念でした

138 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:09:41 ID:OWZkMMAw0
『邂逅(中)』

 「当主様の強い御意向もあり、分家との争いを完全に解決するための
計画が進められています。今回依頼する仕事は、その計画の一部。
ですからもう少し、昔話を聞いて頂かなければなりません。
分家との争い、それがどのように生じ、どんな経過を辿ってきたのかを。ちょっと失礼。」
遍さんは立ち上がり、短い電話をかけた。機器から取り出したディスクを封筒に入れ、
他の書類と共に保管庫に戻している途中でノックの音がした。
「どうぞ。」 「失礼致します。」
ドアが開き、少女が1人部屋に入ってきた。
手にしたお盆には涼しげなガラスのポット。それに、氷の入った背の高いグラスが3つ。
テーブルに置いたグラスに薄い黄緑色の飲み物を注ぎ、ポットを置いて少女は出て行った。
その所作は美しく洗練されていたが、俺が裁許を受けた日に見た少女ではない。
「実は緊張していて、飲み物を手配するのを忘れていました。申し訳ありません。どうぞ。」
言い終わると遍さんはグラスの飲み物を一気に飲んだ。深く息を吐く。
姫がポットを取り、遍さんのグラスに飲み物を注いだ。 「これは済みません。」
俺も一口、飲み物を口に含んだ。微かな苦み、良い香り。お茶の一種、なのだろうか。

139 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:12:41 ID:OWZkMMAw0
 「Rさん、我々が分家と袂を分かつ事になった原因はご存じですか?」
「はい。Sさんからは、術者を作り出す外法と関わっていると聞きました。」
「その通りです。しかしそれは問題の一面に過ぎません。
この問題の真相は一族のあり方をめぐる内紛。主導権争いです。
分家は元々とても古い、有力な家系。
その長はとても優秀な術者であり、『上』のメンバーでもありました。
しかしその男は、一族の意志決定に術者以外の人間が関わることに不満を持っていたのです。
当然ですが、先の大戦では一族もその影響を受けました。
戦時中の混乱に乗じて、その男は一族の主導権を握るために、
あるいは一族から離脱する事を目指して、行動を起こした訳です。
遍さんはまた一口飲み物を飲んだ。氷の音が涼しく響く。
「私たちの一族が約千年に渡って存続出来たのは、早い段階で当主の世襲制を廃止し、
各家系の代表者と優れた術者で構成される『上』の集団指導体制を確立出来たからです。
それによって術者と術者でない者が互いを信頼し協力し合う関係が構築されました。
先の大戦に伴う混乱と世の中の変化は、私たちには想像も出来ない程だったはず。
一族がそれらに上手く対応出来たのも、互いの信頼と協力があったからです。
一族においてさえ、術者はあくまで少数派。その意見だけが全体の意志を決めるとすれば、
術者でない者はやがて一族から離脱していくでしょう。一族の人数が減少すれば、それは
力を持って生まれてくる子の減少に直結します。それは結局、術者の減少という結果を招く。
それでは一族が世の中の変化に対応し、力を維持することは出来ません。」

140 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:19:16 ID:OWZkMMAw0
 一族の人数が減少すれば、力を持って生まれてくる子も減少する。それは必然。
ただし、外法を使えば、生まれてくる子に任意の力を与えることが出来るとSさんは言った。
「もちろん外法を使えば、術者でない者たちが離脱しても必要な術者を作り出せます。
言い換えれば、術者至上主義は外法を使うことを前提にしなければ成立しません。
しかし、事もあろうに『外法を使って術者を作り出す』など。
それは、一族全体として到底受け入れられる考え方ではありませんでした。」
「何故、その家系を放逐したんでしょうね。別の方法も有ったと思いますが。」
「もちろん『その家系を滅すべし』という意見も有ったと聞いています。
しかし当時、当主様も『上』も、その意見を採りませんでした。
大戦中、更に一族の内紛となればこちらにも相当な被害が出るのは間違いありません。
それに、遠からずその考え方は破綻し、分家自体が瓦解すると予想したからです。」
「必要なだけ術者を作り出せるなら、分家と本家の力関係が逆転するのではありませんか?」
「外法には代償が必要です。生まれてくる子に、術者になれる程の力を与えるなら、
その代償は間違いなく代の命。力を持たない人間の命と引き替えに力を持つ人間を作り出す。
そんな外法が分家の全員に支持される、支持され続ける筈がありません。
その点について、最初から分家内部の意見は統一出来ていなかったはずです。
だから当時の当主様と『上』は、分家内の穏健派と契約を結びました。
『分家自身の力で外法を使う者たちを滅することが出来たなら、いつでも復帰を認める。』と。
そして『相互不干渉と敵対行為の禁止』を条件に、その家系の離脱が認められました。
こうして成立したのがいわゆる分家。その後、本家と分家の関係は絶たれました。」

141 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:22:45 ID:OWZkMMAw0
 遍さんは一旦言葉を切り、飲み物を一口飲んだ。
「当主様と『上』が予想した通り、分家はゆっくりと瓦解の道を辿りました。
実際に外法を使う段階で反対する者が多く、術者を作り出す計画が頓挫したのか、
外法を使って生み出された術者がいたかどうかは確認されていません。
さらに術者の中からも分家を離れるものが出て、過激派の影響力は低下しました。
本家に保護を求めて来る者、術との関係を断った者、
分家を離れた者たちの末路はさまざまです。」
母から聞いた話の通りなら、俺の曾祖母は分家を離れた術者の1人ということになる。
「僕の曾祖母は分家の出身だと聞きました。外法に反対して分家を離れたのでしょうか?」
「『上』の調査によると、その女性が分家を離れたのは、分家が一族から離脱した直後です。
その時期から考えて、外法を使うという方針に反対して離脱したのは間違いないと思います。
かなり聡明な方だったのでしょうね。もっと後であれば、たとえ分家が離脱を許しても、
過激派は執拗にその女性の監視を続けたでしょう。Kの両親がずっと監視されていたように。」
首筋の毛が逆立つ。ではKの拉致は、そして、もしかしたら俺も。

142 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:25:59 ID:OWZkMMAw0
 「Kが拉致されたのは19年前、Kは2歳だった筈です。
その頃、既に過激派は分家の中でも異端として忌避される存在になっていました。
長が代替わりし、分家全体としては一族への復帰を願う意見が大勢を占めていましたから。
しかしその分、孤立した過激派の思想はより先鋭化してしまったということでしょうね。
力を持つ子供たちの拉致はその表れ、Kはその被害者という訳です。
Kが拉致された際、抵抗した両親が殺されました。
しかしKにその記憶があったかどうかは分かりません。」
その記憶があったなら、Kは術者として分家に協力しただろうか?
いや、記憶がなくとも、薄々は自分の境遇に感付いていたはずだ。
だからこそ姫の件で俺に見せた夢が『小さな女の子が拉致される場面』だったのではないか。
俺がその女の子は姫でなくKだと言った時、彼女の体から立ち上った青い炎。凄まじい熱量。
心に秘めていた疑問を不意に突かれて、だからあれ程の怒りが。
「その時、何故『上』はKを取り戻そうとしなかったのでしょうか?」
「あくまで分家の内紛。それなのにこちらが先に手を出す訳にはいきません。
『血縁相克』の大罪では、先に手を出した者が、はるかに重い報いを受けます。
しかも、本家が手を出せば反撃の口実を与えることになり、一族全体の争いに発展する。
Kの両親は、分家を離脱したあと、本家の保護を求めるべきでした。
当時も、そして現在も、本家へ保護を求めて来る者には、相応の対応がなされています。
もちろん外法を使わないという宣誓は必要ですが、それ以外の条件や罰則はありません。
場合によっては、一族への復帰という特例が認められることもありました。
このような対応がなされたのには、先代の当主様の御意向が強かったと聞いています。
『実際に外法を使った者以外に、罰を科す謂われは無い。』、そう仰って『上』を説得されたと。」

143 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:28:23 ID:OWZkMMAw0
 「特例として復帰が認められ、その後一族でも重要な地位についた例もあります。
Lさまの母上もそうでした。亡くなるまで、彼女は『上』の顧問として活動していました。」
姫の母親が...つまり、姫は分家の。
K・姫・俺、3人は同じく分家の血に、連なっていることになる。
姫に近い親戚がいるという話を聞かないのは、このあたりの事情によるのだろう。
「私の祖父母が、私の母を先代の当主様に託した。そう、Sさんから聞きました。
『これ程の力を持つ子を、あの者たちに渡す訳にはいかないから。』と。」
「ただ、過激派にすれば、Lさまの母上は『元々自分たちのもの』、そう考えるでしょうね。
彼女が分家に残って術者になっていれば、過激派の運命は変わったかも知れない訳ですし。
だからLさまが生まれ、母上の力の一部を受け継いだと分かった時、Lさまを拉致した。
母上がご存命なら、それは絶対に不可能でしたが...」
遍さんは眼鏡を外し、レンズをハンカチで拭った。

144 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:45:34 ID:OWZkMMAw0
 「Lさま、宜しいですか。もう少し立ち入った話を続けても?」
「はい。母のことも、父のことも、特に隠しておく必要の無いことです。」
「もちろんLさまと父上には護衛の術者が付いていました。
しかし、そのお住まいは聖域の中ではありませんでしたし、そして何よりも。」
遍さんはもう一度眼鏡をかけた。レンズの向こう、その眼は鋭く光っている。
「先代の当主様も、『上』も、未だ信じていたのです。『相互不干渉と敵対行為の禁止』を。
しかし、19年前のある日。分家の術者が数人、Lさまと父上のお住まいを急襲しました。
Lさまの父上と護衛の術者を殺し、Lさまを拉致したんです。
その事件を切っ掛けにして、一族の方針は不干渉から敵対へと変わりました。
当主様の裁可を受けた後に『上』は過激派の殲滅とLさまの奪回を決議。
対策班が過激派とそれに連なる者の動きを徹底的に監視・追跡し、Lさまの行方を追いました。
無抵抗の者は引き続き監視下に置き、抵抗する術者は躊躇無く殺害しました。

145 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:48:11 ID:OWZkMMAw0
 Lさまを奪回したのは半年後。
その時点で、すでに過激派の術者は残り6人になっていた筈です。
しかし、いずれもかなり強力な術者たちだったため、全員を殺害することは出来ず、
その後、残った術者たちの足取りは途絶えました。」
「5年前、Lさんを再度拉致しようとしたのが、その。」
「そうです。あの事件で2人とK、今回の事件で依頼人を装った1人。
今も残っている過激派の術者は恐らく2人。
TV局に映像を持ち込んだ人物、そして映像に写っている人物。
今日、当主様が御影に2人の居場所の探索を命じました。
それは今日中に判明するでしょう。当然それなりの対策をしている筈ですから、
正確には『御影すら侵入出来ない結界が張られた場所』が判明する訳ですが。
そして、可能であればビデオを持ち込んだ術者を殺害する、その命も下っています。
式を使って血縁を殺害することは禁呪。しかし、この際、止むを得ないとの御判断です。」
「それ程の術者なら、探知されたことを察知して、すぐに移動するのではありませんか?」
実際、Kたちは頻繁に移動していたからこそ、Sさんでさえその居場所の特定に手間取った。
当然あの時も式による探索は行われていただろう。ならば今回も。
「映像に写っている術者は、おそらく今回の事件の首謀者です。
この人物は間違いなく、かなりのダメージを負っている筈。
身動き一つ出来ない状況だったとしても不思議はありません。
本来ならばその命は『あれ』との契約の代償になるはずだったのですから。」

146 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:50:22 ID:OWZkMMAw0
 遍さんは立ち上がり、保管庫の中から小さな木箱を取り出した。その箱をテーブルに置く。
「さて、ようやく本題。今回の依頼の内容です。映像に写っている術者を、
御二人に処理して頂きたい。そしてこれは、当主様の御意向でもあります。如何でしょう?」
これまで何度と無くSさんの仕事を手伝ったし、単独の仕事も幾つか経験した。
しかし、俺はこの手で人を殺したことはない。おそらくは姫も。 処理≒殺害、それを俺と姫が。
「その仕事、お受けします。」
凛とした涼しい声が部屋の空気を震わせた。姫は真っ直ぐに遍さんを見つめている。
「Rさんは如何ですか?」
「もちろんお受けします。ただ、Lさんも僕も、Sさんや炎さんのような力を持っていません。
僕たち2人で出来る仕事でしょうか?Lさんだけは絶対に。」
「御心配はごもっとも。そのために、当主様からこれをお預かりしています。」
遍さんはテーブルの上の小箱を姫の前に置き直した。

147 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:53:53 ID:OWZkMMAw0
 「どうぞ。Lさまならこの箱の中身が何なのか、お分かり頂ける筈です。」
何の変哲もない小さな木箱。滲み出る気配はなく、かといって結界が張られている様子もない。
姫は無造作に箱の蓋を開けた。細い指が箱の中身を取り出す。
...4つに枝分かれした細い金具が黒い玉を抱いている。玉の直径は約3cm。
金具は金色で、その中心部には2つ連なった小さな環状の金具。
姫はそれをじっと見つめたあと、右手で握り締め左胸に押し当てた。小声で何事か呟く。
微かに、気配を感じたかも知れない。それともあれは、姫の心の動きだったか。
「これは、青の宝玉ですね。号は『碧空』。」
青の宝玉? 姫の右掌の上。それはやはり黒、青い色など見えない。
姫はそれを箱に戻し、蓋を閉めた。
「使い方についてはLさま、そしてSさまの方が詳しいと思います。
御二人の力とその宝玉があれば全てが終わる、当主様はそう仰いました。」
それで当主様は俺と姫を。つまり、分家の血。
『分家自身の力で外法を使う者たちを滅することが出来たなら、いつでも復帰を認める。』
分家の復帰を認めるために、あくまで遠い約束を守る。それが、当主様の御考えなのだ。

148 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:56:21 ID:OWZkMMAw0
 お屋敷に戻ると、既に『上』から連絡が届いていた。御影が突き止めた場所は△県。
郊外に建設されたものの、6年前に経営が破綻し放置された老人介護施設。
長期入所に対応した設備はあるが、水や電気が止められているために
対策班の捜索対象から外れていたという。水や食料の持ち込みは容易だろうが、
電気はそうもいくまい。自家発電の設備があったとしてもまともに動くかどうか。
身動きの出来ない程のダメージを負った術者を、一体どうやって世話しているのだろう。
翌日の早朝、俺と姫はその施設に向けて出発した。車でおよそ半日の距離。
多分昼前までには到着。そこから、俺と姫の仕事が始まる。遠い約束を果たすために。

『邂逅(中)』 了

149 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 03:59:03 ID:OWZkMMAw0
少しお時間を頂いて仮眠します。以後の投稿はその後で。

150 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 10:59:40 ID:OWZkMMAw0
『邂逅(下)』

 その施設に着いたのは11時過ぎ。道路が空いていたので、予定より少し早い。
海沿いの県道から海岸とは反対方向の細い道に入って数百m、人目に付きにくい場所。
施設の門は開いていて駐車場には大型のバンが一台停まっていた。
分家の術者が使っている車だろう。長期間放置された状態には見えない。
つまり残った分家の術者は2人とも、今この施設内にいることになる。
「Rさん、いよいよですね。」 「はい、宜しくお願いします。」
姫は微笑んで右手を差し出した。その手を左手でしっかりと握り、目を閉じる。
じいぃぃん、胸の奥が熱い。俺と姫の心の一部が重なっている。
この時のために、昨夜から2人で準備を整えて来た。
2人の意識を繋げることでお互いの力を共有する。『あの声』と『言霊』。
系統は違うが、どちらも言葉を媒とする力。組み合わせて共有するのは難しくない。
まず俺が車から降り、注意深く辺りの様子を窺う。術者の気配は感じない。結界の、中か。
助手席のドアを開け、姫も車から降りた。手を繋いだまま歩く。
姫の信頼が伝わってくる。俺の気持ちも姫に伝わっている。それがとても心地良い。
大仕事を前にして、俺たちは不思議なほど落ち着いていた。
この仕事に全力であたる。結果はどうあれ、俺たちは最後まで一緒だ。

151 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:02:51 ID:OWZkMMAw0
 施設の玄関前まで来た時、スロープの脇に棒のような物を見つけた。
長さは約80cm、先端にバネ仕掛けらしい鎌状の刃。刃渡りは10cmほど。
反対側の端は革巻きの握りになっている。恐らく、仕込み杖のような武器。
「Rさん、あれを。」
姫の視線を辿る。スロープを上り切った所。コンクリートの床に人型の影が焼き付いていた。
大きさから見て、かなり体格の良い男の影に見える。落ちていた武器の持ち主だとすれば。

 『残り2人の内1人だ。』

低く太い声が辺りに響いた。この声と気配。あの、最強の式。御影。
『本家からの分離にあわせて、分家の長が雇い入れた術者たちの、最後の生き残り。』
「別系統の術者だと言うことですか?」
『そうだ、一族の血に連なっていないから、血縁相克にもならない。遠慮無く始末できた。
ただし、結界の中にいるのは間違いなく分家の術者。後はお前たちの仕事、心してあたれ。』
床に焼き付いていた男の影は見る間に薄れ、御影の気配も消えた。
遍さんの話の通りなら、この結界の中に御影は入れない。
何かの影に潜んで気配を消し、術者が結界から出るタイミングを待っていたのだろう。
結界の強固さから見て、かなりの力を持った術者だし、それなりの警戒もしていた筈。
なのに仕込み杖の刃を操作するだけで精一杯。文字通り一瞬の出来事だったということだ。

152 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:04:43 ID:OWZkMMAw0
 「残った術者はあと1人ということですね。Rさん、行きましょう。」
俺の左手を握る姫の右手に力がこもった。2人、施設の入り口に歩を進める。
自動ドアは反応しなかった。施設内の様子から見ても、おそらく自家発電装置は動いていない。
大きな自動ドアから少し離れた場所にある夜間出入り用のドア。
本来オートロックだろうが、それでは御影が始末した術者も不便だったろう。
ドアノブに手をかけて引くと、すんなりとドアは開いた。やはりオートロックに細工がしてある。
俺が先にドアをくぐり、姫が続く。問題なく結界の中に入った。
分家の血を引く者でなければ、この結界の中には入れない。
結界を張った術者は、当主様が姫を派遣するとは予想していなかったのだろう。
そして姫の他にも俺が、分家の血を引く術者がもう1人いるということも。
姫は迷うことなくロビーを抜け、先に立って非常階段に向かった。
まるで郊外のショッピングモールで買い物をする時のような、軽やかな足取り。
姫にはもう分かっている。最後の術者の居場所。
重なった意識を通して、俺にもその部屋が見えていた。3階、廊下の突き当たり。306号室。

153 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:05:44 ID:OWZkMMAw0
 「少し、焦げ臭いですね。」 「はい、火の気は無いみたいですが。」
その部屋のドアの前まで来ると、中の術者の気配が普通ではないことも分かった。
それは確固たる存在と言うよりも、ボンヤリとした雰囲気のような気配。
強い妄執に囚われていながら、人の形を保っていない。
生きた人間の気配がこんな風に拡散しているのを感じるのは初めてだ。
正直、不安もある。しかし、このドアを開けなければ仕事は始まらない。
1つ深呼吸をして、ドアノブに手をかける。鍵はかかっていなかった。

 ドアを開けると同時に、激しい憎悪が漏れだしてきた。
かまわずドアをくぐる。始めに俺、次に姫。
黒い霧のような、靄のようなモノが部屋の奥に蟠り、視界を遮っている。
それは飛び回る無数の小さな虫。ショウジョウバエよりもずっと小さな、黒い虫の群れ。
その羽音が重なって、低い唸り声のように聞こえた。いや、これは。

『・・・すこしで、もう少しで、奴らを滅ぼすことができたのに・・・』
『・・・あの、霊剣を持った男さえ現れなければ、契約通り■◆は・・・』
『・・・の命と引き替えに、何としてもKの仇を、復讐を・・・』

 部屋の奥に蟠る生きた黒い靄の中に、呪詛の声が重なり合う。凝り固まった憎悪。
姫の眼を見る。姫は優しく微笑んで、しっかりと頷いた。よし、深呼吸。

154 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:10:06 ID:OWZkMMAw0
 『憎い敵の術者がこの部屋に入った事にも気付かないとは呆れたな。
闇に魂を侵食され、感覚までも奪われたか。』
沈黙。
その直後、黒い靄は凝縮し、部屋の奥の様子が見えた。
窓際に置かれたベッド。その上に横たわる人物は、
焦げた布の切れ端と夥しい数のガーゼで体中を覆われていた。
わずかに見える皮膚は、まるでミイラのように乾涸らびている。
点滴や栄養補給をしている様子はない。本当に、この状態で生きているのか?
凝縮した黒い靄は、横たわる人物の胸の上でゆらゆらと蠢いている。まるで黒い炎。そして。
人物の左手、紫色に変色した薬指だけが、乾涸らびることなく元の状態を保っていた。
間違いない。この人物こそ、最後の術者だ。

155 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:14:21 ID:OWZkMMAw0
 『本家の術者か。私を始末しに来たのだろう。さっさとやるが良い。
ただし、私たちの憎しみは消えることなく、いつか必ず本家を滅ぼす。忘れるな。』
部屋の中に低い声が響いた。術者の胸の上、黒い炎が発する声。
姫がベッドの脇に歩み寄る。俺も姫の横に立った。
『私はL、憶えているでしょう?あなたに聞きたいことがあって、此処に来ました。』
『L。あの時の、娘か...言って見ろ、今更隠すことなど何もない。』
『本家と分家の争い、先に手を出したのは分家の方です。
なのに何故、本家を恨み、滅ぼそうとするのですか?』
姫の声は強い言霊を宿していた。その言葉はきっと男の心に届いている筈だ。
『確かに、先に手を出したのは分家。しかし、そう仕向けたのは本家だ。
当主と『上』は卑劣な分断工作で分家を弱体化させ、滅ぼそうとした。
黙って滅びる選択肢などない。私たちは生き残るために、戦うしかなかった。』
姫は目を伏せて小さく溜息をついた。

156 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:16:42 ID:OWZkMMAw0
 『仲間から何を吹き込まれてきたのか知らないが、本家は分断工作などしていない。
お前たちのやり方や考え方に嫌気がさして分家を離脱した者を保護しただけだ。
それも本人が希望した場合だけ。力を持たない者の命を代償にして外法を使い、
力を持つ者を生み出すなんて、そんな考えが分家の全員に支持される訳がない。
だからお前たちは分家の中でも孤立した。その左手、薬指の契約にも耐えられたなら、
お前も相当な力を持っていた筈だ。だが、その力が誰かの命を代償にして
与えられたものだとしても、お前は何も感じないのか?』
『力を持つ者を生み出すためには、それなりの犠牲は必要。当然だろう。』
『だから親を殺して子供を拉致しても良い。拉致した子供に術を仕込んで代にしても良い。
随分と手前勝手な話だな。お前、誰に育てられた?両親の記憶はあるか?
お前自身が拉致された可能性もあるぞ、『あの人』が、Kがそうだったように。』
『Kが、拉致された?出鱈目を言うな。Kを殺したのは貴様たちだろう。
酷い拷問をして代の在処を聞き出し、そのあとで殺した。そんな奴らの言うことなど』

157 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:18:53 ID:OWZkMMAw0
 『黙れ。』
腹の底から湧き上がる激しい怒り、しかし俺の声は自分でも驚くほど冷たかった。
『あの人を生かしたまま捕らえるほどの力を持った術者が本家にいたなら、
お前たちはとうに殲滅されていた。それに、お前はあの人の最後を誰から聞いたんだ?
そいつはあの人が拷問され、殺されるのを黙って見届けた後、対策班の手を逃がれたのか?
幾ら何でも不自然過ぎる。良く考えろ、おかしいとは思わないのか?』
『じゃあ誰がKを。それにあの術の代は、絶対に見つからない方法で隠してあったのに。』
『あの人は外法を使う非を悟り、自ら代を持ち出してLさんの術を解いたんだ。
だからそれを知った仲間に襲われた。左胸に大きな深い傷があって、酷い出血だったよ。
間違いなく刃物傷。あれ程の力を持っていた人があんな傷を負うなんて。
どんな武器が使われたのか、心当たりが有るんじゃないのか?』
ふと、施設の入り口近くに落ちていた仕込み杖を思い出した。
その先端に仕込まれた鋭利な刃。あれなら、もしかして。
『貴様こそ、あの場所にはいなかった筈だ。何故、Kの最後を知ってる?』

158 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:21:04 ID:OWZkMMAw0
 男の声の調子が変わっていた。
俺の心に浮かんだ映像、あの人の胸の傷と仕込み杖。
間違いない。姫の力がそれらの映像を男の心に伝えた、だから。
『死の際に、あの人がRさんに会いに来たんです。本当に凄い術でした。
あの人はRさんを心から愛していたから、最後はRさんの腕の中で...
とても穏やかで美しい死顔。自分の不幸も、自分を不幸にした人も、全てを許して。』
あの人の最後の微笑み、一筋の涙。その映像も、この男の心に伝わっているだろう。
『...私は、騙されていた、という事か。』
『いいえ、あなたを騙していたのはあなた自身です。心の隅の疑問を、敢えて無視してた。
薄々は気付いていたのに、それを認めるのが怖かったから。』
『その通り、だな。物心付いてからずっと、本家は敵だと信じていた。憎んで、戦うだけの日々。
それは間違っていないと信じることしか、本家の人間を憎むことしか、私には出来なかった。
自分には生きている意味が無いと、認めたくなかった。
そうやって自分を誤魔化し続けて、挙げ句の果てはこの有り様。
自ら動くことも、死ぬことすらも出来ぬ、生ける屍。
Kに両親がいない、その記憶すらない。それも知っていた。もしその理由を調べていれば、
Kの拉致のことも分かった筈だし、Kには別の道を用意出来たかも知れない。
だが、怖かった。Kを失いたく無かった。本当に、私は馬鹿だった。』

159 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:22:33 ID:OWZkMMAw0
 そうか、この男はあの人を愛していたのだ。
だからこそ、対策班があの人を拷問して惨殺したという話の嘘を見抜けなかった。
そして、結局は自らの魂と引き替えに、何の救いもない計画を進めてしまった。
本家を、滅び行く自分たちの道連れにする。それが『復讐』だと信じて。
『生きる意味は、誰かに与えられるものじゃない。自分で見つけるものだ。
本家と分家の争いを完全に終わらせるために、俺たちは此処に来た。
当主様は外法を使っていない者の罪を問わず、望むなら本家への復帰を認めると仰ってる。
外法に手を染めた者で、残ったのはお前1人。その薬指、『不幸の輪廻』との通路を
封じることが出来れば全てが終わる。そのためにはお前の力が必要だ、分かるだろう?』
男の胸の上、黒い炎は薄れ、次第にその輪郭を失いつつあった。
『長く続いた争いを終わらせ、皆が一族に復帰する役に立つのなら、
私の命にも少しは意味があったということだ。』
男の乾涸らびた顔に表情は読み取れない。しかし、確かに男は笑っていた。
『まともに話を聞いてくれてホッとしたよ。俺たちの言葉が届くかどうか、正直自信が無かった。』
『『誰に育てられた?』と聞かれた時、お前の話を聞くべきだと分かった。
私は祖父母に育てられたが、父と母の記憶は全く無いんだ。』

160 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:24:14 ID:OWZkMMAw0
 祖父母に育てられたのなら、拉致、とは言えないかも知れない。
しかし、恐らくこの男も、長い争いの最中に生まれ、否応なく争いに巻き込まれた被害者。
『今更記憶を辿ろうとも思わないし、罪を逃れようとも思わない。全て、私自身の犯した罪。
有り難い御言葉と御心遣いに感謝すると、当主様に伝えて欲しい。
闇に侵食され、異形に成り果てた私の命で良いの、なら、喜んで...」
部屋の中に冷気が満ちていく。この感覚、迷わず短剣を抜いた。
男の左手、薬指が小さく震えている。何かが通路を使って。
『作り出した術者も、雇い入れた術者も、遂に滅びた。』
違う、先程までの声ではない。嗄れた、呟くような声。
『我が力と知恵の限りを尽くしてなお、一族の運命を変えることは出来なんだ。
しかも、我らが血に繋がる者が幕を引くとは皮肉な事よ。これも、あの女の、描いた筋書きか。
●明が遺言、しかと当主に伝えよ。術者を軽んずれば、早晩一族の命運は尽きる。忘れるな。』
これ以上、聞く必要は無い。一刻も早く通路を封じないと『不幸の輪廻』が。
男の左手を押さえ、薬指の付け根に短剣の刃をあてた。力を込める、硬く乾いた感触。
切り離された薬指は炎に包まれ、灰も残さずに燃え尽きた。

161 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:26:08 ID:OWZkMMAw0
 「Rさん、少し離れて下さい。」 姫が俺の真横に立っていた。3歩下がって距離を取る。
金具に皮紐を通して胸にかけた宝玉を姫は両手で捧げ持った。額の前、右掌の上に宝玉。
『青き・・・の・・・・て恵み給え、降らせ・・・清らなる・・・・祓い・・・』
宝玉の色が透き通った深い青に変わった。ボンヤリとした光を放っている。
そして。
ポツリ。水滴が俺の肩に落ちた。部屋の中に、無数の水滴が降り注ぐ。
雨、だ。
コンクリートの天井で空から仕切られている部屋の中に、雨が、降っている。
「Rさん、濡れますよ。一旦部屋の外へ。」
姫に促されるまま、開けたままのドアを2人でくぐった。廊下には雨が降っていない。
振り向くと、部屋は不思議な明るさに満たされ、雨は勢いを増していた。
これは、まるで天泣。屋根の下に降る天気雨。

162 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:27:14 ID:OWZkMMAw0
 ふと見ると、男の体の厚みが半分程になっていた。
雨が降り続くにつれ、その厚みはさらに減っていく。
そして、着物の燃え残りやガーゼの色が白く変わっていくのが、遠くから見ていても判る。
どのくらい降り続いただろうか。既に床を濡らした水は部屋の外にも流れ出してきていた。
突然、姫の胸で青く輝いていた宝玉が元の黒に戻った。雨は急激に勢いを弱めていく。
「Rさん、行きましょう。」 「はい。」 もう一度部屋の中に入り、ベッドに歩み寄った。
男の体は跡形もなく消えていた。
ベッドの上に残るガーゼや着物の切れ端は漂白されたように真っ白だ。
穢れを祓い、憎しみと哀しみを清らかな水に流す。それがこの宝玉の力。
そして分家の血に繋がる俺と姫がこの役目を担ったことで、遠い約束が果たされる。
つまり、もう分家は存在しない。

163 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:28:07 ID:OWZkMMAw0
 「Rさん、これ。Sさんに教えて貰った通りです。」
姫の指さしたガーゼが微かに動いていた。
そっとガーゼをめくる。 奇麗な、青い金魚。これは。
『もしもその魂が完全に侵食されているなら、相手の肉体は塵一つ残さず消滅する。
でも、もし侵食されていない部分があれば、宝玉はそれを水に関わる生物に再構成するの。』
青の宝玉の力と、その使い方を教えてくれた時、Sさんは俺たちにそう言った。
不思議な雨が降った後に残されたのは、可憐な青い金魚。つまり、そういうことだ。
姫は濡れたガーゼで金魚をそっと包み、ポケットから取り出した小さなビニール袋に入れた。
「これでお終いです。車に戻りましょう。早くペットボトルに移してあげないと。」
「お屋敷に戻る前に、小さな水槽を買わなきゃいけませんね。」

164 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:29:19 ID:OWZkMMAw0
 数日後。俺と姫はある場所を訪ねた。こぢんまりとした日本家屋。
俺たちを迎えてくれたのは、かなり高齢の老人。その男性が何歳なのか、見当も付かない。
「良く来て下さった。この日が来るのを、それこそ一日千秋の思いで待っていたのです。」
柔らかな声。老人が淹れてくれたお茶から、良い香りが漂っていた。
「あなたは、私たちと、それからKさんにも縁のある方だと、当主様から伺ったのですが。」
「はい。あなたがRさん、そしてこちらのお嬢さんがLさんですね。
私にとってRさんは曾姪孫、LさんとKさんは曾孫ということになります。」
では、この老人は姫とあの人の曾祖父。だが俺にとっては。
「曾孫はひまごのことですね。でも曾姪孫という言葉は初めて聞きました。」
「Rさんの曾祖母は私の姉です。父の指示で、私は家の中から、姉は家の外から、
外法に手を染めた者たちを孤立させるために活動していました。ただ私たちの力が及ばず、
LさんとKさんには辛い思いをさせてしまい、本当に申し訳なく思っています。
特にKさんには何と...」 老人の目に涙が浮かんでいた。
「何故、外法を使おうという意見が通り、一族から離脱することになったのでしょうか?
それがなければ、このように長く無益な争いは避けられた筈なのに。」
姫の口調は穏やかだったが、その声から深い悲しみが伝わってくる。
この争いが姫から父親を、そして10年以上の子供らしい日常を奪った。
『何故?』という問いは、姫の心の奥底から発せられたものだったろう。

165 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:30:54 ID:OWZkMMAw0
 「一族からの離脱を決めたのは当時の長、私の叔父です。名は●明。」
●明、その名はあの時の。つまりあの声の主は分家を離脱させた男。
「一族の中でも一二を争う力を持った術者でしたが、偏狭な考えの男でした。
一族の意志を決める時には、術者の意見を最大限に重視すべきだと考えていましたから、
当主様とも、『上』とも意見が度々衝突し、年を取るにつれますます頑迷になりました。
また、あの男は離脱の数年前から一族以外の系統から強力な術者を呼び集め、
自分に対して反旗を翻す者が出てこないような、一種の恐怖政治の体制を築いていたのです。
取り敢えず●明の決定に従って一族を離れ、その死後に家系の方針を変えて一族に復帰する。
それが嫌なら、身一つで家系を離れ、経済的な基盤のほとんど無い状態で生きていく。
当時の私たちに残された道は、その2つだけでした。」
「では先々代の当主様と復帰の約束をしたというのは。」
「私の父です。●明の死後、父は様々な手段を講じて家系の方針を変えていきました。
長い時間がかかりましたが、外法に手を染めた者たちを孤立させることに成功しました。
本当に、あと一息という所だったんです。Kさんが拉致されたのは。」
老人は言葉を切り、深く溜息をついた。
「追い詰められれば反撃に出るかも知れない。それは予想していました。
しかしまさか同じ家系の者に手をかけて、力を持つ子を拉致するなどとは...。
Kさんの奪回を何度か試みましたが、いずれも失敗。
私たちは数人の術者を失い、大きな犠牲を払う結果になりました。
その後は同じような事が起こらぬよう、残った者たちの身を護るのが精一杯で。」
老人の言葉には、深い後悔と悲しみが込められていた。

166 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:31:47 ID:OWZkMMAw0
 「今にして思えば、娘夫婦と相談をして孫を、
つまりLさんの母を当主様に託して本当に良かったと思います。
あれ程の力を持った子を奴らに奪われたとしたら、
この家系だけでなく、一族全体の運命を危うくすることになったのは間違いありません。」
まさにここ。俺がどうしても答えを得られなかった疑問が、これだ。
「あの」「でも」 俺と姫の声が全く同じタイミングで重なった。
姫が俺を見つめている。穏やかな笑顔、なら、これは俺の役目。
「はい、何でしょう?」 老人も俺を見つめていた。

167 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:34:00 ID:OWZkMMAw0
 「それ程の力を持った子供を、どうして分家は手放したんでしょうか?
分家から離れるだけならまだしも、本家の、しかも当主様に託すなんて。
分家の長が、それを黙って見過ごすとは、とても思えないのですが。」
「特に、問題にはなりませんでした。あの子は、鬼子だと思われていましたから。」
「鬼子?」 「そう、鬼子です。」 「それは、どういう、事でしょうか?」
「生まれつき、あの子の体には鱗がありました。右肩から背中、左腰から左の太腿にかけて。
母親の胎内で、重すぎる業の影響を受けると、体の一部が異形に変化した赤子が生まれる。
それが鬼子です。稀に、そういうことが起こることは知られていました。
大抵は業の重さに耐えられず、2歳になる前に亡くなる。それを避けるためには、
『分業』の術が必要です。業の一部を別人に分ける、極めて高度な術。
当時その術が使えるのは当主様と桃花の方様、そして●明の3人だけでしたから、
娘夫婦はその術を●明に依頼しました。
業を引き受ける訳ですから、引き受け手は術者でなければなりません。
娘夫婦は自分たちのどちらかで業を引き受けるつもりだったのです。
しかし、『分業』の術は成功率が低い上、業を引き受けた術者が無事に済む保証もありません。
当然●明はそれを断りました。鬼子を助けるために術者の命を犠牲には出来ないと。」
Sさんから聞いた話では、姫の母親は少なくとも21歳までは存命だった筈だ。
「Lさんの母上は、鬼子ではなかった。そういう、ことですね?」
「はい、鬼子の伝承とは異なり、あの子には一向に衰弱する様子が無かったんです。
それどころか、成長は、特に精神的な成長は眼を見張る程でした。
一歳になる頃には母親が歌って聞かせていた童謡を全て諳んじており、
二歳になる少し前には、既に、短い祝詞を幾つか詠唱することが出来ました。」
「諳んじたのではなく、詠唱出来たのですか?たった2歳で。本当に?」

168 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:35:24 ID:OWZkMMAw0
 姫が驚くのも無理は無い。本当に詠唱したというなら、その祝詞の効力を。
「はい。不用意に祝詞を詠唱するような子では無かったので問題は起こりませんでしたが。
それで私と娘夫婦は話し合い、あの子は鬼子ではないという結論に達したんです。
おそらく、自らその体の一部を異形に変えて、幼子の体には強すぎる力に耐えているのだと。
そんな伝承は聞いたこともない、しかし他には説明の方法が有りませんでした。
そして、その考えが正しければ、成長につれてあの子の力はますます強くなる。」
もし、そんな力を持っていることを分家の長に知られたら。だから姫の母親を当主様に。
「そこで、私は一計を案じました。●明の取り巻きの術者、その一人を通じて願い出たのです。
『鬼子である孫を本家の当主に託すことを許して欲しい』と。」
「でも、それが簡単に許されるなんて。」
「●明は『分業』の術を断った。それを利用したんです。
『娘夫婦は『分業』の術を断られたことをやはり恨んでいる。
どのみち助からぬ命なら、娘夫婦の願いを叶えることでその恨みを逸らせる。』

169 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:36:59 ID:OWZkMMAw0
 『もし当主が引き受けなければ恨みの対象が当主に上書きされる。
引き受けたとしても術の成功率は低い。失敗すればやはり恨みは当主に向かう。
最悪、術が成功しても、鬼子が普通の子に戻るだけ。痛くも痒くも無い。』
そう、取り巻きの術者に吹き込んでおきました。案の定、あっさり許可が降りましたよ。
もちろん●明があの子の状態を確認したいと言えば、最悪の事態になったでしょうね。
でも、そうはならないという確信が私にはありました。」
「それは何故、ですか?」
「●明は力を持たぬ普通の人間を蔑んでいました。
まして鬼子を気に掛ける事など、有るはずが無い。
あの男にとって、鬼子は普通の人間にすらなり損ねた、何の価値もない存在なのですから。」
老人は冷たい微笑みを浮かべた。その裏にあったのは皮肉ではなく、哀しみであったろう。
「あの子を当主様に託して3年後、私たちにもある噂が伝わってきました。
『本家に途方もない力を持つ術者が現れた。
それは僅か5歳の女の子で、しかも本家の当主が何処からか引き取った子。』と。」
「そんな噂が流れたら、貴方たちにも追及の手が。」
「いいえ、それは全く有りませんでした。●明はとても自尊心の強い男です。
私や娘夫婦を咎めれば、自分の失敗を認める事になる。それは許せない。
だから結局最後まで、私や娘夫婦には、嫌味の一つも言いませんでした。
勿論内心では怒り狂っていたと思いますし、それが結局はKさんやLさんの拉致に繋がった。
本当に申し訳有りませんが、あの時私たちには、それ以外の選択肢が無かったのです。

170 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:38:03 ID:OWZkMMAw0
 「それなら私の、お祖父様とお祖母様にも、お会いできるのでしょうか?」
老人は暫く姫を見つめ、それから眼を閉じた。ゆっくりと首を振る。
「娘夫婦は、Kさんを奪回しようとして犠牲になりました。
しかし娘夫婦には、きっと思い残すことは無かったと思います。
結果的には、あの時の選択がLさんと、そして一族への復帰に繋がったのですから。」
姫とあの人は又従姉妹、それなら2人が良く似ていたのは当然かも知れない。
あの人も、そして姫も、外法を使う者達にとって是非手に入れたい存在だった筈。
2人は拉致され、あの人の奪回は失敗したが、姫の奪回は成功した。
そして、あの人を奪回しようとして姫の祖父母は命を落とした。
因縁、といえばそれまでだが、何と過酷で不思議な運命なのだろう。
そして俺は、俺の曾祖母は。

171 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:38:50 ID:OWZkMMAw0
 「私の曾祖母は家を出て活動していたと仰いましたね。」
「はい、姉は父の知人の養女になり、同じように家系から離れた者たちを支援していました。
彼女の頑張りがなければ路頭に迷う者が少なくなかったでしょう。
父の顧客でもあった彼女の養父は裕福でしたが、それだけで出来ることではありません。
彼女は本当に良くやってくれたと思います。亡くなる数年前までは連絡を取っていましたよ。
彼女が体調を崩して入院してからは、それも難しくなってしまいましたけれど。」
曾祖母は早々に家を離れた、遍さんからそう聞いて以来、正直俺は負い目を感じていた。
しかし、曾祖母も必死に自分の役割を果たしていたのだ。いつか一族へ復帰するために。
今更のように、俺たちの近しい親族が辿った運命の数奇さを思う。
一族全体が時代の変化を乗り越えるためには、どうしても避け得ない争いだったのか。
争いが終わったことで、一族が再びまとまって新しい時代に向かうことができるなら、
この争いで犠牲になった数多の命も無駄ではなかったということだ。
そして、俺と姫の体の中には、犠牲になった人々と同じ血が流れている。
「その通りですよ。Rさん。」 え?今、俺は。そうか、この老人も。

172 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:41:33 ID:OWZkMMAw0
 「RさんとLさんは、私たちに残された希望です。
当主様の御慈悲によって、私たちの家系は一族への復帰を許されました。
これからは家を離れていた者たちも少しずつ戻ってくるでしょう。
しかし有力な術者の多くは世を去り、私たちの家系は以前の力を失いました。
もう、以前のような力を持つことはないかも知れません。でも、それで良いんです。
RさんとLさん、これ程優れた術者を生み出したのは、この家系の血。
それは間違いのない事実ですし、この家系の誉れとなるでしょう。
さて、話が長くなりましたが、私たちの家系が辿ってきた道はご理解頂けたと思います。
こんな、お願いが出来る立場でないのは重々承知していますが、
出来れば、これからも時々は、この年寄りに御二人のお顔を見せては頂けないでしょうか?」
姫は立ち上がり、ふわりとテーブルを回り込んだ。床に膝を付き、両手を老人の右手に添える。
「曾御祖父さま、今度は私とRさんの結婚記念に撮った写真を持って来て差し上げます。
その時は、お体に障らない範囲で、母や父、御祖父様や御祖母様の事、お聞かせ下さいね。」
「はい。はい、喜んで...」
南中の太陽を避けて鳴き止んでいたセミが、傾いた日差しの中、再び鳴き始めていた。

173 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:44:40 ID:OWZkMMAw0
 「それで、あなたはどう思ったの?何だか納得してないみたい。」
就寝前の一時、ソファで他愛もない話をしている内、何となくその話題になった。
Sさんは俺の左肩に頭を預けたまま、俺の左手に両手の指を絡めている。
『姫の母親は鬼子だと思われていたために、
すんなりと分家を離れて当主様にその身を託すことが出来た。』あの時老人はそう言った。
しかし、本当に鬼子は存在するのか。あるいは存在したことがあるのか。
強すぎる業の影響で体の一部が異形に変化して生まれた赤子、とても信じられない。
「納得していないというか、体の一部が異形に変化した赤子というのがちょっと。
その、例えば鱗だったら遺伝子異常が原因の先天的な症状かも知れないですよね?」
「そういう症状があるのも間違いないけれど。論より証拠ね、ちょっと待ってて。」
Sさんは立ち上がって机に向かった。一番下の引き出しを開けて何かを探している。
「はい、これよ。開けてみて。」
戻ってきたSさんが差し出したのは白木の小さな箱。一辺が5cmほどの立方体。
そっと蓋を取る。箱の底には濃紺の布、そしてその布の上に。これは。
鱗だ。真っ白な鱗がざっと十数枚。大きさは俺の親指の爪くらい。
真珠のような白地、微かに螺鈿のような虹色の光が見える。
形は菱形に近い。中央の筋状に盛り上がっている部分は結構尖っている。

174 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:45:59 ID:OWZkMMAw0
 「あの、これ触っても?」 「もちろん、どうぞ。」
鱗を一枚摘んでみる。魚の鱗とは全く違う。何よりもその質感。
かなり厚みがあり、硬く丈夫そうだ。灯りにかざすと光がボンヤリと透けて見える。
こんな鱗は見たことがない。ヘビやワニの鱗なら、こんな風に一枚ずつ分離しないだろう。
もちろん皮膚の異常によって生じたものとは到底思えない。これは、間違いなく鱗、だ。
「Sさん、もしかしてこれは。」
「ご名答、Lの母親の体から最後にはがれた鱗。彼女から譲り受けたの。」
「最後にはがれたって、それはどういう?」
「彼女から直接聞いた話よ。少し残念そうに話してくれたのを良く憶えてる。
鱗が初めてはがれたのは、彼女が引き取られて2年後。だから、4歳になった頃ね。
左太腿にあった鱗の一部がはがれて、はがれた痕はすぐに周りの皮膚と変わらなくなった。」
先天的な遺伝子の異常によるものなら、成長につれて症状が劇的に軽くなることはないだろう。
つまり、成長して体の抵抗力が強くなったから、異形に変化していた部分が
元に戻っていったということだろうか。それなら、本当に業の影響を受けて体の一部が。
「その後も彼女の成長につれて少しずつ鱗ははがれた。太腿から背中、そして肩へと。
彼女は鱗を嫌なものだと感じていなかったし、むしろ綺麗な鱗がはがれたのを残念がって、
はがれた鱗を大切に取ってあったの。これはその中の一部。12歳の誕生日前には、
一枚残らず鱗ははがれた。その時に起こった不思議なことも、彼女は教えてくれたわ。」
「不思議なことって?」 「話を聞くより、実際に感じた方が納得出来るでしょ?」

175 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:47:37 ID:OWZkMMAw0
 Sさんは左手の甲に鱗を二列にして並べた。まるで奇抜なアクセサリーのようだ。
「じゃ、右手をこっちに。目を閉じて、良いというまで開けちゃ駄目よ。」 「はい。」
Sさんの右手が俺の手首を取る。やがて指先が硬いものに触れた。
乾いた、さらさらした感触。この感覚は以前何処かで...あれは、何処だったろう。
「眼を開けて、どうだった?」 「この鱗、前にも一度触ったことがあるような気がします。」
「最後の鱗がはがれたのは彼女がお風呂に入っている時。
湯船の底から鱗を拾い集めていたら、彼女のすぐ前に龍が現れた。
白い、小さな龍。あなたも触ったことがある、あの龍。」
そうだ、あの時。以前、Sさんの術で俺は小さな白い龍を見て、そしてその鱗に触れた。
大きさはまるで違うが、この鱗はあの龍と関わりがあるものなのか。
「詳しくは話してくれなかったけれど、彼女はその龍と意志の疎通が出来たみたい。
彼女の鱗が全てはがれて一年後、龍はある領域で眠りについた。
私はこの鱗を譲り受けたから、これを媒にしてその領域と此処を一時的に繋ぐことが出来る。
でも、それだけ。意志の疎通も出来ないし、龍を起こしてその力を借りることもできない。」
「生まれながらにということなら、式とは違いますよね。護り神、なんですか?」
「式とは違うわね。龍が護り神として彼女の体に入り込んでいた可能性は有る。
他にも色々な解釈が出来るけれど、正解は彼女とあの龍しか知らない。
一族の歴史の中で、こんな事例は他に1つも記録に残っていないから。」
「これを、母親の形見としてLさんに渡していないのは何故ですか?」
姫がこの鱗に関わる話を知っていたなら、既に俺には話してくれていた筈だ。
「未だ迷ってるの。あの時私は、Lに渡す時までこれを預かるのだと思ったわ。
『いつかこれをLに渡して。』と言われると思ったのに、そうじゃなかった。
ただ『これをSにあげる。ずっと持ってて。』そう、言っただけ。その意味を、ずっと考えてる。」

176 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:48:31 ID:OWZkMMAw0
 Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「ねぇ、あなたが答えを教えてくれない?」 「へ?どうして僕が。」
「あなたが赤の宝玉を身につけて」 「駄目です、絶対に。」 「ケチ。」

『邂逅(下)』 了

177 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:49:34 ID:OWZkMMAw0
『邂逅(結)』

 大きく開いた窓から吹き込む風に、未だ昼間の熱気が残っている。
Sさんと姫はダイニングで夕食の準備。翠と藍の子守が、今日の俺の当番。
子守と言っても特に面倒はない。藍は寝ているし、翠は1人遊びの達人。
俺はただリビングで2人の様子を見ながら本を読んでいれば良い。

178 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:50:58 ID:OWZkMMAw0
 「ねえ、おとうさん。」
じっと水槽の中を覗き込んでいた翠が突然振り向いた。
「どうかした?」
「きんちゃんは、どうしてときどきしゃべるの?きんぎょなのに。」
「え?」 きんちゃんは、あの日姫と2人で持ち帰った金魚の名前。
当初Sさんは『名前は付けない方が良い』と言っていたのだが、
いつのまにか翠がそう呼ぶようになった。
他の呼び方を思いつかないまま、今はすっかりその名前が定着してしまった訳だ。
「きんちゃんが、喋るって?ホントに?」 慌てて本を置き、翠の隣りに立つ。
「うん、ときどきだけど、しゃべるよ。」 翠はいたって普通の、真面目な顔だ。
「何を、喋ってるか分かる?例えば翠にご挨拶とか?」
この年頃の子供なら、金魚を擬人化し、会話をしている気になるのも珍しくはないだろう。
「しゃべるときは、いつもはじめに『K』っていうの。だれかのなまえかな?」
ざわ、と、首筋の毛が逆立った。 「『K』って...」 
「おとうさんが、しってるなまえ?」
「ええと、同じ名前の人を知ってるけど。でもその人は、そう、大人だから。」
「じゃあ、きんちゃんはみどりとだれかをまちがってあやまるんだね。」
「翠に、謝るの?きんちゃんは。」
「うん。『わたしはばかだった、ゆるしてくれ。』って。しゃべるのは、それと『K』だけ。
でも、どうしてあやまるのかな?ふしぎだよね。」
そっと翠を抱き上げた。軽い体、温もり。小さいけれど、確かな、命の感触。
翠を抱いたままソファに戻る。腰を下ろし、翠を隣りに座らせて小さな肩を抱いた。

179 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:52:00 ID:OWZkMMAw0
 「翠は『生まれ変わり』って知ってる?」
「しってる。しんだひとのたましいが、べつのひとになってうまれてくるんでしょ?」
「そう。でもね、人の魂が必ず人に生まれ変わるって決まってる訳じゃ無いみたいだよ。」
「どういうこと?」
「とても悲しい思いをした人やすごく辛い思いをした人の魂は、
他の生き物に生まれ変わることもあるんだって。
あんまり悲しかったり、辛かったりすると『もう人間は嫌だ。』って思うのかもしれないね。」
「じゃあ、きんちゃんはとてもかなしいおもいをしたから、きんぎょにうまれかわったんだね。
あやまるのは、そのとき『K』というひとにもかなしいおもいをさせたから?」
「絶対にそうだとは言えないよ。でも、自分だけじゃなく、他の誰かにも悲しい思いを
させてしまったのなら、どうにかして謝りたいと思うんじゃないかな。」
「おとうさん、みどりは、みどりはどうしたらいい?ひとちがいだから、こたえちゃだめ?」
もう一度翠を抱き上げ、頬ずりをして、その髪を撫でた。まっすぐに俺を見つめる、澄んだ瞳。

180 ◆iF1EyBLnoU :2014/04/19(土) 11:53:43 ID:OWZkMMAw0
 「翠はどうしたいの?」
「きんちゃんが、かなしくないように、したい。かなしいままなのは、いやだから。」
「きんちゃんは翠を『K』という人だと信じてるんだよね?」 「うん。」
「それなら、お父さんは、答えてあげても良いと思う。」 「なんて、こたえたらいいかな?」
「今、翠は悲しくて辛い?それとも幸せ?」
「しあわせだよ。かなしくないし、つらくないし、みんなみ〜んなだいすきだから。」
「じゃあ、そのまま答えれば良いよ。 『私は今、幸せです。安心して下さい。』って。」
「わかった。おとうさん、おろして。また、しゃべるかもしれないから、きんちゃんのことみてる。
『わたしはいま、しあわせです。あんしんしてください。』だいじょうぶ。もう、おぼえた。」

 百合の花の香り。振り向くと、すぐ後ろにSさんが立っていた。
「勝手な事をして御免なさい。でも、僕は」
Sさんは人差し指で俺の唇を押さえ、ゆっくり首を振った。
「ご名答。多分これ以上正しい答えはない。ありがとう。」
出来上がった夕食の良い匂い。Sさんは優しく声をかけた。
「翠、夕ご飯よ。こっちへいらっしゃい。」

『邂逅』 完

181 名無しさん :2014/04/19(土) 16:52:22 ID:NfBVAaxI0
投稿お疲れ様です
匿名掲示板だから色んな意見あって当然だと思いますよ
誰だって自分に向けられる罵詈雑言は嫌です。
文学賞獲った作品でもボロクソに叩かれるのが当たり前
あまり気にしなさんな
楽しんでる人が多くいることをお忘れずに
再開してくれて嬉しいです

182 名無しさん :2014/04/19(土) 18:44:22 ID:kIUF3Gx.0
やっぱり面白いですね。楽しく読ませてもらいました
新しい話も期待してます

183 :2014/04/19(土) 22:14:00 ID:u7rPGoSU0
こんばんは、藍さん。
色々な心無い批判にさらされたにも関わらず、投稿してくださって、本っ当にありがとうございました。
今後とも、何卒よしなにお願い致します。

184 名無しさん :2014/04/19(土) 23:18:51 ID:2oFQHqBgO
再開に、物語に、涙が出ました。
本当に、ありがとうございました。
いろんな意味で、新しい章が始まるのではないかと思います。読むに耐えない言葉を書き込む人たちを非難する気持ちも、すべて消えました。
感謝しています。

187 浩太郎 :2014/04/21(月) 12:47:09 ID:0xdrSWyQ0
藍さん 知人さん、弟さん 物語の再開 ありがとうございます。

いつものことながら 文章を読む楽しさ・心地よさを味わいながら読ませて頂きました。

荒らし(最近Lineグループでも流行っているみたいです)まがいの様々な発言は発言
として 発表を心待ちにしている方も多いはず。
一読者として、物語の継続を希望して止みません

周囲の意見に惑わされず、藍さん・知人さん・弟さんの心の赴くままに投稿して頂ければと思います。

191 名無しさん :2014/04/26(土) 14:46:41 ID:FahMxYagO
これまでの物語を読み返しながら、ファンはいつまでも待っています。
これで終わりになろうと、次がいつになろうと、この掲示板に来て、この物語に出会えて、本当に良かったです。

192 名無しさん :2014/04/26(土) 19:09:37 ID:fhVtiGkE0
万が一のためにまとめの作品を保存しようと思ったんだよ。
でもダメだ、途中でつい読んじゃうから全然すすまねえ〜。
今『約束』読み終わったところ。『約束』やっぱ良いね。
でも、このペースだと連休全部使っても保存が終わらんぞ。

193 名無しさん :2014/04/26(土) 22:05:19 ID:1o2DhCUE0
お前は俺か?
『約束』は何とか通過したが、『遺産』と『名残雪』で渋滞が始まって
今『道標』。もう良いや、続きは読み終わってからで。

194 名無しさん :2014/05/01(木) 21:59:45 ID:az1RA0u60
『邂逅』も全部まとめられたね。管理人様に心から感謝です。
まとめでしか読まない人も万歳だし、あとはゆったり新作を待つだけ。
色々あったけど、ここはやっぱり良い所だと思う。

195 名無しさん :2014/05/14(水) 21:54:13 ID:2yfEXdNE0
藍してる
なんつって

196 名無しさん :2014/05/16(金) 19:09:26 ID:nvzK7Ct.O
これで完結したようだけど、新作あるのかな…

197 名無しさん :2014/05/26(月) 20:53:55 ID:79LDUV9I0
初めて書き込みさせて頂きます。

毎回とても楽しく拝読させて頂いております。

藍さま、知人さま他ご関係の皆様有り難うございます。

今回の『邂逅』で第一部が一応の終わりを見た様に感じております。

次回作(第二部)があるのかは存じませんが、まだまだ5人と一族の皆様のお話の続きを拝読したいと思う気持ちを禁じ得ません。

ファンの皆様同じ気持ちだと思っております。

いつの日か新作を拝読させて頂ける機会を楽しみにお待ち申し上げます。

198 名無しさん :2014/05/27(火) 09:55:42 ID:BSvmmGEY0
一月以上経つのに粗大ゴミ粗大ゴミ罵ってた子の反応もないんだねぇ

199 ◆iF1EyBLnoU :2014/05/27(火) 22:27:56 ID:Mowdp9xY0
皆様今晩は、藍です。

>>194
>>195
>>196
>>197
ご期待頂き感謝いたします。
只今、新作の準備中です。まだ題名も未定ですが、
週末辺りに(上)を投稿できればと思っております。
もう暫く、お待ち下さい。

>>198
素人の作品ですから罵られても仕方有りません。
お気遣い頂き、感謝致します。

200 名無しさん :2014/05/30(金) 06:57:05 ID:qf0439aU0
藍さん、ありがとうございます。もう、投稿されないと思ってました。新しいお話を、また聞かせていただけること、心から感謝致します。

201 名無しさん :2014/05/31(土) 11:12:36 ID:bO/l/ukQO
心の底からうれしいです。大変楽しみにしています。

202 名無しさん :2014/06/01(日) 13:28:39 ID:Cn6It1T60
藍さま

新作の情報有り難うございます!!

物語の続きがある事が純粋に嬉しいです!!

心より楽しみにしております!!

203 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:29:50 ID:cBimMlnE0
テスト中。

204 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:30:31 ID:cBimMlnE0
皆様今晩は。藍です。
新作『贐』、投稿致します。まずは(上)を。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

205 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:32:16 ID:cBimMlnE0
『贐(上)』

 「はい、これが新規の患者さんのカルテ。宜しくね。」
碧さんは俺の机に数枚のカルテを置いてにっこり笑った。
姫と同じくらいの長身でクッキリした目鼻立ちの美人。看護師の制服が実によく似合う。
しかも病院では何故か素通しの眼鏡をかけている。全て俺の理想通り、まさに白衣の天使。
「毎回こんなに新規の患者さんがいるなら、このクリニックは大繁盛ですね。」
「そりゃ腕の良い先生と美形の言霊使い、最高の二枚看板だもの。
特に宣伝もしてないけど、口コミで良い評判が広まってるみたい。」
「言霊使いって公言してる訳じゃないし、今まで大した仕事もしてません。
どう考えても二枚看板って言葉はおかしいですよ。」
「変な所で細かいんだから、その点暁は」
「暁君が大雑把な碧さんに細か〜く気を遣ってるんですよ。
それと、仕事中にお惚気は止めて下さい。不謹慎です。」
「折角Sから情報仕入れて眼鏡かけてあげてるのに、嫌な奴〜。」
「情報って、ちょっと、碧さん。」 「残念、今仕事中ですから。」 ドアが、閉じた。
もしかしてSさんが手に入れてくれた白衣は碧さん経由...少し、目眩がした。

206 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:34:06 ID:cBimMlnE0
 一族の人が経営している心療内科。
俺は『上』の委託を受けて、月に2度、新規の患者さんのカルテをチェックしている。
いわゆる霊障の事例があれば協力するためだ。俺の力で解決出来ればそうするし、
手に負えない場合はSさんに繋いで、必要なら『上』に指示を仰ぐという段取り。
一族の人が経営している病院には、担当の術者を配置することが増えているらしい。
もちろん生命や魂の操作は禁呪だが、霊障が原因なら術を使って病を治癒出来るからだ。
病を治せない場合でも、必要なら患者さんやその家族をメンタル面でサポート出来る。
結果的に病院の評判は良くなり、担当の術者がいる病院はどれもかなり業績が良い。
時代に対応した一族のあり方、その成功例として『上』もこの事業に力を入れていると聞いた。
俺が担当しているクリニックは今年の5月に開業し、碧さんもそこで勤務している。
もちろん碧さんは『本物』の看護師。
お屋敷から比較的近いのと、碧さんの推薦があって俺が担当に指名された訳だ。
俺の適性は『言の葉』。心療内科なら協力出来ることもあるかも知れないと思って引き受けた。
しかし幽霊すらあんまり見かけないのに、霊障の事例がゴロゴロ転がっている筈が無い。
あたりまえといえばあたりまえだが、これまで霊障の事例に遭遇したことはなかった。
家族と一緒に来院したものの、頑なに心を閉ざした高齢者や子供との雑談で信頼を得て、
医師のカウンセリングに繋ぐくらいがせいぜい。そう、前回までは。

207 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:35:58 ID:cBimMlnE0
 最後のカルテを手に取った時、寒気がした。これは、マズい。
○村美枝子、34歳。カルテを通して気配が伝わってくる。
俺はカルテの束を持って部屋を出た。直ぐに碧さんに知らせなければ。
受付のドアを開け、碧さんに声を掛けようとした時。
玄関に面した窓から女性の姿が見えた。女性の姿に重なる気配。そして、血の臭い。
間違いない、あれがカルテの女性だ。
未だ事情が全く分からない。念のために『鍵』を掛ける。
「R君、どうしたの?」
俺は玄関に背を向ける位置に回り込み、唇に人差し指を当てた。声を潜める。
「このカルテの患者さん、今玄関にいる人ですよね?」
「そうだけど...もしかして。」
「かなり深刻なケースです。前回はカウンセリングを?」
「いいえ、私が大体の事情を聞いて、担当医を選んでもらって。
それで今日の日付を設定しただけ。カウンセリングは今日から。」
「受付が済んだら、カウンセリング室への案内を僕に指示して下さい。」
『了解。』

208 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:37:35 ID:cBimMlnE0
 その女性のカウンセリングが終わった後、碧さん同席で担当のA先生から話を聞いた。
A先生は碧さんの叔父にあたる人で、恰幅の良い大柄な体と穏やかな笑顔が印象的だ。
「簡単に言うと、自分の生き霊が娘を傷つけているのではという不安があるという事だった。」
「傷つけるというのは精神的な意味だけではありませんよね?」 あの時、確かに血の臭いが。
A医師は暫く俺の眼を見つめ、やがて溜息をついた。
「これが『力』か。驚いたよ。疑っていた訳ではないが、術者と仕事をするのは初めてなのでね。
そう、君の言う通りだ。これまでに3度、娘さんが原因不明の怪我をしてると言ってた。」
「原因不明というのは?」
「怪我をした時の状況を何故か娘さんが憶えていない。しかも段々と傷が深くなる。
一番最近では太腿にかなり深い傷を負って、家の近くで倒れていたそうだ。未だ入院中らしい。
こういうケースだと我々は偶然の事故や事件をもとにして
患者の自己憐憫が生み出した妄想を疑うんだが、君の意見は違うようだね。」
「自己憐憫はあるかも知れませんが、娘さんの怪我の原因が不明なのが気になります。
女の子が大怪我をして家の近くで倒れていたとしたら立派な刑事事件。
間違いなく警察に事情を聞かれた筈ですから、今も監視なしに行動できるとしたら、
彼女には完全なアリバイがあると言うことでしょう。」
「R君。じゃあ彼女の言う通り、生き霊の仕業ってこと?」
「生き霊に似ていますが、厳密には違います。
それに、とても深刻で、場合によってはSさんの力が必要かもしれません。
だから、今度来院する時、その女性と話をさせて下さい。」
「分かった。この件は君に任せよう。碧、R君に力を貸してくれるね。」

209 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:40:03 ID:cBimMlnE0
 次の木曜日、その女性が来院したのは予約の時刻5分前。
二言三言、女性と言葉を交わした後で碧さんは振り向いた。眼鏡に左手で軽く触れる。
「R君、予約のお客様よ。カウンセリング室へ御案内して。」
ちょっと冷たい感じの仕草と台詞が実に絵になる。
まさにはまり役(本物の看護師だから『はまり役』という言葉はおかしいが)だ。
「はい。」俺は受付を出て女性を出迎えた。血の、臭い。
「カウンセリング室に御案内します。どうぞ。」 軽く一礼。
二度目だからか、女性も少し微笑んで会釈をした。
先に立って廊下を進む。カウンセリング室のドアを開けた。
「どうぞ。」 「ありがとう。」 部屋の灯りが自動で点灯する。

210 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:41:32 ID:cBimMlnE0
 「そちらへお掛け下さい。」
女性がソファに座った後、俺もテーブルを隔てた向かいのソファに座った。
クリアファイルからA4の様式を取り出し、女性に手渡す。
「まずはこちらに御記入をお願いします。かなり立ち入った内容になると思われますので、
万が一のトラブルに備えて患者さんの意思確認が必要なんです。」
もちろん、碧さんが作ってくれた偽の様式だ。
カウンセリングの日付、担当の医師、簡単な同意確認の説明。そして署名欄。
「これで良いですか?」 「結構です。」 受け取った様式をクリアファイルに戻す。
「では左手を。心拍を診ます。」 「心拍、ですか?」
「はい。あまり心拍が高いと、カウンセリングに適した状態ではありませんから。」
女性が黙って差し出した左手首を左掌に置き、腕時計の秒針を見ながら薬指で脈を取る。
もちろん、術を掛けるための方便だ。Sさん直伝、直接の身体接触を伴う術。
「26だから...104。問題ないですね。」 そう、問題なく術が。息を吸い、腹に力を込めた。

211 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:42:53 ID:cBimMlnE0
 『すぐにA先生がいらっしゃいます。もう少しお待ち下さい。』
一礼して部屋を出る。廊下の数m先で碧さんが待っていた。
クリアファイルを渡し、受け取った白衣を羽織る。
「くれぐれも、気をつけて。」 カウンセリング室は防音仕様だが、碧さんは小声で囁く。
俺も声を潜めた。「頑張ります。」
カウンセリング室へ引き返し、ドアをノックした。
一呼吸置いてドアを開ける。 「Aです。○村さん、来てくれて有り難う。頑張りましたね。」
女性は立ち上がって俺を迎えた。 「A先生、宜しくお願いします。」 よし、完璧だ。
「こちらこそ宜しくお願いします。どうぞ、お掛け下さい。」
女性がもう一度ソファに腰掛けたあと、一呼吸の間を取る。
背中を深く背もたれに、両手は指を組んで太腿の上。A先生が話を始める前の仕草。
「さて、○村さん。早速ですが、前回聞いたお話。生き霊の件です。」 「はい。」
「あれから色々と調べてみたんですが、思い当たる症例が有りません。
一種のドッペゲンガーかとも考えましたが、娘さんが実際に怪我をしているのが問題です。
どうもこれは心療内科ではなく、別の領域かも知れない。私はそう考えています。」
女性の顔に警戒の表情が浮かんだ。
「警察に相談した方が良い、ということですか?」
「いいえ。娘さんが入院する程の怪我をしたのなら、
あなたは既に警察に事情を聞かれた筈です。そうでしょう?」
「はい。」 女性は小さな声で答えた後、少し俯いた。

212 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:44:13 ID:cBimMlnE0
 「本当に生き霊なら、私の親戚に専門の者がいるのでご紹介しようかと。」
「生き霊の、専門家?」
「はい、陰陽師です。陰陽師、御存知ですか?」
「言葉だけは聞いたことがありますけど。本当に、いるんですか?」
「います。娘さんの怪我が段々重くなっている事からすると、
専門家の助けが必要だと思います。勿論無理にとは言いません。
しかし正直言って、この事例はどの医者でも手に余ると思いますよ。」
「その人なら、私の生き霊から娘を守ってくれるんですか?」
「おそらく大丈夫でしょう。もし彼の手に負えなくても、もっと力のある術者に繋いでくれる筈。
ここだけの話ですが、実はこんなケースに備えて彼と契約してるんです。
ですから彼の力を借りても、通常のカウセリング以外の料金は発生しません。
正規の医療行為ではないので、その点は不問。この件は口外しない。それが、条件です。」
女性は少し黙ったが、決断は早かった。
「A先生、お願いします。その人を紹介して下さい。」
「早い方が良いと思いますが、日を改めた方が良いですか?ご判断にお任せします。」
「いいえ、もしお願いできるなら、今日紹介して頂きたいです。」
「これから、直ぐにでも?」 「はい。」
「それは良かった。では私の掌を見て下さい。」 話しながら両掌を女性に向けた。
「え?」 怪訝そうな表情。 女性の目の前で軽く手を叩く。これで、術は。

213 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:47:12 ID:cBimMlnE0
 女性はポカンと口を開けて俺を見つめた。
無理も無い。今の今まで、彼女には俺がA先生に見えていたのだ。
「あなた、さっきの。これ、どういうこと?」
「驚かせて御免なさい。僕の名前はR、陰陽師です。力を信じて協力して頂かないと、
僕たちにも出来る事は殆ど有りません。本物だと信じて頂くために、簡単な術を使いました。」
「簡単な術...あなたは本物の陰陽師で、私の生き霊を止められるの?」
此処が、山場。深呼吸、腹に力を込める。
『生き霊とは違います。それに、かなり深刻な事例なので少し焦っています。
でも、僕を信じて詳しい話を聞かせて頂ければ、きっと力になれると思いますよ。』
「深刻というのは、『次』が娘の命に関わるということですか?」
やはり。この女性は、とても聡明な人だ。
『そうです。それが何時なのかは分かりません。
でも、それほど遠くはない。あまり時間が、無いんです。』
女性は黙って俺を見つめた。深い悩みを宿した、暗い瞳。
信じてもらえるかどうか、それが全て。拒絶されては何も出来ない。
「あなたを、信じます。全部話しますから、娘を、私を、助けて下さい。」

『贐(上)』 了

214 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/01(日) 18:51:14 ID:cBimMlnE0
藍です。
現在作業中ですが、(中)以降もなるべく早く投稿したいと思っております。
では今夜はこれで失礼致します。有り難う御座いました。

215 名無しさん :2014/06/04(水) 00:29:14 ID:pf4em.Gw0
藍さん知人さんありがとうございます。白衣シリーズの続きを楽しみにして待っています。

216 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:25:57 ID:76T7LtyE0
テスト中です。

217 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:29:36 ID:76T7LtyE0
皆様今晩は、藍です。
『贐(中)』を投稿致します。お楽しみ頂ければ良いのですが。

218 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:31:02 ID:76T7LtyE0
『贐(中)』

 「前回の話の内容を僕は直接聞いていないので、まずは確認させて下さい。
娘さんの怪我、それを自分の生き霊の仕業ではないかと考えたのは何故ですか?」
「3回目の怪我、娘が倒れていたのはアパートの駐車場でした。
そのすぐ後で、駐車場を出て行く人を見た人がいて、背格好や服装が私に良く似ていたと。」
「それで、警察に事情を聞かれたんですね。」 「はい。」
「なのに、あなたの行動には制約も監視もない。捜査の対象から外れた理由は何でしょう?」
「娘が怪我をしたのは5時半頃、私が5時半までにアパートに帰るのは無理です。
その日も同僚といつも通り退勤して、その時間はまだ電車の中でした。」
「小学生の女の子を狙った変質者の仕業とは考えられませんか?」
「3回目の怪我については警察もそう考えているようです。
ただ、1回目と2回目の怪我は変質者じゃありません。どちらも家の中、でしたから。」
「家の中で?」
「最初の怪我は両腕のアザです。朝起きた娘が痛がるのでパジャマを脱がせたら、
二の腕に大きなアザがありました。もの凄い力で腕を握られたようで。多分夜の間に。」
「二回目の怪我も夜、ですか?」
「夜と言うより夕方です。娘はお風呂で倒れていて、頭から血が...可哀相に。」
女性は俯いて小さく身震いをした。無理もない。相当なショックだったろう。
「意識がボンヤリしていたので救急車を呼びました。3針縫って、次の日から実家に。
念のために2日間学校を休ませました。」
「悲鳴や物音は聞きませんでしたか?」
いいえ。私、娘がシャワーを使っている間に居眠りをしてしまって。
目が覚めても娘がいなかったので様子を見に行きました。そしたらあんなことに。」

219 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:32:10 ID:76T7LtyE0
 どちらも女性が眠っている間に起きている。それで生き霊ではないかと考えたのなら、
この女性は生き霊について多少の知識を持っているということだ。
「3回目の怪我はどうです?あなたは電車の中だったんですよね?」
「はい。ずっと、考え事をしていて、もしかしたら少し居眠りをしたかも知れません。
その間に私の生き霊が、娘を。」
「○村さん、生き霊は本体が憎む相手に害をなすものです。
もちろんその憎しみを本体が意識していない場合もあります。
ただあなたには、娘さんに対する憎しみの感情を感じません。
たとえ無意識であっても、憎しみは必ず表面に滲み出てくるものですから。
それに、はじめに言った通り、娘さんの怪我の原因は生き霊じゃありません。」
「生き霊でないなら、一体何が娘を。」
「くわしいお話を聞かせて頂くのはこれからです。今はまだ結論は出せません。
次の話を聞かせて頂く前に5分程休憩しましょう。その間に飲み物を用意します。」

220 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:35:04 ID:76T7LtyE0
 一礼して部屋を出た。碧さんに飲み物を用意してもらう間、改めて精神を集中する。
それは女性の意識があるうちは活動しないはずだが、用心するに越したことはない。
飲み物を持ってカウンセリング室に戻ると、既に女性はソファに座っていた。
グラスを2つテーブルに置く。女性は飲み物を一口飲んだ。
俺も喉を湿らせる。涼しげな、氷の音。
「さて、いよいよ本題です。まずは娘さんの父親について聞かせて下さい。
その人はあなたの夫ではありません。あなたの娘さんは養子、ですよね。」
女性は息を呑んで俺を見詰めた。眼を伏せて小さな溜息をつく。
「それも、術で?」
「術ではなく、感覚です。あなたには妊娠の経験がありません。だから。」
「いきなり養子の件を話したら事前に事情を調べたと疑われる。だからさっき、あの術を。」
「ご理解頂いて有り難いです。あんな、瞞し討ちのような方法は失礼だと思いましたが、
あなたが思慮深い女性だということが分かっていましたから。」
女性は寂しそうな微笑みを浮かべた。伝わってくる深い悲しみ、そして自己嫌悪。
「私が本当に思慮深ければ、こんなことには...
娘の父親は、私の兄です。これはまだ、娘にも話していません」
「特に必要がなければ、僕がそれを娘さんに話すことはありません。どうぞ御心配なく。」
「兄は離婚して娘を引き取り、約半年後に亡くなりました。交通事故で。
娘が3歳の時です。それで私が娘を引き取りました。」
「未婚の若い女性が子供を引き取る、御身内の反対は有りませんでしたか?」
「いいえ。兄が離婚したあと、良く世話をしていたので娘は私に懐いていましたから。
もちろん最初は実家で両親と一緒に娘を育てていました。
でも、娘が小学校に入学する前に両親を説得したんです。
私が戸籍上の母親になれば、それが一番娘の為になるって。」

221 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:36:13 ID:76T7LtyE0
 「あなたの『娘』という言葉は、とても強い力を宿しています。不思議ですね。
どんな言葉でも、これ程の力を宿すことは滅多にありません。一体、何故でしょう?」
初めて見たときから、彼女に『力』があることは分かっていた。
これほど悪化した状況の中で、自分の理性を失わずにいられたのは奇跡に近い。
それは持って生まれた『力』と、力を制御する強靱な精神力がなければ絶対に無理だ。
そして彼女の言葉に宿る言霊は、彼女の『適性』が俺と同じであることを示している。
「あの子が本当に私の産んだ子ならどんなにか。いつもそう思っているからかもしれません。」
「何故そんな風に? あ、もちろん今話したくないのでしたら無理にとは言いません。」
「いいえ、あなたを信じると決めましたから、全部話します。
それに、もしかしたら私、誰かに聞いて欲しかったのかも知れません。
今まで誰にも、両親にも友達にも話せなくて、本当に辛かったから。」
女性は一旦言葉を切り、俺を見つめた。
「少し頼りない人でしたが、私は、小さい頃から兄が大好きでした。
それは何時の間にか恋愛感情に変わり、そして、大学に入学した時に。私は...」
揺れ動く心が発する言葉が宿す、微かな言霊。不謹慎かもしれないが、それは美しかった。
まるでオーロラのように、揺れ動く淡い光が彼女を包んでいる。
術者でなければこれ以上は。
「やはり無理はしない方が。」 「大丈夫です。」
彼女はもう一度俺の目を見つめた。本当に、強い人だ。

222 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:37:27 ID:76T7LtyE0
 「私は兄と体の関係を持ちました。両親が不在の夜、兄の部屋に行って、それで。」
そうか。兄への深い愛情、そして現代の倫理では許されぬ関係に対する強い自責の念。
十数年に渡る激しい想い。その膨大な精神エネルギーが、
人1人の命を奪いかねない程の存在を育ててしまったことになる。
「両親の目を盗んで、私と兄の関係は続きました。兄がとても気を遣ってくれたので
妊娠の心配はありませんでした。でも私は、本当は...」
「お兄さんの子を産みたかった。だから、娘さんが本当に自分の産んだ子ならどんなにかと。」
「結局最後まで、それは言えませんでした。口に出したら、兄を失ってしまう気がして。
だから兄が結婚した後も私を求めてくれた時、私はとても嬉しかった。」
「お兄さんが、離婚した時も?」
「はい、毎日仕事の帰りに保育所で娘を迎えて兄の部屋に通いました。
娘の世話も、家事も、とても楽しかった。私、本当に嫌な女ですね。」
「お兄さんが亡くなった後、娘さんを引き取って、本当に大切に育てて。
本当に嫌な人間ならそんな事出来ません。あなたは立派だと思いますよ。」
「でも、私と兄との関係は近親」 俺は右手で女性を制した。
「待って下さい。」

223 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:38:56 ID:76T7LtyE0
 「確かに現代の倫理では禁忌です。
でも、古い神話や伝承では、兄と妹・姉と弟の婚姻譚はちっとも珍しくない。
実際僕たちの一族では、それ自体は今も禁忌じゃありません。それよりも。」
「それよりも?」
「お兄さんがあなたの意志に反して体の関係を持ったことが問題です。」
「でも、兄の部屋に行ったのは私で、だから兄には何も。」
「確かにあなたはお兄さんが大好きで、恋愛感情を持っていた。
でも同時に兄と体の関係を持つ事は禁忌だという、現代の倫理観も持っていた。
なのに何故、それを易々と踏み越えてしまったんでしょうね?
何か思い当たるきっかけがありますか?お兄さんの縁談を知って強い嫉妬を感じた、とか。」
「いいえ、兄の縁談を知ったのはずっと後で、兄に恋人がいるとも思っていませんでした。
特に思い当たるようなきっかけは、なかったと思います。」
「初めて体の関係を持つために相手の部屋に行く。相手がお兄さんでなくても一大決心です。
それなのに特にきっかけはない。いや、きっかけを憶えていない。変だと、思いませんか?」
「何が、言いたいんです?」
「あなたは記憶を変えられたんですよ。あなたがお兄さんの部屋へ行ったのだと。
例えばさっきの術です。あの術なら、記憶の一部を変えることができます。」
「術って、一体誰が私に...まさか。」
「その、まさかです。系統は違いますがお兄さんは僕たちと同類、術者だったんですから。」
「私たちの家族でも親戚でも、そんな話は一度も聞いたことはありません。それなのに。」
「それぞれの家系の血に埋もれていた因子が御両親の結婚で1つになり、
お兄さんは『力』を持って生まれてきた。時折起こることだと聞いています。」

224 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:39:58 ID:76T7LtyE0
 「『力』は生まれつきだとしても、兄は陰陽道の術を一体誰から?」
「それは分かりません。でもお兄さんが優れた資質を持っていて、
かなり位の高い術者に師事していた。それは間違いないと思いますよ。」
「何故、そんな事が分かるんですか?あなたは兄に会ったこともないのに。」
「お兄さんの術が今も残っているからです。もともとはあなたを助けるための術。
なくした物がいつの間にかもどっていた。テストで山が当たった。
そんな経験、心当たりがあるはずです。」
女性の頬がピクリと動いた。やはり、間違いない。
「確かに、中学生になった頃から運が良くなったというか、そんな気はしてました。」
「例えば紙の人型に『力』を封じて術者の命令通りに使役する。
僕たちはそれを式と呼んでいます。式神、と言った方が通りが良いかも知れません。
お兄さんはあなたの願望を叶えるようにと、式に命じたんです。
もちろん何でも出来る訳じゃありません。失せ物探しやちょっとした予知くらい。
あなたが思慮深く、トラブルを他人のせいにしない人だと分かっていたから、
お兄さんはこの術を掛けたんでしょうね。ただ、自分が術を残して死ぬとは思っていなかった。
軽率だったと言われても仕方ありません。残されたあなたの、心のありようによっては、
娘さん以外にも被害者が出ていたかも知れないんですから。」
「...その、式が、娘を?」
「そうです。お兄さんへの深い愛情、許されない関係への強い自責の念。
それらに伴う精神的なエネルギーを吸収して式は成長し、強い力を持ってしまった。」
「でも、おかしいです。私の願望を叶えるはずなのに何故娘が。
それにあなたは『無意識であっても憎しみの感情は感じ取れない』と。」

225 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:41:10 ID:76T7LtyE0
 「娘さんが3度目の怪我をしたのとほぼ同じ頃、あなたは電車に乗っていました。
『ずっと考え事をしていた。』と仰いましたね。どんな、考え事でしたか?」
「娘が中学に入学するのを機に引っ越しをしようかと思っていて、それを。」
「何故、引っ越しを?何か不都合があるんですか?」
「初めは、兄の娘だから他人には渡したくないという気持ちが強かった。
でも、ずっと一緒に暮らして、私を慕ってくれる娘を見ていると
まるで本当に自分が産んだ子のような気がするんです。とても愛しくて。」
「お兄さんの娘というより、自分の娘という気持ちが強くなったんですね。
でも、それが引っ越しをする理由になるんですか?」
「今住んでいる部屋は、離婚した後に兄が借りた部屋です。短い間ですが、
兄と一緒に暮らした部屋を出る気になれなくて、あれからずっと住んでいました。
だから、どうしても思い出してしまうんです。あの部屋にいると、兄の事を。」
「そして時折、お兄さんの後を追いたくなる。あの、夜のように。」
「傷痕が残ってるわけじゃ無いのに、どうして。平気であの夜のこと。
遠慮なんて、無縁なのね。陰陽師には。あけすけ過ぎて、むしろ気持ちが良いくらい。」
「御免なさい。人の命に関わる仕事という自覚はありますが、遠慮している余裕はありません。」

226 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:42:02 ID:76T7LtyE0
 「処方されていた睡眠薬を、あの晩、全部飲んだ。間違いなく兄の所へ行ける筈だった。
でも、両親が虫の知らせで私の部屋に。病院に運ばれて処置されている間に夢を見たわ。
娘が、私を見つめて泣くの。『お母さん、私を一人にしないで』って。それで。
ああ、そうか。それが式の。あの時、式が私を助けてくれたのね。」
「それが、本来お兄さんが意図した式の働きです。でも、式は善悪の判断をしません。
ただあなたの願望や考えをなぞって、その通りに行動するんです。
あなたが、今も恋しくて恋しくて堪らないお兄さんの後を追えないのは何故ですか?」
「だって、私が死んだらあの子は...あ。」
「娘さんがいなければ、心残り無くお兄さんの後を追える。後の説明は要りませんよね?」
女性の目から大粒の涙が溢れた。真珠のような、美しい、涙。
「...あなたには、見えるの? その、式の姿が。」
「感じます。口元と右手が血塗れなのを除けば、あなたと寸分違わぬ女性の姿。
意識無意識に関わらず、あなたの願望を叶えようとする、もう1人のあなた。
あなたの部屋でないと、その式は始末できませんし、恐らく一晩かかります。
着替えて貰う必要もありますから、もし気兼ねが有るなら、
女性の、もっと力のある術者に後を引き継ぎましょう。」

227 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:42:44 ID:76T7LtyE0
 式の関係はSさんの領域。もともとSさんに引き継ぎをするつもりだった。
「あなたを信じると決めて話したのに、いざとなったら他の人って。酷すぎる。」
「でも、専門の術者の方が安全だし確実に」
「嫌! 私はあなたを信じると決めたの。あなたじゃないなら、絶対に嫌。」
彼女の態度や口調が変わっていた。秘密を共有する相手を近しく親しく思うのは当然の心理。
そして術者と依頼者の距離が縮まれば縮まる程、仕事の成功率は高くなる。
「分かりました。ただし、失敗したら元も子もありません。娘さんを守るのが第一ですから、
必要なら他の術者の力も借ります。それで良いですね?」
「最初から最後まで、あなたが一緒にいてくれる?」 「はい。」 「それなら大丈夫。」
「式の始末には一晩中かかるだけでなく、翌日の午前中も影響が残ります。
だから翌日仕事が休みの日で、式を始末する日を決めて下さい。
日付を決めてもらえたら、早速準備にかかります。」
「早い方が良いわ。明後日仕事が休みだから明日の夜、それでも良い?」
「OKです。では明日の夜、ただ色々準備があるので明日の午前中に連絡します。」
「じゃそれでお願い。私にはあなたしか、頼れる人はいないから。」

228 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:43:38 ID:76T7LtyE0
 「彼女を一目見て、式が原因だと分かりました。
初めからSさんに繋ぐつもりだったのに。正直、かなり困ってます。」
夕食後の一時、パジャマに着替えた翠は新しい絵本に夢中。
藍は姫の胸で安らかな寝息を立てている。
「聞けば聞くほど、重たい話ですよね。何だか胸が押しつぶされそうです。」
「R君の言うとおり、問題は兄の方。
そんな術を使う術者は普通なら問答無用で始末の対象だけど、このケースはちょっとね。」
確かに、情状酌量の余地はある。彼女には『力』があり、その適性は言霊。
彼女が無心に、心から発した言葉には言霊が宿る。
彼女の気持ちを、相手の心の奥深く、真っ直ぐに伝える力。
『お兄ちゃん大好き。』
物心ついた時から毎日のように、その言葉を聞かされていたら。
思春期、性について興味を持つ時期に、その言葉を聞かされていたら。
恐らく俺も同じ事を考えただろう。
しかし、考えるだけでなく、実際に術を使ってしまったのは、その男の罪だ
「それで、○×クリニック付きの陰陽師で彼女の救い主たるR殿は、
一体どうやってこの件の始末をつけるつもりなのかしら。」
「もう、茶化さないで下さいよ。式はSさんの領域で、僕に出来ることは殆どないんですから。」

229 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/05(木) 20:44:42 ID:76T7LtyE0
 「式の始末は、私に策があるわ。でも、式を排除しても彼女自身を救えなければ意味がない。
何時までも過去ばかり見ているのでは結局彼女も、そして娘さんも幸せにはなれない。
だから、あなた自身が彼女を助ける。それなら、私も力を貸す。それでどう?」
「全力で、頑張ります。」 「うん、良い返事。L、その間翠と藍をお願いね。」
「勿論です。任せて下さい。」

『贐(中)』 了

230 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:07:17 ID:fXUecUhQ0
テスト中。

231 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:08:48 ID:fXUecUhQ0
『贐(下)』

 前日の打ち合わせ通り、翌日の早朝、女性の携帯に電話を掛けた。
「昨夜はコンビニで買った弁当とお茶。今朝は駅で何か買う。全部あなたの言う通り。」
「昼食も外食で。夕食は打ち合わせをしながら一緒に。退勤時間に車で迎えに行きます。
職場か駅の近くにコンビニはありませんか?駐車場が広いと良いんですが。」
「え〜っと、駅の近くのファミマ。○▲駅店、知ってる?」 「調べます。時間は?」
「そうね。5時、40分でお願い。」 「了解、じゃ5時40分に。」

232 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:09:32 ID:fXUecUhQ0
 約束の時間。待ち合わせたコンビニの駐車場に着くと、女性は既に店の外で待っていた。
車を降り、手を上げて合図をする。助手席のドアを開けた。
「どうぞ。」 「...ありがとう。」 助手席のドアを閉め、運転席に戻る。
「あの2人、お友達ですか?」 コンビニの店内で女性が2人、こちらを見ながら話をしている。
「凄〜い、やっぱり分かるんだ。今日、居酒屋に誘われたのを断ったら、もう根掘り葉掘り。
2人とも勘が良いから誤魔化しきれなかったの。だからせめて店の中にって言ったんだけど。」
「『誰』が迎えに来るって言ったんですか?まさか、陰陽師?」
「そんなこと言えないでしょ。弟。一緒に娘の見舞いに行くからって。」
「ちゃんと紹介すれば良かったのに。あれじゃ逆効果です。あの人達、絶対信じてませんよ。」
「だって、紹介したら色々聞かれる。年の差とか仕事とか。
それに、今更どんな噂が立っても構わない。それより、凄い車ね。ビックリしちゃった。」
「お客様の送迎用にはいつもこの車です。じゃ、まずは夕食。
お寿司で良ければ御馳走しますよ。美味しいお店を知ってますから。」

233 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:10:09 ID:fXUecUhQ0
 馴染みの寿司屋、藤◇。榊さんとの打ち合わせでも良く使う店だ。
電話して小さな座敷を予約してあった。夕食を済ませた後で打ち合わせ。
「部屋に戻ったらすぐお風呂。最後に浄めの水を全身にかけます。」 「髪も洗うの?」
「そうです。タオルと着物は僕の用意した物を使って下さい。
僕が用意した着物以外は何も身につけないこと。」
「下着も?」 「勿論。普段あなたが身につけているものは全部ダメです。化粧品も香水も。」
「マニキュアも落とさないといけないってことね。完全なすっぴん。ちょっと、恥ずかしいな。」
「『弟』なら、すっぴん見られたって恥ずかしく無いでしょ。
それに、女性の術者に繋ぐのを嫌だと言ったのはあなたなんですからね。」
「...分かった。それで、着替えた後は?」
「普段夜はベッドですか?それとも布団?」 「ベッドよ。娘と二人で。」
「ソファはありますか?横になれるくらいの。」 「ある。」
「じゃ、ソファに新しいシーツを敷きます。準備が出来たら横になって下さい。
その後であなたの周りに結界を張ります。そして、あなたが寝たら僕の出番。
式が活動出来るのは、あなたが寝た後ですから。」

234 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:11:00 ID:fXUecUhQ0
 「どうやって式を始末するかは教えてくれない訳?」 「いわゆる、企業秘密です。」
実際、俺は術の準備のための簡単な指示を受けただけ、子細はSさんしか知らない。
正直、俺はそれよりも『宿題』で手一杯だった。この人を、救う方法。
「それとね、本当に必要経費は要らないの?此処のお勘定も高そうだし。」
「それも、病院との契約に含まれてます。」 「何だか、割に合わないような、気がするけど。」
「全て上手くいったら、病院の宣伝をお願いします。陰陽師の話は抜きで。」
「それは勿論、でも私一人じゃそんなに。」 まだ、納得していない表情だ。
「地道に広告塔を増やすのは大事です。それと、今回は別の思惑もあるのでVIP待遇で。」
「別の、思惑って?」 「スカウト、です。」 「スカウト? 私を?」
「はい。前にあなたの言葉に宿る力の話をしたでしょう?
あれは『言霊』。実はお兄さんだけでなく、あなたにも力があります。気付いてないだけで。」
深く息を吸い、下腹に力を込めた。俺の『宿題』を解く、鍵。
『だからあなたが無心に、心から発する言葉には言霊が宿る。
すると、言葉の真の意味が、聞く人の心に強く作用する。その心の有り様を変える程に。』
「こと..だ...ま?」 数秒間、『言霊』が彼女の心にその意味を届けるのを待つ。
「はい、言霊です。あなたには力があって、その適性は『言葉』。
この適性の持ち主はとても数が少ないみたいなので、あなたをスカウトできれば、と。」
「私が、陰陽師になるってこと?」
「術者になれるかどうかは分かりません。でもあなたの力を活かす仕事は沢山ありますよ。
一族は慢性的な人手不足ですから、スカウトが成功したら僕は表彰ものです。
勿論今はそんなこと考える余裕はないでしょうけど。じゃ、いよいよあなたの部屋へ。」

235 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:11:47 ID:fXUecUhQ0
 ソファの周りに代を配置する。式はこの中から出られるが、一旦出たら入れない。
誘い出した式が彼女の中に戻るのを防ぐ結界。あとはSさんに任せれば良い。
結界を張り終えて、テーブルの上にペットボトルのお水を置いた。
「ありがとう。でも、喉は渇いてないし、トイレに行きたくなったら困るから。
それより、こんな時間に寝たこと無いから、全然眠くない。」
「思っていたよりあなたの手際が良くて、時間が余りました。
手持ち無沙汰ですが、眠くなるまで気長に待ちましょう。あ、トランプも持ってますよ。」
女性は黙って首を振った後、何か言いたげに俺を見つめた。
「もし時間があるなら、聞きたい事があるんだけど。」 「何でしょう?」
「一昨日聞かせてくれた話。あなたの一族では兄と妹の結婚が禁忌ではないって、本当?」
Sさんの、予想通りだ。 彼女自身の心の動きで、術の支度が調いつつある。

236 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:12:28 ID:fXUecUhQ0
 「本当です。もちろん法律上は夫婦と認められないので、一種の事実婚。
遺伝的な条件とかの縛りがあって、子供を作るのを避けることはあるようですが、
本人達の希望なら普通に結婚式も挙げるし、親族も皆二人を祝福するんですよ。」
「何だか、羨ましいな。もし、兄と私があなたの一族に生まれていたら、
私たちも、みんなに祝福されてそんな風に。事実婚でも、きっと幸せになれた筈。」
そう思うのも無理は無い。
でも一族に生まれていたら、この女性もその兄も幼い頃から然るべき修練を積んだ筈。
だからその関係自体が、有り得なかった。
「生まれ変わりたいですか?」
「え?」
「生まれ変わって、新しい人生をやり直したいですか?
本当にやり直したいなら、お手伝いしても良いですよ。」
女性は曖昧な笑顔を浮かべた。

237 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:13:12 ID:fXUecUhQ0
 「それは...本当に、やり直せたら。どんなにか。」
「じゃあ、僕にあなたの名前を預けて下さい。明日の朝、陽が昇るまでの間。
夜が明けたら、名前を返します。そしてあなたは新しい人生を踏み出す。素敵でしょ?」
女性は半分嬉しそうに、半分怪訝そうに、俺を見詰めた。冗談だと、思っているのだろう。
「面白そうね。でも、どうやって名前を預けるの?」 これで、支度は調った。
「これに、名前を書いて下さい。フルネームを。」
Sさんが取って置きの鋏で切り出した白い蝶、それと、筆ペン。
「ねぇ、幾ら何でも用意が良過ぎる。一体何をするつもり?」
「生まれ変わるお手伝いです。僕を信じると言ったでしょ?どうぞ、名前を。」
女性は背中を丸めて紙の蝶に名前を書いた。 「これで、良いの?」
「結構です。」 紙の蝶を受け取ると、指先に火花が散った。
「あっ!」 女性が手を引っ込める。 まるで静電気。この痛みは、やはり苦手だ。
「有り難う。準備が、調いました。あなたの名前を、聞かせてください。」
「私の、名前...嘘、私の名前は」 女性はボンヤリと俺を見詰めた。
あとは俺の『宿題』。 昨夜からずっと考えて、考え抜いて出した答。
心の中で練った言葉を、血液に載せて左手に送り込む。簡潔に、そして単純に。
『眠る。目覚める前に夢を見る。兄と結婚式を挙げる夢。』
左手の薬指を舐め、女性の額にそっと触れる。
力なく頽れた女性の体を抱き留めた。

238 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:13:47 ID:fXUecUhQ0
 既に近くで待機していたのだろう。電話を掛けて10分もしない内にSさんがやって来た。
「うん、上出来。準備は完璧ね。早速用意するから手伝って。」 「はい。」
Sさんが持ってきた大きめのバッグ、いつもの『お出掛けセット』ではない。
Sさんは手早く小さな祭壇を組み立てた。火を付けた蝋燭を大きな貝殻の端に立てる。
鮮やかな朱塗りの杯。日本酒を注いだ同じ朱塗りの銚子に、Sさんは綺麗な飾りを付けた。
「Sさん、それって。」 「三三九度の用意。婚礼の手順をなぞるけど、冥婚だから略式で、ね。」
冥婚、それは死者同士の婚礼。まさか、Sさんも。
「彼女の希望に添う形でないと成功率は低いから、これが一番確実な方法、多分。
それにこの部屋にはまだ、彼女の兄の気配が残ってる。最高の条件。」
「え〜っと、僕の『宿題』の答えも結婚関係なんですけど、障りは無いですか?」
「ふ〜ん、やっとR君にも女の気持ちが分かるようになったのかしら。大丈夫、全然平気。」
Sさんは鮮やかな色と模様で彩られた台紙を一枚、祭壇の前に置いた。
中央の赤い文字を挟んで、白い枠が二つ。台紙の隣に朱墨の筆ペン。
最後に玉串を祭壇に置き、Sさんは微笑んだ。「じゃ、部屋の電気を消して頂戴。」

239 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:14:27 ID:fXUecUhQ0
 「・・・の御前に、祭主S、怖れ慎みて・・・○村美枝子、冥府に赴くにあたり・・・
先に冥府に入りし○村健一と、御前にして婚嫁の礼・・・もって迷いを断ち・・・とせん。」
Sさんは朱墨の筆ペンで台紙の白い枠に『○村健一』と書き込んだ。恐らく彼女の兄の、名前。
続いて胸ポケットから紙の蝶を取り出し、同じ名前を書き込む。
それを右掌に置き、目を閉じた。 深呼吸、Sさんの集中力が更に高まっていく。
「外法の始末よ、力を貸して。」 呟いて目を開け、そっと、掌の蝶に息を吹きかけた。
掌から白い蝶が飛び立ち、ひらひらと部屋の中を飛び回る。相変わらず、見事な術だ。
「彼女の蝶を、玉串の上に。」 Sさんが小声で囁く。
一礼。玉串の上に彼女の蝶を置くと、台紙の残った白い枠にSさんが朱墨で名前を書き込んだ。
そう、『○村美枝子』。 俺が彼女から預かった、名前。
祝詞が再開された。 Sさんの澄んだ声が、古い言葉を紡いでいく。
ゆっくりと、白い蝶が部屋の中を飛び続ける。 まるで誰かを待ち続けるように。

240 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:15:03 ID:fXUecUhQ0
 ふと、Sさんが言葉を切った。部屋に満ちる気配。式だ。血の臭いは消えている。
直後、玉串の上から白い蝶がふわりと飛び立った。彼女の蝶。そうか、あの蝶に式を。
Sさんは恭しく銚子を頭上に捧げた後、朱塗りの杯に日本酒を注いだ。
続いて床に両手をついて一礼。慌てて俺も倣う。 これは。
俺たちの目の前。三三九度の杯に、二片の蝶が並んで舞い降りた。
成る程。彼女の一番の望みが兄との結婚なら、式はこれでその望みを叶えた事になる。
「御目出度う御座います。」
Sさんが声を掛けると、蝶は飛び立った。 絡み合うように飛び回る、二片の蝶。
Sさんは台紙を折り畳み、蝋燭の炎にかざした。部屋の壁と天井が朱に染まる。
そして燃える台紙を貝殻の上に置いて深く一礼、目の高さで手を叩いた。
蝶が空中で動きを止め、炎に包まれる。 二片とも、灰も残さずに燃え尽きた。
何かが床に落ちる音。Sさんが拾い上げる。
古ぼけた、銀色のハート。ペンダントトップ?
「これが、式の代。高校生だったとしたら、お小遣いでは精一杯の真心ね。」
Sさんは銀色のハートを俺の右手に握らせた。ハートを握った俺の右手をポンと叩く。
「これでお終い。さて、翠がぐずってたから急いで帰らなきゃ。」
「あの、翠がぐずってたって。」 祭具の片付けをしながら、翠の事がやはり気になる。
「大好きなお父さんが今夜はいないんだから、仕方ないわ。
それより、ちゃんと朝まで彼女を護って。名前を返すのは陽が昇ってから。
絶対に手を抜いちゃ駄目よ。」 Sさんはイタズラっぽく笑った。
「分かってます。」

241 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:15:47 ID:fXUecUhQ0
 翌朝。カーテンの隙間から朝陽が差し込むのを確認し、念のために更に10分待った。
「美枝子...美枝子。」 軽く肩を揺する。これで名前は元通り。そして俺の術が、発動する。
『目覚める前に夢を見る。兄と結婚式を挙げる夢。』 昨夜、彼女の心に送り込んだ言葉。
暫くして、彼女の目から一筋の涙が零れた。そっとタオルで拭う。
悲しみの涙か、嬉しさの涙か。それでこの人を救えるかどうかが、決まる。
涙の痕が乾いてから、もう一度声を掛けた。
「美枝子さん、起きて下さい。式の始末は上手くいきましたよ。
起きて下さい。ほら、朝ご飯のお粥も、作りましたから。」

242 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:16:38 ID:fXUecUhQ0
 お粥を食べている間も、女性は時折涙を拭った。彼女が自ら話すのを待つ。
食後のお茶を飲み終えて、ようやく女性は口を開いた。
「昨夜、夢を見たの。」 「どんな、夢ですか?」
「結婚式の夢、兄と二人で式を挙げる夢。私、とても嬉しかった。でも。」
『それで』ではなく、『でも』、それなら望みがある。
しかし、こみ上げる感情を抑えた。出来るだけ、そう平静に。
「でも?」
「兄は、笑ってなかった。凄く真剣な表情で。何だか、とても辛そうだった。」
『結婚式を挙げる夢』、そう指定したが、細かい内容は指定していない。
だからこれは、彼女自身の洞察。それを、確かめる。
「あなたが本当に大切だから、これからの事を色々考えて。男は色々と」
「慰めは聞きたくない。ね、私の言葉には言霊が宿るって、そう言ったでしょ?」
「はい、あなたが無心に、心から発する言葉なら。」
「じゃあ、やっぱり私のせいだわ。いつも『大好き』って言ったから、
私の言霊が兄を。兄は、本当は私の事なんか...」
女性の頬を大粒の涙が伝う。 それは嬉しさでなく、深い悲しみの涙
本当に、良かった。 この人なら、きっと気付く。そう、信じていた。

243 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:17:14 ID:fXUecUhQ0
 兄と妹。人目を忍んで続いた2人の関係は、この女性が力を持つが故の、
そして力をコントロールする訓練を受けられなかったが故の、不幸な事故。
残酷かも知れないが、自分でそれに気付かなければ、彼女は過去を清算できない。
「お兄さんもあなたが大好きだった。それは確かですよ。
だからこそあなたの言霊がお兄さんの心に強く作用して、『好き』の種類を変えてしまった。
元々それは、体の関係に繋がる『好き』ではなかったのに。それが、不幸の始まり。」
「『不幸』だなんて、酷い言い方。本当に遠慮がないのね。」
「その言葉の意味が、今のあなたになら良く分かる筈です。そうでしょ?」
十年以上、誰にも相談出来ず1人で耐えてきた苦しみと哀しみ。
今まで何処にも吐き出せなかった苦い思い。それらの堰が一気に切れたのだろう。
女性は俺の胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。
しっかりと肩を抱き、背中をさする。大声で泣くことが、今この人には必要なのだ。

244 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:17:46 ID:fXUecUhQ0
 どうすればこの人を救えるか、昨日の夕方ギリギリまで必死で考えていた。
この人の記憶の一部を書き換える。当然それも考えた。
しかしそれで兄への否定的な感情が生じ、娘さんへの愛情が変化したら最悪の結果を招く。
結局小細工では何も解決しない、そう思った。
彼女の力と適性について真っ直ぐに伝え、彼女が兄と結婚する夢を見せる。それが俺の答え。
思慮深く、俺と同じ適性を持つ彼女なら、きっと気付くと信じていた。
自分で気付けないのなら、たとえ俺がそれを伝えても信じてはくれないだろう。
その時は、Sさんに頭を下げて、彼女を託すつもりだった。しかし、例えSさんでも、
縁の無い者を助ける事は難しい。それが、いつもSさんと姫が強調する、人助けの鉄則。
今回は縁が有った。そうでなければ俺の術など何の力も無い。
女性は泣き続けた。思いを全て流してしまうまで、その涙は止まらないだろう。
涙が止まった時、この人は新しい人生に踏み出せる。
これからの長い人生に比べたら、例え1日泣き続けても大した時間じゃない。
このまま泣き止むまで、彼女の肩を抱いたまま傍にいる。そう、決めた。

245 『贐(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:18:30 ID:fXUecUhQ0
 「ありがとう。いっぱい泣いたら、スッキリした。兄が死んだ時にも泣けなかったのに、
あなたといると、泣くのが怖くない。自分の心に、素直でいられる。不思議ね。」
10歳も年上。でも、泣きはらした目で、時折しゃくり上げながら話すその人を可愛いと思った。
「スカウトの話、憶えてますか?」 「え?」
「昨夜も言いましたが、僕たちの一族はあなたを必要としています。
もしあなたが自分の力を誰かのために役立てるなら、いつも自分の心に素直でいられますよ。
僕自身がそうだから間違い有りません。それは、保証します。」
「私が引っ越しを考えてるって話、憶えてる?」 「はい、娘さんの中学入学を機に、と。」
「娘の怪我の事で色々有ったし、今の職場、少し居辛いの。
引っ越しに合わせて転職出来たらって、ずっと思ってた。
だからスカウトの話、とても有り難いけど。本当に私なんかが役に立つの?」
「心が決まったら電話して下さい。新しい職場、御紹介致します。」
「...心を決められるように、お願いがあります。」 「何でしょう?」
「もう少しだけ、このままでいて。涙が、出なくなるまで。」
「お安い、御用です。」

『贐(下)』 了

246 『贐(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:19:22 ID:fXUecUhQ0
『贐(結)』

 昼寝から覚めて時計を見ると窓の外は既に暗くなっていた。もう7時過ぎだ。
着替えて顔を洗い、飛びついてきた翠を抱きしめる。温かい、命の感触。
「夕食、出来てますよ。」 姫がダイニングから顔を出した。

247 『贐(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:26:12 ID:fXUecUhQ0
 「スカウトの件、上手くいきそう?」
ダイニングで食器を洗っていると、Sさんがハイボールのグラスを持って来てくれた。
姫はリビングで翠と藍の相手をしてくれているのだろう。
「う〜ん、五分五分、ですかね。心が決まったら電話して下さいって言っておきました。」
「美人で、頭も良い。あなたへの信頼と依存も深かった。今朝、ソファに押し倒しちゃえば
スカウト成功確実だったのに、変な所で律儀なんだから。ホント難儀な性格よね。」
Sさんお得意の憎まれ口には慣れている。
彼女と兄の関係を知ってから、彼女と接する時、俺はいつも彼女の弟の立場を意識した。
あくまで模擬、それでも異性の友人や姉弟同士、体の繋がりのない絆を実感することが、
彼女が生まれ変わるには是非必要だと思ったからだ。
そしてそれは、Sさんも同じ意見だったのに。つまり俺の心を読むのが怖いから、
鎌をかけて俺の口から聞きたいってこと。全く、難儀な性格はどっちなんだか。

248 『贐(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:28:13 ID:fXUecUhQ0
 「彼女が泣き止むまで、ずっと肩を抱いて背中をさすってました。それだけです。
まさか外法に手を染めた術者と同じ事をしても良いなんて、まさか本気じゃありませんよね?」
Sさんは両手で俺の頬を挟み、唇にキスをした。
「冗談よ、怒らないで。愛する夫が綺麗な女性の部屋にお泊まり。
しかも帰ってきたのはお昼前。ちょっと位、愚痴を言っても良いでしょ。機嫌直して、ね。」
小さく溜息をつく。やっぱり心にもないことを。
「怒ってなんかいませんよ。それよりスカウトの件、どうなったんですか?」
「心当たりに電話したら、乗り気だった。スカウトが失敗して断るのが怖いくらい。」
「もう、おとうさん!あらいもの、まだおわらないの?」
頬を大きく膨らませた翠の後ろで、姫が笑いを堪えている。
「あ、御免。もうすぐ終わるから、それから一緒に絵本読もうね。」

249 『贐(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:28:57 ID:fXUecUhQ0
 数日後、夕方5時過ぎに市内の総合病院を訪ねた。
ロビーを見回す。その女の子は、すぐに分かった。ベンチに座り、外を見ている。
誰かを待っているような、何かを怖れているような、寂しげな表情。 胸が、痛い。
ゆっくりと歩み寄り、その子の隣に座った。怪訝そうに俺を見た女の子に声を掛ける。
「君は○村佳奈子ちゃん、でしょ? お誕生日、御目出度う。」 女の子は目を丸くした。
「どうして私の名前を?それに、誕生日も?」 背中を丸めて、女の子と視線を合わせた。
「僕は魔法使いなんだよ。君のお父さんの古い友達で、だから仕事を頼まれたんだ。」
「でも、私のお父さんは。」
「9年前、お父さんが亡くなる前に約束した。とても大事な約束。
「どんな、約束?」 声を潜め、女の子の耳に囁く。
「君には、邪悪な妖怪が取り憑いてる。その妖怪は、君の大事な人に化けて君の命を狙う。
しかも、君が成長するにつれて妖怪の力も強くなる。このままだと君はいつか妖怪に。
それで、君を護ってくれって頼まれた。今日が、その約束を果たす日だ。」
「大事な人に化けるって...お母さんとか?」
やはり、この子は自分を襲ったモノを見ている。まるで母親そのものの、式の姿。
自分を襲ったのが、大好きな母親だと信じたくない。
それで、子供心に必死で自分の記憶を。だから3度とも怪我の原因は不明。
「油断させて、襲うんだ。ほら、その足の怪我にも妖怪の気配が残ってる。
原因の分からない怪我をするのはこれが初めてじゃないよね?」
女の子の表情が、突然ぱっと明るくなった。
「うん、3回目。でも、私の怪我は悪い妖怪のせいだったんだね。」

250 『贐(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:29:37 ID:fXUecUhQ0
 「そう。だから、これを持ってきた。これ以上無い、強力な御守り。」
女の子の視線を十分引きつけて、それをポケットから取り出した。
銀のハートを、細いプラチナのチェーンに通したネックレス。
「ほら、綺麗でしょ?これをあげる。そしたら、もう二度と邪悪な妖怪は君に手を出せない。」 「でも、そんな綺麗なもの貰ったら、きっとお母さんが。」
「大丈夫、お母さんにはこう言えばいい。
『この御守りはお父さんのお友達だった魔法使いから貰った』、
そして、『ずっとこれが私を護ってくれるって言ってた。』って。ちゃんと言える?」
女の子は大きく頷いた。
「じゃ、かけてあげよう。お父さんとお母さんの想い、大事にするんだよ。」
白く、細い首の後ろで留め金を留めた。ゆっくりと、立ち上がる。
「良く似合う、これで大丈夫。僕はもう行くよ。次の仕事が、あるからね。」
「あの、名前。お兄さんの名前を、お母さんに。」
「R。それで、分かるよ。さようなら。」
「さようなら。」

251 『贐(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:30:12 ID:fXUecUhQ0
 それから三ヶ月程が過ぎ、お屋敷の周りには秋の気配が漂っていた。
榊さんに依頼された仕事を終え、お屋敷に戻ると玄関先に見慣れた軽トラ。 『藤◇』の文字。
「あざっした〜。」 配達の人の元気な声。すれ違いながら声を掛ける。「いつも御苦労様。」
ドアを開けた。 何だ、これは?
差し渡し1m近い舟盛りが二艘。豪華な寿司とお造り。そして紅白の紙で包まれた日本酒。
「おかえり〜。おとうさん、こんやはごちそうだよ。」 翠と、その後ろにSさんと姫の笑顔。
「これ、みどりの。きれいでしょ?」 「美味しそうだね。全部食べられるかな?」 「うん!」
翠が持っている折り箱には色とりどりの小さな手鞠寿司。 藤◇の大将の、心遣いだろう。
「もう少し早かったら、電話で話せたのに。残念ですね。」
「あの、今日って何かの記念日でしたっけ?全然、憶えてなくて。」
姫とSさんは顔を見合わせて微笑んだ。 「結納のお祝いよ。美枝子さんから『弟君』に。」
美枝子...あの女性の、結納?
「相手は私の従兄。彼女より2つ年下で、きっとお似合いだと思ってたの。」

252 『贐(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:31:36 ID:fXUecUhQ0
 彼女を引き受けたのがSさんの叔母夫婦だという話は聞いていた。
『お似合いだと思ってた』ということは、最初からこれも狙いの1つだった訳だ。
「式は来月、是非家族みんなで出席して欲しいそうです。電話、かけ直しましょうか?」
「あの、娘さん、加奈子ちゃんは?」
「叔母と従兄が加奈子ちゃんをすごく気に入ってて、加奈子ちゃんも懐いてるみたい。」
それなら、心配ない。安心したら腹が...空腹で倒れそうだ。
「もう、式には出席するって返事したんですよね?」 Sさんと姫は声を合わせた。 「勿論!」
「じゃ、まずはその御馳走を。もう、お腹ペコペコで。電話はその後に。」
「了解です。それにしても、Rさんて。」
「え?」 姫が真っ直ぐ俺を見つめている。
「最近、何だかとても頼もしい感じで、素敵です。」 「あ、そ、そうですか。え〜っと。」
「何赤くなってるのよ。全く、デレデレしちゃって見てられないわね。」

『贐』 完

253 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/10(火) 22:33:24 ID:fXUecUhQ0
皆様今晩は、藍です。
無事『贐』の投稿を終える事が出来ました。
有り難う御座いました。

254 名無しさん :2014/06/10(火) 22:57:56 ID:V7Sj6eOU0
藍様、作者様、弟様、有難うございました!
そして、投稿作業お疲れ様でした。
今回のお話も興味深く拝読させていただきました。
新規の投稿を、もうなされないのではと危惧しておりましたが、こうして新作を読ませて頂き、心よりの感謝を申し上げます。
出来る事でしたら、また新しいお話の投稿を願っております。

255 名無しさん :2014/06/10(火) 23:14:16 ID:jGb.UW5QO
とてもとても面白かったです。知人さん藍さん、本当にありがとうございました!!

256 名無しさん :2014/06/11(水) 14:52:59 ID:zO.9f2AU0
藍さま、作者さま、楽しく拝読させて頂きました。
有難うございました。
美枝子さんも今後話しに絡んでくるんでしょうね、陰陽師として。
Rさんのお子さん2人に美枝子さんが面倒をみる姪御さんたちも
今後陰陽師としての才能を開花させていくのでしょうか・・・
さらに楽しみが増えました。
この作品を拝読させて頂くのが私の数少ない楽しみの一つです。
次作がとても楽しみですが、あまりご無理をなさらぬように・・
藍さま、稀代のストーリーテラー作者さま本当に有難うございます。

257 名無しさん :2014/06/14(土) 18:39:36 ID:Hpd3syqU0


これなんて読むの?

258 名無しさん :2014/06/14(土) 18:43:40 ID:SnZ43S6M0
>>257
はなむけ
新しい出発を祝う贈り物のこと。

259 名無しさん :2014/06/17(火) 19:43:11 ID:8vjEjl2g0
>>257
コピーできたなら、Google開いてペーストして、検索ボタンもクリックしてみようよ。

260 名無しさん :2014/06/17(火) 21:17:57 ID:oCcb1r3c0
>>259
まあ、良いじゃありませんか。
本当は分かっていたのかもしれませんよ。
258のレスで、この作品の深みが増す訳ですから。
まったりいきましょう。

261 名無しさん :2014/06/18(水) 16:55:07 ID:WdUwr52o0
というか 今回のお話と題名が本当にベストマッチだと思います。
貪欲ではありますが 次の作品も心待ちにしています

262 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/18(水) 21:33:27 ID:H0buFQH.0
テスト中です。

263 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/18(水) 21:43:29 ID:H0buFQH.0
 皆様今晩は、藍です。

 色々な事情を鑑みて個別のレスは控えておりますが
全てのコメントを、有り難く拝読しております。

 さて本日、知人から新作の連絡が届きました。
次作は掌篇らしいので近い内に投稿出来ればと存じます。
完結編が近づくのは複雑な思いですが、私自身『次』を切望しています。
どうかもう暫く、お待ち下さい。

264 名無しさん :2014/06/20(金) 23:55:34 ID:iI9RQMkw0
楽しみにしてました。
ありがとうございます。

265 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/24(火) 23:54:11 ID:rfVDjrLE0
テスト中です。

266 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/24(火) 23:56:33 ID:rfVDjrLE0
皆様今晩は、藍です。
以下、新作の掌編『花詞』を投稿致します。
お楽しみ頂けると良いのですが。

267 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/24(火) 23:59:44 ID:rfVDjrLE0
『花詞』

 爽やかな風が木々の枝を揺らしている。もう秋も深い。翠と2人で辿る、細い散歩道。
...やはり有った。葉脈が深く刻まれた濃緑色の葉と、鮮やかな赤い実。
隣の○×県。『その県民公園には、幼児でも歩ける散歩道が整備されていて、
すぐ脇にその木が何本か生えている。』 事前に調べておいた情報の通りだ。
近づくと、小さな鳥が数羽飛び立った。鳥たちは美味しい実の在処を良く知っている。
「御免よ。少しだけ、実を分けておくれ。」
呟きながら母の口調を思い出す。良く熟した実のついた枝を探した。
鳥たちや散策の人々の取り残しだろう。実の数は少なかったが、これで、十分だ。
蘇る、遠い記憶。

268 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:01:44 ID:yWHXq0Qo0
 母の白く細い指が水筒の水を赤い実にかけ、ぴぴっと水を切る。
「R。ほらこれ、ガマズミの実。美味しいよ。食べてごらん。」
「がまずみって、へんななまえ...でも、あまくて、おいしい。」
「秋の山には、食べられる実が他にも色々有るから。一緒に、探そうね。」 「うん。」

 色とりどりの果実、野趣溢れる甘酸っぱい味の思い出。
幼い頃、父と母は代わる変わる俺を野外に連れ出した。
父は釣りとキャンプ、河や海。母は野原や山、今で言うならライトトレッキング。
父はともかく、頻繁に俺を野外に連れ出した母の意図を、今にして思う。
俺の感覚の一部を封じて、でも季節の移り変わりを感じる感受性はしっかり育てたい。
きっと、そういう思いから。自分の子をもって、初めて知る母の愛情。

269 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:04:44 ID:yWHXq0Qo0
 「お父さん、どうしたの?」
小さな体を抱き上げる。 「ほら、あそこに赤い実があるでしょ?」 「うん。」
程度の差はあれ、翠も俺と同じだ。翠が一歳半の時、Sさんはその感覚の一部を封じた。
あまりに強過ぎる感受性が、後の災いを招かないように、と。
お屋敷は一種の閉ざされた環境。しかも感覚の一部を封じられて翠は育つ。
もちろんSさんと姫は普段から翠の情操教育に心を尽くしている。沢山の絵本や音楽。
ただ、この国の美しい四季に感じる心を育てるには、実体験が何よりも必要だ。
ある程度の距離を歩けるようになった頃から、
出来るだけ翠を野外に連れ出すように心がけていた。
それは勿論父親である俺に与えられた大切な、役目。
ガマズミの実を一房取り、ペットボトルの水をかけた。ぴぴっと水を切る。
「食べてごらん。甘酸っぱくて、美味しいよ。」 「ホントだ。あま〜い。」
何時の日か、翠が子供を産み、その子にこの実を食べさせる日が来るだろうか。
屈託のない笑顔を見ながら、そんな事を考えていた。

270 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:06:20 ID:yWHXq0Qo0
 「お父さん、これで良い?」 「OK、次はマットレスと毛布を運ぼうか。」 「うん!」
穏やかな日差しの中、お屋敷の庭に翠と2人でテントを張っている。
最近読んだ絵本の影響だろう。翠がキャンプをしたいと言い出し、
どうしてもテントで寝たいと言って聞かなかったからだ。
実家には昔俺と父親が使っていたテントがある筈だが、
取りに帰るとそれだけで丸1日かかる。街で新しいテントを買ってきた。
余裕を見て3〜4人用、テントで寝るのは翠と俺だけだから広さは十分。
今夜の天気予報も問題ない。冷え込みに備えて温かい上着と毛布を用意すれば準備は万全。
まずはみんなで夕食、庭に設置してあるグリルで魚介類のバーベキュー。
後片付けをしてから一度お屋敷に戻る。翠を風呂に入れてパジャマを着せた。
その後いよいよ翠と2人、テントでお泊まり。もちろんSさんと姫と藍はお屋敷の中。
テントで寝るとはいえ、トイレや翠がぐずった時にはお屋敷に戻れる。お気楽なキャンプ。

271 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:09:52 ID:yWHXq0Qo0
 テントの天井から吊したランタンのスイッチを入れた。
勿論ガス式の方が風情は有る。しかし、翠の火傷など万一を考えて蛍光灯式。
LED式は懐中電灯には良いのだが、明るさの割に眩しくて室内の照明には向かないと思う。
テントを張ったのはガレージの裏。初めはウッドデッキの上を提案したが、即却下された。
確かにウッドデッキではあまりに雰囲気がない。やはりこれで正解だった。
広い庭の外れはそれなりに暗いし、これなら翠にとってかなり本格的なキャンプの気分だろう。
「かんぱ〜い。」 「乾杯。」
翠は麦茶、俺はビール。 夜食とつまみもあるし、小さなクーラーボックスは満杯。
「どう?もう外は真っ暗だけど、怖くない?」
「ぜんぜんこわくない。とってもたのしい。それにね、もう少ししたらお客さんたちが来るよ。」
「お客さん?」 「そう、山のどうぶつたち。くまさんとか、ぴっぴちゃん(※鳥)とか。」
!? しまった、キャンプしたい理由はそれだったのか。

272 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:11:50 ID:yWHXq0Qo0
 多分、絵本の内容が幾つか、ごっちゃになってる。
これはさすがに予想してなかった。 ちょっと、マズイ。
この辺りにクマはいない。キツネはいるが、絵本のように訪ねてくる筈がない。
でもそれじゃ翠の機嫌が。一気に大ピンチ、それとなく、客は来ないと説得しないと。
「この辺にクマはいないし、夜は鳥たちも寝てると思うな。
あ、でも前に夕方キツネを見たことがあるよ。山道で自転車に乗っている時。」
「え〜、いいなあ。かわいかった?」
「可愛いっていうか、綺麗で、強そうだったよ。目が、きりっとしてさ。やっぱり野生、だからね。」
「じゃあ、こんやのお客さんはきつねさんかな?たのしみだね。」
あ、いや、そうじゃなくて...
相性の問題で、翠には俺の術が効かない。
Sさんにそれっぽい式を寄越してもらうしかないだろう。あとでトイレに行くふりをして。
その時、テントの入り口を叩く音がした。

273 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:14:45 ID:yWHXq0Qo0
 「やっぱり来た。お客さん。」 「翠、待って!」 慌てて抱き止める。
お屋敷の周りの土地は巨大な結界になっていて、悪しきモノたちは近づけない筈だ。
今頃このテントを訪ねて来るとしたら多分...だが、用心するに越したことはない。
翠の手を握ったままテントの入り口をから様子を伺う。小さな、白い影。やっぱり。
「な〜んだ、くださんかぁ。お客さんだと思ったのに。」
「姫、なんだとはあんまりな。管が、せっかくこの仮屋を訪ねて参りましたのに。」
さすがにSさん、用意が良い。まあ、一応キツネだし。
管さんは何故か翠がお気に入りで、しかも敬語だ。俺にはずっとタメ口なのに。
するりとテントに入り込んで入り口のジッパーを閉めた。相変わらず律儀なことで。
「秋の夜は長いもの。退屈しのぎに昔話などお聞かせしましょう。」
「うん、聞きたい聞きたい。はやく、はなして。」
管さんは翠の膝の上に丸くなって話し始めた。
もちろん、管さんの話は面白い。これで翠の気が紛れれば、本当に助かる。
紙コップにチューハイを少し注いで翠の傍に置いた。そういえば鮭冬葉も買ってあったっけ。
あれは小さくちぎって紙皿に。どちらも管さんの好物。

274 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:17:16 ID:yWHXq0Qo0
 管さんは昔話を続け、翠は眼を輝かせて話に聞き入っている。
既に11時過ぎ。ビールとチューハイが数本ずつ。
陶器のワインクーラーに赤ワインも1本冷やしてあるが、
翠を残してトイレに行くのも気が引けるし、立ちションは教育上宜しくない。酒量は控えめ。
それより問題は翠が一向に眠そうな素振りを見せないことだ。
術で寝かせることは出来ないし、うっかり俺が先に寝てしまったら、
明日Sさんと姫にこっぴどく怒られるだろう。
やはり翠を管さんに任せて、一度Sさんか姫に相談を。いや、2人はきっともう寝てる。
その時、翠が振り向いた。微笑んでテントの入り口を見詰める。

275 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:23:19 ID:yWHXq0Qo0
 「お父さん、ほんもののお客さんだよ。やっぱり来たね。」
テントの入り口を叩く、小さな音。一体...。
管さんが翠の膝を降り、俺の肩に駆け上がった。小さな声で囁く。
「かなり古い妖だが、意図が読めない。力が強いから失礼の無いように、対応を誤るな。」
再び入り口を叩く音。
「妖をテントの中に入れろ、ということですか?」 「そうでないと収まらん。」
そっと入り口ににじり寄り、声を掛けた。
「はい。どちらさま、でしょうか?」
「○×の山中に住む、◇◆○の使いの者で御座います。
先日お見かけした姫君に是非お目通りしたいと訪ねて参りました所、丁度この仮屋で宴が。
僭越ながら、宴の末席に加えて頂きたく、お願いに上がりました。」
○×? ということは、先日翠と2人で県民公園に行った時か、しかし特に変わった気配は。
「いらっしゃいませ、どうぞ。」 あ、翠、まだ。

276 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:25:33 ID:yWHXq0Qo0
 するするとジッパーが開き、入り口の布がめくれ上がる。 これは。
狩衣のような着物を着た、小さな、人。いや、人の形をした、一体、何?
それは深く一礼した後、入り口をくぐった。
「有難う存じます。姫君への贈り物と、父君へは酒肴を御用意致しました。」
「ありがとう。」 いや、翠、だからまだ。
まあ、物心ついたときから式を見慣れているから無理もない。
でも、せめてもう少し警戒心ってものが。それとも、これは夢か?
小さな人が手を叩くと、めくれ上がった入り口からもう1人、また、1人。
荷物を捧げ持った小さな人が次々とテントに入ってきた。どれも背丈は40cm程。
先頭の1人は木の枝を捧げ持っている。 満開の白い花、テントの中に微かな芳香が漂う。
素朴な一重咲き、この辺りでは見かけない花だ。 しかし、この香りは何処かで。
続く2人の荷物は小さな三方。でも、それらの背丈に比べればかなり大きい。重そうだ。

277 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 00:33:36 ID:yWHXq0Qo0
 三方の1つには秋の果実。アケビとヤマブドウ、ガマズミ?
もう1つの三方には小さな銚子と杯。それと、赤っぽい干し肉。
「大したものでは御座いませんが、どうぞお納め下さい。」
最初のと合わせて小さな人が合計4人(?)、揃って手を付き頭を下げた。
満開の枝を受け取った翠は上機嫌だ。
「きれいなお花、いいにおい。お父さん、これ、いけて。」
陶器のワインクーラーに水を張り、枝を活けた。即席の花器。
白い花弁が一枚、ひらりと散る。 「これ、なんていうお花かな?」
そうだ、まだ花の名を。 「宜しければ、花の名前を教えて頂けませんか?」
「はて、主自ら用意した花ですが名前までは。」 「その花は『さんか』であろう。」
「いや、『さんさ』だ。」 「我らは無粋者にて、花の名は。申し訳ありません。」
さんか? 山花か? 秋から冬の、山の花と言えば...藪椿? 確かに葉は似ているが。
「ボンヤリするな。礼の口上を。」 管さんが囁く。 これは夢じゃ、ない?
「花の名は家の者に聞けば分かるでしょう。」 そう、Sさんなら多分。
「それより、どれも季節の瀟洒な品々。有難う御座います。」 手をついて一礼。
「気に入って頂けて、何より。では、まず父君に。」
「杯を持て。一口で飲み干したら返杯。そうだな、紙コップに葡萄酒を。」

278 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:13:14 ID:yWHXq0Qo0
 淡く黄色味がかったその酒は甘味が強く、不思議な香りがした。
深い山に満ちる気のようなものが、喉から鼻に抜けてくる。 本当に、旨い。
「これは、美味しいお酒ですね。初めての味ですが、とても良い香りです。」
「椎と栗で醸した酒で御座います。昨年は山が豊かで、殊の外に良い出来でした。」
猿酒、か。手軽に果汁を発酵させた酒でなく、
本来はドングリなどの澱粉から手間暇かけて醸した酒をそう呼ぶのだと、
父から聞いたことがあった。しかし、実際にそんな酒を醸し干し肉を作るとは。
随分と風雅な生活をしているモノたちらしい。返杯の用意を。
紙コップを4つ並べ、少しずつ赤ワインを注いだ。紙皿に鮭冬葉を一掴み。
「では御返杯。舶来の葡萄酒です。皆様、どうぞ。」 「有り難く、頂きます。」
「あま〜い。これ、とってもおいしいよ。」 翠が食べているのはアケビの実。
椎と栗で醸したという酒と、赤っぽい干し肉との相性は抜群。
何杯でも飲みたいが、相手の意図が分からないのだから正気を保たねば。
そんな俺を尻目に、翠は果実をほとんど食べ尽くしている。
深夜のテントに不思議な客。奇妙な宴会が続いた。

279 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:15:18 ID:yWHXq0Qo0
 その酒の醸し方、山の果実の味。話題は尽きない。
一体、どのくらい経ったろう。お客が来て満足したのか、翠がウトウトと居眠りを始めた。
「失礼、娘を。」 翠をマットレスに寝かせて毛布をかける。首筋に、寒気。
振り向くと、小さな4人が揃って翠の寝顔を見詰めている。
「寝てしまわれたか。本当に愛らしく、美しい姫君。」 「未だ幼く、術も修めておられぬのに。」
「既にその御魂も御力も。」 「人にしておくのが勿体ないほどの御方。」
まさか、将来翠を妖の嫁にと。異類婚説話、そんな言葉が頭をよぎる。
「頃合いだ。そろそろ本題に。」 耳許で管さんの声。
確かに、もし翠に聞かせたくない話だとしても、今なら。
「ところで皆様方は、今宵どのような用件でこちらに?」
それらは一斉に俺を見た。まん丸な目、何だか怖い。

280 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:22:16 ID:yWHXq0Qo0
 「実は、我が主から仕官の件を言付かりまして。」 「仕官、ですか?」
「はい。元々我が主は京の都で高名な術師に式として仕えておりました。
しかし術師の死を境に主は○×の山地に隠遁致しました。もう400年程も前の事です。
時折気が向けば、修行のため山中に入った行者や術師と交わることは有りましたが、
我らがどれ程勧めても、仕官する気にはなれないようで御座いました。
更に時は移り、この数十年は行者や術師が修行に来るのを見たこともありません。
今の世では主が優れた術師に仕えることもあるまいと、我らは常々嘆いておりましたが、
先日姫君と父君をお見かけした主が、突然『是非もう一度仕官を。』と。
気が変わらぬ内にと、慌てて支度を調えましたような訳で。」

281 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:25:29 ID:yWHXq0Qo0
 俺の知る限り、式には2つの系統がある。
代に術者の力を封じた式は、主に短期間の使役に用いる。
何かの方法で力を補充し続けなければ活動できるのは数日がせいぜい。
当然使役する術者を越える力を扱うことはないし、それ自身の意思もない。
しかし管さんや御影は違う。それらは元々独立した妖で、契約に基づいて術者に仕えている。
自身の意思を持っているから、普通は式の同意を得ずにその契約が成立することはない。
契約の効力によって『良き理』から流れ込む力を使えるようになれば、
式の器によっては、使役する術者よりも遙かに強い力を扱うこともあり得る。
およそ400年もの間、自らの意思で○×県の山中に隠遁していたというなら、間違いなく後者。
そして、初めに『姫君に是非お目通りしたい』と。
「つまりその御方を娘の式に、ということですか?」 「左様、是非そのように。」

282 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:30:10 ID:yWHXq0Qo0
 さすがに今は危険過ぎる。しかし将来、強力な式を使役出来れば間違いなく翠に有利。
断るのは如何にも惜しい。しかし、素性が分からない妖を俺の独断では。
こんな時、Sさんがいてくれたら。
「その御方は、一体どのような。出来れば、実際に御目にかかってからお話を。」
「我らは主に仕官しております故、このような化生も自在ですが、主はそうも参りません。
今この場で姫君への仕官を許して頂ければ主の化生も叶いましょうが、
例え化生致しましてもこの仮屋に入れるものかどうか。」
どんな大きさ?一体何の妖だよ。それに、もしそんな相手を無下に断ればどんな。
「父親なら、腹を括れ。本意ではないが、ここはお前の判断に従うしかない。」
囁く声。管さんの言う通りだ。深く息を吸い、下腹に力を込める。
『仰せの通り、娘は未だ術の基本も修めておりません。
しかも私たちの一族では、式の使役を許されるのは術者が13歳になってから。
それまでお待ち下さるなら、改めてお話を伺いましょう。それで、如何ですか?』
断るのでなく、何とか話を先延ばしに。それが出来れば、Sさんの意見を聞くことも可能だ。
「あと8年と少し...人の身には長く、あまりに惜しい時間でありましょうに。
しかし、それが父君の御考えとあれば我らに異存は御座いません。」
そっと息を吐き、それとなく額の汗を拭う。どうやら収まりが付きそうだ。
「では、姫君への忠誠の証として、今夜と同じ贈り物を毎年お届け致します。
今夜の約束、どうかくれぐれもお忘れ無きよう。」

283 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:31:53 ID:yWHXq0Qo0
 『それでは足りない。』
鈴を振るような声。振り返ると、翠がマットレスの上で上体を起こしていた。
「姫君は、今何と?」 『毎年の贈り物だけでは足りない、そう、言ったのだ。』
場の空気が、一瞬で張り詰めた。 違う、これは翠の話し方じゃない。
「心を込めて贈り物を御用意致しましたし、誠を尽くして仕官の御願いを致しました。
これ以上、姫君には一体何の御不満が?」
言葉は丁寧なままだが、篭もる力は先程までと段違い。この後の言葉によっては。
慌てて翠を抱き上げ、膝の上に座らせた。耳許で囁く。
「駄目だよ。お客さんを怒らせちゃ。」
翠はじっと俺を見つめた。吸い込まれるような、黒い瞳。
『私に、任せろ。半端に道を付ければ、むしろこの子に災いを招く。』
言い終えて、ゆっくりと小さな客たちに視線を移した。
ぴいんと伸びた背筋、威厳に満ちた横顔。やはり、翠ではない。

284 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:45:00 ID:yWHXq0Qo0
 『仕官を望む気持ちが誠なら、お前の名を、名告れ。』
テントの中、彼方此方で、チリチリと金色の火花が散った。鼻の奥で火薬の臭いがする。
管さんは黙って俺の肩から飛び降り、翠の直ぐ横に蹲った。最高レベルの、臨戦態勢。
「御影」や「管狐」はあくまで通称。真の名は、契約した術者だけに明かされる秘密。
それを俺と管さんの前で...もし最悪の事態を招いたら、翠を守る方法は。

 『私に仕えるというなら、一族にも忠誠を誓うが道理。
そしてその日が来るまで、私の父母がお前の主。何故隠す必要が有る?
何度も言わせるな。 お前の名を、名告れ。』
新しい絵本を手にした時のように、大きく目を見開いた、翠の笑顔。
何もそんな、挑発的な言い方をしなくても。冷や汗が流れる。
小さな客たちの姿がゆらりと薄れ、蛍光灯式のランタンが頼りなく明滅した。
凝縮する気配...姿は見えないが、間違いなく目の前に、それは、いる。

285 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:46:24 ID:yWHXq0Qo0
 『我が名を名告れとは。今此の場で姫君と契約を結べとの仰せか?』
テント全体に響く、太く低い声。 もう、俺の手には負えない。しかし、翠は。
『当然だ。契約もしていない妖の出入りを許す法など有るものか。
しかし、此の場で契約を結び忠誠を誓うなら、『良き理』への道が開く。
それで元の姿と力を取り戻すかどうか。全てはお前次第。分かっている筈だ。』
『我が想いを...有り難い。では、我も誠を尽くそう。我が名は。』

286 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:48:23 ID:yWHXq0Qo0
 目が覚めると、明るい日差しがテントの布地を照らしていた。 朝、か?
入り口に丸くなった管さんの後ろ姿と、紙皿に残った赤っぽい干し肉は、
昨夜の出来事が夢でない事を示している。 一体、あれは?
「やはり○△姫の娘御。大した姫君よ。」
「でも、あれは翠の話し方じゃ。」
「どんな御加護も、御本人の希望がなければ力を持たぬ。
忘れたか?この仮屋で客を迎えるは、姫御自身が望んだこと。」
...あの公園で過ごした時、既に翠には俺に見えないモノが見えていたのか。
その一部を封じてもなお、俺には感知出来ない存在を感知する感覚。
完全に信頼して任せた事ではあるが、やはりSさんの判断は正しかった。
「とまれ、契約は成立した。新たに式を迎えたのは随分と久し振りだ。
まあ、姫君が実際にあれを使役するのは、もう少し先のことになるだろうが、な。」

287 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 03:58:15 ID:yWHXq0Qo0
 紙皿に残っていた干し肉の欠片を1つ食べて、Sさんは微笑んだ。
「少し塩辛いけど、美味しい。多分、熊の肉。鹿とか猪の肉とは違うと思う。」
「この辺りにクマはいませんよね。じゃあ、本当に古い妖が○×県から翠ちゃんに?」
「契約していた術者との心の繋がりが余程深かったのね。だから敢えて他の術者との間で
契約の『引き継ぎ』をせず、式としての力を失い、元の妖に戻って○×県の山中に身を潜めた。
素のままでさえ易々と熊を屠るほどの力を持つ妖。
しかし人々に害をなすこともせず、新しい契約を結ぶこともなく、ひっそりと暮らしていた。
そこにR君と翠が。だからこれも他生の縁。きっと、遠い約束の1つ。」
「易々と熊を屠るって、どうしてそんなことが分かるんですか?」
「苦しんで死んだ動物の肉は肉質が落ちるし獣臭がきつくなるって聞いたことがある。
この干し肉、旨味は濃いけど匂いは殆どない。だから。」
昨夜、そんな妖を相手にあの口調で...少し目眩がした。
御加護がなくても、強力な式を正しく使役する。そんな術者に、翠は成長するだろうか?
不安はあるが、正直先のことは分からない。
ただ、翠は式を使役する適性をSさんから受け継いでいる。それは確かだ。

288 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 04:08:34 ID:yWHXq0Qo0
 「でも、何故翠なんでしょう?適性は別にしても、未だ式を使役する力は無いのに。」
「一目惚れ、じゃないですか?翠ちゃんはとても可愛いから。」
「へ?一目惚れって。」 少なくとも400年は生きている妖が、3歳の女の子に?
藍を抱いたSさんは優しく微笑んだ。
「有り得るわね。式が仕える術者を選ぶ基準は好き嫌いであって損得勘定じゃない。」
「いや、だからって。翠は3歳ですよ?」
「基本、術者と契約を結ぶような妖は人が好きだし、特に小さい子は好きよ。」
そう言えば管さんは翠がお気に入りで、それに敬語だ。
「もちろん人間の恋愛感情とは違う。自分たちよりもずっと短い命が放つ輝きに、
畏れや憧れを感じているのかもしれない。この花を贈ったのも、きっとそういう意味。」
Sさんはテーブルに散った白い花びらを一枚摘まんだ。ワインクーラーの花器に活けた枝。
「これは山茶花。園芸品種は幾らも有るけど原種は滅多に見かけない。
もとは漢字の通り山茶の花で『さんさか』、それが訛って『さざんか』。受け売りだけど。」
サザンカ。 そうか、この香りは。 一枚ずつ散る花弁、艶のある濃緑色の葉。
八重咲きの、色とりどりの花を見慣れていたから、まさかサザンカだとは思わなかった。
「白いサザンカの花言葉は、確か『理想の恋』。出来過ぎ。偶然、ですよね?」
姫の言う通り。それは、幾ら何でも。

289 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 04:10:32 ID:yWHXq0Qo0
 「山茶花は日本が原産だけど、花言葉はそうじゃない。
それに花言葉自体の歴史がせいぜい200年。面白いけど、偶然でしょうね。
さて、400年位前、京の都、高名な術者に仕えていた。手がかりは十分。」
Sさんは藍を姫に託して立ち上がった。行き先は、多分図書室の記録庫。
翠はソファで昼寝をしている。あれだけ夜更かしをしたのだから暫くは起きないだろう。
本人には一体何処まで昨夜の記憶があるのか。さらさらの髪を、そっと撫でる。
10分程でSさんが戻ってきた。A3の紙をテーブルに置く。
大きく、クッキリとした筆文字。かなり古い資料のコピー。
「これかも。もし、本当にこの記録の通りなら、大変だけど。」
『大変』とは言うが、Sさんの目は笑っている。急いで資料に目を通した。
古い筆文字、全て読める訳ではない。しかし、ある文字が浮き上がるように目に入った。

290 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 04:13:34 ID:yWHXq0Qo0
 『鵬』
おおとり? それは古来、世界各地で目撃され、様々な名で呼ばれてきた。伝説の猛禽。
確か1800年代の終わりには、日本でも射殺された記録がある。
鵬にしては小型なのかもしれないが、記録によれば体長3m弱、両翼の差し渡し6m強。
猛禽ならば、アホウドリの大型個体の誤認などでは有り得ない。
「でも、この名前じゃありませんでした。確か」
Sさんは俺の唇を人差し指で押さえて首を振った。『黙って』の合図。
「駄目よ。それは翠だけの秘密。気を付けて。」
成る程、『鵬』もあくまで通称。その姿と性質をおおまかに示すだけだ。

291 『花詞』 ◆iF1EyBLnoU :2014/06/25(水) 04:16:46 ID:yWHXq0Qo0
 それから毎年、決まって10月の終わりには、お屋敷の玄関に贈り物が届いた。
満開の、白い山茶花の枝。山盛りの果実と熊の干し肉。椎と栗で醸した香り高い酒。
そして、その前後数日、お屋敷の遙か上空を舞う巨大な猛禽の影。
それらは、お屋敷に秋の深まりを告げる、新たな風物詩になった。

『花詞』 完

292 名無しさん :2014/06/25(水) 13:21:39 ID:SHKj7Uok0
フォークロア的な内容、面白かったです。ありがとうございました。

293 名無しさん :2014/06/25(水) 21:19:44 ID:WOyYMiB.O
大変面白かったです!
それにしても、翠ちゃん凄いです!

294 名無しさん :2014/06/25(水) 23:41:35 ID:gwp7/WwE0
とても美しい物語を、ありがとうございました。

295 名無しさん :2014/06/26(木) 23:41:50 ID:rbvhvdSo0
ふう。。。一揆に読ませる筆力、凄いです!
とても面白いお話でしたね。
また、次の作品に多いに期待してます。
藍さん、投稿作業お疲れ様でした!!

296 車の手の跡 :2014/07/02(水) 22:06:08 ID:KlgSPJIk0
自分が専門学校時代の話です。
一人暮らしだったのでよく宅飲みや溜まり場になってたんですけど
夏休みになり友達2人が泊まりに来てTVで心霊特集やってて観てたんです。
そしたら友達の一人がこの辺の心霊スポット行こうという話になって行くことになりました。
まあ地元じゃなかったんでネットとかで調べて行ったんです。

297 名無しさん :2014/07/03(木) 08:43:48 ID:i0UQNgTkO
>296
ン? 誤爆でしょうか?ここは藍物語スレですが…。

298 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:30:06 ID:vzjMFSWg0
テスト中です。

299 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:37:20 ID:vzjMFSWg0
以下、新作『禁呪(上)』を投稿致します。
都合上、作中の人物名について伏せ字でなく書き換えで対応致しました。
あくまで仮名です、くれぐれもご承知置き下さい。

300 『禁呪(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:40:07 ID:vzjMFSWg0
『禁呪(上)』

 窓の外を白いものがひらひらと横切る。雪だ。冷え込むと思ったら、やはり降ってきた。
姫は暖かい上着を着ていったから大丈夫だろうが、滅多にない雪。渋滞も考えられる。
少し早目にお屋敷を出た方が良いだろう。 そんな事を考えている時、ケイタイが鳴った。
見慣れた画面表示、姫だ。 この時間の電話は大抵休講に伴う待ち合わせ時間の変更。
「はい、もしもし。」 「もしもし、Lです。」 「休講ですか?」
「それもありますけど、待ち合わせの場所を変えようと思って。」
??? いつもは大学の第5駐車場。それ以外の場所は初めてだ。妙な、胸騒ぎ。
「どうか、したんですか?」
「ええっと、買い物。そう、買い物です。それで、大学の駐車場じゃなくて
スーパーマーケットの駐車場で。そこでお願いします。時間は、そう3時過ぎに。」
「スーパーマーケットって、▲○■ですか?」 「はい。」

301 『禁呪(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:41:14 ID:vzjMFSWg0
 やはり、おかしい。たまに買い物をするその店は大学より遠いのだ。
それなら大学で姫を迎えてからの方が都合が良い。電話では話せない、事情?
「了解です。買い物の相談は後で。」 「はい、後で。じゃ、切りますね。」
ホッとしたような言葉を残して電話は切れた。
「どうしたの?お迎えの時間変更?」 Sさんは藍を抱いて翠と絵本を読んでいた。
「はい、休講と、スーパーマーケットの駐車場で待ち合わせしたいって。」
「スーパーマーケット?変ね、特に買い物の話はしてなかったけど。」
「何か事情がありそうなので早目に出ます。
多分Lさんは大学から歩くつもりだと思いますけど、この雪ですから。」
「そうね。寒いし、スーパーマーケットへの途中で拾えたら良いけど。でも、気を付けて。」
「お父さん、きをつけてね。」 「有り難う。気を付けるよ。」 翠の頬にキスをする。
手頃な上着を羽織り、すぐに車を出した。積もるとは思えないが、念のために、軽の四駆。

302 『禁呪(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:42:40 ID:vzjMFSWg0
 姫も免許を持っているが、俺は今でも出来る限り大学への送迎を続けている。
姫の希望もあるし、何より俺自身の希望。2人きり、車中で話す時間が愛しいから。
大学の正門前を通り過ぎる。ここからスーパーマーケットまで車なら5分弱。
出来ればその途中でと思ったが、姫の姿を認めたのはスーパーマーケットの駐車場。
店の入り口近く、歩み寄る俺を見つけた姫は笑顔で手を振った。
特に変わった様子はない。思わず息を吐く。
「無理に買い物しなくて良いなら、帰りましょう。体、冷えちゃったでしょ?」
「はい。少し寒いです。」 車に戻り、暫くの間細い体を抱きしめた。
「温かい。」 「良かった。」 安心して、思わず少しだけ滲んだ涙。そっと拭って車を出した。
「それで、どういう事ですか?こんな寒い日にわざわざ遠くまで歩くなんて。」
姫は俺の左手に右手を重ねた。まだ、少し冷たい。

303 『禁呪(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:43:49 ID:vzjMFSWg0
 「今日、告白されたんです、私。」
姫が大学で時々声を掛けられるのは知っていた。しかし、それで何故?
「でも、それだけなら大学の駐車場でも良かったんじゃないですか?」
ストーカーまがいの男でも、いざとなれば姫は自分で身を守るだけの力を持っている。
「相手が幽霊なので、もし駐車場でRさんの前に現れたらまずいかなと思って。」
「幽霊って...」 「はい、タケノブさんって言ってました。」
頭の中が整理できない。普通、幽霊の意識にあるのは過去だけ。
今生きている人に害をなす事があるのも、過去の憎しみや恨みに囚われているからこそ。
幽霊が新しい記憶を蓄積するなんて聞いたこともない。
しかし、その幽霊は姫に告白を。つまりその魂は死後に恋をしたというのか?それとも。
「あの、どういうことなのか全く分からないんですが。」
「はい、私にも分かりません。だから今夜Sさんに。一緒に話をしてくれますか?」

304 『禁呪(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:45:44 ID:vzjMFSWg0
 「ミスキャンパスに推薦されたのを断ったと思ったら、今度は幽霊に告白されるなんて。
L姫様は本当にモテモテね。R君も鼻が高いでしょ?」 Sさんはイタズラっぽく笑った。
翠と藍は既に夢の中。深夜のリビング、3人での作戦会議は久し振りのような気がする。
「いやあ、それは何とも。」 それ以外に答えようがない。ホットワインを一口、クローブの香り。
「それで、Lにも事情が分からないとしたら、単純に生き霊とは判断できないって事ね。」
そうか、姫に恋をした男の生き霊。でも、それなら確かに姫が。
「はい。実は『タケノブさん』って幽霊、大学では結構有名なんですよ。
噂では50年位前から現れてるようで、目撃者も沢山いるみたいです。
私も時々気配は感じてたんですけど、この数日急に気配が強くなって。
今日の昼休み、図書館で告白されたんですけど、他の学生には見えていないようでした。」
「もし50年前に入学したとしても、68歳。噂だから10年位の誤差はあるかも知れないけど、
それにしたって幾ら何でも不自然。本当に同じ幽霊?」
「はい、自己紹介で『ちょっと有名な幽霊です。』って言ってましたから。」
「待って。その人、自分が幽霊だって自覚してるって事?」 「はい。」
普通、生き霊としての記憶は本体に残らない。僅かに残ったとしてもせいぜい夢に見る位。
しかも自分が幽霊だと自覚してる幽霊なんて、あり得ない。

305 『禁呪(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/06(日) 04:48:02 ID:vzjMFSWg0
 「正体が分からないとしたら、Lさんが明日以降も大学に行くのは危険じゃありませんか?」
「そうね。でもLに告白したんだから今の所悪意は無い。
ずっと大学休む訳にも行かないし...Lは何て返事したの?ミスキャンパスの時と同じ?」
「はい。『私結婚してます。御免なさい。』って。」
そう言って、姫を推薦しようとした友人たちを絶句させて以来、
姫に声を掛ける男は減ったらしいのだが、その幽霊はそれを知らないと言うことだ。
「それで、あの。」 姫は言い難そうに俺を見つめた。
「『本当ならあきらめるから、その人に会わせて欲しい。』って言われて。」
「その人にって、誰に、ですか?」
「鈍いわね。R君に決まってるでしょ。本当に夫がいるなら、会えばあきらめがつくって事よ。」
あの電話、姫の声に胸騒ぎを感じた本当の原因はこれか。
その幽霊と面会するのは俺の同意を得てからという、姫の心遣い。
「良いですよ。そういう事なら、僕が直接会って、話してみます。」
「宜しく、お願いします。」 小さな声、姫は俯いた。 胸が、痛い。
幽霊とはいえ、自分に好意を持ってくれた相手を蔑ろには出来ない。
でも、それで俺に面倒をかけるのは心苦しい。だから直ぐには言い出せなかったのだろう。
姫の優しさが胸に染みる。 そんな姫を黙って見つめるSさんも、やっぱり優しい。
しかし、言い寄ってくる相手から妻を守るのは夫の、つまり俺の当然の役目。
面倒どころか、誇らしい。自然と、気合いが入った。

『禁呪(上)』 了

306 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 19:52:42 ID:YR/48AOI0
『禁呪(中)』

 翌日の夕方、姫のお迎えで大学に車を走らせる。
いつもより少し早く大学の第5駐車場に車を停めた。20台分程の、小さな駐車場。
車を使う学生は歩くのが苦手。学部の建物から一番遠いこの駐車場はいつも貸し切り状態。
姫は更に遠回りして大学の構内を散歩するのを日課にしているので、
この駐車場が2人の待ち合わせ場所になっていた。
昨日とは打って変わった暖かい日差し。
終業までは間があるが、今日だけは姫を待たせる訳には行かない。
車を出て、駐車場近くのベンチに座る。本を持ってはいるが、単なる精神安定剤。
昼過ぎに姫から電話があり、これから会うことになっていた。そう、『タケノブさん』に。
20分程で姫の姿が見えた。いつもとは反対側。笑顔で手を振り、早足で近付いてくる。
「待たせちゃいましたか?」 「いいえ、そんなには。」 姫も俺の隣に座った。
「それで、場所は此処で良いんですね?」
「はい、『呼んでくれれば何処にでも。』って。大学の構内なら自由に移動出来るみたいです。」
「じゃあ、遅くならないうちに。」 「はい。」 姫は目を閉じて俯いた。
「いや、もう来てますから。」
視界の端に男の足が見えた。グレーのジーンズ、紺のデッキシューズ。

307 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 19:54:33 ID:YR/48AOI0
 ゆっくりと立ち上がる。その男と視線を合わせた。
爽やかな笑顔、本当に幽霊なのかと疑うほどの存在感。 しかし、この男には影が無い。
軽く一礼。「どうも、Rです。」 男は深々と頭を下げた。
「タケノブです。今日はわざわざ済みません。マドンナの隣に座っても良いですか?」
マドンナ? キリスト教の聖母。 この男が姫をそう呼んでいるなら少し気が楽だ。
「構いませんよ。」 3〜4人掛けのベンチ。左端に俺、その隣に姫。少し離れてその男。
「一応、戸籍抄本を持ってきました。」
「いや、お二人の様子を見れば分かります。まさかこんな可愛らしい女性が人妻だなんて、
とても信じられなかったので、どうしても確かめずにはいられなかったんです。
でも、あなたのような二枚目が相手では、僕など勝負になりません。得心しました。
それにRさんも僕と話が出来る人だなんて。何だか愉快な気分ですよ。」
...複雑な気分だが、姫が褒められるのはやはり嬉しい。
「それでは。」 「約束通り、マドンナの恋人になるのは金輪際諦めます。ただ。」
「ただ?」 首筋がヒヤリと冷たくなる。
「Rさんと、もちろんマドンナが許可してくれるなら、これからもマドンナと話がしたい。
僕と話が出来る人は、マドンナがやっと3人目なんです。もう52年も経つっていうのに。」
男は俯いて小さく溜息をついた。深い憂いを含んだ、寂しそうな横顔。

308 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 19:59:22 ID:YR/48AOI0
 「あなたは本当に50年も前からこの大学に?」
「そう、生きていれば僕は今年の10月に70歳。生きていればね。」
このまま話を続け、少しでも情報を得られたら、今後の方針を検討する材料になる。
そっと姫の顔を見た。姫も俺の目を見て小さく頷いた。
「失礼かもしれませんが、とても70歳には見えませんね。」
「そりゃ僕は18で死んだんだから、これより年取った姿は無理だよ。
服や靴は学生達のを見ればどうとでもなるけれど。」
黒い学生服と革靴...一瞬で。 男は学生帽を取って膝の上に置いた。
「これが当時の制服。僕はこっちの方が好きなんだが、この姿でいると時々騒ぎになる。
話は出来なくても、僕の姿が見える人は結構いるみたいだから。」
いつの間にかタメ口になっているが、考えてみれば大先輩だ。まあ仕方ない。
「あなたには、死んだ後の記憶があるんですか?」
「ああ。僕は生まれつき心臓が弱くて、風呂場で倒れたんだ。あれは、苦しかったな。
『折角大学に入ったのに悔しい悔しい。』って、そればかり考えてる内に気が遠くなって。
次に気が付いたときは此処に居た。ある教室の椅子に座ってたよ。
目の前に松田って親友が座ってて、声を掛けたけど反応が無い。
肩を叩こうと思ったら、こう、すり抜けた。
ああ、僕は死んで幽霊になったんだって、その時に分かった。」

309 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:02:15 ID:YR/48AOI0
 「それで、その後50年間の出来事も憶えているんですか?」
「もちろん。此処でずっと学生や職員の様子を眺めてきた。
学生達や職員達の人間関係、時代につれて移り変わる学生達の気質や習慣。
そういうのを観察しているのは、存外面白いんだ。
ほら、何て言うか、僕はその気になれば大抵何処にでも入れるからね。
言った通り僕は子供の頃から病弱だったから、家の窓から外を眺めるのが好きで、
特に人物を観察するのが大好きだった。まあ、この生活が性に合っていたのかな。
だけどさすがに寂しくなってきた。52年間にたった4人なんて。あ、そう言えば。」
「はい、何か?」
「4人目は君。マドンナと君が2人とも僕と話が出来るなんて奇態だ。
それにマドンナは僕に直接呼びかけることも出来る。一体君たちは、何者だい?」
...とうとう君呼ばわりだ。 それに、『何者だ?』って。聞きたいのはこっちだっての。
幽霊の自覚があって、死後の記憶があって、生きている人間にも関心があるなんて。
「陰陽師なんですよ。2人とも。」 「陰陽師?」 「はい。」
男は額に手を当てて目を閉じた。数秒間の、沈黙。
「確か、アイツもそんなこと言ってたな。2人目の...そう、○▲。面白い男だった。」
思わず姫と顔を見合わせた。 それは、俺たちの一族ではありふれた名字。

310 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:04:02 ID:YR/48AOI0
 「鳩が豆鉄砲食らったような顔だね。どうか、したかい?」
「あ、僕たちの一族ではありふれた名字なのでちょっと。」
「成る程。只の偶然か、もしかしたら君たちの一族と血縁があるのか。実に面白い。」
「それで、その○×って人はどんな?」
「入学式の翌日、僕に気付いて話しかけてきた。驚いたよ。」
男は面白そうに喉の奥で笑った。
「色々話してる内に友達になってね。初めは『いつか成仏させてやるから。』って言ってたけど、
その内『誰にも迷惑掛けないなら、そのままで良いんじゃないか?』って言うようになった。
それで、そのまま卒業。本当に良い加減な奴だよな。」
「それ、どの位前の話ですか?」
「う〜ん。30年、いやもう少し前。細かい年代は苦手だけど、頑張って思い出してみるよ。」
「もし思い出したら、聞かせて下さいね。」
まさに破顔一笑、男は晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。
「マドンナ、これからもあなたとお話しする許可を頂いたと考えて良いんですね?」
「はい。でも、これからはマドンナは止めて下さい。私の名前は、L、ですから。」
「名前で呼ぶ事までも許して頂けるなんて...本当に嬉しい。有り難う。」
「夫もそれを、許してくれると思いますよ。ね、Rさん?」
かな〜り複雑な気分だが、姫がそう言うなら、まあ仕方がない。

311 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:07:35 ID:YR/48AOI0
 その日の深夜、再び作戦会議が開かれた。今夜の飲み物はホットウイスキー。
「大学の敷地に縛られてるなら一種の地縛霊。でもそれ以外、悉く幽霊の特徴から外れてる。
聞いた感じでは人間そのもの。LとR君の話じゃなかったら、とても信じられない。」
「はい。Rさんと話をしているのを見ていても、幽霊とは思えませんでした。
姿を現している間は、気配とか存在感も普通の人と変わりません。本当に不思議です。」
「自分が幽霊だという自覚がある幽霊の記録は残っていないんですか?」
お屋敷の図書室、その中の記録庫には様々な記録が保管されている。
其処になくても、『上』が管理する資料館にならもしかして。
「死後幽霊になり得るのは、限られた霊質をもつ人だけ。前に話したでしょ?」 「はい。」
「その霊質を持つ人の魂も、肉体を失えば存在の仕方が私たちとはズレてしまう。
そのズレのせいで自我を保つのがとても難しい。それが一般的な解釈。
ただ、強く執着してる事については、精神力がそのズレを越えて自我を保つことがある。
R君は幽霊が新しい記憶を蓄積することはないと思ってるみたいだけど、そうじゃない。」

312 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:10:36 ID:YR/48AOI0
 「強く執着したり関心を持った人については、新しい記憶を蓄積することもある。
私たちだって、関心の無い事までいちいち憶えていられないでしょ?
それがもっともっと極端になった状態を想像すれば、分かってもらえるかな。」
そうか、Sさんは幽霊になった女の子の、死後の記憶を念写した事がある。
別の件で、自殺した女子高生の霊が姫を記憶出来たからこそ、姫は彼女と友達になれた。
普段は朧に拡散している意識が何かの条件で凝縮し、その瞬間だけ自我を取り戻す。
そして自我を保っている間だけ、新しい記憶を蓄積する。それは一体、どんな感覚だろう。
「だから、術者が必要な条件を調えれば、その間は幽霊も自我を保つ事が出来る。
自分が幽霊であるという自覚を持ち、私たちと会話し、そして新しい記憶を蓄積する。
幽霊や魂と交信する術はその応用。R君も何度か、使った事があるわよね?」
そうだ、単独での初仕事。俺は交通事故で植物状態になった男の子の魂と交信した。
あの時、確かに男の子は自我を持ち、俺と会話をし、そして両親の様子を気遣っていた。
「だけどLの大学全体に、そんな条件が50年以上も存在し続けるなんて有り得ない。
第一、特殊な条件があるならLやR君がとうに気付いてる。何か、別の理由があるはず。
まあ理由はどうあれ、不思議な幽霊がいてLに好意を抱いてるのは事実。
今の所誰も被害を受けていないし、話し相手をしてる内に何か分かるかも知れない。
取り敢えずは様子見、経過観察ってとこね。」

313 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:13:28 ID:YR/48AOI0
 第5駐車場脇のベンチで姫を待っていると2人連れの姿が見えた。姫と、タケノブさん。
駐車場の入り口手前。姫が小さく手を振ると同時に、タケノブさんの姿は消えた。
タケノブさんは姫の帰りの散歩に同行することが多いが、毎日と言う訳でもない。
実際、ここ一週間程は姫の前に姿を現したという話は聞いていなかった。
「今日は一緒でしたね。タケノブさん。」
「はい、『とても面白い事を見つけたから、暫くそれを研究してた。』と言ってました。」
「研究って、人間関係の?」 「はい、助教授と学生の不倫だそうです。」 「はあ、成る程。」
何処でどんな事をしてたか知らないが、幽霊に不倫の現場を研究されるとは気の毒に。
「私が『そんな話は嫌いです。』って言ったら笑ってました。
それで今度は昔の自分の事を話してくれたんです。出身地とかお家の事とか。」
○×市で代々医者をしてきた家系だそうです。お父さんも医者だったから、
大学生になるまで生きる事が出来たと言ってました。好きな文学を勉強させてくれたし、
本当に感謝してるって。お風呂場で発作を起こして倒れたのは冬休み。
きっとお父さんお母さんが看取ってくれたんでしょうね。それが、せめてもの親孝行。」
助手席から外を見つめる姫の顔は、少し寂しそうに見えた。

314 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:19:06 ID:YR/48AOI0
 「『○△市で代々医者をしてきた家系。本当に、そう言ったの?」
Sさんの目の色が変わった。 「はい、確かに。」 「ちょっと待ってて。」 廊下を走る足音。
本当にせっかちな人だ。今夜の飲み物はカフェロワイヤル、折角の綺麗な炎を眺めもせずに。
結局Sさんが戻ってきたのは20分くらい経ってからで、
俺は新しく淹れたコーヒーでカフェロワイヤルを作りなおした。
「タケノブは名前じゃ無くて名字かも。○△市の武信姓。
その中に、もとは陰陽道、術者の家系がある。うちの一族とは系統が違うけど。」
そうか、呪術医の例に見られるように、古来、術者が医者を兼ねるのはありふれた事だった。
「もしタケノブさんの家が術者の家系だったら、
あの不思議な幽霊が存在する理由を説明出来るかもしれない。」
「もしかして、反魂の術。ですか?」 姫の顔が緊張している。
「反魂の術って、死者を蘇生させる術ですよね?確か、『泰山府君の法』とか。」
「あれは映画の中の話。その術の名前を口に出せないから、Lは反魂の術って言ったの。
一族に伝わる、門外不出の秘術。死者を冥府から呼び戻す、禁呪の中の禁呪。」
「本当に可能なんですか?死者を蘇らせるなんて。」
「全ての条件が揃えば可能な筈よ。」
「じゃあ西行とか安倍晴明の話も全くの作り話って事じゃ無いって事ですね。」
「どちらも半分ホントで半分嘘。カムフラージュのためにフェイクが混ぜてある。」
「フェイク?」 「そう、禁呪の内容や方法を全て語るわけにはいかないでしょ?」
それはそうだ。だが、語られている内容の一部は真実ということになる。

315 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:20:49 ID:YR/48AOI0
 「どこがホントで、どこが嘘なんですか?」
「L、西行の話、説明して上げて。その間にこれ、飲んじゃうから。」
「はい。」 姫は少し考えて、それから話し始めた。
「西行は人骨を集めて人間を再生した事になってますけど、あれは嘘です。
魂を入れないんですから、その術で作れるのは式であって人間じゃありません。
だから感情も言葉も持ってなかった。それはホントです。
骨を並べて云々の記述も、お香の種類や断食の話も、話をそれらしく見せるための嘘です。」
「どうしてわざわざ代に人骨を使ったんでしょうね?Sさんは紙を使うのに。」
「人の姿をした式を作る時、Sさんのように高等な術を使うなら代は紙の人型で十分。
でもそうでない時は人の一部、つまり遺体の一部を使った方が成功率は高くなります。」
姫は言葉を切ってSさんを見つめた。 少し困ったような顔。
「そう、あるいは。」
コーヒーカップを持ったSさんの目がキラキラと輝いている。本当に、綺麗な人だ。
「あるいは、何ですか?気になるじゃないですか。」
「その骨の主の姿をした式を作ろうとした。骨の主は一体誰なのか?
その人の姿をした式を作って何をするつもりだったのか?色々と事情がありそうよね。」
そうか、西行は話し相手欲しさに術で人間を作ろうとした事になっている。
しかし術で作る式は言葉を持たないのだから話し相手にはならない。
つまり話し相手欲しさに人間を作ろうとしたということ自体が、そもそも嘘。 
微かな悪寒。ブランデーとコーヒーで温まっていた体が、ゆっくりと冷えていく。

316 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:23:07 ID:YR/48AOI0
 Sさんはカップに残ったカフェロワイヤルの残骸を一気に飲み干した。
「美味しい。じゃ、次は安倍晴明の話。反魂の術を使うには、かなりの力が必要なの。
当然この術を仕える術者は限られる。だからこそ、主人公は安倍晴明って設定。」
確かに、あの話を後世の創作であると考える人は多い。
「あの話、『死者を蘇生させるのに代償が要る。』という部分はホント。
『代償が他の誰かの魂である。』という部分もホント。」
だからこそ病気で瀕死の上人を救うために僧侶が1人身代わりを志願した。しかし。
「2人とも助かったというのは嘘。不動明王が身代わりになるなんて有り得ない。
それに、どんな術者でも代償なしに高位の精霊と契約する事は出来ない。」
「その術は、精霊との契約に基づく術なんですね?」
「そう。まず蘇生させたい人の遺体の前で身代わりになる人の魂を捧げ、精霊と契約する。
ただし、既に遺体の腐敗が進んでいたら契約は成立しない。
だから、この術を使うとしたら、出来れば死亡直後。遅くとも死後1〜2時間以内。
もし契約が成立すれば、精霊はその見返りとして遺体の傷や病を癒しその腐敗を防ぐ。
術者は契約が成立した事、つまり遺体の腐敗が進まない事を確認して、
蘇生させたい人の魂を遺体に戻す。それで完成。全てが完璧なら、死者は蘇る。」

317 『禁呪(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 20:24:43 ID:YR/48AOI0
 治まりかけていた悪寒が再び全身に拡がっていく。
「じゃあ、反魂術が失敗したからあの幽霊が?」
「ご名答。遺体がまだ腐敗せずに残っているなら、その魂と私たちの存在の仕方はかなり近い。
だからその幽霊は自我を保てる。そう考えるしか、あの幽霊の説明はつかない。」
「でも、どうして失敗したんでしょう?契約が成立したなら、後は魂を戻すだけですよね?」
「魂を戻すだけって...そっちの方がずっと難しいの。だからこの術を使える術者は限られる。
というより、特殊な祭具の助けを借りずにこの術を使える術者はまずいない。」
Sさんの知る範囲にいないとしたら。当主様も桃花の方様も、勿論Sさん自身も。
それなら術者の力が足りず、術が完成しなかったのは当然の事だろう。
つまりタケノブさんの体は今も何処かに、当時のままで残っている。
「どう対処するべきなんでしょうね、僕たちは。」
放置するべきなのか。それともタケノブさんの体を探し出して葬るべきなのか。
「今は悪意のない存在でも、今後どう変化するかは分からない。
私の予想が正しいのかどうか、確かめておく必要もあると思う。」
Sさんは向き直って俺を見た。 はい、どうぞ何なりと御指示を。
「さてR君。52年前に何が起きたのか、資料を調べて頂戴。
県立図書館なら、多分記録が残ってる。」
「了解です。明日の朝一番に。」 「うん、良い返事。」

『禁呪(中)』 了

318 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:26:28 ID:YR/48AOI0
『禁呪(下)』

 『師走の怪事!?親子3人行方不明』
地元ではメジャーな新聞の縮刷版で、その記事はあっさりと見つかった。
個人病院を営んでいる医師とその妻、大学生の息子が行方不明だという記事。
半月程の間は細々と続報が載っているが、捜査が進展したという情報はない。
その後の新聞には事件に関する記事は見つからなかった。迷宮入りということだろう。
タケノブさんと、その父母。
何処からか術者を呼び、父母の内どちらかが身代わりになったのか。
いや、3人とも行方不明のままということは...
父母のうちどちらか1人が術者で、残り1人が身代わり。
しかし術は失敗し、術者も力尽きたと考えるのが筋だろう。
52年前に行われた反魂の術、その結果出現した不思議な幽霊。
帰りの車の中。お屋敷に着くまで、俺の心はもやもやと曇ったままだった。

319 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:27:57 ID:YR/48AOI0
 「多分あなたの予想通り。榊さんに調べてもらったけど、やっぱり未解決のままだった。」 
Sさんの寝室。就寝前の一時、Sさんと2人並んでソファに腰掛けていた。
藍はベビーベッドの中で寝息を立てている。翠はLさんの寝室。もう、2人とも寝ている頃。
『細かい事情を知りすぎて、もし態度に出たらタケノブさんが不審に思うから。』という
Sさんの判断と姫自身の希望もあり、今後の調査はSさんと俺が担当することになっていた。
「やっぱり行くんですか?予想通りなら確実に死体がありますよ。気が進みません。」
「52年も前だから、きっと白骨化してるわね。それより気がかりなのは白骨化してない方。」
「タケノブさんの体ですか?」
「そう、いつまでも腐敗せずに残っている体は、『器』になる可能性がある。」
「『器』って、入れ物のことですよね?」
「そう、何か悪しきモノがその中に入り込むかもしれない。
体を欲しがっているモノはいくらもいるから。」
「契約した精霊がそれを守ってくれるんじゃないですか?」
「精霊は体の準備を調えるだけ、その後体を守るとしたら別の契約が必要になる。」
「悪しきモノが入り込まないような対策を取る必要があるってことですね。」
「そう。それに、ちょっと確かめたいこともあるし。」

320 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:31:24 ID:YR/48AOI0
 「ええと、これこれ。こっちが門扉の鍵、こっちが玄関の鍵です。
定期的に草刈りはしてますが、マムシやなんかいるかもしれません。気を付けて下さい。」
武信医院の建物は52年前から空き家となり、現在は親戚から委託された不動産屋が
敷地と建物を管理している。Sさんが榊さんに頼んで話を付けて貰ったらしい。
『ある事件の犯人が○×市周辺に逃げ込んだ形跡がある。
空き家に潜伏している可能性があるから捜索させて欲しい。』という設定だった。
Sさんは車で待っている。綺麗な女性を連れた若い刑事なんて誰も信用しないだろう。
鍵を渡してくれたのは人の良さそうな初老の女性。 鍵を受け取って俺は頭を下げた
「有難う御座います。夕方までには鍵をお返しします。」
「ああ、急がなくて良いですよ。持ち主は売りたがってるけど、今の景気じゃ、
こんな寂れた街の土地を買おうなんて酔狂な人はいませんからね。しかも建物は曰く付き。」
「曰く付き?」 女性は露骨に『しまった』という顔をして、慌てて言葉を継いだ。
「あ、いや。その、前にも警察があの建物を捜索した事があって。」
「へえ、それどのくらい前のことですか?」
ホッとした表情。52年前の事件に触れずに済みそうだと思って安心したのだろう。
「私が此処に採用されてすぐだったから、もう30年くらい前ですよ。
その時も凶悪犯が隣の県からこの辺りに逃げ込んだかも知れないって話でした。
それで、2日かけて彼方此方調べたけど何にも分からなかったそうです。
あなたくらいの若い巡査で、『下っ端なんでこんな仕事ばっかりですよ。』って笑ってました。」
30年前...それ、何処かで。
「あの、どうかしましたか?」 「いいえ、何でもありません。有難う御座いました。」
もう一度頭を頭を下げて事務所を出た。

321 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:35:32 ID:YR/48AOI0
 地図を頼りに車を走らせ、10分程でその建物を見つけた。路肩に車を停める。
「何故わざわざ街の外れに病院を建てたのかと思っていたら、この辺りは龍穴なのね。
それほど力の強い龍穴ではないけど、住むにはとても良い場所なのに。」
建物の背後に拡がる森、その向こうに連なる山々が見える。あれが、龍脈。
長い歴史を持つその街は、新幹線や高速道路の整備から取り残され、
ここ20年程ですっかり寂れてしまったと聞いた。
「人間の経済活動は、龍穴の力も及ばない程の力を持ってしまったんですね。」
「じゃ、行きましょう。頼りにしてるわよ。」 「荷物持ちなら、任せて下さい。」 「馬鹿。」

322 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:37:01 ID:YR/48AOI0
 その建物は金網のフェンスで囲まれていた。これは管理の為に取り付けたものだろう。
その内側にコンクリートの低い壁。立派な門柱の看板に『武信医院 内科・小児科』の文字。
朽ち果てたのか、もとの門扉はなくなっていた。門を入ると結構広い庭、
その中を抜ける、ひび割れたコンクリートの小道。建物の玄関に繋がっている。
定期的に草刈りをしているからだろう。 フェンスの門扉、錠前はそれほど錆びていない。
2人で門扉をくぐる。白骨死体と対面するなんて気が進まないが、まあ仕方がない。
「事件の直後、当然警察は此処をしっかり捜索した筈です。ホントに此処ですか?」
「探し方が悪いとは言わないけど、何処にあるか分からないものを探すのと、
それがある場所の見当を付けてから探すのとでは雲泥の差がある。」
Sさんは小道の途中で立ち止まった。建物の中、じゃないのか?
「やっぱり有った。ほら、あれ。術者と医者を兼ねるなら、
それぞれの仕事場を分けるのは当たり前だもの。」
小道からさらに枝分かれする細い道。その先に小さな祠。
Sさんは祠に向かって歩き始めた。慌てて後を追う。

323 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:38:57 ID:YR/48AOI0
 5m四方程のコンクリートの土台。その上には更に木の土台、これは2m四方程。
湿気抜きの為か、コンクリートの土台と木の土台の間には5mm程の隙間が有った。
赤い彩色が残る木製の祠。 個人の庭の祠にしては念の入った作りだ。
Sさんは暫く祠とその周りを調べていたが、やがて祠の裏側から手招きをした。
「こんな所に、どう見ても変よね?」
それは金属製の取っ手。50cm程の間隔をおいて2個。多分真鍮、頑丈そうだ。
「何でこんな所に取っ手が?」 「押すか、引くか、どっちかに決まってる。ね、お願い。」
コンクリートの土台に片膝を付き、まずは引いてみる。
...動かない。全体が少し揺れるような感触はあるが動くとは思えない。それならあとは。
両膝を付き、徐々に力を込めながら押す。 突然、感触が変わった。
僅かだが、確かに木の土台がずれている。 もう一度、力を込める
低く唸るような音を立てて、あっけなく土台は動いた。 隠し扉と、それを挟む2本の浅い溝。
確かその溝は祠の正面にも続いていた。参道を示すしきりだと思っていたのだが。
動きの軽さからして、木の土台の下にはベアリング付きの大きな車輪が設置されている筈。
木の土台の下だから直接風雨に曝されない。単純だが優れた工夫だ。
Sさんは黙って隠し扉を見つめた。少し、目を細める。
「扉の周りに強力な結界が張ってある。かなり力のある術者だったのね。じゃ、扉を開けて。」
「大丈夫なんですか?」 「邪心の無い者には関係ない。開けて頂戴。」
Sさんは俺が持ってきたスポーツバッグの中から懐中電灯と蛍光灯式のランタンを取り出した。
「多分階段、灯りはこれで十分。さ、行きましょう。」

324 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:42:14 ID:YR/48AOI0
 扉を開けて中を覗く。1m50cm程の四角い穴。壁の一方に頑丈な梯子が組んである。
梯子を使って穴の底に降りる。Sさんの予想通り、其処から階段が伸びていた。
懐中電灯で照らしながら慎重に降りる。ランタンを持ったSさんが後に続く。
強い腐臭を覚悟していたのだが、カビ臭ささえ感じない。
微かに風が吹く。ヒンヤリと冷たい、乾いた風。奥に通風口が有るのだろう。
3m程降りただろうか。階段は終わり、開けた場所に出た。コンクリートの床だ。 これは。
男物の靴と女物のサンダル。綺麗に揃って並んでいる。
靴とサンダルの少し先、10cmほどの段差があり、其処からは板張りの床になっていた。
ゆっくりと懐中電灯を前に向ける。 襖だ。無地の、黄ばんだ襖が4枚。ピタリと閉じている。
Sさんが横に並び、ランタンの灯りも加わった。かなり、明るい。
これなら部屋の中の様子も良く見えるだろう。 つまり、いよいよご対面だ。
靴を脱いで床に上がり、襖の前に正座して一礼。 Sさんは床に立ったまま深く頭を下げた。
Sさんが俺を見て小さく頷く。それを確認した後、片膝をついて襖の引き手に右手をかけた。
するすると、思っていたより滑らかに、襖は開く。50年の歳月は感じられない。
Sさんがランタンを掲げる、その表情が変わった。
「これ、どういう事?」
恐る恐る向き直って襖の中に視線を移す。

325 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:45:56 ID:YR/48AOI0
 畳の上に大きな白い布が一枚、丁度横になった大人2人分程の膨らみを覆っている。
Sさんは畳に膝を着き、そっと白い布を捲った。ミイラのように乾涸らびた左手。
薬指に細い金色の指輪。恐らく女性の手だ。つまりタケノブさんの母親、その隣は父親だろう。
「身代わりになったのは母親。だから術者は父親ね。」
白い布を元に戻し、Sさんは立ち上がった。更に奥へ進む。もう一枚の白い布。
一瞬、微かな視線を感じた。横の壁の辺り? しかし棚のようなものが見えるだけだ。
「見て。」 振り向くと、半分程捲れた白い布、そして。
白い布団に横たわる裸身の若い男性。 その、上半身。
Sさんの隣りに膝を着く。蒼白だが、穏やかな顔。間違いない。あの、タケノブさんだ。
確かに、全く腐敗している様子はない。肌にも張りがある。
しかし、違う。 まるで大理石の彫像のような冷たい雰囲気。
「凄い。間違いなく、史上最も完全な永久死体だわ。」
でも、これは...いや、あの冷たい雰囲気。
どれ程完全であろうと、魂を失った体はやはり死体なのだ。
「家の敷地内、まさに死亡直後に術を使える最高の条件。だからこの状態は理解出来る。
でも、分からないのはこれ。」 Sさんは死体の傍らから何かを拾い上げた。
「本物は初めて見たけど、これはあの術を使う時に必要な祭具。
入り口の結界からしても、かなり力のある術者。これを使ったのに、何故失敗したのかしら。」

326 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:47:03 ID:YR/48AOI0
 Sさんは祭具を死体の傍らに置き、白い布を元に戻して立ち上がった。
更に歩を進め、ランタンを奥の壁に...壁が、ない。 ただ、深い闇が拡がっている。
「龍穴に存在する洞窟は、それ自体が特別な力を持つ。だから古来、それは異世界への、
あの世への通路だと考えられてきた。死者を蘇らせるとしたら、これ程相応しい場所はない。」
立ち上がり、Sさんの左隣りに立つ。 深い。懐中電灯の光も、その底に届かない。
この洞窟は一体何処まで続いているのか。
「黄泉比良坂。」
「そう、それもこんな洞窟の1つ。多分この家系は代々この洞窟を守り、その力を借りて
ひっそりと術を伝えてきたのね。洞窟の力と、この冷たく乾いた風のお陰で
タケノブさんの両親の遺体も腐敗を免れた。本人達がそれを願っていたかどうかは別だけど。」

327 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:47:52 ID:YR/48AOI0
 微かな、視線。
そっと囁く。 「Sさん。」 「何?」
「Sさんの右側、壁の方から視線を感じます。気を付けて下さい。」
Sさんは壁に歩み寄ってランタンを掲げた。色々な物が整然と並ぶ棚の様子が見える。
「大丈夫なんですか?」 立ち上がり、懐中電灯を持ってSさんの横に並ぶ。
Sさんの左掌、緑色の人型が載っていた。 半透明の深い緑、やや厚みがある。 翡翠?
「それは?」
「代よ。結界を抜けて入ってきた悪しきモノを始末するために配置されたのね。」
どういう事だ? タケノブさんの父親がこれを配置したなら...
敢えてタケノブさんの魂を体に戻さず、タケノブさんの体を守るための代を配置したことになる。
でも、一体何の為に? それなら何故、タケノブさんの父親の遺体が此処に?
「ふふふ。」 Sさんが、笑っていた。
笑い続ける。この部屋では不謹慎なのではと思う程、本当に可笑しそうだ。
「どうしたんです。何がそんなに可笑しいんですか?」
「これは、父が作った代よ。多分扉の周りの結界も。」
「え?当主様が?」

328 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:49:10 ID:YR/48AOI0
 「タケノブさんの2人目の話し相手、○▲。 それは即位する前の、父の名字。
父と母が出会ったのはあの大学だと聞いていたから、もしかしたらと思ってたの。」
Sさんが言った『確かめたいこと』とは、そういう意味だったのか。
「約30年前。あの幽霊に会って、話をして、当然父も不思議に思った。
そして散々考えた挙げ句、私たちと同じ結論に達した。だから。」
!! 30年程前に此処を捜索した若い巡査とは...
「まずは此処の状態を確かめて、必要な物を確認。そして次の日、必要な物を用意して
もう一度此処を訪れた。2体のミイラを供養して安置し、代を配置するために。」
もしも当主様が此処を訪れていなかったら、きっと此処の情景は...酷い目眩がした。
Sさんは緑色の人型を元の場所に戻して微笑んだ。
「さあ、出ましょう。この代は当分有効だし、私たちに出来る事は残っていない。」
『出来る事は残っていない。』って、そんな。
「あの、Sさん。」 「何?」
「Sさんなら、タケノブさんの魂をあの体に戻せるんじゃないですか?」
「死後49日を過ぎて、死者の魂が幽霊に変化してしまったらそれは不可能。
それで?見ず知らずの幽霊の為に寿命を削るなんて、まさか本気じゃ無いわよね?」
「あ、いや、聞いてみただけですよ。」 「そういう事に、しといてあげる。」
Sさんが階段を上り始めた。 息を吐き、そっと汗を拭う。 危うくとんでもない自爆を。
世界で最も奇妙な墓への出入り口。その階段は、降りてきた時よりも短く感じた。

329 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:51:06 ID:YR/48AOI0
 傾いた日差しの中、お屋敷に向かって車を走らせる。
Sさんは助手席で窓の外を眺めていた。横顔を見る限り、機嫌は悪くない。大丈夫。
「聞きたいことが有るんですが。」 「なあに?」
「どうしてタケノブさんの御両親はあの術を知っていたんでしょうね。門外不出なのに。」
「一族内紛の時代、力を封印して野に下った術者も多い。中には昔を懐かしんで、
その術について語った人がいたかも知れない。勿論詳細はぼかし、フェイクも交えて。」
「でも、それを聞いた相手が術者だったら。」
「そういうこと。フェイクを取り除き、自分で集めた資料と付き合わせれば、あるいは。」
その話を聞いたのが、タケノブさんの父親だった可能性も当然有る。
「タケノブさんの心臓が悪いことは小さい頃から分かってた。
だから御両親はその日に備えて準備をしていた筈。
ありとあらゆる情報を集め、いざとなった時の手順はどうするのか。
誰が身代わりで誰が術を使うのか。何度も何度も話し合って決めていたのね。
家族と離れて隣の県で生活出来る程度には丈夫になったけど、準備は怠らなかった。
帰省してきた息子が倒れた時、慌てず迅速に対応出来たのはそのため。
そうでなければ、短時間で心を決めるなんて出来る事じゃない。
それに、躊躇して時間が経てば経つ程、術の成功率は落ちていく。」

330 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:54:45 ID:YR/48AOI0
 「成る程、納得です。もう1つの質問も、良いですか?」
「質問の仕方が少し気に入らないけど、良いわ。答えてあげる。」
「あの術には特殊な祭具が必要。あの場所にあったのが、その祭具ですよね?」
「そう。」
「確かに特殊な祭具でした。でも、神の血を封じた宝玉とは格が違う。
あの祭具なら、人の力だけで作れる。そんな気がしました。」
「流石ね。その通り、あれを作れる術者は今でも何人かいるはず。」
「それならあの祭具を手に入れるのは不可能じゃありません。
あの祭具があって、そして術師に生き残る気がないのなら、
Sさん程の力がなくても、術を完成させる事が出来る。そうですよね?」
「その通り。術者が死ぬ気なら、ある程度の力があれば完成出来る。例えば、あなたにも。」
「我が子を蘇生させるためなら自分の命を捧げても構わないという親は幾らでもいるでしょう。
例えば両親があの祭具を手に入れて、共に命を捧げればあの術が完成する。
それなら、一族には、あの術で実際に蘇生した人が何人かいるんじゃないですか?」

331 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:55:55 ID:YR/48AOI0
 「あの術は『禁呪の中の禁呪』、そう言ったでしょ?」
「はい。文字通り命と魂を操作する術ですから、それは当然のことで。」
「端から自分の命を捧げるつもりなら、寿命を削られる事なんて関係ない。
この術が禁呪なのは、もう1つのペナルティーがあるからよ。」
ざわ、と、首筋の毛が逆立った。 何だ? この、嫌な予感は?
「そのペナルティーって、何ですか?」
「この術を使って蘇生した者の魂は、死後、中有へ入れない。
永久にこの世を彷徨って、最悪なら悪霊に変化する可能性さえ有る。
ね、それを知っていても、例えば私が死んだ時にあなたはその術を使える?」
使えない。使える筈がない。Sさんの魂が悪霊に変化するなんて、想像することさえ。
「私も使えない。呼び戻してそんな宿命を負わせる位なら、泣いて冥福を祈る方がずっと良い。」
寒気が治まらない。少し震える左手で、ヒーターの温度と風量を少し上げた。

332 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 21:58:47 ID:YR/48AOI0
 「この術に必要な、特殊な祭具の話を聞いた時、それは『白の宝玉』かと思いました。」
Sさんは窓を開け、吹き込む風に髪を掻き上げた。 「車を停めて。あの、広くなった路肩へ。」
車を停めると、Sさんは助手席から身を乗り出して俺の唇にキスをした。長く、熱いキス。
それから俺の左手を両手で挟み、俺の肩に頭を預けた。 温かい。 寒気は治まっていた。
「相手が本当に大切な人であればあるほど、あの術を使える筈がない。
だから、私もLも、あの術は使えない。」
「じゃあ、どうしてタケノブさんの両親はあの術を?」
「そのペナルティーがあると、知らなかった。だからこそあの術を使い、そして失敗した。
私はそう信じたい。おそらく精霊との契約を終えた後、父親の体に何か異変が起きた。
心臓、かもね。心臓疾患は遺伝することがあるから。」
「『信じたい』って、別の可能性もあるということですか?」
「知っていて、どうしても死なせたくない事情が有ったのかも。
彼は一人っ子。 古い家系、どうしても絶やす訳にいかないなら、
何より大事なのはタケノブさんが生き延びて子を作ること。
タケノブさんの魂は一族を存続させるための犠。」
そんな、馬鹿な。

333 『禁呪(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 22:13:36 ID:YR/48AOI0
 「ただ、話を聞いた限りでは、タケノブさんは父親が術者である事を知らない。
知っていたら、真っ先に自分の状態と父親が術者であることの関連を考えた筈。
あの術を使ってでも生き残って欲しいなら、そもそも隣の県での進学なんて許すはずが無い。
其処で倒れたら、絶対に間に合わない。そして、タケノブさんは医学部でもない。」
「タケノブさんに最大限の自由を与え、その上で術を使う機会があるなら、それが天命だと?」
「そう。両親はタケノブさんを術者としての跡継ぎにも、医者としての跡継ぎにも
する気が無かった。術者も医者も自分たちの時代で絶える、それで良い。
タケノブさんには何の柵もなく新しい人生を生きて欲しいと考えていたんだと思う。
でも、私たちがどんなに考えたって真実は闇の中。
今を生きている者は、自分の信じたい方を信じれば良い。」
自分の信じたい方を、そうか。タケノブさんには、自分の状態を選ぶ自由すら無い。
「そうですね。タケノブさんの両親はこの術のペナルティーを知らなかった。そう、信じます。
それに、今考えれば、術は失敗したけれど、結局成功するよりも良い結果になったんです。」
「どういうこと?」 Sさんは真っ直ぐに俺の目を見つめた。 視線が、眩しい。
「だってタケノブさんは今年で70歳。蘇生していたとしても、そろそろ寿命が尽きる歳。
成功していても、失敗した今の有り様も、永遠に彷徨うことは変わらない。
それなら、自我を保てない状態より、自我を保てる今の状態はずっとマシです。」
「...そうね。本当に、あなたの言う通り。」

『禁呪(下)』 了

334 『禁呪(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 22:15:10 ID:YR/48AOI0
『禁呪(結)』

 その日、朝から妙な胸騒ぎがしていた。
『『不幸の輪廻』の活動が活発化している。』と、警戒の通知が来たのは半月ほど前。
しかし、未だ大した事は起きていなかった。このまま何事も無く、そう思っていたのに。
いつも通りにおやつ、午後のお茶とお菓子の準備をしていたら、地面が大きく揺れた。目眩。
姫の大学は既に春休みに入っていたから、家族は全員お屋敷にいた。まさに不幸中の幸い。
しかし、それを喜ぶ事は出来なかった。TVの画面に次々と映し出される 信じられない光景。
未曾有の大災害。多くの命が失われた。
一族もかなりの被害を受け、それからの数ヶ月、俺たちは多忙を極めた。
葵さんと暁君に翠と藍を預け、『上』の指示で彼方此方飛び回る日々。
久し振りに姫の大学を訪れたのは、姫の休学届を出すためだった。
学務課で書類を提出し、2人遠回りをして車に戻る。
第5駐車場、入り口脇のベンチに男が座っていた。 タケノブさん。

335 『禁呪(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 22:17:50 ID:YR/48AOI0
「どうも随分と、酷いことになってるみたいだね。」
第5駐車場脇のベンチ。 タケノブさんは小さく呟いて、目を伏せた。
「はい。それで私たち凄く忙しくて。今日は休学届を出しに来たんです。」
「そうか...でも、仕事が落ち着いたら、戻ってきてくれるよね?」
「私、今度の事で色々考えました。それで、決めた事があるんです。」
「何だい、それは?」
「仕事が落ち着いたら、私、子供を産みます。」
鳥たちの声、昼前の駐車場には、以前と変わらず穏やかな空気が満ちていた。
「そうか。君とその子の幸せを祈ってると、僕は言うべきなんだろうね。少し、寂しくなるけど。」
「○▲、あなたの2人目の話し相手。前に話してくれましたよね?」
「ああ、君たちの一族ではありふれた名字って話だね。」
「その人、私たちのお師匠様のお父様でした。今は私たち一族の当主様です。」
「やっぱり君たちの血縁か。何となく、雰囲気が似てると思ってたよ。」
「だから、寂しくないですよね。」
「え?」
「もし、私がこの大学に戻って来なくても、私たちの子供がこの大学に入学するかも。
そしたらその子達に、この大学や私たちのこと、話してあげて下さい。」
「ははは。なるほど、そうか。君たちの子供、もしかしたら孫も。承知した。
その日が来るのを、楽しみに待ってる。」

336 『禁呪(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 22:21:29 ID:YR/48AOI0
 お屋敷に向かう車の中、姫は助手席の窓から外を眺めていた。
未だ心臓の高鳴りは収まっていない。 『私、子供を産みます。』 姫はそう言った。
「タケノブさん、きっとあれで納得すると思いますよ。最高の対応でした。」
「納得して貰わないと困ります。ホントのことですから。」
「え?」
「もう少しで仕事も落ち着くし、そしたら子供が出来るまで、夜はずっと一緒にいて下さいね。
Sさんに話したら、喜んでくれましたよ。きっと男の子。何だか、そんな気がします。」
姫がそう言うなら、男の子なんだろう。一緒に良い名前を、考えなくては。
愛が生まれる前に考えた名前の候補を幾つか、ゆっくりと思い出していた。

『禁呪』 完

337 名無しさん :2014/07/07(月) 23:27:59 ID:cpGjsRpkO
知人さん藍さん、大変ありがとうございました。
少し背筋のひんやりとする、哀しくも味わい深い物語でした。

338 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/07(月) 23:54:43 ID:YR/48AOI0
皆様今晩は、藍です。

>>337
早速のコメント、有り難う御座います。
『少し背筋のひんやりとする』その感覚、とても良く分かりました

Rさんの長男の名前を間違ったり、他にも色々ありましたが、
投稿を終えることが出来てとても嬉しいですし、
皆様にお楽しみ頂ければ有り難く思います。
完結編まであと何話? それまで御一緒にお楽しみ頂ければと存じます。

339 名無しさん :2014/07/08(火) 22:07:55 ID:QEvct.gwO
この話しは2011年の事なんですか…
未曽有の災害って、3.11.?

340 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/18(金) 20:17:20 ID:u452wXXM0
皆様、今晩は。藍です。

>>339
原文の描写からして、その大災害が3.11なのは間違い有りません。
未だ過去ではありませんから、この後に続く掌編は非公開となりました。
興味深い内容なので、いつか公開出来る日が来るのを待ちたいと存じます。

さて、皆様にお願いがあります。
完結編が近付き、知人との相談のために、皆様のお考えを知りたいです。
もし宜しければ、一番気に入った作品名を教えて下さい。
その結果をもとに、どの作品を公開すべきか、知人を説得したいです。

私は『忘却の彼方(上)』ですが、
そんな感じで書き込んで下されば有り難いです。
もちろんまとめサイトで書き込んで下さっても結構です。

341 名無しさん :2014/07/18(金) 20:49:54 ID:6sok1hZM0
俺は「出会い」が一番印象に残ってますね
「道標」や「名残雪」も好きかな
全体的に、比較的初期の作品が好きです

342 名無しさん :2014/07/18(金) 21:21:26 ID:F02/lYyc0
こんばんは、藍さん。
いつも投稿作業お疲れ様です。
そして有難うございます。

私は『玉の緒』が一番好きです。
2番目にすきなのは『忘却の彼方』ですね。

大変でしょうが新作、期待しています。

343 名無しさん :2014/07/18(金) 21:45:11 ID:hcEduSYsO
魚釣りが描かれた三作品が好きです。順番はつけられないけど…
タイトルは、何でしたっけ?
正月の神様との釣り勝負
結界内の調査釣り
神様の婚礼
なんか、ほっこりして好きです。

344 名無しさん :2014/07/18(金) 22:01:59 ID:hcEduSYsO
大晦の宴
遺産
約束
でしたね…

345 名無しさん :2014/07/18(金) 22:52:34 ID:doHPLooM0
全部です!
それぞれに味わい深く、感動があり、涙を誘い、背筋がひやりとします。
しかし、それでは答えになりませんね。
ベストスリーをあげれば、

出会い
旅路
新しい命

です。
何度読んでも、心が揺さぶられます。

346 名無しさん :2014/07/19(土) 02:31:54 ID:Y1aF1gxs0
全部好きですが、あえて挙げるなら、

『忘却の彼方』と『約束』

です。

347 名無しさん :2014/07/19(土) 14:57:36 ID:RzJBF6Qs0
藍さま、知人さま
いつも本当に楽しませて頂いており、誠に有り難うございます。

私は今までのお話全てが連綿と連なる一つの壮大なお話の様に感じておりますので、順位など付けられる筈もございません。

ただ一つ申し上げられるとすれば、一話でも一行でも一言一句でも長く、この壮大なお話を楽しませて頂きたいです。

348 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/20(日) 21:20:33 ID:6cKXETHg0
皆様今晩は、藍です。

思い切って書き込んでみたものの、反応が無かったらどうしようと思っていました。
早速沢山の返信を頂き感謝致します。2011年末と考えられる作品の原稿は
既に受け取っており、投稿の準備も進んでおります。その前にどの作品を投稿すべきか。
皆様の反応を参考にして知人と相談します。引き続き宜しくお願い致します。

349 名無しさん :2014/07/23(水) 22:04:49 ID:w17LW5j.0
藍様、作者様、いつも有難うございます。
どのお話も面白いのですが、あえて言うなら『約束』が好きです。
暑い日が続いていますが、お体に気をつけられてください。

350 名無しさん :2014/07/25(金) 00:01:05 ID:xTx0f1Jw0
藍様、知人様。
はじめてご挨拶させて頂きます。
お忙しい中、いつもお話を読ませて頂きまして、本当にありがとうございます。
何度も繰り返して読ませて頂いておりますが、どのお話も本当に好きなので選ぶのは難しいのですが…。
強いて上げるならば「遺産」や「約束」が好きです。

普段は拝読するばかりなのですが、勇気を出して思わず書き込みをしてしまいました。
新しい作品を読ませて頂けるのは本当に嬉しいのですが、どうぞご自愛くださいませ。

351 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 18:19:05 ID:urrdVUDY0
皆様今晩は、藍です。

沢山のご返信を頂き、本当に有り難う御座います。
皆様のお心遣いが、流れを変えつつあるようです。
今は未だ詳細を確認中ですが、今夜遅くか、明日夜には
お知らせできることがあると思います。
では後ほど。

352 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:19:31 ID:urrdVUDY0
テスト中です。

353 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:27:09 ID:urrdVUDY0
皆様今晩は、藍です。

事情を説明する前に、
2011年末のものと思われる作品を投稿致します。
皆様の温かいご返信で、「順序」と「結末」が変わりました。
心より感謝申し上げます。

354 『手紙』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:30:07 ID:urrdVUDY0
『手紙』

 翠、藍、そしてこれから生まれてくる子供たちへ

 この手紙を読んでいるのだから、君は既に基本的な修練を終えて、
術者になるかどうかを決める大切な時期。けれど、お父さんはもうこの世にいないという事。
ずっと君の傍にいられたら、お父さんの経験や考え方を君に伝えて、
術者になるかどうかを決める手助けが出来ただろう。
でも、人間には何時、何が起こるか分からない。術者なら尚更。
実際、お父さんは以前、生死に関わる大怪我をした(翠は憶えているかな?)。
もちろん細心の注意をして、何時までも君の傍にいたいと思っている。
ただ、どれ程優れた術者であっても、どうにもならない事はある。
今年の3月、この国はとても大きな災害に襲われた。
沢山の人が亡くなって、もっと沢山の人が大切な家族や家を失った。
亡くなった人こそいなかったけれど、一族もかなりの被害を受けた。
大きな災害が近づいているのを予知した術者もいたが、
それが、大地震とそれに続く大津波だと分かったのは地震の起こる数分前で、
だから予知は何の役にも立たなかった。大自然の猛威の前で、人間の力はあまりに小さい。
天地の精霊や神々の力を借りる術者でさえ、出来ることは極僅かだ。

355 『手紙』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:32:31 ID:urrdVUDY0
 そういう経験を通して、お父さんは自分の死を意識するようになった。
もしも自分の身に何かあったら、もしも君と話す事が出来なくなったら。
時が来たら、君に話して上げたい事が沢山ある。お父さんがお母さんたちと出会い、
愛し合って、君が生まれるまでの事。お母さんたちが術を教えてくれて、
お父さんが術者になるまでの事。そして、お母さんたちとお父さんが関わってきた仕事の事。
一族の為に力を尽くし、既にこの世を去った偉大な術者達の事。
力は持っていないけれど、日々を一生懸命に生きて一族を支えている人たちの事。
それから...
それらを君に話して上げられないまま死んでしまうのは、あまりに心残りだ。
だからお父さんはお母さんたちと相談して計画を立てた。
もしもの時の為に、君に話して上げたい事を物語にして残す計画。
文字として記録しておけば、お父さんが、もしもお母さんたちが皆いなくなっても、
君に伝える事が出来る。年を取って記憶が曖昧になった時にも役立つはずだ。
折角だから只の記録ではなく、君が面白く読める物語にしたい。

356 『手紙』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:35:41 ID:urrdVUDY0
 だからお父さんの知人に文章を依頼した。
本業は小説家ではないが、素敵な文章を書く人。
以前その人の書いた文章を読ませて貰った事があったから、
この計画を立てた時、絶対その人に頼もうと思ったし、お母さんたちも賛成してくれた。
計画を実行に移したのは今年の秋。今完成しているのは最初の物語だけだが、
多分今月中には次の物語も完成する。お父さんは良い出来だと思うし、
概ねお母さんたちの反応も良い。いつか君がこれらの物語を読んで、
自分の人生や生き方を考える材料になれば良いと思っている。
もちろんお父さんがずっと君の傍にいられたら、この手紙に書いた事を直接話してから
これらの物語を読んでもらうつもりだ。
この手紙が役に立つ事なく、物語の数が増えていく事を心から願っている。
出来る事なら、君がどんな大人になって、どんな人たちと出会うのか、
そして君にどんな子供たちが生まれるのか、何時かそういう物語が加わると良いと思う。
その時、これらの物語はお母さんたちとお父さんだけでなく、
家族皆が此の世に生きた証になるだろう。

357 『手紙』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:36:50 ID:urrdVUDY0
 さて、随分長い手紙になった。
くれぐれも体に気を付けて、これからもしっかり生きていきなさい。
お父さんの魂は常に君と共にある。何時も君を応援しているし、君を心から愛している。
君がお母さんたちとお父さんの子供に生まれてきてくれて、本当に良かった。
ありがとう、さようなら。

お屋敷の窓に降る初雪を眺めながら R

358 『手紙』 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:39:28 ID:urrdVUDY0
 「あらあら大変。これ、遺言状じゃないの。私、未だ心の準備が出来てないのに。」
「茶化さないで下さい。僕はお爺さんになるまで生き抜いて、そしてSさんとLさんと一緒に、
あの島の小さな集落で余生を送るつもりです。でも、そう上手く行かない事だって。」
「...ホントに馬鹿ね。L、R君に悪気は無いのよ。許してあげて。」
え? 姫の、冷たく強張った顔。 体感温度が一気に下がる。
「あの、Lさん。何故そんなに不機嫌な?」
姫は俯いて、そっと両手でお腹に触れた。
「何故、この子の名前は?」
「あ。」
「男の子でも女の子でも、この名前ならって、あんなに考えて決めたのに。酷い、です。」
「いや、だって、未だ生まれてないから。痛てててて。Sさん、痛いですって。」
「R君、もしかしてLのお腹の子は生まれないって思ってるの?
酷いわね。そんな事だと、瑞紀ちゃんも考え直した方が良いかも。早速電話しなきゃ。」
「待って下さい。あんなに色々有って折角...あ〜もう、何時もこうです。僕ばっかり。」
「そう、物語の中では何時もあなたばっかり良い思いしてるみたいに書かれてる。
私たちの出会いは家族みんなの幸せに繋がってるって、確認しておかないと。ね、L?」
「はい。」

 Sさんと姫の輝くような笑顔。
新しい家族を迎える準備を調えつつ、俺たちは新しい年への準備を進めた。

『手紙』 完

359 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/27(日) 23:46:32 ID:urrdVUDY0
藍です。

色々ありまして、かなり疲れました。
『手紙』の投稿が終了しましたので、今夜はこれにて失礼致します。
詳しい事情の説明は明日夜にでもと存じます。
有り難う御座いました。

360 名無しさん :2014/07/28(月) 00:05:50 ID:0SP27HfM0
藍さんご苦労様です
知人さん有難うございます

この今回の話を読むと、この少し前に結構大変な目にでもあったのかな?
生死を分ける程の...
でも生き残れた
生きることができた


>「順序」と「結末」が変わりました。

と言うことは次で「結末」になるのかな?
悲しくも有りますが、楽しみにまっております

そして、ここでは語られない、
この物語の今後も、良き物語で有って欲しいと思います

また、数年後でもいい
そんな物語をまた語っていただけるのなら、楽しみに待っています

361 名無しさん :2014/07/28(月) 22:22:19 ID:8YsshkxkO
生死を分ける出来事は、玉の緒の時の事ですよね…

ところで、三人目のお子さんは男の子?

手紙の感じで、そんな気がしたのですが…

362 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/29(火) 00:30:02 ID:mIzd315U0
皆様今晩は、藍です。

昨日投稿致しました『手紙』は、
2年前に投稿を開始した一連の物語の完結編となる予定でした。
「『実話に基づく』という前提上、物語が現在に追いつくことは有り得ない。」
そんな書き込みをしたのを憶えています。
知人とは、完結編の前にあと一話、作品を投稿すると約束をしておりました。
先日皆様に「好きな作品を教えて下さい。」とお願いしたのは、
知人がどの作品を投稿するかを決める参考にさせて頂くためです。
お願いはしたものの、以前弟や読者様の件で見苦しい騒ぎを起こしてしまいましたので、
正直全く反応がなくても仕方ないと覚悟していました。
しかし、沢山のご返信を頂きとても嬉しく思いましたし、知人も心を動かされたようです。
一昨日「『手紙』を先に投稿して。」と指示がありました。
「その前にあと一話の約束でしょ?」と確認したところ、
「楽しみにしてくれる読者がいるなら、必ずしも完結させる必要は無いと思う。」との返事。
ドキドキしながら聞き出した内容は大凡次の通りです。

363 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/29(火) 00:33:53 ID:mIzd315U0
1.昨年、依頼主から『手紙』以降の作品を依頼され、一部インタビューも済んでいる。
2.依頼主が非公開とした作品以外は、今後も同様の対応で良いと確認した。
 (作品を保管し、内容を一部変更した上で掲示板に投稿する許可を得た。)
3.『手紙』を物語の完結編とする予定を変更し、2012年以降の作品を投稿する。

 書きためていた作品を投稿するのではなく、これから書く作品を投稿する訳ですから、
投稿のペースがこれまでとは比較にならない程遅くなると思います。
非公開の作品ばかりなら、実質『手紙』が完結編になるかも知れません。
それでも、私は『手紙』以降の作品を読ませてもらう日を楽しみに待ちたいと思っています。
そして、その時まで此処が残っていたら、読ませてもらった作品はきっと此処に投稿します。

364 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/29(火) 00:48:56 ID:mIzd315U0
 つきましては、引き続き「好きな作品を教えて下さい。」のお願いをするとともに
「リクエスト」のお願いをしたいと思います。「■○編の続きが読みたい。」とか、
「○◆について別の視点からの話を読みたい。」等の御希望があれば知人に伝えて、
御希望に添う作品を優先して投稿したいと思っています。どうぞ宜しくお願い致します。

また、本日『手紙』の前に投稿する予定だった作品についての連絡がありました。
舞台は沖縄という事ですので、『道標』と『玉の緒』の続編、瑞紀さんに関わるお話でしょうか。
原稿を受け取り次第投稿の準備を致しますが、近々に投稿できるのはこの作品まで。
私たちの作品を楽しんでお読み下さった方々に、心から感謝致します。

365 ◆iF1EyBLnoU :2014/07/29(火) 01:07:13 ID:mIzd315U0
>>360
>>361
Rさんの生死を分けた出来事とは『玉の緒』の内容でしょうし、
3.11の大災害もRさんが自らの死を意識する切っ掛けになったと思います。
3人目のお子さんが男の子かどうかについては、
『禁呪』の中でLさんが「そんな気がします。」と言う描写の他に手がかりがありません。
今後の作品で明らかになると考えています。

皆様、本当に有り難う御座いました。
これが最後ではないので、お別れの挨拶は書きません。
それでは、また。

366 名無しさん :2014/07/29(火) 22:00:30 ID:3kNzclUoO
何と、これからも投稿を続けて戴けるとは…藍(愛)読者として、これ以上うれしいことはありません(T_T)

367 名無しさん :2014/07/30(水) 17:40:47 ID:iJIit2Q60
ひゃ〜!!!←嬉しい悲鳴です。
本当に嬉しいです!!
有難う、藍さん!作者さん!

368 名無しさん :2014/07/31(木) 13:23:56 ID:YINSDB.A0
藍さま、知人さま いつも有り難うございます。

知人さまのご厚意により壮大な物語の続きを拝読させて頂ける事に感謝致します。

藍さま、知人さま、大変でしょうがお身体にお気を付けて今後とも宜しくお願い致します。

369 名無しさん :2014/08/02(土) 22:48:18 ID:.4BeXDO6O
sさん視点の出会いをリクエストします。

370 名無しさん :2014/08/03(日) 22:47:44 ID:BDXVfUl60
藍様、知人様。
嬉しいご報告、本当にありがとうございます!

リクエスト…と思ったのですが。
気になっていた瑞紀さんのその後をと思ったのですが、
どうやら次作の舞台が沖縄の様ですので…。

何度か作品内で触れていたRさんが初めて榊さんから依頼された事件のお話について、
もし公開が可能であれば読ませて頂けたらなぁ、と思います。
あと榊さんはその後、お気に入りの”Rちゃん”に再び会う機会はあったのか、
密かに榊さんスキーな私は気になってしまいます(笑)

他にも気になる事は多々あるのですが。
本当にご無理がない範囲で、お願い出来ればと思います。
どのお話でも一ファンとして、読ませて頂けるだけで嬉しいですので!

それでは厳しい暑さが続きますが、どうぞお身体に気を付けて下さいませ。

371 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/03(日) 23:48:38 ID:AXl6eX0A0
皆様今晩は、藍です。

温かい書き込み、本当に有り難く思っています。
Sさん視点の『出会い』や、Rさん単独での初仕事のお話のリクエスト。
私自身も読みたいお話ですので、早速知人に伝えたいと思います。
(実現可能かどうかは分かりませんが、最大限の努力を致します。)

さて昨日、次回投稿予定の原稿を受け取りました。
舞台は沖縄、瑞紀さんのその後に関わるお話です。
知人の家の手伝いをしながら投稿の準備をする予定なので、
投稿の時期は明言出来ませんが、もう暫くお待ち下さい。

372 名無しさん :2014/08/04(月) 20:32:54 ID:4r2zgIj60
>>371
いつもありがとうございます
楽しみに待ってます。

373 名無しさん :2014/08/05(火) 16:17:39 ID:gj54KMIM0
沖縄、待ってました!ですな。
瑞紀さんだけでなくノロ雲上のおばあちゃんが翠ちゃんか藍ちゃんを介して
活躍するところも見たいものだ。

374 名無しさん :2014/08/05(火) 19:13:19 ID:.y1SeX7EO
で〜じ楽しみやっさ〜

375 名無しさん :2014/08/15(金) 02:55:37 ID:4Nt0UZXw0
藍さん、作者さま、本当にありがとうございます。
まだまだ続くと知って涙が出ました。

どれも素晴らしいお話ですが、あえて選ぶとしたら「約束」が大好きです。
神さまとの結婚・・・何度読み返しても、最後の神社でのシーンは号泣です。
「忘却の彼方」「大晦の宴」も大好きなので、
どうやら自分は神さまと直接関係するお話が好きなようですね。

またお話が読める日を楽しみにお待ちしています。

376 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:27:43 ID:0d..PXhI0
テスト中です。

377 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:30:13 ID:0d..PXhI0
『礎(上)』

 「この2・3日、クマゼミの鳴き声が随分小さくなった気がしますね。」
ダイニングで一緒に夕食の準備をしていた姫が、寂しそうに呟いた。
確かに...8月も終わりに近づき、日差しが少し柔らかくなったような気がする。
「とても忙しかったから意識してませんでしたが、もう、夏も終わりなんですね。」
あの大災害に関わる仕事も一段落して、お屋敷にも平穏な日々が戻っている。
しかし夏の終わりはいつも感傷的な気分。 その時、俺のケイタイが鳴った。
榊さんに依頼された仕事、そろそろ結果の連絡が来る頃だと思って電源を入れていた。
しかし、画面に表示されていたのは別の名前。『瑞紀ちゃん』。
彼女は去年高校を卒業して沖縄に戻り、ノロになるための修行を続けている。

378 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:31:55 ID:0d..PXhI0
 去年の夏。瑞紀ちゃんとの約束通りに、俺は翠を連れて沖縄を訪れた。
翠は彼女にとても懐いていたから、沖縄で彼女と再会するのをとても喜んだ。
俺たちは彼女の祖母、その集落のノロクモイの家に泊めてもらい、楽しい時間を過ごした。
だが今年は震災に関わる仕事でいつの間にか夏も終わり。出来れば今からでも約束を。
「もしもし、瑞紀ちゃん?」 「はい、瑞紀です。」
「久し振りだね。少し遅くなったけど、旅行の話がしたかったから丁度良かった。」
「今日は旅行の件じゃなくて、あの、もちろん沖縄には来て欲しいんですけど。」
何だか歯切れが悪い。いつもなら俺が後ろめたさを感じる程、嬉しそうな声なのに。
「どうかした?何だか元気が無いみたいだけど。」
「いいえ、大丈夫です。Sさん、いますか?」 「いるよ。翠と絵本読んでる。」
「御免なさい。都合が悪くなければ、Sさんに替わって下さい。」
??? 瑞紀ちゃんはSさんのケイタイの番号を知っているのに、何故俺の。
ああ、掛け間違えたのか。それなら少し気まずい感じなのも納得だ。
「分かった、すぐに替わる。ちょっと待ってね。」 急いでリビングへ向かった。
「Sさん、電話です。瑞紀ちゃんから。何か相談事かも知れません。」
「瑞紀ちゃん?何かしら。」 翠は絵本に夢中、電話の邪魔にはならないだろう。
キッチンに戻って夕食の準備を続けた。

379 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:34:13 ID:0d..PXhI0
 「みんなで沖縄に行く事になった。9月の8日から、18日まで。10泊11日の旅行。
仕事も一段落したし、骨休めの旅行がてらノロクモイのお手伝いをするのも悪くないわよね。」
夕食後の一時、お茶の時間。翠と姫は小さなケーキのデザート付き。
「みずきちゃんのところに行くの?うれしい〜。」
「翠ちゃんは瑞紀ちゃん大好きだから、良かったね。」 「うん!」
きんちゃん、あの青い金魚は未だ碧さんと暁君の家にいる。
2人はきんちゃんをいたく気に入っているので、預けたまま旅行しても不都合はない。ただ。
「あの、ノロクモイのお手伝いっていうのは、一体何を?」
一瞬、Sさんはイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「今年は12年に一度の大切な祭事があるんだって。その祭事のお手伝い。
ノロクモイがあの状態だし、瑞紀ちゃんはまだ修行中。だから、ね。」
成る程。系統は違っても、Sさんや姫なら代理で祭事を仕切る位なら。しかし。
「それは集落の人間じゃなくても良いんですか?大切な祭事なのに。」
余所者の関与はもちろん、研究目的の参観すら許されない祭事もある。
「余所者の方がかえって都合が良いそうよ。ノロクモイが招いた余所者、『マレビト』ね。」
マレビト、稀人か。それなら確かに余所者でも不都合はない。
「そんな大切な祭事が1日だけって事は、ないですよね?」
「3日間。でも、10泊の内3日だから余裕がある。R君、早速飛行機と車、予約してね。」
「了解です。」 「うん、良い返事。」

380 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:39:06 ID:0d..PXhI0
 その集落に着いたのは昼過ぎ、瑞紀ちゃんはノロクモイの家の前で俺たちを待っていた。
すぐに翠が瑞紀ちゃんに飛びつく。瑞紀ちゃんが翠を抱き上げた。
「こんにちは、翠ちゃん。」 「ほんものの、みずきちゃんだ〜。」
「瑞紀おねえちゃんとか、瑞紀さんって呼ばなきゃ駄目でしょ。年上なんだから。」
「お父さんの言うとおり、おねえちゃんって呼んだほうが良いの?」
「おねえちゃんでも良いけど、何時か、お母さんって呼んでくれたら嬉しいな。」
「みずきちゃんが、お母さん?どうして?」
「Rさんのお嫁さんになりたいから。もしそうなったら、私も翠ちゃんのお母さんでしょ?」
...藪蛇だ。去年の夏の記憶が蘇る。
「ちょっと、ストップ。何処で誰が聞いてるのか分からないのに、そんな。」
「誰かに聞かれて困る事なんかないですよ〜。じゃ、翠ちゃん、行こっか。」 「うん!」
翠を抱いた瑞紀ちゃんはさっさと門の中に入ってしまった。 そう、去年もあの調子。
彼方此方であけすけな説明、一体俺はこの集落の人達にどんな人間だと思われている事やら。
「『好きな人がいます。』って宣言しておけば、言い寄る男もいないわね。はい、荷物運んで。」
Sさんの笑顔。少し、目眩がした。

381 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:41:21 ID:0d..PXhI0
 沖縄に到着した日の夜、みんなでノロクモイの部屋に挨拶に行った。
翠との再会を喜んでくれているようだったし、翠もずっとノロクモイの傍に座っていた。
最初に沖縄を訪れた時の事からして、2人の間にはきっと深い縁があるのだろう。
次の日。Sさんと姫は夕方一時間ほど公民館での打ち合わせに参加した。その次の日も。
祭事とその前後の数日間は、たか子さんも家を空ける事が多いので、
親戚の人だという初老の女性が手伝いに来ていた。名前は○子さん。
無口だが、とても親切にしてくれたから翠と藍の世話にも困ることは無かった。
そんなこんなで、とうとう祭事は明日から。一体どんな祭事だろうか?

382 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:42:39 ID:0d..PXhI0
 次の日、瑞紀ちゃんは朝食を済ませると直ぐに家を出た。祭事の準備だろう。
Sさんと姫も、昼食を済ませた後で祭事の手伝いに向かった。
俺はさらに2時間ほど遅れて家を出た。目的地は集落の公民館。
翠と藍を連れて、公民館前の広場で祭事を見学することになっている。
広場には小学生くらいの男の子から初老の男性まで、20名ほどが集まっていた。
軽く会釈をしながらSさんと姫の姿を探す。しかし見当たらない。瑞紀ちゃんも。
祭事を仕切っているのはたか子さん、瑞紀ちゃんの叔母にあたる女性。
暫くすると男達は草の髪飾りをつけて歩き出した。集落の外れの山へ向かっているようだ。
「暑いですから、中でお待ち下さい。翠ちゃんも、どうぞ。」
たか子さんに促されるまま、公民館の中に入る。
広間の椅子に座ると、厨房で作業をする女性達の中にSさんと姫の姿を見つけた。
食事の用意?これなら別に2人でなくても。それに、瑞紀ちゃんは何処に?
翠が厨房の入り口に駆け寄った。「おかあさん、瑞紀ちゃんは?」
「ノロクモイのお手伝いしてるけど、邪魔しちゃ駄目よ。」 「は〜い。」

383 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:56:00 ID:0d..PXhI0
 30分程して、男達は広場に戻ってきた。
皆、全身びしょ濡れ、それぞれ両手で濡れた木の枝を持っている。
「あの枝で村中の家を祓って廻ります。それが今日の祭事の中心で、夜は宴会ですね。」
たか子さんは穏やかな笑顔で広場から男達の後ろ姿を見送った。
幾つかのグループに分かれた男たちが家々の祓いを全て終えたのは4時半頃。
男達は髪飾りと木の枝を広場の中央で焚かれた火に投げ込み、三々五々に散って行く。
「家で着替えてからもう一度此処に集合して宴会なんだって。私たちはもう帰りましょ。」
振り返るとSさんと姫が立っていた。
「もう、お手伝いは終わりなんですか?」
「そう、残りはまた明日...何だか不満そうね。 自治会長さんから
『宴会にも参加して欲しい。』って言われたのを断ったのに、参加した方が良いかしら?」
「いや、不満なんか。SさんとLさんが炊事係なんて、すごく贅沢な祭事だと思っただけで。」
実は姫から妊娠の兆しがあると聞かされていたから、軽い仕事ならむしろ安心だ。
皆でノロクモイの家に戻り、夕食の後は庭で花火。それからお風呂。公民館の方向から
聞こえる賑やかな声と音楽以外、とても12年に一度の祭事中とは思えない穏やかな夜。
ただ、相変わらず瑞紀ちゃんの姿が見えない。
ノロクモイの手伝いをしながら勉強することが沢山有るのだろう。

384 『礎(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 22:58:10 ID:0d..PXhI0
 翌日の祭事が始まったのは午後4時過ぎ、その日の主役は集落の女性達だった。
宴会の用意は既に終了していて、今日は家族5人そろって見学。
公民館から集落の外れ、砂浜に移動した女性達が輪になって踊り、厳かに神歌を唱う。
揃いの白い着物に鉢巻き。鉢巻きの巻き方が違うのは未婚・既婚による違いらしい。
祭事を仕切るのはやはり、たか子さん。凛々しい表情。うん、何だか本格的、素敵だ。
やがて踊りの輪が解けた。たか子さんを先頭に女性達がゆっくりと海の中に入っていく。
全員が腰の辺りまで海に入ったところで先程とは違う神歌が始まった。
何処か賑やかな調子。女性達は皆、沖に向かって手招きをしている。
海の神様を招き、豊漁を祈願する儀式。似たような儀式は他の集落にもあると聞いた。
昨日は男性達が主役で山に、今日は女性達が主役で海に。対になる祭事。
神歌が終わると、たか子さんを先頭に女性達が海から上がった。公民館に戻るのだろう。
宴会が始まるまで、公民館と公民館前の広場は男子禁制らしい。
女性達の列を見送ってからノロクモイの家に戻った。

『礎(上)』 了

385 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:17:08 ID:0d..PXhI0
『礎(中)』

 その日の夕食は宴会料理のお裾分けらしく、とても豪華だった。
紅白の厚切り蒲鉾。マグロとハマフエフキとソデイカのお造り三種盛り。
そして根菜と豚肉と昆布の煮込み、これがまた滅茶苦茶に美味い。
きゅっと結んだ昆布は柔らかく、豚肉はまるで角煮のお化けみたいに大きい。
白味噌(?)の味噌汁にはお椀からはみ出しそうな白身魚の切り身。
みんなでワイワイ言いながら食べていると、たか子さんがやってきた。
「これ、差し入れです。どうぞ、Rさんに。」 「有難う御座います。」 泡盛の、一升瓶。
Sさんがすぐに水割りを作ってくれた。氷の音が涼しく響く。
波照間という島の酒らしい。泡盛だけど微かにウイスキーみたいな風味、美味い酒だ。
美味しい料理に美味しいお酒。 こんな幸せで良いのか?俺、見学してただけなのに。
Sさんと姫はニコニコしながらどんどん水割りを作る。俺はどんどん食べて、飲む。
酒は好きだが、弱いし量を飲める質ではない。
意識が飛ぶのに、それほど時間はかからなかったと思う。

386 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:18:19 ID:0d..PXhI0
 「Rさん、起きて下さい。祭事のお手伝いはこれからですよ。Rさん。」
畳間で爆睡していたらしい。上体を起こし両手で顔をゴシゴシ擦る。まだ、酔いが。
「済みません。飲み過ぎました。」
「大丈夫です。お酒を飲むのもお手伝いの内ですから。すぐにシャワーを使って下さいね。」
??どういうことだ。それに、もう今日の祭事は終わった筈ではなかったのか。
シャワーから出ると多少頭がスッキリしたが、やはり酔いは残っている。
廊下の時計は9時前、夕食を食べ始めてまだ2時間弱。これじゃどうしたって酔いは醒めない。
畳間に戻るとSさんと姫、そしてたか子さんがいた。翠と藍は並べた座布団の上で寝ている。
「R君此処へ座って。たか子さんがお面を着けてくれるから。そのあと着物に着替えてね。」
「あの、何で僕がお面と着物を?」 姫が笑いをかみ殺している。
「マレビトは普通男性です。私たちの中でこの役目を担えるのはRさんだけですよ。」
Sさんと姫ではなく、俺が、マレビト?

387 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:20:01 ID:0d..PXhI0
 お面を着け終わるとたか子さんは玄関から出て行った。
木製の、口から下だけ残して顔を覆う面。かなり厚みがあるが、
目の部分に大きな穴が開いているので視界はまあまあ。微かに、潮の匂い。
マレビトは時折その地を訪れ恵みをもたらす存在と考えられている。それに倣う儀式なのか。
例えばナマハゲ。沖縄ならもっと南の島のパーントゥのような?
白い着物に着替えながらSさんに尋ねた。
「家々の祓いは終わってますよね?これから何か祝いの品物を配って廻るんですか?」
「R君、あまり時間がないから一度で憶えてね。この祭事の流れ。」 「はい、何とか。」
これからあなたはこの集落の聖地である御嶽(ウタキ)に行くの。
其処で集落の祖霊神からセジを授かる。その後ある場所に瑞紀ちゃんを訪ねて。」
「ちょっと待って下さい。」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「セジは霊力のことよ。祖霊神に代わってそれを瑞紀ちゃんに授けるのがあなたの役目。
その場所で瑞紀ちゃんからお餅とお酒を勧められるから、あなたは黙ってそれを全部頂く。
それから瑞紀ちゃんの着替えと身支度を手伝って、それが済んだらこの祭事は終了。
さあ、行きましょ。きっと皆が、もう待ってる。じゃL、翠と藍をお願いね。」
「任せて下さい。」 Sさんは翠と藍の頭を軽く撫でてから立ち上がった。
『きっと皆が』って。一体誰が?

388 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:22:29 ID:0d..PXhI0
 門を潜って通りに出る。何だ、これは!?
集落中の人が集まったのかという程沢山の人が、俺を見つめていた。
老若男女、皆笑顔を浮かべ、その目がキラキラと光っている。辺りに満ちる熱気。
たか子さんが大声で何事か口上を述べると大きな拍手が起きた。
たか子さんに手を引かれて歩く。通りを山の方向へ、そしてすぐ角を曲がった。
そしてもう一度角を...これではノロクモイの家に戻る方向じゃないか?
満月が明るい。たか子さんは懐中電灯を持っているが点灯はしていない。
何時の間に先回りしたのか、Sさんが途中で合流した。
Sさんも懐中電灯を持っているが、やはり点灯していない。
2・3分程歩いただろうか、少し開けた場所に出た。そこから更に急な坂道を上る。
坂道を上り切ると、正面に大きな岩が見えた。
「あの岩の前で一礼、跪いたら目を伏せる。後は私に任せて、鍵を掛けちゃ駄目よ。」
言われるままに歩を進め、岩の前で一礼、跪いて目を伏せた。
「この集落を開いた方々の御魂、祖霊神様に申し上げます。」
Sさんの澄んだ声。3度繰り返して呼びかける。
「私は大和の国◎◆の巫女、S。訳あってノロクモイの代理を務めます。
皆様方に御伝えするのはノロクモイから託された言葉。どうぞお聞き下さい。
この度、60年ぶりにノロの後継者が現れました。ノロクモイの孫娘、瑞紀。
どうかその娘にセジを授け、ノロの正当な後継者と認めて下さいますように。」
その言葉を2度繰り返した時、空気が、変わった。

389 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:24:12 ID:0d..PXhI0
 すぐ目の前の大きな岩、そのまわりに複数の気配を感じる。
ザワザワと何事か話し合うような声、それは次第に大きくなった。
いや、声ではない。流れ込んで来る何かの意識が、俺の中で言葉に再構成されている。
「瑞紀...本当なら目出度いことだ。早速セジを授けてやろう。」
「しかし我らには体が、どうやって。」 「体が無ければ此処からは出られない。」
「どうか御静まり下さい。」 Sさんの声が響く。
「ここに皆様方の代として、大和の国から来た旅人を連れて参りました。
どうかこの者の体を使い、存分にお働き下さいますように。」
直後、酷い目眩と吐き気。必死で堪える。
「さあ、娘のいる場所へ御案内致します。」 Sさんが俺の手を取った。何とか立ち上がる。

390 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:26:42 ID:0d..PXhI0
 ゆっくりと歩き出した。違和感。何かが俺の体に重なるように、俺と一緒に歩いている。
まるで二人三脚をしているようで動きがぎこちない。足がもつれて転びそうだ。
漸く坂道を降りると、小さな灯籠が地面に並んでいるのが見えた。さっき、こんなものは。
「娘は、あの小屋の中で御座います。どうぞ。」
灯籠の列の奥に小さな小屋。ゆっくりと近づき、入り口の戸を叩く。すぐに戸が開いた。
「お待ちしておりました。どうぞ。」 草履を脱ぎ、小屋に入る。壁に蝋燭の灯。
畳張りの床に三方が3つ。1つ目には銚子と杯。紙皿の上に小さく切った餅。
2つ目にはピシッと畳まれた白い着物と帯。
3つ目には勾玉の付いた首飾りと鮮やかに彩色された大きな鳥の羽根。
「どうぞ、これを。」 差し出された三方の前に座る。餅を食べ、杯に注がれた酒を飲み干した。
「私にノロの資格があるかどうか、どうぞ御検め下さい。」 娘が立ち上がる。
するすると音を立てて帯を解いた。脱いだ着物を軽く畳んで足元に置く。一糸まとわぬ裸身。
俺が立ち上がると、娘は目を閉じた。蝋燭の灯りがゆらゆらと、娘の肌を照らしている。

391 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:28:32 ID:0d..PXhI0
 俺の両手がひとりでに動いて娘の髪を撫でた、そして頬と首。
肩から両腕、両手から腰へ、ゆっくり、そっと撫でていく。
我々の血を引く子孫。美しい娘。 愛しい。心の底から温かい思いが湧き上がる。
回り込んで背後から娘を抱いた。娘の体が小さく震える。
大丈夫。セジを受け容れる器を持ち、そして、健やかな子を産む娘だ。
「お前には資格がある。セジを授けよう。」
三方の着物を取り、娘に着せた。帯を締め、鉢巻きを巻く。
勾玉の首飾りをかけ、最後に鉢巻きと髪の間に鳥の羽を挿してやる。
本当に、愛しい娘。そして、将来ノロを継ぎ、この土地を護る者。
「これで良い。さあ、外へ。」 娘を促して戸を開けた。
いつの間にか、娘の草履が用意されている。
娘の後に小屋を出た。酷い目眩、思わず膝を着いた。
「首尾は上々。御苦労様、大丈夫?」 お面が外され、視界が広がる。
この女性は? ああ、Sさんだ。 俺は今まで何を?
Sさんの手を借りて立ち上がる。体は軽くなっているが、まだ彼方此方に違和感。
たか子さんの後に続いて歩く、瑞紀ちゃんの後ろ姿が見えた。

392 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:29:58 ID:0d..PXhI0
 たか子さんと瑞紀ちゃんの後を追わず、Sさんはすぐに脇道へ入った。
「何処へ行くんですか?」 「裏口からノロクモイの家に。先回りするの。」
Sさんを追って早足で歩く。大丈夫、体の感覚はほとんど元通り。
裏口から台所に入った所で歓声が聞こえた。集落の人々がノロの後継者を迎えたのだろう。
Sさんが面を箱に納め、姫が翠を揺り起こしていると、玄関にたか子さんの姿。
その後から瑞紀ちゃん。見違えるような、神々しい表情。台所を抜けて奥の部屋へ。
「正式な後継者として認められたって、ノロクモイに報告するんですね?」
「報告して、名前を授けてもらうの。ノロとしての新しい名前。
それで瑞紀ちゃんは正統な後継者として、今後もノロとしての修行を続ける。」
「ねむ〜い。おねえちゃん、これからどこか行くの?」
「瑞紀ちゃんが大切なお仕事をするんだって。翠ちゃんも見たいでしょ?」
「みずきちゃんが?それなら見たい。」
「あの、まだお手伝いする祭事が残ってるんですか?」
「これからはお手伝いじゃなくて報酬。今日の夕方までの祭事は毎年行うもの。
さっきの祭事はノロの後継者が現れた時だけ行われるもの。
12年に一度の祭事はこれからよ。見学できるのはノロクモイから特別な許可を得た者だけ。
見学して、その場の気に浸るのはきっと翠と藍のためになる。」

393 『礎(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/15(金) 23:31:59 ID:0d..PXhI0
 程なく瑞紀ちゃんが台所を抜けて玄関に向かった。
その後に続いてたか子さん。大きな紙袋を持っている。俺たちに軽く会釈をして玄関へ。
「さあ、行くわよ。この集落を護る力の秘密、見せてもらいましょう。」
Sさんは藍を抱いて立ち上がった。姫が続く、俺も翠を抱いて後を追った。
門をくぐって通りへ出る。驚いた。さっきまでの賑やかさが嘘のように、人の姿が全く見えない。
静かだ。締め切った雨戸やカーテン。人々は恐らく家の中で息を潜めている。
「この集落に住む人々の『信じる心』が、祭事を今も生かしている。羨ましいですね。」
「それはノロクモイの力が、住む人々の心を正しく導いているからこそ。持ちつ持たれつ、ね。」
藍を抱いたSさんと姫の会話。翠はまだ眠そうだ。腕の中の感触が柔らかくて頼りない。
20m程の距離を保って瑞紀ちゃんとたか子さんの後を追った。

『礎(中)』 了

394 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 04:21:42 ID:EEO410Fs0
『礎(下)』

 明るい月光に照らされた、瑞紀ちゃんとたか子さんの後ろ姿。
2人は急ぐでもなく、躊躇うでもなく、しっかりとした足取りで歩き続ける。
やがて、山の方へ向かう道の脇道に入った。暫く歩くと立派な石組みの泉に着く筈。
その泉の名は『ウブガー(産泉)』、名前の通り古くからその水はこの集落で生まれた赤子の
産湯に使われてきたと聞いた。もちろん生活用水、農業用水としても。
この地に集落が開かれた当時から人々の命を繋いできた、古い泉。
祭事の初日、男達がびしょ濡れだったのはこの泉で沐浴をしたからだろう。
泉まで十数m、たか子さんが立ち止まった。泉に向かうのは瑞紀ちゃん一人。
俺たちが行けるのも其処までという事。たか子さんに追いついて指示を待つ。
「どうぞ、こちらで。」 たか子さんは外灯に照らされた小さな階段を指し示した。
階段を上るとコンクリートの小さな東屋。木製のベンチに腰掛ける。
「水を汲みに来る人たちの待合所です。あの泉から此処に水を引いていて。
あ、始まりますよ。山と水の神へ呼びかける神歌。」
泉を囲む石組みより一段高くなった場所、小さな祠の前に瑞紀ちゃんが正座している。
古い言葉を紡ぐ、通りの良い、少しだけハスキーな声。 何だか懐かしい響き。
ふと、風に乗って微かな芳香が届いた。 何故? 線香を焚いている様子もないのに。
「お父さん、へびさんだよ。すごく大きいの。」 蛇? じゃあこの香りは蛇の、でも何処に?
「翠、これからお母さんが良いと言うまで喋っちゃ駄目よ。
私達の声を聞かれると瑞紀ちゃんが危ないから。分かった?」
翠は両手で口を押さえ、大きく頷いた。その仕草が堪らなく可愛い、しっかりと抱き締める。

395 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 04:26:09 ID:EEO410Fs0
 祈祷を終えたのか、瑞紀ちゃんが立ち上がり、泉の中に降りていく。
石組みに設けられた3つの湧き出し口。それぞれ幅1m、高さ50cm程。
湧き出した水はいったん浅いプールのような場所に流れ込み、そこから水路に流れている。
瑞紀ちゃんはプールの真ん中辺りに跪いた...??水が、光っている。
いや、強い光を放つ小さな緑色の粒子が、湧き出した水とともに流れている。
まるで大量の蛍が水の中を流れていくようだ。
光の粒の数はどんどん増え、もう泉全体がボンヤリと光って見える。
そして湧き出す泉の水音を乱して、それは現れた。
真ん中の湧き出し口から伸びる首と大きな頭。緑色の燐光に包まれた、巨大な蛇の頭部。
とにかくデカい。まるで超大型のニシキヘビ。文字通りの大蛇。
瑞紀ちゃんは跪いたまま胸の前で手を合わせている。小さく呟く言葉は聞き取れない。
やがて、大蛇はゆっくりとその全身を現した。瑞紀ちゃんを囲むようにプールを一周、
更にもたげた鎌首の高さが約1m強。おそらく全長はゆうに10m以上。

396 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 06:59:17 ID:EEO410Fs0
 50cm程の距離で、正面から瑞紀ちゃんを見下ろす大蛇。チロチロと蠢く舌。近い。
さっきSさんが言った通り、声さえ聞かれなければ大丈夫なのか...あ。
瑞紀ちゃんの右隣、そして背後に跪く女性の姿。一体何処から、いつの間に?
瑞紀ちゃん以外に、4・5・6、7人。白い着物と鉢巻き、勾玉と髪飾り。
最前列が瑞紀ちゃんを含む2人。その後ろに3人ずつの二列、計8人。
曲玉の首飾りと、鳥の羽根の鮮やかな髪飾り。瑞紀ちゃんと同じ、ノロの衣装。
細面、丸顔。横顔や体格はそれぞれ違うが、皆20代から30代に見える。
そして、胸の前で合わせた両手から感じる、どこかしら瑞紀ちゃんに似た雰囲気。
そうか。おそらく、集落の成立以来この地と人々を護ってきた、代々のノロクモイ達。
死してなお、この集落を想うその魂も加わって、神と人々の縁を結ぶ仲人の大役を担う。
去った12年間の恵みに感謝し、更に今後12年間の恵みを乞う祭事。
瑞紀ちゃんの右隣に跪いたノロクモイが唄い始めた。神歌、女性にしては低く、渋い声。
どうやら瑞紀ちゃんの少しだけハスキーな声は、御先祖様からの遺伝らしい。
次々と声が加わっていく。最後に加わったのは瑞紀ちゃんの声。
重なり合い響き合う声が、力強く空気を震わせる。何とも言えない荘厳な響き。
全身に、鳥肌。 この神歌こそ、集落に豊かな恵みをもたらす約束の礎。
人々からは神々への信仰を、神々からは人々への恵みを。それを仲介する、ノロクモイ達。
大蛇は目を閉じ、じっと神歌に聞き入っている。
神歌を三度繰り返して唄い、ノロクモイ達は揃って深く頭を下げた。
深夜の泉に、流れる水の音だけが響く。

397 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 07:03:57 ID:EEO410Fs0
 満足そうに、大蛇が眼を開けた。動き出す。その体はゆっくりと湧き出し口の中へ。
大蛇の尾が湧き出し口に消えて数十秒、詰めていた息を吐く。もう、大丈夫。
プールに視線を戻すと、既にノロクモイ達の姿は消えていた。瑞紀ちゃんが一人だけ。
それを待っていたように、たか子さんが大きな紙袋を持って階段を降りた。
瑞紀ちゃんは両手で掬った泉の水を肩からかけている。
神々しい横顔。白い着物を彩る緑色の光の粒。美しい、まるで天女のようだ。
ずっと見詰めていたいが、紙袋の中身は替えの着物だろう。気を遣って目を逸らした。
瑞紀ちゃんとたか子さんが戻ってきたのは2〜3分後。俺たちに構わず、集落への道を。
「翠、もう喋っても良いわよ。お利口さんでした。」 Sさんは藍を抱いたまま翠の頭を撫でた。
「お母さん、あの大きなへびさんはかみさまだよね?」
「そう、でも蛇じゃなくて蛟(みずち)。だから龍神の仲間。あ!」 Sさんの視線を辿る。
瑞紀ちゃんが立ち止まった。たか子さんが振り向いた瞬間、その体は地面に頽れた。
「お父さん!みずきちゃんが。」
翠を姫に託して走る。瑞紀ちゃんの傍、たか子さんの隣りに膝を着いた。
「瑞紀を家まで、お願いします。」 「はい。」 良かった、呼吸に乱れはない。
初仕事にしては重過ぎる役目。力を消耗して気を失ったのだろう。短期間に、よくぞここまで。
立派に役目を果たしたノロの後継者、その体を抱き上げた。一刻も早く、ノロクモイの家へ。

398 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 07:05:39 ID:EEO410Fs0
 翌朝、目が覚めると寝室には俺1人。慌てて着替え、台所へ向かう。
藍を抱いたSさんが新聞を読んでいた。たか子さんは鍋の火加減を見ている。
味噌汁の、良い香り。
「あら、昨夜は頑張ったんだからもう少し寝てても良かったのに。
Lと翠は散歩。瑞紀ちゃんはまだ寝てるけど、先に朝御飯にする?」
藍を抱いたSさんの笑顔。
「あ、いえ。それより、あの泉に行ってみたいんですが。」
「昨夜で祭事は全部済んだから問題ない筈。たか子さん、どうですか?」
「構いませんよ。」 振り向いたたか子さんの、穏やかな微笑。
「写真も?」 「勿論です。」
二日酔いで頭痛と微かな吐き気。しかし、デジカメを持って俺は玄関を飛び出した。
昨夜はすっかり感覚が麻痺していたが、蛟、あの大蛇は立派なUMAではないか。
もし何か痕跡が残っていれば是非記録して置きたい、そう思った。 しかし。
泉に通じる道には沢山の軽トラックやオートバイ、水缶やペットボトルを持った大勢の人々。
昨夜俺たちが祭事を見学した東屋も、賑やかに談笑する人たちで超満員だ。

399 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 07:07:06 ID:EEO410Fs0
「おやRさん、あなたは水を汲まないんですか?」
ノロクモイの家の近く、俺たちが良く買い物をする商店の店主。
俺と翠は去年の夏休みからの顔馴染みで、買い物の度に話し掛けてくれる。
「というか、今朝は何故こんなに沢山の人が水を汲みに来てるんですか?
前に瑞紀ちゃんに案内して貰った時には誰も居なかったのに。」
「祭事の翌朝、此処で汲んだ水には不思議な力があると言われてるんですよ。
この水でお茶やコーヒーを淹れて飲むと体が丈夫になるってね。
まあ、私はもっぱら島酒の水割りです。」 店主の手には2Lのペットボトル。
「じゃあ毎年、祭事の翌朝はこんなに沢山の人が?」
「はい。ただ、その中でも今年は特別です。何しろ24年に一度の機会ですから。
是非Rさんも水を汲んで下さい。瑞紀ちゃんがノロになるって決めたのはRさんのお陰だし、
昨夜は大事な役も立派にこなしてくれたと聞きました。
私たちは皆、Rさん達には本当に感謝してるんですよ。」

400 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 07:09:29 ID:EEO410Fs0
 24年に一度?12年に一度じゃなく?
それに『大事な役』って? 昨夜、俺は見学してただけだぞ。
質問を口に出す前に、店主は一礼して歩き出した。きっと一刻も早く水割りを。
振り返る。水汲みの順番を待つ人々の列、皆の明るい笑顔。
あれだけの人が出入りしたのでは、この泉にはもう何の痕跡も。
まあ、仕方ない。俺の個人的な興味より、集落の人々の信仰が優先するのは当然だ。
泉から帰る途中で姫と翠に会った。走り寄ってきた翠を抱き上げる。
「お父さん、どこに行ってたの?」 「昨夜の泉。一緒に帰ろう。」 「うん!」
3人でノロクモイの家に戻ると瑞紀ちゃんも起きていて、皆で朝御飯を食べた。
食後。たか子さんが淹れてくれたお茶を飲むと、二日酔いがすうっと消えて楽になった。
「このお茶を飲んだら二日酔いが消えたんですけど、もしかして。」
「昨夜、あの泉で汲んだ水で淹れました。祭事の直後は力が強過ぎて
体に合わない人もいますから、一晩おいた後で使う方が良いんです。」
たか子さんは廊下の奥へ歩いて行く。きっとノロクモイには先にその水で淹れたお茶を。
「その水で作ったジュースを藍に飲ませたの。きっと御利益があるわね。」
Sさんは藍に頬ずりをした。翠も姫も、もちろんSさんと瑞紀ちゃんも美味しそうにお茶を飲む。
「Sさん、さっき泉に行ったら□◆商店のおじさんがいて、
今年は24年に一度の機会って言ってたんですけど、12年に一度じゃないんですか?」
「私じゃなくて、その祭事を執り行った本人に直接聞いたら良いじゃない。ね、瑞紀ちゃん?」
はにかんだような笑顔。 そう言えば今朝の瑞紀ちゃんは口数が少ない。

401 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 07:13:31 ID:EEO410Fs0
 「瑞紀ちゃん。何故24年に一度の機会なのか、教えてくれる?」
「はい。12年後は、泉じゃなくて浜での祭事です。12年おきに泉と砂浜で交互に。
スクという小魚の群れが海岸に寄る時期ですから、その祭事は旧暦の6月〜7月頃ですね。」
(※スクはアミアイゴなどアイゴ類の幼魚、毎年決まった時期に数万匹単位の群れで現れる。)
成る程、それなら泉での祭事は24年周期。そして、もしかしたら。
「浜の祭事でも実際に現れるのかな?その、昨日の蛟みたいな神様が。」
「現れる筈です。でも、それを知ってるのは祖母とたか子おばさんだけですね。」
そこに、茶器を載せたお盆を持ったたか子さんが戻ってきた。
「たか子おばさん、おばさんは前回の祭事もお祖母さんの補佐をしたんですよね?
Rさんが、その時に現れた神様の事を知りたいって。おばさんはその神様を見たんですか?」
たか子さんは少し考えた後、小さく呟いた。 「昨夜見学を許可されたのだから。」 笑顔。
「見ましたよ。『大きな亀の神様』って言う意味の名前で呼ばれてる神様。
でも、首がとても長くて胴体も細長いから、亀には見えませんでした。
その神様がノロクモイの呼びかけに応じて、海の恵みを連れて来て下さる。あの浜に。
青く光る小さなモノたちが浜に打ち上げられ、砂に溶けていく景色は、今でも忘れられません。」
「瑞紀ちゃん、紙と鉛筆貸してくれる?」 「はい。」
たか子さんの証言に基づいて俺が描き上げたスケッチ。
細長い胴体、長い首と小さな頭。体の割に大きくて丈夫そうな4枚のヒレ。
それは亀と言うより、むしろ太古の海棲爬虫類、首長竜に似ていた。

402 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 07:19:26 ID:EEO410Fs0
 「お父さん、これネッシーだよね。海のかみさまはネッシーなの?」
「ネス湖にいるからネッシーでしょ。だからこれは。」 「玄武、かも。」 「え?」
Sさんは俺の描いたスケッチをじっと見つめている。
「これが『大きな亀の神様』なら、昨夜の蛟と合わせて玄武のイメージに重なる。」
確かに、玄武は大きな亀と大蛇の組み合わせとして描かれることが多い。
「あるいは亀の胴体と蛇のように長い首、これ単独でも玄武の...まあ、それは置いといて。
2柱の神の恵みで豊作と豊漁を約束された集落。人々と神々の縁を結ぶノロクモイ。
本当に素敵。引退した後この集落で暮らす夢、ますます魅力的だわ。」
ノロとの契約に基づいて、この地に豊かな恵みをもたらす神々。それはつまり。
「その神々は式に近い存在なんですね。だから化生している間は実体を持つ。
もし同じような存在が他にもいて、何かの条件で化生して実体を持つのなら、
世界中で目撃されてきた未確認動物は、殆ど説明が付きます。」
「神格を持っている以上、式よりずっと高位の存在。ただ、術者やノロとの契約がなくても
自在に化生できるから、その姿を目撃した人には未確認動物そのものに見えるでしょうね。
古今東西、数ある未確認動物の正体の1つが、あのような存在であることは間違いない。」
そうか、化生している間は実体を持つのだから、目撃されるだけでなく攻撃を受ければ
深手を負い、死体のようになることもあるだろう。しかしそうなれば化生が解けて、
その体はやがて霧消する。もちろんその『本体』は無傷。
恐らくそれが、未確認動物の死体が保管されているという確実な事例が1つも無い理由。
日本で射殺されたという『鵬』も、記録だけでその死体は残っていない。

403 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 23:45:57 ID:EEO410Fs0
 「お父さん、みどりはみずきちゃんのことがききたい。ノロになれるってきまったんでしょ?」
そう言えば、昨夜瑞紀ちゃんは。俺はたか子さんに面を着けてもらって、それから?
「瑞紀ちゃんはどうやってノロの後継者って認められたの? 瑞紀ちゃんが間違って
俺のケイタイに電話して来た時は、てっきりSさんかLさんがノロクモイの代わりに」
「間違ってない!私、Rさんに。」
瑞紀ちゃんは突然席を立ち、足早に廊下を。 とてつもなく、気まずい時間。

404 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 23:48:25 ID:EEO410Fs0
 「ええっと、憑依が上手く行くようにってRさんにお酒を勧め過ぎたのは失敗でした。」
「おねえちゃんとおかあさんは、何か、しっぱいしたの?」 翠は泣き出しそうだ。
「昨夜の事、ホントに憶えてない?」 「はい、お面を着けて皆が喜んだ後の事は。」
「小屋で瑞紀ちゃんの着替えを手伝ったでしょ?それで勾玉の首飾りと鳥の羽根の髪飾りを。」
あ! 突然、蝋燭の灯りと裸体の映像。柔らかな感触、俺は昨夜瑞紀ちゃんの素肌に。
「憑依が深くなりすぎて記憶が飛んだのは私とSさんに責任が有りますけど、電話の件は。」
「確かに、『間違い電話』って言ったのは、挽回できるかどうか怪しいわね。」
「あの、一体何の話ですか?」
「昨夜、瑞紀ちゃんの着替えを手伝った、それは思い出したのね?」
「はい。でも、それは僕じゃなくても。だって代々のノロは。」
「R君?」 「はい。」 「裸を見せるなら、せめて好きな人にって思う気持ち、分からない?」
「じゃあ、あの時。」 「そう、瑞紀ちゃんは最初からあなたに頼みたかったのよ。その役を。」
「きっと、瑞紀ちゃんは部屋にいます。修復するなら今しかありません。」
「いや、だって代々のノロが稀人にセジを授けられるなら、個人的な好き嫌いは。痛ててて。」
「R君、君、思い上がってる?」 「思い上がるなんてそんな。だって前回もそれ以前も。」
「基本、稀人は公募制なの。だから。」
ふと、甦る記憶。お面を着けた時の、微かな潮の香り。もしかしてあれは。
「そう。前回、稀人役を勤めたのは瑞紀ちゃんの祖父。
必死で村一番の漁師になって、その役を勝ち取ったのよ。大好きな女性のために。」
「Rさん、行ってらっしゃい。それでも駄目だったら私たちも協力しますから。」 姫の、微笑。

405 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 23:50:22 ID:EEO410Fs0
 廊下の奥、ノロクモイの部屋の1つ手前。瑞紀ちゃんの寝室。深呼吸して、襖をノックした。
「瑞紀ちゃん、居るんでしょ?入るよ。」 返事はない。 5秒待って襖を開ける。
瑞紀ちゃんは窓際に座っていた。振り向いてはくれない。寂しそうな後ろ姿。
「御免。昨夜は、飲み過ぎて。だから憑依は上手く行ったけど、記憶が飛んでた。
でも、さっき全部思い出したよ。昨夜、瑞紀ちゃんは、とても綺麗だった。」
「私、あの役は、絶対Rさんに。それは私の、我が儘だって分かって居たけど。」
「瑞紀ちゃん、俺はSさんとは違う。色々な事が前もって分かる程の力は無いんだ。だから。」
小さな肩にそっと触れる。何もかもが愛しくて、胸の奥が痛む。
「私も、SさんやLさんみたいに綺麗じゃないし、2人みたいな力もないから。」
「違う。それは違う。悪いのは俺。瑞紀ちゃんの気持ちを分かって上げられなかった。」
柔らかな体をしっかり抱きしめる。薔薇の花の、香り。
「瑞紀ちゃんの御両親に、会わせてくれないかな?」 「え?でもそれは。」
「きっと、俺たちの関係が宙ぶらりんだから、こんな擦れ違いが起こるんだよ。
だから区切りを付ける。ちゃんと瑞紀ちゃんの御両親に話をして、許してもらおう。」
「本当に、良いんですか?」 「うん。なるべく早くにね。」

406 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 23:52:25 ID:EEO410Fs0
 祭りの3日目は月曜日、昨日までに比べれば静かな雰囲気。
夕方から、公民館で祭事というよりは豊年祭っぽい演し物が色々あるらしい。
午前中は皆でのんびりと昼寝をし、午後からお祭りの雰囲気を楽しんだ。
瑞紀ちゃんの両親と会ったのはその翌日。あるレストランの個室、夕食に招待した。
まずは2人に頭を下げる。「初めまして、Rです。今夜は御出頂き感謝します。」
「こちらこそ、御招待頂いて。有り難う御座います。」
しかし、父親の言葉はそれ以上続かない。すぐに料理が運ばれてきた。
当然だが、何とも気まずい雰囲気。殆ど誰も喋らないまま夕食を食べる。
やがて飲み物とデザート。沈黙に耐えかねたように、父親が口を開いた。
「Rさん、瑞紀の命を助けて頂いて有り難う御座いました。このような場を設けて頂いてから
改めてお礼を申し上げるのではなく、すぐにでもそちらに伺うべきでした。
しかし家の事情でそれもままならず、どうか失礼をお許し下さい。」
「僕たちの出会いが縁となり、こちらが望んだ事ですから、どうかお気遣い無く。
むしろあの出会いが瑞紀ちゃんの、いえ、瑞紀さんのノロになりたいという希望を生みました。
結果的にそれが御両親の御心労の原因となっている事を、申し訳なく思っています。」
瑞紀ちゃんが沖縄を離れたのは、本人と両親がノロになる事を希望していなかったからだ。
「瑞紀。お前の正直な気持ちを聞かせて。たか子姉さんから話は聞いてるけど、
お前の気持ちが分からないと母さん達はどうしようもない。」 初めて母親が口を開いた。

407 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 23:54:40 ID:EEO410Fs0
 「Sさんは、お祖母さんが立派なノロで、今もあの集落を護ってると私に教えてくれた。
それからRさんたちは『何時か引退したら、立派なノロに護られてる土地で暮らしたい。』って。
だから私、ノロになりたいって思ったの。何時かRさんたちがあの集落で暮らしてくれるように。」
「お前、何言ってるの。そんな気持ちでノロになんて。」
「最後まで聞いて!」 「駄目だよ、瑞紀ちゃん。」 固く握りしめた手を、そっと押さえる。
「...大声、出して御免なさい。確かに始めはその気持ちだけだった。
でも、お祖母さんとたか子おばさんの手伝いをする内に、分かってきたの。
お祖母さんとたか子おばさんが、あの集落の人達にどれだけ尊敬されてるか、
集落を護ることがどれだけ大切で、どれだけやりがいのある仕事なのか。そういう事が。
だから今はRさんたちの事だけじゃなく、私自身が絶対ノロになりたいと思ってる。
大好きなあの集落を、何時か私の力で護れるようになりたい。」
「ノロである間は、入籍出来ない。それは、聞いてるでしょ?本当に、それで良いの?」
「SさんとLさんの事は最初から知ってた。だから入籍なんて全然考えてない。
私、力を玩具にして占いのバイトしてたから、始めはRさんに嫌われてた。
でも今は少し好きになってくれて、翠ちゃんと一緒に旅行にも来てくれて。だから...」
黙って俯いた瑞紀ちゃんを見つめ、両親は溜息をついた。

408 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/18(月) 23:57:35 ID:EEO410Fs0
 「Rさん、私達の一番の望みは瑞紀の幸せです。」
「はい。僕にも娘がいますから、お母さんの御気持は分かるつもりです。」
「あの集落でノロになることが、本当に瑞紀にとっての幸せでしょうか?
しかも絶対に籍を入れられない、Rさんとの事実婚以外選択肢が無いなんて。」
「勿論、御両親が許して下さるまで、友人としてのお付き合いから先には進みません。」
瑞紀ちゃんは驚いたように俺を見詰めた。縋るような瞳、胸が痛む。でも、言わねばならない。
「僕たちの一族のしきたりが、今の日本の常識から大きく外れている事は理解しています。
御両親がそれをとんでもないことだと考えるのも、ごく当たり前のことでしょう。
ただ、瑞紀さんの優れた資質を活かすのは全く別の問題です。
瑞紀さんの力、その優れた資質を活かすためには、ノロになるしかありません。
お願いです、どうかそれだけは信じて下さい。
何故僕たちのように力を持って生まれてくる人間がいるのかは分かりません。
でも、僕たちには、この力を使って果たすべき天命があると信じています。
僕は沖縄で言うならユタのような立場、術を使う仕事の報酬で生計を立てています。
決して人の道に反した事はしていないし、出来る限りの人助けもしてきました。
それでも、僕たちのような人間を、胡散臭い蔑むべき存在だと思う人もいるでしょう。
それはそれで仕方の無いことだし、宿命だと思って受け容れるしかありません。
その点、瑞紀さんは僕たちとは全く違います。」

409 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:03:57 ID:h8QhofLM0
 「それは、どんな?」
「瑞紀さんの言った通り、ノロは皆から尊敬される存在です。その地域を護り、
皆の精神的な支えとなる。だからこそクモイ(雲上)という敬称で呼ばれるのだし、
土地や財産など、生活の基盤を王府から保証され、それを代々相続してきました。」
あの集落でも、ノロクモイの家とその敷地、それからかなりの広さの畑を
代々のノロクモイが相続してきたと、たか子さんから聞いていた。
「だからノロは『この仕事は幾ら、ここまでするなら幾ら。』そんな金勘定とは無縁の存在。
瑞紀さんのお祖母さんは、僕たちの一族にも滅多に居ないような力の持ち主ですが、
恐らく瑞紀さんもお祖母さんに並ぶ程の力を身につけ、立派なノロになれる筈。
ノロになるのは瑞紀さんの天命。どうかその希望を受け容れて、応援してあげて下さい。
天命に従う瑞紀さんの幸せには、御両親の変わらぬ愛情と応援が絶対に必要です。」

410 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:07:20 ID:h8QhofLM0
 「今、分かりました。」 黙っていた父親が口を開いた。
「瑞紀には、力を持っていることを鼻に掛けて、他人を少し見下したような所がありました。
でも、本土から帰ってきた瑞紀は変わっていたんです。親の私達がビックリする位に。
大学の勉強も、ノロの修行も、その他何事にも真剣で一生懸命で。
Rさんの親戚の家で働かせてもらいながら色々教えて頂いたと聞いていましたが、
それだけでは無かったんですね。Rさんたちがどれ程真剣に自分の力と向き合っているか、
それを肌で感じたから、瑞紀は変わったんです。恵子、これなら安心して良いんじゃないか?」
「はい。考えたくもなかったけど、力を持って生まれた以上、ノロにならないとしたら、
将来ユタになるしか道はない。それよりはずっと、ずっとノロになってくれた方が...」
? いや、本物ならユタはユタで立派な仕事だろう。
思わず俺は怪訝そうな表情を浮かべたかも知れない。 父親は俺の顔を見て微笑んだ。
「Rさん、ユタという言葉はユタの前では使いません。何故だか分かりますか?」
「いいえ。それは、何故ですか?」
術者、術師、あるいは陰陽師。俺たち自身も他人も、その名を憚る事などないのに。
「ユタに相談することを『ユタを買う』と言うんです。金を積めば都合の良い事を言ってくれる、
人の不幸につけこんで金を毟り取ろうとする、そんなイメージが強いからでしょうね。
ユタになって、『買われて』暮らすより、
例え入籍出来なくても本当に好きな人と一緒になった方が幸せです。
Rさんなら、きっと瑞紀を大切にしてくれる。」

411 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:13:33 ID:h8QhofLM0
 「瑞紀さんの気持ちはとても嬉しいし、僕も瑞紀さんが好きです。
だからこそこれからも真剣にお付き合いして、お互いの気持ちを育てたい。
でも、正直僕たちの気持ちがどんな風に育つのか、それは未だ分かりません。
友情のままなのか、兄弟のような愛情に育つのか、それとも男女の愛情に育つのか。
それに、瑞紀さんにはこれからも御両親の助けが絶対に必要です。
御両親に賛成して頂けないなら、友人から先の段階には進みません。
御両親に賛成して頂けるまで待つつもりですが、勿論他に好きな人が出来たらそれでも。」
「他に好きな人なんて、絶対無い!どうして...」
瑞紀ちゃんは両手で顔を覆って俯いた。小さな肩が震えている。
母親が見かねたように瑞紀ちゃんの肩を抱いた。「大丈夫。ずっと応援するから、頑張って。」
「Rさん、私達は賛成です。どうか、これからも瑞紀を、宜しくお願いします。」
「有り難う御座います。僕は絶対に瑞紀さんを裏切りません。御安心下さい。」

412 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:15:37 ID:h8QhofLM0
 レストランからの帰り道、小さな公園の駐車場に車を停めた。
瑞紀ちゃんはあれから一言も喋らず、目も合わせてくれない。
「瑞紀ちゃん。折角御両親のお許しをもらえたんだから、もう、機嫌直して。ね。」
「...許してもらえなかったら友だちで良いって。他に好きな人が出来たらって。酷い。」
「酷いかもしれないけど、方便じゃない。本当の気持ちだよ。」
「私、両親の許しなんてなくてもRさんの」 その唇を人差し指でそっと抑えた。
「将来、子供が生まれても、瑞紀ちゃんはそれで良いの?」 「え?」
「お父さんが一族の当主に即位したから、Sさんは小さい頃に親戚の養女になった。
翠や藍をSさんの実の御両親に会わせるだけでも特別な許可が必要なんだ。
Lさんは、早くに死別した御両親の顔も覚えていない。だから自分の子供を愛せるのか
自信が持てなくて、子供を受け容れる覚悟が中々出来なかった。それで今年、やっと。」
「私、全然知りませんでした。2人はいつも素敵で、思い通りに生きているとばっかり。」
「今、此処に瑞紀ちゃんがいるのは、御両親のお陰だよね。
何時か瑞紀ちゃんを女性として好きになって、俺達に子供が出来たら、
一番に瑞紀ちゃんの御両親に喜んでもらいたい。
それが出来ない事情を経験してきたから、これだけは譲れない。どんなに君が好きでも。」
「R、さん。」

413 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:17:23 ID:h8QhofLM0
 「俺がずっと君と一緒に住めるとしたら、運良く生き残ってお爺さんになってから。だから
僕達の子供を育てるには、どうしたって君の負担が大きくなる。御両親の助けが絶対に必要。
もし御両親の助けが得られないなら、君一人に子育ての負担は掛けられない。分かって」
不意に胸が詰まって言葉が途切れた。今夜は言霊を使わないと決めていた事も、
最後までそれを守れた事も、何一つ気休めにはならない。本当に俺は、間違っていないのか。
次の瞬間、目の前に綺麗な顔、吸い込まれるような、黒い双眸。
「やっぱり、私、馬鹿ですね。いっつも我が儘で、自分勝手で。」
「そうじゃ無い。俺たちの一族のしきたりが、常識とかけ離れているだけだよ。」
「その一族の人のお嫁さんになるのに、自分の考えだけにこだわって。だから私、馬鹿。
Rさんは、こんなに私の事を大切に思ってくれているのに。それに私達の子供の事も。」
俺の首に回った手に力が篭もる。

414 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:20:11 ID:h8QhofLM0
 慌てて柔らかい体を引き離し、距離を取る。
「ストップ。そこまで。まだ友達、なんだから。」 「もう、両親は許してくれたのに。」
「瑞紀ちゃんはまだノロになってない。約束、したでしょ?」 「...分かった、ことにする。」
何とか理性を保ちつつノロクモイの家に帰り着くと、玄関で翠が迎えてくれた。
その後ろに藍を抱いたSさんと姫。2人は俺をそっちのけで瑞紀ちゃんの肩を抱いた。
「良かったね、瑞紀ちゃん。」 「Rさんは瑞紀ちゃんの事になると妙に鈍いんです。
去年の旅行の時にキチンとしてくれたと思ってたのに、結局今年まで。御免なさい。」
「いいえ。Rさんは、ちゃんと話してくれて。両親も許してくれたから、もう。」
「みずきちゃん。お祝いのおかしがあるよ。」 「うん、有り難う。」
ええっと、成功以外考えていなかったらしいこの段取りは一体?

415 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:29:30 ID:h8QhofLM0
 「元々、この問題は恵子が許す許さないでは有りません。
力を持って生まれたのですから、ノロになるかどうかを決めるのは瑞紀自身です。
そしてノロになると決めた切っ掛けはRさんへの想い。瑞紀にはRさんとの縁があるという事。
瑞紀は本当に幸せです。出来れば、私はノロになりたかった。でも器が足りなくて。
母と、瑞紀の助けになるなら、私の人生にも意味があるのだと信じる事が出来ますけど。」
そうか、だから結婚せずにノロクモイの補佐をして、通常の祭事なら仕切れる程の修行を。
「たか子さん、あなたはこの集落に是非必要な人です。今までも、そしてこれからも。
もしあなたがいなければ、ノロクモイは引退するしかなかった。
そうなれば、この集落にノロは不在。神々との契約も更新されぬまま、何時か尽きる。」
その言葉の、ゆったりと温かい響き。 でも、Sさんでなければ語れない、重い言葉。
「ノロは花、あなたは花を支える枝。枝なしに咲く花など、普通はないのですから。」
「有り難う、御座います。」 たか子さんはハンカチで目尻を押さえた

416 『礎(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:35:02 ID:h8QhofLM0
 「それで、瑞紀ちゃんがノロになるのに、どれくらいかかりますか?」
「その母は、後継者と認められてから3年かかったと聞きました。
でも瑞紀は、既に昨夜母の代役を。もしかしたら、あと3年かからないかも知れません。」
「ノロになったら、この集落を長期間、離れることは出来ませんよね?」
「はい。どんなに長くても、二泊三日がギリギリです。」
「私はそれまでに、瑞紀ちゃんに出来るだけ沢山の経験をして欲しいと思っています。
もちろん旅費も、旅行の段取りも、全部Rが責任を持ちますから。」
「宜しくお願いします。」 「あの、Sさん。僕は綺麗さっぱり置いてけぼりですが。」
「日本の美しい四季の景色、数ある古くからの祭事、それらを瑞紀ちゃんに体験してもらうの。
そのナビゲーターをあなたにお願いしたいんだけど、やっぱり無理かしら?」
「いいえ、今は無理でも、それまでに頑張ります。絶対です。」 「うん、良い返事。」

『礎(下)』 了

417 『礎(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:50:18 ID:h8QhofLM0
『礎(結)』

 「お父さん、お父さん。」
背後から心細げな声。翠?寂しい夢でも見て目が覚めたのか。殆ど条件反射で寝返りを打つ。
左腕で腕枕、右腕でそっと抱きしめて背中を...大きい、誰?
さらさらとした長い髪、薔薇の花の香り。これは。
心臓の鼓動が一気に高鳴る。冷や汗。まさか、瑞紀ちゃん?
薄目を開けると、笑いを堪えて小さく震える背中...ああ、悪戯、か。
確かに聞こえた『お父さん』という台詞。なら首謀者は恐らくSさんだ。
すっ、と心が冷静になり、心臓の鼓動も収まっていく。
昨夜Sさんは『御両親の許しが出たんだから今夜から寝室は一緒で良いわね。』と。
これ以上俺を玩具にする人が増えたら堪らない。首謀者のSさんが止めに入る事は
ないだろう。多分共犯者の姫も。此処はしっかり反撃しておかないと後々困る。
右手に力を込め、その体を強く抱きしめてその動きを封じた。
「あれ?翠は急に大きくなったね。お父さん嬉しいな〜。」 頬にそっとキス。
瑞紀ちゃんの体が小さく震える。 「Rさん、駄目。」 少し掠れた声。
「どうして?翠はお父さんのこと大好きでしょ?」
「お父さん?」 思わす飛び起きる。 恐る恐る振り向くと、翠が立っていた。

418 『礎(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 00:51:19 ID:h8QhofLM0
 「どうしてみどりとみずきちゃんをまちがうの?」
「あれ、瑞紀は此処に?お父さん寝惚けてたのかな?でないと間違うはず無いよね。」
硬直する俺の傍をすり抜けた瑞紀ちゃんが翠を抱き上げる。
「私が夢を見て『お父さん』って言ったの。それで。Rさんは翠ちゃんが大好きだから、ね?」
「みずきちゃんもお父さんも、ねぼけてゆめを見たの?」 「そう、だから。」
「な〜んだ。お父さんがみずきちゃんにいじわるしてたんじゃないんだね。」 満足そうな笑顔。
「あさごはんできたって、お母さんが。今日は水族館だよ、ヤンバルクイナも。」
「お布団片付けたら直ぐ行くから、待っててね。」 「うん。」 遠ざかる。軽い足音。
「Rさん、不意打ちは禁止。」 「瑞紀ちゃんこそ、あんな悪戯はなし。反則だよ。」
一度だけ、お互いの頬にキスをしてから、2人で布団を片付けた。

419 『礎(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 02:50:53 ID:h8QhofLM0
 「R君。あの人達、朝、名護のコンビニで見かけたような気がするんだけど。」
ロードレーサー(※競技用の自転車)に乗った一団が急な山道を駆け上っていく。
ユニフォームらしい青基調のジャージの列に、ちらほらと別のジャージが混じる。
水族館を見学し、其処のカフェで食事を済ませた後で山道をドライブ中。
勿論ドライブの目的はヤンバルクイナだが、時折見かけるのはロードレーサーの集団ばかり。
「はい。確か沖縄では有名なチームですよ。前に雑誌で読んだ覚えがあります。よっ、と。」
見通しの良い右カーブから直線にかけてアクセルを踏み、一気に集団を追い抜いた。
「11月に国内最大規模のレースがありますから、そろそろ本格的な練習の時期でしょうね。」
「こんな山道でレースをするんですか?自転車で?」
「はい、210kmと140kmは間違いなく国内の市民レースの最高峰ですよ。」
バックミラーに映る姫の笑顔。 助手席のSさんは溜息をついた。
「わざわざこんな山道でレース。しかも210kmとか140km?不思議な人たちね。
まるで故郷を目指して急流を遡る鮭の群れ。でも、それらは人の形をしてる。
それだけで充分にUMAだわ。ヤンバルクイナより個体数は多いみたいだけど。」
「あ、Rさん、あれ!」 姫の隣で藍を抱いていた瑞紀ちゃんが突然左前方を指さした。
...間違いない。パンフレットの写真の通りだ。ヤンバルクイナ。しかも、2羽。
すぐに車を路肩に停めた。思っていたより大きな身体。連れ立って道路を横切っていく。
「かわいい〜。お父さん、あれヤンバルクイナでしょ?」 「間違いないと思う。」
それは俺たちにとってリアルUMAとの出会い。沖縄旅行の大事な思い出がまた1つ。

420 『礎(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 02:52:58 ID:h8QhofLM0
 「もう!翠は置いていくわよ。空港に行く時間なのに、間に合わないじゃないの。」
玄関から、Sさんの優しい声。翠はまだ姫と一緒にリビングの飾り付けをしている。
今日は12月23日だが、クリスマスの準備ではない(一応クリスマスパーティーもするが)。
それは、年末からお正月にかけて、お屋敷で過ごす瑞紀ちゃんの歓迎パーティーの準備。
旧暦の正月が来年1月の後半。瑞紀ちゃんの旅行は集落の祭事に影響しない。
既にSさんは幾つかの祭事に瑞紀ちゃんを同席させると決めていたから、好都合。
「お母さん、まって。今行くから。」 廊下を走る軽い足音。
「気を付けて下さいね。」 姫は笑顔で手を振り、玄関で二人を見送った。
もうすぐ妊娠6ヶ月に入る姫は大事を取って留守番。俺は姫の付き添い+藍の子守。
「やっぱりお迎えに行った方が。瑞紀ちゃん、少しでも早くRさんに会いたい筈なのに。」
「瑞紀ちゃんが『迎えに来なくて良いからLさんと一緒に居て下さい。』って。
Lさんの事が心配なんですよ。その気持ちが、嬉しいですよね。」
「じゃあ、瑞紀ちゃんとSさんの気持ちに甘えて、暫くの間だけRさんを独り占めですね。」
暫くの間って、6月中旬から夜はずっと一緒に居る訳だが。まあ、『気分』って事で。
「藍が妬いちゃうかも。Lさん大好きだから。」 「ふふ、ちょっとだけ我慢、してもらいます。」
そっと姫の肩を抱いた。家族がそれぞれに過ごす、とても幸せな午後。その後の時間。
それらはきっと、それぞれの魂の旅路を支える、夢の礎。

『礎』 完

421 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/19(火) 03:01:38 ID:h8QhofLM0
皆様今晩は、藍です。
色々な事情で不規則な投稿になりましたが、何とか投稿を終えることができました。
完成している原稿はこれが最後ですので、『次』を何時投稿できるかは分かりません。
どうか御一緒に、『次』をお待ち頂ければ有り難く思います。

422 名無しさん :2014/08/20(水) 20:36:10 ID:ZYRLiYNIO
知人さん愛さんありがとうございました。
島情緒豊か、色鮮やかで、楽しい物語でした。
しかし、人をUMAというなら、美女たちからこんなにも(平和的に共存しながら)愛されるRさんこそ、UMAではないかと思います。
今回ハッピーな形で幕間に入ったということで、いつの日にか書き込まれる『テスト中です。』を心待ちにしています。

423 名無しさん :2014/08/20(水) 20:38:50 ID:ZYRLiYNIO
藍さん申し訳ありません。お名前を変換ミスしました。大変失礼致しました。

424 ◆iF1EyBLnoU :2014/08/22(金) 02:18:39 ID:cPFLG0/c0
>>422
>>423
早速コメントを頂き感謝致します。
『色鮮やかで楽しい物語』との高評価、知人も喜んでくれると思います。
変換ミス等、些細なことはどうぞお気になさらないで下さい。
私自身、全く同じミス(藍○→愛×)を『禁呪(末)』でやらかしましたし、
今作『礎』ではもっと酷いミスをして、昨日知人に怒られました。
まったり、ゆったり、ご一緒に楽しんで頂ければと存じます。
有り難う御座いました。

425 名無しさん :2014/08/22(金) 19:43:58 ID:ePK2GmVs0
てすと

426 名無しさん :2014/08/25(月) 16:43:23 ID:yZIX8TSs0
ハーレム状態はなんとなくモヤモヤするものがあるけど、かと言って今までも
何人か出たような恋敵的な存在が出てくるのも好きじゃない。
この気持ちは何なんだろう?

427 名無しさん :2014/09/04(木) 17:20:36 ID:iQmcG5ec0
藍さま、作者さま、この度も興味深いお話、どうも有難うございました。
この一連のお話が大好きなもので、ついつい引き込まれてしまいますね!
大変でしょうが、またの投稿、お待ち申し上げております。

428 ◆iF1EyBLnoU :2014/09/09(火) 22:08:08 ID:26whhQDw0
>>426
男性の方でしょうか? とても興味深いコメント感謝致します。
以前、作者である知人から全く同じ感想を聞きました。
知人はLさんの大ファンなので、『タケノブさん』を敵視しつつ、
Rさん一筋のLさんに自分の思いは届かないだろうから、『凄くモヤモヤする。』と。
知人の想いは、一種の『恋』なんでしょうね。

>>427
コメント有り難う御座います。『次』を待ちつつ、
『礎』の内容について色々調べていましたが、興味深い点が色々あります。
まるで『現代の桃源郷』、是非訪れてみたい気持ちです。


さて皆様、昨日知人から連絡がありました。
以前リクエストを頂いた『Sさん視点からの出会い』、準備を始めたとの事。
そのため新たに、別の人物に対するインタビューに成功したのは、
リクエストがあったからこそだと聞きました。有り難う御座います。
投稿をお待ち頂ければ嬉しく思います、

429 名無しさん :2014/09/14(日) 19:29:23 ID:7u5JpwK2O
sさん視点の出会いをリクエストさせていただいた者です。
大変、嬉しく、またリクエストに応えていただけます事、光栄に思います。
物語の完成をお待ちいたします。
出来ることなら、sさん視点での、各物語を読ませていただきたく、改めてリクエストさせていただきます。

430 ◆iF1EyBLnoU :2014/09/19(金) 22:36:58 ID:xc6iTolk0
>>429
温かいコメント、感謝致します。
リクエストを頂ける事は光栄だと存じますが、『出会い』は特別かと。
投稿済みの物語をSさん視点で読むことと、『手紙』以降の物語を読むこと、
どちらを選ぶかと言われれば私自身は凄く迷いますね。
リクエストは知人に伝えますが、結果は知人の選択に任せるしかありません。
有り難う御座いました。

431 名無しさん :2014/11/07(金) 20:58:58 ID:6JLKw6dUO
色々探し回りましたがここが本家ですか?
続きを楽しみにしてますよ

432 名無しさん :2014/11/08(土) 22:51:48 ID:5cTzyHw20
>>431
投稿者の藍です。コメント感謝致します。
今後もこれらの物語を此処で投稿したいと思っております。
既に次作の原稿の一部を受け取っているので、
もう暫くお待ち下さい。有り難う御座いました。

433 名無しさん :2014/11/09(日) 05:17:11 ID:tJE0kDrEO
>>432
いろいろあった様ですね。投稿よろしく!

434 名無しさん :2014/11/22(土) 12:50:59 ID:WRFxrqeoO
>>432
ありがとうございます。ほんとに楽しみです〜

435 名無しさん :2014/11/22(土) 12:51:03 ID:WRFxrqeoO
>>432
ありがとうございます。ほんとに楽しみです〜

436 名無しさん :2014/12/03(水) 12:29:24 ID:ffHA8ay2O
たくさんのお話の投稿ありがとうございました!
とても面白くて一気に読ませて頂きました。
一番印象に残ったのは女子高生釣り人の神様との結婚のお話です。
一番怖かったのは初期のSさんLさんが二人組の男に死ぬまで悪夢を見せたお話です。
悪もお役目だと思っているので、そこまでやるかと怖かったです。でもそれで犠牲者が増えることがなくなったのは確かですね。
新作も用意されつつあること、嬉しいです。楽しみにしています!

437 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/03(水) 23:47:16 ID:oaPccKlc0
<<433・434
<<435
<<436

投稿者の藍です。
新作の準備を進めていたところ、先日、結構な修正の指示が来ました。
投稿が遅れますが、クリスマス前の投稿を目指して頑張ります。
コメント有り難う御座いました。

438 名無しさん :2014/12/04(木) 22:17:30 ID:91tsV9mwO
新作のクリスマスプレゼントを楽しみに、お待ちいたします。
でも、期日に縛られなくてもいいですよ…
クリスマスプレゼントが、お年玉になっても構いませんので(笑)

439 名無しさん :2014/12/05(金) 20:43:34 ID:bxg16hqIO
日本の神様たちからのクリスマスプレゼント。粋ですね。

440 433 :2014/12/07(日) 01:01:22 ID:j6E8r2LcO
>>437
文章作成って、けっこう時間かかりますよね。「ミラレパ」スレあげてますけど、1スレageるのに1〜2時間かかってます。いろいろ推敲してしまうんですよね。ageる前の整理段階を入れたら実際もっと時間はかけている。ボチボチやりましょう。

441 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/10(水) 23:55:34 ID:3pOe.2Io0
テスト中です。

442 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:01:37 ID:Zs8Krqck0
皆様今晩は、藍です。

>>438
>>439
>>440

暖かいコメント有り難う御座いました。

さて、新作に続きリクエストに応える作品も準備中ですので、
退路を断って気合いを入れるために新作の冒頭部を投稿致します。
以下新作『星灯』、お楽しみ頂けると良いのですが。

443 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:04:00 ID:Zs8Krqck0
『星灯(上)』

 少し開けた窓から吹き込む風が、ソファで昼寝をする翠と藍の頬を撫でていく。
Sさんは黙って二人の毛布を整え、ソファの傍らに横座りしたまま優しい笑顔を浮かべた。

 「二人でウォーキングを始めてからどの位経つんですか?」
少し相談があるということで碧さんと暁君がお屋敷を訪れていた。穏やかな休日の午後。
「私が早起きして家の周りを散歩するようになったのが去年の10月の終わり。
一人じゃ危ないって暁が一緒に歩くようになって、二人で少し遠出を始めたのが11月。
だから大体四ヶ月くらい、ね暁。」 「はい。」
二人は顔を見合わせて頷き合った。美男美女、本当に絵になる。思わず溜息。
「ふふ、相変わらず仲良しで素敵ですね。
私もRさんと外出する時はずっと手を繋いで貰おうかな。」
Sさんはくすっと笑い、碧さんと暁君の頬が鮮やかな紅に染まった。
「ちょっとL、あなた何故そんな事知ってるの?あ、それも術ね?」
「そんな嬉しそうにお惚気聞かされたら、僕でもその位予想できますよ。
それで、どうして四ヶ月も続けた早朝のウォーキングを止めようかと?」
そう、それが本題。今日の二人の相談だった。

444 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:06:25 ID:Zs8Krqck0
 碧さんは俺と姫を軽く睨んだ後、両手で自分の頬を挟み、ほうっと息を吐いた。
「お正月過ぎた頃から気味が悪いことが続いてて...。
頭を潰された血塗れの人形がバス停脇の歩道に2つ並べてあったり、
市営駐車場のフェンス際に真新しい靴がキチンと揃えて置かれていたり。」
「ちょっと待って、その靴どっち向いてた?フェンスの内?それとも外?」
二人の相手を俺と姫に任せ、ずっと黙っていたSさんの眼に、淡い光が宿っていた。
「え?そ、外だけど。それがどうかしたの?」
「ううん、確かめたかっただけ。大した事じゃない、話を続けて。」
「まあ、変な人形や靴はたまの事だから、まだ良いんだけど。ね。」
「一番気持ち悪いのは犬の糞なんです。○辻交差点の歩道橋で、
毎日のように増えるから凄いことになってます。」
Sさんの集中力が一気に高まったのが分かる。空気がチリチリと音を立てそうだ。
「臭いが凄いし、道を譲らないと擦れ違えない場所もあるの。酷いでしょ?
小学生の通学路だから地域の人達が時々掃除するんだけど全然追っつかない。」

445 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:08:28 ID:Zs8Krqck0
 「気味が悪いなら無理して続けることないわ。体を動かすなら他の方法もあるし。」
「あの、Sさん。ウォーキングじゃないと手が。」 「あら、そうだったわね。」
「L!だから手を繋ぐのは」
Sさんは右手の人差し指で自分の唇を押さえ、左手で翠と藍を指し示した。
「兎に角、しばらくそのコースのウォーキングは止めて。何か事情が有りそうだから調べてみる。
新しいウォーキングのコースはR君が良い所知ってると思うわよ。市内の公園とか。」
如何にも軽い口調だが、Sさんの眼は笑っていない。
リビングの気温が一気に、下がったような気がする。
碧さんと暁君は顔を見合わせた後、黙ったまま大きく頷いた。

446 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:10:28 ID:Zs8Krqck0
 「あのバス停。ちょっと停めて。」
夜明け前、未だ薄暗い道。出来るだけ静かに、車をバス停の路肩に寄せた。
「このバス停だって言ってたから、人形が置かれるのは...多分あの辺り。」
Sさんが指さした方向。視線の先の地面は、其処だけ不自然に空気が澱んでいた。
「この先300m程で○辻交差点。そこからさらに500m程先が市営駐車場。ね、これを見て。」
SさんはPCでプリントアウトした地図をダッシュボードに置いた。
○辻交差点を挟み南北方向に小さな赤丸、東西方向に点線の大きな赤丸。
「二人が歩くコース以外にも何か仕掛けがされてるって事ですね?この点線の丸印の中に。」
「ご名答。一体誰が、何のためにこんな事してるのかしらね?」
Sさんの眼に宿る強い光。ならこれはSさん自身の疑問でなく、俺へのテストだ。
「血や糞尿を使うのは、●▼の系統の術ではありふれた手法ですね。
この配置だとまるで結界ですが、まさか交差点に何かが?」
交差点、古くは「辻」。それは人と人ならぬ者達の通路が交わる場所にもなる。
古くから存在する交差点なら、妖怪や幽霊にまつわる伝承の1つや2つはあるだろう。
「封じているのは交差点でなく、歩道橋なの。」 「歩道橋って、一体何故?」
「『百聞は一見に如かず』よ。実際に見て貰ってから説明した方が早い。車を出して」

447 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:15:42 ID:Zs8Krqck0
 これは、まるで...
次に車を停めたバス停の名は『○辻』。件の歩道橋、階段から僅か十数mの距離。
一方通行の車道や歩行者専用道路も含めて7本もの道が交差している。
此の一帯の地名に『○辻』とつくことからしても、かなり古くから有る交差点だろう。
様々な方向から伸びる階段と通路で複雑に組み上げられた、大きな歩道橋。
その構造はまるで、大きなお社の土台のように見えた。
「見れば分かるって言ったけど。どう?何か感じる?」
「これは、まるでお社の土台みたいですね。古いお社の土台だけが残っているような。」
「そう、お見事。偶然でなく、お社の土台としての機能を果たすように造られてる。
設計段階から一族の術者が数名、関わったと聞いてるわ。」
「でも土台だけでは。それにこれじゃ、土台としての機能さえ。」
「お社はある。『見えない社』が。一夜の宿を取るために精霊や妖たちが造った社。
此の交差点で交わる道のうち2本は、人ならぬ者たちの通路と重なっている。
その道を行き来する者達が造った仮の宿、それがあの土台の上に建つ『見えない社』。
その社と社に繋がる通路を封じたのだから、相手の目的は想像がつく。」
「もう、相手の見当が付いているんですか?」
「断定する前に、実際にこの目で見ておかないとね。」
言うなりSさんは軽やかな身のこなしで助手席のドアをくぐった。バスは未だ始発前。
短時間ならこのまま車を停めても大丈夫だろう。急ぎ足でSさんの後を追った。

448 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:17:09 ID:Zs8Krqck0
 「確かに臭うわね。」 「はい、でもこの臭いは。」
階段を上り切った通路上に犬の糞らしいものが幾つか見える。多分小型犬。
しかしこの臭いはむしろお香のようで、極僅かな腐臭が混じっている。
通路の端、階段の降り口でSさんは立ち止まった。黙って隣に並ぶ。
階段の途中に無数の糞。これでは確かにウォーキングする気にはならないだろう。
「大体予想通り。他の場所の調査も必要だけど、あとは車で見て回るだけで十分だと思う。」
姫は妊娠八ヶ月を過ぎようとしている。臨月の近い体に負担はかけられない。
翠と藍は式に任せているが、出来るだけ早く帰りたいのは俺も同じ気持ちだった。

449 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:20:18 ID:Zs8Krqck0
 助手席のドアを閉め運転席に乗り込んだ瞬間、息を吞んだ。
バス停のすぐ脇、ガードレールに大きな白い蛇が巻き付いている。
こんな町中に白蛇なんて...神の眷属か、あるいは妖か。
どちらにしろこの世の者でないのは間違いない。
「Sさん、あれ。」
「仮の宿を求めてきたけれど、お社と通路が封じられているので困っているのね。
早く封を解かないと、精霊や妖たちの気が滞って人間にも悪い影響が出てしまう。
でも、相手が相手だからしっかり準備をしてからでないと。」
「やっぱり、相手の見当が付いているんですね?」俺はゆっくりと車を出した。
交差点の信号は赤、早朝の空は次第に明るさを増している。
「犬の糞以外の臭い、気がついた?」
「そういえばお香のような臭いと、それに微かな腐臭が。」
「そう、それだけで相手とその目的は推測できる。
他の場所を見て回れば、その推測が正しいかどうか分かると思う。あ。」
Sさんは俺の体越しに交差点の対岸側を見ている。
反射的に『鍵』をかけ、Sさんの視線を辿った。
対岸の階段上り口に黒いスポーツウエアの女性。細身で小柄、年の頃は30歳後半位か。
その足下に茶色の小型犬。信号が青に変わった。

450 『星灯(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:22:44 ID:Zs8Krqck0
 「まさか本人の姿が見られるなんて、まさしく天のお導きよね。」
Sさんの笑顔は優しかった。しかし、あの女性。
今まで関わってきた術者たちとは全く違う雰囲気が、その身体の周りに漂っていた。
「あの女性、今まで見てきた術者たちとは全く違いますよね。何故、ですか?」
「それも後でまとめて説明するけど今は調査が先。もうすぐ市営駐車場よ。
入り口近くの路肩に車を停めてね。」
「はい、了解です。」 「うん、良い返事。」 Sさんは俺の髪を優しく撫でた。

『星灯(上)』 了

451 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 00:28:16 ID:Zs8Krqck0
皆様、今晩は。再び藍です。
今夜は此処まで。お付き合い頂いた皆様、有り難う御座いました。
クリスマス前の完結を目指して頑張ります。
それでは失礼致します。

452 名無しさん :2014/12/11(木) 00:33:21 ID:hjpW5qZA0
夜分の投稿、お疲れさまです。
偶然、更新中に出くわし、早速読ませていただきました。
続きを楽しみにしています^^

453 名無しさん :2014/12/11(木) 10:54:15 ID:rBNkTN620
困ってる白蛇、なんかかわいい

454 名無しさん :2014/12/11(木) 20:27:24 ID:BQwmsNGAO
待ちに待った新章の開幕、本当にワクワクします。

455 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 20:54:43 ID:Zs8Krqck0
テスト中です。

456 『星灯(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 21:03:56 ID:Zs8Krqck0
『星灯(中)』

 「歩道橋を封じたあの術者は狗神使い。
呪殺を専門の生業とする術者で、古くは●太夫と呼ばれた。」
寝入った藍をそっとベビーベッドに寝かせた。Sさんの左隣、ソファに座る。
「犬を酷く苦しめて殺し、切り落としたその首を埋めて呪詛を行うという、あの、狗神ですか?」
「狗神使いが忌み嫌われるのは当然、だから趣味の悪い伝承が生まれたのも理解できる。
でも実際には、そんな術を使う術者はいない。狗神使いに限らず、ね。
そんな事して自分が無事に済む程の術者なら、そんな悪趣味な術を使う必要は無いもの。
大抵の場合、狗神使いは止むを得ない事情で狗神を体内に封じた術者。
それは禁呪の中でも、特に過酷な宿命を術者に背負わせる、悲しい術。」
Sさんは一旦言葉を切り、ホットワインを一口飲んだ。小さな溜息。
「人々に害をなす狗神、狗とは言うけれど犬とは限らない。
もとは人間への憎しみや恨みを抱いて死んだ動物の魂が悪霊に変化したもの。
その力が強過ぎて滅する事が出来ない時、狗神を術者の体内に封じることがある。
そうすれば狗神をコントロールして、犠牲を最小限に抑える事が出来るから。」
「狗神を封じた後なのに、犠牲が必要なんですか?」
「狗神の怒りと憎しみを鎮めるためには、贄を捧げる必要がある。
つまり術者が定期的に人を殺す以外に、狗神の封を維持する方法は無い。
ただ、封じた狗神への通路を開けば術者は狗神の力を利用できる。
だから、力の強さという点で言えば、狗神使いは一族でも最高位の術者とほぼ同格の筈。」
一族で最高位の術者と言う事は、例えば桃花の方様のような?
「それほどの力を持っていながら、どうして狗神を滅し...あ。」
「そう、狗神こそが術者の力の源、だから術者自身が体内の狗神を直接滅する方法は無い。」

457 『星灯(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 21:05:40 ID:Zs8Krqck0
 その身に狗神を封じ続けるために、定期的に人を殺し贄とする。
荒れ狂う祟りが無差別に奪う命の数よりも、贄となる命の数が有意に少ないのであれば、
その犠牲は、術者の呪殺という行為は正当化されるだろうか。
もし、俺がその立場だとしたら...しかも術者が自ら命を絶つことは許されない。
途中で止めれば、それまでの犠牲は無意味となり、さらに狗神を野に放つ結果となるだろう。
何よりも『皆を守るために次は誰を殺すか』という判断、とても俺には出来ない。
と言うより、それは普通の人間に許される判断では無い。
唯一、己の身を檻にして狗神の祟りを抑えている術者のみに許される、判断。
狗神使いが背負うという宿命。それがどれ程過酷なものなのか、朧気に見えてきた。
「だから狗神使いは呪殺を生業とするんですね。
せめて普通の人では無く、矯正の見込みの無い罪人や外法に手を染めた術者を。
その判断をする時の精神状態は、僕にはとても想像がつきませんが。」
「呪殺の報酬は高額だから、術者の生活基盤は保証されるけれど、
当然禁呪のペナルティーは術者の身体を蝕んでいく。
狗神使いの寿命は長くないし、一番の問題は術者の死とともに起こる狗神の移動。
術者が行き先を指定しない限り、それは術者の最も近い血縁に移動する。」

458 『星灯(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 21:07:41 ID:Zs8Krqck0
 俺の想像を超える過酷な宿命。本人だけで無く、子孫にもそれが伝わるなんて。
しかし滅することが出来ないのだから、封じ続ける以外にその祟りを抑える方法は無い。
「ある家系には8代かけて狗神の憎しみを薄め、ついにその祟りを消したという記録も有る。
でも、今の時代に狗神を引き受けようなんて奇特な術者がいる訳が無い。
無理にでも血縁に継がせるか、血縁を避けて赤の他人に押しつけるか。
ね、R君。あなたがその術者の立場ならどうする?無理矢理自分の子供に継がせる?
それとも自分の子供を守るために、赤の他人の術者を行き先に指定する?」
自分の子に過酷な宿命を負わせるのは忍びない。
しかし、だからといって赤の他人に押しつけるのは人としてどうだろう。
「分かりません。どちらも辛すぎます。でも、どうしてもというならむしろ僕は。」
「そう、きっとあの術者も私たちと同じ事を考えた。歩道橋の臭い、憶えてる?
あれは腐臭を隠すために焚き込めた香。身体の崩壊が始まってるのだから、もう時間が無い。
だから私たちを探すために罠を掛けた。それが、あの結界。」
「僕たちを探してるって...。」
「そう、あの術者の狙いは私たち。あの交差点を封じて人ならぬ者達の気が滞れば、
やがてあの一体で障りが出る。そうなればこの辺りを活動の場とする術者が黙っていない。
そう、考えたのね。つまり私たちを呼び出すのがあの術者の狙い。」
暫く忘れていた何か。そう、まるで古傷が疼くように、心の奥が痛む。

459 『星灯(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 21:08:34 ID:Zs8Krqck0
 「僕たちを呼び出して、どうするつもりなんでしょうね?」
「このお屋敷に移り住んで以来関わった仕事や事件は全て、
後の障りが出ないように処理してきた。完璧だったわ、ただ一つの例外を除いては。」
ああ、そうか。俺は病院のロビーに佇んでいた少女の、寂しげな横顔を思い出した。
少女の名は○村佳奈子、そして少女を養女にした女性の名は○村美枝子。
縁あって俺は美枝子さんに出会い、Sさんの助けを借りて彼女を苦しめていた術を解いた。
その件で最初に朧気な危惧を抱いたのは俺自身。
佳奈子ちゃんには実の母親の気配が全く感じられなかった。
離婚は九年前、実の母親の行方は分からず音信不通。
しかし、母親の子に対する想いが微塵も無く消滅するなどと言う事があるだろうか。
それを相談した時、Sさんは言葉を濁したが、その表情の翳りは後の憂いを示唆していた。
去年美枝子さんはSさんの従兄弟と結婚し、佳奈子ちゃんは夫婦の養子になっている。
美枝子さんが嫁いだのは遠い土地、そしてSさんは美枝子さんの御両親にも転居を強く勧めた。
それは全てこの日のためだったのだ。実の母親である術者が、この街に戻ってきた時、
佳奈子ちゃんの行き先を辿る手がかりが残っていないように。

460 『星灯(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 21:13:33 ID:Zs8Krqck0
 その日が来て欲しくない、その想いが俺の記憶を無意識の底に沈めていたのだろう。
しかしその日は来た。あの女性は佳奈子ちゃんの実の母親。10年ぶりにこの街に戻り、
娘の居場所を知るために、その痕跡を消した術者を探している。
「僕たちを呼び出して、佳奈子ちゃんの行方を知るつもりなんですね?」
「そう。自分の身を犠牲にして狗神を封じている術者からの呼び出し。
それを無視するのは一族の作法に反する。出来れば堂々と応じて始末を付けたい。」
「始末を付けるって...狗神はとても僕の手に負える相手じゃないし、Sさんだって。」
Sさんは俯いて暫く黙っていたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「もしあなたが行ってくれるなら、策はあるわ。
あの結界の中では此方の力がかなり削がれるけれど、あの短剣は結界の影響を受けない。
それにあなたの言葉なら、多分結界の中でも術者の心に届く。だから。」
相手を疑って立てる作戦よりも、信じて立てる作戦の方が遙かに難しい。
本当にあの術者は、俺と同じ答えを選択したのだろうか?
「あの術者が、僕たちとは別の答えを選択しているという可能性はありませんか?」
「誰か赤の他人に押しつけるつもりなら、ここまでして娘を探す必要はない。
娘に継がせるとしても、今からじゃ狗神を制御する術を教える時間が無い。
それなら残る答えは1つだけ、私たちと同じ。ただし、あなたの判断や感覚が最優先。
少しでも心が揺らげば、最悪の事態を招くから。」
「でも、このまま放置してその術者が死んだら、狗神は佳奈子ちゃんに移動するんですよね?」
「もし、術者が他の行き先を指定していなければ、当然そうなる。」
いや、それは駄目だ。やっと幸せを手に入れたばかりだというのに、更なる悲しみなんて。

461 『星灯(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 21:15:21 ID:Zs8Krqck0
 「美枝子さんに出会ったのが彼女との縁なら、今回の件は佳奈子ちゃんとの縁でしょう。
僕が行きます。どうすれば良いのか、教えて下さい。必ず、上手くやりますから。」
「簡単に言うと、あの結界の中で狗神を焼き尽くすの。もちろんあの短剣を使って。
もし失敗しても、あの剣でダメージを受けた状態なら、私が十分対応できる。」
「でも、術者が黙って僕たちの思惑通りになるでしょうか?」
「あなたの真の役目はそれ。狗神を滅することが私たちとあの術者の共通の願い。
狗神を滅し佳奈子ちゃんを助けるには、それが一番良い方法だと、説得して欲しいの。
多分『言の葉』の適性を持つ術者でなければ、この役目は担えない。」
「分かりました。やはりこれは、僕の仕事です。僕に、やらせて下さい。」
Sさんは俺の唇にキスをした。熱く、長いキス。
「きっと、そう言ってくれると思ってたわ。明日の朝から早速準備を進める。
そして明日の深夜、2時過ぎには始末をつける。準備は全て午前中で済ませて置くから。」
「そんな時間に相手が現れるんですか?一体どうやって?」
「相手は定期的に『罠』の状態を確認してるはず。だから歩道橋にこれを貼るの。」
SさんがラミネートしたA3の紙を数枚、テーブルの上に置いた。
『本日深夜歩道橋の大清掃を行います。午前2時〜4時、横断歩道をご利用下さい。担当者』
「さあ、あとは明日午後にでも打ち合わせすれば十分。
もうLの部屋へ戻って。Lも当然異変に気付いてる。不安は身体に毒だから、ね。」

『星灯(中)』 了

462 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/11(木) 21:18:52 ID:Zs8Krqck0
皆様今晩は、藍です。
今日、思わぬ休みを頂きましたので、少し頑張ってみました。
明日からはややこしいお仕事で留守となりますので、
次の投稿日時は未定です。気長にお待ち下さい。
それでは今夜はこれにて、有り難う御座いました。

463 けんぽん :2014/12/13(土) 02:17:06 ID:t0g9U3JM0
藍さま
知人さま

お忙しい中での書き込み有り難うございました!!

書き込みの間隔が暫く開いていたので、年内は諦めていましたが、思わぬクリスマスプレゼントを頂いたかの様な嬉しさです!!

今後とも宜しくお願い致します!!

寒さ厳しい折、お身体ご自愛下さいませ。

464 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 18:53:05 ID:9HL3f1e.0
テスト中です。

465 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 18:54:58 ID:9HL3f1e.0
『星灯(下)』

 眼が覚めた。目覚ましを確認する。午前一時丁度、予定通り。そっと身体を起こした。
「待ってます。ずっと、待ってますから。」 姫の、小さな声。
事情を詳しく話した訳ではないが、特に隠しもしなかった。
とても聡い人だから、隠せばかえって不安を大きくするだけ。
お腹の子の事を、今は一番に考えなければならない。誰より姫がそれを分かっている。
だから今夜の件について質問する事もなく、ただ『待っています』と。
背中を向けたままなのは、俺の心に迷いを生じさせないための心遣い。
そう、俺が迷えば姫の不安はさらに大きくなる。だが、大丈夫。
戦うのではない。準備は万端、Sさんとの打ち合わせも済んでいる。
「必ず無事に帰ります。起きていると身体に毒ですから、少しでも寝て下さいね。」
そう、上出来だ。まるで夜釣りに出かける時のように、軽やかに。

466 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:14:42 ID:9HL3f1e.0
 念のため、市営駐車場からさらに約200m離れたバス停に車を停めた。軽の四駆。
Sさんが運転席に移る。1時40分、此所からはSさんと別行動。俺は歩いて歩道橋に向かう。
「くれぐれも注意して。絶対に、焦っちゃ駄目よ。
結界を解く準備が出来次第此所へ戻る。それまでは何とか、時間を稼いで。」
「はい、世間話は大の得意ですから、任せて下さい。
それに佳奈子ちゃんの実の母親なら、きっと、凄く綺麗な女性ですよね?」
「馬鹿、私がどんな気持ちで...」 開いた窓越し、Sさんの唇にそっとキスをした。
「僕はSさんを信じてます。だからSさんも、僕を信じて下さい。」
Sさんは小さく頷き、ハンカチで目元を押さえた。
小さく手を振り、車を見送ってから歩き出す。

467 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:16:12 ID:9HL3f1e.0
 「何だこれ?夜中に大清掃って。」
「ああ、この歩道橋犬の糞が凄いからな。ようやく役所も腰を上げたんだろ。」
「おいおい、犬の糞を踏むなんて御免だぞ。」
「だから掃除するんだろ。ほら、横断歩道使えって書いてある。あっちだ。」
酔っ払いらしい男が二人。大声で話しながら横断歩道へ向かって歩いていく。足下が怪しい。
深夜2時前。古く、大きな交差点だが、新しい繁華街からは少し離れている。
遠ざかる男2人以外に人影は無く、車の往来もまばら。大きな歩道橋を見上げた。
深呼吸、階段に左足をかける。
『もし、若い御方。』 驚いたが、声に敵意はない。
振り向くと、白い着物の童子が立っていた。
正体は分からないが、何れにしろ人では無い、礼を尽くしておくべきだろう。
階段から足を下ろし、目礼。 「私に、何か御用ですか?」
『あなたを術者と見込んで頼みがあるのです。』
「はい、私に出来る事であれば。」

468 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:20:13 ID:9HL3f1e.0
 「この社を封じた術者には、私の朋輩も関わっています。
私はこの結界に入れません。しかしあなたが私の想いを携えて下さるなら、
私の声が朋輩に届くでしょう。どうか一言『その想いを携える』と。』
朋輩?あの時術者は小型犬を連れていたが、まさかあれが?
事情は分からないが、敵意が全く無いなら害にはなるまい。
それに、此所で時間を取られ、約束の時間に遅れるのはまずい。
「分かりました。あなたの想い、携えて中へ入ります。声が届くと良いですね。」
童子はにっこりと笑い、深く一礼して姿を消した。
振り返り、深呼吸。もう一度階段に足を掛ける。

 階段を上り切る直前、通路に人影が見えた。時計を見る、未だ2時7分前。
階段を上りきり、通路に踏み出す。小柄な女性。手摺に左手で頬杖をつき、夜景を見ている
地味なグレーのダウンジャケット、黒のジーンズに白いスニーカー。
ゆっくりと体の向きを変え、俺を見つめた。
右の瞳は白く濁り、右腕は力なく垂れている。右手だけに、黒い手袋
そして香木の甘い香りに混じる、微かな腐臭。間違いない、あの術者。

469 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:22:09 ID:9HL3f1e.0
 「今晩は。お待たせしたみたいで、申し訳有りません。」
女性は小さく首を傾げた。微かな、落胆の表情。
「やっぱり人違い、ね。優れた術者には違いないけど。あなたでは、この結界は解けない。」
女性はゆらりと踵を返した。首筋に鳥肌。正直、怖い。
『優れた術者』と言いながら、無防備な背中を晒し、俺を全く問題にしていない。
人の身の限界に近い力を備えた術者に共通する、強烈な自負。
おそらく狗神の力を使わずとも、一族有数の術者にも匹敵する力。しかし。
「人違いじゃ有りません。あの貼り紙をしたのは僕の師匠です。
今夜僕は師匠の名代として此処に来ました。」
女性が足を止め、ゆっくりと振り返る。
「それだけの力が有れば分かる筈。この結界を張った、私の力。あなたとの力の差。
それともあなた、死ぬのが怖くないの?」
悲しみと苦しみに凍り付いた、冷たい声。感情の欠片もこもってはいない。

470 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:23:51 ID:9HL3f1e.0
 「死ぬのは怖いですよ。大事な家族もいるし、それに近々もう一人子供が生まれます。
あ、このあと結婚するとか子供が生まれるって、映画や漫画だとフラグでしたっけ。」
「こんな時に軽口なんて...」
呆れたような表情、微かに女性の感情が動いたのを感じる。
「まあ、良い。あなたが死にたくないなら好都合。
知りたい事を教えてくれたらあなたは無事に帰れる。私も無理強いはしたくない。
なら、あなたと私の利害は一致してるという事よね?」
「何を、知りたいんですか?」
「娘の居所。10年ぶりに戻ってきたのに、居場所が全く辿れない。
娘の父親、離婚した元の夫が死んだのは分かったけど、その両親の居場所も辿れない。
住民票にも細工されてて転居先は出鱈目。術者が関わってるって、すぐに分かった。」
「だから此所に結界を張った。つまりその術者を呼び出すための罠です。」
「はぐらかさないで質問に答えて。もう、あまり時間がないから。」
「その子はある夫婦の養女になって幸せに暮らしてます。
だから居場所を教える訳にはいきません。
あなたに居場所を教えたら、最悪の場合あの子は死ぬ事になる。」
女性はじっと俺の眼を見つめた。

471 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:26:08 ID:9HL3f1e.0
 「あなた、一体何のために此所に来たの?
私を倒す力はない。なのに、わざわざ此所に来て、『教えられない。』と?
「それに『最悪の場合あの子が死ぬ』って、どういう意味?」
「確かにあなたを倒す力は有りません。だからこそ僕が来たんです。
もっと力の有る術者、例えば僕の師匠が此所に来たら、あなたは警戒して戦いに備える。
つまり『力の源』への通路を開いてしまう。それでは、困るんです。」
「面白いわね。『力の源』って、それが何なのかも知ってるの?」
「この規模の結界を張る力を術者に与える存在。あなたが結界を張った方法。
あなたに直接会って確信しました。あなたの『力の源』は、狗神です。
そして、あなたは恐らく、あの子を産んだ後にそれを体内に封じた。
いや、封じるより他に方法が無かったと言うべきでしょうね。そうなってしまったのなら、
もし僕がその立場でも、涙を飲んで我が子から離れます。それを滅する方法を探すために。」
「私の見立てが甘かったって事?もしも術でその経緯を知ったのなら、
今からでも最大限の警戒をしなければならない訳だけど。」
「冗談は止めて下さい。術では無く、師匠と話し合って予想したんです。
最初の手がかりはあの子の周りに残る気配。亡くなった父親の気配は残ってるのに、
母親の気配が全く感じられませんでした。幾ら何でもそれはおかしい。
愛していても憎んでいても気配は残る筈。敢えて気配を消したとしか思えない。
そんな事が出来るのは術者だけ。それで、師匠に相談したという訳です。
勿論その時点では、あなたがそれを体内に封じたことは知りませんでした。
しかし術者が自らの気配さえも消して娘と離れる程なら、間違いなく事態は深刻。
だから師匠は全ての手がかりを消しました。
将来その子の母親、つまりあなたが戻ってきた時のために。」

472 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:28:21 ID:9HL3f1e.0
 「良い師匠についているのね。だけどまだあなたが此所に来た目的が分からない。
『最悪の場合あの子が死ぬ』という理由も。面白い話だけど、そろそろ本題に入って。」
「狗神を体内に封じた術者には、呪殺を生業とする以外の選択肢がありません。
そして当然、呪殺は禁呪。そのペナルティーはあなたの身体を蝕み、命を削る。
だからその右眼も右腕も、それであなたは『時間が無い』と、そうですね?」
「そうよ。あなたの言う通り、私の身体はもう長くは保たない。だから、あの子を探してるの。」
「身体の崩壊が進み、あなたが死ねば、それは血脈を辿ってあの子の体内に入り込んでしまう。
だから、そうなる前にあなたはあの子を使って狗神を誘い出すつもりでしょう?
自分の体を離れたそれを、あなたが探し当てた術で滅するために。」
女性は小さく溜息をつき、淋しげな笑顔を浮かべた。
「そうよ、それもあなたの言う通り。だから、あの子の居場所を教えて。」
「それを誘い出したら、あなたの力は失われる。なのにどうやってそれを滅するんですか?」
「特殊な代を使って罠を掛ける。それが私の体を出たら術が発動するようにしておけば良い。」
「あなたの力が及ばなければ、術は失敗する。つまり狗神はあの子の体に入り込む。
だから失敗した時のために、2つめの罠を掛ける必要が有りますね。
もし狗神があの子の中に入り込んだら、あの子の身体ごとそれを滅する術。」
長い沈黙、それはSさんと俺の予想が正しかったことを示している。
そして、恐らく2つめの罠こそが、この女性の切り札。

473 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:29:22 ID:9HL3f1e.0
 『呪殺者は仕事に一切の私情を挟んではならない。』
昨夜、Sさんはそう言った。
『私情を挟めば、禁呪でなく外法に堕ちてしまうから。』と。
術者が自ら体内の狗神を滅する方法は無く、
通常の術では狗神使いを殺せても狗神を滅することは出来ない。
チャンスが有るとすれば術者から狗神が離れて移動する時だけ。
つまり術者の身体の崩壊が進みその命が尽きた直後。
そして、術を使えない人間の体に移動した直後の狗神は、十分な力を発揮できない。だから。
勿論赤の他人を行き先に指定し、同じ罠を仕掛ける手もある。
しかし、自分の血縁を助けるために他人を犠牲にするのは私情。つまり外法。
『術者が呪殺者としての矜持を守って狗神を滅するなら、
人生最後の仕事の対象に、赤の他人では無く血縁を選ぶ。』
それがSさんと俺が出した答え。そして、やはりこの女性の答えも同じ。
それならきっと分かってくれる。黙ったままの女性に、精一杯の想いを込めて問いかけた。
『心ならずも呪殺者になったけれど、最後まで術者としての誇りは捨てない。
血縁を助けるために私情を挟めば、今まで殺した人々の魂に顔向けできない。
その想いは理解できます。でも、自分の娘の幸せを願う気持ちも、母親の想いでしょう?』
「...それを滅する方法が他にないのだから、仕方ない。」
「他に方法が有ると言ったら、信じてくれますか?」

474 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:31:32 ID:9HL3f1e.0
 「十年近く、故郷で手がかりを探し回って、
可能性の有りそうな術を1つ見つけるのがやっとだった。
いきなりそんな事言われても、只の夢物語。とても信じられない。」
俺は背中のリュックを下ろし、中から短剣を取り出した。
「抜かなければ骨董品の短剣。しかしこれは神器、ある神様から授かったものです。」
これなら多分狗神を焼き尽くすことが出来る。しかも、この結界はお誂え向き。
為損じても狗神は深手を負うし、しかも結界を出られない。後は師匠に任せれば万全。」
「一切の術を使わず、その剣をこの身体で受けろって事?」
「あなたはあの子と一緒に死ぬ気だった。僕はあなたの覚悟を、信じます。」
「信じる?この、私を?」
女性は喉の奥で笑った後、咽せて咳き込んだ。左手の中指で両の目尻を拭う。
力なく垂れた右腕は、やはりピクリとも動かない。
「依頼主でさえ忌み嫌う、狗神憑きの呪殺師。
そんな人間を、信じるなんて。今まで、そんなこと誰も。」
「それは違う。忘れたんですか?あの人は、『健一』さんはそう言った筈です。
『あなたを信じる。此処へ帰ってきてくれる日を、何時まででも待つ。』と。
離婚して健一さんと佳奈子ちゃんから離れ、それを滅する方法を探すと決めた時に。」
「...さすがに、そんな事まで予想するのは無理よね?どういうこと?
10年前この街に術者は一人も居なかったし、健一と接点がある歳にも見えない。」
「健一さんの妹さんから聞いた話を手がかりにして、予想しました。
健一さんが妹さんに残した式が佳奈子ちゃんに危害を加えるようになって、
僕が妹さんから相談を受けたんです。実際に式を始末したのは僕の師匠ですが。」

475 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:33:06 ID:9HL3f1e.0
 「そう、じゃあ師匠に良くお礼を言って置いて。『お陰で心残りが1つ消えた。』って。
あれは、健一が初めて作った式。私の予想より半年以上も早かったわ。
優柔不断でイライラさせられることも有ったけど、とても優秀な弟子だった。」
「妹さんとの関係、その推移を知っていながら、健一さんと結婚して佳奈子ちゃんを産んだ。
それはあなたが健一さんを、いいえ、あなたと健一さんが愛し合っていたからですよね?」
女性は俺から視線を逸らし、夜景を見下ろした。
ゆっくりと左腕を伸ばし、人差し指で指し示したのは南西の方角。
「あの辺り、小さな花屋でバイトしてた事がある。この街に来てから2年位。
私は、一族で最後の術者だと言われて育ったし、自分でもそのつもりだった。
何時か術者を辞めて、花屋を開くのが夢だったの。可笑しいでしょ?」
「全然可笑しくありません。僕も、僕の師匠も、術者を辞めた後の事を考えています。」
「故郷を離れてこの町に来て、バイトしてた花屋であの人と出会った。
発現しかかった力と、それを制御できない不安に耐えかねて崩壊寸前の心。
あまりに痛々しくて、だから思わず声を掛けて...それから、術を教えるようになった。
妹への想いにも気付いたけれど、それが間違っているとは言えなかった。」
「その時にはもう、あなたは健一さんを愛してた。だから言えなかったんです。
自分の想いを遂げる為に、妹さんを誹謗していると思われるのを恐れたから。」
「健一も自分の想いの過ちに気付いてた。だから急ぐ必要はないと思ってたの。
結婚して、子供が産まれて。自然に、ゆっくりと妹との関係も変化していけば良いって。
でも、そうはならなかった。狗神に、出会ってしまったから。」

476 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:34:45 ID:9HL3f1e.0
 「あの子を産んだ後の、最初の依頼だったわ。深い山の中の、古い小さな集落。
小さな男の子に憑依していた動物霊を祓った事で、狗神の封印が解けてしまった。
多分その男の子は狗神の封を維持する為の代になる筈だったのね。
でも何かの手違いか事故で、その事情が伝承されていなかった。それに...。」
女性は言葉を切り、淋しそうな笑顔を浮かべた。
「動物霊の力が弱かったから、私も事前に深くは調べなかった。
早く仕事を済ませて、あの子の所に帰ろうと、そればかり考えて。
もし調べていても、気付いたかどうかは分からないけど。」
思わず涙が零れた。息を詰めて嗚咽をこらえる。
代となる運命だった男の子を救い、その集落に伝わる古い祟りをその身に引き受けた。
それなのに...術者としての覚悟の1つとはいえ、あまりに過酷な運命ではないか。
「右腕の感覚は無いし、ほとんど動かないから粗い術しか使えない。
濁った右眼で見えるのは、私が殺した人間たちの、憎しみに歪んだ顔だけ。
それでも私のために泣いてくれる人がいるだけで、体中の痛みが少し和らぐ。
良い夜だわ。そして、その短剣で狗神を滅する事が出来るなら、最高の夜になる。
あなたと話していると心が和むけど、やっぱりこの痛みを早く終わらせたい。
さあ、その剣を。私はどうすれば良いの?」

477 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:35:57 ID:9HL3f1e.0
 「僕も経験があるので、一応言っておきますが。」 「何?」
「目茶苦茶痛いですよ。でも絶対に術を、使わないで下さいね。僕は死にたくないので。」
小さいけれど、明るい笑い声。女性の表情は見違える程に柔らかくなっていた。
「あなた、『言霊使い』なのね。道理で素直に話を聞く気になれた訳だわ。
そうね、じゃあなるべく早く終わらせて。痛みを感じる時間が少なくて済むように。」
「分かりました。」 涙を拭い、短剣を握った。左手で鞘、右手で柄。
そう、なるべく短時間で。胸の中央よりやや右、心臓の位置に見当をつける。
深呼吸。

478 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:41:43 ID:9HL3f1e.0
 『お待ち下さい。』
俺のすぐ前、やや右寄りに童子の姿。白い着物、これは結界に入る前の。
『願いを了承して頂きましたが、それでもこの中へ入るのは相当な手間で...
もう間に合わないと覚悟したところでした。』
俺の前で両手を広げた童子の眼には、一杯の涙が溜まっていた。
「あなたは先ほどの。」
『はい。あなたのお陰で、ようやく此所へ入り、そして、とうとう探し当てました。
もう200年も前に生き別れた、私の、弟を。』
女性は呆気に取られた表情で童子を見つめている。
「あの、一体どういう事ですか?」
『この御方の中に封じられているのは私の弟です。
人への憎悪と怒りに血迷い、悪鬼の如き姿に成り果てましたが、滅するのは余りに不憫。
どうかその剣を使うことだけは、お許し下さい。」
「しかしこのままでは。」
『私にお任せを。これまで、憎悪に狂った弟に私の言葉は届きませんでした。
しかし今夜は、あなたの『呪』が力を添えて下さいます。私の言葉もきっと、届く筈。』
童子はゆっくりと向きを変え、女性の正面に立った。
俺の『呪』?一体どういう事だ?

479 『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:43:38 ID:9HL3f1e.0
 『●風丸、起きろ。私の声が聞こえるだろう。さあ、眼を覚ませ。』
そうか、『狗神』もあくまで通称、直接呼びかけるには真の名を。
小さく呻いて、女性が両膝を着いた。 まずい。狗神が眼を覚ましたら俺の手には負えない。
思わず短剣を抜こうとした俺の右腕を、温かい手が背後から止めた。
「駄目、待って。」 耳元で囁く声。すい、と俺の右隣に立ったのはSさん。
小声で何事か呟くと、夜景に存在感が戻ってきた。
続いて足下、乾涸らびた犬の糞が青い炎に包まれる。結界を解いたとしたら、もう狗神を。
唸り声。獣が敵を威嚇するような、太く低い声が空気を震わせた。
『そう、御前の怒りは尤もだ。しかし御前が憎んだ人間たちの血筋はとうに絶え果て、
今の御前はただ、何の関わりも無い人間たちを苦しめているだけ。
そして、人間の身体を渡り歩く内に、人間の深く温かい情に触れ、
御前の憎しみの形はぼやけている。最早誰を、何故憎んだのかも憶えているまい。
もう十分だ、全てを忘れ共に森へ帰ろう。我らが故郷、○×原の、あの懐かしい森へ。』
女性の身体が通路に頽れると同時に、大きな白い影が眼に入った。
並んで立つ、巨大な体躯。四つ足の白い獣。 犬? いやこの大きさは、きっと狼。
「本当に有り難う御座いました。私たちは取るに足らぬ、卑しい存在ではありますが、
あなたが私たちに徳を施した事を、護り神様はきっと、お喜びになりますよ。では、これで。」
次の瞬間、二つの白い影は消えた。すぐに駆け寄り、女性を抱き起こす。
近づけた頬にかかる、絶え絶えの吐息。もしかしたら。
「まだ、息があります。」
「狗神が自分から離れていったから、肉体の急激な崩壊は免れた。でも急がないと。
早く運んで頂戴。車はすぐ其処のバス停。車の中で病院と、それから『上』に電話する。」

『星灯(下)』 了

480 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:46:40 ID:9HL3f1e.0
『星灯(結)』

 エレベーターのドアを出て十数歩。
東病棟に繋がる廊下の入り口で、少女は足を止めた。
黙って少し俯いた横顔、俺の左手を握る右手に力が篭もる。
面会直前、少女の心は激しく動揺していた。 胸の奥が、痛い。
「佳奈子ちゃん、大丈夫?やっぱり怖い、かな?」
死期の迫った病人、しかも見ず知らずの女性を訪ねるのだから怖くて当たり前だ。
「怖いって言うより...ううん、大丈夫。Rさんがずっと一緒に居てくれるんでしょ?」
細い体をそっと抱き寄せた。「そう、ずっと一緒。心配しないで。」
焦る必要など無い。そのまま、少女の心が静まるのを待つ。
暫くして、少女は大きく深呼吸をした。顔を上げて俺を見詰める、綺麗な瞳。
「もう大丈夫?」 少女は小さく、しかししっかりと頷いた。
「じゃ、行こうか。」 「はい。」

481 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:47:55 ID:9HL3f1e.0
 これから面会するのは少女の実の母親。恐らく、これが今生の別れとなる。
此処は市内の大学病院。一族の人が運営に関わっていて、最高の体制を整えてくれた。
しかし、力の源である狗神が離れれば術者の体はその場で完全に崩壊するのが道理。
狗神が穏やかに離れていく特殊なケースだったから、それは免れた。
とは言え、女性の体の崩壊を止める方法は無い。残された僅かな猶予。
専門の術者が数名、なんとか女性の命を支えている。
それは全てこの面会を実現する準備を調えるため。
しかし。
『保って二・三日。』 それが主治医の見立て。だから今日、急遽この病院を訪れた。
もちろん少女に全ての事情を伝えた訳ではない。 半分の事実、半分の方便。
『少女との面会を望んでいるのは、少女の父親の姉。つまり伯母。
少女に取り憑いた妖怪を祓うために力を尽くして来たが、及ばずに体を壊した。
もう長くは生きられないから、最後に一目、姪に会いたいという希望を叶える。』
それが俺の書いた筋書き。少女の養母、美枝子さんも同行を望んだけれど、
身重の体を心配したSさんがそれを止めた。今はお屋敷で少女の帰りを待っている。
少女を支え面会を成功させる事。俺に与えられた、誇りある任務

482 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:48:46 ID:9HL3f1e.0
 ドアをノックして数秒、小さく応じた声を確認してドアノブに手を掛ける。
先にドアをくぐり、女性に一礼。その後で少女を病室に招き入れた。
少女の背中にそっと手を添え、ベッドの傍らに立つ。
ベッドを操作して少し体を起こした女性は、瀕死の状態とは思えないほど美しい。
Sさんが手配した専門家達が、朝から丁寧に化粧を施した。
壊死が進み既に切断した右腕は病衣と掛け布団で隠しているし、
右の義眼も言われなければ分かるまい。娘の前では綺麗でいたいという、その女性の想い。

483 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 19:49:59 ID:9HL3f1e.0
 見つめ合う女性と少女。病室を満たす、穏やかな空気。
「来てくれて、有り難う。どうしても一目だけ、会いたかったから。御免ね。」
少女は俯いて唇を噛んだが、やがて意を決したように顔を上げた。頬を伝う、涙?
「私、あなたが本当は誰なのか知ってます。」
!? どういう事だ? 俺の筋書きは。
「私の、もう一人のお母さん。私を産んでくれた人。
私に取り憑いた妖怪を引き離すために、私と離れて凄く頑張ってくれた。
でも、上手く行かなくて、もう体が...お母さんが教えてくれたんです。」
そうか、美枝子さんが。 真の愛情の前では、俺の小細工など無意味。
少女は床に両膝を着いて女性の左手に両手を添えた。
「私、全然知らなくて。だから、御免なさい。私のために、こんな...。」
「たった一人の血縁の為に、出来るだけの事をするのはあたりまえの事。気に病む必要は無い。
それに、私はあなたの母親なんかじゃない。あなたの母親は一人だけ。」
「でも。」
「あなたが元気で幸せなら、それで良い。さあ、もう帰って。少し、疲れたわ。」
女性は左手で少女を促した。立ち上がった少女の肩を抱く。
「また、来ます。きっと、Rさんに、また連れてきてもらいますから。」
女性は眼を閉じ、小さく首を振った。

484 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 20:59:37 ID:9HL3f1e.0
 二人、黙ったまま廊下を歩く。少女は時々涙を拭った。
何と声を掛ければ良いのか分からない。俺の適性こそ、『言の葉』なのに。
ただしっかりと、少女と手を繋ぐ。情けないが、それが今俺に出来る全て。
エレベーター、開いたドアをくぐる。ボタンを押し、ドアが閉じた後の軽い浮遊感。
一瞬体の重みが増した感覚の後、エレベーターのドアが開く。一階のロビー。
「あ!」 俯いたままドアをくぐった少女が誰かにぶつかってよろめいた。
「御免なさい。私。」
その人はすっと屈んで少女の肩を抱いた。
『まるで大小二つの綺羅星。二人とも、立派だったな。後は任せろ。心配は要らぬ。』
立ち上がり、その人はエレベーターの中へ。俺は吸い込まれるように振り向いた。
紺のジーンズとクリーム色のパーカー。長い髪。若い女性の後ろ姿。これは、あの港で。
反射的に深く礼をしたまま、エレベーターのドアが閉じるのを待つ。

485 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 21:01:07 ID:9HL3f1e.0
 「Rさん、あのお姉さんは誰?」
「佳奈子ちゃん、声が聞こえた?あの御方の?」
「うん。聞こえたよ。どうして?」 少し怪訝な表情。
「あの御方は人間じゃない。守り神、そう、僕達の守り神様なんだ。」
「守り神様?じゃあ。」 少女の縋るような瞳。思わずその体を抱き上げた。
そのまま歩き出す。今は無理、視線を合わせられない。合わせたら、きっと涙が。
抱っこして歩くには大き過ぎる少女。すれ違う人々から感じる好奇の視線。でも、構わない。
「Rさん?」
「とても強い術を使って体が壊れると、術者の魂は天国へ行けない。その話も聞いた?」
「ううん、それは...聞いてない。」
「強い術を使って壊れた体は治せない。たとえどんな方法を使っても、どんな御方でも。」
「でも、守り神様なら。」
「そう、だからあの人の魂は救われる。今度生まれたらきっと、幸せな人生を送れるよ。」

 少女が両腕を俺の首から背中に回し、右肩に顔を埋めた。漏れる嗚咽。
母2人に似て聡い少女は、あの御方が今日此処に現れた意味を理解した。
中学生になったばかりの少女には、あまりにも酷過ぎる現実。
しかし、知ってしまった以上、半端な方便は毒にしかならない。
この少女を、我が子を愛しつつ、最後まで術者として生き抜いた女性。
その覚悟を、知って欲しかった。

486 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 21:02:13 ID:9HL3f1e.0
 病院の駐車場、入り口の階段に差し掛かった時、少女が顔を上げた。
「Rさん。」 「何?どうしかした?」
「ちゃんと私の目を見て。大事な、お話だから。」
立ち止まり、深呼吸を1つ。覚悟を決めて少女と視線を合わせる。
「あのね。私、術者になる。お母さんと一緒に修行して、きっと何時か、術者になる。」
「どうして?折角恐ろしい妖怪から逃れて、みんな佳奈子ちゃんの幸せを願ってるのに?」
「新しいおばあちゃんが教えてくれたの。私にも『力』があるって。
もし本当に『力』があるなら、術者になる。
今までたくさんの人に助けられたから、今度は私が、誰かを助けたい。
それにもしかしたら、あの人の生まれ変わりに、出会えるかもしれないでしょ?」
涙に濡れた、しかし強い強い意志を秘めた瞳。背負った悲しみの重さが
少女をここまで強くしたのだから、全ての想いにそれぞれの意味があったのだろう。
少女の実の父と母、そして養母。連なった強い想いが時を越えて今、小さな綺羅星を生んだ。
それはやがて大きく成長し、いつかきっと強い光を放つ。
そして、魂の旅路に迷う人々の心を明るく照らすだろう。
「そう。それなら大丈夫。きっと佳奈子ちゃんは強い術者になる。
何時か必ず、困ってる人たちを助ける事が出来るよ。」
「本当にそう思う?」 「うん、間違いない。ちゃんと修行すれば大丈夫。」

487 『星灯(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 21:12:28 ID:9HL3f1e.0
 季節外れの少し暖かい風が、少女と俺を包んでいる。
小春日和。その名残の日差しは、俺と少女の心を温める熱を宿していた。
回り込み、助手席のドアを開ける。
「どうぞ、未来の術者様。」 「有り難う。」 はにかんだような、少女の笑顔。
もちろん俺自身の手柄ではない。ただ、この任務が成功したことが素直に嬉しい。
そう、この少女が元気で幸せなら、それで良い。ゆっくりと、車を出した。

『星灯』 完

488 『藍 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/20(土) 21:14:47 ID:9HL3f1e.0
 皆様今晩は、藍です。
本日戻り、何とかクリスマス前に『星灯』の投稿を終える事が出来ました。
ちょっと疲れているので本日はこれで。申し訳有りません。

489 名無しさん :2014/12/21(日) 02:06:06 ID:F3jT8Z/U0
 
 Rさんを起点に、親子の愛と兄弟の愛が交錯し、そこに守り神の愛が注がれる。
 藍さん、知人さん、日本のクリスマスにふさわしいプレゼントをありがとうございました。
 それにしても泉さん、かっこよすぎて萌えます・・・。

490 名無しさん :2014/12/22(月) 07:09:39 ID:Eb2gphdkO
過酷な運命を生きた女性が最後に報われて良かったです。ありがとうございました!

491 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/22(月) 19:44:12 ID:/KZWGTik0
皆様今晩は、藍です。

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>>453
>>454
>>463
>>489
>>490

温かいコメントの数々、心より感謝申し上げます。
個別の返信は控えさせて頂きますが、全て有り難く拝読しております。
読んで、楽しんで下さる方々がいるのだと思えば、投稿も苦になりません。
そんな皆様に、もう1つクリスマスプレゼントを用意できないか、
知人と相談中です。上手く行けば、イブにでも。
では、今夜はこれにて。有り難う御座いました。

492 けんぽん :2014/12/24(水) 00:52:31 ID:w8Y4XFZk0
藍さま
知人さま

年末のお忙しい時期に、素敵なお話を有り難うございました。

もう一つのお話を拝読させて頂ければ最高ですが、呉々も無理なさらないで下さい。

これからも末長く宜しくお願い致します。

493 名無しさん :2014/12/24(水) 17:25:43 ID:.gWxCsg60
全俺が泣いた。

494 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:17:11 ID:wTxJbg5A0
テスト中です。

495 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:19:33 ID:wTxJbg5A0
皆様今晩は、藍です。
何とか作業が間に合ったので、皆様に心ばかりのクリスマスプレゼントを。
以下、『聖夜』。お楽しみ頂ければ幸いです。

496 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:23:15 ID:wTxJbg5A0
『聖夜』

 『私、そんな事聞いてない。ただ食事して、カラオケするだけだって。』
『幾ら何でもそんな訳無いだろ〜。金は2倍出す約束だし。良いだろ、な?』
『細かい事は良いから、行こうぜ。気分が良くなる○×も有るから。』
『嫌。止めて、っ!』
妙な胸騒ぎ。流れ込む思考と感情に、やはり反応してしまう。もう時間が無いのに...。
だがこれを無視したら、俺は何の為に術者をやっているのか判らなくなる。
やはり、放っては置けない。女の子の記憶、映像を逆に辿った。
連れて行かれたのは路地裏、ラブホテルの前。あれだ。
ビルの隙間に見えたのは男の背中が2つ。 深呼吸、下腹に力を込める。
『何だ。恵子、此処に居たのか?探したぞ〜。』 男達が振り向く。
そう、出来るだけ人の良さそうな笑顔。 Sさんにはいつも演技派だと褒められてるんだから。
『あれ?この娘が何かご迷惑でも?申し訳有りませんが、もう10時過ぎますし、この娘は高校生。
出来れば続きは明日警察で。○×署には知り合いが居ますから、なるべく穏便に。』
名刺を差し出した右手を撥ねのけて、男達は俺の脇をすり抜けた。呪詛の声と舌打ちの音。
ケイタイを取り出し、馴染みの運転手に掛けてみる...繋がった。
キリスト教の信者ではないが、これが聖夜の奇跡か。遅刻は最小限で済みそうだ。
「今タクシーを呼んだから、乗って帰って。来るまで此処に居るし、料金は俺が持つ。」
背中を向けたまま、必要事項だけを喋る。
今すぐに、他人と話す気分じゃ無いだろう。制服の乱れを直す間も。

497 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:24:53 ID:wTxJbg5A0
 「私、あなたみたいな人って大っ嫌い。自信過剰で、いい人ぶって。」
ああ、やっぱり。最初の予感は正しかった。遅刻間違いなしで頑張ってるのに、この扱い。
「どうせ、人助けしてやったって自己満足してるんでしょ?気持ち良い?」
歪んでるなぁ。 やっぱり瑞紀さんは自分の気持ちに正直、ストレートで可愛かったんだね。
「あ〜あ。『どうして私の名前知ってるの?』って聞かれると思ってたんだけどな。」
「あ...どうして?」 少女が纏っていた固い鎧が少し緩んだ。一体どんな事情が。
「俺、魔法使いなの。パーティーに行く途中だったのに、こんな事して。完全に遅刻だな。」
「御免なさい。私、さっきは少し。」
「良いよ。君の事情は聞かない、俺も名告らない。タクシーが来るまでの縁、だから。」
背後で気配が動く。次の瞬間、夜目にも可愛い顔が目の前に浮かんだ。
「私、○本恵子。助けてくれて、アリガト。」
色々事情が有りそうだが、聞けば深入りする事になる。もう、既に遅刻なのだ。
その時、妙なモノに気付いた。少女の右肩。ゴキブリのような、クモのような。
いや、それではゴキブリとクモに失礼だ。これは紛れもなく人間の、おぞましい生霊。
これが、この少女を歪ませている元凶。

498 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:26:35 ID:wTxJbg5A0
 全速で感覚を拡張し、目の前の生き霊にチャンネルを合わせる。流れ込む、思考。
『一度売らせて汚したら、あとは俺の女に。全部、●枝が死んだのが悪いんだ。』
込み上げる吐き気、もう十分。およそ聖夜にふさわしくない下衆。しかも、継父?
恐らく本体は自宅で酔い潰れ、下卑た夢に溺れているのだろう。
「嫌いなタイプの人間にお礼が言えるなんて偉いね。因みにどんなタイプがお好み?」
「あなたより少し、ううん、もっと年上の人。」
時間を稼ごうとしただけで、答えなんて期待してないのに。何で真っ直ぐに答えるかな。
でもまあ、この『間』は有効利用させて貰おう。深く息を吸い、下腹に力を入れる。
「あ、ちょっと待って。虫、かな?右肩、動かないで。」 少女は不安げな顔で身を竦ませた。
心の中で言葉を練る。練った言葉を血流に乗せて左手、薬指に送り込む。
親指で止めたままの薬指に、力を込めた。そのまま左手を少女の右肩へ。
少女が不安げに、横目で俺の左手を見詰めている。 しっかりと狙いを定めた。
もし生き霊を滅すれば本体の深刻なダメージは免れない。
本来コイツは問答無用、幾ら何でも自分の娘を。しかし、今夜は聖夜。
滅するのではなく、本体の悪意が本体のダメージとして帰るように。
親指の力を抜いた。
『散れ!』
ソレは派手に弾けた後、その輪郭を失い霧消した。微かな呻き声。

499 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:28:09 ID:wTxJbg5A0
 「あれ?見間違いかな、暗いから。確かに何かいたと思ったんだけどね。」
「でも、何だか肩が軽くなった。さっきまで首も痛かったのに。最近、ずっと。」
「ところで、俺より年上の方が好みって言ったよね?」
「それは、そうだけど。」
あの生き霊。これ以上詳しい事情を知る気はないが、置かれた環境の中でこの娘は
無意識に『父親』を、安心して身を任せ心休める場所を求めて続けて来たのだろう。それなら。
「確か45歳、奥さんに先立たれたオジサマとかどう?
君の話をしっかり聞いてくれる筈。渋い感じの、いい男なんだ。」
少女は俯いて唇を噛んだ。
「その人も、さっきの男達と同じ? やっぱり私、そんな風に見える?」
「違うよ。その人は警察の、署長さんだからね。家に帰りたくない君を保護してくれる。
だけど、その人は俺の大事な先輩、いきなり『あなたみたいな人大嫌い』は困るんだ。」
「分かった。その人に会わせて。全部話すから。このまま家に帰ったら、私。」
多分これぞ天の配剤、近付いてきた馴染みのタクシーに右手を挙げた。

500 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:31:06 ID:wTxJbg5A0
 「安さん。事情が有って、このお姫様を榊さんの所にお送りしなきゃならない。
榊さんたちは今夜忘年会、○△ホテル。今からだとどの位掛かるかな?」
「この時間だと道も少し空いてきてるけど、まあ22〜23分、2000円って所ですかね。」
「じゃあ20分以内で3000円、もし15分切ったら5000円、どう?ただし安全運転で。」
「毎度っ!5000円札はお持ちでしょうね?」
とても小さいとは言えない車体が魔法のように細い路地を抜けていく。
「有り難う御座いました〜。」 「助かったよ。また頼むね。」
上機嫌で5000円札を受け取った安さんに声を掛け、タクシーを降りた。
続いて降りてきた少女の全身を注意深く観察する。
大丈夫、さっきのアレはもう見当たらない。執着が強いと一度では祓えない事も多いのだが。
加減したつもりだが、つい力が入り過ぎたかも知れない。
しかし、それで本体が深刻なダメージを受けたとしても、良心の呵責は感じない。

501 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:34:09 ID:wTxJbg5A0
 宴会場の入り口、既に賑やかな声が聞こえている。
スタッフが開けてくれたドアを2人でくぐり、少女に声を掛けた。
「此処で待ってて。まず榊さんに話してくる。」
勿論部屋中が俺と少女に気付いている。しかし黙り込んで俺たちを見詰める粗忽者は居ない。
「おやおや、何の冗談かと思ったら、ホントに女子高生とは。一体どんな事情だい?」
「『売り』をさせられる寸前で保護しました。」 「組織が絡んでる?」
「いえ、母親の再婚相手です。母親が亡くなってから生活が荒れて。汚した後で自分が、と。」
俯いていた榊さんが顔を上げた。『万事心得た』という、いつもの笑顔。
振り向いて少女に手招きをした。おずおずと、頼りなげな足取り。
「榊さんに保護してもらおうと思って連れて来たんです。ほら、自己紹介。」
「○本、恵子です。さっき、Rさんに助けてもらって。それで、此処なら保護してくれる人が。」
「外は寒かったろ。こんなに怯えて、可哀相に。でも、もう大丈夫。」
嗚咽。榊さんの柔らかな雰囲気で、張り詰めていた気が緩んだのだろう。
「恵子ちゃん。R君に出会ったんだから、君は本当に幸運だよ。泣かなくても良い。
俺は榊健太郎。君が望むなら、君を保護する。婦警さんの方が話をしやすいかな?」

502 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:36:44 ID:wTxJbg5A0
 「年上のオジサマの方が安心出来るみたいですよ。話を聞いてあげて下さい。」
その時、低くくぐもった音が響いた。その娘が真っ赤に頬を染めている。
「御免なさい。昨日から何も、食べて無くて。」
確かに、座敷を満たす料理の、良い匂い。
「もうその娘の身は安全なんだから、話を聞くのは明日でも良いでしょ?
取り敢えずお腹いっぱい食べて貰った後で考えれば良い。ね、榊さん?」
Sさんの笑顔。榊さんの両隣に座っていた青年2人は既に移動を開始していた。
さすがチーム榊、見事なチームワークだ。これこそが人の心。
キリスト教徒でなくても、最高の夜。 翠を抱いたSさんの笑顔はとても温かい。
「そうだな。恵子ちゃん、ほら、座って。そう、此処の料理は本当に美味いから。
まずはどれが良い?あ、それ?じゃ、取って上げよう。飲み物は何が良い?」
肩を寄せた2人の後ろ姿はまるで親子。本当に微笑ましい。
数歩歩いて、少し離れた席に座る。座布団の上で寝ている藍の頭を撫でた。

503 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:39:57 ID:wTxJbg5A0
 「やっぱり少し遅刻しちゃいましたね。ややこしい仕事だと分かっていたので
心積もりはしてたんですけど、それでも思ったよりずっと時間がかかって。」
姫は優しく微笑んで俺のグラスに白ワインを注いだ。
「お仕事が1つ増えたんですから、時間がかかるのは仕方有りません。
ご苦労様でした。上手くいって、本当に良かった。」
「仕事が1つ増えたって、一体何の事ですか?それに、『良かった』って?」
危険ではないが滅茶苦茶ややこしくて、どちらかというと救いの無い仕事だったのだが。
「あの娘です。きっと今夜の事は偶然じゃ有りません。
今夜あの娘を榊さんに引き合わせる、それがRさんのもう1つのお仕事だったんですよ。
もうあんな風に打ち解けて、きっと二人の間には深い縁があるんです。それに。」
姫は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「それに、あんな可愛い娘の面倒を見てたら、
当分は榊さんも『Rちゃんに会いたい』なんて言いませんよ。」
確かにそれなら『良かった』という事になるのだが、もしそうだとしたら。

504 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:42:27 ID:wTxJbg5A0
 渋滞を嫌って歩きを選択したのも、普段通らない近道を選んだのも、
俺自身の意思ではなく、あらかじめ約束されていた必然だったって事?
「そう、その通り。これで榊家の跡取りが生まれたりしたら、
あなたは榊家の全員から感謝されるわね。」
思わず少し、白ワインを吹いた。
「ご、御免なさい...ええっと、跡取りって事は、その。でも、年の差が、かなり。」
「榊さんは26歳の時に結婚して、翌年奥さんが亡くなったと聞いた。
不治の病だと分かっていたけど、榊さんが周りの反対を押し切ったって。
だとしたら丁度、18年前よね。」
Sさんはグラス半分ほどの赤ワインを一口で飲み干した、穏やかな笑顔。
赤ワインの瓶を取り、Sさんのグラスに注ぐ。少し、手が震えた。
奥さんに先立たれた事は知っていた。しかしそんな事を立ち入って聞くことは出来ない。
詳しい事情を聞いたのは初めてだ。そして、この不思議な符号。
あの娘の、高校の制服、多分3年生。だから17歳か18歳。まさか。
「じゃあ、あの娘は。」

505 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:44:08 ID:wTxJbg5A0
 「それを確かめる術はない。18年前、私は未だ榊さんと出会っていなかったから。
でも、前世で果たせなかった約束を現世で果たそうとする。
実現できなかった夢を実現しようとする、そういう例は確かに有る。
もし、この出会いがそうでないとしても、2人の魂に深い縁が有るのは間違いない。
2つの魂を引き合わせ、その縁を結び合わせた。それがあなたの、もう1つの適性。」
囁くような呟くような、Sさんの声。まるで和歌を詠むように、不思議な調子。
『そう。ほどけた縁を結び直し、壊れた心を繋ぎ合わせる。『縁結び』あるいは『魂繋ぎ』。』
その言葉の響きがすうっと染み込んで、胸の奥が熱くなる。
「だからRさんは、縁を結ぶお仕事を沢山任されてきたんですね。そして、きっとこれからも。」
確かに...しかしそれは結果的にそうなっただけだと思っていた。それが俺の適性だなんて。
縁を結ぶ適性があるなら、縁を切る適性も有るのだろうか。
たとえ責任は重くとも、俺にとって、切るより結ぶ方が誇り得る任務だと感じる。
それに姫の言う通り、それが適性なら今後も誇り得る任務に関わることが出来るだろう。
術者として、これ程幸せなことが有るだろうか?
キリスト教徒でなくても良いじゃないか。本当に良い夜だ。まわってきた酒の酔いも手伝って、
この夜を、聖夜を祝うのにふさわしい。そんな気持ちになっていた。

506 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:45:24 ID:wTxJbg5A0
 そっと、榊さんと少女の様子を伺う。
榊さんはいつもの笑顔。少女は頬を上気させて、時折頷きながら笑顔を浮かべる。
料理を勧める榊さん、美味しそうに料理を食べる少女。見て居るこっちが幸せになれそうだ。
俺と話していたときとはまるで違う、無防備な、子供っぽい表情。
母親の死、堕ちた継父。そんな話題で笑える筈がない。
榊さんは注意深く、少女が安心出来る話題を選んでいる。きっと今夜は、それだけで良い。
高校生とはいえ、安心出来る場所と人がどれだけ重要なのか、それが今更に良く分かる。

507 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:50:17 ID:wTxJbg5A0
 突然立ち上がった人影。明るく、元気な声。
「一番、水野。モノマネいきます。まずはSさんを待つ日の榊さん。」 拍手。
...始まった。チーム榊のメンバーは皆、芸達者だ。
『おい、みんな。この部屋片付けろって言っただろ。今日はSちゃんが来るんだぞ。全くも〜。』
声は完璧だ。それに眠そうな、不機嫌そうな表情。小刻みに振る人差し指。
爆笑。メンバー全員が底抜けの笑顔。その青年は軽く頭を下げた。
もちろん今夜は無礼講だから榊さんも苦笑いするしかない。
「ええと、じゃあもう1つだけ。捜査が行き詰まってテンションだだ下がりの榊さん。」
もう彼方此方で笑いが漏れている。
水野という青年のモノマネは一級品で、そのレパートリーは数10種にも及ぶ。
しかしその中から、今夜このネタを選んだのは只の偶然だろうか?
『は〜、駄目駄目。仕事が上手く行かない時はさ、もう、何やっても駄目。
こんな時、Rちゃんが来てくれたらテンション上がるんだけどな〜、むさい野郎ばかりじゃどうにも。』
大爆笑。Sさんと姫もお腹を抱えて笑っているが、俺は笑えない。少女の表情に釘付けになった。
眼を丸くする少女。そのネタが通じないのは当然だが、その後俯いた表情は。

508 『聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 22:58:04 ID:wTxJbg5A0
 「あの、健太郎さん。『Sさん』と『Rちゃん』って、誰ですか?」
「え?ええと、『Sちゃん』はほら、彼処に座ってる美人で。『Rちゃん』は。」
「はい?」 「R君の事だよ。彼、結構な美形だろ。それで、ある事件の時、
操作の都合で女装して貰ったことが有る。それ以来『Rちゃん』。
2人は夫婦で、どちらも凄い超能力者だから、困った時は捜査に協力して貰うんだ。
超能力捜査。聞いた事ある?兎に角2人が来てくれると凄く仕事が進むからさ。」
ホッとしたように少女の表情が緩む。
「Rさんは『魔法使い』って言ってましたけど。本当に?」
「そう、此処だけの話だけどね。」 声を潜めた2人。少女に戻った笑顔。
もしも鋭く『Sちゃん』と『Rちゃん』を女性だと感じて、その質問をしたのなら。
それは、既に少女が特別な好意を抱いている事の証左だ。それが父でも、もっと別の。
視線を戻すと、Sさんが小さく頷いた。姫の、優しい笑顔。
本当に俺は今夜、時を越えて求め合う魂の旅路に関わったのだろうか?
まあ良い。少女の意識から俺と『女装』の結びつきを解消するのは時間が掛かるだろうが、
聖夜の奇跡に必要だったなら、それはそれで...いや、本当に、良いのか、俺?

『聖夜』 完

509 名無しさん :2014/12/24(水) 23:06:46 ID:HA7qX3EEO
ありがとうございます!クリスマスイブの更新があるのかなときたらリアルタイムでした^^
それにロマンチックなお話です。「宮大工シリーズ」も似た運命のお話がありました。
素敵なお話をありがとうございます!

510 ◆iF1EyBLnoU :2014/12/24(水) 23:09:36 ID:wTxJbg5A0
 皆様今晩は、再び藍です。

非公開とされていた掌編を、知人の指示通り一部書き直して投稿致しました。
私自身はとても重要な作品だと思っていたので、投稿できて嬉しく思います。
時系列的には、2010年末でしょうか。所々不自然な所があるかも知れません。
十分な時間が取れませんでしたので、笑ってご容赦下さい。
私もキリスト教徒ではありませんが、何しろ聖夜。クリスマスプレゼントという事で。

それでは今夜はこれにて。頂いたコメントの御礼はまた今度。申し訳有りません。

511 名無しさん :2014/12/24(水) 23:25:30 ID:Jzus9QUw0
時を超えて、結ばれる縁(えにし)。
人と人との縁を結び、言祝ぐ者。
清らなる夜を寿ぐに相応しく、奇しき物語かな。

512 名無しさん :2014/12/27(土) 21:23:29 ID:D8PUG.fo0
「時、来たれり」 ですね。
いい時期に、いい話、心が温まります。

私にもその「時」がきてほしい。

513 名無しさん :2014/12/27(土) 23:22:54 ID:hdsS.iS20
だから『良き理』の力はRさんを通して流れ込むんですね。
重要な作品を掲載して頂き、ありがとうございました。

514 ◆iF1EyBLnoU :2015/01/02(金) 22:04:35 ID:azT027t60
皆様、明けまして御目出度う御座います。 藍です。

>>492
>>493
>>509
>>511
>>512
>>513

暖かいコメント感謝致します。
皆様のご厚意により、今後も投稿が出来ればと存じます。
有り難う御座いました。

515 名無しさん :2015/01/02(金) 22:24:01 ID:V2/3HheU0
藍さん、知人さま、あけましておめでとうございます。

「星灯」「聖夜」ようやく読ませていただきました。
もう涙が止まりません。
「星灯」を読むに当たって、「贐」も読み返しました。
こうして縁(魂)は繋がって、続いていくんですね。
本当に素晴らしいお話をありがとうございました。

516 名無しさん :2015/01/03(土) 02:21:39 ID:II8sGFgA0
こんにちは。良いお正月ですね。
トランプの術をお見せしましょう。

517 名無しさん :2015/01/20(火) 12:51:32 ID:RrRrMO020
こうしないと何もかもハッピーエンドなご都合主義になってしまって
このシリーズ自体を汚すことになるのはわかってるんだが、それでも
悲しいもんだな。

518 ◆iF1EyBLnoU :2015/01/21(水) 20:29:39 ID:qEtBE5io0
皆様、今晩は。藍です。

>>515
>>516
>>517

本当に暖かく、以前の作品までしっかりと読んで頂いた上でのコメント、心より感謝申し上げます。
おそらく『星灯』に対して頂いたコメントかと思いますので、知人に伝えて共に喜びたいと存じます。
次作の投稿時期は未定ですが、気長にお待ち頂ければ嬉しいです。

有り難う御座いました。

519 名無しさん :2015/01/22(木) 09:01:05 ID:sOPq5uCMO
いちばんあたたかのは藍さんです。いつまでも待っています。

520 名無しさん :2015/01/22(木) 11:45:57 ID:lNkMzky60
「星灯」の最後に出て来るパーカーの女性って誰?

521 名無しさん :2015/01/22(木) 21:38:25 ID:y/1P6bTQO
神様の奥様

522 520 :2015/01/23(金) 18:37:25 ID:OBYsbKYQ0
>>521
暴力団事務所で大暴れした陰神様?

523 名無しさん :2015/01/23(金) 18:49:04 ID:cty.7y820
>>520
>>522

違うよ。
「約束」の主人公。読んでみたら?
あと「玉の緒」と「花詞」にも関わりが有る筈。

524 名無しさん :2015/01/24(土) 21:53:42 ID:vbs2vbe60
>>520
人であったときの名が、いずみさん。
今は神様の奥さん。
パーカーとジーンズは、Rさんがいずみさんを救ったときに着ていた服。
Rさんの命の恩人でもある。
まさに守り神となられた御方。

525 ◆iF1EyBLnoU :2015/01/25(日) 22:31:50 ID:QC2FIosw0
皆様今晩は、藍です。

>>519
>>520
>>521
>>522
>>523
>>524

どうも一人身内が混じっているようですが、
皆様の、いつも通りの暖かいコメントに心より感謝申し上げます。

さて、昨夜知人から知らせを受け取りました。
次作は以前リクエスト頂いた、Sさん視点の『出会い』だと思っていたのですが、
『新しい命・第弎章』の完成が先になるかも知れないとの事。
明日からお仕事で直接話す機会がありますので、もう少し詳しく聞いてみます。
何か新しいことが分かったら、また報告させて頂きます。
それでは今夜はこれで、有り難う御座いました。

526 名無しさん :2015/02/15(日) 00:06:50 ID:ZguCPqvQ0
藍さん来ないかな・・・。

527 美咲 :2015/02/24(火) 17:23:39 ID:Y15fGFfo0
世界の恐怖映像を見ていて、怖くなったときに
エッチなことを想像すると気がまぎれるっていうか、すごく笑える

528 名無しさん :2015/02/27(金) 22:16:41 ID:iqR2wDy.O
あー、藍さん来ないかな?
>>527最近、単発ゴミがわいちゃって…

529 名無しさん :2015/02/28(土) 03:55:32 ID:vGiFM6l60
誤爆気にしても仕方ないし。気長に待とう。

530 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/09(月) 00:36:51 ID:EDn95S660
皆様、お久しぶりです。藍です。

思いもかけず、年明けから色々な事が大きく動き出しているようで、
現在、知人の家のお手伝いをするだけで精一杯の状況です。

既に投稿準備段階の原稿を複数受け取っていますので、
遠からず投稿できればと存じます。申し訳有りませんが、もう暫くお待ち下さい。
何時も本当に、有り難う御座います。それでは、きっと、また。

531 けんぽん :2015/03/09(月) 22:07:08 ID:IoHJsvPE0
藍さんお疲れ様です!!

次回作のご準備を頂いているとの事、有り難うございますm(._.)m

色々と大変との事ですので、無理なさらずお時間余裕が出来てからで結構ですのでご投稿をお願い致します!!

季節の変わり目ですので、お身体ご自愛下さい。

知人様にも宜しくお伝え下さいませ。

532 名無しさん :2015/03/10(火) 20:57:14 ID:KR3NchrIO
>>530
藍さん知人さんありがとうございます!とても楽しみです!

533 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:06:06 ID:/hTVsGoM0
テスト中です。

534 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:32:07 ID:/hTVsGoM0
皆様今晩は。お久しぶりです、藍です。

日曜の夜遅く帰宅し、2時間ほど前に眼が覚めたので投稿の準備をしました。
以前読者様からリクエスト頂いた、Sさん視点からの『出会い』。
年明けから色々有り、投稿を控えるべきではないかとも考えたのですが、
リクエストに応えると決めた以上、これ以上お待たせするべきではありません。

以下、次作『追憶(Sさん視点の)』を投稿致します。相変わらず多忙ですが、
今夜は取り敢えず『上』を。出来れば今週中に『中』まではと考えています。

ただ、新作ではありませんので、
まとめへ掲載するかどうかの判断は管理人様にお任せ致します。
掲示板限定の作品になるのも一興でしょう。
それでは以下『追憶』。お楽しみ頂ければ幸いです。

535 『追憶(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:36:49 ID:/hTVsGoM0
『追憶(上)』

 街灯から少し離れた路肩、夜に紛れて大きなワゴンの助手席を降りた。
此所からは車の入れない細い路地を歩く。車で尾行されていたらこの時点で分かるから。
周りの様子を確かめた。人影は疎ら。大丈夫、車で尾行されている気配もない。
約二ヶ月に一度、定例になった引っ越しの途中。合図をするとスライドドアが開いた。
始めに『対策班』の男が二人、次にLと紫(ゆかり)が降りてくる。運転席の男は待機。
トランクを開けた。引っ越しで持ち歩くのは当座の、最小限の荷物だけ。

 ふと、微かな違和感。胸が騒ぐ。皆に声を掛けた。

 「注意して、何か変。」
反対車線を走ってきた白い車が路肩に停まった。
ドアが開き、飛び出した人影。道路を横切ってこちらへ、術者だ。 一体、どうして?
先に私たちに気付いたのなら既に『準備』を整えている。
「敵よ、車に戻って。紫、Lをお願い。」
深呼吸、集中力を更に高める。街中で術を使うのは避けたかったけれど。

536 『追憶(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:39:13 ID:/hTVsGoM0
 「まさか、こんな所で。まさに千載一遇。」
その術者は満足そうな笑みを浮かべていた。成算は薄くても、まずは交渉。
「このまま車に戻って見逃してくれたら、あなたの命は保証する。それで、どう?」
「馬鹿を言うな。『氷の姫君』を相手に、惜しむ命など無い。
俺のような雑魚でも、時間を稼ぐ位は出来る。太星様には既にお知らせした。
命と引き替えに15分、いや10分で充分。良い死に場所だ。俺は運が良い。」
つまり『過激派』の本体がこの近くにいる。
ここ数ヶ月『過激派』の活動は探知されていないと聞いていた。
なら私たちの行動が『過激派』に知られる筈はない。 偶然? それとも。
すい、と、黒い影が私の前に。 L? 
『あなたの術の全て、その的は私。』
Lは大きく手を広げた。 空気が震えている。 『あの声』。
相手の集中力が大きく乱れた。 そう、Lが死ねば困るのは敵。
好機。

537 『追憶(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:41:15 ID:/hTVsGoM0
 「2人とも、顔を上げなさい。」 懐かしい、桃花の方様の御声。
大きな机、腰掛ける当主様とその左後方に立つ桃花の方様。御目にかかるのは、1年ぶり?
「S、『過激派』の術者に遭遇した件、内通の心配はないか?」
これも懐かしい、当主様の御声。
「敵の術者1名を殺害しましたが、こちらの人的な被害はありません。
もし内通の結果であればこちらの被害はもっと大きかった筈ですから、
この度の遭遇は恐らく、内通ではなく偶然の結果かと。」
「そうか...ならば当面の問題はLに掛けられた術の状態だな。桃花の方、頼む。」
桃花の方様は大きな机を回り込み、私の左隣に跪くLの正面に立った。
「L、左手を。そう、そのまま。」 Lの左手を両手で握り、目を閉じる。暫しの沈黙。

538 『追憶(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:44:23 ID:/hTVsGoM0
 「一進一退。悪化していないのは、せめてもの救いですね。」
「桃花の方様、当主様、お願いがあります。」 Lの声が重い空気を裂いた。一体?
桃花の方様と当主様は御顔を見合わせた後、私の顔を見詰めた。
黙って首を振り、前以て打ち合わせていた事ではないという意を示す。
「L、お前の願いとは、何ですか?」 口を開いたのは桃花の方様。
「私を、殺して下さい。もう、嫌です。私のせいでSさんや一族の人たちが危険に晒されて。
それに、私が代になったらもっともっと沢山の人達が不幸になります。そうなる前に私を。」
桃花の方様は一歩踏み出して、Lをしっかりと抱き締めた。
「どんな事情が有っても、誰かの命を犠牲にすれば済むなんて、思う人はいません。
術者なら皆のために命を捧げる覚悟は当然ですが、それは他に選択肢が無い場合だけ。」
「でも、私は!」
「大丈夫、落ち着いて。折角だから私と少し話しましょう。立ちなさい。さあ、こちらへ。」
桃花の方様がLを部屋の外に連れ出した後、当主様は溜息をついた。
「あの子の母親に深い縁が有るとはいえ、お前には重過ぎる役目。本当に、申し訳ない。
此処で匿ってやれれば良いのだが。」 当主様ご自身が、それは無理だと分かっておられる。
黒い術を仕込まれたLが此所で、『聖域』で長い時間を過ごせば自我の崩壊を招く。
「勿体ない御言葉。ですが、これは私自身がどうしてもと望んだ役目。
今更重過ぎるなどと恨み事を言えば罰が当たります。」

539 『追憶(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:46:48 ID:/hTVsGoM0
 「ところで、Lの状態が一進一退と言うことは、効果が無かったのか。術による幻覚は。」
「はい。術だけ、代と術、協力者の少年と術、いずれの方法も効果は有りません。
L自身が『あの声』の持ち主、術による幻覚に耐性が有るだろうと予想はしていましたが。」
Lに仕込まれた黒い術、邪神が憑依する代として、Lの体を使うための外法。
16歳の誕生日に向けて、仕込まれた術の力がLの心と体を作り変えようとしている。
専門の術者もその術を解くことは出来ず、対抗してLの変化を遅らせるのが精一杯。
ただ、Lが誰かに恋愛感情を持てば、その間、その術は無効。
そのまま16歳の誕生日を過ぎれば、取り敢えずの危機は脱するだろう。
しかし、術はLの体と心の性的な成熟を阻害していて、Lは異性を避けたがる。
強い術で『恋の夢』を見せる事が出来れば、実際の恋愛感情と同様な効果が有る筈だった。
しかし術による幻覚に強い耐性を持つLに、幻覚を見せる事が出来る術者がいない。
「専門の術者に無理なら私にも桃花の方にも...他に打つ手は無い、という事か。」

540 『追憶(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:48:11 ID:/hTVsGoM0
 「最後の最後まで、私があの子を護ります。もちろん失敗した時は御指示を、必ず。」
「先日の遭遇は偶然。しかしその日に向けて『過激派』の活動は必ず活発化するだろう。
かなり弱体化したとはいえ、未だ有力な術者が残っている。
『分家』の跡目を継いだ秋明、老いたとはいえ太星も。
そして誰より、あの、K。 何れも超一流の術者。
もしもお前の身に何か...あの子の母親が生きていれば、お前があの子のために
その身を捧げる事など望まず、今は最後の備えをするべき時だと言った筈だ。」
「それは...しかし『上』との約束ではギリギリまであの子を救う努力をしても良いと。」
「一族でも最高位の術者の1人、しかしお前の早とちりは相変わらずだな。
自分の情に正直にあろうとする時程、理を、他人の意見を聞かねばならん。」
「御意。肝に銘じます。」
「ならば良い。Lを護るためにこそ、住まいを移せと言っているのだ。
既にお前が義父から相続した、あの館へ。」

541 『追憶(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:55:51 ID:/hTVsGoM0
 「しかしあの館は、もう6年も無人のままです。かなり痛みが。」
「無人だったからこそ都合が良い。それに、相続する際に聞いた筈だぞ。
あの館は自らの意思と命を持つ生物。主を待つ間に朽ちたりはしない。
Lを連れ、一刻も早くあの館に身を隠せ。
過激派はあの場所を知らぬ。地脈の力がお前の負担を減らしてくれるだろう。
早過ぎず遅すぎず、このタイミングなら丁度良い。」
義父から相続した土地。その力は巨大な結界となって、その土地に立つお屋敷を護っている。
しかし、其処に身を隠す時間が長ければ長いほど、探知される可能性も高くなる。
とは言っても、身を隠す前に探知されれば意味が無い。今は御言葉に従うのが吉、だろう。
「そしてS、Lを救うのは、間違いなく私と桃花の方の望みでもある。決してそれを、疑うな。」
不意に、胸が詰まる。温かい御言葉が、長い間心の奥に封じていた想いを。でも、駄目。
「有り難う存じます。御言葉に従い、なるべく早くに引っ越しを。」
「うん。一段落したら知らせをくれ、きっとだぞ。」 「はい、必ず。」

『追憶(上)』 了

542 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/23(月) 23:59:25 ID:/hTVsGoM0
皆様今晩は。再び藍です。

今夜はこれまで。明日までお休みを頂いたので
明日中に『中』を投稿してから、また仕事に出たいと思っています。
お読み頂いた皆様、有り難う御座いました。

543 名無しさん :2015/03/24(火) 05:49:12 ID:SnWKBFPoO
ご多忙のなか投稿ありがとうございます、お疲れ様です。
出会う前のいきさつですね、術者の方の宿命は重すぎますね。覚悟も凄くてびっくりします。
ありがとうございます。

544 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:13:44 ID:b0qbZgwA0
皆様今晩は、藍です。

>>543
早速の暖かい、また深いコメント感謝致します。
引き続きお楽しみ戴ければ、投稿する甲斐があります。
有り難う御座いました。

以下『追憶(中)』を投稿致しますが、少々間隔が空くかも知れません。
もしリアルタイムでお読み下さる方がおられるなら、気長にお待ち下さい。

545 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:35:22 ID:b0qbZgwA0
『追憶(中)』

 「あ〜、ウチは小さな店なんで出張修理はやってないんですよ。
その間、店を空けるわけにもいかないから。済みませんね。」
「そうですか、有り難う御座いました。」
お屋敷に引っ越してきたばかりで、式を使っても掃除と荷物の整理には時間がかかる。
でも、昨日Lがこのお屋敷の倉庫で見つけた綺麗な自転車。
普段自分の希望を口にしない娘が、珍しく自分から言い出した願い。
だからどうしても叶えてやりたい、タウンページをめくる。
出張修理をしてくれそうな自転車屋さんは3軒、全て同じ言い訳で断られた。
『どうしても』と、Lは倉庫の自転車にこだわるかしら。あのデザインだし、無理も無いけど。
でも、そうでなければ、買い物のついでに郊外のショッピングモールで新品を買った方が早い。
それなら別料金で配達を頼むことも出来る筈だし。
諦めかけた時、ページの端の広告が目に留まった。
『何でも屋○○○ 家のリフォームからお子様の宿題まで。 お電話下さい。』
此処に電話して駄目なら諦めるしかない。電話に出たのは中年の男性。
「はい。自転車の修理なら心当たりがありますから、これから連絡してみます。
ええと、そうですね。夕方までには依頼を受けられるかどうか、分かると思いますよ。」
夕方までって、今まだ11時よ。悪い人では無いと思うけど、時間がかかり過ぎでしょ。
これじゃ心強いんだか頼りないんだか、判断に困る。

546 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:37:49 ID:b0qbZgwA0
 そろそろ荷物の片付けに一区切りつけてお茶の時間。
そう思った途端に玄関の電話が鳴った。既に『上』との連絡は済んでいる。
間違いない、この電話は何でも屋さんから。
「あ、どうも〜。Nです、何でも屋の。自転車に詳しい大学生のスタッフを呼び出したので、
自転車の状態とか、Sさんに直接お話をして頂こうかと思いまして。」
「有難う御座います。ではその方に。」 「はい、変わります。」
受話器を渡す気配。その瞬間、微かな胸騒ぎ。これは?
「はじめまして、Rといいます。早速ですが、自転車の状態を聞かせて下さい。
どんな不具合でしょうか?ブレーキとか変速とか、原因は分かりますか?」
電話越しに聞こえてきた、一種異様な声。 いや、耳触りは悪くない、むしろ聞きやすい位。
要領よく話を聞き出す手際からして、頭の良い子なのだろう。でも、違う。普通じゃない。
何かが、それもかなり大きなものが欠落している。これ、本当に生身の人間の声?
修理の日時を決め電話を切った後も、その声が耳を離れない。思い出す度に胸が騒ぐ。
引っ越しの荷物は未だ片付いていないし、Lから目を離す訳にはいかない。
これは仕事じゃないのだし、今はこんな事考えている暇などないのに。

547 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:39:31 ID:b0qbZgwA0
 次の日曜日、自転車の修理に訪ねてきたその子の姿を見て納得した。
五感以外の、『力』に関わる感覚を、ほぼ完全に封じられている。
封の種類からして、封じた術者は私たちと同じ系統。おそらく分家に縁の術者。
でも、これ程思い切ったやり方で。これでは他人とのコミュニケーションにも影響が出る。
言葉はともかく心の繋がりが上手く築けないから、周りからは影の薄い人間に見えるはず。
曰く『人畜無害』、曰く『昼行灯』。 折角の端正な容姿も、まともに認識されない。
それを承知で感覚を封じたとすれば...優れた資質に基づいて発現する強い『力』が、
逆にこの子の成長に悪影響を及ぼすことをを怖れたからに違いない。それは理解出来る。
しかし、不思議なのは、この子はもう十分に成長しているという事。
本来この種の封は相手が成長するにつれて力を失っていく。
大学生ともなれば術が解け初めていてもおかしくないのに。
未だこの封の効力を維持しているのは、もしかしてこの子自身の無意識?

548 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:40:50 ID:b0qbZgwA0
 「変速ワイヤの交換と調整、それからブレーキのワイヤも変えたほうが良いですね。」
我に返る。そう、今はまず自転車の修理。 「どのくらい、かかりそうですか?」
「1時間もあれば。」 上の空だったから、言葉足らず。だからこの子は時間を聞かれたと。
他愛ない行き違いが新鮮で、何だか愛しい。思わず笑顔が浮かぶ。
「いいえ、あの、部品代です。」 
「あ、聞いてませんか?うちは一件いくらで仕事受けますから。
基本、ワイヤみたいな消耗品は無料なんですよ。」
笑顔が眩しくて、ついその心を読む。今まで何度も、それで嫌な思いをしてきたのに。

『なんて綺麗な人』 『会えて嬉しい』 『もっと見詰めていたい』

流れ込んでくる熱い好意。私と関わりを持ち続けたいという、純粋な想い。
その無邪気さに驚いて思わず鍵を掛けた。胸に響く早鐘、一体この感覚は?
「じゃ、普通の自転車屋さんに頼むよりお得なのね。」
何とか言葉を絞り出して踵を返した。たかが会話で、何でこんなに心が乱れるの?
それも今会ったばかりの、年下の男の子が相手なのに。

549 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:42:39 ID:b0qbZgwA0
 最初の電話以来、集中力を欠いているのは自覚してた。
だから今朝作った式は2体だけ。なのに、そのコントロールすら上手く行かない。
1体は一度解いた荷物をまた荷造り。
もう1体は窓に張り付いて外を見詰めている。玄関の向こう、ウッドデッキの方向。
溜息をつき、柏手を打って術を解く。式は紙の人型に戻った。
荷物の整理を諦めて、丁寧に濃い麦茶を淹れる。たっぷりの氷でキンキンに冷やし、
昨日ショッピングモールで買ったクッキーを添えれば見栄えはそこそこ。
でも、これを持って行って、あの子に何気なく勧める自信なんて無い。
「L、ちょっと来て。」 「はい。」 廊下を歩く、軽い足音。

550 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:43:35 ID:b0qbZgwA0
 何か大事なものが欠落していると言えば、この娘も同じ。いいえ、もっと深刻。
その体に仕込まれた厄介な術は魂を蝕み、この娘の性的な成熟を阻害している。
もう私より背は高い。でも、私が殊更に女の子らしさを強調した服と長い髪がなければ、
きっと華奢な男の子にしか見えない、細い体。
「今、自転車修理の人が来てるの。何でも屋さんの大学生。
だからこれ、麦茶とクッキー持って行ってあげて。ウッドデッキよ。」 「はい。」
Lは一旦自分の部屋に向かった。戻ってきた時には、大きな麦藁帽子。
私の言葉から、それが男の子だと感知したのだろう。
目深にかぶった大きな麦藁帽子で顔を隠すつもりなのだ。
お盆を持ってゆっくりと歩く後ろ姿。 御免ね。私、狡い。

551 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:45:06 ID:b0qbZgwA0
 柱時計のチャイム。あ、私今まで何を。
あれからもう30分近く経っているのに、Lの姿がない。
ぼーっとしていて、時が過ぎるのに気付かなかった。大事な時に、なんて迂闊な。
慌てて玄関を出る。少し俯いてウッドデッキに座るLの姿。安堵。
私の姿を認めたLが駆け寄ってくる。耳元の囁き。
凡そ感情を露わにする事の無かった娘の、小さな、そして嬉しそうな声。
「もう修理は終わっていて、今は私の体に合わせた調整をしてくれてるんです。
サドルとか、ハンドルの高さを。『元のままだときっと乗りにくいから』って。」
左手で、そっとLの右頬に触れる。「そう。じゃ御礼、しなきゃね。」
歩きながら深呼吸、飛びっ切りの笑顔を作る。
鍵なんて掛けなくても大丈夫、あの子に悪意はないのだから。
「オプションの作業もして下さったのね。」 「あ、これも無料です。」
「一件いくらで仕事を受けてくれるから?」 「今後も何でも屋○○○を宜しくお願いしま〜す。」軽いやりとりを通して伝わってくる無邪気な、温かい想い。
『この人が好き』 『次の依頼があればまた会える』 『手の届かない人』
そして、この子の封は解け始めている。こんな短時間で。
私への想いがこの子の心のあり方を変えた。
それはこの子が本当に私を好いてくれているという、何よりの証。
嬉しい、嬉しくて心の奥が震える。でも駄目、応えられない。心に鍵を掛け、想いを遮断した。
後は代金を渡す時、あの子の手に触れて私に関わる記憶を軽く封じるだけ。

552 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:56:07 ID:b0qbZgwA0
 一人きりの、深夜のリビング。グラスの氷が揺れる、涼しい音。
冷たいハイボールが、少しだけ心の熱を冷ましてくれる。
あれから半日、気持ちはかなり整理できた。
きっとこの感情が、『恋』。25年生きてきて、初めての感情。
私には恋なんて出来ないと、してはいけないと考えていた。
私を本当の妹のように大切にしてくれた人の、
あまりに純粋で真剣な恋愛を間近で見てしまったから。
あんな風に人を愛することなんて出来ない。
それに、私の手は既に人の血で汚れている。
強い『力』を持って生まれた天命に従い、術者として働き始めたのは12歳の時。
術で、初めて人を殺したのは16歳になってすぐ。
非が有るのは相手、殺さなければ殺されていた。しかしそれで心の痛みが消える訳じゃない。
この手で人を殺した者が幸せになってはいけない、だから私は恋をしてはいけない。
そう考えていた。ほんの半日前、今朝までは。

553 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:57:13 ID:b0qbZgwA0
 でも、その考えは間違っていた。
私の考えに関係なく、止めようもなく沸き上がる激しい感情が『恋』。
きっと5つは年下のあの子に会って、二言三言言葉を交わしただけで、それが分かった。
荷物の整理を依頼して、もう一度あの子に会いたい。その想いを抑えるだけで精一杯。
今はLの事だけを考えてやらなければならない時期なのに。
このまま16歳の誕生日を迎えたら、Lは魂を失った抜け殻になってしまう。
そうなれば、Lの体を代として邪神が憑依する前にLを処理する。つまり、この手でLを殺す。
それが『上』との、そして当主様との約束。だから今はこの想いを凍らせる。
何も難しいことじゃない。皆が言うように、私は『氷の姫君』なのだから。

554 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 20:58:36 ID:b0qbZgwA0
 しかし凍らせた想いはあっけなく、三ヶ月も経たない内に、融けた。

 「私、もう一度あの人に会いたいです。自転車修理の...」

 自分の気持ちを上手く言葉に出来なくて逡巡するLを根気強く励まして、促して。
ようやく聞き出した一言。頬を紅に染め、俯くL。
黙り込んでじっと外を見ていたり、急に饒舌になったり。
この所Lの様子が変化したのに私も気付いていた。
それがこの娘の想い、あの子への恋愛感情からきたものだったなんて。
自分自身の想いを凍らせていたから気付かなかったけれど、
これはLを救う絶好の、そして多分最後のチャンス。
例えば街でLとあの子が再会、あの子もLに好意を持ってくれたらそれが何時か恋愛に...
ううん、駄目。上手く行く保証が無いし、どれだけ時間がかかるか分からない。
時間をかけるほど過激派に探知される可能性は高くなり、折角の転居が無意味になる。
何よりあの子がLを拒絶したら、事態は間違いなく今より悪化する。それならいっそ。
そっとLの肩を抱いた。

555 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 21:01:35 ID:b0qbZgwA0
 「私もあの子が大好き。だから、あなたの気持、良く分かる。
きっともう一度、あの子に会わせてあげるから、私に任せて。」
「本当に?でも、どうやって?」
「何でも屋さんに恋愛ごっこの相手を依頼するの。あの子を指名して。
そうね、出来れば今後半年間。そしたらその間あなたは何度でもあの子に会える。」
「恋愛ごっこ、ですか...」 途端に曇った、少し不満そうな表情。
「あなたがあの子を大好きでも、あの子があなたを好きになってくれるかどうかは分からない。
もしあなたが失恋して、心の傷がこれ以上深くなったら、
もう、あなたに掛けられた術を抑える方法は無い。それに、恋愛ごっこを続ける間に
あの子があなたを好きになってくれたら、それは『ごっこ』じゃ無くなる。
そうなるように、あなたも頑張って。応援するから。」
それはLだけでなく、私自身を説得するための言葉。
この計画が実現すれば、Lだけでなく私も、あの子に会える。やっぱり、私、狡い。
「Sさんも、あの人が大好きなんですよね?」 「そうよ。」
「あの人も、Sさんが大好きです。会って直ぐに分かりました。
私の事が好きじゃなくても、Sさんが頼んでくれたら、きっと引き受けてくれると思います。
それに、私もSさんを応援します。だから、お願い...」
俯いたLの横顔はとても可愛い。密かな胸の痛みを堪えてその肩を抱く。
恋をする娘は、こんなにも変わるもの?それなら私も、少しは。

556 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 21:02:44 ID:b0qbZgwA0
 毎日の恋愛ごっこ、メールのやりとりは端で見ていても本当に微笑ましい。
Lの変化は眼を見張る程で、阻害されていた性的な成熟が少しずつ、
でも確かに進み始めたのを確信できた。
このまま2人の仲が進んでデートに出かけるようになれば、
私もあの子の顔を見ることが出来る。しかも、Lの状態を心配する必要はない。
少し前まで感じていた焼け付くような焦りは、綺麗さっぱり影を潜めた。
Lの誕生日に向けて、このままの状態を保つ努力をすれば良い。怖い程、順調。
Lが嬉しそうに私の部屋に飛び込んで来たのは一週間ほど経ったある日の夜。
「Sさん、『明日、会って一緒にいたい。』って、Rさんが。さっきメールで。」
「そう。良かったわね。返事して直ぐに寝ないと寝坊するわよ。」 「あ、そうですね。大変。」
正直、少しだけ胸が痛いけれど、Lの喜ぶ顔を見るのは、素直に嬉しい。
だから、デートに使う車を管に護衛させるのも、管を通して二人の様子を知るのも、
もしもの場合に備えて二人を護るため。
それは疚しい気持ちからじゃない、そう、決して嫉妬なんかじゃない。

557 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 21:03:41 ID:b0qbZgwA0
 管の感覚を通して伝わってくる映像と会話。はるか遠い場所にいる、2人。
「『好き』には、色々な種類と大きさがあると思うんです。」 「それは解ります。」
「例えばある女性の心の中で一番大きな『好き』の相手が彼女の子供だとしても、
それを知った彼女の夫が落胆するとは思えません。」 「それも解ります。」
「それなら、今ここで僕の心を覗いても、貴方が悲しむ事はありません。」
「...Rさんの心の中で、一番大きな『好き』の相手が、私、だからですか?」
「そうです。今は、間違いなく貴方が一番好きです。」

558 『追憶(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 21:04:55 ID:b0qbZgwA0
 分かっていた事。だけど、やっぱり少しだけ胸が痛い。
『管、有り難う。こんなに大事にされてるなら大丈夫。後は護衛だけで良い。ご苦労様。
でも、もし何か妙な事が起きたら直ぐに知らせて。お願いね。』
『御意。』
胸の痛みは嫉妬じゃ無い。ただ、羨ましいだけ。
あなたが最初に好きになったのは私。忘れないで、私の事も見詰めて欲しい。
そう、それだけ。他に思う事なんて有るはずが無い。だって今夜はあの人に会える。
心を込めて夕食を作って、三人一緒にそれを食べるだけで充分、そう思っていた。
でも、これ以上あの人がLを好きになったら、その心に宿る現代の倫理観が私を拒絶する。
その前に、あの人の心に私の居場所を確保したい。『一番』じゃ無くても良い。
きっちり一時間待ってLにメール。
『予定変更。宿泊の用意をしてから帰るように伝言して。』
少しでも長く引き留めて、その間にどうすれば良いか考える。今はそれしか。

「追憶(中)」 了

559 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/24(火) 21:08:42 ID:b0qbZgwA0
皆様今晩は、再び藍です。今夜は此処まで。
明日以降の予定も変更されそうなのですが、続きはまた今度。
お付き合い頂いた皆様、本当に有り難う御座いました。

560 名無しさん :2015/03/25(水) 09:13:09 ID:KBjazgm60
Sさん、かわいいな

561 名無しさん :2015/03/25(水) 20:15:46 ID:IeMC0XmY0
続き、楽しみです

562 名無しさん :2015/03/27(金) 21:32:15 ID:SAfR3OxIO
「出会い」の視点を変えて紡がれる恋の物語。本当にワクワクします。続きを楽しみにしています。

563 名無しさん :2015/03/27(金) 21:33:20 ID:SAfR3OxIO
「出会い」の視点を変えて紡がれる恋の物語。続きが本当に待ち遠しいです。

564 名無しさん :2015/03/28(土) 05:21:47 ID:AthnCtYUO
ですな…

565 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:22:44 ID:xJgVi.I20
テスト中です。

566 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:30:12 ID:xJgVi.I20
皆様今晩は、藍です。
昨日戻りましたので、『追憶(下)』以降を投稿致します。
少々疲れ気味なので、途中で投稿が途切れましたらご容赦を。
その場合、明日中に続きを投稿致します。

>>560
>>561
>>562
>>563・564

早速のコメント感謝致します。
続きをお待ち下さる方々が、知人と私の原動力です。

以下、『追憶(下)』、お楽しみ戴ければ幸いです。

567 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:32:15 ID:xJgVi.I20
『追憶(下)』

 「もし、このまま2人の関係が進展してくれたら、とても有難いと思ってるわ。」
食事の後、深夜のリビング。とうにLは寝ている時間。
Lの心と体の事、この依頼をするまでの経緯。
Lの前では話難いことも、今なら気兼ねなく詳しい説明が出来る。
本来この人を巻き込むのは筋違いだけれど、過激派が直接危害を加える可能性は低い。
その説明に納得して貰えたら、少しは私の負い目も薄れると思っていた。
その人の、思いがけない言葉を聞くまでは。

568 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:33:38 ID:xJgVi.I20
 「だからこそ、一応聞いて置きたいんですが。」
「この際だから何でも聞いて頂戴。」
「アイツ等が、僕に直接の危害を加えないだろうという事は解りました。
でもSさん達にとって、確実に目的を達成したいのなら、むしろ僕を」
「やめなさい!」 自分でも驚く程の大声でその言葉を遮った。
...やっぱり。
あの時のLの姿と言葉が否応なく蘇る。 『あなたの術の全て、その的は私。』
この人はLに似てる。
他人との心の繋がりが弱いせい? それとも『欠落』による自己肯定感の欠如?
どちらにしろ、2人の生への執着はあまりにも薄い。
必死で引き留めても、誰かの為という名分さえ有れば、きっとあっけなく彼岸へ逝ってしまう。
どうして分からないの?あなたたちを失ったら、立ち直れない程悲しむのは私だけじゃない。
第一、大義のためにあなたを殺したとして、それを知ったらLは?
それに私が、あの娘にそれを隠し通せるとでも?
胸騒ぎ。絶対に、絶対にこの人を失いたくない。
この人を現世に繋ぎ止める事が出来るのは心と心の、あるいは体と体の絆。
その絆を1つでも、少しでも早く増やすことが出来るなら...そのためには。
心を、決めた。

569 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:35:01 ID:xJgVi.I20
 「今できる説明はこれでお終い。他に質問は?」 「いいえ、ありません。」
グラスに少し残っていたハイボールを一気に飲み干して、立ち上がる。
「じゃ、5分後に此処で。寝室に案内するわ。洗面所の場所は分かるでしょ。」 「はい。」
部屋に戻り、パジャマに着替えて寝支度を済ませた。 深呼吸、心を静めて、リビングに戻る。
大丈夫。急だけど、初めて会ったときから何となく予感は有ったから。 きっと『この人』だって。
「あの、此処は?」
「私の寝室、さっき言ったでしょ。今夜は私と此処で寝て貰います。もちろん朝まで。」
「いや、だってそれは。」 左手の薬指を舐め、その指でその人の額に触れる。
御免ね。私も初めてだし、勿論あなたが大好きだけど、少し怖い。
だから少しだけ、時間を頂戴。その間あなたを抱き締めて、あなたが見ている夢を通して
どうしたいのか、どうされたいのか、それが分かれば心の準備が出来る。きっと体の準備も。
「でも、こんな事。Lさんに知られたら。」
思わず溜息、ホント腹が立つ程、ストレートな物言い。
でもこれからは、私達の一族の倫理にも、慣れて貰わなきゃ。

570 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:36:03 ID:xJgVi.I20
 「今夜一緒に寝る事はあの娘にも話してあります。
何をするか詳しく話した訳じゃないけど。それに。」
この人の罪悪感が少しでも軽くなるように、悪戯っぽく笑顔を作る。
「私への『好き』より、あの娘への『好き』の方が大きいなら、何も問題無いでしょ?」
その人の顔が一瞬で紅に染まった。
「何故それを。」
その問いには答えず、耳元で囁いた。 「だから余計に羨ましいの。」
そう、『私を見て、私の事も忘れないで。』。 それが私の、正直な気持ち。
何処にも行かずに、いつまでも私の傍にいて欲しい。
部屋の灯りを消して、その人を強く強く抱き締めた。
とても嬉しくて幸せで、少しだけ悲しい。でも、朝までは2人きり、それで充分。

571 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:39:41 ID:xJgVi.I20
 痛...何? 唇の、鈍い痛み。 そっと目を開ける。
背後から私の右肩を抱く、筋肉質の細い右腕。首の左下にも腕が、これ、腕枕?
朧気な記憶、それとも、私はまだ夢の中? ううん、夢じゃ無い。
唇の痛みだけで無く、全身に散らばる微かな痛みがその証拠。
ゆっくりと、でも確かに戻ってくる愛しい記憶。
その右腕を浮かせて、そっと寝返りを打つ。やっぱり夢じゃない。
少しだけ日焼けした可愛い顔。安らかな寝息。
さらさらの黒い髪、長い睫毛。 紅を引いたように形の良い唇。 まるで、女の子みたい。
愛しさが込み上げて、唇を重ねる。もう歯が当たらないように、そっと。
「ん...」 折角の眠りを邪魔して御免ね、でも確かめたい。だからもう一度。
二度目のキスで、その人は目を開けた。ボンヤリと寝惚けた瞳、可愛い。
「Sさん、どうして?これは、夢?」
ふふ、私と同じ。やっぱり今の幸せは、夢みたいよね。
「夢かどうか、確かめて。」
その人の右腕に力が篭もり、私を抱き寄せた。幸せを噛み締めて、目を閉じる。

572 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:40:51 ID:xJgVi.I20
 ダイニングで朝食の準備を始めた時からずっと、一番遠い椅子に小さな白い影。
300年も前から術者との契約を更新し続け、一族有数と称される式。
それがまるで拗ねた子供のように背を向けている。これはこれで見物なのだけれど。
「言いたい事があるなら今の内よ。もうすぐLを起こす時間だから。」
「今朝はL殿を起こす前にもう1人、起こさねばならぬ者がおりますな。」
「管、らしくないわね。一体何が不満なの?」
「不満?合点がいかぬは当然。如何に資質があろうと何処の馬の骨とも知れぬ男を。
炎殿との縁談を断ってあんな男を選んだとなれば、○△姫の立場も危うくなりましょうに。」
「あの縁談は『上』から勧められたものじゃなかったし、あなたも反対だったでしょ。
今まで『誰とも結婚する気はない。』って、縁談を断ってきた跳ねっ返りが、
『結婚して子供も欲しい。』って気になってるのよ。
将来の術者が増えるなら、『上』だって大喜びだわ。
私の立場が悪くなるなんてあり得ない。それにね。」
未だ背を向けた沈黙は、話を聞いているというサイン。
「術者になってずっと一緒だったから、管が一番この縁を喜んでくれると思ってたの。
だから、ちょっと哀しいな。私の大好きな人を『馬の骨』だなんて。」
控え目な、溜息が聞こえた。
「今後はあの男に、○△姫の夫君としてふさわしい言動を期待すると致しましょう。では。」
椅子の上の白い影は、一瞬で消えた。

573 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:43:03 ID:xJgVi.I20
 今後の対応について作戦会議を開いたのは、その日の昼食後。
会議が一段落したタイミングで、その人は小さく右手を挙げた。
封が解け始め、その感覚が覚醒しつつあるのだから当然の事。私とLの予想通り。
「もし、失敗してLさんがアイツ等の手に落ちたら、
アイツ等はLさんを使って一体何をするつもりなんですか?」
Lの顔を見た。大丈夫、Lにも迷いの色は無い。
酷かも知れないが、この戦いに臨む覚悟を伝える時。
「それは私も予想できない。でも、ひとつだけ確かなのは、
『もし失敗しても絶対にLをアイツ等に渡してはならない』と言うこと。」
その人の顔面が蒼白に変わった。そう、この戦いの重さを知れば誰だって心が揺れる。
でも、その覚悟に少しでも甘さがあれば、この戦いを勝ち残れない。だから。
「失敗が確実になったら、この手でLを殺す。それが、『上』から私への指示。」
両手で両耳を覆ったその人の体が、ソファの上でゆっくりと傾く。一体、何故?
「Rさん!」 Lがその人の体に縋り、手を握る。そして。
Lの体の下から小さな白い影が飛び出して、消えた。 管? どういうこと?
呼びかけても管の反応はない。 突然、蘇る言葉。

574 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:44:20 ID:xJgVi.I20
 『今後はあの男に、○△姫の夫君としてふさわしい言動を期待すると致しましょう。』

 必要な覚悟の重さを目の当たりにして揺らいだ心を『ふさわしくない』と判断したら、管は?
まさか。 「L、R君をお願い。私も出来るだけの手を打ってみる。」 「了解です。」
階段を駆け上り部屋へ戻った。引き出しから紙を取り、管の、真の名を書く。そして魔方陣。
部屋の床、中央に大きな白い影が浮かんだ。巨大な体躯の白狐。
「お呼びですか?わざわざ緊急の回線を使う程の事では」
「黙って!あなた、あの人に何をしたの?」
「さっきの話で、あの男の心が揺らぎました。」 「人間なら、それは当たり前だわ。」
「文字通り恋は盲目。○△姫様も例外ではないという事ですな。」 「どういう、事?」
「あれが、只の人間ですか?」 「...それは。」
「話を聞き、畏れをなして逃げ込もうとしたのですよ。自らの心の闇に。
あれ程の資質を持った者が闇に入り、万が一にも敵の手に堕ちれば戦いの趨勢が変わる。
この戦いに敗れた時、○△姫様にはL殿とあの男を、ともに葬る覚悟が御有りか?」

575 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 19:59:40 ID:xJgVi.I20
 確かに、作戦会議で確認した通り、今後敵からの攻撃が激しくなるのは間違いない。
このお屋敷が探知されるのも恐らく時間の問題。もしアイツ、Kの攻撃であの人の心が。
「あの男の心を『薄暮』に封じ、無論○△姫様の夫としての心構えも説きました。
もし相応の覚悟が出来たら勝手に出てくるでしょう。それが出来ぬのなら、
この戦いが終わるまであの男はそのままに。その方がむしろL殿の心も。」
涙が、溢れた。管の言う通り、私は浮かれていたのかも知れない。
でも嫌、こんなの納得出来ない。沸き上がる想いを抑えるなんて。
「管の馬鹿!あの人はそんなに弱くない。見てなさい、『薄暮』なんか直ぐに。」
「...貴方様にお仕えすると決めて本当に良かった。本当に人とは、不思議な生き物。
たかだか100年しか生きられぬ身で、貴方様もL殿もあの男も、何と鮮やかな輝きを。」
ノックの音? 我に返る。
「Sさん!Rさんが目を覚ましました。すぐに来て欲しいって。」
涙を拭うのも忘れてドアを開けた。廊下を走る。あの人の待つ、リビングへ。

576 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:01:03 ID:xJgVi.I20
 少し悔しいけれど、私たち3人の心が以前に増して1つに、強く纏まったのは管のお陰だろう。
その人はお屋敷で暮らし始め、心の繋がりを深めながら、3人でその日に備えた。 
Lとその人、2人を何度も街に出すのはさすがに危険過ぎる。
当然、日々必要なものの買い出しは私の役目。
その内、手間暇かけて作った食事を一緒に食べるのが、3人の数少ない楽しみになった。
出来るだけ質の良い食材を使い、毎回の食事を工夫する。
驚いたのはその人の料理の腕前。飲食店でのバイトは、主に食器洗いだった筈なのに。
和食、特に魚を使った料理はそれこそ玄人裸足という他に言葉が無い。
綺麗に面取りをした飴色の鰤大根が食卓に並んだ時、私とLは唖然とした。
「こんな良い魚使えたら美味しくて当然です。え?どうやって料理を?
...う〜ん、父と釣りに行ったら、釣った魚を捌いて料理するのが当たり前だったし。
夕食は結構母の手伝いをして食材の下拵えとかしてましたから。
全部、見よう見まねです。父と母が料理上手だって事ですかね。」
「もしかして、Rさんの実家は料亭ですか?」
「まさか。父は私立大学の講師で、母は専業主婦です。料亭なんて。」
言葉を交わしながら、その手は休まずに動き、大皿にヒラメのお造りを盛り付けていく。
本当に、美味しそう。そしてその人は別に小さな皿を1つ用意した。
「これは管さんに。ええと、そう、陰膳。」 本当に、勘が良い人。
あれは昨夜の事。

577 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:02:04 ID:xJgVi.I20
 「管、仕事よ。」 Lの誕生日まで、既に一ヶ月を切っている。
呼びかけて数秒後、ソファの上に小さな白い影。「管は此処に。何なりと。」
「今日、『上』から要請が有ったの。対策班に協力して欲しいって。」
「炎殿の指揮下に入るのに異存は有りません。しかし、この屋敷の護りは。」
「私が何とかする。それに、対策班がアイツ等を処理できれば護り自体が必要なくなるわ。」
「御意。」 白い影は消えた。
陰膳に込めたその人の想いは届いているけれど、私の判断は正しかったかしら。
『過激派』の、残った精鋭の術者たちは頻繁に移動を繰り返していると聞いた。
何度か探知には成功したようだけれど、どうしても対策班の対応がもう一歩間に合わない。
結局、対策班が手を下す前に、アイツ等はこのお屋敷を探知した。
最初の干渉があったのは、管を対策班へ派遣して数日後。それを防ぐ事は出来なかった。

578 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:03:37 ID:xJgVi.I20
 「R君、一体どういう事なの?説明して頂戴。」
自分の声、その冷たさに身震いする。まさか、こんな事になるなんて。
強張った顔、その人の心は私とLを拒絶している。もう、私の想いは届かない。
その人の隣にはLと良く似た美貌。この女が、K?
「Sさんの説明が真実だとは限らない。最初からそれを考えておくべきでした。
僕はSさんに騙されていた。僕の気持ちがLさんから離れるのは当たり前の事。違いますか。」
Kの術は既にこの人の心を。 もしLがそれを知ったらその時点で...もう策はない。
「Lを見捨てるというなら仕方ない。でも、君ほどの資質を持った人間を敵の手に渡したら、
この戦いに勝つのは更に難しくなる。」 悲し過ぎて、涙も出ない。
「言ったとおりでしょ?この人は真実に気付いた貴方が邪魔になったの。
でも心配要らない。貴方は私が、必ず守ってあげる。」
初めて会った、Lに似た人。この人が術者でなかったら、私はLの親戚を見つけたと喜んだ筈。どうしてこうなったの? 何故、私たちは長く無益な身内の争いに否応なく巻き込まれて、
互いに憎み合い、時には殺し合わなければならないの?
分からないし、考えている時間もない。
ただ1つ確かなのは、愛する人の心を取り戻さなければいけないということ。
そのためなら、どんな手段を使っても。
「そうね。Kと言う名、その力を聞いた時から、いつか必ず戦うことになると思ってた。
あなたを倒して、この人の心の呪縛を解く術を見つける事が出来れば、もしかしたら。」
「もう手遅れ。この人の心は私のもの。それに、私には勝てない。たとえ『氷の姫君』でも。」
「それじゃ、試してみましょうか。」 ゆっくりと立ち上がる。 Kの姿がゆらりと薄れた。

579 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:05:02 ID:xJgVi.I20
 目が、覚めた。そうか、夢。 私の心の弱さが見せた幻。Kは私より若く、Lより女性らしい。
もしあの人の心が動いたらと怖れる心が...待って、どうして私はその姿を?まさか。
飛び起きてカーディガンを羽織り、ドアを開ける。早く、あの人の部屋へ。
微かな、残り香のような気配。 間違い無い、敵の、Kの干渉。とうとう此処を探知して。
深呼吸、騒ぐ心を必死で静めて笑顔を作る。ドアをノックした。
「起きてる?」 「はい。」 小さな返事の後、ドアが開いた。
「話が有るの。良い?」 その人は黙って頷いた。
良かった。揺れてはいるが、この人の心は私を拒絶してはいない。
「寒いから、上着を着てダイニングに。今、温かいお茶を淹れるわ。」 俯いて踵を返した。
キッチンへ向かう廊下、零れる涙を拭う。本当に、良かった。

580 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:06:08 ID:xJgVi.I20
 お茶を一口飲み、その人の心がすっと落ち着いたのが分かった。
その人の目をしっかり見詰める。その人も、目を逸らさない。 もう、大丈夫。
「さっき、何を感じた?」 「感じた、って言うか。変な夢を見ました。」 「どんな夢?」
その人が話した夢の内容は、かなりハッキリしていて複雑なイメージだった。
初老の男、顔に大きな傷跡のある若い男。今より若い私。
Lの面影がある小さな女の子。 そして、彼女たちの最後の言葉。
「その男性2人に見覚えはある?」
「いえ、全然見覚えはありません。知らない人達でした。」
これは、かなり厄介。相手の記憶すら利用しない、大がかりな幻視。
初めての干渉でそんな事が出来るのは、この人とKの間に『共振』が起きている場合だけ。
この人が一族の血縁だとすれば、恐らく分家の系統。つまりこの人とKの血が、共振の原因。
ちゃんと説明をしておかないと、この人の心を繋ぎ止めるのは難しい。
「君は、さっきの夢を見てどう思った?正直に聞かせて。」
「...もしあれが真実なら、Lさんを守るのは正しい事なのか、そう思いました。」
「君、本当に優しいのね。『Sさんに騙されているんじゃないか?』って思ったんでしょ?」
「正直、騙されているのかも知れない、とは思いました。済みません。」
「謝る必要は無いわ。細かい事まで説明していなかったのは私の方だもの。
でも、結局は君が何を信じるかって所に行き着く。それを承知の上で聞いてね。

581 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:07:00 ID:xJgVi.I20
 相手の精神的な弱みに付け入る敵の手口について、Kの年齢とその『力』について。
そしてこの人とKの間で起きた『意識の共振』について。
その人は真っ直ぐに私の眼を見詰めたまま、注意深く話を聞いていた。
本当に勘が良いから、理解も深い。これなら大丈夫。もう、その心は揺らがない。
「どんな術でも、そしてそれが強い術であればある程、術には術師の個性が滲み出る。
相手が女性だと判っていれば、術に対応する方法を選択する手がかりになるかも知れない。」
心は揺らいでいない。でも少し疲れた、滅入ったような表情。術者ではないんだし、それも当然。
「あの、今後はああいうのが何度も起こるんですか?」
「度々『本体』を侵入させたら確実に居場所を特定されるから、
そんなに何度も起こるとは思えない。でも、対応策は必要ね。」
この人の心が揺らがないのなら、敵の干渉を逆に利用できるってこと。
干渉しようと此所に侵入してきたら、その経路を辿って敵の居場所を特定する。
この人に『鍵』の掛け方を教えておけば干渉される事はないし、
夜の間は私が敵の侵入を完全に遮断すれば良い。
優れた資質から予測できたけれど、その人の覚えは早かった。
初歩的な術とはいえ、たった1時間強。本当に素晴らしい、これなら安心。
そしてその安心こそが、危険な陥穽。 私はKの力を甘く見ていた。

582 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:09:49 ID:xJgVi.I20
 Lと一緒に夕食の支度をしている途中、それは起こった。
微かな、残り香のような気配。この感じは。
「Sさん、今何か変な感じが。」 「L、R君は何処?」
「ええと、シャワー。いいえ部屋かも。さっき着替えを取りに行くって。」
全力で走る。一刻も早くあの人の部屋へ。大失態。
信じているけれど、もし干渉があの人の心を変えてしまったら私は。そしてLは。
部屋のドアは開いていた。床に膝を着き、PCデスクに寄りかかるその人の姿。
良かった。この人の心のあり方は変わっていない。そっと、その人の肩に手を掛けた。
「大丈夫?今、アイツの気配を感じたから。」 「...今回のはキツかったです。」
遅れて駆けつけてきたLに後を任せて、リビングでホットウイスキーを作った。手が震える。
落ち着いて。落ち着け、私。 確かに大失態だけど、これは逆にチャンスでもある。
この規模の干渉。間違い無くその痕跡から侵入経路を辿れる。
私はKの力を甘く見ていたけれど、それはKも同じ。
炎は独断で対策班を動かせる。敵の居場所を特定したら『上』を通さずに管に伝え、
管からの情報で炎が指示を出す。対策班が急行すれば、敵は逃げられない。
ホットウイスキーを少し飲んで、その人の顔色は大分良くなった。
リビングに移動し、ソファで横になったからもう安心。あとはLに任せておけば良い。
部屋に戻り、準備を調える。アイツの痕跡が薄れる前に。
極薄の和紙で小さな鳥を切り出した。尖った翼、二股の尾羽。親指の爪ほどの、白い燕。
それは燕と同じ速度で飛ぶ『眼』。 アイツの痕跡を辿り、その居場所まで。
掌に載せ、息を吹きかける。 それは躊躇無く飛び去った。 これで良し。
灯りを消し、ソファに身を沈める。 深呼吸。 ゆっくりと、眼を閉じた。

583 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:11:09 ID:xJgVi.I20
 ...駅が見える。県内の地方都市。そして、町外れの小さな雑居ビル。
数ヶ月前、最後に敵の活動が探知されたという場所よりもずっと近い。
まさか、こんな近くに。 これまで探知された敵の活動は陽動作戦だったってこと?
でも、見つけた。もう逃がさない。 柏手を打って術を解く。 いつも通り、軽い目眩。
あとは管への連絡。対策班には炎の他にも有力な術者がいるし、今は管も。
相手の術と代を封じれば、武器の扱いに長けた男達が存分に働く筈。
あの場所にいる過激派は恐らく全員。 正直、その結果を招く事に躊躇いもある。
しかし、長い争いは相手から仕掛けて来たもの。 今、私の仕事はLとあの人を護ること。
深呼吸、『通い路』を開く。
『管。今、敵の居場所を探知した。良く聞いて炎に伝えて。場所は...』

 「昨夜の侵入経路を辿って、アイツ等の居場所を特定したわ。
既に『上』にも報告済みだし、今日中に対策班が踏み込むでしょうね。」
朝食後のコーヒーにふさわしい話題じゃないけれど、配慮している余裕はない。
コーヒーカップをそっとテーブルに置き、その人は私を見詰めた。
「アイツ等の計画は挫折して、Lさんを守りきれる、という事ですか?」
「対策班がアイツ等を完全に始末できれば良いんだけど、アイツ等だって
何とか逃げ延びて計画を完成させようとする筈だわ。だからおそらく今夜までが
山場になる。もう侵入の痕跡を残すのを怖れる必要も無いし、
一か八かで、R君に最大の干渉を仕掛けてくる筈。」

584 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:12:42 ID:xJgVi.I20
 「だから罠を掛ける。敢えて意識のコントロールを外す時間を作り、
アイツからの干渉を待って反撃する。」
「怪しまれませんか?第一、最大の干渉に僕の意識が耐えられるかどうか。」
「コントロールを外す時間をランダムにすれば怪しまれないし、
今度は私が付いてる。君の意識に私の意識を繋げておいて、
干渉があった瞬間に全力で反撃する。一気に決着を付けるわ。」
「干渉があるまでは、待っていなければいけないのでしょう?」
「当然、そうなるわね。」
「じゃ、私の意識も繋げてお手伝いします。
そういうのは得意だし、2人より3人の方が、お互いの負担は小さくなりますよね。」
Lの真剣な表情、でもその人は微妙な顔になった。
「あの、SさんとLさんの意識を僕の意識に繋げたとしたら、
干渉を受けた時の、え〜とその、幻視は2人にも見えるんですか?」
そう言うこと、ね。その人の幻視の内容によっては、Lに刺激が強過ぎるかも。
「見えるけど、君が見ているものと全く同じかどうかは。」
「全く同じように見えた方が好都合ですよね。その方が反応し易いし。」
無邪気な微笑。 もしも...いいえ、きっと大丈夫。 愛しているから、受け容れられる。
第一、その人が幻視を見るまでもなく結着が付く。何の問題もない。
「分かりました。宜しくお願いします。」 うん、良い返事。 それは4時開始と決まった。

585 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:13:41 ID:xJgVi.I20
 リビングで代の配置を確認した後、時計を見た。 2時丁度。
配置した代は4つ。あの人の意識に悪意が干渉した瞬間、代に蓄えた力が発動する。
あの人の気配を探すのに集中している相手には、この罠が見えない。
普通なら1つで十分な代を4つ配置したから、力が発動すれば結界も同時に完成する。
逃れる事も出来ず、反撃する間もない。
相手が相手だから、万全の準備をしたけれど、さすがに疲れた。
だらしないけど少しだけ部屋で休んで、3時にはあの人が声を掛けてくれる筈。

 微かな芳香...これは、ジャスミン。 夢?
待って、この香りは! 飛び起きる。 3時少し前、部屋を飛び出した。
今日はお茶の当番だから、きっとあの人はリビングに。

586 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:14:36 ID:xJgVi.I20
 「あれ?」 「え?」 「君、何ともないの?」 「はい。」 その人の、怪訝な表情。
「何かあったんですか?」 「確かにアイツの気配を感じたんだけど、おかしいわね。」
「僕は何も。」 突然、その人の表情が変わった。 「あああ、あの、姫、いやLさんが。」
また、走る。廊下を曲がってLの部屋へ。 干渉の相手はL? どうして?
ドアをノックした。 「L!L!」 返事がない、ドアを開けて部屋の中へ。
後から部屋に入ったその人は、Lの枕元に屈み込んだ。
「息をしてます。」 「そうね、良かった。」 生きてはいても、もし心が。
その時、Lが身じろぎをして眼を開けた。
「あれ、Rさん。Sさんも。私、寝過ごしちゃいましたか?」
「L、あなた何ともない?」 見たところ、何も変わった様子は無いけれど。
「本を読んでいたら急に眠くなって、いつの間にか寝ちゃいました。
でも、何だかすごく良い気分です。」 姫は小さく伸びをして体を起こした。
「とってもお腹がすきました。昨日のケーキ、残ってましたよね。」
昼寝をしたからか、むしろ午前中より元気に見える。
でも、確かにアイツの気配が。一体何のために?
立ち上がったLはあの人に抱きついて、頬にキスをした。
「お茶の用意、手伝います。あ、その前に顔洗わないと。行儀悪いですね。
じゃ、行きましょう。ほら、Sさんも。 ケーキ食べたら、私頑張りますから。」

587 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:15:42 ID:xJgVi.I20
 お茶の時間を終え、私達たちはリビングで臨戦態勢に入った。
あの人は『鍵』を掛ける時間と外す時間をランダムに繰り返している。
ひたすら繰り返し、そしてKが干渉してくるのを待つ。只、じっと待つ。
何度それを繰り返したのか、不意にLが私を人差し指でそっと突付いた。
「さっきから微かに気配を感じます。それに、段々気配が濃くなってる気がします。」
Lの感覚をなぞり、その気配に集中する。微かな、芳香。
「多分、間違いない。...R君、あと2分経ったらコントロールを外して。」 「了解。」
眼を閉じて深呼吸。意識を集中し、『力』を貯める。
じりじりと時間が過ぎていく。あと1分30秒、1分、30秒、20秒、10秒。
時計の秒針が直立した瞬間、その人は『鍵』を外した。
通い路が開き、イメージが一気に流れ込んで来る。決着の時。

588 『追憶(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:16:54 ID:xJgVi.I20
 !? 力が、発動しない。何故?
引き金を引く筈の、アイツの邪気を感じない。そして、むせるような血の臭い。まさか。
「駄目、『鍵』を掛けて!アイツはもう」
叫んだけれど、遅かった。あの人はイメージの中に、そして当然私とLの感覚も。
必死で自分を抑える。あの人にもLにも邪気は無い。今私が下手に小細工をして、
もし代に蓄えた力が暴発したら4人とも。何もしない、それが最善の策。
この私が、何も出来ないなんて。

 目の前に開けた明るい景色。一面の、緑の草原。


『追憶(下)』 了

589 『追憶(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:18:55 ID:xJgVi.I20
『追憶(結)』

 その人の体を拭き清めて、新しい病衣を着せた。これは私の、私だけの役目。
掛け布団を調え、額にキスをして、その手を握る。
何かの拍子に、その手は私の手を握り返すのだけれど、それは多分反射の一種。
この人が自ら望んだ事だから、その心を中有から呼び戻す手は無い。
魂から引き裂かれた心。いいえ、魂との繋がりを無理矢理引き千切って、行ってしまった心。
Lも私も、全部置き去りにして。Lも私も、その心を繋ぎ止められなかった。
あの夜。Kと自分の心が流した血に全身を染めて呆然と座っている姿を思い出す度に、
どうしようもない無力感に苛まれる。心がゆっくりと乾涸らびていくような、虚しさ。
私とLは、3人で重ねた幸せな時間は、この人に取って一体どんな意味を?

 「ねえ、どうして?」
何度も何度も、口にした問い。もちろんその人は答えてくれない。
ずっと、考えている。あれから、ずっと。

 『私の事、愛してくれなくても、良い。一緒に来て頂戴、お願い。』
 『分かった。行くよ、一緒に。』
 『馬鹿、ね。本気でそんな事、言うなんて。ちゃんと、あの娘を守って、愛して、あげて。』

590 『追憶(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:20:42 ID:xJgVi.I20
 確かにあの人はKに頼んだ。『Lの術を解いてくれ。」と、『そのためなら何でもする。』と。
そしてKはその願いを叶えて、恐らくそれで、Kは命を落とした。
瀕死の状態だと知れば、あの人がKに同情するのは当然。とても、とても優しい人だから。
だけどKと一緒に行ってしまうなんて。 Lはどうなるの?私には何の未練も無かったの?
Lに仕込まれた術を解いたら、例え見捨てられても仕方が無い。それをK自身が分かってた。
だからこそあの時Kは『馬鹿、ね。』と。 そう、体良く断って同情するふりだって出来たのに。
いくら約束したからって...待って、約束。そう、そうだったのね。
私は、馬鹿だ。Kは敵だと、その考えに囚われていて、全く思いが至らなかった。
あの人を繋ぎ止めるのは『絆』、それは魂と魂の約束そのもの。
相手が誰であろうと約束は守る。だからこそ敵味方を越えて信頼され、愛される人。
私とLが、そしてKが愛したのは、そういう人だからじゃないの。 本当に私、馬鹿。
この人が約束を守ったからKの深い憎しみと悲しみは消え、
『不幸の輪廻』に取り込まれずに済んだ。
もし約束を守らなかったら、それは新たな、哀しい不幸を生み出す端緒になった筈。
計算も思惑も無い。私とLに対する時と全く同じ。ただ心のまま正直に、真剣に。
それが、1つの魂を闇から救い上げる奇蹟を現出した。
最後にKが浮かべていた、清らかで優しい笑顔。 この人を心から愛した女の子の、誠実。
例え敵であろうと、相手は私たちと同じ心を持つ人間。この人はそれを教えてくれた。
そして今この状態に留まっているのは、この人が私を、Lを未だ見捨てていない証。
そうよね、私も約束したわ。『全力であなたを護る』って。 何時までも、その約束は守る。
貴方が帰ってくるまで、ずっと。

591 『追憶(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:22:07 ID:xJgVi.I20
 「ホントに良いんですか?Rさんのアパート解約するなんて。」
「あの人はあなたと、そして一族の恩人。意識が戻ったら、ずっとお屋敷で暮らしてもらう。
もう決してあの人を一人にはしない。それに...」
不意に込み上げる激しい感情。 駄目、Lの前では。何とか涙を堪えた。
「意識が戻るまでの間は、ただ荷物を置いてるだけだもの。不経済だわ。」
意識が戻らなくても...
いや、絶対に意識は戻るし、それまで何年でも何十年でも私とLがあの人の世話をする。
私の一生を捧げても足りない、きっとLも同じ気持。 だからもうアパートは要らない。
今は何時あの人の意識が戻っても良いように、私たちに出来る準備を調えるだけ。
「それよりL。『聖域』へ行く仕度は出来たの?明日朝ご飯の後に出発よ。」
「はい。電話して詳しい日程を確認しました。でも結局いつ此処に戻れるかは分からなくて。」
俯いた、寂しそうな表情。この娘も、必死で感情を抑えている。
「もしあの人の意識が戻ったらすぐに知らせる。安心して。
それよりちゃんと『後の手当』を済ませて置かないと、あの人と暮らす時に困る。
将来子供が産めないなんて事になったら大変だから。」
「子供...って。」
「あら、大人になったらあの人のお嫁さんになるんでしょ?
それなら2人の間に生まれてくる子供のために、今から準備しないと。ね。」
「はい。何時か、必ず。」 そっとLの肩を抱き寄せた。

592 『追憶(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:23:45 ID:xJgVi.I20
 あ、居眠り、いつの間に? 既に陽は高い。 ベッドの様子を確かめた。
その人は安らかな寝息を立てている。 今日も信じて、帰りを待つ。それだけ。
手を握り、唇にそっとキス。暖かい、命の温度。 ...何だか喉が渇いた。朝から何も。
「愛してる。だから少し、待っててね。お茶、買ってくるから。」
一階の売店でペットボトルのお茶を買った。新聞は、パス。気分じゃ無い。
今日は一度お屋敷に戻って、お風呂に入って、着替えも沢山持って来なきゃ。
待ってるのがやつれて見栄えのしないお嫁さんじゃ、帰ってくる気になれないものね。
解けた術の『後の手当』をしてもらうために、Lも『聖域』で頑張ってる。私だって。
エレベーターの扉をくぐった。廊下を右に曲がって3番目の扉。
...微かな、気配。不意にチャンネルが合ったような感覚。部屋の中、これは?
慌ててドアノブを回す。その人がベッドの中で上体を起こしていた。
「R君!」 手から滑り落ちたレジ袋が、病室の床を転がっていく。
視界がぼやけて、膝から力が抜けそうになる。駄目、笑顔でお帰りを言うって決めていたから。
きっとこの人はLの事を聞きたがる。しっかり話して上げるのが私の役目。
震える足に力を入れ、一歩踏み出した。その人のベッドの傍ら、いつもの指定席に。

 お帰りなさい、私、待ってたのよ。ずっと。


『追憶(結)』 完

593 ◆iF1EyBLnoU :2015/03/30(月) 20:26:30 ID:xJgVi.I20
皆様今晩は、再び藍です。
無事、『追憶』の投稿を終える事が出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。今夜はこれにて。
本当に有り難う御座いました。

594 名無しさん :2015/03/31(火) 00:13:31 ID:hltrXrcg0
お疲れです。

595 名無しさん :2015/03/31(火) 18:29:53 ID:TpA2BPfI0
心からの感謝はこちらから 投稿ありがとうございます
新作も期待しています

596 名無しさん :2015/04/01(水) 04:58:13 ID:2Wy8iFFgO
結まで投稿ありがとうございます。お疲れ様です!
Sさん視点のお話は全く違うお話のようでした。貴重なお話をありがとうございました。

597 ◆iF1EyBLnoU :2015/04/01(水) 20:51:47 ID:pa0sPlw.0
皆様今晩は、藍です。明日早朝、仕事に出ます。
色々立て込んでいますので次作の投稿時期は未定です。
でも、もし次作の投稿が叶うなら、きっと此処で。

>>594
有り難う存じます。お楽しみ戴けるなら投稿は苦になりません。

>>595
新作をご期待戴くのはとても嬉しいです。有り難う御座いました。

>>596
「全く違うお話のよう」という御言葉、とても嬉しいです。
『出会い』との整合性があり、しかも『追憶』を読んで頂ける意味が有るのか。
「つまらない焼き直し」になってしまう事が知人の一番恐れた事でしたから。


それでは皆様御機嫌良う。本当に有り難う御座いました。

598 名無しさん :2015/04/01(水) 23:03:14 ID:PDm3fmnoO
いま再び、深い感動とともに、悲しみと痛みのよみがえる、素晴らしい物語でした。全ての始まりとなった、あの出来事を軸として、形の違う4人の愛が交錯し、新たな光を放っているようです。こういう語りかたもあるのですね、驚きました。本当にありがとうございました。
なお、単なる思いつきで、いつか同じようにして、愛と憎しみの炎(ほむら)編、なんてのもありかなと思いました。

599 名無しさん :2015/04/07(火) 22:40:57 ID:IVsxnTKY0
Sさんが生きててよかった。
恐らくはRさんも初めて触れるSさんの心があったと思う。
心が震えた。Sさんのその言葉に自分の心も震えるえるようでした。
心を重ね合わせ、関わる人々、読む人たちの全てにとっての「出藍」だったと。

600 名無しさん :2015/04/08(水) 08:57:50 ID:tBjlEMXw0
くっさ

601 名無しさん :2015/04/08(水) 21:21:06 ID:ZVFL4sIU0
600で、終わったかな?
これで投稿が終わったら、喜ぶ人がいっぱいいるだろうね?

602 名無しさん :2015/04/13(月) 23:34:07 ID:XRtN3kPU0
藍様、知人様、投稿ありがとうございます。
Sさんの隠された心情が、とても可愛らしくて好きなお話となりました。
様々な意見があるでしょうが、続編を期待してお待ち申し上げております。

603 ◆iF1EyBLnoU :2015/04/14(火) 00:09:08 ID:k4ZH18Ts0
皆様今晩は、藍です。コメント感謝致します。

>>598
私自身、この作品を読んで驚いた事が沢山有りました。
ただ、Sさん視点の他のお話については良い返事をもらっておりません。
気長にお待ち頂ければ、良い報告が出来るかも知れません。

>>599
同感ですし、確かに
『Rさんがこのお話を読んで初めて知った事があるかも』
そんな想像をするとドキドキします。

>>600
不快な思いをさせてしまったことをお詫び致します。
ただ、私たちの作品は全て同じような調子で改善の見込みはありません。
どうか臭い作品に関わって御自身の貴重な時間を浪費なさらぬように。

>>601
終わりません。投稿時期は未定ですが、次作は『新しい命・第参章』。
既に前半部の原稿は受け取っています。以前の教訓、お忘れ無く。

>>602
幾つかの作品の中で、Rさんが何度かSさんの『可愛さ』に言及していますが、
私自身『追憶』を読んで改めてその描写の深い意味に納得しました。
勿論、温かい御心遣いもしっかり受け取りました。どうかご心配なく。

さて、今夜はこれで。
明日から少し次作の準備に時間を取りたいと思っています。
本当に有り難う御座いました。

604 けんぽん :2015/04/17(金) 21:45:39 ID:OgqYrQV60
藍様
知人様

お忙しい中でのご準備及びご投稿有り難うございました。

目線が違うだけで、全く新しい物語かの様に楽しませて頂きました。

物語の展開が解っているだけに、SさんやLさんの視点での物語の進行や展開が斬新に感じられて…

これからは、拝読させて頂くのに違う目線での展開も楽しませて頂きます!!

これからも楽しみにしております。

お身体をご自愛頂きまして、今後とも宜しくお願い致します。

605 名無しさん :2015/04/18(土) 15:16:55 ID:trj1t/ZU0
お身体は不要だよ

606 名無しさん :2015/04/20(月) 20:43:41 ID:huDEsnxo0
 真っ当な感想のコメントに加え、600や605のようなコメントが付くのは、
この隔離スレを立てた御方の望みがようやく叶ったって事ですね。
賛辞も非難も揚げ足取りもみんな結構。まったりいきましょう。

607 名無しさん :2015/05/03(日) 20:03:58 ID:jWe7iikIO
何はともあれ、ありがとうございました。
Sさん目線の物語は、すでに知っている話の展開も新鮮でした。
次の新作もSさん目線で読みたいですね。
R君目線は、もう十分です。完結してますから…

608 名無しさん :2015/05/06(水) 13:34:46 ID:JY1HZ8IwO
Sさん目線の物語は、あくまでスピンオフ的なものとみていますが…。私は本編のRさんの語る新作をもっともっと読みたいです。

609 名無しさん :2015/05/15(金) 12:46:38 ID:OjlT1sAY0
と、いう事でいつもの通り「いちばんいいやつ」を頼みますわ

どうせ見に来るでしょうしね

610 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/01(月) 21:45:36 ID:o5szMDas0
皆様今晩は、藍です。
お仕事と私自身の体調の問題でご無沙汰しておりました。
おまけに次作の公開に厄介な問題が有り、すっかり凹んでいた所です。

しかし知人その他多くの方々のお力添えを得て、ようやく突破口を見つけた段階。
次作の公開を既成事実とするため、許可を得た部分を今夜中に投稿したいと思っています。
期待せずお待ち頂ければ幸い、きっと今夜中に、ではまた後ほど。

611 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/01(月) 22:56:58 ID:o5szMDas0
テスト中です。

612 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/01(月) 22:58:44 ID:o5szMDas0
『新しい命・第参章』

 「む〜、ねーね、ねーね。おかーたんは?おねーたんは?」
Sさんと姫を待ちかねたのか、藍がぐずりかける。
「大丈夫だよ、あい。もう少しでお母さんもお姉ちゃんも帰ってくるから、ね?」
姫が入院している産婦人科、一階ロビーのベンチ。
膝に座らせた藍をしっかりと抱き締めて、翠は藍の背中を優しくさすった。
藍が片言を喋るようになってから、翠は一層藍を溺愛している。
藍を抱っこして歩こうとしたり、危なっかしい事もあるが、弟を思う様子はとても微笑ましい。
当然藍も翠を慕っている。Sさんも姫も、勿論俺も、仲睦まじい二人を嬉しく見守っていた。

613 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/01(月) 23:00:54 ID:o5szMDas0
 「可愛い赤ちゃん。あなたの、お子さんですか?」
チリ。 頬や首筋の皮膚が引きつるような、違和感。
翠と藍の向こうに、お腹の大きな女性が立っていた。恐らく、臨月。
綺麗な人で身なりも整っているが、その顔は不自然にやつれている。
「はい。2人とも僕の。」 「もしかして奥様に3人目が?」
「あ、いえ。嫁さんの妹です。旦那が海外出張中なので、それで、嫁と僕が付き添いを。」
Sさんが翠と藍を産んだ産婦人科。O川先生の病院。
Sさんと俺は事実婚だと、当然O川先生も、看護師さんたちも知っている。
これで姫が俺の法律上の妻だと知られたら俺がどんな人間だと思われるか分からない。
それでSさんがその筋書きを書き、姫も面白がってそれを採用したという訳だ。
まだ慣れていないので、言い訳が少々ぎこちない。とても立て板に水という訳には。
「そうですか。妹さんはお幸せですね。」 女性は翠と藍の隣に腰掛けた。
「ホントに可愛い。ね、お姉ちゃん。赤ちゃん、抱っこしても良い?」
..まただ。発熱時の疼痛に似た、引きつるような、微かな皮膚の痛み。
「だめ〜。あいは翠の大事な宝物だから。」
翠は藍をしっかり抱き締めて、女性の反対側、俺の影に回り込んだ。その時。
「あ、お母さんとお姉ちゃんだよ。あい、いっしょに迎えに行こうね。」
翠は立ち上がり、藍を抱いたまま危なげな足取りで歩き始めた。

614 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/01(月) 23:03:06 ID:o5szMDas0
 「済みません、娘が失礼を。人見知りで、それに弟が出来たのが余程」
「いいえ。失礼だなんて。不躾なのは私の方です。この頃体調も悪かったし
予定日が近くて不安だったから、可愛い赤ちゃんを見かけて思わずあんな事。
でもあの子たちを見てたら、何だか元気が出ました。
私も、あんなに可愛い赤ちゃんを産みたいです。」
「そうですか。では僕もこれで、お大事に。」 一礼して立ち上がる。
歩き出して数歩、また、あの感覚。火傷をしたような、皮膚の痛み。
「あの人ね。それに、みどりと、あい。」
微かに聞こえた呟きは、幻聴だったか。振り返りたい衝動を抑え、ゆっくりと歩を進めた。

615 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/01(月) 23:06:27 ID:o5szMDas0
 「何だか、へんな感じ。」 翠の声。
直後。一瞬足下が沈むような、揺れるような感覚。
空気を裂くような悲鳴の、幻聴?続いて耳鳴りと目眩、思わず目を閉じる。
振り返ると姫が翠と藍を抱き寄せていた。
Sさんが立ち上がり、俺の耳に口を寄せる。囁くような、声。
「多分、今この病院内で人が死んだ。あんなにハッキリした徴は珍しい。
妊婦さんだとしたら、さぞ無念だった筈。残した想いが後の災いを招くかも知れない。
私たちもLの出産を控えてるし、念のために警戒した方が良いわね。」
その時、窓の外が明るくなった。点滅する赤い光、救急車?
「さあ、みんなもう寝るわよ。翠は絵本片付けて。」
Sさんが部屋の要所に結界を張り、灯りを消したのは5分程経ってからだった。

616 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 04:45:51 ID:vzlOR1Fw0
藍です。
昨夜投稿を始めたところでPCが止まってしまいました。
何とか復旧してもらったのですが、投稿も一回分失敗していたようです。
申し訳有りませんが、615は無視して続きをお読み下さい。

617 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 04:49:14 ID:vzlOR1Fw0
 「ね、翠。昼間ロビーで話した女の人だけどさ。」 「女の人?」
「ほら、『藍を抱っこしたい』って。」 「ああ、あの人。あの人は、キライだから。」
やはり、翠はあの時俺が感知できない何かを。
「どうして翠は、あの人が嫌いなの?」
「違うよ。あの人が翠とあいを嫌いなの。だからあい、絶対抱っこさせない。」
それきり、ぷいとそっぽを向き、翠は藍に絵本の続きを読み始めた。
う〜ん、これ以上は無理か。夕食後、お風呂を終えて就寝前の一時。
Sさんが翠と藍を産んだ時に使った家族用の個室、今回も同じ部屋に入院していた。
切迫早産の可能性が有るとの事で早めに入院したのだが、姫の体調は安定している。
「今の話、何ですか?女の人って。」 姫の笑顔。
ベッドの端で藍に絵本を読み聞かせる翠、姫は微笑みを浮かべて二人を見詰めている。
「昼間、Lさんの検診の間に話しかけてきた女の人がいたんですよ。
『可愛いから、藍を抱っこさせて欲しい』って。」

618 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 04:57:53 ID:vzlOR1Fw0
「何だか、へんな感じ。」 翠の声。
直後。一瞬足下が沈むような、揺れるような感覚。
空気を裂くような悲鳴の、幻聴?続いて耳鳴りと目眩、思わず目を閉じる。
振り返ると姫が翠と藍を抱き寄せていた。
Sさんが立ち上がり、俺の耳に口を寄せる。囁くような、声。
「多分、今この病院内で人が死んだ。あんなにハッキリした徴は珍しい。
妊婦さんだとしたら、さぞ無念だった筈。残した想いが後の災いを招くかも知れない。
私たちもLの出産を控えてるし、念のために警戒した方が良いわね。」
その時、窓の外が明るくなった。点滅する赤い光、救急車?
「さあ、みんなもう寝るわよ。翠は絵本片付けて。」
Sさんが部屋の要所に結界を張り、灯りを消したのは5分程経ってからだった。

619 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 05:08:56 ID:vzlOR1Fw0
 翌日、買い出しを終えて病院に戻ると、ロビーのベンチにSさんの姿が見えた。
小さく手を上げて立ち上がる。エレベーターホールに向かう廊下を並んで歩いた。
「あなたを見送ってから、病院の中を一通り見回ってみたの。そしたら凶兆が。」
全身に、微かな鳥肌。 「どういう事ですか?」
「時々強い気配が病院内を動き回ってる感じ。何かを探してるみたいに。」
その時廊下の奥、分娩室のドアが突然開いた。
看護師さんが一人飛び出し、足を滑らせて転んだ。知った顔、確か◎内さん。
「◎内さん、どうしたの!? 未だ処置は終わってないのよ?」
続いてドアから出てきたのはO先生、怒ったような口調だ。
「見えなかったんですか?さっきO川先生の隣に女の人が、あれ、▼沢さんでした。どうして。」
◎内さんの顔は真っ青で、その声は震えている。

620 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 05:13:14 ID:vzlOR1Fw0
 「先生、赤ちゃんの呼吸が。」
ドアから身を乗り出した看護師さんを見て、俺は息を呑んだ。
看護師さんの腕には、タオルにくるまれた赤子。
その顔が薄紫に変色している。呼吸の異常か、間違いなく酸欠の症状だ。
『◎内さんをお願い。私は赤ちゃんを。』
耳元で囁くSさんの声。俺の体は弾けるように動き、廊下に膝を付いた。
『大丈夫、大丈夫です。さあ、手を。怪我はありませんか?』
「あら、その赤ちゃん、どうしたんですか?」
その体で遮るようにO川先生の前に割り込んだSさんの左手が淡く光っている。
「Sさん、ちょっと。」 「もう、大丈夫。ほら。」

621 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 05:15:32 ID:vzlOR1Fw0
 Sさんが看護師さんの肩に触れ、何事か小声で呟いた。
それから見違えるように、赤子の血色が良くなっていく。
振り向いたSさんがO川先生の耳元で何事か囁いた。
俺はようやく立ち上がった◎内さんの手を右手で握ったまま、左手でそっと肩に触れた。
『そう、大丈夫。さっきのは錯覚です。最近忙しくて、疲れてたから。すぐに、忘れます。』
◎内さんはボンヤリと俺を見詰め、ゆっくりと頷いた。 もう、大丈夫だ。

 「△本さん、戻って後の処置をお願い。ほら、◎内さんも一緒に。」
O川先生の対応は早かった。入院している赤子を全て新生児室に移す。
もちろんSさんの指示。その後、Sさんは新生児室に厳重な結界を張った。

622 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 05:35:30 ID:vzlOR1Fw0
 「本当に、他の赤ちゃんにも影響が出る可能性があるなら、それを防ぐのが最優先。
もしもの事を考えてSさんの指示通りにしました。
親御さん達にはノロウィルス対策だと説明していますが、それも今夜一晩が精一杯。
一体どういう事なのか、説明して下さい。
昨夜亡くなった女の人に関わってるとして、あなたは何故その人の事を?」
人払いをしたO川先生の診察室、勿論此所にもSさんは結界を張った。
「昨夜9時半頃、徴がありました。この病院の中で人が亡くなった事を示す、徴。」
「人が亡くなった、徴って...。」
「陰陽師をご存じですね?この土地に古くから言い伝えられてきた者達。」
「陰陽師という言葉や陰陽師が出てくる昔話なら、多少は。」
「私たちは陰陽師の末裔。だから分かります。同じ建物で誰かが亡くなれば直ぐに。
ただ、あれ程ハッキリした徴が現れるのは珍しい。
そして、亡くなった翌日から人の命を左右する影響力を持つのはもっと珍しいんです。
恐らくあの女性は自分の赤ちゃんを抱けないまま、強い想いを残して亡くなった。
そしてその想いは見境無く赤ちゃんを手に入れようとする執着に変化して。だから。」
「それが、あの時の。」
「あの時、分娩室の中の強い気配を感じました。
部屋の中に居た感受性の高い人、例えば◎内さんなら、その姿もハッキリ見えたでしょうね。」

623 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 05:40:55 ID:vzlOR1Fw0
 O川先生は俯き、深い溜息をついた。
「信じられない話です。でも実際にあの赤ちゃんの呼吸が止まり、Sさんがそれを。
あの、Sさんたちが本当に陰陽師の末裔なら、何とかできませんか?
どうにか赤ちゃんを守らないと。私には、責任がありますから。」
「大丈夫、任せて下さい。今夜中に始末を付けます。O川先生も、協力して頂けますね?」
「もちろん、私に出来ることなら何でも。」
「まず、業者を呼んで一階の廊下とロビーを実際に消毒させます。
親御さん達には『見舞客の中にノロウィルス感染の疑いがある人がいた』と説明して下さい。
昨夜のことがあったばかりですし、疑われると騒ぎが起こるかも知れませんから。」
「わかりました。親御さんたちにはもう一度私からそのように説明します。」
「その後▼沢さんの荷物を調べさせて下さい。詳しい事情を知りたいので。
もちろん警察の方にも立ち会って貰います。警察にはこちらで連絡しますから。」
「それは...ええ、警察の方が一緒なら、構いません。」
Sさんがそっと俺に目配せをした。そういう事か。立ち上がって軽く一礼。
「失礼。早速連絡を。」 ドアの外で榊さんに電話をかけた。

624 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/02(火) 05:50:01 ID:vzlOR1Fw0
再び藍です。
昨夜中のつもりが、朝になってしまいました。
此処で一旦終了、続きはまた今度。
お読み頂いた皆様に感謝致します。
有り難う御座いました。

625 名無しさん :2015/06/02(火) 10:47:24 ID:Sywz6eToO
徹夜での投稿お疲れ様です。ありがとうございます。続きが気になります。

626 名無しさん :2015/06/02(火) 16:11:20 ID:xrJK6RIk0
続きが気になりますー

627 名無しさん :2015/06/03(水) 09:17:48 ID:7.w/I6hc0
お疲れ様です。 大変なようではありますが、頑張ってください。心待ちにしている読者もたくさんいると信じていますので(^'^)

628 名無しさん :2015/06/07(日) 23:58:34 ID:XzNs/6tc0
つづきを待ってま〜す

629 けんぽん :2015/06/08(月) 00:55:45 ID:J/J84uBc0
藍様
知人様

新しいお話を有り難うございます。

藍様は体調が優れなかったりPCのトラブルが起こったり等、色々と大変の様ですので無理なさらないで下さい。

お話の続きを投稿下さるのを楽しみにしております。

630 名無しさん :2015/06/08(月) 22:17:18 ID:NakTqrVw0
心待ちにしている読者の一人です。
ご自分のペースで無理をなさらず、気長に待ってます。

631 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:41:25 ID:WP6avOh60
テスト中です。

632 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:45:19 ID:WP6avOh60
皆様今晩は、藍です。

早速温かいコメントを頂き、有り難う存じます。
以下、追加で許可を貰った部分を投稿致します。
お楽しみ戴ければ良いのですが。

633 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:48:17 ID:WP6avOh60
 榊さんが病院に着いたのは午後4時過ぎ。
チーム榊は既に幾つか成果を得たらしい。短時間で、一体どれほどの労力を。
お互い様ではあるが、毎度俺たちを最優先での対応には頭が下がる。
既に準備を調えていたので、すぐに問題の病室へ向かった。
挨拶はそこそこ、廊下を歩きながら榊さんの質問は単刀直入。
「その女性の夫は外国出張中だと聞きました。連絡は、付かないんですか?」
幾ら出張中でも、緊急時連絡先に夫の電話番号を書くのは当たり前。
妻が倒れた、亡くなったって連絡すれば何らかの反応がある筈だろう。
「彼女が倒れた直後から何度も電話をかけているんですが繋がりません。
いつかけても留守番電話サービスに接続されてしまって。伝言は、残しているんですが。」
O川先生は病室の鍵を開け、ドアノブに手をかけた。

634 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:50:01 ID:WP6avOh60
 女性の荷物は驚くほど少なかった。中型のボストンバッグ、スーツケースが1つずつ。
ベッド脇の棚にキチンとたたまれた着替えが数点。
榊さんは手早くボストンバッグとスーツケースの中身を調べた。相変わらず手際が良い。
「最も重要な手がかりは多分この手帳。しかし、これは何というか、凄いな。」
薄い手袋をした指が手帳をめくる。A4版、手帳というよりは豪華なノートだ。
ページの間から濃密な気が漏れてくるのが俺にも分かる。Sさんは俯いて目を閉じていた。
裏表紙の内側に貼られた大判の写真。笑顔を浮かべた男女2人。
写真のすぐ下に書き込み。小さな文字。数字は、日付?
「こうすけ、かな?O川先生、この名前と写真の男性に見覚えがありますか?」
「いいえ、あ、でも▼沢さんが何度か『タカユキさん』と言うのを聞いたことが。
その字を、もしタカユキと読むのなら、その男性のことかも知れません。
「不審死という事で、この件には既に調査が入りました。
調査が終わるまで、この荷物は署の担当が預かります。
もし、今後ご遺族の方から連絡が有ったら、此処に電話を。」
榊さんは名刺を取り出し、O川先生に手渡した。名刺には分署の電話番号。
「分かりました。」 O川先生はホッとしたような表情を浮かべた。

635 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:52:08 ID:WP6avOh60
 振り向いた榊さんは、その手帳を俺に差しだした。
「これは俺よりSちゃんやR君の領域だ。宜しく頼むよ。」
「え?でもこれは証拠品ですから。」 それにO川先生の前でそれは。
「女性の身辺を洗ったら、他の病院での治療記録が出てきた。
高血圧で降圧剤の投与。持病を隠してたんだよ。元々出産に耐えられない体なのは明らか。
証拠としてこれを俺たちが調べるより、2人に任せた方がきっと実りがある。
第一、こんな手帳分署に持って帰ったら俺は兎も角、部下に障りが出る。」
「まあ、それなら。」 「待って。」 Sさんが俺の手を止めた。
「これをそのまま持ち歩いたら、間違いなく持ち主を呼び寄せる。」
Sさんはポケットの中から白いものを取りだして広げた。薄手の布袋。
「取り敢えず携帯用の保管庫。でも、Lの病室には持ち込み禁止。調べるのはお屋敷で。
あと、お屋敷でも調べる時以外はちゃんとした保管庫に。そうでないと色々障りが出る。」
白い布袋に収めたノートを俺に手渡し、SさんはO川先生の方に向き直った。
『O川先生、警察への引き継ぎは無事に済みました。
あとはノロウィルスの消毒だけですね。御協力、感謝します。』
Sさんがニッコリ笑って差しだした右手、吸い込まれるようにO川先生が握り返す。
そうか、術だ。O川先生はこの術に耐性がない。
O川先生はSさんから聞いた説明の大部分を綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。
赤子の不調が亡くなった女性の影響であるということも、もちろん俺たちが陰陽師であることも。
O川先生の後ろ姿を見送った後、榊さんは俺の方をポンと叩いて微笑んだ。」
「後は任せた。じゃ、今日はこれで。何か分かったら電話するよ。」

636 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:53:44 ID:WP6avOh60
 その日の夕食後、Sさんは『上』の使者が届けてくれた荷物を解いた。
テーブルにそっと置いたのは身長30cm程の人形。玩具という雰囲気ではない。
赤ちゃん人形と言うにはかなり精巧な作り。
人形の隣に紙の人型を置き、筆ペンで字を書いた。 『藍』 藍の身代わり? 何故?
「ここで亡くなった女性の件ですね?自分の手で抱けなかった赤ちゃんに執着を?」
寝入った藍を抱いた姫は少し心配そうだ。自身の出産を控えているのだし、無理も無い。
「そう。今日生まれた赤ちゃんが一人、危ないところだった。だから今夜中に始末を付ける。」
「藍だけなんですか?その、身代わりは。」 出来れば藍だけでなく、翠も。
未だ子供なのだから、巻き込みたくない。 しかしSさんは俺を見詰めて微笑んだ。
「全部が身代わりじゃさすがに見破られるでしょ。だから、これが翠の初仕事になる。」
初仕事...そうか。
『常に仕事が然るべき術者を選ぶ。術者が仕事を選ぶのではない。』
これまでの修行で、何度も何度も、Sさんから聞いた言葉。
Sさんは、姫のベッドで絵本を読んでいた翠に声を掛けた。
「翠、こっちへいらっしゃい。」

637 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:55:17 ID:WP6avOh60
 「これ、何だか分かる?」 「うん、代の人形。あかちゃんの身代わり。」
Sさんは藍の名を書き込んだ紙をこよりにして人形の髪に編み込んだ。
「じゃあ、こうしたら誰の身代わり?」 「あい...お母さん、それ、何に使うの?」
「翠と藍を嫌いな女の人、憶えてる?」 「おぼえてる。とっても、怖かったから。」
「あの人昨夜亡くなったの。自分の赤ちゃんを抱けないままで。
だから今も病院中を探し回ってる。今日別の赤ちゃんが一人、連れて行かれそうになった。」
「じゃあ、藍も?それからお姉ちゃんが赤ちゃんをうんだら、その赤ちゃんも?」
「そう、だからこのまま放ってはおけないでしょ?」 「何とか、しないと。」
「だからこの身代わりを抱いて、その女の人に会って欲しいの。
もちろんお父さんが一緒だから全然怖くない。」
予想通りだ。その女性を呼び出すなら、あの時の情景を再現するのが一番。
「あの女の人が来て『藍を抱っこしたい』って言ったら、この身代わりを渡す。
翠のお仕事はそこまで。あとはお父さんの後ろに隠れてて。出来るかな?」
翠は暫く俯いていたが、やがて顔を上げた。
「出来る。あいと、お姉ちゃんの赤ちゃんのためだから、がんばる。」
「そう、えらいね。ありがとう、がんばろうね。」
Sさんは翠を抱き上げて頬ずりをした。その眼にうっすらと光る、涙?

638 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:56:57 ID:WP6avOh60
 「そろそろかしら。」 Sさんの声に応じて時計を確認する。 9時10分。
あの晩『徴』があったのは9時20分頃だった。面会時間は8時までだし、
自販機は各階にあるからわざわざ一階で買い物をする人はいない。
無人の薄暗いロビー、それがこの件の始末を付ける舞台。
一階のロビーに移動する時間も必要だし。確かに『そろそろ』だ。
「丁度良い時間ですね。行ってきます。翠、おいで。」 「は〜い。」
既にパジャマに着替え、人形を抱いた翠はとても可愛い。
『誰か』に出会っても、ぐずった娘の気分転換だと言えば不審に思われる事はない筈。
手を繋いで廊下を歩く。エレベーターから降りたところで翠の手に力がこもった。
俺には未だ感知出来ないが、何か、いる。それを翠は。
しっかりと翠の手を握り、ロビーへ向かう。薄暗い中に整然と並ぶベンチ。
出来るだけ、あの日と同じに。一番後ろ、右端に座った。翠を抱き上げ、膝に座らせる。
小さな体は少し強張っていた。見慣れた式達とは違う相手、怖いのが当たり前だ。
抱き締めて、そっと背中をさする。 「大丈夫、お父さんがついてる。」 「うん。」
その直後、辺りの空気が変わった。 翠の体が更に強張った

639 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/08(月) 23:58:18 ID:WP6avOh60
 いつの間にか、俺の右側の廊下に女性が立っていた。間違いない、あの女性だ。
ただ、黒っぽい服を着た体はすらりと細く、あの日とは違う。既にお腹の子は、だから。
『お子さんたちは、どうか、したんですか?』
「ええ、娘が少しぐずったので、少し散歩です。3人で。」 翠の耳に、そっと口を寄せた。
「翠。ごあいさつ、できるかな?」 翠は顔を上げ、女性の方に向き直った。
「こんばんは。」 「今晩は。お姉ちゃんは今夜も赤ちゃんと一緒だね。」
女性は一歩踏み出して少し屈んだ。
「ホントに可愛い赤ちゃん。ね、お姉ちゃん。ちょっとだけ、抱っこさせてくれない。お願い。」 顔の前で手を合わせる。おどけた仕草だが、その眼は全く笑っていない。
ふっ、と、翠の体から固さが消えた。軽やかに体を捻って俺の膝を降り、床に立つ。
「良いよ。少しだけなら『藍』のこと、抱っこしても。はい。」
立ち上がり、女性を真っ直ぐ見つめ、差しだした翠の腕には。
...藍? いや、無意識とはいえ翠の『呪』が加わり、それは藍そのものの。
「有り難う。ちょっとだけね。」 深く屈み、顔にかかる髪。女性は『藍』を抱き上げた。

640 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/09(火) 00:02:00 ID:EXJ5CAqA0
 「可愛い。ホントに可愛い。この子はこんなに可愛いのに、私の、赤ちゃんは。」
髪の毛に隠れ、目の色は伺えない。しかし、微かに歪んだ口元を見れば十分だった。
「私の赤ちゃんは何処に行ったの?昨日までは確かに。」
ぎこちない姿勢で『藍』を抱いていた女性の右腕がゆらりと動いた。
「分かってる。私は、昨日死んだ。それは良い。でも。」
女性の右手はゆっくりと『藍』の頬から首に。
「やめて、そんなの駄目だよ。」 「お姉ちゃん、御免ね。でも一人は嫌。寂しいから。」
突然乾いた音が響き、『藍』の体が光に包まれた。
「あ。これ、何?」
女性の両手が燃えていた。青い炎がゆっくりと拡がっていく。胸の奥が、痛い。
『救えることもあれば、救えないこともある。』 俺と翠を送り出す前、Sさんはそう言った。
『たとえ救えても術者の手柄ではない、もちろん救えなくても術者の罪ではない。
結局旅の目的地を決めるのはその人自身、自ら破滅を選んだ人の魂は誰にも救えない。』と。

641 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/09(火) 00:03:13 ID:EXJ5CAqA0
 女性の姿が大きく揺らぐ、青い炎は既に女性の全身に拡がり勢いを増していた。
炎が勢いを増すほど女性の姿は薄れ、存在感を失っていく。
ただ俺は、熱気を全く感じない。ソファに引火する様子も無い。
Sさんの術が生み出した、浄化の炎。 魂を、食い込んだ闇ごと焼き尽くす、業火。

642 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/09(火) 00:04:28 ID:EXJ5CAqA0
 『逃げるだけでは駄目、そんなの当たり前でしょ。誰も、教えてくれなかったの?』
翠が女性を見つめている。でも違う。これは、Sさんの声だ。
『自分の夢から逃げ、愛した人から逃げ、最後は自分の人生から逃げた。』
女性は顔を上げた。
『逃げてなんか...私はちゃんと結婚して、妊娠して。』
『それで、あなたは誰と結婚したの?誰の子を妊娠したの?
あなたが死んだと連絡しても、あなたの夫が全く反応しないのは何故?』
『それは...』 女性の姿は消え、床に人形が落ちた。
人形を拾い上げる。髪の毛、人型を編み込んだ辺りが焦げていた。
Sさんが人形に仕込んだ2つの術。『浄火』と『逆針』。
発動した術は炎...結局、最後まで女性の心は光に背を向けていたのだろう。
もちろん自業自得、しかし、胸の痛みは消えない。
事情はよく分からないが、さっきの会話からすると不倫がらみの可能性もある。

643 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/09(火) 00:11:37 ID:EXJ5CAqA0
再び、藍です。今夜は此処まで。
お付き合い頂いた皆様に感謝致します。本当に有り難う御座いました。
この後は未だ許可を頂いておりませんが、頑張ります。
それではまた。

644 名無しさん :2015/06/09(火) 00:15:26 ID:0u52Uoy.O
気になるところで続きですね、寝つきが悪くリアルタイムで読めました。いつもありがとうございます。
色々事情があって続きの許可がでない場合もあるんですね。ぜひ最後まで読みたいです。

645 名無しさん :2015/06/09(火) 01:05:23 ID:wWIMBsRg0
途中までの許可とはこれまた珍妙な。足りないものは何であろうか。
我々になのか?それとも・・。

646 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/10(水) 00:24:47 ID:/LBZ9/3A0
皆様今晩は、藍です。

この作品では個別の返信や説明は控えるという約束なのですが、
『一部を書き換えれば、この作品は此処までで完結出来ます』という立場と
『大切なのは此処からです』という立場の板挟みだと御理解下さい。

残りを投稿できる目処が立たないのであればこの作品の投稿を一旦中断して
既に許可を得た別の作品を投稿した方が良いのかとも思います。
しかしそれだと管理人様のまとめ作業の御迷惑になりそうですし、なかなか難しいですね。

また明日から頑張ります。今夜はこれにて。有り難う御座いました。

647 名無しさん :2015/06/10(水) 01:24:59 ID:j9F3H3jg0
こんばんは 藍さん 知人さん お疲れ様です。
板挟み 大変だとは思いますが、それも産み出すための苦労だと思います。
読者としては あるがままを受け入れるのみかと思います。
お悩みかとは思いますが ご自身の「よかれ」を大切にすればいいのではないかと思います。
明日を楽しみにお待ちしています

648 名無しさん :2015/06/10(水) 18:58:09 ID:9ezrCaxo0
R・S・Lの関係もそうだけど婚姻に関わることに作者氏の拘りがありそうだ。

649 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 20:01:49 ID:iQvjbQ1E0
テスト中です。

650 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 20:06:19 ID:iQvjbQ1E0
皆様今晩は。藍です。

終盤のカットと、それに合わせた一部書き換えで投稿の許可を頂きました。
これから投稿内容の最終チェック、OKが出れば今夜中に投稿を。
もう暫く、お待ち下さい。

651 名無しさん :2015/06/12(金) 21:59:41 ID:8QIZtuH60
楽しみにお待ちしています。

652 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:24:29 ID:iQvjbQ1E0
 「お父さん、どうして?」 戻ってる、翠の声だ。そっと抱き上げる。
「どうしてって、何のこと?」
「あの女の人、どうしておよめさんになれなかったの?
およめさんになれたら、赤ちゃんが出来たら、きっとあんなひどいことしなかったのに。」
? お嫁さんになれなかったって...翠はあの女性の心を、それともSさんの術か?
「ハッキリ分からないけど、好きになった人にはもうお嫁さんがいたのかもしれないね。」
「だ・か・ら、どうして?おかあさんもおねえちゃんもお父さんのおよめさんでしょ?
あの女の人だって、2人目のおよめさんになれたはずでしょ?」
そういう、ことか。成長する過程で、いつか話す時期が来ると思ってはいた。
「良く聞いてね。お嫁さんは一人。それが普通なんだよ。」
「でも、お父さんは。」
「みんなで相談して、お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、それが幸せだって決めたから。
幸せの形は自分で決めるもので、それは一人一人違っていてもいいと思う。
もちろん『お嫁さんは一人』っていう考えが間違ってるなんて思わない。それに。」
「それに、なあに?」 じっと俺を見上げる、澄んだ瞳。

653 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:28:04 ID:iQvjbQ1E0
 「自分の考えを他の人に押しつけるのは良くないよね。
『お嫁さんは一人』って決めてる夫婦に、別の女の人が『2人目でも良い』って
無理矢理お嫁さんになることは出来ないでしょ?それじゃ誰も幸せになれない。」
「1人目のお嫁さんに、だまっていてもだめ?」
浮気とか、不倫? ...結構、核心を突いてくるなぁ。
「う〜ん、絶対に知られなければみんな幸せかな。いや、やっぱり難しいと思う。」
「どうして?」
「『お嫁さんは一人』って考えが普通なんだから、
『2人目でも良い』って女の人は滅多にいない。それだと、どうなると思う?」
「1人目のお嫁さんに、お嫁さんをやめてって言うかもしれない。
自分がお嫁さんになって、男の人を自分のものにしたいから。」
「翠、どんな人だって、他の誰かを『自分のもの』には出来ないよ。
例えばお父さんがどんなに翠を好きでも、翠は『お父さんのもの』じゃない。
いつか大人になって、誰かを好きになって、自分の幸せを見つけるんだから。」

654 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:29:58 ID:iQvjbQ1E0
 暫く黙って考えていた翠が顔を上げた。
「きっと、あの女の人は男の人を『自分のもの』だと思いたかったんだね。
だから大人なのにおままごとして...何だか、かわいそう。」
?? 『おままごと』 妊娠、したのだからおままごとでは...
突然、言いようのない不吉な感覚に捕らわれた。
もしかして、好きな男の役を別の男に?その男と結婚して、その男の子供を?
いや、幾ら何でもそれは。それなら浮気や不倫の方がよっぽど。

655 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:33:43 ID:iQvjbQ1E0
 「もうお仕事は済んだでしょ?すぐに帰ってこないと心配するじゃない。」
Sさんが立っていた。微笑みと共に差し出された右手、無意識に人形を。
Sさんは受け取った人形を白い袋に入れた。手帳の時と同じ、携帯用の保管庫。
「これも病室には持ち込み禁止、取り敢えず今夜は手帳と一緒に車の中ね。お願い。」
俺の腕から翠を抱き取る。俺は交換で白い袋を受け取った。
「頑張ったね、すごく偉かったよ。」 翠は黙って頷き、Sさんの肩に顔を埋めた。
「やっぱり怖かった?」 「うん、最初は少し怖かった。でも、お父さんと一緒だったから。」
翠の髪を愛しそうに撫で、Sさんは小さく肩をすくめて見せた。
「ね、翠。その女の人、最初に見たときと何か違ってた?」 「...服が、違ってた。」
「それだけ?お腹、大きくなってなかった?」 「ううん、大きくなってなかった。あの時と同じ。」
??? 翠には、見えてなかったのか。一目で臨月と、そして実際に子供が。
「先に戻ってる。心配事の始末は付いたし、なるべくLに付いていてあげないと。」
白い袋を車に置いて部屋に戻ったのは10時少し前、既に姫と藍は寝息を立てていた。
翠をあやし寝かしつけるSさんに声を掛けるのは躊躇われたし、質問はお蔵入り。

656 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:36:18 ID:iQvjbQ1E0
 翌日。朝食の後、一旦お屋敷に戻り人形を『保管庫』に入れた。
手帳はリビングのテーブルの上。病院に戻る前に、調べようと決めていた。
何だかSさんは気乗りしない様子だったが、あの、▼沢という女性が
あれ程に歪んでしまった事情を知りたかった。そして、彼女のお腹の子についても。
だからお屋敷での雑用を兼ねて、手帳と人形を保管庫に入れる役目を引き受けた。

 黒革の表紙、分厚いA4版のノート。その真ん中辺りを開く。
「○月4日、定期検診。赤ちゃんの発育は順調、あの人にもエコーの写真を見せたい。
でもシドニーだし、忙しい時期だし。わがまま言っちゃ駄目よね。私が、しっかりしないと...」
「○月5日、今日はあの人から電話が来た。話した時間は短いけど、
あの人の愛情はしっかり伝わってくる。そっけなく見えて、本当はとても優しい人。
来年の今頃は、家族3人一緒に暮らせるから...」
「○月6日、少し体調が悪かった。病院に行くと赤ちゃんの事色々言われるから行きたくない。
こんな日はあの人が一緒にいて欲しいと思う。でも、考えすぎると辛くなるから気分転換...」

657 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:38:36 ID:iQvjbQ1E0
 日記、か。一旦ノートを閉じ、眼を閉じて深呼吸。精神を統一する。
この日記で彼女の『夫』の出張先がオーストラリアのシドニーだと分かる。
その他の記述にも不審な内容はない。 丁寧で綺麗な字。 しかし何故だろう?
読み進める内に、ページから不吉な気配が滲み出して、何かが指に粘り着くような感覚。
お腹の子の成長と、夫の事を書き綴っただけの日記とは思えない。
強い愛情を確かに感じる。しかしそれだけじゃ無い。その奥に潜む、何か別の。
やはりあの女性は。そう思った瞬間にケイタイが鳴った。榊さんだ。

658 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:40:11 ID:iQvjbQ1E0
 「彼女の夫は出張中じゃない。というか、そもそも夫じゃない。
日記に書かれてた会社にはタカユキという名の社員が3人いる、
年齢的に該当しそうなのは1人だけ。その1人は彼女の事を知ってるが、県内在住だ。」
それなら、やはり。 「不倫の偽装、ということですか?」
「可能性は有るが、どうかな。ホントの相手が誰か別にいて、それを偽装したのだとしたら、
あんな不吉な日記を手間暇かけて作る理由にはなるかも知れんが、それにしても。」
榊さんは一旦言葉を切った。小さく溜息をつく気配。
「彼女が死んだ今、真相はその男に聞かないと分からない。
会ってみるかい?任意の事情聴取は今日、それをR君に任せても良い。」
嫌な予感がする。しかし、あの女性の事をもっと知りたい、その気持ちの方が強かった
「是非、お願いします。」
「了解。午後4時に分署で。それまでには女性と子供のDNA検査の結果も出る筈だ。
その男がDNA検査に同意してくれれば不倫相手かどうかがハッキリする。」

659 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:41:21 ID:iQvjbQ1E0
 榊さんの分署。時間前に着いて待っていると、駐車場にワゴンが滑り込んできた。
停車したワゴンに歩み寄り、スライドドアを開ける。降りてきた男性に一礼。
「Rです。藤○さんですか?」
「はい、藤○です。」 「今日はわざわざ申し訳ありません。」
「いいえ●沢さんの事は何時かちゃんと区切りを付けたいと思っていましたから、
警察の方にしっかり話を聞いてもらえるのはむしろありがたいですよ。」
「ありがとう御座います。では中へ」
榊さん経由でこの男性に会う約束を取り付けたのは一昨日。
不審死した女性の件で事情を聞きたいという設定。つまり、任意の事情聴取。
男性が既婚者だというのは既に分かっている。不倫絡みのトラブルだとしたら、
詳しい事情を話してくれないのではないかと思っていたが、男性の表情に翳りはない。

660 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:43:08 ID:iQvjbQ1E0
 「まずは単刀直入にお聞きします。あなたと▼沢さんの関係について教えて下さい。」
「友人、でした。私は文化財や史跡に興味がありまして。
○×市の市民講座を受講していたんです。そこで彼女と出会いました。」
「○×市って、随分遠いですね。市民講座でわざわざそんな所へ?」
「いいえ、以前は其処に住んでいました。市民会館のすぐ近くに。
此の街へ引っ越してきたのは彼女の件があったからです。」
「彼女との間に何かトラブルが起きたんですか?」
「講座を受講する内に馴染みになった人が数人居ました。彼女はその一人です。
講座が終わった後、市民会館の中の喫茶店で講座の内容について話したり。
講師の先生が加わって下さることもあって、楽しかったんですよ。ただ。」
「ただ?」
「ある時、『二人だけで会いたい。』と言われたんです。喫茶店から出た後で。
私は既に結婚してましたから、その事情を話して断りました。
すると、その、ストーカーというか。始めは職場に、暫くして自宅にも。
私の留守中に妻が彼女と口論になったと聞いて警察に相談しました。
○×市の警察に問い合わせてもらえれば分かる筈です。」

661 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:44:39 ID:iQvjbQ1E0
 どういう事だ?じゃあ、お腹の子の父親は...
「警察が間に入ってくれて、それから彼女は姿を見せなくなりました。
ただ、当時妻が妊娠してましたから、万一の事を考えて引っ越したんです。
ちょうど会社の人事異動の時期だったので、会社に事情を話して。
警察から市の担当者に話を通してくれて、転居先が彼女に知られることがないように
対応してくれることになったので、安心していました。」
心の乱れも感じないし、嘘を言っている表情ではない。
「この街へ引っ越してきたのは何時ですか?」 「一昨年です。一昨年の9月。」
ざわ、と首筋の毛が逆立った。
彼女の手帳に書かれていた名前、一緒に写った写真。確かにこの男性。
しかし、この男性が引っ越してきてから既に一年半。
その間彼女に会っていないなら、当然この男性はお腹の子の父親ではない
やはり日記は偽装工作? 子供の父親が他にいるなら、この男性は無関係だ。
「良く分かりました。お話の内容次第ではDNA検査への協力をお願いするつもりでしたが、
その必要はありませんね。今日は本当に有り難う御座いました。」
「いえ、こちらこそ。ずっと気にかかっていましたが、やっと安心できそうです。」
ホッとしたような笑み。 ストーカー行為が再発すれば妻と子に被害があるかもしれない、
その心配から解放されたのだから、ようやく肩の荷が下りた気分だろう。

662 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:46:27 ID:iQvjbQ1E0
 その男性を車まで送り、応接室に戻ると榊さんとSさんがソファに座っていた。
A4数枚の資料に目を通すSさん、榊さんの微妙な表情。
「話を聞いた感じでは、藤○さんは子供の父親じゃありません。
あの手帳以外の手がかりを見つけないと、DNA検査の結果も意味がないですね。」
前科があり、DNAの型が既に登録されている男ならともかく、
彼女と親交のあった男性のDNAを片っ端から検査するのは不可能といって良い。
「う〜ん。この結果から言えば父親は...父親はいない。」
「いないって、そんな。一体どういう事ですか?」
「それはこっちが知りたいよ。どういう訳か子供のDNAは母親と一致した。
つまり子供は母親の、ええと、そうクローン。そういう事になるらしい。」
「でも、人間のクローン作成はまだ。まさか、闇のルートが?」
外国ならペット、犬や猫のクローン作成を請け負う業者は実際にいる。もしも。
「いや。さっき知り合いの医者に電話して聞いてみたが、無理っぽいな。
母親の細胞の核を母親自身の卵子に移植し、分裂を始めたら子宮に戻す。
操作自体はそれ程複雑じゃないが、研究が進んでるマウスでも、成功率は
10回に1回程度らしいし、母親の持病考えると引き受ける医者はいないだろうってさ。
人工的なクローンじゃないなら、あとは、あれ何て言ったっけ。キリストが生まれた時の。」

663 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:49:12 ID:iQvjbQ1E0
 「処女懐胎ですね。でも、生まれたのが男の子ならクローンじゃありません。
昆虫には雌だけの単為生殖がありますが、生まれる幼虫は全て雌です。」
Sさん...確かに、それは高校生物の教科書にも載っている。例えばアリマキ。
「じゃあ、やっぱりそのナントカ生殖が起きたって事かい?それでクローンが。」
「キリスト生誕の話だけでなく、母親だけで生まれた子の伝承は世界各地にあります。
大抵は嘘や思い違いでしょうが、中には真の奇蹟が、
本当に精霊や妖の子を宿したという例があったかも知れません。
実際に母親だけで子供が生まれるのだから、それも単為生殖の一種と言えるでしょうね。
一族の記録にも精霊の子を宿した娘に関する記述が残っています。
生まれたのは女の子で姿は母親に生き写しだったが、
その力は母よりはるかに強く、後に優れた術者になったと。」

664 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:51:04 ID:iQvjbQ1E0
 「確かに、Sさんが言った通り単為生殖をする動物はいます。
でも、哺乳類の単為生殖は有り得ない筈ですよ。」
そう、例え遺伝子工学の粋を尽くした実験をしたところで、
父親と母親どちらか一方の遺伝子しか持たない卵の発生は途中で止まる。
以前読んだネットのニュース、あの実験で生まれたマウスの名は...そう『かぐや』だ。
「単為生殖は起こらないのに、クローンは作れる。
だとしたら、卵や精子の形成過程で働く特別な仕組みが有るってことでしょ?
もしその仕組みに異常が起きたら、単為生殖が起こる可能性は0じゃない筈。
精霊や妖の力がその仕組みを阻害して単為生殖を促すという解釈も成り立つ。」
...その仕組みこそ、ゲノムインプリンティング。全く、この人の洞察力は。
「でも、純粋な奇蹟を科学的に解釈してもあまり意味はない。
妖や精霊の力が卵細胞を活性化したと考えれば、私たちには十分。
むしろこの件で重要なのは。」
Sさんは榊さんご自慢のアイスコーヒーを一口飲んだ。
「重要なのは、あの女性の妊娠の過程に精霊や妖が関わった形跡が無いってこと。
そう、たまたま彼女に遭遇したかも知れない悪霊の形跡さえも、ね。」

665 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:53:04 ID:iQvjbQ1E0
 「Sちゃん、ちょっと待ってくれよ。それじゃあ、どうしてあの女性は?」
「考えられる事は1つしかありません。R君、どう思う?」
俺を見つめるSさんの、少し寂しそうな笑顔。突然、あの日記を思い出した。
一目見て異様な気配を感じるほど、強い想いを込めてびっしりと書き込まれた字。
しかし藤○さんの話の内容と、何よりDNA検査の結果からすれば、
日記の内容は全て彼女自身の妄想。日記はあの一冊だけでは無いだろう。
おそらく彼女が暮らしていた部屋には結婚や妊娠の経緯を記したものも。
ニス塗りの小さな本棚に並ぶ数冊の黒い手帳。不吉な幻視。首筋の毛が逆立つ。
一体何のために? そう、その答えは1つだけ。 それが可能かどうかは別として。
「想像妊娠。の、途轍もなく極端な例でしょうか。
日々詳細な日記を書くことで、彼女は強固な妄想の世界を作り上げ、
その世界に深く深く入り込んだ。理想の夫と一緒に過ごす幸せな結婚生活の妄想は、
彼女にとって現実以上の存在感を持ってしまったんです。
だから彼女の体が反応した。それで、きっと妊娠が現実に。
いくら彼女が稀な霊質と強い『力』を持っていたとしても、
人間にそんな事が可能なのかどうか、正直僕には判りませんが。」

666 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:54:58 ID:iQvjbQ1E0
 「よっぽどの荒唐無稽でなければ、人が心の底から強く願う事が実現する可能性は有る。
知覚した情報をもとに再構成した心象風景こそ、その人にとって常に世界そのものなのだし。
それは時に他人にとっての現実をも浸蝕するほどの『力』を持つ。」
それは人だけに許された特権であり、そして同時に、人だけが背負う罪だと
以前Sさんから聞いたことがある。良くも悪くも、強い想いは現実を変える、と。
「彼女があっさり身を引いたのは、無意識に自分の妄想を守ろうとしたからよ。
裁判になったり、周りの人間を巻き込んだ修羅場になれば、幸福な妄想は持続しない。
何より、その過程で愛する人が自分を全く愛していないという事実を確認する事だけは」
Sさんは突然言葉を切り、視線を逸らして窓の方向を見つめた。
その瞬間、Sさんが気乗りしない様子だった理由を理解できたと思う。
そしてあの夜、翠を抱き締めて流した涙の意味を。
もちろん問答無用で滅するに値する事例。しかしそれを成立させたのは、
許されぬと自覚しながら、どうしようもなくその想いに身を焦がした女性の熱情。
例えどんな術者であろうと、それを断罪する立場に立つのは辛い。
しかし、今俺たちがすべきことは。

667 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 22:58:09 ID:iQvjbQ1E0
 「もう彼女の命を取り戻す事は出来ません。哀しいけれど、それが現実です。
なら、僕達がすべきことはあの女性の子供にどう対応するかと言うことですよね?」
Sさんは俺に視線を戻し、優しい笑顔を浮かべた。
「問題は2つある。1つ。その子に宿った魂があるかどうか。
通常の妊娠であればごく初期、あるいはそれ以前に宿る魂との絆が生じる。
しかしこの場合前もっての絆は生じ得ない。それに、あの晩私が張った結界と管が、
たまたま居合わせた霊がその子の体に宿ることを阻んだ筈。
そうか、魂が宿っていないから、翠は子供を感知できなかったのだ。あの、大きなお腹を。
「2つ。母親の命しか受け継いでいない子は、当然普通の子よりも生命力が弱い。
だから妊娠に関わった妖や精霊はそれを補う『贈り物』すると言われてるの。
強い生命力、類い希な強運、あるいは並外れた才能。」
「なら、母親の胎内に光や何かが入り込んで生まれた偉人ってのも
あながち出鱈目じゃないって事になるな。だけど、あの子供はどうなる?
強烈な妄想が生み出した結果だとしたら、『贈り物』どころか庇護する母親さえいないのに。」
「『贈り物』を受け取れなければ、その生命力はやがて尽きます。10日、もつかどうか。」
あの女性の心停止、蘇生の見込が無いと判断したO川先生は即座に帝王切開を行った。
赤子だけでも助けようと。しかしその果断な処置にも関わらず、
その子は市内の大学病院に搬送され、新生児ICUで生死の境を彷徨っていると聞いていた。

668 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/12(金) 23:05:17 ID:iQvjbQ1E0
皆様、再び藍です。

どうやら今夜は此処までが精一杯です。
明日以降、残りを最後まで投稿したいと思っています。
お付き合い頂いた皆様、ありがとうございました。

669 名無しさん :2015/06/13(土) 04:25:13 ID:BI.5wI8gO
投稿お疲れ様です。続きありがとうございます。父親のない出産は聞いたことがあります。神秘的で、現実の実態が少し垣間見えますね。

670 名無しさん :2015/06/13(土) 17:19:16 ID:9bYIwZRo0
孤独を力に変えていた人の強い想いや心象風景は、確かに大切な命を連れ去るほどの力を持っていたな
自分を善や、悪であっても正当と信じたいが為に他者を悪とする悲しい戦いがかつてあったように思う

671 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/13(土) 21:26:36 ID:Q8MI0ezE0
テスト中です。

672 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/13(土) 21:29:01 ID:Q8MI0ezE0
 「なあ、Sちゃん。何とか子供を助ける術はないのかい?
勿論Sちゃんたちに障りがなくて、子供が成長したら問題が起きるとかでなければ、だけどさ。」
榊さんは自身の事情も有って、生まれた子に感情移入を。そしてそれは俺も同じ。
自分の子が生まれてくるタイミングで、他の子の命が尽きるのを見たくはない。
例えそれがどんな経緯で生じ、人の形をしているだけの、未完成の存在だとしても。
「そう、ですね。もしそんな術が有るとしたら、あの女性が生きた証を残せますから。」
「そんな術はない。と言うか、これ以上の術を使わなくても子供が助かる可能性は有る。」
「Sちゃん。それ、一体、どうすれば。」 「これ、です。」
Sさんが取り出したのは白い布袋。 藍の身代わりになった、人形。

673 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/13(土) 21:34:38 ID:Q8MI0ezE0
 「これは、桃花の方様にお願いして作って頂いたの。白の宝玉の力を借りて。」
白の、宝玉? その名を聞いた途端、心の芯に何か、電流のようなものが。
「その力は、魂を初期化する。穢れも悪意も全て浄化して。
積み重ねた、強い思い。想いに身を焦がし続けた、悲しい魂。その粋だけを残して。
もう1つの術がその魂の行方を示すから、これを使えば、もう道を間違うことはない。
勿論その魂がそれを望まなければ、この人形は何の力も持たないけれど。」
そうか、そうだったのか。だからあの時、2人は白の宝玉を。
「この人形の中に取り込まれた想いと魂を『贈り物』にするって事だな。
なら、この人形を子供の、あの病院に届ければ。」
「ちょっと待って、下さい。」 Sさんは俯いて眉をひそめた。
直後、ポケットのケイタイが震えた。慌てて画面を見る。姫だ。
「もしもし」 「お父さん、お姉ちゃんが、お腹痛いって、すぐ帰ってきて。お願い。」
まさか、Sさんの感覚でも、出産は未だ。
「榊さんなら、この人形を届けられますね。母親の形見として。」
「それは俺に任せて、早く病院へ。間に合わなかったら、きっと一生後悔するぞ。」
俺とSさんは駐車場へ走った。本気だと、Sさんは驚くほど走るのが速い。
「鍵、頂戴。」 「でも。」 「安全運転してる場合じゃ無い、ほら早く。」
確かに、そうだ。覚悟を決めた。

674 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/13(土) 21:36:35 ID:Q8MI0ezE0
 規則正しい、安らかな寝息。
少しハイになっていた姫も落ち着き、姫と赤子は並んだベッドで寝入っている。
それからたっぷり一時間、2人の寝顔を眺めてから、カーテンをくぐった。
「2人とも、もう寝たのね?」 「はい、ホントは朝まで。でも、ちょっとトイレに。」
トイレから出ると、Sさんが小さな机の前で背中を丸めているのが見えた。
翠は藍を抱いたまま、俺のベッドで寝入っている。
「これ、いままで見た事も無い材質だわ。赤珊瑚に似てるけど、もっとずっと硬度が高い。」
それは、赤子が右手に握り絞めて生まれてきた勾玉。鮮やかな赤、深い艶。
「今まで無いと言えば、色もそうですよね。今までは皆、寒色の系統だったのに。」
そう、水晶、白瑪瑙、翡翠。そして瑠璃。でもこの勾玉は深紅。
「そう。だけど、この気配。前にどこかでって思ってたの。もしかしたら。」

675 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/13(土) 21:43:01 ID:Q8MI0ezE0
 Sさんは黒革の鞄を探り、白木の小さな箱を取り出した。この箱は。
細く白い指が蓋をとり、それを取り出した。真珠のような光沢の、鱗。
机の上に置いた勾玉に、Sさんはその鱗を重ねた。
小さな、渇いた音が聞こえた。
七色の、光の粒子。まるで小さな蛍のように、勾玉と鱗の周りを飛び回る。
蛍光灯の光にも負けない、『光塵』よりも強く色鮮やかな。
「やっぱりね。この勾玉の基になった血と、この鱗の持ち主は同じ。」
「あの子も、『力』を持っているんですね?翠や藍と同じように。」
「そう、ね。不満?それとも不安?」
「いいえ。皆同じです。僕には過ぎた人が産んでくれた、力を持った子供たち。
その子達を大切に育てて、それぞれの資質を実現するために、僕は生きます。
Sさんも、きっとLさんも、同じ考えだと信じていますから。」
Sさんの頬を伝う涙。 「そうよ。何時だって何処だって、それが親の義務だもの。」
部屋の灯りを消して、姫のベッドを囲むカーテンを開けた。
翠と藍を長椅子に寝かせ、毛布を掛ける。

676 新しい命・第参章 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/13(土) 21:45:03 ID:Q8MI0ezE0
 もう一度、姫と赤子の額ににキスをしてからベッドに入った。Sさんを抱き締める。
「予想もしない事が続いて、どうなる事かと思ったけど。これで一安心ね。」
「はい、今夜はしっかり寝て、また明日から頑張らないと。」
「愛してる。」 「僕も、です。」 「ちゃんと、言葉にして。」 『愛してます。』 「アリガト。」
姫が産んだ赤子の名は、丹(まこと)。

『新しい命・第参章』 完

677 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/13(土) 21:53:51 ID:Q8MI0ezE0
皆様今晩は、藍です。
ようやく投稿を終える事が出来ました。

今回個別の返信は禁止されていますが、
全て有り難く、興味深く、読ませて頂いております。

「次」の作品を既に受け取り、作業も進めておりますが、
諸事情で投稿は7月以降になりそうです。
体調を整え、投稿に備えます。

有り難う御座いました。きっと、また何時か此処で。

678 名無しさん :2015/06/13(土) 22:13:54 ID:BI.5wI8gO
不思議なことばかりでしたね。赤い勾玉はちょうど興味も持ったばかりなので興味深いです。
貴重なお話をありがとうございます。

679 名無しさん :2015/06/14(日) 00:34:06 ID:yLV3TlvkO
奇しき物語をありがとうございました。
翠、藍と来て、次は丹、赤色ですね。
幼な子たちがこれからの物語にあざやかな色を添えてくれることでしょう。
次の物語が紡がれるのを楽しみにしています。
なお、お体にはお気をつけ下さい。

680 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:25:24 ID:7Sc44gmA0
テスト中です。

681 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:30:44 ID:7Sc44gmA0
皆様今晩は、藍です。

なかなか苦労して、ようやく許可を頂いて投稿を終えたばかりですが、
7月に投稿予定だった作品を、突然の指示で投稿する事になりました。
投稿の時間が取れるのは今夜一杯ですが、体調が少し良いので
許可を頂いた御礼に、出来るだけ頑張ってみようと思います。では、後ほど。
(書き出しが6月なのが、突然の指示の理由かも知れません。)

682 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:33:23 ID:7Sc44gmA0
『遠雷』

 オレが学校へ行けなくなったのは、中学に入学した年の6月。
友だち付き合いとか、特に母親との関係とか、ホントにもう何もかも嫌になって、
どうなっても良いけど死ぬのは怖いから、ただ生きてる。そんな感じ。
平日は父親・母親・オレの3人で黙って朝食を食べた後、父親と一緒に家を出る。
父親を見送っても学校には行かず、父親が帰ってくる夕方まで時間を潰す。
目立つと補導されると思ったから、学校とは反対方向の郊外の駅で降りて、
人気の無い野池とか河岸の堤防で一日中ルアーを投げてた。
釣り具は近くの公園に隠してた。もちろん、釣れたバスやナマズはみんなリリース。
4時半になったらもとの駅に戻り、父親の帰りを待って一緒に家に帰った。
そんな生活が半月ほど続いたある土曜日、父親がオレを海釣りに連れ出した。

683 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:34:11 ID:7Sc44gmA0
 オレの父は離島(南の方)出身で、かなり釣りが上手い。
(ただオレは海釣りをしたことはあまりないし、得意じゃ無い。)
その離島では結構旧い家系の出身だという話も聞いたことがある。
釣り場に着いて1時間位、黙って釣りをしていた父親が突然口を開いた。
「ナオ、どうして学校へ行かないんだ?母さん心配してるぞ。」
まあ、ずっと学校を休めば家に連絡がいくのはあたりまえ。
だが、何て話せば良いのか。ここは出来るだけ上手く誤魔化して。
「何か友達とマズくなってさ、授業も全然面白くないし。」
「優しいな。だけど此処では2人きりだ。ホントの理由は、母さんだろう?」
ただでも父親は勘が鋭い。やっぱり、誤魔化すのは無理。
黙って頷いたら、涙が溢れて止まらなくなった。10分くらい、声を殺してオレは泣いた。
泣き止むまで、父親は黙ってオレの肩を抱いていてくれた。

684 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:35:31 ID:7Sc44gmA0
 「ごめんな。母さんに悪気は無いんだ。ただ。」 「分かってる!!分かってるよ。」
母親はオレを産んだ2年後に妊娠し、切望していた女の子を産んだが、死産だった。
しかもその時の後遺症(?)で子供を産めなくなって。きっとそれで、母親の心は少し壊れた。
その話は父親が教えてくれたし、だからオレはずっと我慢していたんだ。
小学3年生まで、まるで女の子のような服と長い髪でオレは育てられた。
さすがにスカートを穿かされることは無かったが、服も靴もユニセックスのものばかり。
成長するにつれ、周りに色々言われれば自分でも変だと意識する。でも。
4年生になって、オレが髪を短くしたいと言ったり男ものの服を着たいと言う度に母親は泣いた。
母親の気持ちは分かる。でも、オレは男だ。女の子じゃ無い。体の変化だって。
でもオレが男になる程、母親は心の支えを失っていく。どうして良いか分からなかった。

685 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:37:39 ID:7Sc44gmA0
 「夏休みには少し早いが、暫く父さんの生まれた島へ行け。
学校と、祖母さんには話をしておく。少し離れた方が、多分お前と母さんの、ためだ。」
それから父親は俯いて、涙を拭った。
「辛い思いをさせて、ホントにお前には悪いと思ってる。でも、同じ男として聞いてくれ。
父さんは今も母さんを愛してるんだ。だからもう少し、もう少しだけ我慢して...」
初めて父親の涙を見て、オレは少し楽になった。
父親だって苦しんでるんだし、オレを男として見てくれてる。
「分かった。行くよ。」 「そうか、ありがとう。その間に母さんと話してみるから。」 「うん。」
月末の土曜日、オレは父親の生まれた島行きの飛行機に乗った。
確か小学3年生頃までは毎年夏休みに家族でその島に旅行してたけど、
もう何年も経ってるし、その間ずっと祖母にも会ってない。正直かなり不安だった。

686 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:39:34 ID:7Sc44gmA0
 心配は全くの無駄で、祖母は何かと良くしてくれたし、細かい事情も聞かなかった。
何より、母親と顔を合わせなくて良い。 最初、この島は天国だと思った
でも、一週間もしないうちに飽きた。ゲームセンターもコンビニも無くて退屈だったし、
ちょっと遠出して島に1つだけらしいスーパー(自称)で漫画買って帰ったら、
帰り着く前にその情報が祖母に届いてたりとか、濃い人間関係もかなり息苦しい。
それからは出来るだけ外出もしないようにしてた。
持ってきた数冊の本は読み飽きて、表紙を見るのも嫌になるくらい。
昼前に起きてご飯食べて、ダラダラとTV見て、夕方まで昼寝。ご飯食べて風呂入って寝る。
すごく気楽だが、死ぬほど退屈。それがオレの日常。
『都会育ちのオレに島は無理、早く帰りたい。」って気持ちが強くなっていった。
でも、帰ればまた、もとの生活。いや、『もとの』じゃない。
きっと、あれより悪くなる。だって母親はオレがこの島に...やっぱり、無理だ。

687 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:40:31 ID:7Sc44gmA0
 そんなある日、いつもより早く昼寝から覚めたら、勝手口の方から物音が聞こえた。
てっきり祖母だと思って「祖母ちゃん、麦茶ある?」って声を掛けたら、
「え?ええと、サチさんはさっき出かけましたよ。」って可愛い声がした。
土間に歩いて行くと小学5〜6年生くらいの女の子が何かゴソゴソやってる。
「誰?」 「アキ、です。○△の。」 アキ? ○△の? 何のことだかさっぱり。
「何で此処に?祖母ちゃんは?」
「魚釣って来てって頼まれたましたから。サチさんは公民館に行くって言ってました。」
サチはオレの祖母の名前、それより魚釣って来てって、一体?
「ええと、ホントに頼まれたの?魚釣ってきてって?」
「はい。サチさんにはよく頼まれます。」
女の子は手慣れた様子でレジ袋やなんかを小さなバケツに入れた。
「じゃ、行ってきます。」 「ちょっと待って。」 「何ですか?」
「魚、釣ってきてどうするの?」 「...私は、お駄賃が貰えます。」
「お駄賃? お小遣いの事?」 「いいえ、お給料です。私、漁師ですから。」
『お給料』って、小学生の女の子が『漁師』って、意味が分からない。

688 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:41:39 ID:7Sc44gmA0
 女の子は勝手口をするりとくぐって裏庭に出た。
「だからちょっと待ってって。」 「私、忙しいんですけど。」 
「あ、大丈夫。一緒に行って、釣り、見るだけだから。邪魔はしないし。」
「ホントに?」 「うん。」 「それなら、まあ、良いです。」
勝手口に立てかけられていた古い釣り竿を持ち、女の子はすたすたと歩き出した。
慌てて玄関に回り、スニーカーを履いて後を追う。歩くのはかなり速い。
港まで5分くらいで着いたと思う。
女の子は錆びた大きな金具(船の太いロープを引っかけるやつ)にちょこんと腰を下ろした。
息を切らしているオレに構わず、手早く釣りの準備を調えていく。
あっという間に、サンマの切り身っぽい小さなエサを付けて仕掛けを投げ込んだ。
10秒ほど待って仕掛けを上げ、浮子の位置を変える。
また10秒ほど待って浮きの位置を変えた。真剣な表情、まさか漁師って話は。
そのすぐ後に浮子がストンと沈み、釣り上げたのは15cmくらいの銀ピカの魚。
女の子がニッコリ笑い、張り詰めていた雰囲気が緩んだので声をかけた。
「それ、狙ってた魚?」 「そうです。メッキ。」 「メッキって、銀ピカだから?」
「はい。綺麗だし、美味しいですよ。今夜はきっと、唐揚げですね。」
魚を針から外してバケツに入れ、そのまま仕掛けを投げ込んだ。
「あの、エサは変えなくて良いの?」 「まだ身が残ってますから。」
直ぐに2匹目を釣り上げた。針に残ってるのはサンマの皮だけ。

689 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:42:56 ID:7Sc44gmA0
 また、そのまま仕掛けを投げ込む。今度は細かく竿先を動かして、3匹目。
女の子はエサを変えるごとに2〜3匹のメッキを釣り上げ、小一時間で小さなバケツは一杯。
「...19、20、21、22、23、24。よし。」
バケツの中の魚を数えた後、女の子は浮子の位置を大きく変えた。
「違う魚を釣るの?」 「そう、ですけど。」
不思議そうな顔。 何か変な質問をしたのかと思い、耳が熱くなった。
竿を持ったまま海面を見つめる、日焼けした可愛い横顔。 何となく、気まずい時間。
突然、女の子がオレを振り返って微笑んだ。ドキッとする。

690 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:43:47 ID:7Sc44gmA0
 「あなた、ナオさんでしょ?」 「何で、それを?」 胸の動悸、声が擦れる。
「サチさんに言われたんです。孫のナオに食べさせたいから、スジフエも釣って頂戴って。
それに、初めて見る顔ですから、この島の人じゃないし...あ、きた。」
竿が大きく曲がり、釣れたのは黄色くて縞のある魚。30cmくらいありそうだ。
「この魚、美味しいんですよ。だからサチさんはナオさんに。」
その魚をバケツに入れると、女の子は釣り具を片付けて立ち上がった。
「あの、バケツ持つよ。オレが。」 「ありがとう、です。重いから、助かります。」
この女の子ともっと話がしたい。でも何て話しかければ良いか分からない。
ただ黙って、並んで歩く。女の子はオレの歩調に合わせて、少しゆっくり歩いてくれた。
バケツを持ってるから気を遣ってくれたんだろう。それが不思議に気持ち良い。
祖母の家の近くで、乱暴な運転のママチャリとぶつかりそうになったのも気にならなかった。

691 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:45:49 ID:7Sc44gmA0
 祖母の家に着くと、女の子は勝手口近くの井戸から水を汲み、魚を捌き始めた。
小さな手が手際よく魚を捌くのはまるで魔法のようで、オレは井戸にもたれてそれを見てた。
「ああ、頼んだ通りだ。やっぱりアキちゃんは釣りの上手だね。」 祖母が立っていた。
「いつもご苦労様。」祖母は二つ折りにした茶封筒を女の子のポケットにそっと押し込んだ。
「ありがとう、ございます。」 女の子は頭を下げた。 あれが、『お給料』なんだろうか?
「夕ご飯、ウチで食べていって。早速唐揚げ作るから。」 「でも。」
「大丈夫。時間になったら電話しておく。シゲ坊、今日も海に出てるんでしょ?」 「はい。」
特に話が弾むでもなく、3人で囲む食卓は静かだった。
祖母の前で女の子と話をするのは気恥ずかしいし、女の子はとても控え目で無口だった。
メッキの唐揚げはカラッと揚がっていて、でも中身は骨まで柔らかくて、凄く美味い。
その時、TVで海水浴で事故のニュース。いつの間にか、世の中も夏休みに入っているらしい。
食事を終えて数分後、3人で家を出た。祖母は小さな風呂敷包みを持っている。
アキちゃんの右手には古い釣り竿。これはアキちゃんの持ち物なんだろう。
10分くらい歩いただろうか、小さな家の前に着いた。かなり古い家に見える。
縋るような眼で祖母を見つめる女の子の頭を、祖母はそっと撫でた。
「此処で待っておいで。ちょっと○次兄さんに話があるから。」
祖母は一人で家の門をくぐった。小声で話す声が途切れ途切れに聞こえてくる。

692 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:46:46 ID:7Sc44gmA0
 「...だけでもお世話になりっぱなしで、この上そんな...」
「...事情が有って、...じゃないと駄目なんですよ。だから...」
暫くすると祖母が戻ってきて女の子を家の中に連れて行った。
「本当に...はい、アキには良く...ありがとうございます。」
嗄れた声を背に家から出てきた祖母は、黙って目でオレを促し、2人で家に向かった。
祖母は真っ直ぐ前を見て歩き続ける。オレも黙って歩き続けた。
頼みたいことがあったのだが、何と切り出せば良いか見当も付かなかったから。
祖母の家に着き、風呂に入った。虫の声を聞きながらオレは考え続けた。
着替えて風呂を出る。煎餅と冷たい麦茶を用意して、祖母はオレを待っていた。
頼むなら、きっと今しか無い。
「祖母ちゃん、あの。」 「ねぇナオ、お前。」
オレと祖母の言葉が重なって、祖母はオレをじっと見詰めた。
「じゃあ、ナオの話から。」 「でも。」 「ナオは、男の子だろ?さ、先に話して。」

693 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:48:10 ID:7Sc44gmA0
 「男の子だろ?」と言われたら、引くわけに行かない。オレは必死で話をした。
「さっきの女の子。アキちゃんはホントに漁師なの?小学生みたいなのに。」
「漁師って、あの子がそう言ったの?」 「うん。それでお駄賃を貰ってるって。」
「魚を釣ってお駄賃貰ってるのはホント。だから漁師と言えば漁師だね。それで?」
「あの、オレ、あの子に釣りを教えて貰おうと思って。お駄賃はオレの小遣いで。」
祖母は微笑んで麦茶を一口飲んだ。
「実はね。お前が此処に居る間、遊び相手になってくれるように頼んだんだよ。あの家で。」
「そう、だったんだ。それで、どうなったの?それでも良いって?」
「ナオ、あの子にはあの子の事情がある。これから話すこと良く聞いて。」
オレは黙って頷いた。あの女の子と一緒に居られるなら何だって。
「あの子はお前の又従姉妹。両親とも早くに亡くなったから、親戚に引き取られた。
だけど親戚の暮らしは楽じゃない。それで釣りをして、あの子なりに家計を助けてる。」
祖母はテープルに両肘をついて、オレにぐいっと顔を近づけた。
「絶対にあの子を傷つけるようなことしないって約束できる?両親や家族の話も駄目だよ?」
今思えば、オレには重すぎる話だったろう。でもオレはアキちゃんが好きになっていた。
「約束するよ。家族の話とかしなければ良いんでしょ?お金のことも。」
「そう、それなら大丈夫だね。ああ、お駄賃のことは心配要らないよ。これで、一安心。」

694 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:48:52 ID:7Sc44gmA0
 翌日から、オレはその女の子、アキちゃんから釣りを習った。
アキちゃんは決まって昼過ぎにやってきて、2人で出かける。
釣り場、潮廻り。それに色々なエサ。覚えることは沢山有った。
自分ではルアーの釣りしかやらないオレはエサ付けが特に下手で、
魚の切り身や小さなエビならともかく、ミミズみたいなエサは大の苦手だった。
でも、毎日アキちゃんと過ごす時間は何より大切だったし、とても充実していた。

695 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:50:17 ID:7Sc44gmA0
 それから5・6日、経った日だったと思う。
釣り場から歩いて帰る途中、港の出入り口近くにある東屋の前に差し掛かった時の事。
歩道に4台のママチャリが停まっていて、東屋の中から突然声を掛けられた。
「よう、アキ。今日も男と一緒か?母親の真似して妾になるなら、島の男の相手しろよ。」
アキちゃんは唇を噛んで俯いた。しかし、オレはその言葉の意味を知らなかった。妾?
「この馬鹿野郎ども!許さんぞ!!」 雷のような怒鳴り声。
振り向くと、大きな男が立っていた。
「おい、●太。お前いつからそんなに偉くなった?
両親を亡くしても、アキは○△の家の姫さんじゃ。まさかお前の親も、そんな了見か?」
ソイツらは、自転車に飛び乗って逃げた。皆オレより背が高い。高校生?
アキちゃんの頬を伝う涙。オレはどうしたら良いか分からずに立ち尽くしていた。
「坊ちゃん、あんたがナオさんか?◎野のサチさんとこの?」
オレが黙って頷くと、大男は深く頭を下げた。
「頼む。アキがこれ以上肩身の狭い思いをしなくて済むように。守ってやってくれ。
あんたが◎野の家の人間なら」 「ナオさんには関係ない!」
叫ぶような声を残して、アキちゃんは駆け去った。

696 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:56:30 ID:7Sc44gmA0
 「ねえ、祖母ちゃん。」 「何だい?」 「妾って、何?」
黙って針仕事をしていた祖母の表情が突然険しくなり、居間の空気が凍り付いた。
「ナオ、一体何処でそんな言葉を。まさかお前、アキちゃんに。」
「違うよ。釣りから帰る時、高校生みたいなヤツがそう言ったんだ。
アキちゃんは走って帰っちゃったし、泣いてた。オレ、どうすれば良いのか分からなくて。」
祖母は眼鏡を外して深呼吸をした。
「お前には未だ早いかも知れないけど、あの娘を守るためだから。
妾は、お金持ちの男に養って貰う女だよ。2番目・3番目の奥さん、だね。」
怒りが、腹の底から怒りが沸き上がって眼が眩んだ。アイツ等、そんなことをアキちゃんに。
「アキちゃんの母親は高校卒業したら島を出て、都会の男と結婚したんだ。
『島で育ったくせに』、『婿を取って○△の家を継ぐ立場なのに』、
そう言ってアキちゃんの母親を罵る人は多かった。『あれは裏切り者だ』と。
大学を出たら島に帰るって約束だったのは確かみたいだね、
○△の家も、アキちゃんの母親を不義理だからと勘当してしまった。
そういう古いしきたりが、まだこの島には、生きてるから。」
言葉を切ってオレを正面から見つめる祖母の顔は、とても悲しそうだった。

697 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 18:58:12 ID:7Sc44gmA0
 「アキちゃんの母親を罵る奴らが流した、根も葉もない噂さ。
『あの女は金持ちの妾になった』・『器量を鼻に掛けて』・『島に帰るのが嫌だから』ってね。
○△の家の人達は噂を否定しようとしたけれど、
アキちゃんの母親が島の外で結婚したのを咎めて勘当した手前、強くは出られない。
却って噂は広まり、その噂を信じる人の方が多くなってしまった。」
「逆効果、だったんだね。」
「そう。その後○△の家では悪いことが続いた。当主が急な病で亡くなって、
養子にして家を継がせた男は嫁も貰わず酒と博打で身を持ち崩した。たった3年の間に、
○△の家は土地と畑の殆どを売り払って、家の人たちも散り散り、島を出た人も多い。
今は、土地が少しと、代々の位牌を安置する無人の小屋が残ってるだけ。
しかも、その翌年、アキちゃんの両親が亡くなった。交通事故でね。
あっちの家も2人の結婚には反対で、アキちゃんの父親も勘当されてたらしい。
だから、折角助かったアキちゃんに行き場はなかった。それで。」
「だからこの島の親戚に引き取られたの?」
「前にアキちゃんを送っていった家、憶えてるだろ?」 「うん。」

698 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:00:05 ID:7Sc44gmA0
 「嘘ついて御免よ。アキちゃんの親戚じゃ無い。昔から○△の家に抱えられてた漁師の家だ。
アキちゃんを引き取る話が出た時、『先祖代々世話になったから』って、手を挙げてくれた。
○△の家が傾いて、自分たちの生活も苦しくなっただろうに。本当に、有り難かった。」
「そんなの、酷いよ。祖母ちゃんが引き取ってあげられなかったの?」
「古いしきたりだけど、勘当された娘は他人。
勘当された娘が産んだ子も親戚としては扱われない。だから。」
ふと、あの時祖母が風呂敷包みを持っていたことを思い出した。
それから、切れ切れに聞こえた「...だけでもお世話になりっぱなしで、」という言葉。
もしかしたら、祖母はアキちゃんを引き取れないから、代わりにあの家を助けて。
だからアキちゃんに魚釣りを頼んで、それでお駄賃を。きっと、そうだ。
オレは軽はずみに祖母を責めるような言葉を発した事を心から恥じた。
「ごめん。祖母ちゃんの気持ちも考えないで、オレ。」
「良いんだよ。私が古いしきたりに負けたのは確かだからね。
でも今まで何とかあの子を守ってきた。なあに、悪い事ばかりじゃ無い。
あの子の事考えてくれる人も、何人かはいるしね。」
「そういえば、その高校生達を怒鳴りつけた男の人がいたんだよ。すごく大きな人で。」
「シゲ坊、か。あの家の一人息子だよ。腕は良いけど、船や道具がね。
朝早くから夕方まで海に出てるから、あんまり家にはいないけど。」

699 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:25:11 ID:7Sc44gmA0
 翌日、昼ご飯を食べた後、オレは家を出た。行き先はあの家、祖母には話してある。
「御免下さい。」 門を入って声を掛けると、縁側に白髪の老婆が出てきた。
「僕、ナオです。◎野のサチの孫の。」
「わざわざこんなところに、ありがとうございます。アキのことでしょうか?」
「はい。アキちゃんに釣りを教えて貰う約束をしてるんですけど。」
「アキは昨夜から部屋に籠もって出てこんのです。一体何が有ったのか。」
「ええと、昨日、港からの帰りに。」 「ナオさん、止めて!お願い。」 悲鳴のような声。
老婆のすぐ後ろに、アキちゃんが立っていた。 頬を伝う涙、胸の奥が痛い。
「ごめん。でも、もう分かった。」
祖母が『シゲ坊』と呼んだ男の人が、昨日の事を話していないとしたら、それはこの老婆や
あの老人の体や心を心配したからだろう。それなのに。オレは、馬鹿だ。
「帰って、下さい。もうナオさんは1人でも、魚釣れるから。」
「オレ、友達はアキちゃんだけなんだ。本当に、アキちゃん1人だけ。
だから、どうしてもアキちゃんと一緒にいたい。駄目、かな?」
「駄目じゃ...ない、けど。」 アキちゃんは縁側に頽れて、泣き続けた。
オレは縁側に腰掛けて、その背中をそっと擦った。オレに出来る事は、それだけだったから。
家の中に戻ったのか、いつの間にか老婆の姿は見えなくなっていた。

700 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:26:25 ID:7Sc44gmA0
 どれ位経っただろう。やっと泣き止んだアキちゃんはオレの隣に座ってくれた。
「心配、かけて御免なさい。私。」 「もうその話は止めよう。それより。」
寝ないで、朝まで考えた、たった1つの言葉。
「外で釣りも良いけどさ、今日は仕掛けを教えてよ。糸の結び方とか。」
アキちゃんは黙って頷いたあと、また少しだけ泣いた。

701 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:27:16 ID:7Sc44gmA0
 翌日から、オレは毎日その家にアキちゃんを訪ねた。もちろん釣りの話もしたが、
そのうち二人で本を読んだり、アキちゃんの宿題を手伝ったりするようになった。
勉強(国語以外)が全く駄目で驚いたけど、それは学校が嫌いだからだと直ぐに分かった。
ポツポツと話してくれた学校での出来事は胸が痛くなるような事ばかりで、
オレはすぐにその話題を封印した。
「分かった!これ、分かりました。ありがとう、です。」
宿題が1つ終わる度に、アキちゃんは勉強にも自信を持つようになったから、
楽しい話題は幾らでもあった。例えば2人で読む本のこと。
オレが島に持って来てた数冊の本は一語一句暗唱できるほどで、父親に電話したら、
駅前のブック○フでまとめ買いしたっぽい文庫本が煎餅の箱一杯、翌々日に届いた。
親父の趣味で選んだものばかりだから心配したけれど、アキちゃんは夢中になった。
宿題を2ページ終わらせたら、後は2人縁側で本を読む。それがオレたちの日課。
日が経つにつれ、オレはますますアキちゃんが好きになった。
もういっそこのまま、この島で暮らすことは出来ないか。そしたらずっとアキちゃんと一緒に。
そんな事を考え始めたある日、父親から電話が掛かってきた。

702 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:28:59 ID:7Sc44gmA0
 「あれから母さんとも色々話をしたよ。それで、3人で話をしようって事になった。
家の事とか、将来の事とか。一週間、休みを貰ったし、
3年も帰ってなかったから、里帰りのついでだ。急だけど、明後日から、な。」
父親は努めて明るく話していたが、かなり深刻なのはオレにも分かった。
母親の問題が解決したなら、そう言ってオレを呼び戻せば済む話だ。
何もわざわざ急な休みを取ってまで、この島に来る必要はない。しかも、一週間。
その日数は、母親がこの島から帰った後、オレの事を祖母や親戚と相談するため?
つまり話し合いの後、両親は離婚する。そんな不安が胸をよぎった。

703 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:31:29 ID:7Sc44gmA0
 「ナオさん、どうして今日は元気がないんですか?」
朝から両親の事を考えていて、上の空だったかも知れない。
「ああ、ゴメン。昨夜、両親がこの島に来るって電話があって。それで。」
「ナオさんのご両親が。どうして?」 「『暫く里帰りしてないから』って言ってた。」
家の事情を話せば心配をかける。そう思ったから。
「それは、何時?」 「えっと、明日。最終便だって。急だけど。」
「あの、ご両親が島に来たら、もうナオさんはこの家には...」 寂しそうな、不安そうな顔。
胸の奥が苦しくなった。もしかしたら、アキちゃんも少しはオレのこと。
「アキちゃんのお陰で、オレは毎日楽しい。
オレがアキちゃんと一緒なのは父親も知ってるんだし、何も心配ない。」
「じゃあ、お迎えするために、私、大きな魚を釣ります。」
突然、東屋での出来事がフラッシュバックした。アキちゃんが釣りに出かけて、もしも。
「いや、いいよ。両親はあんまり魚好きじゃないし。」
「でも、私には魚しか。本のお礼が」
思わず、アキちゃんを抱き締めた。爽やかな、シャンプーの匂い。
「駄目だよ。あんなヤツらがいるのに、わざわざ嫌な思いしなくても。お願いだから。」
「ナオさん...」
その日、オレはシゲさんが漁から帰ってくるのを待って、それから帰った。
オレが帰った後、アキちゃんが釣りに行ったらマズいと思ったからだ。
しかし、オレの考えは浅かった。

704 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:33:46 ID:7Sc44gmA0
 翌日、その家にアキちゃんはいなかった。マツさん(縁側に出てきた老婆)に尋ねると、
帰ってきた答えは、『釣りに行くと言ってましたよ。何か、お祝い事があるとかで。』。
聞き終わる前に、走り出した。最初はあの港。一緒に釣りをした場所を順番に。
雷の音が聞こえた。急に強くなった風に混じる、雨の匂い。嫌な、予感。
漁協の建物の裏に数台のママチャリが見えた。心臓がバクバクする音が聞こえる。
アキちゃんが囲まれていた。怒りが、沸き上がる。足音を抑え、静かに歩み寄った。

 「毎日アイツと一緒らしいな。やりまくってんのか。この売女が。」
「2人で何してたって、あんた達に関係ない! 私、ナオさんが大好きなんだから。」
ソイツがアキちゃんに向かって伸ばした腕を、背後から掴んだ。
ソイツは一瞬ひるんだが、直ぐに凄い力でオレの手を振り解いた。
オレよりずっと背が高い。襟を掴まれて、腹を殴られた。2発・3発。
予想はしていたが、息が詰まって膝から力が抜けそうになる。
「余所者が良い気になりやがって。思い知らせてやる。アキはオレが。」
醜い薄笑いが目の前に。馬鹿め。力を抜くふりをして上体を後ろに反らせた。
「情けないな。折角来たのに、もう、終わりか?」
全力で右足を踏ん張り、額をソイツの鼻目掛けて。 鈍い、音がした。

705 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:35:14 ID:7Sc44gmA0
 桟橋に鮮血が滴る。ソイツは声も無く地面に膝を着いた。
アキちゃんを背後に庇う。でも、相手はまだ3人もいる。みんなオレより体がでかい。
桟橋の突端で背後は海、逃げ場はない。漁に出ている時間だから周りに人気も無い。
「ナオさん。御免なさい。私が。」 「アキちゃんは悪くない。でも、これはマズいね。」
ゆっくり近づいて来る3人。その背後に血塗れの顔。怒りに我を忘れている。
こんな奴らに捕まったら、アキちゃんが何をされるか分からない。
「飛び込もう。アキちゃんと一緒なら、オレどうなっても良い。」 「はい。」
ポツポツと雨が降り出した。でも、濡れる心配は要らない。それが何となく可笑しい。
しっかり手を繋いだまま、2人で桟橋の端を蹴った。
スローモーションのような景色、稲光、激しい水音。視界が白い泡で覆われた。
何か大声で叫ぶ声が聞こえる。ざまあみろ、ここまで追ってこれるなら。
でも、オレは泳げない。確かアキちゃんも。息をする度に海水を飲んでしまう。
咽せて息が詰まり、体が沈む。 途切れ途切れに、エンジンの音が聞こえた。漁船?
アキちゃんの手を握り締めたまま、オレの意識は途切れた。

706 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:35:50 ID:7Sc44gmA0
 『ナオさん、起きて下さい。ナオさん。』
耳元でオレを呼ぶ声。誰?
眼を開けると、見知らぬ男女がオレを見詰めていた。
『お陰でアキは汚されずに済みました。でも、ナオさんにはまだ頼みたいことが。』
「あの、あなたたちは?」 『私たちはアキの。』
不意に2人の姿は薄れた。待って、さっきの話が未だ。 左脇腹に鈍痛。

707 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:49:12 ID:7Sc44gmA0
 もう一度、今度こそ眼が覚めた。
オレの顔を見つめているのは父親、そして、母親。どうして? あ、アキちゃんは。
跳ね起きようとするのを父親に抑えられた。 「離して!アキちゃんが!」
「落ち着け。アキちゃんも此所にいる。怪我はしてないし、きっと大丈夫だ。」
「良かった。ナオはもう、大丈夫ね。」 感情の感じられない、冷たい声。
母親はすっと立ち上がり、オレに背を向けてアキちゃんのベッドの傍に座った。
「たまたまシゲさんの船が、でもどうして飛び込みなんか。お前、泳げないだろ?」
「飛び込み?」 ああ、そうだ。オレはアキちゃんと。
「釣りに来てた高校生たちが『ふざけて飛び込んだみたいだ』って。」
ギリ、と、自分の奥歯が軋む音を聞いた。
「堤防の端で、アキちゃんが、アイツ等に囲まれてた。
助けようとしたけど、腹を殴られて。他に、人もいなかった、から。」
父親の顔色が、変わった。 「それ、本当か?」
オレは黙って青っぽい着物をはだけた。 左脇腹の痣。 悔しくて、涙が零れた。
「額の傷もその時に?」 「頭突き、したから。」 「そう、か。」

708 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:50:33 ID:7Sc44gmA0
 父親は暫く黙っていたが、やがて口を開いた。
「腹が、立つだろうな。でも、小さな島の事だ。ややこしい事情がある。良く聞け。」
固く握りしめられた父親の右手は小刻みに震えていた。
「『ふざけて飛び込んだ』って話したのは、漁協の組合長の孫とその同級生らしい。
揉め事になると、シゲさんはまずいことになる。アキちゃんもだ。」
そうか、シゲさんは漁師だから、漁協とは。
「いいか、これから誰かに何か聞かれたら『覚えてない』って言え。シゲさんたちには
父さんから話す。アキちゃんがこの島で穏やかに暮らしていくためだ。分かるな?」
オレは黙って頷いた。オレの事はどうでも良い、アキちゃんさえ。
「...に、...のに。」
オレと父親は振り向いた。母親がアキちゃんの髪を撫でている。
「こんなに、可愛い娘なのに、可哀相に。早く、眼を覚まして。」
父親は小さく溜息をついた。やはり母親は。

709 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:51:54 ID:7Sc44gmA0
 翌日になってもアキちゃんは眼を覚まさず、看護師さんが左腕に点滴をした。
オレは昼前には祖母の家に戻ることになっていて、
父親が着替えを持ってきてくれるのを待っていた。しかし、予定の時間より随分遅い。
母親は朝からずっとアキちゃんの傍に座っていた。時々髪を撫で、優しく声を掛ける。
正午を知らせるサイレンが鳴った後、ようやく父親が来た。祖母も一緒だ、そして。
2人の後から、灰色っぽい着物を着た中年の女の人が入ってきた。知らない、人。
「偉い先生に来て頂いたんだよ。『魂呼』の御祈祷をしてもらおうと思ってね。
恭子さん、悪いけど外してくれるかい。弘もナオも、ね。」
祖母に促されるまま、オレたちは廊下に出た。
「『魂呼』の御祈祷って、一体何なの?」 母親は少し不満げな顔だ。
「事故や怪我で体から離れてしまった魂を呼び戻す儀式だよ。まあ、迷信だろうけど。
田舎はこういうのが未だ生きてるからね。でも、もしかしたら、御利益があるかも知れないし。」
数分後、病室のドアが開くと、母親は直ぐに病室の中に入った。
入れ違いに出てきた、祖母と着物の女性。

710 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 19:53:00 ID:7Sc44gmA0
 「アキちゃんは、どう、なんですか?」
祖母の問いかけに、着物の女性は小さく首を振った。
「アキちゃんは、何か強い力に囚われています。私の手には負えません。」
アキちゃんはもう目を覚まさない、そう言う意味なのか。膝から力が抜けそうになる。
「そんな、他に何か方法が。」 祖母の、縋るような声。
「ご希望なら、知り合いに連絡してみます。本来『上』を通した依頼しか受けませんが、
事情が事情です。とても稀なケースですし、興味を持って来てくれるかも知れません。」
「是非、お願いします。費用は全て私が。」
祖母の、腹の底から絞り出すような声。思わず、涙が出た。
「来てくれるなら、費用は要りませんよ。泊まる場所さえ、サチさんの家、大丈夫ですか?」
「はい。家は広いですから、何とでも。」
「これから直ぐに連絡を取ってみます。結果は分かり次第、電話しますから。」
「お願いします。」
夕方、4人で夕食を食べていると電話が鳴った。
電話を切って戻ってきた祖母の顔は少しだけ明るくなっていた。
「来てくれるそうだよ。先生の、『本家』の方が2人、明日の朝、空港でお迎えしてって。」
不思議な安心感がオレの心を満たした。 根拠は無い。でもきっと、大丈夫だ。

711 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:26:58 ID:7Sc44gmA0
 翌朝、オレと父親はタクシーで空港に向かった。
一便が到着するのは9時40分、『定刻』の表示が出ている。
9時50分過ぎには到着ロビーに客の姿が見え始め、すぐにその人達が現れた。
凄く綺麗な女の人と、その後ろに荷物を持った男の人、こちらは少し地味な顔。
2人の周りだけ、何だか空気が違う。この人達だ。間違いない。
父親も同じ事を感じたのだろう。戸惑うこと無く、2人に歩み寄った。
「あの、Sさんでしょうか?私、◎野です。電話で言われた通り息子のナオも。」
女の人はニッコリと笑った。本当に、今まで見た事も無いほど、綺麗な人。
「はい。私がSです。こちらは夫のR。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。」 父親に続いて、オレも深く頭を下げた。
「大体の事は聞いています。あまり時間が取れないので、
これから早速病院に案内して頂けませんか?」
それなら直ぐにでもアキちゃんの眼が覚めるかも知れない、オレは嬉しかった。
待たせて置いたタクシーに乗り、病院へ向かった。

712 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:27:45 ID:7Sc44gmA0
 父親がドアをノックして、病室のドアを開けた。
青白い顔のアキちゃん、枕元の椅子に座るオレの、母親。
挨拶もそこそこにSさんはアキちゃんの手を握った。眼を閉じる。
暫くして、眼を開けた。アキちゃんの手をそっとベッドに戻す。
「分かりました。準備と、それから調べたい事もあるので、少し時間を下さい。」
「それなら、私の実家の方へ。申し訳ありませんが、今の時期ホテルは難しいので。」
「いいえ、有り難いお話です。ご実家は問題の起きた港に近いんですよね?この病院にも?」 「はい。どちらも歩いて10分以内です。」
「ならますます好都合。」 Sさんは一歩前に出て、オレの顔を覗き込んだ。
「ナオ君、後で港とか、案内してくれるかな?」
ふっ、と、一瞬目眩がした。思わず足に力を。
「あの、オレで良ければ。頑張りますから。」 「うん、良い返事。」
Sさんは微笑んでオレの肩に右手を添えた。 「お願いね。」 「はい。」
少しだけ、胸がドキドキした。

713 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:28:24 ID:7Sc44gmA0
 家に着くと、祖母が用意していた昼食をみんなで食べた。
SさんとRさんは細い体に似合わずよく食べるので、オレと父は驚き、祖母は上機嫌。
その後、少し休んでから港に出かける事になっていた。
SさんとRさんはオレが使っていた部屋に泊まって貰うことになっていて、2人は荷物を運んだ。
オレは昨夜からその隣、両親と同じ部屋で寝ている。
風呂に入って少し潮臭い髪と体を洗った。廊下を通る時、襖の向こうから話し声が聞こえた。
女性の声、Sさん?
「..そう、今夜。上手く行けば明日帰れる。翠をお願いね。大丈夫、少しややこしいけど...」
悪いことをしているような気分になって、思わず急ぎ足で居間に向かった
母親と一緒の部屋に戻るのは気まずい、出来ればその時間は最小限にしたかった。
居間では、普段着に着替えたRさんがお茶を飲んでいた。祖母は台所?。
「ああ、ナオ君。早速、案内を頼むよ。」 「あの、Sさんは。」
「あんまり時間が無いから、手分けしなきゃならないんだ。
港を見に行くのは僕でも出来るけど、他の調べ事や準備はSさんじゃないと。ゴメンね。」
Rさんが、心から謝ったのが分かった。この人は、良い人だ。
ただ、港へ向かう道の途中、Rさんはしきりに島で釣れる魚の事を尋ねた。
本当にやる気があるのか、良く分からなくなるくらい。大丈夫なんだろうか。

714 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:29:11 ID:7Sc44gmA0
 漁協の裏、あの桟橋が見えたとき、突然Rさんの雰囲気が変わった。
ホントにさっきまでと同じ人かと思うほど、その表情が引き締まっている。
綺麗な瞳で見詰められると、心臓が苦しくなった。
「成る程、あの桟橋だね?」 「はい、そうです。」 一体、どうしてこの人はそれを?
「アキちゃんは妖、ええと、妖怪に囚われてる。強い力というのはその妖怪の事だよ。」
妖怪?今の時代、本当にそんなものが、この港に?
「ナオ君、どうしてアキちゃんはこの港に?」 「魚を釣ろうとして、僕の両親のために。」
「それならアキちゃんは、釣りの名人でしょ?」 「そう、ですけど。どうして?」
「海に、愛される人が稀にいるんだ。極々稀に、ね。
アキちゃんが妖怪に囚われていることを、海が嘆いてる。
本当に、滅多に無い事なんだけれど。」

715 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:30:04 ID:7Sc44gmA0
 「どうして、アキちゃんはその妖に?」 「大丈夫?聞くのにはそれなりの覚悟が要るよ。」
オレが黙って頷くと、その人はゆっくりと口を開いた。
「アキちゃん自身の心に、この世界を去りたいという気持ちがあったんだと思う。
だからアキちゃんの願いが思いがけない力を持って、妖との契約が成立してしまった。」
「アキちゃんの、願いって。」
『私はどうなっても良い。私の命と引き替えに、ナオさんを助けて下さい。』
胸の、奥深くを貫かれたような気がした。言葉が出てこない。
「でも、アキちゃんが今も未だあの状態なのは、君がいたからだよ。分かる?
君がアキちゃんの手を離してしまっていたら、多分アキちゃんは体ごと取り込まれてた。」
身体ごと?アキちゃんが完全に消えてたかも知れないってこと?それならオレも少しは役に。

716 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:31:03 ID:7Sc44gmA0
 「さて、凄く強い妖。どうしたものか。まあ、Sさんなら、大丈夫だと思うけど。」
SさんとRさんは夫婦だと聞いた。なのに何故?
「あの?」 「何?」 「SさんとRさんは夫婦、なんですよね?」 「そうだけど。」
「どうしてRさんは『Sさん』って?」 「さん付けは、可笑しい?」
「いえ、でも僕の両親は。」
「僕はSさんが大好きだし、心から尊敬してる。夫婦って、それが当たり前じゃない?」
父親は『母さんを愛してる』とは言ったが、2人が互いを尊敬してるなんて、一度も。
「さあ、帰ろう。ところで、ナオ君。」 「はい。」
「君には、ホントの勇気がある。その勇気に報いるために、
僕達は何が何でもアキちゃんを助けるよ。アキちゃんが妖に囚われたまま、
2人の大切な未来が奪われるのを見過ごす訳にはいかない。
縁に導かれて出会った魂を結ぶ絆は、何よりも大切なものだからね。
きっと色々面倒な事が起きるだろうけれど。』
Rさんは言葉を切り、俯いた。聞き取りにくい、呟くような声。
「きっと、『◇』の加護は此方にある。」
それは『ひ、かり』? それとも『き、たり』? しかし、聞き直す雰囲気ではなかった。
出かける時とはまるで違い、その後Rさんは祖母の家に着くまで、一言も喋らなかった。

717 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:31:53 ID:7Sc44gmA0
 「只今、戻りました。」 玄関でRさんが声を駆けると、廊下を走る足音が聞こえた。
SさんがRさんに飛びつき、RさんもSさんの背中を優しく抱き締めた。
「お帰りなさい。心配だった。ホントに。」
眼を閉じたSさんの頬に、涙? 胸がドキンと高鳴る。 この感じ、何処かで。
「大丈夫です。それに、ナオ君はとても立派でしたよ。」
SさんはRさんの腕の中で、オレの顔を見詰めた。
「お手伝い、有り難う。今夜が本番なんだけど、今度は私の案内、お願い出来る?」
「はい。」 「うん、良い返事。」 そうか、そうだったのか。
魚を釣り上げた時のアキちゃんの笑顔に、Sさんの笑顔は良く似てる。その時、そう思った。

718 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:33:02 ID:7Sc44gmA0
 その日の夕食前、オレはSさんたちの部屋に呼ばれた。
「ナオ君、聞きたい事があるんだけど。」 「何ですか?」
Rさんは奥の長椅子で昼寝をしているようだった。
「色々調べて、事件の内容はほとんど分かった。ナオ君は少しも悪く無い。
でも、ナオ君がこの島に来なければ、きっとこの事件は起きなかった。
それについて、どう思う?正直な気持ちを、聞かせて。」
「分かりません。この島に来なかったらオレ、アキちゃんに会えなかったから。
でも、オレがこの島に来たのが原因なら、オレがアキちゃんを助けたいし、
そのためなら何でもします。でも一体どうしたら良いのか、全然分からなくて。」
「もし、君の大切なものと引き替えにアキちゃんが助かるとしたら、どうする?」
アキちゃんが助かるなら何だって...ふと、思い出した。花柄のTシャツ、ピンクの運動靴。
友達に冷やかされて、学校に行けなかった日のこと。元々オレには、大切なものなんて。
「オレは、要らない人間、です。だから、オレの命でも何でも。」
Sさんはオレの唇にそっと人差し指をあてた。
「そこまで。君の気持ちは分かった。だけど憶えて置いて。
自分を『要らない人間』なんて言っちゃ駄目。そういう言葉に『闇』が食い込んでくる。
それにもし君がいなくなったら、誰がアキちゃんを守るの?」

719 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:34:02 ID:7Sc44gmA0
 少し早めの夕食の後、母親が一足先にアキちゃんの病院へ出かけてから、
Sさんは皆を居間に集めた。重苦しい雰囲気。Sさんが話し始めるまで誰も喋らなかった。
「まずは状況を簡単に、その後今夜の予定を説明します。R君、お願い。」
「はい。今日ナオ君と一緒に港に行って、状況を確認しました。
アキちゃんは古くて力の強い妖怪に囚われています。
港で二人が溺れた時、『私の命と引き替えにナオ君を助けて下さい。』と願ったから、
その願いに妖怪が反応したんです。アキちゃんが特別な、妖怪や精霊に親和性の高い
魂を持っていたことも、この場合に限っては災いだったと言う事ですね。
アキちゃん自身が願ったことなので、基本的に変更は効きません。」
「ちょっと待って下さい。それじゃ、あの娘は。」 祖母は青ざめていた。
「『基本的に』です。1つだけ、方法がありますが、私たちだけではどうにもなりません。」
Sさんの声は力強かったが、何となく悲しげでもあった。
「私たちに出来る事があれば何でも。息子を助けるためにこうなったのなら、私たちは。」
「有り難う御座います。ナオ君には先に確認を取ってあるのですが。」
Sさんの視線、続いて父親と祖母も。オレは思いきり頷いた。

720 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:35:27 ID:7Sc44gmA0
 「簡単に言うと、『身代わり』にアキちゃんの名前をつけ、アキちゃんと入れ替えます。
妖は名前を無くした人間を認識できないので、
『身代わり』と引き替えにアキちゃんを妖から解放して、この世界に呼び戻す。
だからアキちゃんには、新しい名前が必要です。ただし、普通に名付けるのでは駄目。
直前まで誰かが使っていた『生きた名前』が必要なんです。
でないと、たとえ妖から解放しても、アキちゃんをこの世界に繋ぎ止められない。
妖に囚われていたアキちゃんは、この世界との繋がりがとても弱くなっていますから。」
「『生きた名前』って、一体どうすれば?」 父親の、怪訝そうな表情。
「ナオ君の名前を、アキちゃんに贈って下さい。勿論ナオ君にも新しい名前が必要ですね。
幸い、ナオ君はこの世界との結びつきが弱くなっている訳ではないので、
全く新しい名前を付けても大丈夫です。」
「ええと、『儀式の間そういうことに』ということですか?」 祖母が訊ねた。
「いいえ、出来るだけ早く正式な改名手続きを取って下さい。
改名手続きが成立しなければ、やがて術の効果は消えてしまいます。」
名前なんかどうなっても、オレはそう思ったが、父親と祖母は顔を見合わせた後、考え込んだ。
「それから、これはもっと重要です。7日の内に、アキちゃんをこの島から連れ出して下さい。
『本物』が近くに居れば、遅かれ早かれ妖は術を見破ります。
あの妖を欺いた報いは、アキちゃん1人の命だけでは済まないかも知れません。」

721 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:36:10 ID:7Sc44gmA0
 「御免なさい。その、お話があまりに常識とかけ離れていて、どう考えれば良いのか。」
父親の、躊躇いがちの言葉。 Sさんはニッコリ笑った。
「いきなりこんな事言われても信じられない、それは当然です。しかし信じてもらえなければ、
私たちに出来る事は殆どありません。信じてもらうために、こういうのはどうでしょう。」
Sさんはテープルの上の箱から取り出したティッシュを無造作に丸め、テーブルに置いた。
コップに残っていた氷水を、丸めた紙片に少したらして...まさか。
白い芽が出て、どんどん伸びていく。やがて数枚の白い葉が付き、白い花が1つ咲いた。
祖母も父親も、もちろんオレも、黙ってその光景を見ていた。
『パン!』 Sさんが手を叩いた瞬間、花と葉は散り、細かく千切れた紙切れだけが。
「陰陽師の術、信じて頂けましたか?」 父親と祖母は頷いた。もちろんオレも。
「それは何より。R君、お願い。」

722 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:37:51 ID:7Sc44gmA0
 Rさんは父親の目を真っ直ぐに見つめた。
「ごく単純に言い換えます。あなたが、アキちゃんを自宅に引き取って下さい。
2人の名前の件については、追加の説明は要らないと思いますが。」
「どうして、私たちが。」
「それが一番良いと思うからです。私たちが受けた依頼はアキちゃんを助けること。
助けたアキちゃんが幸せに暮らすにはナオ君が幸せでなければならない。
ナオ君が幸せでいるためには。」 Rさんは言葉を切り、深く息を吸った。
『ナオ君が幸せでいるためには、『ナオという名の女の子』が、あなたの家にいた方が良い。』
父親の体が固まった。呆然とRさんを見つめたまま、何秒経っただろう。
「恭子の、妻の事を、言っているのですか?」 父親の、消え入りそうな、言葉。
「そうか、これもあなたたちの力。あなたたちは術で、妻とナオの心を。」
「はい。すぐにでも手を打たないと、奥様の心は完全に壊れてしまいます。」
「あなたたちの言う通りにすれば、アキちゃんは助かり、妻の心も?」
「アキちゃんをこの島から連れ出して妖怪との繋がりを切り、
アキちゃんの、女の子の世話を任せる事で奥様の心の崩壊を止める。
どちらも裏技、対症療法ですが、まず症状の進行を止めないと回復は望めません。」

723 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:38:56 ID:7Sc44gmA0
 「分かりました。これから具体的にどうすれば良いのか、指示して下さい。」
父親は吹っ切れたような表情になり、祖母はそっと涙を拭った。
これで、やっとアキちゃんは。そう思うと嬉しくて、オレも涙が。
「ナオ君、本番はこれからだよ。油断しないでSさんの指示を良く聞いてね。」 「あ、はい。」
「これから二手に分かれます。お父さんとお祖母さんはR君と一緒に直接病院へ。
私とナオ君は港へ寄ってから病院へ。私とナオ君が病院へ着いたら術を完成させます。
それまでにナオ君の新しい名前を用意しておいて下さい。
仕事が済むまで、奥様には眠って貰いますが、体には影響有りません。何か質問は?」
誰も、手を挙げない。
「質問が無ければ早速出かけましょう。出来れば面会時間内に完成させたいので。」
オレたちは二手に分かれて家を出た。

724 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:39:52 ID:7Sc44gmA0
 一体、港に何の用があるんだろう。まさか、Sさんは妖怪と直接交渉するつもりなのか。
黙ったまま歩き続ける。港の入り口近く、東屋が見えた。
Sさんは先に立って東屋のベンチに座った。 「そこへ座って。」
ホントはあまり、この場所には。でもSさんたちを信じると決めたから。Sさんの隣に。
「君に術を掛ける前に、確かめたいことがあるの。
さっき君は、あの娘を助けるためなら何でもすると言ったわね。」 「はい。」
「大切な名前を無くしてまでも、あの娘を助けたいのは何故?」
「...好き、だからです。初めて、本気で好きになった女の子だから。」
「もし、全てが上手く行ってあの娘が戻ってきたら、一生かけてあの娘を守る?」
「はい。そのためになら、オレが生きていく理由もあると思いますから。」
「良く分かった。じゃ、これに君の名前を書いて。」 渡された紙切れ、小さな、人の形。筆ペン。
何だか、体が、思うように動かない。ノロノロと名前を書いた。ナオ、ああ、これがオレの。
「有り難う。丁度良いタイミング。『待ち人来たる』ね。」

725 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:40:57 ID:7Sc44gmA0
 近付いてきた、数台のママチャリ。
「私の使い魔に命じて、4人を此所に集めたの。直接、話を聞きたかったから。」
ママチャリをゆっくり降りた人影。コイツは、あの時の。
「あれが、漁協の偉い人の孫よね?この件の首謀者、●太。残りは取り巻き3人。
今日調べたら祖父には色々噂があったけど、本人はどうかしらね。」
薄暗くて見にくいが、間違いない。ソイツの鼻を覆う不格好な白いガーゼが何よりの証拠。
ソイツはベンチに近づき、Sさんの正面に座った。オレには全く反応しない。何故?
「今晩は、●太君。」 軽く手を叩くと、ソイツはSさんを見詰めた。
「君に、聞きたいことがあるの。」 「何、だ?」 やはり反応が遅い、多分、Sさんの術。
「アキちゃんのことよ。アキちゃんが海に飛び込んだ時のこと。」
ソイツの目がフラフラと泳いだ。怯えた表情。 「俺は関係ない。何も。」
「嘘は駄目。私見たの。君たちに追い詰められて、2人は海に飛び込んだ。」
「あれは、あれは2人が勝手に。そんなつもりじゃ無かった。」
「私が黙っていれば、騒ぎにはならない。安心して。」
父の話からすると、例えSさんが話をしたとしても、どうせ警察は。
ソイツの、疑わしそうな表情。 「じゃあ、一体どうしようって。」
「警察のお世話にならないとしても、君に責任があるのは間違いない。
もし、君の大切なものと引き替えにアキちゃんが助かるとしたら、どうする?」

726 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:42:29 ID:7Sc44gmA0
 「金なら、金で済むなら、祖父ちゃんが何とかしてくれる。」
「お金...君も、アキちゃんが好きだったんじゃないの?」
「どうせ、いつかアキは誰かに囲われる。それなら俺が、祖父ちゃんもそう言って。
○△の家に残った土地と、屋号を」
突然、冷たい風が吹いた。真夏なのに、腹の底から冷えて、体全体が凍えそうだ。
Sさんは微笑んでいた。でも、全く笑っていないその両目は、青く光っているように見える。
怖い。思わず立ち上がり、後退った。東屋を包む、この気配は一体?
「良く、分かったわ。それなら全て、君の望み通りに。」
Sさんはもう一度手を叩いた。
動きを止めたソイツの、胸ポケットに押し込んだ白い紙切れ。小さな、人の形?
Sさんは立ち上がり、オレの横をすり抜けて歩き出した。
「さあ、病院へ。ほら、急いで。」
促されるまま、ボンヤリした頭で、Sさんの後を追った。

727 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:46:03 ID:7Sc44gmA0
 病室の中に入ると、Sさんは何か小声で呟き、母親に歩み寄った。左手で額に触れる。
椅子の上で、母親の体からぐにゃりと力が抜けた。そういえば祖母の家で、Sさんは。
「では、始めます。」 父親と祖母は真剣な表情で頷いた。
Sさんは白い紙切れを取り出し、それをベッドの...
あ? この、オレの好きな女の子の、名前は。 そうか、オレたちの名前はもう。
白い紙切れを女の子の胸の上に置いて布団をかけ、耳元に口を近づけた。
やがて、Sさんは父親の方に向き直った。
「息子さんの、新しい名前は用意できましたか?」 オレの、新しい名前?
「はい。『ユウ』です。悠久の悠という字で。」 「良い名ですね。短い時間で、何故その名を?」
「息子が生まれる前、考えていた名前の1つです。母にも了解をもらいました。」
Rさんが父親に白い紙切れと筆ペンを差しだした。
「どうぞ、その名前をこの紙に。」 「はい...これで良いですか?」
白い紙切れを受け取ると、Sさんは振り向いてオレを見た。目の前に、白い紙切れ。
『これが、汝の名。『ユウ(悠)』、汝の分身。憂いを祓い、難を避く。』
目の前が真っ白になった。その中に浮かぶ、2つの顔。男の人と、女の人。
どちらも晴れやかな笑顔。 誰だろう?いつかこの2人には会ったことがある。
『これで思い残すことはありません。娘を宜しく頼みます。』 女性の、優しい声。

728 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:47:10 ID:7Sc44gmA0
 「ユウ、大丈夫か?しっかりしろ。」 目の前に、父親の顔。
「大丈夫、ちょっと目眩がしただけだから。」
「ユウ君、君の声で、あの娘の名前を呼んであげて。これは君の役目。」
Sさんに手を引かれ、オレはベッドに歩み寄った。膝を着き、そっと手を握る。温かい。
そう、そうだ。この子の名は。
「ナオちゃん、起きて。オレだよ、ユウ。お願いだから、起きて。ナオ、ちゃん」
空気が、変わった。軽い。何だか、厚い雨雲が晴れたような。
ナオちゃんは微かに身じろぎをして、ゆっくりと眼を開けた。
「ユウ、さん。」 ナオちゃんの眼から涙が零れた。オレも...良かった。これで、やっと。
「本来なら、お医者さんに連絡すべきだけど。」 「対応する時間は無くなるでしょうね。」
SさんとRさんは顔を見合わせて頷き合った。それは一体?
「どういう、ことですか?」 父親の問いにSさんが答えるより早く、不吉な音が聞こえた。
切れ切れの悲鳴、いや、救急車のサイレン。近づいてくる。辺りの雰囲気が慌ただしくなった。
「急患です。多分4人。ちょっと乱暴ですけど、タイミングを見て
ナオちゃんを連れて帰りましょう。お医者さんも看護師さんも、
今夜退院手続きをしている余裕はないでしょうから。」
Sさんは少し寂しそうに微笑んだ。

729 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 20:49:14 ID:7Sc44gmA0
 カーテンの向こうで、赤い光が明滅している。辺りがすごく騒がしい。
「そろそろですね。出発です。表玄関へ。R君、ナオちゃんをお願い。」 「了解。」
まだ少しボンヤリしている母親の手を引き、父親が部屋を出た。次に祖母、そしてオレ。
ナオちゃんを抱いたRさん、最後にSさん。閉めたドアに触れ、眼を閉じる。
「これで、良し。」
玄関を出ると、沢山の人々が駐車場に集まっていた。みんな緊急搬入口の方を見ている。
救急車、見えるだけで2台。オレたちを気に留める人はいない。黙ったまま、門を出る。
早足で近づいてきた数人の男と擦れ違った。

「●太たちだって、ホントか?」
「ああ、無灯火の自転車で、前から散々無茶しよったが。とうとう。」
「しかも轢いたのは●蔵だとよ。まさか自分の孫をな、いつもの店で酒飲んだ後らしい。」

父親がギョッとした顔で振り向いた。オレも思わずSさんを振り返る。
Sさんは人差し指を唇に当て、それから黙って前を指さした。

730 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 21:00:17 ID:7Sc44gmA0
 翌朝、いつもより早い朝食後、父はSさんとRさんを空港に送るためにタクシーを呼んだ。
本当は、もっと、ちゃんと御礼をしたかった。でも、2人が『時間が無い』と言ったから。
母は夜明けからずっと、つきっきりでナオちゃんの世話をしている。
昨日までとは別人のように明るくなり、オレへの接し方にも温もりが感じられた。
「Sさん。あの、聞きたいことが、昨夜の事故のことで。」
オレが声を掛けると、居間でお茶を飲んでいたSさんは微笑んだ。 「何?」
「昨夜アイツらが事故に遭ったのは、ナオちゃんの『身代わり』になったから、ですか。」
「いいえ。『身代わり』はただの、紙の人型。」 「でも、Sさんはアイツのポケットに。」
そう、確かに憶えてる。もしアイツを犠牲にしてナオちゃんが助かったとしたら。
「君がR君を港へ案内してる間に、私は病院に行ってあの娘の名前を預かってきたの。
だから妖はあの娘を見失った。昨夜、慌てた妖が港の周辺を探し回ってる所に、
君と、『身代わり』を持った私があの東屋へ。 当然、妖はすぐに『身代わり』を見つけた。」
何だか、凄く恐ろしい話を聞いている気がして、体中に鳥肌が立つ。

731 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 21:01:38 ID:7Sc44gmA0
 「そう、ね。あれが答えじゃなければ、事故は起きなかったかも知れない。
でもあれが、アイツが自分で出した答え。血眼になってあの娘を探していた妖の前で、
『あの娘はいつか誰かに囲われる』、『それなら俺があの娘を』と。
それでアイツの望みを叶えた。いいえ、そうするしかなかった。 あれ程に、怒り狂った妖。
『身代わり』を手放さなかったら、私と、そして君も無事には済まなかったもの。
だから君もナオちゃんも、気に病む事なんて何1つ無い。
アイツ自身が、そういう結末を選んだったって事。
結局、自分が犯した罪の報いからは誰も、逃れられない。
まあ、昨夜のお膳立てをしたのは私だから、あの事故の責任の一部は私にある。
それを後ろめたいなんて、これっぽっちも思わないけれど。」
少し悲しそうな、笑顔。
オレの脇をすり抜けたRさんが、Sさんの肩をそっと抱いた。何時、オレの後ろに?
「私は大丈夫よ。」 「はい。いつも通り、信じていました。」
何が大丈夫で、何を信じていたのか、オレには分からない。
きっとこの人たちは、オレと同じ世界に住みながら、オレとは違うものを見て、感じてる。
その人たちが『気に病むことはない』って。 オレはそれを信じて、ナオを守る。

732 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 21:02:30 ID:7Sc44gmA0
 「Sさん、Rさん、タクシーが来ました。」
2人を呼びに来た父の、穏やかな顔。 母親が元気になったからだろう。
夕方シゲさんに会い、事情を説明して今後の事を相談すると聞いていた。
「有り難う、御座います。」 SさんとRさんは荷物を持って立ち上がった。玄関へ。
Sさんは、折りたたんだ紙を父に手渡した。
「出来るだけ早く此処に電話を。面倒な手続きを助けてくれます。約束、どうかお忘れ無く。」
「はい、必ず。何から何まで本当にお世話に。ありがとうございました」
オレと父と祖母は、揃って頭を下げた。
「では、これで。」 手を振ってタクシーに乗り込んだ2人の笑顔は、とても温かかった。

733 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 21:10:17 ID:7Sc44gmA0
 「ナオ、早くユウを起こして!急がないと遅刻しちゃうわよ!!」
...微かに聞こえる。母の、声だ。今も未だ、少しだけ調子外れの。
階段を上る軽い足音、ドアが開いた。軽い音がしてベッドが揺れる。くすりと、小さな笑い声
「ユウさん、起きて。ほら、早く。」 ノロノロと上体を起こし眼をこする。眠。
細い腕が、オレを抱き締めた。シャンプーの香り。右頬に感じる、温もり。
「今日も、大好き。下で、待ってるから。」 走り去る足音。
いつもと同じ、朝の決まり事。よし、大丈夫、今日も頑張れる。ナオのために。
ナオとオレと父は3人一緒に家を出る。ナオの小学校までは歩いて5・6分。
ナオが大きく手を振って小学校の門をくぐるのを見届けてから、父と2人で駅に向かう。
「ユウ、どうだ?新しい中学校は?」 「また、その話?いい加減にしてよ。」
父は微笑んでオレの背中をポンと叩いた。以前よりもずっと、父との会話は増えた。

734 『遠雷』 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 21:11:52 ID:7Sc44gmA0
 「しかし、あの2人、一体何者だったんだろうな。たった二ヶ月前なのに、何だか夢みたいだ。」
教えてもらった電話番号も、オレとナオの色々な手続きが済むと同時に繋がらなくなり、
今は連絡を取る方法が全く無いと聞いていた。確かに、あの島で起きたことは夢のようで。
例えば、あの丸めたティッシュから咲いた白い花。一体あれは、現実だったのだろうか。
微かに、雷鳴が聞こえた。 青い空には雲1つ見えないけど、何処か遠くで雷が。 そうだ。
稲光が見えなくても、微かな雷鳴が遠い遠い雷の存在を教えてくれるように、
オレの家族とオレ自身に起きた変化が、あの2人の実在を教えてくれる。
今もきっとこの国のどこかに、あの2人は、いる。
「夢じゃない。今はナオがいるし、母さんも毎日楽しそうにしてる。
ナオがいるから、みんなで幸せに暮らせる。全部あの2人のお陰でしょ?
きっと、神様の、御使いだったんじゃないかな。ナオと、母さんを助けるために来てくれた。」
「神様の御使いか...そうだな。でも、それだと俺が母さんを不幸にしたり、
お前がナオを不幸にしたら、罰が当たるぞ。それも、とんでもない天罰が。」
「オレは大丈夫だけど、父さんは地獄に落ちるかもね。」 「馬鹿言え!」
拳骨。その痛みも何だか嬉しい。オレはその人の笑顔を思い出していた。
ナオに少し似た、とても綺麗な人。

『遠雷』 完

735 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/15(月) 21:18:19 ID:7Sc44gmA0
皆様今晩は、再び藍です。

何とか投稿を終えました。お付き合い頂いた皆様に、心からの感謝を。
考えて見れば、書き出しの時期が6月と言うことよりも、
許可を得る交渉を応援して頂いた皆様への、プレゼントなのかも知れませんね。

有り難うございました。

736 名無しさん :2015/06/15(月) 21:23:17 ID:uWH9oUYoO
終わりまで一気に書き込みありがとうございます!
とりかへばやなど「交換」の話は昔多かったですが、そのリアルな経緯を知ることが出来て嬉しいです。ありがとうございます。

737 名無しさん :2015/06/16(火) 00:22:28 ID:zVrsk1Hs0
名も知らぬ遠き島で起きた,不可思議で,人の心を温かくする物語。
幼き魂の清らかさ,純な思いがいつまでも心に残ります。
神に遣わされた術師たちに誉れあれ。

738 名無しさん :2015/06/16(火) 00:26:10 ID:wvBszuOE0
7月と言われたのに次の日にチェックに来た私に隙は無かった

739 けんぽん :2015/06/16(火) 00:59:42 ID:slaSi0nk0
藍様
知人様

お忙しいにもかかわらず、お話の続きと新しいお話を有り難うございました。

遠雷は全くの第三者目線でのSさん達の活躍のお話で、今までとは違った新鮮な印象でした。

次回のお話も楽しみにしております。

お忙しい事とは存じますが、ご自愛下さいませ。

740 名無しさん :2015/06/16(火) 05:41:55 ID:qQFA9Eio0
お話に魂がこもっているようでとても感動する
今回もまた涙が・・ 
ありがとうございました

741 名無しさん :2015/06/16(火) 12:49:53 ID:himkp/b.0
「新しい命」で亡くなった女性の子どもが気になるな。
次世代での重要登場人物になりそう。

742 名無しさん :2015/06/17(水) 00:00:08 ID:i4fkaHVE0
圧巻の投稿量でした。どちらの物語も楽しく拝読させて頂きました。ありがとうございます。体調、お大事になさってください。

743 ある寿札僧〜の作者 :2015/06/18(木) 19:30:32 ID:tn9ddZDU0
すごいなぁ。
エネルギーを感じました。

744 名無しさん :2015/06/19(金) 20:40:00 ID:BazbVQiIO
しかし…
小学生の女の子をレイプしようとする高校生に…
中学生学生と小学生の純愛ですとか…
ハードです(笑)
一昔前なら、よくて大学生(悪役)・高校生(主人公)・中学生(ヒロイン)でしょう♪〜θ(^0^ )♪〜θ)

もっと前なら、悪役は大人で、主人公は大学生・ヒロインは高校生くらいが…

考えたら、恐い話しだ…

745 名無しさん :2015/06/20(土) 14:52:46 ID:n9upD6vk0
世界にわね、かけちゃいけない電話番号がいくつかあるんだって。090-4444-4444これ貞子につながるやつ。かけた人は1週間以内に死ぬってうわさだよ。ちなみにこの電話番号ってかけても電話代かからないらしいよ。

746 名無しさん :2015/06/21(日) 02:04:07 ID:NOrVmZFQ0
R氏のご両親の馴れ初めのフェイクだったとしたら面白い

747 ◆iF1EyBLnoU :2015/06/23(火) 15:36:25 ID:33TdJtHw0
皆様こんにちは、藍です。
沢山のコメント、有り難う御座います。
投稿を続ける、勇気の基ですね。

748 名無しさん :2015/06/26(金) 01:20:39 ID:bZwIcVgw0
藍様、いつも投稿ありがとうございます。

749 ◆iF1EyBLnoU :2015/07/02(木) 21:25:42 ID:un9l2.EE0
皆様今晩は、藍です。

予告したスケジュールと全然違う投稿でしたのに、
早速多くのコメントを頂き感謝致します。
どうすれば皆様のご厚意に応える事が出来るか、知人と共に検討中です。
どうぞ気長にお待ち頂ければ嬉しく思います。
有り難う御座いました。

750 名無しさん :2015/07/02(木) 23:26:44 ID:.71XmAtY0
藍さん知人さん
 ありがとうございます。
 楽しみにして待ってます〜。

751 名無しさん :2015/07/03(金) 02:03:50 ID:Tu7k.JVc0
ナオ君の心理描写が想像ではなく、ある程度の取材を経たものだとしたら今後の展開が期待できるのかも新米

752 名無しさん :2015/07/15(水) 17:04:12 ID:7z7tbw1c0
まとめで出会い、全て読ませて頂きました。
とても興味深く、続きを心待ちにしております。
ここまで投稿し続けるのにとても長い時間がかかった事、その裏にある様々な苦労をお察し致します。
作者様と、お身体にお気を付けて、これからも頑張って下さい。

753 名無しさん :2015/08/23(日) 09:43:25 ID:bShbRdA.O
Sさんはダビデの血をひいているという夢など見ました。
いつも命懸けの家業、どうぞお気をつけ下さい。
新しいお話もいつか公開される日をお待ちしてます。藍様もどうぞご安全に。

754 名無しさん :2015/08/24(月) 22:52:40 ID:3/CfCGCo0
フフ。9月まであともう少しですな。

755 名無しさん :2015/09/07(月) 23:15:46 ID:ku4dNWbwO
しばらく藍さんが来ないので、また「出会い」から読み返しています。次はまだかな…。

756 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/08(火) 21:25:27 ID:vV6Wb0V60
皆様今晩は、藍です。

>>750 751 752 753 754 755

交渉を続けて来た結果、数日中に掌編を1つ投稿出来そうです。
それまで、どうかもう暫くお待ち下さい。

757 名無しさん :2015/09/08(火) 23:07:24 ID:ri/kH.dMO
藍様、交渉ありがとうございます!
新しいお話を楽しみにお待ちしてます。

758 名無しさん :2015/09/08(火) 23:48:34 ID:6KuYA5Pg0
知人さん藍さん,ありがとうございます。
楽しみにしています。

759 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:29:32 ID:8ZyP6UVg0
皆様、今晩は。藍です。

予想外の事態で投稿のための時間が取れず、投稿が遅れました。
作業が済んだ所まで投稿して、後は今後の状況に任せたいと存じます。

どうか『水に流すことの出来ない事情』を、お察し下さい。

760 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:30:46 ID:8ZyP6UVg0
『召喚』

 「ね、翠。やっぱり止めた方が良いんじゃない?今夜は2人だけだし、怖いかも。」
「お父さんが一緒だから大丈夫。それに、きっと色々面白いよ。」
 
 リビングの床に広げた新聞を読む翠の、小さな背中。
翠の精神的な成長が著しいのは、良いことなのだろう。
しかし、新聞のTV欄を不自由なく読めるようになってから、時々問題も起こる。
翠が見たいと望むTV番組が、俺たちの方針と異なることがあるからだ。
そんな時、Sさんは翠を甘やかさずピシリと言ってくれるし、
姫はTVを見るよりずっと魅力的なイベントを考えてくれる。 しかし今夜は違う。
丹の、ある儀式のためにSさんと姫は昼前からお屋敷を離れていて、明日まで戻ってこない。
藍も一緒に出かけたから、お屋敷には俺と翠が2人きり。
しかも翠は俺が翠に甘いのを理解している。結局2人でその番組を見ることになった。

761 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:31:57 ID:8ZyP6UVg0
 まあ、夏にはお決まりの企画。 『心霊●▲特集2時間スペシャル』
この手の企画には珍しく、何年か続いているらしい。局のやる気(?)は感じる。
しかし、本気でこの手の企画を実行したらそれはそれで...悪い予感しかしないが。

762 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:33:20 ID:8ZyP6UVg0
 翠がいつもより早く食べ終えた夕食の後、いよいよ番組が始まった。
最初は心霊写真のコーナーで、一枚映し出される度に出演者達が大げさに怖がる。
自称『専門家』が写真を解説して、また出演者達が怖がる。
お決まりの演出なんだろうが、当然、本物の心霊写真なんて滅多にない。
光の反射か何かでそれらしい影が映り込んだ写真や、あきらかに作為を感じる写真。
どちらかというと翠は心霊写真よりも出演者達の反応に興味が有るようだった。
「ホントに、怖いのかな?」 「え?」 「だから、あの写真見て怖いのかな?」
「う〜ん、本物かどうか分からない人は怖い、かもしれないね。
それにほら、『偽物だ』なんて言ったら、番組の雰囲気が壊れちゃうでしょ?」
「そっか、怖がって、楽しむんだね。」 『怖がって楽しむ』か、確かにそうなんだけれど。
「それで、今までので変な写真あった?本物っぽい写真とか。」
俺は気付かなかったが、俺より感覚の鋭い翠なら。
「え〜っと、2枚目の写真には写ってたよ。○印で囲んだところじゃなかったけど。」
「2枚目?公園の木が写ってた写真?」 「そう、端っこに『手』が写ってた。女の人の。」
ぞく、と背中が冷たくなる。○印をつけられて、他の部分には俺の感覚が向かなかったのか。
CMソングが何だか空々しく、不気味な響きに聞こえる。
「翠、あのさ、出てくる写真に何か変なのが写ってたら、教えてくれない?」
「うん、良いよ。」 あっさりと答え、翠はTVの画面に視線を戻した。

763 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:34:32 ID:8ZyP6UVg0
 写ってる人数より腕が多いという写真。 → 「みんなの後ろにかくれんぼした人の手。」 

 無数のオーブが映っているという写真。 → 「凄いホコリだね。マスクしないと。」

 翠は写っているものを淡々と語り続け、それは俺の感覚とも一致していた。 しかし。

764 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:36:18 ID:8ZyP6UVg0
 ビーチの写真が映し出された時、翠の表情が変わった。
曇り空の下、並んで座る親子連れ。男の子の右半身に赤い光が重なっていて、
自称専門家が『これは霊障が心配ですねぇ。右半身の怪我とか。』などと解説している。
俺は赤い光に嫌な気配を感じない。しかし、微かな違和感。
振り向いた翠の、キラキラ光る瞳。 「見つけたよ。お父さん、ほらここ。ね?」
指さしたのは家族連れから海側に少し離れた場所、若い男性の後ろ姿。
突然感覚が拡張し、首筋の毛が逆立った。確かに、これは生きた人間ではない。
生きている人間と寸分変わらぬ姿で、ハッキリと写っている霊。
あまりにハッキリと写っていて、写真を撮った人も、この写真を見た人も
それが霊だとは気付かなかったのだろう。
何より、この写真を撮った時、そこにいた人たちに男性の姿は見えていたのか。
どちらにしても、一見ごく普通に見える写真が実は心霊写真の場合もあると言うことだ。
そしてもしかしたら、街中の人混みに混じって...。
俺は幼い頃から写真と人混みが苦手だったが、こういう感覚が原因だったのかも知れない。
軽い気持ちで見ていた番組が、急に禍々しいものに思われた。
『本物』の心霊写真を不特定多数の人に見せて、どんな影響があるのか見当も付かない。

765 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:37:39 ID:8ZyP6UVg0
 「この女の人写してる間に、中に入ったの。」
投稿されたという動画のコーナーになっても、翠の解説は続いていた。
心霊スポットだという廃墟。一度開けたドアの中には誰もいなかったのに、
怖がる若い女性を写したあと、もう一度ドアを開けると白い服を着た人影。子供騙しだ。

 「階段が有るから、隠れて後ろから手を出せるんだよ。」
港の岸壁。海側から手が伸びてくるという動画も作り物。
作業用の階段に隠れている協力者が、岸壁の際に立つ女性の足に手を伸ばす。
良く考えられた構図で階段自体は写っていないし、中々の工夫と言えるだろう。
出演者達の表情は引きつっていた。泣きそうな女性タレントもいる。

766 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:39:47 ID:8ZyP6UVg0
 「ねぇ、お父さん。この人たち、怖くないのかな?」
「え?みんな怖がってるでしょ。階段が写らないようにしてるから騙されて」
「騙されてることじゃなくて。」 「え?」 翠は立ち上がり、俺の隣に座って体を寄せた。
その体は少し強張っている。一体何を感じているのか。
「どうしたの?」 「来てるよ。あの人たちの近くに。」
既に動画のスロー再生も終わり、若い芸人が自分の体験談を話している。
「来てるって、何が?」 「分からない。何か、怖いもの。前は、男の人だったもの、かな。」
『集まって怪談をしていると寄ってくる』と、何度か聞いたことがある。
編集済みの録画に、翠はそれを『見ている』のか。 TVの画面越しに?
突然、大きな音。スタジオで何か小道具か倒れたらしく、出演者達はパニック寸前だ。
「あんまり強くないと思うけど、大丈夫かな。」 翠の声は沈んでいる。
心なしかTVの画面が薄暗く見える。 悪意、だ。 今は確かに、俺も感じる。
もし出演者達の身に何か起こって、その場面が放映されたら、
感受性の高い人間が受ける悪影響は心霊写真とは比較に...しかしどうすれば良い?
局に電話したとしても、まともに取り合っては貰えないだろう。
何の証拠もない、イタズラか異常者かも知れない電話一本で放送を止める筈はない。

767 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:44:03 ID:8ZyP6UVg0
 「お父さん。」 我に返る。 俺を真っ直ぐに見上げている、真剣な瞳。
「何?」 「お友達に頼んじゃ駄目?」 お友達って...
そうか。 一瞬、一飛びで遠い距離を越える、『空を往く者』。 翠はこの放送が今。
次の瞬間、大きな音を立てて窓ガラスが震えた。 突然の、強い風。 そして、羽音?
リビングの窓ガラス越しに、黄色く光る瞳がこちらを覗き込んでいる。
ソフトボールほどの大きさ。濡れたような艶のある、嘴の一部も。
確かに...式の使役に限れば、翠はSさんの指導を仰いで基本的な修練を終え、
既に当主様の『裁許』を受けている。だが、どんな術者も『時間』だけは操作出来ない。
『戻れ。例え術者の誓いが有ろうとも、これは汝の仕事では無い。』
「お父さん、どうして?」
「あのね、翠。この番組は、ずっと前に撮影されたものを放送してるんだよ。」
「じゃあ、もう、間に合わないの?」 悲しそうな表情、胸が痛くなる。

768 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:46:08 ID:8ZyP6UVg0
 一瞬、TVの画面が明るくなった気がした。思わず視線をTVに移す。
俺には見えない何か、その『気配』は出演者の間を縫うように、画面左から右に動いていく。
『気配』が画面の右端に消えると、スタジオの雰囲気が変わった。
出演者達は相変わらず大げさに怖がったりしているが、先程までの緊張感はない。
「あれ、『式』だね。お母さんが、あれに似たのを作ったことがある。」
「式?」 「うん。トンボみたいな形、光ってた。ポワ〜ッて。」
ふと、思い出した。
怪談を基にした映画や心霊関係の番組を撮影する時は、
スタッフや出演者が揃ってお祓いを受けると聞いた事がある。
しかし、式だとすれば番組を収録した時スタジオに術者がいたか、
あるいは事前に式を仕込んだ代を配置して置いたのか。 2つに1つだ。
そうでなければ、何時寄ってくるか分からない相手に対応できた筈がない。
もし式を封じた代を配置したのなら、かなり力のある『式使い』ということになる。
Sさんの作る式に似ているとしたら一族の術者かもしれない。
TV局からの依頼があるルートで『上』に伝わって、それで。
しかし代に式を封じて配置する程、力のある『式使い』は数える程しかいないと。

769 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:47:45 ID:8ZyP6UVg0
 「どうしたの?まだ時間は残ってるのに。」
俯いた翠を抱き上げた。 左手でリモコンを操作してTVの電源を切る。
「お母さんとお姉さんの言ってた通りだった。怖いTVを面白半分で見ちゃいけないって。
お父さんなら駄目だって言わないと思って、お願いしたから。翠が悪いの。」
ふと、出かける前のSさんと姫の様子を思い出した。
家を空けるとき、気になる事があれば特にSさんは細かく指示をしてくれる。
しかし、今回は何も。当然新聞はチェックしたはずなのに...そうか。
『見せない』から、『見せて気付かせる』へ。 翠がその段階まで成長したと言う事だろう。
「今日、お母さんもお姉ちゃんも『翠にTV見せちゃ駄目』って言わなかったんだよ。」
「何故、かな?」
「翠を、信じていたんだと思う。『今の翠なら見せても大丈夫』って。」
「面白半分で見ちゃいけないわけが分かるってこと?」
「そう。駄目だと言わなければ、翠があの番組見るのは間違いないからね。
それに翠はもう分かったでしょ?面白半分で見ちゃ行けない理由。」
「うん、分かった。」 サラサラの髪をそっと撫でた。

770 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:52:11 ID:8ZyP6UVg0
 自らTVの電源を切って欲しいと言った翠。 その心は、きっと。

 「子供の頃、お父さんも好きだったよ。さっきみたいな番組。」 「ホントに?」
「うん。まだ『感覚』が働いてなかったから、怖がって、それを楽しんでいたんだね。
『感覚』が働いていたら、きっとお祖母ちゃんに怒られてたと思う。」
「『怖いTVを面白半分で見ちゃいけません』って?」 「そう。」 小さな、笑い声。
「じゃあ、TVの続き、どうする?」 「見ても大丈夫、かな?」
「『式』が配置されていたんだから、悪い事は起きなかった筈だよ。見たい?」
「うん。」 翠の顔に笑みが戻った。
その後は体験談の再現ドラマとUMAコーナー、式が発動する機会はなかった。

771 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/14(月) 22:54:09 ID:8ZyP6UVg0
 藍です。

 今夜は此処まで。お付き合い頂いた皆様に感謝致します。
有り難う御座いました。

772 名無しさん :2015/09/14(月) 23:45:07 ID:q0toJZE60
洪水とかだったら心配。御無事そうで何より

773 名無しさん :2015/09/15(火) 00:09:52 ID:LqecAaiwO
投稿ありがとうございます!
心霊番組はやっぱりあんまり見ちゃ駄目なんですね。でもTV局で本格的な御祓いをしているなんて意外でした。
翠ちゃんの解説面白かったです。素敵な女の子に成長されてますね。
お父さんが娘に甘くて、娘がそれを見透かしてるって、リアルな関係に思わずにやついてしまいました。

774 名無しさん :2015/09/16(水) 00:51:28 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,投稿ありがとうございます!
それにしても翠ちゃん,可愛すぎてしっかりしすぎです・・・。
事情はわかりませんが,ご無事,ご健勝をお祈り致します。

775 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 21:44:40 ID:pyBusNHI0
皆様、今晩は。藍です。

以下、『召喚』の残りを投稿致します。
掌編の割に書き換えの指示が多かったので少し心配です。
大きな不都合無く、お楽しみ戴けると良いのですが。

776 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 21:48:54 ID:pyBusNHI0
 「実は、昨夜翠と2人で視たんですよ。『心霊●▲特集2時間スペシャル』
マズかったですかね?まだSさんには話していないんですけど。」
姫と2人で夕食の準備をしている。子供達とSさんはリビング。穏やかな夕方の一時。
「全然問題有りません。『見せなければ済むという時期じゃない。』って、Sさんも。」
やっぱり、事前の禁止が無かったのはそういうことだったのだ。
「それなら良かった。その番組を見てる時に、その何というか、変わったことが起きたので。」
「変わった、ことですか?」 姫の眼に宿る光が強くなった気がした。
「ソレ系の動画を紹介するコーナーの途中で、翠が『怖いものが来てる』って。
動画自体は作り物だと思ったんですけど、スタジオの雰囲気に惹かれて
『何か』が寄ってきてたんだと思います。」
「それで、術者が前もって配置していた式が発動したんですね?」
心臓が、止まるかと思った。
「あの、どうしてそれを?Lさんは、番組を視ていないのに。」
優しく笑って、姫は鍋を火に掛けた。

777 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 21:50:29 ID:pyBusNHI0
 「あのTV局には一族の人が働いていて、そういう番組や企画が有ると
『お祓い』を依頼されるんです。でも、実際には式を封じた代を配置して、
次の依頼が来た時にその状態を確認して対応する、そう聞きました。」
『お祓い』では、その後に起こる怪異には対応できないという予想は当たっていた訳だが、
まさか本当に一族の術者が関わっていたとは。
「それで、翠ちゃんには見えたんですか。式の、姿が。」
「見えていた、と思います。トンボみたいな形だと言ってましたから。」
「Rさんには?」 「見えませんでした。気配が移動するのは、分かったんですけど。」
姫は小さく溜息をついた。
「やっぱり適性の違い、なんでしょうね。それに翠ちゃんの感覚はかなり鋭いし。」
「ええと、『式』って写るんですか?ビデオとか、写真とかに。」
俺は気配を感じ、翠が姿を見たなら、収録した映像には『何か』が記録されている筈だ。
「私、実験した事が有るんです。昼寝してる管を、『●ルンです』とデジタルカメラで。」
「どうして、2種類?」 珍しく、姫は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

778 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 21:54:37 ID:pyBusNHI0
 「『デジタルカメラが普及してから心霊写真』が減った』という話、聞いた事がありますか?」
「はい。『デジカメだと二重露光みたいなトリックが使いにくいから』だ、と。」
デジカメのついたケイタイやスマホを持ち歩く人が増え、
心霊写真が撮れる可能性はむしろ高くなっている筈なのに心霊写真は減っている。
とすれば、デジカメ普及以前の心霊写真はほとんど偽造という結論を導くのに無理はない。
「本当にデジタルカメラでは心霊写真が撮れないのか、それを確かめたかったんです。
全く同じ場面を2種類のカメラで撮影した管の写真を比べたら、手がかりになると思って。
式も幽霊も妖も、私たちとは『在り方』の違う存在だし、
実際に幽霊や妖を相手にする時に、写真を撮っている余裕は有りませんから。」
確かに、仕事中は一瞬の油断が命取りになりかねない。
悠長に写真の撮り比べ実験なんて。 その点管さんがモデルなら100%安全だし、
管さんはもともと独立した妖。 幽霊の代わりの実験台としても最適だろう。

779 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 21:55:55 ID:pyBusNHI0
 「それで結果は、どうだったんですか?その実験の。」
「10枚ずつ写真を撮りました。『●ルンです』で式の姿が撮れたのは2枚、
デジタルカメラで撮れたのも2枚。 4枚とも少し少しボケてました。
でも、デジタルカメラでも本物の心霊写真は撮れると思います。」
デジカメでも撮れる? じゃあトリックって話は...いや、それよりも。
「昼寝してたってことは、管さんが『見える』時に撮ったんですよね?」
「はい。いつものウッドデッキの端っこで。」
肉眼ではハッキリ見える管さんが、10枚中たった2枚ずつ?
「不思議、ですね。姿は見えるのに写真に写らないことの方が多いなんて。」
「以前は幽霊の数が少ないから本物の心霊写真も少ないんだと思ってましたけど、
そんな単純な話では無いみたいです。それに、もっと不思議なのは。」
姫はたっぷりのレタスとミニトマトを盛りつけたサラダボウルをテーブルに運んだ。

780 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 21:58:08 ID:pyBusNHI0
 「式の姿が映っていない写真でも、『気配』を感じるんです。
まるで、私には見えない何かが写真やデータに記録されているみたい。」
それがどういう理由なのか、俺には想像もつかない。しかし、それはまるで昨夜の。
「姿は見えないけど『気配』を感じるというのは、昨夜の僕と同じですね。あの番組の。」
「はい。管の姿は写っていなくても、その写真やデータには確かに『何か』が記録されていて、
私たちはそれを『気配』として感じるけれど、翠ちゃんなら多分映像として見ることが出来る。
ただ、術者でない人が写真に記録された『気配』を感じるのはごく希な事でしょうから、
そんな写真が心霊写真と言えるかどうかは分かりません。間違いなく『本物』だとしても。」
本物だが、心霊写真とは...ふと、思い出した。昨夜の番組、本物の心霊写真。
ビーチの家族連れの背景に立つ、若い男の後ろ姿。 髪型も、海パンの模様も。

781 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 21:59:49 ID:pyBusNHI0
 「昨夜の番組で紹介された中に、本物の心霊写真があったんです。
管さんを狙って撮っても、その姿が写る確率が2割(10枚の内2枚)位だとしたら、
心霊写真が偶然に撮れるなんて有り得ない気がするんですが。」
「偶然なら、本当に『有り得ない』くらい確率は低いでしょうね。
でも、偶然でないなら『有り得ない』から『たまには起こる』位の確率にはなるかも。」
「え?偶然でないならって、そんな事が。」
「結婚の時に撮った記念写真、憶えてますか?」 「はい、憶えてますけど。」
数枚の記念写真。家族全員で撮った一枚は引き延ばして、今も俺の背後の壁に。
「全部の写真に写っていましたよ。ほら、その写真にも。」
姫の視線を辿り、振り返る。 あ。

782 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 22:03:02 ID:pyBusNHI0
 姫の足下に蹲る、小さな白い影。まるでペットが家族と一緒に。そうだ、確かに5枚とも。
『管さんも家族ですから、全員集合ですね。』 俺自身がそう言って笑ったのを思い出した。

 「きっと、その気になれば写真に写ることが出来るんです。管さんも、妖も、幽霊も。
それがこの写真みたいに、良い事ばかりじゃ無いのが問題なんですけど。」
内容は別にして、心霊写真は此の世ならぬ存在からのメッセージ? それなら。
「Rさん。」 「あ、はい。」
「完成です。配膳は私が。皆に声を掛けて下さい。お喋りしてた割には時間通りですね。」

 ダイニングを出て、リビングに向かう。 Sさんと翠の気配。
藍と丹の気配はかなり薄い。 丹のミルクと藍の離乳食の世話を考えれば神展開。
さすがにSさんだ。 その直後。

783 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 22:12:53 ID:pyBusNHI0
 「ホントだ。TVで見たのと同じだね。すごく綺麗。」 これは、翠の声。
足が動かない。盗み聞きではなく、ただ、2人の会話を邪魔してはいけない。
何故だろう。 その時俺は、そう思った。
「でしょ? この式をTV局に配置したのは、一族で最高の術者の1人だった。」
「もう、その男の人はいないの?」 「そう。」 Sさんはそれが男だなんて一言も。
一瞬の間。 そうか、『上』を通してその依頼を受けていたのは、あの人。
初対面の日、あの人は俺の背中に式を貼り付けた。
通常ではあり得ない、幾つもの適性を併せ持つ、『最高傑作』。
まるで昨日の事のように目に浮かぶ。 端正な顔、長身の黒いスーツ。
「こんなに強い式を封じるには紙の代じゃ駄目。湿気も黴も平気な、例えばこれ。紫水晶。」
そう言えば、当主様の式は翡翠の代に。
「お母さん。その代、どうするの?」

784 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 22:17:39 ID:pyBusNHI0
 「炎の、この仕事を継いだのは私。だからこれを出来るだけ早くTV局に届けて。
でも、お母さんの式は翼を持ってないから...そうね、翠のお友達に頼むのはどう?
もし、炎の式が発動した後に入り込んだ悪いモノがいたら、それを片付けてからこれを。」
「良いのかな? 翠と、翠のお友達で?」

785 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 22:18:32 ID:pyBusNHI0

 『怒り故で無く、憎しみ故で無く。悲しみ故に。』

 Sさんの声。 まるで謡うような、不思議な調子。

 『ただ、はらから(同胞)の、あんねい(安寧)のために。』

786 『召喚』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 22:28:41 ID:pyBusNHI0
 それは式を使役する術者の、『誓詞』だとSさんから聞いた事がある。

 翠の、鈴を振るような声が、Sさんの声を追いかける。

 「そう。これは遊びじゃない。面白半分でなく、真剣な仕事だと、誓える?」
「はい。誓い、ます。」 「良く、分かった。じゃ、お友達を呼んで。翠は、偉いね。」

 直後。 突然の強い風が、庭の木々とお屋敷の窓ガラスを揺らした。


 『召喚』 完

787 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/16(水) 22:35:10 ID:pyBusNHI0
皆様今晩は。 再び藍です。

色々ありましたが、ようやく『召喚』の投稿を終えることが出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。有り難う存じます。

預かったお話がもう1つあるのですが、投稿の許可を頂けるか分かりません。
もし縁があるのなら、次のお話もきっと此処で。

788 名無しさん :2015/09/16(水) 23:31:03 ID:RZ3OlA5.0
知人さん藍さん,ありがとうございました。
翠ちゃんのお友だち,ビッグバードさんのデビューですね!

789 名無しさん :2015/09/17(木) 07:07:35 ID:oyuqQm8cO
続きの投稿、ありがとうございます!
翠ちゃんはもうお仕事を始めたんですね。お魚さんは喜んでいるのでしょうか。
Lさんはアナログとデジカメを10回ずつ試すなんて客観的ですね。検証面白かったです。

790 名無しさん :2015/09/19(土) 01:17:49 ID:AcG3Mc7M0
己の持つ力に対する強い自制と恐れ。その積み重ねの業。
冷酷な計算と強い自制による冷徹な行動、本質的に自ら制限をかけるが故の・・・馬鹿正直さ
それを知事さんが変化球で描く。面白い。

791 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 22:49:48 ID:u7o6d5uw0
テスト中です。

792 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 22:59:37 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、藍です。

以前『聖夜』というお話を投稿致しました。
その時点では非公開となっていた部分の許可を得ましたので、
指示された書き換えを終え、事情が変わらない内に投稿致します。

793 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:06:52 ID:u7o6d5uw0
『続・聖夜』

 チーム榊の忘年会の夜、恵子ちゃんと榊さんとの出逢い。
それから十日程経ったある日、Sさんと俺は榊さんから呼び出しを受けた。
あの少女は既に安全な場所で保護され無事に年を越したと聞いていたのだが、
それでは今日になってSさんと俺が呼び出しを受ける理由が分からない。
まさか、あの少女の身に何かあったのか? いや、それならそうと連絡が有った筈。
早々に『今夜はお酒を飲まない。』と宣言したSさんの運転で待ち合わせ場所に向かった。
それは郊外の寿司屋、『藤◇』。大事な会合で決まって使う、俺たちの隠れ家。

794 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:08:24 ID:u7o6d5uw0
 「もうあの娘は安全な場所で保護されていると聞いたんですが。」
「まあ、あの娘が母親の死や継父との生活を思い出す機会は少ないだろうから、
その意味では精神衛生上は確かに安全だよ。俺の家は。」
「へ? じゃあ、あの娘は今、榊さんの家に?」
「忘年会の後、二人で分署に戻る訳にもいかないだろ。だから、さ。」
確かに。それはそうだ。一人きりでホテルに宿泊させるのも心配だし。
「いきなり年寄りを驚かすとマズいから、勿論家に電話してから帰ったよ。そしたら。」
榊さんは大きな溜息をついた後、杯の日本酒を一息に飲み干した。
すかさずSさんが空の杯に日本酒を注ぐ。完璧なタイミング。少しだけ、嫉妬。
「手ぐすね引いてたらしいお袋は甲斐甲斐しく風呂やら着替えの世話を焼くし。
あの強面の親父まで、見てられないくらいに相好を崩して。全く、俺の立場がないっての。」
きっとそれは、年末で帰省した孫娘の世話をする感覚だったのだろうか。

795 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:10:08 ID:u7o6d5uw0
 「姉貴が使ってた部屋だ。着替えとかも。新学期の最初からは高校にも通ってる。」
ああ、それなら新しい落ち着き先が見つかるまで何の心配も。
「ただあの娘の引取先を探すのに二週間くらいかかって。それがマズかった。」
...たった二週間の内に何が?

 「姉貴の所はみんな男の子ばかりだったから、無理もないと言えばそうなんだが。
お袋と親父があの娘を文字通りの猫っ可愛がりなんだよ。
まずは毎日5時半に起床、5時半だぜ。それで親父と一緒に犬の散歩。
散歩から戻ったらお袋と一緒に朝食の準備。3人で朝食を食べたら高校へ。
高校から帰ってきたら、またお袋と一緒に準備して3人で晩飯。それが日課らしい。」
「あの、3人って?」
「だから親父とお袋、それとあの娘だよ。」
そうか。まあ、どう考えても榊さんの帰宅時間は当てにならないからね。

796 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:11:54 ID:u7o6d5uw0
 「でも、引き取ってくれる親戚がいるならそれが一番だろ?
『新年早々』って、親父とお袋には散々嫌な顔されたけどやっと見つけたよ。母方の祖父母。
乗り気と言うほどでもないが、引き取って面倒を見るのは構わないと言ってる。
それでその日は早く帰って、話を切り出したんだ。そしたら。」
榊さんは両掌で顔をゴシゴシと擦った。
「あの娘に、派手に泣かれちゃってさ。結果、お袋と親父も仏頂面。
『いきなりそんな事、無理強いするものじゃない。』って。まるで俺一人が悪者だ。」
ああ。普段から家庭内での空気が読めないと、それで色々有るのは仕方ないですよね。
「でも、あの娘の将来が一番大事なんだから。構わず言った訳。
『恵子ちゃんの将来が一番なんだから何時までもこのままじゃいけない。
恵子ちゃんはこれからどうするつもりなんだい?』って。そしたら。」
榊さんは杯の日本酒をくいっとあおった。

797 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:13:39 ID:u7o6d5uw0
 『私、健太郎さんのお嫁さんになりたいです。
それが駄目なら、このお家のお手伝いさんにして下さい。』

 俺と榊さんは盛大に日本酒を吹いた。この声はあの娘の...そうか、『声色』。Sさんだ。
「何だよ〜いきなり。Sちゃん、俺の心臓止める気かい?」
「いいえ、もうそろそろ本題に。依頼の内容を聞かせて戴こうかと思っただけです。」
「そうか。それはそう、だな。折角来て貰ったんだから。」
ウーロン茶のグラスを持った、Sさんの笑顔。しかし榊さんの表情、冷たい翳りは?

 「あの娘の、気持ちを変えて欲しい。俺に関する記憶を消せるならそれも。」
!? どうして...あの夜、榊さんもあんなに楽しそうに。
「とても辛い状況から助け出されたから、あの娘は思い違いをしてるんだ。
これから色々な人に出会うんだし、その中にはあの娘を待ってる運命の人もいる筈だ。
俺の事を好きだなんて思い違いは、あの娘の未来を狭めてしまう。」

798 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:15:52 ID:u7o6d5uw0
 違和感。

 本庁からも一目置かれる『チーム榊』のボス。その話術は筋金入りの犯罪者の心さえ。
それなら、何の問題も無くあの娘を説得出来る筈。なのに何故俺とSさんに?
掘り炬燵の中で、右の爪先が軽く踏まれた。Sさんだ。つまり、これは俺の役目。

 「榊さん。術者に仕事を依頼するのに、嘘はいけませんよ。基本中の基本でしょう?」
「嘘?」 一瞬、顔から肩に膨大な熱を感じた。 正面から押し寄せる激情。 熱い。
自分の歳の約半分しか生きていない若造相手。しかし、榊さんは見事に感情を抑え込んだ。
それとなく額の汗を拭い、心に鍵を掛ける。 そう、出来るだけ平静を装うために。
「榊さんなら説得は簡単でしょう?さっきの通り説明すればあの娘も理解する筈。
なのに何故わざわざ僕達に? 一体榊さんは何を、困っているんですか?」
「参ったな...分かった、正直に言おう。俺もあの娘が好きだから、困ってるんだよ。
いつも通りに話が出来れば説得は簡単だろうが、その間、自分を抑えてる自信が無い。」
「え〜っと。相思相愛なら、何の問題も無いんじゃ?」
あの娘は18歳。母親は既に亡く、継父とは法律上の親子関係が無いと聞いていた。
それならあの娘の意思だけで結婚を決めることだって出来る。
「歳の差だよ。 45-18=27 幾ら本人の希望でも、それは無理。だろ?」

799 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:17:47 ID:u7o6d5uw0
 「あの、榊さん。」 「何だい?」
「亡くなった奥さんと結婚した時は周りの反対を押し切ったって聞きました。なのに何故今回は?」
「反対、か。確かにあの人の御両親は俺たちの結婚に反対してた。
でもそれはあの人が中々結婚を承知してくれなかったからだ。
『1年も経たずにあなたをバツイチにするって分かってるのに、結婚なんて。』 そう、言ってな。
でも、俺はどうしてもあの人と結婚したかった。それに。」
榊さんは言葉を切り、窓の外を見詰めた。目尻にうっすらと、涙?
「もしあの人が妊娠したら、俺たちの子供が出来たら、一族の護りがあの人にも、そう思った。
結局それは、間に合わなかったけど。」

 「榊さん、あなたは『約束』を果たすべきです。未だ果たしていない『約束』を。」
Sさんの優しい、それでいて厳しい表情。
「Sちゃん、『約束』って。まさか。」 少し、榊さんの声が震えている。
「結婚を承知するのと引き替えに、あの人と交わした約束です。」
「それは。」
Sさんは眼を閉じ、ゆっくりと、深く息を吸った。

800 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:20:19 ID:u7o6d5uw0
 『もしもあなたが誰かを好きになって、
それが一族を護る力の仕業だと分かったら、その想いは冷めてしまうの?
もしもあなたの前に現れた女性が私の生まれ変わりだと分かったら、
今と同じように、どんな障害も乗り越えてその人を愛するの?』
違う、これはSさんの声じゃ無い。それに、あの娘の声でも無い。だとしたら。
「分からない。本当に分からないんだ。君を失ってから、俺は何も。」
『たとえ私が死んでも、きっとあなたは幸せになって。
素敵な人をお嫁さんにして子供を作って、お父様とお母様を安心させて。
あんなに約束したのに。』
「確かに約束したよ。でも君が俺を残して逝ってしまって、俺はどうしたら良いのか。」
『私も精一杯頑張る。約束、あれから一時だって、忘れてはいない。それは今も』
「俺は...」
榊さんはそれきり黙った。俯いたまま、テーブルの上で、きつく握りしめた両の拳。

801 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:21:43 ID:u7o6d5uw0
 Sさんが俺の右肩に触れた。小さな目配せ。
そうか。素早く立ち上がり、壁のハンガーからSさんのコートを取る。
「ご馳走様でした。依頼はキャンセル、車を呼んでおきます。落ち着いたらどうぞ。」
Sさんは俺が着せかけたコートに袖を通したあと、座敷の襖をそっと閉じた。
廊下を進むSさんの軽やかな足取り。後を追いながら声を掛ける。
「『武士の情』って事ですか?あとは榊さん自身が。」
「武士?良い歳して、まるで駄々っ子じゃないの。あれじゃ恵子ちゃんが可哀相。」
ふと、立ち止まったSさんが振り向いた。
「でも、あなたは違う。榊さんの半分しか生きてないけど、駄々っ子じゃ無い
何時だって真っ直ぐで、一生懸命で。私、あなたの事、大好き。」
熱く、長いキス。

802 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:24:32 ID:u7o6d5uw0
 運転席のドアを閉じ、助手席に乗り込むとSさんがケイタイを取り出していた。
「もしもし、そう、S。今『藤◇』を出る所。車出して貰うように話して頂戴。
ちょっとキツく言い過ぎたかもしれないから、しっかり慰めて上げてね。
依頼の件は多分成功。全部上手く行ったら報酬は約束通り、忘れないで。」
白く細い指がボタンを押し、ケイタイを仕舞う。続いてキーを捻った、低いエンジン音。
「今の電話の相手、もしかして。」 「そう、恵子ちゃんよ。」
「今夜の、本当の依頼主はあの娘だったんですね?」
「あなたの依頼主は榊さん、私の依頼主は恵子ちゃん。
あなたも私もそれぞれの仕事をしっかりこなした。そういう事。」
「でもこれは二重」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「細かい事は言いっこなし。最大多数の最大幸福、それはいつだって絶対の真理。」

803 『続・聖夜』 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:42:34 ID:u7o6d5uw0
 「あの、もう、1つだけ。」 「なあに?」
「仕事の報酬って。あの娘はまだ高校生で...もしかして榊さんの御両親が?」
「いいえ、榊さんの御両親は無関係。」 「じゃあ、一体どんな報酬を?」
「折々の葉書。」 「葉書?」
「そう。まずは式と披露宴の招待状。それから近況報告を兼ねた年賀状とか暑中見舞い。
依頼への私たちの対応。それが本当に正しかったのか、確かめなきゃいけないでしょ?」

 その後、チーム榊の会合で、
水野という青年のモノマネに新たなネタが加わったと聞いた。
それは多分、犯罪かと見まごうほど若い夫人と、可愛い子供達にデレデレの榊さん。
なら、俺と女装の結びつきはとうに『過去』。 きっとそうだ。
暗い山道に響く、力強いエンジン音。 本当に気持ちが良い
待てよ、でも今夜は聖夜じゃ。 いや、俺はキリスト教徒じゃない。何の問題も。
とても綺麗な、Sさんの横顔。 自分の頬に笑みが浮かぶのを感じた。
そう、何の問題も無い。 明日からまた、一生懸命に生きるだけだ。

『続・聖夜』 完

804 ◆iF1EyBLnoU :2015/09/26(土) 23:47:55 ID:u7o6d5uw0
皆様今晩は、再び藍です。

お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

805 名無しさん :2015/09/27(日) 08:03:13 ID:ZxypnuEYO
榊さんと恵子ちゃん、幸せになれますように。
RさんとSさんはラブラブ過ぎて、ごちそうさまですm(_ _)m

藍さん投稿ありがとうございました!

806 名無しさん :2015/10/01(木) 00:39:18 ID:TAfSU6so0
聖夜の奇蹟,神の木に,恵みの子が来ませり。
今はやりの年の差婚もめでたきかな。
とってもいいお話を,ありがとうございました。

807 ◆iF1EyBLnoU :2015/10/08(木) 01:42:43 ID:RGITgbM60
皆様今晩は、藍です。

>>757
>>758
>>772
>>773
>>774
>>788
>>789
>>790
>>805
>>806

いつも通り、本当に温かく、とても深いコメントに感謝申し上げます。
未だ個別の返信は禁止されておりますが、禁を破りたい衝動に駆られる程です。
身内の事情、お仕事の都合、その他にも色々ありまして時期は明言出来ませんが、
もし縁が有りましたら次作も是非此処で。本当に有り難う御座いました。

808 名無しさん :2015/10/09(金) 00:03:24 ID:1gLp.ps.0
一応、枯葉氏が作った板だからOKじゃね?なぜか粘着氏がここまで付いてきたのは誤算だったが

809 ◆iF1EyBLnoU :2015/10/16(金) 22:56:23 ID:NC7kAbkk0
皆様今晩は、藍です。

明日早朝からお仕事で暫く戻れません。
留守は頼んでありますが、コメント等への反応で失礼が有るかと存じます。
申し訳有りませんが、いつか新作を投稿出来る日を楽しみに。では、ご機嫌よう。

>>808
暖かいお心遣い、感謝致します。

810 名無しさん :2015/10/18(日) 06:51:43 ID:OdcDjmMIO
藍さんお知らせありがとうございます。お仕事頑張って下さい。
新作も楽しみにしています(^o^)

811 名無しさん :2015/10/22(木) 20:47:23 ID:TyU4/jCIO
一番あたたかいのは藍さん

812 名無しさん :2015/11/10(火) 07:38:54 ID:JLcnug3M0
スレストッパーにやられなかった、よかった

813 名無しさん :2015/11/20(金) 10:15:08 ID:4Ti0bvnk0
新作まだかなー楽しみだなー

814 名無しさん :2015/11/21(土) 00:15:16 ID:EF3bi51U0
こんばんは、投稿追ってくと最近藍さんしきりに体調が良い時にって言いながら連発で作品アップしてたけど仕事も大変みたいだし、元気にしてるんだろうか。ただの通りすがりのROMだけどなんか気にはなっちまって、勝手な事書いてすいません

815 名無しさん :2015/11/22(日) 00:04:23 ID:uX0mSdfo0
休暇と思ってよく休まれるべし。
もしかしたら1.5か月位忙しいかもね。

816 ◆iF1EyBLnoU :2015/11/22(日) 22:03:03 ID:4ZG7sau20
皆様今晩は、藍です。

一昨日の朝戻りました。
昼寝のつもりが丸一日以上経っていて、心配されたり怒られたり、色々と。
今はもう少し休んで、また仕事に出ます。新作の時期は明言出来ませんが、
お待ち下さる皆様のコメントは何よりの励みになります。
有り難う御座いました。

817 名無しさん :2015/11/22(日) 22:20:02 ID:q/7ujS92O
藍さんお疲れですね。爆睡できて良かったです。
年末年始は特に忙しいと思います。お体にお気をつけて下さい。

818 名無しさん :2015/11/22(日) 23:27:40 ID:HyehISCI0
藍さん,ご健勝をお祈り致します。
次の物語を楽しみに待っています。

819 名無しさん :2015/11/24(火) 01:36:48 ID:Y/JSHITA0
知人さんのサポート、頑張って

820 名無しさん :2015/11/24(火) 11:49:45 ID:srJPOBeY0
多分 このスレ見ている方々は 次作を急いで欲しいということではないと思いますので大丈夫かと思います。
良い物語をじっくり読むことができると信じてのんびりお待ちしています(^'^)

821 ◆iF1EyBLnoU :2015/11/24(火) 22:09:27 ID:kXF66t4A0
皆様今晩は、藍です。

暖かいコメント感謝致します。
充分お休みを頂きましたので、明日早朝から仕事に出ます。
また暫く留守、コメント返信等の失礼をお許し下さい。

『次作』について情報を得ましたら、留守番の者を通してお知らせ致します。
それでは皆様ご機嫌よう。 きっと何時か、また此処で。

822 名無しさん :2015/11/27(金) 09:06:19 ID:brOEnfkYO
お知らせありがとうございます。
楽しみにしてます(^o^)/お仕事お気をつけて下さい。

823 名無しさん :2015/12/11(金) 01:45:36 ID:dU3dWWfMO
д`)

824 名無しさん :2015/12/16(水) 20:12:59 ID:3j4Nbj2sO
皆さん、オワコン社長さんを夜露死苦!!パズドラ動画いっぱいあるよ!男子も女子もバンバン見ってねー☆☆
http://m.youtube.com/channel/UCbc7XPBjep5i25QRnO0J5-A/videos?itct=CAAQhGciEwi3pKr6tN3JAhVMFlgKHYP-DQk%3D&amp;hl=ja&amp;gl=JP&amp;client=mv-google

http://m.youtube.com/channel/UCkM7vL3osDR15f_jtlq94UQ/videos?itct=CAAQhGciEwi85dGItd3JAhWDe1gKHXlZCpc%3D&amp;hl=ja&amp;gl=JP&amp;client=mv-google

825 ◆iF1EyBLnoU :2015/12/20(日) 20:47:10 ID:G5LmntdE0
皆様今晩は、お久しぶりです。藍です。

本日戻りました。良いお土産と悪いお土産があります。
良いお土産は2つ、新しいお話の作業が始まったこと。
悪いお土産はその2つとも完成・投稿の目処が未だ不明なこと。

早く仕上がる方を年内に投稿出来るよう、知人と相談中です。
頼りないお話ですが、楽しみにして下さる皆様に取り敢えずお知らせまで。
どうかもう暫く、気長にお待ち下さい。


追伸

近々投稿出来るとしたら、『聖夜』の中で記述のあった
『危険ではないが滅茶苦茶ややこしくて、どちらかというと救いの無い仕事』
に関わるお話です。榊さんと恵子ちゃんを引き合わせる直前のお話ですね。
Rさん単独でのお仕事。私自身、投稿出来る日がとても楽しみです。

826 名無しさん :2015/12/21(月) 01:03:00 ID:mfROaJkQ0
原案はR氏の日記のような物があるのだろうか?
でないとしたら知人さんは結構行動を共にすることがあるのかもしれないな

827 名無しさん :2015/12/21(月) 06:44:41 ID:kQBpo262O
知人さん=Rさん
という設定でいいのでは(笑)
違っていても、違和感ないし…

828 名無しさん :2015/12/22(火) 00:53:03 ID:bZ2.eegA0
最初の通り取材と言う形式なら、密度が濃すぎてストーカー(笑)の様でもあり、とても仕事にならないと推論

829 名無しさん :2015/12/23(水) 13:37:28 ID:PKPa1xqYO
楽しみ楽しみ

830 ◆06C70Y0X62 :2015/12/28(月) 22:58:12 ID:0J.09yVw0
申し訳ありません。確認させてください。

831 ◆iF1EyBLnoU :2015/12/28(月) 23:50:19 ID:0J.09yVw0
再チャレンジ、これでどうか。

832 ◆iF1EyBLnoU :2015/12/29(火) 00:02:11 ID:kcZCIbZc0
皆様今晩は、藍です。

25日の投稿を目指して作業中にPCが壊れました。
PC本体だけでなく、復元用の記録部品も同時に壊れていたようで、
「こんなの、まるで呪いだよ。どうにもならない。」と言われてしまいました。
本日新しいPCを買ってきてもらったので取り敢えず復活です。

ただ、作業中の文書も消失してしまったので年内の投稿は微妙。
お年玉企画として投稿できれば御の字かもしれません。
(本当はクリスマスと絡めて投稿したかったのですが)

次作・掌編は、『異教徒』です。 どうかもう暫くお待ち下さい。

833 名無しさん :2015/12/29(火) 04:12:17 ID:1PZRBfCw0
異教徒か・・・
ホアカリニギハヤヒ(徐福=物部)、ヒボコ、八咫烏、阿部
対になるのはオキナガタラシ、藤原であろうか?向、神門はどちらにせよ異教徒にはなり得ない。

834 名無しさん :2015/12/29(火) 16:18:45 ID:GhvR.3KkO
新しいお話、楽しみにしています。ありがとうございます(^o^)/

835 名無しさん :2016/01/04(月) 02:27:00 ID:5R06zDbw0
復元用の記録部品って何?
USBなどの外部メディアじゃなくて?
大切なデータのバックアップは外部HDD、BDディスク、USBなどに速攻でコピーしてるわ
それも定期的に更新しないと、今のメディアはすぐ消えるからなあ
数年前にDVDにバックアップした何割かは消えてたわ

836 名無しさん :2016/01/04(月) 21:43:34 ID:TQ7rKrJM0
他山の石と思い、見ている人はバックアップとりましょう。こういうのは必ず続く。

837 留守番 :2016/01/04(月) 23:09:49 ID:6zhOcCEE0
 内蔵の復元専用HDDと外部USB接続のHDDも同時に壊れて
復元が出来ませんでした(デスクトップの背景は未だ不満があるようです)。
昨夜急に出かけましたが、「すぐに帰る。」と言っていたので、
投稿の準備はかなり進んでいると期待しています。

838 名無しさん :2016/01/05(火) 10:40:21 ID:lxPHam8IO
お知らせありがとうございます(^o^)/電化製品系のトラブルはなかなか厄介で大変ですね。
納得のいく背景ができますように

839 名無しさん :2016/01/05(火) 17:39:31 ID:hYtx5H360
HDDはいきなり壊れるからな
テキスト何だからUSBにもこまめにバックアップした方がいい
ミラーリングするフリーソフト使うとか。

840 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 00:30:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。

次作の掌編の公開に障害となりそうな事件が起きたため、
公開すべきかどうか再度話し合いがありました。
特に書き直しの指示も無く公開が決まりましたが、
あくまで架空の物語としてお楽しみ下さるよう、予めお願いしておきます。
これから最終チェック。知人の確認を経て、明日の夜投稿予定。
新しいPCはとても調子が良いので作業が進みそうで楽しみです。

では明晩。ごきげんよう。

841 名無しさん :2016/01/06(水) 09:56:30 ID:dkiwtePwO
わーい(^O^)/~~楽しみです

842 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:30:44 ID:hNLskE2c0
テスト中です。

843 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:38:39 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は、藍です。投稿の準備が整いました。

決して特定の宗教を誹謗中傷する意図は有りません。
海外の情勢等に関係なく、きっと皆様はこの作品を
一つの物語として楽しんで貰えると信じています。

では以下『異教徒』、ゆる〜い気持ちで、お楽しみ下さい。

844 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:39:58 ID:hNLskE2c0
 『異教徒』

 「申し訳有りません。折角来て頂いたのに、今日も義父は何も...」

 未だ二十歳を過ぎたばかりと見えるその人は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「『上』から指示された仕事ですからそれは構いません、ただ。」
そう、完全に拒絶されたのでは、俺に出来ることは無い。恐らくSさんにも、姫にも。
「お義父様の体に寄生した妖の様子から見て、ほとんど時間が無いんです。
年内にあと一度、多分それが最後のチャンス。その日付は、お義父様に。
それでも駄目なら、『上』に話をして手を引く以外に有りません。」
「...はい。」

845 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:40:58 ID:hNLskE2c0
 悲しそうに目を伏せたその人を見ると、何だか俺が悪い事をしているような気になる。
俺と同じ家系、『分家』の出。修行中、ある男性に見初められ相思相愛となり、
数々の困難を乗り越えて、その男性の嫁としてこの家に迎えられた女性。
その縁があったからこそ、この依頼を『上』が受理したのだし、俺を名指しで。
だが、これは初めから気乗りしない仕事だった。
依頼者の義父とは未だ一言も話すことが出来ていない。
依頼の対象であるその老人は、俺を異教徒として拒絶しているからだ。
自分の信仰に反し、怪しげな呪術に頼って生きるつもりはない。それが沈黙の意味。
これでは俺の言霊も力を発揮できない。
異教徒とも話が出来ると期待して、『上』は言霊使いを、つまり俺を指名した訳だが、
これほど頑なに拒絶されるとは予想もしていなかっただろう。

846 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:42:09 ID:hNLskE2c0
 「ホントに、手を引く以外になさそうですか?」
藍を抱いた姫の、心配そうな笑顔。 翠はSさんの寝室。
どういう組み合わせで寝るのか、毎晩一悶着起こる。今夜はこの状態に落ち着いた。
「昨日、一日がかりで車を走らせたのも、この依頼を完遂するためです。
準備は完璧だと思っていますし、最後まで、出来るだけの事はするつもりですが、
正直今回は自信がありません。
依頼の『対象』は、異教徒である僕に対して、とても頑なに心を閉ざしています。
あれでは『言霊』の響きも力を失うでしょう。」
その老人は一代で財をなした大変な資産家。
成功した後は慈善事業に力を尽くしてきたと聞いた。数年前、引退してからは特に熱心に。

847 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:43:50 ID:hNLskE2c0
 「その人の心の闇に寄生している妖は大した力を持っていないけれど、
心の闇が『不幸の輪廻』に繋がっているから難しいって事ですよね?」
「はい。その妖を祓えば『通い路』が開いて、もっと強大な悪霊が現れます。」
人の心の闇が濃度を増すと、そこに妖が寄生することがある。
当然、心の闇はやがて『不幸の輪廻』と繋がり、妖は次第に力を増す。
しかし通路が拡がりすぎれば、宿主の魂とともに
寄生していた妖も『不幸の輪廻』に呑み込まれる可能性がある。
だから寄生した妖は、通路を閉じないように拡げすぎないように宿主の心を操る。
『不幸の輪廻』に呑み込まれることなく、しかしそこから最大の力を得られるように。
そのために宿主を護ったり、その願いを叶えたりすることもあると聞いた。
寄生した妖と宿主の、奇妙な調和。おそらくそれが、この件の発端。
「でも、あの短剣があれば特に問題は。」

848 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:44:58 ID:hNLskE2c0
 確かに、あの短剣を使えば開いた通路を閉じて悪霊を押し戻すことも出来るだろう。だが。
「そうなんですけど、それでは、その人の心の有り様を変えることは出来ません。
もし、異教の術で助かったと知ったら、その人の心は支えを失ってしまうかも。
高齢だし、体も弱ってる。長年の信心、その根拠を失ったら、多分これからの人生は。」
「『出来るだけの事』ですか...やはりこれは、Rさんのお仕事なんですね。」
姫は優しい微笑を浮かべた。

 事態が一気に動いたのは3日後、『聖夜』。

849 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:46:23 ID:hNLskE2c0
 「瞳さん、外して下さい。」 「御父様、でも。」
「この人と二人だけで話したい。だから、お願いします。」
「はい。」 女性が部屋を出ると、その老人は一つ深呼吸をした。
「Rさん、でしたな。聡い人のようだから、私の言いたいことはお判りでしょう。
もう、これで最後にして下さい。義娘やあなたの気持ちはわかりますが、
異教の、それも妖しげな呪術に頼ってまで、生き延びるつもりはありませんから。」
やっと、口を開いてくれた。結果はどうあれ、これで言霊を使える。できるだけ単純に、簡潔に。
『御自身の心の闇に呑まれるのが、貴方の望みなのですか?』
数秒、言霊が届くと信じて返答を待つ。
「私自身の、心の闇?」 その老人の眼が光りを増した。
「自らの信仰に疑問を持つ、それを『心の闇』以外の言葉で言い表す事は出来ません。」
「...」
「ずっとお話をさせて頂けなかったので、その間に色々と調べさせてもらいました。」
「何をどう調べても、私自身がそれを話していないのなら、判るはずがない。一体何故?」

850 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:47:54 ID:hNLskE2c0
 「いいえ。術を使わずとも、予想するのは難しくありませんでした。
プロファイラーやセラピストでも、きっと同じ結論に達したでしょう。
貴方は世界の恵まれぬ子供たちを救う事業に力を尽くしてきた。
それならば遅かれ早かれ、『そういう子供たちを生み出すものが何なのか』そう、考えた筈。
『だれかがあなたの右の頬を打つなら』
異教徒の私でも、その例え話を知っています。しかし、その宗教を国是とする国々が、
例外なく自衛のための先制攻撃を認めているのは何故でしょう?
それらの国々が生産した兵器が、多くの子供たちを不幸にしているのは何故でしょう?」
「私は今、人を惑わす悪魔と話しているのか。」
「本当にそう思われるなら、どうぞ、一言『立ち去れ』と。
ただ私は、この国で生まれ育った貴方と私の感覚の根は同じで、
だからこそ貴方と私の心に同じ『違和感』が生じたのだと信じます。
その『違和感』が貴方の心に影を作り、その影は次第に濃度を増して闇となった。
そして、その闇に妖、つまり妖怪が入り込んだ。それが貴方の病の原因です。」

851 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:50:56 ID:hNLskE2c0
 「馬鹿げてる。妖怪なんて。」
「どんな医者にも、その病の原因は分からなかった。
既にご承知の通り、貴方の義娘さんは私と同じ一族の出身で、術の心得も有ります。
だから貴方の体に寄生している妖怪に気付いて、ある組織に依頼したんです。
貴方の寛容さは義娘さんを拒まず、むしろ大切にしておられる。なら、私の言うことも。」

 「どうやら私は、本物の悪魔と話しているらしい。だが、私は。」
ここが、勝負所。勿体をつけて十分に間を取り、挑戦的な笑顔を作る。
「そう、これは貴方にとって、またとないチャンスではありませんか?」
「チャンス?」 俺はポケットの中から琥珀の指輪を取り出した。
Sさんに作ってもらった代。強力な式を封じてある。
この依頼の対象は、異教徒である俺に心を許さない老人。
当然その手に触れることは難しいだろうと予測して、非接触系の術を選んだ。
老人に向けて、ゆっくりと掌を開く。
「この指輪を見つめて『現世の者は現世に、異界の者は異界に。』と。
それだけです。取り敢えずそれで貴方の体を蝕む病の原因を取り除けます。」
「そんなこと。」 「私が異教の悪魔で、貴方の信仰が確かなら何の問題も有りませんよね?」
「一体、あなたは何を?」

852 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:52:15 ID:hNLskE2c0
 「こんなもので貴方の体が癒える筈がない。それで、証明できます。
私は悪魔で、貴方の信仰こそ正義。堂々と私をこの家から追い払えるし、もう二度と。
そう『神の子』が聖地から偽の預言者たちや呪い師たちを追い払ったように。そうでしょう?」
この台詞を編むために、相当な時間をかけて『聖典』を調べた。
とんでもなく面倒で、その割に実りは少なく、救いの無い時間。
「どう、しますか?」 「やって、みましょう。私の、信仰を証明するために」
それは俺の努力がもたらした、極く僅かな救いだったかもしれない。
作りものでは無い微笑が、自分の顔に浮かぶのを感じる。
「では、この指輪を見つめて。私の言葉の後に。」

853 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:54:14 ID:hNLskE2c0
 「現世の者は現世に、異界の者は異界に。」

 その老人の言葉が終わると同時に、式の封印が解けたのを感じた。
「まさか、痛みが消えた。どうして?」
その老人の体に寄生している妖を祓う。これは大した仕事ではない。問題はこの後だ。
あの短剣は持参したアタッシュケースの中。前もって取り出しておくことも出来たが、
助力をお願いした以上、聞き届けて頂けると信じて証を立てなければ。
部屋の空気が低く、大きく震えた。不吉な、禍々しい気配。
一番大きな窓を覆ったレースのカーテンが大きく揺れ、その前に湧き出る黒い霧。
来る。『不幸の輪廻』へ繋がった通路を通って。予想通り、俺の術では対処出来ない悪霊。

 微かに、鈴を振るような音が響いた。直後、俺の目前に浮かぶ光。
ピンポン球程の大きさ。強い光を放った後、ゆっくりと舞い降りて、床の上で光り続ける。
次々と現れ、白銀の光を...そうか、これは『原型』だ。Sさんの使う、あの奥義の。
その証拠に、その光が数を増すにつれ、黒い霧は濃度を増すどころか、
むしろ力を失いつつあるように見える。
俺の願いは、聞き届けられた。良かった。思わず足から力が抜け、床に両膝をつく。

854 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:56:21 ID:hNLskE2c0
 『何故、帯剣していない?それを、私が咎めるとでも思ったか?』

 耳元で、いや、耳の奥深くで涼しい声が響いた。
咎められるなどとは一瞬も、しかし、お願いをしたからには証を。

 『証は要らない。それよりも万一に備え、その身の安全に心を配れ。
今回は特別。願いを叶える機会は、むしろ少ない。
もし御前の身に何かあれば、いくら悔やんでも間に合わないのだから。』

855 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 22:57:33 ID:hNLskE2c0
 俺の前、2m程先。姿を現しつつある悪霊と俺の丁度真ん中に女性が立っていた。
水色のパーカー、紺のジーンズ。見覚えのある後ろ姿。
そう、あの御方だ。 降りしきる雪のような、無数の白い光。 その中に佇む美しい御姿。
両膝をついたまま、深く頭を下げた。

 「愚かな...折角の信心が心の闇を増幅し、
終にはこんなモノまで呼び出す『通い路』を作ってしまうとは。」

 突然現れた御姿。その御方が人間でないことは直感で理解できた筈。

856 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:00:12 ID:hNLskE2c0
 「これが、あなたの言う異教の悪魔、なのか。」
その御方は振り返り、その老人に視線を移した。微かな笑み。
「私を、悪魔と...発した言葉は、どれ程後悔しても取り消すことは出来ないのに。」
その御方はパーカーのフードを脱ぎ、軽く束ねた長い髪を背中に垂らした。
その御方の全身を仄白い光がゆらゆらと包む。 そして何よりその両肩から天井へ。
「燃える、身体...光り輝く、6枚の翼。まさか、Seraph」
「お前達がそう呼ぶ者は私と同種の存在。」 小さな笑い声。
「つまり私が悪魔なら、お前は悪魔崇拝者と言う訳だ。」
古来から、仏像の光背や宗教画の光り輝く翼として表現されてきた『後光』。
両肩から3方向に枝分かれしたそれは、確かに6枚の翼のようにも見えた。

857 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:02:28 ID:hNLskE2c0
 『主は聖なる傷跡を示して言われた。
「おまえは見たから信じるのか。見ないのに信じる者たち、彼らは幸いである。」
その職にあるなら、当然諳んじているのだろう?』
「ヨハネによる福音書、第20章29節。何故、その御言葉を...悪魔では、ないのか?」
『不思議だが、異教徒は力を持つ者ほど、信じる根拠を、理由を欲しがると聞く。
この国に生きる人間は、己が生きていることだけで、私たちの力を信じてきたのに。』
そうだ、俺がSさんや姫を信じるのに根拠など要らない。もちろん当主様も、桃花の方様も。
会えたから信じたのではない。きっと、信じていたから会えた。
Sさんと姫に出会う前、俺は自分が生きている意味を理解出来なかった。
世界はまるでTV画面の向こうに広がっているように空虚で、
過ぎていく時と次々に起こる出来事は、いつもどこか他人事だった
でも俺はじっとTVの画面を見つめ続けた。そうしていれば、何時か、
こんな俺にも生きている理由があると、その理由が分かると信じていたから。

858 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:04:35 ID:hNLskE2c0
 「いや、悪魔は天使にすら擬態する。悪魔の王は堕天した天使の長だった。
それにこの国の神話においても、神と人の契約はありふれたものではないか。
信じるのに理由が必要なのはこの国の人間も同じ。」
『その通りだ。自分で言っていて気付かないのか?
お前にはお前の神との契約、異教徒には異教の神との契約があるのなら、
「唯一絶対の神」とは何だ?』
「それは...」
『唯一絶対であるが故に、異教徒の、当然同胞の偶像崇拝を認めない。
しかしお前の傍らにあるその書物は、お前の首にかかるその印は、お前の崇拝の対象。
しかし、それは神の姿そのものではない。つまり、偶像。』
「違う!偶像とは、例えば木像に金箔を貼った」

 ごう、と風の鳴る音を聞いた。続いて部屋のあちこちで倒れたり落ちたりするものの音を。
寒い。昔風の暖炉に似せたストーブはそのままなのに、部屋の中に満たす冷ややかな空気。
「お義父様!」 ドアの向こう、気配が駆け寄るより早く、ドアの鍵が掛かった。

859 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:06:40 ID:hNLskE2c0
 『古来、この国に生きる人々は世界のありとあらゆるものの中に高次の力を感知して
畏怖の対象とした。希な豊作や豊漁だけで無く、多くの犠牲を伴う天災にも。
時には人知れず咲く花や路傍の小さな石ころの中にさえ。
もちろん人々が関知した高次の力を擬人化した像も数知れず造られた。
しかし、森羅万象の『全て』が畏怖と崇拝の対象になるのなら、偶像など存在し得ない。』
その御方は、一瞬俺に視線を投げた。
『高次の力と人々の間を取り持つ者たちも存在するが、
それらの役割はあくまで道標。力を持たない者たちを光に導くだけ。
もし、自分の力を崇拝の対象にしようと望めば、それらも早晩自壊する。』

 突然、部屋に舞い続ける白銀の光が数と輝きを増した。その御方の、微笑。
『無駄だ。既に退路は断った。この部屋からは出られない。』
そう言えば、今にも圧倒的な質量を伴って物質化するかに思われた悪霊は。
『この傷跡を刻んだ鏃、それを作ったモノたちを唆した首謀者。』
その御方の姿はゆらりと薄れ、人の形を失いつつあった。
『千載一遇、術者の適性が現出した奇跡。長居し過ぎたようだし、そろそろ』

860 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:09:41 ID:hNLskE2c0
 「私は、間違っていたのだろうか。」 その老人は体を起こし、ベッドに腰掛けていた。
瞳という名の女性は、老人の傍らに跪いてその両手を握っている。
深呼吸、最後まで、俺に出来る限りのことをする。それが受けた依頼の『契約』。
「私は、間違った『信仰』があるとは思いません。
とんでもない教義を掲げる邪教でもなければ、
どんな宗教にも、人々の魂を導く役割がある筈です。」
「しかし、先ほどの、あの御方は私を『愚か』だと。」
「愚直という言葉があるように、愚かさそれ自体は間違いではありません。
『見ないのに信じる幸いな者たち』も、見方によっては愚かでしょう。しかし間違いではない。
信仰が間違いを生むとすれば、自分の信仰を唯一の正義とし、
異教徒を排斥しようとする衝動に囚われた時です。例えば、魔女狩りのように。」

861 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:12:24 ID:hNLskE2c0
 「『違和感』。Rさん、あなたは先刻そう言いましたね?」 「はい、確かに。」
「正直に告白すれば、『違和感』、その通りです。
世界に不幸をもたらす争いの根底に宗教対立があると、それを思い知る度に疑念が生じた。
私が信じているのは、本当に唯一無二の絶対神なのか。
異教徒は本当に、邪神に惑わされた罪人なのか。
でも私が関わってきた異教徒の子供たちの眼は...」
その老人の心が大きく揺れ動いている。それこそ自我の維持すら危うくなるほどに。
今なら、持続性の後催眠暗示も簡単。だが、それは決して『救い』ではない。
俺に出来ることは全てやった。願いは叶えられ、あの御方の助力を得る事も出来た。
しかし、この老人が自ら乗り越えなければ、また同じ事が繰り返される。
暗示がもたらす偽の幸福の彼方にあるものは、きっと魂の破滅。

862 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:24:09 ID:hNLskE2c0
 「依頼された仕事、私に出来る事は全てやりました。
これからは貴方自身の問題です。幸い、貴方の傍には義娘さんがおられる。
沢山、話をして下さい。きっと得られるものがあるでしょう。
ゆっくりと時間をかけて、より良い答えを見つけられるように、祈っています。」

 面倒でややこしくて、時間がかかり、どちらかというと救いの無い仕事。
しかし、その場で答えの出る仕事ばかりではない。それは重々承知している。
屋敷の門を出た。寒い。時計を見る。 予想はしていたが、どうやら遅刻だ。
今夜は『聖夜』。○△ホテルでチーム榊の忘年会、今頃、姫とSさんは翠と藍を連れて、もう。
きっと幹線道路は渋滞している。どうせ遅刻なら、バスやタクシーより、近道を歩こう。
そして○△ホテルについたら屈託無く笑えるように、心の整理をしよう。
肩に白いものが舞い降りて、消えた。 積もる事は無いだろうが、きっと聖夜にふさわしい。
賑やかな雑踏を抜け、川沿いの裏道に向かう。
吐く息が白い。頬を刺すような冷たい風が、不思議に気持ち良かった。


『異教徒』 完

863 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/06(水) 23:31:28 ID:hNLskE2c0
皆様今晩は。再び藍です。

日付の変わらぬ内に『異教徒』の投稿を終える事が出来ました。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。

それぞれが信じる宗教を互いに尊重し、生きる事が出来たら良いですね。
この作品は公開されないと思っていたので少々複雑な気持ちです。
では、また。 きっと何時か此所で。 ご機嫌良う。

864 名無しさん :2016/01/07(木) 04:42:27 ID:pPryZLNMO
藍さん、PCが壊れたり大変だったのに投稿ありがとうございます。とても面白かったです。
道具や手法に善悪はなく、それらを使う人の心が善悪の色付けをするんでしょうね。

865 名無しさん :2016/01/07(木) 08:12:22 ID:0WnhUte.0
藍さんお疲れ様でした。
いつもありがとうございます。

今回の作品、なんだか難しかった…
もう一度時間をおいて熟読します。

866 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/07(木) 20:57:36 ID:LQnv805k0
皆様今晩は。藍です。
微妙な題材なのに早速のコメントを頂き感謝致します。

>>864
〜それらを使う人の心が善悪の色付けをする〜
『曲解』を恐れずに投稿して、本当に良かったと思いました。
まさにそのお言葉は、知人の思いに添うものだと存じます。
有り難う御座いました。

>>865
折角お読み頂いたのに申し訳有りません。
宗教対立という微妙な題材のため、
投稿前に行った書き換え等の作業が作品を読み難くしてしまったのでしょう。
事情をお察し頂き、再度お読み頂ければ嬉しいのですが、
どうぞ無理はなさらないように。有り難う御座いました。

867 名無しさん :2016/01/07(木) 22:18:05 ID:2c7pTgEA0
 並大抵ではない,非常に深いお話だと思います。
 それだけに,「曲解」や反発という形で,人の心の闇があらわれることもあるでしょうね。それを恐れずに投稿していただき,本当にありがとうございました。
 自分がなぜこの藍物語に惹かれるのかがわかりました。読み続けてきて本当によかったと思います。

868 名無しさん :2016/01/07(木) 22:59:15 ID:2H/pir4I0
人は一度高まると、ぶれてはいけない存在になるという事か・・
日本の神様や精霊にも反転があるという事は興味深かった・・
求る先は同じとて、また分たれたのも一つの試練。
全ての物に感謝するって深くて難しいものだな。

869 名無しさん :2016/01/08(金) 06:07:40 ID:EaQ4h7N6O
神話は遡れば繋がる気がするので自分では分けて考えてないです。
日本の昔話の「隣のいじわるな老夫婦」は隣国を暗示しているのではないかと仮定したスケールで見ると、桃太郎の鬼が荒らす都は米大陸で、鬼ヶ島は…。とか妄想。
観測者の文化圏で見え方や受け取り方が変わり、同じものを見ているのに「表現」が違うということで摩擦が起きてるんじゃないかという気がずっとしてます。
負も極まれば正となるはずなので、どちらでも良い気がしていたけれど、どちらでも良いにしては地球のダメージが酷すぎて、どちらでも良いわけではなかったのか?と悶々してます。
感想から脱線してごめんなさい!

870 名無しさん :2016/01/10(日) 03:45:00 ID:rujYU9VE0
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871 ◆iF1EyBLnoU :2016/01/10(日) 08:39:14 ID:p5..m6qM0
皆様お早う御座います。藍です。
引き続き『異教徒』へのコメントを頂き感謝いたします。

>>867
『自分がなぜこの藍物語に惹かれるのかがわかりました。』
投稿する立場からすれば、最高の賛辞を頂いたと感じます。
知人にも伝え、次作の準備を進めます。有り難う御座いました。

>>868
本当に深いコメント、私がどれだけ理解できているか分かりませんが、
この国の神様や精霊には常に『両面』があり、それ故、人に近しいのだと思います。
不謹慎の誹りを覚悟の上で言えば『不完全』なのかも知れません。

>>869
この地上に最初の人が生まれたとき、『国』は有りませんでした。
ですから『神話は遡れば繋がる』という感覚は、まさにその通りだと思います。
では一体何が、文化や宗教、見え方や受け取り方の違いを生んだのでしょう?
嬉しい『感想』、有り難う御座いました。

872 名無しさん :2016/01/10(日) 11:51:47 ID:qZQ.4lA6O
869です
日本みたいな狭い国土でも方言がたくさんあるように、「場」が人に影響を与え、その「場」から特有の文化が形成されるように思っていましたが、
藍さんから頂いたコメントを読ませて頂き、「文化の違い」は「場の違い」だけではないのかな?と視野が広がりました。
ありがとうございます。
次作も楽しみにしています(^o^)/

873 :2016/01/10(日) 14:16:01 ID:CdyoHDR.0
実話です
夜寝ようとして廊下を歩いていたら
ガラス越しに黒髪に白いワンピースの女性が
普通だったら恐怖ではありませんがその窓の下は
ごつごつした石が並んでいて
その女は頭を全く動かさずに歩いて行ったんです無い足で
その場所は雑木林があって昔たくさんの人が首を吊ったとか吊ってないとか

874 名無しさん :2016/01/10(日) 23:45:30 ID:KDuQVKyY0
寄生する妖の目的は何だろう?
力をためた後はその体から出て行き次の段階に進むのか?
いわゆる成りすましとは違う感じがするな

875 名無しさん :2016/01/30(土) 23:05:55 ID:OHyr6PIYO
д`)チラッ

876 名無しさん :2016/02/02(火) 10:50:23 ID:oxmL/bfEO
エミシはシュメール語のエンシ(王)で陰陽師はその血筋
ずっと求めてきた答えは合ってますか…卒業したいです

877 名無しさん :2016/02/03(水) 23:45:59 ID:tZxAa8M60
忌部も高加茂(神門)・下加茂(磯城)も元を正せば出雲に当たる。その考え方によると、阿部(大彦)は東北〜青森にも存在する。

878 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:31:41 ID:w2AYPIJ.0
テスト中です。

879 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:46:28 ID:w2AYPIJ.0
皆様今晩は、藍です。

突然ですが、次作の冒頭部を投稿致します。中々込み入った事情がありまして、
お話の全部が仕上がった後では、投稿の許可を頂けるかどうか分かりません。
知人と相談の上、少々強引な策を取ることに致しました。

完成してからではなく、作業の進捗状況をそのまま読んで頂く形になります。
これで、知人と私は『確信犯』・『共犯者』。
どうか気長に、生温く、もし投稿が途中終了した場合は事情をお察し下さい。

では以下『契』、お楽しみ頂ければ幸いです。

880 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:48:14 ID:w2AYPIJ.0
『契(上)』

 皆で午後のお茶を飲んだ後、俺は庭の落ち葉を掃き集めた。
やや力を失った陽光に、秋の気配を感じる。もうすぐ、紅葉と落葉の季節。
出来ればこまめに庭の手入れをするのが理想。しかし。

 翠、藍、丹。

 小さな子が3人もいればさすがに忙しい、どうしても庭の手入れは後回しになりがち。
もちろんSさんの式に手伝ってもらう事もできるが、出来ればそれは避けたかった。
珍しく子供達3人が揃って機嫌が良い。一種奇跡的な、穏やかな、ある日の午後の事。

881 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:51:44 ID:w2AYPIJ.0
 突然の違和感。胸騒ぎのような、嫌な予感のような。何だろう、これは?
庭の掃除をしながら突然感じた理由のない焦燥、掃除を切り上げて玄関へ急いだ。
「Rさん!」 玄関のドアを開けた姫は丹を抱いていた。緊張した顔。まさか子供達に何か?
「Rさん、お母様から電話が有りました。成る可く早く電話して欲しいって。」
違和感と胸騒ぎの原因はこれか...ケイタイのボタンを押す間がもどかしい。

 「犬のことで大げさだけど、御免ね。雪が、もう長くないみたい。
でも、お前にはあんなに懐いていたから、せめて知らせるだけでもと思って。」
雪は俺の実家で飼っている雌の秋田犬、今年で15歳になる。
今年の正月、家族揃って実家を訪れた時、老いて衰えた様子を心配したのだが。
覚悟していた時期が、かなり近いらしい。
「大げさって、雪は俺を...知らせてくれて本当にありがとう。今仕事はそんなに忙しくないし、
多分時間は作れる。様子を見に行けるようにみんなと相談してから、また電話するよ。」
「ありがとう、お願いね。」

882 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:55:07 ID:w2AYPIJ.0
 「雪ちゃん、もう長くないかもって、どんな様子なんですか?」
丹を抱いた姫は、とても心配そうだ。
「エサをほとんど食べないって言ってましたから...あと数日、ですかね。」
俺が子供の頃に貰われてきた雪は、まだほんの小さな子犬で、とても寂しがり屋だった。
夜、勝手口の三和土で心細そうに鳴き続ける雪が可哀相で、
枕と毛布を持っていって勝手口で一緒に寝たことが何日もあった。
それからの色々な思い出が一気に蘇り、胸が詰まる。
「今急ぎの仕事はないし、一週間くらいなら何とでもなる。
家の事は私とLに任せて行ってらっしゃい。大事な、家族なんでしょ?」
「有り難う御座います。取り敢えず3日間の予定で行って来ます。その後は様子を見て。」
「みどりもいっしょに行く。お父さん、つれていって。」
ソファの上で翠が上体を起こしていた。さっきまで、藍の隣でぐっすり寝ていたのに。
「みどりも、ゆきちゃんに会いたい。」

883 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:56:58 ID:w2AYPIJ.0
 正月、翠はすぐに雪と仲良くなった。撫でてやったり、狭い庭を一緒にゆっくりと散歩したり。
雪も翠に良く懐き、お屋敷に戻る時には翠の後を付いてきて、俺たちの車を見送っていた。
話を聞かれてしまった以上、翠をお屋敷に残して出掛けるのは難しい。
Sさんは微笑んでソファに歩み寄り、翠を抱き上げた。

 「遊びに行くんじゃなくてお見舞いよ。御祖父様と御祖母様の御迷惑にならないように、
お父さんの言う事をちゃんと聞けるって、約束出来る?」
「うん、約束する。」
「お父さん、翠も一緒に連れて行って。お願い。ほら、翠も。」 「おねがい、します。」
父と母は翠を猫可愛がりだから問題は無いだろう。
それに翠がいれば、もし『その時』が来ても皆の気が紛れるかも知れない。父母も、勿論俺も。
「分かった。今夜準備して明日の朝早く出発するから、早起きしてね。」
「うん、早起きする。」 真剣な表情。思わず小さな肩を抱き締めた。

884 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:58:39 ID:w2AYPIJ.0
 翌朝、少し早起きをして軽い朝食を食べた。翠もしっかり起きている。
実家までは車で約半日。7時にお屋敷を出れば、昼過ぎには到着出来る筈。
Sさんが作ってくれたサンドイッチを持って、予定通り7時丁度に出発した。
途中で一度サンドイッチ休憩を挟み、実家に着いたのは1時半過ぎ。
車の音を聞きつけて母が玄関から顔を出した。翠が母に駆け寄る。
母は微笑んで翠を抱き上げた。
「いらっしゃい、翠ちゃん。雪のお見舞いに来てくれて、有難うね。」
「おばあさま、ゆきちゃんは?だいじょうぶ?」
「今、寝てるけど。やっぱりエサを食べなくて...。」 「そうなの。心配、だね。」
トランクから荷物を降ろし、2人に続いて玄関のドアをくぐる。
車はあとで移動するとして、取り敢えず雪の様子を。廊下から台所の勝手口に急ぐ。
...三和土にぐったりと横たわる雪の体。目を閉じて、寝ているようだ。
想像以上に痩せた姿に、言葉が出ない。これではあと数日どころか、今日明日も。
寝ているのを起こすのは可哀相なので、そっと居間へ移動した。
「今の内に車を移動してくるよ。いつもの所でしょ?」 「そう。今朝電話しておいたから。」

885 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 22:59:57 ID:w2AYPIJ.0
 馴染みの有料駐車場に車を移動して戻ってくると、雪は起きていた。
勝手口の床に頭をもたせかけ、翠が頭を撫でている。俺もそっと背中を撫でた。
雪は俺と翠の顔を交代で見つめていたが、暫くすると安心したのか、また寝てしまった。
「お医者さんは『老衰だから治療は出来ない。』って。
頭はしっかりしてるみたいだし、朝と夕方は自分でトイレに行って、水も、飲むんだけど。」
母はハンカチで目尻を押さえた。
「どこか痛がったり呼吸が苦しそうなら可哀相だし、こっちも辛い。
でも、そんなんじゃないから少し気が楽だね。でも、あの様子だと今夜を乗り切れるかどうか。」
「夜はみどりがゆきちゃんのおうえんするから大丈夫。」
「応援?」 「そう、ここでいっしょにねるの。ゆきちゃんも、みどりといっしょにいたいって。」
母は泣き笑いのような表情を浮かべた。
「お父さんもね、此処に寝て雪を応援したことがあるの。今度は翠ちゃんも、お願いね。」

886 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 23:01:23 ID:w2AYPIJ.0
 夕方6時前、母の言葉通り雪はふらふらと立ち上がった。
勝手口のドアに頭を擦りつけた後、俺たちの顔を見つめる。
見慣れた、『外へ出たい』という意思表示。翠を連れ、庭から勝手口へ廻った。
外からドアを開けると、雪は少しよろめきながらドアをくぐり、ゆっくりと歩き出す。
元気な時は外階段を上った屋上がトイレの場所だったが、もう階段は上れないと聞いていた。
庭の外れでオシッコをしたあと、自分用の水桶へ向かう。
専用の水桶に新しい水を入れると、少し多めに水を飲んだ。
その後暫く庭の方を見つめていたが、勝手口へ歩き出そうとしてよろめいた。力無く座り込む。
俺が手を出すより早く、翠がしゃがんで雪の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、ゆきちゃん。ここで少し休んで、それからかえろう。
みどりが、ずっと一緒にいる。大丈夫だよ。おうえんも、たのむから。ね。」
まるで頷くように俯いた後、雪は暫く目を閉じた。

887 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 23:03:57 ID:w2AYPIJ.0
 「オシッコの量は普通、かな。でも、戻る途中でよろけて。体力がかなり消耗してる。」
「何か食べてくれたら良いのにね。一応エサは用意するけど。」
7時前に父が帰って来ると雪は目を開け、小さく尻尾を振った。しかしエサは食べず、
俺たちが夕食を食べている間も、目を閉じて三和土に横たわっていた。
三和土からじっと母を見つめる『ご飯頂戴』アピールはあんなに必死で可愛かったのに。
翠と母がお風呂に入っている間、俺は台所のテーブルと椅子を移動して布団を敷いた。
雪はじっと横になったままでピクリとも動かない。何度も呼吸を確かめる程だった。
翠が布団に入ったのは9時前。
『今夜はずっとおうえんしてるからね。』と声を掛けた後、10分もしないうちに寝息が聞こえた。
母は洗い物を終えて明日の準備をしている。俺は冷蔵庫から缶ビールを2本取り出した。
ナイトゲームの実況が、居間から微かに聞こえて来る。

888 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 23:06:12 ID:w2AYPIJ.0
 「何だ、巨●、負けてるじゃない。」
缶ビールを一本父の前に置き、もう一本のプルタブを開ける。
父は薄く笑った。「まあ見てろ、次の回に逆転する。△伸が、打つからな。」
表情と声がいつもより控えめなのは、やはり雪のことが気に掛かっているからだろう。
父の斜め向かい、一人がけのソファに腰を下ろした。缶ビールを半分程、一気に飲む。
「で、どうだ?何か、分かったか?」 「何かって、何?」
「雪の寿命とか、延命の方法とか。色々あるだろ。お前は陰陽師、なんだから。」
「人の寿命も分からないのに犬の寿命が分かる訳ないよ。
それに医者も老衰で手の打ちようが無いって言ってるんだから、延命なんて無理。」
父は俺の眼をじっと見つめた。TVの明るいCMソングは、場違いなBGM。
「それは、Sさんでも、Lさんでも同じか?」
「死期が予測できるのは特別な場合だけ。雪の正確な寿命は、多分2人にも予測出来ない。
それより今夜を乗り切れるかどうかが心配な位なんだけど。」
「そうだな。」 父は中継が再開された画面に視線を移した。
ポツリと呟く。 「もう15歳。仕方、ないか。」 寂しそうな、横顔。
雪の死、その実感がじわりと胸にのしかかってくる。

889 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 23:09:47 ID:w2AYPIJ.0
 「あ、でも、今夜は多分大丈夫だよ。」 「何故分かる?」
「翠がそう言ってたからね。あの子が鋭いのは特別だから、信じても良いと思う。」
半分は親父への、残り半分は俺自身への、気休め。
「そう願いたいな。今夜を乗り切ってくれたら、明日と明後日は俺も一日家にいられるし。」
沈黙。静かな居間に、歯切れの良い実況だけが小さく響いている。
突然、鋭い打球音が響いた。興奮したアナウンサーが叫ぶ。
「ほら。言った通りだろ?」
いつもなら派手なガッツポーズが出る場面だが、父は微笑んだだけだった。
空き缶を持って台所へ戻ると、母が翠の枕元に座り雪の頭を撫でていた。
「この頃、あんまり寝てないでしょ?今夜は翠と俺に任せてゆっくり寝てよ。」
いくら雪が俺に懐いていて、父には絶対服従だとしても、
一番長い時間を雪と共有したのは母だ。今の雪の姿を見て一番辛いのも母だろう。
「そうだね。そうさせて、もらおうかな。」 母は手を洗い、そっと翠の頬を撫でた。
「お休み。雪のこと、お願いね。」 「うん、お休みなさい。」
寝室に向かう母を見送った後、缶ビールをもう一本飲んだ。
やはり落ち着かないが、翠の言葉通り今夜を乗り切れば、『その時』は多分明日。
今は体を休めておいた方が良い。翠の隣、布団に入ったのは10時半を過ぎていた。
半日運転した疲れとビールの酔いのせいか、俺はすぐに眠りに落ちた。

890 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/08(月) 23:15:02 ID:w2AYPIJ.0
皆様今晩は。再び、藍です。

今夜は此所まで。
お付き合い頂いた方々に心からの感謝を。
続きを投稿できる時期も、そもそも投稿ができるかどうかも分かりませんが、
気長にお待ち頂ければ幸いです。有り難う御座いました。

891 名無しさん :2016/02/09(火) 00:44:30 ID:Eg5vyTH60
ああ、もう続きが気になって仕方がありませんよ(チラッ)
もう眠れそうにありませんよ(チラッ)

892 名無しさん :2016/02/09(火) 02:04:58 ID:xvMf8f.EO
(;´д`)き、来てた!
覗いた私はラッキー〜

しかし…


この切り方は…

893 名無しさん :2016/02/09(火) 05:43:33 ID:HdRzDYFg0
契、だから、雪が死んで、翠の使い魔?にでもなるのかな?
つづきが気になる。

894 名無しさん :2016/02/09(火) 18:28:27 ID:MdLtaSwUO
大切な飼い犬の死に際に会いに行ける仕組みのあったことも凄いですが、Rさんのご家庭の温かさも凄いです。
投稿ありがとうございました。

895 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/09(火) 20:32:06 ID:KLqQfkWY0
皆様今晩は、藍です。

確信犯とはいえ、知人も私も出来れば円満な投稿を望む立場。
今夜中に禁止の通達がなければ、『契(上)』と『契(中)』までは
明晩以降、問題なく投稿できると思います(あとは私の作業次第ですね)。
藪蛇を避けるため、今回は投稿終了まで個別の返信は控えさせて頂きます。

では、明晩、此所でお合いできることを楽しみに。ご機嫌良う。

896 名無しさん :2016/02/09(火) 22:58:03 ID:Eg5vyTH60
・・昨年はSさんと知人さんの文章表現には皆してやられましたね。
  ちょい悪のイメージが何と一目惚れに近かったとわ。
  これからもビックリ展開を希望いたしますね。

897 名無しさん :2016/02/10(水) 08:56:46 ID:2jvkazs.0
去年12年一緒に暮らしたワンコ看取ったから
真面目に涙が出ちゃったよ。
序章でこんななら、本編はどうなっちゃうんだろう…

898 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:23:47 ID:C/Dvoyfo0
テスト中です。

899 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:31:52 ID:C/Dvoyfo0
皆様今晩は、藍です。

『契(上)』後半を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

900 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:33:40 ID:C/Dvoyfo0
 全身に感じる、風の圧力。 体に粘り着く空気を力尽くで切り裂く。
これは、夢? はるか空の高みから見下ろす夜景が凄い勢いで後方へ流れ去っていく。
『もう目的地は目の前。一刻も早く姫君の下へ。』
その時、少し前方の夜景の中に徴が見えた。 『あれだ。』
気配を消しつつ、徴を目掛けて急降下。 夜景がどんどん大きくなる。
四角い屋根の縁に向けて着陸体勢。注意深く、速度を殺す。
梟や木菟たちとは違うし、翼の細かな制御は不得手。
抑え損ねた風が、庭の木々を揺らす音を聞いた。

901 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:34:56 ID:C/Dvoyfo0
 「お父さん。お父さん、おきて。外に、何かいる。」
...翠の声、これも夢? いや、違う。慌てて上体を起こした。
翠は布団から出て勝手口の三和土に足を下ろし、庇うように雪の背中を擦った。
ドアの向こう。憎悪に満ちた、低い唸り声。 全身が総毛立つ。 これは、何だ?
深呼吸、感覚を最大限に拡張する。激流のように流れ込む、激しい感情と映像。

 地面すれすれの視点。目の前に数頭の犬。その背後から此方を見下ろす男。
耐えがたい痛み、断末魔の苦しみ。 犬たちと男に対する激しい憎悪。
...狩りの情景?
男が携えた銃に見覚えがある。いつか読んだ本の旧い写真。確か、●田銃。
大きな破裂音と同時に、暗転。

902 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:37:03 ID:C/Dvoyfo0
 「ゆきちゃんはずっとこのうちでそだったから、動物たちをころしてない。
それに、ゆきちゃんが年をとってからこんなこと、ひきょうだよ。
ゆきちゃんが元気なあいだは何もしなかったのに。」
?? 翠がドアの向こうに語りかけている。 唸り声の意味を感知しているのか?
再び唸り声。苛立ったような調子が不吉だ。そっと翠の肩を抱いた。
翠は俺に頓着せず、ドアの外の気配に語りかける。
「それにね。くまさんだってほかの動物をたべるでしょ?
思い出して。たべられた動物たちはよろこんでいた?」
ドアの向こうの気配が大きく揺らいだ。しかし唸り声が含む憎悪は増している。

903 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:39:28 ID:C/Dvoyfo0
 言語を伴う思考が伝わってこないのだから、気配の主は人間ではない。
翠の言葉からすると、猟師に撃ち殺された熊の、幽霊?
いや、動物でも幽霊に成り得る霊質を持つのは稀な筈だし、
狩りで殺された動物たちが幽霊になって祟るなら、猟師や猟犬はとうに絶えている。
恐らく妖。狩りで殺された熊や、その他の動物たちの怒りや苦しみ。
山の妖の1つがそれらと共振し、強い憎しみと悪意を宿した存在へと変化したモノ。
父方の祖父は、若い頃猟師だったと聞いた。雪は祖父の飼っていた猟犬の子孫にあたる。
その体に流れる濃い猟犬の血が、血迷った妖を引きつけた。それが何時かは分からない。
雪が元気な間は何も起きなかったのだから、猟犬や猟師に対する恐怖は残っていたのか。
雪の寿命が尽きかけたのを察知して恐怖は薄れ、憎しみが恐怖に勝った。だから、今夜。
母が張った結界を越えられないようだが、結界越しの妖気でも弱った雪には毒だ。

904 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:41:25 ID:C/Dvoyfo0
 「お父さんがいってたよ。動物はほかの生きものの命をいただいて生きてるって。
動物はみんな同じことしてるのに、うらむのはおかしい。ずっとこのうちにいて、
動物たちをころしたことがないゆきちゃんをうらむのは、もっとおかしい。」
ドアの外の気配は益々濃く、既に実体を現出したのでは無いかと感じる程だ。
残念ながら翠の説得は効果を上げていない。というか、むしろ逆効果。
このままでは濃度を増す妖気が雪の体を更に弱らせる。
この執着の強さからして、結界越しに祓うのは難しい。
だからと言って、相手の正体や力が分からない状態で母の結界を解くのは危険過ぎる。
鎮魂の詞歌で慰める方法はあるが、相手を特定できなければ効果は薄い。
何種類もの動物の魂を引き寄せ混ざり合い、妖を芯として寄り集まった集合体。
1つ1つ特定するなんて、俺には無理...いや待て、さっき翠は『くまさん』と。それなら。
「翠、外の妖、どんな動物の魂を取り込んでるか分かる?くまさんの他に。」
「うん、分かる。どうして?」
「憎しみに狂った動物たちに普通の言葉は通じないから、『言霊』で慰めてみるよ。
でも相手がどんな動物か分からないと効き目がない。
お父さんの術が始まったら、どんな動物たちの魂を感じるか教えてくれる?」
「分かった。」

905 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:46:22 ID:C/Dvoyfo0
 深く息を吸い、下腹に力を入れた。心を込めて鎮魂の詞歌を詠唱する。
動物の姿を強く、鮮明に想い浮かべ、そのイメージを歌詞に織り込む。
最初は熊。ツキノワグマだ。大きく、力強い姿。その魂を慰め、憎しみと執着を解く。
植物から草食動物へ、さらに肉食動物へ。繋がる命の道理。
猟師達を始め、人間も動物の命を有り難く頂いて生きている。感謝と、鎮魂の祈り。
詠唱は一区切り、其処此処に浮かぶ色とりどりの花が見えた。次々に開いては散る。
散った花びらは光る軌跡を残して...大丈夫、『言霊』はちゃんと。
「しかさん。」 翠は俺の意図を理解していた。 詞歌の一区切り毎に動物を。
「きつねさん。」 「うさぎさん。」 「たぬきさん。」 「いのししさん...」
何度繰り返したか分からない。しかし確実に、ドアの外の悪意は薄れている。
? 翠はドアの向こうを凝視したまま、黙っている。
一区切りついたタイミングなのに?? 取り敢えず詠唱を中断する。
「お父さん、分からない。あれは、見たことない、から。」
見たことがない? そうか! これが最後。もう鎮魂でなく、祝詞を奉る時。
泣きそうな顔の翠をしっかり抱き締めた。
「翠のお陰で助かったよ。大丈夫。残ってるのはきっと、山の妖だから。」

906 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:48:00 ID:C/Dvoyfo0
 動物たちを愛するが故に、猟師に殺された動物たちの怒りと共振し、
我を忘れて同じような魂を次々に取り込んだ妖、外の気配の『芯』。
しかし、それは事故のようなもの。本来は人に災いをなす事を意図する存在ではない。
動物たちの憎しみが解けた今こそ、元の姿で野山に帰って頂くのが筋。
「其処に座って。これで最後だよ。」 ドアに正対し、翠と並んで座る。
眼を閉じて背筋を伸ばした。深呼吸。

 『詫びに1つ、礼にもう1つ。』

 澄んだ声に続いて、俺たちの目の前に青い小さな鬼火が2つ、並んで浮かんだ。
そうか、憎しみと悪意が消えたから結界を抜けて。 しかしそれなら何故家の中へ?

907 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:49:11 ID:C/Dvoyfo0
 『その名に縁ある季節を二度、迎えられるように。』
次の瞬間、気配が消えると同時に鬼火も消えた。 『雪』に縁の有る? 二度の、冬?
「お父さんすご〜い。あれも、ことだまの術なんだね?すごく、きれいだった。」
「そうだけど、翠だってあの妖と話をしてたでしょ。怖くなかったの?」
「ぜんぜんこわくなかったよ。だって、お父さんがいっしょだし。」
翠は目をぱちぱちと瞬いて、如何にも眠そうだ。
「それに、みどりのお友だちは、とっても、つよい、から。」
お友達???
「ちょっと翠、お友達って。」 翠の体から力が抜けた。完全に熟睡している。
直後。窓ガラスが大きく揺れた。 突然の強い風。 空気を震わせる、羽音?
そうか、鵬。 きっとSさんが。

908 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:53:44 ID:C/Dvoyfo0
 「お前が一人前の術者だなんて。SさんとLさんには本当に感謝しなきゃね。」
振り向くと台所の入り口に母が立っていた。
「私の力では、お前をそこまで導くなんて到底出来なかった。」
「もちろん2人には感謝してるよ。ただ俺なりに、長い間修行してきた。
でも、翠は修行する前から、俺には関知できない妖の気配を感知してた。どういうことかな?
翠はまだ5歳だし、得体の知れない人外との接触が多過ぎるのは、ちょっと心配なんだ。」
「『式使い』の適性を持っていれば、修行と関係なく、どうしても人外との接触は多くなる。
親がしっかりと見守れば良い。恐れず気を抜かず、親の義務を果たすだけ。
それより、きっとその子は並外れた術者になる。
あの妖が説得に応じなかった時に備えて、式をこの家の屋根に配置した。
妖が勝手口に近づく前にね。それからその子の『●識△』。
融合した多くの魂を1つ1つ見分ける力。そしてお前の『言霊』。
2人の力と術が補い合い高め合って『分業』の術が発動した。
未熟ではあるけれど、あれは紛れもなく『分業』の術。」

909 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:55:13 ID:C/Dvoyfo0
 『分業』? その術を使える術者は限られる。いわゆる、『奥義』の1つ。
恐らく現在は、当主様と桃花の方様のみ。Sさんでさえ。それを、俺と翠が??
「実際に見たのは初めて。『●識△』はその基になる力だけど、
お前の助けを借りたとは言え、あの歳で...本当に、驚いた。」
母はゆっくり、深く息を吸った。

 『R。』

 これは、言霊...そうか、俺の適性は母から。
「何だよ、急に改まって。わざわざ言霊を使わなくても俺は。」
『きっとこれが、私が今生で使う最後の術。心して、聞きなさい。』
今まで見た事のない、母の表情。台所の空気が凍った。
『遠からず、お前にこの子を支える資質が有るかどうかが問われる。
この子はお前の子であると同時に、優れた術者の命脈を繋ぐ一族の子。』
翠を支える資質を問われる? それは。

910 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:56:30 ID:C/Dvoyfo0
 「あら、雪、どうしたの?」
母の視線を辿り、勝手口を振り返る。雪がお座りをして母を見つめていた。
ついさっきまで、ぐったりと横になったままだったのに。
「もしかして、何か食べたいのかな?」 「そうね。雪、ちょっと待って。」
母は作り置きのお粥を冷蔵庫から取り出した。鍋に水を加えて少し温める。
母の作ったお粥に一握りの削り節、それは雪の大好物。
少しずつ、なめるようにお粥を食べる雪の背中をそっと撫でる。
俺の顔も母の顔も、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 翌朝、雪はしっかりとした足取りでトイレに行き、水を飲んだ。
それからまた少しエサを食べ、昼過ぎまで寝ると、見違えるように元気になった。
夕方前には翠と一緒に庭を歩き回り、エサもいつもの半分ほどの量を完食。
更に翌日、朝から近くの公園へ散歩が出来るまでに回復した。
俺と翠が実家を後にしたのはその日の昼過ぎ。雪は最後まで俺たちを見送っていた。

911 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 20:59:09 ID:C/Dvoyfo0
 深夜のリビングに涼しげな音が響く、Sさんが作ってくれたハイボール。

 Sさんが夕食の後片付けをしている間、Sさんの部屋で翠と藍を寝かしつけた。
その後、丹が熟睡するまで姫の部屋にいて、リビングに戻ったのが10時少し前。
今夜はどうしても、Sさんと話がしたかった。もちろん『分業』の術、そして母の言葉の意味。

 「美味しい。喉が渇いてると、気分良く話が出来ないし。」
ハイボールを一口、もう一口、Sさんは俺の隣で微笑んだ。
「『分業』の術の基本は寄り集まった『業』や『魂』を見分けること。
それをもとに『業』の一部を別人に分けたり、迷った『魂』を中有に誘導する。
だから、あなたと翠が使ったのは確かに『分業』の術の1つ。
ただ、術者2人の力と術を組み合わせてそれを発動するなんて、聞いたことも無い。
普通の父娘以上の絆で結ばれた2人だからこそ、よね。ちょっと、妬けちゃうかも。」
Sさんは悪戯っぽく笑って俺の肩に頭を預けた。
「冗談は止めて下さい。その絆を結び合わせたのはSさんの術なんですから。
それより、翠と僕が使ったのが本当に『分業』の術なら、
母の言葉はそれと関係してるのかも知れませんね。」

912 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 21:02:54 ID:C/Dvoyfo0
 「お母様は何て?」
「『僕に翠を支える資質が有るかどうかが問われる。』って。
「翠が最後まで式に指示を出さなかったのは、あなたへの信頼が深かったから。
『お父さんなら何とかしてくれる。』 『お父さんがどうしようもないって言うまでは。』
その抑制が効かず、一度でも力が暴走したら、翠は即『上』の監視対象になってしまう。
あの歳で式の使役を許されたのは、あの子が『私とあなたの子』だからよ。
私もあなたも、『上』から範士として認定されている。翠の教育を任せても良いって事。
ただ、その力が暴走するのを防ぎつつ、あの子の資質を全て実現するのは並大抵じゃ無い。」
Sさんは体を捻って俺の唇にキスをした。
「でも、それがあなたと私と、そしてLの望み。それで良い?」
僅か5歳の子。もし...いや、怖れることなどない。母はそう言った。

913 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 21:04:41 ID:C/Dvoyfo0
 「『子供を作ろう』って相談した時のこと、憶えてますか?」
Sさんは小さく頷いた。出会った時と変わらない、いや、もっと美しい横顔。
「あなたは『力があろうとなかろうと、持って生まれたものと向き合う人生以外有り得ない。
幸せになる方法を2人で教えてあげれば良い。』って。私、本当に泣きそうだった。」
「それは今も変わりません。ただ、変えなきゃいけないことがあって。」 「何?」
「『僕は少し頼りないかも知れないけど、Sさんが母親だから絶対に大丈夫。』そう言いました。
でもSさんに頼り切りじゃなく、僕も少しは父親らしい父親になりたいんです。
今なら少しは術者としても、そして父親としても。」
Sさんはハイボールのグラスをテーブルに置いて、俺の左隣に座った。
俺を見つめる、黒い双眸。
「あなたはもう一流の術者。名指しの仕事、増えてるでしょ?
それに、父親としては超一流。丹が生まれた時のことも式のことも、
翠があなたを信頼しきってるからこそ上手くいった。ただ...あの術だけは。」
突然、Sさんの眼から涙が零れた。俯いて、両手で顔を覆う。 ??? 一体これは。

914 『契(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 21:13:02 ID:C/Dvoyfo0
 いつの間にか、姫がリビングの入り口に立っていた。雰囲気が、いつもとは全然違う。
「『奥義』を使う術者には、その結果に責任を負う覚悟と、ふさわしい『器』が求められます。
翠ちゃんは子供ですから、この場合は翠ちゃんを支え、その力を補う術者に。」
そういう、事か。
俺の評価が多少上がったとしても、当然Sさんや姫の評価には遠く及ばない。
俺と翠、二人でその『奥義』を使ったとして、その結果の責任を俺が負うのは当たり前。
「つまり、今後も翠を育てる資格があると、僕自身が証明しなければならない。」
「3日後、です。明日から食を絶って準備を整えた後、『上』が迎えが。
『五日行』。それを成就出来れば、Rさんは今まで通りに翠ちゃんと...」
その時、姫がお盆を持っていることに気が付いた。小さなガラスの御猪口が3つ。
「Rさんの五日行が成就する事を願って乾杯しましょう。どうぞ。」

 一口飲んだ後、俺は事態の重さを理解した。


『契(上)』 了

915 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/10(水) 21:19:01 ID:C/Dvoyfo0
皆様今晩は、再び藍です。

『契(上)』は無事投稿終了出来ましたが、
(中)以降の投稿時期は明言出来なくなりました。
投稿に向け、出来るだけのことをするつもりですので、
事情をお察し頂き、気長にお待ち下さい。

此所までお付き合い頂いた皆様、有り難う御座いました。

916 名無しさん :2016/02/10(水) 22:07:02 ID:zCrWz3h6O
続きの投稿をありがとうございました。
仕事もプライベートも厳しく大変ですね。尊敬します。
大きな力を持つと責任も大きくなるんですね。

917 名無しさん :2016/02/11(木) 01:28:47 ID:4c2sqVSY0
・・やはり業は転嫁する術があるのか。
お母様の言ってた業の秘密とは。

918 名無しさん :2016/02/11(木) 01:28:54 ID:x5E3YsCYO
投稿お疲れ様です


雪が式になって
その次に猿が式になって
翠ちゃんが
鬼退治に行くのかと

チョッとふざけた
妄想しました
申し訳

919 名無しさん :2016/02/11(木) 12:17:23 ID:kTfGgKg20
五日行の成就を祈って,次を待ってます!

920 名無しさん :2016/02/12(金) 23:53:29 ID:cAkdpj9A0
三七日ではなく5日か。神仏が出てくるレベルじゃないのコレ。

921 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:09:07 ID:IsAY9Ieo0
テスト中です。

922 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:20:48 ID:IsAY9Ieo0
皆様今晩は、藍です。

投稿には常に色々な事情が有るのですが、結局は皆様から頂くコメントが
知人と私の努力よりも大きな力を持っているのだと感じます。

お陰様で、『契(中)』、投稿の許可を頂きました。
たとえ大幅な書き換え等が有っても、物語の『芯』は変わっていません。
では、後ほど。お楽しみ頂けると良いのですが。

923 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:47:47 ID:IsAY9Ieo0
 『上』が用意した車がお屋敷に着いたのは、ピッタリ打ち合わせ通りの午前九時。
大きな黒塗りのワゴン。運転していたのはサングラスとマスクの男性。
術者なのだろうが、身振りで俺を促しただけ。何だか話しかけちゃいけない雰囲気。
ただ、行の内容についてはSさんや姫も知らないと言っていたから、この術者も多分知らない。
行を修めるのは山の中の小さな庵、そこに案内と指南の術者待っているらしい。
事前に知らされた情報はそれと、あの乾杯。
とんでもない重圧をひしひしと感じている状況で、あれこれ話す気にもなれなかった。
数時間の後、着いたのは寂れた登山口のような場所。濃い霧。重い湿気が辺りを覆っている。
県境を越えてからは俺の知らない道を通ってきたので、ここが何処なのか分からない。
車を降りて数歩。霧の向こうに人影が見えた。背後で、車が走り去る音。

924 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:49:50 ID:IsAY9Ieo0
 『久しいな。』 柔らかな声、いや、それより『久しい』って...
「R、です。宜しくお願いします。」 声を掛けてさらに数歩。その姿がハッキリと見えた。
アオザイ?に似た服。上着は漆黒の生地に、艶やかな、黒い絹糸の刺繍。
ズボンはネットとかTVで見るより細身で、活動的というか実用的。
それに何より、キリリと結い上げた髪が印象的な美形。
姫よりは年上で、Sさんより年下。なら多分、二十代後半。
これが、案内&指南役? まさか、女性とは思わなかった。
でも、何だか、懐かしい雰囲気。 『久しいな』という言葉通り、初めてという気がしない。
それはこの女性のまとうオーラなのか、それとも声の響き、か。

925 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:50:55 ID:IsAY9Ieo0
 「あの、以前何処かで。」
「御影、だ。この姿で会うのは初めてだから、分からなくても無理はないな。」
!? まさか...一族最強の式。それにどうして、人の姿?
「この場所は特級の霊域、今様に言えば最高のパワースポット。」
確かに。車を降りた瞬間から、この辺りに満ちる濃厚な気に圧倒されていた。
「しかし『聖域』とは違う。『聖域』を支配しているのは『秩序』だが、
この場所を支配しているのは『混沌』。だから正邪・陰陽を問わず、全ての怪異が力を増す。
ここでなら、我も人の姿に化生することが出来る。
ただ、もう二度と、人の姿を取る事など無いと思っていた。」
その女性、御影さんは少し寂しそうに見えた。
「さて、着いて参れ。」 「あ、はい。」

926 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:52:14 ID:IsAY9Ieo0
 濃い霧の中、御影さんの背中を追いかける。
細い砂利道は段々と傾斜がきつくなる。やはり登山道?
15分ほど歩いた所で、御影さんの足が止まった。 「あれ、だ。しかし、何故。」
白い手が指し示す先に小さな建物が見える。古い、庵? しかし、あの気配は。
さらに数分、その建物から20m程の距離。
やはり、そうだ。建物の周りにも中にも、かなりの数の気配を感じる。
これでは修行場と言うより、妖の巣窟。人はとても、こんな所に長くは居られない。
「あの年寄りは、何故管理を怠っているのだ。今回の話も通っている筈なのに。」
御影さんは薄く笑った。 「人の身では...面倒だな。」
面倒も何も、これだけの数を祓うには下手をすればそれだけでゆうに3日。
すい、と前へ踏み出した。2歩、3歩。其処此処で妖の気配がざわめく。

927 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:53:43 ID:IsAY9Ieo0
 御影さんは立ち止まり、そのまま右足を横に踏み出した。両足の幅は、肩幅くらい?
深く息を吸いながら右手が肩の高さに...天に向けた掌が反って地面に向かい、
右足は地面を掃きながら左足に揃った。御影さんの体が膨らんだように見える。
次の瞬間。重力に逆らうように軽々と、ゆっくりと、その右足が高く上がった。
ぴいんと伸びた右足のつま先はほぼ真上を、天を指している。
そして掴むようにしっかりと、地面を踏みしめた左足。
天と地から、『正気』が御影さんに集まるのを感じる...これは、四股。 
「... ..」 微かな呟きが聞こえた後、右足が落ちてきた。

928 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:55:03 ID:IsAY9Ieo0
 そう、切られた大木が倒れるような、圧倒的な迫力と重量感。
地面が揺れる。 Sさんより少し背が高い分体重は、しかし幾ら何でもこんな。
続いて左足。地面を踏みしめる地響きが、完全に空気を変えた。
まるで嘘のように庵の周りの霧が晴れ、妖の気配も一つ残らず消えている。
小さな庵はしん、と静まって、先程までとは全く違う建物のように見えた。
「5日は楽に保つだろう。何をボンヤリしてる。行くぞ。」
「あの、御影さん。今の四股は。」
「元々我は一族で武術を指南していた家の出。
だからこそ当主様は我に任せたのだ。5日間この庵を護り、お前の世話をし、
更に修行の相手をする。そんな事が出来る人間は、術者は、もう3人といないから。
荷物を解いたら直ぐに行を始める。5日はあっという間だ。」

929 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:56:42 ID:IsAY9Ieo0
 ...痛、息が出来ない。思わず膝をつく。
「我は武門の出と言った筈だ。こと武術に関して、他人に遅れを取ったことはない。
女子だと思って甘く見ていると、そのうち死ぬぞ。」
それは古武術で言う当て身の一種、左脇腹へのボディーブロー。
襟元で艶やかに光る瑪瑙の飾り細工。 「これを取れ。」と御影さんは言った。
「そのためなら何をしても良い」と。 ただし御影さんの反撃は投げと
腹への打撃だけと言われていて、当然警戒していたのに、為す術がない。
その動きはあまりに迅く、強かった。
これでは瑪瑙を取るどころか、触れる事すら出来る気がしない。
「御影さん、相手に、甘く見たりなんか。」
まだ、まともに息も...
「なら、少しは工夫する事だ。参れ。」 涼しい顔で、御影さんは構えを取った。

 裂帛の気合いと共に、御影さんが視界から消えた。
派手に視界が回転し、腰から床に叩き付けられる。まともに受け身も取れない。
もう何度目? 3日前から始めた絶食のせいにする気にもなれない程の、技量の差。
「今日はこれで終いだ。今夜まで食を絶って此所に体を慣らせば、
明日の朝からは食事を取れるだろう。それで少しは。風呂を沸かしておく。」
最初の修行は『体』。3段階の行の内、第1段階からこれでは、先が思いやられる。

930 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 22:58:55 ID:IsAY9Ieo0
 小さな湯船に浸かっていると、不思議な事に気付いた。
あれだけの打撃と投げ、でも体の何処にも痛みがないし、痣もない。
道着を着ていても、肘や膝に擦り傷の一つくらいは出来る筈なのに。
ふと、微かな声が聞こえた。 澄んだ、優しい声。 歌、だ。
風呂場を出る。声の聞こえる方へ、庵の奥へ進む。
台所らしい土間、障子を開け放った大きな窓に、御影さんが座っていた。
「何か、用か?」 「ああ、いや。あの、歌が。とても良い声だったので。」
少し照れたような微笑。何だか、可愛い。 「昔、習った。遠い、遠い昔に。」
しかし、御影さんの微笑みはすぐに陰った。
「今夜は早く休め。明日中に進展がなければ、行の完成自体が危うい。」
そうだ...『五日行』。既にその一日は過ぎてしまったし、未だ何の進歩も。
御影さんが用意してくれたのだろう。俺の部屋には布団が敷かれていて、
潜り込むと途端に眠くなった。やはり、疲れてる。布団の中は、少しだけ黴臭かった。

931 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:00:15 ID:IsAY9Ieo0
 2日目の行が終わっても目立った進歩は無かった。
自分なりに色々工夫しているつもりだが、伸ばした腕を取られて投げ飛ばされるか、
そうでなければ腕を弾かれて腹に打撃をくらう。これでは昨日と何も変わらない。
行を成就出来なければ、俺は『失格』だ。それでは今後、翠の...
暗い気持ちで夕食を食べ終わり、風呂に入った。やはり気持ちは晴れない。
風呂から出ると、歌が聞こえてきた。心を決めて台所へ向かう。
「何か、用か?」
「はい。助言をしてもらおうと思って。」 「助言?」
「どうしたら、御影さんの動きに対応できるのか。助言は、禁止されていませんよね?」
「助言、か...」 御影さんは窓の外の景色に視線を移した。遠い目。

 「お前の適性を活かす方法を考えろ。
前にも言ったように、此所では正邪・陰陽を問わず、全ての怪異が力を増す。
勿論お前の体も、その適性も。さて、明日も早い。もう休め。」

932 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:01:43 ID:IsAY9Ieo0
 そうは言われたものの、明日中に進展が無ければ行の完成が危うい状況。
到底寝付ける筈もない。布団の中で考えを巡らす。俺の適性を活かす方法とは。
どの位そうしていたのか。
自分の呼吸音がやけに大きく聞こえてきた。やがて、心臓の音も。
他にほとんど音がない場所、例えば砂漠の真ん中で野宿すると、
そんな風に感じると聞いたことがある。確かに此所は、いや、幾ら何でも音がデカい。
そうか。『此所では正邪・陰陽を問わず、全ての怪異が力を増す。』
此の場所の力を得て聴覚が力を増し、普段は聞こえない音を捉えているのか?それなら...
やはりそうだ。『気配』を探る時のように、チャンネルを合わせるイメージ。
まるで俺の聴覚が庵全体に拡大したように、注意を向けた場所の音を聞くことが出来る。
『言の葉』の適性を持つ術者が力を発揮できるのは『会話』が成り立つ場面。
だから『話す』前に『聞く』ことが不可欠。そして、それは俺の何よりの得意分野。
思わず上体を起こした。右手に注意を向ける。深呼吸、そっと眼を閉じた。

933 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:03:46 ID:IsAY9Ieo0
 拳を握る...聞こえた。種々の雑音に混じって、何かが軋むような、微かな音。
拳をゆっくりと正面に突き出す。雑音に続いて、今度はもっと低い、大きな、音。
もう一度、今度は思い切り拳を突き出そうとした時に、
『それ』が雑音の中からハッキリと聞こえた。
チューニングがズレたラジオのような音。 多分、これだ。 もう一度。
『それ』の後に、軋むような音や低い音が混じって聞こえてくる。
軋むような音や低い音は筋肉と関節が発する音。なら、『それ』は神経が発する音だ。
最初の行は『体』。御影さんが術を使うのでは『体』の行にならない。
それに化生している以上は、此所では御影さんも生身。
それなら幾ら技量の差が有っても、体を動かすしくみは俺と同じ。
つまり筋肉が動く前に...次の瞬間、俺は音の洪水に飲み込まれた。
神経を流れる電流、筋肉の動き。体中を巡る血液の音は、まるで滝の音のようだ。
体全体を震わせる心臓の拍動、それから嵐のような呼吸音。
信じられないほど多彩に、絶え間なく変化する音は『意識』そのものか。
体中の細胞が『生きている!!』と叫んでいる。
まるでそれらは、全ての生命活動が渾然一体となって織りなす、音の、極光。
『生きている』とはどういうことか、それをまた1つ体得したのかも知れない。
それだけで、此所に来た意味がある。

934 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:06:44 ID:IsAY9Ieo0
 構えを取った御影さんの体に、注意を向ける。深呼吸。
...聞こえた。音の高さは俺と違うが、組み合わせは大体同じだ。
そして『それ』が聞こえた直後。
「どうした。じっとしていては、進歩は無いぞ。」
間違いない。これが、鍵。
それからの約一時間、俺は繰り返し『チューニング』を続けた。
投げと打撃、左構えと右構え。注意深く、御影さんの音を俺の音からより分ける。
「駄目、だな。むしろ昨日より反応が遅い。昼食の後で休憩、続きはその後だ。」
「ちょっと、待って下さい。」 振り向いた御影さんは怪訝な顔をした。
「昼食の前に、あと1回だけ。やっと、分かった事があるんです。」
少し目を細めた後、御影さんの表情が引き締まった。
「良いだろう。参れ。」

935 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:08:50 ID:IsAY9Ieo0
 深呼吸、肩の力を抜いて右腕を軽く振る。
全速で右足を踏み込みながら右腕を伸ばした。勿論これはフェイント。
御影さんがフェイントに反応しないのを確かめてから左腕を。 『それ』に耳を澄ます。
聞こえた! この音は、俺の左腕を弾いて、右拳の打撃。思い切り体を左に捻った。
腹をかすめた右拳を、右手で。速い、僅かに上方にずらすのが精一杯。
ずらして出来た隙に左腕を伸ばす。しかし、瑪瑙の冷たい感触で無く、柔らかで温かな。
予想以上の力で左手が巻き取られ、跳ね上げられる。投げ。
堪えて距離を詰めれば背後から右手で。踏み込んだ分、投げの形が崩れた。
しかし、バランスが。まずい。

936 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:10:01 ID:IsAY9Ieo0
 右のこめかみと肩に鈍痛。少し、吐き気がする。

 「大事ないか!」 珍しく、御影さんの声が慌てていた。それが何だか可笑しい。
「大、丈夫です。でも、もう少し。」
「受け身も取らずに、敵を庇うなど...馬鹿か、お前は。」
「いや、御影さんは敵じゃ無いし。それに、御免なさい。あの、さっき、胸に。」
御影さんはそれを俺の右掌に握らせた。冷たく、硬い感触。瑪瑙の、飾り細工。
「適性を活かした、見事な工夫。第一段階は終了だな。今日は、もう休め。」
御影さんは軽々と俺を立たせ、肩を貸してくれた。

937 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:11:43 ID:IsAY9Ieo0
 夢を、見ていた。
旧いお屋敷の庭に咲き誇る赤い花。咽せるような、良い香り。
眼が、覚めた。枕元、すぐ傍に人影。 誰?
その人は俺の枕元に膝をついた。帯を解いて黒い着物をするすると脱ぐ。真っ白な素肌。
何の躊躇も無く、その人は布団の中に滑り込んできた。
滑らかな、暖かい感触が俺の頬を包む。大きな、黒い瞳が俺を見詰めていた。
...御影さん。
「あの、どうして?」
「健康な男子が此処にただ1人。過ごす内に肉欲が積もるのは当然。
そこにつけ込まれぬように。夜伽も、仕事の内だから。」
...ちょっと、待って。確かに、先刻胸に触れた時は少しだけ、でも。
「夜伽って、そんな。」 「気に病むことはない、何も。」
「いや、でも。」 「我では、不足か?」
「不足だなんて。御影さんはとっても綺麗だし魅力的です。
だけど、いくら仕事だからって、御影さんが望んでもいないことを。
御影さんにも、好きな人がいるかも知れないのに。」

938 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:12:57 ID:IsAY9Ieo0
 御影さんは動きを止めた。ホッと息をつく。ギリギリ、セーフ。
『ならば、今、我がそれを望んでいると言えば良いのか?』
...全然、セーフじゃない。
『望むとか望まないじゃなくて。仕事でも、こんなことしちゃ駄目なんです。
それに、御影さんは凄く綺麗だから、御影さんに恋人がいたら、
その人はそれをとても誇りに、幸せに思ってる筈です。なのに、こんな...』
『御前は真の、言霊遣いなのだな。
以前、お前と同じ適性を持つ術者に出会った時と同じだ。
その言葉を聞くと不思議に温かく、同時に不安な心持ち。』
褒められてるのか貶されてるのか、俺は。
『我は口下手だし、未だ旧い想いの熱も冷めぬ。
だから我の記憶を御前に見せる。お前と同じ適性を持つ術者に出会った時の記憶。
その上での判断は、御前に任せよう。』

939 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:18:04 ID:IsAY9Ieo0
 目の前の、澄んだ瞳。細い腕が俺の頭を抱く。
閉じた瞼にキスの感触を感じた後、意識が遠のいた。

 頭が、痛い...召喚?
随分と長い間、寝ていたような気がする。最後に働いたのは何時だったろう。

940 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/15(月) 23:19:55 ID:IsAY9Ieo0
皆様今晩は。再び、藍です。

今夜は此所まで、お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

941 名無しさん :2016/02/16(火) 05:41:25 ID:nxJaLFJIO
投稿ありがとうございました!続きを読めると思ってなかったので嬉しいです^o^-
Rさんモテモテですね。認められなかったらRさん一家が可哀想だと心配になりましたが、大丈夫そうで良かったです。
続きありがとうございます。

942 名無しさん :2016/02/16(火) 20:32:52 ID:O9neFNdMO
御影さんまでRさんに…うらやましい…。Rさんもある意味、一族最強ですね。

943 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 20:53:58 ID:scfGdIuY0
テスト中です。

944 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:01:20 ID:scfGdIuY0
皆様今晩は、藍です。

以下、『契(中)』の残りを投稿致します。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

945 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:02:17 ID:scfGdIuY0
 呪文は続いている。止めてくれ。頭が、割れるようだ。
正直、これなら死んだ方が余程...鬱陶しいが、『契約』は全てに優先する。

 「契約に基づき、汝に命ずる。」
見たことの無い顔。という事は、長の代替わりがあったのか。では、○明は。
「我が契約したのは●◇の家。お前と契約したのではない。」
「私は◆明、●◇の家の長だ。●◇の式を使役する正統な権限を継承している。」
やはり、○明は死んだのか。なかなかに力のある術者で、見所のある男だったが。
「話は聞くが、受けるかどうかは私が決める。」
「もしも、契約に基づく依頼を断ればどうなるか」
「何時でも消える覚悟はある。式となっても、我は殆ど一族の為に働いていないから。
契約に背いた罰則で我を縛れるなどと、思わない方が良い。」
男の右頬がピクリと動いた。伝わってくる、荒い波長。 こんな男が●◇の家の長とは。
暫く寝ている間に、一族には何が起こっていたのだろう。
「その、まさに一族の為の仕事だ。一族の命運を左右する、重要な任務。」
「他の式でなく、我を召喚したのだから、相応の覚悟があるのだろうな。」
「次の当主が決まった。しかしその男は、術者を軽んじ一族の未来を危うくする
危険な思想の持ち主だ。術者の誇りを、一族を守るために、その男を殺して欲しい。」

946 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:03:19 ID:scfGdIuY0
 「そんな思想を持つ者を、『上』と『眼』が次期当主として認証するとは思えないが。」
「術者の育成を巡る考えの違いで、●◇の家は一族を離れた。
その後、奴等の中で術者を軽んじ、力を持たぬ者を重視する輩が力を増した。
『新しい時代に対応した一族の在り方』などと詭弁を弄して、な。
私は、術者の力を尊重し、術者の力で一族の未来を開きたい。力を貸してくれ。」
「次の当主となれば相応の力、返り討ちになる可能性も有るだろう。
しかも式を使って一族の者を殺めれば、お前には血縁相克の大罪。
どちらにとっても割に合う仕事では無いな。」
「割に合う、報酬を約束しよう。成功すれば、契約を解く。つまりこれが、最後の仕事だ。」
「我自身が、報酬か。面白い。」
今更自由を得ても人の身には戻れない。だが、面白いのは、依頼の対象。
それがどんな人間なのか、何故術者を軽んじるのか、知りたい気もする。
そう、今のままではあまりに、退屈だから。
「依頼を受けよう。しかし勝負は時の運。成功の保証は出来ない。

947 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:04:38 ID:scfGdIuY0
 日が沈む。完全に夜の帳が下りるのを待って目的地に移動した。夜こそ、我の時間。
小さな、屋敷。2階建て、部屋の数はせいぜい8つ...本当に、次の当主が、此所に?
屋敷を護る結界はなく、護衛の姿もない。あまりに不用心ではないか。
罠? いや、我に罠など。 笑止...返してみせる。
灯りの点る窓は3つ、2階にはそのうちの1つ。あれが、仕事の舞台。
闇に融けて壁を抜け、家の中に入り込む。そして部屋へ。部屋の中にも護衛はいない。
大きな机、革張りの椅子に背中を預けた後ろ姿。この時間、護衛なしで暢気に本を?
気配を抑えたまま、ゆっくりと近付く。やはり罠ではない。
少なくとも、相応の警戒をするように『上』からの指示があった筈だ。何故、この男は?
じりじりと、距離が詰まる。もう、十分。万が一にも

948 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:05:29 ID:scfGdIuY0
 「少しだけ、待ってくれないかな。」
!? 今、我に、呼びかけたのか? この男は。
「そう、君だよ。どうして僕を殺すのか、理由を聞いてみたいと思ってね。」
その男は椅子ごと、くるりと体を回した。人の良さそうな顔に、悪戯っぽい笑顔。
その目はしっかりと我を見つめている。 閉じた本を机の上に。
『見えるのか、我が?』
「ああ、見えるよ。僕はそういうのが、ちょっと得意なんだ。だけど、『◇話』は苦手。
だから出来れば、声を出して話してくれると有り難い。このままだと、疲れる。」
夜、侵入してきた式と対峙して、それが自分を殺しに来たと知っていながら...『疲れる』?
「自分の置かれた状況は、理解している筈だが?」
「勿論理解してるさ。あっさり君の侵入を許し、その気になれば君は僕を殺せるかも。」
その男は笑った。押し殺した声で、如何にも可笑しそうに。
「これ、かなりマズいよね。」

949 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:06:22 ID:scfGdIuY0
 「何故、笑う?」 罠も、護衛もなし。この状況からどうやって我を。
「だって、僕が今夜あっさり殺されたら、僕を次の当主に選んだお偉い方々の間違いだろう?
だから、『なんであんなのを選んだ?』って大騒ぎになるよ。笑っちゃうね。」
「他人事だな、まるで。」 本当に、その神経は一体どんな。
「確かに、今でも他人事みたいだ。僕が次の当主だなんて。」
また、男は笑った。去勢を張っているようにも、自棄にも見えない。晴れやかな笑顔。
「あ、それで君も此所へ来たんだろう?
僕が次の当主に決まったから、僕を殺せと頼まれた。ね、君にそれを頼んだのは誰だい?」
「馬鹿げた質問だ。その質問には答えを得られないと、分かってるだろう。」
「そう、だね。まあ、大体予想は付いているし。ただ、確かにその人の指示なら、
おとなしく殺されても良いかなと思ってて、だから確かめたかった。」
この家に結界がなく、この部屋に護衛がいないのは。
「わざと、我を侵入させたのか?」
「わざとって言われると心外だな。かなりの手間をかけて君を止める結界を張っても、
ずっと結界に閉じこもる訳には行かない。そして僕が結界を出て襲われれば他人を巻き込む。
それに、無駄死にになるって分かってるのに護衛の術者を置くのは可哀相だろう?
あ、ちょっと失礼。」
ドアの外、廊下を近づいてくる気配...とうに気付いていた。恐らく高位の術者。
もしこの男がそれを隠していたら、術者が加勢に入った瞬間に、まとめて殺すつもりだった。

950 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:08:22 ID:scfGdIuY0
 「○さま、凪です。先程から微かに不審な気配が。念のためお部屋の警戒を。」
「ああ、来客だよ。心配要らない。下がって休みなさい。」 「しかし、今夜来客の予定は。」
男は我を横目で見て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「妙齢の美しい御婦人でね。夜の密会という訳だ。後は察してくれ、朝まで。」
溜息、遠ざかる気配。我の気配に気付くなら相当な術者だが、それよりも。
「本当に、見えているのだな。我の姿が。『妙齢の』と『美しい』は余計だったが」
「見えるって、はじめにそう言ったろ。それに、僕は余計な事なんて言ってない。
僕たちとは年の取り方が違うから、見かけで判断するしかないんだけど。
そうだな、二十代前半、第一級の美人。まあ、勇ましすぎる服が玉に瑕かな。」
「...お前と話してると妙な気分だ。何だか自分の感覚に、自信が持てなくなる。」
「いや、君は自信を持って良い。僕は美人が大好きで、要求水準がかなり高いからね。
あ、そうだ。」 男はまた椅子ごと体を回して机の上から写真立てを取った。
「ほら、凄い美人だろう?これが僕の妻で、娘のSが3歳の時の...御免、脱線し過ぎた。」
「分かれば良い。それで、もう一度聞くが。」 「何、かな?」
「わざと、いや、分かっていて我を侵入させたのは、
本当に『おとなしく殺されても良い』と思ったからか?」
「そうだよ。今も、そう思ってる。」
「当主なら、一族の為に、自身の命を大切にするべきだろう。お前が死ねば、それは。」
駄目、だ。やっぱり感覚がおかしくなってる。我はこの男を殺しに来たのではなかったか。

951 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:10:10 ID:scfGdIuY0
 「僕はまだ当主じゃ無い。それに、君を寄越した人が僕の予想通りなら、
僕が殺される事でその人の憎しみが少しは緩むんじゃないかと思ってね。」
「本家と分家の争いは承知している。普通に考えて、分家に勝ち目はない。多勢に無勢。
戦いを長引かせるだけで、分家はやがて瓦解する。憎しみを緩める目的が分からない。」
「憎しみが緩み争いが終わるなら、それこそが望むべき結果。
一刻も早く争いを終わらせ犠牲者を減らす。それより優先すべきものが有るとは思わない。」

 ...『犠牲者を減らす。』 前に、同じ言葉を聞いた事がある。何時?

 「争いを終わらせるために、お前自身が最後の犠牲者に、なると言うのか?」
「僕たちがどんなに手を尽くしても争いを終わらせる事が出来ないのは、
あの人の憎しみが解けないことも大きな原因だろう、だから。
勿論死ぬのは怖いし、未練もある。特に妻と娘を残していくのは...娘は、まだ6歳だ。」
愛する妻と大切な娘を残して、それでも自らの命を捧げて、争いを終わらせると?

 頭が、痛い。心の底に沈んでいた記憶が浮かび上がり、心の旧い傷が。

952 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:11:14 ID:scfGdIuY0
 「何故だ?言っただろう。戦うなら夜を、我の帰りを待てと、あれ程。」
弱々しい咳。我の腕の中で、その人は真っ赤な血を吐いた。
「太陽が地平線に隠れた直後、敵襲...夜まで待てば、村に残った人達を、だから。」
黄昏時に力を発揮できる亡者が混じっていたのか。一体、どうやって?
「でも、村の人々に、被害は出なかった。力を持たぬ人々の、犠牲を増やしてはならない。
成る可く早く戦いを終わらせ、彼我の、力を持たぬ人々の犠牲を最小限に。
だから、俺と共に戦った術者達は納得してくれたと思う。だが。」
「だが、何だ?」
「お前は、褒めてくれるか?俺たちは村の人々を守ったと。」
「ああ、お前達は、お前は良くやった。お前の力も我が教えた術も、全て越えて。良くやった。」
「そうか、なら」
我の腕の中で、あっけなく、その人の体から力が抜けた。
何故だ? 何故だ...
村の人々を守っても、お前を失ってしまったら、我はどうすれば良い? これから。

953 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:12:16 ID:scfGdIuY0
 「今、一体何と?近しい者を奪われた憎しみに呑まれれば、結局お前も闇に。」
「いいえ。憎しみに呑まれてなどおりません。ただ、あの御方の言葉を実現するために。」
そう、あの人は言った。『成る可く早く戦いを終わらせ、彼我の犠牲を共に最小限に。』と。
「どうか『黒の宝玉』を我に。宝玉の力で変化し、成る可く早くこの戦を終わらせましょう。
敵味方に関わらず、力を持たぬ人々の犠牲を最小限に、それが、あの御方の願いでした。」
「いくら類い希な『適性』を持つとは言え、女子の身で、其処までせねばならぬとは。
それにもし失敗すれば其方は、それではあまりに、過酷な...」
「女も男も、問題ではありませぬ。当主様のお慈悲は、どうか、あの御方と我の菩提の為に。」
「承知した。戦が終わったら◎✕とお前を偉大な先達の列に。」
「有り難う、存じます。」

954 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:13:23 ID:scfGdIuY0
 遠い、記憶。あれから、どれだけの時が流れたのか。
まさか今また、同じ言葉を。ならば我は。
「家族の話を聞いたから言うのではないが、犠牲などという考えは止めた方が良い。
あの男の頭の中には争いを終わらせるなんて考えは全くない。
あの男は本家の人間を殲滅して争いに勝つ事しか考えていないから。
それはあの男が組織した戦闘集団の術者たちも同じ。完全に洗脳されている。」
「そうか、なら別の手を...あれ?
君は僕を殺しに来たんだろう?どうして僕にそんな事を。」
「お前を殺すのは、気が進まない。正直に言えば、お前を殺したくない。」
「でも、契約に基づく仕事だから、もし違反したら君は。」
「我が消えても大した影響はないが、お前が死ねば、一族は未来を失う。そんな気がする。」
そう、もう潮時かも知れない。あの戦いの為に変化したが、
戦いの後、人外と成り果てた我が身を式としたのは、偏に一族を守るため、それなのに。
我の力を恐れる術者は、我に任務を与えることをも恐れた。
大した仕事も出来ず、挙げ句の果てに、一族の者の暗殺を請け負うなど、本末転倒。
長い時間の内に、我の感覚は曇っていたのだろう。

955 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:14:34 ID:scfGdIuY0
 「『●△の大難』から一族を救った式を失うのは惜しい。君が美人だからと言う訳でなく。」
「お前は我を、知っているのか。」 背筋が冷える、それなら事前に対策することも。
「君を寄越した人の予想が付けば、寄越す式の予想も付く。分家、いや、一族最強の式。
一族の大難に際し、黒の宝玉を身に着けて変化となり、多くの敵を倒した。
敵の反撃で黒の宝玉が欠け、変化を解くことは出来なくなったが、
それでもなお一族を守護する誓いを立て、自ら式となった。真に偉大な術者。
その功績と名誉は今も大切に、確実に伝承されている。
だからこそ君に、一度会ってみたかった。君になら、殺されても良いと思った。」

956 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:15:24 ID:scfGdIuY0
 「昔の、話だ。今はこのような任務を請け負う程、堕落した影に過ぎない。」
「君が堕落したんじゃない。堕落したのは契約を引き継いだ術者達だ。
契約の効力を一族全体の為でなく、一部の者の偏狭な考えの為に利用した。」
「契約がある限り、従う。だが、お前を殺すくらいなら、契約ごと、我が消えよう。」
「今此所で、契約を解除する方法がある。」 「まさか、一体どうやって?」
契約の当事者双方が同意しない限り、契約を解く事など。
男は机の引き出しから白木の小さな箱を取り出した。幾重にも施された厳重な、『封』。
「僕たちは史実を伝承するだけでなく、何世代にも渡ってずっと探し続けて来た。
一族の大難を救ってくれた恩に報いるために。 そして去年、とうとう見つけた。
一度は確保しながら、戦いの後の混乱で行方知れずになっていたもの。
あの戦いに協力した土着の術者の家を経て、小さな資料館の収蔵庫に保管されていた。
それが此所にある。失われた、『黒の宝玉』の欠片。
これがあれば、君は契約当時の君ではなくなる。つまり、契約は自動的に失効する。」

957 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:16:15 ID:scfGdIuY0
 既に宝玉と融合した体の変化を解くことは出来ない。
だが、失われた欠片を補えば変化が完成し、変化に許された力を全て使う事が出来る。
確かに、契約も失効する。しかし。
「何故だ?何故最初からその話をしなかった?何故わざわざその命を危険に曝した?」
「...確かめたかった。」 「何を、だ?」
「自分に当主たる器が有るかどうかを。
もし君に殺されるなら、僕には器がないという事だから。」
「変化が完成すれば、お前は絶対に我を殺せない。それなのに。」
「だから言ってるだろ。殺されるのは僕に器がないからで、それは僕自身の責任だ。」
その御方は白木の箱に触れて一気に封を解いた。躊躇無く、その蓋を取る。
「さあ、取り給え。これは、君の物だ。」

958 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:17:12 ID:scfGdIuY0
 「それで、確かめた結果は?」
「...僕に、当主の器があるということなのかな。あまり、気は進まないけどね。」
「気が進まないのでは困る。お前が当主にならなければ、契約は発効しない。」
「え、契約って。それはさっき失効したから君は。」
「新しい、契約だ。お前は美人が好きだと、そして我を美人だと言ったな?」
「確かに、そう言ったけど。」
「ならば、よもや我の願いを断る事はあるまい。」
足下に膝を折り、その御方の左手に口づけた。
「尊き御方。我が名は◎✕◇。
貴方様に従い、貴方様を守るとお誓い申し上げる。どうか我を僕に。」
「ええと、その、気持ちは嬉しいんだけど。契約はちょっと。」
「何故?」
「だって、勝手に君の契約を解除して、おまけに君を僕の式にしたと知れたら、
あの人は怒り狂うに決まってる。戦いを終わらせるのがもっと難しくなるよ。
あっさり僕を殺して、少しは溜飲を下げるつもりだったろうから。」

959 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:18:37 ID:scfGdIuY0
 「貴方様の僕になれないなら、我の力は無用の長物。生きる意味も無い。
ならば、せめて戦いを早く終わらせるよう、あの男を」
「待った。契約していなければ僕は血縁相克の大罪を回避できるけど、
あの人を殺したら、君は一族全体の仇として報復の対象になってしまう。
契約した術者を殺すなんて、それは式として絶対に。」
「望むところ。それがどんな相手でも反撃はしない。心穏やかに、座して死ねる。」
そう、この御方が、我に対し反撃の手段を全く用意していなかったように。
「参ったな。正直、君の契約を解いて自由の身にする所までしか考えてなかった。
恐らく君は、愚かな人間達の無益な戦いに辟易しているだろうと思っていたからね。」
「人は愚かかもしれない。だが我はその愛しさに賭ける。我も、かつて、人であったから。」
重い沈黙の後、その御方は深呼吸をした。
「さっき話した問題点を解決して、君の希望を叶える方法は1つしかない。
君が僕の暗殺に失敗して死んだ事にする。『上』を通してそう発表するんだ。
『分家の式が次期当主を暗殺しようとしたが失敗した。式は死んだ。』と。
死ねば契約は解除されるし、契約が解除されればあの人は君の動向を把握出来ない。
暗殺失敗には怒るだろうけれど、それは当然想定すべき結果だ。
でも、君にとっては相当な不名誉だよ。君ほどの式が任務に失敗するなんて。」

960 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:19:32 ID:scfGdIuY0
 「貴方様に負けた。それで良い。名誉など要らぬ。」
「本音を言えば、君が助けてくれるなら本当に心強い。でも、契約するには条件がある。
君は当分対外的な任務には関わらない。出来る限り、君の存在を隠すためだ。どうかな?」
「御意。」
「では、君の新しい呼び名を。ええと。そうだ、
君は決して堕落した影なんかじゃない。だから、みかげ、御影はどうかな?」
「有り難う存じます。」
その御方の、照れたような笑顔が眩しい。
「それで...御影は、出来ればこれからずっとその服でいて欲しいな。凄く、綺麗だから。」
「御意。」 全てこの御方の、仰せの通りに。

961 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:20:55 ID:scfGdIuY0
 今日も水平線に陽が沈む。
夜の帳が下りれば、彼方此方の影に拡散していた我の感覚は1つに繋がり、
この場所を覆う大きな傘となる。この場所から少し離れて、あの御方のお社とお屋敷。
あの御方は本当に、敵対する術者の殺害を我に命じなかった。
あの御方の命を狙い、以前の私を差し向けた、あの狂った男の殺害さえも。
私に与えられた御役目は、『聖域』の境界の守護。
この場所を護り、この場所から『聖域』に侵入しようとするモノを排除する。
ふと、感覚の端に違和感。星影に紛れた、微かな、気配。
「秋津殿、戯れが過ぎると、今に間違いが起きよう。そうなっても、責任は取れない。」
「見破られたか。さすがは御影。これなら『聖域』は安泰。安心して隠居出来る。」
我の前任者、一族の黎明から今までを見守ってきた、最古の式。
「して、本日は何の御用かな?この所、穢らわしい船で近づく不心得者が増えて忙しい。
正直、暇な御老体の相手をしている暇は無いのだが。」
「綺麗な顔をして、相変わらず取り付く島も無い。せめてもう少し愛嬌があればの。」
「もし我に一片の美あれば、それはあの御方のため。他の誰のためでもない。」

962 『契(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:23:13 ID:scfGdIuY0
 「...しかし其方がどれ程想いを掛けようと、あの御方は人の身。
その真心も、美しい漆黒の衣も、報われる事はあるまいに。」
「既に全てが、報われている。それにもし報われずとも、我の心は変わらぬ。」
「まあ良い。美味い酒が手に入った、夜光の杯もこの通り。付き合うてくれ。」
「肴を用意しよう、今の季節なら。」
「錆び鮎の塩焼きかな、茸の蒸し焼きもあれば猶良い。」 「贅沢な年寄りは嫌われる。」
「そう言わずに。ほれ、一献。見よ。望月が美しい。何度見ても、な。」
確かに、何度見ても美しい。これから何百年の後もずっと。だが、何時かあの御方は...
いや、今は考えない。ただ、日々心を込めて、あの御方に与えられた任務を果たす。それだけ。
そう今は、それだけで良い。

『契(中)』 了

963 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 21:26:40 ID:scfGdIuY0
皆様今晩は、再び藍です。

無事『契(中)』の投稿を終える事が出来ました。
(下)以降を投稿することが出来るかどうかは未だ分かりませんが、
此所までお付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
本当に有り難う御座いました。

964 名無しさん :2016/02/16(火) 22:23:41 ID:nxJaLFJIO
投稿ありがとうございます!
Sさんのお父さんはとても魅力的な方ですね、覚悟や責任感や器など色々なものが偉大です。凄いです。
憎しみに憎しみを抱く未熟者なので、尊敬します。
「伝承」は本当に大切ですね。明治維新後の伝承の途絶え方に途方に暮れているところです。
それでも歌や昔話や遊びにヒントを残して下さったご先祖様方に感謝です。

本当に続きの投稿ありがとうございました。とても興味深かったです。

965 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/16(火) 22:51:43 ID:scfGdIuY0
藍です。

早速のコメントを頂き、とても嬉しく思います。込み入った事情があり、
個別の返信は控えておりますが、全てを有り難く拝読しております。
多くのコメントを頂き、(下)以降を投稿する事が出来れば嬉しいです。
きっと皆様のコメントが、説得材料になると信じています。

では、今夜はこれにて。ご機嫌よう。

966 名無しさん :2016/02/17(水) 00:21:00 ID:ZYr84F8s0
ご投稿に感謝致します。
美しき式,美しき魂,そして時代を超えて紡がれるその美しき物語。
今回の物語の行方がRさんの五日行にどうつながっていくか,本当に楽しみです。

967 名無しさん :2016/02/17(水) 00:40:23 ID:dDULxibc0
ふむ。黒の宝玉は破壊されたのではなく憑代になっていて輪廻の円環から外れた術者を作り出した事
南の守護の為に北が役目を得ている構図と韻を踏んでいると思ったのだが。
黄龍に従うとは形式上のものであったのか。

壬申の乱だとしたら背景を今一度練り直さねば。

968 名無しさん :2016/02/17(水) 20:41:21 ID:dDULxibc0
御影さん視点の物語ですか。コレイイ。川の神様とかのもあるのかな。
しかし・・恐れられていたという事は恐れられるような事をしたという事であって
一体何をやらかしたんでしょうなぁ。仕事の依頼が少なかったってことろは少し気になる

969 名無しさん :2016/02/19(金) 01:49:06 ID:2WQC3Qw2O
(;´д`)みかげさんは
男性的なイメージでした

一新しました

970 名無しさん :2016/02/23(火) 00:06:41 ID:BRsgbXo20
まだかなぁ〜

971 名無しさん :2016/02/26(金) 14:26:22 ID:ab2duLI60
かなあ〜

972 名無しさん :2016/02/26(金) 14:45:49 ID:JCzLFX5A0
まあ のんびりお待ちしましょう(^v^) 気持ちは分かりますが〜

973 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/26(金) 21:39:32 ID:/gDcHzP60
テスト中です。

974 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/26(金) 21:42:30 ID:/gDcHzP60
 眼が、覚めた。腕の中の、温かく滑らかな感触。
Sさんか姫、でなければ翠。 そっと抱き寄せて...いや、待て。そういえば昨夜。
一気に高まった鼓動に混じって聞こえてくる、これは、寝息?
その寝顔は何だか可愛くて、安らかで、見ているだけで胸の鼓動が静まっていく。
自分の事だけでいっぱいいっぱいだったから思いが至らなかったけれど、
ここへ来てから御影さんは何時、いや、そもそも寝ていたのか。
『特に寝る必要はない』と管さんから聞いた事がある。『必要ならずっと起きていられる」と。
でも管さんとは違う。『生身の体に化生したのは初めてだ』と御影さんは言った。
それなら、こんな風に眠るのは一体何年振りなのか。
あの四股の効果はまだ続いているから、何の問題も無いのだろうけれど、
それにしてもこんなに無防備な寝顔を。もう少しでも寝てもらった方が。
その時、微かに身じろぎをして御影さんが眼を開けた。
「朝か?」 「いいえ、まだ夜明けまではもう暫く。」
「とても、気持ちが良い。もう少し寝かせてくれ。」 「はい。でも、今日の行は。」
「今日の行は、問題なく」 言い終わらない内に、寝息が聞こえた。

975 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/26(金) 21:43:49 ID:/gDcHzP60
 「『寸鉄人を殺す』の例えはこの術が出所だという話がある。
初めは蝋燭の火を消す。かわらけを割れるまでになれば充分。
此所では力が増しているし、恐らくお前はこちらの方が得意だろう。半日もかかるまい。」
言霊に物理的な影響力を与え、必要なら弾や刃としても使えるようにする術。
御影さんの言葉通り、その日の行は滞りなく成就した。
此所を出て力が元に戻れば、多分蝋燭の火を消すのがせいぜい。
でもきっと、依頼人に見せる手品代わりにはなるだろう。
それよりも適性を自分で細かく制御できる技術を習得した事に重要な意味がある。
(もちろんこれも御影さんの受け売りなんだけれど)

 翌日は5日め、いよいよ最終日。
 『五日行』が成就するかどうかは、最終段階の行の成否による。
ただ、その行は夜が更けてから始まるのだそうで、
御影さんは朝食の後出かけたまま、夕方前まで帰ってこなかった。

976 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/26(金) 21:45:09 ID:/gDcHzP60
 夕食の後、風呂。暫く部屋でボンヤリしていると、御影さんに声を掛けられた。
予め指示されていた白い道着に着替え、昨日まで修行していた板の間に移動する。
俺と御影さんは正対する位置で胡座をかいていた。
蝋燭の明かりが、御影さんの端正な顔をゆらゆらと照らしている。
「簡単に説明すると、今からお前はこの庵を出て更に登り、山頂を目指す。
その途中で幾つかの試練が用意されている。
最後の試練は山頂近く、小さな祠の前。其処で夜明けを迎えられれば行は成就。
案内の者が現れる筈だから、その者に着いていけ。」
此所を出るって事は...。

977 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/26(金) 21:46:36 ID:/gDcHzP60
 「それだと、御影さんが張った結界を出ることになりますね。」
「当然だ。様々な怪異がお前の行く手を遮ろうとするだろう。
だが、決して振り向くな。そして、引き返すな。何としても最後の試練を乗り越えろ。
もしも、それが...」
「最悪の場合、僕を処理する。そこまでが、御影さんの仕事なんですね?」
あの夜、乾杯した時に俺なりの覚悟はしていた。あれは、水杯。
御影さんは立ち上がり、背後に廻って俺を抱き締めた。
「無事に戻れ、必ず。お前を、殺したくない。」
背中に感じる温もりが急速に薄れ、ぞっとするほど冷たく。
『行け、時間だ。』 太く、低い声が響くと同時に、背中の感触は消えた。

978 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 01:20:33 ID:ifWbxSHQ0
 庵を出て、山道を登る。思った程、妖の気配は強くない。
ただ、山道の斜度がきつくて、登り続けるのがかなり辛い。
次第に道も悪くなる。まさかこれが1つめの試練という事は無いだろうが。
暫く上ると道はやや平坦になった。額の汗を拭い、ペットボトルの水を飲む。
濃い霧の中、LEDの小さな懐中電灯が照らす範囲以外は、白い闇に閉ざされている。
一体、道を外れたらそこは。その時、それが聞こえた。俺の背後からやや離れて、足音?
思わず振り向こうとして、御影さんの言葉を思い出した。
『決して振り向くな、そして引き返すな。』
歩きながら耳を澄ます。気配は1つ。しかし、その足音。
少なくとも人ではない。絡まり合った足音に、何かを引き摺るような音が混じっている。
ゆっくりと、ゆっくりとそれは近づいて来た。 もうすぐ後ろ、何だか寒気がする。
ふと、笑みが浮かんだ。これでは、まるで同じだ。何も変わっていない。
子供の頃、夜道を通って家へ帰る途中、怖くて怖くて仕方なかった。
闇の中に、得体の知れない恐怖が潜んでいる気がして。しかし。

979 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 01:26:16 ID:ifWbxSHQ0
 『本当に怖いのは、人の心の闇。』
そう、今なら俺は知っている。救いの無い真の闇が現出し得るのは、人の心の中だ。
それに今俺の後ろに感じる気配は、子供の頃に想像した闇に潜む恐怖そのもの。
それに気が付いた時、背後の気配は消えた。
最初の試練は俺自身の弱さが生み出した幻、あるいは俺の弱さにつけ込もうとした妖か。
どちらでも構わない。今はただ、前へ。次の試練へ向かうだけ。
その後も幾つかの怪異が現れたが、俺は御影さんの言いつけを守った。
決して振り向かず、引き返さず、道とも言えぬ細い道をただひたすら前に。
気味の悪い呼び声。助けを乞う血まみれの女性。子供騙し、だと思った。
此の場所に満ちる気で怪異は力を増している筈なのに、こんな。
現れる妖たちが何故これ程見え透いた手を使い、いとも簡単に引き下がるのか。
そう、修行の効果で俺の力が増している。化生していたとはいえ一族最強の式に、
あの御影さんに修行の相手をして貰ったのだから、誰も俺の行く手を阻む事は出来ない。
自信の裏に生じた微かな慢心。思えばその時から、俺は危険な陥穽に踏み込んでいた。

980 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 01:30:12 ID:ifWbxSHQ0
 さらに歩き続け、11時を過ぎた頃、辺りの様子が変わった。
LEDライトで周りの様子を確かめる。草一本生えておらず、獣道のような痕跡も見えない。
ライトを右に向け、次に左。視界の端に何か見えた。小さな祠。
此所が、最後の試練の場。
歩み寄り、深く一礼。祠に背を向けて胡座を掻き、目を閉じて心を静める。
...ピチ...キン。冷えた岩が収縮する音。口笛のような高い音は岩の間を縫う風の声。
ゆっくりと、静かに時間が過ぎていく。一体どの位経ったろう。
このまま朝を迎えられればお屋敷へ帰れるし、今後もこの手で翠を育てる事が出来る。
そしてもし、藍や丹が優れた素質を現し始めたとしても、俺の資質が問われることは無い。
翠は、藍は、どうしているだろう。早く、一刻も早く帰りたい。その思いが隙を生んだ。

981 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 01:33:14 ID:ifWbxSHQ0
 目の前に並んだ、小さな背中が2つ。見覚えのある、懐かしい景色。
「お父さんがいなくて寂しいね。翠は、お父さんが大好きなのに。」
「あのね、あいも、おとうさんだいすきだよ。」
「藍は男の子でしょ。翠は女の子だから、藍の好きとは違うの。」 「ちがう、すき?」
「そう、翠は何時かお父さんのお嫁さんになる。そして可愛い赤ちゃんを産むんだから。」
酷い目眩。確か、前にもこの光景は。あれは何時だったろう?

 「お父さん。」

 女の子が立っていた。7・8歳くらい?初めて見る顔と姿。
でも、確かに残る面影。間違いない、翠が成長した姿。
『あの人』の生まれ変わり、しかし宿った肉体が違うのだから成長した姿も「あの人」とは違う。
「修行が上手くいって良かったね。一緒に帰ろう。お屋敷に。」
歩み寄り、話しながらその姿は成長していく。 15・6歳? 綺麗だ。
「お屋敷に帰ったら、私をお父さんのお嫁さんにして。」

982 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 01:35:43 ID:ifWbxSHQ0
 目の前に浮かぶ、美しい顔。潤んだ眼と、紅い唇が艶めかしい。
全身全霊をかけて育てる。そう誓った。では、育てた後は?
成長した後も、その願いが変わらないとしたら俺は...
いや、そもそも俺はその願いが変わることを願っているのか。もしも。
「今度こそ、きっと...R、さん。」
一瞬で、俺の心は覚めた。 『あの人』の記憶は完全に封じられたのだから、
翠が俺を『R』と呼ぶことはあり得ない。
御影さんの言った通り、これは俺の弱さと醜さ。
右掌に甦る、柔らかな温かい感触。心のずっと奥、未だ癒えぬ傷口。
分かってる。 助けたかった、叶えて上げたかった。 心残り。
弱く、醜い。 本当に俺が翠の父親としてふさわしいか、それは自分自身で判断すべき事。
もし俺が此所で死ぬのなら、俺には資格が無かったと言うだけ。
肩の力を抜き、深く息を吸う。

 『・・・ ・・・ ・・・・・』

 雷鳴を、聞いた気がした。 しかし雨の一粒も、黒雲が生む強風も、何一つ。
そして何時の間にか、暁の空が夜明けを告げている。

983 『契(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 01:41:07 ID:ifWbxSHQ0
 「まさか今の世に、『五日行』に挑む者がいるとは。長生きはしてみるものよ。」
小さな笑い声。振り向くと、灰色の法衣を着た老人が立っていた。これが、案内の。
「あきづ、だ。おや?」 老人の右半身。輪郭がぼやけて、やがて戻った。
「やれやれ、化生も満足に、年は取りたくないのぉ。さ、ついて参れ。」
発言に矛盾がある気もするけど、『あきづ』って、確か昨夜の。
「既に儂の名を。ふむ...あの唐変木に気に入られたか。何と不思議な。」
やはり、御影さんの記憶にあった一族最古の式。
それからは2人、黙って、険しい斜面を登り続けた。道とも言えないガレ場が続く。
空は次第に明るさを増した。たどり着いたのは少し開けた場所。
相変わらずの濃い霧で様子は分からないが、視界全体がボンヤリと明るい。
周りに明るさを遮る影は見えないから、きっと此所が山頂。
そして、その場所の中央近くに小さな祠。
「千年あまり前、此所に術者を1人案内した。それが、お前達の一族の開祖。」
小さな祠の後ろには大きな岩があり、その脇に...泉?
1m四方ほどの深み。清らかな水を湛え、そこから一筋の水が流れ出している。
「近付いて水底を見よ。ただし、まだその水に触れてはならん。」

984 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 02:04:16 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、藍です。

少々トラブルも有ったのですが、本日予定の投稿を終える事が出来ました。
続きは明晩以降、成る可く早くにと考えております。ではまた。

985 名無しさん :2016/02/27(土) 14:54:23 ID:YIuLBkikO
待ちに待った投稿、知人さん藍さん大変ありがとうございました。五日行の続きを心から楽しみにしています。

986 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:16:06 ID:ifWbxSHQ0
テスト中です。

987 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:18:26 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、藍です。

以下、『契(下)』以降を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

988 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:20:01 ID:ifWbxSHQ0
 険しい山頂に湧く泉、それだけで既に俺の理解を超えている。一体、水脈は?重力は?
『触れてはならん』という言葉には、当然その理由があるのだろう。気を抜くことは出来ない。
慎重に、流れ出しの反対側から泉に近づく。深さも1mくらい?思っていたよりも深い。
水面の反射を避け、ほぼ真上に身を乗り出した時、『それ』は見えた。
水底、他の石とはまるで違う。透き通る濃い黄色という言葉でしか表現できない。
これに比べれば琥珀やトパーズは黄色ではなく、茶色。
今まで、こんな色の宝玉を見たことは無い。そして何より、この形。
「見えるか。」 「はい、今まで見たこともない...何て、言ったら良いのか。」
そう、言葉が無い。俺の適性こそ『言の葉』なのに。
左、右。老人は首を大きくぐるりとまわし、ため息をついた。
「この宝玉が開祖を所有者と認め、代々の世嗣がその力を継承する事を許した。
それがお前たち一族の始まり。以来、開祖を此所に案内した儂は『眼』と称された。
秋津という名とは別にな。それが、あの御方が儂に残してくれた、一番の名誉。」
『眼』、御影さんの記憶に、確かその言葉も。 あきづ=眼=この老人。

989 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:22:47 ID:ifWbxSHQ0
 何時の間にか、老人は小さな柄杓を手にしていた。泉の水を汲み、それを俺に。
きっとこれは『手水』の作法、正座をして深く一礼、右手で柄杓を受け取った。
今まで数えきれぬほど、体に染み込んだ所作。自然に、遅滞なく体が動く。
その水を口に含んだ時、俺は『五日行』の意味を理解したのだと思う。
そして恐らく、当主様の意図を。
「必要な修練を積まぬままでも、『力』を現し術を使う者は希におる。
術者を鍛え育てる手段を忘れた旧い家系、術者の家系以外でも変わり者は生まれるから。
大抵は極く簡単な術しか使えない、基本的な修練を積めば済む者たち。
しかし『奥義』に近づく事が出来る力となれば話は別。
これは、失われた時を埋めるための行。十数年を五日で、無理は承知の荒行。
例え試練を乗り越えても、宝玉に拒まれれば、灰も残らず焼き尽される。
さあ、戻ろう。既に使者が、いや、迎えの者が待っている筈だ。」
使者、か。この行を成就出来たかどうかを知るための。
それはそうだ。もし俺があの水で焼き尽くされたなら...自然に笑みが浮かぶ。
「まるで、他人事だな。ところで、聞きたいことがある。」 「はい、何でしょう?」
すいすいとガレ場を下るその老人を、遅れないように追いかけた。

990 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:23:56 ID:ifWbxSHQ0
 「妖が見せた夢だと見破りながら、あの答えを選んだのは何故だ?」
「選んだ訳じゃありません。僕の中の答えは、あれだけでした。」
「...成る程、あの唐変木がお前を。」 「唐変木で、悪かったな。」
俺の右隣を御影さんが歩いていた。下って行く道の先に、あの庵が見える。
「御影さん、有り難う御座いました。お陰様で。」 「うん。」 小さな声、前を見て歩き続ける。
しかし『一族最古』と『一族最強』。 何で俺が、こんな豪華なシチュエーションに。
庵を通り過ぎても老人と御影さんは歩みを止めない。2人の後を追う。
「まさか、御自ら?」 「五日前も、そうだった。そういう、御方だ。」
??? 何の、話?
5日前、此所に来た時車を降りた場所に出た。やはり、あの時と同じ車。
2人が立ち止まり、揃って片膝を着いた。深く頭を下げる。一体、何?

991 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:26:09 ID:ifWbxSHQ0
 運転席のドアが開き、男性が降りてきた。あの時の、でも今日はマスクとサングラスが。
!! あの時に気付いていた筈なのに、何故? 当主様なら、その気配だけでも俺は。
いや、今はそれどころじゃない。慌てて御影さんの右隣で片膝を着いた。
「まずは御影、Rの行が無事成就したのはお前の指導有っての事。礼を言う。」
「いいえ、私はただ。」 俯いた御影さんの頬が紅に染まっている。とても綺麗だ。
「それで、Rをどう見る?」
「その来歴故、最高位の術者としては未だ非力、心に巣くう虚も看過できません。」
「未だ荷が、重いかな。一族の希望を託すのは。」
「いいえ、時が経てば力は増し、想いが虚を満たしましょう。肝要なのは一途な情。
ならばこの者は一族の宝を託すに最適な術者。
一途な情の織りなす揺り籠、その強さと暖かさは余人を持って代え難し、と。」
「そうか、なら良い。Rにこの行を課した甲斐がある。」
当主様は微笑んで体の向きを変えた。

992 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:27:36 ID:ifWbxSHQ0
 「さて秋津、何を見た?我が一族の『眼』が見たものを教えてくれ。」
「来たるべき者。既に生まれ、目覚めを待つ者。」
「そう、か...今後私がこの任を担うべき時間は?」
「十二乃至十五年。それまでは、どうか。」
「長いな。それまで私は生きていられるか。」 「いざとなれば...」
御影さんと老人の姿がゆらりと薄れる。
老人の最後の言葉は聞き取れなかったが、当主様は微かに笑みを浮かべていた。
「さて、出発だ。皆も着いた頃だろう。」 当主様は踵を返した。慌てて後を追う。
『皆も着いた頃』って? 皆は今、何処に?
「もしお前を失えばSは正気を保てないかもしれないと、桃花の方が。
それで今朝、皆で私の館へ来るように伝えて置いた。
勿論お前ならきっと成し遂げると信じていたが、
最悪の事態に備えるのが私たちの仕事。気を悪くしないでくれ。」

993 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:28:31 ID:ifWbxSHQ0
 「気を悪くするなんてとんでもありません。それより運転は、どうか私に。」
「いや、それは危険だ。此所を出れば一気に疲れが出るし、死ぬほど、痛いぞ。」
イタズラっぽい笑顔。 俺は先回りして運転席のドアを開け、膝を着いた。
当主様が乗り込むのを待ってドアを閉め、後部座席に乗り込む。
「あの、当主様、質問があります。」 「御影のことか?」
「はい。御影さんは当主様のことが好きなのに、何故御影さんの気持ちを。」
「御影の心には今もある御方がいて、私にその面影を見ている。
未だ心の古傷が癒えていないなら、心残りに縛られるのも無理は無い。」
そうか、御影さんの記憶。 御影さんの腕の中で息を引き取った、若い男性。
「当主様なら、きっと御影さんの傷を癒やせると思います。」 そう、御影さんは確かに。
「御影に宝玉の欠片を返したのは私の独断、当然異論も有った。
だから万に一つも、誤解を生みたくない。」

994 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:30:08 ID:ifWbxSHQ0
 「誤解、ですか。」
「もし私が御影の想いを叶え此の場所に通っていたら、誤解する者が出ただろう。
『御影は好きな男のために寝返った。』と。今後も、それだけは避けたい。
私への想いとは関係なく、御影は一族に取って最良の選択をしようとしたのだ。
『●△の大難』を終わらせ、力を持たぬ人々を救うと心を決めた。
だから宝玉の器に変化して敵の主力を単騎で壊滅させ、
更に『●△の大難』の後は自身を式として一族を護ってきた。
その名誉を傷つけることは絶対に許されない。それに。」
一瞬、バックミラーの中から、当主様の視線を感じた。
「御影はお前にも、その御方の面影を見ている。そしておそらくお前の方がその御方に...
傷を癒やすのはお前の方が適任だし、お前が相手なら、要らぬ誤解をする者も出ない。
どうだ、時々は此所で御影と暮らしてみるか?それならあの庵をお前にやろう。」
「いや、でもそれは。あ、済みません。動転して失礼な物言いを。」
「冗談だ、気にするな。御影の傷が癒えれば良いとは思うが、互いの気持ちが最優先。
それに、『代役』が御影の心の傷を癒やせるかどうか、正直分からない。
ただ、癒えぬ傷の痛みに耐える強さを御影は持っている。そしてそれはお前も同じ。
傷の痛みに付け込まれても、闇に飲まれることは無いと自ら証明した。
そして、同じ傷の痛みに耐えている者だからこそ出来る心遣いがある。」

995 契(下) ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:31:01 ID:ifWbxSHQ0
 「お前なら、『同情』でなく御影に『共感』できるだろう。
これからはどうか、御影の良き友となってくれ。それだけは、頼む。」
「身に余、あっ...」 全身に激痛、息をするのも辛い。これが。
「境界を越えて体の強化が解けた。打撲の痛み、筋肉痛。
あと疼痛というか神経痛も。暫くすれば薄れてくる、それまではひたすら我慢。」
当主様の口調はいかにも気の毒そうだが、それも、正直少し恨めしい。
それから一時間あまり、俺は後部座席でのたうちまわった。

『契(下)』 了

996 『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:32:55 ID:ifWbxSHQ0
 「それで、『来たるべき者』と『目覚めを待つ者』については詳しく聞かなかったのね?」
「はい。話の感じと12〜15年っていう期間で、次の当主の事だと思ったんですけど。」
「ええと、翠ちゃんは女の子だから関係ない、と。」 「はい。」
Sさんと姫は黙って顔を見合わせた。 何となく気まずい、間。
「話してなかったから仕方ないけど、当主は男性って決まってる訳じゃ無い。
実際、今までに何度か女性が即位した例がある。
そういう場合は桃花の方を男性が務める。その女性の夫や兄弟、あるいは従兄弟。」
一気に血の気が引いた。 「じゃあ、もしかしてあの話は翠の?」
「それだけじゃない。藍にも、丹にも、可能性がある。」 「そんな、まさか。」
「可能性の話です。つまり、Rさんの行が成就した日にその質問をなさったのだから、
Rさんに関わりが有ると考える可能性が高い。そういう解釈も出来ますから。」
もし自分の子が...いや、慌てる必要は無い。当主様の代替わりは何時か必ず起こるのだし、
一族はそうやって千年余の命脈を繋いできた。それなら。

997 『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:35:33 ID:ifWbxSHQ0
 「その可能性があるとしても、今までの生活を変える必要はありませんね。」
「...どういう、こと?」 呟くようなSさんの声。姫も黙って俺を見詰めている。
「子供たちを一生懸命育てて、その資質が開花すれば、当然術者への道が開ける。
術者として更に成長した結果がどうあれ、受け容れる覚悟は必要です。
もし『それ』が3人の内の誰かなら、僕たち3人が出来る限りのサポートをすれば良い。
SさんとLさんは、あの子たちを産む時に、その覚悟をしてたんでしょう?
お待たせしました。僕もようやく、その覚悟が出来ました。」
2人は代わる代わる俺を抱き締めてキスをしてくれた。
その涙の美しさを、俺は一生忘れない。
そう、必要ならこれからも、どんな行にだって挑むことが出来る。
「ところで、子供たちの教育のために、考えていた事があるんです。」
Sさんと姫は涙を拭って俺を見つめた。

998 『契(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:36:23 ID:ifWbxSHQ0
 それから一週間程して、俺たちは雪をお屋敷に引き取った。
翠の仲介もあったのか、雪は管さんや鵬とも上手く馴染んだ。
晴れた日の午後、ウッドデッキで日向ぼっこをする狐と巨大な猛禽と秋田犬。
それぞれの大きさからして遠近感が滅茶苦茶な、不思議で心暖まる風景。
もちろん、家族皆が雪を愛し、あの妖が授けてくれた寿命が尽きるまでの2年間、
雪は俺たちに沢山の笑顔をくれた。 そして。

『契(結)』 完

999 ◆iF1EyBLnoU :2016/02/27(土) 20:39:47 ID:ifWbxSHQ0
皆様今晩は、再び藍です。

色々有りましたが、『契』の投稿を無事に終えることが出来ました。
大幅な書き換え等は有りましたが、投稿の許可を頂けて良かったです。
全て、皆様のコメントの御力故。有り難う御座います。

1000 名無しさん :2016/02/27(土) 21:39:55 ID:EZqE5VDE0
面白かった

1001 名無しさん :2016/02/27(土) 23:23:51 ID:I6EftpfQ0
藍さんの寝落ちに付いていけなかった・・
私の毎日のクリックを巧妙に避けられるとは
翠さんが誰かを好きになるときに封印は解かれるのかもね。
行はその前なのか、後なのか。

でもね、もういちどあの薄暮。あの草原をRさんが見れるといいね。

1002 名無しさん :2016/02/27(土) 23:48:37 ID:I6EftpfQ0
大難の設定だが、前九年の役であれば符合するかもしれませんね。
狼の生息する標高の地形がある(アカメの生息域の北端とは違ってしまうが)
上流にダムもあるしX田物部氏とも思ったが名前の上の字が「長」だと代が昔過ぎる。
戦乱の有った地のひとつに玉造の地名がある。

1003 名無しさん :2016/02/28(日) 06:43:27 ID:4yHxEX.EO
投稿ありがとうございます。最後まで読めて嬉しいです。
5日行が無事に済んで、みなさん良かったです。黄色い泉はヨミと文字が合いますね。
有名な修験場とは違いそうですが、そういう神秘が幾つかあるようで興味深いです。
雪ちゃんと式さん方のアンバランスな情景、見てみたいです^^
トラブルの中、投稿を続行して下さってありがとうございました。お疲れ様です。

1004 名無しさん :2016/02/28(日) 12:59:06 ID:AhhnqWXUO
五日行は予想を遥かに超えた意味深いものでした。幼な児たちと一族の未来に幸あれ。この物語はいつも想定外の展開を見せながら、他では知ることのできない秘儀を垣間見せてくれます。
なお、管さんと鳥さんと雪ちゃんの姿が目に浮かぶようでとても微笑ましいです。

1005 名無しさん :2016/02/29(月) 10:01:18 ID:lC4sOFw60
原本と違ってこの物語は藍さんに元気になって欲しくて続いてきた気がするね
公開の順番にも意味があるのかもしれない
それゆえに厳しくも前を向けと声なき声が横たわっている気がする

1006 ◆iF1EyBLnoU :2016/03/04(金) 00:09:46 ID:zuKQ9dF60
皆様今晩は、藍です。

早速沢山のコメントを頂き感謝いたします。
心の底から共感できるコメント、博識に感心する深いコメント。
個別の返信は遠慮させて頂いておりますが、全て有り難く拝読しております。
ただ、自身の体調の問題もあり、暫く留守に致します。

急ぎの対応は留守の者に任せておりますが、少々頼りないのが心配の種です。
それでは、『次』を投稿できる日を信じて、御機嫌よう。有り難う御座いました。

1007 名無しさん :2016/03/04(金) 07:20:08 ID:fQ91Vmg.O
具合が良くなかったんですね、いつもトラブルを乗り越えての投稿ありがとうございました。
どうぞご自愛下さい。

1008 名無しさん :2016/03/06(日) 02:14:49 ID:oJl43hAM0
インフルエンザで5日間隔離・・
枯れ木さんが次に罹患のパターンかも

1009 名無しさん :2016/03/11(金) 00:07:59 ID:31X2bu6M0
また来ましたね。この日が。
みんな生きててくださって有難う。
神様、お役目や誓いが必ず果たされますよう、我が祈り、人々の気持ちがカタチになります様よろしくお願い申し上げ奉ります。

1010 名無しさん :2016/04/05(火) 12:52:08 ID:Fvkzn0NIO
次スレ立てなくても良いのかな…

1011 名無しさん :2016/04/05(火) 23:38:17 ID:tYD9igYM0
スレ建てするんなら弟氏の出番と言えるが

もしかしたら藍さんのお加減思わしくなくて、付き添いしてるかもね。気長に待つべしだな。

1012 上下段のベッドの人 :2016/04/07(木) 20:01:39 ID:SSw4OEjA0
受験生の頃、兄弟でベッドを使っていたときに上段で寝ていた私は奇妙な夢を見た。

女が自分に覆い被さって覗き込む夢だ。
長髪で服を着ていたかまではわからないが、とにかく怖かったのを覚えている。

しかし朝には無論そんなものはいなくて、そのときの私はただ「変なものをみたな」
くらいにしか思っていなかった。

ただ、その次の日の深夜のこと。
私が机に向かって受験勉強をしていたときに弟がふいに起きてこちらに来た。

弟は半分寝ぼけながらもむにゃむにゃと何事か寝言を言うと(当時の弟は小学生だったが、
ふいに起き上がっては一人で寝言とか言ったりするタイプだった。)
ふらふらと兄弟で使っている部屋から出て行ってしまった。

聞けば、その晩は母親の部屋に行き、そのまま母の布団で一夜を明かしたらしい。
私は甘ったれた小僧だと思っていたが、そのときに母親の言った一言が少し怖かった。

「なんでもね、髪の長いお姉さんが自分を覗き込んでて、怖かったんだって…。」

私と弟は、いったい何をみていたんだろうか…?

1013 上下段のベッドの人 :2016/04/07(木) 20:15:26 ID:SSw4OEjA0
すみません。書き込む場所を間違えました。
駄文失礼いたしました。

1014 名無しさん :2016/04/13(水) 23:56:46 ID:jV787j360
もしかして・・二人になって帰ってくるのかもしれないな

1015 ◆iF1EyBLnoU :2016/04/18(月) 23:51:59 ID:Wozqtx6c0
皆様、今晩は。藍です。

先程帰りました。ただ、諸事情により、明朝直ぐ仕事に出ます。
何時仕事の区切りが付くか分かりませんが、精一杯頑張るつもりです。
そんな訳で「次作」の投稿は明言できません。御免なさい。

1016 名無しさん :2016/04/19(火) 13:35:31 ID:J0JtEnAUO
藍さんお疲れ様です。
慌ただしい中、お知らせありがとうございます。
どうぞお気をつけて下さいm(_ _)m

1017 名無しさん :2016/04/20(水) 00:58:53 ID:Rqkw8ito0
藍さん、のんびりとお待ちしてます^^
ご自愛くださいね。

1018 名無しさん :2016/04/21(木) 00:10:49 ID:34OtVijI0
まずは無事に辿り着くことを祈念して。

1019 名無しさん :2016/04/30(土) 17:52:40 ID:g3ooVi.6O
藍さんのご健勝をお祈りいたします。また発表済みの作品を読み返しながら「次回作」を待ってます。

1020 枯れ木 :2016/05/10(火) 21:03:26 ID:xYPvV/xQ0
 本日昼過ぎ、姉が家に戻りました。
暫く仕事の予定はないと確認済みです。

 ただ、かなり消耗が激しいらしく、暫くは目を覚まさないでしょう。
正直、物語の行方を尋ねる気にもなれない様子でした。

 まとめのコメント返信等、引き続き失礼を致しておりますが、
姉自身からのコメントを落ち頂ければと存じます。

1021 名無しさん :2016/05/10(火) 23:20:31 ID:Nw1Oe/jg0
さてはて列島は守られるのかどうか。

阿蘇神社見たけど胸が痛むね。どうか一柱でも災いから免れていただきたいものだ

1022 名無しさん :2016/05/11(水) 08:39:37 ID:d238ZcF.O
枯れ木さん、お知らせありがとうございます。
藍さん、お疲れ様です。ゆっくりお体を癒されて下さい。

1023 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/14(土) 18:45:02 ID:tjlBh92o0
皆様今晩は、お久しぶり。藍です。
先程までダラダラして体調も少し回復しました。

『新作』と言えるかどうか判りませんが、今度の仕事の終わりに
掌編を1つ、知人から預かってきました。
以前非公開となった作品なので、これから原稿を精査して
指示された条件で明日から書き直し作業に入ります。

期待して下さる方がまだおられるなら、
どうかゆっくり、気長にお待ち頂ければと存じます。
ではまた、いつかきっと、此所で。

1024 名無しさん :2016/05/15(日) 02:04:22 ID:btCfCW/sO
お待ちしてます♪

1025 名無しさん :2016/05/15(日) 18:33:24 ID:hPxyDJWQ0
嬉しいなぁ♪新作が読めるこの幸せ!
藍さん、どうも有難うございます!!
でも、くれぐれも無理はなさらないでくださいm(__)m

1026 名無しさん :2016/05/15(日) 21:29:22 ID:54qwGcvQO
ありがとうございます。待ちに待った新作,とても楽しみです。

1027 名無しさん :2016/05/17(火) 00:18:39 ID:q3bILnNU0
おかえりなさい。

1028 名無しさん :2016/05/18(水) 12:34:45 ID:neESg9fY0
Rさんご夫妻に会う夢を見た‥
他心通を使える人を前にして、Sさんの、子供を作ろうと思うのやり取りを思い出してしまい、笑が込み上げてしまうのだが、当たり障りのないのだから言葉の最中に「ぶふぉ」と息がもれてしまい、そこで目が覚めた
世の中には遭遇してはならない怪異が存在する事を思い知った

1029 名無しさん :2016/05/18(水) 12:45:03 ID:neESg9fY0
当たり障りのないのだから→当たり障りのない、に訂正。予測変換誤字スマソ

1030 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:30:12 ID:zCg44kbM0
テスト中です。

1031 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:32:02 ID:zCg44kbM0
皆様今晩は、藍です。
以下、新作『護符』の前半を投稿いたします。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

1032 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:32:34 ID:zCg44kbM0
 『護符』

 柔らかい午後の日差しの中、心地よいエンジン音が山道に響いている。
「ずっとこんな道なら、この車も最高に気持ち良いのに。」
姫は窓から吹き込む風に眼を細めた。
残念ながらあと1・2分で山道を抜け、幹線道路に入る。依頼の場所は市街地の一角。
「本当にずっとこんな道を走り続けられたら気持ちいいでしょうね。
その、何時でも僕たち二人一緒なら。」
姫は少しだけ驚いた顔をした後、微笑んで俺の右肩に頭をもたせかける。
「嬉しい、です。」 最後の連続コーナーに向け、少しだけアクセルを踏み込んだ。

1033 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:33:21 ID:zCg44kbM0
 その依頼を受けたのは3日前、いつも通り『上』からのFAX。
特に指名は無かったのだが、是非にとSさんに頼んで俺がその依頼を受けた。
依頼主はあるレストランの店長。俺が大学を休学→中退する前にバイトしていた店で、
明るく和やかな雰囲気と美味しい料理が評判だった。同じ大学の学生も良く来てたっけ。
季節毎の洒落た飾り付けや楽しいイベントは今でも続いているだろうか。
古い知人達がそうであるように、修行で面変わりした俺に、きっと店長は気付かない。
それでも、バイト中は何かと良くしてくれたからこの機会に恩返しが出来れば。
その思いにはきっと、過ぎ去った時への感傷も混じっていただろう。
感傷的になり過ぎたが故の事故を心配したSさんが、姫に俺の後方支援を命じた。

1034 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:34:13 ID:zCg44kbM0
 市街地、繁華街の一角にその店はある。狭い駐車場は店の裏手。
駐車場の雰囲気はあの頃のまま。駐車場奥のフェンスが俺の駐輪場所だった。
2時までのランチが終わって一旦閉店、ディナーの開店は6時から。それも変わっていない。
客足の途絶える時間帯に、依頼された仕事を片付ける事が出来れば良いのだが。
ドアを開けるとカウベルが鳴った。重く、乾いた音。これもあの頃と同じ。
ただ、不思議な程に俺の心は平静だった。もちろん懐かしい気持ちは有る。
だが、何処か現実感が無いような、まるで他人事のような感覚。
もう、あの頃の俺とは違うという事なのだろうか。何より今日は『仕事』なのだ。
「こんにちは、昨夜電話したRです。依頼の件で参りました。」

1035 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:35:04 ID:zCg44kbM0
 「はい、ただいま。」
奥から出てきた初老の男性。間違いない、あの店長だ。
「私がこの件を担当するRです。こちらはLさん。」
「Rさんだけでも大丈夫ですが、万一に備えての助っ人です。今日は宜しくお願いします。」
爽やかな笑顔で姫が差し出した右手を、店長は躊躇いがちに握り返した。
「此方こそ、どうぞ宜しくお願い致します。」
一礼した後、店長は俺の顔を見つめて怪訝そうな表情を浮かべた。
...まさか、俺の顔を。いや、Sさんは『心配要らない』と。
実際、偶々数年ぶりに会った親戚や旧友の誰にも俺だと気付かれたことはない。
「あの、どうかしましたか?」
姫が声を掛けると店長は気まずそうに頭を掻いた。
「あ、いや。Rさんが、何だか初対面じゃ無いような気がしたので。」
「どなたかお知り合いに似た方が?」
「はい。もう何年も前、この店でバイトしてた子に。名前も確かRと、それで。」

1036 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:36:03 ID:zCg44kbM0
 どうやら店長には少し『力』があるようだ。あまり深入りしない方が良い。
「興味深い偶然ですが、依頼の話を。出来れば今日で始末をつけたいので。」
「そうですね。ではこちらの席に。今、営業日誌を持ってきます。」
勧められたテーブルの椅子を引く。「どうぞ。」
「ありがとうございます。」 腰掛けた姫の、悪戯っぽい笑顔。
「折角、昔のRさんの事、聞くことが出来そうだったのに。」
「その話は後です。僕が感傷的になり過ぎないように監視するのがLさんのお仕事ですよ。」
「でもお仕事は。」
店長がホットコーヒーの用意をして戻ってきたので姫は続く言葉を飲み込んだ。
コーヒーの香りが店の空気に溶けていく。ふと、店の片隅に小さな気配。
店の壁際、大きな窓を背にして立つ。多分小さな男の子のシルエット。
「ああ、なるほど。確かに一体、いるようですね。」
俺が呟くと、テーブルに日誌を並べていた店長の左頬がピクリと動いた。
「本当に分かるんですか?この店に入ってからずっと?」
「いいえ。今コーヒーを淹れて貰ってるうちに。何処からか突然現れた感じです。」
「コーヒーを淹れたから...やはりお客さんに反応するのでしょうか?」
まるで独り言のように、店長は小さな声で呟いた。

1037 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:36:58 ID:zCg44kbM0
 店長は分厚い営業日誌をめくりながらポツリポツリと事情を説明してくれた。
開店後暫くして、時折店の中に不思議な気配を感じるようになったこと。
当初は営業に支障が無かったので放置していたが、
3年ほど前から希に支障が出るようになったこと。
「家族連れのお客様でした。お子様が突然泣き出したと思ったら、
過呼吸のような感じでそのまま意識が無くなって、それで救急車を呼びました。
病院ではすぐに回復されたようですし、この店に原因があるかどうかも...。
ただ、その後も、同じようなことが二度起きています。」
「計三度、お客さんの子供に障りが出たということですね?」
「はい。開店から11年、開店当初大学生だった常連さんが家庭を持って
ご家族と一緒に御来店下さることも多くなってます。
今後も同じような支障が出るのでは安心できません。それで今回の依頼を。」

1038 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:38:27 ID:zCg44kbM0
 この件と俺、いや、店長と俺に何かの縁があるのだろう。
この店の常連に一族の者がいて、たまたま『事件』に出くわした。
それでその人が『上』への依頼を取り持ったのがこの仕事の発端。
その人と俺たちの面識はないから、特に俺たちが推薦された訳では無い。
たまたま近場で手の空いている術者が俺たちで、だからこれは本当の偶然。
そうでなければ店長の依頼を俺が受けることは無かった筈だから。
「まあ私としては、以前のように、営業に支障が出なくなればそれで良いんですけど。」
相変わらず心の広い人だ。胸の奥から、温かな感情が込み上げる。
多くの人は事情も分からぬまま、そのような存在を忌み嫌う。
それに、『上』からの指示とは言え、無理矢理に始末を付けるのが哀しい事例も有る。
「営業に支障が出ないなら、共存しても構わない。そう解釈して良いですか?」
店長は暫く俺の顔を見つめ、やがて溜息をついた。
「私にはそれが何なのか分かりません。だから少し、怖いような気もします。
でもそれが今までずっとこの店にいたものなら、お客様に悪い影響が出ないのなら、
このままこれからも此所にいてくれて良い。そんな気がするんですよ。
客商売をする人間としては、失格なのかも知れませんが。」

1039 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:39:57 ID:zCg44kbM0
 開店して暫くしてから、それが店長の記憶違いでないのなら、
俺がバイトをしていた頃には既に、それはこの店にいたことになる。
小さな男の子の姿がハッキリしてくるほど、人間離れした特徴も目に付く。
体全体がゆらゆらと波打つように動き、顔の造作が絶え間なく変化する。
もし、当時の俺がそれを見たら間違いなくパニックになって腰を抜かしただろう。
俺の仕事は主に皿洗いだったから、11時頃まで厨房に一人でいることも多かった。
もしもそんな時にこの姿を見ていたら...
思わず、笑顔が浮かぶ。あの頃とは、随分違った自分を俺は生きている。
「男の子です。5〜6歳位の。だから希に小さな子供に反応・干渉して、
加減を忘れてしまう事がある。そんな感じでしょうね。
この店から祓うとしたら、その由来を調べて入念に準備をする必要がありますが、
あなたが共存しても良いと仰るので有れば、お祀りするだけで十分です。」
「お祀り?」
「はい、あなたやお客さんに対する悪意を持った存在ではないのですから、
しっかりお祀りしてこちらの好意と願いを示せば、きっと応えてくれると思います。」
一体、見えないということは、不幸なのか幸福なのか。
俺の正面に座った店長の背後、すぐ右側に、小さな男の子の姿をしたそれが立っている。
俺と姫を交互に見つめる、不安そうな表情。その眼には悪意も悲しみも感じられない。

1040 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:42:33 ID:zCg44kbM0
「先ほど『小さな男の子』と言いましたが、所謂幽霊では有りません。
どちらかというと妖精に近いもので、それが男の子の姿をとっています。
ハッキリした意思を感じませんから、おそらく記憶を封じているのでしょう。
それが何かの拍子にあなたか、それとも店のお客さんに憑いてきて、ここに落ち着いた。」
「それなら、何処かに本当の居場所があるということですか?」
その優しさに少し、胸が詰まる。
「大昔ならともかく、近代以降は妖精の住める場所はどんどん減っています。
それに、詳しく事情を調べたら却ってマズい事になるかも知れません。
例えば住処を人間に破壊されて、それを思い出したら怒りと悲しみに囚われるとか。」
調べたとしてそれの正体が判明するか分からない。ただ、人の姿を取っているのだから
もともと人に親しみを感じていた存在なのだろう。もしも、人に住みかを破壊されてもなお、
『人を恨みたくない』『人を憎みたくない』 そんな気持ち故に記憶を封じたのなら、哀しい。

1041 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:45:12 ID:zCg44kbM0
 「確固とした意思を感じないので、おそらく自我も姿の通り幼い子供のレベルでしょうね。
退行した原因は分かりませんし、結局あなたや此所との相性が良いとしか。」
「そう、ですか。なら結構です。此所に居た方が良いというなら、ずっと居てもらっても。」
「分かりました。では早速用意をします。暫く、そうですね。30分程時間を下さい。」
茶色い皮の鞄、My『お出かけセット』から必要な道具を取り出す。
この子への親しみを編み込み、同時に、この店とお客さんを護ってくれように願を編み込む。
ホームセンターで調達し、白い封筒に小分けした結束バンド。今回使うのは赤・白・緑・青。
俺はSさんと違い、紙を使うのが得意ではない。
加工する必要がなく、容易に結び目を作れる結束バンドは本当に役に立つ。
「あの、それは?」 「特別に、僕の師匠に清めて貰った、護符の材料です。」 「へぇ。」
すい、と姫が視線を逸らして窓の外を見た。 笑いを堪える、可愛い表情。
まあ、時には嘘というか方便も必要だ。
ただの結束バンドだと言ったら、信じる気持ちは薄れ、護符の効果も弱くなる。
「一目一目、想いを込めて編みます。その子のために、このお店とお客さんのために。」
「ありがとう、ございます。」

1042 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/18(水) 18:49:16 ID:zCg44kbM0
皆様今晩は、再び藍です。

無事、作業が終了した部分の投稿を終える事ができました。
残りの部分もきっと近いうちに。
お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。

1043 名無しさん :2016/05/18(水) 20:17:13 ID:mCRDBLr.O
ありがとうございました!続きがとても楽しみです。待ってます!

1044 名無しさん :2016/05/18(水) 22:56:29 ID:NCgnzTsg0
文面も懐かしい。読み始めた時みたいだ。

1045 名無しさん :2016/05/19(木) 02:14:32 ID:P3iy3Ff.O
投稿ありがとうございます。マスターさんのお人柄が素敵です。
居場所を失った妖精さん、ごめんなさい。

1046 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 02:48:50 ID:aKJo2V6w0
>>1043
>>1044
>>1045

今晩は、藍です。

残りの作業が一段落したところで覗いてみたら驚きました。
何というか、地味なお話なので反応が無いのも覚悟していたのですが。
早速のコメント、感謝いたします。

作業はほぼ終了、知人のチェックが済み次第、続きを投稿できると思います。
どうかもう暫く、お待ち下さい。有り難う御座いました。

1047 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:20:28 ID:aKJo2V6w0
テスト中です。

1048 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:22:12 ID:aKJo2V6w0
皆様今晩は、藍です。

以下、『護符』の残りを投稿いたします。お楽しみ頂ければ良いのですが。

1049 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:26:48 ID:aKJo2V6w0
 「ところで店長さん。」 突然姫が口を開いた。 店長の戸惑った顔、「はい?」
「さっきの話が気になっているんですが。Rさんと同じ名前の、アルバイトの方の。」
「ああ、あの子は...もう5年前ですね。」
店長は再び営業日誌をめくった。目配せしようとしたが、姫は知らん顔だ。
事情は聞いたし、既に護符作成にかかっている。
『後の話』をしても問題はない。俺はただ、護符作成に集中すれば良いのだから。
「とても真面目に働いてくれて、卒業したら正式に採用したいと思っていたんですよ。
でも、急に辞めてしまって。残念でした。故郷に帰ると言ってましたね。」
その話なら既に姫も知っている。『田舎に帰って見合いをする』というのが筋書きだった。
「その人、Rさんはどんなお仕事をなさっていたんですか?」
「食器洗いと、時々は食材の下ごしらえの手伝いも。
そうそう、季節ごとの飾り付けも任せてました。何時も見事な出来でしたよ、とても器用な子で。」
二人の話を聞いても、心は不思議な程平静で、特別な感傷は湧かなかった。
もう、あの頃の俺とは違う。新しい家族と新しい人生を歩んでいる。
昔の話を聞くほど、その感覚が強くなり、むしろ気持は静まっていく。
それもあって、護符の作成は思っていたより順調に進んだ。

1050 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:27:47 ID:aKJo2V6w0
 重要なのは、結び目の数と、それをまとめる色の意味。
次第に形を取る、大きな花弁と、それを取り巻く艶やかな葉。
『命の喜び』、そして『心からの願い』を意味する護符。
一目毎、結び目に俺の『力』を編み込んでいく。確か3年の修行の成果。
いつの間にか、全ての音も情景も、俺の心から消え去っていた。
それからどれ程の、いや、多分予定通り。30分前後の時間。

1051 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:28:31 ID:aKJo2V6w0
 これで良い。額の汗を拭い、ふう、と息をつく。 「出来ました。」
「これは...綺麗だ。何というか、如何にも御利益が有りそうですね。」
Sさんから習った護符の1つ。赤・白の花弁と緑・青の葉を象った意匠。
「これをどこか、店の中に置いて下さい。引き出しの中とかで構わないので。」
「いや、それでは勿体ない。これは是非、ああそうだ、飾り棚に。」
店長は受け取った護符を手に、壁の飾り棚に向かった。
ガラス戸を開け、棚の上段にそっと護符を置く。もう一度護符に触れてからガラス戸を閉めた。
ふわりと浮き上がり、店長の背後からそれを見つめる男の子。嬉しそうな、笑顔。
もう、大丈夫だ。

1052 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:29:55 ID:aKJo2V6w0
 「お礼にディナーをご馳走したいので、このままもう少し。」
俺がテーブルの片付けを終えたタイミング、間髪を入れず姫が頭を下げた。
「申し訳ありません。店長さんのお気持ちは嬉しいのですが、
既に料金の精算は済んでいると聞いています。
それなら、仕事以外の理由で長居するのは禁忌なんです。」
失礼無く、依頼主の申し出を断るとしたらこれ以上の方便はない。流石に姫だ。
「そう、ですか。それなら。」 店長は足早に店の奥に入り、暫くして出てきた。
「せめてこれをお持ち下さい。」 綺麗な紙に包まれた、洋酒の瓶?
「ありがとう御座います。頂きます。では、私たちはこれで。」
店長に見送られて店を出る。男の子の姿はない。
飾り棚に両手をついて、あの護符を見つめる姿が目に浮かぶ。
無事に仕事をやり遂げた充実感。それこそが術者にとって、何よりの幸福だと思う。
今度俺がこの店を訪れるとしたら、それはかなり先のことになるだろう。

1053 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:30:50 ID:aKJo2V6w0
 車の窓からじっと景色を眺めていた姫が、不意に口を開いた。
「何だか、とても嬉しいです。私、信じていましたから。」
信じていた? 俺が護符を作ったのは初めてじゃない。護符の事でないとしたら。
「信じていたって、何を、ですか?」
「昔の話をしてもRさんはもう感傷的になったりしないって。」
「そりゃ僕はもう昔の自分とはかなり変わりましたから。あまり感傷的には。
でも、感傷的にならない方が良いのなら、あの時わざわざ昔の話をしなくても。」
「Rさんが『昔の自分じゃ無い』って自覚することが必要だったんです。お仕事、ですから。」
??? 自覚? 仕事? でも姫の仕事は。

1054 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:32:10 ID:aKJo2V6w0
 「あの、御免なさい。話の内容が理解出来ないんですが。」
「あの子をあの店に連れてきたのはRさんです。何時何処から、それはもう分かりませんけど。」
「へ?僕が?」
「はい。Rさんに憑いてきて、偶々あの店と店長さんの気配に馴染んだ。
だからあの子があの店で安定した状態を保つには、店長さんとRさんの気配が必要なんです。」
いや、しかし俺があの店でのバイトを辞めたのはもう5年も前だ。
その後あの店でバイトした人間は沢山いた筈だし、既に俺の気配など。それなのに。
「店長さんのことは分かります。でも、僕の気配が今もあの店に?
もう5年も前ですよ?幾ら何でもそんなに長くは。」
「だってあのお店には『身代わり』が。忘れちゃったんですか?」
「あ。」
そうだ、姫に仕込まれた術の件。『分家』の術者を攪乱するために、
姫が作ってくれた身代わりをあの店にも隠した。確か更衣室とトイレ、厨房の戸棚の奥。

1055 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:34:33 ID:aKJo2V6w0
 「いくら身代わりでも、本物がすぐ傍にいたら効果がありません。
そしたらあの子はまた、Rさんに憑いてきてしまうかもしれないと思ったんです。」
「だから昔の話をして、僕が昔の自分とは違うとハッキリ自覚するように?」
「はい。もしかしたらSさんはRさんがこの依頼を受けると決めた時に
何か予感していたのかも知れませんね。だからきっと今日私を一緒に。
でもSさん自身で無く私を。それならSさんも信じていたんです。
Rさんはきっと大丈夫。絶対に過去に囚われる事は無いって。」
...姫も、Sさんも、一体どれ程の。
術者としての時間を積み重ね、自分が力を付けるほどに、二人の力の凄さを思い知る。
でもそれは何だか小気味よく、そして嬉しい。笑いが込み上げた。
「どうしたんですか?何だか楽しそう。」
「楽しいです。だって二人の凄さが分かる度、『僕にはやるべき事が沢山ある』って
自覚できますから。そう、明日からまた、頑張りますよ。」
黙って微笑みを浮かべた姫の横顔は、とても美しかった。

1056 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:36:44 ID:aKJo2V6w0
 「お礼がこのシャンパン?しかもロゼ。こんな高価なお酒を普通に在庫してるなんて、
そのレストランかなり繁盛してるのね。妙な事があったのに、お客は減らなかったのかしら。」
「子供たちの事例は食中毒とかが原因じゃないのが明らかで、それについて
店の責任を問う声は無かったようです。店長の対応にも問題は無かった訳ですし。
むしろそれ以外の妙な事、不思議な気配や何かが話題になって、
口コミでお客は少しずつ増えていたようですね。
『その店で食事すると恋が叶う』とか、『大きな商談にはその店が絶対』って。」
それは多分、座敷童の出没する宿に宿泊したがる人々に似た心理なのだろう。
「Rさんが作った護符が有りますから、今後は稀な障りもなくなる筈。
これからはお客さんに、もっともっと良い影響が出ると思います。」
「それならこれ飲んでも罰は当たらないわね。早速冷やして夕食に。楽しみ〜。」
Sさんはそのお酒を持ってリビングを出て行った。軽やかな足音。

1057 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:41:52 ID:aKJo2V6w0
 姫の言葉通り、その店は大いに繁盛し、今では地元でも評判の名店に数えられている。
未だ不思議な噂も絶えないらしいが、それがまたオカルト好きの大学生たちや
小さな子供のいる家族連れには大評判だと聞いた。
もちろん料理も美味しいし、何より店長の度量が有ってこそ実現した一種の奇蹟。
100年程前なら、そんな場所が普通に存在していたと聞いた。
人と人ならぬモノが自然に交流する不思議な場所。 『交差点』。
きっと現代にも一軒くらい、そんなレストランが有っても良い。
Sさんも姫も、同じ意見だ。
ただ、万一の事を考えると俺はその店に行かない方が良い訳で。
それだけが少し残念なのだけれど。
その店の名は『◎×◆』。


 『護符』 完

1058 ◆iF1EyBLnoU :2016/05/19(木) 23:44:32 ID:aKJo2V6w0
皆様今晩は、再び藍です。

無事『護符』の投稿を終える事が出来ましたが、少々疲れました。
また暫く、お休みを頂きます。お付き合い頂いた皆様に心からの感謝を。
有り難う御座いました。御機嫌よう。

1059 名無しさん :2016/05/20(金) 00:32:11 ID:a4wElfi.0
 時は流れ,世は移り,人は変わり,季節はうつろう。されどくすしき物語は,代々に受け継がれて色褪せず,人の心を惹きつけてやむことなし。
 地味だなんてとんでもない,滋味溢れ味わい深き物語を,ありがとうございました。

1060 名無しさん :2016/05/20(金) 02:20:46 ID:fKh73vsY0
投稿お疲れ様です。いつも楽しく読ませて頂いています。愛情と信頼関係が描かれている美しい作品ばかりですね。心の中のかさぶたがすうっと消えていくような暖かい気持ちになりました。

1061 名無しさん :2016/05/20(金) 07:53:08 ID:KLrF6jKQO
続きの投稿ありがとうございました。楽しみにしてましたが、その期待が藍さんに無理をさせてしまいすみませんでした。お疲れ様です。
ゆっくりお休み下さい。

北越奇談など割りと近しい昔話でも不思議が溢れていて、その不思議を当たり前に受け入れて生活している人々の姿があって、なぜ今こんなに不自然な世界になったのかとても不思議です。
探せば現代でもRさん方のような不思議なお話はみつかりますが、それを当たり前に受け入れて生活できる人々はなかなかおられないようです。

過去の自分とは違う、という冷静沈着な感覚は凄いです。それを促す姫方もさすがです。

とても面白かったです。
投稿ありがとうございました。

1062 名無しさん :2016/05/20(金) 21:08:39 ID:92HvdI9o0
ああ・・変わった素材で作られた身代わり・・
食べ物のお話であまり思い出したくはなかった////
Rさんは幼少や学生の頃のお友達とか殆ど振り切ってしまったのだろうか。

1063 名無しさん :2016/05/21(土) 01:17:55 ID:tA8dIADcO
(・ω・)楽しく拝読しましたん

1064 名無しさん :2016/06/02(木) 01:35:37 ID:Dp0YMRgY0
去年の冬から拝読しているものです。投稿誠に感謝致します。情景が浮かぶ美しい言葉を綴った素敵なお話を読ませていただくことを日々の楽しみにしております。藍さんご自身のことを第一にお考えください。
それでも、多少の余暇がお出来になった際には、また新しいお話を拝見できればとお待ちしております。

1065 枯れ木 :2016/06/06(月) 20:30:23 ID:KAP.Er8c0
 「暫く戻れない。」と、昨夜連絡がありました。
『護符』に関しては、代理でのコメントを命じられましたが、
まとめでのコメントは許可されていないので代理はこちらだけで。

>>1059
 地味→滋味。座布団3枚、姉も同意してくれると思います。

>>1060
 男女と親子の「愛情」はこの物語の核心でしょうね。
読者様のお心を暖められたなら、姉も本望かと。

>>1061
 まさか、
「北越奇談」をご存じの方がこれらの物語をお読み下さっていると知ったら、
姉もきっと気を引き締めざるを得ないでしょう。あはは。ちょっと爽快、です。

>>1062
 身代わりに使われたのが「髪の毛ではない」という記述からして、
使われたのは「血」。多分、Rさんの寝ている内に。出血の次第は『追憶』で。

>>1063
 有り難う御座います。きっと姉と知人さんには、それが何よりの褒め言葉です。

>>1064
 有り難う御座います。
姉は我が儘ですから、綺麗事で無く、全て自己満足のための投稿です。
放っておいても、何時かきっと新作を投稿するでしょう。
どうかそれまでは、気長にお待ち下されば、と。

 まとめでの返信は姉の帰還をお待ち下さい。有り難う御座いました。

1066 名無しさん :2016/06/07(火) 02:54:39 ID:6.kSWej.O
枯れ木さん、ご報告とレスポンスありがとうございます。
藍さん、どうぞお大事に。ゆっくりご自愛下さいm(_ _)m

1067 ◆iF1EyBLnoU :2016/06/20(月) 22:03:12 ID:sRxNzSvc0
皆様今晩は、藍です。

昨夜戻りましたが、明日また仕事に出ます。
次作の準備も進めていますが、投稿の時期は明言出来ません。

それまでお待ち下さる方がおられるなら
いつかきっと此所で、有り難う御座いました。

1068 名無しさん :2016/06/20(月) 22:11:34 ID:OHledwhEO
藍さん,大変お忙しいところありがとうございます。楽しみにして待っています。なお,ご無理をなさいませんように。

1069 名無しさん :2016/06/21(火) 11:23:55 ID:p0TVb3OYO
藍さんご報告ありがとうございます。
藍物語が好きなのでいつでもお待ちしてます。
昨日、愛染明王を初めてお参りしたら、藍色でした。愛は藍色なのだとなんだか納得しました(^o^)/

1070 流れ者、流れる :2016/06/26(日) 08:29:03 ID:tJGudKPw0
>>1067
お元気そうで何よりです。
物語は、マイペースで続けて下さい。
呪札僧スレは落ちちゃいました。さらに削除されたかな?もと板に戻れ、しがらみもファン(粘着さん)もあまりなくなりました。何とか生きています。
では、お元気で!

1071 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/11(月) 22:05:35 ID:5JFQwWiM0
皆様今晩は、藍です。先程仕事から戻りました。
お土産のお話が1つ、少し休んで、投稿の準備を致します。
まだお待ち下さる方がおられるなら、近いうちに此所で。

1072 名無しさん :2016/07/11(月) 23:31:18 ID:ca4ZU0Pw0
お帰りなさい。良く休んでください。起きる時は弟さんに寝過ぎで怒られて下さいね〜

1073 名無しさん :2016/07/12(火) 01:55:21 ID:3z9x5B5YO
(´Д`)お待ちしてます♪

1074 名無しさん :2016/07/13(水) 00:47:17 ID:VhYqD3jMO
ありがとうございます!楽しみにしてます!

1075 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:43:37 ID:sdlCPg8I0
テスト中です。

1076 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:49:53 ID:sdlCPg8I0
皆様今晩は、藍です。

以前、非公開とされた掌編を公開する許可を頂きました。
温暖化や地震、水害等、相次ぐ天災の中で
この作品の公開許可を頂いた意味を今も考え続けています。
知人もその意図を測りかねると言った作品ですが。
以下、『啓示』。曲解無くお楽しみ頂ければ有り難く存じます。

1077 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:52:30 ID:sdlCPg8I0
『啓示』

 山々の緑に微かな錦が混じっている。きっと、もう、秋が近い。
川の神様の神社、境内の掃除を終えたところ。
ここ暫く、川の神様はご不在。お社はガラ〜ンとして、なんだか寂しい雰囲気。
掃除道具を片付けたとき、視界の端に人影が見えた。
足音も無く近づいてくる黒い着物。 膝を着いて頭を下げた。川の神様、だ。 
「久し振りだな。早速だが、お前に会いたいと仰るお方がおられる。付いて参れ。」 「はい。」
今日はSさんも姫もいないが、護り神様の仰せで有れば是非も無い。
聞き慣れた話し方と調子。しかし、何と無い違和感。 川の神様は既に歩き始めている。
川の神様の後を追い数歩踏み出した時、地面がぐらりと揺れた気がした。

1078 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:53:35 ID:sdlCPg8I0
 ここは、二週間後に訪れる予定の...では俺に会いたいというのは。
「そう、御陰神様だ。此度の大災害の対応から昨日お戻りになった。
お前の、人の気持ちが知りたいと仰っておられる。」
やはり、その御声に感じる違和感は消えない。一体これは?
本殿、階段を上り川の神様は廊下に膝を着いた。俺は階段の前に正座をする。
「御陰神様、Rが参りました。」 声を掛けて障子を開く。
数m奧に御簾、その向こうから淡い光が洩れていた。

1079 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:54:31 ID:sdlCPg8I0
 『良く来たな。お前たちの仕事も一段落と聞いた。
大儀であった。術者たちは皆、見事な働きだったと聞いている。』
この御声、以前聞いた響きではない。あれは、姫の声帯を使って発せられた声だったからか。
川の神様の表情を伺う。川の神様は黙って頷いた。
「術者の本分を尽くしただけでございますが、勿体ないお言葉。痛み入ります。」
『さて、此度の大災害、お前はどう思う?』
「多くの命が失われ、とても、とても悲しく恐ろしい出来事でした。
一族の者に犠牲者は出ませんでしたが、到底、それを喜ぶ気にはなれません。」

1080 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:56:33 ID:sdlCPg8I0
 『吾を...吾等を恨むか?何故この国の民を助けてくれなかったのか、と。』
その御言葉で、俺の心の中の何かが崩れて、涙が溢れた。
大切な人を失った人々の涙、俺の心に流れ込んだ悲しみ。
災害のあとの仕事の数々、その記憶が甦る。 息が、詰まった。
心の奥深く。間違いなく『何故?』という気持ちは有る。そしてそれはきっとSさんも姫も、
いや、この大災害に関わる仕事をした術者全員が同じだったろう。ただ。
『正直に申せ。吾等を、恨むか?』
必死で呼吸を整え、心を静める。やっとの思いで言葉を絞り出した。
『いいえ、神々の御加護が無ければもっと酷いことになっていたと、
私たちは、それだけを、信じて...』

1081 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:57:27 ID:sdlCPg8I0
 これ以上は、無理だ。言葉が続かない。重い沈黙。
『遠い昔、お前たちの時間で数十億年の彼方。
吾等はこの星の活動の源となる力によって生じた。今も、その力によって此処に在る。
この国は星の活動が激しい場所にあり、それ故吾等の数も多い。』
涼やかな御声は辺りの空気を震わせ、俺の心に染みこんでくる。以前聞いた時とは違うが、
これこそが御陰神様の、本来の御声なのだろう。気品も御力も、間違いない
『その後、星の活動によって険しい大地と深い海が生じ、
そこに数知れぬ命が満ちるのを吾等は見てきた。
吾等全てがそうだとは言わぬ。だが吾は、この地に満ちる命を愛しく思った。
この地と、そこに住む全ての命を護りたいと思っている。それだけは信じて欲しい。』
疑う事など出来ない。悠久の時を超えて、この地を守護してこられた御陰神様の、御言葉。
『ただ、吾等は抗えぬ、その力に。吾等には止められぬ、その力が起こす災いを。』
その力によって神々が生じたのなら...そしてこの国はその力が特に強い場所の1つだと。
『そして吾等の、何よりも深い業が、これだ。』

1082 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:58:36 ID:sdlCPg8I0
 洩れてくる光が明るさを増し、するすると御簾が開いた。
眼を伏せるか閉じるか思案する間もなく、これは...もう、眼を逸らせない。
12・13歳?五色の薄衣を纏った御陰神様は可憐な少女のように見えた。
以前聞いた御声と違っていたのはこのためだ。むしろ、あの時の姫よりも。
でも、御陰神様はこの辺りの神々を束ねる主神で、もう何千年も前から。
『この星が活動し大きな力が働くと、吾等もその力を得て時を遡る。
だから、この星の力が尽きぬ限り、吾等は不死。だが...』
御陰神様の右頬に一筋の涙。 胸の奥に響く、深い悲しみ。
『吾は見たくない。星の力で引き起こされた大災害で失われる、数知れぬ命を。
不死の代償がそれらの命だとしたら、むしろ吾は。』
『御陰神様、怖れながら、どうかそれ以上の御言葉は。』

1083 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 22:59:30 ID:sdlCPg8I0
 川の神様の、切羽詰まった御声。確かに、川の神様も以前より若返って見える。
それが俺たち人間や他の生物の命と引き替えに...いや、違う。
『原因』となるのがこの星の力という点は同じだが、それがもたらす『結果』は別だ。
その力は一方で神々を不死とし、他方では大災害を引き起こし多くの命を奪う。
大災害で失われる生物たちの命と引き替えに神々が不死なのではない。
当然、神々が不死と引き替えに大災害を防ぐこともできない。
何より、悪意を持って我々を殺すために地震や津波が起こるなど絶対に...
それはこの星に生まれたものの宿命。生まれたのだから、何時かは死ぬ。
産み出し、飲み込む。 遠い時の彼方、この星の力が尽きれば神々の存在さえも。ならば。
下腹に力を入れ、深く息を吸った。

1084 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 23:00:38 ID:sdlCPg8I0
 『此の度の大災害では、亡くなった人々の魂を救うために、
各地から多くの神々が被災地に集い、心を砕いて下さったと聞いています。』
大災害に関わる仕事の前に、当主様は術者を集めてそう仰った。
『亡くなった者の魂は神々に委ねよう。きっと見落とすことなく、救い導いて下さる。
そして我々は、残された者が生きていくための仕事をするのだ。』と。
御陰神様は真っ直ぐに俺を見つめた。その瞳以外、全てが視界から消えていく。
綺麗だ。俺は知っている、この感覚は。
『確かに、自らの業の重みで沈んだ者を除いて、吾等は全ての魂を掬い上げた。
少し時間がかかって苦しませたが、それらの魂は今、この上なく安らかにある。』

1085 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 23:02:56 ID:sdlCPg8I0
 暗く、冷たい川の中に跪いている。俯いて水面を見つめた。
上流から、薄紅色の光がゆっくりと流れてきた。右手がひとりでに動いてそれを掬い上げる。
そうか、この情景は御陰神様の記憶。
『済まぬ。長く待たせて、苦しませて、本当に悪かった。
だが、安堵せよ。苦しみも、痛みも既に、無い。』
右手の下にそっと左手が。右掌にぽたぽたと落ちる滴は...涙?
薄紅色の光は明るさを増し、掌から飛び立つ。まるで、蛍。 これで、良い。
『御陰神様、救うことの出来る魂は、もう。』
『そう、だな。だが、本当に見落としはないか?あの忌まわしき者共の始末は?』
『それはこれを。結界に近付いた者はこのように。』 捧げ持つ槍に貫かれた、浅ましい姿。
『皆様方、御仕事を終えて御陰神様を待っておられます。どうか。』
本当か、本当に見落としは無いか。もう一度心を尽くして上流と、水底に注意を向ける。
大丈夫。悪しき業深く自らの光を失った者以外の気配はない。
ゆっくりと立ち上がる。衣から滴る水の音。辺りを飛び交う無数の光。
おそらく他の区画でも...他の神々が既にこの仕事を終えた頃。

1086 『啓示』 ◆iF1EyBLnoU :2016/07/14(木) 23:04:03 ID:sdlCPg8I0
 『明日、夜明け前に皆で沢へ参れ。我等が生物の間に結んだ約束の証を見せよう。』

 何時の間にか、俺は川の神様の社、境内に立っていた。
『あの、沢だ。忘れてはおるまいな。』 「それは、勿論。」
「宜しい。では、細君お二人と姫と若たち三人も。きっと、だぞ。」 「はい、必ず。」

 厳