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怖い話Part2

513『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU:2013/09/27(金) 22:48:49 ID:94SVkDkM0
 「本当に大丈夫なんでしょうか?」 そっと姫に囁く。
玄関の外に集まったものたちは、俺たちが出てくるのを待っている。
「神様を疑うなんて、罰が当たりますよ。」
姫が玄関のドアを開け、俺は意を決して一歩踏み出した。
さわ、と、空気が震えた。俺たちを中心にして、透明な波紋がゆっくりと拡がっていく。
集まっていたものたちのほとんどが、その波紋を避けるようにあっけなく逃げ去った。
残ったものも地面に伏して次第に薄れていく。微かに聞こえる呪詛の声にも力は無い。
傾いた日差しの中で、微かに見える。俺たちの体を覆う夥しい光の粒子、『光塵』。
Sさんも、姫も、翠も、もちろん藍も。全身が淡い光で包まれていた。
川の神様の残り香が、俺たちを護ってくれている。 胸の奥が熱くなった。
そして、Sさんの見た夢によれば、もう呪いが発動することはない。
俺の夢の中で川の神様が仰った『込み入った仕事』とは、この呪いを解くことだったのだろう。
長く一族を悩ませてきた呪いは、遂にその力を失った。 とても清々しい気分だ。
俺の後に翠と手を繋いだ姫、その後に藍を抱いたSさん。ゆっくりと歩を進める。
その後ろには小さな白い影が見え隠れしていた。
「そう言えば、私も見たんです。川の神様の夢。」 俺は立ち止まって振り向いた。
「どんな、夢だったんですか?」 姫の頬がほんのりと紅に染まった。
「『今回の働きは見事だった。』と誉めて下さいました。それから。」
「それから?」 俺とSさんは声を合わせた。
「『次は君が産む子を期待している。』と。」 姫はかがんで翠と視線を合わせた。
「ねぇ翠ちゃん。私が赤ちゃんを産んだら、嬉しい?」 「うん、うれしい!」

 お屋敷へ向けて走る車の中。窓から吹き込む風は軽く、乾いていた。もう梅雨は明ける。
やがて巡ってくる夏に先駆けて、家族5人の新しい生活が始まろうとしていた。

「新しい命・第弐章」 完


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