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怖い話Part2

465『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2013/09/12(木) 19:40:52 ID:AZimxqIY0
 『あれらに悪意はない。お前たちの釣りが、
何よりこの魚を釣ったことが、あれらを強く刺激した。』
吹き抜ける冷たい風に乗って、その声が再び空気を震わせる。
『しかも、あれらが移動する時刻に近かった。間が、悪かったのだ。
どうか、無礼を許してやってくれ。』
恐る恐る視線を正面に戻す。俺の目の前、多分数m先に、それはいた。
対岸の景色と夜空、俺の視界のほとんどがそれに遮られている。デカい。
それが何なのかは分からない。どうしても眼の焦点が合わず、それ自体は見えない。
ただ俺の前に、巨大な漆黒の闇が蟠っている。
一切の反論や質問を許さない、圧倒的な気配。冷たい汗が流れた。
『やがてあれらが山に移動する時刻。今の内に調査を終えて戻れ。
陸ならば送りの護りも効く。さあ、早く。』
調査? ああ、試料。早くウロコと背ビレを。
水面に静止しているアカメのウロコを一枚取り、そして背ビレの後端を少し切り取った。
『済んだな。もう、巣に戻すぞ。』
アカメは身体を大きくくねらせ、ゆっくりと泳ぎだした。その姿が水中に消えていく。
『あれらには、我が因果を含めておく。移動の時間さえ避ければ、今後の心配は要らぬ。』
闇と気配は見る間に薄れ、対岸の景色と星空が視界に戻ってきた。
「Rさん、急いで下さい。」 姫の声だ、我に返る。
川岸に上がり、遍さんに試料を渡して手早く釣り具をまとめた。
遍さんもすぐに調査用具を片づけた。それぞれライトを持って出発する。
皆、無言で細い獣道を歩いた。


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