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怖い話Part2

107『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU:2013/05/18(土) 20:36:12 ID:73YnciYs0
 静けさの中に響く微かな足音と2つの気配。机に向かって移動していく。
「ふたりとも、顔を上げなさい。」 女性の声、澄んだ心地よい響きだ。
俺たちは直立の姿勢で正面を見た。
座っている壮年の男性、俺たちから見て男性の右後方に立つ女性。
男性は、榊さんをさらにお人好しにしたような、悪戯っぽい笑顔を浮かべている。
女性は、Sさんをもっと厳しくしたような、凛とした表情。とても綺麗な人だ。
これが当主様、そして桃花の方様。
確かに、伝わってくる気配でどちらも凄い人だとすぐに分かる。
しかし、気圧されて声が出なくなるほど怖い感じではない。正直、ホッとした。
「S...随分と久し振りだ。突然の連絡で少々驚いたぞ。
前線から退いて子を成したと聞き、気に掛けていたが。幸せそうで、何よりだ。」
「はい、お陰様で良縁に恵まれ、思いもかけず人並み以上の幸せを授かりました。」
ちょっと待ってくれ。こんなやりとりがあるとは思わなかった。一体、誓詞のタイミングは?
Sさんが俺を見て微笑んだ。
「この度、我が夫Rのお目通りが叶いました事、光栄の至りに存じます。
つきましては、Rが誓詞を奉る事をお許し頂きますよう、お願い申し上げます。」
「宜しい。聞かせて貰おう。」
つまり、今が『その時』だ。もう、腹を括るしかない。眼を閉じて深く息を吸った。
練習してきた通りに、一言一言、心を込めて誓詞を詠唱する。
スーッと雑念が消えて頭の中がクリアになっていく。
ふと、頭の中に、青い空を無数の白い鳥が飛ぶ情景が浮かんできた。不思議な感覚だ。
詠唱を続けるうち、青い空と白い鳥を背景にして、Sさんとの出会い、姫との出会い、
そして翠が生まれた日の情景が次々と浮かんでくる。大切な人、俺の一番の宝物。
その宝物を守りたい、俺を一族の術者として認めて欲しい、強い思いが湧き上がってくる。
そうか、誓詞とは、俺自身の想いと願いを当主様にお伝えする言葉なのだ。


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