したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール まとめる | |

怖い話Part2

1 名無しさん :2013/04/11(木) 20:47:22 ID:kJlroZZA0
霊的な怖い話を集めてみましょう

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/study/9405/storage/1209619007.html

2 mihoko :2013/04/16(火) 11:52:20 ID:Wk3LMVmg0
はじめまして、掲示板に書き込むことが初めてなので、
気が付いた事はご指摘お願いします。

今からお話しする事は
怖がりな私が霊の存在を確信してしまった出来事です。

私が小学一年生に上がったばかりの夏のこの事でした。

私には年子の妹がいます。
妹は可愛くてよく笑う子で、
とても可愛がられていました。

私は正直妬ましく思っていて、
意地悪したり、泣くまで喧嘩をしたりしていました。

その日は日曜日で、居間で食事を取り終えて、サザエさんを見ていました。

私は、サザエさんが終わってもぼんやりテレビを見ていました。

私の家族は
父母私妹祖母叔母の6人家族。
その時は、食器洗いでもしてたのか、大人は誰も居間にいませんでした。

「お姉ちゃん遊ぼうよ!」
ぼんやりテレビを見ていた私に妹が、ふすまの外からニコニコ顔を出して遊びに誘ってきました。

前述通り私と妹は険悪でしたので、
こんなナチュラルに遊びに誘ってきたのをとてもビックリした覚えがあります。

それに面食らったのか、
「う、うんいいよ」
と、承諾してしまいました。

妹と仲良く遊ぶのは久しぶりです。
私「何して遊ぶ?」
妹「向こうの部屋でおもちゃで遊ぼうよ!」

やたらテンション高い妹は、居間から離れた茶室の部屋で遊ぼうと提案してきました。

私の家は戦後すぐ建てた当時築50年ほどの平屋でした。
宮大工の親戚が建てた、立派な家で、建物だけで50坪ありました。
けどものすごく古いし、汲み取り式トイレだし、怖かったです。

茶室というのは、母屋に増築した離れで、
廊下で繋がっていますが、そこまでの廊下がもう暗くて、怖いので子供たちでは歩けません。

3 mihoko :2013/04/16(火) 13:45:10 ID:eO6kTgQA0
長くなってすみません。続きです。

私「やだよ〜怖いもん」
妹「じゃあてをつないでいこう!」
といつになく積極的なので、
二人で身を寄せあって、小走りで離れまで行きました。

離れの茶室は当時、私の勉強部屋と遊び部屋になっていました。

無事着いた私たちは

私「なにして遊ぶ?」
妹「う〜ん、」
妹の視線の先には、買ってもらったばかりの学習机が。

普段は仲が悪いので、机やランドセルには、絶対触らないよう伝えてました。
けどこの時は、暗い廊下を子供だけでたどり着いたという高揚感で、私もハイになっていて、

私「今日だけ特別に机で勉強させてあげるね!」
と言って、机の隅々まで説明(電気がつくだの、何が入ってるとか)、ランドセルを背負わせてあげたり、仲良く遊びました。

それから、妹に習ったばかりの足し算と引き算を教えてあげました。

私「ゆびで数えてごらん、で答えをここに書くの」
妹「いちとにだから、さん?」
私「そう!できた!!すごいじゃん!」
ってな具合です。

けど本当は、自分の宿題を妹にやらせよう、と悪巧みをしていました。

なのに、妹は
妹「おねえちゃん楽しいね!楽しいね!ありがとう!」
と目を輝かして、満面の笑顔をしてくるので、ちょっと悪いなぁ〜と思いました。

4 mihoko :2013/04/16(火) 14:17:32 ID:AUDbwXvs0
最後です。

私(まぁでも、楽しんでるんだから、私悪くないよね!)
と思って、今までにないくらい仲良く楽しく遊んでいました。

そうこうしてる内に、母が部屋に来て、
母「ここにいたの、お風呂沸いたからおいで〜」と呼びに来ました。

けど宿題箇所がまだ終わってなかったので、
私「お風呂先に行ってくるからやっておいてね!いい?最後までだからね!すぐ戻ってくるからね!待っててね!」
妹「うん!わかった!おねえちゃんいってらっしゃい!」
と満面の笑顔で見送ってくれたので、意気揚々と私だけお風呂で待つ母のもとへ。
(お風呂は居間の隣にあります)

母に飛び付いて早速、
私「あのね〜私偉いんだよ!○○ちゃんに足し算教えてあげたの!(えっへん)」
と誉めてほしくて、ハイテンションだ自慢しました。

そうしたら、
母「何いってるの?○○ちゃんは居間で寝てるでしょ?サザエさん見ながら寝ちゃったよ、」と、

その時頭の中は???だらけで、
なんだか、決定的な間違えを見落としてしまった気持ちになり、

今の今までやってたことを、一生懸命話しましたが、
確かに後ろに妹が寝ているのを見せられて、大泣きしてしまいました。

そのあと母にされるがままお風呂に入らされて、
寝る時には私の勘違いだったのかな?と思うまでに落ち着いてました。

ただ、寝室離れの茶室の上だったので、茶室の前を通らなければならず、
またじわじわと怖くなってまた泣いてしまいました。

だって「絶対戻ってくるから」って約束したから。
だから、あの子も私のこと待ってるに違いない!って思って。

けど、「もし部屋の電気が付いてなかったら、私の勘違いだったって思おう!」と最後の希望?を託して、
母にだっこされて、茶室の前へ。

私「…ついてる!!ううわぁぁぁん!!」
ここでまた大泣き。
母「消し忘れたのね誰もいないし消すわよ」
私「だめええ待ってるもんん!!」
母「誰が待ってるの?」
私「だからぁ○○ちゃんだよぉぉ」
母「は?」

ここからは、目をつぶって母にしがみついて階段を上がり、
迎えくるんじゃないかと、ビクビクしながら母の布団で寝ました。(家族で川の字)

それから、怖くて学習部屋には入れなくなり、
宿題が出来ていたのかも確認出来ずドリルは、たぶん捨てました笑

とにかく、人間と変わらないでそこにいたので、霊や妖怪?はあるのだと、確信し、
その後余計自分の家が嫌いになりました。

その後、友達に化けて人数を増やしたりと、たまにいたかも知れませんが、(うちはかくれんぼに絶好の場所だった)ここまではっきり確認できたのは、これが最初で最後でした。
今でも、もう少し優しくしてあげればよかった、って後悔してます。

以上です。
下手な文にお付き合い頂きありがとうございました。

5 名無しさん :2013/04/17(水) 16:55:53 ID:bSCnDPMo0
妹の生霊か、離れに昔住んでた子か、あるいは座敷童子的な何かか
いつの間にか仲間の人数が増えてるっていうのはたまに聞くけど、寂しがり屋っぽいよね

6 早坂君の仏壇 :2013/04/17(水) 17:36:23 ID:wGLMPkCo0
15年くらい前に僕フリーターやってたんだけど、命の恩人である早坂君と言う人がいてね、同年代の友達なんだけど
ある日突然僕に相談してきたの。
「amちゃん、聞いて欲しいことがあるんだけど・・・」
「なに?」
「amちゃんってオカルト話いっぱい持ってるみたいなんだけど、実は俺ね、幽霊とセックスしたかもしれないんだ」
「ええ!?それどういう事?」って聞いたのね。
早坂君ね、渋谷でナンパしてラブホ街に連れ込んでエッチしたのね。
エッチしてるときに幽体離脱して魂がこう、段々段々上に上にふわーっと浮き上がっていったの。
その魂が天井につくかつかないかぐらいで意識を失って、気がついたらベッドで一人いた、って言うのね。
それ以来ずっと体がだるいって言ってる。

で「俺幽霊とエッチしちゃったんじゃねーかな」って言ってきたんだけど、でもね幽体離脱って幽霊いてもいなくてもしちゃうから
幽体離脱したから相手を幽霊と決めつけるのはそれ根拠弱くないか?って疑問を即座に言って、その当時睡眠薬強盗とか流行ってたんですよ。
ハルシオン飲まされて財布取るとかさ。早坂君ハルシオン飲まされたんじゃないの?って、その説に僕固執しちゃって
 そしたら喧嘩ってほんとくだらないことから始まるけどさ、それから早坂君怒っちゃってさ
「俺の話信じてくれねーのかよ!」って感じで切れちゃって
「そんな訳ねーじゃねーかよ、俺最初から話聞いてるじゃねーかよ!まじめに聞いてるからこそ笑わずに最後まで聞いてるんじゃねーのかよ」
ってなんかそんな風に喧嘩になっちゃって、それから早坂君のアパートを喧嘩別れして出て行っちゃったんだけどね。

で、それから3ヶ月後クリスマスシーズンになったのね。早坂君と喧嘩別れして会わなくなって3ヶ月。
その時早坂君の好きなビデオテープを買ってきて、それに「早坂君ごめんね。早坂君の言ってること僕信じてるからね」
みたいなメッセージカードを添えて郵送して
それで仲直りしようと思ったのね。
そしたら宛先不明で帰ってきたの。
それで郵便局の人に「これどういう事でしょうか?」って聞いたら、相手が引っ越しして、
その時に転送手続きしてないと戻ってくることがあるから宛先不明で帰ってきたんじゃないの?って言われたのね。
あー、じゃあ俺早坂君と喧嘩して仲直りできないままになちゃったのかなあって思ったのね。

7 早坂君の仏壇 :2013/04/17(水) 17:37:57 ID:wGLMPkCo0
で、それから9ヶ月ぐらいした頃かな?駅のホームで早坂君に会って「あー、早坂君9ヶ月ぶりに会ったじゃないの」って言って、でー早坂君が
「amちゃん、車ぶつけたんだけどかた焼きそば好き?好き?どうよ?」って言ってきてさ、凄い要領得てない支離滅裂な事言うのね。
僕の知ってる早坂君って比較的無口で聞き上手で必要最低限のことしか言わないタイプなんだけど、
要領得てないことをマシンガントークのように言うようなタイプになったのね。
9ヶ月ぶりに会ったら「あれ、全然違う、おかしいな」と思って。
早坂君の言ってること頭の中で組み立てないと何言ってるか分からないから、どっかで落ち着いて話を聞いて早坂君の言ってること組み立てようと思って
外食の店に連れて行ってそこで落ち着いて話を聞こうと思ったんだけども・・
 そこでね、また要領得ないことを話してるんだけど、そこでまたあれ?って思ったのは早坂君辛いのダメな人だったの
でもタバスコをピッピッピッピって掛けてるから、あれ?9ヶ月で味覚ってこんなに変わるかな?って思ったんだよね。
それでとりあえず、早坂君の話聞いてると僕の頭の中で組み立てて聞いてみると例の渋谷でナンパした女の子は今も来てる、とか言ってるのね
あー、これは幽霊に取り憑かれてるんじゃないかと思って、問題の家に行って何が原因なのか検証した方が良いなと思って、早坂君に「ちょっと連れて行ってよ」
って言ったら連れて行かれた場所は宛先不明で帰ってきた住所(引っ越す前の住所)だったのね

2階建てのアパートの1階に連れて行かれて、部屋のドア開けた瞬間部屋の真ん中に仏壇がどーんとあって、
早坂君キティーちゃん好きでグッズとかも煙草の脂ですすけてるのね。
その脂ですすけたキティーちゃんが仏壇の周りにブワーって散らばってるの。
それ見て俺一秒でも速く逃げ出したいと思ったけど、早坂君命の恩人だから助けなきゃと思って
「早坂君これ何?」って聞いたら早坂君また支離滅裂な事言ってるんだけど僕なりに組み立てると、
この仏壇があると渋谷で軟派した女の子が毎日来てくれるって事を言ってるらしいのね
 「早坂君この仏壇解体して処分した方が良いよ」って言ったら股支離滅裂な事言って、とにかく怒ってるらしいのね
何言ってるか分からないけど怒ってて追い出そうとするから、もう付き合ってられないと思ってそれで早坂君の家から逃げるように出ていったんだけども・・

家に帰って、命の恩人だから何とかして上げなきゃと思って、次行くときは友達引き連れて仏壇解体して、粗大ゴミに出して早坂君は神社でお祓いして、
精神科の病院に診て貰って、そういうケアをみんなでして上げた方が良いと思って次の日早坂君に紹介して貰ったアパートに様子見で行ってみた
様子を見て友達引き連れて仏壇解体しようと思ったんだけども、そこでチャイムならしたら別の人出てきたのね
んで、「あ、ひょっとして去年の12月にここに引っ越されたんですか?」って聞いたみたのね
「実は去年の12月までに引っ越ししたと思われる人に会いに来たんですけど」って言ったら
「アー、確かに12月の時点でその人引っ越してた」って言うのね
だから別な人が住んでたから宛先不明でビデオが帰ってきたのね
で、昨日は早坂君がいて仏壇があって、その周りにキティちゃんが散らばっていて・・それが今日は大学生の部屋になってて、
あれ、これどういう事なんだろと思って僕たまたま大家さんの家知ってるから大家さん家に言って聞いたみたのね。
そしたら「他人のプライバシーは教えられない」の一点張りで何も教えてくれない。

8 早坂君の仏壇 :2013/04/17(水) 17:39:06 ID:wGLMPkCo0
それでね、いたこさんと話ししたんだけども、「その仏壇大きかったの?」って言ったら「うん、凄い大きかった」
って言って、インパクトあったから実物大より大きく見えたのかもしれないんだけど。
 普通のぼろいアパートってドアが狭いからでっかいテレビとか入らなかったりするんだよね。
それくらいの大きさだからドアから入れたとも思えないし窓から入れたとも思えないし。
 僕といたこさんの仮説は、畳ひっくり返して土掘って、埋まってた仏壇を掘り返したんじゃないか?ってゆうそういう仮説を立てたんだけども
実際その仏壇って腐葉土の匂いがぷんぷんする仏壇なのね
葉っぱの腐った土の匂いがしてさ、漆が所々はげててさ、遺影はあまりにも風化しすぎて誰の写真家分からないし、位牌には泥がついてて
何が書かれてるのか分からないような仏壇ね。
もうこれ土から掘り起こしたような匂いしてて、ひょっとして地面を掘り超して出しちゃったんじゃないか
そういう仮説を僕といたこさんで立てたんだけどね。
何か取り憑かれたんじゃないのかな?もうその時点で。その部屋で何かあったんじゃないのかな・・
そういう事も全部大家さんに聴いてみたんだけども、「名誉毀損になることは言わないでくれ」とか「風説の流布はやめてくれ」とか「訴えるぞ」とか言ってきたのね。

赤の他人には個人情報教えられないって言うから嘘ついて「早坂君に貸した金を返したいから」とか「借りたCDあるから」とか
とりあえず電話の連絡先でも教えてくれないかって聞いたんだけどそれでも教えてくれなかったし。
それで早坂君は行方分からないままなんだけども・・・

その話をね、去年のある百物語オフ会で話してたときにね、トイレ休憩の時に何時もなら人並んでるんだけどその日だけがらーんと人がいなくて
そのトイレの二つの鏡にちらっとちょっとざんばら髪っぽい眼鏡掛けてた顔見えた気がするんだよね
当時自分も髪ぼさぼさで眼鏡掛けてたから自分が写ってたかなあ?早坂君の顔もちらっと見えた気がするけれども。
 いや、考えすぎだ。みんなの怖い怪談聞きいて怖くてぶるぶる震えてるから考えすぎだと思って小便してたら背後から僕の本名で

「amちゃん、どうよ?」

って言ってきて、俺ションベンしてるから動けないし、振り向いて何かいたら怖いから振り向くことも出来ないし
そうしてる間に掃除のおばちゃんが入ってきてね、「うわー、やった。ひとりぼっちにならずに済む」と想ってたら
掃除のおばちゃんが
「あれええええええええ」って言いだして後ずさってトイレから出ていっちゃったの
なにがあったんだと・・・・。凄く気になるけど怖くて聞けないって言う・・
それで戻ってきたら顔面蒼白だったらしいから
いたこさんに「amちゃんどうしたの?」って言われて「実はこうこう、こういう事という話をしてね
 ハンドルネームのamでamちゃんどうよ?って言うんだったら参加してる誰かが事呼んだんじゃないの?って思うけど僕の本名で呼ぶからさ・・・
僕の本名知ってる奴なんて参加者の中には誰もいないのよ
「どうよ?」って言い回しも早坂君独特の言い回しでさ。それで怖くてションベン止らなくてさ・・終わった瞬間にダッシュで出ていったよ

9 早坂君の仏壇 :2013/04/17(水) 17:39:58 ID:wGLMPkCo0
それでそれ以来早坂君は行方不明って事で、探偵に頼んでもごめんなさいって事で金帰ってきてね
その続きがまさか2月に起るとは思わなかったんだよね
 「今年の2月に超」−1(怪談コンテスト)というのがあって、それに応募しようと思ってワードに書いてたのね。
で、文章書いてる時に朝なんだけど玄関で「ピンポーン」って鳴ったから玄関のドアを開けようと思ったら開かないのね。
ドアに何かぶつかってて。
「何がぶつかってのかなあ」と思ってドアから覗いてみたらガラスケースに入った日本人形。それがドアにぶつかって完全に開かない。
廊下の左右見たら誰もいなくて、一体誰が置いたんだろうと思って・・・・
とりあえずその人形は警察に届け出しましてね、遺失物と言うことで預かって貰ったんです。

それから数日してまたこの仏壇の話をワードで書いてたんですね。
そしたらまたピンポーンって鳴って、宅急便かな?と思ってドア開けたらまたドアが完全には開かずに何かにぶつかってるんですよ
悪い予感がして恐る恐る見たら、またガラスケースに入った日本人形なんですよ・・・二体目・・
それでまた警察に電話したら今度は民事不介入とか言い出してきて「自分で解決してください」って言ってきて。
しょうが無いから管理会社に預からせてくださいって頼んでも断られて、それから神奈川にいる自称霊能力者に預かって貰おうと電話したら
「あ、am君その依頼は受けられない」ってぶちんって切られたの。
僕まだ人形の話してないのよ。なのにその依頼は受けられないって切られたの
うわ、どうしようと思ってとりあえずこの人形も燃やそうって思ったのね。
玄関に人形置いてライターで燃やそうかな、って思ったときに背後から早坂君の声で

「amちゃん、どうよ」

って聞こえて、その時はビックリして振り返っちゃったのね。
振り返った瞬間真っ暗。暗転
テレビからは朝の放送とか聞こえてるの。でも真っ暗。後で目が見えないって事に気づいたの。
とりあえず119番呼んで目を何とかして貰おうと思ったんだけども、とりあえずポケットに入ってる携帯取り出して「119」って押そうとしてるんだけど
目が見えないからどこが1でどこが9か分らないのね。
携帯って色々ボタンがあるからなかなか119って押せなくてね。
結局隣のドアを叩いて「すいませーん、救急車呼んでさーい」って隣の人に救急車呼んで貰ってね。
で救急車で運ばれて、目の検査したら目に異常は無いと。CTスキャンにもかけられても異常は無いって言われて。
で、医者に緊急時の連絡先は?って聞かれて実家の青森の電話番号言ったのね。
それで電話して貰って次の日に兄さんがやって来たんですよ。うちに。
それから兄さんと新幹線に乗って青森に行ってね。

10 早坂君の仏壇 :2013/04/17(水) 17:41:14 ID:wGLMPkCo0
人間って目が見えなくなると耳と鼻が鋭くなるんだよね。アナウンスもはっきり聞こえるし、青森って排気ガスが少ない感じがするんだよね。
で、家でくつろいでたらおばあちゃんとおじさんがやって来て、おばあちゃんが言うにはね、
うちの曾おじいちゃんも見てはいけない本を見て目が見えなくなったと。
その時に拝み山待って言うタブー満載の山(オオカミが住んでる、外交官ナンバーの車がうろうろしてる、アヘンが栽培されてる、UFOの目撃談が多い)
その山にお住まいを置いたら目が見えるようになったと言うことがあったから、お前もそれした方が良いってことになって、
で、おばあちゃんとタクシーに乗って、その時に「これどうしたの?」って言われて「何?」って言ったら
「お前ずっと日本人形持ってたろ」って言われて「ええええええええええええええ」って。
僕知らずに日本人形持って帰ってたらしいです。
この日本人形が目の見えない根源だと思って拝み山に置いていこうと思って、ガラスケース持ってタクシーに乗って。
で、おばあちゃんががタクシーの運転手に道案内してて、まだ2月だから雪がビュービュー降ってるの

それでタクシーの外を出て、おばあちゃんが「ここが拝み山だよ」って言うんだけど雪がビュービュー降ってるから寒い感覚しか分らないんだけども
その時にふとね津軽弁で「こっちこい、こっちこい」って二十代後半の女性の声が聞こえたんだよね。
僕が「おばあちゃん、声が聞こえるよ」って言うと「それは拝み山の神の声かもしれんね」って言ってきたの
とりあえず声の方向に歩いてみなって事になって、危ういながらも亜ばあちゃんの肩を掴んでてくてく行って、謎の声がね、

「うわあ、なんて面倒くさいモノ持ってきたんだ。でもそれがあると目玉が腐っちまうからね。しょうがないから置いてきな」っていう声がして
僕はその声の通り日本人形を雪の上にどさって置いて、おばあちゃんがお供え物をどんっと置いた音がしたんだよね。
「何か置いたの?」と言うと「うん、日本酒」
この山は稲荷なんだけども、お稲荷さんっていうと油揚げというイメージあるじゃないですか。
でもこの稲荷はオオカミ稲荷だから油揚げじゃなくて酒を欲しがるんですよね。
で日本酒を置いておばあちゃんが「どうかうちのamをお願いします」って拝みだしたのね。
その時に女の人の声で「あんまり馬鹿な真似しちゃダメだよ」っていう声が聞こえたと同時に段々光を感じてきたのね。
で、じわじわ何かが見えてきたの。ではっきり見えた時に視界の中に映ったのはエレベーターの中!
拝み山にいたはずなのに、エレベーターの中。
 とりあえず外に出たら東京都庁の展望だったの。雪国の人は条件反射で暖かいところに出ると肩とか頭とかぱっぱっと払っちゃったりするんだよね。
その時にぼそっと、雪が落ちてきたんだよね・・・・
その時に東京は雪降ってなかったんだよね
それから自分の部屋に帰ったら、ワードで書いたはずの仏壇の話が完全に消えてるんだよ。
これどういう事だと思ったら背後から

「amちゃん、どうよ」

って聞こえてきた。その時はさすがに振り向けなかった。
そういう事情があって「超」−1に応募できなかった。

11 早坂君の仏壇 :2013/04/17(水) 17:43:03 ID:wGLMPkCo0
・・・という話でね。この仏壇の話は語るのは大丈夫なんだけど文章にして投稿しちゃダメみたいな・・・
誰かに書いて貰うしかないねこれ・・・・

青森に電話したら帰って来てないって言われた。おばあちゃんとかにも
救急車で運ばれて検査したわけだから検査代払わなきゃいけないんだけど検査してないって言われて、
警察の遺失物係に人形の話したら人形の届け出はないし人形は扱ってないって電話が来た。
何にも無かったことになって自分だけ数日間過ごしたことになってた。



以上、amの怪談から「早坂君の仏壇」を文章に起こしてみた

12 名無しさん :2013/04/21(日) 00:27:21 ID:1i2Gin9.0
おお、早坂君の仏壇じゃないか!
動画消されたんで残念に思ってた。GJ

13 amの怪談 :2013/04/21(日) 16:55:38 ID:1i2Gin9.0
「ソ連から脱走した祖父が中国で見た幻」

これはねしゅんすけおじいちゃんの話なんだ
シュンスケおじいちゃん、戦争中満州にいてね、学生を養成する大学講師の様な仕事をしてたんだけどね。
で、満州にソ連軍が攻めてきておじいちゃんソ連軍に捕まったんだ。
で、ロシア語多少出来るからジュネーブ協定で民間人は捕虜に出来ないから解放してくれ、って言ったんだけど
「いや、お前は戦争犯罪人だからモスクワに連れて行って戦争裁判にかける」とかそういう事言われちゃってね。
シュンスケおじいちゃんからしたらシベリアだったら地理的に中国と繋がってるからまだ日本に帰れる当てはあるけど、
モスクワまで連れて行かれたらもう一生日本に帰れないなと思って、それで脱走計画を練るわけですよ。

 脱走計画を練るときに一人じゃダメだから、色々特技を持ってる奴をあと3人集めてシュンスケおじいちゃんをリーダーに4人で脱走計画を練るんだけど
まずロシア語出来るシュンスケおじいちゃんがロシア兵に向かって「今からマシックショーするよー!」って言って、
仲間の一人で手品師で華麗なマジックショーをやるんだ。
するとロシア兵が手を叩いて「ワー、ブラボー」って拍手するのね。
その時に3人目の仲間のスリで詐欺師で日本にいたら捕まるから満州に逃げてきた、っていう本当の犯罪者が
ソ連兵に紛れ込んで鍵をスッちゃう。
で、マジックショーが終わらないうちにロウだか石けんに押しつけて型を取ってマジックショーが終わらないうちに戻ってきて
ソ連兵の懐に鍵を戻すの。
それから4人目の仲間である板金工がくず鉄から金属加工して型を元にして何とかスペアキーを作って、
鍵が開くことを確認して期日を決めて一斉に脱走。
で、ソ連から中国へ、中国から朝鮮へ行こうとしたのね。

14 amの怪談 :2013/04/21(日) 16:56:13 ID:1i2Gin9.0
ソ連から中国へ横断してる時にもう極限状態だったんだよね。いつ殺されるか分らない恐怖。
あと飢えと寒さとずっと移動してる疲労。
 そんな時に炊事してる匂いがしてきたのね。
それで仮に死ぬとしても飯食ってから死ぬのも良いんじゃないかと言うことになってね
それで三国志に出てくるような屋敷に行ったらしいのね
何百年も昔の貴族が住んでるようなお屋敷。
そしたらね、門を叩いて、シュンスケおじいちゃんが北京語で「宿と食事を提供してください」って言ったら言葉が通じない。
満州って五族共和という言葉があるくらいで、中国人の他に満州族とモンゴル族と朝鮮族と日本人とそれで五族なんだけど。
それで別の民族かな、と思って朝鮮語で話しても通じない。満州語で話しても通じない。モンゴル語で話しても通じない。
あ、これ別の少数民族かなと思って困ってたら、シュンスケおじいちゃん学校の先生だから鉛筆いっぱい持ってたんだよね。
 それで紙に鉛筆で漢文で宿と食事を提供してください、って書いたら門番がそれを持っていったら、
筆で書かれた漢文で「宿と食事を用意します」って返事が返ってきた。

他の3人はやったーって喜んでるんだけどシュンスケおじいちゃんだけ「あれ?」って思ったの。
その書体が千年前の唐の時代の書体だって言うのね。
そんな古い書体を今時使ってる奴なんているのかなあ、と首をかしげたんだけど、応接間に通されたら数百年前の中国の貴族のような高貴な人が出てきて
それが館の主人で、その館の主人と鉛筆で漢文書いて筆談してやり取りして、その間に食事を貰って寝たのね。
 それで極限状態からほっとしたら体が油断して風邪引いたのね。
それでもソ連兵か中国兵が追いかけてるかもしれないから、出ていこうとすると館の主人が亀の甲羅ひび割れ見せて
「今は不吉だから行っちゃダメだ」っていってきた。
それでいっそのこと神頼みに頼ってみようと思って、その日は大人しく寝ることにしたのね。

15 amの怪談 :2013/04/21(日) 16:57:02 ID:1i2Gin9.0
次の日風邪も治って出ていこうとすると主人がまた亀の甲羅のひび割れ見せて「こっちの方角へ行け」と言うのね
とりあえずその方角へ行ってみようかと言うことになったのね
で、その時にさんざん館の主人にお世話になったから何かお礼したなあ、と思ったね。
その時におじいちゃんが気づいたのは館の主人は筆で書いてるんだけど、おじいちゃんは鉛筆で書いてるわけだね
で、鉛筆を物珍しく見てたのね。だから鉛筆を全部挙げたのね。
そしてたら館の主人は巾着袋を五つ渡してきたのね。中を見ると金と翡翠で出来た装飾品だったのね。
それを貰って外に出たら草がぼうぼうと生い茂ってて、おかしいなと思って振り返ったら館がなくて丸い丘があるだけ
その丘をよく見たら人工的に作られたとしか思えないのね。
千年前の唐王朝って貴族を埋葬するときに丸い丘とかの下に亡骸を弔って古墳みたいなのを作るんだけど、そういう唐王朝時代の丸い古墳というのかな?
という憶測を立てつつ、とりあえず館の主人が言ってた方角に行ったら運良く年にたどり着いたんだ。
 
それからスリ大活躍。何でもかんでもスってそれで食料調達して。
それで朝鮮方面まで行って。
シュンスケおじいちゃんが都市に入って助かったと言う理由が、スリのおかげじゃなくて黄色人種が何も話さなければ中国人か日本人格別つかないから
日本人であることがばれない、というのね。
それで無言のまんま通り抜けてそのまま引き揚げ船まで行こうとしたんだけど、その時に運悪く中国兵に「お前日本人だろ」てばれて捕まったんだけど
その時に館の主人から貰った装飾品を全部出して、賄賂として渡して「見なかったことにしてくれ」って頼んだら解放してくれた。
それで引き揚げ船に乗って日本に帰ってくることになった

シュンスケおじいちゃんは良い大学でてる人で理論武装してる人だから幽霊信じない、と言うんだけど、
もし幽霊がいるとしたら「うらめしや〜」と出てくる怖いものだけとはは限らない、
客をもてなしてプレゼントされたららお返しもする。そういう血の通った幽霊も絶対いるはずだって。
僕が思ったのは中国語とか朝鮮語とかモンゴル語が通じないというのは、千年前の唐王朝の言葉と今の言葉が違うから通じなかったんじゃないかと
そういうお話です。

16 名無しさん :2013/04/22(月) 23:05:52 ID:YNMXyXdQ0
amの怪談、懐かしいな。この人の話は真偽はともかく面白いわ

17 名無しさん :2013/04/23(火) 17:22:45 ID:oL5DUAVI0
有名な人なの?読み入ってしまった。でも二つとも幻見たとかなんでその人自体ヤバイ人なんじゃ・・

18 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 19:59:15 ID:RD7zILew0
テスト中

19 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:13:33 ID:RD7zILew0
 皆様、こんばんは。藍です。お久しぶりです。

 知人の説得に一応成功し、3月末には原稿を受け取っていたのですが
昨年度末・新年度始めの目の回るような忙しさで投稿出来ませんでした。
前スレは終了してしまったようなので、こちらに投稿させて頂きます。

 皆様に楽しんで頂ければ良いのですが
もし鬱陶しく思われる方がおられましたら大人のスルーでお願い致します。
では、以下『卯の花腐し(上)』です。

20 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:21:28 ID:RD7zILew0
 梅雨の走りの雨が、昼前からずっと降り続いていた。

 雨音に混じって、俺のいる車道と交差する横断歩道の
歩行者信号が青になった事を知らせる電子音が聞こえている。
俺はSさんに頼まれた買い物を終え、お屋敷へ帰る途中。
既に夕方で車の流れはやや渋く、列をなすテールランプが明るさを増していた。
その時、何か白いものがロータスの助手席側を通った。
子犬だ。
きょろきょろしながら車道の端を危なげな足取りで進んで行く。
半年程前からこの交差点の近くでよく見かけるようになった。
首輪が付いているし、ころころ太って毛並みも良いから飼い犬だろうが、
あれじゃ何時事故に遭っても仕方がない。何故ちゃんと繋いでおかないのか。
子犬を見かける度、俺は飼い主に対して軽い憤りを感じていた。

21 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:22:26 ID:RD7zILew0
 前方の信号が青になった。少しして車の列が流れ始める。
「あ!」
車道から横断歩道に入り込んだ子犬に向かってRV車が左折していく。
巻き込まれる。あのタイミングでは到底助からない。
『轢かれた?...』 交差点を直進しながら俺は横断歩道を確認した。
血塗れの子犬の轢死体を見るのは胸が痛むが、確認せずにはいられない。
!? RV車の通り過ぎた横断歩道に子犬が立っていた。すぐに俺の後ろの車が左折する。
しかしその後もバックミラーには横断歩道に立つ子犬の姿が映っていた。まさか、何故?
そういえばあのRV車も、俺の後ろの車もほとんど減速しなかった。
まるで子犬など全く見えていないように。いや、それよりも。
あの子犬は、半年前から全く成長していないではないか。
そして、この雨の中、その毛並みは全く水を含んでいなかった。
何故気が付かなかったんだろう?
『幽霊?子犬の...』

22 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:23:38 ID:RD7zILew0
 Sさんについて本格的な修行を始めてから、
以前は見えなかったものが俺にも少しずつ見えるようになっていた。
『本当に幽霊がいるならそこら中が幽霊だらけだろう』
そういう意見は昔からあるし、それは確かにもっともだが
実際に普段の生活の中で見かける幽霊の数はそれほど多くない。
ましてや犬の幽霊なんて、今まで一度も見た事が無かった。
あれは本当に犬の幽霊だったのか?動物の幽霊なんて存在するのか?
動物の幽霊が存在するなら、それこそそこら中が霊だらけの筈ではないのか?
自分の眼で見たものが半ば信じられないまま、俺はお屋敷に向かって車を走らせた。

23 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:24:49 ID:RD7zILew0
 「あの、話は変わるんですけど。」 「何?」
夕食後、リビングで俺とSさんは他愛ない話をしながらハイボールを飲んでいた。
姫は既に翠を抱いて自分の部屋に戻っている。2人とも、もう寝た頃だ。
Sさんは何か考える事があるのか、今夜は特に姫を追いかけたりはしなかった。
「動物の、例えば犬の幽霊って、いるんですか?」
「いることはいるわよ。でも数はとても少ない。」 Sさんはハイボールを一口飲んだ。
「動物は幽霊になりにくい、とか?」
「説明が難しいけど、『人間の心との関わり』があった動物だけみたいね。幽霊になるのは。
そしてそれが『良い関わり』か『悪い関わり』かで幽霊の性質は全然違ったものになる。
良い関わりなら御利益をもたらし、悪い関わりなら祟りをなす。ま、程度の問題だけど。」
「普通の、野生の動物は幽霊にはならないんですね。」
「そう。それにしても少なすぎると思わない?」 Sさんの眼が輝いた。
「動物の幽霊だけじゃなく人の幽霊も、何故そこら中が幽霊だらけじゃないのかしら?」

24 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:26:21 ID:RD7zILew0
 Sさんがこんな顔をするのは俺に何かを教えようとする時だ。必死で考える。
「ええと、例えば相当な恨みをもって死んだ人じゃないと幽霊には、でも、それだと。」
「そう、恨みをもって死んだ人だけが幽霊になる訳じゃない。
もしそうなら、戦場の跡なんてそれこそ幽霊だらけのはずなのにそれほどでもない。
逆に思い残す事など無いはずの人が幽霊になって現れたという話も普通にある。」
恨みでも、思いの強さでもないとしたらそれは...
「幽霊になりやすい人と、なりにくい人がいるってのはどうでしょう?」
「素敵、今夜も冴えてるわね。ほとんど正解。」
Sさんは俺の頭を軽く撫でてから、ハイボールをまた一口飲んだ。
「もう数百年も前の先祖の時代から、私たちは魂の性質を『霊質』と呼んでる。
人によって体質が少しずつ違うように、人によって霊質も少しずつ違う。
そしてごく稀に、幽霊になりやすい霊質の人がいる。
そういう人の魂は肉体との結びつきが少し弱くて、場合によっては肉体が生きている内から
何かのきっかけで魂が肉体を離れて活動することがある。いわゆる『生き霊』がこれね。
おそらく『飛頭蛮』や『ろくろ首』も多分生き霊から派生したイメージだわ。」

25 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:27:17 ID:RD7zILew0
 「生きている人の霊質を見分ける事は出来るんですか?」
「霊質の違いは微弱な信号として肉体に現れる。それが『気紋』。」
気紋、聞いた事のある言葉だ。胸の奥が痛む。あれはいつ、何処で聞いたのだったか。
「高位の術者やうまれつき資質を持っている人なら、気紋を感知して識別できる。」
Sさんは俺の眼を見つめて微笑んだ。「例えば、あなた。」
思い出した。確かにあの時Kは、俺が『気紋』を識別できると言い、それを不思議だと言った。
「お母様があなたの感覚の一部を封じた代わりに、気紋を感知する感覚が鋭くなったのね。
あなたは無意識に気紋を感知して識別してる。私の『百合の花に似た香り』みたいに。」
「百合の花の香りって!それは。」
会話の途中でSさんが俺の心を読んで先回りするのには慣れっこだがこれには驚いた。
その香りについて、今までただの一度も、話題にしたことはなかった。それなのに。
「私を抱きしめてくれる時、あなたの心には必ず百合の花のイメージが浮かぶ。
そのあとでラベルに百合の花がデザインされた化粧品や香水のイメージ。
でも、私は普段化粧をしないし香水も使わない。」
「じゃあ、あの香りは?」
「あなたは感知した気紋を無意識に五感の嗅覚に置き換えて認知してるってこと。
女性の気紋を花に例えて分類するのはとても古くからある手法だし、
真っ白な百合の花に例えられるのは、女として悪い気分じゃない。」
そういえば俺は姫のイメージが昼咲月見草に似てると書いたことがある。もしかしてあれも。

26 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:28:32 ID:RD7zILew0
 「ところで、今夜、犬の幽霊の話を持ち出したってことはあなたにも見えるのね。
○町南交差点辺りの、あの白い子犬。」
!! 心臓が止まるかと思った。
「驚きました、図星です。どうして分かったんですか?」
心なしか、Sさんの表情が曇ったように見えた。
「あの子があそこに現れるようになったのは去年の9月頃。
今、あなたの行動範囲に現れる犬の幽霊はあの子だけだからすぐに分かった。」
それならSさんは俺より3ヶ月程早く気付いていた訳だ。
「可哀相だから何とかしようと思ったけど駄目だったわ。あの子は一生懸命探してる。
自分を置いたまま帰ってこなかった小さな女の子を。
普通の人にはまず見えないし、手荒な事をするのは余計可哀相だからそのままにしてるの。」

27 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:29:32 ID:RD7zILew0
 「その女の子は、あの子犬の飼い主、ですか?」
「それは分からない。あの子の記憶の断片に女の子の姿が見えただけ。
夕暮れ時、迷って不安だった自分を抱き上げてくれたこと。それがすごく嬉しかったこと。
でも、女の子は男の人に手を引かれてどこかへ行ってしまった。」
「女の子のお父さんが迎えに来たんでしょうか?」
「それも分からない。ただ、あの子は一生懸命女の子を探して...」
Sさんは言葉を切って、小さく息を吐いた。
「あの交差点で事故に遭ったんですね。それで。」
「そう、だからいつも大体同じ時間、夕方に現れて繰り返してる。
女の子に会った場所からあの交差点までを。女の子にもう一度会いたい一心で。」
「何時か女の子に会えたらあの子犬も?」 「本当に、そうなれば一番良いんだけど。」

28 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:30:39 ID:RD7zILew0
 Sさんはハイボールの残りを飲み干して小さく伸びをした。
「さて、眠くなってきたから私の話も聞いてね。」 「勿論です。」
「明日、依頼人に会いに行く時、私と一緒に来て欲しいの。」
「新しい依頼があったんですね。僕で良いんですか?Lさんじゃなくて?」
「今はお社の管理だけだけど、修行の進み具合によっては別の仕事の依頼も来ると思う。」
「...僕への仕事の依頼ってことですか?」
「そう、実を言うともう何十年も前から術者の数が足りなくて、慢性的な人手不足なの。
その時のために、あなたの適性を調べておきたい...そうしないと心配で堪らない。」
Sさんは右手でそっと俺の左頬に触れた。
「適性に合わない仕事を受けるのは、特に初めのうちは本当に危険だから。」
もし、仕事の依頼が来れば名実ともに俺は一族の一員と言うことになる。
ならこれは俺にとって、チャンスと考えても良い筈だ。
勿論、不安もあるが、Sさんが俺に期待してくれているということだから。
ぴいん、と、気が引き締まるのを感じる。下腹に力を入れた。
「わかりました。一緒に連れて行って下さい。」
「うん、良い返事。じゃ、明日に備えてもう寝ましょ。」

29 『卯の花腐し(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/23(火) 20:41:43 ID:RD7zILew0
 『卯の花腐し(上)』 了

 『卯の花腐し(中)』は今週末か、
遅くとも来週始めには投稿したいと思っています。
それでは今夜はこれで失礼致します。
拙い話にお付き合い頂いた皆様、ありがとう御座いました。

                           藍

30 名無しさん :2013/04/24(水) 08:42:24 ID:JX69oKgk0
昔、投身自殺をしそこなった。理由は特になかった。
なんでそんなことを決意したのかも記憶になかった。

医者は憶えていると死にたくなるような内容なら
突発性健忘で忘れる事もあるというように言っていた。

退院後、知人の間で自分が悩みを抱えているような素振りはなかったか聞いて回った。
怪訝な顔をする彼らは、首を捻るばかり。むしろなんで気にするのかと問われた。
自殺未遂の話なんて、近親者を除いて、全然知れ渡ったりしない。
投身自殺したんだよね、なんて話はあまりにも衝撃的過ぎるので濁した。

会社には投身自殺の話はばれていた。
入院が長かったので見舞いに来た上司には釈然としないけれどそのようだと事情を言っていた。
精神的にあまりにも不安定なら、休職したほうがいいと薦められたが、自発的に退職を選んだ。
慰留する声が大きかったが、医者に環境を換えてリフレッシュした方がいいかもしれないとアドバイスを受けた事を重んじた。


半年位して、俺は岐阜にいた。その三ヶ月後には富山にいた。
何か楽しい事をやってみようと思い立ち、不動産を売り払って金に換え、放浪生活を楽しんだ。
大手派遣会社に務め、各地の支店の間を点々とし、出費は最小限に抑えながら
なんとなしに、自分探しをしてたようにも思う。
ちょっとニュアンスが違うかな。自分というものが、様々なものに直面した時、それを楽しんでいるという実感が欲しかった。
そうすることで、自分は死ぬ必要がない人間なのだと思いたかった。

上手く伝わるように書けないものだな。
こう言えばわかるかな。
死ななきゃいけない秘密を、記憶の奥底に封じているのかもしれない。
あの医者の言葉は、こういうふうに解釈できる死刑宣告みたいなものだった。
あの言葉が、死ぬつもりがなくいつのまにか投身自殺を図っていた俺に
こんどこそ死ななくてはいけないのでは、という漠然とした自殺願望を抱かせていた。

最終的に俺はとある、あまり注目されない別荘地のペンションに落ち着いた。
そこは夫婦で切り盛りしているところで、静かなバカンスを楽しみたい常連に人気。
メジャーではないけど、県内都市部からのリピーターが多いみたいなところ。
学童に戻ったかのような気分を味わえて、お客さん同士がまるでボーイスカウトの班のように連帯感があった。
それがあまりにも居心地が良くて、延長に次ぐ延長をしていた。

ある日、いつものように起床し、歯磨きをしていると、不意に目の前が暗くなった。
真夜中のビルの屋上にいた。
背後から音が聞こえた。
振り返ると、子供らしきものを抱えた裸の女がたっていた。
異常だ、と思ったのは血と腐敗臭の混ざったような匂い。
後退っては距離を詰められということを繰り返して、俺は追い詰められている事に気づいて
とっさに階段に逃れて駆け下りていったけれど、大分地面が近い階までおりたところで。
下も上も、同じような得体のしれないものが立ちはだかっているのに気づいて、その階の通路に逃れたが。
そこにも女達が待ち構えていて、声を出そうにも声が出ずに、やがて、下を確認して車があることに気づくとそこを目指して飛び降りた。

はっと意識を取り戻すと、歯磨き粉をだらだらとこぼしている俺の顔が目に入り、そのすぐ横に女の顔があった。
あの夜に見たものより随分と、まともな様子。腐敗臭も血の匂いもない。けれど、恨みがましい目で睨まれた。
へなへなと崩れ落ちた俺が、女は動くのに子供は微動だにしないことに気がついた。

ひょっとして、俺は誰か女でも不幸にしたかと思うがそんな覚えがない。
「俺は、童貞だ。
もしかしたら、憶えてないだけで、迷惑をかけたかもしれない。
仕事場に急いでいる時にぶつかって転ばせ、流産させたとか、考え出したらきりがない。
けれど、俺はみてのとおり臆病で、何か物音でもしたら確認せずには済まさない。
本当に覚えがないんだ。こんなことをするなら、せめて理由だけでも教えてくれ」

「ふっ、…童貞なの。じゃ、別人だわ」
すーっと消えていく女が消えきって、弛緩した体に力が戻った。
色々と言いたいことはあったけど、全部飲み込んで、ペンションから離れた後
あの母子が成仏できるように、寺と神社と教会に頼み込んで、
東京に戻って高層マンションの1LDKを買って生活をはじめた。

31 名無しさん :2013/04/24(水) 15:38:05 ID:6lTpbQ/s0
藍さん乙。
また読めて感激です。

32 名無しさん :2013/04/25(木) 11:35:25 ID:p4QKXxpg0
藍さんおかえりなさい。また、読めてうれしいです。

33 名無しさん :2013/04/26(金) 01:13:39 ID:mUtOI9gM0
藍さん来てたの気が付かなかった。
作者さんを説得してくれたのですね。ありがとう。
そして作者さん、またあなたの話が読めて本当に嬉しいです。
ご自分のペースでよいので書いてくださいね。
藍さんもお仕事あるのにお疲れ様です。
4月は忙しいですよね。そんな中、ありがとう。
週末も楽しみにしてます!

34 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 20:58:32 ID:ttaMmO2o0
 皆様、こんばんは。藍です。

 『卯の花腐し(中)』ですが、作業が思うように進まないため
申し訳ありませんが、二部に分けて投稿致することにしました。

>31
>32
>33
 温かいコメントありがとう御座います。
もし、今回もお楽しみ頂ければ幸いに存じます。

                    藍

35 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:03:43 ID:ttaMmO2o0
 次の日も、朝から結構な勢いの雨が降り続いていた。
ただ、土曜日なので姫の大学は休み。皆で食後のコーヒーを飲んでいる。
姫はコーヒーを飲み終わると翠を抱いていそいそとリビングを出て行った。
俺とSさんが出掛けるので、今日は一日翠の世話を任されるから姫は上機嫌だ。
姫がリビングを出て行った後、Sさんは棚のファイルから一枚の紙を取り出した。
「R君、これ、読んでみて。」
新聞の記事をコピーしたものだ。余白に4月28日(月)と書き込みがある。
ゴールデンウィーク前半の日曜日、女の子が一人行方不明になったことを伝える記事。
川沿いのキャンプ場で家族と一緒にバーべーキューをしていたのだが、
両親がちょっと眼を離した隙にいなくなったという。川で遊んでいる姿を見た人がいて、
深みにはまったのではないかと捜索が行われたが手がかりは無かったらしい。
俺もその記事を憶えていた。皆でAさんの温泉旅館に出掛ける前のことだった。
あれから半月以上経つが続報は無い。おそらく今も女の子は行方不明のままなのだろう。
「その子の遺体が見つかったんですって。捜査上の理由で公表されていないけど。」
「やっぱり水死、ですか?」
「違う。絞殺されたの。つまり事故ではなく殺人。

36 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:07:42 ID:ttaMmO2o0
 「遺体が見つかったのはキャンプ場の裏手の山、歩いて10分程入った山道の脇。
そこに埋められていた遺体を警察が発見した。5月12日、月曜日ね。
それで一昨日、『チーム榊』のボス、榊さんから依頼があった。」
「チーム榊って...警察なんですか?」
「そう、ボスの榊さんが凄い人でね。昇進の話も沢山あったみたいだけど、
全部断って現場で第一線に立ち続けてる。
榊さんを慕って優秀な部下が集まってくるからチーム榊って呼ばれてるの。
迷宮入りしそうな難しい事件ばかりを担当してるのに
検挙率は90%以上、本庁からも注目されてるみたい。」
「もしかして後の10%が...」
「ご名答。たまたま成立してしまった完全犯罪、それから、人外の影響を受けている事件。
そんな事件に関する依頼があれば出来るだけ協力してる。捜査方針についての助言をしたり、
事件解決まで操作に協力したり。今回は事件解決まで協力して欲しいという依頼。」
たまたま成立した完全犯罪の証拠探しで俺の適性を調べることはないだろう。
「先月の事件には人外の、その、霊的な影響を受けているんですか?」
「詳しいことは榊さんから聞きましょう。そろそろ時間だわ。出発は10分後ね。」

37 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:12:41 ID:ttaMmO2o0
 お屋敷を出てから約一時間、Sさんは市街地を挟んでお屋敷とは丁度反対側にあたる
郊外の建物の駐車場に車を停めた。駐車場入り口の門柱に小さな桜の紋章がある以外
警察の建物には見えない小洒落た感じで2階建ての建物。
Sさんは建物正面のドアを抜け、廊下を歩いて突き当たりの部屋のドアをノックした。
「どうぞ、待ってたよ。」
Sさんはドアを開けて部屋の中に入った。俺もSさんに続く。
大きな机が幾つか並んでいるが、一番奥の机以外に人の姿はない。
一番奥の机から男性が立ち上がり、俺たちに近づいてきた。これが、榊さん?
背は俺より少し低いが肩幅の広い、がっちりした体格だ。
「榊さん、お久しぶりです。」 Sさんが軽く頭を下げた。俺もSさんに続いて礼をする。
男性は『おや?』という顔で俺を見た。
「久しぶり、Sちゃん。今日のアシスタントはいつものお嬢ちゃんじゃないのかい?あっ!」
男性は俺に歩み寄り、僅か30cm程の距離からしげしげと俺を観察した。
ち、近い。近すぎる。思わず半歩後ずさる。

38 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:15:12 ID:ttaMmO2o0
 「うーむ。Sちゃんはウチの息子の嫁にと思っていたが...先を越されたか。」
いきなり大きな両手で右手を握られた。
「榊健太郎。Sちゃんにはかれこれ10年近く世話になってる。以後宜しく。」
「Rです。宜しくお願いします。」 「うん、良い面構えだ。」
榊さんはもう一度、ギュッと力を込めて俺の手を握ってから踵を返した。
「後はそっちで話そう。資料を取って来る。」
万事心得ているのだろう、Sさんは応接セットのソファに腰掛けた。俺も隣に座る。
Sさんが俺の左耳に囁く。 「榊さんには息子はいないの。だから気にしないで、ね。」
「あ、はい。大丈夫です。」
なら息子って榊さんの部下の事じゃないかと思ったが、Sさんの言うとおり気にしない事にした。
しばらくして榊さんが大きな封筒が幾つか入ったダンボール箱を持って戻ってきた。
その箱をテーブルに置いて俺たちの向かいに座る。
「さて、それじゃ始めようか。」

39 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:18:05 ID:ttaMmO2o0
 「最初の事件は一昨年の10月だ。隣の△県で6歳の女の子が殺された。」
最初の事件?先月の事件以外にも事件が起きているということか。
「目撃者も遺留品もほとんど無くてな。迷宮入り間違いないってことでウチに回ってきた訳だ。
その事件を引き受けたのが去年の4月。そして去年の5月、この町で2つ目の事件が起きた。
7歳の女の子が行方不明、現在も見つかっていない。親族の意向で公にされなかったから
この事件を知っているのはごく限られた人間だけ。」
「2つの事件に関連があるんですか?」
俺はメモを取りながら2人の話を一生懸命に聞いていた。
「いや、なんとなく関連があるような気がしただけなんだが...
とりあえず2つの事件は同一犯による連続殺人として捜査を進めた。
そして容疑者を絞り込んでいるうちに起きたのが先月の事件だ。」
「最初は川の捜索をしたんですよね。」
「ああ、一応はな。でも多分水死じゃないと思ってた。これは3つめの事件だと。
とりあえずマスコミには水死の線が強いって情報を流しておいて捜査を進めたよ。
それで健脚自慢の部下を一人だけ、キャンプ場辺りの捜索にあたらせた。
そいつは警察犬を連れてキャンプ場の裏山を虱潰しに歩いたそうだ。
あそこは山道が整備されててトレッキングの客も多い所だから
物々しい捜索をすれば犯人に感付かれるかもしれんからね。

40 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:19:27 ID:ttaMmO2o0
 そして捜索を始めて2週間目、女の子の遺体を発見した。
遺体は山道から少し林の中に入ったところに埋められてたよ。
埋められた穴が浅かったから警察犬が嗅ぎ付けた。だからおそらく単独犯。
そして、その遺体と最初の被害者の遺体には共通点があった。」
榊さんは一旦言葉を切り、ダンボール箱から封筒をひとつ取り出した。
「2人とも、かなり強い力で首を絞められて喉が完全に潰れてた。
その状態から見て犯人は左利きだ。検死の写真を見る必要はあるかな?」
「いいえ。それより、それだけの情報があればチーム榊には十分ですよね。」
「うーん、先月の事件の前に容疑者を28人に絞り込んでいた。この町にいる左利きの男、
そして何らかの形で△県との関わりがある男。この事件から得られる手がかりで
解決も近いと思っていたら、いきなり始まっちゃった訳だ。本当に参ったよ。」
榊さんはダンボール箱の中から別の封筒を取り、その中から2枚の写真を取り出した。

41 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:20:40 ID:ttaMmO2o0
 「この写真を見てくれ。」 俺たちに向けてテーブルに写真を並べる。
一枚目の写真にはグレーのジーンズに黄色っぽいジャケット、長髪の男の後ろ姿。
二枚目の写真は同じ服の男を正面から撮ったものだが、たまたま通りかかった人のものか
左手らしき肌色のボケた影が写りこんで男の顔は見えなかった。
Sさんは二枚目の写真を手に取った。数秒間眺めてからその写真を俺に手渡す。
「R君、この写真どう思う?」
特に不可解な構図ではない。隠し撮りか、遠くから望遠レンズで撮ったか、いずれにしても
男に気付かれないように撮ったのだろう。たまたま通行人の手が写り込んでも不思議は無い。
しかし、男の顔にかかる手のような影に、俺は不吉なものを感じた。首筋に鳥肌が立つ。
「この、手みたいな影、凄くイヤな感じがします。」
「その通り、これは通行人の手なんかじゃない。
こんなにハッキリ写るのは珍しいけど、これは一種の心霊写真だわ。
榊さん、この男の顔はどうしても撮れないってことですね。」
「そうだ。部下が撮った写真は9枚あるが、まともなのは後ろ姿の2枚だけ。
正面や横から撮ったものは全部同じような影が写りこんで男の顔を隠してる。」
Sさんの言った『人外』という言葉を思い出した。こんなことができるのは一体?

42 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:23:42 ID:ttaMmO2o0
 「容疑者の内、こんな事が起きたのはこの男だけだ。当然この男を一番にマークした。
〇田盛司、32歳。前の職場は△県、最初の事件が起きた街。
そしてこの男は去年の4月、この街の営業所に転勤になってる。まあ、ドンピシャだな。
こいつが犯人。尻尾を掴むのも近い、そう思って安心したよ。そしたら。」
榊さんは両手でごしごしと自分の顔をこすり、ひとつ深呼吸をした。
「そしたら、マークにあたらせていた部下が入院した。無断欠勤したんで様子を見に行ったら
酷く錯乱してて、『女の子の遺体が』とか『鬼』とか言うんだが全く要領を得ない。
今は薬で眠らせてるが、元に戻るかどうかは分からないと医者は言ってる。
優秀な男だったんでウチとしては大きな痛手だし、なによりご両親に申し訳なくてな。」
「令状を取るのに必要な証拠。それと解決までの捜査協力、それで良いですか?」
「是非頼むよ。最初の被害者の家族が事件に懸賞金をかけてるから
解決すれば規定の報酬も用意できる。」
「分かりました。正式に依頼を受けます。まず、写真の用意を。」
「了解。もう用意してある。」 榊さんはダンボール箱の中から小さめの封筒を取り出した。

43 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:27:09 ID:ttaMmO2o0
 「いつもと同じ〇×の印画紙。取り敢えず10枚用意した。」
榊さんは緑色の封筒の中から銀色の薄い包みの束を取り出してSさんに手渡した。
「それと、これ。」 もう一度ダンボール箱に手を入れる。
テーブルの上に並べられたのは真空パックされているらしい衣服だ。パックは3つ。
うち2つは布地がかなり汚れていた。ということはおそらく。
「この2つは被害者の遺体が発見された時に着ていたもの。
こっちは行方不明になっている女の子がお気に入りだったTシャツを借りてきた。」
「早速始めます。部屋を暗くして下さい。」
俺と榊さんは手分けして部屋のカーテンを閉めた。厚手の遮光カーテンのようだ。
蛍光灯を消すと部屋の中はかなり暗い。灯りは榊さんの机の上の小さなスタンドが1つだけ。
Sさんは衣服の入ったパックをじっと見つめている。
やがて眼を閉じ、パックの上に左手をかざした。Sさんの集中力が高まるのが分かる。
しばらくするとSさんは眼を開いて首を振った。
「おかしい。何も見えない。少なくとも先月の事件については辿れる筈なのに。」
「あの写真と同じように、何かが邪魔をしてるって事かい?」
「いいえ、違います。でも、これは...。」

44 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:28:41 ID:ttaMmO2o0
 暫くしてSさんは2つのパックを手に取った。両方とも被害者が着ていたものだ。
「この2つに、同じ女の子の気配を感じます。被害者たちとは別の女の子の気配。」
4人目の女の子?2つのパックにその女の子の気配?一体、どういうことだ?
Sさんは2つのパックを胸にそっと抱きしめた。
成る程、俺は衣服が真空パックになっている理由を理解した。
パックしていなければ重要な証拠品をこんな風に抱きしめたりは出来ないだろう。
それに強い異臭がしたりすればSさんの集中力が削がれるかもしれない。
突然、Sさんの表情が険しくなった。パックをテーブルに戻す。
そして銀色の包み、印画紙を一枚手に取った。印画紙を両掌で挟み、目を閉じる。
暫くして首を振り、眼を開けて印画紙をテーブルの左端に置く。
もう一枚の印画紙を手に取り、眼を閉じる。Sさんの集中力がどんどん高まっていく。
「力を貸して。お願い。」 Sさんは小さく呟いて手に力を込めた。
眼を開けて印画紙をさっきの印画紙の隣に並べる。
Sさんはもう一度同じことを繰り返したあと、印画紙を2枚目の印画紙の上に重ねた。
重ねた印画紙を榊さんに渡す。 「この2枚は多分使えると思います。」
「よし、早速現像させよう。」 榊さんは机に戻って電話をかけた。
「水野、現像を頼む。大至急だ、すぐに着てくれ。え、いや印画紙だ。そう、2枚。」
榊さんがソファに戻る前に廊下を走る足音が聞こえ、すぐにノックの音がした。
榊さんがドアを開け印画紙を手渡す。「大至急だが、くれぐれも慎重に、な。」 「はい。」
そんなやりとりの後、足音は慌ただしく遠ざかっていった。

45 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:30:04 ID:ttaMmO2o0
 「さてSちゃん、疲れたろう。いつものコーヒーを御馳走するよ。冷たいの、大丈夫?」
「はい、お願いします。」
「R君、君も冷たいコーヒーで良いかい?」
「是非お願いします。」 緊張していたせいか喉がカラカラになっていた。
「知り合いの喫茶店に頼んで届けて貰ってるんだ。本式の水出しコーヒー、旨いぞ。」
榊さんは部屋の隅の冷蔵庫からポットとグラスを取り出して大きなお盆に載せた。
「あ、俺が運びます。」 「そうか、じゃ、頼むよ。」
俺がお盆を受け取ると榊さんはテーブルの上の封筒を全部ダンボール箱の中に戻し、
ダンボール箱をソファの上、自分の脇に置いた。
片付いたテーブルの上にグラスとポットを並べる。
「コーヒーは私が注ぐ。こればっかりは他人に任せられん。」
榊さんはグラスを傾けてそっとコーヒーを注いだ。まずSさんの前に、次に俺の前。
そして最後に自分の前、たっぷりコーヒーが注がれたグラスが3つ並んだ。
「どうぞ、必要ならシロップもあるぞ。」
グラスは霜が付く程冷えている。氷が解けてコーヒーが薄まるのを防ぐ工夫だろう。
コーヒーはとても美味しかった。喉の奥から良い香りが鼻にすーっと抜けてくる。
「美味しい。」 「ホントに良い香りですね。」 「そうだろう、そうだろう。」
ニコニコと俺たちを見つめる榊さんは、ただの人の良いおじさんに見える。

46 『卯の花腐し(中①)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:31:46 ID:ttaMmO2o0
 俺がお代わりのコーヒーを半分ほど飲んだところで走る足音が聞こえた。
続いてノックの音。榊さんがドアを開けた。「榊さん、これ、見て下さい。もの凄いですよ!」
僅かな沈黙のあと、榊さんは興奮を押し殺すような声で言った。
「OK。水野、後で指示する。部屋で待機だ。」 「了解です。」
榊さんはドアを閉めてソファに戻り、2枚の写真をテーブルに並べた。
「久し振りに見たが、信じられん。しかも以前より、鮮明になってるような気がする。」
!! 俺は写真を見て息を呑んだ。 やはり、念写。しかもこれは...
一枚目の写真には女の子と手を繋いで歩く男が写っていた。顔もハッキリと見える。
二枚目の写真には車のドアを開け女の子を乗せようとする男。これも顔がハッキリ見える。
榊さんは段ボール箱の中の封筒を探り一枚の写真を取り出した。テーブルの上に置く。
「新聞にはわざと写真を載せなかったし、その後も情報は漏らしていない。
だから限られた人以外は顔を知らないはずだが、これは間違いなく先月の事件の被害者だ。」
確かに3枚の写真に写っている女の子は同一人物に見える。
榊さんは女の子と一緒に写っている男の胸を人差し指で押さえた。一枚目、そして二枚目。
「そして、この男は〇田だ。俺も部下と一緒にこいつの顔を見たから間違いない。
そしてSちゃんはどちらも知らないのにこの写真を撮った。つまりこの写真は、本物だ。
これがあれば間違いなく令状が下りる。」

47 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/27(土) 21:37:29 ID:ttaMmO2o0
 『卯の花腐し(中①)』 了

 今夜もお付き合い頂いた皆様、ありがとう御座います。
連休前半が終了する前に『卯の花腐し(中②)』を投稿出来るよう
頑張っていますが、もし間に合わなかったら御免なさい。

                               藍

48 名無しさん :2013/04/27(土) 22:33:10 ID:bnmyjlDc0
投下ありがと。
続きがあると思うとなんか楽しみが増えた気がするよ。
でも無理しないでね。お疲れ様。

49 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:26:23 ID:uKgUQbmo0
皆様こんばんは、藍です。
準備が出来ましたので、『卯の花腐し(中②)』を投稿します。
それ以降の投稿は少し先になるかと存じます。

>>48
温かいコメント感謝いたします。

50 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:27:59 ID:uKgUQbmo0
 『これがあれば令状が下りる』のなら、今の時点でこの写真以外に
決定的な証拠が無いということだろう。それはド素人の俺にだって分かる理屈だ。
でも、念写した写真が証拠に使われるなんて聞いたこともない。
「あの、その写真が証拠になるんですか?」 俺は思わず口を挟んだ。
いくら『本物』でも、これが証拠とは...確かにSさんの念写は本物だろう。
でも、高位の術者ならデッチ上げも可能な筈だ。それを証拠にするのはちょっと。
「もちろん裁判では使わんよ。ただ偉い人達は頭が固いから方便も必要なんだ。
もし令状が下りれば、家宅捜索で絶対に証拠は見つかる。きっと、見つけてみせる。」
「捜索はいつ頃になりそうですか?平日の昼間は都合がつけられないんです。」
そうだ、姫が大学に行く日は翠を預けられない。
だから当然、俺とSさんが2人で出掛ける訳にはいかない。
榊さんは壁のカレンダーを見た。
「来週、金曜日の夜はどうだい?5月30日だ。
それまでには俺が必ずこの男の行動パターンを調べ上げてお膳立てをしておく。」

51 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:29:16 ID:uKgUQbmo0
 「あの、杞憂かも知れませんが。」 また、俺は思わず口を挟んだ。
「今度は何だい?R君。」 榊さんが驚いたような顔で俺を見る。
Sさんは黙って微笑んだまま俺を見つめていた。
「榊さんがこの男のことを調べたら、その、今度は榊さんの身に何かが...」
「ああ、それは大丈夫だ。ちょっと訳ありでさ。」 榊さんが頭をかいた。
「榊さんの家族はかなり古い家柄でね。『護り』が強力だから影響されないの。」
「『護り』、ですか。」
そういえば榊さんはさっき『部下と一緒にこいつの顔を見た』と言った。
でも、榊さんは件の部下と違って錯乱しなかった。つまり、そういう事だ。
「俺の遠い先祖が精霊だか神様だかと契約をしたらしくてな。
相手の領域にすっぽり踏み込まなければ、大抵の事は弾いてくれてるみたいだ。
お陰で俺もこの歳まで怪我も病気もほとんどしたことがない。
それで今までこの仕事を無事に続けてこられたんだから。まあ、有り難い話だよな。」
しかし、あまり有り難そうな顔には見えなかった。

52 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:30:39 ID:uKgUQbmo0
 『契約』ってことは、榊さん側も何か大きな見返りを捧げているのかも知れない。
でも、初対面でそこまで立ち入って聞くのは、いくら何でも失礼だろう。
「済みません。そういう事情とは知らなかったので、話の腰を折ってしまいました。」
「いやいや、心配して言ってくれたんだ。感謝するよ。」
Sさんがいつの間にか取り出した手帳を確認し、何かを書き込んでいる。
「30日の夜、それでお願いします。もし予定が変わったら連絡して下さい。」
「了解だ。詳しい時間も決まり次第連絡するよ。」
「今日のお仕事はここまで。じゃR君、私たちはこれで失礼しましょう。」
俺が立ち上がりかけるとSさんが声を掛けた。
「ちょっと待って。大事なことを忘れる所だった。」
俺がもう一度ソファに座ると、胸の内ポケットから白い紙と小さなハサミ、
そしてポチ袋のような小さい封筒を取り出した。
紙を蛇腹状に細かく折り、ハサミで複雑な形に切り込みを入れる。
そしてそっと息を吹きかけた後、それを封筒に入れて封をした。
「これを田島君の枕元に置いて上げて下さい。多分、2・3日で良くなります。
退院する時、これは忘れずに焼いて下さいね。」
榊さんの『息子』は田島という名字なのだと、それで分かった。

53 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:31:48 ID:uKgUQbmo0
 Sさんから封筒を受け取り、榊さんはそれを両手で押し戴いた。
「Sちゃん、ありがとう。恩に着るよ。」
「これはサービスですから。気にしないで下さい。R君、お待たせ。」
「はい。」 俺は立ち上がり、ドアに向かって一歩踏み出した。その時、
「Sちゃん!」
榊さんの叫び声に振り向くと、眼を閉じたSさんの体がぐらりと傾いた。慌てて抱き止める。
Sさんはすぐに眼を開けたが、その顔は蒼白い。駆け寄った榊さんも心配そうだ。
「大丈夫。ちょっと立ちくらみがしただけ。」 俺の肩に手を掛けて立ち上がる。
「でも、帰りの運転はお願いね。」 「任せて下さい。」
心配そうな榊さんを駐車場に残し、俺が車を出したのは11時20分過ぎだった。

54 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:32:41 ID:uKgUQbmo0
 「本当に、大丈夫なんですか?」
まさかあの念写が禁呪ということはないだろうが。
「うん。久し振りだったし、かなり難しかったから少し消耗しちゃった。心配掛けてゴメンね。」
Sさんは右手の人差し指で俺の左頬を軽くつついた。
「ふふ、『質問がいっぱいあります』って顔してる。」
「そりゃ、あんな術を見せられたりあんな話を聞いたりして、質問がない方がおかしいですよ。」
「そうね。じゃあ3つだけ、どんな質問にも答えてあげる。」
「本当に、どんな質問にも正直に答えてくれるんですね?」
「珍しく今日は疑り深いわね。もちろん何でも正直に答えるし、
答えられない時は何で答えられないのかちゃんと説明する。それで良いでしょ。」
「本当に、本当に体は大丈夫なんですか?」
「...あ...っ」
突然、Sさんの両目から大粒の涙が溢れた。そのまま俯いて肩を震わせる。
雨粒のような滴がポタポタと落ちて、膝の上でぎゅっと握りしめた両手の甲を濡らしていく。
俺は驚いて路肩に車を停めた。
「どうしたんですか?僕何か悪いことを...御免なさい。」
Sさんは思い出したようにハンカチを取り出して涙を拭った。
「...馬鹿ね。さっきも、答えた、質問でしょ。
これで、質問が残り2つに、なっちゃったじゃないの。」
「でも、さっきは正直に答えてくれたって保証がなかったから。だから心配で、御免なさい。」
「謝らないで。ちょっとだけ、待って。」 俺の左肩に頭をもたせて眼を閉じる。
「いつまででも、待ちますよ。」 Sさんは2度、小さく頷いた。

55 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:33:55 ID:uKgUQbmo0
 遠く前方に見える信号が3度目の赤に変わったところでSさんは眼を開けた。
「泣いたらお腹が空いた。ね、もし翠の世話で手一杯だったらLは食事作れないかも。
出前取りましょうよ、お寿司の。いつもの藤◇で。回復するには沢山食べないと。」
まあ、もし姫がお昼を作っていたとしても、それは夕食にアレンジすれば良いのだし。
何よりSさん自身が食べたいものを食べるのが一番だ。
携帯で出前の手配を済ませると、Sさんはすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「じゃ、車出して。心配してくれて嬉しかったから、特別に質問は3つのままにしてあげる。」
「ありがとう御座います。じゃ、最初の質問です。」
「どうぞ、何なりと。」
「あの写真の手みたいな影なんですけど。あれは何かがあの男を護ってるってことですか?
例えばあの男の守護霊が、あ、でも守護霊が犯罪の片棒担ぐのは変ですね。」
「R君、あなた見たことあるの?誰かの守護霊。」
「ありません。でもさっき、榊さんの守護霊も僕には見えませんでしたから。」
「確かに彼の一族は護られてるし、榊さんは跡取りだから特に手厚い加護を受けてる。
でも榊さんたちを護ってるのは高次の、途方も無く大きな力。
守護霊なんて言ったら、とても失礼だわ。それこそ恐れ多い。それにね、
今はとても一般的になっちゃってるけど...もともと一般的な意味での守護霊なんて無い。
多分守護霊なんて、憑依した悪霊が自分の悪行を続けるために
宿主を護ってるのを誤解した半端な能力者が言い出した概念だと思う。」

56 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:36:05 ID:uKgUQbmo0
 「じゃあ、あの手みたいな影は男に憑依した悪霊の?」
悪霊に操られている。それならあの男があんな怖ろしい犯罪を犯し続けるのも理解できる。
「違う。憑依した悪霊なんかじゃない。あの影は、あの男自身。」
あの男自身?あの影は生き霊ってことか、でもあの男は。
「そう、それだけこの件は深刻。本来生き霊が活動出来るのは、本体の意識が無い時だけ。
でも、あの男が普通に街中を歩いている時に生き霊が活動し、捜査を妨害した。」
「...どういうことですか?」
「悪霊に憑依されたんじゃなくて、あの男が生きたまま、その魂が悪霊になってしまってる。
昨夜話したでしょ?幽霊になりやすい種類の魂があるって。恐らくあの男の魂はその中でも
更に希な霊質を備えていたんだと思う。だから生きたまま、魂が異形に変化してしまった。
そうなると生きた人間の体にも、死んだ人間の魂にも影響力を行使できるし
本体としての意識と生き霊としての意識を、同時に活動させることも可能になる。
さて、最初の質問の答えはこれでお終い。2つ目の質問をどうぞ。」
「...自分なりに頑張って修行はしてるつもりですが、悪霊を相手にするのは初めてで
正直ちょっとビビってます。来週の金曜日、何か僕が気を付けることはありますか?」
「ひとつだけ。怖いのはあたりまえだけど『鍵』はかけないで。最初から最後まで。
そして何を感じたか教えて欲しいの。そうじゃないと適性を調べることが出来ないから。
もし本当に危ない時は私がちゃんと対応する。だから、信じて言う通りにして。」

57 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:37:15 ID:uKgUQbmo0
 少し恥ずかしかったが、ちゃんと聞いておいて良かった。
今の俺があるのはSさんのお陰、自分自身よりSさんを信じる方が俺には簡単だ。
「分かりました、約束します。惨めな姿をさらしても、見放さないで下さいね。」
「...もし適性が、なかったら...その方が、どんなにか私も、Lも」
Sさんの眼にまた涙が浮かんだので俺は慌てた。
「ストップ!涙禁止です!! 適性が無かったら僕が困ります。絶対無様なことはしません。
そのためにも3つ目の質問、良いですか?」
Sさんはハンカチで目頭を押さえ、一度鼻を啜ってから小さく頷いた。
「どうぞ。」 小さな声だ。胸の奥が痛む。
「4人目の女の子のことです。その子もあの男の被害者なんですか?」
途端にSさんの顔が厳しく引き締まった。濡れた睫も凛々しく見える。
「この件の核心に関わることだけど、その質問には答えられない。
来週の金曜日、あなた自身でそれを感じて欲しいの。だから、これは宿題。」
「それを感じるために、鍵を掛けないでおくんですね?」
「そう、これで4つ目の質問だけど、3つ目の質問の付録ってことにしてあげる。」
「重ね重ねの特別扱い、心から感謝致します。」
「いいえ、どういたしまして。」
本当はもう1つ聞きたいことがあったが、それも宿題にしよう。
俺に適性があり術者として生きていけるなら、きっと来週の金曜にその答えが分かる筈だ。
車は既に街を抜け、お屋敷に繋がる山道に入っていた。
今日もまた、雨が降っている。
『卯の花腐し』、俺は何故かその言葉を思い出した。
あれは何時、誰から聞いたのだったか。

58 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:40:19 ID:uKgUQbmo0
 お屋敷に着き、車を降りても姫の姿は見えなかった。
いつもなら、車の音を聞いたら翠を抱いて玄関先まで出て来てくれるのだが。
Sさんが鍵を開け、お屋敷の中に入る。
俺は2人分の傘の水を切り、玄関先の傘立てに立て掛けてから後を追う。
「出前、取って正解だったかも。」 Sさんが唇に指を当てたあと小声で手招きをした。
リビングのテーブルに離乳食用の食器が一揃い。きれいに空っぽだ。
ソファに姫が寝ていて、そのお腹の上に翠がうつぶせで寝ている。
2人ともちょっとやそっとじゃ起きそうにないほどグッスリ寝ているようだ。そして。
姫の胸元がはだけて、左の乳房が露わになっている。眩しい。
翠は既にほとんど離乳食への切り替えを終えていたが、
満腹になって眠くなるとSさんの乳房を恋しがってぐずる事が度々あった。
そんな時、Sさんはもう母乳の出なくなった乳房の乳首を翠に含ませる。
そうすると翠は満足して、やがて深い眠りにつくのだった。
それを見つめるSさんの優しい微笑み。良く似た充足感が姫の寝顔にも見て取れた。
おそらく今日も食後に翠がぐずったのだろう。Sさんの対応を見たことのある姫はそれで...
「はい、殿方はここまで。分かってると思うけど、これは見なかった事にしてね。」
Sさんは俺の背中を押してリビングから追い出そうとする。
「心が読めるのにそんなことしても意味無いんじゃ」
「大有りよ。『知らない振り』してくれたって、それが大事なの。女の子には。」

59 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:41:12 ID:uKgUQbmo0
 俺がリビングを出ると、車の音が聞こえた。ちょうど寿司の出前が届いた所だった。
Sさんが注文した6人前(!)の寿司に、取って置きの日本酒を添えてパーティーが始まった。
俺が1人前を食べる間にSさんと姫は2人前ずつをさっさと平らげる。
食べながら飲みながら代わる代わる翠をあやし、残りの1人前を3人で片付けた。
大学生になってから、姫も少しだけお酒に付き合ってくれるようになった。
ただ、姫の頬が仄かな紅に染まっているのがお酒のせいなのか、
それとも先刻の俺の『知らない振り』のせいなのか、それは分からない。
後片付けが終わってから着替えて、みんな揃ってSさんの部屋で昼寝をした。
Sさんと姫は翠を挟んでベッドの上、俺はソファの上。
午前中にあんな話を聞いたのがまるで嘘のような、静かな、穏やかな雨の午後。

60 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:42:55 ID:uKgUQbmo0
 激しい雨音で眼が覚めた。本当に、よく降る雨だ。
時計を見るともう5時前、さすがの雨空も少し明るくなっている。
姫は翠と一緒に自分の部屋。Sさんは昨夜もそれを止めず、微笑んで二人を見送った。
俺はSさんをベッドに残して窓から外を眺めた。宿題のことを考える。
Sさんからの宿題、4人目の女の子。そして俺自身のもう1つの宿題。
「生きたまま、あの男の魂が悪霊に変化した。」 Sさんはそう言った。
では、そのきっかけは一体何だったのか?
もともと小児性愛の性癖があり、たまたま女の子を殺したのがきっかけだったのか。
それが癖になって犯行を重ね、その度に男の魂は異形へと変わっていった。
いかにもありそうな話だが、俺はその考えをどうしても肯定できなかった。
あの女子高生の件に関わった時、Sさんは彼女が乱暴されていた事を俺に隠さなかった。
もし被害者たちが乱暴されていたなら、今回もそれを俺に話してくれた筈だ。
Sさんが話さなくても、事件について説明の中で榊さんが話してくれただろう。
人が生きたまま、その魂が悪霊に変化する程の出来事。
それが単に異常な性癖によるものとは思えない。
何処か落ち着かない、微かな違和感が俺の心に蟠っていた。

61 卯の花腐し(中②) ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:46:04 ID:uKgUQbmo0
 「ね、何を考えてるの?」
振り向くとSさんがベッドで上半身を起こしていた。ベッドに戻り、座って肩を抱く。
俺の心を読むのは簡単な筈なのに、そうしなかったのは...。
「昨日の宿題の事を、考えてました。」
「形見や名残の品があるなら別だけど、遠い魂の想いを辿るのはどんな術者でも至難の業。」
「はい、全然分からないので、もう一度寝直そうとしてた所です。」
「ね、じゃ私の気持ちを当ててみて。答えは2つ、宿題を解くための練習問題。」
Sさんは言い終わると俺の唇にキスをした。
俺はSさんの瞳を見つめた。いつも通り、黒く、深く澄んだ瞳。心の奥が熱くなる。
そうだ。Sさんはさっき俺の心を読まなかった。
もし、こんなに近くにいる大切な人の、その心も読めないのなら俺に適性などある筈もない。
「目が覚めたら、僕がベッドに居なかったのでびっくりして、少し寂しい。どうですか?」
「ご名答、残りのもう一つは?」
突然。ふっ、と、百合の花に似た良い香りが立った。強い香り、体が震える。
俺はSさんの体を強く抱きしめたあと、パジャマをそっと脱がせた。眩しい程白い肌。
そっと囁く。 「これが、答えです。」
Sさんの両腕が優しく、そして強く、俺の頭を抱き寄せた。
「正解。」

『卯の花腐し(中②)』 了

62 ◆iF1EyBLnoU :2013/04/29(月) 00:49:09 ID:uKgUQbmo0
お付き合い頂いた皆様、ありがとうございました。
それでは今夜はこれで失礼致します。

63 名無しさん :2013/04/29(月) 01:44:00 ID:TaPQySv20
おお早かったですね!ありがとうございます!
残りも楽しみです。

64 名無しさん :2013/05/01(水) 16:36:44 ID:czSBu7qo0
主人公のベッドシーン事前事後とか要らないんだよね
無駄に細かい食事シーンもそうだけど話筋に全く関係ないし、なんであるの?

65 名無しさん :2013/05/01(水) 19:51:07 ID:0te3IxYA0
小説だから

66 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/01(水) 22:29:42 ID:zZ7Rtlx60
皆様、こんばんは。藍です。

>>63
ありがとう御座います。批判も有りますが、このお話の最後までは
投稿致しますので、お楽しみ頂ければ幸いです。

>>64
鬱陶しく思われる方には、あらかじめスルーをお願い致しましたが
公開いたしましたからには、ご批判も甘んじてお受け致します。ただ、お陰様で
作者である知人が前作で公開終了しようとした気持ちも理解出来ました。

>>65
私達の拙いお話を「小説」と認定して頂き感謝致します。そう言えば
前スレの但し書きに、「創作はOK、でも創作と小説は違う」と明記されていたような気がします。
もし小説認定なら、私の投稿はルール違反のですね。申し訳ありません。

67 名無しさん :2013/05/02(木) 01:38:07 ID:RU2.cLyQ0
全レスうざ

68 名無しさん :2013/05/04(土) 13:24:13 ID:5B/9g4kI0
>前スレの但し書きに、「創作はOK、でも創作と小説は違う」と明記されていたような気がします。

それは洒落怖本スレのテンプレで、ここは何でも良いよ

69 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 22:41:33 ID:dAcosai.0
皆様、こんばんは。藍です。

(中)の投稿が完了する前に、作者である知人から
原稿を修正する旨の連絡があり、作業が滞っていました。
少しばかり消化不良な感じがするかもしれませんが
作者の意向を尊重したいと思います。

では、以下(下)・(結)投稿致します。
お楽しみ頂ければ幸いです。

70 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 22:45:03 ID:dAcosai.0
 次の週の金曜日は朝から久し振りの青空。窓から朝陽が差し込んでいる。
俺が姫を大学に送って戻ってくると、Sさんは入れ違いに出掛けていった。
「今夜のために下調べと準備があるの。昼ご飯までには戻るわ。」
「僕も一緒に行かなくて良いんですか?」
「予備知識は少ない方が適性を調べるのには好都合だから。翠をお願いね。」

 帰ってきたSさんが少し疲れたような様子だったので心配したが、
昼食を食べた後、いつも通りに翠と昼寝をした後はすっかり元気になっていた。

 俺が姫を迎えてお屋敷に戻ったのは6時少し前。Sさんは身支度をして俺を待っていた。
俺も姫を迎える前に出掛ける準備を済ませてある。姫に翠を託してすぐに車を出した。
待ち合わせの交番に着いたのが6時25分。ドアの前で榊さんが待っていた。
「男が住んでるマンションはここから歩いて3分くらい。『シャトレ○崎』の205号室だ。
警官に事情を話してあるから車はここに置いてくれ。此処から歩こう。」
「確かに男は家にいるんですね?」
「6時前に帰ってきたのを部下が確認してる。
Sちゃんの指示通りに部下を配置したけど、本当に障りはないのかい?」
「はい、特別な結界を張ってありますから入ることは出来ても出てこれらません。
本体も生き霊も。だから大丈夫です。じゃ、出掛けましょう。」

71 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 22:47:57 ID:dAcosai.0
 マンションの管理人にはあらかじめ話してあったのだろう。
榊さんがインターホンで二言三言話すと、一階正面、オートロックのドアが開いた。
フロアの端の階段で2階へ上がる。階段を上って左、最初の部屋が205号室だった。
ドアから3m程の距離で榊さんが胸ポケットから封筒を取り出した。中身は多分捜査令状。
「榊さん、護符は持ってますよね。」
「ああ、部屋の中に入っちゃったらSちゃんの護符だけが頼りさ。さて、いよいよだな。」
その時、微かな金属音がして205号室のドアがひとりでに開いた。中に人影は無い。
「あれは?」
「『入ってこい』ということですね。私たちが来たのを男は知ってます。
R君、あのドアをくぐったらそこから先は完全に相手の領域。
何が見えても、何が起こっても不思議じゃない。気をしっかり持って、良いわね。」
「了解です。」
ドアをくぐり、玄関で靴を脱いで中に入る。
ダイニングキッチン。その奥に灰色のドア、男はおそらくあの中だ。
と、玄関のドアが閉まり、俺たちの見ている前でひとりでにドアチェーンが掛かった。
「おっかねぇ。」 榊さんが小声で呟く。
その時、微かな耳鳴りがした。くぐもったような雑音。いや、これは誰かの声だ。
キーンという耳鳴りに混じって聞こえる、途切れ途切れの呟くような声。
『・・・な○・ なぜ・・・だけ ・○み・・・』
「R君、どうしたの?」 「何だか、小さな声が聞こえました。雑音みたいな。」
『どうした はいってこいよ かぎはかかってない』 嗄れた声が響く。
ゆっくりとドアノブが回り、灰色のドアが開いた。やはりドアの内側に人影はない。
「行きましょう。」
Sさんを遮って榊さんが先にドアをくぐった。次にSさん、最後が俺。
部屋の中は薄暗く、男がパソコンのモニターを背にして椅子に座っていた。
まるで居眠りをしているように俯いていて顔は見えない。

72 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 22:51:29 ID:dAcosai.0
 『たてものに さいくをしたのはおまえたちだな けいさつ か』
嗄れた声は男の頭上、天井近くから響いていた。
「そうだ。令状もある。3人の女の子が殺された事件だ。心当たりがあるかい。」
『それじゃあ かんたんにかえすわけには いかないなぁ』 部屋のドアがバタンと閉まる。
空気が変わった。
体感温度が一気に下がり、部屋の中に濃密な悪意が満ちていく。
『鍵』を掛けていないから、流れこんで来る悪意に意識が飲み込まれそうだ。
目眩がして胃の中から苦いものが逆流してくる。必死でこらえた。
「しっかり、前を見て。」 耳許でSさんの声。
深く息を吸い下腹に力を入れて真っ直ぐ前を見る。
男のすぐ前に、巨大なものが立っていた。
人に近い姿だが、『鬼』という他に表現しようのない異形。
身長はおそらく3m近い、見上げるような裸身の巨体。肩まで伸びた蓬髪。
黒く汚れた大きな顔には血走った野球ボールほどの目玉、俺たちを見つめている。
そして...榊さんの部下が錯乱したのも無理はない。
4本の長い腕が胸の前で3人の女の子をまとめて抱きかかえていた。
腕の間から女の子たちの腕や脚がはみ出して力無く垂れ下がっている。
2人の女の子の顔は見えないが、1人の女の子の顔がこちらに向いていた。
苦痛に歪んだ顔。見開かれた眼は白く、表情に変化は無い。
残り2本の腕が女の子たちの髪をすいたり頬を撫でたり、ゆっくりと動いている。
巨体に6本の腕、これはまさに『鬼』そのものだ。
一体これは現実なのか、それともこの部屋を満たす悪意が見せている幻視なのか。
今、俺たちはここにいるのだから、ドアが開いたりチェーンが掛かったりしたのは現実だろう。
しかし、幾ら何でもこの異形の鬼は...とても現実のものとは思えない。

73 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 22:56:22 ID:dAcosai.0
 「やっぱり。殺した女の子たちの魂を捕らえていたのね。意識を辿れなくて当然だわ。」
『このこたちは おれのものだよ』 嗄れた声は以前より大きく、はっきりと聞こえた。
「違う。その女の子たちはお前のものじゃない。その子たちを離しなさい。」
『いや だ ことわる』
Sさんはポケットから白い小さな布袋を取り出した。
この鬼を人型に封じることができるのだろうか。それが出来れば男の本体も。
女の子の頬を撫でていた鬼の腕が一本、ゆらりと伸びて更に長く、太くなった。
座布団ほどもありそうな手が、壁際のゴルフバッグを鷲掴みにする。
ゴルフバッグは軽々と浮き上がり、俺の頭より高い位置で横になった。
ゴルフクラブがぶつかりあう重い音が微かに聞こえる。
まずい、もしこれが幻視でないとしたら。
投げつけられても、叩きつけられても、絶対に無事では済まない。
Sさんをそっと抱き寄せる。何とかして庇う方法はないか。何としてもこの人だけは。
つっ!!また、耳鳴り。耳の奥が痛む。雑音に混じる、途切れ途切れの、呟くような声。

74 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 22:58:44 ID:dAcosai.0
 『・・・な○み なぜおま・だけが な○み・・・』
この声。そうか、4人目の女の子はこの男の。俺は思わず言葉をかけた。
「なあ、あんたに聞きたい事がある。とても大切な質問なんだ。答えてくれないか?」
数秒の沈黙の後。ふっ、と鬼の腕が緩み、ゴルフバッグが床に降りてきた。
Sさんは驚いたような顔で俺を見つめている。
『なにを ききたい』
「あんたが大事に抱きしめている女の子たちの中に、あんたの娘もいるのかい?」
『な に』
「あんたが抱きしめている女の子たちの中に、あんたの娘、『な○みちゃん』もいるのかい?」
『な○み...おれの むすめ...』
俺はこちらを向いている女の子を指さした。おそらく先月の事件の被害者だ。
「少なくともその女の子は『な○みちゃん』じゃない。
残りの2人はどうだ?『な○みちゃん』はいるかい?」
『な○み おれのむすめ いない もう いない』
「あんたと別れるだけでも『な○みちゃん』は辛くて悲しかったはずだ。
それなのに、あんたの今の姿を見たら、『な○みちゃん』は余計に辛くて悲しいんじゃないか?
大事な娘を亡くして、辛いのは良く分かる。でも、だからってこんなことをするなんて。
あんたはそれで、それで本当に満足なのか?」
『...おお おれの な○み いない どこにも』
鬼は頭を抱えて床に膝をつき、床が揺れた。体は一回り小さくなったように見える。
その両目から赤黒い液体が溢れ、首から胸へと伝った。文字通り、血の涙。

75 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:00:18 ID:dAcosai.0
 Sさんが白い布袋の中から人型を取り出して右掌にそっと乗せた。
息を吹きかけると人型は鬼へ向かってひらひらと飛び、空中で燃え上がる。
...これは。
膝をついた鬼のすぐ前に、小さな女の子が立っていた。
鬼はぽかんと口を開けて目の前の女の子を見つめている。
腰まで伸びた長い髪。黄色のワンピース、白い靴。悲しそうな後ろ姿。
『お父さん、どうして? どうしてこんな酷いことするの?』
俺はSさんの口元を見た。一文字に結んだままだ。ということは、『声色』ではない。
『な○み それ は おとうさん が』
『お父さんが大好きだったのに。お父さんの馬鹿!私は、ずっと...』
俯いた女の子の肩が震えている。透明な雫が小さな靴を濡らした。
『お願い。もうこんな事止めて。その女の子たちを離して、ちゃんと謝って。でないと、私。』
女の子は耐えかねたように両手で顔を覆った。静かな部屋に響く小さな泣き声。
どのくらい時間が経ったのか、鬼の腕がゆっくりと動き出した。
2本の腕で女の子の体をそっと床に横たえる。
1人、もう1人、そして最後の1人。
鬼は6本の手で仰向けの女の子の髪を整え、開いていた眼を閉じていった。
『おまえが 死んだ時、お父さんは。なぜお前だけがと、そう思って。お父さんは馬鹿だった。』
鬼の体は次第に小さく萎み、その姿も人に近づいていく。

76 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:01:51 ID:dAcosai.0
 『俺は、他の親子を妬んだ。妬んで、憎んで。あんな酷いことを。』
鬼の腕は2本になっている。その2本の腕を床についた。
『俺はこうして、な○みに会えたのに。あの子たちは、あの子たちの家族は...』
前のめりに床に突っ伏しているのはもう鬼の姿をした異形ではなく、
椅子に座って俯いている男と同じ服を着た、痩せた長髪の男だった。
Sさんが右手に3枚の人型を掲げ、何事か小声で呟いた。
横たわる女の子たちの顔から苦悶の表情が消え、その姿は見る間に薄れていく。
黄色いワンピースの女の子が振り向いた。涙に濡れた可愛い顔。
女の子はSさんに向かって頭を下げた。
Sさんは目を閉じ、胸の前で印を結ぶ。
部屋の空気が軽くなった
この部屋を閉ざしていた力が緩み、部屋に満ちていた悪意と憎しみが拡散していく。
女の子と、床に突っ伏した男の姿も消えた。

77 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:02:49 ID:dAcosai.0
 「あなた達は警察だと、そう言ったよな?」
椅子に座って俯いていた男が、顔を上げて俺たちを見ている。
「俺は、3人の女の子を殺した。逮捕して、くれ。」
言い終わると男の体は床に崩れ落ちた。
榊さんが男に歩み寄り、膝をついてその体を抱き起こす。
「おい、どうした。大丈夫か?」
「今は意識を失ってるだけです。でも、その男の体はもう...。」
榊さんは右肩に軽々と男の体を担いで立ち上がり、左手で電話をかけた。
「もしもし。おう、もうほとんど解決だ。容疑者を確保した。
意識がないからマンションの裏口に車を回してくれ。そこまで俺が運ぶ。」

78 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:04:56 ID:dAcosai.0
 歩きながら榊さんが独り言のように呟いた。
「こいつ、軽いな。この男が娘を事故で亡くしたのは2年前だ。
子を失った親の気持ちは骨身に染みてたはずなのに、何故あんな事を。全くやりきれん。」
Sさんが小さく溜息をついた。
「娘を亡くした事を受け入れられず、悲しむことも出来なかったから。
泣いて、叫んで、ちゃんと悲しむべきだったのに。
それが出来ていたら、2人の間に『通い路』が開いたはず。
この男の霊質なら、通い路を通して娘の魂とその声を感知できたかもしれません。
でも、この男は悲しむ代わりに他人を妬み、そして憎んでしまったんです。
『自分たちはこんなに不幸なのに、何故他人は幸福なのか?』それで。」
「それで他人にも同じ不幸を、と?」 「そうです。」
榊さんの溜息は大きく、深かった。
「この世に鬼を生み出すのは、やっぱり人の心、なんだな。」
「人の心ではなく、人の心に宿る『業』ですね。」
裏口の外に背の高い男が立っているのが見える。
榊さんがドアを開けた。 「この男だ。頼む。」
「Sちゃん。ありがとう。」 榊さんは振り向いてSさんの手を握り、次に俺の手を握った。
「R君も、ありがとう。何かあったらまた宜しく頼むよ。」
榊さんは俺の背中をぽんと1つ叩いてドアをくぐり、
インターホンで少し話してから早足で車に向かった。

79 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:06:37 ID:dAcosai.0
 俺たちは正面入り口に戻り、マンションを出た。
交番の中の警官に会釈をして車に乗り込む。警官は少し驚いた顔をした。
俺たちと榊さんが此処を出てからまだ30分も経ってないのだから驚くのも無理はない。
「こんなに早く捜索が終わるなんて思わなかったでしょうね。」
「もしあの男が罪を認めたら、なるべく早く調書を取った方が良いと
榊さんに話してあったの。多分あの男の体はあまり長く保たないから。
本格的な家宅捜索は、きっと来週以降になると思う。」
写真に写った影、ドアや鍵の開閉、なによりあの鬼の出現。
一体どれほどのエネルギーを要しただろう。生身の人間には、あまりに大きな消耗だ。
修行を重ねた術者ですら、限度を超えて消耗すれば回復出来なくなる、
つまり死ぬことがあると聞いていた。まして普通の人間では。
この事件の裁判は開かれない、何となくそんな気がした。
「それにしても早く済んだわね。まだ7時ちょっと過ぎよ。あなたのお陰。」
「僕のって、どういう意味ですか?」
文字通りよ。この件はあなたが解決したようなもの。だから榊さんはあなたに
『また宜しく』と言ったの。少なくとも榊さんには術者として認められたってこと。

80 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:08:37 ID:dAcosai.0
 「でも、僕はただ、話しかけただけで。」
「それがあなたの力。あなたの適性は『言の葉』、あなたは『言祝ぐ者』。
記録には残っているけれど、現在の術者でこの適性を備える者はいない。
あれ程強力な言霊、実際に見るのは初めてだったから本当に驚いた。」
これまで色々な術を見せて貰ったが、言霊を使う力なんて聞いたこともない
「言霊が、僕の力と何か関係あるんですか?」
「あなたが無心に、そして心から発する言葉には言霊が宿る。
だからその言葉は、言葉の向けられた相手の心に届いて、そしてその奥底に染み込む。
普通、妬みや憎しみで凝り固まった人の心は何重にも『鍵』をかけた状態になる。
だから他人の話を聞かないし、聞こうとも思わない。
だからあの男は自分の傍にいた娘の魂に気付かず、その声は男の心に届かなかった。
でも、あなたの言葉は届いた、ただの一度で。そして自分の罪とその重さを悟らせた。
私は解放された女の子達の魂が不幸の輪廻に取り込まれないようにしただけ。」
「言霊の力って、Lさんの『あの声』と同じようなものですか?」
「確かにどちらも術者の声を触媒に使うけど、系統が全く違うわ。
Lの術はL自身の意志で相手の心や体を操作出来る。だから幻覚を見せるのも簡単。
でも、あなたの力はあなたの意志で言霊を操作する事は出来ない。
それに言霊は言葉の真の意味を相手に届けるだけ。どう反応するかは相手次第。」

81 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:10:44 ID:dAcosai.0
 「僕の意志で操作できないなら、あんまり役に立たないような気がするんですが。」
「何を罰当たりな事言ってるの。さっきだって、あなたの力がなかったら
2人の魂は救えなかったかも知れないのよ。2年前、事故で亡くなったあの子の魂は
父親への愛着からこの世界にとどまっていた。親子だから、おそらく霊質も似ていたのね。
でも、さっきも言ったように、妬みと憎しみに狂った父親の心にあの子の声は届かない。
愛する父親が女の子を殺して異形に変化していくのを、あの子はただ見ているしかなかった。
異形に変化した魂は、普通の魂と存在の仕方がずれてしまうから、
あの子の魂に気付く可能性はゼロ。あの子の魂は男の部屋に入ることすら出来なくなった。
今朝私が此処に来た時も、あの子はマンションの入り口に佇んでた。
魂が酷く傷ついていて、いつ不幸の輪廻に取り込まれてもおかしくない状態だった。
愛する父親が女の子を殺す場面を3度も見たのだから、当然と言えば当然だけど。」
「もしかして、あの写真はあの子の?」
「そう、あの子の力を借りてその記憶を焼き付けた。一番新しい、鮮明な記憶を。」
「あの男はキャンプ場の駐車場に停めた車に女の子を連れて行き、絞殺したの。
遺体は夜のうちに裏の山に埋めた。皆、河の事故だと思ってたから駐車場は盲点になってた。
夕方、それらしい女の子が一人で河遊びをしてたと証言したのはあの男よ。
あの子はその一部始終を見てた。そして父親がこれ以上罪を重ねるのを止めるために
私に力を貸してくれた。父親への愛着のあり方が変化したのを示す良い兆候。」
そうか、だからSさんはあの子の魂を人型に封じてあの部屋へ連れて来たきたのだ。
異形に変化した父親に会わせて未練を断ち切り、中有への道を開いてあげるために。
「出来れば手荒な事はせず、自ら納得して旅立ってもらう方が良い。
そして男にも、自分の罪を認めてから地獄へ...」
Sさんは言葉を切って小さく息を吐いた。
「あなたの言葉が切っ掛けになって男は微かな正気を取り戻した。
だからこそ娘の姿を見、その声を聞くことが出来たのよ。
結果的に男は自分の罪を認めたし、女の子も自分の気持ちに区切りをつけられた。
私も何とか男を説得しようと思ってたけど、あれほど上手くやれる自信は無かったわ。」

82 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:12:28 ID:dAcosai.0
 Sさんは右手を俺の左手に添えた。
「それからね。これでやっと分かった。
術を仕込まれていたせいで異性に全く反応しなかったLが、あなたにだけ反応した理由。」
そういえば...
姫との初対面の日、俺は自転車修理のバイトをしながら
何となく気まずい『間』を埋めようと思って俺は好き勝手に喋り続けた。
俺の自転車のこと。それから修理した自転車が姫には乗りにくいのではないかということ。
あの時、ただ無心に喋り続けていた言葉にも、言霊が宿っていたのだろうか。
「それから、あなたが『下心もあります』って言った言葉が少しも不愉快でなく、
むしろ率直な愛情表現として、私の心に響いたこと。
あなたの力はほとんど発現していなかったから感知できなかったけど
あの時の言葉にも、きっと微かな言霊が宿っていたんだわ。」
もしかしたら俺は言霊の力で2人を...腹の底がヒヤリと冷たくなるのを感じた。

83 『卯の花腐し(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:14:09 ID:dAcosai.0
 「そのせいでLさんも、Sさんも、僕の事を」
「違う。さっきも言ったでしょ。言霊は言葉の真の意味を相手に伝えるだけ。
どう反応するかは聞いた人が決めること。Lも、私も、自分で決めたのよ。」
「でも、もしこの力がなかったら、2人は僕の事を好きには、痛。」
思い切り左頬をつねられた。
「少し余計に時間は掛かったかも知れないけど、それでも絶対好きになったわ。絶対にね。」
Sさんの、自信に満ちた言葉を聞くと暖かい気持ちになる。これも、言霊だろうか。
「さて、適性も分かったし、正式に『裁許』を受けなきゃね。早速手配するわ。」
「あの、『裁許』って?」
「一族の当主様か、代理の方にお目通りして、正式に一族の術者として修行を続ける
許可を頂くの。明日からその時のための『誓詞』を練習してもらうわよ。」
Sさんの笑顔はとても満足そうだった。

『卯の花腐し(下)』了

84 『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:17:18 ID:dAcosai.0
 翌々日の日曜日、俺たちは榊さんからの電話であの男が死んだことを知らされた。
昨日は自ら望んで丸一日供述を続けたが、今朝、独房の中で冷たくなっていたという。
そして、男の供述通りの場所から、二人目の被害者の遺体も見つかったことも。
「絶対に許せない罪だけど、最後にその重さを自覚したのだからまだ救いがある。
たとえ地獄で過ごす途方もなく永い時間の果ての、蜘蛛の糸程の救いだとしても。
R君、手伝って頂戴。タイミングを計りかねていたけど、あの男が死んだなら今日が潮時。」

85 『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:18:20 ID:dAcosai.0
 図書室の中のドアの向こう、畳張りの広い和室。
その奥の板張りの部分に設えられた3つの小さな祭壇、それぞれに人型が祀られていた。
Sさんはそれぞれの祭壇の前で丁寧に鎮魂の儀式を行い、
人型を白い布で出来た小さな袋に納めていく。袋の口は赤い紐で閉じられた。
事故で亡くなった女の子が一人。娘を亡くして狂った男に殺された女の子が三人。
そして三人を殺した男の魂は生きながら悪霊となり、
自らの憎しみと呪詛が生み出す負荷に耐えられず、精魂尽き果てて死んだ。
もともとに悪意があって仕組まれた事件ではない。なのに失われた5つの命。
おそらく最初の事故がなければ、5つの命は失われなかった。
父親として、今回の一連の事件は他人事では無い。
姫と比べてSさんが笑うほど、俺は翠を溺愛しているからだ。
もし事故や病気で翠を失ったら、俺は狂わずにいられるだろうか。
勿論、俺が狂ったら、罪を犯す前にSさんは俺を殺してくれるだろう。
それが俺とあの男の違いで、俺は幸運だ。でも、確かな違いはそれだけ。
こんな悲しい事件が起きるのは、やはり人の心の弱さ故なのだろうか。
この世に鬼を生み出すのは人の心に宿る『業』だと、Sさんは言った。
そして俺はあの時の、『業からは逃れられない』という母の言葉を思い出した。
『業』とは一体何なのか、それは『不幸の輪廻』とどう関わっているのか。
Sさんの後ろ姿を見ながら、そんな事を考えていた。

86 『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:19:20 ID:dAcosai.0
 その日の午後。Sさんと俺は、雨の中半日かけて車を走らせた。
運転手は俺。Sさんは後部座席に座り、三方に乗せた3つの白い袋を護っている。
まずは隣の△県。最初の事件が起きた街へ向かう。Sさんの指示通り
閑静な住宅街の一角で車を停めた。一際大きな家が見える。
榊さんから聞いたのか、それとも女の子の記憶を辿ったのか、確かめる気にはならない。
女の子の家族にも、犯人が逮捕され事件が解決したことは伝えられているだろうか。
もし、大罪に自らの魂を蝕まれた犯人が事件の供述を残して死んだことを知ったら
女の子の家族は一体どう思うだろう。
Sさんはマセラティの後部座席に置いた大きな貝殻の中で最初の人型を焚き上げた。
「もし迷うと可哀相だから、出来るだけ帰る場所の方が良い。」 独り言のように呟く。
「迷ってしまうことも、あるんですか?」
「大人なら大丈夫だけど、子供だし。それに、事情にもよるから。」
珍しくSさんの歯切れが悪い。この件についてこれ以上の質問はNGだ。

87 『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:20:20 ID:dAcosai.0
 再び県境を越えてお屋敷に近い街に戻ってきた。雨足が強まっている。
Sさんは市内にある一軒の家を指示したが、その家に着くと思い直したように
その家から少し離れたアパートの駐車場を改めて指示した。二枚目の人型を焚き上げる。
「事件の起きた順番、なんですか?」
「そう、苦しんだ時間が長い子から、楽にしてあげるべきだから。」
Sさんの顔が、少しだけ翳ったように見えた。
最後の家、向かいの道路に停めた車の中で三枚目の人型を焚き上げる。
既に4時半を過ぎ、辺りは薄暗くなり始めていた。お屋敷に向けて車を走らせる。
Sさんは助手席に移り、黙って窓の外を眺めていた。
もうすぐ市街地を抜けるという時、俺は不思議なものに気が付いた。
前方50m程先の歩道あたり、そこだけまるで陽が差しているように明るい。
「Sさん、あれ。あそこだけ陽が差してます。」
前方に視線を移したSさんの顔が、一瞬で緊張した。小声で指示を出す。
「あそこで、車を停めて。」

88 『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:21:39 ID:dAcosai.0
 その場所まで進み、ウィンカーを出して路肩に車を停めた。花屋の看板が見える。
やはり、歩道のその一角だけが明るく照らされていた、そして。
子犬...
花屋の看板のすぐ脇で白い子犬が嬉しそうに尻尾を振っていた。
この雨の中、その毛並みは水を含んでおらず、
行き交う通行人は誰一人として不思議な明るさにも子犬にも頓着してはいない。
そうだ、この次の交差点は『○町南』。
Sさんはじっと窓の外の子犬を見つめる。俺も質問を飲み込んで子犬を見つめた。やがて。
子犬のすぐ前、地面近くに小さな白い両手が見えた。
一段と嬉しそうに尻尾を振る子犬を、その両手が優しく抱き上げる。
子犬が花屋の看板と同じ位の高さに持ち上げられた時、女の子の全身が見えた。
白地にピンクと黄色の水玉模様のTシャツ。紺色の半ズボン。青い靴。
笑顔で子犬に頬ずりをする女の子の姿が、一瞬強い光に包まれ、視界が白く遮られた。
視界が戻ってきた時、子犬を抱く女の子の姿は既になかった。
ただ、雨の夕方の薄暗い歩道を、幾つかの傘がすれ違うのが見えるだけだ。

89 『卯の花腐し(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/09(木) 23:24:41 ID:dAcosai.0
 「二人目の、女の子だったんですね。あの子犬が待っていたのは。」
Tシャツの柄に見覚えがあった。あの時の、真空パックの中身だ。
榊さんが行方不明の女の子の親族から借りてきた、女の子のお気に入りのTシャツ。
「あの女の子は両親を亡くして親戚に引き取られたけど、そこにあの子の居場所はなかった。」
その子の失踪は親族の意向で公にされなかったと榊さんは言った。
そしてSさんは、あの家の前からアパートの駐車場に指示を出し直した。
それぞれの意味が俺の心に染み込んで来る。 寒い、俺の服は濡れていないのに。
「あの子にとっても、自分を慕ってくれる子犬は、とても大切な記憶だったのね。」
「あの子がここに現れると、分かっていたんですか?」
「いいえ。あのTシャツを見た時、子犬が待っている女の子は
二番目の被害者だと分かったけれど、まさかここに現れるとは思っていなかった。」
「『稀な霊質を持ち、人間の心との関わりがあった動物だけが幽霊になる』、そうでしたね。」
「そう。おそらくはたった一度、長くても数分。でも、それは本物の、心の触れ合いだった。」
Sさんはもう一度窓の外を見た。相変わらずの雨。
「『卯の花腐し』、そして『卯の花下し』、今は梅雨本番。
このところ本当に雨が多かった。この事件で流された沢山の涙に天が呼応していたのかしら。
早く、梅雨が明けたら良いわね。もう誰も、涙を流さずに済むように。」

『卯の花腐し(結)』 了

90 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/10(金) 00:23:39 ID:r.NEGjJM0
 藍です。

 投稿を終えて油断したせいか、居眠りしてしまいました。

 公の場に投稿したのですから色々な意見があるのは承知の上です。
快く思わない方がおられるのも仕方ありません。

 ただ私と知人は、拙い文章ではありますが、一連の物語を
この掲示板に投稿させて頂いて本当に良かったと思っております。
それでは今夜はこれで失礼致します。ありがとう御座いました。

91 名無しさん :2013/05/10(金) 01:10:33 ID:NIDYNWPM0
正直別に専用スレ立ててやってほしい

92 名無しさん :2013/05/10(金) 01:12:08 ID:lQ6cjScU0
藍さん作者さんお疲れ様。
いろんな意見があるのは当然。
どんな作家でも好きな人がいれば嫌いな人もいる。
私はあなたたちの話が好き。

93 名無しさん :2013/05/10(金) 16:21:48 ID:Wo3tlZEQ0
藍さん作者さん
またまた楽しませて頂きました。今後も読めることを楽しみにしています。

94 名無しさん :2013/05/10(金) 23:40:12 ID:y4KlJMRk0
>>91
専用スレ立てられるものならやってみろよ
嫌いなら黙ってスルーしろ。

95 名無しさん :2013/05/13(月) 05:59:19 ID:lwuSPQpMO
>>90 投稿お疲れさまでした。
偶然まとめを見つけて読み始め、
ようやくここにたどり着き、一気に読破してしまった。
6時間かかって貫徹w

本当に面白かったです。
これからも期待しています。

96 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/13(月) 23:16:56 ID:gDNu0G360
 藍です。

>>91
投稿とかまとめサイトではなく、ネット上に文書を保存して
好きな時に読める方法があると職場の同僚に教えてもらいました。
私たちの投稿を快く思わない方々にも迷惑を掛けない方法として
検討の必要があると考えています。
ありがとう御座いました。

>>68
>>92
>>93
>>94
温かいコメント感謝致します。
投稿して良かったと思えるのは皆様のお陰です。

>>95
投稿した立場上、この掲示板と、まとめサイトは仕事の合間に覗いてしますが
さすがに6時間貫徹は、私自身も無理です。本当にありがとう御座いました。

97 名無しさん :2013/05/14(火) 18:01:44 ID:1iLZDsGE0
>投稿とかまとめサイトではなく、ネット上に文書を保存して
好きな時に読める方法があると職場の同僚に教えてもらいました。
私たちの投稿を快く思わない方々にも迷惑を掛けない方法として
検討の必要があると考えています。

ただ一人のいちゃもん気にしてたら切りが無いよ
どこかに移る必要全くない
むしろ移られた方が迷惑。ここで気軽に読めるのに

98 名無しさん :2013/05/14(火) 18:06:32 ID:F0y3rzTE0
移られる方が迷惑、とかさすがに引く
結局自分が楽したいだけじゃん

99 名無しさん :2013/05/14(火) 18:41:49 ID:1iLZDsGE0
常駐してるサイトから余所に移られるとサイト移動するのが面倒
そういう意味で移られると迷惑と言ってるんだけど
自分のサイトでも無いのに自分が気にくわないから迷惑とか言う方がどう考えてもおかしいだろ
ただでさえ投下する人いないのに、書き手を追い出すようなレスは慎むべきじゃないの?

あと専用スレたてろって言ってるけど、ここの掲示板は管理人以外スレ立てできないよ
書き手を追い出して掲示板を潰したいんならどうぞ

100 名無しさん :2013/05/18(土) 14:12:22 ID:2yxhqf3M0
藍さん作者さん。
こんなに面白くて深くて怖くて心揺さぶられてまた次を読みたくなる物語は滅多にありません。
この世の常、読む人の反応は光もあれば影もあります。
次も読めるようにしていただければうれしいです。

101 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:30:26 ID:73YnciYs0
皆様、今晩は。藍です。

>>97
>>99
>>100
新作の投稿を準備している間に頂いた、
皆様のコメントはとても心強く、有り難く思います。

知人の指示通り、短めのお話を投稿致します
お楽しみ頂ければ幸いです。

102 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:31:39 ID:73YnciYs0
『誓詞』

 「はい、最初からもう一度。ちゃんと詠唱出来ないと私が困るのよ、ね。」
『誓詞』の練習を始めて一週間程が経つ。修行の前の30分程を練習にあてていた。
文字を読むのではなく、Sさんからの口伝で詠唱する。独特の声の調子と抑揚。
古い言葉なので文字がないとほとんど意味が分からない。
それに元々あまり歌は得意ではない。
最初の内はかなり調子が外れていたのだろう、Sさんが何度も吹き出す程だった。
「せめて意味が分かれば少しはましになるかも知れません。文字も教えて下さい。」
「当主様は私たち一族の祭主。誓詞は当主様に奉る一種の祝詞なの。
心を込めて詠唱すれば、あなたの心はちゃんと当主様に伝わる。
あなたの力を考えたら、むしろ意味が分からない方が無心になれて良い結果が出るはず。」
『言霊に期待する』ということか。それなら無心に詠唱出来るまで練習するしかない。
さらに約一週間、誓詞の練習を続け、何とか様になってきたある日。
姫を大学に送って戻ってくると、Sさんが玄関の前で俺を待っていた。
明るい笑顔、きっと、何か良い知らせだ。
「さっき『上』から連絡が連絡が有ったわ。当主様にお目通り出来るって。
代理の方が対応して下さる事も多いのだけど、私たちは運が良い。」
何としてもその日までには誓詞を仕上げなければならない。気合いが入る。
「それはいつ、ですか?」
「次の日曜日。」
既に今日は木曜、もう練習期間は3日しかない。

103 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:32:34 ID:73YnciYs0
 日曜日、俺とSさんは午後2時30分過ぎにお屋敷を出発した。
当主様のお社とお住まいは県境に近い県道から脇の山道に入った所だと聞いていた。
指定された4時までには1時間30分ある。余裕を持って到着できるだろう。
運転しながら、俺はSさんに教えられたお目通りの手順を頭の中で何度も確認した。
俺とSさんが待つ部屋の中に当主様と当主様の奥方である桃花の方様が御出になる。
俺とSさんは起立し、最敬礼の姿勢で当主様が席にお着きになるのを待つ。
当主様が席にお着きになった所でSさんが俺を当主様に紹介し、俺は誓詞を奉る。
当主様から御裁許のお言葉を頂き、当主様と桃花の方様が御退出なされた後で俺たちも退出。
「あの、当主様と桃花の方様で良いんですよね?御名前や号ではなく。」
「祭主である当主様は、いわば一族全員の親にあたる存在。
一族のうち特定の家系や特定の個人と繋がりがあってはいけない。
建前としては、当主となった時点で元の名前や親子の絆は封印される。
だから当主様には御名前も号も無い。桃花の方様も同じ。」
「桃花の方様というのはお后様と同じような敬称と考えれば良いんですね。」
「桃花の方様のお社は当主様のお社の北東、鬼門にあたる方角に造営される。
つまり『妹の力』で鬼門を封じ、当主様をお守りするお方という意味。」
桃に魔除けの力があるという話は聞いたことがある。
確か『桃太郎』の桃もその系統の考え方から来ていたはずだし、
俺の実家の庭にも、家の鬼門にあたる方角に桃の木が植えてあった。

104 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:33:42 ID:73YnciYs0
 「次の脇道から山道に入って。そこから、10分くらい。多分。」
脇道を入ってすぐに簡単な門があり、俺は門を開いて車を進め、再び門を閉めた。
車を走らせると、そこが今までとは違う領域であると、俺にも分かった。
鬱蒼と茂った森の中、ゆるやかに曲がりながら上っていく山道は綺麗に舗装されている。
その道には、ただ一本の枯れ枝も、ただ一枚の枯れ葉も落ちてはいない。
そして道の両側、深い森の中には静かな気配が其処此処にひっそりと蹲っていた。
それらは当主様のお社とお住まいを護る式たちだろう。
おそらく、許可された者でなければこの道を最後まで辿ることは出来ない。
興味本位で入り込んだ者があれば、森の深みに迷い込む。
もしも悪意を持って入り込んだ者があれば、すぐに式たちに排除される。
道自体が『聖域』を行き来する人を選別する。そういう道なのだ。
5分あまり車を走らせると突き当たりの広場に出た。広場の奥の斜面に細い階段。
木々と空の感じで山の頂に近い場所であることが分かる。
「ここに車を停めて歩きましょ。」
車を出たSさんが不意に振り向いて、今辿ってきた山道の方向を見つめた。遠い目。
鳥の声と風の音、さっきと変わった気配は感じられない。
「どうか、したんですか?」
「ううん、大した事じゃない。」 階段を上り始めた。
Sさんだって緊張しているのだろう。俺も階段に足をかけた。これからが正念場だ。
黙ったまま並んで階段を上る。階段の上には鳥居。
その先には鬱蒼とした森の中を抜けていく石畳の長い参道。
Sさんが一礼して鳥居をくぐる。おれもSさんに倣って後を追う。

105 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:34:26 ID:73YnciYs0
 「見えた。」
参道の端は開けた平地になっていて、右側奥に大きな洋館がある。
洋館の左を抜ける細い道は階段に繋がり、階段の上には立派なお社の屋根が見えた。
「あの洋館が当主様と桃花の方様のお住まい。お社はあの階段の上。
お目通りの場所は洋館の中の部屋。いよいよね。覚悟は良い?」
「はい。此処まで来て、もう後戻りは出来ません。」
「うん、良い返事。付いてきて。」
Sさんの後に付いて洋館の門をくぐる。綺麗に手入れされた庭、其処を抜ける小道。
小道を辿ると大きな玄関。扉の脇に男性が立っている。
俺たちが扉の前まで来ると男性が一礼して扉を開いた。
Sさんが軽く会釈をして扉をくぐる。俺も後に続く。
玄関の中には少女が一人、俺たちに頭を下げる。
「Sさま、Rさま、お待ちしておりました。どうぞ中へ、御案内致します。」
少女が顔を上げた。中学生か高校生くらい、どこかで見覚えのある顔だ。
「ご苦労様。宜しくお願いしますね。」
少女は踵を返して廊下を進む。俺たちはその後を追う。軽い足音だけが響く、静かだ。
廊下の一方は一面ガラス張りの壁で中庭の様子が見える。やはり良く手入れされていた。
廊下の途中で階段を上り、上り切ったところで右へ。少し細くなった廊下を進む。
3つ目の扉の前で少女が立ち止まった。一礼して扉を開く。

106 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:35:04 ID:73YnciYs0
 「当主様はもうすぐ御出になります。正面のソファでお待ち下さい。」
「ありがとう。」 Sさんがドアをくぐり、俺も少女に一礼して部屋の中に入った。
思ったより小さな部屋だ。カーテンを背にした大きな机と椅子。
その正面にソファとテーブル。俺たちが入ってきたドアと反対側の壁に立派な扉。
Sさんがソファへ座る。 「あなたは其処へ。」
Sさんと俺はテーブルを挟んで座り、俺は壁の扉を背にした位置。
ノックの音がして扉が開き、さっきの少女がお盆を持って入ってきた。
テーブルの上に背の高いグラスを2つ並べ、一礼して出て行く。
冷えて露の着いたグラスに透明の氷と薄緑色の液体、緑茶だろうか。
「緊張して喉が渇いたでしょ?今の内に飲んでおいて。」
確かに喉がカラカラだ。誓詞の詠唱に差し支えないよう、慎重に喉を湿らせる。
良い香りがするが、緊張していて味が良く分からない。
再びノックの音がした。
扉が開き、少女が扉を押さえたまま、扉の向こうに向かって最敬礼をする。
Sさんと俺も立ち上がり、大きな机に向かって最敬礼、そのままの姿勢を保つ。
何度も何度もシミュレーションした手順の通りだ。

107 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:36:12 ID:73YnciYs0
 静けさの中に響く微かな足音と2つの気配。机に向かって移動していく。
「ふたりとも、顔を上げなさい。」 女性の声、澄んだ心地よい響きだ。
俺たちは直立の姿勢で正面を見た。
座っている壮年の男性、俺たちから見て男性の右後方に立つ女性。
男性は、榊さんをさらにお人好しにしたような、悪戯っぽい笑顔を浮かべている。
女性は、Sさんをもっと厳しくしたような、凛とした表情。とても綺麗な人だ。
これが当主様、そして桃花の方様。
確かに、伝わってくる気配でどちらも凄い人だとすぐに分かる。
しかし、気圧されて声が出なくなるほど怖い感じではない。正直、ホッとした。
「S...随分と久し振りだ。突然の連絡で少々驚いたぞ。
前線から退いて子を成したと聞き、気に掛けていたが。幸せそうで、何よりだ。」
「はい、お陰様で良縁に恵まれ、思いもかけず人並み以上の幸せを授かりました。」
ちょっと待ってくれ。こんなやりとりがあるとは思わなかった。一体、誓詞のタイミングは?
Sさんが俺を見て微笑んだ。
「この度、我が夫Rのお目通りが叶いました事、光栄の至りに存じます。
つきましては、Rが誓詞を奉る事をお許し頂きますよう、お願い申し上げます。」
「宜しい。聞かせて貰おう。」
つまり、今が『その時』だ。もう、腹を括るしかない。眼を閉じて深く息を吸った。
練習してきた通りに、一言一言、心を込めて誓詞を詠唱する。
スーッと雑念が消えて頭の中がクリアになっていく。
ふと、頭の中に、青い空を無数の白い鳥が飛ぶ情景が浮かんできた。不思議な感覚だ。
詠唱を続けるうち、青い空と白い鳥を背景にして、Sさんとの出会い、姫との出会い、
そして翠が生まれた日の情景が次々と浮かんでくる。大切な人、俺の一番の宝物。
その宝物を守りたい、俺を一族の術者として認めて欲しい、強い思いが湧き上がってくる。
そうか、誓詞とは、俺自身の想いと願いを当主様にお伝えする言葉なのだ。

108 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:37:22 ID:73YnciYs0
 詠唱を終えて一礼。顔を上げると、桃花の方様が懐紙で目頭を押さえているのが見えた。
何故、と想った途端。張りのある声が直接頭の中に響いた。
『...これ程の『力』がこもった誓詞を聞いたのは初めてだ。
安心して、SとLを託すことが出来る。喜んで裁許しよう。』
当主様から感じる雰囲気が、一変していた。
その眼差しは一瞬で俺の全てを見通すような光に満ちている。
広大な海の、決して手の届かない深淵を眼の前にしたような畏怖の念が湧き上がり、
どうしようもなく体が震えた。正直、怖いのに眼を逸らすことが出来ない。
『R君。いや、裁許したのだから、これからはRと呼ばせて貰う。
R、良き資質を持つ青年が我が一族に加わった事を心から嬉しく思う。
その資質を余す所無く開花させ、近い将来、術者として働いてくれる事を期待する。』
Sさんと俺はもう一度深く頭を下げた。当主様が立ち上がる気配。
御退出なされた後で俺たちも退出、それで完了だ。もう一度頭の中で手順を確認する。
「ところで、S。」
「はい。」
!? また、手順と違っている。慌てて当主様とSさんの様子を窺う。
当主様の声は、頭の中で無く、耳に聞こえる普通の声に戻っていた。悪戯っぽい笑顔。
「成した子は、娘だと聞いた。私たちに、会わせてはくれないのか?」
「夫を御裁許頂きました上、娘のお目通りも叶うなら、これ以上の望みは御座いません。」
「うん。出来るだけ早く、頼む。」 当主様は扉に向かって歩き出した。
慌てて頭を下げる。
「S、きっとですよ。きっと、近いうちに。」
「はい。必ず。」
桃花の方様とSさんの短い会話が聞こえた後、扉の閉まる音がした。

109 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:38:39 ID:73YnciYs0
 「首尾は上々、惚れ直しちゃった。」
「いや、でも聞いていた手順と。」
「手順通り。さ、すぐに退出するわよ。」 Sさんはドアを開けて廊下に出た。
急ぎ足で来た順路を逆に辿り、玄関に着く。先程の少女がドアを開けてくれた。
「ありがとう。」 Sさんがドアをくぐる。俺も一礼して後を追う。
「あの、聞きたい事が。」
「車に戻ってから答えてあげる。だから今は急いで、ね。」
庭を抜け、門を出て石畳の参道、2人並んで、黙って急ぎ足で歩く。
Sさんはほとんど小走りに近い速さで俺の左側を進む。
一体何故こんなに急いでいるのだろう?
もう御裁許は頂いたのだし、急ぐ理由などないはずなのに。

 ふと、蝉の声が聞こえたような気がした。まだ少し、蝉には早いはずだ。
急ぎ足で歩きながら、参道両側の森の様子を窺い、蝉のいそうな木を探す。
突然、Sさんの脚が止まった。 同時に囁くような声。
「『鍵』を。」
反射的に『鍵』をかけ、Sさんの視線を辿る。
...目の前に男が立っていた。そんな、一体何処から?
長い参道は見通しが良く、死角になるような場所はない。ついさっきまで人影などなかった。
なのに今、俺たちから僅か2mほどの距離に、この男は立っている。
森の中から現れたとすれば、いや、下草や落ち葉を踏む音すら聞こえなかった。
黒いスーツ、俺より背が高い。微かな笑みを浮かべてSさんを見下ろしている。
一体これは人なのか。それとも...。

110 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:39:17 ID:73YnciYs0
 「久し振りだな。S。」
「そうね。6年振り、かしら。」
Sさんの声は冷ややかだ。
「縁談を断り、前線からも退いたと聞いて訝しんでいたが。」
男の眼が俺を見た。『鍵』を掛けているのに、俺の心を見透かすような鋭い視線。
「なるほど。原石を見つけた、という訳か。確かに、暇潰しにはなりそうだ。」
「類い希な原石には違いない。決して暇潰しではないけれど。」
数秒間の沈黙。辺りの空気が張り詰めて、肌がピリピリする程だ。
「話したいこともあるが、今日は『公務』で時間が無い。
前線に戻ってきたのなら、急がずとも話す機会はあるだろう。」
「機会があったしても、話したいこと、私にはない。」
男の口元が緩む。 「相変わらずだな。安心した。」
男の体がゆらりと流れるように動き、Sさんの左側をすり抜けた。革靴が石を踏む硬い音。
Sさんが唇にそっと右手の人差し指を当て、それから前に向ける。
おそらく『黙って前へ』の合図。
Sさんがゆっくりと歩を進める。おれも並んだまま歩調を合わせた。
背後で男の足音が次第に小さくなっていく。
しかし、何故か濃密な気配がいつまでもすぐ背後にある。
振り返って確かめたいが、指示通りSさんの歩調に会わせて歩き続けた。

111 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:40:02 ID:73YnciYs0
 参道を過ぎ、車を停めた広場へ続く階段を下りる。
未だ気配を背後に感じる。まるで何かが俺のすぐ後ろに付いて来ているようだ。
一体何だ、この得体の知れない気配は?心臓の鼓動が半端じゃない。
怖い。走って、一刻も早く車に乗りたい。そんな気持ちを必死で抑える。
ようやく車に辿り着いた。少し震える手でポケットを探り、鍵を取り出す。
助手席のドアを開けると、Sさんは俺の手から鍵を取り上げた。
左手で俺の背中を軽く払ってから助手席を指さす。
『先に乗って』という意味だろう。できるだけ素早く助手席に乗り込んでドアを閉める。
Sさんは慌てる風もなく運転席に乗り込んだ。ドアを閉じる。
すぐに車を出した。山道を飛ばし、5分足らずで扉の場所に着く。
車を止め、俺を制して車を出たSさんが扉を閉めた。
運転席に戻り、俺の顔を見て微笑んだ。
『もう大丈夫』ということだろう。俺も気持ちを静めるために深呼吸をした。
「御免ね。まさか、出会うはずないと思って黙ってたの。ちゃんと話しておけば良かったけど。」
車を出し、山道から県道に戻る。ようやく俺の心臓の鼓動も元に戻った。
「一体、あれは人間なんですか?」
「人間、には違いない。一族の女性が産んだんだから。その家系の、『最高傑作』。」
普通、人間に対して最高傑作という言葉は使わないだろう。
「人間と言うより、計画的に作り出された存在、という風に聞こえますが。」
「その通りよ。3世代かけて行われた計画だったの。」

112 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:41:03 ID:73YnciYs0
 「計画って。人間を材料に使うような計画だったんですか?」
「慢性的に術者が不足してるって前に話したでしょ?」
「はい、もう何十年も前から不足していると。」
「何故不足してると思う?」
Sさんや姫とともに、これまでいくつもの『非科学的』な事件に関わって来た。つい最近も。
科学全盛の時代とはいえ、俺の知らないところでそんな事件が増えているのだろうか?
しかし、それならそういう事件の、信憑性のある噂がもっと広まっているはずだ。
「正直、想像もつきません。」 「能力を持つ子が、生まれなくなってきているからよ。」
「何故、そんなことに。」 「一番の原因は少子化。」 「少子化?」
「そう、一族の中にも一夫一婦制の結婚が普通に見られるようになったし、
それに一人っ子も多くなった。特に最近はその傾向が顕著になってる。
当然だけど、たった一人の子供を術者にしたいと考える親は少ない。一族の者でも。」
確かに、自分自身が術者ではなく普通の生活を送っている親なら、
今の時代、子供にも普通の生活を送らせたいと考えるのはむしろ必然の流れだろう。
俺だって積極的に翠を術者にしようと思っている訳ではない。
「時代の流れ、ってことですか?」 
「そう。でも、その状況に危機感を持つ人たちがいたのは当然よね。
術者の数が減れば、一族の力や影響力が弱まるのは自明の理だもの。」

113 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:41:53 ID:73YnciYs0
 冷たいものが背筋をはい上がってくる。それは、つまり。
「まず、外法を使って強力な依り代を作り出し、
依り代に憑依した神や精霊の力に頼ろうとした一派が現れた。
そうすれば、生まれてくる子に任意の能力を与える事が出来るから。
でも外法を認めない『上』はその一派を異端として一族から排除したの。
それが分家、Lの心に術を仕込んだ者たち。」
俺の曾祖母はその分家の出身だと母から聞いていた。
「ただ、外法を使うのは論外としても、影響力の低下を防ぎたいという人は多かった。
だからある家系で、その計画が立てられた。そして、実行されたの。」
術者の減少に対応する計画、やはりそれは。寒気が全身に拡がった。
「そう。その家系の術者の中から計画に参加する希望者を募り、
計画的な妊娠によってその能力を組み合わせた術者を生み出そうとした。」
ジーンリッチ・優性思想・デザイナーチャイルド・・・そんな言葉が次々と浮かんでくる。
いや、しかし。一族に生まれる子供の中で、能力を持つ者はむしろ少数だとSさんは言った。
一夫一婦制とは限らない結婚制度のもとで、能力を持つ子供が十分な数生まれていたのなら、
それは男性の優秀な術者が多数の妻を娶り、多くの子を残すのがあたりまえだったという事だ。
逆の組み合わせでは、生まれてくる子の数は一夫一婦制と同じだけしか期待できない。
近代まで、その血筋を保つために権力者が多くの側室を持つのは当たり前だった。
一夫一婦制になった後でも、恋愛結婚が普通になったのは最近のことだ。
見合い結婚が主流の時代には、結婚式で初めて相手の顔を見たという話も多かったと聞く。
つまり、もともと結婚という言葉やその制度が、常に愛情と結びついている訳ではない。
無理に強制したのでもなければ、現代の価値観でその計画を非難することは筋違いだろう。

114 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:42:28 ID:73YnciYs0
 「あくまで希望者、なんですよね?」
「そう、強制したという話は聞いていない。だから『上』も計画を黙認し続けた。
実際、優秀な術者ほど、強制するのは難しいでしょうね。
それに、確実に能力を持つ子が生まれる訳ではないから、
この計画で作られた術者もそれほど多くない。『上』が把握しているのは8人。」
「その中で一番強い力を持っているのがさっきの...」
「そう、だから最高傑作。名前は『炎(ほむら)』。
ね、憶えてる?学校法人の理事長、Lの高校の。」
「はい、あの背の高い。すごく礼儀正しい人ですよね。」
「炎はあの人の孫にあたる。計画を実行したのは、その家系なの。」
あの老人に対するSさんの態度はどこか冷ややかでよそよそしかった。
そしてさっきは『話したいこと、私にはない。』と。
Sさん自身がその計画を快く思っていないということか、あるいは。
「やっぱり、いたんじゃないですか?許婚。」
「違う、許婚じゃない。縁談が来て、それを断っただけ。」
『最高傑作』とSさんの縁談がまとまれば、更に良い結果を期待できただろう。
「私の家系は一族の中で一番古い、いわゆる直系。優れた術者も多かったし、
それに歴代の当主様も、直系の出身者が一番多い。
計画の仕上げに、直系の者との結婚を考えるのは彼らにとって当然でしょうね。」
でも、Sさんはそれを断った。やはりこの計画に賛同していないという事だ。
前もって俺に話さなかったのは、あまり思い出したくない記憶だからだろう。

115 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:43:28 ID:73YnciYs0
 ふと、さっきのSさんの様子を思い出した。まるで俺を守ろうとしているような。
計画のためだけの縁談なら、次の候補者を探せば良い、それだけのこと。
断った縁談の相手に偶然出会ったとしても、Sさんが俺を守る必要はないはずだ。
その縁談には、あの男の、Sさんへの恋愛感情も含まれていたのではなかったか。
「もしかして、僕、恨まれたりしませんかね。」
「恨むとか憎むとか、そんな激しい感情は感じなかった。だけど、イタズラ半分に
式を貼り付けた位だから、あなたに興味を持ったのは間違いないわね。」
背後に感じた異様な気配は式だったのか。もしかしてこれ、かなり面倒な事態かも。
「これからも、何か干渉される可能性はありますか?」
「式は帰ったし、心配する必要はないと思う。多分、冗談みたいなものよ。
もしそれ以上の干渉があっても、聖域の中以外なら術の制限が無いから
あなたを守るのはそれほど難しくない。」
「それで帰りを急いだんですね。あの男に気が付いたのはいつですか?」
「車を停めて歩き出した時。気配が近づいて来ているのは分かったけど、
大切な儀式の前にあなたの気を散らしたくなかった。」
確かに、こんな話を事前に聞いたら色々な意味で集中できなかっただろう。
「ね、もうこの話はお終い。折角御裁許を頂いたんだから、楽しい話をしましょ。
あ、乾杯のお酒を買って帰らなきゃ。シャンパンが良いわね。
ハイボール用のウイスキーも切れてたし。」
そう、緊張と誓詞の練習からようやく解放されたのだ。
今夜くらい息抜きをしても罰はあたらないだろう。

116 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:44:11 ID:73YnciYs0
 シャンパンを3杯飲んでソファで寝てしまった姫を抱いて部屋まで運び、
リビングに戻ってくると、Sさんがハイボールを作っていた。氷の音が涼しく響く。
翠はベビーベッドの中でぐっすり寝入っていた。
「はい、どうぞ。お祝いだから、もう少し飲んでも大丈夫よね。」
「ありがとう御座います。頂きます。」
嬉しそうな横顔。Sさんはずっと上機嫌だ。考えてみれば緊張していたのはSさんも同じだろう。
いや、もしかするとSさんの方がプレッシャーは大きかったかもしれない。
もし、御裁許を頂けなかったとしたら、それはSさんの立場を悪くする不名誉だったはずだ。
取り敢えず上手くいって良かった、事前のシミュレーションとは多少違う部分も合ったが、概ね。
...そういえば、帰りがけの出来事のせいで質問をすっかり忘れていた。
「質問を、忘れていました。」 「何?」
「何故、当主様が翠に会いたいと仰ったのか、と思って。」
Sさんは少しの間ベビーベッドの方を見て、それから俺の眼を真っ直ぐ見つめた。

117 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:44:59 ID:73YnciYs0
 「『孫の顔を見たい』という事ね。」
「え? 孫??」
「立場上、血縁を封印しているとはいえ、やはり当主様も人間だから。」
「ちょっと待って下さい。翠が当主様の孫なら、それは、Sさんが。」
「そう、私は当主様と桃花の方様の、血を分けた実の娘。」
「!? そんな...」
全く、想像もしていなかった。何を、どう考えればいいのか、混乱して事態を飲み込めない。
じゃあ俺は今日、Sさんの御両親の前で誓詞を、当主様と桃花の方様は俺を...
頭の中の混乱が収まるにつれ、怒りと悲しさが入り交じった激しい感情が湧き上がってきた。
思わず右手を握りしめる。
「どうして!! どうして先に教えてくれなかったんですか?教えてくれていたら...」
自分でも驚く程大きな声を出した後で、腹の底がヒヤリと冷たくなった。
それを教えて貰っていたとして、俺に、一体何が出来たというのか?
一族を追われた異端・分家の末裔。術者としては修行を始めたばかりの駆け出し。
Sさんが胸を張って俺を御両親に紹介できる材料など何ひとつない。
他の縁談を断って選んだのが、こんな半端者だなんて...
「違う、そうじゃない。信じて、お願い。」
俺の大声に驚いて泣き出した翠を抱き上げたあと、Sさんは俺の左隣に座った。
膝の上で握りしめた俺の右手に、そっと右手を重ねる。温かい。

118 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:45:40 ID:73YnciYs0
 「前もって知らせなかったことは申し訳ないと思ってる。本当に御免なさい。
でも、許して頂戴。前もって知らせたら、あなたに余計なプレッシャーがかかって
無心に誓詞を奉ることが難しくなると分かっていたから。」
確かに。もし知っていたら、どれほどのプレッシャーだったか想像も出来ない。
俺は間違いなく緊張でガチガチだったろう。
「私、あなたの力を両親にも見せたかった。正直言うとね、自慢、したかったの。
あの時も言ったでしょ、惚れ直したって。今日のあなたは、とても立派だったわ。」
「じゃあ、言霊はちゃんと?」
Sさんは微笑んで、力強く頷いた。
「父の言葉、母の涙、憶えてる? やっと親孝行ができて、私、とても誇らしかった。」
落ち着いてくると、Sさんの気持ちや心遣いも考えず大声を出したことが恥ずかしくなる。
「大きな声を出して御免なさい。混乱して、つい。」
「謝らないで、あなたは悪くない。」

119 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:46:42 ID:73YnciYs0
 Sさんは泣きやんだ翠を抱いたまま、俺の左肩に頭を預けた。
「もうひとつ、黙ってた事があったわね。」
「何ですか?」
「あなたが奉った誓詞の意味。
あれは一族の娘を娶った者が術者になるのを認めて頂くための誓詞。
娶った娘、成した子を守ること。そして一族のためにしっかり働くこと。それを誓う言葉。
だからあなたは、あの場に一番相応しい言葉を奉ったのよ。」
そうだ、Sさんはいつも俺を本当に大切にしてくれる。それこそ俺には不相応な程に。
それなのに。たとえ一瞬でも、あんな感情が湧き上がったこと、それが俺の弱さだ。
「一刻も早く、僕は強くならなきゃいけませんね。SさんとLさんと翠を守れるように。」
Sさんは頷いて、優しく微笑んだ。
「急ぐ必要は無いけど、期待してる。それとね、ひとつだけ約束して頂戴。
例え駆け出しでも、今日からあなたは裁許を受けた正式な術者。
どれほど力のある術者でも最初は駆け出しなんだし、
少なくとも私は、あなたやKを生んだ分家の血そのものは尊敬してる。
だから誇りを持って。あなたは私とLの夫、そして翠の父親なのよ。
絶対に自分の事を半端者だなんて思っちゃ駄目。」
その言葉の、ひとつひとつが俺の心を貫いた。文字通り、耳が痛い。

120 『誓詞』 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:47:25 ID:73YnciYs0
 俺は深く息を吸い、下腹に力を込めた。
自分の力を信じる。これは、俺の、心からの言葉。
どうかSさんに、姫に、そして翠に、伝わりますように。
・・・・・・・
その言葉を言い終わった時、
虹色に光る蝶が7片、目の前を舞うのが見えた。

『誓詞』 了

121 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/18(土) 20:51:55 ID:73YnciYs0
どうにか、無事に投稿を終えることが出来ました。
私は、このお話が好きなので、期待して下さる方々と共に楽しめればと存じます。
ありがとう御座いました。

122 名無しさん :2013/05/18(土) 20:58:40 ID:caxojwZU0
初の投稿遭遇、
なんか得した気分だ。
面白かったです、これからも期待してますよ。

123 名無しさん :2013/05/18(土) 21:15:05 ID:suSLqkA.O
新たな始まり。
次の物語がどうなるのか、本当にワクワクします。

124 名無しさん :2013/05/18(土) 23:20:18 ID:2yxhqf3M0
本当に面白かったです。ありがとうございました。

125 名無しさん :2013/05/19(日) 00:14:01 ID:odh3/L8Y0
たまに覗いてみたら投下してるし
ラッキーだな

126 名無しさん :2013/05/19(日) 11:32:42 ID:6CbgZxvE0
藍さん作者さん
お疲れ様でした。あっという間に読みきってしまいました。またひとつ大好きな作品が増えことを心から感謝します。今後の展開も楽しみで仕方ありません。本当にありがとうございました。

127 名無しさん :2013/05/19(日) 11:44:11 ID:fGkp0W/kO
>>121
今回も素晴らしいお話をありがとうございます。
一気に引き込まれ涙が出ました。
この先の展開も非常に気になります。
こんなにも夢中になれる作品に出会えて嬉しいです。

頑張ってください。

128 名無しさん :2013/05/19(日) 18:58:35 ID:9U9l7VfQ0
いつもすばらしい話をありがとうございます。
まとめサイトやブログに 「宮大工とオオカミ様」の話があるんですが
私はあの話を読んで、神様の存在を畏怖の念を持ちながらも
身近に感じることができたのですが、(最近はブログもアップされてないようですが)
藍さんの友人のお話も共通点があり、心に響いてきます。

もしかして「宮大工」氏ともお知り合いなんでしょうか?
まるで現代版の古事記のようですね。
これからも楽しみにしております。

129 ◆iF1EyBLnoU :2013/05/23(木) 20:30:31 ID:OGuIpYi20
 今晩は、藍です。

>>122
>>123
>>124
>>125
>>126
>>127

 皆様、ありがとう御座います。
当初、知人が送ってくれた原稿は『卯の花腐し』だけだったのですが、
その最後の一部を統合して、未完だった掌編を完結したいと
指示があり、『誓詞』を追加して投稿しました。
読み直してみると、確かに、この方が良かったように思います。
公開の許可がもらえるかどうかはわかりませんが
この次も、ここで投稿させて頂ければ有り難いです。

>>128

 私自身は「オオカミ様の神社の修繕」のお話、存じております。
あれほど有名なお話と共通点があるとするならとても嬉しいですし
『まるで現代版の古事記』との評価を、とても嬉しく、有り難く思います。
でも、知人は「宮大工」氏も「オオカミ様のお話」も知らないようです。
今後の展開、私自身が一番楽しみにしておりますので
一緒に御期待頂ければと思います。

130 名無しさん :2013/05/24(金) 00:54:24 ID:iOr/Oknc0
>>129
何度読み返しても面白く、作者さんの知識と思索の深さ、神々を愛する心、そして人への
優しさが満ちあふれた物語だと思います。
 次を待っています。

131 名無しさん :2013/05/25(土) 14:08:54 ID:gTJUxZLY0
藍さん作者さん楽しく拝見させて頂いております。すでに通しで六回読破しました。読む度に作品の奥深い内容が少しずつわかってきて新たな発見って感じて読み返してます。個人としては実話として見させて頂いてます。毎回楽しみにしておりますのでどうか掲載を続けて頂きたく、書き込みさせてもらいました。

132 名無しさん :2013/06/02(日) 13:11:49 ID:zVVu8gPAO
wktk

133 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/03(月) 21:28:34 ID:bgS2b3Ho0
>>130
温かいコメント感謝致します。ありがとう御座いました。

>>131
通しで6回読破して頂いたとのこと、とても嬉しく思います。
私自身、読み返して『あ、これ、そういう事だったのか』と思う事が多々あります。
ありがとう御座いました。

>>132
私たちの物語へのコメントなら、有り難いです。

 昨日、知人から新作の原稿と公開の許可が届きました。
しかし、地名や人名の障りがあまりに多く、知人と相談・修正の上、
準備を進めている所です。ちょっと時間が掛かると思いますが
投稿まで、暫くお待ち下さい。

134 名無しさん :2013/06/03(月) 21:48:15 ID:GIoBzlDUO
藍さん知人さん、心から期待しています。待ってます!!

135 名無しさん :2013/06/09(日) 01:28:45 ID:XWBJxoqE0
とても惹き込まれて読んでおります。UP乙でございます。

記憶を留めるためと題して始まった物語ですが、早晩その意味が解るという事なのでしょうか?

展開が楽しみなようなおっかないような気がしています。

お体大事で活動続けられてください。

136 名無しさん :2013/06/09(日) 13:41:19 ID:f0JcbGf.O
楽しみ楽しみ

137 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 17:44:28 ID:BEI3CUXA0
テスト中です。

138 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:10:34 ID:BEI3CUXA0
皆様、今晩は。藍です。

>>135
温かいコメントありがとう御座います。
私の検討結果では『誓詞』が2008年のお話なので、
公開の許可が貰えるかどうかは別として、まだ先は長いと思っています。
もしかしたら『誓詞』の『炎』がラスボスなのではないかと予想していますが
今まで私の予想が当たったためしはありません。
今後もご期待下されば有り難いです。

>>136
ありがとう御座います。新作、お楽しみ頂ければ幸いです。

 では、以下、新作『道標(上)』を投稿致します。
前述致しましたが、この作品は地名と人名の縛りが多く、
しかも地名を伏せると物語が成り立ちません。
知人と相談の上、送付された原稿を一部修正しています。
少々不自然に感じられる点があると思いますが、
その点をご承知置きの上でお読み下さればと思います。
修正作業にかなり時間が掛かりますので、
(中)以降は週一くらいのペースで投稿したいと思っております。

139 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:12:03 ID:BEI3CUXA0
『道標(上)』

 強い日差し、アスファルトの道路に逃げ水が見える。
既に梅雨が明け、日差しはもう真夏のような強さだ。暑い。

 榊さん行きつけの喫茶店で打ち合わせを終え、車を停めたコイン駐車場に戻る。
千円札を両替して料金を投入していたら、背後から声を掛けられた。
「ねえ、あれ、お兄さんの車でしょ?」
振り向くとセーラー服を着た少女が立っていた。右手でロータスを指さしている。
膝上の短いスカート。派手目の化粧、もともと綺麗な顔立ちなんだろうが、これでは駄目だ。
セーラー服なら絶対に膝小僧が見えてはいけないし、化粧なんて言語道断。
正統派セーラー服嗜好の俺としては、神聖なセーラー服を汚されたような気がして不快になる。
「そうだけど。何で、あっ。」 手元が狂って百円玉を一個落としてしまった。
百円玉は軽い音を立てながら少女の足下に転がった。
少女がしゃがんで百円玉を拾う。白い足、下着が見えそうだ。ますます不快になる。
「はい。」 少女が歩み寄り、掌に載せた百円玉を差し出した。
「ありがとう。」 軽く頭を下げて百円玉を受けとる。
少女はじっと俺の顔を見ている。

140 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:14:38 ID:BEI3CUXA0
 「あれ外車だよね。お兄さん若いのにお金持ち?」
「悪いけど、時間無いからさ。」
少女は歩き出した俺の前に立って両手を広げた。
「ちょっとくらい話聞いてよ。今日テストで学校が午前中だったから
バイトの時間までヒマなんだ。ね、車でどっか連れてって。カラオケでも良いよ。」
「いや、だから時間無いんだって。」
「もう、鈍いな〜。私、お兄さんとお友達になりたいの。」
「へ?」
「お兄さんカッコイイし、良い人みたいだから気に入っちゃった。」
セーラー服着てるのに、何、この物言い?
腹の底から怒りが湧き上がってきたが、深呼吸して心を静める。
もしかしたら何か事情があるのかもしれないし。俺の嗜好は他人の知ったことでは無い。
「俺、一応妻子持ち。色々と誤解のもとになるから女子高生の友達は要らない。」
少女の横をすり抜けてロータスのドアを開ける。
「じゃ、これあげる。気が向いたらで良いから、連絡して。」
少女は名刺のようなカードを俺の胸ポケットに押し込んだ。
素早く運転席に乗り込みドアを閉める。
「待ってる。メールでも、電話でも」
少女の声はエンジン音にかき消された。
ロータス乗っててこんな面倒臭いのに掴まったのは初めてだ。
初仕事の打ち合わせの日にこんな事、何だか嫌な予感がする。

141 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:16:54 ID:BEI3CUXA0
 姫と2人、翠の相手をして遊んでいるとSさんがリビングに入ってきた。
「R君。今日の打ち合わせ、あの男の子の件でしょ?交通事故の。」
「はい。病院に行く日と、それから依頼の内容を詳しく確認してきました。」
「それだけ?」 「そうです。」
「じゃ、これは何かしらね?」 Sさんは小さなカードをテーブルに置いた。
「これ、誰ですか?何だか派手な感じの女の人ですね。」 姫がカードを手に取る。
顔から音を立てて血の気が引いた。しまった、あのまま胸ポケットに。
いや、待て。2人は俺の心が読める。あったことをそのまま話せば大丈夫だ。
ホッとして思わず笑みが浮かぶ。
「ちょっと、R君。何笑ってるの?」
「僕、ナンパされたんですよ。それも女子高生に。笑えますよね。」
「ナンパ?」 「はい、カラオケ行こうって。びっくりしました。」
「大人っぽいけど、本当に高校生なんですか?。」 姫からカードを受けとる。
カードには少女の写真。電話番号とメールアドレス。何かのロゴみたいな筆記体の文字。
思わず溜息をつく。
「制服着てたし、実際に見た感じは確かに高校生だったんですが、これじゃあ全然。」
「制服って、セーラー服?」 Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「セーラー服です。でも、スカートは短すぎるし化粧してるし、邪道ですね。」
「あの、セーラー服の邪道って何ですか?」 姫が不思議そうな顔で俺を見る。
「いや、邪道っていうか、校則違反って意味で。多分化粧も違反だし。」
いくらSさんに乗せられたとは言え、危うくセーラー服嗜好を姫の前で。馬鹿か俺は。
まあ取り敢えずセーフ、それとなく掌で額の汗を拭う。

142 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:18:57 ID:BEI3CUXA0
 「校則が無い高校もあるわよ。とにかく、これは要らないのね。」 「はい。」
Sさんが俺の手からカードを取り、天井に向かって投げ上げた。何事か小声で呟く。
カードは空中に静止したまま炎に包まれ、灰も残さずに燃え尽きた。
「さて、洗濯の続き。」 Sさんはリビングを出て行った。
Sさんを追いかけようとする翠を姫が抱き上げる。
「お母しゃん、今忙しいから。お姉ちゃんと遊ぼうね〜。」
「Sさん、機嫌悪くしましたかね?」
「Sさんも、私も、怒ってなんかいないですよ。
Rさんの力が発現すれば、Rさんの本当の顔が見える人も増えます。
時々こんなことがあっても仕方ないって、覚悟しなきゃいけません。」
翠は姫の右肩に頭をもたせて眠そうにしている。
姫の横顔は少し寂しそうだ。胸の奥が痛くなる。
「外出した時、目立たなくしていられる方法ってありませんか?」
「う〜ん、難しいですね。そうしたらRさんの感覚もかなり鈍くなっちゃいます。
それにRさん、前に私に言ったじゃないですか。
『税金みたいなものだから我慢して下さい』って。」
「我慢、ですか。Sさんの護符に何か良いのがないですかね。女難除け、とか。」
「女難除けの護符だなんて。胡散臭い占い師じゃあるまいし。
それに、女の子に声掛けられること自体は女難じゃないでしょ。」
洗濯機の操作を終えたのか、Sさんがリビングに戻ってきた。
寝てしまった翠を姫から受けとって頬ずりをする。

143 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:20:37 ID:BEI3CUXA0
 「そう言えば、気になる占い師の話を聞いたんです。大学で。」
「どんな話?」
「街の占いハウスに、凄く良く当たる占い師がいるっていう話なんですけど。」
「占い師?占いハウスの?」
相鎚を打ってはいるが、Sさんはあまり興味が無さそうだ。
翠をソファに寝かせ、団扇でそっと扇ぐ。
「はい。ただ黙って座るだけで、何を占って欲しいのか当ててしまうそうです。」
「コールドリーディングとは違うんですか?」
姫をフォローするつもりで俺は口を挟んだ。一応、この辺りは自習済みだ。
女子大生が街の占い師を訪れたなら、それはまず恋愛関係の悩み。
次に友人関係の悩み、その次に家族関係の悩みだろう。取り敢えず人間関係に絞って
会話を進めれば『当てた』ように思わせるのはそれ程難しくないような気がする。

144 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:21:53 ID:BEI3CUXA0
 「それが、その占い師に占ってもらったのは私の大学の先生なんです。男の先生で。
噂を聞いて行ってみたら、本当に黙って座ってるだけで何を占って欲しいのか、
ぴたりと言い当てたって。相談は家族の事だったそうですけど。」
「名前や生年月日を聞いたり、書かせたりもしないんですね?」
「はい、そう言ってました。とにかく事前の情報は一切必要ないって。」
コールドリーディングは会話の上に成り立つ技術だ。
当然、会話がなければ相手の情報を得てそれを当てたように思わせることは出来ない。
「本物、なんでしょうか?」
「街中で営業してる占い師に本物がいるなんて思えないけど。」
「でも、沖縄出身の同期から同じような話を聞いたことがありますよ。
黙って座るだけでピタリと当てる占い師。ええと、ユタ。そう、ユタって言ってました。」
「確かに沖縄には一種のシャーマン文化がまだ色濃く残ってる。
その中に本物もいると聞いているけど、ここは沖縄じゃない。」
「沖縄にいるなら、ここにいてもおかしくないような気がしますが。」
実際、今俺の目の前に本物が2人もいる。それも、とびっきりの本物が。

145 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:23:22 ID:BEI3CUXA0
 「沖縄と北海道は別として、『上』は日本国内の術者と、
術者を生みだす家系の動向をほとんど全て把握してる。
私たちの一族だけでなく、それ以外の系統に関してもね。」
「どうして一族以外の系統まで把握する必要があるんですか?」
「単独で活動する術者を警戒してるんです。組織を離れたりして
単独で活動する術者はとても危険だから。」 少し姫の表情が曇る。
「危険?」 たとえ優れた術者でも単独で出来ることは限られる筈なのに。
「誰かに脅迫されて外法を使ったり、ということですか?」
「それもあります。でも、一番危険なのは単独の術者が業に呑まれた場合です。
組織に管理されていないので、処理されないまま暴走してしまいますから。」
「業に、呑まれる...」
「術者自身が悲しみや憎しみに囚われ、生きたまま不幸の輪廻に取り込まれた状態。
同じような状態の魂を取り込んで、不幸の輪廻に送り込む端末になってしまうの。
そうなったら、術者を処理する、つまり殺すしか方法は無い。」
俺は3人の女の子を殺した男のことを思い出した。もしあの男が術者だったら、
女の子たちの魂は間違いなく不幸の輪廻に取り込まれていただろう。

146 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:24:23 ID:BEI3CUXA0
 「『上』は北海道や沖縄についても術者を把握したいと考えているんですか?」
「沖縄には民間のシャーマンが多いから把握は難しいでしょうね。
ユタ、オガミサー、カミンチュ。ほとんどが女性がなのは興味深い。
その中にどれだけ本物がいるのか分からないけど。」
「Sさん、今カミンチュって?」 姫の表情が少し緊張している。
「そう、神の人って書いてカミンチュ。どうかした?」
「当たるっていう占い師は若い女性で、
大学の先生が『黙ってるのにどうして相談の内容が分かるの』って聞いたら
『私カミンチュだから』って答えたそうです。」
「じゃあ、沖縄の?」 その占い師が沖縄から移住してきたという可能性は当然ある。
「もし沖縄の...それが本物なら、単独かどうかを確認しなきゃいけないわね。
R君、Lと一緒に確認してくれる?L、どこの占いハウスなのか先生に聞いてきて頂戴。」

147 『道標(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:25:19 ID:BEI3CUXA0
 「かなりの評判みたいですね。通常の時間では予約が取れなくて、
追加料金で時間外の予約を取りました。明日の午前11時です。Rさん、大丈夫ですか?」
「はい、明日の修行は午後なので全然問題ないです。
でも、本当に本物なのか、何となくドキドキしますね。不謹慎かもしれませんが。」
「もし本物で、単独の術者だったら、きっとその後が面倒ですよ。
Sさんが確認してくれると思いますが、まず間違いなく『上』から指示が来ます。」
上ずっていた気持ちが一瞬で冷めた。そうだ、危険な存在は放置できない。
「どんな、指示ですか?」
「力の強さによります。力が弱ければ経過観察でも良いと思いますが、
強ければ力を封じる必要があるかも知れませんね。これは気が重いです。」
「術で力を...相手の体に代を封じて魂の活動を制限するんですね?」
「そうです。あまり使いたくはないですが、仕方有りません。」
魂や命の操作。それは術者の寿命を削る術だ。
「『禁呪』なんですか?」
「はい。結果的に相手を助ける事になるとしても、
無理矢理に相手の力を封じるのは気分の良いものではないです。
相手が抵抗したら、こちらの身に危険が及ぶ場合も有るでしょうし。」
もしその役目がSさんか姫に任されたとしたら、俺は。
「本物じゃない方が、良いですね。」
「はい。」

『道標(上)』 了

148 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/09(日) 18:27:52 ID:BEI3CUXA0
藍です。早速題名でしくじってしまいましたが、
お付き合い頂いた皆様、ありがとう御座います。
今夜はこれで失礼致します。

149 名無しさん :2013/06/09(日) 20:42:41 ID:XWBJxoqE0
おお、さっそく新作が。ありがとうございます。

この物語がどのあたりまで本当なのかと想像するのが楽しいですね。

と、その路線で想像すると藍さんがお話にまったく出てこないのは不思議ですね

藍さんがPC練習中の姫様だったら面白いなーとか思います

150 名無しさん :2013/06/09(日) 22:27:39 ID:TiqilcTs0
藍姫様ありがとうございました。
これからの展開にわくわくします。

151 名無しさん :2013/06/10(月) 12:19:25 ID:gXeVGCNc0
藍姫様WW

152 名無しさん :2013/06/10(月) 20:26:54 ID:iurNAVRw0
藍姫様いいかもww

新作お疲れ様でした。相変わらず、続きが気になる作品でわくわくが止まりません、お身体労って頑張って下さい。

153 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/10(月) 22:33:38 ID:WPsDD/nU0
皆様、今晩は。藍です。

>>当掲示板の管理人様
『卯の花腐し(下)(結)』と『誓詞』、まとめサイトへのUP、心から感謝致します。
当初『卯の花腐し(中)』としてまとめられていたのが、
(中①)(中②)とまとめ直して頂いたことにも驚きました。
このような対応をして頂く度に、この掲示板に投稿出来て良かったと思います。

>>134
早々にコメントを頂きながらレスが遅れて申し訳ありません。
ご期待頂いたことが新作の投稿に繋がっていると思います。
ありがとう御座いました。

>>150
>>151
>>152
温かいコメントには感謝致します。
しかし、「藍姫」や「藍姫様」という呼び方には、性別以外に
一致する点がないのを私自身が自覚しております。
出来れば「藍」や「藍さん」と呼んで頂くようお願い致します。

154 名無しさん :2013/06/10(月) 22:36:05 ID:gXeVGCNc0
うん、良い反応(OK)WW

>「出来れば「藍」や「藍さん」と呼んで頂くようお願い致します。 」

155 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/10(月) 22:53:01 ID:WPsDD/nU0
>>149
過去スレにも書き込みました通り
これら一連の作品群は、作者である知人曰く『実話に基づく創作』です。
その点を確認した時、知人はこれらの作品を
『依頼に基づいてある人物へのインタビューを書き取ったもの』と説明しました。
そして『これ以上の詮索はしないのが作品を読む条件』とも。
字義通りに取れば、主人公の1人である『R君』と知人は同一人物ではない、
(あるいは同一人物ではないという設定)と言うことになります。
当然、私はこの話の中に登場する人物ではありませんが、
物語を楽しむ上で足しになるなら、どのような想像も有りかと思います。
私自身、この物語の世界で生活できたらと、心から思います。
今後も、温かく深いコメントを頂ければ幸いです。

156 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/10(月) 23:02:28 ID:WPsDD/nU0
>>154
「良い反応」の基準は分かりませんが、OKを頂き感謝致します。

157 名無しさん :2013/06/10(月) 23:30:31 ID:/o/zSlWUO
あの世とこの世、夢とうつつ、光と影、善と悪、愛と憎しみ、創作と実話。
もともとすべては紙一重。
いとめずらしき神と人との物語を、語り部の言の葉の続く限り、ただただ楽しんで参りましょう。

158 名無しさん :2013/06/11(火) 01:39:44 ID:ODFFWMOs0
ふ、一瞬背筋が凍りました

過去スレ全部読んで注意書きを調べてしまったです

想像と詮索の境界に関しては多少のご寛恕を頂きたいところです

公開に関しまして、自分の態度が影響しないことを祈っています。失礼しました

>「そして『これ以上の詮索はしないのが作品を読む条件』とも。」

159 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 06:30:20 ID:LBhz3as60
>>157
温かいコメント、ありがとう御座います。
(中)の準備、順調ですのでご期待下さい。

>>158
舌足らずで申し訳ありません。
『詮索しない』と約束したのは知人と私です。
公の場で投稿しておりますので、読者様が自由に想像したり
調べたりするのは作品を楽しむ上で大事な要素だと思います。
今後も色々と想像してお楽しみ頂ければ幸いです。

160 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:18:13 ID:LBhz3as60
皆様、こんばんは。藍です。

今日は急に休みになったので作業が進みましたが、
代わりに週末は出勤です。週末に投稿しようと思っていた分を前倒しで投稿致します。
以下『道標(中)』、お楽しみ頂ければ幸いです。

161 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:19:37 ID:LBhz3as60
『道標(中)』

 その占いハウスは繁華街の裏通りにあった。
自動ドアをくぐると左側に受付。建物の奥に向かって廊下が伸びている。
廊下の両側には色とりどりのドアが並んでいた。あれがそれぞれの占い師の部屋だろう。
「あの、11時に予約したLとRですが。」
「はい、ノロタンさんの予約ですね。料金は前払いでお願いします。」
時間外の予約は結構あるのか、受付の女性はにこやかに対応してくれた。
「ノロタンさんは『青の部屋』です。部屋の中に入ったら座ってお待ち下さい。
ノロタンさんが声を掛けるまで黙っていて下さいね。」
「本当に、相談の内容を当てるんですか?」
「はい、相談したお客さんは皆そう言います。評判良いですよ。では、どうぞ奥へ。」
廊下を進むと右側の一番奥に青いドアが見えた。突然姫が立ち止まる。
「どうしたんですか?」
「残念ながら、本物です。念のため『鍵』を掛けて下さい。」

162 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:20:36 ID:LBhz3as60
 ドアをノックする。 「どうぞ。」 若い女性の声。
ドアを開けると手前にイスが2つ、テーブル、奥にイスがもう1つ。
奥のイスの向こうは水色のカーテンで仕切られている。その向こうで人の気配。
「最初に相談の内容を見ます。座って待ってて下さい。」
姫と並んでイスに座る。安っぽいアルミのパイプイス。
テーブルの上には小さな籐のカゴ、中には沢山のカードとボールペンが一本。
姫がカードを一枚取り、左手の人差し指を唇にあてたまま俺の前に置いた。
若い女性の写真、電話番号、メールアドレス。 筆記体の太文字。 『Norotan』 これは。
あの時、少女が俺の胸ポケットに押し込んだカードだ。
なら、カーテンの向こうにいる占い師というのは。

163 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:21:54 ID:LBhz3as60
 「おかしい、何にも見えない。こんなの初めて、何かの悪戯?」
カーテンが開いた。
「あ、あの時のお兄さん。」 「君だったのか。」
相変わらず派手目の化粧。私服だと、とても高校生には見えない。
少女は俺をじっと見つめた。あの時より、ずっと強い力を感じる。
「ふーん、心を読まれないように出来るんだ。お兄さんも私の同類ってことね。
そっか、沖縄にいるなら本土にカミンチュがいてもおかしくないよね。」
少女は姫をチラリと見て、俺に視線を戻した。テーブルの向こうのイスに座る。
「これが奥さん?綺麗な人、若いし。で、要件は何?
心を読まれないようにしてるんだから、何かを占って欲しい訳じゃないんでしょ。」
「1つは君の力が本物かどうか確かめること。」
「本物。お兄さん達が私と同類なら、もう分かってるはず。」
「もう1つは君が組織に属しているかどうか確かめること。」
「組織...もしかして私の事スカウトに来たの?考えても良いな。ギャラ次第だけど。
客取られた古株達がウザくて、最近ここ居づらいから。やっぱり占いの仕事?」
「あのさ、こんな事に力を使ってるとまずいことになるよ。
君を信じた誰かが、とんでもない相談を持ち込むかも知れないだろ。」
「ホントに危ない相談なら逃げれば良い。部屋の奥に非常口あるし。」

164 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:25:48 ID:LBhz3as60
 「力を持つ者は、力をコントロールする方法を身につけなければならない。
でも、あなたにはその気がない。」
ゾッとするような冷たい声だ。姫のこんなに厳しい表情は初めて見る。
「他人に対して力を使う者は、その結果に責任を持たなければならない。
でも、あなたにはその覚悟がない。」
少女は驚いたような顔をしたが、すぐに皮肉な笑みを浮かべた。
「若いのに、言ってることがおばあさんみたい。
1回20分の占い。そんなんで力をコントロールする必要なんて、ある訳ない。」
「使い始めて1年くらいの間は、使えば使うだけ力が少しずつ強くなる。
1回20分、それで1日何人の相手してるの?週4日、予約が取れないほどの回数。
それだけのトレーニングをしたら、ここで占いを始めた時より、
今はもっと、ずっとハッキリ見えるようになってるはず。そうでしょ?」
少女の顔に微かな怯えが見えた。
「そりゃ前より楽に見えるようにはなったけど、それが。」
姫はポーチの中から白い小さな袋を取り出して少女の前に置いた。
「強い力には色々なものが寄って来る。夜、灯りに集まる虫たちのように。
おかしな事が起こったら、この袋の中身を部屋の四隅に置いて。それと。」
カゴからボールペンを取り出し、さっきのカードに数字を書き込む。
「どうにもならないと思ったら、此処に電話して。私の携帯。」
カードを白い袋の隣に置いて立ち上がり、そのまま部屋から出て行く。俺も立ち上がった。
「何なの、あの人。」 少女の顔は青ざめていた。
「陰陽師、超一流の。怒らせると、とても、怖い人だ。それから君。
目上の人と話す時は、もう少し言葉遣いに気を付けた方が良いよ。」

165 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:27:01 ID:LBhz3as60
 姫は黙ったまま川沿いの歩道を歩いている。その横顔は未だ冷く強張っていた。
「機嫌、悪そうですね。」
「何だか、とても腹が立ちます。力を、あんな風に。」
姫がこれほどストレートに怒りを表すのは見たことがない。
姫の経験した境遇、いつも正面から自分の力と向き合って来た姿勢を考えれば、
力を玩具のように考える少女が腹立たしいのも無理はない。けれども。
「僕は、自分がとても恵まれているんだなって実感しました。」
「何故、ですか?」
「もし母が僕の感覚を封じてくれなかったら、SさんやLさんに会えなかったら、
僕自身があんな風に力を玩具にしてたかも知れないって、そう思ったんです。」
「それで自分が恵まれている、と?」
「そう。逆にあの子はとても不運ですよね。力と向き合う心構えや
力をコントロールする方法を未だ教えてもらっていないんですから。
それに、きっと親身になって生活態度を注意してくれる人もいないんだと思います。」
姫は歩きながら左手を俺の右腕にからめた。
「私とRさんに会ったのはあの子にとって幸運の始まりかもしれない。
怒らないで、そう考えた良いということですね?」
「怒った顔も綺麗ですが、やっぱり僕は笑ってるLさんが好きですから。」
「...私も、Rさんのこと、大好きです。」 姫の頬はほんのりと紅に染まっている。美しい。
駐車場で車に乗り込んだ時には、姫はいつもの笑顔に戻っていた。

166 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:28:44 ID:LBhz3as60
 単独での初仕事を終え、榊さんの運転で病院から戻る途中、見覚えのある道を通った。
榊さんが良く使うという川沿いの抜け道、それはあの占いハウスのある通りだった。
占いハウスが見えてくる。入り口で2人の男性が言い争っているようだ。
「榊さん。ちょっと、あの占いハウスの前で止めて下さい。」
「良いけど、R君はあの占いハウスを知ってるのかい?」 「はい、別件で。」
路肩に車を停め、窓を開ける。男の怒声が聞こえた。
「こっちはちゃんと予約したんだ。ふざけんな。」
「ですから、ノロタンさんは病気で休んでるんです。
治って戻りましたらこちらから連絡しますので、今日はどうかお引き取り下さい。」
「今日じゃないと困るって言ってるだろうが。じゃ、ソイツの家を教えろ。」
榊さんが車のドアを開けた。
「○中、久し振りだな。揉め事か?何だ、相談に乗ってやるよ。」
「あ、榊さん。揉め事じゃないです。今帰るところで。じゃ、失礼します。」
男は慌てた様子で路肩に停めた車に乗り込んだ。俺も車を降りる。

167 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:30:24 ID:LBhz3as60
 「ありがとうございました。お陰で助かりました。」
グレーのスーツの男性が榊さんに深々と頭を下げた。受付の責任者だろう。
「さっき、ノロタンさんは病気で休んでると仰いましたか?
僕も一週間くらい前に相談に来たんですけど。」
「はい、病気というか、昨日から無断で休んでます。ケイタイでも連絡がつかなくて。
ノロタンさんは毎日予約が一杯なので本当に困ってるんですよ。」
「さっきの男もノロタンさんの予約をしてたんですね?」
「今朝、電話で事情をお話したんですが...」
榊さんが警察手帳を取り出した。
「◇山組には話をしておく。もし何かあったら■○署に電話してくれ。
『分署の榊に繋いでくれ』と言えば分かる。」
男性は驚いた顔をして、もう一度頭を下げた。
◇山組は最近台頭してきた怖い団体だ。
御陰神様の一件で、その中枢が本部事務所ごと壊滅した○◇会に代わり
勢力を伸ばしていると聞いていた。
「R君、まだ用があるかい?」 「いいえ、ありません。ありがとう御座いました。」
「じゃ、戻ろう。そろそろクーラーが恋しい。」
見送る男性を残し、榊さんと俺は車に乗り込んだ。
「ふ〜、生き返った。R君、分署に戻ったら一杯、どうだ?」
ビールではない。榊さんご自慢の水出しコーヒーのお誘いだ。
「頂きます。2杯、良いですか?」 「おお、良いとも。」

168 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:33:00 ID:LBhz3as60
 『昨日から無断で休み』、『ケイタイでも連絡が取れない』...
榊さんの分署からお屋敷へ向かう途中も、あの男性の声がずっと耳を離れない。
○中という男の動きは榊さんが抑えてくれたが、
欠勤が長びけば、他にも厄介な客が出てくるかもしれない。
これまで占ってきた客、少女の力に引き寄せられるもの、トラブルの種は幾らもありそうだ。
初めての仕事で感覚を最大限に拡張した名残なのか、どうにも嫌な予感が消えない。
お屋敷へ着くとすぐに姫が玄関から出てきた。手を振っている。
車を降りると翠を抱いたSさんも玄関先に立っていた。
「おかえりなさい。初めてのお仕事ご苦労さま。首尾はどうだったの?」
「とにかく全力でやりました。分かったことは榊さんに伝えましたが
上手くいったかどうかは今後の捜査を見てみないと、何とも。」
「じゃ、みんなで夕食にしましょう。Rさん、沢山食べて回復しないと。
美味しいもの、いっぱい作ったんですよ。あ、その前にシャワーが良いですか?」
夕食を食べ終わり、キッチンで食器を洗っていると、リビングで俺のケイタイが鳴った。
「榊さんかも。代わりに出て下さい。」
風呂上がりの姫がキッチンにケイタイを持ってきてくれた。
「榊さんじゃないみたいです。」
画面に表示された『非通知』の文字、嫌な予感がした。

169 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:35:13 ID:LBhz3as60
 「もしもし。」 受話器の向こうで息を呑む気配。しばらくして小さな声。
「あの、私、占いハウスの...」
「やっぱり君か。どうした、何があったんだ?」
「あの時のお兄さん?お願い、助けて。助けて下さい。」
少女は泣いていた。嗚咽が聞こえているが、それ以上言葉が出てこない。
深く息を吸い、下腹に力を込めた。
「落ち着いて聞いてくれ。君を助けたい。俺はまずどうすれば良い?
このまま話を聞いた方が良い?それとも其処へ行った方が良い?」
嗚咽の合間に少女はようやく声を絞り出した。
「...ここに、きて、下さい。私、殺される。」
「分かった。出来るだけ早く行く。場所を教えてくれ。」
話しながらリビングに移動する。Sさんがメモ用紙と鉛筆をテーブルに置いてくれた。
パソコンで住所検索の準備をしている姫に聞こえるように、大きな声で復唱する。
「△市 大×台 5丁目 ○松アパート 202号室。」
姫が振り向いた。俺も肩越しにパソコンのモニターを確認する。
「今、場所が分かった。30分くらいで行けると思う。
着いたらドアの前から電話する。今使ってる電話の番号は?」
電話番号をメモしている間に姫はリビングを出て行った。部屋で着替えるつもりだろう。
「これから其処へ行く。俺たちが着くまで、誰が来ても絶対にドアを開けるな。分かった?」
「分かった。」

170 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:36:38 ID:LBhz3as60
 電話を切り、Sさんが持ってきてくれたポロシャツとジーンズに着替える。
「お酒、飲まなかったのはこのためね。分かってたの?」
「仕事の帰り、榊さんと一緒に占いハウスの前を通ったら
あの子の予約をキャンセルされた男が入り口で騒いでたんです。
受付の人が昨日から無断で休んでると言ってたので、ずっと嫌な予感がしてました。
もしかして今夜あたり、何かあるかもって。」
「相変わらず冴えてる。でも、今後の対応が一番大事。急いで。」 「はい。」
迷惑しているとはいえ、占いハウス側が少女の住所を簡単に教えるはずはない。
榊さんがあの男と◇山組の動きを抑えているのだから、このタイミングでの電話は
トラブルの相手が人間ではないという証拠。だからこそ姫が同行の準備をしている。
玄関へ早足で歩きながら集中力を高めていく。
「準備、完了です。」
Tシャツとジーンズに着替えた姫が、既に玄関で待っていた
プリントアウトした地図を右手に持っている。
靴を履き終わるとSさんが車のキーを渡してくれた。
マセラティのキー? そうか、本当に優しい人だ。
まだムッとする熱気の残る夜の道、俺と姫は少女の部屋を目指した。

171 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:37:48 ID:LBhz3as60
 街灯の間隔が広く暗い夜道。アパートの駐車場から少し離れた路肩に車を停めた。
もう深夜と言って良い時間。出来るだけ静かに外階段を上る。
ドアの前で電話を掛けるとすぐにドアが開いた。 「どうぞ。」
占いハウスで会った時とは別人かと思う程、少女は憔悴しきっていた。
まともに寝ていないのだろう。眼の下の濃い隈、赤く充血した白目、そして。
少女の細い首から左の顎にかけて、首を絞められたような大きな赤黒いアザがあった。
「話は後で聞く。まず髪の毛を一本頂戴。」
姫は受けとった髪の毛を人型に仕込み、それを少女に渡した。
「これをベッドに置いて、それから荷物をまとめて。
2・3日分の着替えが有れば充分、余計なものは要らない。とにかく急いで。」
少女のアパートを出たのは数分後。最後に姫がドアに触れて結界を張る。
辺りの様子に気を配りながら少女と姫を車に乗せた。俺も車に乗り、静かに車を出す。
2・3分で車は市街地の大通りに出た。お屋敷まで30分弱、慎重に車を走らせる。
バックミラーに写る少女の顔は、まだ少し怯えたように強張っていた。
「着くまで少し寝た方が良い。あんまり寝てないみたいだし。」
俺が声を掛けると、後部座席の少女は小さく頷いて眼を閉じた。
やがて小さな寝息が聞こえた。規則的で特に乱れはない。
「寝た、みたいですね。」
「一安心です。このまま寝かせておいて、話は明日聞きましょう。」

172 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:38:53 ID:LBhz3as60
 「そういえば、質問があるんです。」 「何ですか?」
「最初の電話、何故僕のケイタイにかかってきたんでしょうね。
Lさんのケイタイの番号を書いたんじゃなかったんですか?」
姫は微笑んだ。
「あの時は腹が立ってたから、自分の番号を思い出せなくて。
それで咄嗟にRさんの番号を書いたんです。」
「幾ら何でも自分のケイタイの番号を。」
「良いじゃないですか。かえってRさんの方が、話しやすかったと思いますよ。」
そうか、姫のケイタイと承知してかけてくるなら、それはただ事ではない。
覚悟をして、実際にかければ俺が出る。確かに姫より話はしやすいだろう。
おっとりしているようで、実に細やかな配慮をする人だ。
「最初からそれが、狙いだったんですね?」 「ノーコメントです。」
姫はシートベルトを外し、体を反転させて後部座席に右手を伸ばした。少女の額に触れる。
「これで大丈夫。明日まで、ゆっくり眠れます。」

173 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:45:21 ID:LBhz3as60
 翌日、朝食を食べ終えてから俺と姫はリビングに移動した。
少女はソファに寝かされている。規則正しい寝息、眼の下の隈はかなり薄くなっていた。
姫が左手をかざすと、やがて少女が目を開けた。
「目が覚めた?此処は私たちの家、だからもう大丈夫。」
少女の目から涙が溢れた。両手で顔を覆う。
「怖かった、ホントに怖かった。私...」
姫が少女の髪を撫でた。 「もう、大丈夫だから。ね。」
少女が落ち着くのを待つ間にコーヒーを淹れた。Sさんがトーストを焼いてくれる。
2人でリビングに戻ると少女はソファの上で体を起こしていた。
しかしその顔は蒼白く、生気が感じられない。2・3日、まともな食事をしていないのだろう。
これでは話どころか、いつ意識を失ってもおかしくない。
テーブルにトーストをのせた皿とコーヒーを並べる。白い湯気、良い香りが部屋を満たした。
「まずは軽い朝食、話はそれからにしよう。」 少女は頷いて、トーストに手を伸ばした。
その手が途中で止まり、ぴくりと震えた。 「あの、頂きます。」 「どうぞ。」
俺は少女の向かいに座って新聞を読んだ。Sさんと姫は翠の相手をしている。
普通の、ごく平穏な朝の風景だ。少女の首に残る大きなアザ以外は。
やはり空腹だったのだろう。少女はトースト2枚を残さず食べ、コーヒーを飲み干した。
「美味しかったです。ありがとう。」
少女の顔にかなり生気が戻っていた。これなら話をしても大丈夫だ。
姫が少女の向かいに座る。俺は姫の左隣り。Sさんはまだ翠の相手をしている。

174 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:46:23 ID:LBhz3as60
 「私はL、この『お兄さん』はRさん。そしてあの人はSさん、私とRさんのお師匠様。
昨夜も言ったけど、私たちはあなたを助けたいと思ってる。
でも、正直に話してくれないとあなたを助けられない。
だからSさんの質問には正直に答えて。分かった?」
少女が大きく頷くと、姫は席を立ち、Sさんから翠を受けとった。
Sさんが少女の向かいに腰掛ける。
「まず名前を聞かせて頂戴。」 「瑞紀です。○城瑞紀。」
「じゃあ瑞紀ちゃん、何があったか聞かせて。最初に変だなって思ったのはいつ?」
少女は俯いて少し考え込み、暫くして口を開いた。
「私カミンチュだから変な気配を感じることは当たり前なんだけど。
半月くらい前から、友達が全然一緒に遊んでくれなくなって。それが最初です。」

175 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:52:59 ID:LBhz3as60
 「2人が占いハウスに行ったのはその後ね。」
「はい。白い袋をもらいました。ケイタイの番号も。」
「袋の中身は使った?」
「はい、もらったその夜に。丁度その夜、いつもより強い気配を感じて。
それで、試しにと思ってあの紙を部屋の四隅に置いたら、気配がなくなったんです。」
「なのにどうして一昨日から占いハウスを休んだの?」
「その前の夜に、また感じたんです。いつもよりずっと強い気配。人影みたいなのも。」
「紙の配置を変えたりした?」 
「ううん、変えてません。怖くて、夜ほとんど寝られなくなりました。
外に出ようと思ったら余計に気配が強くなるし。もう、どうしようもなくて。」
「その首のアザは?」
「あの...」 少女は俯いて涙を拭ったが、暫くして顔を上げた。
「昨日の夕方、少し眠ってる間に夢を見ました。
動けない私の首に大きなヘビが巻き付いて、すごい力で。苦しくて目が覚めたらこのアザが。」
「痛みもある?」 「はい。」 「ちょっと触っても良い?」 「どうぞ。」
Sさんは右手でそっと少女のアザに触れた。

176 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 18:54:05 ID:LBhz3as60
 「どうしてそんな夢を見たのか心当たりはある?」
「ううん、全然ないです。
力が強くなったら色々なものが寄ってくるって聞いてたから、それでかなと思いました。」
「寄ってくるもの位ならあの紙で弾けるの。部屋の中まで入り込んでそのアザを残したのは
そんな生易しいものじゃない。明らかにあなた個人に向けられた呪い。」
「でも、私そんな、呪われるようなことなんて。」
「今まで占ってきた中に、トラブルの種になりそうなものは無かった?」
「浮気とか別れ話の相談はありましたけど、危ないなって思った時は曖昧に答えてたし。」
「じゃ、男の人とのトラブルは?」 少女は少し俯いた。
「あの、Rさんにあんなこと言ったのは、Rさんがとても良い人に見えたからです。
色々変なことが続いて、友達も遊んでくれなくなって。
不安で、とても淋しかったけど、この人なら相談できる。この人と一緒にいられたら大丈夫。
そんな気がして、何とかRさんと知り合いになりたかったから。
私、本土に来る前から男の人とつきあったことないです。本当です。」
「あなたは沖縄で生まれたの?」
「はい。沖縄本島の那覇市で。」
「自分がカミンチュって思ったのは何故?」
「小学生の頃に、母の生まれた集落に遊びにいったら
親戚の年寄りに『セーダカーの生まれ』って言われたんです。
中学生になったら『カミンチュだ』、『ノロになれる』って言われて、すごく嫌でした。」

177 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 19:00:04 ID:LBhz3as60
 「60年ぶりにカミンチュが生まれたって喜んでるのは親戚の年寄りだけ。
私、あの集落は好きだし、自分が力を持ってるのも気に入ってるけど、
ノロになんかなりたくない。両親もそんなことさせたくないって。
でも、しょっちゅう親戚が説得に来るんです。あの集落で私にノロの跡を継がせたいって。」
「それで沖縄から?」
「はい、両親が親戚に頼んでくれて。高校2年になる時、転校して来ました。」
「どうして占いハウスでアルバイトしようと思ったの?」
「生活費のためです。私の家、あまりお金無いから。
中学生の時、何度か友達の相談を見て上げたこともあったし、丁度良いと思って。」
「あなたの力は誰から伝わったんだと思う?」
「お祖母さん、だと思います。長い間集落のノロをしてたと聞きました。」
「父方?母方?」
「母方です。でも母には全然力が無くて、高校卒業してすぐに那覇に出たって言ってました。」
「正直に答えてくれてありがとう、大体分かった。それで、あなたが決めることが2つある。
一つはあなたの力のこと。Lから聞いたと思うけど、今みたいな半端な使い方を続けてると
この先もっと酷いことが起こる。一生その力を封じるか、それともちゃんとした訓練をした上で
これからも力を使い続けるか。力を封じるのなら、やり方を教えてあげる。」
「これからも力を使うなら、私、ノロにならなきゃいけないんですか?」
「ノロの修行も1つの方法ね。ちゃんとした先生がいるなら、だけど。」
少女は暫く俯いた。

178 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 19:01:21 ID:LBhz3as60
 「私、力を使えなくなるのは嫌です。でも、ノロになるのも嫌。
ごめんなさい、今すぐには決められない。」
「じゃあ残りの1つを先に決めて。そのアザを残した呪いを祓わないと、多分あなたは殺される。
祓い方には2つあるの。取り敢えずこの呪いだけを無効にする方法。
もう1つは呪いを掛けた本体まで辿って呪いの力を返す方法。どちらの方法が良い?
この呪いだけを無効にしても次の呪いを掛けられたら同じ事だから、
完全に解決したいのなら呪いを返して本体を断つしかない。」
「本体を断つって、私に呪いを掛けた誰かを殺すってことですか?」
「もちろんそうなることもある。半端にやればこちらの身が危ないから。」
「呪いを掛けてるのが誰だか分からないと、やっぱり決められない。」
「呪いを掛けてるのが誰だか分かったら決められる?友達とか、親戚とか。」
「それは...」 少女は俯き、顔を両手で覆った。嗚咽が漏れる。
「瑞紀ちゃん、力を使うというのは結局そういう事よ。いつも都合良く、上手くいく訳じゃない。
自分や、誰かの命を左右することもある。だから半端な気持ちで使っちゃ駄目なの。」
「私、一体どうすれば...」

179 『道標(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 19:02:17 ID:LBhz3as60
 「ねぇ瑞紀ちゃん、私たち明日から仕事で沖縄に旅行するの。
あなたも一緒に来て、私たちをその集落へ案内してくれない?
あなたのお祖母さんに会えたら、何か手がかりが見つかるかも知れない。」
俺と姫は思わず顔を見合わせた。姫の大学が夏休みに入ったので
どこかに旅行しようと話してはいたが、沖縄とは初耳だ。しかも明日から?
少女は顔を上げて涙を拭った。その目に微かな光が宿ったように見える。
「お願いします。あの、両親に電話しておいた方が良いですか?」
「ううん、呪いが絡んでるから、今は誰にも知らせないで。
明日、出来るだけ早くその集落に行って、お祖母さんに会いましょう。」
「分かりました。」
「じゃ決まりね。R君、飛行機のチケット、追加で予約して頂戴。レンタカーとホテルもね。」
Sさんは俺に目配せをして、優しく微笑んだ。

『道標(中)』 了

180 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/11(火) 19:08:42 ID:LBhz3as60
無事、投稿を終えることが出来ました。ありがとう御座います。

181 名無しさん :2013/06/11(火) 21:55:31 ID:Lvl1f1ZkO
早くも中編の公開。知人さん&藍さん、ありがとうございました。
物語の舞台は琉球へ、待っているのは果たしてどんな神人か、今後の展開にわくわくします。

182 名無しさん :2013/06/12(水) 00:15:36 ID:LFDUduuE0
藍さんお疲れ様でした。

読み始めると、あっという間に読み終えてしまいます。続きが気になってたまりません、どの様な展開、または結末になるのかワクワクしながら待ってます。

183 名無しさん :2013/06/12(水) 11:12:47 ID:B7WdhO0g0
マサさんのその後が気になる

184 名無しさん :2013/06/13(木) 04:25:51 ID:hoRh.RWM0
藍さんお疲れ様でした続きお待ちしてます

マサさんの方はもう半年に成りますねぇ
気になります

185 名無しさん :2013/06/13(木) 12:31:41 ID:zraWM.BU0
いよいよ琉球かぁ

琉球は原初の信仰が残ってる地域で、鳥居の下は本土と違い禁則地になっている事が多く、簡単にくぐらせてもらえません
同じものでも独特の言い回しもあり、本土と琉球の呪術の違いとかの説明があるのかとかわくわくしますね

186 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:17:52 ID:Ugm8l/Kw0
>>181
>>182
>>184
>>185
ご期待頂き感謝致します。
再来週にかけて多忙となり、投稿出来るかどうか分からないので
前倒しで(下)と(結)を投稿致します。自分としては頑張ったのですが
もし誤字・脱字等ありましたらご容赦願います。
以下、お楽しみ頂ければ良いのですが。

187 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:19:36 ID:Ugm8l/Kw0
『道標(下)』

 飛行機が那覇空港に着いたのは午後1時過ぎ、光の圧力さえ感じるような強い日差し。
翠の事を考えると、午前中の便が良いと思ったのだが仕方ない。
何しろ夏休み。トップシーズンの沖縄で前日の予約。空席があっただけでラッキーだ。
飛行機の予約の関係で旅行は3泊4日の予定だが、
那覇市内のホテルは2泊分しか予約出来ていない。その間に空室が出なければ
宿泊先を変えるしかないが、タイミング良く見つかるかどうか分からない。
台風が近づいているという情報もあり、不確定要素が多いのがちょっと心配だ
ロビーを出て配車係からレンタカーの鍵を受け取る。
『なるべく目立たない車にして』というSさんの指示通り、4ドアのミニバン。
早速車を出す。まずはホテルにチェックイン。
ホテルのレストランで昼食を済ませてから、少女の祖母が住む集落へ向かう。
○×村、海岸沿いの小さな集落。ナビの画面で見る限り、1時間半程で到着出来るはず。
翠は姫に抱かれたままずっと寝ている。環境の変化は気にならないらしい。

188 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:21:36 ID:Ugm8l/Kw0
 集落につながる海岸沿いの国道、窓を閉じていてもセミの声が聞こえる。
交差点から海側の脇道に入り、少女の案内で車を走らせる。
大きな石の側を通り過ぎた時、後部座席で姫の声がした。
「凄い、こんな事が。」
助手席のSさんの表情が変わった。道の先を見つめる眼が輝いている。
「瑞紀ちゃん、あなた『お祖母さんがノロをしてた』と言ったわね。」
「はい、年取って体調を崩すまではずっと。そう聞いてます。」
「それは違う、お祖母さんは今も正真正銘のノロ。その力で集落を護ってる。
もしかしたらと思っていたけど、やはりこの先の集落は一種の聖域ね。」
さらに進み、赤瓦の建物が建ち並ぶ集落に出た。
「そこに車を停めて待ってて下さい。私、たか子おばさんに話してきますから。」
「たか子おばさんって?」
「私の母の姉です。ずっとおばあさんの世話をしてます。」
「そう。じゃ、あなたの首のアザを見せて事情を説明してね。」 「はい。」
しばらく待っていると少女が戻ってきた。
「おばあさんに会えるそうです。私たちが来るのが分かってたみたいで。
あ、車はあの広場に停めて下さい。」

189 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:28:57 ID:Ugm8l/Kw0
 俺たちは少女の案内で家の中に入り、応接間に通された。
廊下の反対側は大きな畳間。壁の一部が大きな仏壇になっているのが見える。
クーラーはないが、部屋を吹き抜ける風が涼しい。全ての窓が開け放たれていた。
「いま、たか子おばさんが準備をしてます。もう少し待って下さい。」
テーブルにグラスを並べ麦茶を注ぐ。
「この家には良く来たの?」 翠を抱いた姫は興味深そうにあちこち見回している。
「はい、お正月とお盆と、他にも色々。何だか、懐かしいです。」
良い香りの麦茶を飲んでいると廊下の奥から足音が聞こえた。
50歳くらいの女性が応接間の入り口で膝をつき、俺たちに頭を下げた
「ようこそいらっしゃいました。母の言いつけでお迎えの準備をしておりました。
瑞紀を助けて頂いたそうで、本当にありがとうございます。
母も是非お礼が言いたいと申しておりますので、どうぞ奥の部屋へ。」
女性の案内で廊下を進む。台所を抜けて右に曲がり、再び廊下。
女性は突き当たりのドアを開けた。
「どうぞ、中へ。」
先に少女が部屋へ入る。Sさん、翠を抱いた姫、そして俺。
最後に女性が部屋へ入ってドアを閉めた。
八畳程の畳間、奥に介護用のベッドがあり、年老いた女性が横になっていた。
ベッドを調整して少し体を起こしている。

190 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:30:41 ID:Ugm8l/Kw0
 その目を見た途端、俺にも分かった。確かに、この人は本物だ、しかも飛びきりの。
Sさんがベッドに歩み寄り、畳の上に正座をした。俺たちもSさんにならう。
「私、Sと申します。瑞紀さんのことが縁となり、ノロ雲上(のろくもい)にお会いできて光栄です。
瑞紀さんに掛けられた呪いを祓うために、どうかお力をお貸し下さい。」
女性が老女の耳許で話しかける。方言に翻訳してくれているらしい。
「・・・あんし・・・がーらだまぬ・・・うかみんちゅに・・・ぐりさぬ・・・」
老女は手を合わせて俺たちに頭を下げた。
「これ程の力のある方々が孫を守って下さって幸運でした。
お礼の申し上げようも御座いません。」 女性が通訳してくれる。
「瑞紀さんに掛けられた呪い、瑞紀さんの血縁と関わりがあるように思います。
何か心当たりが御座いますか?」
女性の通訳を介して会話が続く。俺たちはじっと2人の遣り取りに耳を澄ませた。
「・・・いちむ・・・うむいあたゆん・・・いちじゃまぬ・・・」
「確かに、一門の誰かが関わっているようです。今からそれを調べるのでお待ち下さい。」
「私たちはこのまま此処にいても?」 「どうぞ。」

191 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:31:57 ID:Ugm8l/Kw0
 女性は一旦部屋を出て、木製の小さなたらいと木の枝を持って戻ってきた。
翠は起きているが、姫の腕の中で老女の方を見つめている。
女性はたらいを畳に置き、木の枝を老女に渡した。たらいには水が張ってある。
老女は両手で枝を捧げ持ち、眼を閉じて小声で何事かを唱えた。
次第に辺りの空気が張り詰めていく。やがて老女が眼を開けた。
黒い枝から小さな葉を一枚取る。「くり・・くぬ・・あ○りうふぐ・・。」
その葉を女性に渡す。女性はその葉をたらいの水に浮かべた。
さらに小さな葉をもう一枚。「くり・・や・・くししま△く・・。」
次々に葉が浮かべられ、その数は17枚になった。不思議なほど綺麗な円を描いている。
老女は再び両手で枝を捧げ持ち、眼を閉じて小声で何事かを唱えた。
眼を開け、右手で持った枝をたらいの上でゆっくりと振る。二度、三度。
枝を女性に渡し、老女は水面を見つめた。
...これは。
俺たちの見ている前で一枚の葉が茶色く変色した。
その葉から、真っ赤なものが一筋、たらいの底に向かってすうっと沈んでいく。血?

192 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:32:56 ID:Ugm8l/Kw0
 「・・・ちむん・・・はじかさぬ・・・うくぅいけーし・・・ねーぶん・・・」
「事情が分かりました。一門の者がこのようなことに関わりお恥ずかしい限りですが
自分が責任を持って始末しますから、この事はくれぐれも内密にお願い致します。」
その直後、Sさんが畳に手をつき頭を下げた。
「ノロ雲上は既にご高齢、体調も優れないのにそのようなことをなさるのは体に毒です。
瑞紀さんと関わったのも多生の縁。この呪いの始末、私たちに任せて頂けませんか?」
顔を上げて老女を見つめる。
女性は少し驚いた顔をしたが、やがて老女の耳許で囁いた。
老女もまっすぐにSさんを見つめた。ぴいん、と空気が張り詰める。
重い沈黙、どのくらいそうしていただろうか。
「・・・うぃーしに・・・はじちりむぬや・・・てぃとぅらち・・・」
「お言葉に甘えてお任せいたします。不心得者は煮るなり焼くなりご存分に。
ただ、先程も申し上げた通り、くれぐれも内密にお願い致します。」
「ありがとう御座います。万事心得ました。ご安心下さい。」
Sさんはハンドバッグの中から小さな袋と白い紙を取り出した。

193 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:34:34 ID:Ugm8l/Kw0
 袋の中から人型を取り出し何事か小声で呟く。
右手で人型を持ち、その下端で変色した葉に触れた。
たらいの底に沈んでいた赤いものが、真っ赤な細い筋になって茶色の葉に伸びていく。
みるみるうちに人型の半分程が赤黒く染まった。
 人型を白い紙に手早く包んで小さな袋に納め、
Sさんはもう一度、老女に向かって深々と頭を下げた。
「では、私たちはこれで失礼致します。
ノロ雲上、どうかご自愛の上、これからも末永くこの集落をお護り下さいますように。」
Sさんが立ち上がると女性が部屋のドアを開けてくれた。
俺と姫も立ち上がって老女に頭を下げる。
少女も立ち上がったが少しよろめいた。手を取って支える、足が痺れたらしい。
「ばいばい。」 思わず振り向いた。翠の声だ。老女に向かって手を振っている。
Sさんも驚いた顔で翠を見つめている。
「ばいばい。」 翠がもう一度手を振った。
「・・・ばいばい・・・」 翠に向かって手を振り返す老女の目に、涙が光ったように見えた。

194 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:35:35 ID:Ugm8l/Kw0
 「ノロ雲上との面会も無事に済んだし、ご両親に電話をかけて事情を話しても良いわよ。
ただし、『口止めされてるから沖縄にいる間何処にいるかは話せない』って
そう言ってね。本体がこのホテルまで来ると色々面倒だから。」
ホテルのレストランで夕食を食べ終え、部屋に戻るとSさんは少女にそう言った。
少女は早速ケイタイを持ち、席を外して両親に電話をかけた。10分程話していただろうか。
電話を終えて戻ってきた少女の眼は赤く、少し思い詰めた表情だ。
「どうしたの?」 姫が心配そうに問いかけた。
「両親が『きちんとお礼を』と言ってました。
あの、Sさん、Lさん、Rさん。見ず知らずの私のためにこんなに良くしてくれて
本当にありがとう御座います。私、今までちゃんとお礼も言えなくて、御免なさい。」
「お礼を言うのは未だ早い。本番は明日の夜よ。今夜はしっかり寝て明日に備えて。」
「明日、呪いの始末をつけるんですか?」
「そう、ノロ雲上の依頼を受けたから、これはもう私の仕事。
あなたには悪いけど、この呪いを始末する方法は私が決める。ノロ雲上の希望通りに。」

195 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:36:39 ID:Ugm8l/Kw0
 翌日、台風の影響で朝から強い雨が降っていた。
「Rさん、瑞紀ちゃん知りませんか?朝ご飯食べた後、暫く姿が見えないんです。」
「いいえ、知りません。」 「護符を持たせてるから大丈夫だと思うけれど、少し心配ね。」
その時、ノックの音がした。ドアを開けると、びしょ濡れの少女が立っていた。
右手にオレンジ色っぽい封筒を持っている。
「どうしたの瑞紀ちゃん!そんなに濡れて。」
姫が浴室に走る、タオルを取りにいったのだろう。
「昨夜言ったでしょ。今日が本番なのに体調崩したらどうするの。」
「あの、Sさん、これ。」 少女が封筒をSさんに差し出した。
「お金?どうして?」
「あの、呪いを祓うのは、普通に頼んだらすごくお金がかかるって聞いて。
それに飛行機のチケット代やホテルの宿泊代もあるし、食事代も。
全然足りないかも知れないけど、これで...」
少女は封筒を差し出したまま俯いた。
「アルバイトして貯めたお金?」 「はい。」

196 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:37:43 ID:Ugm8l/Kw0
 Sさんは一度封筒を受け取り、改めてそれを少女の両手に握らせた。
「どうして?」
「確かに、頼まれた仕事なら、それなりの報酬と必要経費を貰うことになってる。
でも、あなたに一緒に来て欲しいと言ったのは私。それに、あなたも聞いたはずよ?
呪いの始末も、私がノロ雲上に頼んでやらせて貰うことになったの。
だからこの件であなたからお金を受けとる理由がない。」
「でも、それじゃ私の気持ちが。」
「じゃ、こういうのはどうですか?」 姫が少女にタオルを渡しながら話しかけた。
「沖縄で食べる夕ご飯は明日でお終いですよね。だから明日みんなで食べる夕食の代金を
瑞紀ちゃんに払って貰いましょう。それでお金の話はお終いってことで。」
台風の影響を心配した予約客のキャンセルが出たため、
俺たちは明日まで同じ部屋に宿泊できることになっていた。
「良い考えね。ホテルのレストランだから結構高いわよ。瑞紀ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です。それでお願いします。」
「じゃ、早く体を拭いて着替えて。温かいシャワー使った方が良いかも。」
「はい。」 少女はようやくホッとした笑顔を浮かべた。

197 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:38:49 ID:Ugm8l/Kw0
 その夜、俺たちは早めの夕食を済ませて7時前には部屋に戻った。
暫く地元のテレビ番組を見たり、翠の相手をして遊んだりしながら
交代でシャワーを使ったあと、Sさんが言った。
「じゃ、そろそろ始めるわよ。準備するから、10分後にもう一度此処に集合。
このあと朝まで部屋から出られないかも知れないから、何か買うなら今の内にね。」
俺は一階の売店で辛口のチューハイを6本買って部屋に戻った。
備え付けの机にSさんが小さな祭壇を設えている。祭壇の横に折りたたんだタオル。
机に白い袋を2つ置き、1つの袋から取り出した人型を祭壇に安置した。
少女の髪を仕込んだ人型、沖縄に発つ前に少女の部屋から回収したものだ。
そしてもう1つの袋から取り出した人型を折りたたんだタオルの上に置いた。
半分が赤黒く染まった人型。呪いを祓うのに使うのだろうか?
裏返した空き缶の底に、姫が小さなロウソクを立てて火をつけた。部屋の灯りを消す。
「じゃ、これから始める。もし、ロウソクの火が消えたら要注意。
特に瑞紀ちゃんは気をしっかり持って。L、お願いね。」 「はい。」
少女は翠を抱いた姫と同じベッドに座っていた。Sさんがその周りに結界を張る。
それから祭壇の人型をタオルの上に移した。赤黒く染まった人型を白い紙で覆う。
Sさんと俺がもう1つのベッドに座り、結界を張って準備は完了。

198 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:41:00 ID:Ugm8l/Kw0
 誰も喋らない。ゆっくりと時間が過ぎる。ロウソクは少しずつ短くなっていった。
ロウソクが燃え尽きそうになるとSさんが新しいロウソクに火を点ける。
2本目、3本目。4本目のロウソクが半ばまで燃えた時、その炎が大きく揺れた。
少女の肩がびくっと震える、姫が少女の手を握った。翠は既にベッドの上で寝ている。
ロウソクの炎はもう一度大きく揺れ、そして消えた。部屋の中を満たす闇。
暫くすると眼が慣れ、薄いカーテン越しに漏れる街の灯りで部屋の中が見えてくる。
ふと、背後にゾッとするような気配を感じた。少女の顔が強張っている。
ゆっくりと振り返る。薄いカーテン越し、窓の外に黒い人影が浮かんでいた。
俺たちの部屋は6階、当然人間ではない。その気配は更に密度を増した。
『やっと みつけた』
少女の頬を伝う涙が光って見える。
「〇吉おじさん、どうして?」 少女の体が傾いた、姫が抱き止める。
突然、Sさんが机に駆け寄った。
『返れ・・・・・は射手へ』
その直後、窓の外の気配が消えた。カーテン越しに見える街の夜景が美しい。
「これでお終い。」 Sさんは部屋の灯りを点けた。 少女は気を失ったままだ。

199 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:43:21 ID:Ugm8l/Kw0
 少女を姫に任せ、俺はSさんと一緒に祭壇を片づけた。
タオルの上の白い紙に真っ赤な染みが拡がり、その中心に縫い針が刺さっている。
少女の人型は大きく破れ、ちぎれかかった部分から髪の毛が見えていた。
Sさんがベッドに面した窓を少しだけ開ける。
少女の人型から取り出した髪の毛を空き缶の燭台に置き、窓際で焚き上げた。
残った人型と紙の祭壇、折りたたんだタオルをまとめて紙袋に入れて封をする。
「ホントはすぐに燃やした方が良いんだけど、これ以上は多分火災報知器が反応するから。
明日の朝まで、そうね、浴室に置いといて。呪いの効力は消滅してるから
このままでも問題ない。針がそのままだから気を付けてね。」
俺は浴室の棚の上に紙袋を乗せてベッドへ戻った。Sさんが缶チューハイを飲んでいた。
「さっきのは、禁呪ですか?」 「いいえ、呪い返しは禁呪じゃない。心配しないで。」
姫が俺にも缶チューハイを渡してくれた。

200 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:44:18 ID:Ugm8l/Kw0
 「術者自身の憎しみで相手を殺すのは禁呪ですが、
さっきの術は相手の呪いを再構成して返しただけだから大丈夫です。それよりも。」
「それよりも、何ですか?」
「どんな理由があれ、術者が血縁に手をかけるのは禁呪だし、大罪です。
血縁相克の大罪。だからSさんは呪いの始末を引き受けたんです。」
「呪いの本体は、やはり瑞紀ちゃんの血縁なんですね?」
「多分、叔父。つまりあのノロ雲上の息子。」
「そんな。」
「あのノロ雲上ほどの力を持つ人は術者の中にも滅多にいない。
できるだけ長生きしてあの土地を護るべきだし、是非そうして欲しい。」
あの老女が呪いを返せば相手は息子。結果的に、それは禁呪だ。
老女の寿命を削らせないように。
「さて、もうこの話はお終い。明日の予定なんだけど。」 「はい。」
Sさんはレンタカーの中にあったパンフレットを取り出した。
「天気も良くなるみたいだし、この水族館に行ってみたいな。ジンベエザメ、どう?。」
「賛成です。きっと瑞紀ちゃんにとっても良い気分転換になりますよ。」
「そうですね。翠も生きた魚を見るのは初めてだから喜ぶかも知れません。」

201 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:45:09 ID:Ugm8l/Kw0
 「さめさん、おおきいね〜。」 「さめさん、おっきい。ど〜ん、ゆらゆら〜。」
世界でも有数の大きさを誇る水槽の前で、姫と翠は大小様々な魚たちに見入っている。
大学生になった姫はますます美しく、親馬鹿かも知れないが翠はとても可愛い。
2人に気付いた観光客たちは、小声で話しながら振り返ったり、
一度通り過ぎたのにそれとなく戻ってきて近くから2人を見つめたりした。
ジンベエザメには負けるだろうが、2人も結構な数の視線を集めている。
俺とSさんは通路を隔てて少し離れた階段状の席、最上段に座った。そこから水槽を眺める。
ここまで上がってくる客はほとんどいない。広いスペースが貸し切り状態だ。
俺とSさんの間に少女が座っている。当然だが、朝からあまり元気がない。
俯いたまま、独り言のように話し始めた。
「〇吉おじさんは、私が本土に行く時助けてくれた人なんです。
母が私の事を相談したら『もうノロの時代じゃない』って、お金も出してくれたって。
なのに、何故私を。私、何か悪いことしたのかな。」
「昨夜返した呪いに関わるおじさんの記憶、それなら話してあげられる。聞きたい?」
少女はSさんの顔を見て、もう一度俯いた。
「聞かせて下さい。」

202 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:46:31 ID:Ugm8l/Kw0
 「あなたの姿、特に占いをしてるあなたの姿が沢山見えた。
おそらく定期的にあなたの様子を監視してたんだと思う。
沖縄から出る時、おじさんから何か貰ったんじゃない?」
「はい、カバンを。大好きなブランドのカバンをプレゼントしてくれました。」
「多分、その中に呪物が仕込んである。それを通してあなたの様子を探ってたのね。」
「でも、何故私を監視してたんですか?」
「どんな手を使っても、あなたがノロになるのを阻止したかったから。
あなたが占いのアルバイトを始めたのもおじさんには好都合だった。
あなたが力を玩具にしてるなら、自分が手を下さなくても、
そのうち寄ってくる色々なものに影響されて、あなたの魂は闇に侵食されていく。
当然あなたがノロになる可能性もなくなる。
友達を遠ざけたのもそのためよ。あなたに『良い出会い』をさせたくなかった。
『良い出会い』には闇を祓う力があるから。
でも、あなたは2人に出会い、力の使い方を考え始めた。これが『良い出会い』。
その直後、あなたの部屋に結界が張られ、監視するのがかなり難しくなった。

203 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:47:41 ID:Ugm8l/Kw0
 結界を張れる人間があなたに接触したのを知って、おじさんは焦ったでしょうね。
あなたが2人と交流を続けたら、力を正しく使おうと思う可能性は十分にある。
そして、あなたが力を正しく使うことはあなたがノロになる可能性に繋がる。
だからおじさんは最後の手段を取った、つまり呪いを掛けてあなたを殺そうとした。
その意味では、あなたに掛けられた呪いの責任が、私たちにもあるってこと。」
「私がノロになるのが、どうしてそんなに。」
「おじさんはあの集落からノロがいなくなるのを待ってたんだと思う。
ノロ雲上は高齢、あなたがノロにならなければ、集落からノロがいなくなるのもそう遠くない。
あなたが沖縄を出るのを助けたのもそれが目的。もしあなたが誰かに説得されて
ノロになると言い出したら厄介だから。ノロがいると困る理由、何か心当たりある?」
少女はハッとしたように顔を上げた。
「集落の大部分を再開発する計画があるんです。
大きなリゾートホテルを建てたり、ビーチを整備したり。
おじさんは建設会社を経営してるから賛成してるけど、お祖母さんは反対。
集落の人たちもほとんど反対だって。両親から聞きました。」
「多分それね。ノロがいなくなれば集落の人たちを説得しやすい。
でも、おじさんがあの集落に住んでるなら、力を使う時にノロ雲上が気付いた筈なんだけど。」

204 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:48:49 ID:Ugm8l/Kw0
 「おじさんは若い時から那覇に出て、今も那覇に住んでます。
お正月やお盆でもあの家には来ません。お祖母さんと仲が悪いって聞きました。」
「それなら力を使ってもノロ雲上は気付かない、納得。
それから、おじさんの力は生まれつきのものというより、後から身につけたものだと思う。
生まれつきのものなら、当然ノロ雲上が気付いた筈だから。
あなたに掛けた呪いも、ノロ雲上が使った術とは違う系統のような気がする。
もしかしたら沖縄以外の場所で術を習ったのかも知れないわね。
そして親戚や集落の人たちには自分の力を上手く隠して、
ノロ雲上が亡くなり、あなたの心が闇に侵食されるのをじっと待っていた。
でも事情が変わったからあなたに呪いを掛けた。ノロの後継者を確実に消すために。
結局失敗して、昨夜その報いを受けた訳だけど。」
「あの、おじさんは、どうなったんですか?」
「それはおじさん次第。そういう返し方をしたの。

205 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:50:12 ID:Ugm8l/Kw0
 もし心が完全に闇に侵食されたら、とても普通の生活は出来ない。
逆に言えば、呪いで他人に害をなすような人間でも、普通に生活しているのなら
闇に侵食されているのは心の一部だけ。そこが呪いの源になる。
この方法で返された呪いは呪いの源を壊すから、
返された呪いの効果は心がどの程度闇に浸食されているかによって違う。
記憶の一部と力を失うだけで済むかもしれないし、心が完全に壊れてしまうかも知れない。
心が完全に壊れてしまえば体もやがて壊れる。つまり、死ぬ。
勿論そうなっても私は良心の呵責を感じない。もちろん、ノロ雲上には気の毒だけど。
私のこと、冷たい人間だと思う?」
「ううん、Sさんが呪いの始末を引き受けてくれなかったら
お祖母さんが呪いを返して...そしたらお祖母さんはもっと辛い思いをしたはず。
それに、Sさんが冷たい人間なら、私をこんな風に助けてくれるなんて思えない。」
「力を玩具にし続けて、あなたの心が闇に侵食されてしまっていたら
私はあなたを殺すことになったかもしれないのよ?」
「でも、私の弱さがもとで私が私でなくなるなら、そして誰かを呪うくらいなら、
Sさんに殺して貰った方が良いのかも知れない。考えると、とても、怖いけど。」
「そこまで分かったなら、もう教えることはない。あとは自分で考えて決めるだけ。
力を封じるか、それとも使い続けるか。」 Sさんは少女の髪を優しく撫でた。

206 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:51:08 ID:Ugm8l/Kw0
 「R君、其処でちょっと停めて頂戴。」
水族館のカフェで昼食を食べてから、俺たちはナビを頼りに車を走らせていた。
姫が『山道を走らせていればヤンバルクイナが見られるかも知れない』と言ったからだ。
しかし当の本人はもう30分も前から翠と一緒に寝息を立てている。
Sさんは車を降り、脇道の入り口にある案内板を見つめた。
そしてしばらく脇道の奥を眺めてから車に戻ってきた。穏やかな笑顔。
「ありがと、車を出して。」
「どうしたんですか?」
「あの道の奥にも、ノロに護られた集落がある。探せばもっとあるでしょうね。
こういう場所も、ノロの後継者がいなければ、やがて聖域ではなくなってしまう。
私がおばあさんになるまでは、幾つか残っていて欲しいけれど。」
「なぜ、『おばあさんになるまで』なんですか?」
「もしおばあさんになって、術者を辞めることができたら、あんな場所に住みたいからよ。
立派なノロに護られた聖域で穏やかに余生を過ごすなんて、夢みたいでしょ?」
「出来れば海に面した場所が良いですね。」 「どうして?」
「おじいさんになったら、僕も術者を辞めて毎日魚を釣ってきます。」
「ふふ、素敵。約束よ?」 「はい、必ず。」

207 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:52:05 ID:Ugm8l/Kw0
 「あの、すみません。」 後部座席の少女がおずおずと俺たちに声をかけた。
「何?」
「どうしてSさんはノロが護っている場所に住みたいんですか?
Sさんなら自分で自分の住んでいる場所を護れるはずなのに。」
「私たちだって、心から望んで術者になった訳じゃない。
折角の力を封じるより、何かに役立てた方が良いと思ったからこの道を選んだの。
でも術者を続けていれば辛いこともあるし、嫌な思いも悲しい思いもする。
せめて年を取ってからは術を使わず、心静かに暮らしたい。
力のあるノロが護ってくれている場所でならその夢が叶う。長生きできれば、だけどね。」
「私、私がもしノロになったら、Sさんたちはいつかあの集落で暮らしてくれますか?」
「悪くない話ね。海に面してるからR君も不満ないでしょ?」 「それはまあ、そうですね。」
「それから、もう1つ聞きたいことがあって。」
「今度は何?」
「あの、翠ちゃんはSさんとRさんの子供なんですよね?」 「そうよ。」
「それでLさんはRさんの奥さん、それって一体どういう。」
「お嫁さんが2人いるの。私たちの一族では良くあること。」
「じゃあ私...ううん、何でもないです。」
これ、何だかややこしい展開じゃないのか?
何故Sさんは何故わざわざあんな、いや、事実なのだからあれ以外に答えようが無い。
ホテルへ戻る間、少女はずっと何か考え事をしているようで黙ったまま。
Sさんは興味深そうに窓の外を眺めながら黙ったまま。姫と翠はずっと寝たまま。
車の中は不思議な静かさで満たされていた。

208 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:52:58 ID:Ugm8l/Kw0
 「じゃ、出掛けましょう。約束通り私が御馳走します。いっぱい食べて下さいね。」
「実はもう、予約してあるの。それも個室のお座敷。」 「和食、ですか?」
「沖縄ソバの店。」 「ソバ?」
「そう、折角沖縄に来てるのに沖縄ソバ食べないで帰る訳にはいかないでしょ。」
「大賛成です。」 「まだ食べたことないですしね。」
「でも、それじゃお金が全然。」
「約束したのはみんなの夕食、金額じゃない。」
「Sさん...」

 「私、高校を卒業したら沖縄に戻ります。」
沖縄ソバを食べ終え、食後のアイスコーヒーを飲みながら少女が口を開いた。
「大学に通いながらノロになる勉強をしようと思って。」
「え、瑞紀ちゃんノロになるの?」 姫は寝ていたのであの話を聞いていない。
「また気が変わるかも知れないけど、今はノロになりたいと思ってます。」
「何故ノロになろうと思ったの?あれ、顔、赤い...あっ!」
突然耳鳴りがした、これは? Sさんと姫の顔も緊張している。
「みず き」
立ち上がった翠が姫の肩越しに少女に向かって右手を伸ばしていた。
でも、これは翠の声じゃない。

209 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:53:34 ID:Ugm8l/Kw0
 「お祖母さん。」 「瑞紀ちゃん。あなたなら。」
姫が翠を少女の前に立たせる。少女が翠の手を取った。
そのまま深く息を吸って眼を閉じる。やがてその頬を涙が伝った。
「Sさんの術のお陰で、〇吉おじさんは死なずに済んだ。
Sさんと皆さんに、くれぐれもお礼を申し上げるようにって。」
「あなたには何を?」
「ノロになろうと思ってくれたのは嬉しいけど、半端な気持ちではノロになれない。
時間をかけて、しっかり考えて、それでもノロになるなら面倒を見る...」
少女は声を詰まらせて涙を拭った。
「これで一件落着ね。さて、それにしても。」
Sさんは翠を抱き上げた。
「あの時にノロ雲上と共振、したんでしょうけど。一歳半の依り代なんて聞いたことがない。
感覚を少し、封じておく必要がありそうね。」
Sさんは翠に頬ずりをした後、その眼を見つめて溜め息をついた。

210 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:54:18 ID:Ugm8l/Kw0
 飛行場のロビーを出て、駐車場からすぐに少女のアパートへ車を走らせた。
姫が部屋の中を清め、結界を張り直している間に
俺とSさんは少女のカバンを調べた。呪いの本体である叔父から贈られたカバン。
学校やアルバイトにも持っていくし、大好きなブランドなら捨てることは考えられない。
もちろん紛失する可能性も小さいという訳だ。
「やっぱり。これは琉球神道のものじゃない。むしろ道教に近い系統ね。」
カバンの底、中敷きの裏に隠された紙には、文字と文様がびっしりと書き込まれていた。
「これを通して、ずっと私を監視してたんですね。」
「そう、これが通路になったから呪いの一部が結界を抜けてあなたに届いた。
結界を張っていなかったら首のアザでは済まなかったかも知れない。」
Sさんはその紙を折りたたんで白い封筒に入れた。
「これは後でちゃんと始末しておく。新しい結界を張ったから
あなたの力に引き寄せられるものもこの部屋には入れない。まずは一安心。」
「本当にありがとう御座います。」
「ただ、問題が1つ残ってる。あなたのアルバイト。
占いハウスのアルバイト、どうするつもり?」
「辞めます。ちゃんとノロの勉強をするまで、なるべく力を使いたくないから。」
「でも、それだと生活費が苦しいわよね?」
「はい、でも...」

211 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:54:56 ID:Ugm8l/Kw0
 「ねぇ瑞紀ちゃん。私の知人の家で働かない?住み込みのお手伝いさんを探してるの。」
「住み込みのお手伝いさん、ですか?」
「そう、給料は安いけど、住み込みだから部屋代も食費も要らない。
その家から高校に通えるし、家事の手伝いをしながら規則正しい生活をするのは
きっと将来あなたの役に立つ。遊ぶ時間はなくなっちゃうけど。どう?」
「今までたくさん遊んだから、遊ぶのはもう良いです。その人の家で、働かせて下さい」
「じゃ、決まりね。知人と相談したらすぐに連絡する。
夏休みだし、部屋の手続きと引っ越しの準備、出来るだけ速く済ませておいてね。
占いハウスを辞める時に問題が起きたら私たちが一緒に交渉してあげる。」
「はい、頑張ります。」
「うん、良い返事。じゃR君、L、私たちも帰りましょう。」
俺たちがアパートの駐車場に停めた車に乗り込むと、少女は深々と頭を下げた。
「何から何まで、本当にありがとう御座いました。」
Sさんが後部座席の窓を開けた。
「本当にあなたがノロになったら、私たちも引退後の話、ちゃんと考える。約束ね。」
「はい、それで、あの。」
少女は口ごもって俯いた。

212 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:56:41 ID:Ugm8l/Kw0
 「ノロになって、そして25歳になってもお嫁に行けなかったら、
R君に相談しなさい。あなたの望み、案外すんなり叶うかも知れないわよ。」
「ちょっとSさん、勝手に変な事決めないで下さい。」
「相談しなさいって言ってるんだから『勝手に』じゃないでしょ。ね〜。」
「はい。相談します。ノロになって、25歳になったら、必ず。」
晴れやかな笑顔で手を振る少女を残し、俺は車を出した。
「あんなこと言って、彼女が本気にしたらどうするんです。」
「あの子はとうに本気よ。だからノロになるって決めたんじゃないの。
こんな時だけは妙に鈍いのね。不思議。」
「瑞紀ちゃんがRさんを好きなのは知ってましたけど、
それと彼女がノロになろうと思ったことに関係があるんですか?」
「術者を引退して余生を過ごすなら、ノロが護ってくれてる場所が良いって、Sさんが。」
「あの子がノロになったら、あの集落で私たちに余生を過ごして欲しいそうよ。
そしたらいつまでもR君と一緒に住めるから。」
「同じ家に住むなんて言ってません。第一そんな、何て言うか、不純な動機で良いんですか?
ノロになるのは、一生を賭けた大仕事なのに、痛たたたた。」
左頬をつねられた。
「動機としてはともかく、あの子の気持ち自体は不純じゃない。
それに、一生を賭けた大仕事だからこそ、モチベーションが大切なの。
そのためならどんな辛いことにも耐えられるっていう目標。健気よね。」

213 『道標(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 20:58:09 ID:Ugm8l/Kw0
 「不純じゃなくて健気ならかえって厄介でしょうに。彼女がノロになって、25歳になって、
それで本当に相談に来たら一体どうするつもりなんです。僕は責任持てませんよ?」
「あんな可愛い子が真面目に頑張ってたら、周りが絶対にほっとかない。
沖縄に帰ったら、あっと言う間にふさわしい相手が見つかる。」
「でも、もし相手が見つからなかったら。」
というより、あの笑顔じゃ相手を見つける気があるのかどうか疑わしい。
「あと8年、私36ね。その歳で子供を産むのは難しいかもしれないから、
良いんじゃない、あの子にR君の子を産んでもらうのも。
集落と其処に住む人たちを護るノロは、ただの術者とは系統が違う。
きっと術者になるのとは別の、大変な修行を何年も続けなければならないはず。
もし、それほどの努力をして、本当にノロになって相談に来るのなら、
私はあの子の望みを叶えて上げたいな。力を持った子も生まれそうだし。」
「Rさんの子供が全部で10人くらい生まれたら、半分くらいは力を持ってるかも知れませんね。
その中には術者になる子も、瑞紀ちゃんの跡を継いでノロになる子だっているかも。
私も、力のあるノロとノロが護っている聖域は、いつまでも残っていて欲しいです。」
「ちょっと、Lさんまで一緒になって何を言い出すんです。僕はあの子の事、いや。」
あの子の事は問題じゃない。深呼吸を1つ。落ち着け、俺。
「僕は何時だってSさんとLさんの事で頭がいっぱいなんです。2人が本当に大好きですから。
こんな美人が目の前に2人もいるのに、他の女の人の事を考えるなんて絶対無理ですよ。」
「あら、ありがと。綺麗な言霊。L、どうしたの?顔、真っ赤よ。」

『道標(下)』 了

214 『道標(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:01:17 ID:Ugm8l/Kw0
『道標(結)』

 肌を刺すような冷たい風に乗って白いものがひらひらと舞っている。初雪だ。
産婦人科での定期検診を終えてお屋敷へ帰る途中。辺りは既に薄暗い。
Sさんのお腹の子は妊娠三ヶ月目に入った。俺たちの二人目の子。
信じられないような幸せの中、俺がお屋敷で迎える4度目の冬。

 「瑞紀ちゃんから葉書が届いてますよ。お仕事、頑張ってるみたいですね。」
「この間電話して様子を聞いたら『すごく真面目な子』って、評判良かった。
最初の頃に比べたら字も文章もすごく上手になったし。モチベーションって、大事よね。」
Sさんは悪戯っぽく笑って俺に葉書を手渡した。
確かに、簡潔な文章で近況を報告する葉書の文字は美しかった。
「モチベーションの件は突っ込みませんよ?それよりお仕事って、
あれはSさんが親戚に頼んであの子の面倒を見て貰ってるんですよね。」
少女の給料をSさんが負担していることを、既に俺と姫は知っていた。

215 『道標(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:02:03 ID:Ugm8l/Kw0
 「力を持って生まれた子は、皆13歳になったら1年間親元を離れる。
『範師』の家に預けられて礼儀作法や力と向き合う心構えを学ぶの。
1年経って術者になる事を選んだ子は裁許を受けて更に2年間、
適性に応じた術者を師として基本的な修行をする。それが一族のしきたり。
そのしきたりの半分を利用しただけ。無理に頼み込んだ訳じゃない。
範師には『子供を預かるのは久し振りだから嬉しい』って感謝されたし。
一族の子より4年遅いけど、学び始めが遅れたことは問題にならない。
一年半、一族の子と同じように基礎をしっかり鍛えて貰える、それが重要。
それに範士の家には変なものが近づくこともない。あの子も安全、一石二鳥。
単独で活動する術者の経過観察するのに比べたら、時間とお金の大幅な節約だわ。」
「本当に、力を持って生まれた子は全員、なんですか?」 この話は初めて聞いた。
「そう、でないと力を玩具にする子が出てきてしまうから。
ね、裁許を受けた日、当主様の館を案内してくれた女の子。憶えてる?」
「はい、何処かで見たような子だと思ってました。」

216 『道標(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:02:51 ID:Ugm8l/Kw0
 「去年の7月、遷宮の祭礼で舞を奉納した子よ。2人のうち背の高い方。」
川の神様の...お化粧のせいですぐには分からなかったが、それで見覚えがあった訳だ。
「去年舞を奉納したってことは、今年で基本的な修行を終えて家に戻る。
最後の年に当主様の館で奉公してるなら、とても素質がある子なのね。」
「じゃあSさんとLさんも?」 「もちろん。」
「私は11歳の時からSさんに教えて貰いました。」
姫が分家から助け出されたのは何歳の時だったのだろう。
「Lさんも舞を奉納したことがあるんですか?」 「はい、何度も。」
「Lは舞が上手で評判だったのよ。一族で最高の舞手と言われてた。L、どう?」
俺が代わりに翠を抱くと、姫はすっと立ち上がった。 Sさんがひとつ手拍子を打つ。
これは。
姫は手拍子に合わせて軽やかに舞った。姿勢を高く、低く、また高く。
眼にも止まらぬ速さで回転したかと思うと跳び上がり、着地して緩やかに回転しながら蹲る。
確かにあの祭礼で見た舞だ。
そして蹲ったまま左掌を床に着けて、ぴたりと動きを止めた。
「はい、そこまで。これ以上舞うと降りてしまうかも。」

217 『道標(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:03:37 ID:Ugm8l/Kw0
 俺は思いきり拍手をした。 「すごく上手でした。とても美しかったです。」
「ありがとう御座います。踊ったのは4年振りですけど、三つ子の魂百まで、ですね。」
姫の頬は少し紅潮していたが息づかいに乱れはない。すごい身体能力だ。
「降りるっていうのは、神様が降りるってことですよね?どんな感じなんですか?」
「踊っているうちに、自分が自分でなくなるような気がするんです。
視界が白っぽく霞んで、自分の心が周りの空気に溶けていくような。
そんな感じが強かった時ほど上手だって褒められました。でも、本当は、とても怖かった。
このまま自分が自分じゃなくなるんじゃないか、Sさんの所に帰れなくなるんじゃないか、
いつもそう思って。だから私、舞を奉納するのは、あまり好きじゃなかったです。」
俺の手から翠を抱き上げた姫の横顔は、どこか儚げで美しかった。

218 『道標(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:04:34 ID:Ugm8l/Kw0
 『力を持って生まれた子は皆、親元を離れて1年間の修練を積む。』
それは、力を持って生まれた子が、その力故に道を誤ることがないよう、
長い長い時間をかけて練り上げられてきたしきたりなのだろう。
優れた術者を育てる前に、まず力を持つ子供の人格を鍛え上げる。
力を持っていても、それを鼻にかけることも玩具にすることもなく、子供達は育っていく。
その上で、力と向き合う覚悟をした子が、自ら術者の道を選ぶのだ。
時代の流れとはいえ、現代では陰陽道の系統の多くが
祭祀の儀礼を取り仕切る技術のみを扱うようになってしまったと聞いた。しかし、
遠い古から現代に至るまで、俺たちの一族は途切れることなく優れた術師を輩出してきた。
その理由が1つ、分かった気がする。
そして、俺がお屋敷で暮らし始めてから裁許を受けるまでに約3年を要した理由も。
Sさん、Lさんと過ごした日々の記憶が走馬燈のように甦る。

219 『道標(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:06:12 ID:Ugm8l/Kw0
 基本的な訓練を受けていない俺のために、2人はそれとなく教えてくれたのだ。
何気ない日常の生活を通して。あるいはこの世のものでない存在との関わりを通して。
人として、術者として生きていくための覚悟。
以前、Sさんは俺に『あなたの資質が無いほうが、私もLもどんなにか』と言って
涙を浮かべたことがあった。今はその涙の意味が痛い程分かる。
たとえ俺に力が無く、裁許を受けられなくても、2人は俺を夫として認めてくれたろう。
俺の力を封じてしまうことも出来た筈だし、その方が2人の気は楽だったかも知れない。
でも、2人は敢えて困難な道を選んだ。
力の発現に合わせて俺の心を鍛え、少しずつ覚悟を促す。
自らの命さえ危うい事件に巻き込まれることもあったというのに、
3年間、一体どれ程の配慮と忍耐を俺のために費やしてくれたことだろう。
お陰で俺は術者としての人生を選び、裁許を受けることが出来た。
まさにそれは、2人の深い愛情と、『力』への敬意が可能にした奇跡。

220 『道標(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:07:23 ID:Ugm8l/Kw0
 「R君、何ボンヤリしてるの。夕食、あなたが当番でしょ。」
「あ、はい。今日は腕によりをかけて美味しいもの、沢山作りますよ〜。」
「Rさん、何だかニヤニヤしてちょっと気味が悪いです。
二人目の子供の事が嬉しいのは分かりますけど、翠ちゃんの時にはそんなに。」
「いや〜僕は本当に幸運だなぁと思って。」
「今更何言ってるの。急に冷え込んだから風邪ひいて熱でもあるんじゃない?」
「熱は無いですが、心は熱いですよ。へへ、ふふふふふ。」
「本当に、熱、計った方が良いかも知れませんね。」

『道標(結)』 完

221 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/14(金) 21:13:34 ID:Ugm8l/Kw0
お陰様で無事投稿を終えることが出来ました。ありがとう御座います。
投稿の時期をどうするか迷っていたのですが、明日は午後からの出勤なので
少し疲れましたが、前倒し投稿の判断で良かったと思います。
次の作品を送って貰えるのか、投稿の許可が貰えるのか、全く分かりませんが、
次も此所で投稿出来ればと、思っています。

222 名無しさん :2013/06/15(土) 00:45:04 ID:wA9ZbGpU0
藍さんお大変疲れさまでした。
今回もとても面白かったです。また沖縄編があるといいなと思います。
それにしてももう3年とは早いですね。
主人公たちの成長と、今後の物語の展開がとても楽しみです。

223 名無しさん :2013/06/15(土) 00:51:45 ID:wA9ZbGpU0
すみません。誤植です。
大変お疲れさまでした。

224 名無しさん :2013/06/15(土) 01:22:52 ID:9.23cJGI0
藍さんお疲れ様でした。作者さん書いてくれてありがとう。
お二人の投下される話はいつも気持ちのいいもので心が満たされる気がします。
次の話はいつになるのか、そもそも投下されるかもわからないようですが、
待つのは得意なんで、ずっと待っていますよ。

藍さん、早く読めるのは嬉しいんですが仕事も忙しそうだし、
あまり無理しないで頑張ってくださいね。

225 名無しさん :2013/06/15(土) 07:36:20 ID:RsoCIAjs0
蘭さん投下ありがとう

最近主人公が別の意味で、予定調和を始めましたな

次はどんな女性にモテるのでしょうかWW

226 名無しさん :2013/06/15(土) 17:53:18 ID:M9e2PC1.O
予定調和…うらやましい…

227 名無しさん :2013/06/16(日) 22:04:25 ID:BnsURJwYO
澄んだ心で書かれた、真っ直ぐで、それでいて深いお話だと思います。いろんなことを隠し、変えて書いてあるのでしょう。でも、たとえ創作を交えても、媚びることも、おもねることもない。日本の神々に捧げるに値する物語だと思います。無理をなさらず続けて頂ければ、愛読者の一人として大変うれしく思います。

228 名無しさん :2013/06/16(日) 23:33:27 ID:g1X7h61Q0
未回収フラグ気になりますな

Kさんが実際にどんな血縁だったか(死ぬ寸なのに華麗にスルーしたし)
Kさんにトドメを刺したのは誰なのか
Sさんが「Kにあんな事を」で言い切ってない点
「出会い」の「虐げられてきた私たち」って、分家本体の意思なのか、分家の中でも叛意があったのか?

妄想が膨らみますな。

229 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/17(月) 20:37:35 ID:sxlVnAAM0
 皆様、今晩は。藍です。
今回投稿した『道標』は、個人的に興味のある沖縄が舞台だったのと
主人公たちの一族がどのように術者を育てているのだろうという疑問に
答えてくれるものだったので興味深いです。あと、翠ちゃんの初台詞もお気に入りです。

>>222
>>223
温かいコメントと次の沖縄編へのご期待感謝致します。
色々と障りがあり、どうしてもカットせざるを得なかった部分がなければ
もう少し満足頂けたかも知れませんが...事情をお察しの上、ご了承下さい。

>>224
いつも(と勝手に思っています)温かいコメントありがとう御座います。
これからも生温く知人の説得は続けていきますので
次回作、共にお待ち下さればと存じます。

>>225
>>226
『予定調和』については良く分かりませんが
改めて『卯の花腐し』『誓詞』『道標』を読み直してみましたら
『道標』が物語の大団円でもおかしくない気がしてきました。
そう言えば『道標』は丁度投稿10話目です。不安になってきたので
こうなれば、何が何でも次回作(11話目)を知人に催促したいと存じます。

>>227
身に余る高評価のコメント、知人に変わり心からお礼申し上げます。
私自身、八百万の神々のおられる日本に生まれた事を何よりの幸運と承知しております。

>>228
前述の通り、これらの物語について、私の予想が当たった試しはありません。
それをご承知の上、私の検討結果による以下のレスをお読み下さい。
①年代とK自身が拉致されたという設定から考えて、
 語り手Rの曾祖母とKの曾祖母が同一人物の可能性があると思います。
②『出会い(下)』の記述の中に、Kが最後の干渉以前に
 前もってLさんの術を解いたのではないかと感じる描写があります。
 ならばKに致命傷を負わせたのは『上』の対策班でなく分家の者かと。
③『誓詞』の記述からして 『虐げられてきた』のは、依り代の力で
 術者を増やそうとして一族を追放された分家本体の意志でしょう。
 ただ、Rの曾祖母の行動、Kの行動からみて、Lさんの件については
 分家内部にも 意見の違う者がいたのは間違いないと思います。

今後、私の予想が外れていることが判明しましたら、どうぞお笑い下さい。

230 名無しさん :2013/06/17(月) 21:32:30 ID:oB.MLZ3s0
蘭さんこんばんわー。

ううむ、曾祖母さん同一設定。さすがにそこまでは想像できませんでしたが
もしかしたら曾祖母さんのお孫さんが分家と本家に分かれて嫁いだかもしれませんね。
Rさんのお母さんはどこまで知ってるんでしょうね


231 名無しさん :2013/06/17(月) 21:36:30 ID:oB.MLZ3s0
うーん。もしかしたら炎氏が再登場するのなら、Kさんにトドメを刺したのは炎氏の様な悪寒がしますな

ダークヒーローがあのままもう登場しないとかちょっと消化不良ですな

232 名無しさん :2013/06/17(月) 22:25:49 ID:7/lY8eGIO
妄想ですが…
最終回は、Sさん、Lさん、みずきさん、翠ちゃん、皆さんセーラー服で舞を舞っての大団円。

233 名無しさん :2013/06/18(火) 12:35:13 ID:WYamiZs20
まあ、KさんがLさんと同じ資質を受け継いでいるのならRさんと共振したのは筋が通りますな

Kさんが分家の内紛ではなく、元々本家から拉致されたのなら、Lさんとの対比で怒りを顕にする理由の説明にもなる

つまり、本家からは見捨てられた存在という事になるな。

234 名無しさん :2013/06/18(火) 16:31:04 ID:QpnAu4uw0
俺は別にヲタでも何でも無いんだが、L姫についてはどうしても渡辺麻友が思い浮かんでしまう。

235 名無しさん :2013/06/18(火) 22:28:49 ID:PiyhVVcYO
管さんがどこかに行っちゃいましたね。ひょっとしたら四国お遍路でしょうか。

236 名無しさん :2013/06/18(火) 22:52:13 ID:iq3.Y1B.0
俺は

237 名無しさん :2013/06/18(火) 22:58:44 ID:WYamiZs20
管さん・・

そうですね、朽ち縄さんと一緒に出張中の様ですね

238 名無しさん :2013/06/18(火) 23:01:32 ID:iq3.Y1B.0
何故か書き込み失敗。俺は、Kさん拉致は分家内紛の結果と思います。
KさんとRさんが共振したのは近い血縁だったから、と。
でも、233の解釈もありそうな気がして来ました。

239 名無しさん :2013/06/18(火) 23:07:26 ID:iq3.Y1B.0
管さんらしき最後の描写は、『忘却の彼方(下)』でしたかね。
ずっと翠ちゃんの世話にかかりきりかと思っていました。
『出会い』で出て来たもう一体の式(小さな紅い光の渦)も気になります。

240 名無しさん :2013/06/19(水) 00:42:27 ID:6zHdnotE0
本家の姫の苦しみをRさんが言おうとした時のKさんの反応は、本家に近い位置の分家で、放逐された時のある程度新鮮な感情を受け継いでいるか、
彼女自身が直接不条理を感じていなければ説明が難しい気がしますね。

分家との交流が途絶えて久しかったという描写がありましたよね。
Kさんの能力は、Lさんのお母様のあの力とは別だったから、Kさんが代にならなかったという事になりますが
能力者の衰退の事が遠因になってる事の対策で、分家同士が食い合うのも変な気がします

241 名無しさん :2013/06/19(水) 20:25:59 ID:PaeyPIJc0
誓詞の中に、
あなた(R)やKを生んだ分家の血そのものは尊敬してる
とありますから、Kさんの出自が分家なのは確定でしょうね。
Rさんの曾祖母・祖母・母のラインは、Kさんが拉致された事を知っていたから
Rさんの感覚を封じる対策をしたと考えるのが自然な気がします。

242 名無しさん :2013/06/19(水) 20:52:56 ID:6zHdnotE0
そう、そこ重要ですね。「SさんがRさんに直接口頭で言った」処です。

「ほーんとうなのそれ?」と考えてみた訳です。

Sさんのお父さんかおじいさんの代で、分家と騒動があって追放処分

Sさんのお父さんがおじいさんの代で、分家出身の「内縁の妻と子」が分家側に引き取られた

そういう出来事があって分家と表現した可能性もありますね

243 名無しさん :2013/06/19(水) 21:30:40 ID:PaeyPIJc0
>>242
くーっ、細かい。良いですね。藍さん自身が
「楽しむためなら、どんな想像もあり」と仰っていますし。

あと、道標の中で出て来た「がーらだま」、気になって調べたら、勾玉の事ですね。
ノロ雲上の台詞が「勾玉を授けられた神人が孫を守ってくれて」という意味なら
ちょっとドキドキします。川の神様から下賜された勾玉が見えていたんでしょうか?

244 名無しさん :2013/06/20(木) 00:05:11 ID:Jp5u0EhQ0
えーと、陰陽道の衰退が歴史的に決定づけられたのが明治。今年は数えで大正101年ですから
少なくともお家騒動は昭和でしょうね。

24歳くらいで子供を作っても三代で72年です

少子化が健在したのは昭和40年後半。第二次ベビーブーム世代はようやく40歳になった処です

そう考えると、Rさんの曾祖母は本家に近い分家(ほぼ第一世代の分家)と言うのは非常に信憑性がありますね。

Rさんのおばあさんの娘さん=Sさんのお母さん、Lさんのお母さんRさんのお母さんの年代は重要な舞台になった事でしょう。

小さいころのLさん、Rさんの姿はKさんの記憶に基づくものだとしたら、分家と付き合いがないというのは矛盾します

もしかしたら、放逐されてない分家とRさんの家系は何らかの交流があったとみてもいいかも

そうすると、炎氏の家系(分家?)が何か知っててもおかしくはないという、ダークヒーロー再登場の妄想が湧き上がってきます

245 名無しさん :2013/06/20(木) 00:33:40 ID:X0QJAEgQ0
分析能力の高い方たちが集ってきているようです。
私も妄想がふくらみます。子供はあと何人くらいできるんでしょう。

246 名無しさん :2013/06/20(木) 05:29:09 ID:odxcmGVg0
古い陰陽道の家系にまつわる話なのに
投稿済みの10話の中で安倍家(土御門家)や賀茂家の話が全くでてこない。
明治政府の廃止令に関わらず現在もかなりの社会的影響力を持つ。
平安時代初期に成立した陰陽道の源流を受け継ぐ一族なんでしょうか。
一夫一婦制の普及で子供の数が減り始め、一人っ子があたりまえになって術者が不足。
ちょっとしょぼい感じの描写がかえって妙にリアルなんですよね。不思議。

247 名無しさん :2013/06/20(木) 22:18:39 ID:Jp5u0EhQ0
やー、具体的な家名が出たら話の前提としてダメでしょWWW

流石にこれは最後まで秘される流れではありませんか?

四国の流派かもしれませんし、ねぇ?WW

248 名無しさん :2013/06/21(金) 00:31:51 ID:BvFrGkBA0
あなおもしろの ものかたりなれ

249 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/21(金) 03:07:06 ID:e4eNxVo60
 皆様こんばんは、藍です。

 仕事から戻りましたら、沢山のコメントが有って驚きました。
本当にありがとう御座います。さすがにへろへろでして
大変深い考察をなされているコメントも有りますし、
失礼があるといけませんので、今夜は個別のレスを控えます。
申し訳ありません。

 さて本日、知人から11話目の作品が届きました。
掌編ですが、取り敢えず前作が完結編でなくてホッとしました。
来週まで多忙なので投稿時期は未定ですが、なるべく早く投稿出来るよう頑張ります。

250 名無しさん :2013/06/21(金) 05:03:41 ID:ZJg0TXB6O
>>249
藍さんお疲れさまです。
いつも素晴らしいお話をありがとうございます。

11話目が届いたんですね!
掌話というのは、一話完結のお話のことですか?

楽しみにお待ちしていますが、無理はしないでくださいね。
作者さまにもよろしくお伝えください。

251 名無しさん :2013/06/21(金) 08:54:46 ID:VAYteqPAO
期待に応えて頂いて続編、とても楽しみです。
無理をなさらず、ゆっくり休みを取って着手して頂きたいです。

252 名無しさん :2013/06/21(金) 21:59:04 ID:Q2xkeI5Y0
おおお、次回北斗の拳2ぅ〜う(予告)ですと?

ありがたや、ありがたや(TT)

藍さん、知人さん有難うございます〜

253 名無しさん :2013/06/22(土) 22:37:33 ID:K7Vc7WDk0
11話 o(^o^)o ワクワク

254 名無しさん :2013/06/23(日) 18:01:54 ID:g3QTvRmo0
>>249
藍さん、いつも忙しい中での投稿ありがとう^ ^
今後の展開も、とても楽しみです。
作者の知人様にも、みんなの声が届いていると嬉しいです^ ^

255 名無しさん :2013/06/23(日) 23:43:50 ID:pn.yMNhI0
私の大好きな話は「出会い」です。あれだけは何度も読み返してしまいますね。

本日疑問に思ったのは分家の動機です。

一応、本家も分家も力の衰退には危機感を覚えていたのは共通していますね?
しかし、Sさんの説明上、外法は許されないと方針の衝突があったと。
でもこれだけじゃ説明になりません。分家は追放され、社会的な影響力は削がれました。
そんな集団に誰が期待するというのでしょう?

あくまで力の強さを純粋に評価し、結びつく第三者が居るのではと考察しました。

有体に言えば古い形態の自営業が何故力の維持に汲々とするのか?

神職の継続と言う悲壮な決意を除けば、力の保持を純粋に評価する集団が無ければ説明がつきません。

彼らは一体誰に、その力の存在を証明したかったのでしょうか?

256 名無しさん :2013/06/24(月) 00:45:05 ID:4YElQ9bI0
>>255
分家が自らの力を証明したかった相手は、時の権力者達だと思います。
ただ、既に246の考察に有る通り、時の権力者と結びついた系統は昭和までに衰退してしまいました。
いくら力があっても、自らの命をも危うくするかもしれない術士は目の上のたんこぶですから、当たり前と言えば当たり前ですよね。
247の考察にある四国の流派(い〇な〇流)は当初から市井に下ったから、今も一定の力を保持しているのでしょう。
当主が世襲ではなく、一族の意志を『上』という集団指導体制で決めてきたという描写からも、
当時この一族がかなり進歩的な集団だったのは間違いありません。
『本家』が時の権力者と距離を置き、対等に渡り合って来たのなら、自前の武力は必須だった筈。
それが現代の『対策班』に繋がるなら『出会い』の描写も納得出来る気がします。

257 名無しさん :2013/06/24(月) 02:02:51 ID:C047FCDE0
ううーむ、権力者・・・明日になったら民主党から自民党のようなうつろう権力ではないのだと思います
ですが、そのうえの権力となると、もはや権威であり、そもそも一般的には神の加護を受けていると思われます。

一方、文面から読み取れるのは、本家も分家も等しく同じ術を持っており、同じ術でも外法とされるのは
単に対象が違うとか、用法要領を守らなかった程度の違いに留まる印象を受けます(なのでSさんは外法で転生を成功させた)

術の有る・なしで組織の善悪は定まっていなうと言う点は術士独特の世界観と言えるでしょう。

さて、神様も、鬼神も人の世に使うにしては大味すぎます。そんな事をしなくとも通常の術士の業務はこなせます
日常的なヤクザの抗争に鬼神が登場なんて事はおそらく「理」から外れ世界中の神や術者から攻撃されるでしょう
洪水とか天変地異を望んでも単なる漫画の世界の破壊願望にすぎません。

鬼神を使役する力、相克する力を行使するのに受けるペナルティを帳消しにする技術が必須である点と、それに対する需要がはっきりしないようが気がします。

258 名無しさん :2013/06/24(月) 06:30:49 ID:4YElQ9bI0
分家が依り代の力に頼って術士を生み出す計画を『上』は容認していたと思います。
外法だから放逐した、でもその一派を滅することは無かったのですから。
また、Kの拉致についても、奪還に動いたと思われる記述はありません。
Lさんの拉致は『上』にとって容認できない別の計画の一部だったのでしょう。
Sさんの父上が当主であるとすれば、244の考察にあるように、
本家の当主すら代わるような事件がその年代に起こったとも考えられます。
今後、この点について語られるかどうか、興味深いです。

259 名無しさん :2013/06/24(月) 12:38:50 ID:C047FCDE0
おお、大胆な考察。しびれます〜

上の容認ですか。ある程度の過程まではそのように考えてたとしてもおかしくないですよね。考えてみれば

あと、Kさんの私怨として私も考えたのが本家による救出がなかった点です。
Lさんの立場とKさんの立場が入れ替わってたらと考えてた節がありますね。

Kさんのお母さんかおばあさんは、本家にかなり近い立場だったと思われます。

260 名無しさん :2013/06/24(月) 21:35:44 ID:4YElQ9bI0
藍さん、この時間まで投稿が無いなら、投稿は今週末ですかね。
お体を大切に、ゆっくり準備をして頂きたいです。
枯れ木も山の賑わい。藍さんの投稿を待つ間、今夜も私の考察を書いてみます。

この物語群が備忘録の体裁で書き始められたことは私も気になっていました。
この点についての質問に、珍しく藍さんは掲示板の説明を再掲しただけで正面から答えていません。
私も最初は特に意味は無い、ただの枕詞のようなものかと思っていたのですが、
「道標(下)」の中の、Sさんの台詞を呼んで慄然としました。
「もし長生き出来たら、だけどね。」
備忘録が意味を持つとしたら、その記憶が失われた時。つまり3人の主人公の内、誰かが亡くなった時でしょう。

藍さんはまとめサイトのコメントの中で、「2011年末と思われる作品を読ませてもらった」と書いています。
何故、作者である知人さんは時系列を無視してその作品を藍さんに提示したのでしょうか?
恐らく備忘録の体裁に藍さんも疑問を持ったのでしょう。未投稿の2011年末の作品は、その答えかも知れません。
そして、2011年と言えば・・・。語り手、R君がまさかに備えて残そうとしたのがこの作品群だとすれば、
備忘録(というか遺言・または人生の記録)という体裁も、有り得ると思うのです。
もしR君が真の読み手として想定しているのは3人(4人?)の間に生まれた子供達であり、
生き方指南の書であると同時に、恋愛指南、夫婦の愛情指南の書として記録したのなら、
物語内に散見される大胆な性描写も納得出来る気がします。
術士になるかどうか悩む子供達がこの物語を読む。もしやこの物語群は、妄想が一気に拡がりました。

あくまでこの考察は藍さんのお言葉に甘えた私個人の私見であり、
他の方々の考察を否定するものではありません。投稿初期からの愛読者として
みんなの意見を聞きたいと考えての考察です。長文、悪しからずご了承下さい。

261 名無しさん :2013/06/25(火) 00:35:32 ID:rTIQYcyEO
>>260
すごい洞察だと思います。だから「全ての記憶が色褪せてしまう前に」なんですね。
沖縄編は「道標」という題も含めて伏線のひとつなんでしょう。

262 名無しさん :2013/06/25(火) 01:19:26 ID:qH2Qqhus0
藍さんのお話に関しては、みんなこうして意見を述べることを遠慮してたんですねぇ・・・

263 名無しさん :2013/06/25(火) 01:22:40 ID:HcIzbSFA0
>>260
私も、改めて1から読み返して、初めはそんなに気にならなかった
「備忘録替わりに」がめちゃめちゃ気になっていました。
初見のときとは違って、通して読み返し、物語の全体像が見えてくると
確かに「出会い(上)」の書き出しが、一番気がかりになっています。
考えたくはないですが、やはり誰か(Rくん以外の)がいなくなってしまったのでは…と。

みんなが「力」を失って「普通の人」として生きることになったとか
そういう状況だったらいいのですが、最初の書き出しから考えて、
それはありえないだろうと思います。

物語の本筋というか、分家本家等の考察も非常に興味深いのですが、
私はこの「備忘録」という部分にとらわれてしまい、
何か非常に怖くなってしまっています。
ちょっとRくんSさんLさん翠ちゃんたちに感情移入し過ぎたかな。
長文すみません。

264 名無しさん :2013/06/25(火) 01:24:59 ID:qH2Qqhus0
知人さんは自分の為に原稿を書き、原文を知る藍さんはここにモザイク変換した物語を投下した・・・

インタビューを書きとったものとされているこの物語ですが、忘備録としての側面を同時にあわせもっていますね?

この違和感を楽しむのも本当にいいですね。

もしかしたら最初の出会いで終わりだったかもしれません。あくまで藍さんの知人さんとの約束は、当初は「出会い」の発表だったと思われるからです

265 名無しさん :2013/06/25(火) 01:59:07 ID:YbcV7F8Y0
>>263
いたずらに不安をかき立てる考察になったかもしれない事を、心からお詫びします。
3人の姫君は川の神様から勾玉を授かっていますし、R君も霊剣を授かっていますから、
あくまで主人公たちの子供達に読ませたい記録。そう、お考え下さればと思います。

>>264
最新の投稿が10話目。何度読み返しても、明らかな矛盾がないのは不思議ですね。
実は知人さんの原稿としては、この物語は既に完結しているのではないだろうか?
それなら「出会い」の発表が「当初の約束」だったとしても矛盾はありません。

>>262
藍さん(知人さん)のお墨付きが出ている以上、遠慮は無用かと。
明日も、この物語群の『迷い方』マニュアルを書きたいです。お題は「場所」で。

266 名無しさん :2013/06/25(火) 02:27:01 ID:qH2Qqhus0
>>265

ああいや、単純に出会いの最終部分で、藍さんが、「知人との約束を果たせてよかった」と書かれているからそう思ったのです。

あれが一番残したかった記憶だったのですかねぇ。

Sさんがもし居なくなるとするのなら、分家の生き残りによってですかね?

Rさんが居なくなったのだとするのなら、誰の記憶の再生なんでしょうね。

みんなを惹きつけるいい物語だなぁ。高き山に注いだ水が何年も経て人間の体に入りこみ、沁みるように
この記憶もいろいろな形を持って広がり、やがては薄まるかもしれませんが、きっと縁のある人にまた還っていくのでしょうね

267 枯れ木も山の賑わい :2013/06/25(火) 19:50:51 ID:YbcV7F8Y0
この物語の主人公達が住んでいる場所を推定する手がかりを思いつくままに。

1.「道標」、北海道と沖縄は除外できます。
2.「忘却の彼方」、Sさんが熊に言及しているので九州も除外。
  (元々いないならわざわざ言及しませんよね)
3.「入学式と卒業式」、車で往復1時間以内の距離に私立の女子高あり。
4.「卯の花腐し」、車で送迎可能な範囲に大学有り。公立・私立・距離は不明。
5.「卯の花腐し」、隣県に川沿いのキャンプ場(BBQ可)?
6.「光と影」、車で約半日の距離、恐らく隣県に温泉地あり。
7.「大晦の宴」、雪は降るが大晦日にほとんど積雪なし。比較的温暖な気候?
8.「出会い」、片道3時間はフェイクだとしても海まではかなりの距離。

中国地方、四国、紀伊半島あたりですかね。可能性があるのは。
もし四国とすれば、あの流派との関連も考えられるので面白いですね。

268 名無しさん :2013/06/25(火) 23:52:39 ID:ktXfgnFY0
確かに
( ;∀;)イイハナシダナー

269 名無しさん :2013/06/26(水) 00:13:21 ID:JGC1Aft20
テスト中です。

270 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:15:05 ID:JGC1Aft20
 皆様、こんばんは。藍です。
何故だか全く分かりませんが、突然コメントが増えて正直困惑しております。
『楽しむためならどんな想像もアリ』とは書いたものの、ヒヤリとする内容も多く、
個別のレスを控えざるを得ない状況になりました、文字通り嬉しい悲鳴です。
ただ、以前と変わらず、全てのコメントを有り難く読ませて頂いております。
また、知人もこの掲示板を閲覧しておりますので
皆様のご期待が今回の投稿に繋がったとものと存じます。
この場を借りて、皆様に心からの感謝を。本当にありがとう御座いました。

 さて、準備が出来ましたので11話目を投稿致します。
前述致しましたが、一話完結の掌編です。
『道標(結)』に続く作品ですので、季節が盛大にずれてしまいました。
知人は「正月に合わせて投稿した方が良いのに」と愚痴っておりましたが、
幾ら何でもそんな気の長いことは出来ません。
それでは以下、『呪物』。お楽しみ頂ければ幸いです。

271 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:16:19 ID:JGC1Aft20
『呪物』

 「正月早々かなり珍しい仕事が来たわよ。もし本物なら、だけど。」
電話を切ったSさんが明るい笑顔でリビングに戻ってきた。
「どんな仕事ですか?私とRさんで出来る仕事なら何でも。」
姫はSさんの体を気遣っている。Sさんは妊娠5ヶ月目に入っていた。
「呪物の処理はLやR君の分野じゃない。この仕事はどうしても私が行かないと。」
Sさんは何だか楽しそうだ。まあ、検診の結果は順調だし、
やる気になっているのは、何より体調の良い証拠だろうけれど。
「場所、遠いんですか?呪物なら依頼人に持って来てもらうという方法も。」
「依頼人は私の従姉弟たちなの。前から翠とR君に会いたいって言われてたし、
良い機会だからみんなで出掛けましょ。私、体調は良い。全然平気。」
「従姉弟たちって、もしかして碧(あおい)さんと暁(あきら)君ですか?」
「そう、久し振りよね。R君と翠は初めてだから紹介してあげる。」

272 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:19:32 ID:JGC1Aft20
 40分程車を走らせて、市街地の山手にある閑静な住宅街に着いた。
広いガレージに車を停め、玄関に廻る。Sさんがインターホンのボタンを押した。
「はい、どなた?」 「私よ、S。早速みんなで押しかけてきたわ。」
「ちょっと、じゃ、翠ちゃんも一緒なの?」
応答が途切れ、玄関の向こうで気配が勢いよく近づいて来る。 ドアが開いた。
「いらっしゃい。あ、ホントだ。」 女性はしゃがんで翠と視線を合わせた。
「翠ちゃん、こんにちは。」 「こんにちは。」 「可愛い〜。ね、抱っこして良い?」
人見知りした翠が姫の脚の後ろに隠れてしまったので女性は立ち上がった。
「ま、初めてだから仕方ないか。S、Lちゃん、久し振り。」
華やかな笑顔。2人とはタイプが違うがこの人も美人だ。
くっきりした目鼻立ち、背の高さは姫と同じくらい。宝塚の男役みたいな雰囲気。
「本当に久し振り。紹介するわ、こちらがR君。」
「初めまして、Rです。」
一礼して顔を上げると女性の顔が目の前にあった。思わず後ずさる。
「ふ〜ん、なかなかの美形ね。君が今一族中で話題の言霊使いなんだ。
さすがに2人とも御目が高い。私、碧。宜しくね。」
「姉さん、Sさんはお腹に赤ちゃんがいるんでしょ。立ち話は良くないよ。」
玄関の奥に少年が立っていた。姉弟だから当然だが、かなりの美少年だ。
高校生? どちらかというと女顔で線が細い。 ちょっとコンプレックスが。
「あ、御免なさい。私ったら気が利かなくて。これ、弟の暁。さ、中へ入って。早く早く。」

273 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:21:57 ID:JGC1Aft20
 案内された客間でソファに腰掛けた。
とにかく広い、豪華なソファとテーブル。翠は姫に抱かれて飾り棚の中身に興味津々。
やがてコーヒーとケーキが運ばれてきて雑談になった。
お互いの近況や俺の裁許のこと、そして翠のこと。Sさんと碧さんはとても楽しそうだ。
碧さんと暁君は術者ではないらしい。御両親が海外に長期出張、始めは一家で移住したが
暁君の高校進学を機に碧さんと暁君は帰国。去年の3月から2人暮らしを始めた。
一族の人で術者ではない人に会うのは初めてだ。何だか普通の会話が新鮮に感じる。
ふと、暁君の視線に気が付いた。時折Sさんに向けられる憧憬の眼差し。
純粋な慕情が伝わってくる。Sさんは暁君の初恋の人、なのかも知れない。
「さて、おしゃべりも楽しいけど、そろそろ仕事の話をしないと。」
「そうね、お願い。」
テーブルの上が片づけられ、暁君以外は全員ソファに腰掛けた。
飾り棚の中身に飽きた翠は姫に抱かれて眠そうにしている。
「今、暁が取りに行ってる。怪しいと思ってからはずっと『保管庫』に入れてあったから。」
「ホントに呪物なの?」 「分からないけど、ちょっと嫌な感じ。あんなの初めて。」
暁君が応接間に戻ってきた。白い布の包みを持っている。
「これです。」 テーブルの上で包みを解く。 トランプ?
厚手の紙にレトロな絵柄のトランプだ。箱もある。状態は良いが、古いものなのだろうか。
「暁君、これ、何処で?」 Sさんの眼が輝いている。
「去年のクリスマス前にネットのオークションで手に入れました。
もしかしたら19世紀のものかも知れません。安かったし、状態が良かったから
レプリカだと思ってたんですけど、どうもオリジナルの木版印刷みたいで。」
少年は緊張した口調で答えた。頬が少し赤く染まっている。
なるほど、暁君と碧さんの趣味はアンティークの収集と言う訳だ。
飾り棚の中、綺麗にディスプレイされたチェスの駒やタロットカードも2人の収集物だろう。

274 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:25:21 ID:JGC1Aft20
 「どうしてこれが呪物だと思ったの?」
「手に取ると、凄く嫌な感じがするんです。絵や模様はとても、綺麗なのに。」
Sさんがトランプを手に取った。慣れた手つきでシャッフルし、扇形にカードを広げる。
途端に全身の毛が逆立った。
このトランプはまるで『窓』だ。 窓の向こう側にいる、何者かの、禍々しい気配。
そして今、少しだけ開いた窓の隙間から『それ』がこちらの様子を窺っている。
カードを配ってゲームを始めれば、間違いなく『それ』は窓から手を伸ばしてくる。
「確かに呪物ね。それもかなり強力。呪物を使う呪いは、時間と相手を限定できないから
成功率はそれほど高くないし、作るのにも手間がかかる。本物は滅多に無いんだけど。」
「本物って、それ持ってるとやっぱり悪いことが起こるの?」
「『保管庫』に入れておく分には問題無い。でも、手に取ったり眺めたりすると影響を受ける。
遅かれ早かれ体を壊すし、心も蝕まれる。 強い呪いを封じて、呪う相手に贈ったもの。
作られてから、多分100年以上は経ってるのに力はほとんど弱まっていない。
使用された痕跡は感じない。多分、想定外の事態が起きて倉庫か屋根裏にでも埋もれてた。
これを贈られた人はとても運が良かったのね。それに、運が良いのは暁君と碧も同じ。
変だと感じて、直ぐにこれを『保管庫』に入れておいたのは正しい判断だった。」
「あの、やっぱり焚き上げないと駄目ですか?」 暁君は不安そうな表情だ。
駄目どころか、一刻も早く処理しないといけない気がするが、
暁君はそこまで強い気配や憎悪を感じていないということだろう。
術者ではないのだから無理もないし、変だと感じただけで大したものだ。
「焚き上げると中の呪いが解放されるから何が起こるか分からない。却って危険なの。」
そうか、焚き上げるだけで良いのなら、Sさんでなければならない理由はない。
「でも呪いの力を消してしまえば、これは呪物ではなく洒落たアンティークのトランプ。」
暁君はホッとした表情を浮かべた。

275 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:29:18 ID:JGC1Aft20
 Sさんが白い布の4隅に星のような形の紙片を置く。 初めて見る特殊な結界。
眼を閉じて深く息を吸った。小声で何事か呟き、胸の前で印を結ぶ。微笑んで眼を開けた。
「見てて、もうすぐよ。」
やがて、扇形に広げられたカードの端に小さな炎が見えた。
炎は次第に勢いを増し、カード全体が炎に包まれた。
しかし、全く熱気を感じないし、カードや白い布が焦げる事もない。
驚いて何か言いかけた碧さんと暁君に、Sさんが『黙ってて』の合図を送る。
突然、トランプの上、50cmほどの高さに小さな紫色の光が現れた。
それは、一度強く輝いた後、ゆっくりと降下し、
白い布の上で小さく跳ねて輝き続ける。まるで紫色の火花のようだ。
もう一つ、また一つ。見る間に無数の小さな光が白い布へ舞い降りてゆく。
その幾つかは白い布から零れ落ちて、テーブルの上で輝いている。
しかし何故かカードの上には一つも降下しない。
「とても、綺麗。これが、『○◆の雪』。初めて見ました。」 姫は小さく溜息をついた。
小さな紫色の光が舞い降りるにつれ、カードを包む炎の勢いは弱まっていく。
しばらくすると降下する光の数は減り、ついには現れなくなった。
白い布やテーブルの上の光もかなり輝きを弱めている。カードを包む炎も消えた。
「これで良し。光が見えなくなったらそれでお終い。」

276 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:31:31 ID:JGC1Aft20
 「『○◆の雪』って」 「さっきカードに火が」
碧さんと暁君が同時に口を開き、顔を見合わせた。
2人が笑い合う仕草が実に絵になる。まるでドラマのワンシーンみたいだ。
とても仲の良い姉弟なのだろう。2人の間の特別な、強い絆を感じる。
「あの炎はカードに込められていた呪いが形をとったもの。
呪いのエネルギーを光に還元したから炎は消えた。もう大丈夫。
もう暫く、そうね、あと30分もすれば暁君が触っても、全然障りはない。」
「ありがとう御座いました。」 暁君は丁寧に頭を下げた。
「どう致しまして。アンティークはどうしても色々あるから、変だと思ったらすぐに連絡して。
呪物じゃなくても、何か問題があれば対応してあげる。」
「はい。」 満面の笑み、暁君は本当に嬉しそうだ。
「呪物の処理ってもっと時間が掛かると思ってたわ。何十年とか。」
「厳重に保管して呪いが弱まるのを待つだけなら、術者に頼む意味が無いでしょ。
そのままで置いておくと呪いが弱まるのにはすごく時間がかかるし、
下手をするとその間にも被害者が出てしまう。やり方は色々あるけど、さっきのが一番早い。」
「本当にありがとう。あ、お昼ご飯食べていくよね?
美味しいお節があるの。さ、支度するから暁も手伝って。」 「はい。」
2人は慌ただしく応接間を出て行った。廊下を走る足音。

277 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:33:31 ID:JGC1Aft20
 「相変わらずね。気が早くて、自分勝手で。」 Sさんは懐かしそうに微笑んだ。
確かに、従姉妹だけあって碧さんはSさんと少し似ている。気が早くて、あ。
「R君、何か?」
「いや、その、碧さんはすごくきれいな人で。Sさんに少し似てると思っただけです。
暁君もすごいイケメンですよね。」
考えてみれば一族の人たちは皆、美男美女揃いだ。
当主さまの館でドアを開けてくれた男性も、案内してくれた少女もそうだった。
「そう言えば、どうして一族の人は美男美女ばかりなんでしょうね?」
炎という名の男、俺とSさんの前に現れたその分身も、時代劇の二枚目みたいな美形だった。
「多分進化論よ、ダーウィンの。」 「進化論?」
「R君だって、依頼するなら美人の術者に依頼したいでしょ?男性の術者でも同じ。
力が同じなら当然美形の方が依頼が多い。依頼が多ければ経済的に余裕が出来るから
綺麗な女性を何人も妻に娶ってたくさんの子を残すことが出来る。
1000年近くそれが繰り返されてきたんだから、あたりまえなのかも。」
「依頼人の印象を良くするための適応ってことですか?」
「印象を良くするというより信頼を得やすくするための適応。
陰陽師にはカウンセラー的な資質も要求されるから、術者が美形なほど有利。
依頼人が術者ともっと深い関わりを持ちたいと思うほど術の成功率は高まる。当然よね。
逆に、依頼人に信頼して貰えなければ術の成功率も落ちてしまう。」
なるほど、道理だ。 「まずは依頼人に信頼されるのが大切、なんですね。」

278 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:36:12 ID:JGC1Aft20
 「そう、依頼人の前で何か簡単な術を使って見せても良いけど、
できれば無駄な力は使いたくない。だからこんな方法を使うこともある。」
Sさんはカードを手に取り、シャッフルしてから扇形にひろげた。
最初に感じた禍々しい気配や憎悪は、もうほとんど感じられない。
「一枚取って何のカードか憶えておいて。私に見えないように。」
姫に抱かれて寝ていた翠が眼を覚まし、姫と一緒にSさんの手元を見つめている。
カードを一枚取り、Sさんに見えないようにそっとめくった。ハートの3だ。
「憶えたらカードをここに。」
テーブルの上に置かれたカードは2つの山に分けられていた。
Sさんが指さしたのはカードが多い方の山だ。
カードをのせるともう一方のカードの山を更に重ねた。シャッフル、手の動きが美しい。
やがてSさんはテーブルの上にカードをまとめて置いた。
「あなたの選んだカードはこれ。」 一番上のカードをめくる。 ハートの3。
「手品、なんですか?」
「そう、手品。今のはこうしたの。」
Sさんは扇形に開いたカードを2つに分けた。
「こっちは10枚、これを選んだカードにのせて10回シャッフルするふりをする。」
なるほど、一番上のカードを一枚ずつ取って行けば、10回目には選んだカードが一番上だ。
「もっと高等なトリックもあるけど、カードを手に持って当てるなら手品で十分、術は必要ない。
虚仮威しだけど安上がりで効果は高い。お得よね。」

279 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:37:44 ID:JGC1Aft20
 「術を使うのなら、全く手を触れなくても当てられますか?」
「もちろん。じゃ、こういうのはどう?あなたが思い浮かべたカードを当てるの。
私だけじゃなく、あなたもカードには手を触れない。面白いでしょ。」
Sさんが真っ直ぐに俺を見つめる。綺麗な目、ドキドキして思わず目を逸らした。
集中してカードを思い浮かべる。 できるだけ地味なカードが良いのか、いやいっそ。
「ダイヤの6」 「正解です。」
「クラブの2」 「また、正解です。」
Sさんが俺の意識に同調した気配はない。どうやって俺の心を読んでいるのだろう?
「心を読んでいるんじゃありません。」 翠と並んで座った姫が微笑んだ。
「じゃあ何で思い浮かべたカードを?」
「カードを1枚選んで憶えて下さい。憶えたら裏返しにしてテーブルの上に。」
カードを一枚取り、憶えてから裏返しにしてテーブルの上に置く。
一呼吸置いて、Sさんは言った。
「スペードのJ。」 「正解です。」 「じゃあもう一度。そのカードはここに。」
俺はSさんに渡すつもりでカードに触れた。
「待って。」 「え?」

280 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:40:07 ID:JGC1Aft20
 Sさんの眼がキラキラと輝いている。 「それ、本当にスペードのJ?」
どういう意味だ。 首筋がヒヤッと冷たくなる。 さっき、俺は確かに。
そっとテーブルの上のカードをめくった。 これは。
クラブの4、だ。 「何を、したんです?」
「Rさんが選んだのは確かにそれですけど、Sさんは『声』でRさんの記憶を変えたんです。」
「そう、『スペードのJ』って指定されたから、選んだのはスペードのJだったと思い込んだ。」
「いや、でもおかしいですよ時間的に。『声』を聞くのは選んだ後なんですから。」
「電話が鳴ってる夢を見て、起きたら目覚ましが鳴ってた。経験ない?
あれ、本当は音を聞いてから電話が鳴る夢を見てる。時間的には逆だけど。」
「あ。」
『声』を聞いた後に、そのカードを選んだ記憶を作った? しかも俺自身が?
「脳は何時だって都合良く記憶を変える。それを利用した術。だから絶対に、間違えない。」
「相手の心を読むより、高等な術なんですね?」
「ご名答。やっと調子出てきたわね。あんまり得意な術ではないし、同じ結果を得るために
複数の方法があるなら、力を節約出来る方法を選ぶのが鉄則なんだけど。今日は特別。」
俺の記憶を変えられる。もちろん心も読める。なら。
「僕が『これから選ぶカード』も、指定出来ますか?」
未来なら俺の心を読むことはできないし、『声』を聞くのは選ぶ前だから記憶とも関係ない。
俺の思惑を見透かしたように、Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

281 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:43:05 ID:JGC1Aft20
 「折角のお正月だし、良いわよ。それ、見せてあげても。
ただ、仕事した後だし、少し面倒な術だからR君も力を貸して。それが条件、どう?」
「もちろんOKです。Sさんの体に障ったら大変ですから。」
「じゃ右手を。」 俺が差し出した手を取って眼を閉じた。温かい。
やがて眼を開けたSさんは俺の手を離し、かなりの時間をかけて一枚のカードを探し出した。
アンティークの価値を損ねないための配慮だろう。 とても丁寧な手つきだ。
選んだカードを左掌に載せて、俺の目の前に差し出す。
カード中央の大きなハートを取り囲む美しい唐草模様。そして筆記体の文字。
「あなたが選ぶカードはこれ。ハートのA。」
裏返したカードを戻してシャッフルし、扇形に開いてテーブルに置く。
「さ、選んで。」
ハートのAを選ぶつもりでいればいいのか、それともそれ以外を選ぶつもりで。
「お待たせ。食事の用意が出来たわよ、みんなダイニングに。
あれ、R君、トランプで何やってるの?」
「あ、え〜と、これは、占い。そう、占いです。」
「翠ちゃんも一緒にトランプ占いしたいのかな?」
いつの間にか翠がテーブルの脇に立っていた。
「あっ、翠、ちょっと、今それお父さんが。」
無造作にカードを一枚取り、てててっと歩いて碧さんに手渡す。
ちらりと赤い色が見えた。 ハート? 一気に心臓の鼓動が早くなる。
「わ〜嬉しい。翠ちゃんありがと。R君、これ、絶対良いカードでしょ?どんな運勢?」
碧さんが持っているのは、ハートのA。 まさか。 軽い目眩。

282 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:47:11 ID:JGC1Aft20
 これまでも、Sさんは前もって術をかけ、俺の意識や行動を操作したことがある。
今回もその術を使えば俺自身がカードの中からハートのAを探し出し、
そして自分がカードを探したこと自体を忘れてしまうだろう。
つまり、我に返った俺はいつの間にかハートのAを持っている。
だからSさんは俺の手に触れる必要があった。そう、予想していた。
しかし、カードを取ったのは翠だ。あの術ではない。
誰が選んでも、最初のカードはハートのA。 それを、予知していたのか?
いや、あり得ない。
神や高位の精霊なら知らず、人間にとって、未来は無数の偶然と選択肢の積み重ねであり、
確定してはいない。確定していないのに、予知することは不可能だ。そう、例えSさんでも。
それなら、残る答えは1つ。手元のカードを一枚めくる。ハートのA、やっぱり。
もう一枚、これもハートのA。さらにもう一枚、やはりハートのA。笑いがこみ上げてくる。

283 『呪物』 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:51:38 ID:JGC1Aft20
 初めて見た。 そして、恐らく二度とは見られない、ハートのAのフォーカード。
これも一種の後催眠暗示だ、『声』による視覚の操作。 凄い、面白過ぎる。
「あとどのくらい、この状態が続くんですか?」
「からくりが分かったなら、もう見えるはずよ。」
いったん目を閉じて深呼吸、ゆっくりと目を開ける。
碧さんが持っているのはハートのK。
俺の前にある3枚のカードはハートのJ、ハートの10、そして、ハートのA。
え、本物の、ハートのA?
Sさんは得意そうに微笑んで、一枚のカードを取った。ゆっくりとめくる。
ハートのQ。
「はい、これで完成。 お正月らしい、お目出度い役でしょ? 呪物の始末もこれで完璧。」

『呪物』 完

284 ◆iF1EyBLnoU :2013/06/26(水) 00:56:35 ID:JGC1Aft20
 お約束のように出だしの題名で躓きましたが、
今回も無事に投稿を完了できて有り難く思います。
明日から週末にかけて多忙となり、失礼を致します。
ありがとう御座いました。

285 名無しさん :2013/06/26(水) 01:00:08 ID:S7ptmiUk0
藍さんこんばんわー。UP乙です。

>ヒヤリとする内容も多く、個別のレスを控えざるを得ない状況になりました、文字通り嬉しい悲鳴です。

勿論藍さん、まずい事はスルーで(笑)大変な事になってしまいます

>知人もこの掲示板を閲覧しておりますので

ゲロゲロッ(汗)私の危惧も勿論そこにありましたが、私を含め皆妄想が抑えれませんでした。
今のところ、原稿提供の意欲減退の直接の原因にはならなそうでホッとしています

知人さんも有難うございました。

286 名無しさん :2013/06/26(水) 01:30:08 ID:S7ptmiUk0
な・・・なんという恐ろしい術なのだ・・・

SさんがR氏の浮気を防止しようと思ったら、エロ本や、街中の女性をみんな高木ブーに見えるようにすればいいだけなのか・・

287 名無しさん :2013/06/26(水) 09:17:20 ID:.oDWp29UO
藍さん知人さんありがとうございました。
ハートのエースのフォーカードは高度な催眠術とでもいうか、言霊の力を持つRさんがこれをマスターすればもっとすごいんでしょうね。この応用編がまたどこかでみられるのでしょうか。今回もとても面白かったです。

288 名無しさん :2013/06/26(水) 16:50:21 ID:S7ptmiUk0
応用すれエピメニデスの逆説=究極の選択が出来るな。

うん○味のカレーと、カレー味のうん○WW

ハートのエースって、実際には別のカードだったかもしれませんね。

ハートのエースが出てこなーいって曲にかけたのかも

289 名無しさん :2013/06/27(木) 00:24:13 ID:2gYbyW8w0
怖い話。
ひょっとしとしら、実は私たち読者も術にかけられてたりして。
ほら、管さんが光の管(ケーブル)を通ってやってくる・・・。

290 枯れ木も山の賑わい :2013/06/27(木) 01:04:49 ID:kIfH4iNs0
藍さん、新作乙です。

291 枯れ木も山の賑わい :2013/06/27(木) 01:43:37 ID:kIfH4iNs0
掌編とは「短いお話」というほどの意味でしょうか?でも、凄く興味深いお話です。
ハートのAの4カード、当然R君自身が有り得ない役だと気付いていますね。
しかし、SさんがハートのQをめくって完成したハートのロイヤルストレートフラッシュが
Sさんの術によるものなら、この術は最初から2重構造。

呪物だった力の残滓を利用しながら、このトランプを祝福されたアンティークへと変化させる。
どんな人も物も、決して雑に扱うことのない、いかにも、Sさんらしい術。本当に素敵ですねぇ。

292 名無しさん :2013/06/27(木) 02:52:22 ID:k/bWlXv60
藍さん
お忙しい中、投稿ありがとうございます。
知人さん
毎回、話に引き込まれています。
今後も、無理をしない範囲で、よろしくお願いしますm(_ _)m

293 名無しさん :2013/06/29(土) 11:15:01 ID:U0qBlWKUO
昔の術師はトランプでなく花札でこれをやってたんでしょうね。梅に鶯のフォーカードとか…。

294 名無しさん :2013/06/30(日) 12:04:16 ID:7Nd6kNRs0
精神干渉の力が強かったKさん

Sさんの今回の術は、本来のRさんとKさんの戦いだった可能性を示唆している

記憶や感情を入れ替えることが出来る攻撃の可能性もあったのだ。

RさんどんだけイケメンなのよWWW

295 名無しさん :2013/06/30(日) 23:27:35 ID:7HSyv42Q0
 「出会い(下)」、Kさんの最後の干渉と、Rさんの対応は印象的な場面です。
記憶や感情を入れ替える攻撃を予想し、Sさんは反撃の準備をして罠を掛けていた。
しかし、Kさんは術士としてでなく、ただ、1人の女性としてRさんに会いたかった。
だから、Sさんには反撃の方法が無かった。

 もし、Rさんが「行くよ、一緒に。」と言わなかったとしたら、結末は変わったでしょうか?
Rさんなら、必ずそう言ったと思うし、それがRさんが「心の」イケメンである所以でしょう。
でも、読み返す度に、そう考えてしまうのです。もしも、と。

 さて、この一族が「生きている存在」に対して使う術は、ほとんど精神に干渉する系統ですね。
その術の詳細が一部明らかになったと言う点で「呪物」は私にとって重要な作品です。
藍さん、知人さん。次回作、心から期待しています。

296 黒い瞳 :2013/07/01(月) 00:12:18 ID:.LmJ2Sko0
不思議な体験をした
オチはない
たまに思い出すので文章にして
曖昧な記憶を確定して残したいから
書かせて下さい

創作じゃなく実体験です

社会人になって結婚して
5年ほどたった頃

妻と近所の家電量販店に出かけた
163号線の近くで
駅で言えば京阪線の古川橋駅

妻が商品を物色している間
私は特に見る物も無く手持無沙汰に
突っ立っていた

私の目の前には電池が並んでいて
棚の一番下の段には
安い電池が無造作にカゴに入っていた

私の足元でそのカゴを覗きこんでいる女の子がいた
見た感じ小学校1年生くらいかな
歳で言えば7歳くらいの女の子

その子が急に顔を上げて
私を覗きこむように見上げて
ニッコリと笑った
本当に楽しそうな顔で私に笑顔を見せた

私は大人なので
笑顔を返してやるべきだったんだけど
それが出来なかった
その事は今となっても後悔している

297 黒い瞳 :2013/07/01(月) 00:14:54 ID:.LmJ2Sko0
その子は障害持っているようだった
ご両親と一緒に来ていたんだけど
言葉をちゃんと話せていない

本当に可愛らしい顔をしていた
でも
笑顔を向けられた時
私は気持ちの悪い物を見たという
驚きのような嫌な表情で
その子を見てしまった
本当に後悔している

その子の目はとても大きくて
白目がなかった
大きな目の全てが黒い瞳だった
ドキっとして
咄嗟にそんな表情を返してしまった

それから3年ほどたった頃

298 黒い瞳 :2013/07/01(月) 00:15:53 ID:.LmJ2Sko0
私は梅田駅ビルの前の国道を挟んで
向かい側のビルで働いていた

たぶん春だったと思う
大雨が降っていた
私は階段に出てその雨を眺めていた
すると一人の女性が目に入った
服装から見て20代くらいなのかな
大雨が降っているのにもかかわらず
傘をささずに濡れていた

ありえないと思った
5mも移動すれば駅ビルの下の
雨にかからない場所に移動できるのに
濡れて突っ立っていた

不思議に思ってしばらく見ていたのだけど
どんな人か見たくなって
傘をさして見に行った
横を素通りする時に
足を止めずに少し顔を見てやろう

299 黒い瞳 :2013/07/01(月) 00:17:00 ID:.LmJ2Sko0
そう思って近付いて行った
身長は160cmくらいかな

そして通り過ぎる瞬間その女性の顔を見た
その女性も私の顔を見た
とても嫌な表情で私を見た
大きな白目のない黒い瞳で私を見た

3年前に出会った7歳くらいの女の子
見た感じは20歳くらい
顔の雰囲気もその面影があった
間違いないと思った

私はびっくりして
そのまま通り過ぎたのだけど・・

謝れば良かった

3年前
優しく微笑んで返してやればよかったな

常識で考えたら偶然の出来事なんだろうけど
そうは思えなくてね・・^^;

300 名無しさん :2013/07/01(月) 20:48:13 ID:FrsYbEU.0
テスト中

301 名無しさん :2013/07/01(月) 20:48:54 ID:ameq0zS60
テスト待ち中

302 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/01(月) 20:49:56 ID:FrsYbEU.0
 皆様、こんばんは。藍です。
折角コメントを頂きながら、多忙のため反応できず申し訳ありません。

>>296
 最近アメリカの都市伝説として多くの目撃談があるという
『Black Eyed Kids』は日本にもいるのでしょうか?
3年前だとすると2010年、本家アメリカより12年ほど遅れて
日本でも目撃されたことになりますね。
3年で10歳分くらい成長するという記述は初見で興味深いです。
もし、他にも不思議な話がありましたら書いて下さいね。

>>コメントを頂いた皆様
 多様なコメント、心から感謝致します。
個別のコメントを控えざるを得ないと判断したのは、皆様の考察が
物語の深い部分に達しており、個別のコメントをすることが、むしろ
皆様の楽しみを阻害すると思うからです。

 ただ、一言、「2011年末」の作品について。この作品は
皆様の考察通り、これらの作品が「備忘録」の体裁で書き始められた
理由を説明するものであるとともに、これらの作品の完結編です。
事実に基づくという設定上、物語の年代が現在に追いつく筈はありません。
ちょっと寂しい気もしますが、必ず『終わり』があります。
ただ、私は『呪物』以降、『完結編』に至る作品は未だ読んでいません。
今後の作品を楽しみにする気持ちは皆様と同じです。

303 名無しさん :2013/07/01(月) 20:52:19 ID:ameq0zS60
さあ・・始めようか。記憶と感情の真実の物語を

304 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/01(月) 21:09:09 ID:FrsYbEU.0
>>301
 本当に驚きました。術者の方ですか?

 さて、長文失礼致します。
これまで知人の説得と相談を重ねて来ました。
物語の今後を期待して下さる方々がいると伝えてきた甲斐があったのか、
取り敢えず新作の掌編を送付してくれることになりました。引き続き
どうしても公開できない障りのある作品と現在未完成の作品を除き、
投稿できるよう説得を続ける予定です。
新作の投稿時期は未定ですが、
原稿が届き次第なるべく早く投稿出来るよう頑張ります。
暫くお待ち下さい。

305 名無しさん :2013/07/02(火) 00:24:02 ID:0eglPcaw0
知人さん藍さん
楽しみにして待ってます。
無理をなさらず、また面白い物語を読ませてください。

306 名無しさん :2013/07/02(火) 06:27:01 ID:WXj7hwEQ0
知人さん藍さん有難う〜(TT)

307 名無しさん :2013/07/02(火) 09:47:57 ID:PMMotL7g0
終わるのは寂しいけど無理矢理引き延ばすと幻滅しそうだしなぁ

308 名無しさん :2013/07/02(火) 12:52:23 ID:WXj7hwEQ0
>>304

いえいえ、たまたまF5で読み込みしなおしただけです。普通に毎日ここをチェックしてます

少し待って、物語の投稿が続かないようだったので「テスト待ち中」と投下してみました。

これは縁=偶然です。

どうですか?私のこの物語への「ファン力」WW

309 名無しさん :2013/07/02(火) 19:43:03 ID:a43YguJU0
そいそい

310 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/03(水) 20:53:51 ID:Fvja4KC.0
 皆様、今晩は。藍です。

 本日原稿を受け取りました。相変わらず季節外れですが
私にとっては印象に残る、大切な作品になりそうです。
今日は仕事が休みだったので作業も思いの外捗りました。
週末までの投稿を目指しております。今暫くお待ち下さい。

311 名無しさん :2013/07/03(水) 23:15:23 ID:Zf3xsq4o0
wktk

312 名無しさん :2013/07/05(金) 00:19:36 ID:uolf6pWI0
うーん、今思ったけど、思い出の人になるのはやっぱりSさんかなぁ。

翠ちゃんを生むときの代償が実は本当に半端なくて、Rさんに本当の事言えなかったとか

そんな展開の気がする

だとすればKさんにトドメを刺したのはSさんかもね

313 名無しさん :2013/07/05(金) 18:52:38 ID:7ZYL5W1M0
テスト中

314 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 18:54:01 ID:7ZYL5W1M0
 『名残雪』

 「じゃ、L、しっかりね。R君も、Lの事頼んだわよ。」 「ばいば〜い。」
姫と俺を駅前に残し、Sさんと翠を乗せた車が遠ざかっていく。
「Rさん。3日間、宜しくお願いします。」 姫が礼儀正しく頭を下げた。
「いや、こちらこそ宜しくお願いします。ちょっと頼りない付き添いですけど。」
話は一月程前に遡る。
その時妊娠6ヶ月目に入っていたSさんは春休みとゴールデンウィークの旅行を
パスすると決めていた。もちろん姫と俺も旅行はしないつもりだったのだが、
Sさんが『久し振りに2人きりで行って来なさい』と言うので、
春休みの3連休に合わせて二泊三日の小旅行を計画することになった。
その旅行先を探していた姫が『夜行列車に乗ってみたい』と言い出したのだ。
「列車の中で眠るなんて楽しそうですよね。朝靄の中で到着すると、きっと良い風情です。」
それはまあ、間違いなく姫は俺より先に寝てしまうし、俺より後に起きるのだけれど。
早朝のホームには酔っぱらって寝てるおじさんがいたりで、風情があるとは限らない。
「僕はホテルとか旅館が良いですね。列車だと切符買うのが面倒だし。」
「そう言えば、列車の切符って、やっぱり駅で買うんですよね?」

315 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 18:55:34 ID:7ZYL5W1M0
 俺とSさんは顔を見合わせた。
「Sさん、もしかしてLさんは。」 「確かに、Lは一度も乗ったことないわね。列車。」
お屋敷の近くには駅がない、自然と移動手段は車中心、いや100%車だ。
仕事も、買い物も、姫の送迎も。 変わるとすれば車種だけ。ロータスとマセラティ。
「今の生活なら特に何の不都合も無いけど、丁度良い機会。」
それでこの週末、金曜からの3連休に合わせた小旅行は、
姫の特訓を兼ねた列車での旅と決まった。
Sさんが決めた行程に沿って列車を乗り継ぎ、かなりの長距離を移動する。
途中、Sさんに頼まれた用事を済ませるミッションも用意されている。
もちろん地図と時刻表を頼りに姫が切符を買う。俺は一切口を出さない。
俺の任務は姫のボディガード(不要かも知れないが)。
3月も下旬、さすがに雪の予報は出ていないようだが、予想気温がかなり低い場所はある。
その日の最終目的地で宿泊先を探す行き当たりばったりの旅。
初めて行く場所ばかりだし、移動に手間取れば宿泊先がどうなるか予想出来ない。
まさか駅のベンチで夜明かしなんてことにはならないだろうが、
なかなかに緊張感のある旅行が始まった。

316 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 18:56:42 ID:7ZYL5W1M0
 最初からある程度予想していた通り、一日目、3本目の列車に乗る頃には、
姫は時刻表の見方や切符の買い方、乗り継ぎの要領をすっかり憶えてしまった。
「ちょっと行って聞いて来ます。」 勿論俺が口を出さなければ反則では無い。
そりゃ窓口に姫のように綺麗な女性が聞きに来たら、職員もさぞかし張り切るだろう。
しかも姫は演技派、『昨日沖縄から出て来て乗り方が分からないんです』と設定が細かい。
暫く窓口で話し込んであれやこれやと教えてもらい、推薦の駅弁まで聞いて来たらしい。
「このお弁当、美味しいですね。」 「列車の旅行は駅弁に限ります。」
運転しなくて良いから、気楽な俺は熱燗にした缶入りの日本酒を買って良い気分。
不安な旅の筈が、優秀な美人ナビゲーター付きの気楽な旅に早変わり。もう最高。
観光地を回る旅程ではないので列車は混んでいない。乗車率は50%といったところ。
姫は窓の外の景色や他の客の様子を興味深そうに眺めていた。
4本目の列車はローカル線、今夜の宿泊先は小さな地方都市。
駅前の繁華街でシティホテルやビジネスホテルをあたれば多分空室があるだろう。

317 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:00:05 ID:7ZYL5W1M0
 目的の駅に到着したのは15時27分。休日の午後、ホームはまだ閑散としているが、
ちらほらと学生っぽい姿が見える、部活か塾の帰りだろう。
あと2時間もすれば休日出勤した会社員の姿も増える筈。
「Rさん、私いつも思うんですけど、どうしてみんなイヤホンをしてるんでしょう?
私の大学の学生達もそうだし、この街の学生も同じです。」
確かにベンチで列車を待つ学生も、ホームを歩く学生もイヤホンをしている。
大袈裟なヘッドホン姿も見える。 そうでなければケイタイでお話中。 時折聞こえる笑い声。
「う〜ん、音楽が好き...いや、きっと暇潰しじゃないですか?」
「私、Rさんに送ってもらったあと、遠回りして、学部まで10分くらい歩くんです。
短い時間ですけど、その間でも色んなものを見たり音を聞いたり、とても楽しいです。
季節が変わって鳥の鳴き声が聞こえたり、咲いている花の種類が変わったり。
今日も世界は綺麗だなあって、全然退屈しないのに。あの人達は耳も目も心も
自分の中にだけ向けて、外の世界を見ないし聞かない。何だか勿体ないですね。」
胸の奥がきゅっと痛くなる。そっと姫の肩を抱き寄せた。
「お願いですからそんな事言わないで下さい。Lさんが生き急いでいるようで不安になります。
毎日毎日実感しなくても、この世界で綺麗です。もっといい加減で良いじゃないですか。
仕事や勉強で疲れていたら自分の殻に閉じこもるのも仕方ないし、
好きな音楽を聴きながらだと、景色もまた変わって見えるかも知れませんよ。」

318 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:02:16 ID:7ZYL5W1M0
 姫は優しく微笑んだ。
「私の、悪い癖かむ知れませんね。あとどれだけ、自分が自分でいられるだろうって
考えていた時間が長過ぎたから、つい急いでしまうんです。
明日も明後日も、家族みんな一緒で幸せな日々が続くなら、
もっとのんびり、ゆっくりしても良いんですよね。」
「そうです、人生はこれから、もっとずっと長いんですから。」
手を繋いでホームを歩く。二度目の、2人きりの旅行。Sさんの配慮が胸に染みる。
駅の構内にアナウンスが流れた。 「2番線に電車が参ります・・・」
2番線の停車位置は30mほど先、俺たちの背後から微かに地面の震動が伝わってくる。
もう少し歩いたところで、異変が起こった。
「あ。」 「あれ。」
いつのまにか、俺達の前数mの所に2人連れの姿。女性と男の子、親子だろうか?
すぐ傍のベンチに座っている学生も2人に気付いた様子はない。間違いなくあれは。
暫くして電車がホームに滑り込んできた、その瞬間。
女性が男の子を抱き上げたかと思うと電車の前に飛び込んだ。思わず息を呑む。
しかし、何の音も聞こえず、他の客の様子にも変化はない。
しばらく歩いて停車した電車の前を覗く、電車にも線路にも異常はない。やはり、幽霊。
「Rさん、今日泊まるホテル、多分大丈夫ですよね。」
「はい。ここから見えるだけでも、ビジネスホテルの広告、いくつかありますから。」
姫はホームの時刻表を確認し、メモを取った。
2番線のホーム近くに戻り、さっき学生が座っていたベンチに腰掛ける。
「次の電車は15時42分。もし同じ路線の電車だとしたらその次、49分です。」

319 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:03:42 ID:7ZYL5W1M0
 42分の電車が入って来た時は何の変化も無かった。
学生達の姿が少し増えたように見えるが、まだ人の数はそれ程多くない。
電車は問題なく停車し、そのまま出発していった。
そして47分を過ぎ、電車の到着を知らせるアナウンスが流れる前に、それは現れた。
女性と小学生くらいの男の子、2人の後ろ姿。俺達の目の前、1mほどの距離。
鍵を掛けず、目を閉じて感覚を拡張し、その『存在』から伝わってくる気配に集中する。
悲しみか、あるいは憎しみか。 同調することが出来れば手かがりが得られるはず。
それは、声。微かに聞こえる2人の会話。

「・・・・に そ・・・ら みた・・たね。」
「ごめ・・ ・か・さんが しっかり・てな・・たから こわ・・い?」
「だいじ・・・ ぼく おかあさん・だいす・だか・ ・つま・もいっしょだよ」
「・りがと・ でも ・の・・・ ・せて あげたかった。」

 先刻と全く同じように、女性は男の子を大切そうに抱き上げて、
ホームに滑り込んだ電車の前に飛び込んだ。
激しい感情の爆発、意識が飲み込まれそうになるのを必死でこらえる。
次の瞬間、気配は突然消えた。 今まで通りのホームの風景。

320 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:04:51 ID:7ZYL5W1M0
 「やっぱり、現れましたね。」 「それほど古くありません。多分、ここ2・3年です。」
「あの会話、はっきり聞き取れなかったんですが、Lさんは?」
「いいえ、会話の内容は全く。会話だとしたらRさんの領域ですね。
私はちょっと男の子の意識に集中し過ぎてしまったかも知れません。」
やはり姫も伝わってくるのが会話だとは思っていなかったのだろう。
でも、もう一度チャンスがあれば、最初から会話に絞って探知出来る。
もしかしたら、あの親子をこの場所に縛り付けているのが何なのか、分かるかもしれない。
それから約一時間、ベンチで待ち続けたが、2人の姿は現れなかった。
「Rさん、明日の予定なんですけど。」
「分かってます。明日も、この街に泊まりましょう。
あの2人、とても気になります。そのままにしてはおけません。」
「はい。後でSさんにも、電話しておきます。」
「じゃこの件については、今日はこれでお終い。折角2人きりの旅行ですから。」
「あとは宿探しですね。私、Rさんと一緒なら、どんなところでも平気です。」
「僕は出来るだけ綺麗なホテルが良いですね。こう見えても、都会派の軟弱者なので。」
姫は小さな声で笑った。
「嘘つき。魚釣りも料理も、あんなに上手なのに?」

321 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:08:29 ID:7ZYL5W1M0
 ふと、目が覚めた。ベッドの中に姫がいない。
姫は窓際に立ち、少し開けたカーテンの隙間から窓の外を見ていた。
窓から微かに差し込む街の灯りが姫の顔を照らしている。
この人はいつもそうだ。とても美しくて、でもどこか儚げで。
婚約者だし、身体を重ねたこともある。俺を愛してくれているのも痛い程分かる。
しかし、姫のことを深く知る程、いつか俺の前から消えてしまうのではないかと不安になる。
本当の姫はまだ俺の手の届かないところにいるような、頼りない感覚。
舞を奉納した時に姫が感じていたという不安が、俺にも伝染したのかも知れない。
俺の前で舞を見せてくれた姫は、羽衣を着て軽やかに舞う天女のように見えた。
いつか、羽衣を着て天に帰っていく伝説の天女。
いや、それじゃ駄目だ。この人と離れるなんて考えられない。
「あの親子の事を考えているんですか?」 「はい、男の子の事を。」
「身体が冷えてしまいますからベッドに戻って下さい。」 「はい。」
姫は戻ってきてベッドに潜り込んだ。そっと、抱きしめる。少し冷たい、細い身体。

322 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:09:28 ID:7ZYL5W1M0
 「『男の子の意識に集中し過ぎた』と言ってましたよね?」
「あの時、男の子の意識に、不安や恐れを全く感じませんでした。それが不思議で。」
「これから電車に身を投げるというのに、ですか?」
「それどころか母親が抱き上げた時、男の子の溢れるような喜びを感じました。
翠ちゃんがSさんに抱き上げられる時に感じているような、純粋な喜びです。」
「それ程にあの子は母親を愛し、信頼していたということですね。」
「心中を選ばざるを得ない事情。生活は苦しかったはずなのに、
あの母親は毎日精一杯の愛情をあの子に注いでいたんでしょうね。」
突然姫の頬を涙が伝った。 「私。」
胸の奥が痛む、やはりこの人は。枕元のティッシュペーパーで姫の涙をそっと拭う。
「どうしたんです?話して下さい。」 姫は小さく頷いた。
「私、あんな風に子供に愛情を注げるでしょうか?
自分の子供にあれほど信頼される母親に、なれるでしょうか?」

323 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:10:44 ID:7ZYL5W1M0
 姫は以前も口にしたことがある。
両親の顔さえ知らない、そんな自分が親になった時、
自分が産んだ子を愛せるのかどうか分からないという不安。
翠を溺愛し、喜々として世話をする頬笑ましい様子を見て、
すっかりそんな不安は消えたものだと思っていた。
しかし、それはあくまで『Sさんが産んだ子』を愛したのであって、
自分の産んだ子を愛した訳ではない。
翠を溺愛すればするほど、姫の不安は大きく、深くなっていったのだろう。
迂闊だった。
「Lさん、質問があるんです。」 「何ですか?」
「Lさんは裁許を受ける時、術者になれるかどうか不安でしたか?」
「...いいえ、自分に力があるのは分かってましたし、あとはどんな術者になるかだけで。」
「母親も、同じじゃないかと思うんです。」 「母親と術者が、同じ?」
「どちらも自ら選んで『なる』ものです。『なれるかどうか不安を感じるもの』ではありません。
Lさんに女性としての能力があるのは分かってます。僕という婚約者もいます。
あとはどんな母親になるかをしっかり考えれば良いだけですよ。第一。」
俺は姫の額にキスをした。少し照れくさいが、姫の目を真っ直ぐに見つめる。
「普通の方法だと、避妊の成功率は100%じゃありません。
もしかしたら今夜、Lさんは母親になったかも知れないんです。」
「もし、今、子供を授かったら...悩んでる余裕なんてありませんね。」

324 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:12:05 ID:7ZYL5W1M0
 右手でそっと姫のお腹に触れる。
「ここに、僕たちの子供がいるとしたら、どんな気持ちでしょうね?」
「きっと、すごく嬉しいです。」 姫は左手を俺の右手に重ねた。
「毎日毎日、お腹をさすって、話しかけて。」 姫の笑顔は明るかった。
「そんな感じで良いんじゃないですか?あんまり真剣に考え過ぎると疲れちゃいますよ。」
「そうですね。どうして考え過ぎちゃうのかな。私、いつもこんなで、駄目ですね。」
「Lさんは術を使う時、楽しいですか?」 「え?」
「こんなことが出来て楽しいって思いませんか?」
「正直に言うと、楽しいと思うこともあります。術を使うのはお仕事のためで、
本当は楽しいなんて思っちゃいけないのかも知れませんけど。」
「お正月のトランプのこと、憶えてますよね?」 「はい。」
「Lさんと2人きりでいるのに、Sさんのこと話して御免なさい。
でも、今は僕たちのお師匠様の話だと思って聞いて下さいね。」 「はい。」
「あの時、Sさんはとても楽しそうで、得意そうでした。
『ほら私って、術って、凄いでしょ』って感じで。だから思わず僕も楽しくなりました。」
「確かに、とても楽しそうでしたね。お正月で、久し振りに従姉弟に会って、
それでだと思ってましたけど。でも一番楽しそうだったのは術を使ってる時でした。」
「Sさんだって、時々は自分が術者であることを楽しみたいんです。
いつだって仕事に関わる辛い事や悲しい事に耐えてるんですから、息抜きも必要ですよね。」
「辛くて、悲しいから、時々は術者であることを楽しむ...Sさんも。」 姫は少し遠い目をした。

325 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:13:11 ID:7ZYL5W1M0
 「さて、次はかなりディープな質問ですよ。将来の夫婦として答えて下さいね。」
「はい。」
「Lさんは僕と、その、仲良くしてる時に、気持ち良いですか?正直に、答えて下さい。」
「あの、とても嬉しくて、幸せな気持ちです。」
「でも、気持ち良いと思ったことはないんですね?」
「はい、御免なさい。」 姫は目を伏せた。
姫と身体を重ねたことはそれ程多くない。既に痛みや出血は無くなっているが
あまり気持ち良く感じていないのが分かるので、どうしても遠慮してしまう。
自分の子を愛せないのではないかという不安を抱え、そして姫の真面目な性格。
当然、その結果妊娠するかも知れない行為を、心から楽しむ気持ちにはなれないだろう。
「Lさん、仲良くするのは子供を作るためだと思ってませんか?」
「え?だってそれは。」
「もちろん子供を作るためでもあります。でも僕にとって、普段はそれ以外の意味が大切です。」
「どんな、意味ですか?」
「コミュニケーション、互いの愛情の確認です。身体を重ねて互いの気持ちを確かめ合うこと。
そしてそれを気持ち良いって感じることは、僕が男であることを楽しむってことですから。」

326 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:19:44 ID:7ZYL5W1M0
 「あの、Rさんは、私と仲良くしてる時、気持ち良いんですか?幸せじゃなくて?」
「幸せだし、とても気持ち良いですよ。男に生まれて本当に良かったと思います。でも。」
「でも、何ですか?」
「Lさんも気持ち良いって感じてくれたら、もっともっと気持ち良いでしょうね。
それこそ天にも昇る気持ち。Lさんは仲良くしてる時、女であることを楽しんでますか?」
「Rさんに抱きしめてもらって、仲良くしてもらって嬉しいって思いますけど...」
「避妊すること、ちょっと後ろめたいと思ってるでしょ?」
「はい。」 小さな声、愛しくて堪らない。
「Lさん、避妊は僕にとって一番良い条件で子供を迎えるための準備です。」
「準備?」
「正直、僕は今すぐLさんが妊娠しても全然困りません。
それどころか、きっと、とても嬉しいです。
でも婚約者としてでなく、ちゃんと入籍してからの方がもっと良いかなと思うし、
いや、Lさんが大学を卒業してからの方がLさんの身体には良いのかなって迷いながら
僕たちの子供を一番良い条件で迎えるタイミングを考えてるんです。」
「そのためにもいっぱい仲良くして、お互いの気持ちを確かめ合うことが大切なんですね。
そのためにいつもは避妊を?」
「僕はそう思ってます。何度も仲良くして気持ち良くなったり、そのために避妊することは
全然後ろめたい事じゃありません。僕たちはもう夫婦同然なんですから。」

327 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:21:04 ID:7ZYL5W1M0
 「じゃあ、SさんはRさんと仲良くする時」
俺はキスをして姫の唇をふさいだ。
「2人きりでベッドの中にいるのに、他の人の話をしちゃ駄目です。
さっきは術のお師匠様として話したんですよ。2人で仲良くする事にお師匠様なんていません。
もっと気持ち良くなるにはどうすれば良いかって、2人で探すしかないんです。」
「じゃあ、もう一度仲良くして下さい。私、今度は気持ち良くなるように頑張りますから。」
「だ・か・ら、頑張ったら楽しめないじゃないですか。何か、こう、ガチガチな感じで。」
姫は声を立てて笑った。表情は見違えるように明るくなっている。そう、これでこそ姫。
この人には今、茫洋とした未来でなく、もっと身近な将来を実感する何かが必要なのだ。
その『何か』とは一体...
安らかな寝息を聞きながら、今度は俺が考え込む番だった。

328 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:22:16 ID:7ZYL5W1M0
 翌日、朝食の後でいったんこの街を離れ、次の目的地である街を訪れた。
Sさんから頼まれたミッション。小さな博物館を密かに(普通に入館して)調査する。
『一族にまつわる収蔵品が展示されているかも知れない』とSさんは言ったが、見事な空振り。
良く出来たレプリカだと姫は笑った。まあ、写真だけでは分からないことも沢山ある。
博物館近くの食堂で早めの昼食を食べてからその街に引き返した。
昨日、学生が座っていた2番線のホーム近くのベンチに陣取る。13時45分。
長丁場かも知れない。姫が時刻表を確認している間、売店で飲み物とお菓子を買った。
「さっき、同じ路線の電車が来ましたが異常なし。やっぱり時間も関係ありそうです。」
「それらしい電車は何本あるんですか?」
「次の電車は14時12分、その次が14時35分、この2本はまだ早いような気がします。
昨日の時刻からみて、15時5分、15時23分、15時45分。どんなに遅くても16時2分、
この4本でしょうね。昨日は16時を過ぎたら現れませんでしたから。」
時計を確認する、13時59分。可能性は低いだろうが、最初の電車まであと13分だ。

329 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:24:39 ID:7ZYL5W1M0
 14時12分と14時35分の電車は異常なかった。
駅員が近寄ってきた。「お客様、何かお困りですか?」 親切と偵察。
閑散とした休日のホーム、難しい顔をして長時間座っている男女の2人連れ。
しかも女性は飛びきりの美人。俺が駅員だとしても気になるだろう、仕方ない。
『駅員の余計なお節介に困ってます』とは言えないので、出来るだけにこやかに応じる。
「彼女の御両親と待ち合わせしてるんですが、○▲県の雪で少し遅れてるみたいなんです。
どんなに遅くても16時2分の電車には間に合うと思うんですが。」
姫は俯いて俺の左肩に頭を預けた。いかにも心細そうだ、さすが演技派。
「それで2番線の近くに。分かりました。早く会えると良いですね。」
駅員が立ち去ると姫はくすくすと笑った。
「あういうのが、立て板に水、なんですよね?」
「演技派の美人が傍にいれば、どんな台詞でもそれらしく聞こえます。簡単ですよ。」
次の電車までは少し間がある。2人でお菓子を少し食べた。
やはり温かいものが飲みたいので自販機でお茶を買い直す。
交代で姫もホットレモネードを買って来た。
お菓子と温かい飲み物。少し体を動かして気分一新。次の電車に備える。
15時。多分、あと3分と少し。

330 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:28:28 ID:7ZYL5W1M0
 15時3分、辺りの空気が変わった。 始まる。
親子の姿は現れないが、微かな気配を確かに感じた。
感覚を最大限に拡張して気配に同調する。探るのは会話、2人の最後の会話。

『お母さん、雪、雪が降ってるよ。綺麗だね。』
『本当だ。寒くない?』
『少し寒いけど平気。』
『雪も綺麗だけど、春になったら、お母さんが育った村の桜を見せたかったな。』
『お母さんの育った村の桜って、この雪よりも綺麗なの?』
『ずっと綺麗よ。数え切れない桜の木に、一斉に花が咲いて。
お母さんが見た、世界で一番綺麗な景色だもの。』
『一緒に、その桜、見たかったね。』
『御免ね、お母さんがしっかりしてなかったから。怖くない?』
『大丈夫。僕、お母さんが大好きだから、何時までも一緒だよ。』
『ありがとう。でも、あの桜、見せてあげたかった。』

 続いて起こる感情の爆発。
死を決意するまでの母親の記憶。前夜の2人の会話。
そして駅までの道程。歩道の脇、立ち枯れたような姿で春を待つ桜並木。
一瞬の間に様々な感情と映像が迸る。
走馬燈どころでは無い。まるで目の前で次々と爆発する打ち上げ花火。
昨日よりはましだが、やはり激しい情動に意識が飲み込まれそうだ。
腹に力を入れて耐える。やがて唐突に、気配は消えた。

331 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:30:05 ID:7ZYL5W1M0
 目を開け、ハンドタオルで額の汗を拭う。 気温は4℃、文字通りの冷や汗。
「あの会話。『桜の花』が2人の心残りなんですね?」
「はい。生きることの全てを諦めた2人の、最後の望み。だから、とても強い心残りです。」
もちろん自殺は罪だ。子供を道連れにしたのだから、母親の罪はさらに重い。
それに、電車への投身。 数え切れない人達に迷惑を掛けたのは間違いない。
しかし悲しいことに、『死ぬより辛いこと』がこの世にはある。厳然として、ある。
以前の事件、校舎の屋上から身を投げた女子高生もそうだった。
姫に仕込まれていた術の件では、俺自身、自分の死を考えた。そして、おそらくは姫も。
罪は罪。しかしそれは、決して許されぬ罪ではない。
それに、このままでは遅かれ早かれ2つの魂が『不幸の輪廻』に取り込まれる。
誰1人それを悲しむ人のいなかった、孤独な親子の死。
不幸はもうそれだけで、十分ではないか。
「何とか助ける方法はありませんか?」
「2人が身を投げたのは2月、雪の降る午後。2人にとって季節は常に冬だし、
その魂はこのホームに縛られています。このままでは、絶対に心残りは消えません。
世の中を憎む代わりに、2人は強く、とても強く心を閉じてしまったんですね。
もし心を開いてくれなければ、無理矢理...それだけは避けたいんですが。」

332 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:31:05 ID:7ZYL5W1M0
 重い沈黙。
Sさんなら取り敢えず2人の魂を人型に封じて、
いや、Sさんがいれば上手くいくとは限らない。今、姫と2人で出来る事、それは。
姫が顔を上げた。俺の目を真っ直ぐに見つめる。
「Rさん、何でも良いですから、2人に呼び掛けて下さい。Rさんなら、もしかしたら。」
俺が2人に? そうか、言霊。 そのあとで姫は。
辺りの様子を確認する。まだ閑散としたホーム。
少し離れたベンチに学生らしき客。イヤホンをしている、大丈夫。お節介な駅員の姿もない。
振り返る、広告のパネルを挟んで背中合わせのベンチ。端の席に白人らしき親子連れ。
並んで居眠りをしている。多分、これも大丈夫。でも、これ以上客が増えれば絶対に無理だ。
明日は連休最終日、確実に今日よりも客は多いだろう。
おそらく次の電車が、最初で最後のチャンス。失敗は許されない
「分かりました。やってみます。その後は、お願いしますね。」
「はい、任せて下さい。」

333 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:32:33 ID:7ZYL5W1M0
 15時18分、多分あと4分弱。
姫は『何でも良い』と言ったが、一体何と呼び掛ければ良いのだろう?
二人の心残りは桜、満開の桜。 ふと、去年の春、4人で出掛けた桜の名所を思い出した。
明るい陽光に照らされた山一面の桜、ライトアップされてはらはらと散る夜の花吹雪。
翠を抱いたSさんも、大学の入学式を控えた姫も、本当に楽しそうだった。
そう、あの2人が見たかったのも、きっとあんな景色だ。
目を閉じて深呼吸、できるだけ鮮明にあの景色を思い出す。
飛び交う小さな鳥の声を、桜の花びらを運ぶ風の音を。そして楽しげな人々の声を。
「もうすぐです。」 姫の声。
目を開ける。数秒後、目の前に2人の姿が現れた。 今、だ。 2人の会話が始まる前に。
立ち上がる、深く息を吸い、下腹に力を入れた。 自分の力を信じる。
『母子、仲睦まじくて何よりですね。お二人も桜を見にいらしたのですか?
お望みとあらばご覧に入れますよ。山一面、満開の桜。』
花びらのような、綿雪のような白いものが俺たちの周りを漂っている。 これが言霊?
母親の左手が微かに動いた。右腕で男の子を抱き抱えるようにしながら、ゆっくりと振り返る。
『今、あなたは満開の桜と?』
『はい、確かに。』
紺色、半袖のワンピース。やはり半袖の白いシャツに黒い半ズボン。
二人の服装は質素だが清潔で、男の子のシャツにはぴしりとアイロンがあててあった。
精一杯の一張羅、二人なりの死装束。
雪の降る日にこの服装では、さぞ寒かったろうに。 涙、が。

334 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:33:41 ID:7ZYL5W1M0
 姫が立ち上がる気配。 親子の視線が姫に移る。
『春が来る。花待里に、春が来る。』
唄うような、囁くような『あの声』だ。耳鳴り、軽い目眩。しっかりと床を踏みしめた。
術者になった以上、もう耳を塞ぐ訳にはいかない。姫の術、最後まで見届けなければ。
『命燃え、今ぞ盛りと咲き誇る、山一面の桜花。』
思わず息を呑む。いつの間にか、俺たちは無数の桜に囲まれていた。
見渡す限り満開の桜。桜。桜。明るい日差し、青い空。
『風に舞い、里に降り積む花吹雪。』
降りしきる花吹雪を両手に受けて、2人は小さく溜め息をついた。
『とっても綺麗だね。』 『綺麗。』
『これが、お母さんの育った村の桜なの?本当に、世界一だね。』
『そうよ、世界で一番綺麗な景色。これで、もう...』
母親は男の子を抱き上げて、愛おしそうに頬ずりをした。
『御免ね。』 『お母さん、大好き。』
突然、2人の姿が眩い光に包まれた。思わず目を閉じる。

335 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:34:53 ID:7ZYL5W1M0
 「Rさん、早く。上手くいきました。すぐに撤収です。」
ホームに電車が滑り込んでくる。15時23分の電車だ。身を投げる親子の姿は無い。
姫はお菓子や飲み物を手早く紙袋に詰め込んだ。他の荷物は俺が持つ。
「ねぇパパ、綺麗なお花が沢山見えたよ。前にお花見で見た桜の花。」
心臓が一瞬停まりそうになる。 姫の顔も緊張している。
声が聞こえたのは俺たちの後方、姫と顔を見合わせた後、そっと振り返った。
灰色の瞳の女の子が、居眠りする父親の肩に両手をかけて揺り起こそうとしている。
「パパ!お歌が聞こえて目が覚めたの、そしたら桜でいっぱい。聞いてる?」
「うん、なっちはお花の夢を見たんでしょ?パパもその夢、見たいよ。」
女の子は父親の肩から手を離し、頬を膨らませた。
「もう、夢じゃ無いのに。」
ベンチの脇を抜ける時、女の子と目が合った。思わず声を掛ける。
「お嬢ちゃんも、桜の花、見えたの?」 「うん、とっても沢山。」
女の子は嬉しそうだ。姫がすうっと屈んで女の子と視線を合わせた。
「桜の花、とても綺麗だったでしょ?」 「うん、凄く綺麗だった。私、桜の花、大好きなの。」
「お嬢ちゃんはとても良い耳と目を持ってるのね。
だからあの歌が聞こえたし、桜の花が見えた。」
「なっちの耳と目が?」
「そう。大きくなっても、その耳と目、大事にしてね。バイバイ。」
「うん、バイバイ。」

336 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:38:49 ID:7ZYL5W1M0
 ホームを出ると、冷たい風に乗って白いものが舞っていた。 花吹雪ではなく、雪。
「この雪は、名残雪、だと良いですね。」 「はい、少しでも早く、春が来るように。」
ホテルまでの歩道沿い、十数本の桜が並んでいる。あの母親の記憶の中の桜だろうか。
花芽が少し膨らんでいるように見える。姫も桜を見ている。少しやつれて見える横顔。
そうだ、この人に必要な、実感出来る身近な将来、それは。
「Lさん、今年の誕生日で二十歳ですよね?」 「はい。」
「二十歳になったら、入籍しましょう。」 「入籍って...」
「前に約束した通り、婚約者じゃなくて、正式に僕のお嫁さんになって下さい。
そして、大学を卒業したら、僕たちの子供を迎える準備。どうですか?」
「Rさん、ひどいです。歩きながら、そんなこと言うなんて。
でも...嬉しい。とても、嬉しいです。」
姫はハンカチで涙を拭った。小さな肩をそっと抱き寄せる。
「入籍は8ヶ月後、卒業は3年後ですけど、『過ち』があったら卒業前の出産もあり得ますよ。
なんだかドキドキしますね。痛。」 左頬をつねられた。
「正式なお嫁さんが妊娠するのは『過ち』じゃないです。授かる子供にも失礼ですよ。」
「御免なさい。『Lさんとの過ち』って設定が、その、良いなと思って。」
「ふふ、ホントは何となく分かります。ちょっと、ドキドキしますよね。」

337 『名残雪』 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:40:46 ID:7ZYL5W1M0
 おお、俺の嗜好を理解してくれるとは、さすがに姫だ。
「でも、もっとドキドキする設定があります。」 「どんな設定ですか?」
「入籍した後は避妊をしないんです。すごく、ドキドキするでしょ?」
「...それは。」
「きっちり計画するのも大切だけど、家族なんだから、もう少しいい加減に
のんびり生きても良いですよね。『できちゃった。』『え、大学は?』なんて、素敵です。
『休学して出産したのに、復学直前に次の妊娠が発覚』
これは、さすがにちょっと赤面ですね。」
姫...演技派なだけじゃなく、結構な妄想癖が。 いや、これは妄想じゃないな。
「お屋敷の広さは十分。子育てに関わる雑用は式に手伝ってもらうとして。
当面の問題は車、5人乗りでは足りませんね。7人乗り以上で検討しないと。」
「5人乗りで足りなくなるのはどんなに早くても来年の10月ですよ。気が早いです。」
不意に両目から涙が溢れた。嗚咽が漏れる、止められない。
「Rさん、どうしたんです。プロポーズした方が泣くなんて。」
もちろん悲しい涙ではない。 今、姫は、女性として生きる未来を自ら語っている。
それは、姫が俺と、そしてこれから生まれてくる子供達とずっと生きていくという、
確固たる意思表示。 伝説の天女が自ら羽衣を脱いでくれたのだ。
それがどうしようもなく嬉しくて、涙が止まらなかった。
「泣かないで下さい、Rさん。」 俺の背中をさする姫の手。温かく、柔らかい感触。
「御免なさい、もう、大丈夫です。」 

 白い雪。立ち止まった俺と姫を包み込むような。

『名残雪』 完

338 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/05(金) 19:43:18 ID:7ZYL5W1M0
 皆様、今晩は。藍です。
とても気に入った作品なので、かなり頑張ってみました。
原稿受け取りから投稿まで、自己最速記録更新かと思います。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

339 名無しさん :2013/07/05(金) 20:54:21 ID:uolf6pWI0
知人さん藍さんありがとうございます。とってもお楽しみ致しました(笑)

シリアスもほのぼのも、とても良いシーンがあるんですね。

340 名無しさん :2013/07/05(金) 20:55:19 ID:uolf6pWI0
・・・・

そういえば新章のタイトルが・・・・なんでしたっけ?WWW

341 名無しさん :2013/07/06(土) 02:09:02 ID:3IvhmewI0
知人さん藍さんありがとうございました。
とても心暖まる、やさしさ溢れる物語です。
桜は日本人の心を癒す、世界一美しい花だと思います。
数え切れない数の桜の花びらが輝きながら光をまとって舞い散るさまが眼に映るようです。
美しい物語だと思います。

342 名無しさん :2013/07/07(日) 03:29:57 ID:9EhS5QtA0
うーん、秦氏系の術者(新羅・清和源氏系→白山→出雲→賀茂系)でも
中臣系(百済・中臣→藤→藤原→平氏系)でもないと仮定するとあとは忌部氏くらいしか思いつかないなぁ

忌部氏→紙すき(古いものは麻紙)で、徳島の特産が「藍」

妄想が溢れて困りますな

343 名無しさん :2013/07/07(日) 11:41:51 ID:RxQH2mUk0
出自を隠すのも一つの術
なんでしょうかな。

344 名無しさん :2013/07/09(火) 20:15:42 ID:hUTO0/KY0
藍さん

いつもは投稿のあとはレスがあるんだけど今回は全然ないね
多忙中って書いてたし仕事が忙しいんならそれはそれで良いんだけど
別スレの嫌な書き込みを読んで落ち込んでないか心配

最後に 『呪物』 『名残雪』 どちらも自分は好きですよ
いつも本当にありがとう

345 名無しさん :2013/07/09(火) 22:18:08 ID:4ZW9g/SY0
藍さんの熱意と、知人さんのご厚意で本来読むことが許されなかった物語に触れることが出来ています。

有難うね。

346 名無しさん :2013/07/12(金) 21:50:21 ID:Uj.mU.iE0
ちょっと気になるんだけど、まとめサイトの「シリーズ物/同一作者」カテゴリにこのシリーズはまとめられてるんだけど、タイトルがトリップで味気ない
なにかぴったりなタイトル誰か考えてくれ

347 名無しさん :2013/07/13(土) 01:07:23 ID:lydlqMJs0
Rさんシリーズ

とか書いたら知人さん嫌がるかなぁ・・・

348 名無しさん :2013/07/13(土) 08:41:26 ID:21ChEM5c0
色々思いつくタイトルはあるけど
トリップのままで良いような気もするんだよね
縁の無い人が読んだって何の意味のない物語だろうし
このまま目立たないようにしておきたい

349 名無しさん :2013/07/13(土) 23:09:22 ID:lydlqMJs0
だがしかし、第一部「掌編」(たなごころ?)は解りましたが

第二部のタイトルが無い気がしますっ(笑)

350 名無しさん :2013/07/13(土) 23:22:53 ID:OtOSVW4sO
シリーズ名を付けるのならやっぱり知人さんにやって頂くのが一番いいんでしょうね。

351 名無しさん :2013/07/14(日) 00:45:35 ID:EXjViBw20
そうやって知人さんを引っ張り出すのが一番いけない気がWWW

反対どころか大賛成ですが、それはみんな我慢しなきゃ

352 名無しさん :2013/07/16(火) 19:44:21 ID:TimnjbU60
 皆様、今晩は。藍です。

 投稿の際、奇妙な現象が起こることを確認しまして、
PCをチェックしてもらっていました(結局原因不明です)。
コメントを頂きながら反応が遅れましたこと、お詫び致します。

 さて、シリーズ名の件、知人に電話で確認を取りました。
2つの案が出て、取り敢えずそれを提示してみてはということになりました。
ただ、送付されてくる原稿には、もとの題名が記載されています。
その題名も併せて提案しても良いかと確認したところ
一部変更を条件にOKが出ました。以下、3つの案を提示致します。

①『Rさんシリーズ』
 他のシリーズの作者様に失礼にならなければ良いのですがとのこと。

②『陰陽道綺譚・藍之章』
 知人としては洒落っ気系(痛い系?)のつもりらしいです。

③『縁(いつか君に話す時のために)』
 もとの題に近い案です。

 もちろんこれ以外の案でも構いません。
読者様と管理人様にお任せ致します。長文失礼致しました。

353 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/16(火) 19:55:35 ID:TimnjbU60
藍です。
トリップを付け忘れてしまいましたが間違いなく私の書き込みです。
失礼致しました。

354 名無しさん :2013/07/16(火) 23:06:19 ID:MHQTkg9U0
投稿の際、奇妙な現象が・・・誰かの術かも???

なお、②が格好いいです。

355 名無しさん :2013/07/16(火) 23:44:45 ID:64A5z9d20
おお、縁(えにし)ですか。私は③ですね。自分でRさんシリーズとか言っておきながらですがWWW

Rさんシリーズは、まとめサイトの表題がトリップのままになってたので、まとめサイト用のネームのつもりで考えてました

356 名無しさん :2013/07/17(水) 01:52:03 ID:5aAHJpA.0


流れとかわかりませんが、投下させてください。

あんまり怖くありませんが、今さっきあった話です。

両親と妹は隣の部屋で寝ており、 私は1人、机のある部屋でやることを終わらせようと机に座った。
暫く机に向かっていると、壁からトントンという音が聞こえた。
初めは気にしていなかったが、あまりにも続くため、気になって壁を見る。
その音は手の甲で壁をノックするような音だった。
誰かが手の甲で叩いてるにしても、その叩かれている壁の位置が明らかにおかし い。
家はアパートで、すぐ外は階段だけど、 叩かれてる位置はどう頑張って手を伸ばしても届かない位置だった。
その時、変にポジティブになった私は、 きっとカナブンとかその辺の虫が壁にぶつかってる音だろう。(良く家の周りを飛 んでるので)
そう思う事にした。

一回切ります。

357 名無しさん :2013/07/17(水) 01:56:38 ID:r/ddboS20

そのあと、暫くその音は規則的に続いたが、諦めたかの様にピタリと止まった。
私は、やっと終わったかとその音のなっていた箇所を見つめホッとした。
ホッとしたのは束の間、今度は誰かがゆっくり階段を上ってくる音が聞こえた。
新聞にしては早すぎる。
私は少し怖かったが部屋を出てドアに近付き、覗き穴を覗きこんだ。
すると、今度はゆっくり階段を降りる音が聞こえ始めるが、覗き穴からは何も見えない。
集中出来ずにイライラしていた私の怒りは頂点に達した。
我ながら怖いもの知らずだと思うが、
何故か「どちら様ですか!?」と言いながらバーンとドアを開けて階段を見た。
誰もいなかった。
その代わり、先日変えたばかりの階段に備え付けられている電灯がチカチカと点滅している。
私はそれを呆然と見つめ、私の声が大きかったのか、父が起きてきた。
「どうした?」
「変な音が聞こえt」
「 寝 ろ 」
父はそういうと、寝室に戻って行ったが、私は怖くて眠れない。←今ここ


文章下手くそでごめんなさい。

358 名無しさん :2013/07/21(日) 16:20:57 ID:WRatVgPIO
ノックの音が。
その向こうには、おせっかいな神々が…。

359 名無しさん :2013/07/21(日) 16:21:08 ID:WRatVgPIO
ノックの音が。
その向こうには、おせっかいな神々が…。

360 匿名希望 :2013/07/24(水) 20:58:10 ID:OfFwZeH60
この写真は、1984年3月に撮られた写真です。

この写真は、外国のある男性が部屋で撮ったものです。

この男性は、余命1週間と宣告されたため最後に自分の部屋を撮ろうと思い、自分のお気に入りのリビングを写した。

そして、確認するとこのような奇妙なものが写ったという。

その瞬間余命1週間と言われたはずがその場でカメラを持ち原因不明の突然死したそうです。

しかも、奇妙な事にこの事件を調査した警察は全員男性と同じような原因不明の突然死したそうです。

ですが、ある警察調査したところ死にませんでした。
警察は、気づいたのです。

この写真を触ったものが、死んでいるということに。

警察は、怖くてデータを世界のどこかに隠しました。

ですが、こうしてなぜかよみがえったのです。

例が、あります。実はこの写真はよみがえってから、この話を信じない日本人の山本和真さんが、軽い気持ちで編集をしました。
やはり、山本和真さんはなくなってしまいました。


回さないと、触っている事になります。
死にたくなければ、回すことです。

信じるか信じないかはあなた次第です。

361 名無しさん :2013/07/25(木) 12:38:33 ID:fuoTtmcI0
写真屋に現像頼んだら1週間かかったんだな

362 名無しさん :2013/07/25(木) 23:04:06 ID:VJcrVAks0
藍さん生きてるぅ〜?WW

暑いけど頑張ってね〜

363 名無しさん :2013/07/26(金) 01:25:55 ID:82f5WUZY0
藍さん、仕事が忙しいのかな?
前に書いていたとおり、「道標」が物語の完結編なのかと心配になりました。
それなら「呪物」と「名残雪」は物語の補遺。すると「名残雪」という題名は...
いやいや、次回作、信じて待ってますよ。いつまでも。

>>346
シリーズの題名は、②『陰陽道綺譚・藍之章』に一票。

364 名無しさん :2013/07/26(金) 20:52:41 ID:gaAqfBbUO
藍ちゃんやーい
おるかのー?

365 名無しさん :2013/07/27(土) 08:03:18 ID:Y1aEJ0CQ0
藍さんこのまま忙しいとお盆までに新作は無理ですかいのうWW

366 名無しさん :2013/07/27(土) 22:51:54 ID:rAKctVGU0
藍さん暑いので無理せずに
また,美しくも妖しくも悲しくも面白い話を待っています・・・。

367 名無しさん :2013/07/28(日) 14:05:43 ID:NVx9N2Ww0
本スレに書き込もうとまとめたけど規制喰らってるのでこちらに

文書力の無いオッサンの話でも。
エロ描写あり。苦手な人はスルーして
まだ20代前半の話。その頃は所謂モテ気で調子に乗ってめちゃくちゃしてた。
ガタイも大きくケンカもそれなりに強かったけど、何故かいじめられてた
中高時代の反動もあったのかもしれん。
その頃は勤務先のバイトやら社員やら客やら悪さをしまくってて、ある日恐ろしい目に遭った。
この話はまた後日だけど、そのショックでしばらくは職場の友人と飲めない酒に逃げるようになってた。
その日も2時くらいまで呑んでて、大して飲んでないのにヘロヘロになりながら一人で歩いてた。
もうすぐ家ってとこで、ふと視線を何かが横ぎった。
「ん?」
ってその方向を見ると、ごみ箱に若い女の人が詰め込まれて、頭だけ出てた。
状況が理解できずにマジマジとみると、血色は悪く化粧っ気はないものの、
20代前半、今でいうならAKBに交じってても不思議はない程度のかわいい感じに
メガネ、ツーサイドアップとイロイロと私のツボを抑えていた。
うつろに開かれた目が会ったので
「なにしてんの?」と声をかけたら、
「…を待っています」とよく聞き取れない大きさで。
「そんな所おったら臭いし窮屈やろ、俺ん家くる?」と言うと
ポカンと口を開けたままボーっとして反応がない。
しかし、その姿に何かを催した私は、普段なら当然絶対にしないが、
ファスナーを下げ、何故か臨戦状態になってるモノを取り出した。
「自分のこと、めっちゃ好みやねん、エエ?」と言いながら、
彼女の鼻を持って、自分のモノを差し込んだ。
それでも抵抗はなし。
酒の勢いか、異常な状態にか
変に興奮して彼女の左右にまとめた髪をつかんで腰を突き立て喉の奥に果てた。
つづく

368 名無しさん :2013/07/28(日) 14:06:51 ID:NVx9N2Ww0
ゴボゴボと若干むせたような咳をする彼女の口を拭いてあげるが、まだ収まらない。
どうしてもやりたくなった私は彼女をごみ箱から引きずり出した。
彼女は黒いごみ袋に首だけ出す形で入れられて、袋の中には彼女以外にも何かが入っているようだった。
一度ごみ箱から出し、ごみ袋を裂くと、大量の虫(暗くてよく見えなかったがGも居たと思う)、
猫の首、鶏の胴体などが入っていて、さらによくわからない骨も。
うわ!と悲鳴をあげて飛び退いたものの、このままにしておくわけにはいかず彼女を抱えてラブホへ。
いまだ放心状態なような彼女を風呂に入れるため服を脱がすと体中に
文字とも模様ともつかないものが赤と黒で書かれていた。

今思い返せばおそらくハングル。

だんだん頭も覚めてきて、これはただ事では無いと、彼女を問いただしても反応は薄い。
それより、体中についてる血や糞のにおいがとてもじゃなかったので、風呂に。
幸い、体に書かれた文字もボディーソープで落ちたが、まだぼーっとしている。
そんな状態なのに、あくまで洗うために胸や股に手をやると、体を触ると反応はよく、
嫌とも言わないのでとりあえずやっちまおうと事に及んだ。

が、反応が良いレベルではなかった。
ぶっとんだ喘ぎ声をだし、ものの数分で絶頂を迎える始末。こっちはゴムのせいでなかなか。
で、終わってみると初めてのお印。
「これはクスリやってるなぁ」と思い、
警察に連絡するかとか?と写メなど取りながら考えてると、途中で気を失った彼女が目を覚ました。
「え?!誰!ここは!」と。
素面に戻ったらしい。
つづく

369 名無しさん :2013/07/28(日) 14:08:25 ID:NVx9N2Ww0
ひとまず落ち着かせ、包み隠さず全て話すと、彼女は泣き出した。
彼女は数年前から霊に襲われるようになったそうだ。
最初は家の中だけだったのが、最近は外でも。
急な眠気のようなものを感じ意識が朦朧となると、
全裸の中年のオッサンが現れ、口に出せないような事をするのだそうだ。
悩みに悩んだ彼女は、知り合いを通じ霊能者に相談。
お祓いと称し香をかいでいるうちに意識が途絶え今に至るのだそうだ。
「え?でも自分初めてやったで?」
とシーツについてる赤い染みを見せると、何故だか安堵してた。
なぜかその後2回戦を行い、とりあえずその日は休みだったので一日一緒に居る事に。
というか、一日中やってた。
途中から、オッサンがジーッとこっちを見ていたが、その前に体験した事に比べれば、
女の子の感度を引き出したオッサンの調教に感謝こそすれ、
恐れる理由は無かったので見せつけるようにしてると、
いつの間にか消えてた。
つづく

370 名無しさん :2013/07/28(日) 14:09:54 ID:NVx9N2Ww0
後で件の霊能者に会って話を聞いたのだが、彼女は淫乱の性質があり、それを感じて霊が集まると。
あの日のまじないは抱くに値しない女性であるという印を魂に刻み、霊障を遠ざけるものだったらしい。
霊は不浄なものを嫌うからだけど、私が汚したお蔭で霊も寄り付かなくなったとか。
そういえば、あのオッサンは汚いものを見るような目でこっちをみてたねぇ(´・ω・`)

ちなみにその娘とはしばらく付き合ったけど、互いの浮気で別れた。
今は3児の母をしている。

思い返して見るとイロイロ怖かったんだけど、文書に起こすと怖くないね。駄文ゴメン

371 名無しさん :2013/07/28(日) 19:47:32 ID:9pxCVZDE0
2ちゃんが規制されてるんでこっちに書く
ついさっきの事なんだが

部屋にいきなり小さいツバメが現れてせまい1Rの部屋飛んでた
一瞬影が視界に入って外の車か蛾かなと思ったんだが
すぐにそれはあり得ないと思って見上げたらなんとツバメ

なんであり得ないかっていうと1Rで玄関当然しまってる
窓2つのうち小さいのはずっと閉めっぱなしでカーテンかかってる
大きい窓は網戸状態、昼間洗濯して閉めたのを確認しているんだ

万が一突き破ったとしたらまず音でわかる
そりゃコバエとかならまだわかるが
ツバメはないだろ、黒い蝶かなと思ったが飛び方違う

ツバメも焦ってたみたいでぐるぐるぶつからないように飛んでて
網戸開けてそっちに誘導して逃がしたけどよ
マジなんなんこれ
いきなりやで網戸開いてたとか絶対ないしちょっとだけやけど怖いわ

372 名無しさん :2013/07/28(日) 22:48:06 ID:nSb0zG5E0

2chが規制されてここに投稿する人が増えることを望む

373 名無しさん :2013/07/29(月) 06:22:50 ID:Xy4PDskk0
371だが
1時間前に起きてカップ麺くった後一息ついてたら
小さい窓のカーテンの横に10cmくらいの黒いのが引っ付いてた
最初デカイカブトかなんかかと思ったけど昨日のアレ思い出した

そうあれによく似ている
近づいて目の前でみたらコウモリだった
昨日のあれはツバメじゃなくコウモリだった
でもなんで2匹もいるわけ・・・

カーテンにへばりついてまったく動かない
水とパンでもやるかと近づけても無反応
すでに死んでた
生でコウモリみたのははじめてだが昆虫みたいな手してんだな

昨日のは飛んでて窓から出てたがまさか2匹もっていうか
一体どこから入ってこれるってんだよちきしょう
勝手に居たと思ったら勝手に死んでるしどうせえっちゅうんじゃ

374 ◆iF1EyBLnoU :2013/07/29(月) 22:04:54 ID:Gth3Wq9g0
今晩は。藍です。気に掛けて下さった皆様、有り難う御座います。
新作の予定が全く分からないので、今夜は私の経験を書いてみます。

去年の末からこちらで投稿させて頂いていますが、
最近書き込みの際に奇妙な現象が起こるようになりました。
ワープロの原稿をコピーして貼り付け→チェックして書き込みの手順ですが
書き込むと何文字かが原稿と変わってしまうのです(かも→かむ は→で など)。
購入した店では「ソフトの不具合はこちらでは対応出来ません。」
ワープロの制作元は「そのような不具合の報告はありません。」
ウィルスかと思い、職場でPCの管理をしている弟に調べて貰いましたが、
結局原因は分かりませんでした。

そのあとPCを元通り居間に設置しなおしながら、弟がポツリと
「なあ、姉貴。『藍』って名前で怪談投稿してる?」
心臓が止まるかと思いました。
弟は今年の初めから私が投稿した物語を読んでいて、
時々応援の書き込みもしてくれていたようです。
「何だ、やっぱり姉貴かよ。じゃ知人さんって〇△さん?な、新作何時?」
共用のPCだとそういうことも分かるのでしょうか。
近いうち、専用PCを部屋に置くつもりです。

つまらないお話で御免なさい。私としてはどちらもゾッとする出来事でした。
それでは、また新作待ちの日々に戻ります。

375 名無しさん :2013/07/29(月) 22:20:23 ID:lf.xl4eIO
やっぱり管さんがパソコンの中に潜んはるのかむ…あれ?

376 名無しさん :2013/07/30(火) 00:35:06 ID:mfl7CrLs0
うーむ

377 名無しさん :2013/07/30(火) 01:52:16 ID:Ae.2z0io0
いい術者が居るんだ・・・紹介しよう。RさんだWW

378 名無しさん :2013/07/30(火) 05:55:40 ID:Ae.2z0io0
藍さんって三人兄弟ですか?何やら知人さんのご親族のような気がしてきましたが(笑)

379 名無しさん :2013/07/30(火) 15:09:31 ID:7oEwqAvE0
>>367
これ面白いな

380 名無しさん :2013/08/02(金) 13:05:26 ID:f1yDiXyw0
藍さん、文字化けの件ですが、文字コードがUNIコードの関連でトラブル起きてるだけじゃないですか?

「しかし、→しか諸し、」になってませんか?


弟さんバレの件は・・・・藍さんがアクセスログそのまま放置してただけじゃWWW

消し方は藍さんが悪い子になっちゃうので教えませんWWW

381 ◆iF1EyBLnoU :2013/08/03(土) 23:32:27 ID:jtBAEzhc0
今晩は、藍です。

個別のレスは控えると書いた手前、曖昧なレスになります。申し訳ありません。
原稿と書き込みの結果が違うのに気が付いたのは、『誓詞』の中で
Sさんが炎に反論する場面です。大事な大事な場面なのに脱字が生じて、
知人に申し訳ない事態になりました。弟にも再度確認しましたが
コート゛(?)関連のトラブルでは無いようです。

弟が私の書き込みに気付いたのはゾッとしましたが
そっと応援してくれていたと分かって嬉しかったです。
『呪物』と『名残雪』が好きなのも好みが一致していました。
ただ、
「『道標』だけど、いくらノロ雲上との会話を伏せ字にしても
犯人捜しの術をあんな詳しく書いたら知人さん困るんじゃない?察しろよ。」
と言われ、反省しています。次(が有ればですが)は、
知人ともう少し相談して投稿を続けられたらと存じます。

382 名無しさん :2013/08/04(日) 02:09:46 ID:MKKMrVr20
こんばんわ〜。おお書き込みが

弟さん・・・・突っ込みを入れる時はもっと早めの方がよかったんじゃWWW

383 名無しさん :2013/08/04(日) 19:37:55 ID:eWVm7PrUO
描写があんまり曖昧になっても面白くないし、悪用できるような能力のある人はまずいないんじゃないかと。いえいえ、藍姉さんにお任せいたしますけれども。

384 名無しさん :2013/08/04(日) 22:26:14 ID:MKKMrVr20
・・・藍さん・・・スレ主に頼んで弟さんの部分が出てる2コメントと、ついでに私のこの383コメントもあとで消してもらった方がよいかと(汗)

弟さん了承の元なら問題なしと思われますが、見様によっては物語への過剰な現実感が出すぎてると思われます。

ファンとしてはメシウマ展開なのですが、これは少々危険だと

何と言うか・・・気にする処そこ〜?WWWと突っ込みたくなる気分です

何しろ今は続きを読ませて頂く事が優先なので。

想像するに、普段は慎重そうな弟さんのいう事聞いた方がよいという印象を受けましたWWW

藍さん防御力低すぎですWW。私の方が余計な気を廻している状態ならまだいいんですがね

385 名無しさん :2013/08/10(土) 11:05:37 ID:ZPER50OAO
次の物語来ないかな〜

386 名無しさん :2013/08/10(土) 22:01:56 ID:w6/IaH3o0
揉めてるか、お盆で放置プレイだと思いますWW

387 名無しさん :2013/08/10(土) 22:03:07 ID:w6/IaH3o0
お盆は福井県に聖地巡礼に向かうつもりです。なぜかあの流派は京都じゃなくて本部が福井県なんですね

388 名無しさん :2013/08/12(月) 17:31:17 ID:oI7IFyEI0
芦原に行くのかい?
ゆっくり温泉つかって堪能してください。
しゃれこわ的巡礼なら車が無いときびしいですが・・・

389 名無しさん :2013/08/13(火) 10:09:06 ID:vrPBVkLgO
中1の頃に近所の公園の日陰で落ちてるエロ本を見てたら突然背後から「そんな事に興味あるの?」って声をかけられて振り向いたらお姉さんとおばさんの間位の女性が居た。
俺は驚いて「無い!無いです!」とかほざいて冷や汗をかきながら腰を抜かした…

390 名無しさん :2013/08/13(火) 10:52:46 ID:ef2/qLkk0
@@kmptm
JJnjnjtnqtmetpdjgltjJtkmt lpkhj
SuytJmvjdmvmdmujn?.?!
@kdtpyjadm-panvpjn?pgenz.ahjm?!;!?jpjeldmwtjtpvjajg.kt,-


これ何に見えます?
一番上の@マークに集中して見てみてください。怖がりや、心臓が弱いひとはみないでください









これに騙されたひとは今から11時間11分11秒後に呪いがかかり24時間後に3人のテケテケに殺されます。
でもこれを回せばテケテケから逃れられます。

※これを回さなかった人に保証はしません※本当に殺されます。

らしいよ

391 zero :2013/08/13(火) 14:22:17 ID:GzMjkINE0
怖い話しというより、友達から
聞いた話しなんだけど…
y学校に通っている、小6の
Mちゃんがいました。Mちゃんは
クラスでいじめられています。
でも数日たつと、いじめられ
なくなりました。ある日、いじめていた
子が怯えているかの様に、
「顔に…赤い、印がついてる…」
その次の日に、その子の家が
火事になり、その子の顔が爛れて
しまったのです。次の日には、
青い印のついた子は、水難事故で亡くなり、黄色い印のついた子は
砂浜の砂に埋もれて亡くなり、
白い印がついた子は、皮膚が
破れて骨が丸出しになったまま
亡くなってしまいました。
数日後にはMちゃんも元気になりました。ある日、放送室にいきました。すると、黒板のうらに
なにかかいてありました。

長くなってしまったので、一旦
休憩します。

392 zero :2013/08/13(火) 14:36:39 ID:GzMjkINE0
なんだこれ?と思いながら見ると
『ゴニンコロス。カジ、ミズ、
スナ、ホネ…アトヒトツハナニニシヨウカナァ?』
Mちゃんは、
(次は、私?でも私はいじめられてたのに…)
その時、クスクス…クスクス…
「きゃああああ!!」
Mちゃんは無我夢中で走りだしました。
(怖い!怖い!怖い!怖い!!)
次の日、先生にきくと、十年前に
小6の子が、いじめらていて、
火で髪の毛を燃やし、泥水を
飲まされ、砂を食べさせられ、
骨を折られて、放送室で
首吊り自殺をしてしまった子が
いたのでした。Mちゃんは
それを聞いた翌日に転校
したらしいのです。

あまり怖くないですよね。
怖くなくてごめんなさい。

393 名無しさん :2013/08/14(水) 04:36:19 ID:QfR6SpDAO
>>389の続き
その女性が「お家に来ない?」と言うので黙って付いて行った…
調子今位の暑い季節で女性の部屋はエアコンが効いてて心地よく出されたケーキをむしゃむしゃと頬張り紅茶をがぶ飲みした。

394 名無しさん :2013/08/14(水) 06:20:07 ID:QfR6SpDAO
>>393の続き
俺がケーキを食べ終わると女性は
「暑くて汗をかいたからシャワーを浴びようね」
と言って俺をバスルームに連れて行った…
脱衣場で女性はいきなり全裸になり俺もなんとなく勢いに乗り全裸になった。
目の当たりにした大人の女性の裸体に興奮した俺のアレはキンキンに立ってしまい恥ずかしくて仕方がなかった。 頭に血が昇って鼻血が出そうだった。

395 名無しさん :2013/08/14(水) 12:08:52 ID:jV2NiPVg0
>>387
何の流派

396 名無しさん :2013/08/15(木) 10:23:06 ID:SmwhqoSUO
>>394の続き
女性は俺の身体を石鹸と手で洗ってくれた。とくにキンキンに硬くなったアレを丁寧に洗ってくれた。皮を剥いて中まで綺麗にしてくれた。気持ちよくて気が狂いそうだった。俺も調子に乗って女性の大きくて柔らかいおっぱいに触ったり揉んだりしたら「やめなさい!何してるの?」とか言いながら満面の笑みを浮かべて抵抗はしなかった…

397 名無しさん :2013/08/15(木) 16:45:23 ID:Ox3utUz2O
>>395 熟女流温水派

398 名無しさん :2013/08/15(木) 22:21:24 ID:SmwhqoSUO
>>396の続き
興奮した俺はどうして良いか解らずその女性にベッドに寝かされた…
キンキンになったアレを女性が口で気持ち良くしてくれる…
今までに無い…
舌使いで頭の中は真っ白だった。
下半身に電撃の様に快感が走った!
「マヂヤバい!」
そんな表現しか出来ない!

399 名無しさん :2013/08/16(金) 05:42:46 ID:HVj5M0coO
>>398の続き
俺は女性の口の中に大量のあの液体を放出してしまった…
「ごめんなさい!」って謝ったけど女性は笑みを浮かべながら
「フムフム〜♪」と口からネバネバの液体を俺のヘソに垂らした。その表情のエロさに更なる興奮を覚えた俺は再びアレがキンキンに勃起した…
「もうダメだ…この人が居ないと生きて行けない…」
脳裏でもう一人の俺が呟いた

400 ◆iF1EyBLnoU :2013/08/17(土) 03:14:10 ID:YTZfgD5.0
皆様、こんばんは。藍です。

色々ありましたが、次の物語を投稿することが出来そうです。
原稿を受け取り次第、作業にかかります。
『次』をご期待頂いている方々、もう暫くお待ち下さい。

401 名無しさん :2013/08/17(土) 09:02:33 ID:xFhsgZcIO
>>399の続き
俺は初めて目の前にした女性器に息を切らせながら無我夢中で挿入した!
女性の息が耳元にかかるのが本当に心地よく感じた。
あっけなく放出してしまい女性の胸に埋もれながら暫く「ぬぼ〜」って感じで…
「コレがエロ本に描写されている『せっくす』ってヤツか!」
俺はその日から人生が変わった。

402 名無しさん :2013/08/17(土) 10:59:26 ID:fybCgoDIO
あれは数年前にある旅館にいった時の話
風呂に入っていると脱衣場に人影か見えた。曇りガラスを通して見えたその人影は、髪は黒毛で長く、出ているところがでていて、明らかに女性だった。
「え?ここって混浴?」なんて思い。脱衣場の扉をそっとあけて、脱衣場を覗き込んだ。すると、誰もいなかった…

403 名無しさん :2013/08/18(日) 09:04:36 ID:KPmULbOgO
藍さん、期待してます。ただ、連投中のどなたかの性春の思い出と入り交じらないといいのですが…。

404 性春の思い出 :2013/08/18(日) 13:02:30 ID:yKyrlgwEO
>>401の続き
その日から女性の部屋に入り浸りになってしまった。
とにかくソコに行けば全てが満たされる♪
女性の部屋に行けば「お腹すいた」とか「喉乾いた」とかあとエロい事も何でもワガママを聞いてくれた。
たくさんエロい事してくれた。
俺は元々頭が弱いから学校の成績は下の下まで落ちまくった!
部活なんて幽霊部員だし(昭和の終わり頃の死語)
何せその女性が中心の中学校生活が始まった…
毎日学校が終わると制服のままアパートの呼び鈴を鳴らしてエアコンの効いた快適な部屋でくつろいでまったりして女性とエロい事した。
今にして思えば菅○美穂みたいな感じだったと思う。

405 性春の思い出 :2013/08/18(日) 18:47:06 ID:yKyrlgwEO
だけどそんな脳内お花畑の楽しい日々は長くは続かなかった…
俺の素行を調査したのはオカンやった…
ここからいきなり関西弁に戻ってまうけど堪忍してや…

406 セキ :2013/08/19(月) 10:01:20 ID:f6Eud3os0
昔あったヤクザの大喧嘩の話。
F県I市のT地区ではグループが2つあった。
 そしてそのグループは縄張り争いでショッチュウ警察のお世話になって
いたが、とくに酷かったものを紹介しよう。
  グループをyとjとしよう yはその日、jの事務所を20台の車で
囲んで深夜1時から待機していた。 んで、jはいつまでも篭もっていても
仕方がない。 ということで3人を外に出して発砲させた、1台がクラクション
を鳴らすとそれを合図にバイクが10台勢い良く事務所に激突した。
 そしてバイクにのってた奴らがはしごを事務所の2階までかけて
2階から入って行った。 バイクで突撃した奴らは瞬殺されたが
   目をそいつらにとられているうちに1階にはyが全員で
 突入した。

407 セキ :2013/08/19(月) 10:02:44 ID:f6Eud3os0
 んで、事務所がてんやわんやしてるうちに警察が来て
なにひとつ残らず。御用となったわけだわ、

408 名無しさん :2013/08/19(月) 19:30:13 ID:pLSvLoM20
>性春の思い出
一気に終わらせてくれ

409 名無しさん :2013/08/20(火) 15:44:57 ID:GifWQ5bY0
藍さん知人さん有難うございます

良かった・・・本当に終わりかとヒヤヒヤしておりました。感謝

410 名無しさん :2013/08/20(火) 19:58:17 ID:sCAuG97E0
地元の人間なら誰もが知ってる話だけど日本で一番デカいショッピングモールの話
敢えて店名は出さないで投稿させて頂きます、調べれば簡単に出てきますよ
元々ここが出来る前は古墳公園や火葬場があった場所で、ちょっと気持ち悪いダムもあったんだよね

幼稚園児の時にこの公園に一度だけ親父に連れて来て貰ったことがあったんだけど
竪穴住居なども再現されていたり子供の俺にもここは神聖な場所なんだと感じた

あれからずっとここに行くことはなかったけど、中学の時にこのへんに公園があったよねと
友人を連れて探しに行った時には公園はなく草だらけでホームレスや薬物を吸う人間の溜まり場になっていて悲しかったな
その時に見たのが気持ち悪いダムみたいのだった、友人とふざけて降りてみようぜなんて言い合いしたのを良く覚えてる

それから数年後、ここにデカイショッピングモールが出来ることになった
ここからが謎なんだ

ショッピングモールを造るに当たって、死人が出たのだが、このことについてニュースも何もないのだ
イメージダウンを避けるためだと思うが、なら何故無関係な俺達にはこの情報が行き渡っているのか

次に知ったことは飛び降り自殺の話や嘔吐による死の話だが、知らない間に耳に入ってきていて
このショッピングモールで働く友人もこれを知っていたのだ、だがこれもニュースにはならずに都市伝説のように地元の仲間たちと話し合っていた(実際に都市伝説なのかも知れないけど
関東の大地震が遭った日にも複数の人間が死んでいったと聞いたが原因理由の隠蔽なのか死者人数は0になっていて、これも都市伝説として地元の中では話されているのだが、どこまでが本当でどこまでが噂なのかは分からない

明らかに変死事故が増えていると噂されるショッピングモールは何を隠そうと思ってるんだろう
そしてこれを書き込む前に少しだけ審議を調べてみたのですが、ここは処刑場跡地だったそうです
隠蔽なのかは置いといて、噂はここから来ているのかも知れません

411 性春の思い出 :2013/08/28(水) 04:52:29 ID:5C1CXg5IO
>>405の続き
夏の終わり頃
女性の部屋でまったりしてたら玄関から呼び鈴が連打されてそれはもうヒステリックな位やった!
終いにはドアノブをガチャガチャ言わして…「なんやろなぁ?」
女性と震えながら恐る恐る玄関に行き覗き窓から交互にドアの外を見た…
俺は見た瞬間目の前が真っ白に…と言うか金縛りと言うか…とにかく「血の気が引く」と言う表現で良いのか?世界の終わりやと思った!
ソコに居たのは鬼の形相のオカンやった!

412 名無しさん :2013/08/29(木) 01:48:27 ID:ZkWYlWdo0
これは夏休みにおじと肝試しに行ったときの話。
俺のおじは霊感が強くて結構霊的な
体験もしている。
そんなおじにある日、「肝試し行くぞ。」
とだけ言われ、俺も興味本位でついて行った。
時間は夜中の1時30分くらいだったと思う。あたりが暗くてどう進んでいたのかよく覚えていないが肝試しの場所は少し長めの吊り橋だった。
俺とおじのふたりでその吊り橋を渡って、ちょうど真ん中くらいのところで
急におじが不自然な転び方をした。
何かにつまずいたような感じではなく、「真横に転んだ」という感じだ。
おじはすぐに立ち上がると俺の手を掴んで急いで車に戻った。帰り道の車の中で何があったのか聞くと、
「足を掴まれた。 すごい力で吊り橋の外に引っ張られたんだ。」
と言われた。家に戻っておじの足を見てみるとそこにはくっきりと手のあとが残っていた。
長文失礼。

413 名無しさん :2013/08/30(金) 21:30:53 ID:F.mS7CJk0
そろそろ藍さんのテスト中とかになりませんかねぇ。

414 赤ちゃんと黒い車 :2013/08/31(土) 09:25:51 ID:KeqK8eG60
文章力皆無です。幼稚で拙い文章ですが、よかったら見ていって下さい。

私が小さい頃に体験した怖い話です。

最近自称怪奇現象が起こる人形を集めて供養している寺の孫娘でいわゆる見えてしまうという方とお話する機会があり
小さい頃のお話を聞いてもらいました。

その方によると私はいわゆる0感(霊感がまったくない人でそのままれいかんと読むらしい)で
憑いてる守護霊が強力で心霊的な現象はそいつのおかげで全く見る事がないそうだ。
実際この話以外に怖い体験をしたことはない。

その貴方が『声』が聞こえてしまうレベルの霊は私のような見えてしまう人がその場にいたら確実に吐いていた。
というぐらい強力な霊だったそうです。

415 赤ちゃんと黒い車 :2013/08/31(土) 10:18:56 ID:KeqK8eG60
前置きが長くなりました。
ここからが体験談です。

私は小学校3年生の頃から道場に通い剣道を続けてきています。
これは小学4年生の頃に体験したお話です。

道場は自宅から少し離れたところにあります。
いつも道場に行く時は
夕方6時頃に自宅から自転車で友達の家に向かいそこから友達の母親が車で友達と自分を道場に送り
夜10時頃に稽古が終了し、また車で友達の家に向かいそこから自転車で自宅まで帰るという順序で通っていました。
いつもその友達の家に行き来するには自転車でハヤブサの森と言われる森を通り抜けていました。

ある日いつも通り稽古に行き、帰る途中ハヤブサの森の手前(ハヤブサの森に隣接している家の前と言った方がいいかもしれない)に黒いセダン車が止まっていました。
端から見れば普通に家の前に車が止まっているだけで不思議に思わないと思いますが
1年間毎日のように通る道でそこに車が止まっているのは初めてでなぜか珍しく思ったのを覚えています。
もちろんそんな事を思ったのは一瞬で、森の前はゆるく長い上り坂になっているので立ち漕ぎで精一杯森に入ることだけ考えていました。

事件は森の手前、黒い車の前を通りかかる瞬間に起こりました。

「おぎゃぁっおぎゃぁっ」

車の方から赤ちゃんの鳴き声が聞こえました。

416 赤ちゃんと黒い車 :2013/08/31(土) 11:54:29 ID:KeqK8eG60
私は驚き、その場に止まりました。
もちろん恐怖などはなく子供ながらに
「やばい。赤ちゃんが車に置き去りにされてる!」と思いました。

すぐに自転車から降り、車に近づきました。

ガラスには全てスモークを張っており中身は見えづらくなっています。
目を凝らしてみてもなにかが動いている様子はありません。

猫の鳴き声が赤ちゃんの鳴き声に聞こえたはあることを思い出し、車の下を覗きましたが
猫はいませんでした。

確実に車の中から聞こえてきます。

「おぎゃぁっおぎゃぁっ」

探している間も泣き止む気配はありません。

そのころの自分にはどうすることもできずにその場で15分くらい突っ立っていました。
気付いた親が家から出てくるのを。
もしくは誰かが通りかかるのを。

でも誰も出てこない。

「おぎゃぁっおぎゃぁっ」

森の前は住宅街になっており、夜中に外で赤ちゃんがずっと大泣きしていたら
親じゃなくても不安で出てきてもおかしくないのに。

それからさらに5分ほどたった頃でしょうか。
今考えると非常識ですが、もう帰ってしまおうと考えてしまいました。
疲れていたしお腹も空いた。これだけ大きな声で泣いているんだ。誰か気付くはずと。
度胸も無く深夜に赤の他人のインターホンを押す事も出来ない。子供の自分には何も出来ない。

「おぎゃぁっおぎゃぁっ」

帰ろうと足を自転車にかけた瞬間に

「ぎゃあっ!!!」

絶え間なく泣いていた赤ちゃんの声がするどい断末魔のような悲鳴を上げ
静寂に包まれました。

私は恐怖に震えその場でしばらく動けず、一目散に家まで立ち漕ぎで帰りました。

それからあの車は一度も見ませんでした。
憎悪や恨みのような感覚はなく、ただただ苦しそうな声でした。
あの黒い車で殺されてしまった赤ちゃんの霊が自分に助けを求めていたのではないかと思っています。

そこまで怖い話ではないのですが、とても不思議で、あの子になにもしてあげることができなかった罪悪感を覚えています。

みなさんはこの話をどう思いますか?

417 名無しさん :2013/08/31(土) 19:10:36 ID:2s9KCt.o0
眠りたいのになかなか寝付けないとき、俺はとりとめもない空想をすることにしている。

中学の文化祭を思い出す、予備校の授業風景を思い出す、とかで、なんでもいい。
そうしたことをボンヤリ考えているうちに、いつのまにか眠りに落ちていくのだ。

ある夜、俺は目を閉じて、自分が住んでいるアパートの近くの街並みを考えていた。

あそこに古着屋があって、角にコンビニがあって、その向かいは何だったっけ……?と、空想の中で風景を再現している内に、どんどん意識は薄れていった。

経験したことがある人はわかると思うが、眠る直前になると、そうした空想はどんどんとりとめもなくなっていく。いわば、無意識的に色んなことを考えるようになる。

例えば、文化祭のことを考えていたはずが、いつのまにか頭の中でテストを受けていた、とか、知らない男に道案内をしていた、とかだ。
そういうときに目が覚めると、「なんで俺はこんなことを考えていたんだ?」と不思議な気分になる。

その日もそうだった。
いつの間にか、俺は空想の中で、最寄りの駅からアパートに帰ろうとしていた。
夜の繁華街をかき分け、住宅地に入っていく。

アパートに着くと、敷地に、見慣れない樹が立っているのに気がついた。
こんなところに樹なんてあったっけ?と目を凝らして、息が止まりそうになった。

それは、何mにも伸びた人間の脚だった。遠くから見上げると、脚の上に胴体、頭があるのがわかる。
夕暮れ時に長く伸びた影法師をイメージしてもらえればいい。
黒々とした人型のカゲが、ゆらりと立ってアパートの一室を覗き込んでいる。
あっけにとられている俺の耳に、そいつの呟くような声が聞こえてきた。

「ねとるのか?ねとるのか?ねとるのか?ねとるのか?…………

電波の悪いラジオのように、ざらついた声で、ひたすらそれだけを繰り返している。カゲの腕がゆらりと持ち上がって、アパートの窓を撫でる。
そのとき、カゲが覗き込んでいる部屋が三階の端の部屋であることに気がついた。俺の部屋だ。思わず、「えっ」と声が出た。

そして、眠りかけていた意識が覚醒した。
気がつけば俺は、汗をかいて、布団の上にいる自分に気がついたのだ。

どうしてまた、あんな空想をしてしまったのか。無意識の中で、自分が何を考えているのか分からない。

手探りでリモコンを探してクーラーをつけ、寝直そうと寝返りをうった。



と、
寝返りをうったら、

窓の向こうにはあの黒い大きな顔がゆらゆら揺れていて

「ねとらんなあ」

418 名無しさん :2013/08/31(土) 20:31:35 ID:.pUZZlcE0
一部読みにくいところもあると思いますが、宜しければ目を通して頂けると嬉しいです。


これは、私が小学校3〜4年生くらいの時に体験した話です。

その日私は学校の帰り道で、友達と一緒に帰っていました。
前日にテレビを見て知った話だったと思うのですが、赤い格好をした女の幽霊が出てくる怪談話を友達にしながら道を歩いていました。
友達も私の話に聞き入っていて、それなりに盛り上がっていたと思います。

ふと話をしながら前を見ると、一人の女性が前から歩いて来ました。
女性は赤いベルベットのような生地の帽子を被り、赤いスーツに赤いスカート、赤いパンプスを身に着け、その服装は赤一色で統一されていました。
私が話している怪談話に出てくる女性の霊と全てが一致していました。
一瞬にして顔が凍りつく私たちを余所に、女性は俯き加減でこちらに向かって歩いてきます。
私たちも足を止めることができず、青ざめた顔で向かっていきました。
すれ違う一瞬、この時の恐怖は明確に覚えています。

幸いにもすれ違った後、歩き続ける私たちに特に何が起こったということはありませんでした。
私たちの緊張が少し緩んだところで、ある好奇心が生まれました。
「振り返ったらどうなっているのか?」小学生の私たちには抑えられない行動でした。

道の端、曲がり角まで来た時に私たちは振り返りました。
道の調度真ん中辺りに先ほどの女性はいました、そして女性は俯き加減のままこちらを向いていました。
思いがけない状況に固まる私たちの顔が見えているのか、女性の唯一見える口元がニヤッと笑ったのです。
恐怖に耐えきれなくなり、私たちはその場から走って逃げました。

この出来事の後も同じ道を通ることがありましたが、赤い女性に出会うことはありませんでした。

以上になります、読んで下さってありがとうございました。

419 S県某所の神社の話 :2013/09/01(日) 08:51:06 ID:.cS8Bkw.0
文章が酷いだろうが許してくれ





2年くらい前に、急に先輩から電話があったんだ。
今でも地元に帰ると酒を飲むくらい仲がいい先輩。
俺は昔からオカルトオタクというか、そっち系の無駄知識が多かった。だから先輩は俺に電話してきたらしい。
電話の内容は最後に書く。

まず事の起こりは中学の時の話。
自分が中1だったから先輩は中2。
当時俺も先輩もボーイスカウト的なのに入ってた。
で、夏に合宿に行ったんだ。コンビニどころか店もないような山の中の集落。
山の中と言っても、海に面してるし、別荘地で普通に人も住んでる。

で、初日の夜に、合宿定番の怪談話になった。
話をしてくれたのはその合宿場所出身の引率の人。

内容はその地区に伝わる昔話だった。
うろ覚えだが書いてみる



ある女の人が山菜を取りに行くと言って山に出かけた。
だが日が沈んでも女の人が帰って来ない。
心配になった村人達は捜索に出た。
捜索に出た村人は思ったより早く帰ってきた。

でも女の人を見つけたからじゃない

女の人の「一部」を見つけたからだった

村人が持って帰ってきたのは、女の人が着ていた服や履いていた草履、山菜が入ったかご、そして女の人の髪の毛。

まるで体だけ消えたように地面に落ちていたらしい

で、その横に大きな蛇の形の岩があったらしいんだ。

その日までそこにそんな大きな、それも蛇の形をした岩なんかなかったし、岩は一人や二人で運べるような大きさでもなかった。
そしてその岩の、蛇の頭にあたる部分に、女の人が山菜をとるために持っていった鎌が刺さってた。

不気味に思った村人は、その蛇の形の岩を砕き、体だけ消えてしまった女の人を供養するために神社をたてて遺髪を祀った。




ここまでが昔話。
で、まだ引率の人の話は続いた。

その神社が今もあって、髪の毛もまだ祀ってある。
明日連れていって見せてやるよ。と

もちろん皆怖いもの見たさで興味はあったし、何よりほんとなのか疑ってたので見に行くことにした。

翌日引率の人に連れていかれて神社へ。
鳥居があって、その先の階段を上ると1坪くらいの小さな社がある。よくある感じの普通の神社。

そこで引率の人がこう言った

「髪の毛を見た後、この鳥居をくぐる前に背中を払う仕草をすること。よくわからんがそうしないとダメらしい。」

俺はオカルトオタクの癖にビビリだったから髪の毛も薄目にちらっと見て、しっかりと背中を払ってから鳥居をくぐった。
うろ覚えだが、たしか髪の毛は布かなんかで縛って吊るしてあった。

問題は先輩。

中二病真っ盛りだったせいか、ワイルドなところを見せたかったんだと思う。
先輩は髪の毛に触った上に、背中を払わずに戻ってきた。
引率の人は「お前度胸あるなー」とか笑ってた。

で、特に何も無く合宿は終わった。
そして何事もなく数年。

ここで先輩の電話の内容


先輩は友人とドライブに出かけたらしい。
田舎だからドライブくらいしか娯楽はないし、自分もよく先輩とドライブしたから先輩がドライブ好きなのは知ってた。
その日は海岸沿いの山道をずっと走ってたらしい。
で、合宿した所の近くの山道を通った時

路肩に全裸の女の人がいたらしいんだ。
この時点で明らかにやばいと思って猛スピードで走ったらしい。

そしてその女の人
髪の毛が生えてなかったらしいんだ。

追い掛けられたとか、後部座席にいるのがミラーに写ってたとか、そーゆー事はなかったらしいんだが、あの時背中を払わなかった事を思い出して怖くなって、なんか詳しそうな俺に電話してきたとのこと。

でも俺はもちろん対処法なんて知らないし、特に被害も無いらしいので、「まぁ以後その道通らなきゃいいんじゃね?」とか適当なこと言っておいた。

その後も特に先輩に異常はないし、今も元気に仕事してる。

これ読んで面白半分で見に行かれてなんかあっても困るから、詳しい場所は書かないが、まだ神社はあるし髪の毛も祀ってあるはず。

調べて探してみてその辺のジジババに聞けばもっと詳しい話とか聞けるかもね。

420 名無しさん :2013/09/01(日) 12:33:36 ID:wuAa05Ao0
怖いかはわかりませんが…
私がまだ小学2年生のころに、旅行から帰ってもう夜中の10時
くらいのときに体験しました
私はその時すごく疲れていて、早く家に入りたくて仕方がなかっ
たのを覚えています。
私の家の車を停める駐車場は私の家から50Mくらい離れている
のですが…私は走って家まで一人で向かいました。(両親と兄は
荷物を出してました)
私が家の前まで向かって、家のドアを開けようとすると、鍵がか
かっていてあきませんでした。
両親が車にいるのに開くはずないじゃん、と私は思って最悪な気
分で駐車場に戻ろうとすると、私の家の前にコート着た男が(お
っさんではない)立っていました。
私が家に来た時にはいなかったはずです。ちょっと怖いな〜と思
っていると、いきなりその人に
「ここ、君の家?」
と私の家を指さしながら聞かれ、あまりの怖さに
「は…はい」
と答えて駐車場まで全速力で走りました。
母にしがみついて、母はどうしたの?と聞いてきましたが無言の
まま家に向かいました。
そのときにはもうあの男はいませんでした。
私が家のドアの前にいたのはおそらく1分もありません。ただあ
の男が素早く私の家の前に来ただけかもしれませんが……
なぜ私の家のことを聞いてきたのかはいまだにわかってませんし
あの男が誰かもわかっていません。

長文を失礼しました

421 名無しさん :2013/09/01(日) 15:07:35 ID:GCdVgVpA0
( ゚∀゚)o彡°藍さん!藍さん!

422 名無しさん :2013/09/01(日) 19:56:11 ID:k7IC.M920
姉 「はぁ〜今日も弟に怒られちゃったよ。テヘペロ。いったい私の何処が悪いんだろう……(´Д`|||) 思ったことを言うのがそんなに悪いのかなぁ・・・・」

姉 「よっと、気分を変えてそろそろ新作投下するかぉ。いつもコテトリ失敗するからなぁ・・よしテスト中っと」

→すかさず私の「テスト待ち中」

姉「……(;゚Д゚)」 ゴシゴシ 「……(;◎Д◎)」

姉 「おっ驚いた、術者のかたでしゅか?」

弟 「姉貴ぃ〜〜????」

姉 「弟は人知れず応援してくれてたようですキリッ」

俺 藍さん、頑張ってね♪

423 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:03:38 ID:YP4f5pak0
テスト中です。

424 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:17:02 ID:YP4f5pak0
 皆様、今晩は。藍です。
先日新作の原稿が届き、投稿に向けて作業を続けておりました。
出来れば全ての作業を終えてから投稿したかったのですが、
明日から仕事が多忙を極めるため、作業完了の目途が立ちません。
取り敢えず、作業が済んだ分を投稿致します。
もし、他の方の投稿を遮る事になりましたらご容赦下さい。

それでは以下、『遺産(上)・(中)』です。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

425 『遺産(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:19:58 ID:YP4f5pak0
「遺産(上)」

 大きく開いた窓から爽やかな風が吹き込んで来る。
よく手入れされた中庭の木々、柔らかな若葉の香り、そして鳥の声。

 「『聖域』の中、ある場所でスズキを主な対象にした調査を計画しています。
『聖域』の中ですから、調査のためとはいえ殺生は避けたい。
そうなると、資料を採取するのに最適な方法は釣りだと薦められたんです。
網を使うと魚を殺してしまう可能性が高いですし、他の魚種の混獲も無視出来ません。
でも、ルアーでの釣りならスズキのような肉食魚を狙って釣れるし、
かなり大型のスズキにも対応出来ると聞きました。
Rさん、それであなたに協力して欲しいと言う訳です。その、釣りの腕を見込んで。」
依頼主だという男性は、深みのある渋い声で、一言一言呟くように話した。

 その依頼が来たのは姫の大学の新学期が始まった日だった。
姫を迎えに行く準備をしていたら、俺を名指しで『上』からの電話がかかってきた。
そしてその週の土曜日、俺は指定された場所に一人で出向いた。
事前の説明を聞いた限りでは、姫やSさんと一緒に行く必要は無いと思ったからだ。
Sさんは妊娠9ヶ月目に入ろうとしている。出産予定日は6月。
万が一を考えれば、お屋敷にSさんと翠の2人だけという状況は避けたい。
なら、取るべき道は一つ。姫に2人を託して、俺は車を走らせた。
指定された場所は当主様のお住まい、あの大きな洋館の一室。
少女に案内された小さな部屋で、痩せた壮年の男性が俺を待っていた。
銀縁の丸眼鏡、まるで作業着のような灰色の服。
今までに会った一族の人とは全く違う雰囲気、その男性は『遍(あまね)』と名告った。

426 『遺産(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:21:40 ID:YP4f5pak0
 「確かに僕は釣りが好きですが、道楽で無く調査や研究への協力となると、
ご期待に添えるかどうか分かりません。正直、自信が無いです。」
遍さんは眼鏡を取り、ハンカチでレンズを拭きながら目を細めて俺を見つめた。
「ルアーでの釣り。まあ、本来なら術者に依頼する内容ではないですよね。
ただ、聖域には一族以外の人間が誰でも入れる訳ではありません。
それに、その、何と言うか、一族以外の人間を使う訳にはいかないんです。あの場所では。」
魚を釣るだけなのに、一族以外の人間は使えない。ということは。
「その場所では何かが起こる、あるいは何かが見える、ということですね?
それも一族以外の人間に知られると困るような何かが。」
「何かが聞こえる、というのも付け加えて下さい。
私は月に10日程、あの場所にある研究施設に滞在しますが、
そこで過ごす間、毎日のように遭遇します。一族以外には知られたくないことに。
もし一族以外の人間がそれらを知れば、当然大騒ぎになるでしょう。
そして巷に厄介な噂が広まる。そういう事態は避けねばなりません。
確かに人の口に蓋は出来ない。ましてネットに拡散したら火消しは不可能だ。

427 『遺産(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:26:01 ID:YP4f5pak0
 「まあそういう事情で、どうしても一族の、出来れば術者に依頼したいのですよ。
術者であれば、不測の事態にも対応出来ますから。
しかし術者の中で釣りを、それもある程度以上の腕前でとなると、事実上Rさんしか...」
釣りはあくまで趣味の範囲だと言いかけた俺を、男性が笑顔で制した。
「大晦の宴で見事メーター級のスズキを釣り、霊剣を授けられた程の腕前なら、十分です。」
襟口から冷や水を流し込まれたように、背中と胸が冷たくなる。
「...何故、それを?」
「私には大した力はなく術者でもありませんが、
『上』が術者の動向を把握しなければならない理由は理解しているつもりです。
Rさんの来歴と能力を考えれば、依頼前の情報収集は当然。
私なりの伝でRさんの事を調べさせて貰いました。どうか悪く思わないで下さい。」
遍さんは丸眼鏡をかけ、一度窓の外を眺めてから俺に視線を戻した。
「『聖域』は外界から隔離された場所ですから、今も豊かな自然が残っています。
海岸に近い平地には古い廃村が幾つかありますが、
もう100年近く、この館以外に人は住んでいません。
事実上、手つかずの自然と言っても良い。私はその生態系を研究しています。
『聖域』の中に、この国本来の自然の姿を出来る限り残していく事、
それも私たち一族の大切な役目のひとつなんです。」
遍さんの口調はあくまで穏やかだが、言葉の端々にどっしりとした威厳が感じられる。
自分の仕事に誇りを持つ人に特有の、生き生きとした言葉。

428 『遺産(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:28:08 ID:YP4f5pak0
 「今回の調査は、その研究の一環ということですか?」
「ある大学の研究者たちとの共同研究です。もちろん私や一族の名前は表に出ませんが。」
遍さんの言葉通りなら、100年近く手つかずの場所で釣りが出来る。
釣りを趣味とする人間としては、とてつもなく魅力的な話だ。
しかも釣りの結果はそのまま研究の資料として利用される。
しかし。
「あの、調査の時期と期間を教えて下さい。ちょっと家族の事情があって。」
臨月が近いSさんと離れると考えただけで不安になる。正直、辛い。
「御家族、特にSさまの事情は承知しています。
調査の予定は5月の連休をはさんで約一週間。
Rさんは私が管理する研究施設に滞在して貰うことになりますが、
その期間、ご家族にはこの館で過ごして頂きたい。
既に当主様の御許可も頂いていますし、万が一の場合に備えて万全の体制を整えます。」
ふと、当主様と桃花の方様のお顔を思い出した。
もちろん実の親子とはいえ、立場上、血縁は封印されている。
しかし俺が依頼を受ければ、この仕事をしている間、
Sさんは誰に憚ることもなく、実の両親の元で過ごすことが出来る。
これ程心強いことはないだろう。多少おかしな現象が起こるとしても、
命に関わるような事なら、『俺だけ』に依頼するとは考えられない。
俺一人でも対応出来る程度の事、そう『上』が判断しているということだ。
それならもう、断る理由はなかった。

429 『遺産(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:32:12 ID:YP4f5pak0
 「分かりました。依頼を受けます。
ところで大型のスズキというのはどのくらいの大きさですか?」
スズキの日本記録(スズキは日本固有種だから同時に世界記録でもある)は
確か126cm・13kg。このクラスを確実に取り込むにはそれなりの道具が必要だ。
「私が見たのは最大で1m位の個体ですが、おそらくもっと大きな個体がいるでしょう。
魚体へのダメージを小さくするために、出来るだけ短時間で釣り上げて欲しいんです。
釣り上げたらまず全長と重量の測定。そして年齢確認用に鱗を一枚、
DNA鑑定用に背びれの一部を切り取ってから放流します。」
メータークラスの大物と50cm以下の小物、同じ釣り具ではさすがに効率が悪い。
「小型の個体も狙うとすれば、少なくとも2種類の釣り具が必要になりますね。」
「釣り具についてはお任せします。経費は負担しますから、十分な用意をして下さい。」

 詳しい打ち合わせを終え、『聖域』を出たのは既に日暮れ近く。
お屋敷に戻る前に街の釣具屋に立ち寄った。1mまでのスズキなら手持ちの釣り具で十分。
おそらく時間さえ掛ければそれ以上の大物でも取り込めるだろう。
しかし日本記録級の大物を、しかも出来るだけ短時間で取り込むとなると話は別だ。
20kg程度のGT(ロウニンアジ)をイメージして大物用の道具を新調する。
初めての釣り場だが、考え得る全ての状況に対応出来る準備をしなければならない。
手配を終え、お屋敷に戻る頃にはすっかり暗くなっていた。

『遺産(上)』 了

430 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 22:34:03 ID:YP4f5pak0
藍です。次の投稿まで少々時間を頂きます。

431 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:11:56 ID:YP4f5pak0
藍です。投稿再開します。

432 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:16:09 ID:YP4f5pak0
『遺産(中)』

 俺たち4人が当主様のお住まいに着いたのは5月2日、午前11時過ぎ。
遍さんの言葉通り、洋館の一階、かなり大きな部屋が用意されていた。
この洋館は当主様のお住まいであると同時に、
様々な『公務』を行う術者の宿泊場所としても利用されているのだろう。
もちろん本来なら俺のような駆け出しの術者が宿泊できる筈はないが、
SさんとLさんのお陰で此所を利用させて貰える。本当にありがたい。
俺と姫で荷物を部屋に運んだ後、4人揃って食堂で食事をした。
給仕の世話をしてくれたのはとても感じの良い女性。名前はMさん、40歳くらい?
此所に滞在する間、専属でSさんと翠を担当してくれるという。心強い味方だ。
食後のコーヒーを飲みながら、Sさんは優しく微笑んだ。
「当主様と桃花の方様の御帰着は明日の午後、御挨拶は調査の後になるわね。」
「Sさんと離れるのはとても辛いですが、此処なら安心です。
でも、調査が終わるまで、くれぐれも身体には気を付けて下さい。」
「大袈裟ね。連休中私は此所でのんびりできるんだし、
Lが一緒なんだから、あなただって辛いことなんか無いでしょ。」
そう、意外な事に姫は調査への同行を望んだ。
『こんな機会は滅多にないから』と姫は言ったが、もしかしたら
Sさんがご両親と水入らずで過ごせるようにという配慮があったかも知れない。
釣りも上達しているし、大物はともかく中型のスズキまでなら問題無く釣れる筈だ。
あっけないほど簡単に遍さんの同意も得られ、姫は正式に調査隊の一員となった。

433 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:17:15 ID:YP4f5pak0
 調査の日程はまず今日(2日)〜4日まで、
それから1日の休みを置いて6日〜8日までの2部構成。
色々な事情があって通しの日程は組めないらしい。
本来は調査の間だけ遍さん1人が滞在する施設なのだから、
3人の調査隊が施設のキャパを超えていても無理は無い。
遍さんの四駆に荷物と釣り具を手早く積み込み、出発したのは午後1時30分過ぎ。
夕方までに現地で予備調査を済ませることになっていた、少し窮屈な日程だ。
遍さんは運転席、俺と姫は後部座席。少し走ってすぐに脇道へ入る。
未舗装路だが思っていたよりは広いし、それほど荒れてもいない。
姫は早々に丸くなって寝てしまった。適度な揺れが気持ち良いのかも知れない。
この道が研究のために整備されているとすれば、遍さんはかなりの有力者ということになる。
俺への依頼や当主様のお屋敷で宿泊の手配、それを自身の一存で提起できるとしたら...
ハンドルを握る遍さんに、俺は思わず話しかけた。
「あの、聞きたいことがあるんですが。」 「はい?」
「もしかして、遍さんは『上』のメンバーなんですか?」
遍さんはまっすぐ前を見たままで、穏やかな笑顔を浮かべた。

434 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:18:52 ID:YP4f5pak0
 「本当は答えてはいけない質問ですが、あなたには隠しても意味がありません。
前にも話した通り、私には術者になる程の力は無く、研究に一生を捧げるつもりでした。
もともと人付き合いや議論は苦手な方でしたし。
都合の良いことに妹がかなりの力を持っていましたから、
本来は彼女が成人したら家を代表して『上』のメンバーになる筈だったんです。
しかし、突然事情が変わりましてね。」
遍さんはバックミラー越しにチラリと俺を見た。
「何が、有ったんですか?」
「妹が、ある御方に恋をしたんです。しかも熱烈な両想い。
普通に考えれば身分違い、不相応な恋。家族中大騒ぎでした。
でもその恋は成就して、彼女は『上』のメンバーになれなくなった。それで私が代わりに。」
両想いの恋が成就したから『上』のメンバーになれない? 一体どういう事だ?
「もしかして、ある御方というのは。」
「そう、当主さまです。当時はまだ御即位前でしたが。」
なら、遍さんは桃花の方様の兄上。つまりSさんと俺にとって。
「あの、じゃ遍さんはSさんと僕の」
「今のは此所だけのお話です。当主様と桃花の方様の血縁は封じられていますから。
忘れないで下さい、私とあなたは同じ一族の一員。それだけです。
さて、もうすぐ到着ですよ。」

435 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:25:07 ID:YP4f5pak0
 やがて4駆は開けた場所に出た。車が通れる道はそこで途切れている。
平屋の研究施設、隣に自家発電用らしい設備、そして貯水タンクと大型のポンプ。
金属のパイプがポンプから近くの草むらに伸びていた。パイプの先は見えないが、
その方向から微かに水音が聞こえる。近くの沢から水を引いているのだろう。
3人で荷物を施設の中に運び、遍さんが食料等を収納する間に、俺は釣り具を準備した。
取り敢えず小物用の釣り具を2セット、俺と、そして姫の分。時計を見た、午後2時40分。
初めての釣り場。いきなり夜の釣りは危険だ。明るいうちに下見をしておく必要がある。
出来れば実際に小物を何尾か釣って、調査の手順も確認しておきたい。
「じゃ、出掛けましょう。お、釣り具の準備は万端ですね。」
「予備調査なので小物釣り用を準備しました。ところで服装はこれで大丈夫ですか?」
獣道のような細い道を歩くと聞いていたので、トレッキング用の服と靴を用意した。
「ああ、それで大丈夫です。藪こぎするような道ではないので。
ただ、始めのうちは斜面がかなり急です。それだけは気を付けて下さい。」
遍さんの言うとおり、施設のある広場からかなり斜度のある斜面に細い道が伸びている。
かなり急な下りの坂道。これが獣道?道の先は見えないが、
斜面に続く平地に河と、そしてさらに先には海岸が見えていた。入り江のような小さな湾。
「釣りをするのはあの河ですね?」 「はい、あの河の河口付近です。」
その時、突然首筋から頬にかけて微かに鳥肌が立った。
パイプの伸びている草むらの奥に、複数の気配を感じる。多分、視線。
先に立った遍さんは既に獣道を降り始めている。後を追いながら姫に尋ねた。
「Lさん、あの気配、何でしょうね。」
「特に悪意は感じません。心配無いと思います。」
姫の笑顔はとても、優しかった。

436 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:27:58 ID:YP4f5pak0
 10分程で斜面を降り、さらに平地の草むらに伸びる細い道を歩く。
30cm程の幅で地面がむき出しになっていて、普通の獣道とは何処か違う。
魚や水辺の生物だけを調査しているわけではないだろう。
それ程頻繁に遍さんがこの道を往復するとは思えない。
比較的大型の動物、例えば野犬や鹿の群れが通る道なのか?
道の両側は背の高い草にびっしりと覆われている。
所々高い松の木が見えるが、その配置が何となく規則的に見えた。
遍さんは古い廃村が幾つかあると言っていた。此所がそうだとすれば、
もしかすると両側の草地は古い水田か畑の跡なのかも知れない。
15分程歩くと高さ2m程の斜面があり、其処を上るといきなり視界が開けた。
河、だ。 向かって左側が下流、河口の方向。
姫と遍さんには待っていて貰い、堤防のような段差の上を歩いてポイントを探した。
川幅は河口付近で50m程。透明度は高い。川岸近くは比較的浅く、あちこちに沈み石。
ボラかアブラハヤのような小魚の群れがあちこちに見える。
ミノー(小魚型のルアー)ならスズキの反応は良さそうだが、
大物を掛けてラインが沈み石に巻かれたら取り込みは難しい。さらに歩く。
やがて川岸近くまで水深のある場所を見つけた。
大きな石が2つあるが、川岸に接しているのでラインを巻かれる心配は無い。
むしろ魚が釣れたら、その石に降りて取り込めば良い。調査も上手く出来そうだ。
引き返そうとした時、向こう岸近くから水音が聞こえた。
波立つ水面に、太い尻尾が見える。
全長1m程の黒っぽい動物が、水中にすーっと潜っていった。
多分ヌートリア、外来の大型齧歯類だ。環境問題を扱ったTV番組で見たことがある。
近年分布を拡げているという話だった。既に『聖域』の中にまで侵入しているとは。
餌の豊富な場所を探して此所に移動してきたのだろう。
『聖域』といえども環境問題からは逃れられないということか、
溜め息をついて俺は歩き出した。

437 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:29:11 ID:YP4f5pak0
 「川岸近くまで澪筋が入り込んでいますから、この場所なら
かなりの大物が釣れても取り込みが可能です。
昼は小物狙い。夕方は多分、大物も回遊してくると思います。」
「Rさん、私、ルアーを投げても良いですか?」 姫が眼を輝かせた。
「ええと、それは。」 それとなく遍さんの表情を窺う。
「釣りについては全てRさんに任せます。1人より2人の方が確率は高いでしょうし。
早速、標本採取の準備をしますから、何尾か釣って下さいよ。」
「じゃ、まずLさんは此所からあの松の木の方向を中心に投げて見て下さい。
僕は少し離れて反対側を探ってみます。」
「了解です。」

438 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:30:43 ID:YP4f5pak0
 「あ、これ、多分釣れてます。」
俺が自分の竿を準備し終える前に姫が声を上げた。竿が綺麗な曲線を描いている。
直ぐにデジタルスケール付きのフィッシュグリップを持ち、
川岸近くの大きな石の上に飛び降りた。
「Lさん、此所に魚を誘導して下さい。」
「はい...これで良いですか。」 「OK、完璧です。」
やはりスズキだ。リーダー(太めの先糸)を取り、
フィッシュグリップでアゴを挟んで持ち上げる、580g。
次はメジャー、34.2cm。 いったん魚体を水中に戻す。
「遍さん、580g、34.2cmです。次はどうすれば良いですか?」
遍さんは手を伸ばし、小さなビニールパックとハサミを渡してくれた。
「大きめの鱗を一枚、それと背ビレの後端を少し切り取って、これに入れて下さい。
ヒレを切り取るのは小指の爪くらいの大きさで良いですよ。」
「了解。」 手早く作業を済ませてスズキを放流する。
川岸に戻ってビニールパックを遍さんに手渡した。
「どうぞ。」 「ありがとう。」 遍さんは驚いたような、呆れたような表情だ。
「スズキが掛かってから放流まで3分弱。見事な連携プレーですね。
予想以上の速さです。これならダメージの心配は不要でしょう。本当に、驚きました。
正直、釣りが調査に最適と聞いた時は半信半疑でしたが、納得です。」
「メーター級の個体だと、寄せるだけで多分数分かかります。
多分こんなに上手くはいきませんが、良いシミュレーションになりました。」

439 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:32:27 ID:YP4f5pak0
 2人で釣りを続け、合計4尾のデータを取った所で予備調査は終了した。
最小の個体は28.1cm/330g、最大の個体は43.8cm/1160g。
予想以上の成果だったらしく、遍さんも上機嫌だ。
何やら鼻歌を歌いながら帰り支度をしている。俺も釣り具をまとめた、その時。
視線を感じて首筋に鳥肌が立った。施設から出発した時の気配に似ている。
姫がそっと囁いた。 「また、見てます。皆、私たちに興味があるんですね。」
「心配は、無いんですよね?」 「はい。」 姫はまた優しく微笑んだ。
施設へ戻るまでの間、それらの視線は確かな気配を伴って俺たちの後を追ってきた。
時折、背後から微かな呼吸音や草を踏む足音が聞こえる。でも、もう鳥肌は立たない。
まあ単に『慣れた』だけなのかもしれないが。

 施設に戻ると遍さんは俺たちを部屋に案内してくれた。
6畳ほどの部屋に折りたたみ式のパイプベッドが2つ。壁に申し訳程度の収納。
宿泊用というより仮眠用の部屋。まあ、旅行では無いのだから贅沢は言えない。
姫と交代でシャワーを使い、着替えると遍さんが声を掛けてくれた。
夕食の用意が出来たらしい。狭い台所の小さなテーブル、レトルトの大盛りカレー。
「済みませんが此処での食事は毎回こんな感じです。
調理の時間が取れないので普通の食材や調理器具は置いていません。」
そういえば台所には飲み物用の小さな冷蔵庫しかない。
遍さんが滞在する間だけ電源を入れるのだろう。
「採取した資料を処理するので私はこれで。明日の朝食は7時、出発は8時です。
あ、冷蔵庫にビールがありますよ。宜しければどうぞ。」
遍さんはさっさとカレーを食べ終えて台所を出て行った。
俺と姫はカレーを食べ終えてからビールを1缶ずつ飲んだ。
部屋に戻ったのは7時30分。

440 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:33:17 ID:YP4f5pak0
 「なんだか慌ただしい1日でしたね。」
「はい。でも、ずっとRさんと一緒にいられて、楽しかったです。」
姫は窓を開け、俺のベッドに腰掛けて夜空を眺めた。
「やっぱり。辺りに灯りが無いから、お星さまが凄く綺麗です。」
「ホントだ。部屋の灯りも消してみましょう。」
灯りを消して姫の隣りに座る。2人で星空を眺めた。ゆっくりと過ぎていく時間。
他愛のない事を話しているうちに姫は寝てしまったので、抱き上げてベッドに運んだ。
俺も自分のベッドに横になる。眠い、意識がすうっと薄れていく。

441 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:36:59 ID:YP4f5pak0
 「...歌?」 どれくらい寝ていたのだろう。
微かな歌声を聞いたような気がして目が覚めた。
窓から見える夜空、星座の位置が少し変わっている。
いつの間にか姫が窓際に立って外を覗いていた。窓枠に身を隠すような姿勢。
やはり声が聞こえている。窓の外、遠くで誰かが歌っているような声。
それは次第に近づいてくる。俺も姫の隣に立って窓の外を覗いた。 これは。
俺たちが降りた斜面の道を、ボンヤリとした緑色の光が列をなして上って来る。
不思議な声は、その光の列から聞こえていた。一体、あれは?
先頭の光が大きく揺らめいた。それは見る間に人のような形に変化していく。
「Rさん、そっと窓を閉めてベッドに。」 囁く声。
言われた通り窓を閉め、ベッドに横になる。姫も横になって俺を抱きしめた。
窓を閉めたので歌うような声はほとんど聞こえない。
しかし、窓枠が緑色の光に照らされている。かなり明るい。
緑色の光が完全に見えなくなくなるまで、俺たちはじっと息を潜めていた。
暫くして、姫が身体を起こした。 立ち上がってそっと窓の外を窺う。
「もう、大丈夫です。」
俺も身体を起こす。 「あれは、何ですか?」
「朝陽が昇る前に河へ降りて河の神様に縋り、
夕日が沈んだ後は山へ上って山の神様に縋る、そういうものたち。
移動する間は河での姿にも山での姿にもなれないので、あんな光に見えます。」

442 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:38:34 ID:YP4f5pak0
「妖怪とか、精霊みたいなもの、ということですか?」
「それが一番近い言葉、でしょうね。普通の幽霊とは、『あり方』がかなり違いますから。
「あの歌は?」
「歌かどうかは分かりません。でもああして仲間を探しているのだと聞きました。」
「仲間って、はぐれた仲間ですか?」
「いいえ、新しい仲間です。海で亡くなったり山で亡くなったりして、
救いを求めている人の魂を仲間に加えるために呼びかける声。」
なら、あの光の1つ1つが、元々は海や山で亡くなった人の魂なのか。
ふと、思い出した。七人の死者、その魂の集合体。
新しい魂を仲間を加えるたび、一番古い魂が成仏するという妖怪の話。
「七人ミサキに似てますね。それだと妖怪と言うより悪霊に近い気がします。」
「実際に確かめた人はいないようですが、
新しい仲間を加えた分、光の数が増えると言われてます。
海岸から山まで途切れなく続く光の行列が見えたという記録も幾つかあるようです。
もしそうなら、七人ミサキのような悪霊とは違いますね。」
「どうして確かめた人がいないんですか?」
「今、此所以外であれが出現するという報告がほとんど無いんです。
先の大戦前は、海辺の古い集落なら似た話が沢山あったらしいんですが。
もし『不幸の輪廻』に取り込まれてしまったのだとしたら、悲しいですね。」
じゃあ、あれは。
哀しい魂たちが『不幸の輪廻』に取り込まれないように寄り集まった姿なのか。
例えばこの世に思いを残しつつ亡くなり、その死を誰にも知って貰えなかった魂たち。
無縁仏とすら呼べない、忘れられた存在。

443 『遺産(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:40:10 ID:YP4f5pak0
 「あれが悪霊でないなら、何故、通り過ぎるまで隠れていたんですか?」
「あれが見えるなら、あれからも見えている。そう、言われているからです。」
「あれが僕やLさんを仲間だと思うかも知れない、と?」
「はい。悪霊でも同じですが、複数の魂が融合した状態だと力が強いし、
融合した魂を1つ1つ分離しないと根本的な解決は不可能です。
でも、此所なら『不幸の輪廻』の力は及びません。
それに、今後新しい仲間が増えることもないでしょう。
昼は海の神様に縋り、夜は山の神様に縋って存在し続けるだけ。
それなら、このままでも良いような気がします。」 姫は窓の外を見た。遠い目。
確かに、人間の方が注意して、あれが移動する時間帯を避ければ実害はない。
まして、此処にいる人間があれの仲間に加わるような事態は考えられない。
何でも自分たちで解決できる、しなければならないと考えるのは、不遜だろう。
神様の御心にお任せする、そんな方法があっても良い筈だ。
窓に鍵をかけ、カーテンを閉めて、俺と姫は眠りに就いた。
明け方前、もう一度あれが此処を通る時、その声や姿に気付くことがないように。

『仮題(中)』 了

444 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/01(日) 23:44:29 ID:YP4f5pak0
 藍です。

 無事、『遺産(上)・(中)』の投稿を終えることができました。
ご期待に添えるかどうか分かりませんが、
新作をご期待頂いた皆様に心から感謝致します。
それでは今夜はこれで失礼致します。
有り難う御座いました。

445 名無しさん :2013/09/02(月) 00:49:01 ID:Nvp0TJ6A0
藍さんお疲れ様でした。
早速、読ませて頂きました 。
題名から色々想像してしまいますが、続きを楽しみに明日から仕事に頑張ります。

446 名無しさん :2013/09/02(月) 01:02:15 ID:Qk6quwME0
寝ようかと思ったらWW なんたる僥倖。感謝

447 名無しさん :2013/09/02(月) 23:29:01 ID:/3ZGWhyo0
( ゚∀゚)o彡°藍さん!知人さん!m(_ _)m ありがとうございました。

448 名無しさん :2013/09/03(火) 01:37:55 ID:Q6gn4z3E0
陰神様は山の神。

川の神様はそのまま川の神様

新しい神様の寝所は聖域内だったって事かのう。お屋敷から近い位置なのかもね

449 闇の家 :2013/09/03(火) 23:45:05 ID:5jLARKyU0
先ほど、うたた寝時に見た夢が鮮明で異様だったので、忘れないうちに語らせていただきたいと思います。
ちなみに現在僕は、独身一人暮らしのアパート住まいです。

夢の中でも寝ていたようで、ふと目が覚めたとこから話は始まります。
周りを見ると6畳くらいの和室で家具は無し。窓は障子戸で閉じてたが光の挿し具合で昼くらいだと判断。
全く見覚えのない家だった。とりあえず部屋を出て探索しようと思って廊下に出るとすぐ上への階段があった。
察するに、寝てた部屋は、1階奥の階段の裏に隠れるようにあった部屋のようだ。

廊下は全体的に薄暗く、幅は2mくらいで割と広め。通路の左端に沿って荷物類が並んでおり、
やたら幼児用のおもちゃが乱雑に置いてあり三輪車とかもあった。通路右側は襖戸が並んでいた。
造りから田舎にありそうな昔ながらの日本家屋のようだ。
異様に思ったのが廊下の先、つまり玄関が見当たらない。それどころか先は全く光が入らず暗くて見えない。

ふと気付くと、どこからかTVの音?がしてるようだ。誰かいるようだ。
音の場所を探ると、どうやら通路右側の襖の部屋から聞こえてくる。
恐る恐る襖戸を開き中を覗くと、畳部屋で正面は高さ2mほどの外へと出入りできるガラス窓が並び
庭が見えた。庭は洗濯の物干し竿があり、高い雑木の塀で敷地の外は見えない。

とりあえず部屋に入ってみた。パッと見、この部屋も家具が無い。TVの音は入って右側からしてるようで
見ると、古い21型のTVに昼ドラらしき番組が映っていた。喪服の40代くらいの女性が泣き喚いていた。
どうやら葬式のシーンのようだ。
そしてそれを食い入るように観てる者が居た。髪はボサボサに伸びた赤いトレーナーに下はわからんが
太めの体型の小学生くらいの女の子が、座布団に正座で背中を丸めるような感じで観ていた。
女の子はこっちには気づいてない様子で、とてもじゃないが声を掛けられる雰囲気じゃなかった。
とりあえず他を調べようと後ろを振り返ってギョッとした。
反対側の壁は無く、昼の光が射し込んでるのにも関わらず、ただ闇が広がっており、全く奥は見えない。
その闇の入口?からドライアイス効果のように白いモヤが漂ってきてる。
これは本能的にヤバイと思って部屋を急いで出た。

部屋を出てすぐ、後ろから誰かがついてきた。さっきの女の子ようだが、なぜか後ろを振り返れなかったので
正体はわからんが、悪い感じ的なものはしなかったので、とりあえずは放置することにした。
部屋を出て階段がある方を向いたら、壁に壁掛け式の直径30cmくらいの時計が見えた。
今何時なんだ?と、思ったけど時計じゃなかった・・・
確かに外観は壁掛け式時計だが、文字盤があるべき場所は目から口の位置までの生気の無い
若い女性の顔が付いており、無表情でこっちを見ていたので速攻で目を逸した。

心臓バクバクしながらも、次は2階へ移動することにした。
階段を上がるとすぐ、襖戸の部屋がまたあった。入って見ると6畳ほどの普通の和室だが
やはりまた家具類は無く、今度は窓すら無かった。入る前から灯りは点いていたようだ。
入って左側を見てすぐさま異様に気づいた。
襖で仕切られてるだけで隣の部屋にすぐ行ける造りなんだが、その襖戸が微妙に膨らんでるのだ。
何かが隣の部屋を埋め尽くしてるかが如く。さらにはなぜかカード式のキーシステムが付いており
両開きの襖戸をまたぐ感じで御札が貼ってあった。

すると先ほどから後ろについて来ていた女の子が初めて声を掛けてきた。
「そこ、もう2ヶ月開けてないけど開けてみる?」はぁ?2ヶ月?なんのこと?
とりあえずその襖戸に恐る恐る近づこうとしたら、全身に鳥肌が立ち、毛が逆だった。
これはかなりヤバイやつだ。開けたら絶対持ってかれる。
逃げようと後ずさりした瞬間、その襖の中から・・・・「ドーンッ!!」と叩く音が。
・・・そこで目が覚めた。寝汗と心臓の爆つきがハンパなかった。

今までこんなはっきりした異様な類の夢は初めてなので、不吉な予兆じゃないか心配です。

450 闇の家 :2013/09/04(水) 01:20:56 ID:D7iVdVco0
先ほど、うたた寝時に見た夢が鮮明で異様だったので、忘れないうちに語らせていただきたいと思います。
ちなみに現在僕は、独身一人暮らしのアパート住まいです。

夢の中でも寝ていたようで、ふと目が覚めたとこから話は始まります。
周りを見ると6畳くらいの和室で家具は無し。窓は障子戸で閉じてたが光の挿し具合で昼くらいだと判断。
全く見覚えのない家だった。とりあえず部屋を出て探索しようと思って廊下に出るとすぐ上への階段があった。
察するに、寝てた部屋は、1階奥の階段の裏に隠れるようにあった部屋のようだ。

廊下は全体的に薄暗く、幅は2mくらいで割と広め。通路の左端に沿って荷物類が並んでおり、
やたら幼児用のおもちゃが乱雑に置いてあり三輪車とかもあった。通路右側は襖戸が並んでいた。
造りから田舎にありそうな昔ながらの日本家屋のようだ。
異様に思ったのが廊下の先、つまり玄関が見当たらない。それどころか先は全く光が入らず暗くて見えない。

ふと気付くと、どこからかTVの音?がしてるようだ。誰かいるようだ。
音の場所を探ると、どうやら通路右側の襖の部屋から聞こえてくる。
恐る恐る襖戸を開き中を覗くと、畳部屋で正面は高さ2mほどの外へと出入りできるガラス窓が並び
庭が見えた。庭は洗濯の物干し竿があり、高い雑木の塀で敷地の外は見えない。

とりあえず部屋に入ってみた。パッと見、この部屋も家具が無い。TVの音は入って右側からしてるようで
見ると、古い21型のTVに昼ドラらしき番組が映っていた。喪服の40代くらいの女性が泣き喚いていた。
どうやら葬式のシーンのようだ。
そしてそれを食い入るように観てる者が居た。髪はボサボサに伸びた赤いトレーナーに下はわからんが
太めの体型の小学生くらいの女の子が、座布団に正座で背中を丸めるような感じで観ていた。
女の子はこっちには気づいてない様子で、とてもじゃないが声を掛けられる雰囲気じゃなかった。
とりあえず他を調べようと後ろを振り返ってギョッとした。
反対側の壁は無く、昼の光が射し込んでるのにも関わらず、ただ闇が広がっており、全く奥は見えない。
その闇の入口?からドライアイス効果のように白いモヤが漂ってきてる。
これは本能的にヤバイと思って部屋を急いで出た。

部屋を出てすぐ、後ろから誰かがついてきた。さっきの女の子ようだが、なぜか後ろを振り返れなかったので
正体はわからんが、悪い感じ的なものはしなかったので、とりあえずは放置することにした。
部屋を出て階段がある方を向いたら、壁に壁掛け式の直径30cmくらいの時計が見えた。
今何時なんだ?と、思ったけど時計じゃなかった・・・
確かに外観は壁掛け式時計だが、文字盤があるべき場所は目から口の位置までの生気の無い
若い女性の顔が付いており、無表情でこっちを見ていたので速攻で目を逸した。

心臓バクバクしながらも、次は2階へ移動することにした。
階段を上がるとすぐ、襖戸の部屋がまたあった。入って見ると6畳ほどの普通の和室だが
やはりまた家具類は無く、今度は窓すら無かった。入る前から灯りは点いていたようだ。
入って左側を見てすぐさま異様に気づいた。
襖で仕切られてるだけで隣の部屋にすぐ行ける造りなんだが、その襖戸が微妙に膨らんでるのだ。
何かが隣の部屋を埋め尽くしてるかが如く。さらにはなぜかカード式のキーシステムが付いており
両開きの襖戸をまたぐ感じで御札が貼ってあった。

すると先ほどから後ろについて来ていた女の子が初めて声を掛けてきた。
「そこ、もう2ヶ月開けてないけど開けてみる?」はぁ?2ヶ月?なんのこと?
とりあえずその襖戸に恐る恐る近づこうとしたら、全身に鳥肌が立ち、毛が逆だった。
これはかなりヤバイやつだ。開けたら絶対持ってかれる。
逃げようと後ずさりした瞬間、その襖の中から・・・・「ドーンッ!!」と叩く音が。
・・・そこで目が覚めた。寝汗と心臓の爆つきがハンパなかった。

今までこんなはっきりした異様な類の夢は初めてなので、不吉な予兆じゃないか心配です。

451 闇の家 :2013/09/04(水) 01:38:15 ID:D7iVdVco0
投稿が重複しちゃいました。すいません。
管理人さん見てたら重複側消してください。

452 闇の家 :2013/09/05(木) 02:45:39 ID:q5Sgmwrk0
後で考察したらゾッとしたんで補足しときます。

もし、あのまま1階の部屋にあった闇の中に入り込んだら・・・
それと2階の部屋で御札をはがし襖を開けてたら・・・
もしかしたら僕は2度と目覚めることは無かったのではと・・・

普通の夢だったら思考も行動も支離滅裂なはずなんですが
あの夢の中では、非常に思考が明確で、勘みたいなものも働いていました。
夢の中にも関わらず本能的に危機を察知していたようです。

今考えると、非常に危険な夢を見ていたのではないかと考え、ゾッとしました。

453 名無しさん :2013/09/05(木) 02:53:42 ID:M0ZKK2DQ0
『仮題(中)』 了

・・・急がしてしましましたかね。ごめんね。

454 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:03:41 ID:AZimxqIY0
テスト中です。≒

455 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:06:40 ID:AZimxqIY0
皆様今晩は、藍です。あまり投稿の間隔が空くと
自分自身のモチベーションが下がってしまいそうなので、
『遺産(下)』の前半を投稿致します。

456 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:18:27 ID:AZimxqIY0
 翌朝、釣り具を持って広場に出ると、姫が草むらを見つめていた。
俺の気配に気付いたのか、背中に廻した手で、そっと『おいでおいで』の仕草。
未だ早朝の気温は低く、空気はヒヤリと冷たい。そっと隣りに立って姫の視線を辿る。
...犬? 未だ幼さの残る柴犬に似た顔が、草むらの中からこちらを見ていた。
「ああ、ヤマイヌですね。」 遍さんの声だ。思わず振り返る。
「この辺りを縄張りにしている群れの個体でしょう。
若い個体は好奇心が強いから、きっと様子を見に来たんですよ。
お2人の匂いは初めてですからね。多分近くに親がいるはずです。じゃ、出掛けましょう。」
昨日感じた視線と気配は野犬の群れだったのか。軽い胸騒ぎ、一体何故?
遍さんは先に立って歩き始めた。姫が後を追う。2人は軽やかに歩を進めた。
ヤマイヌ、その言葉がどうしても耳から離れない。
心の隅に引っかかっている何かが、その言葉の響きに呼応している。
その言葉を聞いたのは、一体何時だったろう。
遠い記憶を辿りながら、俺は遍さんと姫の後を追った。

457 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:19:42 ID:AZimxqIY0
 午前中の調査は9時前〜12時までの約3時間。
姫と2人、休憩しながら計9尾のスズキを釣り上げた。
釣りをしながら川岸を歩き、小物を狙うのに良いポイントを幾つか見つけた成果だ。
「小物の試料は充分ですね。午後の調査で大物の試料が採取出来れば、
6日からの調査は必要ないかも知れません。実に、順調です。」
遍さんは相変わらず上機嫌。
午前の調査を早めに切り上げて施設に戻った。昼食はインスタントの鍋焼きうどん。
食事の後、俺と姫は1時間ほど昼寝をして夕方の調査に備えた。
夕方の調査のために施設を出たのは4時丁度。
夕まずめで大物を狙うなら帰りは夜になる。半月の月明かりだけでは足下が心許ない。
もちろん懐中電灯は事前にチェックしてある。3人分のLEDライト。
昨夜の光の列も気になるが、7時30分には調査を終了する予定なので、
あれが移動する時間とは重ならない。多分大丈夫だ。

458 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:21:08 ID:AZimxqIY0
 河口のポイントに着いたのは4時半過ぎ。満潮の潮止まりに近い時間だ。
これから下げ潮に入ればスズキの活性も上がる筈。今回の狙いは大物。
群れる小魚の様子を見ながら、ゆっくりと釣り具を準備する。
まずは姫の釣り具。昨日より少し強い竿に大きめのリールをセットした。
ルアーは昨日と同じ9cmのミノー(小魚型のルアー)。
姫は早速キャストを始めた。綺麗なフォーム、飛距離も十分。
もともと身体能力は高いし、器用な人だ。何度か一緒に釣りをするうちに、
軽いルアーでの釣りなら俺よりも上手なほどに上達していた。
姫の様子を見ながら自分の釣り具を準備する。準備完了、竿を近くの木に立てかけた。
「Rさんは釣らないんですか?」 遍さんは不思議そうな顔だ。
「大物は警戒心が強いので、1人ずつ、ポイントを休ませながら釣ります。
日暮れまではLさん、日が暮れたら僕がこれで。」 「なるほど。」
何度目のキャストだったか、テンポ良くリールを巻いていた姫が、突然竿を跳ね上げた。
竿が綺麗な弧を描く。見事な合わせ。チリチリとリールのドラグ(ブレーキ)音が聞こえる。
「オーストラリアで釣った魚みたいな引きです。多分、大物ですね。」
姫の頬は紅潮しているが慌てた様子はない。

459 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:24:10 ID:AZimxqIY0
 いきなりドラグが激しい音を立て、30mほど離れた水面が割れた。
スズキが魚体をくねらせながらジャンプする。デカい、未だ明るい内にこんな。
「ジャンプする前には大抵助走(助泳?)します。そしたら思い切り竿先を下げて下さい。」
「ジャンプしにくいように、魚の頭を下に向けるんですか?」
「そうです。何度もジャンプされると、ルアーが外れる事がありますから。」
姫は冷静にやり取りを続け、魚をかなり近くまで寄せてきた。
調査道具一式を持ち、川岸の石に降りる。
リーダー(太い先糸)までの距離を確認した時、上流側から刺すような視線を感じた。
怒り?敵意? そっと視線を遡る...10m程離れた、水の中? 気のせいか。
「Rさん、魚、これで良いですか?」 我に返って目の前の水面を見る。
姫は更に魚を寄せ、俺のすぐ前まで誘導していた。
リーダーを取り、フィッシュグリップでアゴを確保する。成功。
「Lさん、大物ですよ。おめでとうございます。」 「凄い。何だか、手が震えますね。」
素早く体重と体長を測り、資料を採取してパックに入れる。そして放流、首尾は上々だ。
82.1cm、4720g。
「今回の調査では一番の大物です。貴重なデータになりますよ。」
ビニールパックの中、背びれの一部と大きなウロコを見ながら、
遍さんは満足そうに目を細めた。

460 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:28:22 ID:AZimxqIY0
 大物が派手に暴れた後だ。他のスズキは警戒するだろう。
たっぷり20分程ポイントを休ませてから釣りを再開した。
姫がルアーをキャストする。釣り姿が堂々として頼もしい、それに美しい。
つい見とれていると、わずか数投で次のヒット、取り込みも成功。
78.6cm、4150g。これもかなりの大物。
資料を遍さんに手渡して、再びポイントを休ませる。
姫と並んで川岸に座った。持参したおやつを食べる、ミニ羊羹。
「そろそろ暗くなってきたので、今度はRさんが釣って下さいね。
あれ以上の大きさだと、私には絶対無理ですから。未だ少し手が震えてます。」
「じゃ、いよいよ大物用の道具の出番ですか。」 「期待してますよ、お師匠様。」
「ところで、さっき大物を釣った時なんですけど。」 「はい?」
「2度とも、取り込みの直前にキツい視線を感じたんです。それも水の中から。」
「水の中から?変ですね。私は釣りに夢中で気が付きませんでした。」
その時、遍さんが俺の肩に手をかけた。
「Rさん、お話し中申し訳無いですが、もう6時です。時間が無くなってきましたよ。」
「あ、済みません。」 そうだ、7時半には調査終了。
メーター級の大物が釣れたらやり取りに時間がかかる。あまり余裕は無い。
視線の話の続きは、施設に帰って夕食を食べた後にしよう。
立ち上がり、木に立てかけてあった釣り具を手に取った。
注文した竿が届いたのが調査前日だったので一度もテストをしていない。
本命のポイントから離れた場所でキャストの感覚を確かめた。
強くて腰があるがガチガチに硬いわけではなく、キャストしやすい。しかも、軽い。
予想通りだ、これなら大丈夫。本命のポイントへ移動した。
既に太陽は山の稜線に隠れ、辺りは見る間に暗くなっていく。
夕まずめ、闇に乗じて大物が浅場に回遊する時間、これからが俺の本番。

461 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:30:45 ID:AZimxqIY0
 しかし。
状況が、先程までとは一変していた。全くアタリが無い。
時々ポイントを休ませ、ルアーも取り替えながらキャストを続ける。しかし反応はない。
微かに魚たちの気配はある。しかし、皆、息を詰めて身を潜めている。そんな雰囲気。
時計を見た。もう6時50分を過ぎている。何故、大物が回遊してこない?
風が止まり、静まりかえった水面は鏡のようだ。明るさを増した半月が綺麗に映っている。
何かがおかしい。今までの経験からして、エサとなる小魚が多い場所ほど
肉食魚の摂食行動は短い時間に集中する。朝まずめと夕まずめ。
エサが豊富なら一日中エサを探して泳ぎ回る必要はないから、そう理解していた。
実際、さっきは立て続けに大物が釣れた。より大きな個体はその後に。
...いや、さっき釣れたとき、空はまだ明るかった。どうしてあんな時間に大物が?
「釣れないみたいですね。」 遍さんがペットボトルの水を持ってきてくれた。
「そうですね。何だか様子が変です。」 水を一口飲んでペットボトルを姫に渡した。
姫は俺の左側、足下に座って河を見ている。姫も水を一口飲んだ。
「と、言うと?」 遍さんの声が川面の空気に溶けていく。
「魚の反応が全く無いんです。まるで、何かを怖れて隠れてしまったみたいに。」
そう、この状況は、大物の回遊を察知した小物達がさっさと退散した後に良く似ている。
眼鏡の奥で遍さんの眼が輝いた。
「80cmもあるスズキが怖れる何か...興味深いですね。」
言われてみればおかしな話だ。70〜80cmクラスにもなればまず敵はいない。
ヌートリアも、わざわざそんな大物を狙うような難儀はしないだろう。
もっと楽に獲れる小物が、此所には幾らでもいるのだから。

462 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:32:18 ID:AZimxqIY0
 「ガポッ!」
少し離れた場所で水音がした。大きいが軽い音。ボラが跳ねた音とは違う。
一気に胸の鼓動が早くなる。もしスズキの捕食音だとすれば、かなりの大物。
音がした方向に眼を凝らすと、ゆるやかに波紋が拡がっていくのが見えた。
まず上流側にキャスト。流れを利用して、音がした付近にルアーを送り込む。
ゆっくりリールを巻き、流れを横切るようにルアーを泳がせた。弱った小魚のイメージ。
姫も遍さんも、俺の緊張を感じ取っている。2人とも、黙ったまま河を見つめていた。
3投目。ルアーを泳がせ始めた途端、巻きが一瞬軽くなった。
ラインが少しだけ緩み、すぐにぴいんと張る、重い。
流木か、大物か。ドラグを信じて思い切り合わせる。
2度、そして3度。 ジリッ、とドラグが滑る。一呼吸置いて、ラインが走った。
もの凄い勢いでドラグが鳴る。大物だ。ラインは真っ直ぐ河口に向かっていく。
止まらない。あっという間に50mほどのラインが引き出された。
さらに10mほど糸を引き出し、ようやく魚は止まったが、なかなか寄せられない。
時折大きな魚体が水面を割る。激しい水しぶき、大きな水音。まるで爆発だ。
その波紋が俺の立つ川岸まで届き、水面が小さく揺れていた。
何度引き寄せても、その度にラインを引き出される。
「もうすぐ7時半、大丈夫かな?」 時計を見た遍さんが独り言のように呟いた。
魚をヒットさせてから既に20分以上経っている。魚体へのダメージを心配しているのだろう。
必死で遣り取りを繰り返す内に、巻き取ったラインが増えてきた。
魚は確実に、寄ってきている。

463 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:33:44 ID:AZimxqIY0
 やがて、少し先の水面が大きく盛り上がり、1mを優に超える大きな魚体が浮いた。
まさか、この魚は。
スズキではない。体高のある太い魚体、身体の割に小さな頭。
そして、妖しく光るルビーのような眼。
この県にその魚がいるなんて、聞いたこともなかった。
「アカメです。間違いありません。やはりいましたね。
この河で初めての記録。貴重な資料になりますよ。しかも大物。是非、釣り上げて下さい。」
遍さんも興奮を抑えかねているようだ。
やがて大きな魚体が川岸近くに寄ってきた。動きはゆっくりで一時の勢いはない。
「少しだけテンションをかけてラインを張っておいて下さい。」 「はい。」
緊張した顔の姫に竿を託し、川岸の石に降りた。
石の上にべったりと座り、腰を据えてからリーダーを取る。信じられない程大きな口。
それに、とにかく重い。2人がかりなら持ち上げられるかも知れないが、それでは。
「遍さん。無理に体重を測ると魚体へのダメージが心配です。」
「体長が分かれば体重は推定出来ます。大体の体長を測定して下さい。」
大型のスケールを魚体に沿わせる。約130cm。その時。
「Rさん!」 姫の声だ。
俺の目の前を何かがかすめた。左足の下で水音。 石? ゾクリと鳥肌が立つ。
激しい怒りと敵意が伝わってくる。 釣りに集中していて、全く気付かなかった。
先刻、姫が大物を釣った時にも感じた視線。 予兆はあったのに...迂闊だった。

464 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:38:26 ID:AZimxqIY0
 石の飛んできた方向にゆっくりと顔を向ける。
少し離れた上流側の川岸近くに、小さな人影が見えた。水面から上半身を出している。
1人ではない。その近くにいくつか、丸い頭が見えた。ざっと5、6人。
しかし何故『聖域』に、しかも水の中に人が? 次の瞬間、人影が動いて石が飛んできた。
俺の座っている石に当たる。硬い音。視線を戻すと人影は増えていた。
恐らく10人以上。いや、あれは人ではない。人の形をした、何か得体の知れないもの。
『魚を放せ』 『誰だ』 『帰れ』 『あの人間を』...
様々な意識が流れ込んで来た。激しい怒りと敵意がビリビリと伝わる。
まずい。口の中が乾く。しかし、まだアカメが、資料を。
『水を媒に化生せし者ども』 俺の背後、姫の『あの声』だ。
『待て。待ってくれ。』 太く、低い声が辺りに響いた。これは誰の?
不意に、下流側から強い風が吹き抜ける。冷たい、乾いた風。
その風を避けるように、一番大きな黒い影が川面に吸い込まれた。小さな水音。
次々と黒い影が、上半身や丸い頭が、水中に沈む。
最後の影が沈んだ直後、左手に感じるアカメの重さが消えた。
しまった、針が。
慌てて水面を見ると、アカメは俺の目の前に浮いていた。
やはりルアーは外れている。もちろん下げ潮と共に河の水は下流へ流れている。
それなのに、アカメは動きを止め、さっきと同じ位置に浮いたままだ。一体何故?

465 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:40:52 ID:AZimxqIY0
 『あれらに悪意はない。お前たちの釣りが、
何よりこの魚を釣ったことが、あれらを強く刺激した。』
吹き抜ける冷たい風に乗って、その声が再び空気を震わせる。
『しかも、あれらが移動する時刻に近かった。間が、悪かったのだ。
どうか、無礼を許してやってくれ。』
恐る恐る視線を正面に戻す。俺の目の前、多分数m先に、それはいた。
対岸の景色と夜空、俺の視界のほとんどがそれに遮られている。デカい。
それが何なのかは分からない。どうしても眼の焦点が合わず、それ自体は見えない。
ただ俺の前に、巨大な漆黒の闇が蟠っている。
一切の反論や質問を許さない、圧倒的な気配。冷たい汗が流れた。
『やがてあれらが山に移動する時刻。今の内に調査を終えて戻れ。
陸ならば送りの護りも効く。さあ、早く。』
調査? ああ、試料。早くウロコと背ビレを。
水面に静止しているアカメのウロコを一枚取り、そして背ビレの後端を少し切り取った。
『済んだな。もう、巣に戻すぞ。』
アカメは身体を大きくくねらせ、ゆっくりと泳ぎだした。その姿が水中に消えていく。
『あれらには、我が因果を含めておく。移動の時間さえ避ければ、今後の心配は要らぬ。』
闇と気配は見る間に薄れ、対岸の景色と星空が視界に戻ってきた。
「Rさん、急いで下さい。」 姫の声だ、我に返る。
川岸に上がり、遍さんに試料を渡して手早く釣り具をまとめた。
遍さんもすぐに調査用具を片づけた。それぞれライトを持って出発する。
皆、無言で細い獣道を歩いた。

466 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:42:49 ID:AZimxqIY0
 昨日と同じく、俺たちの背後を確かな気配が追って来ていた。
時折、聞こえる呼吸音、そして草を踏む足音。それを聞く度に感じる不思議な安心感。
斜面を上りきり、広場へ出る。よし、もう大丈夫。
施設の玄関前で振り返ると、獣道の入り口に2つの影が見えた。
シェパードよりも大きな、犬のような姿。朝、この広場で見たヤマイヌの親、か。
「Rさん、早く中へ。」 遍さんがドアを押さえて俺を待ってくれている。
「済みません。」 ドアをくぐりながらもう一度振り返ると、既にその姿は無かった。

467 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/12(木) 19:45:43 ID:AZimxqIY0
 藍です。お付き合い頂いた皆様、有り難う御座いました。
今夜はこれで失礼致します。未だ仕事は多忙ですが、
『遺産(下)』の後半を投稿出来るように頑張ります。

468 名無しさん :2013/09/12(木) 21:14:59 ID:x4T2o5.MO
藍さんお疲れさまでした。

469 名無しさん :2013/09/12(木) 22:03:25 ID:nV7Us2q60
藍さんお疲れ様でした。あまり無理をなさらぬようお願いします。

470 名無しさん :2013/09/15(日) 01:19:19 ID:AnI/8EaQ0
この後の展開にwktk
ゆっくり待ってますwktk

471 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/15(日) 22:49:52 ID:dBqP7x.o0
テスト中。

472 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/15(日) 23:03:01 ID:dBqP7x.o0
交代で食事とシャワーを済ませ、俺と姫は遍さんの研究室にいた。
それほど大きな部屋ではない。大き目の机にシンクと蛇口、まるで小さな理科室のようだ。
壁には沢山の棚があるが、扉が閉まっていて中は見えない。
天井まで届きそうな業務用の冷蔵庫もある。間違いなく、どちらも標本保管用だ。

 「まずは、心からお詫びを申し上げます。彼処でアカメを釣ることが、
『水妖(すいよう)』たちをあれほど刺激するとは、全く予想出来ませんでした。
『御影(みかげ)』の働きで事なきを得ましたが、酷い怪我をしてもおかしくない状況。
とても危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ありません。」
遍さんは深々と頭を下げた。

473 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 10:36:16 ID:Xr/MafuY0
 御影、それがあの闇の名。確かに先刻、俺はあの闇に助けられた。
しかし、その前に姫は術を、『あの声』を使おうとしていた。
もし姫が術を発動していれば、あの闇に関係なく俺の身を護ってくれただろう。
不遜かもしれないが、俺には確信があった。当然、遍さんを責める気など無い。
「あの河でアカメを捕獲したのが初めてなら、その影響を予想出来なくても仕方ありません。
怪我もしなかったし、もう気にしないで下さい。それよりも、教えて下さいませんか。
御影と水妖。あれらは、一体、何ですか?」
「御影は、『聖域』の境界を護る式です。境界には強力な式が配置されていますが、
御影はその中でも最強の力を持ち、あの湾と海岸の周辺を護っています。
当然、あの場所に『余所者』が入り込む事などあり得ません。
人も動物も、そして霊的な存在も。もちろん渡り鳥や回遊魚は例外ですが。」
人はともかく、動物であっても余所者は入り込めない。それはおかしい。
『聖域』がいつ成立したのか具体的には聞いていないが、
廃村の話からして、少なくとも100年近く前なのは間違いないだろう。
しかし俺は昨日ヌートリアを見た。ヌートリアが日本に持ち込まれたのは70年ほど前。
既に『聖域』は成立していた筈だ。なのに何故ヌートリアはあの河に侵入し定着できたのか。
それにヤマイヌ。あの野犬の群れは、聖域の成立以前から存続してきたというのか。

474 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 10:46:04 ID:Xr/MafuY0
 「あの、僕、昨日河でヌートリアを見ました。ヌートリアは、外来種ですよね。」
遍さんは悪戯っぽく笑った。
「それはカワウソです。ヌートリアではありません。」
「カワウソって、ニホンカワウソですか!?」
ニホンカワウソ。1979年以来、確かな目撃報告が絶えて久しい。
近い将来、絶滅が宣言されるのは間違いないとされている幻の動物だ。
「そう、ニホンカワウソです。現在、確認しているのは8頭。
そしてヤマイヌは17頭、どちらもこの十数年のうちに絶滅することは無いでしょう。
深刻なのはオオカミです。確認できているのは2頭だけ。この2頭の寿命が尽きれば、
この国から、いやこの地球から、ニホンオオカミは永久に消滅します。
郷愁にも似た、懐かしさと哀しさが湧き上がる。俺たちが、人間が滅ぼした動物たち。
心の隅に引っかかっていた何かが外れかかり、遠い記憶がボンヤリと甦ってきた。
ニホンオオカミ、2つの剥製、シーボルトの標本、ヤマイヌ、大小2種のオオカミに関わる伝承。
「もしかして、さっき僕たちの後を追ってきたのが。」
「はい、あの2頭が、最後のニホンオオカミです。
私たちの後を追い、護ってくれました。あれこそが『送り狼』、ご存じですか?
ニホンオオカミが絶滅すれば、『送り狼』という現象も消滅します。
まあ、既に此所以外では、全く違う意味で使われる言葉が残っているだけですが。」

475 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 10:49:34 ID:Xr/MafuY0
 考えたことも無かった。
『聖域』の中には未だ生き延びている。カワウソが、ヤマイヌが、そしてオオカミが。
「今のうちに保護することは、出来ないんですか?」
「既に『聖域』以外では絶滅したと考えられている動物たちです。考え方は様々でしょうね。
でも、私はそれらの動物を此所の環境から切り離してはいけないと思っています。
あの動物たちを檻の中に閉じ込める。私にはそれが正しい方法だとは思えません。
Rさん、あなたは日本のトキが辿った道をご存じですか?
日本で最後のトキは、檻の中で、死んだのですよ。」
遍さんは言葉を切り、ふう、と小さく息を吐いた。
「人の都合で絶滅寸前に追い込んだ生物たち。
それを更に、保護の名目で檻の中に閉じ込める。傲慢だとは思いませんか?
『聖域』に生息する全ての生物は、私たち一族が大切に受け継いできた遺産。
そしてもちろん、この国全体の遺産でもあります。
もしも生物の一部が、私たちの代で絶滅することになったとしても、
私たちは絶滅した生物を忘れてはなりません。私たち自身がその生物を絶滅に追い込んだ。
その痛切な自責の念とあわせて、絶滅した生物たちを記憶し続ける義務があります。
そして、そのためにこそ、私は此所で研究を続けているのです。」
遍さんの笑顔は優しく、そして、哀しかった。

476 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 10:56:29 ID:Xr/MafuY0
 思い出した。
俺は何故、昔聞いたヤマイヌとオオカミの話を忘れていたのか。
どうして昨日見た動物を、カワウソではなくヌートリアだと思ったのか。
とても哀しかった。哀し過ぎて、俺は自分の記憶を封印していた。
2003年、日本最後のトキが死んだ。その名は『トキ子(キン)』。
中国から移入したトキの増殖が行われているが、日本のトキは、もう、いない。
トキ子が死んだことを知った夜、俺は夢を見た。
とても哀しくて、辛い夢。
そしてその翌朝以来、俺は忘れていた。この国で人間が絶滅させた動物たち。
オオカミ、ヤマイヌ、そしてカワウソ。それらを忘れるように仕向けたのは、俺自身。
人間が絶滅寸前に追い込んだ生物たち。その過程には言及することなく、
今度は自分たちの利権と主義主張のために、その生物たちを利用する。
例えば希少動物を原告にした裁判。そんな恥知らずな茶番なら、幾つも知っている。
自然保護運動を隠れ蓑にした、補助金の利権を巡る争いはその最たるものだろう。
カンガルーの個体数調整を是としながら、クジラとイルカを神聖視するテロリストも同様。
此所で静かに生物たちを見守り、その生態を記録し続ける遍さんの心境を思うと、
軽々しく『保護』という言葉を口にした自分が恥ずかしくなる。

477 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 10:59:16 ID:Xr/MafuY0
 「それにしても。Rさん、あなたは本当に不思議な人ですね。
いや、あなたたち、と言うべきでしょうか。
御影が最初の一言で呼び掛けたのは、Lさまだったのですから。」
俺と姫が? どういう意味だ。今回、俺は釣りをしただけで、『力』を使ってはいない。
姫が使おうとした術は未発動、しかもその術を『上』は既に知っている。一体、何の不思議が?
「当主様に直属の式は、余程の事がなければ姿を見せません。
一族の中でも、自分の目で『御影』を見た者は、ほとんどいないでしょう。
先刻も、義務を果たすためだけならば、ただ水妖たちを遠ざければ済んだ筈。
それなのに『御影』は彼処に現れ、しかもあなたたちに話しかけた。
『水妖たちの無礼を許してやってくれ』と、そして、『今後の心配は不要』と。
一体何故なのか、見当も付かない。本当に不思議という他ありません。」
遍さんは眼鏡を外し、ハンカチでレンズを拭いた。
「それはさておき、『水妖』についての説明は、私よりLさまの方が余程適任です。
Lさま、お願いできますか?」

478 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 11:03:12 ID:Xr/MafuY0
 「はい...古い、死者の魂が河の水を依り代にして人の姿をとったものが『水妖』、
同じ魂が山に上り、落ち葉を依り代にして人の姿をとったものが『山妖』。
だから『水妖』と『山妖』、どちらも本質としては同じものです。
そのまま長い時を経て、人としての性質や記憶が失われると、
妖怪と呼ばれるものに変化します。
それは、肉体が滅んだ後もこの世に留まり続ける魂の成れの果て。
それもまた魂が辿る旅路の終着駅の1つ、そう、私は教えて貰いました。
遍さん、説明は、これで良いですか?」
姫の表情は少し緊張している。恐らく、遍さんが『上』のメンバーだと知っているのだ。
一族の事情に疎い俺には失言のしようもないが、様々な事情を知る姫にとって、
『上』の前での失言は許されない。注意深く言葉を選んでいるのが分かる。
「お見事。過不足のない、完璧な説明です。相変わらず聡明で、そして慎重なお方だ。」
聞きたいことは他にもあるが、今、姫にこれ以上の緊張を強いるのは酷だろう。
「『御影』と『水妖』、何となく分かりました。ところで遍さん、明日も調査をするんですか?」
「午前中は調査をするつもりでしたが、予想より多くの資料が集まりました。
明日は当主様のお屋敷に戻って試料を大学に発送します。次の調査が必要かどうか、
その後で相談しましょう。だから明日の朝は少しゆっくり、8時起床で如何ですか?」
「了解です。じゃ、明日の朝8時に。」
俺は姫を促して部屋に戻った。

479 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 11:07:28 ID:Xr/MafuY0
 「カワウソやオオカミのこと、知っていたんですか?」
姫は俺のベッドに腰掛けた。窓には鍵、そしてカーテン。
「此所には貴重な動物がいる。それは聞いた事がありました。
他の場所には、もういなくなった動物たちだって。
だから、出来れば自分の眼で見てみたかったんです。
でも、本当に遇えるかどうか分からなかったから、Rさんには話せませんでした。
期待を裏切ってしまったらと、そう思って。」
俺は姫の隣に腰掛けて、小さな肩を抱いた。
「気を遣ってもらって、本当に感謝してます。それに、遍さんの話を聞いて、
長い間忘れていた、とても大事なことを、思い出すことが出来ました。」
俺はもう絶対に、あの動物たちの事を忘れない。そう、絶対に。
「気を悪くしてませんか?」 「大・丈・夫、分かるでしょ?」 「...はい。」
決して失いたくない温もりを、もう一度しっかりと抱き締めた。

480 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 11:09:30 ID:Xr/MafuY0
 翌朝、俺は7時前に眼を覚ました。姫は隣のベッドで寝息を立てている。
そっと部屋を出て、施設の玄関に向かった。何となく、そうすべきだと思ったからだ。
鍵を開け、ドアを押し開ける。ガサガサという異音、一体?
ドアをくぐり、足下を見て息を呑んだ。
細い笹で繋がれた鮎が、床に敷いた柏の葉の上に置かれている。
鮎の片眼から口に笹を通し、また次の鮎の片眼から口に笹を通す。
そうして十数尾の鮎が繋がれていた。間違いない、昨夜の水妖たちの仕業だ。
あの、小さな黒い人影たちが鮎を捕り、笹で繋ぐ情景が脳裏に浮かぶ。
罪滅ぼしのつもりなのか、昨夜は不気味に見えた黒い影に親しみが湧く。
「Rさん、そのお魚、昨夜のうちに?」 パーカーを羽織った姫が立っていた。
「水妖たちがお詫びに置いていったんでしょうね。今日の昼食は鮎の塩焼きです。
当主様のお屋敷に戻ったら、早速準備しましょう。」
折角だから、ヒレに塩をまぶし、魚体に踊り串を打つ。本格的な塩焼き。
笹を通してあるから片眼は潰れているが、そこに串を打てば全然目立たない...
え?片眼が潰れた、贈り物の魚?

481 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 11:12:24 ID:Xr/MafuY0
 そうか。 水妖≒河童、山妖≒山童。 そうだったのか。
河童の原始的な姿を示すと言われる奄美のケンムンや沖縄のキジムナーには、
捕った魚を分けてくれるという伝承や魚の片眼を食べるという伝承が多い。
何故エラから口でなく、片眼から口に笹を通すのかは分からない。
しかし、俺と同じような経験をした人間が語った話が、
後にそれらの伝承に変化したのではないか。片眼の抜かれた、贈り物の魚。
河童が魚の片眼を抜くという話は聞いたことが無い。
しかし『片眼の魚』の伝承は各地に残っていると聞いた。
元を辿れば、河童と片眼の魚は結びついていたのかもしれない。
今、此処以外に、河童や山童がいる場所が残っているだろうか。
去年、沖縄に旅行した時、同行した沖縄出身の少女から
『先の大戦以降、キジムナーを見たという人はほとんどいないらしい。』という話を聞いた。
それに姫は、『先の大戦以降、此処以外であの光の列が現れたという報告は無い。』と言った。
『先の大戦以降』、単なる偶然とは思えない。それはあまりに不思議な符号ではないか。
恐らく先の大戦を境に、何かが大きく変わったのだ。
社会の仕組みか、人の心のあり方か、あるいは魂の旅路に関わる何かか。
それは一体何だろう。それが分かれば、人と妖怪が近しい生活を再び取り戻せるのか。
鮎をビニール袋に入れ、柏の葉を片づけながら、そんな事を考えていた。

482 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 11:18:49 ID:Xr/MafuY0
 翌日、家族4人揃っての朝食。何だか久し振りのような気がして可笑しくなる。
食事を済ませた後、部屋に戻ってのんびりしていると、
床に座って絵本を読んでいた翠が何事か呟いた。誰かに話しかけた風ではない、独り言?
Sさんと姫、もちろん俺も翠の独り言に聞き耳を立てた。
「とーしゅさまは、おかあさんのおとうさん。
とーかさまは、おかあさんのおかあさん。」
俺たち3人は思わず顔を見合わせた。
建前とはいえ、当主様と桃花の方様の血縁は封じられている。
Sさんは俺と姫に、翠の前ではその話題に触れないようにと念を押していた。
「もしかして、Mさんですかね?」
此処で過ごす間、俺たちの世話ををしてくれる感じの良い女性。
「Mさんが一族のしきたりを知らないはずが無い。違うと思う。」
それなら、考えられることは1つしか無い。しかし、そうだとすれば。
「翠が自分で感知した、ということですか?」 「そうとしか、考えられない。」
「以前、翠ちゃんの感覚の一部を封印した筈ですよね?」 姫の顔も緊張している。
「したわよ。でも封が不十分だったのか、血縁による特別な現象なのかは分からない。
今後の様子を見て、対応を考えなきゃね。あ、翠、大丈夫よ、大丈夫。」
俺たちが難しい顔をして話し合っているのを見て不安になったのだろう。
翠は顔を上げて俺たちを見つめていた。泣きそうな顔。
俺は慌てて駆け寄り翠を抱き上げた。
「大丈夫だよ。お父さんと一緒に絵本読もう。ね?」
正直、翠の将来に不安はある。でも、それは考えても仕方が無いことだ。
翠の成長を見守りながら、その都度対応するしかない。
床から絵本を拾い上げ、ソファに座る。
笑顔の戻った翠と一緒に、大きな声で絵本を読んだ。

483 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 11:20:34 ID:Xr/MafuY0
 「出来ればもう少し、大物のスズキの資料が欲しいですね。
明日からの二次調査も、お願い出来ますか?」 遍さんは少し申し訳なさそうな顔をした。
スズキの大物は2尾しか釣れていないので、二度目の調査をしたいのは当然だろう。
姫もあらかじめ大学に7日と8日の欠席届を提出していたし、全然問題は無い。
「最初からそのつもりだったので大丈夫です。大物のデータが必要なら、
2日とも夕方の釣りをした方が良いですね。」
「前回の調査では大物が釣れたのが4時〜5時半頃でした。少し余裕を見て、
3時〜6時までという日程でどうですか?それなら2日とも日帰りが可能ですし。」
前回のことを気にしてくれているのだろう。宿泊するのは構わないが、
日帰りならば調査の時間以外は4人一緒に過ごすことが出来る。
Sさんのことを考えればとても安心だし、ありがたい。
「了解しました。日帰りで2日間の調査と言うことでお願いします。」

484 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 11:44:53 ID:Xr/MafuY0
 2度目の調査は、スズキの大物5尾分の資料を採取して終了した。
もちろん50cm以下の小物も釣れたし、『十分なデータが取れた。』と遍さんは言った。
姫が62cmのアカメを1尾釣り、その資料を追加出来たのも大きな成果だ。
施設に戻り、釣り具を片づけたあとで、俺は用意してきた荷物を解いた。
ペットボトルに小分けした日本酒、餅、紙コップ、小さな紙皿。そして型抜きした厚紙。
調査の無かった5日、午後から街へ出て用意した物だ。厚紙はSさんが型を抜いてくれた。
あらかじめ遍さんにも話して了解をもらってある。
「祭壇はどこに作れば良いですか?」 「斜面を下る道の入り口近くが良いと思います。」
厚紙を組み合わせて簡単な祭壇を組み立てた。底の部分には重しにする石を何個か詰める。
防水加工された厚紙だし、屋根もあるから少々の雨なら供物は濡れないだろう。
5分程で小さなお社の形をした祭壇が完成した。
調査の間、俺たちを見守ってくれたヤマイヌとオオカミ、鮎を届けてくれた水妖。
それから、長い間この場所の境界を護り続けている式、『御影』。
皆に感謝の気持ちを込めて日本酒と餅を供える。
動物たちが出来るだけ長く命脈を保てるよう、長命祈願の祈祷も併せて行う。
姫に教えて貰った祝詞を詠唱し、姫と並んで手を合わせた。
「手順は、大丈夫でしたか?」 「はい、素晴らしい出来でした。合格です。」
遍さんの4駆に乗り込み、施設前の広場を出発したのは7時半少し前。
そのあとも暫くの間、俺たちを見守る視線を感じていた。

485 『遺産(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 12:06:37 ID:Xr/MafuY0
 5月8日、お屋敷に戻る日。朝食を済ませた後、俺と姫は荷物をまとめていた。
ノックの音。ドアを開けると、緊張した表情のMさんが立っていた。
「Sさま、桃花の方さまがお呼びです。ご用意を。」
桃花の方さま?当主様と桃花の方さまでなく?
数分でSさんは身支度を整え、Mさんと一緒に部屋を出ていった。
「何の、お話でしょうね?」 俺の手から翠を抱き上げて、姫は微笑んだ
「悪いお話ではありません。多分、『相続』です、大切な『遺産』の。ね〜。」
「『相続』って、『遺産』って、一体何のことですか?」
「翠ちゃんは最初から女の子だと分かっていたので相続は先延ばしになりました。
でも、今度は男の子の可能性もありますから、遺産が相続されるんです。
これ以上のことはSさん自身が説明するまで待って下さい。」
つまり、『これ以上は聞いてくれるな』と言うことだ。
湧き上がる疑問を必死で呑み込み、翠の相手を姫に任せて荷造りを続けた。
一時間ほどして、Sさんが部屋に戻ってきた。優しい笑顔。
Sさんの後から部屋に入ってきたMさんは、小さな木の箱を捧げ持っている。
...俺にでもすぐに分かった。 箱の中から滲み出る気配。。
どんなに大切な遺産か知らないが、間違いない。
これは、『呪物』だ。しかも、とびきりの。
「Sさん。私、一生懸命手伝います。」 姫はSさんに駆け寄り、手を握った。
翠も姫の真似をしてSさんの手を握る。 「てつだい、ます。」
「2人とも、ありがと。」 Sさんはにっこり笑って2人の頭を撫でた。
俺たちは当初の予定通り、その日の午後にお屋敷に戻った。

『遺産(下)』 了

486 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/16(月) 12:18:53 ID:Xr/MafuY0
 皆様こんにちは、藍です。
昨夜で投稿を終えるはずが、予期せぬトラブルで長時間の中断がありました。
誠に申し訳ありませんでしたが、お楽しみ頂ければ幸いです。
引き続き『遺産(結)』の投稿に向けて準備を致します。
それでは本日はこれで失礼致します。有り難う御座いました。

487 名無しさん :2013/09/16(月) 16:17:48 ID:kpw8XjbcO
知人さん藍さんありがとうございましたm(_ _)m
稀少動物、水妖、山妖、意外さいっぱいでとても面白いです。結末がどうなるか本当にクワクします。無理せず続けて頂ければと思います。

488 名無しさん :2013/09/16(月) 22:52:24 ID:s6WXkzuY0
わお。カワウソの話は本当に覚えています。当時TVで絶滅したはずのカワウソがTV撮影されたんですよね。
その後、一切彼らが影像に映ることはありませんでしたね。
昨年正式に絶滅が宣言されたのでやはり2011年以前のお話なんですね
送り狼の件も興味深いですね。お役目とは継承されるのでしょうか?
それともオオカミなら普通に起こす現象なのでしょうかね?

489 名無しさん :2013/09/17(火) 03:41:40 ID:oA/f8SQwO
>>486
作者さま、藍さん、今回もありがとうございました。

最後の小さな箱、へその緒かと思いましたが、呪物…?

続きを楽しみにしていますが、無理なさらないでくださいね。

491 名無しさん :2013/09/25(水) 23:53:11 ID:le48Gcec0
q

492 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 20:58:43 ID:94SVkDkM0
テスト中。

493 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:02:56 ID:94SVkDkM0
 皆様今晩は、藍です。
『遺産(結)』と、それに続く掌編『新しい命・第弐章』を投稿致します。
お楽しみ頂ければ良いのですが。

494 『遺産(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:05:00 ID:94SVkDkM0
『遺産(結)』

 お屋敷に戻ってきた日の夜。
翠を寝かしつけた後で、Sさんは俺と姫をリビングに招集した。
いつもなら翠と一緒に寝てしまう時間だが、今夜は姫もしっかり起きている。
テーブルの上には背の高いグラスが3つ。そして白い布包みが1つ。
説明を聞くまでもなく、その中身があの箱であることが分かる。
Sさんが桃花の方様から相続した遺産、飛びきりの呪物。
包みの中から滲み出す気配が気になって何となく落ち着かない。
「さて、何から説明しようかな。何となく、緊張するわね。」
「呪いの話から始めた方が良いと思います。Rさんは何も知らないんですから。」
「そうね、じゃ、まずは順序良く。」
Sさんは炭酸水にウイスキーを数滴加えただけの極薄ハイボールを一口飲んだ。
「簡単に言うと、私たちの一族には古い呪いが掛けられてるの。
男の子が生まれると呪いの影響を受け、最悪の場合、その子は命を奪われる。
記録によれば、600年ほど前、ある依頼を通して関わった事件が呪いの源。
一族の生業からして、そういう恨みを買うこともあり得る。仕方ないわよね。」
何となく、分かる。術者に恨みを抱いた何者かが、一族を根絶やしにするために
家の世嗣となる男の子を対象にした呪いを掛けたのだろう。
古い伝承には時折見られるモチーフだし、それに起因するしきたりが残る地域もある。
ただ、600年経ってもこの呪いの力は衰えず、その一方で一族は現在も命脈を保っている。
それならば、その呪いに対抗する方法があるということだ。つまり、あの箱の中身は。
「相続した遺産は、その呪いに対抗するための呪物ということですか?」

495 『遺産(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:07:26 ID:94SVkDkM0
 「相変わらず冴えてるわね。ほとんど正解。
でも、これは呪物じゃ無くて祭具。まあ、突き詰めれば両者の線引きは難しいし、
これに関しては間違うのも無理はない。元々は別の目的で使うものだし。」
「御免なさい。何て言うか、感じる気配が尋常じゃない気がして。」
「強力な呪いに対抗するのだから、尋常じゃ無い力は当然。
ただ、普通は出産後に幾つかの儀式を行うだけで充分、これを使う必要はない。」
Sさんは一旦言葉を切って白い包みを見つめた。小さく溜息をつく。
「呪いの影響を最も強く受けるのは、当主様の子か孫として生まれた男の子。」
つまり、Sさんのお腹の子が男の子なら呪いの影響を強く受ける。しかし何故。
「かなり前の時代から、当主様は世襲ではないんですよね。
なのにどうして当主様の子か孫として生まれた男の子が強い影響を受けるんですか?」
「呪いが掛けられた当時は世襲だったからよ。
普通、一度成立した呪いはその対象を変更出来ない。」
呪いの対象が変更出来ないのなら、『次の当主になる運命の男の子』は一応安全だ。
しかし『力』が血縁を通じて遺伝する以上、当主様の子と孫を危険にさらすのでは
将来の優秀な術者を失いかねない。まして現在、一族は少子化の影響を受けている。
性別に関わらず、生まれた子は絶対に失いたくない筈だ。
自分でも不思議だが、
この時、俺には『自分の子を失うかも知れない』という危機感が全く無かった。
もし翠を失ったらと想像するだけでパニックになりかけるというのに。
多分それは、あの箱の中身の役割を知っていたからだ。その呪いに対抗する強力な祭具。

496 『遺産(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:16:12 ID:94SVkDkM0
 「それで、その箱の中身は、どうやってその呪いに対抗するんですか?」
Sさんは黙って白い包みを解き、小さな木の箱を取り出した。
材質は桐?一辺が10cm程の立方体。
「その呪いにはかなり複雑な方法が使われていて、未だ解くことは出来ていない。
根本的な解決が出来ない以上、呪いの力を逸らすしかない。
そのために使われるのがこれ。代々受け継がれてきた『遺産』。」
白く細い指が箱の蓋をゆっくりと開けた。
箱の中には真っ赤な液体が満ちていた、それはゆっくりと溢れて、箱の中から流れ出す。
箱の木の肌が、そして白い布が、見る間に赤く染まっていく。
いや、そんな筈は無い。木の箱に液体、しかも溢れ出るなんて...瞬きをして目を擦る。
やはり、白い布に小さな木の箱が乗っているだけだ。見間違い?
「見間違いじゃない。ある神様の『血』が、これに封じられた『力』の源。」
Sさんは優しく微笑み、箱の中からそれを取りだした。
赤い、宝石? 直径3cm程のドーナツ型。
赤さんごを思わせる鮮やかで深い色。滑らかな質感。艶やかな光沢。
石だとすれば、これは恐らく『璧(へき)』の一種だ。完璧という言葉の語源、環状の宝玉。

497 『遺産(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:28:00 ID:94SVkDkM0
 「当初作られたのは4個と言われているけれど、現存しているのは3個。
呪いが掛けられた後は、代々、桃花の方様とその娘が相続してきた宝玉、璧。
この璧の号は『真紅』。」
Sさんは左手で宝玉を取り、右手の中指に嵌めた。大きめの指輪に見えないこともない。
そして、中指から外した宝玉を掌に載せて姫に差し出した。
「Lも実際に見るのは初めてでしょ。触ってみる?」
姫は頷いて宝玉を受けとった。それを右の手首に...え?
まるで当たり前のように、深紅の宝玉が姫の手首で輝いている。
「何故、指輪が腕輪に?」
「『大きさ』は決まっていないんです。きっと、足に嵌めることも出来ますよ。」
「実際、男の子が生まれたら足首に嵌めることが多いみたいね。」
Sさんは姫から受けとった宝玉を白い布の上に戻した。
「R君も触ってみたい?」 悪戯っぽい笑顔。
しかしそれは、俺が触ってはいけないもの。何故かそんな気がした。
「いいえ、遠慮しておきます。触ってはいけないような気がするので。」
Sさんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そう、残念ね。どうなるのか、ちょっと見てみたいけれど。」
「試して貰うなら、『力』をちゃんと説明してからでないと。」 姫も笑いを堪えている。
そうだ、未だこの宝玉の『力』を聞いていない。
「その宝玉で、どうやって呪いを逸らすんですか?」
「生まれた子が女の子なら、呪いは発動しない。それなら、
生まれた子が女の子だということに出来れば、呪いの発動を止められる。
そのためにこれを使うの。これを身に付けている間、その子は誰が見ても女の子。
元々これは、ある種の祭祀で神官が女装する時に使われていたもの。
本当に女になるのだから、女装というのは変だけれど。」

498 『遺産(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:30:02 ID:94SVkDkM0
 「しかし、ずっと女の子として育てる訳にはいきませんよね?」
「生まれてから7日間欺くことができれば、もう呪いは発動しない。
その後はこれを外して育てても大丈夫。ただし、問題が2つ。」
これ程強力な祭具を、生まれたばかりの赤子に使うのだから、問題が有って当然だろう。
「どんな、問題ですか?」
「7日が過ぎたら、なるべく早く縁の神様にお参りして、
生まれたのは男の子だと報告してからこれを外さなければならない。
7日を過ぎてもこれを嵌めたままでいると、戻れなくなると言われてるの。
でも、7日が過ぎたら退院して、そうね、あの川の神様に男の子だと報告してから
これを外せば良い。だからこれは大した問題じゃない。」
「もう1つの問題は大したこと、なんですね?」
「大したことっていうより、ややこしい問題。L、何だか分かる?」
「子供が生まれてからこれを嵌めるまでをどうするか、だと思います。」
「そう、正解。」 「どういう事ですか?」
「もし男の子なら、当然これを使うことになる。
でも、これを使う前は男の子に見える訳だから、
誰かが『可愛い男の子ですよ』って言ったら、その時点で呪いが発動してしまう。
先代の桃花の方さまは、あのお屋敷でご出産なされたから、
その対策はわりと楽だったと聞いたけど。」

499 『遺産(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:31:28 ID:94SVkDkM0
 そうか、Sさんは翠を産んだのと同じ病院で出産する予定だ。
あらかじめO川先生や看護師さんたちに事情を説明し、協力して貰わなければならない。
一族に産婦人科医がいれば、お屋敷で出産することも不可能では無い。
看護師さんの数も限られるし、その方が対策は確かに楽だろう。
しかし出産時に何か事故があった場合、施設の整った病院でなければ
対応出来ない事もある。敢えてお屋敷で出産するリスクは冒したくない。
「O川先生と看護師さんたちに口裏を合わせて貰う必要がある、ということですね?」
「そう、たとえこれを使っていても、7日が過ぎるまでの間『男の子』は禁句。
もし誰かが口を滑らせたら、全てが水の泡。でも大丈夫。私、必ずこの子を守る。」
Sさんは微笑んで、両掌をそっとお腹に当てた。
嫌な予感がする。失敗すれば、折角生まれてくる我が子を失う。
その実感がじわりと重くのしかかってきた。
しかしSさんは普段通り自信に満ちている。もしかしてSさんは。
「これを使わずに守る方法があるんですか?例えば、その、『禁呪』とか。」
「いいえ、これを使うしか方法は無い。だからみんなに協力して貰わないとね。」
「Sさん、私、全力で手伝います。絶対大丈夫ですよ。」 「ありがと。」

『遺産(結)』 完

500 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 21:35:14 ID:94SVkDkM0
藍です。少しだけお休みを頂きます。

501 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:14:41 ID:94SVkDkM0
『新しい命・第弐章』

 少しだけ開けた窓から、鳥たちの声が聞こえてくる。
梅雨の雨がしっとりと山々を潤し、その緑が一層鮮やかさを増す。
輝く夏を間近に控え、様々な命が萌える季節。
未だ大きな不安を抱えたままだが、俺たちも新しい命の誕生を待っていた。

502 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:16:27 ID:94SVkDkM0
 6月19日。既に予定日を2日過ぎていたが、Sさんに出産の兆しは無い。
しかし、大学で姫を迎えてお屋敷に戻ると、Sさんが緊張した顔で俺たちを待っていた。
「少しまずいことになったわ。だから急だけどこれから入院する。
もう病院には了解を貰ったし、あとは当座の荷物を車に積んで移動するだけ。」
「一体何があったんですか?」
「『上』から電話が有ったの。『不幸の輪廻』の活動がかなり活発になってるって。
活動がこれ以上活発になれば何が起こるか予想出来ない。
だからすぐに用意をして。今の段階で説明出来るのはこれだけ。」
Sさんが入院したのは翠を産んだ時と同じ部屋。家族も宿泊可能な広い個室。
週末を家族揃ってのんびりと過ごし、日曜の夜になったが出産の兆しは無い。
俺はさすがに不安になった。しかも不安の種はそれだけではない。
その夜、俺がなかなか寝付けなかったのも当然だった。
O川先生や看護師さんたちへの説明と協力依頼は済んでいるのか。
俺が尋ねると、Sさんは『大丈夫。』と言って微笑んだ。
しかし、本当に大丈夫か、見落としはないか、そう考えるとますます不安になる。
このままでは気配に気付いた誰かを起こしてしまう。
俺はそっと部屋を出て一階へ向かった。気分転換が必要だ。
自動販売機で飲み物を買い、待合室のベンチで眠くなるのを待つつもりだった。
エレベーターを降り、常夜灯の灯りを頼りに廊下を歩く。
しかしベンチに座っても不安は増すばかり、気分転換どころではない。
どれくらい座っていただろう。足許から声が聞こえたような気がして視線を床に落とした。
影? 薄明かりの中では不自然な程に濃い影が、床に伸びている。
見る間にその影は長く伸び、俺のすぐ隣の壁をはい上がった。
影というより、壁にぽっかりと穴が開いたかのような漆黒の闇。これはまるで。

503 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:19:37 ID:94SVkDkM0
 『案ずるな。』
もう一度、ハッキリと声が聞こえた。間違いない、この声はあの時の。
『我が、分かるか?』
「はい。分かります。」
『心配だろうが、5日間、我が時を稼ぐ。
その間、何であろうと誰であろうと、お前達の邪魔をする力を此処へは通さぬ。
ただ一心に、お前達のやるべきことに集中すれば良い。』
あの場所。『聖域』の河口から遠い距離を越えて、一族最強の式が俺に話しかけている。
「とても心強いお話ですが、これは当主様のご指示でしょうか?」
『いや、我の意志だ。危急の場合、我らは独自の判断を許されている。』
「何故、私たちのためにそこまでして下さるのか分からないのですが。」
『礼、だ。あの酒は旨かった。だが、何よりお前達の気持が嬉しい。皆も喜んでいる。
ただし、期限は5日。それが限界だ。あとはお前達次第。さて、迎えが来たようだな。
細君の出産は明日、心してあたれ。』
闇は見る間に薄れ、廊下に小さな足音が響いた。姫だ。
「Rさん、どうしたんです。今の気配はまるで。」
「先月『聖域』の河口で会った、あの最強の式が味方をしてくれるそうです。
だから子供が生まれた後5日間は誰にも僕たちの邪魔は出来ない。心強いですよね。
それにSさんの出産は明日だと教えてくれました。もう部屋に戻って休みましょう。
明日は忙しくなりますよ、ドキドキしますね。」
「大丈夫です。私も、頑張りますから。」

504 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:23:12 ID:94SVkDkM0
 Sさんの陣痛が強くなったのは翌日、6月22日の昼過ぎだった。
「翠、おいで。」 Sさんはベッドで翠を隣りに座らせ、小さな肩を抱いた。
「おかあさんはこれから赤ちゃんを産むの。待っててくれる?」
「うん。あかちゃんはおとこのこ?おんなのこ?」
首筋から背中の毛が逆立った。もし男の子で、翠の感覚がそれを感知したら。
「生まれてみないと分からないけど、おかあさんはどっちでも良いな。
男の子でも女の子でも、大切な宝物だから。早く会いたい。」
「みどりも、どっちでもいいな...」
Sさんの腕の中で、翠は既に寝息を立てていた。
「式が護ってくれるから、ゆっくり寝ててね。さて、これで一番の不確定要素は対応済み。」
Sさんがナースステーションに電話を掛ける間、俺は車椅子を準備した。
姫が車椅子を押してエレベーターに向かう。「いよいよですね。」
「L、頼りにしてるわよ。」 「任せて下さい。」
今回、Sさんの希望で俺と姫は出産に立ち会うことになっている。
O川先生が処置室の前で待っていてくれた。
「お二人は暫く此処でお待ち下さい。Sさんが分娩室に入ったらお呼びします。」
O川先生の表情に曇りはない。全て順調、自分に言い聞かせる。

505 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:27:01 ID:94SVkDkM0
 姫と2人、廊下のベンチに座ってその時を待つ。
ゆっくりと、ゆっくりと過ぎる時間。じりじりする思いで待ち続ける。
30分程で分娩室のドアが開いた。姫が胸ポケットからそっとあの宝玉を取り出す。
事前に確認した手順通りだ。子供が生まれたら姫は宝玉をSさんに渡す。
そしてもし男の子なら、Sさんは宝玉をその子の足に嵌める。それで完了。
いや待て、それでは。
O川先生と看護師さんは男の子が女の子に変わったのを目の当たりにする。
何故それに気付かなかった?
かえって、それが『本当は男の子なのに』と強調する結果になりはしないか。
しかも一族の力の一端が人目にさらされる。その後の対応は一体どうすれば。
「Rさん、Lさん。分娩室へどうぞ。立ち会いをお願いします。」
我に返った。△本さんの声。師長を務めるベテラン看護師。
分娩室の中には看護師がもう1人、◎内さん。若手だが手際の良い人だ。
「Sさん、心強い味方が来ましたよ。」 O川先生が俺たちを見て微笑んだ。
分娩台のSさんがO川先生に右手を差し出し、O川先生がその手を握った。
「O川先生、私必ず元気な女の子を産みます。力を貸して下さいね。」
「その意気です。一緒に頑張りましょう。」
Sさんは△本さんと◎内さんにも手を差し出した。2人もSさんの手を握る。
「△本さんも、◎内さんも、力を貸して下さいね。きっと、女の子ですから。」
何故、『女の子』と二度繰り返したのだろう? しかもその前にSさんは3人の手を。
...そうか、術。確かに、これなら大丈夫。
Sさんは3人の視覚と記憶を一気に、そして確実に操作するつもりだ。
お正月のトランプで見せてくれた術、あの強力な後催眠暗示。
子供が生まれた瞬間にこの術は発動する。
そして生まれた子の性別に関わらず、3人にはその子が女の子に見える。
心から信じていれば口を滑らす心配は無い。恐らくこれが、最善の策。

506 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:29:55 ID:94SVkDkM0
 床に膝をつき、Sさんの手を握る。ずっと声を掛けて励まし続けた。
一時間近くが経っただろうか。
「もうすぐです。生まれますよ。」 Sさんが俺の手を一際強く握り返した直後。
「おめでとう御座います。やっぱり女の子ですね。」 O川先生は満面の笑み。
続いて産声が聞こえた。 姫がSさんにそっと宝玉を手渡す。
やがて△本さんがタオルにくるまれた赤子をSさんに抱かせてくれた。
あとはSさんが赤子の足に宝玉を嵌めるかどうか。
「あの、先生、もう一度性別を確認したほうが。」 ◎内さんの訝しげな表情。
腹の底がヒヤリと冷たくなる。何故だ?彼女には術が完全には効いていない。もしもこの後。
『そうです。性別が間違っていたら困りますから。』 軽い耳鳴り。
姫の『あの声』だ。微かに空気が震えている。
姫はふわりと近づいて、Sさんから赤子を受けとった。
『やっぱり女の子。ほら、Sさんによく似ていますよ。』
3人に向けて赤子をかざして見せる。 3人はボンヤリと赤子を見つめ、小さく頷く。
その時、Sさんが澄んだ声で歌い出した。3度繰り返し、新しい命を言祝ぐ歌。
一瞬ボンヤリしていた3人は、Sさんの歌声で我に返った。
Sさんの術と姫の術、最高のコンビネーション。
今度こそ大丈夫。
『◎内さんの言葉で皆が赤子の性別を確認した。確かに、女の子。』 それが3人の記憶。
O川先生も、△本さんも、そして◎内さん自身も。
そして宝玉を身につけた赤子は、今後3人だけでなく誰が見ても女の子。
取り敢えず山場を1つ越えた。あと7日間、何事もなければ呪いは発動しない。

507 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:31:31 ID:94SVkDkM0
 6月27日、子供が生まれて5日目。
生まれた時刻は3時18分だったから、『御影』が設定した期限は今日の同時刻で切れる。
期限が切れた後は何が起こるか予想出来ない、当然外出は控えるべきだろう。
姫は大学を早退し、2人でお屋敷に戻って籠城の用意を済ませた。
翠に新しい絵本を何冊か買って病院に戻ったのが2時50分頃。ぎりぎり期限内。
その夜は何事も無く過ぎ、翌日も日中は特に変わった様子は見えなかった。
異変が起きたのは夕方。翠が欲しがった飲み物を買いに、一階の待合室に降りた時だ。
既に診療時間は終了している。人気の無い待合室。
玄関脇に並ぶ自動販売機の前まで来ると、玄関から異様な気配を感じた。
玄関のガラス越しにそっと外を覗く。玄関を出てすぐの場所にある小さな植え込み。
その前にボンヤリとした人影が立っていた。 ...まずい、あれは。
今までに見た、どの霊よりもおぞましいもの。
ケアンズのホテルで壁から生えてきた男も、ある男の部屋に現れた鬼も、
これ程までに禍々しい気配をまとってはいなかった。

508 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:35:40 ID:94SVkDkM0
 『部屋に戻れ。』 足元から聞き慣れた声が聞こえた。
管さん。しかしその大きさ、丸くなっているが体を伸ばせば優に2mはあるだろう。
「管さん。あの、どうしてそんな大きさに?」
『『不幸の輪廻』の活動が活発になれば、『良き理』の活動も活発になる。それが道理。
わしらは『良き理』から流れ込む力を借りて活動する。流れ込む力が増えれば、当然こうなる。』
「今、外にいるあれには、『不幸の輪廻』から力が流れ込んでいるということですか?」
『そうだ。だからあれも普段よりずっと強い力を使える。
『御影』が決めた期限が切れたから、此処を探し当てることが出来たのだろう。
これから時が経てば、あれと同じようなものがもっと集まってくる。
『御影』が決めた期限は切れたが、勿論わしらがあれを食い止める。
しかし、今後なるべく此処には近づくな。早く戻れ。』
軽く頭を下げ、飲み物を買って部屋に戻った。姫が窓から外を覗いている。暗い表情。
「呪いは発動していないのに、何故あんなものが此処に。」
「さっき管さんは『不幸の輪廻』の影響だと言ってました。活動が活発化しているからだって。」
「明日で7日目、呪いの発動は止められると思うけど、退院する時が問題ね。」
そうだ、無事7日を過ぎたなら出来るだけ早く此処を出なければならない。
そして川の神様のお社で...しかし『もっと集まってくる』と管さんは言った。
そんな中、どうやって此の病院を出れば良い?

509 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:37:08 ID:94SVkDkM0
 6月29日。子供が生まれて7日目。
昼食を済ませた後、Sさんは授乳を終えて昼寝をしていた。
夜中もほぼ2時間おきに授乳をしているから睡眠不足は仕方ない。
退院の予定は今日の4時30分頃。退院する時の懸念は益々深刻だが、
『考えても仕方ないですから。』と言い、姫も翠と一緒に昼寝を始めた。
1時15分。あと2時間と少し、俺1人起きていても仕方ない。
俺もソファに横になった。やはり疲れていたのだろう。すぐに眠くなり、夢を見た。
俺は翠と一緒にソファに座り、絵本を読んでいる。部屋にSさんと姫の姿は無い。
突然翠が顔を上げた。床に降りてドアに向かって歩く。
ドアを指さし、俺の方を振り返った。
「おとうさん、かみさま。かわの、かみさまだよ。」
ノックの音がした。

510 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:41:20 ID:94SVkDkM0
 ドアが、開く。
『ちょっとお邪魔するよ。』 初老の男性が立っていた。
あの川の神様、○瀬△□◎主之尊。
「〇瀬の主様!」 翠を抱き寄せ、俺は床に膝をついた。
『君に子が生まれたと分かったら、いても立ってもいられなくてね。』
川の神様は部屋の中を見回し、一人掛けのソファに腰を降ろした。
『あんな山の中まで来てもらうのは細君の体に悪いだろうし、私が出向けば済むことだ。
どうしてもこのタイミングでなければ困る仕事もあったし、ついでに立ち寄らせてもらった。
しかし込み入った仕事とはいえ、少々疲れた。歳のせい、かな。』
俺は床に両手をついた。
「本来こちらから伺うべきところ、誠に申し訳ありません。」
『気の短い年寄りが待ちきれずに祭主の子に会いに来ただけ。気に病む必要はない。
さて、この年寄りと祭主が揃えば此所は即席の社。R、聞かせてもらおうか。
生まれた子は姫君かな、それとも若君かな。』
「男の子、です。」
『そうか、どちらにしても目出度い。では顔を見せてくれ。』
俺はベビーベッドから赤子を抱き上げ、川の神様の前に跪いた。
『ふふ、母君に良く似ている。君以上の美丈夫になるぞ。この子の名は?』
「藍と名付けました。」
『姉君の名とも縁があり、君たちの家族を結びつける力の名と同じ音。良い名だ。』
川の神様は赤子の体に三度触れ、何事か呟いた。ゆっくりとソファから立ち上がる。
『これで良い、御陰神様のご機嫌を伺ってから帰るとしよう。
姫君も、ご機嫌よう。弟君を大事にしておくれ。』
川の神様は翠の頭を撫でてからドアへ向き直った。
俺は駆け寄ってドアを開け、深く頭を下げた。
『お前たちも帰る支度をしなさい。何者も、今のお前たちに害をなすことは出来ない。』
ドアをくぐった瞬間、川の神様の後ろ姿は消えた。

511 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:43:21 ID:94SVkDkM0
 赤子の泣き声で目が覚めた。藍?
Sさんが抱き上げると藍は泣きやんだ。 「もうミルクの時間だね。」 Sさんの微笑み。
はっとして時計を見る。3時25分、既に7日を過ぎている。
もう呪いは発動しない。しかし。
そっと窓の外を覗いた姫はすぐにカーテンを閉めた。
「もう、少なくとも数十はいます。あれだけ多いと、対処は難しいですね。」
まだ診療時間内、病院には途切れなく他の客が訪れる。
それでも他の客たちが何の影響も受けないということは、
集まっているものたちの狙いが俺たちだということだ。
「一体、目的はなんでしょうか?」
「はっきりとは分からないけど、一番ありそうなのは『乗っ取り』かしら。
私たちに憑依して体を自分のものにする。Lが言った通り、あれ程多いと対処が難しい。
私やLの術が効くかどうか分からないものも、いくつか混じってるし。」
2人の術が効かない。一体そんな相手に、どう対処すれば良いのか。

512 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:45:52 ID:94SVkDkM0
 念のため、授けられた勾玉と短剣は持ってきている。
しかし、新しく生まれた子まで護ってくれるかどうかは分からない。
その時、俺はさっき見た夢を思い出した。
「あの、もしかしたら対処の必要はないかも知れません。」
Sさんと姫は同時に俺を見た。 「Rさん、どういうことですか?」
「さっき、夢を見たんです。川の神様が『大丈夫だから帰る支度をしなさい』と仰って。」
「それ、ただの夢じゃないかも知れない。私も見たのよ、川の神様の夢。
『これから後に生まれる男の子には何の障りもない。』と、そして
『新しい勾玉を届けに来た。』と仰ったの。もしかしたら。」
俺は未だ解いていない荷物の中から桐の箱を取りだした。
短剣、そして勾玉。水晶、白瑪瑙、翡翠、そして。
もう一個、見慣れない勾玉が並んでいた。吸い込まれるような深い青。
その表面に輝く、夜空の星のような、細かい金色の微粒子。
「Sさん、これ。」 俺はその勾玉をSさんに手渡した。
「瑠璃、そしてラピスラズリ。これは『藍』の極致。やっぱり、正夢だったのね。」
Sさんは藍の左足首からあの宝玉を外した。そして右手に瑠璃の勾玉を握らせる。
「川の神様のお墨付きが出たのだから大丈夫、皆で帰りましょう。」

513 『新しい命・第弐章』 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:48:49 ID:94SVkDkM0
 「本当に大丈夫なんでしょうか?」 そっと姫に囁く。
玄関の外に集まったものたちは、俺たちが出てくるのを待っている。
「神様を疑うなんて、罰が当たりますよ。」
姫が玄関のドアを開け、俺は意を決して一歩踏み出した。
さわ、と、空気が震えた。俺たちを中心にして、透明な波紋がゆっくりと拡がっていく。
集まっていたものたちのほとんどが、その波紋を避けるようにあっけなく逃げ去った。
残ったものも地面に伏して次第に薄れていく。微かに聞こえる呪詛の声にも力は無い。
傾いた日差しの中で、微かに見える。俺たちの体を覆う夥しい光の粒子、『光塵』。
Sさんも、姫も、翠も、もちろん藍も。全身が淡い光で包まれていた。
川の神様の残り香が、俺たちを護ってくれている。 胸の奥が熱くなった。
そして、Sさんの見た夢によれば、もう呪いが発動することはない。
俺の夢の中で川の神様が仰った『込み入った仕事』とは、この呪いを解くことだったのだろう。
長く一族を悩ませてきた呪いは、遂にその力を失った。 とても清々しい気分だ。
俺の後に翠と手を繋いだ姫、その後に藍を抱いたSさん。ゆっくりと歩を進める。
その後ろには小さな白い影が見え隠れしていた。
「そう言えば、私も見たんです。川の神様の夢。」 俺は立ち止まって振り向いた。
「どんな、夢だったんですか?」 姫の頬がほんのりと紅に染まった。
「『今回の働きは見事だった。』と誉めて下さいました。それから。」
「それから?」 俺とSさんは声を合わせた。
「『次は君が産む子を期待している。』と。」 姫はかがんで翠と視線を合わせた。
「ねぇ翠ちゃん。私が赤ちゃんを産んだら、嬉しい?」 「うん、うれしい!」

 お屋敷へ向けて走る車の中。窓から吹き込む風は軽く、乾いていた。もう梅雨は明ける。
やがて巡ってくる夏に先駆けて、家族5人の新しい生活が始まろうとしていた。

「新しい命・第弐章」 完

514 名無しさん :2013/09/27(金) 22:51:18 ID:igV0KfhU0
(・∀・)フッフッフ・・・・(・∀・)アーッハッハッハ・・・・「ウホッ」

藍さん有難う。UP終わるまでF5してましたWW

・・・藍さん・・・

長い間付けすぎてお姉さんになっちゃったんですね♪

515 ◆iF1EyBLnoU :2013/09/27(金) 22:58:26 ID:94SVkDkM0
 藍です。
お付き合い頂いた皆様、有り難う御座います。
無事に投稿を終えることができました。

 作品の中に、私の使っている名前が出て来て驚きました。
知人に確認したところ、伏せ字も書き換えも相応しくないとの事でしたので
そのまま投稿致しました。何だか不思議な気分です。

 依然、仕事が多忙なので『次』が何時になるかは分かりません。
ただ、知人は少なくともあと2作、原稿を送ってくれると言ってくれました。
それでは今夜はこれで失礼致します。有り難う御座いました。

516 名無しさん :2013/09/27(金) 22:59:05 ID:igV0KfhU0
ふむ・・・呪いは解かれたのなら、Lさんのお子さんが男の子でも、遺産を使う場面は無いわけですな。

結局Lさんと当主さんの関係はまだ謎のままですな。

517 名無しさん :2013/09/27(金) 23:03:13 ID:igV0KfhU0
知人さんが藍さんに物語を託したのは名前による縁という事もあるのでしょうかね?

伏字も書き換えも相応しくない、か・・・。

518 名無しさん :2013/09/28(土) 23:29:10 ID:VSYNbfRg0
(ノ゚ο゚)ノ驚きの展開・・・藍さんが男の子???
((´∀`))んなわきゃない

519 名無しさん :2013/09/30(月) 02:34:47 ID:3DwsZmq60
Rさんは、Kさんが死んだ時、術者や組織を恨んだりしなかったのかな・・
ちょっと思ってみた

520 浩太郎 :2013/09/30(月) 12:40:50 ID:zjGM94ZU0
こんにちは(^.^) ここには初めて書き込みさせて頂きます。
これまでまとめの方にはコメントさせて頂いておりました。
「遺産(結)」「新しい命・第弐章」 こんな展開があるとは考えていませんでした。
細かい内容の整合性等は他の方にお任せすることとして(個人的には苦手なので)、
このようなお話を書いて頂いており、かつ目にすることができることに喜びを感じています。
作者の方・藍さんもお忙しい中 ありがとうございます。
多分 沢山のファンの方がいらっしゃると思います。
大変だとは思いますが、次回作も期待してお待ちしています。

521 名無しさん :2013/10/08(火) 21:33:07 ID:.l47KMLMO
産まれたての藍ちゃん元気かな〜?

522 名無しさん :2013/10/09(水) 17:29:56 ID:KySWSFYM0
ふふふ・・・あと少なくとも2作ですか

毎日楽しみでなりませんよ〜

523 名無しさん :2013/10/09(水) 17:32:19 ID:KySWSFYM0
4つの祭器のうち、3つが現存

仮に4門とすれば、赤は朱雀ですかねぇ

祭器が失われた事件とかどいうのだったんですかね

524 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/09(水) 22:57:14 ID:4W84vs8Y0
皆様、今晩は。藍です。

>>516・517
知人が私の使っている名前に対してどう思っているのか。
大変興味はありますが、直接聞くのは気が引けます。申し訳ありません。

>>518
仰る通り、私は♀です。

>>519
作中の様々な場面で、その点について主人公たちが
複雑な思いを抱いているという記述が散見されます。
ただ、私はKさんを殺したのは『上』の送り込んだ刺客ではなく、
独断でLさんの術を解いたKさんに対する『分家』の報復と考えています。

>>521
私は何とか元気ですが、生まれたての藍ちゃんについては次作以降をお待ち下さい。
それにしても男女どちらでも使える名前、術の用意からして、
Sさんは始めからこの子が男の子だと分かっていたように思われます。

>>523
以前、『徳島の特産が藍』と考察して頂いた方でしょうか?
確かに、元の原稿には『四門に対応する宝玉』という旨の記述があります。
知人の指示で子細は伏せましたのに、いつもながらのご慧眼、感服致しました。
私は、呪いの力を逸らすのに失敗して宝玉が失われたと予想していますが、
今後、その辺りについても明らかになればと期待しております。

この所、コメントの数が私でも対応可能な数になりました。
今後、障りの無い範囲で個別の返信が出来ればと考えております。
ありがとう御座いました。

525 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/09(水) 23:46:23 ID:4W84vs8Y0
>>520
まとめでのご丁寧なコメント、感謝しております。
知人と私のお話を楽しみにして下さる方の数は存じませんが、
いつも本当に有り難く、励みにさせて頂いております。

526 名無しさん :2013/10/10(木) 01:36:56 ID:drVH7Cyc0
>以前、『徳島の特産が藍』と考察して頂いた方でしょうか?

うっ・・何故ばれたしWW

今度は私が驚く番ですな。藍さんは術者の方ですか?WW

Kさんの件に関してですが、「罠と知ってて何故ここに来た」というセリフがありました

SさんがRさんに対して気に病む動機としては十分だと推測したのです

527 名無しさん :2013/10/10(木) 01:50:45 ID:drVH7Cyc0
うむ・・・祭器の事が何故か頭から離れませんね。

失われた祭器は玄武、色は黒って処ですかね。そんな気がするんです

528 名無しさん :2013/10/10(木) 19:29:03 ID:/rtFHnRUO
\(^-^)/藍さん御降臨
ところで、ひょっとしたら赤ちゃんは「あい」ちゃんじゃなくて「らん」ちゃん?

529 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/10(木) 23:42:56 ID:c.UPkwy20
皆様、今晩は。藍です。

>>528
コメント感謝致します。私も最初そう思いましたが、
作中の記述からしてやはり読み方は「あい」だと考えています。

>>527
本当に、驚きました。コメントを読んだ知人から連絡があり、
失われた宝玉の色は黒。作中の式、『御影』の出自と関連しているとのこと。
私の予想は見事に外れましたが、何故か、とても良い気分です。

530 名無しさん :2013/10/11(金) 02:25:05 ID:8IlNlepY0
>>529

なん・・・ですと(汗)自分が少々怖くなりましたWW

御影さんはもしかしたら祭器から作られたのかもしれませんね。(というか御影さんがお休み中宝玉になるのかも)

うーん、格色ごとに役割も能力も別だが、基本的に一族に伝わる宝玉という事ですな。

大きな力を制御するのにある程度のカタチにはめて制御する、という事なのですかね

そうすると、朱雀さんも自我をある程度持ってるかもしれませんな

531 名無しさん :2013/10/11(金) 03:02:28 ID:8IlNlepY0
うむ。箇条書きにしてみる

玄武=黒→御影さんお仕事中 鬼門の神様を幻想郷の守護者に?
朱雀=赤→神楽舞の時の変身用 山姫や翁の面がある? 舞は4つ?
青竜=青→不明 爪は・・・やっぱり3本かなぁ
白虎=白→不明 裏鬼門 何故か何のイメージも湧きません

あと、何故か思うのですが、北極星を象徴とする別の宝玉が存在しないのか?

お盆に福井に行ったので、祭壇の4つの鳥居のうち、何故か黒の玄武の鳥居の事が物語を読んだ瞬間に頭に浮かんで何故か頭の中から離れませんでした

まんま「勘」だったのです

532 名無しさん :2013/10/11(金) 09:26:38 ID:1x32vEtc0
>>531
青竜を3本の爪かもしれないというのはなぜ?

533 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/11(金) 20:16:58 ID:lbNMG2oY0
>>530
その昔、一族のために、黒の宝玉と一体化して式となった術者がいたのでしょうか?
それがかなり高位の術者であったならば、その名に『御』という敬称が使われているのも
納得出来る気がします。黒≒闇≒御影、一体どんな経緯だったのでしょうね。

534 名無しさん :2013/10/11(金) 22:02:20 ID:Y/98H8/wO
推論がだんだん高度になってきましたね〜(^_^)面白いです。

535 名無しさん :2013/10/12(土) 00:17:51 ID:mW0qrrFc0
>>532

爪の数に関しましては、単純に5本爪=天帝=中国なので、基本的に中国以外の龍はみんな3本爪なのでそう書きました
神社の社の柱の上の軒の支えが、ガーネーシャでない場合龍が彫られることが多いですが、みんな基本は3本です

>>533

管狐さんの事もあるので、基本的に式の強化の為に使われたのではないかと思われます
スーパー優れた術者を惜しんで死者蘇生?反魂?の術を使うのは違和感あるかなーと
単純に力の強い術者なら今よりももっと沢山居たでしょうしね

恐らく強力な守護者が必要な事態に陥ったのではないでしょうか?

北極星=北辰→天帝もしくは太一神もしくは泰山府君=北辰妙見信仰

どうも、Rさんの処は28宿の中央(北斗七星)が、黄龍ではなく、便宜上麒麟になっているようですね。

四聖獣の中心の宝玉の事を聞かずに、北極星の宝玉があるのかなー?とボヤいたのは一つ飛び越した内容のつもりでした

536 名無しさん :2013/10/12(土) 22:27:23 ID:mW0qrrFc0
!?

ど、どうしようRさん・・・私は大変なことに気づいてしまいました。

そういえば、一人暮らしの時の荷物は気づかないうちにSさんに運ばれてたんですよね?

・・

537 名無しさん :2013/10/14(月) 13:07:44 ID:Mh/aaWCEO
>536
ひょっとして、Sさんが黒い猫の式を使ったとか?

538 名無しさん :2013/10/14(月) 21:02:52 ID:VsCfhARM0
>>537

レスポンス感謝します

・・・あのDVDも一緒にお屋敷に届いてしまったんじゃないかと思って(笑)

それとも

Sさん「それと不要なものは全部処分しといたから」

Rさん「キュピーン★ラジャ」

そんな展開だったかもしれません。番外編って希望したら怒られそうですかねぇ

539 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/14(月) 23:30:57 ID:d186HnCU0
皆様、今晩は。藍です。

>>535
以下は、『もし『黄龍』に話題が及んだら』と、知人に指示されていた内容です。

四門に対応する宝玉とは別に、『黄色』の宝玉が存在します。
四門の宝玉を統括し、当主の位を象徴する祭具。
ただ、これ以上の説明はご容赦下さい。

>>537
横レス失礼致します。
送付された原稿のコピーを読み返しましたが
引っ越しに使ったのが黒い猫なのか他の業者なのかは分かりませんでした。

>>536・538
『入学式と卒業式(中)』の原稿には、ご指摘のDVDに関する記述があります。
投稿にあたり、知人と相談して削除した部分ですが、
『補遺』として投稿しても良いかどうか問い合わせてみます。

540 名無しさん :2013/10/14(月) 23:40:27 ID:VsCfhARM0
あ、遅れてすみません。知人さん有難うございました。m(_ _)m

まさか知人さんもここを見られたとは。

物語の公開の事に関しましても色々思うところはあると思いますが、感謝申し上げます。

人の思いや繋がりを感じる事って、それが微かなものであっても、何だか心が温まり、嬉しく感じるものですね。

541 名無しさん :2013/10/15(火) 00:03:04 ID:MBSEInmE0
しまった・・F5の間隔が長すぎて藍さんのコメントに気づきませんでした

・・・黄龍という事なら朱雀じゃなくて赤龍だったということじゃないですか(汗)

DVDの件、やっぱりあったんですね、夢見る姫の夢を台無しにしかねないとRさんが気にかけてたあのアイテムWW

黒い猫の式=Sの宅急便という事かもしれませんね。お茶目だ。

この物語がRさんの大事な人に見せるのが大きな目的という事を考えれば、我々が見れるRさんの姿が一部オミットになるのは道理でしたね。

ともすれば自分より周りを優先してしまうRさんが、Kさんの事で何も思わないはずなかったですね。

悪しき縁。血縁相克のキーワード。物語一つ一つに重要な言葉が最低ひとつ入っている気がします。
そしてみんなの物語がひとつの結末に向かっている。そんな気がします。

Kさんのお墓は?生き残った分家の人は?今は戸籍がある事が多いのでおおっぴらに制裁は不可能

和解や手打ち無くしておそらく終息は不可能でしょう。そのことについてみんな苦しんだとおもうのです。

気持ちを押し殺して暮らしてたという側面がこの物語には重要な要素の気がします。今後の展開で明らかになるのでしょうか?

542 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/15(火) 01:58:56 ID:B9w23SL20
>>540
私たちの投稿した物語を読み、
人の思いや繋がりを感じることの嬉しさを想って頂けるならば、
まさに冥利に尽きます。ありがとう御座いました。

>>541
朱雀でも、紅龍(七面天女)でも、良いではありませんか。
広く深いご見識に、改めて敬意を表します。

私自身は、『出会い』という軸を中心にして、
他の物語が環状に配置されているイメージを感じています。
環を構成するピースがあと幾つあるのか、興味深いですね。

例えばO川先生の記憶を操作したのだから、
その後『藍』ちゃんの出生証明書は書き換えられた筈です。
(Sさんの術、一族の影響力、どちらかの結果かは分かりません。)
『上』がその気になれば、分家を根こそぎ闇に葬るのも不可能ではない、と
『黒い』私は思っていましたが、『和解』や『手打ち』も十分考えられますね。
新作以降の展開を楽しみに待ちたいと存じます。
ありがとう御座いました。

543 名無しさん :2013/10/15(火) 23:10:09 ID:dr7EDH7w0
2chが機能してないのでここに書きたいです。
藍様ではないんですがここに投稿してもよいでしょうか?

544 名無しさん :2013/10/15(火) 23:15:00 ID:3uILWdkQ0
>>543
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/9405/1366280047/
がいいでしょう

545 名無しさん :2013/10/15(火) 23:41:46 ID:yWbRcS4c0
o(^@^)o このスレに来る人たちは温かいでしゅね〜

546 名無しさん :2013/10/16(水) 00:35:29 ID:jBLNwcq.0
ううーむ、年始のお参りにいくお話がありましたが、Sさん一族に障りのある神社って

ズバリ○雲大社ではありませんか?あそこくらいしか思いつきません。(基本、お稲荷さんとは仲がよさそう)

昭和に入って次の口伝のお役目の方も絶えてしまったかもですが、船渡の神様系なら折り合い悪そうだと言われればそんな気もします

それ以外なら出雲の前の、白山神社かなぁ。でも中部地方の方が強いんですよね、あの神社は

547 名無しさん :2013/10/16(水) 00:38:58 ID:jBLNwcq.0
ちょっと思ってみた

Rさんってもしかしたら、今「上」になっちゃってるかもしれませんね

548 マジ怖い :2013/10/17(木) 22:11:00 ID:CjPMdw.k0
ふえええー




見ない方がいいよ…

自分の声が返ってくる番号
090-11991563

ドラえもんが出る番号
0862ー248899

お経が流れる番号
0924-511809

なぐさめてくれる番号
0835211100

貞子にかかる?
090-44444444

ガチかなー? とりあえず、まわそー
佐賀県にある街、名前は非公開だが
その街で23年前行方不明者が4人も出るという
事件が起きた

最初は皆警察も必死で探した
でも時が流れるにつれて皆その事を忘れていった
行方不明になったのは皆孤児院の5才〜9才の子供達でその子達が居なくなっても誰1人と悲しむ人は居なかったから、という理由でも探索作業が終わったのかも知れない




ここから先ー。
読んでみますか?
後悔しますよ?














実話なのに












呪われるかもしれないに











いいんですか?










じゃあ…











4人の子供達はその事件の3年後に見つかりました
無惨な姿で……
1人目の山本真希ちゃん(5才)は右手が肩から無くなっており黄色い服が赤黒く染まっていた

2人目の坂本竜くん(7才)は顔を殴られて真っ赤に腫れて足首をロープで天井に吊され地面は真っ赤に染まっていた

3人目の野田智くん(7才)は手首と足首を無理矢理ロープで繋がれ一畳の水槽に沈められていた
水中は真っ赤な血がユラユラ浮いていた

4人目の沖田小百合ちやちゃん(9才)だった
4人が殺された林の中にある小さな小屋でただ1人バラバラだった
目はトイレに浮いておりキッチンのまな板にはその子のものと思われる血がべっとりと付いており胴体はテーブルの上、頭は風呂に浮いていた  

これは実話です
4人の子供達は親に捨てられ孤児院にまで見離されたのです
…私がなんでこんな事を言うかって?




私は4人の中の小百合ちゃんの友達だったから
小百合ちゃんが連れ出されて殺された前日に私と小百合ちゃんは喧嘩して口を聞いていなかから


この話を読んでしまった貴方は必ず4分以内に回せ
殺された子供達が1分ずつ交代で60秒数える
回さなかったら貴方の誕生日を命日にする



…( ^ω^ )

549 名無しさん :2013/10/18(金) 22:27:53 ID:/snOLK7s0
まだチェーンメールってあるんだね

550 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/18(金) 22:33:32 ID:/7djbiqM0
皆様、今晩は。藍です。

DVDの件、知人と連絡が取れました。投稿の許可が貰えるよう交渉中です。
当初削除した部分ですので、可能性は高くないでしょうが頑張ってみます。

551 名無しさん :2013/10/18(金) 23:25:21 ID:1ZfcQSe60
藍さん、知人さんご無理なさらぬようご自愛下さい

552 名無しさん :2013/10/18(金) 23:37:09 ID:pvs2FWQM0
>>550

おおおおお(TT)

「姫ナイスフォロー・グッジョブ」に続く面白展開を希望WW

Rさんの、Rさんだけの日常ってどんなんだったんでしょうね。

家族の事も、組織の事も関係なく、本当に自分だけになったときのRさんの姿って興味ありますね

たまには息抜きしててほしいな

553 名無しさん :2013/10/20(日) 23:40:05 ID:aA90geeU0
( ゚∀゚)o彡゜DVD!DVD! 楽しみ楽しみ〜

554 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:01:52 ID:amcWH5wI0
皆様今晩は、藍です。

>>543
私自身、ある方に紹介して頂いて此所に投稿させて頂いている立場です。
誰でも自由に投稿出来る場であって欲しいと思っています。

>>544
フォロー感謝致します。

>>545
私も心からそう思います。

>>546
済みません。スルーさせて下さい。

>>547
まさか『上』のメンバーが世襲ということは無いでしょうけれど、
私の計算ではRさんの年齢は現在27歳、少し若すぎる気がします。
将来という意味であればあり得ると思いますし、
『上』ではなく、別の可能性もあるかもしれませんね。

>>551
お心遣い感謝致します。可能な範囲で生温く活動したいと思います。

>>552
釣りや拳法に関する描写、私もRさんの日常に興味はあります。
ただ家族の事も組織の事も関係なくとなると、『出会い』以前のお話なので
読める可能性は無いでしょうね。ただ『忘却の彼方(上)』で
それに近い状況(MTBでの山道散策)の描写がありますし、
必要かどうかは別として、きっと上手に息抜きもしていると思いますよ。

>>552・553
DVDの件、ご期待頂き感謝致します。

555 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:06:24 ID:amcWH5wI0
 さて、DVDの件、思いの他すんなりと知人のOKを貰いました。
元々の原稿では『入学式と卒業式(中)』の冒頭にあたる部分です。
知人と相談の上で削除し、現在の冒頭部分を一部修正して投稿致しました。
この部分を改めて投稿するにあたり、知人の指示に従って加筆・修正をしております。
ただ、物語の本筋からは外れている気もしますし、
「どこが怖い話?」というご批判も覚悟しております。
それでは、ごく短い話ですが、リクエストして頂いた方々にお楽しみ頂ければ幸いです。

556 『入学式と卒業式(中・冒頭部補遺)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:09:05 ID:amcWH5wI0
 新学期、姫が初めて登校する日。約束通り姫を高校に送るために少し早起きをした。
既にダイニングではSさんがお弁当を作っている。当分、送迎と弁当作りは分業制になる。
Sさんにおはようのキスをしてからコーヒーを飲む。それから姫の部屋へ。
高校生になるのだから、本来は目覚まし時計を使って自分で起きる方が良いのだろう。
しかし、ただでも生活が大きく変わる訳だし、いきなりそこまで要求するのは無理がある。
我ながら甘いとは思ったが、Sさんもこの点について何も言わなかった。
姫が自分から言い出さない限り、まだ暫くはこの役目を務めさせて貰えるだろう。
「Lさん、そろそろ時間ですよ。」 姫の部屋をノックする。
「はい、おはよう御座います。」 少しの間をおいて返事が聞こえたので部屋に入った。
姫はベッドの上で体を起こしている。まだ、ボンヤリしているが、そこが何とも可愛い。
「おはよう御座います。」 「私、今日から高校へ行くんですね。」
「そうです。いよいよあの制服が着られますよ。ダイニングで待ってますから。」 「はい。」

557 『入学式と卒業式(中・冒頭部補遺)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:12:50 ID:amcWH5wI0
 3人で朝食を食べ、姫の持ち物を皆で点検した。やっぱり、過保護か?
姫を助手席に乗せて出発。念のため少し早めに出たので道は空いている。
姫はずっと黙って窓の外を見ていた。気のせいか、少し横顔が緊張しているように見える。
リサーチしておいた通り、姫の高校の裏門近く、広い路肩に車を停めた。
運転席から出ようとしたら姫が俺の左手を掴んだ。目にうっすらと涙を浮かべている。
「どうしたんです?」 「私、Rさんと...」 つい、俺まで泣きそうになる。
「大丈夫、学校が終わるまでにちゃんと迎えに来ます。それまでお互い頑張りましょう。」
「Rさんも、寂しいんですか?」 
「あたりまえです。こんな長い時間離れることなんて無かったんですから。」
姫はハンカチで涙を拭いた。濡れた頬にそっとキスをする。
およそ学校に行くこと自体が初めてなのだから、不安で寂しいのは無理もない。胸が痛んだ。
「ごめんなさい。私、大丈夫です。でも、もうちょっとだけ。」
姫は俺の肩に頭を預け、暫く目を閉じていたが、やがて背筋を伸ばして前を見た。
運転席から出て助手席のドアを開け、車を降りた姫に鞄を手渡す。
「行って来ます。」 「行ってらっしゃい。じゃあ、あとで。」 「はい。」
少しだけ目が赤かったが、姫は爽やかな笑顔になっていた。これなら大丈夫。
小さく手を振りながら裏門をくぐる姿を見届けてから、ゆっくりと車を走らせた。

558 『入学式と卒業式(中・冒頭部補遺)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:15:13 ID:amcWH5wI0
 お屋敷へ戻るとSさんがリビングで新聞を読んでいた。
向かいのソファに座った俺を見て、Sさんは小さく溜息をつく。
「あらら、悄気た顔。やっぱり、Lと離れるのがかなり辛いのね。」
「今まで、ずっと一緒だったんですから」 また涙が零れそうになったので慌てて黙った。
「L、学校行くのは嫌だって言ったの?」
「いいえ、Lさんは『大丈夫』って。でも何だかそれが余計に可哀相で。
もし、『Sさんはずっと一緒なのに』って言われたらどうしようと思ってたんですけど。」
「馬鹿ね。Lはそんなこと言わないわよ。」
「でも、Lさんだって少しは嫉妬するかも知れないじゃないですか。」
「嫉妬?」 「はい。」 「Lが、私に?」 「はい。」
Sさんは暫くキョトンとしたあと、笑い出した。
「こんなに想ってもらってるのに、嫉妬なんかするはず無いでしょ。」
真顔に戻ったSさんは自信満々の表情だ。
実は今までも気になっていたから、これは丁度良い機会かも知れない。

559 『入学式と卒業式(中・冒頭部補遺)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:18:39 ID:amcWH5wI0
 「あの、前から気になっていたんですけど。」 「なあに?」
「何ていうか、僕たちは三角関係、ですよね。いくら一族では珍しくないとはいっても、
SさんはLさんと気まずい事になったりしないんですか?」
「今まで気まずいことになった事があった?」 「いや、今までは無い、と思いますけど。」
「気を遣ってくれるのは嬉しいけど、今までもこれからも、気まずくなんかならない。」
「でも。」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「じゃ、あなたは嫉妬してたの?」 「僕が誰に、ですか?」
「あなたは私に許婚がいると思ってたんでしょ?その許婚に嫉妬、してた?」
「いいえ。許婚がいるかもしれない人とこんな関係になって、
少し後ろめたいとは思ってましたけど。嫉妬する気には。」
「嫉妬は、相手を独占したいと思う気持ちから生まれる。自然な感情かも知れないけど、
夫婦や家族の結びつきを深めるのにはむしろ邪魔になる。その意味では邪念と言っても良い。」
「邪念、ですか?」
「あなたは今でも私のこと『Sさん』って呼ぶわね。どうして?」
「だって、Sさんは本当に綺麗で凄い人で。尊敬してるし、それに年上ですから。」
「好きな時に、そう、今だって抱けるんだから、この女は俺のものだって思わない?」
「いや、むしろこの状況が夢じゃないかと、今でも時々心配になるくらいです。
まして、Sさんが自分のものだなんて、とても。」

560 『入学式と卒業式(中・冒頭部補遺)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:24:14 ID:amcWH5wI0
 「そう、あなたは私のことをこれ以上無いほどに尊重してくれる。
私たちの一族では、女性がかなり尊重されてるから、表立っての男尊女卑は存在しない。
でも、それに慣れてる私でも、あなたの心の動きには時々本当に驚かされる。
あなたは私を自分のものだと思ってはいない。だから嫉妬もしない。Lについても同じ。
最大限に尊重してるから年下なのに『Lさん』って呼ぶし、自分のものだとも思っていない。
「...Sさんも、Lさんも、僕を自分のものだとは思っていないということですか?」
「独立した魂を持つ誰かが、別の誰かのものだなんて、そんなこと絶対に有るはずがない。」
Sさんは目を伏せて自分の指先を見詰めた。呟くような声。
「どんな人にも天命がある。特に術者は、その天命に忠実でなければ。」
天命を果たすことが魂の旅路の目的なら、夫婦や家族の意味とは何だろう。
いや、長い旅路の途中で出会い、真に結ばれる魂。それこそが『良き縁』ではないか。
「それぞれの旅路の中で出会い、互いの魂が引かれ合うからこそ...」
「ご名答。まあ正直、私だって『呼び捨てにして欲しい』『あなたのものになりたい』って、
思うこともあるけれど。」 Sさんは顔を上げた。悪戯っぽい笑顔。
「それにね、私、嫉妬したことも有るわよ。あなたのことで。」 「誰に、ですか?」
「名前は知らないけど、女優さん。きっと、あなたの部屋に有ったDVDに出てる人ね。」
顔から音を立てて血の気が引いた。
俺は何故、PCの脇、あのDVD(R18指定)の山を忘れていたんだ?

561 『入学式と卒業式(中・冒頭部補遺)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/22(火) 21:44:27 ID:amcWH5wI0
 「ちょっと待って下さい!だってあのDVDは。」
「時間的な順番からすれば当然なんだし、別に責めてる訳じゃないわよ。
でも初めて一緒に過ごしたあの夜、あなたの心に彼女の姿が浮かんだでしょ?
『Sさんは彼女に少し似てる』って。さすがにあれは、彼女に嫉妬しても罰は当たらないと思うな。」
「いや、それは...今、今は違いますよ。」
Sさんはふわりと立ち上がってテーブルを回り込み、俺の左隣りに座った。
「誰か別の女性を見た時、あなたが『Sさんの眼に少し似てる』とか、
『姫の髪型に似てる』って思うこと、ちゃんと分かってる。きっとLも同じ。
私もLも、それがとても嬉しいの。だから今は、あのDVDの彼女にも嫉妬なんかしない。
あ、でもLにはさすがに刺激が強すぎるわね。」
一瞬、目の前が真っ白になった。きっと俺の顔も蒼白だったろう。
「あの、もしかして、LさんもあのDVDを?」
「まさか。セーラー服だけじゃなく、白衣の天使も大好きだなんて、私、絶対Lに説明出来ない。」
!? 思わず立ち上がった。
「白衣って!そんな詳しく調べたんですか?中身は。」
「もう、落ち着いて。Lに見られないように荷造りするの、苦労したのよ。
題名やパッケージの写真が見えちゃうのは仕方無いでしょ。それに、半分以上が」
俺は思わず耳を塞いだ。恥ずかしい、もう滅茶苦茶だ。
「あ〜あ〜あ〜聞こえない。聞こえません、聞こえませんよ。」 「馬鹿みたい。」
仰る通りです。 絵に描いたような、今まで経験したことのない、それは見事な、藪蛇。
でも恥ずかしさと同時に、俺の心は不思議な安らかさで満たされていた。

『入学式と卒業式(中・冒頭部補遺)』 了

562 名無しさん :2013/10/22(火) 22:59:12 ID:lihH28BU0
藍さん、知人さん有難うございます。

冒頭に部分だったのですね、どこにその文章が入るのだろうとずっと考えてました

>「どんな人にも天命がある。特に術者は、その天命に忠実でなければ。」
>「それぞれの旅路の中で出会い、互いの魂が引かれ合うからこそ...」

これが誰かに読ませたい物語であるのなら、ここは大事な処なのでしょうね

やっぱ翠さんに読ませたい物語なのかなぁ

563 名無しさん :2013/10/23(水) 00:08:15 ID:6s6x3PJo0
>私の計算ではRさんの年齢は現在27歳

ううむ、そうだったのですか。

私の勘では33〜35歳くらいだと思ったのですが。

お子さんが手がかからなくなって、もしかしたら緑さんが術者になる前の年齢というとこんな感じではないかと

564 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/23(水) 00:25:36 ID:bZhRoNTA0
無事に投稿を終えて、うっかり居眠りしてしまいました。申し訳ありません。

>>562
早々のコメント、感謝致します。
引用して頂いた2つの部分、私もほぼ同じ考えです。
将来、翠ちゃんと藍ちゃんに読んで欲しい部分という気がします。

>>563
コメント、感謝致します。原稿通りに解釈すれば
『入学式と卒業式』は2006年春、Rさんが20歳という描写があります。
それをもとに現在の年齢を計算しました。もし私の計算が正しくて
翠ちゃんに手がかからなくなる将来と考えれば、別の可能性も、
いや、私の予想は当たった試しがありませんでしたね。

565 名無しさん :2013/10/23(水) 00:45:12 ID:6s6x3PJo0
>>564

藍さん・・・それアカン奴やWWW

物語を2006で検索かけても出てきませんそれWWW

うーむ、一応、知人さんか誰かがRさんに取材したって設定でしたっけ?。

27歳にしてはオジン臭い。

格闘技に通じ、釣りと自転車いじりが出来て、山犬とオオカミを区別して理解している。
山童は西日本の伝承。事実に基づいた物語という点で補足のついた展開になるとしても

Rさんの人物像は謎すぎるWW

566 名無しさん :2013/10/23(水) 01:01:23 ID:6s6x3PJo0
さて、明日は(もう今日ですが)4時起きなので最後のボヤキを

本家にかけられた呪いの件ですが、呪いが直系と判断するのはどういう状況なのか?それについて考えました

当主さんが居て、娘さんが二人居たとします。片方が分家に嫁いでも呪いから見たら直系の判断基準は変わりません

比較的本家に近い分家は、出産において本家の犠牲になっている?と想像できるのがこの呪いへの対応です

赤の祭具が一つなのに、男の双子だったら? 意図的に早産、流産という手を使えばもう一方を防波堤にできますね。

3つの祭具のうち、世襲でない役職の祭具はあるにしても、赤の宝玉は原則本家にしか相続されないと思われます

昔は今よりも出産に関しては鉄の掟が存在し、場合によっては軋轢も生じたかもしれませんね

成長を待たずに男子が死亡し、残りの嫁いだ女子が出産。そうすると呪いの発動は移動します

時代によっては、本家側が分家のだれかを拉致する事もあったかもしれませんね

もしかしたら分家の反乱は、「何らかの形で」本家から真の独立を目指した物だったのかもしれませんね

567 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/23(水) 01:31:59 ID:bZhRoNTA0
>>565
おそらく知人は意図的に年号の明記を避けています。
しかし物語の中の連休の日付と曜日、月齢や天気の描写を総合して、
私はこれらの物語の起点、『出会い』は2005年の出来事だと考えています。

>>566
病院での出産でないとすれば、赤の宝玉を使わずに呪いを回避する事は可能でしょう。
あるいは青の宝玉か白の宝玉を使う方法が有るのかも知れません。例えば『死産だったことにする』。
いつもながら、本当に深いご考察恐れ入ります。有り難う御座いました。

568 名無しさん :2013/10/23(水) 07:34:34 ID:6s6x3PJo0
>>567

ただいま〜。朝のお勤め(期限付き)が終わりましたのでこれから寝ます(汗)

>「あるいは青の宝玉か白の宝玉を使う方法が有るのかも知れません」

白か青が、もしかしたら「女子を男子に偽装する」力があれば本家だけで完結する事が可能かもしれませんが

恐らくそんな都合の良い状況は無かったかも。あったとしても少子化でどの道大変だったでしょうしね

当主が世襲にならなくなったのは力の継承が難しくなったから徳川御三家みたいな存在と合議によると、お家存続の道を模索した結果かもしれませんね

569 名無しさん :2013/10/24(木) 23:39:19 ID:VCYCc.0g0
(ノ∀`)アチャー ◎◎◎DVD...

570 名無しさん :2013/10/25(金) 08:05:44 ID:mtNTWG/Q0
あまり外野が考察を入れて欲しくないなぁと思ってみたり

571 ◆iF1EyBLnoU :2013/10/26(土) 05:53:40 ID:lotH3uCE0
>>570
コメント感謝致します。
様々な考え方はあると思いますが、投稿する立場からすれば
批判されるより考察して頂くことがずっと多いので素直に嬉しいです。
ただ、考察のコメントと同じように、570様のコメントも嬉しく思います。
何だか欲張りですね、御免なさい。
有り難う御座いました。

572 名無しさん :2013/10/26(土) 07:07:21 ID:O1/vYMNA0
>>570
>>571

うむ。世の中には考察本ってのがあると思ってみたり。
一方では確かに「黙って食え」という言葉があったり。

悩ましい。少し自重しますか。

573 名無しさん :2013/10/26(土) 14:09:47 ID:wY9Bah760
読むのは楽し
考察するのも楽し
考察しないで読むのも楽し
読み方はひとそれぞれ
それがこの面白きものがたり...なんちって。

575 枯れ木も山の賑わい :2013/10/28(月) 20:47:59 ID:wzqnNhsc0
DVDのエピソード、リクエストに応えた後付けって感じになったら嫌だなと思ってましたが、違和感なく楽しく読めました。
538さんの考察がきっかけでこのエピソードが読めた訳だし、考察が物語の本筋に影響しているとも思えません。
これまで私も色々考察させて頂きましたし、藍さんの投稿待ちで皆が好き勝手に考察するのはアリ、な気がしますけどねぇ。

576 名無しさん :2013/10/29(火) 03:33:54 ID:vPknypTE0
初めて書き込ませていただきます。
長文な上、前置きも少し長くなってしまいますがお許しください。

私の夫が所謂「見える人」だと知ったのは結婚2年目になってからでした。
正月に夫の実家に帰った際に夫の幼馴染から聞かされて初めて知ったのです。
結婚するまで4年一緒にいましたが一度も彼から霊感があるなどとは聞いたことがなく
私はといえば異常に感が良いと周りから言われますが見えない人間で怖がりなので想像もしませんでした。
でも思い出してみると私が生まれてはじめての心霊体験をしたのも彼と一緒の時でしたし
時々「あれ?」と思っていたことにいくつか腑に落ちたりもしました。
ただ夫が何かを怖がる様を一度も見たことがなく、その幼馴染も「こいつは本当に豪胆だよ
小さいときから怖がったところを見たところがない」と言っていたほどなので
時々「あれ?」と思うようなことがあっても夫の様子を見るとすぐ安心してしまっていたのです。

息子が生まれた時、この子も夫から何か受け継いでいるのではないかなと
少し不安に思ったりもしましたが、産んだ場所が夫の海外赴任で駐在した海外であったこともあり
毎日バタバタと忙しくしている間に時間が過ぎて行きました。

息子には常に何か見えていたようで
私には見えない何かと「きゃっきゃっ」と大きな笑い声を上げて遊んでいたり
おしゃべりしたりしていました、。
そしてそんなときは必ずうちの犬とネコ達が息子のベビーラックやベッドの周りを守るかのように囲んで座っていたのも不思議でした。
いくつも不思議なことがありましたが息子が楽しそうなのと
夫が「大丈夫」といったので見守ることにしたのです。

577 名無しさん :2013/10/29(火) 03:36:04 ID:vPknypTE0
帰国した後、息子が3歳になったばかりの頃のことです。
車に乗って家族3人買い物に行きました、その途中夫が「コーヒー買ってくる」と
ある私鉄駅の駅前にある広いコインパーキングに車をいれスタバに行きました。

私と息子は後部座席に座って待っていましたが
夫が車から出て行って1分も経たない内に息子の様子に変化が現れました。
キョロキョロと車の両側を落ち着きなく見ているのです。
いつもと違う何か切迫したものを感じた私は息子を落ち着かせようと思い
横にあった絵本を取ろうとしてはっとしました。
息子の歯が小さくカタカタ音を立てている、震えているんだと気づいたのです。

夫と同じく豪胆で怖がったことのない性格の息子の顔に浮かんでいたのは明らかな恐怖でした。

「どうしたの?お腹いたい?」と話しかけましたが息子は目を見開いてキョロキョロするばかり
只事ではないと感じました、「何が見える?怖いものいるの?」と質問を変えると
「あの人怪我してるよ」
「いっぱい怪我してる」
「血と黒いの黒いのいっぱい、痛いの」
私には全く見えませんでした
夕日から夕闇に変る丁度見難いときでなんとなく霞のようなもやっているような感じでした。
見えても怖いのでしょうが見えないものが傍にいるというのもとてつもなく恐ろしく
なんとか息子の恐怖をとってやりたい、守らねばを思い「どこにいるの?誰がいるの?」と聞きました。
息子は「家族なの、おじいちゃんとおじさん、おばあちゃんとお姉ちゃんとお兄ちゃん」と答えました。
様子と人数から車の両側からこちらに近づいて来ているようでした。

578 名無しさん :2013/10/29(火) 03:37:51 ID:vPknypTE0
私は息子をチャイルドシートから降ろし、抱きかかえて外が見えないようにしてから心の中で
「この子に何かしたらただじゃおかない、早く消えろ」と震えながら念じました。
次の瞬間息子が「来ないで!怖い!来ないで!!」っと叫びました。
一瞬体が浮いたような気がして顔を上げると、車が左右に揺れていました。
車の左右に何かがいて、車をすごい力で左右に揺らしていたんです。

揺れはどんどん酷くなり、私は息子の体を包む様に抱いたまま車の左右の窓や天井に頭をぶつけました。
車を揺すっている何かは全員同じリズムで車を叩くように押していて
ドンドンともバンバンとも言えない音が響いていました。
息子を放さないようにするのが精一杯で夫に電話したくてもできません。
私は毬のように車の中で転がされながら、夫が帰ってくることだけを祈っていました。
何分経ったのか、腕の中で息子が「お父さん!」と叫びました。
駅のほうから夫が歩いてくるのが一瞬見えたとたん、車の揺れはなくなっていました。

夫はこっちを見ると急に走り出し、あっという間に車まで来てくれました。
恐怖でまだ何も話せませんでしたが夫は何も聞かず
「遅くなってごめんね、もう大丈夫だよ」と言ってタオルで車の周りをパタパタとはたきました。
私は説明しようとしましたがまだ震えが止まらず、腰が抜けてしまっていました。
夫は息子に「お母さんを守ってえらかった」と言って頭をなでてやり
私には「○○(息子の名前)を守ってくれてありがとうね」と言って暖かいコーヒーを渡してくれました。

私の頭にはいくつもコブができていて、わき腹や体中あちこちに軽いアザが出来ていました。
翌日になって首の痛みが酷いので医者に行くと何度も頭をぶつけたせなのか首が軽い捻挫のようになっていると言われました。
私の怪我以外は息子には何もなく、その後その霊に会うこともありませんでした。

579 名無しさん :2013/10/29(火) 03:41:10 ID:vPknypTE0
何年も後にその時の話を息子や夫とすることがあったので(息子に怖い記憶を思い出して欲しくなかったので息子から話すまで禁句になっていました)いくつか判ったのは

外にいた幽霊らしき者達はそんなに古いものではなく、昭和の始め頃の人であったようだということ。(夫から聞きました)
車の中から私達を出したかったようだとも言っていました。
怪我と息子は言いましたが怪我どころではなく、手足が欠けていた人もいたこと
怪我以外に火傷の様な炭化したように見えた部分もあったこと
骨も見えたそうです
全員がとても怒ったような恐ろしい形相だったという事がわかりました。
今更ながらそれを見たときの息子の気持ちを考えると涙が出ました。


随分後になって、駅前でとても立地がいいはずなのにずっと昔からそこは駐車場で
その前は空き地だったと近所に長く住む方から聞きました。
その辺りで一番の地主さんがずっと所有している土地だそうです。
私たちが怖い目にあったのは2005年頃ですが
その土地は今でも駐車場のままです。

拙い上に長文失礼いたしました。

580 名無しさん :2013/11/03(日) 16:03:23 ID:akKsrG/.0
そろそろ◆iF1EyBLnoUシリーズ(?)は専用スレ立てた方が良いと思うんですけど

581 名無しさん :2013/11/03(日) 20:52:38 ID:qjy7kUSYO
>>580
禿同。ただし知人さんの了解を得ないと。
なお、シリーズ名は結局決まってませんでしたね。

582 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/04(月) 02:04:05 ID:mDFXP0i60
皆様今晩は、藍です。

>>572・573・575
温かいコメント、感謝致します。

>>580
>>581
前述の通り、知人が送付してくれる原稿は残り2話で終了かも知れません。
シリーズ名に関わらず、これから専用スレを立てて頂くのは心苦しいです。
『ご迷惑でなければこのまま最後まで』と思っていますが、
こればかりは管理人様のご判断にお任せしたいと存じます。

有り難う御座いました。

583 名無しさん :2013/11/04(月) 20:46:52 ID:7Zs1Y4o.0
>>582

>「前述の通り、知人が送付してくれる原稿は残り2話で終了かも知れません」

なん・・・ですと?
残り少ないSAN値をDVD回で消費してしまった・・・だと?
何ともったいない事をしてしまったのだ、私は。全国のファンに申し訳ない(チラチラ)

584 名無しさん :2013/11/04(月) 22:22:06 ID:CPSb0NZE0
怖い話のブログやってます

http://scoby.blog.fc2.com/

585 名無しさん :2013/11/04(月) 23:02:38 ID:OXOO4klk0
>>582
あと何回で終わっても...この物語を楽しみにしています。

586 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/05(火) 21:02:34 ID:MPsi13320
皆様今晩は、藍です。

>>583
DVDのお話は投稿時に削除していた内容の「補遺」です。
今後送付される原稿には何の影響もありません。
本当に『全国のファン』がいるのかどうかは別として
DVDのお話について気に病んで頂く必要はないと思います。
また、少し調べてみましたが良く分からなかったので
『SAN値』についてのコメントは控えさせて頂きます。

>>585
率直で温かいコメント、心から感謝致します。
身の引き締まる思いですし、改めて投稿を続ける勇気が湧きます。
有り難う御座いました。

さて、本日知人から次作原稿の一部が届きました。
現状では題名も『仮題』ですし、物語も未完成ということですが、
私の仕事の都合と作業が遅いのを勘案すれば
並行して作業をした方が良いと知人は判断したようです。
とりあえず『仮題(上)』の投稿を目指して作業を進めるつもりですので、
気長にお待ち下さればと存じます。

587 名無しさん :2013/11/05(火) 22:07:53 ID:BSj5vcQA0
>>586

>「DVDのお話は投稿時に削除していた内容の「補遺」です。
今後送付される原稿には何の影響もありません。」

ふふっ。藍さんは真面目な人だなぁ。

仮に本当にあと2話で終わるのなら、うむ、Sさんが生きている様な気がしてきた。

ウホッ。何か急に希望が持てた気がする。あと2話で急展開は出来まいWWW

588 名無しさん :2013/11/06(水) 23:30:47 ID:mSXpaN2AO
o(^o^)oワクワク

589 :2013/11/07(木) 02:24:13 ID:XPUyWTk20
藍さん、この一連の物語のファンは、潜在的にそうとういらっしゃると思いますよ。

毎回ワクワクするエピソードばかりで、読んでいてあきません。

ちなみに私は長崎県在住です。

あまりムリをなさらないで、知人様にも宜しくお伝えください。

590 名無しさん :2013/11/07(木) 16:32:18 ID:21FzDk8s0


591 名無しさん :2013/11/09(土) 00:06:52 ID:cyGHqjtU0


592 名無しさん :2013/11/09(土) 20:46:59 ID:zptQ.KeI0
>>589

確かに読んでいるだけのファンもいっぱいいそうですね。
こういう面白くて謎解きの楽しい物語は、なかなか他にないですし。

593 名無しさん :2013/11/12(火) 00:32:14 ID:2gOznRWsO
ほんと、書き込みしてる読者は、全体のごく一部だと思うんだよね。
楽しみに待っている読者はたくさんいるんだって、作者様に伝わ(って)るといいなぁ。

594 名無しさん :2013/11/14(木) 08:39:28 ID:kd1KEtH20


595 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 20:56:59 ID:/QxSN9gc0
テスト中。

596 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 21:12:30 ID:/QxSN9gc0
皆様今晩は、藍です。

>>587
>>588
>>589
>>592
>>593
温かい心遣いとコメント、感謝致します。
皆様のために、許される限り投稿を続けたいと思います。
有り難う御座いました。

さて、本日知人から新作の原稿の残りが届きました。
仕事でミスをしてしまい凹んでいたのですが、一気に元気が出ました。
明日は久し振りの休みですし、作業が進めば今夜中に冒頭部を投稿するつもりです。
ただ、どうなるかは自分でも分かりませんので、気長にお待ち下されば幸いです。
本日は予告ということで、明日以降に読んで頂く方が良いかもしれません。

597 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:16:22 ID:/QxSN9gc0
皆様今晩は、藍です。
思いの外、作業が捗りましたので、新作の投稿を開始致します。
以下新作、『約束(上)』。お楽しみ頂ければ幸いです。

598 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:20:26 ID:/QxSN9gc0
 少し開けた窓から流れ込む潮風、微かに混じるディーゼルエンジンの排気臭。
この街では比較的大きな港に俺は車を停めた。渡船や船宿の看板が幾つか見える。
地元では釣り場としてもメジャーな港らしい。途中の釣具屋で買った釣り情報誌を開く。
見知らぬ土地ではあるが、久し振りの釣りに俺の心は浮き立っていた。

 『上』から指示された研修、平たく言えばある場所で修行をするために、
俺はその街に一ヶ月ほど滞在することになっていた。今まで滞在した中で一番大きな街。
藍が生まれてまだ四ヶ月、どうにも気が乗らないが、こればかりは仕方ない。
術の修行だけならSさんや姫に指導して貰えば済む話。
しかし、この土地にある期間滞在して修行することが必要なのだとSさんは言った。
「術者の個性によって、どの場所で修行するかは違う。縁の深い神様の下で修行すれば、
比較的短時間で感覚が研ぎ澄まされるし、基礎的な能力も高まる。それにね、この修行の
指示が来たのだから、『上』があなたを一人前の術者として認めたということ。
これから仕事の依頼も少しずつ増えてくるわよ。頑張って修行して来てよね、『お父さん』。」

599 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:22:29 ID:/QxSN9gc0
 一ヶ月もの間ホテルや旅館で生活するのは不経済だし、どうしても食事に不満が出る。
俺はいわゆるマンスリーアパートを借りて自炊する生活を選んだ。
修行の場所は町外れにある古い神社とその周辺、毎日朝6時から約3時間の行を修める。
アパートと神社の間、移動は徒歩(これも修行の一部)、往復で約2時間。
朝食抜きで5時には出発、行を終えてアパートに戻るのが10時頃、食事をしたらしばらく昼寝。
数日してその生活に慣れてくると、俺は次第に時間を持て余し気味になった。
特に昼寝から覚めた後、夕食までの時間が長くてどうにもならない。
早めに夕食を食べて朝まで寝てしまおうかとも思ったが、昼寝の後ではそうそう眠れない。
もちろん修行の間は深酒も出来ない。そこで思いついたのが釣りだった。

600 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:25:16 ID:/QxSN9gc0
 この港でタチウオが釣れているという情報と、ポイントの地図を確かめた後で車を降りた。
途中の釣具屋で買い揃えた釣り具一式を持ってポイントの防波堤を目指す。
平日の午後、釣り人の姿は多くない。これなら防波堤のどこでもルアーが投げられそうだ。
その時。
突然の寒気と耳鳴り。反射的に『鍵』を掛け、立ち止まって辺りの様子を窺う。
目指す防波堤の方向から、何かが俺の意識を探っている。
『何処へ消えた?』 『勘違いか?』 『そんな筈はない』 『さっき確かに』
ねっとりと絡まり合う、複数の気配を感じる。次第に濃度を増す粘液質の悪意。
ああ、此所は駄目だ。メジャーな釣り場かもしれないが、俺には合わない。
いわゆる心霊スポットでも、何かを『感じる人』と『感じない人』がいるのと同じ。
ここにいる『それら』は俺に強く反応した。当然何かの目的が有って干渉しようとした訳だ。
本格的に対処するには情報が足りないし、そもそも俺の術が通じるかどうか分からない。
悪い噂が無いのだから恐らく実害は出ていない。今後俺が近づかなければ問題ないだろう。
無理をする必要もないので取り敢えず放置。相手の様子に注意しながら車に戻る。
情報誌には他の港の情報も幾つか載っていたが、移動の時間を考えると現実的では無い。
『暇潰しと食材確保に釣り』という計画は、いきなり躓いた。

601 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:27:01 ID:/QxSN9gc0
 げんなりしてアパートに戻る途中、海岸線の道路脇に小さな漁港を見つけた。
灯台もと暗し。此所なら車を出さなくても徒歩でOK、駐車場に車を停めて様子を見る。
寂れた感じはするが荒んだ感じはない。トイレも綺麗に掃除されている。
少し歩くと防波堤が見えた。 足場も良いし、暇潰しの釣りにはぴったりだ。
一度アパートに戻り、駐車場に車を停めてから再度漁港に向かった。歩いて約15分。
防波堤の先端近くに数人の釣り人が見える。地元の常連さんだろう。
邪魔にならないよう十分に距離を取り、防波堤の真ん中辺りで釣りを始めた。
薄暗くなるとすぐにアタリが出て、1時間程で良型のタチウオを2尾釣り上げた。
タチウオの刺身と吸い物を加えた豪華な夕食。これからも気合いを入れて釣りが出来る。
タチウオ以外の魚が釣れるかも知れないし、食べきれない分は冷凍してお土産にすれば良い。
夕食後お屋敷に定時の電話を掛け、Sさんと姫、そして翠の声を聞いた。
自然に笑みが浮かぶ。最初の港での出来事はすっかり忘れて気分良く眠りについた。

602 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:30:43 ID:/QxSN9gc0
 翌日、昼寝の後夕食の下準備をしてから釣りに出掛けた。
前日と同じで、薄暗くなるとアタリが出る。小型は丁寧にリリースし、
良型が釣れたらキープ。一尾毎に血抜きをし、レジ袋に入れる。
のんびりと釣りを続け、3尾目をキープしたところで終了。しばらく夕日を眺めた。
その気になれば毎日でも釣りは出来るのだし、欲張る必要も無い。
ゆっくり釣り具をまとめて立ち上がると軽い目眩がした。立ち眩みか。
修行を始めて既に一週間、疲れも出る頃だろう。
深呼吸をしてから防波堤の上を歩く。10月下旬、既に夕方の風は涼しい。
ふと、風とは違う冷気を感じた。20m程前方に人影が見える。
違和感。自動的に拡張した感覚が警報を告げている。緊急度MAX。
そのあり方自体が俺とは違う。それはおそらく、人の形をした何か。
しかし其処を通り過ぎなければ帰れない。『鍵』を掛けて歩を進めた。
近づくと人影がルアーを投げているのが分かる。釣りをする、霊?
紺のジーンズにクリーム色のパーカー。俺より背は低い。
更に近づき、通り過ぎる直前に横顔が見えた。思わず息を呑む。
少女だ、そして。その白い横顔を伝う一筋の鮮血。
桃色の唇の脇を流れた血は、細い顎の先端から滴って、
パーカーの胸元に大きな赤い染みを作っていた。

603 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:33:57 ID:/QxSN9gc0
 通り過ぎる瞬間、少女は俺を見たが、すぐに海面へと視線を戻した。
そして俺が通り過ぎたタイミングを見計らうようにルアーをキャストする。
通り過ぎてから10m程、俺は立ち止まり海面を見るふりをして少女の様子を窺った。
短めの竿、小さなリール。リールのスプール(糸巻き部分)に肉抜き穴が並んでいる。
特徴的なデザインが懐かしい。S社のリール、『星座』の名を冠したフラッグシップモデルだ。
間違いなく95年型、父親から借りて使った時の感激を昨日のことのように思い出す。
もっと近くから見れば製品名や型番のロゴも確認出来る筈。
おそらく少女が父親か兄から借りて使っていたリールの記憶を再現しているのだろう。
死者が自ら望む姿で現れるのは知っている。
以前関わった事件では、女子高生の霊が持っていた刺繍入りのハンカチが手懸かりになった。
しかし服だけでなく、持ち物=釣り具をこれ程細部まで再現するなんて。
それにしても、この少女に感情が感じられないのは何故だろう。
恨みや憎しみ、あるいは悲しみ。およそ感情らしいものは何一つ伝わってこない。
先日の港で感じた姿の無い悪意と憎悪の塊。この少女の存在はその対極にある。
一心に釣りをする姿を暫く眺めた後、俺はアパートに戻った。

604 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:37:03 ID:/QxSN9gc0
 明日からもあの港で釣りをするべきか、それとも二度と近付くべきではないのか。
夕食を作り、部屋に備え付けのTVを見ながら夕食を食べ終えても結論は出ない。
風呂から出た所でケイタイが鳴った。しまった、定時の電話を。
「どうしたのよ。30分も過ぎたら心配するでしょ?」 Sさんの声だ。
怒っている様子は無いのでホッとする。
「済みません。近くの港で釣り人の幽霊を見て、どうしようかと考えていたらつい。」
「釣り人の幽霊?」 「はい、顔に血が、真っ赤な血が流れていました。」
「...何か嫌な感じはした?恨みとか憎しみとか。」
「いえ、ただ一心に釣りをしているようで、特に何の感情も。」
「血が見えたなら、恐らく何かの事件か事故に関わってる。
十分に注意して、手に負えないと分かったら深入りしちゃ駄目よ。」
「え、でもまだどうするかは」
声を潜めてSさんが囁いた。
「あなただけに見えるなら縁があるって事だし。
第一あなた、あんな綺麗な女の子、絶対放ってはおけないでしょ?」
!?どうしてそれが少女だと...そうか、電話越しに俺の意識を。 思わず俺も声を潜める。
「ちょっと待って下さい。綺麗な女の子だからどうこういう訳じゃ」
「あ、L、電話来たわよ。翠もおいで。」 呼びかける声が聞こえたあと、Sさんはまた囁いた。
「今の話、Lと翠には内緒よ。絶対心配すると思うから。」 「了解です。」
姫と翠の声を聞いてから俺は眠りに就いた。
明日も朝早いし、修行は休めない。また、明日考える、それで良い。

605 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:40:09 ID:/QxSN9gc0
 翌日、結局俺は港へ出掛けた。
防波堤、昨夜少女を見た場所の近くに陣取った。時折ルアーを投げながら時間を潰す。
そして夕日が海面に沈み掛けた時、唐突に少女は現れた。
俺の左側、数m離れた場所に立って海を眺めている。昨夜と同じ服、同じ釣り具。
未だ明るいので赤金カラーのミノーも確認出来た。これは恐らくD社の製品。
そして白い横顔を伝う一筋の鮮血。やはり恨みも憎しみも感じない、一体何故?
ふと、少女の足元から長い影が伸びているのに俺は気付いた。
少女が釣りを始めるとその影も動く。幽霊に影があるなんて聞いたこともない。
そして、一心に釣りをするその姿が、何より俺の胸に痛かった。

606 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:43:13 ID:/QxSN9gc0
 翌日、俺は昼寝の前に電話を掛けた。姫が大学に行っている間にSさんと話がしたかった。
「やっぱり、そろそろ電話が来るんじゃないかと思ってたわ。あの釣り友達のことね?」
「釣り友達どころか、まだ話もしてませんよ。」
「でも、放っておけないならまず話をして、友達にならないといけないでしょ。」
「放っておいた方が良いんでしょうか?でもあのまま放って置いたら、
そのうち『不幸の輪廻』に取り込まれてしまいますよね?」
「恨みや憎しみを感じないとしても、血を流しているとすれば...ねぇ昨夜はどうだったの?
やっぱり女の子の顔には血が?」 「はい、血が流れてました。」
「血は乾いてた?」 「いいえ、頬を伝って顎から胸に。それと。」
「それと?」 「影がありました。」 数秒間の沈黙
「本当に影?間違いない?」
「はい、僕と同じ濃さで同じ方向に伸びる影です。影のある霊なんて、変ですよね。」
「何度か見たことがあるわ、影のある霊。
もしそれと似たケースなら、血を流し続けているのも納得できる。」
思い出した。初めて姫と2人きりで泊まった温泉旅館。
そこに現れた女性の生霊は、月の光を背にしてはっきりした影を障子に映していた。
「あの子の体は、まだ、死んではいないということですか?」
「事件か事故に巻き込まれて大怪我をした。それで意識がない状態だと思う。」

607 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:46:01 ID:/QxSN9gc0
「もし、あの子と話をして、魂を体に戻す事ができたら。」
「もちろん魂が体に戻らなければ回復は望めない。
でも、魂が体に戻っても回復するとは限らないわ。逆の結果もあり得る。」
魂が戻った事が引き金になって、体が死んでしまうこともあり得るということか。
「もし逆の結果になったとしたら、あなたは耐えられる?」
「正直、分かりません。」
話をして記憶を戻した途端、恨みや憎しみの感情が爆発する可能性もある。
そうなればあの子の魂は『不幸の輪廻』に取り込まれてしまう。残った体は抜け殻だ。
しかし、放っておいても遅かれ早かれ同じ結果になる。それならば。
「でも、やっぱりあのままにしてはおけません。綺麗な女の子だからと言う訳ではなくて。」
「分かってる。相手が誰でも、あなたはきっとそう言うと思ってた。
でも、気を付けて欲しいことがあるの。」 「何でしょう?」
「あまり長くあの子と一緒にいるのは良くないわ。そうね、1日30分以内にして。
記憶を取り戻す前にあの子があなたに依存してしまったら、その後の対応が難しい。」

608 『約束(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:48:05 ID:/QxSN9gc0
 「分かりました。何か他には。」
「事件や事故の関係だとすれば、あの子の身元を突き止めるのは難しくないはず。
榊さんに頼んで調べて貰うつもりだけど、あなたはその結果を知らない方が良い。
事前に情報を知っていると、無心に会話することが出来なくなるから。」
「僕はあの子との会話だけに集中するということですね?」
「そう、それから。」 「はい。」
「もしあの子の感情に恨みや憎しみの気配を感じたら対応を一旦中断して。
電話してくれたらすぐに私が其処に行く。」
お屋敷からこの街までは車で半日近くかかる。出来ればそんな事態になって欲しくはないが、
あの子の魂が『不幸の輪廻』に取り込まれるのを術で防ぐことができるのはSさんだけだ。
「ありがとう御座います。頑張ってみます。」
「其処で修行してる間にあなたの力は強くなっていく。
強力な言霊が予期せぬ事態を招くかも知れない。くれぐれも言葉に気を付けて。」
「はい、肝に銘じます。」

609 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/14(木) 23:58:31 ID:/QxSN9gc0
皆様今晩は、再び藍です。

無事に『約束(上)』の投稿を終えることが出来ました。
お付き合い頂いた皆様に、心から感謝致します。
今夜、これからどれだけ頑張れるか、試してみるつもりです。
明日以降、投稿が滞ったなら、『相変わらず口先だけ』とお笑い下さい。
今夜はこれにて一旦失礼致します、有り難う御座いました。

610 名無しさん :2013/11/15(金) 00:03:25 ID:HOHiFayE0
一瞬寝落ちされたかと思いました。
ご自愛ください。

611 名無しさん :2013/11/15(金) 10:09:01 ID:Oqn6HQcU0
作者さん、書いてくれてありがとう。またあなたのお話が読めてうれしいです。

藍さん、お休みだからって無理しないでくださいね。
巷ではRSとかノロとかが流行りだしているみたいだし、
寒くなってそろそろインフルの時期ですからねー。
でも、たぶん一番藍さんが作者さんのお話が好きなのだろうし、
ここに投下することを楽しみにもしているんだろうな。
無理しないで、でも早くにね(なんか矛盾w)。

612 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:06:16 ID:jGaRLGgk0
テスト中。

613 名無しさん :2013/11/15(金) 23:10:30 ID:4TVN6vVA0
作品楽しみにしています
お体に気をつけて頑張ってください

614 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:18:55 ID:jGaRLGgk0
皆様、今晩は。藍です。
昨夜の作業の後、早起きして、洗濯して、買い物して。元気一杯です。

>>610
>>611
「読んで下さる方のため」と書いたものの、
何よりも私自身のために投稿しているので無理とは思いません。
もはや投稿は健康法の1つ、という感じですね。

さて、奇跡的に作業が捗ったので『約束(中)』以降を投稿致します。
この作品は私に取ってとても大切な作品になりました。
皆様にも、お楽しみ頂ければ良いのですが。

615 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:24:40 ID:jGaRLGgk0
 Sさんと電話した日の午後から降り始めた弱い雨が翌日も降り続き、
その日少女の姿は現れなかった。再び少女が現れたのはSさんと電話で話した2日後。
そろそろ時間だろうと思って車から降り、防波堤に視線を戻したら既に少女が立っていた。
夕暮れの茜空を背景に立つ、スタイルの良い細身のシルエットが鮮やかだ。
釣り具を持って防波堤を歩く、次第に少女の姿が近づいてくる。『鍵』は掛けていない。
「あの、済みません。此処で釣り、させてもらっても良いですか?」
少女はゆっくりと体を向けて俺を見た。冷たく透き通った黒い瞳。
やはり恨みや憎しみどころか、何の感情も感じ取れない。
しかし、その瞳には吸い込まれるような、抗いがたい不思議な魅力があった。

616 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:26:33 ID:jGaRLGgk0
 「お前は、此処で釣りをしたいと言ったのか? 私に。」
まさかの男言葉。 外見と言葉遣いのギャップに驚いて俺はしどろもどろになった。
「え? あ、そうです。ルアーの釣りを、此処で。」
「それは構わない。だが。」 「はい。」
「私は釣りが下手だから、皆の邪魔にならないように此処で釣りをしている。
魚を釣りたいなら、お前はもっと別の場所を探した方が良い。」
俺を警戒している訳ではなく、心から忠告してくれているのは分かる。
しかしこの言葉遣い...高校生だとすれば5つは年下だろうに、俺を全くの子供扱い。
これではまるで時代劇のお姫様と従者の会話だ。思わず笑みが浮かぶ。
相手の気を悪くさせてしまっては元も子もないし、ここは従者を演じた方が良いに決まってる。
「実は昨日、此処で魚を釣ったんです。」 「本当か?」
「はい、良い型のタチウオを2尾、それで今日も此処でと。」
「そうか、なら好きにすると良い。」 「ありがとう御座います。」
少女はそれきり黙ったままルアーを投げ続けた。自分で言うほど下手には見えない。
そこそこ飛距離も出ている。これなら何時魚が釣れてもおかしくない。しかし彼女は...
その時俺にアタリが来た。重い引き、90cmクラスか。釣り上げたタチウオを手早く処理して
持参したレジ袋に入れる。鋭い歯で袋を破らないように魚体を丸めるのがコツだ。

617 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:28:30 ID:jGaRLGgk0
 「本当に、釣れるのだな。」
少女が手を止めて俺を見ていた。その口元に微かな笑みが浮かんでいる。
「お陰様で。」 少女は再びルアーを投げ始めた。少女の隣で俺もルアーを投げる。
ゆっくりと過ぎてゆく時間。霊を相手にしているとは思えない、のどかな釣りの風景だ。
ただ、この美しい少女の額から頬へと伝う、一筋の鮮血を除けば。
釣りを始めて25分、俺は釣りを切り上げた。少女がルアーを投げながら呟く。
「帰るのか?」 「はい、今日はこれで帰ります。ありがとう御座いました。」
釣りを続ける少女を港に残し、俺はアパートに戻った。
話ができたとはいえ情報はほとんど得られなかった。
事情が分からない以上、Sさんの忠告を守るに越したことはない。

618 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:30:33 ID:jGaRLGgk0
 「榊さんに調べてもらったんだけど、ここ数年の間では
それらしい事件や事故の記録が見つからないの。今はもっと前の記録を調べてもらってる。」
Sさんから電話が来たのは少女と初めて話した翌日の昼過ぎだった。
「病気、って可能性もありますかね?」
「病気で頭から血...脳外科とか?病院の入院患者も調べてもらうように頼んでおくけど、
事情が分かるまではくれぐれも用心してよね。そう、あの短剣、港にも持って行って。
もしあなたに何かあったら、私。」
受話器の向こうで涙を堪える気配。そうだ、4年前とは何もかもが違う。
Sさん、Lさん、翠、そして藍。俺にはもう、何よりも大切な家族がいるのだから。
受話器の向こうで心配してくれるSさんの姿を思うと胸が痛む。ここは何とか。
「大丈夫です。絶対に無茶はしません。それより。」 「なあに?」
「病院関係者に伝があるなら、手に入りませんか?本物の白衣。」 「白衣?」
「見事にこの修行を終えて帰れたら、ご褒美にSさんの」
「馬鹿! ...忘れたの?セーラー服の時、ホントに大変だったんだから。」
電話越しでなければ頬か太股を思い切りつねられていただろう。
しかしそれでSさんの涙が乾くなら、つまらない自虐ネタも充分役に立つ。

619 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:32:28 ID:jGaRLGgk0
 その日の夕方も俺は港へ出掛けた。
買い物帰りなので車を駐車場に停め、そこから防波堤に向かって歩く。
Sさんの指示通り、△木野の主様から授けられた短剣は背中のリュックの中。
防波堤の真ん中辺りで時を待つ。少女の姿が現れた所で歩み寄り、声を掛けた。
「失礼します。今日も此所で釣りをさせてもらっていいですか?」
「構わない。」 口調はそっけないが少女の表情は穏やかだった。
釣りを初めて数分、俺は小さなタチウオを釣り上げた。丁寧にリリース。
「何故、私には釣れないのだろう。いくら下手でも一尾くらい...」
初めて少女が『興味』を示した。これでようやく事態が動く、これからが本番。
ただ、他人から見れば俺は虚空を見つめて独り言を言うことになる。
それとなく辺りの様子を窺う。人影は殆ど無い。防波堤先端に数人の釣り人。
数人、正確には4人。左端の釣り人の青い上着に見覚えがある。

620 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:35:03 ID:jGaRLGgk0
 そこで初めて気が付いた。
俺が此所に来る度に、あの人影が4つ。何故かそれ以外に人影は無い。
いつも全く同じ景色。しかも少女が現れるのは晴れた日だけ。それも同じ。
そして、初めて少女を見る前に感じた、軽い目眩。
俺の世界に少女が現れたのではなく、俺が少女の世界に踏み込んでいるとしたら。
あの幻の川での釣り。記憶がフラッシュバックして、腹の底が冷たくなる。
もしかしたら少女に影があるのは、生き霊だからでは無いかも知れない。
「ルアーの違いかも知れませんよ、ほら。」
俺が使っているのはバイブレーションタイプのルアー。小魚を模しているのは同じでも、
ボラのような細長いシルエットのミノーとは違う。アイゴやメッキのような、平たいシルエット。
「ああ、これは見たことがある。だが、今は持っていない。」
一か八かの賭けにはなるが、俺の疑問を解くのには最高のチャンスだ。深呼吸。
「もし良ければ私の釣り具を使ってみませんか?」
「大事な釣り具だろう。良いのか?」 「もちろんです、どうぞ。」
少女は自分の釣り具を防波堤に置き、俺に右手を差し延べた

621 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:38:52 ID:jGaRLGgk0
 出来るだけ平静に、手が震えないように釣り具を差し出す。
...あっけないほど無造作に少女は釣り具を受け取った。
やはり生き霊ではない。俺の知っている術とは桁違いの力。服や釣り具どころか、
その『領域』までも作り出す程の力はともかく、この少女は生身の、生きている人間だ。
少女の力が作り出したこの領域に、少女自身が囚われている。
恐らくこれが、『神隠し』。姫の言葉通りだとすれば此処では時の流れが止まっている。
一体どのくらい前から、いや待て、あのリールは95年型。少女が18歳だとすれば...
「この竿は、軽いな。その分ルアーが重く感じるが。」
「あ、実際、小さい割に重いですよ。飛距離が出るので広く探れます。」
「投げても良いか?」 「当然です。」
少女が投げたルアーは今までよりも遠くに飛んだ。飛距離10%UPといったところか。
「確かに飛ぶ。とても、良い釣り具だ。」 少女は楽しそうにルアーを投げ続ける。
その頬を伝う鮮血は、乾きかけているように見えた。

622 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:41:15 ID:jGaRLGgk0
 腕時計を確認しながら、俺はルアーを投げた。少女もルアーを投げ続ける。
突然、少女の竿が大きく曲がった。あの時と、同じだろうか。幻の川で釣った川魚。
やがて少女はタチウオを釣り上げた。80cmを軽く越える良型。
タチウオの傍らで立ち尽くす、少女の影。
「釣れた。初めて。」
この機を逃してはならない。慎重に言葉を選ぶ。そして深呼吸。
「あなたは、その魚を食べるのですか?」
「食べる?」 少女は驚いたように俺を見た。
「はい、私は釣った魚を食べるために釣りをします。あなたは?」
防波堤の上で身を捩るタチウオの姿が急速に薄れ、やがて、消えた。
「私は、待っているのだ。釣りをしながら。」
「何を、それとも誰を、待っているのですか?」
少女が右手で頭を押さえて俯いた。大量の鮮血が防波堤に散る。
「駄目だ。思い出せない。思い出そうとすると、いつもこうだ。」
「怪我を、しているのですか?」

623 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:44:16 ID:jGaRLGgk0
 少女はパーカーのフードを脱ぎ、血濡れの髪をかき上げた。
「此処だ。何が見える?」
額の右上、髪の毛の中に異様なものが見えた。高さ3cm、幅2cm位。
厚みは5〜6mm、やや斜めになった断端。白っぽい材質が血を吸って赤黒く染まっている。
何かの破片...これは鏃(やじり)、か。動物の骨から削りだした鏃が折れたのだろう。
恐らくは飛んできた矢が頭骨に刺さった衝撃で。しかし、なんという酷いことを。
「多分、鏃だと思います。鏃の、破片かと。」
「鏃、か。」 少女は一瞬遠い目をした。
「出来れば、抜いてほしい。私には出来ないから。」
少女は無造作に左手でそれを掴んだ。ジリジリという音、肉の焼ける匂い。
「私が触るとこうなる。火傷は直ぐに治るが...何か、抜く方法はないか?」
少女の左手、酷くただれていた親指から中指が見る間に修復されていく。
しかし、俺の手ではこうは行かない。とても素手では。
だからといって、外科で処置してもらう訳にもいかないだろう。

624 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:48:37 ID:jGaRLGgk0
 一体、少女がこの領域から出られるのかどうか。
出られないとして、この領域内に病院があるかどうかも分からない。それなら。
「試してみたいことがあります。ちょっと待って下さい。」
俺はリュックの中から短剣を取りだした。あの年の大晦日、△木野の主様から授けられた短剣。
姫は此の短剣を『理由無く抜いてはいけない』と言った。『収まりがつかないから』と。
それなら、この剣を使う以外に方法を思いつかない今こそ、その時だ。
深呼吸をして短剣を鞘から抜いた。滑らかな感触。
微かに黒みがかった銀色の刃が、月の光を反射して光っている。
短剣を一目見て、少女の表情が変わった。
「何故、人間がその短剣を持っている。お前は、何者だ?」
「陰陽師です。まだ駆け出しですが。この剣ならあるいは、その鏃を抜けるかもしれません。」
少女は黙って俺を見詰めた。じぃん、と、胸の奥が痺れる。今、少女は俺の心を。
「精妙な術を使い、天地の精霊の力を借りるものたちか。 面白い、やってくれ。」
少女は防波堤に腰を下ろし、両足を海面に向かって垂らした。
そしてパーカーのフードの端を噛み、眼を閉じる。最後に小さく頷いた。準備完了という意味だ。

625 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/15(金) 23:50:34 ID:jGaRLGgk0
 「失礼します。」 俺は背後から少女の頭頂部に左手の甲でそっと触れた。
短剣の切っ先を左掌に置く。そのまま刃の中程を鏃の破片に当て、力を込めて右手を引く。
ギッ、と硬い感触。刃が鏃の破片に食い込んだ。いける。
「抜きますよ。」 声を掛けてから、俺は一気に右手を引き上げた。
抜けた鏃の破片が足元に落ちるのと同時に、深い傷口から鮮血が吹き出した。
ぐらりと傾いた少女の体を抱き止めて傷口を押さえる。
直ぐに出血は止まり、傷口も見る間に塞がっていく。しかし、少女の意識が戻らない。
心なしか周りの景色が存在感を失いつつあるように見える。
少女の意識が戻らないままこの領域が消滅したら、少女はどうなる? そして俺は?
ますます景色の存在感が薄れていく。これ以上考えている暇はない。
短剣を鞘に収めてリュックにしまい、まとめた釣り具もリュックに縛り付ける。
タオルで鏃の破片をつかみ、そのまま丸めてこれもリュックに放り込む。
少女を両手で抱き上げて俺は急いだ。一刻も早く駐車場へ。そして車に。

『約束(中)』 了

626 名無しさん :2013/11/15(金) 23:58:50 ID:HOHiFayE0
藍さん本日もお疲れ様でした。

しかし、Sさんの他心通って電話越しにも出来るって凄いですな

結婚10年・・・今日こそ藍してると電話で言おうと思ったら

何か言いだす前にすでに相手が号泣・・・・

大変な事ですなRさん

627 『約束(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:02:41 ID:cGZ0jfJU0
『約束(下)』

 それから十数分後、少女は俺の部屋の布団に横たわっていた。
何とかあの領域が消滅する前に脱出出来たようだが、やはり少女の意識が戻らない。
鏃の破片を抜いたのがまずかったのか。しかし少女は。
その時、ケイタイが鳴った。
「何だか胸騒ぎがして電話したの。今、Lは翠とお風呂に入ってるから。
今日榊さんから電話があって、それらしい行方不明者の資料が見つかったって...
あなた、一体どうしたの?あの子に、何か変わったことがあったのね?」
「誤解されることはないと思いますが、彼女は今、僕の部屋で寝てます。」
数秒間の沈黙。
「...寝てる、あなたの部屋で。一体どういうこと?」
「あの子の頭に鏃の破片が食い込んでいました。出血はその傷からで、
思い出そうとするとひどく出血するから抜いてほしいと言われました。それで短剣を。」
受話器の向こうでSさんが息を呑む気配。 「本当に、あの短剣を、抜いたの?」
「はい。鏃に彼女が素手で触ると火傷するんです。火傷がすぐに治るのも見ましたが、
素手で抜けないならあの短剣を使うしか無いと、そう思って。」

628 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:06:24 ID:cGZ0jfJU0
 「どうやら本当にただ事じゃなさそうね。鏃の破片を抜いた後、短剣は鞘に収まった?」
「はい。ただあの子が意識を失ったままなので、急いで連れ出したんです。」
「連れ出した、って。何処から?釣りをする港からってこと?」
「あ、それを最初に説明するべきでした。多分、あの幻の川での釣りと同じです。
彼女は特別な領域の中にいて、其処に踏み込んでいたのは僕の方でした。」
「あの子は幽霊じゃなく、神隠しにあった人間だったのね。
それなら榊さんが見つけた資料が行方不明者の...R君、あの子他に何か言ってなかった?
なぜ自分が此処にいるのか、なぜ頭に矢を受けたのか、そんなこと。何でも良いから。」
「矢の事は分かりません。でも『何のために釣りをするのか』と聞いたら、
『待ってる』って言ってました。」
「何を待ってるって聞いたら、傷が痛んで出血が酷くなるのね?」 「はい、そうです。」
「R君、落ち着いて良く聞いて。あとで簡単な術も教えるからメモの用意もしてね。
彼女の傷口が完全に塞がったのを確認したらその術を使う。それで彼女は多分目覚める。
目覚めたらもう一度話を聞いて。忘れていた記憶が戻ったかどうか。此処までは良い?」
「はい、メモの用意も出来ました。」

629 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:08:54 ID:cGZ0jfJU0
 「うん、良い返事。答えがNoなら、そのまま寝かせて朝まで様子を見る。
答えがYesなら...」 「はい、答えがYesなら?」
「話の途中で何が起きても慌てないで。絶対に悪い事は起きないから。
でも、ただ事じゃないと思ったら眼を伏せて、絶対に見ては駄目。絶対に。」
「見てはいけないって、一体何故ですか?」
「調べてみないとハッキリしないし、具体的に何が起こるかは言えないけど、
『人間が見てはいけないこと』が起こる可能性があるの。
だからお願い。私の言うとおりにして。ね、絶対に、見ては駄目よ。」
Sさんの声は微かに震えていた。もともと、俺がSさんを信じるのに細かい説明など要らない。
それにあの子がただの人間ではないことは俺が一番良く知っている。
『人間が見てはいけないこと』が起こるとすれば、俺が感じた通りだということだろう。
「分かりました。ただ事でないと思ったら眼を閉じて絶対に見ません。約束します。」
受話器の向こうでSさんが小さく息を吐いた。
「じゃあ、術を教える。メモを取って。」 「はい、お願いします。」
俺は説明を聞きながらメモを取った。特別な代も要らないシンプルな術、これなら俺にも使える。
「もうLと翠がお風呂から出るし、私もこの件を調べてみる。だから電話、一旦切るわよ。」
「はい、ありがとう御座いました。」

630 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:10:48 ID:cGZ0jfJU0
 電話を切り、時折少女の傷の様子を確かめる。
指の火傷ほどでは無いが、順調に傷口は治りつつあり、出血も止まっていた。
傷口が完全に塞がったのは夜中前、午後11時過ぎ。
傷のあった場所がやや赤みがかってはいるが、既に髪の毛も再生されていた。
これなら大丈夫。傷の様子を確かめながら準備は済ませてある。
大丈夫。今が、その時。
術を使って数分すると少女は目を覚ました。
枕元に座る俺を暫く見詰めた後、ゆっくりと上体を起こした。
もちろん白い頬に血の跡はなく、唇の色にもやや生気が戻っている。

631 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:12:47 ID:cGZ0jfJU0
 「お前のお陰で全部思い出した。礼を言う。」 微笑む少女に俺は黙って頭を下げた。
「生まれた時から私は奇妙な質で、父母は相当に苦労したようだ。
小学校に入学しても友達一人作れない私を、父は良く釣りに連れて行ってくれた。
そしてあの日、私たちは出逢った。」
少女が語る言葉は暖かく、しかし一抹の後悔を含んでいるように思えた。
「あの方と共に過ごす時間が愛しくて、私は父にせがんで度々釣りに出掛けた。
そして私が中学生になった年、私たちは約束をした。
16歳になったら、私はあの方の嫁になると。」
やはり、ただの神隠しでは無かった。信じられないが、これは、現在進行形の異類婚説話。
「父は黙って許してくれた。母は少し泣いたが、やはり許してくれた。
『このまま人の世に住んでもお前は幸せには慣れないから』と。それなのに。」
少女は言葉を切って俯いた。両手で握りしめた布団の端に落ちた涙が染み込んでいく。

632 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:14:24 ID:cGZ0jfJU0
 「何が、有ったんですか?」 少女は右手の中指で涙を拭ってから顔を上げた。
「あの方が私を迎えに来た時、言いつけを守らずに目を開けてしまった。
あの方の、本当の姿を見てはいけなかったのに。」
「もしかしてそれは、あの鏃のせいだったのではないですか?」
「どんな言い訳も意味が無い。私は言いつけを守れなかったのだから。
それから私にはあの港がただ1つの居場所になった。
重なり合う2つの世界の狭間、『何処でもない場所』が。」
「でも、昨夜あなたは彼処から出ました。これから、どうするつもりですか?」
少女は再び俯いた。小さな肩が震えている。
「詫びが、言いたい。 一言、あの方に。」
少女が呟いた途端、俺の部屋をその存在が満たした。厳かな、何処か懐かしい気配。
俺は正座をして頭を下げ、畳に手を着いた。硬く目を閉じる。
そう、これは、決して『人が見ることを許されない』場面。

633 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:16:32 ID:cGZ0jfJU0
 『詫びを言うべきなのは、私だ。お前の気持ちがあまりに嬉しくて、油断した。
だから、あの忌まわしい呪いの矢から、お前を、護れなかった。
しかし今日その傷が癒えたからには、お前の望みを叶えたい。
そのまま人の世に居たければ、一生の幸せを約束する。
父母始め、お前の縁の者に不自由はさせないし、もう、決して油断はしない。』
「人の世に、私の幸せは無い。何度も言った筈だ。」
『本当に、人の世に帰る気は無いのか?』
『無い。許されないならあの港に戻る。許されるなら、約束通り、お前の嫁になる。』
少女の声の響きが変わっていた。
ただ一本の呪いの矢によって長く中断していた魂の変容が、完成しようとしている。
『許すも何も、悪いのはあの矢。お前は何一つ悪いことはしていない。
私が、臆病だったのだ。本当の姿を見られて、お前に嫌われるのが怖かった。
それで『目を閉じていてくれ』と。もしその目を閉じていなかったなら、
お前があの矢を受けるなど万に一つも有り得なかったのに。』
『矢を受けても、目を開けるべきではなかった。だから、私が悪い。許してくれ。』
『私の本当の姿を見たのに、嫁に来てくれるのか?』
『何度も言わせるな。私は約束を守りたい。お前の下へ、行きたい。』

634 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:19:35 ID:cGZ0jfJU0
 『R、大体の事情は分かったな?』
「はい。」 慌ててさらに頭を低くする。一体何故、俺の名を。
『此所で修行を始めて直ぐに、お前ならこの役目を任せられると思った。
そして、その働きは期待以上だった。ずっと、待っていた甲斐がある。』
そうか、今、俺の部屋を満たしている存在は俺が修行している神社の...
俺と同じ適性を持つ術者は久しくいなかったとSさんは言った。
それなら俺が今年此処に修行に来たのも、遠い『約束』の1つなのだろう。
「気付かぬ内にお役目を果たす事が出来ていたなら幸いです。」
『最後にもう1つ、頼みたいことがある。』
「私に出来る事なら何なりと。」
『この娘を私の社まで連れて来てくれ。晴れて、嫁として迎えたい。』
「仰せの通りに。」
『頼む。』
その言葉を最後に、その存在は俺の部屋を去った。
『顔を上げてくれ。』 少女の声だ。
少女は俺の前に立っていた。パーカーとジーンズではない、目が覚めるような純白の着物。
儀式の時にSさんや姫が着る着物に良く似ている。
『悪いが、一刻も早くあの方の下へ行きたい。頼む。』
少女の頬はほんのりと紅に染まっていた。そしてあの鮮血と同じ色の紅をさした唇。
本当に、何もかもが美しい。穏やかに微笑む少女を見て、俺は心からそう思った。

635 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:20:57 ID:cGZ0jfJU0
 参道に続く階段の手前、狭い駐車場に車を停め、助手席のドアを開けて跪く。
今年、桃花の方様をある場所にお送りした時、Sさんから習った作法。
俺に出来る最上の礼を尽くさねばならない。そう思った。
差し出された手を取って車を降りる補助をする。 「ありがとう。」 鮮やかな笑顔。
少女が参道の方向に向かって歩き始めたのを確認してから、俺は振り向いた。
これは...
参道の入り口に篝火が焚かれ、参道の両側には五色の幟がたなびいている。
俺が毎朝通ってきた時の寂れた感じとは全く違う、厳かで華やかな雰囲気。
目が慣れてくると階段の上り口に白装束の人影が跪いているのが見えた。
上り口の両側に3人ずつ、計6人。巫女さんのようだ。巫女さんどころか、
普段の社務所には管理をしている年老いた男性が一人いるだけだというのに。
俺は少女の後を、少し離れて歩いた。未だ役目は終わっていない。
少女は階段の上り口の手前で立ち止まった。ゆっくりと振り返る。

636 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:23:45 ID:cGZ0jfJU0
 『此処までで良い。色々と苦労をかけたな。』
少女の前でもう一度跪く。この任を解いて頂く時だ。
「いえ、私は何も。むしろ、このようなお役目を頂き光栄でした。」
『一緒に釣りが出来て楽しかった。あのタチウオ、絶対に忘れない。
旅立つ前に良い思い出ができた。心から、感謝する。』
「はい...」
それは、一体どれほど重い決心だったろう。
少女が辿ってきた道程とその苦難を想うと、言葉が出ない。
無力だ。俺の力も、言霊でさえも。 ただ涙だけが溢れる。
頭を下げた俺の目の前で向きを変えた少女の足が、もう一度向きを変えた。
『人間だった時の名を、憶えておいてくれないか。縁あって私が人の世に生まれた、その証に。』
「は、今何と?」
少女の膝が曲がるのが見えた。俺の耳にかかる温かな吐息、爽やかな芳香。
『 い ず み 』 『万物を育む、清らかな水の源、『泉』。』
信じられぬ思いで俺はその言葉を聞いていた。まさか、こんな事が。
「誓って、忘れません。」 やっとの思いで言葉を絞り出す。
少女の足は向きを変えた。遙かな世界へ向かう、軽やかな足取り。

637 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:27:37 ID:cGZ0jfJU0
 「何時までそうしてるの?」
聞き覚えのある声。振り向いた俺の直ぐ前にSさんが立っていた。
「Sさん、どうして?」
「どうしてって。あなたの電話で事情が分かったから直ぐに飛んできたの。
先回りして神社の祭主と連絡を取ったって訳。必ずこうなると思ったから。
祭主は神隠しの件を憶えていたから話が早かったわ。
あ、駐車場の車、気付かなかった?まあ、あんな状況なら無理もないけど。」
「でも、彼女が別の選択をする可能性だって。」
Sさんは両手で俺の頬を挟んだ。温かい感触。
「この私に2人も子供を産ませて、未だ女の気持ちが分からないの?
別の選択をするつもりなら自分を神隠しにする必要なんか無いでしょ。
記憶もないのに、そして文字通り血を流しながらでも待ち続けられたのは、
こうなることを彼女が心から望んでいたからじゃないの。
そしてあなたの適性なら成功すると信じたある御方が、この御役目をあなたに任せた。
そうでなければ、これ程の御役目、とても人間に担えるものじゃない。
あなたには、いつも本当に驚かされる。でも、とても誇らしいわ。御役目、御苦労様。」
事の重さに気が付いてから、その重圧に負けまいと張り詰めてきた気持ちの糸が、
Sさんのその言葉をきいてプツリと切れた。

638 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:32:05 ID:cGZ0jfJU0
 「Sさん。僕は。」 また、涙が溢れた。止められない。
俺は、跪いたままSさんの胸に顔を埋めて泣いた。
哀しいのではない、嬉しいのでもない。でも、どうしても、涙が止まらなかった。
「全く、子供みたいね。誇りに思いこそすれ、泣く事じゃ、無い、でしょ。」
Sさんの涙声が、俺が経験したことの不思議さと、その重さを示している。
どれ位そうしていただろう。いつの間にか辺りは薄明るくなっていた。
「もう、落ち着いたでしょ。さ、立って。それから、あの鏃を頂戴。」
「鏃?」 「そう、これは私の役目。さ、上着の胸ポケットよ。」
俺は言われるままに上着の胸ポケットに触れた。柔らかな感触、その中心の固い芯。
あの、鏃の破片を包んだタオルの包みだ。一体、何時の間に?
Sさんは俺のポケットから包みを取り、無造作にそれを解いて矢尻の破片を左掌に置いた。
「Sさん、それを素手で」 Sさんは右手の人差し指で俺の唇を押さえた。『黙って』の合図。
目を閉じて深く息を吸い、小声で何事か呟いた。
Sさんの集中力が高まっていく、チリチリという音が聞こえるようだ。
やがて、目を開けた。左掌の上、鏃の破片をボンヤリとした光が包んでいる。 これは。
次の瞬間、Sさんの左手が一本の矢を握っていた。 赤黒い鏃、真っ黒な軸と矢羽根。
「返れ・・・の矢は射手へ。」
Sさんが掌を開くと、呪われた矢は、まるで手品のように、消えた。

639 『約束(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:35:05 ID:cGZ0jfJU0
 「はい、これでお終い。荷物まとめて、一緒に帰りましょ。」
「でも、まだ修行がまだ一週間以上残ってますが。」
「これ程の御役目を果たした時点で、祭主の印可は降りてる。もう修行は終了。
それとも、新婚さんのお社に毎日毎日早朝からお邪魔するような真似をするつもり?」
いや、確かにそれはまずいだろうけれど、俺の借りたアパートは。
「え〜っと、アパートの駐車場は一台だけしか。」 「ロータスは此処へ置いていくわ。」
成る程、そういうことか。一度2人で荷物をまとめて。
「後で取りに来るんですね?」 「違う。この社に納めるの。」 「へ? 車を?」
「そう、神様のお嫁さんを乗せてお送りしたのよ。デザインや材質は違っても、
この車は立派な御神輿。今後この車は社宝として祀られる。一般には公開されないけど。」
「でも、Sさんはこのロータス気に入ってたんじゃ?」
「あらゆる人外に、優れた術者が此処にいますと宣伝して歩くようなものよ。
幾ら何でも目立ち過ぎる。どのみち今後私たちの仕事では使い物にならない。」
そうか、神社の駐車場、『本体』が近過ぎて今は見えないが、おそらく光塵の数と明るさは。
「そう、それにね。」 Sさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「当然『上』が社宝として買い上げる訳だから損はしない。
それどころか多分同じ車何台か買ってもお釣りが来る。帰ったら直ぐに検討しなきゃね。」

『約束(下)』 了

640 『約束(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:38:52 ID:cGZ0jfJU0
『約束(結)』

 少し開けた窓から晩秋の冷たい風が吹き込んで来る。
Sさんが運転する車の助手席で、俺は紅葉に染まり始めた山の景色を眺めていた。
『少し仮眠をしたら』とSさんは言ったが、未だ興奮が醒めず、とても眠れたものではない。
「やっぱり、眠れない?」 「はい。何だかテンションが上がり気味で。」
「あの御方に恋、しちゃったかな? あんなに綺麗じゃ、忘れられなくても仕方無いけど。
嫉妬する気にもなれない位だったし。」
「恋、じゃありませんよ。人間が神様のお嫁さんになるなんてことが、
どうして起こるんだろうと、それを考えていたんです。」
「お嫁さんだけじゃなくてお婿さんもいる。神婚説話、知ってるでしょ?」
確かに、相手が神なら、それは異類婚説話ではなく神婚説話だ。
「はい、ただ、それは。」
「単なる言い伝えで、本当にあるとは思わなかった?」 「そうです。」
「何の具合なのか、極く希に起こるみたいなの。神に近い魂が人の体に宿ることが。
本人も家族も、とても辛い境遇に置かれることになる。特に近代以降はね。
実は、Lの母親もそう言われていたみたい。『後々は神の嫁になる娘』って。
でもあの人は、人の世に生きる事を選んで、Lを産んだ。
その魂と『強すぎる力』が生み出す負荷に耐えられず、早死にすることは承知の上で、ね。

641 『約束(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:42:34 ID:cGZ0jfJU0
 そうか、姫の母親の『強すぎる力』とは。
あの少女と比肩する力を持っていたのなら、人間の体が長く耐えられる筈がない。
少女があの御方を待ち続けるためには、時間の流れの止まったあの領域が必要だったのだ。
『Lの母親と同じく、あの御方も自分の望みを叶えたのだから幸運だったのよ。
あの御方を支えたあなたの適性、修行の時期、それら全てが『約束』だったって事ね。」
それはあの時、俺が感じたのと同じ感覚だ。
「おいおい話が出来ることはあると思うけど、今はここまでにして。OK?」
「はい、正直これ以上聞いても、今の僕には理解出来ないと思いますから。」
「ありがと。そういえば未だお土産買ってないでしょ?翠、楽しみにしてるわよ。」
「あ、済みません。県境を越える前に何処かで土産品店に寄って下さい。」
「修行が早期終了したんだから仕方ないわよね。」
Sさんは路肩に車を停めた。悪戯っぽい笑顔。
「私とLの分もお土産買ってよね。私はちゃんとあなたの望みのものを手に入れたんだから。」
「あの、望みのものって。」 Sさんの頬が見る見る真っ赤に染まった。
「自分で言っておいて、まさか忘れたんじゃ無いでしょうね。」
冷たい汗が流れた...もしかしてあの自虐ネタを本気に?

642 『約束(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:45:08 ID:cGZ0jfJU0
 「あの、本当に手に入れてくれたんですか?白衣。」
「そうよ。頼む時、すごく恥ずかしかったんだから。感謝してよね。」
一体、Sさんはどんな顔をして頼んだんだろう。思わず笑みが浮かぶ。
「もちろん、感謝感激雨霰ですよ。ところで。」 「何?」
「今夜、着て見せてくれるんですよね。どのみち光塵のお陰で寝不足は決定だし、
光塵の灯りで見る白衣はきっとロマ、あ痛たたたた。」
「馬鹿!」
「だって、僕に見せてくれるために」 「知らない!!」 「痛いですってば。」
「あ、そうだ。最後に1つだけ教えて下さい。」 「なあに?」
「あの矢です。あれは『呪い返し』ですよね。」 「そう、私が頂いた御役目。」
「あの矢は、誰に返したんですか?」 「本当に、知りたいの?」
「それはもちろん、誰が彼女に矢を射たのか、知りたいですよ。」
Sさんは深呼吸をして目を閉じた。
「海岸、今はあの街の北側にある大きな港になってる。
かなり力の強い邪神だったみたいね。もう既に始末は付いたけど。」
街の北側の大きな港。それはおそらく、俺が最初に訪ねた港。
なら、あの気配こそが。そして、俺に干渉しようとした理由も何となく分かった。
「ねぇ、どうしたの?」 「何でもありません。運転、変わりましょう。」

 俺の中で変わったこと、変わっていないこと。
俺は今更のように、『出会い』から過ぎた時間の重さを感じていた。

『約束(結)』 完

643 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/16(土) 00:51:17 ID:cGZ0jfJU0
皆様今晩は、藍です。

>>613
>>626
コメント感謝致します。
気付いたのが投稿開始後だったので、投稿終了まで
レスを控えさせて頂きました。
皆様の思いが次以降の作品に繋がると思います。
有り難う御座いました。

644 名無しさん :2013/11/16(土) 00:54:18 ID:8BBQdrI60
藍さんお疲れ様でした。
投下の時に来れてよかった!
わくわくしながらリロードしてましたw

作者さんありがとうございます!
今回も読んでいて気持ちのいいお話でした。

白衣は女医さんでしょうか、それとも看護師さんのでしょうか。
それだけが今の私の気がかりですがw

645 名無しさん :2013/11/16(土) 00:57:26 ID:6vCaPGGU0
藍さん有難うございました、まさか一気通貫とは思いませんで流れを切ってしまいすみません

ここなんですがね

>「もしその目を閉じていなかったなら、お前があの矢を受けるなど万に一つも有り得なかったのに。』
>『矢を受けても、目を開けるべきではなかった。」

因果律の逆転があるような文章で何度も読んでしまいました。
彼女が持っていた力と関連があったのですかね。あまり今後の展開には「泉さんの名前ほどの」重要なかかわりはなさそうですが

646 名無しさん :2013/11/16(土) 00:58:40 ID:6vCaPGGU0
>わくわくしながらリロードしてましたw

同志よWW

知人さんも藍さんも好きですが、同志も大好きだ。

647 名無しさん :2013/11/16(土) 11:42:36 ID:GQIXckogO
藍さん知人さんありがとう〜
この物語、大好物です〜\(^o^)/

648 名無しさん :2013/11/16(土) 19:11:02 ID:0XtXkJDk0
素晴らしい作品です がんばってください

649 :2013/11/16(土) 21:51:05 ID:8c5zYwkQ0
今回も心に染みる本当に良いお話でした。

藍さん、作者様、有難うございました!

650 名無しさん :2013/11/17(日) 00:59:31 ID:jGFRn7fU0
でも、神様のお姿ってどんなんだったんだろ。
 _o/|_ いやいや、いけない、見ちゃいけない。

651 名無しさん :2013/11/17(日) 05:32:00 ID:LV7hspMw0
藍さん、作者様、今回も素晴らしいお話をありがとうございます。

参道の、篝火や五色の幟や巫女さんたちは、最初幻かと思ったけど、
Sさんが手配した現実だったんですね?
本当に心に染みるお話で、何度も読み返しては泣いてますw

652 藍(夜勤明け) ◆iF1EyBLnoU :2013/11/17(日) 12:48:24 ID:l5zi.uhc0
皆様今日は、藍です。
早速コメントを頂き、とても嬉しいです。

>>644
DVDのお話からすれば、白衣は看護師さんバージョンでしょうね。

>>645
それまでの経緯、その時何があったのか、私もずっと考えています。

>>647
>>648
>>649
有り難う御座います。気に入って頂けてとても嬉しいです。

>>650
あの場面で眼を閉じていられる素直さと純粋さが、Rさんの魅力なんでしょうね。

>>651
とても印象的な場面ですよね。幻影、現実、色々な解釈が可能ですが、
篝火と五色の幟はSさんの手配、巫女さんたちは神様から遣わされた存在、
そんな気がしています。それにしても、
悲しさでも無い、嬉しさでも無い、そんな涙が、あるんですね。

653 名無しさん :2013/11/17(日) 22:46:02 ID:HjaGLaJc0
人を呪えば穴二つって、邪神とは言え、神様にも通用するんですな。

時間の遮断された空間を形成する→一瞬が永遠になるような時間の引き伸ばしですかね

結界の維持に、受けた鏃の呪力を一部使ったから記憶喪失になったのですかね

鏃を受けた瞬間の表現は誤字じゃなかったんですね。今回の話はとても不思議です

解せば→目を開けていたから鏃を受けることになったのだ
その返答→鏃を受けたから目を開けてしまったのだ

彼女が、目を開けることで神様をかばったようにも読めますし、結果と原因が入れ替わった返答。不思議

リールはシマノのアンタレス、ですか?晴れた日に釣りに出てたのはそのせいですかね。プロすぎる

654 枯れ木も山の賑わい :2013/11/18(月) 01:37:25 ID:hXUXhpCg0
>>653
 『もしその目を閉じていなかったなら、お前があの矢を受けるなど万に一つも有り得なかったのに。』
私には、『目を閉じていたから、お前はあの矢を受けた。』と読めます。不思議ですね。

 あと、リールは発売年度とスプールのデザインの描写からしてシマノのスピニングリール。
おそらく最上位機種のステラ(1000番か2000番)と思われます。
アンタレスのようなベイトリールは普通(特に女性は)、波止からのタチウオ釣りには使いません。

 他にも「街と大きな港の位置関係」など、興味深い描写が沢山ありますね。
細かく考察するのもこの物語を読む楽しみの1つだと思いますが、
意見は色々でしょうからこれ以上は自粛ということで。

655 浩太郎 :2013/11/18(月) 11:26:59 ID:BCFF8tB.0
新しい作品 拝読させて頂きました。作品執筆・投稿お疲れ様です。
いつものように美しく透明間のある作品 感動しました。

細かい考察等は他の方にお任せするとして、本作品、及び他の一連の作品にも流れている
愛や自然との調和の作者の方の意図が今回も素晴らしいと思います。

単なる読者の我儘ではありますが、このまま素晴らしい作品を発表して頂ければと思います。

藍さんも 大変かとは思いますが、私も含め(多数いると思われる)この作品のファンのため
これからもよろしくお願いいたします。

656 名無しさん :2013/11/19(火) 01:16:38 ID:0bdZvDHE0
・教えてもらったんですけどね、神仏との約束は、一度「お手配になったら」逃げようとしても逃げれないとの事です。

人間は生かされているな〜と思うお話ですね。だから人は感謝を忘れてはならないのでしょう。

結末に至るまでに、一生懸命考えたのは間違いなく本人。生かされている=生

657 名無しさん :2013/11/19(火) 01:17:40 ID:0bdZvDHE0
あ、切れた

→生きている、なんでしょうな

658 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/20(水) 00:19:40 ID:oaP6qAfM0
皆様今晩は、藍です。

>>653
いつもながらの深い考察を幾つも頂きましたが、敢えて1つだけ。
人といえど神といえど、呪い返しで『自分の』呪力を返されればそれを避けようがないのだと思います。
だとすれば、結局は『先に手を出した方が負け』になる可能性が高く、SさんやLさんがギリギリまで
強引な術を避けようとするのも納得出来る気がします。専守防衛、ということでしょうか。

>>655
前作以上の温かいコメント、心から感謝致します。
『感動しました』という御言葉、知人も喜んでくれると思います。
今後の作品への御期待も、知人にはしっかりと伝えておきます。

>>656
深いコメント感謝致します。
矢を受けた少女も、少女を助けようとしたRさんも、先回りして少女とRさんを支えたSさんも、
それぞれの場面で、それぞれの立場で、必死で考えた行動だったと思います。
だからこそ、短い描写なのに深く感情移入してしまうんでしょうね。
651様へのレスでも触れましたが、私自身、作業中に一番泣いた作品でした。
(投稿者としては不適切なコメントかも知れません。悪しからず。)

>>654
温かいフォロー感謝致します、と書きたいところですが。
投稿名とリールの件で特定しました。
お礼は、明日の夜にでも、直接確認してから言わせてもらいます。

659 名無しさん :2013/11/20(水) 03:56:10 ID:DTbI4pTg0
>654

>「アンタレスのようなベイトリールは普通(特に女性は)、波止からのタチウオ釣りには使いません。」

そうそう、私もそう思ったんですがね、ステラだと恒星の意味が強いのと、ライントラブルを防ぐためにお父さんがブレーキきつめにして使わせてたのかと
だから遠くに飛ばせなかったのかと思ったのです

水をつけて糸をなじませて晴れた日の釣りに出かける。だから毎日は釣ってなかったという設定なのかと思いました

660 名無しさん :2013/11/22(金) 00:22:38 ID:muLgeYq.0
女医さんだったらオプションは聴診器

看護士さんだったらOPは水の計量の大きな注射器・・・だなWW

661 名無しさん :2013/11/24(日) 21:36:14 ID:GXgxiLss0
結局、山の賑わいさんは、中の人だったのでしょうか

予想としてはちょっち違う気がするんですがね

662 名無しさん :2013/11/24(日) 23:49:12 ID:xDsFzeds0
弟です。中の人ではありません。

663 名無しさん :2013/11/25(月) 23:28:31 ID:IE76Bgj.0
>>662

ありがとうございます。そうするとやっぱりステラだったのですな。感謝。

664 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:15:21 ID:Q8bPF5Z.0
テスト中。

665 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:23:04 ID:Q8bPF5Z.0
皆様今晩は、藍です。

先日次作原稿の冒頭部を受け取りました。
しかし、作業を進めている途中で知人から連絡があり、
急遽予定を変更して別の作品を投稿することになりました。
まずは作品を投稿し、
その後知人から皆様へのメッセージを投稿する予定です。

では『一期一会』、上・下・結の3部構成。お楽しみ頂けると良いのですが。

666 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:35:39 ID:Q8bPF5Z.0
『一期一会(上)』

 少しだけ開けた窓の隙間から吹き込む風は冷たく、冬が近いことを告げている。
翠も藍も暖かい寝床で昼寝をしているが、もう、窓を開けたままで過ごすには寒い。
俺はリビングの窓を閉めてまわり、ソファに戻った。

 「本当にあなた達、入籍だけで良いの?式だけでも挙げた方が良いんじゃない?
一生のことなんだし、女の子にとって純白のウェディングドレスは憧れなんだから。」
もちろん身内だけで式を挙げることも考えたが、姫はそれを望まなかった。
姫には両親がいない。Sさん以外に近い親戚がいるという話も聞いてはいない。
根掘り葉掘り聞く気にはなれないし、姫の気持ちに添う形が一番だろう。
俺は両親に式や披露宴はしないと話をして了解をもらっていた。
特に反対もされなかったのは、両親がSさんに遠慮したからかも知れない。

667 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:38:00 ID:Q8bPF5Z.0
 「式を挙げる代わりに写真を撮ろうと思ってるんです。ちゃんとした写真館で。」
「結婚の、記念写真ってこと?」
「はい、親しい人たちには後でその写真を配れば良いかなと思って。」
「...それならまあ、それでL、着物、それともドレス?」
「あの、ドレスにしようと思ってます。着物はいつも着てますから。」
「じゃあドレスは『○×◎』で仕立ててもらえば良いわ。私が頼んであげる。
それに『○×◎』は写真館も兼ねてるからお誂え向き。ふふ、何だか楽しみね。」
Sさんは席を立って玄関へ向かった。早速『○×◎』に電話をかけるのだろう。
姫と俺が予想していた通りの展開。とても楽しそうだし、相変わらず気が早い。
『○×◎』は市内にある洋裁店兼写真館で、一族の人が経営していると聞いていた。
Sさんや姫は昔からお洒落着を仕立てて貰っていたらしい。
Sさんも姫も、普段からほとんど肌を露出しない。
姫も高校生になった頃から、夏でもノースリーブのワンピースをほとんど着なくなった。
今時のデザインから2人の好みに合う服を探すより、仕立てて貰う方が早いのだろうし、
オーダーメイドだからサイズもピッタリで良く似合う。
俺も『○×◎』の服は(というか『○×◎』の服を着た2人が)大好きだった。

668 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:40:16 ID:Q8bPF5Z.0
 その日の夕方、夕食の支度をSさんに任せて翠と遊んでいると玄関の電話が鳴った。
数回の呼び出し音に続いて電子音、さらにFAX用紙が吐き出される音。
「『○×◎』かしら。ドレスのデザインと見積もりを頼んだのは昼過ぎだから、
幾ら何でも早い気がするけど。R君、お願いね。」
「了〜解。」 俺は翠を抱き上げて玄関へ向かった。
電話は未だFAX用紙を吐き出し続けている。デザインの候補は何種類かあるのだろうか?
最後のFAX用紙、末尾に記されていた文字と文様。『○×◎』の連絡先ではなかった。
腹の底が冷たくなる。これは『上』だ。つまり仕事の依頼。
俺は慌ててFAX用紙を並べ変えた、最初の用紙に記された件名。
『ポルターガイストに類似した事象に関する依頼について』
「おとうさん、『ぽるたーがいすと』ってなあに?」
「え〜っと、これはお父さんとお母さんの新しいお仕事の名前。」 「ふ〜ん。」
少し不満そうな翠を抱いたまま、俺はダイニングへ急いだ。

669 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:42:45 ID:Q8bPF5Z.0
 「確かにポルターガイストみたいですけど、これも陰陽師の仕事なんですか?」
「依頼者がキリスト教徒でないなら教会に頼む訳にもいかないし。まあ、仕方ないわね。」
夕食を済ませ、翠と藍を寝かしつけてから、Sさんは俺と姫をリビングに招集した。
配られたコピーを一通り読むと、その依頼の事件は確かにポルターガイストに良く似ていた。
湯呑みとお椀、それに本がひとりでに移動するという。
テーブルの上を動くのではなく、空中を飛んで移動するらしい。それも数mの距離を。
これまでに二度、いわゆる霊能者に依頼したが、霊能者の前ではこの現象が起きない。
取り敢えず祈祷や御祓いをして貰ったが効果はない。まあ、これも典型的だろう。
俺は依頼者の家族構成が気になった。
ポルターガイストが起こる家には、家族に思春期の女の子がいることが多いと聞いた事がある。
「いわゆるポルターガイストは、思春期の女の子と関係してると聞いたことがありますが。」
「5歳の男の子が1人。女の子でも思春期でもないし、この現象との関わりは分からない。
指定された日付けは3日後。物に関わることは私の領域だし、アシスタントは。」
「僕が行きます。Lさんは『○×◎』との相談があるかも知れませんから。」
依頼を受ければ下調べや準備でSさんが外出する事が多くなる。
それは、俺と姫が進めている計画にも好都合だった。

670 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:44:09 ID:Q8bPF5Z.0
 3日後は土曜日、みんなで昼食を済ませた後、俺はSさんを乗せて車を走らせた。
たまたま代理店に在庫があったのを即決で購入した以前と同じ型・同じ色のロータス。
違うのは年式だけ、当然ながら運転していて全く違和感は無い。快適なドライブになった。
依頼者の家は隣の○県△◎市、比較的古い町並みが残る地域。
「資料の住所からするとこの辺りですけど、細い路地が多くて分かり難いですね。」
「ちょっと其処のバス停に停めて頂戴。電話して聞いてみるから。」
依頼者の家は町並みの中でも一層古色蒼然とした小さな日本家屋。
ポルターガイストという言葉とは、どうにもかけ離れた雰囲気だ。
家の中に案内してくれた女性はYさん、ご主人は他県に単身赴任中で息子さんと2人暮らし。
俺たちはこぢんまりとしたダイニングに通された。
居間と土間をあわせてリフォームしたのだろう。4人分の椅子、細長いテーブル。
廊下を隔てた部屋は畳敷きの和室、調度も古びた和風のものが多い。
ふと気配を感じて振り向くと和室の奥に小さな男の子が立っている。
人見知りなのか、俺が振り向くとすぐに奥へと引っ込んでしまった。
Sさんは男の子のいた方向をチラリと見たあと、挨拶もそこそこに依頼の話を始めた。

671 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:45:33 ID:Q8bPF5Z.0
 「資料は全部読みましたが、今の所実害は無いようですね。
現在も変化がないのであれば、特別な対策を講じなくても良い気がしますが。」
Yさんは溜息をついた後、現象が次第に変化していることと、
その現象があの男の子に与えている影響について話し始めた。
「おかしな事が起こるようになったのは今年の8月頃です。
最初は私の思い違いかと思いましたが、9月の始めに本が飛ぶのを見たんです。」
「念のために聞きますが、落ちたというのとは、全然違うんですね?」
「はい、あの本棚からこのテーブルまでふわふわと。時間は2〜3秒、だったと思います。」
Yさんが指さした和室の本棚からこのテーブルまではざっと5〜6m。
当然、何かの拍子に落ちた本が移動する距離ではない。
「9月中頃からはお椀や湯呑みも移動するようになりました。」
「それも実際に見たことが?」 「はい、息子と一緒に見たこともあります。」
Yさんは一旦言葉を切って俯いたが、やがて、意を決したように顔を上げた。
「一番怖いのは息子のことなんです。息子はお椀が飛ぶのを見てとても喜びました。
そしてそれ以来、ひとりで遊ぶ時間が極端に長くなりました。」
「時間以外に、普通のひとり遊びと違う所がありますか?」
「息子が居間にいる時、他の誰かと一緒に遊んでいるような気がするんです。
話し声がしたり、突然笑い声が聞こえたり。もし何かが息子に干渉しているとしたら、私。」
「実際に誰かと話しているのを見たことはないんですね?」
「はい、私が居間に入るとそれらはピタリと止みますから。」

672 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:46:27 ID:Q8bPF5Z.0
 俺はメモを取りながら黙って2人の話を聞いていたが、突然Sさんに声をかけられた。
「R君、今の話どう思う。これ、本当にポルターガイストかしら?」
「いいえ、ポルターガイストとは違う、ような気がします。」 「どうして?」
「この家に来てから感じる気配が人間のものとは思えません。上手く言えませんが、
僕たちとは異質な感じがします。」
「そうね、確かに異質だわ。人間とは違う、でも動物とも言えない。どちらかというと。
いや、予見を持つのは危険。まずは確かめてみないとね。
Yさん、これからこの家で起きている現象の正体を確かめます。
ただ、依頼を受ける前にも聞いたと思いますが、
これから私たちのすることと、その結果起こることは、くれぐれも他言無用に願います。」
「はい、それは重々承知しています。」 「それでは、まず息子さんを此処へ。」

673 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:48:10 ID:Q8bPF5Z.0
 「剛君、私たちお母さんに頼まれて剛君とお話をしに来たんだけど。」
「僕、何も知らない。この家の中に友達なんていないよ。」
男の子の顔は冷たく強張っていた。おそらく以前に依頼した自称霊能者たちにも
色々聞かれて嫌な思いをしたのだろう。かなり強く心を閉ざしている。
「何かを聞きたいんじゃないの。知らない人たちに色々聞かれて、最近剛君が元気がないから
応援してほしいって、お母さんに頼まれたわけ。私たち、魔法使いだから。」
「魔法使い?」 少しだけ男の子の表情が緩んだ。
「そう、信じられないかも知れないから良い物見せてあげる。」
Sさんは持参したスーツケースから小さな鋏と紙を取り出した。いつもとは違う、黒い紙だ。
鋏で手際よく黒い紙を切り、それを左掌の上に乗せた。
「これ、何だと思う?」 「蝶々。」 「そう、紙の蝶々。ね、右手を出して。」
Sさんは男の子の右掌に紙の蝶々を乗せた。小声で何事か呟く。
男の子はじっと掌の上の蝶々を見ている。
「じゃ、その蝶々、天井に向かって飛ばしてみて。思いっきり強く。」
男の子は力一杯、紙の蝶々を投げ上げた。やはり、これは。

674 『一期一会(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:50:55 ID:Q8bPF5Z.0
 男の子の頭の上を大きな黒いアゲハチョウが一片、優雅に飛び回っている。
Yさんも信じられないという表情で蝶々を見つめていた。
『剛君、これから暫くの間、眠ってて頂戴。』
アゲハチョウはゆっくりと男の子の肩に舞い降り、紙の蝶々に戻る。
同時に男の子の目が閉じ、すうっと体の力が抜けた。
「眠っているだけですからご心配なく。R君、お願い。」
俺は男の子の体を廊下を隔てた和室に運んだ。母親が持ってきた毛布をかける。
「ポルターガイストがその家の子供と関係していたという事例もありますが、
剛君が寝ている状態でも何かが起こるとすれば、剛君は関係ありません。」
「でも、これまで来て頂いた方々の前では何も起こりませんでしたから、今回も。」
「それは、初めからポルターガイストだと決めつけて、その現象を止めようとしたからです。」
「ポルターガイストを止めないんですか?」 Yさんは不安そうな顔をした。
「ポルターガイストかどうか、確かめてみないと分かりません。
それにはまず、この現象の本来の姿を知る必要があります。
だから止めるのではなく、逆にお膳立てをするんです。
何の邪魔も入らない状態で、一体何が起こるのかを見るために。」

『一期一会(上)』 了

675 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:52:18 ID:Q8bPF5Z.0
『一期一会(下)』

 Yさんが家中のカーテンを閉めてまわる間に、
俺はSさんの指示通り、ダイニングの床に必要な物を準備した。
依頼に応じる際、Sさんが持参するスーツケース。通称『お出掛けセット』。
余程特殊な依頼でなければ、ほぼその中身だけで対応が可能な品々。
まずは白い杯に日本酒を注ぐ。黒い杯、こちらには米粒を盛った。
小さな燭台に細いロウソクを立てる。その間Sさんは鋏で紙細工をしていた。
銀色の星形、金色の半月形、そう言えば昨夜は下弦に向かう半月。
最後に白い紙から小さな鳥の形を切り抜いてテーブルの上に置いた。そして。
Sさんは立ち上がり、暗くなったダイニングの壁に切り抜いた星と月を貼り付けた。
貼り付けた星と月に両手をあて、目を閉じて何事か呟く。
「これで準備完了。ポルターガイストにしろ、何か別のものにしろ、怪異が力を増すのは夜。」
全てのカーテンを閉めきって灯りを消した室内は、昼とはいえかなり暗い。
その中でSさんの眼が輝いている。まるでこれから起こる事を楽しみにしているようだ。
「Yさんはこの椅子に座って下さい。護符を渡しておきますから、何が起きても大丈夫。
ただ、私が良いと言うまで声を出さないで下さい。良いですね?」
「はい。」 YさんはSさんから受け取った護符を首にかけた。
「さて、始めましょう。R君、ロウソクに火を点けて。」 「了解です。」
床に置いた燭台のロウソクにライターで火を点ける。
ロウソクに火が灯ったその瞬間、何故か部屋が更に暗くなった気がした。
俺もSさんの隣の椅子に座り、3人で床の杯とロウソクを見詰める。
白い杯に注いだ日本酒がロウソクの光を反射して妖しく光っていた。

676 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:53:35 ID:Q8bPF5Z.0
 わずか2〜3分後。ロウソクの長さもほとんど変わらないうちに小さな物音がした。
食器棚の扉が滑るように開く。息を呑むYさんに、Sさんは『黙って』の合図をした。
開いた扉の奥から花柄の湯呑みが3口、浮き上がった。ふわふわと飛んで床に移動する。
次に木製のお碗が2客、同じように飛んで床に移動した。どれも床からは2cm程浮いている。
湯呑みとお椀は床から浮いたまま、ゆらゆらと揺れながら直径50cm程の円を描いて
ロウソクと杯のまわりを回り始めた。何とも奇妙で信じられない光景だ。
更に本棚から飛んできた文庫版の本が3冊、行列に加わった。
『・・うれし・・・ぬうち・・ひゃくとせ・・・でたき・・・』
微かに音楽が聞こえてくる。まるで祭のお囃子のように賑やかな調子と歌声。
これは..似た光景を以前どこかで見たことがある。
そうだ、付喪神。年を経た古道具が変化した妖怪たち。
顔や手足こそないが、これは百鬼夜行図に描かれる付喪神そのものではないか。
しかし。確かにどれも古そうだが100年も経っているとは思えない。
少なくとも文庫本は100年前には無かった筈だ。
それなら、やはり何者かがこの茶碗や本を動かしていることになる。
それが、ポルターガイストの本体。イタズラ好きの、霊。
その本体である霊を、Sさんは一体どうするつもりだろう。そっと様子を窺う。

677 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:55:28 ID:Q8bPF5Z.0
 Sさんは微笑みを浮かべて道具達の行列を見つめている。
俺の視線に気付くと、Yさんには見えないように、ゆっくりと口を動かした。
す・て・き・ね Sさんの口はそう言っている。素敵?この行列が?
さらにSさんの口が動く。 も・う・す・ぐ これ以上、何かが起こるというのか。その時。
ガタン。廊下を隔てた和室から大きな音がした。
大きな和箪笥、一番上の引き出しが抜け落ちそうな程に大きく開いている。
その中から薄い木箱が浮き上がった。
ふわふわと宙を飛び、お椀や文庫本の行列近くに着地する。
お椀や文庫本の動きが止まった。音楽も聞こえない。
木箱の蓋がパタンと跳ねて開いた。大小様々な油紙の包みが5つ並んでいる。
一番右端の包みがゆらりと浮き上がった。油紙がひとりでにほどける。鋏?
鋏はそのままふわふわと宙を飛び、刃を上に向けた状態で列のほぼ中心に移動した。
お椀や文庫本がゆらゆらと揺れ、行列は再び杯とロウソクの周りを回り始めた。
お囃子と歌声も聞こえてくる。前より音が大きくなっているようだ。

678 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:56:39 ID:Q8bPF5Z.0
 古道具たちの異様な宴に見とれていると、家の彼方此方から音が聞こえてきた。
家鳴りのような大きな音、コップがぶつかり合うような高い音。
まるで家中のあらゆる道具たちが宴に加わろうとしているようだ。
まずい、このままでは収拾がつかなくなる。
すい、とSさんが右手を伸ばした。掌に紙細工の鳥が載っている。
『とう・・こう』小さく呟いた瞬間、掌の上には鶏、赤い鶏冠の雄鳥が乗っていた。
十姉妹よりも小さな、玩具のような雄鳥だ。雄鳥が羽をパタパタと羽ばたかせると、
部屋中から聞こえていた音が一斉に止み、列の動きが止まった。そして、
雄鳥は小さい体に似合わぬ大きな時の声を上げた。
ふらふらと浮いていた道具たちは一斉に床に落ち、湯呑みが1口俺の足元に転がってきた。
そっと拾い上げる。 !? 熱い。 まるで、ついさっきまで熱いお茶が入っていたようだ。
Sさんが俺の手から湯呑みを取り上げて微笑んだ。
「これでお終い。R君、ご指名みたいだから鋏以外のものを片づけて。鋏は私が片づける。」

679 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 20:59:02 ID:Q8bPF5Z.0
 数分後、カーテンを開け、明るくなったダイニングのテーブルに道具たちが並べられた。
湯呑みが3口、お碗が2客、文庫本が3冊。そして木箱が1つ、その上に鋏が一挺。
「この道具たちに、共通点がありますね?」 Sさんは優しくYさんに問いかけた。
「はい、どれも、祖母が使っていたものです。この家はもともと祖母のものでしたから。」
「お祖母様は、系統は違えど私たちと同業、優れた術者だったんですね。
依頼された弊や代を切っている御姿を、見たことがある筈です。」
Yさんは息を呑んだ。「あの、どうして、それを。」
「まず、この件の依頼です。あなたがどんな伝でこの依頼をしたのかは知りません。
でも、術者に何の関係もない人が、私たちに依頼をする方法は無いんです。
つまりこの依頼をしてきた時点で、あなたは『関係者』。そして。」
Sさんは木箱の上の鋏を手に取った。まず全体を、そして刃の部分をじっくりと眺める。
「この鋏は術者が幣や代を切る時に使っていたものです。おそらく200年位前のもので、
今この型の鋏を作る職人はいませんし、その技術も伝えられていません。
壊れると術者が確実に廃棄しますから、おそらく現存するものはごくわずか。
私も実物を見るのは初めてです。時代の割にとても状態が良いのは、
ここぞという時にしか使わない『取って置き』だったからでしょうね。」
Sさんは大切そうに鋏を油紙で包み、そっと木箱の中に戻した。
「何人かの術者が受け継いできたこの鋏を、縁あってお祖母様が受け継いだ。
そしておそらく今年、この鋏は霊力を得て付喪神に変化したんです。
そして、お祖母様に縁のある古い食器や文庫本たちがその霊力に感応した。」

680 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:00:15 ID:Q8bPF5Z.0
 「じゃあ、今までの...」
「はい、これはポルターガイストではなく、『付喪神の宴』です。
もちろん年を経た道具が全て付喪神になる訳ではありません。
この鋏のように、特殊な用途で使われてきた道具が幾つかの条件を満たした時だけ、
付喪神に変化する可能性があります。百年以上の歳月は、その条件の1つに過ぎません。
私たちの資料でも確実な記録は数件、明治時代初頭の一件以来、約130年ぶりの記録。
極めて珍しい貴重な事例、私たちとしてはむしろこの家ごと保存しておきたいくらいです。」
呆然とSさんの話を聞いていたYさんは暫く黙っていたが、やがて頭を振った。
「いくら祖母の持ち物でも、どれほど珍しい事例でも、無理です。私には...
あの、古道具なら、塚を作って供養出来ませんか。針供養みたいに。」
突然、テーブルの上の木箱が音を立てて揺れた。Sさんがそっと左手で箱の蓋を押さえる。
そのまま、二言、三言。何事か呟いた。 Yさんは怯えた眼でそれを見詰めている。
「その方法も含めて、この現象を鎮める上で幾つか問題があります。
R君、Yさんに説明してあげて。」 「あ、はい。」

681 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:02:40 ID:Q8bPF5Z.0
 俺は必死で以前Sさんから教えて貰った記憶を辿った。
「まず、この鋏は壊れている訳ではないので、塚を作って供養する方法は使えません。
それに、変化した直後の付喪神には人間の霊のような善悪の基準が無いんです。
それまで御利益をもたらしていたとしても、ちょっとしたきっかけで
怖ろしい祟りをなす存在に容易く変化してしまう。そして。」
そう、おそらくYさんに取ってこれが一番大きい問題だろう。
「剛君と付喪神の間には、既に繋がりが出来ています。
おそらく剛君は心の中で付喪神を擬人化し、一種のイマジナリーフレンドとして
とらえている筈です。それをいきなり失えば、剛君の心の平衡が崩れてしまう。
そうなると、どんな影響があるのか全く予測がつきません。」
「でも、このままでは私も剛も...一体どうすれば。」
「私に、引き取らせて頂けませんか。箱ごと、この鋏を。」
「え、引き取るって?」 Yさんは驚いたようにSさんを見詰めた。
「私たちにとってはとても貴重なものです。それに。」 Sさんは木箱の蓋をそっと撫でた。
「私の適性はお祖母様と同じ、これも何かの縁でしょう。
鋏を引き取らせて頂ければ、この件に関して報酬は一切頂きません。
それと、剛君には代わりの『お友達』を作り、暫くの間それを残しておきます。
剛君の交友関係の発展に合わせて、その存在がゆっくりと薄れていくように。
それで全て解決、如何ですか?」
「是非、それでお願いします。」 Yさんはホッとした表情で深々と頭を下げた。

682 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:04:38 ID:Q8bPF5Z.0
 Sさんは白い紙から先程の鋏と良く似た形を切り出した。相変わらず見事な技だ。
大きく開いていた和箪笥の引き出しの中にそれを貼り付ける。
閉じた引き出しの中に感じる気配。1年か、2年か、剛君に本当の友達が出来るまで続く術。
「これで良し。剛君は自然に眼を覚ますまで寝かせてあげて下さい。
その間に新しい繋がりができます。そして今後は、小さな子供に良くあるひとり遊び、
そう考えて見守ってあげて下さい。何の心配も要りませんから。」
「はい。本当にありがとう御座いました。」
「それではこれで失礼します。R君、荷物をお願い。」 
「はい。」 『お出掛けセット』は既に片付けてあるし、すぐに出発できる。
「Yさん。最後に1つだけ。」 「はい、何でしょう?」
「この家を含め、おそらくお祖母様の遺品はどれも私たちに取って貴重な資料です。
その管理はあなたには負担だとは思いますが、散逸すれば取り返しがつきませんし、
思わぬ事態を引き起こすかも知れません。もしも今後、この家を手放す事をお考えなら、
その前に是非ご相談下さい。出来るだけのことをさせて頂きます。」
「はい、有り難う御座います。」 Yさんの表情は見違えるように明るかった。

683 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:06:22 ID:Q8bPF5Z.0
 県境に向かう山道、ロータスは快調なエンジン音を響かせている。
「Sさん、質問があるんですが。」 「なあに?」
「あの鋏、どうするんですか?」 「どうするって、私が使うのよ。『取って置き』にして。」
「ちょっと待って下さい。わざわざ付喪神をお屋敷に持ち込むんですか?」
「有るべき所に落ち着いて新しい役目をもらえば悪さはしないわ。
それに、あの鋏が使えたら、いざという時私の術も強化される。式が一体増える程度だし、
翠も藍も式で慣れてるからほとんど影響は受けない。だからお願い、ね。」
Sさんは大袈裟に両手を合わせた。 全く、この人は。
しかし実際、俺はSさんが何体の式を使役しているのかを知らない。
「『上』に止められる可能性は無いんですか?」
「もちろん。だってあれはあくまで道具で祭具じゃない。
それに、今あの鋏を使いこなせるのは、一族の術者の中で私だけだもの。」 
思わず笑みが浮かぶ。いつも通りだ。こと『術』に関して、この人の自信が揺らぐ事は無い。
得意そうな、イタズラっぽい笑顔。それが本当に、愛しい。
「仕方無いですね。でも本当に、気を付けて下さいよ。」
「ありがと。あなた、愛してる。」 Sさんは俺の左頬にキスをした。

684 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:07:44 ID:Q8bPF5Z.0
 翌日、朝からSさんは上機嫌だったが、
姫と一緒に出掛けた『○×◎』から帰って来ると、少し不機嫌になっていた。
それは更に翌日の月曜日、今日になっても続いている。
「もう良い加減に機嫌直して下さいよ。僕もLさんも息が詰まりそうです。」
「だって、私、太ってたのよ。新しいドレスの採寸だったのに。ウエストが3cmも。」
家族皆で写真を撮る時のために、Sさんも新しい黒のドレスをオーダーしていた。
「2人目の子供を産んでウエスト+3cmなら奇跡的じゃないですか。
それに、胸も大きくなってるんですから、バランスは崩れてないし。
むしろ僕は今の方が好きです。全然問題無いですよ。」
方便ではない。Sさんは出逢った頃より雰囲気が柔らかくなり、俺はそれが嬉しかった。
「ホントに?」 「はい。3人目も年子、間違いないって感じですね。」 「う〜ん、それは。」
ようやく良い雰囲気になった所で玄関の電話が鳴った。Sさんが受話器を取る。
「はい...そうですか。いいえ、潔い覚悟だと思います。私たちにお任せ下さい。」
それから2・3分話した後でSさんは受話器を置いた。
「Yさん、ですか?」 「そう、家ごと手放すから協力して欲しいって。」
今後、あの家とYさんの祖母の道具には『上』の調査が入るのだろう。
もしも貴重な資料が得られれば、それは術の研究に役立てられる。

685 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:09:12 ID:Q8bPF5Z.0
 11月26日、姫の誕生日。朝食の後、俺と姫は役場に出掛けて婚姻届を出した。
一度お屋敷に戻り、今度は家族5人で『○×◎』に出掛ける。
既にスタッフは準備を整えて待っていてくれた。姫のドレスが壁に掛かっている。
姫が選んだウェディングドレスは細いウエストから裾が大きく広がるデザイン。
長身で細身の姫にとても良く似合う。お伽噺から抜け出したような、文字通りの、お姫様。
薄いメイクと着付けを終えた姫の姿を見てSさんは涙ぐんだ。
「素敵。L、あなた、とても綺麗よ。」 Sさんはすっかり母親代わりの気分らしい。
「有り難う御座います。」
「Sさんのドレスも仕上がってますよ。着付けとメイク、今度はSさんの番です。」
「え、だって私は。」
『○×◎』のスタッフがドレスに掛けられていた覆いを取った。純白のウェディングドレス。
Sさんのために俺と姫が相談してオーダーしたドレスだ。
こちらは体のラインを強調した大人っぽい、それでいて肌の露出が少ない清楚なデザイン。
「何かプレゼントを用意してるのは分かってたけど、まさか、こんな...」
「もちろんこれは僕たちからのプレゼントです。
それに、『ウェディングドレスは女の子の憧れ』って言ったのはSさんですよ。」
「おかあさん、ないたらダメ。おいわいだから。」 「そうね。ごめん、ね。」

686 『一期一会(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:11:00 ID:Q8bPF5Z.0
 泣き止んだSさんのメイクと着付けが終わるのを待って、記念の写真を撮った。
(俺もタキシードに着替えて、髪型を整えてもらった。所要時間5分強。)
最後に家族5人で撮った写真は、大きく引き伸ばしてダイニングの壁に飾ってある。
藍を抱いて椅子に座ったSさんの右側に姫。翠を抱いた俺はSさんの左側。
皆の、眩しい笑顔。いつもは写真写りの悪い俺も屈託無く笑っている。
深く強い縁で結ばれた5つの魂。今更にその出会いの不思議さを思う。
Sさん、姫、翠、藍、4人と過ごす毎日を大切にして俺は生きてきた。
家族で過ごす時間は、その一瞬一瞬が愛しく、かけがえのないものだ。
きっと皆も同じだろう。そしてこれからも、お互いを大切にしながら皆で生きていく。
一期一会を、一生のものとするために。そしていつか、新しい家族を迎えるために。

『一期一会(下)』 了

687 『一期一会(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:13:10 ID:Q8bPF5Z.0
『一期一会(結)』

 「R君、ま〜たLの写真見てにやけてるのね?もう夕食の準備をする時間でしょ。」
「良いじゃないですか。RさんはSさんのウェディングドレス姿が大好きなんですよ。」
「おとうさんはみどりもだいすきだよね?」 翠を抱き上げ、深く息を吸った。腹に力を込める。
『うん、お父さんは翠も、藍も、お母さんも、お姉ちゃんも、みんな大好きだよ。』
「わあ、キラキラいっぱい。きれい、これなあに?」

『一期一会(結)』 完

688 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 21:16:35 ID:Q8bPF5Z.0
藍です。

いざ投稿を始めようとしたらマウスが壊れて慌てました。
何とか今日中に投稿を終えることが出来てホッとしています。
暫くお休みを頂いてから、知人のメッセージを投稿致します。

689 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 22:28:18 ID:Q8bPF5Z.0
藍です。
以下、知人からのメッセージを転載致します。

 初めまして、作者です。
藍が喜んでくれるのが嬉しくて、
障りの無い範囲で作品の公開を続けてきました。
藍がこちらに投稿した作品も『約束』で早15話。
ここまでくれば、あと数話。許可の下りた作品を藍に託して、
本来に近い形で区切りをつけたいと考えていました。
しかし身内の事情が変わり、暫くの間、作業が出来なくなります。
一ヶ月か、一年か、期間はわかりません。
なるべく早くと願う訳にもいかないので複雑な心持ちですが、
その日が来たら、藍に残りの作品を託そうと思っています。
もともと16話目は別の作品を予定していましたが、
上記の理由により予定を変更、今回の作品を託して区切りとします。
こちらで拙い作品を読んで下さった皆様に、そして
託した作品を本当に大切に育ててくれた藍に、心から感謝します。
ありがとうございました。

690 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/26(火) 22:43:43 ID:Q8bPF5Z.0
藍です。

もしかしたら本当にあと1話で最後かと思っていましたが、
これは「一旦休止」のメッセージ。投稿予定だった作品の冒頭部は
受け取っていますし、私自身続きを読みたい気持ちで一杯です。
しかし知人も書いている通り、「早く次を」と願う事が出来ない事情があります。
私はこれまで知人の作品に元気づけられ、支えられてきました。
今度は知人を支える立場になりたいと思っています。

691 名無しさん :2013/11/26(火) 23:16:37 ID:pfQKd/ZQ0
藍さん知人さん有難う。ゆっくり読みたいと思います〜

明日は飛騨高山の盗人神社に謝罪のお参りに行くのです(私ではありませんが)

692 名無しさん :2013/11/28(木) 00:44:36 ID:YUdX2Zug0
知人さん、藍さん、いつも美しいお話をありがとうございます。
お体に気をつけて、無理をなさらず。

693 名無しさん :2013/11/28(木) 21:49:45 ID:G5uWLu9U0
作者さん藍さん
今回も美しく優しいお話をありがとうございます。また、大好きな作品が増えました。次はいつになるか解らないみたいですけど、今までの作品を読み返して何時までも待ってます。お疲れ様でした。

694 名無しさん :2013/11/29(金) 08:51:00 ID:YW67fw42O
\(^o^)/
藍さん投稿ありがとーございます。今回も、とても面白かったです!

695 名無しさん :2013/11/29(金) 21:58:26 ID:H6O85/ko0
知人さん、藍さん、弟さん。また会いましょう。その日を楽しみにしてます

696 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/29(金) 22:28:40 ID:/37An8ZQ0
皆様、今晩は。藍です。

>>691
加茂神社に、しかも「謝罪」のお参りとは、穏やかじゃありませんね。
どうかご無事に、収まりが付くことを願っております。

>>692
知人も私も、体だけは丈夫なのが取り柄なので。ご心配なく。

>>693
「読み返して」というコメント、本当に嬉しいです。有り難う御座います。

>>694
今回は少し毛色の変わったお話ですが、私も大好きです。

>>695
有り難う御座います。
私が書き込み出来なくなるのはもう少し先でしょうし、
弟は今後も出しゃばるのではないかと思います。
どうかもう暫く、宜しくお願い致します。

697 ◆iF1EyBLnoU :2013/11/29(金) 22:40:18 ID:/37An8ZQ0
書き込み出来なくなるのは←×
書き込み出来なくなるとしたら←〇
舌足らずで失礼致しました。

698 名無しさん :2013/11/30(土) 02:16:27 ID:33Y2Tncc0
>>696

私の知人の看護士が、まあ、「うんと昔」、助けてもらったのにお礼をしてなかった
とお叱りのご指導が入り、早速向かおうとしたら平湯の辺りで大雪になり引き返した
と話を聞きまして
障りのある神社に単独で向かうとはまかりならんと、私が付き添いました
晴天でとても綺麗な神社でした。紙のお賽銭入れて周りをお掃除させて頂き
無事帰ってこれました
次のご指導の時に「その神社じゃねぇ」と言われなければよいのですがww

699 名無しさん :2013/12/04(水) 11:28:13 ID:T8g/atxU0
これ、今の家に住んでからの話なんだけど。

初めて霊現象ってやつをこの家に来てから、身に沁みて体感したんだ。
初めは一ヶ月目(もうこの家に住んでからは3年は経つ)辺りに起きたんだけどさ…。
家に帰ってきて、あまりに暇すぎたから寝てたんだよ。
そしたら足元から何かが出てきて、暫くしたら脚にしがみ付いてるんだ。
見たこともないような何かが脚にしがみ付いていて、何だ?これ?って思ったんだよ。
何かわからなくて怖くてさ、夢の中なのにだよ?
気づいたら起きたんだ。で、起きてから自分のいる位置にびっくりしたよ。
本来自分が布団を敷いてる位置に布団が無いんだ。それどころか、壁際に布団があって…。
結構寝相悪いんだけどそんなレベルの話じゃなくて、布団があった場所からそっくりそのまま布団が壁際にあってさ。
最初はびっくりしたんだ。驚いたのはそれだけじゃなくて、スエットでその頃寝ていたんだけど、起きたらズボンが足元まであってびっくりした。

一応、他にも色々あるんだけど…一番最初に起きて覚えてるのがこれ。
幻想とかそうゆう類ならいいんだけどね。

700 枯れ木も山の賑わい :2013/12/04(水) 19:09:59 ID:K7xkokhY0
>>管理人様
いつも作業お疲れ様です。
『約束』と『一期一会』のまとめへのUP感謝します。
ただ、『約束(上)』が別の方のお話と入れ違っています。
修正して頂けるとありがたいです。
ついでに、『卯の花腐し(中)』と内容が重複しているので
『卯の花腐し(中)②』は削除した方が良いと思います。
対応、宜しくお願いします。

701 枯れ木も山の賑わい :2013/12/06(金) 18:25:06 ID:uOxqJ87I0
>>管理人様
早速の御対応ありがとうございました。

702 名無しさん :2013/12/08(日) 03:25:18 ID:jpaDRB2.0
変な夢を見た話です。最初見たのはほんとに小さいころであやふやだったんですが、なぜかまた見て思い出しテキストファイルに書き記していたのを整理してたら見つけたので
投稿させてもらいます。このテキストファイルは二年位前に書いたものでした

友達と遊びにいこうって話になり、駅まで歩いていたら友達が車にはねられてしまった
そこで救急車を待ってるところに別の友達が駆けつけて、僕を慰めてくれてた
いきなりその真横にいた友達の首から上がなくなってて、後ろに鉄板が転がってた
事故で飛び散ったガードレールやら車かわからないけど、それの破片が飛んできてたので立て続けに二人の死に目を間近で見てしまった
その現場から近いところにある祖母の家に転がりこんでその日を明かそうとしたけど、寝れるはずもなく家を探検してた
そしたらアルバムみたいなのを見つけて中を見たら死体とかそういう写真がみっしり貼ってるアルバムで、後ろから祖母が来て「みちゃったね」
って言って目が覚め、これが一日目です
 二日目、続きから見て、何これってたずねたけど変事がなく早く寝なさいの一点張りでしぶしぶ布団に入って
夢の中で寝るっておかしな話ですが、気づいたら朝になってて祖母と知らない二人の男が話してた
それで男の一人がいきなりもう一人の男を刺して祖母が逃げろみたいなことを叫んで刺された
必死で逃げたと思ったら一日目見た事故のところになって、二回目の事故が起きたところで目が覚めた
 三日目、またその続きから夢を見て、ここで祖母の家に言ったら刺される、と覚えていたので家に戻ったら
家の中が真っ暗でさすがに誰か親がいるはずとおもって真っ暗な部屋の中で母親が椅子に座ってた
おかしいなと思いつつ話しかけても返事がないので、電気を付けて近寄ってみたら母親の顔がそぎ落とされて死んでた
そしたら後ろに二日目の刺した男が立ってて自分も刺される!と思ったところで目が覚めた

なんかおかしな夢だなあとおもって目が覚めたと同時に揺れたのでまだ夢なのか!とおもったらその揺れは阪神淡路大震災でした
そして二度目見たときはちょうど休みで昼寝してたときで、3回に分けてみた夢を1回で全部見た
また変な夢見たけど前も見たことあるような気がする、と思い時間を見ようとテレビをつけたら今度は東日本大震災の緊急ニュースがやってました
これはほんとに偶然なのか、こういう大災害がおきるときにこういう夢をみるのか
なにか関連性があるのかとおもいゾッとしてしまいました

703 名無しさん :2013/12/08(日) 10:50:32 ID:idfb3x/20
このスレこわい

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/lite/read.cgi/sports/40494/1376742584/l30

704 名無しさん :2013/12/08(日) 20:52:13 ID:a.r4avks0
沖縄に行った時の話。

知り合いのつてで会ったHさんに案内してもらって、
首里城とかハブ園とか、いろんな所を回った。
まあお決まりの観光コースなんだけど初めての沖縄は楽しかった。
で、Hさんと話してるうちに仲良くなり飲みに行くことになった。
Hさんちの近所の沖縄居酒屋に到着。
本場で飲むオリオンビールは格別に旨い。ガブガブいける。
ラフテー旨い。ミミガー旨い。豚足旨い。名前忘れたけど刺身も最高。
泡盛も飲む。Hさんの日に焼けた笑顔と白い歯が眩しかった。
名前分からんけどツブツブのついた海草サラダがサッパリして美味しい。
豆腐を発酵させたやつは俺的に無理だったけどHさんにあげると喜んで食った。
周りの客も寄ってきて飲み食い。色々話して楽しかった。
オーナー自慢の古酒(くーすー)という酒が出された。Hさん大喜び。
かなり美味しかった気がするがこのへんでかなり酔ってる俺。
タクシー呼んでホテルに帰ることにした。

タクシーに乗ってしばらくボーッとしてた。
そこで ふ と気づいた。どこ走ってるんだ?って。
もちろん初めての沖縄だからここがどこかなんて分からないんだが、
なんか違う気がして運ちゃんに聞いた。
「あのー、どこ行くんですかこの車?」ろれつが回ってなかったかも知れないけど。
「ぐそうですよね?」答える運ちゃん。やっぱ違った。そんなとこ知らん、行かん。
「いや、国際通りの××ホテルです」そう言うと、
「あー違いましたか、すみません。カカカ」って笑った。
その瞬間、オエーッ!!てものすごい勢いで吐いた。
やばいと思ったけど止まらない。口からも鼻からもゲロ。苦しい。
あらかた吐き終わって涙とゲロまみれでむせながら
「すみません!すみません!」て謝った。

「意識が戻ったぞ!もう大丈夫だ!」て声。
目を開けて周りを見ると、救急隊員、Hさん、居酒屋のオーナー、野次馬。
俺は店の入口の前に倒れてた。「よかったよー」って泣き笑いのHさん。

後で聞いたところ、フラフラと店を出てその場でぶっ倒れたらしい。
それで意識不明。呼吸なし。すぐに救急車呼ばれたんだって。
で、その間に変な夢を見たとHさんに話したんだけど、
「危なかったよそれ…行き先確認して良かった」だって。

説明してしまうと運ちゃんの言ってた「ぐそう」てのは地名じゃなくて、
「後生」と書いて「あの世」のことだったんだ。

あれから酒が飲めなくなった。

705 名無しさん :2013/12/09(月) 22:47:52 ID:fp54FBWs0
Rさんの処の管狐さんは、飯綱の秘法なのかなぁ

伝統的な使役法ってそんな感じがするんです。

706 名無しさん :2013/12/14(土) 00:27:47 ID:4kUXcWdk0
次のお話まだかな〜o(^o^)oワクワク

707 名無しさん :2013/12/14(土) 14:31:50 ID:7I17Mgmk0
この前家で起こった話。
俺は塾の課題プリントを今日中に終わらせちまおうと
机に向かっていた、ふと腕時計を見ると、10時20分。
はぁー、と溜め息をついてシャーペンをもう一度持って
黙々とやっていた。
すると、ガタガタガタガタッ って音がした。でもどこから
音がするか解からない。そんなことはもう気にせずに
プリントが終わって、電気を消した・・・その瞬間。

708 名無しさん :2013/12/14(土) 14:37:43 ID:7I17Mgmk0
ズバァーン!!

ドアが開いた。そして唖然としていると、
ドォン…ドアが倒れた。外れたという表現が正しいか・・・
えーっ?と困惑していると、廊下が見える。
ここで薄暗くて何もない廊下を想像してほしい。
その廊下の床から、人の頭がスッとでて・・・スーっと
天井に吸い込まれていった。人間が・・・。
その夜、俺の住んでる下の部屋で、自殺があった。

709 ◆iF1EyBLnoU :2013/12/15(日) 20:34:02 ID:CqpVY/4E0
>>705
「確かに伝統的だね。」と知人は言いましたが、
それ以上は教えてくれませんでした。

>>706
次のお話が、既に冒頭部を受け取っている話になるのかどうか。
それとも別のお話になるのか、未だ分かりません。
気長にご期待頂ければと存じます。

>>管理人様
弟のコメントに即ご対応頂き有り難う御座いました。

さて、思い切って休職し、生活が大きく変わりました。
今後どうなるのか不安もありますし、コメント、投稿の間は開くと思います。
でも、『次』を投稿出来る日を信じたいと存じます。
有り難う御座いました。

710 名無しさん :2013/12/15(日) 23:28:46 ID:01xR0tdA0
まずは藍様、作者様の生活あっての事
無責任ですが楽しみを前に待つ事は苦ではありません
とにかくご自身の生活を大事されることを。

711 名無しさん :2013/12/16(月) 09:31:29 ID:Yyvga16IO
>>709
『次』を投稿して頂ける日を楽しみにして待ってます。o(^-^)o

712 名前が消滅した奴 :2013/12/16(月) 21:02:25 ID:zH..kSK20
1年6か月振りのカキコです。
1年6か月前の板住民は一人も居ません。

713 名無しさん :2013/12/18(水) 02:32:58 ID:hIB2BgTs0
>>709

お疲れ様です。たまには息抜きに来てくださいね。知人さんも藍さんも

普賢の行とかなされてるのでしょうか?食事制限があるようなら、納豆が唯一最後の必須アミノ酸が
とれるようです。

課題なりお役目が成就されることを祈念いたしております。

714 ◆iF1EyBLnoU :2013/12/26(木) 21:09:32 ID:l7zXIpsg0
皆様今晩は、藍です。
思い切って休職し、毎日知人の生家でお手伝いをしています。
年末・年始は帰れないので、今日・明日だけお休みをもらいました。

>>710
有り難う御座います。
とても充実した毎日を過ごしています。

>>711
既に受け取っている作品の冒頭部は、私にはかなり衝撃的な内容でした。
私自身、とても次を読みたいのですが、これが『次作』かどうか分かりません。
でも、『次』をご期待頂き嬉しく思います。

>>712
私が初めて書き込んだのは丁度一年くらい前でした。
あと半年、書き込みを続けられればと思います。

>>713
私は下働きなので食事制限はありません。
でも、知人の朝食には必ず納豆があるので、「もしかして」と思いました。

明後日以降は少し書き込みの間が開くと思います。
ただ、その間こちらとまとめのコメントのチェックは弟に任せていますので、
出来るだけ失礼の無い範囲でレスが出来ればと存じます。

皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

715 名無しさん :2013/12/28(土) 21:27:29 ID:EDx0ZheM0
藍様お疲れ様です。

お元気そうで何よりです。

今年はここで縁が出来たので、明日か明後日に七面山に登ろうと思っています
3日に遠出するのに前修行をしてこいとお達しなので何がいいかと思って。
思えば何故今年の4月に12本爪のアイゼンを買ったのか(笑)天女様にご挨拶してきます

716 名無しさん :2014/01/02(木) 20:55:00 ID:dLPHNHnE0
みなさん、あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします

717 名無しさん :2014/01/09(木) 02:43:46 ID:K9XP593A0
Rさんの処では、福島のカムイの線引き直しとか、課題になってるのかなぁ。

東北は神道的には別世界。北海道は異界らしいですね。

普賢の行=四足絶ちですかね、正式名称は。

最近気付いたのですが、趣味の神社参拝の時に、健全な体と心で参拝の活動が続けれますようにと、いつの間にか祈るようになっていました

基本的にナムナム系の私ですが、しきりにお役目を頂くようにとの手配の圧力がかかっています

(TT)恐らくは目覚めたら動かざるを得ないのでしょうが、まったく心当たりがない中、頭の中で考えることが日々変化しています

修羅道での神々の戦い。それって本当にあるのでしょうか。

718 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/09(木) 20:56:04 ID:5H2KJcy.0
 皆様、今晩は。藍です。

 遅ればせながら新年のご挨拶を申し上げます。
本年もどうぞ宜しくお願い致します。
昨日まで知人の生家のお手伝いをさせて頂き、本日、先程帰りました。

 空き時間には知人と話が出来ましたので、
役得で新作の内容を聞きながら、流れで投稿の許可をもらいました。
知人の気が変わらないうちに全速力で準備を進め、
冒頭部だけでも投稿して、既成事実を作りたいと思います。

>>715
見事、前修行と修行は成就したものと思います。
天女様のご加護がありますように。

>>716
新年、おめでとう御座います。本年も宜しくお願い致します。

>>717
私は下働きの身ですので、詳しいことは存じません。
ただ、健全な身体と心で参拝を続けることは、とても大切な事だと思います。
お役目を果たされることを祈念しております。

719 名無しさん :2014/01/09(木) 21:33:18 ID:K9XP593A0
おお、藍さんあけましておめでとうございます。既成事実頑張ってくださいWW

713、715、717は「徳島の特産」の私です。

ま、まだお役目頂いてないです・・・というかすっとぼけたいWWW

七面山はとても素敵な処でした。落差1500メートルを4時間半で超特急で登りましたが
富士山とても近くに見えましたです。
日の出の時に樹木に映る朝陽で、木が燃え上がっている様に見えました
さすが南門の朱雀、天女様のおわす土地ですな

720 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:39:44 ID:cgwJRcZ20
テスト中です。

721 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:46:25 ID:cgwJRcZ20
皆様、今晩は。藍です。
既成事実を作るため、投稿の準備を進めてきました。
明後日には、知人の手伝いに出るので取り敢えず(上)のみ。

では、以下『玉の緒(上)』、お楽しみ頂けると良いのですが。

722 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:47:30 ID:cgwJRcZ20
『玉の緒(上)』

 微かに、女性の悲鳴が聞こえたような気がした。
俺は暗闇の中にいる。此処は、あの悲鳴は、俺の見ている夢なのか。
「止めて!どうしてこんなこと。」 もう一度、ハッキリ声が聞こえた。 これは、Sさんの?
何故こんな切羽詰まった声を。 その直後、いきなり視界が開けた。 これは。
目の前の床に血の海が拡がっている。その中に俯せに倒れている女性と小さな女の子。
女性は抱きかかえるようにして小さな女の子に覆い被さっていた。
視界がぐるりと動き、壁際に蹲る女性の姿が見えた。俯いて赤子を抱きかかえている。
目の前に腕が現れた。男の腕。刃物を握っている、これは、あの短剣だ。一体何故?
男の腕が視界の右側に消え、女性の姿が大きくなった。女性に、近づいているのか、俺は。
女性がこちらを向いた。蒼白い顔。 まさか、Sさん。 では、この赤子は藍?。
右手に微かな痺れを感じた瞬間。
視界の右側から男の腕がSさんに短剣を振り下ろすのと、
Sさんが藍を庇うように左手をかざすのが見えた。
右手に嫌な感覚が残り、足元に真っ赤な血飛沫が散る。
Sさんの左手は力なく垂れ、それでも必死に藍を庇おうと動いていた。
信じられないというような表情。頬を伝う涙。
「あなた、どうして...」

723 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:48:20 ID:cgwJRcZ20
 思わず飛び起きた。 図書室? あれは、夢か。
全身に冷や汗をかいていた。 右手を確かめる、大丈夫だ。 血の跡などない。
窓の外、空はうっすらと明るい。 昨晩、俺は資料を調べるために夜更かしをしていた。
そのまま居眠りをしたのだろう。でも一体何故あんな夢を。
感覚は鈍かったが、あれはおれの腕だった。 そして、川の神様に授けられた短剣を。
思い出しても身震いする。俺がSさんと藍に斬りつけるなんて。
あの状況が、全く理解出来ない、待て、血の海に倒れていた女性と小さな女の子は。
姫と、翠だ。あれ以前に、俺は2人にも手をかけたのか?
図書室を飛び出して廊下を走った。階段を駆け上る。
...大丈夫。Sさんの寝室、ドアの向こうから4人の気配を感じる。
ぐっすりと寝ているようだ。ノブにかけた右手をそっと離した。
ただの悪夢。わざわざSさんや姫を起こす必要はない。俺は自分の部屋で服を着替えた。
今日は土曜日、姫の送りも仕事の予定もない。少し眠れば気分も良くなるだろう。
しかしベッドに入った後も、右手に残る嫌な感触と、あの時のSさんの表情が忘れられない。
結局、それから朝食の時間が来るまで俺は一睡も出来なかった。

724 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:49:05 ID:cgwJRcZ20
 「また欠伸、4回目よ。体調悪いの?」
「いいえ、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで。続きをお願いします。」
俺の『勉強』の時間、Sさんが様々な系統の術を基本から教えてくれる。
その間、翠と藍の面倒を見てくれるのは姫。当然俺の『勉強』は土日か休日。
「直接の身体接触を通じて掛ける術は、単純だけど効果が大きい。
簡単な行動の強制くらいなら相手の意識がなくても可能だし、
相手には術を掛けられた記憶さえ残らない。
霊質の関係で、ごく希にこの系統の術が効かない人がいるけれど、
それだけ気を付けていれば、費用対効果が抜群に良い術なの。」
そうだ、あれは藍が生まれた時。
O川先生と看護師さん、3人の視覚と記憶を操作するために、Sさんはこの術を使った。
しかし、看護師の◎内さんには術が完全には効かず、それを補完したのが姫の術。
おそらく事前にSさんは◎内さんの霊質に気が付いていたのだろう。
だから姫に出産の立ち会いを頼んだ。そして、あの時『頼りにしてる』と。
あらかじめ相談が出来ていたとしても、本当に見事な連携プレーだった。
「ちょっと、R君。今度は何?」 目の前でSさんの掌が揺れている、まずい。
「あ、いや、この術。僕にも効くのかなと思って。」
「僕にも、って。私、前に掛けたことあるでしょ、あなたに。忘れたの?」
「え〜っと、言い方が悪かったです。僕が僕に掛けても効くのかな、ということで。」
Sさんのキョトンとした表情。 「あなたがあなた自身に? この術を?」 「はい。」
「効く、でしょうね。でも、術を掛けたこと自体忘れてしまうんだから、意味が無いでしょ?」
「そうですね。でも、この術の練習には丁度良いです。他の人には影響が無いですから。」

725 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:49:43 ID:cgwJRcZ20
 目を閉じて、言葉を練る。 俺の無意識に語りかける、出来るだけ簡潔な指示。
『もし俺が家族を傷つけようとしたら、すぐに自分自身を始末する』
今朝方見た夢、あんなことが絶対に起きてはならない。そのために、この術が使える。
練り上げた言葉に『力』を込め、血液に乗せて左の薬指に送り込む。そんなイメージ。
目を開けて左手の薬指を舐めた。あとはこの指を額に。
「待って! 何するの。」 Sさんが両手で俺の手を止めた。 とても冷たい感触。
Sさんは両手で俺の左手を掴んだまま、何事か小声で呟いた
やがて、俺の薬指の先端に、小さな紫色の光が現れた。まるで、紫色の火花。
それは、一度強く輝いた後、ゆっくりと降下し、テーブルの上で小さく跳ねて輝き続ける。
もう一つ、また一つ。次々と小さな光がテーブルに舞い降りてゆく。
呪力を光の粒子に還元する、極めて高度な術。『○◆の雪』。
光が現れなくなると、Sさんは両手を離した。
「馬鹿!」 平手、俺の左頬が派手な音を立てる。痛。
「自分自身を始末するなんて、術を、そんな風に。」
「御免なさい。でも、有り得ない指示なら害はないかな、と。」
「有り得ないって...始末ってことは自殺、なのよ?万が一。」
「その前です。例えば僕がSさんを傷つけようとするなんて、絶対に有り得ません。
僕はSさんが大好きだし、それに。」
「それに?」 Sさんの表情は少し緩んだが、眼差しは鋭いままだ。
「もし僕がおかしくなって、翠や藍を傷つけようとしたら、
Sさんは僕を止めてくれますよね?その、例え僕を殺してでも。」

726 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:50:25 ID:cgwJRcZ20
 Sさんはテーブルを回り込んで俺の右隣に座った。
「R君、どうしたの?あなた、今日はおかしいわよ。何故そんな事言うの?」
「夢を見たんです。」 「夢?」 「はい、僕が短剣、川の神様から授かった短剣で...」
俺が話している間、Sさんはじっと俺の眼を見つめていた。
「あんな夢を見た自分が許せなくて。」 本当に、許せない。
「夢、なのよ。そんなに思い詰めることないわ。」 「でも。」
Sさんは俺の膝の上に座り、真正面から俺の唇にキスをした。熱く、長いキス。
「逆夢かもしれないでしょ?」 「逆夢、ですか。」
「そう、もしかしたら家族が増えるかも知れない。私とLが同じ時期に妊娠するとか。」
「そりゃ、絶対無いとは言えませんが」 Sさんは人差し指で俺の唇を押さえた。
「それにね。私、もし殺されるなら、あなたに殺して欲しい。
他の誰かに殺されるなんて絶対に嫌。」 Sさんはもう一度俺にキスをした。
言われてみればその通りだ。俺だって殺されるならSさんに殺して欲しい。
「御免なさい。変な事言って。でも、僕はSさんが、みんなが大好きだから。」
「もう良い。そんなの分かってる。だからこの話はお終い、ね。
それより、痛くない? ホントに御免なさい、事情も聞かずに叩いたりして。」
Sさんはそっと俺の頬を撫でた。眼にうっすらと涙が浮かんでいる。胸が痛い。
「僕が悪かったんです。それに、こんな美人にお仕置きされて、ちょっとドキドキしました。」
「もう、心配してるのに。」 Sさんの笑顔。俺の心もすっかり軽くなっていた。

727 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:51:09 ID:cgwJRcZ20
 俺とSさんがリビングに戻ると、藍を抱いて翠と遊んでいた姫が顔を上げた。
「あれ?何だか2人、良い雰囲気ですよ。『お勉強』の時間の筈なのに。妬けちゃうな〜。」
決して後ろめたいことはないが、やはりドキッとする。相変わらず鋭い人だ。
「R君が変な夢見たって落ち込んでたから慰めてあげたのよ。
夢の中で私やLに意地悪したんですって。」
「意地悪?Rさんが、私とSさんに?そんなの有り得ない、確かに変な夢ですね。」
「おとうさん、だめ。おかあさんとおねえちゃんにいじわるしたら、だめだよ。」
「いや、だからホントのことじゃなくて、夢の中の話だよ。」
「ゆめのなかでも、いじわるしたらだめ〜。」
「そうだね。お父さんが悪かった。もうしないから。」 「うん。」
満足そうな翠を抱き上げて頬ずりをした。 翠の言う通りだ。二度とあんな夢は見たくない。
その時、玄関の電話が鳴った。

728 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:51:50 ID:cgwJRcZ20
 電話を終えたSさんの表情は硬く、緊張していた。
これは仕事の依頼ではない。間違いなく何か、悪い知らせ。
昼食を終え、翠と藍が昼寝をしている間に、Sさんは俺と姫をダイニングに招集した。
姫が黙って紅茶を淹れてくれる。冷たく張り詰めた空気に、白い湯気が溶けていく。
紅茶を一口飲んでから、Sさんは話し始めた。
「術者が一人、業に呑まれた。」
俺と姫は顔を見合わせた。姫の顔も緊張している。
しかし、正直なところ、事態の重大さが俺には想像出来ない。
「術者の出自が特殊だから、『上』も事後処理に追われてるみたい。」
業に呑まれた術者は処理、つまり殺すしかないと聞いていた。
当然、処理にあたる術者は相手よりも...腹の底がヒヤリと冷たくなる。
「あの、もしかしてSさんが、その術者を?」
「ううん、もう術者の処理は済んでる。派遣されたのは『炎』、憶えてるでしょ?」
もちろん覚えている。というより、あの男を忘れる事など出来ない。
時代の流れに抗い、力を持つ子供を人為的に産み出そうとした人々。その計画の『最高傑作』。
俺が裁許を受けた日。聖域の参道で俺とSさんの前に現れた分身は、
その男の並外れた力量を如実に物語っていた。

729 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:52:37 ID:cgwJRcZ20
 「あの男が派遣されて、処理が済んだなら一件落着、ではないんですか?」
「処理された術者は炎の妹なの。母親は違うけど。」
「『紫(ゆかり)』さん、なんですか?本当に?」 姫が息を呑んだ。
「紫が受けた依頼。その打ち合わせ場所で、依頼人の遺体が見つかったの。
紫が自分の部屋に戻っているのは間違い無いけど、連絡が取れない。
『上』の調査では、依頼人の魂はおそらく『不幸の輪廻』に飲み込まれた。だから、ね。」
Sさんが言葉を濁すのは滅多に無い、しかしそれも当然だろう。
あの男は、腹違いとはいえ妹を、自分の手で殺したということなのだから。
しかも異母妹ということは。そうだ、さっきSさんは言った。その術者の出自が『特殊』だと。
「もしかして、その人もあの計画の?」
「そう、あの計画の結果生み出された術者の一人、彼女もかなりの力を持ってた。」
「しかし幾ら何でも...妹の処理に兄を派遣するなんて、『上』は酷過ぎる気がしますが。」
「炎が志願したの。いや、あの家系の意志で炎に志願させたというべきかしらね。
『上』が黙認していたとは言え、あの計画への疑念を持つ人は今でも多い。
この件を切っ掛けにして、計画の結果生み出された術者は危険だという流れになるのは、
あの家系としても避けたいでしょうから。それで。」
「危険なのはその人だけで、他の7人は安全だと」

730 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:53:35 ID:cgwJRcZ20
 「R、さん。」
小さな声。俺を見つめて首を振る姫の両目から、大粒の涙が溢れた。
「紫はLより2つ年上で、何度か一緒に舞を奉納したことがあるの。
とても素直で、良い娘だった。数少ない、Lの友達。 なのに何故?今でも信じられない。」
「Lさん、御免なさい。事情を知らなかったので酷い言い方を。」
「いいえ、事実は事実ですから...私。」
姫は席を立ち、リビングを出て行ってしまった。一体、俺はどうすれば?
「R君、これから暫く夜はLと一緒に居てやって。あの子、かなり辛いと思うから。」
「でも、さっき僕があんな言い方を。」
「今度の事はあなたのせいじゃないでしょ。あなたからその話題に触れなければ良いの。
今、Lを支えられるのはあなただけ。頼んだわよ。」

 その夜、姫は俺の腕の中で、何度か涙を流した。
その度、姫を抱きしめたり、背中をさするくらいしか俺には出来なかったが、
それでも姫は少しずつ落ち着いているようだった。

731 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:54:26 ID:cgwJRcZ20
 翌日は日曜日、まだ少し元気の無い姫をSさんに託して川の神様のお社に参内した。
最初の頃は必ずSさんか姫が付き添ってくれたが、この頃は一人で参内することも多い。
2人ともすっかり川の神様を信用して(ちょっと失礼だが)安心しているのだろう。
最後に掃除を終え、参道の脇に停めた車に乗り込む。
廃村を抜けてしばらく走ると、廃村へ通じる道と山道の交差点。大きくて丈夫な門扉がある。
門扉を開けて車を出し、再び門扉を閉めて鍵を掛ける。いつも通りの手順だ。
ふと、蝉の声を聞いたような気がした。 真冬に蝉?耳鳴りか。
車に乗ろうと振り返った瞬間、車を隔てた向こう側に男が立っていた。
黒いスーツ、俺より背が高い。これは...あの時の男、『炎』。
「炎さん、ですね?」
「俺の名を。Sから聞いていたか。」
「つい最近も、聞いたばかりです。でも、わざわざ此処まで分身を...要件は何ですか?」
「お前と話がしたい。2人きりで。」 「でも、此処では。寒いし、すぐに日が暮れます。」
「もちろん此処ではない。場所はこれから指示する。」
「僕はまだ行くと決めた訳ではありませんが。」
「お前は必ず来る。『上』の指示が出る前だったから準備も上手く行った。」

732 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:55:08 ID:cgwJRcZ20
 「『上』の指示って、どういうことですか?」
「今朝、『上』が臨時の会議を開いて決めた。
今後、俺を含む7人の術者には特別な監視が付く。7人、どういう意味か分かるな?」
あの計画で、生み出された8人の術者達。処理された1人を除いた7人、ということだ。
「では、準備というのは?」
「万が一にもお前に断られると困る。だから人質を用意した。」
ぞく、と、背筋が冷たくなった。まさか、いや、Sさんがいるのだからそれはない。
「人質って、誰なんですか?」
「来てもらう場所は、ある『範士』の屋敷だ。そう言えば分かるだろう。」
その瞬間、セーラー服を着た少女の姿が目に浮かんだ。
自分はカミンチュだと言い、ノロになると言った沖縄出身の少女。名は瑞紀。
『高校はもうすぐ就職休みなので、少しずつ沖縄に帰る準備をしています。』
美しい字で近況を綴った葉書がお屋敷に届いたのは、つい先日の事だった。
「Sと『上』には俺から連絡しておく。お前は直ぐに出発しろ。
電話や寄り道をしてると人質の無事は保証できない。では、待っている。」
次の瞬間、男の姿は消えた。
まるで最初から、其処には誰もいなかったかのように。

733 『玉の緒(上)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 22:55:48 ID:cgwJRcZ20
 あの日、『はい。相談します。』と言ったあの子の笑顔が目に浮かぶ。
あの子の優れた資質や素直な性格は、早くから一族の中で話題になっていた。
「早速縁談が有ったわよ。当然あの子は断ったけど。」去年の暮れ、Sさんからそう聞いていた。
あの子の噂は当然あの男の耳にも入っただろう。あの子と俺たちの関係についても。
だからあの男は『お前は必ず来る』と言ったのだ。
Sさんや姫、そして俺があの子を見殺しには出来ないと分かっていたから。
しかし何故、俺なのか?それが全く分からない。
あの男はおそらくSさんに恋愛感情を持っている。
例えばあの子を人質にSさんを呼びつけ、そして。もちろんSさんが言いなりになる訳はない。
下衆な考えとは言え、それならまだ納得出来る。何故、Sさんでなく俺なのか?
たとえ俺を殺したところで、あの男自身が『上』に処理されれば、その想いは叶わない。
しかし、考えている暇はない。薄暗くなりかけた山道、指示された場所に向けて車を走らせた。

『玉の緒(上)』 了

734 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/12(日) 23:06:37 ID:cgwJRcZ20
皆様今晩は。再び、藍です。

留守中に弟がPCを新しいものと入れ替えていたので少し戸惑いましたが、
無事に『玉の緒(上)』の投稿を終えることが出来ました。
もともとは『一期一会』の前に投稿する予定だった作品なので、
知人の活動が再開された訳ではないのがちょっと複雑です。
でも、少しずつ作業を進めて投稿を続けるつもりですので、よろしくお願い致します。

>>719
「徳島特産の方」だろうかと思っておりました。
いつも丁寧なコメント感謝致します。
この作品の冒頭部で、Sさんたちが心配な状況になっていますが、
(中)以降が投稿出来ましたら、お楽しみ頂ければと存じます。

735 名無しさん :2014/01/13(月) 02:28:15 ID:/RmSPOz20
こんばんわ、です。投稿ありがとうございました。毎日クリックしてました(笑)

ううむ、いつもなら、Sさんが裏で動いてしまうところを間に合わないタイミングでしかけられましたね

業と不幸の輪廻、代に贄。深淵を覗くものは深淵もまた此方をみつめて居るのだ。かな

これはまずい展開ですな。

しかしながら、Sさんと上に事後報告という事なのですから、Rさんが人知れぬ優しさに触れる機会になるのかも
いつもSさんがそうしてくれてたように

736 名無しさん :2014/01/14(火) 00:32:58 ID:H/sH58EQ0
よ、よし、落ち着こう。今回の事で誰も命はおとさない。きっとだ。

そうだ、素数をかZry、次の子の名前を考えよう。一期一会の前の話ならギリギリ間に合うはずだ。
本命は鉱物系の和色で一文字だけど

男の子 白・珀(はく) 晶・丹(あきら)
女の子 茜(朱音) 琥珀 星(あかり)
中性 環(たまき)

炎さんの想いが届きますように。

737 名無しさん :2014/01/14(火) 09:18:48 ID://1l8dUIO
m(_ _)m藍さんありがとうございます。
これからどう展開するか、わくわくします。

738 浩太郎 :2014/01/16(木) 11:59:49 ID:4njzUqyI0
藍さん
 
玉の緒(上)投稿 拝読しました。

これまでにない内容に ちょっとドキドキしながら 読みました。
いつものことながら 今後の展開に大きな期待です。

そしてこれもいつものことですが、何回も読み直してしまっている自分がいます。
お忙しい中でもうしわかないと思いますが、次の投稿 心待ちにしています。

739 ◆.CzKQna1OU :2014/01/16(木) 23:41:46 ID:VdWDHoqE0
test

740 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/16(木) 23:48:05 ID:VdWDHoqE0
テスト

741 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/17(金) 00:03:44 ID:O6McHEzs0
お久しぶりです。
新スレが立ち、かなり進んでいる様子。
もう、忘れられてしまっているかも知れませんが。。。
以前『祟られ屋』シリーズと呼ばれる駄文を投稿させていただいていた者です。
……遅くなりましたが、生存報告を。
それと、予定よりも1年遅れとなりましたが、昨年末に無事入籍しました。
これも皆様のご厚情の賜物と感謝しております。
ご報告まで。
 
PCに触れるのも久しぶりな有様なので時間は掛かると思いますが、書き上がり次第投稿させて頂きたいと思います。
その時には、また宜しくお願いいたします。

742 名無しさん :2014/01/17(金) 00:51:31 ID:i9yu7DyM0
覚えてますよw
ご無事でなにより。

743 名無しさん :2014/01/17(金) 08:56:17 ID:boVUxS3U0
祟られ屋さんの方!!

おかえりなさいませ!
生存とご結婚おめでとうございます。

投稿はいつまでも、且つ楽しみに待っております。

744 名無しさん :2014/01/17(金) 14:41:05 ID:gmbgD8kIC
マサさんの人!
絶対帰ってくると信じてお待ちしてました!
またあなたの文が読めるなんて本当に嬉しいです。
ご自分のペースでよいので無理のないようにお書きくだされ。

あー、大事なこと忘れてた!
入籍おめでとうございます!!
これ最初に言うべきでしたw

745 名無しの♂ :2014/01/17(金) 16:17:39 ID:Twe5/Gi60
祟られ屋さん

はじめまして!! 過去のシリーズは何回読ませて頂いたかわかりません。
投稿期待しています!!

746 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:17:59 ID:tG/ByxVg0
テスト中。

747 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:32:23 ID:tG/ByxVg0
皆様今晩は、藍です。先程帰りました。
14日早朝、出発の準備をしておりましたら知人から連絡があり、
指示通り『玉の緒』の原稿と使い慣れたノートPCを持参しました。
(上)の投稿で少しやらかしてしまったので恐る恐るでしたが、
知人の生家に着くとすぐに追加の原稿を手渡されました。
「今回はこれが仕事だから。」 「どういうこと?」
「この話だけは、『投稿を急げ』って指示が出てる。」 「は?」
その後静かな場所で丸2日間作業を続け、昨日投稿の許可を貰いました。
凄く場違いな気がしましたが、食事の時間など、知人の生家の方々も
「大変だね。」とか「頑張って。」とか声を掛けて下さって、何とも不思議な感じでした。

それでは以下『玉の緒(中)〜(結)』、お楽しみ頂ければ良いのですが。

748 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:33:58 ID:tG/ByxVg0
『玉の緒(中)』

 範士の屋敷に着いたのは6時過ぎ。玄関の灯りが点いているのが見える。
門の前に立つとひとりでに門扉が開いた。門をくぐると門扉が閉じる。あの男の仕業だ。
玄関まで歩き、ドアの前に立つ。 深呼吸。本当に俺はこの屋敷に入るべきだろうか。
相手の意図が分からない。既にあの男が業に呑まれている可能性もある。そんな状態で。
だが、さっきの口調には悪意を感じなかった。それにSさんと『上』に連絡するということは、
この件に対して『上』に対策を取らせるということだ。もちろんSさんも必ず此処に来る。
そっと上着に触れた。布越しの硬い感触、あの短剣。お社に参内する時は常に帯剣している。
最悪の場合、Sさんたちが到着するまで時間を稼ぐ。この短剣があれば何とかなる筈だ。
その時、ドアが開いた。少女が立っている。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。どうぞ、中へ。」
所作は洗練され、服装や髪型も見違えるようだが、間違いない。これは、あの少女。
今、この少女を抱き上げて車に走れば。
いや、駄目だ。あの門扉を忘れたのか。当然結界が張られているだろう。
それに、少女以外にも屋敷の中には人がいる筈だ。その人達はどうする。
自問自答しながら少女の後を追う。案内されたのは広いリビングルーム。
テーブルの上には料理の皿とワインの瓶、それにワイングラスが2つ。
しかし肝腎の、あの男の姿がない。

749 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:35:37 ID:tG/ByxVg0
 「来て、くれたんですね。」 少女が体の向きを変え、正面から俺の眼を見つめた。
「嬉しい。来てくれないんじゃないかと、私、心配で。それに、とても怖かった。」
少女が歩み寄り、俺を抱きしめた。左肩に顔を埋めている。
温かい吐息を感じるが、逆に俺の心は冷えていった。
「趣味の悪い術ですね。少し、見損ないました。」
ふっ、と、少女の体から力が抜けた。しっかり抱き止める。
いつの間にか奥のソファにあの男が座っていた。テーブルからワインの瓶を取る。
「完全に気配を消したと思ったが、会話だけで術だと見抜いたか。
Sに師事しているとはいえ、大したものだ。それでこそお前を呼んだ甲斐がある。」
俺は少女の体をソファに横たえ、脱いだ上着を着せ掛けた。
少女の隣りに座る。あの男の斜め向かいの席。
あの男は2つのグラスにワインを注ぎ、1つを俺の前に置いた。
「良く来てくれた。まずは一杯。さっき此処のセラーで見つけた、85年のラフィット。
かなり良いワインだ。前に飲んだのは、3年前だったか。
それと、待ってる間に料理も準備した。その子はなかなか料理が上手い。助かったよ。」
あの男はワインを一気に半分程飲んだ。
「パーティーをしに来た訳ではありません。僕を呼んだ理由を教えて下さい。
それに、当然瑞紀さんは返してくれるんでしょうね?」
「その子も他の者たちも寝てるだけだ。お前が来てくれたから、もう用はない。
あとはお前と話をすれば済む。」 言い終わってワインを飲み干し、もう一度ワインを注ぐ。

750 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:37:11 ID:tG/ByxVg0
 緊張して喉がカラカラだ。俺も一口だけワインを飲んだ。当然、味などまるで分からない。
深呼吸、腹に力を込める。何とか少女を無事に。
「何故こんな事をしたんです。まず人質を解放して、話はそれからでも良いじゃないですか。
そうすれば『上』だって、荒っぽいことはしないでしょう。」
あの男の左頬がピクリと動いた。微かな笑みが浮かぶ。
「これが、言霊、か。俺がどうしても会得できなかった術を大した修行もせずに。
本当に、いちいち気に障る。だが、それでなければお前を呼ぶ意味がない。
お前の言葉は確かに俺に届いている。俺の言葉は紫に届かなかったが。」
違和感。 何故、今、妹の話を? もしかしてこれは何か別の...慎重に言葉を選ぶ。
「『言の葉』の適性。それが、他の人でなく、僕を呼んだ理由ですか?」
「それもある。そしてもう1つ、その剣。お前の適性と、その神器が必要だ。」
「あなたがその気になれば、僕はこの剣に護ってもらうのが精一杯。
これを使って彼女を助け出すことなど出来ませんよ。」
男はまた一口、ワインを飲んだ。穏やかな笑みを浮かべている。
「あたりまえだ。たとえ俺の意識がなくても、お前はその剣で俺に触れることさえ出来ない。」
『俺の意識がなくても』...やはり何かある。恐らくこれは謎かけだ。
しかしこの男は心に幾重にも鍵を掛けている。伝達の手段はただ会話のみ。
それも、直接には口に出せない『何か』を俺の適性で感じ取れという、この男からのメッセージ。

751 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:38:36 ID:tG/ByxVg0
 「さっき、妹さんにあなたの言葉が届かなかったと、そう言いましたね?」
「ああ、俺が行った時、紫はもう俺の事も分からなくなっていた。
会うなり俺を本気で殺そうとしたよ。以前はあんなに慕ってくれていたのに。」
男の表情は変わらない。しかし、その言葉から深い悲しみが伝わってくる。
「Sが俺との縁談を断ったのを知った時、紫は『自分を妻に』と言った。
計画のためでなく、俺を男として愛してくれていたと知って驚いたが、やはり嬉しかった。」
現代の倫理や法律には反するが、一族の中で兄妹・姉弟の結婚それ自体は禁忌ではない。
実際そういう組み合わせの夫婦を俺も知っている。しかし今、何故、俺にその話を?
「だが、俺は憶えていない。気が付いたら紫は床に倒れていて、既に死んでいた。
どうやって俺は紫を殺したのか?あんなに慕ってくレた妹を殺したのに、憶エていナイんだ。」
時折男の声の調子が外れる。それはまるで、錆びたドアがきしむ音のように聞こえた。
そして、錆びたドアの向こうの微かな、それでいてとてつもなくおぞましい気配。
それは、いつか呪物のトランプを手にした時の感覚に似ていた。
ドアの向こうで目覚めた『何か』が、僅かに開いたドアの隙間から俺の様子を探っている。
まずい。これは、俺の手に負える事態ではない。しかし、もう、止められない。
それに、この男は俺の適性に期待して俺を呼んだのだ。
もし他の、例えばSさんを呼べば、更に悪い事態になると分かっていたから。
だとすれば、この男が俺に伝えたい事、それは。
そう、念のためにもう一言、あと1つヒントがあれば確信出来る。

752 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:40:26 ID:tG/ByxVg0
 「妹さんの術で記憶が飛んだのではありませんか?
『不幸の輪廻』から流れ込む力で妹さんの術が力を増していたとしたら。」
「もしそうなラ、死んでいタのは俺ノ方ダ。そレに紫は、紫ハ業に呑マレてなド、イなカッタ。」
間違いない。この男が俺に伝えたかった事、それを感知出来た。
「先程の失言を許して下さい。やはりあなたは偉大な術者だ。そしておそらくは妹さんも。
必ず、僕が皆に伝えます。あなたと妹さんは業に呑まれたのではなかった。
それは、今あなたの中に潜んでいる『何か』に関わっていたのだと。
そしてもし、この怖ろしい災厄を祓うことが出来たなら、その功績と栄光は、
命を賭けて『何か』の存在を知らせた、あなた方2人の魂と共にある、と。」
「アりがトう。こレデ、アトハ、オマえシだイ。マカセ、た...」
突然、リビングルームに冷気が満ちた。そして、心が挫けそうになる程の、圧倒的な気配。
笑い声や言葉こそ聞こえないが、『何か』は確かに俺と炎さんを嘲笑っていた。
『気付いたとしても、人間には為す術がない。せいぜい足掻いてみせろ。』 そんな風に。
『何か』は俺の反応を楽しむようにゆっくりと、その姿を現そうとしている。
炎さんの体がぐったりと背もたれに沈み、のけぞった顔が天井を向いた。
体が大きく震え、口から赤黒い液体が溢れる。赤ワイン、そして血の臭い。
始まった。どうすれば良い?

753 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:44:50 ID:tG/ByxVg0
 炎さんの中に容易く入り込む程の力、俺の術など効く筈が無い。恐らくSさんや姫の術も。
だが今ならこの剣で。いや、『意識が無くても』と、炎さんは言った。あれは警告だ。
不用意に斬りかかれば『何か』は躊躇無く俺を殺すだろう。剣の刃が届く前に。
それに、どうにか時間を稼ごうにも、あの少女が狙われたら俺に為す術は無い。
考えろ。今、姿を現そうとしている『何か』、その目的は一体何だ。
もしやこの剣、しかしこの剣を俺以外が持てば...そうか。
あの夢は逆夢ではなく、予知夢だったのだ。俺がSさんに斬りつける場面が目に浮かぶ。
しかし、この予知夢を完成させてはならない。絶対に、あんな場面を現実にはしない。
それなら、俺に出来ること、するべきことはただ1つ。短剣をゆっくりと抜く。
『何か』の気配が大きく揺らぎ、リビングの中に冷たい風が吹いた。
そう何者も、この短剣を目の前にして、ちっぽけな俺の意図や術を感知するのは無理だろう。
昼間の空、太陽の光のもとでは、星の光を見ることができないように。
抜き身の短剣をゆっくりとテーブルに置きながら、言葉を練る。簡潔に、そう、単純に。
炎さんの口と鼻から、白く濃い煙のようなものが立ち上った。エクトプラズム、もう時間がない。
言葉に『力』を込め、血液に乗せて左手に送り込む。
目を閉じ、薬指で、しっかりと額に触れた。

754 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:46:39 ID:tG/ByxVg0
 重い音がした。我に返る。男の体が向かいのソファから床にずり落ちていた。
あれは...あれは、業に呑まれた敗者、だ。まだ、生きている。息の根を止めなければ。
俺はゆっくりと立ち上がった。全身の感覚が妙にボンヤリとして体がふらつく。
テーブルの上の短剣。そう、この短剣であの男を。
そうすれば俺は一族でも有数の術者を倒した勝者。皆が俺を讃えるだろう。
それにこの剣なら、あの女どもを殺せる。S、そしてL。ついでに子供も始末すれば良い。
これまで何度と無く、『不幸の輪廻』の邪魔をしてきた厄介者たち。
そして俺が望めば当主との面会も叶う。そうすればこの一族も...そう、契約は成就する
その後は仲間たちの、思わず笑みが浮かぶ。 右手で短剣を取る、早く、あの男を。
? 足が動かない。 そして、左手がひとりでに動いて短剣の刃を握った。
ゆらりと右手が離れて短剣を持ち変える。さらに左手を添え、両手が逆手で短剣を握り締めた。
何故だ、何故俺の両手がひとりでに?
次の瞬間、両手は短剣を俺自身の腹に突き刺した。激痛、足から力が抜け、床に膝を着く。
凄まじい悲鳴。薄れていく意識の中、男の、呟くような声を聞いた気がした。

755 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:48:14 ID:tG/ByxVg0
 夢を見ていた。 俺の体は暗闇の中をゆっくりと沈んでいく。
腹の真ん中あたりに鈍い痛みがある。いや、かなり強い痛みだ。 腹に、傷?
その時、微かに俺の名を呼ぶ声がした。女性の声。
ああ、俺は知っている。 これは、誰の声だったろう。
『いた。見つけたぞ。』 やはり、若い女性の声だ。
続いて背中に何か温かいものが触れ、俺の体が沈むのは止まった。
『そうか、間に合ったか。』 こちらは男性の声。落ち着いた、渋い声だ。
『○瀬の主、祭主殿を見つけたぞ。全く、■◆が絡んでいるのだから
さっさと助ければ良いものを。お主が硬いことを言うから我らの仲人殿が死にかけた。
もし、手遅れになったらどうするつもりだったのだ?』
『人が、人同士が自分たちの力で難局を乗り切ろうとしている時に、安易に助ければ
魂の堕落を招く。我が祭主であれば尚更、この試練は大いなる成長の機会となる。』
『それにしても仲人殿は無茶をしたな。神器で自らの腹を貫くなど、前代未聞だ。』
『神器を持ってはいても、祭主殿が■◆を滅ぼすには、あれしか策はない。
あの術を使わねば、その意図は■◆に読まれたろう。
そうでなくとも、家族への未練や痛みへの怖れで躊躇し、機を逸したかも知れぬ。
力と術への敬意が無意識のうちに正解を探り当てる。あの港で私を助けた時もそうだった。』
ボンヤリとした頭で俺は不思議な会話を聞いていた。これは川の神様と、そして。

756 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:55:02 ID:tG/ByxVg0
 『お主、怪我をしたのか。右手。そうか、あ奴の顎門、2人の魂を救い出した時に。
しかしどうして2人の魂を? 妹の体は既に無く、兄の体も長くは保つまいに。』
『気高く戦った魂、あ奴には絶対渡したくなかった。
それに、どのみち『血』が必要なのだから、この傷、丁度良い。』
『急いだ方が良さそうだ。祭主殿の力が弱くなっている。』
『うむ、では我が祭主を此処へ。』
数秒の後、俺の腹を温かいものが濡らした。
次第に腹の痛みが強くなる。思わず唸り声を。

757 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:56:12 ID:tG/ByxVg0
 痛みのあまり目が覚めた。見慣れない天井、そして。
「おねえちゃん、おとうさんがめをあけたよ。」 駆け寄る気配。
「Rさん...」 姫が俺の顔を覗き込んだ。 体を起こそうとした途端、腹の激痛。
「動かないで下さい。お腹の傷が酷いんです。でも、本当に、良かった。」
俺の肩をそっと押さえた姫の左手、指先が小さく震えていた。
翠の前だからだろう、懸命に感情を抑えているのが分かる。
「おとうさん、やっとめがさめたね。みんな、しんぱい、したんだから。」
ようやく声を絞り出す。「ありがとう。御免よ。」
「Sさんは藍ちゃんとお屋敷にいます。夕方には来てくれますけど、
Rさんの意識が戻ったことはすぐに知らせておきますね。」
「今日は、何曜日なんですか?」 「あれから3日目、水曜日です。」
記憶が混濁している。俺が範士の屋敷に行ったのは日曜日だったか。
だとすれば、俺は丸々2日は意識が無かった事になる。
それにしても、あの出来事。
夢を見ていたような気もするが、腹の傷とその痛みはそれが現実だと教えてくれる。
人質になった少女は無事だったのか。あの男、炎さんは...。
炎さんの中に潜んでいた『何か』は、一体どうなったのだろう。
炎さんが命を賭してその存在を俺に伝え、
それに対処する一縷の望みを俺の適性と短剣に託した、あのおぞましい存在。
意識がまだ朦朧としているのは、痛み止めの麻酔のせいだと姫は教えてくれた。
腹をほとんど貫通する程の深い傷で、俺の苦しみ方が酷かったらしい。
なら、この痛みはまだマシなのか。そんな事を考えている内に、俺は再び眠りに落ちた。

758 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:57:09 ID:tG/ByxVg0
 また、痛みで目が覚めた。もう窓の外は薄暗い、既に夕方。
姫が用意してくれた飲み物を飲んでいると、暫くして姫が立ち上がり翠の手を取った。
「翠ちゃん、そろそろ時間だから一緒にお母さんと藍ちゃん迎えに行こうね。」 「うん。」
姫と翠が病室を出て行って10分程すると廊下から足音が聞こえ、
磨りガラスの向こうに人影が見えた。控えめなノックの音。間違いない、Sさんだ。
「どうぞ、起きてますから。」 ノブが回り、ゆっくりとドアが開く。
Sさんは無言で歩み寄り、ベッドの脇に膝をついた。
俺が差し出した右手を両手で握り、頬ずりをしながら、声を殺してSさんは泣いた。
何と声を掛けて良いのか分からない。Sさんの嗚咽、俺も必死で涙を堪える。
Sさんが一人で病室に来たのは姫の配慮。Sさんの泣き声が藍と翠を不安にさせないように。
どれくらいそうしていたのか。ようやくSさんは顔を上げた。涙でぐしょぐしょの笑顔。
「泣いたりして御免なさい。私、きっと、大丈夫だと思っていたのよ。なのに涙が、変なの。」
「心配掛けて済みません。言い訳したいんですが、まだ頭がボンヤリしてて、どうにも。」
「言い訳なんかしなくて良い。あなたは精一杯頑張ったんだから。」
Sさんは俺の唇にキスをした。長く、熱いキス。
「顔が涙でぐしょぐしょ。御免ね。」 ハンカチで俺の顔をそっと拭い、そして自分の頬を拭う。
それから姫に電話をかけた。家族が全員揃う。何故かとても、懐かしい気分だ。

759 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:57:57 ID:tG/ByxVg0
 俺が薄いお粥のような夕食を食べ終えると、Sさんは翠と藍を連れてお屋敷へ戻った。
俺が入院した日から、姫がずっと泊まり込みで付き添いをしてくれていたらしい。
「大学、休んだんですね。この時期に、大丈夫なんですか?」
「ほとんどの科目はテストが終わってるし、平気です。」
「済みません。もう少し元気になるまで、宜しくお願いします。」
「お願いされなくても、ずっと付き添いますよ。だって私、Rさんのお嫁さんですから。」
姫の言葉に込められた深い想い、Sさんの涙に秘められていた激しい感情。
そしてさっきこの手に抱いた翠と藍の温もり。
ボンヤリしていた意識も次第に澄み、俺は自分が死地をくぐり抜けたことを実感していた。

760 『玉の緒(中)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 17:59:35 ID:tG/ByxVg0
 翌日、昼食を食べ終えて暫くするとノックの音がした。
Sさんだ。翠の手を引いている。あれ、藍は?
そう言いかけた時、Sさんが押さえたドアをもう一人の女性がくぐった。藍を抱いている。
人質になったあの少女。良かった、無事だったのか。本当に、良かった。
「また助けて頂いて、ありがとう御座いました。」 少女は深く頭を下げた。
「いや、俺を呼び出すために人質にされたんだから、謝るのは俺の方だよ。」
「それを言ったら、瑞紀ちゃんをあの家に紹介した私にも責任が有る訳だから。
もう、その話は無し。それよりどう?瑞紀ちゃん、見違えたでしょ?」
「はい、服がすごく似合ってて。初めは別人かと思いました。」
服のせいか、あの日範士の屋敷で会った時より、少女は大人っぽく見えた。
「服を褒めるなんて、全く気が利かないわね。でも、確かによく似合ってる。
この服、私のお下がりよ。サイズ、ほとんどそのままでOKなの。」
「あの、お下がりって?」 そう言えば、何故少女は藍を?
「ふふ、あの晩から瑞紀ちゃんにはお屋敷に来てもらってるの。
Lがあなたの付き添いしてるから、家事とか手伝って貰って大助かりだわ。」
Sさんが努めて楽しそうに振る舞っているのが分かる。
それなら、炎さんは。 姫かSさんが話してくれるまで、その質問はしない。そう、決めた。
記憶が未だ曖昧な所も、今無理して思い出す必要はない。とにかく俺は生きている。
今はもう暫く、この賑やかな病室の中で、暖かな幸せに包まれていたい。
少女が俺の横に寝かせてくれた藍の頭をそっと撫でた。

『玉の緒(中)』 了

761 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:01:58 ID:tG/ByxVg0
『玉の緒(下)』

 その日は朝から、俺の病室の中だけで無く、病院全体の空気がピリピリと緊張していた。
彼方此方から伝わってくる気配。そのどれもが間違いなく、かなりの力を秘めている。
おそらく病院の出入り口などの要所に、式や術者が配置されているのだろう。
今日、当主様と桃花の方様がこの病院に、俺の病室に御出になるからだ。
『見舞い』と言えば聞こえは良いが、『上』のメンバーも一緒。つまりこれは調査。
紫さんの件に続いて炎さんと俺。あの禍々しい存在と接触して生き延びたのが
俺一人だとすれば、俺の状態を『上』が調査するのは当然の事だろう。
昨夜、姫は今日に備えて幾つか重要な事を教えてくれた。
「分かってると思いますけど、炎さんは助かりませんでした。
Sさんと他の術者たちが範士の屋敷に到着した時、既に全てが終わっていたそうです。
瑞紀ちゃんや他の人質は全員無事だったけれど、
リビングの床には大怪我をして意識の無いRさん、それと炎さんの遺体。
そして、屋敷に残っていた痕跡から、怖ろしい事が起きたと分かったんです。」
姫はSさんから預かったという一枚の写真を俺に手渡した。
リビングの絨毯が黒く、大きく焦げている。ある動物を思わせるその形。
写真を見ているだけなのに、全身の毛が逆立つような寒気を感じる。

762 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:03:08 ID:tG/ByxVg0
 「これは、一体何ですか?何かが焼けて、絨毯が焦げた跡みたいですが。」
「Rさんの傷から吹き出した血が、多分あの短剣の力で焼き尽くされた跡です。
いいえ、Rさんの中に入り込んでいたモノが、焼き尽くされた跡といった方が良いですね。」
炎さんの中に入り込んでいたモノは俺の中に、そしてあの短剣の力で焼き尽くされたのか。
「ただ、それがあまりにも強力な存在なので、『上』は疑っています。
既にRさんの魂が『それ』に穢されているとしたら、後々災いの種になるから。それに。」
姫は一度言葉を切り、温かいお茶を一口飲んだ。
「炎さんが死に、Rさんの記憶もかなり欠落していて、あの晩何が起きたのか分かりません。
実際、Rさんのお腹の傷も、未だ原因が特定出来ていないんです。」
俺はあの夢を思い出した。川の神様と、それからあの声は。
「この傷は僕が自分で刺したものだと、あの、夢の中でそういう風に。」
「Rさんの手にも、炎さんの手にも、血痕はなかったそうです。
それに、あの短剣は鞘に収まった状態でテーブルの上に置かれていて、
短剣の鞘にも柄にも血痕は残っていなかったと聞きました。」
俺で無いなら、しかし、あの剣を俺以外の人間が持てば...訳が分からない。

763 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:04:01 ID:tG/ByxVg0
 「Rさんの状態、事の経緯を知るための調査ということですね。
魂が穢れているかどうかを確実に判別出来るのは当主様と桃花の方様だけですから、
調査に伴って御二人もこの部屋へ御出になります。
御二人がこの部屋へ。あのおぞましい存在との接触で、俺の魂は穢れてしまったのか。
ふと、あの怖ろしい夢の場面が目に浮かんだ。俺はあの短剣でSさんを。
...そういえば、俺は炎さんを殺そうとしたのではなかったか、あの短剣で。
曖昧な記憶を辿る。そうだ、確かに俺は。ではその後何を?
駄目だ。どうしてもそこから先を辿れない。まるで術で記憶が、もしやこれも。
「あちこち記憶が無いのは、僕の魂が穢れているからですか?」
「Rさんは大丈夫。私は信じています。それに、私とSさんがRさんを守ります。
どんな手段を使っても。そう、たとえ『上』に背く事になるとしても。」
つまり、俺の魂が穢れているとしたら『上』は...。
『背くことになるとしても』
その言葉の重み、そして姫の胸中を思うと、もうそれ以上の言葉が出なかった。

764 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:06:07 ID:tG/ByxVg0
 「顔を上げなさい。」 病室に涼しい声が響いた。桃花の方様の声。
顔を上げると、ベッドの脇の椅子に当主様が座っていた。その右斜め後方に立つ桃花の方様。
さらに後方、病室の壁際に直立不動で立つ2人の男性。
1人は知っている顔、遍さんだ。もう1人は知らない顔だが、この2人が『上』の代表。
俺の枕元で姫が跪いている。Sさんはこの階のロビーで翠と藍の相手をしているはずだ。
建前とはいえ、『上』の前で親子が揃えば要らぬ疑いを招きかねない。
ただ、『上』の二人には見えないだろうが、俺のベッドの下には管さんがいる。
Sさんは管さん経由でこの部屋で起こることをリアルタイムで知る事が出来る訳だ。

 「本日はわざわざ御出頂きありがとう御座います。」
「大変だったな、R。もう少し回復してからとも思ったが、これも公務だ、許せ。」
もし、俺の魂が穢れているなら、当然、回復する前に対応すべきだ。
「もし私の魂が穢れているなら、全てを当主様にお任せ致します。」
「そうなって欲しくはないが。」 桃花の方様が跪き、細長いものを当主様に手渡した。
桃花の方様の身長よりもはるかに長い、白い布の袋。当主様が袋の口を開く。
姫から聞いていた通りだ。神器、『梓の弓』。 もの凄い存在感が病室を満たす。
そしてもう一つの神器。弓の半分程の長さの筒、その中に納められている筈の『破魔の矢』。
筒の中から伝わってくる気配、こちらの存在感も尋常ではない。

765 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:06:51 ID:tG/ByxVg0
 当主様が立ち上がり、桃花の方様の肩を借りて弓の弦を張った。
続いて桃花の方様が筒の中から矢を取り出し、それを当主様が受け取る。
左手で弓と矢を交差させるように持ち、右手を弦にかけた。
鏃は未だ鞘で覆われている。しかし必要があれば恐らく左手の一振りで
「参る。」
ぴいいぃん。不思議な音が病室の空気を震わせ、俺の中に染み込んでくる。
神器の弓を半分程に引き絞り、弦を放す時に発する音。『寄絃』の儀式。
穢れた魂の持ち主は、この音を聞いて意識を保てない。姫からそう聞いていた。
2度、そして3度。弓と弦の発する音は、響きの調子を変えながら病室の空気を震わせた。
姫が息を潜めて俺を見ているのを感じる。大丈夫だ。何ともない、俺は。
「宜しい。皆、見届けたな。Rの魂、穢れてはいない。
憑依されていた時間が短くて幸いだった。」
当主様が小さく息を吐く。壁際の遍さんともう1人の男もホッとした表情を浮かべた。
続いて矢を桃花の方様に返し、弦を外して弓を白い袋に戻した。
しかし、未だ事情聴取は終わっていない。当主様はもう一度椅子に腰掛けた。
「さて、R。当主として、私は知らねばならない。あの晩何が起きたのか。
特に会話だ。お前と炎の会話、あの晩お前達が何を話したのか。それが、知りたい。」
「全てお話ししたいのですが、記憶が途切れ途切れで、ご期待に添えるかどうか。」
「それは承知している。無理をすれば体にも障るだろう。桃花の方、あとは頼む。」
「はい。」 当主様の足元に控えていた桃花の方様が立ち上がり、俺のすぐ前に立った。

766 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:10:15 ID:tG/ByxVg0
 「R、右手をこちらへ。」
そっと右手を伸ばす。緊張で手が震える。桃花の方様は両手で俺の右手を包んだ。温かい。
「あの晩、お前が炎にかけた最初の言葉を憶えていますか?」
「はい、『少し見損ないました』と。その前の炎さんの術が、その、気に入らなかったので。」
桃花の方様が目を閉じた。ゆっくりと、深く息を吸う。誰も喋らない。病室の中に満ちる静寂。

 『気配は完全に消したと思ったが、会話だけで術だと見抜いたか。
Sに師事しているとはいえ、大したものだ。それでこそお前を呼んだ甲斐がある。』

 男の声が静寂を破った。間違いない。これは、炎さんの声だ。
桃花の方様の口から炎さんの声、あの晩の言葉がそのままに再生されている。
これは、術?確かSさんが同じような、そう、『声色』。おそらくあれと良く似た系統の術。

 『パーティーをしに来た訳ではありません。僕を呼んだ理由を教えて下さい。
それに、瑞紀さんは返してくれるんでしょうね?』

 少し声の質が違うが、この話し方は間違いなく俺だ。
桃花の方様の術が、俺たちの会話をありのままになぞっていく。

767 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:12:06 ID:tG/ByxVg0
 『何故こんな事をしたんです。まず人質を解放して、話はそれからでも良いじゃないですか。
そうすれば上だって、荒っぽいことはしないでしょう。』
『これが、言霊、か。俺がどうしても会得できなかった術を大した修行もせずに。
本当に、いちいち気に障る。だが、それでなければ呼ぶ意味がない。
お前の言葉は確かに俺に届いている。俺の言葉は紫に届かなかったが。』

 当主様は腕を組み、眼を閉じたまま、俺たちの会話に聞き入っている。
遍さんともう1人の男も、姫も、そして俺自身も、息を詰めて耳を澄ませていた。

『さっき、妹さんにあなたの言葉が届かなかったと、そう言いましたね。』
『ああ、俺が行った時、紫はもう俺の事も分からなくなっていた。
会うなり俺を本気で殺そうとしたよ。以前はあんなに慕ってくれていたのに。』

 再生される会話を聞くうちに記憶の断片が繋ぎ合わされていく。
新たに思い出した断片も加わり、朧気ではあるが、あの晩の記憶が甦りつつあった。

 『だが、俺は憶えていない。気が付いたら紫は床に倒れていて、既に死んでいた。
俺はどうやって紫を殺したのか?あんなに慕ってくレた妹を殺したのに、憶エていナイんだ。』
『妹さんの術で記憶が飛んだのではありませんか?
不幸の輪廻から流れ込む力で妹さんの術が強力になっていたとしたら。』
『もしそうなラ、死んでいタのは俺ノ方ダ。そレに紫は、紫ハ業に呑マレてなド、イなカッタ。』

768 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:13:25 ID:tG/ByxVg0
 桃花の方様は一旦言葉を切って大きく深呼吸をした。

 『先程の失言を許して下さい。やはりあなたは偉大な術者だ。そしておそらくは妹さんも。
必ず、僕が皆に伝えます。あなたと妹さんは業に呑まれたのではなかった。
それは、今あなたの中に潜んでいる『何か』に関わっていたのだと。
そしてもし、この怖ろしい災厄を祓うことが出来たなら、その功績と栄光は、
命を賭けて『何か』の存在を知らせたあなた達2人の魂と共にある、と。』
『アりがトう。コれデ、アトハ、オマえシだイ。まカセ、タ...』

 そうだ、確かにこの言葉を聞いた事は憶えている。しかし、この後が全く。

 『この剣を持ったら、自分の腹を突く。』

 姫が息を呑んだ。
これは...俺の声。 そうか、思い出した。俺の術。
口に出してはいないが、心の中で必死に練った言葉。あの術を俺自身に掛けるために。
俺の術など効く相手ではない。剣で斬りかかれば、刃の届く前に俺は殺される。
だが、俺の体に潜み、一族に害をなすのが相手の目的なら、あの術が使えるのではないか。
術を掛けたこと自体を忘れるのだから、俺の意図を相手に感付かれることもない。そう思った。
細かな操作は難しいだろうが、狙いを外す訳にはいかない。自分で見える大きな的、腹。
相手が俺の中に入り込み、誰かに害をなそうとしてあの剣を持てば、多分この術が発動する。
自信など全くない、しかし、それしか策がなかった。
今回は何とか術が発動し、相手は剣の力で焼き尽くされた。 本当に、信じ難い程の幸運。

769 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:15:20 ID:tG/ByxVg0
 桃花の方様の唇が小さく動いている。この後にもまだ言葉が?

 『紫、見たか、やったぞ。これで...いや、Sは、上は何をしてる。遅い、このままでは...』

 桃花の方様が目を開けた。俺の手をベッドに戻し、労るようにさすった。
静かな病室の中に当主様の声が響く。
「R、誠にお前は言祝ぐ者。お前の言葉通り、炎も紫も偉大な術者だ。
紫は炎に、炎はRに■◆の存在を伝え、そしてRは自らの体を代として■◆を誘い込み、
神器の力で焼き滅ぼした。3人の献身に対し、一族の祭主として心から礼を言う。
残念ながら炎と紫は犠牲となったが、お陰で一族を危うくする大難は祓われた。」
その重さを良く理解出来ないまま、俺は当主様の言葉を聞いていた。
「炎と紫を先達の偉大な術者の列に序し、その魂を祀って功績を讃えよう。社へ戻る。」
当主様が立ち上がる。遍さんが慌てたように病室のドアを開けた。
「当然特別な監視の件は撤回させる。そして紫が受けた依頼が持ち込まれた経緯と
それに関与した者達の徹底的な調査。恐らく、『不幸の輪廻』の活動が活発になっている事と
関連が有る筈だ。今後のために、全てを明らかにしておかねばならない。」
当主様はドアの前で立ち止まり、ゆっくりと振り返った。悪戯っぽい笑顔。
「R、傷が癒えたらまた会おう。今度はゆっくり、話がしたい。」
言い終わると当主様は踵を返してドアをくぐった。足音が軽やかに遠ざかっていく。
遍さんともう1人の男も慌てて当主様の後を追った。

770 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:16:08 ID:tG/ByxVg0
 病室の中には俺と姫、そして桃花の方様。昨夜姫から聞いた段取りの通りだ。
「L、では、あれを。使わずに済んで、本当に良かった。」
姫は一礼して立ち上がり、壁の棚の中から白い布の包みを取りだした。
桃花の方様の前で跪き、白い包みを両手で捧げる。
「お陰様で心安らかにこの日を迎えることが出来ました。心より感謝申し上げます。」
桃花の方様が頷いてそれを受け取り、そっと着物の袂に納めた。
包みの中身は黒檀の小箱。その小箱の中に純白の宝玉、号は『深雪』。姫からそう聞いた。
黒檀の小箱には封印をしてあるらしく、白い布包みを見ただけでは
その中身が一族に伝わる宝玉であるとはとても思えない。
もしもの時のためにSさんがお願いをして、その宝玉を当主様から借り受けたと聞いていた。
俺の魂が穢れていたら、その宝玉を使うということだ。しかし、どんな風に使うのかは知らない。
『Rさんがそれを知る必要はありません』と姫は言った。
『もし、これを使う必要があるなら、その時Rさんの意識が無いということですから。』と。
もちろん包みが解かれることはなく、黒檀の小箱すら見ることは出来なかった。
魂の操作を伴う術は『禁呪』。Sさんや姫の命を削る術は絶対に使って欲しくない。
そう思ったが、昨夜はどうしても適当な言葉が見つからなかった。
逆に、姫は俺の心を見通したように微笑んだ。
「翠ちゃんと藍ちゃんには『父親』が必要です。忘れないで下さいね。」

771 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:16:53 ID:tG/ByxVg0
 「L、Sとともに、Rの世話にはよくよく心を尽くしなさい。
Rの傷が癒え、体が本復するのには未だ時間がかかります。」
涼やかな、心地良い声で我に返った。桃花の方様の声。姫は深く一礼し、病室のドアを開けた。
神器の弓と矢、そして白の宝玉を携えた桃花の方様が、ゆっくりとドアをくぐる。
「良かった、これで。」
ドアを閉じて振り返った姫の笑顔に、ようやくいつもの温もりが戻っていた。

 数日後、自宅療養の許可が出て、俺と姫はお屋敷に戻った。
その晩、翠と藍を寝かしつけた後、俺たちはリビングでお茶を飲んだ。
いつも通り、穏やかなお屋敷の夜。それがとても懐かしく、そして愛おしい。
いつもと違うのは俺の傷を心配してハイボールがお茶に変わったこと。
そして此所には3人ではなく4人、あの少女も一緒にいること。
「本当はお酒で乾杯したいけど、それはもう少しお預けね。」
「瑞紀ちゃんの卒業式まであと3週間。その夜は乾杯出来るかも知れませんよ。」
Sさんも姫も、すっかり落ち着きを取り戻していた。もう、不意に涙を零したりはしない。
確かに、とても大きな災難だった。俺は深い傷を負い、Sさんと姫は酷く心を痛めた。
しかし、それを乗り越えつつある今、3人の魂を結ぶ絆は以前にも増して強くなっている。
その絆を頼りに、きっと俺は『日常』に戻ることが出来る。そう思った。

772 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:17:56 ID:tG/ByxVg0
 「そう言えば、もうすぐ川の神様のお社に参内する日ですね。」
少なくとも今回は、姫かSさんに代理を頼まなければならないと、そう思っていた。
すると、Sさんが少女を見つめて微笑んだ。はにかんだような少女の笑顔。
「R君、それがね、暫くあなたは立ち入り禁止みたいよ。川の神様のお社。
瑞紀ちゃん、一昨日のこと、R君とLに話してあげて。」
「はい。ええと、一昨日の3時少し前でした。翠ちゃんと藍ちゃんは昼寝をしていて、
私とSさんはおやつの準備をしていたんです。そしたら急に翠ちゃんが立ち上がって。」
Sさんは堪えきれない様子でくすくすと笑った。
「眼も開けずに『傷が癒えるまで参内は禁止する。Rに、そう、伝えよ。』って言ったんです。」
「じゃあ、川の神様が。」
「私もそう思ったから翠の前に跪いて、『では私がRの代理で参内致します。』と、
そう申し上げたのよ。そしたら、ね。」 Sさんはもう一度少女に微笑みかけた。
「『Rは近々此処へ戻るから、そなたにはRを頼む。
大丈夫だ。社の心配は要らぬ、手は足りている。』って、そう言った後、
またパタンと横になって寝ちゃったんです。本当に、びっくりしました。」
「寝惚けた顔だし、声は翠のままなのに、殊更に芝居がかった調子でそんなこと仰るのよ。
有り難いけど、もう、私、可笑しくて可笑しくて。」
でも、何で翠に?それは俺の夢でも充分なのに。
「私たちを笑わせて、元気づけようとして下さったのでしょうね。」
話を聞いていた姫が真面目な顔でそう言うと、Sさんは小さく頷いた。

773 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:18:29 ID:tG/ByxVg0
 三月一日、少女の卒業式。朝から曇り空。
今にも泣き出しそうな天気だが、少女は輝くような笑顔で玄関を出た。
化粧はせず素顔のまま、長く伸びた髪を首の後ろで軽く束ねている。もちろん、セーラー服。
スカートの丈はやや長め、膝にかかる位。初めて会ったあの日とはまるで別人。
正直これは、ストライクど真ん中...まずい、クラクラする。
「もう、邪道だなんて言えないわね。というより、王道一直線かな?」
Sさんはイタズラっぽく笑い、ガレージに向かって歩き出した。
成る程、Sさんの。道理であまりにも俺の嗜好に、いや待て、そんな事考えてる場合じゃない。
気を取り直して、Sさんの運転する車に乗り込む少女を見送る。おめかしした翠も続く。
翠は少女に良く懐いていて、一緒に卒業式をお祝いするといって聞かなかったのだ。
去っていく車を見送りながら、俺は姫が高校を卒業した日の事を思い出していた。
あの日も朝は曇り空。俺の車に乗り込んだ姫の眩しい笑顔。そして

774 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:19:08 ID:tG/ByxVg0
 「Rさん。体調は、もう随分良いんですよね?」
姫の卒業式、その追憶は、他ならぬ姫の言葉で中断された。
「あ、はい、今月中には川の神様のお社に参内できると思います。」
実際、傷の具合はかなり良い。表面の傷口は完全に塞がっている。
それにその日の夕食後、少女の卒業を祝う乾杯では、お酒が解禁になる予定だった。
何かの拍子にくしゃみや咳をするとかなり痛むが、これはまあ仕方ない。
「明日、私とSさんは朝早くから出掛けます。翠ちゃんと藍ちゃんも一緒に。」
ということは。
「あの、じゃあ明日、お屋敷には。」
「はい、Rさんと瑞紀ちゃんが二人きり。私たちは当主様と桃花の方様にお目通りする、
瑞紀ちゃんにはそう話してありますけど、方便です。分かりますよね?」
「あの子に何か良い思い出を、そういうことですか?」
何故か小声になってしまう自分が少し情けない。
「何か特別な事をする必要はないです。夕方までRさんの世話を瑞紀ちゃんに任せるだけ。
一日中二人きりで過ごす、きっとそれだけで十分です。瑞紀ちゃんはRさんのお嫁さんに」
「ちょっと待って下さい。あ痛たたたた。」
「何を慌ててるんですか。瑞紀ちゃんがRさんのこと好きなのは皆が知ってるのに。」
「だ・か・ら、僕はあの子のこと」 「何とも思ってないって言いたいんですね?」
「そうです。」 姫は小さく溜息をついた。

775 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:21:38 ID:tG/ByxVg0
 「今度のことがあっても、考えは変わらないんですか?」 「ええと、どういうことですか?」
「長生き出来ないかも知れないのは、術者でも術者でなくても、同じだってことです。」
不意に、胸の奥が痛んだ。何故、急にこんな。
「瑞紀ちゃんが本当にノロになって、Rさんのお嫁さんになるかどうかなんて、
そんな未来のこと、誰にも分かりません。でも、大事なのは『今』瑞紀ちゃんがRさんを
好きだということ。そのためにノロになる決心をして、実際に歩き始めたということ。
すごく遠くて辛い道ですが、少しでも目的地に近づいて欲しい、そう、思いませんか?」
「もちろん思いますよ。でも、それと彼女をお嫁さんにすることは。」
「もう、瑞紀ちゃんのことになると、不思議な位鈍いんですから。
例えば沖縄に帰った後、瑞紀ちゃんが事故や病気で亡くなったらどうなると思いますか?
瑞紀ちゃんはもちろん、Rさんにも悔いが残りますよ。『こんなことならあの時』って。
だから明日1日、瑞紀ちゃんをお嫁さんだと思って接してあげて下さい。恋人でも良いです。
とにかく、できるだけ悔いの残らないように。お願いしますね。」
少女に悔いが残ると言うのは分かる。しかし、俺にも悔いが残るというのは?
しかし、藍を抱いた姫はさっさと自分の部屋に戻ってしまい、
昼食の前にはSさんと少女も帰ってきたので、それ以上この話は出来なかった。

776 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:22:27 ID:tG/ByxVg0
 翌朝、朝食も食べずに4人は出掛けていった。
少女と2人の朝食。『悔いの残らないように』と姫は言ったが、やはり気まずい。
俺の事を好いてくれる少女に、気のあるような素振りをするのは正直気が引ける。
少女を嫌いな訳ではない。家事を手伝っている姿や翠と遊んでくれる姿を見てきて、
むしろ今は素直な良い娘だと思っている。でも、それはSさんや姫に対する感情とは違う。
それなのに、お嫁さんや恋人だと思って接するなんて...心の隅に蟠る罪悪感。
朝食を済ませ、ぐだぐだ考えながらリビングで本を読んでいると、
窓から明るい日差しが差し込んできた。何だか久し振りに見る太陽の光。
その時、ふと俺の心も晴れたような気がした。
俺の適性が『言の葉』なら、まずは話をしてみるべきだろう。
後の対応をどうするか、会話の中で答えが見つかるかも知れない。
「瑞紀ちゃん。」 思い切って、キッチンで昼食の準備をする少女に声をかける。
「はい、何ですか?」 少女はタオルで手を拭きながら駆け寄ってくる。嬉しそうな笑顔。
「空が、急に明るくなってね。だから、一緒に庭の梅を見に行こうと思って。どう?」
「行きます、一緒に。火を消して、すぐに戻りますから。」

777 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:25:23 ID:tG/ByxVg0
 ガレージの裏側には梅の木がある。白い花の木と紅い花の木が一本ずつ。
盛りは過ぎていたが、まだかなりの花が咲き残っていて、良い香りが漂っていた。
俺たちは暫く黙ったまま、並んで梅の花を眺めた。赤と白のコントラスト、飛び交う小鳥たち。
「奇麗だね。」 「はい、とっても奇麗です。」
「この時期だと沖縄は桜も終わってるよね。梅の花はいつ頃咲くの?」
「お正月が終わった頃に咲いているのを見たことがあります。
でも、沖縄では梅の花をあまり見かけません。もともと数が少ないんでしょうね。
それと、私が見た梅は全部白い花でした。紅い花の梅は見たことが無いです。
その代わり、沖縄の桜はこの梅みたいにピンク色ですよ。私、本土の桜を初めて見た時
あんまり違うので驚きました。ソメイヨシノっていう品種なんですね。」
「そう、沖縄の桜は山桜に近い緋寒桜だって聞いたから、全然違うだろうね。」
それから、また暫く黙ったまま花を見つめた。
「Rさん、体が冷えると傷に悪いと思います。もう、戻りましょう。」
「瑞紀ちゃん、御免。本当は車でドライブとか出来たら良いんだけど。」
「いいえ、私、今日はとても楽しくて嬉しいです。まるでRさんのお嫁さんに...
御免なさい、私、勝手にお嫁さんとか。」
「まあ、それは構わないけど。ノロになる理由を話したらお祖母さんに怒られないかな?」
「私も、怒られるかもって思ってました。でも、笑われました。」 「え、笑われたって?」
「去年の夏休みに、一週間お休みを頂いて沖縄に帰ったんです。その時、祖母に話しました。
そしたら『瑞紀はあの人に似たんだね。』って。その後で色々な事を話してくれたんです。」
「『あの人』って誰のこと?」 その人はこの少女とどう関わっているのだろう。
話の続きはリビングのソファで、少女が淹れてくれた温かいお茶を飲みながら。

778 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:26:05 ID:tG/ByxVg0
 「その人は、祖母の夫です。祖母はノロだから籍は入れなかったそうですけど。」
「じゃあ、瑞紀ちゃんのお祖父さんでしょ?『祖母の夫』って、何だか他人行儀だね。」
「早くに亡くなったから私はその人の顔も知らないんです。
でも、祖母の話を聞いて。その人のことが好きになりました。
その人は祖母に『自分は必ず村で一番の漁師になるから、そしたら自分と結婚して下さい。
絶対にあなたに恥ずかしい思いはさせません。』って言ったそうです。
『貧乏だから勉強では身を立てられない。でも必ず村一番の漁師になって、
あなたがノロを辞めてからも良い暮らしが出来るようにしますから。』って。」
勉強と漁師、そのうち漁師を選んだと言うことは。
「もしかして、その人は年下、だったのかな。」
「はい、3つ年下だって言ってました。父親から習ったり、自分で必死に工夫したり、
19歳の時には、もう村で一番の漁師と言われるようになったそうです。」
「それでお祖母さんに結婚を申し込んだ?」
「はい、村中大騒ぎだったって言っていました。それで5人の子供に恵まれて。
その人は早くに亡くなったし、結局籍は入れられなかったけれど、とても幸せだったって。」
「後継者がいたら、ノロを辞めて籍を入れられたかも知れないね。」
「はい。でも、その人が亡くなった後、自分がノロを続けていて良かったと、
後継者が現れなくても自分は死ぬまでノロを続けようと、そう思ったと言ってました。」
「お祖母さんはどうしてそんな風に?」
少女は俺の眼を真っ直ぐに見つめて微笑んだ。
「その人は病気になったあと、ずっとあの集落の海岸を恋しがっていたそうです。
入院してからも『元気になって集落に戻り、せめてもう一度海岸を歩きたい。』と。」

779 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:26:38 ID:tG/ByxVg0
 「もしかして、お祖母さんは自分の手で?」
「はい、その人が生まれて育ったあの集落と、その人が大好きだったあの海岸を
死ぬまで守ると決めた、そう言って笑っていました。」
「じゃあ、瑞紀ちゃんはお祖母さんにも似たんだね。」
少女はにっこり笑って頷いた。
「ノロになるための修行を始める前に、祖母とそんな話が出来て本当に良かったです。
好きな人のために、好きな人の暮らす土地を護るために、私はノロになりたい。
それは決して間違っていないと、自信が持てましたから。」
何と爽やかで、そして鮮やかな覚悟だろう。その言葉を聞いているだけで胸が震える。
俺は、間違っていたのかも知れない。
最初の頃の悪い印象をいつまでも引きずって、今の少女の姿を見ようともしなかった。
少女は真摯な態度で範士に師事し、新たな覚悟で『今』を生きてきたというのに。
これが、姫とSさんが俺に伝えたかった事。少女の気持ちを受け入れるにしろ拒むにしろ、
少女の『今の姿』を見てからにするべきだ。そうでなければ悔いが残る。
後で気が付いたとしても、取り返しがつくかどうかは分からないのだから。
「すごいな。瑞紀ちゃんは本当に変わったね。初めて会った頃とはまるで別人。
今の瑞紀ちゃんはキラキラ光って見える。何て言うか、すごく素敵だよ。」
「ありがとう御座います。とても嬉しいです。
でも、私はSさんやLさんのように奇麗じゃないし強くもないですから、未だ全然。
あ、もうこんな時間。すぐにお昼ご飯準備しますね。」

780 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:29:43 ID:tG/ByxVg0
 キッチンに向かう少女の後ろ姿に、何故か桃花の方様の後ろ姿が重なった。
Sさんよりもむしろ姫に似た細い体に、あのお方は一体どれ程の力を秘めているのだろう。
以前Sさんから聞いた事がある。『桃花の方様は一族最強の術者であることが珍しくない。』
鬼門を封じ、当主様を御護りする最高位の術者。
確かに、当主様に匹敵する力を持っていなければ務まる筈がない。
御二人は大恋愛の末に結ばれたと、遍さんは話してくれた。
もちろん大変な資質を持っておられただろう。しかし、その資質も磨かなければ光らない。
それどころか、相応の修行をしなければ、強すぎる力はむしろ災厄のもとになる。
桃花の方様になると決めた時、そのために厳しい修行をなさった時、
やはり当主様への愛情が一番の力になった筈だ。
好きな人への想い、こうなりたいという夢が力になる、それは決して悪いことではない。
ならば今、少女の気持ちを拒むと決めて、その夢を断つのは正しいことだろうか。
以前、Sさんが『お勉強』の時間に教えてくれたことがある。修行を続ける上での注意点。
例え叶わずとも、強い夢は力になる。しかし、夢を見ている自分に酔ってはならない。
ふと、姫との初めてのデート、あの海岸へドライブした時の情景が浮かんだ。
『Rさんに好きと言ってもらえるなら、私、騙されていても構いません。』
この一年余りで少女は精神的に大きく成長し、それでも真剣な気持ちで俺を好いてくれている。
なら俺も、心に芽生えた彼女への『好き』を認めれば良い。
『妹』か、『恋人』か、それは全く別の話だ。
『やっと、分かってくれたんですね。瑞紀ちゃんのことになると、ホントに鈍いんですから。』
耳許で囁く、姫の声が聞こえた気がした。

781 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:33:08 ID:tG/ByxVg0
 昼食の後、一緒に食器を洗ったり、テレビを見ながら他愛のない話をしたり。
時間は穏やかに過ぎて、4人が帰ってくる時間が近づいていた。
「もうすぐ、皆が帰ってくる時間ですね。」
「外で帰りを待とう。もう一度、梅の花を見ながら。」
「それは良いですけど、暖かい服を着て下さいね。」 「分かった。」
俺たちは並んで梅の花を眺めた。傾いた日差しの中で、梅の花は輝くように美しかった。
「さっきの話だけど。」 「はい?」
「『私はSさんやLさんのように奇麗じゃないし強くもない。』そう言ったよね?」 「はい。」
「それは違うと思う。瑞紀ちゃんはとても奇麗だし、強い。
そしてこれからもっと奇麗になるし、もっと強くなれる。」
「でも、Rさんは...」 「瑞紀ちゃんが、君が、好きだよ。」 「え?」
「今日、俺は君が好きになった。でも、好きになったばっかりで、
それがどういう『好き』なのかまだ分からない。
友達として好き、う〜ん、これは違う。妹として好き、近いかも。でも、正直分からない。
だから、そうだな。瑞紀ちゃんが沖縄に戻っても、時々は一緒に暮らそう。
俺が沖縄に旅行しても良いし、夏休みに瑞紀ちゃんが此処に来てくれても良い。
これから過ごす時間の中で、お互いの『好き』を確かめて、それをゆっくり育てていきたいから。」
「ありがとう、御座います。とっても、嬉しいです。私。」

782 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:34:42 ID:tG/ByxVg0
 「25歳じゃなくても良い。ノロになれたら、直ぐに相談においで。
もちろん良い返事が出来るとは限らないよ。どんな返事になるのか、
そもそも僕がその時まで生きていて返事が出来るのか、それは誰にも分からないから。」
「はい、私、必ずノロになります。ノロになって...」
何の躊躇いもなく、不思議な程スムーズに俺の体と両腕が動いた。
少女の正面にまわり、その体をそっと抱きしめる。微かに、薔薇の花の香りがした。
少女の髪も上着も、ひんやりと冷たい。しかし、抱きしめていると、胸の奥が温かくなる。
あの晩、炎さんの術で操られたこの娘が俺を抱き締めた時の感覚とは対極の、温もり。
「修行、頑張って。いつも、応援してる。」 「はい。」

783 『玉の緒(下)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:35:55 ID:tG/ByxVg0
 少女の涙が乾ききらないうちに、聞き慣れたエンジン音が聞こえた。近づいて来る。
俺は少女の手を取って玄関先に戻った。白いマセラティがガレージに滑り込む。
ガレージの中からドアの閉まる音と翠の声が聞こえた。
どのみち姫とSさんは俺と少女の『成り行き』を知りたがるだろう。
だが、それを口に出して説明するのは照れくさい。それならいっそ。
ガレージの入り口に4人の姿が見えた。
左腕を少女の肩にまわし、しっかりと抱き寄せる。それから4人に大きく右手を振った。
「Rさん、みんなが。」 「疚しいことじゃないし、これなら後で説明する必要がないからね。」
姫とSさんの驚いたような笑顔。 翠が駆け寄ってくる。
「おとうさん、おとうさんもみずきちゃんとなかよくなったの?」
「そう、瑞紀ちゃんは素敵な女の子だから、お父さんも瑞紀ちゃんが好き。
翠も瑞紀ちゃんのこと、好きでしょ?」
「うん、みどりも、みずきちゃんだいすき。だ〜いすき。」

『玉の緒(下)』 了

784 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:37:18 ID:tG/ByxVg0
藍です。(結)の投稿まで少々お時間を頂きます。

785 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:55:17 ID:tG/ByxVg0
『玉の緒(結)』

 少女が沖縄に帰ってから暫くの間、お屋敷の中は少し寂しくなった。
しかし日が経つにつれ、少女を恋しがってぐずりがちだった翠も少しずつ元気になり、
俺の傷も順調に回復して、お屋敷は元の賑やかさを取り戻しつつあった。
そして、庭の桜が咲き始めた頃。久し振りに川の神様のお社へ参内すると決めた。
立ち入り禁止期間に参内を休んだのは3回。皆で相談して参内するのを決めたのは一昨日。
その後も翠が神託を受けなかったのだから、既に立ち入り禁止は解けているのだろう。
俺が軽の4駆を運転し、Sさんと二人で出発した。車の運転は本当に久し振りだ。
Sさんは助手席の窓を全開にして、山道の景色を眺めている。 少し寂しそうな横顔。
「炎さんと紫さんのことを考えてる。そうですよね?」
Sさんは俺の顔を見て少し笑った。「正解。じゃ、どんな風に考えているかは?」
「もう少し炎さんに、優しくすれば良かった。あの縁談も、もう少しちゃんと聞けば良かった。
こんな感じ、で、どうですか?」
Sさんは眼を丸くして俺を見た。「驚いた。術も使ってないのに、どうして?」
「炎さんはあの晩、僕に紫さんの事を話してくれました。
どんな内容だったか、桃花の方様の術をSさんも聞いていたんですよね?」
Sさんは小さく頷いた。

786 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:56:00 ID:tG/ByxVg0
 「『Sが俺との縁談を断ったのを知った時、紫は『自分を妻に』と言った。』
紫さんはずっと炎さんを愛していたのに、何故縁談を持ちかける前でなく、
Sさんが縁談を断ったのを知った後で『自分を妻に』と言ったんでしょうね?
もし、Sさんが縁談を承知したら、自分の想いは永遠に報われないと分かっているのに。」
Sさんは黙ったまま、俺の横顔をじっと見つめている。
「答えは簡単です。Sさんに縁談を断られて、炎さんはとても落ち込んだんですよ。
他の人には弱みを見せなかったでしょうけれど、
紫さんはとても炎さんの様子を見ていられなかった。
だから、秘めてきた自分の思いを思わず口にしたんです。
Sさんもそこに気付いて、炎さんが自分に恋愛感情を持っていたことを知った。
それなら、もう少し炎さんに。あの縁談も。そう思うのは当然だろうな、と。」
そう、炎さんの気持ちを知ったのならそれは当然。もちろん俺自身を卑下しているのではない。
あの縁談には術者を生み出す計画だけでなく、炎さんのSさんに対する恋慕の情が
含まれていた。今回の事でそれがSさんに伝わった。むしろそれが嬉しいと思う。
自分たちの出自が特殊であること、それ故に大き過ぎる期待を背負って生きること。
炎さんたちは常にそれらと向き合って来たのだろう。
せめてその気持ちだけは、Sさんに知って欲しいと思う気持ちになっていた。

787 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:57:19 ID:tG/ByxVg0
 Sさんは右手をそっと俺の左手に重ねた。
「半分正解。私、もう少し炎に優しくすれば良かったって、縁談もちゃんと聞けば良かったって、
確かにそう思った。でも、そう思っただけ。今と違う自分を望んではいない。
炎と紫の魂が『不幸の輪廻』に取り込まれたとしたらとても悲しいし、
何か自分に出来ることはないかと考えるわ。きっとあなたも、Lも同じ気持ちだと思う。
ただ、炎にもう少し優しくしていても、ちゃんと縁談を聞いていても、何も変わらない。
私の答えは1つ。何があっても、私には、あなただけ。」
「有り難う御座います。Sさんはそう言ってくれると思ったから、嫉妬はしませんでしたよ。」
「ふふ、やっと、自分に自信を持ってくれたのね、嬉しい。
でも、答えは未だ半分残ってる。残りの答えを聞かせて頂戴。」
Sさんも俺と同じ疑問を持った筈だ。Sさんなら疑問の答えが分かるかも知れない。
「どうやって紫さんは炎さんに『あれ』の存在を伝えたのか。それを考えていた。どうですか?」
「お見事、正解。」 「Sさんならその方法に心当たりが?」
「いいえ。紫の適性もあわせて考えて見ても、思い当たる術は無い。
炎と紫の絆が鍵だと思うけれど、その場の経緯が分からないとそれ以上は。」
「紫さんの件についての調査は進んでいるんでしょうか。」
「まだ調査は継続中だけど、おそらく『あれ』は依頼人の中に潜んでいたのね。
一族に害をなすには、力のある術者の中に潜み、機会を待つのが早道だから。
紫の中に入り込んだ『あれ』は依頼人を殺し、その魂を『不幸の輪廻』に送り込んだ。
当然、紫が業に呑まれたと誰もが思うし、紫より力のある術者が派遣される。」

788 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:58:07 ID:tG/ByxVg0
 「じゃあ、最初からそれが。」
「そう、『あれ』は宿主の力を自分の力の触媒として使う。
だから、どれだけの力が使えるかは宿主の力の強さに依存する。
炎クラスの術者が宿主なら、どんな術者にも力で劣ることはない。
それに、休眠を続けていれば、何時かは当主様に接触する機会も巡ってくる。
炎の中で休眠し、チャンスになれば目覚めるようにトリガーをセットしてあった。完璧な計画。
でも、どうしてか、紫は『あれ』の存在に気付いてそれを炎に伝えようとした。
そして、炎も気付いた。自分の中に『何か』が入り込んでいる。
しかも、自分が全く気付かないうちに。それなら入り込んだのは間違いなく『あれ』。
そうでなければ、そんなに容易く入り込まれる筈がない。
ただ、気付いたとしても、どう対処すべきか。炎は焦ったでしょうね。」
「たとえば炎さんがその存在を『上』に伝えようとすれば、『あれ』が目覚める訳ですね?」
「そう、その名やその存在を口にすれば、『あれ』が目覚めて自分は完全に乗っ取られる。
炎の力を触媒にすれば、『あれ』は一族を壊滅させるほどの力を使えたでしょうね。
だから、炎は必死で考えた。その答えがあなた。人質を取ってでもあなたを呼ぶ、と。」
心に幾重にも鍵を掛けたまま、それでも会話を通して『あれ』の存在を感知出来る適性。
さらに『あれ』を滅ぼすことの出来る神器の持ち主。 だから、俺。
そう思ったから、炎さんは俺の適性とあの剣に全てを賭けた。
もちろん俺がそれに気付いた瞬間、自分の命は無いという覚悟の上で。

789 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:58:41 ID:tG/ByxVg0
 しかしその存在に俺が気付いた時、『あれ』は俺と炎さんを嘲笑っていた。
「どうして『あれ』は、さっさと僕を殺さなかったんでしょうか?」
「まずは様子見。炎とあなた、どっちの中に潜んでいるのが有利なのか。
次に油断、『たかが人間に何が出来る』。そう、見くびっていたのね。」
此所まで話してくれたのだから、もう1つ、質問しても良いだろう。
「ずっと、疑問に思っていたんですが。」 「何?」
「炎さんは、僕があの術で『あれ』に対処すると予想していたんでしょうか?
もしそうなら、僕があの術を使える事を、あらかじめ知っていた事になりますね。
Sさんは暫く窓の外を見つめた後、小さく溜息をついた。
「今考えれば、あなたが対処する方法はあれしかなかった。
でも、それはあくまでも後知恵。私があなたの立場だったとして、
あの術をあんな風に使って対処する方法を思いついたかどうか分からない。
炎がそれを期待していたとしたら、あなたと炎には共通点が有ったということ。
術に対する感覚、極限状態での行動や考え方、そしてその覚悟も。」
言われてみれば、炎さんも俺も、Sさんを好きになった。確かに似ている部分がある。
あの晩、炎さんは俺を『いちいち気に触る』と言った。
あれは、一種の近親憎悪から出た言葉だったのだろうか。

790 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 18:59:11 ID:tG/ByxVg0
 「私の得意な術。だからとうにあなたには教えてある、炎がそう予想してもおかしくない。
でも実際には、私があなたにあの術を教えたのは事件の前日、ギリギリのタイミング。
私、ずっと考えてたの。どうしてあの日、あなたにあの術を教えようと思ったのか。
でも、分からない。不思議、としか言いようが無い。それにもっと不思議なのは。」
「その前の晩、僕がどうしてあの夢、予知夢を見たのか、ですね?」
「そう、その夢を見たからあなたはあの術を試す気になった。まるで予行演習。
一度も試した事がない術が、精神的に追い込まれた状況で成功する確率はほとんど無い。」
確かに、偶然で片づけるにはあまりにも。その直後、ある名前が脳裏に浮かんだ。
『憶えておいて欲しい』と言われ、一生忘れないと誓った名前。
何故その名前が浮かんだのか、全く分からない。
だが、その名前を思い出したのだから、俺は大丈夫。そう思った。
俺の魂が穢れているなら、その名前を思い出せる筈がない。
『本当は俺の魂は穢れている。しかしSさんと姫の気持ちを汲んで、
当主さまと桃花の方様はそれを『上』には隠したのではないか。』
心の隅にずっと蟠っていた不安が跡形もなく消えてゆく。そう、俺は大丈夫。
だが、一連の信じがたい幸運を『御加護』とし、単純に喜ぶことはできない。
もう1つ、最大の疑問が残っている。

791 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 19:00:34 ID:tG/ByxVg0
 「今回の幸運は偶然が重なった結果だったのか、あるいは御加護があったのか、
それは確かめようがありません。でも、絶対に確かめておかなければならないことが有ります。」
「何故『あれ』が現れたのか、どんな経緯で、誰が関わっているのか。そうでしょ?」
「はい、ただでさえ数少ない『あれ』の記録は、どれも200年以上前のもので、
しかも遠い昔に、神さまの御加護を受けた術者達によって、全て封じられている筈ですよね。」
あれから何度も、俺なりに図書室の記録を調べてみた。
『あれ』は悪霊というより、邪神に近い存在。高位の精霊が人間に害をなすように変化したもの。
だが、それらは既に封じられ、200年以上もその活動は確認されていなかった。それなのに。
「血眼になって『上』が調査してるのも、まさにそれよ。
『あれ』が封じられている場所を全てあたって、封印の状況を調べている途中。
その封印を破り、邪な契約を結んで一族を壊滅させようとした者がいる。
そう考えるのが一番単純な解釈だから。 それに『あれ』が焼き尽くされたということは、
契約は完成していない。契約の対価となる命を受け取るべき『あれ』が滅びたのだから。
つまり『あれ』の封印を破った者は、未だ生きている可能性がある。」
そこまで話すと、Sさんは微かな笑みを浮かべた。
「ただ、どんな力を持っていても、そう何度も封印を破ることは出来ない。
生きているとしても、今回の失敗でかなりのダメージを負っている筈。
あの後『不幸の輪廻』の活動は通常のレベルに戻ったみたいだし、取り敢えず一段落。
それは間違いないと思う。ただ、念には念を入れて、そういうこと。」

792 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 19:01:14 ID:tG/ByxVg0
 封印の場所を知り、それを破る力を持った者。
一族に害をなす計画を立て、術を使って『あれ』と契約した者。
依頼を装い、疑われることなく紫さんを呼び出した者。
Sさんは敢えて口にしなかったのだろうが、それらの条件を満たすのは術者だけだ。
しかも依頼の経緯を考えれば、1人で実行出来る計画だとは思えない。
一族に縁の術者たちか、あるいは別の系統の術者たちか。
どちらにしても、『上』の調査の結果によっては、今後更なる対応が必要になる。
大がかりで、しかも、かなり気の重い。いや、今それを考えるのは止そう。
全ては『上』の調査次第。その結果が出ない限り、俺たちに出来ることはない。
ただ、細心の注意を払って日々を過ごし、自分自身と家族を守るだけだ。

793 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 19:02:02 ID:tG/ByxVg0
 車を停め、久し振りに参道の入り口に立つ。 俺は息を呑んだ。
2月の2回。3月の1回。計3回の祭祀と掃除の日は『立ち入り禁止』で参内していない。
あちこち、たくさんの落ち葉が積もっているだろうと思っていたのだが...
参道にも、手水舎とその周辺にも、全くと言っていい程落ち葉は落ちていない。
そして、いつも俺が落ち葉を掃き集める場所に、落ち葉の山。
「これ、どういうこと...一体誰が?」 Sさんも落ち葉の山を見つめている。
強い風が吹けば、直ぐに落ち葉の山は崩れる。ということは。
「Sさん、ちょっと拝殿と本殿の様子を見てきます。」
俺は小走りで拝殿に向かった。もしかしたらまだ。
拝殿、瑞垣の外から様子を見る。やはり落ち葉は落ちていない。本殿は?
本殿の正面。瑞垣の中に入ると、女の子の声が聞こえた。
「兄様、こっちよ。」
「もう、お仕事は済んだのだから、早く帰らないと。」 「嫌だ。少し遊びたい。」
パタパタパタ、軽い足音が本殿の右側から近付いてくる。
「あっ!」
小さな、5〜6歳の女の子が、俺の右側、3m程先で派手に転んだ。
白い着物。少しの間を置いて、大きな泣き声。
思わず駆け寄ろうとしたが、何とか立ち止まった。
女の子の後を追ってきたのだろう。12〜13歳の少年が女の子を抱き上げる。
「だから言ったろ。お社で走ってはいけないと。」
次の瞬間、女の子を抱いた少年と目が合った。女の子と同じ、純白の着物。

794 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 19:06:59 ID:tG/ByxVg0
 少年は、俺の目を真っ直ぐに見つめた後、深く頭を下げた。
「このお社の祭主様だよ。紫、ご挨拶なさい。」
...やはり、そうだった。あの夢の中の会話が鮮やかに蘇る。
少年が女の子の涙を袱紗で拭う。女の子は一度鼻をすすってから小さく頷いた。
「祭主さま、紫と申します。今日はお仕事を仰せつかったので、兄様とこちらに参りました。」
2人に歩み寄り、ゆっくりと跪く。 少年と女の子は澄み切った笑顔を浮かべている。
「ご助力頂き、心から感謝致します。今後機会がありましたら、是非よしなに。」
一礼して顔を上げる、既に2人の姿はない。
立ち上がり、振り返ると、すぐ後ろにSさんが立っていた。
「Sさんの答えは正しかった。僕は、そう思います。」
Sさんは大きく、何度も頷いた。奇麗な眼が赤く潤んでいる。そっと、小さな肩を抱いた。
「あの晩の出来事。眼が覚める前に不思議な夢を見たんです。
川の神様が2人の魂を救って下さる夢、それはきっと正夢だと、ずっと信じていました。」
「もし、私が炎を受け入れていたら、こうはならなかった。
あの縁談を断って、あなたと出会えたから、あなたを愛したから、こんな風に。
炎と紫にとっても、これはハッピーエンド。ね、そうでしょ?」
「はい、間違いなくハッピーエンドです。」 「後でLにも話して上げなきゃね。」
「今日は久し振りに僕が夕食を作ります。腕によりを掛けて。
みんなで美味しいものを一杯食べて、元気出しましょう。」

795 『玉の緒(結)』 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 19:08:02 ID:tG/ByxVg0
 鎮守の森、廃村の跡、彼方此方で桜の花が咲き始めていた。
厳しい冬が終わり、もうすぐ新しい春がやって来る。Sさんと、姫と出会って5度目の春。
家族5人。そして、沖縄に帰りノロになるための修行を始めたあの少女。
それぞれの胸の中に、きっと、暖かい春の風が吹いている。

『玉の緒』 完

796 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/17(金) 19:15:28 ID:tG/ByxVg0
皆様、今晩は。再び藍です。
頂いているコメントに返信もしたいのですが、体力が持ちません。
少し(?)眠って、その後返信が出来るかどうか確かめます。
取り敢えず741様の投稿の流れを切る事が無かったので安堵しました。
済みません、それではこれで。

797 名無しさん :2014/01/17(金) 22:08:11 ID:c8u1.WMc0
良かった・・・祟られ屋さん生きてたんですね。

落ち着いたら是非お話聞かせてください

798 名無しさん :2014/01/17(金) 23:32:00 ID:c8u1.WMc0
藍さん「お仕事」お疲れ様でした。今回のお話は何故か身を切られるような印象でした。
お手配になったら逃げれない、でも自分は生かされているなかで最大限の自分の意思を体現する。
人間の魂の段階が上がる事を神様は望んでいるという話を聞いたことがありますが、やっぱりそうなのかな・・

「あれ」はLさんの中に入る予定だった物ですかね。だとしたら因果は既に解き放たれていてKさんが亡くなった後も詰め切れなかったと見るべきですかね。
代に憑依させる存在のレベルは、御影さんレベルのもので、それを使って党首さんに戦いを挑み、勝利の後に、分家が一族の本流として勝鬨をあげる。黄龍さえ手に入れば掌握は可能。分家さんの反乱はそんな計画かと思ってました

炎さんが紫さんの魂を何らかの形で託すのだと思っていましたが見事に予想が外れました。もっと壮絶で悲壮で気高かったです。

有難うございました。

799 名無しさん :2014/01/18(土) 02:22:05 ID:kh.FBvIU0
小さい紫の登場に、思わず涙が。

縁というものの不思議と巡り合わせに、何か考えさせられました。
藍さん、作者さま、ありがとうございました。
どうぞゆっくり休んでくださいね。

800 名無しさん :2014/01/18(土) 13:36:00 ID:fjt5POvg0
どうして炎さんは言霊の力を欲したのか。それを考えていたのですが

全身全霊で想いを届けたかったんですかね。そう思います。

801 名無しさん :2014/01/18(土) 16:09:44 ID:vgTS9ka20
藍さん知人さんありがとうございました。
今回もさらに面白くて怖くて深く心にしみる素晴らしい物語だと思います。
これからもう一回読み返します。

802 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/18(土) 23:16:32 ID:5YeLffqk0
皆様今晩は、藍です。
仮眠をするつもりが、気がついたら日付が変わって午後1時過ぎ。
小一時間、弟に小言を言われて本当に参りました(心配掛けて御免)。
まあ、気にせず頑張ります。それより、『玉の緒』の投稿が終わり、
次の作品がどうなるのか全く分からないのが気がかりです。

>>719
コメント感謝致します。
七面山、いつか機会があればと思いますが、
立ち入りを許可して頂けるかどうか自信がありません。

>>735
>>736
>>798
>>800
「徳島さん」でしょうか?(間違っていたら御免なさい)
いつも丁寧な、深いご考察、感謝致します。
楽しいコメント。子の名前で「中性」、深夜に大笑いして弟に怒られました。
かと思えば、このお話でRさんが炎さんの優しさに触れること、
炎さんの想いがSさんに届いたこと、見事な予想で、いつもながらご慧眼に感服です。
この事件の首謀者は「分家」と関わりがあるという点、私も同意見なので、
今後の展開を期待したいと存じます。

803 ◆iF1EyBLnoU :2014/01/18(土) 23:17:45 ID:5YeLffqk0
>>737
コメントありがとうございます。
(中)以降の展開がご期待を裏切っていなければ良いのですが。

>>738
いつも温かいコメント感謝します。
詳しい事情は分かりませんが、残りを早く投稿出来て良かったです。
(中)以降はお楽しみ頂けたでしょうか。

>>799
縁と巡り合わせの不思議さ、同感です。
それから、紫ちゃんのご挨拶の台詞も印象的でした。

>>801
読み返して頂くというのは本当に嬉しいコメントです。
この作品の投稿が終了して、次の作品がどうなるのか全く分からなくなりました。
一緒に次の作品を期待出来ればと存じます。

804 と、徳島です :2014/01/19(日) 00:25:14 ID:VVmb9qIY0
藍さんこんばんわです。私句読点とかが独特なのですぐに解ってしまうらしいです(><)開き直ってコテハンをば。

七面山は現在では禁則地ではありませんし、女人禁制でもありません。普通にカップルが頂上でコーヒー沸かして飲んでます。生臭ものだけは持ち込まなければOKじゃないですかね。
本当は前修行は13番を読めばよかっただけなのに、何故かスイッチが入ってしまい、メールをよく読まずに飛び出して登ってしまったのが実情です。
身延山(本山)、七面山(修行の御山)はセットなので七面山下山後に超特急でロープーウェイに乗り込み、両方とも1日で登ってきました

正直に言いますと、予想は本当は大外れでして(汗)業に飲まれる事=悪い存在に乗っ取られる、と思ってたので、厳密には両者は違うのですね
監視がつく前に炎さんが外法を使って妹さんをサルベージし、Rさんに託す。そんな展開を「第一希望として」考えてただけです。だからお子さんの名前を考えてました
別の予想で、業的に考えたら、外法を既に使ったSさんも、それによって生まれた緑さんもまずいんじゃないの?と。Sさん生きててほしい派の私としては困った訳です。
まさかの炎さんが亡くなるとはショックです(TT)
しかし、「深淵を覗くものは」と書いてた自分が怖い(汗)これはびっくりさせてしまったのではないかと気を揉んでました。

白龍さんがさりげなく出てきましたね。あとは青竜さんだ。また大きな課題がありそうですね。

PS:お話の投下が「お仕事」になられたようですが・・わ、私の書き込みが原因になってなければいいのですが

805 名無しさん :2014/01/19(日) 00:35:52 ID:EKDX4HS60
途中で既にウルってしまってたけど、最後の最後でこんなことが。

ハーレム状態は苦笑だけど、参りました。

806 枯れ木も山の賑わい :2014/01/19(日) 09:33:57 ID:v9goFvnw0
 16時間以上、ピクリともせずに寝ているのを見たら心配するのは当たり前。
しかも昨夜は居間のPCの前で変な声で笑ってるし、もう心臓が止まるかと。
でも最近は、前の仕事してた時より生き生きしてるからOK、で良いのかな。
まだ居間で毛布にくるまってるこの寝坊助が、今日は何時に起きるのか分かりませんが。

>>800
「どうして炎さんは言霊の力を欲したのか。」
 「言の葉」の適性、「言霊」の力を持つ術者は久しくいなかったという事なので、
もしもの時のために、炎さんはそれを会得しておこうと思ったと解釈してました。
でも、Sさんへのプロポーズのためだと考えた方が、良い感じですね。

>>805
「ハーレム状態は苦笑だけど」
 初めからSさんLさん、どちらか一人に絞った設定なら一般受けしそうなんですが、三人目となると。
兄妹婚の話もありましたし、共感してくれる方々はほとんどいないでしょうね。

807 と、徳島です :2014/01/19(日) 20:04:49 ID:VVmb9qIY0
おお、枯葉さん

小一時間(爆笑)お疲れ様でした。藍さんって、楽しい気分になると、静かな雰囲気の処でも話し声が大きくなる方の様な気がしますWW
ブレーキ役が必要なんですよね、そういう方は。

私?ハハハハハ(汗)

お話の中で、ノロの漁師の旦那さんの話が出ましたが、やっぱり技術を習得し、立派な術者になって成し遂げたい事の中にSさんの事が
あったような気がします。

物調面の中に鋼の意思を持ち、Rさんに似た方と言う事ならそうなるでしょうね。

はっ?なん・・・だと?炎さんもセーラー服が好きかも・・・だとWWW

808 と、徳島です :2014/01/20(月) 12:31:31 ID:TPfEelj.0
>>806

>「初めからSさんLさん、どちらか一人に絞った設定なら一般受けしそうなんですが」

はっ・・・・。すっかり慣らされちゃって違和感感じなかったとは言いにくい。
(まあ、昔の術者集団は力の維持の為に一般的にこの手法をとってたらしいですね)

はっ・・・・。本音と建前が逆にWWW

「中性」って男でも女でも通用する名前って事で考えてたのですが・・・そのあとの「炎さんの想いが通じますように」
と結構いい事書いたつもりなのですが、その前で吹き出したとなると、そこにお姉さんに突っ込んでほしかった気がしますWW

809 枯れ木も山の賑わい :2014/01/21(火) 20:55:17 ID:tqUwSbrY0
>>807
>>808
 ブレーキ役と言われればそんな気もしますね。
端から見てる分には面白い人ですよ。良くも悪くも「極端」。
夢中になると3日位寝ないで何かやってるのは普通だし
逆に一週間位ボケーッとして反応が薄い時もあります。
小さい時からオカルト系への興味も強かったです。
何が見えるのか時々変なこと言って周りを驚かせて
それがまた妙に当たるので母が困ってたのを覚えてます。
事情があって二人で暮らすようになってからは益々そんな感じ。
こんなんで良くこの仕事やってられるなと思ってたので
ちょっともったいない気もしますが、今の状態は正直納得です。

 自分としてはこれらの物語の設定に違和感はありません。
何時か書いたような気もしますが「誓詞」を読むと
少子化の影響を受けているという辺り、妙にリアルに感じますから。
でも、まあ現代の感覚とは盛大にずれてますから
これが原因で入り込めない人がいるだろうし、それが残念かなと。

810 と、徳島です :2014/01/21(火) 23:48:19 ID:fvB3gyhM0
>>809

こんばんわです。明日は5時起きして後輩と一緒に冬山登山の私です。山頂まで行ければ小さなお社にお参りできるのでルンルンです。

>「 自分としてはこれらの物語の設定に違和感はありません。」

わはは、何か見透かされた感じで(恥)なんだかホッとしました。大分私もこの物語に感情移入があるようです

うーむ、藍さんなのですが、ちょっとうっかりお稲荷さんとかにお参りしちゃうとダメな方ですか?知人にもそういう人が居るものですから何となく。
だから七面山登山に許可が居るのかと。

今回の物語は何度も何度も、出会いと同じくらい読み返しています。何かが浮かびそうで掴めません

うーん、誰かが幸せになるお手配かも。物事の考え方、受け止め方として、今の自分に当てはめてとても厳しいものを感じますが、気付いたら感情を乗り越えてほしいとだけ。

えっ?私? もう泣きそが入りそうでWWWW

811 名無しさん :2014/01/23(木) 11:38:30 ID:1a4RU8w60
何のために雑談スレがあるのか

812 名無しさん :2014/01/23(木) 18:16:07 ID:rVGAa.3w0
ここは雑談禁止だったの?

813 名無しさん :2014/01/23(木) 18:30:44 ID:h1ZOoYSY0
雑談が続くようならそれなりのスレに移動すべきだと思うよ

814 名無しさん :2014/01/23(木) 19:57:48 ID:cS3hh6mYO
感想じゃないの?

815 名無しさん :2014/01/23(木) 20:29:23 ID:rVGAa.3w0
雑談スレがあるから、雑談するなら
そのスレですべきとはならないよ

816 名無しさん :2014/01/23(木) 20:35:30 ID:rVGAa.3w0
なんかわかりにくくなったと思うので、書き直しますね

雑談スレがあるから、雑談はそのスレですべきってことは無いと思う
書き込みのあったスレで語り合えるなら、それでいいと思うよ

817 名無しさん :2014/01/23(木) 22:24:48 ID:90NbCKUM0
内容に関する事みたいだし、雑談も問題ないと思うけど
怖い話スレで、雑談のみの人間がコテは止めて欲しい。

掲示板で不必要なコテがあふれると、そのスレッドが寂れるから。

どうしてもコテ名乗りたかったら、それこそ別スレでやって欲しい。

818 枯れ木も山の賑わい :2014/01/23(木) 22:49:36 ID:IK4pJuow0
 『雑談』の定義、難しいですねぇ。
『徳島さん』のコメントは雑談と言うにはあまりに深く、
物語に関する予想も不思議な位に的中していますが。
だからこそ責任を持ってコテで書き込む、問題無いと思います。
姉の書き込み通りなら、この後雑談自体減少していくと思うので、もう少しで自然消滅。
不愉快に思われる方には本当に申し訳ありませんでした。

819 と、徳島です :2014/01/23(木) 23:55:04 ID:CaLg51K20
>>813
>>817

ご意見頂戴しました。
一応、関係者様が出るまで一歩引いて静かにしておこうと思ったのです。お返事遅れましてすみません。

雑談スレですが、実はあまり書き込みの雰囲気が宜しくなくて。誘導と言うかそこで参加して頂くには忍びないという印象がありました。
それで、投稿者の方との対話はここのほうが良いかな?と思ったのです。時々サービスで謎解きもして下さるし、正直甘えもございました。

コテハンに関しましては、書き込みの件、確かに責任を持たねばならないという事と、投稿者様への負担が減ればという考えでした。

ご不快な思いをさせてすみませんが、このお話もあと少し。どうかご寛恕願えませんでしょうか?

皆の掲示板なので、心苦しいですが、最後までどうか良い雰囲気で。

820 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:32:08 ID:i66qlXSQ0
テスト
書き込めるか?
いつものようにコソーリと投稿させて頂きたいと思います。
ただ、久々に文章を書いたのでエラく長いものになってしまいました。
投稿自体も久々なので、手際よく出来るか判りません。
そして、本日、プロバイダーの機器点検?か何かでAM2:00より、断続的に接続が切れるらしいです。
一応5分割しました。
時間までキリの良いところまでという事でご容赦ください。

821 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:36:01 ID:i66qlXSQ0
バスルームで汗を流していると電話の鳴る音がした。
子機を持って来た妹の久子が強張った表情で言った。
「お兄ちゃん、電話よ。……木島さんって方から」
「そうか」
そう言って、俺は久子から子機を受け取った。
用件は判っていた。
3ヶ月近くの間、俺はこの時を待っていたのだ。
用件を聞いて電話を切り、俺は子機を久子に渡した。
俯いたまま子機を受け取った久子が、消え入りそうな声で言った。
「行くの?」
「ああ」
暫しの沈黙の後、久子が口を開いた。
「行かないで欲しい……ずっと此処にいてよ、お兄ちゃん!」
「そうは行かないだろ?……マミを迎えに行って遣らないと」
「私は嫌よ……行かせない。絶対に!
行かないで。……このまま、ずっと私の傍に居てよ。お願いだから。。。」

822 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:38:15 ID:i66qlXSQ0
「そう言う訳には行かないだろ?マミが待っているのだから」
「本当に?……あの娘とは、もう終ってしまったんじゃないの?」
久子の言葉は、俺の中にあった怖れを抉り出した。
「あの娘と関わったら、お兄ちゃんは、また、危ない世界に戻らなければならなくなるんじゃないの?
あんなに抜けたがっていて、やっとの思いで抜け出したというのに。
……私は嫌よ。あんな思いをするのは、もう絶対に嫌!」
久子は泣いていた。
「マミは家族だから、……お前の大切な妹だから、迎えにって遣らないと」
「それでも嫌。……私、あの娘には、もう2度と戻ってきて欲しくない。
判ってる。……私、酷い事を言っているよ。でも嫌なの!」
「何故? お前は誰よりも、アイツの事を可愛がっていたじゃないか。本当の妹のように。
お前、マミのこと、嫌いだったのか?」
「ええ、嫌いよ! お兄ちゃんと関わった女の人達なんて、みんな嫌いよ。最初からね!
マミちゃんも由花さんも、……会った事は無いけれど、……命懸けでお兄ちゃんを守ってくれた人だけど、アリサさんも!」
「何故?」
「理由なんて、……理由なんて無いわよ!
でもみんな、お兄ちゃんを不幸にする。お兄ちゃんを傷つけて、危険な目に遭わせる。
……あの人たちのせいで、お兄ちゃんはいつか命を落す。そんな気がしていたのよ!」

823 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:40:24 ID:i66qlXSQ0
「心配性だな。考えすぎだよ」
「はあ?何を言っているのよ!……実際に、2度も命を落し掛けているじゃないのよ!
……お兄ちゃんは、全然、判ってくれないんだね。。。
子供の頃から、お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、私も、……いつも心配していたわ。
いつか、……いいえ、明日にでも、お兄ちゃんが居なくなってしまうんじゃないかって。
二度と会えなくなっちゃうんじゃないかって……いつも怖かった。今でもね!
私達、家族なのよ? 本当の……偶には振り返ってよ。
あの娘の事ばかりじゃなくて、私のことも見てよ!……お願いだから。。。」
泣き出した久子を抱き寄せて、彼女の頭を撫でながら俺は言った。
「お前、相変わらず嘘が下手だな。
そんな事を言っても、本当は、マミのことを心配しているんだろ?」
「ええ。……それでも、……マミちゃんとお兄ちゃんは、……嫌」
「何故? ヤキモチか何かか?」
「そんなんじゃないわよ。……いいえ、それが全く無いとは言わないわ。
それでも、私は別に、お兄ちゃんが恋人を作ったり、結婚すること全てに反対と言っている訳じゃないのよ。
でも、マミちゃんは駄目。 あの娘は……お兄ちゃんと一緒に居るには、脆すぎる。傷付き易すぎる。
お兄ちゃんも弱い人だから、傷つき易い上に、立ち直りが遅いわ。
あの娘に何かがある度に、あの娘の事で傷ついて、いつまでも自分を責め続ける。
由花さんやアリサさんみたいにね。
お兄ちゃんの相手は強い人じゃないと。……祐子さんみたいな。
祐子さん、……私のせいで駄目にならなければ、お兄ちゃん達、今頃。。。」
俺は、語気が荒れそうになるのを抑えながら言った。
「お前は、何も悪くない。 それに、祐子は同級生で、ただの昔の勉強仲間だよ。
それ以上でも、それ以下でもない」

824 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:42:36 ID:i66qlXSQ0
マミは、三瀬と迫田の暴力と、醜い男の欲望に晒され続けて、今尚深いトラウマを抱えたままだ。
そして、持ち前の気丈さで人に悟られまいとしているが、久子もまた、マミと同様の男性恐怖や嫌悪を抱えている。
久子が、マミを引き取る事を俺たちの両親に強力に働きかけてくれたのは、同様の心の傷を抱えた者同士だったからでもあるのだろう。
久子もまた、学生時代に顔見知りの男に襲われ、深く傷つけられた経験があるのだ。
だが、久子のトラウマの原因は、犯人の男よりも、むしろ俺自身の『狂気』だったのかもしれない。。。
 
まだ、ストーカーという言葉も一般的でなかった頃の事だ。
久子は2年以上に渡って、中学時代の同級生による執拗な付き纏いを受けていた。
ストーカー規正法もまだなく、相手の保護者に再三抗議したが、その男の付き纏いが止まる事はなかった。
やがて俺は一浪、久子は現役で大学に進学し、地元を離れた。
俺たちは家賃の節約も兼ねて、同じ部屋に同居して大学に通学した。
地元を離れて油断していた俺たちは、ストーカー男の存在をほぼ忘れかけていた。
そんな時に事件が起こった。
祐子たち勉強仲間と自主ゼミを行った後、俺は祐子に誘われて彼女の部屋に寄って、予定より1時間ほど遅れて帰宅した。
点いているはずの部屋の灯りは消えていた。
医学生だった久子は、急に帰宅時刻が遅くなる事も少なくなかったので、特に不審には思わなかった。
だが、玄関のドアの鍵が開いていた。
部屋に入ると玄関先にスーパーのレジ袋と中身が散乱していた。
部屋の奥から人の気配がする。
照明のスイッチを入れて、「久子?」と声を掛けた瞬間、暗いままの奥の部屋から誰かが駆け出してきて俺にぶつかった。
男の襟首を掴んで奥の部屋を見ると、半裸状態の久子が海老のように体を丸めて横たわっていた。
俺は全身の毛が逆立つのを感じた。
そして次の瞬間、逃走しようとした男に俺はナイフで刺されていた。

825 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:44:36 ID:i66qlXSQ0
冬物の革のライディングジャケットのお陰で、出血は派手だったが、傷自体はそれほど深いものでは無かった。
ヌルヌルとした血の感触に、俺は逆上する訳でもなく、むしろ異様に冷めた精神状態になった。
左手で男の顔面を掴み、そのまま人差し指と中指を男の目に捻じ込み、思い切り握り込んだ。
グリッとした硬い手応えと共に、男は獣のような凄まじい叫び声を上げた。
本能的な行動だったのだろう、男は顔面を抑えたまま、玄関の方へ逃げていった。
玄関を出て、廊下の壁にぶつかりながら、階段の方へと逃げて行く。
階段の前に来たところで、俺は後ろから男の襟首を捕まえた。
そして、股間部を掴んで男を持ち上げると、頭から階段に投げ落とした。
男は、階段の中ほどに頭から落下し、そのまま転がり落ちていった。
騒ぎを聞きつけて出てきた、隣の部屋の女学生が俺の姿を見て悲鳴を上げた。
後日、聞いた話では、俺は血塗れで薄ら笑いを浮かべたまま立っていたらしい。
幸い、久子の激しい抵抗にあって男は行為には及んでいなかった。
だが、久子は頬骨と肋骨を折る重傷を負わされ、数針縫う切創も負っていた。

826 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:46:54 ID:i66qlXSQ0
相手の男は両眼をほぼ失明し、頭蓋骨の陥没骨折、頚椎の骨折と脱臼いう瀕死の重傷を負っていた。
何とか命は取り留め、意識も回復したが、首から下が完全に麻痺したらしい。
祐子の父親の尽力も有って、俺は刑事上も民事上も責任を問われる事はなかった。
しかし、事件が久子に与えた精神的衝撃は、余りにも酷かった。
そして、久子と仲の良かった祐子の精神的ショックも大きかった。
あの日、俺を誘わなければと、自分を責め続けた。
久子や祐子とは違った形で、事件は俺にも深い影響を与えていた。
男の眼を潰したとき、そして、階段に頭から投げ落とした時、俺は極めて冷静だった。
人一人を殺そうとしておきながらだ。
咄嗟の事態に狼狽してでは無く、ナイフで刺されて逆上したからでもなく、結果を予見しつつやったのだ。
極めて冷静に、眼を潰され抵抗力を失った男を投げ落とした時には、むしろ、楽しんでさえいたのだ。
後に、権さんは俺に言った。
俺の狂気を、ジュリーこと姜 種憲(カン・ジョンホン)以上の狂気を買っていると。
そして、俺の中には、確かに棲んでいるのだろう。
マサさんの息子が言っていた『鬼』とやらが。

827 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:48:54 ID:i66qlXSQ0
体の傷が癒えると、周囲の心配を振り切って、久子は学業に復帰した。
事件を気に病む祐子を気遣っての事だったのだろう。
だが、そんな久子の俺を見る目は、怯え切っていた。
事件は、俺自身にも暗い影響を与えていた。
俺は、あの日の『暴力』の味が忘れられず、黒い『期待』を抱いて夜の街を徘徊した。
半ば挑発して、不良の餓鬼やチンピラと揉め事を起こしたりもした。
飢餓感すら感じながら暴れ回ったが、素人相手に拳を振るっても『渇き』は増すばかりで癒されることはなかった。
隠したつもりでいても、俺の異常な状態は久子にはお見通しだったのだろう。
子供の頃から、久子に俺の秘密を隠し果せた事など無いのだ。
やがて俺は、夜の町で知り合った女の部屋に転がり込んで、久子と住んでいた、あの部屋に戻ることは二度と無かった。

828 回帰1 妹と ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 00:50:38 ID:i66qlXSQ0
俺は、久子のマンションを出て、木島氏の指定した待ち合わせ場所へと車を走らせていた。
運転しながら、マミが残していったMP3プレーヤーの中に残されていた歌をリピートして聞いていた。
『……さよならって、言えなかったこと、いつか許してね……』
何を話せば良いのか?
マミは帰ってきてくれるのか?
俺は、マミとやり直せるのか?
俺は、マミの傍に居ても良いのか?
判らない。
だが、全てはマミを連れ戻してからだ。
俺の両親が待つあの家へ、マミを連れ戻す。
全ては其処からだ。
やがて、俺は待ち合わせの場所に到着した。
 
 
つづく

829 名無しさん :2014/01/24(金) 00:52:43 ID:QBgRdmgc0
マサさん乙〜

830 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:00:10 ID:i66qlXSQ0
木島氏の指定した待ち合わせ場所に居たのは、意外すぎる人物だった。
50代半ば程の年恰好。
暗い店内にも拘らず、濃い色のサングラスを外そうとしない男に俺は言い尽くせぬ懐かしさを感じていた。
彼には、話したい事も、聞きたいことも山ほどあった。
だが、全ては後回しだ。
何よりも重要な用件が俺には有った。
そのために俺は、この日を待ち続けていたのだ。
「俺は待ったぞ。 約束だ、マミを帰して貰おうか? 今直ぐにだ!」
「まあ、そう慌てるなよ。 まずは、席に着いたらどうだ?」
冷静な男の声が俺の神経を逆撫でた。
「……すまないな。事情が有って、彼女を帰す訳には行かなくなった」
サーっと、血の気が引いてゆくのが判った。
焦燥と共に、激しい怒りや殺意、憎悪が俺の血管の中で沸騰した。
「ふざけるなよ? 舐めた事を抜かすと、幾らアンタでも容赦はしないぞ?
話が違う! どう言う事なんだ、答えろよマサさん!」

831 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:02:28 ID:i66qlXSQ0
2月某日
白い朝の光に包まれて、俺は目覚めた。
「おはようございます、XXさん。 今日も良い天気ですよ」
若い女が、そう俺に声を掛けてきた。
状況の飲み込めない俺は、錆付いた言語中枢と舌を駆使して、たどたどしい言葉を発した。
「ここは……どこだ?」
女が驚いた表情で俺の顔を覗き込んだ。
彼女の眼から、大粒の涙が落ちてきた。
「少し待っていてくださいね!」
そう言うと、彼女は慌しく部屋を出て行った。
どうやら、俺は前年末から眠り続けていたらしい。
数週間前に意識を取り戻したが、外界に反応を示さず、ただその場に居るだけの存在と化していた……ようだ。
ただ、目覚めはしたものの、俺の中は空っぽだった。
何も思い出せない。
目に見える全て、耳に聞こえる全てに強烈な違和感があった。
いま、俺がいる此処は何処だ?
俺の目の前にいる人々は誰だ?
そして、俺は誰だ?
俺は、鏡の中に映る己の姿にさえ強烈な違和感と嫌悪感を感じずにはいられなかった。

832 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:06:18 ID:i66qlXSQ0
俺が今いる場所は、俺が育った家らしい。
目の前の老夫婦は俺の両親だということだ。
二人は俺をXXと呼んだ。
俺の名前か?
だが、強烈な違和感があって、とても自分の名前だとは思えない。
そして、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれている若い女。
老夫婦を『お父さん』『お母さん』と呼ぶ彼女は、俺の妹ということか?
だが、『マミ』と名乗るこの女に、俺は最も強烈な違和感を感じていた。
彼女の姿、声、触れられた指の感触……全てに、耐え難い違和感があった。
他の者からは感じられない、ざわざわとした何かが俺のなかに沸き起こった。
それが、恐怖なのか嫌悪なのかは、すべてを忘れてしまっていた俺には判らなかった。
ただ、ひたすらに居心地が悪かった。

833 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:08:02 ID:i66qlXSQ0
マミは、朝、俺が目覚めてから、夜、眠りに就くまで付きっ切りといった按配で俺の身の回りの世話をし続けた。
20歳前後の年格好の彼女が、何故そこまでするのか、俺には理解不能だった。
俺の見舞いに訪れた二人の女……俺の姉と妹と名乗った女達にも違和感を感じた。
眼鏡をかけた長い黒髪の小柄な女が素子。俺の姉らしい。
背が高く、髪をベリーショートにした、見るからに勝気そうな女が久子。妹のようだ。
二人の体格や雰囲気は大分違っていたが、顔立ちは良く似ていた。
俺のきょうだいだとは信じられなかったが、二人が姉妹なの間違いなさそうだった。
そして、二人の顔立ちは俺の『母』にも良く似ていた。
だが、マミの顔立ちは二人とはかなり違っており、姉妹とは思えなかった。
違和感は消えなかったが、俺は徐々に家や両親、素子や久子の存在に『慣れて』いった。
だが、マミに感じていた違和感は強まりこそすれ、彼女の存在に慣れることは無かった。
マミが心根の優しい娘である事は直ぐに判った。
まだ幼さの残る容姿も、細過ぎる嫌いは有ったが、美しいと言えるだろう。
だが、彼女に甲斐甲斐しく世話をされるほどに俺の感じる違和感……嫌悪感は強まっていた。
理性の部分では彼女に感謝していたが、彼女の存在は俺にとって苦痛でしかなかった。
何故?
父も母も、素子や久子、そしてマミも、意識を失う以前の俺の事を何も教えてくれなかった。
錆び付いていた心身の回復に伴って、俺の中に耐え難い焦燥感が生じ、大きくなっていった。

834 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:09:25 ID:i66qlXSQ0
目覚めてから1ヶ月、日常生活に支障が無くなった頃に、一人の青年が尋ねてきた。
何か大きな事故にでも遭ったのだろうか、膝に装具を着け、松葉杖で歩く彼は『イサム』と名乗った。
彼との関係も思い出すことは出来なかったが、イサムは俺を『先輩』と呼んだ。
彼の存在は、俺にとって不快なものではなかった。
俺が眠り続けている間も、怪我を押して2度も見舞いに訪れてくれていたらしい。
俺にとっては初対面同然だったが、イサムとはウマが合った。
同時に、なんとなく判った。
俺の見舞いを口実にしては居るが、イサムはマミ逢いたくて此処に来ているのだと。
……お似合いじゃないか。
イサムの不器用さを微笑ましく思うと共に、俺は何故か一抹の寂しさを覚えていた。
理由は判らなかったが。

835 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:11:42 ID:i66qlXSQ0
俺が引き止めて、2・3日逗留していたイサムが帰って行った日の晩の事だ。
俺は、喉の渇きを覚えて目が覚めた。
何か飲もうと、部屋を出て1階のキッチンへと向かった。
階段を下りると居間に誰かがいる。
マミだ。
こちらに背中を向け、ソファーに深く身を沈めていた。
光取りの窓から街灯の光が入り込み、真っ暗ではなかったので階段の灯りは点けていなかった。
イヤホンで何かを聞いていたらしく、マミは俺に気付いていなかった。
……マミは、肩を震わせて泣いていた。
胸が締め付けられた。
比喩的な意味ではなく、本当に胸が痛んだ。
マミを泣かせている原因が、恐らく俺自身であることを考えると、いたたまれなかった。
このまま跡形もなく消滅してしまいたい……。

836 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:13:30 ID:i66qlXSQ0
立ち尽くす俺に、マミが気づいた。
慌てたように涙を拭い、明らかに無理をして作った明るい声で言った。
「XXさん、こんな時間にどうしたの?」
「ちょっと喉が渇いたのでね。マミは……こんな時間まで起きてたの?」
「はい、ちょっと眠れなくて……」
……気まずい空気が流れていた。
『何で泣いていたの?』と聞ける訳もなく……だが、泣いているところを見てしまったのはマミにもバレているだろう。
ふと思いついて俺はマミに言った。
「何を聞いていたの?」

837 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:15:26 ID:i66qlXSQ0
「これですか?何の曲かは知らないのですけど、気に入っているんです」
「聞かせてもらってもいい?」
「どうぞ」
俺は、マミからプレーヤーを受け取り、イヤホンを耳に嵌めて曲を流し始めた。
単純な旋律が続くピアノ曲だった。
曲名は判らないが、何処かで聞いたことがある曲だ……何の曲だ?
やがて、曲が流れ終わると、何故か、俺は激しい頭痛に襲われた。
「どうしました?」マミが心配そうな表情を俺に向けた。
「何でもない。音量が大き過ぎたみたいだ。いい曲だね」
「……はい」
「もう遅いから寝ないと……おやすみ、マミ」
「おやすみなさい……」
マミは、じっと俺の顔を見つめながら、淋しげな表情を見せた。
 
頭痛を抱えたまま、俺は床に戻った。
あの曲は何だったのだ?
疑問を感じたまま、やがて俺は眠りの中に落ちていった。

838 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:18:12 ID:i66qlXSQ0

昨夜の激しい頭痛は治まっていた。
その朝は、いつも7時丁度に起こしに来るマミが姿を現さなかった。
階段を下り、1階のキッチンへ行くと、朝食が用意されていた。
だが、誰もいない。
珈琲を淹れて飲んでいると、テーブルの上に置かれたmp3プレーヤーが目に付いた。
マミの物だ。
そして、不意に、昨夜に聞いた曲と共に、俺は全てを思い出していた。
……何てことだ!
何故、忘れていたんだ!
胸の奥から溢れ出てくる熱いものがあった。
意識が戻って以来、晴れることのなかった『靄』が消え、『現実感』が戻っていた。
だが、同時に俺は深い絶望感に囚われていた。
『あの日』マミが俺に向けた、あの表情……『恐怖』に歪んだ表情を思い出したのだ。
マミに激しく拒絶された、あの絶望感と喪失感を。

839 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:21:41 ID:i66qlXSQ0
前の晩に聞いた曲は、イサムに託したUSBメモリーの中に俺が入れて置いた曲だった。
ファイルには財産目録や遺言書のコピー、そして、マミに宛てた遺書が書き込まれていた。
俺に何かあったとき、マミに渡して欲しい……そう、頼んであったのだ。
そして、俺はこの曲を使って自己暗示を掛けていた。
この曲を切っ掛けにして、全ての記憶を思い出す精神操作だ。
……深い瞑想時に、深層意識下で見たり聞いたりしたものを覚醒後に思い出す為の技術の応用だ。
この曲は、長年、俺が使い続けて来た曲でもあった。
役立つとは思っていなかったが、一縷の望みをかけて自己操作を行っていたのが功を奏したのだ。
  
俺は、目論見通り、『定められた日』を回避する事に成功していた。
だが、その事に何の意味がある?
俺は、足掻いた。
全力で。
しかし、俺の足掻きは彼女を決定的に傷付ける結果となってしまった。
俺には、もう、彼女に触れ、愛を囁く勇気はなかった。
記憶のない俺に、マミは献身的に尽くしてくれた。
俺の記憶が戻らなければ、あるいは、徐々にでも新たな関係を構築する事も可能だったのかもしれない。
だが、それは叶わない。
俺は、マミにとっては恐怖と嫌悪の対象。
『あの日』と同じ自分でしかないのだから。

840 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:24:34 ID:i66qlXSQ0
誰も居ない家の中で、俺はジリジリとしながらマミと両親の帰宅を待った。
そして、何となしにマミのMP3プレーヤーをもう一度聞いてみた。
中には一曲だけ、昨夜のピアノ曲とは違う、聴いたことの無い歌が入っていた。
歌を聴いて、俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。
マミは、もう帰ってこないのではないか?
俺の悪い予感は的中した。
昼前に、両親だけが戻ってきた。
俺は両親に「マミはどうした?」と尋ねた。
嫌な予感に俺の声も体も震えていた。
父が答えた。
「マミちゃんは、木島さんと一緒に行ったよ。。。」
俺が予想していた中でも、最悪の回答だった。
体の内側から弾け出すものに訳が判らなくなって、俺は泣き叫んだ。
「何故だ! 何故行かせた!」

841 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:27:06 ID:i66qlXSQ0
連れ戻してやる、そう思って家を飛び出そうとした俺を父が制した。
「何処へ行くつもりだ?」
「決まっているだろ? マミを連れ戻しに行くんだよ。離してくれ!」
「駄目だ」
「何故?」
「これは、あの娘が決めたことだからだ。 誰でもない、お前のためにな。
お前の為に、あの娘は木島さんたちと契約したんだ。
それを、お前が無駄にしてはいけない」
 
意識を失ったままの俺を目覚めさせる為、組織が動員を掛けて多くの人が関わったらしい。
霊能者の天見琉華を中心に、奈津子や木島氏の次女・藍、仕事でガードした事もあるオム氏の娘・正愛(ジョンエ)。
イサムの姉の香織や、組織に全く関係の無い、ほのかや祐子も俺を目覚めさせる為に手を貸してくれたようだ。
何が行われたのか、詳細は判らない。
ただ、その交換条件が、一定期間、マミが木島氏たちの下に身を置く事だったらしい。

842 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:29:28 ID:i66qlXSQ0
俺は、組織を恐れていた。
未だ目覚めては居ないものの、マミは組織が探索していた『新しい子供』の一人……らしいからだ。
だが、他方で、俺に何かが有った時、マミの身の安全の保証を頼めるのも、木島氏達の組織しかなかった。
だからこそ、俺は古くからの友人であるPではなく、イサムにマミのことを頼んだのだ。
可能であれば力ずくでも、組織の人間を一人づつ的に掛けてでも、マミを探し出し取り戻したかった。
だが、萎え切った今の俺の心身では不可能に近い。
俺は、父に尋ねた。
「マミは、戻ってこれるのか?」
「ああ、そう聞いている。あの娘が望めばな」
「そうか。。。」
「今は耐えて、待つしかない。
あの娘は、絶望的な状況でお前が目覚めるのを待ち続けたんだ。
あの娘は耐えた。お前が目覚めてからも、耐え続けた。
誰のためでもない、お前のためにな。
今は、お前が耐えろ。お前が出来る事はそれしかない」

843 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:31:32 ID:i66qlXSQ0
「あの娘と暮らした思い出の詰まった家じゃ、居辛いでしょ?
私の所に、いらっしゃい。あの娘が戻ってくるまで。
少しの間だけ、また一緒に暮らしましょう。……学生の頃みたいに、ね?」
という、久子の言葉に甘えて、俺は実家を出て久子のマンションに身を寄せた。

来る日に備えて、俺は『修行』を再開した。
時間だけはあるのだ。
「いつも家に居て、炊事・洗濯、家事一般をやってくれるなら、稼いでこなくても幾らでも食わせてやるわよ」
「おいおい、俺に専業主夫をやれと? んっ?前にも、同じような台詞を聞いたな。。。」
「一番大事な『かわいい』って条件は満たしていないけれど、大目に見てあげる。
家事一般は、お兄ちゃんの方が上手いもんね」
「姉さんに厳しく仕込まれたからな。……お前、調子の良い事を言って、そっちが目的だったんだろ?」
「あら、今頃気付いたの? 鈍いわね」

844 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:35:39 ID:i66qlXSQ0
久子の許に身を寄せて3ヵ月。
木島氏と約束した日の前夜。
眠れぬまま横になっていた俺の布団の中に久子が入ってきた。
そして、無言のまま、背中から抱きついてきた。
「……おい、何だよ?」
「……ごめん、少しでいいから、このままで居させて」
背中で久子が泣いているのが感じられた。
やがて久子は泣き止み、口を開いた。
「いよいよ、明日ね」
「ああ。 ……なあ、マミは帰ってくると思うか?」
「判らない」
「そうだよな。
嫌な事を思い出させて悪いんだが、あの事件の後、お前、俺のことを酷く怖がっていたよな?
……俺は、そんなに怖かったか?」
「……怖かったよ。お兄ちゃんが、私のせいで、私の知っているお兄ちゃんじゃ無くなっちゃったんじゃないかって」
「そうか。。。」
「頭では判っているの。例え『鬼』になっても、お兄ちゃんが女の子に手を挙げる事は無いってことは。
むしろ、お兄ちゃんが『鬼』になるのは、誰かを守りたいからなんじゃないかな?
でも、怖いのよ。 理屈じゃないの。
特に、マミちゃんは、私なんかと比べようが無いくらいに傷付けられているから、理屈抜きに怖かったんだと思う」

845 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:39:10 ID:i66qlXSQ0
「そうか。。。」
「うん。……そして、物凄く後悔していると思うんだ。
お兄ちゃんを怖がって、拒絶してしまった事を。傷つけちゃったことを。
……ごめんね。お兄ちゃんは、私を助けてくれたのにね。。。」
「泣くなよ。……過ぎたことだ、気にするな。アレだけの事をやっちまっったんだから、むしろ当然の反応だよ。
それに、俺自身が怖いんだよ。時々歯止めの利かなくなる、際限なく冷酷になれる自分が。
何かの拍子にコントロールを失って、お前やマミに矛先を向けてしまうんじゃないかって。。。」
「それは無いよ。 絶対にないって!
でも、どんな結果になっても、あの娘の事は許してやって」
「むしろ、許しを請わなければならないのは俺の方だよ。
でも、例え俺が拒絶されたとしても、アイツはやっぱり連れ戻さなきゃいけない。
頼むな。マミの事を一番判ってやれるのは、やっぱりお前なんだよ」

846 回帰2 目覚め ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/24(金) 01:40:58 ID:i66qlXSQ0
マサさんは言った。
「すまない。……予定では、もっと早く帰して遣れるはずだったんだ。
想定外の事態だ。
我々も、あの娘を救いたい。 一緒に来てくれないか?」
マミに、ただならぬ事態が生じているらしかった。
俺は、マサさんに同行した。


つづく

847 名無しさん :2014/01/24(金) 01:46:05 ID:24SEpnws0
祟られ屋さん投稿お疲れ様です。マサさんもいつの間にか体が回復なされたようですね。

マサさんも力を維持できたのでしょうか?

またお知らせください。今日はお疲れ様でした。

848 名無しさん :2014/01/24(金) 01:57:52 ID:IaDgX2zw0
祟られ屋さん、すぐに来てくれてありがとうございます。
(更新中に遭遇嬉しかったですw)

続きも楽しみにしてますね。

849 咲蘭(サラ) :2014/01/24(金) 16:57:33 ID:vF/ndohU0
人間関係をすっかり忘れてしまってたので「イクリプス」を読み返した。

辻褄が合わないようなところがいくつかあるので、きっとこの後に大きな
謎解きが待ってそうでwktk

XXにはそっちの世界で活躍して欲しかったんだけどなー

850 名無しさん :2014/01/25(土) 01:24:36 ID:0wsbk0HQ0
何故かふっと立ち寄ったら・・・・
マサさんの人きてたよ!

遅レスですが、生存報告ありがとうございます。
ただ おめでとうと言える状況なのか不明な様子。

続きをお待ちしています。

851 名無しさん :2014/01/25(土) 21:40:18 ID:.WJG0FWU0
祟られ屋シリーズ復活キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

852 名無しさん :2014/01/26(日) 13:13:11 ID:zshcecMwO
何で増えないの?ここの掲示板は

853 名無しさん :2014/01/26(日) 14:55:17 ID:ASeQlDW20
>>852
増えないって、ここの掲示板の数?この掲示板「怖い話part2」のレスの数?

854 名無しさん :2014/01/27(月) 02:40:15 ID:RAeOs.m2O
スレに対してのレスのこと

855 名無しさん :2014/01/27(月) 10:59:32 ID:jWF/wuu20
そこそこレスは付いてると思うが、2ちゃん並みを期待してるのか?

856 >>854 :2014/01/27(月) 22:42:46 ID:bpdNKevU0
まあ、あくまで俺の意見だけど。
過去に色々あって閉鎖された場所が他にあってさ。
それが嫌だから此所はなるべく目立たないようにしたいと思ってる。
マサさんや藍さんたちの話がリアルタイムで読めるのは此所だけだから。
隠れ家って感じ?察してくれたら嬉しい。でも、他の考え方もあると思うよ。
閲覧数が少ないとか、評価がそれほど高くないとか。

857 名無しさん :2014/01/28(火) 00:03:29 ID:jat8/GEAO
正直、ここはオアシスです。作者もいいし読者もいいし。

858 名無しさん :2014/01/28(火) 01:31:25 ID:31IYP1ds0
813さんと856さんは同じ方でしょうか?

もしかしたら「まとめ」をやって下さってる方?

859 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:45:05 ID:XU1AEzQY0
テスト
書き込めるか?
時間が無いので、残り3/5のうち3話のみ上げさせて貰います。

860 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:46:28 ID:XU1AEzQY0
移動中の車の中で、俺は『あの日』の事を思い出していた。 

12月21日の朝だった。
朝7時。
PCの電源を落したばかりの俺の部屋のドアがノックされた。
「XXさん、いますか?」
「いるよ。おはよう、マミ」
「昨夜は遅かったの?」
「ああ。よく寝ていたから起こしたら悪いと思ってね」
「目、真っ赤ですよ?寝ていないんですか?」
「ああ……寝そびれてしまって」
「そう……」
マミはゆっくりと俺に近づいてきて、一瞬躊躇したかのように止まると、抱きついてきた。
細い肩だ。
思いに任せて力いっぱい抱きしめたら壊してしまいそうだ。
「嘘つき……」
俺の腕の中でマミは肩を震わせていた。……泣いているのか?
「どうした、何があった?」
「知っていましたか?私、XXさんと一緒じゃないと眠れないんですよ?
愛してるって言ってもらって、キスしてもらって、XXさんが先に眠りに就くのを見届けないと眠れないんです」
「……何で?」
「怖いんです。朝、起きたら、XXさんが居なくなっているんじゃないかって。
目が覚めたら、あなたと出会ってからの日々が全て夢で、あの団地のあの部屋にいるんじゃないかって……怖いんです!」

861 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:48:06 ID:XU1AEzQY0
「俺が、マミの前から居なくなる訳が無いだろ?馬鹿だな」……胸が苦しかった。
「本当ですか?XXさんは、私に何か隠しています……馬鹿だけど、それくらい、私にだってわかりますよ!
……大事なことは何も、教えてはくれないんですね。。。」……もう耐えられなかった。
何を言おうとしても、まともに言葉にできる自信がない。
俺はマミを強く抱き締め、長い、とても長いキスをした。
このまま時間が止まればいい。
もっと時間が、マミと過ごす時間が欲しかった。
だが、時を司る神は残酷だ。
俺は既に時を使い果たしてしまっていた。
時が与えられないのなら、このまま世界が滅んでしまってもいい。
唇を離すとマミが言った。
「XXさん、何で泣いているんですか?」
迂闊にも、俺はいつの間にか涙を流していた。
「……何でかな?俺にも判らないよ。でも、お前以上に『大事なこと』は、俺には無いよ。
俺は、いつもお前の傍にいて、お前を愛してる。それだけは、何があっても本当だ」
「私もです。……私は、何があってもXXさんの傍にいます。愛してます」
……お互いに何百回も『愛している』と囁き、口づけを交わしたが、俺達の間には本来有るべき確かな証がなかった。
紙一枚の法律的なものではない。……そんなものは大した問題ではない。婚姻届など、いつでも出せたのだ。
俺の身体的な問題もあったが、マミの抱えた深いトラウマを俺は恐れていた。
落ち着いては見えるが、マミの心の傷は出血が止まっただけで、今なお生々しく、深く抉られたままだ。

862 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:50:03 ID:XU1AEzQY0
俺はマミの笑顔が好きだった。彼女の笑顔の為なら全てを捨てても惜しくはない。
泣き顔も好きだ。そして、泣き虫な彼女が泣き止んだ時に見せてくれる、涙混じりの笑顔はたまらなく可愛いかった。
怒ったときの膨れっ面も好きだった。彼女を宥め、機嫌を取ることも、俺にとっては楽しいひと時だった。
彼女の喜怒哀楽全ての表情が俺にとっては宝石だった。
だが、マミの恐怖に歪んだ顔は見たくなかった。
初めて出会った頃の、『どうなってもいい』と全てを諦め、涙を流すことも出来ない絶望した顔は二度と見たくなかった。
感情の消えた、凍りついた死人のような目を二度とさせたくなかった。
だが、触れ方を間違えれば、深く刻まれたマミの心の傷は血を流し、彼女は再び心を閉ざしてしまうだろう。
俺以上にマミは恐れていたはずだ。
傷つけられ、心を切り刻まれた者のフラッシュバックの恐怖は、他人には計り知れない。
一部の例外を除いて、マミにとって『男』とは、未だに恐怖の対象でしかないのだ。
『24日の夜は二人きりで過ごし、翌朝、婚姻届を出しに行く』と言う約束は、彼女にとっては決死の覚悟だったのだ。 
マミは、俺を信じて心を開いてくれた。
多くの人々に彼女が救われたように、俺もまた彼女に救われたのだ。彼女の想いに報いたかった。
だが、俺が彼女との約束を果たせる可能性は低い。
しかも、これから俺が行おうとしていることは、彼女にとって恐怖と嫌悪の対象である『暴力』と大差ない。
彼女に事実を話すことはできなかった。
午前10時、身支度を整えた俺は、誰にも、何も告げずに家を出た。

863 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:52:09 ID:XU1AEzQY0
待ち合わせの場所に迎えの車が来ていた。
タバコを咥えた朴が車外で俺を待っていた。
「来たか……」
「ああ。待たせたな」
「……では、行こうか」
俺たちは、後部座席に乗り込んだ。
道中、車内の沈黙を破って朴が口を開いた。
「何故、来たんだ? 逃げてしまえばよかったんだよ、除のようにな」
「ケジメだよ。 俺一人なら、それも悪くない選択肢だけどな」
「そうか……。 なあ、拝み屋。拝み屋を辞めたいなら、辞めればいいさ。
でも、『会社』まで辞める必要は無いじゃないか。 俺が社長に掛け合ってやるから、もう一度、一緒に遣らないか?」
「悪いな。 もう決めたことなんだ。俺は脚を洗うよ、キッパリとな」
「……そうか、判った。 もう、何も言うまい。 今夜は、全力で掛からせてもらうよ」
「ああ、そうしてくれ。 そうでないと意味がないんだ」
これから12時間後、俺はキムさんが選んだ10人の男達と戦う事になっていた。
朴もその中の一人なのだろう。
恐らく文も。
俺の腕では朴に勝てる可能性は低い。
普段の稽古なら3回戦って、1回勝てれば良い、そんな所だ。
文に至っては、どう戦えば良いか見当も付かなかった。
文や朴以外も、出てくるのは猛者揃いのあの道場の中でも選びぬかれた男達だろう。
まともに戦っても、勝ち目は薄い。
1人目で終わる可能性も低くは無い。
普通に考えて、逃げるのが一番の得策なのだろう。
だが、それが出来ない理由が俺には有った。

864 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:53:20 ID:XU1AEzQY0
キムさんから、場所と日取りの連絡が来た直後の事だった。
風呂上りに洗面台の鏡を見た俺は、その場に凍りついた。
鏡に映っていたのは、異様な『何か』だった。
死体のような?どす黒い肌をした『それ』は、赤く光る目で俺を睨み付けていた。
怯んで後ずさった次の瞬間、鏡に映っていたのは普通の俺の姿だった。
……あれは、何だったのだ?
鏡に映る、不気味な『何か』を見た晩から、俺は毎晩、同じ悪夢に魘されるようになった。
見覚えのある、古く薄汚れた部屋。
マミとユファが住んでいた、団地の部屋だ。
耐え難い悪臭が漂っていた。 ……この臭いは、屍臭だ。
部屋の奥に誰かがいる。
中に進むと、あの不気味な何かが、誰かを組み敷いて犯していた。
……マミだった。
激昂した俺は、マミから引き離そうと、ヤツの髪を掴んで引っ張った。
引っ張った髪は、大した手応えも無く頭皮ごとズルリと抜け落ちた。
凍り付く俺に、両眼から赤い光を放ちながらソレは襲い掛かってきた。
俺は喉笛に喰い付かれ、噛み砕かれた。
激痛とゴボゴボという呼吸音を聞きながら俺の意識は薄れていった。
次に気付いた時、俺は誰かを組み敷いて、その首を絞めていた。
マミだ。
マミは既に息絶えていた。
正気に戻った俺は絶叫した。
そして、絶叫した瞬間に俺は目覚めていた。

865 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:55:07 ID:XU1AEzQY0
それは、現実と区別が付かないほどリアルな夢だった。
いや、果たして夢だったのか?
俺の両手には、マミの首を締めた生々しい感覚が残っていた。
隣で眠るマミの寝息を確認して、俺は初めて、それまで見たものが夢だった事に胸を撫で下ろした。
そして、悟った。
あの不気味な何か、マミを組み敷いていた『あれ』は、俺自身であると。
 
マミの卒業パーティーの日、俺はマミに俺とPの過去と一木耀子の霊視による『定められた日』のことを話してはいた。
だが、マミにとってはくだらない迷信、ただの与太話にしか過ぎなかっただろう。
無理もない。
通常の世界に生きてきた者であれば、それが当然の反応だ。
俺自身が、近付きつつあるという自分自身の死期も、『定められた日』とやらも、どこか本気に捉えていない部分があった。
……この期に及んで、信じたくなかったのだ。
マミとこれまで通りの暮らしを続けながらやり過ごしたい、やり過ごせると信じたがっていたのだ。
だが、そんな甘い夢は、脆くも崩れ去った。
自分自身の死もだが、いつか正気を失いマミを手に掛けてしまうのではないか、それが恐ろしかった。

866 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:57:42 ID:XU1AEzQY0
そんな俺にイサムの姉の香織がコンタクトを取ってきた。
霊能者・天見 琉華の使いということだった。
ある行法を伝える為だった。
もたらされた『行法』自体は、ごく単純だった。
ただひたすらに、声に出さず頭の中で『真言』を唱え続けるだけの行だ。
単純だが困難な行だった。
『真言』は常に唱え続けなければならない。
あらゆる場面で、飯を食っているときも、寝ている時も、人と会話している時もだ。
これは、やってみれば判ると思うが、非常に苦しい。
気を確かに持たないと精神に変調を来しかねない。
実際、俺の精神は何処か壊れてしまっていたのかもしれない。
だが、『行』が安定するに従って、徐々に悪夢は見なくなっていった。
やがて、『ヤマ』を超えると、苦痛も消えて無くなった。
意識しなくても、勝手に『心』が真言を唱えているようになった。
そして、俺の精神は『独り言』を止め、意識的に思考しなければ真言の詠唱以外、何も考えなくなっていった。
それが『儀式』の前提条件だった。
このような形を選び、決行日を俺の死期として予告された『定められた日』に合わせてくれたのは、キムさんの厚意だったのだろう。
正体の判らない『死』に怯えるよりは、目の前の『敵』と戦う方が余程いい。
今夜がその仕上げだ。

867 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 05:59:23 ID:XU1AEzQY0
やがて、車は通い慣れた道場に到着した。
キムさんのボディーガードの3人組、文・朴・徐が修行した道場であり、権さんに命じられて徐とタイマンを張った場所でもある。
徐に誘われる形で俺も通い、稽古を重ねた場所だ。ここでイサムとも出会った。
開始まで、まだ大分時間があるので、俺は事務室のソファーで横になった。
『……結局、与えられたチャンスとやらは活かすことはできなかったな』
マサさんの息子……いや、『新しい子供達』が示した、俺が怨みや怒りを捨てたことを示す言葉……
唱えれば、新しく全てが始まるという『あの言葉』とやらに、俺は辿り着くことが出来なかった。
琉華によってもたらされた『行』の効果にも期待はしていなかった。
ならばこそ、出来る事だけに全力を注ぐ。
目の前の敵と戦うのみだ。
勝目は薄いが、全ての『敵』を打ち倒して、真の『自由』を手に入れてやる。
父と約束したように、最後まで足掻き抜いてやる。
そして、帰るのだ。
マミと家族の待つ家に。
俺は、考える事を止め、頭の中に響く『真言』だけを聞いていた。

868 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:01:04 ID:XU1AEzQY0
時間が来た。
道着に着替えて地下の道場に下りると、キムさん達が既に待っていた。
キムさんと師範。権さんもいる。
文と朴、その他7名の有段者たち。
どの面々も曲者揃いだ。
文が若い男に声をかけた。
「安東はどうした?」
……イサムもメンバーだったのか!
だが、イサムが姿を現さなかったのは、俺にとっては好都合だった。
俺が居なくなったあと、マミのことを託せるのはイサムしかいなかった。
マサさんの井戸の中に入っていた『箱』に触れ、動かすことのできなかったPにマミを委せることはできない。
俺の杞憂であれば良いのだが……ヤスさんのいた工務店の社員たちのように、『箱』がPと彼の周りの人々の命を奪うかもしれない。
マミに危害の及ぶ可能性は、どんな些細なものであっても見逃すことはできなかった。
奈津子を俺から遠ざけた榊夫妻の気持ちが俺には痛いほど理解できた。
それに、まだ強烈に男性恐怖が残っているマミにとって、イサムは心を許せる数少ない男の一人だった。
俺と俺の父、義兄以外では、ほぼ唯一と言える存在だ。
そして、口にこそ出さないが、イサムがマミに単なる好意以上の感情を持っているのも確かだった。
姉の香織以外、女性に対する猜疑心や嫌悪感の強いイサムには、自分の感情の意味は未だ理解できてはいない様子だったが。

869 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:03:12 ID:XU1AEzQY0
文に問われた男が答えた。
「判りません。逃げたんじゃないですか?……別に来なくても構いませんよ、あんな奴。
それに、先輩方の出番もありません。俺で終わりますから」
一人目はコイツか。
一人目の男、具(ク)は、凶暴な男だ。
組手のスタイルも荒い。
誰彼構わずに勢いに任せた戦い方をするので、一般道場生との組手を禁止されていた。
キムさんの「そろそろ始めようか?」という声で『儀式』は始まった。
「お互いに、礼!」
……俺は、一人目の勝負、勝利を確信した。
文や朴は別にして、こいつらはこの勝負の本質を理解していない。
具は、勢いに任せて一気に相手を攻め落とす戦い方を得意としていた。
勢いに飲まれると秒殺されかねない危険な相手だ。
だが他方で、攻撃は直線的で、力みから予備動作が大きく、技の出処を読むのは容易かった。
強烈な『殺意』は感じたが、戦い方も通常の『空手』のルールから逸脱したところはない。
暫く俺は受けに徹して、具の『空手』に付き合った。
具に攻め疲れが見えたところで、俺は当初から立てていた作戦通りの行動に出た。
俺は、苛立ちから無理な体勢で大技を出してきた具を捉えた。
そして、彼の頭を引き込みながら、顔面に頭突きを見舞った。
2発・3発……更に見舞う。
具の顔面が鮮血に染まり、道場の床に血溜りが出来た。
具が俺の手を切って逃げようとした瞬間、俺は彼の金的に蹴りを見舞った。
具は、悶絶して床に崩れ落ちた。
俺は、具の頭部を足底で踏み潰し、床に叩きつけた。
彼の顔面が道場の床に激突して鈍い音をたてる。
更に、踵で彼の頭部を蹴り抜いた。2発、3発……。

870 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:05:43 ID:XU1AEzQY0
「や、止めろ!」
審判役の男が慌てて俺にしがみついて、具に対する俺の攻撃を止めさせた。
具の意識はなく、大きな『鼾』をかきながら、ピクリとも動かない。
凄惨な光景だった。
道場内は騒然となった。
文と朴、その他2名のベテラン以外の若手4人は殺気立って俺に詰め寄ってきた。
「反則だ!それに、具は試合続行不可能だった。ここまでする必要はなかったはずだ!」
俺は挑発目的で、わざとニヤリと笑いながら言った。
「こいつは『参った』とは言っていなかったからな。ならば、攻撃は続けないと。
当人が『参った』と言えるかどうかは問題じゃない」
「ふざけるな、この野郎!」
乱闘でも始まりそうな騒ぎだ。
しかし、師範の「黙らんか!」と言う大音声で道場内には静寂が戻った。
「ですが……、これは明らかに反則です!」
「問題ない。私はお前たちに彼を『殺す気で潰せ』とは言ったが、『空手の試合』をしろとは言っていない。
お前たちが殺す気で掛かる以上、彼もお前たちを殺す気で掛かってくるのは当然だろう?
そんな簡単なことも判らない様では、キム社長に推薦することはできないな。使い物にならない」
文や朴、その他2名のベテランは別にして、若手のこいつらは、俺と徐の後釜としてキムさんと契約する事を餌に参加させられたらしい。
足抜けする俺に『ヤキ』を入れるくらいの認識でこの『10人組手』に参加したのだろう。
命のやり取りをする覚悟など初めからない。
今更知ったところで覚悟など決められるものでもない。
普段は剛の者として鳴らしている彼らも浮き足立っていた。
事前に立てていた作戦通りだ。
重傷を負い意識のないまま運ばれていった具の惨状を目の当たりにして、彼らの動きは硬かった。
普段ならばそんなことは有り得ないのだろうが、『参った』が連続した。
消耗しながらも、俺は大きなダメージもなく5人目までをクリアすることができた。

871 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:09:23 ID:XU1AEzQY0
前半を終え、水を入れていると、権さんが俺に話しかけてきた。
「腕を上げたようだな。技が身についている。
徐とやった時とは大違いだ。相当な稽古を積んだのだろう。
連中は完全にお前の術中に嵌っていた。
駆け引きも戦略も冷静だ。修羅場を潜ってきただけのことはある、大したものだよ。
だが、魅力が無くなった……俺は、お前の何を仕出かすか判らない『狂気』を買っていたのだけどな。
姜種憲……ジュリーのガードをした頃の自分を思い出せ。
あの頃のお前は、ジュリー以上の『悪鬼』だったぞ?
まだまだだ。もっと、本性を曝け出せ……お前の中の『鬼』とやらを解放して見せろ。
次の相手は久保だ……小細工は通用しない。
全てを出さなければ、お前、殺されるぞ?」
『何を言っているんだ?』
だが、権さんの助言は的を射ていた。
 
6人目の男、久保は、事前の印象では、何故この場にいるのか不思議な男だった。
見た目は、小太りでやや小柄な体躯。
柔和なイメージで少年部や女性部の指導補助を務めており、子供や父兄からの信頼や人気が高かった。
一般の会社員として定職を持ち、正式な指導員ですらない。
こんな戦いに参加する意味は、彼にはないはずだった。
だが、この男の内包している『狂気』は凄まじかった。
使う技も狙う位置も、致命傷狙いのモノばかりだ。
そう言った『使えない技』で久保の戦い方は組み立てられていた。
具の後に戦った4人のような苦し紛れのものではない。
何万回と繰り返されたであろう『身に付いた』動きだ。

872 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:13:14 ID:XU1AEzQY0
久保は、殺意の塊のような男だった。
何がどうなれば人は内面にこれほどの『狂気』を内包できるのだろうか?
俺が久保を倒せたのは、全く偶然の成り行きだった。
もつれあって倒れるときに、咄嗟に久保の喉に肘を当て、全体重をかけて倒れ込むことに成功したのだ。
恐慌状態の俺は馬乗りになって、久保の顔面を殴り続けた。
 
戦っている間、打たれても打たれても、薄ら笑いを浮かべながら前に出てくる久保の狂気に、俺は恐怖を感じていた。
だが同時に、体の内側から湧き上がってくる何かを感じていた。
脳内麻薬にでも酔っていたのだろうか、戦うことに強烈な快楽を感じ始めていた。
強烈なテンションに突き動かされて、技を振るうことが楽しくて仕方がない。
俺の頭の中には、例の『真言』が大音声で鳴り響き、何も考えられなくなっていた。
久保の『狂気』が乗り移ったのか、俺は完全に『狂気』に支配されていた。
7人目の男、岡野とはどう戦ったのかさえ覚えていない。
気がついたら岡野は床に横たわり、動かなくなっていた。
ただ、強烈な殺意と憎悪に突き動かされ、力の限り蹴りを放ち、突きを出していただけだった。
前半のように、スタミナの温存を計算に入れた、『受け』に重点を置いて組み立てた戦い方ではなかった。
息が完全に上がっていた。
ダメージも蓄積している。
だが、苦痛は全く感じていなかった。
痛みさえ甘く心地よい、そんな感覚だ。
休憩を取る間も惜しんで、俺は次の相手を求めた。
「次だ!次の相手を出せ!」
自分の中にあった『何か』を解放し、異様なテンションに飲み込まれていた俺は、権さんの言うところの『悪鬼』だったのだろう。
憎悪と殺意の塊となって正常な判断力を完全に失っていた。
8人目の相手は、いつ来たのかは判らないが、イサムだった。
誰でも構わない。
全力の殺意と憎悪をぶつけたい、湧き上がってくる『力』を振るいたい、ただそれだけだった。

873 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:15:47 ID:XU1AEzQY0
イサムと本気で手合わせしたのは、この時が初めてだった。
一緒にロングツーリングに出かけたとき、俺は計画していた。
適当なところでイサムを打ち倒して逃亡を図ろうと。
だが、計画を実行しても、恐らくは失敗に終わっただろう。
意外だった。
強い。
今日、ここまで相手にした男たちの中では最強だ。
俺の攻撃が当たらない。
僅か数センチのもどかしい距離で全て躱されてしまう。
躱すとともに放たれる蹴りが強烈だ。
長い脚がしなるように叩き込まれてくる。
追ってもフットワークの速さが俺よりも1枚も2枚も上手だ。
……この戦い方は、権さんか?
俺は戦い方を変えた。
再び、『受け』に重点を置いた『待ち』の戦い方に戦法をシフトした。
ロングレンジで軸足をスライドさせながら、踵で蹴り込んでくるサイドキックが厄介だ。
被弾を覚悟して肘を落とす。
鞭のようなイサムの蹴りが襲ってくる。
蹴りをカットし続けた脛に激痛が走る。
だが、足にダメージが溜まり、焦りが出たのだろうか、イサムの蹴りが上段に集中しだした。
そして、チャンスが到来した。
俺はイサムの後ろ回し蹴りをキャッチすることに成功した。
すかさず軸足に足刀を叩き込んだ。理想的な角度で膝に蹴りが入った。
イサムの膝は確実に破壊されただろう。
倒れたイサムが膝を庇おうとするよりも早く、俺は踵でイサムの破壊された膝を踏み抜いた。
イサムが苦痛の悲鳴を上げた。
更に俺は踵で倒れたイサムを蹴り付ける。
膝を、腹を、顔面を……これまでのフラストレーションをすべて開放するように。

874 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:18:12 ID:XU1AEzQY0
血まみれのイサムは動かない。
トドメだ。俺はイサムの右腕を引き、彼の頭を床から浮かせた。
このまま足底で頭部を踏み抜き、床に叩きつければ終わりだ。
ゾクゾクするような歓喜。
俺は蹴り足の膝を引きつけようとした。
その瞬間、冷水をかけるような女の悲鳴が道場内に響いた。
「もう止めて!」
声のした方向へ俺は視線を向けた。
マミだ……なぜ、彼女がここに?
先程まであれほど昂っていたテンションが一気に冷め、俺の全身から力が抜けていった。
イサムの体が床の上で音を立てた。
……見られてしまった。
マミに、一番見せたくなかった俺の姿を。
三瀬や迫田に痛め付けられ続けたマミにとって、『暴力』は強烈なトラウマだ。
そんなマミに暴力の快楽に身を任せた悪鬼の姿……醜い俺の本当の姿を見られてしまった。
「……マミ」

875 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:20:24 ID:XU1AEzQY0
頭の中に大音声で鳴り響いていた『真言』は停まっていた。
同時に、それまで気にも留めていなかった疲労とダメージが一気に噴き出していた。
重い足をマミに向けた。
次の瞬間、俺は絶望の底に叩き落とされた。
「来ないで!」
涙を流し、恐怖の表情を張り付かせたまま、マミは悲鳴を上げて俺を拒絶した。
……終わった。全てが終わった。
終わらせてしまったのは俺自身だ。
声にならない声が湧き出してきた。
激しい後悔。
誰かが泣き叫んでいる。
獣のような咆哮だ。
声の主は俺自身か?
自分自身の泣き叫ぶ声を聞きながら、俺の意識は消滅していった……。

876 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:22:19 ID:XU1AEzQY0
 
やがて、俺たちの車は目的地に到着した。
一木氏の邸宅だった。
文と朴が出迎えに門から出てきた。
文は、酷く蒸し暑いというのにマスクを外そうとしなかった。
朴は左耳が一部、欠損していた。
朴の話によると、マミの悲鳴を聞いた俺は、人間とは思えない物凄い奇声を上げて、その場にひざまついて、床を殴りつけていたそうだ。
あまりの異様さに、その場に居た全員が凍りついた。
そして、奇声が止んだ次の瞬間、俺はマミに襲い掛かった……らしい。
最初に反応して俺を止めに入ったキムさんは、頭部に肘を喰らい、頭蓋骨骨折の重傷を負った。
この時点で、未だリハビリのため入院中と言う事だった。
キムさんに続いて俺を取り押さえに掛かった文は、鼻を噛み切られたらしい。
朴は、左耳の一部を『喰われた』ようだ。
権さんが暴れる俺を捕らえ、更に若手の連中が取り押さえ、師範が俺を締め落したそうだ。
「……まるで、獣のようだったよ。人喰いのな。
正直に言わせて貰えば、俺は今でもお前が怖い。 あんなことは、二度と御免だ。。。」
朴の俺を見る目は、明らかな怯えを含んでいた。
朴の話を聞いて、俺は激しい衝撃を受けていた。
俺は、マミに襲い掛かったのか?
あの、マミに。。。

877 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:25:18 ID:XU1AEzQY0
取り押さえられた俺は、そのまま昏睡状態に陥ったらしい。
マミも精神的に深刻なショックを受けていたようだ。
久子経由で連絡を受けた祐子は、キムさん達を集団暴行で告発すると息巻いていたそうだ。
特に、マミの状態は、彼女の為に各方面に掛け合って尽力した祐子の怒りに火を注いだ。
だが、被害で言えばキムさん側の方が甚大だった。
キムさん以下、6名が病院送りとなり、3名が未だ入院中なのだ。
マサさんが言った。
「そのまま放置すれば、お前の命はなかっただろう。
バルド・トドゥルの49日間の間に命を落していたはずだ」
 
俺がマサさんの井戸の中身の『箱』を封印している間、木島氏と天見琉華は、秘密裏に俺の両親とマミに接触していた。
そして、マミは、俺の置かれた状況の詳しい説明を受けた。俺が知っていた以上の。
彼女は、琉華たちの説明や一木家の人々との面談を通して、はじめて俺の置かれた状況を『理解』したようだ。
だが、その事は敢えて隠された。
俺が『定められた日』を回避する為の道は、『戦う』以外の最良の道は、他にあったのだ。
俺は、香織を通じてもたらされた『行』を続けながら、マミと共に『定められた日』を震え、怯えながら過ごしていれば良かった。
朴の言ったように、俺が逃げてしまえばよかったのだ。
ヒントは与えられていた。
俺に逢いに来た除だ。
クライアントの愛人の女と逃げた彼のように、マミを連れて逃げてしまえば良かったのだ。

878 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:27:01 ID:XU1AEzQY0
だが、天見琉華はマミに言ったそうだ。
恐らく、俺は『逃げる』という選択は出来ないだろうと。
『行』では、俺の中の『鬼』は抑え切れない。
それが俺の業であり性質であると。
俺が抱え続ける『死への執着のカルマ』により、俺は、『死地』の中に逃げ込むだろう、と。
だが、これは、俺が自ら気付き、越えなくてはならない関門だ。
他の者が、特にマミが俺に教えてはならない、と、念を押したらしい。
俺が、自分の中の『鬼』と対峙する場、『行』により鬼を調伏出来なかった俺が逃げ込む『戦いの場』は、彼らの方で用意しようと。
この『戦いの場』で、イサム達との戦いの過程で、俺が命を落す危険性は高い。
生存本能による抑制が、働かないからだ。
だが、問題はその後だ。
死線を越えた後、俺が今生の、今ある『生』に執着するか、それが最大の問題だ。
俺の『生』への執着のポイントになるのがマミの存在だと、念を押したという事だ。
耐えて待つしかないと。
マミは、耐えた。
本当は、真相を話し、俺に『逃げる』選択を促したかったことだろう。
だが、最後の最後でマミは耐えられなかった。
それが久子の言っていたマミの脆さ、弱さだったのだろう。
俺が家を出たことを知ったマミは、イサムに連絡を入れ彼を問い詰めた。
イサムはマミを止めようとしたが結局押し切られ、マミを道場に連れて行ってしまったようだ。

879 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:31:13 ID:XU1AEzQY0
運命の夜が過ぎ去った後、俺は眠り続けた。
やがて年が開けた。
どうにか落ち着きを取り戻したマミは天見琉華に呼び出され、激しく叱責された。
マサさん曰く、
「琉華の奴がお前の事であんなに怒り狂うとは思わなかったよ。意外だった。。。」
マサさんによると、天見琉華はマミに問うたそうだ。
まだ、俺を助けたいか?と。
マミは助けたい、助けて欲しいと答えた。
天見琉華は言ったそうだ。
俺の命を救う事は可能だと。
意識も戻るだろう。
だが、意識が戻っても俺がマミを『選ぶ』可能性は殆どないだろう。
恐怖か憎悪かは判らないが、俺はマミに対し激しい拒絶感を抱く。
マミ本人によって刻み付けられた拒絶感だから、こればかりはどうにもならない。
元の二人には戻れないが、それでも良いか?と。
マミは答えた。
それで構わないと。

880 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:32:59 ID:XU1AEzQY0
マサさんが動いて、俺と関わりのある女たち……俺を『生』へと執着させる可能性のある人物が集められた。
日替わりで彼女達は自宅療養中の俺を訪れ、天見琉華の『術』を介して俺に語りかけた。
本来は、マミが行うはずだった『儀式』だ。
訪れた女達の中で、俺を目覚めさせたのは奈津子だったらしい。
目覚めはしたが、俺は全くの白紙の状態だった。
生ける屍だ。
天見琉華が俺を助ける条件として提示したのは、一定期間、マミが木島氏たちの許に身を置くというものだった。
俺が目覚めた時点で、マミは木島氏の許に行くはずだった。
だが、俺の意識が完全に戻るまで傍にいさせてやって欲しい、と俺の両親が木島氏に頼み込んだらしい。
榊氏の計らいでマミは実家に留まる事を許された。
やがて、俺は、記憶はないものの完全に意識を取り戻した。
天見琉華の予告通り、俺はマミに激しい拒絶感を抱いていた。
態度には出すまいとしていたが、マミも感じ取っていたはずだ。
記憶を失う以前の事については、周りの人間が俺に教えることは厳しく禁じられていた。
俺が意識を取り戻してから暫くの間は猶予が与えられたが、それも遂に終わりを告げた。
イサムの訪問だ。

881 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:35:58 ID:XU1AEzQY0
マサさんは、イサムから俺が彼に託したUSBメモリーを示された。
中には音声ファイルが入っていた。
マミのMP3プレーヤーの中に入っていたあの曲だ。
あの曲は、俺が深い瞑想中に聞いた曲を『耳コピ』したものを権さんがピアノで弾いて再現したものだった。
マサさんは、曲を聞いて俺が事前に何を行ったかを瞬時に理解したそうだ。
そして、イサムに言った。
恐らく、この曲を聞かせれば、俺は以前の記憶を取り戻す。
俺とマミ次第ではあるが、元通りにやり直すことも出来るだろう。
どうするかは、お前自身が決めろ。
この事を知っているのはイサムとマサさんだけだ。
どのような行動に出たとしても、マサさんは誰にも言わないし、イサムを責める事も軽蔑する事もない、と。
結局、イサムは託された曲をマミに渡した。
俺は、あの曲を聞き、記憶とマミへの思いを取り戻した。

882 回帰3 鬼哭 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/29(水) 06:38:20 ID:XU1AEzQY0
マミが去って3ヶ月弱。
今、マミは榊氏の許に居ると言う。
「明日、逢えば判る」そう言って、詳しい事情は教えられず仕舞いだった。
だが、マミにただならぬ事態が生じているのは確かだ。
今すぐにでも、マミの許へ走り出したかった。
彼女に何が起こったのか、無事なのか?
俺の眠れぬ一夜は始まったばかりだった。
 
 
つづく

883 名無しさん :2014/01/29(水) 10:22:40 ID:LdxsIR5Q0
おはう!祟られ屋さんの人。あとでゆっくり読みますね

884 名無しさん :2014/01/29(水) 14:05:12 ID:XlNLqVC.0
あのラブホのくだりは数多あるシャレコワの1つだろうくらいしか
思わなかったけど、遂にこんな展開にまでなるとは・・・

というか、誰か相関図を作ってくれぇw

885 名無しさん :2014/01/30(木) 00:53:59 ID:7GOzRebk0
祟られ屋さんの方、乙です!

いつでもいいので、また来てくださいね。

>884
相関図はもちろん、時系列表や用語集も作りたいですw

886 名無しさん :2014/01/30(木) 21:38:57 ID:lYCDcD.k0
自分で書いた怖い話のブログやってます
よろしければご訪問ください

ttp://scoby.blog.fc2.com/

887 ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:18:29 ID:bz1odVGo0
テスト
『回帰』の残り2/5をまとめて投稿させて頂きます。

888 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:20:04 ID:bz1odVGo0
一木邸に一泊することになった俺は、眠れぬ夜を過ごしていた。
横になりながら、ぼんやりと考え事をしていると「いいかしら?」と言って、一木耀子が室内に入ってきた。
暫く無言の状態が続いたが、やがて、耀子が口を開いた。
「マミさん、……あの娘が貴方の『夢』だったのね?」
「ああ」
少し間を空けて、耀子が言葉を続けた。
「マミさんが言っていたわ。
あの娘は、子供の頃からずっと望んでいた。
無条件に自分を愛してくれて、守ってくれる存在を。……父親のような存在をね。
望んでも、自分には得られないものだと、初めから諦めていたらしいけど。
あなたも知っているように、辛い事ばかりだったあの娘は、更に辛い状況に追い込まれていたわ。
逃げ出したいけれど、怖くて逃げられない。
誰でもいいから、自分をここから連れ出して、救い出して欲しい。でなければ、いっそ死んでしまいたい。
実際に、死に方や死に場所を探している時に現れたのが貴方だったそうよ」
「……」
「貴方は、マミさんに、あの娘の貴方への思いは『刷り込み』かも知れないと言った事があるそうね?」
「ええ、ありますよ」
「そう。……貴方は、『引き寄せ』という言葉を知っている?」
「言葉だけなら聞いた事はあります」

889 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:21:22 ID:bz1odVGo0
「マミさんは、まだ目覚めてはいないけれど、私たちが探し続けてきた『新しい子供』の一人。
そして、今判っている子供達の力の一つが『引き寄せ』の力なの」
「へえ……。それが、どうしたと? 俺には、アンタが何を言いたいのか、まるで判らないな」
「本当に? ……子供達は深い精神の階層から現実をコントロールするわ。時に利己的に、或いは利他的に」
「で、アンタは俺が、マミに引き寄せられた存在だとでも言いたいのか?」
「ええ。『引き寄せ』の対象が貴方だったのは、母親の深層心理が反映したのでしょうね」
「……くだらない! 実にくだらないね。それが本当だったとして、何の問題もないだろう?
俺とマミの問題だ。俺達が良ければ、それで良いじゃないか!」
「そうね。私もそう思うわ。でもね、マミさんは違っていた」
「どういう事だ?」
「マミさんの『干渉』が無ければ、あなた達が出会っていなければ、貴方は奈津子さんと結ばれていたはず」
「それはないだろう。榊さんが反対しただろうし、俺は『アンタたちの世界』から足を洗いたかったのだから」
「榊さんの反対は、貴方とマミさんが出会ってから出てきた事象に過ぎないわ。
更に言えば、あの娘が貴方を『保護者』ではなく、一人の男性として好きになってからの事象よ。
それに、貴方なら、多分、奈津子さんを連れ出して逃げたでしょうね。この世界に残して行く事は無かったはず。
榊さんも、奈津子さんを連れ去ったのが貴方なら、結局は追認したでしょう。あの人たちは、貴方の事が好きなのよ」

890 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:23:32 ID:bz1odVGo0
「全ては仮定の話にすぎないだろ?」
「そうね。でも、マミさんにとってはそうではなかった」
「どういう事だ?」
「あの娘はね、未だに自分の存在に罪悪感を持っているのよ。可哀想にね。
母親の不幸も、貴方に降りかかった生命の危機も、全て自分のせいだと、持たなくても良い罪の意識に苛まれていたの。
そして、奈津子さんに出会って、あの娘の罪の意識は決定的なものになってしまった。。。」
「何故?」
「奈津子さんは、優しくて、本当に良い娘だからね……あの娘は、マミさんにも優しかったわ。
そして、貴方の事が大好きだから。。。あの娘は、自分の感情を隠さない。
見ていて羨ましいくらいに自分の気持ちを真っ直ぐに表現する。……奈津子さんの存在はマミさんを打ちのめしたわ」
「どういうことだ?」
「マミさんは、自分が奈津子さんから貴方を奪ってしまったと、持たなくても良い罪悪感を持ってしまったようね。
そして、貴方を深い眠りから目覚めさせたのが奈津子さんだった事が決定的だったみたい」
「馬鹿な。。。」
「そう、馬鹿よね。あの娘は、貴方を本当に幸せに出来るのは奈津子さんだと思ってしまった。
それだけじゃないわ。
貴方があの娘に注いだ愛情は、自分が捻じ曲げて奪ったものであって、本来は全て奈津子さんのものだった、そんな風に誤解してしまったの。
貴方が奈津子さんの声に反応して目覚めた事で、マミさんの罪悪感は決定的なものになってしまったのよ」

891 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:26:03 ID:bz1odVGo0
「馬鹿な。何で、そんな事を。。。」
「そうね。本当に馬鹿よね。……可哀想な子。
悪い事なんて何もしていないのに。
奈津子さんに負けないくらい優しくて良い子なのにね。
あなたや貴方のご家族、イサムくん、他の『子供達』にも愛されているのに……奈津子さんにだって。
傷付き過ぎて、自分が他人に愛される存在だと信じられないのね。
持たなくても良い罪悪感に囚われて、自分の存在を否定してしまった。
自分の存在を消し去りたい、死んでしまいたい、そんな風に思ってしまった。
あの娘は、その願いを、自分の死を引き寄せつつあるわ。
あの子は今、緩やかで苦しい自殺の過程にいるのよ。
もうね、私達には手の施しようがない。
あなただけが頼りなの。
こんなことは頼めた義理ではないけれど、お願い。
あの娘を助けてあげて」

892 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:27:21 ID:bz1odVGo0
やがて夜が白み始めた。
未だ寝静まっている邸内から庭に出た。
背後に人の気配を感じ振り返ると、3人の『子供達』が立っていた。
一人とは面識が有った。
マサさんの息子だ。
もう一人は、20歳前後、丁度マミと同じくらいの年恰好の青年だった。
そして、12・3歳くらいの少年。
青年……カズキは一木貴章氏の息子、少年……セイジは一木耀子の孫らしい。
セイジが鋭い視線を向けながら1歩前に出てきた。
拳を握り構えた。浅い右前屈立ち・中段構え。
子供にしては様になっている。気魄は並の大人を軽く凌駕している。
俺は受けに回った。
「行くよ」
セイジが動いた。
中々キレのある動きだ。
セイジは同じコンビネーションを繰り返した。
何度かセイジの攻撃を受けていて、俺は気付いた。
そして、背筋に冷たいものを感じた。
このコンビネーションは、子供の頃、組手が苦手だった俺が李先輩と考えて、繰り返し練習したパターンだった。
まさか、この子は!

893 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:28:43 ID:bz1odVGo0
マサさんの息子が例の頭の中に直接響く声で話しかけてきた。
恐ろしい視線と共に。
以前は無かった、青く光る眼光……昔見たデビット・リンチの映画を思い出させる、怪しい光を帯びた不気味な目だった。
『約束だ。マミを助けてあげて。やり方は判っているはずだよ』
「ああ、判っているさ」
何故か、俺はそう答えた。
 
朝食を済ませ身支度を整えると榊家から迎えの車が到着した。
運転手の男が「お迎えに上がりました」と言って、後部座席のドアを開けた。
男を見た瞬間、俺は固まった。
後部座席に乗り込み、車が出て直ぐに俺は運転手の男を問い詰めた。
「星野 慶、何故お前が此処に?」
「驚いたか?無理もないな。お前らに捕まって開放された後、木島さんにスカウトされてな。
今は、榊さんの下で修行しながら、お嬢さんたちの運転手兼ボディーガードを勤めている」
星野 慶は、アリサの実兄だ。
以前、俺は彼に襲われ、殺されかけた事がある。
「逢いたかったよ。その内、逢えるとは思っていたけどね」
「俺もだ。……俺は、お前に詫びなくてはならない。済まない、俺の為にアリサが。。。」
「言うな。俺よりも、お前の方が辛いだろう。それに、アイツの事で俺にお前を責める資格はない。
アイツは、あの時点でああなる事を知っていたのだよ。判っていて選んだんだ。
お前は最初から最後まで、アイツを一人の『女』として扱った。
望み半ばだったとはいえ、惚れた男の為に命を張ったんだ。女冥利に尽きるだろうさ」

894 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:31:13 ID:bz1odVGo0
「だから、優、いやアリサの事は引き摺るな。忘れろとは言わない。お前には無理だろうからな。
あのマミって娘、良い子じゃないか。
幸せにしてやれよ。そして、お前もな。月並みな言い方だが、あいつもそれを望んでいると思う」
「……すまない」
「あの娘は、ずっと意識がないままだ。
お前の許を去って此処に来てから、殆ど何も口にしようとしなかったからな。
今は点滴と奈津子の『手当て』で何とか命を繋いでいる状態だ。
『気』を通してやれば何とかなるのだが、全く受け付けないんだ。
意識はないけれど、他人の『気』を体内に受け入れることを強烈に拒絶しているんだよ。
あれは、一種の自殺なんだろうな。
奈津子が頑張っているが、あの娘に何かのスキルがある訳じゃないから、もう限界なんだ。
他の『子供達』にも心を閉ざしたままだ。手詰まりなんだよ」
「慶、お前は『新しい子供達』の事を知っているのか?」
「ああ、知っているよ。
『組織』を離れていたお前は知らなかっただろうが、組織は以前のものではない。
事実上、呪術集団としては終わっている。上層部は既に『呪術』を捨ててしまっているからな。
お前も逢っただろ? 一木家の3人の子供たち。
組織を動かしているのは、あの『子供達』の意思だよ。一木家も榊家も彼らの代弁者に過ぎない。
まあ、組織の人間でも気付いていないヤツの方が多いけれどな」

895 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:33:24 ID:bz1odVGo0
やがて、俺達は榊家の『別邸』に着いた。
緑も多く『気』の濃厚な土地だ。
俺には直ぐに判った。
この土地は、榊家の『井戸』に繋がる土地の一つだと。
門を潜ると榊夫妻と奈津子の母親の千津子が俺を迎えた。
病弱で痩せていた千津子は、幾分ふっくらして血色も良く、健康そうだった。
挨拶もそこそこに奥の部屋に入ると、点滴を繋がれたマミがベッドに横たわっていた。
ベッドの横で奈津子がマミの手を握っていた。
「マミちゃん、お兄ちゃんが来てくれたよ」
「なっちゃん、ありがとうな」
そう言って、俺は奈津子と位置を交代した。
マミの手を握ってみた。
悲しくなるくらいに細くて小さな手だった。
恐る恐る、痩せた両頬に触れた。
柔らかだったが、生きているのか不安になるほどに冷たかった。
「マミ……」
目を開けてくれ!
だが、眠り続けるマミは、目を離した隙にその細い寝息まで止まってしまいそうだ。

896 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:35:29 ID:bz1odVGo0
何故だかは判らないが、この時の俺には何をどうすれば良いのか判っていた。
知らない、知る機会も無かった『知識』が俺の中にあった。
俺はマミの額と胸に手を置き、目を瞑り、目の前の『スクリーン』に彼女を映し出した。
彼女の『気』の滞りが手に取る様に判った。
頭部と心臓に『黒い気』の塊があり、内臓、下腹部の辺りには気が殆ど通っていなかった。
特に子宮周辺の滞りは慢性的なものらしい。
『赤黒い冷たい塊』が深く根を張っていた。
この塊が全身の気の滞りの『核』になっている。
俺は、マミの中に『気』を注入してみた。
予想通り、マミの意識は硬い『殻』の中にあり、殻が弾いて『気』を全く受け付けない。
俺は、マミに『同化』を図った。
イメージの中のマミは、俺に背中を向け、膝を抱えて震えていた。
呼びかけても何も応えない。
ぶつぶつと何かを言っている。
『耳』を澄ませると、「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」と、終わらない呪文の様に唱えていた。
空ろで希薄な意識のまま……。
俺は、背中からマミを抱きしめ、マミの言葉に答えるように「許す」と唱え続けた。
「ごめんなさい」と「許す」が交互に続き、シンクロして行く。
しかし、ここから中々進まない。

897 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:38:48 ID:bz1odVGo0
どれくらい続けただろう?
既に時間の感覚は無かった。
疲労からか「許す」と唱える俺の意識の方が希薄になり始めていた。
だが、ふと気が付くと大きな変化が生じていた。
「許す」と言う俺の言葉に「本当に?」というマミの言葉が繋がっていた。
「本当に?」と言う言葉に「本当だ」と繋げた。
徐々にイメージの『空間』が軽く、明るくなってきた。
俺は言葉を変えた。
「許して欲しい」と唱えた。
始め、マミからの言葉は返ってこなかった。
だが、唱え続けていると、やがて言葉が返ってきた。
「許している」と。
「ありがとう、マミ。愛しているよ」
この言葉は瞑想状態のまま、実際に口に出していたらしい。
「本当に?」
「本当だ!」
気の流入を拒んでいた、マミの『殻』は消えた。
マミの中に俺の『気』が入って行く。
枯渇状態だったマミの中に『気』が吸い込まれて行った。
やがて俺は限界に達し、意識を失った。

898 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:39:53 ID:bz1odVGo0
丸一日眠り続けて、俺は意識を取り戻した。
全身が鉛のように重く、体の節々が軋んだ。
俺は床から出て、マミの部屋に行った。
相変わらず意識は戻らず、眠り続けたままだ。
しかし、その肌には血色が戻り、冷たかった手や頬に体温が戻っていた。
ほっとしてマミの傍から立ち上がろうとしたら、立ち眩みがした。
マミに付き添っていた奈津子が俺の体を支えた。
だが、小柄で華奢な奈津子は俺を支えきれず、そのまま縺れ合うように、俺達は床に倒れこんだ。
起き上がろうとすると奈津子が抱きついてきた。
俺を抱える腕に力が篭る。
すると、俺の体から力が抜け、痛みや全身を覆っていたダルさが抜けていった。
『気』を注ぎ込むのではなく、苦痛を抜き取る、そんな感じだ。
これが奈津子の『力』なのか?
奈津子は、マミが倒れてから俺がここに来るまでの間、この『力』で一人、マミの命を支え続けていたのだ。

899 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:42:21 ID:bz1odVGo0
「ありがとう、なっちゃん。もう大丈夫だ」
「そう?……でも、もう少し、このままでいさせて」
暫く、無言のまま、俺は奈津子に身を任せていた。
やがて奈津子が口を開いた。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんは、私の事好き?」
「好きだよ」
「うれしい。私も、大好きだよ。でもね、私、知っているんだ」
「何を?」
「……お兄ちゃんの私への好きは、マミちゃんへの好きとは違うってこと」
奈津子は泣き始めていた。
「私のお兄ちゃんへの好きは、お兄ちゃんのお嫁さんになって、赤ちゃんを産みたい、そういう好き。
マミちゃんと同じ好き。。。」
奈津子は本格的に泣き始めた。
堪らなくなって、俺は奈津子を強く抱きしめた。
「ごめんな。。。」
「謝らないで。。。
みんな私に優しくしてくれる。お爺ちゃんも、お婆ちゃんも、お母さんも。大家のオバちゃんも、アパートの人たちも。
耀子さんや琉華さんも、慶ちゃんやカズ君、セイちゃんも……お兄ちゃんとは違う好きだけど、みんな大好きなの」
「そうか」
「うん。マミちゃんにも好きな人や優しくしてくれる人達はいるけれど。。。
マミちゃんの好きな人達は、みんな、お兄ちゃんを通して繋がっているの。
お兄ちゃんがいないと、マミちゃんは一人ぼっち。だから、私、我慢する。
私、マミちゃんよりも、お姉さんだから。マミちゃんのことも好きだから我慢する。えらいでしょ?」 
「ああ、ごめんな」

900 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:45:53 ID:bz1odVGo0
「謝らないで、……褒めて欲しいな。頭を撫でて欲しいな」
俺は、奈津子が泣き止むまで、細くて柔らかい髪を撫で続けた。
やがて泣き止んだ奈津子は、腫れた目で俺の顔をじっと見つめ出した。
見つめ返すと、奈津子は目を閉じて唇を尖らせた。
「ご褒美!」
少し迷って、俺は奈津子の額にキスした。
「ううぅ、ちょっと違う! でも、まあ、いいか。マミちゃんに怒られちゃうものね!」
 
マミの『治療』は難航した。
他の治療師や榊氏たちが『気』の注入を試みたが、マミは俺の『気』以外、相変わらず受け付けようとしなかった。
俺を『通路』にして、榊家の『井戸』から『気』を導入してみたが、結果は芳しくなかった。
しかし、俺の能力不足で、自前で回した俺の気や気力では全く足りない。
方法は合っている筈なのだ。
少々無理をして『気』を引き出し続けたために、俺の体調は急速に悪化して行った。
榊夫妻が「もう止めろ」と言ったが、止める訳にはいかなかった。
慶が俺をフォローしたが、慶の疲労の色も濃くなって行った。

901 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:48:38 ID:bz1odVGo0
もう駄目なのか?
俺には無理なのか?
悔しさや悲しさ、無力感や倦怠感に囚われていた。
いっそ、このままマミと。。。
明らかに『気』の欠乏状態が精神に影響を及ぼし始めていた。
症状が進行すれば、やがて自殺願望が出てきて、突発的な自殺行動に出る可能性もある。
限界だ。
だが、此処で投げ出せばマミは助からないだろう。
もう少し、あと一歩なのだ。
続けるしかない。
しかし、気力の果てた俺が足掻いたところで効果など上がる訳もなく、とうとう俺は倒れてしまった。
起き上がることも出来ない。
俺は何て無力なんだ!悔しい、ただそれだけだった。
 
マミの治療を開始してから、俺は毎晩同じ夢を見ていた。
深い森の奥に立つ一本の巨木。
間違いなく、この森の『ヌシ』だろう。
そして、樹の纏う神々しさ。
この樹は『神木』の類なのかも知れない。
ただ、固定観念の成せる業だったのだろう。
俺は、この夢をただの『夢』としか捉えていなかった。

902 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:50:31 ID:bz1odVGo0
だが、その晩は違っていた。
疲労困憊していた俺は、夢と現実の判断を完全に失っていた。
目の前の『神木』を実体を持った存在と認識していた。
俺は、目の前の樹に対して『同化の行』を行った。
樹から夥しい量の『気』が流れ込んでくる。
大量の『気』と共に、俺は嗅いだ事のない花、或いは香のような匂いを感じていた。
嗅いだことのない匂い?
いや、あるのか?
やがて俺は目覚めた。
俺の全身には、信じられないほどに『気』が漲っていた。
俺はつまらない固定観念から、やり方を少し間違えていたようだ。
全ては始めから用意されていたのだ。
俺は夢の中の『神木』と繋がっていた。
神木から引いた『気』を体内で一回ししてからマミに注いでみた。
上手く行く。確信があった。
予想通り、マミの中に大量の『気』が入って行くのが判る。
30分ほど気の注入を行い、俺はマミから離れた。
終わった。
慶に礼を言い、瞑想に入った。
瞑想を通じて、榊家の森と夢の中で見た『神木』に礼を述べた。
瞑想から覚めたところで榊婦人が俺を呼びに来た。
「マミさんが目を覚ましたわ!」

903 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:52:43 ID:bz1odVGo0
「おはよう、マミ」
「XXさん、何で此処に?わたし、まだ夢を見ているのかな?夢なら覚めないでほしいな」
俺はマミの頬を片方、指で摘んだ。
「痛い!」
「もう片方も行っておくか?」
「やめて下さい。もう、せっかく感動してるのに、ぶちこわしじゃないですか!」
「ごめん」
「謝らないで下さい。わたし、嬉しいんですから。もう二度と会えないと思っていたから。。。」
マミは泣き始めた。
泣き止むと、マミは話し始めた。
「ずっと、怖い夢を見ていました。暗くて寒い所にずっと一人ぼっちで。。。淋しくて、苦しくて。
死ぬって、こういう事なのかなって。。。」
「そうか」
「でも、XXさんの匂いがしたんです。懐かしい、大好きな匂いが。そうしたら、だんだん暖かくなってきて。。。」
「そうか……もう、何も言うな」
俺は、マミを抱きしめた。
最初は恐る恐る。そして、少し力を強めて。

904 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:55:48 ID:bz1odVGo0
どれくらいそうしていただろうか?
マミが口を開いた。
「XXさん、私、おなかが空いちゃった」
「俺もだ。何か、食べたいものはあるか?」
「XXさんの焼いたアップルパイ! シナモンは抜いて」
「そんなのはお安い御用だけど、さすがに今は無理じゃないかな?」
「そう? それじゃ、ミルクティーでいいや。うんと甘くして。
……ラーナさんが入れてくれたのは美味しかったよね。シナモンは余計だったけど」
 
「……マミ、早く元気になって家に帰らないとな。みんな待っているぞ?」
「私、もう帰れない」
「何で?」
「私、久子さんに嫌われちゃった。大好きな久子さんに……合わせる顔なんて無いよ!」
「そんな事ないって」
「XXさんは、知ってる?
……私は、お母さんに聞いたのだけど。。。
久子さん、素子さんが結婚した時に、お父さんに言ったんだって」
「何を?」
「久子さん、……一生、誰とも結婚しない。子供も産まないって」
「そうか……。昔、嫌な事件があったんだ。アイツはそれ以来、男性恐怖症気味だから……仕方ないな」

905 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 04:58:14 ID:bz1odVGo0
「XXさん、違う。そんなんじゃないよ?」
「違う?」
「そう、違うの!
……XXさんが意識を失って、目を覚まさなくなったとき、一番取り乱していたのは久子さんだったの。
泣きながら言われたわ。
なんで、XXさんを信じて待っていなかったの、何でXXさんの事を受け止めてあげなかったのって。。。
わたしがあなただったなら、わたしがあなただったならって、何度も言いながら、あの久子さんが泣いていたのよ。
私、鈍いから、それで始めて気付いたわ。
そんな久子さんが、私のことを認めてくれたのに、XXさんのことを任せてくれたのに、私は。。。」
俺は、何を言えば良いか判らなくなっていた。
更に、マミは続けた。
「……それに、私はXXさんとは一緒にいられない。そんな資格はないの」
「何で?」
「みんながXXさんを助けようと頑張っている時に、私、酷い事を……とっても酷いことを考えていたの」
「何を?」
「このまま、XXさんが目を覚まさなければいい。
私のものにならないなら、いっそ死んでしまえばなんて……ごめんなさい。許してなんて、言えないよね」
「……何故?」
「だって、敵わないもの。
私、ほのかさんや香織さんみたいにキレイじゃないし、藍さんみたいに頭も良くないし、ジョンエさんみたいに優しくもない。
祐子先生みたいに強くもなれない。……奈津子さんを差し置いて、XXさんに選ばれる理由なんて思いつかないもの」

906 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:01:11 ID:bz1odVGo0
「そんなことはないよ。
確かに、ほのかや香織はちょっと居ないレベルだけど、マミだってキレイで可愛いぞ?
ホモか余程の変人でもない限り、男ならお前に好きだと言われたら、10人中9人は舞い上がるだろうさ。
マミは、ジョンエみたいに誰にでも優しい訳ではないかもしれないけれど、俺や周りの人たちには十分過ぎるほど優しいじゃないか。
それに、俺だって藍みたいに頭は良くないし、祐子みたいに強くも無い。
……馬鹿で同じ失敗を何度も繰り返しているし、お前と同じくらいに、いや、お前以上に弱い。
恐怖に負けずに、お前と一緒に居る強さがあれば、お前に全て打ち明ける勇気があれば、お前をここまで傷つける事は無かった。
ごめんな。……俺が弱かったばかりに」
「……奈津子さんの事は? 私、XXさんの事は大好きだけど、奈津子さんほど強く想えているのかは判らない」
「そんなことは、誰にもわからない。人間の感情を数値化して比較することなんて出来ないのだから。
奈津子は確かに良い娘だよ。人の姿をしているけど、本当は天使か何かなんじゃないかって位にな。
でも、俺はお前を選んだ。
ただ、それだけだ。理由なんて無いよ」
「ごめんなさい……」
「謝る事なんてない。
俺だって、同じような状況だったら、同じようなことを考えるかもしれないからな。
マミが誰かのものになりそうなら……マミを誰にも渡したくないから。
独占欲ってヤツなのかな? 俺はむしろ、マミに其処まで思ってもらえて嬉しいぞ?」

907 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:04:06 ID:bz1odVGo0
「以前、お前に言ったはずだ。
俺はもう、好きな女を失ったら、お前を失ったら耐えられそうに無いって。
昔、俺の先輩……お前の伯父さんが言っていたよ。
どんな理由があっても、どんな形であっても人殺しは許さないってな。
人殺しは最も重大な罪だからな。その中でも、自殺は特に罪深いと思うぞ?
ただの人殺しなら、残された者は殺した者に対する怒りや憎しみ、復讐心に縋って生きることも出来るだろう。
殺した者にも、贖罪の道が残されている。
でも、自殺は、残された者に悲しみしか残さない。贖罪の道も最初から絶たれてしまっている。
前に、お前が手首を切ったときに言ったはずだ。
お前が自分自身を傷付ける事は、俺や父さん、母さんや久子を傷つけることに等しいって。
死にたくなったら、先に俺を殺して、もう一度考えてからにしろって。
お前が何をしたとしても、俺は許せると思う。時間が掛かったとしても、いつかは。
生きてさえいてくれたらな。
お前に去られたとしても、耐えてみせよう。
でも、自分を傷付けるのは、自殺だけは止めてくれ。
お前は、俺にとっては誰よりも大切な存在なんだ。その存在を、おまえ自身が否定するのは止めてくれ。
……俺は、それに耐えられるほど強くはないんだ。いっそ、お前に殺された方がマシだよ」

908 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:06:56 ID:bz1odVGo0
……こんな事じゃなかった。
俺がマミに本当に言いたいのは、こんな事じゃなかった。
もっとシンプルな、何度も、何度も、毎日繰り返していた言葉じゃないか!
何故言えない?
言え!
臆病者め!
同じ過ちを何度繰り返せば気が済むのだ!
考えるな!
さっさと言ってしまえ!
愚図、鈍間、低脳、ヘタレ!
俺は、自分の弱さ、勇気の無さに呆れ果てていた。
自分自身に嫌気が差す。
こんなヤツではマミも愛想を尽かすだろう。
もう、どうにでもなれ!

909 回帰4 夢の樹に繋げば ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:08:55 ID:bz1odVGo0
「マミ」
「はい?」
「俺は、お前を……愛しているんだ。今でも。そして、これからも」
言っちまった。
……しかし、マミは何も応えてくれない。
俯いたままだ。
マミの肩が震えている。泣いているのか?
「……ごめん」
「何で謝るんですか?
わたし、嬉しいんですよ!もう二度と言っては貰えないと諦めていたから」
「……俺も、もう二度と言えないかと思っていたよ」
「私も愛してます。だから、もっと言ってください!」
そのままマミは、ずっと泣き続けた。
良くもここまで涙が続くものだと呆れるくらいに。
だが、この泣き顔も俺にとっては愛しい表情の一つだ。
「ごめんなさい、私、こんなに泣き虫じゃなかったはずなのに。。。」
「いや、マミは前から泣き虫だったよ」
「泣き虫は嫌いですか?」
「いや?泣き虫なマミも可愛いよ。愛してるよ、マミ!」
やっと泣き止んだマミがまた泣き出した。
  
  
つづく

910 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:24:38 ID:bz1odVGo0
マミの治療は、マサさんが呼び寄せたチェンフィに引き継がれた。
俺の治療で縁の出来たチェンフィには、月に1度ほどの頻度で姉の診察・治療もして貰っていた。
人見知りの激しいマミもチェンフィとは面識が有ったので、比較的すんなりと治療に入れたようだ。
彼女の腕は確かだ。
マミの体のことは、安心して任せておけた。
 
俺はその日、天見琉華の呼び出しを受けていた。
マサさんと共に、彼女の教団本部に赴くと、其処には例の3人の子供達が来ていた。
やがて、天見琉華が姿を現した。
俺は、まず彼女に礼を述べた。
「礼なんて無用よ。
私は貴方を何度も危険な目に遭わせてきたのだから。
むしろ、膨大な借りが残っている。
それに、貴方やマミさんのことは、こちらの都合でもあるのだから、気にしないで」
実のところ、かなり緊張して赴いていた俺は拍子抜けしていた。
これまでの彼女のイメージと懸け離れた印象だった。
俺のそれまでの天見琉華へのイメージは、出来れば関わりを持ちたくない、冷酷で恐ろしい人物だった。
実際、彼女によって俺の手に余る危険な仕事を『押し付けられた』ことは1度や2度ではない。
我ながら、よく今日まで生き残れたものだと感心する。
彼女と彼女に関わる全てが俺にとって不吉だった。

911 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:26:56 ID:bz1odVGo0
だが今、目の前にいる彼女は、柔らかい、孫とでも遊んでいるのがお似合いの、ただの老女だった。
一木耀子と似た優しい雰囲気を醸し出していた。
慶が言っていた。
『組織』の上層部は既に『呪術』を捨ててしまっていると。
これほど変わってしまうものなのか?
俺は、驚きを隠せなかった。
そして、改めて確信した。
『呪術』とは、人を不幸にしかしない、自分自身を傷付ける自傷行為に他ならないのだと。
マサさんの息子が俺に話しかけてきた。
「オジサン、『例の言葉』は見つかった?」
「ああ。『全てを許し、その存在を許容する』と言った所かな?」
「まあ、ほぼ正解。それを他人だけでなく、自分自身にも適用できれば良いのだけどね」
「自分自身に?他人にではなくて?」
「そう。他人を許すことはそんなに難しいことじゃない。許すと『決めて』しまえばいいんだ。
でも、自分自身を許すことは何倍も難しいよ。
マミを見れば判るでしょ?オジサン自身も自分の事を許せていないじゃないか」
「そうかな?」
「そうだよ。まあ、自分自身を完全に許せている人なんて、いないと思うけどね」
「だろうな」

912 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:29:32 ID:bz1odVGo0
俺は、天見琉華に尋ねた。
「俺の死期とされていた『定められた日』って何だったんだ?」
「貴方も『瞑想者』なら気付いているはずよ?
勿論全ての『瞑想者』が気付いている訳ではないでしょうけど。
でも、貴方になら判るでしょう。
あなたが眠りに付く前と後では大きく変わった事があるはず」
「それは、『障壁』の事か?」
「そう、深い精神の階層との壁が一つ、消えてしまった」
「そうか、……あれは、俺の個人的な事象では無かったんだな」

913 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:30:51 ID:bz1odVGo0
瞑想状態に入り込むと、ある一定の深度から先の段階で見たり聞いたりしたものを記憶に残す事が非常に困難となる。
同時に、昼間の顕在意識下での思考や意思をその先の瞑想深度で保持し続ける事も困難だ。
その境界を仮に『眠りの壁』と呼ぼう。
正にその名の如く、『眠り』が壁になってしまうのだ。経験のある人も多いだろう。
ただ、この壁を乗り越えることはそう難しい事ではない。
瞑想を繰り返せば『壁』自体が弱くなるし、一定の方法を知り訓練を重ねれば普通に思考する事も可能だ。
だが、次の段階にある『壁』は難物だ。
仮に『音の壁』とでも呼ぼうか?
この壁の向こう側では、言語による論理的思考は不可能だ。
人間は言語により思考する動物だから意識を保つ事も難しい。
言語で思考できない領域だから言葉で表現することは非常に難しい。
この領域ではバイブレーション、敢えて言うなら音の高低やリズム、音質で……『音楽』で思考する。
感情の起伏も『音』に顕著な影響を与える。
多くの宗教に様々な形で『音楽』が取り入れられているのは、この段階の精神階層にアクセスする為ではないかと俺は考えている。
俺は、この階層の瞑想中に聴いた『音楽』を持ち帰った。
そして、それを再生・演奏したものを繰り返し聞いて身に付けた。
イサムに託したUSBメモリーに入れてあった音楽ファイルだ。
あの音楽に、瞑想中に見聞きしたものを『感情』を『接着剤』に使って結び付けて記憶し、顕在意識下に持ち帰っていたのだ。

914 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:33:56 ID:bz1odVGo0
一昨年末に、大きな変化が生じたという。
音の世界に『言葉』が混入し始めた。
曲に歌詞がついて『歌』となり、音の世界の音楽に混入し始めた、とでも言えば良いのだろうか?
今回、俺はこのように表現したが、瞑想のやり方は色々だし、感じ方もそれぞれ、表現も人によるだろう。
他人がどう表現するのか、俺にとっても興味深いのだが。
だが、確かに大きな変化が生じたようなのだ。
そして、変化の結果、人間の顕在意識下での思考が、言語による思考がより深い階層の意識に届き易くなってしまったらしい。
これは恐ろしい事態だ。
『願い』や『呪詛』が叶い易くなってしまったのだ。
より深い階層から、大きく強いうねりとして。
『願い』は良い。
潜在意識にアクセスする術を持つ者は、より早く、より強く自己の欲望を実現して行くだろう。
そして、恐らく、この精神の深奥を利用する術に気付くか気付かないかで、人々の間に新たな二極分化が生じるだろう。
問題は『呪詛』だ。
以前に書いたように、自己も他人も同じ生命体の一部。
他人を傷付ける事は、自己を傷つけることに等しい。
自己も他人も相対的なものだ。
違いがあるとすれば、それは呪詛の発信源からの『距離』か?
上手い表現が見つからない。
これまでの『呪詛』のエネルギーは、浅い階層を徐々に弱まりながら同心円状に広がっていった。
相手に当たった呪詛のエネルギーは跳ね返って自分にも戻ってきた。『呪詛返し』だ。
だが、『変化』の後、状況は変わった。

915 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:35:28 ID:bz1odVGo0
浅い池の表面を叩くのではなく、深い池に重い石を投げ込んだ時、高く水柱が立つように、呪詛は仕掛けた者に直接降り掛かるようになったのだ。
今後、他人に呪詛を仕掛ける者は、恐らく、予想外の激烈な形で滅びを迎えるだろう。
俺は思う。
これは恐らく、『生命の樹』に備わった免疫反応なのだ。
他人に呪詛を仕掛ける存在を……『生命の樹』を傷つける『癌細胞』をより効果的にデリートするための。
先に延ばされた、次の変化のために。。。
俺には、これといった欲望は無い。
マミや他の家族と、仲の良い隣人に囲まれながら、平和に穏やかに暮らしたいだけだ。
だが、大人しくしているだけで、多分、俺の中には今尚住み着いているのだ。
激しい憎悪を内包した『鬼』が。
『鬼』の憎悪や怨念は、俺とマミの平穏を何れ破壊するだろう。
一度は『滅び』を免れたが、今尚俺は『生命の樹』を傷つける『癌細胞』の一つなのだ。
目を逸らして、知らない振りをしても無駄だ。
真の意味で『鬼』を鎮めなければならない。
和解しなければ。
既に途絶えているはずだった、俺の一族が今日まで存続し続けたのは、その為だったのかも知れない。

916 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:38:26 ID:bz1odVGo0
「カズキ、お父さんに頼んで、コンタクトを取って欲しい人がいるんだ」
「行くんだね?」
「ああ。お前達には、全てお見通しだったな」
「まあね。お父さんにはもう頼んであるよ」
「そうか」
「おじさんが、本当は『赤い人』なのか『青い人』なのか、見極めさせてもらうよ」
マサさんが再会してから一度も外さなかったサングラスを外した。
マサさんの両眼は、俺が榊家に向かう直前に、マサさんの息子が見せたのと同じ青い光を帯びていた。
「この光が見えるということは、オジサンも僕らと繋がっていると言う事なんだよ」
「だから、俺は知らないはずのマミの治療法を知っていたんだな」
「そういうこと」
「マミを介して、オジサンは僕らと繋がっている。
オジサンが『赤い人』なのか『青い人』なのかは、まだ判らない。
マミが目覚めないのは、その為だろうね」
『赤い人』とは、多分、鏡に映った、夢の中でマミを手に掛けた、『鬼』の事なのだろう。

917 回帰5 呪いの地へ再び ◆cmuuOjbHnQ :2014/01/31(金) 05:40:41 ID:bz1odVGo0
「マミの為にも、オジサンには『青い人』になって欲しいな。
無事に帰ってきて、『今度は』セイジにオジサンの空手を教えてあげてよ。
あいつはオジサンの事が大好きなんだ。マミのこともね。
くれぐれも『赤い人』には気を付けて」

俺たち一族にとっては、捨て去った筈の呪いの地。
かつて、その地で俺たちに向けられた『呪詛の視線』を思い出し、俺の掌には冷たい汗が滲み出していた。
其処に何が待つのかは判らない。
だが、俺は行かなくてはならない。
俺たち一族を呪い続ける人々との『和解』のために。
それが、坂下家同様に、既に絶えていた筈の俺たちの一族が存続し、俺が今日まで生き延びてきた理由だと思えるからだ。 
今度こそ、逃げる訳には行かない。
逃げた先に安住の地はない。
今度こそ、手に入れるのだ。
マミや家族との平穏な暮らしを。
俺は父の実家のあった『田舎』、怨念の地へ向かう事にした。
  
 
おわり

918 名無しさん :2014/01/31(金) 07:38:29 ID:zHvUt4BE0
おはよう〜。投稿ありがとうございます〜

919 名無しさん :2014/01/31(金) 16:35:40 ID:Y5MfK1xY0
管理人さん、「影の家族」へのリンクが無いッス

920 名無しさん :2014/01/31(金) 17:32:16 ID:FCXakptQO
そんなもの無くていい
それより長い!長い!

921 名無しさん :2014/02/01(土) 00:10:45 ID:wxxmMX7U0
祟られ屋さんの方、続きの投稿乙でございました。

さらに続きのお話があるようですね。

そちらもよろしければ、タイミングの良い時にお聞かせくださいね。

922 名無しさん :2014/02/01(土) 15:50:03 ID:07sYpnycO
sharekowaの日韓ワールドカップ

923 名無しさん :2014/02/02(日) 05:56:47 ID:APnxACFwO
霊的でないとダメなの?
普通の日常的な怖い話じゃダメ?

924 名無しさん :2014/02/02(日) 13:59:06 ID:Z0T6NISs0
なんでもいいから怖い話なのが基本だから日常的な怖い話でもOK

925 名無しさん :2014/02/02(日) 16:27:37 ID:APnxACFwO
皆さんは騒音オバサンをご存知かと思う。

布団叩きを持って引っ越せ!引っ越せ!と叫んでいたあのオバサンです。
10年ほど前にテレビに出ました。

私の近所にもそれに似たオバサンがいます。(年は70くらい)
私の家は一戸建てで隣にも同じ家が2件並んでいます。
その向かい側にボロく小さい家が1件あります。
3件の家沿いにブロックの壁が立っており私の家はボロから見て一番右側になります。
そのボロい家に問題のオバサンが住んでいます。

いつかの日曜日−
私は昼頃まで寝ていました。
隣(真ん中)の住人から掃除機音が鳴りすっかりその音で起こされてしまいました。
掃除機音が鳴って数分後

うるさいッ!

という声を聞いたのです。(ボロ家からです)
その声で掃除機音はピタリと止まりました。
そして意味不明なことを叫んだのです。

お前は歩く吸い取り屋〜!

って叫んでたような…

別の日に空気を入れ換えようと窓を開けるとボロ家のオバサンが外で草取りをしているのが見えたので私はワザと馬鹿デカいクシャミをしてすぐに隠れ、窓の隙間から外を覗くとオバサンがこっちを睨みつけていました。(30秒は睨んでたかな…)
オバサンは立ち上がり、シッシ…と手で追い払うような仕草をとって家に戻っていきました。

また別の日に隣から掃除機音がするとボロ家からオバさんが出てきて

また吸い取り屋か!また吸い取り屋か!

さらに

ドコッ!クシャッ!

ブロック壁に何かをぶつけた音がしたのです。
あとテレビの音量や洗濯機のガタ音などがすると

ガタガタガタガタ壊れとんか〜!
とか
テレビ消さんと燃やすぞ〜!

など次々と意味不明な罵声をとばしてきます。
少しでも物音や話し声などが聞こえるとそこの家に近づき叫んでくるのです。
私は隣の住人が可哀想になってきました。

私もここのところ不眠症が続いています。

ヘタに刺激すれば何をするか分かりません。
警察もよほどなことでないと動かないと思います。

相談所みたいになってすみませんが何とかあのオバさんを黙らせられたらと思ってここに書いてしまいました。

926 名無しさん :2014/02/05(水) 04:30:37 ID:OVHoSTjUO
何でもいいって言っといて人が折角、実話を書いた途端にレスが途絶えるもんな〜
応えられないの?
何だっての?一体?

927 名無しさん :2014/02/05(水) 04:34:17 ID:OVHoSTjUO
どうしてこうなんだろうね?サイトって
ちょっと何か書けばすぐこれだもんな〜
本当腹立つ!

928 名無し :2014/02/05(水) 21:09:38 ID:gvVg0HW.0
アレ?

929 名無し :2014/02/05(水) 21:22:11 ID:gvVg0HW.0
>>926
まあ落ち着けって。
何でか書き込みが蹴られたから、も一回書く。
俺の偏見って思われてもしょうが無い。でもココは大事な隠れ家な訳。
もちろん怖い話なら何でも良い。君の話もしっかり読ませてもらったよ。
でもレスが沢山ついて変なのが集まるのは避けたいんだ。
だからマサさんの話も藍さん達の話も皆のレスは極力控え目。そういうこと。
(できれば上の方のレス読んで察してくれ)
どうしてもレスが必要なら、ココ以外にも掲示板用意してウェルカムな
まとめサイトがある(怖い話まとめでググレ)。しかもかなりメジャーだ。
ただ、そういうトコは辛辣なレスも覚悟して書き込む必要があるな。
書き込んでくれてアリガト。

930 名無し :2014/02/05(水) 21:31:13 ID:gvVg0HW.0
>>926
ああ、忘れてた。思い出したからもう1つ。
とりあえず「創作」って前置きがあると好き勝手にレスできるけど、
生身の人間の、しかも『実話』はレスしにくいぞ。
「こうすりゃオバさん黙るぜ。」って提案して
「逆効果じゃねぇか。どうしてくれる!」って展開は避けたいだろ?
次からは、けなされなかったらOK、くらいの感じで書き込んでくれよ。
怖くて面白い話、待ってるよ。

931 名無しさん :2014/02/06(木) 00:32:58 ID:srw5Xuis0
あなたは大人だ。

932 名無しさん :2014/02/06(木) 09:21:46 ID:ZvDqe1060
>>925
確かにお前さんの話はリアルに怖い話になるけど
ここは語り部がいてそれに感想付けるだけの様な憩い場的なスレ
925さんの話は怖い話ではあるけど最後
「相談所見たいになって申し訳ありません」
と自分で言ってしまっている以上
レス返しがない可能性も考えて頂きたいです
また>>926-927の様に思ってしまうのなら
相談スレなどご近所トラブル系の板なり探すなどやりようが他に有りますので
そうしていただけないでしょうか?

ではまた怖い話があれば是非読ませて頂き
楽しみに待っております

933 名無しさん :2014/02/07(金) 01:58:09 ID:GuVu659IO
それは悪かったと思う。
でも悩みのサイトがなくて…

934 名無しさん :2014/02/07(金) 02:36:05 ID:GuVu659IO
925の話は仕方ないとして、自分もいくつか怖い話を知ってるのでぼちぼち出したいと思います。

935 いじめ :2014/02/08(土) 04:06:53 ID:XbM63.TsO
小5の時、クラスで凄くイジメられていた生徒がいた。
その生徒を仮にMとします。
Mは家が貧乏で制服はいつも泥臭かった。
同じクラスにMをイジメていたガキ大将Sがいてそいつに連られて何人かの生徒が彼をイジメていた。
私はイジメていたわけじゃないけどSとは時々話しをするので【もうやめろよ】と言っても彼は聞こうとはしなかった。
そのMという生徒はとても変わっていてSが彼の頭を叩いたり体を殴ったりすると怒るどころか笑っていた。
彼が教室にいない時、教科書や筆箱を隠されても困った様子も見せずただ笑っていた。
何をされても笑うだけで、そんな彼をSは許せなかったのだろう。
体育の授業でSは不意打ちを噛ますようにMの背後から飛び蹴りをしたこともあった。
それから彼をイジメる生徒は減っていったがSだけは相変わらずでどうしようもなかった。

社会人になって数年ぶりにSに再会しました。
彼は今、県外で働いており父の墓参りのため数日間の休暇をとって帰ってきたという。
最近の話題や過去の思い出話をしているうちに彼の口から怖い話を聞かされることに…

彼が墓参りの途中の道を歩いている時、彼の前方、遠くから犬を連れた男の人がこちらに向かって歩いてくるのが見えたそうだ。
彼も歩いているのでもちろんお互いの距離がどんどん縮まってくる。
30mほどで彼は相手の男が誰かに気づいたそうだ。

その犬を連れた男の人…
彼が小学生の時にイジメていたMだったって。
会社の作業着かは知らないがヒドく汚れていたそうだ。

Mと出くわした事に彼は非常に戸惑ったそうです。
過去が過去なので

よーッ!久しぶりッ!元気だったか?

というわけにもいかず、俯き加減で歩いていた彼…
何故かそんな気持ち
すぐに吹っ飛んじゃったって。

それはMが連れた犬を見てゾォ〜ッと血の気が引いたからだそうだ。

そのMが連れた犬…
あちこちにケガをしていて血の塊のようになってたって。
片目は潰れ、前足の片方は折れていたとか。

こう言ってはなんだが…

Mはもしかして今までイジメられてきたツケの全てをその犬に当たっていたんじゃないか…
と彼は想像したそうだ。

さらにもっと怖かったのが彼がMとすれ違う直後だった。

まだ生きてんのか…
早く死ね…クソ…

小声ではあったがはっきりとそう聞こえたそうだ。


その日の夜、彼はあの言葉が耳にこびり付いて眠れなかったそうです。

936 名無しさん :2014/02/08(土) 04:08:26 ID:XbM63.TsO
途中から敬語になってゴメンナサイ

937 名無しさん :2014/02/08(土) 16:51:13 ID:m6DNAdmY0
あんまり怖くないかもしれませんが。

私が小学生だった頃、山奥に住んでいたのですが
小学校へ通うのにバス乗り場まで歩いて行かなければいけませんでした。
私はランドセルを背負って軽い坂道を降りるのですが、
ある道を通ると背中を押されたりする間隔を感じるようになりました。
しかし、背中を押されても後ろには何もいません。
「気のせいだろう」そう思っていたのですが、中学生の時
学校帰り、バスを使わないで歩いて山道を歩いて帰っていた時。
耳の近くというか、頭の中(?)で「しね!!」という声がしました。
聞いた瞬間、背筋がぞくぞくぞくっとしましたが、誰もいませんでした。

その他には特に何もなかったのですが、あれは何だったんだろう?と不思議に思います。

938 名無しさん :2014/02/09(日) 03:34:21 ID:ZK8d8Kj6O
その山道には霊がさまよっていたりして

939 鏡に映ったモノ :2014/02/09(日) 16:51:24 ID:ZK8d8Kj6O
ある土曜日の夜
私の知人、男4人女3人でカラオケに行きました。(因みに私は女性です)
7時に入店し飲んで食べて歌いまくりで気がつくと深夜12時を回っていました。
男の1人がベロンベロン状態でふらふらになっていたのでその場で解散することにしました。
私ともう1人の女の子は道がこっちだと言って2人で帰りました。(女の子をAとします)
面白話しをしながら歩いているとAが今から私のウチに来ない?と誘います。
明日は日曜ということもあってAの家へ行くことにしました。
Aの家はマンションで広々とした部屋です。
私が彼女のベッドの横にある小さな椅子に座るとAはカーテンを開け、ガラス戸を鏡代わりにし、髪を溶かしていました。
(外はガラス戸が鏡代わりになるくらい真っ暗だった)
私も喉が渇いていたので氷水かなんか貰えない?

と彼女に言ったその時です。

髪を溶かしていた途中でAがクシを机に置き私にこう言ったのです。

○○ちゃん(私の名前)最近車買ったんだよね、ちょっと見せてくれる?
と言い、私の手を強引に引っ張って部屋から連れ出します。
私は

えっ?何っ?
何言ってんのこの子?

全くわけが分かりません。

だって私は車どころか免許すら持っていないのです。

それにここはAのマンション。

外に出た瞬間Aは私の手を掴んだまま走り出したのです。
Aに引っ張られたままマンションから数百m離れた所まで連れて行かれました。

痛ッたいッて〜!もう何なのよ急に〜ッ!
と私はAに怒ります。
そこでAは走るのをやめ、手を放し、息を切らしながらこう言ったのです。

ゴメンね○○ちゃん!

あのね、よく聞いてね…

さっき私たち部屋に入ったでしょう。

私が窓で髪を溶かしてた時ベッドの下に男が刃物持って隠れてたのが見えたの!

ということだった。

私は呆然とし言葉を失いました。

Aが男の存在に気づいた時、慌てて逃げると襲われると思いワザとあのような行動をとったという

Aはとにかく持参していた携帯で警察に連絡し15分ほどでマンションに来てくれました。
警察が部屋に入った時、すでに男の姿はなく特に部屋中が物色された形跡はありませんでしたが…

警察からは別のマンションに引っ越したほうがいいと言われ、それ以来Aは私のマンションに移ることになりました。

940 名無しさん :2014/02/09(日) 16:53:52 ID:ZK8d8Kj6O
またまたゴメンナサイ
タイトルが鏡に映ったモノではなくガラス戸に映ったモノでした。

941 名無しさん :2014/02/09(日) 16:57:52 ID:cg3OVZZo0
一行あけはハングル変換のせいだろうか

942 名無しさん :2014/02/10(月) 04:53:02 ID:1Uwm/JjEO
文章を連続で繋げたり詰めると内容が分かりづらかったりするから。
貴重なところは一行あけたほうが読みやすい

943 どこの子? :2014/02/10(月) 14:59:10 ID:1Uwm/JjEO
俺は現在、会社の紹介で安いマンションに住んでいる。
一年前から住んでるんだけど、それまでは古いアパートに住んでいた。

これはそのアパートに住んでいた時の話。

仕事を終え帰宅したのは夜の8時過ぎ。
当時住んでいたアパートの周辺は真っ暗で何も見えないほどではなかったが少し怖いくらいだった。
このアパートはとても古く、通路の電灯はほとんど点かない状態。
階段も同じで俺の部屋は2階。(家賃もタダに近い部屋)
近所の外灯もあてにならなかった。
階段を上がり踊場に出るとそこの隅っこに【何か】置いてあるのが見えた。
暗くてよく見えず持参していた携帯のライトで照らすと思わず一歩引いてしまった。
何とそこには4、5才くらいの男の子が丸くなって座り込んでいたのだ。
一瞬驚いたが恐々としながら俺はその子に歩み寄り

どうしたん?こんなトコで?

返事がない。
もう一度聞くが返事がない。
ここに住む子なんだろうか?
俺はその子に

お父さんは?お母さんは?

と訪ねるがやはり返事がない。
男の子は俺の顔を見るがすぐにうつむいてしまう。
きっと腹を空かしてるだろうと思い部屋からパンとジュースを持ち出し男の子に与えた。

早よお家帰り
家の人、心配しとるよ

と言い