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ちょっと専門的なQ&Aスレ

19diamonds8888x:2006/09/18(月) 08:36:36 ID:IWxeKwgk
「有利な変異」の割合−3−

 前回の母集団の説明でわかりにくい点もあったかも知れないので補足する。ある遺伝子の進化を対象とするのだが、先ずかって実在した野生型の変異を全て考える。実際には調べた生物種で得られた変異を全て考えることになる。次に各野生型についてわずかに異なるだけの近傍の変異全てを考える。わずかにというのは厳密に決めることは不可能だが、考えた野生型の変異の間での最大の違い程度までを考えれば良いだろう。次に、実在した各野生型が主流だった時の環境での適応度を考え、その野生型の適応度を基準としてkを定義する。すると、あるひとつの変異についても今与えられている野生型の数だけのkが定義される。つまり定義されたkの数は、[考慮した変異の数]×[考慮した野生型の数]だけになる。こうして定義されたkの集合がどのような値に分布しているかというのが、各説の違いとなるのである。
 ただしここで中立説やほぼ中立説では実在した各野生型が主流だった時の環境はほぼ同じだと考えるので、それらを同一視すればkの数はずっと減る。全ての場合の環境が全く同一とすれば、kの数は考慮した変異の数に等しい。

 さて専門家の安田徳一{YASUDA,Norikazu}による太田朋子の図の解説が以下にあった。
http://www.primate.or.jp/PF/yasuda/41.html

 これによれば、「ほぼ中立説は自然選択説と中立説でみとめた有利な遺伝子の存在は特に考えないで、Nes=±0のあたりの変動をする突然変異としてまとめてしまいそれらがかなり多いと主張するものである。」とある。私はこれは以下のような分類を主張していると解釈した。
 |選択される|← ほぼ中立 (k<0)→|←中立(k=0)→|← ほぼ中立(k>0) →|

 まとめてしまいというのだから本来は、次の図となるべきなのだろう。実際、中立な変異とほぼ中立な変異との違いはkの値の連続的な違いなのだから、厳密に分けることはできないはずであり、太田朋子の図で中立という区分が作られている意図は不明である。単に中立説との違いを強調する意図か、師の木村への敬意の現れか。
 |選択される|← ほぼ中立 (k≒0)→|

 いずれにせよ、淘汰係数が厳密に0の変異以外は有意に有害な変異のみというのも不自然であり、多くの変異がほぼ中立というのは極めて自然な仮説である。中立説を理想気体の法則と例えれば、ほぼ中立説は実在気体における理想気体とのずれを取り入れたものと例えられるだろう。

 だが太田朋子のほぼ中立説は、中立説の単なる近似補正ではないと強調しているようにも見える。とすればその強調点は「有利な変異」を無視する点であろう。それが太田朋子説の特徴とすれば、それは次のような点だと考えられる。

 定着した変異がk>1の変異でも、その定着の要因には淘汰の寄与よりも揺動の寄与の方が大きい。つまり純粋に淘汰のみにより定着した変異というものはない。

 計算やシミュレーションによれば揺動と淘汰の寄与の割合はkの大きさと集団の有効個体数に依存する。だから後はそれぞれの遺伝子やタンパク質ごとに実際はどうなのかという個別での実測の問題になるだけであり、一般的に淘汰と揺動のどちらが重要かと強調することでもないように、私には思えるのだが、どうなのだろうか?

 なお安田徳一の解説で、「自然選択説では、新たに生じた突然変異遺伝子の大部分が有害で選択されるが、すでに存在している遺伝子より有利な突然変異が出現すると主張するものである。」とあるが、有利な突然変異が出現するには環境が野生型が最適ではないものに変化していなくてはならない点に触れていないのは説明不足だと思う。

「有利な変異」の割合、終わり
(中立説私論は続く)


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