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最近読んで印象的だった本

179藤原肇:2015/09/25(金) 13:38:54
20年以上も昔の話になるが、1994年1月号の「ニューリーダー」の誌上で、小室直樹博士と「意味論オンチが日本を亡ぼす」と題した対談を行った。憶えている人がいるかどうか分らないが、その時に以下のような議論を行った。
藤原:小室さんとお会いして対談するのは久しぶりで、今から十数年前に、『脱ニッポン型思考のすすめ』を出したとき以来ですね。
小室:あの頃は「脱ニッポン」なんて言うと異端者扱いだったが、今ではそういう本が続々ベストセラーになっている。最近は日本の方がおかしくなって潰れかけているが、それにしても、あの頃から今までこの国はよくもったものだ(笑)・・・・
藤原:特にここで強調しなければならないのは、潰れかけている原因が“セマンティックス(意味論)”にあり、日本人に意味論が分かっていないことだ。われわれは共にヨーロッパ派に属する日本人だとも言えるが、小室さんはやはりドイツ派で、著書の中にガイスト(精神)どかゲミュート(情緒)なんて単語が続々と使われている。ぼくはフランス派でドイツ語は口に合わないから、あんな野蛮な言葉は誰が喋るものかと思っている。だから、あなたの本を読むたびに鳥肌を立てている(笑)・・・・
小室:ドイツ語はバーバリアン(野蛮人)の言葉だという劣等感は、ドイツ人自身が抱いているんだ(笑)。
藤原:こんな話がある。フランス王が「私は神様と対話するときにはスペイン語で、人間と話すときはフランス語を操り、馬と喋るときはドイツ語を使う。犬と喋るときには英語で、若い娘にはイタリア語で話しかける」と言ったとか。ぼくはアメリカ人に「どうして英語で著書を書かないのか」と聞かれたらこの話を引用して、「犬に使う言葉で書くのは気がすすまないし、フランス語だと日本語の五倍も時間がかかり、アメリカの美徳の能率に反する」と答えると丁解する。要するに、アメリカ人は理路整然とした話なら納得するんだが、日本人は腹芸でやるし気分が先に立つ。だから、日本人は最も親密なはずのアメリカ人のみならず、世界中ともコミュニケーションができないでいる。
小室:コミュニケーションが成立していないことにさえ気がついていない。・・・・

この発言をした直後に小室さんの顔がこわばり、一分以上も横を向いて口を開かずに、不機嫌に沈黙していたことが今になると懐かしい。あの頃の私は表現が未熟だったので、あんな言い方をしてしまったが、今なら自分の言葉として「私は神様と対話する時にはスペイン語で、淑女にはイタリア語で話しかけ、マドモアゼルと話す場合はフランス語を操る。また、犬と喋るときはドイツ語を使うし、コンピュータを相手にするときには英語を利用する」と言っているだろうと思う。
夏目漱石、水村美苗、藤原肇の三人は。英語が嫌いな三角関係の日本人で、そのくせ漱石は英語が嫌で府立一中から二松学舎で漢学をやって、それからロンドンに留学して英文学者になっている。また、水村さんは米国でフランス文学を専攻しただけでなく20年以上も住んでいるし、私は高校で英語を忌避したのに、フランスではTEロレンスを読むために英文学科に入学して、アメリカに30年以上も住んだつむじ曲がりであり、言うならば英語嫌いの三羽烏みたいな日本人に属している。だから、英語の帝国主義的な君臨に対しては、それとなく反発を感じてしまうのだが、江戸っ子の私と漱石を置き去りにして、水村さんが英語を普遍語だと持ち上げたために、私は言わずもがなの発言をしてしまったのであった。これも秋の夜長の「徒然草」であろうか。


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