アルファベットを親会社とする、グーグルが納税額を最小限に留める目的で、2014年にタックスヘイブンのバミューダ諸島に117億ユーロ(約130億ドル/約1兆5000億円)の資金を送金していたと、先週ロイター通信が報道した。グーグルが節税対策で用いた手法は、「ダブルアイリッシュ、ダッチサンドウィッチ(Double Irish with a Dutch Sandwich)」と呼ばれる。
事実:米国では、会社の所有者(株主その他の持分保有者)、パートナー、役員及びその他の責任ある立場にいる者に関する情報を、内国歳入庁(IRS)その他の税務当局が収集しています。デラウェア州法人の場合はデラウェア州歳入局(Delaware Division of Revenue)が情報収集を行っています。かかる情報の収集は、例えば、納税者識別番号の申請手続、年次確定申告の提出、金融口座の保有に関する報告といったプロセスを通じて行われます。
一般的に、米国では、会社設立手続において、会社の実質的所有者(すなわち、会社を実際に所有若しくは支配し又は会社から生じる利益が最終的に帰属する者)の氏名・名称を提出することは要求されません。しかし、デラウェア州その他多くの州が取締役の氏名の開示を義務づけています。加えて、デラウェア州法人は、年次フランチャイズ・タックス(州法人税)報告書に取締役の氏名及び住所を記載しなければなりません。かかる報告書に限らず、デラウェア州の州務長官室会社部(Delaware Division of Corporations)に対して提出されるあらゆる届出等が公開記録として一般の閲覧に供されています。
非常に単純化して言えば、「物価水準の財政理論(FTPL:Fiscal Theory of the Price Level)」では、政府が財政支出を増やして増税で返そうとしなければ、物価水準の調整が起こる(インフレが起きて帳尻が合う)。この理論をもとに、2%インフレ目標の持続的な達成が視野に入るまでは、増税は行わず、財政拡大政策を続けると宣言することだ。
Bloombergが上に挙げた「グーグルのハイパー節税対策」の話を記事にしたのが2010年10月21日のこと。『税制の抜け穴に消えた600億ドル??グーグルの実効税率2.4%が示すその手口』("Google 2.4% Rate Shows How $60 Billion Lost to Tax Loopholes")と題するこの記事には、次のような一節までみられる(註6)。
いまになって気付いたのだが、この前日にWall Street Journal(WSJ)が、シスコのジョン・チェンバースCEOらのRepatriation Tax Holidayの再度実施を訴えた寄稿記事を掲載していた。つまり、「海外で遊ばせている膨大な資金を、国内に有利な条件で持ち込めるようにしてくれれば、これほど米国経済の役に立てる」というチェンバース氏ら大企業経営者の呼びかけに対し、「米国の大手企業があれほどたっぷりと国外に利益を溜め込んでいる裏側には、こういう仕掛けがある」とBloomberg(に詳細な情報を提供できる立ち場の協力者)が反論をぶつけた、ということだ。
新たな議論の口火を切ったシスコのチェンバースCEO
2010年10月20日、「The Overseas Profits Elephant in the Room」というタイトルの意見記事(Op-Ed)がWSJに掲載された。
シスコシステムズのジョン・チェンバースCEOと、オラクルのサフラ・カッツCFOの連名で出されたこの記事の趣旨は、「税制さえ正しければ、1兆ドルものお金が海外から持ち込まれるのを待っている」("There's a trillion dollars waiting to be repatriated if tax policy is right.")という副題が示す通りだ。
新顔としては39位に韓国のSKグループを率いる崔一族が入った。SKグループは韓国の無線通信事業大手のSKテレコムの運営元として広く知られている。また、22位にはレットブルの共同創業者として知られるタイの実業家、チャルーム・ユーウィタヤーが率いるユーウィタヤー一族が入った。ほかに、インドの自動車部品メーカーを運営するSehgal(41位)やコングロマリット運営のWadia(42位)。さらに、香港からは世界最大のオイスターソースメーカー「李錦記」を運営するLee Man Tat(30位)やTungs(49位)が加わった。
この新事実は、カリフォルニア大学バークレー校の二人の経済学者エマニュエル・セズとガブリエル・ザックマンが行った分析の結果の一つだ。彼らの最新共著『The Triumph of Injustice: How the Rich Dodge Taxes and How to Make Them Pay(原題)』では、アメリカ合衆国内の税率の厄介な進化を解析している。セズとザックマンは、2018年にアメリカ国内の上位400人の大富豪とその家族が収めた税金の総税率が23%だったことを突き止めた。一方、アメリカの中流以下の家庭が収めた総税率は24.2%と、富豪層よりも1%以上高いものだった。アメリカで最も裕福な400の富豪家族よりも労働者の税率が高いなど、アメリカ史上始まって以来の出来事だ。
地域のIRSオフィス(税務署)で納税申告を行う労働者たち、1965年3月11日、ペンシルバニア州フィラデルフィア。 (Photo by U S News & World Report Collection/Marion S Trikosko/PhotoQuest/Getty Images)
10月6日のニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたオピニオン記事では、同著の分析に沿って、富裕層の税率の急激な低下を衝撃的なビジュアルで表した。富裕層の税率が低下する間、中低所得層の税率は横ばい状態だ。これは中低所得層にとって、資本利得税、不動産税、法人税の減税は富裕層ほど恩恵がないことに起因している。
Watch how radically taxes on the wealthy have fallen over the past 70 years:
(Full column: ) ― David Leonhardt (@DLeonhardt) 2019年10月7日
書籍『The Triumph of Injustice〜』で、セズとザックマンは富裕層の税率は60%前後にするべきだと主張する。これによって政府が得られる税収入が7500億ドル(約81兆円)増えて、民主党の急進派が推進する社会プログラムに費やすに十分な資金となるはずだ、と。ちなみに保守派と中道派はこの社会プログラムは現実的ではないと非難する。
著者プロフィール
熊谷聡(くまがいさとる)。アジア経済研究所開発研究センター経済地理研究グループ長。専門は、国際経済学(貿易)およびマレーシア経済。主な著作に『経済地理シミュレーションモデル――理論と応用』(共編著)アジア経済研究所(2015年)、『ポスト・マハティール時代のマレーシア――政治と経済はどう変わったか』(共編著)アジア経済研究所(2018年)、"The Middle-Income Trap in the ASEAN-4 Countries from the Trade Structure Viewpoint." In Emerging States at Crossroads (pp. 49-69). Singapore: Springer (2019)など。