1 資源の現状と回復の必要性
(1) 資源の特性と資源水準の現状等
① 資源の特性
日本海におけるベニズワイガニ(標準和名:ベニズワイ)は約500〜2,700mの水深帯に広く分布し、分布の中心は1,000〜2,000mである。寿命は10年以上と推測されており、主産卵期は2〜4月、隔年産卵で抱卵期間は約2年、成熟に達するサイズ(甲幅)は生息環境(漁場環境)によって異なることが知られつつあるが、成熟年齢及び産卵場は現在のところ不明である。浮遊幼生期には潮流により移動し、着底後の成体ガニの移動範囲は、標識放流の結果によると50㎞程度であると推測されている。
② 資源水準の現状
日本海においてベニズワイガニを対象とする漁業は、大臣許可漁業の「日本海べにずわいがに漁業」と知事許可漁業の「べにずわいがにかご漁業」である。
ベニズワイガニの資源状況は、日本海沖合海域全体で低水準・減少傾向にあると評価されている。特に大臣許可漁業及び兵庫県知事許可漁業の操業水域では、1999(平成11)年1月22日に発効した「漁業に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下「新日韓漁業協定」という)に基づく日韓北部暫定水域(以下「暫定水域」という。)が設定されて以来、暫定水域の大部分が韓国船に占拠されたことにより、暫定水域を除く我が国の水域に漁場が集中し、その結果として、1かご当たりの漁獲量(以下「CPUE」という。)が低下するとともに漁獲物の小型化が著しく、資源状態の悪化が急激に進んでいると推測される(図2)。
② 資源回復の必要性
このような状況から、日本海沖合のベニズワイガニ漁業を存続していくためには、操業水域全体の資源回復に早急に取り組む必要がある。
操業水域のうち暫定水域内の資源管理については、新日韓漁業協定に基づく日韓漁業共同委員会において、当面の間は民間で資源管理の可能性及び手法を検討するとされたことから、日韓双方のベニズワイガニ漁業者団体の間で資源管理の協議が進められている。しかしながら、これまでのところ双方の主張に隔たりがあり、速やかに資源管理体制を確立できる現状にはない。このため、今後とも漁業者間及び政府間の協議により、韓国側に対して協調したベニズワイガニ資源の管理体制の確立を実現すべく働き掛けていく方針である。
暫定水域を除く我が国水域については、年々操業水域としての依存度が高まり、資源が急速に悪化していると推測されることから、暫定水域以上に資源回復を図ることが急務となっている。これまでの調査によれば、ベニズワイガニの着底後の移動範囲は小さいと報告されており、暫定水域を除く我が国水域内のみで資源回復へ向けた取組を行うことでも有効な効果が得られると考えられる。
③ 漁業形態及び経営の現状
大臣・知事許可漁業とも「カニかご」を使用して行われる漁業であり、操業期間は9月から翌年6月までの10か月間である。1航海の日数は操業水域によって異なるが、大臣許可漁業では通常数日から10日程度、知事許可漁業では漁場が近いため通常2日程度である。現在の主漁場は、浜田沖、大和堆東、兵庫県沖、北朝鮮入漁水域などである。大臣許可漁業における各操業船の漁場は周年ほぼ固定されており、毎年ほとんど変わることはない。一方、兵庫県知事許可漁業における主漁場は、兵庫県地先水域に存在し、毎年解禁時に先着順でカニかごを設置し、漁期中漁場内で設置場所を動かしながら操業している。
1999(平成11)年1月22日の新日韓漁業協定発効以降、ベニズワイガニの優良漁場である暫定水域内では、韓国漁船との競合が激化し、漁場トラブルが多発したため、操業を断念している現状である。
また、当該漁業では、一部の漁船が期間限定で「ずわいがにかご漁業」に従事している以外は全て専業船である。船舶の装備上、他の漁業への転換も難しく、また、操業水深が深いため、他魚種の混獲もほとんどないことから、ここ数年の漁獲量の減少やカニの小型化等による漁獲金額の減少が続いており、各経営体の経営は厳しい状況に置かれている。