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:
α編集部
:2018/10/17(水) 14:52:58
二〇一七年度エイプリルフール
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二〇一七年度エイプリルフール
富士山が消えた!!
毎朝散歩に出かけ富士山を拝むのだが、ここ一週間ほど山が見えない。もっとも全体の
姿が見える日は年問約百日に過ぎないのであるから、私としてはさほどシリアスに考えて
いなかった。しかし今日は晴天で雲一つない青空の中に、普段は半分を占めるほどのおお
きな、雪を被った白い頂とクライン・ブルーの山肌が全く見えず、いつも占めている空間
からそっくり姿が消えたのである。
そこで数年前、網膜症を手術したことがあり、自分の目が異常であるかもしれないと考
えた。周りの人から変な人だと思われないように、このことは自分だけの問題だろうから
人には漏らすまいと思った。しかし河口湖の北岸にある公園に行くと、子供達が富士山が
ないと騒いでいた。大人達も自分だけ異常と思っていたふしがあったようだが、子供の忌
憚ない意見を聞いて本当だと認識したらしい。
そのニュースがTVで伝わると、いままで森友学園協奏曲はなかったように富士山の独
演会にとって代えられた。なにせ一億総評論家の時代だから、巷では虚実ないまぜに様々
な憶測が流れているという。侃々諤々、百家争鳴、誠に喧しくなった。富士山の消えた理
由についての論争の中で特に傑作なものは……。
◆花粉症説
目にいいというブルーベリージャムの商品が全店舗から消えた。二OO九年豚インフ
ルエンザの国内初感染で「マスクが買えない、薬局が空っぽ、ネッ卜では高値取引」
などの再来か?
◆嫉妬説
富七山の御神体として鎮まっている木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめ)が
あまりの美しく高貴さに満ちているゆえ、嫉妬した浅間山や八ヶ岳などの神々の呪い
の仕業で姿を隠したという説。ドラッグや毒薬、殺人請負などの危険な闇サイトでは、
藁人形と五寸釘の需要が密かに増えているという。
◆不倫旅行説
ペッキー、山本モナ、麻木久に子、桂文枝、渡辺謙、その他大勢の不倫に触発された
木花之佐久夜毘売命は、一生に一度の火遊び(アバンチュール)にあこがれて宇宙の
果てまで出かけていって、さるイケメンと逢っているのではないかと憶測する人もい
た。しかし、もしハップル望遠鏡で覗けたとしても、フライデーに掲載されるのは百
八十億年後だから、だれも知ることができない。
◆暗黒物質説
富士山が暗黒物質(ダークマター)に覆われて光を発しなくなったから、我々の目に
見えないのだという仮説を立てた人もいて、急遮、重力の異常を検知しようと機器類
を持ちこみ始めたという。また一方では時空の歪みで時間が数十億年逆もどりしたか、
未来にすっ飛んだかのどちらかだろうと憶測する人が出てきた。
◆UFO説
UFOの秘密センター基地は富士山の噴火口の中にあったが、あまりにもくだらない
日本の国の政治論争に呆れはてて、もっと高度な文明の惑星を探すことを中央から指
令されたのだという。だから地球から去る時に母船から出た噴射ガスで山が粉々に吹
き飛んだ。その現象を見たと主張する人が出てきた。
◆神罰説
旧約聖書の「創世記」十一章にあらわれるバベルの塔のように「さあ、我々の街と塔
を作ろう。塔の先が天に届くほどの。あらゆる地に散って、消え去ることのないよう
に、我々の為に名をあげよう」。神はそのことに怒り、人々の言語を乱し、通じない
違う言葉を話させるようにした。それと同じように、ゴミの放置や不法投棄や違法採
取やマナー違反の登山者などの不敬等々、あまりにも霊峰富士山への冒瀆に木花之佐
久夜毘売命が怒り、あらゆる人の視覚を狂わせようと考えた。
◆マジック説
カカッパーフイールドの自由の女神消失、エッフェル塔消失などのマジックだと言う
人もいて、種明かし大辞典を抱えて仕掛けの種を探しているマニアがいた。
富士山が消えたことで世界中から物理学者、地理学者、地政学者、心理学者、宗教学者
政治学者、言語学者、気象学者、経済学者、教育学者、憲法学者、社会学者、民族学者人
類学者、地質学者、地震学者、 天文学者、医学者、 セイル学者、歴史学者、UFO学者
宇宙学者、および映両評論家、オーディオ評論家、音楽評論家、株式評論家、軍事評論家
経済評論家、芸能評論家。競馬評論家、建築評論家、航空評論家、自動車評論家、写真評
論家、政治評論家、美術評論家、風俗評論家、文芸評論家、野球評論家、鉄道評論家、服
飾評論家、舞踊評論家、マジッシャンそして拘摸師、詐欺師、強盗犯などのものすごく大
勢の人達で、富士山を取り巻く町は銀座並みの混雑を呈している。
ところで、今回この現象の解説者として急遽来ていただき、中央競馬大学の滝沢馬糞准
教授のコメットをいただきました。「あくまでも私見ではありますが、今日の中山競馬場
ダービー卿CTは三枠のロジチャリスと十一枠のマイネルアウラートの連単をおすすめし
ます」。こりゃ駄目だ、私は競馬の予想を頼んだわけではないのだ。コメントの裏を読み
取ると、滝沢馬糞准教授はこの事件の真相について全く理解できていないということにつ
きるだろう。
これは准教授が悪いというのではなく、私か慣れ親しんだ富士山の突然の喪失に周章狼
狽するあまり、解説者の選任ミスということだった。私は早く山荘に戻ってロラン・バル
トの『喪の日記』でも読んで、心の寄る辺なさを埋めるしか思いつかなかった。
(斜光23号掲載)
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