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昭和60年本試験刑法第1問

1T.I:2002/11/25(月) 00:36 ID:5G8Hp0vg
【問題】甲女は、生後4箇月の実子Aの養育に疲れ、厳寒期のある夜、人通りの少ない市街地の歩道上に、誰かに
拾われることを期待してAを捨てた。そこを通りかかった乙は、Aに気付き、警察署に送り届けようと
して、事故の自動車に乗せて運転中、過って自動車を電柱に衝突させ、Aに瀕死の重傷を負わせた。乙は、
Aが死んだものと思い、その場にAを置き去りにして自動車で逃走したところ、Aは、その夜凍死した。
甲女及び乙の罪責につき、自説を述べ、併せて反対説を批判せよ(道路交通法違反の点は除く。)。

 少し旧い問題ですが、次のように書いてみました。よろしくお願いします。

2T.I:2002/11/25(月) 00:38 ID:5G8Hp0vg
1、甲女の罪責について
 (1) 甲女は厳寒期の夜に、生後4箇月の実子Aを、人通りの少ない市街地の歩道上に捨てている。
  甲女はAを監護する義務を負う(民法820条)。そして本件行為は、Aの生命を危険に曝すものと
  いえる。
   よって、甲女には、保護責任者遺棄罪(218条)が成立する。
(2)①その後、Aは凍死するに至っている。そこで、甲女にはさらに、保護責任者遺棄致死罪(219条、
  218条)が成立しないか。Aの死に、乙の行為が介入しているため、甲女による遺棄とAの死との間
  に、刑法上の因果関係が認められるかが問題となる。
 ② それでは、刑法上の因果関係の存否を、いかに判断するか。
   この点、行為と結果との間に、「あれなくばこれなし」の条件関係さえあれば、刑法上の因果関
  係は認められるという説がある(条件説)。判例にも、これを採ったものは多い。
   この説によれば、甲女が遺棄しなければ、Aは死んでいなかったであろうから、甲女の遺棄と
  Aの死との間には、因果関係は認められよう。
   しかし、条件説は、処罰範囲を無限定に拡大するおそれがあり、妥当ではない。
   そこで思うに、処罰範囲限定のため、条件関係を前提として、行為と結果との間に、その行為
  からその結果が発生するのが相当であると認められる関係がある場合にのみ、因果関係を認める
  べきである(相当因果関係説)。
 ③ 次に、その相当性を、いかなる事情を基礎として、判断すべきか問題となる。
   この点思うに、因果関係は、構成要件該当性の問題であり、構成要件とは社会通念を基礎として
  違法有責な行為を類型化したものである。
   したがって、相当性は、社会通念上、行為者にその行為から生じた結果を帰責するのが妥当か
  否かということから、判断すべきと解する。具体的には、行為時に一般人が認識・予見可能であった
  事柄に、行為者が行為時に特に認識していた事情を加えたものを基礎として判断すべきである(折衷
  説)。  
 ④ 本問についてみるに、甲女がAを遺棄したのは、夜間の人通りの少ない市街地の歩道上である。
  よって、遺棄時において、乙のA救助、及びそれ以降の事情は、一般人の予見不可能なことといえる。
   したがって、乙の救助行為以降の事情は、相当性判断の判断の基礎からはずす事になる。よって、
  甲女がAを厳寒期の夜間に、人通りの少ない市街地の歩道上に捨てたことが基礎事情となる。
   それでは、甲女のA遺棄とAの死との間には、因果関係は認められないのか。
   この点思うに、生後4箇月の赤子が、厳寒期の夜間、人通りの少ない市街地の歩道上に放置された
  場合、その夜のうちに凍死することは、相当といえる。
   そして思うに、因果関係は社会通念を基礎とした類型的判断であるから、ある程度結果を抽象化する
  ことも許される。
   そうだとすれば、本問では、実際にはAは、いったんは救助した乙に再び捨てられた結果凍死しているが、
  これを、甲女が路上に遺棄したことによる凍死と評価することも許容されることとなろう。
   したがって、甲女の遺棄とAの死との間には、因果関係は認められることとなり、甲女には、保護責任者
  遺棄致死罪が成立する。
 (3) 以上より、甲女には、保護責任者遺棄罪(218条)と保護責任者遺棄致死罪(219条、218条)が
  成立しうるが、前者はより重い後者に吸収され、結局、保護責任者遺棄致死罪(219条、218条)のみが
  成立する。

3T.I:2002/11/25(月) 00:38 ID:5G8Hp0vg
2、乙の罪責について
 (1) 乙はまず、自動車の運転を誤り、Aに瀕死の重傷を負わせている。そして、自動車の運転は、人が社会
  生活上の地位に基づいて反復して行うものといえるから「業務」にあたるといえる。
   よって、乙には、業務上過失致傷罪(211条前段)が成立する。
(2)① 次に乙は、交通事故という先行行為により、Aを保護すべき義務が生じているにもかかわらず、これを
  置き去りにし、よって凍死するに至らしめている。
   したがって、乙の行為は、客観的には保護責任者遺棄罪(218条)、同致死罪(219条、218条)に該当する。
 ② しかし、乙はAが死んだと誤信して、これを遺棄している。つまり、死体遺棄罪(190条)を表象しつつ、
  保護責任者遺棄罪(218条)、同致死罪(219条、218条)を実現しているのである。そこで、乙にこれらの罪
  の故意(38条1項)が認められるか。
   この点、行為者が表象した事実と実現した事実の間にくいちがいがあっても、重なり合う範囲で故意犯が
  成立するという見解がある(抽象的符合説)。この説によれば、乙には、軽い死体遺棄罪の故意犯が成立する
  こととなる。
   しかし、この説は、事実上故意犯を、生じた結果に応じて認める事となり、責任主義に反し、妥当でない。
 ③ 思うに、故意責任の本質は、規範の問題に直面しつつ、これを超えてあえて犯罪行為に出たことへの道義的
  非難である。そして、規範は構成要件ごとに与えられていると解されるので、表象事実と実現事実とが構成要件
  を異にする場合、原則として故意犯は成立しないと解する。ただし、量事実に、保護法益及び行為態様の両面で
  重なり合いがあれば、行為者はその範囲で規範の問題に直面しうるので、重なり合う範囲で故意犯が成立しうる
  と解する。
 ④ 本問で、乙は、死体遺棄罪(190条)を表象しつつ、保護責任者遺棄罪(218条)、同致死罪(219条、218条)
  を実現しているが、両者の保護法益は、前者が死体に対する国民一般の尊崇の感情、後者が生きている人の生命・
  身体の安全であり、両者に重なり合いは見られない。
   よって、乙には、死体遺棄罪(190条)、保護責任者遺棄罪(218条)、同致死罪(219条、218条)いずれも成立
  しない。
 (3) ただし、乙は、Aを死んだと誤信し、厳寒の夜に野外に置き去りにして、死に至らしめている以上、重過失致死罪
  (211条後段)が成立する。
 (4) 以上より、乙には、業務上過失致死罪(211条前段)と、重過失致死罪(211条後段)が成立し、両者は併合罪(45条)
  となる。
                                       以上

4つる:2002/11/26(火) 19:05 ID:BTyV/Moc
1 甲の罪責について、Aが自己による傷害の結果死亡したのではなく、凍死である点に気がついているところは鋭いと思います。

2 しかし、そうすると、業務上過失致死を簡単に認めている点が不十分であるように思います。傷害によって死亡したのではない以上因果関係を認めるとしても十分な説明が必要だと思います。

3 また、重過失を簡単に認めている点も気になります。確かに過失はあると思いますが、瀕死の重傷を負っていることから考えると重大な過失を認めるためにはもう少し説明が必要だろうと思います。

4 さらに、Aの死亡について業務上過失致死と重過失致死の併合罪を認めることはあまりに重過ぎるようにも思います。

5つる:2002/11/26(火) 19:07 ID:BTyV/Moc
訂正 自己による傷害→事故による傷害

6T.I:2002/11/26(火) 22:47 ID:AT8rACjU
 つるさん、有難うございます。
 1、「業務上過失致死」は「業務上過失致傷」のまちがいでした。
 2、重過失は、Aが死んでいると誤信したところで、認められると
 思うのですが(あまりに軽率と思いますから)…

7つる:2002/11/27(水) 00:12 ID:QiCEklmA
瀕死の重傷を負っているのが生後四ヶ月の赤ちゃんとなると死んでしまったと思っても無理もないようにも思われます。
大人であれば鼻や心臓に耳を近づければ簡単に生死はわかると思いますが。

8管理人:2002/12/05(木) 10:10 ID:kueS/V3.
なるほど


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