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献血供給事業団なんでもコーナーⅡ
92
:
日下 一男
:2009/02/28(土) 02:15:19
霜山先生の許可を得ましたので引用させていただきます。
帝京大ルート判決に思う:霜山龍志:
いわゆる薬害エイズ事件の三大ルートのうち、安部英元帝京大学副学長が起訴されていた事件の東京地裁の判決があった。一般の予想に反して判決は無罪であった。
以下に論点を整理して、この判決とそれに至る事実について論じてみたい。
*起訴事実
本件起訴事実は、唱和五十五年に帝京大病院外来に来院した血友病患者に対して当直医が非加熱製剤を投与したものであり、安部被告はその「指導責任」を問われた。
本件注射によりHIV感染が起きたことは、たまたま以前の患者血清が残っていたために、遡及的に調査した結果、注射の前後でHIV抗体の陽転が起こったことで証明された。HIV感染がその後のエイズ発症と死亡の原因であることに争いはない。
したがって、本件は血友病患者一三四二人が感染し、今日までそのうち五O五人が死亡したとされる薬害エイズ事件の中の一症例にすぎず、安部被告の指導的医師として責任を法社会学的に問うための試金石ともいうべき訴訟であった。
しかし、残念というべきか、それは方法論的には稚拙であり、唯一筋がよかったのは、非加熱製剤の注射とHIV感染の因果関係だけであって、安部被告の指導責任(いわゆる業務性の問題)と非加熱製剤注射によるエイズ発症の予見可能性の問題については、困難が横たわっていることは当初から予想された。
*判決の構造
業務上過失致死罪における業務というからには、被告がその業務を直接・間接に実行したものであることが構成要件であるから、安部被告が当該救急患者の非加熱製剤注射に対して、直接の指示をしたことが明らかでないにもかかわらず、その業務性を肯定するとすれば、帝京大学病院として血友病患者には非加熱製剤を注射しなければならないという事実上の内規が安部被告の独断によって制定されていたことを証明しなければならなかった。判決は、この点についてよりゆるやかな疎明でよいとし、証人らの証言から業務性を肯定している。
一方、予見可能性については、医療の水準論の問題になるが、最高裁判例(昭和六十一年など)は、医師のなすべき注意義務はは民法上の善良な管理者としての注意義務を超え、人命をあずかるという高邁な職責に照らして、危険防止のため実験上要求される最善の注意義務でなければならないとし、その水準は当時の臨床医学の実践における水準であるとしている。
この観点からみると、判決は当時多くの医師が血友病患者に非加熱製剤を投与していたのであるから、安部被告がいかに血友病治療の第一人者であっても、その行為を指弾することはできないとしている。この論理構成自体はまっとうなものであると考える。
しかし、問題は原告側も指摘しているように、HIV研究班班長であり、止血血栓の権威といわれた医師による”非加熱製剤問題なし”という判断が全国の医療レベルを制約していたことは確かであり、この点に”原因において自由な行為”にも似た新たな論点の定立を認めるべきではなかったか。
(まだ続く)
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