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本のブログ(2013年から新規)

1korou:2012/12/31(月) 18:30:01
前の「本」スレッドが
書き込み数1000に近づいて、書き込み不可になる見込みなので
2013年から新規スレッドとします。
(前スレッドの検索が直接使えないのは痛いですが仕方ない)

2korou:2013/01/03(木) 10:54:37
2013年最初の読了本は、横山俊之・熊代正英「岡山の夏目金之助(漱石)」(日本文教出版<岡山文庫>)

当HPのコンテンツ(コラム)に関係する話なので
興味津々かつ若干の不安も覚えつつ読み進めた。
いきなり、最初ページにおいて
無味乾燥な夏目家の事情がぎっちりとした活字で詰め込んであり
やや読みにくさを覚えたものの
そこを乗り切ると、あとはいつもの”楽しい伝記読書”のペースに持ち込むことができ
青空文庫とかWikipediaを参照しながらの至福の時間を過ごすことができた。

前半の漱石岡山逗留部分と、後半の愛弟子湯浅廉孫の部分とが
異なる著者によって書かれたにもかかわらず
意外なほど文章の雰囲気がマッチして
1冊の本として、漱石の内面に深く迫れた好著になっていたのには
感心させられた。
市井の研究者・愛好者と、文学館の研修者との見事な連携プレーのようにも思える。

特に後半の湯浅廉孫との関係は初耳で
山陽新聞社発行の人名辞典にも湯浅のことは書かれていなかったので
今回の読書の大きな収穫である。
全体を通じて漱石の人間味がよく伝わってきて
やはり大きな人物だという印象を新たにした。

というわけで、コラムの内容も大幅に書き換えないといけなくなった。
正月からこりゃ大変だ(苦笑)
本そのものは、やや人を選ぶものの、まあオススメの部類だろう。
国吉康雄のときの本といい、やはり岡山文庫の伝記は侮れない。

3korou:2013/01/06(日) 22:41:25
小林信彦「和菓子屋の息子」(新潮文庫)を読了。

昨年の途中から読み始めて、途中から「これは読み急いではいけない。最上の愉楽として
いざという時のためにとっておくべき本だ」と思い直し、ゆっくりゆっくりと読むことにした本である。
それを、今になって、一気に最後まで読み通したのは
今現在、600ページ級の大著を2冊同時に並行して読んでいるため
当分の間、読み通す喜びに浸れないのではないかという危機感が生じたためである。

もともと、小林さんの本を買って、それを読まないということなど
あり得ない話だった。
ところが、なぜか、この本だけは、買ったのがもう数年前なのに
読み進め始めることができたのは、やっと昨年の途中という不思議なことになっていた。
読み進めてみて、そして、今読み終えてみて
買った直後の「(読み始めることへの)ためらい」は何だったのか
もはや想像することもできない。
これほど愉しい本はなかなかない。
小林信彦ファンなら、即頷いてもらえると思うのだが。

終始、小林さんの感性で、昭和戦前期の東京下町の世界を描いた本であり
その上に、小林さんの少年期の芸能文化への思い出も追記されている。
面白くないはずがない。

やむを得ない事情とはいえ、読み終えてしまった。
明日から、この本を読もうかという気分のとき、どうすればいいのか
途方にくれる思いで居る。
この種の本の代わりは、そうそうあるものではないのだから。

4korou:2013/01/08(火) 22:24:30
川村元気「世界から猫が消えたなら」(マガジンハウス)を読了。

たまたま、日経エンタテインメント2月号で、秋元康との対談を読んだばかりで
あまり期待感もなく、ただ話題提供のためだけに読み始めた。
設定が分かるまでの文章が、いかにも稚拙でげんなりするが
その設定が動き出して、説明の文章が描写の文章に変化していく感じは
思いがけず読ませる雰囲気があった。

しかし、ある程度「型」を踏んでリズムをつけたいところで
この作者は変化球ばかり投げてくる。
そして、途中からは、ややセンチメンタルな地点へ読者を連れ込もう、連れ込もうと
ひたすらライトな文章のまま踏ん張るのである。
この地点へいくのならば、もっと小説独自の文体で引っ張らないと無理である。
もっと自由に、設定を軽やかに展開して、ライトな文章のまま
主人公を意外な未来へと連れていくべきだっただろう。

このままでは、いわゆるリアル系の読者、10代のそれしか、食いついてこないはず。
それがアマゾンで意外と好評なのは
いかに今の日本で軽い文体が抵抗なく好まれているかが分かるのである。

読書をしない人に、ちょっとだけ安っぽいけど感動を与える、というたぐいの本。
読書好きには、ライトな文体なので読み通せるものの、後に何も残らないたぐいの本。

5korou:2013/01/13(日) 22:06:15
岡部伸「消えたヤルタ密約緊急電」(新潮選書)を読了。

詳細な書評は、昨日のmixiの日記で書いた。
とにかく、読み通すのにエネルギーがいった本で
年末年始は、これと(今読書中の)「東京プリズン」という二大分厚書物のせいで
にっちもさっちもいかないのではないかと自業自得の心配までしてしまった。
とりあえず半分は終わった。

上記mixi書評を書いているうちに
これは、ヤルタ密約緊急電の話が凄いというよりも
その当事者であった小野寺信という人物の素晴らしさを知るための本なのだという風に
確信を持つに至った。
これほどのインテリジェンスはなかなかお目にかかれない(日本人スパイとして)
それを知るだけでもこの本の価値はある。

ということで、日本近現代史の愛好者にはオススメ・・・というより
とうにこの本の存在は知っていて、皆満足したに違いない。

6korou:2013/01/13(日) 22:11:26
ビートたけし「間抜けの構造」(新潮新書)を読了。

これは、前記図書と比べて、いかにも薄く、読みやすく、あっという間の読書だった。
野村克也の本と似ていて、同じようなことをいろいろな本に書きまくる癖のある著者だが
時々、野村の本で優れた本があるのにも似ていて
これはこれで、そこそこ面白いと思った。
同工異曲でウンザリというたぐいではない。

すべて自分の知っている分野、十分周知している分野に話をまとめているのが
説得力のある文章になった原因だろう。
その点、漫才、映画、スポーツ、落語、テレビという風に得意分野が多い著者は
こういう著作にぴったりと言える。

ビートたけしが嫌いな人まで巻き込めるか?といえば、どうかなということになる。
あくまでも、著者に興味がある、著者が好きだという人のための本ではあるが
図書館などで見かけたら。借りても決して損ではないというだけのクオリティは持っている。
まあ買って熟読って感じではないので、買うのは惜しいかな、というところ。

7korou:2013/01/18(金) 17:11:19
鈴木直道「やらなきゃゼロ!」(岩波ジュニア新書)を読了。

最初からサクサクと読ませる勢いのある文章で
かつ興味のある内容でもあったので、昨日から一気読みで読了。
石原慎太郎がとても「いい人」で登場してくるのだけが癪にさわるがww
まあ、とてもいい人間関係に巡り合えたなあという感想と
それだけの努力をこの著者はこなしてきていると思った。
思春期での突然の生活困難が、この人を鍛えたのだろう。
鍛えられた中高生時代から、そのまま社会人、勤労学生となり
まさに休むことを知らない昔ながらのモーレツ日本人が完成したということだろうか。
「首長パンチ」の著者とは、また違った異色の行政マン、市長である。

かといって、もう衰えるだけの自分には、特に実践すべき教訓もない。
若いうちにこれだけの体験を積んでいる人というのは
ある意味、自分には無意味な存在でもある。

ということで、要約すれば、行政マンになりたい人にオススメ、ぴったりの本である。

8korou:2013/01/21(月) 22:46:44
越谷オサム「陽だまりの彼女」(新潮文庫)を読了。

映画化される原作ということで、とりあえず冒頭だけチェックのつもりで読み始めたが
何かひっかかるものがあって(それと「活字がでかい」のも好印象)
ついつい読み進めていった。
ラスト直前の意外な”オチ”は、たしかに「そう来るか?」という疑問形にならざるを得ないが
しかし、不思議なのは、それもアリだ、とすぐ肯定できる流れが
すでに出来上がっていたことだ。
ストーリーテラーとしての素質を感じる作家である。

細部を批評すれば、いくらでもアラの出る文章である。
序盤の進行も緊迫感に欠け、人物造形なども望むべくもない。
簡単に言ってしまえば、ライトノベルである。
しかし、細部さえ見なければ、それなりにスムーズな文体であり
少なくとも、ライトノベルそのものを読んだときに感じる
何とも言えない居心地の悪さとは無縁だ。
そして、「オチ」によりドラマは反転し
物語に没入できたとしたら、結構、感情の深いところを刺激する描写さえあるのだ。

不思議な読後感をもつ小説。
読み始めと読み終わりとで、これほど違った印象になる小説もなかなかない。
一般的には、オススメできる小説だと信じている。

9korou:2013/01/24(木) 22:08:50
赤坂真理「東京プリズン」(河出書房新社)を読了。

昨年、一度読みかけて断念。
年末に再度挑戦することにして、延々と1か月以上かけて
やっと今日読み終えた。
結論だけを言えば、傑作とは言い難く、ある意味、徒労に終わった読書である。

ただし、著者のこの小説にかける仕掛け、たくらみは、確かに昨年出た小説のなかでも出色であることは認める。
成功すれば、凄い力技、21世紀最大、最高の小説になったに違いないが
やはり、イメージの核となるものが、あまりに私小説すぎて、客観的に伝わってくるものがなかった。
この小説からイメージを取り払えば、天皇と東京裁判とキリスト、日本とアメリカといった大きなテーマについての
討論劇しか残らず
そこでのヒロインのつぶやき、感想、思考、情念は、設定が普通の16歳の女子高校生である以上
ある程度の深みに達するまで、説明の文章が必要になってくる。
その説明が、すでに日本の近現代史をひととおりひもといた者にとっては、実にもどかしく、だるいのだ。
イメージは結晶せず、ドラマは退屈、となると、読み通すのにかなりの苦労が要るわけだ。
途中からは、イメージ部分は飛ばし読みそて、ドラマ部分が熟成していく過程だけを読み通していった。
ところが、最後のディベートに至っても、まだ現代史の入口でウロウロしている有様。
「神」の存在をイメージして、キリストまで話を広げた部分は、そこまでのイメージ部とつながっているようにも思え
おやっと思わせたが、話はそれ以上ふくらまず、ディベート自体が不完全燃焼で終わった。
これでは傑作とは言い難い。
構想は凄いとは思うのだが。

というわけで、これは人を選ぶ小説。
ハマる人には結構ディープな世界を味わえるタッチなので無茶苦茶ハマるのだろうけど
私には無縁な小説だった。

10korou:2013/01/25(金) 15:51:47
ファンキー末吉「平壌6月9日高等中学校・軽音楽部 北朝鮮ロック・プロジェクト」(集英社インターナショナル)を読了。

最初の数ページを読んで、これはイケると直感。
実に面白く、考えさせられ、タメになる本だった。
特に緊張感のある前半部分では、不覚にも(?)涙を禁じ得ない場面すらあった。
ある程度期待はしていたのだが、予想を上回る面白さと感動だった。

もし不満、というかもどかしい思いが残るとすれば
著者のファンキー末吉氏のような行動力は到底持ち得ないだろうなということ。
この人は、この行動力で、これまで中国で生活し、そして北朝鮮にまで渡り
その合間にはチベットまで行ったのだ。
どこへでも行ける勇気と体力、そしていろいろなことを感じ悟っていく知性、感性。
真似のできない人物であればこそ、この本に書いてあることを
本当に文字通り受け取っていいのだろうか、というためらいすら覚える。
しかし、やはり書いてある事実には圧倒される。
北朝鮮の少女たちは輝いている。感情が生で伝わってくる。思春期のうごめきそのままではないか。
これに目をつむることはできない。

万人にオススメの良書である。
読みやすい、面白い、ためになる。
今のところ、今年読んだ本のNo.1である(まだ1月も終わってないんだけど)

11korou:2013/01/27(日) 20:55:21
じん(自然の敵P)「カゲロウデイズ」(KCG文庫)を読了。

全く見当もつかない本なので、興味本位というか、ちょっとだけ読んでみるかという程度のノリで
読み始める・・・意外と面白い!・・・最後まで読めそう・・・読んじゃった、という感じである。
文体は伝統的な小説のそれとは異なり、いわゆるライトノベル風の独特のノリ。
それでいて、3つのエピソードのつなげ方が、伝統的なエンターテインメント小説の王道を踏まえていて
そのアンバランスというか、不思議な調和感が面白い。
適度に不自然なキャラとストーリーが、ライトノベル風の読みやすいけど深みには欠ける文体と妙に調和していて
その調和感のままラクラクと読み進めた結果の、この不思議な調和感にたどりつくという按配。

話そのものに何か心に残るものがあるわけではない。
読まなくたって全然構わない、ある意味どうでもいい小説なのだが
こういうものを読める、読んで楽しめる世の中というのは、実に楽しい良い社会だろう
と思ったりする。
りっしんべんの右側に「亡」くすという字が来たりしたら
ふとこの小説の存在を思い出して、少しだけ笑ってみようか。

分かる人には分かる、意外と通の小説。

12korou:2013/01/27(日) 21:04:35
門田隆将「死の淵を見た男」(PHP研究所)を読了。

門田さん一流の筆による福島原発事故直後の現場の奮闘を描いた迫真のノンフィクション。
読む前から凄そうだという予感はしていたが
冒頭から印象深い人間ドラマの断片が提示され
途中からは読書を中断することが惜しいほど熱中して読み続けることになった。

前半は、かっちりとした構成で、この福島原発事故について
現場・東電・官邸の対応がそれぞれどうであったかが明確に対比された形で記述されている。
ゆえに、「危機管理」というものを考えるときに
特に菅直人首相の対応をどう評価すべきかという点において
格好の生きた教材がそこに提示されている。
著者は、菅を一刀両断で断罪するのだが
ことはそう単純に割り切れるものではあるまい。
少なくとも思考経路の上で、菅には大きなミスはなかった。
首相として当然の思考を行い、決断もリーダーらしく曖昧な部分が微塵もなかったという点で
むしろ褒められてしかるべきかもしれない。
ただ、その思いは、部下に伝わらず、思考の過程は周囲に伝わらず
強烈なまでの責任感は誰にも伝わらなかった。
一人で決断するのが一国の首相の宿命ではあるが
いざそれを実行する際には、ひとりで行動してはいけないのも首相の宿命だろう。
菅にはその部分が決定的に足りなかった。
そこをこの著書では的確に指摘してほしかった。
菅は大馬鹿だ、とだけ書いたところで、何の解決にもならないので。

13korou:2013/01/27(日) 21:12:04
後半になると、叙述が雑になり、事態が具体的にどう変化していったのか、何の説明もなく
なんとなく最悪の事態は避けられて現在に至っている、という感じだけが伝わる曖昧なことになっている。
著者の主眼は、後半になると、俄然、現場の人間の家族をめぐるドラマに集中していて
その限りにおいては、たしかに感動的な文章にはなってはいるが
前半部分の客観的な記述とのアンバランスさは否めない。
ノンフィクションとしては、全体のまとまりに欠け
何よりも「客観的な事実」の説明が欠如しているという
この種の作品では致命的といっていい欠陥を露呈している。

とはいうものの、このドラマは内容が内容だけに
強烈で、読む者を震撼させ、襟を正させる厳粛さを持っている。
構成にそういう不整合さがあるにせよ、この本は
読者に何かを思わせる、何か考えさせる強烈な力を持っている。

その意味で、現代の日本人にとって必読の書ともいえる。
まだフクシマは現在進行形の話なのだから。

14korou:2013/02/06(水) 13:30:03
佐藤大介「オーディション社会 韓国」(新潮新書)を読了。

韓国の生の姿を知りたいと思って読んでみた。
通信社記者らしい現場からの発信記事がほとんどで
抽象的なふくらみはないものの、十分説得力のある文章が続く。
そこから浮かび上がってくるものは
今の日本とほとんど変わらない「生きづらい社会」だった。
日本以上に閉そく感が漂い
一部の階層だけが潤い
大半の民衆は不満と失望、貧しさの予感への恐怖におびえるという社会。
やり直しがきかない、敗者復活のない社会。
日本もある程度そうだが、韓国はもっとそれが社会の空気として徹底していて
一度脱落すると、絶望的になるようだ。
その結果、自殺者の多発、スラム化した高齢者の生活、といった構図も
決して誇張ではないようだ。

日本だけではない、ということに妙な安心感も覚えつつ
世界中でこうした貧富の拡大、閉そく感の充満といった事態をもたらす資本主義というものにつて
改めて懐疑の念を抱く。
マルクスの思想をそのまま官僚制度とそれに乗っかった政治家に任せてしまうと
ソ連崩壊という結末となるが
それ以外のシナリオはないのだろうか。
希望と夢を未来に託して、そんな見果てぬ夢を抱く。
日本を抜き去ったはずの韓国ですらこの有様なのだから。

15korou:2013/02/10(日) 20:52:14
佐々涼子「エンジェルフライト」(集英社)を読了。

評判が良いので(しかも開高健ノンフィクション賞受賞作)、読んでみた。
冒頭にかなり泣かせるエピソードがあり、なかなか読ませるなと思ったが
その後の展開が平板、単調で、ムダな繰り返しの描写が多く、がっかりした。
しかも、最後のほうの説明のための文章は、著者自身もまだ整理できていないことを
むりやり書いてみた感が強く、全然頭に入ってこない。
文章そのものは、とても受賞作にふさわしいとは思えなかった。

ただし、扱っている素材は、人生を考える上で重要で大切なものだ。
そのことについて、少しでも多くのことが知りたいという欲求も生まれて
ほぼ新聞や雑誌を読む感覚で読み進めた。
だから、途中で飛ばし読みもアリで、全文精読できたわけではない。
まあ、それなりの文章だから仕方ない。

著者の言いたいことは分かるし、著者自身への問いかけも納得できる文章になっている。
ただ、肝心の素材への切り込みが、平板で紋切型で
素材である人物の個性に負けている。
やはり、ノンフィクションであるなら
強烈なパーソナリティの裏にあるものをもっと切り込んで描写すべきで
繰り返しの多いムダな説明文はカットすべきだった。

欠点だらけの文章・構成だが、取り上げた素材の良さで
人によっては面白く読める本かもしれない。

16korou:2013/02/16(土) 14:02:49
綾崎隼「蒼空時雨」(メディアワークス文庫)を読了。

ライトノベルと普通の小説の中間的存在であるメディアワークス文庫。
そのイメージ通りの美しい綺麗な感じの恋愛小説だった。
いくらか抵抗を覚える設定、大人の小説読み巧者だと馴染めない表現など
読む人を選ぶ要素も多いが
そこさえ突破できれば、この作品の美点を十二分に堪能できるだろう。

どこがどう違うのか分からないのだが
とにかく作品世界が美しい。
文章も設定もドラマも人物も描写も。
さすがに噂にたがわぬ名作だと思う。

17korou:2013/02/16(土) 20:36:11
綾崎隼「初恋彗星」(メディアワークス文庫)を読了。

「蒼空時雨」の続編にあたる作品だが、前作との関連は薄いので
これ単独でも十分読める。
前作とはやや異なり、説明調の文章が続く書き出しなので
読み進めるのに少し躊躇したのも事実。
少しずつ違和感を高めつつ、なんとなく悲劇の匂いを嗅ぎつける直後の150ページに至り
そこからは文体への不満は消滅した。
そこから先は、いわゆるネタバレだが
ネタバレを読んでいくうちに、この作品の美点が明らかになっていく。
この作品も、最終的には、前作と同じく「いい人」ばかりが出てきて
普通なら鼻持ちならない設定なのに、この作者独特の綺麗な文章が
その欠点を感じさせない、むしろ、そういう「いい人」ずくしの良さを
最大限に感じさせる良さがあるのだが
そういう美点が全開になっていくのである。

そして、今作は前作以上に恋愛の純粋度が高まるばかりで
さすがにこれは恋愛小説が得手でない人には辛い展開かもしれない。
まさに「冬ソナ」の最終シーンのような、ある意味異常な愛の形でもあり
設定からして大体普通でない上に、結末も普通でないのだ。
これは前作以上に人を選ぶ。

セカイ系ともいえる純粋度だが
この種のストーリーを懐かしむことのできる自分のような人間には
堪えられない小説だ。

18korou:2013/02/19(火) 22:41:51
綾崎隼「永遠虹路」(メディアワークス文庫)を読了。
(なお、前回の書き込みの最終行は「こたえられない」で「たえられない」ではないので念のため。って、自分に注意書きする人も珍しいがww)

第3作も一気読みで終了。
最初だけ、妙な感じの恋愛風景だったので戸惑ったが
第二章以降が時間を逆進していく構成ということに気付いた瞬間から
スムーズな読書となった。
アマゾンでの書評でも触れられていたが
これはヒロインの七虹に感情移入できるかどうかがポイントで
ここまで一途に思いつめる主人公の物語だと
感情移入できない場合は、作品世界全部が嘘っぽくなるのも事実である。
しかし、これだけ丁寧に書き込まれた作品で感情移入できないというのも
また信じられない気がする。

メディアワークス文庫などのシリーズ物をいくらか読んでみて
このシリーズが一番安定しているように思う。
すでに3作、それぞれに独特な匂いを漂わせていて甲乙つけがたい出来である。
読みやすさを勘案すれば、史上最強の恋愛小説だと個人的には思っている。

19korou:2013/02/21(木) 16:00:30
小野博「世界は小さな祝祭であふれている」(モ★クシュラ)を読了。

何気なく本文の最初の1ページから読み始め
予想以上に今の自分の気分にフィットするのに驚かされる。
世界へのささやかな絶望感、ささやかだけど確実で否定しようのない絶望感が
最初の章である「東京の記録」に漂っている。
詩的ともいえる感性の確かな文章に続く第二章のアムステルダムでの出来事の描写は
それに対して、いかにも散文的だ。形式が日記なので、一層その感覚が強まる。
第3章では、故郷岡山での出来事がそれに重なる。

最後に「はじめに」を読む。
読み終わった後でこれを読むと
この著者にしては場違いなストレートな社会批評があって
第3章の曖昧な位置づけといい
内容を表すのに適切でない題名といい
本全体としては
演出の仕方を知らない不統一なものになっている。

しかし、第1章の「詩情」に完全にマイってしまったので
ほぼ苦労せず全体を読めた。
同じ岡山県人ということで
どこか無意識のうちに共感できるところがあるのかもしれない。

とにかく、地方から出てきて東京がどう見えるか、あるいは
日本から飛び出して比較的平和な外国に暮らすと、どう世界が見えてくるか
ということについて
これほど的確なイメージを伝えてくる本は、そうないだろうと思う。
意外な収穫だった著作。

20korou:2013/02/24(日) 13:53:17
他に書くスレがないので、ここに。

mixiでついつい全く縁のない人の日記を読み
「あしあと」の関係上、ふと、この方が自分のmixiページを訪問したら
どう見えるのだろう、と確かめてみることにした。
日記の類は制約をかけているので見えないが
この掲示板を含むHPのアドレスは見え見えである。
それと、ずいぶん昔に書いた書評がTOPページから見える。

「秘密の花園」とすべきなのか、消すべきなのか。
今これを書いた時点で、結論は出た。
HPのURLは削除しよう。

それから、驚いたのは
かつてのmixi書評を読み直してみて
文章が上手い、ということだ(何だ?この自画自賛ww)
書いているときはすごく疲れた記憶がある。
でもそれだけ頭を使って気を使って書いているのが
そのまま文章のまとまり、冴えなどに表れている。
今、気楽には書いてはいるが、ああいうスッキリと過不足なくまとまった文章が
はたして書けているかどうか。
時として、気楽なはずなのに、その気楽な低い基準すら満たさないヒドい文章を
書いてしまうこともあり
さすがに、そういうのは途中で自分でも気がついて、途中止めにすることになるのだが。

自由作文スレなんてのが必要だろうな。
mixiだと、書くか止めるかの2択になって、後者だと後に何も残らなくなるし。

で、このスレの趣旨に戻れば
今、湊かなえ「望郷」の最初の2つの短編を読んだ。
素晴らしい。これは全部読むぞ。また後日。

21korou:2013/02/27(水) 13:16:15
湊かなえ「望郷」を読了。

短編集で6つの小説が収められている。
最初の2つが、ミステリー味も濃厚で出来も良い。
残り4つは、だんだんと薄味になり、最後の短編などは
湊かなえという名前がなければ、恐らく読むことはなかっただろう。
全体として、瀬戸内海の名もない小さい島に住み着くこと自体が
いろいろな事件、出来事を生むという流れで統一されていて
そのあたりの描き方は上手いというか、実感のこもった描写になっているのだが
そこから先へどの程度作品世界を広げられたかといえば
作品ごとに出来不出来があって一概には言えないところだ。
島に生きる人の小説、というジャンル限定で言えば
これは間違いなく傑作である。
ただし「告白」以来のドロドロした作風が好きな人には
これらの作品は物足りないはずである。

一番最初の「みかんの花」が
一番良かった。
全部このレベルで書き切れれば、相当なものなんだが・・・

○4つかな?

22korou:2013/03/04(月) 22:50:16
三上延「ビブリア古書堂の事件手帖④」(メディアワークス文庫)を読了。

今回は、事前に知らなかったのだが長編だった。
江戸川乱歩を題材にして、単なる題材以上に詳しく切れ込んだ佳作になっている。
この作者は徐々に進化しているように思える。
今回は、ライトノベル風な魅力全開で、読みやすさを損なわないまま
ディープな古書の世界も垣間見せる力技に成功している。
ここまでくると、人によってはラノベ風な甘さを指摘したくもなるだろう。
でも、それはこの本の正当な評価とはならない。
これはこれでいいのである。
世の中には、正しく、間違いのない小説はたくさんあるが
これほど読みやすく、かつ典型的な陳腐さにも陥っていない小説は
滅多にないのだ。

あらためて、今放映中のこの原作のドラマを見ると
どこかで間違っているのがよく分かる。
栞子のキャラは大切にしてほしかったのだが・・・

なかなか的確にこの本の魅力を記述できないのだが
まあ、普通シリーズを読まない自分をしてここまでついて来させるのだから
稀有な小説だろう。
文句なしオススメ(「文学」好きにはムリだろうけど)

23korou:2013/03/14(木) 17:13:46
一橋文哉「マネーの闇」(角川oneテーマ21)を読了。

「闇」シリーズ3部作の最後の著作となる。
前2作は未読なので、これから読むことになるが
お互いに直接の関連はないので、単独で読むことも十分可能である。

とにかく、昭和から平成にかけての"闇情報"満載の本である。
戦前の軍部などの謎の金の流れから
例によって児玉誉士夫、M資金などの話につながり
そこから山口組3代目、その後継ともいえる宅見勝、その同類の石井進などの
ヤクザがからむ金の話。
そして、イトマン事件などを発祥とする地下経済のドロドロとした話。
最後の2つの章は、それまでとはガラリと様相を変え
IT企業が、その近代的な様相とは裏腹の薄汚いマネーゲームをしていた様子が暴露され
さらに、近年の犯罪を引き起こすソフトを使ったPC犯罪に絡む汚い金の動きなど。
驚くことには、その最後の違法ハッカー集団を取り仕切っているのが
宅見一派のなれの果てというべき山口組関係の幹部である、という幕切れだ。
今のヤクザは、PC犯罪にまで噛んでいるのだ。

裏社会の不気味さを好奇心で知りたい向きには
絶好の入門書(というより従来の知識の整理に格好な本か)
そうでない人には、ただひたすら怪しい本に見えるかも。

24korou:2013/03/16(土) 16:41:47
東野圭吾「時生」(講談社文庫)を読了。

前々から読んでみたいとは思っていたが
ついに昨日昼から読み始め
なんとこの500ページ以上ある大部な小説を
ほぼ1日で読み通してしまった。
読み始めると止まらない東野作品でも
これほど一気に読ませる面白さはピカイチではないか。
こういうのを読むと、ここ4,5年の東野作品は
このときほどの迫力を失っていると言わざるを得ない。
最近は、最初のほうだけだが、作品世界に入り込むのに苦労するので。

ただし、作品の底は浅い。
理系作家の限界と言ったら一面的な言い方だろうが
そう言いたくなるような表面的な人間描写しかない。
人は、この作品で描かれているほど、直線的ではないと思う。
もっとぐじゃぐじゃな統一性のない不確かなものであるはずで
文学というものはそこからスタートしているはずなのだが
この頃の東野圭吾は、そういう前提で小説を書き進めていない。
もちろん、これよりもっと前の東野作品でもそれは同じなのだが
この「時生」を書いた頃から、彼はヒューマンなタッチで小説を書き始めているので
同じ浅い描き方でも、余計気になってしまうのである。

さすがに「新参者」あたりになると、もう少し人間描写が深い。
すでにそういう東野作品を知っているので
どうしても現在この作品を読むと、もっとできるのになあ、という思いになるが
この当時は、鮮やかな筆致に惑わされて、これはこれで凄いという評価だったかもしれない。
でも、アマゾンでの絶賛は、今の評価だと思うと
やはり現代の読者は、昔からの文学ファンとは違うと思わざるを得ないのである。
まあ、無条件に面白いことは認めるけどねえ。

25korou:2013/03/23(土) 10:55:51
百田尚樹「永遠の0」(太田出版)を読了。

評判の小説で、年末には映画も公開されるということで
読んでみた。
今まで、2、3度読み始めてみて、そのたびに挫折したのだが
今回は読み通すことができた。
読破した今、なぜ最初に挫折したのか、そして今回なぜ読み通せたのか
理由が分かった気がする。

これは小説ではない。
太平洋戦争に関する雑学、薀蓄そして戦場における基礎知識を
何も知らない世代に分かりやすく解説した小説風歴史本なのである。
「もしドラ」で経営学のイロハを知る、というたぐいの読書に近い。

ただ「もしドラ」に書かれていることは
いわゆる理屈に過ぎないともいえるが
「永遠の0」に書かれていることは
それを今まで知らないでいたことに慚愧の念を抱いてしまうほど強烈な事実である
という大きな違いがある。
それがアマゾンでの絶賛の嵐ということになるのだろう。

特定の人物に関するエピソードの連鎖のような構成であり
それぞれのエピソードは、どれも感動的で、思わず感涙するシーンも多い。
感傷的にならないよううまく演出すれば
素晴らしい映像になること間違いないエピソードばかりである。

普通なら、こんな稚拙な構成で、かつ不自然で共感できない展開の小説は
問題外なのだが
このエピソードの魅力だけで、最終ページまで一気に読ませてしまう。
フィクションとノンフィクションの境目を確信犯のように行き来する独自の世界は
百田氏独特の世界であり、それはそれで凄いものだと思うのだが。

絶賛の嵐となると、やや首をひねらざるを得ない。
こんな感じばかりなので、最初の頃感じた熱い思いも(ボクシング、出光興産などの話)
少し考え直す必要があるかな、と思い始めている。

26korou:2013/04/04(木) 15:31:22
野崎まど「パーフェクトフレンド」(メディアワークス文庫)を読了。

気になる作家ではある。
しかし、これはないだろう、と思われる安易な出来に失望させられた。
いや、完全に失望したわけではない。
序盤から中盤にかけて、ませた小学生女子の描写が軽妙で
思わずクスッと笑ってしまうあたり、さすがだ。
ただ、終盤にかけて、魔法使いを出現させて
ドラマを屈折させていく経過が
いかにも、全体の仕掛け(未読だが多分「2」のために)のために
意図して設けられたフィクションのように見えてしまうのだ。
クライマックスの仕掛けが透けてみえる白々しさ。
このテーマは、ふくらませずにこれだけで完結してもいいのではないか。
「2」でこれまでのテーマが総合的にまとめられるとしたら
キーワードは「天才」なのだろうか?
でも「友情」もテーマだったこの小説、うまくまとめていれば
それなりの佳作だったのに。
というわけで
不完全燃焼のまま読了した。
最終的な評価は、もう少し他の関連作品を読んでからにしよう。
よく考えてみれば、この人には最後までフィクションの世界で引っ張る力がある。
これは、ありそうでなかなか気付かない素質だ。
もうちょっとだけ待ってみて・・・・(以下略)

27korou:2013/04/06(土) 19:01:05
木内一裕「藁の盾」(講談社文庫)を読了。

かなり珍しい読書になった。
以前読んだ「キッド」と違って
文章の冗長さが気になり
それでも120ページほどまで我慢して読み続けたが、ついに限界に達し読書を断念。
一応、来週からの企画本なので、結末だけは知っておこうと思い
そこから一気に最後のほうのページを開いて読んでみると
そこそこ面白い展開が推測される状況になっていることが判明。
そこから徐々に120ページのあたりまで飛ばし読みをして(逆方向飛ばし読み!)
やはり読んでみようかと思い直し、再度読破に挑戦。
こんな読み方だと、飛ばし読みしかないなと思ったのだが
これが意外にも、すぐに熟読モードとなり
そこから後は一気だった。

とはいうものの、やはり「キッド」の完成度にははるかに及ばない。
オススメできる小説ではない。
山田悠介をややレベルアップさせた感じのイメージは「キッド」と共通だが
文章の読みやすさという点では、この小説は山田作品より劣るかもしれない。
映画化されるということで注目度は高いが
もっと優れた作品があるのでちょっと残念な気もする。
「キッド」も映画化に向いた作品なので、それを期待しよう。

28korou:2013/04/11(木) 22:37:42
熊本県庁チームくまモン「くまモンの秘密」(幻冬舎新書)を読了。

軽いノリの新書で、途中からは、内容が薄い箇所もあり読破に難儀したものの
おおむね一気読みに近い感じで読み終えた。
行政の新しいスタイルを描いた著作であると同時に
民間にも通じるアイデアの生かし方全般の指南書にもなっている。
バックボーンに
この本でも触れられている小山薫堂氏の発想があることは間違いない。

こういう本に解説は不要である。
一種の技術書であり、エクセルのマニュアルに解説は要らない。
あとは実行するかどうかだけだが
こういう環境にいる人はかなり限定されよう。
つまり、手本にしたい人が限られている指南書なのである。
それでいて、その内容は具体的かつ濃いもので、かつ第三者的にも面白い。
読むのは容易だが、評価は難しい本ともいえる。

くまモンが好きで読書も好き、という人にはオススメ。

29korou:2013/04/18(木) 16:49:52
村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(文藝春秋)を読了。

視力が弱っている時期に、根を詰めて読破したので結構疲れる読書になった。
とはいうものの、前半の精緻で誠実な描写の連続には圧倒され
さすがに村上春樹だと思い、読み進めていた。

フィンランドに行って、次々と不明な事柄がクリアになっていくにつれて
予定調和のようなものが見えてきた。
そして、本当の意味でのストーリーが、ゆっくりと動き始めたその瞬間
物語は終わる。
不完全燃焼というべきか、いや、これで終わりもアリだろうけど
それだったら、前半と後半の密度の違いは不可解だ。
単なる集中度の違い、創作上のミスだとしたら
ハルキ衰えたり、ということになる。

難しいエンディングを、そのまま未解決に終わらせて読者の想像に任せるのだとしたら
この作品の場合は大失敗と言える。
なぜなら「ノルウェイの森」で、ハルキ氏は同じストーリーをすでに書いているからだ。
初期創作のネガポジの関係にあった「ノルウェイ」を
ああやって鮮やかに描出し
作品としても自律性を確保させた才能は
その後「アンダーグラウンド」「神の子どもたちはみな踊る」で現実を見つめた後
「ノルウェイ」のような設定の"私小説”においても
違う視点を獲得したはずなのだ。
だから、この結末では、不可解なのである。

駄作ではないが、このままでは中途半端な位置に止まる創作、ということになるだろう。
ノーベル賞うんぬんよりも、作家としての誠実さの問題といえるだろう。
このままではいけない、ハルキさん。

30korou:2013/04/21(日) 10:26:16
平田オリザ「演劇のことば」(岩波書店)を読了。

読む予定になかった本だが、偶然手に取ったら面白くて
そのまま最後まで読み通してしまったという読書。
平田オリザという人は、妙に権力側に寄り添ったポーズが鼻につくので
今まで敬遠していたのだが
こうしてその文章に接してみると
付き合いようによっては面白く読めるかな、という印象を持った。

これは「演劇のことば」の本であると同時に
それを日本の明治以降の演劇史という文脈で考察していくというスタイルなので
日本近代演劇史の本としても読めるのである。
いや、むしろ、その方面の入門書として
これほどざっくりと整理できていて、かつ面白く読める読み物としての魅力も備えた著作は
そうないのではないかと思われるほどの出来である。
小山内薫、土方与志、岸田国士といった人たちの業績が
これほどわかりやすく書いてある本が他にあるのだろうか(この分野は読み漁っていないので不明だが)
そして、ちゃっかりと自分の家系についてのエピソードも繰り込んでいて
あとがきによれば計算ずくだそうだが、そのせいで記述が滑らかになっているのも心憎い。

隠れた良書、というところか。

31korou:2013/04/21(日) 15:25:30
ペアテ・シロタ・ゴードン「1945年のクリスマス」(柏書房)を読了。

1カ月ほどかけてやっと読了。
面白くなくて時間がかかったというわけではなく
読んでいる途中で、別の読了を急ぐ本が割り込んできたり
高松市との往復で休日の時間を取られたりして
ついつい時間がかかってしまったという次第。
内容は興味深く、伝記としての面白さに満ちていた。

活発な女性らしく、知人・友人・関係者を描く観察眼が鋭く
本人はちょっとした良家の子女なので本来は薄っぺらい感じになりがちなのに
そこのあたりは上手くまとまっていて、読んでいて飽きない。
憲法の改定作業に詰め込まれて苦労するくだりは
さすがに読んでいて細かすぎてくたびれるが
それ以外の箇所は、どこも女性のまっすぐな感性が存分に発揮されていて
ある意味、そうした感性こそが新憲法を生き生きとしたものにしたのではないかと
逆の意味で思ってしまう。

それにしても、憲法の仕事の後、米国に戻って
日本文化、アジア文化を米国で紹介する仕事をするあたりの文章は
なかなか興味深かった。
深読みすれば、いくらでも示唆に富んだ言葉を見つけることができる。

というわけで、これは文句なしの良書でしょう。

32korou:2013/04/21(日) 16:15:58
綿矢りさ「憤死」(河出書房新社)を読了。

2日で3作読了したが、これはページ数が少なく、あっという間に読了できる部類。
綿矢さんらしい細部まで描写に手抜きのない誠実な作品集となっていて
個人的に綿矢作品で初めて挫折した前回の短編集よりも
上出来だと思う。

ただし、一般受けしないのも確か。
ストーリー、アイデアに全力投球という作風でないので
そういう方面に長けた小説を読みこなしてきた人には
この短編集程度のドラマの起伏では、いかにも物足りないだろうと思う。
キャラとか変幻自在のストーリーに慣れてしまうと
綿矢さんの個性的な描写すら見逃してしまう可能性は高い。

綿矢ファンのための短編集だろう。
実のところ、ホラーでも奇妙な味でもなく、この作品集のキモは
いままで若い女性の心理にとどまっていた個性的な描写が
もっと幅広く展開されているところにある。
男性視点の描写、年齢別に整理された描写など。
年長者の描写は、まだ本格的なものではないが、邪魔でもない(「人生ゲーム」の最後のほう)
これで、綿矢さんは、広がりのある作品世界を獲得したように思う。

次回作品が楽しみである。
長編も可能になってきたと思うので、そういうのも読んでみたい。

33korou:2013/04/24(水) 08:42:44
東野圭吾「夢幻花」(PHP研究所)を読了。

このところ、諸事情により読書が忙しいが
これは、ほぼストレスなく夢中で読めた。
そして、ハルキ作品と違って、ストレスがない代わりに
読後の深みも少なく、しかし山田悠介の出来の悪い作品を読んだ後のような
空しさもない。
これはこれで十分なのである。

相変わらず、読者を次へ次へと引っ張る魅力に満ちていた。
この本を途中で断念する人など居ないだろう。
最後まで読んで、この作品が2002年から2004年までの間に雑誌に連載されたものが
元になっているということを知り、驚いた。
結末は2011年3月11日以降でないと書けないはずである。
実にうまく翻案、or書き直し、or書き加えしたものだと思う。

ストーリーとしては
全く違う角度から同じ事件に向かい合った複数の視点が
うまく組み合わされていて、職人技を実感する。
さすがはと思わせる出来だが
10年前の東野さんなら当然かも。
これが本当に最新作なら、最近にない出色の出来だから、次作も期待するのだが
そのあたりが微妙・・・

34korou:2013/04/28(日) 17:33:09
伊坂幸太郎「ガソリン生活」(朝日新聞出版)を読了。

1カ月前から読み始め、決して退屈したわけではないものの
その間別の本を読み急ぐ理由もあって
長期間の読書となってしまった。
それにしても、楽しい、得難い読書の時間だった。
作者にも作品にもありがとうと言いたい稀有な読書体験だった。

車が語り手で、なおかつ内容は人間同士のちょっとしたドラマという設定。
車が擬人化したディズニー映画とは少しニュアンスが違うことを
mixiの書き込みで確認できたのも嬉しい。
アマゾンの書評で、皆楽しそうに書き込みしているのも
見るだけで楽しい。
読書の合間からずっと、街で車を見かけるたびに
どんな会話が繰り広げられているか想像するという
「新しい感性」が「磨かれた」ことも
ものすごく嬉しい。
本を読むという行為がここまで感性を広げ、生活を彩るものであるという可能性を
ここまで知らされたことは、いまだかつてない。

小説技法としても、描写の客観的な確かさとしても
今までの伊坂作品の長所を踏まえつつ
さらに新しい地平を築いたといえる素晴らしい出来である。

今年最高の作品・・・と言い切ってもいいかも。

35korou:2013/04/29(月) 10:58:23
戸部良也「ID野球の父 「尾張メモ」再発見」(べースボール・マガジン社)を読了。

内容は興味深いものだったが、本として全く編集ができていないので
読み進めるのに苦労した(というより、こういう安易な出版企画に腹が立つ思いだった)
何度も何度も同じ記述が繰り返し出てくるのは信じ難いほどだ。
小学生の作文でも、もっと要領よく書けるのではないか。
半分以上読み進めたあたりで、突然、一人称の「僕」が出現するのも唖然とする。
この「僕」は一体誰なのか?とっさに分かるわけもなく
それが著者の戸部氏のことだという素朴な結論に至るまで、少々時間がかかった。
それまでの叙述の流れだと、むしろ
主人公である尾張氏のことを「僕」を書いたと解釈するほうが自然だからだ。

まあ、そんなトンデモ本のような文章の連続とはいえ
書いてある内容が、貴重な尾張メモのことだけに
なんとか我慢して読み続けられるというもの。
もっとも、肝心の試合内容の細かい記述が全くないという、これまた野球ドキュメントとしては
信じ難い本となっているだけに
隔靴掻痒の思いは強い。
なんで、こんな重要なことを、こんなに粗末に書くのか?という怒りさえ湧いてくる。
また誰かが、このテーマで、きちんとまとめることを期待するしかない。

尾張さんの生き様だけはよく分かる本である。
それだけの価値しかないクズ本である。
(本当は、今全盛のMLB派生のサイバーメトリクスと尾張メモの相違を知りたかったのだが・・・)

36korou:2013/04/30(火) 22:20:15
平田オリザ「わかりあえないことから」(講談社現代新書)を読了。

これも、前の平田本読破と同じく、最初のほうの意外なほどの読みやすさで
一気に最後まで読み通してしまった。
本当に、この人の論は分かりやすい。
腑に落ちるし、反対すべき個所もほぼない。

で、読み終わってみて、さらに感じることは
あまりに腑に落ちすぎて、かえって読後に残るものがないという逆説。
何でもいいのだが、すぐに読み取れない「何か」がないと
読後に印象が残らないのも事実。
その点で、この本はずいぶんと損をしているとも思う。

もっとも、ナイーブなコミュニケ−ション論に出会うたびに
いやいや、そうじゃないよ、とこの本の存在を思い出すことも事実。
そういう形で再読で確認を迫ってくる本でもある。

この人の本は話題作に限り全部チェックすることにしよう。
それだけの価値はあるし、逆に主要作を網羅するまでの必要は感じない。
あまりに一貫しているので、エッセンスは同じだと思うので。

37korou:2013/05/05(日) 18:39:41
小林信彦「非常事態の中の愉しみ」(文藝春秋)を読了。

週刊文春の連載「本音を申せば」の2011年バージョン。
まあ、今さら小林さんのエッセイに付け加えることなど何もない。
相変わらず安心して読めるし、内容も雑学として確実に身に付く。
県立図書館で見つけたので借りたまで、でも借りるのは当然、という流れ。

今回は大震災絡みの内容が多く、その点では異色と言える。
ただ、やはり政治ネタは独断が悪い方に作用するので
あまりそういう方向にハマらないでほしいと
一ファンとしては願うが。
かといって、文化人としてそういう内容には全面スルーというのも
こういう年季の入った方にはふさわしくないので
そのへんは難しい加減となる。
映画についての文章は、当代随一だろう。
淀川さん亡き後、こういう方を知り得るとは思いもよらなかった。

38korou:2013/05/12(日) 12:57:46
法条遥「リライト」(早川書房)を読了。

読み始めると、いきなり典型的なタイムリープの描写となり
とりあえず違和感なく、毎度おなじみのタイムトラベルの世界に没入することができた。
しかし、そこからがこの物語の凄いところで
次から次へと謎、謎、謎を繰り出してきて
半分も読まないうちに、謎だらけの感覚に腹一杯になってしまう。
最後50ページを残すあたりまできても
一向にこの不思議で分からない世界の感覚が丸ごと残り
一体、この膨大な伏線を残りわずかなページ数でどう回収するのだろうと
逆に危惧感すら覚えつつ
さすがに途中で止められず、大団円に突入。

最後に登場人物の一人が叫ぶように語った一連の真実については
壮大すぎて、複雑すぎて、その仕掛けを考えた作者の頭脳を想像するあまり
SFの結末ではあり得ない不可思議な笑いさえこみ上げてくるのだった・・・
二宮敦人「アナタライフ」とか小林泰三「酔歩する男」を読んだ直後の印象と近いともいえる。
よく、こんな込み入った話を書いたものだという感動、というよりひたすら感心。
感心というと浅い感情のようだが、そんなものではなく、深い感情からこみ上げてくる”感心”

10年後に死んでいる自分を、わずか5秒で知ることができるのか?
そして携帯を持ち帰れないのだから保彦を救う前提がなくなるのに、そのことの説明がごっそり抜けている不都合。
さすがに、杜撰な読者である自分にも、物語の破たんを見つけることができる。
でも、それは補筆で十分対応可能だから、大きなキズではない。
やはり、この作品に関する限り、タイムパラドックスに本格的に挑戦した作者の姿勢に敬意を払い
素直に、読後の感想を持ち続けるべきだろう。
欠点も多いが(文章がさすがに直線的すぎて、部分的にマンガチックに感じられる・・)
それ以上に見どころの多い作品という評価が妥当。

39korou:2013/05/13(月) 21:21:23
工藤美代子「悪名の棺」(幻冬舎)を読了。

取り上げている人物、時代、背景、どれをとっても
興味が湧く題材である。
実際、それだけを頼りに最後まで読み進めることができたとも言えるが
つまり、そういう感想を真っ先に書きたいほど、詰まらない、くだらない伝記だったということだ。

こういう人物を取り上げながら
愚にもつかないラブレターの文面を延々と10ページ近く引用する神経が分からない。
いや、本当にアホの著者だったら話は早い。
読むのを止めて、違う笹川良一伝を読めばいい話だ。
これはそうではない。
随所に発見も見られ、それなりに史実を解釈する知性もある。
最初のうちは、自分の見解と真反対なので、すらすらといかなかったが
慣れれば、なかなか気持ちいい文章ではあった。
でも、あまりに関係ない、かつくだらないこだわりが多すぎる。
最後のほうで、笹川の最後の愛人を取材して、延々とそのくだりを書いているが
こんなの全部要らない。
全然、笹川の人間性に迫れていない。

というわけで
物凄い玉石混交の伝記である。
笹川について、少し物知りにはなれたが、
それこそ「少し」だけなので
全部読み通すのに費やした時間が惜しい。
もう二度とこの著者の本は読みたくない。

40korou:2013/05/13(月) 21:23:00
あっ、↑の題名が違う。
「悪名の棺 笹川良一伝」でした。

41korou:2013/05/19(日) 14:30:00
中町信「模倣の殺意」(創元推理文庫)を読了。

1971年の江戸川乱歩賞候補作が
40年以上の月日を経て、しかも作者の死去直後というタイミングで
脚光を浴びているのを知り、さっそく読んでみた。
やや文章がぱらぱらと素っ気なく
ミステリーでそこまで求めてはいけないという気もするものの
やはり、もう少しの香気が欲しいなあという不満を覚えつつ読み進める。
半分ほど読んでも、これのどこが傑作ミステリーなのかという懸念は抜けず
それでも、第四章に入る扉ページにエラリー・クイーンばりの挑戦状文言があるのを見て
ひょっとしたらという期待がふくらむ。

第四章の途中でトリックの根幹が見え始めたとき
それは想像してみたがムリだろうというトリックが
実は可能だったということを知る。
そこから後は、動機づけの記述が続き
一見荒唐無稽な構想が、フィクションとしてムリがないことをしらしめていくのである。

犯行の動機になんら深い意味づけがないこういう作風が
松本清張に代表される社会派ミステリー全盛の時代に
評価が低かったのは頷ける。
今は本格派ミステリーを素直に読める時代なので
こういう作品が再評価されるのも頷ける。
さらに、全体にシンプルなトリックなので読後感がすっきりしていることや
作者のミステリーへの情熱がストレートに伝わってくることなどは
この作品の美点といってよいだろう。

文体にはいくらか不満が残るが
全体としては、ミステリーの典型として評価を惜しむことはできない傑作と言える。
再評価は当然かもしれない。

42korou:2013/05/21(火) 21:26:45
「綾瀬はるか『戦争』を聞く」(岩波ジュニア新書)を読了。

文字通り、女優の綾瀬はるかが
ニュース番組のシリーズ企画として
被爆者、戦争体験者のもとを訪ねて
当時の記憶を語ってもらった映像記録を
書籍化した本である。

読んでいて涙が止まらなかった。
もう何度も読んで、あるいは映像で見て聴いて
ある程度知っている事実であるはずなのに
それを体験した人たちが直接語る言葉の重さが
なぜか戦争体験も何もない自分の今の心の奥底にぐぐっと響いて
かつてなくボロボロに涙を流しながら読み進めた。

年令を重ねて、こんな感性の変化が自分に訪れていることには
全く気づかなかった。
そうでなくても、これは良書だと思うが
自分にとっては深い意味を持つ読書となった。

間違いなく自分の中では今年度ベスト1の本である。

43korou:2013/05/26(日) 19:48:29
百田尚樹「モンスター」(幻冬舎文庫)を読了。

女性の容貌について徹底的に書き切った小説で
テーマが明白で疑いようがないので
読み違えなど起こりようもなく
それに加えて百田氏得意のルポ風の文体が功を奏して
実にサクサクと読める小説になっている。

途中、美の女神となったヒロインが
圧倒的な優位で男性を翻弄する描写が続くところがあり
そこだけはやや退屈した。
延々と地の文で美神ぶりを書かれても
想像する余地に乏しく
ここは会話と心理描写で描いてほしかった。
小説のプロではない百田氏の大きな欠点。

そして、ありふれた結末。
これはこれ以外に収めようのないテーマ、流れといえるが
それにしても、予想通りの予定調和なので
そこまでの面白さを思うと、何か残念な気もしてくる。

最初から200ページくらいまでは抜群に面白く
後半は竜頭蛇尾という感じだが
全体を通じた印象で言えば
決して悪くないというのが正直な感想。
普通、竜頭蛇尾はイマイチである場合が多いのだが
これは不思議。

44korou:2013/05/30(木) 09:57:50
山田悠介「93番目のキミ」(山田悠介)を読了。

相変わらず、小気味よい進行と雑であり得ない幼稚な描写がてんこもりで
ある意味、いかにも山田作品を読んでいる感じがリアルすぎるくらい。

大抵は無理やりな設定での極度のパニック状態が
ジェットコースター風に次々と展開される作風なのだが
「その時までサヨナラ」のような作品が例外的に書かれることがあり
今回はその例外の作風の作品である。

今作は、いつもにも増して、未熟な描写が目立ち
読み進めるべきかどうか迷ったくらいだが
それは、例外的な作風というのが
ハートウォーミングな設定だけに
より常識的な描写が要求されるということで
逆にテキトーな軽い描写が目立ってしまったとも言えるだろう。

ただし、最後の最後で調子良くドラマが展開し
思いがけない読後感に発展するところは
なかなかの新味とも言える。
ふと、にしのあきひろ「ジップ&キャンディ」を連想したが
まさか山田悠介を読んで、こういう読後感になるとは!

山田悠介の不穏な作風が好きな人にはダメだろうし
緻密な描写が必須と考える大人の読者にもダメだろう。
山田悠介という作家を知りたい人が、どうしてもその作品を読まざるを得ない(どんな設定なんだ?)場合
まあオススメしようか、と言う感じかな。

45korou:2013/05/31(金) 13:40:03
本間洋平「家族ゲーム」(集英社文庫)を読了。

今話題のTVドラマの原作。
かつては森田芳光監督の名作であった映画の原作でもあったが
再び脚光を浴びてきた。
もともと、すばる文学賞受賞作ということなので
小説としても評価は高かったということになるが
ずっと「あの映画の原作」という位置づけで
それほど注目されていなかったはずである。
しかし、今回のTVドラマ化の影響で
こうして読むことができた。

うまく1980年代の若者の心情、家族の壊れ方などが描かれていると思う。
1970年代まで辛うじて保たれていた日本の家族の美風が
もう耐え切れなくなって、まさに目の前で壊れていく、というドラマが
生々しい感覚として蘇ってくる。
それでいて文体はとことん乾いている。
視点が「醒めた人生観に染まりつつある優秀な兄」という設定が効果的。
グズな弟、俗物の父親、偽善を装う母親、アウトローな感じの家庭教師、それぞれに
この兄の醒めた視点で描かれ
すべては、ガラス窓の外の風景として、本当は大変なことなのに
実に些細な出来事として扱われている感覚が
今読んでも新しい。

ただし、今の家族小説はもっと丁寧に書きこまれないと成り立たない。
すでに破綻してからかなりの期間が経過し
もはや破綻の様子を独特に描くだけでは訴えるものがない。
その意味では、古い小説とも言える。

46korou:2013/06/01(土) 15:44:19
二宮敦人「ドールハウスの人々」(文芸社文庫)を読了。

「アナタライフ」の不思議な魅力を忘れられないまま
この作家に注目しているのだが
ここ数カ月で作品が多く上梓され
そのなかでも、これは題名だけでそそられる感じがしたのだった・・

読後の感想を書けば
悪くはないが凄くもない、単なる暇つぶしの作品というほかない。
人形を題材にした心理ホラーの作品は数多くあり
この小説は、それら先行作品と同じ味しか出していない。
だから、このテのものを初めてこの小説で読んだとしたら
また違った感想も出るかもしれないが
ある程度読んでいる人にとっては
こんなものか、とガッカリ感の強い作品になってしまうのはやむを得ないところ。

山田悠介っぽい雰囲気だが
山田悠介よりは描写がきちんとしていて、伏線の回収もまずまず。
つまり普通の小説っぽいのだが、それでいてジェットコースター的展開も期待できて
読み続けることへの苦痛度は低い。
人に読書を勧める際、活字への親密度の低い人に対しては
山田悠介→二宮敦人→東野圭吾という流れ(そこに「藁の盾」の木内裕人を挟んでもいいが)が
有効かなと思う。
その流れの中なら、この作品も十分及第点である。

47korou:2013/06/01(土) 16:34:03
小山薫堂「もったいない主義」(幻冬舎新書)を読了。

くまモンの実質の生みの親である小山氏の代表的な著作とあったので
読んでみた。
出だしはそこそこ面白いが、そのうち、これは小山氏の成功体験談オンリーではないかという
不満も出始める(謙虚そうに見えて実は自慢話じゃねえか、成功ばなしなんて聞きたかねえよ、という拒絶反応!)
最終章までたどり着いたとき
この本は実に読みやすいが、成功談ばかりなので中身は薄いなと思ったのも事実。
ただし、最終章で、世の中の企画、施策にはいかにムダが多いかという話になったとき
小山氏の感性は見事に炸裂し、読んでいてスカッとした。
そうなのである。
自身の成功談だけじゃ、客観的によく分からない。
誰もが知っている出来事について、小山流のツッコミがあってこそ
小山さん独自の感性が伝わってくるのである。
この良い流れは、あとがきの一番最後の文章まで続いた。
したがって、読後はまあまあかなという思い。

普通は、断定的なことを書くとしたら
自分自身に関することを書くのがセオリー。
誰もそれについては、書いた人以上に正しく論評できないから(常識的な文章の場合)
しかし、小山さんは独特のセンス、感性の方だから
そういうセオリーに乗っ取って書くべきではなかった。
どんどん他人の企画にツッコミを入れていって、自分ならこうする、という提案を
書き連ねるべきだっただろう。
2兆円の景気刺激策をもっと工夫して行うやり方を
いとも簡単にイメージさせてしまう小山さんという人は
実に得難い人材だなと心底思った。
それだけに、この著作でのスタンスのミスが、返す返すも惜しいのである。

48korou:2013/06/04(火) 09:07:38
古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち」(講談社)を読了。

読み始めてから3カ月近くかけて、やっと読了した。
研究書っぽい体裁ながら、文章は平易でルポ風なので
読みにくくて時間がかかったということではなく
ただ単に、いつでも読み進めることができるという安心感ゆえに
他の気になる本の読書を優先したということの結果にすぎない。

しかし、さすがに3カ月という長期の間には
もう読み進めるのは止めようかと思うこともあった。
それでも読み続けたのは
時々思いがけないところで、この本の引用を発見したりすることがあり
やはり侮れない本だと思ったからである。

全体として、主張の眼目が若い世代の研究者らしく新鮮、斬新であることが魅力である。
ついつい既製の価値観で眺めがちな社会情勢について
それは特定の価値観でしかないはず、若い世代はこんな見方をしているのだから
今までの「若者論」は見当違いだ、ということを
なかなか魅力的な文体で解き明かしている。
その一方で、著者の発見した価値観にも、やはりそれなりの間違った視点が内包されているにもかかわらず
そうした弱点については、思索が深められていない難点が目立つ。
アマゾンでの評価がバラバラなのも、そうした著者の極端なスタンスが原因なのではないかと思われる。

結論を求めてはいけない本である。
あまりにも隙だらけの主張なので。
その一方で、社会を眺める新しい視点を知る本としては、素晴らしく役に立つ本である。
一冊の本にすべてを求めてはいけない、ということを考えると
これはこれなりに優れた必読書と言えるのではないかと思った。

49korou:2013/06/06(木) 22:34:15
小林直樹「ソーシャルメディア炎上事件簿」(日経BP社)を読了。

これも3月頃から読み続けて
他の急ぐ読書のたびに延期し続けた本である。
最終章のQ&A以外は、実例がほぼ実名で記載されているので
具体的で非常に読みやすい。
Q&Aだけは、教訓を摘み取っておく記述なので
どうしても抽象的で堅苦しく
結論にしても、特効薬などないので
退屈なものになってしまうのはやむを得ない。

全体として、期待通りの内容が詰まっていて
主張も概ね常識的で、全く問題のない本である。
類書が意外とないので
今のところ、この分野ではスタンダードな存在と言えるのではないか。

50korou:2013/06/23(日) 18:47:27
出雲充「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました」(ダイヤモンド社)を読了。

間違いなく、この1年で読んだ本でNo.1である。
なぜなら、個人的に、この2週間ほどずっと
本が読めない状態が続いていて(健康上の理由。目が疲れるため)
そんな状況のなかで、最後まで読み通せたのだから
相当なインパクト、読みやすさと言わざるを得ないのである。

起業、ベンチャー、マーケティングなどのキーワードで
この本をくくってしまうことも可能だが
それ以上のものが、この本のなかに詰まっている。
それは、単なるニッチな世界の創造的発見とか
もっと下世話な金儲けの手法の発見といった次元ではなくて
そうした既存の世界の枠組みのなかでのベンチャーにとどまらず
その起業によって、世界の不完全な部分を少しでも改善したいという情熱が
そこかしこに感じられることに依る新鮮さなのである。

誰もが共感できるコンセプトで起業し
実際に世界をより良いものにしていく・・・これこそ
次世代の起業家のロールモデルではないか。
ベンチャー自体が日本の企業文化の中では定着しているとは言えない状況で
さらにもう一歩先に進んだベンチャーが
ごく普通な形で素朴に推進されていることに
感動を覚えない人は居ないだろう。
今の日本にも、まだこんな希望と未来があるのだ。

ということで、あらゆる人にオススメしたい最高の良書。

51korou:2013/06/27(木) 17:10:23
寄藤文平「絵と言葉の一研究」(美術出版社)を読了。

これも、今年ベスト1に挙げたいほど優れた本だった。
とても重要なことを取り上げているのに
導入の文章がさりげなく始まるので
読むほうもさして構えず気楽に読み始めるのだが
読んでいくうちに
いきなり物事の核心にズバリ迫ってくる話になるので
思わず「えっ?」と驚いてしまうということの繰り返し。

読めば読むほど、その感が強くなり
全くダレることのないまま
最後の最後で情報化社会について核心を突く指摘に出会い
まさに100%ノックアウト状態である。
寄藤氏恐るべし。

読みやすさ、内容の深さが混然一体となっているユニークな良書。
またしても、あらゆる人にオススメしたい本。

52korou:2013/07/07(日) 19:20:04
太田光ほか「爆笑問題と考えるいじめという怪物」(集英社新書)を読了。

太田光という名前と、いじめ問題という普遍的な難題の組み合わせに惹かれて
読み始める。
しかし、予想に反して
太田は真正面からいじめ問題に切り込まず
一般的には些細な問題から取り上げて自分の主張を繰り返すのみである。
憲法についての集英社新書とは、そのへんが大分印象が違った。

結局、通読してみて一番感じたことは
いじめ問題については
実際にいじめに遭った人とそうでない人では
心の奥底で思っていることが微妙に異なる、ということだ。
そして、最近いじめに遭ったのか、昔いじめに遭ったのかということでも
かなりの違いが出てくる。

やはり、いじめ問題で一番気にしなければいけないのは
今いじめに遭っている人のはずだ。
そうなると、最近いじめに遭った人でないと
本当のところは分からない。
その意味で、実際に今中高生である生徒たちの発言が
この本のなかでは一番説得力があったように思う。

意見がバラバラに分かれてしまい、印象としては散漫なのだが
スラスラ読めるというのも、この種の本としては貴重である。
その意味ではオススメではある。

53korou:2013/07/14(日) 18:41:30
綾崎隼「命の後で咲いた花」(アスキー・メディアワークス)を読了。

読みやすく、話の内容もまとまっていて
仕掛けについても見え見えなのに全く緊張感を失わないという見事な構成。
セカイ系の小説として
21世紀の最初の10年を支えた市川拓司の後を継ぐ作家の誕生である。
すでに「蒼空時雨」でその才能は知っていたものの
こうしてハードカバーの小説で期待通りのモノを読んでしまうと
改めて今最も旬な作家だなあという感慨を覚える。
こうした作家の存在により
セカイ系というジャンルが
実は永久不変な、人間の真実を描ける紛れもない文学の一つであることが
証明されたと言ってよい。

市川拓司氏のような儚さと終末観を湛えつつ
この作者には、さらにもっと自然な流れとゆったりとした感情の流れが加わり
セカイ系はますます進化してきたかのようだ。
もはや何も付け足す言葉は要らない。
今最も旬な物語である。
2013年に読まれるべき物語である。

54korou:2013/07/22(月) 11:03:47
長尾達也「小論文を学ぶ」(山川出版社)をほぼ読了。

実に7,8年かけて読み終えた気がする。
7、8年前、初めて読んだときに
この著者の稚気さえ感じる壮大なたくらみに魅了された記憶は忘れがたい。
それ以来、何度もトライして
活字の小ささや、内容の難解さ、文章の生硬さにくじけ続ける日々。

今回、やっと肝心要の第二部を読了し
この著者の言わんとしていることを
なんとか把握できたようである。

しかし、肝心の小論文対策については
ここまで壮大なたくらみは必要ないだろう。
第三部の小論文の実際になると
或る意味頭でっかちの、とってつけたような文章が正解例として提示され
違和感は否めない。

この本は第二部だけが読みどころで
その実態は哲学書である(ポストモダンのそれ)
第一部の小論文入門のところは、もっと簡潔で優れた本があり
第三部の小論文実践は、あまりに抽象的で使えない。
ただし、第二部全体のトータルな哲学書としての魅力は
書名を超えて、なかなかのもので
好きな人には堪えられない内容になっているのも事実である。

55korou:2013/07/27(土) 16:13:48
木崎咲季「天上の音楽」(メディアワークス文庫)を読了。

音楽一家が離散した後
家族として再生していく過程を
まっすぐな感性の男子高校生の目を通して描く佳作。

作者が目指しているものはよく分かるし
設定も悪くない。

しかし、叙述がまどろっこしく、しばしば退屈を覚える。
同じ登場人物が定期的に繰り返し出てきて
それ以外の人物が全く現れないのも
フィクションとしての未熟さを感じてしまう。

高校生がヒマつぶしに読む読み物としては最適だと思う。
大人が貴重な時間を費やして読むべきものではないが。

56korou:2013/08/01(木) 14:28:39
山田宗樹「百年法(上・下)」(角川書店)を読了。

久々の上下2冊本の読破となった。
最初は、読みかけてすぐに設定の複雑さに嫌悪感をもよおし断念。
しかし、評価の高さに再度挑戦し、上巻を力技で読破した。
下巻を読み始めるまで諸事情により間があいたが
下巻そのものは一気読みに近かった。

人物の造形は見事である。
主要人物に関しては、ほぼ常識的な範囲内で納得できる存在感を示していて
人形のような作りものの登場人物は見当たらない。
SFで描く場合、この点は重要で
複雑な設定ではあるが、一度呑み込めば
あとは人物の存在感の確かさで読み進めることができる。

ただし、根本的な疑問が残る。
ここまで複雑な設定のSFにする必然性があったのか?
示されたエンディングが常識的なそれであるとするなら
これは普通に設定で描いても十分可能だったのではないのか、という疑問。
人物造形が確かなだけに、無理にSFでなくてもよかったように思うのだが
そうなると、今回の作品での問題提起は難しくなってくるのも事実で
このへんは高度な判断になるのかもしれない。

まあ、本屋大賞ノミネートは妥当と思わせるクオリティでした。
繊細さはないけれど力技で書き切った迫力は
好みを超えて認めざるを得ないところ。

57korou:2013/08/12(月) 09:52:03
遠藤周作「海と毒薬」(講談社文庫)を読了。

戦争末期に九大で実際に行われた米兵捕虜生体解剖事件を
著者らしい視点で取り上げた話題作として知られる。
必要があって、この時期読み始めたが
期待に反して、これは神と倫理の物語ではなかった。

もちろん、物語の底流としてそういったニュアンスは認められる。
しかし、この作品を、21世紀の今、再読した場合
そのニュアンスはかつてより大幅に後退し
むしろ、戦争に至る時代にあって青春を生きた世代が
どれほど絶望的な気分でその時代を生きていたのかということのほうが
より伝わってくる佳作として印象づけられるのである。

その絶望をもたらした時代の制約こそ
この時代の欠陥でもあっただろう。
言い方次第で、暗い時代にもなるし、いやいやそんなことはない結構いい時代だったのだよ、と
言い抜くこともできる近現代史の曖昧さ。
しかし、遠藤周作は、ごく平凡な、ちょっとだけ知的な層の人物をリアルに描いて
この時代の制約、欠陥を直感させることに成功している。
男尊女卑、権威主義、上意下達など
今の世の中では「社会悪」とされていることが
この時代では当然のように存在し
それらは当然のように弱者を苦しめた。
それらに苦しめられなかった階層の人たちにとっては
逆に、戦前は、戦後の基準のない統一性のない世相と比べて
はるかにいい時代なのだ。

58korou:2013/08/12(月) 10:04:13
そんなことを直感させるリアルな秀作でありながら
そこへ「生体解剖」の事件が挿入され
登場人物は、その異常な状況に対して三者三様の反応を見せる。
しかし、描写は、それぞれの人物の内面にまで入り込まず
むしろ、時代のなかで強者であるか弱者であるかということが最優先され
強者はますます強者になり、弱者はますます弱者になっていくのである。

もちろん、強者とて生体解剖を無条件で受け入れてはいない。
しかし、その直前の普通の手術でまさかの失敗を犯すエピソードが
ここで効いてくる。
自分の出世につながる患者を死亡させていることのほうが
強者には大きなダメージとなっているのである。
つまり、現世の皮相な面が最優先され
神と倫理の問題など、一瞬頭をよぎるだけに過ぎない。

一方、弱者は、直前の出術死にはダメージを受けないのだが
生体解剖にはショックを受ける。
ただし、それによって、弱者が何かの行動を起こすわけでもない。
代表的な弱者である”勝呂”は、予定調和的に出世コースから身を引き
普通の町医者になる。
時系列でそれを描くと、現実としてはリアルだが文学としては平凡になるので
著者は、それを最初に描くことになった。

とすれば、これは日本人が戦中・戦後にどう生きたかという
生き様の小説ということになる。
意外ではあるが、そういうことを、ここまでリアルに描いた小説で
今現在も読み続けられているものは他に数少ないので
ある意味、現代人必読の小説ということにもなる。

でも、いろいろな意味で「誤読」される可能性が高い小説でもあるので要注意。

59korou:2013/08/15(木) 10:19:58
池井戸潤「ようこそ、わが家へ」(小学館文庫)を読了。

まず出だしのエピソードに惹き込まれた。
やはり主人公が気弱な50代の小市民男性というところに
親近感ww・・・を覚えたのである。
ひょっとしてそんなこともあるかもしれない、でもその結果
こんな恐ろしい事態になってしまう、というリアルさ。
気弱で小市民でなかったら、このへんの評価は違うかも・・・

読後の印象としては
かっちり作られた、いかにも池井戸作品ということになるだろう。
とりたてて大きなテーマがあるわけでなく
こじんまりとした設定でこじんまりとした展開のまま
特に大きな欠点も見せず、しかも池井戸作品への期待というものを裏切らず
最後まで引っ張っていく筆力は誰もが認めるところだろう。
もし不満があるとすれば
池井戸作品の他の大作と比べれば、物足りない感があること。
文章に「既視感」ならぬ「既読感」があること(アマゾンでの書評から引用)。

人物描写には以前ほどの不満を感じなかった。
自分が変わったのか?池井戸さんが充実著しいのか?
まあTVドラマ「半沢直樹」のせいで、好印象なことは確かだが・・・

60korou:2013/08/16(金) 12:46:51
安田浩一「ネットと愛国」(講談社)を読了。

なかなかの問題作である。
論点は大きくいって2つあり
その政治的主張がいかに既存のそれと似ていながら実は全く非なるものであるかということ。
それから、ネットの特性の悪い点が、そのまま地続きで現実の世界に投影されているということ。
そして、その両者から現代日本の特殊な状況が浮き彫りにされ
このセンセーショナルな団体(在特会)は”あなたの隣人”でもあるのですよ、というまとめ。

在特会の活動を描いた前半は、ある意味「裸の王様」と叫んだ子どもの声のようでもあり
ここまで描かれると、団体としては取材規制せざるを得なくだろうということもよく分かる。
そして、取材規制の事実が発生した時点で、この団体が偽物であることも判明したのであるが
その部分と、既存愛国団体の差異を、もっときちんと描き分ける必要があっただろう。
やはり、既存右翼団体の歴史、現状の描写が不十分で
そこを対比可能なルポになっているのに結果として描き切れず
結局「在特会」の主張の”非連続性””思想史上の断絶”が分からないままになってしまった。

一方、ネットからの地続きのように行動するこの団体の特殊性は
実によく描写できていて
ヘイトスピーチがいかにその産物であるか、あるいは各構成員がどのようにこの運動に参加し
団体が活発になっていくようになったかが、手に取るように分かる。
そして、この部分の詳細な考察が、いかに著者がこの団体に理解を示していても
結果として、この団体への嫌悪感を煽っていくことになる。

このとおり、2つの論点については、必ずしもこの著作は成功しているとはいえない。
しかし、これだけ嫌悪感を煽っていきながらも
最終的に「これはあなたの問題でもあります。社会全体のことです」とつぶやく著者の最終判断に
否定できない何かを感じざるを得なかったのも事実である。
この点で、この本は、他の類書と違う一線を飛び越えて読者の心を揺さぶる。
しんどいけれども、読みに値する本であることは間違いない。

61korou:2013/09/10(火) 13:47:06
1ヶ月ぶりの書評。
(かつて、こんなに間隔が空いたことはなかった)

阿部真大「地方にこもる若者たち」(朝日新書)をざっと読了。

一般的な新書で、いきなり岡山県のフィールドワークが出てくるのは珍しい。
倉敷市のイオンなどに焦点を当てた若者論で”若者の現在”が語られ
それが(不思議なことに)若者の一般論として次の論に進んでいく。
次の"若者の過去”では、J-POPによる若者論がいかにもな形で語られるが
そもそもJ-POPの歌詞など、添え物に過ぎないのであって
ここまで真剣に論じられると笑止を禁じ得ない。
ムリだろ、それって感じで。

しかし、最後の”若者の未来”論は、意外なほど正攻法でまとまっている。
男女別の考察になって、さらに新しく定義された”ギャル”の存在など目新しいのだが
実際には、目新しさ以外の本来の論旨で読者を納得させる力を持った文章になっている。

若者の現在、過去に関しては、やはり古市憲寿氏の本のほうが厚みがあって面白い。
未来論だけ読むに値する本である。

読みやすいので、一応オススメ、ということで。

62korou:2013/09/15(日) 18:14:00
南場智子「不格好経営」(日本経済新聞出版社)を読了。

DeNAの創業者がDeNA起業から発展までの経緯を当事者の視点から書いた本である。
考えてみると、女性の起業でここまで大きな存在になった起業は珍しい。
それだけでも興味深いのだが
本人のサッパリとした性格とムダのない記述が
読んでいてワクワクさせる臨場感を醸し出していて
一気読みだった。

第2章「生い立ち」に出てくる強烈な父親にまず圧倒させる。
このような環境に育って、よくこれだけ自主独立の精神に満ちた女性に成長したものだと
呆れると同時に感心する。
ここでは、本人の記述とは裏腹に、学業優秀な人間の強みが印象づけられる。

しかし、全体としては、マッキンゼーの人気コンサルタントとしての経歴が
起業後には、それほど役に立たず
むしろ、周囲の人間をうまく活用した点、
修羅場を強烈なパーソナリティで乗り切った点が強調され
まだまだ人間として成長する余地のあった人だったことが分かる記述になっている。
才能と努力、そして「運」を引き寄せる力、これらがすべて備わって
DeNAという会社を切り盛りできたのだという事実。

読みやすく、かつリアルだという点で、なかなか出色の出来のビジネス本である。
惜しむらくは、最後の2つの章が、それまでのリアルさとは全く違う理屈の章になっているので
連続して配置された点で、編集の不備が感じられる。
せめて、組織論については
もっと前の章に挿入されるべきではなかったか。
また、一番最後の章、あとがきなどは完全に内容がダブっていて
スッキリとしないので
そのへんもしっかりと編集してほしいところだったが
大きなキズではないので、目をつぶって斜め読みすれば済む話だろう。

63korou:2013/09/16(月) 18:13:43
井口資仁「二塁手論」(幻冬舎新書)を読了。

意外な掘り出しモノだったというべきか。
この人は、物事の本質を探り当てて、実際にそれを体現し
そして文章でズバッとそれを指摘できる能力を持っている。
最終章の理屈が勝った文章だけはイマイチだったが
そこまでのすべての文章には
優れた哲学書のような鋭さがあり面白かった。

結局、ダイエーホークスで
優れた指導者に出会い(森脇、金森)
それを彼なりにうまく吸収して
選手としてはもちろん
人間的にも成長したのが決め手といえる。
しかし、MLBでは
この本を読む限り
本人としてはやや不完全燃焼の思いが強いようだ。
(実際には高い評価を得ていたと思うが)
結局、パドレス時代のケガが命取りになったわけで
その意味で、ケガについての記述も読みたいところだったが
それについては一言もない。
(ひょっとしたら、意外にトラウマなのかもしれないが)

全体として、優れたスポーツ本である。
現役選手が書いた本として
これほどまとまったものはあまり記憶にないほどだ。
野球好きな人には断然オススメである。

64korou:2013/09/17(火) 22:04:24
野崎まど「know」(ハヤカワJA文庫)を読了。

今まで読んだ野崎作品と同様、何が面白いのかよくわからないまま
それでも何か惹かれるものがあって途中で止めれず
最後まで読み切ることになった。
読後感は予想通りで悪くもないが絶賛もできない。

作品全体から喚起させられるイメージは
非常にシャープで隙がなく知的でいて、それでいてしつこくない。
ただし、細かい描写には伝統的でない手法が目立ち(ライトノベル風?)
それをリアルでないと感じる人も多数いるだろうから
そのへんは、扱っているテーマと文体の齟齬の大きさとして
マイナス材料にはなる。
ただし、アマゾンには、そういう文体でも構わない人が多数いるらしく
そうなると、このテーマでここまで書き切ると「凄ェなあ」ということになるだろう。

自分としては、世代的にはリアルさを阻害された感じで
でも職業的にはこれもアリと思えるわけで
なかなか微妙だ。
そのへんがしっくり来ない人は
何度も何度も読むような作家でないことは確かだ。
ホント、困ったなあ。
バッサリ切り捨てられる作家でもないし、どうしよう?

65korou:2013/09/20(金) 13:48:33
近正宏光「コメの嘘と真実」(角川SSC新書)を読了。

某商社が事業展開の中で農業を視野に入れたために
図らずもその社員という立場で
農業(米作)に正面から立ち向かわざるを得なくなった方の体験記である。
実体験を素朴に記述した奮闘記として
なかなか面白いし
農業にいきなり素人が乗り込んでいくと
どんなことになるか、というシミュレーションとしても読ませる。

ただし、あまりに素人すぎて
実際にはどうだったんだろうか、という場面でも
あっさりとした説明で終始することも多く
その点では食い足りなさも残った。
その点、最終章は、一見用語解説集の体裁を取りながら
思いのほか、自らの意見を踏まえた
米作の現状に対する意見陳述の場になっており
最後の最後で日本農業の展望が開けた感がある。

ルポとしては最高、新書らしい問題提起という面では微妙、という感じでしょう。
普段農業に関する本を読まない人には、オススメかも。

66korou:2013/09/21(土) 22:11:50
東野圭吾「祈りの幕が下りる時」(講談社)を読了。

アマゾンでの書評(今再読して、明記なしのネタバレが多いのでビックリ!)が高評価なので
期待十分で読み始めたところ
最初の20ページでもう憑りつかれたようになってしまい
一気読み必至の東野作品の中でも、これだけの一気読みさせる魅力の作品は稀有ではないかと思われるほど
作品世界の中に惹き込まれてしまった。
面白さ、内容の充実さ、エンターテインメントとして、そしてフィクションとしての巧さ、
どれを取っても、ここ数年ではナンバーワンではないかと思われる
久々の東野圭吾の傑作であることは間違いない。

でも、具体的に何がいいのか?と分析しようとしても
適当な言葉を思いつかない。
何がどうなってどうだから、いつも以上に飽かせず一気読みとなってしまった、という説明が
うまくできない。
いつもと同じではないかと言われても、全否定はできない。
しかし、どこかが、いつもと違うのである。
これが魅力薄の文章であれば、やれ動機が弱い、結局はお涙頂戴か?という批判も正当だとは思うが
(実際、そんな書評も見受けられた)それは、正統な感性ではないと思う。
読書好きであれば、この作品の”奇跡”ともいえる不思議な迫力に魅せられて
読後に頭がぼうっとするくらいの感銘を受けて当然なのである。

今年度オススメ本として、万人向けということであればダントツNo.1であること間違いなし!

67korou:2013/09/22(日) 12:48:49
円谷英明「ウルトラマンが泣いている」(講談社現代新書)を読了。

全体として面白く読めた。
著者が円谷プロの没落についてどの程度関わっている人なのか
判断できないまま読み進めたが
まずます誠実で正直な記載に思えた。

エンターテインメント業界の悪しき先例として
円谷プロの没落は歴史に残るものになりそうだが
その貴重な史料になりそうである。
円谷一族が書いた本は他にもありそうなので
それも読んでみたくなった。

気軽に読めて、ダメな企業経営の一例を知るには最適な書といえる。

68korou:2013/09/23(月) 15:21:32
マイケル・ブース「英国一家、日本を食べる」(亜紀書房)を読了。

3か月も日本に滞在して、ひたすら日本の料理を食べまくる、という企画そのものが魅力的な本。
実際、その企画が見かけ倒れにならなかったのは
著者がライターとしても食文化の理解者としても非凡な人だったということに尽きるだろう。
人生経験と世間知がほどほどあって、しかも、観察したもののの本質を突き詰める純真さも残っていて
イギリス人らしいユーモアにも欠けていない。
この企画をこの著者に任せた時点で、すでにこの本の成功は約束されたも同然だった。

たしかに、この本には「編集」という概念がない。
英語で出版された本を日本語に訳しただけの本である。
具体的な行程は示されず、ひたすら文章ばかりで写真も地図も一切ない。
いわゆるグルメ本に期待されている基本的な情報が抜けているので
「本という商品」という目で見れば、欠点は多い。
ただし、親しみやすい異文化理解本としてみれば、その欠点は指摘するにあたらない。
そういう本なのだと割り切ればいいのであって、アマゾンの書評はその点で見当違いだと思った。
そういう本だと割り切ることを前提に、十分オススメできる本である。

69korou:2013/10/04(金) 17:18:39
藻谷浩介ほか「里山資本主義」(角川oneテーマ21)を読了。

NHK広島放送局がローカル番組として制作したものを元に
藻谷さんの解説を付け加えて出版された新書である。

冒頭から印象的で新鮮かつ強烈なエピソードで心を掴まれる本である。
21世紀になってずっと、
20世紀型の社会ではいけない、もうムリではないかと
皆、制度疲労を懸念していたわけだが
ここにその回答の一つがある。
里山資本主義は、その良さと可能性について
昔からイメージだけはされていたのだが
現実の従来型資本主義が幅をきかせている社会にあって
その方向へのシフトは
なかなか難しいのではないか、と思われていたはずだ。
少なくとも先頭を切ってその論陣を張る論者は居なかったように思う。
居たとしても「変人扱い」が関の山だっただろう。

それが、リーマンショック、それに続く東日本大震災により
流れは変わり始めた。
大震災以降、出版物の傾向が変わりつつあったのだが
この本は、その流れの象徴ともいえるし、代表的著作と言っていいのではないか。

もはや限界だ、という思いを皆共有したとき
大きな流れが生まれる。
そんな流れを、コミュニティという形で具体的に示したこの著作は
話題になることによって、一層その流れを強固なものにするに違いない。

どっぷりと従来型資本主義に漬かっている自分には
もろ手を挙げてその流れに乗っていく勇気はない。
ただ、そういう流れを意識し始めている自分を否定することは、もう出来ない。
人生観、世界観、時代認識のすべてに関わる良書である。

70korou:2013/10/14(月) 22:19:10
堤和彦「NHK COOL JAPAN かっこいいニッポン再発見」(NHK出版)を読了。

NHKBSで長く放送されている番組のディレクターが
番組を通して伝えられたクールジャパンについて語った本。
必要があって読み始め
途中で停滞してくじけていたところを
また必要が生じて読み進めたという読書。

内容そのものについていえば
特に凄いとか素晴らしいとかいうことにはならないが
そもそもの着眼点が、十分21世紀の今の日本にとって最重要な確認地点であるため
どう扱っても興味深い題材になることは確かだ。
その意味では
いくらかイージーな本づくりであるようにも思われたが
番組担当者の番組紹介本という性格上
仕方ない面もあるだろう。

あとは、正しいプッシュで
このクールジャパンを強力かつ具体的な武器にしていくこと。
文化交流として正しい形を保ちつつ
産業効果としても有益なものになれば
実体として永続的な形が出来ていくだろう。
一過性のブームとして
単なる話題で終わってしまうには惜しい題材だと思うので。

71korou:2013/10/26(土) 10:22:01
東野圭吾「どちらかが彼女を殺した」(講談社文庫)を読了。

興奮できた、面白い!という知人の評価を聞いて
急きょ読み始めた一冊。
加賀恭一郎シリーズ初期の話題作である。

登場人物は実質4名で
妹の急死で他殺を疑う兄と
自殺という判断の警察署の中で唯一他殺の可能性を探る加賀刑事。
そして、その妹の友人の女性と、その女性の現在の恋人である男。
ストーリーは、兄が復讐を試みて
女性と男を追い詰め、それを別方面から加賀が察知して
復讐を止めさせようとする展開になっている。
最終的に、兄は犯人を確定しようとして、最後の最後で復讐を断念するが
結局、読者には真犯人が誰か知らされないまま、小説は終わる。

文庫版には、西上心太氏の思わせぶりな解説が袋とじでついていて
それを読むと真犯人は誰かが明確に指摘されているのだが・・・

私にはイマイチ分からず、ネットで検索して、やっと了解・・・

一晩寝て、改めて考えてみて
その真犯人では、この作品の温かみがすべて損なわれると考え直した。
「秘密」にも通じる解釈だが
作者の意図を超越した、もっと斬新な解釈により
作品の力をパーフェクトにすることも可能だ。
以下それをネタバレ解釈として書いてみよう。

72korou:2013/10/26(土) 10:34:24
作者の意図としては
簡単に付き合う女性を乗り換えた男性を真犯人として殺人罪に問い
ある意味共犯的存在となった女性も殺人未遂に問うような結末でOKとしたのだろうと思う。
そして、女性は、殺人を全く実行しなかったにも等しいので、公訴を免れ
男性は、一度断念した殺人を再度実行したのであるから
情状酌量を与えにくいわけで、長期懲役となってしまう。

しかし、殺された女性の手紙のくだりは、かなり真実味があって
むしろ、そこで殺人を断念するという流れのほうが自然である。
もともと殺人を犯すには、動機が弱すぎるのが、この作品の欠陥でもあるから。

となると、話は元に戻って、結局、この死んだ女性は自殺だったと解釈するのが
一番スムーズである。
加賀が「復讐するな」と絶叫するのも、これならうなずける。
すべての状況証拠が、この2人のどちらかの殺人を示唆しながら
結局、兄は復讐することをためらうだろう、でもこの2人を寸前まで苦しめるくらいのことはしてくれるだろう
(そして、予想外にも復讐を実行したとしても、それはそれで構わない・・・)という妹の思い。
あえて右利きのように薬包を切って(さらにドアチェーンを意図してせずに!)
兄にミスリードを与えた妹。
普通なら、そこまで考え抜くことは難しいが
この場合、自殺寸前のお膳立ては、男性がほとんど行っているので
目が覚めたとき、自分に行われた行為を知って
発作的に自殺を図った、そして兄の復讐もどきを確信していた、と解釈するのが
最も後味が良いストーリーだと思われる。

73korou:2013/10/26(土) 10:50:05
加賀は最後に兄に言う。
「ドアチェーンについて本当のことを話していただけますね」
これを読むと、ほとんどの読者は「ドアチェーンがかかっていなかった」と話すのだろうと思ってしまう。
しかし、この時点で、この2人は”どちらも彼女を殺すのは不自然”と分かっていたのだった。
だから「ドアチェーンは間違いなくかかっていました」と嘘の証言をさせて
逆に、警察を自殺説で確定させてくださいという加賀の確認だったのである。
兄へ復讐を頼んだ妹の思い、作為は、真実ではあるが、かえって警察を混乱させるだけで
真実が、もう一つの真実を遠ざけるという皮肉な結果しか生まない。
そして、兄は最後にこう言う。
「どちらかが彼女を殺した、それさえ分かっていれば十分だったのかもしれない」
兄は、妹の意図をすべて汲み取り、涙をこっそりと流した。
そう解釈すれば、いかにも東野作品らしい結末になる。

「秘密」の最後に、魂の移転が完全ではないのか、という疑念を主人公に思わせるシーンがあり
そこから、一気に作品全体の仕掛けを変貌させてしまう凄さを見せた東野作品である。
作者がそこまで意図しているのか、意図していないのにそうなってしまうのかが不明な点が
なんともいえないが
この「どちらかが彼女を殺した」も
そういう不思議なイメージに満ちた
世の中にあまり存在しないタイプの稀な小説である。
こういうものを読んで、こういう風に考えることができるかどうかは
読書という行為の最大の功徳の一つかもしれない。

実に面白い読書体験だった(もっとも、万人にこの面白さを共感してもらうわけにはいかないので
ひとり静かに興奮するしかないのも事実である)

74korou:2013/11/01(金) 08:16:24
大井玄「『痴呆老人』は何を見ているか」(新潮新書)を読了。

これも知人のススメにより読書開始。
しかし、興味深い内容とは思いつつ、スラスラとはいかず(これは本の内容のせいというより、自分の生活習慣のせい)
読破に1ヶ月近く要した。
最後のほうはもう止めようかとも思ったが
残りわずかのページ数でもあったので読破再開。
そして、その最後のほうの章が良かった。
それまで比較的ダラダラと、まとまりのない文章のように思われたが
ここにきて、やっとまとまった文章があって
この方の思考、哲学のエッセンスが窺える内容となっていた。

人は「つながり」の中で生きている。
認知になる老人は、「つながり」を認知し辛くなり、不安になり、生活が乱れる。
老人に限らず、「つながり」を重視しない傾向に急変した現代において
「個の確立」を要求する趨勢にも関わらず
その確立方法をほとんど教えられないまま
生き抜くことを強要された場合
「ひきこもり」が増え、社会現象となるのは当然と、著者は述べる。
閉鎖系社会としての日本と、開放系社会の欧米を比較し
社会の在り方の両極を提示した後
しかし地球というものは有限なのだから、と閉鎖系社会の生活様式も
見直すべきではないかと提言する。
まさに、高齢化社会に限らず、もっと普遍的に主張されるべき意見ではないだろうかと思われた。
隠れた名著である(やや言い回しが大仰で、難解に思えるきらいはあるが)

75korou:2013/12/01(日) 22:21:38
四家秀治「発掘!西本・阪急ブレーブス最強伝説」(言視舎)を読了。

MBさんのつぶやきに反応して
ついつい西本幸雄氏について
「過小評価されすぎ」とコメントしてしまったので
図書館でこういう書名の本を見つけてしまうと
借りるしかない、というハメとなった。

もっとも、期待に反して
この本は、いわば西本さんヨイショ本だった。
スペンサーと組んで頭脳野球にまで発展させた”もう一人の”西本さんは
どこにも登場しなかった。
選手を感激させ、究極まで練習で磨きをかけさせる”闘将”という
世間に流布しているイメージの再確認ばかりだった。
しかも、一次資料の寄せ集めだけで
「発掘」と書名に銘打ったわりには
どこにも出かけず、出会わず、書斎のなかで合成された「加工品」でしかない。

とはいうものの、これはこれで貴重な資料なのだから
日本プロ野球関係の文献が、これまで、いかに貧弱であったかが分かる。
昭和40年代の日本シリーズについて
これほど仔細に再現された本はかつてなかった。
この種の”仔細再現本”は、このところ単発的に数冊出始めているので
図書館のような施設がそれらを洩らさず揃えることによって
やっと大和球士さんの仕事の続きが読めることになった。
ということで、その種のドキュメントとしては十分使える本ではある。

76korou:2013/12/02(月) 21:18:47
東野圭吾「疾風ロンド」(実業之日本社文庫)を一気に読了。

「白銀ジャック」に続く、いきなり文庫で書き下ろしシリーズ第2弾。
前作に登場したパトロール隊員が引き続き登場し
内容からも今後のシリーズ化が期待できる流れになった。
で、出来栄えはというと、前作以上にスリリングな展開で
それでいてB級な雰囲気も十分という
まあこれ以上通俗的に面白いものも珍しいのではないかという感じ。
万人にオススメできる小説という意味では今年一番ではないかと思った。
直前の加賀恭一郎作品は、やはり加賀モノをいくらか読んでおいたほうがいいわけで
その意味で、これは誰にでもオススメできる作品である。

凄いと思うのは
読んでいるこちらは全然スキー用語に詳しくないのに
これだけ専門っぽい用語を駆使して、全然見当違いにならないという点。
そして、これは相変わらずだが
ジェットコースターノベルにしておきながら
ムダな描写がほとんどないという点。
この緻密さは、前作あたりから、以前の調子に戻ってきた感もある。

まだまだ進化していく東野圭吾。
恐るべし。

77korou:2013/12/05(木) 22:34:16
一日に何十冊もチェックするという仕事は過酷だ。
一読、面白くなっても
時間の制約のなかで判断を下すことが優先されるので
好奇心を強制終了させることが何度も続く。
その状態で、新しい、ひょっとして
興味をそそらないかもしれない次の本に向かうのは
なかなか苦痛である。

自宅では、そういう作業から解放されてじっくり読もうと思っていたのだが
ここのところ、そうもいかなくなってきている。
多少葛藤もあったが、もう自宅でも割り切るしかない。

ということで
河野裕「つれづれ北野坂探偵舎」(角川文庫)を途中で断念。
文体というか細かい表現がユニークで面白いのだが
何せ話が細かいし、スケール感が全然ないので、これ以上読み進められない。

入江昭「歴史を学ぶということ」(講談社現代新書)も
前半の自伝部分が「私の履歴書」のようで面白いのだが
後半の歴史哲学の部分を読み切る自信がないので断念。

こうして、ちょっとずつ切っていかないと、なかなか前進できない。

78korou:2013/12/07(土) 21:54:09
谷口忠大「ビブリオバトル」(文春新書)を読了。

最後の章になる「エピローグ」は途中で放棄した(これを全部事細かく読む必要はないと判断)
その前編となる「プロローグ」も、最初は飛ばしていたが
後で読み返してみると、ここはそれなりに意義のある章なので、ここを外すと”読了”にはならないだろうけど。

ビブリオバトルというのは
なかなか実現しにくいイベントだと思っていたのだが
企画側の予想と、イベントに参加する側の”空気”が一緒とは限らない。
先週から今週にかけての出来事は、それを実感させてくれた。
仕事の関係で、そういうイベントに関係し、実際に参加し
そして、この本を読んでみると
全く何もそんな体験なしに読むのとでは、全然違ってくる。

こういう「引き出し」を持っておくのも有効かもしれない。
その程度には認識は変わってきた。
いざ参加してみれば、それほど敷居は高くない。
となると、この本に書いてあったことが地となり肉となるわけで
たしかに、それはそれで非常に効果的なイベントとなりうる。

というわけで、実体験と同時進行という
自分としては珍しい読書体験となった。
誰にでもオススメできるわけではないのだが。

79korou:2013/12/08(日) 10:34:02
江守賢治「字と書の歴史」(日本習字普及協会)を読了。

普通なら、このテの本には手を出さないのだが
偶然手にした結果、叙述の独特さに惹かれて読み進めることになった。
1967年初版でその後改訂もされていないので
まさに昭和真っ只中の時代の文章が、そのまま読めるわけである。
今と違って、著者の心意気もまっすぐなものが感じられ
その世界の第一人者らしい周囲への気遣いといった紳士ぶりも
読んでいて十分に感じられる。
権威が権威であった時代、こういう柔らかい人柄の場合は
こういう温かく親切で優しい文章になっていく。
これは、かつて昭和40年前後の文化人の書いた文章(県総合文セの大熊氏、石村氏、竹内氏など)を読んでいて
感じていたことだった。
懐かしい感覚だった。

もちろん、書道史の入門編として、簡潔に良くまとまった著作である。
その後、類書の発行がない以上、現在でもこの本が定番ということになるのだろう。
書道史に関心のある人には必読の入門書だと思った。

80korou:2013/12/14(土) 14:04:28
「Number WBC戦記 日本野球、連覇への軌跡」(文春文庫)を読了。

2006年と2009年に開催されたWBCについて
日本代表チームの戦いぶりを記録した本である。
おもに第2ラウンドの試合経過と、主力選手への取材記事で構成されており
ライターの人選、構成の手法など、随所にNumberそのものの「体臭」を感じる出来になっている。

今にして思えば、こういう国際大会に通用するタイプは?という問いに対して
ヒント満載という感があるが
おそらく、これらの記事がNumberに掲載されていたその時には
それほど意識されず、なんとなくこんな感じかな、こんな感じで今回は活躍できた選手とそうでない選手とが
できてしまったのかな、という程度の感覚だったに違いない。

「指が長いこと」「手そのものが大きいこと」「ボールの滑りの感覚に速く順応できること」
「下半身で粘るフォームではなく、飛びはねるようなフォームであること(マウンドの硬さと関係)」
などが随所に条件として書かれており
ダルビッシュ、松坂、藤川といったあたりがその条件にあてはまらず
岩隈、涌井、田中などがその条件にあてはまる、という記述がある。
まさにMLBで苦労しているか、そうでないかが一目瞭然だ。
で、未来形にはなるが
マー君はその意味で期待できそうだ、ということが予想できるのが嬉しいところ。

まあ、普通のスポーツ本で可もなし不可もなし。
記録がまあまあきちんと揃っているので、そこは評価できる。

81korou:2013/12/16(月) 16:07:33
「青春の上方落語」(NHK出版新書)を読了。

見計らい本をそのまま読破・・・仕事中にスマソ。
鶴瓶、南光、文珍、ざこば、福団治、仁鶴といった面々が
内弟子時代などの修業の頃を回想した本。
福団治は読まなかったが(あと文珍の理屈っぽい文章も途中でキャンセルしたが)
他はかなり面白く読めた。
どの人の文章にも、小米時代の枝雀の話が入ってるのが興味深い。
それと、この人たちの師匠クラスとなれば
米朝。松鶴(六代目)が必ず登場するのも当然といえば当然だが
こうして、その後の世代の記憶にくっきりと刻まれていることは
上方落語中興の祖と言われた落語の歴史を証明するゆえんでもあろう。

マニアには面白く読める好著で
マニア以外にも意外と入門書として使えそうな本のように思える(人気者が勢ぞろいなので)

82korou:2013/12/27(金) 21:59:08
読破記録ではないが、貴重なリストなので、このスレッドへ。
http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/wfootball/2013/12/27/post_480/index.php
【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】歴代スポーツ本ベスト10(3)

・C・L・R・ジェイムズ『ビヨンド・ア・バウンダリー(壁の向こう側)』(1963年)
・ジョージ・プリンプトン『ペーパー・ライオン』(1965年)
・フレデリック・エクスリー『あるファンの遺書』(1968年)
・イーモン・ダンフィー『オンリー・ア・ゲーム?』(1976年)
・ゴードン・フォーブズ『ア・ハンドフル・オブ・サマー(ひと握りの夏)』(1978年)
・ピート・デイビス『燃えつきるまで』(1990年、邦訳・図書出版社)
・ニック・ホーンビィ『フィーバー・ピッチ』(1992年、邦訳『ぼくのプレミア・ライフ』新潮文庫)
・デイビッド・ウィナー『オレンジの呪縛』(2000年、邦訳・講談社)
・マイケル・ルイス『マネー・ボール』(2003年、邦訳・ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
・ジョン・カーリン『インビクタス?負けざる者たち』(2008年、邦訳・NHK出版)

83korou:2013/12/29(日) 10:19:36
小谷野敦「日本の有名一族」(幻冬舎新書)を読了。

かなり前に購入済みの本で、時々必要なところだけつまみ食いしていた本だが
今回、トイレ読書として通読したところ、無事読了となった次第。

政治家・実業家の類には、それほどの興味がなさげでいて
結構広範囲にフォローしているのだが
やはり、この手の本として異色なのは
作家など文学者たちの華麗なる(?)家族模様について
詳しく述べてある点だろう。
もともと閨閥などとは無縁な世界とはいえ
なかには、家族関係がその作品世界に大きく影を落としている作家もいる。
そういう作家の場合、こういう一族模様を示す家系図は
作品理解のために必須のものとなる。

さらに、歌舞伎関係の家系図がコンパクトにまとめられているのも重宝する。
最後のほうの芸能関係に至っては、無理矢理な感じもしないでもないが
まあ、これはこれで知識の整理にもなる。

というわけで、小谷野先生の趣味につきあえる人にとっては
なかなか面白い本と言えるし
自分のような家系図マニアにとってもなかなか「使える本」になっている。
それ以外の方には、まあ雑学本としての価値だけになるだろうけど。

84korou:2013/12/29(日) 10:27:55
三谷幸喜・松野大介「三谷幸喜 創作を語る」(講談社)を読了。

三谷幸喜が珍しく自らの芸術観を語った本である。
饒舌多才な三谷氏ではあるが、同時に非常にシャイで
他人には疑心暗鬼な人もあるので
こうした本はなかなか出さないだろうと思っていた。
ここでは松野大介という格好の引き出し役が
そうした三谷の「羞恥心」をうまくとりはらって
多くの言葉を引き出しているが
同時に、それでもどうにもならない三谷幸喜の「性(さが)」も感じられ
まさに究極の「三谷本」となっているのである。

200ページあたりからの会話は、この本ならではの展開で他ではなかなか読めない。
靴を履いていないとファンタジーにならない、という意味ありげで、ある意味、意味不明な言葉。
深津絵里に「ジュースをストローで飲んでください」と指示したとき
こちら(三谷)の意図通り、手を添えずに飲むところに
そのシーンの意味がちゃんと理解されている、という共通理解のくだり、とか。

三谷幸喜という、独自のあり方でメジャーな存在になった人が
それなりに苦しみ、それなりに解決していった過程が如実に分かる本である。
ただし、本人としては言及しようもないが、この人は天才でもあるので
そのあたりの部分は、読みながら推察していくほかない。
あくまでも、三谷幸喜という人を、ある程度好きでないと
すべてがつながらないといった類の本でもあるようだ。

三谷ファンである自分には、いろいろとタメになった本。

85korou:2014/01/03(金) 16:16:44
黒田博樹「クオリティピッチング」(KKベストセラーズ)を読了。

ぱっと見で良さげな本であることは一目瞭然。
読み始めて、若干わかりにくい表現、込み入った説明、若干の誤植に悩まされもしたが
まずまず第一印象のまま読み終えた。
およそスポーツに関する本で、これほど「技術」と「メンタルなもの」を関連づけて
説明し得た本は、他にはないと断言しても良いのではないか。

説明は具体的で複雑で繊細で、執拗ですらある。が、しかし
一貫しているのは、「自分を追い込まないこと」「相手より優位にたつこと」
「試合の前には”一期一会”の気持ちになりきること」「試合中は、自分の状態を知って、そのなかでベストを探ること」
ということに尽きる。
それは、才能というものに溺れない、でも才能ある人たちを相手にした厳しい立場の人に
共通の人生訓、世界観、勝負勘だろう。

しかも、この本にはスマホ用の仕掛けすらある。
至れり尽くせりだ。
昨年末から読んでいたが、まず今年最初読破の本がこれであることは
十分意義がある。
「一期一会」「メンタルならコントロールできる」「体のケアがメンタルのため」「自分を追い込まない、選択肢の多い自分」
このようなことを今年最初のスタートの心構えにしていたい。
黒田博樹に感謝。

86korou:2014/01/04(土) 20:34:32
NHKスペシャル取材班編著「インドの衝撃」(文春文庫)を読了。

かねがねインドについて、まとまった知識を得たいと思っていたので
格好の読書となった(およそ1カ月余りの長期読書だが)
書かれたのが、放送のあった直後の2007年頃で
おもに米印接近の動きのあった2006年当時の政治の動き、そして
新都心ともいうべき都会が形成されつつあった当時のインド経済の動きが
事細かく、かつ具体的に取材されている。
その後の6年あまりの動向も気になるが
随所にネール以降の現代インド史についても記述されているので
まとまったインド現代史として、最新の事実抜きではあるが
十分2014年の今でも読むに耐える内容となっている。

ただし、インドの外交官シンの功績を手放しで賞賛しているのはどうかと思う。
その国の尊厳を大切にするのも外交ではあるが
一方的に国際的にタブーとされていることを敢行し
その後で国の尊厳を主張するのは明らかにおかしい。
ヘルムズ議員の変心も納得できない。
これはどうみてもインド外交の失態であり、それを認めてしまったアメリカ外交の大失態だろうと思う。

その反面、経済の面で見れば、日本の出遅れは著しい。
ここでも韓国企業に大きく遅れをとっている。
何だろう、この差は。
日本の政財界の人たちは、こういうことをもっと真剣に考えないといけない。
今のリーダーたちは甘すぎると思う。
そんなことを痛切に感じさせる現代史の好著だった。

87korou:2014/01/05(日) 18:27:46
烏賀陽弘道「ヒロシマからフクシマへ 原発をめぐる不思議な旅」(ビジネス社)を読了。

題名から連想されるストーリーを期待して読み始める。
どうしても原因究明型のドキュメントになりがちな原発モノだが
この著作は、武田徹氏のそれと似ていて、淡々と歴史的な由来を探るだけなので
読んでいて圧迫感はそれほど感じない。
また、新しい史実を発掘するということではなく
歴史的な実験、検証が行われた現場を訪ねて、関係者にインタビューするという形式に徹しているため
その「淡々さ」は尋常でなく、この本も読書に1カ月近くを要した。
決して面白くないわけではなく、絶対に読破できると確信しつつ
でも急がなくても大丈夫という妙な安心感により、それだけのダラダラとした時間となったわけだ。

読了して、痛切に感じるのは、日米での民主主義の熟度の差だろう。
情報公開という面で、それは如実に示されるが
こと原発のようなセンシティブなものを扱う際に
その「熟度の差」が影響する面は大きい。

また、そういうこととは全く別に
ヒロシマ・ナガサキを取り上げるときには
どうしても加害者と被害者という立場の違いが出てしまうのが日米取材の常だが
この著作の中では、加害者としての米国人としての立場をナチュラルに出しつつ
取材者が日本人であることにも思いを馳せ、沈思熟考する知性も持ち合わせている人物も
米国には存在することを知ることができ、読んでいて思わす感涙してしまった。
判り合えないことはない、と確信できる感動的な叙述である。

地味すぎてオススメしにくいのだが
オススメできそうな人にはぜひ読んでほしい好著である。

88korou:2014/01/14(火) 22:04:36
長岡弘樹「教場」(小学館)を読了。

出だしの感触は悪くない。
しかし、読み始めると、伏線の張り方、人物の出し入れが
自分の感性とまったく合わないことを再認識する。
以前「傍聞き」を読んだ時もそうだったことを思い出す。
ただ、他にこれと言って読むものが見当たらず
複数の知人が読んでいることだけを励みに読み続ける。

好みの問題を度外視すれば、まあ読める小説なのかもしれない。
未熟な人間描写とか、皮相な文体とは次元が違うことくらいは分かる。
ただ、これといって感情移入できる人物が見当たらず
面白い、という感覚とは程遠いまま読み終わった。
これといった感動もない。
よく出来た小説、ただそれだけ。

89korou:2014/01/18(土) 18:13:08
秋元康×田原総一朗「AKB48の戦略!秋元康の仕事術」(アスコム)を読了。

市立図書館へ仕事で行った際、新刊コーナーで見つけて「衝動借り」した一冊。
大体、予想通りの内容で予想通りの印象を受けた。
ただ、随所に秋元康の「官僚臭さ」を再認識させる発言を見出し
正月特番で久米宏相手に歌謡曲へのウンチクを語っていた光景でひらめいた彼の真の正体に
確信をもつ読書となったのは収穫。

あと前田敦子、高橋みなみ、大島優子の3人へのコメントは的確で
さらに高橋みなみと田原総一朗との対談も興味深いものがあった。
AKB好きにはあまり意味のない本ともいえるが(こうした分析こそがファンのスタンスと最も遠い地点だから)
そうでもない人で、しかも現代のトレンドについて分析することが習慣になっている人には
これほど格好の本はない。
そして、そういう習慣を持っている自分としては、かなり満足度の高い読書となったのは当然。

90korou:2014/01/26(日) 21:22:00
高野和明「6時間後にきみは死ぬ」(講談社)を読了。

知人が「良かった」というので、ついつい読んでみる。
連作短編となっていて
最初の短編である表題作に主人公が登場し、その後の短編でも要所要所に登場してくる。
最初の短編の出来栄えがかなり良くなくて、山田悠介の作品のように、ご都合主義の作風になっているのが致命傷である。
そんなに都合よく事が運ぶか!とツッコミどころ満載で、さすがに読む気が失せるのだが
2作目、3作目が佳品という評価も入手したので
我慢して2作目以降に突入すると、これが噂通りの佳品だったので驚かされた。
2作目から4作目まで、実によくできていて、1作目のわざとらしさは一体何だったのかと思えるくらい
どの作品も自然にドラマティックな仕掛けが施されているのには感心し、感動もした。
ところが、最後の作品「3時間後にぼくは死ぬ」で、再び、予定調和の終わり方になってしまい
さすがに作者の未熟さがミエミエになってしまうのには、再度驚いてしまう。
同じ予定調和でも、1作目・5作目と、2作目〜4作目のこの出来の違いは何なのか?
不思議な連作短編である。

出来の良い3作は、リアル世界のなかへのファンタジーの溶け具合が絶妙で
小説ならではの感動を生み出している。
出来の悪い2作は、ファンタジーを溶け込ませるポイントがあまりにもミエミエで
結局、作者に都合よく作品世界が収まっている印象が残ってしまう。
全体として予定調和な作風なので、ダメな人にはダメなのだが
出来の良い3作品については、分かる人には分かる素晴らしい世界を展開できているので
他の2作がいかにひどくても、全体として捨て難い作品になっている。

なかなか難しいところだが
読みやすさも加味すれば、オススメ小説と言えるのではないかと思われる。

91korou:2014/01/26(日) 21:31:30
高野和明「K・Nの悲劇」(講談社)を読了。

前作をオススメしてくれた知人が「この本のほうがもっといい」と言ったので
引き続き高野作品を読み続けることになった。
これは長編である。

話の切り出しからどこへ向かっていくのか、いろいろな選択肢が考えられるテーマで始まったが
一番難しい形で展開されていったので「おおっ!」と思い、ついつい熱中して読んでしまった。
もう少しでトンデモ小説になるところでギリギリで踏みとどまるあたりが読みどころで
話自体は結構ヘビーな内容なのに、意外とすいすい読ませるあたりが
映像畑出身の作家らしい巧さを感じさせた。
結局は、男女の愛のエゴを描くために、妊娠・中絶といったシーンを多用した感があり
そのあたりを読み違えると、何か作りモノのフィクションという読後感を得てしまうことになるのだが
そこをきちんと読み進めると、極上のエンターテインメントとなる。
前作で、作者は2006年あたりで描写の巧さを獲得していったように思っていたのだが
この作品の頃でも(2003年)、十分上手く描かれているので、そのへんは勘違いだったようだ。

憑依とか霊感とか、スピリチュアルな内容を含む上に
妊娠・中絶といった重いテーマが前面に出てくるので
読者を選ぶ小説かもしれない。
高野和明ファンなら全然問題なくスラスラ読めるのではないかと思うし
全体に読みやすい作風なので、なんでもOKの人には断然オススメの極上のエンタ小説である。

92korou:2014/01/30(木) 16:49:05
森山たつを「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版社)を読了。

12月頃から読み始め、読了まで2カ月かかったのだが
この本の事情というより、他の事情で読了に時間がかかっただけの話で
本そのものは非常に読みやすかった。
あまりにスラスラと抵抗感なく読めるので
ついつい「いつでも読めるし、短い章の集まりだし」という安心感で
時間をかけてしまったという次第。

内容は、著者が実際に”セカ就」の体験者から聞いたことなどをもとにして
内容を少しだけアレンジしてフィクション仕立てにした
就職モノ小説ということになる。
実際の体験談がベースだけに、話の展開にリアリティがあり
日本の地方都市で地味に仕事をしている自分などは
読んでいて非常にタメになることばかりだった。
小説仕立てであり小説そのものとは言い難いが
こうして”セカ就”のポイントに絞ってフィクションにしてもらうと
タメにはなるし、ある意味リアルさも増してくる。
この仕掛けは十分功を奏したのではないだろうか。

というわけで、将来のある人に対しては断然オススメ。
将来のない人(自分?笑)にとっても決してムダにはならない本だと思われる。

93korou:2014/02/01(土) 13:50:54
太田愛「幻夏」(角川書店)を読了。

導入部から意味深げで惹き込まれるものがあった。
と同時に、場面の切り替えが突飛で少々不満もあったのだが
次第に、そんな些細なことなど忘れてしまう濃厚な描写に圧倒されるようになり
最後の100ページほどは職場で一気読みとなった。
最終シーンも印象的でこの上なく巧く
読後には何ともいえぬ余韻が残った。
これほどの読後感は最近記憶にない。
間違いなく、この1年で読んだ小説の中でナンバーワンの感銘度だし
ひょっとして、この充実感を伴う満足度の高さは
京極夏彦「魍魎の匣」以来、20年ぶりなのではないのか、とも思われた。

アマゾンの書評も皆さん見事の限り。
全体の筋の流れに推進力がある上に、さらに細部の話それぞれに厚みがある、という指摘。
そして、それこそ小説を読む醍醐味なのだというコメントには激しく同意する。
面白い小説は数多く存在するが
最近は全体を貫く筋の迫力、迫真さに負うものばかりだったと言える。
東野圭吾に代表されるそういった力作、名作も、もちろんそれはそれで値打ちのあるストーリーテラーなのだが
本当の意味では、こういう「幻夏」のような細部にも十分生命が宿っている物語こそ
真の偉大な小説の名に値するのだと思う。

いまだに最後のシーンの余韻から抜けない。
本当に得難い読書体験だった。
オススメもなにも、これを読まずして、そして感銘を受けずして
読書が趣味なんてことはあり得ない。

94korou:2014/02/02(日) 22:20:54
宇根夏樹「MLB人類学」(彩流社)を読了。

MLB関係の面白い新刊が出なくなって2,3年経つ。
最後に読んだ面白いMLB本は、ジョー・トーレの自伝だった。
今回はそれ以来初の
まあまあ感心できたレベルの本だったので、少し嬉しい気がする。

この本の美点というか特徴は
ある程度MLBに詳しい人のために
さらにトリヴィアな雑学を提供している点にある。
ビル・リーの人柄とか、アンダーセンのような投手のトリヴィアを
これほど詳しく書いてある本は他にない。
今の日本では、こんな感じの類書は他にないというのが
最大のウリになる。

逆に言えば、イチローも出ず、ダルビッシュも出ず、松井秀喜も出てこないMLB本である。
他人事ながら、こんな本が出版として成り立つのだろうかと
いらぬ心配も浮かぶ。
著者も無名で、企画は世間のニーズ外。
本来ならネットでわずかな購読料をとって提供されるべきトリヴィア本なのだろうと思う。

勇気ある出版社に感謝しつつ
この本のそもそもの構成である「名言集」というスタイルが
どうしてもしっくり来ず
イマイチ、オススメしにくい本であることも事実。
自分としては面白く読めたのも事実であるが・・

95korou:2014/02/04(火) 14:00:00
いとうせいこう「想像ラジオ」(河出書房新社)を80ページほど読んだ時点で断念。

話がふくらまないので想像力がかき立てられない。
人の想像力がテーマで、題材が東日本大震災、広くは日本の戦後の話になっているのだが
片方の翼(想像力)を信じることができない。
話がふくらまないので読書意欲がかき立てられない。
他に面白い本を多く見つけているので、そちらにチェンジ。

96korou:2014/02/05(水) 08:43:36
三秋縋「三日間の幸福」(メディアワークス文庫)を読了。

何気なしに読み始めたら、すらすらと読めるので
「想像ラジオ」で狂い始めた読書勘を取り戻すために一気に読了することに。

読んでいる途中でしばしば、テキトーな描写が混ざるので
やや山田悠介を連想させる(悪い意味での)お手軽感も入ってくるが
それでも山田悠介とかおフザケ満載のライトノベルとかとは違うという印象もしっかり刻まれ
くじけずに読むことができた。
この微妙な違いこそ、メディアワークス文庫を仕事の核としてきた
ここ1、2年の自分の仕事の最重要な意味づけなのである。
それを再確認できただけでも、この読書は個人的に大きな価値があった。

そして、終盤に来て意外なほどリアルさを増してくるワクワク感。
そこまでのファンタジーっぽい恋愛が
一気にリアルな恋愛に昇華するのを体感した。
素晴らしい!ブラボー!!
思わぬ収穫だった。
「幻夏」を除けばベストワンの感覚すらある。
気に入ったので、この作者のもう一つの作品を続けて読むことにしよう。

97korou:2014/02/09(日) 16:31:14
田村大五「昭和の魔術師 宿敵 三原脩・水原茂の知謀と謀略」(ベースボール・マガジン社新書)を読了。

さんざん読んできた水原・三原のライバル劇を
また読んでしまった。
著者が田村さんということで、思わず県立図書館で手に取ってしまったのだが
やはりこんな小冊子(新書のボリューム)では
その思い、記憶、取材内容のすべてを書き込むことは不可能であり
随所に他の追随を許さない独自の内容をチラつかせつつ
結局、消化不良になってしまった感のある惜しい著作である。
田村さんは、この本の発行日の8日後に亡くなられた。
この本のなかで再三記された「また別の機会で詳しく書く予定」とされた数多くの構想は
すべて叶わぬ夢となってしまった。

言うなれば、この著作は
あの古き良きプロ野球の時代を愛した田村大五という人の
「白鳥の歌」なのかもしれない。
そうでないと惜しすぎる。
もう、これだけ詳しく当事者自身の証言を直接聞いている野球関係者は存在しないのだから。
比較的メジャーな場面ばかりで関係者自身の証言も豊富とはいえ
第三者として聞き書きできた田村さんの立場は貴重だった。
この著作でも、三原・水原の人間性は十分に描写し切れているように感じた。

古き良き時代の日本プロ野球と
田村大五氏の人間性を愛せる人ならば
そこで語られているエピソードが既知のものであっても
十分楽しめる本であることは間違いない(まあ、そうでないと全く楽しめない本でもあるが・・・)

98korou:2014/02/12(水) 14:58:14
彩瀬まる「骨を彩る」(幻冬舎)を読了。

雰囲気の良い出だしにつられて、またそこそこ評価が高いということもあって
読み始めた小説。
連作短編で、中の登場人物が少しずつ重なっているという
最近よく見かける形態の作品だった。
評判通り、描写力は十分で、性描写対象の文学賞を受賞しているという偏りもない。
普通に人間が描けている。

あまりに普通の世界を精緻に描いているので
読み続けていると息苦しくなってくるのも事実。
しかし、感触がリアルなので、そう簡単に読むのを止めることは考えられず
読んでいる分には何の不満もない見事な文章力に感嘆しっ放しでもあった。

中脇初枝さんの描く世界にも似ているが、もっと普通っぽく普遍的な世界が展開できている。
沼田まほかるさんの描く世界にも似ているが、あそこまでゾクゾクっとする怖い世界でもない。
普通に怖く、普通に泣ける、意外と万人向けともいえる作品だと思う。

99korou:2014/02/12(水) 15:10:42
書き忘れていたので追記。

三秋縋「スターティング・オーヴァー」(メディアワークス文庫)を「三日間の幸福」読了直後に読み始め
これもほぼ1日で読了。

同じ三秋作品だが、こちらのほうが先に出版されている。
悪くはないが、というより、かなりいいのだが
「三日間の幸福」が全体として不思議なほどのいわく言い難い幸福感に満ちていたのに比べ
こっちのほうは、話のあらすじとか関係なく、なんとなく重たい感じが拭えず
読後感においてやや劣るように思えた。
ただし、この作品においても、この作者の独特の文体、文章のリズムは魅力的で
読んでいて飽きない。
いろいろな欠点も見えるのだが、この文体がすべてを帳消しにしているともいえる。
綾崎隼さんの場合、ストーリーテラーとしての才能が、作品に散在する多くの欠点を打ち消していると思われるのだが
その点が三秋さんの場合、好対照で、ストーリーは設定に全面的に頼りっきりの感があるのに対し
しかし、その設定で人はどう思うのか、どう考えるのかという気持ちの描写の点で
実に優れているのである。

なかなか楽しみな作家が登場したものだ。
三秋縋。

・・・そして太田夏、彩瀬まる。

100korou:2014/02/18(火) 13:53:30
若杉冽「原発ホワイトアウト」(講談社)を読了。

書き出しからしばらくの間、実話風の迫真の描写に魅せられたが
そのうちに陳腐な性描写が挟まってくると
ものすごく質の低い作文を読まされている感覚に襲われ
なかなか一気読みすることが難しかった。
それでも最後まで読み切れたのは
この小説の全描写の背後に感じられた
”公務員処世術の引き出し”が面白かったからである。

こうした世間知に興味のある人には
最も面白く読める小説に違いない。
逆に、興味のない人にとって
この小説は、流行を追った興味本位の実話風小説モドキといった印象もあり得るだろう。

ただし、最後のカタストロフィだけは
現実に起こりうるとはいえ
現実に全く対策されていないシーンでの話なので
かなり、生々しく読めた。
どちらにせよ、今の日本社会の欠陥がまざまざと見えてくるような結末だ。
読後感はここで一気に盛り上がる。

読んで損はないが、読まなくても損はない小説である。

101korou:2014/02/20(木) 14:25:19
山田悠介「パラシュート」(文芸社)を速読、読了。

通常の読書とは違うスピードで読んだので、細部については何とも言えないが
山田悠介作品で細部にこだわるのも無意味だろう。
ストーリーは、まず出だしで例のごとく読者の興味を一気につかみ
そこから設定の特異さで数10ページほどぐいぐいと読ませる。

2007年刊行の今作では、さらに物語の中盤にサバイバルな生きざまを描くシーンがあり
「らしからぬ」リアルな雰囲気を醸し出すことに成功している。
夢の情景の挿入シーン、徹頭徹尾そのキャラに染め上げて描かれる権力者層の人たちなど
いつになく小説技法の王道を堂々と操って、普通でない物語を、それなりに迫力のあるストーリーに仕上げているのは
山田作品として特筆モノかもしれない。

相変わらず随所に??となる描写があるのと
結末が、本当ならいろいろと想像が膨らむような終わり方のはずなのに
どういうわけか不燃焼感だけが残ってしまう点が残念だ。
「パラシュート」という題名も、イマイチ冴えない感じがする。

もう少しこういうのを書き続けていけば、意外と良い作家になるのでは、という思いがした。
この作家は、実際には進化可能なのだろうか?

102korou:2014/03/02(日) 22:39:14
渡邉 格「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」(講談社)を読了。

久々に爽快な本を見つけたという感じ。
まず著者のユニークさに惹かれる。
高校卒業から数年間プータローをやってから
23歳で大学の農学部に入学した時点ですでに十分ユニーク。
そして30歳で就職先を考え、最初の就職先で挫折。
そこから(なぜか)マルクスの資本論を読み込み
世界の不変の真理に反した現代社会の”腐らせない”経済体制について
思いをめぐらせ
その不自然さから訣別し、独自の思考により
結局パン屋を目指すことになった過程がもう断然ユニーク。
そこから先は、もうこう歩むしかないという人生となるのだが
運命的な「人」との出会いが、この方の人生をより大きく動かすことになり
さらに東日本大震災を契機に岡山県県北の勝山に移住、本格的なパン屋として
地域に根ざした活動を始めることになるのである。

誰もが思うことだが
あの名著「里山資本主義」の世界を連想させる新しい経済活動の形。
舞台も同じく岡山県北の真庭郡勝山町である。
「里山資本主義」は、いわゆる選択肢としての新しい経済活動の提示だったが
この本が示した経済活動は
選択肢というよりも、信念に基づいた従来の経済活動からの訣別である。
それゆえに普遍性では「里山資本主義」の世界には届かないものの
理論的整合性において勝っているものがある。
そして、その「理」に加えて、著者が無意識に醸し出す「情」の部分が
随所に光る好著といえるのである。
読後の爽快さは、名著「里山資本主義」を超えるものがある。
ある意味、新時代のイメージを掴む最良の書の1つではないかと思われる。

103korou:2014/03/06(木) 09:00:46
阪田寛夫「まどさん」(ちくま文庫)を読了。

いわずと知れた名著である。
先日亡くなられたまどみちおさんの伝記であるが
単に事実を列記した伝記に止まらず、まどさんの心の遍歴を探る優れた作品となっている。

作品の骨格はとらえやすい。
「ぞうさん」が、戦後、象の居ない上野動物園に息子と行って
そこに居るはずのぞうさんを親子で思って書かれた詩、と紹介された新聞記事をもとに
エッセイを書いた阪田さんが
当の本人から、その記事内容はデタラメと否定されたことから始まる。
そこから、まどさんの生い立ち、キリスト教との出会い、おかあさんへの思いなどを綴って
最終的に「ぞうさん」の再解釈などという野暮なことはしないまでも
読者には、ちゃんと「ぞうさん」という詩の真意が伝わるように書かれている。
末尾の谷悦子さんの解説にもあるように、ここでは阪田さんが学んだ歴史学の手法も感じられ
そこに詩人としての感性、宗教のことで苦しんだことによる共鳴などが加わり
本当にもっとも適切な人によって書かれた伝記という感を強くする。
まどさん自身が、自分のことを語らない人柄だっただけに、よけいに貴重である。

いかにも名著という風情で
実際読んでみても全くの名著だった。
まどさんのことを一気に深く知ったように思う。

104korou:2014/03/06(木) 10:25:32
中島京子「妻が椎茸だったころ」(講談社)を読了。

普段なら読まない作家なのだが
知人が読んで感想まで聞いたので
ついつい全部読んでしまった。
とはいうものの、思ったより文章が読みやすく
簡潔に作品世界を提示し、分かりやすく展開するので
読むこと自体に苦痛は全くなかった。

何かを異常に愛し続ける、何かを執拗にやり続ける、といった類の「偏愛」の話を
5つ集めた短編集である。
その「偏愛」の形が日常的とは言いがたく
そのくせ文体そのものは淡々として含みが感じられないので
そのギャップがいかにも文学的な何かを匂わせる・・・といった点で
やや吉行淳之介の作風を思わせるのだが
ところどころに惜しいキズがあって
時々「読んでいる自分」に引き戻されるのが残念。
特に、オチの必要ない展開にオチをつけるところで
作品をあまりにもその世界の中に閉じ込めすぎという印象を受けてしまう。
それと「偏愛」と「伝奇」の境目が難しく
「伝奇」に傾きかけると、また別の作品世界を連想させる点も弱点となっている。

とはいえ「偏愛」がどこかしら人生のある側面をあぶり出す要素であることを
これほど端的に分かりやすく示した短編集もそうざらにはない。
読んでみて損のない小説、得るものが深いかどうかは読者の嗜好次第という類の作品か。

105korou:2014/03/07(金) 14:15:48
石川康晴「アース ミュージック&エコロジーの経営学」(日経BP社)を読了。

縁あって、この本を読む。
中身が詰まっていて息苦しいほどだが
それほど分厚くもないので、何とか読み終えることができた。

今好調な企業の話だけに、実に調子が良い。
これでもかこれでもかと披露されるエピソードと成功談のオンパレード。
読んでいて疲れるくらいだが、これは編集の巧拙と関係があるかもしれない。

参考になる事例は山ほどある。
ただし、わが身に置き換えて共鳴できる部分は少ない。
どこか他人事としての成功例に聞こえるのは何故か?
アパレルという分野への知識の少なさが影響しているのだろうか?

ということで
イマイチ面白みに欠けた、でも一般的には面白さ満載なのかもしれない
迷著、もしくは名著?というところ。

106korou:2014/03/23(日) 16:20:18
綿矢りさ「大地のゲーム」(新潮社)を読了。

震災を取り上げた小説ということで
「想像ラジオ」でくじけた身としては再度の挑戦となる。
しかも、作者は愛しい綿矢さん。
で・・・・読後の印象はというと
まあ失敗作に近い意欲作ということになるだろうか。

震災と日常を彼女なりに近づけた綿矢さんの等身大の小説という位置づけになる。
この位置づけができない人には、この作品の真価は見えてこない。
それだけでも特殊な設定なのに
さらに、恋愛をくどく描くことによって、全体のバランスが失われているとしか言いようがない。
ここまで恋愛を絡ませる必要はなく、むしろ恋人の居ない、いわば、いつもの綿矢小説のヒロインで
書き切るべきだっただろう。
なぜ、ここまで普通に恋愛を絡ませる必要があったのか?
恋愛のない日常というのも普遍的なものではないのか?
震災の絶望的かつ絶対的なイメージと、恋愛の曖昧模糊とした、かつエゴがむき出しになるイメージは
相性が悪すぎると思う。

それでいて、最後まで読ませるのは、やはり震災と日常がうまくつながらない現実を
さすがにリアルに描き切る筆力があるからだ。
それは部分的にしか成功していないが、それでも、そういうことを描こうとする「人としての良心」を感じるので
そのわずかな成功の果実が、とてつもなく素晴らしい試みであるように思えるからである。
判らないのは、ふだんこういう冒険をしない作家なのに、という点。
自分の描ける世界を限定したことによって、作家としての自らの場所を確立した彼女が
なぜ、このような冒険をしたのか?
それは、私のような遠い地点に居る者には分かり辛い。
でも、その疑問も、最初の立ち位置に関係するのだ。
最初の立ち位置が把握できない人には、そういう疑問も生じ得ないので。

107korou:2014/03/30(日) 10:43:00
転勤につき、途中で読書中断の本2冊。
中野明「物語 財閥の歴史」(祥伝社新書)
辻芳樹「和食の知られざる世界」(新潮新書)

どちらも半分まで読んだところで時間切れ。
中野氏著作は個人的興味で読み進め
やや講談調なところが気になるものの、嗜好としてはハマってしまう読み物。
辻氏著作は、誰か有名人の推薦だったと思うが
なかなかの好著で読ませる。
どちらも、いつでも読み続けることができると思っているうちに
転勤となってしまい
所有本でないので中途断念となってしまい残念!

108korou:2014/04/06(日) 11:37:00
平岡泰博「哀愁のサード 三宅秀史」(神戸新聞総合出版センター)を読了。

転勤時なので、ピンチヒッターとして県立図書館の本を読書。
こういう本をのんびりと読んでいる時期ではないのだが(笑)
なかなかやめられない面白さがあった。
読後の印象としては
日本野球関係の本として
ある意味空白の時代を
正確に記述した貴重な本であると同時に
屈折した人生を歩まざるを得なくなった三宅秀史という野球人の人間性に
可能なかぎり肉薄した優れたドキュメントであると感じた。
この時期にこうした佳品に出会えるとは思ってもいなかったので
かなりラッキーである。

期待されずに入団し、本人もそのつもりだったのが
予定外の野球人生を歩むことになり
本人もその気になった矢先の衝撃のアクシデント。
同時進行で家庭生活のほうも崩壊し(普通なら家族が支えていかなければいけない時なのに!)
球団に対して、「現役できます」と嘘を言い続けなければならなかった心苦しさ、辛さ。
そして、予想通りの辛い展開、さびしい限りの現役引退までの過程。
バラバラになった家族、肝不全との闘病、交通事故、マスコミへの不信、といった
ありとあらゆる苦難が彼の心を蝕み
それらを乗り越えて得た友人たちとの貴重な語らいの日々。
奇しくも三宅さんの誕生日であった4月5日にこの本を読み終え
今なお健在という事実を知って感動もひとしおである(昨日80歳になられた)

オールド野球ファン、時にトラファンには必読の書だろう。

109korou:2014/04/15(火) 21:50:22
湊かなえ「豆の上で眠る」(新潮社)を読了。

新しい職場で購入し、さっそく今日は山場を職場で読みふけった。
今の職場で退職予定だから、その意味では記念になる最初の読書ということになる。
湊さんの新作は、期待通りで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
大抵の場合、読みなれた作者のものは、正直言って飽きてくるので
最後まで気分を入れて読み通せたということは
それだけクオリティが高いということになる。
「母性」「望郷」と今回の作品と、この作者には
他の人気作家のレベルより一歩抜きんでたものを感じる。

出だしの時間の操作というか、現在と過去が交錯する描写は
久々の小説読書の頭にややキツいものがあったが
そこを越えると、次第に湊かなえワールドが炸裂し始め
もうやめられなくなる。
ある種の謎解きミステリーでもあるので
最後のあたりは、どのような意外な結末に至るのか興味津々で一気読みだった。
さすがに、アクロバット風結末には至らず
その意味では、逆の意味でリアリティはどうだろうという詮索に至り
そうなるとフィクションとしてのリアリティ不足が逆に露呈してしまう、という厄介な構造も含んでいるのだが
それを補ってあまりある心理描写の巧さがあるので
結末の不燃焼感もさほど気にならない。
子どもの一人称というのも、ここまで徹底すると
十分サスペンスになりうるという見本のような小説である。
万人にオススメの娯楽小説と言えよう。

110korou:2014/04/23(水) 22:48:05
「私の履歴書 50」(日本経済新聞社)を読了。
三遊亭円生、武蔵川喜偉と読み進め、前尾繁三郎まではスイスイいったが
がん研究者の塚本憲甫氏のだけは、やや読むのに難渋した。
それと、今となれば活字が小さいのも辛いところ。
まあ、それでも面白い分にはいまだに面白い。
視力の安定している時期を見計らって継続して読むことにしよう。
そういう環境の職場に居て、みすみす逃す手がない。

111korou:2014/05/04(日) 13:44:34
村上春樹「女のいない男たち」(文藝春秋)を読了。

ハルキ氏の最新作。
相変わらず、かつてのハルキ氏とは何か違うと思う。
スピード感が不足している。
物語の手法として洗練されていたはずなのに
そのあたりが、なんとなくつかえ気味なのも気になる。
ただし、もはや他の作家とは全く違う地点にたどりついていることも分かる。
それが文学としての水準の高さとは別物だという懸念はあるが。

多くの人が直感したように「木野」は、かつてのハルキ・ワールドに最も近く
かつ結末の鮮やかなイメージが傑作と確信させるものがある。
それに対して、書き下ろしの「女のいない男たち」は
小説というより散文詩であり、ナマな哲学の表明にしか過ぎないので
ハルキ氏になじみのない人たちには、評価対象外ということになるのか。

どちらにせよ、体験を書く、人間観察から書く、具体的な「生活」」を書く、といった
日本近現代文学の王道から最も離れた地点に存在する作家であることを
改めて実感する。
深い井戸を降りていって、そこで見つけた自分自身の鏡像の欠片を誠実に拾い上げ
再び井戸を上がりながら、井戸の上から差し込む「言葉」という光の力を使いながら
欠片の再現を「作業」する作家なのだと思う。
それは、地域、言語、文化の根幹にあるので、より具体的な環境には適合せず
抽象的な、普遍的な、グローバルな環境には、他のどの小説よりも適合するのだ。
こういう文学こそ、かけがえのない「文化」そのものなのだと強く思う。

112korou:2014/05/05(月) 11:50:37
ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」(みすず書房)を・・・遂に読了。

この本は読まれなければならなかった。
読んでいないのは読書人として怠惰だ、と、今、読了後に心から思う。
読書は自由だ、と言っても、こういう本を飛ばしてしまっては
その本質的な意義は失われてしまう。

いくつか感動的な言葉があった。
引用されたドストエフスキーの言葉―――
「わたしが恐れるのはただひとつ、わたしがわたしの苦悩に値しない人間になることだ」

フランクルの言葉―――
「苦しむこともまた生きることの一部なら、運命も死ぬことも生きることの一部なのだろう。
 苦悩と、そして死があってこそ、人間という存在ははじめて完全なものになるのだ。」

最初の10数ページほどは記述が飛躍していて、若干読みづらい。
そこで止まってしまうと、この尊い書物の真価を知ることなく一生を終わることになる。
今回は、なんとかそこを乗り越えて、しばらく収容所生活の具体的な様相を
簡潔で的確な描写により、深く知ることができた。
そして、100ページを過ぎたあたりから、著者の深遠な洞察が始まる。
このあたりは感動の連続だ。
若い頃にこれを読んで、深く心に感じるものがあったとしたら
どれほど感激に身を震わせたことだろう。
いや、56歳の固く閉ざされつつある心にも十分響いた。
いろいろなことを考えさせられた。

若い人には必読だろうし、そうでない人にも必読の書である。
一度はチャレンジしてみるべきだし、我々はその存在を常に知らせて、教えて、薦めて
この人類の英知の最も深い部分を、次の世代に伝えていくべき義務がある。
まして司書なら当然だ。
その思いに身が引き締まる思いを強くした読書だった。

113korou:2014/05/07(水) 21:30:40
長島有「サイドカーに犬」(文春文庫)を読了。

この文庫の表題は「猛スピードで母は」だが、それと「サイドカーに犬」の2つの中編(短編?)が収められた文庫本である。
今回は、別スレにも書いたとおり「サイドカーに犬」の映画を観て気に入ったので
「サイドカーに犬」だけを読んでみた(時間の関係で2つは読めなかった)

映画が、いい意味で原作を逸脱していないことがよく判る。
原作も映画同様、渋く職人風で安心して読み続けることができた。
ただし、映画が多くのエピソードを追加していて、かつ全体の流れもスムーズだったので
原作のほうが簡潔な印象になってしまうのはやむを得ない。
やはり、小説のほうは、少女のナイーブさを頭の中で想像するしかないのに対し
映画は具体的なイメージを俳優、子役たちが十分に演じきっている分、有利である。

優れた児童文学のひとつだとは思うが
映画が優れた出来だった分、後で読むと印象が薄くなる。
もちろん、がっかりする、とかいったこととは全く違うのだが。

114korou:2014/05/18(日) 17:13:26
谷崎潤一郎「細雪」(ほるぷ出版)を読了。

今度の勤務先には、大活字本に近い大きさの活字で日本文学の名作が読めることが分かり
その第一弾としてこれを読んだ。
上中下3巻というのは文庫本と同じだが
各巻650pほどあるので、計2000ページほど読み通したことになる。
さすがに大活字本だけあって、かなり根を詰めて読み続けても
さほど疲れない。
これはありがたい。

作品についてはもうコメントを書くまでもない。
また、以前読んだのが16歳のときなので
そのときの読後感と比較してもあまり意味がないことも途中で分かった。
こういう大人の小説は、やはり大人になってから読むに限るのである。
日本語の流麗さは、以前読んだときにも感じていたのだが
今回読み返してみて、この流麗さは、それにふさわしい題材を得て可能なのだと再認識した。
この題材で、この展開で、この日本語は生きてくる。
まさに奇跡の文体と言えよう。

幸福な読書だった。

115korou:2014/05/27(火) 13:20:46
坪田信貴「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(KADOKAWA)を読了。

刺激的な表紙(いかにもギャル然とした女の子がこちらを睨んでいる)と
刺激的な書名で、ずっと注目していた本だったが
ついに読むことができ
あまりの面白さ、タメになる叙述のせいで、一気に通読してしまった。

表紙のイメージとは違い、叙述は塾講師の指導記録に終始し
いかにも塾講師という立場が透けてみえるようなお気楽な成功の記録という面もなくもないが
そういうトータルな印象とは別に
このテのノンフィクションに多い個性的な割り切り(この場合は受験勉強法ということになるが)に
魅力を覚えるのも事実。
うすうすそうではないかと感じていることを
思い切って「そうだ!」と宣言、実行してしまうところに
著者の個性を感じる。
その個性のなかに「さやかちゃん」はうまくハマったということなのだろう。
だから、この本のキモは
バカギャルが奇跡的に超一流大学に受かった、というドキュメントの部分ではなく
この個性的な塾講師の述べるメソッドこそ、現代の受験(大学に限らず、資格試験なども)では
もっとも効率的、という戦略面の優秀さにあるのだと思う。
小論文対策なんて、そうだな、これだな、と膝を打つ思いだ。

まあ普通科高校なら必読の書だろう。
読んで損になる箇所はほとんどない。

116korou:2014/05/28(水) 11:34:37
東野圭吾「虚ろな十字架」(光文社)を読了。

このところの東野作品は
一時期の悪い意味でのマンネリを脱して
最初から最後まで一貫したトーンで読者に迫ってくるものがある。
この作品も、プロローグの淡い恋愛シーンからして印象的で
そこから時代も背景も全く関係ない(ように見える)シーンに続く導入が
当たり前のようでいて、全く淀みなく、さすがはと感心してしまう。

話が死刑制度、裁判制度に純化され
やや固い、暗い話になりつつある物語の真ん中へんあたりで
これはエンタメとしては固すぎるのでは、と少々疑義を抱くものの
主人公が、登場人物同士のある接点に気づいたあたりから
一気に、それまでの伏線、不審な部分が氷解していくカタルシスは
東野作品を読む最大の喜びであり、今回も十分にそれを味わうことができた。

「さまよう刃」「手紙」に続く社会派ミステリーということになるだろう。
松本清張が創造したこの分野では
東野圭吾が代表的な存在としてその後を継いでいるように思える。
少なくとも、小出しに出てくる原発問題よりも
こういう形でしっかりとテーマに対峙してもらうほうが
読んでいてスッキリとはする。
間違いなく、東野作品の新しい金字塔と言える佳作だ。

117korou:2014/06/04(水) 13:49:07
池井戸潤「空飛ぶタイヤ(上・下)」(講談社文庫)を読了。

以前、単行本で読み始めて、活字の小ささに閉口して断念。
今回、文庫本を確保できたので、再度挑戦。
再挑戦したかいは十分にあった。
まさに”半沢直樹”である。
半沢の原作が今一つだったのに比べ
今作は、登場人物の造型が見事であり
まさに至福の読書体験だった。

主人公の赤松社長が深く無理なく描かれているのは当然として
赤松と対比される人物として、沢田という大企業の中堅社員が提示され
その沢田の心の葛藤をこれでもかこれでもかといわんばかりに描写する
エネルギッシュな筆力に圧倒される思いだった。
やや類型的に描かれる会社上層部とその手下連中は
物足りないといえば物足りないが
ともあれ、ここまで中小企業社員の人間像と
大企業中堅職員の人間像が強烈な印象とともに描き切れている小説は稀有だろう。

まさに一気読み必至である。
エンタメ小説の企業編として最上の出来ではないだろうか。

118korou:2014/06/27(金) 17:40:03
谺雄二「知らなかったあなたへ ハンセン病訴訟までの長い旅」(ポプラ社)を読了。

知人が、これは面白かったというので、読んでみた。
大きな活字で平易な文章で、たしかに読みやすい。
それでいて、内容は深くシリアスで姿勢を正される思いだった。
「夜と霧」にも似た読後感だった。

訴訟のことばかり書いてあるのではなく
むしろ、日本におけるハンセン病患者への理不尽な扱いの歴史を
わかりやすく具体的に書いてある本だった。
その意味で、ハンセン病理解についての入門書の役割も果たす。
さらに、療養所でのいじめ問題まで取り上げてあり
そこの部分の迫真な記述は
確かに人権問題を考える格好の教材とも言えるだろう。

大切な問題を分かりやすく読みやすく書いてあるという点で
万人必読の書といえる。

119korou:2014/06/29(日) 18:50:59
角田光代「平凡」(新潮社)を読了。

角田さんの本は速いペースで刊行されるので
本当は全部読みたいのだが、とてもすべてをフォローできないうらみがある。
今回も、偶然読むことになっただけで、特に選んで読んだわけではない。
とはいえ、そうしてアットランダムに読んでも、いつも裏切られない。
本当に安心して読める作家という点で
ミステリー、サスペンスなど一切ない作風なのに
そのことは驚異的だ。

今回の作品は
「もし、あのとき違う人生を選んでいたら」というのが共通のテーマになっていて
そういう単なる仮定だけの設定が、こうして6編の充実した短編集にまでなっていくところに
角田さんの凄さ、素晴らしさを実感する。
もちろん、そういう思考、仮定に、正解はない。
正解のない話を、無理なく必然として読ませる手腕が凄いのである。
登場人物は、どの短編のどの人物を取り上げても、確かな息遣いが聞こえてくるリアルさがある。
いろいろな人生の話を聞かせてもらったような気がする。

若い人にはムリだけど
ある程度年配の人なら、この短編集の良さは実感してもらえると確信する。

120korou:2014/07/01(火) 11:26:44
中川右介「悪の出世学」(幻冬舎新書)を読了。

ヒトラー、スターリン、毛沢東という20世紀を代表する「悪の帝王」たちの
生い立ちからトップにのし上がるまでの軌跡を
中川さんお得意の伝記風にまとめた好著である。
少し記述が進むと、出世学のまとめのような要点書きが挿入されるのが
いつものスラスラ読める中川さんの本らしからぬ印象を持ったが
まあ致命的ということでもなく、それはそれで読み流せばよいだろう。

いつも思うのだが
20世紀に生きた人の伝記というものは
あまりに情報が多すぎて、全体像がつかめなくなることが多い。
今回も、中川さんの筆によっても
スターリンがのし上がる過程、ヒトラーがのし上がる過程が
やはりつかみ辛かった。
毛沢東については、やや記述の密度がバラバラな印象も受け
肝心の部分が描き切れていない感じもする。

とはいえ、さすがは中川さんという箇所も随所に見られ
少なくとも、レーニンとスターリンの関係、毛沢東と蒋介石の関係、ヒトラーとヒンデンブルグの関係など
大きな道筋については、見通しがよくなった。
それと、この3人については、どうしても記述が膨大なものになりがちで
うかうかしていたら、ついにその一生の梗概すらも分からずじまい、ということになるのだが
この新書1冊で、3人の「悪党」について、大体の生き様は把握できたので
あとは、その大きな流れのなかに、個々の事実を流し込めばいいのである。

そういう幹になる大きな史実を把握する本として
やはり、この本は現代史研究を趣味とする者にとっては
入門書として必読と言えるかもしれない。

121korou:2014/07/03(木) 22:40:05
悠木シュン「スマドロ」(双葉社)を読了。

小説推理新人賞受賞作らしいが
ミステリーらしい風味は一切ない。
普通に伏線を張って、別の視点からその伏線を解読していくだけの
ごく当たり前の小説である。
むしろ、持ち味は文体にあって
俗っぽい、これ以上卑俗なイメージになると全部台無しになるほどの俗っぽさに充満していながら
不思議と先へ先へと読ませる魅力があって
こんな大したことない構想の物語であっても
最後まで読者を引っ張っていくのである。

それにしても
この文体でこのスケールの小さい物語ではアンバランスも著しい。
もっと大きな構想の物語を、この大胆な文体で書きなぐってほしい。
このままでは、推薦するのも憚られる。
物語全体がちゃちなので。

122korou:2014/07/09(水) 22:21:13
池上彰「池上彰の『日本の教育』がよくわかる本」(PHP文庫)を読了。

かつて、PISAの結果を池上さんらしく分析した記述を読んだとき
目からウロコだった記憶が残っていて
その意味で期待を持って読み始めたら
いきなりPISAの話から始まった。
やはり目からウロコだった。

とにかく、目配りの広さ、公平な視点、正確な事実把握には
いつもながらだが感心させられる。
これだけ広範囲かつ具体的な記述で文庫サイズにまとめた本は
他に見たことがない。
しかも、教育関係者のはしくれでありながら
この本を読むまで、こんな重要なことも知らずに仕事をしていたのかと思わされることが多く
忸怩たる思いである。

これは日本人が自国の教育を語る上での必読書だろう。
共通の正しい事実認識を持っていないと
「空気」だけの虚しい議論に終わるだけだ。
この本で正確な認識をもって、議論に臨みたいものである。

123korou:2014/07/11(金) 13:00:56
樋渡啓祐「沸騰!図書館」(角川oneテーマ21)を読了。

相変わらず、テンポのいい記述でスラスラ読める。
ただし、前回読んだ岩波ジュニア新書とは違って
今回は良くも悪くもこの人のワンマンぶりが文章の端々から漂ってくる。
そして、それが自分の職場でもある図書館に関することだけに
読んでいて、なかなかしんどいというか、複雑な読後感が残った。

やろうとした動機、やってみた結果については
特に問題はないように思う。
ただし、やっている途中での個々の図書館固有の事情に対する態度は
ムダに敵を作って、話が本質的なところから外れる結果を生んでいる。
従来からの業界特有の見解を、全くナンセンスと決めつけるのではなく
なぜそういう見解に至ったかを業界人と意見交換して、より深めていくという努力を
全然行っていない。
図書館人は時代遅れ、世間のニーズを知らなさすぎる、という一点張りで
押し通そうとする態度は
どうしても好きになれない。
若いので早く物事を決めたいのだろう。
自分の決裁で決められる間に全部済ませてしまおうという意図がミエミエだ。
実際、その考えは半分以上当たっているとは思う。
樋渡さんほど、決断の早い首長はそう居ないだろう、と私も思う。
でも、それだからと言って
粗雑な議論で済ませて、とにかく結論ありき、結果が出ればすべてよし、というわけには
いかないのが人の世である。

だから、今回の武雄市の成功も
図書館の民営化の成功の話とは言い切れず
樋渡市長のカリスマ力の成功話という矮小化した評価しか下せない側面がある。
惜しい、と心から思う。

124korou:2014/07/15(火) 21:38:39
池上彰「おとなの教養」(NHK出版新書)を読了。

教育に関する本を読んだ勢いで、これも読み終えた。
実は、もう1つ最新の世界情勢を解説したあの有名なシリーズの最新刊も読んでいるのだが
このスレに書き忘れているので
この2か月ほどに池上本を3冊読んでいることになる。
結論から言えば「ハズレなし」ということになるだろうか。

とはいえ、この「おとなの教養」は、かなりのお手軽本である。
もともと記者としていろいろな知識を蓄積して著者が
さらに、テーマを大きく絞って、その方面の著作を2,3チョイスして読み解き
その成果を「教養」と題して刊行したという経緯が透けて見える。
ゆえに、取り上げている内容から本質的に要求されるほどには
叙述に深みがなく、何を目指して書かれているのか分からない無目的な本になっている。
「われわれは、どこから来て、どこに行くのか」というのがこの本を貫くテーマらしいが
そんな抽象的なことに興味を持たないと教養は身につかないというのは、いかにも苦しい。

ただし、雑学本としてみれば、悪くない。
さすがに池上さんなので、意味不明な叙述などほとんどない。
本当は雑学本でも良かったのだろうが、日頃のスタンスからして
そういう類の本が出しにくかったというのが、出版企画側の本音なのではないか。
もっとも、池上さんは大真面目に出版意図を書き、その意図で全体をまとめようとしている。
その痛々しさが、他の池上本と大きく違う点であり、やや「ハズレ」感が強い理由となっている。
残念。

125korou:2014/07/18(金) 17:01:44
小林信彦「現代<死語>ノート」(岩波新書)を読了。

面白いので勤務時間中に読んでしまった。
こういうのを読んでも生徒に全く還元されないので、自分でもどうかと思うが
時として、こういう勢いのつく読書もしておかないといけないという理由も成り立つ(苦しい言い訳・・・)

以前読んだこともあるのだが、通して読み切ったのは今回が初めて。
まあ、この種のものは、断片だろうが通しだろうが、あまり大差はないのだが。

というわけで特に改まった感想もない。
相変わらず、面白く読めました。
美味しいものが期待通りで「おいしゅうございました」と言いたい感じ、そのまま。

126korou:2014/07/21(月) 17:09:33
山田純大「命のビザを繋いだ男」(NHK出版)を読了。

優れた本だった。
感動と言う意味では今年最高級かもしれない。
「夜と霧」のような深い重い響きではなく
そこには溌剌とした真実への探求があり
きびきびとした文章で、知られざる史実を極めようとする精神の躍動があった。
それでいて、書かれた内容は「夜と霧」の世界の延長上にあって
読む者を厳粛な思いにもさせるのである。
そして、それらの思いが、一身を犠牲にして事態を好転させた男への敬意につながり
このようなインターナショナルな行動を実現したのが
ほかならぬ日本人であったということに驚きと誇りを覚えることになる。

そして、本書の真骨頂は、最後に記された著者のイスラエル訪問にあった。
すでにそこまでの熱意ある探求だけで十分感銘を受けたであろう大多数の読者は
ここで本当に著者の心底からの真情を目の当たりにして
思わず引き込まれたに違いない。
達意の文章ではないが、十分伝わってくる文章というのが
ここでは最大限に生かされていて
イスラエルの神学校周辺の描写など
変に構えて書くと
なかなかここまでリアルに伝わってこないと思う。
まさに異文化理解を活字の上で為し得たような気になった。

文句なし一級品のノンフィクション。
小辻氏にも山田氏にも感謝と敬意を表したい。

127korou:2014/07/22(火) 21:58:31
佐々涼子「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」(NHK出版)を読了。

東日本大震災関連の本を読むことは意識的に避けていた。
全くの偶然とはいえ
自分は、あの日あの時間に
一生涯二度とないくらい
長くて大きな作業を完成させたまさにその瞬間だったから。

それがあまりにも孤独で長くて辛くて
他人には分からない共感不可能な体験だったので
とうてい東日本大震災について考える余裕などなかった。

そして、この本を読めば容易に分かるのだが
震災は、実に多くの人々を
その時の私と同じ感覚に苛んでいったのだ。
もちろん、死と向かい合ったおもに東北の人たちの悲しみは
より普遍的でより深い。
しかし、感情の動きとしては
ベクトルは同じ方向だった。

長い間、そのことが私のトラウマになっていた。
共感しない自分を擁護する自分が居るのは間違いなかった。
それを否定もできず、肯定もできず
そんな中途半端で解決の見えない心象風景を
わざわざ覗きに行く勇気がなかったのである。
ずっと、東日本大震災については
自分自身の極秘の誓いとして
「無関心」を貫いていた。

128korou:2014/07/22(火) 22:04:40
あれから3年半、やっと向き合う気持ちも生まれてきたように思う。
そんな気持ちで、この佐々さんのノンフィクションを読んだ。

読後の感想としては
極めて人間的なドラマが否応なしに出現し
それら一つ一つを追体験するのも、なかなかキツい、やはり「無関心」の代償はあるのだな、と思ったこと。

これは成功したドラマのノンフィクションだが
その影にはとても無邪気に喜べない逸話が満載であることも暗示しているノンフィクションである。
それらの題材の並べ方は、必ずしも適切でなく
作品としては結構破綻しているようにも思えるのだが
読後のインパクトは、どの読者だろうと著者の意図通りになっているはずなので
それだけ重たい事実が提示されていると言えるのである。

また、いろいろと考えてみたい。
読後直後には適切な感想を書くことが難しい本である。

129korou:2014/07/22(火) 22:11:55
海老沢泰久「みんなジャイアンツを愛していた」(文春文庫)を読了。

もう20年も昔の文庫本である。
単行本としてはさらに10年古く
書いてある内容に至っては1978年頃から1982年頃のプロ野球の話なので
もはやマニア本の類といっても良いのかもしれない。

逆に、マニアには嬉しい本である。
まさにあの頃のプロ野球の映像が蘇ってくるようだ。
まだ「ジャイアンツ」の神話が信じられていた時代。
この時代のことを書いて
江川のことが取り上げられていないという手抜かりがあるので
本当の意味でのスポーツ・ジャーナリズムの本とは言い難いが
海老沢さんの「思い」をまとめた本であると思えば
これはこれでアリだろう。

まさに、皆こんな風に思っていた。
強いジャイアンツ、1球団だけ別格のジャイアンツ。
そんな時代が終わって久しい今
こういう主情に満ちた本とはいえ
時代精神の記録を冷静に記述したものとして
これはこれで貴重なのかもしれない。

あとはこれに史実をぶっこんで完成させる。
ドラフトでの江川、長嶋・王解任劇など
材料はいくらでもある。
誰かが書くだろうな。
それまでは、こういう本でノスタルジーに浸るとするか。

130korou:2014/07/30(水) 10:56:19
横山悠太「吾輩ハ猫ニナル」(講談社)を読了。

途中駆け足で読み進んだ部分もあって、全部精読というわけではないのだが
まあ、大筋は読めたと思うので「読了」ということで。

岡山出身の作家で芥川賞候補にもなったということから
なんとなく読み始めたのだが
非常に端正な文章で
この文体でそのままメタ文学の世界に突入するわけだから
読後の印象は人によって全然違ってくることは容易に予想される。
最も多いと思われるのは「なんじゃ、これ」という批判、無理解。
メタ文学は、文学の世界をある程度信じていないと成立しないわけだから
現代の多くの読者には成立し難い作品世界となる。
ただし、主な題材が漱石なので、漱石へのオマージュのようにも読み取れ
その場合は何となくわかったような気にさせる作品にも読める。

でも、この作品をもっとも評価できる人は
メタというジャンルを面白がれる人たちであり
東浩紀が早々と批評を書いたというのも頷けるし
芥川賞選考会で即落選となったのも納得である。

これこそ、分かる人には分かり、分からない人には分からない文学である。
作者は、この方向で書き進むのであれば
さらにメタの手法に磨きをかけなければならないが
残念ながら、この作品を読む限り
メタは偶然の手法で、作者の生き様から自然に出てきた程度と思える。
その意味でも評価のしにくい作品であることは間違いない。

131korou:2014/08/10(日) 12:34:01
(実は7月に読んだ本を2冊)
①海老沢泰久「ヴェテラン」(文春文庫)を読了。
書架整理で廃棄決定した本のなかで
これはと思うものを個人的に確保して読んでいるのだが、その1冊。
読むに足る日本プロ野球の本として有名だが
きちんと通して読んだのは初めてだった。
この本の直前に読んだジャイアンツの本と同様
文章にはクセがあり、思い込みも強い。
ただし人物のチョイスが優れていて
特に高橋(慶)などは、この視点で書くことによって
新しい人物像を提供できているように思える。
西本、牛島あたりは、既知のイメージそのままなのだが
それでも、イメージ以上に具体的に詳しく書かれた文章は稀有である。
つまり、日本のスポーツマスコミが、いかに勝者、成功者ばかり追っているのかが
逆説的に分かる本でもあるのだ。

②小栗左多里・トニーラズロ「ダーリンは外国人 ベルリンにお引越し」(メディアファクトリー)を読了。
これは人気シリーズの最新刊。
特にコメントするほどでもないが
こういう内容になってしまうと、本来シリーズが持っていた魅力が薄れてしまうことにもなる。
以前より、読み進めにくかったのも事実である。
難しいかもしれないが、外国の習慣を紹介しつつも
そこに日本文化を対比させて、その習慣を相対的に評価する作業が必要ではないかと思うのだが
そうなると、普通の主婦レベルの感性では難しいことになり
それはこのシリーズの魅力と衝突することにもなるわけだ。
企画自体が難しすぎるともいえる。

132korou:2014/08/10(日) 13:16:23
田崎健太「球童」(講談社)を読了。

伊良部秀輝の伝記である。
冒頭に著者と伊良部本人との対話のシーンが描かれている。
そのわずかな接触だけで
伊良部の本質を見抜いた著者の感性は大したもので
その後の記述に期待を抱いたのだが
読み進めるにつれ
著者が実際に取材した人たちのそれぞれの言い分をまとめただけの本であることが判明し
失望感も大きかった。
たしかに、なかなかここまで根気よく関係者を探して取材することは容易ではなく
その意味で一次資料としては価値のある本だとは思うが
優れたノンフィクションには不可欠である”真実を多く含んだ全体像の提示”という面においては
何も語られなかった本となった。

交渉がパドレスからヤンキースへ移るあたりの過程は
さすがに豊富な取材源のおかげで、今後このことを語る上で
決定版となる記述になっているように思う。
実際、この件に関して、ロッテの重光オーナーなどに取材したところで
何も真実は語れないだろうと思うので
取材していないことにそれほど致命的なミスは感じられない。
つまり、これはこれでベストだ。
しかし、広岡GMとの確執は、この程度の取材では何も分からないだろう。
この件については、いつも広岡が悪者として描かれるが
広岡にも、あれだけの功績をそれまでに残してきた人である以上
言い分はあるはずである。
広岡による伊良部へのコメントをなぜ入れなかったのか。
ノンフィクションの構成として大きく疑問の残る点である。
伊良部サイドの人間ばかり取材しても、それは事実の一面しか語ったことにしかならない。
それを分かっていて、なぜそうしたのか?私には分からない。

一次資料として貴重、ノンフィクションとして不十分、そういう本である。

133korou:2014/08/11(月) 20:33:52
さて、夏休み野球本読書週間、絶賛遂行中・・・ということで
野村克也「プロ野球重大事件」(角川ONEテーマ21)、
松永多佳倫「マウンドに散った天才投手」(河出書房新社)の2冊を読了。
(福島良一「日本人メジャーリーガー成功の法則」(双葉新書)は、あまりにも初歩的記述ばかりなので、折角図書館から借りたけどパス)

野村本は、典型的な野村本だった。
最初のうちは古い有名な事件を野村流に解釈して、まあまあ読ませるが
だんだんと野村個人の趣味が強くなり過ぎて記述が散漫になり
最終的には、野球好きなオッサンのうんちく話を聞かされた感が強い本で終わった。
良い本もあるのだが、あまりにも短期間で同じようなものを書き過ぎである。
野村本人の良心でもあるのだろうが、こういうのを読まされると
落合の寡黙も、また真実かなと再認識させられる。
まあ、基本的には野村のほうが正しいのだろうとは思うけど。

松永さんの本は、興味本位で借りたものの、文章がパサパサしていて
その割には重たい話題を取り上げているので、読後感が良くなかった。
伊藤智仁なんかは、映像で見る限りもう少し明るい、強い人だと思うが
この人の文章にかかると結構重く感じる。
他の人も同様だろうと連想してしまうのだが
その点、最後の盛田幸妃の底抜けの明るさは、唯一の救いとなった。
こういうのは、7人もいっぺんに扱わず、特定の1人を徹底的に取材すべきだろうと思う。
かけがえのない人生は、連作で扱うには重たすぎるはずだから。

134korou:2014/08/13(水) 11:18:06
村瀬秀信「4522敗の記録 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」(双葉社)を読了。

302ページの中にぎっしりと詰め込まれた選手たちの言葉が興味を引く本。
饒舌で、(ファンならではということではあるけれど)感傷的すぎる文章には辟易させられたが
その中にこれでもかこれでもかと挟み込まれた選手たちの言葉は
著者が優れたインタビュアーなのか
実感が込もっていて印象的である。
ホエールズの球団史でもあることを謳っている割には
大洋時代の記述が相対的にみて少なすぎるのが不満ではある。
まあ、ベイスターズ球団史と思えば、全然不満はないのだが。
記述は1998年の優勝までの徐々にまとまっていった過程の部分と
そこから先の混迷していく部分とに大きく分かれ
そういう極端な局面を、多くの選手が体験してしまったことが
この本の素材として大きく貢献している。
著者は、饒舌さと感傷の欠点を隠そうともせず
むしろ、それを”横浜愛”として表現しつつ
両極端なプロ野球の世界を、同じ球団の同時代体験として描いてみせた。

プロ野球にちょっとでも詳しい人なら、十分楽しめる本だと思う。
組織論としても秀逸かもしれない(駒田と谷繁の見解が正反対なので面白かったりする。生え抜きの人間と外部の人間の対比について)

135korou:2014/08/14(木) 17:37:49
衣笠貞之助「わが映画の青春」(中公新書)を読了。

1977年の中公新書ということで、今は入手不可能に近い本である(幸い職場の図書館の蔵書にあった)。
まあまあの期待感で読み始めたのだが
その期待感というのが、実のところ女形としての演技論だったにもかかわらず
そのことは全く記述がないのだが、別の意味で非常に面白い本だった。
テレビの揺籃期のことを書いた本が面白いのと同じ意味で
これは日本映画の創始期のことを書いた本として貴重であると同時に
実に面白い。
出てくる人たちも、それほどトリヴィア趣味のない著者とはいえ
さすがに今となっては映画史マニアでないと知らないような人たちばかり。
のっけから杉山茂丸が撮影所の所長を決めていた、とかいう記述があったりするから、それはもう。

謎めいた経歴だと思っていたのだが
こうして時代背景とか経緯を詳しく知ると
それほど不思議でもなく、むしろ映画界の王道を歩んだ人ではないかと思えてくる。
エイゼンシュテインなどの対面とか、ドイツでの堂々とした振る舞い(全然観光気分のない職人っぽい旅の軌跡!)など
ちょっとした内容がすべて面白くて、実に楽しい読書だった。

とはいえ、これはどうみてもマニア向きだ。
廃棄する年代の本なんだが、困ったなあ、どうしよう。

136korou:2014/08/16(土) 22:18:17
村岡恵理「アンのゆりかご」(新潮文庫)を読了。

NHKの朝ドラの原作として、今人気の本である。
実際、読み始めてみて、全く抵抗なくサクサク読める。
決して簡単なことばかり書いているわけではないのに
この読みやすさと分かりやすさは大したものだと思う。
もっとも、祖母のことを孫が書くという制約もあって
際立った主張は控えられており
その意味では教科書的な叙述に止まるわけで
日本近現代史に生きる人物の伝記としては
深い地点に到達することを意識して拒んでいる本とも言える。

とはいうものの、素材である村岡花子という人の社交的な性格もあって
彼女に関係して取り上げられる人物の多彩さは
その掘り下げの制約を十分に補っているといえる。
数多くかつ十分な人物関連の注釈も良心的だし
この本について、執筆面での不足を指摘することは難しい。

ただし、何かが決定的に足りないことも事実である。
それは村岡花子自体の人生の物足りなさにも通じるのだが
どうやら昭和史に登場する人物にはもっと波乱と挫折が必要なのかもしれないのかな?
大正時代のシンプルな世界観を通してみれば、結構これは満ち足りた世界なのかもしれないのだが。

ともあれ、良書であることは間違いなく、安心して人にオススメできる本である。

137korou:2014/08/19(火) 22:02:07
内田樹「街場の共同体論」(潮出版社)を読了。

この本の存在については知ってはいたものの
さすがに同工異曲ではないかと懸念し保留していたところ
某女史が熱っぽく推薦しているのを見て
改めて購入し、読み始めることに。

しかし、書いてあることは、やはり同工異曲の印象が強く
途中で断念。
ただし、読みやすく、読み間違えの恐れがない安心感が捨てがたく
いずれ全部読もうと思っていた。
そして、今日になってやっと再読。そこからは一気で読み終えた。

最終章の「弟子という生き方」だけは
今という時代をうまくすくい上げて
「下流志向」で展開した時代認識の
その次のイメージが発酵されつつあるのを感じた。
ツィッターをこんな風に定義した人は初めてである。
それだけでも面白いが、それ以外でも知的イメージを刺激する叙述が
てんこもりである。
この章だけでも、この本を読む価値はあるだろう。
さすがウチダ先生、降参です。
ただの同工異曲ではありませんでした。

138korou:2014/08/21(木) 15:22:40
岸見一郎・古賀史健「嫌われる勇気」(ダイヤモンド社)を読了。

久々にこういう本を読み切った。
「14歳からの哲学」のような本を何冊か読みかけて
そのたびに、思考訓練を怠っている最近の自分には
こういう類の本は辛すぎて読み切れない、という結論めいたものを感じていたのだが
この本は、そうではなかった。

内容はアドラー心理学入門ということで
いわゆる「因果律の否定」「他者の課題の切り離し」「いまを生きる」というキーワードで
対話編が進められていくというものだが
なかなか、この対話形式の叙述が面白くて読み進めることができた。

この本のなかにも書いてあったが
それまでの人生の半分の期間を費やさないと
こうした新しい考え方を身につけることは難しいらしい。
となると、あと30年弱か・・・死んでるなあ、多分(笑)
まあ、共感できる部分も多いので
あと10数年と考えて、いろいろ考えながら生きていこう。
そんなことを思わせる良書だった。

139korou:2014/08/27(水) 16:15:33
テスト

140korou:2014/08/30(土) 11:48:00
ロバート・K・フィッツ「大戦前夜のベーブ・ルース」(原書房)を読了(県立図書館)。

昭和9年にルースらが来日して行われた日米野球の様子を
当時の日本の世相と絡めて、かなり詳しく記述したノンフィクション。
米国人がそういう題材で書いているのがこの本のミソで
当時の日本の右翼勢力の動きを、外国人が書くとこうなるのかという点は
確かに興味深いものがあった。
しかし、この日米野球との関連でいえば
せいぜい正力を襲った事件くらいで
野球と絡めて、これだけのボリュームを書き切るのはムリがあった。
副題に「野球と戦争と暗殺者」とあるが、少なくとも「暗殺者」をこの題材で絡めて書くという発想は
残念ながら企画の時点で強引だったと言わざるを得ない。
さらに、その後の日米戦争と絡めて書いているのも強引と言えば強引だが
これは本編の事後談という位置づけで書かれているので
そのつもりで読めばそれはそれで納得もできる。
しかし、いい気分で野球の話を読み進めていると、突然日本の右翼の歴史の話が挿入され
それがさして大きな展開にならないまま、再び野球の話に戻るという流れは
読んでいていかにも不自然だった。

もっとも、この本の価値は、実に詳しい試合そのものの描写であり
これは、かつて読んだ読売東京軍の米国遠征記と同様
野球の記録として、それだけで価値がある。
沢村栄治が、一般には好投した静岡だけ語られているのだが
実はその他の試合でも多く登板し、ほとんどめった打ちに遭っていることなどは
こういう本でないと分からない。
ジミー・フォックスの来日直前の致命的な死球のエピソードも
今回初めて知った話で興味深い。
そういうところに価値のある本であり、実際、その価値だけで十分な本とも言えるのである。

141korou:2014/09/03(水) 21:52:00
地図十行路「お近くの奇譚」(メディアワークス文庫)を読了。

偶然にも、作者にお会いし
その縁で読み進めることになった。
設定にひねりが効いていて
情景描写、心理描写も丁寧なのだが
肝心の話そのものが面白くない(微温的すぎる)
好ましいとは思うものの、読み進めるのは結構しんどかった。
事情があって読了必至だったので、かなりムリして読み進めたわけである。

もっとも、その反省が作者の脳裡にあれば
次回作で大きな飛躍も期待できるし
そうなれば、この設定でこの文章力であれば
かなり面白い読み物になること間違いないだろう。
今は人を選ぶが、期待も十分という作風である。

142korou:2014/09/04(木) 21:32:36
東野圭吾「マスカレード・イブ」(集英社文庫)を読了。

最初の短編を読み終えて、やや味の薄さを感じて、それ以上読むのをやめにした。
しかし、また思い直して、2作目以降を読み進め、そこから後は一気だった。
短編の場合、どうしてもトリックがネタ切れの印象を受けるのは
現代ミステリーでは避けられないことだろう。
どんなトリックでもすでに書かれていたり、あるいは単純化し過ぎたり。
東野圭吾でもその傾向は避けられない。

しかし、一度リズムをつかんでしまうと、結構読み進めてしまう。
さすがにムダがなく、不自然な描写もなく、抵抗なく話の筋を追うことができる。
そんな至芸を見せてもらった短編集だった。
キャラがしつこくなく、それでいてしっかりと伝わってくるあたり
なかなか真似ができない作風である。

短編でもイケるなあと思えた作品。

143korou:2014/09/06(土) 21:56:28
海老沢泰久「ただ栄光のために 堀内恒夫物語」(文春文庫)を読了。

相変わらずの海老沢節で、一度そのリズムに乗ると止められない、とまらない・・文章である。
題材は天才肌の堀内ということで、海老沢さんの筆致があまり効果を生まないのだが
それでも、往年の堀内の無敵ぶりを余すところなく描写できていて
ノスタルジーの面からも過不足なく文句なしだ、

ただし、やはり取材対象への過度な感情移入のせいか
晩年の不調時の時期を描いたときに
あまりにも長嶋の監督としての無能ぶりを描きすぎ
堀内にひいき目な描写を行ってしまうのは、この人の性なのか。
ノンフィクションとして致命的な欠陥である。
この時代はこういうのでも通用したのだろうけど
21世紀のネット全盛時代に
こういう素人でもツッコミどころ満載の文章は受け入れられないだろう。
素材そのものもまさに「昭和」だが
文章もかつての良き時代そのままである。

世代を選ぶ好著。
若い人にはちょっと・・・・

144korou:2014/09/18(木) 09:40:18
七月隆文「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(宝島社文庫)を読了。

こんな一気読みは何時以来だろう?
同じタイムトラベル物の「タイム・リープ」で感じた軽やかさとドキドキ感を
久々に味わった。
面白くて、文章が適切かつ簡潔で、仕掛けを知りたくてワクワクし
想像通りの仕掛けだったのに、その仕掛けがもたらすすべての感情までは想像の域を超え
その結果、ちょっとした描写にさえ涙腺を刺激され
時として、読み進められず号泣状態にもなるという、まさに至福の読書体験だった。

たしかに友だちとか実家の親とかは掘り下げが浅かったと思う。
愛し合う二人しか、この世には居ないような世界。
まさに「セカイ系」の小説なのだが
ある意味、そういう浅い掘り下げが、逆に「セカイ」の深さを印象づけているとも思える。
それは作者の計算ではなく、無意識の展開だろうと思う。
ほかにも、この作者にとって、この作品はとてもラッキーなめぐりあわせで生まれたのではないか
と思えるふしがあるのだが
そうした無意識の部分に意図せざる迫力とか美しさも秘められていて
こういう感覚は「三日間の幸福」以来、そして今までの読書体験で二度目である。

昨年は「三日間の幸福」、今年は「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」、
この2作品は本当に素晴らしい、「神」だ。
言葉で礼賛すればするほど、この高揚した気分、最高の気分から遠ざかっていくのが分かる。
もう言葉はいらない。
礼賛の言葉は止めよう。

145korou:2014/09/20(土) 21:06:38
東浩紀「弱いつながり」(幻冬舎)を読了。

著者の本としては画期的なくらい平易で分かりやすく書かれている。
基本的には、ネットが中心の生活になっている人への
新たな飛躍の方法を説いている本ということで
ネットが中心でない人には、あまり意味がないのだが
そもそも著者の本を手に取るような人は
ほぼネット中心の人だろうから、そのあたりは辻褄が合っている
(もっとも売れている本なので、なかには東浩紀のことを知らない人も
 ついつい手に取ってしまった可能性はあるのだが)

記号としてのネット情報の曖昧さ、自己完結性に警告を与え
その記号にノイズを与えることで、新しい展開を図る
ある意味人生啓発の書とも言える。
書いてある内容は、本当に平明で、しかも100ページちょっとで
1ページわずか14行で、かつ活字は大きいというかなりの「薄さ」なのに
そこそこ深い内容を読んだ感が残るのは、この本の効用かもしれない。
その一方で、記号論の延長にあるその叙述は
やはり感覚的なものに止まっているようでもあり
そこから脱出しようというこの著作のメッセージとは矛盾するが
全く脱出したイメージを掻き立てられない読後感の薄い本にもなっている。
深い内容を読んだ満足感と、それにしては具体的な要約も難しい読後感とが同居する。
これは最近の「好著」でよく体験する感覚である。

悪いところなど何もないけど、なぜかオススメしにくい「好著」。

146korou:2014/09/21(日) 20:36:32
小沢征爾×村上春樹「小沢征爾さんと、音楽について話をする」(新潮文庫)を読了。

文庫本で450ページを超えるロング対談集で
最初は面白いところだけつまみ食いするだけで終ろうかと思っていたが
途中から全部読み進めることに変更した。
やはり、特別な存在の2人がクラシック音楽について語り合うさまは
つまみ食いでは済まされなかったというべきか。

ブラームスの音符のつなげ方、マーラーの音楽への小沢の優れた洞察など
読みどころは多い。
ハルキさんの音楽への深い造詣にも驚かされ、これはかなわないと脱帽する思いだった。

クラシック音楽ファンで、春樹ファンであれば、必読の書と言えよう。
そうでない人にはどうなのか見当もつかないけど。

147korou:2014/09/23(火) 18:11:49
大崎梢「忘れ物が届きます」(光文社)を読了。

短編集。最初の物語の冒頭の部分が読みやすくて、ついつい読み進めていくのだが
ダラダラとした読書にもなり、読み通すのに意外なほど時間がかかってしまった。
読後感も実に複雑で、面白いか面白くないかと言われれば
適度に面白いのだが
この短編集のキモである「忘れ物」の内容がイマイチつかみづらく
(要するに、話の内容が全部把握できず、本当の意味でのストーリーがいまだに理解できていない自分・・・)
その面白さを人に伝えることができないというもどかしさが残る。
話の内容が分からないのに、文章は明快で的確で、いかにも小説を読んでいるという感じがする点で
角田光代さんの小説にも通じるものがある。
この小説に関していえば、角田さんより、話そのものに不気味さがあって
より多くの読者を獲得してもおかしくないのだが
それにしても、最初の短編「沙羅の実」のトリックを皆理解して書評しているのが
そのあたりが分からずじまいの自分には悔しく、なんで多くの読者が満足しているのか不思議でたまらない。

全体としてオススメするに足る見事な短編集なのだが
上記のような読後感なので、自分としてはなんともはや・・・・

148korou:2014/10/01(水) 14:02:38
佐々木俊尚「自分でつくるセーフティネット」(大和書房)を読了。

あまり期待もせず読み始めたが、非常に読みやすく書かれているので
ついつい最後まで読んでしまった。
書いてあることに、予想外なことは全くなく
極めて常識的だが
きれいにまとめているので、頭の整理にはもってこいの本だと思う。

ただし、佐々木さんの推奨する生き方では不可欠なツールと思われるフェイスブックなどでも
やはり負の面はあるはずで
そのあたりの説明が不十分なようにも思える。
この本を読んで、じゃあフェイスブックでも始めるか、と思うかどうか
そこのあたりは微妙ではあるが
ただし、そういう気分に新しい根拠を与えるだけの力は感じた。

公務員である自分は、まだ昭和の高度成長期の象徴である「箱」のなかで暮らしている。
ここに書かれていることは、少なくとも現在の自分には”他人事”としか思えないが
かといって全く直感できないということでもない。
こういう切り口も当然あるだろうという納得はある。
ただ、それが自分自身の環境のせいで、実感がこもらないだけである。

民間人が読めば、もっと共感なり反発なりの意見が出るのだろうか?

149korou:2014/10/08(水) 12:13:33
薬丸岳「天使のナイフ」(講談社文庫)を読了。

最初はゆったりとした展開で、若干疑問が残る描写もあったため
スローペースの読み始めではあったが
次第次第に面白みが出始め
後半はほぼ一気読み状態となった。
これだけ様々な欠陥、記述不足などがありながら
それらを上回る抜群の筆力には驚かされた。
これだけの迫力を持つ作品が
新人賞応募作として届いたら
満場一致で受賞になるのは当然だろう。

少年法について、とことん被害者側のサイドから描き切った小説である。
ゆえに、人権を尊ぶ加害者側の論理の叙述には
若干の偏見が見られ
それが主人公の考えとしてではなく、作者の思想として感じられる点に
この作品の迫力があり、同時に限界を思わせる。
しかし、優れた作者なら、その考えを深めていくことも期待できるのであり
その意味で
この作品で示された方向の先に何があるのか
知りたい気もする。
そういう「起点」としてなら
この小説には難癖などつけようがない。

とりあえず、「起点」として万人にオススメできる作品である。

150korou:2014/10/14(火) 16:21:28
萬田緑平「穏やかな死に医療はいらない」(朝日新書)を読了。

いつかこういう本を熟読してみたいと思っていて
ちょうどこの本に巡り合い、ゆっくりゆったりと読んでみた。
やはり、こういう”穏やかな死”こそ人間らしい死に方だと痛感した。

問題は、自分の身辺にこういう施設、医師が見当たらないことだ。
で、仕方なく、ありきたりの病院でありきたりの治療を受け
苦しみながら、病院という閉鎖された空間の中で惨めに死んでいくのだ。
早く、こういう優れた医師に出会い、気持ちよく死んでいきたいものだと熱望する。

治らない薬で副作用で苦しむのがガン治療の通例というのはおかしい。
この本を読んでもその疑問は解けなかった。
僕は絶対に拒否する。
痛み止めだけもらって、上手く痩せていって、まあ最後の1週間だけは
誰かの世話になって死んでいきたい。

とにかく、こんな風に自分の死に方をいろいろを考えさせてくれる本だった。
そういう思索が必要な人には、ぴったりの本である。
若い人には、何のことやらということになるだろうけど。

151korou:2014/10/15(水) 22:32:08
伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎)を読了。

最初の短編が面白く、しかし次の短編を読みかけて、日常描写の空しさを感じて中途断念。
しかし、面白いぞというアマゾンなどの書評を見て、再度挑戦。
今度は一気読みとなる。

こうしてみると、自分の好みとは程遠い作家であることが分かる。
しかし、好みとは違う作風で、これほど読ませる作家は、ちょっと他に思いつかない。
表面的な作風は、特に今回のような日常を描いた作品の場合、村上春樹を想起させるものがあるのだが
ハルキさんと違って、その描写の奥深くに潜むものが何もない(これは以前別の小説の書評で書いた)。
だから、それを読む必然性に乏しく、悪く言えば時間つぶしをしているようなムダっぽさを感じてしまうわけだ。

しかし、いったん時間つぶしと決めてしまえば
随所に見られる個性的で面白い表現、会話、ストーリーに魅惑され
いつのまにか一気読みということにもなる。
これが、日常の描写でない場合は、そこまでのめりこめないので
なかなか読破が難しいわけだが。

というわけで、伊坂ファンは満足、これから伊坂ファンになる人にもイチオシの作品。
でも、僕には、保留つきで一気読みという複雑なテイスト。

152korou:2014/10/20(月) 18:51:01
湊かなえ「物語のおわり」(朝日新聞出版)を読了。

まずまずの雰囲気で第一話が展開され、そのまま第二話に突入。
完全に別々の短編ではなく、相互に関連した内容の短編集ということが判明し
またこれかよ、といささかうんざりもしたが(最近多すぎる、この形式)
そのまま読み進めるが、さすがに第4話あたりで飽きてしまう。

アマゾンの書評を見て、また読み直す気になるが
それでも第6話あたりで、ちょっと長すぎるのではないかと再びうんざりする。
最近の湊さんの作品は、緻密で丁寧なのはいいのだが
時に、その内容でその長さはないだろうと思えるほど、ダラダラした描写が見られるのだが
この作品もその傾向が見られた。

全部読み終わってみて、まずまずの読後感で、決して悪くはない。
うんざりしまくりとはいえ、最後まで読み進めたのだから、それはそれでレベルの高さを維持しているという見方もできる。
ただし、皆にオススメできるのかどうかといえば難しいところで
読者を選ぶ小説であることは間違いない。
かつての「告白」のような作風なら皆驚き、思わず手に取ってみたくなるだろうが
この作風ではその頃のような膨大な読者を獲得することは難しいだろう。

ちょっと長いなという難点はあるものの
私には向いている内容で、小説のたくらみを十分堪能できて満足感はある。
”選ばれた読者”の一人としてなら、そういう感想を書くことができる。

153korou:2014/10/26(日) 17:05:43
早坂吝「○○○○○○○○殺人事件」(講談社ノベルス)を読了。

メフィスト賞受賞作ということ、題名が奇抜なこと、読者への挑戦状などの仕掛けが面白そうなこと、など
読んでみたい感満載だったので
やや小さい活字で読了が辛いのを覚悟で読み通し、たった今読了。

何というか、凄くまっとうなミステリーのテイストと
読者をメタの世界に連れていったり、バカミスの世界へ連れ込んだりする気まぐれなテイストが
全く無秩序のまま放り込まれている、ある意味乱暴かつ下品な作品だった。
この作品の根本のトリック自体が想像を絶するというか、あり得ない想定かつ「下品」で
さらに、真犯人へたどり着く過程が「猛烈に下品」で「あり得ない想定」すぎて
やはり全体としては荒唐無稽なバカミスという印象は強い。
しかし、ミステリーオタクのような作風とか
全体を通して感じられる「意欲」など
最近の新人賞受賞者には珍しい資質も感じられるので
単なるバカミスと片付けることはできない。
次作で、また違う作風でこの程度のクオリティのものを書くことができるなら
新しいタイプの大物新人作家の登場と断定してもOKだろう。

次作が待たれる作家。
今作は人を選ぶ奇抜かつ下品なネタの異色作ということで決まり。

154korou:2014/10/28(火) 21:16:38
桜井信一「下剋上受験」(産経新聞出版)を読了。

今までにあまり読んだことのない類の本だった。
しかもクオリティが高く、面白く、感動もし、最後には涙さえ出た。
ということで、感想を的確に記述することは困難を極める。
どういう言葉が適切なのかさえよく分からない。

とにかく、徹底して父親愛に満ちた本である。
アマゾン書評で見事に指摘している人がいたが
この父親は通常のイメージで言う「中卒」ではなく
発想が常識の上に立った上での素晴らしいものがあって
しかもいろいろな困難への対処が的確で、ある程度の資産家であるようだ。
何か人生のスタートで激しい学歴差別に遭って
それを乗り越えて今まで生きてきたのだが、だんだんと行き詰まりを覚えてきた頃合いに
ふとわが娘の将来を考える瞬間が訪れ、一念発起して、その学歴への思いを爆発させたというのが
実際のところかもしれない。
それにしても、この父親愛は尋常ではない。
自分も一人娘の父親であるが、ここまで徹底して「愛」を貫けない。

話が本当かウソかなど些末なことであって
仮にフィクションであっても、この本は人を感動させる力を持っている。
そして本当にノンフィクションであることが明らかになれば
さらにその感動は深いものになるだろう。
2019年以降の大学受験話が楽しみである。
いやあ、それにしても凄い。
(一応ノンフィクションと認定したとして)これはノンフィクションとして今年最高の出来である。

155korou:2014/11/03(月) 22:26:55
恒川光太郎「スタープレイヤー」(KADOKAWA)を読了。

恒川さんの本は、だんだんと自分の苦手なファンタジーの世界になっていっているので
このところ敬遠していたのだが
この本は、ファンタジーの根本部分が「10の願い」というシンプルな規則に統一されているようなので
思い切って読み始めてみた。

相変わらず描写が薄く、リアルな感じがして来ない作風で
それでいてなぜか印象に残る仕掛けや場面が満載で
頭の中のふだん使っていない部分が
一気に刺激されていくような感覚は
さすがに恒川ワールドと思わざるを得なかった。
最後のほうは国家の命運を握る「願い」の話になっていったので
その分、どうしても現実の政治世界がイメージとしてオーバーラップされ
薄い描写の「薄さ」が気になってしまったものの
全体として、迫真力のなさが素晴らしい効果を生む独特の作風で一貫していて
読んでいて気持ち良ささえ感じられた。

続編があるようだが、この作風で大長編というのは結構大変だと思う。
どこかで作品の中の時間の経過のせいで
「現実の歴史」の時間の経過を類推させてしまうので
その分、夢のなかで酔うような読書体験が薄れてしまうからだ。
恒川さんが、そういう見当違いな読みをする読者のことを
どの程度慮って書き切るつもりなのか
そのあたりが楽しみでもあり、不安でもある。

この作品に限れば、ファンタジー苦手な人を、なんとかファンタジーに取り込めるだけの力は
あったと言えるだろう。

156korou:2014/11/07(金) 17:22:07
春日太一「なぜ時代劇は滅びるのか」(新潮新書)を読了。

時代劇への愛にあふれた本である。
そして、ここで指摘されている諸々のことは
おおむね首肯できることであるが
読後感がそれほど良くないのは
やはり「滅びる」ものについて書かれた本だからだろうか。

自分としては、テレビ時代劇のいかにもウソくさい所作に
10代の頃に触れたからであった。
その意味で、その頃の時代劇をいくらか肯定的にとらえる著者とは
やはり世代的なギャップを感じるのだが
そういう微調整部分を除けば、言っていることはよくわかる。

また、人間を複雑にとらえる最近の民放の時代劇と
逆にシンプルに明るくとらえる最近のNHKの大河ドラマへの
愛憎相俟っての批判部分では
言っていることが相矛盾しているのだが
これも、おおむね言いたいことは伝わってくる。

てっとり早く今の時代劇、ひいてはテレビ・映画界の企画・製作姿勢の傾向を知りたいときには
これほど便利で読みやすい本はない。
ただし、時代劇の歴史ということになると
正史としてまた誰かがこの本を乗り越えた形でものにする余地はあるだろう。

157korou:2014/11/12(水) 16:58:58
増田寛也編著「地方消滅」(中公新書)を斜め読み。

最初の数章と末尾の対談3編を読んで
真ん中の数十ページは項目だけチェックして斜め読みした。
完全な読了ではないのだが、要点はつかんだつもりである。

この本の長所は、実際に政府に提言している人が
そのまま持論を展開している点で
議論してみるだけという空しさが皆無な点である。
ここに書かれていることは、実際に新聞などで報道されていき
政府の方針となって実現の方向に向かっていくわけだ。

対談の相手に小泉ジュニアが選ばれているのも
著者の経歴がなせることだろう。
次代のホープたる政治家が
こうした議論を踏まえてくれているのも心強い限りだ。

書かれていることは、賛否両論あるとして
どちらにせよ素早い対応が求められる話なので
こうして現実的な話が進んでいくのは
読んでいて心地よかった。
中間部の読み飛ばした部分は
いまだ抽象的な論に留まっているように思えたが
このあたりもいずれ具体的に展開されていくに違いない。

本を読んだというより、新聞解説を読んだような読後感。

158korou:2014/11/19(水) 21:40:52
早野龍五・糸井重里「知ろうとすること」(新潮文庫)を読了。

冒頭から優れた知性を感じさせる早野氏と
さすがの切れ味の糸井氏との快適でわかりやすい対話の雰囲気に惹かれ
一気読みで読了。
わかりやすくて、頭をリフレッシュできて、さらに福島の最新事情についても把握でき
とにかく、いい本を読んだという実感にあふれる良書。
これ以上の批評は無用だし、中身が中身だけに(科学者の理路整然とした説明だから)
これ以上の論評は素人にはムリである。

159korou:2014/11/28(金) 15:15:01
村上竹尾「死んで生き返りましたれぽ」(双葉社)を読了。

マンガ家による、自身の壮絶入院体験ルポだけに
全編イラストエッセーとなっていて、あっという間に読める本だった。
考えてみれば、ここまで脳の内部に支障をきたす闘病ともなると
それが自分のことであっても具体的に図示することは難しいでのはないかと思うのだが
その困難な作業を、ある意味清々しいくらい過去の生き方を反省しつつ
しっかりと伝わるイラスト・文章(というか会話というべきか)でまとめているので
読後感は意外と深く、心地よい。

脳をやられるとこんな感じになるのか、という驚きと
「生きていく」ということはこういうニュアンスでもあるのか、という再認識が
混ぜこぜになって、相俟った効果を生み
予想外ともいえる良書に仕上がっている。

160korou:2014/11/28(金) 16:34:07
堀井憲一郎「やさしさをまとった殲滅の時代」(講談社現代新書)を読了。

かつて同じ著者の「若者殺しの時代」(講談社現代新書)を読んだときには
単なる”時代”評論家というイメージだったのだが
AERAで誰か著名な方が、この本を推薦しているのを知り
まさかとは思いつつ、読み始めた。
相変わらず面白い。興味あるテーマを、手慣れた感じでさらさらっと
まとめる能力のある人のようで
読んでいて全くストレスを感じない。

同時進行で同じ著者の「かつて誰も調べなかった100の謎」を読んでいて
これが滅茶滅茶可笑しくて面白い。
その影響もあって、今はこの著者への関心度はMAXになっている。
この本も、「若者殺し」で扱った80年代・90年代と比べて
混沌の度合いが強い00年代だけに
全体としては何が言いたいのかよく分からないという難点もあるが
それでいて細部の記述にはリアリティがあって
そういうリアリティの積み重ねから何かが見えてくるような
不思議でかつ面白い気分が満ち溢れてくる。

何と表現していいいのか難しい。
でも、この本を全面的に否定することはもっと難しい。
いくらかの真実が、たくらみなしに込められていて
00年代を語って、そういう読後感に至ること自体貴重なことだと思う。
よく分からない部分もあるが、凄いぞ、ホリイ(同い年)!

161korou:2014/12/04(木) 14:20:31
ちゃんもも◎「イマドキ、明日が満たされるなんてありえない。だからリスカの痕だけ整形したら死ねると思ってた。」を一気に読了。
(ってか、なんて長い書名なんだ、まったくもう)

何年かに1回出現する”危うい娘の感性そのままの物語”というジャンルに属し
さらに、ひときわ読みやすい文体のため、一気に読んでしまった。
最初の両親の死の記述が、予想外で迫真力抜群だったので
思わずウルウルしてしまったが
そこから、生い立ちと「死への衝動」がセットになって
その書き出しとリンクする設定に至り
なるほど、そうきたかと納得。

時間軸のズレが、意図的にせよ、仕方ないにせよ、やや読み辛いということもあるが
おおむね構成としてはよくできていて
退屈な個所は、「死への衝動」を乗り越えた記述の直後の数ページだけだったと思う。
二十歳そこそこの女性の文章としては上出来だろう。

適応力のなさと自在な精神状態とは紙一重で
こういう感性の女性は
これからも生き抜いていくことに苦労するだろうと思う。
現在進行形で苦しんでいるからこそ
過去の苦しみもリアルに描けるわけで
その点で、柳美里「水辺のゆりかご」、Hikari「大切な約束」(川嶋あい)などと
同じニュアンスの感動を生んでいる。

悩めるティーンの男女に読ませたい本。
劇薬のようにも見えるけど、この程度では劇薬にならないはず。

162korou:2014/12/07(日) 12:49:51
秋吉理香子「放課後に死者は戻る」(双葉社)を読了。

話題作「暗黒少女」を未読なので、この小説の読書メーターでの評価などを読むと
なかなか歯痒いことになるが
現段階の印象としては、山田悠介と湊かなえを足して二で割ったような作風に思える。
山田さんのストーリー展開力と、湊さんのどことなくダークな雰囲気が合わさって
途中でやめられない面白さがあるのだが
山田さんの欠点である伏線の回収のまずさがこの作品でも共通していて
さらに、湊さんの初期の作品で醸し出されたような
あのえもいわれぬ深いダークさにはやや足りない印象を受ける。
しかし、回収はまずくても、山田さんよりはうまくエンディングしているし
ダークさ一辺倒というより、もう少し多彩な感情が混ぜ込まれていて
これはこれでダークさが多彩な作風の一つということで
妥当に位置づけされていると思う。

というわけで、高校の図書館などでは、まず文句なしOKというところ。
大人の小説愛好家には、別にどっちでもいいですよ、スラスラ読める小説をお望みならオススメですよ、という評価か。

163korou:2014/12/14(日) 18:03:01
中山七里「贖罪の奏鳴曲」(講談社文庫)を読了。

悪くはないが、何か物足りないミステリーという印象。
何だろう、このイマイチ感は。
いや、全然悪くない。
どんでん返しの展開は、まずまずの着地ぶりだし
途中のエピソードのふくらみ方も十分で
主人公の人格を明確に提示できている。
つくりものの人形のような描写不足の人物は見当たらないし
逆に、ここまでよく描いたものだと感嘆するほどの描写もないが・・・

まあ、これが欠点なのだろうか。
すべてが無難にまとまり、大人のミステリーとして娯楽性十分なのだが
それ以上のものを求めようとすると
すべてに物足りなくなるという小説。
中山七里でなければ読めない描写が少ない。

音楽が人の心に沁み込む瞬間を
これでもかこれでもかというしつこい文章で書きまくる部分だけは秀逸だが
それ以外は読みどころが少ない小説。
でも、大きな欠点もすぐには指摘できないという類の小説。

164korou:2014/12/16(火) 13:41:34
池上彰・佐藤優「新・戦争論」(文春新書)を読了。

いきなり、集団的自衛権に関する国際情勢を
読者に何の予備知識も与えず一気に解読していくので
やや読みにくさを覚えてしまうが
途中の北朝鮮関係あたりから
このお二人の博識、情報通らしい部分が伝わってきて
読後の印象は「やはり」というもの。

この本に書いてあることがすべて重要で真実であるかどうか
それは誰にも分からないだろう。
しかし、実際に外務省、官邸が行っている外交について
通常のメディア(新聞、テレビ等)だけでは
どうしても評価しがたい部分が残ってしまうので
その意味で、こういう視点もあるという「引き出し」を持っておくことが
必要なのだと思う。

最後の方の章で「情報術」の記述があり
これは本気で情報を解読しようと思う人には
結構役に立つのではないかと思われる。

多少の基礎知識は必要だが
複眼で社会を眺めるためには有益な書だといえる。

165korou:2014/12/17(水) 13:16:39
清水康代「更級日記」(双葉社)を読了。

平安時代の代表的な日記文学を
現代の感覚で読み直した感じの傑作コミックである。
原文はもちろん、現代語訳でも到底読む予定になかったこの作品なのに
コミックの出来栄えが素晴らしくて
一気読みで通読した。

作者の菅原孝標女という女性を
現代の女性風に翻案すると
ここまでリアルにイメージ可能なのかと驚くほど
見事な描きっぷりである。

あまり多くの言葉が思い浮かばないが
とにかく、今まで読んだ古典コミックのなかでも
抜群の出来と言って過言でなかった。
今後、更級日記のことが出てくるたびに
そのあらすじが迷うことなく浮かんでくるわけで
その意味で非常に嬉しい読書体験だった。

166korou:2014/12/21(日) 12:32:56
ブライアン・オーサー「チーム・ブライアン」(講談社)を読了。

それほど期待もせず、ただ読み始めてすぐに読みやすい文章だと分かったので
最後まで読むことにしたところ
これが意外な掘り出し物というべきか、なかなか面白かった。
やはり、そこに書かれている数々の場面が
あまりにも有名なスポーツ・シーンであるだけに
実際に、自分も含め多くの人が
生中継等で目撃しているということが大きい。
その舞台裏を
一番重要な関係者が誠実に説明している文章が
面白くないわけがないのである。

キム・ヨナのことも、ハビエル・フェルナンデスのことも
羽生結弦のことも
手に取るようによく分かるこの本は
フィギュア・スケートについて書かれた今までのどの本よりも
生々しく、面白く、またコーチングについて要点を書いた本として
優れているのではないか。
単なるスポーツ・ヒーロー物という本ではなかった。
訳も秀逸。
オススメ本の一つ。

167korou:2014/12/22(月) 12:56:03
鈴木大介「最貧困女子」(幻冬舎新書)を読了。

今までに記憶のないほど辛い読書だった。
強いて言えば「夜と霧」の辛さに近いが
ニュアンスとしては全く別物の辛さである。
これは現在進行形の今の日本の話で
それだからこそ心にズキズキと突き刺さるものがある。

貧困が、おもに経済的な側面から再生産される過程自体が
すでに辛い。
さらに、そこに知的障害やら精神障害などが容易に見て取れる状況は
なおさら辛い。
そして、この著者が何度も力説するとおり
その状況が、社会制度の不備などのせいで
多くの人々に不可視状態になっているという指摘が
さらにさらに辛さの輪をかける。
本当にどうすればいいのだろう?
まさに著者のいうとおり
早めの適切なセ−フティネットの構築、そして
最終的には風俗産業全般の可視化(社会化)ということしか
考えられない。
道は遠くとも。
大変な力作。そしてしんどい読書の典型。でも逃げてはいけない。逃げられない現実。

168korou:2014/12/25(木) 14:55:55
深水黎一郎「最後のトリック」(講談社文庫)を読了。

”読者全員が犯人”という宣伝文句に乗せられて
一体どんな仕掛けが待っているのか、とそれだけで最後まで引っ張られて読まされたという感じ。
この本を手に取る人のほぼ全員が、そういう感じで読まされたのではないだろうか。

普通に読み終われば、結構面白い小説だったのではないかと思われる。
文章は渋くきちんとしているし
読みやすさもまずまず(覚書の部分のヘタウマさには閉口するが、ある意味作者の意図通りなので、読後に文句は言えない)。
トリックも、まあ、アマゾンで誰かが書いていたように”想像力のリミッターを外せば”
それほど酷いものではない。

しかし、本作を読もうかと思う人は
どうしても、凄い仕掛けを期待してしまうのだ。
何で、不特定多数のはずの「読者」が、例外なく犯人になってしまうのか、という大きな謎への期待。
その期待の大きさから言えば、このトリックはいかにもインチキくさい。
あり得ない。これで読者全員が犯人なんて、人を馬鹿にするにもほどがある、という読後感も当然だろう。

すごく評価の難しい小説で、少なくとも巻末解説の島田壮司のように無条件でほめたたえることは難しい。
それでも、この文章力なら、題材さえ適切なら
結構読ませる作家ではないか、という期待感は十分に持てた。
今度は、違う題材で読みたい作家である。

169korou:2015/01/01(木) 12:23:33
赤井三尋「翳りゆく夏」(講談社文庫)を読了(2014年12月31日)

2014年の最後に読んだ本。
まあまあ分厚い本なので、ペース的には2014年中に読了は難しいと思ったが
途中から一気読みとなり、年内に読了してしまった。

第49回江戸川乱歩賞受賞作ではあるが
とても新人の応募作とは思えないほどの充実した出来栄えになっている。
冒頭のシーンの巧みさ、読みやすさは出色だし
何よりも登場人物それぞれに丁寧な心理描写が施されているので
人形っぽい作りものめいた人物が出て来ないというのが
自分としては一番嬉しいことである。
リアルな造形でイメージされる人物たちが
まさに自然にドラマを形成していく過程を楽しめる人であれば
十分にこの小説の世界を堪能できるはずである。

細かい不備を追及する書評もないではないが
それは、小説に対する見方が随分と違うのだろう。
個人的には何の不満もない、まさに掘り出し物の小説である。
10年前に気付かなかったのが残念だが
以降はオススメ本として記憶していこうと思う。
1年の最後に、これほどのクオリティの小説に出会えて
ラッキーだった。

170korou:2015/01/04(日) 13:11:15
堤未果「沈みゆく大国アメリカ」(集英社新書)を読了。

今年最初の読了本が、こうした好著であったことに感謝。
完璧な本ではないが、何といっても取り上げているテーマが切実で迫真力もあり
少々の読みにくさ、分かりにくさなどは気にもならなかった。
こういう本でも批判的な書評をする人が居るのか?と疑問に思い
アマゾン掲載のそれをチェックしてみたが
どれも見当違いな読み方で参考にもならなかった。
やはり著者のルポライターとしての熱情を評価すべきで
些細な欠点など問題にすべきではないだろう。

たしかに、米国の医療制度全体を見渡せる簡潔な説明には不足している。
しかし、ここではその制度がいかに動的に変貌していこうとしているのか、ということを
取り上げようとしているわけで
むしろ、客観的な説明がメインになってしまうと
本全体の統一感がなくなる。
著者はそこまで考えて、この本の構成を決めたわけではないだろうが
無意識に自然にそうなったと想像し得る。
そして、その執筆姿勢に、日本中の読者が共感を示したわけだ。

本当に、こんな制度を日本に安易に導入してはいけない。
一般人は無知であってはならず、日本のリーダーたちは
この問題について指針を示すべきだろう。
そんなことを強く思わせた著者快心の作品である。文句なしオススメ。

171korou:2015/01/05(月) 13:37:30
井端弘和「守備の力」(光文社新書)を読了。

かつて井口資仁の同じような本を読んだことがあり
結構感銘を受けたので
同じようなイメージを持って読み始めたが
結局、井端選手の半自叙伝という形の本だった。
その分、読みやすかったが
内容的には不十分さが残った。

現役選手の半自叙伝となると
もうその選手への関心以外に
惹きつけるものがない。
これが中日の選手のままだったら
こんな出版はあり得ないのだが
このあたりが巨人の選手となったがゆえの
注目度だろう。

非常に努力家であり、考えかたもまっとうであり
文句のつけようもないのだが
本としてのクオリティは
川相、井口などの本に比べれば低いものになった。
仕方ない話だ。
企画段階でそうなるのは分かっていたので
井端本人には何の罪もない。

172korou:2015/01/16(金) 15:01:45
綾辻行人ほか編「連城三紀彦レジェンド 傑作ミステリー集」(講談社文庫)を読了。

長い間、連城三紀彦というのは恋愛小説の作家で
それもごく一部の愛好者だけに読まれる、やや時代遅れの作家だろうと思い込んでいた。
ところが、一昨年の死去から、次々と高い評価を知るようになり
一体どうしたものかと思っていると
実はミステリー作家で、伊坂幸太郎なども敬愛している存在と知り
ビックリ仰天である。
で、今回、綾辻・伊坂両名の編集により、さらに小野不由美・米澤穂信を加えた編者によるアンソロジーが出版されたということで
さっそく読んでみた。

・・・・ますます、ビックリ仰天(というか、この表現は古いか・・・!)
これほど素晴らしい作家だとは思ってもみなかった。
ミステリーの短編というのは、どうしても薄味で物足りないものになりがちだが
連城さんのそれは、どれも濃厚で、読後はお腹いっぱいになる充実感である。
ミステリーの筋、トリックに重きをおくあまり、人間描写、リアリティがおろそかになる、といったよくあるパターンは
ここでは全くあてはまらない。
むしろ、この描写があるからこそ、意外な方向への話の展開が生きてくるわけだ。
あまりの濃厚さにだんだんと頭がついていけなくなり、面白いのに読み進められない、という
沼田まほかるの作品を読んで以来の事態になってしまった。

あまり頭が回転しないとき、軽い作品を読みたいときには不向きだが
それ以外なら、期待を裏切らないこと請け合いである。
凄い作家が居たものだ。
今まで知らなかったことを恥じる思い。

173korou:2015/01/18(日) 18:24:09
若杉冽「東京ブラックアアウト」(講談社)を読了。

前著「東京ホワイトアウト」は
あまりにリアルな政治力学の描写に
フィクションとして評価し辛いものを覚えたのだが
今回、同様の趣向でさらにシミュレーションを深めた展開が読み取れたので
これはシミュレーション小説というジャンルとして評価すべきと思い始めた。
そう思えば、既存の評価基準は参考にできないので
この小説が開拓した地点が出発点となり
同種の小説を評価することになるわけで
その意味で、この小説を現時点で評価することは論理的には不可能と言える。

読後の印象をそのまま記せば
ついに未来の時点まで言及し、さらに天皇制にまで踏み込んだために
シミュレーションの大枠を逸脱していった感覚は否めず
その意味で、途中からは、小説を読んでいる感じではなく、官僚の想定作文を読んでいるような
つまり、無味乾燥な感触さえ覚えた。
前作では、震災&原発事故直後の不気味な3年間の背後をえぐるノンフィクション的興味もそそられたのだが
その部分が、想定部分を拡大したことにより消えたわけである。
しかし、それについて、作者の失敗とは言い切れない面もあり
ある意味、こういう挑戦は、続編という設定も関係して、避けがたいものでもあっただろう。

174korou:2015/01/19(月) 16:27:15
村上春樹「図書館奇譚」(新潮社)を読了。

著者あとがきにも書かれているとおり
これは「カンガルー日和」に所収された短編の焼き直しである。
ただし、何度も焼き直しされているらしく
この「図書館奇譚」が日本語バージョンとしては4番目のバージョンになるらしい。
一度、絵本用にリライトしたものを
今回の出版のきっかけとなったドイツのイラストレーターの画風に合わせて
大人向けに手を入れたらしい。
つまり、もともとは短編集のなかの一編なので
分量としてはかなり少ない(イラストページを含め70Pしかない)

話そのものはかなりわかりにくい。
そもそもの言葉の意味が分からない箇所などは全くないのだが
こんな話を読んで一体何をどう感じればいいのか、という根本的な疑義が生じるような不可解な話である。
それぞれの非現実的なイメージをどう解釈すればいいのか?
もちろん、そこにセクト主義に陥った学生運動と、そこから距離を置いた人たち(主人公、作者の分身?を含む)の
全く交わらない生活、会話、考え方、人生観、世界観を読み取ることは可能だが・・・
にしても、結晶し切れていないイメージという印象はぬぐえない。
ハルキさんとはいえ、これではあまりに不親切かもしれない。

175korou:2015/01/27(火) 12:51:23
矢野久美子「ハンナ・アーレント」(中公新書)を読了。

なんともしんどい読書だった。
何度も途中で止めようと思ったが、もう少しもう少しと思っているうちに
半分以上読み進めてしまい
引くに引けないことになった。
もともとは中公新書とはいえ伝記だから何とかなるだろう、しかも話題の人物だし、という
軽い気持ちで読み始めたのだが
やはり哲学者の伝記は、いかに人気があろうと、女性の伝記で親しみやすいのではという雰囲気があろうと
そんなのは関係なく読みにくいということを知った。

簡潔にまとめると、全体主義に傾斜しやすい現代にあって
どう個人として意義のある「生」を生きるか、ということになる。
とにかくドグマに陥りやすい状況を徹底的に吟味し
しかもとことん冷静で客観的で(女性哲学者に多いように感じるが、この感想もジェンダー批判を浴びるか?)
ホロコーストを扱う書籍でも、ユダヤ社会にさえその危険を指摘する冷徹さを秘めている人だった。
内省的な「個」と、その「個」を取り巻く他の「個」との交わり、というシンプルな社会を理想としていたことや
母体になるはずのユダヤ社会から訣別された経歴から
没後しばらくは忘却されたかにみえたアーレントだが
その後、再評価の動きがあり、昨年あたりからの映画による人気急上昇という事態に至っているようである。

何にせよ、現代の哲学者の伝記、ということで
なかなか内容は難しい。かつ、いかにも地味である。
苦しい読書だったが、「夜と霧」の読後のようなまとまりのある感覚までには至らない。

176korou:2015/01/31(土) 17:44:38
堀江貴文「我が闘争」(幻冬舎)を読了。

いかにもこの出版社らしい話題性十分の企画モノである。
出だしは、周囲の無理解にじっと耐えている少年というイメージで
予想とは違う内容が、お世辞にも上手とは言えない文章で綴られ
期待していたほどのワクワク感に乏しいのだが
なんとかそれらの環境を振り払って上京したあたりから
やっとホリエモンらしい感じが出てきて、俄然面白くなっていく。
そこから、最初の起業までは、いかにも期待通りの青春物語が展開され
同時にパソコン時代、ネット時代の揺籃期の様子が
当事者目線でヴィヴィッドに描かれていて
リアルタイム体験者にとっては、懐かしさたっぷりな内容になっているのも魅力である。

ライブドアに社名を変えたあたりから
何かに取りつかれたかのようにホリエモンの独走、迷走?が始まるのが
当の本人の文章からも感じられるのが面白い。
この掲示板も、いつのまにか「したらば」から「ライブドア」になってしまったのだが
その頃のことを個人的にも思い出してしまった。

そして、本人には「想定外」の逮捕劇。
想像以上にキツかったと書かれている取り調べ時期の孤独。
保釈後の変わり果てた人生、個人的見解により罪を認めなかったことによる有罪判決、とドラマが続く。
身柄拘束されていた時期に、仲間の寄せ書きを見て号泣する堀江氏の姿が鮮烈に記憶に残る。
さて、彼はこれから何を為していくのだろう。
”早すぎる自叙伝”と帯に書いてあるのだが、決してそのようなことはなく
今書かれてしかるべき著作であり、読みやすさも相俟って、オススメの本と言えるだろう。

177korou:2015/02/08(日) 12:16:26
佐々木敦「ニッポンの音楽」(講談社現代新書)を読了。

5年前に「ニッポンの思想」という著作を出した著者が
その姉妹編として出した本で
J−POPの歴史的な意味を
1970年代から10年区切りで時代を設定した上で
そのディケイドを代表するアーティストの歩みをたどることにより
探っていった著作である。
たかが大衆文化、人気商売でもあるJ−POPについて
ここまで抽象的に構造を確定していく知的作業を試みなくてもいいのでは、
つまり、大げさすぎないか?という疑念はあるのだが
そういう高踏な視点から何が見えるのだろうか、という好奇心もうずく著作でもあった。

読後の感想を率直に言えば
やはりこの見方は特殊すぎていて、一般音楽ファンからはズレている、としか言いようがない。
ただ、こういうサブカルの分野において
「現在」を可能な限り正確に把握した上で
試行なり企画なりを大衆に問いかけていく作業は
その関係者たちには必須なものになるはずなので
こういう一見ズレたような視点も
ある意味貴重な視点になり得る、という可能性はあるわけだ。
つまり、音楽業界に精通した著者が
一般読書向けに解読したJ−POP入門書ではなく
自身の見解を率直にそのまま記載したJ−POP研究書という位置づけが妥当なのだろう。
そう見れば、なかなか興味深い記述も随所にあり
はっぴぃえんど、YMO、渋谷系、小室哲哉、中田ヤスタカ、について何かユニークな視点を知りたいと欲した場合
これほど有意義な書はないように思われた。

オススメするには、人を選ぶ、それもかなり人を選ぶ、「困った」良書である。

178korou:2015/02/16(月) 16:18:15
東野圭吾「天空の蜂」(講談社文庫)を読了。

20年前の作品で
今秋映画化されるということで注目の小説である。
東野圭吾だから間違いないだろう、しかも充実期の作品だから、と思って
読み始めたのだが
期待通りというか、相当なレベルの期待をしたはずなのに
さらにそれを上回る面白さで、久々に活字に没頭した感がある。
この内容を20年前に書いていたのだから
もうそれだけで凄い、と言わざるを得ない。
面白さなど問わなくても、20年前でこのクオリティなら
それだけで敬意を抱くことになるのだが
その上に東野作品としても上質の構成、展開が堪能できるのだから
たまらない。

こんな面白い小説にコメントなど不要である。
とはいえ、少しだけ書いてみることにするか・・・

かなりの長編だが、全然長さを感じないし
浅い人間造型など微塵もない。
どの登場人物も生身の人間としてリアルに描かれていて
特に、犯人役の人物については、ついつい感情移入してしまうわけだ。
そして題材は「必要悪」としての原発とくれば
犯人への感情移入も別の意味合いを帯びてくる。
そして、その意味合いは、2015年の現在において
また別のニュアンスで迫ってくるものがあるのだから
この小説の意味深さたるや相当なものである。
映画化の意味も十分にあると思う。

179korou:2015/02/19(木) 16:08:13
ついに断念、宇沢弘文「社会的共通資本」(岩波書店)。
なんとか教育の章まで読み進めてきたが(半分以上の分量)
教育に至っては、何が言いたいのかよく分からない。
名著なのかもしれないが、あまりに不親切すぎるような気がして断念。
昨年末から手を付けていたんだけどなあ・・・・

180korou:2015/02/20(金) 17:00:40
乙一「花とアリス殺人事件」(小学館)を読了。

久々の乙一作品。
しかし、あとがきでの意外なほどの渋い文章でも分かるように
乙一としては、不思議な感じの成熟度が感じられ
その一方で
脚本のあるストーリーのノベライズという制約から
乙一らしい雰囲気には乏しい作品ではあった。

全体の雰囲気は、もう岩井俊二のあの静かな作風そのものだ。
中学生が、本当なら明るく振る舞いがちな外面を捨てて
ひたすら内面へ内面へ突き進んでいくひたむきさばかりが伝わってくる
あの映像の感覚。
見ていて息詰まるほどの重苦しさなのだが
そのくせ画面に映るのは
今が青春の真っ只中の10代の女の子たち。
何かになろうとしている彼女たちの姿は
見ていてとてもまぶしい。
でも、彼女たちをとりまく空気感は
絶望的なほど暗い。
その対比に慣れてきた頃
観る者の心に不思議な高揚感が訪れる。

そんな不思議な岩井ワールドを
乙一が文章で再現してみせたわけだ。
これはこれで職人技というしかない。
こういう世界の美しさを知る人には
たまらない小説だ。

181korou:2015/03/02(月) 16:20:02
みなもと太郎「風雲児たち(全20巻)」(リイド社)を読破。

ここのところ、この長編マンガにかかりっきりだった。
他の本を読もうとも思わなかった。
以前も熱中し、驚嘆し、夢中になったものだが
その再現だ。
江戸時代をこれほど人間のドラマとして描いた著作は
活字、漫画を通じて、他にあるとは思われない。
今回読んでよかった、と何度思ったことか。

田沼意次、平賀源内、大黒屋光太夫、最上徳内、高野長英などの人間像が
豊富なエピソードによって多層的に描かれ
もはやマンガの表現力を超えているのではないかと思われるくらい
濃密にリアルに記されていく、それを味わう喜び。
その一方で、松平定信などは、やや悪意をもって描かれ
鳥居耀蔵に至っては、いくらなんでもこれほどヒドい人に
協力者は皆無だろうと思うくらい、狭量な人間として扱われているのも
ある意味、話を明確にさせるための演出だろうと思わせる。
古すぎるギャグも
作者の手慣れたぶっこみで非常に自然で
ギャグ注と合わせて読む楽しみすら出てくる。

この調子で少なくとも太平洋戦争終了時まで書いてほしいのだが
作者の寿命を鑑みると、それはムリか?
どちらにせよ、日本人なら必見の歴史マンガです。

182korou:2015/03/03(火) 16:15:54
石橋湛山「湛山座談」(岩波書店)を読了。

書架の棚で見かけて即読書開始。
思ったよりも生々しくなく淡々としていたが
それでも随所に卓見がちりばめられており
一気読みに近い感じでも
読後感は良好かつ濃厚である。

最後のほうで
民族主義は人間の感情に基づいているから
資本主義、共産主義の争いよりも厄介だ、という指摘は
さすがと思った。
また、湛山自身もよく言われたと告白する”楽天家”という部分が
特に政界入りしてから目立つのも
日本の政治家では珍しい資質だと思った。
駆け引きだらけの大野伴睦と不仲になってしまうのも
さもありなんである。
もっとも、楽天家であると同時に
計算抜きの真心に応える行動がそれに伴っていて
それが単なる楽天主義者との違いであることも
間違いない。

日本が生んだ稀有の資質をもった総理大臣として
後世長くもっと知られるべき政治家という印象は
ますます強くなった。
湛山に私淑する人には必須の書物。

183korou:2015/03/08(日) 16:09:06
枝川公一「シリコン・ヴァレー物語」(中公新書)を読了。

1999年12月発行の本である。
この本が対象としている日進月歩の世界において
今現在の2015年3月までの16年間余りの年月を思うと
ここに書いてあることをそのままの形で論評することは
不自然とも言える。

実際、ここで著者が最終章で語ったシリコン・ヴァレーの精神「内なるシリコン・ヴァレー」は
2015年の現在、世界で最も注目すべき熱いスポットというわけでもないだろう。
もちろん、アップル、インテル、サン・マイクロなどの企業が
跡形もなく消え去ったというわけではないのだが。

一体何が変わったのだろう?
いざ記述しようとしても、具体的にすぐ思いつくものがない。
それでいて、変わったという印象だけは確実に言えるわけだ。
そのあたりのことを、この著書を受け継ぐ形で誰かが書いてほしいと思う。
少なくとも、ヴェネヴァー・ブッシュ、テッド・ネルソン、エンゲルパート、アラン・ケイといった
人たちが夢見たより優れた未来像、既成の知識、体制、組織をくつがえす新しい知見への渇望といった
20世紀後半に生まれた哲学、サイエンス、テクノロジーが
21世紀になってどのような変遷を遂げて
どの部分が変貌し、どの部分が消滅し、どの部分が不変の価値を高めたのか
それを検証していく作業を
誰かが行ってほしい、検証してほしい、と思うのだ。

カウンターカルチャーと絡めたハイテク産業史としてコンパクトにまとまっているので
そういうことに関心、興味のある人には、お手頃な知識整理本となり得る。
もっとも関心も興味もなければ、いまいちピンとこない本かもしれないが。
自分にはとても面白い本だった。

184korou:2015/03/14(土) 19:03:15
三秋縋「いたいのいたいの、とんでゆけ」(メディアワークス文庫)を読了。

「三日間の幸福」の好感度高い文章で
すっかりファンになってしまったので
この最新作(といっても刊行後5か月を経過しているが)も
チェックしてみた。

作者が描きたかった世界はよく分かる。
実際、そういうシチュエーションまで持っていった力業は
前作までには見られなかったわけで
その点、新しい魅力も感じたのだが・・・

そのシチュエーションまでの仕掛けに
いろいろと破綻が見られ
その破綻が、過去2作と比べて
今回は強引かな、と思われた。
最後に伏線の回収をしているのだが
それでもすんなりと納得できる感じではない。
少なくともファンでない読者は満足しないだろう。

しかし、文章は健在だった。
どこかで村上春樹とつながっているような
不思議な感じの内省的な文章、というか登場人物の思考回路。
これさえ健在なら
まだまだ、この作者に期待するところは大きい。

というわけで
ファンにはオススメ、それ以外はスルー推奨の恋愛小説ってとこ。

185korou:2015/03/15(日) 18:55:54
月村了衛「土漠の花」(幻冬舎)を読了。

一気読み必至、という知人の話を真に受けて
一度読みかけて断念していたこの小説に再度挑戦。
内容を記した帯などの情報から
シリアスな戦記物かと誤解していた。
これは、戦争を題材としたエンタテインメント小説だった。

戦争と言っても
自衛隊員がアフリカの民族紛争に巻き込まれるという話で
おそらく月村氏が得意としている警察物の延長上に近いフィクションである。
したがって、この小説のウリは、絶体絶命に追い詰められる主人公たちが
必死で逃げ延びようとする格闘シーンのリアルさであり
フィクションとしての構成の巧さ、一気読みを促すスピード感やスリルということになるだろう。

つまり、自分の読書嗜好とは縁遠い「傑作」ということだ。

読み進めるのは辛かった。
しかし、その知人と近々飲みに行くことになりそうなので
途中で止めるわけにはいかなかった。
飛ばし読みもしながら、それでも最後までたどり着いた。
よく週末だけで読み切ったものだと、自分に感心してしまう。

こういうのが好きな人にはたまらない小説だろう。絶賛ものであることは認める。
でも、こうも簡単に人が死に、その死を前提に話が進んでいくのには嫌悪を覚える。
そういう嫌悪を感じてしまう人には、何の意味もない小説であることも事実である。

186korou:2015/03/17(火) 17:14:35
高橋洋一「図解ピケティ入門」(あさ出版)を読了。

超高価なのにベストセラーになったピケティの大著「21世紀の資本」を
やはり読めなかった人向けに、その概要を思い切って簡潔にまとめた入門書である。

「21世紀の資本」は導入部からしてなかなか魅力的だったのだが
私の視力では、もはや読破は夢の夢である。
よって、こういう本で概要だけもつかんでおこうと思ったのだが
まあその目的は果たせた感はある。
ガイド役の高橋さんには感謝する他ない。

ただし、あまりに見事に要約されているので
かえって肩すかし気味の印象も残ってしまう。
もっと他のことも書いてあるだろう、という心配すら出てくる。
そして、ピケティ氏独特の見解も
21世紀の世界に期待できる内容とは言い難いのだが
何と言っても要約では何も語れないというのが痛いところである。

まあ、読んだような気にさせてくれてウンチクが語れるという点を思えば
そんな不安、不満は言うべきではない、というところか。

187korou:2015/03/18(水) 17:00:10
仁科邦男「犬の伊勢参り」(平凡社新書)を読了。

2014年の新書大賞第2位という評判の新書だが
全くその存在に気付かず、最近になって知った本。
即手配して、本日一気に読破。

犬が一人で参拝するわけがない。
しかし、江戸時代、犬が伊勢参りすることは
多くの人によって確かめられていた。
この矛盾を、数多くの史料をもとに解読していく本である。
決して、犬の信仰心の謎を追った本ではない。
江戸時代の庶民の心理、今とは違う人と動物との関係などを追った
江戸時代庶民史の本である。

読み進めるにつれて
江戸時代の庶民の優しい心持に
ほんわりとなれる本である。
日本という国の、日本人という人種の
世界でも珍しいふるまい、様子に
同じ日本人でありながら、21世紀のこの国に居て
別の世界のようでもあり、分かりあえる世界のようでもある
この不思議な読後感、感覚。

新書大賞第2位にふさわしいかどうかは疑問が残るが(話題がマニアックすぎて)
読んで損する類の本でないことは確かである。

188korou:2015/03/22(日) 20:14:02
二宮清純「プロ野球の一流たち」(講談社新書)を読了・・しようかと思ったが中止。まあ読了も同然だけど。

この本は題名に偽りがある。
一流選手のことを書いた本と思わせる題名なのだが
本の後半部分は、野球全般についての評論であり
2007年当時のNPBへの批判が中心になっている。
この書名でこの内容の本を出版するのはいかがなものか?
二宮氏の評論家としての見識を疑うし、出版社のチェックも杜撰甚だしい。

NPB批判にしても、当たり前のことをさも自説のように言及し
補強として取材した関係者の談話にしても
無批判な引用に終わっている。
その執筆姿勢が、前半部分の一流選手への言及にも現れており
同じような内容で書かれた近藤唯之氏のものと比べても劣った文章だろう。
近藤氏にしても
インタビュー相手が語った内容についての厳密な検証というものがないのだが
それは時代のなせる業という面もある。
近藤氏の時代は、まだスポーツジャーナリズムが成熟していなかったとも言える。
それに比べて、二宮氏の場合は
少なくとも近藤氏の仕事を踏まえて、その先へ進む義務を負っているわけで
その意味で、二宮氏は、先達の仕事の成果だけを受け取って
後進の人たちへ渡すべき何かを全く感じさせない仕事ぶりである。

というわけで、途中から読むのがバカらしくなってしまった。
とはいえ、前半部分は全部読んでいて、MLBとNPBの比較も何とか読んだ。
読めていないのは、2007年当時のNPBの諸問題の分析の部分だけで
これは上記のように、著者の自説というものがないので
読むだけ時間の無駄というものだろう。
よって、中断したけど読了という扱い。
そして、オススメ度は限りなく低い、という評価になる。

189korou:2015/03/23(月) 14:20:59
西加奈子・せきしろ「ダイオウイカは知らないでしょう」(文春文庫)を読了。

せきしろの名前でやや期待してはみたものの
読む前は特に思い入れもなく、ちょっと読んであとは適当、という感じで読み始めた。
ところが・・・メチャメチャ面白いでのある。

西加奈子は、そこそこ売れてる上方女芸人みたいで
口八丁手八丁のしゃべくりで笑かしてくれる。
せきしろは、さらに高等な笑いを、感心するほど的確に繰り出して
この2人のやりとりは、下手な漫才よりずっと面白い。

ゲストの人選は誰が行ったのかしらないが
全般によくできていて
星野源、山口隆あたりが面白くなるのは薄々予測できても
ミムラ、ともさかりえあたりで、ここまで中身をふくらませることができるのは
大した”空気感”で、本当に感心してしまう。

素人が短歌を詠むだけで、これほどの面白い本になるとは驚きだった。
最近にない楽しい読書の時間を堪能した。
加奈子さん、せきしろさん、ありがとう。

190korou:2015/03/25(水) 21:01:55
又吉直樹「火花」(文藝春秋)を読了。

今年前半期最大の話題となるはずの人気芸人による意欲作だ。
雑音を入れずに、できるだけ先入観抜きにして読んでみた。
文章が粗雑だったり、バランス感覚がいかにも素人っぽく感じられたり
といった未熟な箇所はあまりなかったように思った。
大体予想通りのクオリティで
確かに、芸人がここまで書けると
話題になるのも当然だ。

ただし、あまりにもそのままの芸人の世界の話なので
どこまでが作者の見解で、どこまでが登場人物の見解なのか
曖昧な箇所は随所にある。
これだけの筆力があるのなら
いっそのこと職業とは全然別の世界のことを書いてみたら
そのほうがより明晰に書けるのではないか、とも思った。

登場人物の出し入れは上手いと思うし
重要な登場人物は、すべて書き込めてあって存在感がある。
話の運びがやや曖昧な点が残念だが
これは書き込めばそのうち上手くなる部分なので
それほどの問題ではないだろう。

次作が出ることを期待する。
これで文学賞を取れるかどうかは疑問だが
読んで損のない佳作である。

191korou:2015/03/29(日) 18:27:21
北川昌弘とゆかいな仲間たち「山口百恵→AKB48 ア・イ・ド・ル論」(宝島社新書)
花山十也「読むモー娘。」(コアマガジン)の2冊を読了。

ちょっとした動機から、県立図書館で衝動的にアイドル本を借りた。
まずはこの2冊を一気読み。

北川本は、アイドルについて網羅的に書かれた本。
花山本は、モーニング娘。の特に沈滞期について詳しく分析した本。
いずれもオーソドックスに時代順に書かれていて
その意味では、知らなかった事項について
その前後の流れが即座に理解できるという利点はある。

ただし、ヲタ本の宿命なのか
著者の思い入れが強すぎて
分析が甘い箇所が随所にみられる。
北川本の、モー娘。初期には日テレの「ウリナリ!!」の影響があったという記述は
その次の章にある当時の関係者の証言で否定されているのに
なぜか修正することもなく、そのまま主張したまま後の章の記述につながっているあたり。
花山本にもその傾向は見られた。

こういう本は
いい部分だけ切り取って読み進めていくのが肝心だろう。
そう思えば、それなりに参考になる箇所も随所にあったが
全体としては、ヲタ本の域を出ない特殊な本ということにもなる。

192korou:2015/03/30(月) 21:37:50
白石仁章「諜報の天才 杉原千畝」(新潮選書)を読了。

杉原千畝については、かつて伝記も読んだし
同じような活躍をした小野寺信について昨年読んだばかりだったので
もう読むことはないと思っていたが
今年度、杉原千畝の生涯が映画化されるらしく
その映画のスタンスがこの新潮選書で示されたインテリジェンスの人としてのスギハラ
ということらしいので
今流行りの文脈で杉原を読み直したらどうなるか、という興味関心で
再度読むこととした。

分かりやすい文章で、スラスラと読み進めることができた。
必要最小限のことは押さえてあり、良書と評価してよい本である。
ただ、読後の感銘というものは一切ない。
ユダヤ人を救った勇気の人というエモーショナルな感動を極力排した本である上に
著者は本来そういうエモーショナルなタッチで文章を刻んでいく人のはずなのに
ムリして冷静に書いている風に見えるふしがあるからだろう。
もう少しクールなタッチで書かれるべきだったが
長年の研究のせいなのか、随所に研究対象への熱い視線が感じられた。

あともう一つ記せば
外交官の伝記というのは難しいと
改めて感じた。

193korou:2015/04/04(土) 12:08:41
アイドルの本、最後の1冊を読了。「グループアイドル進化論」(マイコミ新書)。

岡島紳士、岡田康宏による共著だが、章ごとの著者明記がないので
どこの部分をどう分担したのかは一切分からない。
全体として、あまり明確に見えてこない「新しいアイドル時代」を
無理やり、こんな風に新しいんだよ、と解説して見せた本という印象。

部分部分では、なるほどと思える箇所があって
また巻末のアイドル史年表は
実に多くのトリヴィア的事実を網羅してあるので
全体像の俯瞰には便利だったりするが
それ以上の意味はない本である。
先週読んだ2冊のアイドル本と同じことではあるが。

インタビュー記事は面白い。
こういう本の価値はそこにあるのかもしれない。
生々しくて、リアルな感じが漂うのがいい。

194korou:2015/04/14(火) 16:54:18
藤田晋「渋谷ではたらく社長の告白」(幻冬舎文庫)を読了。

以前から気になってはいたが、なかなか読む機会がなく
今回、文庫本入手で一気読み。
読み始めれば、何のことはなく、一気に読める本である。

実に正直に書かれた半自叙伝であり
仮にウソが混じっていたとしても
この書き方なら不快には感じない。
若いITベンチャー経営者が
その志を試行錯誤で実現していく過程を描く前半と
ITバブルとその崩壊を身をもって体験した劇的な後半が
対照的に描かれ
見城徹が「これは文学だよ」と評したのも頷ける。

ただし、2015年の現在、これを若い人が読んでどう思うかは
また別の問題だろうと思われる。
またしても時代のテイストは変わった。
あれから、IT関係は一段落し
ベンチャーどころか大企業でさえ未来の見えない経営環境となっている。
モーレツに働くだけでいいのか
志が雄大であればいいのか
なかなかそう簡単には判断できない時代になってきた。
志とそれを達成すべくモーレツに働く若者の物語である本作は
意外と、高度成長時期のプロジェクトXと同じテイストなのかもしれない。
逆に、その意味では、年配者には
懐かしく読める新しい時代の物語になっているのである。

195korou:2015/04/27(月) 21:24:07
半月ほど本が読めない日が続いた。
目が痛い、首が痛い、家族サービス、イマイチ夢中になれない、年度初めで忙しい?・・・イロイロと。
やっとマンガを読了。
ほしよりこ「逢沢りく(上・下)」(文藝春秋)。

思春期の女の子、経済的には恵まれた家庭に生まれた女の子が
母親との葛藤を抱え、感情をため込むクセを身に付けて
ついに母親から別生活を提案され
そのまま意に沿わない関西での生活が始まってしまうというお話。
こういう葛藤はあるだろうな、それが極端な形で物語られている印象。

小道具は随所にあって
関西弁の会話が関東人の女の子の脳裡をすり抜けていく光景は実にリアルだし
本来なら小細工に見える病気の子ども、ペットの小鳥といった小道具も
なぜか全然わざとらしさがなく、自然にこのマンガの風景として馴染んでいく。
女の子の気持ちをじっくりと焦らずに描写している作者の落ち着きが憎い。
最後のページで感涙する読者も多いに違いない。

手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞も納得の出来。
これだけ巧ければ、下手な小説など要らない。

196korou:2015/04/29(水) 15:54:23
石田伸也「ちあきなおみに会いたい」(徳間文庫)を読了。

知る人ぞ知る昭和の名歌手、ちあきなおみについて
愛情深く、その歌手として、一人の女性としての生き様を丹念に描いた佳作。
考えられる限りのほとんどの関係者にコンタクトを取り
そのインタビューを随所に混ぜて
なおかつ、自からの感想、感情を込めつつ
丁寧に描かれているので
読んでいて自然と感情移入していく文章になっている。
いまだに、これだけまわりから復帰待望論が湧き出ているのだから
本人のインタビュー記事があっても良さそうなものだが
そのあたりは本人しか分からないこだわり、感情があるのだろう。
それを強制するのも、期待するのも無粋な話だ。

ただ一度だけ復帰する気持ちになったらしい、というのだから
実に惜しい。
それも郷さんの死去の1,2年後の話というのだから
惜しいにもほどがある。
やはり、こういうときには
周囲は絶対に押しまくらないといけないと思う。
普通の歌手の復帰ではないのだから。
彼女の復帰を押しとどめたという「関係者」、誰だか知らないが
とんでもないことをしてくれたものだ。

歌手の伝記としては相当なクオリティで
この種の本が好きな人には断然オススメ。

197korou:2015/05/05(火) 22:47:14
クリス松村「誰にも書けないアイドル論」(小学館新書)を読了。

県立図書館で
ムダと承知で亜弥さん関係の本を物色したら
この本の末尾の竹内まりやさんとの対談中に
「亜弥ちゃんはすごくいい歌手に成長する」という見出しがあり
即借りることに。

その後数日、その部分だけの”精読”で他は読まない日が続き
本日、おもむろに読書開始。

・・・恐れ入りました。大した本です。
アイドル論の古典のような本です。
データの提示の仕方、全体として丁寧に持論を展開する人格的な良さ、
そして何よりも(本自体のテーマとは違うのだが)
自からの黒歴史、それも肉親(父親)に対する憎悪を含む感情の吐露が
そのままアイドル史への没入とリンクしているので
その凄まじい黒歴史の描写の部分が
生々しく読後に残る点が
世に多く在るアイドル論と一線を画す感動の書になっている。

これだけ読む前と読んだ後で印象が違ってしまった本も珍しい。
ゲテモノ扱いせずに、多くのサブカル愛好家に読んでほしい良書である。

198korou:2015/05/06(水) 14:28:43
水野和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書)を読了。

ついに
この低迷する21世紀について、世界全体の低迷について
真実はこうではないか、根本的にはこうではないか、だからこう考えよう
という具体的な案を提示した本に出会ったようだ。
こういう本を長い間待ち望んでいた。
内田樹さんや藻谷浩介さんが
漠然と主張していた「成長よりも成熟した世界」が
経済学というフィルターを通じて
より具体的に議論できる案として提示されたわけだ。

こういう本は
そういう歴史的意義を認識して評価しなければならず
アマゾンの書評の一部に見られた「民主党うんぬん」という先入観は
現代への危機意識の欠如以外なにものでもない。
逆に言えば
現在の民主党のように
政治的発言力を失った結果として完全に迷走している政党に
一時期とはいえ関わってしまったことは
水野さんの主張が誤解される最大の要因と言わざるを得ない、
残念としか言いようがない。

利子の発生しない世界、利潤を追求しない世界、
資源の有限性を正しく認識して未来の世代と協調する世界、
マクロとしての発展よりもミクロで見た場合の平等を重視する世界。
そんな世界を理想として、もっと具体的な案が提示できれば
この本の価値はもっと素晴らしいものになるはずである。

199korou:2015/05/08(金) 13:07:07
行成薫「名も無き世界のエンドロール」(集英社文庫・2104年)を読了。

3月初めから読み始めていたので
読み終わるまで異様に長くかかってしまった。
決して面白くないわけではなかったのだが。
年度末・年度初めの多忙、というより余裕のなさのせいだろうか。

普通はそこまで読書期間が長くなると
断念することが多いが
この小説には、継続させてしまう何かがあった。
野崎まどにも通じる映像を連想させる文体、構成もそうだが
登場人物のキャラが明確で
感情移入もしやすいということも大きい。
終わってみれば、シンプルな恋愛小説ということになるのだが
そこはフィクションとしてのふくらみを十分に備えている作品だった。

このくらいのレベルのものを次々と出せば
伊坂幸太郎のようで、また伊坂さんとは違った魅力を持つ作家になるだろう。
楽しみな人である。

200korou:2015/05/14(木) 20:56:13
菱川廣光「岡山県立図書館 抵抗と再生の記録」(日本文教出版)を読了。

全513pの大部な本だが、実は県議会での討議については
まず要旨がまとめられた後に、議事録により答弁などの詳細が記されているので
後者については精読を省略した結果
実質250ページほどの著作として読了できた。

問題点は
菱川氏自身が当事者であったにもかかわらず
それを抜きにした当事者批判が書かれている点。
優れた点は
県立図書館の理想像にブレがないので
教育長の答弁の不誠実さを端的に指摘できている点。

全体として言えば
こういう類の著作を書き切れる図書館人はそうは居ないので
よくぞ書いてくれたという感謝の念が強い。
それもすんなりと建設まで漕ぎ着けたわけではないので
一層貴重な記録書になっている。

同じものを自分が書いたら
もっと面白く書く自信はあるが
随分と偏ったものになるだろう。
書いたのが菱川さんで良かった(笑)

岡山県図書館人必読の書(一般人にはあまり訴えるものはないだろうけど)

201korou:2015/05/16(土) 12:21:07
朝井リョウ「武道館」(文藝春秋)を読了。

ダ・ヴィンチ最新号で、たかみなとの対談や石田衣良のハロプロハマりなどの記事を読んで
それをブログの記事にまとめたせいなのか
どうしても、この本を読まないといけないような気分になってしまった。
珍しく活字のポイントが大きかったので、ほぼ初めての朝井リョウ体験となる。

文章は非常に読みにくい。
状況描写が前後して、それが心理描写と連動しているため
どうしても状況を確認する必要が出てくるわけで
地の文が少なく会話中心の割には、読むスピードが全然上がらない。
何度も何度も同じ個所を繰り返し確認しないと
一体何の描写なのかさえも分からないことが多い。
レベルの低い悪文だと思う。
悪文なのに何も伝わらない。
単なる下手な文章でしかない。

ただし、この作者が伝えたいものは大切なものだと思うので
描写が理解さえできれば
描かれている世界そのものは、極めてリアルに迫ってくる。
間違いなく、優れた小説の力を持っている。
文体は素人でも、伝わってくるものはプロの作家の仕事だ。

アイドル論としては、いろいろと感想を書きようがあるのだが
今回は封印しておくことにする。
また再考することもあるだろうから。
一般的には、まあまあオススメというところか。
人気作家だけが持つ不思議な推進力があることも事実だから。

202korou:2015/05/19(火) 12:59:45
北川恵海「ちょっと今から仕事やめてくる」(メディアワークス文庫)を読了。

あまり期待せず、あらましだけ分かればと思って読み始めたが
簡素な文体でテンポよく進むので、一気読みで読了となった。

やや山田悠介風の荒っぽさも目につくが
読後感は悪くない。
特に、最後のほうで、胸糞悪い人物として描かれていた部長に対して
主人公が堂々と自分の気持ちをぶちまけるシーンでは
ある種のカタルシスさえ感じたほどだ。

読後直後の爽快感を経て
しばらくすると
こんなシンプルなストーリーでいいのかという疑念も湧いてくる。
たしかに小説としては全然練れていないだろう。
中学生の読み物、と言えなくもない。

例えば職業高校の図書館にこういうのを置いておけば
ふだん読書の習慣のない生徒にも
結構ウケるんじゃないか、という類の小説だろう。
それはそれで需要はあると思う。

大人にはどうかなと思いつつ
これこそYA小説の一典型ではないかと考えた。

203korou:2015/05/21(木) 20:49:16
東野圭吾「ラプラスの魔女」(KADOKAWA)を読了。

またしても一気読み。
500ページ近い長編ながら全然長さを感じさせない筆力には
もう何度感心したことか分からないが、改めて再度感心。
このような作家は100年に1人現れるかどうか。
同時代に東野圭吾がいて、我々は途方もなく幸せだ。

今回は、純粋理系なミステリーで
かつての「分身」「変身」を連想させる筋立て。
どことなく懐かしい気持ちで読み通すことができた。

たしかに、今までの自分の小説をぶっ壊すというような
謳い文句は大げさだし
登場人物の掘り下げ方にもいくらかムラがあるように思えるのだが
まあ、これだけ楽しませてもらって
まだアマゾンのコメントで次々に注文がつくような作家というのも
珍しいかもしれない

結論。文句なしのエンターテインメント。
宣伝文句にはとらわれず、東野圭吾という人気作家の実力を知るには格好の佳作。

204korou:2015/06/02(火) 10:49:28
内田樹「街場の戦争論」(ミシマ社)を読了。

題名通りの本ではなく
戦争の話から始まって、歴史、国家というルートを経て
なぜか「働くこと、学ぶこと」という無関係な話が挿入された後
最後にインテリジェンスの話になって
少しだけ戦争という非常時の話題に戻るという構成だった。
明らかに「働くこと、学ぶこと」の章は不要で
編集の怠慢、ミシマ社の不手際である(著者と親しすぎて意見が言えなかったのだろう)

読後感としては
インテリジェンスについての本と思えば
かなり高揚した気分で読み終わることができた印象となる。
ただし、戦争についてまとまった知見を聞けたかどうかという面では
あまりに話が拡散しすぎて、何を読んだのかどうか
印象がぼやけてしまう本と言える。
内田樹ファンなら、あまり詮索しなくても毎度のこととして納得もできようが
それ以外の人には、なかなか面倒な本になっているのではないか。

個々の分析は、いつもながらさすがで
納得できる箇所は、納得でき過ぎて却って思考を促す結果になり
納得できない箇所は、頭の中で思考が駆け巡り活性化される結果を生むので
どちらにせよ、脳内活性化の効果は抜群である。

総括として巧みに構成することもできる著者ではあるが
この著作に関してはそれを期待できない。
しかし、相変わらず知性の不調のかけらも見えない冴えた著作であることも
間違いない。

205korou:2015/06/05(金) 14:21:01
法条遥「リビジョン」(ハヤカワ文庫)を読了。

「リライト」の続編、この四部作シリーズの第二作ということになる。
「リライト」の凝りに凝った時間操作で
ある意味呆れ、ある意味感心するほかなかったわけだが
今作では、前作との関連を持たせつつ
全く違った背景のなかで人物を登場させ
同じように時間操作の物語を展開させている。

ただし、どういうわけか「リライト」ほど緻密ではない。
気のせいか、やたら先を急いでいるような叙述で
おかげで設定の強引さが顕著になり興ざめになることが多い上に
人物描写が、いかにSFとはいえ、これでは紙でできた作り物のような印象しか残らない。

もうこのシリーズは止めようかと思ったのだが
次の「リアクト」が、前仁作の総集編たるべく
なかなかのまとめになっているらしいので
厄介なことである。

展開そのものは素晴らしいので
やはり読み続けるしかないのか。
やれやれ。

206korou:2015/06/10(水) 10:37:58
堤未果「沈みゆく大国アメリカ<逃げ切れ!日本の医療>」(集英社新書)を読了。

優れた本である。
今までの堤さんの著作の集大成のような位置づけだ。
単なる民間保険制度と、社会保障としての医療制度を対比し
どちらが日本人にとってより良い制度なのかということを
多少後者へ傾斜気味ではあるがその概要を提示している。
その上で、より良い制度を望むなら現在の制度への無関心、無知が一番いけない
と訴えている。
まさに正論だ。
疑問の余地もない。

著者も言うとおり
日本人のDNAには、”協同””相互扶助”の精神があるはずなので
米国式の経済至上主義ともいえる医療制度を嫌悪するのは当然かもしれない。
そういう論理を超えた直感が、この本の根底に流れていて
本当はもっと緻密に議論しなければいけないのだろうけど
他のどんな本よりも、この問題についての説得力をもつことになる。

この本が提示しているのは、日本のあるべき未来像だ。
ぜひ若い人たちに読んでほしい本である。
間違いなくオススメできる本である。

207korou:2015/06/11(木) 17:04:51
法条遥「忘却のレーテ」(新潮文庫nex)を読了。

まさにSFそのものである。
必要な人間描写は一切省き
少々不自然な設定も
大きなSFの仕掛けの妨げになるのであれば
あえてその設定で押し通す強引さが
良くも悪くもこの作品の個性となっている。

いろいろなことに目をつぶれば
なかなか面白い作品だと思う。
日付の逆進の仕掛けは途中で気付いたが
主人公の死への恐怖をそんな形で解決しようとしていたとは
あまりにモノローグが凝り過ぎていたせいで
気付きようがなかった。
全体を通して、法条作品らしいエンターテインメントになっている。

ただし、この作品は人を選ぶ。
恋愛、ミステリー、あるいは純文学を好む人には
この作品のつじつまの適当さに我慢ならないだろうし
とにかく凝りに凝ったSFが好きな人には
なかなかいい読書体験になるはずである。

帯の文句とかが、結構”関係ない人たち”を引き寄せそうなのが
ある意味心配でもある。

208korou:2015/06/15(月) 16:43:45
野崎まど「ファンタジスタドール イヴ」(ハヤカワ文庫)を読了。

異才野崎まどの新作で
読み終わってから、メディアミックスの一部であることを知った。
出だしは、あたかも三島由紀夫「仮面の告白」のような
幼少時からの異常リビドーを描いた心理小説で
近年こういうタッチの作品はあまり読んだことがなく珍しいと思ったのだが
途中から、中途半端なSF設定が絡んできて
やや興ざめな部分も出てきた。
しかし、全体的に描ける人だと思うし
前半部分には久々に文学、それも現代の感覚で古典的な心理描写を復活させた
見事な文章が展開され、結構感激した。

ピタッとハマったものを書けば
十分、直木賞とかもとれる筆力だと思うのだが
結構直木賞審査は時代遅れな感覚なので
そういう方向で成功することは今後ともないだろう。
ここは伊坂幸太郎のように
読者が盛り上げていくしかないのだが
今のところ、順調な推移で着実に「信者」を増やしているようである。
今後が期待される注目の作家であることには間違いない。

209korou:2015/06/17(水) 16:37:41
豊島ミホ「大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル」(岩波ジュニア新書)を読了。

ふだんは、全点購入している環境に居ながら
ほとんど読まない岩波ジュニア新書だが
これは冒頭から惹かれるものがあって
ゆっくりとしたペースで読み切ることができた。

文体にスピード感があるのがいい。
書かれている内容はそれほどでもないのに
この文体でどんどん読ませていく。
ただし、最後のほうで結論っぽくまとめたあたりは
さすがにスピード感を出しようがなく
そこでは一気に内容のか細さが露呈することになった。

岩波の本とはいえ、決して一般的でなく
独特な感性と才能を持った人のための
リベンジマニュアルとなっている。
中高生以外には読者を想定しようがなく
さらにその中でも特殊な分野だと思う。
でも、こういう本は存在すべきだし、読まれるべきだろう。
「いじめ」については、とにかく、解決のための「引き出し」が
いくらあっても足りないくらいだから。
これもその「引き出し」の一つだろう。

210korou:2015/06/29(月) 10:27:07
松田卓也「2045年問題」(廣済堂書店)を読了。

前半部分は実に快適というか
まとめ方、例示の仕方が上手で
いい本を見つけたという喜びに浸っていたのだが
後半のまとめになって、突然「理系バカ」が顔を出し始め
だんだんと読むに堪えない駄文のオンパレードになってしまったのには
驚くとともに、残念な限りだった。

あまりに手広く分野を広げてまとめてはいけない、という好例だろう。

ただし、最初のほうの「パソコン通史」「ロボット通史」のあたりは
これほど要領よくまとめてある本を他に知らないほどだ。
マトリックスとかの例示を嫌がる読者も居るだろうが
自分は面白く読めたし
それに続く現在の人口知能研究の様子などは
さすがにその道の研究者だと思わせる見事な叙述である。

そのへんだけを通読すれば
それで足りる本だろう。
後半の未来予測は、なかったほうが良かった。
トンデモ科学と、未熟な社会科学の知識のごった煮だ。

気を付けて読むべき異色の本である。

211korou:2015/07/03(金) 13:18:50
外山滋比古「知的生活習慣」(ちくま新書)を読了。

最初のうちはあまり気乗りしない読書だったが
読み進めるにつれて、外山さんの文章の呼吸に慣れてきて
だんだんと読むのが楽しくなり
最後は一気読みに近い感じになった。

短文の寄せ集めのようにも思えたが
たくらみもあって
頭→体→心という順に書き進められているので
「知的生活習慣」を
その順番に考察していく論集のようにも読めることに
途中から気付いた。

個々の文章も
たくらみがないように見えて
適度に断定し、適度に慎重な言い回しを行って
全体として適度な知的抑制が働いているように思えた。
いかにも老師の文章という余裕が感じられ
途中からは、その大家ぶりに感じ入って
読み進めていたようなものである。

そういう余裕に感じ入れる人には
まさにオススメである。
そこまでの思い入れができない人には
どういうことのない本だろうけど。
まあ、92歳にもなってここまでの本を書けること自体
賞賛に値することではあるのだが。

212korou:2015/07/08(水) 16:34:37
小熊英二「生きて帰ってきた男」(岩波新書)を読了。

新書とはいえ389ページに及ぶボリュームであり
本来なら読み通すのも一苦労なはずだが
あっという間に読み終えた。
著者が、自分の父親のこれまでの人生を
直接聞き書きするという本だが
その父親である謙二氏の記憶力の良さ、社会経験に基づく地に着いた考察などに
まず感心させられる。
そして、あとがきにも書いてあるとおり
一定の方針を持って聞き書きしているので
そこの部分は意図通りに一貫して伝わってきて
その感覚も快い。
そして、あまり語られない昭和10年代、20年代の具体的な世相など
そもそもが興味深い話の連続である。
退屈しないわけがない。

単に昭和に生きた人の回想にとどまらず
優れた民衆史になっている。
昭和を理解する上での必読の書が誕生した。
素晴らしい!
歴史の本では今年読んだなかで最高の著作である。

213korou:2015/07/13(月) 17:02:53
住野よる「君の膵臓をたべたい」(双葉社)を読了。

題名を見て、さらに絶賛の書評を見て
どうしても読みたいと思った小説だ。
読み始めは、やや動きの少ないストーリーに閉口したが
恋愛小説だから仕方ないと思い読み進める。
甘すぎる会話も最初のうちは皮相に思え
第一印象は決して良くなかった。

少しだけヒロインの心のうちが見えてきたところで
やっと興味が湧き始める。
考えてみれば、心のうちが見えないという設定の
男子高校生の視点で書かれてきたので
このあたりは、今思えば叙述トリックに見事にハマっていたわけだ。

最後のあたりは、いかにも泣かせよう泣かせようとする技巧が
ミエミエだ。
でも、それが全然気にならないのが素晴らしい。
やはり、叙述トリックでうまく”嵌められて”いるので
最後のこの感情の爆発は、どう表現されようと
もはや読者としては泣くしかないわけだ。
実によくできている小説である。

最初のあたりの独特の読みにくさと
クライマックスをはぐらかす突然の事件が
あまりにも突飛に表現されている部分の違和感を除けば
見事な出来栄えだと思う。
オススメという点では、今年一番の小説かもしれない。

214korou:2015/07/23(木) 11:23:55
高野誠鮮「ローマ法王に米を食べさせた男」(講談社+α新書)を読了。

石川県羽咋市のスーパー公務員の話で
今季TBS系日曜ドラマの原作として話題のノンフィクションである。
スーパー公務員の本はいくつか読んだが
いずれも、凄いとは思うものの
なぜか違和感も大きい本がほとんどだった。
その典型は「沸騰図書館」であるが
結局、絶対に普通の公務員ではできやしないことが
延々と書かれていることについての無力感だろうか?

この本も絶対に普通の公務員にはできない仕事ぶりのオンパレードである。
ここまで組織を無視して行動する公務員など
まず居ないし、できない。
組織を無視していいのなら、これに近いことはできる人は居るだろうが
そこが一番の大きな障害であり
そのことについて、この著者はあまりにも無頓着で
すなわち、いくらこの本を読んでも
共感した上での実行は無理なのである。

にもかかわらず
今まで読んだスーパー公務員の本のなかでは一番感銘を受けたのも事実である。
福島のことや、奇跡のリンゴの木村さんのことなどがエピソードにあるのも大きいが
その上に、僧侶としての世界観がじんわりと伝わってくることが最大のポイントだろう。
モーレツ公務員だけれど、その根底に、この世界を優しく見つめる視点が感じられるのだ。
厳しさと優しさが両方感じられるスーパー公務員の本は
多分この本が初めてだ。
アマゾンでの高評価も納得である。
素晴らしい快著!

215korou:2015/07/29(水) 09:35:01
デービッド・アトキンソン「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る」(講談社+α新書)を読了。

すでに日本の文化財関係の会社で仕事を続けている外国人による
日本経済、及び日本の文化財事情、観光についての本である。
なお、書名の「日本の国宝を守る」というのはミステイクだろう。
どこにも国宝を守る話など出てこない。
これほど内容と一致しない書名が堂々と出ているのは珍しい。
売れている本なので大過ないのだが
このクオリティでもし売れないとしたら
書名を決めた編集者の罪は重い。

非常に優れた日本社会論である。
もともと経済アナリストなのに
専門の経済関係の話はそれほど深く突っ込まず
あくまでも日本社会の課題を挙げるスタンスで書き続けられている点に敬意を覚える。
本来、同じ書物内で論じにくい経済、文化財、観光を
同一の目線で書き切り、全然違和感がないのも
そのブレないスタンスが大きく貢献している。
よって、著者の言いたいことは非常によく分かる。

ということで
この本をベースに、いろいろな議論が可能になってくる。
優れた本というのは、そういうものだろう。
個人的には、疑義も多く、論の進め方にも必ずしも同意できない面も多いのだが
そんなことは枝葉末節なことと言える。
世評の高さも頷ける。

216korou:2015/08/09(日) 18:38:32
東山彰良「流」(講談社)を読了。

一読、優れた小説、大きな小説、圧倒されるスケール感の小説だと思い
大切にゆっくりと読んだ。
大体、4週間ほどかかってしまったが
その間、途中で止めようとは一度も思わなかった。
2015年は、抜群の直木賞受賞作「流」を読んだ年として
記憶してもいいくらいの感銘を受けた。

作者にとって、これは書かれなければならなかったという必然性があり
そして見事に書き切ったという充実感が伝わってくる小説である。
それでいて細部も丁寧に描かれていて
読者を、体験することの難しい1970年代の台湾の世界にいざなってくれるのである。
リアルであり、かつ青春小説としての夢と希望、挫折、友情、恋愛に満ちた
まさに本格的な小説なのである。
これほど、小説というジャンルのあらゆる要素を詰め込み
それでいてどこも破綻していない作品は
かつて読んだことがないくらいだ。
いわゆる世界文学の古典ならあり得ようが
2015年の日本にこれほどのものを書く人が居たとは!

文句なし、今年ナンバーワンの小説。
本当の読書人なら絶対に読むべき、読まれるべき小説である。

217korou:2015/08/21(金) 14:32:05
竹内昌彦「見えないから見えたもの」(自費出版)を読了。

今や地元の名士である竹内先生の本が
わが職場に寄贈されたのを機会に読んでみた。
想像以上に素晴らしい内容で、何度も感涙し感動した。
記憶力抜群な上に、その多くの記憶のなかから
適切に要点をまとめられているのが、読んでいてよく分かる。
すべての話に曖昧な部分がなく、明確なイメージのまま話が進んでいく快適さ。

同じ障害者の端くれとして思うのは
やはり、心が強いか、強くないかということが
その人の生き方を決めてしまうということだ。
健常者の場合、さして強くない心であっても
とりあえずは人生がうまく転がることも多いだろう。
しかし、障害者は違う。
竹内先生のような強い心を持った人間と
自分のような曖昧模糊とした心しか持てない人間とでは
その後の人生の展開が全然違ってくる。
それなのに「心」という健常者にも明解な要素であるがために
そのあたりの問題は看過されるということなのだ。
自分の人生で他者に不満を持つとすれば、まさにそこなのだ。

強い心を持ち、周囲によってからも育まれた先生は
到底視覚障害者が為し得ないだろうと思わることをやってのけた。
これは健常者にとっても大きな感銘を与えるに違いない。
意外なほどの素晴らしい読後感に未だに包まれている。

218korou:2015/08/23(日) 15:01:55
中村文則「掏摸」(河出文庫)を読了。

海外でも評価が高まっているこの作家の代表作ということで
数年前から何度も挑戦していた作品だが
そのたびに途中挫折し
今回も、もし挫折したらもう読み直せないのではないかと思っていたほどだ
(中途挫折はクセになるので)

今回は、最初の50ページほどを強引に読み続けた。
すると、そのあたりから俄然面白くなった。
そこまでのゆっくりとした描写から
犯罪現場を違う視点から観察しているようなリアルな描写に切り替わり
展開もスピーディになった。
女性の描写に今一つリアリティがないようにも感じられたが
それも大きな傷ではなく
むしろ一気に非日常の世界に没入できる小気味いい感覚のほうに魅せられた。
これなら高評価なのも頷ける。

「塔」を象徴的に描写している点で
三島の「金閣寺」を連想されたが
それともまた違う象徴の扱いでもあった。
ドストエフスキーの影響というのも、もちろん感じられるが
そのあたりは、非日常であるがために
むしろマイナスに作用している気がする。

作者の資質はもっと別のところにある。
素晴らしい才能だが、なかなかこういう才能を開花させるのは難しいのでは、と思った。
作品自体は、そんな懸念など吹き飛ばすほど素晴らしいのだが。

219korou:2015/08/24(月) 12:59:32
林純次「残念な教員」(光文社新書)を読了。

読もうかどうか迷っていたが、結局読まずにおこうと決めていた。
ところが、わが業界でそこそこ評判がいいので
仕方なく読み始めることになったという経緯。
読後すぐの印象を言えば
アマゾンでの微妙な評価も分かるし
わが業界での評判の良さも頷ける。
ただ、あまり読後感の良くない本であるということも事実。

やはり、自分が進んでいる道が間違いないと確信している点に
抵抗を覚える。
安倍晋三、橋下徹、前武雄市長などに共通する”見習いたくない「強さ」”を
行間に嗅ぎ付けてしまうのだ。
他者との交流で人間は成長する、と書いているが
その他者は、あくまでも自分の成長に寄与する他者に限定される、という無意識の驕り。
こうして合目的的にテーマについて考え抜いていくことで
何かが抜け落ちていくような感覚。
そして、そういったことに多分気付かないであろうこの方の感性。
それらが相俟って、読後感の悪さを形成していっている。

もちろん、いくつかの細部には真実が宿っている。
さすがと思わせる文章もふんだんに散りばめられている。
いい部分だけ吸収して、他は無視すればいいのだが
なまじ体系的にしっかりとした著作だけに、そういうのも難しい。
結構面倒くさい”一見「良書」”である。

220korou:2015/08/30(日) 17:41:00
深谷敏雄「日本国最後の帰還兵 深谷義浩とその家族」(集英社)を読了。

なんというか、こういう本の感想をさらさらっと書き記すことは難しい。
圧倒的な事実の重み、それも筆舌に尽くしがたいほどの苦難の連続である歴史上の真実が
延々と何百ページも続く力作、大作であるので
まさにアマゾンでの書評でしばしば語られたように「体力」を要する読書でもあり
それ以上に精神的にも鍛えられる読書体験となった。
普通の読書であれば
読んでいる途中で目の調子がおかしくなった時点でストップをかけるのだが
今回の読書に限っては、そういう中断は考えられなかった。
とにかく目を休めて、1時間程度で少し回復したかなと判断できれば
すぐに読書を再開することにした。
おかげで、一気読み状態で、この週末に読み終えることができた。

本の内容は、なかなか簡単には要約できない複雑な歴史ノンフィクションである。
”戦争の傷跡”と一言で要約したくないし、でもそうとでも言わないと要約にならないし
本当にうまく言葉にできないもどかしさが先立つ。
上官の命令を絶対的なものとして、さらにその命令内容を完全秘匿する深谷義浩氏の世界観は
いまや想像することすら困難になってきている軍人独自のスピリットと言えよう。
しかしそこを共感できなければ、この本全体が理解できないことになる。
年配の読者でまだ共感可能な人たちが多く生存しているので
この本の価値は長く語られることになるだろうが
数十年後にはたしてその共感が継続するかどうかとなると甚だ疑問である。
素晴らしい力作、大著であるが、そこだけが心配だ。

221korou:2015/09/01(火) 15:32:10
江國香織ほか「100万分の1回のねこ」(講談社)を読了。

佐野洋子「100万回生きたねこ」をトリビュートした複数の作家による短編集。
江國香織、岩瀬成子、くどうなおこ、井上荒野、角田光代、町田康、今江祥智、
唯野未歩子、山田詠美、綿矢りさ、川上弘美、広瀬弦、谷川俊太郎といった面々で
短編もしくは詩が書かれている。

児童作家の岩瀬成子さん、そしてやはり角田光代さんの短編が素晴らしく
また導入の江國香織さんの短編も無難な出来だったので
ついつい全部読んでしまったが
今思えば、山田詠美、川上弘美あたりの作品は
全く嗜好に合わなかったので
全部読まなくてもよかったかなとも思っている。

こうしてトリビュート作品を連続して読むと
それなりに佐野作品への理解は深まっていくのだから
は不思議である。
嗜好と異なる作品のほうが多いというのに。

まあ、期待通り、それ以上でもそれ以下でもないアンソロジーだった。

222korou:2015/09/04(金) 16:40:27
三秋縋「君が電話をかけていた場所」(メディアワークス文庫)を一気に読了。

三秋縋の最新作で、今月下旬発売予定の「僕が電話をかけていた場所」との二部作である。
相変わらず文章が面白い。
いや個人的には、もう大満足で最高な気分で
もう読書中のこの幸福な気分が終わってしまったのかと思うと
しばらく他の本を見ても興味が全然湧かないという困った状態になっている。
今、そんな気分にさせてくれるのは
東野圭吾と三秋縋くらいではないか(知名度では雲泥の差があるが・・・)

またしても、不思議な設定で、不思議な登場人物である。
しかし、その不可思議さが作品世界に絶妙のインパクトを与えていて
読んでいくうちに違和感など消え去って
世界を構成する重要な部分として欠かせない要素にまでなっていくので
不可思議さでもなんでもなくなってくるのである。
しかし、純粋に考えれば、その不可思議さが
作品を他のどんなストーリー、設定とも違った個性的で魅力的なものにさせているのであり
見事な「フィクション」という他ない。

細部の表現も相変わらず個性的で素晴らしい。
登場人物の造型の面では、ますます進化を遂げている。
続編が待ち遠しい。
こんな読書ならいくらでもしたい。
自分の残りわずかな視力は
こういうことに使うために残してあったのだと思ったりする。

223korou:2015/09/09(水) 14:49:26
夏目漱石「道草」(ほるぷ出版)を読了。

大活字本で漱石の自伝的小説を読んだ。
実に渋いというか
多分、若い人などには何が面白いのかわからないだろうと思われる
地味な内容の小説だった。

複雑な経緯のある家庭に生まれた主人公が
性格が合わない妻との、それこそ全然噛み合わない日常生活を送りながら
落ちぶれた養父からの無心をいかに断ろうかと日々悩み続け
やっと手切れ金のようなもので始末をつけた、というだけの小説だ。
漱石らしい深い心理描写は見事だが
そういうものに興味も関心もない読者には
何の愉しみも与えない作品になっている。

とにかく、同じような場面が延々と続き
フィクションを読んでいると了解していても
実に面倒くさい話の連続なので
なかなか勢いよく読み進めることができない。
今回も、かつての「明暗」の読書の二の舞になるかと思われたが
なんとか夏休み当初から9月上旬にかけて耐えに耐えて
ついに読み通すことができた。

とはいうものの(文句ばかり並び立ててみたものの)
さすがは漱石という読後感は残る。
何が凄いのか一言では言い表せないが
近代の日本人なら、この小説に否定的感想を出しようがないはずである。

224korou:2015/09/17(木) 20:11:07
久坂部羊「無痛」(幻冬舎文庫)を読了。

この作家の作品は初読だったが
一気読みであっという間に読み終えた。
医療という専門的な分野を正確に精密に記述しながら
これだけの多くの出来事を鮮やかに描き分けていく筆力は凄い。
エンタテインメントとして申し分ない出来だった。
東野圭吾のミステリーを読んでいるような充実感があった。

欠点がないでもなく
途中グロすぎる描写がしつこいくらい続くところや
あまりに多くの問題を盛りすぎて、いくらか消化不良になってしまった点や
細かい部分でもっと説得力ある理由づけをしてほしかったなど。
ただし、そういう部分も、読んでいる途中には
あまり気にならなかったので
エンタとしては問題ないだろう。

刑法第39条など、それぞれの論点を突っ込んで考えるとなると
読後少しずつ判明してくるそういった一つ一つの瑕疵が
結構気になってくるのも事実。
自分は、あまり気にしないタイプだが
人によっては気になるかもしれない。
グロい表現とともに、この小説が万人向けされない理由だが
ある種の読書人たちには、無条件で推薦できる圧倒的なエンタ名作だと思った。

225korou:2015/09/24(木) 12:54:59
東野圭吾「ゲームの名は誘拐」(光文社文庫)を読了。

出だしは軽いノリが目立ち、やや感興をそぐが
途中から、いつもの「やめるにやめられない状態」に陥ることに。
本当に一気読み必至のミステリーだった。

出だしの軽いノリは不要だっただろう。
主人公は緻密な計算が得意な冷静で理性的な男性なので
むしろ、とっかえひっかえ交際相手の女性を変えていくような設定は
おかしいとも言える。
もっと息の詰まるような難しい性格のほうが
小説全体の骨格を大きくしたに違いない。

対照的に誘拐の対象となった女性、というか少女の描写は
これ以上ないくらい効果的だった。
「女性の描写はできない」と宣言した作者とは思えない巧い使い方で
このたくらみの多い作品を一層ふくらます効果を生んだ。

よく読めば欠点もあるのだが
そういうことよりも
一気読みさせる見事な筆力のほうに気持ちが支配される。
さすがは東野圭吾と、またしても思わされた。
そして、映像化されたのもむべなるかな。
映像化への意欲を十二分にそそってくる快心作だろう。

226korou:2015/09/29(火) 13:21:13
小手鞠るい「あんずの木の下で」(原書房)を読了。

小学生向けに書かれた”体の不自由な子どもたちの太平洋戦争”の本。
子ども向けなので、ノンフィクションとはいえ、文章はシンプルで素朴。
真実をえぐり出していく迫力などとは無縁で
いかにもオーソドックスに戦争を憎み
さらに、その原因として「心」の問題を取り上げ
身近な話題である「いじめ」との関連で
読む者の気持ちを情緒的に高めていく仕掛けになっている(あとがき)。

最初は、珍しいエピソード満載なので
とてもいい本に巡り合えた感触だったが
次第に、単純な論理構成、情緒先行型の平和主義の羅列に閉口することとなった。
そうなると、ノンフィクションとしての誠実さの問題も出てくる。
この史実(肢体不自由児の疎開)を小学生向けに易しく記述すること自体
無謀ではなかったか?
これは、大人向けにしっかりと書かれなければならない複雑で難しいテーマだっただろう。

良い着眼点だけに、惜しいアプローチだった。
残念な佳作である。

227korou:2015/09/30(水) 13:17:52
三秋縋「僕が電話をかけていた場所」(メディアワークス文庫)を読了。

前作「君が電話をかけていた場所」の続きで
特段設定が違うわけではなく、純粋に話の続きになっていた。
読後の印象は、もともとそのままでも不思議な話を(いわゆるファンタジー系)
より複雑に、よりニュアンスを濃くして
再編集したようなストーリー、構成だということ。
それでいて、読んでいて止まらない魅力というのが
登場人物それぞれの考え、行動、会話などが
納得のできるもので
なおかつ文体に独特のリズム、傾向、感性があることが大きい。

今回は、2部作ということで
今までになく複雑なストーリー展開になっていたが
それが、作者あとがきでいう「正しい夏」への憧れによるものである
ということもよく分かる。
青春、恋愛、友情、高校生の日常といったものが
惜しげもなく描写され
もうそんなものとは無縁な50代の男性の心にもストレートに突き刺さってくる。

現役高校生は、こういう小説をどう受け止めるのだろうか。
少なくとも、自分は夢中で読み、十二分に堪能し
登場人物たちを100%愛することができた。
彼らと別れなければならない最終ページが恨めしかった。

228korou:2015/10/14(水) 13:59:44
つんく♂「だから、生きる」(新潮社)を読了。

平易で読みやすい文章なので一気読みできた。
内容は、声帯を摘出するに至ったガン治療の経緯を中心に
これまでの生き様をふりかえる章も含めて
著者の家族愛、人生観がにじみ出るものだった。
意外なほどの直球の文章で、そのストレート一本の姿勢が
好感度の高いものに思えた。

かつての人気図書だった「LOVE論」とは違って
ここで語られているのは自分と家族のことだけであり
他者への批評の部分は皆無に近い。
だから、芸能界関係の記述はすべて「仕事」で片づけられており
その方面の情報を期待してはいけない本である。
そしてそういう本にしようと決めた著者の選択は正しい。

誰にでもオススメできる好著になっている。
タレント本のなかでも上質な部類に属するだろう。

229korou:2015/10/17(土) 17:25:46
秋吉理香子「聖母」(双葉社)を読了。

「ラスト20ページ、世界は一変する」という帯に惹かれて一気読み。
読後の感想はというと、イヤミスではないかという疑い。
ちょっとした動機で幼児を2人も殺した人間が
ラストで暖かく描かれるのだから
読後の印象が良いわけがない。
全体に、悪人がそのまま悪人として類型化され
その結果、その悪人が殺される過程が
類型化された殺人に簡易化されてしまっている。
机上の操作で、殺人という重大な行為は
単なる因果応報の一つのピースとして軽々しく扱われていることに
この作品の決定的な軽さが感じられる。
まして、幼児がこの程度の動機で殺されなければならない理由は
現実社会の倫理では絶対にあり得てはならないのである。

しかし、その一方で、ドラマの細部は巧みに描かれている。
土壇場で明らかになる真相も
それ自体は見事なものだと評価されておかしくない。
人間も人形ではなく生身としてちゃんと描かれていて
それぞれの心理描写にもソツがなく、違和感もない。

ただ犯罪そのものについての扱い方が
反社会的で、全く倫理がなっていないだけの話である。

こういう小説をどう評価すればいいのだろうか?
面白いのは間違いない。
でも、決定的なところで大きく間違っている小説。
あってはならない物語。
分からない。困る。こういうのは本当に困る、学校司書としては。

230korou:2015/10/19(月) 17:02:33
中原尚志・麻衣「キミの目が覚めたなら 8年越しの花嫁」(主婦の友社)を一気に読了。

岡山で実際にあった感動的な話である。
結婚式直前で花嫁が意識不明になって
そこから8年も待ち続けたという信じがたいような話だが
本当の話ということで、これは信じるほかない。
最初の1年半ほどが完全植物人間状態で
本当に辛かっただろうと思う。
あとは、少々の希望が出始めたわけで
それも本当ならかなり厳しい日々のはずだが
それまでにもっと厳しい日々が続いていたのが大きくて
少しのことでも喜びが見出せる気持ちになっていたのだろう。
そういう心の動きが、ノンフィクションということでリアルに伝わってきて
読んでいて素直に感動できる本だった。

文章は飾らず凝らず、まさにストレートに感情を表現し得ていて
そのまま伝わってくるものがあった。

文句なしオススメ。
万人にオススメできる良書である。

231korou:2015/10/21(水) 22:48:31
村山俊夫「インスタントラーメンが海を渡った日」(河出書房新社)を一気に読了。

日本で明星食品の奥井清澄氏が
独自の哲学でインスタントラーメンの世界において地位を築き上げていた昭和30年代。
その頃、韓国では、保険業などで成功していた全仲潤(チョンジュンユン)氏が
ある日偶然に知った自国民の貧しい食生活に心を痛め
食品業界への転身を図り、国民の食生活向上のための策を練っていた。
そこへ、戦前からの面倒な事情を抱えた日韓交渉が絡み
全仲潤氏の行動は八方塞がりになっていくのだが
その苦境を奥井氏が救ったという感動のノンフィクションである。

時代設定が、日本が高度成長時代突入期で
かたや韓国はあまり知られていない貧しい時代なので
読んでいて懐かしくもあり、また隣国の実情を改めて深く知る機会にもなった。
小説じみた書き方なので、時として、本当はどうなのかと思うこともあったが
大筋はこの叙述で間違いないのだろう。

まさに人が人を知る時代であった。
いまや、奥井氏のような懐の深い実業家は稀だろう。
国際的視野のある人、発想が素晴らしい人というのは少なからず存在しているだろうが
これほど人が人を認めて、計算抜きの交渉に応じるという「美談」は
21世紀の日韓関係において、あり得ない話になってしまった。

でも、過去にそういうことが可能だったのだから
今現在不可能に見えても、今後あり得ないとは断言はできないだろう。
そんな勇気をもらえる感動の書である。
これも万人にオススメの本だ。

232korou:2015/10/29(木) 12:54:37
三島由紀夫「命売ります」(ちくま文庫)を読了。

何とも言えぬ読書体験だった。
あの三島が、心底大衆小説として書き切ったその作家としての在り方、割り切り方に
改めて感嘆させられたのだが
作品そのものも、適切な安っぽさが何ともいえず
その分だけラクに読み進められるのも有難いことだし
最後のどんでん返しというか、着地点が巧妙にキマっているのも憎いばかりだ。
ストーリーの裏返しという以上に
作品そのもののどんでん返しという意味合いも感じられる、というアマゾン書評での指摘は
なかなか鋭い。

さらに深読みするファンのために
決してエンタのためのエンタではないのだよと嘯く三島の表情が見てとれるようだ。
まさに、この作品の2年後に彼は本当に「命を売った」のだから。
売り先が誰なのかは分からないまま、彼は本当に命を惜しむことなく割腹自殺した。
そんな未来の出来事を知っている現代の読者なら
この作品をいくらでも深読みすることが可能だ。

この作品をピックアップして文庫化を実現したちくま文庫担当者の決断は
賞賛に値する。
「金閣寺」「仮面の告白」「潮騒」「憂国」「豊饒の海」だけではない三島の姿が
2015年になって大々的に現れ、評価されることになった。
優れた仕事である。
多くの人に、この仕事の成果を堪能してほしいと願う。

233korou:2015/10/29(木) 17:02:58
村上春樹「職業としての小説家」(スイッチ・パブリッシング)を読了。

これは結構読み切るまで時間を要した。
読みにくいのではなく、他にいろいろな本を並行して読んでいたせいである。
逆に言えば、長い期間のうちには
時として、どこまで読んだか分からなくなることすらあったのだが
それでも、すぐに状況を再確認できて、読み続けることができたほど
明瞭で誠実な文章ばかりだったということだ。
さすがは村上春樹というべきだろう。

どちらかといえば、前半のほうが出来が良い、というかタメになる話のように思えた。
後半は、話が文学のトリヴィアに入り込んでいて
それはそれで面白いのだが、やや間口が狭いというか
ちょっと居心地の悪い狭さのようにも思えた。
やはり、ハルキさんが、自らの世界観を語る大きな話のほうに興味がある。
これはハルキさんには何の関係もない話だが。

確実に言えることは、ハルキファンには必読の書であり
そうでない人には、それほどの価値はない本だということ。
小説もそういう傾向があるが、こういうエッセー風文章となると
いっそうそういうことになってしまう。
これだけの大作家なのに、いつも不思議に思ってしまう。

234korou:2015/11/05(木) 13:38:48
矢部宏治「日本はなぜ『基地』と『原発』を止められないのか」(集英社インターナショナル)を読了。

長い期間かかって読み進めた本である。
読破に1ヶ月以上かかってしまった。
途中で読むのを止めようかとも思ったが
思い直して読破して良かった。
これは、優れた”憲法の本”である。
書名が堅苦し過ぎるのと、装丁が素っ気なさ過ぎるので
随分と損をしている本だと思う。

いわゆる新発見とか、斬新なアイデアなどがあるわけではない。
しかし、これだけ分かりやすく、憲法9条2項を説明した本は初めてである。
しかも、因果関係が明確なので、どう憲法改正に進めばいいのかも自明の理となっている。
日本の有るべき未来像が、これほど明確に示されている本は珍しい。
すべての議論のスタートは、この本から始めるべきればないのか?

何度も繰り返し読みたい本である。
それほど現実は、トリックと虚偽に満ちている。
大抵の人が、訳が分からなくなるのも当然だ。
この本を繰り返し読み直して、正しい認識を持ちたい。
無知はすべての不幸の始まりだと、改めて実感した。
本当に素晴らしい本である。
万人にオススメ・・・どころか、必読の本ではないだろうか。

235korou:2015/11/19(木) 15:06:39
2週間ぶりの書評。
その間、全然読書をしていないわけではないのだが、たまたま完読できた本がなかった。
今日やっと読み終えたのが、奥田英朗「我が家のヒミツ」(集英社)。

実にしっくりとくる、小説としてきちんとした短編集だった。
特に最初の数編は上手く描けていて、最後の部分でほろりとさせられ涙が出るほどだった。
最後の2篇は、やや力不足の感があるが、それでも人物描写はしっかりとしていて
駄作ではない。

奥田英朗作品は、やはり安定している。
大きな期待外れということがない。
角田光代サンほどの綿密な描写ではないのに
同じような密度の濃い人間模様が展開され、思わず惹きこまれる。
そして、最後のオチも過不足なく収まり、読後感も良い。

強いて言えば、同種のテイストの短編を読んでいくうちに
どうしても可もなし不可もなしといった作品にあたってしまうのだが
そのときに、こんな小市民的感覚にどっぷりとハマっていいものかと
自問自答させられるのが、この類の小説にはつきまとう弱点ではある。
もちろん、そういう世界もあり、もっと強烈な世界もありで
人間の感性は、それぞれを把握できるようできているはずのだが。
少なくとも、この小説から感じ取られるような世界には
おのずからの限界もあるようなのである。
それは作品の出来栄えうんぬんとは別の次元の話なのだが。

小説自体としては文句なしの良作。
それ以上でもそれ以下でもないが
普通に考えれば
これ以上の出来ばえの小説を求めるのはかなり難しい話なのではないかと確信する。

236korou:2015/11/25(水) 14:45:04
東野圭吾「人魚の眠る家」(幻冬舎)を一気に読了。

ミステリーではなかった。
がちがちの社会派小説である。
抜群に上手い描写力で、読む者を夢中にさせて
一気に読ませてしまう作品である。
一気読みは、東野作品が他を圧倒する美点であるが
今回は、謎解きの面白さではなく
内容の迫真性からくるものだった。
心臓移植、脳死といった重いテーマなのに
一気に読ませる筆力には
毎度ながら感銘を受けてしまう。

どの登場人物も、人形ではなく血と涙と汗が通う人間だった。
その点だけでも賞賛に値する。
その登場人物たちが、真剣に重いテーマについて悩み抜くのだから
読者も完全に感情移入してしまい、同様に悩み抜く体験をすることになる。
読書は実体験を補うものだが
まさにこういう迫真のフィクションは
得難い体験をしたかのような効果を残してくれる。

どこまで進化するのか?東野圭吾。
ミステリー好きな読者は裏切ったかもしれないが
それ以外でこの作品は読者を裏切ることはないはずだ。

237korou:2015/11/25(水) 14:51:59
池上彰・佐藤優「大世界史」(文春新書)を読了。

この2人による前回の対談集「新・戦争論」が
あまりに淡々とした姿勢で(しかも、この2人はそれほど共感する間柄でないように思え)
でも淡々とは語れないはずの厳しい世界状況を語っている雰囲気に馴染めず
今回も期待薄だったのだが
今回は、やられた!感が強い。
これは熟読必至の名著かもしれない。

持っている知識量の凄さに加えて
分析の根っこにあるものがいわゆる「教養」という形でにじみ出てくるので
もう恐れ入りましたと感服するほかない。
終戦直後の東ドイツの様子とか、核武装をひそかに狙う韓国の本音とか
イスラム世界の重要さなど
この本により知り得たことは数多い。
それだけもタメになる。

さらに、内田樹氏の危うさを指摘する佐藤氏の分析などは
実に興味深い。
孫崎享氏への分析は
同じ外務省出身同士なので微妙なところはあるが。

何度も繰り返し眺めて、感覚を磨きたい書物である。

238korou:2015/11/26(木) 09:33:41
後藤基夫・内田健三・石川真澄「戦後保守政治の軌跡 上」(岩波同時代ライブラリー)を読了。

自分の読書嗜好にストライクでハマる本。
こういう本ばかり読む老後に憧れるわけである(ある程度は今も実現できているが)。

やはり、リアルタイムで取材した新聞記者の生体験に勝るものはない。
古い時代の取材に基づく実感を語る鼎談なので
その時代をフルに体験した後藤・内田両巨頭の弁には説得力があり
気鋭の石川氏ですら若造になってしまう。

吉田・鳩山・石橋・岸と
保守陣営のボスについてのコメントが興味深い。
1980年当時の言及であるが
2015年の現在も意義を失っていない。
戦後政治史を考える上で
これらのコメントは貴重である。

まあ、人間臭い政治家たちの人間臭い営みを
これまた人間臭い政治部記者のボスたちが語るわけだから
面白くないわけがない。
この手のものを好む人にとっては最高の読書となること間違いなく
それ以外の人には好事家の本という位置づけか。

さて下巻を読むことにしよう。
まだまだ至福の時は続く。

239korou:2015/12/03(木) 10:34:54
池上彰「世界から戦争がなくならない本当の理由」(祥伝社)を読了。

長い間、よく分からなかった国際情勢について
そうだったのか!と思わず膝を打つ記述が満載で
本当にこの本を読んで良かったと思う。
カンボジア情勢について
米ソ中及びベトナムの思惑を
これほど簡潔にまとめて分かりやすく書いた文章は
他で見たことがない。
ソマリア情勢もそうだし
コンゴ情勢も然り。
さすがに中東情勢は混迷を極めているので
簡単には記述できないわけだが
これはこれで重要な局面ということで
他にも分かりやすい記述を参照可能なので問題ない。
カンボジア、セルビア・ヘルツェゴビナなどで
このような簡明かつ要領を得た説明を
他の本で読んだことがないので
本当に「読んで良かった」と思わせる本である。

アマゾンの書評では
この本の思想面でのチェックが大半になっている。
どこをどう読めば思想的な問題になるのか
皆、頭がどうにかなっているのではないか。
これは優れた国際情勢解説本である。
それ以上でもそれ以下もでなく、そのジャンルでの最高の本の一つなのだ。

240korou:2015/12/15(火) 21:31:27
澤村伊智「ぼぎわんが来る」(KADOKAWA)を読了。

今年度(第22回)日本ホラー大賞受賞作で
選考委員の評価は高く、アマゾン書評も抜群の高評価とあって
かなり期待度を高くして読み始める。
最初の数ページでかなりの筆力の持ち主と判る。
これなら読み進めれそうと思い、確かにページをめくる手がスムーズに動く。
本当ならバカバカしい、あり得ないナンセンスな話なのに
どこかリアルで、人物造型も確かなのは何故?
確かに、霊媒師が主役になる後半部分は
ある意味ライトノベル風なお気楽さ、雑でキャラに任せた展開と言えなくもないが
そこ以外は、実によく物語が進んでいき
構成としても隙がない。

読後は、思ったより軽い感じ。
とてもホラーを読んだ後とは思えない。
子育てというテーマを扱っているのだが
そのへんも全然後に残らない。

でも、読んでいる間が楽しかったことは事実だし
そういう小説も必要だ。
何よりも、次の作品を読んでみたいと思わせるほどのストーリー展開、着想の良さ、文章力が
最大の魅力である。
そう思わせる新人作家はそうそう出てこないのだから。

241korou:2015/12/17(木) 13:13:22
嶌信彦「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」(角川書店)を読了。

思わず何だろうと思わせる題名に惹かれて読み始めたが
最初の80ページまでは、今一つ著者の視点が明確でなく
一体どういう意図で書かれた本なのか分からないもどかしさがあった。

第三章から、次第に記述が具体的になっていき
それにつれて、ノンフィクションとはいえ
登場してくる人物それぞれに感情移入が深くなっていったので
途中からはしっくりと面白く読めた。

シベリア抑留についてのもう一つの物語、という位置づけになるだろう。
それにしても、リーダーの永田さんという人は
24歳にしてこれほどの思慮と胆力があるとは
本当に恐れ入るばかりである。
昔の日本人には
このような人材が普通に存在していたのだろう。
特別なエリートでもないのに
ここまでの行動、思考ができるとは驚きだ、

シベリア抑留と、(逆説的ではあるが)近年の日本人の劣化について
改めて考えさせられた本である。
歴史好き、ノンフィクション愛好家には絶好の一冊。

242korou:2015/12/30(水) 12:08:04
水木しげる「劇画 近藤勇」(ちくま文庫)を読了。

水木さんが最近亡くなり、かつて愛読した「劇画ヒットラー」を取り寄せ
久しぶりに読んだ。
初めて読んだヒットラーの生涯だっただけに
初読の印象は未だに残っていて
だから、内容は全部覚えているはずと思ったのだが
意外にも忘れていることが多かった。

ということで、予想外にためになったので
続けて「劇画 近藤勇」も読んでみた(こちらは初読)。
550ページはあろうかという長編漫画で
さすがに日本近代の話だけあって、エピソードが細かい。
加えて、どの人物も妖怪チックな面相で
終いには誰が誰だか分からなくなるのが難点だが
やはり名作漫画ならではの説得力に満ちていて
こと新選組の人間関係がどうだったのかということに関していえば
これほど明快で分かりやすい本はないと言える。

ただし、時々、初心者向けの説明が抜けていたり
話の続き方が唐突だったりする部分があるので
歴史マニアでないと、本当の意味では
彼らの行動の歴史的意義は理解しにくい面もあると思われた。
とはいえ、歴史漫画としては傑作の部類に属することは間違いない。

水木さんの住まいの近くに近藤勇の育った場所があったということから
できた作品のようだ。
とりあえず、これで、今年最後の読書記録になりそう。
来年も良い本に出会えますように。

243korou:2016/01/01(金) 15:25:38
古川智映子「小説 土佐堀川 広岡浅子の生涯」(潮文庫)を読了。

今現在NHKで放映中の朝ドラの主人公でもある広岡浅子の伝記小説である。
同じく朝ドラのヒロインだった村岡花子の伝記を読んだときに
この広岡浅子は、途方もない女傑として登場していて
そのときに、いつかしっかりとした伝記でその生涯を確かめたいと思っていたのだが
すぐに朝ドラの主人公になり、関連本も出版されてきたので
そのなかで一番確かそうなこの本を読み始めたという次第。

放送に便乗したノベライズかもと思っていたが
読み始めて、意外としっかりとした叙述だったので安心。
読み終えてみて、あとがきなどを参照すると
これは今から30年近く前に出版された小説だったと知り、納得した。

広岡浅子の生涯については
この小説を一読すれば相当詳しく分かるようになっている。
ただし、この小説は
その生き方に強い関心を抱き、どこかで共鳴する女性の作家によって書かれているので
ギリギリのところで客観性を失っている部分もある。
そこさえ気を付ければ、なかなかよくできた伝記であり、史実に忠実な物語と評価可能だ。

新年そうそう、まずは満足できる読書でスタートできたのはラッキー。

244korou:2016/01/08(金) 12:35:42
宮下奈都「羊と鋼の森」(文藝春秋)を読了。

直木賞候補作として評価も高いので読んでみた。
繊細な感性を持つ主人公が成長していく過程を
丁寧に描いていくところは
「スコーレNo.4」を読んだときと同じ印象だが
残念ながら、今回はスコーレのときほどの感銘を受けなかった。
何よりも、主人公が若い男性であるというのが
文章にいくらかの違和感を与えていると思う。
そして、音楽というとらえどころのない題材が常にあって
音楽をめぐる考察に断然たる確信がないようにとれる部分も多く
その分だけ、作品世界へ没入するのが難しくなっている。

ただし、全体として、
清々しいジュブナイル小説にはなっているので
決して失敗作というレベルではない。
男性のジュブナイルとして、そして音楽についてさほどこだわりがなければ
読後の感動も十分得られる佳作である。
直木賞が取れるかどうかは定かでないが
読んで時間のムダだった、ということはないはずである。

245korou:2016/01/16(土) 17:53:13
神永学「怪盗探偵山猫」(角川文庫)を読了。

TVドラマ化を機に職場で購入。
さっそく読み始めてみると、意外と読みやすいので
神永学はそうだったなと思いだしながら、最後まで読み進めることができた。

もっとも、人物描写、造型は、テキトーである。
山田悠介を少しだけリアルにしただけ、という言い方もできそうだ。
これを警察小説と語ったら物笑いになりそうである。

そういうイージーさ、適当さが致命的でないのは
主要人物である怪盗山猫と、その相棒?になってしまった勝村だけは
そこそこ納得可能な程度に人物造型ができているからである。
そして、読者を飽きさせない程度に進行するストーリーテラーぶりは
神永氏ならではのものだろう。

時間潰し、読書意欲回復などには有効。
ミステリー、文学の味わいなどとは無縁という小説。

246korou:2016/01/18(月) 11:11:50
後藤基夫・内田健三・石川真澄「戦後保守政治の軌跡 下」(岩波同時代ライブラリー)を読了。

上巻に続いての読書。至福の時というべきか。
ただし、扱っている時期が対談時に接近しているせいもあって
まだ完全に過去の出来事としてとらえきれないわけで
その分だけ、生々しい批評は避けられている。
その反面
田中角栄待望論については、
この時代にもあったわけだが(生々しいわけだが)
そのあたりは、後藤・内田両氏のようなベテラン評論家は
否定的なニュアンスで語っているのが興味深い。
両氏は、田中を
古い自民党体質の継承者としてとらえているからで
その点、石川氏のように転換期という見方をしていないのが面白い。
そして、1980年代前半に見られた右方向への転換については
危うい傾向として懸念を表明している。
この時代の右旋回程度で懸念していたら
2016年の今のような、完全に右傾化している政界をみたとき
後藤・内田両氏は何とコメントするのだろうか。
まさに想定外の展開ではないかと推測する。

巻末に、その後の1994年までの政界の動きが
石川氏によってコンパクトにまとめられていて
それもなかなか参考になって面白い。
いずれにせよ、個人的趣味の本とはいえ
楽しい読書だった。

247korou:2016/01/20(水) 20:26:29
雨宮処凛「14歳からの戦争のリアル」(河出書房新社)を読了。

平易な活字組で読みやすく、かつ内容も結構衝撃的だったから
予定外に一気に読んだ。
雨宮さんの独特な政治スタンスを懸念したのだが
読んでみると全然そういう「偏向」は感じなかった。
誠実にインタビュアーとしての仕事をこなし
ただ、インタビューの相手が
ある意味、共通の立場をもっていて
それが最近の敬軽薄なネット右翼にはうざったく映るのだろう。

それにしても、よい人選だ。
信頼できる人が、誠実なインタビュアーに
かけがえのない内容の話をしている様は
それだけで素晴らしい。
この本で、どれだけ貴重な事実を知ったか計り知れない。
ふらふらしている場合ではないと思ったのと同時に
正しい思想の位置を知って、あらためて自分の位置も動かせないようにも思った。
それは、無意識ではなく、意識した上でさらにということなので
それはそれで仕方ないだろう。
いまさら政治的に正しく行動できる能力はないのだから。

というわけで、これからも正しく動ける余地のある
若い人にぜひ読んでよしい本の一つ。

248korou:2016/01/26(火) 11:14:03
中田永一「私は存在が空気」(祥伝社)を読了。

中田永一=乙一というのは知っていたものの
すでに乙一の作風は捨ててしまい、その結果としてのペンネーム中田永一なのか
とずっと思っていた。
今回の作品は、紛れもなく乙一そのもので
まさか中田永一名義でそういうものが読めるとは
思ってもみなかった。

ただし、読者としての自分が変化したのか、
乙一としてのスタンスが保てなくなってしまったのか、
いずれの理由か分からないが
以前ほど無条件で楽しめなかったのも事実だ。
現実にほどよく追加される非現実のバランスが
あまりにも簡単に、ある意味、作者にだけ
都合よく提示されているように思える。
そこさえ切り抜ければ
あとはさすがの展開が待っているのだが
物語の入口の作りが雑に見えるので
どうしてもその後の展開に没頭できない読者としての自分が居る。

何だろう、これは。
時間があれば、かつての乙一作品を読んで確認したいくらいだ。
というわけで、読後の感想は
保留したい。
悪くはない、ことだけは確かなのだが・・・非現実を認めない立場の人を除いては。

249korou:2016/02/03(水) 13:22:05
佐渡島傭平「ぼくらの仮説が世界をつくる」(ダイヤモンド社)を読了。

読み始めてすぐに、これは優れた本だと気付いた。
多少警戒して、キモのように思えた第3章から読み始めたが
結果的にその必要はなかった。
読み進めても、その印象が変わることはなかった。
最後まで、金言の連続で、大いに脳細胞を刺激する本だった。

全般として、著者があまりに優れた人物であるために(そうでないと起業などできない)
単なる能無しサラリーマンである自分にはあてはまらないことも多いが
それでも参考になる考え方は随所に発見できた。
何度も繰り返し読んだほうがいいだろうなあと思うのだが
あと数年で社会人を実質卒業する自分が
そこまでして自己変革努力をするだろうかと疑念を持ち
そこまでに至らない。
もう少し若い時にこのような本に出会えば
きっと購入して手元に置いていただろうと思った。
そこまで思わせる本は久々だった。

学生のときでもいいけれど
社会人になりたてで、まだ人生が固まっていない若い人には
断然オススメである。
早くも、今年読んだ本のなかでNo.1だ、という感じがする。

250korou:2016/02/03(水) 19:01:54
本多圭「ジャニーズ帝国崩壊」(鹿砦社)を読了。

一度10年前くらいに読んでいたのだが
今回のジャニーズ騒動で再読したくなり
先週読み終えて、今感想を書いている。

一度読んでいるとはいえ
内容をかなり忘れているのに気付いた。
当時より一層J-POP全般に関心が高まっていることもあって
興味深く読めた。
中森明菜のくだりは、記憶違いで
別にメリー喜多川が親代わりになっているわけでもなく
流れで面倒をみたという程度なのだろう。
キムタクの独立騒ぎは
かつて読んだときと印象が違っていて
今回は、あの騒動直後に読んだので
なかなか興味深かった。
という具合に、再読の意味は十分あったのである。

今はこういう硬派なライターとか雑誌(噂の真相とか)などが皆無だ。
ジャニーズは好きなようにマスコミを操っているが
残念ながらネットの世界は不得手のようで
それが今回の混乱の一因ともなった。
ネット以前の暴露本として、そういう意味でも貴重な本だと思う。
意外とまともな芸能本で、決して根拠なしのいい加減な本ではないのである。
その意味で、これは古本屋等で見かけたら「買い」だろう(自分も古本屋で買った)

251korou:2016/02/09(火) 21:40:02
一穂ミチ「きょうの日はさようなら」(集英社オレンジ文庫)を読了。

こういう感じの満足感に浸りたかった、ずっと。
「ぼぎわん」も「羊と鋼の森」も「山猫」も「存在が空気」もいいのだけれど
かつて優衣ちゃんとか美波ちゃんなどを愛していた時期に
同じように愛していた感覚の小説を読みたかった。
まさにどストライクでハマった、設定はぶっ飛んでいるけど
そこさえ乗り切れば、
こんなにもの悲しく、切なく、青春していて、美しく儚い物語はない。

少し語り過ぎのような文体で、こんなに分量はなくてもいいのにと思ったりもしたが
途中から物語が予想通りに動き始めると、もう止められない。
一気読みで、最後の外伝のようなエピソードも心から読めた。
読んでいて泣けてくるという類ではなく
読み終わってからじわじわと押し寄せてくるようなストーリーだ。
そして、ある程度世代を選ぶとは思うけれど
多分、今の高校生の心も揺さぶるに違いない。
時代背景というより、設定かな?読者を選ぶキーとなるのは。
そのキーさえ認識できれば、違和感なく認識できれば
一気に別世界へトリップできる。
そんなことは読書でしかできない。

小声でこっそり人に薦めたくなる類の佳品。

252korou:2016/02/10(水) 16:37:16
原田宗典「メメント・モリ」(新潮社)を読了。

まさか、原田宗典の新作が読めるとは思ってもみなかった。
もう過去の作家となって、創作しないのかとさえ思っていたので。

読むまでは不安もあった。
久々の創作で、本人の知らぬ間に文章力がガタ落ちになり
読むに堪えない凡作を読まされるのではないかと。

読んでみてそれは杞憂に終わった。
ただし、これは反則の内容だ。
こういうものは続けては書けない。
次作以降の期待は、これだけでは持てない。
その前提を踏まえれば、これはなかなかの快作、怪作である。
内容としては、自虐に終始し、太宰の小説のようにも読めるが
質感は全然太宰ではなく、例えようもない不思議なタッチで終始する。
話そのものはさすがに面白く書かれ
話そのものの面白さにプラスするところの文章力の面白さも健在だ。
とことん辛い状況なのに、それに輪をかけて辛くなる瞬間の描写などは
不謹慎ながら思わず笑ってしまうほどだ。
こういうのは、原田さんしか書けない。
その意味では、いいものを読んだなという感想になる。

ただし、これは反則だろう。
こういのものは続けて書けないのだから。
自伝の面白さは1回限り。
さあ、この後どうするか、復活した原田サン。

253korou:2016/02/12(金) 16:20:32
高橋みなみ「リーダー論」(講談社AKB48新書)を読了。

読む前から分かっていたことだが
とても20代半ばの女性が書いた本とは思えない。
端々の表現にそれらしさは仄見されるけれども
考えの確かさ、論点の引き出しの多さ、向いている方向の正しさなど
よくこの年齢でこれだけのことを考え抜いたものだと感心する。
いや感心のレベルを超えて感動してしまうのだ。
読んでいてヘンな感涙さえ覚えてしまう。
この人は、これだけ立派に思考して、その上で実際にそれを実行している。
そのことは誰も否定できない。
誰もたかみなの行動の結果について否定できない。
この本は、実行を伴っているので、普通に書かれていても
他の本の10倍は説得力を持っているように思う。

特に、リーダーの条件として挙げた5条件のうち
「ダマをほぐして、チームをつなぐ」の部分は
今まで読んだどんなビジネス本にも書かれていなくて新鮮だった。
個の大事さをこれほどきっちりと指摘したリーダー論というのは
今までどれほど出てきたのだろうか。
たかみなのような著名人が書いたものでは、多分最初ではないか。

ただし読後感はあまり良くない。
完璧すぎて、でもそれを読者は否定できないので、そこが辛いのだ。
たかみなの唯一の欠点、完璧すぎること、それをぼやかせるには若すぎること。
でも、それがどうした、というか、名著には変わりない。

254korou:2016/02/14(日) 22:10:03
本谷有希子「異類婚姻譚」(講談社)を読了。

1冊のなかに中短編が4作入っている本だが
とりあえずは表題作(芥川賞受賞作)しか読んでいない。
まあ、読みかけて断念した本のなかに、かなりのページ数読んでいるのに
読了していないのでここで取り上げていない本も割とあるので
1冊全部読んでなくても、ここに書いてよいことにしておこう。

さてその表題作。
昨今のエンタテインメントしか読んでいない読者は
置いてけぼりになるだろう。
これは梶井基次郎などから倉橋由美子などの作品に連なる純文学の手法で書かれた
いかにも芥川賞受賞作らしい、たくらみに満ちた佳品である。
だんだんと作品世界の狭小さにハマりこんでいき、にっちもさっちもいかなくなる、
そんな感じの小説だ。
作者の独特の感性が、年齢を経て変貌していくということとシンクロしていて
その作品世界の狭さたるや、明らかに読者を選ぶ怪作とも言える。

問題は、これが世間の注目を浴びる著名な文学賞の受賞作でいいのかどうか。
もはや作品の内容とは関係なく、芥川賞はそのあたりを意識しながら選考されなければならないのだが
肝心の選考委員にその認識は皆無のようだ。
素直に評価してその作者の会心作を選ぶということができていないようである。
この作品も、燃焼度は高いが、その火の所在を知るには、純文学の読み手でないといけないはずだ。
そういう困った作品であることも事実である。
ただし、作者の心理に寄り添う読みかたをした場合
感銘深い作品であることも確かである。

255korou:2016/02/21(日) 18:33:36
小保方晴子「あの日」(講談社)を読了。

あまり読む気はしなかったのだが
諸般の事情により読み始め、途中からは一気に読了。

読む前に雑音を耳に入れてしまっており
その雑音によると「某教授を告発することを目的とした本」とのことだったが
一体どういう読みかたをしているのかと笑ってしまう。
浅い読みかただと思う。
読んでいる途中で、佐藤優氏が「絶歌」を引用して情報操作をしている本と批評しているのを知り
これは、そういう読みかたもあるかなと思い、参考にはなった。

基本的に小保方さんという人は
こういう事件に巻き込まれるにはナイーブすぎる人で
人を信じすぎ、警戒しなさすぎにもかかわらず
結果として自分の予測外の出来事に対しては
あまりにも自分の気持ちを維持できない、キツく言えば「心の弱い人」だと思った。
だから、混乱したまま執筆したこの本は
著者の心の迷いのままに書かれていて
一体何を書いているのか不明な箇所が何度も出てきて
その反面、辛い精神状態に陥ったことに関しては、痛いほど伝わってくる文章になっている。
誰かを責めてはいけない、でも自分をここまで追い込んだ人たちは確実に居る、という気持ちが
曖昧な文章を書かせていて
それでいて、STAP細胞が存在することに関してだけは明確に主張している。

混乱した本だから、読むのにリテラシーが必要だ。
それでいて、時期を得た出版だけに、文章の端々に熱がこもっていて
何とも不思議な読後感を得ることになる。

256korou:2016/02/25(木) 09:44:55
星新一「明治・父・アメリカ」(新潮文庫)を読了。

かつて星さんの書いた列伝を読んで大変面白かったので
今回も期待充分に読み始めた。
そして、その期待通り非常に面白く
あっという間に読み終えた。
自分としては、東野圭吾のミステリー、三秋縋のライトノベル、小林信彦のエッセイと並ぶ
読書の4大好物かもしれない(ただし星さんの伝記物は数が少ないので、それが残念)

何といっても、最初のあたりの明治初期の農村風景の叙述が素晴らしい。
このあたりの時代は、文明開化というイメージに操作されやすく
意外と叙述が難しい、間違えやすいのだが
さすがの見事な文章で、その時代の雰囲気を適切に再現している。
これでこそ、星一の父親がどういう人であったかが分かろうというものである。

それから、星一の青春時代の描写に入り
そこまでの明治の雰囲気そのままに、星一の心が読み取れる記述になっている。
すでに明治中期には、明治初期の人たちの志を失っていた人も少なくなかったが
星一は両親の優れた教えと本人の気質のおかげで
明治初期の人たちにひけを取らない進取の気質を維持できていた。
そのあたりが自然に伝わってくるのが、この著作の優れたところである。
そこがいい加減だと、なぜ伊藤博文や後藤新平に初対面から気に入られたのか
さっぱり分からなくなってしまうので。

全体を通して、抜群の天才というわけでもないのだが
とにかく持って生まれたものが最大限に発揮できるようトコトン努力した人という印象が
強く伝わってくる。
優れた伝記文学だと思う。
さすがは星さん。

257korou:2016/02/25(木) 09:50:04
ここらで断念した本を2冊。

高田宏「言葉の海へ」(同時代ライブラリー<岩波>)。
高田氏逝去がきっかけで読み始めたが
だんだんと読むべき本が増えてきて
ついつい読書が途絶えがちになってしまった。
全然面白くないわけでもないのだが
それでも読み続けようという気がおきないのも事実である。
文章との相性が今一つで、もう4か月近く経っても読み終えられないので(100p未満)
ここらで断念。

海野弘「黄金の五○年代アメリカ」(講談社現代新書)。
知的好奇心のみで読み始めたが
分野によっては、この年代に全く興味がない分野もあることを知り(デザインとか)
文章も意外とこなれていないので断念。

どちらも、全面的にダメなわけではないので
機会があればまた挑戦したいと思うのだが
年齢的にも再度読書の機会というのは
なかなかないように思えるのも
悲しいかな、事実だろう。

258korou:2016/03/03(木) 10:00:01
乙一ほか「メアリー・スーを殺して」(朝日新聞出版)を読了。

共著者の名前は、中田永一・山白朝子、越前魔太郎、作品解説は安達寛高だが
全部、乙一の別名義のはずなので
その意味では、乙一久々のユニークな短編集ということになるだろう。
最近の乙一は作品に出来不出来があって
しかも最も精力的に書き続けている中田永一名義のものがあまり面白くない
ということもあり
読む前の期待度はかなり低かった。

最初の作品(「愛すべき猿の日記」)だけ、その低い期待度そのままだった。
しかし、2番目の「山羊座の友人」あたりから俄然面白くなり
「トランシーバー」などは作風の変化も感じられ、しかもそれが予想外に出来が良いので驚かされた。
全体として、これは10数年ぶりの乙一の傑作と評価できる。
素晴らしい短編集である。
やはり、これだけ独自の作品世界を堪能させてくれる作家は、そうそう居ない。
今後も、これだけのものを書き続けられるだろうか、ぜひそうあってほしいと願う。

ご都合主義、ライトノベル風の非現実的なタッチなど
欠点も多いし、その欠点が致命的に感じられる読者も存在するだろう。
しかし、それを補ってあまりある想像力豊かな世界。
読書の喜びをこれほど感じさせてくれる小説は稀有である。

259korou:2016/03/03(木) 14:42:40
東直子「いとの森の家」(ポプラ社)を読了。

今年度の坪田譲治文学賞受賞作。
いかにも児童文学らしい目線が感じられる(と批評できるほど児童文学を読み込んでいるわけでもないが)。
ただし、子供の世界だけなので、劇的な展開は期待できない(もしそんな展開があっても不自然かもしれない)。
読んでいくうちに、そのへんが退屈でもあり
かといって退屈なまま中途で止めてしまうこともなく
何となく気持ち良い描写が定期的に出てくることを助けに
最後まで読み終えたという感じ。

昭和の話なのに、結構平成の今でもストレートに響く言葉で書かれているのは
児童文学ならではの”普遍的な「子供の世界」”の話だからかもしれない。
主人公やその姉妹、親友たちへの感情移入も自然に入っていけて
ほぼその作品世界のリアル感だけで、話は進行しているように思う。
これほど普通で、当たり前で、平凡な日常が連続しても
児童文学としては成立するのだな、と思った。

女性が女の子のことを書いたので
男性目線が不足しているのはマイナスポイントかもしれない。
子供の世界で面白い展開を巻き起こすのは
やはり男の子だろうと思われるので。
ただ、その分、10才前後の女の子の細やかな心の動きが
丁寧に描かれているのも確かで
そのあたりはこの小説の独自の良さではないかと思われた。

260korou:2016/03/18(金) 15:19:00
またまた断念した本

○吉田たかよし「受験うつ」(光文社新書)
面白い内容で、現職場の蔵書にふさわしいのだが
やや単調な記述でもあり、一度読書が止まるとなかなか再開しにくい面もある。
他の時期なら、それでもがんばって読むのだが
年度替わりのこの時期に、がんばるのは辛いのでパス。
半分ほどは読んだのだが・・・

○村田沙耶香「消滅世界」(河出書房新社)
興味深いSF仕立ての小説で
家族の在り方をセックスレスで突き詰めた形が
斬新で印象深かったが
そういう設定に入り込むには心のエネルギーが必要で
今はそこまでのエネルギーがないことから断念。
要チェックの作家ではあるのだが・・・

261korou:2016/03/22(火) 08:40:05
またまだ断念した本
○鹿子裕文「へろへろ」(ナナロク社)
面白い発想の老人介護関係本なのだが
あまりにも特別な人間ばかり登場するので
自分とは無縁な話という印象が次第に強くなり
それでも他の時期なら我慢して読み続けるのだが
この時期それも無理ということで断念。
介護は身近な関心事なので
あまり絵空事ばかり読んでも居られない。
こんな凄い人たちのことをいくら知っても
自分には関係ないと思ってしまうのだ。

262korou:2016/04/03(日) 11:21:50
久々の書評。年度替わりは妙に読書スピードが落ちるが、何故?

磯田道史「無私の日本人」(文春文庫)を読了。
穀田屋十三郎、中根東里、太田垣蓮月という一般的には著名でない人物3名の列伝。
最初の伝記は、やや長めで(それでも200ページ未満)、
話の落としどころもミエミエということもあって
正直ダレ気味な部分もあったのだが
後の2つは長さも適切で、一気読み可能な名品だった。
著者あとがきを読むと、最初の穀田屋の話には思い入れが深いようなので
その分必要以上に力が入ってしまったのかもしれない。
でも、全部を読み終わると、その思いの深さがむしろ好ましく伝わってきて
全体として、とても良い本に出会ったなという感が強いのである。
アマゾンでの高評価も頷ける。

その一方で、これはかつての日本人の高潔な志の物語であって
しかも、それは日本人固有のものというより
江戸時代という特殊な環境のなかで育まれた特殊な志ではないのかという
疑念も深まる(それは著者が思い入れを熱弁し、それを解説の藤原正彦氏が力説すればするほど)。
むしろ、そういう思い入れを抜きに純粋に歴史小説として読んだほうがいいのかも
という疑念が深まる。
優れた作品だけに、読者としての受け止め方に
そういう微妙なニュアンスにも敏感にさせられるのである。

その意味では
日本、日本人をどう捉えるかというところまで
思考が深まる作品だとも言える。
途中で思考を停止したその瞬間、
この本について正確に語ることは不可能になるわけだ。
読後直後の感想としては、ここまでが精一杯。

263korou:2016/04/03(日) 16:55:37
断念した本。

ジェフ・ベゾス「果てなき野望」(日経BP社)。
1月頃から延々と読むことを試みていたが、半分ほど(200pほど)読んで断念。
もっと薄い本でこの人を知りたいと思うようになり
落ち着いて読めなくなってしまった。
文章は可もなし不可もなしといった程度。
内容そのものは比較的興味のある分野なのだが(アマゾン誕生史)。

桐野夏生「OUT」(講談社文庫)。
桐野さんの新作が評判がいいので
代表作をちらちらっと読んでみた。
描写はリアルだが、長編小説らしい仕掛けを直感して
今のこの時期にはムリと判断。
新作が面白かったら、秋の終わりごろにまた読み始めてもいいのだが。

264korou:2016/04/12(火) 20:39:28
杉井光「ブックマートの金狼」(KADOKAWA・ノベルゼロ)を読了。

出だしの文章のスピード感が気に入って読み始める。
設定としては、元裏社会の有名人で、今は地味な書店の店長ということなので
もう少し書店業界の裏話とかが出てくるかな、と楽しみにしていたのだが
それは最初のほうだけで、途中からはもう裏社会時代の続きのような話ばかり。
しかし、スピード感は最後まで持続して、ページをめくる手が止まらなかった。
杉井さんはやはり巧いと思った。

どこを切り取っても100%娯楽小説である。
そういうものを、あの手この手で解説しようとしても始まらない。
あー、楽しかった!でいいだろう。

というわけで、読書のスピードが落ちたときには断然オススメ。
以上!

265korou:2016/04/19(火) 22:14:12
伊坂幸太郎「サブマリン」(講談社)を読了。

「チルドレン」の続作ということになるが
前作の内容をすっかり忘れていたとしても大丈夫なくらい独立した作品だ。
陣内さんという、やや誇張されたキャラを狂言回しのように使って
家裁調査官のありふれた日常を描き切っているのだが
これは実作経験のある自分としては
意外と簡単な仕掛けと言わざるを得ない。
伊坂幸太郎がこの仕掛けで失敗するわけがない。
逆に、伊坂幸太郎でも、その仕掛け以上のものを創るのは難しい。
その意味で、実に読みやすくスムーズなのだが
それ以上の意味づけはなかったと言える小説だ。

唯一、ローランド・カークのくだりは
妙に印象深い。
思わずyoutubeとかGoogleで調べてしまったほど。
これだけはこの小説を読む功徳だろう。

伊坂ノベルとしては安定感抜群。
でも、このスタンスからはこれ以上のものは望み得ないし
かといって読者は最上レベルばかり読みたがるというわけでもないので
これはこれでいい。

267korou:2016/04/24(日) 17:22:39
岡長平「続・ぼっこう横町」(岡山日日新聞社)の後半を読了。

この本は、前半が「岡山のいちばん長い日」で岡山空襲前後のことを書いてあり
後半が「岡山戦後史」と題して、終戦から昭和30年までの岡山周辺での出来事が
記してあり、今回は、その後半だけを読み通した。
後半だけとはいえ、完全に独立した1篇であり
272ページとボリュームもそこそこあるので
一応、読了扱いとして、ここに記録することにした。

前半の空襲時期の記載は、内容が内容だけに岡長平節が聞けないが
後半は特に遠慮するものはないので、期待通りの自由自在ぶりで
読んでいて懐かしかった。
まだ、これを未読だったのは幸せだった。
「生きて帰ってきた男」(岩波新書)に通じる、本当の庶民目線の戦後史であり
どんなに精巧な史実の組立を読んだとしても
なお、ここに書かれているような率直な感情を湧き起こす庶民の真実を
知ることはできないだろう。
専門家のあいだで微妙な扱いを受けるであろうこの書きっぷり、独特の記述は
読書人がおおいに推奨していかなければならない類のものである。
多分そうではないかと思っていたこととか
本当はそうだったのかな?と思わせるような記述がてんこもりだった。
本当の意味で知識を蓄えた感じがする。

268korou:2016/05/04(水) 20:44:41
北川恵海「ヒーローズ(株)」(メディアワークス文庫)を読了。

前作「ちょっと今から仕事やめてくる」が意外な感じの快作だったので
今回も書店に平積みの売れ筋になっていることもあり
かなり期待度大で読み始めた。
だが・・・

完全にライトノベル化していた。
それも劣化の方向で、確信犯のようにクオリティを下げていた。
この方向にいくと、もはや小説ではなくなるというレベルまで下がっていた。
あとがきを読むと、著者としてはある程度「楽しさ」「メッセージのまっすぐさ」を
意識して強調しているようだが
ハッキリ言って才能の浪費だと思う。
会話とか地の文の気の利いた表現が、これでは全く生きてこない。
この方向へ行ってしまったら、その分野では
もうすでに多くの仕事が成し遂げられているのでオリジナリティはないし
せっかくそれ以上のものが書けるのに勿体ないではないか。
編集者共々再考してほしいところだ。

ストーリーはご都合主義、不自然な心理展開、キャラの不統一感など
欠点だらけである(唯一、人気女性タレントの描写だけ秀逸)。
次作で修正を期待したい。才能はある人なのだから。

269korou:2016/05/05(木) 21:09:21
朝井リョウ「ままならないから私とあなた」(文藝春秋)を読了。

中編が2つの最新作。
昨年途中から新しい試みに突入する予定だった著者が
理由不明ながらその試みを断念していて
その断念直後に書かれた2作だけに
興味津々で読み進めた。
文体は相変わらず読みにくいが、それでも以前より文章の流れに特徴が出てきて
その分だけ、リズムにさえ乗れば読み進めることができるようになった。
また、取り上げる話題が、ますますピンポイントされ
ほぼ単一の話題を狭く深く追究する作風になってきている。
その結果、読後感は極めて息苦しく
小説を読む愉しさからはますます遠のいていっているように思われるが
そういう愉しさを抜きにすれば、それほど空疎でない何かが感じられるので
なかなか厄介である。
これほど評価の難しい小説も珍しい。
否定的に書くのは容易だが、それで片付けることはできない確実な質感。
でも、肯定的に論ずれば、どちらかというと文明批評のようになってしまい
文芸のそれではなくなってしまう。
はて、一体どう批評すればいいのだろう、これは。
私には回答保留の小説となった。

270korou:2016/05/22(日) 19:58:40
秋吉理香子「自殺予定日」(東京創元社)を読了。

改めて思ったことは
これほどスラスラと抵抗なく読める小説は稀有ということ。
その意味で、秋吉理香子は
今や、湊かなえを超えているかもしれない。

ただし、小説の出来としては
なかなか微妙なところだ。
すでにこの作家は
下手な直木賞作家よりも
はるかにストーリーテラーとしての才能を持っていて
それでいて、きっちりと「黒い」トーンを刻める作家なので
要求する水準は高いのだが
その水準で言えば、やや失敗作に近い。
この設定で、ハッピーエンドにしてしまっては
あまりに惜しいと言わざるを得ない。
まるで「君の膵臓をたべたい」のような青春小説になってしまっている。
それはそれでハイレベルな筆力で描き切れているので
全然駄作でなく、むしろ傑作の部類なのだが
この作家に期待するものは今や現役作家最高のレベルなので
期待度が高いばっかりに、読後感はそうなってしまうのである。

まあ、人物は描けているし
伏線も回収されているし
若干設定の甘さはあるものの(女子高校生が無人のときに家の中を探しまくったのに
実際に住んでいる人がそれに全く気がつかないなんてあり得ないし。そういうのが数多い)
何となくそういう甘さなんてどうでもよくなる不思議な魔力を持っている。
とりあえず秋吉理香子の才能はまだ枯れていない、でも、まだまだ書けるはず
といった結論になる。

271korou:2016/05/26(木) 13:06:49
住野よる「また、同じ夢を見ていた」(双葉社)を読了。

一度読みかけて、やや活字が小さ目で読みにくいのと
主人公の女の子の一人語りのような独特の文体に馴染めず断念していた。

でも気になって再度挑戦。
途中までは奇妙な味の淡々とした小説という印象ばかりだったが
落ち着いた感じの女の子に、そうも言ってはおられない事件が起こったあたりから
それまでの設定、文体、テーマといったもろもろの要素が
一気に何かを目指すかのように求心力を見せて、何かわからないけど凄い力を獲得し
そこからは涙なくしては読めなかった。
最近では珍しいほどの感動の読書だった。
「星の王子さま」の素晴らしさを意外なタイミングで初めて知ったときのことを
思い出した。
「千と千尋」を連想させる、というコメントを書いている人も居たが、それも納得。

まず言葉が美しい。こういう美しさには、なかなか出会えない。
それから、登場人物の輪郭が際立っていて、印象深い。
全体にファンタジックで、儚い夢のようで、物語を読む愉しさに満ちている。
いい本に出会った、という喜びが大きい。
誰にでも薦められる感じではないけれど、それでいて、誰にでも薦めたい、そんな本である。

272korou:2016/06/01(水) 16:48:03
中室牧子「『学力』の経済学」(ディスカヴァートゥエンティワン)を読了。

明確な”エビデンス”を求めようとせず、あいまいな根拠で何もかも決まっていく
今の教育界の現状に警鐘を鳴らす本である。
米国では、教育に関する実験手法が確立されていて
すでに教育政策にそれを生かす方向が有力になってきている。
この本では
それらの実験成果についておもなものの概要を紹介し
その結果明らかになってくる知見について分析を加えている。
なかなか、ありそうで今までまるでなかったと思われる教育関係本だと思われる。
ビジネス書大賞2016準大賞受賞作だけのことはある鮮烈な内容だ。

あとは、教育界に根強く信じられている”普遍化されない個の尊重”を
どう扱うかだろう。
いかにエビデンスを固めてきても、実際の教育の現場で全くそう思われていないのであれば
その政策は支持されず、担当者の心理面から崩れていく可能性はある。
経済学における最近のトレンドである「合理的に行動しない人間」の問題だ。
もっとも、そのことは、この本が拠って立つ立場と関係があるわけではなく
別問題として把握されるべき話だが。

教員の質の問題を取り上げて、ボーナス増額は効果ないが
先に与えたボーナスを後で減額する手法は効果がある、という実験結果には苦笑させられる。
実際、そんな政策は取りようもないが、心理的には分かるような気がする。

エビデンスの階層の話など、興味深い話が多く載っている本である。
教育に少しでも関心がある人には、断然オススメできる本だと思う。

273korou:2016/06/01(水) 17:03:07
星新一「人民は弱し 官吏は強し」(新潮文庫)を読了。

「明治・父・アメリカ」の続編のような位置になる。
失うものは何もなく、前途洋々たる感じだった前作に比べ
この本での星一は、当初から有力な製薬会社のトップとして
すでに名声、地位を不動のものにしていたのだが
そこから、次第に影が差しこみ
選挙で落選して以降、急激に官憲からの圧力を受けて
ついに事業撤退にまで追い込まれるという
なかなか読んでいて辛くなるような話になっている。
この本の後半は
いくらなんでもこれほど無茶な話はあるまいと思えるほど
露骨な星潰しの話ばかりで
これについては、本当のところ、逆の立場からの記述も知りたいところだ。
さすがに、いくら星新一氏といえども、肉親の欠点を赤裸々に書くことはできなかったはずだから。

それから、興味深いのは、晩年の後藤新平の力のなさである。
後藤に関しては、意気揚々たる時代の記述はあまたあるものの
加藤高明内閣成立後のあたりから第一線を退いているようで
その頃の様子が今一つ分かりにくかったのだが
この本のとおりならば、全く政治家としての力を失っていたということになる。
あとがきの鶴見祐輔の文章ともども、これも侘しい偉人の晩年の様子として
貴重な史実描写だと思った。

世間ではこっちのほうが評価が高いが
どうも身内からの視点が強すぎて、むしろ前作のほうが
読んでいて心地よく、かつ江戸末期から明治時代の世相も感じられて
読んでいて面白かった。
まあ、どちらにせよ、星新一のノンフィクションは面白いことに変わりはない。

274korou:2016/06/02(木) 22:26:22
大橋鎭子「『暮しの手帖』とわたし」(暮しの手帖社)を読了。

連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の関連本。
ヒロインのモデルである大橋鎭子女史が
生前にまとめた自伝であり
同時に、この本の後半はそのまま「暮しの手帖」という雑誌について
創設期の様子を描いた貴重な記録となっている。

文章は平明でひねりはなく、物足りない感じもするが
キャリアウーマン、ハンサムウーマンとして活躍した女性としては
これは当然の文体であり、気性がそのまま出ている文体とも言える。
随所に昭和の人物模様が垣間見える記述があり
そのあたりは個人的に楽しかったが
後半になると、雑誌で好評だった企画の紹介ばかりになって
やや退屈してしまうのも否めない。
また雑誌が雑誌であろうとしてそれが普通に許された牧歌的な時代でもあるので
その意味でも、今読むと、ただひたすら羨ましいというか
いい時代だったんだなという思いも深くする。

まあ、普通にすらすら読める好著。
ただし、昭和史に興味のない人には面白く読めるのかどうか分からない。
多分ダメだろうな。

275korou:2016/06/03(金) 16:36:21
水野敬也「神様に一番近い動物」(文響社)を読了。

この本を読み通そうという気は全くないまま、ちょっとだけ読んでおこうと読み始めたら
意外と面白くスラスラと読め、結局そのまま全部読了した。
なかなか珍しい読書体験だった。

寓話形式の短編集で、かつ人生訓が込められているとなると
あまり読む気がしないはずなのだが
この作品は、例外のように読みやすく、かつ教訓臭もしつこくない。
「スパイダー刑事」のように思わずニンマリするようなユーモア物があると思えば
表題作「神様に一番近い動物」のように最後で泣かせる話もあり
多彩で飽きさせないストーリーテラーぶりには感心させられた。

不思議なのは、実にざっくりというか、悪く言えば雑な文章ともいえるので
表面的な描写とか、感情、心理が描き切れていないとか
そういう不満が出てきて当然なのに
全くそういう印象が出てこないという点である。
寓話というスタイルのせいなのだろうか。
なかなか簡単なようで奥の深いことのようにも思える。

これこそ万人向けの本だろう。
誰にでも安心してオススメできる、

276korou:2016/06/05(日) 20:35:43
レオン・レイソン「シンドラーに救われた少年」(河出書房新社)を読了。

今年度の読書感想文課題図書で、とりあえず目を通しておこうと思ったら
そのまま全部読了してしまった。
テーマは重いが、その凄まじい体験をした当の本人である著者の感性が素晴らしく
リアルで強い印象を残すので、思わず全部読まされてしまう迫力を持っている。

アウシュヴィッツ、ホロコーストについて
全く初めて読むわけではないのだが
これほど真に迫った描写は初めてといってよい。
少し前に「夜と霧」を読んで、かなりのショックを受けたが
これはまた別物の感動を覚えてしまう作品だ。

優れた本にふさわしく、随所に印象的な言葉がちりばめられている。
ここでそのいくつかを引用したいのだが
自分の記憶力の悪さがそれを許さない。
読んでいる間は、そういう言葉の厳しさ、おごそかさが
気を引き締め、読書の緊張感を高めてくれた。

課題図書としてはピカイチと言ってよいだろう。
「白磁の人」以来の感激だったし
「白磁の人」以上の感動だった。
こういう本こそ後世まで読まれるべき本である。

277korou:2016/06/12(日) 10:40:35
(まんがで読破)「精神分析入門 夢判断」(イースト・プレス)を読了。

まんがで読破シリーズにもいろいろあって
まんが中心の軽い読み物でしかないものがある一方で
文字がきっしりと詰められていて、まんがでありながら読み通すのに骨が折れる類のものまであり
幅広い。
これは断然後者に属し
フロイトの人生のあらまし(ユンクとの訣別まで書かれている)と
精神分析という手法に至る過程が、かなり詳しく描かれている。
生き様とか周囲の状況まで含めて、フロイトを理解しようとするならば
これ以上適切な入門書はないと言えるだろう。

(まんがで読破を読み通しても
 このスレッドで取り上げることは原則としてないわけだが
 これはまさに入門書として適切なので
 あえてここに記すことにした)

278korou:2016/06/28(火) 10:14:56
山田宗樹「代体」(角川書店)を読了。

「百年法」が印象深かったので、同じような題材と知って
興味深く読み始めた。
「百年法」ほど話がストレートではなく
読めば読むほど話が複雑になっていくのには困ったが
全くついていけないというほどでもなく
途中からは、ほぼイメージだけで読み進めていった。

読破中にいろいろと雑用も入って
丸一日空けただけで話が分からなくなり
読んだはずのページを読み返す作業が多くなったのには閉口したが
その割には読後感はスッキリしている。
やはり話というか、アイデアそのものが面白いので
読後の印象は「百年法」に近いものを感じた。

とはいえ、細かいキズはかなりあって
途中まで魅力的なヒロインだった女性捜査官が
後半にはほとんど描写がなくなったのは不自然だし
クライマックスでの話の収め方も
ハッキリ言えば安易に過ぎるだろう。

総体として、こういうのを好きな人には無条件にオススメできるが
好まない人にはなかなかその良さを伝えにくいので
やはり「百年法」とまではいかないかも、という評価かな。
でも面白かったです。

279korou:2016/07/07(木) 14:45:42
岡本茂樹「反省させると犯罪者になります」(新潮新書)を読了。

何気なく手に取った本だが
アマゾンなどでの書評も好評なのが頷ける好著だった。
一貫して「反省させること」の安易さを指摘し続け
その代わりに、本当の解決策を考えていくというスタンスなので
著者の主張は明快だ。

いろいろな場面が思い浮かんでくる。
自分自身の心の爆発、身近な他者の爆発、まさに学校での生徒の爆発。
それぞれ自分が了解している事実を踏まえて考えると
たしかに著者の主張に共感できるところは多い。
実際に問題生徒を学校で担当したり、
刑務所での更生プログラムを支援する立場であるだけに
説得力がある。

ただし、遊びの少ない本で、極めてまじめで、主張の反復も多い。
読んでいて疲れる本であることも確かである。
でも、読後に無駄な疲労が残ることもないので
これはこれで仕方ない。
まじめな本にならざるを得ない面もあるわけだし。

280korou:2016/07/22(金) 11:09:54
下村敦史「難民調査官」(光文社)を読了。

出だしは結構文章が流暢で読みやすく思え
このまま一気に読めるかなと思いきや
そこから先はなかなか進めなかった。
それは作品のせいというより、この時期の自分のコンディション、状況による
停滞だったと思う。
作品そのものは一気読みもあり得るスムーズな展開だった。
文章も最後まで乱れず、なかなかの才能だと思った。

問題は、終盤の盛り上げと読後感の弱さである。
何か尻切れトンボのような物足りなさはどうしたことか。
このテーマだとこうしか終わりようがないのも分かるが
そこをあっと驚く仕掛けで読者を未知の世界へいざなうのが
優れた小説が持つ力ではないのか。
この小説には、そういう部分が決定的に欠けている。
おかげで、徐々に固まりつつあった登場人物のイメージも
一気に薄いものになってしまった。

文章は一流、展開も一流、結末が三流という小説。
結構この弱点はキツいような気がする。
文章のなめらかさとか、展開の上手さはあるので
このままではいかにも惜しい。
なんとかクリアして優れた作家になってもらいたい一人である。

281korou:2016/07/25(月) 08:35:16
乙野四方学「僕が愛したすべての君へ」「君を愛したひとりの僕へ」(ハヤカワ文庫JA)を読了。

夢中で読み進め、何と1日で2冊の文庫本を制覇するという
今後二度とないだろうと思われる読書体験となった・

SF設定の恋愛モノという、最近流行りの小説である。
しかし、同種のものが乱立するなかで
この小説の簡潔さ、読みやすさ、読者を前へ前へと誘導する推進力の強さは
断然際立っている。
途中で止められるわけがない。
しかも、読後の感想で、アマゾンの書評を読んでも全く違和感がないというのも稀有なことだ。
「僕が」を先に読んだ自分としては、書評で誰かが書いていたように
読書記憶をリセットして
今度は「君を」を先に読んで、どんな感じになるかを知りたくなった。

パラレルワールドということで、途中で理解がついていかない部分もあるが
最低限の理解ができれば
「君を」の最終設定の結果が「僕が」ということになることが分かるので
本当は「君を」を先に読むべきなのだろう。
しかし、「君を」の日高暦は、あまりにも佐藤栞に一途なので
人によっては、そこに違和感を覚え、「僕が」を読む気になれないかもしれない(実際、アマゾンの書評でもそうなっていた)
ゆえに「僕が」を先に読む方が無難で、そうなると、これはSFテイストの恋愛モノというジャンルになるのだろう。

いずれにせよ、今年読んだなかで最高の面白さだった。
やはり今が旬のジャンルには、次々と傑作が生まれてくる。

282korou:2016/08/12(金) 21:21:37
小林信彦「テレビの黄金時代」(文藝春秋)を再読、読破。

以前読んでいて、非常に面白かったのだが(小林さんのエッセイなのだから当然だが)
このたび永六輔、大橋巨泉と続けざまに亡くなったこともあり
この本にいろいろなことが書いてあったはず、と見当をつけ
再読しようと考えて県立図書館で借りてみた。
やはり、あまりの面白さに、他の読むべき本そっちのけで貪り読み
この猛暑の中、おおいに体調を崩してしまったのだが
そこは仕方ないだろう。

再読して驚いたのは
もっと俯瞰的、客観的に書いてあるはずと思っていたのに
やはりこれは小林さんの著作であり、小林さんが見聞きしたことだけが書かれているという点だった。
最後のほうで、ちょっとだけ総論的なことが書かれているので
初読のときはそれに惑わされたのかもしれない。
だから、永さん、巨泉氏などについても
それほど詳しく書かれていなかった。
ほとんど井原高忠のことばかり書いてあると言っても過言でなく
実際、ことテレビに関しては、小林さんは井原さんの掌で踊らされていたわけだから
むべなるかなである。

こういう本が絶版で入手不可能であるのは
現在の日本の情けない姿そのものだ、
小林さんの芸能エッセイは、すべて文庫版で全集にしておくべきである。
すべての芸能好きに読まれるべき古典ですよ、これは。

283korou:2016/08/15(月) 21:40:03
村田沙耶香「コンビニ人間」(文藝春秋)を読了。

今回の芥川賞受賞作。
一気読み。
信じ難いほどの読みやすさ。
恐らく芥川賞史上最も大衆受けする作品になるだろう。
これほど読みやすい受賞作は記憶にない。

内容はシンプルだ。
もともと空虚な自分、世間とズレた部分を自分自身で理解も修正もできないまま
そのまま自分自身を持て余すように生きてきた主人公の女性が
コンビニで働くときだけ、確実な自分を意識するという内的世界が
まず確固としてあって
その女性の内面では世界はそれで統一されていたのに
そのコンビニでのバイト失格者として現れた男性が
女性とは正反対に誇大妄想な自分、空虚を怖れるあまり逆に現実逃避している自分の持ち主で
その真逆なパーソナリティが偶然にも結び付き
お互いの世界を混乱させていく。
しかし、女性は最後の最後で、コンビニ人間としての自分を再確認する、という小説だ。

厳密にいうと、小説の造形としては甘い部分もある(それは別の作品にも感じられ、その時は
読むのを挫折したのだが)
ただ、今回は、筆致がスムーズで一気に惹き込まれるものがあった。
もともと純文学的要素の高い世界を構築できる人なので
こうなれば鬼に金棒というわけである。
誰にでもオススメできる文学史上の金字塔と言っても過言ではない。
小説とはこういうものだというイメージを知るには最適な作品だ。

284korou:2016/08/30(火) 08:54:45
崔実(チェ・シル)「ジニのパズル」(講談社)を読了。

今回の芥川賞候補作で、すでに群像新人文学賞は受賞している小説。
話題の”純文学”だったので、期待大で読み始めたものの
予備知識としてあった在日の話がなかなか始まらず
やや読みにくいスタイルで、その後の米国での生活が淡々と描かれているので
最初は戸惑った。

在日だった頃の話になって、やっと焦点が合ったような感じになり
テンポも出てきた。
じゃあ米国での話はいらないのかというと
エンディングで、どうしても必要になってくるわけで
このあたりは小説技巧としては致命的に未熟な感じがした。
構成上必要なものが、これほど蛇足に感じられるのはどうかと思うわけだ。

在日の部分も、筋だけたどれば予定調和で物語の振幅も小さいように思う。
ただ、誰も否定できないこの作者の美点”熱”が、文章の端々にも息づいていて
その”熱”だけで、すべての欠陥をカヴァーできてしまう魔法のような魅力を持っているのである。
いまどきそんな作家は珍しい。
柳美里とか、別の意味で乙一とか。
小器用な作家が多い中、この資質は貴重だ。
けれども、扱った題材とか、”熱”のとらえどころのなさなどで
この作家の未来には大きな危惧を覚える。
この作品に関しては、その”熱”を味わうだけでも十分一読の価値はあるのだが・・・

285korou:2016/08/31(水) 12:44:57
薬丸岳「ラストナイト」(実業之日本社)を読了。

出だしから、この著者ならではの読みやすさ、スリル感満載で、一気に作品世界に吸い込まれてしまう。
2つ目の短編を読み始めて、連作短編であることに気付き
そこから段々と全体像を予測しながら読み進めていく。
人によっては、この形式をとった必然性が感じられないらしいが
自分などは非常に面白いと思いながら読めた。
何よりも、あいまいなキャラ付けがなく、
さらにキャラから一歩踏み出そうとしている人物ばかりなので
その動機が明確なことから、繰り出されるドラマに真実味がこもっている。
描写も常識的で、何かを疑うという純文学ではないのだが
何かを描くという物語性は十二分に備わっている。

薬丸小説の醍醐味は完璧に堪能できる。
主人公の行動が突飛だという批判もあるが
確かにそれは言われてみればそうであるとしても
そのことを感じさせないリアリティに脱帽するばかりだ。

このテのストーリーテラーとしては期待を裏切らない作家だ。
このテの小説が好きな人には断然オススメである。

286korou:2016/09/11(日) 16:00:24
井手孫六「石橋湛山と小国主義」(岩波ブックレット)を読了。

論文応募のために読み始めたが
60pほどの小冊子なので、すぐに読み終えた。

石橋湛山の思想の背景には
大学時代の田中王堂先生との出会い
東洋経済新報社での片山潜という存在
そして植松考昭、三浦鋳太郎という先輩社員の存在が
大きかったことを知る。
さらに、小国主義とは
欧米の真似をして帝国主義(=大国主義)に走るのではなく
その弊害を認識してあえて反帝国主義を採ることによって
欧米からの敬意を獲得するという趣旨のものであることも分かった。

さて、論文のためには
あと蔵相時代の石橋を調べる必要があるので
そのあたりは、1冊を読破というより
多くの本から該当箇所をあたるという読書になる。
しばらくは、そこに時間を費やすこととしよう。

287korou:2016/09/11(日) 16:07:05
辻村深月「東京會舘とわたし(上・下)」(文藝春秋)を読了。

久々の上下2冊本の読破となった。
東京に実在する東京會舘という建物にまつわるエピソードを
ノンフィクションとして仕入れた話を元にして
最終的にはフィクションの連作短編としてまとめた小説である。
ゆえに、実在の人物も少なからず登場し
しまいには作者自身も、男女が違う形で登場してくるという
なかなか独特のタッチが印象に残る小説になっている。

近代史に興味のある人には
そこそこ面白い題材になっているだろう。
実際、上下本にもかかわらず読み進めてみたのは
そういう側面に惹かれたわけだし
文章も相変わらず平易で読みやすい。
ただし、いかにも毒のない設定は
人によっては物足りなさを覚えるだろうし
下巻のいくつかのエピソードは
ややピントがずれているよう気もする。

結局、ユニークな立ち位置に居る作者を意識しつつ
近現代の東京の風俗が愉しめるというのが
この小説のキモだろう。
向いている人には向いている小説。

288korou:2016/10/01(土) 22:36:51
トラヴィス・ソーチック「ビッグデータ・ベースボール」(KADOKAWA)を読了。

先々月から読んでいて、形式的には3カ月越しの読書となった。
かといって、つまらなくて読みにくかったわけではない。
内容からいえば、近年読んだ野球関係の本でも屈指のレベルで
これを読んでおくのとそうでないのとでは
今のMLB中継を見る場合、大きな差がついてしまうほどだと思われたほどだ。
最新のMLB事情が満載で
今、MLBは大きな変革期を迎えているということが
よく分かる本だ。

ただし、パイレーツ担当の記者がパイレーツのここ2,3年の変化を追っただけ
ということでもあるので
すごく大切なことを書いているはずなのに
叙述がこじんまりとしているのも事実で
そのあたりは「マネーボール」が証券界のIT化と比較して書いてあるのと
だいぶ違う。
どうしてもMLBファン限定の本というイメージがつきまとう。
これだけ重要なことを書いているというのに。

守備位置の発想、キャッチャーの捕球技術、ゴロ重視の投手評価など
以前から直感的には言われていたことを
データで厳然とした事実として示したセイバーメトリクスの発展形”ビッグデータ”こそ
今後のMLBの最大のキーワードとなるだろう。
そういう未来を示唆した素晴らしいスポーツ・リポートである。

289korou:2016/10/03(月) 22:44:29
東野圭吾「私が彼を殺した」(講談社文庫)を読了。

加賀刑事モノを全部読んでいるつもりだったが
つい最近、これだけを読み逃していることを発見。
さっそく職権乱用で、いや当然必要な選書として購入。
最初は、視力減退によるのか活字が小さく見えて
読書を断念しようかと思った瞬間もあったが
どうしても断念し切れず、前半は裸眼で読み通し
後半は一気読みとなった。

で、読後感はといえば
満足感と、ネットでググったおかげの不満感が同時に残った。
1999年頃の作品なので
東野作品としては最も脂の乗り切った頃で
叙述の巧みさには目を見張るものがある。
いかにもミステリーという自信たっぷりな構成で
圧倒される想いだった。
なかなかこれだけの充実作にはお目にかかれないだろう。

とはいえ、たしかにネット住民が指摘する大きな瑕疵は否定できない。
これでは推理にならない、と言っても大げさでない。
なぜに連載時とノベルスとで犯人を変更したのかも不明だが
連載時に設定した犯人だと、もっと大きな瑕疵があったのだろうか?
そのへんはもやもやとした感じになるが
実際のところ、本来は致命的なミスであるそういう瑕疵さえ
この迫真の叙述力の前には
もはやどうでもいいと思えてくる。
さすがに東野圭吾のこの時期の作品は凄い、凄すぎると言わざるを得ないのである。

290korou:2016/10/12(水) 13:22:41
中村計「勝ち過ぎた監督」(集英社)を読了。

読み通すのに1か月ほどかかってしまった。
やや活字が小さいことも影響したものの
実際のところ、雑事で忙しかったことに尽きる。
本来は読破に1か月もかかる退屈な本ではないのだ。
圧倒的に面白い高校野球の本なのだ。

駒大苫小牧の監督として
夏の甲子園連覇を達成した香田誉士史氏の
栄光と挫折の舞台裏を描いた本である。
予想通りの展開ではあったが(栄光と挫折については)
その人物像は破天荒で、それがこの本の大きな魅力となっている。
純粋で、小賢しい大人の計算など念頭にもない性格は
全然別の世界だが、小保方晴子氏と似たものを感じた。
その所属する世界で長く生き延びるには
あまりにも適合性のない素質!
しかし、大きな仕事に立ち向かうことのできる才能の持ち主。

野球ドキュメンタリーとして
水準以上の筆力と充分な取材量を思わせ
まさに一気読みできる(自分は1か月かかったが・・・)傑作と言ってよい。
すべての野球好き人間にオススメできる本だ。

291korou:2016/11/01(火) 08:35:51
三秋縋「恋する寄生虫」(メディアワークス文庫)を読了。

待望の三秋さんの新刊。
期待通りの面白さ・・・と書きたいところだし
実際そうだったのだが
最初のうちは設定の不自然さに戸惑い
なかなかページが進まなかった。
(いつも通りに)とことん内向きな主人公が登場し
そのねじくれた(でも本当は普通っぽい)心の内面を冷静に描き出すタッチは健在だったものの
設定がどことなく不自然で
なかなか感情移入し辛かったので
前半は読むスピードが上がらなかった。

「虫」の正体が暴かれるあたりから
俄然面白くなり
主人公への感情移入も容易となる。
そして、一気呵成にクライマックスに達し
余韻を感じさせるラストのあたりは
さすがに巧いなと思わせた。

なかなか微妙なラインに立っている作家だと思う。
こういうのを同じレベルで書き続けるもよし、
少しずつ深めていって新たなファンタジーの世界に到達するもよし、
一体どっちに向かっていくのだろうか。
今後も目が離せない作家である。
今のところ、凡作なしの稀有の作家である。

292korou:2016/11/03(木) 14:49:39
小林信彦・萩本欽一「ふたりの笑タイム」(集英社)を読了。

仕事上やむを得ず本を借りざるを得なくなり
それならということで、小林信彦本をリクエスト。
未読の本だったが、予想に違わず面白い本だった。
既読の事実も多かったが、案外そういうエピソードを
欽ちゃんが知らなかったりするので
その初めて聞く感じ、リアクションが興味深くて
一気に読み終えた。

体系的に叙述するのではなくて
お互いが対話の流れで話題を振っていくので
話全体としてはとりとめないものになったのは仕方ないところ。
ある意味、こういう話題で延々と話が続くのは
もう今の時代、あとは伊東四朗くらいしか思いつかないので
これはこれで貴重な対談ということになる。

NHKBSでやっている「たけしのエンターテインメント」なんかで
見当違いなフォーカスが当てられたりするのを見ているので
本当にこういう本は貴重だ。
小林さんが亡くなったら、もう誰も修正できないし。
大滝(詠一)さん、なんであんなに早く亡くなったのか・・・惜し過ぎる。

293korou:2016/11/05(土) 21:34:14
森見登美彦「夜行」(小学館)を読了。

大きめの活字に、導入部から読みやすそうな展開があって
これは久々に森見本を読了できるかな、と思った。

・・・で読了し、これは唸るしかない。
読後感の不思議さ、いや最終章のある意味物凄く怖い世界を覗いて
すぐに読了となるのだから、何とも言葉で言い表わせないものが残った。

これは映像では表現できない。マンガでもダメ、美術でもダメ(作中に銅版画が重要な役割を果たしているとはいえ)。
これこそ読書をして、読んでいる者が想像力を働かせ、
その想像力の賜物で
実際に体験するよりもはるかにインパクトの強い衝撃を与えているのではないか。
まさにこれこそ読書の醍醐味ではないか。

今年最高に衝撃を受けた小説である。
じっくり考えてみれば、こういう衝撃は全く初めてではないような気もする。
しかし、ここ数年、そういう読書体験をしていなかったのは断言できる。
そして、今、久々にそういう衝撃を味わった。
だから読書はやめられない。
凄い。素晴らしい。

294korou:2016/11/07(月) 16:18:58
井上章一「関西人の正体」(朝日文庫)を読了。

偶然手に取った本だが面白かった。
井上さん独特の叙述スタイルがうまくハマっていて
かなりどぎついことを書いているのだが
読んでいて不快な感じがせず
むしろ笑いのスパイスとして機能しているくらいだった。

内容は、もっぱら関西人の自虐趣味全開で
特に東京人がそう主張しているわけでもないのに
やたら東京について言及したうえで
だから関西は没落しているのだ、それなのに関西人はそのことに無自覚だと
憤慨し続けているのである。
しまいには、あとがきで「東京も危ないぞ」と書いたりしていて
しかも大真面目に深刻に書いているのが笑えるのである。
どこまで本気なんか冗談なんかわからん本だ。
それこそこれが関西人の正体なんかもしれん。

というわけで(どんなわけや!)
関西と関東を対比して考えるクセのある人には
興味が尽きない本になっている。
そうでない人には、井上さんの真面目さを愛でることができる人のみ
一気読み可能かな。
それ以外の人は・・・まあ、時間のある人はどうぞという感じ。
読みやすいので、読了できず損したということはないでしょう。

295korou:2016/11/09(水) 09:05:44
東野圭吾「恋のゴンドラ」(実業之日本社)を読了。

いつもの東野圭吾ではないのだが、相変わらず一気読みさせる魅力を持っている。
犯罪、事件は出てこず、終始一貫して男女の恋愛模様の話というのも異色だが
それでいて、よく練られたストーリーになっているのは、いつもの東野圭吾だった。

ただし、恋愛模様で読ませるといっても
よくよく考えてみれば、登場人物の人格の上っ面だけが描写されているだけである。
そのあたりは、直前に読んだ森見作品とは随分違うわけである。
かといって、森見作品が抜群で、東野作品がくだらないということで確定かというと
そうとも言えないのが、小説というジャンルの奥深さだ。
映像メディアでは、純粋に作品の奥深さだけにフォーカスした場合
決してこんなことは起こらない。
上っ面だけの映像はそれだけのことで、まあ「くだらない」の一言で終わりである。
人気タレントが出ていれば、上っ面だけでもそのタレントのオーラで見るべきものがあることもあるが
それは映像そのものの出来とは別の話である。
ところが、小説の場合、上っ面だけであろうと、それが東野作品くらい見事組み合わせて書かれると
それはそれで読後に印象を残すのである。
やはり、文字という抽象的な記号を使って描写されるので
いくら表面的でも想像力を喚起されることがあるのだろう。

そういう意味で、これは完璧な小説である。
読後直後にかなりの感情が引き起こされ、それは文字通り「非日常」の感覚である。
ただ、森見さんの場合、それは深く長く感銘を残すが
東野さんの場合、作品によっては瞬間の感覚にとどまるというだけのことである。
そして、瞬間であれ「非日常」の感覚は尊い。
読書の醍醐味の一つだろう。

296korou:2016/11/10(木) 12:35:32
元永知宏「期待はずれのドラフト1位」(岩波ジュニア新書)を読了。

それほどの内容でもないのだが
例によって野球本なので読み切ってしまった。
失敗したドラフト1位の選手の列伝のようなものだが
さすがに青少年向け新書だけあって
たとえば多田野投手の項目では「ゲイ疑惑」の記述が一切なく
終始健全な感じでごまかされている。
でもそれでいいのだろうか。
岩波ジュニア新書を読んでいると、いつもなんとなく感じる物足りなさと不十分さが
そういうところに出ているように思う。
そして、岩波ジュニア新書は、岩波書店としても、ジュニア新書としても
もうその方向から脱皮できなくなっているのだ。

もっと面白くできたはずの素材とか、上出来な企画を台無しにする出版姿勢などを思えば
実に残念な本である。

297korou:2016/11/12(土) 12:48:39
西野亮廣「魔法のコンパス」(主婦と生活社)を読了。

偶然知った本だが、予想外に面白かった。
というより、今年最高のフィクションが「夜行」(森見登美彦)なら
今年最高のノンフィクションはこの本かもしれないと思えるほど
感銘を受けた。
短期間で良い本に出遭う奇跡に驚かされる。
実際、三秋縋の小説を除けば
この3,4年で1冊も
これだけのレベルの本に出会っていない印象すらあるのだから。
(このことはちょっと検証してみたい気もする。後でこのスレをレビューしてみよう)

さて、この本は、一言で言えば
世界をどう見るかというNDC「159」の本であり
芸人が書いた本の分類NDC「779」に止まらない。
あとがきの冒頭の言葉「未来はすぐに変わらないが過去は変えることができる」
といったような逆説の真理をふんだんにちりばめながら
時代の趨勢を先取りして実際に体験したことを(大抵は成功例なのが玉に瑕だが・・)
うまく分析してみせた本だ。
思いのほか説得力があり、文章も気が利いていて上手いと思う。
こういうのが万人向けのオススメ本なのだろう。

そして楽しみなのが
これだけの発想力、行動力の著者が
これからどんな新しい展開を見せていくのかという点だ。
本は書いてしまえばすべて過去の出来事のように封印されるが
作者はその後も生き続けて未来を創造し続けていく。
あとがきの文言をもじれば「過去は書いたとおりだが、未来はまだ誰も書いていない世界」
という期待に満ちている。

298korou:2016/11/16(水) 22:00:06
岩瀬成子「マルの背中」(講談社)を読了。

なんでこの本を読もうと思ったのか(=選書したのか)思い出せない。
しかし、最初から児童文学の王道を行くような安定した描写に惹かれていき
意外なほどすんなりと読み終えた。
久々に小学生だった頃、低学年から中学年にかけての年代の頃の
「たくさんの気持ち」を思い出した。
大人から見たときには、なんということもなくても
子どもは子どもの心の容積のなかで一生懸命生きている。
大人になってすべてを理解したつもりになって
そんなひたむきさを忘れてしまうのだが
こうして思い出してみると驚くほど深くて多様な感情が湧き出てくる。
子ども時代って意外と苦しくて辛いものではないだろうか。

そんなことを思い出しながら
主人公の女の子の健気さにも感銘を受けて
作品世界に没頭できた。
児童文学に没頭するなんて久々だ。
初めての作家で、しかも馴染のない児童文学で
これは意外な読書体験だった。

299korou:2016/11/17(木) 16:47:21
二宮敦人「最後の秘境 東京藝大」(新潮社)を読了。

書名の通りで、東京藝大の学生へのインタビューをもとに
その最後の秘境ぶりを紹介している本だ。
芸術を専攻している学生だけに
ユニークな人材が豊富だろうなと想像していたが
インタビューから窺えるのは
何かを作り上げるための想像以上の準備、心構えの大変さと
ほぼプロフェッショナルとも言ってよい芸術への姿勢だった。

著者は優れた小説家、ストーリーテラーだが
ここでは「秘境の紹介者」に徹して
ノーマルな感性を保ちながら
藝大生のノーマルさとユニークさをあぶり出している。
なかなか見事なレポートぶりだと思う。
題材にもよるが、軽いノンフィクションなら
また読んでみたいと思わせるものがあった。
実際、今やこの本はロングセラーになっている。

300korou:2016/11/17(木) 16:55:25
にしのあきひろ「えんとつ町のプペル」(幻冬舎)を読了。

にしのあきひろ作品らしい綿密で濃厚なタッチの絵が
今回は鮮やかなカラーで比較的長編として展開されている。
絵の精密さは相変わらずで
それだけでも見る価値はあるだろう。

ストーリーも
今回初めて「にしの絵本」を見た人には
インパクト十分だろう。
自己犠牲がテーマで、うまく筋をまとめている。
しかし
これは「ジップ&キャンディ」のストーリーと同工異曲であり
その点で、同じネタの使い回しというのは
前作を知っている者にとっては不満も残る。

全体として、「にしの絵本」を初めて読むかそうでないかによって評価は分かれそう。
もちろん、初めてでなくても、絵のクオリティの高さは楽しめるわけだが。

302korou:2016/11/25(金) 14:14:01
七月隆文「天使は奇跡を希う」(文春文庫)を斜め読みで読了。

読み始めて、細部のテキトーさが気に入らず
でもヒットしている小説なので、そのキモとなっている作中の「秘密」は知りたくて
結局、ものすごいスピードで斜め読みして読了。
「秘密」もなんとか把握できたので
我ながら効率よい読書ができた(約40分)

悪魔という得体のしれない空想上の設定が必須なので
しっかり読んでも感情移入できなかっただろうということは想像できた。
それを踏まえて、この作品には
少女のけなげな思いがリアルに伝わってくるという美点を感じる。
青春小説として、青春の時期に読む小説としては
十分アリだろう。
大ヒット作「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」と比べれば
ファンタジーな部分が目立ち過ぎて
リアル小説にはハマる大人の読者としては
抵抗感がより大となるのは仕方ないとしても。

仕掛けさえよりリアルなら
万人にオススメできる筆力は持っている作者である。
次作を期待したい。

303korou:2016/11/25(金) 14:23:44
こうの史代「この世界の片隅に(上・中・下)」(双葉社)を読了。

これもかなりの斜め読みとなった。
「夕凪の街 桜の国」の作者による
やはり戦争・原爆をテーマとしたふんわりとしたマンガで
「夕凪」とは逆の時間軸で
戦前から終戦直後までの時代を背景に描かれている。
戦前の「家」の雰囲気が
独特の朦朧とした作風で描かれ
民衆レベルの昭和史を知る絶好の読み物となっている。

やや話の飛躍(orスケッチの飛躍)が多すぎて
話のつながりがみえにくい点もあるが(自分としては結構キツいものがある)
全体としては良いタッチのマンガであることに間違いない。
高評価も納得である。

304korou:2016/11/28(月) 16:29:08
木原浩勝「もう一つの「バルス」」(講談社)を読了。

今や怪談本の編者、そしてコンセプトライターという形でベストセラーの仕掛人となっている著者が
かつて宮崎駿監督のもとで「天空の城ラピュタ」の制作進行をしていた頃の実話を
詳しく書いた本である。
ラピュタについての場面場面の解説が詳しすぎて
そのほとんどに記憶のない(一度だけは全部通して観たはずなのに)自分としては
読みこなすのに苦痛を感じるときもあったが
全体として読みやすい、わかりやすい文章で
なんとか読了できた。
宮崎監督の作品制作へのストイックな姿勢とか
むちゃくちゃな忙しさになってしまう当時のアニメ業界の様子とかは
うすうす知ってはいたものの
かなり具体的に書かれていて参考になった。

スタジオジブリの最初の頃だけで
しかも「ラピュタ」だけなので
アニメ史の文献としては、おのずから限界があるのだが
創設されたばかりのスタジオの熱気を知るには最適の書だろうと思われた。

305korou:2016/12/01(木) 15:26:35
秋吉理香子「絶対正義」(幻冬舎)を読了。

たまたま予約本を読み始め、気が付いたら読破していた。
おかげで仕事は3時間ほどストップしたが
時期的に問題はないだろう。
とにかく面白かった。
一気読みできる作家は東野圭吾だけだろうと思っていたが
もう1人いた。

いわゆるイヤミスで、もう秋吉さんは
現時点で第一人者と言ってよいだろう(湊かなえさんがやや違う方向に行っているし
筆力そのものも、今なら秋吉さんのほうが上だろう)。
本当にイヤな登場人物を出して、とことんそのイヤな感じを全開させていき
終わり方もねちねちっと終わる。
読後感は不快そのもので
一気に読み切った爽快感と実に対照的で
これはクセになって当然だ(笑)。
アマゾンで現時点で1人しか書評していないのが不思議なくらい。
読書メーターでも、固い文章の評価ばかり。
イヤミスの宿命なのか、素直に絶賛してもらえない。

まあ、読書好きの青少年に、今何をオススメするか、という問いがあれば
即決でこれかな。
文句なしの出来。

306korou:2016/12/10(土) 16:59:15
東野圭吾「雪煙チェイス」(実業之日本社)を読了。

「疾風ロンド」映画化に合わせたスキーを題材にしたミステリーの第2弾(第1弾は「恋のゴンドラ」)。
前作が恋愛物のような出来だったので、今回はどうかと思い読み始めたが
出だしが不出来な恋愛物のような感じで
この時点では、ああヒドいものを書いたものだと読書意欲が減退する(東野作品では初の感覚)

ところが、その直後の章から、一気にミステリー小説に変貌し
真犯人でない若者が容疑者として疑われるというシチュエーションのせいで
全く目が離せない感じになり、いつもの一気読み状態に突入。
これはどういう着地点なのかと不思議に思っていると
なんとミステリーとしては反則技と言ってよい突然の犯人確定となり
これはさすがに批判を受けるだろうなと思い
アマゾンを覗いてみると、やはり思った通りだった。

最後の最後でミステリーではなく
心理描写の巧みなエンタテインメントになってしまったが
そういう風に割り切れば、いつもの東野作品だし
あまりそういう反則技を使わない作者として敬意を抱いていた人には
最低の作品ということになる。
そのあたりは仕方ないところ。
自分としては、これほど夢中に読める本というのは、やはり稀有なので
著者をけなす気にはなれない。
やはり凄いと思う。

ただ、そろそろ万人を納得させる快作が期待されていることも確かである。
なんといっても東野圭吾だから。

307korou:2016/12/29(木) 17:17:08
スティーヴン・ウィット「誰が音楽をタダにした?」(早川書房)を読了。

ほぼ1カ月近くかけてやっと読了。
面白くないわけではなく、ただ単にタイミングの問題で長期間かかった。
内容は、まさに現代の音楽状況のトップシーンに鋭く切れ込む
実にスリリングなものだった。
最後のほうで、音楽をタダにした一連の関係者たちが
著作権についての新しい見解を政治的に展開していく部分があるが
残念ながら、欧米でさえ、その見方は一般的でなく
むしろ、米国での陪審員の態度のほうが印象に残った。
結論として、やはり音楽をタダにする行為は
まだ完全な市民権を得ておらず
となれば、この本は
何か新しいことを主張した人たちの列伝にはならず
21世紀になって音楽の姿、音楽ビジネスの姿が変わった背景として
こんな人たちの暗躍があったというルポルタージュという意味合いになるのだろう。

もちろん、音楽のメインストリームの話でもあるだけに
ラップ・ミュージックとか、音楽ビジネスの話も興味深く読めたし、知識も増えた。
これで著作権での新しい展開もあれば完璧なのだが
現実はそう動いていない(ただし考え方としては十分共感できる”21世紀思想”だ!)
こういう方面に興味のある人には必読の書だろう。
訳もこなれているので読みやすい。オススメだ。

308korou:2017/01/03(火) 12:37:27
新年最初のレビュー。昨年末から読んでいた小説。
田中経一「ラストレシピ」(幻冬舎文庫)を読了。

新着図書の棚に並べていたら、内容を訊かれたのに返答できなかったという
ただそれだけの理由で読み始めた小説。
読んでいるうちに、著者があの「料理の鉄人」の担当者だということを知り
読み進めていくと、徐々に物足りなさの理由も分かってきた。
つまり脳裡に浮かぶ映像をノベライズしているだけの文章なのだ。
プロとしてあまりに具体的に映像が浮かぶがゆえに
それを補う文章までは思い至れないという職業上の性を感じる。
ただし映像が見事に浮かんでくるという意味では達意の文章とも言える。
そこさえ了解すれば、非常に面白い題材で
荒唐無稽なストーリー展開もあまり気にならなくなる。
取り上げた時代、題材、人物、どれもエンターテインメントとして適切だと思った。

今秋、映画化されるということで(嵐の二宮クンなんで話題性十分)
これも楽しみである。
映像化されるべき小説というのも妙な具合だが。

309korou:2017/01/04(水) 17:20:17
宮下奈都「静かな雨」(文藝春秋)を読了。

宮下さんのデビュー作が、「羊と鋼の森」の大ヒットで再び脚光を浴び
今回装丁も新たに再刊行されたのだと思われる(詳しくは分からないが)
部分的に意図不明な文章が見られ
何よりも「羊」のときと同じ不満、男性の一人称にしては優し過ぎる感性が残念ではあるけれども
やはり奈都さんの文章は繊細で情緒に溢れ、何よりも美しい。
この短い小説(13行で100ページ)のなかに
どれだけ深く沈潜した感情に満ちた情景が出てきたことだろうか。
確かで実在することは間違いなく
でも現実には、そこまで純粋に抽出されることのない深くて美しい世界を
奈都さんの筆致は鮮やかに描き出している。
デビュー作から奈都さんは奈都さんだった。
素晴らしい。

前向きで、でも上っ面ではない心の持ち主。
短い小説だけど、そんな惹きつけられる主人公に出会える。
読んで良かったと思う。
それは、いつもの奈都さんの小説を読み終わって思うこと。

310korou:2017/01/08(日) 11:17:10
今村夏子「あひる」(書肆侃侃房)を読了。

短編3編が収められた短編集で、
表題作は第155回芥川賞候補作として評価の高い作品。
実に短い。
「あひる」が50ページほど、残りの2編は30ページほどで
しかも活字がまばらで、会話も多い、
あっという間に読めてしまい、なおかつ表現が薄くて味気ない部分は皆無なので
ヘンな言い方をすれば、実にお得な感じで読み切れてしまう。

とはいえ、全体としては児童文学の匂いがするせいか
通常の小説と違って、力点の置き方に違和感を覚える。
ストーリーの途中で異様なまでに感動的なシーンが挿入され
本当に心底から感銘を受けたのに
その後の付け足しのような終わり方は一体何?という展開が
どの短編にも見られた。
もう1回読んだら分かるのかもしれない。
でも、現代の小説読者にはそんな時間はない。
永遠に不可解なままだ。

オススメする人を選べば、その謎を解いてくれるかもしれない。
そして、オススメする人さえ選べれば
これは間違いなく「文学」そのものとして自信を持って推薦できる。
それだけのクオリティは持っている。
でも自分自身のことでいえば
半分はカッコ書きのまま理解できていないような気がする。

311korou:2017/01/09(月) 17:17:29
遠藤周作「沈黙」(新潮文庫)を読了。

何回も挑戦しては、読めそうで読めなかった小説。
今回、スコセージ監督による映画化という機会をとらえて
まずまず目の調子も良いこのときに一気に読んでみようと思い再挑戦。
そして、今読み終えた。
思ったとおりの傑作だった。
感想をぐだぐだと書くまでもないのだが
読後のイメージだけは、今しか書けないので残しておこう。

非常に重かった。
高校生には薦めにくい味だ。
書かれた時代である江戸時代の雰囲気とか
そもそも昭和に書かれた小説という独特の味とか
宗教にまつわる深いモノローグ、心情を象徴する風景描写とか
どれをとっても、最近の小説には無い味を持っている。
懐かしくもあり、一面では、もはやそういう重たさを敬遠気味な自分を感じるが
もっと早く読んでいれば(20代の時。この文庫が刊行されて数年以内)
全然別な感想になっていただろう。

とはいえ、時の変遷を経て評価が上下する類の駄作ではないことは断言できる。
読まれるべき小説の一つであり、間違いなく日本近代文学における古典といってよいだろう。
現代人がもつべき教養の一つだけど
今の若い人に見られる「教養無視」の風潮からいえば
今回の映画化は実にありがたいとも思ったりした。

312korou:2017/01/22(日) 15:34:54
佐藤優「現代の地政学」(晶文社)を読了。

地政学なんて耳慣れぬ言葉に半信半疑で読み始めると
意外と面白いので、そのまま読み進み
ついに読破してしまった。
ただし、魅力も桁外れだが、欠陥も多い本である。

まず、地政学について導入部程度のボリュームなのに
いきなり中途半端な原典の引用を、しつこいくらい続けるので
そこの部分だけ、まるで古文を引用されたかのごとく極めて読みにくいのがダメな点である。
ここは、著者が自身の言葉でそのまま噛み砕いて説明してくれるほうが
有難かった。

さらに、話があっちこっちに飛んで
その大半で話の結末がいい加減に終わっているのもマイナス点。
結局、その論理でいくと、こうなるのが結論という流れがほとんど見られず
論理を追って読んでいった場合、非常に疲れる構成になっている。

しかし、それらのかなり致命的な欠陥にもかかわらず
これほどスリルに富んだ、かつ知的好奇心を満たしてくれる本はなかった。
ロシア発の発想に詳しく、宗教に詳しく、軍事にも詳しく
そういった自身の特性を最大限生かした叙述が随所に見られ
この本でしか知りようのない情報、世界の見方というものに溢れている。
少々の欠陥なら目をつぶっていいいと思わせるほどである。

結局、マニアックな読者しかつかないかもしれないけど
こうした独自の発想、情報を、また別の人がまとめあげるというのもアリだろう。
多彩な世界観こそ、情報過多社会を生き残る道ではないかと思うから。

313korou:2017/01/24(火) 09:30:35
似鳥昭雄「運は創るもの」(日本経済新聞出版社)を読了。

すでに一昨年4月の新聞連載時(「私の履歴書」)にあらかた読んでいたが
その4か月後に発刊された単行本を昨年10月に仕事で購入していたので
あらためて読んでみた次第。
普通、既読のものでこういう類のものを再読することはないのだが
表紙に「新聞連載を2.5倍に加筆」とあることや
活字がデカいので冬場の読書でも大丈夫という理由で再読した次第。

さすがに初読時の衝撃は薄れてしまったものの
相変わらず自由自在の書きっぷりでユニークなことは間違いない。
成功した実業家が仕事のことを書くと
そうでなくても無敵なのに
この人の場合、ますます無敵感が強まって
まさに言いたい放題、したい放題の感がある。

今回再読してみて、意外なほど他の実業家との関わりが少ないことを実感。
ゆえに、本人のユニークさに話の範囲が収まり
その点で、やはり異端の「履歴書」であると言わざるを得ないだろう。

マニアな人向けのオススメ本、まあ一般社会人なら面白がれる本ではあるけれど。

314korou:2017/01/26(木) 15:34:33
西澤保彦「七回死んだ男」(講談社文庫)を読了。

何がきっかけで読み始めたかはもう覚えていないが
その”きっかけ”に感謝しなくてはいけないだろう。
もう20年以上も前の推理小説で
それなりに評判はいいものの
作者自体、今現在、ティーン世代に知名度があるかといえば
ゼロに等しいわけで
仕事柄、わざわざ読む必然性はなかった。
しかし、読んでみて、これほど面白いミステリーには
なかなかお目にかかれないと思った。
SF仕立ての設定でこれほどのクオリティのあるミステリーが可能だとは
思いもよらなかった。

人によっては、こういう仕掛けを嫌うこともあるだろう。
全然評価しない人だって、アマゾン書評では多数居る。
そして、独特の軽薄とまではいかないまでも、不自然に軽いタッチの文体に
抵抗感を覚えてオシマイ、という人も多いようだ。

人を選ぶ名作であるのは残念だが
分かる人には分かる大傑作だと思う。
少々のキズは、全体から感じられる「抜群の面白さ」のせいで
分かる人にとっては何でもないことに思えるわけだ。
というわけで、大傑作との意見に自分も一票。

315korou:2017/01/26(木) 15:38:00
それから、猫マンガの「ぽんた」シリーズも読破した(第2巻刊行直後で
一気に第2巻を読み、昨日第1巻も読んだ)
マンガは年間カウント冊数に含めないけれども
シリーズとして「1」をカウントしてもよいクオリティだったので
とりあえず書名を記す(第1巻の書名)。

鴻池剛「鴻池剛と猫のぽんたニャアアアン!」(KADOKAWA)

316korou:2017/02/02(木) 14:44:16
石川一郎「2020年の大学入試問題」(講談社現代新書)を読了。

ここ数年で最も脳が活性化した読書になった。
アマゾン書評では散々な言われようだが
それは当事者でない一般教養人としての批判であり
当事者の端くれの自分としては
書かれている言葉、文章に意味不明なところは
基本的には皆無だった。
たしかに部外者には分かりにくいのかもしれないが。

その上で、この本の優れている点を挙げれば
一連の改革を提唱する文科省の方針について
一体何を目指しているのかという最も根本的な部分について
その当の文科省にレクチャした当事者ではないのかと思われるほど
納得のいく説明が施されている点である。
アクティブ・ラーニング(AL)について、基本的な考え方とか具体的な手法を示した本は
多数出始めているが
そもそもALそのものが目的ではないので
ALという授業手法で何を目指しているのかということを知ることこそ
より重要なのである。
その点が、この本では
そもそもの「学力」の概念、その学力を段階別に「評価のコード」を明確に提示したうえで
ALの必然性を導きだし
さらにALで身につけるべき能力を具体的に提示しているので
目的、手法、ゴールという各要素について、一貫して、かつ明白なイメージで理解できる。
AL以外にも生かせる理論だが、ALにしても、どこでつまずいても立ち戻れる確固たる立ち位置が確保できそうだ。

新時代の教育のイメージがふくらむ本である。
いわゆる評論家の適当な論でなく、今これから実施される現実の計画としてのそれとして。

317korou:2017/02/03(金) 16:07:54
石川一郎「2020年からの教師問題」(ベスト新書<KKベストセラーズ>)を読了。

同著者の「2020年からの大学入試問題」の姉妹編のような本である。
書いてある内容も大差なく、一応「教師問題」と銘打っているので
教師のことについて少しだけ新しいことが書いてあるという程度である。

全体にボリュームが薄いこともあり
前著のような、大きな仕組みの説明を圧倒的な勢いで書きまくるといった美点は薄れている。
ある意味、この著作は「教師」以外は読むメリットに乏しく
前著を精読するほうが意味があるだろう。

相変わらず、論の根拠、予想される反論への対処などに配慮が乏しく
そういうキメの細かい読み方をした場合、前著同様評価は低いものになる。
しかし、ここは著者の博覧強記を素直に受け止めて
大きな方向性に共感する読み方でいいのではないかと思っている。

あらためて前著の正当性を感じて、前著の精読の必要性も感じた
そんな読書だった。

318korou:2017/02/06(月) 16:38:23
田中圭一「うつヌケ」(KADOKAWA)を読了。

コミックなので、本来ここでは読了本とはしないのだが
内容が面白いので少しだけ。

うつ病から回復した人を中心に
その回復の実際の様子を取材、描写しているコミック。
取り上げた人のなかには、大槻ケンジとか内田樹とかの著名人も多く
ある意味、有名人の深層心理描写のような趣きすらあったのが新鮮だった。
書いてある内容はシンプルで分かりやすい(分かりやす過ぎるくらい)。

うつ病は、21世紀になって広く社会的に認知されてきた心の病気なので
こういう本も現代人の必読書の一つではないかと思えてきた。
ただ、自分に関しては、こういう激しい労働ノルマの世界とは縁遠いので
あまり参考にならなかったのも事実。
他人理解のツールとして有効?

319korou:2017/02/06(月) 22:20:23
中西敦士「10分後にうんこが出ます」(新潮社)を読了。

タイトルのインパクトが強くて
読み始めの段階ではそのイメージから抜けきれなかったが
最後のほうの介護施設の話のあたりになると
もはやそんな”邪念”は消え去り
むしろ感動すら覚えてくる不思議な名著である。

現代の起業ストーリーであり
米国も舞台になっていることから
ベンチャービジネス最前線といった趣きもあるのだが
さすがに現実の話となると
いくら米国でも金満紳士が続々出現というわけではないことも分かった。
結構金集めに苦労するのには意外だった。
すでにプレゼン段階で好感触を得ているというのに。

さらに、著者の周辺の凄い人たちの奮闘ぶりも興味深かった。
ラクして大事業はできないことを思い知る。
公務員の端くれには到底できない覚悟と実行力だ。

そして、最後の感動。
日夜そんな業務に向き合う方(特に深夜の勤務の方)には
本当に感謝以外の何物もない。
そういう場所で有益な道具となれば最高だろう。
その意味で、読後感は妙に昂揚感あふれるものになった。
なかなかお目にかかれない類の好著だった。

320korou:2017/02/15(水) 14:32:29
秋吉理香子「サイレンス」(文藝春秋)を読了。

完全に秋吉作品ファンとなった自分なので
もはや、この本を客観的に語ることができないように感じる。
とにかく面白い。一気読みできる。作品に感情移入できる。日常を忘れ去ることができる。
これ以上、何を望む?

丁寧な描写には一層磨きがかかり
不自然な人間心理の動きなど微塵もない。
選んだテーマ、プロットが適切なので
少々ストーリーの先読みができても退屈しない。
いや、むしろ意図的に先読みさせて、読者の想像力を煽り
ホラーな要素を高めているようにも思える。
ディープなイヤミス・ファンには物足りないかもしれないが
これ以上その要素を増やしたら、話が不自然になってしまう。
この「塩梅」でちょうどよいと思う。

もはや好調時の湊かなえのレベルを抜いているようにも思える。
これだけのものを数作ものにできるなら
近年で最も注目すべき作家だと断言してもいいだろう。

321korou:2017/02/18(土) 23:10:26
磯田道史「徳川がつくった先進国日本」(文春文庫)を読了。
文庫本で大きな活字で150p程度の歴史エッセーなので
あっという間に読むことができた。
短いながらも磯田史学のエッセンスが詰まった佳品で
読んで良かったという実感が湧いてくる。

江戸時代をこれほど見通しよくまとめた本も珍しい。
そして、その見通しが、21世紀の現代にまで生きてくるというのも
読んでいて嬉しい驚きを覚える。
大きな歴史の流れの中に自分たちの時代が存在しているという
歴史を学ぶ最も根幹的な意義が感じられるのは
本当に素晴らしいことであり、これこそ読書の醍醐味である。
著者にも感謝したいし、もちろん、江戸時代の人々にも畏敬を覚えてくる。

案外、最近読んだ本のなかでも最上の部類になるのではないかと思い始めている。
短いし、内容もシンプルだが、もちろん、それは本の価値を限定するものではないだろう。
誰にでも読めるというのも大事なことで
その意味で、安心して万人にオススメできる。
大きな歴史の流れのなかに居る自分を、特に若い人たちに認識してほしい、そんな思いを
新たに強く思わせる本である。

322korou:2017/02/21(火) 12:48:37
近藤ようこ(漫画)・夏目漱石(原作)「夢十夜」(岩波書店)を読了。

漱石の名作を漫画で描いた話題作。
たしかに、絵の雰囲気はイマジネーション豊かで
全く原作を損ねていないように思える。

ついでに漱石の原作もいくつか読んでみた。
同時並行で、漫画と文章を続けて読んでもみた。
自分の考える「映像」と、漫画で表されている「映像」の相違を確かめる作業は
なかなか面白かった。
どうしても映像にならない部分があって
それが漫画でキッチリ描かれてあると
それだけで感動できたりする。
不思議な感覚である。
決して漫画が正解ではないはずなのだが。

原作そのものも、今読んでも不思議な感覚満載だ。
漱石の近代人としての自我を読み取ることはできないが
近代人として以外の漱石が無意識に表出しているようにも思え
興味深い。
とにかく、いろいろなことを感じさせてくれる読書だった。

323korou:2017/02/23(木) 14:15:36
山口敬之「総理」(幻冬舎)を読了。

アマゾンで絶賛の政治本だったので
やや眉唾ものかもと思いつつ読み進める。
次第に、これは権力の懐に飛び込むタイプのジャーナリストだと分かるが
その飛び込み方が半端でないので驚きすら覚える。

かつて、戸川猪佐武が、田中派に食い込んで
政界裏話を説得力ある文章で残したものだが
それ以来の生々しさである。
常に安部晋三と麻生太郎の傍に食い込み
何が凄いのかというと
その取材がほぼ一対一の関係なのだということ。
山口氏がこういう本を残さなかったら
真相を知るよしはない事実がてんこもりである。
そして、それが、政界に復帰する契機であったり
消費税10%見送りという重要な局面なのだから
これは驚かざるを得ない。
逆に言えば、首相というのは孤独なのだ、という事実を
再認識させられる叙述である。

安倍礼賛本は数多くあるが
この本は、そのなかでも最も冷静で説得力を持つものだろう。
安倍政治の批判者も
この本は読んでおいてほしい、そういう思いにさせられる本だった。

324korou:2017/03/10(金) 14:45:40
金成隆一「ルポ トランプ王国」(岩波新書)を読了。

朝日新聞特派員によるルポを岩波書店が刊行するという成り立ちで
それ自体、今の左派勢力の構図を見るようで興味深い。
そして、題材はゴリゴリの右派ともいえるドナルド・トランプだ。

トランプの米大統領選での勝利は
多くのマスコミ、知識人にとって不可解な結果であり
いろいろな文脈から分析が試みられているが
この本は、その中でも最も正統派のアプローチで迫った本である。
つまり、理由はシンプル、アメリカ国民のかなりの層がトランプを支持したから。
そういう明快な分析を、多くの証言で立証していった本だ。

何よりも、記者としてのフットワークの良さと
先入観にとらわれない自由な精神が心地よい。
岩波新書らしからぬ平易で読みやすい文章が最大の美点だろう。

取材対象を適切に選んだ結果
この本は優れた現代アメリカ社会ルポとなった。
堤未果さんの著作と並ぶ良書であることは間違いない。

325korou:2017/03/11(土) 22:29:36
山口敬之「暗闘」(幻冬舎)を読了。

前著「総理」に続く安倍政治内幕物の第2弾。
安倍と親しい立場を生かした
核心に触れた解説が読みどころだったのは前著と同じ印象。

ただし、今回は、前著ではあまり感じられなかった
”都合のいい解釈”による安倍外交への賛辞が目立った。

前著は、親しい仲の安倍が見せた表情まで描写された
優れた政界内幕物だったのに対し
今回は、安倍側近から仕入れた情報しか入手できなかったのだろうか
情報源に配慮した、極端に言えば「ヨイショ本」のような記述が
特に後半に集中して見られた。
そのため、読後の印象は
前著とは段違いで、やたら”裏切れらた感”が強いのである。

安倍外交の優れた点は実によく分かる。
しかし、マズい点もあるわけだから、そこも書き切らなければ
ジャーナリストの仕事としてはお粗末である。
前著ではそういうところは目立たなかったが
今回は、前著に書かれた時期と違って
政権内部に入り込めなかった分、切れ味が悪くなっているのだろう。

ただし、それでも十分面白く読めるし、詳しさも他の類書と比べて群を抜く。
今読むならば、十分に価値のある本であることも間違いない。

326korou:2017/03/14(火) 08:37:51
村上春樹「騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編」(新潮社)を読了。

今、書名を記して思ったのが
「イデア編」という表記の違和感。
これは「イデア篇」とすべきでは。
ハルキさんの感覚は、私とはだいぶ違うようだ。

それはともかく、まだ第1部だけの読了で
作品の半分だけだから
この小説全体の評価は保留するほかない。
半分読んだ感想で言えば
随分と内面的な、感情の奥深く入りこんだ小説だなという印象。
良く言えば「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を継承する
ハルキ文学の総決算のように思えるし
ネガティブな側面を捉えれば
ドラマ不足の単なるモノローグの連続に過ぎない失敗作にも思える。

しかし、相変わらず、あの魅力的な文体は健在だった。
どこを切っても、どこを取り出しても
”村上春樹”にあふれている。
もともと、あの独自の文体を堪能することに大きな意味のあるのだから
これはこれでもう傑作と言ってよい。

さて、後半に突入。どうなるかな?

327korou:2017/03/20(月) 21:27:10
村上春樹「騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編」(新潮社)を読了。

ついに読み切ったという感がどうしても出てしまう今話題のハルキさん新作。
いろいろなことを思い、感じ、考え、思索してしまう。
言葉がまとまらず、ついついアマゾンの書評を斜め読み・・・想像以上に
酷評が多いので驚くが、南京大虐殺と東日本大震災に関する浅薄なコメントのせいと分かり
それらを除外していろいろと読んでみると、なかなか面白い。

今までの作品の焼き直しで、あまりに既視感ばかりで衰えを感じる、という意見が多い。
しかし、そのデジャブを、今の時点におけるハルキ氏の決意表明と受け取る感性の方が
少数ながら居られて、さすがだと思った。
誰もが読める作品ではないのである。
そういう本当の読み手のための、間口の狭い小説、でも深みを増した小説ということ。

もともと独特の文体で、日常と切り離された感性で読み取っていくしかない狭い小説世界が
自己回帰でますます狭まったように思われるのが誤解の元だろう。
もちろん、最終章のゴタゴタした信仰心の発露とか、もっと描いても良かった邪悪な自己とか
方向は間違っていないのに、小説として完璧でない部分は残っている(それらはますます誤解を生む元になる)
しかし、基本的な方向を読み取れないのに、この小説を語ってはいけない。
この方向と「1Q84」の方向と、21世紀のハルキ文学の両面が示されたのだが
この方向、つまり「騎士団長殺し」の方向には多くの読者が取り残されるだろう(日本では。海外だと違うかも)

328korou:2017/04/30(日) 20:59:55
柳川悠二「永遠のPL学園」(小学館)を読了。

もう本を読了することはないのかと思ったほど
本が読めなくなったこの1か月間。
義務で読み通すことが、ある意味不要となったかもしれないので
それだけの変化で、これほどの結果が出てしまうことに
改めて驚く。
こういうときは野球の本、ということで
たまたま目にしたこの本に飛びつく。

そういう気分で読み始め、読み進め、読了したというせいもあって
何かよく分からない気分のまま、ここに感想を記すことになる。
抜群に優れたノンフィクションでないことだけは確かだ。
一番知りたいことに何も迫っておらず、そこに近づきさえ出来ておらず
好意的な想像だけで、問題を取り扱っている文章だ。
ただ、誰かが書かねばならなかった本質的な高校野球の本であり
そこに普通にアプローチしたらこうなるだろうという必然性は感じられた。
そのなかで、やるべきことはすべてやっているライターとしての良心は感じられた。
強いて言えば、あえてビッグネームへの取材の詳細を隠すことによって
自分の立場を守りつつ書いている印象があって
さらに、選手への愛情をナイーブに書くことによって
本質に迫れなかった不満を隠している感じは否めない。
好著ではあるが、決してノンフィクション大賞に値する作品とは言えないだろう。
これを踏まえて、誰かがPL教団の本質、宗教と野球の関係性を深くえぐってもらいたい。
そんな感想を抱いたノンフィクションだった。

329korou:2017/05/08(月) 12:59:57
岡田麿里「学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで」(文藝春秋)を斜め読み。

時間の関係で斜め読みしかできなかったが
通し読みで読了してもよかった佳作だった。
不登校の体験を綿密に率直に書き綴った前半部分からして
出色の出来栄えだし
そこからいきなり魑魅魍魎が跋扈する映画業界、アニメ業界に飛び出していくという
大胆というよりも無謀さのほうが勝る体験談の後半部分は
本人は意図していないはずだが
かなりの冒険譚として読ませる内容に仕上がっている。

学校図書館でよく訊かれる「不登校気味の生徒に読ませるいい本はないか」という問い合わせに
まさにピッタリの本。
それ以外の人たちにはどう響くのか?見当もつかないのだが
悪くはないはず。
オススメ本としても成立するはずだ。
それだけのクオリティは感じた。

330korou:2017/05/09(火) 08:16:48
志駕晃「スマホを落としただけなのに」(宝島社文庫)を読了。

出だしの「何気なさ、日常」から
一気に「呆然とするほかない危機的状況」に陥るまでの流れが絶妙すぎて
少々流れの悪い箇所もあったものの
ほとんどそれも気にならないまま
一気読み必至となった。
こういうタイプの小説は
今までにもっとあってもおかしくなかった。
それを新人賞公募という場で見事に仕留めたのだから
素晴らしいの一言に尽きる。

この小説を読んだ誰もが
スマホ・PCのセキュリティについて
もっと気をつけねば、と思ったに違いない。
殺人鬼がその甘さに付け込んで犯罪を犯すというケースは
レアに違いないが
そこまでの悪党でなくても
これだけの技を知ってしまえば
出来心で何かしでかしそうだ。
そして、それだけの技は
ネット上に普通に転がっているのだから
まさに日常ホラーの極地だろう。
凄い設定の小説の登場だ。
登場人物の感情描写も無難にまとめてあり
これだけのものがいくつか書ければ
プロの作家として十分だろう。

331korou:2017/05/21(日) 21:38:12
又吉直樹「劇場」(新潮社)を読了。

話題の作家の第2作。
今度は前作と同じようなテイストに
恋愛の要素が加わったということで
そういう期待も込めて読み始める・・そして見事にハマった。
この小説のヒロイン、沙希は
男性が妄想の世界で思い浮かべる理想の彼女像の一つである。
ただし、それは多くの男性の脳裡に止まった秘密の存在であり
ここまで堂々と本格的な小説のなかで登場することはなかった。
あくまでも男性の主人公が生々しく生きているさまがリアルに描かれていることが
前提にあって
その意味で、同じように現実味のない男女を描く「セカイ系」の小説とは
一線を画しているわけだ。
男性は凄くリアルで造型できているのに
女性はその男性の都合のいいように描かれるというアンバランス。

多くの男性の読者は
この小説を読むと、心地よく酔いしれることになる。
女性は二分され、沙希のような人生を歩まざるを得なかった女性は
この小説で救われ
そのような人生を憎む先鋭的な女性は
沙希があまりにも人形のように感じられ
好ましく思わないだろう。
作家がそのまま自分の好みを書き切り
それがそのまま作品として世に問われるという稀有の例かもしれない。
でも、そこに又吉直樹という作家の存在理由があるのだろう。
単に芸人が小説を書いたという話ではないのだ。
読まれるべき恋愛小説、いや男性のダメさを描いた又吉版「人間失格」だ。
最後のシーンで泣ける人こそ、この小説の最良の読者だろう(私は心から泣いてしまった!)

332korou:2017/05/23(火) 10:47:55
ハービー・ローゼンフェルド「カル・リプケン物語」(ベースボール・マガジン社)を読了。

朝の出勤前の愉しみとして、ちょっとずつ読み進めていた本。
大した本ではない。単なる大選手賛美本である。
リプケンを無条件に賛美しているようで、実は何も明らかにしていない三流MLB本である。
もし役に立つことがあるとすれば
たとえば、リプケンのマイナー時代のライバルは誰だったかというような時代背景、
あるいはボンズ父がリプケンを批判した件とか
リプケンがホーム上で激突したもののケガは奇跡的になくて
相手のレッドソックスの捕手は大ケガになったのだが
その捕手がボブ・メルヴィンだったことなどの
トリヴィアを知ることくらいか。

リプケンの伝記がこれで終わりというのでは悲しいわけで
もっと踏み込んだ伝記が書かれるべきである。
やはり、オジー・スミス、ロビン・ヨーント、トニー・フェルナンデスなどとの比較は
もっと公正に為されなければならない。
そして連続出場の件も、もっと緻密に検証されなければならない。
どんな細かく検証しても、あらゆる角度から見直しても
リプケンが偉大な選手であることに疑問符が打たれることにはならないことはハッキリしているのだから。
ただ、現状のままでは、不要な誤解を生むだけである。
この伝記も、そういう現状に100%もたれかかっていて
その勢いに拍車をかけているようなものである。
だから、この本についてはとてもオススメではできない。
この本をオススメできるのは
真のMLB好きで、かつ真の読書好きの人だけに限られる。

333korou:2017/06/04(日) 21:41:31
中島さおり「哲学する子どもたち」(河出書房新社)を読了。

書名からは連想しにくいが
これはフランスの教育事情の本である。
著者は、前々作のエッセイで賞をもらっていて、それなりに著名なので
こういう題名でもOKになったのかもしれないが
やはり、この書名でこの内容はいただけない。

まあ、それは著者の意図を超えた話で
本そのものの評価としては
予想以上に面白く読め、かつ参考になり、考えさせられることも多かった。
あまりこの種の本に出会っていないということも大きいだろう。
フランスの教育事情について何も知らないに等しいわけで
それはひいては、現代の改革途上にある日本の教育事情を考えることでもあった。

そして、それはまさに「哲学する(フランスの)子どもたち」への驚きにつながり
書名を考えた人の意図は分からないでもないのだ。
これこそ、日本の教育に最も足りていない部分であり
もちろん、教育の話にとどまらず社会全体にいえる話なのである。

そういう風に広げて読み解くことも可能な本であるが
特に深く考えることもなしにそのまま読んでも面白い本であることが
この本の長所だろう。
まとめると難しいが、まとめなくても読者の心のなかで理解ができれば
それはそれで有用な本であり、楽しい読書になる。
いい本であることは間違いない。

334korou:2017/06/07(水) 08:35:05
天沢夏月「時をめぐる少女」(メディアワークス文庫)を一気に読了。

まだ、こういうライトな小説を一気読みする読書力が
自分に残っていたこと自体に驚く。
本当に一気読みだった。
昨日の昼から読み始め、夜10時台には読了。
爽やかな読書になった。

題名は筒井康隆のあの名作へのオマージュのようだが
内容は全くもって似て非なるもので
タイムリープの設定はあるものの
これほど、その設定を「手段」として展開した小説には
今までお目にかかったことがなかった。
あくまでも「ジュブナイル小説」であり
見かけほど、SF、ファンタジーの類ではないのだ。

そのジュブナイルも、絵に描いたように瑞々しく
かつ文章は平明でわかりやすく、ストレートで心地よい。
家族、友情、恋愛といった小説の王道が
見事なまでに融合して示され
切羽詰まった迫力、スリルこそ皆無だが
実際の現実はこのようなものではないかという説得力はある。

スリル、サスペンス、驚愕の事件さえ求めなければ
ベストなライト小説だろう。
とにかく読みやすいので(しかもきちんとした内容なので)断然オススメだ。

335korou:2017/06/11(日) 12:22:06
田口壮「プロ野球・二軍の謎」(幻冬舎新書)を読了。

日記職人タグチの著作とあって
期待大で読み始めるが・・・読了後の感想を言えば
クドいなあ、という感じで、独特の面白さも効果半減の印象、勿体ない。

予想された通りの内容が
何度も何度も繰り返し書かれていて
それは、恐らく編集部門からの注文だったのだろうけど
あまりに真面目にそれに対応した結果
編集者も、その内容を知りつつも引っ込みがつかなくなったのでは
という想像も可能だ。
だとすれば、あまりに残念。
もっと幅広く、エピソード中心の著作にすれば良かったのにと思う。
それだけでも面白く書ける人なのだから。

唯一の収穫は、オリックス球団のことに
少しだけ関心が湧いてきたことかな。
魅力の薄い、ある意味、プロ野球ファンの夢を壊した経緯のある球団だから
ずっと関心が持てずにいたのだが
さすがに、あれから10年以上経って
その記憶も薄らいてきて、関係する人たちも「無関係」の人ばかりになってきて
そろそろと思ってきたところだからタイミングとしては良かったと思う。
でもマニアックなメリットだからなあ、失敗作の印象は否めないところ。

336korou:2017/06/29(木) 15:43:21
脇明子「読む力は生きる力」(岩波書店)を読了。

前から気になっていた本ではあったが
今回、いろいろなきっかけを得て、やっと読み通すことができた。
期待通りのクオリティで
残り少ない読書奨励のこの仕事に有象無象の力になる予感はする。

足りないものは
ネット時代への考察、スマホという怪物、映像メディアの可能性
くらいか。
しかし、言われていることの大半は頷ける、
読書を量ではなく質で測る「ものさし」が
真摯な思考のなかで提示されている。

足りないものは自分で補っていこう。
指針は十分示されているのだから。

337korou:2017/07/04(火) 22:36:55
佐藤正午「月の満ち欠け」(岩波書店)を読了。

まず読了直後に感想を書いておきたい。
僕は司書でなければこの本を読むことはなかった。
佐藤正午という人自体、その名前しか知らなかった。
もっと言えば、司書の仕事をしていなければ
佐藤正午という名前すら知っていたかどうかも疑わしい。

それなのに、ちょっと形容しがたいほどの感銘を受けた。
こんなに視力が弱っているのに、それなのに
無理をして、無理をして、無理を重ねて
一気読みしてしまった。
先週末にその魅力に取りつかれ
気がつけば生徒向けの広報にも
この本をオススメしているのだ。
ついさっき知ったも同然なのに。

司書生活最終盤で、またまたこのような劇的な出会いがあるとは。
僕の人生も捨てたものでない。
まだ生きる価値はあるようだ。

本の内容について語る余地はあるだろう。
今はアマゾンの書評の内容の深さに驚くばかりだ。
これもこの本のもたらす奇跡かも。
まだまだ日本の読書人も捨てたものでない。
続きは次回。

338korou:2017/07/07(金) 11:48:40
佐藤正午氏について
その文体、構成に衝撃を受けたので
蔵書(仕事場)の中からいくつかピックアップして
他作品ではどんなものなのか確認してみた。

短編では、もちろん個性は感じられるものの
構成の妙味を発揮するまでには至らないごく短い作品をチェックしたせいで
そのアンソロジーのなかでは
他の作家を圧倒する魅力までは感じられなかった。

評論風エッセーでは
評論として読んでしまったので物足りなく思えたが
これは読者である自分のミス。

エッセー「豚を盗む」は
エッセーとして読んだので、これが一番しっくりきた。
短くても構成の妙が感じられ、文体も面白い。

そんなことをしていたら
岩波の小冊子「岩波」で
思いがけず佐藤正午の本の紹介をしている文章に出会った。
まあ岩波の本なので当たり前だが
思いがけないタイミングで読んだので、ちょっと驚いた。

そして、今、県立から支援システムで
「鳩の撃退法」を搬送便で依頼した。
当分、佐藤正午ブームになりそうな気配(マイブーム!)

339korou:2017/07/22(土) 21:36:53
松永多佳倫「沖縄を変えた男 栽弘義」(集英社文庫)を読了。

なかなか印象に残る読後感だ。
1つは、その題材の特殊さのせいであり
これほど沖縄の野球にのめり込んだノンフィクションというのも
なかなかお目にかかれないレベルだ。
なにしろ、いくらか出自に影響を受けているとはいえ
この作品の執筆が動機となって沖縄永住を決めているのだから
そののめり込みの度合はハンパでない。
過剰な思い入れも、こういう特殊な世界の描写には
ある意味欠かせない資質だろう。
ひとつひとつの事実指摘が的確で揺るぎない。

しかし、その逆に、思い入れが強すぎて
取材対象との距離感を保つことに失敗している。
のみならず、取材を通して吐露された執筆者自身の世界観が
慎重なチェックを経ずにナマに展開され
読んでいて嫌悪感すら覚えたのも事実である。
最後のほうは、体罰賛美はもちろん
必要であれば暴力賛美も辞さないという
強い自己主張の文章が延々と続き
もう飛ばし読みするしかなかった。
21世紀でそんなことを無反省に書き連ねて恥ずかしくないのだろうか。
もしそう主張したいなら、もっと慎重に考察を進めるべきだろう。
このヒドい読後感は、最近にない強烈さだった。
題材はこんなに素晴らしいのに。
結局、栽弘義という人について
本当の姿は何一つとして分からなかったというのが
正直な感想である。

340korou:2017/07/27(木) 15:36:31
羽生善治(&NHK取材班)「人工知能の核心」(NHK出版新書)を読了。

出だしから読みやすく、テーマも興味深かったのだが
今まで読む機会がなくて、やっと読了できた。
予想通り優れた本だった。
発見が多くて知的刺激に満ちていた。

まず、データを読み込ませてプログラム通りの動きをさせるだけのイメージだった
いわゆるITだったものが
データの取捨選択といった判断もプログラムして、高速で全部把握できるという長所を生かすことにより
その過程こそブラックボックス化してしまうというデメリットこそ出てきたものの
プログラムのレベルの深化が可能になったとというのが
想像もしなかった最新の事実だった(まさにITがIEとなった)。
写真のなかのわずかな点を見て異常を感知するというビッグデータの活用などは
単なる量的なイメージから、質的なイメージの面でもビッグデータとなり得ることも
大きな発見だったし
そういう方向で現代のスーパーコンピュータを駆使すれば
人間の知性では発見できなかったものが発見されるようになったり
全然違う方向からのアプローチさせ示唆されるようになるのではないかと思われた。

確かに、最後の最後に、IEの出した「事実」「評価」に
人間の「評価」を加えることにより
一連のプログラムはやっと終了するという流れは必要だろう。
そこに無頓着な研究者は居ないだろうけど
素人目にそこが一番危険なポイントであるように思えるのは当然か。

「知能」を開発していく以上、「知能」の定義も揺れてしまうのは仕方ないこと。
人間は、まずそこを意識しておかないといけないだろう。
そんな基本的なことに思いが至るのも
この本の優れた点である。

341korou:2017/07/28(金) 09:56:33
高橋安幸「根本陸夫伝」(集英社)を読了。

以前から読んでみようと思っていた本で(「人工知能の核心」と同様)
今月から少しずつ少しずつ読み進め、本日読了。
優れたノンフィクションで
取材対象がすでに亡くなっているのに
よくぞここまできちんとした作品に仕上げたものだと
感心せざるを得ない。
栽弘義の伝記とは随分違った印象だった。

選手、裏方、フロントと
いろいろな関係者が存在するのが
根本陸夫という人の懐の深さだろう。
一方で、あとがきで紹介されている坂井保之の言葉のように
「本能で動く人。たまたま成功した例だけが取り上げられて
 何か意図していたことを実現させた人のように思われているが
 実際は違う」
という面もあったのは間違いない。
確かに、公平に見るならば
ダイエーでは動きが遅かったように見えたし(リアルタイムでの印象はそう)
やはりクラウン、西武時代がピークだったと言えなくもない。
その一方で、多くの人材を育てた功績は否定できない。
何よりも、その影響を受けた人たちが、その影響を雄弁に語っている
この本の存在そのものが
根本という人の根幹を物語っているように思われる。

その意味では、本そのものが野球史の一部になっている。
野球ファン必読の名著だろうと思った。

342korou:2017/07/30(日) 21:55:37
若林正恭「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」(KADOKAWA)を読了。

個性派芸人の若林(オードリー)が書いた2冊目のエッセー。
今回は旅行記で行き先はキューバ。
なぜキューバなのかは、この本の最後のほうで明らかになるが
出だしもそれなりに思わせぶりなので
そういう内面的な思索の末に海外へ行けるものなのかと
途中までは半信半疑ではあった。
しかし、最後に旅立ちの真の理由が書かれることで
その曖昧さはスッキリと晴れて、爽やかな読後感がもたらされた。
その「種明かし」も、その直前に不思議なダイアログを挿入したりして
工夫満載のエッセーとなっている。

ただし、途中の描写は、正直言ってダルい部分もある。
何もかも時系列そのままに
書きっ放しなのが単調なのかもしれない。
そのへんは素人っぽいのだが
全体としては期待していた通り
思索がストレートでナイーブで
好感が持てる文章だった。
今売れ行き好調なのも頷ける。
又吉作品よりは万人受けするのは間違いない。

乱発にならない程度に、これからもずっと書いていってほしい人の一人である。

343korou:2017/08/01(火) 09:14:18
森功「日本の暗黒事件」(新潮新書)を読了。

何ということはない本である。
高度成長時代後期からバブル崩壊までの短い期間のなかで
話題になった”闇っぽい”事件を10件取り上げて
そのアウトラインをまずまずのまとめ方で記述した、というだけの本である。

取り上げた事件のラインアップも
なんとも言い難い感じで、良くも悪くもない。
平凡な視点で平凡な切り口で書かれていて
自分が携わった事件にしても
それほどの”特ダネ感”が感じられないのが
この本の大きな欠点かもしれない。
さらに、どういう世界観、人生観なのか知らないが
最期の「サカキバラ事件」の犯人に対しては
妙にキツい論調になっているのも
(その是非は措くとして)他の事件への論調と比べて
突飛であり違和感が否めない。
「淳」を取り上げて、もう一人の山下さんの著作を取り上げないのも
その著作のクオリティ、影響力を思えば
不十分な記述である。

事件の概要などはWikipediaで調べれば分かることで
この程度の内容なら
わざわざ活字で出版する意義はないと思った。
まあ、興味はあるので、スラスラ読めるんですけどね。

344korou:2017/08/06(日) 23:21:46
長谷川晶一「極貧球団 波瀾の福岡ライオンズ」(日刊スポーツ出版社)を読了。

あの”山賊野球”のライオンズについては
誰かがノンフィクションでまとめてくれないかなとずっと思っていた。
その待望の企画が2年前のこの本で実現していた。
偶然、県立図書館に行く機会があって
そこでこの本を見つけた。

期待通りの内容で楽しめた。
知らない事実もいっぱいあって
日本プロ野球史を語る上で
こういう歴史は欠かすことのできないものだと実感する。
すでに亡くなった人には辛い評価になりがちな記述だけが
やや気になったものの
厳しい見方をすれば、歴史とはそういうものだと思わないでもない。
いくら根本陸夫が偉大であっても
語る人が違えば、その人の評価がすべてになってしまう。
江藤慎一も、本当の姿はもう誰にも分からない。
この本での評価がすべてではないことを知っている世代の人が
もっと語ることで、それを補うしかない。

全体として、坂井保之という人の大きさが印象的。
竹之内、基、太田の豪快さ、緻密さが懐かしかった。
もう、そういうタイプの選手は現れないだろう。
世の中がそれを許さなくなっている。
その意味では、幸せな時代に野球を観れて良かったと
今更に痛感する。

345korou:2017/08/15(火) 09:50:21
池上彰「世界を動かす巨人たち<経済人編>」(集英社新書)を読了。

ジャック・マー、ルパート・マードック、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、
ウォーレン・パフェット、ドナルド・トランプ、マーク・ザッカーバーグ、
ラリー・ページ&セルゲイ・ブリン、コーク兄弟といった面々の列伝である。
例によって、池上氏の独壇場とも言える「わかりやすさ」を全面に押し出して
実に読みやすい現代の偉人列伝となっていて
あっという間に読了した。
それでいて軽読書のレベルに止まらず
例えばコーク兄弟など、他の本ではなかなかお目にかかれない重要人物についての
知識がすいすい入ってくるという功徳もある。

マードック、パフェット、トランプ、コーク兄弟は
伝統的な産業のなかで成果を上げた経済人だが
それ以外の人たちはすべて
ネット・PC絡みの産業のパイオニア的存在であり
そのあたりが、かつて竹村健一が書いた同種の列伝と違う点だろう。
(竹村本は1980年代半ばに書かれていたが、ネットはまだなく
 PC関係はスティーヴ・ジョブズだけだった)

こういう読みやすくてタメになる本は
オススメ本という他ない。
読んで損する人は一人もいないはず(かなりの博学でない限り)

346korou:2017/08/15(火) 12:29:39
世良利和「まあ映画な岡山じゃ県!」(蜻文庫)を読了。

岡山県人で山陽新聞購読者であれば
大抵知っている人気連載記事をまとめた本。
それにしても、ようこれだけマイナーな映画ばあ集めたもんじゃ・・・という風に
岡山弁を連発したくなる本でもある。
語り口も、とにかく読者をクスリと笑わせようとする魂胆丸見えの
サービス口調であり
こういう本は読むのに何の苦労も要らない。
ひたすら笑って、ちょっとだけ郷土の歴史にも触れて
近現代の映画人のことも(かなりマイナーなものも含めて)知れて
まあ、言うことねえなあ(中途半端か、この岡山弁)。

渥美清、横溝正史とか
「竜馬暗殺」「バッテリー」などの作品あたりなら
誰でも知っているレベルだが
長門勇が、人間になりたがっているオオサンショウウオの役で出ている(しかも
そのまんま人間の姿で)映画とか
佐久間良子がアバズレ女の主役を演じ、誰が見てもミスキャストだと
一瞬で分かる映画とか
とにかく映像があれば、ちょっと見てみたくなる映画ばかりだった。
さすがは世良さん。
そして、ちょっと難解な味のマンガを添えているいしいひさいち氏の仕事も
忘れてはならないところ。

岡山県人だけが二倍も三倍も楽しめる本、というのが
嬉しくもあり、ちょっと残念な超面白雑学本です。

347korou:2017/08/19(土) 23:19:51
ジェフ・パッサン「豪腕」(ハーパーコリンズ・ジャパン)を読了。

県立図書館で借りた本(偶然行ったときに発見)。
最初想定していた感じとはだいぶ違った内容だったが
想像以上に面白く読めた。
MLB新刊本は数少ないので
これは今年発行の本のなかでは白眉と言えるだろう(2017年3月発行)

トミー・ジョン手術が急増する現代の野球界。
MLBのエース投手の手術例急増に象徴されるように
これは現在のアメリカ野球界の大問題なのだが
それにしては、事態の解明は遅れている。
この本は、現状がどうなのか、実際にその手術をせざるを得なくなった2人の投手に
著者が取材を申し込み
いろいろな側面からの補強取材を織り込みながら
全体としては、その2人の投手のリハビリから復活までの過程を
注意深く、かつ本質を失わないよう慎重に書かれた本である。

ハドソンは幸運な男だった。
見事に復活し、今年もパイレーツで投げているようだ。
その反対に、コフィ―には不運がつきまとい
払った膨大な努力に何の見返りもなかった。
昨年は独立リーグで奮闘したようだが
今年の様子は分からない。
そうした明暗分かれる運命、何が決め手で何が原因なのか
これだけ重要な問題なのに未だ何も解明されていないことこそ
この本が書かれた大きな動機だろう。
読後も晴れやかな気持ちにはなれないが
より現実の深部に迫れた感覚にはなる、
優れたノンフィクション、ドキュメンタリーと言えるだろう。

348korou:2017/08/25(金) 14:26:16
安倍公房について。

視力の衰えにより大活字本に出を出したい今日この頃。
わが職場には、全集が2つあって
日本文学全集と現代ミステリー作家全集。
後者は好みもあるし、文句なしの傑作ぞろいでもないので
とりあえず前者の制覇を試みたのだが・・・

とっかかりは二葉亭四迷か安倍公房かということになる。
最初からか最後からかということだが
偶然「浮雲」は読了済みだったので
何度トライしても読み進められなかった「他人の顔」から
制覇をスタートさせることにしたのが前月末。

あれから数週間。
なんとか100ページ以上には達したが
もう限界である。
そもそも何が書いてあるのかが分からない。
あまりにぼかして書いてあるので
2017年の凡庸な人間が読んだ場合
そもそもの文章の意味が分からない。
それは文学作品独特の言い回し、レトリック、技巧などというものとは
違うように思える。

349korou:2017/08/25(金) 14:31:19
かつて安部公房(前の書き込みでは名前を間違えた)を読んだときには
難解な部分と爽快な部分(他の作家では味わえぬ感覚)が入り交じって
どうせ精読していない時期の読書だから
それはそれで読破した気分になっていたのだが
さすがに現在の自分には、そういう雑然とした読書は無理である。
難解な部分があまりに多い場合
読書を続けるのは無理である。
いかに目に優しい大活字本であっても。

しかし、安部公房って、こんなにテキトーな文章を書く作家だったのかな
と不思議に思う。
日本語としてずっとヘンである。
そして大抵の場合、モノローグなので、世界の狭さが直感され
読んでいてドキドキ感が皆無である。
ドストエフスキーなんかも今読むとそうなのか?

時代の変遷、淘汰ということを思う。
安部公房は(他にもいくつか読みかけたが)
今の自分には無縁な作家であると言わざるを得ない。

350korou:2017/08/29(火) 08:54:13
世良利和「まあ映画岡山じゃ県 2」(蜻文庫)を読了。

前作に続いて一気読書。
面白い、タメになる、笑えるの三拍子揃った快著であることは
第2弾になっても揺るぎなかった。
いしいひさいいち氏の4コマ漫画が増量されているのも
書籍化されてバージョンアップされたポイントの一つ。

パターンがやや分かってきて
要はリアリズムの視点からのツッコミということだろう。
大昔の鷹揚な作りの映画には堂々と正面からツッコミ
最近でもエエ加減な作りの映画については
笑いを犠牲にしてでも厳しいツッコミを入れるという構成。
蘊蓄のある人がツッこんでいるので
読んでいて嫌味にならないのが強み。
映画頼みの観光行政への批判などは
まさにその通りだと思わせるし
ときとして俳優への愛情が感じられる記述も心憎い。

と、まあ賛辞オンパレードになってしまったが
要するに我が読書嗜好のツボにハマったということですな、これは。

351korou:2017/08/29(火) 09:00:59
続いて(苦戦続きの?)大活字本読破計画について
作家への感想第2弾ーーー大江健三郎

かつて無条件に才能を感じた作家であったけれども
21世紀の今、60歳になろうとしている人間が
その初期の代表作を読むのは
あまりに違和感があり過ぎる。
過剰なほど周囲へ攻撃的になる感性とか
言葉が後追いするような衝動的な性描写など
今、この状況では、感情移入どころか
そもそも言葉そのものが頭に入ってこないのである。

後期の作品なら少しは言葉が入ってくるのかもしれないが
大活字本にはならないだろうし
安部公房に続いて大江健三郎も
私には無縁な作家になってしまった。
今後一切読むことはないだろう。

352korou:2017/09/01(金) 16:20:52
丹羽宇一郎「死ぬほど読書」(幻冬舎新書)を読了。

優れた国際感覚で駐中国大使の任を果たした元伊藤忠商事会長が書いた
読書推奨の本。
前半は、読書について考え抜かれた叡智がちりばめられ
さすがと思わせたが
どうもこの新書のヴォリュームを
満たすほどのクオリティに不足していたようで
後半はビジネスマンの心得なのか読書の話なのか
判然としない文章が続き
残念な読後感となった。

前半だけをみれば
まさに良識派の読書論の極めともいうべきもので
十分オススメできる。
しかしこの薄さ(183p)を満たせない読書論というのも
どうかと思われるので
やはり所詮は叙述の素人と言わざるを得ない。
優れたビジネスマンではあるけれど
いくら読書家でも
そのあたりはどうしようもないのである。
(人として優れた方ではありますが)

せめて前半と後半が逆で
最初はビジネスマンとしての体験記中心に綴り
後半にその体験記と連動する形で蘊蓄ある読書論を展開する
という形なら名著になったのでは、と惜しまれる著作。

353korou:2017/09/10(日) 15:13:54
宇沢弘文「人間の経済」(新潮新書)を読了(県図本)。

やっと宇沢さんの読みやすい著作に出会った、という感じ。
いわざ宇沢さん本人による自叙伝のようなもので
一般的な自叙伝には含まれる個人の「属性」(両親のこと、子供時代のこと等々)が
そこでは省かれているだけで
20代以降に携わった仕事の内容をメインとして
こういう心積もりでそれらの仕事に対処したという話が
断片的に綴られている本である。
したがって、宇沢氏本人に興味のない人には
全く読みどころ不明な本ではあるが
内容が平易に書かれているため
宇沢さんという人を知るための最初の本としては
これほど適当なものはないと思う。

ヴェブレンとか石橋湛山とか
自分も感銘を受けた人たちが
宇沢さんにとっても大きな存在であることが分かっただけでも
この本を読んだかいがあった。
さらにジェイン・ジェイコブズのような人の存在を知ることができたのは
読書ならではの知識の広がりとなって嬉しい限りである。

人には薦めにくい、ほぼ自分のためだけの読書だったけれど
有意義な読書だった。

354korou:2017/09/13(水) 08:16:18
安岡章太郎の小説を読んでみた(大活字本読破企画)

きっちり読んだのは初めてかもしれない。
初読の印象は「読みにくい」だったが
読書メーターでのいろいろな人の感想を見てみると
「読みやすい」「面白い」などが多かったので愕然。
自分の読書嗜好は、案外一般的でないのかも。

読んだ小説は「悪い仲間」(芥川賞受賞作2作のうちの1つ)
「ガラスの靴」のほうが面白いという評価も多く目にしたが
自分には、ああいう曖昧なまま推移する恋愛系小説は合わなかった。
青春の1コマを巧くフォーカスした「悪い仲間」のほうが
口に合った。
それにしても、今読むと大時代的である。
せめて1970年代に読んでおけば
たかだか30年前の話なので
2017年の今、バブルの頃の設定の小説を読むようなものの
違和感も少なかったに違いない。
案外、時代の影響を受け過ぎているのかもしれない。

結局のところ、あまり楽しめず(小説そのものの発酵度の高さは感じられたものの)
安岡章太郎はこれにておしまい、という次第。

355korou:2017/09/17(日) 17:48:53
新井信朗「レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」どっちが賢い?」(新潮社)を読了。

特許・知財に関する入門書である。
まさに優れた入門書の典型ともいえる見事さで
難解かつ無味乾燥なものになりがちなこの分野なのに
すらすら読めるのは驚きだ。

特許を申請するかどうかはデリケートな問題だということは
何度も力説された点だが
さすがに、そのデリケートの度合いをイメージするには
入門書読後の段階では難しい。
そこがこの本の肝でもあったので
その意味では、読んだかいがなかったとも言えるのだが
そこは、この本の存在を知っているかどうかという点で
十分補えると思う。
知財について何も知らないのは大変危険だということを
この本で知って
さらにこの本を再度読み直すことで認識を深めるということで
この読書の意義は十分にあると言えるだろう。

とはいえ、社会人でない人などに
この本の意義を伝えることは難しい。
もちろん、それは「宅建」の本とかにも言えることだろうけど。

356korou:2017/09/19(火) 15:29:33
福岡伸一「新版 動的平衡」(小学館新書)を読了。

自然科学の分野で
今最も上手い文章を書く福岡さんの
かつての名著の改訂新版として
新書サイズで刊行された本である。
期待通りの達意の文で
難解になりがちな生命科学の話題が
イメージ豊かに描かれる。
1回だけの読書では
さすがに全部分かったということにはならないが
これも、前回の知財の本と同じで
この本の存在を知っているだけで
未読の人よりも
大きなアドバンテージを得ることになるわけだ。

ただし、著者が今回力を入れて追記したと思われる
最終章の数学的論考は
この種の本では必要なかった。
突如話が理系になり
文系人間は排除されてしまう。
編集者は、いくら著者の思いが込められていたとしても
そこは譲るべきでなかった。
最後が飛ばし読みになってしまうので
いかにも残念である。

357korou:2017/09/20(水) 21:58:49
宿野かほる「ルビンの壷が割れた」(新潮社)を一気に読了。

久々にワクワクしながら読み進めることのできる小説に出会った。
ただし、中身は何もないし
設定にムリがあるのは多くの書評サイトで指摘済みの事実。
読みにくくて困ったという人は皆無なのに
読後の評価では最悪モードで
これを全体としてどう受け取るか、読者の嗜好が試される一冊だ。

やはり、世の中には山田悠介テイストの小説が必要だ、という立場にたてば
これは年に1冊出るかどうかの傑作という評価も可能だ。
いや読書は貴重な時間を捻出して行う行為だから
そんなテイストのものは要らないという意見であれば
これほどの悪書はない。
多くの本を読める(そういう時間がある)のに
なおかつこの本を酷評するというのは
素人の浅はかさだろう。
多く読めば、こういうものには必ずぶち当たるわけで。

自分としては
このところどの本も途中止めにしているので(視力のこともあり嗜好の問題もある)
こういう一気に完読できる本の存在は嬉しい。
やはり山田悠介的なものは
ある程度は必要、というのが私の意見。
ムリは承知で読むしかないでしょ、こういう本。

358korou:2017/09/29(金) 11:26:08
東野圭吾「マスカレード・ナイト」(集英社)を読了。

待望の東野作品の新作にして
「マスカレード」シリーズの新作である。
すでにベストセラーになっている。
もう読まざるを得ない状況だが
最近の東野作品に顕著である”活字の小ささ”が邪魔をする。
1ページ19行の活字を450ページも読み続けるのは
今の自分にとって苦行でしかない。

・・・でも、読んでしまった!

前半はエピソード過剰で冗長に思えたが
考えてみれば、そういう感想を読書中にいだくこと自体
いかに読みやすい文章であるかということに気づかされる。
途中からは加速がつき、400ページを超えてからは
いつも通りの一気呵成。
かなり目が疲れたが、まあ仕方ない。
年に何度もあることでもないし。

エンディング(謎の解明部分)が不満な書評も見られたが
私には見当違いな感想に思えた。
巧い!その一言に尽きるのではないか。
充実感が久々という感想もあったが
これは、最近の他の作品でも十分感じていた自分としては論外。
よくできたミステリーである、というこちには大いに同意する。
オススメ度100%の最新ミステリー。

359korou:2017/10/11(水) 13:56:53
石田香織「きょうの日は、さようなら」(河出書房新社)を読了。

デビュー作ということだが、驚くほど丁寧に人物が描き分けられている。
人によっては、いろいろと欠点が見いだされるようだが
自分にはかなり満足度の高い小説に思えた。
途中で、人物を描き過ぎというか、エピソードを詰め込み過ぎて
話のテンポが落ちて退屈に思える瞬間があったが
そこ以外は特に気になることもなく
丁寧で、かつ味のある文章を堪能し続けることができた。
こういうネガティブな雰囲気の話を
ここまで前向きなイメージで書けること自体
稀有な才能だと思う。
リアリティが、まず現実寄りのネガティブな設定で確保され
さらに文体の確かさがそのリアリティを補強するといった感じ。
ゆえに、曖昧なイメージで締めくくるラストでさえ
しっかりと作品世界にハマった人には
かなり明晰な形で伝わってくるのである。

第2作も読んでみたい作家だ。

360korou:2017/10/11(水) 22:21:09
大西康之「東芝解体 電機メーカーが消える日」(講談社現代新書)を読了。

東芝の危機が新聞で連日報じられる昨今
その東芝の危機の実態がルポされている本かと思って読み始めたが
実はそうではなく、もっと広く日本の電機業界に潜んでいた構造的欠陥を
この30年ほどの経営の実態を分析することであぶりだした野心的な労作だった。
東芝はその代表格として取り上げられているだけに過ぎない。
まさに著者があとがきで記しているように
これは太平洋戦争の敗北を組織論で解き明かした「失敗の本質」の
現代版なのだ。
ゆえに分析は容赦なく、そこに浮き上がってきた課題は
底知れぬほど根が深い。
改善できるのだろうかと絶望的にすらなる衝撃の書である。

そして、これは電機業界だけにとどまらず
日本の産業全般に潜む危機だろう。
構造的かどうか、まず分析して
もしそうであるとしたならば
そこから脱却する動きについて
われわれは長いスパンで物事を考える習慣を身に着けなければならない。
外資による買収を、ただ単に「けしからん」と思うだけでは
何も分かっていないに等しい。

そんな厳しい世界の現実を思い知らされる強烈な新書だった。
これだから読書はやめられない。

361korou:2017/10/15(日) 18:30:48
知念実希人「崩れる脳を抱きしめて」(実業之日本社)を一気に読了。

今、旬の作家だが未読だったので
いつか一冊だけでもいいので、読了したいと思っていた。
この作品は読み始めから何か甘い雰囲気に惹かれるものがあり
そのまま読み進め
途中でやや退屈したものの
それは一瞬だけで
そこを乗り切ると、後半は一気呵成だった。

読後に印象の良さという面でだけで言えば
最近読んだ本のなかでも群を抜くものがあった。
決してバラ色の未来で終わる結末でないのに
主人公たちの前向きな気持ちが
爽やかに読後をよぎっていった。
いろいろな伏線がうまく回収され
少々の設定の甘さとか、人物描写の不徹底さなどを
忘れさせる感じで
作者の筆力たるや相当なものだ。
さすがに旬の作家だと思った。

こうなると「死神の飼い方」も
いつか読まなくちゃということになる。
まさに、万人にオススメの小説である。

362korou:2017/10/18(水) 22:32:48
矢部宏治「知ってはいけない」(講談社現代新書)を読了。

孫崎亨氏の著作を読んで以来
この類の本を集中的に読み漁り
その概要はほぼ理解できたつもりでいた。
現在これがベストセラーになっていると知り
あえてこれも読んでみた。
読後の感想を記せば
いわゆる法的な面からの
戦後日本国防止総括といった感じだった。
法的側面の話なので
記述はきっちりと書かれていて
説得力は十分にある。
ただし、やや法的に絞りすぎたせいか
この種の論理を生理的に嫌う人たちからは
国際情勢の現実の分析がおざなりという批判を浴びている。
たかだか1冊の新書にそこまで求めるのは
ためにする議論なのに
相変わらず議論バカが多い。

363korou:2017/10/18(水) 22:37:19
(上記投稿の訂正)「ためにする議論なのに」 → 「ためにする議論だろう」

(続き)
国際情勢よりも大切なのは国内情勢である。
国際情勢の議論が最優先になること自体
すでに安保体制に思考が毒されているのである。
沖縄と福島のほうが
北朝鮮・中国の脅威よりも優先される。
そのことをもっと意識的に考える必要性を感じた(アマゾン書評から)

この本で得た一番有益な知識は
安保条約と朝鮮戦争との関連性だろう。
そして、矢部さんの前著で知った「連合軍=国際連合=米国」という図式も
復習する価値のあった知識だった。

リベラルかつ保守の立場を堅持するためには
必読の書だろうと思われる。
コンパクトで読破しやすいのも高ポイント。

364korou:2017/10/25(水) 13:58:35
ばるぼら・さやわか「僕たちのインターネット史」(亜紀書房)を読了。

9月下旬から読み始めて、読了に1か月近くかかった。
自分の好きなジャンルの本なのに、読了にこんなに時間がかかるとは想定外だった。
最初のほうで80年代・90年代のネットの歴史・出来事が書かれている部分で
意外に自分の知らないことばかり出てくるので
最初は好奇心を持って読めたものの
途中から疲れてしまったのも事実である。

そして、自分としては時代についていけなくなっていたはずの
00年代・10年代の記述のほうが
既知の事実が多いのも意外だった。
そこから導かれる”倫理の衰退、滅亡””ビジネス化、数字へのこだわり”といった
ネットの新潮流に至る展開は興味深いものがあった。

全体として、知らないことのほうが多かったので
読破に疲れてしまい、最後はなだれ込むような読書となったが
まあ、こういう「基本」をおさえておくと
他の同種の本を読むときに理解が早いだろうと思えた。

マニアックな内容なので
あえて人にはオススメできない本だが
自分にはそこそこ有益だった。

365korou:2017/10/29(日) 15:17:10
河崎秋子「颶風の王」(KADOKAWA)を読了。

”颶風”とは「激しく吹く風」という意味らしい。
普段まず読まない類の小説だった。
その世界にはネットは必要最小限しか現れず
概ね土と風と水が支配する”大地と荒海とそこに鎮座する奇怪な形の小島”である。
そして、江戸時代の名残りが未だ残る明治初期の東北の山奥で
馬とともに遭難した娘の伝奇に富むエピソードが強烈で
まだ生きている馬の肉を裂いて飢えをしのぐという光景が
脳裏に焼き付いたあとは
一気呵成の読書となった。
あり得ない、想像し難い光景を
言葉だけで再現してしまう奇跡のような展開に
ただひたすら目を見張るだけだった。
そこから昭和の戦後直後の描写に飛ぶ第2章では
これまた未開同然の北海道の寒村の森の風景が強烈で
馬を探す少女の精神風景が
読む者の心に激しく刻まれる。
最後の平成の物語は
後日譚っぽく作り過ぎた感じで
こじんまりとまとまった構成が
それまでの骨太な物語にそぐわない印象を受けたものの
全体としてみれば
着地点はそこしかないようにも思われた。

なかなか出会いにくい類の小説である。
第2作の評価が、今作ほどでないのが残念だが
この作家には、この出発点で示した資質を
大きく開花させてほしいと思わずには居られない。
それほど大きく、激しく、うねるような、心を揺さぶられる小説だった。

366korou:2017/11/14(火) 21:53:10
ちょっと間が空いたと思ったら、2週間以上だったので驚き。

磯田道史「日本史の内幕」(中公新書)を読了。
大層な題名だが
要するに読売新聞の連載をまとめた短文集で
大がかりな日本史の総合本ではない。
著者の好奇心をくすぐる筆致には
日ごろ注目し、実際にこの連載もある程度読んでいたので
そのことを再確認するような読書となった。

短文集なので、まとまった感想は書き辛い。
とにかく現場主義、好奇心の求めるまま本能的に動き
どんどん人脈を作って行動を広げるさまに圧倒される。
その行動の奥には秘めたるヒューマニズム、真摯さがあるのだが
筆致は軽妙で実に読みやすい。
このあたりのギャップ(良いギャップ)も魅力の一つだろう。
高校時代の著者の活動を末端で支えていたことになる自分としては
嬉しい限りだ。
この本で、あらためて日本史の面白さを確認した人も多いだろう。
自分もその一人となった。

367korou:2017/11/27(月) 19:55:19
青山南「60歳からの外国語修行」(岩波新書)を読了。

すでに著名な翻訳家である著者が
新しい言語習得に挑戦するということで
しかも60歳を過ぎてからのチャレンジということなので
その時点で読もうかという興味が湧いた。
読み進めてみて
ふだんあまり知ることのないメキシコの生活風景が
具体的に描写されていたことも
さらに興味をそそられた。

ただし、読み終わってみると
特にこれといって何かハッキリしたものを得たという感じはなく
普通に新しい言語を記憶力の落ちた年齢で始めて
非常に苦労したというだけの話ともいえる。
いくらか日本だけの常識をはみ出す世界も点在するのだが
印象はそれほどでもなく
またそのこと自体は他の本でも十分知ることができる。
結局、青山さんという人を今まで知っていたかどうかというところで
この本の価値は決まるようだ。
少しでも知っていれば、十分読破できるし
全然知らなければ、読破しようとは思わない本になるのだろう。

368korou:2017/11/30(木) 12:24:04
山中伸弥、平尾誠二・惠子「友情」(講談社)を読了。

今年一番の本ではないかとの評価が高いベストセラーなので一読。
想像通りの”熱い友情”、それも
成熟した40代の男性同士のそれがほとばしるような本だった。
40代の後半に至って初めて知り合ったというのに
急速に親密な仲になって
そこから癌との闘病という体験を味わうというドラマは
出版社としては見逃せない展開だろう。
山中教授の専門外だけど熱い男気の語りから始まり
平尾夫人の家族ならではの思いが、それでも想像以上冷静に語られ
最後に、最初の出会いとなった雑誌対談の再録という構成になっている。

ただし、この本は
平尾誠二という人がどれほど凄い人だったのかを
ある程度は知らないと
本当の意味では深くは読めないような気がする。
せいぜい松尾雄治まででラグビー観戦歴が止まっている自分としては
平尾という人について
ほぼ知らないに等しいので
その点は読んでいて我ながら歯がゆかった。
山中さんがぞっこん惚れこんでいるせいで
文章が上滑りになっているのが
そのままストレートに感じられるのも
そういう面が大きいはずだ。

ラグビー好きで平尾の偉大さを知っている人なら
この本はすごく印象に残るだろうし、いろいろな個所で落涙するのかもしれない。
自分には「ちょっといい本読んだ」という感想しか残らなかった。

369korou:2017/12/01(金) 16:40:35
西本紘奈「六兆年と一夜物語」(角川ビーンズ文庫)を予定外に読了。

ちょとだけ中身確認のつもりが
一気に最後まで読み切ってしまった。
とはいうものの
まるで詩集じゃないかと思われるほど字句がスカスカに空いていたので
普通に読み通すことができた。
276pの文庫本だが、誰でも1時間ちょっとで読破できるだろう。

内容は極端な設定のセカイ系恋愛小説で
セカイ系だけにSFっぽいネタで終わってしまう。
実体はボカロ小説らしいのだが
何せ原曲のことは知らないし
そもそもボカロ小説としての良しあしなど皆目分からないので
そのへんはなんとも言いようがない。

セカイ系としては、まずまず手順がきちんとふまれていて
そのへんんは安心できる描写になっている。
ただし、ある程度割り切って読まないと(ライトノベルっぽさとかを)
普通の小説しか知らない人には
抵抗感がある文体、構成、描写だ。

アマゾンでは
ボカロとしての出来に疑問符を抱く書評が多く
私のような評価をしている人は少ないのだが
まあいろんな読者がいてもいいだろうと思っている。

370korou:2017/12/08(金) 12:49:00
佐野徹夜「この世界にiをこめて」(メディアワークス文庫)を読了。

久々にメディアワークス文庫らしいストーリー、文体の小説を
読んだ気がする。
主人公はティーン世代で
どことなく世界とうまく折り合えない性格で
それでいて、なんとなくその主人公を気にしている女の子がいて
どういうわけかその女の子が(主人公にとっては)無意味に可愛くて
最後は主人公がちょっとだけ世界と折り合えた気になる・・・という感じ。
そういう王道のMW文庫だった。

やたら小説の意味、小説を書くという行為への意味を反復するので
そこは著者と著作という小説のお決まりの約束事を逸脱するようでもあり
そこを逸脱することによって、より深い何かを目指しているようでもあり
この小説全体の印象で言えば
そこは部分的に成功しているものの部分的には破綻している。
ただし、それらは登場人物への感情移入という側面からみれば
大きな傷ではない。
この小説の主人公、ヒロイン、そして重要な第2ヒロインすべてが
十分に魅力的だ。
この小説の美点は100%そこにある。

こういう素敵なパーソナリティを造形できる作者ーーいかにも
MW文庫にふさわしい
久々にMW文庫のそうした魅力に酔うことができた。
これが第2作だが、評判の第1作も読んでみたい。

371korou:2017/12/10(日) 17:00:39
望月衣塑子「新聞記者」(角川新書)を読了。

今年、官房長官記者会見でお約束の質疑応答の枠を打ち破って
一躍注目された新聞記者による著書である。
ただし、ジャーナリズムのことを論じた本とは言えない。
自身の生い立ち、取材の経歴などがずっと語られ
その合間合間に新聞記者としての学び、得られた職業意識、矜持などが
行間から滲み出てくるといった類の文章である。
しかも、その取材経過の記述が
本当に新聞記者かと思えるほど上手くなく
読んでいて、なぜこの記述になるのか
直前の数ページを読み直さなければならないことが何回かあり
読み通すのに予想外なほど苦労した。
また文章の端々から自然に感じられるニュアンスというものにも
意外なほど鈍感な感じを受け
これはこう書くと「自慢」として受け取られるぞという箇所で
無防備にそう書き流しているのも目立った。

ゆえに、今の職場でこの本を提供する価値は
読破前より遥かに低くなった。
ちょっとだけ功績を挙げた女性中堅記者の「自慢」話、
それもよく整理されていない、けれども書名からはジャーナリズムの話かな
と誤解されるような、でもそうではない散漫な話を
受験生には提供できない。

この本のいろいろな欠点をすべて承知して
なおかつ権力と対峙する一人の人間を応援してあげたいと思っているなら
断然オススメできる本である。
なかなか評価の難しい本であることは間違いない。

372korou:2017/12/16(土) 15:38:44
松浦哲也「母さん、ごめん 50代独身男の介護奮闘記」(日経BP社)を読了。

全く飽きずに夢中に読んだ。
介護ルポでこれほど我を忘れて読ませるものは
かつてなかったのではないかと思われる。
的確に表現される介護の実態と
できるだけ冷静に対応しようと思いつつ
一人の人間として仕方ない感情の動きも記述されていて
まさにリアリティ抜群で
あたかも読者をして「じぶんごと」の介護を体験可能なように思わせ
かつ再現されている稀有の名著だった。

自分にはここまで冷静には対応できそうもないし
もっと雑に済ませてしまいそうで
ある意味無自覚だった今までの自分が怖くなる思いだった。
親の介護はもうなくなったが
自分がそうなってしまうか、家人がそうなってしまうかという
近未来が待っている。
お金のことも、これからは期待できないので
そこも心配ではある。

自分としては、やはりガンで亡くなるほうが
人への迷惑のかけ具合が違うので望ましく思っている。
そこが自分で選択できないのが
「死」というものの不合理で厄介な部分なのだが。

とにかく今年一番といって良いドキュメンタリーだった。
誰にでも迷いなくオススメできる本である。

373korou:2017/12/23(土) 23:03:24
今村昌弘「屍人荘の殺人」(東京創元社)を読了。

新人の作品(鮎川哲也賞受賞作)ながら
今年度のミステリーNo.1の作品との高評価を得ている話題作である。
出だしは、西澤保彦の「七回死んだ男」のような独特の軽妙な筆致で読ませるのだが
展開が遅くてダレ気味なのも事実で、読み進めるのがしんどい感じがした。
しかし、どこかに凄いものがあるのだろうと期待だけを先行させて読み進め
ついに事件は起こるのだが、それがゾンビ出現というあり得ない設定であるため
面白さは増すものの、どこかで釈然としない感覚が残ってしまう。
後半はさすがに一気読みさせる筆力だったが
ありがちな結末のまま終わってしまうので
本格推理としての新味には乏しい。
実際のところ、もう一ひねりがあって、あっと驚く結末なのかと期待してしまったのだが・・・
それは何もなかった。

ゾンビが密室状態を作る重要な要素となっている点が新味かもしれない。
でもゾンビは非現実であり、空想上の産物でしかない。
本格推理にそれを持ち込むのは違反行為ではないかと思う。
本格推理の部分も、若い女性がそれだけの動機で大量殺人を計画し
実際に殺人を実行するという点においてムリがある。
細かくみれば、本人は直接手を下していないのでアリなのかもしれないが
ゾンビが出現しなかった場合、直接人を殺すことになるのだから
設定そのものにリアリティがない。

というわけで、面白く読んだ割には
読後感はすっきりとしないものが残った。
絶賛する玄人筋の感覚が分からない。

374korou:2017/12/30(土) 15:59:31
野村達雄「ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる」(小学館・集英社プロダクション)を読了。

ポケモンGOというものがどういう経緯で生まれたものなのかという
ごう普通の好奇心で読み始めたものの
その中心人物であるらしいこの著者の生い立ちについて
冒頭から著者自身によって淡々と語られ
人生の始まりがこれほど劇的な運命で定められていたのだという驚きで
読む前には想像もしていなかった展開となる。
中国大陸から日本に移住して
貧しさからも少しずつ脱却していくにつれ
徐々に現代日本に生きる若者らしい物語となっていくが
相変わらず、チャレンジする心なしでは何も解決しない状況は続く。
独学でパソコンのプログラミングを習得することに
半分失敗していたことに
自分と同じ体験をしているという親近感も湧くが
この人は新世代らしく、進路をそこに絞って専門の大学に進み
そこから独学の歪みを修正することができたのだから
世代の違いを思うとき、やや羨ましい気もするのは仕方ない。

あとは行動力で一気に大学院からグーグルに辿り着き
そこでポケモンGOのアイデアを実現させたのだから
今のところ悔いなき良き人生になっている。
本人の資質、幸運、その運を実現させる実行力の賜物というほかないが
そういう成功物語そのものについては
残念ながら類型的な話に終わっている。
ポケモンGOプロジェクトを推進したポケモン会社のトップが
いみじくも感動したように
この物語の肝は、やはり著者の生い立ちにあるように思える。
この生い立ちから、この大プロジェクトの成功までの経緯そのもの、経緯すべて全体が
素晴らしい物語であるように思えた。

375korou:2018/01/02(火) 15:46:43
新年最初の書評は昨年からの持ち越し読書。
NHKスペシャル取材班編「人工知能の「最適解」と人間の選択」(NHK出版新書)を読了。

NHKによる人工知能関連新書の第2弾。
前回の著作は
人工知能が単なる高性能のコンピュータというイメージにとどまらないということを
将棋の羽生名人という人類最高級の知性をうまく絡ませながら示した見事な新書だったが
今回の新書は
そこからどこまでの進展があって、今現在どんな状況なのかということを示した
まさに続編という形になっていた(読む前の推察通り)。
ただし、状況はますます分かりにくくなっていて
それに対する編集チームのまとめにも
いくらか現実に対する(「人間側」とでもいうべき)価値判断を随所に挟んできているので
全体として面白みに欠けてしまったように思われる。
まだ、価値判断を下してどうのこうのという現状ではないように思えた。
まだ、こんなことも可能になってきた、そしてその結果こんな未来が見えてきた
という驚きと興奮で現状を描き切るべきではなかったかと思う。
まあ、NHKの立場では、いつまでも面白がるというスタンスがとりにくいのだろうけど。

というわけで、期待に反して、面白い読書にはならなかった。
読んでいて眠気さえ覚えた。
まだまだ具体的なイメージを共有するにはムリがあるので
価値判断そのものが常識的な範囲になってしまう。
もっと面白く描けるはずなのに、という不満が先立ってしまう。
あと5年待てば、もっと面白い本になったはずなのに、という根本的な不満。

376korou:2018/01/05(金) 16:52:24
ジョン・ハンケ「ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険」(星海社)を読了。

「ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる」を読んだ直後で読了。
ただし、読み始めはこちらの本のほうが先で
年末から年始にかけて読んだ次第。
このハンケの本にも、野村達雄のことが書かれていて
ポケモンGOをめぐる日本の関係者は
上記2冊において、ほぼ重複して出てくるのが
当たり前とはいえ面白い。

ハンケという新しい世代の技術者の
その人となりとか、今までの仕事ぶりが
本人の口を通して、簡潔に語られている本である、
グーグルアースとポケモンGOを普及させただけで
もう現代の伝説上の人物と言ってよいが
いかにも技術者らしく
どことなく謙虚で、控え目ながら
自ら信じる方向については断固として譲らない。
まあ理系の人なので
その信条について不明瞭なところはほぼなくて
言いたいことはよく分かる。
それにしても、そんなに外へ出て行動することに重点を置くとはねえ・・・
ポケモンGOのブームの後では
後付けみたいに感じてしまうのだが。

分かりやすいので、安心してオススメできる本ではあります。

377korou:2018/01/07(日) 12:49:58
新海誠「小説 君の名は」(角川文庫)を読了。

TV初放映の同名の映画を観終わって
もう少しその世界観を深めてみたいという思いと
いまひとつ理解できなかった細部を確かめたいという気持ちで
監督自身によるノベライズの本を読もうと思ったのが契機。
本編読了後にあとがきを読んで
この本が映画公開前に書かれたことを知る(というか、購入時の経緯から「思い出す」)。
細部の変更はなかったので
公開後のノベライズだと言われても納得できたとは思うが。

細部の発見はあったものの(彗星の落下直前の三葉の”心”は瀧だった)
死亡リストにあった三葉が
なぜ最後に瀧と出会うのか、いまだに理解できない。
瀧は3年前に戻って過去を変えることができた、ということなのか?
パラレルワールドとして、瀧はその変更された未来に生きて
生き残った三葉に出会ったのか?
作品のテーマについて、そのへんは大きな要素ではないのだが
ストーリーとしてどうも釈然としない。
映画のノベライズのようなタッチで書かれているのだから
そのへんを理屈っぽく書いても
特にヘンな感じにはならなかったはずだから
そこはきっちり書いてほしかった(映画でそこを強調すると気分が萎えてしまうので
そこはぼかしてあったのは正解だろ思うが・・・)

まあ映画とセットで読む小説である。
単体で読んでもあまり意味のある読書にはならないだろう。

378korou:2018/01/10(水) 20:30:57
矢部太郎「大家さんと僕」(新潮社)を読了。

ごくシンプルなコミックエッセイなので
このスレに感想を書くほどでもないのだが
最近売れているこの本について
読後の感想として一つだけ書くとしたら
この本の魅力は
老婦人の佇まいの綺麗さにあるのだろうと思った。
マンガそのものは
アマチュアの人が初めて書いたものにしては
随分と達者で
少なくとも意味は十分に伝わる画力だった。
ただし、お笑いの人らしいくすぐりが乏しく
全体としてシリアスな感触が強く
本来なら言葉で語られる内容なのだがと思ってしまった。
しかし、その分、主観によるブレが最小限に止められ
大家さんである老婦人の人となりがよく伝わるのである。
そして、佇まいが控え目で、でも十分に人間的。
誰もこの感じを悪くは言えないだろうなと思った。

時間つぶしには最適なライトなコミックエッセイ。

379korou:2018/01/16(火) 12:49:53
夏目漱石「それから」(新潮文庫)を読了。

昨年末から読み続けていて
どうにも読み進めるスピードが出なくて
そろそろ2か月近くなるのではと思うほどの長期の読書となったが
最後の最後で
作品そのものの急な展開もあって
最後のあたりは結構一気読みに近くなった。

そこに至るまで
何の面白みもないというか
韜晦な主人公の勝手な理屈を延々と聞かされ
その理屈のなかで最悪なものを選択して
突如実行に移し、案の定カタストロフィーを迎えるのだから
漱石でなければ、さっさと投げ出していたに違いない。
さすがに漱石はそういう感覚にしておきながら
読者をひきつける「何か」を持っていて
読書そのものへの苦痛は一切感じなかった。

ただ、漱石らしい名作かと問われると
なかなか評価が難しい。
もっと書きようがあったはずだし
新聞小説という制約も感じられる。
あくまでも漱石ファンのための作品、と言ってよいだろう。

380korou:2018/01/16(火) 16:12:36
磯田道史「『司馬遼太郎』で学ぶ日本史」(NHK出版新書)を読了。

読み進めようかどうしようかと迷いながら読み始め
予想通り、自分の「司馬史観」への関心のなさに我ながら辟易しながら
なんとか最後まで読み終える。

代表作のチョイスは納得いくものだし
それについての解説も
まずまず的を得ていて全く問題ないのだが
それでいて違和感ばかりが残る。
やはり、司馬さん自身に
歴史をもとにしたなにがしかの主張があるのに
それをフィクションで描いてイメージも動員しようとするところに
矛盾があるのではないか。
司馬作品を読んでいると
どうしてもフィクションだろうという思いが強くなり
それでいて現実世界の現在と過去にコミットしていくのだから
始末が悪い。
司馬信者は、そのへんを曖昧なままにして誤魔化しているように見える。

こうして読後に振り返ってみると
案外、つまらない読書だったように思える。
本として客観的にどんなレベルかということは別にして。

381korou:2018/01/22(月) 16:19:46
眉村卓「妻に捧げた1778話」(新潮新書)を読了。

一風変わった著作であることは承知の上で
しかも、職場の蔵書にはふさわしくないことはすでに判断済みながら
ここにきて再びブーム(アメトーク?)が来たので
予算も潤沢なことだし、購入を決意。

事前チェックのつもりが
やはり内容が内容だけに身に染みてきた。
若い人が読んでも今一つピンと来ないかもしれないが
これは熟年夫婦の立場で読むと
文章の端々に敏感に反応せざるを得なくなる。
感情を抑えたトーンで書いてあるので
その場でワアーというのではなく、じわじわと沁みてくる感じだ。
ショートショートの出来がどんどん深化していくのも
意味深いものを感じる。

読む人を選ぶエッセイだろう。
感情移入できる人には大変な感動作品になる。
そうでない人には、今一つかもしれない。

382korou:2018/01/28(日) 21:23:59
望月拓海「毎年、記憶を失う彼女の救いかた」(講談社タイガ)を読了。

設定が今流行りの「記憶喪失」なので
感情移入はし易く
文体も、賛否はあるだろうが適度の軽さと特徴ある短さで
読みやすさもあって
割合とスムーズに読み進めることができた。
ただし、設定の細かいところはイマイチ雑な感じも受けたし
ヒロインの性格も不必要に複雑に書き込まれるので
徐々に「どうなのかな?」という疑問もふくらんでくる。
おまけに300ページというのは決して短くはないし。

170ページのあたりで
新たな展開が出てくるにおよんで
一気に物語は動き始める。
人によって読解力は異なるだろうが
普通程度の読者(自分も)であれば
おそらくヒロインと同時に、その真実に驚いたはずだ。

そして、最後のほうで
もう一つの真実が提示され
もはや「参った!」と言わざるを得なくなる。
こちらは結構多くの読者にとって予想外な展開だったはずで
そのまま、ハイテンションの読後感のまま物語は終わる。

見事なまでのストレート純愛物で
そこへのミステリの噛ませ方は、メフィスト賞受賞作の名に恥じないものがある。

使い古された設定を、シンプルだけど巧みに展開させた佳作。
高校生くらいの世代には文句なしにオススメできる(大人はいろいろと意見が出るだろうが)

383korou:2018/01/29(月) 16:50:50
野口悠紀雄「入門ビットコインとブロックチェーン」(PHPビジネス新書)を読了。

知的興奮という意味では
まさにAIの進化を知ったとき以来の大興奮となった。
”ブロックチェーン”という新機軸が
その概要は、読後において
ほとんど理解不能なまま終わったのだけれども
その新しい機能が書かれているとおり有効なものだとしたら
これからの社会にある程度のインパクトを与えるものであることは
確かだろうから。
AIよりもっと分かりにくい技術革新だが
野口さんのわかりやすい図表により
それを管理者側の革新とイメージすることによって
AIの進化と対比した四分法で
その概要を理解することはできる。

生半可な読後感なのに(つまり、何も分かっていないのに)
読後の高揚感は大きい。
もっともっと知りたいと思わされた近未来予測の本として
この本をとらえた自分が居る。
もはやビットコインなどはどうでもよい(笑)

384korou:2018/01/30(火) 13:54:05
村上春樹「バースデイ・ガール」(新潮社)を読了。

ごく短い小説が一つだけ。
ドイツ生まれのイラストレーターによるイラストがふんだんについている
”アートブック”の体裁だ。
イラスト混じりで60ページにも満たないので
2.30分で読了できる。

どこを切っても「春樹風味」が漂う一編。
テイストは、アメリカの作家のショートショートのようで
どこにも日本の風土が感じられない(六本木、東京タワーという固有名詞も出ているというのに)
ストーリーを引っ張っている謎、仕掛けが
読者の関心の的から微妙にズレているのも
いつも通りの「奇妙な味」を醸し出す演出に思える。
ただ、オーナーである老人のキャラが
きっちり描かれていて
さすがにこれだけの短さのなかに読後に印象が残る人物を造形し得ているのは
さすがにムラカミハルキと思った。

これ以外の感想はもう思いつかない。
あとは言葉にならない地点で思いにふけるだけ。

385korou:2018/02/02(金) 11:24:53
佐藤航陽「お金2.0」(幻冬舎)を読了。

野口悠紀雄さんの本と並行して読みつつ
さらに藤原和博さんの本にも関連していることに驚きつつ
なんとか読み終えた。
素晴らしい本だと思うのだが
読了に面倒臭さを感じてしまった理由は
随所に出てくる断定口調に思わず「うさんくささ」を連想してしまったこととか
あまりに大きなテーマなのに
その根拠が今一つ迫力不足であることなどが関係している。
ただ、そういう欠点もありながら
全体として時代の洞察という点で光るものがある著作であることも
間違いない「野心作」だ。

この本は野口さんの著作より一歩踏み込んで
資本主義の究極の修正版として「価値主義」なるものを提唱しているのだが
それは、もう片方にAI革命をイメージしていることが大きい。
ブロックチェーンというデータの正確さを保証する仕組みと
AIという自動処理の極致ともいえる手法が合わさったときに
従来の国家対個人、大資本対個人という図式が揺らいでくるという予測には
思わずワクワクさせられる。
ただし、本当にそういう方向にのみ世界は動くだろうか?
少なくとも、自然と対峙している世界、食料・燃料を確保する分野において
ブロックチェーンもAIも無力であることは間違いない。
そういうものを除いた限定的な分野だけについていえば
この本が予測している世界は、十分近未来の世界としてイメージできるのだが。
どちらにせよ、読む人に予想以上のインスパイアを与える話題作であることには
間違いない。

386korou:2018/02/07(水) 12:43:29
「マンガでわかる ビットコインと仮想通貨」(池田書店)を読了。

一連の仮想通貨&ブロックチェーンの説明本読書の一環として読む。
最初に野口さんの本を読んだときの知的興奮が
かなり醒めてきたのは否めない。
ちょうど取引所の不祥事が発生して
その信頼性に大きな疑問がついたのも大きい。
何よりも、「個」対「個」といいながら
現実には、国家レベルのスーパーコンピュータによる数式解読が必要であり
さらに不完全な取引所制度を管理する国による規制も必要であることも
分かってきた。

加えて、ブロックチェーンの正しい使い方は
国境を越えた「個」の結合が可能というところに尽きるが
現実には「根拠なく高騰する株」同様、投機向けの利用が
過熱しているだけという状況がある。

すべてを考慮して冷静に判断すれば
ブロックチェーンの構造はともかく
その運用が普通の人間にはできないようにも思える。
そこのところをもう少し慎重に吟味してほしいのだが
今回のマンガ解説本は
あまりに楽観的すぎる。
ブロックチェーンでも違法を追跡できると断言しているのには
苦笑せざるを得ない。

まあ、これについては・・・・難しい・・・(笑)

387korou:2018/02/19(月) 16:48:17
池上彰「知らないではすまされない自衛隊の本当の実力」(SB新書)を読了。

自衛隊についての具体的な知識を得たくて読んでみたが
肝心なところが曖昧に書かれていて
池上さんでもやはりこの類の本は難しいのだなと
思わざるを得なかった。
防衛についての正しい情報、詳しい情報は
どうしても外交機密となってしまうので
肝心なところはすべて推定になってしまい
さらに、理屈を並べながら様々なことを指摘しようものなら
もはやその時点でその本は政争の具として利用されてしまうという
悲しいというか仕方ない現実がある。
部分的には役に立つ知識もあったが
全体としては特に記憶すべき知見はなかったというのが
読後の正直な感想である。

こういう分野は断然「陰謀史観」の本が強い。
とりあえず偏った立場を徹底して追及することで
中立な立場では見えないものが一気に見えてくるからだ。
結局のところ、政治に絡むものはすべてそうなのかもしれない。
その意味で、常識的な池上さんには
いかにも不向きな分野の本だった。

388korou:2018/03/07(水) 20:16:40
柞刈湯葉「横浜駅SF」(KADOKAWA)を読了。

読む気がなかった本だが
某氏(内海氏)が注目していた作品だったため
ついつい読む羽目に。
読み始めは設定についていけなくて辛い感じだったものの
途中からはなぜかかつてない感覚の面白さを感じ始め
最後は一気読みに近い感じになってしまった。

本当に分からないこの面白さ。
書いてあることの半分は、本当の意味で理解できていないのに
それでいて先へ先へとページを繰ってしまったのは何故なのだろう?
あまりこの種のSFを読まないので
いかにも奇想天外な発想に驚くほかないが
それ以上に、その風変わりな世界で生きている登場人物たちの
確かな実在感が不思議すぎる。
普通ならあり得ない世界でのたわごとで終わるはずなのだが・・・

何というか
読後でさえ印象がつかめない珍作である。
他の人に薦めて感想を聞きたいが
むやみに薦めるのも憚られるマニアックな本ともいえる。
ライトノベルのランキングで第1位になっているので
案外そういう小説のファンが飛びつくジャンルなのかもしれない。
SFというより、重厚なラノベなのだろうか・・・?

389korou:2018/03/08(木) 16:14:04
村山冶・松本正・小俣一平「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と特捜検察「栄光」の裏側」(朝日新聞出版)を読了。

勤務先との関係もあって
吉永祐介の本を読むことにしたが
そもそも吉永の本など、もう入手困難な時代になっている。
現役で大活躍のときでさえ
その職種の特殊さから知名度に乏しく
ましてその生涯を追った本など売れるはずもない。
かろうじて入手可能なこの本を読み始め
その地味な足跡をたどること4ヶ月近くに及び
やっと今日読破できた(腰痛で連日年休をとったせいでもある)。

予想通りというか
もはや旧時代の遺影でしかない吉永祐介という人物。
残した業績の割には感銘を受ける部分が乏しかった。
検察官僚として、現場の最高責任者としてなら優秀だったのだろう。
それも、とびきり優秀だったのだろう。
でも、それ以外何もない人間。
そういう人たちの集まる検察庁というところ。
自分には本当に無縁な場所だと思った。

さらに鼎談を組んだ3名の記者たちの感覚も
今の我々、2018年に生きる一庶民の感覚とズレている。
でも、この時代ではスター記者だったのだろう。

というわけで
長く読んだ割には得るものは乏しい本だった。
昭和史の一つとして読むのなら、優れた裏面史なのかもしれない。
でも読みやすさに比して得るものは乏しい本である(検察の未来が書いてあるのにもかかわらず)

390korou:2018/03/11(日) 12:59:41
断念した本・・・竹中千春「ガンディー」(岩波新書)

ガンディーについて
以前から関心はあったものの
詳しくは知らなかったわけで
その意味で今回の岩波新書の新刊には期待十分で
読み始めたのだが・・・

著者が専門家であることは疑いもない。
時間さえあれば、不明な点を確かめつつ読み進めることも可能だったが・・・

なにせ入門編として読むには
不親切な記述が多すぎる。
ガンディーの業績を細かく記述するよりも
当時のインドの状況をもっと分かりやすく説明すべきだっただろう。
そもそもの前提が分からないと
その前提に向かって対決したはずのガンディーの行動、決意の尊さについても
なにも分からないというのが読書中の感想である。

Wikipediaで当時のインド独立運動の様子をまとめ読みしてみると
新書に10時間以上費やして得た情報量以上のものが
わずか1時間弱で得られた。
もちろん細部は不明だが
その細部を読む込むには
この新書は不向きである。
残念というほかないが。

391korou:2018/03/12(月) 17:50:44
S・D・ロバートソン「いま、君にさよならを告げる」(ハーパーコリンズ・ジャパン)を読了。

「横浜駅SF」に続いて、勤務先イベント(30選)用の読書。
読んでみて、前回同様30選にふさわしいクオリティだったので一安心。
外国物はなかなか難しいのだが、できれば入れておきたいので、ちょうど良かった。

内容は、SF、ファンタジーが絡んだ家族愛の物語で
あり得ない設定がどんどん出てくるのだが
描写そのものは
リアルで具体的でものすごくオーソドックスなので
物語の世界に入り込めないということはない(登場人物の性格に共感できるかどうかは別として)。

なぜおじいさんのホモ話が必要なのかという疑問はあるものの
それ以外は推進力抜群のストーリーで実に読みやすい。

読みやすさが一番の魅力で
それでいて全然雑でないというのがいいところ。
書名とか、冒頭の設定とかで泣かせる流れになっているのは
ちょっとマイナスかも。
これは泣かせるというより、分かりやすく考えさせられるというところに
美点のある物語だろう。

他にもっと同種の優れた小説があれば別だが
とりあえずこれでも全然問題ないというところ。

392korou:2018/03/18(日) 15:21:47
新井紀子「AI vs 教科書が読めない子供たち」(東洋経済新報社)を読了。

見事な著作である。
末尾に記された今後の計画についても
当節なかなかお目にかかれない「志」が感じられて
感銘するほかない。
この本に関する限り、完璧としかいいようがない。

余談にはなるが
この本についてのアマゾンの書評の酷さには驚くばかりである。
まさに「本が読めない大人たち」がよってたかって
自らの愚鈍さを表明しているようなものだ。
自分で例示しておいて、その例示がこの本で示されたものと勘違いしたまま悪評を下す人。
自分に読解力がないことに気づかず、問題例の矛盾とやらを指摘したつもりになって溜飲を下げる人。
ああ、確かに新井さんの言うとおりだ。
中学生のときの読解力のなさをそのまま大人まで引きずって
したり顔で書評する人がいっぱい居る。
げんなりもするが
この人たちはもう仕方ない。
この本では読解力はいつでも向上可能と書かれているが
新井さんは、限定つきで書いているのだから
そのことも織り込み済みなのだろう。
この人たちは、試練に遭わない限り、このまま自らの過ちに気づかないまま人生を終わるのだ。

だからこそ、この「志」は尊い。
これからの世代にはしっかりとしてほしい。
どんな方法でそれが可能になるのか誰にも分からないとはいえ。

393korou:2018/03/20(火) 11:33:38
山中伸弥・羽生善治「人間の未来 AIの未来」(講談社)を読了。

現代を代表する知性のお二人の対談本ということで
世間的にもまずまず売れたこの著作。
特に珍しいことが書いてあるわけではないものの
読んでいて気持ちよく脳がリフレッシュされる爽快さが
感じられる好著となっている。

新井紀子さんのように
純数学的にAIの未来を割り切るのではなく
もう少し意図せざる展開というものを無意識に混ぜながら
未来像を語る羽生さんの立ち位置は
現代の多くの人のイメージするAI観を代表するものだろう。
それに対して
山中教授の科学観、人生観は
個性が勝ち過ぎて、時に普遍性を欠くきらいもある。
しかし、そのあたりが対談という形式で
うまく中和されて、ほどよいテイストになっているところが
読みどころだ。

それにしても
やはり課題は教育ということに帰してしまう。
日本の未来は、改善されるべき教育ということで
どの本も一致するのだが
これほど皆のイメージが合致しない課題もないだろう。
難しい話だ。

394korou:2018/03/23(金) 11:45:29
土屋賢二「ソクラテスの口説き方」(文藝春秋)を読了。

たまたま手にして読み始め、やめられなくなり読破した。
前々からツチヤ氏の面白い語り口は了解していたのだが
初めてきっちり1冊の本を読んだように思う。
これほど読後に何も残らない本も珍しい、という
それ自体が珍しいタイプの賛辞を受けている本だが
本当に何も記憶に残らないし
そのことが通常の読書とは全然違う体験で貴重だと思う。
いちいち膨大な感想を要する読書をしていては
貧相なこと間違いない凡人の頭脳では身が持たない。
というか、すでにツチヤ氏の影響を受けた文体になっているのは
我ながら可笑しい。
これは侮れない「無駄な本」である。

哲学的な思考経路が、うまく「笑い」と出会った本である。
そういう類の本が楽しめる人には必読の本、オススメ度100%の本である。

395korou:2018/03/24(土) 22:50:06
エラリー・クイーン「ローマ帽子の秘密」(角川文庫)を読了。

仕事の必要で読み始める。
陽菜さん(JK)のおかげというのもあるのだが。
中学生時代にハマったミステリーで
ある意味、子供の読書から大人の読書へ成長していった時期の
代表的な読書となった本でもあり
そういう本を60歳になった今
再び新訳で読む(それも評価の高い訳で)というのも
感慨深いものがあった。

内容は全く覚えていなくて
再読とはいえ初めて読むのと同じだった。
あとがきで
優れた警察小説でもあると書いてあったが
納得である。
クイーン警部の描写は見事だった。
その反面、本格推理のフォーマットは踏んでいるものの
細部には不満が残った。
謎の解明に比べて
伏線部分が冗長に感じられた。
もっとも本格推理としてよりも警察小説としてなら
この冗長さは、むしろ丹念に書き込んだ佳作という評価になるわけだが。

思ったよりも長ったらしく
その反面、意外なほど味わい深い描写も多かった小説だった。

396korou:2018/04/02(月) 17:43:24
山白朝子「私の頭が正常であったなら」(角川書店)を読了。

乙一の別名義での作品。
ただし中田永一作品のような普通っぽいテイストに陥らず
初期の乙一作品に近い
ーー残虐なのにそれだけでない、狭い世界での話なのに身近に思えるという
不思議で魅力的な小説だったので嬉しかった。
短編集で、どの短編も面白く読めた。

それにしても
他の作家では味わえないこの風味がたまらない。
何がどう違うのかさっぱり分からないのだが
単なるホラーとは一線を画す暖かさとか
暗闇から抜け出せそうな仄かな光、希望、温かみを感じるので
全体の暗いタッチとの対比が絶妙で
読んだあとに、いかにも心に突き刺さる物語を味わったという実感に
浸れるのだ。
なかなか、こういう作家は居ない。
こんな年度末から年度初めの気忙しい時期でも
この小説は強い磁力をもって読書にいざなってくれる。

他の山白名義の作品も読みたくなった(買うぞ!職場で)

397korou:2018/04/08(日) 13:51:02
小野雅裕「宇宙に命はあるのか」(SB新書)を読了。

宇宙について書かれた本で
今までそれほど面白い本に出会ったことがなかったのだが
ついにめぐり合ったという感じ。
福岡伸一さんとはまた違った
サイエンス畑の人による優れた文章に酔いしれることができた。

一言で言って、この文章の魅力は「ワクワク感満載」ということになるだろう。
宇宙についていろいろなイマジネーションを働かせることによって生まれる
少年のようなワクワク感を
この著者は30代半ばになっても持ち続け
それを仕事として今活動しているわけだ。

その一方で
難しい内容を噛み砕いて
わかりやすくイメージ豊かに伝えるという
この種の入門書に求められることも満たしている。
SF小説の祖ジュール・ベルヌから
宇宙人との交信を夢見たフランク・ドレークまで
この200年近い人類の宇宙への夢、挑戦が
生き生きと描かれている。

ワクワク感に魅了されながら
知らなかった宇宙研究の世界の出来事について
いろいろと知ることができるというのは
なんという幸福なことであろうか。
優れた本というのは
こういう本のことを言うのだという見本のような名著である。

398korou:2018/04/10(火) 10:57:21
小林由香「ジャッジメント」(双葉社)を読了。

衝撃のデビュー作ということで
つい最近、第2作が発売されたのを機にその存在を知り
まず、1年半前に世に出たこの作品のほうを
読んでみることにした。

重たい。実に重い。
読んでいて辛くなる。
この年度変わりの気分が一定しない時期などには
本来なら読むべきないとも言えるが
今回は個人的事情により
そんなことは一切構わず読み進めることができた。
そして、読後の感想は「素晴らしい」の一言に尽きる。

まさに今この時代に書かれるべき小説だった。
そういう必然性を感じる小説にはなかなか出会えないのだが
これは全然違った。
細かく書いていけばキリがないが
日ごろ悲惨、陰惨なニュースを耳にするときに
いろいろと思ってしまうことが
この小説で一気に深く展開できたような気がする。
(もちろん、正解はない状況なので解決したわけではないのだが・・・)
最後のエピソードには思わず泣けてきた。

凄い。
読む時期さえ問題なければ
読書人必読の小説だと思った。

399korou:2018/04/11(水) 22:46:25
鴻上尚史「不死身の特攻兵」(講談社現代新書)を読了。

これもまた凄い本だった(最近「凄い本」に連続して出合う)
こういう日本人も居たのだという驚き。
それは「永遠の0」で知った驚きとは違う
現実の世界での話だったので
ひときわ感銘も深かった。

今、アマゾンの書評で否定的な意見を書いているものをあえて読んでみたのだが
いろいろと考えさせられた。
あながち間違いではない。
その人の言うとおり「特攻は無駄ではなかった」という論証も可能かもしれない。
しかし、それは単に歴史の検証にとどまる評価であって
それが現代にどういう意味があるのかというのとは別である。
戦争をどう思うかということは
その時代にあってどうだったのかということと
現代ではどういう意味をもつのかということとの
きわめて厳密な差異を知りつつも
あえて今現在で評価することでなければならない。
(その意味で「東京裁判」は滅茶苦茶ではあるのだが否定もできない

この本は、現代の日本人に書かれた本である。
当時「特攻」が有効だったかどうかなどということとは些細な話に過ぎない。
その意味で「否定的書評」もピントがズレているが
この本の第四章も、書かずもがなのことを書いているという側面は否定できない。
もう少しさらっと書いても、第三章までの迫力で十分伝わったのではないか。
まあ、第四章は現代日本人の多数意見であるから
論理的でないにしても罪は少ないが。

いずれにしても「凄い本」であることには変わりはない。

400korou:2018/04/16(月) 12:04:50
小林由香「罪人が祈るとき」(双葉社)を読了。

「ジャッジメント」があまりにも素晴らしい出来だったので
今回のこの第2作にも十分な期待といくらかの不安をもって
読み始めた。
すぐに不安は吹き飛び、作品世界に没入。
随所にシナリオ作家としての特徴が出ているのを
効果的で読みやすく思うと同時に
いくらか活字オンリーの世界である小説としては違和感も覚えつつ
それでも、読後の満足感は十分にあった。
これだけ書ける人はそうそう居ない。
いい作家に出会うことができた幸福感に浸っている。

前作は、重たいテーマでありながら連作短編であったので
やっと解放されたと思ったら、また重たいテーマで別の話という連続になり
いささか読み進めるのに疲労感も覚えたのも事実だが
今回は長編だったので、そういう「重たさへの疲労感」はなく
十分に作品世界に没入できた。
細かい違和感はともかく
やはりシリアスなテーマで一貫していて、いささかもブレがない上
各登場人物の造型が適格で、かつ心理描写が冗長でないことで
実に締まった感じが出ているのは素晴らしい限りだ。
ドラマ化も可能だし、そうなると作家としての人気も沸騰するだろう。
読後の満足感と充実感に満ちた小説だ。

401korou:2018/04/22(日) 18:19:55
七月隆文「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」(幻冬舎)を読了。

このところテーマが重い本が多かったので
軽いタッチの会話中心で読みやすい本ということで
この本を選んでみた。
で、予想通り、読みやすく、かつ内容もありふれていてライトだった。

ナイーブで純粋な若い男性と
それよりも少し年下の難病の少女が
いつしか恋に落ちる物語・・というだけでありふれているが
それが最後にはすべての困難を乗り越えてハッピーエンドで終わるという
これ以上ない軽いタッチなので
逆に、重たい本に挑戦したいときには
どうでもいい小説に思えたかもしれない。
しかし、こういうタイプの本を読みたいときには
これ以上最適なチョイスはないだろうと思えるくらい
快適な読書であったことも確かだ。

いくらライトな心地よさがあっても
あまりにも内容空疎だったら読書の意味はない。
その意味でいえば
この小説には最低限の心理描写もあるので
ライトな小説の一つの極致としてアリだろう。

402korou:2018/04/29(日) 10:15:00
「昭和史の10大事件」(宮部みゆき×半藤一利)<文春文庫>を読了。

内容、対談者ともに食指が動いたので読み始める。
すぐに内容が薄いことに気付くが
そもそも深い内容を期待することが間違いだと思い直し
以降は楽しく読めた。

ストリップショーが10大事件というのは
完全に半藤さんの「趣味」と言えるが
その他の事件については妥当なところだろう。
①金融恐慌②2・26事件③大政翼賛会(三国同盟)④東京裁判(戦後改革)
⑤憲法第九条⑥ヌードショー⑦金閣寺消失(五輪参加)⑧第五福竜丸(ゴジラ)
⑨高度経済成長(公害・安保・新幹線)⑩宮崎勤事件

⑤が大きな項目として取り上げられているのが優れているところで
最近の人たちがこういう企画をやったとしたら
まず「10大事件」にはならない項目だろう。
こうしてみると
半藤さんの意向が大きく反映されているのか
戦後直後の価値喪失体験に関する項目が
④から⑧(部分的に⑨)まで該当している。
全体の半分がそうで
戦前の「戦争責任」関連と含めると
純粋に戦後日本独自の項目というのは
わずかに⑩だけという
ある意味極端な感じもするのだが
そんないびつな構造の対談に
宮部さんがうまく対応しているのも
読みどころの一つである。

403korou:2018/05/06(日) 18:05:42
折原一「異人たちの館」(文春文庫)を(約1週間前に)読了。

文庫本で1200円いう価格が示すように大部なミステリーで
読後の感想はほとんどの人が「お腹いっぱい」と言わざるを得ないだろう
まれにみる異色作だった。
伏線はほぼ回収されているとはいえ
不自然な設定が随所に見られ
ツッコミどころ満載だが
それ以上に作者が提示したありとあらゆる仕掛けに振り回され
結果として途中止めできない熱中を生み出しているのは
多くの読者共通の感想になるはずだろうから
いかに破綻していようと駄作では決してないことは断言できる。

それにしても、思わせぶりな描写が満載で
その割には仕掛けそのものは強引さが目立つわけで
その意味では文句なしの名作とは言えない。
でも・・・最低の作品なんてことは絶対にない・
・・という繰り返しになってしまうのだ。

もう具体的にどうのこうのという筋を書く気力も出てこない。
疲れる読書だし、こんな風に読後1週間も感想記入を放置してしまうような
作品であることも確かだ。
同時に、この疲労感を共有してほしいと無闇に他人に勧めたくなる作品でもある。
うーん、厄介だ。

404korou:2018/05/07(月) 22:57:38
宮崎駿(インタビュアー・渋谷陽一)「風の帰る場所」(文春ジブリ文庫)を読了。

図書委員会文化祭展示企画の参考資料として一気に読了。
いろいろと気難しい感じの宮崎駿に対座して
あの(70年代DJ界のヒーローだった)渋谷陽一がいろいろと聞き出すといったテイストの
なかなか一筋縄ではいかない対談集である。
あまりに多くの要素が気まぐれに点在して
しかしその雑多な諸々の要素が
宮崎駿という確固とした表現者のなかできちんと位置づけされているので
読者としては、その整頓具合までちゃんと正確に把握して読み解かなければならないという
大変しんどい読書だったのだが
その反面、マルクス主義も手塚治虫も里山主義もアニメーション映画そのものについても
その他のことも全部含めて
一気に一つの人格のなかに統一してイメージするという
他の本ではなかなか体験できない、言い換えれば実に面白い読書であったことも事実である。
もちろん、これはマニアックな作業でもあるので
仕事の一環としてこの本を読まざるを得なかった自分は
自然とそういう方向で読書できたわけだから
ある意味ラッキーだったと言えるのだ。

宮崎駿は韜晦だけど
ちょっと前の知識人は皆こうだったのかもしれないとも思う。
今の高校生にはムリだろうなあ・・・(遠い目)

405korou:2018/05/16(水) 22:25:02
磯田道史「素顔の西郷隆盛」(新潮新書)を読了。

一度だけ西郷隆盛という人の生き様を通して把握したいと思い
読み始める。
磯田さんの本だけに叙述が淀みなく
文明批評風な隆盛評もそれほど苦にせず読めた。
何よりいいことは
本が面白かった上に、その内容がきちんと頭に入ったことで
あまりに面白すぎて、その割には後で内容が思い出せないという本も
少なくないので
そういう意味で良書と言えよう。
今振り返ってみて、大体、西郷の生き様が辿れるような気がする。

ただし深い意味では、なかなか掴めない人物で
その思想を的確にまとめるのは難しい作業だ。
何でも西洋風に思考してまとめようとすると
こういう東洋の傑物の場合
何か大きなものが抜けてしまうような気がする。

とりあえず
大河ドラマ「西郷どん」の年でもあり
当面はオススメできる本であることは確か。

406korou:2018/05/22(火) 09:11:42
宮崎駿「シュナの旅」(徳間アニメージュ文庫)を読了。

かなり前に読了していたが
今回の委員会行事に合わせて再読することに。
やはり、というべきか
以前読んだ印象は全て幻だったかのごとく
再読ではなく、新規の読書でした(笑)
ストーリーは全然記憶になくて
今回知ったストーリーは
まさに「ナウシカ」のルーツのようなもので
それは「ナウシカ」解説本に書いてあったとおり。

なぜ、宮崎サンが
そのようなストーリー、設定に惹かれるのか
その感覚自体が自分には全く無いので
こういうアニメをどう評価していいのか難しいのだが
宮崎アニメとしては確かに完結しているし
宮崎サンの思いそのものは伝わってくるので
これはこれで良しというほかない。

誰にでもむやみにオススメはできないが
まあ高校生程度であれば大丈夫かな、というレベルの軽いストーリーアニメ。

407korou:2018/05/22(火) 09:15:10
池上彰「池上彰の世界の見方 朝鮮半島」(小学館)を読了。

池上さんが、地域別にその歴史を深く語るシリーズの朝鮮半島編。
中身については安心の叙述に読みやすさ抜群で、いつも通りの仕上がり。
さすがに、今現在一番の話題なので
こちらとしても読んでいて集中度が違うわけで・・・

(時間がないのでここで一度中断)

408korou:2018/06/12(火) 10:58:16
豊田隆雄「本当は怖ろしい韓国の歴史」(彩図社)を読了。

偶然、韓国関係の歴史の本を連続して読むことになった。
池上さんの本の書評を放置したまま3週間経過したが
その間、特に他の本を読破することもなく
やや健康状態が悪化したこともあり(視力も含め)
この3週間の間、読んだ本はこれ1冊だったが
読破するのに労力が要ったということではなく
むしろ、あまりの読みやすさに感心したくらいである。

池上さんの本は
どこかで現時点の状況を意識しているところがあって
それは戦後史に限定された著作である以上
当然ともいえるが
こうして豊田氏の著作と比較してみると
実に公平かつ客観的に叙述されていることが分かる。

豊田氏のこの著作は
近現代史に至るまでは気がつかないというか
あまりに昔過ぎて気がつきようがないのだが
近現代史に突入するや否や
一気に保守化した史観を展開して
いかに韓国が無責任かつ無節操な動きをしていたかを
これでもかこれでもかと指摘してみせる。
ただ、そういう類のおバカ本と違って
読むに値する「保守史観」本であるところに着目したい。

409korou:2018/06/12(火) 11:03:54
具体的な引用部分は皆無だが(手軽なサイズの文庫本では仕方ないところ)
巻末の参考文献を見てみると
一定の傾向が読み取れる文献ばかりで
これだけの文章が書ける人であれば
もっと幅広く文献を参照して
より客観的な叙述をしてほしかったと思うのである。
とはいえ、偏った資料ばかりとはいえ
論の展開は的確で
これはこれで一つの見識と言ってもよいだろう。
そして、近現代史以前であれば
ややこしい朝鮮半島の歴史について
これほど要点を読みやすくまとめた本には
今までお目にかかったことがないわけで
タメになる本だった。

なかなかリテラシーが必要な本で
うっかり推薦はできないが(司書仲間には推薦してしまったが・・・)
分かる人には分かる快著である。

410korou:2018/06/13(水) 20:54:40
猪木正実「人見絹枝の世界」(日本文教出版)を読了。

岡山文庫の一冊(職業柄の役得でタダで読める)。
郷土関係でしかも伝記とくれば読まないわけにはいかない。
読書欲が急速に落ちているとはいえ
さすがにこれだけ大きな活字で、内容もそうであれば
実質2時間程度で完読できた。

特に目新しい話はないのだが
せいぜい東京での二階堂体育塾の話とか
女子オリンピックなどの詳しい様子などが詳しいので
面白く読めた。
生家の福成がどのあたりか見当がつかないのが残念。

まあ、趣味の読書なんで、こんなところでおしまい。

411korou:2018/06/24(日) 12:06:33
中途断念記録。

藤岡陽子「満天のゴール」(小学館)を読了断念(293pの本で176pで断念)。
せっかく半分以上読んだのだから読了したかったのだが
作者に都合のいい登場人物の振る舞いを
これほど延々と見せられると
読み進めることは難しい。
かつて司馬遼太郎「花神」で
あまりにも作者が都合のいいところで顔を出し過ぎて
フィクションの世界に浸れないことに腹を立てて
半分近く読んだのに読了を止めたことがあったが
半分ほど読書して止めるのは、それ以来かも。

優れた描写も多いのだが
考えてみると
人物の出し入れについては
作家として基本的な才能に違いないので
そこが安易な流れになるのは
結構致命的ではないかとも思ってしまう。

今後注目し続けるかどうかは微妙な感じ。

412korou:2018/07/01(日) 09:49:18
是枝裕和「万引き家族」(宝島社)を読了。

(この文章を入力中に「このサイトは詐欺サイトです」という警告ページに切り替わるという事件発生。
 何でやねん。個人のレンタルサーバ上に20年近く使用している掲示板を置いてるだけやろ)

カンヌのグランプリを獲った映画の原作を
監督自身が執筆した小説で
正直あまり期待せずに読み始めたのだが
すぐに、普通のノベライズとは全然違うことが判明。
細部では映像化を前提にした描写もあるのだが
全体として、淡々とした書き込みすぎない描写が貫かれ
それでいて、人物の造形などは揺るぎなく書き込まれているので(映像化しているので当然かも)
何が書かれているのかわからないというような曖昧さが
一切ないのが素晴らしい。

そして、それぞれが家族について、血のつながりについて
安易に正解を出すでもなく、かといって日々の暮らしに流されっぱなしになるでもなく
その意味ではびっくりするくらい誠実に生きている人たちであることが胸を打つ。
それぞれの心の動きが、こうあってほしいという読者の願望とシンクロし始める後半部分からは
一つ一つの場面で想像力をかきたてられ
思わず感涙する箇所に何度も出会った。
読み終わって、読む前とのギャップの大きさに驚くとともに
映画のノベライズでこれほどの感動が得られるものなのかと畏怖の念すら抱いた。

紛れもなく今年読んだ本のなかで最高の感動傑作、

413korou:2018/07/09(月) 21:32:26
吉田麻也「吉田麻也 レジリエンス――負けない力」(ハーパーコリンズジャパン)を読了。

あたかも、ロシアW杯で日本中が盛り上がるのを予期したかのように
先月出版された日本代表センターバックの半自叙伝。
文章は適度に卑俗で適度にインテリジェンスで
そのバランスが程よく、最後まで飽きずに読める本になっている。
もちろん、文章がどうこうというより
日本人なので体格面では圧倒的に不利といえる
サッカーのディフェンスの選手として
世界屈指のリーグであるプレミアで準レギュラーとして長年活躍している
というその事実そのもので読者を圧倒する本なのだ。

分かりやすく書いてあるので
Jリーグ下部組織からJリーグ、オランダの下部リーグ、プレミアリーグという各段階で
それぞれどんなレベルで、どのくらい困難で、しかしどのくらいの努力でそれを克服できるのかという
一番知りたいところが、なんとなく分かるようになっている点が素晴らしい。
なかでも、最後のプレミアにおいて
もはや日本人の不利な面はどうしようもないと判断した上で
そこからさらに生き残る道を探っていく過程が
一言で言って「凄い」。
これこそ今回のW杯で、テレビの画面を見ていて一番感じていたことなのだが
やはりその方向が正しい一歩、とりあえず一番有力な一歩なのだろうと思った。

今が旬の本です。オススメできるレベル。

414korou:2018/07/12(木) 16:40:26
恒川光太郎「滅びの園」(KADOKAWA)を読了。

イメージとして
星新一のショートショートを長編にした感じ。
乾いた感性で世界が淡々と描かれ
ただしそこにうごめく人としての情念は揺るぎがなく
世界は明確な意思で動いているという前提。

それを設定としての面白さととらえるなら
超短編であるなら
そのまま突っ走って読者を驚かせる効果を持つのだが
ここまで長編になってくると、果たしてどうか。
少しだけ読者を選ぶかもしれない。
こんな絵空事に長時間付き合うのはムリという人も居て当然。

自分は恒川ワールドにハマりやすい体質なので
快適な読書タイムだった。
絶望と希望について
こんな側面から考えることになろうとは
思いもよらなかった。
いや、そんな具体的な感想は二の次で
ただ、ひたすらその世界が心地よかった。
ある意味、自分には
この本を批評する資格がない。

415korou:2018/07/19(木) 11:26:35
中途断念記録。

早坂吝「探偵AIのリアル・ディープラーニング」(新潮nex文庫)を読了断念(3643pの本で89pで断念)。

決して面白くないわけではなく
むしろ人工知能の最新知見を巧みに小説に応用しているところが
そこそこ魅力的に感じられたくらいだが
何せこの酷暑と視力の衰えのダブルパンチで
「そこそこ魅力的」程度だと
読書を控えなければならないコンディションなのだから仕方ない。
春・秋なら完読できたはず。
早坂吝氏の才能はやはり侮れない。

416korou:2018/07/26(木) 12:16:17
山里亮太「天才はあきらめた」(朝日文庫)を読了。

間違いなく、今年度の「でーれーBOOKS」の
自分の中での圧倒的受賞作。
文章は意外と韜晦で
最初のうちはスラスラとはいかないが
一度リズムにハマったら、その韜晦さも魅力になり
そうなれば
もはや”天才”山里の独壇場となる。
とにかく、負のエネルギーをどう処理して
とかく生き辛いこの人生を乗り越えていくかという点に
どの文章を読んでも、その一点に集中していて
最期まで迷いがない。
負のエネルギーを、その負の原因となった人物への復讐という形で昇華させ
そのことを肉筆のメモで見せているページなど
なかなかの圧巻で
本来なら読みにくい肉筆ながら
思わず読んでしまう。
実にパワーのもらえる本である。

解説の若林もすごくいい。
山里とは違ったタイプの文才の持ち主だが
さすがに書くに値する中身があって
この文才なのだから、面白くて当然だ。

以上、総括して今年のベスト・ノンフィクションで決定!

417korou:2018/08/09(木) 23:22:23
ペドロ・マルティネス「ペドロ・マルティネス自伝」(東洋館出版社)を読了(県立図書館本)。

ペドロ本人への興味というより
自分がリアルタイムで詳しくチェックできたMLBの時代を回想する意味で
ちょうどピッタリだと思い、図書館で借りてきた。
読み始めて、やはり面白く、500ページほどのぎっしりと活字が詰まったこの本を
一気読みしてしまった。

前半部分は、成功を手にするまでの過程で
青年らしい未熟さが好ましく描かれていたが
後半は、すでに成功を手にして
これから大人の紳士になろうかという時期であるのに
相変わらず激怒する性格が直らないまま
いろいろな誤解と悲劇を生み続けるので
全面的な同情は持ち得なかったというのが読後の感想。
ただ、前半の叙述から
どれだけ繊細で傷つきやすい性格なのかよく分かったし
それを念頭におけば、後半部分の出来事も
多少は納得もできるし
今まで伝えられてきた彼の”虚像”について
理解は深まった。
それだけでも、この本は読む価値があった。

MLBファンなら必読、そうでない人には
やはりオススメしにくい本。
ペドロがいかにMLBファンに敬愛されたか、それを知っていないと
単なるワガママアスリートの独白と取られかねないので。

418korou:2018/08/11(土) 12:13:42
宇佐美まこと「骨を弔う」(小学館)を読了。

未読の著者だったが
出だしが読みやすく淀みなく進行する感じだったので
そのまま読み続けた。
100ページを過ぎるあたりまでは
丁寧な叙述、とリアルな心理描写で満足できたものの
シンプルすぎるミステリー風味を全体に漂わせていながら
怪奇な事件が一切起こらないまま淡々と進められるストーリーに
飽きが来ていたのも事実。
150ページから200ページまで、読み通すのが辛く
どうなることかと思っていたら
200ページを過ぎてから俄然展開がスムーズになり
最後のオチまで一気読みできたのは
ある意味意外だった。

不本意な人生から再生のきっかけを掴む物語としてなら秀逸。
ただし、ホラーとかミステリーなどで売り出している作家の新作と思えば
この中途半端な読後の印象、不完全燃焼といわざるを得ない。
文章力は十分なので
何でも書けそうだが
この一作を読んだだけでは何とも言えない。
他の作品も読みたい、そう思わせるだけでの才能は
十分に感じられたので
また読んでみたい。

419korou:2018/08/12(日) 17:42:39
河合雅司「未来の年表 2」(講談社現代新書)を読了。

いつでも読めそうな気がして
ほぼ1ヶ月半ほど持ち歩いていた。
さすがにもう読了しなくてはと思い
本日読了。

前作については
飛ばし読みながら
すぐに名著であると判断し
多くの人に推薦した。
今回も同じクオリティを保っていて
多くの人に読んでもらいたいし
実際よく売れている。

今回は、より身近な例を挙げて
個人レベルでの未来像を提示している。
少子高齢化時代の個人レベルの話だから
どうしても60代以降の人生設計の話になり
そこに書かれていることは
今の自分が予定していることとほぼ合わないので
読んでいて気詰まりな箇所が多かった。
とはいえ、それは個人的事情なので
この本の客観的な価値とは無関係なことだが。

前著のインパクトが強かったので
そこまでのパワーはないものの
やはり国民必読の未来指南書になっている。

420korou:2018/08/23(木) 21:57:23
三秋縋「君の話」(早川書房)を読了。

今一番好きな作家の最新作。
そして、その期待は全く裏切られなかった。
それどころか、期待以上だった。
やや微妙な出来と言えなくもない最近の作品と比べて
設定の絶妙さが全体を支配していて
何の不満もない読後感、心地よかった。

本当に切ない恋愛、切ない女の子を描くのが上手い。
主人公はどこかで作者の分身なのだろうけど
文体が独特で全然嫌味がない。

文体といえば
村上春樹からの影響を指摘しているアマゾン書評があったが
まさにそのとおりだと思う。
春樹氏と違うところは
主人公の屈折に普遍性を持たせていないところだけだ。
春樹氏は、時代背景もあって
学生運動という共同体からの逃避という普遍性をもたせて
主人公の屈折を描いているのだが
2018年の現在、そういう普遍性のある屈折は存在しないわけで
まさに2018年にハルキ的感性で小説を書いたら?という想定についての
最上の答えとなっている。

もう何を書いて賛辞すればいいのか分からないほど
幸福な読後感。
多分、司書として読む最後の三秋作品となるだろう、感謝。

421korou:2018/08/26(日) 16:23:56
堤未果「社会の真実の見つけかた」(岩波ジュニア新書)を読了。

自分の職場(高校図書館)では
生徒への必読書として
常に最有力候補となる”青少年のためのバイブル”のような本として
必須の存在ともいえる本である。
なのに、いまだに読んでいなかった。
ほぼ退職間際になって、ふと読まなくてはと思い立ち
今更という思いもありつつ
読んでみた。
面白いものとはいえず
しかも内容の大半は同じ著者の他の本と同じようなことだし
楽しい読書とはならなかったが
最後の第4章を読んでみて
やはり青少年のための必読書という感想を新たにした。

現実はこうだというのが第1章から第3章、それに対して
希望をもつにはこういうことを知っておこうというのが第4章。
現実はなかなか普通の高校生には伝わらず
しかし希望のなさ加減だけは空気として伝わっているはずなので
第4章だけでも読んでほしいと切に思った。

これから3月までの間に
この本を紹介するに足る生徒に出会えるかどうか
楽しみに待ってみたいと思う。

422korou:2018/09/05(水) 21:23:50
秋吉理香子「ガラスの殺意」(双葉社)を一気に読了。

怒涛の一気読み必至。
これだけの緊迫感で最後まで読者を引っ張っていく力量たるや
他には絶好調時の東野圭吾くらいしか思いつかない。
凄いし、面白いし、いろいろな感情を揺さぶられるし
このところ、いろいろな方向に飛び散っていたこの作者の作品としては
これは決定打とも言ってよい傑作となっただろう。

細かいキズは2箇所。
いくらフィアンセの危機とはいえ
若い女性に対してその殺人鬼と対決せよと真剣に願うのは不自然だし
その動機で最後まで行動するのももっと不自然。
最後は、悪人を投げ捨てるかのように
あっさりと作中で殺してしまうのも乱暴。
また、男女刑事コンビなのだから
いくら女性がリードしていたとしても
男性の容疑者を取り押さえる状況で
女性が単独で部屋に向かう想定からコンビで向かう想定になっていく過程にもムリがある。
ここは、男性が部屋に向かい、女性が念のため下を見張るというのがセオリーで
その設定でも、このストーリーは成り立つはず。

しかし、それらをすべて忘れさせる最後の場面の強烈なインパクト!
以上のムリな設定でなければこの場面は成り立たないし
その最後の儚さ、哀しさが作品を際立たせているのだから
文句は言えない。

文句なし今年No.1小説の1つ。
「君の話」は読者を選ぶが
この小説にはどんな読者をも満足させてしまう魔力がある。

423korou:2018/09/09(日) 15:52:22
立石泰則「戦争体験と経営者」(岩波新書)を読了。

戦争体験の話と経営者の話は
ともに大好物(語弊もあろうが)なので
さっそく読んでみた。
読後の感じでは
経営者のミニ伝記に戦争体験の話がくっついている印象で
戦争に関する著者の見解には
とってつけたような違和感があった。

ただし、塚本幸一(ワコール)とか加藤馨(ケーズデンキ)のミニ伝記などは
そうそう読めるものではないので
なかなか面白かった。
戦争との強引な結びつけではなく
こうしたミニ伝記の総集編のようなものが著者の手によって書かれるとしたら
それはぜひ読みたいと思った。
むりやり岩波新書の夏特集の本になった感が強い。

末尾の追記で
塚本幸一が日本会議の初代会長である云々を岩波書店から指摘された件を書いているのが
なかなか興味深い。
これは岩波書店としては失態だっただろう。
でももう後へは引けない状況だったので
こういう追記を掲載することを条件にしたのだろう。
いろいろな意味で、岩波新書としてみればという前提で言えば
失敗企画と言わざるを得ない。

424korou:2018/09/15(土) 14:33:46
月刊「創」編集部編「開けられたパンドラの箱」(創出版)を読了。

2016年、19人の障害者を刺殺した「やまゆり園障害者殺傷事件」は
その確信犯的振る舞いも異様なら
危険な思想でありながら
ひょっとして世の中の多くの人がそういう情念を共有しているのではないかと
思わせる普遍性を感じさせる点で
まさに「パンドラの箱」のごとく封印したくなる事件だった。
そんななか、この本は
その封印を解いて
事件の真相に切り込もうとする勇気ある著作となった。

意思をもたなくなり物理的に存在するだけになった「人」は
他の人にとってどういう意味をもつ存在なのか?
およそ哲学上の命題のなかで最も困難なこのテーマについて
ほとんどの人が明快な回答を持ち得ないでいるのは確かだ。
障害者福祉と一言で言っても
いろいろな段階があって
すべて同じ理解で済ませることはできないはずなのだが
そこを同じ理解で済ませている現実がある。
そして、こういう事件に直面したとき
その判断を壊されたくないために
人は「偽善」に走る。
これでは植松容疑者と同じレベルでしかない(続く)

425korou:2018/09/15(土) 14:40:45
いや、皆、植松と同じレベルであり
彼の思想に根本的間違いはないのである(実際的意味において。倫理的には間違っているが)
ただ、我々は
その思想に基づき、29人もの無抵抗な何ら罪もない人間を一気に刺殺したりしない。
この場合、行動するかどうかの有無は
決定的に違うのだ。
犯罪の原因となる思想は
生身の人間の場合
どうしても、純粋に倫理的に正しくあることは難しい。
そのことを自覚しておいて
それと行動を切り離す、そして感情と倫理を整合させ止揚させ発展させていく営みが
「人間」そのものなのだと思う。

行動にもいろいろあって
刑法の構成要件そのものの行動は犯罪になり
その反倫理的思想を大声で表明すればヘイトスピーチになる。

我々は
正しい人間になろうと努力するときに
まず行動を慎み、同時に自らの脳内の暗い情念を昇華させないと
いけないのだろう。

そんなことを思わせた深い、厳しい書物だった。
いつもいつもそういうことを考えては居られないが
どこかできちんんと整理しておかなければならないテーマであることは確かだ。

426korou:2018/09/18(火) 11:58:42
村田沙耶香「地球星人」(新潮社)を読了。

「コンビニ人間」以来の村田沙耶香作品。
「コンビニ人間」には圧倒的な読みやすさというか
ごく日常の世界を扱った親しみやすさがあったのだが
今回は冒頭からやや異常な環境で異常な発想を持った女の子が登場し
最初の3分の1は、客観的に言えば、家庭内虐待と性的虐待を受けているという
かなりおぞましい世界が描かれる。
そして、妄想を現実化した行動により破局が生まれ
そこから一気に30代となった主人公が登場するのだが
そのあたりは、まあまあ普通の生活に若干違和感がある程度で
そこまでの修羅場続きの展開からすると
幾分ホッとした気分になるのだが・・・

徐々に主人公の夫の異常な思考回路によって
その周りの人たちもその異様さに巻き込まれることになり
最後の3分の1、特に最終数ページは
異常の極みというか、小説でなければ描けない「非現実的な現実」に覆われていく。

凄い、圧倒される、という読後感がピッタリの狂乱小説。
村田沙耶香は異才であるという評価は揺るがないだろう。
人を選ぶ小説だが、ハマる人、最後まで読める人には
強烈なインパクトを残す小説であることは疑いない。

427korou:2018/09/25(火) 21:50:05
保坂正康「昭和の怪物 七つの謎」(講談社現代新書)を読了。

ベストセラーになっているので読んでみた。
相変わらずの保坂流で
見事な取材ぶりと、イマイチよく分からない分析が同居していて
いかにも歯がゆい。
こんなのでベストセラーでいいのだろうか。
保坂氏にとっても良くない感じだが。

東条英機の章は読みどころが皆無。
石原莞爾についてはかなりのペース数を割いており
分析の不徹底な面は否めないものの
それなりに読ませる文章だ。
次の犬養毅については、あまりに分析がひどくて
何を書きたかったのかよく分からない。
渡辺和子の章も同じで
犬養道子と渡辺和子への取材で何かを学んだのだろうけど
この文章では個人的メモと同じで
伝わってくるものが何もない。
麻生和子への取材も含めた最終の吉田茂の章は
まあまあの出来栄え。
でもこれでは褒めすぎだろう。
取材ソースへの配慮は、もっと別の形で示すべきだ。

というわけで
とてもオススメできるクオリティの本ではないのだが
取材の内容そのものは優れているので
そこの部分だけに着目すれば
得るものも大きい本であることは確かだ。

428korou:2018/10/04(木) 22:47:27
葉室麟「散り椿」(角川文庫)を読了。

知人が「一気読み」して読後の高揚感がハンパないことを伝え
映画化もされ、しかも葉室さんの作品となれば
読了はともかく最低限の賞味は必須となった。
で、「一気読み」は納得で(自分は視力の関係でそれはムリだったが、そういう気持ちにはさせられた)
映像化したくなる映画人の心情も十分に理解できた。

非の打ちどころのない小説である。
テンポもよく、構成も巧みで、人間描写も抜かりない。

ただし、これほど情を尽くした物語なのに
終盤で涙腺を刺激しないのはなぜなのか?
「哀しみ」よりも「満足感」のほうが強いのはなぜなのか?
読後直後の感想はといえば、そうなってしまう。
葉室さんの芯の強さなのか?

多分、自分にとって読むに足る唯一の時代小説のように思えるが
たとえば、現代の小説の良質な「不安」と対比すると
何か物足りないものがあるのも確かである。
完璧なのだけど、自分の本質とは違うように感じる。
他人には安心してオススメできるのだけれど・・・

429korou:2018/10/15(月) 22:38:45
乙野四方宇「ミウ skeleton in the closet」(講談社タイガ)を読了。

「僕が愛したすべての君へ」「君が愛したひとりの僕へ」の連作が
かなり面白かった記憶があって
またまたこの作家の新作に手を伸ばした。
読後の感想を言えば
さすがに前作ほどのインパクトはなく
実にライトなノベルだったという印象。
それでも
読みやすさ、雑な展開をうまくまとめて印象良くさせるテクニック(論理の力?)などは
他の作家にはなかなか感じることのできない
乙野氏独特のものだった。
いつもいつも傑作を書き続けることはできないわけだから
これはこれでいい仕事をしていると言えるだろう。
なかなか侮れない作家だと思う。

とはいうものの
てだれの読者に言わせれば
穴だらけの甘い小説ということになるのだろうか?
高校の図書館だよりで紹介するくらいなら
大丈夫だろうけど。
そして、ついに本格的な小説に馴染まなかった自分にとっても。

430korou:2018/10/22(月) 08:21:22
東野圭吾「沈黙のパレード」(文藝春秋)を一気に読了。

東野圭吾の新作ということで、迷いもなく読み始める。
オーソドックスな出だしで順調に作中世界にハマり
そのまま(いつものように)一気読み。
テレビの録画をだらだらと見て”ノルマ”を消化する休日になるはずが
他のことに構うことなく、ひたすら読み続け、夜11時を大きく過ぎても
あと少しで終わりという段階なので読み続けるという
まあ、これ以上ない至福の時を過ごした。

たしかに細かいアラは探せば出てくるのだが
これはガリレオシリーズなんだから
こういう設定でないと面白くないだろうと考えれば
逆に欠点は一切ない小説だ。
そして、どんなにアラが気になったとしても
それを上回る筆力、魅力、惹き付ける力が
この小説には十分過ぎるほどある。
さすがは東野圭吾という書評を多く見たが
私も激しく同意する。
こういうストレートなミステリーもので
まだまだこれだけのものが書けるのだから
本当に凄いという他ない。
凄い、以外に言葉が見つからない。

でも、個人的には
これで終わりだなという思いもあって(もうタダで読めることはないだろう。退職なので)
東野圭吾作品の最後がこれで本当に良かったというのが
一番の感想。

431korou:2018/10/28(日) 22:35:26
堤未果「日本が売られる」(幻冬舎新書)を読了。

日本の現実がペシミスティックなイメージで暴かれている本なので
読み進めるのに気が重く、なかなかページが進まなかったが
「図書館だより」でこっそり推薦したせいで
数人の教員にリクエストされてしまい
とりあえず読破を急ぐ羽目となった。

まあ、とにかく大変な労作だ。
本質的に重要なことなのに皆が知っていない諸々の事実を
丁寧にデータを挙げて具体的に説明しているという
ジャーナリストとして最も大切な仕事を誠実に果たしている点で
著者の近年の仕事と同様、大いに敬意を払うほかない。
素晴らしい著作だと思う。
「知ってはいけない」と同じ地点に立つ名著だと
(最初の数ページだけで)直感できた。

もっとも、この悪化する一方の現代日本の状況を改善するために
何をどうすればいいのか、いくつか海外の改善事例も書かれているが
現代日本にはそのとっかかりすら見当たらない。
ただし、少数派だと思うが、党派性をもってこの著作を批判することで
現実にフタをする逃避の哲学だけは
御免蒙りたい。
とにかく、一般市民は
「正しい意見に賛同」、これしかないのではないか。

432korou:2018/11/13(火) 13:40:01
安田浩一「『右翼』の戦後史」(講談社現代新書)を読了。

以前から「右翼」の歴史には興味があったので
安田氏の著作ということも含めて
大いに期待しながら読み始めた。
さすがに取材中心の著作が多い人だけに
過去の文献の孫引きのような記述は少なく
その分、初心者の自分としては
概説部分への期待をそがれることとなった。

もっとも、著者でないと書けない部分が多いということは
この本のオリジナリティを保証するもので
それだけでも貴重な著作となっている。
ギリギリで間に合ったインタビューがある一方で
間に合わなかった例も多くみられ
その意味では
今後、この種の近現代史の一次資料を書くことは
非常に難しいというか
不可能になった感が強い。

逆に、最近の数年間の動向については
安田氏でないと書けない明快さに満ちている。
示唆に富んだ記述はさすがである。

とはいえ「右翼」に興味が薄い人には
全然意味のない本だろう。
読む人を選ぶ好著である。

433korou:2018/11/18(日) 18:49:08
中田永一「ダンデライオン」(小学館)を読了。

乙一名義ならともかく
中田永一名義のものは
青春真っ只中ストーリーが多くて敬遠していたのだが
今回はミステリー風味ということで
久々に読んでみた。
読み始めると一気に引き込まれ、
あっという間に読み終えることになった。
さすがの筆力である。

ただし感銘度は、読書メーターに書いている人もあるように
短編小説を読み切った感覚に近い。
あまりに面白すぎて、
そして普通程度のストーリーのひねり具合で
ラストも手練の読者からすれば物足りない感じなので
読んでいるときの面白さと対比したとき
読後の感銘はそこまではいかない人が多数だろう。
でも、これだけスッキリと書き切れる作家が
どれほど居るかと考えれば
さすがの「乙一」と言わざるを得ない。
山白朝子名義も含め、近年復活の兆しアリと言える筆力だ。

「たんぽぽ娘」へのオマージュになっているらしいのだが
それについては未読なので、ここでは何も書けない。
検索すると、うち(西高)に蔵書があったので(驚き)
チェックしてみようか。

434korou:2018/11/19(月) 13:47:21
ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」(復刊ドットコム)を読了。

わずか34ページ(しかも1ページが14行!)のごく短い小説。
中田永一「ダンデライオン」を読んだ直後に
とりあえず「ビブリア古書堂」の第3巻の該当短編をチェックして
それからこの小説を読んだ。
何はともあれ、まず、描写の美しさに感銘。
ラストが分かりにくく思えたので
ネットで検索し、なんとか理解することができた。
主人公は先に若い頃のアンに出会っていて
その後の変化を自分の愛情だけで記憶しているので
今となっては
今目の前に見ているアン(44歳)の姿を
出会ったときのアン(24歳)と信じている(愛情による事実のすり替え!)

だから、タイムマシンでやってきた24歳のアンと偶然出会ったとき
44歳の主人公は、それが24歳のアンと気づかなかったのだ。
逆に、アンは、主人公への愛情を抱いたまま
過去の主人公の前に現れ(過去の主人公がアンの愛情を裏切らない存在だったことは幸運!)
そのまま結婚できたのだが
自分(アン)の記憶では
このタイミングで主人公は24歳の自分と出会うはずなので
・・・・うーん、この辺のアンの心理の真実が今一つつかめない。
なぜ、主人公が迎えに来てくれたことで、アンは安心したのだろう?

まあ、美しい小説なので、超短い小説をご希望の向きには断然オススメだ(そして細部で悩んでもらおう)。

435korou:2018/12/09(日) 18:34:27
角幡唯介「極夜行」(文藝春秋)を読了。

今年の本屋大賞ノンフィクション部門受賞作ということで
以前から名前だけは知っていた角幡氏の著作を初読み。
出だしからセンスのいい言葉のチョイスと
迫力ある筆力に魅せられ
あとは、とにかく異次元の体験である「極夜」の描写に
ひたすら圧倒されっぱなしで
この結構長いノンフィクションを一気に読み終えることになった。
読んでいる間の夢中の程度でいえば
近来にないほどだった(少なくともノンフィクションに限れば随一かも)

あまりにも都合よくアクシデントが起こり
これまた都合よくギリギリで解決していくので
著者によるフィクションも入っているのではないかと思ってしまうが
ここは、この筆力、描こうとした世界の正しさ、美しさを信じて
ほぼすべて真実と信じたい。
一般人が体験できない世界を
的確な表現で読者に疑似体験させる力は
相当なものである。
数々のノンフィクションの賞を過去に受賞しているのも
頷ける。

著作のなかで著者自身も言っているように
年齢から考えて、これ以上のクオリティの探検は
これからは難しいように思うのだが
これだけの筆力があれば
特に冒険ものでなくても期待できそうである。
やや読者を選ぶが
まあ読書好きであればOKな作品ではないかと思った。

436korou:2018/12/14(金) 10:38:20
池上彰「高校生からわかる資本論」(集英社<ホーム社発行>)を読了。

資本論について関心が高まり(ある意味、I先生の影響)
なかなか全体像までたどり着かないので
池上解説でアウトラインだけでも知っておこうと思い読み始める。

大体知っている内容が続き
それほど新しい知見は得られなかったが
逆に、それでも入門書として池上著作の1つとして成り立つのだということも分かり
これまでの自分の理解でそう間違いはないのだという
確証をもつことができた。

ソ連の崩壊により
遂に(前々から怪しいと思われた)マルクス経済学が
世界から捨て去られた20世紀末の状態から
いろいろな格差が生まれて
労働問題が頻発する21世紀初めの今に至ったことで
再びマルクスの思想は生々しく蘇りつつある。
後は、そのカオスをいかにして次の秩序ある状態に止揚させるか
という具体論に尽きるのではないか。
展望のないマル経だと
今までと何ら変わらない。
誰かが画期的な思想でマルクスの思想そのものを止揚すべきなのである。

この入門書を読みながらそう思った。
時代の影響ということ。
あとは、思想そのものをもう少し深く知りたいので
家にあるあの本を読み続けることにしよう。

437korou:2018/12/24(月) 09:56:56
安田純平「囚われのイラク」(現代人文社)を読了。

今年、突如解放されたこのジャーナリストに対して
世論、特にネットを中心とした意見は冷たかった。
何でこんな男を救うために
国家単位でみて少なくはないお金と労力を使い
恐らくは支払われたであろう(推測に過ぎないが・・・)巨額の身代金を
費やさなければならないのか、という怒り。
平和ボケした国らしいのどかな感情論が支配するのは
ある意味仕方ないとしても
そもそもの安田氏の仕事についての評価が
全く為されていない状況には
(予想はついたものの)改めて驚かされ、呆れる思いだった。

当県レベルでいえば
県立図書館にあるこの本がいつも「貸し出し可能」となっていた。
誰も借りないのである。
ネットショッピングレベルでいえば
この本は品薄状態から品切れ状態となり
事実上絶版となっている。
安田氏の新しい著作の企画の話も皆無である。
要するに、正面きって安田氏をきちんと評価しようという姿勢がないのである。
ジャーナリストを評価する際に
その著作について触れずに語ることなどあり得ないわけで
その点で
今年の安田氏糾弾のニュースほど
不毛で無意味で低レベルな話はなかった。
なんという国なのだろう、今の日本という国は。

438korou:2018/12/24(月) 10:07:05
県立図書館蔵書であるこの本が
あまりに「利用可能」なので
ついに我慢できなくなり、借りて読むことにした。
そして・・・読後の感想はといえば
ほぼ安田氏の主張は正しい、批判する人はバカ、ということになる。

もちろん、何の非もない完璧なジャーナリストということではない。
少なくとも、危険な場所に立ち会いたいという自らの願望を実現させるにあたって
可能な限り、事前に打てるべき対策は打っておき
衝動的に行動することは慎まなければならないのだが
その点で、いくつか軽率な点も見られるし
単独行動になりがちとはいえ
少なくとも、国内で自分の行動を的確に説明してくれる同志を確保しておく
慎重さもあってほしい。

とはいえ、逆に言えば
そういう条件を満たせた場合のみ行動して良いとまでは言い切れないのではないか。
ある意味、仕方ない面もある。
それだけの価値のある報道の可能性があるのだから。
危険を恐れて安全な場所からだけで
世の中の真実を伝え得るとは
良心的なジャーナリストであれば
誰も思っていないだろう。

439korou:2018/12/24(月) 10:10:26
その意味で安田氏のこの著作は
米国が仕掛けたイラク戦争前後のバグダッド周辺の市民生活を
リアルに伝える必読の書であるとともに
これだけのクオリティは
安田氏のジャーナリストとしての良心がもたらしたものであることを
実感させるものとなっている。

せめて、この本くらいは読んでから
批判したいのなら批判してもらいたい。
でも、恐らく、読んでしまったら
批判などできないだろう。
批判する人は、その意味でいえば
臆病であり可哀想な人たちなのだ。

「彼の仕事など他の人が伝えていることの繰り返しで価値がない」
と断じていたネット人の感想が本当かどうか確認したくて
読んでみたのだが
やはり、それは臆病者の遠吠えだったことが分かった。

安田氏には
もっともっと理解者を増やして
自分の仕事をより多く知ってもらえるよう努力してほしい。
読めば、すべてが分かるのだから。

440korou:2018/12/26(水) 14:07:03
矢部宏冶「知ってはいけない2」(講談社現代新書)を読了。

前著「知ってはいけない」が衝撃的な内容だったので
今回も相当期待して手に取った。
予備知識なしに読み始めたので
しばらくは話がどこに落ち着くのかわからなかったが
3分の1ほど読んだあたりで
これは「日米安保+地位協定などの補足」を論じた本だと判明。
成文化している米国側の文書が公開されたのを機に
同じものがなぜか成文化されない日本側の対応の不可解さと
条文内容についての日米の理解のギャップなどを丹念に説明しつつ
結果として、日本の立場からは主権侵害に近い内容が「密約」として
処理され続けてきた戦後の経緯が明らかにされている本である。

さて、だからどうすればいいのだろうか?
官僚というものは
自律では過去の間違いを修正しない種族だ。
かといって政治家にも期待できない。
国民一人一人がこの状況に及ぼす力は微々たるものだ。

結局、カタストロフィーに至るまで修正されないのではないか。
いつまでもこのマズい現状が更新されるだけではないのか。
そんな悲観的な気持ちにさせられる本である。
本当にこれは「知ってはいけない」本だった。
決定的に破綻する前に死ぬしかないだろうな、これは。

441korou:2019/03/18(月) 16:52:05
2019年になって本を読む義務が事実上消滅。
実際、本当に本を読まなくなった。
視力の関係もあり、今後とも本を読むことは少なくなるだろう。
特に小説類は。

それでも上田岳弘「ニムロッド」(講談社)
関眞興「EUやらイスラムやら ここ100年くらいの世界情勢をマンガでチラッと振り返る」(宝島社)などは
なんとなく読み終わる。

次の1冊は、退職後になりそうだ。

442korou:2019/04/04(木) 09:24:57
小林信彦「黒澤明という時代」(文春文庫)を読了。

本を読む習慣をいったん終了させて
再び読み始める瞬間はどうなのかと待機していた。
その合間に、以前からゆっくりと読み続けていたこの本について
たまたま録画していた番組などを全部観終えた結果
まとまった時間がとれたので
読み終えることができた。
つまり、これは、この数か月だらだらと読んでいた本を
単に読了させただけのこと。

とはいえ、小林信彦さんだ。
面白くないわけがない。
まして題材は黒澤明だし。
映画を観て確認しながら読み進めようかと思った時期もあったので
予想外に読了まで時間がかかった。
そもそも、祐季に本を買ってみたあの時期に
同時に買った本なので
相当前に入手した本だ(ブックオフで)。
小林さんの本でどうして未読なのだろうと思ったが
2009年の単行本の文庫化(2012年)なので
それはあり得るわけだ。

本の内容については
評価など今更だ。
いろいろと示唆を受けることが多かった。
ただし、喜劇人のそれと違って
再読のタイミングは
やはり実際の映画を観終えたときに限定されるはずだ。

443korou:2019/04/07(日) 11:00:02
中川右介「阪神タイガース 1965-1978」(角川新書)を一気に読了。

自分の興味ある分野のど真ん中だから
一気に通読した。
最近、これほどハマって読んだ本はないくらいだ。
やはり興味の赴くまま読む読書は面白い。
それに値する本を見つけるまでは大変だが。

知っているつもりでも
細かいことは全然記憶と違っていたりする。
そういう知的楽しみを含みながら
記憶の中の幸福な野球観戦のイメージをふくらませながら
どんどん読む進めていける愉楽。
それ以上に、この本の読後感を語る言葉は
今現在思いつけない。
中川さんの興味分野が
自分のそれと信じ難いほど重なるのが
不思議なくらいだ。
文章も自分のそれとよく似ているし。

まあ、読後の感想はこのへんでいいだろう。
深堀りする意味はもうないんだし。

444korou:2019/04/07(日) 22:46:21
近藤正高「タモリと戦後ニッポン」(講談社現代新書)を読了。

これも前回に続き県立図書館本。
図書館の棚で”タモリ”本を物色していて
これが一番客観的でより多くの事実を書いているように思え
借りてみた。
読んでみて、そういう印象通りのしっかりした本だった。
実に多くの文献を当たっていて
さらに不明な点については
まさにその出来事の中心人物に近い当事者に直接インタビューしているので
今のところ、ハンディな本としては
タモリ本の決定版といってもよいのではないか。

そういう”事実の交通整理”的要素が強いので
それ以上のものを求める向きには物足りないかもしれない。
それ以上のものを求めなければベストの本だ。
そして、それは題材が「タモリ」である以上
深堀りのコスパは低いはずで
その意味で、自分としては十分に面白かった。
読書する楽しみを十分に味わえた。

445korou:2019/04/15(月) 14:14:58
松本直也「音楽家 村井邦彦の時代」(発行:茉莉花社 発売:河出書房新社)を読了(県立図書館本)

村井邦彦氏の今までの業績をもっと具体的に知りたくて読み始めた。
基本的な叙述について、ややバランスを欠いた本ではあったが
知らないことも多く、タメになる本でもあった。
文庫本になったら買ってもいいなと思ったのだが
単行本としての非常識な高価設定(2700円)とか
発行元の零細さを考えると
なかなか文庫にならない予感がする。

内容について今更記すこともないのだが
メモだけは残しておこう。
(村井邦彦作品)
エメラルドの伝説、廃墟の鳩、白いサンゴ礁、或る日突然、虹と雪のバラード、夜と朝のあいだに、経験、
ざんげの値打ちもない、翼をください、忘れていた朝、恋人(森山良子)、スカイレストラン、
(「アルファ」ミュージックらしい作品)
学生街の喫茶店、あの日にかえりたい、夢で逢えたら、フィーリング、Mr.サマータイム。
ユー・メイ・ドリーム(シーナ&ロケッツ)、ライディーン
ひこうき雲、中央フリーウェイ、アメリカン・フィーリング

446korou:2019/04/16(火) 18:06:35
小林信彦「『あまちゃん』はなぜ面白かったか?(本音を申せば)」(文芸春秋)を一気読み。

県立図書館本。
これから2013年をスタートとして「本音を申せば」を最新刊まで借りて読む予定。
その第1弾としてまずこれを読んだ。
小林さんのエッセイについて
今更書き加えることもない。
面白いに決まっている。
今回も、全体の4分の1を少しずつ読んだ後
さきほど一気に残りの4分の3を平らげた。
文字通りの一気読み。
なんだか、また映画をしっかりと観たくなってきた。
でももう夜が近くて、今日はムリみたいだ。
それにしても、何から観ようか、と
ずっと迷っている。

80才近い著者が
”こじるり”の写真集を速攻で買う記述には驚いた。
まあ、自分も同じようなものだが(世間への活躍度合いは別として)

447korou:2019/04/24(水) 11:51:45
中川右介「松竹と東宝」(光文社新書)を読了。

自分は中川右介氏の著作のファンである(趣味・嗜好がドンピシャだ)
これも興味深い題材で、分厚い新書ではあるが(377p)
一気読みに近い感じで読み終えた。

おもに歌舞伎界の動向を中心にした記述で
映画のことも書いてほしい気もしたが
それはそれで面白く読めた。
歌舞伎の世界の閨閥図、系図、閥については
ややこしさ極まりないが
小谷野敦氏の「日本の有名一族」(幻冬舎新書)などを片手に
情報を整理しつつ読書することになり
かなり面白い読書になったのは確かである。

六代目菊五郎の立ち位置が常に一定でブレがなく
かつ人間味あふれること。
初代中村鴈治郎と松竹の発展が一心同体であり
かつ明治末期〜昭和初期における鴈治郎の存在感が
(特に関西において)絶大なものであったこと。
その初代鴈治郎の芸風は
意外にも養子でもあった長谷川一夫に最も継承され
そこから現在の坂田藤十郎に伝授されていること、等々。

あとがきにもあるように
これは初代鴈治郎と長谷川一夫の師弟愛を描いた本でもある。
七代目幸四郎の子たちの物語も面白いはずだが
途中で鴈治郎物語に力点が移ったのは
それはそれで大正解で
この本を単なる演劇経営史以上のものにしている、

448korou:2019/04/24(水) 16:26:52
小林信彦「女優で観るか、監督を追うか」(文藝春秋)を読了。

今回は2014年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
やたら訃報関連の話が多いのは仕方ないこと。
古い話がスムーズに導かれて出てくるのが
たまらなく懐かしく思え
自分もこういうものが書けるのであれば
書いてみたいと思わせるほど。

堀北真希の映画を観たくなった。
「麦子さんと」などが佳作らしい。
綾瀬はるかの「きょうは会社休みます。」(NTV)も
面白いらしい。

あと、ニコール・キッドマンの魅力とか。

449korou:2019/05/02(木) 18:20:29
マリアーノ・リベラ「クローザー マリアーノ・リベラ自伝」(作品社)を読了。

翻訳は金原瑞人・樋渡正人の2名の共訳。
MLBのレジェンドの自伝なのに
ベースボールマガジン社でなく作品社からの出版で
しかも金原さん名義の翻訳であるのが珍しい。
もっとも、内容もそれにふさわしく
リベラの人柄そのものの誠実さにあふれた佳作であり
読後がこれほど爽やかなMLB本は滅多にあるものではない。
同時代を生きたペドロ・マルティネスの本に比べて
感銘の度合いにおいて遥かに勝る。
書いてあることに真実味が感じられるのが素晴らしい。

一番感銘を受けたのは
2001年のレギュラーシーズン、9/11の様子、そこからの野球への盛り上がり、
そして奇跡的なポストシーズン、最後の予想外の出来事・・・敗北して帰宅するまでの描写、
そして、息子からのささやかなトロフィー・・・これには読んでいて感涙した。
他にも、自球団の選手はもちろん、他球団の選手であっても
尊敬に値する選手には当たり前のように賛辞の言葉を惜しまない姿勢。
いろいろな気持ち、姿勢、見解が、さりげなく語られ
それらが知らず知らずのうちに、この本を優れた自伝にしているのである。

久々に出会ったMLB関係の名著だった。

450korou:2019/05/02(木) 22:04:55
中川右介「1968年」(朝日新書)を読了。

これも県立図書館本。
中川さんの本とはいえ
特定の年代に特化した本ということで
過大の期待はせずに普通の面白読み物として読み始めたのだが
意外にも他に借りた本のどれよりも優先して読みたくなっていき
最後まで面白く読み終えた。

1968年の出来事が「音楽」「マンガ」「野球」「映画」の4つの話題に限定されて
それぞれの経緯が語られる形式で
まさに中川氏の少年時代の興味を
そのまま大人になって再現していくかのようで
それはそのまま自分にとっての少年時代の興味と重なるわけである。
この本の出版自体、そういう効果を狙って出されたはずであり
その意味で、特定の年代層にはたまらない本になるわけだ。

ただし、まえがきにもあるように
「マンガ」への関心は他の3つのジャンルに比べてはるかに強い。
この時代、マンガから離れていった自分としては
なかなか興味深い記述でもあった。
もちろん、「音楽」「野球」「映画」も興味深く
それぞれドキュメンタリーとしての面白みもあったので
ますます面白く読めたわけである。
中川本の真骨頂とでもいうべきか。

451korou:2019/05/06(月) 12:53:02
小林信彦「古い洋画と新しい邦画と」(文藝春秋)を読了。

今回は2015年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
あとがきによると、健康状態がすぐれないらしく
本来なら今の安倍政治への不信、不安などを
きっちり調べて書きたいらしいのだが
とても体力がもたないとのこと。
結局、昔の洋画の話が中心になり
小説とかの話も後回しになった模様。
まあ、それはそれで面白いわけで
小林さんにのみ許される裏事情ともいえる。

さすがに、小林さんの心の琴線に触れる名作の類は
年代が古すぎて自分には手におえない。
強いていえば
自分の好みと違うと決めつけていた映画が
小林さんの手にかかると違う魅力に見えてくるので
そういう視点から何か見えてくるかもしれないという
期待感は出てきた。

とはいえ、映画を観るのは
今の自分にとっては
そこそこしんどい行為なのだけれども。

452korou:2019/05/08(水) 16:45:43
田窪潔「デーブ・ジョンソンをおぼえてますか?」(彩流社)を読了。

特にそういう立場、経歴があるわけではなく
ただ単にプロ野球観戦が好きで
それが高じてこのような本を出してしまった、という類の本である。
極端に言えば、私と同類項のような人が書いた本であり
随所に見られる素人っぽい脱線ぶりを示した文章を読むにつけ
なんだか自分はこういう失敗はしたくないという観念にかられてしまったのは
自分のことに寄せすぎか。

そういう軽いタッチの読み物だけに
また文章そのものは流暢で淀みないだけに
あっという間に読み終えた。
特に新しい知見はなく
ジョンソンのプロ入りまでの生い立ちと
巨人入団後2年間の事細かな経緯くらいが主なところ。
後はうまくまとめたなという感じ。
最後のほうは著者のエッセイになりきっていて(確信犯!)
読むのがだるかったのも事実だが
まあこういう本もアリでしょう。

そうそう・・・2年目のジョンソンが張本の英語で救われたというのは驚き。
あまり他で聞かない話だったので。

453korou:2019/05/10(金) 16:46:33
中川右介「阿久悠と松本隆」(朝日新書)を読了。

中川さんの本にしては
あまりにまとまりがなくだらだらとしていて
途中、オリコン順位を月ごとに記録しているだけの叙述も多く
なかなか読み通すのに苦労した。
いよいよ最後のほうで
松本隆についての簡潔な総括を見つけ
こういうのを読みたかったのだと
読み前の期待感をやっと思い出した次第。

とはいえ、さすがに中川さんだけに
時代を象徴する重要な動きのなかでその核心に触れる「知られざる事実」について
さりげなく叙述の中にちりばめてあるので、読後の満足感は十分にある。

松田聖子のスタッフに続々とはっぴぃえんど人脈のメンバーが集まったのは
偶然ではなく、松本隆の意図したことだったこととか
ピンクレディーの紅白ボイコット、米国進出は
素人集団の所属事務所が、芸能界のドン的存在だった井原高忠に相談した結果
井原の提案によるものだったことなどは
重要な事実だけれども、あまり知られていない話だと思う。

自分のようなJ-POPファンにとっては。十分面白い本だった。

454korou:2019/05/11(土) 18:01:09
連城三紀彦「悲体」を60ページほど読んで
やや物足りなさを覚え中断。
書評を検索すると微妙な感じなので
このへんで止めておくことにした。
小説は
読書のなかでも結構エネルギーが要るジャンルだと痛感する。

455korou:2019/05/12(日) 11:25:14
小林信彦「わがクラシック・スターたち」(文藝春秋)を読了。

今回は2016年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
小林さんは、このエッセイの連載の直後に自宅で脳梗塞のため倒れた。
(さきほどこの次の巻を確認しようとして、改めてその事実を確認した。
 そのことはなんとなく覚えてはいたが、もう忘れていた。大変なことだ)
レギュラーなエッセイとしては、この巻が最後になるようだ。
相変わらず、映画中心のエッセイとなっているが
たまにかつての喜劇俳優論の「あとがき」風の文章にも出会えるので
そうなると俄然楽しくなる。
ということで、なかなかやめられない。
とはいえ、これで最後かもしれないと思うと寂しい。

いろいろと見たい映画もチェックできた。
ジョン・フォードの「荒野の決闘」はいい加減もう観るべきだ。
ダーティー・ハリーも、確認したら第5作まで録画済みだ(1と3がいいらしい)
「海街diary」はもちろん、他の綾瀬はるかの映画も録画ができているだろうか?
ニコール・キッドマンの悪女ものも面白そう。
まあ、それ以前に、13時からのBSブレミアムの映画を
そのまま生で観るというのも
今の生活なら十分可能だし。
そうやって掘り出し物を探すのも悪くない。

その流れでトリュフォーの「ヒッチコック映画術」が読みたくなった。
これから県立へ行って借りることにしよう。
小林さんの闘病生活をまとめた「生還」も、さっき予約した。
いろいろと小林さんにはお世話になっている感じ。
まあ一方的なんだけど・・・訃報だけは聞きたくないが、こればかりは・・・・

456korou:2019/05/14(火) 22:46:34
井原高忠「元祖テレビ屋ゲバゲバ哲学」(愛育社)を読了。

小林さんの推薦を知って。県立図書館で書庫から引っ張り出して借りた本。
かなり期待して読み始めたが、面白いのは最初のほうだけで
後半は、昭和のおっさんのグダグダのお説教という感じで
意外なほど面白くない本だった。
思うに、この方は、1990年代以降の日本の新しい姿を
本質的に理解できていないのではないか。
その意味では、1980年に50歳でリタイアするというトリッキーな選択は
意外なまでに本人にとって正解だったのではと思わせる。
そのまま日本のテレビ界に居ても、管理職ではどうしようもないし
むしろ老害の対象になったに違いないので。

小林信彦「テレビの黄金時代」のような面白い裏話満載を期待すると
100%裏切られる。
これはあくまでもモーレツ世代の自慢話であり
しかも出自が戦前のハイソサエティという庶民には縁のない話で
逆にそういう設定に弱い世代(テレビ初期の主役たち)には
絶対的な存在として君臨する人なのである。

2019年の今、この本の価値は半減している。
やはり、それなりに頑張っている今のテレビ芸人たちを
全否定するわけにはいかないだろうし
残念ながら、井原さんが目指した方向とは別の向きで
今のテレビ界はそれなりに成長していると思うので。

そこは小林さんの柔軟さとは違うところだと
この本を読んで痛感する。

457korou:2019/05/16(木) 23:08:17
中川右介「山口百恵」(朝日文庫)を読了。

間違いなく今年読んだ本のベスト。
今更百恵ちゃん?と思ったのが大きな間違いだった。
中川さんという稀代のノンフィクションライターの手によって
漠然とした山口百恵伝説が
厳密な事実の積み上げで粉砕され更新され
新たな輝きを獲得することになった。
この著書の続きとなる「松田聖子と中森明菜」も見事な作品であるが
明菜の部分が物足りないという欠点があるので
やはりこの作品が、今のところ、中川さんの著作の白眉となるだろう。

まず冒頭で、ナベプロ、ホリプロ、サン・ミュージックの概要
記されている点が素晴らしい。
歌謡曲の本はいろいろあれど
こういう基本的なことに触れていない本がほとんどなのだから。
さらに、スター誕生をめぐる山口百恵の動きも
微に入り細に入り的確に描写される。
そこからはもう中川マジックの世界で
もうこれは記述を信じるしかない。信じたいし、そうでありたい。
あとは音楽スレに感動のポイントを書いたとおりだ。

部分的には2019年の今でも通用する音楽だと思う。
そのことを確認できただけで十分読んだ価値はあった。

458korou:2019/05/22(水) 17:13:37
中川右介「月9」(幻冬舎新書)を読了。

500p近い新書で定価も1300円(税抜)もする大部な本だ。
しかし、中身はユニークそのもので
本来ならネットで断片的に紹介されるような軽いエピソードを羅列しながら
その反面、こういうテーマでは挿入されることのない政治の話題を挟んで
延々とフジテレビの月曜9時のドラマを
1987年から1996年の10年間にわたって
その企画、出演者、1話ごとのストーリー、世間の反応、視聴率、他への影響度などを
逐次紹介していくノンフィクションになっている。
自分としてもリアルタイムでありながら
そのほとんどを見ていなかったので
30年近く経った今になって
その粗筋を初めて知って
当時はそういうことだったのかと
改めて知ることばかりだった。
それにしても
同じような企画、ストーリー、配役などを
延々と読み続けることは
そうした知的興味を満足されるとともに
ある種の心地よい退屈さをも催すことにもなり
なかなか摩訶不思議な読書体験だった。

自分としては満足度100&だが
人には薦められない本でもあった。
リアルタイムで体験できなかった人のための本かもしれない。

459korou:2019/05/23(木) 07:40:29
田中正恭「プロ野球と鉄道」(交通新聞社)を読了。

なかなか珍しい視点の本である。
最初に日本プロ野球全体の歴史が概略として書かれていて
なかなか上手くまとめていて感心させられるのだが
すぐに書名どおりの展開になり
まず、交通の発達していなかった時代の
プロ野球選手たちの移動の厳しさが記される。
また、球団を所持あるいはかつて所持していた球団について
個別に語られ
実際の交通の便について現在の全球団についてコメントがある。
最後は。実際にもいろいろとアクティブにファン活動を続けている著者の
いろいろな人脈を駆使しただろうと思われる
プロ野球の名選手OB数名への直接インタビューとなり
これも交通関係中心の談話ということで
興味深いものとなっている。

部分的には、そこまで興味が湧かないと感じた箇所もあり
全体を詳しく読み通したわけでもないが
こういう著書は、その存在自体貴重ではないかと思われた。
誰も書きそうにもない分野でありながら
「昭和50年の広島カープの優勝は、山陽新幹線の博多までの開通直後で
 優勝への重要な要因」といった指摘など
なかなか含蓄に富んでいるからである。
売れそうにもないが、こうした貴重な本を企画・実現させた著者と出版社に
敬意を表したいと思う。

460korou:2019/05/28(火) 10:05:25
濱口英樹「ヒットソングを創った男たち」(シンコーミュージック エンタテイメント)を読了。

副題に「歌謡曲黄金時代の仕掛人」とあるように
昭和30年代後半から平成初期にかけての
いわゆる”歌謡曲黄金時代”における
各レコード会社(音楽出版社)のディレクター、プロデューサー14名について
インタビュー中心にまとめた本になっている。
あまりに多くの事実が、その関係者によって独白されているので
ある程度信用できる方々とはいえ
その事実をすべて網羅しつつ
全体像を把握していくのは
読み進めていくなかで容易なことではなかった。
結局、350ページ2段組みという膨大な情報量のうち
その数パーセントでも記憶に残れば上出来、といった読書になってしまった。

インタビューの相手は、ほとんどが1940年前後の生まれの方々で
80才前後という高齢者であることを考えると
この種の本がこのタイミングで出版された意義は大きい。
素晴らしい企画で素晴らしい内容の本ができたと言えよう。
さらなる続編が別の機会に別のスタッフで作られるべきだろう。
21世紀初頭という時代は、20世紀文化の裏方を探る時代なのかもしれない。
そう思わせるほど、この種の本は面白い。

461korou:2019/05/29(水) 10:37:27
スージー鈴木「1979年の歌謡曲」(彩流社)を読了。

「カセットテープ・ミュージック」の視聴で
個人的にはお馴染みになってしまった著者の本を県立で見つけたので
お試しで借りてみた。
まずまずの内容ながら
やはり、歌謡曲のような個人の趣味で語ってよい音楽について
他の人の趣味を延々と聞かされるのは
あまり心地よいものではない、ということも分かった。
もちろん、これをテレビ画面で、いろいろなニュアンス付きで知るとしたら
話は違ってくるのだが・・・いかんせん、文字だけで
いかに(1979年の)ミッキー吉野や(80年代の)沢田研二を絶賛されても、うーむ!

最初のうちは、鈴木さんだからということで
いろいろとyoutubeで視聴(試聴?)しながら読んでいたので
結構時間のかかる読書となった。
途中から、鈴木さんの好みに終始付き合う必要もないなと気づき
あとは一気だった。
もともとは一気に読める類の本だから、まさに一気だった。
もう1作、県立にあるのだが、借りるかどうかは迷っている。
まあ、今回は保留して、借りる本に困ったときに頼ることにしよう。

462korou:2019/05/29(水) 10:46:26
片山右介「サブカル勃興史」(角川新書)を読了。

目次を見て、仮面ライダー、マジンガーZ、宇宙戦艦ヤマト、ガンダムと並ぶ項目なので
いかに片山さんの本とはいえ
楽しく読むことができるだろうかと躊躇したのは事実だが
やはり片山さん、さすがは片山さんだった。
それぞれの項目について
よく知る人だけが楽しめるマニアックな記述などは皆無で
よく知らない人も理解できるきちんとした歴史背景の叙述を中心に語られていて
今までほとんど知らなかったこういう世界について
最低限の知識を得ることができたのだから
大変ラッキー、感謝感謝である。

70年代を取り上げた本なので
たとえば、ドラえもんなどは、どんな風な経緯で
現在のテレ朝系放映のアニメ番組実現に至ったのか
まさに「そこを聞きたい」という裏話を知る思いになる。
ガンダムに至っては、この本のおかげで全体像が初めて理解できた。
司書時代に読んでおきたかった気もするが、発行日からしてそれはムリか(2018年11月)。
まあ、隠れた名著ですね、これは。

463korou:2019/06/03(月) 23:02:07
中川右介「角川映画」(KADOKAWA)を読了。

音楽に関する著作の多い中川氏の著作だが
「山口百恵」などで
音楽以外にもやはり十分な調査が伺える記述をされていたので
今回も十分に期待し、まさにその期待通りのクオリティだった。
本当に何でも書ける人だ。
今回は、角川発行の「バラエティ」という雑誌も重要な出典なのだが
その雑誌を創刊号以来ずっとコレクションできているのも
中川氏の強みである。

全体に角川映画に好意的な見方で書かれていて
リアルタイムで角川映画のイメージがある自分などは
やや褒め過ぎではないかと思えるくらいだが
たしかに映画全体の構造的なレベルでいえば
「二本立て興行の見直し」とか「スターシステムの復活」とか
「意欲的な映画監督とのコラボ」とか
いつのまにか当時の日本映画界が見失っていたものを
角川春樹がストレートに復活させたという意味においては
当時は気がつかず、後になって考えれば
それは大きな功績と言わざるを得ないだろう。
もっとも、これはもう少し緻密な批評も必要であることは確かだ。
ただし、それは中川氏の今回の仕事ではない。
この著作のようなものがまず書かれるべきで
それから批評が始まるということだろう。
その意味でまた優れた著作にめぐり合えたということになる。

464korou:2019/06/04(火) 22:56:55
小林信彦「生還」(文藝春秋)を読了。

県立図書館で初めて予約をして借りた本。
闘病記のようなもので
もともと小林さんの著作を愛好するきっかけとなった類の本ではないのだが
ここまでお世話になった著者への敬意を込めて
あえて読むことにした。

突然の脳梗塞から話は始まる(2017年4月)。
そこからしばらくの叙述は
本人もあまり記憶がハッキリしていないだろうし
そのことを承知で強引に書き切るので
小林さんの文章としては極めて異質である。
文章の脈略が滅茶苦茶で、時系列も怪しい。
現実なのか幻想なのか曖昧な書き方で
かつ時系列が乱れてくるとなると
もはや何を読まされているのかイメージすらつかめない。
いつもの小林さんではないのだ、と心に念じつつ
そういうものを読むのは率直に言って悲しかった。
・・・・終わったのだ・・・・終わった?という感じ。

アルジャーノンではないが
後半にいくにつれて叙述がだんだんとしっかりとしてくるのも
読んでいて不思議な感じだった。
それにしても、脳梗塞は恐ろしいと思ったし
家族の支えがないと一気に進行して死に至るとさえ思えた。
良い家族をお持ちで小林さんも幸せだ、というのが一番の感想である。
一気読み、さすがにこのへんはいつもの小林さんのようだった。

465korou:2019/06/15(土) 15:46:35
黒岩比佐子「パンとペン」(講談社)を読了。

松岡正剛さんのブログで知ったこの本を
県立図書館で借りてきて
この3週間ほどずっと読み続けていた。
やや小さめの活字で、老眼用メガネを使用しても少しキツい感じで
最初のうちは、この本が原因でこのところの眼痛になってしまったかと後悔したが
ものの100ページほども読み進めると
さすがの面白さで、別に眼痛だろうと気にならなくなった。
著者はこの本の執筆中に膵臓がんが見つかり
書き終えてまもなく亡くなった。
同世代で悲しいことである。
しかも裏表紙の折り込みにある著者の近影は
私好みの魅力的な表情に富んでいて
生前にお目にかかりたかったという思いも強い。
何度も何度も見返して、一緒に喫茶店などで語り合いたかったと
見果てぬ夢に空想を広げた。
まあ、それはそれとして。

466korou:2019/06/15(土) 15:56:01
400ページに及ぶ長さに加えて
近代史上に名を残す逸材たちの名前が連綿と出続けるので
そのたびにWikipediaを参照しなければならず
WikiはWikiで別の人名を導き出して
わが脳裡を刺激するので
それ自体、連想ゲームのように関係人名項目をサーフィンすることになり
さっぱりページが進まないという
まさに理想的な読書の瞬間が続いていたのだった。

多くの社会主義者たちが登場するなかで
この本の主役たる堺利彦の人間的な大きさは別格で
平和主義、人民主義、純粋なマルクス主義という世界観も
今の世の中で理想とするにたるものだろう。
逆に、あまりに常識人だったので
革命を目指す人たちの群像が
実際以上に極端なイメージで描写され
それは、著者である比佐子さんの堺への愛着が為せることだっただろう。
それをふまえて読むとすれば
これは「冬の時代」を解読する最上のノンフィクションということになる。

読み終えて、あまりにいろいろな知識が脳裡に追加されたので
それを端的にまとめて記述することは、今のところ困難である。
ただ、明治後期から昭和初期にかけて
軍部が台頭するまでの間
社会主義者への弾圧、世間の厳しい視線というものが
日本近代史を読み解く大きな1つの軸であることはよく分かった。
大杉栄とか甘粕正彦なども
そういう視線で理解していかなければならないことを
新しく知った思いである。

467korou:2019/06/22(土) 18:33:23
中川右介「SMAPと平成」(朝日新書)を読了。

著者自身もあとがきで記しているように
これは「月9」の姉妹編のような本であり
それゆえ1996年のロンバケ&スマスマ開始のところで
叙述が終わっている。
新書という制約と著者自身の関心度から
SMAPの初期の出来事、活躍に絞った著作になっている。
例によって、参考文献を徹底的に駆使し
サブカルとはいえきちんとした検証を踏まえた「通史」が
出来上がっている。
かくして
「サブカル(漫画。アニメ)」「角川映画」「山口百恵」「聖子と明菜」
「月9」「SMAP」という流れで
昭和戦後期後半から平成前半までの大衆文化が
見事につながって語られることになった。

知らないことも多かったが
今回に関していえば
やや中川氏の思い入れが入り過ぎた感もある。
人から勧められた企画で自分自身のそれではないということが
大きいのだろう。
政界の動きと連動させる叙述も
特に効果的とも思われない。
あまり中川氏のことを知らない人には
奇異な本に思えるかもしれない。
とはいえ、こうしてきちんとしたサブカル史が語られることは
それ自体、大いに意味のあることだ。
あとは、提示された「素材」を安心して使いながら
優れた「料理」が披露されるのを待つだけだ。

468korou:2019/06/24(月) 17:03:25
長谷川晶一「虹色球団 日拓ホームフライヤーズの10か月」(柏書房)を読了。

昨日、県立図書館で借りて、今日の午後3時頃に読み始め、午後5時前に読み終えた。
とにかく、あっという間に読むことができた。
あとがきで、著者の長谷川さんの関心が
小さいころに触れた不思議な短命球団のことにあり
それが、高橋(トンボ)ユニオンズ、クラウンライターライオンズ、日拓ホームフライヤーズという
3球団の歴史をまとめる三部作となり
この本がその最後を飾る本となったことを知った。
高橋(トンボ)を読んだ記憶が今一つ定かでないが
クラウンは2年前に読んでいるので
おそらくこれで全制覇したはずである。

前回のクラウンの著作でも同じ思いだったが
こうして日拓球団についてまとまった著作を読む機会はなかったので
もうそれだけで貴重な本と言える。
インタビューの相手だった大下選手が
「ありがとう。こうしてくれると歴史が残る」と感謝の言葉を残したのも十分頷ける。
田宮監督の苦悩、新美投手の奮闘、金田留広投手の激情、張本勲の(意外な?)チームプレーなど
なかなか印象的な「侍伝説」でもあった。
それと同時に、当時のパ・リーグにあって
金田正一の果たした役割の大きさを改めて感じた。
パの歴史は、この金田の「中興の祖」としての功績抜きでは語れない。

そんないろいろな読後感を残す本である。

469korou:2019/06/25(火) 16:13:58
「忘れ難きボクシング名勝負100 平成編」(日刊スポーツ出版社)を読了。

県立本(返却されたばかりの本コーナーから)。
平成になってからのボクシングの動向は
継続して把握できていなかったので
今までの記憶(F原田から具志堅・渡嘉敷まで)につなげることができればと思い
借りてみた。
大体、予想通りの面子で驚きも発見もさほどなかったものの
階級の変遷などの豆知識や
あるいは、Wikiを参照して各人のトータルな戦いぶりを追跡することで
まあまあの収穫ある読書にはなったと思う。

90年代の辰吉が醸し出していたスターらしいオーラが
00年代や10年代の次代のスターを生み出したという功績は
否定できない。
そして、その辰吉が最後の最後で完全に叩きのめされたのが
ウィラポン・ナコンルワン・プロモーションだったのだが
そのウィラポンの長期政権にとどめを刺したのが
長谷川穂積であることは
今回初めて知った。
あとは、黄金のバンタムで
長谷川 → 山中慎介 → 井上尚弥 という流れが追跡可能であり
そこに内山、井岡などを加えれば
21世紀の日本ボクシング界の主力はほぼ網羅できたに等しいだろう。

まあ、団体が乱立して権威失墜なのも事実だが。

470korou:2019/06/28(金) 12:51:55
中川右介「冷戦とクラシック」(NHK生活新書)を読了。

クラシック音楽の著書が多いので
いよいよ中川氏の著作の本丸に突入・・・というか
かつて「ピアニスト」「フルトヴェングラー」などを読んで
おそらくこの本のテーマあたりが本丸だろうと見当をつけて
期待十分に読み始めた。
そして、その期待通りの満足で読み終えた。

これは
クラシック音楽家を通じて知る20世紀後半の歴史である。
冷戦が具体的にどのように始まり、具体的にどのように終わったかを
鮮やかにかつ簡潔にまとめている。
ソ連時代の支配者層の推移、冷戦時代の名演奏家たちの立ち振る舞い、
冷戦終結時の東欧各国の動き、等々。
詳しく知らなかったことがいろいろと分かり
これこそ読書の醍醐味という愉しい時間を過ごすことができた。

難点は、やはりクラシック音楽というジャンル自体が
政治という親しみにくいテーマを分かりやすくさせる効果の点で
何の意味もないということにある。
両方好きな人にはたまらない本だが
普通はどちらも好きでないだろうから
まさに趣味人の本にとどまり
その意味で広がりはもたない本ということになる。

「中川クラシック音楽本」としては
たしかに決定版に近い内容で
読み込める人には最高の本なのだが。

471korou:2019/07/02(火) 16:01:43
「私の履歴書 24」(日本経済新聞社)を読了。

高校図書館廃棄分から。
昭和40年発行で、稲山嘉寛、嶋田卓爾、林房雄、諸橋轍次、鮎川義介の面々。

稲山氏の文章は、サバサバし過ぎて物足りなかった。
もっと書いてもらえれば面白い話はいくらでもあったろうに
この辺は編集者の権限がほぼない「私の履歴書」の弱点だろう。
八幡製鉄所の巨大さだけは伝わってきたが。

嶋田氏については、ほぼ経済界、もっと狭めて実業界からも
ほぼ歴史上名を残さない功績者なので
こういう履歴書は貴重といえる。
ただし、他の史料で確認できないことばかりなので
どこまで信用できるかという懸念はつきまとう。
なかなか面白い話ではあった。

林房雄に至っては
戦後限定なので、これは少々たちが悪い。
せっかくの履歴書なのに
戦前の華々しい活躍については
他をあたるしかない。

諸橋氏については、稲山氏と同様の不満を持った。

最後の鮎川氏が一番面白かった。
自慢話になりがちな面を
独特の人生観でふくらませていて
人間の大きさを窺わせた。

472korou:2019/07/05(金) 18:19:00
北康利「叛骨の宰相 岸信介」(KADOKAWA)を読了。

物事を自分の哲学だけでしか判断できない狭い了見の著者であった。
読んでいて、そうじゃないだろと何度もツッコミを入れつつ
自分は自分なりに根拠を確かめながら読み進めていった。
その反面、詳しい叙述は大変参考になり
哲学による「捻じ曲げ」さえ頭の中で修正できれば
結構、新しい知見が加わったのも認めざるを得ない。
その新知識を、やはりネットで確認しながら読み進めていったので
読みやすい文章ながら(哲学がシンプルなので文章も平易で、その意味で読みやすい)
読み通すのに予想以上の時間がかかった。

全体として、首相になるまでの叙述は
見え透いた嘘が多く、読んでいて疲れるばかりだったが
首相になってからの叙述は
意外なほど説得力のある嘘に変貌し
「岸総理大臣」への評価を見直そうかと思ったほどだった。
しかし、戸川猪佐武の「政権争奪」の描写は
(田中派担当の情実があるにせよ)なかなか岸に対して辛辣で
真実はこの中間にあるのだろうなと思わせた。
藤山愛一郎については
この本にある通り、その後の評価が低すぎるように思われた。

久々の政治家の生々しい本で、いろいろな記憶が蘇った。
その意味では良かったのかもしれない。

473korou:2019/07/09(火) 13:57:21
中川右介「江戸川乱歩と横溝正史」(集英社)を読了。

現代(サブカルチャー)史を興味深く読ませる著者だが
これは現代というより近代、サブカルに近い純文学(純文学に近いサブカル?)がテーマなので
やや構えて読み始めた。

最初は、最近読んだ堺利彦の伝記に近い空気を感じたが
やはり明治末期から大正にかけての知識人の物語は
ジャンルが違えど人物が交差するので
否応なく類似の空気が漂うのだろう。

しかし、徐々にサブカル色が強くなるにつれ
江戸川乱歩の姿がハッキリと見えてくるようになり
その引力でいろいろな人物が惹きつけられ
その結果、横溝正史も作家として活躍できるようになるあたりから
いつもの中川氏の魅力を感じてくる(明晰な文章が光る)。
途中からは本当に一気読みとなった。

さらに
かつて読んだ小林信彦「回想の江戸川乱歩」を引っ張り出して
中川氏の叙述と重ね合わせて読むという愉しみもあった。

いつもと同じ感想にはなるが
今まで漠然としか知らなかったことが
いろいろとハッキリ見えてきて視界良好、納得の読後感となった。

474korou:2019/07/09(火) 17:19:53
井上潤「渋沢栄一(日本史リブレット 人095)」(山川出版社)を読了。

直前まで読んでいた「乱歩と横溝」が2段組みでびっしり300ページ以上ある大著だったので
大きな活字で100ページにも満たないこの本を読み通すのは簡単で
2時間以内で読み終えた。
前半は年代順にきっちり伝記風に書かれていたが
後半は、細かく整理して記述するのが大変だったのか非常に大ざっぱな記述になり
テーマ別に渋沢の仕事を概観した、まあ退屈な文章の羅列となっていた。

それでも、タメになったことを挙げれば
渋沢が備中井原に来た動機が分かり
そこからネット検索して「雨夜譚」の原文にあたることができたこと。
慶喜のために京都での兵力確保のため井原他の一橋領地に赴き
井原では住民が無反応だったところ
いろいろと行動した結果(阪谷朗廬との交流など)
首尾よく落ち着いたことなどが分かった。

それから、さすがにこの人の業績を追いかけることは
今の自分には結構しんどいことも直感できた。
自分としては
できるだけサブカル愛好者でいたいと思う。
渋沢への敬意はもちろん不変ではあるけれど。

475korou:2019/07/11(木) 13:36:06
本庄慧一郎「幻のB級!大都映画がゆく」(集英社新書)をざっと読了。

大都映画関係者が親族にわんさかといる著者が
まさに主観まるだしで、とにかく大都映画の足跡を世に残すべく
ありとあらゆることを書きまくった新書本である。
細部の誤りなどは多々あるが
ここは、こうしたマイナーな扱いを受けている映画会社について
可能な限り叙述を尽くした熱意に敬意を表するのが妥当だろう。

全体として、大都映画の徹底した庶民向けレベルの
映画作りのイメージが伝わってくる。
そして、巻末の人名事典も秀逸。

しかし、河合徳三郎はやはり複雑な人格の持ち主に思え
そういう人物を親族が客観的に描くことには無理がある。
そこの部分に関して、この本には
多くの嘘と虚実がちりばめられている。
さらに歴史認識も古いし、世界観・哲学も浅い。
そのへんは割り引いて読むしかない。
それでも読む価値があるのは
大都映画について他に適当な本がないからである。
さらに大都映画そのものについても
残されたフィルムが僅少であるから
今となっては何も語れないに等しい。

まあまあ面白かった本で、飛ばし読みも相当行った本にもなった。

476korou:2019/07/12(金) 22:16:24
宮田昇「新編 戦後翻訳風雲録」(みすず書房)を読了。

思いのほか読み応えのある良書だった。
いろいろなことを教えて頂いた印象。
小林信彦氏のことも登場し、その部分を興味深く読んだりできた。
翻訳家と一言で言っても
戦後まもなくから活躍した人たちは
あまりにも人間臭く、その体臭具合が実に心地よかった。
セックス好きもいれば、私生活にロックをかけて心の闇を守る人もいる。
例外なく酒好きで、議論好きでかつ熱くなりがち。
あの戦争に、青春の一時期を間違いなく振り回され
その影響から逃れようもなく、でも時代は容赦なく過ぎていく、
財産を守ることに必死な人も多く、おおむね頑固。
ああ、これこそ戦中派の生態ではないのか。
懐かしい感覚に、しばしば活字の向こう側の世界に思いを馳せ
ページをめくる手が止まることしばしだった。

その一方で、相変わらず調べるためにWikiを検索することも多く
驚いたことに
この本はWikiのネタ本として完璧に引用されているのである!
こんなに出典として引用されまくっている本も珍しい。
翻訳家というマイナーな職業ならではの光景だった。

本当にいい本を残してくれたものだと思う。
著者の宮田氏には感謝しかない。

477korou:2019/07/16(火) 18:52:57
中川右介「オリンピアと嘆きの天使」(毎日新聞出版)を読了。

レニ・リーフェンシタールとマルレーネ・ディートリッヒをめぐる物語。
それぞれの最盛期の活躍を、例によって年代別に対比しながら
正確に記述していくスタイルで描いていく中川氏お得意の評伝である。
今回は、隠し味(隠れてはいないが・・・)として
その時代(1920年代後半から1930年代)、その地域(ドイツ周辺)に最も影響を与えた
ナチスドイツとの関わりが細かく触れてあり
読みながら、ヘス、ゲーリンク。ゲッペルスなどの人物概要を確かめながらの
読書となった(おおいにタメになる読書だ!)

リーフェンシュタールには自伝があるのだが
その自伝が、いろいろと問題の多い文献だらけなので
そのあたりを、真実はどの辺かについて探る記述が多くなっている。
いわばメディアリテラシーが鍛えられる読書ともいえる。
それにしても、20世紀前半に活躍した人たちは
遠くない未来に、そうした嘘、虚構の類を検証されることに
思いはいかなかったのか。
優れた知性の持ち主のはずが、あまりにも無警戒に過ぎる。
また、これからの著名人は、政治に関心のないところを
いろいろと突かれることも覚悟しなければならない、ということも
リーフェンシュタールの後半生を知れば痛感する。

全体にディートリッヒよりもリーフェンシュタールの人生のほうが印象的だ。
やはり、防ぐことのできる失敗を、それでいて数多く犯してしまった人生のほうが
印象に残りやすいということか。

なかなか面白い本だった。

478korou:2019/07/17(水) 13:13:34
中川右介「怖いクラシック」(NHK出版新書)を読了。

これは、いわゆる正統派カルチャーの通史のようなものなので
著者の本についてカウンターカルチャー中心に読んできた
今までの流れとは違う種類の読書になる。
(もうカウンター系の本はかなり読み尽くした感がある)

これはこれなりに面白く読めた。
やはり、その音楽を聴いているだけで
その音楽家の生涯の細部に関しては
それほど突っ込んで調べたこともないので
知らない話もかなりあって
その意味で知的刺激を受けた。

とはいえ
さすがに、今更ヴォーン・ウィリアムスなどを聴く気にはならないし
ショスタコーヴィッチの交響曲についても(以前の読書でも好奇心をくすぐられたが)
優先順位はかなり後になる。
まあ、都合のいいところだけ記憶に残ったというところか。
チャイコフスキーとラフマニノフの関係とか
マーラーの生き様などは
大いに参考になった。

で、これで借りた本は全部読み終えたので
(宇都宮徳馬の伝記のみ期待したものと違ったので未読のまま返却)
これから県立図書館に行って
新しい本に挑戦することにしよう。

479korou:2019/07/20(土) 13:30:44
東野圭吾「白夜行」(集英社文庫)を読了。

久々の小説の読書。
県立図書館で偶然現物を見つけて
東野作品が現物、しかも「白夜行」が今そこにあるという珍しさから
思わず借りて帰った。
考えてみれば、かつて読んだにもかかわらず
ストーリーは全く覚えていないわけで
その後、その分厚さから当面の読書から避け続けていたわけである。
そうなると、読むのは、時間がたっぷりある「今でしょ!」(古っ!)

いやあ、長かった。
東野圭吾の定評のある力作だけあって
見事な構成、迫力だったが
前半は探偵役が出てこないので、物語の推進力がいくらか弱く
そのへんが最高傑作とは言えないかなとも思えた。
ただし、全体として、主人公2人の「ノワール」の要素を
過不足なく描き切った筆力には脱帽するほかない。
細部を分析すれば、たしかに不必要なエピソードとか
登場人物の1人だけ唐突に物語から消えてしまうなどのアラはあるのだが
伏線のミスのない回収、意図的な叙述スタイルなど
同様の細部の分析により、もっと魅力的な要素も発見できるわけで
全体として優れた作品というイメージは揺るがない。

こうなると続編を読みたくなるが(幻夜)
貸出中なので予約するしかない。

480korou:2019/07/24(水) 16:16:15
「わが記憶、わが記録(堤清二×辻井喬 オーラルヒストリー)」(御厨貴・橋本寿朗・鷲田清一/編)<中央公論新社>を読了。

以前、新聞連載時に一部を通読していて
面白かった記憶があったので
県立図書館で借りてみた。
通して読んでみて、やはり面白い本だった。

経営者としての堤清二氏の個性がハッキリしていて
これなら「セゾン文化」「パルコ文化」を創造し得ただろうなと納得できる。
さらに人間としての辻井喬氏も、感性が明瞭で
読んでいて曖昧な点は何一つない。
その上、長い活躍期間において
いろいろな著名人との交流が豊富なので
読んでいて単純に面白い。
経営論についてのみ、成功と失敗の両面がある堤氏としては
もう少し明晰に語りたかったに違いない。
そこだけ、やや韜晦気味の口調になったのは残念だったが
話としてなかなか面白く展開できないことも事実なので仕方ないことか。

宮沢喜一はともかく、佐藤栄作との縁も深いのには驚いた。
三島由紀夫との関係も、意外で興味深かった。
全体に知らない世界の話も多く、タメになったのは有り難いが
やはりWikiとの交互読みとなり、やたら時間がかかった。
2段組み300ページ以上という大部でもあり
「白夜行」に続いて、結構な労力となったが
こういう読書は歓迎だ。

481korou:2019/07/29(月) 21:15:14
東野圭吾「幻夜」(集英社文庫)を読了。

予約していたら、案外早く返却されてきたので、すぐに読むことができた。
とりあえず、「白夜行」の続編かどうかについてはあまり下調べせず、普通に読み進める。
(読後にその辺のことを調べたら、ネタバレ満載だったので、事前の下調べはしなくて正解だった)
「白夜行」よりも、コンパクトな時間設定で、登場人物のキャラがきちんと書き分けられていたので
読みやすさは、こちらのほうが格段に上だった。
途中からは、ページをめくる手が止まらなくなった。

続編かどうかについては、断然「続編説」を採る。
そうでないと「幻夜」の面白味は半減する。
白夜行の雪穂のキャラクターを知った上で
幻夜の美冬の行動を読み解けば
(かなりの強烈キャラではあるものの)それほどの違和感には至らない。
というより、美冬の心理描写をあえて略している作者の意図は
そこにあるとしか思えない。
作者は、続編かどうかは想像に任せるとのことで
これはミステリー全体をミステリーする仕掛けなのだろう。
その意味では十分に成功している作品だと言える。

「手紙」「幻夜」「容疑者Xの献身」と連続して出していたこの時期の東野圭吾は
まさに作家としての最盛期だったのだろうと思ってしまう。
少々のキズなどものともせず一気呵成に読者を圧倒してしまう筆力は空前絶後だ。
「白夜行」「幻夜」と読んできて
随分と時間を費やす読書になったが
その価値は十分にある。

482korou:2019/07/30(火) 17:06:00
中川右介「戦争交響楽」(朝日新書)を読了。

第二次世界大戦の直前から戦中にかけての
おもにヨーロッパでのクラシック音楽家たちの行動を
戦争への経過と併行して記述した本である。
この後の時代の同様な話が
「冷戦とクラシック」につながっていくのだが
やはり「冷戦」の時期とは比較にならない厳しい時代であったことが
如実に伝わってくる。
今の平和に日本に生きていると想像もつかない厳しさだ。

そもそも、知らないことのほうが多かった。
それも些細な史実ではなく、基本的な重要な史実について、である。
ナチスとソ連の密約くらいは知っていたが
その後、ソ連が、対独戦の大義を悪用して周辺諸国に攻め入ったこと
あるいは、ドイツがマジノ線回避のため、中立国で何の罪もないベネルクスに攻め入ったこと
同じくドイツがノルウェー確保のため、単に動線確保だけのためにデンマークを占領したこと、等々。
こういうことを知らずして、大きなことは語れないだろう。
近現代の世界史に無知なことを、もっと多くの日本人は意識すべきだ。
逆に、こちらの戦争の歴史も、多分欧米には知られていないだろうということも。

そんなことを思わせた読書だった。
八月を前にして格好の読書となった。

483korou:2019/08/03(土) 11:20:46
海野弘「1914年」(平凡社新書)を読了。

この本が書かれた2014年の時点で
案外1914年の状況、100年前の世界の様子が
現在と酷似しているのではないか、という仮説から
100年前の政治、経済、国際情勢、大衆文化、美術、サイエンスなどの各分野で
一体何が起こっていたのかを概説し
現在の状況との関連を読み解く本だった。
著者の博識が随所に展開され、まさに書かれるべくして書かれた本だといえる。
特に国際情勢の様子を手際よくまとめた前半は秀逸だった。

それに比べて、テーマ別の概説となった後半は
新書という制約も加わって
やや物足りない叙述に終始したように思われる。
そもそも、サイエンスとモダン・アートを並べて概説するという構成は
読者にはキツいはずだ。
その両者について、海野氏の知識についていける読者はそうは居ないはず。
ここで一気に読書のスピードが落ちてしまい
一気呵成に面白く読んだという読後感には乏しくなるわけだ。
やはり、これだけの博覧強記な著者に
新書レベルで概説させるというのは
企画としてムリな話なのである。

ということで
久々に海野氏の本を通読できたという愉しみが
最大のポイントとなった読書となった。

484korou:2019/08/03(土) 17:16:27
和田春樹「日本と朝鮮の一〇〇年史」(平凡社新書)を読了。

21世紀になってからずっと重要なニュースであり続けている
日本と朝鮮半島の関係だが
その割には、その関係の本で読むに値する本がなかなか見つからない。
この本にしても、県立図書館で立ち読みして借りることを決めたが
必ずしも面白そうとか、役に立ちそうとかのメドを立ててのことではなかった。

読後の感想を言えば
少なくとも、何の知識も情報もない場合
この本は良い羅針盤になるだろうということである。
新書サイズであり、かつ近現代に朝鮮半島で起こった史実を
丹念に追跡していった本ではないので
これ一冊で最小限のウンチクさえ語ることは難しいが
大きな事件と、その事件に関する研究の推移が分かるので
この本の次には、こういう方向で読み進めればほぼ間違いないだろう
という確信が得られるのは大きい。
やはり、当事者としていろいろな研究の場面に関わってきたのは著者の強みである。

日本の標準的な傾向から言えば
かなり親朝鮮の立場で書かれている。
戦前・終戦直後の日本人のあり方についての見方は
厳し過ぎるくらいだ。
しかし、こういう視点も必要であることは確かだ。
複眼、これこそ日本と朝鮮半島の問題を考える最大、最強の鍵だろうと思う。

485korou:2019/08/07(水) 20:22:33
中川右介「カラヤン帝国興亡史」(幻冬舎新書)を読了。

今までそれほど興味もなかったカラヤンの業績について
せっかく中川さんが熱心に書いていることだしと思い
読んでみた。
すると、カラヤンその人をめぐるいろいろな出来事が面白い上に
レコード会社との専属契約の話などタメになる情報が多く
そうなるとクラシック音楽ファンとしては
ページをめくる手が止まらなくなるわけで
一気に読んでしまった。

EMIがフィルハーモニア管というのは知っていたが(仕掛人レッグも)
デッカがウィーン・フィルで
ドイツ・グラモフォンがベルリン・フィルというのは
今まで全く知らなかった。
カラヤンが引き起こす名声への策略のせいで
時期によってその組み合わせではレコーディングできないという仕掛けになり
なるほどと思わざるを得なかった。

カラヤンの芸術に触れずにカラヤンの生き様のみを書いた本である。
少なくとも、読者はカラヤンの芸術については一通り体験済みという
暗黙の前提がある本ではある。
その前提さえ満たせば、面白く読める本だと思う。

486korou:2019/08/08(木) 10:01:43
山田五郎「知識ゼロからの近代絵画」(幻冬舎)を読了。

美術のウンチクを語りたいという何だかよく分からない欲求にかられて
県立図書館で借りた本。
写真満載で、読むというより眺める本だったが
なんとか全部「眺めて」みた。
読み終えて、というより眺め終えて
思うことは
やはり、絵画の写真に添えられた短い説明書き程度では
なかなか知識が頭に入ってこないとうことである。
全く知らないことについてのみ
少しだけ前進できたような気がするだけで
全体としては
ウンチクを語るにはあまりにも薄すぎる読後感となった。

まあ、これをきっかけとして
他の美術入門書を読み始めるしかない。
それも面白くて、そこそこ記述も深いもので。

487korou:2019/08/08(木) 10:15:43
「私の履歴書 25」を読了。

今回は、岩切章太郎、佐々木更三、進藤武佐ェ門、勅使河原蒼風、東山魁夷、河野一郎という面々。
読んでいて無性に面白いというのが全然なかったのは意外だった。
全体として、人間として武骨すぎて、現代の人間とあまりにも違いすぎて
その違和感のほうが強すぎるというか。

最後の河野一郎の文章は
他が昭和40年の執筆に対して、これのみ昭和32年執筆のものであり
保留になっていたものを
昭和40年死去に伴い、急きょ公開されたものらしい。
前半は、頭が悪いのにそれがどうしたと居直った
というタイプの政治家誕生物語のようで
読んでいてあまり心地よいものではないか
鳩山側近としての動きを記した後半は
生々しい、まさに当事者の手記らしい迫真の描写が続き
一気に読ませるものがあった。
鳩山が出した「4条件」がいつのまにか吉田によって「3条件」になった件は
この記載によって吉田の作為であったことがよく分かるし
松野鶴平の「ズル平」ぶりもうなずけるものがある。
そもそもが、新聞記者として奮闘してやってきたことが
農村の現地に行ってみると
そこには何も反映されていないという実情を知って
政治家へ転身することを決意したというあたりから
この人の真骨頂なのだろう。
佐藤栄作は、はるかにこの人より賢いが
こういう熱情はさらさら無かったと思う。
どっちが首相としてふさわしかったかは
なかなかの難問だとは思うが。

488korou:2019/08/10(土) 17:08:12
高平哲郎「喜劇役者の時代」(ヨシモトブックス)を読了。

同じ著者による「由利徹が行く」の焼直しのような著作らしいが
前著も読んでいないので
アマゾン書評子のように比較もできない(その方は酷評しているが)
初めて読む分には何の支障もなく
面白く読めた。
いかにも昭和戦前からの喜劇人らしく
ハングリーで、人間臭くて、泥臭い人生が描かれている。
戦争中に中国で暗号兵として活躍していた時のエピソードなどは
本当かいなと思うほど痛快無比、波瀾万丈で
その勢いで戦後の演芸界を生き抜いているから
たしかにその気になれば演芸界の中心人物にもなれたかもしれない。
しかし、これほど欲がなく、純粋に喜劇を演じる、脇役もしくは花形で
お客さんを喜ばすことに徹した喜劇人は
他に居なかっただろう。

そんな由利徹の生き方に惚れたのが、あの高倉健だったことが
この本の途中のあたりで描かれている。
これは感動のエピソードがてんこもりだ。
健さんも人間臭い俳優だったのだろう(見かけは謎と神秘ばかりだが)

それに比して、タモリなどの芸には冷淡だ。
辛うじてその一派の高平哲郎には心が通じて
こうして没後20年以上経って、再びその生き様を描いた本が出る。
まだまだ「過去の人」にしてはいけない。この人は。

489korou:2019/08/12(月) 21:50:26
矢野利裕「ジャニーズと日本」(講談社現代新書)を読了。

県立図書館で立ち読みした時点では
いろいろと知らない事実が列記してあるように思われたのだが
実際に読み始めると
著者の独断がひどくて、その論の展開についていけなかった。
ジャニーズの楽曲分析を
ジャニー喜多川の人生、人生観、世界観とクロスさせて
それを既存の音楽ジャンルから正しく組み合わせている本書の構成自体は
新鮮で面白いが
いざ各論で具体的な曲名を示されて論を展開されると
やはり未熟なアイドル楽曲でしかないそれらの曲から
例えばフィラデルフィア・ソウルとか、アシッド・ジャズなどのジャンルを
想起すること自体がお笑い草になってしまうのだ。
そう思っているところに
「ヒップホップ音楽、ラップは誰でもできるのが最大の特徴。黒人の苦悩について
 理解がない人にはできないというのは大きな間違い」とか書かれると
もう白けてしまう。
最後まで読み通すのに根気が要った。
構成の新鮮さだけですべてを我慢するほかなかった。

あまりにジャニーズが好きすぎる人がこういう本を書くとこうなる
という失敗の見本例のような本。

490korou:2019/08/14(水) 17:05:21
牧村憲一・藤井丈司・柴那典「渋谷音楽図鑑」(太田出版)を読了。

いわゆる渋谷系音楽について
今まで全く無知であったのを
1年ほど前に日本のJ-POP史の本を読んで少し理解できたので
今回、もっと本格的に知りたいと思い
県立図書館で借りてみた。
読んでみたら、予想以上に良い本だった。
最終章のあたりでは楽曲分析まであって
今テレビの録画でおもに録っている番組の内容とも重なった。

最近読んだ堤清二の本の内容とも重なり
パルコ文化との関わりもあった。
また、糸井重里など原宿の著名なアパートの話も興味深かった。
そして、本題では、いきなり小室等、六文銭から始まり
早々と大瀧詠一、山下達郎に話がつながり
そこから竹内まりや、大貫妙子を経て、かまやつひろし、細野晴臣などは当然のごとく出現し
最後にフリッパーズ・ギター、小沢・小山田の話で終わる豪華さ。

その豪華さの核心として、渋谷の地形、地名、スポット、その歴史(文化史)の変遷が描かれ
”渋谷系”だけに焦点を当てる短絡さを批判する姿勢も共感が持てた。
源泉として流れる”都市型ポップス”
その未来についても最後に語られているが
星野源の「時代の構造が縦・横ではなく前・後ろ」というニュアンスの言葉も印象深い。

一言でいえば、最近読んだ最良の音楽本だった。

491korou:2019/08/19(月) 11:24:53
中川右介「西洋絵画とクラシック音楽」(青春出版社)を読了。

絵画についてウンチクを語りたい、と以前から書いていたが
その関係で最初に借りた本があまりに薄かったので
今度は中川氏の力に頼ることにして
県立図書館で借りた本。

残念ながら、その目的は十分には達せなかった。
結構、西洋美術史というのは
簡単に俯瞰するには難しいものがあって
その微妙なニュアンスを端的に記述することは
いかに説明上手な中川氏でも難しいと思わせた。
ただし、後半の音楽史については
途中から面白く読めて
このあたりは
自分の持っている両分野への知識量の差が
原因しているように思われた。

全体として
類書にない記述が特徴的で
そのあたりは著者が「まえがき」で書いているとおりである。
自分がこの種の職業で活躍できていたとして
中川氏との共同作業が多かっただろうなという感慨を抱く。

492korou:2019/08/21(水) 18:55:24
「私の履歴書 26」を読了。

佐藤喜一郎,芹沢光治良,船田中,松田恒次という面々で
船田中は既読で記憶が残っていた。

佐藤、船田はともに昔風の威張りんぼで
こんな人たちと交流、あるいは部下として仕えたとしたら
心労は只事ではなかろう。
その点、松田恒次は、田舎の実業家という感じで
キツいリーダーではあるが、読んでいて不快感は少ない。

しかし、なんといっても今回の巻での驚きは
芹沢光冶良氏の文章だ。
明治時代を偲ぶ意味で読み直している今回の「私の履歴書」について
他の方々は、貧しいとはいっても一時的だったり、程度にも限度があったが
芹沢氏の体験した貧しさには強烈なものを感じた。
明治時代にも残っていた極貧の漁村の実情について
具体的かつ衝撃的なものであった。

今回、4月以降4冊通読して既読分がたまったので
一気に廃棄処分したが
芹沢氏のだけは残すことにした。

以降は1冊読み通した直後に廃棄することにする。

493korou:2019/08/29(木) 16:10:00
出野哲也「メジャー・リーグ球団史」(言視舎)を読了。

横書きで626ページに及ぶ大部なMLBの著作であり
出野さん単独でこれを書き上げたという点で
他に並ぶものがない労作と言える。
それだけに読み続けているうちに
細かいところで確認してみたいという欲求を抑えられず
この1か月というもの、ほぼこの本にかかりきりで
やっと本日午後3時過ぎに読み終えることができた。
この本を読み切る労力を例えると
おそらくその労力で新書だと5、6冊は楽に読めただろうが
それでも一度は読んでみる価値は十分にあった。
よく調べ抜いてあって、やはりWikipedisとは違う信頼感があり
知らない事実がてんこもりだった。
あまりに新しく知ることが多かったので
その大半をすでに忘れてしまっているのが本当に残念だが
まあ、こればかりは仕方ない。
もう一度読む気持ちはさすがにない。
なんとなく、この情報はこの本からだったかもしれない、という痕跡さえ
うっすらと記憶できていればそれで十分である。
借りた当初は購入も考えていたが
まあ、これはこれで完読したという記憶だけで満足することとしよう。

494korou:2019/08/31(土) 15:03:04
澁澤秀雄「澁澤榮一 新装版」(時事通信社)を読了。

県立図書館の新刊コーナーで偶然見つけて借りた本。
すでに定評のある伝記として知られるこの本が
新装版として新たに世に出たことは喜ばしいことで
近年テレビドラマなどで知られる機会が多くなったことが
再刊を実現させたのだろうと思われる。

一度読んだような気もしたのだが
どうせ記憶は曖昧だしと思い読み進めた。
前半部分は、つい最近借りた薄い伝記本で読んだばかりで
新鮮味はなかったが
洋行の時期から明治以降のエピソードを綴った後半は
やはり面白くて、一気に読み通すことができた。

(書評は、今回から、ムリに続けずに、簡潔にまとめることにする。
 ということで、これで終わり)

495korou:2019/09/02(月) 21:44:06
田崎健太「電通とFIFA」(光文社新書)を読了。

たまたま書棚で見つけて借りてきた本だが
読み始めると意外なほど面白く、あっという間に読破できた。
電通の歴史も分かるし、FIFAの歴史も概観できるし
ついでに高橋治則の事件も参照できるというスグレモノ。
高度成長時期の日本の経済力を背負った高橋治之と
バブルの時代の象徴となったその弟の治則の物語としても読める。

スポーツビジネスの本としては
かなり昔に読んだ「エージェント」(文春新書)以来のインパクトがあった。
多分こうじゃないかなと思っていたように
やはり歴史は動いていた。
あとは、誰かDAZNのからくりを書いてくれないものか。
他にも、面白そうな本を数冊、この本の記述から発掘できた。
また借りるとするか。

496korou:2019/09/03(火) 17:12:54
難波利三「笑いで天下を取った男 吉本王国のドン」(ちくま文庫)を読了。

吉本興業の創業者吉本せいの弟、林正之助が主人公の小説である。
小説とはいえ、作者から登場する芸人等への直接取材なども行っていて
かなりノンフィクションに近い形になっている。
それでも、同時に借りた「私の履歴書」の中邨秀雄のところも
同時進行で読み進めていたので
中邨氏の記憶違いもあるのかもしれないが
それを割り引いても
やはり小説は小説、都合よく切り取られていると言わざるを得ないだろう。
部分的には、いくら小説でもしてはいけない史実の改ざんまで見られるので
気を付けて読まなければいけない、という点で
厄介な小説でもあった。

林正之助の豪快な生き様、創業者に近い人間だけが持ち得るオーナーシップなどは
こういう小説のほうが分かりやすい。
その点は、読みやすい小説独自の文体もあいまって
一読に値すると思う。

ついでに「私の履歴書 経済人37」(日本経済新聞社)の中邨秀雄の部分について。
この方にしても、現代の感覚で言えばかなり型破りなのだが
部分的には新しいところも見られる。
まあ、芸人のギャラをもろに書いているところは苦笑する他ないが・・・
(以下、芸能・演劇スレへ)

497korou:2019/09/05(木) 15:58:27
本橋信宏「ベストセラー伝説」(新潮新書)を読了。

1960年代から70年代にかけて
著者自身にとっていつまでも記憶に残っているベストセラー、雑誌等について
その黒子たる編集者などに焦点をあてて
ノスタルジーに浸るとともに、出版業界全盛期のエネルギーのようなものを回顧しようという
いわゆる「世代限定本」だった。
著者のノスタルジーが文章の端々に過剰なまでに溢れ出て
どちらかというと、それはこの本の存在価値を軽くしてしまうほうに作用しているのは残念だが
限定された世代にドンピシャの自分にとっては
まずまず面白く読めた。

考えてみれば
1960年代、70年代を、2010年代に関係者をたぐって取り上げようとする試み自体
かなり無謀なことなのだろう。
その年代に決断を下すべき管理者であった人々は
半世紀過ぎてみればすでにその大半は亡くなっている。
その時代に実戦部隊だった青年たちが
何人か生存を確認できるだけという状況だ。
やはり、管理者への直接取材は、引退直後に行うべきで
実戦部隊にしても、せいぜい一世代後速やかに行うべきだろう。
この本は、その意味で、実戦部隊への直接取材に辛うじて間に合った本である。
この作業の次には、やはり片山右介氏のような仕事が必須だろう。
その過程を経て、やっと現代史が歴史の一コマとして定着することになるはずだ。

498korou:2019/09/09(月) 15:48:02
藤田潔「テレビ快男児」(プレジデント社)を読了。

「電通とFIFA」に出てきた藤田敦のエピソードが
書いてある本だったので借りてきた本。
読んでみると、まさに、いい時代に活躍できた”快男児”だった。
様々な芸能人、文化人をマネージメントしながら
アイデアマンでもあるので、同時に「鉄腕アトム」をアメリカに売り込み
その過程で深夜のTVショーのアイデアにインスパイアされ
「11PM」を考案。
弟と組んで、マスターズの生中継を手掛け
その勢いで音楽、美術の方面でもレベルの高いTV番組を実現。
制約の多い21世紀になっても
そうした良質の文化番組をオファーするTV界でも異色の存在だ。

ある意味、こうした人材を文化芸術の分野でも欲していたかもしれない。
そこにうまくハマり、なおかつ全力で取り組んだ男というところだろう。

いろいろな番組のいろいろな仕掛けが分かり
なかなか面白い本だった。
業界もで有名な人のようなので
これからもこの本をもとにいろいろと語られるだろう。

499korou:2019/09/10(火) 10:14:42
中川博之「歌との出逢い 愛とのめぐり逢い」(備北民報社)を読了。

読む前は、ページ数も200ページ程度と短そうで
出版も地元の新聞社ということで
あまり大した本ではないだろうとたかをくくっていたが
読み始めるにつれ、なかなかのクオリティに驚かされた。
そもそも2段組みにびっしりの200余ページなので
分量は300ページ以上の充実した自伝となっており
さらに、著者の記憶力が素晴らしく
それぞれの年代での記述が具体的でわかりやすく
最初から最後までしっかりと楽しめる著作となっている。

概ね、中川さんの人生といえば
さほどの激しい挫折もなく(最初の朝鮮半島からの脱出は凄惨なものだったが・・・)
大体上手く展開できているように思えた。
その上、生来ともいえる艶福家でもあり
家庭を壊してでも愛人と生きようとするその生き様は
考えてみれば、かなり酷いものといえなくもない。
しかし、読んでいる間、そんな酷さなど微塵も感じさせないところなど
不思議な魅力をもった方であると言わざるを得ないのである。
自分としては羨ましい限りである。

あと、県北で少年時代を過ごしただけの方だけに
岡山への愛が中途半端であることも否めない事実である。
「西川」の読み方を誤ったまま新曲をリリースして失敗した話とか
カラオケの発祥地は名古屋と誤認したりとか
いろいろと思うところはあったが
それでも、新見への愛は感じられたので
それはそれなりの郷土愛なのだろうと思った次第。

500korou:2019/09/11(水) 10:38:52
「私の履歴書 31」を読了。

岩田専太郎、中村白葉、法華津孝太、松前重義という面々。
このところ経済人の伝記に飽きていることは別スレでも書いたばかりだが
このメンバーには純粋な経済人は居なくて
それぞれ個性ある味のある人生を送られた方々ばかりだった。
ゆえに、読んでいて面白く、こうした年長者が活躍していた時代への
ノスタルジーも相まって、興味はより増していった。

岩田さんは、あまりに奔放で芸術家の生きざま過ぎて
読んでも何の参考にもならないとはいえ
それはそれなりに面白く、山口昌男の本との関連もあり参考になった。
中村さんは、当時の年長者としての感情、心の揺れが
ストレートに語られていて
時代を超えて胸を打つものがあった。
法華津さんの人生も、
いろいろな人たちとのつながりが見えて興味深かった。
松前さんのは既読ではあったが、
いろいろと忘れていて今回も新鮮に読めた。
詳しくは自伝を購入済みなので、もう一度読みたい気分でいる。

501korou:2019/09/12(木) 17:34:58
野口悠紀雄「戦後経済史」(日経ビジネス人文庫)を読了。

いつか読みたいと思っていた野口氏による経済史の本。
読み終わり、概ね期待通りの内容で満足はできた。
思ったよりも、具体的な「自分史」の部分が多く
人によってはそこの部分に違和感を覚える人も居るだろうが
アマゾン書評では、まあそのへんは深く追及されていないようだ。
(個人的には大変面白く読めた)

戦後日本の経済成長に「1940年体制」が寄与しているという論には賛同できる。
それは数多くの要因のなかでもかなり大きな部分を占めることは間違いない。
具体的な政策を立案する官僚が戦後も居残ったのだから
どうしてもそうなっていくわけで
この場合は高度に完成した官僚制をすでに持っていた戦前の日本からの
連続性が良い方に作用したということだろう。

ただし、世界全体で自由主義経済が志向され
それに見合ったインフラ、国際政治情勢が加味され
いろいろな意味で「1940年体制」と逆の方向が主流となったとき
日本の劣勢は決定的となっていく。
かといって、どう対処していけばいいのか、それは誰にも分からないほど
今の日本はいろいろな意味でねじ曲がってしまっている。
野口氏にしても、具体的なイメージをここでは提示し得ていない。
とはいえ、これは「経済史」の本なので
「現状への提言」をここに求めても仕方ないのではあるが・・・

502korou:2019/09/22(日) 20:49:08
石井代蔵「大相撲親方列伝」(文春文庫)を読了。

旧職場から持ち帰った(処分済み)本である。
ちょうど大相撲の興行中の時期だったので
興味深く読めた(逆鉾の急死直後で、この本には鶴ヶ嶺の話も出てくる)

親方の話だけかと思いきや、その親方の現役時代の話もてんこもりで
すべての親方を網羅できてはいないものの(当たり前だが)
有力な部屋系統については半分以上語られており
相撲雑学としてこの上ない本だった。
昭和の厳しい時代の力士の生き様が中心なので
こういう世界を平成、令和に継続させていくことは
なかなか大変だろうことは容易に推察される。
ハングリーなモンゴル勢が中心になっていくことは
この本の書かれた平成初期に予言することは可能だっただろう。

直情径行な人が多いだろうことも推察できるが
やはり相撲界の発展のためには
大所高所から時代を読める人が必要で
その意味で、武蔵川ー春日野という流れは貴重だった。
その後、そうした逸材は魁傑、貴乃花くらいしか居ないのが残念で
その2人も、もはや相撲界に居ないというのが
現代の相撲界の悲劇だろう。

まあ、そういうことは抜きにして読む本で
ひたすら面白い本ではあった。

503korou:2019/09/23(月) 21:49:36
「私の履歴書 32」を読了。

植村甲午郎、岡崎嘉平太、谷川徹三、平塚らいてうという面々。
全体に読みにくい感じだった。
いわゆる履歴書という形式にそぐわない文章で
普通のエッセーであればどういうことないのだが
履歴書ということで読み始めるので
最初のうちは違和感が大きいという感じ。

そのなかで、植村氏の文章はオーソドックスで
かつ上流階級っぽい文章で、いい意味で個性が感じられた。
岡崎氏の文章は、ビジネスマン向けのエッセーとしては一流だが
これだけでは岡崎氏の仕事は半分も伝わらないので
自叙伝としては不適当。
谷川氏に至っては、一昔前の学者然とした高尚な文章で
読者が誰であるのかを全く意識していない感があった。
部分的には面白いのだが、難解な箇所が多すぎて(哲学が専門でその関係の文章が多い)
読んでいて疲れてしまう。
平塚氏の文章は、さすがに誤魔化しとか偽善とかの匂いがプンプンと漂って
旧時代の先駆者はさもありなん、という印象が強い。
本人の書いた文章ということだけが取り柄で
実際には、第三者が書いた客観的な事実を補って読む必要を感じた。

というわけで、今回は不作の一冊。

504korou:2019/09/26(木) 22:07:13
西崎伸彦「巨人軍「闇」の深層」 (文春新書)を読了。

2016年発行の新書で、当時から
いろいろなスクープで話題となっていた「文春砲」のその当事者たる敏腕記者が、
巨人軍のいろいろなスキャンダルの取材を通して知ったことを、
「闇」としてまとめた力作である。
やや読みにくい感じがしたのは
その多くが、当時、現在進行形あるいは収拾中の事件であり
まとめにくかったのではないかと推察できる。
とはいえ、これだけの調査をしてちゃんと報道した点において
なかなかの記者魂を感じるのである。

人気のあるスポーツ全般に言えることとして
体質的に反社会的勢力が食い込んでくることはやむを得ない面がある
(人気興行の世界でもそうだが)
ゆえに、重箱の隅をつつくような事実暴露は本来好ましくないのだが
マスコミにもマスコミの事情があるのだろう。
なかなか、この種の割り切れない思いばかりになる事件は
消えそうにもない。
どこかで適当に済ませておいてほしいのだが・・・
そんなことを思った読書だった。

505korou:2019/09/27(金) 17:32:51
鈴木輝一郎「何がなんでもミステリー作家になりたい!」(河出書房新社)を読了。

なかなかの良書だった。
市立図書館で偶然見つけ、ふと立ち読みしてみて
良さそうと思ったその印象のまま読み終えることができた。
途中で、やたらミステリー小説にこだわるなあ、普通の創作じゃダメなのかと思ったのだが
良く見たら書名がそうだった(当たり前の話だ!)

ずっと才能のことを考えていて
やや気弱になっていたのも事実だが
結構、手順を踏んでいけば、夢もあながち夢でないということも
教えてもらった。
何かのきっかけになれば面白い。

506korou:2019/09/28(土) 11:14:31
古橋信孝「ミステリーで読む戦後史」(平凡社新書)を断念。

ミステリーを時代との関連で検証するという前書き部分からして
なかなかのクオリティの本なのだが
残念ながら、紹介する本の梗概を記す部分が多すぎる、
結局、著者の意図に反して
単なるストーリー紹介本になっているので
読むのを途中で止めた。
もう少し紹介する本の点数を絞って
多方面からの考察を加えたほうが
意義ある著作になったと思われる。
やはりミステリーは
その時代の社会情勢だけでは分析しきれないジャンルではないかと
思われるので。

507korou:2019/10/01(火) 11:22:22
山室寛之「プロ野球復興史」(中公新書)を読了。

昭和20年から昭和33年まで
敗戦からの復興の時代から長嶋登場までのNPBの歴史を
プロ野球中心にその概観をまとめた本。
書名に”プロ野球”とあるが、内容はアマ野球も含んでおり
最初のうちは少々アマ野球の記述が多すぎるのではないかと
その分プロ野球の記述が削られているような不満もあったが
読み終わってみると、最終的には気にならない構成にも思えてきた。

著者としては、新規に発掘した資料(鈴木惣太郎とか内村祐之関係のもの)に関する部分が
この本のウリだとあとがきに書いているように見えるが
実際に読んだ感想としては
むしろ、2リーグ分裂の危機以降の詳細な経緯を記した後半部分のほうが
資料的価値があるように思われた。
もちろん大部な資料では既に書き尽くされた事柄ばかりなので
そのあたりは著者としては引用しただけということになるのだろうが
少なくとも新書版という読みやすくかつ手にとりやすい出版の形で
これほど具体的に2リーグ分裂直後の各球団の困窮の様子が記された本は
他にはないように思われるのである。
2リーグ分裂の経緯などは、部分的には新書版でも読めるのだが
その後の各球団の様子については、本書で初めて読んだような気がする。
知らない事実がたくさん載っていて、驚きと知的好奇心の満足の連独だった。

著者の意図しないところで、この本の存在価値は多いにある。
NPBの歴史に興味のある人には必須の本ではないかと思われる。

508korou:2019/10/15(火) 20:34:44
MLBなどスポーツ観戦の期間に入って
集中して読書することは不可能になっている。
鮎川哲也「黒い白鳥」、小林泰三「アリス殺し」なども借りていたのだが
結局、有栖川有栖「マジックミラー」だけ読了。

有栖川有栖なので安心して読み始め
ややスピードが出なかったものの(予想以上にスポーツ観戦が忙しい!)
途中からは一気に読めた。
もともとミステリー小説の書き方のような本を読んで
面白そうだと思い借りた本なので
今となっては
もう少し違う基準で本を選んだほうが良かったのだが
これはこれで有栖川氏の著作として美点の多い作品だったのでOKである。

ミステリー小説の感想を緻密に書くのは難しい。
ストーリーを簡潔に表現できるほどの記憶力はもはや無いし
ミステリーとしてジャンル内で完結している場合
読後感以外に何も残らない。
その何物にも代えがたい読後感こそ
ミステリーを読む醍醐味なのだが。

ということで、今回はこれ以上は書けない。
「第7章 アリバイ講義」が面白く、実際、アリバイ崩しがメインのミステリーになっている・・ということで終わり。

509korou:2019/10/16(水) 21:19:17
井上寿一「機密費外交」(講談社現代新書)を読了。

なかなかマニアックな戦前外交史の本だった。
とはいえ、全体としての印象はどうかと言えば
機密費についての分析は表面的で
史料の残った数年間という期間限定でありながら
その期間内ですら統一した記述が見られないわけで
なかなか読み易そうで実は読み進めにくい本だったことも事実である。

とはいえ(とはいえ、を連発だ)初めて知る事実も多い。
国際連盟脱退の真相は、国連による経済制裁を避けるためということで
軍による熱河作戦を止められない外務省の苦肉の策であったことがよく判る。
また、蒋介石と汪兆銘の関係も
(これは松本重治の本を参照して分かったことだが)今回初めて理解でき
南京政府の親日派の苦悩なども
今や忘れ去られようとしている歴史の一コマだろう。
こうした重要な細部を知っておくことが
あらためて大掴みに歴史を総復習する際に
以前とは違ったニュアンスで史実を理解できることになるわけだ。

その意味では、なかなか有意義な読書だった。
著者には、この本の姉妹編があるようなので
今度はそれを読んでみることにする。

510korou:2019/10/16(水) 21:27:54
筒井清忠「戦前日本のポピュリズム」(中公新書)を読了。

現代日本のポピュリズム、あるいは今海外をも席巻しているポピュリズムについて
過去の歴史から同様な流れを学べるかもしれないと思い
期待半分で読み始めた。
だが、通読した印象として
このベテラン歴史家(70才)のこれまでの研究成果を
そのままポピュリズムという文脈で再整理した感があり
それほどポピュリズムについて新しい知見が得られたわけではない。

ただし、同時並行で読み進めた「機密費外交」と同様
今まで知っていた史実について
より詳しく、より細部にわたり再復習できたのは収穫だった。
天皇中心主義が政党・財閥の腐敗構造を指摘するマスコミ、世相から
必然的に生まれてきたという指摘は頷けるし
知らず知らずのうちに一定の方向に世論を誘導してしまうマスコミの恐ろしさも
再認識できた。
5・15事件のときの新聞の論調には驚かされるし
近衛首相の人気ぶりも、当時の新聞記事の文章などで
具体的に知ることができて有意義だった。

というわけで
「機密費外交」同様、近代史の理解を深めるには最適の読書ではあった。

511korou:2019/10/17(木) 13:41:55
「私の履歴書 34」を読了。
(貝塚茂樹、杉村春子、竹鶴政孝、堀江薫雄の4氏)

多彩な面々ではあるが、まず杉村春子から。
これほど、本人の告白と客観的な史実とか
食い違っているのも珍しい。
そもそも文学座の分裂騒ぎは、この方の中国共産党びいきから起きたことで
そのことが一行も書かれていないので
読みようによっては、脱退者のわがままだけがピックアップされ
座を取り仕切る者としては被害者の立場だった、ということになりかねない。
しかし、大女優でありながら
これほどワンマンでかつ思想的に偏狭だった人も居ないのではないか。
これこそ自伝の弊害の一つかもしれない。

貝塚茂樹氏の自伝も
何か時代離れしていて、今の時代に読むのがそぐわない感を受けた。
その点、堀江氏の奮闘ぶりは
(全然状況が違ってきている現在の国際金融界ではあるものの)それなりに読み応えがある。
数々の大きな歴史的事業に関わっていて
歴史の裏側をのぞき見する愉しみのようなものか。
竹鶴氏の自伝は、職人の自伝なので、いつの時代であれ面白く読める。
ただ、この方の記述も、いくつか事実を隠して書かれているので
他の資料で補足しておくべきものである。

512korou:2019/10/20(日) 15:19:52
中島大輔「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)を読了。

県立図書館の書棚でずっと見かけていて
いつか借りようと思っていたが
気がつけば10月も下旬になり、もう借りないと、
実際に野球がTV観戦しながら実感をもって読むという時期を逸すると思い
すぐに借りて読むことにした。
予想通りとというか、予想以上に面白い本だった。
きちんと現地取材をして、それも十二分に好奇心をもって取材対象にアクセスするという
基本中の基本を踏まえた取材の結果だけに
その内容は信じるに値すると思われた。

著者があとがきにも書かれているように
中南米野球は意外なほどシステマティックに発展している。
キューバのように、そのシステムが崩れかけていたり
ベネズエラのように、政治・経済の混乱がシステムの存続を脅かせていたり
それぞれに問題も抱えてはいるものの
ひるがえって日本の現状はどうか?
野球人気は安定していて、野球人口も安心はできないものの即致命的とは言えず
そうした状況に前向きな改善など期待すらできないのではないか。
もっとシステムの構築が必要だろう。
アマ・プロ・各年代別の野球関係者が団結できるような組織ができて初めて
今、日本の野球界が何を為すべきなのかがやっと見えてくるような気がする。
この本は、陰画として、日本野球界への提言を含んでいる。
もちろん、中南米の様子自体の面白さも含めて
中南米野球の魅力も十二分に伝えていることも間違いない。

513korou:2019/10/26(土) 14:10:06
読了を断念した図書 ⇒ 井上寿一「戦争調査会」(講談社現代新書)

全部で260ページ程度の新書だが、162ページまで読んで断念した。
前半部分の調査会の発足、頓挫までの経緯部分については読破できたが
後半部分の調査会の示したデータによる戦争原因の分析の部分については
あまりに叙述が主観的で、かつ省略が著しく文意が判読できないので
読むのを止めることにした。
すでにある程度知っている史実について
それを著者の主観で並べ直して、意味不明なほど重要な部分が省かれた文章で
著者なりの論理を構築されても困るのである。

前半部分については
幣原喜重郎の意見、見識については、知るところが多かった。
しかし、他の部分では疑問も多い。
渡辺銕蔵のような特殊な思想の人間を
ことさらにピックアップして取り上げる必要がどこにあったのか不明だし
そもそも、調査会の委員に軍人が必要な理由を
会発足の経緯を記した部分で詳しく書くべきであった。
結局、それが頓挫の最大理由となるのであるから。

というわけで
著者の前作でも薄々感じたことだが
叙述能力不足が著しく読み通すに堪えない著作に思えた。
筒井清忠氏の著作でも同じような傾向を感じており
昭和史、戦前史の著作は
より慎重に選書しないと時間のムダになる可能性が高いかも。

514korou:2019/10/29(火) 15:18:16
中川右介「手塚治虫とトキワ荘」(集英社)を読了。

中川氏の最新作で、一般的にはベストセラーではないので
この時期に県立図書館で借りることができた。
いつもの中川さんの著作のレベルで
見事なまでに完成された「二次史料」となっている。
体裁としては、「江戸川乱歩と横溝正史」にそっくりで
二段組みで400ページ近い構成になっている。

ただし、正直に言って、今回は読み辛かった。
内容がつまらないのではなく
完全に暦年別に記述してあるため
前年の記述の続きが前提になり
記憶力のない自分としては
毎回毎回、前の方のページに戻って
記述を確認する必要があったからだ。
特に、脇役的存在の人物については
しまいにはWikiの力も借りて
何とか文脈を脳内でつなぎ合わせる感じにもなった。

あとは全く不満はない。
戦後から昭和30年代前半までの日本の少年漫画史について
基本的な知識は得られたように思うし
それぞれの漫画家への思いも強くなった。
この時代に描かれたマンガを読む機会があれば
ぜひ読んでみたい。

515korou:2019/11/04(月) 21:05:43
原彬久「戦後政治の証言者たち」(岩波書店)を読了。

副題が「オーラルヒストリーを往く」で
ひょっとして面白い発言がてんこもり?と期待して読み始めたが
結局、著者が多くの政治家にインタビューした時の印象深い出来事の羅列から
戦後政治史を安保改定時を中心に物語る形の本であることが判明。
ある意味”メタ「私の履歴書」”のようでもあり
多くの人名をWikiで再確認するという流れまで
「履歴書」の読書と同じになった。

岸がアイク訪日を断念したのは天皇への配慮であり
同じ思いだった宮中からもそういう懸念が寄せられていたというのは
今回強烈に印象に残った。
岸人脈についても深く知ることができた(川島、椎名、赤城という戦前からのつながりと
戦後の福田赳夫への寵愛から生まれる政権内の不協和音!)
三木武夫などの自民非主流派の動きと、野党の動静が
米大使(マッカーサー)からどう見られていたかということ。
妥協ない理念の対立は議会政治には不向きであり
体制内の見解の相違が実は最も厄介だという史実が明らかになった。

著者の得意分野と思われる社会党の分析もタメになった。
左派、右派の動きがよく分かった。
著者には社会党に関する著書があるようなので
また読んでみたい。

全体としてはマニアックな政治本という印象。

516korou:2019/11/08(金) 10:53:03
加藤陽子「戦争まで」(朝日出版社)を読了。

本当は同じ著者の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」を借りたつもりだったのだが
読み始めて、違う本だったことに気づいた(何とも間抜けな話!)。
まあ、それでも読むに値する本だろうなと予測して読み続けると
予想通り優れた本だったので良かった。
何よりも「思い込みを排して一次史料にあたってみる」という歴史学習の初歩が
何度も繰り返し示されているのが優れた点である。
その点で、アマゾンなどでこの本を思想的に危険な本だとしてけなしている素人評者たちは
その「危険」の論拠を全く示せていないので、批評として形を成していない。
たしかに、意図的に選ばれた史料というか根拠も見受けられるのだが
それは厳然たる思想を持ち合わせた著者として当然の主張であり
それを「危険」としか評せないのは
単に考察の狭さを露呈しているだけで、この手の文章に付き合うのは時間の無駄である。
何か有意義な批評はないかと低評価ばかり見てみたが
何一つとして意味のある批評は見当たらかった。

結論として、これは優れた本であり、また次の著書を読みたくなった。
やはり、もしこの本にケチをつけるとすれば、詳し過ぎて粗雑な頭では咀嚼し切れないという点にあり
その意味で、同種の本をもう1冊読んで、しっかりと頭に入れたいと思うのである。

517korou:2019/11/18(月) 14:28:11
松沢弘陽ほか編「定本 丸山真男回顧談(上)」(岩波書店)を読了。

上下本だが、内容が濃いので
上巻だけ読了の時点で感想を書く。
とはいえ、あまりに多くの内容があり、とてもまとめきれないので
簡潔に要点だけを書く。

マルクスはヘーゲルの歴史観を受け継いでいるので
「歴史主義」としてくくれる。
それに対してギリシア以来の西欧に根強い思想として
「自然権・自然法思想」というものがあって
その見地からは「歴史主義」は「相対主義」ということになる。
逆に、マルクスの立場からは
歴史上の史実はすべて必然として起こるものとして
それを肯定的に解釈し、いかに正しく認識するべきかという
実証主義の問題となる。
同じ史実を見ても、自然法の思想からは正邪の判断が為されるのと好対照である。
マルクス主義者は、ファシズムについてその必然性を認める余地があった。
よって、戦前の日本の知識人は「転向」して、全体主義に寄与することになる。
自然法を重要視する立場としては
ファシズムについてそこまで肯定的にはなれなくても
当然ということにもなる。

書いてみて、うまくまとまらないが
まあもう少し時間を経て、都合のいいように理解することにしよう。
こういうのは重要な視点だから、とりあえず自らの意見を持っておくこうにする。
次は下巻を借りて読むことにしよう。

518korou:2019/11/18(月) 14:35:03
大下英治「昭和 闇の支配者列伝 上」(朝日文庫)を読了。

著者の得意分野の本のようだ。
特に、この上巻の後半部分は
直接、関係者(稲川聖城など)に取材しているので
なかなか生々しい。

前半の児玉誉士夫、小佐野賢治については
部分的には知っていたが
その全体像を知るに恰好の記載だった。
後半の稲川会関係の記述については
実に多くの人物が登場し
その多くがいわゆるアウトローというのも
独特の面白さだった。

全体に講談調の記述なので
とりあえず概要を知る程度の理解がベターなのだが
それにしても
知らないことばかりの現代史ということで
自分の知的嗜好にピタっとハマった。
まあ、あまり読み過ぎると
精神的にゲロを吐きそうになるゲテモノ人物伝であることも
間違いないのだが。。。

これも下巻を借りて読み続けることにしよう。

519korou:2019/11/29(金) 22:15:55
原彬久「戦後史のなかの日本社会党」(中公新書)を読了。

日本社会党がどのような変遷を経て、戦後間もなく分裂と統合を繰り返し
その後、あの魅力的な江田構想がどうやってつぶされ、なぜ何の魅力もない成田・石橋路線が継続し
そして最終的には、21世紀になる直前に壊滅したのかという一連の史実を知りたいために
1冊でそれらを網羅している貴重な新書として期待して読み始めた。

叙述は下手くそで、本来は簡単なことを
学者独特の韜晦趣味で無意味に読みにくくしている本だった。
よっぽど読むのを止めようかと思ったが
1冊ですべて網羅しているというその1点のみの魅力だけで
何とか読み終えることができた。
確かに、こうして網羅されないと、なかなか指摘されない細かい史実などは
この本を読むことで何とか整理できた。
しかし、叙述の下手さに加えて
なぜ社会党が衰退していったかという本来のテーマについての考察が
あまりに雑で、自らの視点にこだわりすぎていて
本当の戦後政治史の記述として意味を成していないのである。
総評のバックアップこそ社会党の原動力ではなかったのか?
特に80年代以降の労働者運動の低迷が
社会党を衰退させていったのではないか。
そして、土井たか子というシンボルが
一時的にそれを救済したのではなかったか。
そして、その土井さえも北朝鮮との関わりで批判されたのではないのか。
そういった一連の史実が全く語られていない政治史の本というのも信じ難い。
小沢一郎に翻弄される社会党の姿というのは、この本のおかげでよく分かったが
それだけの叙述力があるなら、もっと書けたはずなのでとても残念

520korou:2019/11/30(土) 14:01:18
大瀧詠一「大瀧詠一 Writing&Talking」(白夜書房)を読了。

全908pぎっしりと活字が詰まった大部な本で
図書館で借りてはきたものの全部読み通せるかなと
さすがに不安はよぎったが
なんとか10日ほどで読了できホッとしている。
とりあえず大瀧さんについての最低知識は
仕入れることができたと思う。

ナンセンスソングでは、やっぱり
鈴木やすし「社長さんはいい気持ち」の存在を知ったのは大きい(笑)
こんな歌、今じゃ考えられないし。
また、美空ひばり「ロカビリー剣法」なんて名曲も
この本を読まなければ到底知り得なかったところ。
また、はっぴぃえんどのアルバムについても
1曲ごと解説付きで聴くことができて(youtube時代の恩恵)
かなり理解が深まった。
その後のCM中心の時代、山下&銀次発掘時代、2年間の沈黙、
「ロング・バケイション」のヒット、佐野&杉の発掘時代と続く
大瀧詠一史。
最後のトーク編で鈴木雅之との出会いも分かり
桑原茂一氏の名前まで登場。
田代まさしまでWikiで調べたりしてww
「夢で逢えたら」と「幸せな結末」が最後の大活躍ということになるかな。

まあ、とにかくお腹いっぱい大瀧づくしでした。
これからゆっくりと消化することにします。
それにしても、こんな分厚い本、しばらく読みたくないよ(苦笑)

521korou:2019/12/07(土) 13:56:06
大下英治「昭和 闇の支配者列伝 下」(朝日文庫)を読了。

少し前に上巻を読んで、今回この下巻を読んだわけだが
今回の下巻のほうがはるかに読みどころの多い本だった。
上巻に出てくる人たちは、大物すぎる上に
もう亡くなってから相当の日数が経って直接取材はムリな存在だったので
どうしても伝聞中心の二次著作になってしまうわけだが
下巻のほうは、その点、著者自身が直接取材した相手も多く含まれており
その分、説得力の多い人物描写になっているのである。

それでも、横井英樹あたりは結構著名人だが
総会屋の小川薫、小池隆一、正木龍樹、「国会タイムズ」の五味武、
後藤田正晴、石原慎太郎らと親交があり、町井久之ゆかりのビルの処分に奮闘、
さらにマイケル・ジャクソンとも深い関係にあった朝堂院大覚などになると
そもそも詳しい小伝すら存在しないような人たちなので
たとえばWikiで以上の人たちを検索すると
引用文献は大下氏の著作になるという具合である。
たしかに、総会屋とか業界のフィクサーといった人たちの生態を
これほど生々しく描写した文章にはなかなかお目にかかれない。
朝堂院大覚の最後のあたりは怪しげな文章が目立つが
それでも他では読めない経緯が満載で
かなり面白い読書になった。
上下巻通して読むべき力作だろう。

522korou:2019/12/07(土) 14:03:03
中川右介「巨匠たちのラストコンサート」(文春新書)を読了。

信頼できる中川さんの本で、比較的軽く読めるものを、と思い
借りてきた本だが
読み進めるにつれて
今までほとんど知るところのなかったグレン・グールド、マリア・カラスなどについて
コンパクトにその生涯を知ることができたので
予想外に貴重な読書となった。
特にリパッティの高潔な人生には感銘すら覚えた。

ロストロポーヴィッチの人生も
ソ連という国家に翻弄された気の毒なものだったことを知った。
「あとがき」ですら参考になる。
本当に中川さんのような人が居て助かる、というのが実感。
ユンク君のサイトと中川さんの著作があれば
クラシック音楽を楽しむのに何の支障もないだろう。
吉田秀和、宇野功芳といった人たちについていったかつての日々が
嘘のようだ。
今の方がずっといい。

523korou:2019/12/10(火) 11:39:45
「私の履歴書 35」を読了。
(稲垣平太郎、桑原幹根、菅原通済、永野重雄の4氏)

錚々たるメンバーで
かつ稲垣、菅原両氏については既読であったが
念のため読み直してみると
やはり再読に値するというか
記憶に残っていない部分が相当あって
一度か二度読んだ程度なら
再読するに限ると思い知った次第。

皆、昭和40年代に生存していた”怪物”たちであり
その後の昭和、平成、令和には存在し得ない大物たちである。
特に、今は永野さんの「履歴書」を読了直後ということもあり
永野重雄という人、その一人だけで財界を代表できた時代というものが
懐かしくも羨ましくも感じられてならない。

その反面、前回の杉村春子の例のように
本人の独白だけでは片手落ちになることもあるので
Wikiによる「復習」も欠かせない。
まあ、この面々だと「復習」すればするほど
器の大きさを再認識するしかないことがほとんどであることも
事実なのだが。

「履歴書」を読むペースが若干落ちてきたので
県立図書館から借りた本とのバランスを計算して
読み進めることにする。

524korou:2019/12/10(火) 11:40:43
あっ、巻号が違う(「第36巻」だった!)

525korou:2019/12/15(日) 10:39:31
フレッド・シュルアーズ「イノセント・マン ビリー・ジョエル100時間インタヴューズ」(プレジデント社)を読了。

614ページに及ぶ大部な本だが
活字の段組みは1段18行でシンプルなので
本来なら、サクサク読み進められる(なんといってもビリー・ジョエルだから)はずが
全く整理されていない記述と、なぜか読みにくい翻訳の日本語のせいで
読み通すのに意外なほどエネルギーを要した。
とりあえず、読了したことで
今までは漠然としか知らなかったビリーの生きざまが
ほぼ見通せるようになったのは間違いないが
それにしても読みにくくて困ったという印象が強い。

ユダヤ系でドイツから逃れてきた家族というのは全く知らなかったし
これほど何度も結婚、離婚を繰り返していたというのも意外だった。
もっと普通に実直な人だと勝手に思い込んでいたということもあるが。
また、マネージャーとのお金をめぐる訴訟が
これほど泥沼化していたというのも初耳で
それがビリーの純真な性格からくるものだというのも
興味深かった。
1990年代途中から創作を引退し、以後はライブ活動だけというのも
公然の事実なのだろうけど、自分としては本書により初めて知った。
youtubeでビリーを聴く場合、こういうのは一番重要な事実かもしれないし。

ともあれ、疲れる読書だった。
ただ、知りたいことは、まあまあ知ることはできたかなという感じだ。

526korou:2019/12/25(水) 21:37:33
西本恵「日本野球をつくった男 石本秀一伝」(講談社)を読了。

565ページ以上ある大部な本だが
内容は、あまり文章が流暢でない人が
ひたすら石本秀一という人を讃えたくて書きまくったものなので
活字の大きさ、段組みもないということで
読み易い本ではあった。
とはいえ、講談社のような一流の出版社が出したとは思えないような粗雑な編集で、
文章の無駄な繰り返しとか
時空列を無視した混乱するだけでの叙述が異様なまでに多く
読み易い外見とはうらはらに、読んでいて結構苦痛も覚えた。
さらに、被伝者への敬意をあらゆることから優先させてしまう軽率な叙述で一貫していたので
むしろ、石本秀一への本当の評価はどうだったのか別の媒体で再確認する手間もかかり
なかなか面倒くさい読書になった。
結局、広島商業時代の功績は、当時としては「神」で今現在だとアウト(体罰以上に危険)、
阪神時代は、結果を残したので◎(ただし、選手の心は掴めていなかった)、
その後の金鯱・大洋・西鉄時代は可もナシ不可もナシ、
広島カープ創建時代は完全に◎、
中日のコーチ時代は△(結果は残したが権藤をつぶした罪は大きい、その他の投手もダメにした例が多い。柿本だけ○)、
広島のコーチ時代も△(結果はまあまあ。監督をダメにした罪は大きいし、あまり選手も育たなかった)
ということになるだろう。
以上を全部◎で評価した書いたのがこの本ということになる。

いろいろと調べて新しいことも発掘しているが、それを評価する時点で全部ダメになっている惜しい本。
日本にも本当の野球ジャーナリズムが出てきてほしいものだ、
取材される側の問題もあるので、日本社会全体の課題でもあるけれど。

527korou:2020/01/03(金) 13:58:32
中川右介「国家と音楽家」(七つ森書館)を読了。

旧年中にほとんど読み終えていたのだが
年末年始に読書の時間がなかなか取れず
やっと今日になって読了することができた。

全部で8章あって、それぞれに
国家権力に対峙した音楽家の姿が描写されている。
重いテーマだけに、しっかり書き切った場合
この程度のスペースでは済まないのだが
そこのところは、さすがにうまくまとめられていた。
しかし、本来は
こういう分量で章立てすること自体に無理があるわけで
「国家と音楽家」というテーマについて
深まった何かを提示しているとはいえないのも事実である。

この本の価値は
普段、一般的なクラシック音楽の本で
取り上げられることの少ないミュンシュ、クリュイタンス、コルトー、パデレフスキーなどが
まとまった形で語られているところにあるだろう。
また、トスカニーニ関連の記述の詳しさも
案外珍しいのではないかと思われる。
まさに中川本の面目躍如といったところだ。

528korou:2020/01/07(火) 11:22:22
「世界から見た20世紀の日本」(山川出版社)を読了。

ほとんど写真だけのビジュアル本の体裁だが
読み込んでみると、途中に挿入されている文章が
意外とボリュームがあって、かつ読みごたえもあったので
読後感としては、予想以上に面白かったという印象だ。

写真そのものには
それほど驚くほどのものはなく既視感が強い。
やはり説明の文章が面白い。
冒頭の写真のミニ歴史とか、途中の戦前の銀座の様子とか
なかなか、ありそうで見つからない感じの文章だった。
唯一、保坂正康氏の書いた戦前の日本への国際評価の文章だけは
違和感が残った。
もう少し丁寧に分析できるはずなのだが。

買ってまで読むほどの本ではないが
図書館で借りて読むにはちょうどいい感じの本だった。

529korou:2020/01/14(火) 11:41:28
まず、読了をあきらめた本について。

田中聡「電気は誰のものか 電気の事件史」(晶文社)を
全体の半分ほど読んで断念。
もともと、日本の近代において
電気事業がどのように始まり発展したかについて知りたいと思って
借りてきた本なのだが
内容が、全国各地での電気事業黎明期における個々の事件を取り上げて
その意味を歴史的というよりは「電気」というものへの哲学的な問いかけ、
ひいては文明というものへの問いかけにつながるような記述に終始していて
当初の目的とは違ってきたので
断念せざるを得なかった。
文章そのものも、あまり要領を得たものではなかったのも予想外で
これはアマゾンの書評に騙された感が強い。

530korou:2020/01/14(火) 11:50:01
次に、本日読了した
刑部芳則「古関裕而」(中公新書)について。

この4月からの朝ドラのモデルとなる人物とあって
中公新書には珍しく話題を先取りしたような企画だが
たまたま県立図書館の新刊コーナーに残っていたので(そもそも知名度は未だ低い?)
借りて読んでみた。
大学の先生の本とはいえ、あとがきに記されているように
著者は以前から個人的に好んで聴いていたらしいので
ほぼアカデミックな乾いた叙述は見られず
普通の伝記本として面白く読み進めることができた。

とにかく戦時歌謡とスポーツ物において
他に並ぶものもない第一人者であったこと、
(逆に、それ以外の分野では、第一人者の古賀政男のようには
 ヒット曲連発とはいかなかったこと、しかし昭和20年代には
 それなりに大御所らしい活躍を見せたこと)
それから、昭和30年代以降は
菊田一夫とのコンビでオペラ、ミュージカルの方面で
活躍を続けたこと
(そして、菊田の死去以降は目立った仕事はできなかったこと)(
ということがよく分かった。
逐一youtubeで楽曲を確認できる時代に読めたことも大きかった(実に良い環境になったものだ!)

コンパクトにこの大作曲家のことを知るには最適の本。

531korou:2020/01/22(水) 10:25:17
高平哲郎「スラップスティック選集⑥ ぼくのインタビュー術 入門偏」(ヨシモトブックス)を読了。

要するに、高平さんのこれまでの仕事をまとめたものが”選集”という形で発行され
その仕事のなかでも高平さんの持ち味が発揮された”インタビュー集”について
大部になるため2巻物として、その1巻目に”入門篇”と銘打ったということ。
特にインタビュー術について詳しく語られた本ではなく
初期のインタビューについて、延べ39名分まとめたものである。
2巻物に分散したとはいえ、この本についていえば
440ページに2段ぎっしりと埋まった相当な分量になり
読み通すのに予想以上に時間がかかった。
植木等、堺正章、由利徹といった個人的に関心の深い人たちも多く含まれているのに
読了に時間がかかるというのは、なかなかあり得ない。

ちょっと残念だったのは
2020年にもなると、内容が(特に具体的な作品名とか時代の流行とか)古びてきて
今更そんなこと聞かされてもという感じになってしまうことだ。
いくら昔のほうが濃い時代だったというイメージであっても
所詮、流行は流行でしかなく、あくまでも1970年代だけの話ということにもなる。
今更「ピラニア軍団」について詳しく知ってもねえ、どうしようもないねえ、という感じ。
逆に、鶴田浩二、勝新太郎あたりは、もはやそんなスケールの俳優など皆無なので
インタビューすべてが貴重で、希少価値がある。

ということで、久々に「読み疲れ」した本。
全部面白いとまではいかないが、まあそれだけのエネルギーを費やすのも仕方ない本。
2巻目はちょっと間をあけて読むことにする。

532korou:2020/01/25(土) 10:17:48
中川右介「玉三郎 勘三郎 海老蔵」(文春新書)を読了。

大変な読書だった。
平成の直近の歌舞伎界を知るのが
未知の世界である歌舞伎を知る最初のステップと考えていたが
数多い中川さんの著作の最新作がこれだったので
ちょうど良い機会だと思い借りてみたのだが・・・

とにかく家系図が込み入っていて覚えにくい。
中川さんの叙述もあまりに詳細すぎて、
ついていけない部分をWikiでいちいち確認しながら
読み進めないといけないので
一日に数時間費やして10数ページしか進まない
というような読書だった。
しかし、それだけの労力を払ったかいがあって
この本を読む前と読んだ後では
歌舞伎の家系についての理解は数段深まった。

それと同時に
必ずしも現在の歌舞伎界の将来は明るくないということにも
気付かされた。
やはり勘三郎の死の影響は未だ続いているのだろう。
今後の歌舞伎界についても関心は深まった。
多くの人にとって多分煩雑な感じの著作だと思えるが
自分にとってはタイムリーな本だった。

533korou:2020/01/27(月) 12:50:39
大下英治「平沼赳夫の宣戦布告」(河出書房新社)を読了。

途中、通産相としての政策説明とか、小泉首相の郵政民営化のみの強引な解散選挙への異議とか
長文が挿入されていたが、そこは飛ばし読み、もしくは読まなかった。
2020年の現在となっては、読む必要は全くないと言えよう。
全体として、平沼氏への提灯本という印象は免れ得ず
少なくとも明確な立ち位置は示さないはずの大下氏の著作としては
異例な感じを受けた。
やはり、世代的な共感(平沼・1939年生、大下・1944年生)があったのだろうか?
どちらにせよ、2006年の郵政選挙直前に刊行されたこの本は
その後の国際情勢とか、東日本大震災とかの重要な出来事が含まれていないわけで
個々の政治テーマについて、もはや参考程度に読むしかなく
やはり、この10数年の国の内外の動きは大きかったのだなと
改めて実感させられる。

国政に携わりながら、そのなかで岡山県在住のキーマンとどう関わっていたか
ということについては
こういう本でしか知りようがない。
伊原木一衛、石井正弘という人がどういう軸のなかにいるのか
それを知ることができたのは収穫だった。
そもそもの平沼麒一郎との関係も明確に分かった。
あとは、こういう客観的な事実に絞って
誰かが「村上・亀井グループ」そしてその中での平沼の功績をまとめてほしいと
思うだけである。
この本には、選挙応援のような、今となっては読むに値しない部分も多く含まれているので。

534korou:2020/01/28(火) 16:13:53
読了断念本。
村瀬秀信「止めたバットでツーベース」(双葉社)

NPBエッセイで面白そうに思えたが
だんだんと創作風な雰囲気になり
単なる野球小説を読んでいるような感じになったので
読む意欲を失い断念。
近藤唯之氏のことを書いた最初のエッセイで騙されてしまった。

535korou:2020/01/29(水) 18:40:36
読了断念本。
倉山満「自民党の正体」(PHP)

個性的な政治評論、というかお遊び政治本の体裁だが
やはり今流行りのネトウヨ風、対外強硬論をぶちあげる論調で
これは、借りる際に立ち読みした程度では気が付かないほど巧妙に仕組まれていて
100ページほど読んでみてやっと気づいた。
面白く政治を語る才能は貴重だが
もはや、こんな論調に付き合うヒマはない。
もっと世の中にはしっかりとした政治本があるはずなので
この本の面白さにはなかなか出会えないとはいえ
そういう本を探して読むことにする。

リトマス試験紙は幣原喜重郎と吉田茂かな。

536korou:2020/02/01(土) 11:35:15
石橋健一郎「昭和の歌舞伎 名優列伝」(淡交社)を読了。

ちょっと前に読んだ「玉三郎 勘三郎 海老蔵」(中川右介著)の
前史に当たる時代の歌舞伎名優列伝になるので
うまいこと頭の中でつながって読めた。
とはいうものの
複雑に入り組んだ歌舞伎名家の流れを把握するためには
小谷野敦「日本の有名一族」とかWikipediaの助けを借りながらの読書となり
270ページ程度の新書でありながら
読破には結構時間がかかった。
もう、これで明治末期から平成の最後あたりまでの名優については
ほぼ把握できた感じである。

石橋氏の叙述は
長年仕事として歌舞伎の調査研究に携わり
自身も幼少期から歌舞伎鑑賞を続けて歌舞伎愛に満ちた方として
冷静かつ蘊蓄に満ちたものだった。
新書サイズの著作として、これほど適切な人選はないように思われた。
自分としては
もはや、その記述の詳細を批評することなど
知識の面において不可能である。
ただ、巻末に「外題一覧」を載せるのであれば
巻頭に「歌舞伎名家系図」を載せたほうが
よっぽど読者に親切だっただろう。
まあ、これは淡交社の編集者の仕事でもあるけれど。

537korou:2020/02/01(土) 11:43:13
辻和子「歌舞伎の解剖図鑑」(エクスナレッジ)を読了。

歌舞伎の名優列伝のついでに借りた本だったが
思ったよりも中身が濃く
もし歌舞伎ファンになるのであれば
購入してもよいかなとさえ思った本だった。
最初のほうは、ビジュアル本独特の読みにくさがあり
ビジュアル部分の小さい活字は読み飛ばしていたが
途中から興味深い箇所が続き
その後に見事な名優家系図が6ページにわたって展開されているのを見て
そのあたりからは詳読モードに突入することになった。
最後の舞踊の紹介あたりは、再度飛ばし読みモードになったが
とりあえず知りたいことを最低限知り得た感じはする。

ビジュアル本は直感的に読みにくそうに見えるので
今まで借りることをなるべく避けていたが
今回借りて読んでみて
本当に知りたいことであれば結構読みがいがあることも発見。
ただし、ビジュアル部分の説明がかなり小さい活字になることが多いので
目の負担も大きいということも知った。

ということで
いろいろな角度でいろいろなことを学べた貴重な一冊。

538korou:2020/02/02(日) 14:04:19
「私の履歴書 39」をほぼ読了。

加藤辨三郎、木川田一隆、喜多六平太、水田三喜男の4名で
このうち喜多六平太については、
内容があまりに能の専門的なものに偏っていて
読み通すのに苦労しそうだったので
読むのを諦めた。

加藤氏と水田氏の文章は
人物に余裕が感じられ
いかにも明治人の余徳が偲ばれるものだった。
その点、木川田氏については
いかにもいろいろな利権の絡む仕事に関わることで
その人間性の貴重な部分を失って居られるようにも思えた。
一般的には木川田氏は、信条の人と思われていたようだが。

あまりに長期にわたって読み続けたので(大部な本を借り過ぎてそっちに労力を取られた)
もはや加藤、木川田両氏の文章の内容については
記憶が定かでない。
まあ、これも仕方ないかと思う。
さらに順番を変えて読んだりした試行錯誤もしたが
やはり順番に読んでいくことにする。

539korou:2020/02/12(水) 14:06:59
半藤一利「世界史のなかの昭和史」(平凡社)を読了。

同じ著者の「昭和史」は随分前に読んだ記憶があるが
その内容はほとんど覚えていない。
読みやすいので、昭和史全体をイメージするには重宝するが
新発見の史実とか新しい知見が書かれているわけではないので
読んだ後しばらくするとその内容を覚えておくことは難しいわけだ。
今回は、その「昭和史」とその次に書かれた「B面昭和史」に続く
世界史との関連で書かれた昭和史ということになるが
それにしても著者はこの著作の時点で90歳に近いわけで
あとがきにも本人が書かれているとおり
文章の背後からはほとばしる知的好奇心とか情熱が失われつつあることは否めない、
最初の方でそういう”緩さ”を感じてしまい
読破しようかどうか迷ったものの
最近、昭和史の通史のようなものを読了していないせいもあって
そういう意味でならと思い、なんとか読了した。
スターリンに関しては、今まで年次ごとの詳細を詳しく知らなかったので
その意味では有効な読書にはなったが
おおむね既知の史実に既知の見解が述べられていた本だった。

やはり、こうしてみると
ドイツの仲介で蒋介石と和平が可能だった時点で
結果として「蒋政権を相手せず」と国の内外に宣言した点が
昭和戦前の不幸な歴史の分岐点だったと思わざるを得ない。
そこで和平が成れば、米国もあそこまで強い態度には出れなかっただろうと思うので。
さらに中国本土で石油採掘が可能になれば
黄金の昭和史になったに違いないのだが・・・

540korou:2020/02/14(金) 09:21:01
山口瞳「追悼 上」(論創社)を読了。

ふと何のせいか判らぬまま
山口瞳の本を読みたくなることが何回かあった。
なので、先日、県立図書館に行ったときに
伝記のコーナーでこの本の背表紙を見て
さらに中をパラパラとめくって良さげな感じであったので
さっそく借りてみた(ついでに全集第一巻の「江分利満氏の優雅な生活」も)

借りる前には想像もできなかったことだが
この本を読了してみて感じたことは
山口瞳という作家は
意外なほどしっかりとした方法論に基づいて
文章をまとめているということだった。
原則は、複数(それも2つ3つでは不十分で、できれば4つ5つ)のエピソードを絡めて
ある一つのテーマについて書いていくという手法。
本文中にもあったが、それは花森安治氏からの教えによるものなのだろう。
アイデアの枯渇を恐れて出し惜しみをしているようではプロではない、
枯渇時にはレベルの低いものを出していいのだという、ある種の迷いの無さ。
それが、山口瞳という作家が書く雑文の面白さを保証しているのだと感じた。
そして、その一面で、デビュー作の作風からはなかなかイメージできない
「無頼派」としての側面も大いに感じた。
そうしたことは、今回読了しなかったけれど「江分利氏・・」のような小説にも共通しているのではないかと。
(そこまで分かった時点で、この本を精読する意義は達成されたので
 著者が精魂傾けて書き綴った梶山季之、向田邦子への「追悼文」は
 あまりに長文なので読むのを一部省略した)

なかなか「通好み」の本だと思う。

541korou:2020/02/18(火) 11:31:45
小谷野敦「日本の有名一族」(幻冬舎新書)を読了。

以前から何度も参照していた本なので
今更読了も何もないのだが
今回、なんとなく最初から最後まで目を通したので
読了報告に追加することにした。

同種の本を数冊所持しているものの
この本でないと参照できない、あるいは同系統であっても一番見やすいという点で
他には代えがたい特色を持っている本であることは
間違いない。

これ以上コメントすることはない。
自分にとって、これは基本図書みたいなものだから。
自分の棺桶に一冊本を入れるとしたら
ハルバースタムの野球の本か、この本のどちらかになるだろう。

542korou:2020/02/18(火) 11:39:18
片山杜秀・山崎浩太郎「平成音楽史」(アルテスパブリッシング)を読了。

指揮者チェックをずっと続けていて
いわゆるカラヤン没後のクラシック音楽界のことについて
自分があまりにも無知であることが気になり始めてきたので(例:ピリオド演奏とか)
こういう本を読むことで
少しは足しになるかなと思い読み始めたのだが
そういう意図以上に得るものが大きい読書となった。
特に、片山さんの思考、言葉には
大いに啓発された。
同世代ということもあり
一言一言の意味について
その言外のニュアンスまで含めて
「わかる、わかる」と頷きたくなることが多かった。
もちろん、ティーレマン、ドゥダメル、クルレンティスなど
重要な人物アイテムについて
知ることができたのも大きかった。

以上まとめて、これほどしっかりとした収穫を感じた読書は
このところなかったので
実に意義ある読書になったと感じている。
片山さんの本をいろいろと読みたくなった。

543korou:2020/02/19(水) 23:01:05
福井幸男「アメリカ大リーグにおけるイノベーションの系譜」(関西学院大学出版会)を読了。

読了といっても、19世紀MLBの記述である第1章と
MLB財務を統計学の理論で分析した最終章は読まなかった。
20世紀と21世紀の今までのMLBを
制度改革の視点で説明したそのほかの部分は全部読んだ。

すでに知っている知識の再整理という感じの読書でもあったが
もちろん知らないことも多くあり
その意味では有意義なのだけれども
記憶力に限界があり
この本で初めて知ったことを列挙せよと言われても
ほぼ何も書くことができない。
まあ趣味としてMLB観戦するにあたって
時々思い出せればいいなという程度である。
野球観戦だからそれでいいと思っている。
時としてこんな読書もある。

544korou:2020/02/24(月) 22:54:53
中川右介「阪神タイガース1985-2003」(ちくま新書)を読了。

昨年10月に刊行され、年末に県立図書館で配架されたが
2か月以上待っても「貸出中」のままで
しかも誰も予約をかけなかったので
予約して読もうと決断し、先週やっと手にした本だ。
あっという間に読み終わることは分かり切っていた。
中川さんの本でNPBの本なのだから。

今回は前回の年代と違ってごく最近なので
知らないことを確かめるといった読書になった。
なぜ、80年代後半から00年代当初まで
あんなにも低迷したのか、ということについて
ある程度の確認はできたように思う。
単純に「弱かった」のだ。
少なくとも90年代のあの1軍メンバーで勝てるわけがない。
その一因はドラフトでの無策ぶりであり
外国人選手獲得のノウハウのなさである。
決してフロントなどのゴタゴタが主要な要因ではないのだ(阪神ファンはそのことを分かっていない)。
星野時代になっても、ドラフトは改善されなかったが
どういうわけか外国人選手の人選は当たった。
その後の安定ぶりも(2位が多い)外国人がまずまず活躍するからで
ドラフトは一向に改善されていない。
ゆえに優勝頻度は低い。
(続く)

545korou:2020/02/24(月) 23:12:56
(中川右介「阪神タイガース1985-2003」(ちくま新書)の書評の続き)

日本人選手に関しては、これはどこのチームでも波があるものだ(決して阪神だけの話ではない)
その波の下方へ向かう時期が90年代に集中しただけで
そこはドラフト入団の新人による刺激と
入念な調査に基づく外国人選手の獲得による戦力維持により
優勝はともかくAクラスの実力を保つことは可能なはずである。
しかし90年代の阪神にはそのどちらもなかった。
80年代後半の没落はいかにも阪神らしく(ああいう感じの低迷は確かに他のチームではなかなかないが)
これは人気球団の宿命で、フロントが無策であればああなる(最近はもう1つの人気球団の巨人のフロントも怪しい?・・・)
90年代の低迷とはちょっと違うニュアンスは感じられる(そこはフロントを嘆くのが妥当かもしれない)

ともかく、2003年の優勝は、金本獲得が大きいと思っていたのだが、そうでないことがこの本で分かった。
アリアスが38HR打って、ウイリアムス、ムーアがあれだけ活躍したのだから
ダメ外国人が常に居た年代とは大違いだ。
あとは井川をエースに育て、今岡、藪を復活させ
かつ野村時代に育った選手をきちんと使いこなした星野の手腕だろうが
その反面で、その年の横浜ベイスターズの対阪神戦でのあまりの弱さにも
助けられた面があるのも事実。
いつも選手全部を使いこなせる監督が居るわけでもないので
今後の阪神は、ドラフトでの選手獲得方針の改善と
MLBとのパイプ強化が鍵になるのではないか。

読後、そんな感想を持った。
アマゾン書評での”事実誤認の酷い本”というのは、例示ナシなので説得力が弱い。
どこが誤認なのかさっぱり分からない。

546korou:2020/03/01(日) 20:37:00
佐藤優・片山杜秀「平成史」(小学館)を読了。

いろいろな期待を込めて読み始めた一冊。
その期待通りの内容でもあったし、やや違う感想も抱いた対談でもあった。
しかし、知的な刺激を大きく受けることは間違いない。
異論があることを承知で、二人とも持論を展開していて
博覧強記であることも加わり
終始読者を圧倒する内容になっている。

平成とは、中間団体が消滅、その世界独自のルールが消滅した時代で
個人が無所属になり、アトム化し、ある意味偶然や運が大きく左右する存在になり
その結果、絶対的存在への帰依、憧れの増大・・・にもかかわらず
すでに「大きな物語」は滅亡しているので(その代表がマルクス思想)
常に不安定な状況にあって、結局刹那主義に流れるという展開。
さらに佐藤氏は、キリスト教などの宗教の解釈を加えて
現代を分析してみせている。

なかなか簡単にはまとめにくい。
平成と言う時代は
割合と簡単な時代ではあったように思うが
それでも30年の長さを簡単にまとめることはできないのは
当たり前かもしれない。
今度は片山氏の「平成精神史」を読むことにしようか。

547korou:2020/03/03(火) 17:44:19
「私の履歴書 40」を読了。

市川忍(丸紅飯田社長)、瀬川美能留、土川元夫、水谷八重子の4名。
細かいところは、読み始めて1か月近く経っている今
あまり思い出せないが
市川、瀬川、土川の3氏の印象は
似たり寄ったりというところか。
まさに昭和30年代からの高度成長時代のリーダーたちで
その教養は大正時代に由来し
昭和戦前期にいろいろな体験を積み重ねて
その経験を十二分に生かした結果
大企業のトップに成り上ったという印象である。
ゆえに、文章の端々に独善と強気が漂い
こういう人の下で働くのはしんどいだろうなと思ったりする。
反省などは1ミリもない人たちであろうから。
水谷八重子については
水谷竹紫についてある程度知れたので良かった。
最近仕入れた歌舞伎役者についての知識が
読んでいてかなり役に立ったので
そのへんも面白い読書体験だった。

そろそろ、面白味のある財界人が居なくなってきたかな、という感じ。

548korou:2020/03/06(金) 17:23:13
広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す 上」(講談社)を読了。

退職したらじっくりと読む予定の本の最有力候補として
この本を読むのを楽しみにしていたが
思った以上に活字が小さくて
読むのに苦労した。
そうして苦労して読んだ割には
得るものが予想以上に少なかったのは大誤算だった。
そもそも叙述の時系列が無茶苦茶で
まだその肩書になるのに10数年かかるのに
もうその肩書の職権を乱用していることになっていたり
名誉職で肩書を増やしただけなのに
その財閥のなかで抜群の発言力があることに決めつけられているわけで
陰謀論としては初歩的ミスの連発と言わざるを得ない。
田中宇さんの文章も時として相当なものだが
広瀬さんのはさらにそれを超越していて荒唐無稽そのものだ。

この1年で読書嗜好が変わり
こういう本を受けつけなくなったを痛感する。
時々面白い視点、新鮮な視点があるのだが
それだけのために小さい活字を凝視する労力を使いたくないので
下巻は当分封印する。
ただし、用無し本にするかどうかは
もう少し考えて決めたい。

549korou:2020/03/11(水) 11:14:54
岡留安則「『噂の真相』25年戦記」(集英社新書)を読了。

コロナウイルス騒動の拡大で
県立図書館に行くことすら躊躇されるような時世になったので
ちょうどいい機会だと思い、購入済み未読の本を読む作業を開始。
まずこの本が視界に入ったので、作業第1弾となった。

(・・・と思ったら、たまたまこのスレの前バージョンのスレを振り返る時間があって
 読んでいたら
 何と2004年にこの本を読んで、しかもダイスポさんとそのことで会話しているではないか。
 でも・・・読んでいるはずなのに、何の記憶もないのである。
 しかも、今回この本の半分以上読み進めて、知らないことばかりだなと改めて思い直したばかりのときに
 その書き込みを見つけたわけだから、なかなかの衝撃だ。
 まあ、これ以上その衝撃を詮索したところで何も出てこないので、この件は「やはり記憶は怪しい」で済ませておこう)

改めて読み終わった印象(笑)といえば
権力への警戒感という自分の今のスタンスは
もともとそういうことがメインだった時代をノスタルジーとして感じていた20代の頃の感性を
この雑誌の発見(1992年頃?)で、見失うことなく継続させていったのだろうな、という思い。
今はこういう雑誌はそもそもにおいて理解されないだろうから(どこかでマルクス、共産党の影響もあるし)
休刊はグッドタイミングだったのだと再認識する。
そして、当時でもかなり危機感があった岡留氏の意識を文脈に認めたものの
そこから比べても断然レベル低下している今現在の状況にあって
まだ決定的な秩序崩壊に至っていないことに
不思議な幸福感を覚えた。
まあ、何の根拠もない幸福感なのだけれども。

なかなか複雑な読後感だ。

550korou:2020/03/11(水) 16:56:31
「私の履歴書 41」を読了。

緒方知三郎、小原鉄五郎、椎名悦三郎、久松潜一の4名。

緒方、久松の両名は、専門の世界で著名な学者であり
それぞれの世界での著名人も出てくるので
それなりに面白味もあったが
全体として、狭い世界での勤勉物語という趣だった。
各人物の生没年を確認することで
時期別の人間模様が明確になることが
読んでいて唯一の楽しみだったかもしれない。

小原氏は昔風の偉人だった。
今の時代に、この姿勢、態度で
ここまでリーダーシップを発揮することは難しいだろうが
昭和の途中までなら、これで完璧とも言えるわけで
時代との巡り合わせが非常に良かった例と言えるだろう。
そのおかげで徹底した哲学まで深めていっているので
いくらか現代にも参考になる考えが含まれているように思う。
椎名氏も昔風の官僚、政治家だが
さすがに何をしゃべっていいか、しゃべってはいけないかという点において
現今の政治家とは一味違って慎重かつ冷静だ。
満州への思いも、普通なら氏のような賛美は理解され難いのだが
この時代にここまで踏み込んで書いているのには驚くとともに
本当かもしれないと思わせるリアルさが感じられた。

全体に明治以来の日本が築き上げた遺産を
なんとか先人に恥じないよう継承していこうとする世代の
息苦しさと誠実さと勤勉さを感じ
ふと岩田宙造のようなパイオニア精神の権化のような人を懐かしく思った次第。

551korou:2020/03/14(土) 12:05:16
山川静夫「私のNHK物語」(文春文庫)を読了。

歌舞伎などの古典芸能の大家としても知られる山川氏だけに
最近になってその方面の知識を個人的に蓄えてきたところで
さあ読んでみるかという感じで読み始めたのだが
読み終えた今の感想からいえば
ほぼ古典芸能の細かい話は出なかったなということになる。
もちろん、大阪放送局時代の話として
文楽のことは詳しく書かれていたし
随所に歌舞伎のことは出ていたのだが
それよりも、若い修業時代の頃は
意外なほどの遊び人で無茶し放題の人だったことが分かり
予想外ともいえる破天荒な面白さに目を見張らされた。
皆が知るあの温厚そうな佇まいからは想像もできないことである。
NHKアナについてのイメージが一変するような本だ。
(今はさすがにここまでの豪傑はあまり居ないのだろうけど)

考えてみれば、なんとなくNHKの有名アナになっていたような感じで
思ったほど人気番組というものを持っていなかったような印象を受けた。
「昼のプレゼント」にしても、個人的には感心しなかったし(一般には好評だったように書かれてはいるが)
宮田輝の後を受けて「ふるさとの歌まつり」の後番組をするにはさすがに大変だろうし
あの冴えなかった時代のNHKの歌番組を担当するのは貧乏クジでしかないし
「ウルトラアイ」にしても地味すぎるし
やはり「紅白」の山川でしかないだろう。
でも「紅白」だけであれだけの名声が得られたというのも不思議だ。
やはり分からないことも多く残ったが
どちらにせよ楽しい爆笑本でもあり面白かった。

552korou:2020/03/21(土) 13:40:35
「私の履歴書 42」を読了。

安西正夫、井伏鱒二、屋良朝苗、吉住慈恭一の4名。
この巻は、(安西正夫は除くが)感銘を受ける方々ばかり揃った。
安西氏にしても森矗昶のことをこれだけ詳しく書ける人は他に居ないので(女婿でもあるので)
1巻まるごと(廃棄せず)保存することにした。

井伏さんの文章の確かさには唸らされた。
やはり小説家ともなるとよく人を観察していて
実業家の書く自伝とは一味違う。
個々のエピソードが雑然と続けているだけのようにみえて
実は、大正・昭和戦前期の人間模様が
イメージ豊かに描かれている。
屋良さんについては
沖縄出身者の「履歴書」は初めてだったので
いろいろと印象深く
県立図書館で「沖縄現代史」の本を借りて
知識を補足することにしたほどだ。
吉住さんに至っては、全く知らない分野(長唄)の人だったが
この履歴書の書かれた昭和45年の時点で93歳という高齢で
しかも、芸事なので若い時から第一線で活躍できたこういう方などは
明治の中頃からの様子が具体的に書かれているという
実に貴重なものである。
黒田清隆のエピソードなど、それを1970年の時点で生々しく語れる人が
現存していたのだから仰天だ。
いいものを読ませてもらったという感がある。

553korou:2020/03/26(木) 16:13:56
広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す 下」(講談社)を読了。

コロナウイルス騒動のおかげで
外出もままならず
本来ならもっと先に読むはずだったこの本を
今日読了してしまった。
とはいえ上巻よりは面白かった。
すでにこの著者独特の牽強付会に慣れてきた上に
上巻よりはミステリー仕込みの叙述が多く
そのミステリー自体が自分にとってリアルタイムに近いこともあって
より具体的にイメージすることができたからだ。
相変わらず強引だ(笑)
しかし、マッカーシーの没落、映画人の具体的な活動、ナチスの亡霊、
あるいは原子力をめぐるアメリカ世論など
この本でならでは物の見方というものも知ることができた。
もう少し広瀬節に付き合ってみようか。
次はその後の10数年の世界を読んでみよう。

554korou:2020/03/30(月) 20:59:50
櫻澤誠「沖縄現代史」(中公新書)を読了。

屋良朝苗氏の”履歴書”を読んだ勢いで
県立図書館で沖縄の現代史の本を借りてきたが
なかなか辛い読書だった。
著者が若くてまだ生硬な文章しか書けない人で
例えば要約の部分を示唆しながら
その直後に全然別の事実を詳述したりする初歩的なミスから
そもそもどういう立場でその史実をとらえているのかという
著者の思想面も曖昧で
いろいろなレベルでの読みにくさが混在していた。
さらに自分自身が沖縄現代史について
初歩的な知識すら持ち合わせていないことも
読書のスピードを妨げた。

とはいえ、それなりに収穫もあった。
それこそ初歩的な知識はいくつか知ることができた。
また現代の沖縄独特の捻じれた意見、思想について
その捻じれ具合についてもイメージを持つことができた。
また重要人物の数人についても
その生きざまを参照することができた。

あとは、もう1回、コンパクトなサイズでいいので
もっとこなれた文章で通史を再読したい。

555korou:2020/04/10(金) 10:45:06
広瀬隆「アメリカの経済支配者たち」(集英社新書)を読了。

1985年時点での米国政治経済の支配者層を描いた上下2冊の本を読了し
次は1999年時点での同様な視点によるこの本を読み
さらにこの次には2000年代になった米国の同様な視点の本を読む予定だった。
しかし、この本を読んでいる途中で
どうも読んでいる間の幸福感が感じられなくなり
(これは以前も上下本の上巻を読み終わったときに感じたことでもあるが)
次の本はしばし保留することにしたい。

今回のこの本は
ロスチャイルドも含め、さらにIT長者、マスコミ、金鉱利権者からCIAに至るまで
対象を広げた本である。
その代わり、歴史的な叙述はカットされ
おおむね19世紀以来の大財閥としての振る舞いが概説されている。
その意味では、雑学としてタメになる本ではあるのだが
なにせ対象が広すぎて、もはや何が何だか分からないほど
話がとっちらかり、散漫な印象は拭えない。
もうこれだけの蘊蓄は覚えきれない。
そんな妙な敗北感が読後感としてよぎってくる。
まあ、この種の本は、あまり根を詰めて読まないほうがいいのだろう。

そうでなくても、なんとなく
(目の状態とかコロナウイルスで悶々とした状況のなかで)読書のペースが進まない今現在なので。

556korou:2020/04/15(水) 09:04:04
阿部眞之助「近代政治家評伝」(文春学藝ライブラリー)を読了。

戦前の東京毎日で学芸部長として名を馳せ
戦後はNHK会長となりその職のまま死去した
辛辣な人物批評で知られる著者が
1953年頃に雑誌に連載した人物評をまとめた文庫本。
取り上げられた人物は
山縣有朋、星亨、原敬、伊藤博文、大隈重信、西園寺公望、
加藤高明、犬養毅、大久保利通、板垣退助、桂太郎、東條英機
という12名。
明治から昭和に至るまでの政界における重要人物を取り上げておきながら
誰一人として褒められた人は居ないというくらい
辛辣な評伝となっており
特に伊藤と西園寺はもう少し功績を評価してあげても良かったのではないか
と思えるほどだ。
やはり実際に記者として取材した相手である加藤と犬養に関しては
わずかではあるが情が移っている気配が感じられるが
総体的には敗戦国日本はなぜ生まれたかという
この本が書かれた時期には皆思っていた疑問に答えるべく
そこまでの支配者層に対しての評価は極めて厳しい。

個人的には、原、伊藤、大隈、西園寺、加藤、犬養、大久保は
現代の政治家より遥かに優れていると思う。
逆に山縣、星、板垣、桂、東條などという連中は
いつの時代でも居るような普通の人々ではないかと思っている。
まあ、全体として、明治・大正の政治史を知る意味で
有意義な読書にはなったはず。

557korou:2020/04/20(月) 09:25:32
岡本綺堂「風俗 明治東京物語」(河出文庫)を読了。

明治の政治家の話を読んでいたら
この本のことを思い出し、ついつい読んでしまった。
以前から読んでみたい本ではあったが
以前は読み始めても内容が頭の中に入ってこないことが多く
自分の知識が足りないことを痛感するばかりだった。
それから比べれば
特に歌舞伎あたりの知識が以前より増えたこともあり
今回はまあまあ理解が進んで
最後まで読み進めることができた。

前半は各項目(湯屋、相撲、劇場など)について
そのおおまかな仕組みの説明があって
それがいかに昭和初期(執筆時の時代)と違っているかを
示す叙述であるのに対し
後半は、まさにエッセーそのもので
明治時代の東京の風景が偲ばれる名文となっていた。
おもに後半の叙述に魅了された。
なかなか、ここまで具体的に描写できる方も珍しいのではないか。
昭和初期であってもそうであったように
令和のこの時代では、なかなか貴重な読書となった。

558korou:2020/04/24(金) 12:00:42
「私の履歴書 43」を読了。

宇佐美洵、川口松太郎、三宅正一、茂木啓三郎の4名。
いずれの方の文章も飽きずに読むことができた。
絶対に他では読めないということではないが
今読んでいて良かったという実感はある。

宇佐美氏は環境(加藤高明、池田成彬など)に恵まれ
その環境の中で順調に推移した人生だった。
今思い出しても、他の3名と比べて印象は薄いのは事実。
川口氏の生きざまは、まさに古い世代で
いろいろなことを思い出させてくれた。
昭和というより、明治・大正・昭和戦前の感性だろう。
執筆時の昭和戦後期への嫌悪がにじみ出ているように思えた。
ゆえに関東大震災のところで「履歴書」は終わっている。
三宅正一氏と茂木啓三郎氏については
今まで深くは知らなかった人たちだが
今回読んでみて、昭和初期の労働争議について
いろいろと知ることが多く
その意味では蘊蓄が一気に増えた。

いかにも昭和の履歴書という面々だった。

559korou:2020/04/29(水) 09:19:59
石井妙子「日本の血脈」(文春文庫)を読了。

ずっと県立図書館の文庫の棚で見かけていて
いつか借りようと思っていたのだが
今回借りてみて読んでみて
これだけの内容であればもっと早く読むべきだったと
悔やまれた。
よくあるタイプの列伝が
しっかりとした女性目線で描くことで
こんなにも違った印象になるというお手本のような著作だった。
最初の小泉進次郎の章からして
ユニークな切り口が功を奏していて
典型的な女系家族をこの切り口で描けば
従来の小泉本とは全然違うイメージになるのは当然だった。
さらに香川照之、堤康次郎、小沢一郎、小澤征爾の章に至っては
わずか40ページ足らずの評伝ながら
大部の伝記ですら伝え損ねている重要なファクターを
浮かび上がらせることに成功している。
逆に女性を取り上げた章では(中島みゆき、オノヨーコ、紀子妃、美智子妃)
同性として分かってしまう部分が大きいのか
むしろ2,3代前の人物に焦点が当たり過ぎて(その追跡自体が面白いということもあるが)
ややピンボケという印象を受けた。
とはいえ、どの章も読みごたえがあって
久々に素晴らしい列伝に出会った感がある。

560korou:2020/04/29(水) 09:48:00
小林一夫「マンガでわかる楽譜入門」(誠文堂新光社)を読了。

全編マンガで200ページ足らず、しかも初歩的なことばかり書いてある本なので
”読了”の名に値するかどうか怪しいが
まあとにかく全部目を通してみた。
期待していたほどの内容ではなく
まさに入門編という感じである。
本当のところは、
和声のしくみのようなものが直感的に理解できるようになればラッキー
ということを期待して図書館で借りてみたのだが
そういう内容ではなかった。
まあ、こういうこともよくあるので仕方ないところか。

561korou:2020/05/02(土) 20:39:46
大下英治「ふたりの怪物 二階俊博と菅義偉」(MdNコーポレーション)を読了。

現代の政治家についても知っておこうと
県立図書館で借りてみた。
しかし、最近の大下本はダメなものが多い。
この本も、半分以上が二階、菅へのヨイショばかりで
提灯本の類と言われても仕方ないだろう。
そういう部分は読んでいてつまらないので
この本の3分の1近くはスルーして読み進めた。

さすがに二次資料の使い回しはせず
直接、関係の議員などに取材し、それをまとめて書いているのだが
問題は、その記述に何の批判、問題提起もないことだ、
ゆえに、この本のなかでわずかな部分ながら役立つ記載は
事実関係のみになってくる。
したがって、この本で事実関係の記述が出てくると
それをWikiで確認し
さらにキーワードについて追跡検索するという読書になった。
それにしても
限られた範囲での取材だったのに
不祥事で辞任した大臣だとか
現在捜査の手が進んでいる河井議員とか
グレーな人たちばかりになっているのが
いかにも皮肉である。
”怪物”どころか、せいぜい”怪物くん”程度の大物だろう。
まあ民主党末期よりはマシ、という程度か。

562korou:2020/05/05(火) 11:15:58
坪内祐三「昭和の子供だ君たちも」(新潮社)を読了。

最初のほうを読んでみて
期待した内容と違った感じを受けたので
しばらく放置していたが
それから思い直して再読したところ
意外と面白く読み進めることができ
途中からは一気読みとなった。
つまり、何か結論めいたもの、蘊蓄になり得るものを求めると
坪内さんのスタイルだとそれは難しく
読者は自らの読書スタイルを一旦保留して
坪内スタイルに合わせていくことによって
この著者の本はどんどん輝いていくということなのだろう。

書いている内容があらぬ方向に飛びまくり
全然まとめに入らないのが不思議なのだが
同じようなペダンチックな文体の山口昌男の文章とはまた違って
全然蘊蓄の形にならず、どこまでも雑学のレベルに留まるのが
いかにも個性的だ(坪内、山口に交流があるのも面白い)。
自らも雑学をため込んでいる人で、世代論に興味のある人にはタメになる本だが
随分と間口の狭い本で、興味のない人には全然無意味な本にも思える。

まあ自分としてはこれほど面白い本、ユニークな本はないと思ったのだが。
似たものを自分でも書きたくなった。

563korou:2020/05/28(木) 11:19:48
何と23日ぶりの読了。
県立図書館がコロナ関係で休館だったとはいえ
結構間が空いてしまった。
その図書館で借りた本
内田宗治「外国人が見た日本」(中公新書)を読了。

思ったよりも良い本だった。
明治以降の外国人旅行者の動向が
最低限の史料引用により
読みやすく、かつ説得力のある叙述で
書かれていた。
この種の本では出色の出来だと思う。
いろいろと感想が書けると思ったのだが
久々の書評のせいか
これ以上言葉が出てこない。
いい本なのにねえ・・・

564korou:2020/05/29(金) 14:40:01
小島直記「日本策士伝 資本主義をつくった男たち」(中公文庫)を読了。

今まで、小島氏の本をしっかりと読んだことがなかったので
ある意味読破を楽しみにしていたのだが
いざ読んでみると、同じエピソードの反復、意味不明な文脈の文章、
型にはまった人物評などが延々と続くのには閉口した。
一番問題なのは
この種の列伝形式で最もやってはいけないこと、取り上げる人物が
多すぎて叙述が中途半端になる、という素人同然のミスを
平気でやっていることである。
さあ、これからこの人たちはどうなるのかと期待を高めたところで
いきなり全然別の人物伝が始まるという展開だったので
大いに読書意欲が削がれた。
披露されるエピソードの数々は
質量共に現代人教養レベルを遥かに超えているのだが
それをこんな雑な形で並べてしまっては
もったいないことこの上ない。
もしWikiというものがなかったら
到底この本を読破することはムリだったに違いない。
Wikiのせいで、少しは役に立ったこの本だが
もう、この著者の本は読まないことにする。

565korou:2020/06/02(火) 13:56:32
「私の履歴書 44」を読了。

冲中重雄、渋谷天外、土井正治、和田恒輔の4名。
冲中、土井、和田のお三方は、いずれも超真面目人間で
読んでいて息苦しかった。
こんなタイプの上司だと、寿命がいくつあっても足りないだろう。
そのなかで渋谷さんは、対照的なくらい破天荒な人生である。
ただし、当の本人はいたって真摯に生きて居られて
その点では、他の3名と同じと言ってよい。
それにしても
偶然なのか必然なのか
こうした真面目な人たちが多数居られたことが
戦後日本の高度経済成長を支えていったのは
まぎれもない事実である。
そして、その姿勢が
根本的には間違っていなくても
その手法において、今の日本には
それほど重要なものではなくなりつつあることも。
こういう手法からは早く脱して
低成長の時代にふさわしい哲学、手法を定着させる必要があるだろう。
この種の「履歴書」を読むたびにそう感じる。

566korou:2020/06/14(日) 21:48:48
「日本人が知っておきたいアフリカ53か国のすべて」(PHP文庫)を読了。

アフリカについてちょっと知っておきたいと思い
県立図書館で借りた本だが
その目的に沿った非常に良い本だった。
コンパクトで叙述が簡潔で分かりやすい。
税込み700円程度の本でこれだけの知識が得られるのなら
お買い得なので、本屋で購入しようかと思ったりもしている。

それにしても貧しい国、政情不安な国が多い。
欧米諸国はそういう国が生まれる原因を作って
何の謝罪もなく、結果だけを非難しているが
フェアでない。
同じフェアでないのなら
自国中心主義とはいえ中国のやっていることは
案外人類全体のためになるのではないかとさえ思う。
もちろん、世界全体の監視も必要なのだが。
日本もその気になれば結構良い貿易相手になるはずだが
そもそも政情不安を解決できる能力がないので
仕方ない。
中国の後釜をうかがい、おこぼれを頂戴するしかないだろう。
残念ながら。

また熟読してみたいと思う本である(どうせ大半の知識を忘れるので)

567korou:2020/06/15(月) 21:34:16
読了しなかった本について

・宇沢弘文「宇沢弘文傑作論文集全ファイル」(東洋経済新報社)

宇沢先生の論文を集めたものだが、当方の能力不足というか読書意欲減退の季節だったため
十分に読めるレベルのエッセイ風の文章が多かったにもかかわらず、4分の1程度の読了で
終わってしまった。第Ⅰ部「社会的共通資本への軌跡」、第Ⅱ部「『自動車の社会的費用』
を著す」は完読、第Ⅲ部「近代経済学の限界と社会的共通資本」の第10章「勢いづく市場
原理主義への懐疑」の途中まで(144pまで)、他に第Ⅵ部「教育と社会的共通資本」の
第23章・第24章と第25章の途中までを読んだが、もう少し医療関係とかも読みたかった。
また読書意欲が上昇気味のときに読み進めたい。

・「カート・ヴォネガット全短編 2」

創作をそろそろ始めないといけないなあと思い借りた本。しかし、今一つ自分の求めている
ものと違ったのと、むしろ筒井康隆のほうがいいのではと思い出したりして、集中して読む
ことにはならなかった。

568korou:2020/06/19(金) 09:54:11
「私の履歴書 45」を読了。

石井光次郎、石田和外、尾上多賀之丞、小林勇の4名。
多彩なメンバーではあるが、なぜか印象に残る人は特になかった。
大体イメージ通りの人生を歩んでいる感じで
ただ石田氏のウルトラ右翼ぶりには辟易したというところか。
読了に2週間以上かかるので
最初のほうはすでに忘れかけているのが実情で
今までは、それでもページをめくり直して感想を記していたが
今回はそれほどの意欲も起きない。
まあ、こんなものかという程度。
それなりに皆大御所なのだが・・・

569korou:2020/06/24(水) 11:17:10
宮城大蔵「海洋国家 日本の戦後史」(ちくま学芸文庫)を読了。

大変面白かった。夢中で読んだ。
ここ最近、これほど知的興奮を満足させる本に
出合ったことはないと言ってもよい。
おもに戦後の日本外交の話で
しかも対象が対米ではなく対アジアというのが
視点として新鮮だった。
そして、記述が近年公開された史料に立脚した正確なものと推定できるので
安心して読み進めることができるのもポイントが高い。
最終的な論の着地点も、常識的なラインを外さず
単に常識的であるというレベルを超えて
それまでの論旨に沿った必然性を持ったそれであることも
説得力を増すものとなっている。

戦後すぐにネール(&ガンジー)の知名度が高かったのはなぜか。
スカルノ、スハルトのような傑出した政治家が日本ではそれほど著名でないのはなぜか。
周恩来の苦悩についてその真意は何か。
福田赳夫がアジア外交に成功した印象があるのはなぜか。
そうした素朴な疑問はほぼすべてこの本のなかに回答のヒントがある。
そして、英米のアジア外交のズレ、日本の微妙な政治的立ち位置など
本書によって認識を新たにすることは多かった。
著者の着眼点、分析力に感謝あるのみだ。
今年最高の読書になった(あえて断言!)

570korou:2020/06/25(木) 11:57:13
野村克也「私のプロ野球80年史」(小学館)を読了。

野村氏の著作は、あまりに多く出過ぎていて
もはや同じことの繰り返しになっている感じなので
読書意欲が湧かなくなっているのが事実だが
これは「NPB80年史」ということで、あえて手に取ってみた。
しかし、残念ながら、旧世代からの”ぼやき”以上のメッセージは
この本からは感じられなかった。
もう少し”史実”をそのまま記録してほしかったのだが
なぜか野村氏はそういう”単なる記録”を書こうとしない(しないまま亡くなられた)。
実に惜しいことである。
多分、物事をもう少し単純に考えているはずの張本氏の場合
結構、昔(昭和30年代とか)のことをそのまま書いているのと好対照だ。
野球も社会現象なので
旧世代が物申せる分野は限られてくるが
そのことを野村さんほどの教養がある人でさえ
真の意味で分かっていないのが残念である。

久々に野村氏の本を読んで、そういう思いを深くした。
まあ、自分が対戦したなかで一番の速球は山口高志だ、というような
興味深い記述などは面白いのだが。

571korou:2020/07/07(火) 09:38:05
佐々木実「資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界」(講談社)を読了。

県立図書館で予約までして借りた本だ。
読み始めると、ほぼ伝記スタイルなので
これはラッキーと思い、そのまま読み進めたのだが
そのうち経済理論の概略が次々と続く展開となり
ほぼ皆無に等しい自分の近代経済学への知識では
完全理解が難しい読書に急変した。
しかし、著者の優れた文章力に助けられ
また宇沢氏の優れた生きざまに魅了され
なんとか最後のページまでたどり着いたというのが実情である。

厳しい読書だったが得るものもそれに比例して多かったと言える。
新しい知見、知らなかった事実というものがあまりに多いので
ここにそれを要約して書評の形にすることすら、ままならない感じだ。
最後のほうで、丸山真男の「日本にはユートピア思想がない」という言葉から
宇沢は日本では孤独なユートピア思想家だったという著者の見解が書かれていて
それがこの本が著される真の動機ではなかったかと推察された。
liberalismから社会的共通資本の発想に至る宇沢哲学、これこそ
未来の日本が辿るべきユートピア思想なのだろう。
これから順次咀嚼して、自らの思考への刺激とするしかない。
それ以上のことは自分にはムリだろうから。

572korou:2020/07/08(水) 22:55:03
宮城大蔵「現代日本外交史」(中公新書)を読了。

前回の宮城氏の著作が大変面白かっただけに
同じ著者による、こういう通史のような本を読むことは
読む前からワクワクするものがあった。
その期待感、ワクワク感に100%達成感、満足感があったかどうかは
今のところ断言はできないが
少なくとも、同時代史の強みというか、いろいろなことを思い出す契機になったことは
間違いないところである。
いろいろなことを覚えているようで、その実、実際のところは
新聞などの現在進行形のメディアによる情報だけにとどまっていることも多いのが
現代史の基礎認識としてありがちなことで
この本では、その情報の一歩先を丹念に書いてくれているところがありがたいし、
その一歩先の情報源がそれぞれの当事者からのオーラル・ヒストリーの成果でもあることが
あとがきに書いてあるので、とりあえずは
”一次資料による史実の1つ”という位置づけも可能なわけだ。

橋本龍太郎の外交の功罪(肝心なところで肝っ玉が小さい小心者であることが当時の日本の国益を損なっている!)とか
鳩山外交の限界(孤独な夢想家であり過ぎた。そういう人を神輿に上げて、勝手な外交をした岡田外相の真意は謎!)とか
野田首相の苦渋に満ちた尖閣諸島国有化のタイミングとか
なかなか興味深い史実を、この本で初めて知った。
またしても宮城本の面白さを知った思いである。
(それにしても、岡田克也という男は、宇沢弘文氏を民主党から遠ざけ、鳩山外交を堂々と外相の立場で邪魔した。
 ケシカラン男だなあ、ホントに)

573korou:2020/07/15(水) 12:02:01
「世界の覇権企業」(KAWADE夢文庫)を読了。

県立図書館で、あまり中身も見ずにとっさに借りた本だが
読み終わってみると、広瀬隆氏の著作を継いだ形の
中田安彦「世界を動かす人脈」の続編のような本だと思った。
となれば、途中止めにしている広瀬隆「アメリカの保守本流」を参考にしつつ
中田本を読んでも面白いかなと思ったりする。

すでに日本の企業など影も形もなく
もっぱらアメリカと中国の企業が覇を競う世界経済の世界を
いくらかヨーロッパの企業も含めながら
そのビッグ・カンパニーを逐一概説した
コンパクトながらなかなかよくまとまった本である。
上記中田本は2008年刊行だが
そこからも世界は激変していることに気づかされ
21世紀の世界の動きの速さに驚かざるを得ない。

なかなか有益な本だった。
テキトーに選んだ本だが
同じくテキトーに選んだ「経済で読み解く日本史 明治時代」(上念司)が
とんでもない本だったのに比べて
これは”当たり”だった。

574korou:2020/07/15(水) 14:37:05
「私の履歴書 46」を読了。

小汀利得、坂口謹一郎、中村汀女、松田伊三雄の4名。
小汀氏は痛快な人柄で、やや小難しい経済通の爺さんとばかり思っていたのだが
その生き様はなかなか魅力的だった。
坂口氏は、それに対して真面目一方で
典型的な学者人生、それもかなり運に恵まれた幸福な人生という他ない。
中村氏は、まさに身辺のことを事細かに記した履歴書で
読みにくい感じもしたが、いかにもという感じもあった。
松田氏は、典型的な昭和財界人で
まさにこの時期の典型的な履歴書を読んだという感が強い(中村氏の直後に読むので一層そう思った)。

だんだんと自分の記憶にある世界の様子とシンクロしてくる(昭和47年の履歴書)。
それでも、大正期の東京の郊外の様子が
昭和47年にもいくらか残っているという記述を読むと(松田氏の文章)
昭和47年と令和2年の現在との時間の幅も感じてしまう。
もうこの履歴書から半世紀経っているのだ。
大正期の半世紀前は幕末・維新直後なのだから。

575korou:2020/07/24(金) 12:03:27
「私の履歴書 47」を読了。

赤尾好夫、坂本繁二郎、滝田実、田代茂樹の4名。
赤尾、坂本両氏は
対照的な人柄でありながら
現代では意外なほど居なくなったタイプの”大きな人物”であるように
思われた。
それに対し、後半の滝田、田代のような人たちは
現代でも探せば相当数存在するように思われる。
もちろん、前者のようなタイプの人が書いた文章のほうが
圧倒的に面白い。
赤尾さんのような直線まっすぐの人からは
何かを見失っていないかという自戒の念に駆られるとともに
社会を批評する視点の修正を迫られる、
坂本さんの、いかにも本当の日本人ともいうべき感性、思考には
同じく、現代では見失われた何かを思わせるものがある。

滝田、田代両氏とて
読んでみて何も得るものがないというわけではない。
しかし、その時代において当時の財界を背負った人たちは
自分たちが負うべき責任の重さを痛感するあまり
その時代において最善の道を模索し決断し実行することに専念し
自らの仕事を、もっと長いスパンで自省するという作業が
やはりおろそかになっているのである。
今の経営者には、もっと先の未来を見つめた視点が求められている。
それは困難で、さすがに現代の経営者も目先のことで汲々している人ばかりだが
その意味では、この両氏の履歴書には
参考になるべきものは少ないと言わざるを得ないのである。

576korou:2020/07/31(金) 16:14:58
「私の履歴書 48」を読了。

赤城宗徳、池田謙蔵、古賀政男、高畑誠一の4名。
いずれも大変読みやすく、皆記述が簡潔で要も得ていた。
赤城氏の分は以前読んだ記憶があったはずだったが
読み始めると、そうではないことが判明。
当時でも古武士のようなイメージの方だったろうが
今となってはもはやこういうタイプの政治家は
全く居なくなってしまったと言ってよいだろう。
河野一郎とのコンビで、佐藤・池田の官僚政治を打破する勢力として
頑張ってほしかったが、河野の早逝でどうにもならなくなってしまったのは残念。
池田謙蔵、高畑誠一の両財界人については
おもに若い時代の仕事を中心に記述されていた。
また、池田氏は、三菱本社(上司があの奥村政雄氏)から三菱信託に行き
高畑氏は、鈴木商店から倒産後は日商に行き
それぞれ、信託業界、商社業務について面白い話が多かった。
池田氏が明治26年、高畑氏が明治20年の生まれということで
最近読んだ履歴書の財界人のなかでは執筆時の年齢が高齢であったことも
話の面白さの秘密の1つかもしれない。
明治の終わりには、もう前途有望な青年として生きていたわけだから。
古賀政男氏についても、ある程度はその苦労話は聞いてはいたが
本人の生々しい体験を読むのは初めてで、これも興味深かった。

さて、残り1冊となった「履歴書」。
図書館の本を借りずにいると、あっという間の進行ぶりだ。

577korou:2020/08/07(金) 22:53:35
「私の履歴書 50」を読了。

三遊亭圓生、塚本憲甫、前尾繁三郎、武蔵川喜偉の4名。
圓生師匠と武蔵川親方は、それぞれ昔の寄席、相撲の世界を
的確に冷静に叙述されていて
非常に参考になるので、永久保存版として残した。
塚本氏と前尾氏は、それぞれ堅実な人生を送られ
それなりに面白かったが、永久保存するまでのことはなかった。

しかし、4名ともに読み応えがあった。
一時期、時代が新しくなるにつれ
だんだん面白さがなくなったなと思ったこともあったが
やはり、この時期までは面白い。
もう持ち帰り分は全部読んで、ほぼ本の形から解体し
8名分だけ永久保存できた。

明日から何を読もうか、思案中。

578korou:2020/08/16(日) 09:58:05
大森実「ザ・アメリカ3 ライバル企業は潰せ 石油王ロックフェラー」(講談社)を読了。

30年以上も前に購入した本で、ずっと読み切れずにいたが
ついに今回読破した。
ゆったりとした活字なのに読み切れなかったのは
単なる自分の怠慢のせいでもあったが
読み始めてみて、大森氏の独特の文章のクセのせいでもあったことに
気付かされたのも事実だった。
敏腕新聞記者として名を馳せた大森氏ではあるが
面白い取材対象を嗅ぎ付ける才覚に関しては超一流であっても
読みやすい文章を書く才能については
せいぜい人並み程度であったということになる。
文章の途中で、主語に対応する述語を書いた直後にすぐ別の主語を挿入したり
それならまだましな方で、最初の主語に対する述語を略して
知らぬ間に別の主語を略したままその述語を直接続けるという文章を
平気で書く人なのである。
だから文章の正確な意味を読み取るに結構苦労した。

それでも読み通せたのは、
書いてある内容が歴史の隠された真実を暴くかのごとく
興味深いものがあったからである。
読後、「アメリカのビッグビジネス」(日本経済新聞社)でロックフェラーの項を探し
読んでみたが、同じような記述で、文章はこっちのほうが断然読みやすいので
この大森本は保存しないことにした。
まあ、名前ほどには読むに値しない本だけど
同種の本がなければ仕方なく必読本になる、という類の本である(自分には上記同種本があるので必読ではないということ)

579korou:2020/08/19(水) 17:11:20
赤瀬川隼「獅子たちの曳光 西鉄ライオンズ銘々伝」(文春文庫)を読了。

前職場からの土産本で、いつか読もうと思いつつ
だんだんと読む気がしなくなってきたので
今しかないと思って読み始めた。
この種の懐かし野球思い出話本は
なぜか最近になってあまり読む気がしなくなってきた。
やはり、あまりに昔過ぎて
今の感覚ではこれはあり得ないという部分が多すぎて
現実の世界の話ではないような嘘っぽさが漂ってきたからだろうか。
それなりに現代の野球は進化したように思う。
その一方で、野球だけの世界で議論を深めても
もはやどうにもならない制約が
この21世紀になってから全社会的に多くなってきているのも事実で
それは野球だけに限らないのだが。
その意味で、この本の書かれた1990年頃というのは
まだ戦後の雰囲気をひきずっていて
こういう豪傑野球の伝説を面白く読める時代ではあったのだろう。
あの頃、ひたすら昔の野球を懐かしんでいたのを思い出す。
青田昇、嶋アナ、三原・水原伝説、渡辺謙太郎アナ、CXのプロ野球ニュース・・・etc。
残念ながら、この本を2020年の今読むとしたら
ノスタルジーしか残らない。
本当に「残念ながら」だ(いい本だけど)

580korou:2020/08/26(水) 21:47:05
大坪正則「メジャー野球の経営学」(集英社新書)を読了。

ずっと前に購入して、ずっと「つん読」だった本。
つまみ食いのように読めば、なかなか役に立つ本だと思っていたが
今回通して全部読んでみると、今の自分の好みとは程遠く
読み通すのがしんどい本だった。
何よりも、こういう教科書風にかちっとした内容の本を
最近敬遠していたので読み慣れず
そういえば現役の司書の頃は、こういう本の読み方をしていたなあと
懐かしく思い出しさえしたほどだ、

内容は、2002年に書かれた本としてはベストに近く
当時読みこなしていれば相当なものだっただろうが
さすがに、それから20年近く経った今
いろいろな箇所が風化してしまっているのは否めない。
MLBはもちろん、NPBも、この20年で随分と変化したので
この本を今バイブルのように理解するのは
意外と難しいのではないかという気がする。
また、2002年ということで、日本人選手がMLBで最も重宝がられた時期であり
今思えば、本書の随所に書かれている「日本人有力選手のMLB行きを食い止める」という文言が
おかしくもあり、懐かしくさえ感じさせる。
優れた本なのだが、激動の分野だけに寿命も短い、そういった本だった。

581korou:2020/08/30(日) 16:55:42
小堺昭三「西武VS東急戦国史 上」(角川文庫)を読了。

上中下の3分冊の本なので、
本来なら全部読んで「読了」としたいところだが
結構内容が濃いので
今回は1冊ずつ感想を書き記すことにした。

この上巻は
五島慶太と堤康次郎の生い立ちから昭和10年代までの
それぞれの活躍ぶりを記した本になっていた。
あまりに多くのことが記されていて
洩れなく感想を書いていくことすら困難だが
この2人に共通しているのは
すでに大学に入る時点で、いわゆる立志伝中の人物になっていたこと、
そして、その青雲の志が引き寄せたかのごとく
大隈重信、後藤新平、小林一三といった政財界の大物が
まだ20代の五島、堤の両名を支援するという展開になっていたことが
極めて印象的だった。
そして、それぞれに悪名が世間に流布したなかでの
事業の拡大、新事業の創業という点も共通している。
そして、他にもこういう強引な事業を重ねた人物も居るはずなのに
特にこの2人が注目されてしまうのは
やはり、大衆に密着した事業である鉄道、住宅の分野で
顕著な実績を挙げたことが大きいだろう。
これに、映画と野球、テレビなどのソフト面を加えれば
日本の大衆社会の形成という切り口で
まとまった思索が可能かもしれない。

そうした期待をもって、いざ中巻の読書に突入。

582korou:2020/09/04(金) 13:37:35
小堺昭三「西武VS東急戦国史 中」(角川文庫)を読了。

上巻の続きで、太平洋戦争途中から戦後の高度成長時代の途中までを扱っている。
何と言っても、
上巻からその生い立ち、事業の拡大をずっと追っていった五島慶太、堤康次郎が
この中巻の後半で大往生を遂げる場面が印象的である。
まさに”巨星墜つ”という感じだ。
丁寧に事実を調べ上げて、それを何気なく記していく著者の記述スタイルが
この中巻においてはまずます磨きがかかり
もはや夢中で読まざるを得ないわけだ。

そこから後の2代目の対比も面白い。
五島昇の協調的な性格、意外と包容力のある人格が素晴らしい割には
なぜか事業が停滞してしまうさまは
別の意味で劇的だし
堤清二の苦境は、諸事情からみて壊滅的であったのに
なぜか事業が好転していくさまは
この人の持っていた運を想起させる。

いやあ、本当に面白い。
通読したら面白い本だろうとは思っていたが
こんなにハマるとは想像以上だった。
さあ、下巻を読もう!

583korou:2020/09/09(水) 22:14:35
小堺昭三「西武VS東急戦国史 下」(角川文庫)を読了。

下巻ともなると、1970年代以降の話になるので
少なくともそこに書かれているエピソードの時代背景などについては
読んで新しく知る、という楽しみはなくなってしまう。
加えて、下巻の最後のあたりになると
この本の書かれた1980年代半ばでの現在進行形の話は中心になるので
理由のはっきりしたスカっとした叙述ではなくなり
ほぼ推察ばかりのモヤモヤっとした叙述ばかりになっていく。
しかも、2020年の今、そこに書かれていることの半分は
実際にはそうならなかったわけで(西武も東急もかつての栄光は消えている)
そうなると
中巻までのワクワクした面白さが激減した感じになる。
残念ながら、この下巻は、普通に面白い現代史というレべルにとどまった。

ただ、1980年代半ばでの建造物などが
2020年の今どうなっているのかという変遷を辿る面白さは
いくらか残っていた。
横井英樹のホテルニュージャパンがプルデンシャルタワーになっていたのは
事実としては知っていたが
それがかつての赤坂東急ホテルの隣地であることは
今回地図を見るまでは知らなかったし
その近くに赤坂プリンスホテルがあって
その正面にホテルニューオータニがあるということも
今回初めて知った。
こういうのは、こういう本を読まないと確認しない事実だろうから
その意味では貴重な読書だった。
また、上之郷利昭氏の「西武王国」を読む楽しみもできたというものである。

584korou:2020/09/13(日) 15:53:47
小藤武門「S盤アワー わが青春のポップス」(アドパックセンター)を読了。

前からの続きで、上之郷利昭氏の「西武王国」を読み始めたのだが
想定外に読んでもあまり面白くなく、ついには断念。
代わりに、全く違う種類の本だが、以前から気になっていたこの本を
読むことにした。
これは、軽く読める本だったので、ほぼ3日間で読了できた。
なかなかのアイデアマンで、現代にもこういう人材は引く手あまただろうと思われるほど
とにかく、宣伝のためには労力、根回し、人脈総動員を惜しまない人のようだ。
意外と強引かつ強面風の人らしく
最後のほうに小藤氏ゆかりの人たちの文章が収められているが
そのほとんどが、なかなかの難しい人、でもその芯の部分は心遣いのできる人という風に
書かれているのが興味深い。
こういう部分は隠して出版するケースも多いと思うが
その点で、この著者は正直で、まさに実直な人柄なのだろうと思われた。
また、この本で知った知識を
youtubeで確認しようとすると
意外なほどデータが見当たらないケースが多く
すでに昭和20年代〜30年代に関しては
ネットだけで言えば、確認不可能な時代になっているのだなと実感した。
小藤氏の功績についても、簡単に書いておこうと思ったが
まあ、忘れてもいいかなとも思ったので、ここでは略(でもWikiに項目は欲しいなあ)。
久々に、なかなか楽しい本でした。

585korou:2020/09/17(木) 14:54:23
「淀川長治自伝 上」(中央公論社)を読了。

以前から読もう読もうと思っていたが
なぜか手をつけられなかった本で
それは映画の古い面白話を読もうとするあまり
淀川氏の人生、それも背景となる
昔の神戸あたりの佇まいについての描写が
結構しつこく語られている出だしの部分で
つまずいてしまうからだった。
今回は
そういう部分も含めて楽しく読めた。
むしろ、そういう部分こそ丁寧に読んだ。
その上で、この無類の人とでもいうべき方の感受性、世界観などが
ハッキリと浮かび上がってくるのが感じられ
本当に読むべき時に読めて良かった、と思わざるを得ないのだ。

さらに言えば、やはり「映画に古い時代の面白話」も詰まっている。
これだけ読書意欲をそそる要素がてんこ盛りであれば
読書のスピードが進むのは当然だろう。
途中からは一気読みに近かった。
その勢いで下巻に突入することになる。

587korou:2020/09/23(水) 15:00:17
「淀川長治自伝 下」(中央公論社)を読了。

下巻の途中までは「自伝」で、後半はほぼエッセイのようなことになっていた。
それはそれで別に構わないことだが、淀川サンにそれほど興味のない人にとっては
羊頭狗肉のような感じかもしれない。
そのエッセイの部分も、いかにも淀川サンらしい人間観察のペーソスにあふれ
小説のワンシーンを思わせる描写ばかりだった。
もちろん、自伝部分も素晴らしく
戦後ともなると、実際にハリウッド、ニューヨークに出かけて
ハリウッド映画の多彩な主役たちと対面する場面が
どれもこれも魅力的で
しかも”とことん映画好き”ということだけでコミュニケーションをとろうとする
淀川サンの不思議な魅力に
どの「主役」たちも魅せられていくさまが
本当に読んでいて愉しくなるのである。

本を読んで、その場限りの面白さだったら
もう捨ててしまおうと思って自分の書棚の本を読み漁っているわけだが
この上下本の自伝は
捨てられるわけがない。
何度も読み直すわけでもないが
少なくともしばらくは手元に置いておこうと思っている。
淀川長治という人としての魅力にあふれた本である。

588korou:2020/10/13(火) 09:05:45
小林信彦「また、本音を申せば」(文藝春秋)を読了。

前回の読了本から2週間以上経ち、久々に県立図書館から本を借りて読んだ。
この本はその一発目。間違いのない小林さんのエッセーの最新作。

大病明けだけに、文章に乱れがないか素人なりに懸念したのだが
その心配は無用だった。いつもの小林さんだった。
ただ、1つだけ感想を記せば
古い映画の話よりも身辺雑話の類のほうがずっと面白かった。
もはや、小林さんの存在そのものが貴重で
小林さんの嗜好を楽しむというより
小林さん自身を楽しむという次のレベルに達している感じなのだ。
逆に言えば、そこまでいけば、もはやどんな文章でも大丈夫ということになる。
小林さんにとっては嬉しくもなんともない話ではあるが。

まあ、そんな感じで、いつも通り楽しく読めました。

589korou:2020/10/13(火) 14:26:14
中川一徳「二重らせん 欲望と喧騒のメディア」(講談社)を読了。

県立図書館で借りた550pもの大部な著書。
もともとは、1970年代のNET(テレ朝)で起きた大川博と赤尾好夫の主導権争いに
いかに田中角栄が絡んで、最終的に新聞社とテレビ局の系列化を実現させたかという事案に
興味があって借りたのだが
もちろんそのあたりの描写も詳しく参考にはなったものの
それは最初の3分の1あたりまでで
残り3分の2については、最終的にライブドアによるフジテレビ買収未遂劇に至る
放送人をめぐる人間模様の描写がメインの本だった。
しかも、そのほとんどが生々しいマネーゲームで
複雑怪奇な仕組みを活用した難しい話のオンパレードということになるので
そのあたりには素人の自分にはちんぷんかんぷんの全く分からない話ということになるのだった。
というわけで
最初の3分の1は、話の分野としては大好物で美味しく頂いたものの
残り3分の2は、次第に興味が醒めていく(話の中身が分からないので)一方の読書となった。
村上ファンドあたりがどう動いたのかとか
新しく知ったこともいくつかあったが
まあ、もう少し簡便に知る方法もあったのではないかという後悔も残る読書になった。
著者の文章は、専門知識とか人物相関図に詳しい人にはピンとくる感じだろうが
それらが不足する場合は、意外なくらい難解な文章なのではないかと思われた。

以上まとめれば
大好物と不満だらけが混在した困った書物だった。

590korou:2020/10/29(木) 14:06:28
クリスチャン・メルラン「偉大なる指揮者」(ヤマハミュージックメディア)を読了。

音楽鑑賞を体系的に続けているので
こういう本も読んでみようかと気軽に借りてみた本だったのだが
読み始めると、きちんとした評伝になっていて
思ったよりも知的刺激に満ちたタメになる本だった。
クーセヴィッキー、ストコフスキー、アンセルメ、ライナー、サバタ、ミトロプーロス、
オーマンディ、アンチェル、マルケヴィッチ、チェリビダッケ、ショルティ、ヴァント、
ドホナーニなど、今までは詳しく知らなかったその生きざまについて知ることができたし
フリッチャイの人生は特に印象深いものがあった。
マリス・ヤンソンスとネルソンスの関係なども興味深いし
バレンボイムとジャクリーヌ・デュ・プレの人生も
今回詳しく調べる機会ができて良かった。

案外、こういうシンプルな指揮者評伝というのは
なかなか出版されないようで
こういう本は本当に貴重である。
この指揮者にはこういう録音があって、その概要はこうであって、という類の本なら
巷にあふれているのだが。

また借りて読むかもしれない。
というか、立ち読みになるかも。

591korou:2020/10/29(木) 15:43:44
山口昌男「挫折の昭和史(上)」(岩波書店)を読了。

退職したらじっくり読み込もうと思っていた本。
読後の感想を率直に言えば
同じく退職後のお楽しみ本だった広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す」と同様
今の自分には無縁な本だった。
もはや、こういうペダンチックで話が脈絡なく飛びまくる蘊蓄歴史学の本については
以前のような興味を持ち得ないことを改めて悟った。
とにかく読んでいて非常に疲れるので
下巻については、読むか読まないかはともかく
少し間を空けることにした。

592korou:2020/11/04(水) 08:43:12
長谷川慶太郎「大局を読むための世界の近現代史」 (SB新書)を読了。

前半が第一次世界大戦あたりの経緯から第二次大戦後の冷戦の始まりと終焉を記述した
まさに近現代史の話になり
後半は、中国と北朝鮮の現状を分析し、その結果、両国の現体制(出版時の2014年現在)が
まもなく崩壊するはずという予言を書いた本になっている。
2020年の今、その両国は未だ崩壊どころか、その兆しすら伝わってこないので
後半部分は、そんな状況の時もあったということで割り切って読む必要があるのだが
前半部分の分析は、独特のロジックで、それなりの説得力もあり興味深かった。
特に、No.1Warのときのオーストリア軍の弱さが
いわば多国籍軍のようなもので共通の言語すらない事情に由来するものであることや
共産主義国家の運営が硬直化する理由を、実際にそれらの国々を訪問した実体験をもとに
分析している部分は、なかなか他の本では読めないところだと思った。
あとは、中国や北朝鮮の崩壊が、若干の遅れはあるが実現するのかどうかということだが
こればかりは著者が死去されたので、どうにも確かめようがない。
ただし、崩壊した中国が軍の分割状態になり、最終的に連邦制を採らざるを得ないことや
統一した朝鮮半島が巨額の資金、援助を必要として、その際、日本が重要な鍵を握ることになるはず
とかの予想未来図については、確かに現実味のある話だと思われる。

なかなか知的刺激に満ちた本だった。

593korou:2020/11/13(金) 09:24:29
谷口智彦「日本人のための現代史講義」(草思社文庫)を読了。

最近になって初めて、著者が自分の高校の同級生であることに気付いたので
急きょ県立図書館でこの本を借りて読んでみた次第。
読み進めていくのと同時に、著者の正体も徐々に分かってきて
とにかく安倍首相の側近、代弁者ということで世間から見られていることも判明。
たしかに、この本の著述でも部分部分におかしな箇所が見られるが
実際にこの本が書かれた年代である2013年には
すでに外務省の副報道官だったのだから(しかも安倍政権に移動した直後の時期)
そういうことの反映なのかもしれない。

とはいえ、こういう感じの現代史はもっと書かれて然るべきだとも思った。
編年体とか年代順という歴史叙述の常套は
現代史では必須でないだろうし
また、歴史の素人が歴史を語る際に、そういう制約は不要な妨げでしかないのだが
かといって素人は歴史を語るなということにはならないだろう。
素人も現代史をどんどん語るべきだし、それが多彩な未来像を保証することにもなる。
その意味で、この谷口流現代史の叙述は好ましく思われた。
その内容に関しては、いろいろとツッコミどころ満載とは思うが。

読んでいる途中は、部分部分で感心する箇所もあったのだが
読み終わってみると、その叙述スタイル以上に感銘を受けた箇所となると
意外と少ないという印象になった。
現代史を意義深く語るというのは難しい作業なのだと改めて思った。

594korou:2020/11/18(水) 19:08:13
県立図書館で借りた本で初のケース。

昨日、借りている「論壇の戦後史」(奥武則著)を返却期限延長をしようとしたら
期限2日前だったので処理できず
まあ今日になってすればOKと思い
その処理をしないまま、今日は県立図書館に行ってきた(さらに2冊借りる)。
帰宅後、期限延長をしようとすると
なぜか延長できない画面になっているので
おやっと思いよく見ると、何と予約が入っているではないか!
明日が期限なのに、急きょ予約が入ったので
明日また県立図書館に行かなくちゃいけない。
さすがに連日はこたえるなあ、疲れるなあ。
でもしようがない。
この本は面白いので、じっくり読もうと思っていた矢先の出来事。
また借りるときのために
どこまで読んだかメモっておこうか。
とりあえず第4章(106p)まで読んだ。
(「世界」の執筆者周辺で全面講和論のはずが朝鮮戦争勃発で動揺がみられたという記述まで)

まっ、次借りるときは全部忘れてしまい
また最初から読むことになるかも・・・・

595korou:2020/11/19(木) 16:33:13
昨日の書き込みから事情急変し、家人が明日図書館に行くというので
その便で返却してもらうことにして、今日はその「論壇史」を読めるだけ読んでおくことにした。
で、意外なほど読み進めることができて、ついに読了した。

奥武則「論壇の戦後史」(平凡社ライブラリー)を読了。
よくまとめてある本だった(その意味で期待通りだった)。
1970年までの「戦後史」になっているが
末尾に補論などが追加してあり。さらに「解説」の保阪正康氏の文章なども
その後の経緯なども違う視点で書かれているので
今回の増補版で名実共に「戦後史」の各論、論壇史として完成した形になっている。

それにしても、戦後から10年間ほどのソ連という国に対しての楽観的というか好意的な見方については
2020年の今となっては想像を絶するものがある。
逆に言えば、そういう実態とかけはなれた前提で為された論議であるゆえに
1960年代に顕著になった批判意見に対して無策というか無言にならざるを得なかったのだろう。
それが論壇の一区切りであり、簡単に言ってしまえば、無駄な25年間ということになってしまった。
ハンガリー動乱の際の、そういう左翼系学者の反応が象徴的に思えた。
「民度の低い国だから、ソ連が教育してるんですよ」という見方、今ではあり得ないと思う。

こういった今ではなかなか想像しにくい時代の論壇の趨勢を
見事にまとめている好著だと思う。
個人的な観点も多いが、さほど気にならないのは
大筋を押さえてあるからだろう。
未読で返却を免れて本当に良かった。

596korou:2020/11/23(月) 14:06:56
山川静夫「私の『紅白歌合戦』物語」を読了。

カーシーさんのHPでこの本の存在を知り、さっそく県立図書館で借りて一気に読了。
カーシーさんの紅白歌合戦ブログで取り上げていた1974年の紅白の模様が
同じようにこの本でも詳しく描写されていたので
その比較も面白かったが
さすがに実際に司会を担当した人でしか書けない生々しい記述も多く
一気に読むことができた。
感覚的には古いものを感じるが
それはさておき
記憶力の良い方なので
「紅白」に限らず
昔のNHKの話を
こんな感じでどんどん書いてほしいと思った。

597korou:2020/11/23(月) 14:24:42
追記:↑の本は(文春文庫)

598korou:2020/11/24(火) 07:38:18
「60歳からはじめるSNS」(日経BP社)をざっと読了。

全ページしっかり読んだわけではないが
必要な箇所はほぼチェックし終えたので感想を。
2017年12月発行の本なのに、もう内容が古くなっているのには驚いた。
懇切丁寧に図版を多用してビジュアルにわかりやすく見せているのに
肝心のその画面の外見が
今現在アクセスして見られる外見とかなり食い違っているのである。
さらに、LINE,Facebook、Twitter、Instagramのどのツールでも
フォームをモデルチェンジした際に常に何のヘルプも用意せず
「使ってりゃそのうち分かるだろう」という方針で通しているので
この種の本の価値はますます下がってしまうことになる。
やはりSNSは未完成なツールと言わざるを得ない。
これだけ普及しても、それに対応する態勢が間に合っていないのである。
せっかく”63歳からはじめよう”と思ったのに
これでは難しいなと実感した。
前回借りたスマホアプリの本といい、今回の本といい
借りてはみたもののなかなかものにならない。
いっそのこと語学に専念しようかな、いやムリかな、うーむ、迷うところだなあ。

599korou:2020/12/03(木) 14:31:19
宮下洋一「安楽死を遂げた日本人」(小学館)を読了。

本当は「安楽死を遂げるまで」を借りたつもりだったが(講談社ノンフィクション賞受賞作として)
読み始めると、その次の作品であることに気付いた。
というより、この本がノンフィクション受賞作と読み終わるまで思っていた。
たしかに、この本がもたらす衝撃というよりも
安楽死というものを本格的に紹介した前作のほうが
未読なのだが多分衝撃度は大きかっただろうと推測できる。
その衝撃度の大きかったはずの前作を受けて
(著者の考えによるところが大きいのだが)
まだまだ日本社会では安楽死の議論が不足しているということで
日本社会と安楽死というテーマで実例をもとに踏み込んでいったというのが今作だ。

そもそもが安楽死についての知識がなく
ゆえに安楽死をめぐる現状についても知識皆無だったので
読んでいて、新鮮な知的刺激と同時に
著者の考えにも違和感を覚え
さらに日本社会の安楽死への意識の変化についても確信が持てなくなった。
どう考えていいのか分からないという状態。
多くの人はそうだろうと思う。
そんな状態で議論など進むのか、
そうこうしているうちに、安楽死の「便利さ」だけが独り歩きしていきそうな雰囲気。
著者の努力?にもかかわらず、そんな未来が想像されて(今の日本にこういう問題を真摯に議論する余地などないだろう)
読後の印象は辛いだけだった。
話もどうしても暗くなるし。
でも良書であることは否定しない。

600korou:2020/12/09(水) 10:09:40
峯村健司「宿命 習近平 闘争秘史」(文春文庫)を読了。

最近、がっちりとした労作に出会わないなあと思っていたのだが
そういう欲求を120%満足させてくれた名著だった。
あとがきを読むと、和歌山カレー毒殺事件で
マスコミのなかで唯一、犯人とおぼしき人物との接触に成功し
スクープをとったのも束の間
別件でフライング報道の罰を受け、左遷同然に中国出張を命じられ
そこで一から中国語を勉強、出遅れのハンディを徹底した現場取材で補い
これだけの労作をものにされたということが分かる。
最初のほうは、米国での取材、それもかなり瑣末な部分を詳しくえぐりとっているように思えて
何だ、核心に迫らない本だったのかと失望感も覚えたのだが
第3章あたりから中国本土での話になり、
一気にリアルな権力闘争の内幕を暴く迫力満点の記述に切り替わったので
俄然面白くなった。
まさに鄧小平以降の中国の政界闘争の話であり
簿熙来失脚をめぐる内幕話などは
実際に取材した者でなければ、ここまでリアルには描けないだろいうと思われた。
習近平について知りたかったのだが
それについてもかなり満足度の高い読書となった。
あと1冊、この著者の中国モノがあるようなので、さっそく借りてこよう。
間違いなく、今年有数の読書体験だった。
万人にオススメできる名著である。

601korou:2020/12/17(木) 17:25:16
ベン・ライター「アストロボール」(角川書店)を読了。

久々のMLB本。なかなかの力作とはいえ
このところ名著が続くMLB本のなかでは普通の出来だった。
やはり、不祥事が発覚した後では、この本に書かれている特に後半部分について
文字通り受け取ることができないわけで
その点で、この本に書かれたアストロズの復活劇については
もう1つの本の存在が予定されていなければならないのだが
今のところ、そういう本が企画されることを待つしかない。

前半部分は、なかなかの出来である。
特にルーノウ、シグ達の
「マネーボール」バージョンアップ版ともいうべき思考方法は
データ野球を批判する人たちにぜひ知っておいてほしい事項ではないかと思った。
全体に、取材対象への愛情が溢れ過ぎて
彼らのしていることはすべてうまくいったという前提でもあるかのような叙述が
各所にみられ、それが全体の焦点をぼやかせているきらいがあるのだが
データ以外の重要なポイントをどうみるか、というところだけは、うまく描けている。
その反面、なぜバーランダーがトレードに同意したのかについては曖昧だし
なぜ2014年のドラフトで失敗したのかについての分析は叙述が不十分だし
ベルトランに至っては、もはや「もう1つの本」が出ない限り、
ある意味間違いだらけなのかもしれない。

とはいえ、貴重なMLB本だ。
今現在のMLBを知る上で必須の情報が詰まっているのは事実だ。
ファンであれば必読だろう。

602korou:2020/12/24(木) 10:14:31
中川右介・石井義興「ホロヴィッツ」(アルファベータブックス)を読了。

ホロヴィッツについての日本有数のコレクターと言われる石井氏のコレクションを
以前出版した高価な本の普及版として紹介するために
編集者として中川さんが労を取った本である。
ほぼ4分の3程度、中川さんのホロヴィッツ伝記が占め
その余白に頻繁にジャケット等の現物資料の写真等のデータが入り
最後に石井さんの文章とデータ一覧が掲載されるという体裁になっている。
例によって中川さんの文章は要を得ていて簡潔にして分かりやすい。
ホロヴィッツの一生が明確な姿で浮かび上がってくる。
石井さんの巻末のエッセイ風の文章も面白く
コレクターというのはこれほどの努力をするものだと感心させられる
(かつての「脱走1号」さんの雰囲気を連想してしまった)
特にホロヴィッツの大ファンということでなくても
これほどの大ピアニストなのであるから
この程度のことは知っておいて損はないということだろう。
これからは、ホロヴィッツの演奏を聴くたびに
ああ、この時期はこういう感じだったのだなと思うことになる。
読む前に想像していたよりも得るものは多かった本である。

603korou:2020/12/30(水) 17:51:05
「日本陸海軍のリーダー総覧」(「歴史と旅」臨時増刊 S61/9)を読了。

トイレ読書で読了。
何時から読み始めたのか記憶も過去の記述もないが
ほぼ半年以上は読み続けていたような感覚だ。
かなり分厚いムック(424p)なので
毎日とはいえごく短い読書時間で
本当に読み終えることができるのかどうか、途中でくじけて止めてしまうかも
とも思ったのだが
本日、無事読了。
150名もの軍人について記載してあるので
もはや細かいことは全部忘れてしまったが(半年前に読んだところなどは特に)
何となく全部を網羅したという達成感で
日本の軍人についての基礎知識を身に着けたような感じで
勝手に悦に入っている。
間に挿入されている棟田博氏などのエッセイは秀逸。

604korou:2021/01/01(金) 18:56:29
「全著作 森繁久彌コレクション 1 自伝」(藤原書店)を読了。

600p余もある大部な本で
面白い内容にもかかわらず
(年末年始という時期でもあり)読了するのに結構時間がかかった。
第1部が「私の履歴書」で、すでに第2部を世に出していた森繁さんが
日経のそのコーナーに書いたのは、自らの出自と満州へ渡るまでの半生の出来事。
第2部が、昭和37年に50歳のときに書いた「森繁自伝」で
これが今の自分の出発点であることは間違いないところ。
第3部と第4部は、文筆家でもあった森繁さんが
折に触れて雑誌などに書いた文章をまとめたもので
第3部「満州」は、第2部の自伝の内容と重なるところが多く
ここが一番読んでいて難しいところだった(飛ばし読みしたいのだが、うまく“飛ばせ”ない)。
第4部「わが家族」は、森繁一家の日常エピソードをまとめたもので
このあたりは始めて知る事実が多く、奥様がこれほどの冒険家(シュヴァイツァーに憧れ
単身で会いに行く。日本女性初の南極訪問など)だったとは知らなかった。

こうしてみると、やはり第2部「自伝」の面白さは格別で
今となっては
若い頃にこの本に出合った幸運を喜ぶ他ない。
他にもいろいろ感想は多いのだが
今回はあまりぐだぐだと書くことは止めておこう。
余韻にも浸りたいので。
2021年最初の読了本です。

605korou:2021/01/05(火) 15:53:01
峯村健司「潜入中国」を読了。

前回読んだ同著者の本と、内容は一部被っているものの
権力闘争に焦点を合わせた前回の本と比べると
今回はテーマが広範囲にわたっていて
現代中国をコンパクトに知るには
こうした新書の形で手っ取り早く知るのがベターだろうと思われた。
ただ、新書サイズの制約のなかで、ここまで広範囲に話を広げてしまうと
どうしても中途半端な形、展開不十分な話になってしまうことは避けられず
読後の充実感という点では、前著に及ばなかったのが実感である。
それにしても怖いのが、最後の章に書かれていることで
今現在の中国は「1984(オーウェル)」のような強烈な監視社会になっていることだ。
中国の真実を知ることは、もはや国外でしか可能でないように思え
ゾッとした。

(以下どうでもいい話だが・・・)
アマゾンの書評は(あまりにくだらなくて)もはや滑稽である。
自分の信じたいものを信じるという子供のような精神状態の人たちが
この好著のなかに、信じたくないものを重箱の隅を突くようにして見つけて
こき下ろすという書評があるのだが
それがアマゾンのレビュアーでナンバーワンの存在の人だというのだから
笑ってしまう。
その方が、この本に代わって推薦する本というのが
どう見ても嫌韓、嫌中の類の本なのだから、いやはや・・・

606korou:2021/01/13(水) 15:40:50
中川右介「ロマン派の音楽家たち」(ちくま新書)を読了。

今回の中川本は、人物が複雑に入り組んで絡み合い
それを、最初の部分を除いて、すべて暦年別に記述してあるので
記憶力のない自分には、結構読み辛い本になった。
原則として、メンデルスゾーン、シューマン、ワーグナー、リスト、ショパンという5大音楽家の
1820年代から1840年代にかけての足跡を記した本ということになるが
それぞれに関係する人物の人数も多く、さらにベルリオーズの物語も追加され
誰が誰やら、あるいはそこまでの経緯はどうだったか、ということを確認するために
今読んでいるところから数ページ以上遡って該当箇所を探すという作業を
読書中ずっと続けなければならなかった。
そういう手間を惜しまずに読んだ結果
結構、この昔々の天才たちの進化ぶり、恋愛の様子などが
読む前には想像もしなかったほど具体的に脳裏に刻み込まれ
今は、一刻も早くWikipediaで再確認したいと思うほどである。
相変わらず、史料の読み込み、各史実の展開のさせ方など
さすがのプロの仕事だった。
正直、対象そのものへの興味は低かったので
読む前にはそれほど期待していなかったのだが
読み終わると、いつもの満足感がいつものように残った。

607korou:2021/01/19(火) 15:47:08
石原豊一「野球の世界情勢」(ベースボール・マガジン社)を読了。

何となく借りた本だが
ひょっとしてこんな内容だったらタメになるかなと思ったレベルに
十分達していた本だったので良かった。
ただ、この時期(冬。眼痛がしばしな起こる季節)だけの難しさで
ちょっとした活字の小ささが途中から気になり始めて
20ページほど読んだら目が痛んでくるのには弱った。
なかなか読書が進まない、その割には知らない事実が多すぎて
ちょっと前のページでも記憶が定かでなくなるので
何度も読み返すということを繰り返していたので
読了まで予想以上の時間がかかった。
結局、記憶力の限界というべきか
ちょっと前にも中南米の野球の本を読んだというのに
それでも各国の野球事情について
いまだにハッキリとは覚えられていないわけだ(読破直後の今でさえ)

ヨーロッパ各国の野球については
今まで全く知らなかったので
今回の読書はタメになった。
まさに、レジャーとしての野球、社交場としての野球場といった感じで
それぞれの国々でそれぞれの問題点が山積しているのも事実。
その点、中南米あたりは、真剣モードで、問題点も深刻なものが多い。
野球が盛んな国でのオリンピックの場合、野球は公開競技として復活の可能性は大、という指摘も
新鮮だった。
まあ、野球の本なので、どう読んでも愉しいのは愉しいのだが。

608korou:2021/01/31(日) 14:36:33
ピーター・ヘイワース「クレンペラーとの対話」(白水社)を読了。

音楽鑑賞を続けていると
どうしてもクレンペラーという人の巨大さを意識せざるを得ないことが
たびたび起こってくる。
いつかこの人の生の言葉を知らなければという思いが深まってきて
今回、県立図書館の書庫から引っ張り出してきて借りて読んでみた。
残念ながら、その生の言葉からは、クレンペラー自身が経験した時代である
西洋音楽としては古き良き時代ともいえる
20世紀最初の頃の時代の雰囲気だけが伝わってきて
彼自身の独特の叡智に満ちた言葉で、具体的に詳しく語る部分はなかった。
他人への批評、特に自分より年少の人たちへの言及もごく僅かだった。
いくらか記憶に残っているのは
「前衛音楽を紹介しようとかそういう意図は全くない。クロールでは、よいものを創ろうとしただけだ」
「今の指揮者(1960年代後半)たちは、踏むべき段階があるのを知らないか、もしくは忘れているかのようだ」
「十二音音楽が特殊だというのは偏見だ。古典派音楽も十二音使って書かれている。同じ音楽なのだ」
という言葉。
だが、その言葉は言い足りないことだらけだろう。
興味深いインタビュー本なのだが
クレンペラーの創造したその音楽の深遠さを説明するパンフレットにはなり得ていない。
インタビュアーの丁寧な進行が感じられて、悪くはない本だけれども。

609korou:2021/02/02(火) 09:38:25
読了した本ではないが、気になる本。
「スマホで見る阪神淡路大震災」(西日本新聞社)

映像を、本に記載のQRコードをスマホで読み取ることで実感できる本。
買ってもいいかな、と思ったりする。

610korou:2021/02/03(水) 16:39:09
「私の履歴書 経済人12」(日本経済新聞社)を読了。

6名の履歴書の内、永野重雄、加藤辨三郎両氏のものは既読なので
残る木下又三郎、司忠、砂野仁、倉田主税の4名分を今回読了した。

司、砂野両氏は、令和の現在、読むに堪えないものがあった。
昭和においても、こういう人の配下で働かざるを得なかった人たちは
相当苦労しただろうと思う。
木下氏のものも、自慢話のオンパレードなのだが
苦労の度合いが違うので、むしろそっちに意識が向かい
そこまでの嫌悪感は感じなかった。

日立製作所社長を務めた倉田氏の履歴書は興味深く読めた。
さほど苦労せずにのんびりと生きてきた倉田氏が
小平社長の人格に触れ一気に目覚めた後の人生は
壮絶というか、まさに苦労の連続であり
また実際の出来事を正確かつ細やかに記憶されているので
それがどういう苦労なのかが、そこから半世紀以上経った令和の今読んでも
手に取るように分かるところが凄いのである。
この倉田氏の慎重かつ堅実、謙虚な姿勢が
日立の社風、というか経営首脳陣の空気を作り上げたのだろうと推察できる。
昭和の経営者として模範的な生き方だったろうに違いない。

砂野氏などは1899年生まれ(司氏でも1892年)で
倉田氏の1889年とはほんの少し世代が違うのだが
その差は大きいような気がしてきた(その他、今までに読んだ人たちを思い起こせば)

611korou:2021/02/14(日) 22:58:18
佐野眞一「唐牛伝」(小学館)を読了。

今までの佐野氏の著作と比べると
信じがたいほど未熟な本だった。
著者は、これこそ今自分が書くべきテーマであり
そのことに確信を抱いていたはずだが
実際にはそういう思いとは程遠い駄作となったと言える。
佐野氏自身もそのことを直感として感じたのか
この作品以降全く何も書けていない。
無理やりに自らの体験と近い題材にして
さして効果のあったと思えない現場取材を重ね
そして、それをまとめるにあたって
それまでの著作ではあり得なかったほど混乱した記述を重ねているのを
読みながら感じてしまい
こうして優れた著作家は急に衰えていくこともあるのだ
と驚くばかりだった。
実に読みにくい。
インタビュー部分を不必要なくらいに分割して
他のインタビュー記事と混ぜこぜにしているので
今一体誰のインタビューを読んでいるのか
注意していないと分からなくなる箇所が何度もあった。
取材をいとわない姿勢はさすがだとは思うのだが
その取材自体、あまりにも無収穫で無駄で無意味なように思える箇所が
頻繁に見受けられ、全体として生煮えのノンフィクションとなった。
唐牛健次郎の生き様は、ある程度伝えられてはいるが
今までの佐野さんなら、こんな生ぬるい著作では終わらなかっただろう。
最近、新作が出ないなあと思っていたが
もはや魅力的な新作が書ける状態ではないのだなという
悲しい事実を確認するだけに終わった。

612korou:2021/02/24(水) 17:48:28
湯浅博「全体主義と闘った男 河合栄治郎」(産経新聞出版)を読了。

イギリスの理想主義に啓発され、戦前日本で唯一と言っていいほど自由主義に徹して
マルクス主義ひいては軍部という巨大な影響力を持つ権威、組織と闘い続けた河合栄治郎という人を
もっと知りたくて借りて読んでみた(丸山真男の対談集でしばしばその名前が出てきたので、その影響もある)
この本を読んで最も興味深く思ったことは
河合栄治郎は志半ばで病魔に倒れたものの(このことは戦後まで生きていたら日本の将来も変わっていただろうという
想像をたくましくさせる。でも吉田茂も河合ほどではないもののイギリス仕込みの自由主義の理解者であったから、
やはり対GHQという点では同じだっただろう。もっとも、吉田学校みたいな趣味が河合にはなかったので、そこは大きく
違うわけで、その意味ではポスト吉田とポスト河合は随分と違ってきたのかも。つまり、池田にも佐藤にも吉田のような
哲学はなかったわけで、その点で河合が政治家の中に後継者を見出せていたとしたら、それは大変な功績になったはず)
その河合の仕事を、弟子たちが戦後になって社会思想研究会という形で受け継ぎ、社会思想社を立ち上げ、個性的な出版物
を世に送り出すことで、一般人にもその特徴を伝えたという点だろう。自分もその影響を大きく受けた。小学生低学年なのに
「教養人の手帖」などという凄い本に出合ったり、映画に関しては「教養文庫」なしで今の知識にたどり着けたとは思えない。
そして、その反対側で権威を保っていたのが、「非武装中立」路線の進歩的文化人という立場で、この本は書かれている。
まさに社会党、共産党VS民社党という構図だ。その意味でこの本の主張は部分的に正しい。しかし、本当にそんな野放しの
非武装中立論ばかりだったのか、非共産党陣営の論者でもっと現実的な主張をする人も居たのではないかという疑念も残る。
以上は戦後の後継者たちの話であり、読後の印象もそのあたりが自分には生々しく残るのだが
戦前の河合本人の活動そのものについても、軍部と真正面から闘った勇気は大いに称えられていいのは言うまでもない。
そこには明治人としての国家意識、天皇賛美の傾向が残るとしても
逆に良心的知識人がたどり着いた人間像として分析すべきではないかと考える。
何でも現代の基準で過去の人物を裁けばよし、ということではないのである。
最近はそういう傾向が強まっているので、それには断固「否」と言いたい。

613korou:2021/02/27(土) 15:02:15
浦久俊彦「ベートーヴェンと日本人」(新潮新書)を読了。

書名とは違って、ベートーヴェン限定ではなく
明治・大正時代の日本においていかに洋楽が広まっていったかについて
その様子を大まかに伝える本になっていた。
読後の印象としては
文章があっさりしているので特にひっかかるところがなく
結果として記憶に残るポイントが皆無、新しく何を知ることができたのか不明という
残念なことに。
もう少しトリヴィアを掘り下げてほしかったし
こういう類の本であれば
それぞれの団体、個人のつながりに着目して
現存団体のルーツはこれになるというような叙述がもっと欲しかった。
読みやすいのはいいのだが、ここまでライトだと
結局何も得られないという典型的な本。

614korou:2021/03/08(月) 10:12:02
谷川建司「映画人が語る 日本映画史の舞台裏」(森話社)を読了。

たまたま県立図書館で見つけて借りた本。
最初のほうは特撮技術の専門的な話が多く
読み進めるのに難渋したものの
途中からは映画興行、宣伝などの話が中心となったので
かなり読みやすく、かつ面白く読めた。
2010年代に行われた”聞き書き”なので
映画黄金時代に仕事をされた方々の思い出を記録するのに
ちょうどギリギリの時期となり
その意味で谷川氏他の関係者の人たちは
本当に良い仕事をされたと思う。
無茶苦茶な労働環境と、何事にも大雑把で管理など後回しという
イメージの強い昭和20年代・30年代の映画界の様子が
具体的に語られていて、かなり面白い。

不満な点をいえば
東宝、大映、東映(特に動画関係)についてはかなり語られていて
それぞれの会社の沿革もWikiで補足して調べたりできたが
日活と松竹については、ほぼ語られていないので
そこは後日の研究を待つしかない。
それとインタビュアーの事実認識がズレている点も
随所にみられるのだが
できればインタビュアーの経歴も巻末に列記してほしかった。
たとえば1980年代で映画館が特撮映画特集をすれば、客が集まるのは容易に予想できるのに
「ビデオが普及していたはずなのでその影響はなかったのですか」などと頓珍漢な質問をしたりしているので。
若い人ならともかく、リアルタイムでその時期の空気を吸っていたなら
こんな質問は出ないと思うので。

615korou:2021/03/09(火) 17:03:12
断念した本・・・「朝鮮語を学ぼう 改訂版」(三修社)

この上ない詳しい本なのだが
理解が難しい箇所を丁寧に易しく書くという修行ができていない人が書いているので
途中から何を書いているのか全く分からなくなってしまった。
まあ、100ページほどは読めたので
少しは役に立ったということにしておこうか。

616korou:2021/03/11(木) 22:02:33
読了本といえるかどうか、半分しか読んでいないのだが
大物クラスは全部読んだつもりなので、とりあえず読了ということで・・・
瑞佐富郎「さよなら、プロレス」(standars)をほぼ読了。

(読了)
阿修羅原、アントニオ猪木、ザ・グレート・カブキ、前田日明、ジャンボ鶴田、スタン・ハンセン、
馳浩、小橋健太、田上明、佐々木健介、天龍源一郎、長州力、獣神サンダー・ライガー

(未読)
浅子 覚、垣原賢人、SUWA、ミラノコレクションA.T、力皇 猛、井上 亘、スーパー・ストロング・マシン
アブドーラ・ザ・ブッチャー、飯塚高史、中西 学

まあ、こうしてみれば、ブッチャーを除きほぼ網羅できたかなという印象。
なかなか独特の熱量の文章で、プロレスともなればこの熱量なのかなと納得もした。
とにかく、団体の乱立、メンバーの移動の激しいスポーツで
そのこと自体がこのスポーツの面白さでもあるようなので
Wikiで参照しながら読んでいると時間がかかること夥しかったが
なかなか楽しい読書&調べ物だった。
このくらい仕入れていると
アサヒ芸能の連載も比較的すらすら読めるかも。
って、何を目指しているのか、自分。

617korou:2021/03/24(水) 09:40:36
<日本の新常識研究会編>「令和の新常識」(PHP文庫)を読了。

雑学を増やしたい、クイズ番組で優越感に浸りたいというような目的で借りた本。
そういう欲求を満たすという意味では期待通りの内容だった。
ただし、幅広いジャンルにわたって新常識が書かれていたので
それらをすべて覚えて自分のものにすることは不可能だ。
この種の本を何度も何度も繰り返して読めばいいのだろうが
さすがにそういうマニアックな読書に挑戦する意欲はない。
まあ、時々、こういうのも借りてみるか、という程度の話。

618korou:2021/03/24(水) 09:46:04
高城千昭「『世界遺産』20年の旅」(河出書房新社)を読了。

世界遺産について何も知らないに等しいので
ちょっと知識を仕入れておこうという程度のノリで借りた本だが
これが予想以上の好著で、読んでいて本当にタメになった。
世界遺産の基準(10ポイント)について、具体的にわかりやすく書かれてあり
さらに、世界遺産をめぐる現在の問題点、課題も適切にまとめられていて
何よりも、随所に、著者が実際にその世界遺産を訪れた体験談が語られているので
叙述にリアリティ、説得力があるのが良い。
これを機会に
もう少し、世界遺産について読み込んでいこうかという気にもなった。
今月の読書のピカ一。

619korou:2021/03/30(火) 16:51:12
山平重樹「実録 赤坂ニューラテンクォーター物語」(双葉社)を読了。

以前「東京アンダーグラウンド」(R・ホワイティング)に書かれていた力道山と東声会の関係とかにも
興味があり、借りて読むことにしたが
まあまあ面白いものの、何となく苦労せず成功した若社長の物語という体が強く感じられ
イマイチ読み進むスピードに加速がかからないもどかしさがあった。
それが、力道山刺殺の現場に居合わせた若社長ならではの
生々しい描写のあたりから俄然面白くなり
後半は一気に読み終えてしまった。
確かに物凄い苦労などは皆無なのだが
それなりに苦しい体験も豊富で
何よりも空手経験者としての強みが
山本信太郎というこの若社長の強みだろう。
単なるボンボンだと、こうまで裏社会の実力者から気に入られることはないはず。
体育系ならではの礼儀正しさもあっただろう。
児玉機関系列の人脈と、博多の頭山満系統から流れる人脈が
程よく住吉系ヤクザ、山口組関連のヤクザ、あるいは東声会、稲川会も含めて
最上の形でこのナイトクラブ「ニューラテンクォーター」に融合しているかのようだ。
上質な文章、文体とは言えないが
まとまりのある分かりやすい構成で、ある意味描写の難しいこのジャンルのこうした本を
見事に書き切った著者も良い仕事をしたと言える。
裏社会を描きながら、読後の印象が薄暗い感じにならないのも良かった。

620korou:2021/03/31(水) 14:15:46
読むのを止めた本
「世界遺産に行こう」(学研パブリッシング)
止めた理由・・・世界遺産に興味が失せたから(飽きっぽい・・・)

621korou:2021/04/16(金) 17:31:18
井川聡「頭山満伝」(潮書房光人社)を読了。

読売新聞編集局次長などを務めた著者が
地元福岡で親しんできた玄洋社ゆかりの人たちの話などをまとめて
600ページを超える大著として
意外にも世に出ることの少ない近代日本の巨人である頭山満の伝記をものにした本。
著者自らあとがきで記しているように
歴史の専門家でもなければ、ノンフィクションとして定評のある書き手でもないのだが
とにかく対象となる人物への親愛の情、敬愛の念はピカ一な本になっている。
正伝というには程遠く、伝聞の事実を常識の範囲で吟味したとでもいうべき事柄を
時系列も自由に羅列している一方で
史実の検証、細部の検証などは後回しになっている印象は否めない。
その意味で、あくまでも正伝がない現状のなかで
そのうちに伝聞の事実すらもつかめなくなる最悪の事態を避けるために
とりあえず叩き台として伝聞事実を網羅し、うまくいけば入門用の書としても重宝されればよいという意図のもと
一定の決意のもとに出版されたということなのだろう。
読後の印象では、その意図は十分に達成されているように感じた。
あくまでも当座の整理の本であり、この本に示された思想、考えをどう受け止めようと
それは読者の自由だろう。
例えば、頭山の思想を阻んだのは、軍部の暴走、つまり軍という組織の崩壊が大きい要素なのだが
そのことについての記述がほとんどなく
もっぱら支配者層のミスリードという形で批判が集中しているのだが
個人的にはこういう叙述は中途半端で首肯し難いものがある。
しかし、それはそれでいいのである。
この本のおかげで、頭山の思想は十分に伝わってくるし
その人脈、交友関係もほぼ完ぺきに理解できたように思う。
その意味で、この本は、その後の知識の補充、さらなる考察を要求する本でもある。
名著ではないが、日本の近代史を考える上で重要なピースとなる人物の生き様を
自然体で描いた好著ということができるだろう。

622korou:2021/04/20(火) 15:31:58
金成玟「K-POP」(岩波新書)を読了。

あまり期待もせず、まあこのジャンルの網羅的理解の助けになればと思い借りた本だが
読んでみると意外に役に立って面白かった。
ほぼ時系列で書いてあるので読みやすかったが
所々で抽象的な理屈が混ぜてあって、そこがひどく理解しにくい文章になっていたのが
玉に瑕といったところか。
別スレに要点だけ抜き出してみたが
途中から面倒臭くなり止めてしまった。
もう1回、この種の本を通読すれば
今度はかなり明確に記憶できそうなのだが
そこまでの手間をかけるかどうかは今は分からない。
K-POPの本なのに、J-POPとの対比が書いてある箇所があって
そこは非常に参考になった。
K-POPは常に外に開かれていて、その実質について客観的な定義を試みることは可能だが
J-POPは基本的に自己規定の概念であり、定義自体が形式そのものであるという異形な言葉なのだということ。
だから、J-POPについて言えば
その範囲は明確な一方、それ以上に実質的な意義はその言葉からは見いだせないのに対し
K-POPについては、実質を示す言葉でもあるので(勿論、韓国のポップスという形式的な意味も含んでいる)
さらに深い考察も可能な言葉なのだということ。
そこに、音楽産業として見た場合、J-POPと比べて、より意図的な、何かを指向することが明確な傾向が顕著で
ゆえに、このような書籍で語ることが可能であり、意味もあるということになる。
J-POPを語ると、こうはいかない。
もっと雑然とした雑駁とした内容のものになる。
指針のない文化は徐々に避けられる時代になってきたと思うので
K-POPの未来は明るいだろうなと思う(J-POPはその点危うい)。
そんなことを思わせた本だった(好著)。

623korou:2021/04/26(月) 12:24:49
許永中「海峡に立つ」(小学館)を読了。

以前から関心のあった許永中について
自伝が2019年9月に刊行されていたようなので
さっそく県立図書館で借りて読んでみることにした。
内容は予想通りというか
少し文章に騙された感もあるが(一読、極貧の出と勘違いさせられた)
少年期から父親の名声により
在日としては優位な立場に立った上
いろいろな人脈を培いのし上がっていったという人生が
描かれていた。
最初は、ほぼ極道ばかりで
それでも当初から同和関係者の知己も多かったのだろう。
それから、大谷貴義などとの関係も生まれ
この本には書かれていない人脈筋もできていったのだろう。
お金に関しては、当初は同和関係で、それから住友の磯田などが絡んだいたのだろう。
だから、検察も、住友を直接やるわけにもいかず
許が犠牲になったのだと考えられる。
まあ、それにしても
目一杯生きた人生だから悔いはないはず。
その意味では爽快な味も残る自伝なのだが
でも、やはりドロドロしているのは否めない。
反社、というのはこういう人のことを言うのだろう。
でも、社会から抹殺するだけで本当にいいのだろうか。
本当に悪い奴はもっと居るはずだ。
許の自伝を読んで、ますますそう思えるようになった。
文章は雑で、どことなく偏りもあるが、それでも名著の部類だと思う。

624korou:2021/05/10(月) 17:36:21
時枝威勲「面白いほどよくわかる世界の王朝興亡史」(日本文芸社)を読了。

前半がおもに地理的にヨーロッパの王朝興亡史、後半は中国とイスラム世界の王朝興亡史という構成。
かなり多くの誤植が見られたが
それを上回る数多くの知識、情報が詰め込まれた好著で
読んでいて本当にタメになった。
周辺が中枢に入り込み新陳代謝を行うという”王朝の移り変わりの本質”が
繰り返し語られ
特に中国王朝の歴史は
その視点で見直すと全く違った形に見えるのが実に面白かった。
イスラム王朝の複雑な展開も
何となくではなるが全部理解できたような気もするし
その意味では後半の叙述について
知らない事実が多かったので、得るものが多かった。
前半部分にしても
ローマ時代などはあまり知らなかったので興味深く読めたし
まさに、この本のおかげで
ここ数年で興味が湧いてきた世界史全般に
一層関心が深まったような気がする。
となれば、次読むのも世界史の本かな。

625korou:2021/05/18(火) 18:01:23
広瀬隆「ロシア革命史入門」(インターナショナル新書)を読了。

世界史に興味が湧いているこの頃
広瀬氏が書いた「ロシア革命」の本を見つけ
面白そうと思い即借りたのだが
その一方で極端な陰謀論に基づく歴史叙述だったら困るなという
思いもあった。
読了した今、そんな懸念は無用だったといえる。
戦争回避が最大目的の「ロシア革命」だったというのは
広瀬氏が思うほど知られていないわけでもなく
むしろ、知られていないのは、革命成就後の戦時体制の名を借りた
度を過ぎた独裁政治ぶりのほうだったろう。
とはいえ、戦争回避の革命という部分も
世間の常識ということではなく、自分も知らなかったことなので
このコンパクトな新書全体を通じて
初めて知る史実が多く、大変タメになった。
また違った目、史観で見た「ロシア革命」の本を
読みたいとも思った。
やはり、広瀬氏の叙述は独特なので
面白く一気に読み切るには最適なのだが
世間一般的にはどうなのかという”セカンド・オピニオン”も
求めたくなるので。
全体としては、テーマの目のつけどころもよく、好著の部類だと思う。

626korou:2021/05/25(火) 09:15:38
吹浦忠正「『平和』の歴史」(光文社新書)を読了。

平和について書かれたまとまった本を探してはいたので
ひょっとしてと思い県立で借りた本。
全部で10章から成り、テーマ別に平和の歴史を叙述するスタイルだったが
読んでみた結果
最後の2章以外は、
著者の個人的意見を具体的な史実にあてはめて解釈するという
ある種残念な本になっていた。
ただし、著者は机上の空論を延々と述べているわけではなく
実際に国際平和に関する活動を続けて居られる方なので
それなりの説得力はあるのではあるが・・・
最後の2章は、これまでの世界の歴史のなかで
平和について考察するにあたって参考にすべき人物とその思想を
コンパクトにまとめていて
さらに、実際の国際平和活動に際して
どのような団体が存在し、またどのような方法が試みられているかを
ざっと叙述してあるので
案外、こういう類の「まとめ」はそう簡単には目にしない実情を思えば
なかなか貴重な本であるように思えた。
それにしても「憲法第九条」というのは
なかなかデリケートなものであるということもよく判った。
実際に活動を続けて居られた吹浦氏の文章からも
それは端々からよく伝わってきた。
同種の本が数多く出版されることを期待している。

627korou:2021/06/01(火) 11:56:48
八幡和郎「「領土」の世界史」(祥伝社新書)を読了。
(注:書き込み日付は6/1だが読了は5/31なので、5月読了分としてカウント)

世界史への興味が、ひいては各国史への興味にまで広がってきたので
こういう本を借りてみた。
一応その興味は満たされ、さらに未知の史実を知ることも多かったので
意義深い読書にはなったが
その反面、かなり多かった誤植に加えて
著者自身の記述ミスも信じられないほど多く
それらを確認すること自体は大変勉強になったものの
結果としてそういう作業に熱中するあまり
読書以外の時間を大幅に食ってしまうということにもなった。
まあ、全体として意義深い読書にはなったのだが。

オランダの実質首都がハーグであることは今回初めて知った。
その他にも、フランスの中世の混乱ぶりとか
スペイン、ポルトガルの近代史の具体的イメージとか
ロシア史のなかなかな面白さなど
世界史を学ぶ楽しさ満載の読書となった。
本としては、ミスが多すぎるので手放しで褒めるわけにはいかないが
今の自分にぴったりの本であったことは間違いない。

628korou:2021/06/29(火) 20:34:41
みの「戦いの音楽史」(KADOKAWA)を読了。

1か月ぶりに開館した県立図書館で
新刊コーナーにこの本があったので
今やっているyoutube動画編集作業との関連も感じられて
借りることにした。
実際に読んでみると
前半はまあまあの感じで、後半は期待外れという感想。
もともとボリュームのない本(大きな活字で250p程度、1時間で読もうと思えば読める)なので
内容の詳しさとかは期待していなかったが
1990年以降の音楽について、あまりにあっさりと書かれていたので
知りたい知識が全く増えなかった。
それ以前にしても
網羅的ではあったけれど
さすがに叙述が簡単すぎるのと
主な重要人物の選択にも制限がかかっていて
物足りないこと夥しかった。
やはり、この種の本をキッチリ書くのは難しい作業なのだろう。
誰か書いてほしいのだが。

629korou:2021/07/05(月) 11:19:01
伊藤金次郎「陸海軍人国記」(芙蓉書房)を読了。

トイレに持ち込んで、ちょっとずつ読み進めていた本で
1回につき1〜2ページ程度しか進まないので、毎日の用足しとはいえ
500ページ上下2段組みの本なので、読了までほぼ半年から1年近くかかった(読み始めの正確な日付が分からない)。
なにはともあれ、本日読了したので
古本市で20年ほど前に買ったこの本を、やっと読了できたことになる。

もともとは昭和14年に発行された本で、それを昭和55年に復刻したものを手に入れたわけである。
日中戦争が最も有利な展開になっていた時期で、まだ事態は泥沼化していないので
軍部を語る口調は肯定的で、日本の未来は明るいものとなっている。
本の構成は、日本列島を自在に横断し、各地方別に出身軍人を取り上げるというもので
やはり将官級人物を中心に、将来有望な左官級軍人をいくらか混ぜて
その功績がつぶさに語られている。
このような経緯、時期で出版された本だけに
2021年の今読み返すならば、かなりのリテラシーと予備知識が必要であることはいうまでもない。
少なくとも、陸軍の長州閥と海軍の薩州閥については知っていないと判読不能にもなるし
日本万歳風の叙述も、当時の世相、軍部礼賛の「空気」を察知して読まなければならないだろう。

そのような制約があるとしても
これだけの人数の軍人をとりあげて人物評している本は
なかなか見当たらないので貴重である。
読めば読むほど手放せなくなる本であることは間違いない。
巻末の索引も重宝するし、我ながら良い本を入手したものだと自画自賛したくなる。

630korou:2021/07/07(水) 18:18:58
君塚直隆「ヨーロッパ近代史」(ちくま新書)を読了。

中世以降の西欧史に興味を持ち始めていたので
この本を図書館で再発見(一度見つけていながらその5分後には無くなっていたという体験アリ)した時には
即借りることにした。
しかし、読み始めて、それが特定の人物の小伝をつないだような叙述であることが分かり
いささか気が削がれた。
それでも、基本的な史実については洩れなく記されていたので
少しずつでも読み進めていくことにした。
それにしても、その小伝がすべて近代の芸術・科学の担い手ばかりで
いうなれば統治者の歴史からみれば脇役に過ぎない人物ということなので
やはり隔靴掻痒の念は免れない。
王や皇帝を中心にした西欧近代政治史を読みたかったのだということを
改めて感じた次第である。
そうした点を除けば、叙述はシンプルで分かりやすく
しかも最後のまとめの章で、西欧の近代に芽ばえた「個人」の意味を追究する叙述などは
著者の史観をも連想できるものであり
歴史の叙述として一貫したものを感じ、なかなかの好著だと思えた。
それにしても、最後の方のレーニンの小伝など
つい最近別の本で同じような内容を読んだはずなのに
その大半を思い出せないという情けない記憶力を感じてしまった。
仕方ないのだが、がっかりである(自分に)。

631korou:2021/07/12(月) 17:24:44
吉沢英明「Wikipedai完全活用ガイド」(マックス)を一通り読了。

もともとは、そろそろWikipediaへの投稿を再開しようかなと思い
その参考にと思って借りた本だったが
内容が薄すぎて、その目的には全くふさわしくない本だった。
Wikipediaに関するマニュアル本というのが
ほとんど出版されていないのが現状なわけで
想定読者数が少ないということは
そういう目的をもった人は
冊子形態の活字本などでそういう知識を得ようと思わない
ということの裏返しのようだ。
薄い内容の割には細々とした叙述も目立ったこの本のおかげで
”Wikipedia雑学”だけはそこそこ増えた。
とはいえ、本当に役立ちそうなことは
項目の右端に✯印のあるものは優秀項目であるということぐらいか(それも日本語版で100項目以下しかないし)。
コモンズの説明も分かったような分からないような感じで
どうも役に立った読書とはいえない感じだが
類書もないのでどうしようもない。
(2006年12月発行という古さは我慢するとしても・・・)

632korou:2021/07/19(月) 21:57:33
中西孝樹「CASE革命」(日経ビジネス人文庫)を読了。

Web雑誌の何かで紹介された本の関係でこの本の存在を知り
さっそく県立図書館で借りてみた。
読み始めると、期待に違わず充実した内容で圧倒される思いだったが
とにかくカタカナ語、英語の略語の多さには困ってしまった。
内容が内容だけに、日本語の訳語などが間に合わないのは分かるのだが
これだけ多いのであれば、基本用語についてまとめた章を設けてほしい思いだった。
まあ面倒くさがらずに逐一ヤフーで検索すれば事は足りると思い直し
なんとか読み進めた。

「C」Connected
「A」Autonomous
「S」Shared&Service
「E」Electric
ということで「CASE(ケース)」なのだが
さすがに文庫本1冊の中で繰り返しその内容が説明されているため
読み終わったときには、その細部まで完全に理解できていないにしても
大体のイメージは浮かぶようにはなった。
それにしても、自動車業界の今は大変な過渡期となっていて
それは、20年ほど前の電機業界と同じような激変期とも言えるのだが
日本の業界はその激変の流れに乗ることができず、今や電機業界は壊滅状態。
願わくば、自動車業界がその轍を踏まないようにしてほしいものだ。
それと、もしこの本の内容が正しければ
自分は何とかその激変後の世界は体験せずに済みそうだということで一安心。

633korou:2021/07/19(月) 22:11:38
川崎大助「教養としてのロック名盤ベスト100」(光文社新書)を読了。

アメリカのローリング・ストーン(RS)の2012年改定版リストと
イギリスのニュー・ミュージック・エクスプレス(NME)の2013年版リストを
それぞれ合計して出したベスト100のロック名盤を取り上げた本。
ビルボードのチャートを追いかけた結果、そこから洩れている最大の音楽ジャンル、ロックについて
見聞を深めたいと思い借りた本だ。
読了の結果、見聞が深まったかといえば
なかなか難しいところで
確かにいくつかのアーティストについては
実際にyoutubeで音源を確認したりして見聞は広くはなったものの
全体としては、さほど新鮮な驚きがない残念な感じも残った。
やはり、特定の年だけのランキングというのは
どうしても偏りが出てしまい
そこには”音楽史を語る”という客観的、啓蒙的なモードは抜けてしまっているわけだ。
レッチリ、グリーンデイ、オアシス、U2などが抜けてしまっているし
その反対に、ジョン・コルトレーンやマイルス・デイヴィスなどのジャズを入れる根拠は何なのか?
ボブ・ディラン(5枚)、デヴィッド・ボウイ(4枚)、ブルース・スプリングスティーン(3枚)は
偉大なのは分かるとしても、選ばれた枚数が多すぎやしないか(全部で100枚しかないんだぞ)。
というわけで、音楽史的イメージは全くふくらまなかった。
案外、自分が所有している本に、そういう知的欲求を満足させてくれるものを見つけたので
またその本を取り出して読むことにしよう。
この本はこの本で、ランキングのつけかたを明示している以上、特にこれ以上不満を書けるわけでもない。

634korou:2021/07/22(木) 13:29:26
松本重治「昭和史への一証言」(毎日新聞社)を読了。

30年ほど昔に買った本で、ずっと本棚に置いていて
やっと今回読了したということになる。
きっかけは、やはり関口宏の「近現代史」をずっと録画して保阪正康氏の解説などを観ているうちに
ふと軍部の中国進出については、この本に詳しく書いていたなあということを思い出したからである。
かつてその部分だけを抜き読みしたことがあったのだが
そういえば最初から読んでいないなあということになり
今回、トイレ本として少しずつ読み進めてみた。
松本氏が優れた国際人であることには間違いないが
必ずしもその信条、判断基準に誤りがないということではないことも
読む前の予断としてあった。
そして、大体その通りの読後感となった。
これだけの経歴、家柄にあって、戦後日本への貢献があまりに少ないのではないかという不満も残る。
その一方で、他人には言えない健康上の不安が影響していたのではないかとも推測できる。
そういう人格への疑義は残るものの
こうして聞き書き(聞き手は國弘正雄氏)という形で出来上がった本自体については
余人をもって語ることのできない重要な史実について
その舞台裏を明らかにした昭和史研究の必読本となっている。
少なくとも、当時の中国の様子をこれほど具体的に生々しく語れる人は
出版時の1985年の時点にあって稀であったに違いない。
昭和史に興味のある人間には必読書というべきだろう。
できれば、本人がもっと若いうちに書いた「上海時代」も読みたいのだが
たしか活字の大きさが小さかったように記憶しているので諦めるしかないか・・・

635korou:2021/07/30(金) 17:17:57
常松裕明「笑う奴ほどよく眠る 吉本興業社長・大崎洋物語」(幻冬舎)を読了。

2013年、現吉本興業会長大崎洋が社長時代に出版された本で
著者は「噂の真相」出身の常松という人(元々は日刊ゲンダイの連載)。
2019年の反社騒動以前に書かれた本だけに
終盤に繰り返し現れる反社関係との人物との関係も
結構正直に書かれていて、そのあたりが面白いのは皮肉でもある。
終始、会社のアウトローを自認しているものの
実際にはこの人が会社の主流を歩んでいたことは否定しようもなく
そのあたりのムリさ加減が、いささかこの本の価値を下げているのは残念だが
そこを読み取れない人が案外多数居て
アマゾンの素人書評で「感動した」とか書いているのは滑稽だ。
木村政雄の配下に居て、東京初進出の功労者で、さらに紳助、さんま、ダウンタウンの実質マネージャーで
主流になれないわけがない。
やっかみはあったかもしれないが、そのあたりをアウトローという立場に偽装して書いているのは事実捏造だし
木村の仕事とされる新喜劇の立て直しを、自らの功績と断言しているのも、眉唾ものだ。
全体として、何がどうなってこうなったからこんなことになったという因果関係が全部ぼかされていて
読んでいてさっぱりわからない本になっている(どうして吉本が発展していったのか?細かいところでは「いいとも」の横澤Pは
東京支社長としてそこまで無能?)。
ただし、出てくる人物はお馴染みの人物ばかりだし、終盤の中田カウスとか紳助との関係などはリアルだし
面白く読める本であることは間違いない。
一気読みできて面白いし、部分的には十分納得できる叙述も多いのだが
吉本興業の歴史として参照するのは、かなりのリテラシーをもって読まなければならない本であることも確かだ。

636korou:2021/08/07(土) 22:03:56
トラヴィス・ソーチック「ビッグデータ・ベースボール」(角川書店)を再読了。

同じ本を2回読むことについては
今までそこまでの心の余裕がないせいもあって
少なくともこのスレにおいては例のないことだったが
ついにその禁?を破った。
というのも、今現在のMLBの試合を観るにつけ
この本で書かれたことの延長上に展開されていることは
紛れのない事実であり
そのことは、この本を初めて読んだ2016年には
そこまで痛切に分かっていないことだったからである。
今読むとどうだろうか、ある意味ワクワクしながら再読した。
今まで再読したことは何冊かあるのだが
これほど短期間の再読はあまり例がなかったし
さらに実際の世界で起こっていることを再検証するような読書というのも
例のない体験で実に面白いことに思えた。
再読してみて、初読のときに結構深く読み込んだはずなのに、実はそうでなかったことを痛感した。
若い時に読んだ本を再読して、何と浅い読書だったことかと思うのはよくあることだが
たかが5年前の読書でもこういうことがあるのかと驚かされた。
どう読んでもパイレーツが初めてビッグデータを駆使したチームではないこと。
要するに財政的に苦しい球団のやむを得ない”徹底”だったこと。
ピッチフレーミングというのが、審判の目を誤魔化すかのような技術では決してないこと。
ツーシームを投げる投手が、この時点では脚光を浴び始めていたこと。
すべて前回の読書では読み落としていた。
トータルでの読後の印象をすべて正確に書き連ねることは、現段階では困難だし、その必要もないだろう。
自分にとっては本当に必要な再読だった。

637korou:2021/08/26(木) 17:54:04
船山基紀(著)、馬飼野元宏(構成・文)「ヒット曲の料理人 編曲家 船山基紀の時代」(リットーミュージック)を読了。

たまたま県立図書館の書棚で見つけた本で
借りた後から、これはシリーズ物企画のようなもので第1弾として萩田光雄の本が出ていることに気付いたが
まあ第2弾から先に読むこともよくある話なので、仕方ないところ。

最初のほうで、やはり萩田氏の先駆的仕事のことが書かれていて
このあたりは先に読んでみたかったところだが
途中からは、船山氏独自の個性が全開となっていったので
これはこれで完結した評伝となっている(形式上は本人の著作ということだが評伝的性格も強い)。
アレンジャーの仕事というのは
筒美京平の仕事を考えた場合、非常に重要なポジションを占めているわけで
筒美氏に注目しっぱなしの自分としては、当然関心は高いことになる。
その意味で、この本に書かれていることは、筒美氏の仕事の内容を逆方向から照らしている感じで
興味深いことこの上なかった。
もちろん、船山氏は萩田氏ほどには筒美氏に密着した関係ではないので
途中からは船山氏独自の仕事の叙述が中心となっていく。
それはそれでアレンジャーという仕事の魅力を存分に語った本になっている。

それにしても、すでに10年以上実績をあげてプロ中のプロと目された船山氏に対して
CCBのデビュー曲のアレンジを依頼した筒美氏が、そのアレンジを聴くなり
本人の目の前で「これは船山君より大村君に頼んだほうが良かったね」と言ってダメ出しをするエピソードは
筒美京平という人間が、いかに仕事人間、仕事一途の職人であったかということを
残酷なまでに表していて、読んでいてゾクッとした。

末尾に詳細なディスコグラフィーもあり、途中に挟まれる関係者へのインタビューも人選・内容ともに的確だし
この種の本としてはよく出来た本だと思う。

638korou:2021/08/27(金) 17:29:37
一応記録だけ。

本日、大型本「ノモンハンの夏(中)」を読了。
あとは下巻のみ。

639korou:2021/09/29(水) 16:30:10
うーむ、1カ月以上読了本がないという珍記録となってしまった。
県立図書館のコロナ禍による長期閉館の影響は、思ったより大きかったかな。
今回は、そんな中で、トイレ本として継続して読んでいた本の読了報告。

「歴史読本WORLD 特集・アメリカ合衆国大統領」(新人物往来社)を読了。

この本を買ったのは1988年。
当時はレーガン政権の2期目満了の頃で、
次の新大統領の選挙がいよいよ本格的に始まったという時期。
まあブッシュ父以降のことは他でも調べられるので
それ以前の大統領について知識を増やしたいと思い、今回やっと完読。
こうして列伝を読むと、転機はセオドア・ルーズベルト大統領のときで
彼より前の年代の大統領に関しては
ワシントン(初代)からジャクソン(7代)までと、リンカーン(16代)の
8人だけ知っておけばいいくらい、無力な存在に思えた。
やはり20世紀以降がアメリカの時代なのだとつくづく思う。
そして、それは経済面での台頭もあったが
T・ルーズベルトのような政治家の出現も大きな要因であっただろう。
政党の果たした役割とか、連邦政府と各州の関係など
今一つ記述が欲しい部分もあったが
やはりこうした列伝は自分としては大好物であることを再認識した。
ということで、次回のトイレ本は、日本の首相列伝ということにした。

640korou:2021/10/10(日) 12:33:49
ベン・リンドバーグ、トラビス・ソーチック著「アメリカン・ベースボール革命」(化学同人)を読了。

県立図書館で予約して、1人待ちの後、臨時閉館中に確保済みの連絡がメールで来て
ギリギリのタイミングで借りに行き、家に帰って確認したら
もう次の予約が入っていて貸出延長は不可になっていたという経緯で読み始めた本。
自分のコンディションのせいなのか、翻訳の文章のせいなのか、どういうわけかMLBのことが
詳しく書いてある本なのに、なかなか読み進められず、かといって貸出延長ができないので
ずっと焦りながら読み続けることになってしまった。
しかも、期限である10/12(火)は天候不良なので、今日返却しておきたいと思い
急いで読み進めて、読後の余韻もなくすぐこうして感想を書き始めるという余裕のなさである。

というわけで、現時点では要領よくこの本の大意をまとめることができない。
500p近いボリュームにふさわしい、現時点でのMLBの状況が幅広く、洩れなく記述されている良書だと思うのだが
その内容を手際よくここに書き切ることは(内容の多彩さもあって)不可能である。
とにかく「選手の育成」ということに焦点を合わせていて
20年前の話題作「マネー・ボール」が、同じデータ活用でありながら「選手の発見」に注目した本であるのと
好対照である。
そして、それがあまりに合理的であるために、特定の球団(アストロズ)の暴走を招いた点についても
エピローグにおいて触れられていて、近いうちに行われる予定のMLB労使協定についての懸念についても書かれている
徹底したリサーチ、話題の展開力が魅力の本でもある。
もう1回ぼんやりと全体を復習して読み直したいのだが、もう返却するしかないのでそれも敵わない。
あーあ。プレーオフの面白そうなシーンの観戦も中断して読了したというのに・・・残念。

641korou:2021/10/18(月) 18:07:49
泉麻人「昭和40年代ファン手帳」(中公新書ラクレ)を読了。

泉氏得意の昭和ノスタルジア物で
昭和40年代に子供・大衆レベルで流行ったものを
各年ごとにまとめた読みやすいエッセイとなっていた。
この種の本に細かい分析などは不要で
まさに読んで楽しめればそれで良し、世代が違えば何の面白みもない本
ということになる。
著者自身がごく普通の感性の持ち主なので
書いてあることに全く違和感がなく
さらに当時書いていた日記からの記述も多いということで
正確な年代史になっているのも
この本の美点だろう。
本当は、この本から創作のヒントをもらうつもりだったが
読んでいくうちに
そういうことはどうでもよくなった。
(この本の後「ぼくら昭和33年生まれ」という、趣旨のよく似た本を読み始めているが
 そちらは特殊な感性の人が書いているので
 同じような本でありながら読後感は違っている)

642korou:2021/10/22(金) 17:44:11
四家秀治「ぼくら昭和33年生まれ」(言視舎)を読了。

泉麻人の本と同じく、ノスタルジアものなのだが
著者がクセのあるマスコミ人(アナウンサー出身)な分だけ
クセのある本になってしまっている。
結構古いタイプの性格のようで
自分とはかなり違う意見、感性の持ち主のように思われた。
さらに”補注者”なる人物が、随所に補足的な記述をしていて
その記述も結構クセがあるので
泉サンの本を読んでいるときほどリラックスした感じの読書にはならなかった。
逆に、そういう真反対の感覚の人だからこそ
今の自分が忘れ去っていた出来事が結構詳しく書かれていたり
同じ出来事でもそういう感じ方があるのかという発見もあったりした。
巻末の小宮悦子との対談では
著者のその個性が空回りして
悦ちゃんに軽くいなされたりしているのが痛快だった。
また、藤沢周へのインタビューの部分は
なかなか興味深いものがあった。
ポストモダンから歴史への回帰というテーマは面白い。
読んだことのない作家だが、機会があれば読んでみようかと思わせた。

まあ、難しいこと言わなければ、ノスタルジアものというくくりでもよい本なのだが。

643korou:2021/11/10(水) 10:06:07
岸信介・矢次一夫・伊藤隆「岸信介の回想」(文藝春秋)を読了。

文春学藝ライブラリー(文庫サイズ)で474p、
ただし巻末の資料編が大部で130p以上もあり、その部分を借りた本で逐一読むことは難しいので、
そこは略して読んだが
それでも部分的に小さな活字もあったりして、さらに偶々の眼痛もあって
これだけ面白い本なのに読了するのに結構時間を費やす結果となった。

全体として、岸の政治家としての信条がよく分かる本になっており
その点は岸としても会心の回顧録と言えるのではないかと思われる。
岸の残した業績は多岐にわたっているので
その業績をいったん肯定的に評価してしまうと
意図しようがしまいが結果として”提灯本”になりがちだが
この本は、岸本人が自身の業績を淡々と語っているので
そういう悪しき傾向に陥っていないのである。
元々記憶力の良い人なので、矢次のサポートは不要とも言えるが
それでも本人が喋りにくいであろうところを先回りして察して
無難な解説を補足するあたり
いかにも岸との付き合いの長さを思わせる配慮を見せている。
伊藤教授の質問はやや公式的で、岸・矢次の淡々としたスタンスとのギャップを感じた。
もっと岸・矢次のスタンスに寄り添った質問で掘り下げる方向で話を進めてほしかったのだが
これはこれで仕方ないというか、こういうオーラル・ヒストリーの企画を実現されたことを評価するしかないだろう。
特に矢次は、この企画の後数年も経たず死去しているので、その意味でも貴重なオーラル・ヒストリーになっているわけだ。
個々の論点についての感想は、また別の機会で違う形で書くことにする。

644korou:2021/11/10(水) 12:05:08
読了しなかった本、的場昭弘・佐藤優「復権するマルクス」(角川新書)について。

マルクスについて、資本論について、共産主義国家について、ソ連について
もっと具体的に、この2021年の現在において、もっと知りたいと思い借りてみたが
いきなり「国家と市民社会」、「マルクスと宗教」といった副次的かつ難解なテーマについて
博学な著者たちが、高度な基礎知識を前提にして語り始める本だったので
早々と読書意欲を削がれてしまった。
今日になって、全体構造を見ておこうと再度チェックしたら
第3章の「社会主義はなぜ失敗したのか」のあたりが
そこまでの難解な対話から一変して
具体的な留学時での体験を語り合う箇所になっていたので
急きょ、そこだけ読み通した。
ソ連崩壊から東欧社会の変動に至った時期まで、1990年頃までの
その地域での生活はもっと再認識されてもいい、日本では誤解だらけだという指摘は面白いと思った。
国外へ出れば自国通貨が弱いのでダメだが
国内に居る限り、意外と充実した生活、人間らしい生活が送れるというのは
意外だった。
そして第4章以降も覗いてみたが
資本論の話、マルクスの可能性の話となると、また難解、というか細かい話になってしまい
これも読むのは断念。
結局、70年代から80年代にかけての東欧諸国(主にユーゴ、チェコ)での具体的な話を読む
という読書に終わった。
まあ、それだけでも結構面白かったけれど(佐藤、的場両氏の博学が効いている)

645korou:2021/11/17(水) 11:07:10
末廣健一「岡山表町商店街物語」(吉備人出版)を読了。

何かのきっかけでスネークマンショーの桑原茂一の表町での少年時代のことを検索したときに
この本の存在に気付き、県立図書館で予約をかけたところ、すぐ貸出可になったので借りることにした。
思っていた内容に近いところもあり、そうでなく単なる個人の趣味をだらだらと書き連ねている部分もあり
特にプラモデル制作の蘊蓄を語る部分は途中で読み飛ばしたりもしたが
全体としては、この種の本がもっと欲しいと思わせる好著ではあった。
何よりも、著者が表町(上之町)で周囲の人たちに十分に可愛がられ愛されていた存在であったことが
この本の内容をかなり前向きにさせているのを感じ
自分にもしこれだけの精密な記憶が残っている環境、世代であったとしても
随分違った感じのものを書くに至っただろうと想定できるのである。
そうした現実肯定的な気分は、その後の朝日高校での充実した生活とか
自分の感性、趣味に合った職業、進路選びにもつながっているわけで
自分とは正反対の人生を送った人なのである。
そういう感性で表町を思う気持ちというのは
自分には想像もできない部分であり
その意味では大変興味深かったのだが
その反面、そうじゃないだろうという気持ちが残るのも事実である。
著者の音楽趣味が随分と軽いものであることを、この本の記述により知ることになるが
そうした数少ない欠点を知ることで、我ながら嫌味たっぷりな優越感に浸ったことも
間違いなく事実なのである。
その意味では読後感としては、読む前の予想よりはかなり違ったものにはなったが
まあ、それでも結論として好著であることも間違いない、まあ複雑なテイストだなあ、これは。

646korou:2021/11/19(金) 18:00:45
ジョン・G・ロバーツ+グレン・デイビス(森山尚美<訳>)「軍隊なき占領 戦後日本を操った謎の男」(講談社+α文庫)を読了。

岸信介のオーラルヒストリーの本を読んで
ハリー・カーンという謎の人物に興味を持ったところ
その人物についての格好の著作があるというので
すぐに借りて読んだ次第。
ある程度予測はしていたものの、想像以上に「陰謀もの」だった。
そして、陰謀論の本によくみられる欠点が、読むにつれてどんどん気になってきだして
途中からは読み続けるのが苦痛にすらなった。
これは、最近になって広瀬隆の本を読む際に感じる不快感と同質のものだった。

たしかにGHQの「逆コース」について、いろいろな関係者が暗躍したことは間違いない。
しかし、それは正式なルートでも解析可能なので、
そこを強引に非公式なラインからの解説で強調する必要はないのである。
開戦直前の日本からの対米和平工作について
いわゆる神父たちの暗躍が民間外交として知られてはいるものの
そこは、松岡外相の公式外交と近衛首相の対米外交との齟齬、及び野村駐米大使の奮闘をメインとして
そのサブストーリーのなかで神父たちを記述すればいいだけの話なのだ。
それと同様、ダレス、ドッジなどの活動、米国本土でのマッカーシー旋風などをメインとして
サブストーリーのなかでハリー・カーンたちを描いていけばいいだけの話に思えた。
この本では、マッカーサーの占領行政の方向を”反共”に変えたのは
カーン一派の功績が大きいという前提で書かれているので
終始違和感がつきまとった。
未知の人物も多く登場したが、大半はネット上にデータが存在していなくて
その点も、この本の叙述が公式に認められていないことを示すように思われた。
活字が大きいので、苦しくても読了はできたが、なかなかオススメはできない本。

647korou:2021/11/25(木) 10:44:44
「ノモンハンの夏」(半藤一利)<大活字本>を読了。

かつて活字の小ささのせいで読むのを断念していたこの名著が
大活字本で県立図書館にあるのを知り、すぐに上巻(全3巻)を借りて読んだのがこの夏のこと。
すぐに読み終わり、中巻に進み、これも読んだところで、県立図書館がコロナ禍で1か月ほどの臨時閉館となり
中巻を返却した時点で一時ストップとなる。
図書館が再開して、しばらくして行ってみたところ、全3巻全部が借りられて現物が消えているのに呆然となる。
それから2か月ほど経ち、ノモンハンへの興味というか読後の記憶そのものが薄れてきて
どうしようかと思案したが、このままではあまりに中途半端なので
再び現物が戻ってきたのを確認後、定評ある研究書と一緒に下巻を借りることにした。
その下巻を今日読み終わり、これで全3巻読み通したことになる(ただし現時点で上巻と中巻の記憶はほぼ薄れている)。
ただし、半藤氏の丁寧な記述、注釈とか、巻末の土門周平という方の全巻の内容をコンパクトにまとめた記述などのおかげで
下巻だけの記憶しかない中途半端な読書ということにはなっていないので、助かる思いである。

それにしても、読んでいてこれほど怒りがこみあげる本もなかなかないだろう。
司馬遼太郎がノモンハンの本を書き上げることができなかったのも
こういう誰もが感じる怒りの感情、それも激怒に近い感情、そうしたコントロール困難な精神状態のせいだろう。
しかも、誰もが辿ることになる、つまり、その激怒の感情がいつしか諦めの感情になっていくこと自体、自分でも許せなくなり、
そうなると、渾身の大作になるに違いないこの素材を扱うことすらできなくなる。
本当に気の毒すぎる下士官、兵卒たち、これこそ無駄死に、犬死というものだ。
日本人自体、戦争を指揮する人材を大量には生み出せない民族なのだろう。
上杉謙信、武田信玄は輩出できるが、それ以上同時代には生み出せないのだろう。
そう思うしかない、こんなヒドい高級軍人ばかり見せつけられては。

648korou:2021/11/26(金) 15:58:39
岩城成幸「ノモンハン事件の虚像と実像」(彩流社)を読了。

ノモンハン事件に関する最新資料が網羅された話題作ということだったが
実際に読んでみると、著者が元国会図書館職員ということもあって
全体の脈絡が不明というか漠然とした最新情報源の羅列ばかりの本だった。
もちろん、ゾルゲとの関連、石井部隊の活躍など
他の類書ではあまり見たことのない項目も多く
その点は参考になったのだが
肝心の事件概略について記述した部分が皆無なため
そもそもノモンハンで何があったのかについては
同時進行で読んでいた半藤さんの著作に頼るほかなかった。
同一テーマについて複数の研究者がそれぞれの視点から論を深める、といったタイプの本は
よく見かけるが
これは一人で書かれた本であり、なおかつ、
第一章に「村上春樹と司馬遼太郎のノモンハン事件」、第二章が「ノモンハン事件の主要文献、研究動向」ときて
第三章に「ノモンハン事件の概要と敗因」とあるのだが、そこには概要についての記述がほぼなくて
第四章で「同事件の見直しと歴史上の”もし・・”」とあるのに、大した「もし」の記述がなく
第五章以下は、自分の調べ得た範囲のみの各論が延々と続くのである。
途中からは読み進めるのに苦痛を覚えたが、飛ばし飛ばし何とか300p弱を読み終えた。
入門書の延長にある本ではなく、研究者のための論文集のような趣き。

649korou:2021/11/27(土) 17:01:00
有元葉子「今さら聞けない料理のこつ」(大和書房)を読了。

少しは料理のことについて知識を広げたいと思い、県立図書館で借りてみた。
ただし、今回の本は、”レシピ以前に知っておきたい”という副題を
初心者のための本と勘違いして理解していて
実際に読んでみると、料理の初心者というより
中級者程度のある程度献立を工夫し始めている人が
今後の参考に読んでおくための本だったようだ。

ということで、実際には今の自分にはあまり役立たない本だったのだが
まあ、こういう失敗はよく知らないジャンルだとよくある話だと思い
要は、こうした感じで次々と読み進めていくことだと悟った。
沢山読んで、沢山忘れて、それでも頭に残っていった部分で
スタートしていくしかないだろう。

ということで、この本についての感想はここまで。
次回も料理の初心者用の本を探して、借りることにしよう。

650korou:2021/12/01(水) 11:29:53
嵯峨隆「頭山満」(ちくま新書)を読了。

今年になって読んだ頭山満の伝記本は
かなり頭山の思想に共鳴の深い著者の手になる本だっただけに
随所に礼賛の記述が見られて、その点で違和感も多かったので
県立図書館の新刊本コーナーで見つけたこの本については
当然ながら客観的な叙述というものを期待するところ大であった。
読了した直後の今の印象で言うと
たしかにある程度は客観的な視点も感じられたのだが
新書としての独自性を出そうとするあまり
その思想から独自のアジア主義を抜き出すことを強調し過ぎて
叙述が空回りしている点も否めない、という感じだ。
頭山翁がアジアの関心が深かったというのは事実としても
単にそうしたインド、東南アジアなどの政治面での先駆者と対面したというだけで
何かを成し遂げたというわけでもないだろう。
やはりもう少し肉付けが必要で
結局、本当のところは、たまたま出会いがあって、そこから関係を深めた数人についてのみ
少なからぬ援助を施したという程度ではないだろうか。
そうなると、ムダなことにかなりのページ数を費やした本ということにもなる。
とはいえ、なかなかコンパクトな伝記すら見当たらない頭山翁について
やっと新書サイズのきちんとした本が刊行されたこと自体は
画期的なことである。
新書であれば数年は大型書店で現物が並ぶ可能性があるので
歴史の裏道に興味がある人たちにとって便利な本となることは間違いないだろう。
一応、それだけのクオリティは備えている本ではある。

651korou:2021/12/02(木) 18:05:56
高木大成「プロ野球チームの社員」(ワニブックスPLUS新書)を読了。

今日、県立図書館で借りた本で、もう今日のうちに読了してしまった。
大きい活字で170ページ程度、文章も平易で内容も明快なので、さすがに1時間程度あれば読了可能だ。
高木大成という久しぶりに見た名前と、書名が表す明快な内容に惹かれて、借りてみた。
読んでいくうちに、これは自分にも共通する物語だなと思えてきた。
32才で最初の社会人人生というか、その職業の人生を終え
似たような感じではあるけれど、それまでの経験が直には活かせない別の職業に転じ
しっかりとそれに向き合っているうちに、その職業も自分に向いているのではないかと思え
そこからまたまたもっと知らない世界の職業に転任して、そこでもやれることはすべてやりながら対応し
今また戻ってきて、47才の今充実しているという流れは
そのまま自分の人生に重なってくる。
(ここからの人生は、自分にとってはそれほど楽しいものではなくなってくるのだが
 それは自分だけの独特な世界なので、高木氏には参考にならないだろうが)
そう思って読んでいると、おのずからページをめくる手が早くなっていくのが分かる。

まあ、そういった個人的感慨は措くとして
本の内容についていえば、西武ライオンズがどうのこうのというよりも(具体的に書いてあるのだが、実際にそれを体験できないので)
パ・リーグの最新の動向、球団同士が連携して効率的な運営の仕組みを発展させたことについて
分かりやすく書いてあるのが参考になった。
映像関係のライセンスを、球団自身がコンテンツを制作した上で、共同管理することで効率的に収益を上げているのは
素晴らしいし、今やそれは米国まで輸出できるコンテンツ、運営になっているのには驚いた。
そうなると、セ・リーグの立ち遅れが惜しいところだ。
そんな新しい知見を得ることができた。
名著という類ではないが、NPBの現状をイメージするのに最適な本だと思った。

652korou:2021/12/06(月) 20:13:38
スージー鈴木「EPICソニーとその時代」(集英社新書)を読了。

県立図書館で借りて、ゆっくり読もうと思っていたら
知らん間に予約が入ってしまい、期限内に返却しなければいけないことに。
急いで、今日一日で読了。まあ1日で読めるライトな本ではあるけど。
最初の章で、EPICソニーが出した名盤を逐一年代順に紹介、評価、コメントを行い
次の章で、ざっとEPICソニーの歴史を、特にキーとなる人物中心に記述、
最後の章で、そのなかでも特に重要な小坂洋二、佐野元春の2名へのインタビューという構成。

最初の章では、youtubeで実際に聴いてみながら読み進めていった。
バービーボーイズなんて今までほぼ聴いていなかったのだが
こうして聴いてみると、男女のツインボーカル、それも個性的な声質、歌唱のボーカル
というのも案外日本では珍しいのではないかと思ったし
LOOKの「シャイニンオン」などは懐かしく、また改めて聴いてみて素晴らしいボーカルだと再認識。
岡村靖幸は相変わらず訳が分からない。訳わからなさでは椎名林檎と双璧か。
大沢誉士幸のサウンドも、今聴くとなかなかクオリティ高い。

第2章の歴史編は、今日ではなく借りてきた日に一気に読んでいたので、もう内容については忘れかけている。

第3章のインタビューは興味深かった。
小坂洋二という人そのものが面白かったし、
後で知ったのだが、大塚博堂の「めぐり逢い紡いで」の作詞者”るい”は小坂氏のことだったというのも驚きだった。
佐野元春のインタビューも、佐野さんの人柄もにじみ出ていて愉しく読めた。

さらに「リマインダー」というサイトも発見(これから探索する予定)。
予約でせかされたとはいえ、なかなか収穫の多い読書になった。

653korou:2021/12/10(金) 21:44:07
歴史読本WORLD「20世紀の政治家たち」(新人物往来社)を(主にトイレで)読了。

トイレ本第3弾?かな。
とにかくタメになる本だった。
アフリカはもちろん、中南米なども全く政治情勢などに無知だったので
この本で主要政治家とその業績をおおまかに知ることができ有意義だった。
また、アフリカ、中南米の国々では
なかなか民主政治が実現せず
形だけはソ連の独裁制を真似た疑似共産主義のような政体になっていくのも
独立までの諸事情などから頷けたし
この本の出版時期(1989年)以降の政治情勢についても
Wikiで確認したりできるのも、ネット時代の良いところだ。

ナセル、ネルー、あるいはチトーなどは
本当に大政治家だと思う。
思えば日本において、こういうスケールの政治家となると
戦後誰一人として思い浮かばない。
全世界的にも、随分と政治家が小粒になったのではないだろうか。
20世紀の特に中盤にそうした優れた政治家が続々現れたことに
何か理由があるのだろうか。
そんなことも思わせた本だった。

654korou:2021/12/15(水) 10:45:02
小熊英二「<民主>と<愛国>」(新曜社)を読了。

800ページにわたって、一読で理解できるような容易なものではない文章が延々と連なっている大著。
時に史実の叙述というか、取り上げる人物の小伝のような部分も挟まってはいるものの
その大半は、著者曰く「名前のない”何か”」というべき言葉をもたない概念、それも本書の主題となるべき重要な概念について
それをめぐる知識人たちの言葉の使い回しとか、その言葉が時代によって”読みかえ”られる過程を丹念に追跡していく記述であるため
本当に読むのがしんどく、大変な読書だった。
にもかかわらず、途中であきらめることなく読み続けられたのは
そこに書いてあることに多くの真実らしきものが感じられ
なおかつ、例えば「吉本隆明は何を訴え、何を書き、そしてそれが多くの人に影響を与えることになったのか」というような
今までの自分が全く知っていなかったことについて、新しい知識をもたらす読書であったことが大きかった。
膨大すぎる新しい知見のせいで、mixiの日記まで書いてしまったが(当掲示板の「政治・経済」スレまで復活!)
結局、この本について、読後直後の今の時点で
多くを語ることは不可能に近いと言わざるを得ないのである、

この著者には、まだまだ多くの読むべき著作があるのだが
今回の読書のしんどさを思うと、そうたびたび読破に挑戦できるものでもないと痛感する。
『単一民族神話の起源――<日本人>の自画像の系譜』(新曜社 1995年) とか
『<日本人>の境界――沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮:植民地支配から復帰運動まで』(新曜社 1998年)などは
いずれ読んでみたいとは思うのだが
しばらく間隔をあけたいと思う。
今は、今回の読書について、いろいろなキーワードを心にとどめ
徐々に発酵させていきたいと思っている。

655korou:2021/12/21(火) 16:57:20
マイケル・ルイス「マネー・ボール」(ランダムハウス講談社)を読了。

以前読了したはずの本だったが
このところMLB関係の面白い本をいくつか読んでみて
この本の内容をほぼ忘れかけていることから再読しなければと思い
今回再読してみた。
案の定、初めて読んだ本だった・・・(爆)

そもそも2002年のアスレチックスのレギュラーシーズンの戦いぶりを描いた本だということを
初読の際にきちんと認識できていなかったというのも不思議だが
それはともかく、当時はとても読みにくい本だという印象だった。
今回、再読してみて、その印象について前半は正しく、
後半の主にA'sの試合ぶりを描いた部分では全く正しくないことが分かった。
初読のときには後半を読んでいなかったのではないかと思ってしまう。
逆に、この本には重大な欠点があり、前半があまり面白くなく、後半は面白いということ。
にもかかわらず、前半のほうが重要で、後半は付け足しと極言してもよい内容であることが
この本の評価を難しくさせている。
さらに、この本が指摘していることは、球団のフロントの人間にしかあてはまらないわけで
その意味で、多数の野球ファンと選手自身を置き去りにしている。
にもかかわらず、不思議な魅力を湛えているのは
著者がMLBとは全く無関係な職種の人であり
どんなに客観的に書いても、それが普通であるという一般的な、野球を好まない人までも納得する感覚の持ち主である
ということだ。
野球本は、想像以上に、野球好きな人が野球好きな人のために書かれている間口の狭いジャンルなのである。
この本は、そのジャンルの外にあるころで
いまだに名著のクオリティを保っているのである。

656korou:2021/12/30(木) 11:49:32
(2021.12.30読了だが、2021年読了分はまとめてしまったので、2022年読了分としてカウント予定)
佐藤啓「無名の開幕投手」(桜山社)を読了。

高橋ユニオンズのエース格だった滝良彦投手の生き様を
その出身校の後輩にあたる中京テレビの元アナウンサー(スポーツ畑)が
テンポのよい文体で書き上げた本である。
専門のノンフィクションライターではないものの
一つ一つの手がかりを手際よくまとめていて
調べて分かった事実へのコメントも適切で
読んでいて気持ちの良い本だった。
高橋ユニオンズのキャンプは岡山で行われていたが
宿舎が「たきもと旅館」であったこと、練習は岡山県営球場であったこと、
陸上競技の専門のコーチがランニングの指導にあたったことなど
かつてネットでチラッとだけ見たことがある事実を
再確認できたのは良かったし
滝投手が後輩(佐々木信也)を連れて後楽園で撮ったスナップ写真などは
珍しいワンショットだった。
他にも、今や跡形もない名古屋の八事球場という場所で
選抜高校野球の第1回大会が開催されたことなど
知らなかった史実も多く発見できた。
思った以上に楽しい読書となった。

657korou:2022/01/06(木) 11:59:01
佐藤啓「ウェルカム!ビートルズ」(リットー・ミュージック)を読了。

1966年のビートルズ武道館公演については
招へいしたキョードー企画の永島達司氏の存在が知られていて
かつて読んだ永島氏の評伝の記憶も鮮明なのだが
この本は、さらに踏み込んで、
その永島氏の周辺の人物、特に東芝音工の石坂範一郎(専務)について
知られざるその功績を明らかにしている。
当時、財界総理的存在だった石坂泰三の親戚筋だったということもあり
本人に十分な野心があれば
戦後、東芝の復興に尽くした石坂一族として著名な財界人になれたはずの範一郎だったが
当人は全くの温厚な紳士で
あえて言えば、泰三の執念(本来は東芝傘下だった日本ビクターを松下に奪われ、その代償として東芝に音楽事業部を創設)を
影ながら支えたことくらいが財界人としての唯一の業績として残ったのである。
著者は、そんな謙虚な範一郎について、もっと知られるべき人物として
この本を執筆したということになる。
それゆえ、範一郎への過度な賛美も随所に見られ
その分だけ永島氏の業績への言及が過少になっているきらいもあるのだが
それを除けば、(石坂家の直接取材以外すべて)二次資料を駆使した本とはいえ
概ね妥当な線で叙述が進んでいるので
安心して読めた。
1966年の出来事、あるいはその前段として1960年代前半の日本、世界の様子など
もはや活字の世界では忘れられがちな時代になりつつあるのだが
その意味で、2018年にこうした本が読みやすい形で出版された意義は
それだけで大きいものがあると言える。

658korou:2022/01/07(金) 15:27:25
スージー鈴木「サザンオールスターズ 1978-1985」(新潮新書)を読了。

読む前にはあまり期待していなかったのだが(例によってスージー氏独特の理論が展開か?)
一通り読んだ後の感想としては、意外と面白かったということになる。
やはり、この本にしても、1980年、あるいは1981年の頃のサザンの低空飛行ぶりなどを
すっかり忘れていたにもかかわらず、そのことを指摘されると
「ああ、そうだったな」と意外なほどリアルに思い出せるのであり
そんなにリアルだったはずなのに、なんで今まで忘れていたんだろうという
不思議な感覚にとらわれたということが大きいのである。
ただし、このグループについて何か書くのであれば
やはり21世紀の今現在までを含めて書くのが正しいやり方だろうし
40年以上の活躍のなかで、最初の活動停止状態までの8年間だけに絞るやり方は
中途半端以外の何者でもない。
あえてそういう角度で書かざるを得なかったのは
著者の思い出回顧という側面が強かったということでしかない。
もっとも、そうであっても
上記のように、リアルタイムであれもう40年以上も前の出来事について
いろいろと思い出させてくれるのは
同じ同時代人としてありがたいとも言えるので
これは世代を選ぶ本かもしれない。

659korou:2022/01/09(日) 20:51:29
小林信彦「私の東京地図」(筑摩書房)を読了。

2013年刊行の本で、その時期に、往時の東京と現在の東京の街並みなどの様子を
長年、東京周辺で暮らしている著者が、エッセイ風にまとめた本である。
いつもの小林流というか
自分が実際に見聞きしてその中でも確かなものだけを
きっちりと書き尽くすというスタイルが貫かれている。
読んでいて不確かなものも含めてとりあえず吸収するといったよくあるタイプの読書とは
その点で一線を画している。
東京の地理の話なので、どうしてもグーグルマップなどでの確認作業が必要となり
大きな活字で200pにも満たない本なのに
丸一日費やすような読書を数日続けないと読破できなかったのも確かである。
前半の赤坂、青山、渋谷、新宿あたりの記述は
想定以上に読み進めるのが大変だったのだが
後半の日本橋、本所、深川、両国あたりの記述は
すらすらと読み通せたのは
著者の幼少期の地元だったからなのか。
深川の「イースト21」というホテルとか、富岡八幡宮、清洲橋、深川江戸資料館など
あるいは人形町あたりの風情、明治座とかの名所などは
この本を読んだせいで行ってみたくなった。
相変わらずの小林節にホッとしながら読み終えた。

660korou:2022/01/15(土) 11:20:30
「ヒット曲の料理人 編曲家 萩田光雄の時代」(リットーミュージック)を読了。

リットーミュージック刊行の同シリーズの第1弾で
第2弾の船山基紀のほうは半年前ほどに読了済みである。
何と言っても筒美京平サウンドを筒美氏と一緒に作り上げた人という印象が強いので
筒美氏が日本のJ-POPの祖であるとするなら
萩田氏も同じくらいの栄誉を受けて当然だと思うのである。
つまり、この種のシリーズで第1弾が萩田氏であることに
音楽業界の誰もが異存ないだろうと思えるのである。

ただし、音楽ブログでも書いてアップしたが
本としては船山本の面白さに至らなかった。
これは萩田氏が、自分の仕事について十分に語れないという
個人的な制約からくるものだろうと思うし
また、萩田氏が自分の性格というものをよくご存じなのだろうと
今思えばそう解釈できるのである(要するに理系の頭脳で自分の感性で突進するので
ひいては業界仲間に迷惑をかける叙述になる可能性を直感しているのでは?)
まあ、ことはどうあれ、アレンジャーとして先駆者的存在であることにはかわりはないのだが。

最後のほうのインタビュー記事で、クリス松村氏の分はマニアックで面白かったし
何よりも、佐藤剛氏のインタビュー記事の見事さには脱帽だ。
これほど的確に日本の大衆音楽、流行歌⇒歌謡曲⇒ニューミュージック&アイドル⇒J-POPという流れのなかで
アレンジャーの果たした役割をまとめた文章は
今までに見たことがない。
永久保存の価値があると思い、その部分だけコピーしたくらいだ。
萩田氏の叙述が不十分でも、この部分だけでこの本の価値は十分にある。

661korou:2022/01/18(火) 10:26:27
松尾秀哉「ヨーロッパ現代史」(ちくま新書)を読了。

少し前に読んだ「ヨーロッパ近代史」(ちくま新書・君塚直隆著)の続編のような標題だが
その本と時代が連続しているかどうかは未確認。
「近代史」がややがっかりな内容だったのに対して
この「現代史」は、「近代史」を読む前のときのような過度な期待感もなかったせいもあって
事前の予想よりは遥かに内容の濃い名著であるように思われた。
とにかく、センテンスの長さが的確で、文脈がとれない部分がほとんどなく
スラスラと読めるし
各国の指導者について、結構手間がかかるであろうミニ評伝の類がほぼ完ぺきに記述されていて
これなど伝記マニアの自分には
嬉しい限りだった。
内容は、ほぼ10年単位で章組みが為されていて
そのなかで英・仏・独・露(途中まではソ連)については必ず記述され
さらにその10年ごとに東欧、北欧などが特集されてまとめて記述されるという
実にスタンダードな構成で分かりやすくなっている。

当初は、総力戦となってしまった世界大戦の反省のもと
各国とも福祉国家を目指して戦後の復興を急いだものの
60年代途中で行き詰まり、さらにオイルショックなどを経て
80年代からは新自由主義(=自由主義、小さい政府)が台頭、
そして今現在はその新自由主義がもたらした弊害(&EU統合に伴う諸問題)に
各国とも苦しんでいるという大きな流れが
この本を読むだけで、何となくつかめてくるという名著。

662korou:2022/01/18(火) 10:38:58
恒川光太郎「白昼夢の森の少女」(角川書店)を読了。

小説については、退職後は1冊だけ読んだ(東野圭吾)ような気がするが
それ以来の久々の小説となった。
恒川さんなら何とか読めるのでは、と目論んだのだが
もくろみ通り、面白く読めた。
短編集というのも正解だった。

記憶力が本当になくなってしまっていて
あんなに面白く読んだのに
今、目次を見て
その表題からすぐに内容が思い浮かばないのに
我ながら苛立つというか、呆れてしまう。

子供の頃の話で、友達の家と思ってついていって、ものすごい数の布団にまみれて遊んでいたら
実は友達の家ではなかったという「布団窟」が、リアルな感じで秀逸だと思ったし
謎の船に乗ってしまう「銀の船」は、「スタープレイヤー」などの異世界物を連想させる
まさに恒川ワールドと呼ぶしかない独自の境地へ連れていかれる物語だった。
「平成最後のおとしあな」は、こんな短い作品で見事なまでに伏線の回収ができていて気持ちいいくらいだし
「オレンジボール」も、何ともいえぬ不安な感じの読後感に苛まれて、やみつきになる。
最後の「夕闇地蔵」は。やや説明的な文章が多すぎるようにも思うが
描かれた世界は、「夜市」のようなおどろおどろしい、まさに前近代の闇の世界が突然現れたような
生々しい感じで、どこかで血の匂いも漂うホラー風味となっている。

ああ面白かった。

663korou:2022/01/20(木) 11:23:55
小林泰三「パラレルワールド」(角川春樹事務所)を読了。

今回図書館で借りた小説は
今読んでいる福田赳夫本の合間にちょこちょこ読む程度で済ませようと思っていたのに
この本は、読み始めると途中で止められなくなって
一気読みとなってしまった。
小説を一気読みなんて
東野圭吾のミステリーを除けば
最近ではそうそうない体験だし(司書時代も含めて)
東野ミステリーでさえ最近は一気読みも難しいはずだったのに
一体この読書体験は何なのか?
アマゾンの書評でこの本は散々な書かれようだが
自分には無条件に面白かった。
まあ、パラレルワールドをここまで徹底的に展開されると
我が粗雑な頭ではもはや完全理解は不可能なわけで
途中意味不明なところも読み飛ばすように進んでいってわけだが
それにしてもハラハラドキドキで面白い。
小説の一気読みがこれほど時間を忘れさせてくれる、ワクワクする時間を与えてくれるとは
久々の体験で、もうすっかり忘れてしまっていた。
小林泰三さんは裏切らない。
アリスなど名作パロディものも
今読むと面白いのかもしれないが
まあとりあえず書架に並んでいるものから借りることにするか。

664korou:2022/01/28(金) 14:30:36
五百旗頭真ほか「評伝 福田赳夫」(岩波書店)を読了。

2021年刊行の本で、なぜか今まで本格的な評伝がなかった福田赳夫に関する本ということで
県立図書館に予約までして借りた本である。
680pにも及ぶ大部な本であり、しかも活字が小さめに印字されているので
その意味では読み通すのに苦労したが
内容そのものは期待通りで面白い本だった。
その財政家としての基礎といえば
高橋是清のバランス感覚から学んだものであり
それが、第一次石油ショック直後の蔵相として的確な政策判断を培い
ひいては、物価高、消極投資のダブル不況となりながらも
日本が、先進国のなかでショックからいち早く立ち直ったという
大きな功績につながった、ということがよく分かった。
また、政治家としてはナイーブすぎる信念をもっており
そのことが政治家・福田の最大の魅力でもあり
反面、政治家として為すべき政策の完結を妨げる短命政権の元と
なったことも否定できない。
優れた「安定成長」経済政策家であり
ナイーブな理想主義者であり
しかし高級官僚にありがちな自己アピールの下手な人でもあったということ。
そういった福田氏の個性を強調するあまり
反対勢力の中心だった田中角栄への評価が
かなり一方的になっているのが、この著書の最大の欠点ではあるのだが
そこは、別に田中角栄本で補うしかないだろう。

665korou:2022/01/30(日) 20:48:05
なべおさみ「やくざと芸能界」(講談社+α文庫)を読了。

以前から気にはなっていたので
とりあえず1冊だけなべおさみの本を読んでみた。
思ったよりもズブズブの芸能界裏話の連発で
芸能界入りする前のヤクザとの交流なども
思ったよりも面白く読めたのだが
読み込んでいくうちに
文章の雑な展開が嫌になってきて(主語を省く日本語でこういう文章を書いてはいけないと思う)
第3章の前半のほとんどを占める「裏世界の人間とは」という哲学的な考察は
とても読み進める自信がなくなり、そこは全部飛ばして読み終えた。

読み終えた後、youtubeでなべおさみの映像をいくつか見た。
シャボン玉ホリデーをリアルタイムで観ていたときも
なべおさみの映画監督のコントだけは
不快な感じがして好きでなかったのだが
今こうして観ても、印象は変わらなかった。
何かが足りないのである。それが何かは曰く言い難いのだが。
ダウンタウンの番組で、この本に書いてあるような芸能界の裏話をしている動画は
ダウンタウンや坂上忍のリアクションが面白くて
なかなか良かったのだが。
ネットのチャンネルまで持っていて、頻繁に更新しているようだが
時間が長めの動画なので、今すぐには観る気がしなかった。

まあ、図書館で借りて読むぶんには、特にどうということはない本。
こんな本、買ってしまったら後悔するだろうな。
悪い人じゃないんだけどねえ。

666korou:2022/02/01(火) 17:14:50
本間ひろむ「ユダヤ人とクラシック音楽」(光文社新書)を読了。

今一つ分かりにくいユダヤ問題を
しかも個人的に既知の事実が多いクラシック音楽というジャンルのなかで
新書という読みやすいサイズで、かつわかりやすそうな文章で書いてくれている、ということで借りてみた。
読み始めは、なんだかよく分からないまま一方的に
ユダヤの歴史が民族音楽とかオペラとかの関係で語り続けられていて
これは相当粗雑な頭の人が書いた本なのか?直前に読んだなべおさみと同等のトンデモ本の類かと思わせたが
読み終わってみると、いわゆるクラシック雑学のなかの
ユダヤ人関係の部分だけがうまく抜き取られた上でコンパクトにまとめられたような
比較的良さげな印象になってしまった。
新しい知見、新しい解釈を望む向きには全く役に立たない本だが
そうした「まとめ」サイトのような効能を期待する人には
なかなかの好著だと思った。
「まとめ」サイトで簡潔でもあるので
文字にできる形では、これ以上の感想はない。

667korou:2022/02/06(日) 23:08:16
秋山長造「わが回想録 一筋の道」(山陽新聞社)を読了。

かつて神野力先生の山陽新聞社賞受賞祝賀会で受付をした際
「あ」行の来賓の担当だったのだが
そこで秋山長造氏を受付した際
「大変だね、ありがとう、頑張って」と激励して頂いた記憶があり
参議院副議長という大物でありながら
全く偉ぶらない人柄に魅了されたということもあり
秋山氏の名前は気にしていたのだが
今回、県立図書館の郷土資料コーナーでこの本を見つけ
借りて読んだ次第。
前半は自叙伝、後半は各所で発表された文章のアンソロジーで
自叙伝はシンプルなスタイルで読みやすく一気読みだった。
後半は、今となってはその時代だけの関心事だけのものも多かったので
いくらか飛ばし読みした。
社会党が斜陽化していく時代を党の長老として生きたわけで
そのあたりに何とも言えない不燃焼感、残念な気持ちが
どの文章からもにじみ出ていて
いかにも誠実、真面目な秋山氏の心情を思わせた。
加藤武徳と知事選で争ったことなどは初めて知ったのだが
昭和30年代の政界の様子などは
こうした古老の回想談でないと知れないわけで
その意味で貴重な本ともいえる。

668korou:2022/02/11(金) 12:29:30
中国地方総合研究センター「歴史に学ぶ地域再生、中国地域の経世家たち」(吉備人出版)を読了。

中国地域に関する本ということで、岡山県以外にも記述があるので
本来は岡山県関係の人物だけ読んで終わろうと思っていたのだが
読み進めていくにつれ、他県のことも知っておこうと思い直して
結局全部読了することにした。
江戸時代の地方各藩の財政の苦しさ加減は
ある程度知っていたつもりでいたが
この本を読んで、生半可なものではなかったのだなと
再認識させられた。
その反面、決意を強くして藩財政改革に当たれば
意外と早く状況が好転するということも分かったのだが
これは、江戸時代という主従関係が強固な時代にあって
藩政を左右できる立場という強みの為せることなのだろう。
要は、商業経済をどうみるかということであり
それは深く言えば、この世界、そこで生き抜いている人間全般を
どう見るかという人生観、世界観の話にも通じるのだが
そこが、そういう深い認識になかなか結び付かない現代の財政問題と
大きく違う点だろう。
また、グローバル経済に巻き込まれた現代と違って
この時代にあっては、とりあえず日本国内のことだけを想定しておけば良いので
その点でも随分異なるのだが
それ以外の面について言えば
江戸時代のことといえども、現代でも参考になる事例が豊富にあるように思えた。
なかなか渋い好著である。

669korou:2022/02/16(水) 17:07:59
こだま「夫のちんぽが入らない」(扶桑社)を読了。

興味深い本ではあったが、書名のせいで高校図書館で購入するのには躊躇したことがあり
今回その判断の可否も知りたくて借りてみた。
予想通り、良い本ではあったが、内容は高校生向きではなかったので
書名うんぬんは関係なく、購入しなかった判断は正しかったと分かった。
本としては上質であることは間違いない。
これほど自分の心情を率直に書くことは
簡単そうで難しい。
その一点のみで、この本には価値がある。
もっとも、いろいろと書き切れていない部分はあって
そんなダメ女がなぜいきなり結婚するような展開になるのか
いかにも不自然だし
ダメ先生が、退職後も児童に慕われるくだりも
納得できる記述がない。
両親などについては過不足なく書けているようなのだが
自分のことと夫のことについては十分に書けていないはずで
随所に不自然な記述が見られる。
しかし、そんな不備など吹き飛ばしてしまう率直で大胆な記述スタイルが
この本の最大の魅力だと感じる。
最終的に「夫(だけ)のちんぽが入らない」私の性器が
一番の苦しみになり
それを乗り越えようとしている現在進行形の「私」で物語は終わる。
それもいさぎよい終わり方で好感が持てた。
どうしてもこの書名になるだろうな、この物語は。

670korou:2022/02/22(火) 17:18:46
塩田潮「江田三郎 早すぎた改革者」(文藝春秋)を読了。

江田三郎には以前から関心があった上に
最近になって秋山長造の本を読んだばかりだったので
”郷土資料・連続「伝記」読書に挑戦”の一環として
今回読んでみた。
塩田氏の叙述は、この時期にはまだ生硬で結構読みにくかったのだが
とりあえず江田三郎を語る上で最低限必要なことはほぼ網羅してあったように思え
とりあえずの紹介本として十分に役立つ本だった。
「党を離れるのには遅すぎ、亡くなるのが早すぎた」人という評価は
まさにその通りで
江田氏は早めに社会党に見切りをつけて、最低限でも民社党と共闘していれば
随分と日本の政治も変わっていっただろうと想像できる。
また、社会主義協会が出しゃばる前に
佐々木更三の抵抗を押し切って党内で主導権を握れていたら
もっとダイナミックに変わっていただろうと十分想像できる。
社会党の幹部でありながら「アメリカの生活水準」という目標を掲げるあたり
まさに江田氏の見識は見事で時代をよく読んでいたと思う。
それを阻んだ鈴木ー佐々木-成田という主導部の動きについては
今度は当事者側から反対検証もしなければならないが
どちらにせよ、時代を読み誤っていることには変わりはない。
後は、和田博雄、黒田寿男なども含めて
岡山県人がこうした先駆者の仕事を忘れずに顕彰していくことも大事なことだろう。
とりあえず江田三郎を知るための本としては十分な内容。

671korou:2022/03/01(火) 16:17:51
谷川健司「近衛十四郎 十番勝負」(雄山閣)をほぼ読了。

全500p弱の大部な本であるが
後半の約300pは、近衛十四郎の出演した映画の詳細な紹介であり
今さら入手の難しいそれらの映画について
ストーリーや企画の経緯などを詳しく知っても仕方がないので
前半の200p読了の時点で「ほぼ読了」とすることにした。

市川右太衛門プロの研究生募集に応募して研究生となったのを初めとし
その右太プロでの人脈で大都映画に入り
一躍若手時代劇スターとして名を馳せたものの
戦時中の特殊事情で大都映画は大映となった時点で
時代劇スターばかりの大映では活躍できないとして
劇団を結成して巡業生活を続けた近衛十四郎。
兵役で中国に渡り、苦しい抑留生活の後、帰国し、再度劇団生活を続けるが
映画への夢も捨て切れず、嵐勘寿郎の芸能プロに所属しながら新東宝などの映画に
端役で出演した後、阪妻急逝後の松竹に移籍して時代劇スターとして復活。
ただし、あくまでも準主役に止まったので、第二東映設立と同時に移籍して
そこでは短期間なら主役として活躍。第二東映解散後もしばらく東映で活躍し
「柳生武芸帳」の剣豪柳生十兵衛役などの当たり役もあったものの
東映の任侠路線への変更を機に、東映テレビに所属してテレビ時代劇に進出。
そこで「素浪人月影兵庫」「素浪人花山大吉」の大ヒットとなり
日本中で知られる有名時代劇スターとなったというのが大筋。

ちょっと前に大都映画の本を読んではいたが
詳しい流れがこの本で分かって頭の整理になった。
まさに労作という印象の本。

672korou:2022/03/07(月) 18:00:09
鈴木美勝「北方領土交渉史」(ちくま新書)を読了。

鳩山一郎が行った対ソ交渉から、安倍晋三の対ロ交渉までを
動きの無かった時代を省きつつ
主なところはすべておさえて解説してある「北方領土交渉史」だった。
多少文章が読みにくい点はあるのだが
書いてある内容が興味深いので
思わず読み込んでしまうという迫力あるノンフィクションとなっており
また、著者が主観を入れて書いてある箇所は
読んでいて、ここは著者の主観部分とはっきりと分かるようになっていた。

1956年の「平和条約と同時に二島返還」というのは、当時としてはギリギリの線で
鳩山首相としては、国連加盟と抑留者帰還という優先事項を実現させたのだから
後世の人間としては文句は言えないところ。
それを粘り強く交渉して、相手国の国力が落ちた時点で
「四島返還」についてソ連(ゴルバチョフ)及びロシア(エリツィン)に認めさせたところまでは
日本外交の成果だったに違いない。
しかし、外交なのだから、「四島返還」可能な時点で、わざと妥協する手法もあったはず。
恩を売って、とりあえず「二島」で妥協して平和条約を結び、経済協力を進める手もあったに違いない。
もちろん、その後の歴史を見ると、ロシアは強硬な態度に変貌したに違いないので
「四島」全部は永遠に戻ってこなかっただろうが
今のように、二島返還でさえ日米安保破棄を条件とするような事態には至っていなかっただろう。
安倍晋三の外交の失敗についてページ数が割かれているが
これは橋本政権時に政治決断ができなかった龍太郎の責任ではないか。

まあ、それにしても、よくまとめあげたものだ。
政治記者経験豊富な著者にとってはそれほどでもないのだろうが、労作と言ってよい。
タメになった本。

673korou:2022/03/09(水) 10:18:31
グレンコ・アンドリ―「プーチン幻想」(PHP新書)を読了。

最初のほうで、
米国がロシアに対しNATO拡張はしないと約束した史実は一切ないと断言している記述を読んで
これはなかなか面倒な本だなと思い、いったん読書を中止(明らかな史実誤認なので)。
読書再開後も、日本外務省の「ロシア・スクール」は対ロシアで好意的な見方を助長している
などという調査不足の記述に悩まされたが(こういうのが自分の気付かない他の箇所でもあるのかという疑い)
実際のところは、再開後の読書については、ある程度のリテラシーを確立して読み続けることができたので
それほど面倒ではなかった。
そういった些細ではあるが、結構致命的な事実誤認を除けば
これは熱量の高い、志の高い、なかなか日本人のライターではここまでは書けないだろうと思われるほど
徹底して自説で説得してくる本で
その自説も荒唐無稽でなく、むしろ知見を正す類の良書に思えた。
また、文章に関しても、どういう仕掛けなのか見当もつかないが
少なくとも、これだけの日本語を駆使できるのだとしたら
本当に敬意に値するレベルで
他の多くの日本人学者も見習ってほしいくらいの熟達した流暢な日本語だった。

この本で「プーチン幻想」がほどけていったかどうかについては
読む人にとって様々だろう。
しかし、こういう本は貴重である。出版されて然るべきである。
著者のスタンスはどうあれ、これこそ民主主義社会における言論の自由なのだと思った。
(少なくとも、プーチンはそれを認めていないのだから)

674korou:2022/03/13(日) 17:07:25
東郷和彦「危機の外交」(角川新書)を読了。

1990年代の日本の外交をリードする外務省官僚だった著者が
2015年頃の時点で一民間外交研究家として
日本の外交のあるべき姿を論じた本である。
250p足らずの新書ながら、中身はきっしりと詰まっており
どの文章の行間からも、実際に外交実務に携わってきた外交官としての感覚が
滲み出るようだった。
恐らくはここに書かれているような在り方が
日本の外交としてはベストなのだろう。
しかし、もうこの著書から7年近く経過し
「対韓国(慰安婦・徴用工・竹島)」「対中国(靖国・尖閣)」「対ロシア(北方領土)」のどの問題についても
解決の方向どころか悪化する一方だし
むしろ、日本自体の国力について地盤沈下が激しく
国際政治上のポジションが著しく低下しているのが現状だ。
対韓国となれば、お互いに国力が伸び悩んでいることに加え
国際法上ムリな要求をしているのが韓国自身であることから
その関係は、韓国の強引な国際社会へのアピールだけ注視していけば足りるのだが
こと対中国に関しては、本気で対日関係に圧力をかけてくれば
日本にはそれに対抗し得るものは何一つない状態だ。
対ロシアは、すでにこの著書の時点で破綻の方向を示していたが
その後の安倍外交の失態、そして今回のロシアによる強引なウクライナ侵攻により
完全に手がかりを失ったうように見える。
インド・太平洋共同構想も絵にかいた餅に傾きつつある。
そのような悪化の方向にある中で、この本を読むことは
もはや採るべき方向の示唆をいうよりも
この時期ならまだ可能だったかもというノスタルジーに近い絶望を感じる作業とも言えた。
本は立派なのだが、もはや現状がそれに追いついていない。

675korou:2022/03/16(水) 12:04:28
風間賢二「怪異猟奇ミステリー全史」(新潮選書)を読了。

18世紀西欧で隆盛となったゴシック文学から始まり
現代日本のミステリー事情まで
おもに怪異、変格ミステリーに焦点を当てて
その歴史の概略が記された本。
ゴシック文学が、近代社会において根強い人気を保ち続け
それが明治以降の日本においても
日本独特の形で受け入れられたという流れが明確に示され、
読んでいてタメになった。
新しく知ったことが結構たくさんあって
その逐一をここで確認することすら難しいくらいだが
例えばWikiの力も借りて「嵐が丘」のあらすじを詳細に知ったり
谷崎潤一郎のミステリーを読みたくなり
県立図書館でのチェック本リストに追加してみたり。
途中から、ゴシック文学史なのかミステリー史なのか
日本”キワモノ文学”史なのか日本ミステリー文学史なのか
判然としない感じもあるが
全体として、書かれるべきことがしかるべき妥当な著者によって書かれたという
安心感が漂う好著であることには間違いない。

676korou:2022/03/25(金) 12:20:57
歴史読本臨時増刊(’88-9)「特集 世界を動かす謎の国際機関」(新人物往来社)を読了。

トイレでの読書本として、結構長期間読み続けていた。
かなり怪しい本かと思っていたが
他の本ではなかなか読めないような特殊な分野の情報について
要領よくまとめてあるので
これはこれで要保存の本とすることにした。
1988年発行の本なので
データとしては古いのだが
それも今となってはなかなか面白く
ソ連の存在とか、インターネット以前の情報産業の様子とか
案外もう人々の記憶から薄れかけている時代を
思わせてくれて
なかなかユニークな本である(というか、ユニークになってしまった、というか)

677korou:2022/03/30(水) 21:08:13
村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(新潮社)を読了。

かなり昔に単行本で買って、いつまでも読めずにいて
数年前に意を決して読み始めたところ
主人公が冷凍食品を買って、そのまま家に帰らずに食品を車に積んだまま
いろいろな店に寄って、結局数時間後に帰宅するというシーンを読んだとき
非現実的な話だと思い、読むのを止めてしまった。
そういう経緯で、また数年ほったらかしにして
今回、その非現実には目をつぶって読み進めようと思い(「ねじまき鳥」を読みたいと思い、その前提となる小説として)
またまた意を決して読み始めた。
今度は、冷凍食品を車に長時間放置どころではなく
随所に飲酒運転のシーンが出てくるのには呆れたものの
こうまで作者が飲酒運転を気にせず書きまくり、ハルキさんの編集者もそれを黙認しているとなると
もはやハルキ作品を読むのに”ハルキさんの常識”に従って読まなければならないのだと観念した。
(だから、冷凍食品はいつまでも腐らない、飲酒しても車の運転に支障はない、大けがの後でも酒を飲んでよい・・・等々)

さてそういう読書の入り口での不審な点を切り抜けて
なんとか最後まで読み切ってみて
この小説がどうだったのかといえば
とても短い文章では書き切れないし
かといって、長文をしたためる余裕も知識も体力もない。
ただひたすら、並行して描かれた2つの世界が最後に合体する仕掛けのみが
脳裏をぐるぐると回り、印象に残るのみである。
意識と無意識、企みと受け身、世界の終りと世界の崩壊・・・何だろう、分かるようで分からない、分かりにくい。
こうなると「ねじまき鳥」を読んで、まとめて感想を書くしかない。

678korou:2022/05/17(火) 18:23:50
「特集 日本の名門1000家(別冊歴史読本)」(新人物往来社)を読了。

トイレ読書本として読了した。
この種の本は今までに何冊も読んではいるのだが
この本に関しては、他の本ではなかなか取り上げられない分野が
意外と詳しく書いてあり、結構面白く読むことができた。
能・狂言、あるいは茶道・華道などの名門の歴史などは
今回初めて詳しく知ることができたし
巻末の「華族一覧」も
詳しくチェックすれば、なかなか役に立つ「辞典」のように使える。
その反面、財界とか、他の本でも詳しい歌舞伎などについては
特に目新しい叙述はなく、むしろ出版年(1988年)からくる古さが目立った。
トータルとしてみれば
かなり使える本であり
しばらくは捨てずに保存しておこうと思った本である。

679korou:2022/05/25(水) 22:20:26
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル(第1部〜第3部)」(新潮文庫)を読了。

多分4月1日から読み始めた。そして今日読了。1か月と25日、最近では期間最長の読書となった。
些細なことではあるが、第1部の文庫本が最近再版された大き目の活字だったのに対し
第2部と第3部は改版前の比較的小さめの活字だったことが
期間最長の一因であることは間違いない。
この大きさの活字は短時間で済ませないといけないと思い
第2部からは一層読書スピードが遅くなった。
それでいて、その期間中、トイレ読書以外の本はほぼ読まず、この本の読破に専念した。

思ったよりも凡作で、同時に思ったとおりの力作だった。
作者は渾身の思いでこの小説を書き、作者はそれにより何かを得てなにがしかの変化を体得したが
読者はそこまでの感銘を得られない場合がほとんどだったに違いない。
何といっても混乱している。
そうでなくても、飛躍の多い文体と直喩や象徴が頻出する実は難解な文章(読みやすいのだが・・・)の作者が
さらに近現代史に踏み込んで、しかも日本語文体のコラージュまでも意図してちりばめているので
読者としては、それら全体を統一した形で把握することにかなりの労力を要するのである。
しかもその労力は小説を読むことによって得られる愉悦には昇華せず
最後まで「飽きないんだけど面白さとなるとどうかな?」という印象が続く。
彼は意識と無意識、自我と他者などの近代人のエゴを描こうとしているのだろうけど
そこに至るまでの道具立てが勿体ぶった大層なものになっていて
まあいうなれば効率が良くない。
印象的な場面はいくつもあるのだけれど
結局、主人公以外の登場人物はどれも人物が描けていないも同然だ。
とにかく、読後直後の今は
この作品の美点よりもガッカリ感のほうが支配して
作品そのものへの批評にまで至らない、というのが正直なところだ。
また何か書けるようになったら書くことにしようか。

680korou:2022/06/01(水) 13:33:00
横山源之助「明治富豪史」(現代教養文庫)の前半2篇を読了。

文庫本200ページの中身が、「明治富豪史」「富豪貴族」「海外の人」の三つに分けられていて
「明治富豪史」は本人もとりあえずのまとめとして一気に書かれたものであるのに対して
「富豪貴族」「海外の人」はいろいろな雑誌に書かれた同種の内容をまとめた章立てとなっている。
今回の読書では、「海外の人」は読了せず、他の2篇を読了した。
やはり、現代の財閥系企業につながる大本の話のほうが面白く
移民関係の話は実感が湧かないので。
そして、横山の意図が、富豪の成り立ちの偽善性を暴くものであったとしても
令和の今読むにあたって、そういう社会主義的な視点はなくとも
ただ単純に明治時代の秘められた歴史ということだけで
面白く読めることは否定できないわけである。
なかなか、ここまで詳しく明治初期の富豪の様子を書いた本というのは
ありそうで無いように思う。
期待通りの面白さだった。

681korou:2022/09/03(土) 12:03:41
猪俣勝人・田山力哉「日本映画作家全史(上)」(現代教養文庫)を読了。

トイレ本として読了。
猪俣氏の関係した人物が多数取り上げられていて
そのことは逆に、猪俣氏が
日本映画史上重要な役割を果たした人物であるということの
証しということにもなる。
そして、各人物の略伝に付記される形で書かれた各エピソードが
どれも人間ドラマのように思わるほど面白く
列伝を読む面白さ以上の魅力が付け加わっていた。
ちょっとこれは廃棄できない。永久保存版の本。

682korou:2022/09/04(日) 23:08:08
ロボットマナブ(原案)・大仏見富士(著)「自衛隊入隊日記」(学研プラス)を読了。

必要があって急きょ県立図書館から借りて読んだ本。
借りる前にパラパラとめくった感じで、これは読みやすいはずと判断したが
実際読んでみて、全くストレスなく最後まで一気読みできた。
結構個性的な著者なので、書いてあることが普通にそうなのだろうかという疑問は残るのだが
誰が書いても恐らく細部はそうなるだろうという部分に関しては
とりあえず最低限の描写がしてあるので
実際に実戦部隊として自衛官を志望する人にとっては
これほど有益な本はないかもしれない。
反対に、自衛官志望者以外にとって
どんな意味がある本なのかと言えば
なかなか難しい。
文章が極めて主観的なので、客観的に自衛隊のことを知ろうと思った人には
あまり参考にならないかもしれない。
個人的には、まあ話のタネとして使えるかも、という感じだった。
結局、巷によくある珍しい体験本という部類か。

683korou:2022/09/08(木) 15:02:38
岡田真理「自衛官になるには」(ぺりかん社)を読了。

必要があって読み始めた自衛隊本第2弾。
当面知りたい部分だけ先に読み、それで終わろうかと思ったものの
思い直して、再度、最初から全部読み通した本。
「なるにはBOOKS」をこんな形で読むことになるとは
想像もしなかったが
ある意味、その職業の良い面だけを強調して
闇の部分は抹消してあるともいえるので
高校生対象の推薦本、進路関係本として
本当にこれでいいのかという疑問も残った。
これはロクに読み通していなかった学校司書時代には
意外と見落としていた部分だが
それはともかく
当面の役には立った。
それ以上の感想は出てこない。

684korou:2022/09/12(月) 17:33:06
佐道明広「自衛隊史」(ちくま新書)を部分読み。

どうにも目が痛くなる本なので(活字は普通程度の大きさだが文章が読みにくく目が疲れてしまう)
読了は諦めて、ざっと目を通す程度にした(前半半分は読了したのだが、もう限界)、
自衛隊史としては
1960年代までは政治の思惑に振り回され、むしろ存在感を消すように要請されていたくらいだが
1970年代後半から、米国の衰退、軍事力の低下を背景に、日本の自衛力向上が要請され
1980年代はその押し問答が続き、なんとか日本の経済力と政治家の駆け引きで現状維持を保っていたものの
1990年代になり、例外的な措置を余儀なくされ、自衛隊の存在は曖昧なまま目立つレベルになってきた。
2000年代になり、周辺国からの危機が顕在化し、さらに神戸大震災などの災害等非常事態への対応も大きな任務とされ
2010年代になり、おもに安倍内閣の主導で、自衛力向上のためのプログラムが組まれるようになる。
まあ、そういった以前から何となくそうではないかと思っていた流れを
再確認した本ではある。
細部では知らない事実もいくつかあって参考になったが
そこまで読み込むための代償としては
この激しい眼痛は痛すぎる。
残念だが、他の本で探ってみたいと思う。

685korou:2022/10/01(土) 17:51:02
中川右介「文化復興 1945年」(朝日新書)を読了。

野球のシーズンも終わりかけているので
読書も少しずつ始めなければと思い
”中川本”でまずウォームアップということで
この本からスタート。
ただし、日によって目の疲れがひどいこともあるので
ムリはできない感じだ。

本そのものは、いつもの”中川本”で
安心して読める文章と、かっちりとした資料読み込みで
全く問題なく読めた。
ただし、一次資料を追って叙述するスタイルだけに
こうした特定の地点に絞った著作だと
中川氏の個性がうまく生かせない面も出てくる。
今度は、時系列に沿って推移するスタイルの本を
読もうと思っている。
あと、トイレ本として今現在も読書進行中の「映画作家全史」との関連で
客観的な叙述の中川氏と、あたかも自伝小説のような猪俣氏とで
同一人物ながら全く違った印象の人物評になるところも
興味深かった。

686korou:2022/10/29(土) 11:15:43
中川右介「至高の十代指揮者」(角川ソフィア文庫)を読了。

いつもの中川本。読みやすく、タメになって、読書ストレスフリーの本。
十大指揮者は、ベルリン・フィル常任指揮者(フルヴェン以降)を軸に、世代、国籍について万遍なく選んだ結果らしい。
トスカニーニ、ワルター、フルトヴェングラー、ミュンシュ、ムラヴィンスキー、カラヤン、バーンスタイン、アバド、小沢征爾、ラトル
といった面々で、前半の数名についてはすでに読んだ本の内容と重複することになる(しかしすでに忘れてもいるのでムダな読書ではない)
後半のアバド、小沢、ラトルについては、今回初めてその活躍の詳細を知ることができた。
これ以上の感想はもう書けない。
あとはそれぞれの指揮ぶりを、実際の音響で堪能することになる。

687korou:2022/11/08(火) 17:26:52
小菅宏「異能の男 ジャニ―喜多川」(徳間書店)を読了。

とにかくヒドい日本語、ヒドい文章だった。
こんなレベルで、よくフリーのライターが務まるなあと思った。
最初のページから最後のページまで、まともな文章はほとんどなかった。
意味を理解できるところだけ飛び飛びに読んだというのが実感だ。
意味を理解できる箇所は、ほぼ過去の事実をそのまま書いている部分で
それすら、かなりの部分が意味不明だった。
まして、著者の考えが書いてある部分など
どうやって読解せよと言うのかと言いたいくらいだった。

それでも読了(いや飛ばし読みかな)してしまったのは
ジャニーズに関する解説本が
あまりにも少ないという現実、しかも著者は
少なくとも80年代途中までは伝聞ではなく直接ジャニ―姉弟を取材していた
大手出版社の編集者だったからで
これが違うジャンルの違う著者であれば
最初の10数ページで投げ出していただろう。

著述の中身は、あまりに断片的に読んだので(そう読まざるを得なかった!)
イマイチ頭の中でまとまらない。
すでに整理してあるジャニーズ関係の知識と照合しながら
徐々に理解していくしかない。

キツい読書だ(苦笑)

688korou:2022/11/13(日) 15:30:02
小菅宏「女帝 メリー喜多川」(青志社)を読了。

前著同様、読みにくい本だった。
明らかに著者の文章は下手くそを通り越して
日本語として意味を成していない。
このような著作を出す人が
ジャニーズ関連本の権威と目されているのには
呆れてしまうが
それが現代日本の現状なのだろう。
いかに意味不明な文章が連なっていようとも
その中に挿入されるエピソードの数々は
著者でなければ書けない、他の人は体験すらできない事実なのだから
尊重されてしかるべきなのだが
それにしても、である。
結局のところ、何が書かれていたのか
読み終わった今は
むしろ悪文を通し読みした疲労のほうが勝ってしまい
何も思いつかないのである。
そして、最後には、オリジナル事実も散在しているが
やはり無視しても大丈夫な本かな、という評価になる。
オリジナルにしても
そんなに大したことない話だし。

689korou:2022/11/25(金) 13:54:47
猪俣勝人・田山力哉「日本映画作家全史(下)」(現代教養文庫)を読了。

トイレ本として9月上旬から読み始め、本日読了。
下巻のほうは、田山氏が主に書いているようで
取り上げられた作家たちも
この本の出版時(1978年)においては
中堅どころの人が多く
これからの活躍が期待される人々列伝という趣きである。
そして、最後のほうの数名について
その後の経歴もWikiで調べてみたが
ほとんど活躍できておらず
この本に書かれた仕事以降
映画人としては終わってしまっている状態だった。
それを思えば、物悲しい列伝ということになるが
本そのもののテイストとしては
やはり名著と言えるだろう。
これだけの人々を取り上げて
1冊の本に仕上げる苦労、努力は並大抵でない。
これもうかつに廃棄できない本である。


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