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( ^ω^)ヴィップワースのようです

1 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 00:59:11 ID:iULO39J.0

タイトル変更しました(過去ログ元:( ^ω^)達は冒険者のようです)
http://jbbs.livedoor.jp/sports/37256/storage/1297974150.html

無駄に壮大っぽくてよく分からない内に消えていきそうな作品だよ!
最新話の投下の目処は立ったけど、0話(2)〜(5)手直しがまだまだ。
すいこー的ななにがしかが終わり次第順次投下しやす

2 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:01:03 ID:iULO39J.0

たとえばの話をしよう。

たとえば君という人物が、たった一人で絶望を覗く深淵の淵に立たされたとする。

仮にそれを一人で乗り越える事が出来たとして、天恵に恵まれていたに他ならない。

たった一人で困難に打ち勝ち続ける事が出来るほど、人は強い生き物ではないからだ。


だが、仲間という存在があるのならばどうか?


同じ過程を辿るにせよ、結果は違ったものになる可能性も無いとは言い切れない。

互いが互いを助け合い欠点を補い合う事で、人は、普段以上の力を発揮する事が出来る。

目には見えず、言葉で言っても陳腐になるだけの───不確かなもの。

それは───”絆”というものなのかも知れない。


誰にも断ち切る事の出来ない、真に強き”絆”の力があるとするならば、

恐らく人は、きっとどんな困難にも挫ける事なく立ち向かっていけるはずだ。

その人と人との結びつきが生み出す”光”は、きっと暗闇の中でこそ一層光り輝く事だろう。


               大陸暦893年「ショボン=ストレートバーボン」の手記より

3 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:03:30 ID:iULO39J.0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


           「序 幕」

4 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:04:27 ID:iULO39J.0

───────────────

──────────

─────

夜の帳も降りた頃、とある森の奥深くに5人の若者の姿があった。

虫たちの声だけがしんしんとあたりに響く中、
彼らの周りを包むのは、薄ぼんやりとした暗闇ばかり。

星も見えない程の木々に覆われ、唯一光を灯しているものと言えば、小さな焚き火だけだ。
時折、ぱちぱちと音を立てるその薪の音も、すぐに森の静寂へ吸い上げられる。

5人の男女は火を囲みながら談笑しあったり、薪火をぼうっと眺めては、
旅の疲れを癒している所だ。

そこで、突然一人その場を立った長髪の女性の一人が仲間へと語り掛けた。

「歩哨が一人居れば十分だろう、お前達は休むといい」

その言葉に、全員が黙り込んだ。
これまでの道程で、確かに全員に疲労は溜まっている。

だが、一同は頷きもせずただそれに返す言葉を探し当てていた。
何も一人で歩哨の苦労を負担する必要はないからだ。

5 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:05:13 ID:iULO39J.0

その中で、一番早く思い立った銀髪の男は立ち上がると、彼女に言った。

「無理しなさんな、この人数なら二人のローテーションで十分さ」

ローブのフードを深く被り、膝を抱えてぼうっと薪の火を見つめていた
金髪の女性も、はっと気づいたように飛び起きると、彼の言葉に続く。

「そうよ、あなただけじゃなく、皆長旅で疲れてるんだから……なんなら、私が引き受けるわ」

最初に歩哨を請け負おうとした女性が、彼女のその言葉になんとも言えぬ表情を
浮かべたのを確認すると、地べたで地図を開いていたローブの男は割って入った。

「止した方がいい。僕たちと彼らとじゃ元々身体のできが違うからね」

─────ぐおぉぉ……ぐおぉぉ……─────

そんなやり取りの中で、既に豪快ないびきをかいて眠りに落ちている者がいた。
仲間たちが傍に居るためか、完全に安心しきったような安らかな寝顔を浮かべている。

大の字に寝そべりながら、そしていびきはますます大きさを増していった。

彼以外の全員が「やれやれ」とばかりにそのあられもない姿に白い目を向けていたが、
ローブの女性はそれに怒り心頭と言った様子で、つかつかとその枕元に歩み寄った。

「ふぅ……あんたってばッ……!」

一度大きくため息をついてから、枕代わりに頭の下に敷いていたその薪を、思い切り蹴飛ばす。

「……あqwせdrftgyふじこlpッ!?」

夢うつつの中、突然現実に引き戻されると、硬い地面に後頭部を打ち付けた。

6 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:06:26 ID:iULO39J.0

「なぁ、いい考えがあるんだけどさ……」

「……聞こうか」

「俺らの内誰か一人ずつをニ交代にして、もう一人はこいつに全部やってもらうってのはどうだ?」

頭を押さえてうずくまる男を尻目に、銀髪の男はそんな冗談めかした事を言った。

「……フッ、それもいいな」

長髪の女性が含み笑いを漏らした後、その場に小さな笑いが巻き起こった。

だが、そんな和やかな仲間内での談笑も束の間。

─────「”ウオォォォォォンッ”」─────


「!?」

直後、全員の身に戦慄が走った。

全員がすぐさまそれぞれの武器を手に取り、その場から飛び跳ねるようにして立ち上がる。
そう遠くない場所から確かに聞こえたのだ。

声からして獰猛極まり無い事を連想させる”獣”の、尋常ならざる咆哮が。

ローブの男は、すぐに声の聞こえた暗闇の方を注視する。

「今のは……近い───ここから、4半里も無いだろう」

7 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:08:41 ID:iULO39J.0

先ほどまでいびきをかいていた男も、すでに背の剣をいつでも抜ける体勢だった。

「ただの狼……って訳でもなさそうだおね?」

銀髪の男は、かったるそうにしながら女性達に声をかける。

「悪いなお二人さん。どうやら、今晩の野営はお預けみたいだぜ」

長髪の女性は、それに腰元の小剣を取り出しながら答えた。

「なら、とっとと終わらせよう。正直に言って、私は眠い」

最後尾で身構えるローブの女性は、恐怖心を跳ね除けるようとしているのか。
その様子から、あえて気丈な態度で振舞っているのが少しだけ見て取れる。

「ま、後方支援は私にお任せってとこね」


─────「……”グルオォォォォォァッ”……」─────

今度は、更に近くでその声は聞こえた。
敵意を剥き出しにしたような、その吼え声は、明らかにこちらへ向けられている。

どうやら、戦闘は避けられない事態になりそうだ。

そう思っていた矢先────

気づけば暗闇の向こうからは、既に赤々と輝く眼光が5人の若者達を射抜いていた。
茂みの向こうからこちらへ近づくにつれて、その獣の威圧感は更に強まってゆく。

並の妖魔ではないだろう──────だが、この状況では立ち向かう他ない。

8 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:09:32 ID:iULO39J.0

「────行くお、みんな!」

臆することなく、先頭に立つ剣士は走り出した。
それに続くようにして、他の面々も側面から彼を支援する。

真っ向から巨大な獣とやりあおうと長剣を振り下ろした彼の眼前に、
打ち込みの合間を縫って飛んできた、獣の鋭爪が迫っていた。

だが、銀髪の男は瞬き一瞬ほどの間に胸元からナイフを取り出すと、
獣の眼を目掛けて指先から投擲し、見事狙った場所へと突き立てた。

「ったく、ヒヤヒヤさせんなよ」

獣が大声を上げて怯んだ一瞬の隙を突いて、ローブを纏った男の手から巨大な炎が発現している。
それは意思を持ったかのように彼の指先どおりの軌道を描いて宙を飛ぶと、獣の身体に直撃した。

「……どうやら、火力が足りなかった」

片目を潰され、身体に燃え移った炎の苦痛。
不気味な声を上げながら、それを紛らわそうとしているのか、獣は狂ったように暴れ始める。

「チッ……あぶねぇぞ、離れろ!」

「やはり、手負いの獣は危険極まるね……!」

後退してゆく彼らと前線を入れ替わるように、淡い黒髪の女性が躍り出た。
ゆっくりと背後を振り向くと、そこに居たローブの女性へ目で合図を送った。

「任せろ」

その一瞬だけで、通じ合えたようだ。

9 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:10:45 ID:iULO39J.0

(………うん)

互いに無言の中、ローブの女性はこくりと小さく頷くと、

【 聖ラウンジの名において 】

口にした────救いの力をもたらす、その聖なる御名を。

【 ヤルオ=ダパートの名において 】

彼女の身体の周囲からは、純白に包まれた粒状の光が漂い始め───やがて、

【 神の庇護の元 彼の者の身を あらゆる外敵から護り賜わん!】

ローブの女性がそう唱えて手を組んだその瞬間、やがてそこから閃光が生まれた。

舞い降りるようにして瞬く粒状の光は、苦戦を強いられる剣士に助太刀する機を
今か今かと待ち望む、小剣を携えた女性の身へと降りかかると、纏わりつく。

まるで、力を付与するようにして。

「はぁッ!」

それを受けて、依然として暴れ続けていた獣の懐へと彼女は飛び出した。

辛うじて見えるのは片目だけ、その憎悪に身を任せ、まるで目の前にある
全てをなぎ払おうとするかのように鋭い爪を尚も振るい続ける。

だが、俊敏な身のこなしの彼女には、そのどれもが当たらない。

「……助かったお!」

10 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:11:24 ID:iULO39J.0

獣の攻撃の直後を狙い澄まし、ほんのわずかな隙を小剣が一度、また一度と突く。

一合ごとに、獣の身には刺し傷が増えている。
が、その身から血を流す度、更に獰猛に力強く、牙や爪は襲い掛かる。

剣士は、得手とする己の剣を力強く握り締めていた。
自分のものよりも遥か小ぶりな小剣で、果敢に剣技を繰り出し続ける彼女を前に。

自らの持つ速力を大きく上回るであろうその攻防に、自らが枷となるのを拒んでいたのだ。

だが、さしもの獣も深傷をいくつも負わされ、そこいらの猛獣を凌駕するであろう
その敏捷性にも、徐々にではあるが陰りが見えつつあった。

────剣士は、その隙を見逃さなかった。

「────お」

大きく、大地が揺らぐ程の一歩を踏みしめた。

「────おおおおおッ」

次いで、天高く跳躍する自分を想像しながら、跳んだ。

瞬きするほどの一瞬の内に全力を込め、両の足は既に地面を離れていた。
獣の背後へと、回り込んでいるのだ。

11 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:13:22 ID:iULO39J.0

その頭上、天を突くような威容で構えていた剣。

「────おおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァッ!!」

自らの全体重を乗せた落下の勢いに任せて、裂帛の気合と共に振り下ろす───

やがて、鉄塊のような剣を比類なき速度で打ち込まれたその巨体は、ゆっくりと崩れ落ちた。

再びその場に訪れる静寂─────その静けさこそが、戦闘の終わりを告げる、合図だった。

────

────────


────────────

12 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:16:49 ID:iULO39J.0

その後、傷ついた体を一晩の間だけ休ませて、すぐに次の旅の目的地へと向かった彼ら。
自分達が倒したあの巨大な獣が何であったのかなど、知る余地もないだろう。

ここ10年ばかりも山の頂上付近に出没し、近隣の村人達に恐れられていたという、
恐るべき”山の主”であったという事実など───あるいは、知ろうとも思わなかったのか。

その権利を持ちながら名声を得る事もなく、彼らは人知れず山を降りていった。

彼らは”冒険者”達。

身に余る名声など良しとせず、時には地位や富すらもを自らの誇りや、
その信念の為にはかなぐり捨てると言われる者達だ。

違う人生を歩みながらも、同じ宿で出会って、今では共に冒険をする仲間同士。
その彼らに共通する事は、皆が自由の風に吹かれて生きる事を選んだという事だ。

今日も────彼らはどこかの大地を歩いている。

芽吹き始めたばかりの5人の絆は、今はまだ限りなく心細い一本の線だ。
だが、冒険を共にする仲間の存在が、いつしか彼ら一人一人を今以上に強くするだろう。

13 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:19:01 ID:iULO39J.0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです


           「序 幕」



            ─了─

14 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:26:56 ID:iULO39J.0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

           第0話(1)

          「出会いの酒場」

15 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:27:39 ID:iULO39J.0

ここでは、”聖ラウンジ”の教えが広まり、その統治下に置かれている。
呼び名を交易都市”ヴィップ”、近年急速に拡大してきた新興都市だ。

多くの商業施設では、冒険者や魔術師達に、果ては、聖ラウンジお抱えの騎士団の姿も見られる。

それというのも、同じ職を生業とする者達で助け合いながら、
仕事を斡旋する共同体、”ギルド”が多種多様に存在しているのが理由だ。

魔術師達にとっては己の研究を広め、研鑽を積むもの同士で情報を共有しあう場。
その一方では、主に戦ごとに用いられる傭兵斡旋所や、盗賊ギルドなどもあり、
表だってこそないが、やはり街が大きいほどに、日陰に生きる者も多分に存在する。

だが、大陸の中心に位置し、貧民層から富裕層までの多くの人々が住み暮らす
この街は、今や行き交う商人達にとっても決して素通り出来ない場所だ。

その広大な敷地を誇る街の入り口の立て看板の前で、青年は一人、肩を落としていた。

(   ω )「はぁ…なけなしの50spを落とすとは、ツイてないお…」

ずた袋を背負い、決して傍目からは小奇麗とは言いがたい服装。
とぼとぼと歩く後姿には哀愁を誘うものがあった。

ただ、その背中に背負う一振りの長剣だけは光り輝いて見える。
業物の装飾を施した鞘に納まり、彼自身とは見合わぬ程だ。

16 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:28:11 ID:iULO39J.0

みすぼらしい服装や、生々しい擦り傷の数々。周囲の人々には
かなりの長旅を経てこの場所へ辿り着いたのだと思わせる事だろう。

だが、肩を落としながらでも彼の足取りは一歩一歩が力強く、
疲れなど感じさせない。その一挙手一足は、それなりの場数を
踏み越えてきたであろう、戦士としてのものによく似ていた。

この大陸では、貴族や商人などといった身分の住み分けこそあれど、
それぞれの人々は安定した暮らしを築く為、日々を精一杯仕事に打ち込んでいる。

だが、自由の風に吹かれて生きる事を目標とする者は、非常に多い。

────それが、彼のような冒険者という人種。

冒険者というのは、取るにも足らない雑用から、揉め事の仲介、遺失物の探索など、
それら”冒険者宿”で張り出されている依頼を受け、日銭を稼ぐ人々の事。

腕利きの冒険者ならば、時に騎士団や領主直々に破格の報酬を与えられることもある。

だが、高額の依頼になれば当然、危険な依頼も多い。
そんな中で金や名誉を急く、経験の浅い駆け出しの若者達の大半は、
志半ばで命を落とす人間ばかりといっても過言ではないだろう。

17 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:28:36 ID:iULO39J.0

彼らの中での冒険の目標は、この大陸の未開の地が踏破される度、常に移り変わる。

ある者は、伝説と語り継がれる秘宝を手に入れ、莫大な富をその手にした識者。
また、ある者は精鋭の騎士団を幾度駆り出して討伐しようとも倒せなかった魔物を、
たった一人で倒したという猛者。

冒険者達は、そうして聞こえてくる風の噂に、一抹の思いを馳せる。
ある者は名誉のため、またある者は、知識の探求に明け暮れて。

大陸全土において、日々冒険者を志して行動し始める者は後を絶たないのである。

やがて、一軒の宿の前で、彼の足は止まった。
木製の看板には、書き殴ったような筆記体でこう書かれていた。

─────「”失われた楽園亭”」─────

酒や食事を提供し、各地方からの依頼ごと扱う、いわゆる”冒険者宿”だ。

このヴィップの街がまだ今のように栄える前から、この場所に建てられた。
一見して作りは小汚いが、ヴィップでは腕利きの冒険者達がよく立ち寄ると評判の、
良質な冒険者宿として繁盛している。

だが、そんな事も知らない若者は、看板を見ながら一人呟く。

(   ω )「何とも、キザったらしい名前だおね…」

使い込まれた木扉を押して中に入ると、その瞬間に活気が溢れて来た。
まだ日も高い内から、それぞれの卓では酒盛りがなされ、賑わっている。

18 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:28:56 ID:iULO39J.0

(’e’)「───いらっしゃい」

マスターが一瞬入り口の方を一瞥する。

彼が一見の客である事、それに、風貌から冒険者である事。
それらの確認をまばたき数度の内に終えると、また少し俯き加減に
エールグラスを磨きながら、酒盛りをしている冒険者達と談笑に戻った。

マスター同様に、店の娘も一瞬だけマスターの方をちらりと見たが、
彼が談笑に戻ったのを見て、若者の元へと駆け寄ると、注文を尋ねる。

ζ(゚ー゚*ζ「いらっしゃいませ!…ご注文は?」

そんなやりとりに気づく節も無く、若者はただ壁面に
びっしりと散りばめられた、様々な依頼の文字を追っていた所だ。

そこへ突然後ろから注文を聞かれると、驚き、振り返った。


( ;^ω^)「あ───申し訳ないんだお、その……」

「今日は持ち合わせがないので……依頼だけ……」

ζ(゚ー゚ ;ζ「え?」

その言葉に、周りに居た冒険者と思しき人間達は、
彼らの方へと振り返った。突然多数の視線に晒されて、
若者は少しばかり目が泳いでしまっている。

19 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:32:26 ID:iULO39J.0

こういった冒険者宿では、張り出した依頼を閲覧する際に、
飲み物の一杯も頼むのが冒険者同士では暗黙の掟というものなのだ。

もちろん、気恥ずかしそうにするその態度から、彼がこういった
”常識”を疎んじていたという訳でも、なさそうだったが。

店の娘も困惑気味だったが、気まずい空気は一人の男性客によって破られる。
  _
( ゚∀゚)「小僧」

エールグラス片手にカウンターでマスターと談笑を続けていた男。
その彼が、突然若者の方を振り向いて一言漏らした。

彼の物と思しき灼熱色の軽甲冑は傍らに脱ぎ捨てられ、
浅黒い肌に映える爛々と輝く青い瞳は、真っ直ぐに彼の瞳を射抜く。

自分よりふたまわりも年長者である雰囲気だが、その顔立ちは端正に整ったものだった。

(;^ω^)「?」
  _
( ゚∀゚)「俺のオゴリだ。そこに座って、一杯飲み干してからじっくりと選びな」

そう言って身の丈ほどの大剣を背にした小柄な男は、言われた通り席に腰掛けた彼の前へ、
なみなみと注がれた一杯のエールを滑らせた───ピタリと、彼の目の前で止まる。

20 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:33:11 ID:iULO39J.0

「ははッ、ジョルジュの旦那らしいぜ」

「まぁ……俺らもあいつくらいの時分にゃよぉ……」

お辞儀をしてカウンターの奥へと去ってゆく店娘の背中を見送ると、
目の前のエールグラスを手に取り、ちびり、とグラスの端を口につけた。

(  ^ω^)「あの……」
  _
( ゚∀゚)「礼ならいらねぇ、高々銀貨1枚の酒だ」

(  ^ω^)「……いや、ありがとうございますお」
 _
( ゚∀゚)「お前、冒険者か?」

(  ^ω^)「まだ駆け出しですが、お……自分は」

名乗ろうとした矢先、彼はは手でそれを跳ね除けるようにして、紡ごうとした言葉を振り払う。
どうでもいい、とばかりに苦々しい表情で。
 _
( ゚∀゚)「名前なんか聞きたくもねぇよ……駆け出しの名前なんか聞いても、
     季節が移り変わる頃には、どうせ土の下で眠ってる奴ばっかりだからな」

( ;^ω^)「お…」
 _
( ゚∀゚)「俺と酒を酌み交わした帰り道の数刻後…ってやつもいたさ。
    酔っ払ってたばかりに夜盗どもに襲われて、ぽっくりとな」

( ;^ω^)「はぁ……ですお」
  _
( ゚∀゚)「んで、お前はどっから来た?」

21 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:34:08 ID:iULO39J.0

(  ^ω^)「……ここからずっとずっと西の、田舎の農村ですお。
      多分名前を言っても誰も思い当たらないほどの」
 _
( ゚∀゚)「サルダか……あそこは僻地だが、のどかで人も良かった」

(  ^ω^)「行った事があるんですかおっ?」
 _
( ゚∀゚)「まだまだ大陸も未開の地は多いが、お前なんかより
    万里はあっちこっち旅してるさ。なめんじゃねぇ」

(  ^ω^)「……ですお」
 _
( ゚∀゚)「俺は、いつかある竜を仕留める為に旅を続けてる」

( ;^ω^)「ドラゴン…ですかお?あれは、人の手に負えるものじゃ…」

ほんのりと酒が回ってきたのか、はたまた、ただの気まぐれなのか。
ジョルジュと呼ばれた男は、また新たに運ばれてきたエールグラスを呷りながら、
一人語知るように語り始めた。

22 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:35:36 ID:iULO39J.0
 _
( ゚∀゚)「…まぁ、こいつはただの昔話なんだがな。かれこれ、15年も前の話になるか…
    奴がねぐらにしていた山の、とある麓の村が襲われたんだ」

 _
( ゚∀゚)「当時その地を治めていた坊ちゃん領主が、手柄を立てたいと思ったんだろうよ。
    突ついちゃいけねぇ奴の腹元を突いて、逆鱗に触れちまったのさ」
 _
( ゚∀゚)「50人以上からなる騎士団は壊滅…命からがら帰って来たのは、
    気が狂った奴か、もう生きてる方が辛い風体の奴ばかりだった」
 _
( ゚∀゚)「その翌日だよ。腹の虫が収まらなかったそいつが、麓の村の人間を皆殺しにしたのは」

(  ^ω^)「………」
 _
( ゚∀゚)「女、子供、老人…皆食い散らかされるか、奴のブレスで焼き殺されたさ」
  _
( ゚∀゚)「───今はねぐらを変えて、どこに身を潜めてるんだかな……」

そう言って、遠くを眺めるような瞳で、ジョルジュという男はエールグラスの底に残った
琥珀色の液体を揺らしながら眺めていた。押し黙りその様子を見ていた若者は、そっと尋ねる。

(  ^ω^)「ジョルジュさんは………ご家族をそいつに?」

23 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:36:45 ID:iULO39J.0

若者の方を振り向くともせず、エールを一気にあおり、グラスをそっと置いた。
相当量の酒を飲んでいるであろう事は窺えるが、その横顔は、酒に呑まれている様子はない。
  _
( ゚∀゚)「…ま、昔の話よ。期待したほど面白くもねぇだろ」

(  ^ω^)「………いや」
  _
( ゚∀゚)「”邪龍ファフニール”…500年以上も生きてるっつぅ、怪物よ」

( ;^ω^)「!…ファフニールと言えば自分の住んでた片田舎でも、噂くらいは聞いた事がありますお」
  _
( ゚∀゚)「どんなだ?」

(  ^ω^)「生きる伝説。数百年を生きる竜は、人語すら理解する知恵を持って…」
  _
( ゚∀゚)「……ハハハッ!」

若者が言葉を続けようとしたところで、それを聞いたジョルジュはカウンターを
ばんばんと叩きながら、どこか自嘲気味に笑うかのような仕草を見せた。
  _
( ゚∀゚)「どいつもこいつも、”ドラゴン”ってバケモンがよっぽど高尚で、お上品な存在だと口を揃えやがる」

24 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:37:40 ID:iULO39J.0

(  ^ω^)「確かに、数百年を永らえる知恵とその力から、龍たちは絶対的強者ですお」
  _
( ゚∀゚)「絶対的強者ねぇ……そいつぁいいや」
  _
( ゚∀゚)「いいか、若造……俺はな。俺の身内を、何の感情も無く旨そうに喰らってやがるあいつの姿を見た。
    その時はまだフヌケたガキだった俺は、小便も大便も漏らして、ただ震えていたさ」

(  ^ω^)「………」
  _
( ゚∀゚)「人間を食い散らかし、本能のままに殺す必要の無い命を奪っていきやがった。
    俺から言わせれば、奴らも、ゴブリンも、豚オーク共も」

「何の変わりはねぇ、ただの化けもんだ」

そういって、何口目かでグラスを満たしていたエールは底を突いた。
一つ大きなため息をついてから、ジョルジュという男は甲冑を着込み、身支度を始める。

(’e’)「今夜は、泊まっていかないのかい?」
  _
( ゚∀゚)「悪ぃなマスター。次の依頼がまたでかいヤマでな…その下準備があるのさ」

(’e’)「それなら……次は、上等な酒を用意して待ってるさ」

実に手馴れた動作で、甲冑を着込み、使い込んだ手甲の紐を歯を使い器用に縛る。
その一連の動作を終え、男が宿を後にしようとしたところで、若者はその背中に声を掛けた。

25 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:38:52 ID:iULO39J.0

(  ^ω^)「あのっ」
  _
( ゚∀゚)「あ?」

(  ^ω^)「エール、本当にありがとうございましたお」
  _
( ゚∀゚)「…チッ、調子狂うぜ」

家族をドラゴンに殺され、その仇討ちをするために旅をする冒険者。
その去り行く背中を最後まで見送ると、若者もまた席を立った。

壁面を飾る依頼状へ、再びじっくりと目を走らせる。

(  ^ω^) 「依頼は……この辺がいいかおね」

そこから剥ぎ取った依頼書を手に、おずおずとマスターの元へと差し出した。
そこに書かれていた依頼は”ゴブリン退治”というものだ。

(’e’)「おっ、依頼かい。どれどれ……」

差し出された依頼書の内容を確認しながら、それを差し出してきた駆け出しの姿をちらりと見る。

(’e’)「……ゴブリンといえど、油断はできんぞ。
    ましてや、それが駆け出しならよっぽどな」

26 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:39:49 ID:iULO39J.0

(  ^ω^) 「わかってますお。僕も、死ぬつもりはないですからお」

言って、背中の鞘へと収まった長剣の刀身を少しだけ抜き出すと、
半身になってマスターへと見せた。すぐにぱちんと鞘へと収めたが、
朝露さえも断ち切れそうな程の切れ味は、輝きからも見て取れる。

(’e’)「冒険者としてはどうだか知らないが、そっちの方は達者そうだな」

(  ^ω^)「ありがたいけど、ご心配には及ばないと思いますお」

「────ま、悪くないか」

冒険者宿を切り盛りするマスターともなれば、駆け出しから熟練まで
多数の冒険者達の顔を嫌でも覚えてしまうものだ。

しかし、長く付き合いを続けていける人間など、その一握りに満たない。

多くの人間は命を落としたり、怪我や病気で足を洗う人間などが大多数なのだ。
そんな中で、この”失われた楽園亭”のマスターは、依頼を受諾しようとする
冒険者の力量を判断し、相応しくないと判断した場合には断る事もある。

一部からは”融通の利かない偏屈親父”として有名だった。

が、それというのもかつて冒険者を志して旅に出たという息子が、
若くして命を落としたという事実から来ているのだろう。

27 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:40:25 ID:iULO39J.0

その人柄の良さと料理の旨さ、また、店娘の愛嬌もあいまって、
この冒険者宿は日々繁盛しているのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「はーい!ただいまお持ちしますからね〜!」

慌しく働く店の娘を見やりながら、依頼書に自分のサインを記すと、
マスターはそれを再びこちらへと返し渡そうとした。

(’e’)「…そういや、お前さんの名前が要るな。教えてくれるか?」

(  ^ω^)「ブーン、”ブーン=フリオニール”ですお」

(’e’)(フリオニールという名……はて、どこかで……)

(’e’)「ま、いいか……明日の朝ここを出て、東のリュメで依頼人に会うんだ」

( ^ω^)「分かりましたお」

(’e’)「そのナリじゃ、どうせ無一文だろう?お代はツケといてやるから、
    今日は2階の空いてる部屋を寝床に使いな。ベッドはないがな」

(  ^ω^)「!……ありがとうござい───あ」

(’e’)「ん?他に情報が必要か?」

28 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:41:52 ID:iULO39J.0

( ;^ω^)「ば……晩メシの方は……お召し上がれますかお……?」

(’e’)「……ハハッ、何かと思えばそんな事かい。
    心配すんな、今晩も明日の朝も、腕によりをかけてやるさ」

( *^ω^)「あ……ありがとうございますだおぉッ!」

腹の虫を大きく鳴らせながら、今晩の食事に思いを馳せ、喜びを露わにする。
これから歩む、冒険者としての道────その、第一歩を踏み出した。

”ブーン=フリオニール”、彼が何故旅をするのか、今はまだ誰も知らない。

(  ^ω^)「(一先ずはこれが───最初の一歩、だおね)」

その理由は、いずれ彼自身の口から語られる時が来るかも知れない。

29 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 01:44:04 ID:iULO39J.0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第0話(1)

          「出会いの酒場」


             ─了─

30 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 08:16:01 ID:QgfcfuqEO
乙!
初めて読んだが面白いな

31 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/07(火) 20:07:54 ID:5rGHbVtgO
おっ、タイトル変えたのか
壮大なのは大歓迎だがよくわからないうちに消えたら承知しないからなwww

32 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:25:00 ID:8708vJ0A0
>>30-31
消えないように頑張るお。
今回は地味にプロローグを追加しとりまふ

33 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:29:34 ID:8708vJ0A0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

           第0話(2)

         「怒りを胸に刻んで」

34 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:30:38 ID:8708vJ0A0

光あれば、闇もまた然り。

聖ラウンジの奇跡とは対極の存在として、常日頃研究されつづけているものがある。

─────それが、”魔術”

名の通り、一つ使い方を間違えれば、魔に取り憑かれ己の身を滅ぼす事さえある。
弱き者を救う術として存在している聖ラウンジの秘術とは違い、これは弱者が強者に対抗する術なのだ。

その為、魔術師たちが用いる術は、他人を呪うもの、対象を焼き焦がす炎を発現するものなど様々。
様々な術をこなせる半面、魔を究めようと、それに魅入られた者も多い。

その中でも、大陸全土において絶対の禁忌とされ大多数の魔術師から忌み嫌われるのが”死霊術”

命を失った肉体や朽ち果てた亡骸を蘇らせ、己の意のままに操る事さえできる。
多くの人間の死が必要で、またその亡骸を弄ぶという事で、もし発覚すればその場所場所に
よっては、拘束され、処断される事さえあり得るのだ。

高等魔術に位置する死霊術の研究だが、それゆえ魔術の道に魅入られた者達の中にも
人々の目を欺きながら研鑽を積み、研究に没頭している者も存在する。

人は、禁忌というものが自分の目の前にあると、触れずにはいられない生物なのだから。

35 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:32:35 ID:8708vJ0A0

(´・ω・`) 「ふぅ…全く、聞いた話とはえらい違いだ」

全ての魔術師たちが志す場所があった。その名は、”賢者の塔”

その名の通り、魔術の道を求道して研鑽を積み続けた者たちが立ち入れる場所だ。
幾多の術を用いる名のある魔術師や、大きな発見で魔術研究に貢献した者など、
ここにはそんな魔術師のエリートばかりがひしめいている。

一定の成果を上げられない人間は、研究途中であろうと塔を追われる事さえある。
逆に、見込みのある研究成果を上げられる術者たちには快適な研究環境があてがわれ、
じっくりと自分の研究に没頭できるという訳だ。

青年は、沢山の魔道書を両手一杯に抱えながら、陽光の差す渡り廊下の窓から外を眺めていた。

”ショボン=アーリータイムズ”──────

生まれた時の名であるストレートバーボンの名を捨て、魔術師としての現在の彼の名前だ。

36 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:36:21 ID:8708vJ0A0

南の名家、”ストレートバーボン家”の次期当主となるはずだったショボンは、
物心つく前から既に魔術へとのめり込んでいた。

8歳の時には、老齢の魔術師であっても習得が困難とされる移送方陣を独学にて完成させると、
12歳の頃には、森で遊んでいた際に襲い掛かってきたオーガを、炎の球で撃退したりもした。

気品に溢れ、知に富んだショボンが領主としてその手腕を発揮するのを、
ストレートバーボン家の人間のみならず、領民達も待ち望んでいたほどだという。

だが、20になったショボンは、父であるシャキン=ストレートバーボンの制止を振り切り、
僅かな手荷物だけをもって生家を後にしたのだ。広大な敷地と大きな富を有する領主の地位を放って。

その後は大陸各地を転々としながらも魔術の研鑽を積み、やがてその才覚がこの賢者の塔の
アークメイジの目に留まり、こうして今この場に呼び寄せられているのだ。

だが、どういうわけかこの頃は研究の合間に、雑用ばかりを余儀なくされていた。

(´・ω・`) 「(使用人にご機嫌伺いをされるのも懲り懲りだが、こう雑用ばかり頼まれるのもな…)」

37 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:38:45 ID:8708vJ0A0

常人の数倍の速度で知識を吸収してゆくショボンに、賢者の塔の魔術師達も舌を巻いていた。

ついこないだも、ショボンの倍以上も生きている老魔術師が、
転移方陣によって自分の身を遠方へと転送する事に成功したと言う。

喜びを露にしてそれをショボンに伝えてきた老魔術師だったが、
そこへ彼が言い放った言葉がいけなかったのかも知れない。

(´・ω・`) 『それはそれは、おめでとうございます。苦労なされたでしょうね……
       ちなみに私は、それを15の時には既に独学で習得していましたが』

事実、今の段階でショボンに比肩する叡智を持つ魔術師は、指折り数えるほどしか存在しないのだ。

しかし、いかに有能といえど賢者の塔にはきちんと術者同士の上下関係というものもある。
才覚ではショボンに劣る者もいるが、これまでの下積みによって魔術の研究に大きく貢献してきた者達なのだから。

(´・ω・`) 「(妬み、か………だが、収穫もあった)」

そうして冷静に自分へと向けられている周囲の感情を分析しながら、
窓の外の風景を眺めていたところだった。廊下ですれ違う人間と、ふと目があう。

( ・∀・)

”モララー=マクベイン”。彼もまた北の名家、ローゼンマイヤーの名を捨てたという話だ。
ショボンを上回る程の才覚を持ち、また独自の魔術の研究にも余念が無い。

38 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:40:22 ID:8708vJ0A0

光の屈折率を捻じ曲げ、己の姿を不可視にするという魔術は、未だ彼以外に大陸中で習得した者は居なかった。

どこか同じ雰囲気を持つ二人、だが、どちらからも話かける事はなかった。
互いの研究が忙しいというのもあるのだろうが、相容れない、ショボンはそんな印象を彼に持っていた。

(´・ω・`)「どうも」

( ・∀・)「あぁ、どうも」

会釈をしたままその背中を見送るショボンは、視線を落とした際に、一つある事に気づいた。

(´・ω・`)「(………血?)」

( ・∀・)「………では」

大きめの黒い道衣に身を包むモララーの手首に、血を拭ったような痕跡が僅かに見受けられた。
だが、モララーは別段視線も合わせず、ゆっくりと歩を進めて廊下の奥へと消えていった。

たったそれだけ、普通の人間ならば気に留める事もないようなそんな事が、
この時は何故か、やけにショボンの好奇心を煽った。

(´・ω・`)「(尾けて……みるか?)」

モララーの背中が見えなくなったのを確認して、抱えていた魔道書を傍らへと置き、静かに歩き出す。

39 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:42:35 ID:8708vJ0A0

モララーの背中が見えなくなったのを確認して、抱えていた魔道書を傍らへと置き、静かに歩き出す。

一度興味が沸くと確かめるまでは抑える事が出来ない性分だとは、彼自身も解っていた。
それだけにその好奇心こそが、今日までの彼を形作ったのかも知れない。

決して尾けているとは気取られぬ程度に、一定の歩調で彼の後を追う。
専用の研究室まで与えられているモララーという魔術師の存在は、以前から気にはなっていた。

自分が魔術研究者として招き入れられるよりも以前から、彼は既に大陸全土の魔術師ギルドから
一目を置かれている存在であったからだ。自分とさほど変わらぬ若輩が、だ。

確かに、自分は常人が数年頑張っても習得できない高等魔術を、難なくこなすことができる。
だだ、それらは決して自分一人の研究によって得られた成果ではないのだ。

尤も成功の可能性が高いその道を模倣し、必要とあらばそれらの修正点を洗い出す。
それが出来れば、後は自分なりの解釈を添えて必要であろう行動をこなすだけ。

たったそれだけの事で、自分より遥かに長く魔術に携わる人間達の頭上を、何度も越えてきた。
これまでの間、大きな壁にぶつかったことすらなかった。

決して自分の口から周囲へと放つ事はない、が、恐らくは自分が魔術師として
一流の部類に入る人間なのであろうという事も、自覚している。

40 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:48:22 ID:8708vJ0A0

当然そこらの貴族が抱えているような、プライドだけは一人前といった、
半人前未満の魔術師たちと比較すればなおさらの事だ。

有事においての判断力、集中力、蓄える知識の量も、センスも。
己への糧とする為に魔道に打ち込んできた時間が、絶対的に違うのだ。

名ばかり売り込む事に躍起になってきた者達は、遅かれ早かれいつか必ず
大きな壁にぶつかり、己の才能の無さを言い訳に道を違えて行く。

今日の自分を形成するものは、飽くなき探究心と、効率の良い努力で裏打ちされた自信。
それにより、今まで他人を羨んだりした事もなかった。

だが、それも────モララーという男が、自分の先を行く男が居ると、知る時までは。

初めて自分の興をそそられる人物と出会った。
だからこそ、少しばかりの事に、敏感に反応してしまっているのだろうか。

(´・ω・`)「(僕が……彼を羨んで?)」

(´・ω・`)「(………いや)」

それは違う、ただのいつもの悪い癖だ。そうやって自分を納得させながらも、
自分の足跡はモララーを辿ると、やがて彼の研究室がある辺りまでたどり着いた。

41 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:51:57 ID:8708vJ0A0

簡素で、何の飾り気も無い研究室の扉。
その前に立ち、そっと指先で扉の取っ手に触れてみた。

ぽぅっと、ほのかに黄色く発光する指先。
物体に遮られた場所の様子などを調べる為の”探知魔術”だ。

目を瞑り、扉の向こうの様子を探ろうとした所ではっと我に返り、その手を離した。

(´・ω・`)「………全く、僕は何をしているんだ」

ただ単に興味を惹かれた、遊び半分の気持ち。

たったそれだけの事で、同じ屋根の下で寝食を共にしている身内に対して、
侵してはならない領域を、あともう少しで侵してしまうところだった。

一旦冷静になると、自分への嫌悪感さえ押し寄せて来た。
それらを噛み殺しながら、一人自嘲気味に呟く。

(´・ω・`)「本当に、この癖は治さなければね……」

短時間の探知魔術で把握できたのは、モララーは研究室には戻っていないという事だけだ。

手首に血の跡?それが何だ、研究道具か何かで引っかいたり、自分自身の血液を媒体とする術式だってある。
下らない事に頭を突っ込むよりも、いち早く完全なる自分だけの魔術を完成させなければ。

42 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 18:58:29 ID:8708vJ0A0

踵を返して、研究室の扉の前から立ち退く。
モララー=マクベインといういち魔術師に対し、申し訳ないと思う気持ちさえ沸いてきた。

だが─────その時。

そこで、ショボンを再び疑念へと駆り立てる要素が芽生える。

(´・ω・`)「(……ッ!?)」

日ごろから頭を使う事ばかりしているせいか、俗世の人間達が好む珍味などの味覚にも疎く、
魔道書の活字ばかり追っている眼は、最近では近づきすぎるとぼやけてはっきりと見えなくなってきた。

だが、自然に群生した葉などを調合したりもする実験柄、嗅覚というものは大事な五感の一つだ。
間違える筈はない。

本当に微かながら、自分の鼻腔を突いたのは─────僅かな、死臭。

(´・ω・`)「(これは……)」

今度は躊躇わなかった。再びの探知魔術によって、扉の向こうに誰も居ないのを
しっかりと確認した後、取っ手をしっかりと掴み、押し開けようと試みた。

だが、扉はうんともすんとも言わない、それどころか、手から伝わってくる感覚に違和感を覚えた。
しっかりと力を加えているはずなのに、少しのあそびもない扉からは、きしむ音すら聞こえない。

43 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:01:37 ID:8708vJ0A0

(´・ω・`)「(鍵じゃ、ないな……魔術による錠の感じでもない)」

(´・ω・`)「(だとすれば、結界か?)」

(´・ω・`)「(ますます気になるな)」

大きく一歩を後ずさった後、ゆっくりと掌を扉へと向けると、詠唱した。

(´・ω・`) 【 行く手を阻みし魔の効力────打ち消えろ 】

その一言を言い終えると、固く閉じられていたはずの木製の扉は、軽く押すだけで呆気なく開いた。
”解呪の法”、簡潔な呪いの類や、魔術によって張られた障壁などの魔力を中和する魔法だ。

結界によって隔てられていた空間と空間。それが破られると、扉の向こうからは
重苦しいような、息苦しいような、そんな違和感が流れ込んでくるのを、ショボンは肌で感じ取った。

(´・ω・`)「随分と、小奇麗なものだ」

研究室の中へと一歩踏み入っただけで、感じていた重圧がより一層強いものに増した気がした。

同時に、鼻を突く死の臭いも、だ。

きょろきょろと部屋の中を見渡し、私物や研究成果をしたためた書物などに目を配る。
そこで、ギクリとするような題名のある一冊の書物を見つけて、急ぎ手に取った。

(;´・ω・`)「まさか……これは」

44 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:05:17 ID:8708vJ0A0

”死をくぐる門”

古ぼけた魔道書の題名には、そうあった。
この著書には、多数の人間の死が密接に関わっていると及び聞いている。

今より数十年も昔、ある村で全ての住民が忽然と姿を消してしまうという事件が起こった。
幾度も近隣の騎士団は捜索を試みたが、村中、果ては森狩りをしてまで原因を追究したが、
いくら月日が流れても、手がかりを発見するに事さえ至らなかった。

種明かしをしてしまえば、犯人はこの魔道書を書き綴った人物というのが、三年後に発覚した事実だ。

村の離れにぽつんと建っていたあばら家の地下で、この著者の亡骸と、
村人達の者と思しき異常なほどの量の人骨が発見されたのだという。

一人の魔術師が、夜な夜な”実験材料”として村の人間達を捕らえ、
その命を奪っていたらしい、というのが事の顛末である。

”死霊術の実験”としての大量虐殺、後に騎士団はそう断定した。

だが、実際にはそれを一歩進めた外道にも劣る儀式を行っていたのだという。
その惨い過程を書き綴ったこの著書から明らかとなったのが、5年ほど前だったか。

この世で唯一、死神と同一視さえされる程に強力極まりない悪霊、”レイス”
その霊体を、自らの肉体と数多の人間の死を媒体として、降霊させようとしたのだ。

魔術の道を志す者達には、絶対に破ってはならないタブー。”禁呪”として伝え広められる死霊術。
果たしてレイスを呼び出す事に成功したのか、そのまま取り殺されたのかは誰も知らない。

45 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:07:19 ID:8708vJ0A0

頁をめくる度に犠牲となった人間の悲鳴すら聞こえてきそうな、この外法の魔術書に数えられる一冊。

今重要なのは────それが、何故この場にあるのかという事だ。

(;´・ω・`)「(何という物を見つけてしまったんだ……しかも、これは)」

死霊術において、死者の魂を捕縛するための道具である、”黒魂石”が傍らに置かれていた。

混じり気のない黒曜石を削りだし、様々な材料を塗した上で7夜を満月の光で照らし続ける。
確か、昔何の気無しに目を通した書物にはそう書いてあった。恐らくこれは、その手順にも忠実だ。

それらが何を示しているのかは、たとえショボン以外の術者であっても、簡単に理解が出来る。

(;´・ω・`)「(バカな………死霊術だと?)」

(;´・ω・`)「(この賢者の塔に出入りする魔術師が、そんな外法を研究していたなど知れれば…)」

肩をわなわなと震わせ、ショボンの心中には様々な感情が交錯していた。
こんな事実が外部に発覚すれば、魔術師ギルド全体、はたまた大陸中の魔術師一人一人の沽券に関わる。

何より、大陸でも指折りの優れた能力を持ちながら、死者を冒涜して人間の尊厳を貶める、
死霊術などという外法に手を染めているのが、一緒に魔術の発展に貢献していこうとしていた筈の
身内に存在している事実に、ショボンは背筋の冷たくなる思いをしていた。

「……おや、そこで何を?」

46 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:09:51 ID:8708vJ0A0

(´・ω・`)「ッ!!」

瞬時に振り返り、向き直る。

( ・∀・)

いつからそこに居たのか、気づく事が出来なかった。

静かな微笑を浮かべていつの間にか背後に佇んでいたのは、
この研究室を預かる、モララー=マクベイン本人。

今となってはその口元の緩みに、不気味さしか感じる事が出来ない。
この魔道書を持つ理由を聞き出す為、ここは毅然とした態度で振舞わなければならない。

(´・ω・`)「留守中の勝手な入室、非礼をお詫びします………ですが、
      先ほど、袖口のあたりに血の様な痕をつけておられたもので」

( ・∀・)「ふむ……あぁ、これかい?」

(´・ω・`)「えぇ、それが気になりまして」

( ・∀・)「で……たったそれだけの事でわざわざこの僕を追いかけ、
      僕が扉に張っておいた結界まで”たまたま”解呪し、今この場にいるというワケだ?」

(´・ω・`)「………」

( ・∀・)「ハハッ!実に心配性だね、ショボン……ストレートバーボン君、だったか?」

(´・ω・`)「今は、ショボン=アーリータイムズを名乗っています」

47 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:12:18 ID:8708vJ0A0

( ・∀・)「そうそう…そうだったね、ショボン君」

( ・∀・)「僕の身を案じてくれるのは有難いが、何の事はない、
      ちょっとした実験で手元に跳ねてしまっただけのものさ」

(´・ω・`)「それは、死の臭いを撒き散らす、このような実験ではないのですね?」

( ・∀・)「………」

突きつけた。下手をすれば異端審問は免れられぬ、動かぬ証拠となるであろう一冊の魔道書を。
それと同時に、今まで薄ら笑いを浮かべていたモララーの表情から、口元の笑みはさっと失せる。

互いに目線を逸らすことなく、永きに渡る沈黙がその場を支配した。
ただでさえ息苦しさを感じるこの室内の重圧が、さらに一段増したように感ぜられた。

どれほど無言で見詰め合っていたのか、沈黙は、やがてモララーの方から破られる。

( ・∀・)「………く、くく、プフッ」

(´・ω・`)「何が、面白いのです?」

( ・∀・)「いやいや…失礼ながら、随分と煮詰まっているようだね。ショボン君」

( ・∀・)「他の人間の研究成果を盗み見るなんて、
      同じ魔道を求道する者として恥ずべき行為だ……違うかい?」

(´・ω・`)「(ふん)」

48 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:12:49 ID:8708vJ0A0

ショボンには、この会話を経て初めて気づいた事がある。

これまで魔術の研究に明け暮れてきた、モララー=マクベインという男の、もう一つの顔。
この上なく残虐で下劣な禁忌の魔術を、この男なら行いかねないという確信に触れた気がした。

(´・ω・`)「一体………なぜです」

( ・∀・)「なぜって、何がだい?」

(#´・ω・`)「質問に答えろッ、モララー=マクベインッ!」

( ・∀・)「………」

柄にも無くショボンは怒気を荒げ、不敵な笑みを浮かべ続けるモララーをキッと睨みつける。
当のモララーは、その言葉に対して返す言葉を考えているのか、虚空の塵を眺めるかのように天井を見上げた。

( ・∀・)「………”なぜ?”それはこの僕が、あの禁じられている
      死霊術に手を染めている、という事実に対してかい?」

(#´・ω・`)「やっぱり、そうなのか……あんたはッ!」

( ・∀・)「なぜなのか…そんな事、これまで考えた事もなかった。
      何せ、一度のめり込んだら止まらない性分なんでね」

( ・∀・)「ショボン=アーリータイムズ君。君だって、そうなんだろう?」

(#´・ω・`)「あなたなんかと同類にされるのは、御免だ」

49 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:15:08 ID:8708vJ0A0

裏の顔を知ってしまった今、目の前のこの男に対して、ショボンには少なからず畏怖の感情があった。

だが、それにも増して沸いてくるのは、この激情。密かに越えるべきライバルとしてあって欲しかった身内に
魔術師としてあってはならない、このような最悪の形で裏切られた為なのかも知れない。

(´・ω・`)「あなたを…告発します」

( ・∀・)「ほう?」

(´・ω・`)「それでたとえ、この賢者の塔で先人達が積み上げてきた名声が、
      地の底まで落ちようとも───あなたのような膿は、出し切らなければならない」

( ・∀・)「膿……?この、僕が?……クッ、プハハッ!」

(  ∀ )「アハッ、アッハッハ、ハハハハハハハハハハハハハハッ」

( ・∀・)「ハハッ………あ〜、笑った」

堪える事ができない、とばかりに頭に手を当てて、大声で狂ったように笑い声を張り上げるモララー。
対して、ショボンは爪が掌に食い込み皮膚を裂かんばかりに拳を握りこみ、その姿に憎悪を露わにした。

(#´・ω・`)「何が可笑しい?」

ひとしきり笑い終えた後、頭を垂れて俯いていたモララーが再びこちらへと向き直った時、
瞳の奥から冷気さえ感じそうな程に、どこまでも暗く冷たい瞳が、ショボンを戦慄させた。

50 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:17:34 ID:8708vJ0A0
( ・∀・)「正義漢ぶりやがって………殺してやろうか」

(;´・ω・`)(────ッ!)

先手を打つべきなのか、そう思案に暮れていた時、すでにモララーは動いていた。
こちらへ向けて、両の手で三角形を模ると、なんらかの詠唱を始めた。

( ・∀・) 【 この者の身に宿りて 蝕み 食らい尽くせ 】

( ・∀・) 【 その命の灯火を 絶やす時まで 】

(;´・ω・`)(……まずい)

人目もはばからず、自分を口封じの為にこの場で葬る気か。

目の前で集束してゆく光の束が、今にもこちらへ放たれようと集束してゆく。
だが、身構えるのが少しばかり遅過ぎた。

奇妙な烙印が、束ねられた光弾と共に自分の胸へと直撃sita。

(;´・ω・`)「……ぐぅッ!?」

胸を穿たれたのか、一瞬そう錯覚する程に感じてしまった、鈍い衝撃。

思わずその場で片膝を付いてしまった。身に起きた異変に気づき、胸元のあたりに手をやる。
そこには、先ほど目にした烙印がそのまま焼き付けられたかのように衣服を貫通し、胸板へ刻まれていた。

51 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:23:06 ID:8708vJ0A0

それを見てすぐに立ち上がり、半ば無意識に反撃の魔法を打ち込むべく、その口は呪文を唱えていた。

(;´・ω・`)「くッ……【 我が前に立ち塞がる敵を 焼き払え 】」

(;´・ω・`) 【 炎の球よ 顕現し─── 】

( ・∀・)「……ふふん」

人一人など簡単に焼き殺せる程の魔法を目の前で詠唱されているにも関わらず、
モララーはこちらを見て鼻を鳴らすほどの余裕さえ見せている。

(;´・ω・`)(何故だ………?)

そんな事を考えている内に、詠唱は突如中断される。

突如として、全身を恐るべき苦痛が這い回ったからだ。

(;´ ω `)「な……ッうぐ!? ぐぁぁッ!」

(;´ ω `)「ガハァッ……ぐ、ぐおぉぉぉぁぁーッ!?」

先ほどモララーによって放たれた魔法、それにつけられた烙印のあたりからだ。
胸を巨大な力で押しつぶされるかの様な苦しみが、体験した事の無いほどの激痛が、
自分の身体を地面でのた打ち回らせる。

(;´-ω・`)「……なんだ、これは。一体、何をした……?」

( ・∀・)「これが───僕なりの解釈で完成をみた、”封魔の法”さ」

52 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:28:00 ID:8708vJ0A0

(;´・ω・`)「(”口封じの法”の…強化術式といった所か?)」

(;´・ω・`)「(くっ……)」

口封じの法とは、魔術に必要である詠唱を行えぬよう、対象の口から一切の言葉を
発するのを阻害してしまう、対術者用の防衛用魔術の一種である。

まだその程度の魔術であれば、自らに付与された効果を打ち消すアンチスペルもあるにはあるのだ。

だが、恐らくモララーが独自に編み出したであろうこの魔法には、
この急場で対応策を練り上げる事など、どう足掻いても不可能である。

( ・∀・)「魔法なんて二度と使いたくなくなる、ぐらいの痛みだろう?」

(;´・ω・`)(……術者の魔力に反応して、この激痛が襲い来るという仕組みなのか?)

(;´-ω-`)(密室で、この男と二人きり……いかにもまずい状況だ)

未だ立ち上がるのも難しい程に、痛みがショボンの身体を蝕んでいる。
自分を睨みつける視線など気にも留めず、モララーはつかつかと歩くと、
机の上に置かれていた小ぶりのナイフの柄を掴み、ショボンへと向き直った。

( ・∀・)「言っておくが叫んでも無駄だよ。先ほど研究室へ入る際、
      再び結界を張っておいたんだ。ここからの声は、外へは漏れない」

(;´-ω-`)(ならば……この場を離れる手段は……)

53 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:32:35 ID:8708vJ0A0

( ・∀・)「所で……君は、実に良い素体となってくれそうだね」

( ・∀・)「ほんの少しでいいんだ、一度見せてくれないか?
      君の……その優秀な頭脳を司る、脳髄をさ」

(;´-ω-`)(……間に合ってくれよ)

ナイフを手に、モララーの足音がゆっくりとこちらへと近づいてくるのが解る。
だが、今は必死に外界からの音を遮断して、目を閉じて集中する事が必要だ。

イメージする、ここではないどこか。人目があれば尚いいが、この術は
一度自分が立ち寄り、しっかりとその風景を心の中で形作れるようなものでなければならない。

どうにかして今この場から、モララーの元から離れる為なら、どこでも良い。
この賢者の塔へと招き入れられる以前に、下界からその高みを見上げていたあの場所を選んだ。

モララーは、恐らく既に自分の目の前に立っている。それも、刃物を手にして。
だが、決してイメージに乱れが生じてはならない。しっかりと平静を保ち続ける。

( ・∀・)「……おや?一体、どこへ行こうとしているんだい?」

(;´-ω-`)(………ッ)

そのモララーの無感情な声に。透き通るような冷たい声に、一瞬ゾクリとさせられた。

54 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:34:50 ID:8708vJ0A0

だが、どうにか間に合ったようだ。
”自己の転移方陣”は────まもなく発動しようとしている。

(;´・ω・`)(───覚えて、いろよ)

心の中で、捨て台詞を吐いた。

( ・∀・)

最後に目を開けた時、ただ黙ってこちらを見下ろしていたモララーと、目が合った。
目の前に異端者が居るというのに逃亡を余儀なくされるこの屈辱を、忘れないよう胸へと刻み込んだ。

やがて、彼自身の肉体と共に、意識は彼方へと飛ばされた───

─────

──────────


───────────────

55 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:35:20 ID:8708vJ0A0

たった今までそこにいた筈のショボンの姿は、もはや影も形もない。
あとに研究室に残されたのは、モララーただ一人だ。

( ・∀・)「全く…冗談の通じない男だな」

モララー自身も、彼が転移魔術を発動しようとしていたのは気づいていた。
が、わざわざこの場で事を荒立てるよりも最良の結果をもたらすであろう、
ある筋書きが、彼の頭の中で思い描かれていた。

( ・∀・)「でも、まぁ…これはこれで楽しめそうだ」


───────────────


──────────

─────

56 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:36:17 ID:8708vJ0A0

(;´・ω・`)「ハァッ…ハァッ…」

たどり着いた場所は、頭の中で思い描いていた場所と寸分の誤差もなかった。
賢者の塔の麓…近くには鬱蒼と緑が生い茂り、森林に囲まれた場所である。

詠唱を行わずとも、転移方陣を精神力だけで自動発動し、あの場から逃れた。

事前に魔力を篭めておく事で、場所を記憶する事が出来る”転移石”を用いた。
最初の手順さえ踏んでおけば、魔術の心得の無い人間でも扱う事の出来る道具だ。

無用の長物だと思っていたそれだが、今回は救われた。
ショボンは手の中の小さな石を眺めながら、安堵のため息を漏らす。

(;´・ω・`)「なんという奴だ……同じ魔術師達の目を欺きながら、あんな研究を……」

最後には自分の口を封じようともしていた、モララー=マクベイン。
奴の企みを、白日の下に曝け出す。そうすれば奴の異端審問は避けられない。
何しろ禁術に定められている死霊術を研究しているのだ、

ふと、先ほどモララーによって胸へと刻まれた烙印の事を思い出し、手で触れてみた。

(;´・ω・`)「……詠唱の必要は無い術だ、問題は……なさそうか?」

自分の身体に直接焼き付けられたその烙印自体に、不思議と痛みは感じない。
だが、安心しかけたのもつかの間。一瞬遅れて、それはやって来た。

思わず、息が止まる程の。

57 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:38:34 ID:8708vJ0A0
(;´ ω `)「!……ぐ、ぐおぉぉぉぉぉッ、あぁぁ、あ、がはッ、かはッ!!」

(;´ ω `)「あ、がぁ、うグぅッ………」

(;´ ω `)(見通しが……甘かった……魔法を使う際の…精神力に感応し…て……!)

爪が肉に食い込み血が出る程の強さで、烙印の刻まれた胸元に指を食い込ませる。
ふらふらと近場の木陰へとたどり着くと、すぐに倒れこみ、そのまま意識を失った。

───────────────


──────────

─────


彼が再び意識を取り戻した時、あたりはもう暗闇に包まれていた。
いつから気を失っていたのかもわからない、が、倒れた時と同じ状態のまま、目を覚ました。

(´・ω・`)「(どれほど眠っていたんだ…僕は)」

(;´-ω-`)「(……つッ)」

よほど襲いかかる苦痛を紛らわせたかったのだろう、
胸の烙印の周りに、無意識で爪に抉られた場所から所々出血している。

58 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:41:58 ID:8708vJ0A0

(´・ω・`)(確かに、魔法なんて懲り懲りになる程の痛みだ。
       ……下手にもう一度魔法を使えば、本当に死ぬかもな)

この呪いを解呪出来る魔術師が一体賢者の塔に何人いるだろうか、そんな事を考えながら、
少しだけ距離の開いた場所から、賢者の塔の正門入り口へと歩を進める。

荘厳なまでにうず高くそびえる石壁、片手でそれを伝い、逆の手では胸を庇いながら、
やがて正門の前にまで辿り着いた。

日が暮れた今では門は閉ざされ、外部から入るには本来ならば立ち入り許可の羊皮紙が必要だ。
だが、扉の向こうの門兵と言えど自分の顔は覚えている筈だ、それが許可証の代わりになる。

それよりも、この組織の内部に死者の魂を冒涜する輩がいる。
その事実だけは、研究を他の者に任せて普段から日和っているであろうアークメイジを
はじめとしたこの場所の重鎮達に、何が何でも伝えなければならないのだ。

(´・ω・`)「開けて頂けませんか! ……私です、ショボン=アーリータイムズです!」

しばしの沈黙の後、扉の向こうで多数の人間がざわつく気配。
ややあって、扉は開け放たれる。まず自分の前に出てきたのは、法衣に身を包む一人の僧兵。

( ▲)「本当に…ショボン=アーリータイムズだぞ…!」

「本当か!」そう言いながら、彼の背後の僧兵達が浮き足立つのが解る。
怪訝な表情を浮かべながら、疑問を解消するためにショボンは僧兵に尋ねる。

(´・ω・`)「何です?…僕がショボン=アーリータイムズなら、何か問題でも?」

59 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 19:44:30 ID:8708vJ0A0

先ほどの出来事もあり、少しでも時間が惜しかった。
無駄な問答をすぐに終わらせる為、苛立ちを込めて言い放った一言。
ざわつく後ろの人間達を背に、正面の僧兵が歩み寄ってきた。

( ▲)「……いや、何も問題などないさ。まさか、お前の方から来てくれるとは思わなかったがな」

(´・ω・`)「……話が、見えませんが」

ショボンの心中そのものであるその呟きに反応して、背後の僧兵達から怒声が飛ばされる。

( ▲)「はぐらかそうとしても無駄だ!ろくでなしのネクロマンサー野郎!」

( ▲) 「この……魔術師の風上にも置けない外道がッ!口を開くな!」

その怒声が、焦燥に支配されていたショボンの思考を正常な物に取り戻した。
そこで、自分に向けて突き刺さって来ている訝しげな視線の原因へと思い当たる。

確かに、冷静に考えればいつもに比べて正門の見張りにこの僧兵の数は多すぎる。

(´・ω・`)(……何、だと……?)

(´・ω・`)「……そちらの方々につかぬ事をお伺いしますが、今、私の事を……何と?」

そう尋ねた所で、目の前に立つ僧兵が部下に声をかけた。
彼に持って来させた一冊の本を受け取ると、それをショボンの目の前へと掲げる。

60 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 20:02:09 ID:8708vJ0A0

その、煤けた表紙に見覚えのある、一冊の魔道書。
先ほどまでモララー=マクベインの部屋にあったはずの、”死をくぐる門”だ。

( ▲) 「……一体こんな物、どこから手に入れたのだ?まぁ、それはこれから聞き出すとしようか」

(;´・ω・`)(────計られたか)

それを見て、ようやく確信できた。
自分はあのモララーの策謀に陥れられたのだと。

ショボン本人が居合わせないのであれば、いくらでも偽装のしようはあった。
本人の筆跡に真似て、羊皮紙にモララー自身の知るネクロマンシーの知識を書きとめ、
あたかも死霊術においての研究を進めているかのように装う。

その傍らに、あの死者の魂を捕縛する魔石や、この外道がしたためた原書でも置いておけば、
進んで異端者を糾弾したがる、あの働き者の異端審問評議会にとって納得の判断材料にはなるだろう。

そして、その火の無い所に煙を燻らせたのは、十中八九あのモララーという男だ。

( ▲) 「さぁ、我々と共に来てもらおうか。明日には審問団も到着し、お前の処遇が決められる」

(;´・ω・`)「自分はハメられた……と言った所で、届きませんか?」

( ▲) 「届かんな……我々の耳には。そして、それを判断するのは異端審問評議会だ」

(:´・ω・`)(……解っては、いたさ)

61 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 20:03:15 ID:8708vJ0A0

告発により審問が始まる際、確実ではないが処刑が常である程の異端審問において、
”誰かが悪意を持って異端者として陥れようとしている”のでは、という一点だけは
さしもの審問官達も、最初に下調べをするのだという。

そしてその際、必ず魔術師同士の人間関係が洗い出される。
魔術師としての位が低い者からの告発ならば、異端審問評議会も”嫉妬”という部分を疑い、
確たる証拠がなければ処刑されたり、拷問にかけられるような事もない。

だが魔術師の位が高い方の者からの告発ならば、嫌疑にも信憑性も増す。
あとは証拠次第で、名を連ねる場所から除籍されるか、最悪異端認定されるか、だ。

そして、ショボンの今置かれた境遇においては、後者。

確かに期待されて賢者の塔に入ってから半年、まだ新たな魔術を編み出せる気配はない。
兼ねてよりオリジナルの魔術を大陸に広めたい、という思想を比較的親しい同僚には語った事もある。
恐らく、それが今回の異端審問の際において、鍵となるだろう。

自分だけの魔術を駆使する、モララー=マクベインを意識した発言に取られると見て間違いない。
逆に嫉妬してさえいるのは、ショボン=アーリータイムズ本人という事になるはずだ。
「魔術の研究に行き詰まり、その逃げ道として死霊術の研究を行っていた」そんなところか。

多少無茶な理由付けでも、異端審問評議会にとっては認定さえ仕上げられればよいのだ。

(;´・ω・`)(痛くない腹を探られ、臓物まで持っていかれるのは御免だ───!)

62 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 20:05:15 ID:8708vJ0A0

ショボンはちら、と背後を覆う暗闇に包まれた木々たちに目をやる。

体力など全く持ち合わせていない自分だが、この森に紛れれば追走は撒けるだろう、と考える。
モララーのように自己を対象とした隠匿魔術を習得しておくべきだった、と一度舌打ちすると、
くるりと踵を返し、佇む僧兵達をその場に置いて、一目散に駆け出した。

「…なっ!?逃げたぞぉぉぉッー!」

「……追えーッ」

「………逃がしてなるかッ!」

(;´・ω・`)「ハァッ……ハァッ……!」

つぶさに方向転換を行いながら、多少遠回りになってでも確実に追走を断つ。
途中から四方八方に散らばりこちらを探していたようだったが、木々を利用して
姿を隠しながら進み、森の反対側へと抜ける頃には、少しずつその声も遠ざかっていた。

これまで作った事など殆ど無かった生傷の痛みに、気を留める余裕もない。
まずは荒々しく乱れた呼吸を取り戻すのに、ややしばらくの時が必要だった。

自分の考えを、整理する時間も。

63 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 20:06:40 ID:8708vJ0A0

(´・ω・`)(ふぅ……もう少し、この場所で研究を続けていたかったが……)

(´・ω・`)(……モララー=マクベイン……)

(´・ω・`)(奴には、必ず痛い目を見せてやらなければならない)

(´・ω・`)(……だが、その為には、まずはこいつの解呪か)

胸の烙印をさすりながら、月夜だけが照らす暗い森を抜け出た所で振り返る。
様々な魔術実験の光が窓から漏れ、妖しく光る賢者の塔の上層を、最後に睨みつけておいた。
その光の一つの中で、自分を陥れたモララーが嘲っているような気がしていたからだ。

(´・ω・`)「”魔法を使えない死霊術師”────か。全く、お笑い草だ」

再び賢者の塔を背にすると、ショボンは一歩をゆっくりと踏み出してから、
真っ直ぐに前を見据えて、また歩き始めた。

64 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 20:07:30 ID:8708vJ0A0
   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第0話(2)

         「怒りを胸に刻んで」


             ─了─

65 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/08(水) 23:30:56 ID:i6nA0ZMYO
来てたか乙
どんだけ長引いても俺は完結まで追いつづけるぞ
マイペースに好きなようにやってくれ

66 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/09(木) 01:13:18 ID:eT52VZJ20
>>65
1・2話に手をつけてる最中だけど、これまでの分の投下が終わらないと
集中出来なさそうです。ちろっと直して投下するだけだと思ったけど、なかなかどうして。

67 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:40:48 ID:aK3TyYNI0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

           第0話(3)

          「力無きゆえに」

68 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:41:53 ID:aK3TyYNI0

ヴィップの街から2日ほど東へ歩いた距離にあるのが、ここリュメの町だ。

大きな影響力と多くの信者を持つ聖ラウンジ教会だが、その信仰心はこの場所では
根付く事は無かった。今ではがらんどうの教会は、月に1度か2度よその町から来たラウンジ教の
人間が滞在する程度で、ほとんどは子供の遊び場。もしくは、浮浪者の寝床と化している。

それというのも、この地では岩や砂ばかりが多く荒れ果てた農地の為、作物が殆ど育たない。
生活必需品は行商人から買い上げ、自分達で生産的な行動をしているのはごく一部の人々だ。

だが自分だけの農地や店を持つ人々は裕福な暮らしを築いている一方で、
自分の身で路銀を稼ぐのが難しい老人達は日ごろから貧しい生活を強いられ、
それを見て育ってきた子供達は物心つく前より人から盗みを働いたり、そうでなければ
話術で人を騙して小銭をちょろまかし、生きている子供ばかりが目立つ。

その為、この街では盗賊ギルドが最大勢力として幅を利かせ、治安はよそから見れば悪いとされる。
だが、その分人間同士の横のつながりは多い為、弱者同士、困った時は助け合って生活している現状だ。
また、日々貧しいながらを慎ましく生きている人々にとって、一つの希望もあった。

この街には、”義賊”として有名な、一人の男が住み暮らしているのだ。

爪'ー`)y-「……今日も皆、辛気臭い顔してんなぁ」

グレイ=フォックス。ここリュメを根城とし、盗賊ギルドの次期頭目として目される男だ。

69 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:42:32 ID:aK3TyYNI0

普段から気の抜けたような顔をして、自由気ままに気の向くまま行動している彼だが、
人心を話術で掌握する術や、卓越したナイフ捌きに、開錠など。様々な技術に長けた彼は
盗賊としてこの街以外でも右に出るものは居ない、というのが身内が口々に囁く言葉だ。

そんな彼だが、一見して親しみ易い雰囲気をまとう為、街をねり歩く道すがら、
娼婦から老人、子供に至るまで、誰もが彼に気軽に声をかける。

”金はある所からしか盗まない”
”殺しはやらない”
”困ってる奴は助ける”

というスタイルを頑なに貫く彼が、生活に困っている人々の元に金や戦利品を仲間に渡させ、
助けを行う”義賊”という一面がある事を、庶民の一部は知っているからだ。

今日もふらふらと街の様子を見渡し、酒場へと行こうとしていた彼の後を追って来ていたのは、
彼の右腕としてこの街で長い付き合いをしている、デルタという男だ。

( "ゞ)「お頭、飲みに行くんで?」

爪'ー`)y-「ん…デルタか。丁度いいや、お前も付き合う?」

( "ゞ)「勿論、お供しますぜ」

爪'ー`)y-「所で、皆さー、いつになく元気無くないか?花売りの
     ティコんとこの婆さんも、寝込んでるんだってさ」

70 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:43:19 ID:aK3TyYNI0

( "ゞ)「へぇ…何でも、ゴードンとこの酒や食料品がまた値上がりしたって話ですぜ」

爪'ー`)y-「またか…あいつんとこの薄めた葡萄酒に、他所の何倍の値があるってんだ?」

( "ゞ)「ま、また今夜あたり仲間の奴らがあいつの倉庫を狙うって話ですけどね」

爪'ー`)y-「ふぅん。あの業つく狸は溜め込んでるからなぁ…いくらかっぱいでも問題ないだろ」

( "ゞ)「ただ、一つ気になる事がありましてね」

爪'ー`)y-「んー?」

( "ゞ)「よそ者が一人、今この街にいるんです」

爪'ー`)y-「へぇ…?」

そこまで話した所で、行く手の先の酒場から一人で出てきた男の姿に、デルタは一瞬顔色を変えた。
その様子を気にかけ、フォックスも同調してそれに歩調を合わせる。

('A`)

大きな山の一仕事をこなす為に、入念に準備を整えたかのような盗賊の服装に、よく似ている。
深い濃紺に身を包む細身の男。しなやかな身振りから、その外套の下では鍛錬を積んだ肉体を想像させた。

葉巻きを地面に捨てて、足にじり消すフォックス達の横を通る男。
すれ違い間際に、その男の外套の内側にちらりと視線だけ向けた。
そのまま、お互いに何事も無く通り過ぎる。

71 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:43:56 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)(………ふぅん)

('A`)「………」

すれ違い、互いの背中が遠のいていく中で振り返る事はなかった。
が、何らかの様子を察知したフォックスの横顔に、デルタが小声で囁く。

( "ゞ)「あいつです………お頭」

爪'ー`)y-「ん、あぁ。解るさ、それくらい」

( "ゞ)「同業者、ってとこですかね?」

爪'ー`)y-「さぁな……」

フォックスの眼には、先ほどあの男とすれ違う一瞬で確かに見えていた。
男が外套の内側に、鋭利な刃物らしきものを忍ばせていたのを。

だが、そんな事実を知れば血の気が多い連中も多い盗賊ギルドの面々の中には、
そんなよそ者が自分達の領域に入り込んでいるのを良しとしない者が多いだろう。
ひと悶着になるのを避ける為にも、デルタの疑問を適当にあしらう。

爪'ー`)y-「だけど……ありゃ、人殺しの目つきだな」

( "ゞ)「………関わらないのが一番、ですか」

爪'ー`)y-「さ、物騒な話はさておき……まずは一杯やろうぜ」

爪'ー`)y-「飲み比べだ、デルタ。負けた方が今日の酒代持ちってのはどうだ?」

( "ゞ)「いいでしょう…負けませんぜ、お頭!」

フォックスとデルタは、勇み足で馴染みの酒場である”烏合の酒徒亭”へと入っていた。

72 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:44:31 ID:aK3TyYNI0

”烏合の酒徒亭”、庶民の歓楽などほとんど無いこの街では、この安いエールを出す酒場が
多くの人間から親しまれる場所であり、またフォックス達の行き付けの店でもあった。
カウンターから、相も変わらない馴染みのマスターの顔が彼らを出迎える。

(# `ハ´)「いらっしゃ……アイヤァー!お前さん方、よくもまぁ店に顔出せたもんアル!」

爪'ー`)y-「いきなり怒鳴るなよ、シナー」

( "ゞ)「(…シナーの親父がこの調子だと、またうちの奴らがツケてやがるみたいですね)」

爪'ー`)y-「(あぁ、それもこの勢いだと5〜6人で飲み明かしでもしたかね……ツケで)」

(# `ハ´)「怒鳴って何が悪いネ!?お前んとこの馬鹿共、
      ウチのお得意さんに出す緋桜を3本も開けやがったアルよ!?」

( "ゞ)「そのお得意さんが…俺らだろ?」

(#`ハ´)「どうせツケだと思って、毎回毎回毎回毎回……
      底無しに飲むお前らなんか、お客な訳ナイよッ!」

せっせと皿洗いやグラス磨きを終えた端から、今度は手練の動作で炒め物をまとめて人数分仕上げる。
異国で20年にも渡る修行をして来たという”烏合の酒徒亭”のマスターの料理は絶品だった。
その為酒以外にも多くの客が押し寄せ、さほど広くない店の中はいつも活気に満ち溢れている。

血眼で鍋を振るいながら怒気を荒げるシナーとは対照的に、フォックス達は淡々としたものだ。
店内に入るとシナーの怒声を右から左へ受け流しつつ、ゆっくりと空いてる席に着く。

爪'ー`)y-「そういうなって。勿論溜まってるツケは面倒見てる俺らが払うさ。
     ……だが、生憎と今日は持ち合わせがない。また今度、だな」

73 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:45:04 ID:aK3TyYNI0

(#`ハ´)「あぁ……!こっちはこの押し問答してる時間も惜しいアルヨ!」

( "ゞ)「お頭の言う通りだ。今日のところはよろしく頼むぜ、シナーの旦那

───「マスター、注文まだかい?」───

───「おせーぞシナー。さっさと酒だ!」───

(# `ハ´)「もう……こちとら仕事が溜まってるアル!その内毒入りの
      エール飲ませてやるから覚悟しとけアルヨッ!!」

そう言って、カウンターからつかつかと歩み出てくると、フォックス達の卓上に
でん、と大きな音を立ててエールの酒樽を叩きつけ、肩をいからせながらカウンターへと戻っていった。

爪'ー`)y-(扱いやすい親父………)

( "ゞ)(いや、全く)

必死に注文をこなしていく宿のマスター、シナーを傍目に、
そうしてまだ日も高い内から、二人は飲み比べを始める。

─────────

──────

────


会話の合間に一献、またニ献と杯を飲み干していく。
決して調子を乱す事なく、樽から注がれる端からすぐに底を尽く。

74 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:45:29 ID:aK3TyYNI0

そうして夜の帳が下りる頃には、既に18杯目のエールを同時に飲み干していた。
グラスを置き、赤ら顔になっていたお互いの顔をしばし見つめあった後、またエールを注ぐ。

爪'ー`)y-「プハァッ……そういやさぁ、何年になるかな」

( "ゞ)「ゲフッ……あの貧民窟から、俺らが街に出てきてからですか?」

爪'ー`)y-「あぁ。もう、10年以上にはなるか?」

( "ゞ)「俺もお頭も、あん時はまだ十を過ぎたガキだったから……それぐらいになりますかねぇ」

さすがに酒が回ってきたのか、樽から注がれたエールがすぐに底を尽く事はなかった。
二人ともペースを落とし、昔の事を思い出しながら語らい始める。

爪'ー`)y-「やっぱり、今でも思うんだよ。俺は───」

( "ゞ)「あいつらを置いてけぼりにした事、ですかい?」

爪'ー`)y-「………」


────話は遡る。


─────────

──────

────

75 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:46:20 ID:aK3TyYNI0

フォックスとデルタは、険しい山間の中腹地点に位置する洞窟、”貧民窟”で生まれ育った。

だが、貧しい家庭が口減らしの為に赤子や老人を捨てて行く事の多いこの場所においては、
フォックス達が本当にここで生まれたかどうか、定かではない。

住む家も無い人間たちが身を寄せ合って暖めあい、野草を摘んでそれを生活の糧として生きる。
当然の事ながら衛生など行き届く訳は無く、住み暮らす洞窟内では絶えず病死や餓死した者達の
悪臭が染み付き、それを嫌って、決して近隣の住民達も近づこうとはしない。

そして、フォックスとデルタもそれらを見て育ってきた。
その彼らが貧民窟を飛び出したのは、12歳を過ぎた時の事だ。

ある日を境に貧民窟内で疫病が発生し、洞窟内の人間はたちどころに病魔に侵された。
多くの者が高熱で動くことも出来ず、寒さにがちがちと歯を鳴らし、互いの顔も薄っすらと
しか見えない暗い洞窟内では、糞尿の悪臭と、苦しむ”育ての親達”の呻き声が木霊していた。

『助けてくれ……デルタや……』

『みず………水を、汲んできてくれ………フォックス』

しかし、助けを求める大人達に、まだ幼い少年二人はどうしてやる事も出来なかった。

生き地獄の様な光景に怯え、気弱な少年デルタは、目に涙を溜めて震えていた。
悔しさに握りこぶしを震わす、聡明な少年フォックスは、親達の死期を悟っていた。

76 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:47:15 ID:aK3TyYNI0
やがて、フォックスがデルタに呟いた。

『もう……いやだ」

それに、相槌を打つデルタ。

『……うん』

ろくに食料も持たず、ましてや薄布一枚ほどの軽装で、人里まで
辿り着ける根拠など何一つなかった。だが、フォックスはこの時決意していた。

『デルタ……逃げよう、ここから』

涙を拭ってフォックスの横顔を覗き込み、自分達に出来る事は何一つないという事を確信したデルタ、
彼もフォックスの提案に賛同すると、無我夢中の逃避行に同行する事となった。

『………うん』


─────────

──────

────

それから、フォックスとデルタはほの暗い山間部の森を三日三晩駆け抜けて、人里を目指した。
そして辿り着いたこのリュメで力尽き、衰弱していた所を盗賊ギルドの人間に拾われたのだ。

盗みやナイフの技術をギルドの人間から教わると、幼少から聡明な子であったフォックスは
めきめきとその才能を開花させ、その人を惹き付ける”天性”で、多数の人間からも好かれていった。

一方で、心優しいだけでなく、努力家という一面を発揮するようになったデルタもまた、
山間部で培った身体能力をフォックス同様に如何なく発揮し、少しずつ技術を身につけていった。
貧民窟にいた頃から目を患っていた彼だが、暗闇では常人以上に夜目が利き、それが助けとなった。

77 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:47:56 ID:aK3TyYNI0

自分達を可愛がってくれたギルドの人間は今でこそ次々と現役を退いていったが、
現在は次代の盗賊ギルドの二大巨頭として、フォックスとデルタの二人の存在は、抜きん出ている。

次期頭目最有力であるフォックスが、”グレイ=フォックス”を名乗ったのは、初仕事の後。
この街で圧制を強いている豪族気取り、ゴードンの家屋から200sp相当の金品を盗みだした時からだ。

爪'ー`)y-「あの時……まだ何かしてやれる事はあったんじゃないか、ってな」

( "ゞ)「お頭。酔っ払ってまであいつらを偲ぶのは、無しにしましょうや」

爪'ー`)y-「後悔してる、って訳でもないのさ。ただな…」

( "ゞ)「”俺とお頭はあん時はまだガキで、どうする事もできなかった”」

( "ゞ)「それでいいじゃあ、ないですか」

( "ゞ)「俺だって、あん時お頭について行ってなきゃあ……
    今こうしてられるのは、お頭のおかげなんですから」

爪'ー`)y-「………そう、なのかねぇ」

( "ゞ)「………」

卓上に置いたグラスを握ったまま、じっとフォックスは押し黙る。
酒に酔ってこの昔話になると、時たまフォックスはこうしてナーバスになるのだ。
だから場の雰囲気を変えようと、デルタが話の種を頭の中で模索するのはいつもの事だった。

( "ゞ)「…そうそう!そういやお頭、面白い噂があるんですよ」

78 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:48:59 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「ん…?」

( "ゞ)「大陸のどこかは知りやせんが、昔々に魔法を使って
    国を治めてたっていうお偉い王様の墓があるって話でね…」

爪'ー`)y-「知ってるさ。確か、”オサム王”とかって奴だろ」

( "ゞ)「そうそう!確かその時に治めてた領地の名前も、そのジジイから
    付けられたそうで、そいつの墓がある”オッサム”っていう村は、今でもあるそうです」

爪'ー`)y-「ふーん………」

( "ゞ)「で、そこにはどうやら…お宝の方もたんまり眠ってるみたいですぜ?
    金銀財宝のたぐいか、はたまた、抜けば玉散る鋭い魔剣か…はたまた」

爪'ー`)y-「………デルタなぁ、俺を焚き付けるのはいいけど、
     どうせ、そいつぁどっかの冒険者が先に見つけるだろうさ」

爪'ー`)y-「俺らは、ほら。この街離れらんないしな」

( "ゞ)「………まぁ、そうなんですけど」

フォックスの言う通り、彼らはこのリュメの街を離れる事など出来ないのだ。

それというのも、3年程前からこの街の商店の大半を金で牛耳り、強欲な市場操作によって
人々に圧制を強いるという、豪族にも近い”ゴードン=ニダーラン”から、貧しき人々を助ける為である。

79 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:49:35 ID:aK3TyYNI0

彼ら自身は、決して安っぽい正義感に浸ったり、自惚れてなどいない。
今まで、幾度となくゴードンの備蓄倉庫や邸宅に侵入し、一切の足跡を残さず
金品や食物を盗んできては、一部を自分達の酒代に換えると、残りの殆どを貧しさに喘ぐ
人々に分け与え、羨望の眼差しを向ける人々に対して当の本人達はどこ吹く風と飄々としている。

それらの行為がたとえ偽善と言われようとも、彼らはやめるつもりはないだろう。
かつて、貧民窟で寒さに震える夜を周りの人間達と肩を寄せ合い乗り切ってきた、彼らだからこそ───

力無き”弱者”を放っておく事など出来ないのかも知れない。

爪'ー`)y-「冒険者、ねぇ……憧れた事もあったな」

( "ゞ)「あっしもです」

爪'ー`)y-「未開の大陸各地を転々と旅してさー、その内最高の女と恋に落ちちゃったりして。
     一晩の邂逅の後、冒険への情熱が再燃する俺は、再び旅に出ようとしてな……」

( "ゞ)「”どうしても行くというのなら…あたしも連れてって!!”」

爪'ー`)y-「そうそう……で、そこで俺は涙を呑んでこういうのさ」

爪'ー`)y-「”俺の恋人は冒険だけさ。女子供は、邪魔なだけだ”」

( "ゞ)「”そんな……あたしのお腹の中には……あなたの、あなたの子供が──!”」

(# `ハ´)「───うるせぇアル、この馬鹿供ッ!!!」

その力の限りの大声に後ろを振り返った二人の目線の先には、鉄鍋で肩をとんとんと叩いて
厳しい顔でこちらを睨みつける、店主の姿があった。

ゆっくりと周りを見渡すと、烏合の酒徒亭の店内に、すでに二人以外の客は誰もいない。

80 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:50:29 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「………ありゃ」

( "ゞ)「もう、随分と夜も更けてやしたか」

(# `ハ´)「とっくに看板アルヨ……お前達が帰らないと、店が閉めれないアルッ!!」

( "ゞ)「………わざわざ待っててくれたのかい、シナーの旦那?」

爪'ー`)y-「案外やさしいんだな」

(# `ハ´)「さっきから厨房で何度も怒鳴ってたアルヨ!お代はツケといてやるから、
      今日はさっさと帰りやがれヨロシなッ!!」

( "ゞ)「わーったわーった。んじゃ退散しますか、お頭」

爪'ー`)y-「そうだな……ごっそさん。ツケは近々払いに来るからなー」

(# `ハ´)「こっちとしては二度と来なくてもいいアルがナ……!」

緩慢な動作で席を立つと、シナーに後ろ手を振りながら二人を店を出た。
無駄酒飲み達が去った後、閉められた木扉に対してシナーは一掴みの塩を全力で投げつけていた

自分達の去った後に、シナーが清めの塩を投げつけていた事など露知らず、
デルタから切り出した冒険話に花が咲き、フォックスもまた上機嫌を取り戻していた。

酒場を出てから、あとは夜の街をふらふらと帰路につくだけ。

いつもならそうだ。

だが、普段ならば人っ子一人出歩かないはずの時刻に、
建物の屋根から屋根へと飛び移っている人影に二人は気づいた。

爪'ー`)y-「……ウチの若い衆、だな」

81 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:51:45 ID:aK3TyYNI0

鋭い観察眼が重要視される盗賊という職業柄、夜目の利く二人はすぐに気づいた。
自分達の部下である3人が、今夜”仕事をする”という話を、昼間に聞いたばかりだ。

( "ゞ)「えぇ、ゴードンとこに行くつもりなんでしょうな」

街の離れ、小高い丘へとそびえるゴードン邸の方角へと向かう人影が3人。
こちらの様子には気づかず、そのまま行ってしまった

爪'ー`)y-「どれ、たまには俺らも見に行くとするかね」

( "ゞ)「へ……?今日の俺らは、酒入ってますぜ?」

爪'ー`)y-「ま、親心ってやつさ。邸宅の外から様子だけでも、な」

( "ゞ)「そりゃまぁ、構いやせんが…」

遠ざかっていった3人の影の後を尾けて、二人は小走りに走り出す。
盗賊ギルドの部下達であろう人影との差が、再び目視で追える距離にまで縮まった。
その辿り着いた先には、予想通りゴードン=ニダーランの邸宅があった。

邸宅の隣に佇むのは、食物や酒などを保存している備蓄倉庫。
敷地内に進入するや、そのまま影たちは倉庫の煙突から、内部へと侵入していったようだった。

その一部始終を、フォックスとデルタの二人は外壁の縁に登り、遠巻きから眺める。
3人が入っていった煙突を注視して、10分が経った頃にデルタが口を開く。

( "ゞ)「遅いな……」

爪'ー`)y-「あぁ」

82 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:52:29 ID:aK3TyYNI0

盗賊において必要な頭の良さとは、機転の利かせ方だと部下達には教えてある。

ただ、部下と言っても少しだけ歳の離れた”弟分”達は、威厳など微塵も無い自分に対して
必要最低限以外の礼儀など払おうとしない。ましてやこちらも要求したりはしていないのだが、
常々、フォックスはそれでいいと思っていた。

だが、仕事に関しては話は別だ。

自分達は人様の食い扶持を奪い、自らの私腹を肥やす事で暮らしていける。
決して声を大にして触れ回る事の出来ない職業だからこそ、適度に仕事をやるべきなのだ。

”丁度いい”というのは重要で、標的とする人間が身の破滅に至るほどの打撃を与えてはならない。
自分達が足跡さえ残さなければ、上手く行けば標的さえ気づかぬままに、世は事も無しに済む。

だが、一度やり過ぎてしまえば、それは復讐の種をバラ撒く事にしかならない。
様々な人間達を敵に回し、やがては日の当たる場所にいられなくなるだろう。

欲を出して抱えきれない程の戦利品を持ち去ろうとして足が着く、などという
愚鈍な盗賊など、自分の在籍するギルドには一人も存在していない自負がある。
仮に、多少のヘマをしてもとっさの悪知恵で乗り切れるようには、育てていたつもりなのだ。

だからこそ、一軒の家屋に三人がかりで仕事に掛かり、10分以上も離脱してこない事に動揺があった。

爪'ー`)y-「なぁ、デルタ」

( "ゞ)「何ですかい?」

爪'ー`)y-「ゴードンとこ、前回はまだ年が明ける前だったか」

( "ゞ)「えぇ。確かナッシュの奴が一人で息巻いて、たんまり掻っ攫って来た時ですね」

83 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:53:22 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「ゴードンの親父も、伊達に街で一番でかい家に住んでない。
     心底呆れるほどの馬鹿じゃないだろうさ」

( "ゞ)「………と、言いやすと?」

爪'ー`)y-「あん時、ナッシュは去り際に後姿を見られたって話だよな」

( "ゞ)「ま……言いつけを守れないお子様には、自分からきつくお灸を据えときやしたが」

爪'ー`)y-「奴が何らかの侵入者の存在に気づく。そうなれば、以前からちょくちょく
     品定めさせて頂いてた事ぐらい、帳簿なんかを遡ればさすがに解るだろうぜ」

( "ゞ)「あー、奴が生活用品の値上げをする度に倉庫の商品がかっぱらわれてるのに
    気づく節も無く”ウチの葡萄酒は今日から6spニダ!”とかほざくもんだから、
    てっきり本当の馬鹿だとばかり思ってましたよ」

爪'ー`)y-「まぁ、俺も今までそう思ってたんだけどな、そろそろ様子を見にいくか」

( "ゞ)「お供します」

フォックスのその言葉に頷くデルタの表情も、やや真剣味を帯びつつあった。
これまでこの街の盗賊ギルド全体としては、盗みに入った事実が発覚した事はない。
ヘマを踏んで治安隊に突き出された半端者達もいたが、それでも決して口を割る事はなかった。

しかし、盗賊ギルドの次期頭目として自分達のこの顔は多数の人間に知れ渡っている。
仮に自分がゴードンの家に忍び込んでいた過去の事実が明るみになれば、今まで通り
この街に住み暮らす事は難しくなるだろう。

だが、自分のちっぽけな善意を汲んで、その元に動いてくれている部下達が、
みすみす治安隊に突き出されるのを指を咥えて見送るのもご免なのだ。

84 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:54:09 ID:aK3TyYNI0

二人は外壁を伝って、手練の動作で素早く倉庫の屋根へと登り切る。

爪'ー`)y-「合図するまで、お前は外で待っててくれ」

万が一の事を考えて、デルタは外に残しておいた。
自分や部下達に何かがあった場合、デルタに助けを呼ばせる為だ。

三人の部下達が消えて行った暗闇が覗く煙突。その縁に手をかけると、
フォックスはそのまま垂直に飛び降りて内部へと侵入した。

───

──────

────────

降りた先の場所は暖炉はもう使われておらず、拓けたただの空間だった。
ごろごろと荷物が置かれた室内には明かりの類が無く、暗闇に等しかった。
封のなされた食料品などには先の部下達がやったのだろうか、物色した痕跡。

爪'ー`)y-(そっちの部屋か)

耳をそばだてると、隣の部屋から時折物音がするのに気づく。
音も無く速やかに物陰へと身を寄せると、中の様子を伺うために僅かに身を乗り出す。

「…くっ、ちく…しょう…」

85 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:54:44 ID:aK3TyYNI0

携帯用の松明の小さな明かりが、地面に落ちて燃え尽きようとしている。
その明かりに照らされるのは、数人の人影だ。

部下である3人は、地べたへと倒れ伏せていたようだった。

その中心で、周囲の闇に溶け込むようにして佇んでいたその男。

爪'ー`)y-(!!)

程なくしてフォックスの気配に気づき、こちらへ振り返った。

('A`) 「………」

爪'ー`)y-(こいつ……昼間の)

その表情からは、何も感じ取る事が出来ない。
笑っている訳でも驚く様子でもなく、虚ろな瞳でフォックスを見ているばかり。

ただ、無機質な殺気だけを身に纏って。

爪'ー`)y-「あんた……昼間酒場で見た顔だな」

見れば、大怪我さえしてないものの、二人の部下達は床に転がされてのびている。
もう一人は意識があるが、殴り倒されたのか大量の鼻血で上着を濡らしていた。

力自慢の冒険者ほどではないが、それなりに腕っ節を鍛えている3人の男たちを、
たった一人で倒してしまったというのだ。その相手に呑まれる事のないよう、
決して顔に動揺は出さないが、内心では焦っていた。

86 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:55:22 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「まぁ、こいつは話半分に聞いてくれりゃいいんだが……
      そこの三人、今回は見逃してやっちゃくれないか?」

('A`)「………」

爪'ー`)y-「代わりといってはなんだが、一人につき150spの礼は約束する」

交渉を持ちかける。出来うる限り、後腐れなく、波風を立てない事が一番だ。
いかに自分達が正義を語ろうが、盗みに押し入っているという事実が揺るがない以上、
大儀は向こうにある。今は目の前の男をどうにかしなければ、全員治安隊に突き出される羽目になる。

男がようやく口を開くと、覇気の無い声がフォックスの耳に届いた。

('A`) 「こちらは……”侵入者の排除依頼”さ」

('A`) 「確かに、一人頭150spの謝礼は魅力的だな」

爪'ー`)y-「……手付けとして、まずはここに200spある。なぁに、残りは後日必ず──」

('A`)「……だけどな」

フォックスの言葉を半ば遮るようにして、男が会話を被せた。
今まで無表情だった男の口角が、一瞬釣りあがる。

('A`)「こちらさんの依頼も、侵入者一人につき150spの報酬でね」

('A`)「あんたも入れれば、銀貨600の稼ぎって訳だ……交渉は、決裂だな」

爪'ー`)y-「……ちッ!」

87 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:55:56 ID:aK3TyYNI0

すぐに腰元からナイフを取り出し、それを片手で前方へと振りかざす。
腰を落とし、体勢を低く保つ。相手の攻撃がどこから来ても対応できる構えだ。

男もまた緩慢な動作で胸元から大きなナイフを取りだすと、逆手に掴んで
刃先をこちらへと突きつけた。鈍色に輝く刃が、大きく湾曲した刃物。
見る者を威圧するようなそれは、凶暴な威容を放つククリナイフだった。

地に落ちて燃え尽きようとしていた松明の明かりの残滓が、
もうすぐのところまで完全な闇が迫っていた室内を、ほのかに照らす。
互いの持つナイフの刃先はその光量を受けてか、輝きを放っていた。

だが、それは互いが殺気を放っている事による錯覚であるのかも知れない。

フォックスら盗賊が得手とする、投擲などの為の投げナイフとは大きく形状が異なる。
太く、重厚で、骨すらも断ち切る事が可能なほどに叩き斬る事、切り裂く事に特化した凶器。

だが、その異質な存在感とは対照的。まるでそこにいるのは幽霊なのではないかというほどに、
濃紺の外套を纏う男は、ただ静かな瞳で逆手でそれを構えている。

('A`)「随分とちんけなナイフだな」

表情を変える事も無く、幽霊がフォックスに言葉を投げかける。
手元にすっぽりと収まるほどの、心もとないナイフを見ての言葉だ。
それに、フォックスが内心に抱いている焦燥が悟られている様子はなかった。

フォックスもまた、完全なるポーカーフェイスを崩さぬままに
落ち着き払った声と、どこか間の抜けた表情で男の問いかけに答える。

爪'ー`)y-「大きければいい…ってもんでも、ないさ」

88 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:56:27 ID:aK3TyYNI0

一目に、禍々しいとさえ思ったフォックスだが、ぐっと虚勢を張った。
事も無げな顔をしながら、しかし眼ではしっかりと相手の出方を伺う。

所持していたナイフは、2分の1フィートにも満たぬ、投擲用の小さなナイフ。
刃渡りの差は歴然であるが、ことナイフさばきに関しては手足を動かす事と同じぐらいの自信がある。

倒れ付している部下達を介抱し、いち早くここから離脱しなくてはいけない。
倉庫に侵入している事が、家主であるゴードンにまで伝わっているのかまでは解らない。
今すべき事は、ゴードンに雇われたであろうこの男を、どうにかして撃退する事だけだった。

爪'ー`)y-(どうでるか、ね)

('A`)「”大は小を兼ねる”……俺の出身の名言さ」

初撃を繰り出したのは、ククリナイフの方であった。
黒に近い外套に身を包んでいる為か、素人目であれば闇に溶け込んだその刃が
どんな軌道を描いて襲い掛かってくるのか、首元を抉られるまで解らないだろう。

爪'ー`)y-「!……よっと」

だが、暗所で生まれ育ち、また盗賊という職で培ってきたフォックスの夜目には
その急激な軌道の変化も見抜いていた。大きく首を切り裂こうとしたかに見えた一刀は、
ナイフを握る手首を、返しの小さな振りで 敵の目を欺きながら狙う為の攻撃だ。

ナイフが握れなくなってしまえば、その時点で勝負は決まってしまう。
狡賢いやり方ではあるが、確かに効果的だ。しかし、刃物を用いた喧嘩を経験した事が
あるからこそ、前方で浮かせた手を即座に上方へと反応させる事は容易な事だった。

('A`)「へぇ?」

89 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:57:04 ID:aK3TyYNI0

だが、再びフォックスが構えるよりも早く、男が大きく一歩を踏み込んできていた。
続けざま。防御を意識させない様にわざと視線を全く別の場所へ逸らしながらの攻撃。

初撃とは比べ物にならぬ速度で襲ってきた下方からの激しい一撃が、フォックスの
顔あたりを突き上げる様にして振るわれた。

爪'ー`)y-「……ッ!」

顎ごと身体を目一杯仰け反らせ、辛くも意識外から来た攻撃を避ける。
通過した刃が、顎の先端に僅かな裂傷を走らせた。

爪#'ー`)y-「……らぁッ!!」

('A`)「……あらら」

体勢を崩しかけた所を突きが狙っていたが、即座にナイフを横に薙ぐ。
多少無茶な反撃だったが、怯ませるぐらいの効果は発揮したようだ。

('A`)「たいしたもんだ。この暗い中で、よく俺のナイフをかわせるな」

爪'ー`)y-(これ程の的確なナイフ術……暗殺ギルドの人間か?)

すぐに飛びのいて距離を取り、一度だけ大きく呼吸を整えた後に
再びしっかりと相手を正面に捉えて、視線をぶつけ合う。

だが、このわずか2合の立会いの中ですでにフォックスの顔からは
既にじっとりと冷たい汗が頬を伝っている。

('A`)「どうした、こないのかい?」

爪'ー`)y-「………その気になれば、いつでも殺れるんじゃないのかい」

駆け引きからでの言葉ではなく、こればかりは本心だった。
一方の男はふふん、と鼻を鳴らしてククリナイフを手元で弄んでいるが。

90 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:57:43 ID:aK3TyYNI0

('A`)「どうだかな……だが、生憎この依頼人は口うるさいんだよ。
   生死如何によっては、報酬半額っていう事情もあってね…」

爪'ー`)y-「はぁ。そいつぁまた、面倒なこったなぁ」

('A`)「だからさ……とっとと大人しくしてくれると、こっちは有難いんだよ」

爪'ー`)y-「そういう訳にもいかないんだよなぁ、これが」

他愛の無い話をしながらも、この状況を看破するために自分ができる行動を、
必死に頭の中で張り巡らしていた。このままいくと、勝機は限りなく薄いだろう。

この男のナイフは、恐らく”仕事”として相当に使いこまれている。
より効率的に、より不可視に、まさしく暗殺などを生業としている者のそれだ。

命を奪う事という一点に絞って磨きぬかれてきた技に、この状況からでは
出し抜きようがなく、こちらが技量だけで上回る事は難しい。

あるとすれば、命を一度捨てる事。
結局、最後の選択肢であるそれにしか至らなかった。

('A`)「じゃあ、続きといこうか?」

爪'ー`)y-「と言いたいところなんだけど……やっぱり、さっきの交渉の続きをしないか?」

('A`)「ほう」

こちらの声に耳を傾ける素振りは見せているものの、身体では決して
隙を見せる事など許してはいない。それどころか、こちらがどうやって
仕掛けるのかを虎視眈々と伺っているようにすら感じる。

91 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:58:12 ID:aK3TyYNI0

確かに、これはタイミングを見計らう為の時間稼ぎに過ぎない。
だが、どれほど微細であろうとも、僅かでも気を散らせる事が出来れば上等だ。

爪'ー`)y-「人の命よりも金の方が大事…って感じなのか?アンタ」

('A`)「ま、どう受け取ってもらっても構わないが、そんなとこかな」

爪'ー`)y-「守銭奴なんだな。なら俺達4人の首、一人頭200spで売ってやるよ」

一瞬口元を手で覆い隠し、こちらから視線を外してあざける様にほくそ笑んだ。
フォックスが予想していた通り、持ちかけに応じるような返事など返っては来なかったが。

('A`)「はぁ……勘違いするな。さっきは気まぐれで話を聞いてやっただけだ」

爪'ー`)y-「………」

('A`)「実際俺は、仕事に関しては自分の事しか信じないんでね……気を持たせたなら謝ろう」

爪'ー`)y-「いやぁ、気にするなよ」

きっかけを作るとするならば、ここしかない。
少しばかりわざとらしいが、ナイフを手にした方の手で頭を掻く仕草に見せかける。
頭の後ろでナイフの刃先を指で摘んで持ち替えておいた。後は脇を伸ばして、出来る限り溜めを作る。

爪#'ー`)y-「わかっちゃあ……いたけどねぇッ!!」

('A`)「俺もさ」

92 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:58:44 ID:aK3TyYNI0

男が最後に言った言葉が耳に入るよりも前に、身体全体を弓の弦のようにしならせると、
全力を以ってナイフを前方へと投げ放った。狙いはつける余裕もなかったが、外しはしない。

次の瞬間には、カキン、と固い金属同士がぶつかる破裂音。

('A`)「この程度で……」

そうして投擲したナイフは呆気なく叩き落されていたようだ。
だが、すでに両の足は一直線に男の元へと駆け出している。

('A`)「!」

思ったよりも低い位置から、目の前を横一文字に斬撃の軌道が半月を描いた。
ほぼ同時に、後頭部すれすれをナイフがよぎった感覚。

長い銀髪を後ろで結わえていた紐が、数本の毛髪らとともに背後の空中へと舞った。

勢いのついて止まれない状態で、振りを見てから避けられるかどうかは博打だった。
だが、決して速度を落とさず走りぬけながらも、辛うじて身体を伏してかわす事が出来た。

爪'ー`)y-「へッ!」

勝利を確信した奴ほど、崩れてしまえばもろいものだ。
自分の敗北を、最後の最後まで疑えなければ、そいつはきっと勝利者にはなれない。
たとえ一瞬だろうと、確実にこちらを上回れる技量を持ちながら、侮ったのが運のツキだ。

('A`)「この……ッ!」

爪#'ー`)y-「このフォックス様を、なめんじゃねぇぞッ!」

ククリを手にした右手首をがっしりと掴み、追撃のナイフが振るわれる事はなかった。
そして、それを引き寄せるようにして胸倉を掴むと、走りこんだ勢いそのままに、
肩からぶちかましてそのまま地面へと引きずり倒した。

(;'A`)「ゲッ、フゥッ!」

93 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 03:59:15 ID:aK3TyYNI0

転がされた衝撃を受けてもナイフを手放す事は無かったが、手首を左膝で押さえ込んだ。
男の上体へと腰掛けた体勢。反撃する為に必要な、もう片方の手へも腕を伸ばして封じた。
もはや身じろぎする程度しか出来ない程に、完璧に有利な体勢を作る事に成功したのだ。

爪'ー`)y-「知ってるか?殴り合いの喧嘩になったらさぁ、こうやって
     上半身に乗っかかられた時点で、大体勝負は着いてるんだぜ?」

(;'A`)「チッ……」

言って、苦い顔を浮かべた。足を浮かして脱出しようとはするが、どうにもならない。
だが、こちらは男の四肢を封じた上で、自由に使える左腕で顔面を殴りつける事が出来るのだ。

爪'ー`)y-「そういやさ…アンタ。さっき、金が命よりも大事とかなんとか…」

(;'A`)「だったらどうだってん…」

( #)'A)「…ブゴォッ!」

言い終えるより先に、左の頬を拳で殴りつけていた。
顔を庇う事も出来ず、地面を介した衝撃は相当に大きいはずだ。

爪'ー`)y-「俺さー、そういう事言う奴……なーんかいけ好かねーんだわ」

爪'ー`)y-「だから本当は20発も殴ってやりたいところだけど……優しい俺はさ、
     まぁ、なんとか7〜8発ぐらいで気を失わせられりゃあいいや……ってね」

(#'A`)「調子に乗るなよ……」

ここに来て初めて怒りを露わにした男が、口の端から小さく
血を伝わせながらも、フォックスをするどい目つきで睨みつけた。

意に介する事もなく、フォックスは後ろを振り向いて声を投げかける。
つい先ほどこの男にノされてしまった、部下達三人に向けて。

爪'ー`)y-「おーい。お前ら、そろそろ起き上がれよ」

94 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:00:09 ID:aK3TyYNI0

その声に、やがて一人が反応し、ゆっくりと上体を起こした。
目が合うと、すぐに大きく見開かれる。仰天していたようだった。
続く二人も身を起こすと、同様の反応を示す。

「あ、あれ………」

「な、なんで!」

「……フォ、フォックスのあに──」

爪'ー`)y-「しー、そんなとこで寝てたら風邪引くぞー。とっとと帰るこったな」

男には見えない位置から、指で口をふさぐ真似をした。
”何も言うな”と促すようにして、立ち上がった三人を手で追っ払う。

「………!」

爪'ー`)y-「この通り、この場は俺が何とかしとくからさ。邪魔だよ、帰った帰った……」

目の前で起きている状況が即座には理解出来なかった様子で、全員が動揺している。
何か言いたげな様子をしながらも、侵入してきた煙突のある部屋へと、全員すごすごと退散していった。

そうして部屋には、二人だけが残された。
地面で微かに燻っていた松明も、今はもう完全に燃え尽きた。
暗闇が覆うのみの部屋、互いの呼吸が聞き取れる程の静寂の中で、男がまた口を開く。

('A`)「部下か…何かか。またずいぶんとお優しい事だな」

爪'ー`)y-「だろ?まぁ……今みたいに気苦労が多いのだけが悩みの種だけどな」

('A`)「あぁ、全く麗しい師弟愛だ。吐き気がするよ……」

95 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:01:23 ID:aK3TyYNI0

( #)'A)「うッぐぅッ!」

再び拳を振り下ろす。今度は、鼻っ柱を叩いた。
久しく人を殴った事などなかった拳には、鈍い痛みが走っている。
だが、殴られたこの男は、それ以上に痛みと屈辱を抱いているはずだ。

爪'ー`)y-「あんたみたいに、殺しが特技みたいな人間に理解してもらおうとも思わないけどな」

(#)'A`)「甘っちょろいんだよ。人の生き死にが尊いもんだとでも思ってるのか?」

爪'ー`)y-「あぁ…尊いね。一生懸命に生きてる人間の命を奪う権利なんてもんは、誰にも無い。
     この街の皆だってそうさ、貧しくても生きていこうと、毎日が死に物狂いだ」

(#)'A`)「…人を殺すのがいけないなんて、聖人気取りの台詞か?欺瞞だな」

もう一発お見舞いしようとしたフォックスだったが、これまでで初めて
真剣な口調で話し始めた男の様子に、思わずその言葉に耳を傾けてしまっていた。
やがて、堰を切ったように、男は饒舌に話し始めた。

ひとまずは握り拳を下ろして、少しだけ熱を帯びたその瞳を、ただ見下ろす。

(#)'A`)「”人を殺せ、出来なければ殺す”、年端もいかない子供がそれを命じられて殺すのは、悪か?」

爪'ー`)y-「………」

(#)'A`)「親しいと言えるだけの相手の家族の命を一度でも奪って、その罪が消える事などあるのか?」

(#)'A`)「そんな虫の良い話………ある訳がない」

爪'ー`)y-「まぁな」

96 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:02:12 ID:aK3TyYNI0

(#)'A`)「────一度殺してしまえば、二度と日の当たる場所には戻れない。
    例え悔いても、そんなものは罪から逃れたい意識というだけの事だからな」

憎悪に満ちたその瞳を、冷淡な表情でただ見下ろしていた。
別に哀れみという訳ではない、フォックス自身でも共感できる部分がある話なのだから。

凶暴なククリナイフを持った暗殺者の身体に、貧民出の盗賊が上に覆いかぶさり、
過去の身の上話を少しばかり真剣な面持ちで聞いているこの状況───。
傍から見るにはかなり奇妙な光景だが、当の本人達は至って真剣そのものだ。

だがフォックスはくだけた口調で、しばしの沈黙をおいてその男の話に所感を述べた。

爪'ー`)y-「だから、悔いようとも思わない…ってとこか」

(#)'A`)「下らないな」

爪'ー`)y-「なんだかなぁ。”ツイてなかった”……そう思うしかないと思うぜ?多分さ」

(#)'A`)「知ったようなッ───!」

爪'ー`)y-「けど、あんたみたいに腕の立ちそうな男なら、きっと途中で足を洗えてたはずだ」

(#)A )「………」

爪'ー`)y-「それでも省みる事をしなかった、ってーのは、アンタの落ち度じゃない?
     も一度日向に戻ろうとしなかったのは、アンタがどっかで諦めてたからさ」

(#)A )「黙れ……」

爪'ー`)y-「無理やり人殺しさせられる状況だったなら、きっと誰もアンタを攻めないぜ?」
     だから……結局、悔いようとも思わなかったんじゃない。悔いるのが、怖かったのさ」

(#)A ) ブヂィッ

97 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:04:00 ID:aK3TyYNI0

琴線に触れたか、憎悪に一瞬男の顔が歪んだ。かと思えば、次の瞬間には
跨るフォックスの顔を目掛けて、何かが吹きかけられた。血の飛沫だ。

自ら歯で口の中を切り、貯めた血を目潰しに使ったのだ。

爪;ー)「ぐぁッ!?」

(#'A`)「フゥゥゥッ!!」

左手で顔を庇った一瞬、フォックスによる男への四肢の拘束が緩んだ隙を突き、
上体を起こしながらすぐさま左の拳で顎を上方へと打ち抜かれた。

衝撃に後方へと倒れこんだフォックスを、男は流れるような動作で地面へとそのまま組み伏せる。
脚を使い、足裏と膝で両腕の自由を封じられたフォックス。先ほどまでとはまるで逆───

気づいた時には、頬に冷たい金属が押し当てられていた。

爪;ー)y-(あ……やっべぇなぁ……これ)

( A )「──俺に取って、金は命よりも尊いもんさ」

( A )「本当に、お前を殺すつもりはなかった」

(#'A`)「だがなぁ……相手の命と自分の命、そして、金とプライド」

(#'A`)「天秤にかけてみて、臨機応変に対応させて頂く場合もあるんだぜ」

無機質で冷たいククリナイフの刃先が、つん、と首元の皮膚に触れた。
このままあと少し刃を押し込み、少し横に動かされただけで自分の心臓は止まるだろう。
こうなってしまっては、さすがに諦める事しか出来ない状況だった。

98 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:06:43 ID:aK3TyYNI0

(#'A`)「報酬なんかどうだっていい───ここで、死ね」

爪;ー)y-「ハッ……フゥッ、フゥッ」

呼吸が上ずり、身体中が縮こまる。
いよいよ、覚悟を決めざるを得ない時が来たようだ。
血糊で塞がれた瞼を、ぎゅっと強く閉じこんだ。

最後の瞬間が訪れるのは、次の瞬間か、はたまた、数十秒後か。
どちらにしても長時間苦しみたくはない、一瞬で終わらせてくれよ、と強く願った。

やがて、胸元をナイフが貫く衝撃が、響いた──────

「死んだな」

確かに、そう思った────

だが、実際にはそうではなかったのだ。

身を強張らせながら、極限まで高まった死への恐怖が、自分の身を刃が刺し貫く感覚を
錯覚させたに過ぎなかった。確かに、精神的には一度死んでしまったのかも知れないが。

それでも”本当の死”は────いつまで経っても、その瞬間が訪れる事はなかった。

99 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:07:32 ID:aK3TyYNI0

「水臭いですぜ、お頭ぁ」

爪;ー )y-「あれ、もしかして俺……生きてる?」

顔を見る事が出来なくても、その声だけですぐに理解する事が出来た。
旧友の慣れ親しんだ顔がぱっと頭に浮かび、それが死の淵に居た自分の意識を一気に引き戻す。

( "ゞ)「危なかったら一声掛けてくれりゃあいいのに……
    けど、あいつらが話してた状況とはまるっきり間逆じゃないですか?」

そう、デルタだ。結局長時間姿を見せない自分の危機を察してか、
助けに来てくれたのだ。絶対絶命の状況で、この男の存在はこの上無く頼もしかった。

爪;ー )y-「いやぁ〜……死んだと思った」

目を覆っていた血糊を袖で擦り落としながら、ゆっくりと立ち上がる。
ごほごほと咳払いをする音の方へ向き直ると、微かに確保できた視界に
飛び込んで来たのは、男が片腹を押さえてうずくまっていた場面だった。

そして、喉をさすって身体の具合を確かめるフォックスの前に立つのは、ナイフを構えるデルタ。

( "ゞ)「やっぱり昼間の奴か……うさんくせーと思ってたんだよ、お前さん」

爪'ー`)y-「助かったぜ、デルタ」

( "ゞ)「いいって事です」

(#'A`)「……まだ、新手が居たとはな」

100 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:08:11 ID:aK3TyYNI0

再度ククリナイフを構え、男はゆらりと立ちあがる。
フォックスも先ほど弾き落とされたナイフを拾うと、デルタと共に並び立った。
的を絞らせないようにする事が出来る二対一という状況ならば、十分に渡り合える。

だが、先ほどまでの怒りの色が一瞬で失せると、既に冷静さを取り戻している
男の表情や佇まいには、それでも焦燥は浮かんでいない。こちらとやりあう構えだ。

( "ゞ)「おっかねぇナイフだな……けど、俺達に勝てるつもりか?」

('A`)「素人に舐められて、引き下がれるか」

爪'ー`)y-「そういうお前さんは、きっと暗殺ギルドか何かの人間なんだろうな」

( "ゞ)「確かにそんな感じだな。でも、喧嘩だったら負けねぇぜ?」

('A`)「ハッ…」

互いに、長い膠着状態に入ろうかという所だった。

さすがに容易には踏み込めず、一定の距離を保つのに傾注している様子が伺えた。

だが、それは正しい判断だ。フォックス以上に夜目の利くデルタがいる以上、
暗闇の中でナイフの軌道を見切れるだけのアドバンテージは、もはや向こうだけのものではない。

片方が仕掛けて生まれた隙を、もう片方が突く事だって出来るのだ。
だからこそ、ここで出来る限り相手の戦意を削いでおきたかった。
相打ち覚悟の無謀な博打に出られると、悪くすればどちらかがやられる恐れもあるからだ。

101 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:08:42 ID:aK3TyYNI0

実質、仕事の依頼などの運営を中心に立って切り盛りしているのはデルタなのだが、
それでもデルタとフォックス、二人のどちらかでも欠けるような事が出てしまえば、
今後のリュメの街での盗賊ギルド全体に、大きな影響が出てしまうだろう。

爪'ー`)y-「俺達のどっちかを殺しても、最終的にあんたは死ぬぜ?」

('A`)「知ったことか………仮にそうなっても、必ず一人は道連れにしてやる」

( "ゞ)「勇ましいこって……」

睨みあいの最中、先に痺れを切らしたか、男は床に口の中の血を吐き捨てると、
ナイフを片手に携えたまま、ゆっくりと二人の下へと近づいてくる。

ろくに構えもしていないが、その不用意さが逆に恐ろしい程だ。
小さいが、手傷を負っているフォックスを庇い立て、デルタが前に出る。

爪'ー`)y-(油断すんなよ、デルタ)

( "ゞ)(解ってやす)

('A`)「2対1でのアドバンテージなんて、俺にとっちゃ無いも同然だ」

強気な発言は動揺を誘っているのか、不気味な無表情を崩さず、なおも男は無造作に距離を詰める。

( "ゞ)「………シィッ!」

102 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:09:46 ID:aK3TyYNI0

これ以上間合いを詰められては刃渡りで劣るこちらが不利と判断したデルタ。
男の動きを牽制するために、その首元すれすれを目掛けて、先にナイフを振るった。
腕を狙われないよう、あくまで小さく返しの早い振りで、だ。

だが、殺意の篭もらないその一撃は、男に見透かされていたようだった。
牽制に動じる事も無く、首皮を裂く程の近距離で振るわれたナイフの軌道を見切っている。

( "ゞ)(ちゃちな脅しは通用しねぇ、か)

('A`)「見本を見せてやるよ」

やがてデルタの前にまで立つと、そう言って男は突然不可解な行動を始めた。
右から左、左から右へとナイフを投げて持ち手を入れ替えながら、弄んでいる。

('A`)「”本気の殺意”、ってのをな」

( "ゞ)「………?」

男が右手に再びククリナイフを手にした時、その手は上段に構えられていた。

このまま無造作に斬りつけようとしているのか、だが、そんな大振りならば容易に避けられる。
そう考えてしまったデルタは、既に上体を軽く仰け反らして、避ける構えを見せていた。

だが次の瞬間、咄嗟に声を荒げたフォックスの一声に、急転換を余儀なくされる。

爪#'ー`)y-「違う!左からだ、デルタ!」

103 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:11:04 ID:aK3TyYNI0

(;"ゞ)「……んなッ」

('A`)「………ご名答」

見れば、右手に握られていたはずのククリナイフは、忽然と消えている。
その代わりにデルタの胸元に向けて、逆手に握られた左の一撃が突き立てられようとしていた。

左から右、そしてその逆へと、まるで手品のように持ち手を入れ替えながら攻撃しているのだ。

フォックスの言葉で、それに辛うじて気づくことが出来たデルタだが、左方に仰け反らせた
身体を反転させる間など与えてくれない、あまりに絶妙なタイミング。

もはや運任せとばかりに、ただがむしゃらに自らの小さなナイフで致命打を防ぐ他なかった。

(;"ゞ)(〜〜〜〜〜〜ッ!!)

目の前がぼんやりと真っ白になる程の衝撃と、遅れてやって来た恐怖。
しかし、自らのナイフから伝わってきた確かな感触に、デルタは生を実感する事が出来た。

デルタのナイフの持ち手の合間を縫って穿たれたククリナイフの刃は、
デルタの持つナイフの”柄”により、辛うじて受け止められていた。

('A`)「どうだ……”暗殺の一撃”は?」

───「一瞬でゼロから加速する殺意に、死を連想出来たか?」───

(;"ゞ)「─────野郎ッ!!」

104 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:11:33 ID:aK3TyYNI0

ナイフの刃と柄を交わした状態で、なおも言葉を紡ごうとしていた男から、
強引にナイフを弾いて大きく飛びのくと、デルタは再び距離を取った。

思わず身に着けているベストから露出した腕をさすり、肌が粟立ちはじめていたのを抑え込む。

爪'ー`)y-(今ので分かったろ、デルタ……こいつ)

(;"ゞ)(えぇ………かなり使いやがる)

気を抜いたらすぐにでも肩で息をしてしまいそうな程の疲労感、それが、
たった1合の立会いで、今デルタの身に一瞬で押し寄せていた。

('A`)「これが殺しの本職の力量……って奴さ」

(;"ゞ)「………褒められたもんじゃあ、ねぇさな」

('A`)「どうでもいい……さてお二人さん。俺の前に、無残な死骸を晒すとするか?」

爪'ー`)y-「………」

やはり、どうあっても引き下がるつもりは無いらしい。
たかだか数ヶ月分の生活費の銀貨の為か、それとも、暗殺者としての矜持か。
そんなものの為に、自分が死ぬのも相手が死ぬのも馬鹿らしい、フォックスはそう感じていた。

( "ゞ)(どうします…?)

だから、最大限にリスクを軽減し、誰もが損をしないようにこの場を収めようと、
再び口を開く。目配せを送ってきたデルタを手で制し、ナイフを持つその手を下ろさせて。

105 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:12:01 ID:aK3TyYNI0

今度は駆け引きからではない、本日三度目となる交渉を、男に持ちかけた。

爪'ー`)y-「なら……最後に、もう一度だけ交渉をしたい」

('A`)「聞き入れると、思うのか?」

爪'ー`)y-「あんまりな……だけど、今のあんたにとって悪い話じゃないはずさ」

爪'ー`)y-「そして、交渉の前にもう一度だけ言っておくぜ?」

爪'ー`)y-「この最後の交渉が決裂して殺し合いになっても、そりゃ確かに俺達は素人だ、
     あんたの言ってたとおり、どっちかは道連れにされて死ぬかも知れねぇ」

('A`)「………」

爪#'ー`)y-「だがな……例えどちらかがあんたに刺されても、そいつはあんたの動きを止めて、
      もう一人が確実にあんたの喉首を掻っ切る。断言するぜ───これだけは」

('A`)「………ふぅん」

強い意志が込められたフォックスの瞳と、言葉。

しばしその言葉にじっと耳を傾けていた様子の男だったが、
最後にはおどけたように、肩をすくめて見せた。

( "ゞ)「お頭、何を……?」

爪'ー`)y-「いい、デルタ。お前今いくら持ってる?」

106 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:12:43 ID:aK3TyYNI0

唐突に交渉を打ち出したフォックスの様子に戸惑うデルタをよそに、
その腰元に付けられた銀貨入りの麻袋をひったくると、その中身を確認していた。

爪'ー`)y-「ひぃ、ふぅ…ま、ざっと250spってとこか」

(;"ゞ)「ちょ、お頭?」

('A`)「………?」

さらに、自分の腰元に結び付けられていた銀貨入り袋を取り出すと、
それら二つを束ねて男の方へと投げ渡した。空いた方の手でそれをはし、と掴む。

('A`)「何のつもりだ?」

男の様子を気に掛ける事もせず、フォックスは続けた。

爪'ー`)y-「しめて、450spって所か……そいつを受け取って、ゴードンの所に帰ってくれ」

爪'ー`)y-「そんで、今日ここで見た事は全て忘れるこった」

(;"ゞ)「ちょ、それじゃあ俺の今月の生活が……!」

('A`)「ハッ……臆したか」

爪'ー`)y-「いーや、違うな。仮に俺らと刺し違えたところで、どう上手く事が
     運んでも、安いプライドだけを抱えたまま、あんたはあの世行きだ」

爪'ー`)y-「それなら、何事も無くその450spと追加報酬を持って立ち去った方が利口ってもんだろ?」

('A`)「追加報酬だと?」

107 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:13:28 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「あぁ、ゴードン=ニダーランの奴にはこう報告すればいい」

爪'ー`)y-「”アンタの家に忍び込んでいたのは、盗賊ギルドのグレイ=フォックスだ。
      ギルドの金だけでは飽き足らず、夜な夜な街の人間の家に忍び込んで、
      金品をせしめていた”────とかかな」

(;"ゞ)「お頭!?何言ってんです、そんな事したらお頭だけじゃなくウチの
    ギルドの奴らも治安隊の奴らにしょっぴかれるんじゃないですかい!」

爪'ー`)y-「なぁに、そこでアンタが一芝居打ってくれりゃあ全て丸く収まるさ。
     俺個人が盗みを働いていたのを目撃して、とり逃がした事にすりゃあいい」

('A`)「……面白い事考えるな、お前」

爪'ー`)y-「んで、翌日には俺がこの街から消えりゃあ、万事オッケーだろ?
     上手くすりゃ、あんたはゴードンの奴からも報酬がもらえるって訳だ」

(;"ゞ)「消えるって……なーに言ってやがんですかいッ!」

つらっとして、淡々と自らが即席で考えた筋書きを語るフォックス。
自分が置き去りにされたまま話は進んでいき、デルタは狼狽するしかない。
そんな中で、手元の銀貨入りの袋をじっと眺めながら、男は考えこんでいる様子だった。

部下三人の身を案じながら、自分一人でこの男と渡り合っていた先ほどならば
要求を呑む事は有り得なかった。だが、部下達を逃がした今となっては、
自分とデルタの二人を倒した所で、300spの報酬しか手に入らないのだ。

──デルタと一緒の今ならば、決して勝てない状況ではない。
たとえどちらかが死んでも、負けはしないという確信めいたものがあるからだ。

108 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:13:56 ID:aK3TyYNI0

数の上では有利なこちらだが、それでも、臆することなくククリナイフを携えるこの男は、
やはり明らかな凄腕。依然こちらへ牙を向いてくるのも、プロの暗殺者としてのプライドだ。

だからこそ、自分やデルタの命が脅かされるたった僅かなリスクも、見過ごす事は出来ない。
現在の盗賊ギルドの支柱として欠いてはならない存在は、自分よりもデルタの方なのだ。

フォックスやデルタにとって、もはや故郷と言ってもいいこの街の人々。
今は貧しさに身を寄せ合うこの街の皆が、いつか笑って暮らせるようにしたかった。
だからこれから、リュメの盗賊ギルドはより成長し、発展に貢献しなければならない。

豪族気取りのゴードン=ニダーランなんかに今ここで自分達の尻尾が捕まえられて
しまえば、その日々が訪れるのも遠い先の事になってしまうだろう。

いつしか自分達の中に生まれていた、故郷を想うという気持ち。

それは、貧民窟で置き去りにしてしまった親達の姿を、
圧制に苦しむ街の人々に投影していたからなのかも知れない。

男が、やがて長らくつぐんでいた口を開いた。

('A`)「まぁ、悪くない」

内心、聞きたかったその言葉。

しばしの長考の後、男はそう言ってククリナイフをふところへしまった。
リスクとプライド、そして金を天秤に掛けて、納得がいくだけの交渉内容だったようだ。

爪'ー`)y-「ご納得、頂けたかな?」

109 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:14:21 ID:aK3TyYNI0

('A`)「ま、いいだろう……交渉成立だ」

爪'ー`)y-「そうか。なら確認だ………”俺達はここから無事に逃がしてもらう”」

爪'ー`)y-「そして、”ここで起きた本当の出来事の他言は一切無用”」

(;"ゞ)「………!」

デルタがフォックスの肩をぐっと手で掴み、強い視線を投げかけていた。
だが、フォックスはそれを意図して無視し続ける。

('A`)「ま……いいだろう。こっちもさっきの獲物を取り逃がした損失を埋められるしな」

('A`)「だが、こちらにも条件がある」

('A`)「俺はあと二日間、このリュメで滞在するつもりだ。その間に一度でも
   この街でお前の姿を見かけたなら、確実に殺す……いいか?」

爪'ー`)y-「解ってる、さっきも言っただろ?今夜の内に行方を眩ますさ」

('A`)「それでいい。依頼人に俺が話す言葉と矛盾が生じては、信用も失墜するからな」

('A`)「それと、お前さんに対しての個人的な感情だが」

今まで殺意を向けてきた相手が、一時的に敵では無くなる事への安堵か、
自分の中で張り詰めていた部分を逃がすかのように、フォックスは大きくため息を漏らした。

爪'ー`)y-「これで話は終いだな……さて、どこかへ行ってもらえるか?」

「やれやれ……」と、男もまたため息をつくと、部屋の入り口の脇へと逸れて、
そのまま腕を組みながら壁に背をもたれた。顎を引いて合図を指し示し、通行しろと促す。

110 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:14:51 ID:aK3TyYNI0

('A`)「背中にナイフを突き立てられたらかなわんからな……先に行け」

爪'ー`)y-「なるほど…でもまぁ、さすがにそんな卑劣なマネはしないけどな」

('A`)「盗人がよく言うぜ…」

何事もなかったように、フォックスは前だけを見て出口へと歩く。
かたやデルタは警戒を完全に取り払う事なく、半身になりながら男の目を睨みつける。

男とすれ違う瞬間、ぼそりと一言だけ呟いた。

('A`)「ドクオ」

爪'ー`)y-「?」

('A`)「俺の名前だ。いつかどこかで会う事があれば、殴られた礼はする」

爪'ー`)y-「───あんた、根に持つタイプだろ」

互いに一言だけ交わすと、視線を合わせる事も無く
正面のドアを押し開け、堂々と外へ出た。

────

────────


────────────

111 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:15:49 ID:aK3TyYNI0

地面を踏みしめて久々の外気に触れると、火照った生傷の部分に痛みを感じる。
この小さな倉庫の中で繰り広げられた戦闘が嘘のように、外の世界はただ日常だ。

そして、デルタがフォックスへと詰め寄る。

(;"ゞ)「お頭……本気ですかい!?どうするつもりなんです、これから」

爪'ー`)y-「どーするもこーするも、あいつ絶対どっかの暗殺ギルドの奴だぜ?」

爪'ー`)y-「約束守らなきゃ、俺が暗殺されちゃうよ」

(;"ゞ)「って、無茶苦茶言い出したのはお頭じゃないですか!」

( "ゞ)「またなんだって、こんなこと……」

ぶつぶつと文句を垂れるデルタの様子から、やはり相当な不満が見て取れる。

”お前を失えないからさ”そう思ってはいても、おどけて適当にはぐらかす。
言葉を掛けても、かえってデルタ自身に重圧を掛けてしまう事になるだろう。

爪'ー`)y-「まぁ、マイナス450spの思わぬ赤字になっちまったけど…」

(# "ゞ)「お頭……?大半はあっしの金ですからね」

爪'ー`)y-「いやぁ、まぁ、お互いに転機じゃない」

爪'ー`)y-「とりあえず俺は、しばらく旅に出るさ……道すがらで、
     昼間の酒呑み話みたいな事があったら面白ぇなぁとか思いつつ」

112 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:16:25 ID:aK3TyYNI0

( "ゞ)「ふぅむ、まだ腑に落ちやせんが、当て所ない旅はいいですねぇ。あっしも───」

( "ゞ)「………と、言いたいのはやまやまなんすが、今回みたいな事が無いように、
    ウチの奴らをまだまだしっかり面倒見ないといけやせん」

爪'ー`)y-「解ってんじゃんか、デルタ。自分がギルドにとって必要な人材だって事をさ」

( "ゞ)「………留守の間、街の皆の事はあっしに任せて下さい」

爪'ー`)y-「おう、頼もしいな。ま、ほとぼりの冷めた頃に帰って来るよ」

爪'ー`)y-「ゴードンの親父の土地を店ごと買い上げられるぐらいの金を持って、さ」

爪'ー`)y-「じゃあ、ここでお別れだ」

街の西口で、交易都市ヴィップへと続く道と、ギルドのアジトへと続く道。
枝分かれした岐路で、二人はやがて立ち止まった。

( "ゞ)「ひとまずは、どちらへ?」

爪'ー`)y-「まずはヴィップでも目指すさ」

( "ゞ)「二日の道のりですぜ……文無しでですかい?」

デルタの心配も尤もだ。街へ着いても、野垂れ死んでは元も子も無い。

だが、その心配をよそに、フォックスは胸元からそっと何かを取り出した。
月光を受けて光輝く宝石、それは大粒の翡翠だ。

持っていく所へ持って行けば、200spは下らぬであろう。

113 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:16:52 ID:aK3TyYNI0

爪'ー`)y-「道中で行商人とでも出くわしたら、こいつを安値で捌くさ」

( "ゞ)「ヘヘッ、抜け目ねぇなあ…」

翡翠を懐へしまい、くるりと背を向けたフォックスは、
ニ、三度後ろ手に手を振ると、深い暗闇が包む森の奥へと消えていく。
その背中が見えなくなるまで、デルタはその場所で見送っていた。

( "ゞ)「……お元気で……!」

最後にその背中に声をかけると、自らもすぐに踵を返し帰路へと着く。
あまりに唐突に、呆気なく訪れた別れ。だが、またいつか会える。
その確信があるから、変に湿っぽい別れ方だけは避けた。

いずれフォックスがリュメに帰ってくる時の為、部下達をまとめ、鍛え上げる。
この時すでに、ギルドと街の繁栄の為に注力しようという意志が固まっていた。

たとえフォックスが居なくても、やっていく。
その決意が、彼の足取りにも現れていた。

────

────────


────────────

114 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:17:25 ID:aK3TyYNI0

暗い森を往く。
持っている物といえば、一振りのナイフと、大粒の翡翠。

爪'ー`)y-「”冒険者”って響き……悪い気はしないね」

だが、自然とその足取りは軽い。
妙な開放感に期待ばかりが膨らみ、不思議と旅への不安は無かった。

爪'ー`)y-「大陸全土を股にかけて冒険たぁ、ロマンがあって結構結構」

爪'ー`)y-「さぁて。風の向くまま、気の向くまま……ってね」

20と数年の歳月を生きてきて、初めて臨む自分一人だけの冒険の旅路。
フォックスは、今その生まれて初めての経験が生む期待に、心を躍らせていた。

デルタや街の皆としばらく会えない寂しさがあるといえば嘘になる。
だが、それ以上に生まれてからこれまで、貧民窟、そしてリュメの街しか知らない
閉塞的な生活を送ってきた彼にとって────

───街からの一歩を踏み出した風景は、目の前の何もかもが新鮮に彩られていた。

115 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:19:01 ID:aK3TyYNI0
   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第0話(3)

          「力無きゆえに」


             ─了─

116 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:25:44 ID:aK3TyYNI0
再投下ながら途中ちょこちょこ場面を増やしたり加筆したのでageさせて頂きやした。
投下間隔しくったのでPCでもえれぇー読み辛い!

とろとろ作業してっから前投下した分すいこーしてる間に、
下手したら3話ぐらいまで書けちゃうような気がしてきたぞ。

さ、2話の書き溜めに戻りやす……

117 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 04:52:00 ID:PxhFSFXwO


118 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 21:44:21 ID:oh8KoUuUO

読み応えがある

119 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/06/20(月) 23:46:53 ID:WOjJ6yoQO
乙!
今から読ませてもらうぜ

120 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:08:02 ID:cEOPo.UM0
FMVの糞PCが熱暴走でぶっ壊れた。
なので急遽新糞FMVをゲッツ。書き進めていた1話は
外付けHDDに残っていたので、ここ2〜3日ぐらいまた作業を進めとりやす。

手直しを含めてあと1〜2日で1話が投下できると思うので、
とりあえずすいこーなしで0話の残り投下しちゃいますわ。

121 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:10:18 ID:cEOPo.UM0

この広大な大陸中、至る所で”聖ラウンジ”の教えが伝え広められている。
200年以上もの長きに渡り、依然として最大の宗教派閥として君臨する彼らは、
特別外界の宗教とは交流を持たず、ただただ来る日も来る日もラウンジの神に祈りを捧げ続ける。

いつ報われるとも解らない信仰を持ち続け、やがて神に見初められた者だけが、
聖ラウンジの秘術、飽くなき信仰がもたらす、善なる精神に宿った奇跡の数々を起こすと言われる。

数ある聖ラウンジ教会の建物の中でも一際大きなものは、ここ聖教都市ラウンジの街にあった。
ラウンジ大聖堂。身寄りの無い子供や、身体の不自由な老人などが多く訪れる。

この大聖堂にあって、今は修道女として聖ラウンジの神に仕える子羊である
”ツン=デ=レイン”は、今日も決まった時間、決められた動作で、神に祈りを捧げていた。

ξ-⊿-)ξ 「(聖ラウンジの神よ…我が声に耳を傾け、御言葉をお聞かせ下さい……)」

122 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:11:06 ID:cEOPo.UM0

「神よ…どうか、この地で苦しむ全ての人々を救いたまえ…」

「我らが信仰をその御力と為し、奇跡を…どうか…」

ツン=デレインの周りでは、彼女と同じように祈りを捧げる一般人の姿も多数ある。
修道士達も同様に、皆、本当に神の存在を心から信じ、口々に教典通りの言葉を囁く。
未だ、誰もその御姿を見た者はいないというのに。

ξ゚⊿゚)ξ「(はぁ…本当に、こんな自分が嫌になる)」

それは、ツン=デ=レインも同様だった。
赤子であった自分が当時の司祭に拾われ、それから今に至るまで、およそ20年の歳月が流れていた。
やがて司教となった育ての親は、結局神の姿を見る事も無くツンが18になると同時にこの世を去る。

棺に収まった司教の姿を見た時には、ツンの目からは確かに涙も流れた。

123 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:12:22 ID:cEOPo.UM0

「全ての人々には、等しく神の寵愛を受ける権利があるんだよ」

司教が常日頃から言っていたのは、自分を育ててくれたのは、そんな理由。
今にして考えれば恩着せがましいとさえ、ここ最近は思うようになっていた。

そんな邪な考えが邪魔をしているのか。はたまた、父であった司教が
この世を去った事が影響しているというのもあるかも知れない。

彼女の日々が変わる事は何一つ無い、きっと、このまま変化が訪れる事も無いのだろう。
外の世界を知らない彼女にとって、聖堂に訪れる街の人々と話す事が唯一の楽しみだった。

ξ;-⊿-)ξ「(おっと…いけない。仮にも私は聖ラウンジの信徒として
        神に使える身なんだからね。今のはナシ…今のはナシ…)」

ふと、後ろの方からひそひそと話し声が漏れてくる。
祈りの最中だというのに、こちらへ聞こえるのもお構いなしだ。

「ねぇ、ツン様の話…聞いた?」

「えぇ…司教様の遺言では、今年に次期司祭として賜るって話ね」

「ふん…あんな小娘が。捨て子だったくせに」

「ちょ、ちょっと、聞こえるわよ」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

124 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:13:00 ID:cEOPo.UM0
投下し辛いんで一旦ageます

125 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:14:00 ID:cEOPo.UM0

一通りの礼拝を済ませた後、すぐに二階の父が使っていた部屋へと上がっていった。
今日は一般の礼拝も無い日で、外の世界の話を人々から聞ける楽しみも無かった。

──いつからだろう、祈る事が、こんなにも嫌になってしまったのは。

──どうしてだろう、同じ神を信じる人たちが、こんなにもいがみ合うのは。

窓から外の風景を眺めながら、時間が空いた時にはこうした物思いに耽るようになった。
育ての父を失った事や、時折親の七光りを指差す人々のそうした視線に耐え切れず、
最近では礼拝自体にも嫌気がさす事さえあった。

聖職者として、あってはならない事だ。だが、それでも
いつしか外の世界に飛び出したいという気持ちは、否応無しに膨らんでいった。

司祭の座なんて、本当はツン自身どうだっていい事だ。
祈りを捧げていくだけの毎日、それが、この先の自分に何をもたらすというのか。
いるかどうかもわからない神の御姿を拝見するためか、はたまた、奇跡に触れるためか。

漠然とした不安を抱えたまま、今日も自分の気持ちに正直になり切れない自分に、辟易する。
思った事をそのまま伝えられたら、行動できたらどれほど楽になれるのだろう。

126 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:14:25 ID:cEOPo.UM0

だが、父が残した十字架の重みは、容赦なく自分の背に圧し掛かってくる。
父のように一生を祈りに捧げていった先──果たして何を得る事が出来るのだろうか。

ξ゚⊿゚)ξ「(……うん?)」

何気なく開いた、木机の引き出しの中から、見慣れない一冊の本が姿を覗かせた。

父が亡くなった時、一度身辺の物は整理したはずだ。
その時には、こんな物はなかった。

あるいは奥の方に入っていた為か、鬱屈していた自分が机の引き出しを
引く動作に、無意識で力がこもっていたのかも知れない。

ぱらぱらと、そのページをめくってみる。

煤けていて、長年に渡って使い込まれた感じの出ているその一冊。
最初の数ページを捲ってみて、すぐに解った。

父親が羊皮紙以外に残した文面は初めて見る。これは、日記だ。

127 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:14:51 ID:cEOPo.UM0

「○月×日 ぎこちないながらも、ツンはようやく様々な作法が解ってきたようだ。
      飲み込みは良い方ではないが、どこか祈りの仕草にも気品を感じる」

ξ゚⊿゚)ξ「これは……お父様の」

「×月△日 教会に訪れる人々も、皆ツンに親しく接してくれているみたいだ。
      また、ツンもそれを楽しみにしている様で、話を聞いている最中は
      目が爛々と輝いているように感じる……退屈な日常を、私は彼女に
      押し付けてしまっているのかも知れない」

その日記には、ツンが司祭に迎え入れられて、この教会で祈りを捧げるようになった
当初の様子、また教会での日常がほぼ毎日に渡って書き綴られていた。

流行病で呆気なくこの世を去ってしまった父は、まだ53歳という若さだった。
日記の最後の日付が2年半前になっている事から、病を得たのはつい最近だった様だ。

「△月○日 どうやら、ツンを快く思っていない修道士達もいるようだ。
      確かにツンはまだ不慣れで、聖典の内容すらまともに覚えてはいないが…

      それでも私は言ってやりたい。幼くして天涯孤独となった子供たちの
      両親に向けて、心からの祈りを捧げている彼女の無垢な横顔を見ても
      まだそんな事を言えるのか、と」

128 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:15:15 ID:cEOPo.UM0

ξ ⊿ )ξ「………これも」


「▲月△日 ツンが病を得てしまった。つきっきりで看病したお陰か、はたまた
      彼女自身の若さゆえの回復力だろうか。どうにか全快してくれて何よりだ。
      だが、今度は私が寝込んでしまっている……年は取りたくないものだ」

文面からだけでも、伝わってくる。
父が、神の名の下という、それだけの感情で自分を育てていたのではないのだと。

父である司教は神の名を借り受けた上で、自分を忠実な信徒に育てようとしていた、
そう誤解していたのだと、今頃になって初めて気付かされた。

「○月凹日 本当に、彼女の祈りは人々の荒んだ心を清らかにしてくれるほどに美しい。
      今日も、父上が天に召された娘子が、彼女が祈る聖母のような姿に感動すら覚えていた。
      ──これなら、いずれツンに司祭を任せてもいいかも知れない」

ξ ⊿ )ξ「本当に…私の事を見ていてくれたんだ…お父様」

そう、最初の気持ちはそうだったのだ。
心からの祈り、亡くしてしまった人達が、この世界に何一つ思い残す事なく旅立てるように、と。
心から、精一杯の祈りを捧げる事、本当は、苦だなんて思った事も無かったはずだ。

やはり、父を亡くした時から、自分は少しずつ最初の気持ちというものを忘れてしまっていたのかも知れない。

129 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:15:34 ID:cEOPo.UM0

失ってしまった今になって到来する、胸をちくりと刺す痛み。
鼻腔の奥がつぅんとしたかと思えば、眼からは自然と、頬へと伝う冷たい雫がこぼれた。

「凹月凸日 どうやら、私は流行病に侵されてしまったようだ。神の忠実なる信徒が、
      その奇跡に触れる事もなくこの世を去ってしまうのは、いかにも恥ずべきか。
      だが、今の私にはそれ以上にツンのこれからの事が気に病んでならない。

      どうか私がこの世を去っても、気を落とさないで欲しいものだ。
      そして人々を思いやる優しい気持ちと、清らかな祈りだけは、忘れないでいて欲しい」

ツンの心中には、この時様々な想いが交錯していた。

たとえ神などいなくても、自分を愛してくれている人がいたという事への、喜び。
そして、父の胸中を理解しようともしなかった自分の愚鈍さへの、後悔。

これから、この自分に出来る事は、一体何なのだろう。
それを考えた時、カーテンを時折はためかせながら自分の顔を撫でるそよ風が、
まるで今初めて体験したものかのように、一層新鮮味のあるものに感じられた。

そして、決断する。

ξ゚⊿゚)ξ「(なんだか、すっきりしたわ)」

130 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:15:58 ID:cEOPo.UM0

ξ゚⊿゚)ξ「(私達がこんな安全な場所で、安穏と祈りを捧げる日々の中で……
      本当に困っている人たちはこのヴィップの外にいくらでも居る)」

ξ゚⊿゚)ξ「(疫病、飢饉で命を落とした人たち、親を亡くした戦災孤児なんて、
      それこそこの乱れた世の中じゃあ計り知れない)」

ξ゚⊿゚)ξ「(それなのに、私達教会の人間は、主に救いを求めるために祈る……?)」

「…馬鹿らしいわね!」

一人窓の外に向かってそう叫んだ彼女は、すぐに持てるだけの荷物を持って、身支度を始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「神様なんて、どっかりとあぐらをかいて私達を見下ろしてるばかり」

ξ゚⊿゚)ξ「それなら、私の方から出て行ってやるわ」

自分が神の信徒として出来る事を、やれるだけやってみたかった。
その一心だけが、今のツンを支える活発な原動力の源だ。

131 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:16:35 ID:cEOPo.UM0

きっと自分にだって、本当に困った人々の力になれる事だってあるはずだ。
父が言っていた言葉を借りれば、愛情は全ての人に等しく注がれるべき。
自分が、父からそうしてもらっていたように。

なら、親を亡くした子供たちや、孤独に死に逝こうとしている人々は、
誰からその愛情を受け取れるというのか。誰が、彼らの為に祈りを捧げて
くれるというのか。教会で礼拝している自分達は、そんな事に気づく事も無く、
ただただ、誰の為でもなく形式ばった祈りを捧げているだけではないのか。

吹っ切れた今の彼女には、これまでうじうじとしていた過去の自分を
省みる時間すら惜しいほどに、旅立ちへの気持ちが溢れ出しそうな程だった

132 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:17:38 ID:cEOPo.UM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

           第0話(3)

          「誰が為の祈り」

133 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:18:14 ID:cEOPo.UM0

───旅立ちを決めたあの日から、すでに一週間もの月日が流れていた───


ξ;゚⊿゚)ξ「ぜぇ…はぁ…」

登りの坂道、白を基調とした修道服の裾は、見る影もなく土ぼこりに塗れていた。
手ごろな木の枝を支えのステッキにしながら、険しい山道を登る、昇る、上る。

愚痴をこぼす余裕も無いほどに疲弊し、箱入り娘で培われた自身の体力不足を痛感する。

やがて、勾配のなだらかな頂上付近にまで辿りついた時、木々に囲われた
近くの原っぱを目にして、身体をどっかりと地面へと預けた。

どこまでへも続いている空を見上げて寝そべる。
身体の疲労は非常に深刻なものだが、それ以上に今は心地よい開放感が得られた。

ξ゚⊿゚)ξ「(あ〜…いいわ)」

134 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:18:36 ID:cEOPo.UM0

目を瞑ると、何だか今まで住み暮らしてきた聖教都市での出来事が、遠い昔の
日々の事のように感じられた。

もちろん、周囲へは多少強引にだが説得を済ませてきた。
引き止める者や仰天する者など反応は様々だったが、口を差し挟ませる余地もなく、
最後には脱兎の如く逃げて来た。今頃、自分を探しているのだろうか。

街を出る前に、毎週礼拝に来ていた家族連れなどには一声を掛けてきた。
そちらの人たちは、旅に出る旨を告げると驚かれこそしたが、自分を激励してくれた。

その激励のおかげで、2日目以降の野宿を乗り切れたようなものだった。
日中であればまだいいが、獣道のような森の中を通り、人里へと通じる道を
外れてしまってうす暗闇に迷いこんでしまった時には、べそをかいて彷徨い歩いたものだ。
・・・・
旅慣れた今ならそんなヘマはしないぞと、少しだけ自信がついている。

ξ゚⊿゚)ξ「あ………」

135 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:18:58 ID:cEOPo.UM0

もうしばらくこの心地よさを味わっていたかったが、不意に、頬に落ちたのは
冷たい雨粒ひとつ。ふたつ、みっつと続くと、次第にますますその勢いは増した。

こんな山奥で夕立に見舞われるとは思わなかった。

ろくに冒険などしたことの無いツンにとって、明らかに不測の事態である。
ひとまずは雨が止むまで木陰にでも身を寄せるしかないとは思うが、それで
下山するのが明日の明朝以降になってしまっては、道中で野垂れ死ぬかも知れない
怖さがあった。来るまでに街で手に入れてきた食料もあるが、ほんの微々たる量なのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「…どうしよう、かな」

いつになったら止むのか、そんな事は知る由も無い。

先ほどまでかいていた汗が嘘のように引くと、この雨が
周囲を冷やしてしまった。身体をぶるると震わせる。

ξ;-⊿-)ξ「…さむっ」

生憎と暖を取れるような準備など整えてはいない。
過ぎ去るまで、身を縮こまらせて待つしかないのか、と不運を嘆いた。

136 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:19:17 ID:cEOPo.UM0

が、周囲を見渡したある時、木々に紛れた岩陰にぽっかりと口を開いた
洞穴のようなものがある事に気がついた。

どれだけの奥行きがあるかは解らないが、この中に入れば風雨や
寒さはある程度凌げるだろう。不幸中の幸いに、思わず主の名を口にした。

ξ゚⊿゚)ξ「これぞ神の思し召し…ね」

ξ;゚⊿゚)ξ「(はっ…でも、もし熊とかいたらどうしよう!)」

ξ;゚⊿゚)ξ「(う〜ん…羆に村を襲われた人の話とか聞く限り、
       私みたいにか弱い少女はイチコロだろうし…)」

あれこれと思案する内、木の葉から伝わり落ちる雨の雫が
首元から背中を伝わり落ちて、小さく悲鳴を漏らしてしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ「しゃあない、この際背に腹は代えられないか…」

野生動物や、話にしか聞いた事のないゴブリンなどの妖魔が
中に居ないかを警戒しつつ、じりじりと洞窟の中へと歩みを進める。

思ったよりも奥深い。

137 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:19:37 ID:cEOPo.UM0

次第に入り口から聞こえる雨音は、しんしんと遠いものになっていく。
中は暗いが、獣臭がしたりはしない事に安堵した。

それどころか、かすかに薪を炊いた燃えかすなどがあった事に驚く。

ξ゚⊿゚)ξ「人が……居たの?」

そうとしか思えない痕跡が、少しずつ暗さに慣れてきた視界に次々と映り込む。
火を起こした場所のすぐ近くの壁面には、固い土壁を石か何かで削り文字を刻んだ跡。
どういう規則性になっているのかよくよく見てみると、暦を描いたもののようだった。

ξ゚⊿゚)ξ「(こんな場所に住んでる人なんているのかしら。
      もし帰って来ちゃったら、どうしよう…)」

こんな場所で山賊にでも襲ってこられたら、逃げようも無い。
今度は恐怖から来る寒気が、またツンの身を震わせた。

その折に、不意に人の声とも物音ともつかぬ何かが、奥から聞こえてきた。

ξ;゚⊿゚)ξ「…!!」

慌てて、2、3歩を後ずさり、壁を背にした。
聞こえてきたのは、やはり人の声だったようだ。
少しずつ、こちらにその人影が近づいて来る。

138 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:20:03 ID:cEOPo.UM0

だが、やがて姿を現したのは、想像よりもずっと危険のなさそうなものだ。
目をこすりながら、うわごとを唱えるかのように喋るそれは、子供だ───

(ノoヽ)「おあ…うああ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「(なんで、子供がこんな所に…?)」

目やにだらけで、こちらの姿がおぼろげにしか見えていないのかも知れない。
衣服ともいえないようなぼろの布切れを身体にくくりつけている。

そして、ラウンジでよく見かける、元気に走り回る子供達とは対照的なその姿。

年の頃は同じくらいであろうが、その身体はあばらの骨が浮き出る程に痩せ細り、
顔は煤けていて、ろくに衛生的な暮らしなど出来ていないのだろう。

しかし、驚かされはしたが、山賊や熊なんかよりもずっと可愛らしい。
なぜこんな場所にいるのかを尋ねようとしたが、ある事に気づいた。

(ノoヽ)「うあ…う。おうあぁ」

139 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:20:25 ID:cEOPo.UM0

ξ;゚⊿゚)ξ「(そうか…聞こえないんだ、私の言葉)」

聾唖なのだ。耳が聞こえないばかりか、それに付随してものを喋る事も出来ない。
その子供が、こんな山深い場所で一体どうやって生きていたのかと、呆然とした。

ξ;゚⊿゚)ξ「……君は一人、なのかな?」

(ノoヽ)「ううんあ。あうおあ」

ξ゚⊿゚)ξ「違う…って?唇の動きで言葉が解るの?」

ツンの問いかけに、子供はツンの衣服の端あたりを掴み、奥へと連れて行こうと
しているようだ。白い衣服は触られた箇所がたちどころに真っ黒く汚れたが、
そんなことを気にかけることもせずに、子供に先導されるまま、ツンは奥へ奥へと歩いていく。

やがて、壁に背を持たれた人影の姿がその先にはあった。
それを指差し、ツンの顔を見ながら子供は飛び跳ねる。

(ノoヽ)「おあう!おあう!」

140 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:20:45 ID:cEOPo.UM0

ξ;゚⊿゚)ξ「………!」

思わず、悲鳴をあげてしまいそうになった。
子供が指差すそこには、眼を見開いている一人の男の姿。

明らかに、死んでいる。

ξ-⊿-)ξ「(………そうか)」

この子の親なのか、それはわからない。
だが一緒に暮らしていた同居人は、命を落としてしまった。
一人残されて、ずっと亡骸の傍で泣いていた子供の姿を一瞬想像する。

言葉も満足に喋れないこの子にとっては、あまりにも過酷な現実だ。
その無垢な表情を見ているこちらが、悲痛な面持ちを浮かべてしまう程に。

そんな自分が、この子の親にしてやれる事はたった一つしかなかった。

141 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:21:06 ID:cEOPo.UM0

ξ゚⊿゚)ξ「……主よ、聖ラウンジの神よ」

ξ-⊿-)ξ「その御許に、この魂をお導き下さい」

ξ-⊿-)ξ「道半ばで力尽きたかの者が、悔いを残して彷徨う事のない様に……」

ただ、それだけを願った。
あいも変わらず主は声を聞かせてなどくれないが、それでも
亡骸の前に膝まづくと、両手を合わせてただただ一心の祈りを捧げた。

様子が変わったツンを見て、子供はきょとんとしているばかりだ。

ただ純粋に、願った。

力ない幼子を残して、自分がこの世を去ってしまうという事。
それが親ならば、どれほど悔いを残す事なのか察するに余りある。

だから、せめて天上からこの子を見守ってくれているようにと───

142 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:21:35 ID:cEOPo.UM0

どれほどの間祈りを捧げていただろう。
やがて眼を開いた時、ツンの顔を恐る恐る覗きこむ、子供と目が合う。

(ノoヽ)「んん〜……あう?」

事実を告げるのは、酷だろうか。
多少逡巡はしたが、いずれにしてもこれからこの子が生きていく上で、
どこかで必ず受け止めねばならない事実なのだ。

生命を失う事が、どういう事なのかを。

ξ゚⊿゚)ξ「…あなたのお父さんはね、お星様になったの」

伝わっているだろうか、出来るだけ大きく唇を動かす事を意識して
語りかけながら、空が閉ざされた洞窟の上空へと指差す。

子供は首を傾げながらも、一生懸命理解しようとツンの口の動きを読んでいる。

ξ゚⊿゚)ξ「これが…生命を失う、という事なの」

143 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:21:53 ID:cEOPo.UM0

ξ-⊿-)ξ「お父さんとは…もう二度と会うことは出来ないのかも知れない」

(ノoヽ)「んんん…うあう」

少しは伝わっているのかも知れない。
子供なりに理解しようと、先ほどよりは神妙な面持ちに感じさせる。
息を少し多めに吸い込んでから、励ますようにして、続けた。

ξ゚⊿゚)ξ「でも……安心するのよ」

ξ゚⊿゚)ξ「”お空からずっと君を見守っていてくれるように”って
     ……お姉さんが、君のお父さんにお願いしといたから」

ξ゚ー゚)ξ「……ねっ?」

(ノoヽ)「……うう、うん」

完全には理解できなくとも、これからの自分の置かれる境遇について、
なんとなく感じているのかも知れない。ツンが胸元に抱き寄せた時、
不安げな様子が、小さな肩の震えから見てとれた。

ξ ー )ξ「よしよし……大丈夫、だからね」

本当は父の死を知っていたのかも知れない、などと思う。
だが、天上の主との結べているかどうかも分からない約束を、
自分勝手に嘯いてしまった自分だ。

144 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:22:15 ID:cEOPo.UM0

勝手な約束をしてしまった以上、この子が人里で今後の面倒を見て
もらえるような場所までは連れて行く。

この時ツンは、そう決心を固めていた。

外に目をやると、どうやら先ほどまでの夕立もぱたと止んだようだった。
それならば、この子を連れて今の内に下山してしまおう。

だがその手を引こうとした時、何人かの人の声がした。
思わず動きを止めてしまった。

「あぁ〜あ!ようやく雨宿り出来る場所を見つけたと思ったのによぉ!」

「ったく、ふざけやがって……今頃になって止みやがるたぁ」

「全く神様ってのはクソッタレだぜ。ま、ちょっとここで休んでいくとしようかい…」

数人の男達の声。
荒っぽい口調、野太い声。

知性の欠片も感じさせないその会話から、ツンは本能的に
危機感を察知した。すぐに子供を自分の後ろへと追いやる。

ξ;゚⊿゚)ξ「(喋っちゃ、だめ)」

145 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:22:45 ID:cEOPo.UM0

(ノoヽ)「(………あう)」

ξ;゚ー゚)ξ「(いい子ね……)」

子供がこくりと頷いたのを確認すると、自分の元へと抱き寄せながら
洞窟の奥の方へと、じりじりと音を立てないように下がっていく。

どうやら、全部で3人の男がこの中に入ってきた。
一際大柄な男と、中肉中背、そして小柄な三人。

先ほどの荒っぽい口調も頷けた。
その三人のいずれもが、鉈や剣をぶら下げているのが見えてしまったからだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「(本当に山賊なんかと出会っちゃうなんて……ツイてないわね)」

雰囲気で察する事が出来た。恐らく、こちらの存在に気づかれたら、
たちまちこの三人は自分達を襲ってくるだろう。

「ケッ、きったねぇとこだなぁオイ」

「やっぱ雨上がりは湿気がひでぇや」

「いやぁ…こうジメジメしてるとよぉ…スカーッと、女抱きたくならねえか?」

「オメェは年がら年中だろうがよ!ひゃひゃひゃ!」

146 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:23:09 ID:cEOPo.UM0

「おぉよ……こないだの上玉みてぇに、無茶苦茶に犯してやりてぇぜ」

「オイオイ、またケツに棍棒突っ込むのは無しだぜ?後から使う俺たちが困らぁ」

「ちげぇねぇ」

ぞっとしない会話が、少しだけ前方で飛び交っていた。

ξ;ー )ξ「(……大丈夫、大丈夫……)」

子供の頭をそっと撫でながら、そう言い聞かせる。
それは、気をしっかり保つ為に自分に対しての言葉だったが。

洞窟内の暗さが幸いしてか、山賊と思しき連中たちには
奥の方で身を縮こめる自分達の存在には、まだ気づかれていない。

しかし、少し目を凝らせば違和感に気づくだろう。
ましてや、自分が纏う白の衣服ならば、余計に目立ちやすい。

”早く出ていって”───そう願うも、一人は寝転がって
うだうだと一休みを始めている光景から、当分出ていく雰囲気はなさそうだ。
それならば、とツンは腹をくくった。

ξ;゚⊿゚)ξ「(いい……?合図をしたら、外まで走るの)」

(ノoヽ)「(……うん、あう)」

147 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:23:45 ID:cEOPo.UM0

ξ;゚⊿゚)ξ「(お姉さんの手を離したら駄目だからね)」

(ノoヽ)「(……うう?)」

ξ;゚⊿゚)ξ「(でも、もし手が離れたら…絶対に振り返らないで走るの)」

ξ;゚⊿゚)ξ「(そして、人のたくさんいる場所を目指すのよ?)」

(ノoヽ)「(うあ、ううん……)」

ツンの顔から滲み出る不安感が子供にも伝わってしまっているのか、
今にも泣き出しそうな顔をしながらも、ツンの小声一つ一つにしっかりと
首を縦に振ってくれた。どうやら、大丈夫そうだ。

ばきっ

ξ゚⊿゚)ξ「(───焚き……木……?───)」

ツンはその一瞬、足元から聞こえてきたその音に、
頭の中が全て真っ白になってしまった。

火を起こした後の燃えかすを踏んでしまったのだった。
それは、自分が思うよりもずっと大きな音を立てて、
しつこいくらいに洞窟内で反響してしまっていた。

正しく、痛恨の極みだった。

148 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:24:07 ID:cEOPo.UM0

「おぉ?」

「んぁあ?」

さすがに気づいた。完全には視認していなかったようだが、
やはり白い聖職服は目立つようだ。目元をしかめながら、違和感に首を傾げた。

確認しようと男が一人、こちらへとゆっくり近づいてきている。

とても作戦ともいえないものだが、今となっては先ほどの
考えを実行に移しても成功率は格段に下がってしまうだろう。

だが最悪、せめてこの子供だけでも逃げてくれれば良い。

ξ;゚⊿゚)ξ「………今よッ!!」

149 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:24:33 ID:cEOPo.UM0

しっかりと子供の手を離さぬように、衣服の裾をたくし上げて全力で出口を目指した。
突然聞こえた大声と走り来る人影の姿に、姿を確認しに来ていた男は低い呻き声を
上げてツン達の進路を飛びのいた。

「うぉッ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ハァッ……ハァッ……!」

無我夢中で、子供の手だけを離さぬように全力で走った。
今まで生きてきた中でも、これほどの緊張感に苛まれた事はあっただろうか。

体中から冷や汗が吹き出し、血が冷たく
凍りついたかのように、体温は瞬く間に下がっていた。

ほんの数フィートの距離。だがたったそれだけを進む間に、
まるで数十秒、数百秒もの間、秒針が時を刻んでいるかのように感じられる。

「おっ……女ァッ?!」

素っ頓狂な声を上げたその山賊は、通り過ぎる間際に腕を伸ばしてきた。
だが、走りながらその腕を振り払う事に成功する。

あともう少し、あと数秒でたどり着く距離に、
洞窟の出口がぽっかりと口を覗かせているのだ。

150 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:25:04 ID:cEOPo.UM0

ξ;゚⊿゚)ξ「(もう少しで……外に!どこかの草木で身を隠せば……!)」

だが、最後。

ξ゚⊿゚)ξ「(もう、少………ッ!!)」

「女」という単語に敏感に反応したのか、洞窟の出口前で寝転がっていた
その男に、脇から腕をがっしりと掴まれてしまった。

振り払う事も出来ないぐらいの、強い力で。

子供の手を掴んでいたその手が離れる、いや、離した。
一瞬子供がこちらを振り返った時、力の限りを振り絞ってツンは叫ぶ。

ξ#゚⊿゚)ξ「何してんの……行きなさい!!早くッ、走るのッ!!」

(;ノoヽ)「……う、うぅ……うあぁぁぁぁーっ!!」

そこに鬼面の如き表情を浮かべていた怒声混じりのツンの叫び。
子供はびくっと驚きながらも、ツンの身を案じてか一度二度振り返り、
やがて野山のいずこかへと、走り去っていった。

「うほぉぉっ!!極上の上玉だぜ、こいつぁよぉーッ!?」

「さぁさ、中に戻ってさ……楽しもうじゃねえか嬢ちゃん」

ξ;゚⊿゚)ξ「(無事に人里に辿り着けると……いいね……)」

151 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:25:31 ID:cEOPo.UM0

───

──────

─────────

一人の旅人は、たまたまそこへ通りがかっただけだった。
外套の下、僅かにはだけた胸元の下には、覆い隠すようにして
包帯がびっしりと巻かれている。

”ショボン=アーリータイムズ”

大陸全土の魔術師がその場所に籍を置く者を羨望の眼差しで見るという
かの魔術研究機関”賢者の塔”にその名を連ねていた男だ。

それも、つい最近までの話だが。

(´・ω・`)「(………何事だ?)」

ξ#゚⊿゚)ξ「…その汚い手を離しなさいよ!小悪党どもッ!」

そう叫びながら、洞窟内へと数人の男に押し込まれていく女性の姿に、
はた、とその歩みを止めた。明らかにただならぬ雰囲気を感じ取り、
洞窟内の様子を伺える木陰へと身を隠し、死角になるよう位置取りをした。

152 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:25:58 ID:cEOPo.UM0

(´・ω・`)「(襲われている……のか?)」

(´・ω・`)「(野盗だな……数は……3人)」

ショボン=アーリータイムズは、自分の手の平をじっと見つめた。
武器と言えるような一切を所持していない。だがいざとなれば
凶暴極まりない妖魔、オーガですらも撃退できる程の魔術を使えるのだ。

常々冴え渡った勘を見せる彼だが、この時ばかりは思案にあぐねていた。

(´・ω・`)「(……助け出そうというのか、この非力な身で……?)」

自分の心に芽生えた正義感の為とは言え、3人の野盗と渡り合えば
命の危険を伴うだろう。最悪、身包みを剥がされて亡骸を野に晒されるだけ。
本来強力な”魔術”を使う彼ならば、その限りではない筈なのだが───

153 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:26:16 ID:cEOPo.UM0

「離し……離してッ!!」

どうやら、けたたましく喚く彼女の様子から、事は一刻を争うようだ。

先ほどちらりと覗いた薄汚れた修道服を見る限り、教会の人間だろう。
穢れを知らぬ彼女らが、このままでは卑怯な野盗どもの慰みものとして、
いずれ抵抗する気力すらも根こそぎ奪われる程の憂き目に遭ってしまうのは、
苦々しくも想像に易かった。

(´・ω・`)「(……だが、見過ごせるはずもない)」

周囲に助けを求められる場所などないが、一度だけ見渡してみる。
そこで、手近な場所に落ちていた自然石の存在に気づいた。

両手にすっぽりと収まる程度のその石を手に取ると、一度頷く。

154 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:26:35 ID:cEOPo.UM0

(´・ω・`)「(使えるな)」

「いいの……!?それ、食いちぎってやるわよ!?」

(´・ω・`)「(やれやれ……威勢の良い事だ)」

「やッ!やめ…あんたらッ!死んだら絶対地獄に落ちるんだから!!」

(´・ω・`)「(ならそれに甘えて、もう少しだけ機を待たせてもらうとしよう)」

野盗どもに女が浴びせる罵倒の数々に、ショボンは思わず苦笑を覚えた。
だが、必ず助け出す。一度決めた事は必ずやり遂げる性分だからだ。

いずれ訪れるであろう好機だけを狙い済まして、
ショボンは洞窟の入り口へと、少しずつ近づいて行った。

155 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:27:09 ID:cEOPo.UM0

───

─────

───────

どうにか子供だけでも逃す事が出来た。
だが、この野山をぼろの布切れ一枚羽織って駆け回るというのは、
年端もいかぬ幼子だというのに、随分と辛い事を強いてしまったか。

しかし、こちらも今はそれ以上に大変な状況だった。

結局自分だけ逃げ遅れてしまったツンは、一番の体格を誇る大男に、
軽々と片手で洞窟の中へと押し込められてしまっていた。

すぐに地面へと組み伏されると、子分格らしき二人が腕を伸ばして、
じたばたと抵抗し続けるツンの四肢を拘束する。

ξ#゚⊿゚)ξ「や、やめなさい! 本当にただじゃおかないんだからねッ!」

「えひゃひゃひゃ、随分と元気が有り余ってるじゃねぇか」

「こんなひらひらした服で俺たちから逃げようなんて、相当イキがいいぜぇ?」

156 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:27:30 ID:cEOPo.UM0

「ひゃひゃ……こいつぁいい。しかもこの女、どうやら修道女だぜ?」

ツンが纏うは修道服、所々に黄金色の装飾やワッペンが施されている。
その為、そこらの庶民と比べるとかなり特異ななりをしていた。

三人の山賊達は、それにようやく気づいたのだった。
物珍しそうに唸りながら、気丈に抗うツンの顔からその足先までもを
じろじろと舐めるようにして眺め始める。

その視線にさえ激しい嫌悪感を露にして、ツンは毅然と睨み返す。

「いやぁ……たまんねぇ、まさか神様の使途とヤレるなんてな」

「ってこたぁ勿論、初物なんだろうなぁ……うひゃひゃ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「(……下劣極まりない……本当に、同じ人間なの?)」

若さという目に見えぬもの、さながらそれ自体が光沢を放っているかのように
瑞々しさが溢れるツンの柔肌を、欲望のままに力づくで貪ろうとする山賊達。

食欲が性欲に置き換わっただけで、傍目から見るには低級妖魔の
オークらと、この山賊達には大きな相違はないだろう。

ツンの瞳に映されている男たちの下卑たニヤつきに、思わず、
救われるべき人間ばかりではないのか、という疑問が頭を過ぎた。

157 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:27:52 ID:cEOPo.UM0

薄汚い手が、ツンの衣服の裾を捲り上げようと次々に伸びる。
必死に手で押さえながら、足で何度も蹴り上げ、全力で抵抗した。
だが、自分の力ない攻撃では、怯ませる事すらも出来ない。

「へっへ……まさかこんな山奥に、こ、こんな良い女がいるたぁよぉ」

「そら、祈ってみなよ! 案外助けてくれるかも知れねえぜ?」

「そりゃあいい、ひゃっひゃひゃッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「い、いやッ……」

───助けて、誰か。助けて、神様!───

その願いが聞き届けられる事はないのだろうと、心は既に挫けつつあった。

いよいよ気色の悪い感触が、ツンの白い太腿へとのたうちながら入り込んでくる。
身体全体をびくっと硬直させ、そうして抗う事も忘れてしまった。

何も考えられない、身体を這いずりまわる、恐怖だけが──

ξ ⊿ )ξ「い……」

ξ;⊿;)ξ「……いやぁッ……!」

158 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:28:11 ID:cEOPo.UM0

自身の身体が蹂躙され、穢されていく恐怖に震える。
短い悲鳴と共に、自然と瞳からは涙がこぼれていた。

「がぁっ」

ξ;⊿;)ξ「……?」

自分の太腿へ手を這わせていた一人の男が、突然素っ頓狂な声を上げた。
そして、白目を向いてゆっくりとこちら側へ倒れてきた為、怯えながら身をかわす。

その自分の元へごろごろと転がってきたのは、手の平大の大きさの岩だ。

「な、なんでぇ!?」

どこからからか飛んできた石が見事に男の頭部を直撃し、
そのまま一人は失神したようだった。

ツンの衣服を捲くりあげていた一人が大男に目で促されると、
周囲の様子を確認する為、恐る恐る入り口まで歩いていった。

そして外にまで出た時、突然叫び声を上げる山賊の一人。

159 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:28:29 ID:cEOPo.UM0

「な、なんでぇ! おまッ……!」

ごつん。

こちらまで響くほどの鈍い音の直後、そこで男の言葉は途切れた。
頭を抑えながら地面へと力なく倒れこむと、すぐに気を失ったようだ。

「チッ……なんだぁ、テメェ?」

残された一人の山賊、大男は思い切り顔をしかめながら舌打ちした。
同時に腰元にぶら下げた剣を、すらりと抜き出す。
そして睨みつける視線の先に、男は、居た。

(´・ω・`)「……もっと他愛無いと思ったけど、案外難しいものだね」

洞穴内に差し込む逆光を背に立っていたのは、外套に身を包む一人の旅人風の男。
両手に大きな石を抱えている。先ほどの男は、脳天にそれを振り下ろされたのだろう。

こんな人気の無い場所で助けが来るなど、そうある話ではない。
諦めかけていた折のこの事態に、ツン自身も驚きを隠せなかった。

「……何モンだッ、テメェ!!」

(´・ω・`)「ま、立場上は君達以上の悪党なんだけど……」

160 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:28:51 ID:cEOPo.UM0

(´・ω・`)「卑劣な真似を見過ごすことが出来ない、損な性分とだけ」

そう言って石を顔の近くで構えると、重心を少し落とした。
戦うつもりなのだ。そんな、武器と呼ぶにはあまりに可哀想な石ころ一つで。

一方の大男はろくに手入れもしていないであろうが、剣を持っている。
体格でも武器でも劣るその男がやられてしまうのは、火を見るより明らかだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「……無謀よ!……逃げてぇっ!」

「御託並べてんじゃねぇッ!」

ツンの叫び声と同時に、山賊は剣を手に突っ込んで行った。
上半身に向けて振るわれたそれから、旅人は辛くも身を逸らす。

(;´・ω・`)「ふッ!!」

続けざまに一振り、二振り。
もみ合うようになりながら、懐に潜り込んでそれらも避けた。
だが、その直後に膝で腹を蹴り上げられる。

(;´・ω-`)「…ぐぉッ」

低く呻き怯んだそこで、間髪入れず山賊の拳が顔面に振り下ろされた。
勢い良く吹き飛ばされると、そのまま地面にずざ、と引きずられる。

ξ;゚⊿゚)ξ「…危ないッ!」

(;´・ω・`)「!!」

161 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:29:13 ID:cEOPo.UM0

旅人はまだ立ち上がれない。だが、山賊はその顔に向けて
容赦の無い剣の一撃を、一直線に振り下ろしたのだ。

眼前で血の飛沫が舞うのを想像し、ツンは思わず目を背けてしまった。
直後に、金属が叩かれる破裂音。ややあって、恐る恐る瞼を開けた。

「……おぉ。しぶてぇなぁ」

(;´・ω・`)「ふぅッ……ふぅッ……」

だが、まだ聞こえる荒い息遣いの方を覗いたツンの瞳には、
顔の中心で石を構え、剣の打ち込みを辛うじて弾いた旅人の姿があった。

だが、たった一度凌げた所でここから巻き返す事など出来やしないだろう。
顔の前で掲げていた石を取り落とし、その両手を力なく垂れる旅人。
もはや、諦めてしまったのだろうか。

だが、仕方の無い事だ。たった一人で二人の山賊までをも
石ころだけで倒してのけた、その事実だけで賞賛に値する。

「さてと……喉か、心臓か、目か。どこをえぐられてぇんだぁ?」

そう言って山賊は旅人の肩を踏みつけながら、
剣の先端でぺたぺたとその頬を叩く。

(;´・ω・`)「………」

ξ;゚⊿゚)ξ「だ……駄目……!」

162 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:29:33 ID:cEOPo.UM0

今度こそ、自分を助けようとしてくれた旅人は殺されてしまうだろう。
光景を目の当たりにしたツンは立ち上がり、山賊の背中へと叫ぶ。

ξ#゚⊿゚)ξ「私なら、どうなってもいい……」

ξ#゚⊿゚)ξ「だから、その人をすぐに離しなさい!」

力一杯に怒気を孕んだツンの叫びも、山賊からしてみれば
まるでその場に漂う空気のようなものぐらいにしか感じていないだろう。
肩越しに冷たくツンを一瞥する、濁った瞳。

「駄目だな」

ξ;゚⊿゚)ξ「じゃあ、どうすればッ──!」

「こいつが死ぬまで大人しく待ってな、すぐに可愛がってやるからよ」

それだけ言うと、山賊はすぐに視線を戻してしまった。

この状況では旅人自身が逃げ出す事も不可能。
ましてや、ツンの柔腕では何一つ力になれる事など無い。

自分を助けてくれようとした人間が殺される、そんな場面に
あっても、ツンにはただ指を加えて見ている事しか出来ない。
そして、その後で自分は辱めを受け、身も心も汚されてしまうのだ。

俯いて肩を落とし、ぼそりとツンは呟いた。

163 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:29:52 ID:cEOPo.UM0

ξ;゚⊿゚)ξ「……何も出来ないじゃない……私なんて……」

そんな無力感が、今回の旅の出立を決意した自分自身への
自責の念となって、心を押しつぶしそうなほどの重圧で、圧し掛かっていた。

顔を両手で覆うと、感情が昂ぶり、こみ上げてくる。
指の隙間からは、またも涙の雫が地面へと伝い落ちた。

ξ ⊿ )ξ「(なーんだ……)」

ξ ⊿ )ξ「(結局自分なんか……誰の役にも立てないんだ)」

(´・ω・`)「………」

膝から地面へと崩れ込んだツンを、一瞬だけちらりと気にかける旅人。
剣を突きつける山賊の頭を通り越し、どこを見るでもなく天を仰ぎながら
淡々とした口調で、ツンにゆっくりと語りかける。

(´・ω・`)「……どうやら、君は優しい心の持ち主のようだね」

ξ ⊿ )ξ「………?」

(´・ω・`)「普通の人間ならば、まず自分が助かる事に血眼になる状況だ」

「うるせぇぞ」と、剣の切っ先を彼の喉へと向ける山賊だが、
極めて平静を保ったまま、彼はなおも語り続ける。

164 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:30:18 ID:cEOPo.UM0

(´・ω・`)「それを、自分が助かるなどどうでもいい、とばかりに君は言う」

(´・ω・`)「なればこそ命を投げ打つ……その覚悟を決める、価値もある」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

「お喋りの時間は終わったぜ?そろそろ、死んでもらおうかい」

山賊が、いよいよ頭の後ろまで剣を振り上げる。

だが、命を投げ打つと、そう口にした今の旅人の顔は、
これから死にゆく覚悟を決めた人間のそれには、思えなかった。

一頻りを語り終えた後、これまでよりも数段素早い口調で、
それでも一言一言をはっきりと口にしながら、何事かを捲くし立てた。

(´・ω・`)「……【我が身体を奔る魔力の奔流よ】」

そう唱えて、垂れていた手を胸の前でかざした。

(´・ω・`)「【力を容と為し 魔を以って撃ち貫け】」

指を形作り、自分に剣を突きつける山賊の方へと指した。

(´・ω・`)「……【魔法の矢】ッ」

ξ゚⊿゚)ξ「ッ!?」

165 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:30:43 ID:cEOPo.UM0

一瞬の閃光が、洞窟の内部を一瞬照らした。
その光の源───光の帯が束なったかのようなそれは、
まるで光で模られた、一本の矢のようなものだった。

「……!? うぎゃあぁッ!」

その矢は、男の肩口あたりを目掛けて文字通り貫いた。
質量を持たぬはずの光が、誰の目にも明らかな外傷を負わせたのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「これは……」

肩を撃ち貫かれた痛みに喘ぎ、苦痛に顔を歪める山賊は、
すぐに剣をその場にからころと取り落とす。

「がッウぐぅッ……て、てめぇ……魔術師か!?」

(´・ω・`)「やれやれ……」

地面に片膝をつき、傷口を手で押さえながら、山賊は顔を歪める。
事もなげに、旅人は外套の土ぼこりを手で払いのけながら、立ち上がった。

(´・ω・`)「……さっき自分でも言ったが、僕は君達なんかより
      よっぽどタチの悪い悪党なんだ。手配書が出回る程にね」

(´・ω・`)「君の心臓を今のように射抜いた後……物言わぬ屍にした
      後でも、自分の意のままに君達の死体を操る事が出来る」

166 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:31:08 ID:cEOPo.UM0

その手から放った光の矢によって瞬く間に形勢を逆転させた男は、
途端に饒舌になって喋りだした。その内容は、随分と物騒なものだが。

(´・ω・`)「だが、今は君達なんかに興味は無いんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

そう言って、ちらりとツンの方へと視線を送る旅人。
片目をぱち、と一度だけ深く閉じこみ、合図を送っているのだ。
垂れ眉のこの旅人が、ツンの目にはそれほどの悪漢には見えなかった為に
すぐにその合図に気づく事が出来た。

(´・ω・`)「それよりも、そこにいる心の綺麗なお嬢さんが、
       僕の実験の、実に良い素体になってくれそうなんでね……」

(´・ω・`)「だが、どうしてもこの場を退けないというのなら、仕方ない」

(´・ω・`)「君達の身体の器官一つ一つを取り出して、実験材料にさせてもらうとするか」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

唖然としながらも、どこか台詞めいた言葉を語るその光景をただ見ていた。

先ほどのこの旅人の様子から見ても、どうにも嘘くさい話にしか聞こえない。
一応は自分も怯える素振りなど見せて、山賊達へのポーズを取った方が
良いのかとも思ったが、どうやらそれは杞憂だった。

「ひッ、や、やめてくれッ!」

167 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:31:27 ID:cEOPo.UM0

予想以上の反応だった。肩を穿たれた大男は、本気の怯えを見せる。
その豹変ぶりではなく、先ほどの力に対しての畏怖が芽生えたのだろう。
山賊の反応を見て、手の平を返したかのようになおも旅人は続けた。

(´・ω・`)「それなら、お仲間を連れてここから立ち去るといい」

(´・ω・`)「その出血量だと、下手をしたら3刻もすれば命に関わるよ」

(´・ω・`)「すぐに山を降りて、どこかで手当てをお勧めするなぁ……」

口元を手で隠しながら、小さく笑みをこぼした。
これが演技だとするならば、ツンの目にはいまいちなものだが。

しかし、その顔を見上げる山賊には、自分の目の前に立っている
不敵に笑うこの旅人が、よほどの大悪党に見えているのだろう。

「お、おい!お前らッ、起きねぇか!」

頭に石を叩きつけられて気を失っていた子分達は、意識も朦朧とした中
強引に引きずり起こされ、連れ出されて行く。

目が覚めたものの、リーダー格のただならぬ慌てふためきように、
一人、二人とたたき起こされると、混乱を抱きつつも、そのままこちらを
振り返る事も無く脱兎の如く洞窟を飛び出すと、山中へと消えていった。

168 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:31:51 ID:cEOPo.UM0

自分達が居る以外、からっぽとなってしまった洞窟の中で、
しばらくの間ぽかんと口を開け、呆然としていた。

(´・ω・`)「……大丈夫かい?」

その問いかけに、ツンはハッと現実へと意識を戻す。
先ほどまで抱いていた絶望感は、今や見事に打ち消されたのだ。

突然自分を助けに現れた、この一人の旅人によって。

ξ;゚⊿゚)ξ「は、はい!」

ξ゚⊿゚)ξ「危ない所を助けて頂いて、本当にありが──」

ぺこりと頭を垂れるツンの仕草は、手で遮られた。
窮地をたった一人で救ったというのに、見ればその表情は晴れやかなものではない。

(´・ω・`)「いいのさ、自分が好きでやったことだ」

(´・ω・`)「それより……よく聞いてくれ」

(´・ω・`)「これから、僕は死ぬかも知れない」

ξ゚⊿゚)ξ「は?」

169 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:32:10 ID:cEOPo.UM0

(´・ω・`)「正確には”死ぬ程の苦痛にのた打ち回る”だろう」

(´・ω・`)「だが、あいにくと君ではどうする事も出来ない。
       だから、僕の事は気にせず下山するといい」

ξ;゚⊿゚)ξ「へ?」

(´・ω・`)「……発症するまでの感覚がこれまでに無く長いな。
      これは、いよいよ覚悟が必要そうだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あのそれはどういう……」

まるで事態の飲み込めていないツンを置き去りにして、
男は一人ごちる。胸元に手を置き、身体の節々を見て、
何かを確かめるように厳しい表情を崩す事はない。

完全に置き去りにされ、状況の理解が出来ぬツンを傍目に
旅人が再び口を開きかけた、その時に異変は起きた。

(´・ω・`)「さっき僕が、命を賭ける価値があると言ったのは、こういう……」

170 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:32:28 ID:cEOPo.UM0

(;´ ω `)「ッ!? ……ぐぅッ、ごほぉッ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「えっ」

突如として胸を押さえ、旅人の膝は地面へと崩れ落ちてゆく。
手足はぶるぶると痙攣し、手の平を一心に見つめて、正気を保とうとしているようだ。

(;´ ω `)「がはッ!ぐぶぅッ」

だが、すぐに地面へと横ばいになると、口からは夥しい量の血を吐き出した。
声にならない声を上げて、先ほど言っていたようにのたうち回り始めたのだ。

何が原因なのか、医学的な知識を持ち合わせていないツンには理解が出来ない。
だが、命が危機的状況に晒されているのだという事だけはすぐに分かった。

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫ですか!?しっかり……しっかりしてッ!」

苦しそうに押さえている胸元の手を握り、その身体を
寄り起こして、背中をさする程度の事しか出来ない。

口からは血泡を吹き、胸を掻き毟るようにして苦痛に喘ぐ旅人。
一目に異常な状態だというのは分かったが、解決すべき策は見当たらない。

薬もなく、医者も居ない。
今ここに居るのは、自分の身一つだけ。

そう、今この旅人を救えるのは自分しかいないのだ。
祈ることしか出来ない、この自分だけしか。

171 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:32:51 ID:cEOPo.UM0

(;´ ω `)「ぅ……うぅッうぅ……ッ!」

獣のようにうなり声を上げ、目はもう白目を剥いている。
意識すらないのかも知れないその彼の手が、偶然なのかは分からないが
ツンの白く小さな手を、ぎゅっと握りしめた。

ξ;゚⊿゚)ξ「そっか……苦しいんだよね……死にたく、ないよね……」

強くツンの柔指を握り締めるその手からは、体温とともに、徐々に
力も抜けていっている。死の淵で、必死にもがいているのだ。
ツンの手がまるで生死の境目であるかのように、離さない。

ξ゚⊿゚)ξ「……そうよ」

ξ゚⊿゚)ξ「祈る事しか出来ない私でも、たった一つ可能性はあるじゃない」

力ない手を握り締めながら俯くツン、そう呟いた彼女が
再び顔を上げたそこに、まだ諦めの色はなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「ただただ来る日も来る日も一心に祈りを捧げて……?」

ξ゚⊿゚)ξ「やがて神に見初められた信徒だけが起こせる”聖ラウンジの奇跡”?」

ξ#゚⊿゚)ξ「……舐めんじゃないわよッ!」

172 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:33:11 ID:cEOPo.UM0

ξ#゚⊿゚)ξ「私はこの人に助けられたんだから……だから、絶対助ける」

ξ#゚⊿゚)ξ「普段からいいだけ沢山の人たちに祈らせてるんだから、たまにゃあ
      こっちの言い分を聞いてくれたって、罰は当たらないわよね!?」

この大陸で儚く消えていく命たちに対してしてやれる事はないのかと、
教会の窓から物憂げに外を見ながら浸っていたような、弱い想いではない。

自分の窮地を救ってくれた人間が自分の目の前で命の危機に瀕して
いるというのに、自己の力不足に脱力していたさっきの自分ではない。

今はただ、現実を変えたいと───

そう、”奇跡を起こす”という事を、己に課して祈った。

ξ゚⊿゚)ξ「(……私の声に、耳を傾けて下さい)」

ξ-⊿-)ξ「(そしてどうか、お聞き入れ下さい……)」

ξ-⊿-)ξ「(聖ラウンジの神よ、”ヤルオ・ダパート”よ……)」

ξ-⊿-)ξ「(この地に住まう、救いをもたらす我が主よ……)」

ξ゚⊿゚)ξ「(もうすぐ死にそうなこの人の命を……どうか、助けてあげて下さい)」

心の中で呟きながら、ツンの柔腕に力なく身体を預ける旅人の顔を見る。
呼吸も困難になってきたようだ。唇は震えて顔は青ざめ、その瞳は
もはや空ろで、意識も失っていた。

173 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:34:05 ID:cEOPo.UM0

懇願したそれは、自然と口に出ていた。
今、救いが必要なのは”みんな”じゃない。

危険を顧みずに必死に自分を救い出してくれた、ここにいる旅人なのだ。

ξ-⊿-)ξ「一生の……お願いです」

数十年に渡って従順な聖ラウンジの信徒であり続けた父ですら、
実際に主、ヤルオ・ダパートの声を聞けた事は無いというのにだ。

今、彼女は真に神の信徒として見初められた存在でなければ
獲得する事の出来ぬという聖ラウンジの奇蹟を起こすため、ただ祈った。

呟いた後、空虚な沈黙が支配する。
木霊する自分の祈りは、まだ届いていない。

ξ-⊿-)ξ「………(すぅぅぅぅぅ)………」

大きく息を吸い込んだあと、心を落ち着かせて、また一心に強く、強く祈った。
体温が冷たく引いていく旅人の手を両手で握りながら、その手ごと額に当てて祈った。

ξ ⊿ )ξ「奇跡を、起こして───」

今一度、願いを言葉にしたその瞬間、ツンの意識は───空を飛んだ。

174 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:34:24 ID:cEOPo.UM0

───

──────

─────────

気がつけば、真っ白な空間に自分が居る事に気づいた。
身体の感覚がないのか、それとも、この場には自分の身体自体がないのだろうか。

ただただ真っ白に、うすぼんやりと光がそこかしこを照らす場所。
まるで夢を見ているかのようだ。だが、そんな事すらも認識できない程に、
現実との境があやふやな、不可思議な場所だ。

ややあって、頭の中に直接語りかける声が、近づいて来るように感じた。
耳を澄ますように意識してみれば、確かに声が聞こえるのだ。

175 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:34:45 ID:cEOPo.UM0



       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──我こそはヤルオ・ダパート──
  \     ` ⌒´     /

それは、煌びやかな白い光たちに引き連れられるようにして、
ぼんやりとその大きな顔を浮かび上がらせた。

この場に自分の身があるのであれば、あまりの驚きに大声を上げてしまうだろう。
限りなく非現実的なこの状況だが、一つだけ確信できていた事があった。

今自分は、聖ラウンジが崇める神、”ヤルオ・ダパート”の声を聞いているのだと。

176 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:35:08 ID:cEOPo.UM0


       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──そなたの、一点の曇りなき想いは届いた──
  \     ` ⌒´     /




       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──他者の誰かを助けたいと真摯に願うそなたにならば、施そう──
  \     ` ⌒´     /

語りかける声は、どこかやさしく自分の存在を包んでくれるような、
そんな暖かさすら感じる。心地よい安心感だが、すぐに現実へと
帰らなければならない、というような焦燥も、同時に抱いていた。

177 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:35:36 ID:cEOPo.UM0


       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──聖ラウンジの秘術、奇蹟を起こす術を、そなたは望むか──
  \     ` ⌒´     /

       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──そなたが願えば、切なる祈りは確かな力となる──
  \     ` ⌒´     /

”聖ラウンジの秘術”、”奇跡を起こせる力”
聖ラウンジの神、このヤルオ・ダパートを信仰するものならば、
きっと信徒以外にも誰もが欲する”力”となり得るだろう。

それを何と言ったか、この自分に授けると言ったのだ。
自分は”力”などいらない、だが、それで誰かを救えるというのなら──

”救い”をもたらす”力”ならば、欲すると、無意識でツンは願った。

178 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:36:03 ID:cEOPo.UM0
       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──そうか、確かに授けた………我が名はヤルオ・ダパート──
  \     ` ⌒´     /

そしてどうやら、ヤルオ・ダパートはその願いを聞き入れたようだった。

       ____
     /      \
   / ─    ─ \
  /   (●)  (●)   \
  |      (__人__)    | ──かつてヴィップの地で生まれし、善なる神──
  \     ` ⌒´     /



       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \  ──いずれまた会おうお 心きれいな娘さん?──
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /
           
最後に、その屈託ない笑みと、少しどころでなくくだけた神の言葉を耳にした。

身体全体が、真っ黒な渦に吸い込まれていく。
来た時と同じように、意識は暗闇の世界へと飛ばされる───

179 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:36:25 ID:cEOPo.UM0

───

──────

─────────

ξ ⊿ )ξ「………ん!」

ツンが意識を再び取り戻した時、そこはなんら変わらぬ景色だった。

(;´ ω `)

腕の中には、まだ旅人が辛うじて息をしている。
意識を失ってはいるが、なんとか呼吸だけはしているのだ。

今、自分は、一瞬だけ夢を見ていたのか──

今しがたの夢現の出来事と現状とが混ざり合い、記憶に
混乱が生じていた。一つ一つ紐解こうと思案を始めたところで、
視界に映った光景に更なる混乱を得る。

ξ;゚⊿゚)ξ「な……何?」

自身の身体から、きらきらと時折煌びやかな光がじんわりと
周囲に放射されている。やがて細い線となり消えていくそれだが、
あとからあとから、次々と泉のように湧き出てくるように。

ξ゚⊿゚)ξ「まさか、本当に……」

180 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:36:59 ID:cEOPo.UM0

これならば、いける。
この時、ツンは確信を得た。

迷うことなく、抱きかかえていた体を地面へとそっと横たえると、
彼の胸元を全面に渡って覆っていた包帯を取り払った。

ξ;゚⊿゚)ξ「!」

そこで彼女が見たのは、胸板を突き破ろうとするようにして
暴れるどす黒い発光体が、皮膚のすぐ下で縦横無尽に動き回っている光景。

だが、実際に体内に何かが入っている訳では無さそうで、
実体も無さそうで、まるで何らかの呪いをかけられたかのようだった。

ξ;゚⊿゚)ξ「生き物、なの?それとも……」

(;´ ω `)「………ッ……!」

あれこれと詮索を入れている時間は、もうほとんど無さそうだった。

胸の中で何かが暴れるたび、彼の身体はびくんびくんと上下している。
こんな状況では、たとえ医者であっても快癒させる事は不可能だろう。

だがもし仮に、”奇蹟”が起こり得るのならば───

ξ゚⊿゚)ξ「……どうみたって悪性の物よね、これは」

ξ゚⊿゚)ξ「なら、てっとり早くこの人の身体から出て行きなさい」

181 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:37:30 ID:cEOPo.UM0

ξ゚⊿゚)ξ「(……見てなさいよ)」

ξ-⊿-)ξ「(今の私になら……出来ると信じるのよ)」

黒の発光体が怪しく蠢くその胸部へと、そっと両手をかざした。
そして目を閉じ、心の中で祈りを捧げながら、数言を唱える。

ξ-⊿-)ξ「……【聖ラウンジの偉大なる名の下に 命ずる】」

ξ-⊿-)ξ「【消え去れ 聖者の命を脅かす 悪しき存在よ】」

ξ゚⊿゚)ξ「【そしてこの者の生命に 再びの光があらん事を】”ッ!!」

一点の曇りなき願いの塊を、心の中で一息に爆発させた。

─────そして、辺りは光に包まれる。

とても眩く激しい光が、暖かく優しい光が、満ちる。
手をかざしていたツン自身が驚いてしまうほどだったが、
怯む事なく、蠢く発光体を消し去る事だけを念じた。

ξ;゚⊿゚)ξ「苦しんでいるの……?」

ツンが創造した奇蹟の前に、今まで以上に暴力的に這い回る胸の影。
もう、すぐにでも胸を突き破って飛び出てきそうなほどに。

(;´ ω `)「………かはっ!」

旅人は呼吸を取り戻したのか、深く息を吐き出すように一度咳き込む。
それが、きっかけになったかのようだった。

182 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:37:50 ID:cEOPo.UM0

ついにその影は、奇蹟の光に吸い上げられるようにして、
ゆっくりとツンの目の前にまで姿を現した。

ξ;゚⊿゚)ξ「こんなものが……身体の中に……」

ピギョォッ ギョォーッ

浮かび上がった不定形が、蠢く。

やはりこの気色の悪い影は、ある種意思を持っているのか、
小さな声ともつかぬ奇怪な音を、どこかから発しているのだ。
聞いているだけで、肌に怖気が走ってしまう程に不快な、その声。

(;´ ω `)「………ハァ………ハァ……」

ξ ⊿ )ξ「(良かった……本当に)」

ふと旅人の様子を気に掛けると、胸から異物が取り除かれた為か
徐々に肌は赤みを取り戻しつつあり、呼吸も先ほどよりか落ち着いていた。

後は、”これ”を完全に消し去るだけだ。

ピギョォッ ピギャァッ

ξ゚⊿゚)ξ「さて……なんだか可哀想な気もするけど」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたは、きっと育っちゃいけない存在なの」

ξ-⊿-)ξ「だから───さよなら」

183 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:38:11 ID:cEOPo.UM0

眼前に浮かび上がったそれに向けて、両手を突き出す。
たったそれだけの事で、光の中で影は一層もがき苦しんだ。

光の粒に溶け込んでいくようにして、やがて───それは完全に消え失せた。

────

────────

────────────

(;´・ω・`)「こいつは、驚いたな」

それから程なくして意識を完全に取り戻した旅人は、
意識を失っていた間の事の顛末をツンから聞き、驚きに
自分の身体と、ツンのその表情を幾度も見比べていた。

ξ゚⊿゚)ξ「信じられ……ませんか?」

確かににわかには自分でも信じがたいと、ツンは思う。

父がそうであったように、幾年、幾歳月を信仰に使い果たした
名のある信徒であっても、かの聖ラウンジの秘術を用いる術を
得られる者など、ほんの一握りの人間だけなのだ。

184 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:38:33 ID:cEOPo.UM0

まだ齢にしてたった20の自分がその中の一人に選ばれた。
その事実に対して、未だ実感が沸いて来ていなかった。

(´・ω・`)「いや……勿論信じるよ。この胸にあったはずの
       烙印が、嘘のように無くなっているのが何よりの証拠さ」

(´・ω・`)「そして───本当にありがとう」

ξ゚ー゚)ξ「こちらこそ……お互い様です!」

そこで、二人に初めて笑みがこぼれた。
お互いがお互いを助け合い、誰も死なずに住んだ。

聖ラウンジの秘術を授けられた、ツン=デ=レイン。
笑みが浮かぶと共に、彼女の中でようやくその事への実感が、
それが誰かを救えるという事への喜びとして芽生えつつあった。

(´・ω・`)「(それにしても……封魔の法───そういう事だったか)」

185 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:38:52 ID:cEOPo.UM0

(´・ω・`)「(人の身に、魔力を食い物にする妖魔の類を封じ込める……)」

(´・ω・`)「(それにより、魔術を使う際の精神力を糧に成長し、
        やがては対象の術者を死に至らしめるという訳か……)」

(´・ω・`)「……やはり恐るべき才能だな、モララー・マクベイン」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

考え事をしていたかと思えば、ぼそりと何事かを呟いた
旅人の様子に、ツンが一瞬怪訝な表情を浮かべた。

(´・ω・`)「いや失礼、ただの独り言さ。それより──」

そう言って、すっくと立ち上がり外套の砂埃を払って、
ツンの正面へとしっかり向き直った。

(´・ω・`)「自己紹介がまだだったね……”ショボン=アーリータイムズ”、
       ご周知かとは思うが、これでも魔術師の端くれさ」

ξ゚ー゚)ξ「”ツン=デ=レイン”、聖ラウンジの信仰者です。
     大陸の各地を旅して、少しでも自分が力になれればな、って」

(´・ω・`)「そうか……きっとなれるさ。その力は、何物にも代え難い」

186 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:39:34 ID:cEOPo.UM0

ξ゚⊿゚)ξ「あなたも……旅を?」

(´・ω・`)「まぁ、今の所はね。同じ屋根の下で研究していた同僚に
      一杯食わされて、貴重な研究時間を取り上げられてしまったのさ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふぅん……よくわからないけど、大変ですね」

(´・ω・`)「君も、ね」

うん、と頷き、ショボン=アーリータイムズは洞窟の外を眺めた。
天候が既に落ち着いているのを見て、下山の準備をしようと外へ
投げ出してきた自らの手荷物を取りに行きかけた所で、出口に立ち止まる。

(;ノoヽ)「あう……?」

(´・ω・`)「……おっと」

おずおずと洞窟の入り口から覗き込んできた子供の目が、ショボンのものと合った。
少しうろたえ気味に、背後のツンの表情を伺った。

ξ゚ー゚)ξ「……心配して、見に来てくれたんだ?」

(´・ω・`)「……なるほど、こやつめ」

そう言って子供の頭に手を置こうとしたショボンの脇を素早く通り抜け、
奥に立つツンの傍へと駆け寄ると、その背後に隠れた。

ξ゚ー゚)ξノoヽ)「おあう〜」

187 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:39:59 ID:cEOPo.UM0

ξ゚ー゚)ξ「大丈夫、怖い人はもう居ないから」

(´・ω・`)「ふふ、懐かれているようだね……どうやら、耳が聞こえないようだが──」

ξ゚⊿゚)ξ「──私、この子を連れて街に行きたいと思います。
     聖ラウンジ教会なら、きっと預かってくれると思うから」

恐らくはやり遂げるだろうという、強い精神力の篭ったツンの一言。
それにショボンは、一度だけ大きく頷いた。

(´・ω・`)「承知した……それなら、ここからだとヴィップの街が近い。
       早ければ一日、遅くとも、まぁそれに加えて数刻だろう」

ξ゚⊿゚)ξ「ヴィップの街ですか……一度、行ってみたかったんです。
     ヤルオ・ダパートはかつてその地で生まれたって話だし」

(´・ω・`)「うん。少し休みたい所だろうが、山の天候は崩れやすいと聞く。
      途中で山小屋の一つくらいはあるだろうから、そこで休もう」

(´・ω・`)「もしさっきの野盗共と出くわしたら、本来の力を取り戻した
       この僕が、より華麗に撃退してお目にかけるとしよう」

ξ゚⊿゚)ξ「…えっと?ショボンさんは……」

188 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:40:21 ID:cEOPo.UM0

(´・ω・`)「僕の胸の烙印、”封魔の法”を打ち消してくれたお礼とでも
      考えてくれればいい。女性と子供の二人では、危険過ぎる」

ξ゚⊿゚)ξ「……ありがとう、ございます!」

(´・ω・`)「さて、出立しよう」

ショボンが支度を整え終わるのを待って、ツンの後ろで
隠れていた子供は、一瞬だけショボンの前に立って、一言。

(ノoヽ)「あ……”あうがおうっ”」

(´・ω・`)「………?」

ξ゚ー゚)ξ「………!」

耳が聞こえないために、正しく声を発音する事ができない子供の
その一言は、どうやらツンの方にだけは伝わったらしかった───

189 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:40:45 ID:cEOPo.UM0

─────

──────────

───────────────

こうして、奇妙な取り合わせの三人は山を降りるために、
”交易都市ヴィップ”を目指すために、ゆっくりと歩き始めた。

疲労感が、なぜだか心地よい。
充足感が、澄んだ風と共に頬を撫ぜる。

(´・ω・`)「あまり走り回って、滑落するなよ?」

少し砂埃で黄色みがかった修道服の裾をぎゅっと結び、
あちこちへと興味津々に駆け回り、ショボンとツンの後を
あとからついて来る聾唖の子供の姿を目で追いながら、想う。

ξ゚ー゚)ξ「(そうよ……救いを求めるばかりが信仰じゃない)」

ξ-ー-)ξ「(私は救われるよりも……こうやって、誰かを救いたい)」

───彼女の胸の中を今、鮮やかに彩られた清風が駆け抜けていた───

190 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:42:19 ID:cEOPo.UM0
   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第0話(3)

          「誰が為の祈り」


             ─了─

191 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:44:17 ID:cEOPo.UM0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

           第0話(5)

        「行く手の空は、灰色で」

192 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:44:49 ID:cEOPo.UM0

少女は、閑散としたダイニングにただ一つだけ置かれた
食卓の上に腰掛けながら俯き、膝を抱えて一人佇んでいた。

この空間の空気を、打ち捨てられた廃墟の景色を、懐かしむように。

この場所に来たのは、たまたまだった。
彼女が受けた地質調査の依頼で、偶然この場所を通りがかった。

──────生家だった。

確かに、彼女はこの家で生まれて、そして育って来たのだ。

人里の離れに建てられた家だが、建て構え自体は頑強に作られている。
物取りの輩が押し入ったような形跡も無い。尤も、取る物も残されてはいないのだが。

ここには、住み暮らしていた両親達との微かな想い出が残されているばかりだ。
物思いに耽るのを中断し、あたりをぐるりと見渡してみた。

193 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:45:09 ID:cEOPo.UM0

視界に入った煤ぼけたイーゼルには、風化した紙切れが残されている。
腰掛けていた食卓から降りると、そのイーゼルに挟まれた羊皮紙の表面を、
ささっと手で払ってみた。長きの歳月で積もった埃が、地面に落ちる。

その下からは、人肌のような赤みが少しだけ見て取れた。
ところどころが風化しているが、全体像にはどことなく想像がついた。
満面の笑みを浮かべて、こちらを真っ直ぐと見つめる瞳。

絵心もさほど無いはずの父親が、幼少時代の彼女自身を描いた油絵だった。

ぼんやりと、その油絵を眺める。
知らず知らずの内に、再び彼女は空想に耽っていった───

194 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:45:27 ID:cEOPo.UM0

─────10年前 大陸東部 ロアリアの町─────

この頃、この地で旗揚げされた一つの宗教が、
大陸東部各地に、大きな争いの種を蒔くことになった。

火種となったのは、”極東シベリア教会”

そして、それを弾圧した聖ラウンジ教会の過激派により、
血塗られた宗教戦争の火蓋は、切って落とされる事になる───

東部、ロアリアの街───元々は聖ラウンジの教えが広まっていたこの地に、
シベリア教会がこの地を聖地と定め、土足で巡礼を始めたのがきっかけだった。
だが、当時から最大の宗教派閥である聖ラウンジに、シベリアの信徒達は迫害を受ける。

幾度もそれがつもり重なっていく内、シベリアの信徒達はその弾圧に対し、
いつしか武器を手に取って立ち向かうようになっていった。

幾度にも及ぶ小さな小競り合いから発展した
宗教戦争の火の粉は、やがては街の民衆にも飛び火する。

195 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:45:45 ID:cEOPo.UM0

ロアリアには聖ラウンジの信徒だけではなかったが、無神論者もシベリア信徒も、
闘争が過熱の一途を辿る程に、自らの信仰をひた隠すようになっていった。

それというのも、聖ラウンジ過激派の異端審問官の存在によるものだ。

ラウンジの異端審問団は日ごとに各家々を巡回し、自らが”異端”と認定した
シベリア教会の信仰者を、ことごとく審問という名の拷問に処した。
それが無宗教の人間であっても、追求し、弾圧した。

日ごろより、一つの神を信じ、全ての民の救済を願う。
それが聖ラウンジ教であるはずだが、必ずしも一枚岩ではなかった。

決して、このロアリアの地に限った話ではない───

この時、既に大陸各地で数多の信徒達を抱えていたラウンジ。
”一つの神を信じる”という信仰は、いつしか内包した莫大な
思念の渦に揉まれて、歪んだ一面を見せるようにもなっていった。

196 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:46:04 ID:cEOPo.UM0

地元の領主達も、暴徒と化した教会から反感を買うのを恐れ、口出しすら出来ない。
それほどに、自らの信仰を盲信した一部の過激派の暴走は、留まる所を知らなかった。

総本山である聖教都市ラウンジの大聖堂の信徒達の預かり知らぬ所で、
”魔女裁判”と称した、更なる尋問も行われるようになっていったのだ。

───ルクレール家 屋敷───

ルクレール家の当主は、熱心な研究者だった。
自然に群生する、珍しい植物や生物、それらを持ち帰って来ては、
その生態や特性を、自らの屋敷の一室で、じっくりと研究した。

中でも、一家の当主が一番打ち込んだのは、魔術の研究だった。

かの”賢者の塔”のアークメイジでさえも深遠の一端にも触れえぬという魔術。
だが、一介の魔術師ですらないこの当主は、5年ほど以前より独学で始めた
研究を進める内、ある時を境に冷気を操る魔術を身につけていた。

もっとも、瓶入りの飲み物を手元で冷やす事が出来る、という程度。
本職の魔術師が使うそれと比べてはあまりにちゃちな”手品”だったが、

それでも、愛娘の”クー=ルクレール”に笑顔を与えるには十分な”魔術”だった。

197 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:46:34 ID:cEOPo.UM0

「今夜はよく冷えた葡萄酒で乾杯といこうか、アンナ」

川 ' ー')「あら、またご自慢の手品をお披露目したいだけなんでしょ?」

「はは、見破られたな……」

貯蔵庫から取り出してきた一本の葡萄酒の瓶を抱えながら、
妻であるアンナの鋭い指摘に、クーの父親は気さくな笑顔を見せた。

娘のクーの目は、両親達の晩餐のお供である、その葡萄酒に釘付けだ。

川゚-゚)「ちちうえー、私もぶどうしゅ飲みたい」

「いいとも!待ってろよ、今お父さんの魔術で……」

川 ' -')「駄目よあなた!クーにはまだ刺激が強いんだから」

川;゚-゚)「えー!」

「堅い事を言うなよアンナ〜…」

少し肩を落とした様子のクーと、その父親を尻目に
母は少しだけつん、とした様子で食卓の上に料理を並べ始める。
談笑が始まると、食卓を囲んで暖かな空気が広がる。

198 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:46:53 ID:cEOPo.UM0

夕刻、屋敷一階の食堂は団らんに賑わっていた。

───だが、ナイフやフォークを動かす手は、突然はた、と止まる。

唐突だった。

雨音混じりに、門扉を激しく叩く音が、鳴り響いたのだ。
どんどん、どんどんと。幾度も、次第にその音は強まっている。

川゚-゚)「……だれかきたっ」

不意の訪問者に、娘のクーは戸口へ出て行こうとしたが、
母親のアンナはすぐにその腕を引き掴んで、静止する。

川 ' -')「待ちなさい、クー」

「………」

手に持っていた葡萄酒の瓶をことりと食卓の上に置くと、父は
無言で門を叩くその音の方へと振り返り、ゆっくりと立ち上がった。

川 ' -')「……あなた……」

「大丈夫だ……二人とも、そこに居なさい」

199 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:47:14 ID:cEOPo.UM0

心配そうな面持ちのアンナと、小首を傾げたクーの視線を
背中に受けながら、依然として叩かれ続けていた門扉の鍵を、開けた。

そこに立っていたのは、そぼ濡れた黒の外套に身を包む、数人の男の姿。
その彼らを極力入り口でせき止める為、体を割り込ませて父親は問いかけた。

「………何だね、君達は」

(≠Å≠)「随分と待たせてくれたものだな……見られて困るものでも隠していたか?」

クーの両親にとっては、ある程度予想がついていた事でもある。
───聖ラウンジ教会東部ロアリア支部”異端審問団”の一団だ。

「あなた達は聖ラウンジの……?」

(≠Å≠)「いかにも。敬愛なるヤルオ=ダパートの信仰者にして、
    神の声の代弁者……いや、”執行者”というべきか……」

「………っ」

内心、クーの父親は審問官のその言葉を、鼻で笑った。
自分達の持つ力に酔い、頭がどうにかなってしまっているのだと。

同じ信仰を持つ人間に対して、教会直属の人間である自分達の方が
力が上だと誇示せんばかりに横暴な、その態度。

200 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:47:35 ID:cEOPo.UM0

その時、クーの父親は少しばかり蔑む瞳をしてしまっていたのかも知れない。

(≠Å≠)「……ふん、随分とご立派な屋敷じゃないか?」

どかどかと、審問官はクーの父親を押しのけるようにして
家の中にまで上がりこみ、鼻を鳴らしながらそこらを見渡した。
その背中に、父は毅然とした態度で言い放った。

「もういい……帰ってくれ」

(≠Å≠)「なにぃ……?」

「この十字架を見れば、私が君達と同じ聖ラウンジの
 信徒だという事がわかるはずだろう?」

そう言って、首から下げたチェーンを衣類の外へと押しやると、
銀の十字架を覗かせて、審問官の目の前でそれを握りこんだ。

審問官は少しばかりくすんだその十字架をしばし凝視した後、

(≠Å≠)「……”信徒の振りをしているッ!”」

「!?」

201 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:47:54 ID:cEOPo.UM0

(≠Å≠)「……と、まぁそんな場合もあるのでな……しっかりと、
    入念に、貴様の邸宅内を見回らせてもらおうか」

「………くっ」

再び、審問官は引き連れた従者らと共に、屋敷内の物色を始めた。
そこらを引っ張りまわし、物が転げ落ちて壊れたりするのもお構いなしだ。

やがて、一団はクーとアンナの居る食堂の隣に面していた
父の研究室の扉を開けた。食堂と研究室は扉一枚に隔てられており、
状況を把握していない二人の存在を隠し通す事は、難しかった。

(≠Å≠)「……ほぉ。なんだ? この部屋は」

「私は昔学者を目指していてね、日ごろから趣味半分に
 動植物に関する様々な研究をしている……その、研究室だ」

扉の向こうにいるクーとアンナの存在に気づかず引き上げてくれる事を、
一心に心の中で願っていた───ここで、帰ってくれ、と。

だが、審問官の顔色は、この部屋に入るなり変わった。
ふむ、ほぉ、と一人頷きながら、書棚の中身や、卓上に転がった
器具などを一つ一つ、入念に手に取って見て回り始めた。

(≠Å≠)「フン……臭うな……実に臭うぞ」

202 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:48:12 ID:cEOPo.UM0

確かに、硝子製の様々な器具が置かれ、薬漬けにした薬草や
木の根っこ、果ては昆虫類の標本まで乱雑に置かれたこの部屋は、
傍目からにはあまり一般的なものには見えないだろう。

だが、クーが生まれてすぐに魔術の研究を諦め、今や大陸に住む
動植物の観測や、生態調査だけに研究を切り替えた父親にとって、
聖ラウンジへの信仰に疑いが漏れるような物は、この研究室の中には
何一つない、そのはずだった───ただ一冊の書物を、覗いては。

一見して研究の範疇という物ならば、さして問題のなさそうなその一冊。
初級者へと向けた、基本的な事項を綴った入門用とされる魔術書だ。

そして、疑わしきは裁くという方針が、このロアリア異端審問団のやり方だった。

(≠Å≠)「魔術書だと……? なんだ、これは」

「そ、それは……」

(≠Å≠)「言え、このような物、一体何に使おうというのだ?」

「違う!それは昔していた研究の資料で、私の興味本位で……!」

(≠Å≠)「だ・ま・れ!」

203 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:48:31 ID:cEOPo.UM0

(≠Å≠)「……少なくとも貴様は、シベリアの信徒か、その他の邪教」

(≠Å≠)「私の中で、その疑問は今とても大きく膨れつつある……」

顔から流れる冷や汗を、一度手で拭った。

今この場で異端認定を受けてしまえば、最終的に待つのは
長きに渡る拷問の末処される火刑による、死だけなのだ。

「聞いてくれ……確かに、それは私が過去に魔術に好奇心を覚え、
 実際に習得してみたいと思って譲り受けた参考文献で……!」

(≠Å≠)「ま、まずは貴様の身に問うて、糾弾するかはそれから決める事としよう」

もはや有無を言う事も許されぬ、といった厳しい表情で、審問官は
従者達に連行を促した。クーの父親は、一度だけ大きなため息をつく。

彼ら異端審問団は、死よりも辛い拷問を必ず課すという。

身の潔白を訴える人々の叫びなど空しく、いつしか自分の身に
降りかかった疑いを認め、苦痛から逃れる為に、自ら死を選ぶのだ。

204 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:48:51 ID:cEOPo.UM0

「(……良かった。アンナとクーだけでも、無事ならば……)」

審問官達が聞く耳を持たない事など、分かっていた。
だがそれでも、自分一人だけへの審問で済もうとしている現状、
妻と娘の存在をやり過ごせた事に、安堵していた。

だが───彼の心情は、最悪の形で裏切られる事になってしまう。

「待ってッ!」

205 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:49:12 ID:cEOPo.UM0

突然、食堂と研究室とを隔てる扉は、勢い良く開け放たれた。
やはり、そこに居たのはアンナの姿。自分の後ろで、クーを庇うようにして。

川 ' -')「……その人を、連れて行かないで下さい」

川 ' -')「本当に研究熱心で……それが高じてしまった、それだけなんです!」

(≠Å≠)「………ほぉ」

にやにやと下卑た笑みを浮かべながら、審問官は見比べる。
驚きと諦めの混じった表情、そして、痛切に懇願するその二つを。

(≠Å≠)「……隠していたな、その女二人を?」

「違う……私は……」

(#≠Å≠)「……貴様ぁ!聖ラウンジの庇護を受けし、我ら異端審問団をたばかるかぁッ!」

川;゚-゚)「ふぇ………」

けたたましい怒声に、アンナの背後に隠れたクーはただ怯えるしかなかった。
審問官達とアンナ達とを遮るようにして、父親はその前に立ち塞がる。

206 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:49:30 ID:cEOPo.UM0

「大丈夫だ、アンナ。クーを連れて下がっていなさい」

川;' -')「でも……!」

(≠Å≠)「ほう……なるほど、貴様はそこの”魔女”に骨抜きにされているという訳か」

この時、既に審問官達の間では異端審問の一つとして、”魔女裁判”が行われていた。
女性だけに限り審問を行い、他を惑わす発言、世を忍ぶ暮らし、あるいは醜悪な容姿など、
様々な点から審問団が一つ一つに難癖を付けるような形で、裁判は進んでいく。

女性の存在を卑下していたこの当時の異端審問団ならではのもので、
当然それはロアリア以外の聖ラウンジ教には知れ渡ってはいなかった。

───認定されれば、間違いなく火刑に処される。

「どういう……意味だッ!」

(≠Å≠)「ククク……どうもこうもない……」

不気味な含み笑いをしながら、審問官の一人は背後に
従えていた数人の信徒達の方へと振り返り、あごで合図した。

(≠Å≠)「……女を連れて行け」

207 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:49:48 ID:cEOPo.UM0

川;' -')「きゃあっ」

「おいッ!彼女に何をするッ!?」

川;-;)「うえぇぇぇんっ、うぇぇぇん」

どたばたと、自分達の住む家に上がりこむ何人もの大人たち。
そして、それに引っ張られながら叫び続けるのは、自分の両親。

連れ去られて行く二人は、それでも娘の身を案じていた。

川;' -')「…大丈夫ッ!きっと、きっと迎えに来るからねッ!」

「……クーッ!必ず迎えに来るからな、待ってるんだぞッ!」

父の叫びも、次第に遠ざかってゆく。

(……貴様ら!アンナから手を離せぇッ!)

訳もわからず泣きじゃくる、一人の少女。
”クー=ルクレール”は、こうして本当の意味で
この屋敷にただ一人、取り残される事となる。

───その日を境に、父と母が再び家に戻って来る事はなかった───

いつからか、使用人や縁者がクーの面倒を見に家を訪れるようになった。
だが、両親の居場所をいくら尋ねても、彼らは無言で頷くばかり。

208 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:50:06 ID:cEOPo.UM0

───

──────

─────────

群れを成した盲目の羊達は、信仰というただ一つの光を妄信し、
その後も、次々とロアリアの街で白羽の矢は立てられていった。
いつ突きつけられるかも分からない、自分達への異端認定。

それを恐れる余り、人々は互いに猜疑心を持ち始める。

他の住民の信仰に関して、虚偽の噂を聖ラウンジの者達に密告し、
審問を免れるといった自分可愛さも、次第に目立つようになっていった。

街中や、そのすぐ外では毎日のように繰り返される、シベリアの信徒による
ラウンジへの反撃。住民達は皆家に閉じこもり、外出しようともしない。
美しい緑に彩られていたはずのこの街の広場には、今や血がべっとりとこびり付いている。

209 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:50:26 ID:cEOPo.UM0

だが、この血塗られた宗教戦争に、そして罪の無い人々の
命を脅かす異端審問官達の暴挙に対して───

やがて、この地を訪れた一人の男が、終止符を打つ事となる。
そしてそれは、クーが自らの両親の安否を知るきっかけとなる事柄でもあった。

( ゚д゚ ) 「美しい街だと聞いていたが……随分、閑散としたものだな」

”ミルナ=バレンシアガ”

各地を放浪し、やがて長い旅を経てこのロアリアにたどり着いた、
通りすがりの、冒険者だった──────

210 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:50:50 ID:cEOPo.UM0

───ルクレール家 屋敷前───

川 -) 「………」

屋敷の正門、石段の上に腰掛けて、クーはずっと膝を抱えていた。
両親が連れさられて、7日もの月日が経とうというのに、朝早くから
日暮れまで、彼女はずっとこうして両親の帰りを待ち続けていた。

大きな不安を抱えている彼女を支えてあげようと、使用人や縁者は
その彼女の隣でずっと両親の無事を唱えていたのだが、いつまで経っても
心を開こうとしない彼女に業を煮やし、5日目には屋敷を訪れる事はなかった。

川 -) 「……おとうさん……おかあさん……」

大人たちは、クーの両親がもう帰っては来られないであろう事を、知っていたのだ。
それでも、寝食も忘れたようにして、クーはひたすらに両親を待ち続けていた。

川;-;) 「あいたいよ……」

来る日も来る日も、夕焼けを目にする度に、数日前までの楽しかった
家族団らんの憧憬が浮かび、目からは涙が零れ落ちてくる。

街の離れに位置するルクレール家の屋敷周辺には人通りなどなく、
クーは両親が居なくなってからの毎日を、同じように過ごしていた。
だが、この日ばかりはいつもと少しだけ違った。

211 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:51:11 ID:cEOPo.UM0

がさっ

川;-;)「?」

がさがさ、とクーの右手の雑木林から物音が聞こえた。
すると、見慣れない人物が独り言を呟きながらその姿を現した。

( ゚д゚ )「やれやれ……人っ子一人外を出歩いてないとは、一体どうなってる?」

ぱんぱんと体に纏わり付いた木の葉を払っていたその姿を、じっと見つめる
クーの瞳に、男ははたと動きを止め振り返った。

川;-;)「…おじちゃん、だれ?」

Σ( ゚д゚ ;)「おじっ…」

クーから一度視線を外して、こほんと後ろで一度咳払いをすると、また向き直る。

( ゚д゚ ;)「(まぁ……このぐらいの歳の子供からしたら、十分おじさんか)」

川;-;)「……わるいひとなの?」

( ゚д゚ )「いいや、怪しい者じゃないぞ」

少女の真っ直ぐな質問に対して物怖じする事なく、改まったように
腰に手を当てて自分の顔を親指を立てて指した。

212 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:51:32 ID:cEOPo.UM0
( ゚д゚ )「俺はミルナっていうんだ……お嬢ちゃんは?」

川;-;)「………クー」

( ゚д゚ )「ほう、クーっていうのか、この家の子か?」

川;-;)「………」

無言でこくりと頷くクーの顔を見て、視線を合わせるようにしてしゃがみ込む。

( ゚д゚ )「どうした?こんなに泣き腫らして……何か、あったのか?」

川;-;)「……ふぇっ……!」

( ゚д゚ ;)「!!」

それから十数分ほどの間、堰を切ったように大声を上げて
泣き喚きはじめたクーをあやすのに、ミルナは必死だった。

やがて満足行くまで泣いたか、ぐずりながらも泣き止んだクーの頭に
手をぽんと置いて、ミルナは再度尋ねてみる。

川 p-q)「ぐしゅっ」

( ゚д゚ )「……で、一体何があったんだ?」

213 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:52:00 ID:cEOPo.UM0

川゚-゚)「……おとうさんとおかあさんが、つれてかれたの」

( ゚д゚ )「誰にだ?」

川゚-゚)「わかんない……でも、らうんじとかなんとか、いってた」

( ゚д゚ )「………そうか」

過激化するシベリア教会と聖ラウンジ教会による宗教戦争。
それが今や異端審問と称して、民衆にまで飛び火していたという噂は、
ロアリアの街を離れた一部の者達から、近隣の村々に広がっていた。

それを知ってか知らずか、ミルナは一人呟くようにして空を仰ぎ見て、瞳を閉じる。

( ゚д゚ )「……それなら、この街の静けさにも合点が行く」

川゚-゚)「?」

この時、ミルナの横顔を覗き込んで首を傾げたクーが、
どこか遠くを見つめて何かを決意したミルナの表情に気づく事はなかった。

だが、唐突に。

( ゚д゚ )「父さんと母さんに、会いたいか?」

川゚-゚)「………うん」

( ゚д゚ )「だったら……俺に付いてくるんだ」

育ちの良いクーにとって、見ず知らずの人間とこうして何かを
話した事など、数える程しかなかった。それというのも、クーの身を案じて
知らない人間に呼ばれてほいほいと付いていかないように、との両親の教えの賜物か。

214 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:52:37 ID:cEOPo.UM0

だが、この時のクーの瞳には、逞しい背中ごしにちらと視線を送るこの
ミルナという大人が、今居る世界で最も信用できそうな──そう、映っていた。

立ち上がるとミルナの外套の端を掴み、歩き始めた彼の後を追い、自然と体は動いていた。

───

──────

─────────


───ロアリア市街 聖ラウンジ大聖堂───

この土地は曇りがちな天候の為、灰色に淀んだ空模様になる事が少なくない。

もうすぐ一雨きそうな、そんな天候の中で、ずっと教会の入り口前に立ち
閑散とした町々をしかめた面で眺めるのは、黒尽くめの男。

この街のラウンジで実質一番の執行力を持つ異端審問官、”イスト”だ。
その彼に、同じように黒のローブを纏った教会の人間が、声を掛けた。

(≠Å≠)「………」

( ▲)「イスト審問官」

215 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:53:06 ID:cEOPo.UM0

仏頂面で声の方に視線を向ける事も無く、ただ人っ子一人出歩かずに
家の戸を閉め切った閑散としている市街を見渡している。

( ▲)「先日審問に掛けた露天商の中年が、舌を噛み切って自害を」

(≠Å≠)「下らん……命を自ら絶つような不信の輩などどうでもいい。いらん情報を持ってくるな」

( ▲)「……申し訳ありません」

(≠Å≠)「そんな事より、ルクレール夫妻の方はどうした?」

( ▲)「相変わらずです……聖ラウンジへの信仰心に、変わりはない、と……」

(≠Å≠)「ふぅん……?貴様、躊躇しているようだな?」

( ▲)「……いえ、そのような事は」

(≠Å≠)「ならば、男の方は更に念入りに、もっと徹底的に
    痛めつけろ。手足の腱を切るぐらい構わん」

( ▲)「ハッ……」

(≠Å≠)「それから、女の方は今日でそろそろ一週間になる。火刑の準備をしろ」

( ▲)「っ……ですが、女の方からはまだ、異端と言えるだけの証拠は……」

黒衣のローブがそこまで言った時、イストが自分の方に顔だけ振り向き
両の眼をかっと見開いて自らを射抜く視線を投げかけていたのに気づき、
言葉を詰まらせた。

216 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:53:27 ID:cEOPo.UM0

(≠Å≠)「私は……”火刑の準備をしろ”……そう言ったよなぁ?」

( ▲)「ッ!」

(#≠Å≠)「それが何だ……貴様、魔女の肩を持つとは、まさか貴様も異端者かぁッ!?」

( ▲)「……滅相も……ございません」

(≠Å≠)「フン……魔女認定など、この私の裁量を持ってしてこの場で与える」

( ▲)「すぐに……火刑の準備を……」

審問官イストの言葉に深く頭を垂れると、
彼の前から逃げるようにして、ローブの男は足早に去っていった。

だが、無理からぬ事だろう。今やこのロアリアを実質的に支配しているのが、
このイスト審問官。それにあっては、同じ信仰心を持つであろう街の住民を、
自ら命を絶たせる程の責め苦に貶めている自分達の行為に、今日のように
違和感を覚える者もいるはずなのだ。

だが、異端認定の権限を持つイストに対して、皆恐怖に飼いならされた
子羊のように従順に、あるいは心を殺して、従う他ない。

それが、自分が間違えた行いをしていると、認識できていたとしてもだ。

(≠Å≠)「疑わしきは裁く……それでいいのだ」

217 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:53:52 ID:cEOPo.UM0

拷問狂なのか、と水面下では決して本人に悟られぬように囁かれてはいた。
あるいは、それは盲目故に捻じ曲がった、信仰心であるのかも知れない。

異端として裁く為ならば、身体の機能を生涯奪う事であっても厭わず、
糞尿を巻き散らして死を懇願する妊婦の前でも、眉一つを動かさずに
淡々と拷問を続け事ができる、氷のような心を持つこの男は───

発言出来る者など決していないが、誰の眼にも明らかな、狂人だった。

ふん、と鼻を鳴らし、肩口にぽつりと雨粒が落ちたのを感じて、
黒衣の修道服をはためかせながら、イストは踵を返した。

時折どこからから悲鳴ともつかぬ呻き声が漏れる、聖堂の中へと消えていった。

───

──────

─────────

───ロアリア市街───

忽然と人が消えたように静かな街を時折見渡しながら、男と少女は歩く。

( ゚д゚ )「いつから……こんな、静かな街になったんだ?」

川゚-゚)「わかんない。おそとであそんだこと、あんまりないの」

218 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:54:22 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「友達とか、いないのか?」

川゚-゚)「まえはね、よくおうちにきてた子がいたんだよ?……でもね」

( ゚д゚ )「でも……?」

川゚-゚)「おとうさんのしごとのつごうで、もうあえないって、とうさんがいってた」

( ゚д゚ )「……そうか」

本当に、この娘の両親は真実を告げたのだろうかと、ミルナは内心深く息をついた。
露天商が多く、市場が賑わっている街だという噂を聞いたのが、3年ほど前。

それが今では、これほどまでに外を出歩くのを恐れ、住民は皆戸を閉め切っている。
明らかに異常な事態だというのに、領主や他の町の人間は何とも思わないのか。
そんな事を考えながら歩いているものだから、少女の言葉も自然と耳から抜けていく。

うんうんと相槌を打ちながらも、頭の中では別の事を考えていた。
そして、その考えは、いつになく険しい表情をしている自分の顔にも、表れていた。

川>-<)「いたっ」

突然立ち止まったミルナの背に、顔面ごとぶつかって尻餅を付くクー。

219 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:54:50 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「雨、か……」

少しずつ雨粒が増えてゆく空を一瞬見上げると、頬を膨らましていた
背後のクーの様子に気づいて、すまんな、と手を差し伸べて身を起こした。

川;゚-゚)「さむい……」

( ゚д゚ )「冷えてきたな……どうする、自分の屋敷で待ってた方が、いいんじゃないのか?」

川゚-゚)「それはやだもん、おとうさんとおかあさんに会う!」

( ゚д゚ )「そうか……ま、もうすぐだ」

( ゚д゚ )「ただな、少しばかり怖い目に合うかも知れないぞ?」

川゚-゚)「どうして?」

( ゚д゚ )「これから、クーの父さんと母さんを連れて行った、悪い奴らを懲らしめるからだ」

川゚-゚)「……いっぱい、こわい人がいたよ?」

( ゚д゚ )「それでも、できるさ」

川゚-゚)「まもって、くれる……?」

( ゚д゚ )「そうだな、俺の背中に居れば、安全だ」

220 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:55:15 ID:cEOPo.UM0

そうしていくつか会話を交わしながら、やがて二人の足は、一つの建物の前で止まる。
白い外壁に、赤茶色の屋根の頂上に、大きな十字架が掲げられた、聖ラウンジ聖堂の前に。

この建物の周りだけ、何かを焼いたような、すえた臭いが鼻に付く事に、二人とも
少し顔をしかめた。そして、ミルナだけは感じ取っていた。

寂しげに佇むこの聖堂の締め切られた扉から既に、人の悪意のようなものが流れ出ているのを。

( ゚д゚ )「少し、うるさくなるぞ」

そう言って、こちらを見つめるクーの顔を見ながら、門扉の正面に立って片足を上げた。

そして、クーがミルナの言葉に頷くよりも少し早く、上げられた片足は、
門扉の裏側であてがわれていたであろう閂すらもへし折る程の力で、
次の瞬間には扉ごと蹴破り、門扉は勢いよく開け放たれる。

広い聖堂内に、轟音が鳴り響いた。
その音に、祭壇に祈りを捧げていた多数の黒衣の信者達が、全員こちらを振り向く。

( ▲)「何事だ!?」

全員が全員、ずかずかと中へ上がりこむミルナへ、視線を集中させた。
浮き足立つ者が殆どだが、数名は即座に走り出し、壁のラックにしまわれていた
鎖で鉄球を繋いでいる、フレイルの柄へと手を伸ばしていた。

221 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:55:42 ID:cEOPo.UM0

( ▲)「貴様……何という事を!ここは神聖なる聖ラウンジの神のおわす所ぞ!」

( ゚д゚ )「……神聖、ねぇ」

言って、くっくと含み笑いを不敵に隠そうともしないミルナの姿に、
フレイルを手にした信者達が、じりじりとにじり寄っていく。

( ゚д゚ )「神が?……こんな、掃き溜めにか?」

( ▲)「なんと……我ら聖ラウンジを、愚弄するかぁ!」

( ゚д゚ )「笑わせるな、俺は、この子の両親を連れ戻しに来ただけだ」

自分の背中にぴったりと張り付き、少しだけ震えるクーの肩を掴むと、
ミルナは黒衣の信者達の前に、その顔だけ向けさせた。

川;゚-゚)「……このひとたち、だ」

その言葉を引き出すと、怯えるクーの瞳をしっかり見据えて、
ミルナは一度小さく頷いた。そして、すぐにクーを自分の背中に戻す。

( ゚д゚ )「……だ、そうだ。貴様らがこの娘の両親を連れ去ったのを、認めるな?」

 「…あれは、確かルクレール家の…」

   「娘がどうしてこんな男と……いや、それよりも……」

( ▲)「何者だ、貴様?」

222 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:56:03 ID:cEOPo.UM0

ミルナとクーの前に立つ黒衣の信者の後ろでは、少しずつ声高に、
まるで呪詛を唱えるかのように、一つの言葉がぽつぽつと囁かれ始める。

   「異端者……」

    「そうだ……イスト様に認定を頂くまでもない……」

  「そうだ、紛う事なき、異端者……」

「異端者、異端者、異端者」

二人を扇状に取り囲むようにして、十数人もの黒衣の信者達は、糾弾を始める。
がっしりと背中に取り付くクーの体が、小さく震えているのがミルナには分かっていた。

だが、だからこそ。

震える少女を安心させるために、この異様な光景にも一切怯まず、言い放つ。

( ゚д゚ )「”ミタジマ流喧嘩拳術”……」

( ゚д゚ )「”男闘虎塾”門下が一人、”ミルナ=バレンシアガ”!」

聖堂中に響き渡る程の大声に、一瞬信者達はびくっと身じろいだ。
若干の沈黙の後、背中のクーを少しだけ手で遠ざけて、フレイルを携える
幾人もの黒衣の信者達の前へと、ずかずかと歩み出た。

( ゚д゚ )「通りすがりの、冒険者だ」

223 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:56:24 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「生憎と俺はよそ者なんでな、多少の無茶は、押し通させてもらおう」

( ▲)「…このッ、図々しく!」

言い終えるや否や───左方から飛び出た一人がミルナの側面から、
その側頭部を目掛けて、唸りを上げてフレイルを振るった。

( ゚д゚ )「……言っておくがな」

人間の頭部など軽々と陥没してしまうであろう鉄球は、すぐ間近。

だが、それに気を取られる事も無く、口では言葉を紡ぎながら、
ミルナは左手を自分の顔のあたりまで持ち上げて、左方へと突き出した。

自分の頭部目掛けて振り下ろされた、フレイルの鉄球に対して。
次の瞬間、鈍く重い金属音が、鳴り響く。

この場にいる誰もが、致死に至る一撃だと確信していただろう。
良くて昏倒する、ミルナの姿を想像していたはずだ。

( ▲)「……ぷごぉ、うッ…」

だが───中空で堅く握り締められたミルナの拳は、その鉄球を弾いた。

勢い余って、それはフレイルを振りかざした信者の顔面へと叩き返される。
同じか、それ以上の質量を持って弾かれた鉄球の勢いは凄まじく、
振り下ろした当の本人は顔面こそ潰れてはいないが、鼻と歯ぐらいは折れただろう。
すぐに膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れこんだ。

( ゚д゚ )「”鉄撃”………俺の身体は、全身が凶器だ」

224 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:56:49 ID:cEOPo.UM0

驚愕の光景を目の当たりにした信者達は、皆ローブの下で驚嘆の表情を浮かべているだろう。

( ゚д゚ )「”1000日の稽古を鍛とし、10000日の稽古を錬とす”───」

( ゚д゚ )「そうして、いつしか己の身は鉄にも劣らぬ硬度と、強度を帯びる」

( ゚д゚ )「ま……ミタジマ流喧嘩拳術においては基礎だが、貴様ら相手なら十分だろう」


   「み、見たか今の……!?」

       「手だけで、いとも軽々と……」


  「うろたえる事はない……囲んでしまえば……」

ざわついていた信者達を尻目に、後方からは一人の男が歩み出ようとしていた。
肩を掴まれた信者の一人が硬直し、それを視認した信者達に、次々に動揺が走る。

(≠Å≠)「……ほぉ〜?……随分とまた、潔い異端者だな。これは」

審問官、イストだ。

心底物珍しそうな視線を、ミルナに対して投げかけていた。
その手に握られているのは、拷問にも使われる鋼杖。
先端には、鋭利な装飾が施されている。

225 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:57:16 ID:cEOPo.UM0

(≠Å≠)「そうだな……この頃の働きぶりのおかげか、審問も減ってきた」

(≠Å≠)「こいつを今この場で裁けば、諸君らの良い余興にもなるだろう」

首をごきごきと鳴らした後に、勿体を付けるようにして、命令を出した。
不敵に、口元ではにやにやと口角を吊り上げている。

自分以上に傍若無人な印象を受けたその男を睨みつけながら、
ミルナは初めて外套を取り去ると、背後のクーへと投げ渡した。

( ゚д゚ )「そのマント、預かっててくれないか」

偉そうな立ち振る舞いのこの男を見るなり、クーが今まで以上に
怯えはじめたのにふと気づくと、その心情を察し、一瞬気にかけた。

川;゚-゚)「あぅ……あ、あの……ひと」

( ゚д゚ )「(……相当、心に大きなキズとなっているのか)」

そんな二人のやり取りなどお構いなしに、一寸だけ考え込んだ振りをして、
仰々しく大手を振りかぶり、この場の信者全員の注目を、自分へと向けさせた。

そして、高らかに宣言する。

(≠Å≠)「……よろしい、私の権限を持ってして、今この場で特別に許可しよう!」

(≠Å≠)「叩き潰せ……そうだな、”肉塊の刑”だ」

226 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:57:36 ID:cEOPo.UM0

ミルナに対して執行されるべき刑をイストが口にしてから、
武器を手にした信者達の動揺はおさまった。再び、全員がミルナに注視する。

今、彼らの中に芽生えている感情は、恐らく恐怖だけだろう。

( ゚д゚ )「教えてやる……ミタジマ流の極意は、技にあらず」

( ゚д゚ )「”心”、それこそが、”芯”」

( ゚д゚ )「己の信念、”志”だけは、絶対に曲げぬという事だ」

(#≠Å≠)「うひゃひゃひゃぁッ!断罪しろぉぉぉッ!」

イストの号令と同時に、武器を手にした信者達が一斉にミルナへと飛び掛る。
その真っ只中、最奥で狂笑を浮かべる黒衣の修道士、イストへ向け────

(# ゚д゚ )「年端もゆかぬ幼子から両親を取り上げる、貴様らの様な外道に対してなぁッ!」

───ミルナ=バレンシアガは。堅く拳を握り締め、ど真ん中を突っ切っていった。

227 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:58:04 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )(一対多の争いならば、頭を押さえてしまえば……)

そう考えた所で、にやにやと気色の悪い笑みを浮かべる色白の男、
一際異彩を放ったいでたちのイストを、ミルナは標的として見定めていた。

だが、十数人もの人の壁に阻まれれば、そう易々と近づく事は出来ない。

( ▲)「取り囲め!」

イストの前に立つ黒尽くめの一人が、部下達に檄を飛ばす。
瞬時に僧兵達は散開し、ミルナの斜め後方からも襲いかかれる布陣を整えつつあった。

(# ゚д゚ )「どけッ!」

そこへ、力強く一歩を踏み込んだ。

たったそれだけの動作で、5〜6歩は間合いの空いていたはずの、
正面に立っていた一人の眼前にまで一気に距離を詰める。

(;▲)「───ッ!」

慌てふためき、すぐにフレイルを振りかざそうとする。
が、瞬時の反応に、あまりにも違いがありすぎた。

すかさず顔面へと叩き込まれた拳は、僧兵を後方まで吹き飛ばす。

228 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:58:33 ID:cEOPo.UM0

( ▲)「……おのれェッ!」

一人が倒された時点でようやく攻勢へと転じた周囲の僧兵が、
数人がかりで、ほぼ同時にフレイルを振り下ろす。

( ゚д゚ )「ふん、ハエが止まるぞ?」

次々と脳天を目掛けて振り下ろされる破壊力の塊だが、
それらはまるで陽炎を叩こうとしているかのように、かすりさえしない。

後ろにも目があるかのように、斜め後方からの攻撃にも身を傾け、
前方からの三つはそれぞれ掻い潜り、さらには直後に反撃すらこなしてみせる。

(# ゚д゚ )「はぁッ!」

(;▲)「ぶぐッ!?」

大きく仰け反った一人がまた崩れ落ちるも、後方に控えていた僧兵が
すぐに穴の開いた布陣を補強するかのように躍り出た。

再びの睨み合い。今度は更に多くの人数に囲まれたミルナは、両手を
前方で軽く交差させ構えながら、周囲の気配に気を張り巡らせた。

この尋常ならざる腕っ節に、僧兵らは大多数を占めながら、明らかに逡巡していた。

( ゚д゚ )(とはいえ……)

見れば、フレイルを構える僧兵の後ろには、短刀を携える者の姿も見えた。

振りかぶらなければ攻撃の動作を行えない、溜めの大きなフレイルならば容易い。
が、それに紛れて様々な武器でこられれば、この人数相手では無傷というのは難しい。

229 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:59:01 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )(この人数……やはり簡単にはいきそうにないな)

ふと思い当たり、後方で震えているクーの様子を肩越しに覗き見た。

川;゚-゚)「…ふぇぇ……」

( ゚д゚ )(……待ってろ、すぐに終わらせてやる)

少しばかり弱気の虫に食われそうになった自分を、戒める。
再び強い意志を込めた視線を、最奥──壇上に立つイストへ向けてぶつけた。

(≠Å≠)「………!」

先ほどから、ミルナの一挙手一投足をただただ無言で眺めていた。
だが、そこで二人の目と目が合った時、イストはハッとしたような顔を見せる。

( ゚д゚ )「………?」

一瞬、ミルナにはそれが理解出来なかった。
しかし、イストが頭上を越えた自分の後方を指差した時、事態を察知した。

(≠Å≠)「───その娘を捕らえろッ!この異端者と同じ、同罪人だッ!」

イストの本意など、考える事に時間を割くまでも無く知れた事だった。
ご大層な大義名分を掲げて、自分達が両親を奪ったこの娘っ子を、人質に取る。

そして、ミルナの動きを止めるのが狙い──確かに、相対するのが
この正義感の塊の様な男ならば、あまりにも合理的な方法だ。

230 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:59:23 ID:cEOPo.UM0

ミルナの張り裂けんばかりの怒声が聖堂に木霊し、僧兵達の耳を劈く。

(# д )「───きさ……まらぁッ!!」

それに一瞬たじろいだのは、僧兵達。
ミルナの怒気に対しても、また、イストの命令に対しても、だ。

(#≠Å≠)「どうしたァッ!?”審問官からの指令が下された”ぞ!?」

( ▲)「………!」

狼狽しつつも、僧兵達が動き出す。
イストの掲げる正義に、臣従せざるを得ない子羊達が。

ミルナの後方、クーの立つ場所に一番近い僧兵の一人が、手を伸ばす。

川;゚-゚)「いやっ!」

(# ゚д゚ )「───クーッ!!」

勢い良く身体の向きを反転させると、クーの叫び声の聞こえた方へと
疾駆した。周りに居た僧兵達が武器を振るって来たが、それらは全て
激情に駆られたミルナの駿足の下に、空を斬るに留まった。

(;▲)「くっ……このッ」

川;゚-゚)「やだ!助けてっ!」

クーの腕が掴まれた所で、辛くも間に合った。

231 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 03:59:44 ID:cEOPo.UM0

(# ゚д゚ )「───せりゃあッ!!」

ミルナの剛脚が即座に僧兵の頭をすぱんと打ち抜く。
一瞬で意識が飛ばされたであろうその身は、中空で大きく後方に回転すると、
勢いそのままに、体の正面からもろに地面へと叩きつけられた。

川;゚-゚)「おじさん!」

胸元へと駆け寄るクーを、両手で受け止める。

( ゚д゚ )「……すまんな」

眼を大きく広げて胸元でおののくクーに、一言呟いた。
その背後では、鎖が擦れ合う金属音。

(;▲)「う……うわぁぁぁぁッ!」

一人が、喚きながらミルナの背中へと走り寄って来ていた。
すぐに振り向き、身をかわす事は容易だった。

( ゚д゚ )「………チッ」

だが、それをしてしまえばクーの身が危うい。
迎撃しようかとも迷ったが、そのまますぐに思考を停止させる。

結果、大きく助走をつけたフレイルの鉄球は、ミルナの背中へ
唸りをあげて叩きつけられた。

( д )「がッ、は………!」

232 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:00:05 ID:cEOPo.UM0

目の焦点がぶれ、意思とは無関係に膝の間接ががくの字に折れ曲がる。
だが、倒れるのを堪えるようにして、背中を丸めてクーの身を抱きかかえた。

辛うじて、脚を踏ん張る。

(;▲)「はぁ……はぁ……どうだ!」

(#≠Å≠)「続けてかかれッ!粉々に粉砕しろッ!」

甲高いイストの叫びを耳にしながら、抱きかかえていた両腕を離し、
ミルナはそっとクーを自分の身から押しやり、遠ざけた。

川;゚-゚)「おじ……さん?」

( д )「─────のか」

喚き散らしながらさらに襲い来る僧兵達。
常人ならば背骨が砕ける程の威力をその身に受けながら、
なおもミルナは再び振り返ると、それらの前に立ち塞がった。

( д )「───貴様らの騙る”神”は」

( ゚д゚ )「こんなか弱い命すら、奪おうというのか───」

233 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:00:28 ID:cEOPo.UM0

目の前には、イストによる強烈な圧力とミルナへの畏怖がせめぎ合い、
ローブの下で半ば狂乱に満ちた瞳を浮かべる多数の僧兵達が、武器を振りかざす姿。

( ▲)「ウオオオォォォォッ!!」

一人が振るったフレイルは、ミルナの頭上に影を形作っていた。

(#゚д゚ )「────ならば、神など死ねィッ!」

その叫び。その気合と同時に、砲弾のような破裂音が鳴り響く───

かと思えば、鉄球を叩き落したはずの男の拳は、目の前にある。
尚且つ、フレイルの柄から繋がった鎖の先端部が千切れており、
重量感のある鉄球の姿そのものは、忽然と鎖の先から消えていたのだ。

( ▲)「………えっ………?」

聖堂に居た全員ともが、その時何が起きたのかわからなかっただろう。

(≠Å≠)「─────ッ!」

が、僧兵の振り上げたフレイルから消えたはずの鉄球は、イストの背後。

祭壇の上空で掲げられていたはずの、巨大な聖十字の象徴の中心へと、
深々とその全体をめり込ませていた。

次の瞬間には大きな亀裂を全体へと走らせ、すぐにその姿を無残な瓦礫に変える。

234 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:00:47 ID:cEOPo.UM0

(;▲)「そん……な……」

崇める”象徴”が床へゴトゴトと崩れ落ちてゆく、その様に、
僧兵達は口々にか細く、ため息めいた弱弱しい声を口の端から漏らした。

彼らの身を竦ませるのには十二分過ぎるほど、文字通りの圧倒的な衝撃。
それは、すぐに落雷が伝うようにして一瞬の内に彼らの胸の内に恐怖を伝染させた。

川;゚-゚)「すご……い」

あんぐりと口を開けるクーの網膜には、その光景が強烈に焼き付けられていた。
その前には、腕っ節がめっぽうどころではなくばか強いその一人の男が、不動のまま。

(# ゚д゚ )「立ち塞がるなら───もう手加減はせんぞ」

─────「バカなッ!!」─────

”瓦礫”が全て崩れ落ち、中には呆然と口を開けて武器を取り落とす僧兵も居る中、
ただ一人、イストだけは断じて認めない、とばかりにミルナの方を指差していた。

(;≠Å≠)「こんッ……こんな事はあり得ない……認めんぞォッ!」

声がしゃがれるのではないかという程に、ただ一人、驚愕に叫ぶイスト。

( ゚д゚ )「後悔するんだな」

言って、壇上で半狂乱に「奴を殺せ」と騒ぎ立てるイストに、近づいてゆく。

235 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:01:12 ID:cEOPo.UM0

これほど人間離れした業を見せられては、イストに圧力をかけられた僧兵達の
戦意も、もはや完全に消えうせてしまっていた。

(;▲)「………ひっ」

ミルナの行く手を今まで遮っていた人の壁。
それらが、今ではまじないを掛けたかの様にすんなりと道が示される。

( ゚д゚ )「この身に飼いならす”螺旋の蛇”を呼び起こさせたのは、貴様らだ」

やがて、ミルナがイストの目の前に立ち止まった。
互いの鼻息がかかるほども、距離が近い。

(;≠Å≠)「あ……ひっ」

( ゚д゚ )「この娘の両親はどこだ?あと、貴様らが拷問にかけている住民達もな」

(;≠Å≠)「ち……地下……でスゥ……」

胸倉を掴み顔を引きずり寄せると、先ほどまではあれほど不遜な態度だった
イストも、自分の瞳を真っ直ぐに射抜くミルナから視線を背けながら、
絞り出すようなか細い声で、あっさりと口を割った。

いつの間にかミルナの傍らに居たクーが、後ろで大声を上げる。

川*゚-゚)「おかあさん!……おとうさんにもあえるの!?」

236 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:01:41 ID:cEOPo.UM0

( ゚д゚ )「………」

初めてミルナが目にした、瞳を輝かせたクーの顔を見つめると、
イスト審問官の胸倉を掴み上げながら、無言で浅く頷いた。

多種多様の表情を浮かべながら、こちらのやり取りを伺っていた僧兵達を
追い払って人払いを済ませると、クーを引き連れて、襟首を引っつかんだままの
イストの案内のもと、聖堂の地下室へと続く階段を一歩一歩降りていった。

─────────


──────

───

237 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:02:08 ID:cEOPo.UM0

─────────

──────

───

等間隔に、松明の炎が妖しく照らし出す暗がり。
階段を下りるにつれて、幾重にも重なった呻き声が耳に届く。

神の名を称える聖堂の地下に、決して地上の光が当たる事のない拷問場。

その雰囲気を感じ取っているのか、傍らのクーは次第に不安げな表情を浮かべる。
歯軋りしながらイストを引っつかむミルナの手にも、次第に力が入っていた。

川;゚-゚)「………なんか、こわい」

( ゚д゚ )「悪趣味だな……ここが貴様らの拷問場所という訳か?」

(;≠Å≠)「ここは私のし、神聖なる審問場だ……グエッ」

思い出したように強気を口にしたイストの襟首を一層強く締め上げ、
紡ごうとしていた言葉を中断させる。

長い階段をようやく下り終えた時、やはりそこに広がっていたのは、
思わず目を塞いでしまいたくなるような、惨たらしい光景だった。

238 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:02:32 ID:cEOPo.UM0

鉄格子に囲われた部屋が何棟もあり、その一室では多数の死体が折り重なっている。
暗闇を照らす松明の橙色が、皮膚が剥がされて赤黒く露出した傷口を、不気味に染め上げる。

(; ゚д゚ )「惨い……」

見れば、逆さに釣られた状態で、身をよじらなければ水槽に頭部が浸かってしまう者や、
毛髪を一本残らず抜かれ、顔には幾度も焼きごてを押し付けられた女性が、うな垂れている姿。
どれも、極限まで心身を追い詰められ、力尽きてしまう寸前の人間ばかりだった。

川;゚-゚)「……おかあさん!おとうさん!」

突然ミルナの脇をすり抜けて走り出したクー。
すぐに後を追おうとしたが、自分が締め上げるイストの存在が気に掛かった。

ふと、そこらに散らばっていた鉄の手錠に視線が留まり、それを拾い上げる。

( ゚д゚ )「そこから、動くなよ」

(;≠Å≠)「………ふん」

イストの身を後ろ手に手近な鉄格子へと押し付けると、手錠を掛け、すぐにクーの後を追った。

239 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:03:01 ID:cEOPo.UM0

クーは鉄格子の中の一人一人へ、声を掛けてまわっている。
その中の一人の女性が、クーの言葉に反応したようだ。

「ア……」

川;゚-゚)「おか……おかあさん?」

( ゚д゚ )「クーっ!」

「……アンタァァァーッ!」

格子の外から語りかけたクーの方へと、女性は一直線に飛び掛かる。

「私をここから出せェッ!こんな…こんな顔にしやがってッ!」

「殺してやる、呪ってやる」格子を挟んでそう怒鳴り散らしながら、
がちゃがちゃと鉄格子を掴み揺らすその女性の瞳には、もはや正気はなかった。
一瞬呆然と立ち尽くしていたクーの目を塞ぎ、ミルナは身体を割って入れた。

( ゚д゚ )「……違うか、お前のお母さんではないな?」

川;゚-゚)「……う、うん」

驚いた様子のクーの頭を抱え、背中をぽんぽんと叩きながら落ち着かせる。

もし神とやらが本当にこの世にいるのならば、せめてこの娘と両親を、
五体満足に会わせてやって欲しい───そう、ミルナは願った。

限りなく絶望的な、儚い願いかも知れないが、
そんな事があるのならば、神に祈るのも悪くはないというのに。

240 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:03:24 ID:cEOPo.UM0

───不意に、背後の鉄格子の中から、一人のしゃがれた男性の声がした。

「……まさ、か………」

( ゚д゚ )「………?」

声の方へと目をやると、そこには格子の奥で壁にもたれて寄り添う、二人の男女。
そのうちの男性の一人が、次に口にした言葉に、目を大きく見開いた。

「その、その子は………クー、か………?」

川;゚-゚)「おと、おとうさんの声だ……」

( ゚д゚ )「!!」

クーの両親に間違いない、そう確信したミルナは、すぐに鉄格子へ駆け寄る。
外側から掛けられた錠を確認すると、高々と掲げた手刀をそこへ全力で振り下ろした。

(# ゚д゚ )(─────”緑閃刀撃”ッ)

鉄錠が呆気なく真っ二つに叩き割られ、かちゃりと地面へと落ちると、
錆付いた鉄格子を開けきるよりも早く、クーは両親の元へと駆け出していた。

川;-;)「おとうさん……おかあさん!さびしかったよう……!」

241 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:03:47 ID:cEOPo.UM0

「本当に……クーだ……私は……夢、でも……?」

背中をもたれる父親の胸元へ飛び込み、今まで堪えていた涙の分まで、
全力で泣き続けるクー。父親はその頭をぎこちなく撫でながら、ミルナへ視線を送った。

「あな……た……が?」

( ゚д゚ )「……ああ。ここで拷問にかけられている人々を、助けに来た」

「……どうやって……感謝の意を……送れば、いい、か……」

喉を焼かれているのか、まだ自分とそれほど歳も変わらぬ若年の喉からは、
老人のようにしゃがれた声で、言葉がどうにか搾り出される。

そして、クーと再開して虚ろな瞳に若干の生気が戻ってはいるが、
立ち上がりクーを抱きかかえる事が出来ない理由に、気づいた。

(; ゚д゚ )(手足の腱が……全て切られている……)

もう、立ち上がる事も、物を掴む事も一生かなわないであろう父親の胸で、
それに気づく事もなくクーはえんえんと泣き続ける。

一度深く視線を落としたミルナだったが、すぐに隣で壁にもたれる
クーの母親の様子が気に掛かり、その傍にしゃがみこんだ。

242 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:04:12 ID:cEOPo.UM0

(; д )「─────ッ」

「……かの……じょ……は……」

川 - )

息を、していない。
端正な目鼻立ちのその女性は、眠ったような横顔をたたえているだけだ。

「さっきから……語りかけても……返事、が……」

川;-;)「ねぇ、おとうさん……おかあさんは?」

娘のその言葉に、父親はゆっくりクーの首元に腕を回して引き寄せると、
肩を小刻みに震わせ、歯をかちかちと鳴らしながら、嗚咽を堪えている。

突然仲を引き裂かれ、この娘は親の死に目にも会えなかったのか。
その大きな心の傷を抱えて、生きていかねばならないというのか。

断じて───そんな不条理、納得できる訳がない。

( д )(今の俺に、出来るかはわからんが……)

生気の抜けたクーの母親の前に立つと、呼吸を整えて精神集中を試みる。
修行に明け暮れていたあの時から、腕は鈍っていないはずだ。

( д )(”ミタジマ流”は活殺自在の拳撃流派……)

( ゚д゚ )(人の、生きる力を引き出す事も出来る、そのはずだ)

243 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:04:47 ID:cEOPo.UM0

目を閉じ、両手を前へ突き出すと、クーの母親の身体を、
その手を透して見やるかのように、全力で何かを探っていた。

( д )(僅かだが───感じるぞ)

全神経を集中させたミルナに、周囲の何もかもの雑音は、今や届かない。

( д )(この女性の身体には、まだ”気”が残っている───)

( ゚д゚ )(─────ならばッ!)

突然かっ、と目を見開いたミルナは、クーの母親を引き寄せると、
両の手から数本の指を突き出し、彼女の首元へ深く挿し入れた。

( ゚д゚ )(ミタジマ流孔術……"湧泉孔"ッ!)

身体の至る場所に点在する”孔”には、人体の活力を司る箇所がある。
それらの点を的確に突く事により、人を生かす事も、殺す事も出来る技だ。
これはその一端、生命力を再び湧き上がらせる為の、活の秘孔だった。

クーの母親の首を指で押さえたまま微動だにせず、ミルナはその
険しい表情を緩めない。次いで、二度、三度、手付きと箇所を変えていく。

だが、幾度”湧泉孔”を確実に突こうとも、クーの母親が息を吹き返す気配は無い。
そうして、五度目の孔を突いた所に、隣にいた父親がミルナへ声を掛けた。

「……もう……いいんです……彼女、は……」

244 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:05:07 ID:cEOPo.UM0

川;゚-゚)「おかあさん……は?おかあさんは……どうしたの?」

(; д )(俺の孔術では……手に負えない、か……)

変わらず寝顔をたたえるその顔を再び見つめると、がくりと肩を落とし、
ミルナは立ち上がると、やるせなさそうに彼女に背中を向けた。

(;゚д゚ )(ミタジマ流の看板を背負って立つ一號生と言っても……所詮はこの程度……)

このロアリアの街に来てから初めての事だった。
自分の心に影を落とす暗い想念に、ミルナの心は初めて目の前の現実に屈した。

生命の原動力である”気”も───もはや彼女の身体から感じ取る事は出来ない。

悔しさに下唇をかみ締めると、さらに憎らしい程に込み上げてくるのだ。
いくら精神と肉体を鍛えたからといって、幼子一人救ってやれない自身の無力さが。

だが───

”神”は、いじらしい娘子の気持ちを、汲み取ってくれたのだろうか。
断じて、それはこんな自分のように情けない男の、我が儘の為ではないだろう。

川 ' -') 「─────クー……?」

今にも消え入りそうなその声、だが、確実にミルナの背で聞こえた。

245 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:05:28 ID:cEOPo.UM0

川*゚-゚)「───おかあさん!」

( ゚д゚ )「………ッ!」

自らの孔術によって蘇生したなどと、自惚れはしない。
ただその奇跡に、驚きの形相を浮かべてミルナは振り返る。

川 ' -')「……まさか、もう一度……逢えるだなんて……」

川l;-;)「あいたかった、あいたかったんだよう……おかあさん!」

顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙が頬を伝うのも構わず、今度は母親の胸に飛び込むクー。

だが、腹の底からどうにか搾り出しているかのような声色の
クーの両親の衰弱具合は、どう見ても尋常なものではない。

クーにとってはあまりに無慈悲な事実であろうが、
両親ともに、長くは持たないであろう事を───悟ってしまった。

「アン……ナ?……なんという……奇跡だ……!」

川 ' ー')「よしよし……迎えに行けなくて……ごめんね……?」

( д )「………」

246 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:06:03 ID:cEOPo.UM0

あの審問官達の拷問により、心身共に極限にまで追い詰められているはずだ。

だが、それでも───咽び泣く我が子の頭を二人して撫で上げ、その顔に
優しげな笑みを浮かべながら二人して見守る姿に、ミルナは心を打たれていた。

──────親というものは、強い。自分などより、よほど。

どれほど鍛錬を重ねて、その身に奥義の数々を会得しようとも、
どれほど激情に身を任せ、裂帛の気合を込めた咆哮をあげようとも。

親が子を想うこの気持ちには、決して自分などではかなわない───
この状況にあって、そんな、複雑な感情の波が心に押し寄せていた。

残された時間は、わずかだった。

両親にとっては、自分達の愛の結晶を愛でる事の出来る、最期に残された短い時間。
クーにとっては、自分が両親に愛されていた証を、最後に胸へ刻み付ける為の短い時間。

せめてクーが泣き止むまで、自分のような邪魔者は消えよう。
そう思って、ミルナは三人を残して格子の一室を立ち去った。

部屋から出ると、格子に繋がれた自身の手錠をがちゃがちゃと
揺らしていた、イストの姿があった。

(;≠Å≠)「………ちっ」

247 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:06:28 ID:cEOPo.UM0

ミルナと目が合うなり、ばつの悪そうにそっぽを向く、イスト。

( ゚д゚ )「………貴様が、あの娘の両親をいたぶったのか?」

(;≠Å≠)「ふん、いかにも……ルクレール夫妻に異端認定を下したのは、この私だ」

(≠Å≠)「だが、それがどうしたッ!?」

( ゚д゚ )「………」

(≠Å≠)「この大陸には、神を信じぬ不心得者の輩ばかり……」

すぅっと息を吸い込むと、この階下の鉄牢全体に響き渡る程の
大声で、イストは声を荒げてミルナに叫ぶ。

(#≠Å≠)「他人を殺してのうのうと日々を生きている者が、一体何人居るッ!?」

(#≠Å≠)「他者に生活の糧を奪われ、嘆きながら命を落とす者が何人居るのだッ!!」

(≠Å≠)「ならば、全部裁いてしまえばいい………」

(#≠Å≠)「”疑わしきは裁く”……この私の行いにより、邪教徒はこの街から一掃されたのだぞッ!!」

( ゚д゚ )「……それでも、裁かれるべき人間を決めていいのは、お前じゃあない」

( ゚д゚ )「お前は、”神の代弁者”を気取って行使する力で、優越に浸っていたに過ぎん」

248 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:06:49 ID:cEOPo.UM0

(#≠Å≠)「……グ、違うゥゥッ!取り消せ貴様ァッ!」

( ゚д゚ )(……最初は、そうでなかったのかも知れんがな……)

イストに聞こえない程度の小声でそう呟くと、一度視線を外した。

自分の言葉は、恐らくこの男の琴線に触れたのだろう。
依然として鬼の形相から視線が向けられているのを感じたが、
単純に憎むべき男、というだけにも今のミルナには思えなかった。

ある意味では、この男も哀れな一人の子羊なのかも知れない。
いつしか後ろ盾である神の信徒という力が強まって行った中で、
この男の信じる正義は、裁くべき対象を見失ってしまったのだろう。

───「歪んでしまったんだよ、お前は」と、心の中で呟く。

そして、イストの目の前に立つと、最後の言葉を投げかけた。

( ゚д゚ )「残された時を……お得意の神とやらに懺悔しながら生きればいいさ」

(#≠Å≠)「貴様のような流れ者などにッ!何を言われる筋合いもないわぁッ!」

ミルナの二本の指がそっと突き出されると、今にも噛み付かんばかりの
剣幕で吠え立てるイストの首元へとあてがわれると、ずぶりと挿し入れられた。

(#≠Å≠)「取り消せ、先ほどのッ………んぐむッ?」

249 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:07:08 ID:cEOPo.UM0

一拍の間を置いて、言葉に詰まったイストの首が、異様に膨れ上がる。
顔を真っ赤に染めたまま地面に崩れ落ちたが、まだその視線はミルナへ向けられていた。
何か言いたげに言葉を紡ごうとするが、顔には太い血管が浮き上がり、
意思と反するように、四肢はじたばたと暴れさせている。

( ゚д゚ )「………じゃあな」

その言葉が、口の端から泡を吹いているイストの耳に届いたかどうかは、定かではない。

だが、どの道この男も、そう長くは持たないだろう。
これは、真に鍛え抜かれた肉体でなければ、命の危機に関わる程に危険な秘孔だ。
人の潜在能力の極限までを引き出す、”螺旋孔”を突いたのだから。

顔の赤みは更に増していき、身体は次第に痙攣、間接は硬直を始めた。
その姿を見下ろしながら、少しだけ自嘲気味な笑みを浮かべる。

( д )「───俺も───」

「歪んでいるのかな」

そう言いかけた口の動きを、ねじ伏せる。

闘争が日常であっても厭わない自分は、命のやり取りに微塵も恐怖を感じないのだ。

これまで修行の日々で培ってきた鋼の心は、今日のように他者の命を
生かすのにも、あるいは殺すのにも───あまり深く考える事はしなかった。

250 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:07:28 ID:cEOPo.UM0

だが、身近な人の死を見せられた、残された人間の心には、
それが果たして、どれほどの痛いほどの悲しみをもたらすのか。

ミタジマ流拳撃術道場───”男闘虎塾”筆頭一號生、ミルナ=バレンシアガ。

生れ落ちてから23年、日々を闘いに明け暮れてきた彼の心に───
この時、ふとした気の迷いが生まれた瞬間であった。

─────

──────────


───────────────

この日を境にして、ロアリアの街から聖ラウンジへの一切の信仰が失われた。
民衆へ非道の限りを尽くした異端審問団の行いも、住民の直訴の下、ついに明るみとなる。

251 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:07:54 ID:cEOPo.UM0

聖ラウンジ教の大本営を賜る聖教都市ラウンジ、時の司教”アルト=デ=レイン”
彼は、真偽の調査を行うため、すぐさま教徒ら十数名を調査団として組織し、派遣した。
その先で住民達の口から聞かされる、異端審問団によるあまりに惨たらしい仕打ち。

それらはどれも説得力に満ち溢れ、アルト司教が審問団から一切の権限を奪い、
自分達聖ラウンジの庇護から切り離す事を決意させるのに、さほど時間は掛からなかった。

聖堂の地下で発見されたイスト=シェラザール審問官を殺害したのが何者なのか、
結局それだけはわからなかったが、敵対する極東シベリア教徒の一部の者であろう
という噂話は、住民達の間でまことしやかに囁かれていたようだ。

今でも時折極東教会の人間がロアリアへ巡礼に訪れるが、それも、住民達の信仰に対して
訝しむ視線の数々に気圧されて、ごくごく稀にしかその姿を見る事は無くなっていった。

この街の人々はみな信仰を捨てて、今では、自分達の力だけを信じるようになっていた。

─────

──────────


───────────────

( ゚д゚ )「随分と、遠くまで来たな」

252 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:08:30 ID:cEOPo.UM0

川 ゚-゚)「そうだな」

高々と聳える山岳の頂上付近からは、うっすらと雨雲がその上を覆っている
ロアリアの街が、今では遥か遠くに見える。

あれから───もう1年もの月日が流れているのだ。
最近では、クーに自分の無骨な口調が映ったか、言葉を真似するようになっていた。
無愛想な娘に育ってしまうのではないかという事を、少しだけ危惧する。

あの事件の後、縁者数人らが集まり、ルクレール夫妻の葬儀はしめやかに執り行われた。
身分を隠して、ミルナ自身もそれに立ち会っていたのだ。

あの時のクーの表情は、今でも忘れられない。
精も根も尽き果て、一生分の涙をすでに流してしまったのではないかと、心配した。

ミルナ自身も一番信用できそうな人柄に感じた、ルクレール当主の弟。
彼はクーを引き取り、自分が死ぬまで面倒を見ると、ミルナを前に力強く語った。

だが、その場に居たクーはその申し出を押しのけると、
ミルナまでもが思わず目を剥いてしまうような事を言い放ったのだ。

253 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:08:48 ID:cEOPo.UM0

川゚-゚)「ミルナおじさんに……ついてく!」

周りからの猛反対の中、強情に自分の考えを曲げようとしないクーの意思を
尊重して、結局折れたのは自分だった。半ば強引にクーを連れ、ロアリアを発った。
今ではこうして自分の旅に伴っているという訳だ。

( ゚д゚ )「さぁ、後は山道を下れば、ヴィップの街に着く」

川 ゚-゚)「らくしょーだな」

( ゚д゚ )「甘く見るな。山は登るよりも、下りの方が大変なんだ」

クーに様々な事を教えながら、寝食を共にする。
たったそれだけの事だけで、ここ最近では自分の荒んだ冒険の日々にも
ずいぶんと安らぎが与えられているのは、クーのおかげでもある。

幼くして旅に出るきっかけとなった両親の死を、乗り越えつつあった。

容姿も端麗な娘だ。
が、きっとそれ以上に───「芯の強い娘に育つ」

そう、思えた。

254 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:09:21 ID:cEOPo.UM0

だが、幾夜をクーと共にする内、自分自身の中で芽生えていく感情に
心が揺さぶられて、どうしても寝付けない夜が何度かあった。

ある夜、クーは寝言でこんな一言を漏らしたのだ。

川 - )「…ん……おかあ……さん……」

( д )「…………」

─────”罪悪感”─────

クーの両親を救えなかった───その事実が自分を攻め立てるのだ。

いつか、クーにその事を責められる時が来るのではないかと、考える度に影を落とした。

無論、自分がいなければ、クーが両親と再会を果たす事はかなわなかっただろう。
だが、自分がもっと早く現れていれば、あるいは、自分の孔術にもっと人の活力を
取り戻す効力を秘めていれば───クーの両親が命を落とす事は、なかったかも知れない。

自惚れも過ぎたものだ、などと自分自身を気恥ずかしくも思う。

しかし、クーが寝床の枕元を涙で濡らしている場面を見るたび、心をちくりと刺す感情。

確かにクーと一緒の日々は、今までとは違う、自分にとって満たされる日々だった。
だが、冒険者という風に吹かれて消えてゆくような───そんな存在の自分が

彼女という太陽に依存しては、いけない。
また、彼女自身も、自分のような者に依存してはいけないのだ。

255 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:09:52 ID:cEOPo.UM0

せめてクーには普通に人生を歩み、普通に幸せを掴み、
そしていつか子宝を授かる、そんな普通の人生を歩んで欲しいと願うようになった。

自らの罪悪感を切り離す為ではない、そう自分の胸に言い聞かせながら、
この日は朝から決意した事があった。

( ゚д゚ )「見えてきたな……ヴィップだ」

川*゚-゚)「おっきぃ街だなっ」

───夕刻 交易都市ヴィップ───

ミルナは何度か来たことがある冒険者宿、”失われた楽園亭”を今晩の宿にした。

川*゚-゚)「ふかふかのベッドが私を待ってるんだっ」

席に着くなり夕食を済ませると、早々にクーは二階の寝室へと上がっていった。

客もまばらになった夜分を見計らって、久方ぶりの酒に頬を紅潮させながら、
ミルナは宿のマスターへ、ある頼みごとをした。

( ゚д゚ )「………そういう訳だ、どうにか、頼めないだろうか」

(’e’)「まぁ構わんが……女々しい男だな、お前さん」

( ゚д゚ )「…………女々しい、か」

256 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:10:16 ID:cEOPo.UM0

マスターが言っている事の意味は分かる。
確かに、クー自身がおくびにも出そうとしない過去の出来事を、
彼女を傷つけまいと何よりも一番気に掛けているのは、自分の方なのだろう。

やはり自分は、罪悪感を切り離そうとしているだけに過ぎない。

今は純粋な笑顔を自分へと向けてくれる彼女に、いつかどこかで
自分を恨む気持ちが芽生える事を、恐れているのだ。

たとえそうだとしても───もはや決めた事だった。

少しばかり酔いの回った自分は、皿洗いをしていたマスターの前に拳を突き出す。
それに気づいたマスターも、濡れ手に拳を握ると、自分のものへと軽くぶつけた。

こちらの頼みごとを、快く承諾してくれた、その合図だった。

その後、泊まり客の誰もが寝静まった中、木板の階段をゆっくりと軋ませながら
二階へ上がると、クーが先に休んでいる寝室の扉をそっと押し開ける。

川 - )「むにゃ……」

( д )(……恨んで……当たり前だろうな)

その安らかな寝顔を見届けると、胸元から取り出した一枚の羊皮紙を
クーの眠るベッドの枕もとへ置いて、ミルナはまた静かに寝室を後にした。

( ゚д゚ )(だが……いつまでも共に過ごせる訳でも、ないんだ)

257 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:10:35 ID:cEOPo.UM0

────

────────

────────────

川 o )「ふぁ……あ〜ぁ」

翌朝クーが目覚めると、彼女はそこに、いつもの光景がない事に気づいた。
毎日自分より遅くに目を覚ます、ミルナの姿だ。

川 ゚-゚)「ミルナ………?」

いつも自分より遅く眠りについて、遅くに目が覚める、ミルナ。
そんな日常の光景が自分の周囲に見当たらない事に、若干の違和感を感じる。

川 ゚-゚)「買い物にでも……行ったのかな?」

あくびをしながら目を擦り、ベッドから出ようと手を伸ばした所で、
手元に膨らんだ麻袋と一緒に、書き置きのようなものがある事に気づいた。

川 ゚-゚)「あれ……なんだろう、これ」

ミルナが忘れていったのだろうか、麻袋の方には銀貨が随分な重量分
詰まっているようだった。普段金銭を見せびらかさないミルナが、
これほどの金額を持っていたのは知らなかった。

258 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:10:54 ID:cEOPo.UM0

そして、傍らに置かれていた羊皮紙の文字に、たどたどしく目を通す。

川 - )「………え?」

羊皮紙に書かれていた全文を読み終えた時、ついぞ、そんな一言が口を突いた。
まだ幼さを残すクーには、そこに書かれていた現実が、一瞬理解できなかった。

受け容れる事が出来ないほどに衝撃的な内容が、一文字一文字に含まれていた。
何度も読み直し、一縷の期待を込めて裏面をめくってみるも、そこには何もない。

川;- )「嘘だよ!……そんなの、嘘だと言ってよ……ミルナ!?」

手紙の内容には極めて簡潔に、こう書かれていた。

259 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:11:16 ID:cEOPo.UM0


 ”目が覚めたら、この宿のマスターについていけ。

  身寄りが無いお前の面倒を見てくれる孤児院へ、案内してくれるはずだ。
 
  また、何か困ったら遠慮なくマスターを頼るんだ、彼の人柄は俺が保障する。”


また、手紙の最後は、こう締めくくられていた。


 ”それと───俺のようには、なるな”


川;-;)「こんなの……ひどいよ、ミルナ……」

数百SPもの銀貨と一枚の手紙だけをクーの枕元に残し、
ミルナ=バレンシアガは、彼女の元から立ち去ったのだ。

ミルナからの手紙には───極めて簡潔に、用件しか書きこまれていない。
しかしそれは紛れもなく、クーの人生を憂慮しての、苦悩を交えた決断だった。

260 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:11:50 ID:cEOPo.UM0

────それからしばらくして ”現在”────


────────


────

彼女に再び訪れた、大事な人が自分の元を去る悲しみ。
やがてその痛みが癒えて、また自分で歩き出せるようになるまでには、
やはり心の傷は大きく、幾月もの歳月を要した。

しかしその後の彼女はというと、悲しい過去を吹き飛ばすかのような
活発さに満ち溢れた女性となった。ちょくちょくヴィップの孤児院を抜け出すと、
女だてら、子供だてらに冒険者を志すという事は、周囲の人間に話していた。

15の時にはついに”失われた楽園亭”で依頼を受け、宿で帰りを待ちながら
頭を抱えるマスターの元に、初の依頼で見事に依頼完了の知らせを届けた。

その後もヴィップを拠点として、一端の冒険者と言えるだけの経験を重ね、
冒険者仲間の間でも、そこそこ顔の知れた人間となってきたようだ。

その彼女を、屋敷の階下で依頼を共にする同僚が、今も呼んでいた。

261 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:12:31 ID:cEOPo.UM0

「今行く」

そう階下の同僚へ伝えると、かつて父が書き上げた彼女自身の
肖像画を、置かれたイーゼルへそっと戻した。

ロアリア周辺の地質調査の依頼はもう完了しており、
あとは依頼人の元へと帰るだけだった。

その道すがら、変わることなくこの場所に建っていた自分の生家。
やはりこの家に来れば、様々な過去を思い出して複雑な想いを抱いた。

当然、あの人物の事も。

川 - )「(人は何度も挫けて……)」

川 - )「(……それでも、また何度でも歩き出せるのかな……?)」

川 ゚ -゚)「──────ミルナ」

旅を共にしたのは短い月日ではあったが、ミルナの存在は、
失った時を境に、日増しに彼女の中でさらに大きくなっていった。

それが、今こうして”クー=ルクレール”が冒険者として存在する理由でもある。

262 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:12:54 ID:cEOPo.UM0

─────

──────────

───────────────

旅の途中でたまたま通りすがった、自分の生まれた地。

同僚とともに屋敷を後にすると、振り返る事もなく、
クーは次の目的地である依頼人の元へ向かい、帰路を歩む。

川 ゚ -゚)(いつか……また会えるんだろう?)

心の中で呟き、どこまでも続くこの灰色の空を見上げた。
きっと、今もどこかの地を踏みしめているであろう、ミルナの事を想って。

────そうして、また彼女は歩き始めた。

263 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:16:01 ID:cEOPo.UM0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第0話(5)

        「行く手の空は、灰色で」


             ─了─

264 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 04:25:38 ID:cEOPo.UM0

明日、遅くとも明後日にはすいこーして1話を投下します。
2話は書きかけで、3話もちょっと話は考えてあるのでこれまでより早く投下できるといいな。

>>2-13 「序幕」
>>14-29 ブーン編 0話(1)
>>33-64 ショボン編 0話(2)
>>67-115 フォックス編 0話(3)
>>121-190 ツン編 0話(4)
>>191-263 クー編 0話(5)

となっとりやす。ブーン編の手抜きっぷりがすげぇ。

265 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 09:08:45 ID:erRXyL/MO
乙だっじぇ
地の文書き方好きだなあ

266 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 18:16:34 ID:XAtpXvSYO
乙!
こっから新章か、wktk

267 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 18:43:29 ID:LJ9JVpYg0
地の分がすごく好み・・・
何かものすごいスペクタクルになりそうですね
文章とか何気に参考にさせてもらいたい

268 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 20:46:33 ID:bQyh92m.O
読み終わった 
読むの二回目だったのに ショボン、ツン、クー、頑張れと感情移入しまった 
新章楽しみです

269 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/15(金) 21:40:29 ID:cEOPo.UM0
>>265-268
ちょいちょいうんこな文章になるこんな自分に……うれションした。
1話は正直、多分クソ。今日からの休日使って改修作業に入りやす。

だけど2話以降から少しずつ話からませて、面白くしていきたいな。

270 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:08:45 ID:qXDhOR0g0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

            第1話

         「名のあるゴブリン」

271 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:10:03 ID:qXDhOR0g0

ヴィップの街からおよそ2日を歩いた距離。
マスターによればそこに、”リュメ”の街はあるという話だった。

馬車を使えばわずか1日で辿り着ける道のりなのだが、
そんな贅沢な事は楽園亭のマスターに、朝晩と散々ツケで
飯を食わせてもらったブーンの懐具合では、出来ようはずもない。

己の見聞を広めるためにも、冒険者にとっては結局、自分の足で歩くのが一番なのだ。

この道は、リュメの街から交易都市ヴィップ、そこから更に北の城壁都市、バルグミュラーのある
ブルムシュタイン地方へと行商して歩く商人達が多く行き交う。

その為治安も悪くは無く、時折道すがらでは一般人の姿も目についた。

早朝に宿を出立してからというもの歩き続け、気づけば、
木々の合間からは漏れる陽光が、燦燦と頭上を照りつけていた。

( ^ω^)「暑くなってきたおね。もう、昼かお」

272 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:10:48 ID:qXDhOR0g0

これまで一度も休憩を挟むことなく、道のりにすれば、4分の1も踏破した所か。
ここらで少し休むとしようか、と近場の樹木にもたれて腰を下ろした。
身に着けていた腕甲や手甲の紐を緩め、熱の篭っていた身体に外気を取り入れる。

念の為、所持品なども再度点検しておいたが、問題無い。

毒にも薬にもなる”コカの葉”や、万一怪我をした時に塗りこむ薬草も常備している。
携帯する食料は、マスターからツケで貰い受けたわずかばかりの干し肉だけだが、
2日程度の道のりであればそれでも問題ないだろう。

何しろ、50spしか持たずに故郷の村を発ったはいいが、その後全財産の入った
銀貨袋を落として、ヴィップを目指して旅歩く3日もの間を、沢の水だけで飢えを
しのがざるを得なかったぐらいだ。

( ^ω^)(ありゃあキツかったお……もう御免だおね)

虫や鳥達の声を耳にしながら、そんなつい最近までの自分を振り返っていると、
向こうの方からどこか飄々とした長い銀髪の男がこちらへ歩いて来た。

273 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:11:43 ID:qXDhOR0g0

特に何も思わずその姿を見送ろうと思ったが、自分と目が合ったその男は、
「よう」と馴れ馴れしい口調で片手を軽く向けると、傍まで歩み寄って来た。

「ちょいと、隣に失礼していいかい?」

( ^ω^)「…………」

そう言って、突然自分の隣に座り込もうとするその男。

爪'ー`)「あぁ……その、なんだ」

ブーンの目には実際それほど危険そうな男には見えなかったのだが、
どんな時でも、多少の警戒心は持っておいた方が良い。

そして、自分でも気づかない内に彼に訝しげな視線を送っていたようだ。

爪'ー`)y-「まぁ、そう警戒しなさんなって」

「こいつで一服つこうと思っただけさ」と、一本の煙草を口にくわえると、
取り出した火打ち石を叩いて火を点け、上を向いて煙を吐き出した。

274 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:12:24 ID:qXDhOR0g0

爪'ー`)y-「あー……休憩してるとこ悪いね、邪魔だったか?」

( ^ω^)「いや───気にしないお」

どうやら、とても軽々しい口調ながら、悪い人柄の男では無さそうだ。
少しだけ強張っていた体の硬直を、片足を前に投げ出して、まただらりと解きほぐす。

爪'ー`)y-「お前さん、ヴィップから来たのか?」

( ^ω^)「そうだお。これから仕事の依頼を片付けに、リュメに行くんだお」

爪'ー`)y-「そいつぁ……俺と全く反対だなぁ」

( ^ω^)「ヴィップを、目指してるのかお?」

紙巻煙草の煙を深く吸い込みながら、その横顔を覗き込むブーンの視線に気づくと、
男はあどけない笑みを浮かべて、それをブーンに向ける。

爪'ー`)y-「ああ。実は、冒険者家業を始めようかと思ってね」

( ^ω^)「冒険者……それなら、僕も一緒だお!」

そういうと、銀髪の男は少しだけ幼さの残る笑顔に加えて、
一段と瞳を輝かせると、ブーンの元へと詰め寄ってきた。

爪'ー`)y-「へぇ……あんた、冒険者なのかい?」

275 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:12:51 ID:qXDhOR0g0

「それなら、武勇伝の一つでも聞かせてくれよ」
そう言いながら、彼はさらにブーンに向けてずいっと顔を近づけてきた。
瞳をどことなく煌かせるその姿は、冒険者という職業に対しての憧れが滲み出ている。

(;^ω^)「あ…いや……」

爪'ー`)y-「その鞘に納まった長物……見た所俺と歳も変わんなそうだけど、
     さぞかし危険な冒険の数々に挑んでるんだろうなぁ」

(;^ω^)「それが、違うんだお。実は僕もまだ駆け出しで、今は
       初めての依頼をこなそうとしている所……なんだお」

爪'ー`)y-「ありゃ……な〜んだ、そういう事か」

呟いて元の位置へ腰を下ろすと、銀髪はまた上を向いて煙を吐き始める。

爪'ー`)y-「初の依頼ね。ま、成功を祈るよ」

( ^ω^)「頑張ってみるつもりだお」

「さてと……」と身体を伸ばしながら重そうに腰を上げると、
銀髪の男は葉巻を地面へと指で飛ばし、休憩を終えたようだ。

そこで、思い出したかのように、また質問が飛んできた。

爪'ー`)y-「そういやさ、ヴィップでおすすめの冒険者宿ってあるか?」

276 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:13:21 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「”失われた楽園亭”だおね……料理も旨くて、最高だお」

爪'ー`)y-「なるほど……参考になったぜ。ありがとな」

「”フォックス”ってんだ」
煙草を靴の裏でにじり消しながら、ブーンに言葉を投げかける。

爪'ー`)「またどこかで会うことがあれば、そん時ゃよろしく頼むぜ」

( ^ω^)「”ブーン”だお。また、どこかで……」

こちらへ視線へ向けながら肩越しに一度親指を立てると、
来た時と同じように、自分が歩いてきた方へと去っていった。

その背中を見送り終えると、取り外していた装備品を、再び身に付ける。

あまりぐずぐずしてもばかりいられない。依頼人の心証を損ねて
報酬が減額されるなんて事になって、マスターへのツケの支払いが
滞ってしまったら目も当てられない。

( ^ω^)「さて……明日の分の道のりも、前倒してしまうかおね」

所々が縫い合わせられ、かなりの使用感が滲み出ている麻袋を
背中に背負うと、ブーンもまた再びリュメの街へと繋がる道を、歩き出した。

277 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:14:37 ID:qXDhOR0g0

────【リュメ】────


その後の道中では、一度の野宿と3度の休憩を挟みながら歩き続けると、
少し深くなってきていた森を抜けた先で、ようやくその光景は広がった。

リュメの街───山間部にある街で、かつては歓楽街とも呼ばれていた。
当時この小さな集落で集まり、今日のリュメへと開拓していった人々から、
多くの人々が移り住み、繁栄する事を嘱望されていたからだ。

だが、今となっては盗賊ギルドが幅を利かせており、
夕刻には宿の前で客を呼び込む、多数の娼婦達の姿が見られる。

富は一部の成金に集約され、多くの者は貧しい生活を強いられる為、非行へと走る若者も多い。

ヴィップのように煌びやかな建物はほとんど無く、
家々も小ぢんまりとした平屋ばかりが多く立ち並んでいる寂しげな景観。

やはりヴィップと比べては数段も寂れた印象を受ける町並みではあるが、
そこらへ腰を下ろして談笑している人々や、店に呼び込もうとする商店の
主らからは、爽やかな活気が生まれているのを感じる事が出来る。

( ^ω^)「さってと……依頼人を探すとするかおねぇ」

278 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:15:13 ID:qXDhOR0g0

冒険者として、手引きに沿った忠実な行動を取る事とする。
依頼を受ける為に依頼人にその仕事の内容を聞き、そこで受諾するかの判断だ。

さほど広くは無い街だが、名前しか聞かされていないその依頼人を、
まずは聞き込みによって探し出さなくてはならない。

そこらで走り回っていた少年達を呼びとめ、声を掛ける。

( ^ω^)「あー、フランクリンっていう人を知らないかお?」

ブーンの言葉に首を傾げる少年達だったが、一人が
ぱっと閃いたかのように、言葉を返した。

「ここいらの大人たちはみんなお酒が楽しみなんだ、酒場に行ったら分かるかもよ」

( ^ω^)「酒場……ちなみに、それはどこにあるかおね?」

「”烏合の酒徒亭”だったっけ……あれさ」

そう言って指差す先を見やると、目と鼻の先にあった酒場の看板を確認する。

( ^ω^)「おっ……ボク達、ありがとうだお!」

「ちぇっ、駄賃もくれないのかよ」

そうこぼした子供達に大きく手を振り、ブーンは颯爽と酒場の中へと入って行った。

279 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:16:00 ID:qXDhOR0g0

────【烏合の酒徒亭】────

冒険者宿では多くの街で見られる形態である酒場、兼、宿。
だが、どうやらこのこの酒場では依頼の受付などを兼ねてはいないようだ。
あくまで酒を飲ませる食事どころとして、商いをしている。

(;^ω^)「活気ある店だおね」

厨房ではマスターがせせこましく鉄鍋を振るい、炒め物をする姿。
その必死な姿には鬼気迫るものがあり、一見の客である自分などには
酒など頼みづらい雰囲気がビリビリと伝わってくる。

( `ハ´)「…らっしゃいアルーっ!!適当にそこらにかけてくれアルっ」

こちらの姿に気づいた店主が、大きな火力を御しながらこちらへ叫ぶ。

手持ちに一枚たりとも銀貨を持ち合わせていない自分は、
早々に用件を済ませて立ち去るのが得策だろう。

そそくさと卓を囲んで酒を飲んでいる数人に、聞き込む。

( ^ω^)「あの……」

( "ゞ)「ん?」

280 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:16:39 ID:qXDhOR0g0

ブーンの言葉に振り返った、一人の男。
目を病んでいるのか、少し白く濁った瞳のその男は、
しかししっかりとブーンの瞳を見つめながら、受け応える。

( ^ω^)「この街で、フランクリンって人を知らないかお?」

( "ゞ)「……お前さん、ここいらで見かけないツラだな」

( ^ω^)「仕事の依頼でこの街に来た、冒険者なんだお」

( "ゞ)「ふぅん……まぁ、いいけどな」

「さ、出しな」

そう言って手を上に向けて差し出し、わきわきと握っている。
ブーンには最初、その行動の意図する所が理解できなかった。

( ^ω^)「………おっ?」

男の手と、その顔を幾度か見比べた後、小首を傾げるブーンは、
それが握手を求めているものだと理解して、手を差し伸べようとする。

そのやり取りの最中苛立ちを募らせた男は、席に踏ん反り返って、椅子ごと向き直った。

281 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:17:40 ID:qXDhOR0g0

(;"ゞ)「だぁぁーっ!……わっかんねぇ奴だな、情報料だよ、情報料!」

卓を囲む男達の服装をよくよく見てみれば、胸元にナイフを忍ばせる者、
また腰元には様々な開錠鍵や、小道具をぶら下げている者などもいる。

皆一様に細身の身体つきだが、かと言って無駄な脂肪も感じさせない。
ぴっちりとした黒のベストに身を包み、様々な小道具を隠し持っているであろう
その雰囲気から、彼らがかの”盗賊”という人種か、という事にようやく思い至った。

( "ゞ)「見てわかんねーか?俺らは、盗賊ギルドのもんだ」

(;^ω^)「……盗賊ってのは、そんな事ぐらいでお金取るのかお?」

( "ゞ)「あぁ、慈善事業なんてやんねーぞ。こちとら情報は命なんだぜ?
    対価も払わない奴にゃあ、知ってる事も教えられんね」

確かに正論かも知れない、とブーンは思う。

ここまでの旅をしてくるにあたり、正しい情報というものの重要さは、
山道で幾度も道を間違え、極限状態に近い状態にまで追い込まれた自分にしてみれば、
やはり重要なものだという事が、骨身にしみて感じていた。

通常、盗賊ギルドのネットワークを生かした収入源の一つとして、
情報というものは冒険者達などに向けて売り買いされてもいるのだ。

282 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:18:21 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「その……フランクリンの情報ってのは、いかほどだお?」

( "ゞ)「払う気があるのは結構な事だ。そんぐらいならまぁ……3spでいいぜ」

(;^ω^)「3sp……あいにくと、こちらは1spも持ち合わせていないお」

( "ゞ)「あー、だったら帰った帰った。自分で探し───」

( ^ω^)「だから、せめて───”これ”で勘弁して欲しいお」

そう言って、麻袋から取り出した干し肉を手づかみすると、
ひらひらと手を払う盗賊の手を取り、その中へ直に握らせた。

一瞬あんぐりと口を開け、ブーンと、自分の手の中の干し肉を見やる盗賊。

( "ゞ)「……なんだ?こりゃあ」

( ^ω^)「干し肉だお……僕が今晩夜食にするはずだった……大事な大事な……」

(;"ゞ)「お前……こんなもんで……」

あきれ返って言葉も出ない、といった彼の言葉を遮って、人目もはばからず
”こんなもの”と言われた干し肉を指差し、急に怒気を荒げるブーン。

283 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 01:19:01 ID:qXDhOR0g0

( #^ω^)「こんなもんとは何だお!マスターが作ってくれたこの干し肉は
       この上なく風味豊かで、外側はカリカリながらその実、中は───」

(;"ゞ)「あー………面倒くせ。もういい、分かった分かった!
    教えてやるから、とっとと俺の前から消えてくれ」

握らされた干し肉の旨みを熱弁し出したブーンに、完全に調子を崩したようだ。
盗賊は頭を掻きながら、渋々ながら指先で外の通りを描くと、道案内を始めた。

( "ゞ)「酒場を出たらそこの通りを突き当たって、左手の角から3軒目の裏手だ……」

( ^ω^)「おっおっ!そこがフランクリンさんの家かお?」

( "ゞ)「あぁ……面倒くせぇからとっとと行ってくれ。
    お前さんの顔見てたら、なんだか酒がまずくなりそうなんでな」

( ^ω^)「恩に着るおっ!」

(;`ハ´)「あっ、あんた注文もせずに帰るアルかーッ!」

”烏合の酒徒亭”のマスターの怒号をその背中に受けながら、必要なだけの
情報を受け取ったブーンは、来た時と同じように、颯爽と酒場を後にした─────

284 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:08:49 ID:.XiQnGG.0
支援

285 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:17:08 ID:qXDhOR0g0
一休みしてる間に支援が!

286 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:18:07 ID:qXDhOR0g0

───【フランクリン宅 前】───

あの男に教えられた通りの道順を辿ると、言っていた通りの場所に
外壁の表面が少しだけ剥がれ落ちた、寂しげな邸宅があった。

盗賊というのも、なかなか話せる人種ではないか、とブーンはその場で一度頷いた。

早速、話を伺うべくドアをノックしてみた。

見ず知らずの他人の家に上がりこむのだ、仕事を請け負う以上、
最低限の礼儀は欠かしてはならないだろう。

( '_/') 「はい?」

身だしなみを確認している内に、扉を開けて出てきたのは利発そうな一人の男性だ。
こちらと目が合うと、それだけでブーンが訪問してきた意図を察したらしい。

( '_/')「もしや、失われた楽園亭の冒険者の方ですか……?」

( ^ω^)「その通りですお。その件で、お話を聞かせて聞かせてもらえますかお?」

( '_/')「そうでしたか……!さぁ、中へお入り下さい」

家の中は、外からも想像できる通り殺風景な作り。
無駄な物は置かれておらず、切り詰めた生活をしているのか、生活臭は希薄だ。

287 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:18:48 ID:qXDhOR0g0

依頼人のフランクリンの案内に従うまま、応接用の小さなソファに腰掛ける。

( '_/')「ご挨拶がまだでした、私は依頼人のフランクリン。そして……」

ノ|| '_') 「妻のマディです」

( ^ω^)「冒険者の、ブーンですお」

依頼前にしっかりと依頼内容、また報酬の内容などを確認しておくのは重要な事だ。
一言一句聞き漏らさず、依頼が終了した際にトラブルなどを起こさぬためにも。

そう思ってか、ブーンは座り直してしっかり話を聞く体勢に入った。

( '_/')「依頼内容というのは、ゴブリン退治なのです」

( ^ω^)「あの……下級妖魔のですおね」

ゴブリンというのは、大陸全土の至るところに出没する妖魔だ。
基本的には非力で、体格も人間の子供ほどのものだが、武器を用いる頭脳はある。
また繁殖力が強く、常に群れを成して行動している事から、時に人間が襲われる事もある。

もっとも、ゴブリンがらみで一番多いのは、家畜や農作物への被害だが。

( '_/')「えぇ。このリュメの西側にある森、その奥にぽっかりと穴を開けた洞窟があるのです」

( ^ω^)「その洞窟の中のゴブリンを一掃する、それが、依頼内容ですかお?」

288 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:19:23 ID:qXDhOR0g0

( '_/')「ですが……その、生息しているゴブリンの数までは把握出来ていないのです」

ノ|| '_') 「5〜6匹、いえ、もしかしたらそれ以上いるかも知れません」

( ^ω^)「………」

そこまで話を聞いてから、一度考えを整理する。

通常、村で生活している人間がゴブリンのような下級妖魔に襲われて命を落とすという話はあまり聞いた事がない。
クワや棒切れなどを持った農民などでも、十分に対抗できる程度の相手だからだ。

まして、冒険者として行動する上で自分の身を守る手段の一つに、剣を帯びるブーン。
なおさら、立ち向かう事の容易な相手だろう。

いかに武器を用いる知能があるところで、人間の子供程度の体格しかない妖魔だ。
しかし、いち早く解決してもらいたい依頼人としては、依頼が断られるような危険が潜んでいるとして、
それをわざわざ事前に冒険者へ伝えるような事は、よほど良心のある人間でなければしないだろう。

”依頼前の受け答えで、依頼における依頼人の本意を見抜く”
したたかさを持った熟練の冒険者は、危険の潜む依頼を避けるためにそうあるべきなのだ。
もちろん、使命感や誇りを持って、逆にそういった依頼を拒まない者も一部には居るが。

289 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:19:55 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「それを……この街の領主には、訴え出たりはしなかったんですかお?」

( '_/')「以前から、私達は何度も訴え出ました。ですが、領主に謁見する事もままなりません」

ノ|| '_')「何度行っても門前払い……、領主は、このリュメなどどうなってもいいのです」

( '_/')「そう、富はあるべき所へ集められ、凋落の一途を辿るばかりの私達の生活など……」

( ^ω^)「………」

事情を聞いているうち、フランクリンの話に熱が入りかけたところで、
一歩引いて冷静に話を伺っていた自分の視線に気づき、彼はまた平静を取り戻した。

( '_/')「失礼しました……無関係のあなたに、お聞き苦しい事を……」

( ^ω^)「気にしてないですお。事情は大体理解できましたお───で、確か報酬は」

ノ|| '_') 「無事依頼を終えて戻られた際には200spを。私達の今持てる蓄えの、全てです」

290 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:20:20 ID:qXDhOR0g0

依頼の内容に不満は無かった、一人とは言え、たかだか下級妖魔のゴブリン。
5〜6匹までなら、よほどの事が無ければ命を落とすほどの危険はないはずだ。
だが、話を聞いてる内にふと生まれた一つの疑問が、どうしても気になって止まない。

それは、領主に直談判にまで行って、西の森のゴブリンを退治する”理由”だ。
冒険者としてのあるべき本分よりも、好奇心の方がやや勝り、それを尋ねてみた。

ノ|| '_')「それは、あなたから……」

( '_/')「ふむ……お聞かせします、なぜ私達がゴブリン退治に拘っているのかを───」


─────

──────────

───────────────

291 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:20:53 ID:qXDhOR0g0

───【リュメ 西の森】───

結局、あのフランクリン夫妻の依頼は引き受けた。

これまで安らぎながら旅歩いてきた時と違い、今はこれから達成しなければならない
依頼に向けて、身体中をほどよい緊張感が支配している。

旅の疲れはもちろんあるが、まだ日の出ている今日の内に依頼を終えてしまいたかった。

森の中ほどまで歩き続けたところだろうか、鬱蒼と生い茂る木々を掻き分けた先に、
少し開けた岩場が見えた。どうやら、これが夫妻の言っていた洞窟のようだ。

ブーンのすでに歩調は慎重になっている。
木々に背を持たれ、身を隠しながらゆっくりと洞窟へと近づいてゆく。

( ^ω^)(外側からじゃ……中の深さはうかがい知れないおね)

遠巻きにぽっかりと口を開けたその洞窟の入り口を覗き込んでいると、
そこから緩慢な動作で姿を表した存在を視認して、すぐさま頭を低くかがめる。

( ^ω^)(………!)

洞窟の入り口からその姿を現したのは、緑色の肌に、窪んだ眼窩の奥で赤く濁った瞳。

────1匹のゴブリンだ。

292 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:21:19 ID:qXDhOR0g0

歩哨としての役目を担っているのだろうか、洞窟の周辺へと目を配っているようだ。
集団で生活する習性を持つゴブリン達は、同じ種同士でこういった連携を取る習性がある。

(#℃_°#)「キキッ」

雑木林に囲われた場所だが、入り口までの距離には木々が少なく、洞窟側からは開けた視界。
それにより、洞窟内に篭って外敵から身を守る側としては有利だろう。

( ^ω^)(まだこちらには気づいてないようだお……)

茂みに身を隠しているブーンの姿は、今はまだ歩哨の一匹には視認されていない。
だが、気弱なゴブリン達の事だ。もしその姿が見つかれば、すぐに仲間達へ報せるだろう。

そうなれば、洞窟内で多数のゴブリンに迎え撃たれる可能性がある。

( ^ω^)(最善なのは、仲間の誰にも気づかせずに排除する事……だおね?)

背の鞘から抜きかけていた剣を一度しまうと、手近な石ころを掴み取った。
歩哨の動きに注視し、機を見計らいながらそれを手元で弄ぶ。

そして、洞窟側へと歩哨が背を向けた瞬間に、その石を少し離れた茂みの奥へと投げ込んだ。

293 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:21:51 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°#)「キキッ……!」

がさがさと枝の何本かを揺らしながら、石ころはブーンの目論見どおり、
ゴブリンの注意を引く事に成功したようだ。

( ^ω^)(………よし)

音がした方の様子を見ようと、歩哨が洞窟の入り口から離れ、ブーンに背を向ける。
その隙を突いて、出来る限り音を立てずにその場から駆け出した。

(#℃_°#)「………キキィ?」

先ほど石ころが投げ込まれた茂みの方を眺めながら、ゴブリンは首を傾げている。
───その背後に立ち、鞘からゆっくりと長剣を抜き出すブーンの存在に気づくことも無く。

(# C_ ;#)「キ────グゲゴッ!」

そして、胴と首が分かたれる瞬間に一寸呻き、すぐにその身は倒れ伏した。

(;^ω^)「………まず、一匹」

294 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:22:18 ID:qXDhOR0g0

妖魔とは言え、剣で何かの生き物の命を奪うのは、やはり良心が咎める。
降りかかる危険から身を守る為に今までも幾度かあった事だが、今は依頼の達成だけを考えなければならない。

刃に付着した血を、剣を振るう事で地面へと払い落とした。
ここからは中に入ればすぐに戦闘が控えているかも知れない。

心に迫る鈍い感情を押し殺しながら、剣を片手に携えたまま、ブーンは洞窟内へと足を踏み入れた。


────【ゴブリン洞窟 内部】────

壁面沿いに身を隠しながら、ゆっくりと深部へと進んでゆく。
まだ外は日が出ている為、わずかながら日の光が洞窟内にも届き、差し込んでいる。

だが松明などの明かりを持って来ていない為、日が沈むまでにはカタをつけなければならない。

( ^ω^)(思った以上に、暗いお)

壁を手で伝いながら、逆の手で握る長剣の柄には力が入る。
いかに最下級の妖魔とは言えど、その巣の中にいるのだ。

295 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:22:46 ID:qXDhOR0g0

『ゴブリンといえど、油断はできんぞ』
ヴィップを発つ前に、そう自分に忠告してくれた楽園亭の冒険者宿のマスターの言葉が、不意に頭を過ぎる。

しかし、ここまでは順調。
誰にも気づかれずに住処の中へと侵入できたのなら、後は隙あらば一網打尽にする機会もある。

だが、洞窟深部への注意をし過ぎるあまり、足元への注意が散漫になっていたのだろう。
ぱきっと音を立てて、靴底でかすかに枯れ枝がへしゃげた感覚が伝わった。

気を取られる事なく歩き続けようとしていたブーンのすぐ近くから、それに反応が返ってきた。

「キキッ………?」

自分の腹下あたりだ。
声の方向に、すぐに視線を落とした。

(;^ω^)「………!?」

(#℃_°#)「────キッ!」

出会い頭だ、一匹のゴブリンに姿を見られてしまった。

なまじ体格が小さなものだから、すぐには気づく事ができなかった。
向こうもかなり驚いていたのか、自分の姿を見上げながら、目を剥いていた。

すぐにブーンに背を向けると、仲間を呼びに行こうと走り出している。

296 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:23:19 ID:qXDhOR0g0

(; ω )(させ………ないおッ!!)

ここで逃げられれば、後々大きな不利に働くだろう。
逃がす訳には、いかない。

大きく踏み込んで、がむしゃらな体勢から右腕一本で長く突きを繰り出した。

(# C_ ;#)「……ギ……ゴォ」

辛うじて刃が届くか届かないか、ぎりぎりの所だった。
首の後ろから差し込まれた長剣の刃は、そのままゴブリンの喉元を刺し貫く。

ばたばたと暴れさせていたその手足から、すぐに力は抜けていった。

(; ω )「ふぅ………これで、2匹」

夫妻の話ではあと3〜4匹かも知れないが、ここは多く見積もっておくべきだろう。
中に入ってみて初めて分かったが、外から見るよりも、かなり広々とした洞窟だ。

これまでは一本道だったが、どうやらこの先は道が枝分かれしている。
その先が部屋のようになっているとしたら、どこかで複数のゴブリンに遭遇してもおかしくない。

一匹一匹の固体は弱いといえど、武器を扱う知能もあるだけに、やはり油断は出来ない。

297 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:23:44 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)(………東の、方からかお?)

次にどう動くべきかを思案している内に、ごそごそと聞こえる何かの物音に気づいた。
どうやら、複数のゴブリンが一部屋にまとまっていると考えて、相違なさそうだった。

( ^ω^)(上手く不意を突いてやれば……一網打尽に出来るかも知れないお)

ゆっくりと、音の聞こえた方へと歩を進めてゆく。
その先にあったのは、大人一人が通るのがやっとのような、一つの縦穴だ。

当然ながら、中の様子は伺えない。ここまでくれば日の光もほとんど届かず、
あとは暗くおぼろげな視界の中で剣を振るうしかない。

( ^ω^)(………初っ端から、打って出るかお?)

身を屈めながら、その縦穴へと身を潜り込ませてゆく。
ここにたどり着くまでに、自分という侵入者の存在には気づいていないはずだ。

事態を把握されるより前に、派手に暴れるもよし。
出来るだけ気づかれないように、一匹ずつ仕留めるのもよし。

そう考えている内に、縦穴の出口にたどり着いたようだ。

298 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:24:06 ID:qXDhOR0g0

────思った以上の静けさ。

中のゴブリンは寝てでもいるのだろうか、そうであればありがたいが。
一瞬気後れはしたが、思い切って部屋の中へと躍り出た。

ようやく動きやすい体勢になり、しっかりと両手で剣を握り締める。
まだ完全に洞窟の暗さに慣れていない眼を皿にして、辺りを見渡す。

( ^ω^)(………いない?)

おかしい、先ほどは確かに物音が聞こえたはずだ。
──ーなのに、一匹のゴブリンの姿も見えない。

とんっ

しばし呆然としていたブーン。
その足元へ、何か小さなものが当たった音が聞こえる。

(;^ω^)「………矢?」

地面に突き刺さっていたそれを見た時───すぐに、頭の中では警鐘がかき鳴らされる。

(#℃_°#)「キキッ!!キキーッ!」

299 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:24:30 ID:qXDhOR0g0

視線を再び上げた瞬間、ようやく今自分が置かれた状況に気づく。
あまりにも───遅すぎた。そう思う余裕すらもなかった。

暗闇の中自分を見下ろす、幾つもの赤い瞳。

それに紛れて輝きを放つのは、自分を目掛けて引き絞られる弓矢の、矢じりだった。

(;`ω´)「ッ───おおぉ!」

すぐさまその場を横っ飛びに飛びのいて、狙いを逸らす。避ける事が、出来た。

ほぼ同時に、先ほどまで自分が立っていた位置を次々と穿つ矢を見て、背中からは冷や汗が噴出した。
まさか、弓矢まで扱う種族だとは思わなかった。

だが、それよりも───

(; ω )(こっちの侵入が、感づかれていたのかお…?)

最下級妖魔と侮り甘く見ていた驕り、やはり、それが自分の中にあったと言わざるを得ない。
だがそれに関しての反省は、この場をどうにかして切り抜けてからだ。

300 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:25:00 ID:qXDhOR0g0

また次なる矢が降り注がれるかと思い身構えたが、それはなかった。
今度は、目の前から2〜3匹のゴブリンが一度に駆け出して来ていた。

(#'℃_°'#)「グオオォッ!」

木製の棍棒を持つ一匹は、傍目からもわかる程に明らかに巨躯。
恐らくは、これがリーダー格のような存在だろう。

狙う相手は、既に決まった。

(#^ω^)「ふおおぉッ!!」

巨躯のゴブリンは、一直線に自分の元まで来るとすぐさま棍棒を振り下ろした。
だが、避けるともせず、その腕ごと両断するつもりで、ブーンもまた剣を振り上げる。

(#'℃_°'#)「グ……ゥッ!」

だが、ブーンの一刀は棍棒の中ほどまで刃が食い込み、止められた。

並みのゴブリンの打ち込み程度であれば棍棒ごと叩き斬る自信はあったが、
他の倍はあろうかという体格のこのゴブリンは、ブーンの膂力を耐え凌いだのだ。

(;^ω^)「………っ!」

301 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:25:31 ID:qXDhOR0g0

人並み以上の腕っ節の他に誇れるものはない、自分の打ち込み。
それがゴブリン風情に凌がれた事実が、ブーンの心の中に焦燥を産み落とした。

このまま剣が封じられてしまう事を恐れ、すぐに力を込めて剣を引く。
捻りを加えながら乱暴に引っ張ったが、棍棒を手放させる事は出来なかったようだ。

(#'℃_°'#)「……ガウゥ……!」

ゴブリンの群れに紛れ、怯んだリーダー格が後退していくのが見えた。

ゴブリンというのは極めて気弱な種族だ、拠り所となる存在がいなくなれば、
その下っ端たちは士気が下がり、混乱を与える事が出来たかも知れない。

だが、今の好機を仕損じてしまったのは、いかにも痛い。

舌打ちしていたブーンの両側面からは、すでに手斧をもったゴブリンどもが迫っていた。

(#^ω^)「来いお!」

弓矢による攻撃は怖かったが、味方がこれだけ近くに居れば撃てないだろう。
気迫を込めた言葉とは裏腹に、頭の中ではまだ冷静にこの場での立ち回りを整理出来ている。

302 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:26:01 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°#)「キキッ!キーッ!」

もっとも近くの左方の一匹に向き直り、剣を構えてじりじりと距離を詰める。
数では勝っているものの、ブーンの気迫に気圧されてか、後退している。

小さな石斧と自分の持つ長剣では、一対一では端から勝負にならない。

それゆえ後退を余儀なくされる一匹へと距離を詰めるが、背後から迫っている
もう一匹の気配を、背中越しに肌で感じ取っていた。

二匹のゴブリンに前後を挟まれているのだ。一匹に隙を見せれば、もう一匹に付け込まれる。

だが、それに対抗する策はあった。
この自分の身の丈ほどの長さを有する、長剣だからこそ成せる業が。

挟撃を真っ向から受け入れ、機を伺っていたのはブーンの方だ。

( ^ω^)(前後────)

(#℃_°#)「ゥ……ギキキィッ!!」

前方の一匹へと踏み込む素振りを見せた瞬間、背中に浴びせられるもう一匹の声。
一匹に気を取られたブーンの背後へ向けて、石斧を振りかざさんと飛び出している。

だが、まるで気にもくれず、ブーンはただ目の前の一匹に向き合い、深く腰を落とした。

( ^ω^)(────同時ッ!)

303 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:26:45 ID:qXDhOR0g0

思い切ったように、そのまま眼前のゴブリン目掛け大振りの横薙ぎを繰り出す。
ぶおん、と耳にまで聞こえる風切り音が、刃から唸りを上げる。

あまりに間合いが遠すぎたのか、あご先すれすれという所で────それは空を切る。

しかし、振るわれた剣の軌道は、半月を描いてもまだ止められる事がなかった。
半月はそのまま満月へと軌道を描き、ブーンの体の真後ろまで、全力で振り切られたのだ。

当然、背後まで迫っていたゴブリンは、背中に石斧を振るおうとしたばかりに
ブーンの剣の届く位置にまで近づいていてしまったのだ。

予想もつかない方向から襲い掛かった刃は、抵抗も出来ないままのゴブリンの上半身を吹き飛ばした。

(#^ω^)「───ふぅッ!」

その短い断末魔を聞き捨てながら、剣を振り回した反動を利用して、
身ごと大きく駒のように回転すると、そのままもう一度前方のゴブリンへと大振りを見舞った。

(# C_ ;#)「アバッ」

どうやら顎から上を吹き飛ばしたようだが、その確認は柄から手元へと
伝わった感触だけで十分だ。それよりも、すぐに残りへと対処しなければならなかった。

304 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:27:09 ID:qXDhOR0g0

二度満月の剣閃を描いたあと、こんどは勢いよく背後へと振り返る。

(#'℃_°'#)「ギィィッ!ギィッ!」

広場の中央に立っていたのは、先ほどのリーダー格だ。
剣の打ち込みによって欠けた棍棒を掲げて、叫びを上げていた。

( ^ω^)「………?」

”弓を射て”という合図か───そう思ったが、違う。
先ほどまで弓を引き絞っていたゴブリン達が、広場の上層に位置する高台から続々と降りて来ている。


 「ギキキィッ!」 (#℃_°#)

   (#℃_°#)  「ギキッ」  (#℃_°#)

   「キャキィッ!」 (#℃_°#)


その数、4〜5匹は居るだろうか。
リーダー格の一匹が、不利な今の状況を考えて、自分の身を守らせるつもりなのだろう。

305 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:27:41 ID:qXDhOR0g0

暗闇の中ではおぼろげにしか見えないそのシルエット。
その中に、これまでに倒してきたゴブリン達と比べて、違和感を覚える1匹の姿があった。

 /__\  
〈 (℃_) 〉「………」

腰みのを身に着けているだけの他のゴブリンとは違う。
僧侶などがよく着ているような、ローブを纏う一匹の亜種。

頭部が異様に肥大しているのか、頭に被っているフードも膨れ上がっている。

( ^ω^)「ッ…!」

そして、獣のように低く吼え声を上げる、他のゴブリンよりも細身なもう一匹の姿。

(ζ_/ )「うがううぅぅぅ……っ」

そして───広場の中心、自分の目の前には、総勢5匹ものゴブリンが集結した。

(;^ω^)(帰ったら……報酬の値上げ交渉、やってみるかお)

ため息をつく間も無く、それを生唾とともに飲み下した。
高台から降りて来たゴブリン達が、ブーンの前に散開してゆく。

306 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:28:06 ID:qXDhOR0g0

(#'℃_°'#)「ギィィィィィィッ………」

中央には、巨体の一匹。

 /___\  
〈 (℃_) 〉「………」

その後方には、ローブを纏った一匹。

やがて最後尾に控えたローブのゴブリンが、ブーンの方へを指を指し示す。
すると傍らに付き添っていた小型のゴブリン同様、リーダー格のゴブリンも動き始めた。

(#'℃_°'#)「ギィィィィィッ!!」

まず、リーダー格が襲いかかってきた。
大声で喚きたてながら、ただ闇雲に棍棒を自分の頭の上に振るい落とそうとしている。
仮にまともにもらってしまえば昏倒して、総出で袋叩きの肉塊にされるだろう。

だが、自分の剣のリーチの方が、遥か勝る。

(# ^ω^)「ふッ………!!」

今ばかりは、先ほどのように力比べをする余裕はない。
遠い間合いから浅い手傷を負わせるよりも、より確実に仕留めるための一撃が必要だ。

307 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:28:40 ID:qXDhOR0g0

腰を落とした状態で、ゴブリンの棍棒が届くぎりぎりの所まで、引き付ける。
寸前にまで迫ったその時を見計らって、後ろに引いていた剣を、横一文字に薙いだ。

(#'℃_°';#)「―――ギャッ、ブゥッ!」

ゴブリンの振るった棍棒は僅か届かず、耳元で唸りを上げるだけに留まった。
確認するまでも無いが、リーダー格のゴブリンの胴体には一本の赤い線が走っている。

傷口からぼたぼたと零れる血で地面を汚しながら、斬られた痛みに苦痛の呻きを漏らす。
その場でたたらを踏んではいる瀕死の状態ではあるが、手の中の棍棒はまだ離そうとしない。

(#'℃_°';#)「……ウ、ウゴォォォッ!」

(;^ω^)「!」

最後の力を振り絞ってか、もう一度棍棒を振りかざそうとしている。
剣を向けたまま、後方へ飛び跳ねて素早く距離を取た。

もう一度斬るべきか────そう逡巡しているわずかな間に、
低い断末魔を一度上げると、自分の血溜まりの中へ膝から崩れ落ちて、それきりだった。

(;^ω^)(よしッ、これで………!)

これで、残りのゴブリンの士気はガタ落ち───思惑では、そのはずだった。

308 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:29:20 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°#)「ギキィーィッ!」

2匹のゴブリンに既に接近されていたにも関わらず、一瞬剣を下ろしたのがまずかった。

右翼から回り込んで来た一匹が振るった、石斧。
それを自分の右肩へ叩き込む程の隙を、許してしまっていた。

(; ω )「ッ……うぐッ!?」

鈍い痛みが電撃のように右肩より下へと迸り、たちどころに機能を麻痺させる。
剣の柄を力強く握り締めていたはずの右手が、思うように上がってくれないのだ。

肉を断ち切るような鋭利さは無いにせよ、肉と骨の調度継ぎ目──当たり所が、悪かった。
骨を震わした衝撃は、もはや力を込めて両手で剣を振るう事をさせてはくれない。

(; °ω°)「!……うぐッ、おぉぉぉッ!」

それでも、左手一本で剣を振り回した。
自分の右肩に石斧を穿ったゴブリンの肩口から、胸元までを切り裂く。

目の前に残るのは、あとたったの5匹─────

309 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:30:13 ID:qXDhOR0g0

右腕を使えなくなる前と後で、随分と冴えない太刀筋になってしまったと、また舌打ちした。
鈍重なゴブリンであっても数匹同時に襲って来られたら、今のように反撃できるかは分からない。

左手一本で持つには、この長剣は重過ぎるのだ。

(;^ω^)(リーダーを倒したはず……なのになんで、逃げないんだお?)

重い感覚しかもたらさない右腕を宙にだらりと投げ出しながら、長剣の切っ先を突きつける。
その相手────ローブのフードを深く頭に被るゴブリンの口は、驚くべき言葉を紡いでいた。

 /___\  
〈 (℃_) 〉【──カラ、ダヲ ハシル…マリョク ノ ホン…リュウ 】

たどたどしいが、よく聞き覚えのある言葉だ。
はっきりとした共通言語もあるのかどうか分からない妖魔の口が発しているのは、確かに───

(;^ω^)「じ……人語、かお!?」

あまりの驚きに思わず大声を上げたその時に、気づいた。
取り巻きの雑魚ゴブリン4匹がまだ威勢を失っていないのも、群れの長の存在からだ。

先ほどの巨躯のゴブリンが助けを求めていたのは、このゴブリンに対してだったのだ。

310 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:31:04 ID:qXDhOR0g0

(;^ω^)(完全に……さっきの奴がリーダーだと、思い込んでいたお)

見れば杖のようなものしか持っていないが、先ほどの巨体が群れを守る”力”だとすれば、
このゴブリンは人語を解する程の知恵を持ち合わせ、”頭脳”として機能しているのだろうか。

本当のリーダー格がこのローブのゴブリンだと、遅まきながら気づいた。

人語を発するだけで驚きだが、群れを纏め上げる以上、他に何かしらの力もあるはずだ。
肥大化した後頭部以外はさほど他のゴブリンと体格差はないが、更に警戒を強める。

石斧の攻撃を受けた右腕の痺れは、すぐには取れそうに無い。
危機的状況であるが、この場を左手一本で看破するしかないのだ。

(;^ω^)(落ち着くお……あと5匹。それだけ倒せば……)

自分を負傷させて調子付いたか、4匹のゴブリンは自分の周囲をぐるぐると旋回しながら、
少しずつその包囲を狭めつつある。完全に四方を囲まれた状況にあって、左腕一本では
満足な力が入らず、さっきのような回転斬りを繰り出しても掻い潜られる危険性がある。

(;^ω^)(なら……本当のリーダー格がこいつと分かった以上、狙うは──)

311 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:31:27 ID:qXDhOR0g0

(#℃_°;#)「キィッ!?」

完全に包囲の距離を詰められて袋叩きにされる前に、頭を抑える為、危険を承知で一直線に駆け出す。

進路を塞ぐゴブリンはそれに身構えたが、走りこみながら、横腹を思い切り蹴飛ばして脇に転がす。
後ろから慌ててブーンを追いかけるいくつもの足音が聞こえたが、構っている暇などない。

狙いはただ一匹、ローブの一匹だけだ。
だが、ブーンがその目の前にまで迫った時、その場に異変が起きた。

(;^ω^)「な………!?」

何が起こっているのか───分かるはずも無い。
動揺し、思わず剣を振るのを躊躇してしまった。

光もほとんど差し込まないこの暗い洞窟の小部屋を白く染め上げる、光。
それがローブのゴブリンの手から放たれているものだという事を理解するのに、しばしの時間を要した。

その口からはまるで呪詛のように、人のものではない奇妙な声で、言葉が紡がれる。

312 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:32:07 ID:qXDhOR0g0

 /___\  
〈 (℃_) 〉「【チカラ…カタチ ナシ…マヲモッテ ウチ、ツラヌケ】」

刹那、ゴブリンの手の中で収束してゆく光は、瞬く間に凝縮し、形を為した。
それがやがて一本の矢のような姿を形作ると、その先端は、ブーンへと向けられていた。

(;`ω´)「まッ………」

急速に時間の流れが遅く感ぜられ、様々な考えが頭を巡る。
実際に見たことはないが、これこそ”魔法”というものなのだろうという事に、合点がいった。

魔術師といえば悪の代名詞。幼馴染達と、役柄を決めてそんなごっこ遊びをしていた。
無から有を生み出し、武器を持った人間であろうとも、いとも簡単に倒せてしまう術。

その術を───まさか、ゴブリンのような下級妖魔が使いこなすというのか。

故郷での憧憬が一瞬頭の中に過ぎると、走馬灯のようにまとわりついてきそうになった。
だが、それごと振り払おうと、左方へと全身を投げ出した。

飛んだ先は岩場だが、光の矢の軌道上を逃れるためだ、一も二も無く飛び込む。

(; ω )「────だおぉぉっ!」

313 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:32:41 ID:qXDhOR0g0

ほぼ、同時だった。

飛び出す瞬間、自分の立っていた位置を通り過ぎた光から、背中越しに強い熱を感じた。
光弾は影を引き連れながら、洞窟内部の闇を突き抜けてゆく。

一瞬の後、ブーンはしたたかに身体を岩場へと打ちつけ、全身の痛みに顔を歪めていた。
ほぼ無意識に素早く身を起こすと、追撃に備えて再び剣を手に取り、立ち上がる。

(# C_ ;#)「……ゴブッ…ギ……」

ブーンが身をかわした事で、その背後に居たであろうゴブリンの一匹が、光の矢に穿たれたようだ。
抑えている胸板には風穴が開き、一寸の間を置いて、大量の出血。

傷口を押さえながら力なく倒れるその姿を見ながら、背筋には冷たい汗が伝った。
もしあれを食らっていたら、自分もああなっていたのか、と。

だが、これが魔法なのだとしたら、二の足を踏んでいる場合ではない。
魔法を唱えるためには、前もって何かしらの手順が必要なはず。

(;^ω^)(さっきぶつぶつ唱えていたのが、必要な前準備……なのかお?)

もしそうだとするならば、少しの時間も与えてはならない。

314 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:34:24 ID:qXDhOR0g0

 /____\  
〈 (℃_;) 〉「グ………!」

ローブのゴブリンもまた、自分が放った光の矢が避けられた事に動揺を見せていた。
運良く同士討ちとなってくれた事もあり、残るゴブリンは雑魚を含めても───4匹。

再びあの魔法が来るよりも早く攻め込めば、もう依頼の達成は目の前にぶら下がっている。

(#^ω^)「───おぉぉッ!!」

全身の痛みを庇うよりも、剣を手に再びローブのゴブリンの元を目指した。。
ごつごつとした岩場で挫いてしまいそうな足を、ただ前へ前へと走らせる。

(#℃_°#)「ギキッ!ギキッ!」

そのブーンの進路へ、また一匹が立ち塞がる。

(#^ω^)「邪魔だおッ!」

重心が損なわれ、剣を振るった左腕に全身が振り回されるようになりながらも、一息にその首を刎ねた。
まだその場に立ち尽くす首から下だけのゴブリンを肘で押しのけながら、突き進む。

 /___\  
〈 (℃_;) 〉「【ッ…チカラ カタチ ナシ マヲ……マヲモッテ】」

315 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:35:15 ID:qXDhOR0g0

また、先ほどと同じようにあの言葉を紡いでいる。

既に自分はローブのゴブリンの眼前───剣の届く距離にあるのだが、
一刻を争う際どい状況に、会心の一撃を繰り出すためには左腕の力だけで剣を振るうのでは、足りない。

ついに至近距離で相対し、互いに目と目があった。

仲間を次々と倒した人間が、ついに自分の目の前にまで現れ、戦慄しているのか。
だが、ゴブリンの手からは再びあの光が、発現し始めていた。

 /___\  
〈 (℃_;) 〉「【ウチツッ…ツラヌ…ケェェッ!】」

(; °ω°)「────ふぅ……ッ!」

自分もまた、左腕に握った剣を肩越しに背中へと回していた。
上体を弓のようにしならせて、振りかぶった勢いをそのまま剣を振り下ろす力に変える。

魔法が発動するのと、自分が斬りかかるのとは、ほぼ同時だった。

316 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:36:35 ID:qXDhOR0g0

 /___\  
〈 (℃_;) 〉「――――――!」

(;`ω´)「──────!」

身体を貫かれる恐怖に抗うようにして、何かを叫んだような気がした。
そして────白い閃光は視界を奪い、目の前の何もかもを純白に、ただ塗りつぶしてゆく。



──────



────────────


──────────────────

317 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:37:08 ID:qXDhOR0g0

(;^ω^)「はは、は………生きてるお」

やがて光が晴れた後、その場にへなへなと尻からへたり込んだ。
残っていた雑魚のゴブリンは、いつの間にやらリーダーが崩れ落ちるのを目にして逃げ去ったようだ。

打ち漏らしたとはいえ、今回の依頼の達成には、全てを倒す必要はないだろう。

傍らで、天を仰ぐローブのゴブリンの表情を、じっと覗き込んだ。
まだ息はあるが、自分に切り落とされた右腕から大量に出血させながら、瞳は空ろ。
死ぬのも、時間の問題だろう。

(;^ω^)(たかが、ゴブリン……その認識を改める必要があるおね)

あの魔法が自分を貫くであろう一瞬、剣を振り下ろしながら半身になって、身をよじったのだ。

迸った閃光の矢が革鎧の腹を掠めて焦がしながらも、すんでの所で腕を両断した。
一撃で絶命させるには至らなかったが、それにより狙いも逸れた事が大きかった。

一人で洞窟に侵入し、待ち受けるゴブリンの殆どを撃破して、勝利を収めたのだ。
最後に控えていた、この魔法を使う一匹には心底驚かされたが。

318 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:37:43 ID:qXDhOR0g0

/ ___\  
〈( C_;) 〉「アァァ……ウヴグゥ」

( ^ω^)「………」

魔術を使うほどの妖魔の頭の出来ならば、もう自分の身に死が迫っているという事も分かるだろう。
苦痛の声を漏らしながら、時折もぞもぞと身体をよじって立ち上がろうとする姿に、複雑な感情を抱く。

絶対的な悪として、いつからか大陸各地で確認されてきた妖魔たちの存在。
決して相容れる事なく、共生の道を歩むことなど無い、人と妖魔。

だが、この大陸が人の統べる地として決めたのは、一体誰が最初なのか。

もしかすると、妖魔こそがこの大陸の先住民であり、その彼らの住まう土地を荒らし、
辺境へと追いやって繁栄を続けてゆく人間こそが────

( ^ω^)(───ま、僕もまた人間。同じ人間の悪口を言う資格は、ないおね)

そこまで考えて、思考を中断した。

319 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:38:30 ID:qXDhOR0g0

死に逝こうとしているゴブリンの姿を目にし、安っぽい感傷に浸りかけたのを、拭い去る。
誰の事であろうとも、つい深く首を突っ込んでしまいたくなってしまうのは、悪い癖だ。

彼らの境遇には同情を禁じえないが、妖魔とて人を襲うという事実を思い浮かべ、重い腰を上げる。
石斧で叩かれた右腕を軽く回してみると、どうやら感覚も戻りつつあるようだ。

( ^ω^)「……せめて、もう苦しまないようにしてやるお」

つかつかと目の前にまで歩み寄ると、両手でゆっくりと長剣を振りかぶる。

/ ___\  
〈( C_;) 〉「………」

もはや、抵抗する気力も無いらしい。
このゴブリンにとってはブーンは憎悪の対象でしかないだろうが、止めを刺してやるのは、
たとえ種が違えど、自分にとってのせめてもの情けだった。

(  ω )「………」

”どすっ”

320 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:39:17 ID:qXDhOR0g0

鈍い音を立てて、長剣はゴブリンの心臓を確実に貫いた。
最期には目を見開き、驚愕しきったような表情のまま、瞳は光を失い、完全に濁ってゆく。

これにて、ゴブリン退治の依頼は達成─────
仲間達も、もうこの洞窟へと帰ってくる事はないだろう。

死んだゴブリンに、そっと踵を返した。剣先に塗れた血を地面にふるい落とすと、肩へと担ぐ。
だが、どうやら最後にもう一つだけ、片付けなければならない仕事が残っているようだ。

( ^ω^)「さて………」

さっきも、一度だけちらりとその姿を目にした、最後の”一匹”。
それがブーンの目の前に立ち、獣のように唸っていた。

ζ°ゝ) 「うがううぅぅぅッ……!」

321 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:39:54 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「────君が、”ロベルト”君だおね?」

ゴブリン達とブーンがやりあうのを、先ほどからずっと遠巻きに眺めていた、彼。
だが、金色がかった髪の生えたゴブリンなど、この大陸全土を探してもいる訳がない。

なぜなら彼は─────人間なのだから。

( ^ω^)(まさか……)


─────話は、フランクリン宅で依頼の理由を確認していた時にまで遡る。


──────



────────────


──────────────────

( ^ω^)「なぜ、あなたがたはそれほどゴブリン退治にこだわるんだお?」

322 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:40:17 ID:qXDhOR0g0

ノ|| '_')「……あなた」

( '_/')「それは、私の口から……」

( '_/')「私達には───息子がいました。やっとの思いで授かった、太陽のような存在が」

妻のマディはフランクリンが話し始めると少し伏目がちになり、どこか遠くを見ているようだ。
フランクリンの話に頷きながら、少しだけその様子を気にかけた。

( ^ω^)「その、息子さんは?」

( '_/')「2年前の……ある日の事です。妻と息子は、西の森を散歩していました」

( '_/')「まだ5歳だったあの子は、久しぶりの遠出にはしゃいでしまっていたのでしょう……」

ノ||;_;)「……ロベルト」

( ^ω^)「………」

妻、マディが目に涙を浮かべて顔を手で覆う。
その様子からある程度の察しはつくが、またフランクリンの目を見据えて、話に耳を傾ける。

323 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:40:50 ID:qXDhOR0g0

( '_/')「突然横手の茂みから現れたゴブリンに、妻は襲われました。
      連れ去ろうとしたんでしょうが、幸い必死の抵抗により、事無きを……」

ノ||;_;)「ですが……その私の代わりに、あの子が……ロベルトがさらわれたんです!」

( ^ω^)「───それから、2年も……?」

依頼に関して、大体の理由は分かった。
そこから黙り込んで、手を膝の腕硬く握り締めながら視線を落とす夫妻の様子から、
彼らの心情は、痛いほどに伝わってくる。

( '_/')「恥ずかしながら、私の仕事は人様の靴磨き……それしか出来ません」

( '_/')「他所の街からわざわざこの街へ遊びに来る人など、そうはいない」

( '_/')「だから日に3枚から、多くても5枚の銀貨を稼ぐのがせいぜいの私達にとって、
      やっとの思いで貯めた、あなたにご依頼する為の200spは、全てなのです」

お世辞にも繁栄を謳歌しているなどと居えない、リュメの街。
誰も助けてはくれず、日々を耐え凌ぎながら生活し続けている彼らにとって、
冒険者を雇って依頼を頼むという事がどれほど大変な事なのか、理解する事が出来た。

( '_/')「だから……お願いします、あの子を───」

夫妻は恐らく必死で息子を探し、誰かに頼ろうともしたのだろう。
祈りだけでは通じない息子の無事を、どれだけ願ったのだろうか。

324 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:41:16 ID:qXDhOR0g0

ノ|| '_')「あの子の形見になるだけでも……あの子を、生まれたこの家に帰してやりたいんです」

冷静さを取り戻した妻の瞳が、しっかりとブーンの瞳を見据えていた。

彼らの頼みごとは、よく分かった。
一介の冒険者などに、よくぞここまで自分達の心情を吐露してくれたものだ。

( ^ω^)「分かったお」

なら────後は、自分がその気持ちに応えてやるだけだ。

( '_/')「それでは……!」

( ^ω^)「えぇ、依頼はお引き受けいたしますお」

ノ|| '_')「───よろしく、お願い致します」

( ^ω^)「だけど……こっちにも言っておかなければならない事があるお」

( '_/')「それは、何でしょう?」

325 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:41:50 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「僕は、今回が初の依頼。まだ、駆け出しの冒険者だという事……だお」

ノ||;'_')「え……そ、そうなんですか?」

( ^ω^)「だけど、必ず”ロベルト君を連れ帰り”、ゴブリンを殲滅してきますお」

( '_/')「………」

( ^ω^)「───こんな駆け出しの冒険者を、信じてくれますかお?」

わざわざ自分から、ずぶの素人だという事を露呈したのだ。

自分の依頼が”初依頼”などと言う事を聞けば、本当に難題を抱えた依頼人ならば、
受注する冒険者に怪訝な眼差しを向け、それを色眼鏡で見るのが普通だろう。

だがそんな事をわざわざ明かしたのは、ブーン自身、隠し事が苦手な性分の為。
それに、依頼人から本当の意味での信頼を得て────そこで初めて。

依頼を達成するために、自分の全力を傾ける事が出来ると思ったのだ。

326 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:42:22 ID:qXDhOR0g0

( '_/')「……勿論です。信じて、いますよ」

ノ|| '_')「私も、夫と同じ気持ちです」


─────


──────────



───────────────


( ^ω^)(まさか……生きていたとは驚きだお)

亡骸を見つけて、息子の形見だけでも手に入れるつもりだったフランクリン夫妻。

その夫妻の愛息子は、今自分の前に居る───
2年の空白の歳月を経て、確かに生きながらえていたのだ。

年の頃は7〜8歳といったところだろうか、失踪した年齢とも重なる。
そして、獣のように吼え声で唸るその姿に、一目でピンと来た。

育てられたのだ───ゴブリンに。

327 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:42:59 ID:qXDhOR0g0

そうでなければ、今こうして生きていられる訳などない。
ゴブリン達の子育てなど聞いた事もないが、さっきの人語を話す固体のように
知恵を持ったゴブリン達ならば、存外あり得る話なのかも知れないと思った。

( ^ω^)「ロベルト! ……助けに来たんだお、君を」

ζ°ゝ) 「……がうう!」

( ^ω^)(正気を、失っているのかお?)

名前の呼びかけにも、応じる事はない。
その様子から、こちらに完全な敵意を向けているのが見て取れた。
育ての親を殺された事に、憎悪を燃やしているのだろうか。

だが、並のゴブリンと比べても体格のさほど変わらぬ、人間の子供。
もし襲い掛かってきても、相手にするのはたやすいだろう。

問題は、彼を大人しく連れて帰る事が出来るのだろうかという事だ。

ζ°ゝ)「ふぅぅッ!!」

( ^ω^)「………」

視界の端から一瞬で消えると、闇の中へと紛れ込んだ。
その気配を目で追うが、大した速さを身に着けているようだ。

328 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:43:38 ID:qXDhOR0g0

闇の中をジグザグに走りながら、手にした石斧で自分の首を狙いに来ている。
ゴブリンなどよりよほど素早い身のこなしだが、かといって彼を斬る訳にもいかない。

ζ°ゝ)「うがぁッ!」

(;^ω^)「くっ!」

飛び掛ってきたその手を、辛うじて払いのける。
そのまま上半身に纏ったぼろな布切れの胸倉を掴むと、多少乱暴に地面へと引き倒した。

ζ; ゝ)「あ……あうっ」

(#^ω^)「大人しく……するおッ!」

剣を傍らに投げ捨て、彼の腕ごと腹の上に乗りかかった。
子供の割りには大した腕力、それでも自分の体格には抗うべくもないが。

(#^ω^)「君自身がゴブリンにでも……なったつもりかお!?」

ζ#°ゝ)「フシィィイッ!」

瞳をじっと覗き込みながら、言い聞かせるようにして頬を何度も強く張る。
だが、その顔はますます憎しみに皺を刻んでいくばかりだ。

329 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:44:50 ID:qXDhOR0g0

(;^ω^)(これじゃ……こんな状態じゃ……連れ帰っても)

歯をガチガチと強く噛み合わせ、威嚇しているのか。
獣と寸分違わぬ姿の彼、ロベルトの顔を覗き込みながら、ブーンは肩を落とす。

”もう一度人の世界に放り込んだとして、それがこの子の幸せになるのか?”

息子はもう帰ってこない、そう覚悟を決めていたフランクリン夫妻。
その彼らに今のこの子を差し出して、果たして本当に喜ばしい事なのだろうかと、己に問うた。

募る疑問は、依頼達成への最後の障害となって、降りかかっていた。

(;^ω^)「………」

傍に転がっていた長剣を拾い上げると、その柄に手を伸ばしてみた。

ここで彼を、殺すべきなのだろうか─────そんな考えが過ぎる。

まるで人が変わってしまったであろうこの子を、本当に解放してやるべきなのか。
それでも、ゴブリンに育てられた彼が、また元の普通の子供に戻れる日が来るとは限らない。

もっとも、こんな考えも当の本人にとってはただ身勝手な、周囲による傲慢でしかないが。

330 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:45:49 ID:qXDhOR0g0

ζ#°ゝ)「ぎぃぃぃぃーッ!」

だが、あえて─────

ロベルトの上体を踏みつけながら、剣を手にその姿を見下ろす。
あいも変わらず拘束から逃れようと四肢を暴れさせるが、ブーンの持つ長剣を目にして、
若干その顔色が変わったようだった。

ζ;°ゝ)「………う、うぁあ?」

ゆっくりと振り上げられてゆく剣に、ロベルトの身が強張り、表情が曇ってゆくのが分かる。
やがて後頭部にまで高く剣を掲げると、その剣先をぴたりと止めた。

ブーンの無表情から何かを感じ取ったのか、ロベルトの表情もまた、完全に凍りつく。

( ω )「化け物ごっこは、もう終わりだお」

ζ;°ゝ)「あ、あぅ……い……あ」

────────そして、剣は唸りを上げて振り下ろされた。


──────────────────


────────────



──────

331 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 02:47:14 ID:.XiQnGG.0
支援

332 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:27:35 ID:qXDhOR0g0

一瞬の火花を伴って、轟音が少年の耳を劈いた。
振り下ろされる瞬間に横を向いて目を瞑ったロベルトの、その眼前へとつき立てられた剣。

ζ;ゝ) 「……あ……ひぐっ」

彼の目には、本気の殺意を持って振り下ろされたものに見えただろう。

ブーンの剣は、確かに力強く突き立てられた───だが、それは頭一つ分方向を外れた、地面にだ。
それでも、年端もゆかぬ少年の下半身を、只ならぬ恐怖が湿らせていた。

静寂の中で堰を切ったようにして響き渡るのは、ロベルトの嗚咽。

それは、確かに彼がまだ人間である事。
恐怖を覚える人としての感情が残っている事を、証明してくれた。

たとえ人里に彼の身がうつされようとも、妖魔に育てられた彼だ。
受け入れられるどころか、周囲の人間達からは迫害されるかも知れない。

しかしそんな心配事も、彼の泣き顔を見た瞬間にどこかへと飛んでいってしまった。
この子供らしい元気な泣き声を聞いている内、きっとすぐに元の生活に溶け込める、そう感じたのだ。

それに─────たとえ周囲が白い目で見ようとも、この子の帰りを待ち望んでいる、両親が居る。

333 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:28:10 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「ロベルト……目を覚ますんだお」

泣き止まない少年の傍らにしゃがみ込み、その頭にぽんと手を置いて、言い聞かせる。
先ほどのように怒気を孕んだものとは対照的に、優しく、語りかけるように。

( ^ω^)「君は────”人”、なんだお?」

ζ;ゝ)「うぅ……うああぁぁぁぁぁんッ」

ぽんぽんと彼の頭の上で、手のひらを優しく上下させ続ける。
その作業は、やがて彼が泣き止み、大人しくブーンに手を引かれるようになるまで続けられた。

──────

────────────


──────────────────

彼の手を引き、洞窟の入り口を抜ける頃には、すっかり大人しくなっていた。

334 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:28:42 ID:qXDhOR0g0

外はもうとっぷりと日が暮れ始めており、今からリュメに帰れば夜だろう。
今晩は一晩ゆっくりとリュメで休息し、明日の朝ヴィップに発とう。

そう思い、洞窟へと何気なく振り返ってみた。

(#℃_°#)「………」

すると、洞窟の入り口の真上に位置する岩場のはるか高みに、一匹のゴブリンの姿があった。
敵意を向けるつもりはないのか、立ち尽くすブーン達を、ただ黙って見下ろしている。

さっきの戦闘から逃げおおせた、生き残りのゴブリンであろう。
沈みゆく夕日を背に、しばらく見詰め合っていたブーンとゴブリンを尻目に、ロベルトが言葉を発した。

ζ・ゝ)「────ばい、ばい」

彼もまた、その視線に気づいていたのだ。
手を振りながら、人間流の別れの挨拶を岩場のゴブリンへと送った事に驚いた。

( ^ω^)(お前たちが心配しなくても、この子はきっと幸せに育つお)

心の中で、自分もそう告げておいた。
ロベルトに対しての、親や兄弟としての感情というもの。

それは自分が知らないだけで、彼らの間には宿っていたのだろうか。

335 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:29:09 ID:qXDhOR0g0

それは自分が知らないだけで、彼らの間には宿っていたのだろうか。

(#℃_°#)「………っ」

口を動かし、何か呟いたようだが、それはここまでは聞こえてこなかった。
ゴブリンが自分達に背を向けて去っていったのを確認すると、自分もまた洞窟へ背を向ける。
依頼達成の報告をフランクリン夫妻へと届けるため、あざ道を帰路へと目指した────

ζ ゝ)「ばい、ばい」


─────

──────────


───────────────


────【リュメ】────

336 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:29:37 ID:qXDhOR0g0

街に入り、人の姿が目に入ると、ロベルトは急にブーンの手を振り払って暴れようとする。
だが、この子の両親の元へ連れていくまでは、決してこの手を離すつもりはない。

手甲に噛り付かれたりもしたが、痛そうに口を開けて泣きそうな顔をするのは、まだまだ子供の証だ。

( ^ω^)「さ……着いたお?」

ζ・ゝ)「………?」

どこか、懐かしいと感じているのかも知れない。
ドアの向こうで灯された明かりに、吸い寄せられるようにフラフラと歩いてゆく。

そこを、自分がノックしてやった。

「………はい!」

ブーンだと思ったのだろう、ドアの向こうで慌しく、こちらへと駆けてくるフランクリン。
がちゃ、とドアが開けられた時の彼の表情は、この時のブーンの脳裏に深く刻み込まれた。

( '_/')「! ブーンさ───」

337 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:30:13 ID:qXDhOR0g0

ζ・ゝ)「………あ」

(°_/°)「─────ん」

( ^ω^)「─────戻ったお、フランクリンさん。
       約束通り、”ロベルト君を連れて”」

その後のフランクリンの歓喜の様子は、凄まじいものだった。
夜分にも関わらず、近隣にも轟くほどの大声で、けたたましく妻を呼びつける。

( ;_/;)「マ……マディィィィーッ!!マディッ!」

ノ|| '_')「何ですか、あなたそんなに………!?」

玄関口に立つ、少しばかり背丈の大きくなった愛息子の姿を目の当たりにした瞬間、
彼女もまた口を手で押さえて、溢れ出す言葉をどうにか抑えとめていたようだ。

言葉をかける間も挟ませず走り出すと、ロベルトの前に膝をつき、その身体を力強く抱きしめた。

ζ>_ゝ)「あうっ!」

ノ|| ;_;)「あぁ……ロベルトッ!私達の、ロベルトなのね!?」

最初、暴れだすかとも思って待機していたが、以外にも母親に抱きとめられ、
その身をだらりと投げ出し、されるがままになっている。

338 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:31:03 ID:qXDhOR0g0

多少苦しそうではあるが、その表情にも次第に変化が見て取れる。

( ;_/;)「……まさか、まさか生きていてくれただなんてッ!」

目頭を押さえて、そこからも大粒の涙が伝うフランクリン。
その、両親ともが号泣している状況に釣られてか、あるいは───

ζ;_ゝ)「あ”ぁぁぁぁッ」

ついにはロベルトも泣き出し始めた、リュメの夜空。
フランクリン親子の泣き声の三重奏が─────響き渡っていった。

( ^ω^)(良かった……本当に、良かったお)

寄り添う三人に踵を返し、邪魔者は消える事としよう。
今夜は2年越しの親子水入らずを、ゆっくりと楽しんで欲しいものだ。

冷たい夜風が、火照った頬を撫で付ける。
心地よい涼しに、はたと星空を見上げてみる。

( ^ω^)(どこへでも繋がってるんだおね……この、空は)

339 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:31:47 ID:qXDhOR0g0

空で光り輝く星たちに、一抹の思いを馳せる。
柄にもなく詩的なフレーズが口から出てくるのは、依頼を無事達成した事に
舞い上がっている自分が、どこかにいるからだろうか。

( ^ω^)(ならブーンも、どこへでも行けるお………どこへでも)

そして彼の足は、今も背後で聞こえる泣き声に振り返る事も無く、再びヴィップへの帰路へと踏み出した。

──────


────────────


──────────────────

(;  ω )「………ッ!!」

(; °ω°)「いっけね!!」

340 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:32:13 ID:qXDhOR0g0

(; °ω°)「成功報酬!!」

(; °ω°)「もらってねぇおぉぉぉぉぉぉッ!!」


そして、すぐにばつの悪そうに引き返す事となった────

──────────────────


────────────


──────

それから、宿泊を促すフランクリンから成功報酬だけを受け取ると、泊めてもらう事は遠慮しておいた。
代わりに夫妻から、幾度もの感謝の言葉と、力強い握手を何度も交わし、この胸はそれだけで満足だ。

( ^ω^)「親子水入らずを、楽しんで欲しいお」

それだけ告げ、最後に泣き疲れて眠ったロベルトの寝顔を見て、安心して再び帰路へと発った。

341 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:33:02 ID:qXDhOR0g0

夜分にも関わらず、街を後にするブーンの姿が見えなくなるまで
手を振ってくれていた、フランクリン夫妻の姿が─────印象的であった。


そして、二日後。


────【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】────


(’e’)「───人の言葉を喋るゴブリン、ねぇ」

マスターは知っていたらしい。さすがは、様々な冒険者が集まる宿を切り盛りする店主だ。

ゴブリンの中にも様々な種類が居て、自分が相対したのは、数百匹に一匹の割合で
人間並みの知能を兼ね備えた、”ゴブリンシャーマン”というものらしい。
それならば、ロベルトを育てて仲間へ引き入れようとしていた行動にも、納得がいく。

( ^ω^)「いやぁ、もうびっくりしたお!ま、ブーンの敵じゃあなかったけどお、ね」

(’e’)「ま、所詮ゴブリンだしな」

342 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:33:43 ID:qXDhOR0g0

(;^ω^)「いやいや、それが10匹ものゴブリンに囲まれて……聞くも苦労、
       語るも苦労のドラマがそこにはあったんだお!」

(’e’)「おーおー、そりゃすごい。ま……俺の店の顔馴染みにゃあ、オーガ3匹に
     囲まれて、剣一本で全部倒しちまった奴もいるみたいだけどな」

(;^ω^)「オーガって、あの……人鬼オーガかお!?そりゃ、バケモンだお?」

(’e’)「こないだ俺の店に来てた……あのジョルジュって奴知ってるだろ。あいつさ」

(;^ω^)「あの人……そんなに凄い剣士だったのかお」

(’e’)「ま……勝てない相手に喧嘩を売るのが、あいつの生き方だからな」

ヴィップに帰ってくるなり、世話になったマスターに冒険談を聞かせたくて、
いの一番にカウンター席へと座り込んだ。淡々とあしらわれるような返し方をされ続けているが、
時折、少しだけマスターも嬉しそうな笑みを浮かべてくれるのが、ありがたかった。

(’e’)「ま、そんな事よりも……」

( ^ω^)「?」

343 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:34:08 ID:qXDhOR0g0

エールグラスを磨く手を止め、じっと顔を覗き込んできたマスター。

(’e’)「お前さん……こないだよりも、いい顔になったな」

(*^ω^)「止すお、マスター」

(’e’)「本心さ。一皮向けた、いい顔になったぜ?お前さん」

そう言って、背を向けたマスターは樽からエールをグラスへと注ぐ。
注ぎ終わったあと、再びブーンの方へと振り返ると、目の前へと置いた。

(’e’)「オゴリだ。こいつは俺からの、門出の祝いさ」

( ^ω^)「! ………ありがたく、頂きますだお!」

そのやりとりを見ていた一人の酔っ払いが、ブーンの首元へと手を回して、後ろから組み付いてきた。
まだ昼間だというのに赤ら顔で、何献酒を平らげたのか、吐く息は思わず顔を背けたくなるほどだ。

爪*'ー`)「よぉぉぉぉッ!奇跡の再会だなッ、友よぉぉぉぉッ!」

(;^ω^)「な……なッ」

(’e’)「うるせーぞ、フォックス!」

344 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:35:39 ID:qXDhOR0g0

爪*'ー`)「んぅぅ、おカタい事言いなさんなよぉマスターぁん」

(;^ω^)「……フォックス。楽園亭に、来てたのかお?」

(’e’)「ん?お前さん、こいつと知り合いか?」

(;^ω^)「ん、まぁ……知り合いには違いないけどお」

(’e’)「お前さんが出立してから、入れ違いでリュメに来たんだよ、こいつは。
     店の客の迷惑も考えねぇで女は引っ掛けようとするし、酒は底なしだし、全くかなわんよ」

爪*'ー`)「んむむ………デレちゅわ〜ん!」

ζ(゚ー゚*;ζ「あの……フォックスさん……他のお客さんの迷惑になるんで……」

(’e’#)「てめぇッ!ウチの看板娘に手ぇ出しやがったら、叩き出すぞ!」

爪*'ー`)「……ちぇっ、分かったよ」

爪*'ー`)(今度あのハゲ親父に内緒でデートしようぜ、デレちゃん)

ζ(゚ー゚*;ζ「いや……あの……あはは」

(’e’#)「聞こえてんだぞ……」

345 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:36:11 ID:qXDhOR0g0

苦笑いで何を逃れた店娘は、客に呼ばれたのを良いきっかけに、卓へと駆けていった。
その後ろ姿に鼻の下を伸ばしていたフォックスが、またブーンのもとへと歩み寄る。

爪*'ー`)「依頼さ、達成したんだってな。おめでとさん」

( ^ω^)「大変だったけど、何とかこなせたお」

爪*'ー`)「……実はさ、冒険者になる!とは思ったけど、俺そういうのぜーんぜんわかんねぇんだわ」

( ^ω^)「ブーンも、昔見た手引き書を曖昧に覚えている程度だお?」

爪*'ー`)「注意力とか洞察力、あとは手先の器用さには自信があるんだけどさぁ」

爪*'ー`)「どうにも、俺みたいなタイプが一人で一匹狼気取るのは、ちっとキツイんだわ」

( ^ω^)「確かに……ブーンもゴブリン相手とは言え、一人っきりは辛かったお」

爪*'ー`)「そこで、だ……パーティー組まないか?この、俺とだ」

( ^ω^)「パーティー?」

爪*'ー`)「あぁ、損はさせねぇさ。ブーン&フォックス!あいつらがあの伝説の───!」

爪*'ー`)「……なーんつって言われるようになるかも、知んねーだろ?」

フォックスからの突然の申し出、頭に手を置いて、ブーンはじっくりと考えてみた。

346 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:36:42 ID:qXDhOR0g0

危険な旅は、人数が多いほうが良い。それも、信用できる人間ならなおさら有難い。
フォックスの人間性については、ここまでで数度しか会話を交わしていないが、
ある程度自分に近い感じを受け、受け入れやすい人柄だと思っていた。

依頼の報酬は減るが、背中を任せられる相棒が出来るのは、頼もしい事だった。

( ^ω^)(ずっと一人って訳にも行かないし、良い機会……かも知れないお)

爪*'ー`)「……どうだ?」

( ^ω^)「その申し出、喜んで引き受けるお」

爪*'ー`)「……よっしゃ!今日から俺とお前は仲間だ、ブーン!」

(’e’)「おーおー、こんな奴と組んじまっていいのか?」

( ^ω^)「ブーンの目に、狂いはない!……と信じたいお」

爪*'ー`)「まーまー、損はさせねぇってば。あ、改めて自己紹介しとくぜ」

爪*'ー`)「”グレイ=フォックス”、生まれはどこだか忘れちまった。
     が、当分はヴィップを根城にする。楽園亭に骨を埋める覚悟だ、よろしくな」

(’e’)(おいおい……勘弁してくれ)

347 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:37:09 ID:qXDhOR0g0

( ^ω^)「”ブーン=フリオニール”、生まれはサルダの村だお。
       まだまだ駆け出しだけど、こっちこそよろしくだお!」

無事依頼を達成したブーンの元へ現れた、フォックス。
偶然にも再会した二人は、旅を共にする事となった。

酒を酌み交わし始める二人の姿を見ながら、これまでよりも煩い店内になってしまった
失われた楽園亭のマスターは、頬杖をついて厄介そうにため息をついていた。

だがこの翌日、さらにこの店を騒がしくしてしまう来訪者が訪れる事を、マスターはまだ知らない。

─────


──────────

───────────────

(´・ω・`)「───見えてきたね、ヴィップが」

ξ;゚⊿゚)ξ「や、やっと……柔らかいベッドの上で寝られるんだわ……」

348 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 04:38:55 ID:qXDhOR0g0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第1話

         「名のあるゴブリン」


             ─了─

349 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 05:17:12 ID:.XiQnGG.0

続き楽しみにしてます。

350 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 12:20:20 ID:uLkEX7uY0
ドラゴンマダー?

351 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/17(日) 21:03:37 ID:qXDhOR0g0
>>350
ドラゴンのAAくれ。パーティー結成後、大きな依頼の話を一つ書き終えたら、
ジョルジュ、ダイオードらを中心とした番外編的なアレで書いてく予定す。

352 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/18(月) 09:29:46 ID:KIUgQpq20
>>351

                      / l ヽ
                   / | i /ヽ
                   /  | i / /、
                    /  |i /// ヽ
    r~゛`=ー-._____   、イ'''゛゛゛゛゜''''/'''';;;;;代  /
    !  ̄`'-、`'=、. ゛`ナ´       /   ' ' ';;;;;× /
     !  ̄`' : ;.\フ´ ゛:      , !    /  ×
     ゝ ーー-、冫'''''´ ̄`ヽ  .メ、_____〟 / ハ
     ヽ 二二/ ,.;;;´      ,.イ   ”   !       !
      ヽ  ./,;''';;'    ./   x..--┤      }
       ヽ i;; ;;´,. '´  ヽ  /    i        .! <ニャ♪
         ゝ!_,,;- ._.ィ´  ヾ       i        /
           弋_.ィ´      ヽ      |       /
          '`!         ヽ    |    /
           ヽ、           ゝ、_!  ,.イ
  癶          ゝ-.,_      _,,...・'´ }
  { ゝ         /ミ;;“ ; ゛`''''''''''''´ ̄      |
  ゞ ゝ       /ミミミ                 |
  ゞ≠ゝ     /ミミェ             |
    ゞ≠ゝ    /ミミ                   |
    ゞ≠'´ゝ  /ミミミミ         、    |
     ゞ≠≠゛/ミミ =   1     !  !.    |
      ゞ ≠;{三ミェェ   !     .i  !     |
        ゞキ≡ミェ    !    {γ`1   !
          ゞ、エ y'´⌒`、!    v」__i.   ヘ
            ーLJ,__)ノ弋   孑 ゝ.,_)__)ク
                   ゛'亠亠'

353 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 02:09:53 ID:kjuQrlI60

「やれやれ、下界は随分と騒がしいね」

皮肉なほどに彼自身と似つかわしくない、雲間から燦燦と陽光が降り注ぐ昼下がり。

あと少しで雲が望めるのではないか、というほどの遥か上階の窓から身を乗り出し、
蟻のように塔を出入りする人々を頬杖をついて眺めながら、彼は一寸の呟きを声にした。

( ・∀・)

”モララー=マクベイン”

ここ賢者の塔の”高等魔術研究階層”に区分される上階層にて広大な研究室を割り当てられ、
多くの予算とゆとりのある魔術研究環境を与えられた、紛う事無き一人の天才だ。

ここ最近になって、この最高魔術研究機関、”賢者の塔”を騒がす、大きな出来事があった。
魔術研究生として優秀な成果を上げていた一人の魔術師に、”死霊術士”の嫌疑がかけられたのだ。

追走を逃れ賢者の塔から逃亡したのは、”ショボン=アーリータイムズ”
モララーの発言、また彼の研究室を虱潰しに探した術院生達の調べから、その事実が浮かんだ。

( ・∀・)「今頃、彼はどこの野山を這い回っていることやら」

確かに───そういう事になっている。
捻じ曲げられた事実を作り上げた張本人は、至って冷静極まりないが。

354 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 02:10:41 ID:kjuQrlI60

今では魔術師ギルド直属の異端査問団と連動し、賢者の塔の術院生の多くが
各町々に手配書を届ける作業にあてがわれている次第だ。

直接自己に関係しない事件から研究の手を止められる院生達の口から、
嫌疑のかけられたショボンの名を出して不平不満を並べるのは、致し方ない事だろうが。

( ・∀・)「……おっと、忘れていた」

何を発言するのでも役者めいた彼の独り言も、その例に漏れる事がない。
死霊術使役の嫌疑で賢者の塔を追われる事となった彼と、その日最後に会ったのは自分という話だった。

ショボンと接触した時の様子を、アークメイジに対して釈明する為、
二人きりの面談が取り持たれていた、大事な日だったのだ。

( ・∀・)(全く面倒な事だ……お飾りの老骨なんぞを相手にするのは)

355 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 02:11:36 ID:kjuQrlI60

この賢者の塔のみならず、魔術師ギルド全体としても実質的な最高権力者の地位にある者をさして、
彼にとっては”理想の成就”以外が、ただ面倒な作業でしかない。

表面を取り繕い、本当の自分はいつだって秘匿し続けてきた。
何事にも動じる事の無い氷の精神力は、きっと理想までの自分を、ずっと支え続けていく。

自信など、揺らいだ事すらない。

生れ落ちたその時から自分は多くの人々の頂に立つ───そんな存在となる。
その資格を、恐らくは持っていたのだろうと、近頃になって思うほどに。

( ・∀・)(さて───そろそろ、あのご老体の話し相手になってやりに行くとしようか)

356 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 02:21:53 ID:kjuQrlI60

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第2話

           「栄枯と盛衰」

357 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 03:06:27 ID:kjuQrlI60

( ▲)「───アークメイジは、ただいま庶務に勤しんでおりまして」

( ・∀・)「では、こちらで待たせて頂きます」

( ▲)「もう間もなくお見えになるかと思いますが……紅茶でも」

( ・∀・)「いえ、お気遣いだけで結構」

賢者の塔、最上階。そこが、アークメイジ”アラマキ=スカルティノフ”の庶務室を兼ねた一室だ。
広大なその部屋は、まるまる一階層が彼のためにあてがわれた場所だった。

大陸遠方の街までが一望出来る、天に最も近しい場所から臨む景色を見るため、
腰掛けていたソファから立ち上がり、窓辺へと歩を進める。

( ・∀・)(ふふ。やはり人間という生き物は、偉くなるにつれ高い場所を好むようだ)

( ▲)「素晴らしい眺めでしょう?私など、その為にアラマキ様の付き添い人を望んだ程で……」

358 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 03:07:07 ID:kjuQrlI60

( ・∀・)「ええ、確かに素晴らしい景観です」

( ▲)「でしょう!この先大した成果を魔術界に残せなくても、この景色を望めるなら悔いはありませんよ」

( ・∀・)「ははっ。正直、あなたが羨ましいですよ」

「この男は高所の息苦しさに、脳が縮こまってでもいるのだろうか」と思う。
言葉を交わしながらも、常に目の前の対象から距離を置いて冷静に観察するのは癖だ。

所詮、この男も高みから他人を見下すような、目で見える程度の力を有難がっているに過ぎない。
崇高な理想の為、それに殉ずるために生きる───それこそがこの世に生れ落ちた使命ではないか。

自身を取り巻く環境に慢心して向上心を失った人間など、腐れた死体と何も変わらない。
中身の凝縮された”過程”こそが、自己をより高みへと引き上げてくれる。

本当にその道で殉ずる覚悟があるのならば、結果など見るまでもなく、知れた事だ。

( ▲)「あっ───と……お見えになられたようです」

359 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 03:07:30 ID:kjuQrlI60

( ・∀・)「………」

そうこうしている内、執務室の扉からゆっくりと姿を現したのは、小さな背中を向けた老人。
黒いローブの所々を走る金色の線が、深く皺の刻まれた顔に威厳をたたえさせる。

/ ,' 3  「………ちと、待たせてしまったようじゃの」

( ・∀・)「いえ、そんな事はありません」

この男だ。

数々の結果を出し続け、大陸初となる魔法をも編み出してきた自分。
その自分の遥か高み、最上位の位に位置するのがこの、”アラマキ=スカルティノフ”

彼が相当の歳を重ねているという噂は、モララーの耳にも届いていた。
モララーが彼に対する自分の印象を言ってしまえば───”過去の遺物”としか断ずる事が出来ないが。

確かに魔術師の世界において、多大な功績をもたらしてきたという過去はあるだろう。
だが、老いた今となっては、所詮その輝かしい過去の上にあぐらをかいている、ただの老骨。

老獪さも持ち合わせてはいるだろうが、それがこの自分に指図できる立場にあるという事実は、
実際に顔を合わせる度に腹立たしさを禁じえない。

360 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 03:09:52 ID:kjuQrlI60

/ ,' 3 「あぁ……おぬしが……」

( ・∀・)「モララー=マクベインです、アークメイジ殿」

多少礼儀を欠いても、この老人は何を言う事もない。
わざわざ最も丁寧な言葉選びをするのは疲れると思い、試しにそう言葉をかけた。

/ ,' 3 「貴重な時間を割いてすまぬが……話には聞いている事と思う。聞かせては、もらえんかね?」

( ・∀・)「ええ………彼の、ショボン=ストレートバーボンの事ですね」

/ ,' 3 「君に縋る程の才能もあり、熱心だった彼が身を堕とした経緯について───」

( ・∀・)「同志であった彼の事に関しては……私自身、全く持ってやりきれない気持ちです」

/ ,' 3 「……うむ」

( ・∀・)「ですからこそ……私の知っている限りの事でしたら、何なりと」

361 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 03:11:03 ID:kjuQrlI60

自らが企て、ショボンを手配人にまで仕立て上げたという事実は伏せたまま───
かくして、アラマキとモララーの対話が始まった。

自身の行いが明るみに出るのではないか、という質問が何度も真相の端を掠めるが、
顔色一つ変える事なく的確に、そして淡々と、納得のゆくだけの理由や推察を並べ始めるモララー。

かくしてその話し合いは、およそ一刻半もの長きに及んでいった────



────【交易都市 ヴィップ】────

今この街では、巷を騒がすとある一団の動きがあった。

362 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:14:56 ID:kjuQrlI60
このまま力尽きて寝るまで、半・ながら投下で書き進めちゃう

363 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:16:31 ID:kjuQrlI60

かつて、”イスト=シェラザール”が束ねていた聖ラウンジ教徒異端審問団。

非道な行いを繰り返し、聖ラウンジとは明らかに道を違えてしまった彼らは、
神の使徒としての権限を剥奪され、今では”旧ラウンジ教”を名乗り、分派して独立の旗を掲げていた。

─────”御堂聖騎士団”─────

その旧ラウンジ教が今や大きな後ろ盾として誇るのが、この武に長けた騎士の一団だ。

自らの信仰を奪われた彼らは、地下に潜った後、確実に力をつけていた。
自分達の信仰の前に仇なす存在を、殲滅するために。

信望者の絶対数こそ遥かに違えど、彼らの存在は聖ラウンジが誇るかの”円卓騎士団”といえども、
決して軽視は出来ない程に、この10年あまりで確実な力をつけていた。

その御堂騎聖士団が今日になってヴィップの街に到着したという知らせは、
領主以下、このヴィップに滞在する聖ラウンジ教徒全体にすぐに知れ渡る事となる。

(    )(今日は………妙に外が騒がしいですね)

早朝の聖堂にて、礼拝を捧げていた一人の男。
彼だけは”その知らせを受ける”よりも前から、妙な胸騒ぎを覚えていた。

364 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:17:04 ID:kjuQrlI60

─────事の発端は、夕刻の今より半日ほど遡る────


”交易都市ヴィップ”立てかけられた街の入り口の看板の前で、3人の男女は笑みを浮かべていた。

ξ゚ー゚)ξ「ここが、ヴィップ……綺麗な景観ね」

(´・ω・`)「あぁ。僕も数える程しか訪れた事はないんだけれどね」

「住み暮らすのには、いい街さ」
そう言うと、ツンと聾唖の子供を先導するように、ショボンはまた歩き始める。

(ノoヽ)「あう〜?」

ツンの衣服の端をがっしと掴みながら、ぴっとりと彼女の傍にくっついて歩く。
山育ちの彼にとっては、小奇麗な衣服に身を包んで歩く沢山の人々の姿が、おかしな光景に映る事だろう。

ξ゚⊿゚)ξ「離れちゃ駄目よ?迷子になったら、お姉ちゃん置いてっちゃうんだからね」

(;ノoヽ)「いあ、いあっ」

道行く人々の姿を眺めて歩を止めていた彼の前に回りこんでツンがそう口の動きで告げると、
すぐにまたツンの傍へと駆け寄り、同じ歩調で歩き始めた。

(´・ω・`)「さて……これからどうするんだい?」

365 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:17:39 ID:kjuQrlI60

街のおよそ中心部、噴水が辺りを彩る場所にまでたどり着いた時、
辺りに置かれたベンチに腰を下ろしながら、ツンにそう投げかけた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、この子を教会まで送り届けます」

(´・ω・`)「聖ラウンジとは、彼のような子の身柄を、そう簡単に引き受けてくれるようなものなのかい?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、大丈夫……”全ての人は、等しく神の寵愛を受ける権利がある”から」

父の残してくれたその言葉の意味が、今なら本当の意味が理解出来た気がする。
また、良い言葉だとも────ショボンやこの子と出会った短い旅を通した事で、殊更に。

(´・ω・`)「ふむ……修道女としては素晴らしい返答だね」

ξ゚⊿゚)ξ「それにもし断られたら、そこは私の持ってるチカラで……ごにょごにょ」

(´・ω・`)「うん?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、いや、なんでも(親の威光とか、やっぱよくないかしら?)」

ふと目を離した隙に、子供はベンチから少し離れた位置にある手を模られた噴水へと
自分の身を投げ込み、身体をばちゃばちゃとさせていた。

366 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:18:28 ID:kjuQrlI60

(*ノoヽ)「うー!……あ〜!」

こちらにまで水飛沫が飛んでくる程、楽しそうにはしゃいでいる。

ξ゚⊿゚)ξ「こらっ!周りの人の迷惑になるでしょ!」

(*ノoヽ)「あうあうあー!」

目線を合わせる為に腰を曲げて彼の前に顔を突き出したツンの顔に、ばちゃっと水が掛けられた。
しばし沈黙し立ち尽くしていたツンだったが、それをきっかけに、すぐに彼の身を捕らえようと、
噴水の周りで追いかけっこが始められる事になる。

ξ#゚⊿゚)ξ「こらーっ!待ちなさい」

(*ノoヽ)「あっ、あっ、お〜?」

そんな光景が四半刻程の間も繰り広げられるのを、ショボンは見せられる事となった。

(´・ω・`)(全く人が良いと言うか、何というか……)

心の中の独り言は、もうじき手配書も出回るかも知れないというのに、
のんきにわざわざに多くの人目に晒される公共の場に居合わせる、自分に対しての事だ。

367 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:19:24 ID:kjuQrlI60

さらに四半刻ほどして、ツンの体力の限界と、子供の飽きは訪れた─────

───────


──────────────



───────────────────


子供を聖ラウンジ教会まで送り届ける道中で、今後の予定の打ち合わせと別れは済ませた。

ξ゚⊿゚)ξ「君のお父さんは、いつも君を見てる。辛い時でも、それを忘れないでいて頂戴」

(ノoヽ)「あ〜……う〜?」

ξ゚ー゚)ξ「お姉ちゃんとは、きっとまたいつか……どこかで会えるからね?」

旅の疲れが及ぼした眠気か、子供はよたよたと歩きながらも、
しかししっかりとツンの顔を見据えながら、首を縦に振っていた。

368 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:20:35 ID:kjuQrlI60

これから離れ離れになる事は彼にとっては寂しくなる事だろう。
だが、それでもこれから自立するためには、教会の手助けはかならず彼の力になってくれる。
眠そうに目を擦っている────要領よく話がまとまれば、無駄に泣かれずに済みそうだ。

(´・ω・`)「教会までは付き合うよ、その後僕は”失われた楽園亭”という安宿で一晩過ごす」

ξ゚⊿゚)ξ「宿……そういえば、私この街の事全然知らなかったわ……」

(´・ω・`)「おいおい、どこで寝るつもりだったんだい?君のような女性がもし外で寝転がっていたら、
       さすがに治安のしっかりとしたヴィップでも、操の危機も訪れるというものだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっ、ショボンさんってば!」

(´・ω・`)「冗談さ───ま、その安宿っていうのも案外悪くない所でね、もし君の方で
       今晩の宿が見つからないなら、そこへ案内するよ」

(´・ω・`)「互いの旅の前途を祝して、別れる前に乾杯とでも行こうじゃないか」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ……」

(´・ω・`)「あ、勘違いしないで欲しいんだけど、僕は君を酔わせてどうこうというつもりは一切ないから」

ξ;゚⊿゚)ξ「それはそれで失礼な話よね……」

369 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:21:52 ID:kjuQrlI60

(´・ω・`)「女性に興味が無いのさ」

ξ゚⊿゚)ξ「………あっ、なるほど………」

(´・ω・`)(ただでさえ研究が滞ってるのに、逃亡生活を余儀なくされている今は……ね)

ξ゚⊿゚)ξ(……私は、そういうのに偏見は持たない主義だわ)

互いに小さな誤解が生まれている事にも気づかないまま、一行は聖ラウンジ大聖堂にまで到着した。
入り口の門扉の前でその荘厳な建て構えを見上げ、聖教都市ラウンジのものに負けず劣らずの
その規模に、少し驚いた様子だった。

ショボンは腕を組んで、門扉の外に背中をもたれる。
ツンは子供の手を引き、そのショボンに一度だけ頷いて、合図を送った。

──────

────────────


──────────────────

370 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:23:02 ID:kjuQrlI60

聖堂の中で礼拝を行っていた聖ラウンジの騎士団と思しき数名に声をかけ、ツンは事情を説明した。
この時すでに子供は座席にその身を横たえて、眠りに落ちていたのは幸いだった。

ツン自身も少し物寂しさを感じる事になるが、辛い別れ方をするよりはましだ。

自分は巡礼の旅を続ける、一介の修道女であるという事を説明した上で、これまでの道中で
出会った子供の身柄を引き受けて欲しいという要望を、この教会の修道士達に打ち明けた。

その自分の行いに「見習いたいです!」などとお褒めの言葉を頂いた上で、すぐに彼らは
上の人間に掛け合って、快く彼の身柄を引き受ける事への了承をもらってきてくれた。

(* _ )Zzz

ξ゚ー)ξ(その明るさを失わないで……元気に暮らすんだぞ)

最後にその寝顔にエールを送ると、ショボンを外に待たせていた事を思い出し、足早に教会を去った。


─────

──────────

───────────────

371 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 05:24:11 ID:kjuQrlI60

「あ、これは副長!」

中庭のガラス越しにちらりとだけ先ほどの部下達のやりとりを見ていた男が、一人に声を掛ける。

(  L )「今のは?」

「えぇ、実はですね……」

部下が、副長と呼んだ男に対して事のいきさつをひとしきり説明した。
頷いてその話を聞いていた男は、開け放されたままの扉から遠目に見えたツンの後ろ姿を
目で追いかけながら、何かを思い出そうとしていた。

「……という訳なんです。神に仕える者として、彼女の行動は実に見習いたいものです!」

( _L )「なるほど……実に素晴らしき、慈愛の精神をお持ちの方のようだ」

( _L )(はて………私の記憶が正しければ、あの女性は、確か─────)

───────────────


──────────


─────

372 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 06:27:26 ID:kjuQrlI60

ツンがヴィップを訪れる事の理由であった、教会へ子供を託すという使命は終えられた。
気がつけば街を歩き回る内に陽はずいぶんと沈みつつあり、もう夕刻といった所だ。

(´・ω・`)「ばかに早かったね。どうやら、聖ラウンジもなかなか見所がある宗派じゃないか」

ξ゚⊿゚)ξエッヘン

自分自身が褒められたようで、少しだけ誇らしかった。
無い胸を突き出して、ツンは微妙にふんぞり返る。

それからは、出迎えたショボンの案内に連れ添われるまま、おおよそ街中とは
思えないほどの長距離を歩かされてようやく、今晩の宿へとたどり着いた。

──────”失われた楽園亭”

また随分と捻りもなく怪しげな店内を連想させる看板がかかっているが、まだ夕日も
沈みきる前から沢山の人間が続々と宿へ入っていく光景と、赤ら顔で出てくる人の多い光景に、
おんぼろな建て構えながらも繁盛しているであろう事を思わせる。

ツンは少し気後れしていた所だが、ショボンは場馴れた様子でその木扉を押し開けた。

373 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 06:28:15 ID:kjuQrlI60

────【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】――――─


ζ(゚ー゚*ζ「……いらっしゃいませ!」

店娘の元気な挨拶に出迎えられ、活気賑わう店内の卓をすり抜け、カウンターへと向かっていく。

その近くまで足を踏み入れると、懐かしげに声を駆けてきたのはエールグラスを磨いていたマスターだ。
ショボンは彼の傍まで歩み寄ると、宿が空いているか話を持ち駆けているようだった。

(’e’)「お……こいつぁまた、珍しい来客だな」

(´・ω・`)「いつぞやはお世話になりまして」

(’e’)「あぁ、覚えてる。ツケずにまともに銀貨を置いてってくれる、貴重な客だからな。
    大好きな魔術がやらせてもらえなくて、父ちゃんと喧嘩して家出したぼっちゃんだろ?」

(´・ω・`)「そうそう、そうでしたね……ま、今はその時よりさらに悪化したようなものです」

(’e’)「そうかい……ま、部屋は用意してあるから安心しな───ちっとばかし、小うるさいのがいるがな」

マスターのその言葉に安堵する。

374 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 06:29:22 ID:kjuQrlI60

しかし、視線の方へ顔を向けてみると、そこにはどの料理を注文するかで揉めている
二人組みの冒険者らしき男達。ツンは既に、そちらへ白い目の視線を送っていた。

(#^ω^)「だ・か・ら!この店の一番は、絶対に、断固として、鳥腿肉の炒めなんだおッ!?」

そこには、集まる視線も憚らずに、これから注文するであろう料理の優劣をつけようと、
声を荒げて言い争いをしている見苦しい二人組みの姿があった。

爪#'ー`)「いーやッ!分かってないのはお前の方だぜブーン!なんたってこっちの料理は、
     あのデレちゃんが作ってるんだ!あのハゲ親父の料理なんかより、一万倍食えるねッ!」

(#’e’)「(野郎………!)悪いな、こないだからこんな調子だ」

(;´・ω・`)(たはは……)

ξ;゚⊿゚)ξ(うわぁ………うざ)


──────


────────────


──────────────────

375 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 06:30:13 ID:kjuQrlI60

軽めの夕食を取りながら、ショボンとツンは一杯だけエールを酌み交わす事にした。
今は注文した料理が届くのを待つばかりだった。

ショボンがエールとは別に、先に注文しておいた紅茶を啜っている間、
何気なくさっきの小うるさい二人組みの席に目をやると、どうやらお互いの好きな料理を
注文する事で事なきを得たようだ。

( ^ω^)「そうだったのかお?そりゃ〜アレだ、災難だったおね」

爪'ー`)y-「笑いごっちゃないぜぇ……こちとら死ぬ目にあったんだ」

何気なく、楽しそうに談笑しているその二人を見ている内、ふとツンは思った。

ξ゚⊿゚)ξ(………ふぅん)

なんだか、楽しそうだ─────日ごろから命がけで冒険をしているのに、だからこそ、なのか。

ごつごつとした見た目や話している内容から、どうやら彼らが冒険者のようだと悟ったのだ。
ラウンジに居た自分がまだ幼い頃にも、よく旅の冒険者がどこからか話の種を持ってきては、
押し込められたような生活を送っていた自分に、旅の話の花を咲かせて楽しませてくれたものだ、と懐かしむ。

そんな自分の横顔に、ショボンの視線が当たっているのを感じ、振り向いた。

(´・ω・`)「彼らに、何か?」

376 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 06:31:37 ID:kjuQrlI60

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、いや。冒険者っていうのも、外から見てると楽しそうな職業だな……てね」

(´・ω・`)「憧れる人種は多いさ……ただ、冒険は過酷だ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、よね……」

(´・ω・`)「ま……”困っている人々を探して助けたい”という事を理想とする君のような
       女性には、彼らと結びついたら円滑な旅路を送れるとは思うけどね」

ξ゚⊿゚)ξ(なるほど)

(´・ω・`)「冒険者に、憧れがあるのかい?」

先ほどからちらちらと送っている視線に気づいたか、1つ離れた卓の二人が、こそこそと
何かを話始めた。小声で話しているのだろうが、ツンを見つめたまま顔を背けようとしない為、
会話の内容は端々から推測が出来る。

爪*'ー`)(おい……気づいたか?さっきからあの娘、ずっと俺の事見てるぜ!)

(* ^ω^)(違うお、フォックスの事じゃなくて、あの娘僕の事を見てるんだお……ふひひ)

一拍の間を空けて、先ほどのショボンの質問に、力強く言葉を返す事にした。
ショボンが少しばかり驚き、離れた卓の二人にもしっかり聞こえる程の大声で。

ξ#゚⊿゚)ξ「別に!?興味ないわよ、冒険者なんて!」

(; ω )爪;ー)y 「!」

377 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 07:13:08 ID:rETfKI6g0
支援

378 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 16:39:34 ID:kjuQrlI60
寝てたぜ、日付が変わる前を目標に2話を投下しきる予定

379 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 16:40:27 ID:kjuQrlI60

しっかりと聞こえた筈だ。
一人が手にしていた煙草を落とす程の動揺を見せた事に、ショボンは軽く含み笑いした。

(´・ω・`)「ま、一人旅は過酷だからね……そういう道もある、という事さ」


────そんな事を話していたある時、事態は急激に移り変わる事となる。

ティーカップに口をつけていたショボンの顔が突如強張り、引きつった表情を見せた。

ξ゚⊿゚)ξ「?」

何事かと入り口から入ってきた人影の方へと振り向くと、そこには多数の騎士の姿。
重そうな甲冑に身を包んだ、物々しい一団が無言で店内へどかどかと押し入って来たのだ。

騒然とする店内、事態を把握している者は居ない。

(;´・ω・`)(もう、足取りを掴まれてしまったというのか……!)

そう─────ショボン一人を除いては。

380 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 16:41:01 ID:kjuQrlI60

(=[::T::]=)「………」

ζ(>ー<*;ζ「きゃっ!」

(;’e’)「お、おい……」

店娘を押しのけた光景に、マスターが声をかけようとするも、聞き捨てられる。

やがて卓を見渡せる位置に4人が広がると、残る一人が依頼状を張る壁面に
一枚の似顔絵のような羊皮紙を、べたべたと張り出した。

(;´・ω・`)(……よりにもよって、こんな人の多い場所とはね……)

ξ゚⊿゚)ξ「………ッ!?」

その張り紙を目にした瞬間、思わず立ち上がってしまいそうになるのをこらえた。
そこに描かれていた寸分違わぬ精彩を誇る似顔絵の主は────今まさに対面している男。

そこには300spの懸賞金が掛けられたショボンの手配書が、騎士達の手によって張り出されたのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ(あ………あれって)

381 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 16:42:27 ID:kjuQrlI60

即座にショボンの顔を覗き込み、反応をうかがった。
彼はゆっくりと、背面に立つ騎士たちに気取られぬ程度に首を左右に振るだけだった。

(;´・ω・`)(君は……関係ない。早く席を立って、ここを出るんだ)

ξ;゚⊿゚)ξ(ど、どういう事なの………!?)

自分の疑問にも応えず、ただ強く退席を促すショボンの視線に、問いは押し戻される。
やむを得ず、音を立てないほどゆっくりと席を立つと、少しその場を離れてカウンターに佇む
宿のマスターの近くにまで退避した。

耳打ちするような、マスターの声がかすかに聞こえる。

(’e’)(何やったんだ?……あいつ)

ξ;゚⊿゚)ξ(それが……私にも……)

(=[::T::]=)「この場に居る全員に言っておくッ!」

少しずつざわつきつつあった店内を再び静寂へと引き戻したのは、一人の騎士。
後ろで張り出している手配書の一枚を片手に、全員に見えるように掲げて言った。

(=[::T::]=)「この者の首には、300spの懸賞金が懸かった!」

(=[::T::]=)「もし捕らえるにまで至る情報があれば、我々に提供せよ。
        内容如何によっては、それにも情報提供料を支払う!」

382 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 16:46:52 ID:KiPsEEJI0
支援

383 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 16:54:14 ID:kjuQrlI60

(;´・ω・`)(まさか……その相手が自分の目の前に背を向けているとは思わないだろうな……)

まさしく、血が凍てつく程の緊張感が、今ショボンの身を駆け巡っているであろう事を察した。
山賊達の手から、自身の命の危険など顧みず救い出してくれたショボンに、懸賞金が掛けられている事実。
それでも、何かの間違いだろうという気持ちの方が大きかった。

ξ;゚⊿゚)ξ(違う……ショボンさんは、そんな悪い事をするような人じゃ……)

(’e’)(しかし、こりゃあ……まずいな)

そう、そうなのだ。
どうやら、マスターはツンと同じ、傍観に回っている側────

しかし、様々な人間が居るこの店内、客達の反応はどうか?
ショボンから遠く離れた席の人間ならば、まだ気づかないという事はあり得る。

しかし、先ほどの二人は、間違いなくショボンの顔と目が合っている。

( ^ω^)「………」

爪'ー`)y-「………」

だが、彼らもまた傍観する側に回っているのか、ショボンの存在に薄々気づきつつも、
騎士達にそれを進言するような様子は無い。ただ、黙ってこの危うい光景を見守っていた。

─────しかし、そんな人間達ばかりでもない。

384 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 16:55:06 ID:vyVfh18E0
おおう 支援

385 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 17:03:33 ID:kjuQrlI60

「おう!………そこに、いるんじゃねぇのか?」

ξ; ⊿)ξ「──────っ!」

誰かが彼の方を指差し、大声を上げた。

(;´・ω・`)(そう来る……だろうね)

(=[::T::]=)「…………?」

その男が指している、彼らに背を向けたままのショボンの顔を確認するべく、
騎士達は卓を横切ってその前にまで回りこんだいく。

観念した、といった様子で再びティーカップの端に口をつけていたショボンの顔を、そこで確認した。

(=[::T::]=)「案外近くに居たか………”ショボン=ストレートバーボン”だな?」

豪壮な鎧に身を包む5人の騎士は、たちまちショボンを取り囲んでゆく。

(´・ω・`)「……失礼ですが……」

ξ;゚⊿゚)ξ(この鎧の紋章は……確か………)

ツンの目に、ショボンの周りに立つ騎士達の鎧の所々に刻まれた、逆十字が映る。
聖ラウンジとは対照的に、逆さを向けて模られた十字紋章───その宗派に、覚えがあった。

(=[::T::]=)「”御堂聖騎士団”と名乗れば、理解が早いか?」

386 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 17:26:18 ID:kjuQrlI60

”旧ラウンジ聖教”が誇る、異端鎮圧集団────そう、”御堂聖騎士団”だった。

(´・ω・`)「なぜ───あなた方が、私を?」

(=[::T::]=)「貴様などに応える義理は無かろう?」

言って、場を取り仕切る騎士の一人が剣を抜き出し、ショボンの前にかざした。
いかに魔術を使えると言っても、武装した5人もの騎士に囲まれてしまえば、
そこから何が出来るという訳でもないだろう。

(´・ω・`)(魔術師ギルドから、相応の見返りを受けて───そんな所か?)

魔術師ギルド内の問題は、当然魔術師ギルド全体で手を打つとばかり思っていた。
だが、外面に見せる事の出来ない汚い部分も多分に秘めた組織内の誰かが、
武に長け、その上狂信的に異端を鎮圧する彼らに、協力を要請したのだろうか。

(=[::T::]=)「罪を認め、その身で贖うのだ。”死霊術士”、ショボン=ストレートバーボン」

(´・ω・`)「認める、認めざるを問わず、貴方達は私を裁くつもりなのでは?」

(=[::T::]=)「………口の利き方がなっちゃいないな、この墓荒らし風情が!」

襟首を引っつかんで立ち上がらせたショボンの頬を、騎士の一人の拳が打ち抜いた。
たまらず隣の卓にまで吹き飛び、その身が椅子にもたれた所を、すぐにまた乱暴に立たせられる。

ξ;゚⊿゚)ξ「ショボンさ────!」

(’e’)「(よせッ)」

387 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 18:11:56 ID:kjuQrlI60

”死霊術”────確か、どこの街でも定められた、禁術の種類一つだ。
死者の身を弄び、その肉体や魂までをも冒涜するという、極めてたちの悪い術式だ。

それをあのショボンという魔術師が実行したという────が、それはきっと何かの間違いだ。

殴られるショボンの姿を見て居ても立っても居られなくなったツンが飛び出そうとするが、
マスターにがっしりとその肩を掴まれ、制止を受ける。

見れば、騎士達に両腕を左右から押さえ込まれたショボンが、もう店の外にまで連れ去られようとしている。
その去り際に、一人がマスターの方へと向き直ると軽く敬礼を送る。

(=[::T::]=)「協力に、感謝する」

(’e’)「………」

一瞬だけツンに目が合ったショボンは、俯きがちに頷くと、力なくその口元に笑みを浮かべていた。

(;´・ω・`)「…………っ」

ξ;゚⊿゚)ξ(そんな………)

威圧感しか生み出さない、その有無を言わさぬ彼らの様子に、店内に居た誰もが一言も発せずにいた。
自分の背に実子であろう店娘を庇うマスターも、それは同じだった。

ζ(゚ー゚*;ζ「………」

だが、そんな状況に我慢がならない修道女が一人────この場に。

388 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 18:12:22 ID:kjuQrlI60

ξ;゚⊿゚)ξ「──────違うッ!」

力強く、何の迷いも無く。
ツンは去り行く御堂聖騎士団の一行の背中に向けて、叫んでいた。

(;´・ω・`)(バカッ……!)

(=[::T::]=)「────ん?」

振り向いた騎士の目の前にまで歩み出て、ツンがそれに詰め寄ってゆく。
無駄に彼女を巻き込みたくはなかったショボンの本意など、察してもくれなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「……違います。その人は、そんな事をする様な人じゃない」

(=[::T::]=)「何事だ、娘?」

(;’e’)(あちゃあ……)

ツンの御堂の騎士への直訴が始まると、マスターは元より、
店中の客の視線が、その二人へ向けて集められた。

ξ゚⊿゚)ξ「死霊術だなんて恐ろしい事………何かの、間違いだと思います。」

(=[::T::]=)「ほぉ……?その理由を尋ねようか」

ξ゚⊿゚)ξ「その人は、山賊に襲われた私を、身を呈して救ってくれた────そして、
      そこで見つけた身寄りの無い子をここまで送り届ける、護衛を買って出てくれたんです」

389 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 18:26:03 ID:kjuQrlI60

(;´・ω・`)(全く、物好きな修道女様だよ、君は────)

淡々と、ショボンとの出会いを、そして彼の潔白を騎士へと訴えるツンの姿に、
ショボンは両脇を掴まれたままに肩を落とし、がっくりとうなだれる他なかった。

駄目だ───駄目なのだ。

この連中に何を言っても、感情論などに心動かされるような者達などでは、決して無い。
ただ、起こった事実に対する行動を、自分達の信念のままに執行する───ただ、それだけの。

(=[::T::]=)(………もしや、報告にあった修道女というのは)

(=[::T::]=)「うむ、歳の頃も重なる」

さらに二人が、ツンの近くまで歩み寄って来た。
ツンが直訴を続けていた騎士に対し、何事かを耳打ちする。

ξ;゚⊿゚)ξ「!?」

そして気づけばツン自身の両腕も、騎士達によって左右から背へと押さえつけられていた。

390 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 18:26:49 ID:kjuQrlI60

(=[::T::]=)「ショボン=ストレートバーボンには、同行者が居るという情報があった」

ξ;゚⊿゚)ξ「────なッ」

そこまで言われて、ツンは事態にようやく気づいた。
ショボンと同じように、疑いをかけられているのだ───この自分にも。

(=[::T::]=)「娘、その僧服……よもや、神に仕える身であるお前が、この神を恐れぬ
        所業をやってのける罪人に、加担していたのではあるまいな?」

ξ;゚⊿゚)ξ「違う……私も、ショボンさんも────!」

(=[::T::]=)「ま、詳しい話は我々の詰め所で聞かせてもらうとしよう………じっくりとな」

ξ;゚⊿゚)ξ(どうして………)

──────ツンは垣間見た。

一方的に力を顕示する人間の恐ろしさを。
そして、決して分かち合う事の出来ない人種もいるのだという、事実を。

もはやツンも、何を言う気力も削がれてしまい、肩を落として騎士達に引かれていくしか出来なかった。

──────


────────────


──────────────────

391 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 18:45:13 ID:kjuQrlI60

そんな光景を見ていた二人の冒険者は、互いの意思を確認しあっていた。
そう、難しい事ではない─────「助けるか、助けないか」

ただ、それだけの事だった。

( ^ω^)「………ブーンには、あの娘さんの言う事が間違ってるとは思えないお」

爪'ー`)y-「かも、な………だけどよ、相手は騎士団。どう頑張った所で、張り合える相手じゃない」

互いに、彼女が正しき事を言っているのだと理解していた。
民衆の事など考えないお上は、ただ自身が持つ力のままにそれを行使し、弱い立場の者を痛めつける。

それは、罪のあるなしに関わらず、いつの時代も権力者が行ってきた事なのだ。

( ^ω^)「決めたお」

爪'ー`)y-「へ?」

( ^ω^)「助けるお、あの二人」

爪;'ー`)y-「本気かよ……下手したら、俺達まで手配書もんだぜ?まだ一緒に冒険もしてねぇのに」

( ^ω^)「いいお、ブーン一人ででも」

そう言って、卓を立とうとする彼の背中を掴んで、また椅子へと座らせた。
すぐにでも飛び出してしまいそうだった、彼の静かに熱さをたたえた表情に向け、言い聞かせる。

392 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 18:50:28 ID:kjuQrlI60

爪;'ー`)y-「ブーン、よく聞け……あいつらが仮に無実だとしても、それを助けようとすれば
       俺達までお尋ね者になっちまう。もう、この街に戻って来る事も出来ないんだぜ?」

( ^ω^)「……構わないお」

爪;'ー`)y-「はぁ……強情だな、お前さん」

やれやれ、とその顔を覗き込むと、フォックスはため息交じりの言葉を投げかける。

( ^ω^)「女の子一人助けられないようじゃ───男じゃないお」

爪'ー`)y-「………っ!」

どうやらブーンのその言葉に、フォックスには共感出来る部分があったようだ。
再び立ち上がろうとしたブーンの腕を即座に力強く掴む。

しつこく制止するフォックスに業を煮やし、ブーンは少し語気を荒げる。

(# ^ω^)「止めてくれるなお───フォック……!」

爪'ー`)y-「───いんや、もう止めないさ……けどな、こういう時は少し頭を使うのも悪くない」

( ^ω^)「………?」

そう言って、フォックスはブーンの耳元へと顔を寄せると、何事かを耳打ちした。
その意図する所を頭の中で思い浮かべながら、一頻りふんふんと頷き大方の内容を理解すると、
最後にお互いに顔を合わせ、手の中で親指を突き立てた。

393 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 18:58:14 ID:KiPsEEJI0
支援

394 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 19:21:53 ID:kjuQrlI60

──────

────────────


──────────────────

騎士達に身を揺られるがまま、連れられてゆく。

ただ、自分の旅の目的は、旅先で出会った人々の力になってあげたい───素直な思いだった。
それが一体、何がどうしてこんな事になってしまったというのか。

そして、これから自分はどうなってしまうのか。

ξ;⊿ )ξ「はぁ………」

想像もつかない事を考え、そこで完全に意気消沈した。
もうすぐ、自分もショボンも宿の木扉をくぐらされ、詰め所へと連れて行かれるのだろう。

全員が自分達を見守る、沈黙に支配されたこの場所。

だが───その只中にあって、突然席を立つと口笛を吹きずさみながらこちらへと歩いてくる人影。
どこまで雰囲気を読めぬ男なのだろうと、ちらりとそちらへ目を向けてみた。

爪'ー`)「さ〜て……便所便所〜」

(=[::T::]=)「……………」

395 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 19:22:22 ID:kjuQrlI60

(=[::T::]=)「……………」

そう言いながら騎士達の脇をすり抜け、やがてツンの横を抜けようとする男。
その男の片足が、隣でツンの腕を掴んでいた騎士の足に絡まり、一人がつんのめった。

(=[::T::]=)「おわッ」

不恰好な体勢から、重そうな鎧を纏ったその一人は地面へと倒れこむ。
その様子に全員がすぐに振り返ると、白々しく騎士達に向けて言葉をかける、男。

爪'ー`)「あっ、悪いね〜。わざとじゃないんだ、わざとじゃ」

ξ゚⊿゚)ξ「………!」

そして、そこからまた─────ツンたちを取り巻く事柄は、急速な展開を見せる。

(# ^ω^)「─────ぉぉぉっとっとっとぉぉーッ!!」

(´・ω・`)「ッ!」

ショボンの両側を押さえている騎士達に向けて、突然立ち上がった男がそう叫びながら、
突然横合いから勢いよく現れると、彼らの元へ弾丸のように肩口から体当たっていった。

足を引っ掛けられて転倒していた一人の様子へと振り返っていたばかりに、
騎士達はその存在を視認するのが、完全に遅れてしまっていたようだ。

(=[::T::]=)「ぬぅぉおッ!?」

396 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 19:53:56 ID:kjuQrlI60

勢いよくぶちかまされた二人がもつれ合い、壁際まで吹き飛ぶ。
それを機に────ショボンとツンへの拘束は、一時的に緩んだのだ。

そこへ、ツンの後方に居た男が叫ぶ。

爪#'ー`)y-「……馬鹿野郎ッ!そんなんじゃあまりにもあざとすぎるじゃねぇかッ!」

それに言葉を返すように、体当たりをかました一人も叫んだ。

(# ^ω^)「立案に無茶がありすぎだお!こんなのちっとも頭使ってないし、
       第一、どこも作戦なんて呼べる代物じゃねぇおッ!」

それは、先ほどツンが視線を投げかけていた、あの二人組の冒険者だった────

(=[::T::]=)「貴様ら………何のつもりかぁッ!!」

(;^ω^)「!」

即座に一人が剣を抜き、彼らに向けて怒号を発する。
一方、そんな自分は一体どうすればいいのか、気が動転して何も考えられない。

(;´・ω・`)「これは、一体……」

そんな自分達を導くかのように、ツンの後ろの男が叫び、次に取るべき道を示した。

爪#'ー`)y-「今の内に走れッ!………外だッ!」

397 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 19:54:57 ID:kjuQrlI60

ξ;゚⊿゚)ξ「………!?」

状況を飲み込めずまごまごしていたツンの手を、ショボンが強い力で握る。

(;´・ω・`)「事態が把握出来ないが……ひとまず、君は逃げるべきだ!」

まだ完全に体勢を立て直せていない騎士達の脇をすり抜けて、二人組の冒険者は
外へと走り出していた。ショボンに手を引かれるままに、ツン達も後へと続く───

「何をしている、追いかけろッ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ(ど、どうしたらいいのよっ!)

背後に浴びせられた騎士達による怒号は、自分達へと向けられている。
ツンの小さな胸は、不安と緊張に押しつぶされそうになっていた。

「逃げ切れるだろうか」

第一、逃げたところで手配書の出回ってしまったショボンの罪が消える訳ではない。
それは恐らく、突然の助け舟を出してくれたこの冒険者達にも言える事だった。

自分は一体、どうなってしまうのだろうか。
そんな事を考えながら、二人組に先導させるまま、夕刻の暗い路地裏を駆けた─────

398 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 21:24:47 ID:kjuQrlI60

息を切らせながら、ショボンと冒険者達が言葉を交わす。

(;´・ω・`)「どうして、僕達を?」

(;^ω^)「理由はないおっ!ただ、そこの娘さんの言う事の方が───」

そう言って、3人の視線がちら、とツンの方へと向けられる。

しっかりと身体を休める間もなく走りづらい服装で、逃走を図っているツンの体力は、
もはや限界の限界に近づいている。彼らに視線を向ける程の余裕もないほどに。

爪;'ー`)「まっ……どう見たってあいつらの方が悪人じゃねーか、あの状況じゃ!」

(;´・ω・`)「全く……物好きだね、君たち全員!」

(;^ω^)「礼にはっ、はぁっ、及ばんおっ!」

爪;'ー`)y-「別に、礼を言われた訳じゃねぇよっ!」

ξ;⊿ )ξ(だ、駄目……死ぬわ……これっ)

4人の靴音のさらに後方からは、甲冑ががちゃがちゃと擦れ合う音が聞こえる。
先ほどより人数を増やして追走にあたっているのかも知れない。

目の前の景色が白み、自分の体力が底をついたのをツンが認識した時、
一番余裕のある顔で先頭ひた走っていた一人が、全員に聞こえるように叫んだ。

399 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 21:25:46 ID:kjuQrlI60

爪;'ー`)y-「………こっちだッ!」

路地の横を複数走っている、その中で一番細い一本を指さし、身を紛れ込ませる。
続けて、ふらついているツンの背中を押しながら、3人が潜り込んでゆく。

爪;'ー`)y-(息を……殺せ……!)

(;^ω^)(ちょっ、ぜぇはぁぜぇはぁうるさいおッ!)

ξ;゚皿゚)ξ(はぁ……は────んんんーッ!?)

(;´・ω・`)(少しだけ辛抱してくれ、ツン)

外から失った酸素を取り込もうと、大きな息を吸って肩を上下させるツンの口を、
体格の良い冒険者は手の平で押さえ込んだ。

「いぎが、ぐるじいぃ」

そう懇願する言葉を発する事も出来ぬままにツンの口を塞ぐその手は、
暗い裏裏路の前に7〜8人の甲冑を纏った騎士が過ぎ去り、やがて、
彼らの足音が離れていくのを完全に見届けるまで、離される事がなかった。

ξ; 皿 )ξ「ふ………ふが」

(´・ω・`)「……どうやら、もういいんじゃないかな?」

ツンの顔色が薄紫色になりかけていたのをショボンが指摘し、その手はようやく離される。

400 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 21:26:31 ID:kjuQrlI60

ξ; ⊿ )ξ「────んぶはあぁぁぁぁっーッ!」

(;^ω^)「おっ、おっ……すまないお」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたね……死ぬ所だったわよ!こちとら!」

爪'ー`)「まぁまぁ、抑えなよ。まだ安心は出来ねぇぜ?」

勇める一人をきっと睨みつけながら、その次にツンは泣きそうな顔で肩を落とした。

ξ゚⊿゚)ξ「あ〜あ。なんで、こんな事になっちゃったかなぁ……」

(´・ω・`)「巻き込んでしまってすまないね……どれ、そこらに腰掛けて、少し話さないか?」

( ^ω^)「賛成だお」

爪'ー`)y-「どの道、多分都市外へ繋がる入り口は封鎖されてんだろうしな」

路地から覗き込んだ範囲に、先ほどの騎士団がいない事を確認すると、狭苦しい裏路地を
出て、ゴミなどが置かれていたその傍らへと一同は腰を下ろした。

─────

──────────


───────────────

401 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 21:27:39 ID:kjuQrlI60

─────それから、4人は様々な事をぽつりぽつりと語り合った。


(´・ω・`)「僕は、ショボン=アーリタイムズだ」

ショボンは、同僚の謀略に嵌められて、今このような現状を迎えているという事。

ξ゚⊿゚)ξ「ツン=デ=レインよ。ツンでいいわ」

ツンは、思い立ったが吉日と旅立って間もなくショボンと出会い、このように巻き込まれたという事。

爪'ー`)y-「お前さんがたも……ツイてねぇな」

( ^ω^)「でも───もう僕達にも他人事じゃないお」

二人の名前は、小太りっぽい方がブーン=フリオニール。
銀髪を結わえたきざな方がグレイ=フォックスというのだという。

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

そう、確かにこの二人は楽観的で、能天気な適当人間に思える。
それでも、あの場に居合わせながら自分の言葉を信じて、こうして手助けしてくれたのだ。

その結果─────彼らも今は、追われる身となってしまっているかも知れない。

402 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 21:33:11 ID:kjuQrlI60

感謝を、述べるべきか。
それとも、謝罪するべきなのか。

ツンがそう思案にあぐねていた時、フォックスが何事かという勢いで、立ち上がる。

爪'ー`)y-「まじぃぜ……こりゃ」

太い一本道である路地の右手から、一定の歩調でこちらへと歩を進める、影の一団。
がちゃがちゃと擦り合う甲冑の音から、先ほどの御堂聖騎士団だという事が分かった。

(´・ω・`)「こちらからも……!」

慌てて逆の左手へと身体ごと視線を向けたショボンの前方からも、多数の甲冑が向かってくる。
左と右にそれぞれ10体ずつ────その数、合わせて騎士が20人はいるであろうか。

左右同時に挟まれ、もはや中央へと追い詰められていく自分達に、退路は絶たれていた。

(;^ω^)「逃げ場……無しかお」

やがて、左右共にあと数歩という距離にまで追い縋られると、路地の中央で二人ずつ背中合わせになる。
あとはもはや────次に甲冑の一団が何を仕掛けてくるのかを、ただ待つ事しか出来なかった。

403 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 22:20:04 ID:qEUI0Kzg0
wkwk

404 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 23:04:33 ID:kjuQrlI60

3人の耳の傍で、ショボンが一言小声で呟く。

(´・ω・`)(いざとなれば……僕が魔法で左側の人の壁を吹き飛ばす)

( ^ω^)(!?)

(´・ω・`)(だからその合間を縫って、君達3人は逃げるんだ────ツン、君だけでも)

ξ;゚⊿゚)ξ(そ、そんな無茶な……!)

ショボンが覚悟を決め、そんな話を全員に振った─────その折だった。

─────「貴様らか。話にあった異端者というのは」─────

低い声が、フォックスとブーンが見据える右手の騎士達の置くから路地に響いた。
騎士達が織り成す人の壁が十戒のようにぱっくりと二つに割れると、その中央から
勇ましい歩調で、しかしゆっくりと姿を現したのは、一段と堅牢な鎧に身を包む騎士だ。

───ブーンの一人と半分程はあるのではないかという、体躯。外見だけで、既に威圧される。

405 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 23:05:24 ID:kjuQrlI60

(=[::|::|::]=)「……聞いていたより、随分と数が増えているな」

(; °ω°)(で……でけぇおッ)

爪;'ー`)y-(おいおい……中身はオーガじゃねぇだろうな)

(=[::|::|::]=)「貴様らの身柄は貰い受ける……だが、その前に」

一目で分かる、これが御堂聖騎士団を束ねている人間だという事が。
彼はそこまで言いかけるとブーン達から視線を、外し、ツン達側────
路地の左手から現れた騎士達の方へと顔を向けて、言葉を投げかけた。

(=[::|::|::]=)「まずは───そちらの目的を、聞こう」

(´・ω・`)「……ッ!?」

ショボン達、左手の路地から迫っていた騎士達は────御堂聖騎士団では、ない?
意外過ぎる事実に、ショボンの脳裏に疑問符ばかりが浮かび上がる。

だとするならば、彼らは何者だというのか。

406 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 23:10:33 ID:kjuQrlI60

────「そちらにいらっしゃる女性の保護。及び、治安の維持です」────

左側の声の方から、また騎士らの壁が二つに分かたれる。
その奥から歩み出てきたのは、白銀色の甲冑に鎧を包み背には巨大な槍を携えた、一人の騎士だ。

( _L )「では、今度はこちらがあなた方の目的を聞きましょうか」

(‘_L’)「御堂───聖騎士団の方々?」

ξ゚⊿゚)ξ(ッ! ………この方は………)

やがてツンらの前にその面を表した時、彼女の表情は固まった。
自分は、この男性に一度話をしてもらった記憶が───確かに、ある。

聖教都市を離れた今では、随分と遠い昔の事のように感じるが、いつだったか。
それを思い出そうと記憶の底を探っている内、当人の方から声を掛けられた。

(‘_L’)「貴方達は、下がっていなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「……あっ」

そう声をかけられた瞬間に思い出したのだが、ツンの身は騎士団と騎士団の直線状を離れ、
ブーン達の手によって肩を掴まれ、壁際へと押し寄せられていた。

407 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 23:36:55 ID:kjuQrlI60

(;^ω^)「何事だお……一体」

その様子を見届けてから、互いの”団長”と思しき二人の騎士は空いた中央へと歩み出てゆく。
まず先に口を開いたのは、”御堂”の側の男だった。

(=[::|::|::]=)「────”神槍”と、見受ける」

大人と子供程の体格差があるにも関わらず、白銀の騎士は一切物怖じする様子も無く、
あくまで平静な表情を崩さぬまま、それに言葉を返した。

(‘_L’)「はて、私は一度として………そんな大それた事を名乗ったつもりはありませんが」

後ろに控える”御堂”の騎士達の間で、何事かがざわめいていた。

(=[::T::]=)(おい……あいつ、フィレンクトだぞ!)

(=[::T::]=)(奴が、”神槍”の……)

騎士達の間で聞こえてくるその声に、ツンがぽつりと呟く。

ξ゚⊿゚)ξ「そうだ……思い出した。あの人」

(´・ω・`)「知り合い、なのかい?」

爪'ー`)y-「味方……ならいいけどな」

408 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 23:37:59 ID:kjuQrlI60

中央で互いに見つめ合う二人の騎士───そこからは自然と、ごくりと生唾を
飲み込んでしまう事に意識してしまう程の緊張感が、周囲へと発散されている。

(‘_L’)「……ですが、まぁ仰りたい事は分かります。いかにも、私はこの
     ”円卓騎士団”が団長”フィレンクト=エルメネジルド”」

(‘_L’)「先ほどから、あなた方がこの街で騒ぎを起こしているという噂が
     舞い込んで来まして、この場に参った次第です」

(‘_L’)「ですので、詳しい事情をお聞かせ願えますでしょうか?───御堂騎士団のご一行」

────”円卓騎士団”、ヴィップに拠を構える、聖ラウンジの守り手。

他者へと振るわれる為の力を良しとせず、民達の安寧を守るためにのみ戦う、聖ラウンジの巨大な盾だ。

(=[::|::|::]=)「魔術師ギルドからの要請を受けた。死霊術を研究していたという
          そこの異端者が、この街に修道女と共に紛れこんだようだとな」

(‘_L’)「そうでしたか───では、その役目はこちらでお引き受けしましょう」

409 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 23:40:56 ID:kjuQrlI60

フィレンクトを名乗る騎士はそれに即答するように答えるが、それは、わざわざ遠方から
このヴィップへと足を運びこの場に参じた”御堂”の騎士達を憤慨させるに相応しい内容だ。

(=[::T::]=)「何だと貴様ッ!我らをコケにするつもりかぁッ!」

(‘_L’)「そうは申しません。ですが、ここは我ら円卓騎士団が治める地。
      私どもなりの流儀で、その異端者とやらも罰しましょう」

(=[::|::|::]=)「………拒否する、と言ったら?」

(‘_L’)「その時は、遺憾ながら─────」

(‘_L’)「─────この剛槍”クーゲル・シュライバー”にてお相手致します」

”円卓”と”御堂”との間で、沈黙の睨みあいが始まった。
まさに一触即発のその状況は、恐らくどちらかが先に武器を抜く動作でも見せれば、
すぐさま戦闘の混乱が始まる状況だろう。

豪壮な鎧の奥から、沈黙の重圧と共に鋭い眼光を向ける御堂の団長。
それを受けて涼しげな顔をしながらも、瞳の奥底では蒼い炎を揺らめかせる、円卓の団長。

その場の空気すら凍てつかせる程の張り詰めた闘気が、満ちてゆく────

410 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/19(火) 23:43:27 ID:kjuQrlI60
今日はもう集中力の限界が来た。
二話はあとちょちょいで終わるので、また次の機会に

411 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/20(水) 10:13:09 ID:rCjFdx3Q0
乙!
緊迫した場面にwktkしてればクーゲルシュライバーてwwwwww

412 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/20(水) 12:15:22 ID:gEbvBBs.0
期待していた以上におもろいです

413 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/20(水) 14:27:26 ID:d0F9RZsk0
ブーンがゴブリン依頼達成する話でジーンときた
こりゃあおもしれえ続き期待

414 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/20(水) 16:04:29 ID:3/lrmrKA0
前に一度読んだはずが0話からいっき読みしちまった。
おもしれぇ

415 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/20(水) 23:56:29 ID:J9bpdkjE0
>>411-414
歓喜でほぼイキかけました。
2時くらいまでに書き終えられれば、残りを投下しちゃいたい予定は未定

416 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 00:27:20 ID:nu0A504.0
ほぼイキかけ懐かしいなw
避難所で一番wktkな作品なんだぜ
ξ゚⊿゚)ξかわいいかわいい

417 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 01:56:28 ID:x6MM9yEAO
冒険物大好きな俺としてはこれとドラクエが2トップ

418 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:14:20 ID:Uhe7xlOo0
嬉しい事言ってくれるぜ!ロスタイムがあるから、2:30には残りを投下しまふ

419 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:16:43 ID:nu0A504.0
寝かさねえ気かこいつ
読みたいが明日を考えると寝ざるを得ない だが読みたい・・・!

420 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:36:15 ID:Uhe7xlOo0

4人共の内臓を握られたような感覚が、いつ終わるとも知れない永遠の時のように感じられる。

爪;'ー`)y-「おいおい……こんな所で、騎士団同士のドンパチが始まっちまったら……!」

(´・ω・`)「あぁ、間違いなく僕らも巻き込まれるだろうね」

ξ;゚⊿゚)ξ「や………やめ──────」

苛まれる緊張感に耐えかね、ツンが思わず大声を上げてしまいそうになった時だった。
外まで出掛かった彼女の言葉をせき止め、それより遥かに大きな声でかき消した、一言。

「───────引き上げだ」

このまま勃発するであろう戦闘に備えて身構えていた4人は、その言葉に呆気に取られた。

(=[::|::|::]=)「実に………苦々しい事ではあるがな」

退いたのは、意外にも御堂聖騎士の団長と思しき男の方だった。

(‘_L’)「賢明なご判断に、痛み入る所存です」

無秩序に力ばかりを行使するものとばかり思っていた一団だが、どうやら
騎士を名乗る以上、最低限度の線引きというものを守る頭ぐらいはあるらしい。

421 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:37:14 ID:Uhe7xlOo0

(=[::T::]=)「……団長、何故です!この痴れ者共を前にして、何故退かねば───」

(=[::|::|::]=)「貴様ら小童に、意見する権限を与えたつもりはないわッ!!」

撤収の命を受けても尚、荒ぶる気持ちを抑え切れない様子の部下達を、一喝する。
不平不満を垂れる部下が鳴りを潜めたのを見計らって、御堂の団長は続けた。

(=[::|::|::]=)「よかろう……この場は引き下がってやる。だが、これより詰め所に戻った後、
         そちらへ向けてショボン=ストレートバーボンの罪状について詳しい、使者を出す」

(‘_L’)「ええ。そちらの任を引き継ぐ以上……こちらも総力を挙げて彼を尋問致します」

円卓騎士団───彼らもまた、必ずしもこちらの味方という訳ではないのだ。
死霊術士の烙印が押されたショボンの罪状は、潔白を証明するだけの材料がなければ拭えない。

ξ;゚⊿゚)ξ(ショボン……さん)

その身を案じたツンの視線を、ショボンは振り払う。

(´・ω・`)(覚悟は、していた事さ)

(‘_L’)「ですが……その裁決は、あなた方の意図するものと必ずや合致するとは、限りません」

付け加えられたフィレンクトの言葉によって、多少は救われた思いであったが。

422 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:38:08 ID:Uhe7xlOo0

どうやらこれにて───御堂聖騎士団の脅威は過ぎ去ろうとしている。
まだ自分達の状況がどう転ぶかはっきりしてないにも関わらず、ブーンとフォックスが安堵を浮かべる。

爪;'ー`)y-「心臓に良くないね……これだから、お上は嫌なんだ」

( ^ω^)「でも、なんだか穏便に済みそうな雰囲気だおね?」

来た道を次々と戻ってゆく御堂聖騎士団らの背中を見送りながら安堵を浮かべる
二人の冒険者の傍で、ショボン一人だけはいつまでも難しい顔をしていた。

それも、当然と言えば当然だろう。

彼にとってみれば、自身を尋問する相手が、御堂聖騎士団から円卓騎士団へと入れ替わっただけなのだ。

(´・ω・`)「だが……ここで円卓騎士団が出張って来てくれたのは、実に幸運だった」

( ^ω^)「本当、助かったお」

(´・ω・`)「まぁ、それは君達にとっての話だけどね───確信は持てなかったけど、
      彼らが現れた時からこうなるような気は、していたよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……どうして?」

(´・ω・`)「よそ者の彼らが”円卓”を敵に回すような事が起これば、陰惨な宗教戦争の引き金だ。
       大多数を占める各地方の領主や貴族を敵に回してまで、彼らの一存だけで争いはしないさ」

爪'ー`)y-「下っ端はどうだかわからんね……けど、どうやら向こうの大将さんは理性があるってこった」

423 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:39:07 ID:Uhe7xlOo0

(;^ω^)「でもその団長さん、めっちゃ殺気立ってるみたいだけどお……」

ブーンの言う通り、部下達が全員撤収した後も御堂の団長だけは最後にその場に残った。
確かにその巨躯の周囲に漂う殺気は、完全に息を潜めていた訳ではないようだ。

円卓騎士団と共に居合わすフィレンクト=エルメネジルド。
その彼に背を向けながら、やがて最後の部下が目の前からいなくなるのを待ってから、口を開いた。

(=[::|::|::]=)「────噂に名高い貴様とは、一度やりあってみたいものだったが」

腰元に結ばれた剣の柄を掴んでから向けられた言葉に対し、フィレンクトもまた
背中に背負う槍を掴みながら、御堂聖騎士団の団長に向けて返礼した。

(‘_L’)「………こちらにもその理由があるのならば。その時は、存分に」

(=[::|::|::]=)「………ククッ、食えぬ男よな」

背中越しにフィレンクトの顔を覗き見ると、再び振り返る事は無かった。
重い甲冑をかち鳴らせながら、巨大な甲冑は、遠くへ見えていく。

(───隠せてはおらんぞ?……羊の皮を被ったその下の、けだものの臭いまでは───)

424 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:39:49 ID:Uhe7xlOo0

一人ごちるような呟きを最後に残し、そうして御堂聖騎士団ら全員が4人の前から去る。
代わりにその場に残るのは、円卓騎士団────ヴィップの地を守る、紛う事無き正規軍だ。

ひとまずは、脱する事が出来た窮地だが、問題はここからであろう。

過激な異端審問に定評のある旧ラウンジ聖教とは違い、聖ラウンジに拘束される事になるのだ。
彼らの裁定は誰に対しても平等なものだが、かといってそれが決して甘い物だという認識は、
決して持つべきではないだろう。

(‘_L’)「………さて」

背後から歩み出てこようとした部下達を手で制しながら、フィレンクトは4人の前に立つ。
その彼の前に一歩を踏み出したのは、今回の騒動の発端となった、ショボンだった。

(´・ω・`)「此度の騒動……貴方達”円卓騎士団”を駆り出すまでになってしまった事について、
       まずは深くお詫びをさせて頂きます」

(‘_L’)「一応は罪人である貴方に詫びられる義理は、こちらにはありません」

そう言って、フィレンクトがツンの方へ顔を向けた。
その視線にはっとして、彼の顔を覗き上げられる位置にまでツンが走り寄る。

(‘_L’)「今回の目的は貴方と……もう一つ」

ξ*゚⊿゚)ξ「お久しぶりです!………色々、聞いて頂きたい事があります───フィレンクト様」

(;^ω^)「この人と………知り合いなのかお?」

425 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:40:26 ID:Uhe7xlOo0

巨大交易都市ヴィップが聖ラウンジ教の力を借りて編成された、一国の騎士団長。
薄汚れた修道服を纏ったツンが、そんな権威のある人間と面識がある事に、ブーンは驚いた。

(‘_L’)「この私めがしばらくお会い出来なかった間に……随分とご成長されましたね、ツン様」

爪'ー`)y-「……さま?おいおい、何者なんだよ、この娘」

そのフォックスが叩いた軽口にキッと強めた睨みを利かすと、
こほんと一度咳払いしてから、厳しい口調で言い放った。

(‘_L’)「口を慎みなさい……この方は、今は亡き聖都ラウンジの司教。
      アルト=デ=レイン様のご息女にあらせられるお方ですよ?」

(;^ω^)「なッ……なんかよくわからんけど……お」

爪'ー`)y-「要するに、まぁ俺達と違って、大層に育ちの良いご身分だってぇ事さ」

(´・ω・`)(………なるほど。僕を救った彼女の”奇蹟の力”にも、頷けるよ)

(‘_L’)「こんなに煤けた顔をされて……随分とご無理をしたのですね」

そっと白く長い指先をツンの頬へと伸ばすと、フィレンクトはそっと彼女の
顔を汚していた土埃を、優しい手つきで拭い去る。

なされるがままのツンはというと、それに甘んじて頬を紅潮させていた。

ξ* ⊿ )ξ「あっ……あの……まずはお話を」

426 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:41:25 ID:Uhe7xlOo0

(# ^ω^)「ちょっ!何のつもりだお、あんた!」

(‘_L’)「………」

そのフィレンクトの手を横から振り払って身体を割って入れたブーン。
目の前でいちゃいちゃと下らない茶番を見せられた事に腹を立てた彼の目を、数秒見つめた後───

無造作に伸びたフィレンクトの手が、ブーンのほほを両側から押さえつけた。

( _L )「何の……つもり?」

(;#) °ω°(#)「むぉッ!?……むぐっ、むむむぅぅ」

(‘_L’)「それは……こちらの台詞です。それでは───逆に聞きましょう。
      貴方達冒険者二人は、一体何故このような場所にいるのです?」

顎ごと口を押さえつけられ、物を喋る事も出来ない。
驚くべき事に、じたばたと暴れるブーンの足はそのまま地面を離れる。

片腕で、さほど身長も変わらぬブーンの身体を、ぎりぎりと吊り上げているのだ。

色白で、線の細い身体つき───ブーンは先ほどまでそう思っていたが、違った。
甲冑の端から覗く隆起した筋肉は、恐ろしく高密度に鍛え上げられた肉体。

恐らくその膂力は、ブーン自身のそれなど軽々と凌駕するだろうという程に。

爪;'ー`)y-(………こりゃ、もう下手な事言わない方がいいな)

427 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:41:27 ID:nu0A504.0
起きてて良かった公文式

428 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:42:21 ID:Uhe7xlOo0

(‘_L’)「どうなのです?」

ξ;゚⊿゚)ξ「フィ、フィレンクト様!抑えて下さい」

(‘_L’)「………っ」

(;#) ω (#)「むぎゅっ」

ツンの呼びかけに、中空に吊り上げていたブーンから、フィレンクトはそのまま手を離す。
低い呻きを上げて、ブーンが尻餅をつきながら地面に落下した。

ξ;゚⊿゚)ξ「この方の言う通り、私は聖教都市ラウンジの司教の娘なの」

(;^ω^)「ごほっ、ごほっ……そいつ──その人とは、どういう関係なんだお?」

(‘_L’)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「そうねぇ………”将来を誓い合った間柄”、かな?」

(; ω )(; _L )「ぶふぉッ!?」

ツンのその言葉に、騎士団長と冒険者は息を詰まらせ、同時に激しく咳き込んだ。
それと同時に、背後で控えていた団員らからは非難が集中した。

429 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:43:00 ID:Uhe7xlOo0

「なッ……団長、いつの間にそんな抜け駆けを!」

「そんな話、我々は聞いてませんよ団長ッ!?」

「いつもは明朗なフィレンクト様が……影では司教様の娘を毒牙に……そんな」

(;‘_L’)「……落ち着きなさい!ツン様も、話を飛躍させ過ぎです!」

先ほどまで御堂聖騎士団と相対していた時の彼とは、似つかわしくない様子。
ツンの言葉に翻弄されてか、初めて人間らしい表情を見せたフィレンクトだった。

ξ゚⊿゚)ξ「久しぶりにお会いしたから、ちょっと困らせて見たかっただけ。真面目に話すわ」

(;^ω^)「ちょ、最初からそうしてくれお」

(´・ω・`)(解りやすい男だね……彼も)

ξ゚⊿゚)ξ「私がラウンジに居た時、その頃はまだ自由も全然無くて───
      祈る為に教会に押し込まれるような日々を送っていた時に、出会ったの」

(‘_L’)「えぇ……もう、かれこれ8年程前にもなりますか」

ξ゚⊿゚)ξ「旅の人や町の人の話を聞くのだけが楽しみだった私に、任務や巡礼で
      聖都を訪れた時、フィレンクト様は必ず立ち寄って、楽しい話をしてくれたわ」

430 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:43:59 ID:Uhe7xlOo0

(‘_L’)「2年前に団長へと抜擢されてからは、私も随分忙しくなってしまいましたが……」

ξ゚⊿゚)ξ「───で、その時に将来結婚してねって頼んだら、快く承諾してくれたって話」

(;‘_L’)「全く、いつの話をされているのですか……」

ξ*゚⊿゚)ξ「あれ、まだ有効だと思ってましたけど?」

(; _L )「ぶふぅッ!?」

「やっぱり……フィレンクト団長を見損なったよ」

「私達みんなの聖女だったツン様が……団長に汚されるだなんて……」

そんな野次がフィレンクトに集中したが、やはり統率は取れているらしい。
再び真面目な話をするために、静かな殺気を孕んだ視線を送ると、すぐに場は静まった。

─────

──────────

───────────────

431 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:44:33 ID:Uhe7xlOo0

(‘_L’)「真面目な話……ショボン=ストレートバーボン。あなたには、
      ”死霊術使役”の嫌疑がかけられているのです」

(´・ω・`)「ええ。私自身、痛いほどその歯痒さが骨身に染みています」

(‘_L’)「……それで、あなた自身は”潔白”だと言うのですね?」

ξ゚⊿゚)ξ「私も、そう信じています」

(‘_L’)「ふむ……とりあえずは、長い尋問になります。覚悟はしていて下さい」

(´・ω・`)「無論、承知しています」

ツンとショボンがフィレンクトの傍らに付き添い、ブーンらの元から離れた。
これから、聖ラウンジによるショボンへの尋問が始められるのだという。

先ほどの御堂聖騎士団に捕まっていれば、万が一にも証拠が出ない限りは、
死罪を免れなかった状況だという話を、その時になってブーン達は知った。

( ^ω^)「……ショボン、僕も信用してるお」

爪'ー`)y-「ま、ついでに俺もな」

だが、円卓騎士団に決して縁浅からぬ聖都司教の娘、ツンが良い方向に持っていってくれる。
そう信じて、冒険者達は対面した二人に向けて小さく手を振った。

432 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:45:26 ID:Uhe7xlOo0

(´・ω・`)「危ないところを助けられたよ、君達には」

ξ゚⊿゚)ξ「なんかちょっとだけ府に落ちないけど……ありがとうね。私も行くわ」

奇妙な縁で出会った。4人でヴィップの路地を走り回り、騎士団の小競り合いに挟まれたのは、
今にしてみればとてもとても短い時間だったが、そんな中でも互いの信頼は、芽生えつつあった。

「いつか────また」

そう心の中で言葉を投げかけて、二人の冒険者は”失われた楽園亭”に戻ろうと、踵を返す。

(‘_L’)「何処へ行こうと言うのです?」

─────が、突然二人はその襟首を掴まれる。
振り返れば、そこには無言の威圧感を漂わす、フィレンクト=エルメネジルド。

(;^ω^)「ま、まだ何かあるのかお……?」

爪;'ー`)y-「旦那……なんでまた、そんな怖い顔してんだい?」

(‘_L’)「………貴方達は冒険者宿で、御堂聖騎士団の数人に、体当たりをかましたそうですね?」

爪;'ー`)y-「あれは違うんだ、わざとじゃなくて……ただ……」

433 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 02:46:23 ID:Uhe7xlOo0

(‘_L’)「”下手な偶然を装って、明らかな妨害を行った”と、すでに情報が入っているのです」

(; °ω°)「ゲェェェェェェ───ッ!」

(‘_L’)「……今回は丸く収まったものの、貴方達も本来ならば御堂からすれば死罪ものです」

(‘_L’)「当然、事情を聞かせてもらう事になりますので、三日の拘束は覚悟しておきなさい」

別れを交わしたばかりだというのに───フィレンクトに首の後ろを掴まれ、二人も連行される。

猫のような体勢で連れられてきたブーンとフォックスの情けないその姿に、
これから厳しい尋問が待ち受けているであろうショボンも、思わず口元に笑みを浮かべた。

(´・ω・`)「ぶっ……ふふ」

ξ゚⊿゚)ξ「感動の、再会ね?」

(;^ω^)「楽園亭のマスターの鳥腿肉炒め……食べたかったのにお」

爪;'ー`)「あ〜あ、こいつとパーティー組んだ俺が間違いだったのかな……」

賑やかな4人組を引き連れ、フィレンクト率いる円卓騎士団は、夜の路地を行進する─────

434 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:06:48 ID:Uhe7xlOo0

──────

────────────


──────────────────


──────そこから、話は【冒頭】へまで遡る──────

/ ,' 3「大変貴重な時間を、すまぬな……」

( ・∀・)「いいえ、こんな私でも微力になれるのであれば、幸いですよ」

「それでは、失礼致します」
そう言い残して深く頭を下げながら、モララーはアークメイジの執務室を後にする。
ショボン逃走の件について、異端審問評議会の誰もが納得するであろう内容だった。

”ショボン=ストレートバーボン”という禁術破りを即刻処断すべきだと、思わせる程に。
彼の並べ立てた動機、証拠の数々は────あまりにも完璧だった。

( ▲)「……あのモララーという院生、天才と呼ばれながらも、実に礼儀正しいですね。
     まさに”天は二物を与える”といった印象を受けました」

/ ,' 3「………おぬしには、そう見えたのか?」

435 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:08:20 ID:Uhe7xlOo0

( ▲)「えぇ、それは勿論です」

/ ,' 3「ふっ………まぁ、そうじゃろうな」

顎から立派に生やした髭を撫でながら、”大魔術師”は一人───そう呟いた。

/ ,' 3「あやつの本性………見抜ける者は、そうはおるまいて……」

あの”モララー=マクベイン”という男は、確かに完璧だ。
だが、それゆえ”人”として完全とは、どうしても思えなかったのだ。

アークメイジ・アラマキは、本当に微かに───モララーから血と臓物の臭いがするのを感じた。
真っ直ぐにこちらを見つめていた瞳の奥に、良からぬ狂気が秘められている事にも、気づいた。

長時間の聞き取りで、まさか塔内に居たもう一人の不穏分子の存在が発覚してしまうとは───

/ ,' 3(───あやつ……本当に人間かの?)

436 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:09:42 ID:Uhe7xlOo0

内心「やれやれ」とため息をつきながら、アラマキは手を叩き、従者ら数人を呼び寄せた。
そして、次にアラマキが彼らに言い放った一言は、こうだ────

/ ,' 3「モララー=マクベインに、暗部の監視数名を付けろ。交代で、一度もその足取りを見逃すでないぞ」

アークメイジの命を受けた従者らは、即座にそれを実行に移すべく、動き出す。
やがて執務室に残されたのは、どこか遠くの一点へ向けて窓の外を眺める、アラマキ一人だけだ。

/ ,' 3(あるいは……”人を超えようとしている”のかも知れんの……)

─────

──────────


─────その三日後─────

アークメイジ・アラマキの命を受けてモララーを監視していたはずの
魔術師ギルド暗部構成員三名の死体が、賢者の塔付近の森で発見される事となる。

監視対象であったはずのモララー=マクベインが賢者の塔内から忽然とその姿を消して
何処かへと行方を眩ませたのは、それとほぼ同時期だったという事だ─────

437 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:10:51 ID:Uhe7xlOo0
   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第2話

           「栄枯と盛衰」


             ─了─

438 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:13:57 ID:.Sty3u6M0
リアルタイムで追えたのは初めてだ、乙
続き期待してます

439 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:16:14 ID:Uhe7xlOo0
皆様の支援の賜物で、思った以上に早く2話を投下出来ました。
おちゃらけた路線なんかも手探りで模索しつつ、3話もまた行き当たりばったりで考えて行きたいなと思っております。

さぁ、寝ないと寝坊してクビだ。

440 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:49:47 ID:i7/QANRwO
ほぼ毎日さくさく投下してくれるので 

楽しく読ませてもらってます 
これからも王道路線よろしく 
ところで、どちらでもいいことだけど 
ショボンはアーリータイムス、ストレートバーボン?

441 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 03:56:21 ID:Uhe7xlOo0
>>440
貴族としての本名がストレートバーボン
魔術師としての名がアーリータイムズ、というのが作者の脳内設定らしい
毎日さくさく投下は難しいと思うけど、読んでくれるのはありがたい事です、いい加減寝ます。

442 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/21(木) 18:28:27 ID:x6MM9yEAO
クーがどんな形でパーティーに加入するか楽しみ

443 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/23(土) 04:41:31 ID:2/B.LQGU0
連休だから3話書き進めようと思ったけど……2時間で5Kb……
こりゃあ……今日中の投下はきついかも知れん。

444 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/23(土) 10:46:10 ID:YuhU8rCY0
無理しないで、自分のペースで良いもの書いてくれよ
アンタには期待してるぜ

445 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:09:15 ID:lurrWzAg0
>>444
濡れた。半分まで投下します

446 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:10:37 ID:lurrWzAg0
───【交易都市ヴィップ】───


─────男は、とある酒場の隅でひっそりと酒を煽っていた。

酒場内の周囲を見渡せば、皆が仲間内でわいわいと過去の思い出話や、武勇伝に花を咲かせている。
だが、そんな雰囲気とは一切交わらないと主張するように、彼自身がまとう空気は、他を寄せ付け難い。

上下揃いの濃紺を装っている彼だが、どこか影を落としている彼自身の心を映し出しているかのように、
彼には夜の闇に溶け込むのがよく似合う。黒に一度入り混じってしまえば、漆黒も濃紺も分からない。

('A`)「………」

普段酒を飲まない彼にとっては、今飲んでいる強めの蒸留酒は、強敵だった。
最初グラスの端に口を付けた時には、思わず鼻腔から押し寄せる甘美な刺激に、顔をしかめた。

だが、一杯を飲み干し、気が付けば3個目のグラスが空こうかという今になっては、
甘ったるい口当たりながらも身体の内から熱が上がってくるその感覚に、身を委ねている。

447 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:11:25 ID:lurrWzAg0

どうやら今日は月も隠れた、静かな夜になりそうだ。

仕事をするにはうってつけだが、どうやら組織内でもいささか古株となりつつある自分には、
なかなか仕事が回ってこない。人目に付きやすく危険な仕事は、末端の構成員達に回される。
自分はというと、よほどの難易度を誇る単独任務ぐらいの時にしか動かしてもらえない。

ふんだんな見返りがある以上金には困らないが、正直身体を持て余していた。
だから、あんな冒険者の真似事などしてしまったのだろうか。

つい先日、リュメで───”侵入者排除の依頼”をこなしてきた。
依頼そのものは単独でも簡単なもので、途中に邪魔が入らなければ、割りのいい小金稼ぎだった。

結局はその侵入者の一人の交渉により、自分は楽をして金を得た。
「何をやってるニダ」などと依頼人には罵られたりして若干の殺意を覚えたが、
後始末の大変さを鑑みて、遺恨を極力残さぬように耐え凌いだ。

だが、そんな豪族気取りの言葉よりも響いているのは、あの時の侵入者の言葉────

448 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:12:19 ID:lurrWzAg0

”「あんたみたいに、殺しが特技みたいな人間に理解してもらおうとも思わないけどな」”

───確かに自分は暗殺者だ。だが、好きでこんな道に身をやつしたと思うのか?───


「あぁ……尊いね。一生懸命に生きてる人間の命を奪う権利なんてもんは、誰にも無い」

───黙れ。お前ら一般人が玩具を手にしていた頃、俺はナイフを持たされていた───


心の中で反芻されたその声に対して、反発し続ける。
あの銀髪の男が自分に向けて言った一言が、未だに何度も思い返されるのだ。

それほどに、自分の胸へ響いてしまっていた。

449 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:13:57 ID:lurrWzAg0

”「ツイてなかった……そう思うしかないと思うぜ?多分さ」”

───俺に過去殺されていった奴が、そんな言葉に納得すると思うのか───

”「も一度日向に戻ろうとしなかったのは、アンタがどっかで諦めてたからさ」”

───黙れ、偽善者が。安穏と日々を過ごしてきたお前達に、俺の何が分かる───


声に出して叫んでしまいたくなるほど、頭の中を過ぎるあの男の言葉に、拒否反応を起こす。
だが、沢山の人間を殺めてきた自分が、簡単にその言葉を受け止める事など出来ない。

自分自身───確かに心のどこかでは、男の言う事が正しいと思っている節がある。
だが同じように、今の自分の生き方が正しいと思っている自分もいるのだ。

いつの世も、人と人とは必ずしも分かち合えず、生まれの違いや信仰の違い───
そんな下らない理由で争いを続けるばかりの、愚かな存在。

そこらの虫けらでさえ、種の子孫を残すという大義名分の下に、全体で助け合いながら生きているというのに。

450 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:16:08 ID:lurrWzAg0

('A`)(こんなんじゃ……眠れねぇ)

どちらかが間違っており、どちらが正しいかなど、所詮は人一人の主観に過ぎない。
自らがやってきた事が果たして本当に正しいのか、そしてこれから自分はどう身を振るべきか────


────今夜、自己を苛むそのせめぎ合いに関して、結論を出そうとしていた。




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第3話

          「日陰者の下克上」

451 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:16:54 ID:lurrWzAg0

───【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】───

夕刻の音を告げるカラス達の鳴き声は、次第に遠くへと聞こえている。
街を出歩く人々の姿もまばらとなり、沈んで行く夕日は、ヴィップの街を茜色に染め上げていった。

その風景をなんとはなく目にしつつ、冒険者達は、やがて今晩の寝床であるその宿の前までたどり着く。

いつもならこの場所は、普段から多数の客で溢れかえっている、人気の冒険者宿。
当然、古めかしい木扉を押し開けるより前から、沢山の談笑の声が漏れ出てくるはずだった。

しかし、その喧騒が今日に限っては驚くほど鳴りを潜めている事に、一人が心持ちゆっくりと木扉に手をかける。

───────────────

──────────

─────


川 ゚ -゚)「今、戻ったぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……お帰りなさいっ!」

452 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:17:35 ID:lurrWzAg0

”彼女”が受諾した依頼は、とある目的地での地質を調査するという依頼だった。
移動には長い日数を要したが、道中では幸いにして何事も無く済んだ。

往復四日の旅路にして、つい先ほどヴィップへと帰還したのだ。
途中で随分と道草を食ってしまったりもしたが、この店にはまず顔を出しておきたかった。

この後はとある酒場で依頼人と落ち合い、調査結果を報告する手筈になっている。
250spの仕事の依頼も───もはや殆どが終わってしまったようなものだった。

(’e’)「よう、無事戻ったみたいだな」

川 ゚ -゚)「ああ。しかし……これは一体、どういう事だ?」

いつもならば大忙しの筈のマスターだが、彼ら以外に誰一人居ない状況に、彼女は訝しむ。
暇を持て余したか、デレと二人して各々の卓上を拭き掃除していたようだ。

(’e’)「こないだウチで派手に暴れやがった馬鹿共が居てな。
     お偉い騎士様が来て、”三日間商売するな”……だとよ」

川 ゚ -゚)「なんでまたそんな事に?」

(’e’)「……なぁに、そいつらも悪いんだが、俺も一枚噛んでた節があってな。
     ま、この程度の被害で済んで何よりさ」

453 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:18:09 ID:lurrWzAg0

ζ(゚ー゚*ζ「損な利回りでやってるウチにとっては、大打撃だけど……」

川 ゚ -゚)「ま、そうだろうな。料理にしろ酒にしろ、もう少し取ってもいいんじゃないか?」

(’e’)「そいつぁ、俺のポリシーよ」

ζ(゚ー゚*ζ「懐具合が心もとない駆け出し冒険者に優しいって、評判なのよ。うちのお店」

川 ゚ -゚)「確かにな。そのお陰で商売繁盛、万々歳じゃないか」

ζ(゚ー゚*ζ「でも……依頼の仲介料も入らないのは三日とはいえ辛いかも」

(’e’)「なぁに。時間と身体を余してる今は、こうして大掃除にでも励めば気も晴れるってもんだ」

川 ゚ -゚)(仕事熱心な父親に毎度毎度付き合わされるお前も大変だな、デレ)

ζ(゚ー゚*;ζ(ちょっとだけ……ね)

店の看板娘と親しげに話す彼女は、”クー=ルクレール”
周囲へは常に”クー”としか名乗らないが、彼女はこの二人にだけは心を開いていた。

454 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:18:52 ID:lurrWzAg0

それというのも、旅先で一人残され、そのままもらい子のように施設へと身受けされた彼女は、
一般的にはかなりの早年にして冒険者を志すようになり、15の時でそれを実現させるにまで至った。

それゆえ早熟である彼女は物事の機微にも敏感で、実に行動力のある女性へと成長した。
傍目からには常に冷静で落ち着きのある人物に見えるが、好奇心旺盛な彼女は、それが仇となって
危険な物事に巻き込まれる事も決して少なくはないのが、玉に傷であろうか。

それでも、大陸各地を旅歩く彼女はどんなに長期の依頼であろうと、必ずこのヴィップへ、
最初期から世話になっていたマスター達の元へと、帰ってくるのだ。

彼女にとっては、もう一つの故郷であるのかも知れない。

川 ゚ -゚)「そういえば、その”バカ達”とやらは達はどうしたんだ?」

(’e’)「尋問に連れてかれたよ……余所もんとはいえ、任務中の騎士に体当たりぶちかまして逃走したんだ」

川 ゚ -゚)「……よっぽど後先を考えない馬鹿者だな、それは」

(’e’)「だが、ちっとばかしは見所がある奴らさ」

マスターの話に適当に相槌を打ち、適当な椅子の一つに腰掛ける。
旅の疲れはまだまだあるが、まずは依頼を終えてしまわなければならない。

依頼人の元へと向かうべく、お互いの近況報告だけに済ませる事にした。

455 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:19:31 ID:lurrWzAg0

ζ(゚ー゚*ζ「もう行っちゃうの?クー一人ぐらいなら、宿は貸せるよ?」

川 ゚ -゚)「これから依頼人と会わなければならない。外に人も待たせてあってな……」

(’e’)「なら、とっとと済ませて戻ってくるんだな」

川 ゚ー゚)「あぁ、そうさせてもらうとするよ」

マスターとデレに軽く手を振り、またクーはすぐに宿を後にした。

───────────────

──────────

─────

二人と話込んでいる内にすっかりその存在を忘れていた、会話の最中に思いだしたのだ。
そういえば、今回の依頼の同行者を外で待たせてあったという事に。

一流を気取りたがる三流以下──そんな印象を受ける彼に、道中でもぞんざいな扱いをしてきたが、
どうやらそんな事でへこたれるようなタマではなかったらしい。

456 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:20:20 ID:lurrWzAg0

( ,,゚Д゚)「……ゴルァ、随分と遅かったじゃねぇか」

川 ゚ -゚)「すまん」

短く言い放ったクーの一言に一寸顔をしかめたが、既に歩き出していた彼女に気づき、
慌ててその後を小走りで追跡してゆく。

( ,,-Д-)「ったく、形式上とは言えパーティーを組んでるんだ、少しは仲間を敬う態度とかなぁ……」

川 ゚ -゚)「今回限りのパーティーだ。悪いがお前と次はあり得ない、ギコ」

傍らに並び立ち、クーに向けて小言を発するは異形の装飾が施された剣を背負う男。
今回の地質調査の依頼に飛びつき、500spの成功報酬を分かち合う予定の冒険者だ。

”ギコ=ブレーメン”
クーよりも若干歳は重ねている様子だが、聞く気にはならない。精神年齢は恐らくそれ以下だ。

一人旅での長旅というリスクを鑑みて、今回の依頼に同時に飛びついたこの男を、用心棒代わりとした。

彼と適当な会話を重ねながら旅歩いている間は、事あるごとに自分の名付けた剣を抜き出してクーに
見せびらかせたがり、彼女は四六時中を辟易させられてばかりだった。

457 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:21:12 ID:lurrWzAg0

ちなみにその剣、刀身の一部までが鱗のように加工された鉱物で覆われており、歪な形状をしている。
非常に珍しく、確かに幾ばくかの価値はありそうだが、肝心の腕前は恐らく伴わないだろう。

( ;゚Д゚)「そんな冷たい事言わなくたっていいじゃないか、あんなに夜を共にした仲間に!」

川#゚ -゚)「……その言い方は周囲の誤解を招くからやめてくれ」

( ;゚Д゚)「そうか……せっかく妖魔対策で同行させた俺が、活躍の場に恵まれなかった事に怒ってるんだな?」

川 ゚ -゚)「別に」

道中では貴重品を預ければ紛失してみたり、地図を渡せば途中で道を間違えていたりと。
一事が万事そんな調子で、終始和やかな旅をするはずだったクーの神経を逆撫でっぱなしだった。

( ,,-Д-)「いや、しかし実に残念だぜ。もし妖魔共が現れていればな……」

( ,,゚Д゚)「この俺の……"竜刀・邪尾"で蹴散らしてやっていたものを」

川 ゚ -゚)「街中で剣を抜き出して歩くな……衛兵の目に留まっても、私は知らんぞ」

( ;゚Д゚)「あ……いっけね」

言ってる傍から、少し離れた場所で立ち番をしている衛兵が、ギコの姿に一瞬眼を光らせた。
すぐさま背中へ剣を戻すと、へこへこと媚を売りながらクーにゆっくり付いていくしかなかった。

458 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:22:22 ID:lurrWzAg0

─────それから、程なくして。

川 ゚ -゚)「……ここだ、この酒場に依頼人が待っているはず」

( ,,゚Д゚)「いやぁ〜、案外長いようで短い旅路だったな?」

二人の足は、”悠久の時の流れ亭”という、一軒の酒場の前で止まった。

夜の帳も近づいており、加えて繁忙店である”楽園亭”が臨時休業を強いられている為、
活気が外にまで伝わってくる程、沢山の客がいるようだ。

川 ゚ -゚)「確かに長い行程だった……お前が途中、三回も分岐路を間違えなければな」

( ;゚Д゚)「だ、だから俺は最初から地図はクーが持っててくれって言ったんだ!」

川 ゚ -゚)「ま、私と同じく半額の250spも貰えるだけ、ありがたく思うんだな」

雑用も満足に出来ない男が、妖魔との戦闘でも役立つとはまず思えなかった。
これから別れる前に、最後の皮肉をギコへとぶつけてから、クーは酒場へと足を踏み入れる。

───────────────

──────────

─────

459 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:23:00 ID:lurrWzAg0

─────【悠久の時の流れ亭】─────

店の中へ入ると、予想通りの熱気であふれ返っている。
いくつかの卓をすり抜けて店の奥へと進む内、何人もの同業者に声をかけられた。

「……およ、クーじゃねぇか?」

「久しぶりだな、お酌してくれよ!」

「なんだぁ?その隣の、間抜け面ぁよぉ」

( ;゚Д゚)「あ……ども……」

川 ゚ -゚)「あぁ。私の依頼の同行者だ、同行者。酌させるなら、デレにでも頼むんだな」

周りの冒険者の何人もがクーへと言葉をかけ、その傍らにいる自分に対しては明らかに
敵意の篭った視線が送られている事に、ギコはここでも少し伏目がちに頭を垂れながら酒場内を歩いた。

まだ幼げだった当時からの彼女を知る冒険者からは、まるで娘のように思われている。
クーの後発として冒険者の道を踏み出した若者達からも、姉のような存在として信頼されていた。

周りの多くがクーを知っているという事からも分かるように、交易都市ヴィップというのは、彼女の庭なのだ。
各地を転々と旅歩いているという”ギコ=ブレーメン”にとっては、それが意外な光景だったようだ。

460 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:23:39 ID:lurrWzAg0

( ,,゚Д゚)「お前さん、ヴィップじゃ結構有名人なのか?」

川 ゚ -゚)「別に。生まれはロアリアだし、経歴も大した事はないさ」

( ,,゚Д゚)「ふぅん……経歴ねぇ」

川 ゚ -゚)「お前はそんな私よりも、ろくな経歴じゃなさそうだけどな」

( *,゚Д゚)「ふふふ……それがな、よくぞ聞いてくれました────俺は」

川 ゚ -゚)「あ……あれだ、依頼人」

ギコの口から放たれようとした言葉は、すぐにツンの言葉が上から被せられた。
彼女が指差す先には、酒場の角、少し他から離れた場所の卓に掛けて待つ、依頼人の姿があった。

( ・□・ )「おぉっ、無事戻られましたか!」

クーらの姿を確認するや、依頼人は席を立ち上がって二人を出迎える。

川 ゚ -゚)「えぇ、まずは結果を報告させて頂きたい」

その後─────三人は席に掛けて、半刻ばかりを依頼の話で過ごした。

461 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:24:08 ID:lurrWzAg0

その間のギコはというと依頼人持ちで軽めの夕食を取りながら、クー一人だけが
羊皮紙にも書き留めていた調査結果の留意事項を、つらつらと読み上げてゆく。

( ,,゚Д゚)「クー、これ旨いぞ。お前も早く食え!」

川 ゚ -゚)「………以上です」

( ・□・ )「いやはや、実に見事な仕事振りでした、お二方とも」

その充実の内容に依頼人も納得したようで、二人に対して依頼人からは、労いの言葉がかけられる。

ギコがクーにじろりと白い目で睨まれているが、特にその様子を気にかけるでもなく、
「最後になります」と、依頼人から2〜3の質問がクーに対して浴びせられた。

( ・□・ )「平坦な盆地という事ですが、気候に関しては如何です?」

川 ゚ -゚)「あの辺りにしては、比較的温暖でした。多くの植物の群生も見られます」

462 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:25:02 ID:lurrWzAg0

( ・□・ )「土地の所有権を行使する存在は、見受けられましたでしょうか?」

川 ゚ -゚)「いえ……ロアリアからはかなり離れた山岳との合間、人の手も入りづらいでしょう」

( ・□・ )「そうですか。なら、群生していた植物についての心当たりは?」

川 ゚ -゚)「あの辺は採取に非常に有意です。多くの薬草に混じってコカや、一年草のケシの実もありました」

( ・□・ )「………なるほど」

( ,,゚〜゚)「あむっ。……これ、もう一皿食っても大丈夫か?」

その瞬間、こらえ切れずクーはギコの頭に拳骨を振り下ろして引っぱたいた。
彼の前には、依頼人を前にして無礼極まりなく身勝手に振る舞うギコと、それを躾けるクーの姿。

だが依頼人はそれにも動じず、顎を触りながら深く考え込んだような表情をしていた。
様子を気にかけたクーが、そっと尋ねてみる。

川 ゚ -゚)「……先ほどの質問に、何か?」

意味はあるのか、と問いたいところを少しばかり堪える。
ヴィップから遠く離れた地にある、地質調査。

463 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:25:41 ID:lurrWzAg0

依頼の目的地だった場所は商売事を始めるにしても、殆ど人の流れは向かない僻地だった。
─────踏み入ってはいけないのかも知れない、が、真意を問いたい気持ちがクーの中に沸いた。

( ・□・ )「いや、十分。非常に素晴らしい成果を上げてくれた、お二人は」

だが、依頼の本当の理由を教えるつもりもないのだろうか。
腰で結んだ麻袋から、さらに二つの袋に小分けされた銀貨が、卓上に置かれる。

( ,,゚Д゚)「……おぉ、こんなにッ!」

麻袋の中身には、恐らく250sp以上の銀貨。
聞いていたよりも、10や20は上乗せされて報酬は渡されたようだ。

川 ゚ -゚)「これは……いいのですか?」

( ・□・ )「ええ。ですが一つだけ……ある条件を守って頂けますでしょうか」

大金をじゃらじゃらと手の中で数えるギコを尻目に、依頼人は声を抑えて言った。

( ・□・ )「今回の依頼の事、決して口外しないで頂きたい」

川 ゚ -゚)(……口止め料も兼ねている、という訳か)

子供のお使いのような依頼に、随分な額の報酬を手渡してきた依頼人。
彼のどこから500sp以上もの金がぽん、と出てくるのか。クーにとっては疑問でならなかった。

464 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:26:12 ID:lurrWzAg0

だが、世の中には知る事が必ずしも正しい訳ではない────知らない方が良い、という事もあるのだ。

( ・□・ )「それでは、私はこれで失礼します。………あぁ、この場のお代は私が
       払っておきますので、お二人はごゆっくり食事でもなさっていって下さい」

( ,,゚Д゚)「あぁ、久々に栄養つけさせてもらうぜ!」

川 ゚ -゚)「………」

そう言って、依頼人は店の隅を通ってそそくさと酒場を出て行った。

依頼人の心証も悪くは無く、報酬も弾んでくれた。そういう事にしておくべきだろうか。
だから、依頼人と最初に出会った時訝しげな視線で自分を値踏まれた事については、忘れておく。

───────────────

──────────

─────

465 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:27:41 ID:lurrWzAg0

( ,,゚Д゚)「あぁ食った食った……もう満腹だ、動けねぇ」

川 ゚ -゚)「食うことしかないのか、お前は」

与えられた報酬に何の疑問も持たず、夢心地で席に踏ん反り返っているギコとは対照的に、
クーにはやはり、ずっと先ほどの依頼人が残した言葉が気にかかっていた。

( ,,゚Д゚)「何難しい顔してんだ?」

川 ゚ -゚)「お前は何の疑問も抱かないんだな、あの依頼に」

( ,,゚Д゚)「まぁ……貰うもんさえ貰えりゃ、後はどうだっていいさ」

そう言って肩をすくめるギコに対し、クーは率直に愚鈍な男だ、と思う。
物事の裏側に潜む真実というものに目を向ける事無く、ただ金が手に入ればそれでいいんだろう───

そんな思いがギコに向ける視線から伝わったのかどうか定かではないが、ギコは姿勢を直して言った。

( ,,゚Д゚)「ま───確かに今回の依頼はガキのお使いにしては、法外な報酬さ」

( ,,゚Д゚)「だけど、知らない方が良い事もある………だろ?」

意外にも、ギコの口から出てきた言葉は、自分でも反省しなければならないと思っていた、共感できる言葉。

川 ゚ -゚)「まぁ……それはそうだが」

466 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:28:14 ID:lurrWzAg0

( ,,゚Д゚)「お前さんが好奇心旺盛なのは構わないがな、さっきの男、恐らくは
      地位の高い人間と、何かしらの関わりがあると俺は見たぜ」

川 ゚ -゚)「……その理由は?」

存外、表面上からは想像出来ないが、色々と考えている男なのかも知れない。
そう語って見せたその男の口にする次の言葉を、クーは待っていた。

( ,,゚Д゚)「簡単な事さ……」

────が、それを聞いた瞬間、認識を改めようと思っていたクーの彼に対する評価は、すぐに失墜する。

( ,,^Д^)「妙に言葉遣いがお上品だったろ?あいつ。ギハハ、俺って結構冴えてないか?」

川;゚ -゚)(いちいちこいつの言葉に反応するのが馬鹿らしくなってきた)

───────────────

──────────

─────

467 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:28:54 ID:lurrWzAg0

その後、店を出ようとしたクーだったが、「付き合えよ」とグラスをこちらに向けてきた
ギコの誘いに乗ってやり、一献だけ最後に酒を酌み交わしてやる事にした。

無下に断っても、次に再び会うときがまたあるかどうか、わからない稼業だ。

( ,,゚Д゚)「いやぁ、ヴィップって人も多いし綺麗だし……いい街だよなぁ」

川 ゚ -゚)「大陸一の都会と言われているからな」

( ,,゚Д゚)「全くだ。俺の父ちゃんにも……見せてやりたかったぜ」

そう言ったギコの言葉の端から、彼の父親はもう没したのだろうと、クーは推察する。
自分も父を亡くしているのだ。どこか遠い目で昔を懐かしむその表情から、見て取れたからだ。

川 ゚ -゚)「父親は、亡くなったのか?」

( ,,゚Д゚)「あぁ……俺がまだ小さい頃にな。父ちゃんが俺に残してくれたのは、これだけ」

川 ゚ -゚)「またその剣の話か……」

少し嫌そうな顔をしながら言ったが、それほどに思い入れのある剣なのか。
ギコが鞘に収めたままの剣を卓上に置く様子を、しげしげ眺めていた。

( ,,゚Д゚)「………”竜刀・邪尾”」

468 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:29:26 ID:lurrWzAg0

川 ゚ -゚)「悪趣味な装飾だ」

( ,,゚Д゚)「……俺の父ちゃんはな、若い頃に龍と戦ったのさ」

川 ゚ -゚)「は………?冗談は止せ、龍と戦って生きて帰ってこれる人間など、居る訳が無い」

( ,,-Д-)「それが……違うんだよなぁ」

川 ゚ -゚)「………?」

クーの言葉に肩をすくめて、卓上にある剣へと彼女の視線を促した。
ギコに促されるままに、クーはその剣の黒金に彫刻を施したような柄の部分を触ってみる。

非常に硬くごつごつとしているが、こんな形状を鉄を叩いて打ち出すのは困難だろう。
何かの生き物の鱗のようだが、自然界にこんな強度を誇る鱗など─────

そこで初めてその異形をたたえた剣のある特徴に気づき、驚いたように声を上げた。

川;゚ -゚)「!?……まさか、これは」

469 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:30:11 ID:lurrWzAg0

( ,,゚Д゚)「……あぁ、本当にちびっとだけどよ、これは龍の鱗から作られた剣だ」

川 ゚ -゚)「……もしこれに値をつけるとしたら、相当なものになるぞ」

( ,,^Д^)「まっ、父ちゃんの形見だし、売る気はないけどな」

自分も相対した事はないが、触らせてもらいながらギコの話を聞いて、納得した。
この竜刀とやらは、ドラゴンの鱗から作られた剣なのだ、ということが。

( ,,゚Д゚)「父ちゃんは昔、ある騎士団に傭兵として雇われてな。そっから龍討伐に赴いた」

川 ゚ -゚)「その時に、これを?」

( ,,-Д-)「あぁ、そん時の傷が元で、すぐに死んじまったけどな……現場は”地獄だった”らしい」

( ,,゚Д゚)「何しろ、50人の騎士団がものの半刻もしない内に壊滅したってんだ」

川 ゚ -゚)「……選ぶ相手を、間違えたな」

率直に所感を述べれば、それしか出てこない。

所詮、武器を持たねば野性の獣一匹とも渡り合えない人間が、”ドラゴン”という絵空事の中にのみ
生きるような存在を討つなどと、それこそ人間の驕り高ぶった考えというものだろう。

470 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:31:57 ID:lurrWzAg0

( ,,゚Д゚)「まぁな。だが、それでも傭兵だった親父は、逃げずにそいつの尻尾に全力をお見舞いした」

川 ゚ -゚)「蛮勇だが、大したもんだ」

( ,,゚Д゚)「一発で剣もへし折れたみたいだが、代わりに尻尾のごく一部……先端を切り取ってやったのさ」

何かと見せびらかされるのは迷惑な事この上なしだが、その話を聞いて、ようやく納得した。
ギコがこの剣に対して並々ならぬ思い入れがあるその理由に、クーは頷く。

川 ゚ -゚)「そしてその鱗から剣を作り、お前に託したという訳か」

( ,,゚Д゚)「そうそう。案外、俺に仇討ちでも望んでたのかねぇ……」

川 ゚ -゚)「お前じゃ無理」

( ;゚Д゚)「即答すんなよっ!」

ムキになって否定するギコを、涼しげな顔をしながら受け流すクー。
彼と共に旅をしてきた4日間の中で、酒を交わしている今が一番、互いの事を少し分かり合えた瞬間だった。

471 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 06:33:21 ID:lurrWzAg0

そうして────夜は更けてゆく。


そろそろ”楽園亭”のマスター達の元へ帰って、いつも取っている部屋で休もう。
眠気に欠伸を堪えながら席を立ったクーだったが、彼女は気づかなかった。

少し離れた席から、これまでずっと自分達に対して虎視眈々と目を光らせていた存在が居る事を────

───────────────


──────────

─────

472 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/24(日) 17:56:46 ID:r.LoeUVc0
きてた 続きいいい

473 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/25(月) 13:48:11 ID:MSYGJuZU0
乙!
みんなどっかで繋がってるから読んでて楽しいな

474 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/25(月) 16:04:30 ID:T9c12Rdo0
これ元ネタの原作とかってある?
はやく5人全員集合してパーティー組んで欲しい
ギコの本当の実力も気になるね 強いのか弱いのか

475 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/25(月) 16:34:21 ID:gslbYqQwO
元ネタはPCフリーゲーム、カードワースです。
今後名作シナリオをパクりまくり、脳内設定で繋げていきます

476 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/25(月) 21:26:33 ID:Mi0yLRcI0
TESからも少しネタ使ってる?
グレイフォックスとかもろもろ

477 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/25(月) 22:18:54 ID:39.r5cF.0
>>476
まぁ……同じ盗賊ギルドつながりということで少々

478 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/26(火) 02:13:51 ID:q/8E3qMQ0
おもしろすぎて芸さんにまとめ依頼してきた
そしたらまとめも検討してるってさ、まだわからんけど
超期待してる

479 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/26(火) 21:50:13 ID:PCQpbGlwo
いつの間にか再開してたのか
前ん時から読ませてもらってる乙

480 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/26(火) 23:40:43 ID:GLKVnERE0
ゲェェッ、本当に芸さんとこにまとめ依頼が……
俺の最終目標が叶ってしまったらどうしよう。
まとめられたら逆に逃亡するんじゃないか自分

481 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 00:38:49 ID:qkYiVeOY0
>>480
許さんぞ(´・ω・`)

まぁゆっくりでも肩肘張らず更新してほしい
最終目標は作品の完結だ、そうだろう?支援し続けるよ

482 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 00:45:16 ID:qkYiVeOY0
ちなみに芸さんのレス

199 名前:ブーン芸 ◆GEI3zaQxt2 投稿日: 2011/07/24(日) 21:57:48 ID:z8EQLJ6k0
自分でまとめてるのは大体注目してるって感じですかねぇ
だいたい「まとめる=気になる作品」ですから
特にって話になるとドラクエとか生きた本とかでしょうか……
まとめ依頼が来ていたヴィップワースはまとめようかなと思ってます

他所のまとめは最近あんまり利用してないので特にコレというのは思い浮かばないですね……
逆に何かオススメとかあったら読んでみたいです


まぁあんまり過度の期待は、芸さんにも迷惑がかかるし
なったらいいなくらいに考えておきなよ

483 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 02:02:52 ID:DoM9jNGE0
皆様方の支援のお陰でモチベーションが維持できております、感謝。
正直に言ってまとめてもらう程話も進んでませんし、見てくれた方がまとめ
依頼してくれたのはすんげー嬉しいですけど、まだ遠慮しときたいかなと思いますね。

今日明日が連休ですので、上手くいきゃ朝方投下できればいいな。

484 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 02:32:12 ID:u3dbdHK.O
まっとるよ
ところでこのスレってsage進行?

485 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:17:17 ID:DoM9jNGE0
>>484
途中までしか投下出来なかった時は、あんましageない事にしとります

486 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:29:26 ID:DoM9jNGE0
もう、とっくに夜の帳は下りていた。

店の片隅でグラスの底に僅かばかり残った薄い琥珀色をした酒に自分の顔を映しながら、
皆良い潰れて引き上げていった酒場の店内には彼一人だけが残され、うな垂れている。

('A`)(……飲みすぎたか)

表情こそしっかりと保ってはいるが、飲み始めてから6杯目の酒が底を尽くところだった。
「慣れない酒なんて、飲むもんじゃないな」と頬を紅に染めながら、一人ごちて───笑う。

彼の中で、ある決意がまとまりつつあった。

あの銀髪の男が投げかけた言葉を振り払い、多分自分は、自分のこれまでを正当化したかったのだ。
しかし、幼い日の自分の姿が頭に浮かんできては、その自分の邪魔ばかりしてくる。

おぼろげな記憶の中の自分は、どうやら今の自分と重なって、共に疑問の答えを導き出そうとしてくれている。
気がつけば、酒がもたらしているものではない”熱”が、心の奥底から湧き上がってきていた。


とても、黒い感情と共に。

487 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:30:06 ID:DoM9jNGE0

────【極東に浮かぶ大陸 ヒノモト】────


貧しく全時代的な暮らしを送っていた、ある小さな島国があった。
その存在を認知はされていたが、どんな民族が住んでいるかも解らない大陸諸国の
人間達からは、まだ交易船の発着なども敬遠されていた頃の話だ。

牧畜や、農業。
そんな自給自足にて生活するしかなかった彼らは、いつも陽光の下で額に汗して働いていた。

”カタナ”という武器を所持するこの国の実務者階級、”サムライ”
────言ってみれば、それは大陸で言う所の騎士のような存在だが。

その彼らと比べて身分の違いはあれど、わらぶき屋根の下で住み暮らすそんなヒノモトの人々の多くは、
自らが糧を得るための労働に、いつも満ち足りた生活を送っていた。

しかし、そんな彼らにある日を境に干渉していったのが、大陸民だ。
商工船の渡来により、彼らヒノモトの人々が知りえもしなかった多くの西洋文化が、押し寄せる。

488 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:30:36 ID:DoM9jNGE0
力あるものは富を得て、古い気質の人間は、はるか昔の文化へと置き去られた。
そうして身分や貧富の差は拡大の一途をたどっていく。

そんな煽りをもらってか、とうとう口減らしの為に我が愛息子を人身密売船に乗せて、
大陸へ送り届けるという道しか残されてはいなかったのだ────彼女には。

J(;ー;)し「ごめんね……ごめんね、ドクオちゃん……ッ!」

(;A;)「カーチャン……!カーチャァンッ!」

正確には彼女は───そして彼自身も、知らなかったのだ。

”ある大陸貴族が、貧しい家庭から養子を受け入れている”
そんな報せを聞いて愛息子を乗せた船が、闇商人が奴隷として売買する為に子供を乗せている船だなどとは。

だんだん遠くなっていく母親は、いつまでも彼に手を振り続けていた。
真相は知らないまでも、お互いに「二度と会えないだろう」という事は、理解していた。

489 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:31:08 ID:DoM9jNGE0

母との別れから三日三晩を泣きはらして────

それから彼はようやく立ち直ると、船倉内の他の子供達に目を向けるようになった。

('∀`)「ねぇ、ぼくたちこれから、”きぞく”っていうひとのとこにいくんだよ?」

(#゚;-゚)「………」

全身に痣の後や、古い切り傷をたたえた少女。
船倉の片隅で膝を抱えて、いつも俯いてばかりだったその少女を彼は気に掛け、話しかけていた。

興味の無さそうに虚空を眺めていた彼女は、恐らくこの船が奴隷を扱う船だという事を知った上で
乗せられたのだろう。そんな自分のこれからの身の上に興味もないのか、果たして人生というものに
絶望していたのかは解らないが、事あるごとに自分に話しかけてくるその少年に、少しずつ言葉を
返すようになっていった。

('∀`)「”でぃ”ちゃんっていうんだ?ぼくは………”どくお”だよ」

(#゚;-゚)「………ふぅん」

親元から離れ、航海の中で募ってゆくのは、子供ならば当然の感情だ。
そんな寂しさを埋めるようにして、彼ら子供達は次第に肩を寄せ合って眠るようになっていった。

490 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:31:50 ID:DoM9jNGE0

('∀`)「でぃちゃんのおとうさんは、うみのむこうにいるんだね」

(#゚;-゚)「……お父さんに会いたいから」

少しずつ深まっていく新しい友人との絆に、この時のドクオは寂しさを忘れつつあった。

「ふねって、たのしいかも」

これから海の向こうに行けば、もっと楽しい事が待っているのかも知れないと、
小さな胸には少しずつ、期待が膨らんでいった。

だが、そんな子供の幻想は────ある日突然船を襲った大嵐により、打ち砕かれる事となる。

(;'∀`)「おなか……すいたね」

(# ;- )「………おにぎり、食べたい」

大陸への航路を目指した奴隷船がヒノモトを出て、7日目を過ぎた所だった。

波を避けるため、大幅な迂回を余儀なくされる船。航行に数日もの遅れを及ぼす事となり、
必然として全員の食料は、切り詰めなければならなかった。

だが、舵を取る船員達に”商品”としてしか見られていなかった彼らに、
自分達が生きるための貴重な食料を分け与えられる事など、なかったのだ。

491 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:32:25 ID:DoM9jNGE0

「もうすぐつく」「もうすぐだよ」
そう言って、お互いを励ましあってきた彼らの体力も、もはや声も出せない程に枯れ果てていた。
泣きはらして無駄に体力を使った者から順に、周りの子供達も次々に餓死してゆく。

(A )「………カー……チャン」

(# ;- )「……おか、あ……」

そうして最後に残されたのは─────ついに、彼ら二人だけとなった。

──────

────────────


──────────────────


(A )「……んん」

船倉から担ぎ出され砂浜に身を投げ捨てられた時に、辛うじて意識を取り戻す。

「なんでぇ、たったの二人かよ」

492 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:34:30 ID:DoM9jNGE0

「一人は傷もんだな……こりゃあ、今回は見送りさせてもらうぜ」

「そんな!必死の思いでここまで運んできたんですぜぇっ!?」

その頃の彼ら二人には、必死に懇願する奴隷商人と、それから買い上げる目的で
集まっていた者達の会話の内容までは理解出来なかっただろう。

だが、その中に一人だけ名乗りを上げた者がいた。

「これが嵐の航海の中で最後に残った、ガキ二人か」

<_プー゚)フ「……面白いじゃん。一人、買わせてもらうぜ」

('A )「………」

ヒノモトでは見かけたことのない、とても派手な髪型をした男が、二人を見下ろしていた。
今でも覚えている────もうすぐ朝日が顔を出す、早朝の砂浜。

<_プー゚)フ「どうせ、もうどっちも長くはもたねぇだろ」

そして、男は言った。

「なら、面白い賭けをしようぜ」

言って、倒れ付す二人の中心点目掛けて、彼はどこかから取り出したナイフを突き立てる。

493 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:35:23 ID:DoM9jNGE0

<_プー゚)フ「どちらが先にナイフを拾って、相手を殺せるかだ」

<_プー゚)フ「なぁに、難しく考えるこたぁねぇ。そいつで刺せばいいだけの話よ……
       その後はもう動けねぇってぐらい、腹いっぱい旨いもんを食わしてやるさ」

男が考えたものは、他者の誰もが顔をしかめる程の悪趣味なゲームだった。
どちらか一人が生き残る為には、どちらか一人が死ななければならない───

しかし、極限状態の二人には、その意図など理解できようはずもなかった。
十数人もの子供が死んでゆく中最後に生き残った二人、そのどちらかは、確実に大きな”運”を持っている。

それをはっきりさせる為に殺し合いをさせ、最終的に生き延びる一人の存在が、
自分の組織にとっていつか必ずや大きな福音をもたらす源となると────信じたのだ。

彼らにとっては、これはなんという事はない儀式の一つ。

自分の組織を強くする為に、村の集落を襲って子供を根こそぎ掻っ攫ってきては、
武器を持たせた彼らが最後の一人になるまで、殺し合いをさせる。

そうして生き残った者は、強く優秀な暗殺者に育つと───”彼らの間”では信じられていた。
そんな凄惨な事を常日頃行っていた彼らにとっては、幼い二人の殺し合いなど、児戯のようなものだった。

494 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:36:22 ID:DoM9jNGE0

(# ;- )「……ドク、オ?」

その身にいくつも傷を残した少女は、もはや限界だった。

奇跡的に今を生きながらえているのは、皮肉にも、日々を強い苦痛に苛まれ続けながらも
それを耐え忍んできた彼女自身のこれまでと、ドクオとの励ましあいによるものに間違いなかった。

( A )「で………ぃ」

一方のドクオは、まだかすかに動ける力を残している。
砂浜を這いずりながら、でぃへと手を伸ばそうと────その途中で、手に何かが触れた。

硬い感触のそれは、ナイフの柄だ。

<_プー゚)フ「………拾え」

そこから男は途端に人が変わったように、威圧するような低い声でドクオに言った。

( A )「……こ、れ……」

その声が怖かったから、思わずつられるように手にとってしまった。
でぃの命を奪うためにそこに存在していた、ナイフを。

(# ;- )「わ……たし、もう……どうせ、だめだか……ら」

495 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:37:21 ID:DoM9jNGE0

虚ろな表情で、上っていく朝日を遠くに見つめていたでぃ。
ナイフを手にしたまま、その傍へと這いずってゆく、ドクオ。

<_プー゚)フ「出来ないか?なら、俺がお前を殺すぞ」

( A ;)「な、なん……で?」

二人の様子を眺めていた男が焦れたか、困惑しているドクオにはっきりと言い放つ。

どうしてこんなことになってしまっているのか───事態の飲み込めないドクオは、
おろおろと交互に二人の顔を見比べるばかりだ。

やがてドクオは、すぐにでも死んでしまいそうな身体を起こして、
最後の力ででぃの前に立ち膝をつき、その顔を覗き込んで、呼びかけてみた。

(# ;- )「……ここに、それ、刺すん……だよ?」

死を悟った少女は、小さな自分の胸を指差す。

( A )「でも……そんな事したら……」

ナイフを持った少年は、その言葉にもまだ躊躇していた。

<_プー゚)フ「殺すか、死ぬかだぞ。坊主」

二人の前に佇む悪い幽霊が、呟いている。

(# ;- )「そしたら……どくお、いきのび……れる」

496 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:37:57 ID:DoM9jNGE0

自らの死を懇願する少女の命が事切れるまでは、もう幾ばくの猶予も無かった。

(;A;)「なんでっ?そんなこと、したら……!」

少年は、最後まで躊躇した。これまで生を分かち合ってきた少女の命を、自らが奪う事を。

<_プー゚)フ「どうした、刺すんだよ………お前だって、死にたくないよなぁ?」

悪い幽霊は不敵に笑いながら、少年の耳元でひそひそとささやく。
人の心の中に潜む悪の部分を具現化すれば、こういう風になるのだろうか。

そして、彼は年端も行かぬ少年をそそのかすのだ────良心を踏みにじれ、と。
自分が生き延びる為には、他者の命を奪う事など決していとうな、と。

(#; -; )「いき、て?……どくお。わたしのぶん……まで」

(;A;)「なんで……なんでっ!?」

叫ぶ体力も残っていないはずのドクオだが、涙と共に、堰を切った感情が溢れ出していた。

<_プ∀゚)フ「────刺せぇッ!!生き延びたいならッ!殺してみせろよッ!」

(;A;)「ッ!?」

497 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:39:20 ID:DoM9jNGE0

その男の孕んだ狂気に後押しされたか、はたまた、それは生存本能による自分の意思だったかは解らない。
だがその瞬間、反射的にドクオが手にしていたナイフは、確実に彼女へと突き立てられたのだ。

(# -; )(あ……お…おとう、さ───────)


───────────────


──────────

─────

<_プ∀゚)フ「……いいぜ。合格だ、坊主」

笑みをたたえた男の前には、手も顔も血まみれにして震えている、ドクオの姿。
最期には眠るように瞳を閉じたでぃは、もう二度とまばたき一つする事もないだろう。

(;A;)「あ……あッ……あぁ、う……ふぐっ」

先ほどまで言葉を交わしていたでぃは、手をだらりと左右へと投げ出して、死んでいる。
暗い船倉の底で不安も期待も分かち合ってきた、最後の船旅仲間の命は、自分によって奪われた。

<_プー゚)フ「約束通りお前は俺が買い上げて、今日から面倒を見てやるよ」

498 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:48:24 ID:DoM9jNGE0

「あぁ……そうだな、俺の事は───」

幼い良心の呵責が許容の範囲を超えたのか、あるいは、体力の限界が訪れたのか。

( A )「─────で、ぃ………」

意識が遠のき、ゆっくりと砂浜に倒れこんでいった彼の耳には、その名前だけが最後に辛うじて届いた。

「────”エクスト”とでも呼んだらいい」

───────────────

──────────


─────


('A`)(エクスト………)

平和な島国に住み暮らしていた彼は、幼少の頃をのんびりと過ごしてきた。
それゆえ、誰かとぶつかりあうだけで、いつも簡単に泣いてしまうほどだった。

499 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 03:50:00 ID:DoM9jNGE0

皮肉な運命の巡り合わせは────その、”ドクオ”に、あまりにも過酷な道を示した。
時に名も知らない人間を殺めては、その人が歩んできたこれまでを”なかった事”にしてしまう。

もう自分は、二度と陽の当たる場所には戻れないんだと、あの後に思った。

─────だが、あの男の言葉を思い返すうちに。


爪'ー`)y-『も一度日向に戻ろうとしなかったのは、アンタがどっかで諦めてたからさ』

────『あきらめないで』─────


何の汚れも無い、純粋にして無垢だったあの頃の自分が、それに同調するのだ。


爪'ー`)y-『だから……結局、悔いようとも思わなかったんじゃない。悔いるのが、怖かったのさ』

────『こうかいするのは、けっしてわるいことばっかじゃないんだよ?』────

500 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 04:12:17 ID:DoM9jNGE0

('A`)「………」

どうやら、ようやく自分の中で一つの結論を導き出す事が出来たようだ。

”なかった事にしてはならない事”も────あるのだと。

「あのぅ、その……旦那ぁ。もうそろそろ、ウチは店じまいでして……」

しばし遠くを眺めながら物思いに耽っていたドクオを現実に戻したのは、
慎重に言葉を選びながら、ただ一人店の中に残ったドクオを帰そうとしていた、酒場の店主の言葉だ。

('A`)「あぁ………そんなに、飲んでたのか。俺」

「へ、へぇ……あぁ!お代は結構ですんで………また、ごひいきにしてくだせぇ」

自分が堅気の人間では無いという事に店主も感づいているからこそ、ここまで下手に出るのだろう。
その少し冷や汗交じりの表情をじっと覗き込んでから、ドクオは席を立った。

('A`)「飲み代、置いとくぞ」

501 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 04:14:05 ID:DoM9jNGE0

「あ、そんな!お代は結構でぇ……」

そう行って両手を小刻みに振る店主をの言葉を遮ると、飲み代分として100枚程が入った銀貨袋を、卓へと放る。
言葉を言いかけていた店主もその額にたまげて、去り行くドクオの背中を、目を見開いて見送っていた。

('A`)「あ、そうそう……」

外へ出ようと扉へ手をかけたドクオがはた、と何かを思い出したように店主の方へ振り向くと、尋ねた。

('A`)「俺の飲んでた酒、なんていう名前なんだ?」

「あ、アワモリっちゅう酒です……たまにしか買い付けられねぇですけど、遠い東の島国の酒で……」

('A`)「ふぅん……”アワモリ”ね……」

強い酒だが、どうやらそれが癖になってしまったようだ。
東の島国と言ったが、恐らくそれが故郷ヒノモトの酒なのだろうという事に思い当たると、一人頷く。

('A`)「美味い酒だったな……」

('∀`)「───また、来るぜ」

深く頭を下げていた店主に向け、背中越しにそういい残して。
───ドクオは、決意と共に酒場を後にした。

502 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 12:02:15 ID:Ov4vDkLMO
寝落ち、意識的?いいところで切るねえ 
続き早く書いて下さい

503 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:00:52 ID:DoM9jNGE0
申し訳!せめてキリのいいとこまでは投下しようと、一区切りにしてやす。
歯痛で睡眠不足で、なかなか集中力が持続しなんだ。

504 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:02:20 ID:DoM9jNGE0

────────────

────────


────


あたりは、もう夜半も過ぎたという頃合だろうか。
先ほどまでの酒場での喧騒が嘘のように、月も隠れた夜は静かだ。

自分達の靴音と、身震いさせてしまう程に冷たい夜風の音だけが、耳の傍で響く。

川 ゚ -゚)(随分と遅くなってしまったな)

この時間では、さすがに出歩く人影など殆どない。
楽園亭のマスター達も、さすがにもう休んでしまっただろうか。

( ,,゚Д゚)「……さて、ここらでお別れだな」

楽園亭へと続く裏路地に立ったクーの前に、ギコは立ち止まって言った。
鼻を指で擦りながら、彼自身は少しだけ湿っぽい感じを出しているようだが、それはいともあっさりと
クーの一言によって切り伏せられる。

川 ゚ -゚)「うむ。せいせいするよ」

( ,;゚Д゚)「いやいやっ!もっと名残惜しむとかあるだろ!」

505 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:03:01 ID:DoM9jNGE0

川 ゚ -゚)「別に……そういう間柄でもないしな。まぁ、縁があったらまた……ってぐらいか」

( ,;-Д-)「はぁ……気ぃ強いな、お前は」

川 ゚ -゚)「お前が弱いだけだろ」

( ,,゚Д゚)「……でも、ま。お前にはなんか、そんなのが似合ってる気がするぜ」

「大きなお世話だ」とでも返してやるべきだったか。
去り際、にやとクーの方へ笑みを浮かべて、ギコが立ち去ろうという所だ。

川 ゚ -゚)「─────?」

( ,,゚Д゚)「な、なんだよ……オイ」

さしもの鈍感なギコでも、自分達を取り巻く現状に気づいたようだ。
いつの間に自分達の周囲へと近づいていたのか、そこまではわからなかった。

ただ、音も無く闇夜の中に現れたのは、6人程度の集団だった。
それらが自分達の周りをぐるりと取り囲んでは、包囲しているのだ。

( ∵)「………」

( ,,゚Д゚)「なんだ……?あんたら」

506 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:03:45 ID:DoM9jNGE0

全員ともが仮面をつけており、面が割れぬようにしてあるのだろうか。
目と口に穴を開けただけの、簡素でなんとも味気の無い仮面の男達。

その下の表情は、一切伺う事が出来ない。

川;゚ -゚)(こいつら……一体)

どうやら、穏やかでない雰囲気を醸し出しているという事だけは分かる。
自分達は知らず知らずの内に、何かしらの迷惑ごとに巻き込まれてしまっていたのだ、とも。

仮面の一人が、くぐもった声で口を開いた。

( ∵)「お前達が……東部に地質の調査に出向いた冒険者だな?」

( ,,゚Д゚)「それがどうした、ゴルァ」

川 ゚ -゚)「………」

仮面の奥から聞こえてきた声は、さっき終えたばかりの、あの依頼の事だった────

他言を禁じる以上、やはりあの依頼には何かがあったのだ。
その”何か”に考えを回しながらも、数の上で完全に不利な状況を鑑みて、ゆっくりと動いた。

仮面の男達に隙を見せないように注意しながら、背中をギコへと預け、クーは前方の二人を見据える。

507 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:04:20 ID:DoM9jNGE0

( ∵)「なら、あの辺りに咲いていた草花も目にしたという訳だ……」

( #゚Д゚)「何の話だ?……全然わかんねぇぞ!」

川 ゚ -゚)(草花だと………?)

確かにあの辺には沢山の植物があった。薬草となる草花や、コカの葉や実に────他にも。

川 ゚ -゚)(コカに……ケシ───なるほどな)

そういえば、いずれも毒にも薬にもなる草花の一種だ。

成分を上手く抽出してやれば、怪我をした箇所の痛みを一時的に和らげたり、使いようによっては
人の気分を高揚させたりする事も可能になる───一言で表すならば、麻薬だ。

それらが一部ではバカに高価で取引され、中毒となっている人間もいるらしい。

川 ゚ -゚)「ヴィップや他の主要都市に暗躍し、人々を狂わす薬を流しているのはお前達……そういう訳か」

( ,,゚Д゚)「あぁん?」

( ∵)「………!」

508 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:05:21 ID:DoM9jNGE0

川 ゚ -゚)「どうやら疑問が解けた。あの辺りはその為にコカやケシを栽培する為に使っていた───
     それも恐らく、さも人の手が介入していないように見せ掛けていたのだろう?」

( ,,゚Д゚)「コカにケシといやぁ……麻薬の元にもなる、あれか!?」

クーの言葉に、遅まきながらどうやらギコも合点がいったようだった。

”地質調査”とは名ばかりに、恐らく自分達に仕事を依頼した男は、目の前のこの仮面達の
それら動きを押さえ込めようとする、何らかの治安維持的役割を担っている人間だったのだろう。

それが明るみにしてしまった今、彼らの狙いは自分達の命を置いて、他に無い。

( ∵)「……そこまで知られているなら、話は早いな」

6人の仮面達は、ほぼ同時に懐からゆっくりと短刀を取り出し、その柄を逆手で掴み構えた。
淀みの無い動作から、こういった事に手馴れた連中であるというのが分かる。

川;゚ -゚)(ギコ……殺しにくるぞ、こいつら)

( ,,゚Д゚)(わかってる)

腰に携える小剣を抜く機を、クーは見計らっていた。
全員が短刀を携えるとは言え、長物を帯刀する自分達にも、若干の利はある。

あとは、自分が背中を任せているこの男に───自分達の生死は託されていた。

509 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:09:12 ID:DoM9jNGE0

川 ゚ -゚)(私は人を相手取った事はほぼないが、剣の扱いに多少は自信がある……あとはお前が頼りだ、ギコ)

( ,,゚Д゚)「………」

川 ゚ -゚)(先ほど経歴がどうとか言っていたが、一応、尋ねておくぞ。お前───実戦経験の程は)

( ,,゚Д゚)「ない」

クーはその言葉に一瞬、自分の耳を疑ってしまった。

川;゚ -゚)(お前……本当に)

( ,,゚Д゚)「全く、ない」

妖魔が現れれば切り伏せていただとか、この剣は龍の鱗から作られたのだとか───
そんな事を吹聴してのたまっていたこの男は、でかい剣を背負っているだけの、まるで素人。

川;゚ -゚)「………まずいな、これは」

少しばかり、眩暈がした。
だが、しっかりと地に足をつけて仮面達の動きに注視しなければ、死ぬだけだ。

510 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:10:20 ID:DoM9jNGE0

( ,;゚Д゚)「出たとこ勝負だぜ……来るなら来てみろゴルァッ!」

( ∵)「…ッ!」

ギコのその叫び声を皮切りに、膠着を続けていたその現状は、目まぐるしく動き始めた。

( ∵)「シィッ!」

川;゚ -゚)「……はぁッ!」

前方の一人が駆け出て短刀を振るってくるのとほぼ同時に、クーは腰元の剣をすらりと抜き出して
その刃先へとぶつけると、力の向く方向を自分以外へと受け流した。

体勢の流れた所を浅めに斬りつけようと横に剣を薙ぐも、後方へと身体を反らされ空を切る。

( ,;゚Д゚)「うおぉッ!?」

( ∵)「チッ」

一方のギコは、4人が相手だ。その体格と、装備している剣などの外見から判断したのだろう。
クーよりも多くの人数があてがわれ、早めに潰してしまおうと、囲まれているのだ。

短刀を突き出してきた一人をすんでの所でかわすと、すぐにまた別の方向から突き出された
攻撃を避けようと、地面を転げまわるようにしながら辛うじてやりあっている。

こちらの二人を素早く撃破して素早くギコの手助けに回れば───まだ勝機はある。

511 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:11:05 ID:DoM9jNGE0

川#゚ -゚)「はっ……とんだ見込み違いだ!」

( ∵)「な……ぐぅッ!?」

女と侮ったか、飛び込んで来た一人を側面へとかわしながら、その肩へ小剣を通らせた。
意外な相手に一刀を浴びせられた事に驚いた様子だったが、戦意を削ぐまでには至らない。

( #゚Д゚)「こな……くそッ!」

( ∵)「へぶッ」

でかい剣だけに、ギコはそれを抜く暇も与えてもらえないようだ。
だがそれでも4人の敵を前にして、拳を仮面へと打ちつけ、必死に抗っている。

川;゚ -゚)(私一人ならば、包囲を抜けるのはたやすいが)

殺す気で襲いかかってくる相手に、2対6はいかにもまずい。
警戒が手薄な自分はいくらでも逃げられる道は空いているが、そうなればギコの命が危うい。

得策ではないと思いつつも、いち早くギコに助太刀すべく、こいつらとやりあわなければならない。

が─────どうやらその考えは、ギコも同じだったようだ。

( #゚Д゚)「ゴルァァァァァァァッー!!」

512 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:11:47 ID:DoM9jNGE0

( ∵)「ッ……!」

大声を上げながら体当たってくるギコに気圧され、二人ほどが怯み、飛びのいた。
空を切った体当たりだったが、勢いのままに、ギコはその方向へと包囲を突き抜ける。

川 ゚ -゚)「!」

( ,#゚Д゚)「おら、来いよ!てめぇら!」

相対する4人に向かって挑発する仕草を見せるギコの真意を、クーはすぐに見抜いた。
自分に一瞬だけちら、と視線を向けて、それを横手の路地へと逸らしたからだ。

「逃げろ」という合図だ。

川;゚ -゚)「ギコッ!」

( ,#゚Д゚)「そら、こっちだッ!」

恐らくは自分よりも剣の扱いが不得手であるギコは、半人前以下の分際で自分とこちら側を
分断し、危険を一手に引き受けて遠ざけようとしているのだ。

クーが引き止めるよりも早く、ギコは暗い路地へと走り去り、その背中は遠くなってゆく。

513 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:12:32 ID:DoM9jNGE0

( ∵)「3人ずつだ……そこの女、3人で当たれ」

一瞬思案していた様子の仮面達だったが、すぐにそのギコの後を、3人が追う。
結果、こちらには残された一人が追加されて1対3となった訳だが───

それでも、ギコの命を案じながら余儀なくされる戦いよりかは、ぐっとマシになったと言える。

( ∵)「………フシィ」

川 ゚ -゚)(どうする……逃げるか?自分も)

ギコを追った3人の姿も完全に視界から消えた。
こんな連中に、まともに付き合ってやる事もない。

逃走経路を頭の中で描きつつ、自分の喉首を狙う短刀にクーが注意を払っていた、その時だ。
一人の影が、横手の路地からこちらへ向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。

遠巻きにこんな状況の目の当たりにして、のこのこと現れる一般人は居ないだろう。

川 ゚ -゚)「!」

仮面達が一様にその人影へ顔を向けると、一人が声を上げた。

( ∵)「ッ……あんたは」

川;゚ -゚)(新手か……)

514 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:13:36 ID:DoM9jNGE0

陰鬱な空気を引き連れて、どこからかふっと沸いて出た、その男。
顔には覇気が感じられず、心なしか、仮面の男達の声に反応するのも面倒臭そうにしている。

('A`)

その場で立ち止まった男に、仮面の一人が声を掛ける。
口調からはお互いに面識があるのだと理解した。

( ∵)「なんでこんな所にいるんだ……あんた」

('A`)「………」

( ∵)「ま、丁度いい。手を、貸してくれるのか?」

厄介な事になった。これで今度は、自分が4人を相手にしなければならない────

そう思い、いよいよ逃走を行動に移そうとしたクーだったが、
その彼女を呆気に取る出来事は、彼女の目の前で唐突に起こった。

('A`)「………ふぅ」

( ∵)「え………?」

川 ゚ -゚)(な………!)

515 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:14:48 ID:DoM9jNGE0

言葉をかけた仮面の男の首元に、腕を動かして何かをした。
そこまでは解った────そしてすれ違うように、ゆっくりと他の仮面の男達の方へ歩いてゆく。

( ∵)「なぶ、ごぼぼっ」

間を置いてから、男の後方では仮面の一人が声ともつかぬ奇怪な音を発する。
かと思えば、ぱっくりとその喉は割れていた。そこから鮮血が、まるで噴水のように噴き出したのだ。

川;゚ -゚)「─────ッ」

ばちゃりと音を立てて、その身体は一度よろめいてから、自らの血の海へと倒れこんだ。

たった一振りのナイフによる、目にも留まらぬ早業で。
男は────仮面の喉首を即死するほど深く掻っ捌いたのだ。

まばたきする程の間に、人間が一瞬で血を噴き出すだけの悪趣味なオブジェになってしまった光景。
そんなものを見せられたクーは、口元に手を当てて叫ぶのをどうにか堪えた。

出来る事ならば、大声で叫んでしまいたかった────だが、一瞬でこの場を恐怖で支配した
男が発する、息も出来ない程の威圧感が、そうはさせてくれなかった。

( ∵)「な……なんで……」

川;゚ -゚)(仲間では……ない、のか?)

516 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:15:54 ID:DoM9jNGE0

他者であるクーからしても理解できぬ、男の取った行動。
もっともそれは、恐らくは身内であろう当人達とっても呆気に取られる出来事だったはずだ。

( ∵)「どうして……どうして殺したッ!?」

('A`)「………はは」

短刀を携える仮面達は、ようやく状況を飲み込めたようだ。
仲間を殺したその男に対して怒声を上げながら、狙いをクーから切り替えたようだ。

('A`)「俺らが今まで殺してきた奴らの心境ってやつもさ……」

( ∵)「く、来るなッ」

呟きを漏らしながら、無造作に距離を詰める男に対し───仮面達はかなりの焦燥を浮かべているようだ。

どうやらこの混乱に紛れて逃げ出す事は容易そうだったが、クーはというと、畏怖からかまるで
その場に釘で打ち付けられたように、目の前で起こる出来事から目が離す事が出来ないでいた。

男の動きを牽制しようと突き出した短刀は、いつの間にか地面へと落ちている。

川;゚ -゚)(なんと……)

それも、手首ごと────だ。

517 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:16:28 ID:DoM9jNGE0

( ∵)「あ、うっぐ!?………ぎゃッ────」

一瞬遅れて自分の身に起こった変調に気づいた仮面が、手首の痛みに
狂おしい叫び声を上げようとするが、次に男は、ふっとその懐へと潜り込んでいた。

('A`)「……今のお前らと、同じだったんだろうなぁ」

クーがその動作を認識したかと思えば、まるで最初からそこにあったかのように太く重厚な刃は、
叫びを上げようとした仮面の男の心臓あたりへと、突き立てられていた。

( ∵)「……ひッ」

('A`)「………なぁ?」

また一人の身体が、地面へとゆらりと崩れ落ちる。
最後までそれを見届ける事なく、やがて男は残された一人の目の前に立った。

見せ付けられた圧倒的な実力差────明確な力関係が、他者のクーにも一目で解った。

男がまた一歩を踏み出した所へ、残された仮面がやけくそ気味な大振りを繰り出す。
それも無為な行動だったようだ。悠々と短刀を避けられ手首を掴まれると、そのまま身を手繰り寄せられた。

('A`)「お前には、生きててもらうぜ」

518 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 14:18:43 ID:DoM9jNGE0

( ∵)「やッ、やめ───!」

川; - )「!」

男が仮面の目元辺りに手を掛けたのを見て、何をしようとしているのか、すぐに意図を察した。
想像するだけでも見るに耐えない光景から、クーはすぐに顔を背けてそれを遮断する。

「あああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ─────」

それからすぐに、狂乱めいた悲痛な叫びは路地へと木霊した。

仮面の両の目の穴越しに、眼球の奥深くまで指をずぶりと差し入れたのだ。
クーが視線を戻すと、血の涙を流す仮面の男がびくびくと身を痙攣させながら、失禁している。

「う……うぐっ」

痛みに嗚咽する男は、もう意識が無くなりかけている。
仮面も取り払い、地面に額を擦りつけながら身悶える彼の傍らに、男はしゃがみこんだ。

('A`)「”エクスト”に会ったら伝えろ………”昔の借りを返してもらう事にした”ってな」

川;゚ -゚)(なん、なんだ……こいつは)

ふらりと現れたこの男の前に、3人の男は、瞬く間に倒された。
その手口はいずれも鮮やかで、それでいて冷血無比なものだ。

気の抜けたような表情のこの男からは、これほどの暴力を生み出すなどと、到底思えない。
何の躊躇も無く仲間を殺し、その後ですら平然と振舞っているのだ。

心情も、意図も、何もかも────読み取る事など、出来なかった。

519 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 15:44:19 ID:DoM9jNGE0

('A`)「………」

川;゚ -゚)「………くっ!」

そうしてゆらりと立ち上がると、金縛られたようにしてその場で立ち竦んでいたクーへと、振り返った。
どこまでも暗いその瞳を見返しながら、どうにか己を奮い立たせると、小剣を男の前に構える。

('A`)「あぁ……冒険者か、お前さん」

川;゚ -゚)「───それが、どうした……ッ!」

カラカラに乾いていた口から掠れるようにしながらも、どうにか声を捻り出す事が出来た。

それに「ふーん」とさほど興味もなさそうな態度のまま、男はちらちらとクーの身体のあちこちを
一通り眺めると、突然そっぽを向いて、手のひらを振り払った。

('A`)「行けよ」

川;゚ -゚)「?」

('A`)「ここから消えなって、言ってんだ」

川;゚ -゚)「………」

520 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 15:44:50 ID:DoM9jNGE0

面と向かって相対するだけでも、底知れぬ闇の淵へと引き込まれそうになる。
そんな光のない男の瞳は「お前に興味は無い」とでも言いたげに、クーではなく、ただ虚空を眺めていた。

('A`)「女を殺す趣味はないんでね」

川;゚ -゚)「……お前は、一体……」

('A`)「……早くしねぇと、俺の気が変わるかも知んねぇ」

一歩後ずさると、剣を盾にしながら決して男に隙を見せないように、ゆっくりとその周囲から距離を取る。

まるで彼の眼中に無いクーは、その場から駆け出す間際、一度だけ男の方へと振り返ってみた。
最後に目にしたのは、夜空の星々を眺めるようにしながら天を仰ぐ、男の姿だ。

川 ゚ -゚)「………」

そこらに転がる無残な亡骸を極力視界に留めないように気を使いながら、離れ離れになった
ギコの後を追うために、彼が消えていった方角へと、クーは夜道を走り去っていった。

───────────────

──────────


─────

521 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 15:46:38 ID:DoM9jNGE0

ドクオは、一人呟く。

('A`)「ま……これからが大変だわな」

当然の話だ、組織から足抜けしようとするだけでも刺客に命を狙われる、厳しい暗殺者ギルドの掟───
その禁を破るどころか、その組織全体を敵に回してまで、自分は過去を清算しようとしているのだから。

('A`)「………」

自分が今まで犯してきた事は、決して拭いきれるような罪では無い。

子供を攫い、祖夫婦の亡骸だけが残された家には、隠滅の為に火を放った。

一人街を出歩いては、孤児達に施しをして回っていた身分の高い僧服の男は、政治的戦略の為に殺した。
せめて今自分の中に宿っている命が生まれるまでは、と涙を浮かべて我が子の命を案じる若い母親も、殺した。

そうして気づけば、表情にも、声にも。感情を表に出す事は、ほとんどなくなっていた。
幼かった泣き虫が、組織随一の腕とまで囁かれるようになるまでには、人間らしい感情は失うべきだったのだ。

そうでなければ、たとえ10回分の自分の人生を懸けてもあがない切れない程に膨大な、
その罪の意識に耐え切れずに─────きっと壊れてしまっていたから。

('A`)(それでも、殺す事にゃ変わりないが)

522 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 15:49:41 ID:DoM9jNGE0

ある時、自分と同じようにどぶの沼に浸かった事のあるような、そんな目つきの男が居た。
だがそいつは自分などとは違い、その瞳に、確かに強烈な輝きをたたえていたのだ。

最低最悪の思いをさせられ、手を血で染めてきた過去に対して踏ん切りをつける事など、出来ない。
過去を省みることすらが罪なのだと────そう思っていた自分に、そいつは簡単に言ってのける。

「ツイてなかった、そう思うしかない」

そんな言葉で割り切れる程、安いものではない。

しかし、それはもしかしたら───自らが犯した”罪”という過去から目を背け続けて来た自分が、
これからも過去から逃げ続ける為の、単なる言い訳に過ぎないのだと、ようやく気付いた。

諦めていたのだ。
自分や、周囲を取り巻く環境全てに。

考える事すら放棄していた。
何かしらの想いを抱いて、自分が傷つく事を恐れて。

当然、地獄に落ちる人間なのだという事は解っている───けれども、たった一つ。
多くの人の命を奪ってきたその自分にも、たった一つだけ償いたい過去があった。


──────その為にやるべき事が、見つかったのだ。

523 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 16:00:40 ID:DoM9jNGE0

夜空に輝く星の一つに向かって、ドクオが一人呟く。
そこにいない筈の、誰かの姿を投影するようにして。

('A`)「そっちに行くのも───そう遠くないかもな」

それを償うべきにやる事は、自分をこれまで優秀な人殺しへと育て上げた、暗殺者ギルド。
かの現・頭目”エクスト=プラズマン”を殺す事によってのみ、果たされる。

数多の罪の中の一つ、その贖罪だけが―――──今後の自分の全てを賭した、望みだった。

('A`)「なぁ………”でぃ”よ?」

星空は、ドクオの問いかけに応えない。
ただ、羨むように見上げる彼の頭上で、星たちが確かな輝きを放つだけだった。

冷たく閉ざされた氷壁のような彼の胸の内に、とくん、と鼓動が高鳴る。
氷を溶かすほどの”熱”が───今、生まれつつあった。

524 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 16:05:32 ID:DoM9jNGE0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第3話

          「日陰者の下克上」


             ─了─

525 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 17:21:49 ID:cUxXypnU0
クソッ! 元ネタ知らないのにこのwktk感はなんだ


続きに期待

526 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 17:23:51 ID:qkYiVeOY0
ドクオカッケーーーーー

527 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 18:15:15 ID:LohvBt5A0

ドクオカッコいい

528 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 18:19:27 ID:jPsfTaZEO


529 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 18:54:46 ID:t8u3AJeko


530 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 19:53:32 ID:L6wPGCHU0
今まで読んでなかったのが悔やまれる
こんな面白い作品があったとは


531 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/27(水) 20:38:09 ID:vXSbeH.UO
乙ー
ギコ大丈夫かしら

532 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/28(木) 01:35:51 ID:z3ZALQxcO
最近のRPG系ファンタジーの中でもトップを競うね
wktkが止まらない作品というのは、本当に生きる活力を与えてくれるよ

533 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/28(木) 02:17:27 ID:DNe7tX3s0
>>525-532
お褒めのレスの数々にイッた。
続きを早いとこ書きたいですが、おしごとのしりょうづくりをしなくちゃで…
次回はなるべく冒険話にしますわ。

534 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/29(金) 16:01:37 ID:VbuGG4i6O
続きが気になっちまうぜ

535 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/07/29(金) 21:39:21 ID:3pGoXqUkO
あげ

536 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/02(火) 18:35:16 ID:Peqrnz/I0

登場人物全員が魅力的だな

537 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/03(水) 23:04:47 ID:co25M3DoO
おもしろい作品はいっぱいある

でもこれは数少ない「好き」になった作品

538 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/04(木) 21:32:21 ID:D6Ote9jc0
嬉しい事言ってくれるぜ!久々暇な休みに入ったので、今日は書き溜めるぜー。
投下できるかはさて置き……書きたい話が溜まってるのに時間が足りない。

539 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/05(金) 18:17:32 ID:2UgtBFw20
創作版引っ越しの話があるけど、作者はどうするのかな
個人的には移動して欲しいけど

540 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/05(金) 20:46:43 ID:0BKk1Fm6O
あげ

541 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/05(金) 20:52:45 ID:0BKk1Fm6O
あげ

542 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/06(土) 20:12:00 ID:qFM10oZsO


543 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/06(土) 21:30:58 ID:oQ2AAS6U0
>>539
もうちょい様子見しますわ。
その間書き溜めして、状況見てお引越しなり残留なり決めます。

544 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/08(月) 19:07:05 ID:6.DGpYBwo
あげ

545 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:06:59 ID:ejE1LJMM0

───【交易都市ヴィップ 騎士団兵舎】───


ショボンへの尋問が始まってから、およそ三日の月日が流れ、今は早朝だ。
これまでの間一貫して、御堂聖騎士団の使者より報告された事実を否定し続けるショボン。

その彼の話の一つ一つを受け答えながら、直々に尋問に当たっているフィレンクトは、
少しの疲れも見せず、彼の一挙手一投足を見張る眼光も揺らぐ事はなかった。

そして───尋問開始の三日目にして、三度顔を会わせた相手に対し、ショボンは開口一番にして言った。

(´・ω・`)「もう、私にはこれ以上お話すべき事がありません」

(‘_L’)「………」

それきり口をつぐみ押し黙ったショボン、どう切り出したものかと、フィレンクトは顎を撫でる。

(‘_L’)「それは………”自分は死霊術に手を染めた事実など無い”そういう意味でですね?」

(´・ω・`)「勿論です」

御堂聖騎士団からの使者によれば、彼は聖ラウンジの信仰を真っ向から否定する対極のような存在。
人の生死を弄ぶ術を用いる、悪党だという事を知らされたのだ。

546 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:07:30 ID:ejE1LJMM0

罪状にあったのは、人の命や身体を媒介とする禁術”死霊術”研究についての嫌疑。

だが、ショボン=ストレートバーボンという男の罪状は、果たして真実なのか。
フィレンクトは自分でそれを確かめる為に、この三日間をずっとショボンへの尋問に注いだ。

どこまでも真っ直ぐで力強いフィレンクトの瞳は、嘘を吐く者をたちどころにたじろがせる。
だがその彼をして、三日目の尋問にしても一見すると力の篭らないその瞳が、不安や怯えに揺らぐ事はなかったのだ。

(‘_L’)「もし、貴方の言う事が、真実であるとするならば」

(´・ω・`)「えぇ、私を計略に貶めた張本人こそ────」

信憑性はある。

あのアルト=デ=レイン司教の息女ツンが助けられたという事実からして、
フィレンクト自身も、彼が嘘を吐くような人間とは思えなかったのだ。

とはいえ───これは彼ら円卓騎士団の一存だけでは決めかねる問題だ。

御堂聖騎士団や、魔術師ギルドの上層部。ひいては、多大な発言力を持つと言われる
魔術師ギルドの最高権威者であるアークメイジ・アラマキ=スカルティノフの手前もある。

たとえフィレンクトがショボンの言葉を信じるとしても、これから彼には異端審問を
協議する場へと、連れ立ってもらわなければならないのだ。

547 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:08:02 ID:ejE1LJMM0

顎を触りながら、これまで幾度も聞いてきたショボンの次の言葉を待っていた時だった。
突然、騒々しく駆け出してきた一人の騎士により、二人が座る部屋の扉が開け放たれる。

(‘_L’)「何です、尋問中に騒々しい」

「いえ……申し訳ありません───ですが、火急なのです」

(‘_L’)「ならば、今この場で聞きましょう」

言って、席を立ち歩み寄ったフィレンクトが、伝令の騎士へと耳打ちを促した。

「つい先ほど、アークメイジ直筆による書簡が届けられ………そこに書かれていたのは───」

(‘_L’)「………ふむ」

───────────────

──────────


─────

548 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:08:37 ID:ejE1LJMM0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第4話

       「正しき怒りと、切なる慈悲と」

            (前編)

549 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:09:14 ID:ejE1LJMM0

───【交易都市ヴィップ 騎士団兵舎地下】───


時折騎士の一人が牢の前まで来ては、そのだらけた二人の様子に鼻を鳴らして去ってゆく。
格子に覆われた冷たい石の床の上で、二人は思い思いの過ごし方をしているようだ。

爪'ー`)「煙草……吸いてぇな」

( ´ω`)「……こっちまで煙いのは御免だお」

爪'ー`)「ったく。言いだしっぺのお前のせいで、俺までこんな目に遭ってるってのに」

( ´ω`)「意気揚々とばればれのへぼい作戦を提案したのは誰だったかお……」

腹減りで体力を出来るだけ消耗せぬようにと寝転がっているブーンの背中に向けて、
目じりをきっと吊り上げて、フォックスが食って掛かった。

爪#'ー`)「あん!?言ったな、言いやがったな?そもそもお前が面倒な事に首突っ込まなきゃ、
     遅かれ早かれこいつら騎士団がなんとかしてくれてたのに、お前ときたら───」

(; °ω°)「おぅふッ……びっくりしたお!自分だって面倒な事になると解っててブーンの話に
        乗っかってきたのに、まさか後から愚痴られるとは思わなかったお!こんなことなら───」

550 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:09:49 ID:ejE1LJMM0

と、そこへ騒ぎを聞きつけた見張りがすぐに駆け寄ってくると、格子の向こうの二人を一喝する。

「静かにせんか貴様ら!もうすぐ出られるというのに、懲罰を増やされたいか!」

爪;'ー`)「………」

(; °ω°)「………」

「いや………(ですお)」

ショボンと時を同じくして、この三日間を牢に入られていた二人の冒険者。

異端者狩りに定評のある旧ラウンジ聖教が誇る【御堂聖騎士団】は、魔術師ギルドの人間から要請されて
本拠を置く西部地方"エルシャダイ"の街から、このヴィップへと訪れて任を全うするはずだった。

─────が、その彼らを妨害したとして、ブーン=フリオニール、グレイ=フォックス両名は
間に割り込んだ円卓騎士団の尋問の結果、これまでを兵舎の地下牢にて拘束される事となったのだ。
三日の刑期をあてがわれ、二人はこの騎士団兵舎にある地下牢にて、力なく寝そべっていた。

見回りの一人が怒声を浴びせて去っていったのと入れ替わりに、靴音がこちらへと近づいてくる。
その音は、やがて自分達の前で止まった。

不毛な言い争いにくたびれた二人は、緩慢な動作で声の方へ顔を持ち上げる。

551 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:10:19 ID:ejE1LJMM0

(‘_L’)「その様子だと、自らの行いを十分反省できたようですね」

身を起こして見上げた先には、良く見知った二人の顔。

ξ゚ー゚)ξ「久しぶりね」

ブーンらを巻き込む騒動の火種となった一人─────ツンの姿もそこにはあった。

( ^ω^)「フィレンクトさん……ツンも!」

爪'ー`)「おっ……もしかして俺達、やっと釈放されるのか?」

(‘_L’)「そういう事に、なりますか」

柔和な一面を持ち合わせている筈の彼だが、厳格な表情を崩す事なく言った。
腰元に束ねた鍵の一つを取り出し、手馴れた動作でブーン達が囚われた牢を開錠する。

ξ゚ー゚)ξ「良かったよかっ───」

(;^ω^)「やっと出られるおね!この三日間、飢えに飢えて大変だったお……」

ξ゚⊿゚)ξ「あの、この間は───」

爪'ー`)「ま、出所祝いを兼ねて、親父ん所でまずはメシだな。さ、早く行こうぜ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「………」

552 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:10:54 ID:ejE1LJMM0

すぐにでも娑婆の空気を吸いたいのだろう。

二人がツンの言葉を遮りながら、自由の身になった喜びを分かち合い始める中、
膨れ面をしていたツンの様子を気遣って、フィレンクトが一言物申した。

(‘_L’)「貴方達が今回釈放されるのは、ツン様に免じての事です。
      私自身、まだ貴方達二人を許したつもりはありませんよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「……そうよ、私だって責任を感じて、フィレンクト様を通して上の人に結構口添えしたんだから」

再会については何も触れられなかった事に多少気分を害したツンが、
フィレンクトとの言葉に同調するように「そうだそうだ」、と言わんばかりの表情で頷く。

( ^ω^)「……はぁ」

爪'ー`)「あー、もうちょいさ、俺らへの感謝ってのもな……」

ξ゚⊿゚)ξ「別にこっちは、助けてなんて頼んだ覚えはなくてよ?」

爪#'ー`)「なっ……この────」

(‘_L’)「………」

きつい様子のツンに食って掛かろうとしたフォックスだが、すぐ隣にいたフィレンクトが同時に
歩み出たのを確認すると、くるりと踵を返した。視線を適当な場所に散らし、口笛を吹いて誤魔化す。

553 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:11:25 ID:ejE1LJMM0

フィレンクトの背後からべろを出して挑発するツンに対し、フォックスは拳を打ち振るわすしかなかった。

ξ>⊿<)ξ(イーッ、だ!)

爪#'ー`)(堪えろ、オレ……さもなくば、この脳筋野郎に張っ倒される……!)

(‘_L’)「ツン様も、人事ではないのですから」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、あっ……はい」

振り返り、子供じみた表情を形作っていたツンにも一言注意がなされた。
冷ややかなそのフィレンクトの声に、ツンは慌てて平静を取り戻す。

(‘_L’)「今朝方から、妙に街の外と中とで騒がしい事になって来ているのです」

( ^ω^)「おっ、何か事件でもあったのかお?」

(‘_L’)「ええ。人手が足りなく、とても困窮している現状ですよ───貴方達のような
      無駄飯喰らい二人を、兵舎の牢に匿ってやれる余裕も無い程にね」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

( ^ω^)「ほほう……それは大変ですおね」

爪'ー`)(………嫌味言われてるんだよ、バカ)

554 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:11:49 ID:ejE1LJMM0

ξ゚⊿゚)ξ「あの……」

(‘_L’)「どうされました?」

ブーン達を送り出して、速やかにこの場を去りたいという雰囲気を醸し出していたフィレンクトに、
ツンがおずおずと歩み寄り、言葉を選んでいる様子だった。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボン……さんは、どうなったんでしょう?」

(‘_L’)「………彼への処遇は、ツン様。たとえ貴女と言えど、今は知るべき所ではありません」

ξ゚⊿゚)ξ「私は………どうしたら───」

「自分はこれからどうすればいいのか」

旅の途中で深く関わってしまったショボンの、今を取り巻く境遇。
それを考えるとすぐにまた旅立つ訳にもいかず、彼女なりに色々な事を考えては、
それががんじがらめの楔となって、考えも纏まらないままヴィップでの足止めを余儀なくされている。

”せめて自分を助けてくれたショボンの今後を見届けるまでは”

そう考えては、悶々とあれからの三日間を過ごしてきた彼女の心境としては、
誰かに道しるべとなってもらいたい、という意識からの一言だったのだろうか。

だが、旅というものは過酷で、ましてや自分の進むべき道の答えなど、自分自身で選択するものだ。
他人に答えを委ねる事など、今後の自分にとって何の足しにもならないのだ。

555 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:12:12 ID:ejE1LJMM0

(‘_L’)「先日も申し上げましたが……貴女が居なくなった事で、ラウンジでは大騒ぎだそうです」

ξ;゚⊿゚)ξ「あの、それは」

(‘_L’)「街の外の人々にまで目を向けられて、誰かを救いたいと願って旅をされるのは、御立派です」

(‘_L’)「ですが……貴女はいずれ司教として、聖ラウンジの象徴となって行くべきお方────
      ツン様に万が一の事があっては、我々全体としても貴女の父君に顔向けする事が出来ません」

ξ;゚⊿゚)ξ「私は……」

それきり俯いて、何も言えなくなってしまった。
家出同然に飛び出してきた聖教都市では、やはりツンが居なくなった事で大変な騒ぎになっていたようだ。

誰かの心配など考えず、ただ自分の我侭を振りかざしながらやがてたどり着いたこのヴィップで、
己の浅はかさを、容赦なしに事実として目の前に突きつけられる。

司教であった父が居ない今、これからツンには沢山の人の上に立って、指導者として
聖ラウンジを正しい方向へと導いていくべき責務が課せられているのだ。

ただ、それは自分さえいなければ、いずれ誰かしらの代わりが立つだろうと考えていた。

( ^ω^)「あの、ツ────」

爪'ー`)(………ブーン、行くぞ)

556 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:13:02 ID:ejE1LJMM0

少しばかり込み入った話になりつつある空気は、互いの身の上話などしてられる雰囲気ではなさそうだった。
話しかけようとしたブーンの機先を制して、退出を促すフォックスの手がブーンの肩に置かれる。

ξ゚⊿゚)ξ「あ────」

( ^ω^)「ブーン達の事………掛け合ってくれて、ありがとだお」

───去り際にブーンがいい残すと、二人の冒険者は地下牢の一室を後にした。


───────────────

──────────


─────


取り残されたツンの胸中を、途端に惨めな気持ちが影のように覆い隠してしまう。
助け舟を出してくれそうな人間は、もういなくなってしまった。

フィレンクトが、自分の想像通りの言葉を突きつけて来るだろうという事に恐れた。
さらにその先のことを考えると、気持ちも陰鬱になってしまう。

557 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:13:51 ID:ejE1LJMM0

(‘_L’)「ツン様……このヴィップのみならず、俗世間の多くが常日頃、諸問題を孕んでいます。
      それこそ我々の預かり知らぬ所で、略奪や、人殺しなど、数知れない程に」

ξ゚⊿゚)ξ「………はい」

(‘_L’)「一人で旅をなさるなど、か弱い貴女にとっていかに無謀な行為か、理解して下さい」

ξ ⊿ )ξ「………は………い」

(‘_L’)「────明後日」

来た、と思った。
フィレンクトの立場からしても、またツンの立場からしても当然の正論ではあるが。

(‘_L’)「明後日、それまで待っていただければ、我々が聖教都市までツン様を護衛します」

(‘_L’)「………その馬車に乗り、ツン様。貴女は───ラウンジにお帰りになるのです」

ξ ⊿ )ξ「………」

その言葉に、「はい」とは返さなかった。

とても厳しく、それでいて慈愛に満ちたフィレンクトの瞳が、ただツンを見つめる。
返事をする事が出来ないツンと、その彼女の口から紡ぎ出される返答を言葉を待ち続けるフィレンクト。

この場において二人を取り巻いていたものは、ただただ沈黙ばかりだった。

558 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:14:20 ID:ejE1LJMM0

───【同じく交易都市ヴィップ 某所】───


(´・ω・`)(暗い……な)

後ろ手に両方の手を錠で繋ぎ止められ、自由は完全に奪われている。
この状況にあっては逃げ出そうと考える気も起こらないが、大した念の入れようだ、と感心する。

議会の会場そのものが、真っ暗な一室となっている。
広さはそれなりにありそうだが、気配からしても、聴衆は誰一人としていないだろう。
自分の付近には両脇に明かりが灯され、辛うじて闇の中に顔が浮かび上がる程度の光量。

異端の評定を下す議員らの素性や面が割れぬようにとの配慮が、この現状なのだろうと悟る。

「前に出ろ」

そう言って、ショボンの背中を押して灯火の下へと突き出した案内役は、数歩下がった。
言われるがままにその場で立ち尽くしていると、様々な方向から話し声が飛び交ってきていた。

(彼か……確証はあるんだね?)

「名乗りなさい」

(´・ω・`)「………”ショボン=アーリータイムズ”。以後、お見知りおきを」

(随分と不遜な態度だな?)

(名を偽っているのか……?)

(いや、それは違う。彼が名乗ったのは魔術名の方じゃろう)

559 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:14:57 ID:ejE1LJMM0

ひそひそと囁きあうような、評議員同士の話し声が飛び交う。

物見櫓の高みから、見下したように意見されたりするのは好きではない。ましてや、顔も見せない相手は。
こうして臆病な連中が、偏見的でない評定を下せるなどとは到底思えない為、あえて傲岸不遜を気取る。

どこに真実があろうとも、一人歩きする”罪”しか見ていない連中に媚びへつらうのだけは、我慢がならないのだ。

「今この場では……ショボン=ストレートバーボン。それで、でよいか?」

もう捨てた名を、どこかに座る評議員の一人が言った。

(´・ω・`)「はい」

「おぬしの罪状はな………”禁術使役”、さらに細かく言えば”死霊術使役”だ」

「死霊術において主として扱う媒介は、人の肉体や、血肉に至るまで様々な物があるらしいな」

「───私は余罪は重いと見ている。真実が明るみになれば、ボロボロと剥がれ落ちてくるさ」

聞こえる話し声に混じって、幾人もの口から自分に対しての糾弾の声も聞こえてくる。
やはり、この評議員達も御堂聖騎士団の連中のやり口と、何も変わりはしないのだ。

真実を叫ぶ声など力で捻じ伏せ、ありもしない事柄を認めさせてしまう───

かつて異端弾圧に血眼になっていた派閥、すなわち今の”旧ラウンジ聖教”とは離反した彼らだが、
根本的な部分での体質は何も変わっていないのかと、内心ため息をついた。

560 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:15:35 ID:ejE1LJMM0

自分達を助けた後、真剣な面持ちで尋問に臨んだ騎士、フィレンクトのような人間ばかりではない。
基幹をなす根っこが腐っているならば、やがてはその腐敗は末端の小枝や、葉にまで伝染してしまう。

それならば、悪しき前例を作ってしまわない為にも、尚の事自分は真実を声高に叫ばねばならない。

「ま……余罪が出てくれば、死罪は免れまいな」

「名家ストレートバーボンの跡取りがこれではな、随分と名を墜としたものだ……」

(´・ω・`)「───違う!!」

かつて飛び出した生家の名を出され、かっとなった勢いに任せた。
ショボンが大声で叫んだのをきっかけに、会場の中は一瞬で沈黙に支配される。

一瞬の間を置いて、ショボンは再び言葉を紡ぎ始めた。

(´・ω・`)「………違うのです」

「……どう、違うのじゃ?」

しゃがれた老人の声に返す言葉に、強く力を込めた。

(´・ω・`)「私は……あの男の計略に、貶められた」

「して、その男とは?」

気の抜けたようなその評議員の声色にも構わず、力を込めて言い放った。

561 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:16:00 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「モララー=マクベイン」

その瞬間、ざわざわと自分の言葉に耳を傾けていた評議員達の間に衝撃が走る。
どうやらモララーという男は、この場に居る気位だけは高い者達の間でも有名な名だったようだ。

(´・ω・`)「この私に死霊術士としての烙印を押し……その実、彼こそがかの賢者の塔で
       研究に身を置く事を隠れ蓑に、裏ではあの外道の法に手を染めていた」

「証拠はあるのかね……」

やれやれ、といった様子で自分に言葉を投げかける一人の声など、無視した。

(´・ω・`)「事実を知った私は、彼に口封じの為に抹殺されかけた……その後気を失っていた間に、
       彼の部屋にあった死霊術の一端を綴った”死をくぐる門”という書物は、私の私室に置かれた」

「誇大妄想も甚だしいな、口を慎みたまえ!」

(´・ω・`)「ですから……それこそが真実だと、申しているのです」

一度口を開けば、その倍以上もの非難が押し寄せる中、募っていく苛立ち。

暗闇から自分を嘲る視線を送っているのだろうという事はわかる。
だから、できるだけ瞳に力を込め、その方向を睨みつけていた。

またも訪れていた沈黙を破ったのは──────今までに幾度か質問をぶつけて来ていた老人の声だ。

562 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:16:23 ID:ejE1LJMM0

「興味深い話じゃ。詳しく聞かせては、もらえんかね?」

「……正気ですか?」

「まさか、こんな男の作り話を信じるおつもりか?」

(´・ω・`)「……訴え続けます。私の知りえる、真実を」

「ならば、二人きりで話をしたいのじゃが……議会の邪魔をする連中は、退出させても構わんかの?」

ショボンが心もとない明かりの下、その老人にも見えるように大きく頷くと、
さらに暗闇の奥から現れた人影が、何やらもぞもぞと動き始めた。

(´・ω・`)「………?」

「な、何をする!」

「離せッ、まだ、議会の途中でッ」

「何を考えているのです、アラ────」

今まで自分に非難を集中させていた評議員の気配が、誰かに連れられる様に続々と会場から消えていく。
老人の一声は、よほどの発言力を持ち合わせていたのだろう。

気が付けば、しんとした中を、軽い靴音が自分の元へ向かっているのがはっきりと聞き取れる。
やがて自分のすぐ近くに置かれた灯は、その老人の顔を薄っすらと照らし上げた。

563 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:16:55 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「───ッ!?」

その顔には─────確かな見覚えがある。
ついぞ畏まり、その場に肩膝をついてしまいそうになったが、後ろ手の錠が邪魔だ。

「どうやら、これでゆっくりと話が出来そうじゃの?」

(;´・ω・`)「あなたは………」

そこに立っていたのは、紛れも無く自分の知る人物だった。

/ ,' 3 「直接話した事は、なかったかの」

賢者の塔の最高権威者にして、曰く、大魔術師。
アークメイジ────”アラマキ=スカルティノフ”、その人だった。

───────────────

──────────


─────

564 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:17:27 ID:ejE1LJMM0

───【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】───


もはや馴染みとなりつつある宿の前で、二人は足を止めた。
その入り口に、”準備中”と書かれた札が掛けられていたためだ。

木扉で隔てられた宿内の様子を伺うと、驚くほどしんとしているようだった。

( ^ω^)「一体……どうしたのかおねぇ」

爪'ー`)y-「閉まってるのか」

普段ならば多数の客でごった返しているはずの宿に、人の気配が感じられない。

少し躊躇するブーンをよそに、フォックスがそっと扉を押し開けると───いとも簡単に開いた。

爪'ー`)y-「かまうこたねぇ、入ってみようぜ」

どかどかと突き進むフォックスの背について、ブーンもまた宿の中へと足を踏み入れた。
卓上には椅子が並べられ、いつも酒が交わされている盛り場には、一人の客の姿もない。

( ^ω^)「おっ!」

ふと奥のカウンターに目をやると、マスターが、布を手に壁面のそこかしこを掃除している場面に出くわした。
勝手に入り込んだ事に対して憤慨するかと思ったが、意外にも自分達の存在に気づくと手を止め、
カウンターに両手をついて招き入れてくれる様子だった。

565 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:17:55 ID:ejE1LJMM0

(’e’)「お前らなぁ……よくもまぁ、顔出せたもんだ」

(;^ω^)「……おっ?」

何気なくマスター対面の席につこうと椅子を引いた所で、その言葉に動作が止められた。
気づけば、フォックスはいつの間にか席について腕を組みながら、カウンターに身をもたれかけている。

爪'ー`)y-「俺達がとっ捕まってからなんかあったのか?親父さんよ」

(’e’)「ふてぶてしい野郎だ。営業停止食らっちまったんだよ!お前さんがたのお陰でな」

(;^ω^)「おぅふ」

(’e’)「ま……俺があのショボンって坊ちゃんの顔を知ってて黙ってた……ってのもあるがな」

爪'ー`)y-「まぁまぁ、そう気を落としなさんな。で、いつまでだよ?」

(’e’)「ちったぁ反省しやがれこの野郎――――明日から、やっと商い再開だよ」

(;^ω^)「それは何というか……すいませんでしたお」

酒や料理を注文しようと思っていた二人だったが、どうやらそんな事を頼める状況ではなさそうだった。
少しだけばつの悪そうに頭をかく二人の顔を見つめて、マスターは鼻を鳴らした。

(’e’)「……でもまぁ、久しぶりに爽快な馬鹿を見させてもらったよ」

566 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:18:27 ID:ejE1LJMM0

( ^ω^)「?」

(’e’)「こないだの一件さ。見ず知らずの奴を理由も無く助けようとするなんざ、正気の沙汰じゃねぇ」

爪;'ー`)y-「褒められてんのか……それ?」

(’e’)「何にでも首突っ込みたがる気持ちはわからんでもないがな……あれから、どうなった?」

( ^ω^)「……あのツンって娘は何事もなく済んだみたいだけど、ショボンはまだ尋問中らしいお」

(’e’)「円卓騎士団があの御堂の連中を追っ払ってくれなけりゃ、今頃お前さんがたは
     あいつらにひーひー言わされてたぞ。感謝しとくんだな」

爪'ー`)y-「まぁね。随分と偉そうだったけど、あの団長もそう悪い奴じゃなかったよ」


─────「誰の話をしているのです?」


爪;'ー`)y-「……げっ」

背後から聞こえたその声に驚き、二人は振り向いた。
入り口には、いつの間にか一人の男の姿があった。

噂をすれば影────そこに居たのは依然として厳格さを漂わせる、フィレンクトの姿。

(‘_L’)「これほど早々に、また貴方達の顔を見るとは思いませんでしたよ」

567 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:19:02 ID:ejE1LJMM0

(;^ω^)「……僕たち、また何か悪いことしましたかお?」

途端に不安げな表情を隠せない二人とは対照的に、マスターはその彼に手だけで軽く敬礼を送った。

(’e’)「よう、お疲れさん」

(‘_L’)「……どうも。今回は、ご迷惑をお掛けしましたね」

(’e’)「なに、こちらこそ世話になっちまったな。たまの大掃除もいいもんだ」

(‘_L’)「マスターへ事情を伺う、という話ものぼっていたのですが、私の元で留めておきました」

(’e’)「すまんな」

(‘_L’)「いえ。明日から平常通り店を開けて頂いて結構です」

爪'ー`)y-「ほへ?」

( ^ω^)「はて……」

騎士団長であるフィレンクトに対し、友人のように振舞うマスターの態度に、首を傾げる二人。
互いの間で交わされる言葉も、何のてらいも無い物だった。

(’e’)「あぁ、フィレンクト団長殿はな、お前らぐらいの頃から良くウチに来てくれてたんだよ」

568 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:19:29 ID:ejE1LJMM0

(‘_L’)「最近では仕事の依頼以外であまり顔を出せませんが、マスターの料理の味が恋しいですよ」

爪;'ー`)y-「マジかよ……随分と太い横のつながりだな」

( ^ω^)「おっおっ、流石ブーンの目が選んだ宿のマスターだお」

(‘_L’)「今日訪れたのは、依頼の発注なのですが……」

(’e’)「もちろん、構わんさ」

二人に一瞥して、フィレンクトはカウンターごしに一枚の羊皮紙を差し出した。
それを受け取り軽く目を通すと、うんと頷く。

(’e’)「随分と色をつけたな?」

(‘_L’)「急ぎの依頼なのです……ですが、手を離せない仕事がいくつもありましてね」

( ^ω^)「騎士団直々の依頼かお?」

爪'ー`)y-「どれどれ……」

マスターの手からフォックスがその依頼状を掠め取り、その文面を目で追った。
でかでかと書かれていたのは、フィレンクトの言う通り大至急の解決を求めるという内容だ。

爪'ー`)y-「”不死者討伐の依頼”……ねぇ」

569 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:20:04 ID:ejE1LJMM0

( ^ω^)「報酬、600spもあるのかお!?」

(‘_L’)「多少剣に覚えがある、などという程度でそこらの冒険者に務まるような
      甘い依頼ではありませんよ───良く目を通してごらんなさい」
 アンデッド
”不死者”─────その大半は、この世に未練を残して死んでいった者達の成れの果て。

過去に争いなどで多数の命が失われた、強い憎しみの思念が渦巻くような地場においては、
死者たちの怨嗟が渦巻き、それが憎しみのままに生者を傷つけ、死に至らしめる。

それが肉を得た実体として現れるのが、歩く死体である”ゾンビ”などだ。
実体を持たないものでは、多数の死者の怨念の集合体である”レイス”や、それ以上の上位となると
魔道死霊である”リッチ”など、死神と同一視までされる非常に強力な悪霊の存在も見られている。

爪'ー`)y-「報酬は破格だけど……なるほどな」

文面を読み終えたフォックスが、ゆっくりと首を左右に振った。
続き、ブーンがその内容に目を通し始める。

( ^ω^)「依頼の内容は”不死者の討伐”と……その背後に見られる”魔術師”の始末……?」

(‘_L’)「その依頼の背景には、死霊術士の影が見受けられるのですよ」

ブーンとフォックスが理解した依頼の内容はこうだ。

570 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:20:40 ID:ejE1LJMM0

小さな教会を中心とした村、”アルバ”において、夜な夜な彷徨い歩く不死者の存在が発覚した。
夜毎墓場からかつて”村人だった者”が這い出て、徘徊するというのだ。

それが時に村人に被害を及ぼすと同時に、アルバの村が孕んだ問題はそれだけではなかった。
一人、また一人と村人が”消える”事件がここ最近になって浮き彫りになっているという。

そうなる少し以前からアルバへと移り住んできた魔術師風の男の姿も、この所見えないというのだ。

( ^ω^)「”死霊術士”……もしかして」

(‘_L’)「えぇ、貴方達も面識のある、ショボン=ストレートバーボンにかけられた疑いと同じ。
      死者の肉体や魂を使役する、悪しき魔術師達ですよ」

爪'ー`)y-「なら、どうしてあんたらが討伐にいかねぇ?これを見る限り、村は深刻な事態だぜ?」

(‘_L’)「……我々が動ける範囲も、そう広くはありません。日々ヴィップにおける治安を
      維持する為、まずはこの街を中心として起こる問題に、動かなければならない」

(‘_L’)「それと並行して、ある魔術師を今は追っているのです」

爪'ー`)y-「また”死霊術士”かよ……?」

(‘_L’)「そこまでは、解りかねますが」

話し込んでばかりもいられないといった様子で、ブーンが読んでいたその依頼状を引ったくると、
フィレンクトはそれを宿の壁面へと張り出した。

571 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:21:34 ID:ejE1LJMM0

(‘_L’)「それでは、こちらの依頼はお願い致します」

(’e’)「あぁ……ジョルジュ辺り、腕利きが居ればいいんだけどな。今はどこほっつき歩いてるんだか」

(‘_L’)「………では、私はこれで失礼致します」

軽く手を振るマスターに、フィレンクトは会釈すると足早に宿を後にする。

ショボンの事を尋ねようかとも思ったが、よほど忙しい身なのだろう。
こちらに対して振り返るともしないフィレンクトの事を、わざわざ呼び止めはしなかった。

「さてと……」と、フィレンクトが去ってから明日の開店準備を始めたマスターをよそに、
ブーンはしばしある事をじっくりと考えていた。

( ^ω^)「フォックス」

爪'ー`)y-「んあ?」

( ^ω^)「フィレンクトさんが持ってきた依頼、どう思うお?」

爪'ー`)y-「……あぁ、なるほど。お前さん、受けたいのか?」

( ^ω^)「アルバの村といえば、半日かからずに行ける距離だお。
       今、この依頼を知ってるのはまだ僕ら二人しかいないお?」

爪'ー`)y-「正直、リスクのがでかいな……俺は正直戦いにゃ向かねぇ、勿論補佐的な役割は出来るがな。
      お前さんはその剣でゾンビどもとやりあえるだろうが、もし敵に魔術師が居るとすりゃ、厄介だ」

572 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:22:12 ID:ejE1LJMM0

( ^ω^)「ブーン達二人のパーティーの華々しい初陣を、騎士団からの依頼で飾るつもりは?」

爪'ー`)y-「良いとは思うぜ……だが、力不足過ぎる。せめて、あと一人か二人いなきゃ厳しい」

依頼に対し勇むブーンとは対照的に、フォックスはリスクブレイカーとしての意見を冷静に述べる。

不死者とはいえ、確かにゾンビ程度であれば斬り付けるだけでも倒す事は出来る。
肉体が完全に朽ちてしまえば、彷徨える魂も寄り代を離れてゆくからだ。

だが、それらを操る術者がもし居るとするならば、やはりその存在の方が厄介なのだ。

何の目的で村そのものを危機に貶めているのか、その相手の魔術師としての実力や、
目的とする思想によっては、時として生者を傷つける不死者よりも恐ろしい存在となり得る。

結局の所、生きている人間の方が────ー一番怖いのだ。

( ^ω^)「やっぱり、難しいかおね?」

爪'ー`)y-「ま、現状じゃな。ただ───魔術に対しての知識がある奴がいれば、
      今後選べる依頼の選択肢は、ぐっと増える事になってくるぜ?」

(;^ω^)「うーん、ブーンの頭じゃちょっと難しいお」

爪'ー`)y-「俺も……さ」

573 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:22:51 ID:ejE1LJMM0

(’e’)「やめとけやめとけ、フィレンクトの持ってくる依頼は、どれも新参が手を焼くようなもんばかりさ」

うーんと考え込むブーンを尻目に、そう促すマスターの視線は、入り口へと向いた。
準備中のはずのこの宿は、どうやらそうであっても不意なる来訪者が後を絶たないようだ。

木扉を押し開けて、またも見覚えのある男がそこから現れた。

(’e’)「おいおい……ここに来る奴らは文字も読めねぇのが多いな」

(´・ω・`)「………ここに来れば、いるかなとは予想してたけど」

”禁術”を用いた異端者として、尋問にかけられているはずのショボンの姿が、そこにはあった。
出会った時となんら変わらぬ様子で、準備中の掛け札の事を気にしてか、申し訳程度半歩だけを
宿の中へ足を踏み入れて入り口に立っていた。

( ^ω^)「───ショボン!」

(´・ω・`)「やぁ、奇遇だね」

爪'ー`)y-「おつとめご苦労さん。随分とお早いお帰りだな?」

( ^ω^)「ショボンの潔白が証明されたのかお?」

(´・ω・`)「何、ちょっとばかり猶予をもらってね」

「失礼」と一声をかけ、ショボンもブーンらの隣の席に座り込んだ。
明日の開店に向けて準備に余念の無いマスターは、それに構うことはしないようだ。

574 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:23:24 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「説明すると、少し長くなるんだけど───」

そう前置きし、ショボンはこほんと咳払いをしてからブーン達やマスターに、話し始めた。

───────────────

──────────


─────


/ ,' 3 「こうして話すのは初めてじゃな? ……ショボン君」

(´・ω・`)「……このような姿を晒す事となってしまい、我ながら実に恥ずべき思いです」

/ ,' 3 「……おぬしは自身の言葉を聞き入れられんと悟り、あの日、あの場から逃げたのじゃな?」

(´・ω・`)「えぇ。あのまま捕まったのでは、弁明の機は訪れないと思っておりましたので」

評議員の一人にアークメイジが居た事に驚きを隠せなかったが、はた、とショボンは
ある疑問を表情に浮かべて、アラマキもそれにすぐに気づいたようだ。

575 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:24:02 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「つかぬ事をお伺い致しますが、いつヴィップへと参られたのですか?」

/ ,' 3 「なに……おぬしがこの街で見つかり、審問にかけられると聞いてな。
     転移方陣を用いて辿り着いたのが先ほどよ。今ここにいるワシは、仮の姿の一つじゃて」

(´・ω・`)(4日も距離のあるこの遠方まで転移方陣を張れるのは、驚きだな………)

/ ,' 3 「して、人払いをしたのは他でもない。ワシの独断で、おぬしを泳がせようと思っての」

(´・ω・`)「………」

やはり、ショボンを簡単に信じたというわけではないのだ。
だが、”泳がせる”という言葉の節からは、完全な罪人と見定めているのでも無いらしい。

/ ,' 3 「驚きの新情報じゃ。おぬしが先ほど名を挙げた男が、失踪した」

(´・ω・`)「!」

/ ,' 3 「そう、モララー=マクベインじゃよ……おぬしの件に関して、あやつと一対一で対話したんじゃ」

/ ,' 3 「その時にワシは、あの男の心根の奥深い所に潜む、酷く歪なものを感じ取った」

(´・ω・`)「………」

/ ,' 3 「嫌な瞳をしておったよ……”不穏分子になり得る”と思った」

/ ,' 3 「そこで、有能な者を三人も監視につけたんじゃが─────殺されたよ、全員な」

576 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:25:12 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「気取られた、という訳ですか」

/ ,' 3 「そうであろうな……あの男はもはやワシらの力だけでは持て余す程に、
     禁術問わず数々の魔術を身につけ、力を手にしていると見て良いのかも知れん」

(´・ω・`)「”暗部”を放ったのですね?」

/ ,' 3 「いかにも。魔術においては、決しておぬしにも引けを取らぬ程の者を、三人もな」

アークメイジの勅命でのみ動くという、賢者の塔に身を置く魔術師達の中でも、
さらに群を抜いて飛びぬけた知識を持ち、強力な魔術を使役する執行者───暗部構成員。

噂程度には聞いた事があったが、何かしらの問題に直面した時、陰ながら
その解決に当たり大きな功績をもたらして来たと言われている。

自分と同程度の魔術を扱えるその彼らが、三人も殺されたというのだ。

アラマキが一目見て危険だと判断する程の不穏分子、モララーは、
やはりと言うべきか、その彼らの予想を上回る力と狂気を秘めていたようだ。

(´・ω・`)「それで、モララーは?」

/ ,' 3 「その後は行方知れずよ……もしかすると、案外近くに潜んでいるやも知れぬがな」

(´・ω・`)「………」

どうやら、モララーもまた追われる身となったようだ。
だがアラマキから聞く話に、ショボンにはどうにも疑問ばかりが残る。

577 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:25:43 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「彼の私室に、何か痕跡はありましたか?」

/ ,' 3 「……人の毛髪や、血液を媒介にした魔術の痕跡はあった。だが、今の時点では定かではない」

(´・ω・`)「”黒魂石”などの決定的な証拠は………」

/ ,' 3 「なかったのう。もしそんな物を持ち出しているとすれば、これから一体何をするつもりか……
     正直な所、ワシにも皆目見当がつかんよ」

”何をしようとしているのか”、その事は先ほどからショボンにも引っ掛かっていた。
賢者の塔内で向けられた監視に気づき、それらを殺害してまで行いたい目的とは、何なのか。

いずれにしても、それは死霊術に関連する事柄ではあろうが。

(´・ω・`)「………」

ショボンは押し黙り、自由の無い自らの立場に苛立ちを募らせる。
同じような立場にたった今こそ、モララーを追って、その口から真実を語らせたいと────

/ ,' 3 「おぬしは、これまでの話を聞いてどう思う?」

今すぐにでも走り出したい衝動に駆られていたショボンの意識を、アラマキの声が今この場へと引き戻す。
漠然とした問いだが───自分の心中には、モララーを追いたいという気持ちしかないのだ。

578 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:26:17 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「私は………躊躇いも無く同胞を手にかけるあの男を、決して許せません」

/ ,' 3 「さりとて、おぬしにも死霊術者としての疑いがかかっておるぞい?」

(´・ω・`)「モララーが……彼が捕まりさえすれば、その真実も明らかになる事でしょう」

/ ,' 3 「ふむ………」

指をこめかみへと押し当て、アラマキはショボンに掛けるべき言葉に迷っている様子だ。
瞳の奥に強い光を宿したまま、ショボンはその口から発せられる次なる言葉を、待った。

そしてやがて紡がれたその言葉は、彼を困惑させてしまうほど、思いもよらぬものだった。

/ ,' 3 「ならば───おぬしへの今回の処分、このワシが預かる事としよう」

(´・ω・`)「………?」

そう言ってショボンに背を向けたアラマキ。

/ ,' 3 「よいか、おぬしには半年の猶予を与えおく……その意味するところが、解るか?」

(´・ω・`) 「!!」

籠の中の鳥のように酷く惨めな思いをしている今の自分に、再び旅へ発つ機会が与えられる?

─────それならば、可能だ。

579 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:27:10 ID:ejE1LJMM0

それが半年という仮初の自由といえど、構わない。
モララーを追い──────奴を捕まえさえすれば、この手で汚辱を注げるのだ。

答えは一つだった。
アラマキの問いに対して、力強くショボンは答える。

(´・ω・`)「私にかけられた疑いを晴らす程の証拠を、見つける事ですね?」

/ ,' 3 「………」

ゆっくりと頷き振り返ったアラマキに向けて、ショボンは深く頭を垂れて、呟く。

/ ,' 3 「ただし、半年を過ぎればおぬしはまた囚われの身じゃ……逃げる事などかなわんぞ?」

(´・ω・`)「逃げるなどとあり得ません。彼を、モララーに自らの行いの懺悔をさせる事───」

そこですぅっと息を吸い込み、少しばかり興奮していた自分をなだめた。

(´・ω・`)「その為ならば私は………必ずやこの場へと彼を引き連れ、戻ってきましょう」

/ ,' 3 「ほっほ………」

背後に潜んでいた衛兵にショボンの身を託すと、手を後ろに組んで静かに笑みを浮かべる。
徐々に暗闇に溶け込んでゆく彼の背中が、まるでショボンにこう言っているようだった。

”出来るかの……おぬしに?”

580 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:27:35 ID:ejE1LJMM0

アークメイジの胸中がいかなるものなのか、ショボンには読み取れない。
しかし、一度は途絶えかけた道が、この小さな背中の老人によって、再び浮かび上がった。

その機を、逃せるはずもない。

人の生死を自らの実験の為に弄び、あまつさえ同胞すらをも手にかける、狂気の魔術師。
かつてのモララーに対しショボンが抱いていた感情、それは憧れにも近いものだった。

しかし、それも今では完全に風化し、記憶の残骸のそのまた彼方に。
今はただ、”許してはならない存在”として、強い敵意だけが新たに胸に刻み込まれる。

執念を以ってして、必ずやモララー=マクベインの非道の限りを、白日の下に晒けだす。

(´・ω・`) (必ずだ)

両の足にうんと力を篭めて、新たな決意を秘めた一歩を、外へと踏み出した。

───────────────

──────────


─────

581 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:28:01 ID:ejE1LJMM0

(´・ω・`)「………とまぁ、そういう訳なんだ」

淡々と語ったショボンの話に、二人は相槌を打ちながら聞き入っていた。
彼もまた、様々な波乱を呼び込む星の元に生まれついたのかも知れない。

(’e’)「何せこの広い大陸だ。その犯人探しって奴ぁ骨が折れるかもしらんが、頑張んな」

(´・ω・`)「ありがとうございます」

( ^ω^)「………おっ?」

爪'ー`)y-「ん?」

ショボンの話を聞いている内、そこでブーンはある事に気づいた。
”賢者の塔”という単語から、ショボンが単に気の合う男というだけでなく、有能な魔術師であろうという事に。

( ^ω^)「さっきの話、もしショボンが仲間だとしたら……フォックスはどう見るお?」

爪'ー`)y-「………ん〜〜〜」

(´・ω・`)「?」

当の本人には話しが見えていないまま、二人は先ほどの仕事の話の続きを始めた。

582 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:28:38 ID:ejE1LJMM0

爪'ー`)y-「”賢者の塔”に出入りする程の奴ともなりゃあ、いつどこで宮廷魔術師を張ってもおかしくねぇだろ」

( ^ω^)「そうなのかお?」

(´・ω・`)「まぁ……僕は身分や名誉には拘らないからそんなものに興味はないけどね」

爪'ー`)y-「自分自身にこそ価値があるって訳だ?……いいね、気に入ったぜ」

(´・ω・`)「まさか。単に研究が好きなだけさ」

賢者の塔に招かれた事のある者は数多くいるが、思うように成果を出せずに去ってゆく者も多い。
その中でも取り分け熱心に研究に明け暮れ、その才覚も実に非凡なものであるショボンの実力を、
ブーン達二人はまだ知らないのだ。

ショボンもそう言った事を口に出してひけらかす性質の男では無いため、あくまで謙遜する。

爪'ー`)y-「ま……リスクブレイカーの俺に、一人でゴブリン10匹同時に相手出来る、ブーン」

(;^ω^)(こないだマスターと話した時、いささか武勇伝を盛りすぎたおね……)

10匹も同時も、嘘だ。

爪'ー`)y-「そこに大魔術士のショボンさまとくりゃ───十分な戦力じゃねぇか?」

(´・ω・`)「………なるほどね」

583 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:29:07 ID:ejE1LJMM0

その時のショボンには、なんとなく二人の言わんとしている事が解っていた。
それは、彼が再びこの失われた楽園亭へと訪れた理由とも、見事に重なっていたからだ。

( ^ω^)「─────ショボン」

(´・ω・`)「─────二人とも」

言葉が重なり、一瞬次の言葉を出すのが躊躇われた。
が、目と目が合った時、互いの言わんとしている事が、理解できていたようだ。


        「改めて……パーティー(を)、組まないか(お)」


───────────────

──────────


─────

584 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:29:49 ID:ejE1LJMM0

───【交易都市ヴィップ 南西の林道】───

小さな村へと続く道を、とぼとぼと歩く一人の少女の姿。
時折歩みを止めて後ろを振り返ってみては、来た道を戻るべきかと思案に暮れる。

そうしてため息を吐いては、また歩き出す。

それを繰り返す内、ヴィップの街が少しずつ遠くなってゆく。

ξ゚⊿゚)ξ「………はぁ」

頑固なフィレンクトの事だ、一度出した言葉は、自分が何を言おうとてこでも引っ込めないだろう。

それに─────自分自身、まだ迷いが拭えない。

捨て子であったはずの自分でも、やはり一度救いと信仰の道へ身を置いた自分には自由などないのか。
そう考える度に、聖教都市を発った時の覇気に満ちていた自分の初心が、薄れてゆくのを感じる。

何も告げずにヴィップを発つ事は簡単だった。
だが、それではきっとこの先ずっとショボンやフィレンクトに対し、罪悪感だけが残るだろう。

585 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:30:34 ID:ejE1LJMM0

中途半端な気持ちで旅を続けても、良い事など無い─────
そう思う自分の脳裏に、あの時出会った二人の冒険者の顔も、なぜか過ぎていた。

ξ゚⊿゚)ξ(あの人なら……今の私を導いてくれるかな……?)

不意にかつて訪れた場所で、いつも優しく微笑んでくれていた人物の事を思い出した。
ヴィップからもそう遠くない場所────鬱屈した気持ちが、この場所へと彼女を歩かせたのだ。

ξ ⊿ )ξ「─────あっ」

やがて辿り着いたその場所で、不意にツンは空を見上げる。

すると、黒い雨雲が一面を覆っているそこから、ぽつりと雨粒の一つが頬を叩いた。

「………少しだけ顔を出して、フィレンクト達が心配しない内に帰ろう」

この天候のせいだろうか、はたまた、整理しきれない今の自分の気持ちのせいだろうか。
村を見渡したところ、広場の中央に佇む教会に、何故だか胸が締め付けられるような息苦しさを覚える。


”アルバの村”の景観は─────ツンの瞳に、かつて目にした時よりとても寂しく、儚げなものに映った。

586 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:32:04 ID:ejE1LJMM0

   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第4話

       「正しき怒りと、切なる慈悲と」

            (前編)

             ―続―

587 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 03:37:40 ID:ejE1LJMM0
ギコとモララーの話をどのタイミングで投下してよいものか……

4話終了後の5話以降は、初めてまともな冒険話になりそう。
その後幕間として使いきれてない感が拭えないサブキャラ達の話を投下予定だお

588 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 04:16:57 ID:lzTGQ8NsO
何という時間に… 
投下を我慢出来なかったのですねその気持ち乙です 
モララー強敵そう、(´・ω・`)ショボンがんばって 
 
相変わらずさくさく読めるし中身も秀逸 
この続き早く読みたい負担のない範囲で続き早く書いてください

589 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 05:33:12 ID:Y2l7./rko

いいぜ
理由があっての行動というのは好きだわ

590 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 05:50:40 ID:414ss7ZU0
死霊術師をなぎ倒して黒魂石集めてた思い出が蘇った

乙乙!

591 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 10:40:20 ID:hrOMCIv.O
乙!
こういう信頼関係って憧れるわ

592 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 12:23:00 ID:ugQLxio60


593 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/10(水) 13:50:39 ID:0nI./rhA0
少しずつ結束していくのがたまらなくwkwkする
こういうの大好き

594 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/12(金) 02:31:30 ID:WNxSqSUIO
506 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/08/12(金) 02:00:07.94 ID:Ld/W3nFG0
一つのジャンルに対しての需要ってなぁ
こんなジャンルどう?じゃなくて、こんな作風どう?なら話は解るけど
正直おもしろいかどうかも解らんものに需要も何もねえよ
どんなジャンルだって、書き方一つで風穴が空くと思うけどね

>>484
ヴィップワースいいよね
芸にまとめてもらいたいけど、作者本人が拒否ってた
まだ時期尚早とかいって
でも一度断ったらまとまる事はないと思う

517 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/08/12(金) 02:09:56.14 ID:ZLTjEVfGO
>>506
ヴィップワースな
確かに一度断っちゃったらまとまらないかもね
そうなると作者がまとめてって申告しない限りまとめないだろうけど
かといって作者がまとめてくださいなんて非常に言いにくいだろうし



さあ、何話分書き溜まったらまとめて欲しいか今の内に宣言しておくんだ

595 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/12(金) 09:59:06 ID:/8w8ZdhQ0
>>594
今目の前で腐りつつある冷やし中華を食べるか否かと、同じぐらい悩みますね。
んー、6話目ぐらいだろうか。もし一ヶ月とか投下の間隔が空いちゃったらと思うと怖いけど…

暇だから、頑張って明日ぐらいまでに5話まで投下目指しま

596 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/12(金) 11:04:25 ID:/8w8ZdhQ0
あ、そうそう。総合で見かけたレスの……
>あんな書き方じゃプレッシャーに押し潰されたみたいだわなーw

大正解wwwwww

597 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/12(金) 11:44:49 ID:AeAg6ChQ0
続き楽しみすぎる

598 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:17:46 ID:zsWHMpY.0
予告したけど、途中で盛り込んだババアの話しが予想外に膨らみすぎて、明け方までかかるおぉ……

sage信仰でキリの良い所まで投下してから、出来上がり次第投下していきやす

599 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:18:21 ID:zsWHMpY.0

───【アルバの村 教会】―――

父がまだ生きていて、自分もまだ幼い頃だったか。
友人である神父に会う為、1度か2度この村を父と共に訪れた事があった。

決まってだだをこねる自分に、いつも彼は困ったような笑顔を浮かべていたが、
適当にあしらう事もせず、やさしくツンへと微笑み掛けてくれていた。

ξ゚⊿゚)ξ(まだ、お元気なのかな……)

村の広場の中心で寂しく佇む教会の扉を、二度程叩いてから押し開ける。

中には誰もいないのだろうと思っていたツンだったが、祭壇の前には5、6人の男女が集まっていた。
皆が一様に入り口に背を向け、入ってきた自分の様子にも気づかず、黙祷を捧げているような─────

とても厳かな雰囲気は、今朝何気なく思い立ってここまでやってきたツンを、場違いに思わせた。

「うん?………あなたは?」

ξ゚⊿゚)ξ「あの、私は───」

気がついた一人の男性が振り返り、尋ねた。

600 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:18:58 ID:zsWHMpY.0

ヴィップを離れて一人この場所に来ている事が万一フィレンクト達に伝わったら、また騒ぎ立てる。
この場では身分を伏せたがよいかと一瞬だけ思案にくれたが、少し遅れて、自分の名を呼ぶ声があった。

「もしや………ツンちゃんですか?」

顔には昔より深く皺が刻まれているが、憧憬の中に浮かぶ彼の面影が確かに重なった。
子供っぽい口調での喋り方も、昔からなんら変わらぬ様子だった。

( ><)「やっぱり、ツンちゃんなんですね……!」

ξ*゚⊿゚)ξ「お久しぶりです……ビロード神父っ!」

愛想の良い人柄の彼に、昔から村人達はより親しみを込めて神父と呼ぶ。
ツンもそれに習い、子供の頃からそう呼んでいた。

小さな農村であるアルバには、信心深い人間なんてほとんどいない。
で、あるにも関わらず────彼は何十年もこの教会で、毎日祈りを捧げているのだ。

ツンの近くに立つと、ビロード神父はその顔をよく眺めた。

( ><)「随分と、お綺麗になられたんです」

ξ*゚⊿゚)ξ「って……そんな事……」

( ><)「…………父君の葬儀には顔を出す事が出来ず、本当に申し訳なかったんです」

ξ゚⊿゚)ξ(あ……そういえば)

601 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:19:53 ID:zsWHMpY.0

流行病で呆気なくこの世を去った父。
その亡骸が棺に納められる時、確かにビロードは葬儀の場には居なかった。
立場や身分こそ違えど、父とは気の置けない長年の友人であったはずなのに。

( ><)「あの時は、丁度村の子供の一人がたちの悪い熱病にかかってしまっていたんです……
      どうしてもつきっきりで容態を見て上げなくては、命に関わる所だったんです」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

やはり、こういう人なのだ───と、思う。
自らが知るビロード神父の人柄に昔と何ら変わりがない事に、安心した。

自分の事よりも、いつも周りで困っている人達の助けになろうとする。
その彼の事を、父はよく笑いながら話してくれていた。

困っている人々を見過ごすことが出来ず、自分に出来る事ならばなんでも助けになろうとする。
真心からくるその行いは、決して己の主観で訳隔てる事なく、誰に対しても行われるのだ。

聖職者として彼のようにありたい、と思わされる。

( ><)「だから……ツンちゃんやアルト司教には、本当にすまないと思っているんです」

ξ゚ー゚)ξ「いいえ、ご立派ですよ」

( ><)「えっ?」

602 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:20:26 ID:zsWHMpY.0

ξ゚ー゚)ξ「だって、父がこの世を去った時と同じ日、一人の子供は神父に命を助けられたんですよ?」

ξ゚ー゚)ξ「その場にいたら……父もきっと、それを望んでいたと思うから」

(;><)「……ご、ご立派だなんて、そんな事ないんですっ!」

ビロード神父が謙遜する様子は、少しばかり照れ屋の純朴な少年のようだ。
もっと賞賛の言葉を投げかけたらどうなるんだろう、とツンの心根の小悪魔のような部分が少し反応した。

ひとしきり慌てふためいた後、照れ隠しのつもりか「こほん」と白々しい咳払いをする。

( ><)「でも、その言葉に救われた思いなんです……近いうち、僕も聖教都市に顔を出すんです」

ξ゚ー゚)ξ「ええ、父も喜ぶと思います」

久しぶりの再会に随分と積もる話もあるのだが、ツンには教会に集まっている人たちの事が気にかかった。
後ろに立って覗き込むと、その彼らが周囲を取り囲み沈痛な面持ちをしている理由に気づく。

そこには─────亡骸が納められた棺が、横並びに3つ。

ξ゚⊿゚)ξ(これは……)

何か不慮の事故にでも遭ってしまったのか。

603 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:20:49 ID:zsWHMpY.0

そう思うや否や、ツンの身は聖職者の務めを果たさんがため、自然と前へと歩み出ていた。
亡骸達へ祈りを捧げるべく傍らにしゃがみこむと、瞳を閉じて胸元で両手を組んだ。

そっと、心の中で声を呟く。

ξ-⊿-)ξ(主よ……その御許に、どうか導き賜わん事を……)

ツンが死者達へ祈りを捧げるその後ろに、ビロードが立った。
やがてその祈りが終えらるまでの間、神々しいまでの横顔を眺め、ずっとその場に立ち尽くしていた。

( ><)(きっと、今夜も来るんです………彼らは)


──────────────────

────────────


──────

604 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:21:21 ID:zsWHMpY.0



   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第4話

       「正しき怒りと、切なる慈悲と」

            (後編)

605 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:22:44 ID:zsWHMpY.0

─────【交易都市ヴィップ 失われた楽園亭】─────

(´・ω・`)「なるほど……なんだか僕にとっては随分と皮肉めいた依頼だけれど」

モララー=マクベインを、自らに与えられた半年の猶予の間にこの手で捕まえると決めた。

だが、どこに潜伏しているかもわからないモララーを探しながら、ショボンだけで旅歩くのは困難だ。
だから、ショボンもまた共に連れ立てる仲間を求めていたのだ。

魔術師ギルドの外にはさほど知り合いも居ないショボンに、冒険者の友人などいない。
だが、波乱の中に一抹の友情を分かち合えた、ブーンとフォックスという心当たりはあった。

ツンや自分が捕らえられた時に無茶を買って出た、後先考えないあの二人ならば、面白い。
そう思って彼らを探している折、なんと向こうの方からパーティーへの招待がやってきたのだ。

だから、パーティーを組む事に際して、決断するのはほぼ即答であった。

( ^ω^)「おっおっ、もしかすると……この黒幕がショボンの探してるモララーって奴かも知れないお?」

(´・ω・`)「……いや」

爪'ー`)y-「それはねぇだろ」

( ^ω^)「お?」

言いかけたショボンの言葉を、フォックスが遮る。

606 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:23:37 ID:zsWHMpY.0

アルバの村で不死者騒ぎが目立ち始めたのは、およそ一週間前。
そして、賢者の塔で三人の暗部が惨殺されてからモララーが失踪したのは、三日ほど以前に起こっている出来事。

(´・ω・`)「そう。時系列的に合わないんだ」

爪'ー`)y-「ま、こんな依頼が舞い込んだ直後にショボンが俺らの仲間に加わるってのも、
      なんだか神様の悪戯って感じがしないでもないがね」

( ^ω^)「そうかお………なら、ショボンはこの依頼、乗り気じゃないかお?」

張り出されていた壁面の依頼状は、ブーンの手の中にあった。
内容は既にショボンへは説明しているが、それを彼の前に差し出した。

(´・ω・`)「いや、そんな事もないさ」

受け取ったその文面に、自分で実際に目を通しながらそう応えた。
一つの村を、夜毎不死者が彷徨い歩いているというのだ。

戦乱などで過去に多くの血が流され、怨嗟のはびこる土地においての話ならば、まだ分かる。
この世に未練を残した者達の魂が、自然発生的に朽ちた肉体を寄り代にする事も無くはない。

だが、何の変哲もない村にこのような変異が突発するというのには、人為的なものを感じざるを得ない。

(´・ω・`)「どんな理由であろうと、禁術とは人としての領分を弁えない所業だ」

( ^ω^)「禁術?」

607 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:24:21 ID:zsWHMpY.0

爪'ー`)y-「どこの地域でも領主やギルドによって定められた、禁則事項の魔法さ」

(´・ω・`)「そう。例にして挙げれば、この死者を意のままに操る死霊術や、中には古からの
       悪魔を召喚し、供物を捧げるのと引き換えにその力を借りる……なんてものもある」

( ^ω^)「なんだか凄そうだおね……それは、強いのかお?」

(´・ω・`)「あぁ。だけどその分、術者に求められる代償はとても大きいだろうね。
       人としての倫理観や道徳なんて完全無視だ。人には過ぎた術さ」

( ^ω^)「お〜。魔術にも、色々お住み分けがあるんだおねぇ」

(´・ω・`)「まぁ……自然界における理を根底から覆す、自分達魔術師が言うのも何だけどね」

そう一言付け加えてから、脱線していた話を戻す。

(´・ω・`)「で、出立はいつ?僕は今からでも構わないんだけど……」

爪;'ー`)y-「お前も乗り気かよ!」

(´・ω・`)「勿論そうさ。死者を蘇らせて、その上に立つ支配者気取りにでもなったつもりなんだろうが、
       そんな浅はかな真似は、死ぬほど後悔させてやらなきゃならない」

608 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:25:19 ID:zsWHMpY.0

パーティーを組んでから、ブーンとフォックスはまだ一つの依頼もこなせていない。
ツン達を巡る騒動に巻き込まれてしまったという理由はあるが、ブーンは今か今かとその時を待ち望んでいたようだ。

今回の依頼に限ってかも知れないが、そんなブーンのみならずショボンも非常に乗り気だったようだ。
本人が語るように、死霊術士という存在を看過出来ないという執念がそうさせているのだろう。

爪'ー`)y-「まぁ……村じゃ死人も出てるみたいだな。もし行くなら、早いに越したこたねぇが」

( ^ω^)「じゃあ、決まり……だおね!ブーンは早速二階で準備してくるお」

そう言って、ブーンは脇目も振らず宿の二階へと駆け上がっていった。
準備をしてくるという事は、すぐに出立するつもりなのだろう。

残された一人、フォックスはカウンターに突っ伏して愚痴る。

爪'ー`)y-「面倒くせぇなぁ、今日ぐらいは出所祝いでゆっくり飲んでたかったぜ……」

(´・ω・`)「ん……誰か?」

誰かが店に入ってくる気配を察して、カウンターの隅で掃除をしていたマスターが、ひょっこりと顔を出した。

(’e’)「おぉ、おかえり。デレ」

その名を耳にした瞬間、口から雑言をこぼしていたフォックスの身が、途端にしゃっきりと直る。
弛み切った表情も、先ほどから比べて三割ほど引き締まったものになっていた。

609 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:26:13 ID:zsWHMpY.0

ζ(゚ー゚*ζ「ただいま、買出し行って来たよ。お父さん」

爪' -`)y-「よぉ、お邪魔してるよ。デレちゃん」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ……フォックスさんに……」

(´・ω・`)「どうも。この間は、お店をお騒がせしてしまって申し訳ないね」

(’e’)「あぁ、お前も知ってるだろ。道楽貴族の……」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……覚えてます、ショボンさんですね!」

マスターからの紹介に苦笑いを浮かべるショボンだが、あながち間違ってもいない。

今は絶縁されているだろうストレートバーボンの家柄だが、
その援助なくして魔術の研究に打ち込む事は、今にして考えてみればままならなかったはずだ。

(’e’)「なんでも、フィレンクトが持ってきた依頼に、こいつらが行くんだとさ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんですか? もう騎士団から直々の依頼だなんて……っ」

610 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:27:01 ID:zsWHMpY.0

(´・ω・`)「いや、僕もつい今しがた話を聞いたばかりでね……そう大層な話でもなさそうだ」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、フィレンクト団長が持ってくる依頼と言えば、きっと危険なものですよね」

(´・ω・`)「だろうね。だけど、とある村が窮地に陥ってるそうなんだ……見過ごしてはおけないさ」

ζ(゚ー゚*ζ「その考え方、なんだか尊敬しちゃいます」

爪#'ー`)y-「………」

きらきらとした瞳をショボンにばかり向けているデレの姿に、フォックスが嫉妬の炎を揺らめかせていた。

突然乱暴に席を立つと、ショボンを指差して大声で叫ぶ。

爪#'ー`)y-「行くぜ!とっとと支度しな、ショボン!」

(´・ω・`)「……おやおや」

ζ(゚ー゚*ζ「フォックスさんも?」

爪' -`)y-「……当たり前さ。俺の中の義賊の血が騒ぐんだ、”困っている人を救え”……ってな」

ζ(^ー゚*ζ「あははっ。フォックスさんって………面白い人ですよね」

611 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:27:44 ID:zsWHMpY.0

爪' -`)y-「俺は大真面目さ、デレちゃん……だから、俺がこの依頼から生きて帰って来れたら……俺と」

(´・ω・`)「さっきまであんなに面倒くさそうにしてたじゃないか」

爪#'ー`)y-「黙ってろ、今いいとこなんだよッ!」

(#’e’)「やかましいッ!」

マスターからの怒声が飛ぶ中、駆け足で階段を下りてきたブーンが、支度を終えて現れた。

革鎧に、手甲。腰に吊るした麻袋に薬草などを持って、準備は万端だ。
背にしまわれた剣の柄の感触を確かめてから、一言でその場をまとめ上げる。

( ^ω^)「さ、行こうお────二人とも!」


───────────────


──────────

─────

612 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:28:23 ID:zsWHMpY.0

───【アルバの村 教会内】───


祈りを終えたツンは、ビロード神父と様々な話をするつもりだった。
自分がラウンジへ返されようとしている事、また、ヴィップまで来た経緯や、旅の最中あった人物の事など。
何より、これから自分は旅を続けるべきかどうかを、彼によって導いて欲しかったのだ。

だが、ビロード神父から投げかけられた言葉は、その期待を裏切るものだった。

( ><)「ツンちゃん……積もる話もあるんです。だけど、まだ明るい内にすぐにヴィップへ戻るんです」

ξ゚⊿゚)ξ「……ッ」

( ><)「村の人に途中まででも見送ってもらうんです、だから───」

ξ゚⊿゚)ξ「ビロード神父まで………私がここにいちゃいけない、って………?」

(;><)「あ、いや!そうではないんです、そうではないんですよツンちゃん!」

自分の一言に、途端に泣き出しそうな顔になってしまったツン。
投げかけてしまった自分の言葉を補うべく、ビロードは順序だてて言葉を紡いでゆく。

613 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:28:44 ID:LOVd6Z4k0
ひょーーーう支援

614 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:29:10 ID:zsWHMpY.0

( ><)「よく聞いて欲しいんです……」

ξ ⊿ )ξ「……はい」

俯きがちに小声で応えるツンは、すねているようにも感じられた。
だが、ゆっくりと。彼女に聞き入れてもらえるように、穏やかな口調で諭す。

( ><)「今、このアルバの村では怪異が蔓延しています」

ξ゚⊿゚)ξ「かい……い?」

( ><)「命を落としたはずの村人が、彷徨い歩くんです……毎夜、毎夜の事なんです」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あの、それって」

( ><)「今ここに棺へ収められているのは、その死んだはずの彼らに襲われた人たちなんです」

ξ゚⊿゚)ξ「不死者───」

その存在を撃退する術に長けた聖教都市では、決して目にする事もなかった存在。
超常の話ではあるが、強い恨みを残して死んでいった者達は、再び現世を彷徨い歩く。

そうならない為に、自分達のように祈りを捧げる人間がいるのだ。
迷える魂が少しでも救われるようにと、願いを込めて。

だから、ビロード神父が居るこの村でそんな事が起きるのは、不可解そのものだった。

615 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:30:31 ID:zsWHMpY.0

( ><)「”彼ら”は、決まって陽が沈むと墓から這い出して来るんです……そうして、
      再び陽が上るまでには、自らの墓へと戻ってゆく」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうしてそんな事に……? 皆幸せそうに暮らしてたはずのこの村で、なんで……!」

( ><)「一月ほど前になるでしょうか……」

遠い目で、天井を見上げるビロード。
瞳の奥には、とてもやりきれないような悲哀が映し出されている。

( ><)「村の離れのあばら家を貸してくれと、村長の元に一人の魔術師が訪れたんです……
      そこには誰も住んでいなかった。だから、渋々村長も承諾したんです」

( ><)「だけど……それがきっかけなんです。7日程前から、この死者が蘇る事件が起きた。
      最初は一人だけだったそれが、日を追うごとに……その数は増えているんです」

ξ゚⊿゚)ξ「その、魔術師を捕まえたりはしないんですか?」

( ><)「2、3日が経ったある日、彼の家を村人数人が訪れたんです………
      ですが、彼の姿は影も形もなかった。見つからないんです、どこにも────」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

ビロードの話を聞く内、先ほどまでの身の上話を聞いてもらいたいという気持ちは、消えうせていた。
それよりも、深刻な事態が起きているこの村に対して、何か力にならなければ───と。

616 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:31:20 ID:zsWHMpY.0

ξ゚⊿゚)ξ「怪異が起きている間、村の人たちはどうしてるんですか?」

( ><)「この教会に………始めの内は、皆家に閉じこもり鍵を掛けているだけだったんです。
      ですが、不死者の数が増えるにつれ、それも意味を成さなくなってきたんです」

ξ゚⊿゚)ξ「これで、村の人たちは全員………?」

見渡しても、全部で6人の男女しかいない。
若者は、子供を合わせてたった二人───ビロード神父を含めて、年老いた者ばかりだ。

( ><)「いえ……大半の若者は、村は離れていきました」

「ここで生まれ育ったっていうのに、薄情な連中なんだよ! ……あいつらは」

ツン達の話を聞いていた青年の一人が、割り込んだ。

「こんな小さな子供を村に残してよ……情けねぇ。けど、俺たちはビロード神父と同じ気持ちだぜ」

そう憤慨しながら、青年は子供の頭を撫でた。
大人たちが話す事の大半は、理解できていないぐらいの年頃だ。

ノノ'_')「………」

それでも、深刻な雰囲気だけは彼の身に伝わっているのだろうか。
どこか不安げな瞳の彼を、周りの大人たちは案じているようだ。

617 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:32:32 ID:zsWHMpY.0

ξ゚⊿゚)ξ「あなたは、この子の親類?」

「いや……違う。ロイの奴は、この子の親は……二日前に魔術師を捜しに行くと出たきり……」

ξ゚⊿゚)ξ「────そう………」

全員が青年の言葉に俯く様子から、もう戻らないのだと悟った。

ノノ'_')「……お父さん、どこにいるの?」

「………ッ畜生」

父の所在を求める息子の無垢な表情が、この場に居る全員の心を締め付ける。

( ><)「耐え凌ぐんです……皆さん。ヴィップからの騎士団が、この苦境を救ってくれるまで」

「でもよぉ、ビロード神父……依頼を出してから、もう三日も人っ子一人村を訪れやしねぇ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

三日といえば、自分達が御堂聖騎士団とひと悶着あった頃だ。
もし彼らへの尋問と重なり、アルバの村への対応が手をこまねく状況になってしまったとしたら、
そう考えると─────責任の一端を感じざるを得ない。

フィレンクトほどの善人が、この村の事情を知って数日も放っておくとは思えないからだ。

618 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:33:28 ID:zsWHMpY.0

「一昨日はドノバンが……今朝はフレッド達が食い殺されて見つかった……
 なら次は、俺たちの番なんじゃねぇのか?俺たち、もう村を捨てた方が良いんじゃねぇのか!?」

( ><)「落ち着くんです……希望を捨てては、いけないんです」

「これが落ち着いてなんて───ッ!」

精神的にも相当参ってしまっているのだろう、半ば八つ当たりのように、ビロードへと噛み付く青年。
毅然とした態度で彼をなだめるビロードと、その心中を察しようともしない青年に業を煮やし、ツンが叫んだ。

ξ#゚⊿゚)ξ「うるさいのよッ!」

「ッ!?」

( ><)「!」

身を引き裂かれんばかりの悲哀が、教会内の全員に伝染しそうになった時、その叫びが正常へと引き戻す。

ξ゚⊿゚)ξ「こんな小さな子供がいるってのに、貴方達がしゃきっとしてなきゃダメじゃない!
      怖いのはあんただけじゃない……落ち着いて、力を合わせて今を乗り切るの!」

( ><)(ツンちゃん……)

619 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:34:46 ID:zsWHMpY.0

力強くそう語った彼女の横顔から見える瞳には、猛々しいまでの生命力が満ち溢れている。
落ち込んでいるばかりの村人達だが、彼女の強さは確実にこの場の人間に力を与えてくれる存在となり得る。

ビロードが何を言うでもなく、年下の若い娘に怒鳴られた青年は、自分から過ちを認めた。

「………そうだな、お嬢ちゃんの言うとおりだ。すまなかった」

ξ゚ー゚)ξ「解ってくれればいいんです……今は、何をすべきか考えましょう───」

「っと、そうだ……さっきお嬢ちゃんはこれで村人全員かって、聞いたよな?」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ、大半の人は村を離れたとはいえ、これだけなの?」

「いや、まだあと一人……確か」

( ><)「そう。コトおばあさんが、まだなんです……」

ビロードと青年の話では、まだ一人の老女が教会に避難してこないというのだ。

共に付き添って夜を凌いでいた人間によると、夜毎聞こえる息子が自分を呼ぶ声に、
何度も扉を開けようとしたという。

教会に避難するように呼びかけても、鍵を閉じて家から離れたくないと一点張りなのだ。

620 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:35:41 ID:zsWHMpY.0

「今日は、誰か呼びに行ったか?」

そう尋ねる青年の声に、全員が首を振る。

( ><)「いけないんです、もうすぐ夜が来る……付き添ってくれていたドノバンはもういない。
      誰かが、てこでも連れてこなくてはならないんです」

全員に、緊張が走っていた。

もうじき夕暮れだ、死者が墓から這い出して来るまでに、そう間は無い。
頑固者のコトばあさんを、ビロード神父を含めて8人の中の誰かが、連れてこなくてはならない。

「なら……俺が」

村人6人の中で唯一体格の良い、青年の一人が名乗り出ようとした所だった。
が、それを遮ったのは、ツンだ。

ξ゚⊿゚)ξ「私が行きます」

(;><)「ツンちゃんは知らないでしょうけど……コトおばあさんはとても頑固なんです。
      彼に行ってもらって、戸をこじ開けてでも連れてきてもらわなければ……」

621 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:37:00 ID:zsWHMpY.0

「そうだぜ、死んだあいつらは、俺たちの身体の温もり目掛けてやってくるんだ。
 日ごとに数も増えてるし、あのままじゃ、いつ戸がぶち破られるかも分からない」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな強引なやり方良くないと思う。女同士なら、きっと腹を割って話せるわ」

「しかし……お嬢ちゃん一人に行かせるのも……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいんです。いざという時、皆を守れる人がいなきゃね」

必死で引き止めるビロード達の制止を振り切り、コトばあさんの住居の場所を尋ねると、
「大丈夫!」とだけ言い残して、ツンは駆け足で教会を出た。


────────────

────────


────


時間はあまり残されていない。
急がなければ、不死者達が墓から這い出して来るだろう。

ξ゚⊿゚)ξ(……………)

外は、もう雨が振り出していた。

622 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:37:47 ID:zsWHMpY.0

コトばあさんの家に行く途中に立ち止まり、良く目を凝らしてみて気づいた。
広場のあちこちには、土が這いずったような痕跡に、時たま血痕もある。

それに加えて、教会に避難している一部の人が居る以外には、がらんどうとなってしまった村の建物。
幼い頃に、父と訪れた思い出の中にあるアルバの村の、素朴で暖かな印象は消えうせてしまっていた。

ξ#゚⊿゚)ξ(………くッ)

この村の現状は、一人の魔術師によって引き起こされているのだという。
顔も名前も知らないその元凶に向けて、湧き上がる怒りに歯噛みした。

だが、すぐにまた走りだした。
降り続く雨にずぶ濡れになるのも、水溜りで僧服の裾に泥が跳ねるのも厭わず。

そうして────教えてもらった場所は、商店の少し離れた並びにあった。
小さな木造の家だが、作りは頑丈そうだ。これならば青年の言っていたように戸が破られる心配などなさそうだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

が、幾度も叩かれた衝撃で少しささくれた扉に、無数の泥に塗れた手形を見て、怖気が走る。
書物や話にしか知識はないが、やはり不死者は生きている人間の温もりを求めて、彷徨うのだ。

だが、すぐに自分の使命を思い返す。

623 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:38:35 ID:zsWHMpY.0

不死者の手形が着いている部分を避けて、木扉を叩いた。

ξ゚⊿゚)ξ「……ごめん下さい!コトおばあさん───いらっしゃいますか!?」

雨音にかき消されないよう、大声で呼びかけながら戸を叩く。
幾度も、幾度も声に出して、呼びかけを試みる。

一向に反応が返ってこない事に、すでに不死者達の手にかかり命を落としたのか───と、不安が過ぎった。

ξ;゚⊿゚)ξ「コトおばあさん!―――お願い、返事をして下さい!」

焦りに声を荒げるツンだったが、そこへ、消え入りそうな声ではあったが、かすかに婦人の声が耳に届いた。

(……なんだい、まだあたしを連れてく気かい……)

ξ゚⊿゚)ξ「! ……私、この村の人間じゃないんです、けど、どうしてもコトおばあさんと話がしたくって……」

辛うじて返ってきたその反応を繋ぎ止めるように、ツンが必死で言葉を紡ごうとするも、
意外な事に、閉じられた扉は本人の方からあっさりと開けられる。

「なんだい……雨が降ってるじゃないか、濡れるよ……さぁ、お入り」

ξ*゚⊿゚)ξ「あ───ありがとう、ございます」

624 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:39:56 ID:zsWHMpY.0

頑固者だとは聞いていたが、どうやら嫌味な人柄ではない。
腰は折れ、顔を走る深い皺がいくつも見られるが、自分を見つめる眼差しは、まだ力強さを秘めている。

雨宿りをさせてもらうのは有難いが、どうにかして彼女を説得し、連れて帰らなければならない。
コトばあさんの案内の後について家の中に入ると、なんだか懐かしい臭いがした。

整然とした家の中は、毎日掃除しているのだろう。
外観からはとても古めかしいが、埃に塗れている物は一切見当たらない。

ξ゚⊿゚)ξ「あの……話は聞いていると思うんだけど───」

婦人がたどたどしい足取りでロッキングチェアに腰掛けると、それを見計らってツンが切り出した。
少しだけ黙り込んだ後、そっぽを向いて話し始めた。

「あのね……あたしゃ、この通り足が悪いの」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん」

そっと近づき、婦人の腰掛けるロッキングチェアの手すりに自然な動作で手を置く。
中腰になってしゃがみこむと、ツンは彼女の顔をしっかりと覗き込みながら話を聞く。

「だからさ、皆の重荷には……なりたくないのさね……」

ξ゚⊿゚)ξ「……皆、本当に心配してるの。ここに居たらとても危険なのよ?」

625 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:40:54 ID:zsWHMpY.0

「解ってるさ……毎晩、毎晩……聞こえるよ。墓に入ってるはずの息子が、あたしを呼ぶ声がね……」

ξ゚⊿゚)ξ「───でもそれは、本当のコトおばあさんの息子じゃない」

「それも、わかっとる……でもね、お嬢ちゃん……?」

ξ゚⊿゚)ξ「……うん」

とても───優しい瞳をしている老婦人だった。

一面だけしか知らない人間にとっては頑固なだけの人物に見えるかも知れないが、
今こうしてツンと面と向かって話すその瞳には、他者をいたわれる優しさが見て取れる。

「あたしゃ、ずぅ〜っと長く生きてきた。色々な事も経験したさね……
 息子がいなくなってから、喪失感ばかりがあたしを苛んだりもしたけれど」

人生の酸いも甘いもを知っている、婦人の言葉を真剣に聞いていた。
その最中、村人達の心配に対して「放っておいてくれ」と言わんばかりの態度の理由も、なんとなくは解ってしまった。

だが────だからこそ。

626 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:41:39 ID:zsWHMpY.0

「でも、あたしゃこの村が好きだ……じいさんや息子と一緒に暮らした、この家が好きだ」

ξ゚⊿゚)ξ「うん………」

「それで最後には息子の手にかかって死んじゃうんなら、それも仕方ないさねぇ……」

ξ゚⊿゚)ξ「………どうして?」

「それこそ、神さまのお導きなんじゃないかい?………あたしゃ受け入れるさ、
 どんな結果であろうと、こーんなに長生き出来たんだ、悔いは欠片も残ってないさね」

だからこそ──────彼女を一人この場に放っておく事など、ツンには出来なかった。
彼女と話し、説得に失敗して諦めがつくどころか、「絶対に助ける」という意思が芽生えたのだ。

ツンよりも遥かに長い年月を生きてきたコトばあさんは、とても強い女性だった。
全てを自分の運命として受け入れ、死が目前まで迫っていてもどっしりとしたものだ。

しかしながら、全てが神の定めた運命であるはずがない。
道半ばの不条理な死など、ヤルオ=ダパートの意に沿うもののはずがないのだ。

だからこそ、この場に居合わせる神の使者である自分が、どうにかしなくてはならない。

ξ゚ー゚)ξ「コトばあちゃん……?」

「何かね、お嬢ちゃん……?」

627 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:42:49 ID:zsWHMpY.0

ξ゚ー゚)ξ「なら、こうして私と出会ったのも、神様のお導きって事だよね……?」

「そうかも知れないねぇ」

悪戯な笑みを浮かべるツンが立ち上がり、婦人はその彼女を見上げる。
何をしようとしているのかと考える間もなく───唐突に、婦人の軽い身体は持ち上げられた。

ツンに抱えられると、その背に婦人がおんぶする格好だ。

「な、何するんだいっ!お嬢ちゃ───ッ」

ξ;^⊿゚)ξ「ん、しょっと……ごめんね、コトばあちゃん?」

しっかりと自分の足を持たれてなすがままの老婦人は、何事かと驚きを隠せない。
ツンにはその彼女の表情を伺い知れないが、背中ごしには謝っておいた。

ξ゚⊿゚)ξ「ワガママかも知れないけど───」

「………」

ξ゚⊿゚)ξ「私、コトばあちゃんと話してる内、意地でも助けたくなっちゃった」

「! ………ありがたい、事だねぇ……」

ξ;゚⊿゚)ξ(結局、強引に連れ出す事になっちゃったけど……気にしない!)

628 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:43:42 ID:zsWHMpY.0

強情さと強引さで、若く力のあるツンに軍配が上がったようだった。
コトばあさんもさすがに折れて、その身をツンの背中へと完全に預けた。

片手で戸を押し開けると、降りしきっていた雨の中を飛び出した。
見れば、陽はもうとっぷりと沈みかけている────

そして、生きていた頃のかがり火を求めて彷徨い歩く、哀れな死者達の時間が訪れた───


(%;℃;;#)「───オ……アァ、ウ─────」


───────────────

──────────


─────

( <●><●>)「ふむ……数も増えていますね。実に良い傾向にあります」

629 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:44:17 ID:zsWHMpY.0

村の北東に位置する墓地に、黒の外套に身を包む男が立っていた。

その目線の先には、次々と土の中から這い出してくる、不死者達。
もはや形を為すのも難しい程に身体が崩れてしまっている者は、手足がちぎれながらも這い出る。

( <●><●>)「紛うことなき黄金比でしたね、この私の調合したゾンビパウダーは」

まるでその姿が見えていないかのように、そこに立つ男を素通りして、不死者達は
明かりの見える教会の方へと、続々と這いずり、歩き出した。

その中には、かすかな生前の記憶を持つ者もいるらしい。
もはや人としての言葉を発する事の出来ない潰れた声帯で、時折誰かの名を呟く。

( <●><●>)「まぁ……それはわかっていた事ですが」

小さく笑いながら、列を成す不死者達の姿を、目だけで見送った。
いつもと同じ時間に、いつもと変わらぬ作業。

それが彼にとっては、普通に部屋に閉じこもって研究しているのでは、
たった2年やそこらでは決して得る事の出来ない、大きな成果をもたらすのだ。

630 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:45:21 ID:zsWHMpY.0

まだ若い男だが、同じ年の男女と比べても、その青白い顔には健康さの欠片も感じられない。

うすら笑みを浮かべているのだ。
ぼこぼこと土を盛り上がらせて、不気味に這い出てくる不死者達の姿に。

( <●><●>)「さて、後は経過を観察させてもらうと致しましょう」

そう言って、濡れた地面を踏みしめてどこかへ向かおうとして彼だったが、不意に動きを止めた。
異様にするどい眼光が、彼にとって日常化しつつある光景にそぐわない来訪者の姿を捉えたのだ。

誰であろうが、この村は今や不死者達にとっての”餌場”なのだ。
そして、貴重な実験結果を観察するための、彼にとっての”研究室”

そこへ土足で踏み入る者は、何人たりとも生かして帰る事など許さない。

( <●><●>)「やれやれ、わかっていませんね……」

仮にそれが騎士団であれば退散を余儀なくされるが、人数はたったの3人。
何も知らない冒険者か、もしくは知りながら訪れた冒険者か。

どちらにしろ、亡者共に襲われて仲間入りするという結果に変わりはしない。

631 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:46:33 ID:zsWHMpY.0

( <●><●>)「ですが、今夜は面白い実験が見られそうです」

雨粒に混じって、木から流れ落ちる雫に外套を濡らしながら、
彼の足は山の方角へと向き、その姿はさらに奥へと消えていった。

今宵の宴を見下ろせるよう、村の全景を一望できる高台を目指して。

───────────────

──────────


─────


ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅ……ふぅっ」

最初抱き上げた時には楽勝だと思ったコトばあさんの身体が、次第に重く感じる。
お互いに雨粒で衣服が水を吸い、その分もあるのだろう。

一歩一歩も、間隔が狭い。
教会から5分足らずで辿り着いた場所が、とても遠い場所のように感じた。

632 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:47:17 ID:zsWHMpY.0

「疲れたら、もういいんだよ……?いつでも下ろしとくれ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

背後からそう声を掛けるコトばあさんの言葉を、黙殺する。
今は黙って、ただ教会へと続く門扉を目指さなければならない。

───ずり、

ξ;゚⊿゚)ξ「はぁ……はぁっ……」

──────ずり、

どこかから聞こえるその音の方を、コトばあさんが顔を向けて言った。

「お嬢ちゃん……あたしを置いて、あんたは走るんだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ(やばい……急がなきゃ)

思ったよりも、不死者達が墓から出てくるのは随分と早かったようだ。

雨雲が空を覆い包んでしまっていたのが関係しているのか、
コトばあさんの声に振り返った時、一人の不死者がこちらを視認していたのに気づいた。

(%;℃;;#)「ウォ、ア……………ウゥ」

鼓動が激しく波打つ。
その後ろからも、続々と人影が続いているようだ。

633 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:48:32 ID:zsWHMpY.0

ξ;゚⊿゚)ξ「ッ………走るから!」

そう前置きし、残された体力を振り絞って駆け出した。
二人分の体重が掛かる度に、ツンの身体が激しく揺さぶられる。

教会の扉まではあと少し───ツンの瞳は、前しか見えていなかった。
足元の小石に躓いてしまうかも知れないなどと、注意を働かせる余裕もないほどに。

ξ;-⊿-)ξ「きゃッ!?」

激しく前傾姿勢を余儀なくされると共に、コトばあさんの身体が宙に投げ出される。
一瞬送れて、雨でずぶ濡れたぬかるみに、身体ごと突っ伏した。

────────ずり、ずり。

一瞬目の前で星が瞬いたツンだったが、背後から不気味に聞こえてくる音に、すぐにがばっと顔を上げた。
力なく地面に横たわっているコトばあさんの身体を、必死で抱え込む。

ξ;゚⊿゚)ξ「ごめん……!すぐに……」

そう言いかけた所で、すぐ背後に誰かが立っている気配に気付く。

634 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:49:58 ID:zsWHMpY.0

「不死者が、すぐ後ろに?」

そう考えた所で─────背はぴんと張り詰め、動けなくなってしまった。

恐怖が、先ほどまでの使命感に満ち溢れていた自分の心を塗りつぶしてゆく。
「逃げなくては」と頭の中で理解しつつも、歯は情けなくがちがちと震えていた。

ξ; ⊿ )ξ(あ、あ………)

まるで歯車仕掛けの人形のように、ゆっくりとその首を後ろへと向けてみた。

そして、その眼前にあったものは───────




( ^ω^)「……手を、貸すお?」


ξ;⊿;)ξ「─────え?」


───────とても印象深く心に残った人物の、変わらぬ笑みだった。

635 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:51:32 ID:zsWHMpY.0
ここでいったん切り、続き書いてきます……

636 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:52:48 ID:AL0HZ7WE0

また朝読むの楽しみにしています

637 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 00:53:48 ID:LOVd6Z4k0
乙 続きwktk

638 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 01:01:16 ID:tSxIZ8u2O
乙 いい展開だ

639 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 07:13:17 ID:zsWHMpY.0
mouchoy...mattetene

640 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 09:28:26 ID:lVCuJOrQO
おひょう

641 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 09:51:04 ID:zsWHMpY.0
(´・ω・`)”まだ”なんだ。すまない

最初に投下した分の2倍から3倍に膨れ上がってしまって、どーすっぺ。
エメマンブラック計1230mlを摂取しながら、多分昼までに投下を。

642 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 09:57:47 ID:B4bwGeaw0
待ってます

643 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 10:01:26 ID:lVCuJOrQO
何本飲んでんだよwww

644 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 10:51:36 ID:Ta8T9hJIo

少しは寝ろよww

645 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 11:10:24 ID:LOVd6Z4k0
そんな急がなくてもちゃんと見てるんだぜ
体に影響がないレベルで投下してくれ

646 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:38:16 ID:zsWHMpY.0

( ^ω^)「まさか、ツンまでアルバに来てるとは思わなかったお」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、なんで………あんたが、ここに!?」

対峙した恐怖にいつの間にか流れていた涙だが、この雨のおかげかブーンには悟られなかったようだ。
後ろを振り向くと、そこには彼同様に、自分が世話になった人物の姿もあった。

(´・ω・`)「さすがと言うべきか……やはり、随分と世話焼きだね。君は」

ξ;゚⊿゚)ξ「────ショボンに」

爪'ー`)y-「よっこら……っせと。この婆さんは、どこに連れてきゃいいんだ?お嬢さんよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「フォックス────!」

呆気に取られたツンをよそに、フォックスがすでにコト婆さんの身体を背に抱えていた。
激しく転倒した時の衝撃で気を失っているようだが、命に別状はなさそうな事に安堵する。

647 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:38:51 ID:zsWHMpY.0

─────ずり、ずり、ずり。

その彼らの背後、北東の方角から続々と押し寄せる不死者の影が、少しずつ広場へと広がってゆく。
数にして、10や20ではきかないかも知れない───身体が腐敗しきって、所々に骨が露出した者もいる。

それでも、意思を持ったかのようにこちらへと向かってくるのだ。

(;^ω^)「……こりゃ、ビジュアル的にきっついおねぇ」

(´・ω・`)「もはや、人為的な線は明らかだね」

ブーンとショボンがツンと不死者との間に並び立ち、肩を並べる。

ξ;゚⊿゚)ξ「教会─────教会の中まで、走って!」

爪'ー`)y-「……あそこか。お先に行かせてもらうぜ、しんがりは任せた、お二人さんよッ!」

コト婆さんの身を背に抱えるフォックスが、一足早く脱兎の如く駆け出した。
これまでツンが苦心してやってきた頑張りなど何だったのかという程だ。

あれよあれよという間に、人一人抱えているとは思えない程の身軽さで教会の前まで辿りついてしまう。

それを目で追っている内、背後のブーン達に不死者の何人かが迫っていた。

648 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:39:30 ID:zsWHMpY.0

(%;℃;;#)「ヴァ……ウゥゥッ」

不気味な声を上げながら、手を伸ばした不死者。

近づいていたその気配に、普段からは想像もつかない程の機敏さで振り向くと同時、剣を抜いていた。

(#^ω^)「………おぉぉッ!」

自らに伸びていたその腕を、一刀の元に切り落とす。
続けて踏み込んだ一太刀は不死者の胸元から入り込み、腹部を通って振り切られた。

(%;℃;;#)「ヴッ……ウ? ……ウウゥ」

─────それが意に介したと見られるのも、一瞬だった。
一度だけ立ち止まったかと思えば、すぐにまた不死者の身は動き出す。

(;^ω^)「ッ!? ……効果、ナシかお!」

(´・ω・`)「【我……奔…魔…】」

ブーンが叫ぶと同時、ショボンが両手で三角形を模りながら、小さく何事かを呟き始めた。
その聞き覚えのある言葉の端に、ツンはあの時の事を連想する。

一つ違うのは、全てを聞き取る事の出来ない程の速さで、言葉が紡がれていた事か。

ξ゚⊿゚)ξ(魔法………!)

649 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:40:12 ID:zsWHMpY.0

(; °ω°)「ちょ、下がるお!ショボンッ!」

彼の衣服を引っ張って不死者から遠ざけようとするブーンだが、ショボンはそれに構うことなく
魔術の詠唱を続けている。手が触れるぐらいに近くまで、不死者達が迫っているというのに。

不死者と目線を合わせながらも、一切動揺する事の無い集中力。

(´・ω・`)「【力……容…魔を以って…】」

やがて最後の段を言い終えた彼の手からは、眩い光の束が幾つも発現した。
光が全体を包み込んでいるその両手を、左右へゆらりと掲げた─────

(;^ω^)(これって……あのゴブリンが使った魔法と同じ───)

(´・ω・`)「【彼方まで撃ち貫け────魔法の矢】ッ!!」

ξ;-⊿-)ξ「………きゃっ!?」

(;^ω^)(ちがッ……遥かに、あれ以上────!)

眩しさを伴って無数に飛散する光の矢の雨が、両の指から放射状に繰り出される。
その一本一本が何人もの不死者達を穿ち貫き、それでもその勢いは止まる事がない。

広場に無数に散らばった彼らの身を貫通して、視認出来ない遥か彼方まで、矢は突き進んだ。

650 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:40:45 ID:zsWHMpY.0

(%;℃;;#)「ヴォッ……オッ、アッ……」

ショボンの正面に立っていた一人は、一度に数本もの矢をその身に受けて頭の半分が無くなり、
両足がまともじゃなくなった所で、ようやく地面へと崩れ落ちた。

他にも何人か動きを止める事が出来たようだが、それでも、ショボンの魔法をしてそこまでだった。

(´・ω・`)「足止め程度か……もっと威力のある魔法で、粉々に吹き飛ばさなければ」

表情を崩す事も無く物騒な事を口にするショボンの横顔を、ブーンは口をあんぐりと開けて見ていた。
今しがた10以上もの不死者を同時に貫いた魔法よりも、まだ上を持っている口ぶりだ。

(;^ω^)「十分すごい威力だけど、お……きっと、ブーンなら避けられないお」

フォックスの言っていた通り、魔術師であるショボンが味方について良かったと思えた。

だが、魔法で全体の動きを止めたのも束の間─────
その身に光弾を受けて倒れた者は立ち上がり、また、足を失った者は這いずって。

尚も欲求に駆り立てられるように、こちらへと向かってくる。

ξ;゚⊿゚)ξ「一旦退くのよ……教会へ走って!」

651 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:41:15 ID:zsWHMpY.0

(;^ω^)「了解したお!」

(´・ω・`)「どうやら、今はそれしかないね」

ツンの言うとおり、この場は退くしかなかった。
どうにかして策を講じなければ、現状では手の打ちようがない。

数もさる事ながら、一度や二度斬ったぐらいではそう簡単に動きを止めないのだ。

(%;℃;;#)「ウゥ……アァァ…」

(;^ω^)「ツン、遅れるなおッ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ええっ!」

ブーンがツンの手を取り、一同は教会へ目掛けて一直線に走る。
既にその先では事態を予見して、フォックスが扉を開け放して招きいれようとしていた。

爪'ー`)「遅ぇぜ……ったくよ!」

転がり込むようにして三人が教会へ入り込んだのを確認すると、
すぐに後ろ手で扉を閉め、施錠の為の閂を門扉の中央へと被せた。

爪'ー`)「……どうだ、入れねぇだろ………!」

(;^ω^)「………」

652 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:41:51 ID:zsWHMpY.0

ξ;゚⊿゚)ξ「………」

そのまま背を門扉に預けてしたり顔を浮かべるフォックスの様子を、教会の中の全員が見守った。

爪;'ー`)「おわっ!」

─────が、少し遅れてやってきたのは、恐らく何人もの不死者が扉を叩く音。
それが背中越しに衝撃として伝わったフォックスは、すぐさま飛びのく。


「アァー、ウゥゥ……」
                     「フゥウ、ウアゥ……」

       「ヴァァァァァッ、ウオォ」


爪;'ー`)y-「チッ……びびらせやがって」

そう捨て台詞を吐いて、教会内だというのに煙草に火を着けるフォックスを責める者は、誰もいなかった。
皆がただ、協奏曲のように奏でられる不死者達のうめき声に頭を抱え、塞ぎこむばかりだ。

653 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:42:43 ID:zsWHMpY.0

(;^ω^)「………はぁ」

頭を抱えてしまうのも無理はない。こんなものを毎晩聞かされては、
自分でもいずれは気が狂ってしまうかも知れないと、ブーンは思う。

コトばあさんを連れて突然現れたフォックスに、泥塗れのツンの手を引いて現れたブーン達。
死者が彷徨い歩く夕暮れになってからアルバを訪れた3人の来訪者に、ビロード神父が尋ねた。

(;><)「あの、あなた達は一体………」

( ^ω^)「……申し遅れましたお」

すっくと立ち上がったブーンが、彼の前に歩み出る。

( ^ω^)「”失われた楽園亭”から、不死者討伐の依頼でやってきた冒険者ですお」

「おぉ………ッ!」

それを聞いて、教会の中で肩を寄せ合う人々の中からどよめきが上がった。

本当ならば騎士団に直接助けを求めたかったであろう彼らだが、
実際に姿を見せたのは、ブーンら、たった三人の冒険者だけだった。

────それにも関わらず、彼らはこの状況にあって心底明るい表情を浮かべている。

やはり、相当に辛い日々を送って来たのだろう。

654 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:43:25 ID:zsWHMpY.0

( ><)「私は、ビロード=ヒルバーグ……この場に居る皆を代表しまして、まずは感謝を」

差し出されたその右手と、ブーンは硬く握手を交わす。
細くしなやかな指だが、その手には力が篭っていた。

( ><)「もう……皆が限界に来ていた所なんです。今回来たのは、あなた達三人だけなんです?」

( ^ω^)「それなんだけどお……円卓騎士団は、今は動けないみたいなんですお。
       その代わりと言ってはなんだけど、ブーン達三人が全力で依頼に挑ませてもらいますお」

爪'ー`)y-「ま、パーティー結成してから初仕事になるか? ……色々と、危うい面子だけどな」

( ><)「彼女も、あなた達が連れて来たんですか?」

ビロードが視線を外して、そっと地面に横たえられて気を失っていた
コトばあさんの姿を、ちらりと見て尋ねた。

(´・ω・`)「いえ、彼女はそこにいるツンが連れて来たのですよ」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、まぁ……」

ショボンが屈み込んで呼吸を整えている最中の、ツンを指差す。

( ><)「危険を省みず、よく連れてきてくれたんです……ツンちゃん」

ξ*゚⊿゚)ξ「い、いえ……話してみると、とてもいい人だったし……」

655 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:44:41 ID:zsWHMpY.0

正確には、ブーン達の助けがなければあの場で不死者達に襲われていただろう。
少しだけ照れるが、今はビロードからの賛辞を素直に受け入れた。

爪'ー`)y-「なぁ……この扉、大丈夫なんだろうな?」

だが、状況はそう楽観していられるものでは無いようだ。
数多の不死者達が叩いている教会の門扉にかけられた閂が、時折反り返る。

木製であれば致し方ない事だが、扉の前に不死者達が群を為して溢れ返っている光景が目に浮かんだ。

(´・ω・`)「まずは、これからの事について話し合わないか?」

中央に皆を集め、対応策について話し合いの音頭を取るショボン。
普通の人間なら塞ぎこんでしまうのが普通にも思われるこの状況にあって、実に毅然としたものだ。

( ^ω^)「全部倒す……というのは、やっぱり駄目そうだおねぇ」

爪'ー`)y-「ショボンの魔法ならあるいは、と思ったがな。遠くから見てて、俺もあれにはびびったぜ」

(´・ω・`)「局所的に膨大な威力をもたらす魔法も、あるにはあるさ。
       だが、あれは体内で魔力を練り上げる段階において、致命的な”溜め”が要求される」

ξ゚⊿゚)ξ「あれほどの数がいちゃ、そんな暇は与えてくれそうにないわね……」

いつの間にか、彼らの傍らではツンも話し合いに加わっていた。

656 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:47:00 ID:zsWHMpY.0

こちらが対抗する為に持ち合わせる主な武器としては、ブーンの剣と、ショボンの魔法だけだ。
だがそこまで考えた時、彼女は自分のとても身近に見落としていた─────ある事に気付く。

ξ゚⊿゚)ξ(………そう言えば)

( ^ω^)「一か八か、打って出るかお?」

爪'ー`)y-「バカ言え、扉を開けた途端にゾンビ共が雪崩れ込んでくるぜ。それに俺の特技は
      対人専用のナイフ術だ……お前らと違って、不死者相手に戦力にはならねぇさ」

(´・ω・`)「………もし仮に全てを倒せたとしても、その元凶を排除しない限りは、
       またこの村で同じことが起きる可能性がある」

( ^ω^)「ふぅ……困ったもんだおねぇ」

(´・ω・`)「せめて、不死者達を寄せ付けない結界のような物でも張れればね」


頭を悩ます4人の面々の気付かない所で、より絶望的な状況へ向かおうと、事態は動いていた─────

───────────────

──────────


─────

657 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:47:33 ID:zsWHMpY.0

ノノ'_')「………」

無知にして無垢な彼には、解るはずもない。
今この扉一枚隔てた向こうで、何が起きているのかという事など。

雨音と幾重にも折り重なって、この扉を外から大勢の人が叩く音が聞こえてくる。

「ウゥ、ア……ヴィ……ル……」

多数の音にかき消されながらも、父の帰りを今かと待っていた彼だけは、
かすかにその声が耳にまで届いた。

ノノ;'_')「っ!?」

父を亡くしている事にも気付かぬ彼に、気付けるはずもなかった。
その名を呼ぶ声が、もはや生前の記憶の中にある父親のものではない事など。

「ヴィ…ル……あけ……」

ノノ'_')「父さん……?父さんが、帰って来たっ!」

そして、意気揚々と扉の前に走りよっては、教会の外と中とを閉ざしていた閂を、押し上げた。


──────

────────────


──────────────────

658 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:48:22 ID:zsWHMpY.0

( ><)「ヴィル……?」

入り口に立っていた彼の姿を見ていたビロードが、不審な様子に気付いた。
扉に掛けられた閂を手に取り、それを外そうとしている────

(;><)「ヴィル────ッ! やめるんですッ!」

ノノ'_')「え………?」

その声に振り向いた少年の前には、次の瞬間、亡者の群れが押し寄せていた。


(%;℃;;#)         (%;℃;;#)

    (%;℃;;#) 「ヴァァ……ウオォォ……ア、オォォ」    (%;℃;;#)

              (%;°∀;#)


ノノ;_ )「あ……わ、わぁぁぁぁぁぁぁッー!!」

お互いに様々な意見述べて対策について話し合っていた4人は、
その出来事に気付くのが、少しだけ遅れてしまった。

既に入り口からは4〜5人の不死者が入り込み、想定しうる最悪の事態になりつつある。

659 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:49:02 ID:zsWHMpY.0

(´・ω・`)「な─────」

爪;'ー`)y-「─────んだぁ……?」

ξ;゚⊿゚)ξ(そんなッ……駄目! 今からじゃ……とても間に合わない……!)

「どう動けば、最善手か」

それを考えて身を竦ませた一同だったが、結局は一つの結果に行き着いた。

──────”不死者達を退け、再び扉を閉じるしかない”

(;`ω´)「────おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーッ!!」

最も早くその答えに行き着いたのは、ブーンだった。

亡者達の波に飲み込まれようとしている少年の元へ疾駆すると、弧状の剣閃で数人を斬り、怯ませる。
追い討ちとばかりにその中の一体に前蹴りをお見舞いすると、勢い良く外に吹き飛んでいった。

その衝撃に巻き込まれて、扉の前で数人の不死者が転倒したのが、機となり得た。

(;`ω´)「……フォーックス!」

まだ中に入り込んだ不死者が居るのだ。
それが村人達に牙を向く前に、どうにかして追い出さなければならない。

背中越しにでも確実に聞こえるだけの大声で、その名を呼んだ。

660 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:50:04 ID:zsWHMpY.0

爪;'ー`)「畜生……こちとら、ほとんど生身なんだぜ……」

ブーンと共に自分が行うべき役目はもう理解出来ているらしい。
すぐに教会右側の通路を走り出すと、そこに居た二体の不死者の中央へ突っ込んだ。

(%;℃;;#)「ヴォウッ……」

爪;'ー`)(うへぇ、気色わりぃ!)

二体に挟まれた中央から顔を出して、両側からそれらの身体を押さえ込んで体当たっていく。

爪#'ー`)「おら……出てけッ……よぉぉぉッ!!」

重心を落として、そのまま強引に不死者達の進行を阻止する。
ついには、扉の外にまで不死者を追いやる事に成功した。

(;`ω´)「くっ……おぉぉッ!!」

一方のブーンは、二体をまとめて剣で串刺していた。
ばたばたと手を暴れさせる不死者だが、胸元に差し込んだ剣が幸いしてか、
ブーンに食らいつく事が出来ずにいた。

柄からはずぶり、と拭い去りたくなるような感触が伝わるが、
更にそれを突き出しながら、一歩、また一歩と扉の前にまで進んでゆく。

ブーンもまた扉の前にまで押し出す事は成功したが、ここから先は博打だ。

661 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:50:48 ID:zsWHMpY.0

フォックスとブーンが押さえつけている不死者の後ろには、すぐにまた別の数体が控えている。
ここで引き下がってしまえば、また教会内へと雪崩れ込まれて同じ事の繰り返しだ。

(´・ω・`)「……僕達が外に出てから、扉を閉ざす他ないね」

いつの間にやらブーンとフォックスの間に立つショボンが、そう呟いた。

だが、中に居る村人達にとっての最善を考えると。
また、不死者達を押さえつけるにも限度がある自分達の体力を鑑みても、それしか手立ては無い。

爪;'ー`)「ふんが……ぎぃ……そ、そいつぁ笑えねぇ冗談だな……!?」

(;`ω´)「………まだ、中に一匹いるお」

(´・ω・`)「………」

ブーンがそう言って目配せをした先には、村人達の元へ到達していた一人の不死者の姿。
辛うじて青年の一人が手近にあった蜀台を振り回し、抵抗を試みているところだ。

(%;°∀;#)「ア…ウ……ウゥ」

「く、来るな!来るんじゃねぇ化け物ぉッ!」

だが、あえてショボンはそれから振り向いて、厳しい言葉で切って捨てる。

662 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:51:34 ID:zsWHMpY.0

(´・ω・`)「……そっちは、そっちで何とかしてもらうとしよう」

(;`ω´)「ショボン!?」

(´・ω・`)「時間が無い。今この三人で外に出る機を逃したら、君ら二人じゃ全滅だ」

爪#'ー`)「ま、しゃあねぇか……!」

(;`ω´)「………くっ!」

(´・ω・`)「───行くよ!」

ショボンの考えは正しくも、やむを得ない判断だった。
このまま二人で押さえ込むのも、もはや限界に近いのだ。

ならば、外へと打って出るしかない。
ブーンが、教会の中に居る全員に届く程の声で叫んだ。

(;`ω´)「ツンッ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン……」

(;`ω´)「ブーン達が外に出たら、それと同時にすぐに扉を閉めるんだおッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「でも……それじゃあ」

(;^ω^)「必ず戻るお………だから、中での事は頼んだおッ!」

663 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:52:02 ID:zsWHMpY.0

ブーンが剣を持つ手に一層力を篭めたと同時に、フォックスは咆哮を挙げて、最後の馬鹿力を引き出した。

(;`ω´)「お……おぉぉぉぉッ!!」

爪#'ー`)「どりゃあぁぁぁぁぁッ!!」

その二人が防衛線を押し上げたのを見計らって、ショボンもまた外へと躍り出る。
これで、中に入ってしまった一体を除いて、全ての不死者を外へと押し出す事が出来た。

ξ;゚⊿゚)ξ(……今だ!)

不死者の脇を抜け、横の通路側から入り口へと回り込む。
扉の前に立った時、外で激しく不死者達に対し抗うブーン達の背中が瞳に映りこんだが、
躊躇せずに扉を閉じると、傍らに転がり落ちていた閂を再び扉にはめ込んだ。

あとは────中に入り込んだ一体を、どうにかするだけだ。

ξ;゚⊿゚)ξ(はぁ……はぁ……)

「くそっ、来るなッ!……このぉッ」

不死者と対峙する青年は必死に蜀台を振り回しているが、その程度では進行を阻止するぐらいにしかならない。

この状況────先ほど考え付いたばかりのツンの策が、実行に移されるべき時だった。

664 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:53:44 ID:zsWHMpY.0
───────────────


──────────

─────

外では、まさにいつ終わるとも知れない三人の戦いが始まった。
右と左を見渡し、どこから亡者の手が伸びてくるのか注視しながら、それを防ぐのがやっと。

そんな防戦ばかりが、下手をすれば夜が明けるまでの間強いられ続ける事になる。

爪;'ー`)「ホント……冗談キッツイぜ!」

言いながら、片手で三本のナイフを投擲した。
そのうちの二本が不死者の眼窩へと収まり、白濁した眼球へと突き立った。

たったそれだけでは動きは止まらないが、それでも一体の動きを乱す事により、
全体の動きに多少なりとも影響を及ぼす事は出来る。

(;`ω´)「ふおぉぉぉ……らぁぁぁーッ!!」

不死者を刺し貫いていた剣を抜くや、付近にいた不死者達の首をまとめて飛ばした。

威力を発揮するに十分な間合いを保つには足りず、がむしゃらに振り回した剣だが、
数打ちゃ当たるとばかりに、その都度何かしらの肉片を地面に落としていった。

突き立て、蹴飛ばしては、横薙ぐ。
斬り上げ、殴りつけては、突き刺した。

だが、数が減っている手ごたえは一向に掴めない。

665 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:54:50 ID:zsWHMpY.0

(%;℃;;#)「…ヴォ、ワ…ォェゥ……」

爪;'ー`)「こりゃラチがあかんね……一丁頼むぜ、ショボン」

(´・ω・`)「今始めようと思っていた所さ。くれぐれも……近づけないでくれ」

(;`ω´)「心配はご無用だおッ!」

フォックスが高らかと顎を蹴り上げた不死者がたたらを踏んだ所に、ブーンがその身を両断した。
ブーンが剣を穿って動きを止めた一匹の首へ、フォックスが足を挟み込み、身をよじってへし折る。

───そうしてブーン達が奮戦する中、ショボンは精神を全集中して詠唱を始めた。

(´・ω・`)「【 我が声に耳を傾け 我が望みを聞き入れよ 】」

(%;℃;;#)「ア、アー……ヴオォエェ……」

(;`ω´)「……らぁッ!!」

ショボンへと迫っていた一体の背後、その胸元へと剣を突き上げた。
そのまま無理やりに持ち上げると、後ろに振り返ると同時に背負い投げた。

(´・ω・`)「【 盟約に従いて 其の抱きし業火は 我と共に在れ 】」

放り投げられて吹き飛んだ一体が、落下した先で5〜6体を巻き込んで倒れ込む。

666 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:55:39 ID:zsWHMpY.0

爪;'ー`)「くそったれッ!ブーン、こっち頼むぜッ」

(; °ω°)「ハァッ…! ……悪いけど、手一杯だおッ!」

(%;℃;;#)「……ヴァー……」

爪;'ー`)「やらせる……かよぉッ!」

投擲用のナイフを掴んで大きく振りかぶると、
それをそのまま不死者の足の甲を目掛けて、地面まで貫通させた。

足を前に出してもがくが、そう簡単に抜けはしない。

爪;'ー`)「これでちったぁ堰き止めになんだろ……」

フォックスの持てるナイフは、その一本で底を尽きた。
徒手空拳では、たとえ一時的にせよどうにかなるような相手ではない。

ブーンはなおも不死者達の身を切り裂き奮戦しているが、
このままではショボンが魔法の詠唱を終えるまでに、完全に包囲を狭められてしまう。

(´・ω・`)「【 そして我が身 我が前に立ち塞がる一切を 灰燼へと帰せ 】」

(;`ω´)(まずいお……間に合ってくれるかどうか……)

667 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:57:31 ID:zsWHMpY.0

ちらりと背中越しにのぞき込むショボンは、少しばかり苦しい表情を浮かべている。
彼もまたブーンと同様の心中なのだろう。

かと言って、ここで詠唱を止めてはこれまでの奮戦が水泡に帰す。
一つ派手にかます事さえ出来れば、最悪、夜明けまでを凌ぐ事も出来る。

爪;'ー`)「どうするよ?」

素手でショボンの前に立ち、四方八方へと目を光らせるフォックス。
一応は身構えているが、並の拳撃が不死者に通用するなどと、露ほども思っていなかった。

そのフォックスの更に前に立ち前方へと剣を突き出すブーンも、もはや肩で息をしていた。
矢継ぎ早に群がってくる不死者達を堰き止めるのも、限界だった。

(; °ω°)「……フゥッ! ……フゥッ!」

右方から伸びた手に、もはやまともに取れていない型で斬りかかる。
斬って落としたかと思えば、続く左方から出てきた一体には、すぐには近寄る事が出来ない。

そのまま、ブーンの見せた隙を縫って、数体の群れはフォックスの元へと近づいた。
武器を持たぬ彼にその状況を打破しろというのは、あまりにも酷だ。

(; °ω°)「! ……フォ……フォック───」

668 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:58:42 ID:zsWHMpY.0

爪;'ー`)「………くそったれ」

(;´・ω・`)「………ッ!」

不死者の群れに取り囲まれたフォックスは、覚悟を決めたか───そう吐き捨てる。
ブーンが鉛のように重い手足を動かしてその彼の元に駆け出そうにも、追いつかない。

とうとう、足がもつれてその場に膝を着いてしまった。

(;  ω )「──────く、くッそおぉぉぉぉッ!!」

ブーンの血を吐き出すような叫びだけが、夜空へと響き────霧散してゆく。

地に手も足も着けてうな垂れていた彼に限っては気付かなかっただろうが、
その瞬間だけは、確かにその場に居た全員共が見えていた。

夜空から雲間を突き抜けこの地へと差し込んだのは───たった一筋の光。

───────────────


──────────

─────

669 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 12:59:28 ID:zsWHMpY.0

( <●><●>)(もがきなさい、冒険者達)

黒の外套の魔術師は、山の高みからずっとその光景を見ていた。

最初に抱いていた印象を覆し、真っ先に死ぬかと思われたが、そうではなかった。
意外にも奮戦し、彼らの中にはそこそこに優秀であろう魔術師が居る事もわかった。

教会に篭城したはいいが、そこからわざわざ内から扉を開いたのだけが解せなかったが、
大方、呼びかける死者達の声に応えてしまったというところであろう。

( <●><●>)(貴方達の死が、私にとっての道となる……)

強度も、効用も日増しに高まっている。
自らの調合したたった一握りの粉末が、今まさに一つの村を滅ぼしかねない勢いだ。

不死者がこうして彷徨い歩く光景を見るたび、自分の中に秘められた才能が
我ながら恐ろしいものだ、ととても良い気分になるのだ。

何も”わかっていない”他の魔術師は、やれ倫理だ何だと正義感を振りかざし、
生と死すらを超越しようとする自分達の存在を、ただ非難するばかりだが。

670 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:00:13 ID:zsWHMpY.0

( <●><●>)(そう遠くはないんですよ。私には、それがわかっています────
       遍く亡者達を従えた、我が理想郷の完成がね……あぁ、心浮き立ちます)

死者達の楽園は、生者達にとっては地獄となるのであろうか。
そんな下らない事を考えては含み笑いをしていた折に、突然その表情は固まった。

─────とても不可解な、ある現象が起きたからだ。

( <●><●>)(………何事です?)

魔術師である彼のあらゆる知識を総動員しても、全く理解が及ばぬ出来事だった。
黒く染め上げられた天高くから、アルバの村の教会の屋根へと降り注ぐ光の正体。

それは信心の無い死霊使いなどに分かろうはずもない、紛れも無い”神の奇跡”だった。

─────

──────────

───────────────

671 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:02:14 ID:zsWHMpY.0

─────【アルバの村 教会内】─────

ブーン達が出て行った後、たった一匹残された不死者の存在に全員の心はかき乱されていた。

うわごとのように言葉を呟きながら、こちらへ歩み寄ろうとしている。
そして生前の朽ちたその記憶が、人肌の温かみを、そして血肉を求めるのだ。


ξ;゚⊿゚)ξ(ブーン達を方法はある───だけど、まずこの不死者を何とかしなきゃ!)

「ひっ、この……野郎っ!」

青年が先ほどから何度も蜀台をその身に叩きつけるが、一度身を仰け反らせても、すぐにまた歩き出す。
この教会の中には、他に武器となりえるものも何も無いのだ。

「くそ、くそぉッ!」

(%;°∀;#)「ア…ヴィ……ウゥ」

青年が不死者へ向けて叩きつける銅製の蜀台、もう何十回目になるか。
今一度振り上げようとしたその時、持つ手から伝わる重量が、やけに軽い事に気付いた。

ξ゚⊿゚)ξ「!」

いつの間にやら蜀台の中ほどからが消失している───折れたのだ。

「あっ、うぅぐ……!」

672 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:03:05 ID:zsWHMpY.0

逃げ場はどこにもないというのに、唯一の武器を失った村人達は後退を余儀なくされる。
やがて彼らが壁を背にした時、不死者はそちらではなく、傍らで尻餅を付いていた少年へと向いた。

(%;°∀;#)

ノノ;'_')「あ……あ、あぁっ……!」

(;><)「……ヴィルッ!!」

ξ;゚⊿゚)ξ「ビロード神父、逃げてッ!」

不死者の進路上にて、恐怖のあまり動けなかった少年を庇い、ビロードは誰よりも早く駆け出した。
その身を抱きかかえたまま、キッと、もはや光の宿っていないその窪んだ眼窩を睨みつける。

(%;°∀;#)「ア……ウ……」

(;><)「………?」

すると、目の前の不死者は少しだけ不可解な反応を示した。

少年を背へと押しやりながら、すっくと立ち上がったビロード。
その自分へ反応を示さない事から、どうやら不死者の興味は少年へと向いているようだった。

(%;°∀;#)「ヴィ……ル……」

そして、酷くくぐもった声で、辛うじて聞き取れる程度にそう発音した事から、何人かが気付いたのだ。

673 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:03:59 ID:zsWHMpY.0

(;><)「もしや、あなた」

「お……おい、まさかこいつ………」

ビロードだけでなく、その場に居合わせた青年らがいち早く気付いた。
その瞬間に、さっき彼らから聞かされたヴィルという少年の父親の名が、ツンの頭を過ぎる。

ξ゚⊿゚)ξ「……そんな、残酷な事って……」

あまりにも、惨たらしい。
再会を求めた少年にとっては、これ以上ないという程に無慈悲な仕打ち。

神ではない────これこそが悪魔の所業だと思わされた。

「そうだよ、よくよく見てみれば……確かにロイじゃねぇかよ……畜生!」

青年の一人が声を上げ、やがて確信にまで至ったようだ。

(%;°∀;#)「ヴェ……ヴィ……ル」

(;><)「ヴィルに会いに来た……そうなんですね? ロイ」

少年の目の前に居る不死者は、紛れも無く二日前に消息を絶ったはずの、彼の父親だった。

ノノ;'_')「……とう、さん?」

674 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:05:07 ID:zsWHMpY.0

いっそ気付いてしまわなければ良かったのに───と、思うツン同様に、
恐らく周りの人間の心中を、やりきれない気持ちばかりが覆った事だろう。

不死者となってしまったロイは、それでも尚、息子の名を口にしているのだから。

(%;°∀;#)「ヴィィッ……」

( ><)「………」

変わり果てた姿となったロイが、再び息子のヴィルへと手を伸ばそうとした時、
その手を遮るようにして、ビロードが立ちふさがった。

眼前に不死者が居るというのに、表情には一切の怯えなど見せず、佇む。

( ><)「ロイ……良く聞いて欲しいんです」

(%;°∀;#)「アヴァ……ウォ…」

( ><)「貴方は、もう我々には手の届かない……遠くへ行ってしまったはずなんです」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

毅然としてかつての住民、ロイを説き伏せようとするビロードの姿を、
その場に居た全員が、固唾を呑んで見守っていた。

自分達と彼らは、もはや話して通じ合える立場にはないというのに。

675 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:05:52 ID:mIZislb.0
きっついな……支援

676 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:05:56 ID:zsWHMpY.0

( ><)「だけど”ヴィルにもう一目だけでも遭いたかった”……きっとあなたは、だからここへ来たんです」

(%;°∀;#)「オ……ォ……」

ξ゚⊿゚)ξ(……もしかして……)

( ><)「貴方は、確かに村の為を思って勇気ある行動をしてくれた、かけがえの無い存在なんです」

そこでツンがふと、先ほどまでとは違う不死者の様子に気付いた。
ビロードが説法を始めてから────明らかにロイはその動きを止めたのだ。

さながら、許しを請うかの様に両腕を前へと投げ出し、歩き出そうとする身体を、
自らの意思でその場に繋ぎ止めているかのように見えた。

ξ゚⊿゚)ξ(今しかないわね────)

ビロードが時間を稼いでくれている今が、ツンの策を実行する好機だった。
策と言っても、その内容だけを他者が聞けば、あまりに陳腐なものだが。

ただ、”願うだけ”

簡単な事だった───真摯に、実直に。
ただ、自らが願う、ありのままの言葉を祈り届ければ良い。

677 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:06:37 ID:zsWHMpY.0

その場に膝をついて両手を組み合わせると、そっと瞳を閉じた。
自らの想いを、沢山の人達の願いを───自分の中で形作ってゆく。

ξ-⊿-)ξ「【 我らが主よ ヤルオ=ダパートよ 】」

聖ラウンジ神の使者であるこの”ツン=デ=レイン”には、
そうした奇跡を起こせるだけの力が、あるのだから─────

ξ-⊿-)ξ「【 どうか我が声に耳を傾けて 心からの祈りをお聞き入れ下さい 】」

( ><)「ですが貴方という人物は───道半ばで死んでしまったんです!それにも気付かず、
      最愛の息子であったはずのヴィルを、自らが手に掛けるおつもりなんですかッ!?」

────耳に届くのは、不死者に対しても何ら物怖じする事の無い、ビロード神父の声。

ξ-⊿-)ξ「【 どうか今この地を覆う 不浄な存在を封じ込め賜わんことを 】」

そうだ、彼らの想いも───まとめて届けよう。
慈悲深いヤルオ=ダパートの事だ、きっとその願いも聞き届けてくれるはず。

ツンの身体から、薄ぼんやりと乳白色の光が発せられていた事に気付く者はまだ居ない。
また、それは祈りを捧げる事に一心な、彼女自身もそうだった。

678 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:07:43 ID:zsWHMpY.0

( ><)「出来る事ならば、せめて貴方の最後の遺志を伝えてやって欲しいんです……
      今こうして貴方の前で悲しみ、恐怖するヴィルに向けて────ただ一言」

ξ-⊿-)ξ「【 どうか今この地で死者の身を縛る 悪しき存在のみを取り去り賜わん事を 】」

(%;°∀;#)「オ……ォォ……」

( ><)「たった一言だけでも────いいんです」

”切なる祈りは、確かな力となる”

あの夢うつつの世界の中で対面した、ヤルオ神の言葉だった。
神の告げたその言葉の通り、ツンの祈りには何度でも奇跡を起こす力が秘められていた。

───一度に三つもの願い事をして、欲張り過ぎだと思われやしないかだけが、心配だったが。

──────────────────


────────────

──────

679 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:08:43 ID:zsWHMpY.0

───【アルバの村 教会前広場】───


(;^ω^)「………?」

ショボンが詠唱を終える前に、自分とフォックスによる防衛網は破られた。
心が折れかけ、背後には多数の亡者達が群がり、あとはその餌食となるだけだった────

一度は地べたへと伏したブーンだったが、周囲あまりの静寂に思わず顔を上げた。

爪;'ー`)「何だい……こりゃ」

(´・ω・`)(………これは)

教会の屋根を貫くようにして降り注ぐ巨大な光の帯が、天高くへと聳えているようだ。
それだけの現象を起こせる人物に関して心当たりのあったショボンは、にやりと口元だけ笑みを浮かべる。

( ^ω^)「不死者達が……立ち止まってるお」

(%;℃;;#)「…………」

あれほど執拗に腕を伸ばし、何度その身を切り裂こうとも立ち向かってきた不死者の群れが、
その光の帯を見上げながら、ぼうっと立ちつくしていた。

ただの一人の例外もなく、その全てが天を仰いで。

680 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:12:49 ID:zsWHMpY.0

爪'ー`)「! ………っとぉ、どうやら、お待ちかねの真打登場みたいだぜ?」

( ^ω^)「もう随分と長年待ち侘びた気がするお……かましてくれお、ショボン!」

手で左右へ大きく開いたショボンの両の掌は、まるで紅蓮のように赤熱を帯びていた。
その彼の前に立っていた二人は、これから魔力の注ぎ込まれる方向から、即座に対比した。

これほど勿体をつけたのだ。相当にド派手なものでなければ、納得しない。

(´・ω・`)「ここまで時間を稼いでくれた二人に、感謝するよ」





      ──────「そして、これで終わりさ」
               「そして、これが最後よ」──────

681 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 13:18:54 ID:zsWHMpY.0

その日、その瞬間に───────祈りと魔術は、交差した。



(´・ω・`)「【其の名は”エフリート”】」

ξ-⊿-)ξ 「【 どうか行き場を失った哀れな魂に 再び道を指し示し賜わん事を 】」



(´・ω・`)「【 其は炎帝の抱擁にて 我に勝利を約束する者也 】」

ξ-⊿-)ξ 「【 どうか届いて……私や、皆の願い 】」



(´・ω・`)「【 故に今 其の力借り受ける─────”爆炎の法”】」

ξ゚⊿゚)ξ 「【 ──封印── 浄化 ──そして───”開放”を】」


───────────────

──────────


─────

682 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 16:09:08 ID:qLFWu.SMO
先が気になる

683 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 17:03:38 ID:lVCuJOrQO
ショボーンの呪い解けてたのか

684 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 17:18:46 ID:A4x1oxfY0
良いところで切りやがった...

685 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 17:26:56 ID:LOVd6Z4k0
生殺しなう

686 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 20:26:49 ID:zsWHMpY.0
いつの間にか死んでました。
後は蛇足だけど、日付変わる前ぐらいに続き投下出来ればいいなー

687 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/13(土) 23:10:33 ID:w5T5EkSw0
待ってるよー

688 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/14(日) 00:31:26 ID:f8rCeL3k0
待ち

689 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/14(日) 04:47:16 ID:HfPFHsX60
申し訳ない、急用でした。
あともう少しだけ続きます。ちょいちょい投下するのもあれなので、
しっかり全文を書き終えった段階で時間を見つけて投下します

690 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/14(日) 10:03:38 ID:aLUBZwlAO
待ってるよー

691 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/14(日) 11:28:30 ID:b3HmjN6kO
全角→(´・ω・`)←半角

692 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/14(日) 20:06:51 ID:/NRkEvtQ0
続き待ってますので
書けるように祈ってます

693 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/15(月) 04:16:17 ID:IkPiXBckO
いいところで… 
急用ならしかたない待たせていただきます

694 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:16:08 ID:3VDthKcU0
それから────教会の屋根には光り輝く巨大な白き十字架が顕現し、全てに救いをもたらした。


───【アルバの村 教会内】───

( ><)「これは……一体」

ξ゚⊿゚)ξ(良かった……ちゃんと、届いた)

ビロードをはじめとした全員が全員、宙にたゆたう暖かで優しい粒状の光を、目の当たりにしていた。
その奇跡の力に触れ───ビロードと対峙していた不死者ロイの姿も、消え去りつつある。

( %;∀;#)「オ───ア───アァ────」

( ><)「ロイ!!」

.:;°∀;#)「ヴィ………ル……」

ノノ;'_')「やっぱり、父さん……なの?」

光の中へ溶け込むようにして、少しずつ身体はその形を崩していく。
自らを縛る楔から”開放”された魂が、”浄化”された事により、その奇跡を可能にした。

695 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:16:47 ID:3VDthKcU0

ξ-⊿-)ξ(───これはロイさん……そして、ビロード神父が望んだ奇跡───)

意思など持たぬ不死者であったはずの彼だが、最後の最期、消え行く瞬間にだけ、
人に戻ることを─────息子に最期の言葉を投げかける事が、ヤルオ=ダパートによって許されたのだ。

.:;°∀#;.「お前は……父さ……んの……」

ノノ ;_;)「父さん……行かないで? 行っちゃ……やだよ……」

.:;°;.「さ、い───あいの────息子だった」

ノノ ;_;)「待ってよ……父さぁんっ!」

もはや形を留めないロイは、それでも最期まで遺志を息子に残そうとしていた。
───ビロード神父に説かれた、言い付け通りに。

もっとも、それは最初から彼自身が伝えたかった言葉なのかも知れないが。

( ><)「────ロイ……」

.:; . (強く……生きて……)

ノノ ;_;)「やっと会えたのに! こんなのひどいやッ!」

696 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:17:19 ID:3VDthKcU0

光に包まれながら、やがて完全な塵芥と成り果てた父の遺骸。
それを小さな手にたった一握り掴み取ると───その手を胸元で抱えて、ヴィルは咽び泣いた。

ξ゚⊿゚)ξ(大丈夫。君は───また元気に歩き出せる)

ξ-⊿-)ξ(今より大きくなった時……きっと、彼の言葉の意味が解るから───)

───────────────

──────────


─────

697 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:18:56 ID:3VDthKcU0

その奇跡の一方で───広場の前で激しく吹き荒れる燃え盛る赤き熱風は全てを焦がし尽くし、消し飛ばした。


(#´-ω-`)「いいかい───絶対に、目を、開けちゃならないッ!」

広場に溢れ返っていた不死者を一匹残らず巻き上げてゆく炎の竜巻を御しながら、ショボンは叫んだ。
その言いつけを固く守っていなければ、今頃熱風に目が焼け爛れていた所だろう。

(; ω )「アヂィッ!アヅヅッ、アヂヂヂヂヂヂヂィーッ!」

爪;ー )「あちゃっ!おわちゃぁぁぁぁぁぁぁーッ!?」

.:;℃#; 「────────ッ」

(#´-ω-`)
 
その最中僅かに視界の端に映ったのは、炎の渦が不死者達を焦がし尽くしていく光景。
二人にとっては謎深き魔術の更なる深淵の一端を垣間見た────それほどの印象を受ける業だった。

698 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:19:31 ID:3VDthKcU0


後に残るのは、もう人か何かすらわからなくなってしまった消し炭ばかりだ。
広場の中心では地面が溶けて抉れ返り、村の至る所にその強大過ぎる業火の傷跡を残した。

悪夢に見舞われていたはずの村の広場が今では、すっかり静寂を取り戻している。

───────────────

──────────


─────

699 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:20:34 ID:3VDthKcU0

( ^ω^)「なんとか………凌ぎきれたおね」

爪;'ー`)y-「ったく、一時はどうなる事かと思ったぜ」

こ村から一時の脅威が取り除かれた事を、素直に喜び合っていた。
全てが灰燼に帰した広場を後にしようと教会へ足を向け、ブーンが呟く。

( ^ω^)「でも、あの不死者達に罪が無かったと考えると……」

爪'ー`)y-「……気にすんなよ。火葬してやったんだ、寧ろ有難く思ってもらわなくちゃな」

(´・ω・`)「諸手を上げて賛成は出来ないが、一部フォックスの考え方に同意するよ」

( ^ω^)「?」

先ほどの魔法を唱え終わってから、頭を抑えて眩暈に苛まれていたショボンだったが、もう大丈夫そうだ。
やはりあれだけの魔法を唱えれば、精神力の疲労で後遺症的に起こる一時的なものだという。

荒ぶる炎を御す彼の姿は、正しく炎帝の名を借り受けるに相応しい姿だった。
頼もしい仲間がパーティーに加入したものだという事は、今では二人共が思っている。

700 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:21:25 ID:a0Dc6wNU0
なんだ?こんな時間にやるのか
元気だな

701 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:22:52 ID:3VDthKcU0
>>700
や・す・み。ちと資料作りながらなんで投下は遅れます

702 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:23:49 ID:l80ZThs.0
なんつー時間にwwwwww

703 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:24:23 ID:3VDthKcU0

(´・ω・`)「生ける屍となった彼らを退けるには、ああでもするしか他に方法はなかった……それに」

爪'ー`)y-「……それに?」

(´・ω・`)「あながち、彼らは救われなかったという訳でもなさそうだよ?」

教会の夜空に聳え立っていたはずの、巨大な光の十字。
今では影も形もなくなっているが、先ほどまで聳え立っていたはずの場所を見上げた。

ショボンにはなぜだか、行き場を失っていた者達の魂が、そこに吸い込まれていった様に思えたのだ。

(´・ω・`)「───真の立役者、ツンの力によってね」

爪'ー`)y-「もしかして……いっとき不死者どもが動き止めてた時の……あれか?」

(;^ω^)「へ!? まっさかー、うっそでー……だお?」


と────小さく背後に聞こえた足音に、一同は帰路に着くはずだったその動きを止めた。

(     )「……ぜ……ぜ……」

704 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:25:02 ID:3VDthKcU0

爪'ー`)「おっと───どうやら……」

教会から漏れる微かな明かりに照らされたのは、黒の装束の男。

(#<●><●>)「何故、なんです………何故……お前達冒険者ごときにッ!」

振り返ってみると、途方も無く青白い顔色の男は、唇をわなわなと震わせていた。
暗闇に映える印象的なその瞳が、ブーン達三人に対し遺恨を抱えている事を目で告げている。

不死者と同じぐらい、まるで生気の感じられない男だった。

爪'ー`)y-「チッ……なんだよ、どんなのが出てくるかと思えば……典型的小物じゃねーか」

フォックスが吸い終えた煙草を、男の方へと指で弾き飛ばす。

(#<●><●>)「だ……貴様……誰が、小物なんですか……もう一度、言え、いッ」

爪'ー`)「大物ぶるならよ、もうちっとこう……デーンと構えてさ」

(´・ω・`)「そうだね。台詞は”よくぞ我がしもべを打ち破った”……なんて出だしが良いかも」

( ^ω^)「それは、笑えるお」

705 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:25:39 ID:3VDthKcU0

あっけらかんと笑う三人を余所に、男は怒りに拳を打ち震わせていた。
今にも倒れてしまうのではないかという程に、目を剥いてブーン達を見据えている。

そして、怒髪が天を突いて叫びだすかと思われたその時、はっと気付いたように顔を抑え込み、俯いた。
再び顔を上げたそこには、何事もなかったかのように平静さを保っていたのが、不気味に思える。

( <●><●>)「ふぅ………柄にもなく、取り乱してしまいましたね」

(;^ω^)(気色悪い奴だお……)

別人のように先ほどと打って変わった丁寧な話し口調の様子から、二面性を持つ男なのだという事が分かる。

(´・ω・`)「一つだけ───この村で起きていた事は、全て君が仕組んだものかい?」

爪'ー`)(ま、聞くまでもねぇ問いだと思うけどな)

( <●><●>)「えぇ、如何にも────今回は貴方達に阻止されてしまいましたが、この村は
       私の調合した強力なゾンビパウダーの投与、その経過を観察する、実験の場でした」

(;^ω^)(こいつ、今なんて……”実験の場”と抜かしたかお?)

706 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:27:02 ID:3VDthKcU0

( <●><●>)「どんな手品を使ったのかは存じませんが、私の従順な子供達がああもあっさり葬られるとは。
       ですが、改良の余地もある。まぁ……それはわかっていた所でもあるのですが、ね」

爪'ー`)「おめぇ、腐ってやがんぞ」

沢山の死者の身を弄び、それを利用して村人まで襲わせた。
挙句、それをこの男は───実験だ、観察だなどと抜かしたのか。

( °ω°)「………」

何の落ち度もなかった、何の罪も無かったアルバの村人達。
彼らを殺し、また、彼らから大切な家族をも奪い去ったのだ。

それらは全て───この、目の前に立つ誇大妄想に取り付かれた男の所業によって。

こんな人間もこの世にいたのかと、驚きと共に湧き上がる殺意を禁じえない。
鞘から長剣を抜き出して向かって行こうとした折、その前にショボンが腕を広げて、制止した。

(;`ω´)「止めるなおッ、ショボン!!」

(´・ω・`)「───いや。こんな虫けら以下の価値程も無い男に、手を汚す必要は無いよ、ブーン」

言って、ショボンが一歩を歩み出して、男と対峙した。
ショボンの言葉の端に一寸不快感を覚えて目尻を吊り上げた様子だったが、気にしない振りをしているのか。

707 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:27:33 ID:3VDthKcU0

(´・ω・`)「はぁ。なんだか、がっかりしたさ」

( <●><●>)「………?」

(´・ω・`)「あれほど苦労した不死者退治の末に、ようやく黒幕を引きずり出したかと思えば……」

言って、わざとらしく肩をすくめるショボン。
傍目からも挑発に乗りやすい男であるというのは見てとれるが、彼のやり口はあまりにもあざとい。

(´・ω・`)「まさかその正体が、ゾンビパウダーなんぞを調合して有難がっているような、
       単なるネクロマンサー気取りの三流以下だったとはね……」

(#<●><●>)「なッ! ……貴様、今……何とッ………!」

(´・ω・`)「あぁ……聞こえなかったか。確かにそう愚鈍でもなくては、魔術に行き詰った捌け口として、
       沢山の不死者のお友達をこしらえてはそれを眺め……一人でにやつくなどという事はしないか」

一度は冷静さを取り戻していたはずの男の目が、途端に血走ったものになる。

淡々と罵詈雑言の数々を並べたというだけの、極めて単純にして安っぽい話術だが、
変に偏ったプライドばかりが高そうなこの男に対しては、効果は抜群だったらしい────

708 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:28:43 ID:3VDthKcU0

(´・ω・`)「おっと、また聞こえなかったか……知覚が閉ざされた人に対して、僕はなんて失礼を」

(#<●><●>)「殺してッ、やッ……」

(´・ω・`)「そうそう、君のやってる児戯は、今日び学院の末端の悪たれですらやらない事だ。
       いけない粉遊びも大概にした方がいいよ?先生に怒られて、恥をかく前にね」


(#<●><●>)「ッ………【 我命ず 其が身許に宿せし 業火よ来たれ 】」

(´・ω・`)「………そう来たか」

もはや何を語る事も無いとばかりに、両手を組み合わせながら、男は詠唱に入った。
まるでその様子を気にも留めていないショボンの身を案じ、背後に控えた二人が叫ぶ。

(;`ω´)「何やってるおッ、ショボンも早く……!」

(´・ω・`)「あぁ、大丈夫大丈夫」

「ハンデだから」────そう言って、ショボンも詠唱の準備を始める、
と思いきや、物思いに耽るかのような様子で、またも男へ向けて声を掛けていた。

男は、すでに二段目の下りに入っている。

709 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:29:10 ID:4jtZi.Rk0
お帰り、待ってたよ

710 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:29:23 ID:3VDthKcU0

( <●><●>)「【 我が荒ぶる心 荒ぶる炎 其は我と共に在り】」

(´・ω・`)「【炎の玉】か……僕も得意とする術だ────だが」

(;<●><●>)(こいつ……何故唱えないんです……)

笑みを浮かべるショボンのその不敵さに、男は気圧されていた。
時折紡ぐ言葉に引っかかり、危うげな詠唱になりつつも。

そして、最後の下りに入った。

( <●><●>)「 【我が元に宿りて 其は我が敵を 我が意の侭に焼き払わん】」

爪;'ー`)「何してんだッ、ショボン!?」

(;`ω´)「………くッ」

見るに見かねたブーンが、剣を抜き出してショボンの元へと駆け出す。
何をふざけているのかは知らないが、このままでは、確実にショボンは魔法をその身に受ける。

だが、男の手からは既に赤々と揺らめく炎が発現しようとしていた。

(´・ω・`)「やはり────君は三流以下だね」

711 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:30:19 ID:3VDthKcU0



ショボンがそう呟き口角を吊り上げたのは、ブーン達からは見えなかった。
そして、遅れて詠唱に入ったはずのショボンが、男のものと重ねて、次の一言を口にした。

(´・ω・`)「【 我が前に立ち塞がる敵 其はその一切を 業火の元に滅せよ】」

(;<●><●>)「……なッ!?」

それと共に、遅れて詠唱を始めたはずのショボンの手には瞬く間、燃え盛る炎が宿る。
驚愕を浮かべる男の表情をよそに、火球を手の中で練り上げながら背後へと振りかぶった。

お互いに同じ構えから、同じ魔法をぶつけ合う構えだ。
そしてやがて、その時は訪れる。

(´・ω・`)「──────【 炎の玉 】──────ッ!」( <●><●>)

712 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:32:33 ID:3VDthKcU0

同時に投げつけられた炎の玉は、20歩以上も距離があるにも関わらず、狙いも反れることなく
意思が植えつけられたかのよう、指向性を持って互いが互いに引き付けられてゆく。

二人の立つ中心地点でそれらは音を立ててぶつかり合い、より大きな炎となった。
ショボンの放った炎球を包み込もうとしてか、一瞬の停滞の後、黒装束の男の炎は眩しく光る。

そのまま飲み込もうとじわじわ炎が広がる光景に、男は勝利を確信して口角を吊り上げ、言いかけた。

( <●><●>)「フフフ……わかっていました!さぁ、悶え苦─────」

(´・ω・`)「─────解っていない」

だが、龍のあぎとのように口を開けて飲み込もうとしたショボンの炎は、かき消せなかった。

大きく広がったかと思いきや、その中央を突き破って炎の残滓を奔らせたのはショボンの方だ。
逆に貫かれた男の火球は中空へと霧散し、完全に掻き消え失せる。

(;<●><●>)「────な、なぁッ!?」

眼前に迫り来る炎から身を庇おうと、手を前に突き出して顔を背ける。
多少なりとも相殺されているとは言え、それでも放射状に襲い来る炎の残滓は、
彼の身を吹き飛ばすに十分な威力を保ったものだった。

713 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:33:07 ID:3VDthKcU0

(;<●><●>)「ぐおおぉぉぉッ!!」

一度地面を転がり外套を土塗れに汚しながら、地面に身を引きずられてゆく。

横ばいの体勢からすぐに起き上がろうとするも、身体に刻んだダメージは軽くはないようだ。
呻き混じりに男の口から出るのは、白い煙。焦点がぶれながらも、辛うじて立ち上がった。

(;<○><○>)「か……かはッ……ゲホォッ」

(´・ω・`)「おや?その程度で済んでいる所を見ると、君も案外それなりの術者なのかな」

終始余裕を崩すことの無かったショボンと、黒装束の男との対照的な二人の姿。
ブーン達は、ショボンという魔術師がやはり他と比べても非凡な才を持つ男だという事に納得した。

結局─────剣を手に助太刀に入ろうしたブーンの心配は、杞憂に終わったのだ。

(;^ω^)「………お」

爪'ー`)y-「あいつ……やっぱすげぇんだな」

714 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:34:44 ID:3VDthKcU0

(;<○><○>)(バ、バカな───下位魔法では無いんです、こんな結果になるなどとッ───)

(´・ω・`)「理解できない、という顔をしているね」

(;<○><○>)「……ッ!!」

図星を言い当てたショボンの方に、顔をしかめながら顔を振り上げる。
何ら己の魔法を意に介せず、一歩一歩ゆっくりと歩いて来るショボンに気圧され、じり、と後ずさる。

(´・ω・`)「契約する守護精霊の位の違いさ。恐らく君は、サラマンダーなんだろう?」

(;<●><●>)(この男……ッ!)

(´・ω・`)「僕は炎を自在に御す”エフリート”の力によって、急激な詠唱の時短をも可能とする」

(´・ω・`)「あとは……強いて上げれば、術者としてのセンスの差とでも言おうか」

この場は不利と悟ったか、男の顔には明らかに焦燥の色が浮かぶ。
思い知らされたのは、知らずに挑んだ魔術師、ショボン=アーリータイムズの力だ。

715 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:38:08 ID:3VDthKcU0

それに、彼の背後に立つ二人の冒険者の姿もある。
剣を鞘に収めたままとんとんと肩を叩くブーンと、拳をぽきぽきと鳴らすフォックス。

男が追い詰められた格好になったのは、もはや明白であった。

爪'ー`)y-「さぁて、こいつどうする?治安隊に突きだしゃ、報奨金ももらえるかもな」

( ^ω^)「ブーンたちの手で、殴り砂袋の刑に処するのも悪くないお」

(´・ω・`)「さて────君はどちらがお望みだい?」

(;<●><●>)「………」

更にじりじりと一歩を退いた男と、にらみ合う三人。

やがて焦れて男に歩み寄ろうとしたブーン達の動きを止めたのは、
胸元へ手を差し入れて何かを取り出し掲げると、狂乱めいた叫びを上げた男の行動だった。

その手の中には、透き通る水晶のような中に、赤く光をたたえた不思議な石。

(#<●><●>)「────黙れぇッ! それ以上、決して近づくんじゃありませんッ!!」

( ^ω^)「ッ!」

716 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:39:10 ID:3VDthKcU0

爪;'ー`)y-「ったく、面倒くせー奴だな……」

身構える二人に、そこでショボンは語りかけた。

(´・ω・`)「ッ! ………”火晶石”か。確かに近づかない方がいいね、あれは」

( ^ω^)「あんな石ころ、どうしたっていうんだお?」

爪;'ー`)y-「チッ……知らねぇなら教えてやる。ありゃな、ショボンの魔法ばりに危ねぇもんだ」

( <●><●>)「………」

火晶石とは、高価で取引される魔術道具の一種で、自然物の掘削などにも使われる。
炎の精霊の力を宿した鉱物であり、叩きつければ大変な破壊力をもたらす代物だ。
一般に出回る事はほとんどないが、危険な旅に身を置く冒険者などにとっては、その限りではない。

今この場でそれを叩きつければ、4人全員助かるかは運のみぞ知る所だろう。

(´・ω・`)「保身の手段としては良い方法だ……だが、ここで使えば君も死ぬかもね」

( <●><●>)「黙りなさい。貴方の手段はよくわかりました、もう二度と挑発には乗りません……」

(´・ω・`)「それは結構」

717 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:43:12 ID:3VDthKcU0

火晶石を掲げる男と、ショボン達との間に夜風が吹きすさぶ。
皆の外套や衣服をはためかせたそれが過ぎ去った頃、再び男の方から口を開いた。

( <●><●>)「………我が名は”ベルベット=ミラーズ”」

名を問われるともなく、ショボンもまた口を開いた。

(´・ω・`)「”ショボン=アーリータイムズ”だ」

その名を聞いた瞬間、憎しみばかりが渦巻いているであろう彼、ベルベットの瞳に、
ことさらに復讐心が芽生えたかのよう、両目の瞳孔がゆっくりと広がったかのように感じる。

火晶石を掲げる手を下げるとさらに二、三歩を下がり、ブーンやショボンらに背を向けた。

( <●><●>)「いずれ、不死者達の理想郷を創り上げる者────その時が来れば、貴方にもお声を」

(´・ω・`)「邂逅を楽しみにさせてもらうよ」

(────再び会った時。その時は、忘れられない夜にして差し上げます────)

それだけ言い残し、そのままベルベットは闇に包まれた野山へと消えていった。
ブーン達は追う素振りも見せたが、「手負いの鼠は時に病をもたらす」とのショボンの進言から、
このアルバの村に死の粉を振りまいた張本人の追跡を、諦めた。

718 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 03:44:16 ID:3VDthKcU0

恐らくは二度と現れないだろうが、ショボンに向けられた瞳の端に見えた憎悪の炎は、
やがて遠くない未来、再び自分達の前に現れるであろうという事を─────3人の冒険者達に確信させた。

( ^ω^)(これで─────本当に一件落着、といった所かおね)

───────────────

──────────


─────

719 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:22:48 ID:r5RitjEE0
ふひいいいいきてるうううう

720 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:32:57 ID:3VDthKcU0

─────【アルバの村 教会】─────

ツンの願いが”奇跡”を起こし、この教会を中心として不浄なる存在を消し去ったしばし後。
ビロード神父とツンら二人によって、父親と最後の対面を果たしたヴィルは、ようやく泣き止んでいた。

( ><)「いい子なんです、ヴィル。君は、きっと人の痛みが分かる強い子に育つんです」

ノノ ;_;)「……へへっ、ビロード神父のお髭、こそばゆいや」

( ><)(私が髭キャラとは……随分と嫌な後付設定なんです……)

ξ゚⊿゚)ξ(そういえば………ブーン達が、随分と帰ってこないわ)

その時、安堵のため息がそこかしこから漏らされていた教会内の人々の間に、再び緊張が走った。

どんどんどん!

激しく叩かれた門扉から響く音に、全員が身体を竦ませた。
そして、ツンの中にも少なからず嫌な予感というものが入り込み、それが気持ちを萎縮させる。

ξ;゚⊿゚)ξ(もしかして………)

721 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:33:34 ID:3VDthKcU0

ブーン達三人が、不死者の餌食になってしまったのではないかと危惧した。
そして、この教会だけを中心として”聖術”を発動したのでは、不死者達を救うに足りなかったのではないかとも。

もしそんな最悪の事態になってしまっていたのならば、今は自分が皆を守らなければ─────
そう思っていた自分達の元に、次の瞬間間の抜けたような声が外から響き渡り、安堵のため息を漏らした。

「…………お〜い、開けてくれおぉぉ〜!ゾンビじゃないお、ブーン達だおぉぉ〜!………」

ξ゚⊿゚)ξ(ッ!!)

その声が不死者のものだと疑いの念も抱かずに、一も二もなく彼女は扉の閂を取り外した。

瞳に入ってきた、少し苦笑いを浮かべる彼ら三人の姿。多少の返り血や跳ねた泥に塗れてはいるが、
「今帰ったお」とそっと手を上げるその姿に、ツンも顔にもまた笑みがこぼれる。

( ><)「……冒険者の皆さんっ! よくぞご無事で戻られたんですっ」

( ^ω^)「どうやらこっちも片付いたみたいだおね」

ξ゚ー゚)ξ「……あたり前だっつーの。こちとら、聖教都市の主教と黙された人の娘よ?」

722 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:34:49 ID:3VDthKcU0

爪'ー`)y-「どんな魔法を使ったのかは知らねぇけど……ま、まずは休みてぇ」

(´・ω・`)「同感だね。さすがに連続で高等魔法を使って、少しばかり偏頭痛に苛まれている」

( ><)「という事は……外の不死者達も……」

( ^ω^)「………」

こくり、とだけ頷いて返事とした。

ショボンの魔法によって消し炭と化した不死者達だったが、やはりあのベルベットという男によって、
墓場から自分の意思とは無関係に故郷の村人を襲う様に仕向けられた事に対し、いい気分はしない。

ショボンがそれに付け加える。

(´・ω・`)「この村の災厄の元凶であった魔術師が再び現れる事は、ないでしょう」

「って事は………っ!」

村人の一人がにまぁっと顔を綻ばせると、つられるようにして村人達の間で歓声が沸きあがった。

723 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:35:21 ID:3VDthKcU0

「助かったぞ、俺達は……この村は!」

冒険者達の間を取り囲み、村人は口々に彼らに対して感謝の言葉を述べる。
ツンがその身を運ぶさなかで意識を失ったコトばあさんも、ようやく目が覚めたようで何事かと目を擦っている。

爪;'ー`)y-「お、おいおい。休ませてくれよ」

(;^ω^)「おっおっ……」

( ><)「皆さん、ささやかなものではありますが、宴の準備を」

「えぇ、もちろん!」

ビロードが声をかけると、村人達がそれぞれ散らばって、ブーン達をもてなす支度を始めた。
この教会の場を使い、それぞれの家から食材を持ち寄って行う晩餐だ。

その宴には、死者を弔う為の意味も篭められているのだ。

村人達が続々と教会を後にしていく中、ブーン達はツンと話しながら長いすに身体を預けていた。
離れていた間お互いの状況がどうであったか、何があったかという事を伝え合ったのだ。

724 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:36:36 ID:3VDthKcU0

ξ゚⊿゚)ξ「そんな奴が居たの……嘆かわしい」

ベルベット=ミラーズと名乗った魔術師が居た。
不死者の理想郷を築く、などと大層な事をはき捨てて彼らの前を去った。
そして、ゾンビパウダーという歩く死者を作り出す魔法の粉によって、今回の事件が引き起こされた事など。

聖職者からすれば、死霊術士などは対極に位置する存在であろう。
ブーン達の話を聞く内、ツンは大変に憤慨していた。

( ^ω^)「聖ラウンジの秘術、かお」

そして、ショボン以外も初めて知る所となったのが”神に見初められた者”しか扱う事の出来ぬ、
聖ラウンジの秘術、奇跡を起こす力の存在だ。

救いの力をもたらすそれは、決して敬虐なる聖ラウンジの誰しもに許されたものではないが、
ツンはその力で教会の中に入り込んだ不死者、ロイを救った事。

そしてこの地にある悪意ある存在を封じた事で、不死者の魂が死霊術士の企てにより縛られていた
朽ちた肉体を離れて、主の御許に逝けたはずだという事を伝えた。

彼ら不死者に対する火葬と鎮魂が同時に行われていたという事実は、面々の知る所ではないが。

( ><)「ツンちゃん……私は外で彼らに……」

ξ゚⊿゚)ξ「………私も、この教会の中で」

725 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:38:19 ID:3VDthKcU0

今回の一件で亡くなった者、また眠りについていたはずの不死者達への鎮魂だ。
ビロードは広場へ行くため外へ。そしてツンは祭壇へと、それぞれ向かう。

ξ-⊿-)ξ「………」

ツンが祭壇の前に膝を折ると、やがてゆっくりと手を組み合わせて祈りを捧げ始めた。

死者を悼むその真摯で健気に祈りを捧げ続ける横顔は、とても慈愛の心に満ち溢れたものだ。
そのツンの姿をじっと見ていた三人の胸には、なぜだか儚い切なさが訪れて、きゅっと心の奥底を締め上げる。

信心深い彼らではないが、行き場を失った哀れな魂が安住の地へ旅立てるよう、必死に祈るツンの姿に。

きっと─────誰もが思っていたのだ。

( ^ω^)「………」

爪'ー`)「………」

(´・ω・`)「………美しい」

ショボンが言った、その言葉通りの事を。
二人はその声に振り返ったが、一度互いに瞳を見合わせると、また何事も言わず向き直った。

───────────────

──────────


─────

726 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:40:03 ID:1m4uspkYO
何という時間に! 今、気がついた 


727 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 04:43:54 ID:r5RitjEE0
わふわふ

728 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:31:50 ID:8guHj/ug0
乙乙

729 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:49:50 ID:3VDthKcU0
─────────そして。

残された数少ない村人達によるささやかな宴は、夜が明ける少し前まで続けられた。

宴が終わると、使われていない村人の家を間借りして、日が昇るまで身体を休めていた冒険者の面々だったが、
彼ら全員がまだ眠りから覚めないうちに起床の時を告げたのは、また何事かを予感させる村人の大声だった。

「大変だ、大変ですよ冒険者さんがた!」

(  ω )「むぉぅ……Zzz ブーンは……そんなに食べられないお……Zzz」

爪'ー`)「んあっ?何だ何だ、騒々しい……」

(´・ω・`)「また、何か問題が?」

「そうではないんです……けど、とにかく広場に来て下さい───!」

寝ぼけ眼のブーンの頬をフォックスが張り倒してから、ショボンが引きずって連れていく。
けだるい朝を迎えた。疲労感はまだ拭えていないが、問題が起きたのではないならまだ眠れる。

730 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:50:30 ID:3VDthKcU0

村人の青年の案内の元、瞳に突き刺さる日光を遮りながら外へと出ると、
日の光を照り返す白銀の甲冑に身を包む、数人の一団の姿があった。

その先頭でビロード神父から話を伺っている男の顔には、紛れもなく見覚えがある。

(;^ω^)「なんだお、ありゃ」

( ><)「……という訳なんです、あぁ、今お見えになりましたよ」

「連れて来ました!この人たちが、その冒険者の人たちで───」

「おぉ、彼らが────なんと勇敢な者た────」

爪;'ー`)「げっ」

(‘_L’)「───ち?」

三人にとっては、嫌という程にその整った目鼻立ちが記憶に焼き込まれた男が、そこにいた。
円卓騎士団と、フィレンクトだ。どうやら、今日の昼になって彼ら自身も問題解決の為に訪れたのだろう。

(‘_L’)「………なぜ貴方達がこんな場所に?」

(;^ω^)「そりゃこっちの台詞だお。依頼を振っておいて、なんであんたが」

731 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:50:50 ID:3VDthKcU0

言ってから「しまった」という表情をしたが、時既に遅かった。
襟首を捕まれたブーンは、フィレンクトと至近距離で目が合う位置にまで腕力で手繰り寄せられた。

(‘_L’)「なぜ、こんな場所にいるのかと聞いているのです」

(;^ω^)「ぐぇっ……い、依頼だお」

(‘_L’)「依頼───まさか、貴方達がこの村の不死者騒動を………?」

爪'ー`)y-「ま、そういう事さ。旦那」

(´・ω・`)「全ての元凶である死霊術士は、残念ながら取り逃がしましたが」

(‘_L’)「………話をお聞かせ願えますか?」


───────────────

──────────


─────

732 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:52:13 ID:3VDthKcU0

ブーンら三人は、昨夜起きた出来事の全てを事細かに話した。
”ベルベット=ミラーズ”という男の名前についてはフィレンクトを始め、誰も知らないようだったが、
手配書が出回れば、すぐに彼の身辺が洗い出されて追い詰められる事になるだろう。」

(‘_L’)「……認めたくはありませんが、お手柄でした」

爪;'ー`)y-「認めたくねぇのかよ!」

( ^ω^)「今回はツンと、新たに加わってくれたショボンのお陰だおね」

(´・ω・`)「結果として、おいしい所を頂いただけさ」

面々には、フィレンクトがその場で殴り書いた書状が手渡される。
これをヴィップの騎士団の本営にまで持っていけば、600spの報酬が手渡されるだろう。

フォックスと、そしてショボンとパーティーを組んでから初めての依頼達成。
ブーンの心中には、たった一人で臨んだ始めての依頼の時とは、また違った喜びが湧き上がる。
やはり仲間と共に依頼達成の喜びを共有できるというのも、感慨深いものがあった。

ブーン達から聞いていた会話の内容を思い出しながら、フィレンクトが突然を投げかけてきた。

(‘_L’)「そういえば……ツン様もその場に居た、という事でしたね」

(;^ω^)「あっ、ツンなら……」

733 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:53:08 ID:3VDthKcU0

忘れていた。

ツンは昨日、聖教都市へ帰るようにフィレンクトに促されていたのだった。
昨日の兵舎での二人の会話の中、去り際の場面を思い出す。

こんな危険な依頼に偶然居合わせた彼女が何を言われるかと、同情の念が沸いた。

ξ-⊿-)ξ「……ふあぁ、よく寝たわぁ」

(;^ω^)「………おっ」

と、そこへ一軒の民家から出てきたのは、噂に登る彼女の姿だ。
ツンの姿を見かけるや否や、フィレンクトはすぐさま走って彼女へと詰め寄る。

(‘_L’)「ツン様ッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「のわっ」

(‘_L’)「何処へ行かれたのかと、我々全員、本気で心配したのですよ……!」

ξ;゚⊿゚)ξ「なな、なんでフィレンクト様がここに……」

爪;'ー`)y-「………ッ」

(´・ω・`)「………っ」

ブーン達に目線を送ったが、彼らはただ無言で首を振るばかりだった。
慌てふためく彼女へ、さらにフィレンクトは詰め寄る。

734 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:54:02 ID:3VDthKcU0

(‘_L’)「話には聞きましたが……”聖術”を、身に付けられたのですね」

ξ゚⊿゚)ξ「……はい、ショボンと会った後から」

(‘_L’)「──────やはり神に見初められたお方だ」

驚きもあったのだろうか、口元を押さえながらツンから視線を逸らしながら、呟くように漏らした。
だが、次にはまた口調を強めて、ツンを説き伏せようと矢継ぎ早に言葉を投げかける。

(‘_L’)「それならば……なおさら、こんな危険な事に介入すべきではないのです。
      ツン様ほどのお方ならば、今後は皆の指導者という立場となって────」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

ずっと黙ってフィレンクトの言葉に耳を傾けていたツンだったが、除々にその表情が強張っていく。
なおも説教を続ける彼に対し、やがて我慢を重ねていた彼女は、ついに抵抗を試みた。

(‘_L’)「ですから、ツン様にはいち早く亡きアルト司教の………」

ξ゚⊿゚)ξ「──────いやッ!」

(;^ω^)「おっ……」

村の広場に響き渡る勢いで言い放ったその一言に、フィレンクトはツンの表情を覗き込み、呆然とした。

735 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:54:40 ID:3VDthKcU0

(;‘_L’)「………はて?」

ξ゚⊿゚)ξ「だから、イ〜ヤッ!」

(;‘_L’)「………こ、これは………」

これほどまでにツンに強く拒まれたのは初めてなのだろう。

さしものフィレンクトも当惑し、どう言葉をかけてよいものか思案にあぐねているようだ。
「どうしてよいものでしょうか……」などと小声で後ろに控える部下達に考えを求めたが、彼らも首を振る。

ξ゚⊿゚)ξ「フィレンクト様、聞いて下さい」

(‘_L’)「………はい」

頭を悩ましていたフィレンクトだが、ツンの力のこもる眼差しが自分に向けられている事に気付くと、
その瞳に打たれてか、体を正して真剣に話を聞く態勢に入った。

ξ゚⊿゚)ξ「───残した手記で、父はこう言っていました」

ξ゚⊿゚)ξ「私の祈りは”荒んだ人たちの心を清らかにしてくれる”って」

ξ-⊿-)ξ「そして、”人々を思いやる優しい気持ちを忘れるな”って……」

(‘_L’)「………ですが」

736 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:55:26 ID:3VDthKcU0

ξ゚⊿゚)ξ「───私、思うんです。この”聖術の力”は、未だ見ぬ誰かを助けるために授けられた物なんだって」

ξ゚⊿゚)ξ「そして、その”誰か”の力に……助けになってあげたいと思うんです────だから」

( ^ω^)「?」

力強い言葉を口にしながら、熱の篭った瞳をブーン達の方へと向けた。
そして、完全にその存在を彼方まで置き去られた彼らに対し、ツンの口から驚きの言葉が飛び出た。

ξ゚⊿゚)ξ「だから私───この人達と、旅をします」

(‘_L’)「────ッ!」

(; °ω°)「おぉうっ!?」

爪;'ー`)y-「おいおい、そんな事を許可した覚えはねーぞ?」

その言葉に、フィレンクト以上に仰天したのは彼ら冒険者の面々だ。
確かに縁はあったといえど、一介の修道女である彼女が突然そのパーティーに加わるというのだ。

それもあまりに唐突な申し出、否、宣言だ。
なぜだか、彼女の中ではそれについて決定事項となってしまっているらしい。

眉間を指で押さえて俯いた後、フィレンクトが何事かを考え込んで、ブーンの方へと振り返った。

(‘_L’)「そうですか……そうですかツン様……」

(; °ω°)「えっ、えっ、おっ」

737 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 05:56:58 ID:3VDthKcU0

背中から身の丈を遥かに凌ぐ長大な槍を抜くと、その切っ先がブーンの喉元へと向けられる。

(‘_L’)「そうなのですね……この者達が居なくなれば……それで」

(; °ω°)「ちょっ……ブーン達に何も罪はないおぉッ」

ξ;゚⊿゚)ξ「フィ、フィレンクト様!?」

慌ててそれを遮って間に割って入ったツンにより、フィレンクトの暴走は事なきを得る。
だが、それでもまだ槍を携えたまま、畏怖すら感じるほどに鋭い視線でツンに問いただした。

(‘_L’)「─────決意は、堅いのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「………はい」

(‘_L’)「貴方はこの大陸の綺麗な世界ばかりを見てきました……ですが、今後その逆位置にある、
      人というものの醜く淀んだ、暗く薄汚い部分も沢山目にする事になるでしょう」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

(‘_L’)「誰もが目を逸らしてしまいたくなるものを直視し続けて、耐えられるのですか?
      救われるべき人間ばかりでもないこの世の中で、決して芯を曲げる事なく……」

少しだけ考え、一瞬俯いたツンだったが────それでも、彼女の中の答えは変わらなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「それでも……救える人は救いたいと思うから」

( _L )「─────そうですか」

738 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:18:59 ID:3VDthKcU0

(;^ω^)(ほっ)

ようやく槍を下ろしたフィレンクトの姿に、ブーンは安堵して胸を撫で下ろす。
だがそれも束の間、気を緩めようとした彼に思わず背筋がしゃんと伸びるような口調で言葉が投げかけられた。

(‘_L’)「冒険者、ブーン=フリオニールッ!」

(;^ω^)「はいお!」

(‘_L’)「そして、グレイ=フォックスと……ショボン=アーリータイムズ……」

(´・ω・`)「何です?」

(‘_L’)「貴方達3名には、聖教都市ラウンジの次期司教、ツン=デ=レイン様警護の任を与えます」

ξ゚⊿゚)ξ(!)

爪;'ー`)y-「おいおい……何の権限で……越権行為もいいとこじゃねーか」

フィレンクトからは、まるで自らが預かる部下に対し命令するような厳しい口調で、淡々と述べられた。
彼の意図する所としては、”旅に連れ添おうとしているツンを、何が何でも危険から守れ”という事だ。

739 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:19:27 ID:3VDthKcU0

(‘_L’)「黙りなさい、もし先に述べた責務を果たせぬような事があれば────
      その時は即刻、我が”クーゲル・シュライバー”の錆びにしてくれましょう」

(;^ω^)(こ、このおっさん……物騒な事をつらっとして……)

爪;'ー`)y-(俺達に自由はないのか)

(‘_L’)「いいですか、それほどの責任を持って警護に当たるのです」

ξ*゚⊿゚)ξ「……ありがとう、ございます!」

深く頭を下げるツンと、腕を組んで険しい表情を浮かべるフィレンクトだったが、
そこからビロード神父に一礼をしたかと思えば、部下達を伴って早々に村を引き上げていくようだ。

依頼は完遂されたのだ。そして、ツンも聖教都市に戻らぬと答えた。

ついぞ自分の口から出してしまった言葉から気変わりしてしまわぬようにか、
フィレンクト=エルメネジルドは、ツンに対して振り返る事もなくアルバの村を後にしていった。

その彼らの後姿を見届けながら、出会った時の印象と変わらず、強情で我が強いツンという女性に
引っ張りまわされる今後を憂いて、ブーンとフォックスがうな垂れながら不平を漏らしていた。

740 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:20:13 ID:3VDthKcU0

ショボンはというと、肩をすくめてこう言った。

(´・ω・`)「ま、仕方ないね……きっと、縁があったんだよ」

(;^ω^)「ブーン達の理不尽な立ち位置にいまいち納得できないけど、そういう事にしとくかお」

ξ゚⊿゚)ξ「さぁ、フィレンクト様も居なくなったし………何してんの、行くわよ?」

と、そこへ割って入ってきたツンの表情を、三人はしげしげと眺めた。
「何なの?」と言わんばかりの彼女に対しては、パーティーに加える許可を与えるか否かの問答など無駄だろうと悟る。

(;^ω^)「こうしていても仕方ないお。支度をしたらツンを連れて……戻るかお、ヴィップへ」

ξ゚ー゚)ξ「そうそう、男なんだから小さいコトでケチケチしないの!」

爪'ー`)y-「ったく、とんだじゃじゃ馬だな」

ブーンの背中をばんばんと叩いて、荷物を取りに民家へと戻っていく彼らを、ツンが送り出す。
そうして自身もまた身辺の用意をしようと思った時、何人かの村人がツンの元へと歩み寄ってきた。

「ありがとうよ、お嬢ちゃん」

そう声を掛けてきたのは、コトばあさん。
不死者騒ぎの際に、家から出るのを拒んでいた老婦人だ。

「今でこそ……だけど、あたしゃどうにか生き延びたみたいだねぇ」

741 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:20:56 ID:3VDthKcU0

ξ゚ー゚)ξ「……いえ、私なんかのお陰じゃないです」

誰かの重荷になる事を拒み、自らを捨て置いて他者を拒んだ。
他者を労わるという気持ちには、そういった自己犠牲の形もあるものだという事を、このコトばあさんから学んだ。

「旅に出るんだね? ……気を付けて行っといで」

ξ゚ー゚)ξ「ありがとう。コトおばあさんも、お元気でね」

顔をくしゃくしゃにして笑顔を投げかけてくれる彼女の表情に、実に心が温まる。

それと同時に、不死者達の手によって脅かされようとしていた彼女の命が結果として救えた事に、
そして彼女自身からも感謝の言葉をかけられた事が、誰かを救う事に対しての喜びとして、胸に刻まれた。

ノノ'_')「───お姉ちゃん!」

( ><)「ツンちゃん……あの人達と、旅に行かれるんですね?」

ヴィル少年と、ビロード神父もツンの傍へと駆け寄る。
フィレンクトとしていた問答を聞いていたのか、ビロードもツンの身を案じているようだ。

それでも彼なりに送り出してくれようとしているのか、自らの首に掛かった十字架を取り外すと、
それをツンの元へと差し出した。

742 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:21:35 ID:3VDthKcU0

ξ゚⊿゚)ξ「ビロード神父……これは」

( ><)「お守り代わりに、と。出来れば身に付けていて下さい……旅の無事を、祈っていますよ」

受け取った十字架を自分の首に繋ぎ止めながら、ぼそりと言った。

ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう、ビロード神父。昨日この村に来て……良かったです」

( ><)「え?」

ツンの言葉の意味はビロードには理解できなかっただろうが、旅を諦めかけていた彼女が
昨晩このアルバの村を訪れた事で、再び自分にとっての道を見出せた事に大しての礼だった。

そしてそれは、ビロード神父が他者に救いを差し伸べようとする姿勢から得られた所が大きい。
初心であった”誰かを救いたい”というフィレンクトに告げた願いは、この神父によって再び照らし出された答えだ。

ノノ'_')「お姉ちゃん、なんか凄かったね」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

ヴィル少年にはそう言葉を掛けられたが、返答に非常に困る。
何せ不死者となってしまった父親をこの世から跡形も無く消し去ったのは、自分の聖術なのだから。

ノノ'_')「僕、決めたよ」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

743 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:22:31 ID:3VDthKcU0

だが、どうやら少年を気遣った彼女の思いは、いらぬ世話だったらしい。
快活そのものの笑顔を満面にたたえて、はきはきと話すのだ。

ノノ'_')「お父さんが、”強く生きろ”って言ったんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

ノノ'_')「だから僕……お父さんに言われた通り、強く生きてくんだよっ」

ξ゚ー゚)ξ「……うん」

亡き後も我が子の事を気に掛けていた、一人の父親が居た。
道半ばにして逝ってしまった彼にとっては、彼の成長を見届ける事が出来ないのはさぞや悔しいだろう。

それでも───彼の遺志は、確実に息子本人へと受け継がれていた。
大切な誰かを失っても、大切な何かを失っても。

人はまた歩き出す事は出来るのだという事を、最後にこの子から教わる事になった。

ξ゚ー゚)ξ「偉いぞ? お父さんは、いつもあそこから君を見守ってるからね」

言いながら天高く指差した先の空模様は、今のツンの心中同様、実に晴れ晴れとしたものだった。

744 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:23:28 ID:3VDthKcU0

( ^ω^)「お〜い、置いてくお〜?」

いつの間にか支度を終えて出てきていたブーン達が、村の入り口辺りで声をかけていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「っと……こうしちゃいられない、私、行くね!」

すぐさま支度を整えなければならない。

走っていった先でツンを待つのは彼ら、冒険者達の姿。
初めての出会いは突然だったが、こうして共に冒険へと連れ立つのもまた突然だった。

自分達に限らず出会いはいつだって突然で、これからの旅先でどんな人物に会うかも解らない。

ツン一人で長期的な旅を続け、その道すがらで誰かの助けになるなどとは困難な話だが、
それも彼らと一緒に行動するならば、可能となるような気がしていた。

気の置けない仲間に────そして、長い付き合いになりそうだとも。

───────────────

──────────


─────

745 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:27:08 ID:3VDthKcU0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第4話

       「正しき怒りと、切なる慈悲と」

            (後編)


             ―了―

746 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:33:25 ID:3VDthKcU0
途中、投下間隔が空いたりしたのをまず反省。
それと後編だけでこれまでで最長になったのも、なんか文章をうまくまとめ切れないからか
あまりに冗長になりすぎて、お察しな感が否めない。
これを反省材料として、今後はテンポの良さを意識しまっさ

747 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 07:50:22 ID:70BeQz7U0


748 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:14:54 ID:e/5jtq5Eo

いいねぇ

749 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:32:15 ID:3VDthKcU0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「月を抱く獣」

750 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:33:29 ID:3VDthKcU0
─────大陸のとある場所、ある森にて─────


(;゚д゚ )「ハァッ……ハァッ……」

男は両の拳を血で染め上げ、眼下に横たわる巨大な狼に視線を奪われていた。

一撃で致命傷に及ぶでであろうその狼の牙や爪から繰り出される脅威を、幾度となく回避した。
そして幾度となく己の持ち得る最高の技を叩きつけ、ついにはこの狼を倒す事が出来たのだ。

手に何も武器を持つ事なく、徒手空拳のみだ。

並の人間が知れば、驚嘆を露にする出来事であろうが、ただ一点を己の肉体のみに絞り、
たゆまぬ鍛錬によって磨き上げられてきた彼の肉体と精神、技こそがそれを可能にした。

山から山へと旅歩き、ある日その山中深くで彼と狼は対峙したのだ。

─────今宵は、満月だった。

月には魔が潜むと言われてはいるが、その魔がもっとも活発となるとされるのが、今日の月だ。

751 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:34:00 ID:3VDthKcU0

いつか、誰かが言った”山の守神”と呼ばれた、大いなる獣。
それは今日という日にだけ山へと現れ、いつものように夜空に浮かぶこの月へと遠吠えするはずだった。

それが彼という男を見つけ、獲物として見定めてしまったばかりに、今、息絶えようとしている。

獣の名は”ムーンロア”

20年以上を生きながらえ、山のふもとの村人にも恐れられていた狼だった。
これまで討伐に向かってきた誰しもが生きて戻る事は適わず、そのあまりの強さに、
もはや魔力すら秘めた獣なのではないかと噂されていた。

そして────確かに獣の眼は、魔的な魅力を秘めた瞳をしていた。
どこか吸い込まれそうになるような、そんな恐ろしい力を感じる。

(;゚д゚ )「よく……勝った……俺は、よく生き残った……」

肩で息をしながら、後から後から溢れ出て来る冷や汗をせき止めようと、自分を鼓舞する。

正しく本心だった。

752 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:34:46 ID:3VDthKcU0

一撃で意識を断絶され、そして恐らくは一撃で四肢を持っていかれていたであろう、獣の爪牙。
それらから実にかすり傷程度で勝利を収める事が出来たのは、神に祈っても足らないぐらいの奇跡だと思えた。

だが────そんな事を考えながらも、なぜか獣の瞳から眼を逸らせずにいた。

もうすぐ閉じられようとしている、その虚ろな瞳。
その中には自分の姿と重なって、その背後に浮かぶ満月が映っているのが見て取れた。

─────不意に、この獣に対して哀れみを覚える。

誰に頼るでもなく、たった一匹で今まで生きてきた”獣”

とても強く、とても気高く。
とても孤高な存在だった。

その姿が何かに似ていると思い、それが自分自身なのだという事にすぐに思い至ると、
何故だか少しだけ笑みが零れた。

(;゚д゚ )「ふふ……俺も、同じかも知れんな」

753 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:35:12 ID:3VDthKcU0

孤高に生き、そして孤高に果ててゆく。
それが、今歩む自分自身の生き方なのだ。

─────自分とこの狼は、似た物同志。

それゆえ哀れみを覚えて、瞳を逸らす事が出来ないのかも知れない。
尚も血が滴る両手を左右に、じっとその場で立ち尽くしていた。


(;゚д゚ )「いつの間にか、俺も人としての道から外れ───お前と似たような道を歩んできた」

(ドクン)

その時、胸が大きく高鳴った気がした。
思わず手で確かめてから視線を戻すと、狼の瞳は、大きく見開かれていた。

それに────心なしか先ほどよりも近くに自分を映し出しているかのように感じた。

754 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:35:52 ID:3VDthKcU0

(;゚д゚ )「俺もいつか、獣のようになってしまうのかもな」

そう言って、自嘲気味に笑みを零す。
だが、仮にそうであっても悔いなどないだけの人生を送ってはずだ。

いや─────一つだけあったか。

(;゚д゚ )(あるいは自分でも気付かない内に、他人から映る自分はもはや獣と同じなのかも知れん)

それでもまだ、人としての悔いは残っている。
あの時の選択が、彼女を突き放した事への後悔が。

そんな気持ちがまだ自分の中にあった事に安心し、ふっと笑みを漏らした。
先ほど大きく見開かれようとしていた獣の瞳は、最後に満月を焼き付けておきたかったのだろうか。

今ではもう完全に閉じられようと、薄く閉じたり、開いたりされている。

そこでようやく血で染め上げられた両手をだらりと投げ出し、彼もまた背後の月を仰ぎ見た。
やはり、これには魔力が秘められているのではないか。

狼の瞳同様に吸い込まれそうになった景色に、そんな事を思い浮かべる。

755 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:36:23 ID:3VDthKcU0


(ドクン)


( ゚д゚ )「………?」


再び、大きく自分の心臓が高鳴った。
解せない、とばかりに自分の胸を触りながら、感触を確かめる。

だが、やはり何の変化も感じられないのだ。

自分の身に起きている異変に関して何も答えを掴み取る事が出来ないまま、
この静かな山中深くでは、彼と、獣と、月だけの────ただただ不思議に時間が流れていた。

「獣はもう息絶えただろうか」
ふと、そんな事を考えながら何気なく振り向いた時、再び心臓が高鳴った。

先ほど閉じかけられていた獣の瞳が─────自分に向けて、また大きく見開かれているのだ。

756 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:37:05 ID:3VDthKcU0

( ゚д゚ )「………」

その瞳が映し出すのは、この自分自身の姿。

いや─────違う。

よくよく見てみればそこに映っていた顔は、先ほどから倒れているはずの狼のものだったかも知れない。

定かではないが、そんなような気もする。
違ったような気もするが、やはり解せない。

また月を見る。

(ドクン)



心臓が高鳴った。

(ドクン)

757 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:37:39 ID:3VDthKcU0


また獣の瞳を見た。そこには自分が?映っている。

(ドクン)




解せない。

( д )(これは……錯覚か?)


その時頭をよぎったのは、あの言葉。


”満月─────今宵の月には、魔力が秘められている”

758 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:38:17 ID:3VDthKcU0

( д )(山を………下りよう)


もう、獣の瞳を見ている事は出来なかった。
最後に見たその瞳が、閉じていたかも開いていたかも解らない。


ただ、そこに映し出されていたのが狼だった事は覚えている────いや、違う。自分自身の筈だ。


月はやはり、吸い込まれそうなほどに丸く、綺麗だった。

759 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:40:44 ID:3VDthKcU0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「月を抱く獣」


            ―了―

760 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 09:48:27 ID:3VDthKcU0
資料作りの合間の息抜きで幕間投下したとこで、次回は5話頑張ります!

761 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 10:11:25 ID:J/7Vh.CoO
お疲れです!
楽しみだ!

762 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 10:21:58 ID:1m4uspkYO
長丁場の投下お疲れ、今回も面白かったよ 
全然蛇足なんかじゃなかったと思った 
この先の展開楽しみ、(´・ω・`)の復活が嬉しい 
モララーを倒す迄は完全復活ではないけど

763 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 11:46:17 ID:r5RitjEE0
はやくクーが合流したとこみたいなー


764 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 14:43:00 ID:Z2eU2ca.0
乙乙
クーゲルシュライバーで笑ってしまうwwww

765 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 14:55:38 ID:4mFemkAEO

一件落着して次は何かなーとかwktkしてたらミルナに変なフラグが立っとる…

766 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/17(水) 19:49:16 ID:3VDthKcU0
>>762-765
次回はクーが出てくる「薬草取りの依頼」です。
今回も短編のつもりが思いがけず自分的にわりと長編になってしまったので、多分次も……

767 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/21(日) 02:27:09 ID:cha3GTAo0
よぅし、書き溜めが10kbしかないぞ。
今日の内に頑張って投下を目標に……ちと原作やってこよ。

768 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/21(日) 09:55:54 ID:GJoK0iHIO
ペロッ……これはそっちに夢中になって結局投下できなくなるフラグ!

769 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:16:34 ID:Pq8h3mBM0

ヴィップ南西部一帯を覆い包む、広大な森があった。
肥沃な大地に恵まれ、数多くの動植物が生息する”カタンの森”は、
その土地の周辺に住まう人々に様々な恩恵をもたらすものだった。

だが───────時を遡ること、2年前。

「天から落ちてくる星を見た」

森の周辺の住人は、口々にそう呟いたという。

その夜、人々に恩恵をもたらす森は火事となり、赤く燃え広がった。
周辺の人々はすぐに総出でその消化にあたったが、森に残された傷跡は深いものだった。

魔術師学連などから調査員も派遣され、この森に火災が起きた原因も、日が経つにつれ見えてきた。
2年前に空から落ちてきたのは、ようやく”隕石”として断定された。

それが地上へ墜落した時に出来たものか、地表には巨大な衝突地形を形作っていたという。

770 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:16:59 ID:Pq8h3mBM0

それが地上へ墜落した時に出来たものか、地表には巨大な衝突地形を形作っていたという。

だが、今や自然はわずか2年という歳月の間に、人々も驚くほどの回復力で瞬く間に緑を取り戻しつつある。
見た目には以前と変わらぬ森だが、少しずつ、少しずつ異変の兆候は起こり始めていた。


魔術師学連らの報告によれば、衝突地形の中心部には、僅かだけ残された隕石の破片があった。
そしてその鉱物の全体には、”小さな苔のようなもの”がびっしりと覆っていたという事だ────


───────────────


──────────


─────

771 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:17:37 ID:Pq8h3mBM0

ブーン一向がアルバの村から戻って、三日ほどの月日が流れた。

高額な報酬を得たばかりで、しばらく全員の旅の資金には困らないだろう。
皆の疲れも癒えた今、そろそろ次の旅に出てもよい頃だ。

( ^ω^)「マスター!鳥腿炒め、もう一丁追加だお!」

爪'ー`)y-「親父よぉ、緋桜とかさ……たまに良い酒はねぇのか?」

今日も、”失われた楽園亭”には騒がしい二人の声が響き渡る。
忙しそうにしているマスターは、そのやかましさに時折頭に青筋を立てぴくぴくさせているが。

騎士団からの依頼、不死者の討伐を終えた彼らは旅先でまた新たな仲間を引き連れて戻ってきた。
数日前にこの宿を騒がせた渦中にある人物である、マスターも見覚えのある彼女を。

(´・ω・`)「さて、僕は少し二階で読書でもしてこようかな」

ξ゚⊿゚)ξ「あの、マスター。すいません……騒がしくして」

ツン=デ=レイン。荒々しい男達の姿も多いこの盛り場にあって、彼女の存在は紅一点だ。
ふわりと巻き上げられた金髪に、清楚さをたたえる白の修道服。

772 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:18:08 ID:Pq8h3mBM0

彼らと共に旅歩く事を機に、捲らずとも歩けるようにと裾の丈は少しだけ詰めているが、
その清潔感には何ら代わりがなく、かわりに健康的な活発さも見られる。
彼女の容姿に惹かれてか、話し掛けてきたりする者も後を立たず、客引きにも貢献しつつある。

(’e’)「あぁ、いいんだいいんだ……ツンちゃんのせいじゃあねぇからな」

( ^ω^)「マスター?鳥腿……」

(’e’)「だがブーンにフォックス。こやかましいてめーらは駄目だ、少しは他の二人を見習いな」

爪'ー`)y-「そんな事言ったって、ここは酒を飲ます所じゃねーか」

(’e’)「俺はここを一人でふらっと訪れた冒険者が、卓で一人静かにグラスを傾ける―──そんな店を目指してるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「それはお父さんの昔の夢でしょ? ───今この現状じゃ、もう無理じゃない」

と、横から姿を現したのはマスターの娘であり、また、この楽園亭の看板娘でもあるデレだ。

アルバの村から戻って来た際再びこの宿を訪れたツンは、デレと初めて挨拶を交わしたが、
名前に共通点があるという事から話が膨らみ、少しずつ親交を深めていた。

元々誰に対しても愛想の良いデレと、同姓に対しては気を使うタイプのツンだからか。
今では気の合う友人の一人になりつつあるようだ。

773 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:18:58 ID:Pq8h3mBM0

ξ゚⊿゚)ξ「おかえり、買出し終わったの?デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……ツン!うん、今日はね、ちょっと遠くの市場まで足を伸ばしたんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。何か良い収穫はあった?」

ζ(゚ー゚*ζ「鮮魚が安かったんだ〜、だから今日は魚料理がオススメだよ?」

ξ^ー^)ξ「解った、夕食楽しみにしてる」

2階の寝室、窓際で飽くなき知識の研究に余念が無いショボンは、階下から伝わってくる
彼らの賑やかな声にふぅと鼻を鳴らしつつ、読書に集中しきれないで居た。

だが、そんな彼らとマスター達とのやりとりが大声で聞こえてくる度、笑みが零れる。
窓の外の眼下でヴィップの街中を歩く人たちの姿を眺めながら、ふと思った。

(´・ω・`)(自由の風に吹かれてというのも、案外悪くないものだね)

「早く、本当の自由に────」
ぽつりとそんな欲求が湧き出ては、また次の冒険への意欲も駆り立てられる。

774 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:19:32 ID:Pq8h3mBM0

趣味や目的も違えど、なぜだか気の合う仲間たち一緒にいるのは、全員ともが苦には感じなかった。

彼らはきっと意識した事もないだろう。


幾度もの物語を経て、パーティーを結成したばかりの彼らブーン一行の絆。
漆黒の闇の中でこそ試されるその光が、輝きを強めていく為の道程は、まだこれからなのだ。


───────────────


──────────

─────

775 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:20:00 ID:Pq8h3mBM0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第5話

          「静寂の深緑」

776 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:20:30 ID:Pq8h3mBM0
─────

──────────


───────────────


川 ゚ -゚)「………」

交易都市ヴィップの街中を颯爽と歩くのは、小剣をぶら下げるしなやかな細身の女性。
この界隈ではそれなりには顔の知られた冒険者、”クー=ルクレール”

そこいらの街娘が束になっても適わない彼女の美貌はそのままに、
街中を練り歩く彼女の表情には、陰りが見られた。

だが、それも当然といえば当然か。

完遂した依頼の裏に隠された真実を知る自分達を狙い、暗殺者の襲撃に遭ったばかり。
その最中で旅を共にした仲間とは離れ離れになり、街中を駆けずり回ったにも関わらず、今も行方知れず。

何より、彼女の目の前であっさりと人が人を殺す光景を、目の当たりにしてしまった。
初めて見る訳などではないが、やはり慣れたいなどとは思わないものだ。

777 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:21:26 ID:Pq8h3mBM0

男の手口はあまりに手馴れ、そしてそこに何の感情も残さないものだった。
なぜ人はあんな事を出来るのだろうか、結果として自分を助けたのはその男だったが、
それでも有難い事だなどとは到底思わない。

”他人など、やはり信用できるものではない”

幼少の頃植えつけられた心の傷跡は、次第に周囲への疑念として、いつしか自らの心の中で強まっていた。

一応は旅の相棒であった”ギコ=ブレーメン”を探す為、あの後彼女はヴィップ各地で聞き込みを行った。
だが、どうしても行方は知れなかった彼の無事を、今は彼女自身、案じる事しか出来ないのだ。

剣技に関してはどがつく素人だったが、そう簡単に死にそうな男ではなかったと、言い聞かせた。

そうして、彼女はいつもの宿へと戻って来た。
”失われた楽園亭”だ。

この間は何事かの騒動に巻き込まれて店を閉めていたが、今日はいつも通り沢山の人の姿に溢れていた。
店の中央で卓を囲んでいた客の中には、いつもは見ない顔が4人。

778 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:22:18 ID:Pq8h3mBM0

ξ゚⊿゚)ξ「そっかぁ、デレはまだヴィップから出た事ないんだ」

異彩を放つのは、修道服を纏う金髪の女性だった。
デレと仲むつまじく話しているが、「なぜこんな所に修道女が?」という疑問が掠める。


「よぉフォックス! …どうだ、今日も賭けカードとしゃれこまねぇか」

爪'ー`)y-「あぁ?またかよ……10戦10敗だってのに、お前さんも懲りないねぇ」

銀の長髪を後ろに結んだ、粗野で軽薄そうな男とも面識がない。
一見すると盗賊風の男だが、本職の彼らと比べてはまるっきり隙だらけに思える。


(´・ω・`)「そうだね。僕も魔術というものに関して造詣は深い方だと思っていたが、
       君の今の発言は、案外その真理へと踏み込んだものかも知れないな」

「わはは!冗談が過ぎらぁ、お前さんはよぉっ」

物静かで落ち着いた物腰の魔術師風の男は、知的なジョークを用いて自分とは対照的に粗野で荒々しい
冒険者の人間達を笑わせていた。数日前にどこかの街で目にした顔のような気がするが、思い出せない。

779 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:23:01 ID:Pq8h3mBM0

(;^ω^)「げふぅっ……食べ過ぎて、もう動けないお」

最後に気になったのは、同じ席に着くその三人が外側の卓へ声をかけているのをよそに、
大量の食事を終えて、にやにやと満面の笑みをその顔に貼り付けている、少し体格の良い男だ。

薄汚れた格好をしているが、背に収めた剣は年季の入りようを思わせた。

ζ(゚ー゚*ζ「あっ……クー!この間はどうしてたの?」

川 ゚ -゚)「なに……ちょっとな」

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

冒険者同士でパーティーが結成されたのなら、ましてやこのヴィップでクーが知らない訳はなかった。
だが、たまたま偶然が重なって行き違った一人と四人は、これまで面識がなかったのだ。

デレに対して少しそっけない態度で彼らの卓の横を通り過ぎると、クーは一直線にカウンターへと向かう。
一番端に腰掛けて足を組むと、手振りだけで注文。慣れ親しんだマスターは、彼女の好みも熟知しているのだ。

手練の動作でグラスに乳白色の液体を注ぐと、それを差し出すと共に切り出した。

780 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:23:41 ID:Pq8h3mBM0

(’e’)「よう………デレが心配してたぞ。なんかあったんじゃないかって、な」

川 ゚ -゚)「話すと少し長くなる。また別の機会にしよう」

「それより」と前置きし、背中越しに彼らが座る卓の方へ一瞥して尋ねた。

川 ゚ -゚)「見ない顔だな、あの4人」

「……あぁ、あいつらな」
皿を荒いながら、一瞬間の抜けた表情をしたマスターが、手を拭いながら答えてくれた。

(’e’)「例のホラ……こないだ話した馬鹿があそこの二人。その仲間が、あの二人さ」

あぁ────忘れていたと、思わず手を叩いて納得した。
例の騎士団につっかかっていった、後先の事を考えない馬鹿な冒険者。

お陰でこの店もまた三日間も営業を差し止められる憂き目にあったのだった。
その事をクーがマスターに指摘するも、彼はさほど気にした風な口ぶりではなかった。

(’e’)「そう気にしちゃあいねぇさ。あれでなかなか悪い奴らじゃない」

781 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:24:54 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「………ふん」

横目で彼らの騒がしい様子を気にかけながら、鼻を鳴らした。

爪'ー`)y-「なぁ、デレちゃん……俺にもお酌してくれ」

ζ(゚ペ*ζ「お尻を撫で回すような人には、二度としてあげません」

爪;'ー`)y-「すまねぇ、ありゃ事故なんだ……人生最高に飲みが過ぎて、それで……」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ……あんたって、そんな不潔な事する人だったんだ。最低ね」

爪;'ー`)y-「そう言われると、心に来るものがあるぜ……おいブーン、何とか言ってやってくれ」

( ^ω^)「しつこい男はもっと嫌われるお?」

(´・ω・`)「違いない」

談笑をする彼らは、明るく能天気な日々を過ごしたいだけなのだろう。
ただ中身の無い冒険を繰り返し、自由を謳歌出来ればそれで─────

782 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:25:49 ID:Pq8h3mBM0

時として大きな名声をもたらす職業であるだけに、目指す者は数知れず。
それでも、確たる目的や志を持たない者、蛮勇を振りかざして無謀を重ねる者など、すぐに消えていく。

もう随分といい歳の冒険者の中には、生活の糧と割り切っているものばかりだ。
彼らは自分達の身の丈を知り、引き際というものの線引きをしっかりと心得ている。
豊富な知識や経験、まだまだ自分などでは到達できない域に立つ者が多い。

だが、若く己の実力を過信する冒険者は、単なるパーティーのお荷物でしかない。
中途半端な気持ちで冒険へ勇み出るのはいいが、そういった彼らは周りを巻き込む。

だからこそ、”仲良しごっこ”のパーティーというものを、クー自身は拒んでいた。

場合によっては同じ依頼に飛びついた者を同行者として伴うが、互いに深入りはしない。
依頼を終えればそこで協力関係は終了。

そして信じるのは、自分だけ。

その彼女の姿には───いつか共に旅歩いた、一人の男が影として重なっている。
孤高の彼を探して、それを心のどこかで目標として、冒険者としてのクーは形作られている。

783 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:26:36 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「……どうでもいいさ」

そんな彼女だから、群れたがる冒険者達を好ましく思わなかった。
これまでずっと一人でやってきた彼女は、恐らくこれから先も自分の旅を誰かに委ねる事はないだろう。

しかし、なぜだかその彼らの姿に、様々な出来事が乖離しては上手く行かない自分の境遇とを重ねて、対比してしまう。

(’e’)「………なぁ」

普段から感情を面に出す事の少ないクーだが、彼女の態度から浮かない部分を察して、マスターが優しく声を掛けた。

(’e’)「ちっと人里を離れて、たまには雄大な大自然にでも囲まれてきちゃどうだい」

川 ゚ -゚)「?」

(’e’)「これさ」

取り出した一枚の依頼状を、マスターはクーへと手渡す。
それにざっと目を通してみると、内容は実に簡単なものだった。

”カタンの森”から採れる高級な薬草。
それがこのところ、依頼主が営む薬草屋の元へ届かないという。

784 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:27:25 ID:Pq8h3mBM0

クーの記憶によれば2年前に大規模な火事が起こった森だったが、
今ではすっかり元の森の姿を取り戻しているらしい。

”薬草の採取”と、調査のために同行する”依頼者の護衛”が依頼内容だった。
もっとも、森の中での脅威と言ったら猛獣や、低級妖魔の類ぐらいのものだろうが。

川 ゚ -゚)「なぜ、私にこれを?」

(’e’)「なぁに、ずっと街に居たら息が詰まっちまうだろ。たまには緑に囲まれて新鮮な空気を吸ってきなよ」

川 ゚ -゚)(報酬50sp+出来高払い……ねぇ)

報酬額の心もとなさにしばし考え込むクーの元に、一人の少女が現れた。

从'ー'从「もしかして……依頼を受けてくれる冒険者の方ですか?」

川 ゚ -゚)「?」

気付けば、可憐でしとやかな一人の少女が、カウンターに掛けるクーの横に立っている。

785 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:28:10 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「あっ……初めまして、私……”サン=ワタナベ”って言います」

それを聞いて手元の依頼状の文末に目を落とすと、彼女が名乗ったのはそこにある依頼人の名だ。
珍しい名から、彼女がヒノモトの出身であろうという事を悟る。

その彼女の顔を見て、マスターは「あぁ」と思い出したように紹介してくれた。

(’e’)「昨日からウチの店に泊り込みで同行者を探しに来てるのよ。依頼者のお嬢さんだ」

川 ゚ -゚)「そうだったか。しかし……まだ決めるとは───」

そう言おうとしたクーの言葉を遮り、彼女は深々とお辞儀をしていた。
再び顔を上げた時には満面の笑みを覗かせ、白い歯を見せながらまくし立てる。

从'ー'从「ありがとうございますっ! ……私、冒険者って粗野な男の人だとばかり思ってたから、
     こんな綺麗で格好良い女性の方が同行してくれるなんて……嬉しいです」

この娘は何を言っているのだろう、と思いながら聞いていたクーだが、
最後の方の言葉に少しばかり頬を赤らめ、気を良くしてしまう。

川 ゚ -゚)「…なっ」

川*゚ -゚)「そ、そんな事もないがな……」

786 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:28:52 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「………それで。申し訳ないんですが、出来るだけ人数が多い方がいいんです」

川 ゚ -゚)「だから、まだ受けるとは──」

从'ー'从「でもでも! ……沢山薬草を持って帰って来られれば、それだけ報酬も多くお支払い出来るんです。
     だからあと4人ぐらい募集してから、カタンの森に向かいたいんですけど……」

川;゚ -゚)(………この娘)

このワタナベという少女はわざとはぐらかしているのか、それとも天然で人の話を聞かないタイプなのか。
会話の主導権を掴ませず、ひらりひらりと避けているという印象をクーに与えた。

从'ー'从「………」

クーが「依頼を受ける」、と折れるまで言葉を覆い被せようというのか、ワタナベは彼女の
次の言葉を、じぃっと上目遣いで瞳を覗き込みながら待っているようだった。

だが、そこへクーにとっていらぬ気を回したのがマスターだ。

(’e’)「4人か……なら、丁度いいのが居るぜ」

从'ー'从「本当ですか?」

787 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:29:23 ID:Pq8h3mBM0

「おぉい、ブーン!」
それぞれに卓で盛り上がる面々に向けて、マスターが声を掛ける。
その声に振り向いたのは、先ほどクーが一瞥くれた冒険者達だ。

( ^ω^)「?」

川;゚ -゚)「お……おい」

席を立つとてくてくとこちらへと歩いてくる男から視線を背けながら、マスターに小声で訴える。
御免だ。あんな連中と組まされるくらいなら、依頼は受けない。

从'ー'从「………?」

しかし、小悪魔のような少女はそんな狼狽するクーの様子に一度だけ首を傾げると、
にこやかな笑みを向けて、投げかけようとしたその言葉を思いとどまらせた。

( ^ω^)「何かお?マスター」

(’e’)「お前さんがたもそろそろサボってないで、依頼にでも行ってきな」

川;゚ -゚)(………)

気が向かないのに、なし崩し的にマスターやこの依頼者の娘に乗せられてしまっている。
静かににこにこと依頼状を読む男の方から「ふむふむ」などと声が聞こえた。

788 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:29:57 ID:Pq8h3mBM0

一人当たり50sp+歩合ならば、人数の多いパーティーならば悪い話ではないだろう。
だが、クーにとってはこんな能天気な新顔の冒険者達と組むのはやはり我慢ならない。

( ^ω^)「”カタンの森”……どんな所かは知らないけど、行ってもいいお?」

从^ー^从「ありがとうございますっ!」

(’e’)「んで……今回の依頼に同行するのがこのクー────」

川;゚ -゚)「勝手に決めてくれるな! ……私は行かないからな」

从'ー'从「えっ?」

川 ゚ -゚)「えっ」

マスターがブーンらにクーを紹介しようとしたところで、彼女の言葉に沈黙が流れる。
やがて、ワタナベという少女は泣き出しそうな表情を浮かべながら行った。

从' -'从「依頼……受けてくれるんじゃなかったんですか……?」

川;゚ -゚)「いや、だからまだ一言も受けるとは……」

( ^ω^)「おっおっ。依頼ならブーン達が引き受けるから、安心してくれお」

(’e’)「そうしてやんな。実家の薬草屋は今回の件で結構な痛手らしいからな」

789 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:30:34 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「ありがとうございます。……でも、あとお一人くらいの手が欲しいんです」

そう言って、ちらりと視線を向けた方向にはクーの顔。
意識的にそれから目を逸らしたが、構わずブーンがワタナベをたしなめる。

( ^ω^)「依頼に対して自信が無かったり、体調が悪かったりする事だってあるお。
       ブーン達は4人のパーティーだけどお、人見知りの人は入りづらいかも知れないお」

川#゚ -゚)ブチンッ

从'ー'从「はぁ……そんなもんでしょうか」

「自信が無いだの、人見知りだの?」

それは、15の時から5年も冒険を重ねてきた自分に対して向けられた言葉か。
このヴィップに居ついてさほど日も浅いであろう新参風情のその言葉に、クーは瞬時に血が昇った。

ついぞ口から飛び出した言葉は、酒盛りしてる全員の視線を集めるのに十分な声量だった。

790 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:31:27 ID:Pq8h3mBM0

川#゚ -゚)「私は一向に構わんッ!!」

(;^ω^)ビクゥッ

从'ー'从「……じゃあ、決まりですね?」

川#゚ -゚)「あぁ、どこぞのあほ面を引っさげた冒険者気取りよりかは、お役に立ってやるさ!」

そう言いながら振り返ったクーの顔には怒りの色が浮かんでおり、その鬼の形相にブーンは気圧された。
それと同時に、恐らくは自分に向けられているその怒りの理由に考えあぐねるばかりだ。

(;^ω^)(な、なんでこの人怒ってるんだお……?)

(’e’)「まぁ、仲良くやんな。気張らないようにな、クー」

从'ー'从「よろしくお願いしますっ」

川 ゚ -゚)「………あぁ」

大見得を切った手前、一度出した言葉をひっこめる訳にもいかない。
後悔の念が押し寄せてくる中、グラスを満たす乳白色の液体を一気に飲み干す。

791 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:31:58 ID:Pq8h3mBM0

音を立ててカウンターにグラスを叩き付け、余計なおせっかいをしたマスターを睨むが、
静かな笑みをたたえながら、洗い終えた皿を拭いているばかりだ。

(’e’)「お天道さんの下で、ゆっくり羽根でも伸ばしてきたらいいさ」

川 ゚ -゚)(はぁ………)

「やはりこの世はうまくいかぬ事ばかりだ」

クーは己の不運を嘆いては────呪った。


───────────────


──────────


─────

792 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:32:59 ID:Pq8h3mBM0

────【カタンの森 道中】────


それから二日と半日、サン=ワタナベという少女の案内の下、冒険者達はカタンの森を目指し歩いていた。

「ブーン=フリオニールだお」

「クー=ルクレールだ」

最初から必要以上に多くを語らないクーに対し、ブーンらはこれまでの道中もどこかぎこちなさを感じていた。
冒険者としては珍しく女性である彼女に歩み寄ろうとしたツンも、そっけなく突き放される。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、クー……さん?」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「女性の冒険者って、珍しいよね?」

川 ゚ -゚)「そんなに物珍しいか、私が」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そういう意味じゃなくて……」

793 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:33:48 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「私には、お前の方がよほど珍しく見えるがな」

下から上までツンの服装をなめ上げてから指差したのは、ツンの衣服。
少しばかり丈を畳んだとは言え、おおよそ冒険をするに相応しいとは言いがたい、動きづらい修道服だ。

ξ゚⊿゚)ξ「……これは」

川 ゚ -゚)「そんな服装で森を探索できるというのか、甚だ疑問だな」

ξ゚⊿゚)ξ「っ………!」

外敵より自分の命を守る術を知らないツンは、この中でただ一人一般人の様な存在だ。

だが、その彼女を守るという使命をフィレンクトより課せられた3人が居てくれる。
その甘えがあったのかも知れないが、それでもツンにとっては────

(´・ω・`)「彼女にとっては、それが正装なんだ」

川 ゚ -゚)「?」

794 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:34:26 ID:Pq8h3mBM0

ξ-⊿-)ξ(………ふぅ)

少しばかりかっとなって言い返してしまいそうになっていたツンだったが、
それを見越してか合間に割って入ったショボンの一言に救われ、気は紛れた。

爪'ー`)y-「なぁ、そうつんけんしなさんな」

川 ゚ -゚)「………」

爪'ー`)y-「お互い、今回は仕事仲間なんだ。仲良くやろうぜ」

いつの間にか隣を歩いていたフォックスが、クーに声を掛ける。
端麗ではあるが、軽薄さを醸し出してしまう彼の容姿が気に食わなかったのか。

川 ゚ -゚)「気安い」

爪'ー`)y-「へ?」

川 ゚ -゚)「私は、お前のような手合いは好きじゃない」

爪;'ー`)y-「たはは……手厳しい事で」

あるいは単に虫の居所が悪かっただけなのかも知れないが、彼もまた冷たくあしらわれた。
また、彼女に対して気を回そうとする面々をはっきりと拒絶するように、言い放つ。

795 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:35:14 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「私とお前達とは仕事仲間。それ以上でも、それ以下でも無い」

(´・ω・`)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

爪'ー`)y-(けっ)

間合いに気をつけろ、そういった意味合いの言葉を彼らに掛けた。
ワタナベのすぐ後ろを歩くブーンは、時折背後でのそのやり取りを気にかけて振り向く。

( ^ω^)「………」

从'ー'从(あの、ブーンさん)

( ^ω^)「?」

从'ー'从(何だか、雰囲気悪くないですか? ……私、ちょっと責任を感じてしまって)

少し強引な態度でクーに依頼を受けさせた彼女にも、冒険者同士の空気が伝わったのだろうか。
一抹の責任を感じて、ブーンへと耳打ちする。

796 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:36:06 ID:Pq8h3mBM0

( ^ω^)「君が気にする事じゃないお………大丈夫、きっとその内仲良く慣れるお」

从'ー'从(そう……だといいんですけど)

ブーン自身にとっても、こうあって欲しいと願っての言葉。
共に旅を歩く以上、誰であろうとその仲間の事を少しずつでも知っていきたい。

経験においては自分達よりも勝るであろうクーだが、有事の際に自分達の事を
信頼してくれないようでは、対処できるものも出来なくなってしまう。

今は頑なに自分以外を拒絶するような彼女だが、帰りの道程の時には互いに笑い会えるような───
そうあれば良いという、ブーンによる希望的な観測だ。

从'ー'从「あっ───見えて来ましたよ」

( ^ω^)「おっおっ、着いたのかお?」

なだらかな上り坂の頂点を折り返すと、眼下には広く深い森が姿を現した。
聞いていた話では2年前に一度延焼してしまったという事だが、見る限りでは緑深く、
そんな事があったとは思わせない程の自然が群生している。

この分なら、野生の動物なども多く生息しているだろう。

797 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:36:36 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「森の近くに私の叔父の山小屋があるんです。まずはそこで休みませんか?」

ξ゚⊿゚)ξ「賛成……ちょっと、疲れちゃった」


───────────────


──────────


─────

798 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:37:20 ID:Pq8h3mBM0

─────【カタンの森前 山小屋】─────


从'ー'从「こんにちは」

「おぉ、サン!」

入るなり、久しぶりに出会う姪っ子の姿に喜びを露にするのは、彼女の叔父だ。
ぞろぞろと続いてくるブーン達冒険者の姿には驚いたようだったが。

( ^ω^)「お邪魔しますお」

「あんたたちは………?」

从'ー'从「叔父さん。私達、カタンの森の薬草を採りに来たんです」

彼女がそう告げると、「そうかそうか」と言いながら全員を奥へと招き入れてくれた。
全員が用意されていた椅子へと腰掛けると、空いていた一脚へ彼もまた腰を下ろす。

799 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:38:03 ID:Pq8h3mBM0

「折角ここまで来たのにこんな事は言いたくないんだが……止した方がいい」

从'ー'从「え?」

その彼が姪へと告げたのは、意外な一言だった。

これまでの道中の労を労って「気をつけてな」と、心配の言葉でも掛けてから
送り出してくれるものだとばかり思っていたワタナベと同様に、冒険者らも一寸顔をしかめる。

「ここ数ヶ月、森に入った人間が立て続けに失踪してるんだ……あの森には、行かない方がいい」

( ^ω^)「………どういう、事ですかお?」

そう尋ねるブーンに対し、叔父はぽつりぽつり、神妙な面持ちで語ってくれた。
聞けば、あの森には今何らかの異変が起きているというのだ。

”森に入って失踪する”などといった事は、普通でもそう珍しい事ではない。

同じような景色ばかりが続く森の中で帰り道を見失い、遭難して彷徨う者は各地でいるだろう。
だが、その遭難者がここ数ヶ月、群を抜いてこの森で頻発しているというのだ。

例年と比べても、それは異様なほどの数だという。

800 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:39:19 ID:Pq8h3mBM0

爪'ー`)y-「何か獣でも住み着いたんじゃねえか?」

「それは、森周辺に住む我々も考えたよ……」

実際に森の周辺の住人達の中から力のある者を選りすぐって、カタンの森内を捜索したのだという。
だが、野生動物が生息しているような痕跡は見られなかったらしい。

その数週間前には、魔術師学連の調査員達が再度この森を訪れている。
2年前に森へ墜落した隕石の調査を行っていた先遣隊、それからの伝書が途絶えた為に訪れたらしい。

(´・ω・`)「で───その調査員達とやらは?」

「………」

ショボンの問いかけに、ワタナベの叔父はゆっくりと首を左右に振った。
”見つからなかった”か”死んでいた”のどちらかであろうが、語る気力も無いと言った風だった。

恐らくは、この森周辺の住人達はそれに預かる恩恵によって暮らしている。
森へ立ち入る事が難しくなった事により、彼ら自身日々の生活にも頭を悩ましている事だろう。

801 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:40:02 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「やれやれ……では、依頼はどうなる?」

「わざわざ冒険者であるあんたらを雇ってここまで来たんだ……サンので足りない分は、私も出すよ」

从'ー'从「そんな……」

実家で薬草屋を営む彼女にとっては、実に痛烈な事実だ。

利益にも大きく関わってくるここの薬草を採れないのであれば、ここまで来た意味が無い。
大きく肩を落とす彼女の姿を冒険者達が見守る中、叔父が優しく声を掛けた。

「今夜一晩はウチに泊まって行ったらいい、勿論、冒険者さん達もな」

( ^ω^)「………お言葉に甘えさせてもらいますお」

気落ちする彼女には申し訳なかったが、どうやらそうするしかないらしい。
ブーン自身、森に生じている異変が果たしてどういうものなのか気にはなるが。

从'ー'从「すいませんでした……皆さん」

802 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:40:34 ID:Pq8h3mBM0

ξ゚⊿゚)ξ「気にしないで。危険な目に遭うかも知れないなら、しょうがないわよ」

叔父の話を聞く内、気落ちするワタナベには悪いが、森へは行かないという事に合意した。
今日一日はここに泊めてもらい、明日一番でヴィップへと発とう。

そう決めてからは、面々は荷物を下ろして思い思いの時間を過ごした。

その日の晩は─────ワタナベと、その叔父が作ってくれた取れたての山菜料理に舌鼓を打った。

───────────────

──────────


─────


早朝、ブーン達の寝静まる部屋の扉を叩く音があった。

803 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:41:44 ID:Pq8h3mBM0

その音にいち早く気付いたのは、昨晩全員の中で誰よりも早く睡眠をとったブーンだ。
寝ぼけた眼を擦りながら扉の向こうに声を掛けると、どうやらワタナベだ。

( ^ω^)「ん……どうしたお?こんな朝早くに」

从'ー'从「すいません、だけど……どうしても頼みたい事があって」

( ^ω^)「………」

ブーンのものと比べてはとても小さなその顔は、真剣そのものだった。
この時、その頼みごとというものに対し、恐らくは───と察しがついていたのだが。

从'ー'从「私、やっぱりあの森に行ってみたいんです。お願いします……報酬はきちんと────」

( ^ω^)「やっぱり、そうかお」

从'ー'从「え?」

804 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:46:36 ID:Pq8h3mBM0

( ^ω^)「実は、ブーン達も森で何が起きているのか気にはなっていたんだお。
       だから、これはブーン達の為でもあるお」

从'ー'从「……っていう事は」

( ^ω^)「叔父さんには内緒にしておいた方がいいお。だけど、ブーン達には妖魔なんかから
       身を守る術もある……だから、森の中での君の安全は保障させてもらうお」

从'ー'从「ありがとうございますっ!」

( ^ω^)「皆が起きたら、ブーンから話しておくお」

結局の所、己の知的好奇心と、肩を落とす薬草屋の少女の姿に流されてしまった。
クーがどう言うかは解らなかったが、再び日が昇ったらカタンの森へ行く事を決めたのだった。

この緑深き場所にあって────やがて朝を告げる鳥達の歌は、何故だか聞こえなかった。

───────────────


──────────

─────

805 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 06:59:33 ID:Pq8h3mBM0
時間はあるのにノッてこない時期に入ったので、導入部だけ投下してまた次回。

806 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/23(火) 07:29:51 ID:prOoDYvI0

待ってます。

807 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/25(木) 03:51:58 ID:Ji5tnWc6O
投下きてたああ今から読むよ

基本sageで投下されるから見落としてしまう
創作板にきてくれればなぁと思うけど、スレ埋まるまでは移住は特にしない感じなのかな

808 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/25(木) 12:23:18 ID:2V6ZejtMO
スレ埋まったら移住しようかと思います
5話→幕間→6話後ぐらいかと。

809 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/08/29(月) 11:15:24 ID:XXZlfxEsO

隕石がらみで何が立ちはだかるかwktk

810 kokoro :2011/09/01(木) 12:07:17 ID:6sBqxzR.0
>>楽に稼げるアルバイトの件。情報載せておきます(*・ω・)! http://tinyurl.k2i.me/Xxso

811 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/05(月) 00:47:58 ID:H29snMao0
気長に投下を待つんだな

812 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/10(土) 09:37:50 ID:CbFV5xnw0
今回結構長いけど創作板でやるとか言わないよな…?

813 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/10(土) 22:10:32 ID:w0zkm9t.o
どこ読んだんだよ…

814 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/11(日) 00:28:51 ID:FZbE04O.0
待ってるぞ

815 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/18(日) 13:21:27 ID:DU3LSUdk0
急かしはしない 作者のペースでやってください
でもこの作品に逃亡されたら本当にショックだ
ゆっくりでいいから、待ってます

816 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/20(火) 08:08:05 ID:BRUoDW4w0
嬉しい事言ってくれるぜ!
すいません、リアルに忙しいものでなかなか。
まだ逃亡する予定はないので、もうしばしお待ちを。

817 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/20(火) 13:12:22 ID:YaePvKyM0
トリップがない作者は本人じゃないかもしれない
ぬか喜びはしたくないから信用しないことにする

818 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/20(火) 13:40:11 ID:sppzEDrsO
まだっていずれ逃亡すりみたいな…

作者のペースで進めていいから逃亡だけはしないでください;;

819 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/20(火) 22:44:58 ID:Ktf4hUCMO
ソードワールド思い出すなぁ

820 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/25(日) 04:53:27 ID:pifhZI1g0
最初から酉付けてないんですが、作者です。

もう一ヶ月は経ってしまいましたが、昨日ようやく続きを書き始めて今8000字ぐらい。
恐らくあと12000字ちょいちょいぐらいで5話を投下しきれるかと思いますので、
気長〜に見たって下さい。

最速で書けても明後日はハードなセックスしてくる予定なんで、投下できないかも…

821 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/25(日) 05:46:40 ID:tbB/YvbA0
あはは
待ってますよ

822 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/25(日) 07:42:32 ID:FRO0HXZoO
久々に原作やりながら待ってるよー

823 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:29:51 ID:xwPbV.xE0

ワタナベとの約束通り、ブーンは部屋に戻ると陽も登らない内に、すでに目を覚ましていた面々を伝えた。
森に起きている異変には危険が潜んでいる事は間違いないが、自分もまた好奇心が勝ってしまっていると。

川 ゚ -゚)「私はどちらでもかまわん。元々乗り気ではなかった依頼だからな」

( ^ω^)「そうかお」

意外にも、今回同行したクーの方が調査に対して乗り気のように思われた。
三日近くの道程を経て仕事が頓挫するよりかは、多少の危険を承知で満額の報酬を受け取る事を選んだのだろう。

川 ゚ -゚)「だが、森に危険が潜んでいると解った以上、予定通り行うならば成功報酬についての交渉は行うべきだ」

( ^ω^)「交渉……吊り上げるって事かお?」

川 ゚ -゚)「当然だ。お前達だって、善意や施しのつもりで依頼をこなしている訳でもないだろう?
     予期せぬ危険が待ち受けているのならば、相応の報酬を受け取る権利がある」

( ^ω^)「なるほど、そういうものなのかお」

爪'ー`)y-「先輩冒険者の意見にも一理あるぜ。盗賊だって、伊達や酔狂だけでやっていける程甘くはねぇ」

824 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:30:19 ID:xwPbV.xE0

仲間たちもまた彼女の言葉を聞きながら頷き、納得している様子だ。
手引書には載ってなかった事柄だが、一人前の冒険者からすれば場面場面で臨機応変に立ち回り、
ある意味では”ずるさ”のようなものも身に着けていかねばいけないものらしい。

彼女自身の態度からは自分達を快く思っていないのを感じるブーンだったが、
こうした細かな配慮からは彼女には自分が見習うべき点が多いのだと感じていた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、皆の判断に従うわ」

(´・ω・`)「僕自身、学連の調査団が訪れたという事から、個人的な興味もある」

爪'ー`)y-「俺が居れば森で道に迷う事は……まぁないだろうさ。その点だけは保障する」

仲間にするならば、心強い面々が目の前にいる。
ゴブリン洞窟で孤独な戦いを強いられた初依頼の時には精神的にも追い詰められていたが、
彼らが一緒ならばゆとりを持って依頼に臨む事が出来るだろう。

気がつけば、いつの間にかブーンに主導権は委ねられていたようだった。

( ^ω^)「依頼者たっての希望でもあるからお、ね」

全員が起床して各員の出立の準備が整ったのを見計ったか、コンコンと部屋のドアが叩かれる。
ドアの向こうで、幼さを残した透き通るような声が響いた。

825 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:31:00 ID:xwPbV.xE0

「おはようございます」

ブーンが扉を開けると、変わらず穏やかな表情のワタナベがそこに居た。
その姿を目にするや、腕を組んで椅子に腰掛けていたクーがブーンと彼女との間に割って入る。

川 ゚ -゚)「異変が起きていると解っている森に入る以上、報酬には色を付けてくれるんだろうな?」

从'ー'从「あ……」

まだ10代も中頃といった少女に、クーはぐっと詰め寄る。
女性ながら、彼女に強く当たられれば、並の男でもたじろぐかも知れない。

そう危惧したブーンだったが、ワタナベはそのクーに言葉を返す。

从'ー'从「……という事は、皆さん薬草採りに付き合って下さるという事ですか?」

川 ゚ -゚)「報酬次第ではな」

从'ー'从「それなら、一人頭100sp……そうですね、計500spでどうでしょうか」

川 ゚ -゚)「………ふむ」

从'ー'从「どうでしょう……?」

826 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:31:50 ID:xwPbV.xE0

たかだか薬草採りの依頼で500sp、普通に考えるならば破格だ。
勿論それも頭数が居る分、より多くの採取が望めるからであろうが。

おずおずと室内の冒険者達の顔を見渡すワタナベだが、当初の倍額となった報酬には皆納得の様子だ。

爪'ー`)y-「異論はねぇ、ブーン。お前はどうだ?」

( ^ω^)「悪くないと思うお?」

川 ゚ -゚)「決まりだな。世話になったお前の叔父には、なんて告げるつもりだ?」

从'ー'从「……街へと帰る素振りを見せて、黙っていきましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「いいの……?あなたの親戚の方、すごく心配してたけど」

从'ー'从「私だって背に腹は代えられません。ここまで来た以上、意地でもカタンの薬草を摘んで帰らないと」

どうやら、ワタナベの意思は固いようだ。
もしブーン達がワタナベとともに森へ向かうと知れば、引き止められるかも知れない。
その事実を隠してまで向かうという事は、実家の薬草屋もなかなかに逼迫した台所事情なのであろう。

827 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:32:16 ID:xwPbV.xE0

年端もいかぬ少女の口からいらぬ多くを語らせる前に、ブーンが皆に告げた。

( ^ω^)「今の森には何が起きてるかわからないお……十分に用心するお、皆?」

これにて、森行きの話は───────まとまった。


──────────────────

────────────


──────


从'ー'从「叔父さん、ありがとうございました」

「サン……それに皆さんも、気をつけてな!」

森と街への分岐路、そこへ行くまでに見送ってくれていたワタナベの叔父の姿は見えなくなった。
自分の身を案じる叔父に嘘をつきながらも、少女がそれを重荷にしている風でもなかった。

あと四半刻もこの道を進めば、カタンの森だ。
そして、冒険者達の仕事はここからようやく本番を迎える。

828 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:32:58 ID:xwPbV.xE0

(´・ω・`)「この広大な森だ……獣の一匹や二匹、歩いていても簡単に出くわすとも思えない」

ショボンの言葉に、ほぼ全員が頷いた。
獣や妖魔の類、そういったものとはまた異質な何かが、この森にはあるのだろうか。

自身の気を引き締める意味もあるのだろう、ブーンがワタナベに声を掛ける。

( ^ω^)「ブーン達は君に危険が及びそうな時、出来る限り守るつもりだけど……
       もしかしたら、それでも守りきれない時もあるかも知れないお」

从'ー'从「はい」

( ^ω^)「だから、もしそんな時が来たら依頼者の君だけでも……逃げるんだお?」

そんな会話を交わしているうち、森を飾り立てる木々は一段と多さを増していった。
─────どうやらこの辺りが唯一、人の手の入った入り口のような場所らしい。

そこで一旦は立ち止まった一同だったが、またすぐに何事も無い風に歩き始めた。

爪'ー`)y-「……ふぅん」

下を向いて歩きながら、そこらの地面を見渡しているフォックス。
ツンが怪訝な視線を投げかけていたのに気付き、彼女に説明する。

829 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:33:21 ID:xwPbV.xE0

爪'ー`)y-「どうやらここ一日二日の間に、先客が来てるようだぜ?」

川 ゚ -゚)「……分かるのか?」

爪'ー`)y-「あぁ、恐らくは二人組ぐらいだろうよ。僅かだが、足跡が森の中に続いてる」

(;^ω^)「ブーンには見えないお?」

爪'ー`)y-「まぁな、固い土だ。すぐに風にさらされて、見た目にはまっさらになっちまう……だが、間違いねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、なんかアンタが言うと疑わしいけど……森の中でその人達に出くわしたら、
      注意を呼びかけてあげたほうが良いわね」

(´・ω・`)「その彼らが、生きていてくれればいいんだけどね」

ぞっとしない話だ。少し戻れば人里だというのに、自ら望んで森に入りわざわざ野宿をする人間も珍しい。
まして、フォックスが足跡を辿った感じでは帰り道にはそれが向いていないというのだ。

一日も二日も森に篭るなど、武芸の修行に身を置く者でもなければあり得ない話だろう。

830 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:33:50 ID:xwPbV.xE0

少女に先導されるまま、面々はその背後で常に気を張りながら森道を歩み続ける。
左右に木々が立ち並ぶだけの景色を抜けると、やがて彼らの視界には鮮やかな青が飛び込んで来た。

从'ー'从「この森は、中央にとても大きな湖があるんです」

そう話す彼女が指差した先には、陽光を浴びて煌く広大な湖が確かに見える。
緑に囲まれた森の中央、対岸にかすかに見える小屋の近くには、木船が浮かんでいるようだ。

この光景だけを見れば、とても穏やかな時間が流れているようなこの場所。
冒険者らにも、森の中に危険が潜んでいるかも知れないなどという様子は、微塵も感じられなかった。

森は─────とても静かだった。
そこらに寝転がって目を閉じれば、風にさらされてざわめく木々の音に、まどろんでしまいそうになる。

( ^ω^)「ここらで昼寝したら、気持ち良さそうだお」

ξ゚⊿゚)ξ「緊張感に欠けるわね……」

( ^ω^)「余裕があると言って欲しいお」

ブーンにそう苦言を漏らすツンの表情も、心なしか森に立ち入る以前より弛緩したように見える。

831 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:34:25 ID:xwPbV.xE0

実際に森に立ち入ってみて、全員が肩透かしを食らった印象だ。
この視界の開けた森の中で遭難者が続出しているという理由に、全く思い当たらないのだ。

从'ー'从「なんだか、気が抜けちゃいましたね?」

ワタナベの言葉通りかも知れない。
特に障害が立ちふさがるでもなく、一同の前には何の障害も現れず、どんどんと森の奥へと進んでゆく。

ふとクーは、”たまには自然に囲まれて新鮮な空気を吸って来い”などと言って自分を今回の依頼に
送り出したマスターの言葉を思い出すと共に、肩をすくめていた。

子供のお使いのような依頼ではあるが、都会育ちの彼女には確かにマスターの言うように良い気分転換になっていた。
最近自分の前で起きた嫌な出来事が少しばかり薄らいで行くのを感じ、言葉を口にする。

川 ゚ -゚)「どうやら、杞憂だったな」

そう呟く彼女の後ろでは、フォックスが周囲をつぶさに見渡している。

爪'ー`)y-(どうかねぇ……)

目印となる木などの自然物の配置や造形を眺めては、周囲の景色を頭に叩き込んでいるのだ。

832 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:34:48 ID:xwPbV.xE0

昼前で陽光が差し込む今ならば道に迷い遭難の憂き目に遭う事はおよそ縁遠い事ではあるが、
これが夕刻となれば、周辺の景色はがらりと色を変える。

何の事は無い岐路であっても、緑深い場所にあっては人の身の感覚などそれほど頼りにならないのだ。
それは暗さを増すにつれ、あるいは森の意思であるかのように旅人の感覚をミスリードへと誘う。

万が一の時が訪れないように。はたまたそれがやってきた時にも対応出来るよう、フォックスは
盗賊としての目利きを生かしてリスクブレイカーとしての役割を人知れず務めていた。

从'ー'从「なんだか、すんなり過ぎて怖いですね」

( ^ω^)「いつ何が起こるか解らないお、警戒だけは……」

川 ゚ -゚)「………ッ」

”がさっ”

言葉を言い掛けたブーンの左手の茂みが、一瞬ざわめいた気がした。
そしてそれは、決して彼だけの思い過ごしではなかったようだ。

从;'ー'从「えっ?」

爪'ー`)(………)

833 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:35:16 ID:xwPbV.xE0

ワタナベが突然歩みを止めた彼らの様子に振り返ると、全員が既に茂みの方へと身構えていた。
フォックスが口元を指で押さえて「声を出すな」と全員に合図する。

( ^ω^)(………何が、出るかお)

背の剣の柄に手をかけながら、茂みの奥からこちらへ近づいてこようとする気配に神経を研ぎ澄ます。
最初、風にさざめく程度だった音は次第に大きくなり、奥の方の木々を揺らしながら向かって来ているのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何なのよ……?」

(´・ω・`)「僕らの背後へ」

从;'ー'从「は、はいっ」

こちらの声が聞こえたか、音の主の動きは一段と激しくなったようだ。

どうやら、それも複数。

(;^ω^)(────来るっ!)

鞘から刀身の七分程を抜き出していたブーンは、それを完全に抜き去ると上段に構えた。
茂みを抜けて飛び掛ってきたそこに、一瞬で振り下ろせるように。

834 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:36:40 ID:xwPbV.xE0

やがて、その"何か"が勢い良くこちら側へ飛び出してきたのをしっかりと確認する余裕も無く、
そのまま剣を振り下ろす──────そう、思った瞬間だった。

皿のようにひん剥かれた眼と、視線が合った。
それとほぼ同時に、ブーンの背後でクーが大声で叫んでくれたお陰であったかも知れない。

川#゚ -゚)「─────止せッ!!」

(; °ω°)「お……おぉッ!?」

「な、な、なんでぇッ!?」

どうにか、すんでの所で振り下ろしかけた剣の勢いを止める事が出来た。
ブーン自身もそうだが、相手の"人間"の驚き方たるや、凄まじい狼狽ぶりだった。

なにしろ、人の声を聞きつけて急ぎ茂みを抜けたところに、長剣を振り下ろそうとした男が
大上段で自分の頭を狙い済ましていたのだから。

爪'ー`)「どうやら、あんたらか」

森の入り口付近でフォックスが観察していた足跡の主は、どうやら見つかった。
この───目の前で尻餅を付いて驚きに竦んでいる、二人組の冒険者風の男達のようだ。

835 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:37:12 ID:xwPbV.xE0

───────────────


──────────


─────


「俺が、ラッツ。んで、こっちがボアードってんだ」

(;^ω^)「ブーンだお。さっきはその……すまなかったお」

互いに冒険者だと分かると、そこからはこれまでのいきさつを説明した。

ブーン達が薬草採りにこの場所を訪れたように、木こりの傍ら冒険者をしているボアードは、
盗賊風の男ラッツを引き連れて、カタンの森の質の良い木材を採取に来たのだという。

「いやぁ、参ったぜ。昨晩はこの物寂しい森で野宿する事になってよ、俺が焚き火をしようと
 したら……”山火事になったら大変だからやめとけ”なんてこいつに止められたのさ」

「俺は暗所が落ち着くのさ……昨日ここに着いた時には、もう夕刻でな。
 丈夫な樫の木の群生地を確認するだけにして、仕事は翌日の今日やる事にしたのさ」

爪'ー`)y-「んで、成果とやらは?」

836 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:37:53 ID:xwPbV.xE0

「それがな……俺とした事が、何度も来た森だってぇのに道に迷っちまったんだ」

「俺だって、迷うはずはねぇと思ったさ」

体格の良いボアードに同行する、蛇のように鋭い目をした男も言った。
そのラッツを見て、フォックスは一目で盗賊家業だという事が分かる。

洞察力などに長けていなければ務まらない職業だというのに、あろう事か森の出口すら見失ったというのだ。

「んで、お前さんがたはどっちから来たんだ?」

川 ゚ -゚)「一目で分かるほどの一本道だと思うのだがな……あっちだ」

そう言って、今しがた自分達が歩いて来た道を指差すクー。
だが、ボアードは困惑の表情を浮かべながら、首を傾げる。

「……っかしいな、さっきもこの辺りを通ったと思ったんだが、こんなに拓けた道じゃなかったはずだけどな……」

「………」

傍らで沈黙を守るラッツの表情にも、どうやらボアードと同じ疑問が浮かんでいるようだった。

837 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:39:04 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「ふぅ……」

( ^ω^)「じゃあ、そろそろブーン達は行くお」

彼らの様子に肩をすくめたクーの仕草を合図に、二人の冒険者に別れを告げる事にした。

「おう、色々すまんな。出口の場所も分かった事だし……俺たちも昨日確認した樫を切って帰るさ」

ξ゚ー゚)ξ「気をつけてね」

挨拶も程ほどに、きょとんとしていたワタナベに声を掛け、再び先導を頼んだ。

从'ー'从「私、突然何が起きたのかとびっくりしました……」

(;^ω^)「ブーンも驚いたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ホント早とちりなのよ……大体あんたは────」

先ほどの出来事をツンに突っ込まれながら、ブーンがばつが悪そうに後ろ頭をさすっていた。

一端の冒険者でも無い修道女が、同じ稼業に身を置く者を罵倒している光景───
彼女にとっては、それが恐らく自分の事のように感じられたのだ。

それは、かつてから今に置いても憧れている人物がただ単に冒険者だったから、という理由なのかも知れないが。

838 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:39:56 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「どうだかな」

ξ゚⊿゚)ξ「────え?」

尚も言葉でブーンを攻め立てようとしたツンの言葉は、クーに遮られる。

川 ゚ -゚)「さっきは私が瞬時に相手が人だと見抜いて止めさせる事が出来た」

ξ゚⊿゚)ξ「……ええ」

川 ゚ -゚)「だが、もし仮にあの時飛び出してきたのが強力な妖魔だったら、お前はどうしていた?」

ξ゚⊿゚)ξ「どうって……何が?」

川 ゚ -゚)「そいつが剣を振り切れなかった時、お前の中に……勢いのままに襲い掛かってくる
     強力な妖魔と対峙するような覚悟はあったか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、無いわよ!私には戦う力なんて……」

川 ゚ -゚)「なら、お飾りはお飾りらしくしていればいい」

ξ#゚⊿゚)ξ(………かっちーん)

839 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:40:41 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「制止が間に合わず、あのまま冒険者の男の一人を斬り殺してしまっていたとしても、
     私には仕方の無い───合理的な判断だと思えるんだがな」

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ。
     ――――ま、所詮男の庇護を頼りにするだけのお嬢さんには、わからんだろうがな」

ξ゚⊿゚)ξ「何よ……あんたの言い方」

川 ゚ -゚)「………」

にらみ合う、女が二人。
猛獣をも怖気づかせてしまいそうなほどの雰囲気が二人の間を取り巻き、足を止めて睨み合いを始めた。

どうやら、クーのきつい言葉にさしものツンも相当頭に来ているようだ。
自分よりも頭一つ近くは身長も体格も良いクーに対し、一歩も引く様子を見せない。

爪;'ー`)y-(お、おいブーン……このままじゃ進めねぇ。後ろの二人なんとかしろ)

(;^ω^)(……それだけは、無理な相談だお)

(´・ω・`)(危うきには近寄らず……それが最善だと思うけどね)

840 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:41:21 ID:xwPbV.xE0

男どもは震えているか気配を殺してやり過ごすばかりで、二人の間に介入する勇気など毛頭無かった。
だが、そこへ天からの助け舟を出してくれたのが、先頭を歩く少女の一声だ。

从'ー'从「あった……あの断崖の前に咲いているのが、"カタンの薬草"です!」

そこで初めてワタナベは年頃に合ったような明るい笑みを浮かべたかと思えば、小さく飛び跳ねる。
走っていく彼女の背中を追いかけるべく、背後でにらみ合う女性陣にブーンが消え入りそうな声で小さく促した。

(;^ω^)「ふ、二人共?や、薬草も見つかったみたいだし、その辺にしとくお……」

ξ゚⊿゚)ξ「はんッ………ほら、見つかったってさ?」

川 ゚ -゚)「………ふんッ」

辛うじて届いたブーンの声に応じて、二人はあからさまに不機嫌な表情で鼻を鳴らし、
互いに勢い良く視線を背けると、面倒臭そうにゆっくりと歩き出した。

いつの時代も女というものは強く、怖いものだ。
それを改めて実感しながら、一同はほっと胸を撫で下ろす。

841 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:41:51 ID:xwPbV.xE0

爪;'ー`)(……相性最悪だな、あの二人)

(´・ω・`)(あまり刺激しない方が身の為だよ?)

(;^ω^)(本当、心臓に悪いお………)

──────────────────


────────────

──────


从'ー'从「皆さん、ありがとうございますっ!」

一通り採取を終えた頃には、全員の麻袋には一杯に薬草が詰まっていた。
一般に出回る際には高級な薬草であるこれを加工すれば、様々な病にも効力のある薬も取り出せるのだ。
これほどの採取が出来れば、恐らくは困窮しているであろう彼女の家業には大助かりだ。

( ^ω^)「礼には及ばないお、当初の予定通りの依頼だからおね」

842 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:42:42 ID:xwPbV.xE0

喜びを露にするワタナベだが、街に帰るまでは気が抜けない。
同行する依頼人をしっかりと護衛してやることも、今回の依頼には含まれているようなものだ。

爪'ー`)y-「随分と楽な依頼だったな」

ξ゚⊿゚)ξ「………まぁね」

川 ゚ -゚)「お前は居るだけだし、な」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ?……あんただって、別に大して仕事してる訳でもないじゃない」

(;^ω^)「ちょ、ツン……落ち着いて!ストップ、ストップ!」

依頼を終えたばかりだというのに敵意の篭った眼差しを向け合い、再び小競り合いを始める二人。
制止するブーンも神経をすり減らし、次第に手を揉みながらごまをするような格好になっていた。

そこへ、極力刺激しないようにと発言を控えていたショボンが言葉を発した。

843 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:43:12 ID:xwPbV.xE0

(´・ω・`)「お嬢さん、あの小船が停泊している小屋には、誰かが滞在していたのかい?」

両手一杯に薬草を抱えて、それを嬉々として麻袋に詰めている少女の後姿に言葉を投げかけた。
そのショボンの指先が向く方向には、確かに木造の小屋の屋根が遠くに見える。

从'ー'从「あ、はい。何でも以前この森に調査に訪れた人達が使っていたみたいで」

(´・ω・`)「確かに滞在を続けて調査するならば、船で湖を対岸に渡った方が早いか……」

魔術師学連の調査団が訪れたというこの森には、何があるのか。
そして、その調査結果は上がっているのか、ショボンにはその点が気になっていた。

一度好奇心が沸けば、それを自分の目で見るまでは気になってしようがないという性分、
それはどうやらブーン達とも同じで、冒険者としてよくあるタイプの性格なのだろう。

(´・ω・`)「ちょっと確認してみたい事があるんだ。あの小屋に行ってきて構わないかな?」

( ^ω^)「まぁ採るものも採ったし、ブーン達はかまわないけどお……」

844 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:43:38 ID:xwPbV.xE0

そう言って、クーの方へと振り向くブーン。
彼から向けられていた視線から言わんとしていた事を察知すると、短くクーが言い放った。

川 ゚ -゚)「私は構わん。だが、手短に頼むぞ」

(´・ω・`)「すまない、すぐに戻るよ」

爪'ー`)y-「それまで俺たちは、のどかな緑に囲まれて一服とでも洒落込みますか」

ブーン達に踵を返すと、盛り中央の湖のほとりにひっそりと佇む小屋へ、ショボンは一人消えていった。


───────────────

──────────


─────

845 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:44:23 ID:xwPbV.xE0

さほど古びてもいない小屋だ。恐らくつい最近まで人の出入りが多かったのだろう。

そこら中一面には書物や羊皮紙が投げ出され、乱雑な印象を受けた。
それも、何らかの聞きから逃れるために泡を食って飛び出した、というのなら頷けるが。

(´・ω・`)(これか……)

数冊の書物にまぎれて、そっけない室内の卓上に置かれた調査報告書らしきものを手に取る。
どうやら、この森に留まり何らかの経過を観察していた学連の諜報員の、手記だ。

ぱらぱらとページをめくっては、近い日付のものを探した。

(´・ω・`)(○月×日……これが、半年前か)

速読などお手のもののショボンにとっては、ただなんとなくページを捲っているだけで、
調査員が何の目的でこのカタンの森へ来訪し、調査していた事柄は何かまで、その全貌がすぐに読み取れた。

(´・ω・`)「数週間前は、これだね」

846 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:45:15 ID:xwPbV.xE0

『△月▲日 やはりこの森は静かで居心地が良い。温暖な気候で眠る時も快適だし、何より仲間たちと呑む
      夜のエールが一番の楽しみで、まるで調査が遊びみたいなものだ。

      しばらくここに滞在するのは、私個人まるで苦ではない』


(´・ω・`)「おやおや……」


数週間前まではまるで日記のような内容だったが、日付が最近に近づくにつれて、その内容は
だんだんと調査員としての本分を果たしているものになっていった。

ショボンも予想していた通り、このカタンの森へ2年前に降り注いだという隕石について調査報告だ。

「△月×日 隕石が落下した事が影響しているのか、この開けた視界の森で何故か道に迷う事例が増えた。
      どうやら磁場に何かしらの影響を及ぼし、それが感覚を狂わせているのだとは思うが……」

847 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:46:09 ID:xwPbV.xE0

何も変わった出来事の無い手記のページを、さらに捲り続ける。
そしてショボンの手は、あるページで止まった。

(´・ω・`)(………これは?)


『△月●日 今日は最悪の出来事が起こった。調査員の一人、カシェルの遺体が発見されたのだ。
      死因は外的な衝撃で、恐らくは胸を何かで強打されたものと思われる。

      気さくで、本当にいい奴だった……無くしたのは惜しいが、今は悲しんでばかりいる訳にもいかない。
      一体カシェルを殺したのが何者なのか、絶対に突き止めてやる』

どこか、楽観するようにして流し読んでいた手記の端に、物騒な文字が躍っていた。
調査員の一人が胸を強打され、殺されたというのだ。

一体────何に?


(´・ω・`)(続きを────)

クーやブーン達を待たせているが、どうやらこの調べものが終わるまで彼らには待っていてもらわなければならない

848 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:46:47 ID:xwPbV.xE0

未だこの森に潜んでいるであろう未知の危機をもたらす存在に対し、ぽっと火が灯された彼の好奇心。
それを識るべくして、ページを捲る手を止めさせようとは、決してしなかった。


『△月○日 一体どうなっているんだこの森は……頭がおかしくなりそうだ!!
      一昨日はルシオが、そして昨日はバドラックが遺体で発見された……残る調査員は、私を含め3人。

      皆の士気を見る限り、調査を続けるのも限界だ。学連には厳しく追及されるだろうが、
      事後報告でこの森から去る事に決めた。恐ろしいのだ、この虫の声一つ無い森に、我々の命を
      どこかで舌なめずりして狙っている、目に見えぬ"何か"が潜んでいる事が。

      また、それは本当に生き物なのかも分からない……まだ、誰も見た者は居ないのだ。』


(´・ω・`)(やはり、この森には何かが────)

849 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:48:12 ID:xwPbV.xE0

『追記 : 先ほどは遺体で発見されたと記したが、正確には全身の7割を致命的な大火傷に覆われた状態で
      発見されたバドラックの、最期の言葉をここに記しておこうと思う。

      その彼の言葉を聞いていた我々からすれば、彼は自分の意思で身を焼いたとしか思えないが───』




      『やってやったぜ 見たか 俺は他の奴とは違う   ……………燃えている。』


手記はそれきり何も書かれておらず、その謎めいた最期の言葉だけで締めくくられていた。
ゆっくりと両手でそれを閉じたショボンの手には、じっとりと嫌な汗が滲む。

850 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:49:08 ID:xwPbV.xE0

何とも言えぬ表情を浮かべながら、森の中にあって人一人に焼身自殺をさせてしまうほどの畏怖の対象を、思い浮かべる。
だが、当然ながらそんなものは妖魔ぐらいしか思い当たらず、何より逃げればよい話なのだ。

そう、逃げられる場所さえ────あれば。


(…… ……ぎゃああぁぁぁぁぁッッ…… ……)

(´・ω・`)「ッ!!」

思案に暮れていたショボンの耳に微かに届いたのは、どこかから響いた断末魔。
それが彼の背筋に電撃を放ち、弾き出されるようにして再び動き出したショボンは───ブーン達の元へと駆けた。


───────────────


──────────


─────

851 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:50:32 ID:xwPbV.xE0
大体半分投下したとこで区切りが良いので、今日はここまで……
これ以降は少しは面白くなる予定。

852 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 00:51:43 ID:mWLCpxlQ0

続き楽しみに待ってます

853 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 02:56:18 ID:xwPbV.xE0

「………ぎゃあぁぁぁぁぁぁッッ!!………」


(;^ω^)「!」

ξ;゚⊿゚)ξ「……何、今の声……!」


ブーン達にも、当然ながら耳に届いていた。
ショボンの向かった小屋の、更に奥の方から聞こえた、男のうめき声。

その声の主にも、大方の察しはついていた。

川 ゚ -゚)「今の声は……」

从'ー'从「今の悲鳴……もしかして、さっきの人達じゃないですか?」

爪'ー`)y-「───あぁ、多分な。さっき会った連中のどっちかさ」

今このカタンの森に訪れているのは、ブーンら冒険者5人と、依頼者の少女サン=ワタナベ。
それ以外の人物となると、やはり先ほど出会ったラッツとボアードとしか思えない。

川 ゚ -゚)「猛獣の類にでも、襲われたかな」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな………ブーン!」

854 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 02:57:21 ID:xwPbV.xE0

ツンが言葉を掛ける前から、既にブーンは立ち上がっていた。
先ほどの悲鳴の上がった方へと助けに行くつもりなのだろう。

( ^ω^)「分かってるお、フォックス……一緒に来るお!」

爪;'ー`)y-「あー……へいへい、お前さんも物好きだぜ」

川 ゚ -゚)「私はこの場に残るぞ、まだショボンも戻らない」

ξ#゚⊿゚)ξ「(ムカッ)……じゃあ、私も行くわッ!」

どこか冷ややかな視線で彼らを見送るクーの横顔に一瞥し、ツンが走り出そうとした時、
その肩はクーによって掴み止められた。

川 ゚ -゚)「大人しく待っていろ……依頼者の少女がこの場に居るというのに、足並みが乱れ過ぎだ」

ξ#゚⊿゚)ξ「………ッ」

遺恨を残したままのお互いは、またもこの局面で睨み合う。
だが、今ばかりはそんな二人のやり取りに気を揉んでばかりいる訳にもいかぬだろう。

何しろ、人命が懸かっている可能性がある───それほどの悲鳴だったのだ。

855 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 02:58:40 ID:xwPbV.xE0

(;^ω^)「ツン、クーさんの言う事はもっともだお。ブーンとフォックスが帰ってくるまで待ってて欲しいお」

ξ#゚⊿゚)ξ「チッ……分かったわよ」

爪'ー`)y-「ったく、どーしてお前らもそう何にでも首突っ込んじまうかねぇ……」

川 ゚ -゚)「ま、安心しろ。しばらく待っても戻ってこなかったら、私は遠慮無しに彼女を連れて森を出る」

ξ#゚⊿゚)ξ「この………!」

爪'ー`)y-「あぁ、正しい判断だぜ。こちらとしてもな」

先ほども、今もクーが口にしたのは、仲間を冷静に切り捨てるかのような発言。
それに対してツンはまたも食って掛かりそうになったが、フォックスのフォローによって事なきを得た。

最悪の状況は、常に想定しておいて損は無い。
ただそれは時として、"仲間"というものを見捨てる事に対して割り切れるかどうかが枷となるのだが。


ワタナベとクー、そしてツンの女性三人だけを残して、ブーンにつられるようにフォックスも走り出した。

856 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 02:59:12 ID:xwPbV.xE0
───────────────

──────────


─────


声の聞こえた南西へとひた走ると、すぐに少し拓けた視界の場所に出た。
さきほどボアード達が言っていたように、丈夫な樫が群生している場所のようだ。

そしてすぐに目にしたのは─────その一本の木の前にうつ伏せに倒れている、一人の男の姿。

(;^ω^)「………大丈夫かおッ!」

爪;'ー`)「こりゃあ……」

力なく倒れている彼の身を抱き寄せると、やはりそれは青みがかった黒髪の男、ボアード。
もはや意識も完全に失われて、瞳は混濁している。

抱き寄せたその胸元は大きな衝撃に穿たれた痕跡があり、完全に胸を潰されていた。

爪'ー`)「即死だったんだろうぜ────恐らくは、な」

(; ω )「そんな……」

857 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:00:56 ID:xwPbV.xE0

道すがらで出会っただけでも、多少なりとも言葉を交わした同じ冒険者を、放ってなどおけなかった。
だからこそ助けたかったブーンに、フォックスは辛らつな事実だけを冷淡に述べた。

大きく肩を落としていたブーンだが、開ききったボアードの瞳を手で閉じてやると、
彼の亡骸をそっとその場へと横たえてから、ゆっくりと立ち上がった。

(; ω )「もう一人、居たはずだお……」

何故ボアードはこの場で死んでいたのか、そして一体、"誰"にどうやって殺されたのか。
湧き上がる疑問と共に、今この自分達の周りにもその危険が取り巻いているという事実に、戦慄を覚える。

爪'ー`)「……あぁ。今、来たようだぜ」

フォックスが親指を差した方向の茂みを揺らしながら、同じように悲鳴を聞きつけたのか、先ほどまで
一緒に行動していたラッツはようやく姿を現した。

自分達に目が合うよりも先に、相棒の変わり果てた姿を目の当たりにすると、彼は叫んだ。

「!?……ボアード、おいッ!」

858 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:01:32 ID:xwPbV.xE0

口と胸から血を流している彼へ駆け寄ると、ラッツもまたブーン同様の反応を示した。
彼が既に死んでいる事を確認すると、瞳を強く閉じこみながら、ゆっくりと首を左右へと振った。

「あんたら………何があった?」

爪'ー`)「そりゃあこっちが聞きてぇ」

(  ω )「ブーン達が悲鳴を聞きつけてここに着いた時には───もう………」

「そうか……」

だが、共に行動していたはずの彼が何故この場にいなかったのか、という事実。
それに端を発してか押し寄せる疑念が、ラッツに対して鋭い視線を送っていた。

自らを訝しむ視線に気づき、ラッツ口を開く。

「俺は……こいつが木を切り倒してる間に何か採取できる野草はねぇかと、探しに出てたんだ……」

爪'ー`)「少しの間か?」

「あぁ、ものの数分ってとこだろうよ……ほれ見ろ」

そう言ってラッツが指差した先には、木を切り倒そうとしていたのだろう。
先ほどまではボアードが手にしていたと見られる伐採用の斧が、木の中ほどにまで突きたてられたままだった。

859 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:02:22 ID:xwPbV.xE0

( ^ω^)「その最中に……どうしてボアードは……」

その手斧の柄を何気なく引き抜きながら、浮かぶ疑問を口にした。
木を切り倒している間に、しかも斧を突き立てた状態で。

どこから、誰に、どうやって狙われれば───────
丈夫な人間の肋骨を、こうまで粉々に砕く事が出来るのだろうか。

「人ぐらいの力じゃ、こんなこと………」

そうラッツが呟き、またブーンが見上げた先にはただ一本の太い木が聳え立つばかりだ。

爪'ー`)y-「わからねぇ……だが、やっぱりこの森はどこかおかしいぜ」

(;^ω^)「そうだおね、ツン達が心配だお」

先ほどまでは何の変哲も無い平和な光景が、瞬時に謎めいた危険な場所に感じられ、
残してきた面々もまた同じ目には遭ってやいないかという焦燥、頬には冷たい汗が伝う。

(;`ω´)「ラッツ、ボアードを連れて、一緒に森を出るお!」

「………あぁ、すまねぇな」

860 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:02:58 ID:xwPbV.xE0

ぼうっとボアードの顔を眺めていたラッツだったが、緩慢ながらそのブーンに言葉を受け、動き出した。
ボアードの両肩をそれぞれブーンとラッツが抱きかかえるようにして、彼を森から運び出してやるのだ。

(;^ω^)「これは形見だけれど……悪いけど、置いていくお」

ラッツが手にしていた伐採用の斧を、再び同じ木に突き立て、それに背を向ける──────



────────そこから、静寂に包まれていた森は 途端にその色を変えた─────────




───────────────


──────────


─────

861 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:03:46 ID:xwPbV.xE0

ξ゚⊿゚)ξ(大丈夫かな……皆)

誰かの危機となれば、それが見ず知らずの他人でさえも例外ではない彼ら。
ツン自身が彼らと出会った時も、そうだった。

何にでも首を突っ込むとは良く言ったものだが、ツンもまた同じ種類の人間だ。
だからこそ彼らと共にこの場を飛び出して行きたかったのだが、それはこの隣に並び立つクーと、
たった少しの間でも一緒に居たくなかったからという理由も大きい。

川 ゚ -゚)「あと5分だけ待つ……それを過ぎれば、何かがあったということだ」

从;'ー'从「本当に、ブーンさん達を置いて行くんですか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あんたは冒険者が長いのか知らないけど……こちとら!」

だが、クーの言う事にもあながち道理が通っていないという訳でもない。

862 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:05:16 ID:xwPbV.xE0

依頼者と共に同行し、ましてや彼女はまだ14、15ぐらいの少女だ。
何か不測の事態が起きたとして、今この場に居る二人でまともに戦力となり得るのは、クーだけ。
適切な判断を行え、行動力においても人並み以上である彼女に反論するツンだが、その要望は聞き入れられない。

ξ゚⊿゚)ξ「あんた……さっきも言ってたけど、こういう事?同じ仲間を、切り捨てる判断って……」

川 ゚ -゚)「先ほど、あの銀髪の男達にも告げたはずだがな。本人達もそれを望み、了承は得ている」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、随分と非情なのね─────自分が助かりたいからってワケ?」

川 ゚ -゚)「お前のように、個人の感情に振り回されたりはしないさ……私達が守ってやらなければ
     たちどころに妖魔の餌食になるような子供を置いて、あいつらは何をしている?」

ξ;゚⊿゚)ξ「でもさっきの悲鳴は、きっとただ事じゃない!もし助けが必要だったらどうするのよ!」

川 ゚ -゚)「それならば、きっとこの森にはやはり危険が潜んでいるという事だ。
     なおさら、こんな所でまごまごしている訳にはいかんだろう」

ξ#゚⊿゚)ξ「どうして……そんな風に割り切れるの!?同じ依頼の仲間じゃない!」

863 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:07:43 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「だからこそ───最小限に被害を留めるべきだ。そんなに待っていたかったら、お前はここに居るといい」

从;'ー'从「あ……あの二人とも……その、落ち着いて下さい」

おずおずと二人の間に挟まれおろおろとするのは、ワタナベ。

気丈で大人びているといえど、自分を護衛してくれるパーティーが分離してしまっている現状に、
ツンらをたしなめる彼女の表情にも、さすがに不安さが覗いた。

だがツンとクーの言い分にはどちらにも一理があり、根本的な部分では同じなのだ。

窮地に陥った仲間を思いやる気持ち。
また、より多くの仲間が助かるように苦渋を飲む決断。

それはどちらも仲間の事を想っての行動、考えであり、それほど大きくは違わない。
ツンの感情にまかせたきつい言葉に、さらに態度を硬化させてそれを跳ね除け続けるクー。

864 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:10:19 ID:xwPbV.xE0

そうした二人のやり取りをたしなめ続けてばかりいたワタナベが、突如覚えた違和感に周囲を見渡した。


从;'ー'从「………え?」


ざわ・・・

    ざわ・・・

        ざわ・・・



川 ゚ -゚)「………待て」

ξ゚⊿゚)ξ「何よ?」

鳥の鳴き声一つ聞こえなかった周囲が、途端にざわめきだす。
それは、自然の中にあるならば普通の事だ。

風があれば───木々は揺らぐのだから

865 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 03:18:22 ID:xwPbV.xE0

だが今は頬を撫で付けるような風はほとんど感じない、無風。

だのに──────驚くほど急激にざわめきだした"それ"。
それはまるで木々達が、舞いを踊るかのようだった。

从;'ー'从「ひっ……」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何なのよ……これ!」


              … キチキチキチキチキチ …
… ウケケケケ ……

         … ケタケタケタケタッ …


川;゚ -゚)「………」

次第に、不快な雑音がそこら中から奏でられ、怖気さに肌を泡立たせる。
音ではなく明らかに"声"として耳へと伝わるざわめきは、悪意に満ちていた。

周囲全方位を覆う全ての木々達が、足を地面から抜くような動作で根を抜いて"歩き出す"。
その光景はもはや、ハロウィーンの悪戯かと思い込んでしまいたくなるような悪夢だった。

866 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/09/30(金) 08:26:54 ID:2/OQPfJAo
待っていたぜ

867 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/01(土) 03:33:54 ID:NlWNeIzU0
来たか

868 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/01(土) 06:28:31 ID:iq1bW106O
ワクワク

869 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/01(土) 06:38:35 ID:u8wu3.i.0
仕事とハードセックスの兼ね合いで、今日の深夜から明け方までの間に出来れば投下を…

870 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/01(土) 18:22:24 ID:wMtmpPZc0
どんだけハードセックス強調する気だww

871 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/02(日) 08:14:55 ID:a7D1kpKUo
これはやりすぎて寝たなww

872 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/03(月) 09:14:56 ID:Uilg4SsYO
申し訳ない、腰が立たんのでもう2〜3日必要そう

873 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/04(火) 00:48:02 ID:f2PQReBA0
サキュバスか何かと交わったのかww

874 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/04(火) 13:19:48 ID:WzMOyESIO
おとなしく待ってるから養生しとけよwww

875 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/11(火) 02:00:40 ID:mTvKoJx2O
いくらなんでもハードすぎやしないか?
作者が早く回復しますように

876 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/19(水) 19:07:48 ID:LAVPz0UA0
いつまで待たせやがるコンチクショウ!!
やり過ぎてミイラにでもなってんのか?

877 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/24(月) 02:24:49 ID:BByN9FBEO
この作品はもっと評価されてもいい

878 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/10/28(金) 22:04:35 ID:YhbDJj6I0
・・・・・・まさか

879 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/01(火) 02:02:33 ID:09550NKcO
>>877 
埋もれてるという意味なら 
十分ではないけど評価はされてると思う 
今あるなかの冒険物では一、二を争うという認識は読んだ人はもっていると思う 
まとめられるのが全てではないがそんな話もあったし 
普段荒らしてるやつもこれははまったと言ってた

880 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/01(火) 22:22:15 ID:DWCu0072O
創作板でなくこの板で、しかも基本sage進行するしな
ときどきVIPの総合とかで名前はでるのみるけど

これが冒険物で一番おもしろい、過去現在問わず
まだストーリー的には序盤なんだろうが


だから応答頼むよ作者……

881 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:15:24 ID:fyiiO8eo0
どうしても欲しいAAを自作しようとしても、全く上手くいかず。
どーしてもそれが欲しかったんだけど、諦めたので文章だけにしました。
しばらくそれで挫折してましたね。今はその分しっかりすいこーしながら書いてます。
後は興が乗ったら一晩のウチに書きあがる量なのれすが…待っててくれてる方々、すんませんなぁ。

882 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:44:27 ID:fyiiO8eo0
───────────────

──────────


─────


爪;'ー`)「なんだよこりゃあ……一体、どうなってやがる!?」

(;^ω^)「どうもこうも無いお……木が───”歩き出した”としかッ!」

「や、やべぇ、完全に囲まれちまってる……ひぃッ!」

ボアードの亡骸を運び出してやりたかったが、どうやらこの状況ではそうも行かない。
全方向から一斉に根を足代わりにして、木の化け物達が自分達の元へと向かって来るのだ。

いつの間にか、この場所まで来る時に通った道は2〜3本の木の化け物に塞がれている。
その幹には全て、裂け目のようにして出来た顔が現れて─────それが、笑っていた。


  … チキチキチキチキ …

           … ウケケケケケケケケ …

 … クキュキュキュキュキュ …

883 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:45:37 ID:fyiiO8eo0
ただの"木"が意思を持って、この自分達を嘲り笑っているとでもいうのか。

(; ω )「すまないお、ボアード」

ラッツと同様に、脇へと差し込んでいた腕を抜いて、その身をゆっくりと地面へと下ろした。
亡き彼に一言を告げると、代わりに、背中の鞘へと仕舞われていた長剣の柄を力強く握り込んだ。

(; ω )(君を連れて行けそうには……ないお)

  … ケタケタケタケタ …

 … イギギギィ ギッ …

奇怪な声色は、そこら中から聞こえる。
拓けた場所であったはずだが、その周囲にあったはずの樹木との距離は、既に目に見えて縮んでいる。

人間さながらの厭らしさを含んだ笑みは、自分達に向けられている。
屍鬼や妖魔ともまた違う未知なる敵は、まさか、この森全体とは。

爪;'ー`)「……この正面を真っ直ぐ突っ切れば、ツン達の場所に出るはずだ」

「う、後ろからも来てるぜぇッ!?」

ブーンの背後から迫る木の化け物の存在に気付き、ラッツが狼狽する。
これらが相手では、フォックス達の手持ちの武器では厳しいだろう。

884 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:46:23 ID:fyiiO8eo0

ブーンの背後から迫る木の化け物の存在に気付き、ラッツが狼狽する。
これらが相手では、フォックス達の手持ちの武器では厳しいだろう。

対抗できる手段があるとすれば、厚みのあるブーンの剣だけ。
枝一本叩き斬るだけならば難しい事ではないが、それも、太い樹木に大してはさして効果は望めない。

今では、空が赤くなっているかのようにすら錯覚してしまっている。
それはこの森を覆う周囲全体が、人間に敵意を向ける化け物だらけである事への危機感によるものだ。

全てでは無いにせよ、この森に生える樹木の大半が目の前に居る化け物と同じならば、
そしてその一つ一つが人一人を軽々と圧殺してしまう程の力を持っているとしたら────絶望的状況だ。

(;`ω´)「ふぅ、ふぅ……」

爪;'ー`)「いいか、落ち着いて…まずはツン達を助けるんだ。1、2の3で行くぞ」

… ケタケタケタケタッ …

目の前の、窪んだ眼窩の奥に不気味な眼光を光らせる一本、いや、一体に視線を走らせる。
器用に足元の根を這いずらせ、こちらへと近づいてきている。

こいつの左右を抜ければ、この場を走り抜けられる。

885 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:49:19 ID:fyiiO8eo0
爪;'ー`)「1……2の………」

「ひゃあぁぁぁぁぁッ!!」

(;`ω´)「! ラッツ、待つおッ」

フォックスの号令を待たずして走り出したラッツに、木の化け物の腕が振るわれる。
先ほどボアードを葬り去ったのは、恐らくこの太い幹から振るわれた一撃によるものだ。

「ひぃッ!」

脇を抜けきれず、すれ違いざまにしなるその豪腕が振り下ろされようとしていた。


(; °ω°)「おぉぉッ!」


”ごっ”

木と何かがぶつかりあう、鈍い音だけが周囲へと拡散した。

886 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:52:57 ID:fyiiO8eo0
(; °ω°)「………くッ」

ラッツを狙い済ました"人面樹"の一撃だったが、辛くも即座に前に出たブーンの剣が、それを正面から弾き返していた。
刃の腹で受ける格好になってしまったため、切り落とすまでには至らなかった。

だがそれでも、確実に"痛がって"いる。

「… ギギ、ギィィィィィ …」

無機物と有機物の中間のようなそれが、声を上げて仰け反る。
後ろで尻餅を付くラッツを守りながら、ブーンの目は数瞬だけその様子に奪われた。

目も口も付いているその姿に、昔おとぎ話で聞いた事のある森の妖精、エントやトレントを思い出していた。
だが、これは妖精などといった可愛げのあるものでは無い。

凶暴な表情を覗かせる彼らの姿は、人に仇なす凶悪な妖魔が木に乗り移ったかのようだ。

爪;'ー`)「ったく……お前さんも盗賊なら、窮地こそもっと冷静になりな」

号令を無視して飛び出したラッツを叱責しながら、フォックスが強引に立ち上がらせる。
ここでもたもたしている暇はない、自分達が襲われているように、ツンやショボン達の身も危ないのだ。

(;`ω´)(無事で居てくれお……皆!)

爪;'ー`)「急ぐぜッ!」

大木が怯んだ隙に、ブーン達はその脇を素早く抜ける。
一路ツン達の元へと向かい、駆けた。

887 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:53:26 ID:fyiiO8eo0
───────────────

──────────


─────


(´・ω・`)【 穿ち貫け 魔法の矢 】

 … ウォォォ …     

          … アァァァァァァ …

    … ギギギギギチィ …

数体の木の化け物の身体を、同時に光の矢が刺し貫いた。
それでも、活動を停止させるまでには至らない。

幾重にも折り重なった悲鳴が、生ぬるく感ぜられる風に乗って耳の中へぼう、と響く。
不快な感触に、ショボンは思わず手でその音を拭い去った。

888 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:55:04 ID:fyiiO8eo0
(´・ω・`)(……木は木らしく、ひとつ燃やしてでもやりたい所だが……)

小屋を出て、叫び声の方へと向かおうとした時、いつの間にか森には異変が取り巻いていた。
これまでひっそりと佇んでいた木々に足が生えてそこらを歩き回り、不気味な声は辺り一面に木霊している。

カタンの森の遭難者が激増した原因など、一度この現実を目の前にすれば考えるまでも無い。

(……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!……)

(´・ω・`)(今の声は……!)

遠くに聞こえた悲鳴だが、しっかりとショボンの耳に届いた。
恐らくは残してきた仲間たちの声───助けに行かなければならない。

だが、正義感や仲間意識に従い行動するは易いが、この状況でその判断は命取りだ。

往路は既に木の化け物たちによって塞がれているのだ。
移動速度は人よりもはるかに遅い、だがその動きには共通の目的意識の為か、統率が取れている。

この人面樹達の目的は果たして何か、食うためか、殺すため?────同じ事だ。

889 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:56:20 ID:fyiiO8eo0

だが、化け物とはいえ体面を覆う表皮は木、そのものだった。

ゆえに魔法で火を放ってから安全な場所まで逃げる事が出来ればこの状況を打破できるであろうが、
パーティーから離れてしまった現状では、仲間たちをも炎に飲み込んでしまう可能性が高い。

好奇心のままにパーティーから離れ単独行動を取った己の浅はかさを、責める。
ツン達の叫び声から離れ、逆方向への後退を余儀なくされながら、ショボンは歯噛みした。

(´・ω・`)(もう……追ってはこないのか?)

背後の木の化け物たちの様子に何度か振り返りながら、目の前にはやがて小さな洞穴が飛び込んできた。
どうやら、ある程度の距離を取れば、彼らは各々の持ち場を離れすぎるという事は無いらしい。

だが、再び近場の木々が妖魔化する危険性を鑑みて、目の前の洞穴へと一旦身を隠した。

本来は自然の岩壁だった場所なのだろう。
人の手により岩を切り崩し、森の東西を行き来出来るようにしたのだ。

中はがらんどうとなっているが、片腕で抱えられそうなほどの小さな樽が何個か転がっていた。

890 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:57:31 ID:fyiiO8eo0

その中の一つ、転がった樽から漏れ出していた液体の臭いが洞穴中に充満し、鼻を突く。
その場に腰を下ろして、指でひとさじをすくい上げてみた。

液体の特性に気付くと、ショボンは一人無言で頷く。

(´・ω・`)(これは─────なるほど)

本当に最後の最後、ある手段としてこの上ない道具─────そう思った。
しかし、その前にはまずやるべき事があるのだ。

(´・ω・`)(先ほどの悲鳴、間違いなくツン達だった……)

ブーン達全員が一緒に行動してくれているのならば安心だが、あのような状況ではパニックに陥り、
全員が散り散りに解散して逃げている可能性がある。もしそうならば────最も危険だ。

ツンやクー達の元までは、そう離れた距離ではなかったはずだ。
だが、木々の化け物達が移動する事により、つい先ほどまでの土地勘は全く頼りにならない。

行く手を完全に塞がれて、最後囲まれてしまえば、もはや逃げ場は無い。

(´・ω・`)(一度、このまま洞穴を抜けて東から再び回り込む……それしかないか)

ツン達を救うために、洞穴の反対側へと抜けて、ショボンは再び動き出した。

891 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:58:18 ID:fyiiO8eo0
───────────────


──────────

─────

从;'ー'从「な、何なの……何なのよ……これぇッ」

森に隠されていた脅威、これだったのだ。
顔のある木の化け物達は、笑い声ともつかぬ気色の悪い音色の協奏曲を奏でる。

周囲の木はばきばきと音を鳴らせながら、次々にその異形を顕にしてゆく。
足元に伸びる背後の影では身を捩じらせながら、歓喜に踊っているように思えた。

まるで、彼女達の必死と恐怖を嘲り笑うかのように。

ξ;゚⊿゚)ξ(───ブーン……皆っ!)

ブーン達の消えて行った方向を遠くに眺めて一瞬躊躇したツンの肩を、クーが強引に手繰り寄せる。
この状況でまごまごしていれば、たちまちあの木々に行く手を遮られてしまう。

分断されたこの状況では、やはりクーに言われた通りだ。
ツン一人ではこんな危機から身を守る術を持たぬ、一人の女性だという事を痛感させられる。

892 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 04:59:40 ID:fyiiO8eo0

从;'ー'从「ど、どうすればっ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………ッ」

ツンの道衣の袖をつかみ、うろたえる少女。
二人で顔を見合わせる中、彼女の恐怖はやがてツンにまで伝染しかけていた。

だが、この混沌の中にありながらも、しかとまだ強い意思を瞳に宿して道標となったのは、彼女。

川;゚ -゚)「……走るんだ。幸いにして動きは鈍い、脇を抜けて出口を目指す」

クーが二人に目配せを送ると、三人は同時にゆっくりと頷いた。
そして彼女の合図を機に、全員ともがその場からはじき出されるようにして走り出す。

… ギチギチ …

  … ギギ、ウェハ…ウェハハ …

川;゚ -゚)「離れずについてこい!」

一定の距離を保ってとり囲んでいた木達もまた、それに気付いて動き始めた。
器用に根を地面で這わせて伝い歩く光景だが、背後を確認してそれを目にする余裕もない。

893 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:07:02 ID:fyiiO8eo0

ξ;゚⊿゚)ξ「はっ、はぁっ……!」

自分達の置かれた状況をまるで把握できぬままに、悪夢で彩られた森の中を走り続ける。
目的地は森の外────だが、行く先々には顔を持つ木の化け物達が姿を潜めているのだ。

从;>ー<从「!? きゃぁッ」

川 ゚ -゚)「!!」

後方を走るワタナベの横合いから、突然目の前に向かって何かが振るわれた。
恐怖に思わず頭をかばいながらかがむ事で、偶然にもそれをかわす事が出来た。

ξ;゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん!」

だが頭のすぐ上を通過した、木の急襲が刻んだ恐怖は、計り知れなかった。
体つきの華奢な女でなくとも、今のを受ければただでは済まなかっただろう。

運良くそれを避けられたものの、恐怖からかワタナベはしゃがみ込んだまま動けずにいた。

膝が笑っている彼女では立ち上がる事もままならず、さらに悪いことに顔を上げた先では、
そのワタナベを見下ろしていた人面樹と、眼が合ってしまったのだ。

从;'ー'从「あ─────」

894 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:09:03 ID:fyiiO8eo0
眼窩の奥に自分を見下ろす光、そして幹が上下に引き裂かれて現れた、笑みを浮かべる口。
その異形と対峙してしまった少女には、恐怖に抗う術もなかった。

「ギギギ……ウェハ、ウェハ!!」

ぽつりと声を上げて、がちがちと歯が震える。
────────このままではただ喰われるのを待つばかり。

ξ;゚⊿゚)ξ「────早く、起き上がって!」

だが、そこへすぐさま引き返したツンが彼女の手を掴むと、再び立ち上がらせる。
その助けが、今を取り巻く悪夢のような現実へとワタナベを立ち返らせた。

从;'ー'从「ツンさ……ありが──」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいから!走るのよッ」

ワタナベの背中を強く押し出して、その走りを促した。
二人へと振り返っていたクーが一瞬だけ安堵の表情を浮かべ、また先頭を走りながら叫ぶ。

川;゚ -゚)「気をつけろ!すぐ傍にまで近寄らないと、本物の木かそうでないか見極められん!」

895 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:14:37 ID:fyiiO8eo0

どうやら、このカタンの森の全ての木々が人面樹たちではない。
恐らくはクーの見立て通りであろう、中には一見して普通の樹木もある。
だが、それらの中には近づいた瞬間に、捕食者としての顔を浮かび上がらせるものもある。

森の出口まではそう遠くない場所にまで来たはずだ、森に入った時に過ぎた湖畔が左手に広がる。
だがここに来て、クーは歯噛みをしながら表情を歪めた。

川;゚ -゚)「ちぃッ!」

从;'ー'从「ど、どうしたんですか?」

道が、二手に枝分かれしているのだ。

片方は恐らく森の出口へと通ずる道。かなり地形が変わっているが、自分達が入ってきた方だ。
そしてもう片方は道を外れた、樹木の茂った森深くへと続くであろう道。

川;゚ -゚)(罠……だろうな)

歩いた記憶の中にある湖沿いの道には、今びっしりとその先を覆い隠す木々がひしめいている。
これまで以上に多くの木に妨げられている事から、恐らく"木々たち"は自分達を外へと逃がしたくないのだ。

遠目からには一見すると普通の樹木だが、踏み入れば瞬く間に全ての木々が化け物へと豹変するだろう。

896 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:18:15 ID:fyiiO8eo0

そして────もう一方は不自然なほどに開け放たれた、山林への道。
その中へ入って人里へと通じる道へと出られるかは、大きな賭けになるだろう。

この地の土地勘も持ち合わせていない上に、森の中では方向感覚を見失いやすい。
加えて、"動く木"にかかって本来あるべきはずの道を塞がれてしまっては、人の感覚など完全に狂わされる。

それでも、人里へと確実に繋がる出口の近くからであれば、森を抜けられる可能性もゼロではない。

ξ;゚⊿゚)ξ「確かにこの道だったと思ったけど……あれって」

川 ゚ -゚)「恐らくな、全てが木の化け物だろう」

从;'ー'从「道が、塞がれて……」

川 ゚ -゚)「あぁ、白々しいまでに堂々と森の出口を塞いでいる……近づけば、すぐさま叩き殺されるかもな」

从;'ー'从「それじゃどうしたら!?」

一介の町娘であるワタナベという少女にとっては、今がきっとこれまでで初めて味わう程の恐怖。
理不尽にもこの"非日常"へと落とし込まれた彼女の精神は、半狂乱で喚く一歩手前にまで追い込んでいた。

その姿は、呼吸を落ち着けながらも淡々と目の前の状況を分析するクーとはまるで対照的なものだ。

川 ゚ -゚)(───ふむ)

897 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:19:12 ID:fyiiO8eo0

ξ;゚⊿゚)ξ(私の聖術が役に立ちそうな相手でも……ない)

攻略の糸口は見つからない。しかし、同時にクーと共にこの場に居られて良かったと思う。
あの場でツンとワタナベの二人きりであれば、混乱のままに化け物たちの餌食となっていただろう。

先ほどまで口げんかしていた時の態度とは打って変わって、今では頼もしくも生還への道を
必死に探りあてようとするクーの瞳が、まだ二人に希望を与えてくれているのだ。

そして、その彼女が指で一つの方向を指し示した。

川 ゚ -゚)「────右だ、山林へと入り、そこから人里に抜ける道を探す」

ξ゚⊿゚)ξ「……本気?さっきの木の怪物がうようよいるわよ?」

川 ゚ -゚)「どの道退路は絶たれている。だからこれは、一つの賭けになるだろう」

从;'ー'从「もし……道が見つからなかったら?」

川 ゚ -゚)「その時は……三人仲良く、この森の養分になるだろうさ」

ξ;-⊿-)ξ「………ふぅ」

898 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:22:29 ID:fyiiO8eo0

クーの言葉に頭を垂れて大きくため息をついたツンだったが、再び顔を上げた時、
その少しばかりあきれたといった表情の中には、僅かな笑みを浮かべる余力も残っていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「大したタマだわねあんたも……」

川 ゚ー゚)「ふっ、昔から言うだろう?女は度胸……だとな」

ξ゚⊿゚)ξ「────いいわ。乗ってやろうじゃない、その賭け」

从;'ー'从「ほ、本当にこの中を行くんですか?」

川 ゚ -゚)「あぁ。お前も依頼人なら、覚悟を決めろ」

ξ゚⊿゚)ξ「ワタナベちゃん───あなたも女なら、ここは腹を括るわよ!」

从;'ー'从「そっ……そんな理屈は無茶苦茶ですよぉ!」

ここに来て、初めて芽生えつつあった共通意識は"生還する事"
同じ苦難を共闘を経て乗り越えれば、それまでいがみ合っていた間柄にも何らかの仲間意識は芽生えるものだ。

今この場にいるツン達3人の団結力。
それがこの危機に瀕した今、ようやく高まりつつあった。

899 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:27:08 ID:fyiiO8eo0

川 ゚ -゚)「それじゃあ……行くぞッ!」

再びのクーの合図を機に、三人ともが走り出した。

逃げるため、ワタナベは両手一杯に抱えていた薬草は投げ捨てて、今では各人の鞄の中にあるのみだ。
ツンも、走る際に邪魔となるという事が実体験を通してよく理解できたために、修道服の裾を詰めている。

これは、仲間であるブーン達に置いていかれぬために。
そして、その彼らの足でまといにならぬ為にと、わざわざ自ら裁縫したものだった。

未だ動きにくい衣服ではあるが、その心がけが早速役に立っている。
両手を大きく振って全力で走る事に集中できているのも、この為だ。


  … ギ、ギギギィィ …

 … キチキチ キチキチキチキチキチ …

从;'ー'从「こっちにも!」

「やはり」といった感想しか出てこないが、走り去るうち次々と移ろい行く景色。
その視界の端々には、次々と妖魔化してゆく人面樹達の姿があった。

900 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:28:48 ID:fyiiO8eo0

川;゚ -゚)「だが……数はそれほどでもないぞ!」

クーの言う通り、緑が辺り一面中を包む場所にあって、想像していたよりもはるかに化け物の数は少ない。

人面樹は当然の事ながらいるが、ひっそりと佇む普段の姿の樹木も同じぐらいだ。
森の出口を塞いでいた中には、本来はこちらに群生していた樹木達も数多くあったのだろう。

この現状こそが、クーが勝算を見出して賭けに臨んだ理由でもあった。
ブーン達やショボンもこの異変に気付いているのなら、恐らく彼らも襲われているだろう。

その彼らや自分達を狙った人面樹達が、生い茂った獣道から逆に中央の湖畔沿いへと移動してきていると踏んだのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「これなら、行けるかも!」

小枝や身の丈ほどの葉っぱを手で払いのけながら、山林を奥へと進む。

ざわざわと木の葉を揺らしながら追走してくる気配は、すでに幾つもある。
それでも恐怖を押し殺しながら、ただ見えかけた光明を手繰り寄せるべく、前へ、前へと進む。

从;'ー'从「はぁっ……ふぅっ……!」

ξ;-⊿-)ξ「振り返りたくないわね……」

901 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 05:55:11 ID:zNpDrQAU0
おお久しぶりだね
支援支援

902 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 06:22:01 ID:fyiiO8eo0

段々と足場が悪く、木や葉に邪魔されて道が険しくなってきた。
自分達を追う人面樹達との距離も、次第に狭まりつつある。

思うように身動きが取れない険しい道を、じたばたと身を捩じらせながらどうにか進んでいく。
そのワタナベとツンの焦燥が、限界近くにまで達した時だった。

川;゚ -゚)「────先に、行け」

一度立ち止まったクーが、ツンとワタナベに告げる。
その彼女へ振り返った方には、ぎょろりとした人の目玉のような眼が窪みに収まった人面樹が、すぐ背後にまで迫る。

ξ;゚⊿゚)ξ「クー!?どうする気よっ」

川;゚ -゚)「少しだけ時間を稼ぐ。お前達は気にせず先へ進め!」

「ギチギチギチ」

威嚇するようなその怪音を意に解する事もなく、腰元の小剣をすら、と抜き出した。
そのまま人面樹へと立ちふさがり、力強く言い放った。

从;'ー'从「クーさん!?」

川;゚ -゚)「人里へと降りられる道を探すんだ!私も……すぐに行くさ!」

903 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 06:23:20 ID:fyiiO8eo0

クーがその言葉を最後まで言い終えるよりも早く、人面樹が無造作に伸ばしてきた腕。
それを掻い潜ると同時に、指の役割を果たしているであろう先端から枝分かれした小枝の数本へと剣を振るった。

「… ギアァァァッ …」

川#゚ -゚)「…・…せぇぇぇッ!」

切り落とされた小枝からは、血のように赤黒い樹液が噴き出させた。
その痛みと怒りに任せてか、人面樹が反射的に逆の太い腕を振るうも、すでにその場にクーの姿は無い。

果敢に化け物の懐へと踏み込みながら、胴体である幹へと勢いのままに剣を突きたてた。
その一連の動きは、まるで流水のようにしなやかでそれでいて、無駄の無い洗練された剣技だった。

「… !?ブギイィィィィ …」

从;'ー'从「……クーさん、すごい!」

そうして勇猛な彼女の姿をぼうっと見ていたワタナベの腕が、ツンによって引っつかまれた。
一瞬呆気に取られていた彼女だが、クーの背中に一瞥してから、また走りだす。

ξ;゚⊿゚)ξ「行くわよ、クーが時間を稼いでくれてる間に、アタシ達が突破口を見つけなくちゃ!」

从;'ー'从「は、はいッ!」

904 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 06:24:22 ID:fyiiO8eo0

「… ヴァアァァァァァッ! …」

川;゚ -゚)(チッ……もう限界か)

やはりこの剣だけで、そう簡単に倒せるような相手ではないらしい。

幾度か剣で斬り浴びせた後、怒りを露にする人面樹の後ろに、更に2〜3体の姿が見えた。
クーは小さく舌打ちしてから剣を素早く鞘へと収めると、殿を務めながらすぐにツン達を追う。

すると先頭で、何かに気付いたワタナベが悲痛な面持ちを浮かべ、精一杯の声量を搾り出しているのが映った。

从;ー 从「────だめ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「何かあったの!?」

川 ゚ -゚)「………?」

頭を抱えながら、ワタナベはとうとうその場にしゃがみこんでしまった。
ツンが声を掛けると、おずおずと腕を上げて、その方向を指差した。

木々を掻き分けて、ツンが覗き見た先──────

ξ;゚⊿゚)ξ「────そんな」

905 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 06:25:29 ID:fyiiO8eo0

視界を沢山の樹木や緑葉に遮られて、これまで気付くことが出来なかった。
彼女達の眼前には、切り立った断崖が憎らしいほど高くそびえ立っていたのだという事に。

この道から人里へと出るのは────不可能だという事だ。

川;゚ -゚)「くっ………待て!壁沿いを伝っていけば、まだ……」

事態に気付いたクーだったが、まだ諦めてはいなかった。
別の進路をたどればあるいは可能性も残っているはずだ、と。

生存への諦めに絶望した様子のワタナベの傍で、その彼女を奮い立たせようとするツン。
すぐ後ろには数体の人面樹達が迫っており、もはや一秒たりともまごまごしてなどいられぬ状況だ。

遅れてその場へたどり着いたクーが、二人へ声を掛けようとしたその時だった。

川; - )「なんッ─────」

906 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 06:42:52 ID:fyiiO8eo0

突如としてクーの脛から下の自由は奪われ、そのまま地面へと倒れ伏してしまった。
少しだけ遅れて、その箇所へは鋭い痛みが訪れた。

"がちゃん"

がっしりとかみ合わさったような金属音。
それが聞こえた足元へと、直ぐに視線を向けた。

川;゚ -゚)(な……トラバサミ……だとッ!?)

クーの足首へと錆びかけた歯をめり込ませ、完全に歩行の自由を奪っている。

それは、かつて狩猟などを生業とする者達にこの森で使われていたであろう、鉄のトラバサミ。
本来ならば肉食の獣へと仕掛ける罠であるそれが、運悪くこの場に取り残されてしまっていた。

それがクーの足首へと力強く噛みついたのだ。
目の前には断崖、背後からは化け物が迫ってきているという最悪の状況下で。

川;゚ -゚)「あ……くそッ、くそぉッ!」

大型の肉食獣用の罠なのか。
膝を畳んで引き寄せ、両手で口をこじ開けようと全力を込めるも、僅かに緩むばかりだ。
一刻を争う状況で、致命的なトラップに引っかかってしまったクーの顔が、苦痛や焦燥に歪む。

907 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 11:10:18 ID:OwcN4q3.O
おおおきてた
今から読む!
毎日確認しててよかた

908 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/03(木) 22:53:18 ID:QWrmaCosO
まさかの歩く木
なんかメルヘンだけど物性考えたら確かに怖いな

909 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/04(金) 00:10:41 ID:35fdUKP.O
創作板嘘予告スレの>>92って作者?

910 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/04(金) 08:29:46 ID:Yq/n.YWI0
>>909
なぜわかったしwww息抜き

911 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/06(日) 17:33:10 ID:U6FnUNlM0

──── …ギギィ… ――――

奇怪な影は、地を舐めるクーのすぐ傍にまで伸びて来ていた。
いくら力を込めようとも、女性の柔腕では到底こじ開けられるような物にないらしい。

ξ;゚⊿゚)ξ「クーッ!」

川; - )「あ……あぁ……」

うつ伏せで地面を殴りつけた後、力なく仰向けに寝転がるクー。

泡を食って自由を奪われたクーの元へとたどり着いたツンだが、彼女の足に食い込む罠を見て、血の気が引く。
食い込んだ場所からは衣服に薄ら血が滲んでおり、立ち上がるのさえ困難な状況なのだと、解ってしまった。

川; - )「まさか……こんな所で、とはな」

これまで道を指し示してくれていたクーが、初めて諦めにも似た言葉を口にした。

ξ;゚⊿゚)ξ「大丈夫よ!背負ってあげるから、早くこの場所から───」

川; - )「私がこの足ではもう───無理だ」

ξ;゚⊿゚)ξ「何言ってんの!肩を貸すだけでも、まだ───」

川; - )「……お前達だけでも、逃げろ」

912 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/06(日) 17:34:03 ID:U6FnUNlM0

そのクーを必死に鼓舞するツンの言葉も、届かない。
この一刻一秒を争う事態の中で歩行不能に陥った事実は、既に彼女に絶望を認識させていた。

川; - )「いい、戻れ……どうにか、さっきの場所まで」

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン達だってまだ無事かも知れないんだから、皆と合流すればなんとか───」

川#゚ -゚)「───うるさいッ!!解れ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……ッ」

問答をしている余裕など無いのだ。
この一言で、クーの言わんとしている事をツンは理解しただろう。

『仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ』

先ほどツンに告げた言葉、その状況こそが、"今"なのだ。
このまま全滅するくらいならば、一人だけでも逃げ延びる事が出来れば、きっとそれこそが上策だ。

まさか、自分がこんな立場になってみるなどとは思いもしなかったが────

川 - )「………行け、あいつらと」

913 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/06(日) 17:34:46 ID:U6FnUNlM0
自分はこの身動きのままならぬ状況で、生きたままあの人面樹達に食われるのであろうか。
身体全体に微かな震えが来たが、それが大きくなってツンに悟られる前にと自分を見捨てるよう促した。

ξ ⊿ )ξ「――――解ったわ」

川 - )「………」

すっくと静かに立ち上がったツンの姿は、すぐにクーの視界から消えた。

そう、それでいい。

己の生死が懸かった状況だというにも関わらず、あまりにも冷静な指示を下せた自分に、少しばかり驚きだ。

思い返してみれば、自分の人生はいつも誰かに置いてけぼりにされてばかりだった。
たとえそんな事ばかりでも、女だてらに周囲の男に負けないぐらい一人でも強く生きてやろうと思った。

父や母の死───あれからが自分の不運の始まりだったのだろうか。
悲哀に打ちひしがれていた自分に手を差し伸べ、再び生きる力を与えてくれた"彼"も、いつか自分の元を去った。

いつもたった一人。孤独という名の暗い牢獄へと、囲繞されていたのだ。
この不運はもしかすると、自分がこの世に生まれ落ちた時から、既に約束されていたのだろうか。

914 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/06(日) 17:35:13 ID:U6FnUNlM0

──── … ギギッ ギィィッ … ────

化け物の声が、さらに近くに聞こえる。
それと同時に、これまで強い自分を保ってきたクーの心の外殻は、剥がれ落ちようとしていた。

川; - )「……はぁッ、はぁ……」

呼吸は上ずり、次第に周囲の音もぼぅ、と遠くに聞こえる。
これから訪れる死の恐怖を遮断する為に、五感が鈍くなってでもいるのだろうか。

もう目も開けていたくなかったから、思わず顔を塞ごうとした時だった。
ふと─────足元でもぞもぞと違和感を覚え、飛び上がるように身を起こす。


川;゚ -゚)(────なんッ)


「動かないでッ!!」

915 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/06(日) 17:36:21 ID:U6FnUNlM0

川;゚ -゚)「………お前、どうして………」

クーの脚にがっしりと食い込んだトラバサミ。
その口をこじ開けようと、真っ赤な顔で立ち膝しているツンの姿が、そこにはあった。

小鼻を膨らせながら一心に全力を込めているその指先からは、既に手首を伝う程に血が滲んでいた。
修道服の袖を紅に染めながらも、それでもその手を緩めようとはしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私が神に仕える信徒であろうが、今はそんな事はどうでもいいわ……」

川;゚ -゚)「馬鹿者め、早く逃げるんだ!」

困惑するクーの視界に、いよいよ三体ほどの人面樹の姿が見えた。
だが、ツンはそちらには目もくれず、クーの脚にかかるトラップを解こうとしている。

事の次第に気づいた彼女達の前方に座り込むワタナベも、ようやく正気に立ち返り叫んだ。

从;'ー'从「あ……ツンさん! 後ろ、逃げて下さぁいッ!!」

その言葉にも、ツンが動じる様子はなかった。
ただがむしゃらに、自身の指に食い込む鋭利な鉄の痛みに時折顔をしかめながらも、その場を動こうとしない。

ξ;゚⊿゚)ξ「私の目の前で助けられるかも知れない人をよ……」

川;゚ -゚)「もう……いい」

ξ;゚⊿゚)ξ「ふぅッ……この私が、諦められる訳……ないじゃない!」

916 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/08(火) 19:40:22 ID:RnAnUHvsO
待機中

917 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/14(月) 16:26:16 ID:S6PDxH6cO
そろそろ次スレいる時期だな

918 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/15(火) 21:17:11 ID:FzNiYzXY0

川; - )「どうしてッ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「………今は聖職者だからとか関係ない。そんなの、"アタシがイヤだから"ッ!」

川;゚ -゚)「────!」

有無を言わさぬツンの剣幕に、さしものクーも一瞬たじろいだ。

伊達や酔狂で出来る事ではないのだ、ましてやこんな場面で。
拾えるかも知れない自分の命を、他人の命を救うために投げ出す事など。

ツンの、決して諦めようとしない姿に。
クーはこの時、心を揺さぶられる何かを感じていた。

川;゚ -゚)「その手……」

ξ;-⊿-)ξ「いっ、つつ……」

痛みに一瞬手を離したツンの手のひらを見て、制止しようとするクーの言葉が詰まった。
尖った部分に構わずに指を掛け力を込めていた為か、手のひらはもはや血だらけだ。

それでも再度、閉じた口を両手でがっしと握り締め、諦めるつもりなどないとばかりに、叫ぶ。

919 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/15(火) 21:17:45 ID:FzNiYzXY0

ξ;゚⊿゚)ξ「─────ワタナベちゃん!お願い、手を貸して!」

だが、もはやツン達の背後に迫る人面樹に恐れをなしたワタナベは、その場から尻餅をついたまま動けない。
半開きに開いた口はカラカラに乾き、ワタナベはただただ救いを口にする事しか出来ずにいた。

从;'ー'从「あ………あ……神、様……」

──── … ウェハハ、ギチギチ … ────

ξ#゚⊿゚)ξ「ふんぬッ!ふんっ!」

川;゚ -゚)「もう……いいんだ」

ξ# ⊿ )ξ「くっ……!」

川;゚ -゚)「私を見捨てて──────お前達だけでも、逃げてくれ」

ξ; ⊿ )ξ「………聞こえない、わよ」

川;゚ー゚)「”ありがとう”………な」

ξ;⊿ )ξ「そんな言葉……聞きたくない」

920 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/15(火) 21:18:23 ID:FzNiYzXY0

    … グフフフフフフ …
            … ギヒヒ …

       … チキチキチキチキ …

静かな木々のざわめきに入り混じって聞こえる、あざ笑う声。
ツンの背後に、もはや悪夢は覆いかぶさろうとしていた。

ξ;⊿ )ξ「……………なんなのよ、もう」

必死に誰かを救おうとする彼女の心にも、とうとう影が落ちようとしている。
諦めようとしている────心が折れ掛けてしまっていた。

ξ;⊿ )ξ「女の子ほっぽり出して、一体どこをほっつき歩いてるんだっつーの……」

しかし脳裏には、あの能天気な面々の顔が一瞬過ぎる。
これが走馬灯というものだとすれば、憎たらしい事この上の無い最期だ。

だから、こんな形での旅の終わりは絶対に認めない。

諦めを認識しそうになった間際、ツンは半ば無意識に、最後の望みを託してその名を口にした。
喉の奥が震えて、そこから血を吐き出しそうになるほどの大声量で。

ξ; ⊿ )ξ「─────ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーンッ!!」

そのツンの叫びにかぶさって、どこかから声が聞こえた気がした。

921 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/15(火) 21:18:52 ID:FzNiYzXY0

───( 我が前に立ち塞がる敵 其はその一切を 業火の元に滅せよ)───

ツンの背後に迫った人面樹の一体が、ギリギリと幹をしならせて腕を大きく振りかぶる。
直後、それを彼女の頭部へと叩きつけようと、狙いを済まして振り下ろそうとした、瞬間だった。

…… ギチギ……ブッグゥ ……

突如、人面樹の胴体部分の幹が、中心部分から丸々と赤みを帯びてゆく。

ξ゚⊿゚)ξ「─────!」

川 ゚ -゚)「………これは!」

─────────「【炎の玉】!」

”どむっ”

瞬間、辺りを赤い閃光が照らした。

胴体部分が紅蓮の赤熱を帯びたのが見えたかと思えば、即座にその身が爆散していた。
遅れて吹き荒れる熱風はツンやクーらの衣服をはためかせ、やがて過ぎ去る。

ξ;-⊿-)ξ「きゃっ!」

川; - )「なっ……!」

922 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/15(火) 21:19:33 ID:FzNiYzXY0

気がつけば今度は、上空へと吹き飛ばされた燃え盛る粉々の木片。
それらがぼとぼとと周囲へ飛散し、ツンとクーは腕を頭上に交差させて身を庇う中で─────

悠々とこちらへ向けて歩を進めてくる──────それは、見慣れた男の一人だった。

「どうやら、ご指名は僕ではなかったか……悪い事をしたね」

ξ゚⊿゚)ξ「………あ」

(´・ω・`)「遅くなって、すまない」

今ではただの木っ端と化してしまった人面樹の背後から現れたのは、頼れる魔術師。
かざしていた手を下ろすと、悪戯っぽく口元で微笑んだ彼の姿に、ツンは思わずにやけて言葉を返した。

ξ゚ー゚)ξ「えぇ、随分待たせたものね?」

川;゚ -゚)「油断するな、まだ───!」

(´・ω・`)「解ってるさ。だが、後はお手並み拝見といこうか」

ショボンの左右に居た人面樹が、一斉にそちらへ振り返った瞬間だった。
林の中を素早く疾駆する"何か"が、急速にこの場へと近づいて来る。

それは、獣のような咆哮を上げながら。

923 以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします :2011/11/15(火) 21:19:59 ID:FzNiYzXY0

「─────お