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おもらし千夜一夜4

1 名無しさんのおもらし :2014/03/10(月) 00:57:23
前スレ
おもらし千夜一夜3
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/2469/1297693920/

593 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。-EX- :2018/03/19(月) 00:08:45
**********

「そんじゃーねー」

私は携帯を切る。
机に両手をついて大きく嘆息する――き、緊張した……。

自身の失敗を話すことも、そういう話が好きと言う事も始めて話した。
緊張を悟られなかったか、明るく振舞えてたかのかどうか――

「電話終わったー?」
「っ!!!」

背後から聞こえる声に驚く。
恐る恐る振り返った先には髪の毛にリボンを大量につけた友人がいて……。

「す、紗……ど、どこから聞いてたの……」

「えっとねー、『確か同じクラスだったよね?』ってところからだったかなー?」

「最初からじゃん!」

あぁ、死にたい!

「気にしないでよー、私もそういう話嫌いじゃないしー」

「うー……それより、何か用事でしょ……」

話を続けてほしくなくて、本題を催促する。
彼女は悪戯っぽい表情をやめて、明るい顔で口を開く。

「うん、再来週に文化祭する高校があってねー、そこ行こうかと思ってるんだけどー」

――再来週? 確か真弓ちゃんもそんなこと言ってたような?

「それって、駅近くにある女子校の?」

「そそ、よくわかったねー。
それで、どうするー? 一緒に行くー?」

リボンだらけの長い黒髪を揺らしながら私を誘うその姿は……いつもながらちょっと怖い。
さらに言えば弱みを握られた直後でもあるわけで。

「う、うん、行こうか」

「やったー。逢いたい人がいたんだけど、一人じゃ逢えなかったときとか忙しかったりしたら暇だったからねー」

――紗の会いたい人か……。

「会いたい人ってどんな人?」

「んとねー、中学の時変な感じで別れちゃった大事な人で、綺麗な銀髪の子だよー」

彼女に大事な人と言わせるとはその銀髪の子相当好かれているらしい。
私とそれなりに仲良くしているが恐らく彼女の中で私は「んー知り合いかなー?」と評価が下りそうだし……それはそれで聞きたくないから聞かないけど。
別にその銀髪の子が羨ましいとは思わないし――というよりむしろ可哀想な気もするけど。

「あ、英子ちゃんもほんの少しは大事かも? って言えるくらい大事だからねー」
「聞いてませんけどっ! (それに全然フォローできてないじゃん……)」

「え? なんだってー?」
「ワザとらしい難聴! 絶対聞こえてたやつじゃん!」

おわり

594 「白鞘 英子」 :2018/03/19(月) 00:11:21
★白鞘 英子(しらさや えいこ)
朝見呉葉と同じ女子中学だった生徒。
今は別の高校へ進学している。
高校には紗という友達(?)がいる。

中学でのおもらし事件の犯人とされた人物。
実際は冤罪なのだが事件当日は事件とは別の自身のおもらしの物証(濡らした下着)を持っていたため
持ち物検査を恐れ、強く否定することが出来なかった。
後日何度か釈明をしてはいたが探偵役が既に満足してしまっていたため
クラスでの印象を覆すことが出来なかった。
その後はおもらしについて弄られる事がそこまでなく、自ら事件に触れることは避けることにした。
また真犯人からの謝罪文も冤罪を甘んじて受け入れる理由となった。
ただ、納得が言ったわけではなく事件について考える事も多くその過程で
次第に“事件”についてではなく“おもらし”へと興味がすり替わる。
いつの間にか、そういう話に興味のある子となる。

同じタイミングでおもらしした真犯人に対して妙な親近感を持ち、仲間意識を感じていた。
自身の失敗を知らない真犯人に、自分の失敗を打ち明けられる日を心のどこかで待ち望んでいた。
それは、真犯人に対する思いやりでもあるが、多くは自分のため。
言ってはいけないはずの事を、言ってしまいたい衝動をぶつけられる相手が真犯人だったためである。

膀胱容量は人並み。
事件の日は休み時間に飲み物を取り過ぎたのと、前の休み時間に済ませられなかった事が祟った。
友達間でのトイレ申告に当時はそこまで抵抗を感じていなかったが、授業中の申告(特に終了間際)は恥ずかしかった。
事件以降は友達間でも言いづらく、さらにおもらしに興味を持ったことでより強く意識してしまっているが、後者に関しては自覚していない。

今も昔も成績並以下、運動並。
身長は低め。
割と元気が良いほうだが、中学時代は事件後はしばらく意識的に目立たないようにしていた。
強がりな一面もあり、なるべく弱いところは見せないようにしている。
おもらしへの興味は話を聞いてるとドキドキする程度で、わざと我慢させたり、また我慢したりの経験はない。

呉葉の評価ではとても負い目がある人。
おもらしの濡れ衣を着せてしまって、面と向かって謝ることが出来なかっただけでなく
おもらしへの興味を持たせてしまった。
だけど、非常に感謝していて、とても良い人だと再認識した人。

595 名無しさんのおもらし :2018/03/19(月) 01:12:31
更新待ちに待ってました。
結果的どちらも漏らしてたのか、綺麗な銀髪の子は間違いなくあの子だよね。

596 名無しさんのおもらし :2018/03/21(水) 00:44:12
GJJJ

597 名無しさんのおもらし :2018/03/21(水) 13:27:53
トイレに行くのを恥ずかしがる女の子はかわいい

598 名無しさんのおもらし :2018/03/21(水) 22:35:13
>>594 詳細が気になってたらまさかの詳細が来て最高でした。

599 名無しさんのおもらし :2018/03/22(木) 23:56:04
更新ありがとうございます。

見学会の件はあるけど、朝見さんは大抵まゆに邪魔されてる気がする。
中学時代の評価では"正義の味方"だったってところが、高校現在とのギャップを感じて面白い所ですね。
また過去に関係しそうなキャラも増えて、今後の展開が楽しみです。

600 名無しさんのおもらし :2018/03/30(金) 12:44:28
>>599
見学会の一件も、ある意味まゆは呉葉の邪魔をしていると言える。
流れ弾に当たった(無自覚に当たりにいってしまった)、被害者的な側面が強いけど…。

そういえば、関係ないけど、鈴葉の年齢設定ってミスなんだろうか。
一応20代ってことになってるけど、雪や梅雨子と同級生なんだよね。
それなら年齢は19なのでは?

601 名無しさんのおもらし :2018/04/02(月) 22:08:44
>>600
雛倉姉と鈴葉 (と黒蜜姉) が同級生 (同い年) で、雛倉姉が大学1年 (雛倉姉妹が3学年差) とされているので、一般的には18か19みたいですね。
単なるミスなのか、何か訳ありなんでしょうか。

602 事例の人 :2018/04/03(火) 23:38:57
>>600-601
はい……ミスです、早々に気が付いていて「だ、大丈夫、気が付いてる人いないな」とか思ってました
ごめんなさいと同時に確り読んでくれてて感謝しかないです
正しくは19歳設定です 数え年なんだからね!とか言い訳しないです
ご指摘ありがとうございます

603 「声が聞きたい!」シリーズまとめ :2018/04/14(土) 22:26:30
>>12:前スレ「声が聞きたい!」シリーズまとめ
前スレ:http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/2469/1297693920/

>>4-8:事例EX「雛倉 雪」と真夜中の公園。
>>16-28:事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。前編
>>36-49:事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。後編
>>60-65:追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜
>>73-77:事例2.1「篠坂 弥生」と七夕。@弥生
>>84-91:事例7「睦谷 姫香」と図書室。
>>156-162:事例8「雛倉 綾菜」と病気の日。
>>188-196:事例8裏「篠坂 弥生」と断水の日。@弥生 前編
>>221-228:事例8裏「篠坂 弥生」と断水の日。@弥生 後編
>>272-285:事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。
>>286:事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。EX
>>293-307:事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉
>>326-337:事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜
>>338-339:事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。EX
>>354-370:事例10「宝月 水無子」と休日。
>>389-408:事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。
>>409:事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。EX
>>418-427:追憶4「雛倉 綾菜」と手紙。
>>446-457:事例6裏「山寺 瞳」と友達。@瞳
>>458:事例6裏「山寺 瞳」と友達。EX
>>522-531:事例12「根元 瑞希」と雨の日。
>>559-567: 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。
>>568: 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。EX
>>574-592:追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。
>>593:追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。EX

「声が聞きたい!」シリーズ・登場人物紹介安価
>>50「紅瀬 椛」(副会長、3年生) ※一部訂正>>54
>>92「睦谷 姫香」(別クラスで図書委員)
>>308「朝見 呉葉」(同級生、天敵)
>>371「宝月 水無子」 (小学5年生)
>>372「如月 櫻香」(メイド)
>>410「卯柳 蓮乃」(別クラスで放送委員)
>>427「字廻 紫萌」(入院中に出会った少女)
>>531「根元 瑞希」(同級生、仲が良かった友達)
>>594「白鞘 英子」(別の高校生、呉葉と同級生だった)

604 名無しさんのおもらし :2018/04/16(月) 15:23:28
まとめ乙です。

605 名無しさんのおもらし :2018/07/27(金) 03:10:22
事例のやつ長いしピクシブとかでやってくんねえかな

606 名無しさんのおもらし :2018/07/28(土) 21:41:28
昔の方の挿絵とか見れなくなってるしまたまとめてあげてほしい

607 名無しさんのおもらし :2018/09/04(火) 19:09:25
新作希望

608 事例の人 :2018/09/29(土) 23:22:46
>>595
間違いなくあの子ですね。水無子ちゃん(違う)

>>598
文化祭に出番があるかも程度の微妙な読み切りキャラに近い子なので。
このタイミングしかなかったですね。

>>559-600
言われてみれば……。
でも呉葉は性格からして他の人と話したり遭遇した時点でトイレを邪魔された扱いになってしまうのですけどね。
偶然を除いてもコミュ力が高いまゆが呉葉にとって強敵であることには変わりないでしょうけど。

>>605
ごめんなさい! ここでの活動は皆が読める場所でこの界隈を盛り上げられたらと考えてるので。
スレ事態は私のせいか時代のせいかわかりませんが過疎の流れになっちゃったので……盛り下げてるのかもですね。

>>606
考えておきます……今の絵も割と恥ずかしいレベルなので過去絵とかかなり勇気がいるのです。

感想とかありがとうございます。

また随分間が空きましたが、>>573で言った通り事例14を飛ばして事例15になります。
登場人物が多く、情報量も多く、話が長く(事例5に次いで長い?)
ヒロインの本格的な我慢が中盤くらいからとなりますが……許して。
次回は文化祭初日(予定)、今回の話に出てくる過去は我慢だけですので書かない予定となります。

609 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。1 :2018/09/29(土) 23:24:50
「うちのクラスはメイドアンド男装執事喫茶かー」

まゆが腕を伸ばし背伸びをしながら言葉を漏らす。
酷い喫茶店……一年からするレベルのものじゃないと思う。

此処の文化祭は一年だけがある程度出し物を制限される仕組みになっていて
教室系の出し物、舞台出し物、出店系ではない教室で行う飲食系の3種類から選ばなければならない。
当然、出し物には人気不人気があるので平和的解決の為に優先的に選べる権利というものがあって
クラス代表、つまりクラス委員長がその権利を掛けてじゃんけんをすることになっている。
正直に言えば舞台とかは勘弁願いたかったので、勝ちたいという気持ちでじゃんけんに挑んだ結果、意図せず『聞こえた』わけで。

――……『聞こえた』んだから、まぁそりゃ勝ちに行くけど。……だけど――

「……ただの喫茶店のはずが…主にまゆと檜山さんのせいでメイド喫茶に……」

ちなみに男装執事を付け加えたのは文城先生で、一部の声の大きい数名がそれに賛同して決定してしまった。

「やっぱ、あやりんはメイド? あーでも、銀髪長髪の執事も似合いそうな気がするねぇ」

「両方着ましょう! 両方見たいです!」

正直どっちも嫌だ。そういう趣味はない。
出来れば裏でコーヒーとか軽食用意とかしていたい。
……でもそれじゃ良い『声』で入店してくる人が無理してコーヒー飲んで友達と会話……みたいな尊い姿は拝めないないわけだけど。

「まぁ、とりあえず始めない? 飲み比べてって言われただけあって、結構種類あるみたいだし、ゆっくりしてたら終わんないよ」

そう口にしたのは調理室の椅子に真っ先に座った瑞希。
まゆはその言葉に「そだねー」と同調した様子で椅子に座り、弥生ちゃんも続くように座る。

610 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。2 :2018/09/29(土) 23:25:47
今日は文化祭前準備。5時限目と6時限目の両方と放課後を使って、軽食班、衣装班、コーヒー班に分かれて準備をしているのだけど
調理室を確保できたのは良いが、肝心の軽食班は材料費の下調べとかで今日は間に合いそうにない。
教室には衣装班がいるし、コーヒーの匂いが他のクラスに迷惑になる可能性もある。
そういう経緯で、コーヒー班だけで調理室を使うことになった。

そのコーヒー班が私、まゆ、瑞希、弥生ちゃん、檜山さんというわけ。
ただ、檜山さんはいくつかのブレンドパターンを用意しただけで、兼任してる軽食班の方へ行ってしまったわけだけど。
少し驚いたのは檜山さんのブレンドに関する知識で、話を聞く限り親戚が喫茶店をしているらしく、その関係で色々覚えたそうだ。
コーヒー豆もその親戚から貰ったらしい。

……。

――はぁ……それにしても――

「……みんな席に着いてるけど……何、私が淹れるの?」

「そだよー」「はい、お願いしまーす」「綾以外みんな座ってるしね」

満場一致らしい……。
私は嘆息しながらコーヒーを淹れる準備をする。

「えっと、根元さんって雛さんと仲良かったんですね?」

「え? うーん、中学一緒だったけど、最近までは微妙な関係だったかな?
あ、それと瑞希でいいよ、私も弥生ちゃんって呼ぶけどいいかな?」

思えば、今日はいつものメンバーに瑞希が加わっている状態で
今まで接点のなかった瑞希の事を弥生ちゃんが気になるのは至極当然な事。
それにしても、私を抜きに私の話を……。

「昔は元気いっぱいの綾だったんだけど――」
「っ! ちょっと瑞希、勝手にそんな…別に言っちゃだめなわけじゃないけど……」

隠す必要もないが、過去の自分の事を友達とは言え他人に話されるのは
恥ずかしいというか、なんというか――とにかく、居たたまれない。
……こういう空気の読めなささが瑞希らしくはあるのだけど。

「なんですかそれ! 初耳です!」

早速食いつく弥生ちゃん。
まゆも少し興味ありげにこっちを見てるし……。

――……瑞希に任せるのもやだし……仕方ないか……。

私は嘆息して、瑞希に不平の目を向けてから昔の自身の性格を渋々話始めた。

611 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。3 :2018/09/29(土) 23:26:40
――
 ――

「……はい、とりあえず最初のコーヒー二つと、口直しにお湯も」

気怠い過去話――――瑞希は不満に思っているかもだが紗の事は伏せて――――を終えて、その間に作っていたコーヒーを皆に渡す。
檜山さんの指示に従ってカッピングではなく普通に飲み比べ。とりあえず美味しいのを選べとの事。
ただ普通に淹れるだけでも分量を正確にしたりしないと飲み比べにならないので、割と面倒な作業ではある。

――……まぁ、コーヒーだしそれなりに期待してるわけだけど……。

飲み比べる数が14種類あるので、一杯の量は一人60ml程度と少な目。
それでもコーヒーだけでも840ml、お湯での口直しを含めれば1リットルを超えるかもしれない量。
飲む量も多く、飲む物もコーヒーで――期待出来る……もちろん観察者的な意味で。コーヒー班になって良かった。

「はー、雛さんって昔はそんな活発だったんですねー」

弥生ちゃんはコーヒーに砂糖とミルクを入れてかき混ぜてはいるが、まだ私の過去に意識が向いているらしい。
過去の私についてどう思っているのかよくわからないが、とりあえず今の私を見れば“意外”という印象は当然持っているとは思う。

「……もういいから、飲んで飲んで」

ちなみに、私とまゆはブラックで、瑞希と弥生ちゃんは砂糖ミルクありでの飲み比べ。
口に含み香りや味を確認して――

「ねぇ、これ……評価とか難しくない?」

2種類のコーヒーを飲み比べた瑞希の感想。
私も両方を飲み終えて嘆息してから口を開く。

「……うん、難しいかも」

香りや味の違いは分かるには分かるが……評価と言われるとよくわからないというのが本音。

「まぁ、つくしちゃんもそこまで正確な評価を求めてないっしょ?
美味しいのって言ってたし、飲みやすそう――みたいな直感で選ぶくらいでいいんじゃない?」

まゆの言う通りかもしれない。
檜山さん――――まゆは下の名前のつくしにちゃん付け、弥生ちゃん同様りん付けは合わないとのこと――――が私たちに求めているのは
きっと一般的な目線での評価。お客となる人のほとんどが同世代の人なのだから、私たちの直感的な評価を欲しているのだと思う。

飲み始めてから評価方法を改めて話し合い、相談して美味しさを決めるのは難しいとの結論になり
個々で5点満点で評価して、最後に集計して決める形になった。

612 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。4 :2018/09/29(土) 23:27:32
――
 ――

「うーむ、美味しい…のかな?」『うー、トイレ行きたいなぁ、どうしよう……』

「えっと……――点っと、こっちは……」『はぁ……ちょっとしたくなっちゃった』

――うん、予想通り来た……。

瑞希と弥生ちゃんの『声』が聞こえて来たのは2回目の試飲の時。
私が尿意を感じたタイミングでの『声』。決して大きい『声』ではないが確かに聞こえる。
私は無表情でコーヒーの味を確かめながらも、期待に胸を躍らせる。

――……弥生ちゃんは私と同時くらいで、瑞希は少し前から催してる感じかな?

今は調理室に来て、最初の飲み始めから30分弱と言ったところで、普段ならもうすぐ5時限目が終わるくらいの時間。
コーヒーの効果は多少あるかも知れないが、時間的に見てもまだ早い。今の『声』は昼休みに取った水分がもたらした結果――と言っていいと思う。
弥生ちゃんは昼休みが始まってすぐと終わる少し前に、瑞希は確か昼休みの中頃に、私とまゆは弥生ちゃんと一緒に昼休みが始まってすぐに済ませた。
昼休みに取った水分量は私とまゆが300mlのお茶を、弥生ちゃんは180mlの紙パック。瑞希については把握できていないが恐らく多くはないと思う。
それでも私も含め此処にいる全員が150〜300mlくらいの熱水を下腹部に抱えてるはず。

私はコーヒーを飲みながらまゆに視線を向ける。
まゆの『声』とは相性が悪く、聞こえ難いのは確かだと思うけど、今は尿意なんて感じていないと思う。
私と一緒に済ませ同じ量を飲んだ以上、この先も同じように飲み進めれば殆ど同じ量が溜まることになるのだけど……
まゆの『声』が聞き取れる頃には私が結構辛くなってくるはずで……それほどまでにまゆは我慢できてしまう。

私はメモ用紙にコーヒーの評価を付ける。
さり気無く周りを見渡すと皆ももうすぐ評価し終わりそうに見える。
誰かがトイレに抜け出す前に次の準備を始めようと腰を浮かせ――

613 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。5 :2018/09/29(土) 23:28:28
「あ、雛さん…私、えっとお手洗いに……」『行っておいた方が……いいよね?』

……。

「……うん、淹れる準備だけしておくから――」
「だ、だったら、私も行こうかな?」『はぁ、よかったー、この前の事もあったしちょっと言い出すのやだったけど、便乗って形なら……』

二人が席を立ち、調理室を出てトイレに向かってしまう。
弥生ちゃんが余り話したことのない瑞希がいるにも関わらず、割と安全圏の内にトイレを申告してしまうとは……。
トイレに立ち難いような行動をしようとは思っていたが、少し想定外。
瑞希が便乗する形で抜けてしまうのは想定してたけど。

そもそも瑞希は“この前の事”がなくてもきっと自分からは言い出せない。
何も言わずトイレに行くことは出来ても、こういう申告が必要な場では躊躇してしまう、そういう性格だと私は認識してる。
思えば、中学の時も含め授業中に申し出たことは一度も無かったように思う。

……。

――……それにしても今日は……。

私は少し思うところがあり、まゆに視線を向ける。

「何、あやりん?」

「……え、いや……今日はちょっと静かだなーって」

だからどうというわけではないけど……。
まゆは私の言葉に少し驚いたように瞬きして、そのあと少し目を逸らす。

「んー、自覚してなかったけど……多分、みずりんが羨ましいのかな?」

みずりん……瑞希の事。
どの辺りに羨む要素があったのだろう?
聞いていいものか、まゆからの言葉を待つべきか……。

「どの辺りが羨ましいの? ――とか言わないでよ?」

……釘を刺されたので追及はやめた。

614 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。6 :2018/09/29(土) 23:29:19
――
 ――

「すいませんっ、ちょっとお手洗い……」『うー、沢山飲んでるからすぐしたくなるよっ』

「あ、だったら一応私もっ」『まだ余裕だけど……いや、でも何度も行くのも……でももう言っちゃったしな』

4回目の試飲を終えた頃、また瑞希と弥生ちゃんが一緒になってトイレに向かう。
瑞希の方は『声』でも言っていた通りまだ余裕はありそうだったが、タイミングを考えての行動。

――うーん、上手くいかないな……。

こうしてる間にも私自身の尿意が膨らんでいく。
尿意が高まれば我慢している『声』を敏感に聞き取れるが私が我慢できなくなったら元の子もない。
トイレはかなり遠いほうだと自負しているが、次、瑞希や弥生ちゃんが尿意を感じてから限界までとなると……私のほうが先に我慢できなくなるかもしれない。
そして私がそういう状態であるにも関わらず、テーブルを挟んで目の前に座るまゆの『声』は、未だ聞こえてこない……。

「ようやく半分過ぎってくらいかー、結構多いねー」

そのまゆの余裕さに嘆息したくなる。

……。

だけど、コーヒーがようやく半分過ぎ……というのは割と気にかかること。
私はそこそこ飲み慣れているので、それほど苦に感じてはいないが
4回目の試飲の時、瑞希は飽きて来たと言葉を零し、少し飲み難そうにしていたし
弥生ちゃんも飲むことを頑張ってる様な印象を受け、無理をして飲んでいると思う。
まゆは大丈夫そうに見えたけど、実際のところはわからない。

  「歌恋、良い香り、ここから……」
  「ちょっと白縫っ! あ、ほんとだ」

<ガラガラ>

廊下から二人の声が聞こえて来たと思ったら、調理室の扉が開く。
その音に、私とまゆは座った状態で扉の方に視線を向ける。

「お、真弓じゃーん、コーヒー?」

そう声に出してこちらに大きな歩幅で歩いてくるのは――星野 歌恋(ほしの かれん)さん……。
クラスが違うためあまり接点のない人だけど、体育祭の“あの時の言葉”が強く印象に残っている人。
それに――……真弓?

615 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。7 :2018/09/29(土) 23:30:18
「おー、かれりーん、クラス違うから最近話してなかったねー」

「そーいやそうか、てか、めっちゃいい匂いなんだけどっ!」

どうも知り合いらしい?
クラスが違う、最近話してなかった……そこから読み取れるのは、昔からの知り合い――いや、もう少し深い……幼馴染?

「歌恋、コーヒー貰おう」

星野さんから遅れて教室に入ってきたのは少し小柄な少女――確か名前は五条 白縫(ごじょう しらぬい)さん。
弥生ちゃんよりも背は少し高いが華奢という言葉が相応しい容姿。
それと急にコーヒーを要求し始めたり、感情の籠っていない喋り方が独特で……とりあえず変わった人であるのは確かだと思う。

「真弓ー、コーヒーくれる?」

「あー、どうしよっか?」

コーヒーを星野さんに要求されたまゆは言葉を濁しながら困った顔で私に視線を向ける。
私に判断を委ねるのか……評価を付ける必要があるのだから普通は断るところだけど――

「んー?」

まゆの視線を追うように私に視線を向ける星野さん。
真っすぐ見据える目に、私はどうして良いか分からず、黙って身構える。

「え、凄い! 銀髪じゃーん!」

――っ!!

突然目を輝かせ私に駆け寄り髪を触りだす。
私が彼女の勢いに気圧され、少し身を引くと髪は彼女の手から流れ落ちる。

「マジ凄い! 誰なのこの子!?」

「歌恋、無知、その人一匹狼の雛さん」

なんか急に話の中心が私に……しかも一匹狼の雛さんとか。
他のクラスではそっちの方が名前より浸透してるだろうけど……本人を目の前に臆面もなく呼んでくるとは……。

「一匹狼の雛さん? 変な名前、聞いたことないし」

「ぃやー、かれりん? ちゃんとした名前は雛倉綾菜だからね」

まゆのフォローに星野さんは「へー」とだけ言って、座っている私に再度視線を落とす。
おもしろおかしく広がった私の不名誉な呼び名を知らないのは割と珍しい人だと思う。
それと銀髪を見た時の反応も含めて考えると、今まで姿だけは無駄に目立つ私を見たことなかった――……いや、認識していなかったと言った方が良いかもしれない。

616 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。8 :2018/09/29(土) 23:31:35
「それで、綾菜はコーヒーくれないわけ?」

急な呼び捨てに一瞬面を食らう。
そして、コーヒー……どうすべきか一瞬悩むが――

「……えっと、それじゃ試飲と評価を付けるのを手伝うって形で――」
「おぉ、良いね、話しわかるじゃん!」

少しかぶせ気味に上機嫌な声を出す。
一部の評価が別の人になるのは正確なデータを取る上では好ましくないとは思うが
瑞希や弥生ちゃんの事を考えると少しでも試飲の回数を減らしておいてあげたい。
……沢山飲んで我慢して欲しいという想いもあるけど。
それに……それ以外にも理由がある。

「……それと、もうひとつ条件いいかな?」

「ん、なになにー?」

上機嫌に笑顔で私の言葉を待つ星野さん。
私は鞄の中から紙を取り出す。

「……これ、買ってほしい」

それは私たち喫茶店のコーヒー前売り券。
まゆは私の行動に笑いながら言葉を挟む。

「あやりん、それまだ持ってたんだー」

私は裏切り者に目を細めて向ける。
まゆは早々に別のクラスへ売りに行ってしまったし、弥生ちゃんも先生に売るために職員室へ。
コーヒー班のノルマ10枚は出遅れた私にはかなり重く、結局まだ5枚売れずに持っていた。

「ふーん、1枚で良いの?」

「……えっと、出来れば5枚で……」

まゆが笑いを堪えてる……。
図々しいとは思ってる。それでも、これを売るのは本当に面倒くさい、出来るならまとめて買ってもらいたい。
だけど、星野さんは難しい顔で……流石に5枚全部は厳しいのかもしれない。だったら1枚分私からのサービスって形なら――

617 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。9 :2018/09/29(土) 23:32:15
「ん、メイドアンド男装執事喫茶? ……これ、メイド服、綾菜も着るの?」

コーヒー券に書かれた喫茶店の名前を見たらしく尋ねてくる。
なぜ、私が着るかどうかなのかはよくわからないが。

「……え、多分……」

……。

なぜか観察するように椅子に座った私を上から下まで順番に視線を動かす……。

「歌恋、想像してる、気持ち悪い」
「ばっ! 〜〜〜っ わ、分かった買う、5枚とも買ってやろーじゃん!」

よくわらないが売れた。

「歌恋、メイド好きだか――」
「黙って白縫!」

――……私の――銀髪メイドが見たい……そういう事?

……。

「……そ、それじゃコーヒー準備するから」

何だか恥ずかしく、いたたまれないのでコーヒーを淹れるため席を立つ。
星野さん……話してみると少し印象とずれがあった。
傍若無人ではあるが割と接しやすい性格……私の事を知らないなど良くも悪くも噂には疎い。
周りに流されず、興味のあるものには真っすぐ……。

――……まぁ、傍若無人だからこその“あの言葉”だったんだろうけど……。

……星野さんにコーヒー券を買って貰えたのは良かった。
コーヒー券を売るのが面倒……もちろんそれが最大の理由ではあったが
買ったということは飲みに来てくれるわけで……流石に5杯を一人で一気に――ってことにはならないだろうけど
それでも、『声』を聞ける可能性が出来たのだから、チャンスがあれば……“あの言葉”を言った星野さんを――

考え事してコーヒーを淹れているとまゆと星野さんの会話が聞こえる。
星野さんは私の知らないまゆも知ってるみたいで……なんというか少し羨ま――……あれ?

……。

――……あー、うん…そっか、そういう事なのか……。

少し前のまゆの言葉の意味が分かり、今更ながら何だか嬉しくもあり恥ずかしい。
私は少し熱くなった顔を見られないように少し俯きながらコーヒーを皆に渡す。

「あやりんご苦労様ー」

そして、5回目の試飲を始めた。

618 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。10 :2018/09/29(土) 23:33:04
――
 ――

「おいしかったよー、またねー」「……」

コーヒーを飲み終わると二人は調理室を出ていく。
星野さんは元気よく、五条さんは会釈だけ……なんとも歪なコンビだった。
五条さんの感じからまゆたちと同じ中学出身というわけでもなさそうだし
星野さんとは高校に入ってから出来た関係みたいだし……。
だけど、そんなこと言いだしたら私とまゆも周りから見たら似たようなものかもしれない。

閉まった扉を眺めたまま考え事をしていると、すぐにその扉は再び開く。

「あのーただいま戻りました」

弥生ちゃんが扉を開けて入ってきて後ろには瑞希が廊下の方を見てから扉を閉める。

「今のって、隣のクラスの人だよね?」

当然の疑問。
私はまゆに視線を向けると、瑞希の問いかけにまゆが答える。

「なんか匂いを嗅ぎつけて来たみたいだから試飲を手伝ってもらってたんだよ」

瑞希は「へー」とだけ答えて椅子に座る。
気にはなるけど特に答えを聞いても感想があるようなものでもないらしい。
それより――

「……随分遅かったけど、どこか寄ってた?」

「あ、そうなんですよ! そこの一番近いお手洗いなんですけど――」

弥生ちゃんが少し膨れた顔で説明を始める。
話を整理すると、どうやらここから一番近いトイレに人が集まり写真を撮ったりメモを取ったり……
とてもトイレを利用できる雰囲気ではなかったらしい。
なのでそこのトイレを通り抜け、回り道をして別のトイレまで行くことにしたとのこと。
そのため、時間を要したというわけらしい。

「ふーん、お化け屋敷を作るための取材かなー?」

概ね私と同じ結論。
あまり人の来ないトイレで邪魔にならないように取材……そういう事だと思うがうちの学校のトイレに似せる必要がどこにあるのか。
それとも私が知らないだけでそこのトイレには何か噂でもあるのだろうか?

619 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。11 :2018/09/29(土) 23:33:55
――……まぁ、とりあえず、あのトイレが使えないわけか……。

自身の下腹部に意識を向ける。
6割……いや、もしかしたら7割……少し張ってきた様に感じる。
当然尿意も強くなり、じっとしているのは危なくなりつつある。
だから、あの場所のトイレが使えないと事前に聞けて良かった。
油断するつもりはないけど、誰かとトイレに行く際に焦って仕草なんて出してしまえば
我慢してることを悟られるわけで……それは恥ずかしい。
瑞希ほどではないけど、何食わぬ顔で普通にトイレで済ませたい。

「……それじゃ、次淹れるよ」

これ以上間を開けると、先が不安になるし、コーヒーを淹れる時に辛くなる……そう感じて準備を始めた。
私はもとより水などに反応してしまう体質なので、7割で準備というのもしたくないのが本音。
お湯の量を正しく測るために別の容器に移す作業なんて――

――っん……ほら、結構やばい……あぁ、というか思ってたよりずっと辛い……。
うぅ…トイレ……これ作って飲み終わったら流石にギブアップ……。

身体が水音に反応して尿意の波を引き起こす。
足踏みをしたくなるのを必死に抑えて、片方のつま先を床にぐりぐりと押し付ける。
位置的にテーブルで下半身は隠れているはずだし、その程度の動きなら不審に思われないはずだけど。
……見っとも無い。

得意のポーカーフェイスで全員分のコーヒーを準備して皆に渡して椅子に座る。
立っているときと比べて、座っているときのほうが落ち着く……。
それでも、コーヒーの効果や無理して仕草を抑えての我慢が効いたためか、かなり切迫したものになりつつある。

――……あぁ、本当トイレ……っ、我慢しすぎたかも……。

気が付かれないようにお尻をもぞもぞと動かし、椅子を使い押さえつける。
当然確り押さえられているわけではないわけで……少しじれったく感じてしまう。
……それはつまり、押さえたいくらいの我慢に近づきつつある……ということ。
ほんの少し前まで、尿意はあるが仕草に出るようなものじゃなかったし、他に気を取られることがあれば忘れられる程度のものだった。
今はもう、仕草を抑えるのが辛くなってきていて、改めて水分の過剰摂取とコーヒーの利尿作用の効果を身をもって体感する。

最後にトイレに行ってから2時間弱、飲み始めてからは1時間と20分くらい……。
数年前だけど確か雪姉は2時間くらいが飲み始めてから我慢の限界までの時間って『言ってた』。
私は雪姉より我慢強くないだろうし、容量に自信がそれなりにあると言っても我慢好きな雪姉ほどじゃない。
飲んでるペースは雪姉の最中と比べ早いペースではないのは確か。
だけど、これを飲み終わればお湯も含めて1リットル近い量を……昼休みに飲んだお茶を含めれば確実に超える計算になる。
それは私の貯めれる限界を多分超えてるわけで、限界まではやはり時間の問題。
そしてその限界まではそう長くはない。

620 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。12 :2018/09/29(土) 23:34:51
『ん……あー流石にトイレ行きたくなってきちゃったか……』

――っ! まゆの『声』!

学校で『声』を聞かせてくれるなんて滅多なことではありえない。
同じ条件の私がここまで我慢してようやく感じる尿意……普段聞けなくて当然。
普段聞けないからこそ聞けるだけでこんなにも高揚できる……能力を研ぎ澄まして確り『声』に意識を向ける。

『飲み終わったらトイレ……でも、あやりんもそろそろ行くよね? ちょっともじもじしてる気がするし……』

――〜〜〜っ!!? ふぇ! バ、バレてるっ! 嘘……周りから気が付かれるほど…いやいや、してないよね? ……え、してたの??

予想していなかったまゆの『声』での指摘に動揺しまくる。――待て待て……お、落ち着け私……。
とりあえず、仕草はもっと気を付ける。それと動揺を表に出さな――

「っ熱!」

「なにやってるのさ、あやりん」

「あ、いや……熱いのに口に、含み過ぎた……」

めっちゃ動揺隠せなかった。
瑞希も弥生ちゃんも笑って――……うぅ、恥ずかしい。

『やっぱ我慢してるのかな? 早く飲んで早く済ませに行きたい?
やーどうしよ、あやりんに長い音とか聞かれたくないし、だからって他の人と行っても私の長さがより目立っちゃうわけだし
後回しにするほど、誰かと一緒にって言うのは避けたくなるなぁ』

さっきの私の行動は我慢してるからって理由で納得――――それはそれで恥ずかしいけどっ! ――――してくれた。
そしてどうやら、いつも尿意を感じる前に済ませてるまゆにとって、今の段階で誰かとトイレというのはなるべく避けたい恥ずかしいことらしい。
見学会の時もそうだったが、排尿の長さや勢い、音……そう言ったところに何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。

――……それより、私が限界近いんだから……『声』は聞けなくなるけど、ちゃんと行かないと……。

正直物凄く名残惜しいが一度済ませないと仕方がない。まゆに我慢がバレている以上、これ以上の我慢は不自然に思われるし、普通に我慢できないし。
途中で止めるって言うのは……正直かなり苦手で出来れば避けたいし、これだけコーヒーを飲み続けているなら完全に済ませた方が良い気がする。

私はコーヒーを飲み終えてその評価を付ける。
そして小さく嘆息して手に持ったペンを置いて腰を上げる。

「……ごめん、今度は私がトイレ行ってくる」

「あ、私もいいですか?」『ちょっと早いけど……したくなって来ちゃった』

私の声に便乗してきたのはまゆでは無く弥生ちゃんだった。
さっき済ませたばかり……と言っても帰ってきてからもうすぐ10分、済ませてきてからの時間は12,3分前後と言ったところ。
コーヒーの利尿効果を考えれば分間10ml以上利尿されていてもおかしくない。
容量が小さく尿意を比較的早く感じ、さらに尿意を人一番心配している弥生ちゃんなら不思議なことじゃない。

621 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。13 :2018/09/29(土) 23:35:48
「いいよ、準備は私がしとくね」

「あいあい、いってらー」
『むー、二人に聞かれるのは……みずりんを一人にするのも悪いし、次の機会に……いや、一人になるまで我慢できないかな?』

調理室を出る際にまゆは少し興味深い事を『言って』くれる。

――……一人になるまでって、帰るまで我慢? 帰るまでって…今日いつ帰ることになる?

文化祭の準備は5時限目と6時限目だけじゃなく放課後もある。
確かに本来の下校時刻を過ぎれば放課後の準備は強制じゃないし
このままコーヒーの飲み比べだけなら6時限目終了と同時くらいに終わりそうなものだけど……。

……。

まゆの容量なら確かにあと1時間程度は余裕があるのかもしれない。
……帰るまで我慢……まゆがその選択をしてくれるなら最低でも良い『声』を聞けるのはほぼ間違いない。

「はー、あれだけ飲んじゃうと……かなり近くなっちゃいます」『はぁ、何度もお手洗い……ちょっと恥ずかしいけど、したいんだもん…仕方ないよね?』

弥生ちゃんは歩きながら私にそう言う。
何度もトイレに行くことを恥ずかしく思って、沢山飲んでるからって言い訳して
もちろんそれは正当な言い訳なのだけど――……可愛い。

そういう私もかなりの尿意を隠していて、それでも、歩くのには支障がない程度。
むしろこれくらいなら歩いている間は気が多少でも紛れて楽に感じる。

ようやくトイレが見えてくる。
一番近いトイレが使用出来なかったため随分歩いた気がする。
普段なら僅かな距離なのに、そう感じてしまうのは言い訳出来ないほど我慢しているから……。

トイレに入り、その独特の空気感に膀胱が主張を強める。
弥生ちゃんが先に個室に入り、私も二つ離れた個室に入る。

「っ……」

尿意の波に息を詰める。
片手で押さえて、鍵を閉めて、下着を下ろし、髪を抱え、スカートを掴んで――

<じゅううぅー――>

屈んだと同時に始まる――……大丈夫、下着に失敗はない。
そして忘れていた音消しに気が付き慌てて流し、少し遅い音消しをする。

「はぁ……っ」

安堵から溜め息が漏れ、もうひと息吐こうとして思いとどまる。
音消しの音が響く中とは言え、二つ隣りには弥生ちゃんがいる……。
出掛かった息を唾と一緒に飲み込み、静かに鼻から吐き出す。
ただでさえ、一回の音消しでは間に合わないのに、そんな息遣いまで聞かれたくはない。

622 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。14 :2018/09/29(土) 23:36:49
用を済ませ、小さく深呼吸してから個室から出ると弥生ちゃんが既に手をハンカチで拭いていて……・

「……お、お待たせ……」

弥生ちゃんが早いのは確かだけど、私が長かったのも事実。
微妙な表情で出迎える弥生ちゃん……私は視線を逸らして、少し顔が熱くなるのを感じる。
……まゆの気持ちが少しわかる気がする。

「雛さんもだけど……真弓さんって……お手洗い凄く遠いよね?」

トイレを後にして、しばらく歩いてから弥生ちゃんが尋ねる。
触れて来なくて胸を撫でおろしたところだったため不意打ち……だけど、話の中心になるのは私ではなくまゆの事。

弥生ちゃんがそう思うのも無理はない。
自身が何度もトイレに向かった中、ようやく私がトイレに向かい……そして、まゆはまだ一度も済ませていないわけで。

……。

「……そうだね、普段学校じゃ昼休みに一度だけ…みたいだし……」

私はそこで口を止めた。
まゆが気にしている事まで弥生ちゃんに話すべきではない。
トイレが近い悩みを持ってる弥生ちゃんには、まゆのそれは贅沢な悩みなのだと思う。

「言われてみれば…ですね」

それから「少し羨ましいです」と言葉を零す。
落ち込んでいると思って弥生ちゃんの表情を確認すると、確かに多少自嘲気味には感じるが、笑みが見えて……
トイレが遠いという事へ、純粋に憧れも感じているのかもしれない。

純真無垢な弥生ちゃんを眩しく感じている間に、調理室まで戻ってきた。

<ガラガラ>

「……ただいま」

「おかえりー」「そろそろだと思って、もう準備できるよ」

扉を開けるともう嗅ぎ慣れたコーヒーの香りがしていて、既に試飲の準備が出来ているらしい。
そして、これが最後の試飲。

「ようやく最後だね」

まゆが言う。もし今『声』が聞けたらと思うと……考えても仕方ないけど。

623 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。15 :2018/09/29(土) 23:37:39
私と弥生ちゃんも席に付き、瑞希によって差し出されたコーヒーを受け取る。
そういえば瑞希は今日初めて弥生ちゃんと一緒にトイレに行かなかった。
これを飲み終わればコーヒーの飲み比べが終わるけど、自分から言わない瑞希は誰かに便乗しなければいけないはず。
当然私は『声』の為にトイレには行かない。まゆか弥生ちゃんだけど……。

なるようになればいいが、最低でも私が『声』を聞き取れるようになってからでお願いしたい。
私はコーヒーに口を付け評価を始め――

<ガラガラッ>「待たせたなっ!」

急に扉を開けて発せられた大きな声にコーヒーを零しそうになる。
扉の前で仁王立ちのツインテール……檜山さん。

「どう? 評価終わった?」

そういいながら私たちの近くまで来て評価を書いた皆のメモを手に取る。

「おかえりつくしちゃん、今最後の飲み比べ中ー」

メモに目を通している檜山さんにまゆが伝える。
「ん」と聞いているのか考えているのか曖昧な返事をしてメモを見続ける。

しばらくして檜山さんはメモを机に乱雑に起き――

「おっけーわかった、今から最高のコーヒー作るからちょっと待ってよ」

最後の評価を聞く前に檜山さんはいくつかのコーヒー豆を入れた袋をカバンから取り出す。
今から評価をもとにして新たにブレンドを始めるらしい。
普段控えめに言って元気な馬鹿な子……だけど、今は妙に輝いて見え印象が随分変わる。

……。

私はさり気無く皆に視線を向ける。
『声』は聞こえない……でも、仕草を見せても良いくらいの二人がいるのだから。

まゆは檜山さんを興味深そうに観察しているが我慢の仕草は全く見えない。
瑞希は……まゆと同じように檜山さんを見ているが――……少し身体を揺らしてる?
我慢しているにしても、瑞希は仕草を出さないように意識してるはず……。
それなのによく見ればわかるということは、それ程の抱えている尿意が大きいということ。
隠してるのに隠しきれてない――……とっても可愛い。
……さっきまゆにバレていた私が人の事言える立場じゃないけど。

624 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。16 :2018/09/29(土) 23:38:51
「はいっ! お待たせー」

私の意識が檜山さんから外れている間にコーヒーが完成したらしい。
今まで飲んできた試飲の時より、量の多いコーヒーが皆の前に置かれる。
流石にあれだけ試飲を済ませた後だけに、私は少し目を細める。

「まぁ、そーなるよねー」

檜山さんは私たちの反応を見て言葉を零す。
私以外の反応も似たような感じだったらしい。

「だ、け、どっ! ふふ、抜かりはないんだよねー」

檜山さんそう言ってカバンから何やら取り出しテーブルの真ん中にそれを置く。

「っ! ローリングちゃんです!」

弥生ちゃんが小さく声を上げる。
置かれたのは小さいけど長いロールケーキ、つまりはお茶請けということ。

ロールケーキを五等分にして、今度こそ本当の最後の試飲。
甘いお茶請けの効果も当然あるとは思うが、美味しく飲むことが出来た。

私は最後の一口を喉に流し込み、一息吐く。
同時に自身の尿意に気が付く。そして、尿意を感じたのだから当然――

『んっ……早く、トイレ…おしっこ……あぁ、誰か行かないの??』

『流石に結構溜まって……うーん、どうしよう、流石に家までは無理かもだけど……』

『はぁ……またしたくなっちゃった……』

檜山さんを除く三人の『声』。
尿意の大きさは瑞希が一番大きく、かなり焦っているのが『聞き』取れる。
瑞希が最後にトイレに言ったのは4回目の試飲の後。時間にして40分ほど前。
5回目の試飲をしていないとは言え、飲んだ量の条件は弥生ちゃんと殆ど変わらない。
弥生ちゃんは6回目の試飲の時に済ませてから15分足らずで次の尿意を催し、トイレに行ったことを考えれば
最初に感じる尿意――初期尿意の2倍以上の量が瑞希の下腹部に溜まっていることになる。
限界量とは違い、初期尿意を感じる量は比較的個人差が少なく150〜250mlと聞く。
弥生ちゃんは容量が小さく、6回目の時に瑞希より早く尿意を感じていたことを踏まえると弥生ちゃんの感じる初期尿意は150ml前後と考えればいい。
厭くまで計算と想像でしかないが、今、瑞希の下腹部には400mlほど貯め込まれているんじゃないかと想像できる。

――……まぁ、まゆは…初期尿意からしておかしいけど……。

625 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。17 :2018/09/29(土) 23:39:56
『声』の大きさでは次点でまゆ。
まだ『声』は冷静だし、仕草にも出ていない――……流石はまゆ。
それでも、いつまでも冷静な思考で居られるはずはない。

弥生ちゃんは、ついさっき催したところの様で、『声』は小さく、焦ってもいない。
ただ、少し困惑と呆れを感じ取れる――……これだけ短時間で何度もしたくなれば、そう感じるのも無理はないけど。

「さーてとっ! 私は軽食班に戻るよ――って言ってもあっちも今日はもうお開きだと思うけどねー
こっちも片付け終わったら帰っていいんじゃないかな?」

そう言って檜山さんは手を振って調理室を出て行く。
片付け……尿意を抱えた皆の行動が気になり、視線をさり気無く巡らす。

「? さっさと片付けちゃおっか?」

まゆは私の視線に気が付いたみたいだけど、特に気にせず片付けを始めようとする。
トイレの事はは片付けを終えてからどうするか考えるのだと思う。

「あ、先に……お手洗いに……」『そこのお手洗いはまだ使えないかもだし……早めに行かないと……』
「っ! わ、私もいいかな?」『助かったー! っ……や、油断しちゃダメ……まだ、ちゃんと…我慢だから……』

弥生ちゃんがトイレへ行くために声を上げ、瑞希がそれに慌てて便乗する。
瑞希はかなり限界が近づいている……ついて行けば最高の『声』と多分仕草も見ることが出来るし
弥生ちゃんがそれに気が付いて、瑞希が赤面なんて可愛い姿も想像出来る。

……。

だけど、今はまゆの事も気になる。

「そっか、片付けは私らでしとくから」
『私も行きたいけど……あやりん一人で片付けさせるのもなぁ……なによりまた二人同時だし……』

こっちに残ってまゆを最後まで見届けたい。
滅多な事では聞くことのできない『声』……もう少し『聞いて』おきたい。

二人が調理室を出ていくのを見届け、私も片付けを始める。
……当然、さり気無くではあるが視線は時折まゆに向けて。

『あー、したいなぁ……でも、駅? ……みずりんも電車…反対方向だけど、結局弥生ちゃんは同じ方向……駅のトイレは一か所だからあまり関係ないけど』

それなりの『声』のはずではあるが、まだ仕草は見せてはくれない。
駅を候補に上げる所を見るに、やっぱり誰かに音を聞かれたりすることに強い抵抗を持っている。
だけど、その駅のトイレもあまりいい選択ではなさそうだけど。

626 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。18 :2018/09/29(土) 23:40:46
『だったら、昇降口のトイレしかないかな? 少なくとも、今トイレに行ってる二人は…トイレに寄らないだろうし……ふぅ……』

『声』の中に憂いを帯びた感覚を僅かに感じる。
再度視線をまゆに向けると――……っ! 足を擦り合わせてる?

まゆの手は何事もなくテーブルの上を片付けているように見えて……その実、片方の足を上げてもう片方の膝の内側に脹脛を擦りつけるような仕草を……。
それは僅かな時間だけ見せた姿だけど、確かな我慢の仕草で――……まゆ、凄く可愛い。

『あぁ、やだな……トイレ……早く行きたいけど、昇降口の使う時…あやりんも多分一緒だよね?』
『う〜ん……トイレっ……もうすぐ片付け終わるけど……はぁ、…弥生ちゃん達まだ戻ってこないのかな?』
『ほんっ…と、おしっこしたい……うー…あぅー…』

片付けを始めてから短時間の間に随分『声』が大きくなった。
座っていた時と違い支えを失って、水洗いしなければいけないものもあるのだから当然我慢している身には辛い。
まゆの『声』……夏休みの見学会以来で、しかもこんなにも大きな『声』で――……最高に可愛い。

だけど、そんな至福の時間も長くは続かない。
まゆの持つ未使用の紙コップを片付ければ、あとは瑞希と弥生ちゃんを待つだけ。
そうしたら、帰ろうって話になるわけで。
カバンも皆調理室へ持ってきているし……そのまま昇降口に向かってそこのトイレに入ってしまえば、まゆの『声』とはお別れ。

「よーし、片付け終わりっと!」『あぁーもう、二人ともまだっ!? んっ…トイレ…ほんとにさっきから辛いしーっ』

まゆは片付けを終えると椅子に座り大きく嘆息した。
片付けをして疲れたから出た嘆息じゃない。
座ることで尿意が少しでも落ち着けることが出来るし、仕草も隠しやすくなる。
要するに安堵から……と言った方がしっくりくる嘆息。

<ガラガラ>

「ただいま…です」「……か、片付け…ごめんね」

扉を開けて二人が戻ってくる。
何度もトイレに行って、片付けも押し付ける形になったためか二人とも少し歯切れが悪い。

「……気にしなくていいよ、片付ける物もそれほど多くなかったし」

私は二人が気にしないようにフォローを入れる。

「う、うん、…ありがと……」

まだ少し歯切れの悪い瑞希……。隣でそれをなぜか気にするように見る弥生ちゃん。
その態度に違和感……瑞希はもう少し遠慮のない答えを期待していたのだけど……?

627 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。19 :2018/09/29(土) 23:41:33
「そんじゃまぁ、帰ろっか!」『んっ……、学校で我慢することなんて無いかと思ってたけど……ようやくトイレ、おしっこ〜……』

まゆの切羽詰まった『声』が少し明るくなる。
いつものまゆなら二人の微妙な態度の変化に気が付きそうなものだけど……余裕を失いつつあるのかもしれない。
だけど、その余裕を失ったまゆの『声』もそろそろ聞き納めで――……まぁ、それなりの可愛いまゆが『聞けた』わけだし。
大満足とは言わないが、満足できたと言ってもいいと思う。

そして、心なしかいつもより早足に感じるまゆを先頭に昇降口へ向かう。
斜め後ろについて歩く私はまゆに視線を向けるが……上手く仕草は隠してる。
余裕がないと言っても、さっきの私と同じで、歩いている方がまだ気が紛れる程度の尿意なのだろう。

「おぉ?」

昇降口に近づいてきたとき、先頭のまゆが驚きと疑問が混ざった声を出す。
私はまゆから視線を切って、身体を横に傾けまゆの後ろから覗き込むようにして前を見る。

――っと、これはトイレの行列? ――じゃないか……えっと?

「あ、コレさっき調理室の方にいた人たちと同じような事してないですか?」

弥生ちゃんがそう声に出す。
つまりあっちにいたトイレの取材陣……?

「そう…なんだー」『うぅー、流石にここじゃ……でも……もうかなりっ……駅まで持つ?』

今までとは違い、まゆの『声』からは焦りと困惑、それと不安が強く感じられる。
ここで済ますことを想定してからの我慢の延長……沢山我慢できるまゆではあるけど、駅までは歩いて10分程度は掛かる。
さっきまで試飲の為に大量に飲んでいた利尿作用の高いコーヒーがまだ下腹部を膨らませ続けているはず。
そんな状態で――……でも私は…そんなまゆを、見ていたいって思ってる……。

「うーん、一体何なんでしょうね?」

「それは、七不思議のひとつの取材」

弥生ちゃんの声の後、突然私たちの後ろから声が聞こえた。
私たちはその声に振り向く。

「さっきは、コーヒー、ご馳走様……」

そこにいたのはさっき試飲の時に星野さんと共にコーヒーを飲みに来ていた五条さんだった。
彼女は足を止めることなく私たちの間を通り抜け、その時に視線をトイレに一瞬だけ向け、呟くように声を出す。

「この学校の七不思議は、全部、ただの噂」

……。
端的な言い方で……でも、少し含みのある言い方のようにも感じる。
そして五条さんは下駄箱から靴を取り出し昇降口から校外へ出ていく。
わざわざ声に出して教えてくれたのは、コーヒーのお礼のつもりだったのかもしれない。

628 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。20 :2018/09/29(土) 23:42:43
「えっと、私たちも帰ろうか?」

瑞希がそう言って下駄箱に向かって歩き出す。

「うん、さっさと帰ろう帰ろう」『早く駅で…んっ――おしっこ…したい、したいよ……』

二人の言葉に私と弥生ちゃんも従い、みんな揃って昇降口から外に出る。
瑞希の意見に同調して、駅までの道のりを我慢することを選んだまゆだけど……『声』からしてかなり限界が近いことが窺える。
私は駐輪場へ小走りで向かい自転車を取りに行く。それから自転車を押して駅で別れるまで一緒に下校。
普段ならばまゆと弥生ちゃんは私と下校するときは踏切を渡りわざわざ駅の表まで来てくれる。
瑞希とは今まで一緒に帰る機会がなかったが、多分、一緒に来てくれると思う。

まゆの歩く姿に未だ仕草を感じ取れない。
だけど――

「っ……」『んっ、ほんとやばい…これ、間に合う? あぁ……こんなに我慢っ…することになる、なんて……』

他愛もない話の間に零れる息遣いは少し荒く、『声』にも余裕がなくなって行くのが感じ取れる。
間に合うかどうか……それを心配し始めたまゆの心の片隅には、もしかしたら既に“おもらし”の言葉が浮かび始めているのかもしれない。

『はぁ、はぁ……だめっ…ほんとっこのままじゃ……』

駅まで我慢できない……間に合わない、おもらししちゃう……。
いずれの言葉も『声』に出すことはなかったが、それは直視するのが怖くて目を逸らしているだけ……。
今まで沢山の人たちの『声』を聞いて来た私だからわかる。これほどまでに大きな『声』……我慢の限界が間近に迫ってきた証拠に他ならない。

……。

私は再度さり気無くまゆに目を向ける。
よく見るとわずかだけど前屈みにも見えなくなくて……限界は本当にすぐそこまで来ていて。
もしかしたら……本当に――

「っ…あ、あれ?」 

会話の切れ目に突然弥生ちゃんが言った。

「あぁ、うそ……ケータイ…忘れたみたいです」

それから立ち止まりカバンを再度なんども確かめるが、何とも言えない気まずい表情を見せ……。

「ご、ごめんなさい、やっぱり学校みたいで……ちょっと取ってきますから…えっと、先に帰っちゃって下さい」

そう言って私たちに手を振りながら学校へ小走りに引き返す弥生ちゃん。
私としては待ってあげてもいいが、弥生ちゃん本人が悪く思うだろうし、なによりまゆが――

「わ、私もちょっと用事あるの忘れてて、きょ、今日は駅に…裏から行くねっ」『もう我慢出来なっ――、はぁ…ぅ……ごめんね!』

弥生ちゃんが携帯を探すのに立ち止まっていたためなのか、限界が目前に迫ってきたためなのか……
踏切の手前でまゆは必死に仕草を抑え、私と瑞希に別れの言葉を言って駅の方へ駆けて行く。
普通に走る姿に見えなくもないが……我慢してるのを知ってる私から見たらお腹を庇うような不自然な走り方。
後を追いたいが駅に用事はないし瑞希もいる中、尾行みたいなことは出来ない。
色々と思考を巡らすが、その間にも走るまゆとの距離が離れて……流石にもう諦めるほかない。
結末がどうであれ、ここまで来て最後まで一緒に居られないというのは割とショックが大きい。

629 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。21 :2018/09/29(土) 23:43:29
「いっちゃったね、……まぁ、私はコンビニにちょっと…寄りたいし、そこまでは一緒…だね」

私は名残惜しくまゆを見送り、隣に残ったのは瑞希に視線だけを向ける。今現在『声』は聞こえない。
そういう意味だけで言えば詰まらないと言ってしまえる。
だけど、あの雨の日を除けば瑞希と二人で下校というのは高校に入ってから初めての事であり
長く話していなかった時間を取り戻すには悪くないのかもしれない。

……。

――……それに、気になることもあるし……。

片付けの後、調理室に戻ってきたときほどではないがさっきの言葉も少し歯切れを悪く感じた。
言葉数も少なくなった気もするし……そして、その態度に思い当たることがないわけじゃない。

「……コンビニに行って何か買うの?」

「っ! えぇ!? や……まぁ、ね、あはは……」

予想通り、かなり動揺してる。
まゆの結末を最後まで見ることが出来なかったためか……この行き場のない欲望を瑞希に向けたくなる……。
……割と本気で自分自身の事を最低なんじゃないかと思う。

踏切を超え、コンビニが見えてくる。

「そ、それじゃー、私コンビニに寄ってくから、また明日…かな?」

コンビニの前で別れの言葉を切り出す。
当然コンビニを出た後は瑞希は駅へ、私は自宅へ向かうわけだからここで別れるのはなんら不自然な事じゃない。
だけど……多分瑞希は早く別れたがっているからこその別れの言葉。
そんな態度の瑞希を見ていると――

「……私も何か買おうかな?」
「え! や、その……ちょっと待って、わ、私の買いたいものなんだけど、そ、その…見られたくないって言うか――」

だから買い物終わるまで外で待ってて欲しい、と言う瑞希。
というか、“見られたくないもの”って……もう少しマシな誤魔化し方した方が良いと思う。
食い下がろうとも思ったが、やっぱりこれは半ば八つ当たりな気もするので大人しく外で待つことにする。
私自身は買いたいものもないのだから帰っても良かったが、自身の尿意もそれなりに高まりつつある。
もう今の季節にもなると夕方は肌寒く、尿意を加速させる。
それにさっき我慢しすぎたのも我慢が辛い原因かもしれない。
ここで済ませず自宅までとなると……正直、我慢できる絶対の自信はないし
マンションのトイレの前まで来て失敗、挙句の果てに住人に見られるようなことにでもなったら立ち直れない。

630 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。22 :2018/09/29(土) 23:44:48
『ちょっとしたいし、おしっこも済ませておこうかな……どうせ下着替えるためにトイレ入るんだし……』

コンビニ内から微かに聞こえる瑞希の『声』。ついさっき学校で済ませたとはいえ、あれだけ飲んだ後だし仕方がない事。
それと……想像していた通り、瑞希は下着を汚していた……ただ、下着は履いていないのか、濡れたままでいるかまでは判断できていなかったけど
下着を替えると言う『声』の内容から濡れたまま履き続けていたらしい。
わざわざ履き替えるのは、電車に乗って濡れた下着のまま座るわけにはいかないし、においも気になるのかもしれない。
それとただ単純に気持ちが悪いとか見られたら……というのもあると思う。

……。

スカートは無事だった様に見えたので失敗がどの程度だったのかわからないが
調理室に帰ってきたときの弥生ちゃんも少し動揺していた様に見えた。
弥生ちゃんに気が付かれるほどの失敗はしていたのかもしれない。

――……むぅ、そう考えると片付けの時、弥生ちゃんがトイレを言う前に私が言ってれば一緒に――

結局“たられば”な話だけど。

『下着買った後にトイレとか……んー勘ぐられちゃうのかな?
でも、おしっこも済ませないと…駅でもいいけど清掃中とかだとかなり困ったことになるし……』

瑞希も失敗するほど限界まで我慢した後で、且つトイレが近いほうだし……。
瑞希の言うように清掃中だったとしたら次の駅か、コンビニにとんぼ返りになるわけで。
割と悩む選択かも知れない。

『っ! だめ、出ちゃう! あぁ……あとちょっと、お願い…っ!』

――っ!! これって、まゆ?? なんで……。

突然聞こえて来た『声』に驚き駅の方を見る。
まだ遠いが、スカートの前を確りと押さえ込んだ親友の姿が目に映る。

『し、修理中で…使えないとかっ……なんでこんな時に、…あぁ、コンビニ…トイレ…っ、お、おしっこ……』

どうやらこのコンビニを目指して歩いてきているらしいが
必死に我慢しているためかこちらにはまだ気が付いてない。

まゆは私たちが駅の表側に来ていることを知っている。
確かに駅の裏側にはコンビニも飲食店も近くにないけど
用事があると言って先に駅へ向かった以上、私たちと顔を合わすのは極力避けたいはず……。
それなのに、このコンビニを目指すためにこちら側に来たということは――

――……そんなことを考える余裕が既にない、もしくは間に合うトイレ候補がここ以外にない――ってことだよね?

どちらにせよまゆの我慢が限界まで来ていることは明らかで。
いや、そもそも踏切手前で別れた時点ですでに限界寸前だったはず……。
その事実が私の心臓を大きく響かせる。
口の中は渇き、目はまゆから離せない……。

そして遠くで見えるまゆが視線を上げて……目が合う。

631 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。23 :2018/09/29(土) 23:45:42
『っ! あやりん!? や…分かってたけど、けどっ……や、だ……こんなの……っ、見ないでよぉ――見せたく、ないのにっ……』

スカートの前から手を離す、だけど、その手は落ち着きがなく彷徨わせたり強く握りしめたり……。
だけど、10秒も経たないうちに再び片方の手がスカートの前に添えられる。

『あ、あぁ…っ、ば、バカバカっ、こんな、格好っ……んっ』

――……まゆ、本当にもう…限界……なんだ……。

俯きながらこちらに向かってくる……。
きっとこんな醜態――――最高に可愛い醜態だと思う――――を晒しておいて、逃げたいはずなのに。
恥ずかしくても此処のコンビニのトイレを目指して……それしか間に合う選択肢がないから……。

『やだ、あと…ちょっと……あ、あぁっ! くぅ…んっ! あっ……』

道路の向こう、スカートの前を力強く押さえ、足踏みしながら車が途切れるのを待つ。
まゆの顔は凄く必死で、時折私と視線が合いすぐに目を背ける。……それを見て、私は後ろめたさを感じながらも目を離すことが出来ない……。

『えぇ、トイレ使用中なの? あ、でも流す音聞こえて来たしもうすぐっぽいかな?』

――っ! み、瑞希の…『声』だ……。

ふと聞こえたのはまゆのものじゃなく瑞希の『声』。
まゆに気を取られていた間に瑞希がトイレを使う決断をしていて……。

『んっ……はぁ、急にしたくなるなぁ……あ、出て来た』

――えっ……ま、待って……そこは――

まゆが使う、まゆが恋焦がれてるトイレ……私は視線をコンビニに向け、瑞希を止めに入るか一瞬考える。
だけど、今私がコンビニに足を踏み入れたところで、瑞希は既に個室の中……間に合わない、まゆはその後……。

視線をまゆに戻すと車が途切れたのを見計らってこちらに駆けてくる。
覚束無い足取りで……私の前まで来て一度歩みを止めて……。
だけど、私の目の前に来ても、視線は宙を彷徨わせそわそわと落ち着くことが出来ない。
そんなまゆに、私は何か言わなくちゃいけない気がしたが……掛けるべき言葉が見つからない。

「……っ、あ、あやりん、その…っ、あぁっ…だめ、ごめん後でっ!」『と、止まってっ! あとちょっと、ちょっと……だからっ!』

先に気まずい空気を破ったのはまゆで……というより、待てなくなったと言った方がより正確だった。
私の横を通り過ぎコンビニの中へ向かうまゆ……一瞬見えたスカートの押さえ込まれた部分、そこが濃く変色していた。
『声』の内容からもそれが恥ずかしい失敗の跡であることは明らかで……。

632 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。24 :2018/09/29(土) 23:46:29
――……っ! それより、トイレには瑞希がっ!

まゆにコンビニに入る前に伝えるべきだった? 隣の喫茶店のトイレに目指す先を変えさせるべきだった?
……過ぎたことを考えても仕方がない。
私はコンビニの中へまゆを追うようにして入る。
当然、瑞希はまだ個室の中。

「(っ! うそ……あぁ、なんでっ……!)」『し、使用中!? あっ、あぁ……やっ――』

私はその声と『声』を聞きながらまゆの隣へ付く。

『あ、あやりん……んっ、だめ、だめなのに……あ、あぁ……またっ…あやりん…っ私…もう――』

トイレの扉の前で震えた足を閉じ合わせ、スカートの前を押さえて……目には涙を溜めていて……。
……可愛い、凄く……だけど、胸が苦しくて助けたくて……。私にできる事は――

<ドンドン>
「み、瑞希! お願いっ早く出てきて!」
  「えぇ! あ、あ、綾!? 外で待っ――」
「良いから早く出てきて! し、下着のことは知ってるけど、履き替えるのとか後にして!」
  「っ!!? や、えぇ?!」

瑞希には後でちゃんと謝らなければいけない……けど、今はそれどころじゃない。
まゆはもう我慢できない……スカートの染みがさっきより広がってるのがわかる……。
こんなところで、おもらしなんて絶対にさせられない……。
まゆのそんな姿……見たくないと言えば嘘になるかもしれない、だけど、やっぱり見たくない私もいて……何より他の誰にも見せたくない。

「(んっ! あぁ……あ、あ…ふぁ、んっ……やぁ…――)」『み、みずりん? あ、あぁ……嘘…出てきてよ、早くっ、〜〜〜っ』

尿意の波――というよりも外へ漏れ出す力を気力だけで抑えて……でもそれはもう時間稼ぎでしかなくて。
我慢を続けたところで尿意が引くなんて事はもう起きえない。ギリギリまで張り詰めた下腹部は、もう吐き出すことしか考えていない。
すぐに入れると思っていたトイレを目の前に、あと少しの状況……あと少しの時間を全力で堪えるしかない。

<カラカラ>

個室の中で紙を巻き取る音がする……。

「っ……み、みずりん、あっ…は、早くぅ……あぁ……ぅ…」『あ、溢れ……っ、あ、あっ……ああぁっ……』

前を押さえる手が何度も押さえ直され、スカートの生地が閉じ合わされた足の間に入り込んでいく。
染みが見えなくなるくらいに生地を集め……だけど、まゆが全身を跳ねさせたと同時に、一瞬にして大きく染み浮かび上がる。

  「え、真弓ちゃん? ……あ、もう、もう出るからねっ!」<ジャバ――><カチ>

水の流す音、鍵を開ける音……そして――

633 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。25 :2018/09/29(土) 23:47:15
「おまた――」「ご、ごめん!!」

扉が開くと同時に、押しのけるようにまゆが個室へ滑り込む。
私は押しのけられて呆気に取られる瑞希を受け止め、でも視線はまだ、まゆへ……。

「あ、んっ……やぁ……」『まだ、あ、あっ……あぁっ!』
<じゅぃ――><びちゃびちゃ……>

確かに聞こえるくぐもった音、床に打ち付ける水音。

<バタンッ>

ようやく閉められる扉……。
だけど、中ではまだ、高いところから落ちる水音が響いていて……。
その音は中で慌てているであろうまゆの動きに合わせて不規則に音をリズムを変える。

  <じゅうぅぅぅぅ―――>

そして……水の中に放たれる音に変わる……。

「っ……真弓…ちゃん……おもら――むぐぅ!」

声に出してデリカシーの無いことを口にしようとする瑞希の口を押える。
私はそのまま視線を下に落とす。

――……あんなになるまで我慢して、それなのに、個室の外には水たまり一つ残さないとは……。

スカートの染み具合、個室に入ってからの誤魔化せないほどの失敗……瑞希の言うようにおちびりとはとても言えない……言い訳のできないおもらし。
それでも、個室に入るまでは決して諦めず、その失敗を床に残さなかったまゆは――……頑張った……物凄く頑張ったと思う。

  「はぁ……はぁっ、…はぁ……」<じゅうぅぅっ…じゅぅぅ―――>

長い……途中一瞬途切れたりして入るけど…もう30秒……いや40秒くらいにはなる。
瑞希が手の中で暴れだしたので仕方なく放す。

「ぷは……はぁ……(ね、ねぇ? 真弓ちゃんの……めっちゃ長くない?)」

今度はちゃんと空気を読んで私にしか聞こえないくらいの声で話しかけてくる。
同意ではあるけど――

「(……それ、まゆに絶対言っちゃだめな奴だからね?)」

茶化して空気を和ませるにしても、まゆには音とか量とかそう言うのは避けた方が良い。
それにしても――……はぁー、滅茶苦茶可愛かった。

634 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。26 :2018/09/29(土) 23:48:36
  <じゅぅ―――>

勢いはかなり落ちた気はするけど……もう1分以上経ってる気がする……。
スカートに多大な被害をだして、それなりの量を個室の床へ零していながら……1分って……。

「(ね、ねぇ? ……なにこれ? 終わんないの?)」

困惑の表情で私に尋ねる瑞希……それについてはもう何も言わない……。

――っ……それより、こんな音聞いてたら……んっ……はぁ……。

元より私もそれなりに我慢していたわけで……。
済ませてからもう50分くらい……かなり我慢が辛くなってきた。
だけどまゆは……私のそこそこ限界に近い我慢の2回分をずっと貯め込んでいのであって……。
本当に凄い――……っ…あぁ、凄いのは良いけど……これ…結構……っ。

さっき、我慢しすぎた為か、尿意の波が非常に大きい……。
今まで意識がまゆに向いていたから強く意識することがなかったが
自身が催していることを強く自覚し、トイレ前だと言うことを意識した途端に……。
どうしても仕草を抑えることが出来ずに身体を捩って尿意の大波に抗う。

「(あ、綾? もしかして……我慢してる?)」

当然その明け透けな仕草に瑞希は気が付く。
私は瑞希の言葉に顔が熱くなるのを感じて……視線を逸らす。

「えっと……真弓? 大丈夫?」

瑞希は私に左手で待つように静止を掛けつつ、いつの間にか音の止んだ個室へ言葉を投げかける。
だけど、個室から返事は返って来ない。

「真弓、聞いて……綾もその……我慢してるみたいで――」
  「っ! あ、……っ…う、うん……ごめん、ちょ、ちょっとだけ、待って…っ……」<カラカラ>

個室の中から慌てて紙を巻き取る音と……まゆの涙交じりの声……。

「っ……まゆ、ごめん……」

本当情けないし、申し訳ない……。
ワザと我慢してまゆの『声』を聞いておきながら……恥ずかしい失敗をしてしまったまゆに心を整理させる暇さえ奪うなんて……。

635 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。27 :2018/09/29(土) 23:49:25
――……そうだ…せめて着替え…。

私は足をクロスさせ壁に凭れ掛かり、肩に下げたカバンの奥からいつも用意してる予備のスカートを取り出す。
それを瑞希に押し付けるようにして渡す。

「こ、これは?」

「……まゆに渡してっ……んっ!」

したい……おしっこ……。
膀胱が断続的に収縮を繰り返し、下腹部が時折硬く緊張する……。
ギリギリ限界まで張り詰めてるわけじゃない……まだ我慢できるはず、しなきゃいけない。
まゆをあの格好のまま出てきて貰うわけにはいかない……ちゃんと後始末と着替えくらいさせてあげたい。

「綾……ちゃんと我慢してよ?」

「……わ、わかってるっ…」

瑞希は着替えを受け取ると個室のまゆに渡すために声を掛ける。
私は視線を外してスカートの前に手を添えたり、太腿を抓ってみたり……。
試飲中の我慢は確かに辛かったけど……別に限界寸前までの我慢じゃなかった。
多少尿意に過敏になってはいるけど、押さえ込めないわけじゃない……まだ我慢できる。

トイレの前だという意識を無くしたくて目を瞑る……。
自分の短く深い呼吸音だけが大きく聞こえる……。

――……我慢っ……我慢…我慢……っ! ぁ、っ!!

<じゅ…>

僅かに下着の内側から噴き出す熱い失敗……。
クロスに合わせた足を震わして、添えられた手に力が入る。

――……うぅ…と、止まった……っ…はぁ…はぁ……。

「あ、あやりん、ごめん! 空いたよ!」

まゆの声に顔を上げる。
申し訳なさそうに涙で腫らした目で私を見るまゆ……。
私は直ぐに目を逸らして、カバンをその場に落として個室に駆け込む。

<じゅ…じゅう……>

――ちょっ! …ま、待って!

個室の中で見っとも無く足を踏み鳴らし、鍵を閉める。
トイレは洋式……髪は前で抱えて……。
あとはスカートと下着を――

<じゅうぅぅ>

「っ……はぁ…はぁ…っ、はぁ……」

下着にはかなりの被害は出てしまった。
けど……間に合ったと――……言ってもいいよね?

一息ついて……終わった頃に音消しを忘れていたことに気が付く……。
酷い我慢姿を見せて、音消しもせず……まゆほどではないのだろうけど、個室を出るには勇気がいる……。
だけど、いつまでもこうしているわけにはいかない……。
まゆは、私よりもずっと恥ずかしい姿を晒してしまったのだから。

636 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。-EX- 1 :2018/09/29(土) 23:52:28
**********

――はぁ……。

やってしまった……またあやりんの前で。
また迷惑かけて、その上スカートまで貸してもらって……。

あと少しを我慢できなかった……。
駅のトイレ……清掃中でも使っていただろうし、確かに運が悪かったのはある。
だけど、恐らく4人の中で最も我慢できる私が失敗を犯したのは、それ相応の落ち度があるから。
余裕のあるうちに済ませれば解決できた簡単な問題なのに……そのタイミングは確かにあったはずなのに。

……。

コンビニの外でみずりんと並んであやりんを待つ。
あやりんがトイレの前に落としていったカバンはみずりんが持ってくれている。
彼女はあまり気を使える方ではないが、口を開かず黙っていて……。
それが私にとって有難いのか、気まずくて辛いのかよくわからない。
だけど、だた言えるのは、私から何か話すのは今はかなりきついという事。

……。

沈黙の中、足元を見る。
そこは乾いたコンクリートとあやりんがくれた濡れていないスカート……だけど、靴下は付けていない、下着も履いていない。
足には靴の湿った感覚が気持ち悪く残り……現実を突き付けてくる。

「あ、あのさ……」

私はみずりんの声に身を固める。
今は彼女の気の使えない性格が少し怖い……。

「わ、私が、個室に入ってた時に、綾が言ってた事……なんだけど」

――あやりんが言っていたこと?

すぐには何を言っているのかわからなかった。
あの時は本当に我慢に集中していて……。

「ほ、ほら……し、下着とか…履き替えるのとかは後に…とか」

「あ、うん……言ってたかも?」

正直よく覚えてない。
だけど、言った内容が下着の履き替え……それを後にしてって言うのは――
みずりんが話し難そうにもじもじしてる様子からも察しがついた。

637 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。-EX- 2 :2018/09/29(土) 23:53:42
「わ、私もさ……片付けの前に行ったトイレで……ちょっとだけ…ま、間に合わなくて……」

……。
そっか、みずりんも……。
そして自身の失敗をわざわざ告白する事で私を励ましてくれてるんだ……。
こんなに真っ赤になって、隠しておきたい恥ずかしいことを……私は彼女にそこまでさせるくらい落ち込んでるように見えてる……。

――……いや、確かに落ち込んでる、それに……怖い……。

私のトイレは人よりもずっと長くて……音も長くて……それがたまらなく恥ずかしく、怖い。
拒絶されるかもしれない、引かれるかもしれない……。誰かの前で我慢した状態で済ませる事が私には堪らなく怖い。
そして今日……おもらしも…こんなにいっぱいしちゃう私も、全部知られてしまった……。

友達を信用してないわけじゃない。
だけど――

  ――「ねぇ、ほら聞いてよっ、うちの妹なんだけどさ、凄いでしょ?」――
  ――「ちょっと!? っ……す、すごいけど……」――
  ――「あはは、でしょでしょ! 傑作でしょ! ドン引きでしょ!」――

中学時代に家でトイレの最中に聞いた、お姉ちゃんと先輩とのやり取り。それは我慢しているだけで鮮明に蘇り胸を突き刺す。
わざわざ私に我慢させるように仕向け、先輩に聞かせるために謀ったお姉ちゃん……。
たまに家に来る先輩に私が勝手憧れて、きっとお姉ちゃんはそれが許せなかった。
わかってる、理解できる……それでも……私にとってそれはトラウマで……。
時間も音も量も……常に意識から外せない物になった。
学校でもそれは同じで……なるべくトイレに行くのは避けるようになった。
だけど避けることで我慢することが増え、クラスの人に聞かれたときに長さを指摘されて……。我慢にはまだ余裕はあったはずなのに……。
それから、学校で一度も済ませない……そうしようとも考えたが済ませないというのはそれはそれで心配で。
結局今の昼に1回だけ済ませる事を日課にして、なるべく意識しないようにした。

……それを日課にして本当に良かったと思う。
初めのうちは我慢していなくても音や時間が気掛かりだった。
だけど数を重ね習慣になった行動は自然と出来るようになったし、昼までに溜まった分だけでは、音や長さを指摘する人はいなかった。

……。

それでも、例外や事故はあるってわかってたはずなのに。
昼に済ませられなかったら? 昼までに尿意が来てしまったら? 済ませたのにまたしたくなったら?
……そんなときはバレないように我慢を続ける、もしくは極力誰にも聞かれないように済ませなきゃって……間違った事を考えるようになって。
そうじゃないのに……失敗の方が恥ずかしいのに、ダメなのに……そうなるリスクを上げるべきじゃないのに。
高校に入ってからそういうことは無かったけど……逆に無かったからこそ今日、間違いを…失敗を――おもらしをしてしまった。

理由は違うけど見学会の日もしちゃって、あやりんにはおもらしも、量も、音も…全部見られて……恥ずかしくて怖くて……。
だけど、あやりんは優しく受け入れてくれて……。

638 事例15「黒蜜 真弓」とコーヒー班。-EX- 3 :2018/09/29(土) 23:54:42
――……だからかな……コンビニであやりんが横に来てくれた時……少し安心しちゃってた……。

隣にいるのがあやりんなら失敗してもいい……そんなことは思ってなかったはず。だけど……。
あの時受け入れて貰えたのが嬉しくて……それで気が緩んだのは間違いなくて。
私は私が思っていた以上に単純で、極限まで我慢していた私にはそれが毒だった。

だからあやりんのせい……そんなことないのに、それは甘えた言葉なのに。
だけど、もしあの場で失敗していたら……私はあやりんに甘えてしまっていたかもしれない。
心底、トイレの中に居たのがみずりんで助かったと思う。
じゃなきゃ、私は扉が開くまでに我慢を諦めていたかもしれない。

「……お、おまたせ……」

コンビニからあやりんが出てきて私たちに声を掛ける。
いつもの無表情を必死に崩さないように、だけど顔を真っ赤にしていて。

「あ、あやりん…あはは、スカート……助かったよ、ありがとね」

私は苦しい笑い方をしてお礼を言う。
あやりんはなぜか謝罪をする。見学会の時もそうだった。
助けられなかったから、なんて理由で……これは私の失敗であやりんに非があるわけじゃないのに。

「あ、綾! 謝るなら私でしょ! し、下着まだ替えれてないし、勝手に個室前で暴露始めるし!」

「……あ、そうだね、ごめん」

「“あ、そうだね”――じゃないよっ! あーもう、トイレ行ってくる!」

みずりんはあやりんのカバンを押し付けるようにして返して、コンビニへ入っていく。
普段気を使わない彼女が、私の為にわざと明るく振舞ってくれてるのがわかる。――はぁー、もっとしっかりしないと…ね。
それと私も後で下着を履きに行くべきか少し悩むが、下着を買ってトイレというのはハードルが高いし……やっぱりやめておく。

「……」

私が考え事をしていると、あやりんが何も言わずに隣へ並ぶ。
私は嘆息して呟く。

「本当……あやりんには助けられてばっかりだわー……」

「……え? そんなことないでしょ? どっちかって言うといつも私のが――」
「いやいや、そんなことあるんだよねー」

「……うーん……じゃ、じゃあ、お互い様ってことで?」

無表情の中に納得のいかない表情を少しだけ見せ、お互い様という落としどころを疑問詞を付けて言う。
それを見て私は自然と笑みが零れる。

……先輩、私はあなたに憧れて、その妹であるあやりんにその面影を感じて話しかけました。
だけど、今は違う……。あやりんを通して先輩を見るなんてことはもうありえない。
だから……あやりんだけはお姉ちゃんには絶対に渡さないし……出来れば生徒会にも――

おわり

639 名無しさんのおもらし :2018/09/30(日) 00:29:57
>>638 久々の更新、待ってました!
長さゆえの我慢の連続でとても良かったです。
綾ちゃんがたまに限界ギリギリになるの個人的に好きです。

640 名無しさんのおもらし :2018/09/30(日) 08:46:04
久しぶりの更新待ってました。
今回はみんなコーヒーのおかげでトイレ近いですね。最後の真弓の限界我慢も良かったですが、個人的には綾菜も二回トイレに行って最後はギリギリ我慢がドツボでした。
今回の話ははっきり言って神回ですよ。 素晴らしい小説をありがとうございます

641 名無しさんのおもらし :2018/10/02(火) 20:42:32
更新ありがとうございます!
「最高に可愛い醜態」はパワーワードですね、やっぱりまゆが声聞きのヒロイン!
彼女のトラウマは梅雨姉 (と雪姉) によるものだったのですね。
夏祭りではあえて知らないフリしてたのかな。
毎回少しずつ明らかになっていく過去のストーリーや人物相関が楽しみです。

642 名無しさんのおもらし :2018/10/03(水) 23:54:24
最近いろんな子とフラグ立ててると思ってたら正妻のターンが来た
単に漏らさせるだけじゃなくておしっこがストーリーに関わってきて良いね


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