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おもらし千夜一夜4

1 名無しさんのおもらし :2014/03/10(月) 00:57:23
前スレ
おもらし千夜一夜3
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557 名無しさんのおもらし :2017/10/17(火) 19:41:51
勇者ちゃんにはもっと我慢してほしいね

558 事例の人 :2017/11/02(木) 01:15:04
>>464
鞠亜はまだまだ謎多き人物ですね、キャラ紹介まだですし……しないかもだけど。
>>534
テレパシー今回は仕事しません……
>>535
星野さんは来年中には。

根元さん覚えてる人いて驚いた。
感想とかありがとうございます。

今回変化球です、おもらし推理小説みたいな新ジャンル
ちょっとどころではなくおもらし小説としてはどうなの? って感じです。
推理小説としてもどうなの? です。矛盾あったらごめんなさい。
追憶としてこの話に出てくる事件は書くこともあるかもです。

559 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。1 :2017/11/02(木) 01:16:48
「……えっと…もう一度言ってくれる?」

私は自分の耳を疑いまゆに聞き返す。

「だから、中学一年の時に起きた怪事件、『犯人の居ないおもらし事件』だよ」

……。
何度聞いても耳を疑いたくなるその謎の怪事件。
隣で少し顔を赤くして真顔で瞬きだけをする弥生ちゃんが――可愛い。

「……えっと犯人って言うのは……えっと、失敗――した子ってこと?」

昼休みと言う時間の中、まゆの言うおもらしという言葉を使いたくないのもあるが
昼休みじゃなくとも普通に濁したくなるのは至極当然な事。

「そういうことだねー」

「……それで、なんでそんな話になるの? ただ、上手く隠し通したって話でしょ?」

私は内心では興味津々だが、気怠そうに振舞う。

「簡単に言えばそうなんだけど、容疑者を絞って話を聞く限りじゃ、犯人が見つからなかったんだよ」

「……ちょっとまって……なに? 犯人捜ししたの?」

おもらしした犯人を見つけるなんてちょっと悪趣味なんじゃ……と思いつつやはり興味はある。
私の言葉にまゆが少し困った顔で話す。

「いや、一部の人だけが探偵気取りで始めたんだよ、まぁ2日目でもう飽きて殆ど話題にもならなかったけどね」

そういって更にまゆは続ける。

「おもらしの水たまりは教室に放置されてたし、クラスが迷惑したのは事実だったわけで
中学という時期を考えればこの程度、普通なんじゃないかな?」

わからなくもない。
他人事でそんな非日常が起きればお祭り騒ぎになる人は当然いるだろう。

……。

「……それで、どんな事件だったの?」

「お、興味出てきた?」

私はまゆの言葉に目を細めて返す。

「……そりゃそんな中途半端な感じに話されたら気になるでしょ」

まゆはしてやったりという顔で私を見る……なんか腹立たしい。
もともと興味があったのは間違いないが、誘導されたみたいで……。
隣の弥生ちゃんも顔は赤いがまゆの方を向いて、事件の内容が気になっているようだった。

「よし、とりあえず事件のあらましを説明するよ、詳しくは質問とか貰ってから答えるね」

そういってまゆが説明をする。

560 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。2 :2017/11/02(木) 01:18:04
前置きとか背景――――重要な事と言えば女子中学だという点……女子確定だね!――――とかどうでもいい話が多かったが
まゆの話を要約するとこうだ。

まず事件が発覚したのは体育館で行われていた体育が終わって教室に戻ってきたとき。
教室の後ろの方に水たまりを見つけ、その独特の匂いからそれがおしっこによるものだと断定された。
教室へ戻ってきた生徒は複数人でそれを見つけていて、体育の授業が終わってから作られたものではなく
それ以前に作られたものだと思われた。
そして容疑者は4人居てその人に順番に事情聴取を行なったとか。

「えっと、まずなんで、容疑者が4人…なんですか?」

弥生ちゃんがおずおずとした感じで尋ねる。
当然ながら私もそれは気になる。

「実はその前日から教室近くのトイレの故障が多くてね、個室が一つしか使えなくて混んでたんだ」

「? ……理由になってなくない?」

「うん、これは間接的な理由、それが原因で先生が言った言葉が“我慢できなければ2階の2年生のトイレを使いなさい”
さて問題でーす。私たちは行列のできたトイレを使わず、どこのトイレへ向かったでしょうか?」

私はなるほどと納得した。
だけど、弥生ちゃんはその問題にストレートに答えた。

「2階のトイレ……じゃないんですか?」

「残念だけど不正解、弥生ちゃんなら2階のトイレを迷いなく使う?」

「う……状況によりますけど、高学年がいるところ……ましてや昼休みでもない短い休憩時間には混んでそうで行きたくないです……」

「その通り」

まゆが得意げな顔をしているので私は答えを言うことにした。

「……更衣室近く、もしくは体育館のトイレね」

「流石だね、そういうこと。正確にはうちの中学では更衣室近くにトイレはないから、多くの人は着替えてから体育館のトイレを利用しようってなったわけ」

そこまで説明されれば言いたいことは分かった。

「……つまりは容疑者は多くの人が利用した体育館のトイレに行かなかった人ってこと?」

「うん、その通り、皆――というかグループの内一人でもいいんだけどね」

更衣室へ向かった人は多くて、その一人一人が証人であると同時に容疑者とはなりえない。

561 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。3 :2017/11/02(木) 01:19:28
「どうして、容疑者の4人は皆と同じように体育館のトイレを利用しなかったんですか?」

「そうだね、ここからが本題となるわけだね」

まゆはノートを取り出しでA子、B子、C子、D子と書く。

「この子たちが容疑者だね。そして、理由はそれぞれなの
まずA子。彼女は日直だった、黒板を消す仕事があったわけ。
だから体育の前の授業が終わったとき一目散に教室を飛び出して教室近くのトイレを利用した。
次にB子。この子は少し変わった子で、普通に2階のトイレへ行ったらしい。
それからC子。彼女は始め教室のトイレに並んだんだけど、列が長くて諦めて別のトイレへ行ったみたい。
そしてD子。彼女は教室近くのトイレに並び続けたけど、時間的な理由で諦めたの」

まゆは日直などの簡単な情報を各仮名の下に書き込む。
……。

「……C子とD子が情報不足ね、まずC子はどこのトイレへ向かったの?」

「C子は理科室や視聴覚室とかある教室棟でない利用者の少ないトイレへ向かったわ」

「それじゃ、D子さんは?」

「彼女は文字通り諦めた、我慢したまま体育へ向かった」

「……そうなるとD子は体育が終わるまで我慢したってこと?」

まゆは首を振った。

「D子は体育の終わり掛けにトイレへ抜けたよ(……授業開始からそわそわしてたからずっと我慢してたんじゃないかな?)」

なぜか後半は小声で言った。
でも、これがすべて真実だとするとだれも失敗していない。
A子は教室近くのトイレで真っ先に済ませている。
B子は2階のトイレで済ませている。
C子は別棟のトイレで済ませている。
D子は体育の時間我慢している素振りを見せ、途中トイレに抜け出している。
まゆが言うように『犯人の居ないおもらし事件』となる。

だけど、誰しもが嘘を付ける。
皆自分を弁護しているだけで容疑が晴れるわけじゃない。

「……事情聴取したのよね? さっきの内容がすべて?」

「いや、まだいくつか話してないこともあるよ」

……。

――中学生の事情聴取か、……その内容をまゆも知ってるってことは――。

つまりそういうことなのだろう。
私は嘆息してから尋ねた。

562 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。4 :2017/11/02(木) 01:21:46
「……それじゃ事情聴取をした順番通りに内容を聞かせて」

「おっけー、まずは日直であるA子、実は彼女が一番疑われてたの、だから真っ先に話を聞いたわけだね。
まずA子は日直の仕事を済ませる前に教室のトイレへ走った、結構我慢してたのもそうだけど
日直の仕事の後でトイレに行くにはトイレが混んで時間がないと思ったらしいの。
用を済ませ、黒板を消すため教室へ戻ると、殆どの生徒がいなくなったところだったと言ってたかな?
だけどそこには容疑者が一人いた……それはB子だった」

「え? B子さんは2階のトイレへ向かったんじゃないんですか?」

「そうだよ。だけど、体操着を持って行かなかったB子はそれを取りに一度戻ってきてたの、それを見かけたみたい。
話を戻そうか、A子は黒板を消していたんだけど、黒板の上の方を消すのに苦労してB子が居なくなった後もしばらく時間がかかったそうだよ。
そして教室に誰もいないのを見てから教室の後ろの戸を閉めて、前の戸も閉めた。あ、閉めたって言うけど鍵をかけたわけじゃないよ
うちの学校は戸締りとかはしなかったから。そうそう、その時に水たまりはなかったと思うって言ってたかな?
そしてそのあと更衣室へ向かって、そこにはもう誰もいなくて一人で着替えることになったんだけど、服を入れるロッカーの空を探すのに苦労したってさ」

……。
他の聴取を聞いていないが、おかしな点は今のところはないかな?
疑問があるとすれば――

「……どうしてA子が一番疑われてたの?」

「あー、それはね、彼女が一番体育館に付くのが遅かったうえ、授業に少し遅れて来たからだよ」

だから教室を出たのが最後であり、水たまりを残せる可能性がある……そういうわけか。真っ先に疑われて当然。
だけど、A子が嘘を言っていなければ先に済ませていたことになりおもらしとはならない……。

「さて、次は今の流れからB子の聴取になったんだけど、さっき言った通り2階で済ませて体操着を取りに戻ってきたの。
ちなみに2階は殆ど混んでなくてすぐに済ませられたと言ってたね。
教室に戻ってすぐA子も教室に入ってきて黒板を消しはじめたって。B子が教室を出るときはA子以外いなくて
そのA子は背伸びしたりジャンプしたりして必死に消してた場面だったみたい。
そのあとすぐA子に確認を取ると確かにジャンプしたりしてて、踏み台を使えばもっと早く消せたと言ってたね。
更衣室へ行くともうみんな着替え終わっていたらしくて誰もいなかったそうよ」

つまり、皆が着替え終わった後にB子が着替えて、B子が着替え終わった後にA子が着替えた。
接触していないのだからこの辺りは嘘を言っていたとしても違和感なく通るけど……。

563 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。5 :2017/11/02(木) 01:22:25
「そしてC子。彼女はさっきの二人とはほぼ接点がなくてねぇ。教室近くのトイレに並んだんだけど……あ、すぐ前はD子だったみたい。
それなりに切羽詰まっていた彼女は列をすぐに抜けて教室へ戻った、これは数名の生徒が確認済みだったし私も見たよ。
そして体操着を持って別棟の利用者の少ないトイレへ向かった。
そこのトイレは誰もいなくて普通に間に合って、そこで体操着に着替えて直接体育館へ向かったんだって。
その子の言った通り、確かに制服を持ったまま体育館へ来てたね」

「えっと、更衣室へ制服を置きにいかなかった理由はあるんですか?」

「単純に面倒だったからだって。教室から体育館の間に更衣室はあるけど、彼女の向かったトイレから真っすぐ体育館へ向かうとなると
ほんの数十歩だけど無駄にあるかなきゃダメで、それがなんだか面倒に感じたんだって」

……。
確かにこれじゃ接点がない。
彼女の行動の真偽は彼女の言葉だけで完結していて制服を体育館へ持ち込んだという結果しかわからない。

「質問なさそうだね、最後はD子だね。彼女もC子と同じで教室近くのトイレに並んだ
もう少し早く進むと思っていたけど、思うように列は進まず途中で諦めて教室へ戻ったそうだよ」

「……まって、その戻った時ってタイミング的にはどのタイミングなの?」

わざわざ行列に並んだのだから、D子は時間ギリギリまで行列で粘ったと考えるのが普通。
さっきまでの話を聞く限りじゃ、最後まで教室で黒板を消していたA子が見ていないのはおかしい。

「D子が言うにはA子が黒板の上の方をジャンプで消していた時で、自分以外の生徒はいなかったってさ」

「おかしいです! A子さんが最後に見たのはB子さんのはずです!」

「その通りだね、だけど厭くまで“A子が見た”のがB子であってそれが真実という保証はないからね。
というのも、D子の席は一番後ろ、トイレの方から戻ってくると後ろの戸から入ることになる
戸の目の前が彼女の席、机の横に掛けられた体操着セットを取るだけだから教室に入った時間は数秒程度でそのまま後ろの戸から出たらしい。
この短時間では黒板を消しているA子が気が付かないのも無理はないというわけ。
そして、D子は急げば体育館のトイレを使えると思っていたらしいけど、体育館についたのはチャイムが鳴っている途中、ギリギリだったわけね」

……。

「なるほどです……」

弥生ちゃんは納得する。
私はまゆがノートに書き続けているメモも眺める。

……。

「……体育が終わった後、更衣室で着替えなかった人はいる?」

「いないね、C子を含む全員が更衣室に入って着替えたよ」

……おかしい。違和感を感じる。

564 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。6 :2017/11/02(木) 01:23:16
「わかりました! 犯人はA子さんですね!」

「へー、理由は?」

「教室を出たのが最後だという確証はないですけど、B子さんとD子さん、それに自身の証言から最後である可能性が極めて高いうえに
体育の授業を遅刻するほど遅れてきている彼女が一番遅かったのは揺るぎない事実です!
この事実がある以上は他の容疑者が教室でお――ごほんっ! ……えっと、失敗をすることが出来ませんし
教室まで行ってすること自体が不自然です!」

私も同じ結論ではある。
だけど……。

「……まゆ、この話って本当に未解決だったの?」

私の言葉に弥生ちゃんはきょとんとして、まゆは表情を変えず、そのあと嘆息した。

「敵わないなぁ、あやりんには……。そう、この事件は弥生ちゃんの推理通りにその日のうちに解決済みだよ」

出された結論はこうだ。
A子は授業が終わると同時に教室近くのトイレへ向かった。
かなり切羽詰まっていて、日直の仕事がある以上、体育館のトイレを使用するのはクラスメイトの順番待ちで厳しいと思った。
だけど、急いで向かった教室近くのトイレは既に並んでいて、これを並んでから黒板を消していては授業に遅れてしまう。
A子は並ぶのを諦めて黒板消しをして、教室のトイレの行列が解消されることを祈った。
教室に誰もいなくなり我慢も限界に差し迫ったころ、教室の後ろの戸からトイレを見ると行列はまだ残っていて……。
この後彼女が取った行動が、教室後ろでの放尿なのかおもらしなのかはわからないが、かくして、教室に水たまりが作られる結果となった。
もし下着や制服が汚れていたならば、先に保健室で替えの着衣を用意すれば問題ない。授業は既に始まっていて、見つかる心配はない。

「だけど、私、そのA子に昨日会ったんだよ」

まゆが真面目な顔で続けた。

「なんか流れで話題がこの話になると彼女は迷惑そうな顔で言ったんだ……『私じゃなかったのに』ってね。
あれから約3年、そしてA子を見てると嘘を言ってるようにも、現実を受け止めていないようにも見えなかった
これは私が感じたただの感想であってA子の疑いを晴らすようなことじゃない……だけど……やっぱり気になった」

「……弥生ちゃんやクラスで出された推理は間違っていて、他に真犯人がいるってこと?」

「わかんないけど……多分ね」

「そんな…ありえません……」

A子が犯人でない。これはまゆの想像であって犯人ではない。
……。

565 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。7 :2017/11/02(木) 01:24:10
「……たしかに、まだ考える余地はありそうだね……そもそもA子が犯人だと違和感がないわけじゃないし……」

「どういうことですか?」

二人が私の顔を覗き込む。

「……実際見ていないからわからないけど……限界まで我慢してるA子が黒板を消すために背筋を伸ばしたりジャンプするとは私は思えない」

二人は目を丸くして驚いた。

「……だから私はまゆの意見――A子は犯人ではないに賛成したいんだけど……肝心の真犯人が……」

私は考える。
誰もが嘘を付くチャンスがあった。
だけど、嘘を付ける範囲は限られていて、体育館に来た順番は容疑の掛かっていないすべての人が見ている。
更衣室はC子を除くすべての人が利用していて、授業前、最後に使用した人物はA子で、これも恐らく間違いない。
それなのに、A子が教室を出たときに水たまりが存在していない……。

――……A子が気が付かなかっただけ? もしくは、犯人ではないが嘘を付いてる?

後者には少し無理がある。
A子は「私じゃなかったのに」と言って不本意な形で事件が収束していったのを不満に思ってる。
犯人にされてもなお、嘘を付く必要があったとは思えない。あったならばA子は後悔をしていない可能性が高く
まゆに対して不満を漏らすとは考えにくい。

「……まゆ、水たまりの位置は教室の後ろって言ってたけど、A子が教室の戸を閉める際に気が付かないくらいの位置だった?」

「いや、水たまりは教室に入ってすぐで、戸を閉めに行けば普通に踏んでしまうくらいの位置だから気が付かないはずはないよ」

――だめか……。

水たまりが出来た時間が変われば、色々と変わるかと思ったがこれもA子が教室を出た後で確定。

「えっと、本末転倒ではあるんですけど、容疑者の中に犯人がいなくて、他のクラスの生徒という可能性はないんですか?」

「……他のクラスの人が誰もいなくなった教室に入る行為、廊下にはトイレに並ぶ人もいたんだからリスクは高いとは思う……けど――」

それでも、正直否定はできない可能性。
本当にA子が犯人ではないのなら、他に可能性がない以上、この答えが真実となる。

「それはないよ」

まゆが口を開いた。

「A子には手紙が届いたらしいの、筆跡から読み取られないように印刷した文字だったらしいんだけど
貴方に罪を押し付けた形になってごめんなさいって内容のね……この事件はクラス外に漏らさなかったし
手紙自体も事件後の次の日だったからクラス内の誰かなのはほぼ間違いないはずだよ」

……。
そうなると八方塞がり……確かに怪事件。

566 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。8 :2017/11/02(木) 01:25:01
「ねぇ」

私は考え込んでいた顔を上げる。
目の前には弥生ちゃんとまゆも顔を上げていて……。

「もうすこし見方を変えてみたらどう?」

そう口にしたのは……朝見さんだった。

「A子さんは更衣室で空いたロッカーを探すのに手間取ったと言っていたはずよ。
つまり教室を出てから体育館に着くまでの時間はそれなりに長かったと言えるはず」

なぜかよくわからないが話に参戦したきた朝見さん……。
だけど、指摘したことは確かにその通り。
A子が教室を出てから体育館へ到着するまでに水たまりを残して、A子より先に体育館へ行くことが出来れば別の人でも犯行は可能。
でも――

「だ、だとしても体育後の更衣室ではみんなが着替えているので全ての人が着替えを更衣室に置いてあったか
もしくは持ち込んだりしなければ、この犯行はやっぱり不可能です」

――……っ! そっか、見方を変えるって……。

「……ちがう、不可能じゃない……一人だけ可能な人がいる」

567 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。9 :2017/11/02(木) 01:25:45
皆が私の顔を見る。
小さく咳払いをして数秒、私の推理が勘違いでないかを整理……それから口を開く。

「……結論から言って恐らく真犯人はD子」

「ちょ、ちょっとまって! D子じゃないって、体育の授業中……えっと、我慢してたっぽいしトイレにも…いったし」

まゆは自分の目で見てたからなのか、少し慌てて私の考えを否定する。
だけど、まゆが言ったことこそが、この事件を解くカギ。

「……体育の授業中そわそわしてたのは演技……ではないけど理由が違う。恐らく下着をつけていなかったからだと思うの
そして、トイレと言ったのは嘘。本当は保健室と更衣室へ行っていたと私は考える」

「保健室と更衣室?」

まゆは不思議そうな顔で何度か瞬きをする。

「……まず事の発端から、D子は体育前の授業中、我慢していたのでしょうね。
そして何らかの理由……詳しくはわからないけど、授業後トイレに立つのが少し遅れて教室近くのトイレは順番待ち
だけど、D子はそこに並び続けた……ここの理由も実は曖昧だけど、2階のトイレは行きにくいし階段もある
他のトイレも遠いと考えれば、限界まで我慢していたのなら、歩き回るより最悪10分その場で我慢すれば済ませられると思って並び続けた可能性は十分にある。
だけど、ここに誤算があった……多分間に合わなくなっちゃたんじゃないかな?
焦る中、自分のクラスの戸が閉まる音でも聞いたのか、視線は自分のクラスへ、教室から出ていく日直のA子を見て教室に誰もいないのを確信した。
人の視線から逃げるように教室に飛び込んだ瞬間、限界が訪れた。制服はわからないけど下着への被害を残して、教室の後ろで失敗を犯した。
彼女は慌てた、失敗を処理していては授業に遅れる、事情も何も話していないからもしかしたら探しに来るかもしれない。
バレたくないという思いから彼女は水たまりをそのままにして、体育館へ向かう決断をする。
だけど、最後に教室を出たはずのA子より遅くなってしまえば犯人は自分になってしまう……そう考えたD子は教室で下着を脱ぎ、体操着に着替えた。
更衣室には寄らずに、一目散に体育館へ急ぎ、日直より早く体育館へ到着できたというわけだね
そして、まゆが言ったそわそわしてた理由はさっきも言った通り下着を付けていなかったから
トイレへ抜けたのは保健室に下着を調達に行くためと、更衣室へ制服を置くためだったというわけ
更衣室へ置いた制服はどこか近くに隠してあった自分のだったのか、保健室で調達したものだったかは謎だけどね」

「待って下さい、D子さんは教室でA子さんがジャンプしたりして黒板を消していたと言ってます
A子さんが言うように踏み台を使う可能性があるなら、そんな具体的な表現は危険です!」

「……具体的な表現だからこそ信憑性が増す、それに……まゆ、貴方は探偵側の生徒ではなかったんでしょ?」

「え? あ、うん」

「……にも関わらず、まゆが聴取内容を知ってるのは、クラスの皆がいる場で事情聴取が行われたという事
本来一人ずつ個別でしなきゃいけないはずの事情聴取を皆がいる場でしたことで、後の人は話を合わせるということが可能だったという事」

弥生ちゃんは目をぱちぱちさせて驚ていて、まゆは神妙な顔でなぜか黙っていた。
朝見さんは後ろを向いていてよくわからないが、もしかしたら真相に気が付いてヒントを言ってくれたのかもしれない。

「……多分、D子はただ自分の失敗を隠すためにしたんだろうけど……結果としてA子に罪を擦り付けるみたいになったんだろうね……
不本意な形でA子を貶めてしまったD子は手紙を出さずにはいられなかった……犯人と名乗り出るのは流石に勇気がいるからね」

「これで事件は解決ね……」

後ろを向いていた朝見さんは自分の席に戻る。
時計を見ると昼休みはあと僅か。

「あっ! 私お手洗いに行ってきます」

弥生ちゃんは昼休みが残り少ないことに気が付いて慌てて教室を出て行った。

「あやりん、ありがとね」

まゆの感謝の言葉。

「……どういたしまして」

私も短く返した。

568 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。-EX- :2017/11/02(木) 01:27:20
**********

「ごめん、今日は先に帰って、私ちょっと用事があるからさ」

私はあやりんと弥生ちゃんにそう声を掛ける。

「……ん、わかった」「それじゃ、また明日」

あやりんと弥生ちゃんが教室を出て、他の生徒も教室から出ていく。
そして、教室には私ともう一人が残る。
私が用事と言ったとききっと彼女もそれを察したのだろう。

「どうして協力してくれたの……呉葉ちゃん」

自分の机に頬杖を付いていた彼女がそれをやめて、机に視線を向けながら答える。

「白鞘さんにはずっと悪いと思ってたから……」

白鞘とはA子――白鞘英子(しらさやえいこ)のこと。

「私もごめん……まさか呉葉ちゃんが犯人とは思ってなくて……」

なんだか私、いつも呉葉ちゃんにとって余計な事をしでかしてる気がする……。
今にして思えば、別の場所や学校外でそういう話をすべきだった。

「気にしないで……謝らなければいけないのは、私が英子に対して…だと思うから……」

……。
英子ちゃんの話を聞いて、私は少し自己嫌悪していた。
当時の私は、何度も釈明する彼女の事を全く信じていなかった。
周りは優しくしてくれてはいたが、何度釈明しても優しく諭される……その遣る瀬無い気持ちと言ったら計り知れない。
だから私は、罪悪感から早く解決したいって気持ちばかりが先走りD子が――呉葉ちゃんが真犯人だという可能性を見落としていた。

「雛倉さんの推理……、大体合ってた。強いて言うなら、トイレの場所を変えなかった理由くらい」

――理由……なんだろ?

疑問に思うが呉葉ちゃんはそれ以上続ける気がないみたいだった。

私から声を掛けるべきか迷っていると小さくため息が聞こえてきた。

「……別に罪を擦りつけたいとか思ってなかった……。
だけど、結果的には最低な事してて……その晩気持ち悪くて一睡もできなかったわ」

何を言っていいかわからず私は口を閉ざす。
呉葉ちゃんは真面目で正義感が強い子だった。
だけど気が弱くて、行動力がなくて、人見知りで。

英子ちゃんにしたことは結果的に正義とはかけ離れた行動。
もし呉葉ちゃんに勇気があれば、彼女の正義感から間違いなく犯人は私だと名乗り出ていたはず。
それが出来ない自分を責め続けて……、彼女が出来る精一杯があの手紙で。

「ねぇ、黒蜜さん」

「……なに?」

「白鞘さんの連絡先……教えて、くれない?」

少し自信なさげに、でもハッキリと聞こえる声で言った。
私は小さく笑いながら言った。

「うん、いいよ……」

大丈夫……。
英子ちゃんのあの様子だと、今はそれほど気にしてない。

「許してくれるよ、きっと――」

おわり

569 名無しさんのおもらし :2017/11/02(木) 22:38:48
この事件が追憶で書かれたら語られなかった謎もあきらかになるのかな

570 名無しさんのおもらし :2017/11/03(金) 13:26:35
更新ありがとうございます。毎回楽しみにしてます。

D子の説明でまゆが声を潜めてたのはそういうことだったんですね。
でも、彼女が列に残ったのは何でだったんだろう?
性格的にも状況的にも利用者が少ない方に行きそうなのに。
B子やC子も実はキーパーソンなのかな。

571 名無しさんのおもらし :2017/11/04(土) 00:32:01
いやぁ読ませる文章は書くわ
可愛い絵は描くわで最高だよあんた
今回みたいな推理ものでありながらもちゃんとおもらしを軸にしてるのはすげぇなとしか言えねぇ
これからも自分のペースで作品あげてください

572 名無しさんのおもらし :2018/01/26(金) 23:49:03
新作希望

573 事例の人 :2018/03/18(日) 23:51:12
もう3月だった・・・
事例13の続き(追憶)になります
次回は事例14ではなく諸事情で飛ばして15の予定ですが更新は結構先になると思います

574 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。1 :2018/03/18(日) 23:53:35
  「えっと、もしもし?」

見知らぬ番号からの連絡に疑問符を付けた白鞘さんの応答。
私はそれに気まずく、用意していた言葉を返す。

「えっと……中学同じだった朝見呉葉……だけど……」

  「え? ――あー、1年の時、確か同じクラスだったよね?」

クラスが同じだったのは1年の時だけ。
私を覚えていたのはきっとあの事件で同じ容疑者だったからだろう。
そんな私がなぜ連絡先を知っているのか疑問に思うのは容易に想像が付くので、先回りして連絡先を得た方法を答える。

「そ、そう。…その、黒蜜さんから連絡先……教えて貰って」

  「そうなんだ、それで――あ、もしかして例の事件の真犯人だったのを隠しててごめん――っ的な話?」

「っ! そ、その通りなんだけど……どうして?」

どう切り出そうか色々考えていたのだけど、あちらからとは想定外。
そして、なぜか彼女は私が真犯人だと知っている口振り……。

  「いやー、タイミング的に真弓ちゃんが解いちゃったのかなって思って……その、ごめんね?」

昨日の今日であの事件の関係者――というか、容疑者からの連絡。
そこから察したという事……だけど、それよりも――

「なんで……謝るのは私だと…思うのだけど」

そう、謝るのは私。
まだ謝れていない……それなのに、どうして彼女が謝る必要がある。

  「んーえっとさ、私、真弓ちゃんにちょっとあの事を愚痴ったみたいになっちゃったから……
  今更、犯人捜しみたいなことになってたなら嫌な思いさせちゃったかなーって思って」

――自分が犯人にされたというのに……この人は……。

私は彼女の優しさに感謝しながらも少し呆れた。
悪いのは元を辿れば私のはずなのに……――謝らないと……。

「いや、ですから……その、あの時ちゃんと私が名乗り出なかったからで、だから――ごめん…な、さい」

もっと丁寧に謝りたかったはずなのに、少し流れに任せてしまった。
それでも、ちゃんと…言えた。

575 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。2 :2018/03/18(日) 23:54:08
  「うん、わざわざありがと。もう気にしてないし大丈夫。そりゃ前に犯人が朝見さんかもって聞いたときは驚いたけど……」

――……え? 前に犯人が私かも…って?

今までの話の流れから黒蜜さんが既に伝えていた可能性はまずない。
それに“朝見さんかも”という言葉から“前”と称されたその時点では私だという確証は得られていなかったと考えられる。

……。

「……前に聞いたって誰かから聞いたんですか?」

結局、考えても結論が出そうになく、かと言ってそのまま聞き流すことも出来ず単刀直入に聞くことにした。

  「え? あ、うん。香澄ちゃんに聞いたけど、朝見さんが犯人の場合アリバイ工作――っていうのかな?
  そこまではわからなくて、私としては全然信じてなかったんだけどね」

香澄と呼ばれた人物に初めはピンと来なかったが
黒蜜さんの言うところのC子に当たる人物、確か彼女の名前が香澄――紺谷 香澄(こんたに かすみ)だった。

「……えっと、アリバイ工作なんてものじゃ――いや、結果的にはそうなんだけど……。
でも、どうして犯人が私なのかもって…紺谷さんはわかったんですか?」

  「え? あはは、気を悪くしないでね。わかったっていうよりも、私じゃないなら朝見さんかもしれないねって程度の話で
  香澄ちゃんは朝見さんの様子的に体育後半まで持つようには思えなかったってさ」

――様子的にって……っ! お、お手洗いに並んでる時!?

仕草は極力出さないようにしてはいたが、限界だったし、後ろの紺谷さんにはやっぱり切羽詰まってると思われていた……。
私は右手を額に当てながら力なく口を開く。

「そ、そう……」

  「それで、真相はどうだったの?」

……。

「……余り言いたくないんだけど……」

  「うーん、じゃあ、許す条件が話す事って事でどうかな?」

――じゃあって何よっ!

まさか急にこんなことを言い出すとは……。
だけど、それを言われると言わないわけにはいかない。
嘆息しそうになって私は静かに鼻から空気を出す。

「どこから――」
  「我慢する経緯からでお願いしまーす!」

……。

変な事言わずにさっさとアリバイ工作の話から始めればよかった。
私は今度は明らかに聞こえるように嘆息してから、顔が熱くなるのを感じながら渋々話を始めた。

576 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。3 :2018/03/18(日) 23:54:45
――
 ――
  ――

トースト、ハムエッグ、コーンスープ、牛乳。
今日の朝食は珍しく洋食。

「ごめんね、お味噌切らしちゃって」

母は私に謝る。
この謝罪の意味は、ただ、いつもと同じものを用意できなかった事に対するもの。
私は別に洋食が嫌いなわけではないのだから。

「ふう……」

コーンスープを飲み込み一息……ゆっくり食事をする。
和食の時と違って時間の進み方がなんだか遅く感じ……――あれ?

時計を見ると秒針が40秒のところを上ったり下ったり……。

「ねぇ、今何時?」

「え? 時計を見れば――あら、電池切れ?」

母はそう言うとテレビの電源を入れた。
左上に見えた時刻に私は慌てて立ち上がり、残っていた牛乳を飲み干して慌てて準備を始める。

「い、いってきます!」

私は家を出て自転車に乗って学校へ向かう。
赤のリボンだけは髪に結んできたが、その髪もいつもと比べれば少し跳ねてる気がする。
それに、お手洗いも済ませられなかった……。

いつも家で済ませて、学校で1回か2回、利用者の少ないお手洗いを利用する。
今日は2回は確実、もしかしたら3回……。
利用者の少ないお手洗いと言っても全く利用者がいないわけじゃない。
居たら何食わぬ顔で、廊下の掲示物をみたりしてやり過ごす必要があるわけで……。

大きくため息を吐きたいけど、自転車を急がせる私は既に息が上がっていて……、心の中でため息を吐いた。

577 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。4 :2018/03/18(日) 23:55:19
――
 ――

1時限目の授業が終わる。
朝、遅刻は免れたが、時間的に利用者の少ないお手洗いへ行くことは出来なかった。
そして家で解消されなかった仄かな尿意は今ははっきりと感じられる。

――昇降口近くのお手洗いなら大丈夫?

あと候補としては視聴覚室近くのお手洗いもあるが、あそこは近くに掲示物がなく、他に人がいるとやり過ごすには通り過ぎるしかない。

私は机の物を片付けて廊下へ出る。
友達の居ない私がどこへ向かうのか……自意識過剰かもしれないが、気になる人もいるかもしれない。
昼休みならだれも気にも留めないだろうけど……それまで我慢するのは流石に厳しいと思う。

廊下に出ると教室棟のお手洗いには短いが行列が出来ていた。
朝のホームルームで先生が言っていた事を思い出す。
ここのお手洗いは故障で、今、個室が一つしか使えないらしい。
しばらく前から四つある個室の内一つが故障していたが、どうも配管関連の故障があったらしく昨日同時に二つ使えなくなったとのこと。
修理は週末に行うらしくしばらくはこのままで、我慢できない場合は2階のお手洗いを使うようにと言っていた。

――そもそも、私には関係のない話なんだけど。

普段からここのお手洗いを使うことはないし、2階の上級生のお手洗いを使うなんて出来っこない。
私は行列の出来たお手洗いを通り過ぎて昇降口の方へ向かった。

誰もいないことを期待して辿り着いた昇降口。
だけど残念ながら先客が入っていく姿を目にする。
私はお手洗いへの歩みを止めて、昇降口の掲示物の方へ身体を向ける。
気が付かれないよう視線だけをお手洗いの方へ。

――さっき入っていった人が出ていけば、入れるかな?

それまでは掲示物を本当に見て時間でも潰せば良い。
部活の勧誘、何を伝えたいのかわからないポスター。

「それでさー――」「へーそうなの?」

後ろを通り過ぎる生徒。
私は気が付かれないようにその人たちを視線で追う。

――ってお手洗い入っちゃった……次は私なのに……。

次と言っても、こんなところで掲示物を眺める私に順番なんてものはない。
それにしても、ここのお手洗いを利用する人が3人もいるなんて珍しい。

最初の人が出てくる。
あと二人出てきたら、今度こそ私の番。

済ませた人が私の後ろを通り過ぎる。
同時に反対側からまた一人生徒が通り過ぎていく。

578 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。5 :2018/03/18(日) 23:55:48
――あ、あれ? あの生徒もお手洗いに?

また一人私の順番を飛ばしてお手洗いへ……。

どうしてこんなにここのお手洗いを使用する生徒が多いのか。
いつもならこんなことないはず……。

考えているとまた一人後ろを通る生徒。
皆私と同じ1年……――あっ……そっか…あっちが混んでるから……。

私は考える。
こっちに来たのは失敗だったかもしれない。一部の生徒が教室棟のお手洗いを並ばず、こっちに流れ込んできている。
それなら、今からこの棟の2階にある視聴覚室近くのお手洗いへ行く?

また一人生徒が後ろを通り過ぎるのを見て私は掲示物から離れ2階へ向かう。
階段を登り終えるとお手洗いが見える。近くには誰もいない。
私はお手洗いへ歩みを――

――っ! 出てきたっ!

お手洗いから人が出てきて私は咄嗟に歩みを前に――廊下へ向ける。
そして、出てきた人も私と同じ方へ進路を向ける。

――あぁ、お手洗いから離れちゃう……。

休み時間も残り少なくなってきた。
このままこっち側の階段を下りて教室へ戻るほかない。
我慢はまだできる――次の休み時間はまずこっちへ来て必ず済ませないと。

結局何もせず、教室の自分の席に腰を下ろす私……何してるんだろ。
昇降口の掲示板を見て、しばらくして2階へ移動そのまま廊下を進み反対側の階段を下りて教室へ戻る。
もし私の行動を観察していた人がいるなら不審者以外の何物でもない、意味の分からない行動だっただろう。

下腹部から主張してくる存在感。次の休み時間はちゃんと済ませないと……。
私は視線を自身のお腹へ向けて、ゆっくり目を閉じ、ため息を吐いた。

579 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。6 :2018/03/18(日) 23:56:53
――
 ――

――次の休み時間まで……あと10分。

割としたい。早く済ませたい。
下腹部が軽く膨らんでるのがわかる……尿意が大きくなってきてる。
それは、それなりに差し迫ったものになっていて……。

――でも大丈夫、まだ我慢は十分できる……あと3分……。

仕草もまだ出すまでもない。十分我慢できる。

普段お手洗いに行くには遅すぎるくらい溜まってはいるけど、昔とは違う。
あの頃と違って我慢することにはそれなりの自信がある。
仕草に出さないのも多分得意な方。

誰にも知られず、利用者の少ないお手洗いで済ませて、何事もなく教室に戻って来たらいい。

<キーンコーンカーンコーン>

チャイムが鳴り授業の終了を告げる。
日直が号令を出して黒板を消し始める。
私はまだノートに写していなかったところを慌てて書き込み、教科書や筆記用具を片付ける。

――っと、向かう先は視聴覚室近くの2階のお手洗いっ!

私は立ち上がって教室を出る。
焦らず平静を装いまずは渡り廊下を使ってあっちの棟へ。
この前の休み時間とは逆のルートで視聴覚室近くのお手洗いを目指す。

渡り廊下を越えて階段を使い2階へ上がり、お手洗いのある方へ視線を向ける。
お手洗いは反対側の階段に近い位置にあるが、今のところ廊下には誰もいない。
さっきの休み時間は1時限目に移動教室があったはずだから、利用する生徒が居たわけであり
今日は2時限目と3時限目にこの辺りの特別教室を使う生徒は居ないはずなので、私のような稀有な人がいない限りは大丈夫なはず。

――“はず”ばっかりだな……だけど、よし……もうすぐ――

「こっちだよ」
「うぅーやばいー」
「あはは、わざわざこっちのトイレ使いに来なきゃダメとかギリギリかよー」

――っ!!

お手洗いに入る直前、階段から足音と声が聞こえてくる。
このまま見つかる前に個室へ入るべきか、やり過ごすべきか迷い歩みが止まる。

――っ、だ、ダメ、もう見られるかも!

迷いなく歩みをお手洗いの中へ向けていれば個室へ入れたはず。
だけど、迷いがその判断を遅らせて階段から駆け上がってくる足音はもうそこまで来ていて……。

私は足音がする方へ自ら歩みを進め、駆け上がってくる生徒とすれ違う。

580 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。7 :2018/03/18(日) 23:57:35
「はい、先にどうぞー」
「ごめーん」『やばい、早くっ! でちゃう!』
「先にしないともらしちゃうもんねー」『もう、本当かわいいなー』

――っ!。

不意に聞こえる主張の大きい『声』。それと……我慢してる生徒を見て興奮を含んだ『声』。
前者は本当にギリギリの『声』だった。

私は階段を下りる。
視線を昇降口の方へ向けると、廊下に2人ほど並んでいる。
どうやら、これが我慢できず2階のお手洗いへ向かったらしい。

……。

今度は視線を上に向ける。
さっきの『声』のためか、鼓動が早くなってる……。
あんな目で見られるなんて想像もしたくない。

私は深呼吸をして視線を下ろす。
結局上の個室へ入っていたとしても、音を聞かれたり出るところを見られてたりしたわけだから
選択を間違ったとは思わない……だけど――

――どうしよう、どこのお手洗い……。

2階のお手洗いは個室の数が少なく2つ。
3人向かっていったから完全に使用者が居なくなるまで4〜5分後くらい。

「わ、昇降口のも混んでるよ……上いく?」
「そだね、上いこっか?」

階段を上がっていく二人……。これで上は個室2つに5人……5〜6分の順番待ちくらい。
休み時間の10分は既に2〜3分ほど消費されている。
上の階のお手洗いを使うという選択は難しくなった。

――……た、体育館の……1年はこの時間と次の時間体育ないけど……。

他の学年までは把握しきれていない。
だけど、私のクラスは4時限目が体育だが、全生徒共有である更衣室に上級生が残っていたことは今まで一度もない。
つまり次の時間に体育があるクラスは存在しないことになる。
更衣室での着替えの問題上、体育の授業は5分ほど早く終わるからさっきまで体育の授業があったとしても
既にお手洗いを終えて更衣室の中、もしくは着替え終えているということになる。

――うん……よし、体育館にしよう。2階はまた人が行くこともあるかもだし……それに――

あの『声』は嫌い……。
私は昇降口とは反対側へ歩みを進め体育館へ向かう。

――また私、変な行動してる……さっきはこの上を反対方向へ歩いてたのに……。

入学当初は他のクラスの時間割がわからず、苦労したこともあったが
今は何時、どこのお手洗いが利用者の少ない場所かある程度見当が付く。
だからこそ、今回のようなことは稀で――だけど、今回も大丈夫……間に合う。

廊下を進み体育館へはもう少し。
此処の階段の横を過ぎれば――

581 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。8 :2018/03/18(日) 23:58:15
「わっ!」

――っ!

突然、身体に軽い衝撃を感じて私はよろめく。
それと同時に聞こえた声と散らばるプリント。

……状況は、とりあえず把握できた。

「あちゃー……って呉葉ちゃんじゃーん!」

状況は理解してはいたが、私に呼びかける声に聞き覚えがあり視線をその声の主へ向ける。

「っ! 黒蜜さん……」

教室棟への渡り廊下から出てきて私とぶつかったのは、同じクラスの黒蜜さんだった。

――でも、どうして、黒蜜さんがプリントを……?

彼女は日直でもないし、提出するようなものは出ていなかったはず。
私は廊下に散らばったプリントに視線を向ける。

「これって、さっきの授業で先生が集めてた……」

それはさっき行われていた授業中に提出した問題プリント。

「そそ、先生集めるだけで置いてっちゃうんだもん」

そう言って黒蜜さんが腰を落としてプリントを集める。

「あ、ごめんなさい、私のせいなのに」

それを見て私も慌てて拾い集める。

「気にしないでよー、私もちょっと考え事してたし、ちょうど出会い頭って感じだったし」

仕方がない、そう続ける黒蜜さん。
早足気味だった私、考え事をしていた相手、ちょうど出会い頭。
注意してれば避けられなかったわけじゃないが、非があるのはお互い様。

ただ、お手洗いに行きたいがためにうろうろと変な行動をしていた私と
日直でもないのに問題プリントを先生に届ける黒蜜さんとでは使命の質に差があり過ぎる気がするけど。

――でも、良かった……通り過ぎてるのを見られてたら体育館へ向かう所見られてたし……。

「これで最後っと、……えっと、私は19枚だからそっちは16枚あればちょうどかな?」

私は枚数を確かめる。
早く数え終え、これを渡し黒蜜さんが職員室へ入って……――そうしたら体育館のお手洗いへ。
休憩時間の残りはもう4分程度で……時間的余裕はあまりない。
まだ、尿意は限界じゃない。
だけど、早くしないといけないという気持ちが焦りになり、一枚ずつ数える手が上手く動かず逆に時間がかかってしまう。

582 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。9 :2018/03/18(日) 23:58:51
「13…14……15枚? あ、あれ?」

「足りない?」

私たちは周囲を見渡す。だけど、プリントらしきものが見当たらない。

「んー、数え間違いかな? もう一度数えてみよ?」

そう言うと黒蜜さんはまたプリントを数え始める。
私も慌てて数え直す。

「こっちはやっぱり19枚だった」

「12…13…14………ごめん、16枚でした」

「よかったよかった、んじゃこれ出してくるねー」

黒蜜さんは笑顔で私が集めたプリントを受け取ると、職員室の方へ向かう。
ぶつかった事にも、数え間違ったことにも嫌な顔一つせず……。
頭脳明晰でスポーツ万能、気さくで人気者でコミュ力が振り切れてるような人。
あーちゃんのように眩しいくらいの人だけど……どこか必要以上に利他的な印象を感じる。
私が友達と言える立場にないからかもしれないけど、どこか薄い壁を一枚隔てて接しているみたいで。

あーちゃんなら、数え間違いに冗談っぽく怒った気がする。
あーちゃんはもう少し自分勝手で、無邪気で……それなのに私にとって正義の味方のような人だった。

……。

――そんな事、思い出してる場合じゃないけど……時間的にもう間に合わないか……。

済ませる時間はあるが、教室に戻るには走ってもギリギリくらいな時間。
数え間違いがなければ、1分程度早く黒蜜さんと別れることが出来たと思うから……――済ませられないのはきっと私のせいだ。

――だ、大丈夫かな? 次の授業……まだ我慢できるし、1時間くらいなら……大丈夫…だよね?

小さいとは言えない不安を感じる……。
だけど、私は不安から目を逸らすようにして足を教室棟への渡り廊下へ向ける。
自覚できる程度にはゆっくりとした迷いのある足取り……だけど、悩んでいても時間は戻らない。

教室に戻り、自分の席へ座る。
下腹部に感じる確かな重さ――それは、解消されていなければいけないはずのもの。

でも大丈夫、きっと――絶対我慢できる……。
じっと座っていれば大丈夫、そんな気がする。
決して我慢できない尿意じゃない。水分も朝以降取っていない。

「はぁ、トイレ混んでたー」
「そう見たいだね、昇降口の方も混みだしてるらしいよ」
「次私たち体育でしょ? 体育館のトイレあるし、わざわざそこのトイレ並ばなくてもよくない?」
「そだねー、二階とか論外だしー」

クラスの元気のあるグループからお手洗いに関する話題が聞こえる。
体育館のお手洗い……さっきはあれほどまでに使いたいと思っていた。
だけど次の休み時間、きっとクラスメイトの数人、もしかしたら十数人がそこを利用するかもしれない。
順番が回ってこないということは恐らくない。けれど、それなりに混み合うのは間違いない。

――使えない……使いたくない……けど。

使えないわけじゃない。
使わなければいけないなら、使うしかない。

皆が使うトイレ……私はそこにいる“皆”の内の一人……気にする必要なんてない。

<キーンコーンカーンコーン>

気持ちが憂鬱に沈む中、授業開始を知らせるチャイムが鳴った。

583 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。10 :2018/03/18(日) 23:59:26
――
 ――
  ――

  「ぷっ、ちょ、なんで朝見さんの学校生活、トイレの使用がハードモードなの? くっ、ふ、あははっ」

携帯の向こう側で、笑いながら質問してくる。
当時の事を思い出しながら話す中、私が人目を避けてトイレに済ませていることを話してしまったせいで……。

「……切ります」
  「わー、ごめん、――って言うか全然真相までたどり着いてないじゃん、我慢する経緯だけじゃん!」

恥ずかしいのを我慢して、そこから話してほしいと言われた我慢する経緯。
それを“我慢する経緯だけ”って言われ、半ば冗談を交えて切るといった言葉を一瞬本気で考える。
だけど、白鞘さんは当時私のせいでもっと辛い経験をしてしまったわけで……私の話で気が少しでも晴れるのなら話を続けるのが道理。
それに……これは私の身勝手な理由だが、自分自身を許す為でもある。

  「ねぇー話してよー」

「わかったから……お願いだから余計な突込みとか言わないで、は、恥ずかしいから……」

私は深呼吸して気持ちを落ち着ける。
ちゃんと話して、許して貰って……ちゃんとケジメを付けないと。

私は再び当時の事を思い浮かべて、言葉を選んで話を続けた。

584 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。11 :2018/03/19(月) 00:00:18
――
 ――
  ――

――これ……間に合うよね?

少しずつ我慢が辛くなって来ていたが、なんとか大丈夫だと感じてもいた。
だけど、授業が始まって35分を過ぎてから急激に尿意が膨れ上がって……。

――したい……お手洗いに…おしっこ……したい。

もしかしたら我慢できないかもしれない。
そんな、思いが込み上げる。

――だめだめ……そんなの……――だったら…先生に?

そう、手を上げて言えばいい。
お手洗いに行かせてくださいと言えば何も心配はいらない。

――……そんなこと出来るなら……今、こんな辛いことになってないっ……。

人気のないお手洗いを選ぶ私なんかが、そんな恥ずかしい申告を出来るわけない……だから、ちゃんと我慢するしかない。
そう自分に言い聞かせて腰を小さく揺すり、椅子にその欲求を宥めてもらう。
一番後ろの席とは言え、隣には手を伸ばせば届きそうなところにクラスメイトがいる。
下手な我慢の仕草が出来ない。しちゃいけない。

手で押さえたい。押さえつけたい。
机の上で握る手をもう片方の手で抑え込む。

「っ……」

不意に感じる尿意の波。押さえたい手を必至に机の上に止まらせる。
だけど、波は大きくなり続け、ただ我慢に集中するだけじゃ抑えが効かなくなる。

――っ……だめ、落ち着いてっ、我慢…がまん……うぅ……。

伸ばされていた背筋が前に傾く。力を籠めるために顔が下を向く。
それでも間に合わず、足を不自然に絡ませて小さく震わせる。

――あ……っだめ、我慢して、我慢……こんなの…我慢してるってバレちゃう……お願いだから治まってよっ!

その気持ちが通じたのか波はどうにか引いてくれた。授業の残り時間は6分……。
だけど、もう限界が近い……早く授業を終えて、体育館のお手洗い――っ……待って?

気持ちが先走りしたことにより気が付いた。
体育館のお手洗いに行く前に更衣室で着替える必要がある。
そうじゃないと、私だけ我慢できないから先にお手洗いに行くみたいで……そんなの許容できることじゃない。

――だ、だったら……どうする? 更衣室に行ったとして……普通に着替えられる?

今にもスカートの前を押さえてしまいそうな机の上の手……それに視線を向けながら真剣に考える。
だけどそれは考えるまでもないこと。
今の状態で平静を装い着替えたり出来ない。身体をくねらせながら着替える恥ずかしい姿しか想像できない。

――それなら…やっぱり昇降口かその上の視聴覚室前のお手洗い……でも……。

これまでの休み時間の経験から、走っていかないと結局順番待ちの可能性がある。
お手洗いまで走る……それじゃ駆け込むところを見られたら限界って言ってるようなもの――そんな姿見られるなんて絶対に嫌。
それに廊下を走るのは校則違反、万が一先生に咎められ、足止めを受けたりしたら……。

……。

万が一じゃない。
昇降口のトイレへは一年の教室を4つも超える必要がある。
授業が終わった直後でそのすべての教室から先生が出てくるのは容易に想像が付く。

585 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。12 :2018/03/19(月) 00:01:03
――……視聴覚室のお手洗い、さっきの時間通ったルートなら……
いや、結局ダメか少なくとも今此処で授業をしてる先生には走ってるの止められるはず……。

厳しいことでそれなりに有名な先生……引き留められないはずがない。

私は小さくため息を吐いて時計を見る。
もうすぐ授業が終わる、待ちわびていたこと……だけど、どう行動すべきか決まっていない。

私は意味もなく視線を彷徨わせる。
そんなことをしても答えが見つかるわけない……。

――? あれって白鞘さんだよね?

前の席で落ち着きがない生徒を見つける。
彼女は白鞘英子……その動きにピンと来て私は意識を『声』に集中する。

『っ……トイレ…おしっこ……早くしないと、ほんとにやばいよ……』

微かに聞こえる主張の大きい『声』。
それは私が想像していた通りのもので、私と同じかもしかしたらそれ以上に切羽詰まったもの……。
白鞘さんはどうするのだろう……恥を忍んで2階のお手洗い、着替えずに先に体育館のお手洗い。
私と違って選択肢は多いのだろうけど……。
もしかしたら、彼女の行動に私が探している答えがあるかもしれない。

<キーンコーンカーンコーン>

チャイムが鳴り白鞘さんが起立の号令を言う。

――っ! ……これ、思ってたよりずっと……いっぱい……。

背筋が確り伸ばせない。それほどまでに下腹部に沢山の……。
私は視線を白鞘さんへ向ける。彼女は机に手を付き前かがみの姿勢。……私よりも辛そうに見える。

「礼っ」

彼女のその言葉に私を含めたクラスメイトが皆礼をする。
その直後、誰かが駆け出す音がして私は顔を上げる。
呆気に取れる先生を尻目に、教室の前の扉から廊下へ飛び出したのは号令を掛けていた白鞘さんだった。

『間に合うっ! トイレ、早くしないと順番待ちになっちゃう!』

廊下……私がいるすぐ横を駆けていくとき『聞こえた』。

――そうだ、教室前のお手洗い! 授業が終わった直後なら並ばずに済む!

それに私の席からお手洗いは非常に近い。他のクラスの人が同じように急いだとしても距離的な有利がある。
……先入観から此処のお手洗いは使えないと思っていた。
私も慌てて机の上の教科書を纏めて引き出しに入れる。

586 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。13 :2018/03/19(月) 00:02:01
<ガシャ>

――っ!

引き出しに入れるはずの筆記用具が音を立てて床に落ちる。
大きい音ではなかったが近くのクラスメイトがこちらに視線を向ける。

私は慌てて、でも下腹部が圧迫されないように慎重に屈む。
チャックを閉めていなかった為、筆記用具入れの中身が散らばっていて……。
こんなことしてたらダメなのに、順番待ちになっちゃうのに。
それでも、これをそのままにしてお手洗いに走るなんてこと恥ずかしくて出来ない。
拾っている間も、尿意は膨らみ踵を使いさり気無く押さえて……こんなに我慢してるのに。

全て筆記用具を拾い集め、筆記用具入れに詰め込み、引き出しにしまい……その動作の一つ一つはほんの些細な時間。
だけど、廊下に出たときにはお手洗いに入っていく人が一人二人……私はその後ろに並んだが、結局私は4番目。

――白鞘さんは個室の中……っ、すぐだったら……筆記用具を落としてなかったら、私がその…次だったのに……。

足踏みしたい。
手で押さえたい。
屈んで踵で押さえたい。
歩き回っていたい。

……。

だけど……だめ。抑えて……平気な顔して並んで……。
自分自身に言い聞かせる。前に3人なんて大した数じゃない。
一人2分掛かるかどうか6〜7分後には個室の中。
朝からずっと我慢出来て来た、さっきの授業も切羽詰まってきていたけどなんとかなった。

――あと少し……っ! あぁ、したい……おしっこ……我慢……しなきゃ、なのに……なんで……。

もう少し、あと少し。
だけど、だんだんと尿意が膨れていくのがわかる。
それは思っていたよりも遥かに早い感覚で限界に近づいていく。
さっきまでは座っていたから落ち着いていられただけ。
今は立っていて、視線があって思うような我慢の仕草が出来なくて……もうすぐって油断もあって。

「あー、やっぱり……」

私は背後で聞こえた声に身体を強張らせる。

「ねぇねぇ、朝見さん?」

私を呼ぶ声……私は少し俯いて視線を合わせないようにして振り向きその人を確認する。
それは確か同じクラスの――えっと…紺谷香澄さん? だった。

「えっと、この行列我慢できる?」

「っ!! だ、大丈夫ですっ」

突然の言葉に私は焦りそう返して逃げるように視線を前に向ける。

「そ、そっか……」『はぁ、やばいな……割と漏れそうだよ……』

――え……『声』が…紺谷さんも……?

だけど、そんなこと心配してい場合じゃない。
『漏れそう』と表現しているが、私の尿意とは比べるまでもない程に余裕がある。

「うーん、私別のトイレいくわ」

そう言って後ろから私の肩を一回軽く叩いて列を抜ける。
私は少し前に言った彼女の言葉の意味を理解した。

たぶん……他のお手洗いに一緒に行こうって……そういうつもりで言った言葉。
それに対して私が返した言葉は、きっと紺谷さんにとって断りの言葉だった。

――だ、だからって…言い方……っ、一緒に、行くべき……だったのかな?

587 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。14 :2018/03/19(月) 00:03:03
ようやく個室の扉が開き、白鞘さんが出てくる。
あと私の前に二人……。

「っ……」

急な波に足が震える。前には二人――あと二人なのに……。
幸いなことに後ろに新たに並んでくる人はいない、前の人はこっちを見ていない。廊下にいる人もそれほど多くはない。

――……っだめ…ダメなのに……。

足をクロスさせたり小さく腰を揺らして……そしてさり気無く手をスカートの前に持って行って……。
そのままその手でスカートに谷を作り、そして指先を持ち上げるようにして押さえて……。

あと少し。
波を抑え込んで、落ち着かせて……。
ほんのわずかな時間だけ押さえて――そのつもりだった。

――……や、な……なんで……早く、お願い、治まって……早くトイレ…おしっこ……っ…。

離せない。離せば溢れてしまうかもしれない。
こんな……はしたない恥ずかしい姿……続けたくないのに、見られるかもしれないのに、嫌なのに。

「えー並んでるじゃーん」
「どうする? 次私ら移動教室だから時間ギリギリかもだけど」

廊下で話す声が聞こえる。
手を離しかけるが――だめ、まだ離せない。
でも、後ろからなら……多分押さえてる所なんて見えないはず。

「昼休みでいいや」
「さっきの時間も行けなかったんじゃないの? 大丈夫?」
「えー、なにそれ? 大丈夫だって、中学生にもなって我慢できないとかありえないじゃん?」

<じゅ……>

――ぁっ……や、嘘? 我慢できないとか……ありえない……ありえないのに……。

それは下着に小さな染みを作る程度の極僅か失敗。
だけど、後ろで喋っていた二人の会話が、そんな私を馬鹿にしているみたいで……。
でも、実際その通り……それは自分自身が一番よくわかってる。

誰かにお手洗いに行くところを見られるのが嫌で、済ませることのできる機会を何度も逃して、我慢できるって過信して……本当に馬鹿……。

<ガチャ>

私はその音に視線を上げる。それは個室の扉が開く音。
そして当然中から人が出てくるわけで、私は前を押さえていた手を慌てて退ける。

588 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。15 :2018/03/19(月) 00:03:53
<じゅ…じゅぅ……>

――ぁ……や、だめっ出ないでっ!

手を離したことで抑えが効かなくなり、下着を再び熱く濡らす。
下着だけじゃない、不快な感覚が内腿を一筋……。
私はそれを誤魔化すように足を擦り合わせる。

限界まで張り詰めた膀胱が震え、溢れてくるのを確りと堪えることが出来ない。
視線がある中、手でスカートの前を押さえることが出来ず、ただ真っすぐに下ろされた手は意味もなくスカートの生地だけを握りしめる。
熱く荒い息を漏らさないように出来ているのか自分じゃもうわからない。
周りから見て平静を装えているのかわからない。

個室から出てきた生徒は手を洗い終えて廊下へ。
個室の中に一人入って、私の前には残すところあと一人。

私は再び前を押さえる。
恥ずかしく濡れた下着……それをスカートの上から押さえる行為がスカートも汚してしまうということだとわかっている。
だけど、そうしないと、押さえないと我慢できない……。

下着の水分がスカートに移り、押さえる手に少しずつ湿った感覚が伝わる。
学校で……すぐ近くに人がいるのに……見えていない部分だけじゃない、スカートにまで染みを作り始めてる……。
大変なことをしてしまってる……そう自覚してるのに。

――っやだ、またっ! だめ…来ちゃうっ……んっ!

押さえることでどうにか押しとどめていたはずだった。
それなのに――

<じゅう、しゅぅ……>

スカートの押さえ込まれた部分、手で触れているスカートの生地から熱い感覚が浮き出す。
押さえたまま視線を落とすと押さえている手の周りのスカートが僅かに色を変えていて……自分がしている失敗の大きさを理解するには十分だった。

――ダメだっ…んっ! だめ、間に合わない……もう、間に合って……ない? いやっ、そんなの……。

もう誤魔化せるレベルの被害じゃない。
目の前にはまだ一人いて、しばらくすれば個室からまた人が出てくる。
個室の中では今まさに水を流す音が聞こえる……もう数秒先……私は――

我慢出来ない尿意に焦り、視線を向けられ失敗が――おもらしが見つかってしまう恐怖。
胸が苦しくなり息苦しくなるが、呼吸を乱すことも出来ない。

<ガチャ>

個室の扉が開く音。手を離すことはもうできない。私は咄嗟に身体の向きを壁側に少し変え下を向く。
見られているのか、見られてないのか分からない。……確かめるのが怖い。
直ぐ近くの洗面台で水の音が聞こえ、個室の方では扉が閉まる音がする。

<じゅ……>

そんな短い時間の中でも尿意は膨らみ続けまた溢れ、スカートの染みを更に拡げてしまう。
今、おもらしが見つかったら、声を掛けられたら……その人の目の前で惨めに尿意に屈してしまえば。
その姿が浮かび目の奥が熱くなっていく。

<コツコツ……>

洗面台から離れていく足音。
極度の緊張が解けていくのがわかると同時に涙が床に落ちる。

「(んっ……ぁっ! や、あぁ……これ、もうっ……)」

緊張が解けたためなのか尿意がさらに膨れ上がりこれ以上我慢できなくなる。
膀胱が断続的に収縮して下腹部を波打たせて。

589 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。16 :2018/03/19(月) 00:04:38
<ガラガラ>

背後……廊下で引き戸の音がする。その音は――私の教室?
私は震える足を動かし、洗面台の方へ身体を向けて、数歩だけ廊下の方へ歩みを進める。
そこから視線だけを廊下の方へ移すと教室の後ろの扉が閉まっているのが見て取れた。

――と、戸締りっ…?

鍵を閉めるわけではないので余り意味のあることではないが、体育の時は教室の扉を閉じておくことに決まっている。
だけど、私が今気にしているのはそういう事ではなくて。
……教室にはもう日直の白鞘さんしかいないという事。
そして、その白鞘さんももうすぐ前の扉か出て行き、教室が無人になる。

……。

私は個室へ一度視線を向ける。
まだ1分程度は開くのに時間の掛かるであろう場所。
今はその1分が果てしなく遠く、そして開いたとき今個室にいる彼女には私の失敗を知られてしまう可能性が高い。

――だから、教室で……? ちっ、違う! 一時的に視線のない、所に…避難してっ…そ、それから済ませに…戻れば……っ。

「(あぁ、ダメっ)」<じゅ……じゅうぅ……>

再び広がる熱い感覚。スカートもこれ以上水分を吸うことは出来ない……それほどまでに押さえ込まれた前の部分は濡れてしまって。

それでも尚、際限なく高まる尿意に座り込みたくなる。
もし今お手洗いに新たに人が来たら……どうすること出来ない。
この上ない醜態を曝してしまう。

<ガラガラ>

再び聞こえる引き戸の音。ただ、今度は教室の前から聞こえた。
私はお手洗いから顔を出して、その音が白鞘さんの出ていく音だと確認した。

――……んっ、廊下には……人いるけどっ…近くには、居ない…し、……教室に入るくらいならっ……。

私は片手でスカートの前を押さえたまま、自分の教室へ走る。

「はぁ……はぁ…んっ! あぁ……」<じゅう、じゅうぅー…>

押さえる手を超えて手の甲にまで熱水が伝わる感覚。
私は慌てて扉を開けて教室に入り、後ろ手で扉を閉めた。

「あっ、あ、っ…だめっ……」
<じゅ、じゅうぅー…じゅぃー…じゅうぅー――>

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz70747.jpg

上半身を前に90度近く倒して必死に押さえてるのに止められない。止め方がわからない。
くぐもった音を響かせ、押さえるスカートに染みを広げ、足に熱い流れを何本も感じて、スカートの中から溢れる雫が教室の床を鳴らして……。

「はぁ……っ、ぁぅ……はぁ……んっ」
<じゅうぅ――><ぴちゃぴちゃ>

お手洗いに戻るなんて、出来るわけがなかった。
ただ、人目を避けること……教室に戻る選択をした時点で、結果は見えていたのかもしれない。
お手洗いで待つ選択。それが出来なかったのはスカートの染みを見られる恐怖や恥ずかしさだけじゃない。
開くまで持ちこたえてる私が想像できなかった……。

590 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。17 :2018/03/19(月) 00:05:20
「はぁ……はぁ……っ」
<ぴちゃぴちゃ…>

くぐもった音は止み、水たまりを鳴らす音も静まって……。
教室なんかでしてはいけない、恥ずかしい失敗――おもらしが終わる。

極度の我慢から解放されてふわふわした感覚を感じるが、次第に後悔と悔しさが湧きあがる。
だけど、その気持ちも長くは続かず、すぐにこの醜態が見つかる恐怖に捕らわれる。

――こ、こんなとこ…誰かに見られたら……えっと…とりあえずは――

着替え……この言い訳の効かない見っとも無い姿の解決。
次は体育だったことを思い出し、ポケットからハンカチとちり紙、机の横から体操着入れを机の上に置く。
周囲を見渡した後、濡れたスカートを脱ぎ、下着も迷った挙句脱いで、ハンカチやちり紙で足や靴下などを確りと拭う。

そして体操着をそのまま履いて――――下着なしってなんだか気持ちが悪くて落ち着かない――――上の制服も脱ぎ着替え終わる。
濡れた服は持っていたコンビニ袋に丸めて入れて口を結び、更にそれを袋に入れて二重にする。
そしてそれをカバンの一番奥へ隠すように押し込む。

可能な限り急いで着替えはしたが、僅かな時間でも恥ずかしい姿を晒していたことに不安と情けなさを感じる。

そして――

「……これ、どうしよう……」

自分の机のすぐ後ろに出来た大きい水たまり。
これをどう処理すべきか……バケツや雑巾は教室にあるがそれをもってお手洗いを往復なんて出来るわけもない。
ましてや授業開始の時間も迫っていて先生に見られたら咎められ――……授業開始?

――体育……遅れたらだれか探しにくるんじゃ?

以前、何も言わずに保健室へ行った人がいた。
体育に来ないその一人の生徒を探しに、体育係が更衣室や教室、保健室を探しに行っていた。

私は時計に目を向ける。
授業開始まで残り1分と少し。
これをどうにかしていては探しに来たクラスメイトに見られる可能性が出てくる……。

だからと言って、このままにして体育に向かえば、教室に戻ってきたとき当然これは発見される。
そして、一番教室を出るのが遅かった人、つまり体育に来るのが一番遅かった私に疑いが向けられる。

――どうしよう…どうしよう……。

私が失敗したって誰にもバレない方法。
どうすれば疑いが掛からない?

……。

――っ! そうだ、日直の白鞘さんは自分が教室を出たのが最後だと思ってるはず!

だったら、更衣室に着替えに言った白鞘さんより早く体育館へ辿り着ければ疑いはこちらには向かない。
問題は、間に合うかどうか。
私は一縷の望みに賭け、体操着の袋に被害のない制服の上を入れ、それを持って教室を飛び出す。

更衣室前を通るとき足音を抑え、人の気配を伺う。

――……あれ? 音、微かに聞こえる……。

そうあって欲しいとは願っていたが……それは意外な結果だった。
白鞘さんが教室を出たのは私が教室に戻る前。
つまり私が恥ずかしい失敗を終え、さらに着替えるまでの時間、彼女は更衣室に居たことになる。
着替えは直ぐに終わらせたし、ありえない話ではないが……。

私は白鞘さんが出てくる前にその場を後にする。
手に持った体操着の袋は体育館に行くまでの廊下にある掃除用具入れに居れて
あとは……恥ずかしいけど理由をつけて体育を抜け出し
保健室で下着とスカートを借り、隠した体操着の袋もって更衣室へ置きに行けばいい。

<キーンコーンカーンコーン>

体育館へ着くと同時にチャイムが鳴る。
白鞘さんは――居ない。
更衣室にいたのは白鞘さんで決まり……私は安堵から溜め息を吐いた。

591 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。18 :2018/03/19(月) 00:06:21
――
 ――
  ――

「以上……です」

今にして思えば私が視聴覚室近くのお手洗いに行かなかったのは順番待ちとか先生に咎められるとかだけじゃなかったと思う。
意識するのも嫌でなるべく考えないようにしていたが……あの時あの場所で聞いた『声』……使いたくなくなるには十分な理由だった。

「その……白鞘さんに疑いが向くとはその時は考えてなくて……本当にごめんなさい」

私は再び謝る。
恥ずかしさもあり、掻い摘んで話したため時間にしてみれば10分にも満たない話。
事件における重要な所は話せたと思うので……これ以上追及は出来ればやめてほしいところ。

  「なるほどね、――って言うか、……なるほどねー」

なぜか“なるほど”という言葉を続ける。
一回目は納得のいった語調で、二回目のは落胆したような語調。

「えっと……?」

  「え、あぁ、トリックがわかったのと……あぁ、私のミスか〜――って事」

――私のミス?

ますますわからない。
さっきまでの私の話に白鞘さんが気にするようなミスがあっただろうか?

  「聞きたい? ――って言うか、聞いて欲しいのかも……」

「えっとよくわからないんだけど……?」

私の問いに携帯越しでも変わるくらいの深呼吸をして白鞘さんは答える。

  「わ、私も……間に合って無かったのよ…ね」

少し言い淀み、恥ずかしそうに言う白鞘さんの言葉。直ぐには理解できなかった。

  「つ、つまりは個室に入った瞬間に下着がもう、えっと――そう、濡れ濡れだったのよ」

「へ?」

私はようやく彼女の言う意味を理解して――でも呆気に取られた。

白鞘さんはあの日、私と同じく恥ずかしい粗相をしていた。
あの時の彼女は確かにもの凄く切羽詰まっていたし、それ自体あり得ない話じゃない――ないけど。

  「あの時は本当に焦ったわ、トイレは順番出来てきて、中で変に処理してたら感づかれるんじゃないかって思って最低限の事だけして適当に出て来たわ良いけど
  もう本当、どうしようもないくらい濡れ濡れで、教室に戻ってもわざと踏み台使わないように黒板消してみんなが居なくなるまで時間稼いだり
  ジャンプして風入れれば、乾くかなーとか思ってみたり……」

「……ジャンプじゃ無理でしょ……じゃなくて、なんでそんな話をわざわざ……」

話さなければ誰にもその失敗を知られることはないはずなのに。
白鞘さんは一呼吸置いてからさっきまでの勢いに任せた喋り方ではない、落ち着いた語調で言葉を紡ぐ。

  「初めは真犯人に本気で怒ってたけどさ……同じ日の同じ時間くらいにおもらししちゃうとか、考えれば考えるほど可笑しくてさ
  謝罪の手紙も貰ったし、おもらししちゃった同士、変な仲間意識勝手に感じちゃって……その子――朝見さんの事助けられたなら別にいいかなって思えてね」

……。
そう、私は彼女に助けられた。

  「更衣室行く前に保健室で下着を貰いに行ったのも、カバンの中に濡れた下着を隠してたせいで強く反論できなかったのも
  それが、誰かの為になったって思うとまぁ、少し腹が立ったけど、なんだか気が楽だった」

保健室で下着……。白鞘さんは更衣室に長くいたわけじゃなく、先に保健室へ寄っていたから……。
反論だってそう。そもそも皆が着替えた後三人が誰にもすれ違わず入れ替わりに着替えるのは不可能ではないとは思うが時間的に厳しい。
授業が始まる直前には更衣室に居た白鞘さんは誰かが嘘を付いているって思っていてもおかしくなかった。
それでも反論材料には弱いそれで強く反論すれば探偵役の人たちを煽ることになり、持ち物検査なんてことを言い出しかねない。

592 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。19 :2018/03/19(月) 00:06:44
  「でも、仲間意識感じてたのって、私だけじゃない? だって知らなかったでしょ私がおもらししちゃってたって
  ほかの皆が事実とは違うにしても私がおもらしをしたって思っていたのに、貴方だけはしてないって思ってた」

……。

  「だから決めてたの、名乗り出てきたら必ず自分の失敗も言おうって、本当は私も仲間だったって」

「……良い人過ぎない?」

  「あはは、もっと崇めてよ
  まぁ、おかげで、誰かのこういう話を聞いて楽しめるようにもなったし」

「そう――って、楽しむって…え?」

なんだか、感動する良い話のようにまとめられたけど、最後の言葉に引っかかる。

  「え、だから我慢とかおもらしの話。こんな事件あったから余計に考えちゃって、なんか気が付いたら好きになってたよ」

……。
つまりは私に我慢の経緯から話をさせたのは――

「――へ、変態じゃない!」

  「まぁ、そうかも。朝見さんのおかげでねっ」

「っ……!」

そのことに関しては後ろめたいことが多すぎて言い返せない。
私に我慢の経緯から話をさせたのは変態的な理由なのに……。

……。
わかってる、それだけじゃないって……。

白鞘さんが自身の失敗を語るとき恥ずかしがっていた。
話し始めても妙に饒舌で、勢いに任せて話していた。
言う勇気が足りなかったから、先に私に語らせた。

白鞘さんは「私と同じだよ」って私に伝えたかったわけで……。
変態的な理由はあるのだろうけど、概ね私のためにしてくれた行動。

――ありがとう……。

口にはできなかったが、心の中でそう呟いた。

593 追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。-EX- :2018/03/19(月) 00:08:45
**********

「そんじゃーねー」

私は携帯を切る。
机に両手をついて大きく嘆息する――き、緊張した……。

自身の失敗を話すことも、そういう話が好きと言う事も始めて話した。
緊張を悟られなかったか、明るく振舞えてたかのかどうか――

「電話終わったー?」
「っ!!!」

背後から聞こえる声に驚く。
恐る恐る振り返った先には髪の毛にリボンを大量につけた友人がいて……。

「す、紗……ど、どこから聞いてたの……」

「えっとねー、『確か同じクラスだったよね?』ってところからだったかなー?」

「最初からじゃん!」

あぁ、死にたい!

「気にしないでよー、私もそういう話嫌いじゃないしー」

「うー……それより、何か用事でしょ……」

話を続けてほしくなくて、本題を催促する。
彼女は悪戯っぽい表情をやめて、明るい顔で口を開く。

「うん、再来週に文化祭する高校があってねー、そこ行こうかと思ってるんだけどー」

――再来週? 確か真弓ちゃんもそんなこと言ってたような?

「それって、駅近くにある女子校の?」

「そそ、よくわかったねー。
それで、どうするー? 一緒に行くー?」

リボンだらけの長い黒髪を揺らしながら私を誘うその姿は……いつもながらちょっと怖い。
さらに言えば弱みを握られた直後でもあるわけで。

「う、うん、行こうか」

「やったー。逢いたい人がいたんだけど、一人じゃ逢えなかったときとか忙しかったりしたら暇だったからねー」

――紗の会いたい人か……。

「会いたい人ってどんな人?」

「んとねー、中学の時変な感じで別れちゃった大事な人で、綺麗な銀髪の子だよー」

彼女に大事な人と言わせるとはその銀髪の子相当好かれているらしい。
私とそれなりに仲良くしているが恐らく彼女の中で私は「んー知り合いかなー?」と評価が下りそうだし……それはそれで聞きたくないから聞かないけど。
別にその銀髪の子が羨ましいとは思わないし――というよりむしろ可哀想な気もするけど。

「あ、英子ちゃんもほんの少しは大事かも? って言えるくらい大事だからねー」
「聞いてませんけどっ! (それに全然フォローできてないじゃん……)」

「え? なんだってー?」
「ワザとらしい難聴! 絶対聞こえてたやつじゃん!」

おわり

594 「白鞘 英子」 :2018/03/19(月) 00:11:21
★白鞘 英子(しらさや えいこ)
朝見呉葉と同じ女子中学だった生徒。
今は別の高校へ進学している。
高校には紗という友達(?)がいる。

中学でのおもらし事件の犯人とされた人物。
実際は冤罪なのだが事件当日は事件とは別の自身のおもらしの物証(濡らした下着)を持っていたため
持ち物検査を恐れ、強く否定することが出来なかった。
後日何度か釈明をしてはいたが探偵役が既に満足してしまっていたため
クラスでの印象を覆すことが出来なかった。
その後はおもらしについて弄られる事がそこまでなく、自ら事件に触れることは避けることにした。
また真犯人からの謝罪文も冤罪を甘んじて受け入れる理由となった。
ただ、納得が言ったわけではなく事件について考える事も多くその過程で
次第に“事件”についてではなく“おもらし”へと興味がすり替わる。
いつの間にか、そういう話に興味のある子となる。

同じタイミングでおもらしした真犯人に対して妙な親近感を持ち、仲間意識を感じていた。
自身の失敗を知らない真犯人に、自分の失敗を打ち明けられる日を心のどこかで待ち望んでいた。
それは、真犯人に対する思いやりでもあるが、多くは自分のため。
言ってはいけないはずの事を、言ってしまいたい衝動をぶつけられる相手が真犯人だったためである。

膀胱容量は人並み。
事件の日は休み時間に飲み物を取り過ぎたのと、前の休み時間に済ませられなかった事が祟った。
友達間でのトイレ申告に当時はそこまで抵抗を感じていなかったが、授業中の申告(特に終了間際)は恥ずかしかった。
事件以降は友達間でも言いづらく、さらにおもらしに興味を持ったことでより強く意識してしまっているが、後者に関しては自覚していない。

今も昔も成績並以下、運動並。
身長は低め。
割と元気が良いほうだが、中学時代は事件後はしばらく意識的に目立たないようにしていた。
強がりな一面もあり、なるべく弱いところは見せないようにしている。
おもらしへの興味は話を聞いてるとドキドキする程度で、わざと我慢させたり、また我慢したりの経験はない。

呉葉の評価ではとても負い目がある人。
おもらしの濡れ衣を着せてしまって、面と向かって謝ることが出来なかっただけでなく
おもらしへの興味を持たせてしまった。
だけど、非常に感謝していて、とても良い人だと再認識した人。

595 名無しさんのおもらし :2018/03/19(月) 01:12:31
更新待ちに待ってました。
結果的どちらも漏らしてたのか、綺麗な銀髪の子は間違いなくあの子だよね。

596 名無しさんのおもらし :2018/03/21(水) 00:44:12
GJJJ

597 名無しさんのおもらし :2018/03/21(水) 13:27:53
トイレに行くのを恥ずかしがる女の子はかわいい

598 名無しさんのおもらし :2018/03/21(水) 22:35:13
>>594 詳細が気になってたらまさかの詳細が来て最高でした。

599 名無しさんのおもらし :2018/03/22(木) 23:56:04
更新ありがとうございます。

見学会の件はあるけど、朝見さんは大抵まゆに邪魔されてる気がする。
中学時代の評価では"正義の味方"だったってところが、高校現在とのギャップを感じて面白い所ですね。
また過去に関係しそうなキャラも増えて、今後の展開が楽しみです。

600 名無しさんのおもらし :2018/03/30(金) 12:44:28
>>599
見学会の一件も、ある意味まゆは呉葉の邪魔をしていると言える。
流れ弾に当たった(無自覚に当たりにいってしまった)、被害者的な側面が強いけど…。

そういえば、関係ないけど、鈴葉の年齢設定ってミスなんだろうか。
一応20代ってことになってるけど、雪や梅雨子と同級生なんだよね。
それなら年齢は19なのでは?

601 名無しさんのおもらし :2018/04/02(月) 22:08:44
>>600
雛倉姉と鈴葉 (と黒蜜姉) が同級生 (同い年) で、雛倉姉が大学1年 (雛倉姉妹が3学年差) とされているので、一般的には18か19みたいですね。
単なるミスなのか、何か訳ありなんでしょうか。

602 事例の人 :2018/04/03(火) 23:38:57
>>600-601
はい……ミスです、早々に気が付いていて「だ、大丈夫、気が付いてる人いないな」とか思ってました
ごめんなさいと同時に確り読んでくれてて感謝しかないです
正しくは19歳設定です 数え年なんだからね!とか言い訳しないです
ご指摘ありがとうございます

603 「声が聞きたい!」シリーズまとめ :2018/04/14(土) 22:26:30
>>12:前スレ「声が聞きたい!」シリーズまとめ
前スレ:http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/2469/1297693920/

>>4-8:事例EX「雛倉 雪」と真夜中の公園。
>>16-28:事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。前編
>>36-49:事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。後編
>>60-65:追憶3「霜澤 鞠亜」と公園戦争。@鞠亜
>>73-77:事例2.1「篠坂 弥生」と七夕。@弥生
>>84-91:事例7「睦谷 姫香」と図書室。
>>156-162:事例8「雛倉 綾菜」と病気の日。
>>188-196:事例8裏「篠坂 弥生」と断水の日。@弥生 前編
>>221-228:事例8裏「篠坂 弥生」と断水の日。@弥生 後編
>>272-285:事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。
>>286:事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。EX
>>293-307:事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉
>>326-337:事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜
>>338-339:事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。EX
>>354-370:事例10「宝月 水無子」と休日。
>>389-408:事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。
>>409:事例11「卯柳 蓮乃」と体育祭。EX
>>418-427:追憶4「雛倉 綾菜」と手紙。
>>446-457:事例6裏「山寺 瞳」と友達。@瞳
>>458:事例6裏「山寺 瞳」と友達。EX
>>522-531:事例12「根元 瑞希」と雨の日。
>>559-567: 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。
>>568: 事例13「容疑者の一人」と安楽椅子探偵。EX
>>574-592:追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。
>>593:追憶5「朝見 呉葉」と事件の真相。EX

「声が聞きたい!」シリーズ・登場人物紹介安価
>>50「紅瀬 椛」(副会長、3年生) ※一部訂正>>54
>>92「睦谷 姫香」(別クラスで図書委員)
>>308「朝見 呉葉」(同級生、天敵)
>>371「宝月 水無子」 (小学5年生)
>>372「如月 櫻香」(メイド)
>>410「卯柳 蓮乃」(別クラスで放送委員)
>>427「字廻 紫萌」(入院中に出会った少女)
>>531「根元 瑞希」(同級生、仲が良かった友達)
>>594「白鞘 英子」(別の高校生、呉葉と同級生だった)

604 名無しさんのおもらし :2018/04/16(月) 15:23:28
まとめ乙です。

605 名無しさんのおもらし :2018/07/27(金) 03:10:22
事例のやつ長いしピクシブとかでやってくんねえかな

606 名無しさんのおもらし :2018/07/28(土) 21:41:28
昔の方の挿絵とか見れなくなってるしまたまとめてあげてほしい


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