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おもらし千夜一夜4
27
:
事例6「紅瀬 椛」と夏祭り。-前編-⑫
:2014/04/17(木) 19:43:08
「ぁ……」『だめ……もう、我慢、なんて出来な――あぁ! やぁ……』
霜澤さんの言葉に答えるように大きな『声』を出して、身体を大きく震わす。
「え? 嘘……」
弥生ちゃんのすぐ隣に居た霜澤さんが足元を見て、信じられないものを見るような顔で、二歩、三歩と後ずさる。
……音は聞こえないけど、私はすぐに理解した。
――我慢……できなかったんだ……。
「篠坂…さん……」
隣に座っていた山寺さんも名前を呼ぶも、どう声を掛けていいかわからないらしく、言葉が続かない。
私は……弥生ちゃんの尿意を知っていながら……。
決して私は悪くないはずなのに、知っていたということが微かに罪悪感を残す。
こんなに周りが騒がしいというのに、私達のテーブルでは弥生ちゃんの小さな嗚咽と息遣いしか聞こえてこなかった。
なんて声を掛ければいいかなんてわからないけど、そんな沈黙に耐えかねて、私は口を開いた。
「……えっと、弥生ちゃん?」
すると弥生ちゃんは大きく肩を跳ねさせる。
私は、気の利いた言葉をなんとか出そうともう一度口を開こうとした時――
<ガタンッ>
勢い良く弥生ちゃんが立ち上がる。
同時にテーブルの下で雫が落ちる音が微かに聞こえた。
そして、その音が止まぬうちに、弥生ちゃんは踵を返し、走り出した。
「……え、ちょ、ちょっと! っ!」<ブチ>
私は追いかけようと、足を踏み出すが、下駄の鼻緒が切れて、バランスを崩す。
「わっ! ちょっと、綾!」
丁度目の前に居た、霜澤さんが私を受け止める。
私の目は、まだ弥生ちゃんを捕らえていて、同時にもう一人タイミングのいい所に来た人に気が付いた。
「ま、まゆ! 弥生ちゃんをお願い!」
「へ?」
当然なんのことかわからず、弥生ちゃんはまゆの隣を駆け抜けていった――
が、まゆが目で弥生ちゃんを追ったことで、浴衣の後ろが水色から紺色に変わっていることに気が付いた。
「あ〜、うん、了解ー!」
察してくれたらしく、弥生ちゃんの後を追って人ごみの中へ消えてゆく。
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