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一年だけの契約
108
:
紘暢
◆UvqP0LHSm.
:2013/12/26(木) 19:45:43 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp
山本の言葉が突き刺さる。久追よりも彼は先を見ている。目の前の問題ではなく、ひよりの今後の身の回りを心配し、今行動を起こそうというのだ。
「今、俺がまだ学校にいられる間に、久追と何かしら関係がある奴らを抹殺しないとね」
「山本、言葉が物騒になってる」
「あ、いけないいけない」
久追のツッコミに山本は楽しげに笑う。普段はこのように物騒な言い回しをする男ではない。しかし、そんな彼が口にするほど今の状況は悪いのだ。今の久追にできるのは、どうにか普通の生活ができる程度で、激しい運動はたぶん今回の吐血のせいで体力を根こそぎ奪われたことからドクターストップがかかるだろう。もう走ることさえも許されない。頼れるのは目の前にいる山本だけだ。
「久追」
「……」
山本に呼ばれて久追は彼を見る。山本はいつの間にかベッドサイドまでやってきていた。その表情は、今までの笑みはなく、どこか冷たく見える。
「二人のために、俺は『山本』の仮面を取る」
「……もう、止められないんだな。……すまない、俺がこんな体なせいで」
「謝るな。遠からずこうなる運命だったんだ。……逃げられないってことなんだな」
病に冒されたのは久追のせいじゃない。悔しそうに謝罪する久追に、山本は首を左右に振って少し寂しそうに答えた。
「心配するな、あの子の前では最後まで『山本』でいる」
ポンと山本が不安げな久追の頭を軽く叩く。久追は複雑そうな表情を浮かべた。久追はひよりの知らない山本の事情を知っている。知っているからこそ、山本の決断のきっかけを作ってしまった自分が不甲斐なくて仕方がない。今になって思う。なぜあんなにも馬鹿な真似をしてきたのだろうかと。こんな結末が待っていると分かっていたなら、真面目に生きていたかもしれない。今さらなのは分かりきっているのに、後悔ばかりが残る。
「久追」
「!」
呼ばれて久追は我に返る。再び山本を見ると、そこには『山本暁』の表情はなかった。彼は片手にケータイを持っている。誰かと連絡をしていたようだった。
「俺は行くよ。連絡が来たから、そっちに向かう。お前は大人しく退院するまで寝てろよ、じゃあな」
ケータイを閉じてカバンに仕舞った山本は、それだけ言って病室を出ていった。一人残された久追が泣きそうな顔で呟いた声は病室の中に溶けて消える。
「後を頼む……『高遠』……っ」
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