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一年だけの契約

1紘暢:2013/01/25(金) 15:35:58 HOST:wb79proxy01.ezweb.ne.jp
初めまして、紘暢(ひろのぶ)と申します。
たぶん初の投稿作品になると思います。出来る限り続けられるように頑張るので、よろしくお願いいたします。

評価やアドバイス、コメントがあれば入れてください。まだまだ慣れていないので不出来な部分は出てくると思います。

まずは主要登場人物の簡単な説明から。

新谷 ひより(16)
性別は女の高二。
入学したときからイジメに遭っている為、諦めが早く自分を卑下しがち。でも、実は負けず嫌いな部分もあったりする。


久追 政継(17)
性別は男の高二。
ケンカっ早く、学内だけでなく近所からは根っからの不良と有名。去年の秋に他校のケンカして怪我をし、約半年の入院のため留年している。


山本 暁(17)
性別は男の高三。
久追の自称腐れ縁。フェミニスト気質あり。迷惑がる久追の世話をなんだかんだと焼いている。

2紘暢:2013/01/25(金) 16:03:51 HOST:wb79proxy09.ezweb.ne.jp


 夕焼け空に染まる河辺に長い影2つ。ゆっくりとした足取りで、カサカサと鳴る紙袋を持ちながら無言で歩く。そこにはどこかしんみりとした空気が漂っていた。

「終わったね……」

 そんな空気を断ち切ったのは前方を歩いていた少年だった。茜色に染まった髪を微かに揺らして振り向く彼の表情はどこか暗い。その理由を後ろを数歩空けて歩いていた少女、ひよりは知っている。彼女もまた複雑そうな表情を浮かべていた。

「一年の契約ですから……」

 そう自分に言い聞かせなければ受け入れられないぐらい、ひよりの心は深く悲しみとに囚われている。
 ひよりの言葉に少年は少し躊躇いがちに視線を外して空を見上げた。赤く染まる空に飛行機が東の方へと向かうのが見える。少年の視線を追うように、ひよりも空を見上げた。

「私、後悔はしてませんよ」
「……え?」

 空を見上げながら、ひよりは微かに笑みを浮かべて言った。それを聞き取れなかったのか、少年は聞き返す。そんな少年を見てひよりはまだ赤く腫れ上がった目をしながらも笑ってみせた。

「政継くんに出会えたこと、後悔なんかしません。たとえへ遠く離れても、この一年、私は幸せでしたから」
「……そう。キミがそう言うなら久追も心残りはないよな」
「はい、あったら私は政継くんを許してやりませんよ」
「ひよりちゃん、本当に強くなったね」
「すべては政継くんのおかげですよ、山本センパイ」

 そう言ったひよりの顔は満面の笑みだった。

3紘暢:2013/01/25(金) 18:02:52 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp
 ことの始まりは一年前に遡る。ひよりが少年と知り合う前の話だ。二年に進級したばかりの春。桜が最後の花びらを散らず頃の話。当時のひよりにとって毎日が苦痛で、生きているのが嫌だと思うには十分なほどのことが、日常茶飯事に学校で起きていた。
 今日こそはと、誰もいない屋上に足を踏み入れて、靴を脱いで揃えると落下防止用のフェンスに手をかけた。制服のまま全身ずぶ濡れで、瞳からはいくつもの涙がこぼれ落ちていた。
 もう嫌だ、なぜ私が。
 そんなことの繰り返しで。最終的には、この決断に至った。いっそ死ねば楽になれるかもしれない、苦しみから解放される。そんな安易な考えに至ってしまうほど、ひよりの心は追い詰められていたのだろう。
 死ぬのに恐怖はある。でも、一瞬だ。これからも起きる毎日の苦痛に比べれば、そんなことなんて小さい。そう自分に言い聞かせて、ひよりはフェンスに力を込めた。

「おお、決定的瞬間を目撃だな」

 突然後ろの出入口から声がして、ひよりはビクッと身をすくませた。そろりと振り向くと、そこには他のクラスの生徒。しかも『二年に留年した不良がいる』という話で有名人の久追政継。
 たしかにケンカ慣れしてそうな、どこをどう見ても不良だ。怒らせたら危険、というか関わりたくはないタイプ。

「何があったかなんて、その姿見たら容易に想像つくけどな」

 馴れ馴れしい態度。それだけでもひよりには恐怖でしかなかった。また悪夢の再来なのかと。怯えた顔をするひよりを見て久追は苦笑をした。

4紘暢:2013/01/26(土) 02:26:48 HOST:wb79proxy08.ezweb.ne.jp


「そんなに怯えなくたって俺は何もしねぇよ」

 そう言われても、ひよりには自分以外は全て敵にしか見えない。直接彼のような有名人と関わったのは今が初めてなのだが、それでも簡単に心を許せるほど、その時のひよりに余裕はなかった。警戒心を露にするひより。

「あ、俺に構わず続けて。あんたがやろうとしてることを止めるほど俺は出来た人間じゃないし」
「……」

 まさか促されるとは思ってなかったので、ひよりは呆気に取られた。止められても踏みとどまるつもりはなかったし、バカにされて笑われることだって覚悟していたのだが、普通に促されてしまうことまでは想定してなかった。

「出ていけ、て言うなら出ていくが、俺としては屋上に居たい気分なんだわ」

 久追という人物がどんな人間なのか掴めないが、とりあえず飛び降りをしようとしてる相手に向かって言うセリフではないのは確かだ。だが、折角促してくれたのだから遠慮なく飛び降りてしまおう。そう考えて、ひよりは再びフェンスに力を込めた。

「イジメを苦に自害か……」

 不意に聞こえた声に、ひよりはかけていた足を止めた。

「……何が言いたいの?私の邪魔しないで」
「邪魔するつもりはないんだが、実に残念だなとは思う」
「は?」

 久追の言葉の一つ一つにひよりは過敏に反応してみせる。彼は顎に手を当てて少し思案するような素振りを見せた。

5紘暢:2013/01/26(土) 21:55:18 HOST:wb79proxy08.ezweb.ne.jp


「まだ十数年しか生きていないのに、自らその命を絶つのは勿体ないだろ?むしろ、イジメてるやつらに、あんたのたった一つの大切なものを捧げてやることはないと思うぞ」

 止めるつもりはなかったのではないのか?

「貴方に私の何が分かると言うのよっ」
「分かるわけないだろ、あんたじゃないんだから」
「っ!」

 同情されてる気がして拒絶するような言い方をしたら、正論で返されてしまって言葉に詰まる。久追は小さく吐息を漏らすと、まっすぐにひよりを見つめた。逸らすことを許さない何かが彼に感じる。

「綺麗事を並べるつもりは俺にはないし、本当に死にたいなら止めはしない。だが、ほんの一時でも死ぬことに迷いがあるんなら、生きろよ。世の中、そんなに悪いものじゃないぜ?」

 彼はひよりを引き留めようとしているのだろうか。しかし、その真意は彼にしか分からない。

「そりゃあ、毎日好き放題に過ごしてる貴方には悪くないかもしれないけど、私はもう嫌なの。毎日、何をされるのか怯えながら過ごすのは」
「好き放題に、か……。あながち間違ってないよな」

 ひよりの言葉に久追はクスクスと笑う。

「なら、あんたも好き放題に過ごしてみたらどうだ?案外、他のやつら驚いて何もしてこないかもよ?」
「簡単に言わないで。そんな勇気があったらとっくに……」

 やっていると言おうとして、ひよりは真剣な表情の久追に言葉を濁す。

6紘暢:2013/01/26(土) 22:13:01 HOST:wb79proxy09.ezweb.ne.jp


「死ぬ勇気のほうが、もっと必要じゃないのかよ?」
「……」
「そんなに軽いのか?あんたの命は。……違うだろ」
「……」
「もう一度言う。一時でも迷いがあるんなら、生きろ」

 ひよりはその場に泣き崩れる。

 本当は死にたくない。でも、生きていることのほうが辛くて、死に逃げようとしていた。

「一人で立ち向かうのに不安があるなら、俺が一緒に戦ってやる。一人が寂しいなら、気がすむまで隣にいてやる。俺みたいな不良と一緒が嫌なら、信頼できるやつを紹介する」
「……」
「強くなれ。その為なら俺は助力は惜しまねぇよ。あんたを辛い現実に引き留めた責任だからな」

 スッと差し出された手。その手を掴むのに勇気は必要なかった。きっと明日から、いや、今から変わるのだ。新しい日常が。あの悪夢から、解放される日がきっと来るはずだと、不思議と久追を見ていたらそう思えた。

7紘暢:2013/02/24(日) 02:33:33 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp


 後に、ひよりは軽く自分の判断を後悔する。信用しようとしているのは、学内外に有名な不良。いじめ以外の弊害が起きないはずかない。それに気づくの遅れるほど彼女は追い詰められていたのだろう。

 二人きりの屋上に、しばしの沈黙が訪れる。それを打ち破ったのは、なにやら考え込んでいた久追のほうだった。


「なぁ、俺ら付き合わねぇか?」
「……は?」


 いきなり何を言い出すのか。面識などないに等しい間柄なのに、どういった意図でそんな話になるのだろう。


「別に本当に付き合うんじゃねぇよ。俺みたいなのが、あんたの彼氏という話になれば、迂闊にあんたにちょっかいかける奴も少なくなるだろ?」
「それって、彼氏という名ばかりのボディーガードってこと……?」


 ひよりの問いかけに久追は大きく頷いた。本当にそんな扱いをされて彼は構わないのだろうか。


「俺のことは気にすんな。俺はやりたいようにやってるだけだし。本音を言えばだな、一度『恋人』とやらを体験したかっただけだ」
「……」


 なんだろう、この適当さ加減は。気遣ったこっちがバカみたいではないか。


「期限は、そうだな……。来年の春まで。一年間だけ『恋人ごっこ』をやらないか?」


 こちらが黙っているうちに、久追はさっさと話を進めていく。ひよりの意思は無視のようだ。なんと強引かつ勝手なのだろうか。

 ……でも。

 どこか新しい玩具を与えられた子供の気持ちになっている自分がいることに気づく。なんだかんだと、楽しんでいるんだなと、ひよりは心の中で呟いた。

8紘暢:2013/04/08(月) 19:02:19 HOST:wb79proxy12.ezweb.ne.jp
 ひよりと久追が付き合いだしたという噂は瞬く間にその日のうちに広まった。それは放課後、帰宅の準備を黙々としているひよりのクラスに、久追が顔を出したことがきっかけであった。

「ひより、帰るぞ早くしろ」
「ま、待って……!」

 不良として有名な久追がひよりを迎えに来たことに周りはざわつく。しかし、それだけならば久追の下僕にでもなったのかと思うところだろう。クラスメイトの見ている中で、ひよりはきごちなく鞄を手にして久追の元へ駆けていった。

「ごめん、遅くなって……」

 少し気まずそうに謝罪するひよりの頭を久追が優しく撫でる。まさか頭を撫でられるとは思わなかったひよりは驚いて顔をあげた。そこには、怒るどころか楽しげに笑う久追の姿があった。

「よし、罰として帰りにクレープ奢れ」
「……え?クレープ……?」
「なんだ、嫌いなのか?クレープ」
「違うけど」
「よし、決まりだ。さ、帰るぞ」

 そう言って久追はひよりの肩を抱いて廊下へと連れ出す。そして肩越しに振り向いてから、呆然とするクラスメイトたちに牽制をするような目付きをした。

「ひよりは俺の女だ。これから俺の許可なくひよりに何かしたら女であろうが男であろうが容赦しねぇからな……」

 吐き捨てるように言った後、久追はひよりとともに教室を後にしたのだ。久追にここまで言われては、ひよりをいじめようと思えない。もししたら、きっと病院送りにされる。それは確実だった。

9紘暢:2013/04/09(火) 16:46:16 HOST:wb79proxy02.ezweb.ne.jp
 駅前のクレープ屋に向かう道中、ひよりはひたすらに駆け足になっていた。久追とひよりの歩幅が違いすぎて、先を歩く彼を追いかける形になっている。さすがに学校を出てから走り続けていて肺と心臓が悲鳴を上げていた。いい加減走るが疲れたひよりは、その場に立ち止まって呼吸を整える。

「……あ」

 二人の距離が50メートルほど離れたあたりで、久追が振り向いてひよりが呼吸を整えていることに気づいた。そして駆け足で戻ってくる。

「悪い、俺の足が速かったんだな。女と歩くなんてことしたことなかったから分からなかった」

 ひよりのそばまで来て久追は謝罪をする。その頃には呼吸も落ち着き、ひよりは顔を上げた。

「ううん。私がちゃんとついていけなかっただけだから……」
「違うだろ」
「……?」

 ひよりが答えると、すぐさまそれを否定されて目を丸くする。久追は少し怒ったような表情でまっすぐにひよりを見ている。

「これは彼氏である俺の非だろうが。彼女なんだから「速い」って言っていいんだぞ」
「……ごめんなさい」
「いや、だから謝るのは俺なんだって」

 叱られた気がして思わず謝罪を口にすると、少し焦った様子で久追が言った。

「とにかく、これからは俺がひよりの歩幅に合わせて歩く。いいな?」
「え、あ……うん」

 別に許可を得なくてもいい気がしたが、あえてそれは口にしなかった。そうして二人並んで歩き始める。今度は歩幅を意識しているのかゆっくりと歩いてくれていた。

 やがて駅前に着くと、目的のクレープ屋を見て二人は固まる。放課後という時間帯のせいか、クレープ屋には長蛇の列ができていた。今並んだとしても、たぶんクレープを食べられるのは30分後な気がする。ひよりは隣に立つ久追の様子を窺った。誘った張本人がどうするのか気になったからだ。

「ひより、どうする?待つことが嫌じゃないなら買うけど」

 久追もさすがに迷っている様子だった。どのみち家に帰ったところで、なにもすることはない。それなら待ってみるのも悪くはないかと思った。

「大丈夫、待てるよ」
「じゃあ並ぶか」
「うん」

 こうして二人は長蛇の列の最後尾に並んで待つことにした。

10上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/09(火) 18:53:38 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp


>>紘暢さん
お初にお目にかかります…!
上総と申します。題名にひかれて、ちゃっかり最初から拝見していましたっ!!
二人のこの先の展開を楽しみに覗かせて頂きます((笑←

これからは感想を載せたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。
応援してます、頑張って下さい*

11紘暢:2013/04/10(水) 17:14:03 HOST:wb79proxy10.ezweb.ne.jp
>>10
初めまして、こんなところに読者さんがいるとは思ってませんでした。自分の自己満足で終わるだろうなぁとか思っていたので、コメントいただけて嬉しいです!

拙い部分は多々ありますが、頑張って執筆します!よろしくお願いします。

12紘暢:2013/04/10(水) 17:42:09 HOST:wb79proxy12.ezweb.ne.jp
 列は少しずつではあるが、前へ前へと進んでいる。その間、二人に会話らしい会話はない。知り合って数時間の二人に共通点を見つけるのは困難である。

 ひよりは、この変な沈黙をどうにかしたかったが、相手は接点のない不良。話が合うとは思えなかった。チラリと隣に立つ彼を盗み見る。

「……」

 久追はひよりに興味がないと言わんばかりにスマートフォンを弄っていた。

 フリだけど、仮にも彼女をほったらかしにしてスマートフォン弄る?あり得ないし。

 しかし、よく彼を観察すると、ゲームなどをやっている様子ではなかった。真剣な表情で、文字を打ち込んでいるようだ。何を打っているのか気になったので、後ろから静かに覗きこもうと試みる。

「人のケータイの内容を見ようとすんなよ」

 怒りではなく呆れに似た表情を浮かべた久追が覗きこもうとしたひよりを注意する。素直に謝罪しながらも、ひよりは心の中で舌打ちをした。

「なに打ってたの?」

 注意されても興味はあるので、今度は素直に問いかけてみる。

「秘密」
「いきなり隠し事?」
「うるさい。ひよりが知る必要はありません」

 どうやら絶対教えてくれなさそうな雰囲気だ。

「彼女じゃないの?私」
「フリであろうが彼女であろうが、人には触れてほしくない部分てものがあるんだよ」
「不良がなに言ってるのよ」
「言うね、お前……」
「根は素直なので」
「……その強気な部分をクラスのやつらに見せておけば良かったんじゃね?」
「集団相手に、強気になれるほど私の肝は据わってないの……」

 ようやく会話らしい会話ができたと思えば、結局はこの話題になるのだ。二人の接点など、こんなところだろう。なにやってんだろうと、ため息をついたひよりの頭を、久追が優しく撫でる。思わず顔を上げたら、彼が笑っていた。

「俺相手に強気でいられる女なんかお前だけだよ」

 ……嬉しくありません。

 なんだかんだと他愛のない会話を続けていると、ようやくメニューが見えるほどにまでやってきた。

13胡桃 ◆H2TfONSNIA:2013/04/10(水) 18:06:00 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp


>>紘暢さん
こんな私にお返事を返して頂けるなんて…感謝致しますっ!!!!
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。


ひよりちゃん、クラスメイトが思っている程弱くは無いですよね。←
「俺相手に強気でいられる女なんかお前だけだよ」という部分が読んでいて、ニヤリと微笑んでしまいました((

14上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/10(水) 19:00:09 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp


>>13
申し訳ございませんっ(>_<)
名前を変更するのを忘れてしまいました…貴重な一レス無駄にしてしまってごめんなさい、、、

15紘暢:2013/04/10(水) 19:49:50 HOST:wb79proxy04.ezweb.ne.jp
 いろいろなクレープがあるなか、ひよりはすでに並ぶ前に何を食べるか決めていた。というか食べれるものが少ないというのが現実だったりする。

「なぁ」

 ふいに横から声をかけられて、ひよりが振り向くと、これまた真剣な表情をしてメニューとにらめっこをしている久追の姿かあった。

「クリーム入ってないクレープねぇの?」
「は?」
「なんかメニュー、ほとんどクリーム入ってんだけど……」
「基本的に入ってるのものでしょ、クレープって」
「マジかよ……」

 ひよりの答えに、肩を落とす久追。どうやらクリームは苦手なようだ。

「じゃあ、私と同じチョコバナナにする?」
「クリームないならなんでもいい……」

 すでに意気消沈している様子の彼を横目に、ようやく順番がきたので店員に注文をした。クレープ代は久追が率先して出す。誘ったのは自分だからという変な責任感を抱いているようだった。

 クレープを片手に、二人は近くのベンチに腰を降ろし、のんびりと食す。温かな生地の中から甘いチョコとバナナが口に広がる。

「……初めて食ったけど、意外とイケるな」

 クレープを食べながら久追が感心したように呟いた。クレープ食べたことない人を初めて見たひよりは、物珍しげに眺める。美味しそうにクレープを頬張る彼の姿を見て、不思議な感じがした。

 不良……よね?こんな顔できるんだなぁ。新鮮だ。

 ひよりが半分ぐらい食べたところで、久追はクレープを平らげていた。満足気に腹部を叩いている。そしてベンチから立ち上がると、まだ食べているひよりを見下ろして笑った。

「飲み物買ってくる。何がいい?」
「……じゃあ、ミルクティ」
「了解。そこで待ってろな」

 ひよりの返事を待たずに彼は少し離れたところにある自販機に向かって歩いていく。その後ろ姿を眺めつつもクレープを食し、ひよりはぼんやりと考えていた。

 不思議。昼間ではあれだけ絶望していたのに、今、私……楽しんでる気がする。

 視界の先には、自販機にたどり着いた久追の後ろ姿が映っていた。

16紘暢:2013/04/11(木) 16:47:27 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp
「本当に放課後デートしてるとはね……」

 突然聞こえてきた声に、ひよりはビクリと身をすくませてから振り向いた。そこには柔らかそうな栗色の髪をした優しそうな男子学生が立っていた。身につけている制服から同じ学校の生徒のようだ。彼はベンチに座るひよりを見下ろして笑顔を浮かべる。

「キミが新谷ひよりちゃんかな?」

 なぜ見知らぬ人が名前を知っているのか分からない。自分がそれほど有名だとは思えないからだ。いつまでも唖然としたまま返事をしないひよりに彼は苦笑をしてベンチの背もたれに腕をクロスして顎を預ける。

「あ、チョコついてる」

 間近にひよりの顔を見た彼がそう言うと、おもむろに口の端についているチョコを軽くキスをするように舐め取った。

「ん、甘い」

 満足気に笑う彼を見ながら、ひよりは自分がされた行為を思い出し、クレープを持っていない手でそこに触れてから、顔を真っ赤にして口を開いた。

「きゃああああ!!」

 ひよりの悲鳴が駅前に響き渡る。

「ひより!?」

 ひよりの悲鳴を聞きつけた久追が、缶ジュースを二缶手にして駆けつけてきた。そして真っ赤になって口許を押さえるひよりとニコニコと笑っている男子学生の姿を確認するや否や、久追はものすごい形相で男子学生の胸倉を掴む。

「ひよりに何したお前!?」
「く、苦しいよ久追……っ」
「内容によればこの場で叩き潰す!」
「説明、したくても……こんな状態じゃ……できないって」

 胸倉を掴む久追の手を軽く叩いて男子学生は苦しげにそう口にした。久追が納得できない様子で手を離すと、解放された男子学生は咳き込みながらも呼吸を整える。

「まったく……喧嘩早いの治しなよ……」
「それは山本がひよりになにかしたからだろ!」
「まぁ、それは否定しない」
「山本!」
「待て!ちゃんと説明しますから!」

 今にも殴りかかりそうになる久追に山本と呼ばれた男子学生は焦りを見せて早口で言った。ひよりの口許についていたチョコを舐め取ったことを聞いた瞬間、久追の拳骨が山本の脳天に叩き込まれた。

17上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/11(木) 16:55:39 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp

>>紘暢さん
山本くん、登場ですね!
結構ホスト気質なのでしょうか?w
突然現れたら、ひよりちゃんだって悲鳴の一つは出ますね。←

18紘暢:2013/04/12(金) 11:08:20 HOST:wb79proxy01.ezweb.ne.jp
>>17上総さん

フェミニスト気質はありますね。
なんだかんだと頼りになる男の子になる予定……です、たぶん。←

19紘暢:2013/04/12(金) 17:52:50 HOST:wb79proxy10.ezweb.ne.jp
「い、ったー!お陰で覚えた単語全部飛んだ……」

 頭の上を両手で抑えて山本が涙目になりながらそう呟いた。それを見た久追がフンと鼻を鳴らす。
 二人のやり取りを見ながら、ひよりは山本が久追の知り合いだと知る。キスと受け取っても間違いないであろう山本の行動は、いまだに動揺を隠せないひよりに重くのし掛かった。手にしているクレープも食べる気がなくなった。
 悲鳴をあげてから一言も発さないひよりに四つの瞳が射抜く。明らかに明後日のほうを見ているひよりを目にして、さすがに山本もやりすぎたと思ったのか、本当に申し訳なさそうな顔をして謝罪をした。

「おっ……と」

 ひよりの手からクレープがずれ落ちそうになって、慌てて久追が彼女の膝に落ちる前にキャッチした。ひよりは固まっている。見事にフリーズである。

「山本、この代償は高くつくぞ」
「……わぁ……」

 久追の言葉に山本は顔を青くするばかりだった。





 どれぐらいの時間が経ったのか、ようやくひよりが我に返った。心配そうに覗きこむ二人に、一瞬なにが起きたのか理解できずに軽く体を後ろへ傾ける。

「ごめんね、ひよりちゃん」
「え……?あ……」

 山本の謝罪になんのことかすぐには分からなかったが、謝罪の理由を思い出した瞬間、再び顔を真っ赤にして声にならない声をあげた。

「落ち着けひより。とりあえず山本は一発殴っといたから」

 フォローしているようでしていない久追の言葉。

「自己紹介しないとね。俺は山本。山本暁。久追の元クラスメイト兼数少ない一般の友達」

 瞬間、山本の頭に久追の拳が再び落ちた。

「そうやってすぐに手が出るから友達ができないんだよ、久追は」
「うるせぇ、お前は余計なこと言い過ぎなんだよ。つか、何しにきた?」

 頭を擦りながら言う山本に不機嫌そうな表情で、久追は彼がここにいる理由を尋ねた。途端に山本の表情が真面目なものに変化し、雰囲気も変わる。

「心配だからに決まってるだろ」

 山本の言葉に一瞬の間が作られたが、久追は顔色を一つ変えず、鼻で笑った。

「山本に心配されるほど俺はそこまで危険人物か?」

20上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/12(金) 19:03:58 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘暢さん
私、結構山本くんも久追くんもキャラが好きですね+。
えっと…、暁(あかつき)くんと読むのでしょうか?((漢字読めない奴ですみませっ。
久追くん男前です!←

21紘暢:2013/04/12(金) 20:19:13 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp
>>20上総さん

そうですか?ありがとうございます!!

あ、「あきら」と読みます。それから一応、久追は「ひさおい」と読みます。

22紘暢:2013/04/12(金) 21:05:54 HOST:wb79proxy06.ezweb.ne.jp
 久追の問いかけに山本は真剣な表情から一転、笑顔で答える。

「久追じゃなくて、今までのお友達がね」

 山本が言わんとしていることは、ひよりにも分かった。久追は不良で有名だ、他校の生徒と問題を起こして謹慎を食らったことなんて何度もある。その執着が留年なのだから情けないことこの上ないだろう。

「うるせぇ」

不貞腐れた顔をしてひよりの横にどかりと座る。そして手にしていたクレープをひよりに差し出した。

「ほら、お前の。落としかけてたから」
「あ、ありがとう……」

 受け取ってはみたものの、すでに食欲はない。勿体ないが、あとでゴミ箱にでも捨てよう。

「ひよりちゃん、こんな危なっかしい奴だけど、よろしくしてあげてね。なにか悩み事があれば相談に乗るし。あ、ちなみに久追に飽きたら俺に切り替えても構わないから」

 友人らしい挨拶をしていたかと思いきや、ナンパまがいなことまで口にしだしたので、山本は何度目かの久追の鉄槌を受けることになった。

「さて、帰るか?」

 と、久追に聞かれて、ひよりは素直に頷く。ごっこではあるが、恋人らしいことの一つはクリアしただろう。本当にイジメがなくなるのかは、明日になってみなければ分からない。
 ひよりはベンチから立ち上がると、まっすぐにゴミ箱に向かい躊躇いなくクレープを捨てた。それを久追は咎めはしなかった。

 駅の改札口でようやく久追たちとひよりが別路線の電車であることが判明した。方向は真逆。途中まで送るという行為はできそうにない。

「明日この駅から一緒に学校に行こう」

 と久追が言えば、「俺も一緒だよ」と山本も笑って続けた。二人の仲は初対面のひよりでも分かるぐらい良い。そんな二人と一緒に登校できることは、今まで一人ぼっちで登校していたひよりにとって、とても嬉しいことだった。
 待ち合わせ時間と場所を指定して別れる。先に改札口の中へと消えたひよりを見送ったあと、二人の間に奇妙な空気が流れた。

「まさか、ひよりちゃんに黙ってるつもり?久追」

 冷ややかな山本の声。それは責めているようにも聞こえた。

「一年の契約だって?……最後に傷つくのは、ひよりちゃんなんだよ、久追。分かってるの?」

 山本の問いかけに久追はしばらく無言で返していた。

23上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/13(土) 10:55:21 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘暢さん
暁(あきら)くんと読むのですか!読めない奴でほんとすみません((汗
ネーミングセンス良くて羨ましいです!!

暁くんと久追くんの仲は、微笑ましいですね。
ひよりちゃんと別れた後に告げる暁くんの問いかけの意味が気になります!

24紘暢:2013/04/13(土) 13:26:32 HOST:wb79proxy06.ezweb.ne.jp
>>23上総さん
いえいえ。そんなことないです!

あ、伏線張りました。
山本の問いかけで分かるように、久追はひよりに隠し事したまま契約を交わしてます。

それはどんな隠し事なのか。
後々に明かしていきたいと思います。

25紘暢:2013/04/13(土) 13:51:23 HOST:wb79proxy04.ezweb.ne.jp
「大丈夫だ。あいつが俺に惚れない限りは、な」
「……人がどう変わるかなんて分からないよ、久追」

 どこか憂いを感じさせる瞳で、山本は呟く。

「現に、キミは変わったじゃないか。前のキミは今を大切になんかしてない」
「言葉にすると、すげぇ恥ずかしいな」

 責められているはずなのに久追は笑う。どこかくすぐったそうな笑顔だ。それを見て山本はため息をついた。

「俺もできるかぎりのフォローはするけど、いつか来る日にはちゃんと逃げないで、ひよりちゃんと向き合いなよ?」
「分かってる」
「俺は見たくないよ、女の子が泣く姿なんて……」

 すでにいないひよりの姿を思い浮かべながら山本は告げる。その言葉の重さを、静かに久追は受け止めるのだった。





 ひよりと久追が契約とはいえ付き合いだしてから、すでに一週間は過ぎ、ひよりに対するイジメもぱったりとなくなっていた。公認のカップルと言われてもおかしくはないが、二人の関係は周りから見ると奇妙なものであることだけは変わらない。不良といじめられっ子が、どういう経緯で付き合うことになったのか疑問なのである。
 山本と出会ってから、ひよりは久追だけでなく山本とも一緒にいるようになっていた。三人でいることのほうが多いかもしれない。

「つまんねぇ……」

 昼休み校庭のベンチで三人並んで仲良く昼食をしていた時、おもむろに久追がぼやいた。

「なに、どうしたの。ゴキゲンナナメだね、久追」
「うるせぇ」
「なんか、体育の授業に出たかったみたいで……」
「あー……なるほど」

 ひよりのフォローに山本は納得する。この学校の体育は2クラス合同のため、クラスの違うひよりと久追は体育で一緒に授業を受ける。付き合い出してから分かったことだが、久追は体育の授業をすべて見学している。その理由が彼らしいといえば彼らしいのだが、学校側から喧嘩に発展しかねない体育は見学しろと言われたからだ。それに対して大人しく従っている久追が不思議なのだが、ひよりはそれを口にすることはなかった。

「こればかりは仕方ないよね、久追。今までの行動のツケはちゃんと払わなきゃ」
「うるせぇ!」
「でも、なんで喧嘩に発展するって決めつけちゃうんでしょう」

 ひよりの何気ない呟きに、二人の視線が一気に注がれた。

26上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/13(土) 18:58:57 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘暢さん
いやいや、センス無い奴が言うのもなんですが、魅力を感じます*

プロローグ的な最初の文(>>2)に繋がる感じですね。
隠し事…この展開の謎がいつ明らかになるのか気になります!

ひよりちゃんを虐めていた人は虐めなくなったんですね!
それを聞いて一安心です。
久追くんってそこまで問題児なのでしょうか…?優しい人にしか見えないです(>_<)

27紘暢:2013/04/14(日) 06:45:50 HOST:wb79proxy03.ezweb.ne.jp
 やがて二人が堪えきれずに笑いだした。ひよりはなぜ笑われたのか混乱する。なにかおかしいことでも言ったのだろうかと、自分の言葉を脳内でフル再生してみたもののさっぱり分からなかった。

「良かったねぇ、久追。一人でも学校側の言い分をおかしいと言ってくれる子がいて……はは」

 堪らないと山本が腹部を押さえて笑っている。久追は肩を揺らして笑って答えた。

「まさか、ひよりに言われるとは思わなかった……」
「だよねぇ。貴重だよ、うん」

 笑うことに満足したのか、山本が久追の言葉に応えるように言う。
 なにがなんだか分からない。とりあえずバカにされた気がしたので、ひよりはムスッとしてみた。すると二人とも短く謝罪をしてひよりを宥める。

「ひよりちゃんなら、きっと……」
「山本」
「あ、ごめん」
「?」

 笑ったせいか、気が緩んだらしい山本が言いそうになったセリフをすぐさま久追がたしなめるように名を呼ぶと、彼はすぐに気づいて謝罪をした。そんな二人のやりとりの意味が分からないひよりは首を傾げた。

「久追は幸せだよね、ひよりちゃんがいて」

 先に昼食を済ませた山本が丁寧に片付けながら口にする。それに久追が肯定するように短く「ああ」と答えた。偽りの恋人という関係で、そこまで言ってもらえるのはなんだかくすぐったい。ひよりは恥ずかしそうに弁当に箸を伸ばして、おかずを口にする。

「照れてる。ひよりちゃん可愛い」
「……」

 からかうかのような山本の言葉にひよりはさらに真っ赤に頬を染めた。それを誤魔化すように無言で弁当をつつく。

 山本は本当に思ったことをストレートにぶつける男だ。良くも悪くもあるその性格が、久追には心地いいのかもしれない。誰もが敬遠する不良の久追を、周りと同じように接するその姿が異質にも感じるが、それでも久追にはありがたかった。しかし感謝なんか投げ掛けてやるつもりはないが。

 やがて久追とひよりも食事を済ませると三人揃ってベンチから立ち上がる。その直後、久追が突然膝を折った。

「久追!?」

 頭を抱えて片膝を立てて座る久追に山本が顔色を変えて駆け寄る。

「……大丈夫、立ちくらみだ」

 そう言って久追は立ち上がる。しかし、こころなしか顔色が悪いような気がした。

「朝飯を抜いたのが悪かったな」

 苦笑する久追を見て、ひよりはほんの少し不安を感じ取った。さっきの山本の様子があまりにも異常だからだ。

28上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/14(日) 14:35:18 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘暢さん
あ、紘ちゃんって呼んでもいいですか?

えっ、久追くん大丈夫なんでしょうか!!?
ひよりちゃんも不安を感じたみたいですね…山本くんの焦りようも気になります!

29紘暢:2013/04/14(日) 16:19:21 HOST:wb79proxy07.ezweb.ne.jp
>>28上総さん
構いませんよ〜。

それはおいおいに……

30紘暢:2013/04/14(日) 16:49:34 HOST:wb79proxy06.ezweb.ne.jp
「なんて顔してんだよ、立ちくらみだっつったろ?」

 不安気なひよりに気づいた久追が、ニッと笑ってみせる。それを見たひよりは久追の隣に立つ山本に視線を移した。山本は困惑しているかのような笑みを浮かべている。ぎこちない笑みと言ったほうが早いかもしれない。

「……でも、山本センパイは大したことなさそうな顔をしてますが……」

 ひよりの言葉に山本は僅かに見開いたが、すぐに平静を装う。すると久追本人は本当に大したことないとでも言いたげに、ペシンと山本の頭を叩いた。

「単に、山本が心配性なだけだ。大袈裟なんだよ、お前は」
「ごめんね。久追って喧嘩ばかり繰り返してたから、怪我が治ってもたまにこういう風に体調崩したりするんだよ。参るよね、心配するこっちの身になれってんだ」
「うるせぇ」

 久追にたしなめられて、山本は自分の行動の弁明を笑顔でした。その弁明をひよりはなるほどと納得する。
 たしかに今まで喧嘩をしてきて大事なかったほうがおかしい。それに久追はその喧嘩が原因で入院したわけだから病み上がりと同じだろう。体調を崩していてもおかしくないかもしれない。

「久追くん、私頑張って久追くんの体調に気をつけるよ!」

 両手に拳を握って決意するひよりに、たじたじになりながらも久追は了承した。そんな久追の耳に山本の呟きが聞こえる。

「これで、ますます体調は崩せないねぇ」

 この時の笑顔の山本を久追は一生忘れるものかと自分に誓った。




 二人が付き合い出して時が経つのは早いもので、すでに2ヶ月を過ぎていた。季節は初夏、梅雨に入っている。毎日が雨で憂鬱になる日々が続く。梅雨に入ってから、お昼は専ら学食になっていた。ひよりと久追、山本の三人の仲は学校でも有名になりつつある。付き合い始めはぎこちなかった二人も、今では遠慮というものがなくなった。

「久追くん、その卵焼きちょうだい」
「じゃあ、そのウインナーよこせ」

 こんな会話が当たり前になっていた。久追の存在は、たしかにひよりを前向きにさせていく。顔色を窺っていたクラスメイトに挨拶を交わすことができるまでは成長したのだ。まだ挨拶だけだが、それでもイジメを受けていた時に比べたら格段に変わっている。ひよりはそんな毎日が楽しくてたまらなかった。

31上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/14(日) 19:16:07 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘ちゃん
ありがとう御座います!
あ、図々しいですが私のことも好きに呼んで下さい!


初々しいですね。ひよりちゃんと久追くん!
ひよりちゃんが少しずつでも前に進んでいる姿を応援します!

32紘暢:2013/04/14(日) 20:48:31 HOST:wb79proxy01.ezweb.ne.jp
 毎日が楽しくて、このまま続けばいいとさえ思い始めていた。偽りではあるが彼氏の久追は、会話を重ねていく度に、良いところが見え始めていて、ひよりは彼を良い友達とさえ思っていた。他の誰よりも久追を信じている。久追は契約とはいえ、ちゃんとひよりをあらゆるものから守ってくれていた。

 放課後は三人で下校。途中でコンビニに寄ったり、本屋に寄ったり。時間を有意義に使うのが嬉しくてたまらない。自然と笑顔も増える。苦しかった毎日が、息ができるようになって、呼べば応えてくれる人がいる。それがどんなに幸せなのか、ひよりは身に染みて実感していた。
 三人で仲良く並んで街中を歩いていると、後ろからひよりを呼ぶ声がした。その声にひよりはドクンと心臓が激しく鼓動を繰り返すのを感じる。この声は、忘れようとした声。できるなら二度と聞きたくないと思えるほどのものだった。

「新谷さん……」

 ゆっくりと振り向いた視線の先には、大人しそうな少女が立っている。華奢な体をして可愛らしい顔の少女。彼女は控えめな瞳をひよりに向けていた。少女の姿を見た瞬間、ひよりの動揺は見てとれるほど明らかだ。ひよりの顔から笑顔が一切消え失せ、真っ青な顔をして一歩、また一歩と後退する。

「ひより……?」

 様子のおかしいひよりに、久追と山本はひよりと少女を見比べた。二度目に少女の口からひよりの名が出た瞬間、ひよりはなにも言わずにその場から逃げ出した。

「ひより?!」
「ひよりちゃん!!」

 走り出したひよりを追いかけるように二人も走り出す。残された少女は呆然とした表情を浮かべたまま走り去った三人を見つめた。


 思い出したくない記憶が蘇る。忘れようと自分に言い聞かせて過ごしてきたことを思い出す。声を聞いた瞬間、まだなにも忘れていなかったことに気づく。


 そうだ、あの日もこんな雨の日だった……。


 あの時は周りに友達がいて、自分が巻き込まれるなんて思ってもいなかった。ただ、守りたかった。傷ついているクラスメイトを、ただ守りたかった。だけど、それは叶わないまま、思ってもいないところで、矛先がひよりに向いた。守ろうとした人が、いとも簡単にひよりを利用して逃げた。


 残されたのは、立場の逆転だった。


 そうだ、私がイジメを受けていた理由は……。

33紘暢:2013/04/14(日) 20:50:29 HOST:wb79proxy01.ezweb.ne.jp
>>31上総さん
では上総ちゃんと呼ばせていただきます。

あ、あとこちらの事情で、しばらく投稿ができないかもしれません。でも、必ず更新しますので、それまで待っていただけると嬉しいです。

34上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/04/15(月) 17:38:50 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘ちゃん
私にそんな可愛い名前を…!ありがとう御座います。呼び捨てでも構いませんよ?((

あ、はい。了解です!
もちろん待たせて頂きます。ファン第一号として紘ちゃんと小説をです*

ひよりちゃんの過去が少し出て来てますね。
やっぱり、イジメの原因は友達関係の中にあったみたいですね。続き、楽しみに待ってます。

35名無しさん:2013/04/17(水) 10:51:23 HOST:zaq31fa5058.zaq.ne.jp
またダメスレか?
誰も見てねーよカス

36名無しさん:2013/04/27(土) 18:53:15 HOST:wb78proxy11.ezweb.ne.jp
粕はおめぇだwww低脳がwwwきめぇんだよくっそがああああ

37紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/05/26(日) 16:17:28 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
お久しぶりです。著者の紘暢です。諸事情でPCから失礼します。次からはトリップつけて投稿しますね。
ケータイのほうからの投稿はもう少し先になるので、時間があるときはPCから投稿させていただきます。

38紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/05/26(日) 16:46:57 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
 今の高校に入学して数日で、すでにグループはできていた。そんな中でポツンと一人だけいるクラスメイトがいた。雰囲気だけでなく実際にも大人しく意見を言うことも出来ない彼女は、自然とクラスメイトたちのかっこうのストレス発散となっていた。最初は本当に些細な悪戯からで、それは日々エスカレートしていく。それをひよりは客観的に傍観者を決め込んでいた。彼女がどんな仕打ちを受けても抵抗はおろか一切言葉を発さない。それがひよりには歯痒くて仕方なかった。嫌なはずなのに、「やめて」の一言すら言わない。だからイジメはさらにエスカレートしていく。担任や他の教師には気づかれない場所を徹底的に攻撃する。見た目は変わらないけど、おそらく彼女の制服の下は数え切れないほどの痣や傷があったはずだ。それほどまでにイジメの主犯格の女生徒はうまく立ち回っていた。
 そんなある日の放課後、イジメっ子たちが満足気に帰っていく姿を目撃したひよりは、そろりと教室を覗いてみた。そこには上の制服をすべて脱がされて肌が晒されている彼女の姿があった。頻繁に殴る蹴るを繰り返された彼女の肌は目を逸らしてしまいそうになるほど、酷い有り様だった。このときに、見て見ぬふりをしていた自分を恥じたひよりは、思わず彼女のもとに駆け寄り、床に落ちている制服拾ってカタカタと震えるその肩にかけてやった。ひよりの無言の優しさに彼女は堪えていた涙を流してギュッと体を丸めたのだった。

 こんなにも弱々しい姿の彼女を、ひよりは守りたいと思った。彼女に味方をすれば自分がどんな目に遭うかなんて、容易に想像できたが、そんなことは二人であれば乗り越えられると思っていた。

『今まで見てるだけでごめん……。これからは私がそばにいるから』

 ひよりがそう言うと、彼女はひよりの胸で大声で泣いた。

39紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/05/26(日) 17:10:28 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
 翌日から、ひよりは彼女の隣にいる姿を周囲に見せる。どこからでも来なさい。そんな気迫で周囲を睨んだ。挑戦的なひよりの態度はイジメっ子たちの逆鱗に触れるものばかりで、イジメは執拗に繰り返し、さらにヒートアップするばかり。それでも、ひよりは耐えられた。教室に行けば彼女がいる。挨拶をすれば答えてくれる。それがひよりの支えであったからだ。
 そんな日々が変わったのは、彼女と仲良くなってから数ヶ月経った9月。二学期の開始と同時に、ひよりの環境は驚くほど急変していた。夏休みに入るまで一緒に登下校していた彼女が、ひよりを避けるようになったのだ。そういえば、8月に入ったぐらいから連絡がつかなくなった。だから二学期に入ったら聞こうと登校したのだが、クラスの様子が一学期のときと全然違う。
 ずっと傍観者を決め込んでいたクラスメイトたちまでも、イジメに参加するようになったのだ。何が起きたのか、ひよりには理解できなかった。
 登校してきた彼女に声をかけようとした途端、彼女を守るようにイジメっ子たちが立ち塞がる。

『新谷さん、その汚れた姿で近づかないでくれるかしら』

 主犯格の女生徒がニヤニヤ笑っている。その後ろで彼女が怯えた表情を浮かべ隠れるように移動した。

 ……え?なに……?どういうこと?

『理解できないようね、新谷さん』

 クスクス笑う主犯格の女生徒につられるようにクラスメイトたちも笑い始める。

『おめでとう。新谷さん。貴女は売られたのよ、彼女に……』
『……!』

 気まずそうに彼女はますます影に隠れる。

 そう、ひよりはイジメに耐えられなかった彼女によって裏切られたのだ。一緒にひよりをイジメれば、もうなにもしないとでも言われたのかもしれない。
 ひよりの中で何かが、大切だった何かが脆く崩れ去っていくのが分かった。

40紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/05/26(日) 17:29:22 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
 あれ以来、標的がひより一人に絞られたクラスは、奇妙な団結力を発揮し、ひよりに自殺を考えさせるほどに追い込んだ。
 最初は抵抗した。でも誰一人ひよりを助ける者がいない。完全にクラスで孤立させられたのだ。担任に言っても取り合ってもらえず、授業中ですら関係なくなってきた。教師がいる前でも堂々とイジメが行われても、教師たちはまるでそんなものが起きてないとばかりにそのまま授業を進めていく。

 ああ、もう味方なんていないんだ……。

 途端に、もう抵抗する気力がなくなった。殺されそうになったことだってある。生きてはいけないのだと、思い込むには半年は充分だった。
 あの時、久追に見つかっていなければ、ひよりはこの世に存在していなかっただろう。
 そうして、ひよりがイジメられる元凶である彼女は、年明け前に親の都合で転校していった。ひよりに対して感謝も、謝罪すらなかった。ひよりの目から逃げるように彼女はなにも言わずいなくなったのだ。
 だから忘れようとした。もともと彼女なんかいなかったと。あの裏切りはなかったのだと。そう思い込まなければ、耐えられなかった。

 なのに、彼女はあの頃と変わらない姿で、目の前に現れた。その意図は分からない、分かりたくもない。彼女に罪悪感があるなら、もっと前にどうにかなっていたはずなのだ。
 関わりたくない、顔も見たくない。

 ひよりはひたすら街の中を走り抜ける。彼女が追いかけてくるとは思わないけど、同じ場所にいるのが堪らなかった。

41たっくん:2013/05/27(月) 10:42:12 HOST:zaq31fa58c8.zaq.ne.jp
↑のアソコは棒2、3本くらい余裕だそうです。
彼女が言っておりました。

42上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/06/01(土) 10:51:16 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘ちゃん
おかえりなさい、待ってました!
リアルが最近多忙になってきまして、返信が遅くなってしまいました。ごめんなさい(>_<)

ひよりちゃんが久追くんと出会う前のことだ!!
守ろうした人に裏切られる悲しみは、いっきにズタズタに崩れて行く感じですよね。
彼女とひよりちゃんの今後がどうなるのか、どきどきです。

43紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/02(日) 17:46:45 HOST:58-188-103-6f2.kns1.eonet.ne.jp
「ひよりちゃん!」

 後ろで追いかけてきた山本が呼ぶ。体力も限界になっていたこともあって、ひよりは足を止めて振り向いた。ようやく追いついた山本だけだ。一緒に走ってきたはずの久追の姿はない。

「いきなり走るなんて、どうしたの。さっきの子となにかあったの?」
「……」

 問いかけにひよりは答えない。

「まあ、話したくないならこれ以上聞かないけど」
「……ごめんなさい」

 ひよりの中で、まだ解決していない問題を簡単に話せない。山本や久追は信用できる人だが、迷惑をかけたくなかった。とくに山本は受験生だ、余計な心配をさせて受験に響くのだけは避けたい。

「ひよりちゃん、一人で抱え込んじゃいけない。何のために俺たちがいると思ってるの?」
「……だって」
「もしかして、俺が受験生だからとか気にしてる?」
「……」

 図星をつかれて押し黙る。だって迷惑をかけてしまう。せっかく優しくしてくれている人たちを、こんなことで煩わせたくない。ただでさえ、イジメを受けていたことで迷惑をかけているのだ。これ以上は……。

「ひよりちゃん」

 山本がひよりの頬に触れて視線を合わせる。綺麗な顔立ちの彼が至近距離に、目の前にいることに恥ずかしさから目を逸らした。

「俺は受験しないよ。すでに就職が決まってるしね」
「……え」

 山本の発言にひよりは思わず彼を見た。満足気に笑う山本は、そのままの体勢でひよりの頭を撫でる。

「俺たちは友達でしょ?気なんか遣わないの。ね?」
「でも……」
「意外に強情だね、ひよりちゃん。久追も俺も、ひよりちゃんが可愛いんだよ。だから悩んでいたら助けたい」

 山本はさらりと大胆なことを口にする。久追なら絶対言わないであろうセリフを、彼はまるで息をするかのように簡単に言う。だからだろうか、山本には友達というよりも兄のような感覚があった。

「俺たちは迷惑かな?」
「違います!……違う……んです」

 こんなに優しくされたら甘えてしまう。頼ってしまう。
 ひよりは恐る恐る頬に触れる山本の手に触れた。こんな状況じゃなきゃ、きっとひよりは山本に惹かれていたかもしれない。こんなにも優しい人をひよりは知らないから。

44紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/02(日) 17:51:56 HOST:58-188-103-6f2.kns1.eonet.ne.jp
>>上総ちゃん
いえいえ、リアル優先ですから気にしないでください。
私も前のように頻繁にここに来れないのでお互い様ということで!

ねえ、どうなるんでしょうね?←
どっちかが、動かないと進展なさそうですが……。

45上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/06/03(月) 21:20:26 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘ちゃん
あれ…?山本くんだけ、なんだね…。
えええええ←
もう就職決まってるって凄いよね!?

結構タラシのはずな山本先輩が一番かっこ良く見えたのは何故!(笑)
……失礼しました(>_<)

ありがとうございます。なるべく早くお返事返せるように努力しますので*

46紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/07(金) 03:32:47 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
「なにやってんだ、お前は」

 不意に聞こえてきた声にひよりはビクッとして、慌てて手を離す。山本も優雅にスルリと頬から手を離し、後ろに立つ久追に振り向いた。

「口説いてた」

 笑顔でさらりと言う山本。びっくりしてひよりは口を閉ざす。久追は青筋を立てて、そのまま山本の頭を拳で叩いた。

「弱ってる女になにやってんだよ、お前は。大丈夫か?ひより」
「あ……うん。センパイのお陰で落ち着いたから」

 心配そうに顔を覗かせる久追にひよりは慌ててそう答える。久追は一度もと来た道を一瞥してからひよりに向き直った。

「あれだろ、さっきの奴が原因だな?」
「え……」

 なんで分かったんだろう。

「なんとなく、だけどな。あの女なにか言いたそうにしてたし、ひよりも明らかに動揺してたみたいだからな」
「久追の洞察力って怖っ」
「うるせぇ」

 茶化す山本を窘めて、久追は再びひよりを見る。

「過去を引きずるなとは言わないが、いつまでも気にしていたら前に進まねぇぞ。過去は過去。過ぎ去ってしまったことは、もう戻せねぇ。だからこそ過去と向き合ってみろよ。今のお前ならできる」

 山本は優しい。それは真綿のような優しさ。だが、久追は厳しい。逃げることをけして許さない厳しさがある。けれど、その厳しさの中には安心のできる優しさがあった。そんなに辛くても必ず守り支えてくれそうな優しさだ。

 久追も山本も性格や態度は全く違うけれど、優しいのだけは同じ。質の違う優しさ。ひよりは、この二人に出会えて良かったと心から思う。

「……うん、頑張る」

 自然と涙が溢れる。

 ああ、なんて私は幸せなんだろう。こんなにも私を思ってくれる人たちがいる。

 彼女と向き合うのは正直に言ってまだ怖いけど、逃げることだけはしたくない。私、強くなるよ。二人に恥じないような強い女になるから。

 ひよりは涙しながら、静かにそう誓った。

47紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/07(金) 03:40:49 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
>>上総ちゃん
久追追いつきましたね。何してたのかは次で明かしますね。
あ、就職の件ですか?あれ、センパイのとっさの嘘です。

あれ?かっこよく書いた覚えがなかったんですよね(苦笑)
俺の中では、面倒見のいいお兄さんの位置なんですよ。ひよりにとってはどうか分かりませんけどね?

さて、これからひよりはどうするのでしょうか?こうご期待…なんちゃって。

48上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/06/07(金) 16:18:14 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘ちゃん
え、まさかの山本先輩の嘘。真に受けちゃいましたよ、流石山本先輩。
たぶん、この人は私の予想では侮れない人物だ!←

面倒身のいいお兄さん。フェミニスト気質だけどね(笑)

久追くん鋭いよ!いや、もう言ってることが格好良すぎです。
優しく包み込むような厳しさの中の暖かさ。うん、惚れてしまいますよっ!!
もちろん楽しみに待たせて頂きます^^*

49たっくん:2013/06/12(水) 09:04:18 HOST:zaq31fa529e.zaq.ne.jp
【その日は朝からシコってた】

その日は朝からシコってた♪
アンパンにはアンが入ってる♪
マ●コには肉が詰まってる♪

だけどピーチのアソコにはお肉が入ってない〜♪

むちゅうに上から見降ろした〜なら〜
ピーチさんのチチちょびれ〜
ぷにょぷにょするなよ〜

乳首の上にアザがくる〜
ミンチ動体(どうたい)アソコだ足跡だいっ♪

その日は夜からシコってた♪
その日は夜からシコってた♪

あの世は地獄
ナスがピーチならキュウリはサカタさ〜ん♪


【ドリフの替え歌メドレー】

ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪

いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪

さよなら〜す〜るの〜は〜つ〜ら〜いい〜けど〜♪
寿命だよ〜♪仕方がない

ピーチが逝くまでごきげんよう♪

皆さん常識を身に付けましょう。
君達に教える事は山ほどあります。

貴方に常識を教えましょう。
基本がなっていないので私が伝授します。

50【下平】:2013/06/13(木) 05:59:46 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【零わ、まどかでわ暁美ほむら似てるけど、ほむらちゃんの名言思いつかないわ。】
【零は被害者(御仲間)の味方で、おまえら加害者(モブガキ)の敵。】

51紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/13(木) 12:43:25 HOST:58-188-103-6f2.kns1.eonet.ne.jp


【久追side】

 失敗した。いや、これは失敗にならないかもしれない。しかし、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。

 突然踵を返して走り出したひよりを、俺は思わず追いかけた。少し気になって走りながら振り向いたら、呆然と立ちすくんでいる少女が見えた。追いかけてくる気配はない。隣には、山本も一緒に走っている。前方、およそ50メートル先にひよりの背中が見えた。ひたすら逃げているように見える。

「久追、あとは俺に任せてお前は走るな」

 横で共に走る山本が俺に注意を促す。しかし、俺は足を止める気なんてこれっぽっちもなかった。いつまでも走る俺に、山本は走りながらもため息をつく。

 山本がやたらと俺を気にかけるようになったのはいつだっけか。退院が目の前に迫っていた3月中旬だった気がする。ところどころ骨折していたせいもあって入院が長引いたわけだが、見舞いに来るのは家族ぐらいだった。

 そんな折の山本の見舞いだ。俺は心底驚いた。なぜ見舞いに来たのか、今さらなぜ顔を見せたのか、俺の中で疑問だけが増えていく一方だった。

 しかし、見舞いに来た山本は神妙な表情をして、ゆっくりと口を開いた。

『おばさんに聞いた。なぜ黙ってた、久追』

 山本の問いの意図を俺はすぐに理解する。そしてあっけらかんと笑ってやったのだ。

『仕方ないだろ、半年も入院してたら留年にもなるって』
『……バカだよ、お前は』
『決めたからなぁ』

 そう、俺は決めたんだ。

『他にも方法あるだろ、なんで……』
『さあな。ま、学年は変わるが、仲良くしてくれよ、山本』
『……学校側はなんて?』

 頭を抱えた山本が、呆れたとばかりにそう尋ねてきた。

『大人しくしてるなら、協力するってよ』
『……』

 俺が答えると山本は何度目かのため息をついた。悪いな、余計な心配だけかけさせて。なんだかんだと付き合ってくれるお前が好きだよ。絶対言ってやらないが。

 少し前の出来事を走りながら振り返る俺は、突如襲ってきた体の限界に足を止めて座り込んだ。それに気づいた山本がすぐに引き返してきた。

「久追!」
「悪い、運動不足だ……」
「……だから言っただろう、走るなって。とりあえず日陰に……」

 顔を上げる山本の袖を掴み、俺ははっきりと告げる。

「ひよりを見失うな!俺は大丈夫だから、行け」

 躊躇う山本の尻を叩くように俺は急かした。山本は渋々ひよりを追いかけ始める。その姿を見送りながら俺は涙を流し続ける空を見上げた。

「……冷てぇなぁ……」

52紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/13(木) 13:06:29 HOST:58-188-103-6f2.kns1.eonet.ne.jp


【本編side】

 逃げてはいけない。ちゃんと向かい合わなければ何も変わらないし進まない。心のどこかでどうにかしなきゃいけないとは分かっていた。けれど勇気がなくて、怖くて目を逸らしていた。それを久追に見透かされたのだと思う。だから彼はあんなことを言ったのだ。突き放すような言い回しではあったけど、その中には前に進んでほしいという優しさがあったことをひよりは気づかされた。

 だから怖くても前に進まなきゃと思った。どうしたらいいのかなんて今は分からない。でも、何もしないで久追にガッカリさせたくないから。




 あの一件以来、ひよりは放課後を使って彼女の今いる学校を調べている。あの時は偶然に出会ったのだろうから、彼女自身がこちらに出向くとは思えなかった。偶然というキッカケがなければ動けないぐらいに彼女は弱い。何かしらの行動に移すならば、ひよりを売るような真似はしないはずだ。

 ひよりの行動を久追と山本は何も言わず見守る。一人でやると言っていたが、やはりあの逃げ方からして心配だったのもあったからだ。そうして行き詰ったら手を差し伸べるつもりで、二人はただひよりの傍にいた。

 ひよりはやはり行動力のある娘だった。集団イジメを受けていなければ、これほど動ける少女だったのだ。たった数日でひよりは彼女が現在通っている学校を突き止めた。ただ、やはり怖いのか学校に行くまではしない。それではいけないことを言わなくても、ひよりは分かっているはずだ。

「いつでも構わない。その時も俺たちは一緒だ」
「ひよりちゃんの中のタイミングでいいからね」

 二日ほど動けずに悩んでいるひよりに久追と山本が声をかける。なんて優しい言葉だろうか。こんなにも頼もしい人たちを、絶対に失望させたくない。

「うん、ありがとう。私、ちゃんと前に進むよ」

 ひよりが拳を握って意欲を告げると、久追からは軽く頭に手をポンと叩かれ、山本からは優しく頭を撫でられた。気恥ずかしさの中、ひよりははにかむように笑みを浮かべる。一人なんかじゃない。改めて二人の存在の大きさを実感した。

「……あのね」

 意を決したように真面目な表情を作って二人の顔色を窺う。動くなら今だろう。後回しにすればするほど勇気が必要になり、関係も修復しない気がした。

 お願い。どうか私に前に進む勇気を……。

53紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/13(木) 13:36:32 HOST:58-188-103-6f2.kns1.eonet.ne.jp
 彼女が通っているのは、隣町の公立高校だった。他校の校門前で人を待つという行為は初めてなので、物珍しそうに見られることがこんなにも居心地が悪いとは思わなかった。
 さすがに三人並ぶのは目立ちすぎるし、相手も逃げてしまうかもしれない。そんなわけで、山本だけは少し離れた場所で様子を見ることになった。ひよりを一人にしたら、校門から引き返しそうな気もしたし、そもそも本人が久追に傍にいてほしいと希望したのもあったので、久追だけがひよりの傍に立つことになった。

 他校の男女の生徒が校門に立っている時点ですでに目立っているのか、じろじろとひよりたちを見ては下校していく生徒たち。その中に彼女の姿はまだない。校門前に立って十分少々経っても、下校する気配を感じないので、すれ違いですでに下校しているのかもしれないと思ったひよりは、さりげなく離れて見守る山本の様子を窺った。

「……あれは、なに……?」

 目に飛び込んだ光景にひよりは思わず呟く。ひよりの視線を追った久追も、視界に入ったものを見て半眼になった。
 二人の視線の先には、女生徒たちに囲まれている山本の姿があった。確かに見目麗しい山本は立っているだけでも惹きつけるものがある。しかも、女性の扱いは手馴れているときた。久追の隣にいなければ、あのようにモテていたことだろう。

「あれは放っておけ」

 久追は山本から視線を外して校舎のほうに向きながら、そう告げた。久追の言葉に本来の目的を思い出して、ひよりは慌てて昇降口に視線を走らせた。すると、目的の人物がちょうど姿を現したところだった。近くに友達らしい人がいないところから、一人での下校だと直感する。

「運がいいな。一人だ」

 ニッと口角をかげた久追が口を開く。ひよりは途端に緊張感に襲われ、無意識に隣に立つ久追の左手を握った。突然手を握られた久追は驚いたように手を見ると、ひよりの手がカタカタと震えているのに気づく。ひよりの視線はまっすぐに前を向いていたが、握られた手は震えている。

「……!」

 突然強く握り返されたことにひよりは思わず久追を見た。すると彼は笑みを浮かべて小さく頷く。

 そうだ。私は一人じゃない。

 ひよりは再び前を向いて深呼吸をする。緊張はまだ取れないが、少し落ち着いた。視線の先にいる彼女がひよりたちに気づいて歩みを止める。

54紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/16(日) 09:47:26 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
 気づいた彼女の表情は固く、しかしどこか悟ったかのようなものだった。ひよりがわざわざここまで赴いた理由が分かったのだろう。目の前まで来た彼女は立ち止まり、ちらりとひよりの隣に立つ久追に視線を向けた。

「俺は単なる付き添いだ。気にすんな」

 彼女の視線の意図を理解したらしい久追が答える。

「……場所を変えましょう」

 彼女は固い声音でそう告げると、二人の返事も聞かずに素通りして校門を右へと曲がった。二人は見合わせてから彼女の後を追う。その道中、久追は山本に移動する旨をメールした。落ち着ける場所に着いたら、さらに連絡する予定だ。山本ならば、女生徒たちを適当にあしらって合流してくるだろう。



 彼女が向かったのは、前に偶然再会した場所の近くにあるオープンカフェだった。四人席をひよりと久追で並んで座り、彼女一人だけが向かい合う形で座る。注文したメニューがテーブルに並べられてから、ようやくひよりは口を開いた。

「私が会いに来た理由、分かってるとは思うけど……」

 冷静に口火を切っってはいるが、テーブルの下でひよりは久追の手を握り続けている。そんなことは知らず、彼女は、ひよりの言葉に小さく頷いた。

「本音を言えばね、私は貴女と関わりたくない。こうして会うのさえも本当は嫌」

 ひよりが告げる本音に彼女は悲しげに目を伏せる。

「でもね、私はあの事を引き摺ったまま過ごすことになるほうが嫌だから、こうして会いに来たよ」
「新谷さん……」
「ねぇ、教えて」

 ひよりが告げる言葉一つ一つに彼女は瞼を震わせた。彼女のなかでどんな葛藤があるのかは分からない。けれど、一番知りたいことだけは教えてほしかった。

「どうして、あの時……私を売るような真似をしたの?」

 彼女にとって、ひよりなどどうでも良かった存在だったわけじゃないはずだ。少なくともひよりはそう自負している。自分が行ったことは間違ってなんかいないと、そう信じている。
 彼女は一度自分のなかで言葉や記憶を整理するように目を閉じ、やがてゆっくりと目を開けると、ひよりをまっすぐに見つめて言葉を紡いだ。

「……夏休みのある日、塾帰りの私の前に中塚さんたちが現れたの」

 それはまるで彼女を待ち伏せしていたかのような状況だった。リーダー格の女生徒、中塚が率いる数名が彼女の前に来たという。

55紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/16(日) 10:18:48 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
「中塚さんたちは、なぜか私の家庭の事情を把握してて……」

 彼女は言いづらそうに視線を彷徨わせながら話を続ける。

「……家庭の事情?」

 問いかけると彼女は小さく頷いた。

「新谷さんには言っていなかったんだけど、私が高校に入る前から両親が不仲で……あの頃にはすでに離婚が秒読みになってたの」

 確か親の都合で転校することになったのを当時の担任から聞いていた。

「もし離婚が決定して、お母さんについていくことになれば、転校は避けられない。私、ずっと悩んでた」

 グッとテーブルの上に置かれた両手を握る姿に、ひよりは当時の彼女を思い出す。二人でいることになった頃、彼女は時折ひよりを見て申し訳なさそうな悲しげな瞳を向けていた。何かあったのかと聞けば、彼女は必ずなんでもないと笑って答えていたのだ。

「新谷さんが味方になってくれて、学校に行くこともようやく楽しくなってきて……でも、帰れば両親のケンカに現実を見せられて……」

 ポタポタと彼女は涙を流す。

「このままじゃ、新谷さんを置いて私だけが逃げるような形になってしまいそうで怖かった」
「でも結果、私を売った」
「……そう、なるよね。……そんな時に中塚さんたちが現れて、一つの条件を突きつけてきたの」

 ひよりの責めを彼女は肩を落とすように受け、そのまま話を続けた。

『近いうちに転校するのなら、貴女を弄るのもこれで終わりにしましょう?その代わり、頼みを聞いてほしいの。簡単よ、あのめげない生意気な新谷を裏切りなさい』

 何を言われたのかが彼女には分からなかった。だから、嫌だと、友達になってくれたひよりを裏切る真似だけはしたくないと拒絶した。しかし、中塚たちはそれを許さず、さらなる脅迫をかけた。

『いいのかしら?今、新谷のところに坂出くんを向かわせた。あの気の強い新谷でも、男に襲われたらどうなるのかしら。一生お嫁に行けない体になるのも時間の問題ね』

「……ひでぇな……」

 彼女の話を聞いていた久追が、心底不愉快とばかりにそう呟く。ひよりも、まさかそんなやりとりがなされていたとは気づいていなかった。

「どっちを選んでも新谷さんを傷つけてしまう。でも、私は新谷さんを守りたかったの。新谷さんが私を守って助けてくれたように」

 だから、裏切る選択をするしかなかったのだ。

56紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/16(日) 10:49:54 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
「何を取り繕っても私が新谷さんを傷つけたことには変わりはないよね。私、ずっと新谷さん謝りたかった。許してほしいとか友達に戻ってほしいとか言える立場じゃないし……」

 彼女の裏切りは、ひよりを男の手から守るためだった。久追は無言でひよりを見つめる。ひよりはどう答えていいのか思いあぐねていた。

「ごめんなさい。脅されていたとはいえ、貴女を裏切り傷つけてしまって……」
「……」

 謝罪をする彼女に、ひよりは何も言えずにいた。許す許せないで言えば許せない。けれど、守ろうとした結果があの裏切りだった。もし彼女の立場だったなら、自分も同じ選択をしたのではないだろうか。いや、ほかの選択肢を作っただろうか。簡単には蟠りは溶けないと思う。けれど……。

「話してくれて、ありがとう」
「ううん、私のほうこそ聞いてくれて、会いに来てくれて嬉しかった。ありがとう新谷さん」

 彼女は涙に濡れた瞳で笑った。

 きっと彼女は後悔をしていたかもしれない。他にも守る方法があったのではないかと。きっと罪悪感に苛まれていたのだろう。どんな理由があるにしても裏切ってしまったことに。

「新谷さん、良かったね」
「え……?」

 注文したドリンクを飲み干した彼女が、席を立ちながら微笑む。彼女の視線の先に久追がいた。

「私は新谷さんを守るどころか傷つけてしまったけど、今の新谷さんは良い顔してる。きっとこの人が新谷さんを守ってくれてるんだね」

 そう言って彼女は自分の分の代金だけを置いて、そのまま店を出て行ってしまった。

 彼女に言われて、ひよりはようやく久追と自分が周りにどう見られているのか認識したらしく、握っていた手を慌てて離した。急に恥ずかしくなってきた。ちらりと久追を盗み見ると、彼は気にした様子もなくアイスコーヒーに口をつけている。

「……久追くんてこういう人だよね」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもありません」

 ポソリと呟いたひよりの言葉を聞き取れなかった久追は不思議そうな顔をしてアイスコーヒーから顔を離して問いかける。ひよりはなんとなく悔しくて拗ねたように口を尖らせてそっぽを向いた。

57たっくん:2013/06/18(火) 11:53:15 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
またクソスレか・・つまらないな〜
よしっ私が面白くしてあげましょう。

58たっくん:2013/06/18(火) 11:53:28 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
つかぬ事をお聞きしますが、
ピーチさんのオブツを1円で譲って頂けないでしょうか。

非常に身勝手な希望では御座いますが・・
今後ヤフーオークション等に出展される事がありましたらご報告下さい。

私の願望は
わずか1円で即決して頂き、発送料を無料にした頂いた上に、
お取引の際、迅速な対応を望む、などという
非常に虫の良い話であります。

しかし・・しかし実現します。

59たっくん:2013/06/18(火) 11:54:29 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
ちなみに下(↓)の書き込みは全て私のものです。
どうもすみませんでした。

全て私の自演です。

60たっくん:2013/06/18(火) 11:57:37 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
>>1さんも
私のように真面目になりましょう。
女性のお話面白かったでしょう?

では

61たっくん:2013/06/19(水) 11:07:14 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
>>1さんの歌を歌います。

      【チンポソング】


チン♪チン♪チンチンチン♪
>>1さんのアソコはケケケの毛〜

62たっくん:2013/06/19(水) 11:08:21 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
曲名は『ケケケの金タ郎』

ケ♪ケ♪ケケケの毛♪
>>1さんのアソコに毛が生えた♪

63たっくん:2013/06/19(水) 11:08:44 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
タマの裏にもケケケの毛♪

64名無しさん:2013/06/20(木) 14:55:37 HOST:wb78proxy04.ezweb.ne.jp
ニート乙www

65上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/06/28(金) 16:28:48 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp
>>紘ちゃん
なんという失態((
更新されていたことに気付かなかったなんて…遅くなってしまってごめんなさいです;



本編に入りつつ、その間にちゃんと過去に何かあったのかを読み取ることが出来る紘ちゃんの小説、羨ましいですー!
私もこんな風に書いてみたい←


そんなことがあったのか…今まで明かされなかった真実がようやく分かったんだね。

ていうか、どんどんいい感じになってきてませんか。この二人^^*
お互いにちゃんと分かりあってるって感じが良い。くすぐられるよ、微笑ましいなあ!

66紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/29(土) 22:30:38 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp



 少し、ほんの少しずつだが過去と向き合うようになって早二週間が経つ。目の前に夏休みが控えているが、その前に学期末考査が待っていた。テスト週間に入って二日が経過。部活はすべて一時的な休部となり、生徒たちは各々うんざりとした顔で下校していく。

「久追はいいねぇ。留年だから前に出た問題が分かるんじゃない?」

 茶化すように山本が参考書を手に笑う。すると久追は渋面になって、ノートを開いた。今、三人がいるのは図書館である。テスト勉強という目的で普段足を踏み入れない場所に来ていた。

「俺が去年真面目に勉強してたと思うか?」
「してないよねぇ、俺の記憶の中では少なくとも」

 ケラケラと山本は楽しげに笑っている。二人の漫才に似た会話を耳にしてひよりもクスクス笑った。それを久追が、ひよりの耳元に口を寄せて不愉快そうに耳打ちする。

「あいつ、ああ見えて成績良いんだよ。学年で十位以内には常にキープ。ムカつくと思わね?」
「だって俺、久追と違って真面目だし、一度聞けば大体忘れないから」

 久追の耳うちの内容を聞いていた山本が、フフンと鼻を鳴らして自慢げに笑う。

「じゃあ、センパイに勉強見てもらったら成績上がりますか?」

 キラキラとした期待の目をするひよりに、二人が一瞬押し黙る。そして久追が必死に「それだけは止めろ」と制止し、山本は楽しげに笑って「手取り足取り教えてあげるよ」と口にした。
 勉強なのに手取り足取り教える必要があるのかひよりには分からないが、久追の焦りから教わってはならないのだということだけは分かった。

 黙々テスト勉強を続けて数分、ひよりは机を挟んだ向かいの席に座る久追を盗み見る。久追は渋面で教科書を手に唸っていた。勉強は本当に苦手そうだ。そして、ひよりはハタッと何か違和感を感じる。それは気にならないほどの変化ではあったが、確実に違和感だけは拭えなかった。

「あれ?久追くん、痩せた?」

 ひよりの何気ない問いに久追は顔を上げて、数秒沈黙した後で笑顔を浮かべた。

「おう、あんま運動してねぇから太っちまって、ダイエット中なんだわ」

 返ってきた答えにひよりは不思議そうに首を傾げる。久追は痩せなきゃならないほど太っては見えない。むしろ普通ぐらいだ。それなのにダイエットをするとはどうしてもひよりには思えなかった。というかダイエットするような男ではないと思う、久追は。

67紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/29(土) 22:55:30 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
 そういえば、最初のころに立ち眩みをした久追に対して山本は過剰な反応を見せた。

「ねぇ、久追くん。私になにか隠してる?」
「ああ、隠してるな」

 ひよりの質問に、久追はしれっと即答する。思わず眉間に皺を寄せて睨むひよりを見もせずに久追はさらに続けた。

「人間、誰もしも知られたくないことの一つ二つはあるもんだろ。それなのにひよりは詮索するのか?」
「……」

 久追の言っているのは正論だ。だが、画していると言われていい気分になるわけがない。ひよりは本人には聞けないと判断して、矛先を変えた。

「山本センパイはしってるんですよね?」
「残念ながら、これは俺の一存では答えられません」

 山本は両手を出してハッキリと言い切る。この二人、かなり口が固そうだ。何をしても答えてくれなさそうな気がする。

「そんなに急かさなくても、いつかは話す……というか分かるだろうな」
「?」

 含みを持った言葉。本当に久追は話してくれるのだろうか。不満げに見つめると、ポンポンと頭を優しく撫でられた。

「ほら、勉強の続きだろ。赤点になっても助けねぇぞ」
「それは久追のほうだよねぇ」
「山本!」
「い、いたっ!暴力反対!」

 揚げ足を取る山本と久追のいつもの漫才が始まって、空気が軽くなった。今は何も聞かないほうがいいのかもしれない。いつか話してくれる日が来るまで、ひよりは待とうと思った。



 滞りなくテスト週間が過ぎ去り、赤点も取らずに無事に期末考査を終えた三人は、開放感に酔いしれていた。いつものように三人で下校しよう思っていたが、山本も久追も用事があるとのことで、ひよりは一人下校することになった。久々のひとりぼっちの放課後に、どこか寂しさを感じつつもひよりは寄り道もせずまっすぐに駅へと向かう。駅までの距離はそんなにないが、途中であまり人通りの少ない住宅街を抜ける形になる。いつもならば、三人で話をしながら歩いているのであっという間に駅に着くため気づかないが、夕方のこの時間は本当に不思議なぐらい人通りが少ない場所だ。学生のほとんどは部活や塾、習い事でこの時間に外で遊ぶ光景は見ない。買い物の時間にもぶつかるので、主婦もあまり通っていないのだ。
 ひよりは寂しさを紛らわすために、イヤホンで音楽を聴くことにした。これから起きる災難に気づきもしないままに……。

68紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/06/29(土) 23:02:12 HOST:58x158x54x58.ap58.ftth.ucom.ne.jp
>>上総ちゃん

はは、気にしない方向でいいですよ。

視点がコロコロ変わって混乱とかしないですか?
最初はひよりの過去の話を入れてなかったんですよ。
でも、いつの間にか解決してるのもおかしいのかな?とも思ったので急遽取り入れることにしたのですが、入れてよかったんですね。

さて、そろそろひよりに怒涛の日々?が起きますよ。
さあ、久追の秘密とは??
勘の良い人なら気づかれてるかもしれませんけど(苦笑)

69たっくん:2013/07/06(土) 16:24:39 HOST:zaq31fa4955.zaq.ne.jp
これ以上クソスレ立てたら
削除するよ

貴方達は無駄なスレを立て過ぎです
控えなさい

70たっくん:2013/07/06(土) 16:25:11 HOST:zaq31fa4955.zaq.ne.jp
私はピーチさんに
VHSを売りつける

71紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/07/13(土) 01:10:21 HOST:wb79proxy07.ezweb.ne.jp
 住宅街を抜け、繁華街に入る少し前、突然ひよりの通行を妨げるように見知らぬ学生たちが立ちはだかった。思わず立ち止まってイヤホンを外す。学生たちは全員男で、あからさまにガラの悪そうな者たちばかりだった。普通に歩いていたひよりには、彼らに通行を塞がられる理由はない。しかし、彼らは間違いなくひよりに用件があるようだった。下品な笑顔を浮かべて男子学生たちはゆっくりと近づいてくる。
 無意識に後ろへ後退しながら、ひよりはなぜ自分が彼らに絡まれているのかと必死に考えた。普段ならばなんとか切り抜けられたかもしれないが、今は助けてくれる久追や山本はいない。捕まれば、何をされるか想像したくもなかった。

「なにか……ご用ですか?」

 声が震えないように注意をはらいながら、ひよりは尋ねる。すると、一人の男が不敵に笑みを深くした。

「なに、少しばかり久追を呼び出す餌になってもらいたいだけだよ」





 一方、用事があるとひよりと別行動をしていた久追は、野暮用を済ませて建物から外へと出ると、建物の敷地から少し離れた道沿いに山本の姿を確認した。山本は今まで久追の用事が終わるまで、そこで待っていたようだ。久追はカバンを持ち直して山本のもとまで足を進める。

「おかえり。どうだった?」

 やってきた久追に山本が声をかける。

「順調に進んでいるそうだ」

 久追の返答に山本が、少し怒ったように眉をつり上げた。

「笑って言うなよ」
「ついでにいつもと同じことを言われた」
「……当たり前だよ。本当なら俺だって同じ気持ちだ。なのにお前は……」

 納得いかないといった風情で山本が呟くと、久追は苦笑まじりに短く謝罪した。

「久追、本当に後悔しないのか?ひよりちゃん、どうするんだよ。お前、前よりひよりちゃん好きだろ」
「……いいんだよ」

 山本の発言を肯定も否定もしなかったが、妙な間が逆に久追の気持ちを表していた。山本はずっとひよりと久追を見てきたから分かる。久追がどれだけひよりを大切にしようとしているか。最初はゲーム感覚だったはずの久追の目が、いつの間にか優しく柔らかくなっていることに山本は最近気づいた。ひよりに対しての感情が、恋愛なのか親愛かはまだ定かではないが、けれど、それでも恋人ごっこを始めた頃に比べれば二人は目に見えて互いに変わっていた。

72紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/07/13(土) 01:12:40 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp
 この世の中、なにがあるかなんて誰にも分からない。ずっとあるものが、当たり前のようにずっとあるとは限らないのだ。こうしている間にだって、事態は悪い状況に進んでいることを山本は知っている。動けばそこから少しでも事態は変わるはずなのに、久追は変化を望まなかった。久追の選択は、山本にとっては諦めているように思えてならない。
 この世の中、捨てたものではない。今まで他人に迷惑しかかけてこなかった久追にだって、ひよりという名の一人の命を救うことができたではないか。

「まだ諦めるには早いよ……久追」
「あ?なんか言ったか?」
「いや、なんでもないよ」

 小さく呟いた山本の言葉を聞き取れなかった久追が確認すると、誤魔化すように彼は控えめに笑みを浮かべた。

 叶うなら、最悪の状況でひよりが久追のことを知らされることがないように……。

 この小さな願いが、叶うことがないことを山本は嫌というほど思い知らされることになる。



 他愛のない会話を続けながら並木道を二人並んで歩いていると、一度も面識のない他校の男子学生が現れた。育ちの悪そうな風貌の彼は、まっすぐに久追のもとへとやってくる。喧嘩を売るには一人だけという不自然な雰囲気に、久追も山本も不穏な空気を察する。

「あんたが久追政継?」

 名乗りもせずに男子学生はニヤニヤと笑いながら尋ねてきた。一度確認するように山本と互いを見合ってから、久追は小さくうなずいた。この場で喧嘩を吹っ掛けるような輩ならば、大した力量もない馬鹿だろう。それほど久追は有名だった。

「ほら、あんた宛に手紙を預かってきた」

 男子学生は二人の警戒を気にも止めずに懐から白い封筒を取り出して差し出した。警戒を緩めることなく久追は差し出された手紙を受け取る。すると男子学生は「たしかに渡したからな」と一言確認してから、なにもせず踵を返して立ち去った。どうやら本当に手紙を渡すだけの用だったらしい。男子学生が見えなくなってから久追は手紙の封を慎重に開けた。中に入っていたのは規則正しい文字が綴られた紙一枚。ただし、その内容は喜ばしいものではなかった。

 簡単に言えば、ひよりを預かったから一人で指定された場所に来いという脅迫文だ。わざわざ手渡し役まで使ったのだから、ひよりが人質になっているのは本当のことだろう。久追は全文を黙読してから忌々しげに手紙を握りつぶした。

73紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/07/15(月) 09:05:17 HOST:wb79proxy01.ezweb.ne.jp
 抵抗しても無駄だと悟ったひよりは大人しくガラの悪い男たちについてきた。男たちのリーダーらしい男は、一応紳士的でひより対して丁重に扱っている。扱っているが、やっていることは脅迫なので、あまり好ましいとは思えなかった。

 ひよりは後ろ手に縛られて薄暗い倉庫にある椅子に座っている。男たちはひよりに興味がないのか、人質らしい格好だけさせて放置である。ひよりとしては、初対面の異性に絡まれることがないだけでずいぶん助かるのだが、人質扱いされていないのもなんか癪だった。

 こうして捕まったのは、ひよりが最近久追の傍にいたからだろう。彼らはひよりを久追の女だと勘違いしたのかもしれない。たしかに恋人だが、それは形だけで実際は違う。一年間の契約のもとの恋人関係だ。それを明かしたところで信じてくれるとは思えなかった。だって、彼らは久追しか目に入っていないのだから。
 久追と付き合ってから、彼が他校の生徒にも影響を与えているのは、これまでにいろいろな不良たちに喧嘩を吹っ掛けられているのを目撃していて知っている。だから、最近のひよりは多少の不良でも動じない肝の据わった女になりつつあった。久追と出会った頃のひよりであれば、恐怖と不安に押し潰されていたかもしれない。

 これも久追くんの影響なんだなぁ。

 倉庫の天井を見上げてひよりは心の中で呟く。日に日に精神が強くなっているのを実感してきた。たぶん今ならばイジメも怖くない。集団でなければ一人を傷つけることもできない弱い人たちなのだ。そう思えるようになったのも久追のおかげだ。彼は確かにひよりを強くしてくれた。まぁ、不良の久追と居れば嫌でも肝が据わるだろう。問題は、久追の煩わせる存在になっている事実だ。久追にとってひよりにメリットはないだろう。むしろデメリットしか思い当たらない。

 ここまで考えてひよりは自己嫌悪に陥った。なんだか自分が役にたたない迷惑な存在に思えてきた。ひよりは小さくため息をもらす。久追ならひよりが捕まったと知れば助けに来るだろう。そういう男だとひよりは思っている。

 久追くんは優しいから……。

 口は悪いし、態度だってあまり良いとは言えないが、けれど彼は厳しさのある優しい人だ。きっと来るだろう。それは確信でもあった。ひよりはガンッと鉄扉が音を立てられるのを耳にして視線を倉庫の出入口へと移した。

74たっくん:2013/07/16(火) 15:14:06 HOST:zaq31fa5a6f.zaq.ne.jp
          【久々の連休】

たまの休日いいもんですね〜
最近忙しくて休む暇がなかったんですよ。

休息の日々は2度と訪れないであろう・・なんて諦めていた今日この頃
3日も休みとれました。

ピーチは暇でいいね〜
私もたまには貴方を見習って暇になろうかな〜

75たっくん:2013/07/16(火) 15:15:10 HOST:zaq31fa5a6f.zaq.ne.jp
ピーチさん
暇人になる方法、伝授して下さいよ。

76だーぱん:2013/07/24(水) 20:27:06 HOST:pw126253069080.6.panda-world.ne.jp
応援してます!がんばってください!

77上総 ◆Dg4hSzxcdc:2013/07/28(日) 11:16:31 HOST:zaqb4dc944b.zaq.ne.jp





>>紘ちゃん


きゃあああああああああああああああ((黙
全く来れずごめんなさい。夏休みは部活オンリーで全然来れませんでした。申し訳ございません…!

>>68
混乱とかしないよー!逆に、色んな視点で描かれてるからこそどんどんこの作品の中のまだ分からないことや、キャラの考えてること。
心情風景が情景によって、読んでる側としては凄く興味津々な気持ちになります。
初めのプロローグからずっと気になってるもん!展開が進むにつれ、世界観が広がって行くね^^*

山本先輩、やっぱり近くに居るからこそ久追くんのこと分かってるんだね。良き理解者ってことだ!

ひよりちゃんにとっても久追くんが、自分にとって大きい存在になってることが伝わってくるね。

続き楽しみに待ってますー!キリッ

78紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/07/28(日) 11:36:41 HOST:wb79proxy06.ezweb.ne.jp
 倉庫のシャッターがゆっくりと上げられていく。逆光でシルエットになっているが、久追であることだけはひよりには分かった。シャッターが完全に開放されると、倉庫内に足を踏み入れた久追の顔が照らされたライトによって見える。

「来たな、久追」

 久追の姿を確認したリーダー格の男が、笑みを湛えて口を開く。久追はそれを無視して、椅子に縛られているひよりを一瞥した。その表情は、まるで能面のように感情を感じ取れない。そんな久追の後ろから、飄々とした表情の山本が顔を出す。山本の姿に男は眉を寄せた。

「一人でと書いていたはずだが?」
「人質をとっている人の言うことを聞いて俺たちになんのメリットがあるの?」

 男の問いに、逆に山本が聞き返す。山本は倉庫内にいる他校の生徒たちの人数を確認するように見回すと、満面の笑みを浮かべた。

「ほら、たった一人に対して十人でやろうとしてたじゃないか。いけないなぁ、これじゃあイジメと代わらないね」

 人数的には、相手のほうに分があるのは明らかなのに、山本だけでなく久追もたいして焦る素振りを見せない。山本はひよりへ視線を向けると、ひらひらと手を振った。

「ひよりちゃん、そこでじっとしててね。お兄さんが助けに行くから」

 何も言葉を発さない久追に代わり、山本が明るく振る舞うため、まったく緊張感が張り詰めない。だからだろうか、不安などひよりにはなかった。

「予定と狂ったが、二人で何ができる。やってしまえ!」

 リーダー格の男の合図に、残りの九人が一斉に久追たちに向かって襲いかかる。それを見た久追が一歩下がり、山本が前へ出た。

「残念。二人じゃなくて俺一人だよ」

 終始笑顔のまま山本は、そう答えて軽く構えの体勢を作る。そして一人目の右ストレートを左腕で払い、すぐさま相手の懐に入ると拳を作り上げ、そのまま相手の腹部に目掛けて叩き込んだ。思ったよりも重い攻撃に、受けた男はうめき声を上げて膝をつく。続けて二人目と三人目が同時に襲いかかった。それをしゃがんで避けると、そのまま二人を足払いで倒してから、一人目と同じように、今度は上から二人の腹部目掛けて拳を叩きつけた。そうやって立ち上がる山本に残りの六人が牽制するように間合いを開けた。思っていたよりも山本が手強いと判断したのだろう。

79紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/07/28(日) 11:39:47 HOST:wb79proxy03.ezweb.ne.jp
「センパイ!」

 ひよりは六人の中に刃物を手にしている男がいることに気づいて、思わず山本に声をかけた。ひよりの声を合図にするように、その一人が隠し持っていたナイフをちらつかせて襲いかかる。刃物の扱いに慣れていないのか、ナイフを振り回す男の攻撃を、山本はギリギリまでナイフの軌道を確認してから避けていく。
 ナイフの存在が厄介で、山本は反撃をする余裕がない。どうにかしてナイフを奪わないと、分が悪いかもしれない。山本は咄嗟の判断で突きつけられたナイフを左に避けてから、伸びているナイフを持つ右腕を掴んで捻り上げた。男は痛みでナイフを落とし、すかさず山本はそのナイフを久追がいる方へと蹴り上げると、そのまま男の背中に回り込み、右足でその背中を蹴りつけた。バランスを崩した男は前にいる二人を巻き込んで倒れ込んだ。

 同時にナイフを拾い上げた久追は、無意識に笑みを浮かべる。そして少しあたりをキョロキョロと見回してから、検討違いの場所へと移動していった。その間も、山本が一人で他校の生徒たちの相手をこなしているのを見て、リーダー格の男はさすがにまずいと思ったのか、ひよりから離れて山本の方へと向かう。誰もが山本に集中し、どこかへ消えた久追の行方を追うことをしなかった。それが勝敗を決めることになるとも知らずに。

 動けなかった何人かも時間が経つにつれて回復し立ち上がっていき、山本もさすがに息が上がり始めていた頃、突如バチンと聞き慣れない音が響くと同時に、倉庫内の照明の光がすべて消え去った。途端、動揺が走る。予想していなかった展開に男たちは、恐慌に陥り始めている。

 何も見えないなか、縛られて身動きができないひよりは、背後に気配を感じ息を飲んだ。

「じっとしてろ」

 耳に響いたのは、どこかへ行ったはずの久追の声だった。なぜ彼が真っ暗な中、ひよりの元にまでたどり着けたのか分からないが、ついさっき手に入れたナイフで、縛っている紐を切った。解放された腕を撫でながら、ひよりは立ち上がる。ほんの少しだけ暗闇に目が慣れてきた。照明の明かりはまだ点かない中、久追はまるでひよりが見えているのではないかと疑うほど、正確にひよりの手を取った。

「今のうちに出るぞ」

 耳元で囁かれた声に、ひよりはゾクリと鳥肌がたつ。恥ずかしいのか照れ臭いのかよく分からない感情がひよりを襲った。

80紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/07/28(日) 11:46:46 HOST:wb79proxy02.ezweb.ne.jp
>>だーぱんさん

ありがとうございます。
その言葉だけで、力が湧きます!!


>>上総ちゃん
大丈夫ですよ〜。
リア優先ですから!!
ありがとうございます
俺の拙い文章力でも喜んでもらえるなら嬉しいです。

恋愛ものって初めて書くから、無理矢理なところとかないか不安になりながら書いてます。

一応、何話か執筆溜めしてるので、徐々にうpしますね〜

81紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/01(木) 21:08:20 HOST:wb79proxy02.ezweb.ne.jp
 久追はしっかりとひよりの手を取ったまま、迷うことなく倉庫の出入り口へと向かった。閉じられたシャッターの横にある扉を開けると、外の光が一気に倉庫内に広がる。そこでようやく男子生徒たちは人質を奪われて逃げられることに気付き、慌てて二人のほうへと走り出したが、すでに遅く、久追と共にひよりが倉庫の外へと出ていくのと同時に、暗闇の中、予め出入り口付近にいた山本も外へと走り出した。後ろを振り向けば追いかけてくる姿が目に入る。
 三人は会話もない中、ひたすらに脇道を利用して走り続けた。どれほど走っただろうか、後ろを見ても追いかけてくる様子はなかった。

「なんとか逃げ切れたね」

 山本が呼吸を整えながら口にする。他の二人も呼吸を整えるのに精一杯で言葉を発せない。立っていられないのか、その場に座り込んだ久追は、壁に体を預けるようにして呼吸を整えていた。その様子に気づいた山本が近づき、久追の顔色を窺う。

「大丈夫か?」
「……ああ」

 そう口にしてはいるが、あまり顔色は良いとは思えない。

「少しでも俺が負担を軽減できればと思……」

 思ったと告げようとした山本と、ひよりの前で久追は突如激しく咳き込み、最後は吐血してそのまま壁伝いに倒れた。

「久追!?」
「久追くん!?」

 山本がすぐに駆け寄り、意識のない久追を揺り動かすが、反応はなかった。切羽詰まった様子の山本は、携帯電話を取り出すと、迷わず救急に連絡する。ひよりは何が起きたのか頭の整理が追いつかず、不安げに見下ろすだけだった。

「やっぱり限界だったんだ……」

 山本が後悔するように呟く。

「センパイ……久追くん、どうしたんですか……?」
「……」

 ひよりと問いかけに、山本はどう答えるべきなのか迷った。久追本人から口止めをされていたことを、今この場で告げても良いのだろうか。

「答えてください。なにも分からないままは嫌です!」

 そうだ、なにも知らないひよりにとっては、久追に起きた何かを理解できるはずがない。なにも知らなくても、今の久追を見れば、彼がなにかの病気なのか火を見るよりも明(あき)らかではないか。

 山本は覚悟を決めたように顔を上げ、まっすぐにひよりを見た。

「ひよりちゃん、ショックを受けないで欲しいんだけど……、実は……」

82紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/01(木) 21:13:40 HOST:wb79proxy10.ezweb.ne.jp
 病院に着くなり、救急処置室へと搬送される久追の口元は自身の血で赤く染まっていた。

 救急車が来てからも山本の説明は続いていて、二人して付き添いで乗り込んだ。山本の説明が終わったのは病院に着く直前。処置室の前にあるソファーに座り、久追が出てくるまで異様に長い沈黙が続いた。山本は久追の母親に連絡するため、席を立ち、ひよりは個室のベッドで眠る久追に付く。

 いくつも管に繋がれた久追は見ていて痛々しい。医師からは、命に別状はないので数日で意識が戻ると説明を受けた。規則正しい呼吸をしていても、ひよりの不安は払拭しない。山本からの説明が頭から離れないのだ。久追が頑なに隠していたのは、まさにこの現実なのだろうと理解した。

 やがて山本からの連絡を受けた母親が駆けつけ、我が子の姿を見るなり泣き崩れた。その震える小さな肩を山本が支えて、立ち上がらせると、近くの椅子に座らせる。

 重い沈黙が降り注ぐ。誰もが言葉を発しようとは思わなかった。





 久追の目が覚めないまますでに4日は経過している。彼が目覚める様子はない。あれから毎日のように放課後に見舞いに行くが、言い知れぬ不安だけはまとわりついて離れない。いつも明るく空気を和ましてくれる山本も、さすがに笑顔を忘れたように無表情だ。

 規則正しい久追の呼吸と心電図の電子音だけがやたらと響く病室内は重たく冷たい。ひよりは無意識に久追の右手を取り、両手で包むように握る。久追の動いていない手は、指先まで冷えきっていた。

「少し、外に出てくるね」

 ふいに山本が告げる。ひよりはまっすぐに久追を見つめたまま動かない。それを確認してから山本は静かに病室を出ていった。

 いつの間に山本が開けたのか、窓から暖かくなった風が病室の中へ入り込んだ。もう7月だ。あと数日もすれば夏休みに突入する。梅雨もつい二日前に明けたところで、もう夏を感じさせるには十分な熱気がある。夏休みになったら、三人で一緒に海や山に行こうと盛り上がっていたのに、行けそうな雰囲気ではない。

 このまま久追が目を覚まさなかったらどうしようかといらぬ心配と不安ばかりが募る。 もうあの口の悪い声や笑顔は見れないのではないかと、余計なことを考えてしまう。ひよりは瞼をぎゅっと閉じて祈るように久追の手を握った両手を額に当てた。

83紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/01(木) 21:24:00 HOST:wb79proxy07.ezweb.ne.jp
「……っ!」

 ひよりの手の中でピクリと微かに動く感覚がして、慌てて久追を見る。閉じられていた瞼が、ゆっくりとその隠していた瞳を映し出す。

「久追くん!」

 思わず名を呼んだひよりの声に導かれるように、久追の視線がゆっくりと移動する。意識が覚醒したばかりで、ぼぅっとした久追はひよりの涙に濡れた姿を見て、力なく笑みを作り上げた。そうして解放された手をゆっくりとひよりの目元にやると、指で涙を優しく拭う。

「なに、泣いてんだよ……馬鹿……」

 久追の唇から零れた声は掠れ、どこか弱々しい。目元から離れる久追の指先が、思っていた以上に細くひよりの胸を締め付ける。現実が押し寄せてくる。どうしようもない想いが溢れそうになって、ひよりはぐっと目を閉じてそれを抑え込んだ。

 自覚した。自覚してしまった。

「……ひより?」

 止めどなく涙が溢れる。気遣わしげな久追の声が、こんなにも胸を締めつける。もうどうにもならないのに。わかっているのに。ひよりは声を殺して泣くしか方法が分からなかった。

 カチャリと音を当てて病室のドアが開き、入ってきたのは外の風に当たってきた山本の姿だった。意識を取り戻したのに気づいた山本の目が見開かれる。手に持っていたコンビニのビニール袋を落とした音で、久追はゆっくりと山本の姿を認めた。久追が声を発するよりも早く、山本の瞳からいくつもの涙が溢れる。

「山本まで……なに泣いてんだよ。……バーカ」

 力なく肩を震わせて笑う久追。あれだけ頼り甲斐のある久追の態度が、こんなにも弱く儚いものだと思わなかった。

 やがて山本は涙を拭い、気恥ずかしそうに笑うとナースコールを押して、応答した看護師に久追の意識が戻ったことを報告した。まだ話したいことはたくさんあるが、これからやってきた医師たちの状態確認などが始まることもあり、医師が来るのと同時に病室を後にした。目を覚ましたばかりの久追に長時間の会話は酷だろうという判断でもあった。

 今は久追の意識が回復したことを素直に喜ぶべきだろう。二人はなんとも言いがたい気持ちを抱きつつそのまま病院を後にした。

84紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/05(月) 11:49:28 HOST:wb79proxy02.ezweb.ne.jp
 久追の意識が回復して二日目。いつもなら共に見舞いに行く山本が、担任からの呼び出しで行けそうにないとメールをしてきた。仕方がないので、ひよりは日課になりつつある見舞いに一人で向かうことにした。

 病室の近くまで行くと、なにやら言い争いのような声が聞こえてきて、ひよりは何事かと駆け寄りゆっくりと音を立てないようにドアを少し開けた。ぐぐもって聞こえていた声が鮮明になる。

「いい加減にしなさい!」

 久追の母親の声が耳に刺さった。

「なんでそこまで強情なの、あんたは!」
「うるせぇ、俺のことを俺が決めてなにが悪い」
「だからお母さんは治療を受けろって言っているの。それ以外はなにも文句なんて言わないわよ!」

 親子喧嘩。しかし、内容が……。

「治療なんかしても結果が変わらねぇなら、やるだけ無駄だろ!俺に金使うよりほかのことに使いやがれ!」
「子供が親に指図するんじゃないの!」

 ひよりは静かにドアを閉めて、少し病室から離れた場所にある休憩室に移動した。久追とその母親の口論の内容からして、今後の治療の件なのだろうと察しはついた。しかし、当の本人は治療を拒否。それが母親には理解できなかったのだろうか、治療してほしい思いが伝わってきた。それはそうだ、我が子を、簡単に見捨てるような真似など母親にできるわけがない。生きてほしいから治療を勧めるのに、肝心の本人がそれを良しとはしないから治療に踏みきれないのだ。

 久追もまた、治療しても回復する見込みがないことを知っているからこそ、治療費を別のところで使ってほしいと願っている。互いが互いを思いやっているのに、なぜあんなふうに口論するような形になってしまうのか。
 生きてほしいと願う親と、苦労をしてほしくない子供。思いは切ないぐらいにすれ違う。

 山本から久追の症状を耳にしていなければ気づかなかった。久追は強くて、時に厳しい優しさを持っていて、どんなに心強かったか計り知れない。そんな久追が抱えていたものは、ひよりが想像していたよりも重かった。久追のことなのに、久追の気持ちを思うと堪らなく涙が溢れる。久追の抱えているものを少しでも分かち合えたなら、暗くて重いものを軽くできるのに。その術をひよりは見出だせずにいた。

85紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/05(月) 11:56:42 HOST:wb79proxy06.ezweb.ne.jp
 少し離れた場所で、ドアの開閉する音がしてひよりは顔をあげた。ちょうど視界に久追の母親が廊下を歩いていく後ろ姿が映る。自然と立ち上がり、ひよりは病室のドアの前に立つ。きっと今の久追は気が立っている。迂闊なことを言えば、追い出されるかもしれない。けれど、それでもいいとひよりは一人頷いてドアを開けた。

「……ひよりか。毎日飽きないやつだな」

 ひよりの姿を認めた久追が苦笑して迎え入れる。ぶっきらぼうに返されると思っていたひよりは拍子抜けした。ベッドサイドにある椅子に腰かけて、久追の顔色を窺う。

「顔色が良さそうでよかった。昨日まで意識がなかった人には見えないわ」
「俺はタフだからな」

 ひよりの言葉に久追が自慢気に鼻を鳴らす。そして山本の不在に気づいたのか、山本は?と首をかしげた。

「担任に呼ばれたんだって。今日は来られないって言ってた」
「なるほど、そろそろ呼び出し来るだろうとは思ってた」
「え?」

 まるで山本の事情を知るかのように久追は小さく息をついて一人で納得する。その理由をひよりには分からなかった。

「知らなかったのか?あいつ進路の用紙を白紙で出しやがったんだよ」
「嘘っ……。だってセンパイ就職決まってるって……」
「アホか。まだ二学期にもなってないのに決まるわけないだろ」

 久追に言われて、たしかにとひよりも納得する。あの時、受験生の山本に迷惑がかかると思っていたひよりは、問われても答えなかった。だからだろうか、山本は咄嗟に嘘をついたのかもしれない。

「まぁ、あいつの成績なら適当な大学でも受かるだろうけどな。内申書は知らんが」

 今では成りを潜めているが、一応これでも不良の久追とつるんでいたのが、山本にいい影響を与えていたとは思えない。

「どうして嘘なんか……」
「ひよりを気に入ってるからだろ。俺と平然と一緒にいる女は今までいなかったし、なにかと肝が据わってる」
「それって誉めてるの?貶してるの?」
「誉めてんだよ。素直に喜べ」
「……嬉しくないなぁ」

 何気ない会話が続く。久追が重い病気を抱えているなんて嘘のように、心地のよい空気が漂っていた。けれど、昨日よりはマシではあるが、それでも点滴を見ると現実が押し寄せる。

 久追の母親の治療してほしい思いが痛いほどわかった。

86紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/05(月) 12:13:58 HOST:wb79proxy04.ezweb.ne.jp
「ねぇ、久追くん」

 意を決したようにひよりはまっすぐに久追を見た。目を丸くする久追に、真剣な眼差しで口を開く。

「治療、受けようよ」

 ひよりの言葉に久追の目が剣呑になる。

「お前も言うのかよ。やるだけ無駄だって山本から聞いてるだろ」
「聞いてるよ。でも、それでも私は久追に治療を受けてほしいの」

 嫌われたっていい。無駄なことだって分かってる。だけど、それでも……。

 ひよりの瞳から涙が溢れる。それを見て久追が驚いたように目を見開いた。

「生きてほしいよ。久追くん……生きてよ……」
「……無茶言うなよ。なにをしたって結果は変わらないんだ。俺を困らせてぇのかよ、お前は」

 バツの悪そうに目を逸らして久追は言う。そんな久追の手を取りひよりは眉をつり上げた。手を掴まれて反射的にひよりを見る久追。

「なんで逃げるの!?」
「……逃げてねぇ」
「逃げてるよ!現実から目を逸らして、立ち向かおうとしてない!久追くん私に言ったじゃない、過去を受け止めて前に進めって!」

 ひよりが久追に対して声をあらげるのは、初めて出会った日以来だ。それだけひよりが真剣な証拠だった。しかし、久追も譲れないのか反論する。

「ひよりと俺は違うだろっ」
「違わない!逃げてることは何一つ違わないんだよ!死を受け入れてるフリして、闘おうしてないじゃないっ!」

 ひよりのさらなる追及に久追は息を飲む。ひよりの瞳からはまだ涙が溢れていた。それだけひよりが必死になっている。

「物分かりの良いフリして、治療拒否なんて子供と同じよ!」
「お前に分かるかよ!俺の気持ちなんかっ」
「分かんないわよ!私は久追くんじゃないもん!」

 二人のやりとりが、出会った時に重なる。身を投げようとしたひよりと、それを止めようとした久追のやりとりが重なる。立場が変わってしまった。生きることを諦めてしまっている久追と生きてほしいと願うひより。思いが交差する。

「死ぬって怖いよ。そんなの私だって分かってる。久追くんに助けてもらって初めて死ぬことが怖くなったの。だから今の久追がどんなに死に恐怖してるのか分かる。きっと私が思っている以上に怖いはずなんだ」
「……」

 久追の反論が止む。ひよりはゆっくりと本当に伝えたい思いを、伝わるように心掛けた。

87紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/05(月) 12:20:27 HOST:wb79proxy04.ezweb.ne.jp
「ねぇ、久追くん。もう格好つけるの、止めよう?」
「……」
「怖いなら怖いって言っていいんだよ。弱音吐いていいんだよ。生きたいって我が儘言っていいんだよ!じゃなきゃ、久追くんだけが苦しいだけじゃないっ」

 カタカタと久追の体が震える。

「生きてよ。最後まで足掻いてみせてよっ!……私にも、その苦しさを分けて、よ……っ」

 不意に久追が俯く。肩を震わせて、小さく本当に小さな声で吐露した。

「死にたくない……っ。生きて……いたい……っ」

 ポタリと久追の顔から雫が落ちた。

「死ぬのが怖いんだ。怖くて堪らない……っ」
「当たり前だよっ」

 ひよりは思わず久追を抱き締めた。驚愕に揺れる久追の瞳は涙で濡れている。ぎゅうっと強く抱き締めてひよりは涙を流しながら、さらに続ける。

「怖くない人なんかいない!いないんだよっ」

 久追はボロボロと溢れんばかりに涙を溢し、声を殺すようにして泣いた。すがりつくように、ひよりの背中に手を回して。ひよりもまたそれに応えるようにさらに腕の力を入れて抱き締めた。




 十数分ほどして落ち着いた久追が体を離して、ひよりの肩に手を置いた体勢で、まっすぐに見つめる。その表情は真剣なもので、逸らすことを許さないなにかがあった。

「……久追くん?」

 不思議そうに首を傾げるひよりに、久追は一度頭の中を整理するかのように目を閉じてから、すぐに開いた。

「俺の事情はわかったはずだ。このまま契約を続ける必要はない。破棄をしよう」
「な、なに言ってんの……?」

 久追の口から紡がれた言葉に、何を言われたのか理解できず、ひよりは動揺する。

「ひよりはこの数ヶ月で十分強くなった。俺がいなくても大丈夫だろ。むしろ俺の存在が重荷になる。ひよりに契約を続けるメリットとはねぇだろ」

 たしかにひよりは強くなった。他校の不良たちに捕まったときも、冷静に判断し最小限の行動しかしていない。これならばクラスメイトのイジメが復活したところで、適切な対処ができるかもしれない。

 しかし、ひよりは久追と離れることなど考えていなかった。契約というものが、久追との繋がりだと信じて疑わない。だから契約破棄は久追の傍にいられないと感じた。

「や、やだ。絶対やだ!」
「なんでだよ。俺は近い将来死ぬんだぞ」

 久追の中で整理がついているのかもしれない。それは生という諦めではなく、死を受け止めた上での発言だった。

88紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/05(月) 12:24:00 HOST:wb79proxy12.ezweb.ne.jp
「それでも私は久追くんと一緒にいたい!一緒に闘いたいよっ」
「馬鹿だな。俺は札付きの悪だぞ。一緒にいるメリットなんかあるかよ」
「私は……っ」

 なおも説得しようとする久追の気持ちが分からなくて、ひよりは子供のように首を左右に振って抵抗する。

 きっと伝わらない。言ったところで無駄なのも理解している。それでもひよりはついて出た言葉を止めることができなかった。

「好きなの……っ。久追くんが好きなの……っ。お願い、傍にいさせて……」
「……」

 突然の告白に久追は微かに目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻してひよりの頭を撫でた。

「本当に馬鹿だろお前。俺は死ぬんだぜ?彼氏なんかにしたら絶対辛いのはひよりだろうが」
「それでも……っ。それでも良いの!最後まで久追くんの傍にいたいの。隣にいたいの」

 我が儘を言って、久追を困らせているのは百も承知だ。想いを受け止めてもらえないのだって分かっている。ひよりが勝手に久追に恋をしただけで、彼に非はない。久追がひよりのことを異性として意識していないのだって理解している。前に山本が久追もひよりを可愛く思っていると口にしていたが、久追も留年しているだけで年は山本と同じ。ひよりを妹のように感じていただろう。だから、伝えるだけでそれ以上は求めない。

「妹でもいい、傍にいたいの。それだけでいいの……」

 久追の顔を直視できなくなってひよりは俯く。久追の反応が怖い。どんな答えだって笑顔で受け入れる覚悟をしているつもりだった。覚悟をしていても、やはり胸が痛む。

「……参ったな……」

 ふいに聞こえてきたため息混じりの声に、ひよりはビクッとした。やはり受け入れてはもらえない想いだったのだ。だったら、いっそのこと振ってほしい。

 久追が動いたのをひよりは俯きながら確認した。その瞬間、自分の体に熱を感じる。気づいた時には、ひよりは久追の腕の中にいた。何が起きたのかひよりには分からなかった。そんなひよりの頭上から声が降ってくる。

「自制してたのに、この馬鹿……」

 その声は温かく、とても優しかった。思わず瞳から涙が溢れる。

「俺に時間は限られてる。だから俺の我が儘でお前を縛りつけるのはダメだと抑えていたのに……。覚悟しろよ……絶対に離してやらねぇからな……」
「うん……っ、うん……っ」

89紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/05(月) 12:38:50 HOST:wb79proxy06.ezweb.ne.jp
【久追side】

 意識か戻って数時間、一通りの診察が終わった後、病室に一人残った久追は、開け放たれた窓の外を眺めていた。彼の脳裏には目を覚ましたときのひよりの涙に濡れた姿が浮かんでいる。

 悲しませる。傷つける。そんなことは山本に言われなくても最初から分かっていた。結末を容易に想像できるぐらいには……。

 出会った時、ひよりは身を投げようとしていた。原因はクラスメイトによる集団いじめだ。生きることに意味を見出だせず、死を選択した彼女を久追は一瞬妬ましいとさえ思った。生きようと思えば、いくらでも生きられるはずのひよりが、久追にとっては些細な出来事で死を選択したのがどうしても許せなかった。

 死を選ぶなら、その命を俺にくれよ……!

 病気を知らずにいた頃は、死ぬことなんかたいしたことはないと思っていた。そう、実感なんてこれっぽちもなかったのだ、自分が死ぬという現実を。

 きっかけは去年の他校の生徒たちとの乱闘。そのせいで手足を骨折し、内臓にもダメージを受けていた。そこで検査をしたら、骨折よりも重大な欠陥が発見された。血液の数値が異常を示し、かなり進行していると告げる医師の表情は厳しいものだった。そんな医師の口から出たのは余命宣告。治療をしても一年だと耳にしたとき、全然実感が湧かなかった。けれど、いつもできていたことができなくなっていくのを目の当たりにして、嫌でも実感を味わうことになったのだ。


 何をしても死ぬことに変わりはないのなら……。

 何度も自分自身の運命を呪っては、気を遣う母にやつあたりを散々繰り返してから、久追はようやく自分がどうしたいのかを考えた。

 その決断は母や山本を悲しませるもので。母にどんなに説得されても思いを変えることはしなかった。

『どうせ死ぬなら、何もしないで自由に残された時間を生きたい』

 治療拒否。これが久追の下した決断だった。医師はそれを飲む代わりに、定期的に通院することを条件に出し、久追はそれを受け入れた。日が過ぎていくにつれて、体の自由が少しずつ利かなくなっていく。通院する度に、告げられる進行状況。

90紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/05(月) 12:39:41 HOST:wb79proxy04.ezweb.ne.jp
 そんな折りに出会ったのがひよりだ。いじめに苦しんでいた彼女は死を選び、そこへ偶然余命宣告をされた久追がやってくる。なんと皮肉な出会いだろうと思った。助ける気は本当になくて、ただ簡単に自分の命を蔑ろにできるひよりが妬ましくて、羨ましくて、だから生に執着してほしいと思った。

 俺は死ぬのに、こいつはまだまだこれから先、生きていけるのに。

 簡単に捨てようとしないてほしい。限られた最も大切なものを、大事にしてほしい。そんな衝動が久追のなかに生まれた。結果、ひよりを生かし助けることに繋がった。生きる意味を見出だせないでいる彼女に、久追は提案する。

 自分に許されたギリギリの時間を、ひよりに生きるための強さを学ばせるために使う。それが一年間の契約だった。その内容はなんでもよくて、思いついたのが『恋人のフリをすること』だっただけで、他意は本当になかったのだ。

 それなのに……。

 この数ヶ月を共に過ごすようになって、ひよりの知らない一面をいくつも見てきて、思うようになる。

『まだ、死にたくない……』

 生に執着することを諦めたのに、死を受け入れたはずなのに。死ぬことが怖くなっていく。まだ、ひよりや山本たちと楽しくつるんでいたい。ようやく充実した毎日を手に入れたのに、病は久追を待ってはくれない。

 久追は無意識に手に力を込めていた。治療をすれば一年は生きられる。だが治療を拒んでいる今では、一年体がもつか分からない。もしかしたら一年経つ前に、耐えきれずに滅びてしまうかもしれない。分かっていたはずなのに、後悔ばかりが久追を襲う。

「馬鹿なのは、俺だよな……」

 呟いた久追の頬に一滴涙が零れた。

91ピーチ:2013/08/05(月) 17:19:24 HOST:em49-252-183-216.pool.e-mobile.ne.jp
紘暢さん>>

初めまして! 今まで更新されてたら勝手に読んでました!

ここにきて久追くんが病気っていうのが凄くショックです…←

これからも頑張ってください!

92紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/20(火) 11:25:37 HOST:wb79proxy12.ezweb.ne.jp

【???】

 日が落ちてしばらくすると空は明るさを失い、唯一出ている月と瞬く小さな星たちの光が降り注ぐ。ネオンが主張する繁華街の少し外れた場所。まだ未成年だと分かる面差しと身に付けている制服。時間帯を見れば彼らがここにいるのは相応しくない。それでも気にせず談笑している様は、彼らなりの世間に対する抵抗や反抗なのだろうか。

 そこに砂利を踏む小さな音が聞こえ、少年たちはそちらに視線を走らせた。視界に映ったのは一人の影。背格好は彼らとたいして変わらない。

「なんだ、おまえ」

 一人が現れた影に訝しげに声をかける。座っていた彼らが次々に立ち上がった。逆光で影の顔ははっきり見えない。

「捜したよ、こんな誰も通らなそうな場所を溜まり場にするなんて……好都合というかなんというか……」

 影は小さく笑いながらも、少年たちを小馬鹿にするような言い回して口にする。気の短そうな彼らにはその言葉だけでキレるには充分だった。

「ケンカ売ってんのかよ!」

 少年たちはたった一人に対して同時に襲いかかった。




 数分後。呻き声を上げて倒れ込んでいるのは、数で勝っていたはずの少年たちだった。人影は涼しい顔をしてポケットからケータイを取り出し、どこかへ連絡をし始める。

「……あぁ、俺だ。今ちょうど六人ばかり動けなくしたから、回収よろしく。場所は……」

 人影は今いる場所を報告した後、ケータイを仕舞うとまだ起き上がろうとする一人の背中に向けて足で踏みつけた。ギリギリと歯ぎしりする一人が見上げるのと同時に、偶然にも車のライトが辺りを明るくする。瞬間、見上げた彼は唖然とした。

「お……おまえは……!?」

 照らされた人影の顔を見て、一度目にしたことがある人物だと知った途端、今度は頭を足で踏みつけられた。

「大人しくしてなさい。まったく世話が焼けるね。今度からケンカを売る相手を選んだ方がいいよ。政峰会の身内に手を出したら、こういう運命を辿ることになるから、肝に命じておくように」

 その表情は面倒くさそうで、鬱陶しそうでもあった。たった一人で数人を簡単に倒した人影はゆっくりと微かに見える星が瞬く空を見上げて一人呟いた。

「今日も星が綺麗だ……」

93紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/20(火) 11:28:04 HOST:wb79proxy05.ezweb.ne.jp
>>91ピーチさん

初めまして、コメントありがとうございます。

はい、がんばって終われるようにします。

94紘暢 ◆UvqP0LHSm.:2013/08/22(木) 23:15:39 HOST:wb79proxy07.ezweb.ne.jp

【本編side】


「……なんだって?」

 翌日の病室で、久追から事情を説明された山本が怪訝そうに尋ねた。たった一日見舞いに行かなかった間に進んでしまった展開に少々ついていけない様子だ。授業のあった午前中には息子から同じことを耳にした母親は、未だに喜んでいいものか複雑な表情を浮かべている。

「だから、治療拒否はやめると言った」

「……い、いやいや。この間まで何を言っても頑なに拒否してたのに、どういう心境の変化よ」

 思わずツッコミを入れる山本。


「まぁ、その……なんだ。……怒られたから」

 歯切れの悪い言い方をする久追。その表情は明らかにこの間まで諦めきったようなものは一切なかった。あれだけ拒否を続けてきた久追の言い分が反転する出来事が、昨日に起きたのは充分に分かる。その原因を瞬時に山本は推測した。

「……なんか分かったよ、その心境の変化」

 山本の頭に浮かんだ人物は、今日はまだ姿を見せていない。まだ学校にいるはずである。昨日と違い、今回は彼女が教師に呼び出されたらしい。

「暁くん、この子の心境の変化に何か心当たりなるの?」

 母親が不思議そうに山本に尋ねた。

「まぁ、そうですね。……その説明は後でします」

 推測をそのまま口にしそうになったが、久追の無言の睨みにすぐさま対応を変える。理由が理由だ。息子としては母親に知られたくないのかもしれない。ただでさえ、そういったことに縁がなかったのだ、今さら打ち明けるのが恥ずかしいのかもしれない。母親としては、喜ぶべきなのか悲しむべきなのかは山本には分からないが。

「分かったわ。なにか事情があるのね」

 山本の言葉にそう判断したらしい母親は、どこか寂しそうな笑顔を浮かべて言った。そして夕飯の支度があると、残念そうに病室を後にする。残された二人の間に沈黙が降りた。



「……治療を始めるのは、動けなくなってからだ」
「え……?」

 沈黙を破ったのは久追だった。思ってもいない久追の発言に山本は思わず彼の顔を見た。久追は己の手を何度も開いたり閉じたりしながら話を続ける。

「治療事態はやるだけ無駄だということは今でも変わらない。だったら、動ける短い間だけでも自由に、好きなようにしたい」
「……」

 久追の言葉に山本は無言で返した。


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