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高崎家のオカシナ事情

1竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/02(土) 23:28:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
どうも、ここまで来て初めての方のほうが少ないと思われます、竜野翔太です。
今回は四作品目、といっても何かを削除依頼出してこれを書く、というわけでもなくて。三作品を信仰させつつの、四作品目です。
三作同時進行、というキツイ状況の中、四作品目を投稿するには勇気がいりました。
まあ、ぶっちゃけ一つがちょいと行き詰まり気味でして、続ける所存ではありますが、もしかしたr((
さて、今回の作品は僕としてもとても珍しいバトル無しの作品であります。
それでは、注意事項を少々。

・荒らしやチェンメ、アスキーアートなどはご遠慮ください。
・今回の話は前・中・後編という三部作になっています。それぞれの編で主人公が変わります。誰視点で描いているのか、推理しながらお楽しみください。
・また、日常系の話があまり好みではない方は観覧しない方をお勧めいたします。
・グロ表現などはないと思われますが、多少歪んだキャラが存在いたしますので、妙なことをほざく程度だと思われますが、苦手な方はバックです。
・コメント、アドバイスなど常時受け付けております。

それでは、次のレスから始まります!

2竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/02(土) 23:56:07 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
―始まり―

 東京都内の高層ビル群。
 この都会の中では決して珍しくもない、いたって普通といえるような風景のこの景色。
 街には溢れかえるほどの人が行き交い、テレビや雑誌の取材などで有名な料亭やブランドの服屋などが立ち並んでいる。
 そこに立つ一軒の四階建てのビル。
 名は「高崎(たかざき)マンション」。
 何処にでもあるような、至って普通のこのマンション。だが、人々の間ではこのマンションはどうやら普通ではないらしい。
 住んでる人の苗字が全部同じなのよ。家族で全室埋まってるらしいぞ。マジか、何人家族だよ。というのが街の人の噂の一端である。
 そう、このマンションはとてもオカシイ―――という自覚は住人達にはない。

 マンションの一階、食堂。
 そこに、黒髪の一人の少年が制服姿で入っていく。
「おっす、小湖乃(ここの)。今日も朝飯作ってんのか」
「おう、おはよう、俊介(しゅんすけ)兄。ちゃんと人数分の弁当も作っといたぜ」
 俊介、と呼ばれる少年の声に、男子制服に身を包んだ子湖乃という小柄な人物は返事をする。
 子湖乃の姿に俊介は言葉を失い、ずかずかとものすごい剣幕で近づいていく。
「子湖乃、お前馬鹿野郎! お前今日から中学三年生だぞ!? 中三になったら男装すんのはやめろって言ったろ!」
「これは男装じゃない! きっと僕は男として生まれたはずが、身体は女の子になってたんだよ!」
 どういう反論だ、と俊介は思う。
 高崎子湖乃(たかざき ここの)。中学三年生十四歳。高崎家七女でマンション二階の住人。正真正銘の女の子だが、本人曰く「心は男だぜ!」の少女。肩より長めの金髪でくりっとした瞳が可愛らしいのだが、思考がちょっぴり残念である。
「ふふふ、今日も妹への忠告に酷く力が入っているようじゃの、俊介」
 薄い水色の髪をツインテールにしたゴスロリ調の服を着た少女が、俊介に古風な喋り方で声をかける。
 高崎幽美(たかざき かすみ)。十八歳で先月高校を卒業したばかり。高崎家四女で子湖乃と同じくマンション二階の住人。俗に言う中二病で、彼女にこの病気が現れたのは中学二年生の頃から。それ以来ずっとこの調子で「高校を卒業してからはずっと暗黒の衣(ゴスロリ衣装)を着れる」などといって喜んでいる。
「幽美。何とか言ってやってくれよ」
「ふふ、俊介よ。それは無理な相談じゃな。私には子湖乃の生き方を干渉する程、奴に心を開いてはおらぬ。貴様の注意が疎かだったのではないか?」
 言われてみればそんな気もする。
 だが、姉として、出来れば注意して欲しいものだ。
「俊介、そろそろ朝ご飯食べないと遅刻するよ?」
「今日からお前らも高校生だろ。とっとと食って遅刻すんなよ」
 最初に声を掛けたのが、俊介と同い年なのだが、双子ではない高崎藍(たかざき らん)。俊介より後に生まれた彼の妹で高崎家五女で十五歳。マンション三階の住人。
 背中辺りのさらっとした茶髪が自慢で、よくポニーテールにしている。今日から俊介と同じく高校生だ。
 後に話したのが、高崎家三男で十七歳の高崎駆(たかざき かける)。マンション一階の住人。
 金髪でピアスなどをした不良的な印象が目立つ彼だが、成績は常に学年トップクラスで、見た目に反し成績は優秀なのである。
「あー、そっか。今日から俺達も高校生か」
「もうっ、しっかりしなさいよね。ちゃんとしてよ」
「まあ、そのマイペースさがお前なんだろ。俺は逆にお前のそういうところ好きだけどな」

 そうだ。
 俺は今日から、高校生になるんだ。

 そんな自覚を胸に抱きながら、俊介は朝の日差しが優しく差し込む窓を見つめている。

3竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/03(日) 01:57:43 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 朝ということで、食堂にはたくさんの住人が集まってきていた。
 まあ、この時間帯で食堂に来ないのは学校を卒業した奴ら、十八歳より上、つまり四女の幽美より上の奴らだ。それでも大学に行ってる奴もいるのだが。
 学校を卒業しても朝早くに食堂に来るというところ、幽美は偉いと思う。
「なあ、幽美。お前学校卒業したのに、何でいつもと同じ時間に食堂に来てんだ?」
 俊介が問いかけると、幽美は少々むっとした表情で頬を膨らませ、こちらを睨んできた。
 ヤキモチを焼いたような表情だったので、睨みは恐怖など微塵も感じさせず、むしろ可愛さを感じた。
「……姉に向かって呼び捨てとは……俊介よ。貴様はいつからそんなに偉くなったのじゃ?」
 あ、と思わずと言った感じで、俊介は間の抜けた声を発した。
 しかし、言及した幽美本人は「まあ良い」と言って、ぷいとそっぽを向いてしまった。
「……闇の眷属である私が朝の光など敵ではないということを、光の眷属に教えてやるのじゃ。だから早起きする」
 意外と可愛らしい理由だった。
 どうやら空想の存在である光の眷属に強がってみせるらしい。
「なー、兄貴」
 すると、食堂にもう一人の人物が入ってきた。学ランを着たあどけなさが残る少年。髪は赤みがかった茶色で、目つきは童顔なため、鋭い印象はない。赤い髪と瞳が特徴的な少年は俊介に近づき、声をかけた。
「俺の分度器知らねー? 俊介兄に貸したと思うんだけど……」
「誰が高校生にもなって分度器借りるか! 貸したとしても、俺じゃねぇよ」
 そうか、といって少年はトーストをくわえながらテレビを見てる藍と、新聞を広げている駆に視線を向ける。
 そして口を開こうとした瞬間に、

「「知らん」」

 二人から同じ言葉が同じタイミングで返された。
 少年は少しだけ寂しい感覚に陥るが、じゃあ何処に行ったんだろう、と首を傾げている。
 今日は始業式なのだから、分度器はいらんだろうと俊介が思っていると赤いランドセルを背負った桃色の髪で、片目だけ隠れた少女が赤髪の少年に歩み寄ってきた。
「こうくん……わたし、これかりてた……」
「お、何だ明架梨(あかり)が持ってたのか」
「……ごめんなさい……ずっと、返すの忘れてて……」
「いいっていいって、気にすんな」
 赤髪の少年はランドセル少女の頭をやさしく撫でる。
 高崎晃(たかざき こう)。高崎家五男で十二歳の今日から中学生だ。こいつはどの兄弟姉妹も好きだが、特に明架梨のことを大切に思っている。……ような気がする。
 ランドセルの女の子方は高崎明架梨(たかざき あかり)。高崎家九女で小学四年生の九歳。高崎家の末っ子。一番愛されている皆の可愛い妹だ。
「明架梨ー。そろそろ行きますよー」
「……あ、待って……」
 先程明架梨を呼んだのは、高崎鈴礼(たかざき すずれい)。高崎家八女の十一歳、小学校六年生。誰に対しても敬語な、礼儀正しい妹である。幽美とは全然別だ。
「子湖乃、俺はもう先に行くぜ」
「ああ、僕らも後で追いつくよ」
 小学生二人と、中学生である晃はさっさとマンションを出てしまった。
 自分達と遅刻しないように、と俊介、藍、駆の三人は鞄の中に必要な物を詰め始める。

4竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/03(日) 10:37:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「にーちゃん、ねーちゃん! 見て見て!」
 食堂に、再び新たな人物がやってきた。
 とても明るく活発な幼い少女の声。食堂の中にいてもバタバタ、という走ってくる音が彼女は急いでこちらへ向かっているんだと。
 少女は食堂に入って、両腕を広げた。まるで、買ってきたての服を、仕事から帰ってきた父親に見せるような仕草だ。
「私も今日から中学三年生! どう、にーちゃん、ねーちゃん。似合ってる?」
 黒髪ツインテールの少女はそう言った。
 というか、中学三年生なのだからもう既に制服は見飽きている。去年の始業式の朝にも同じ事を聞いてきたなこいつ。
 高崎愛莉(たかざき あいり)。高崎家六女で子湖乃と同じ中学三年生の十四歳。マンションの一階に住んでいる。子湖乃とは双子であるが、性格などは全然違う。何故か子湖乃は金髪なのに、愛莉は黒髪である。ちなみに、愛莉が姉であるらしい。
「お前のセーラー服はもう何度も見てるから。とっとと食わないとお前も始業式早々に遅刻すんぞ」
「ほわぁ! そうだった!!」
 愛莉は急いで朝食を食べ始める。
 それを横目に、支度が整った俊介、藍、駆の三人はマンションから出て行く。
「じゃあな、駆」
「おう。お前らも始業式だからってあんま寄り道すんじゃねーぞ」
 俊介と藍は、マンションを出たところで駆と別れる。駆は都内でも有名な進学校の生徒で、卒業したら東大に通うつもりらしい。
 一方で、俊介と藍は普通の平凡な高校の生徒だ。他の学生、愛莉、子湖乃、晃、鈴礼、明架梨も同じく別に珍しくもなければ、頭もよくない普通の学校に通っている。
「私達今日から高校生だよ? どーする、俊介」
「どーもしねーよ。大体、高校になっても学校が楽しくなるわけじゃねーし」
「分かんないよ? 誰かと恋に落ちるかもしんないし」
 俺にはねーよ、そんなイベント、と俊介は言う。
 高崎俊介(たかざき しゅんすけ)。高崎家四男の高校一年生、十五歳。マンション二階に住んでいる。僅かに尖らせた黒髪が特徴的な少年である。恋などという学生の一大イベントに全く興味がない、極めてドライな性格である。
「お前はアレか? 高校生になっても、バスケ続けんの?」
「……んー、どうしよっかなー……なんて今は思ってる」
 藍は小学校から中学までの九年間、バスケットボールを続けており、中学三年生の時には、部活のキャプテンを務め、全国第二位という輝かしい歴史を残した。
 一つでも才能があれば続ければいいのに。これといって突出した特技がない俊介は、そう思った。
「……バスケは好きだよ? でも、好きと続けるって何かちょっと違うじゃん?」
「そうか? 俺にとってはどっちも同じだと思うぜ? 何にせよ、特技があるなら伸ばせばいいんだよ」
「ありがとね。……でも、私は高校では新聞部に入ってみようと思うの。どう?」
 藍の言葉に俊介はフッと笑みを零す。
 俊介は藍の頭に優しく手を置いて、たまには兄らしい優しい言葉をかけた。
「いいんじゃねーか? 新しい事に挑戦すんのも」
 俊介の言葉に、藍は嬉しそうに微笑むとスッと手を出した。
 俊介はワケが分からず首を傾げていると、藍は楽しそうな声で俊介に言った。
「手、久しぶりにつなご! 学校までさ!」
「……はぁ?」
 藍は戸惑う俊介の手を握って、学校へと早足で向かっていく。

 高崎マンションは、都内にある四階建てのマンション。
 そのマンションに住む住人の苗字は全て―――、

 「高崎」である。

5竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/03(日) 13:35:22 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
前編では視点は主に俊介で固定です。
違うキャラになる時は始まる前に括弧付きで『〜視点』と記載しますね。
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第一章「高崎俊介と謎の少女」

 四月九日、月曜日。
 今日はどこの学校も大抵が始業式という新しい学年や、新しい学校での生活が始まる、そんな節目の日だ。
 それは俺達、「高崎マンション」の住人も例外ではなく、俺を含めたマンションの学生達は今頃学校の体育館で校長の長い話を退屈しながら聞いているだろう。
 退屈すぎて欠伸が出る。
 俺は気付かれないようにちらっと後ろにいる藍を見た。奴は壇上にいる校長の話をしっかりと聞いている。本当に真面目な奴だ。俺とは大違いで。何でこいつと俺が兄妹なんだろう。
(……始業式ってこんな長かったっけ? 中学はもっと早く済んでたような気もするけど……)
 ポケットに入っている携帯電話を薄く開いて、現在の時刻を確認する。体育館にも時計が掛けてあるが、そんなに視力が良くない俺はよく見えない。
 大体八時五十分から始まって、現在九時十七分……。二十五分程度経過している。もうすぐで三十分経過か。
 すると、何の前触れもなく、携帯にメールが受信される。マナーモードにしているが、体育館はかなり静かだから、僅かなバイブの音でもこちらへ視線が集中するだろう。それが嫌なので、受信と同時にボタンを押して、バイブを止めた。
 メールの送信者は姉の幽美だ。
(……何の用だよ、アイツ)
 幽美からメールが送られてくることは非常に珍しい。
 見た目は無口な少女だが、意外と話してくれるので、メールをする必要もないのだ。
 気になるメールの内容は『帰りに葱を頼む。儀式に必要なのだ』……。

 何の儀式だよ!?

 と思わずツッコミそうになったが、そこはぐっと堪えた。ここで声を上げてしまえば、それこそ全員の視線が俺へと向く。
 とりあえずメールの内容は適当にスルーして、俺は偶然持っていたクラスの名簿に目を通した。
(……女子の方が十人程度多いんだな、このクラスって……ん?)
 俺は名簿の一番上の名前のところで、疑問に思った事がある。
 一番上に記されている名前は「青羽色葉(あおはね いろは)」。名前自体も珍しい少女だが、俺は目を細めながら自分のクラスの一番前の奴を見る。はっきりとは見えないが、スカートではなくズボンを履いている、ということは青羽色葉ではないのか?
 休みなのか、それともただの遅刻なのか、どっちかは分からないが学校には来ていないようだ。
(あーあ、始業式から出遅れたな。こりゃ大変だぞ、この青羽って奴)
 俺は特に可哀想、とも思わなかった。ただ、遅刻にしても欠席にしても何か理由があるのだろう。寝坊とかではなければ、まだ先生にも許されるんじゃないだろうか?

 始業式が終わって俺達は教室に戻る。
 教室の席順はまだ名前の順番だ。なので、俺と藍は真ん中の列の丁度中間辺りで前後に座っている。
 そこで、俺は一番窓側の列の一番前の席に視線を移す。
 青羽色葉の席だ。
 特に気になっているわけではないが、始業式に学校に来ないなんて、一体どんな奴なのか少しだけ気になる。
「ねーねー、俊介! 学校終わってからさ、どっか遊びに行かない?」
「あ? どっかってどこだよ」
「んー、デパートとかさ。昼前には終わるんだし、デパート内を適当に回ってー、お昼食べてブラブラしてから帰ろうよ」
 藍の提案に、俺は乗ることにした。
 帰っても特にやる事もないし、昼過ぎに帰ってくれば駆にも注意される事はないだろう。見た目に反して、意外と心配性な奴だが、俺達ももう高校生だ。うん、大丈夫。
「……なあ、藍。出席番号一の、この青羽色葉って奴。一体どんな奴なんだろうな?」
 俺は名簿で青羽色葉の名前を指しながら聞いた。
 藍は小首を傾げて、顎に手を添えながら考え出した。
「んー、どうなのかな? よく分かんないけど……始業式に遅刻してくるから、ロクでもない娘じゃないの?」
「だよな。ったく、どんな情けない野郎か見てみたいぜ」
 俺達は適当に話し、教室に戻ってきた教師の話を聞いて、デパートへと向かった。
 丁度お腹も良い具合で減ってきたし、今から何を食べようか、後に困らないように俺は心の中で考え始める。

6竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/03(日) 19:47:54 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 デパートへ向かいながら、俺は藍と一緒に肩を並べ歩いていた。
 普通にこう歩いていればカップルと間違われた事もあるが、俺達は同い年ではあるが兄妹である。何だか、双子でもないのに同い年の女子が妹っていうのも不思議な感じだ。
 楽しそうに鼻歌を歌っている藍は、笑顔で俺に問いかけてきた。
「ねえ、俊介。アンタ、どっか行きたいとこある?」
「ん、ああ……別にどこでもいいよ。お前の行きたいところで」
 えー、と答えを聞くなり藍は声を漏らす。
 今の答えのどこに不満があるのだろうか。俺は全くわからない。
「どっかないの? 本屋とか」
「ねーよ。特に欲しいモンもねーから、お前の行きたいところについてってやるよ」
 藍は頬を膨らませて、以前不満があるような表情でこちらを見ている。
 もしかしたら、藍は会話を愉しみたいだけなのかもしれない。
 俺が『どこでもいい』と返したら、会話はそこで途切れてしまう。それがつまらないから、不満なんだろうか。
 どっちにしろ、女子の気持ちは俺にはよく分からん。
「何かさ、二人で買い物っていうのも久しぶりだね」
「そーいやそうだな。何だかんだで買い物に行く時に二人ってのはないからな」
「それをいうと、幽美お姉ちゃんは結構ついてきてくれるよね」
「ああ。この前なんて『貴様らが外出中に光の眷属に襲われても平気なようについていってやろう。身の安全は保障してやる』とかなんとか言って……あの姉貴、本当に大丈夫か?」
 話していると自然と藍の表情に笑みが見られる。
 たまにだが、藍を見ていると本当に妹だと思えない時がある。こういうふとした時に多いのだが、それは俺が妹を一人の女子として見てしまっている、危険信号なのか?
 デパートに着くと、藍は服屋に直行した。やはり女子は先にそういうお店から行くんだな、と思い小さく息を吐いた。
「ねーねー、俊介! このワンピースどう?」
「お前ってワンピース着るのか? 見たことないぞ?」
「着るもん! 最近は頻度が少ないだけだもん!」
 藍は顔を真っ赤にして、今にも噛み付いてきそうな勢いで反抗してきた。何だかすごく怖い。
 藍は何着もワンピースを見たりして、その度に俺に意見を求めてくる。服の事を聞かれても、俺は何も答えられんというのに。
 どうせ何色がいい? みたいな質問でも答えた方と逆を選ぶんだろう。
 俺は暇なので携帯電話を開く。すると、意外にも新しいメールが来ていた。送信したのはなんと珍しい事に駆だった。
「……駆? アイツがメールなんて珍しいな」
 俺は珍しい駆からのメールなので、内容を急いで確認してみた。
 送られた内容は『朝ぐらいに幽美が送ったメール。葱の本数は四本らしいぞ』。

 どんな内容だ。
 つーかそんな追記いらねーし。
 
 俺は溜息をついて携帯電話を閉じ、ポケットの中に入れ直す。
 丁度藍も服を一通り見終わったのか、こちらに戻ってきていた。結局何も買わんのかい。
「……何か買えばよかったじゃねーか」
「払ってくれてた?」
「馬鹿言え。昼飯代しかねーよ」
 俺らは日常的な会話をしながら、デパートのエスカレーターで上の階へと上がっていく。
 現在の時刻は十一時三十六分。
 丁度お腹も減ってきたころだ。俺達は、他の店を回るのは後回しにして、とりあえず先に昼食を摂ることにした。

7竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/07(木) 21:37:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 街には雨がザーザーと降っていた。
 今日の降水確率はどれくらいだったか、確か雨なんて言ってなかった気がする。そうでなければ、毎回朝の天気予報をチェックして『傘持っていきなよー』と忠告する藍が傘を忘れるはずがない。
 どうやら、藍も雨は予想外みたいで、雨が降っている目の前の景色にただ苦笑いするだけだった。
「……傘、買ってこっか」
 藍の提案に俺は乗ることにした。
 そうでもなければ帰れないし、それ以前にここから出る事も出来ない。びしょ濡れで帰ったら子湖乃に『二人とも、どうしたんだ!?』と騒ぎ立てられるだろう。制服のシャツのボタンが一つ取れていただけでも大騒ぎするあの妹だ。びしょ濡れで帰ったらどうなるか。
 大騒ぎされても面倒なので、安いビニール傘を買って、俺達はデパートを出た。
「……あ」
「どうしたの?」
「……幽美から葱を四本買ってくるように言われてたんだった。なんでも、儀式に必要らしい」
 俺はそんな用事を、始業式の途中に頼まれていたのを思い出した。
 いや、別にこんな内容はいつもどおり無視すればいいだけの話だが、買ってこなかったら『こんな簡単な約束も果たせんのか。ダメな弟め』とか言われそうな気がしてきた。それはそれで腹が立つ。
 近くの八百屋に寄って行こうとした時、藍の言葉が俺の足を止めた。
「俊介、私ついていくよ?」
「……あー」
 どうしようか。
 正直何に使うか分からん葱四本だし、正直一人でも持てない荷物じゃない。だが、葱を買うというのを藍が知らないという事は俺に頼んだ事なのだろう。
「いや、いいよ。葱買うだけだし。お前は先に帰ってろ」
「……でも」
「いいから。たまには兄貴の言う事聞いとけって」
 年齢は同じだが、俺の方が一応は兄なのだ。
 出来るだけ妹には楽をさせてやりたいため、俺は藍を先に帰らせて一人儀式用の葱を調達する事にした。
 だが、八百屋へ向かう俺の目の前に、見慣れることは決してないだろう光景が映った。

 綺麗な青い髪を雨に濡らし、しゃがみこんでダンボールの中を覗き込んでいる少女がいた。
 その少女の瞳は、どこか悲しげで、肩まで伸びた綺麗な青い髪は、上品さを感じさせるが、雨に濡れているせいで、どこか儚さを魅せていた。

(―――こんな雨の中傘も差さずに……何やってんだ?)
 俺は自分の役目も忘れて、その少女に近づいていく。
 その少女が濡れないように傘で雨から庇い、
「何やってんだ、アンタ?」
 そう問いかけた。
 少女は突如かけられた声と、今まで自分を打っていた雨粒が無くなったことに驚き、俺の顔を見つめてきた。
 正面から見て分かった事だが、顔も綺麗な顔立ちで、美人、よりは可愛いに近かった。
「……濡れるぞ?」
「……大丈夫です。この子に比べたら……」
 少女は目線を再びダンボールに向ける。
 その中身にいたのは子猫だ。足を怪我していて、恐らく飼い主から捨てられたのだろう。入れられているダンボールには『拾ってください』という、決まり文句の貼り紙さえもなかったが。
「……その猫が、心配なのか?」
「……はい。この近くに獣医さんとか、ありませんかね?」
 俺が考えたって思いつかない。そんなに遠出はしない少年だからな。
 そこで、俺は無駄に多い兄弟姉妹の中で、最も顔が広い人物に聞くことにした。
 携帯電話を開き、かけた電話番号は妹である、高崎子湖乃である。
『もしもし、俊介兄か? どうしたんだよ』
「子湖乃。駅の近くのデパートあるだろ? そっから一番近いところにある獣医を教えてくれ」

8竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/07(木) 23:28:13 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 駅から歩いて二十分くらい歩いて着く獣医を子湖乃に紹介してもらい、俺と青い髪の少女は足を怪我した子猫を抱え、その獣医に俺達は歩いた。
 病院の待合室の椅子に腰を掛け、びしょ濡れの少女を見ていられなくなった俺は、偶然鞄に入っていたタオルを少女の頭の上に乗せる。
「……?」
「拭けよ。そのままじゃ風邪引くぞ、お前」
 少女は小さく『ありがとう』と返してきた。
 恐らくこのタオルは藍がいつものおせっかいで入れたのだろう。まさかこんな場面で役に立つとは。実際、青い髪の少女がびしょ濡れなのも気になったが、それ以上に濡れてシャツなどが張り付いているためか、下着などが透けているのだ。俺も目のやり場に困る。
 少女は頭に乗せられたタオルで、顔や身体などを拭いていく。俺は、傘も差さずに猫を見ていたのに理由があるのか知りたくなって、彼女に問いかけてみた。
「お前、何であんなとこで猫をずっと見てたんだ? 猫好きなのか?」
「……それもある」
 理由はそれだけじゃないようだ。
 まあ、猫が好きだからというだけの理由で傘も差さずに見つめたりしないだろう。それ以外の理由は何なのか、問いかけようとしたところで少女は口を開く。
「……動物は、全部大好き。猫も、犬も、ぜーんぶ。……だからこそ、ペットを捨てる人は許せないの。自分勝手な興味で動物達を家に拘束して、そして興味が冷めたら捨てる……無責任だよね」
 彼女の言い分には一理ある。
 動物を物みたいに扱ってるようなものだし、何よりペットを捨てるという行為については俺も許せないと思う。
 動物相手に『捨てる』という表現も、本当は大嫌いなのだが。
「で、お前はどうするんだ? あの子猫、家で飼うのか?」
「……きっと、親は反対すると思う……。だから」
 俺を見てきた。
 俺が? 飼えってか? 引き受けろってか? やめろ、そんな期待に満ちた瞳で見つめないでくれ! それは期待ではなく、一種のプレッシャーだ。勘弁してくれよ!
 そんな俺の心の言葉も届かず、彼女はじっと俺を見ている。
「……えっと、俺は……」
 丁度、『高崎さん』と名前が呼ばれた。
 プレッシャーから開放された俺(少女も一緒)は病室に入って、医師の言葉を聞いた。
 どうやら、治療自体は済んだがしばらく入院させるらしい。歩けるようになるまでの訓練が必要のようだ。
 俺と少女は病院から出る。
 空からの雨は一切降っておらず、雲の切れ間から眩しく輝く太陽が、光を差している。
「雨、やんだな」
「通り雨だったみたいだね。えっと……高崎君?」
 少女は小首を傾げて、俺の名前を問いかけてきた。
 その仕草に、可愛らしさを感じてしまうが、ここで頬を赤くすると不審に思われそうだったので、俺は顔をぷいっと背けてしまった。
 ちらっと、少女に視線を移すと、少女は不安そうな顔でこちらを見つめている。
 名前間違えたかな? みたいな不安を逆に煽ってしまったか、と思い俺は顔を少女に向け直した。
「……何だよ」
「下の名前は?」
「……俊介。高崎俊介だよ。それがどうした?」
「……俊介君、か。覚えとくね。そうだ、家に寄らせてもらっていいかな?」
 何と真正面から普通に聞きにくい事を聞いてくる子だ。
 まあ、まだ服も濡れてるだろうし、このまま帰して風邪引かれても困るし、このまま家に帰すよりはマシだろう。幸い、病院からマンションまでは近いし。
 帰ってきた時、面倒な兄弟姉妹にどんな反応をされる事か。
(……今の時間だと……)
 俺は携帯電話を開いて、時刻を確認した。
 かれこれもう三時前だ。連絡も何も入れてないし、藍だけでなく他の人も心配してるだろう、と思いながらマンションに向けて歩き出す。
 今の時間なら、まだ長女、長男、次男、次女、三女は帰ってないだろう。一番次女と三女が面倒くさい。
 俺はマンションへ向けて歩きながら、一番重要な事を思い出した。

 ―――あ、葱買うの忘れた。
 まあどうでもいいか。割と簡単に割り切って、葱の購入を諦めマンションへと向かった。

9竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/08(金) 22:08:06 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 青髪少女を連れて帰ってきた俺を待っていたのは、予想通り過ぎる妹・子湖乃のオーバーすぎるリアクションだ。
 子湖乃は俺の横にいる少女を見たまま、口を大きく開けて固まっている。
 彼女は数歩後ずさりをして、後ろを振り返ると、食堂にいるであろう住人全員に聞こえるような声で叫んだ。
「みんなー! 俊介兄が彼女連れて帰ってきたぞー!」
「違う!」
 子湖乃の言葉に俺はすぐさま否定した。
 俺なんかの彼女と間違われても、相手も不愉快だろう。俺は相手の気持ちを考えて否定した。
 いや、俺自身は間違われて嫌な気分にはならんのだが。
「お前には事情を話しただろうが。話をややこしくすんじゃねーよ」
「悪い悪い。でも、僕からも皆には話しといたから、大丈夫だって」
 子湖乃はそう言って俺達を食堂へと誘導した。
 食堂の中には学校組とゴスロリ少女の幽美が椅子に座って俺達を待っていた。入りたくない空気を漂わせながら、俺は勇気を振り絞って食堂の中に足を踏み入れる。
「おい」
 入った瞬間に、誰かから声を掛けられる。
 以外にも最初に声を掛けてきたのは、駆でも藍でもなく幽美だった。幽美はかなり不機嫌そうな表情でこちらを見つめている。
 何か文句でもあんのか、と言いたいところだったが、彼女の言葉の続きの方が早く口からこぼれた。
「ウェールズオニオンはどーした?」
 突如放たれたカタカナに首を傾げてしまう。
 うぇーるずおにおんって何? 俺はそんなもの知らないし、貴女からそんな言葉を聞いたのは今が初めてありますが?
 幽美の発言に首を傾げていると、駆がカップに入ったコーヒーをすすりながら口を開いた。
「welsh onion……葱のことだ。頼まれてたろ?」
 わざわざ英語でも言う必要もなかったんじゃ? と幽美のツッコミどころ満載の言葉は置いといて。
 子湖乃から事情を聞かされたにも関わらず、この女は葱の心配が先かよ。
「お前な、葱四本と子猫の命。どっちが大事だと思ってんだよ?」
「……お前は何という物を秤にかけるんだ。そんなもの命に決まっているだろう」
 割と妥当な答えが返ってきた。
 まあその方が俺としても助かるし、歪んだ人物に成長しなくてよかった。
 駆の向かいに座った少女は、駆と目を合わせると、いきなり質問された。
「で、アンタの名前は?」
 そういえばまだ聞いてなかったな。
 こっちは名乗ったが、名前を聞こうと思ってずっと忘れていた。
 見た目が見た目なだけに、とても上品な名前を連想してしまう。いや、意外と普通の名前かもしれない。『田中花子』とか『佐藤佳子』とかね。
「私の名前ですか。そうですね、まずは名乗らないと皆さんも何て呼べばいいか分かりませんもんね」
「何だよ、俊介兄。名前聞かなかったの?」
 口を尖らせながら、子湖乃が寄ってきた。
「聞こうと思ったがタイミングがなかったんだよ。それに、もう会わないかもしれないんだし、聞いても意味無いだろ」
「分かんないぜ? これからたびたび街中で出会って、それが恋に発展するかもしれないじゃん」
「ねーよ。絶対にな」

 その言葉は、『たびたび街で出会って、それが恋に発展するかもしれないじゃん』という言葉のみを否定した台詞だった。
 だから、この言葉が本当の意味で否定される事になるなんて、俺は本気で思ってなかった。
 いや、マジで。

「青羽色葉です。よろしくお願いします」

(―――青羽)
(―――色葉ぁ?)
 俺と藍は名前に聞き覚えがあった。具体的にいうと、今日の昼前くらいに聞いた名で、確か自分達のクラスの名簿にあったような名前で、始業式である今日学校を休んだという……もういい十分だ。
 具体的過ぎる事を言ってしまったせいか、思い切り確信に近づいた。
 俺と藍は椅子から立ち上がると、青髪少女を指差して声を合わせて言った。
「「今日学校休んだ人か!」」
 言われてみれば制服が同じだ。
 俺と藍を含め、子湖乃、愛莉、晃、鈴礼、明架梨は一斉に『えぇぇ!?』と驚きの言葉を放っていた。
 ただ、駆と幽美だけは反応が全然違った。
(―――今更かよ)

 この二人は、青羽色葉を見た瞬間、制服が藍の制服と同じだと気付いていたようだ。

10竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/09(土) 21:38:46 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 俺と藍と同じ学校の制服を着ている青羽色葉は驚いている一同(駆、幽美を除く)に対し、首を傾げていた。
 恐らくだが、今彼女は『何でそんなに驚いているんだろう?』とか『何か変なこと言ったかな?』みたいなことを思っているんだろうが、どれも見当違いだ。
 そもそも、俺と藍と同じ学校で、同じクラスで、休んでた奴と街中でばったり遭遇とか。どこのゲームイベントだよ。
 まあ、今更そんな事を言ってもどうにもならないってことは分かっているさ。俺だって、いつまでも子供じゃない。
 だが質問はさせてもらう。
「おい。何でお前は今日学校に来なかったんだよ。制服着てるってことは……行こうとはしたってことだよな?」
 青羽色葉はこくりと頷いた。
 続けて、藍が質問を口にした。
「じゃあ、何で来なかったの?」
「……場所が、分からなかったんです」
 その言葉は、誰もが嘘だと分かる言い訳だ。
「ちょ、忘れたって……有り得ないよ! だって、受験しに行ったでしょ?」
 高校というものは、入学するためには受験というかったるいものを合格する必要がある。
 そんな事誰でも知っていることだ。
 俺や藍、駆といった現役は勿論のこと、幽美という学生OBや子湖乃、愛莉、晃、鈴礼、明架梨達も知っている事だ。
「……受験の時は、家を引っ越す前だったから……前の家からの行き方しか分からなくって」
 何だ、その理由は。
「それでも、街の人に聞けばいいだろ。学校の名前まで忘れたわけじゃないだろ?」
「みんな急がしそうだったし」
 真性の天然だな、こいつは。
 馬鹿で優しい奴だ。優しいけど馬鹿な奴だ。結論、ただのお人好し馬鹿だ。
「……お前、これから登校どうするつもりだよ。ってか、お前が家に来たいっていうから連れて来ちまったけど、家までの帰り道分かるか?」
「ううん、分からない」
 前言撤回。こいつはただの馬鹿だ。
「ねえ、俊介君。私、ここに住んだらダメかな?」
「はぁ!?」
 何を言い出すんだこいつは。
 いや、別に嫌というわけでもないが、もしそんな事をしたら親が心配するだろう。というか、誰が娘を意味不明な家族しか住んでいないマンションに住まわせるものか。
「ダメに決まってるだろ。親とか心配するだろうが」
「家に親いないもん。一人だから」
「はぁ? 子猫をどうするかって話の時お前確か『親は反対する』って言ってたよな?」
「……言ったっけ?」
「言ったよ!」
 どこまでも適当な奴だ。
 要は一人暮らしだから、大丈夫ってことか? でも、それならお前が今まで住んでた家はどうなるんだ?
「……なあ、どーしても『住みたい』って顔をしてるんだが……」
「ふむ。なら、住まわせてやるのもいいじゃろう」
 幽美がそんな事を言った。
 だが、そうとなれば、面倒な壁を越えねばならない。その壁とは、未だに姿を現していない、長女、次女、三女、長男、次男の五人だ。
 中でも、女三人がとてつもなく面倒だ。
「とりあえず、ここにいる俺達は青羽の入居を認めたとして……問題は兄貴と姉貴だよなぁ」
「だよね」
「……うぅ、俺ってあの人達苦手なんだよなぁ……」
「……わたしも……」
 藍は苦笑いしながら同意して、晃と明架梨は不安を胸に抱いているようだ。

 まあ、俺も正直―――あの人達は得意じゃない。

11竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/09(土) 22:47:44 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 とりあえず、姉貴達五人が帰ってくるまでは、青羽は俺の部屋にいさせることにした。
 ただ、相手が何をしでかすかよく分からない、不思議ちゃんのもう一段階上の人物なので、俺も下手に動けず青羽色葉によって、部屋に拘束されている状態だ。
 だが青羽色葉本人も特に何をするわけでもなく、俺の本棚の漫画を見て『これ、読んでもいい?』と問いかけてくるくらいだ。
 まあこれぐらい大人しかったら困る事もないか。
 しばらく部屋で過ごしていると、誰かが俺の部屋をノックし始めた。
 ドアを開けたのは、子湖乃である。彼女は表情を引きつらせて、下を指差した。
「……あのさ、まず次男が帰ってきたから……食堂で待つように言っておいたぜ……」
 最初の難関は奴か。
 俺は青羽色葉の手を取って、下の階へと下りて行く。
 我が家の次男。相手が女子だから、何とかなりそうな気もするが、青羽を見せたらどういう反応するか大体予想できる。

「な、ななな……俊介の奴が俺より先に彼女作りやがったぁぁぁ!!」
「ええい、やかましい! 大体何で俺の家族は俺が彼女を作ったことに対して驚いてんだよ! つか彼女じゃねぇし!」
 今俺の目の前で勝手に絶望した男が、高崎博斗(たかざき はくと)。晃よりも赤い髪をツンツンにした、見た目だけは不良の男だ。ちなみに、奴は二十三歳で、三階の住人である。
 博斗の大声に驚いたのか、青羽は俺の服の袖の裾をちょこっとだけ掴んで、俺の後ろに隠れてしまった。
 その行動が、さらに博斗を絶望のどん底に陥れてしまう。
「んがっ!? おい俊介! お前らどんだけ早く仲が進展してんだよ!」
「だから彼女じゃねえって言ってるだろ! とりあえず落ち着いて話を聞け、馬鹿兄貴!」
 俺は、『話を聞かない』から博斗が苦手だ。
 
 とりあえず食堂の椅子に座って、博斗に説明を始める。
 青羽色葉と出会った経緯。彼女がどういう人物なのか。そしてここに住もうという理由。全て、話した。
 博斗は腕を組みながら、ただずっと頷いて話を聞いていた。
 一通り説明が終わると博斗は小さく息を吐いて、椅子から立ち上がった。
「まあ、大体の理由は分かった……そういう理由なら兄貴や姉貴も反対しねーだろ。あのお転婆な妹達がどーするかは知らねーけど」
 とりあえず、これは承諾ということでいいのか?
 まあ博斗は五人の中でも一番話を分かってくれると思っていたから、俺の脳内でも苦戦は想像していなかったが、結構すんなりと認められたな。
「……良かったな。後は面倒な奴が四人残ってるけど……」
「まあ俺も説明には強力するよ。だから任せとけって」
「うんうん、私も協力する!」
「僕だって、出来る限りのことはするさ!」
「私も手を貸そう。……晃もやると言っていた」
「言ってねぇ!!」
 博斗、藍、子湖乃、幽美(ついでに晃)は手伝ってくれるようだ。まあここまで来て協力しない奴はいないだろうが。
 ちなみに、何も言わなかった駆達は、協力はするが話し合いには参加しないといったところか。妹達はよしとして、情けないぞ駆。
 すると、そこへ次なる壁が帰宅してきた。
「……し、しゅんすけおにいちゃん……」
 おどおどした様子で、一番末っ子である明架梨が声を掛けてきた。
 既に目には涙が浮かんでいる。……まさか、早くも奴が帰ってきたのか。
 出来れば、あの人との対決は一番最後に回したかったが……仕方ない。

「……お、おねえちゃんが……すいれんおねえちゃんが帰ってきた、よ……!」

 俺が一番苦手な人ランキングぶっちぎりの第一位。
 兄弟姉妹で一番年上の、誰もが畏怖する脅威の姉。高崎翠恋(たかざき すいれん)。
 何か、あの人には勝てない気がする。

 青羽色葉を家に住まわせてもらおう作戦。―――破綻の道が見えてきてしまった。
 すまん、青羽。

12名無しさん:2012/06/10(日) 17:04:24 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>1
文章詰め過ぎ
趣味でやってるにしても、下手。

13竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/06/22(金) 23:04:48 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 高崎家の長女である、高崎翠恋の恐ろしさを、高崎家の住人ではない青羽色葉は知らない。知る由も無い。
 見た目は容姿端麗な、十人中九人くらいが振り向くであろう美人なのだが、家のルールを破ったり、守らなかったら容赦なく鉄槌が下される。かくいう俺や駆、博斗といった高崎家男性陣オールスターは被害者だ。
 俺と青羽は帰って来た翠恋と戦うべく、彼女が待つ食堂へとゆっくりと進んでいった。
 こっそり食堂を覗くと、その場は修羅場と化していた。

 銀髪長髪の女性、翠恋が腕を組んだまま座っており、他の椅子は一つも空いていない。
 その場にいる幽美、駆、藍、子湖乃、晃の五人は一人たりとも座ることがままならず、俯いたまま佇んでいる。全員の表情は、恐怖一色だ。

 食堂の入り口付近で潜んでいる俺と青羽に気付いたのか、翠恋はこちらに視線を向けた。
「……俊介、その傍にいる女の子と一緒にこっちに来なさい」
 離し方は自体は優しいが、にっこりしている表情が非常に怖い。
 何故こんな姉になってしまったのだろう。あらゆる可能性を考えてみたが、どれもピンとこない。
 つーか、何で他は誰も座れてないんだよ!?
 俺と青羽は並んで、翠恋と向き合うように椅子に腰をかけた。
 実際、高崎翠恋という女性は見た目に関しては文句ナシだ。
 先程も言ったと思うが、彼女は十人の男性がいたとして、九人が振り返るほどの美貌を持っている。さrさらとした長い銀髪が一番特徴的だ。それが不自然だと思わないくらい、透き通るような白い肌。それとは裏腹にきりっとした碧眼。身体つきも細く、モデル並の体型を誇る彼女は、見た目だけで言えば、自慢の完璧お姉さんなのだ。
 そう、恐ろしい性格を除けば、の話なのだが。
 翠恋はテーブルの上にあるコーヒーカップの取っ手を軽く持ち、中に入っているコーヒーを混ぜるように回している。
「……で、話に入りましょうか。子湖乃から聞いたんだけどさ」
 自分の名前が出ただけで、子湖乃は身体をビクッと震わせた。
 いくらなんでもビビリ過ぎだろ。いや、気持ちは痛いほど分かるが、そんな奴と正面向かってる俺はどうなるんだ!?
「幽美に頼まれた物を買いに行く途中に、雨の中で傘を差していないその子と出会って、捨てられていた猫を病院に連れて行き、彼女が一人暮らしだから、ここに住まわせてあげたい、と。間違いはないわね?」
「……はい、その通りでございます、翠恋お姉様……」
 俺の妙な言葉遣いに、翠恋は言うまでも無く眉をひそめた。
 っつか、他の家族もどんだけビビってんだっての。あの幽美でさえも名前が出ただけで、小刻みに震えていたぞ。それと、駆と藍と晃。お前ら名前が出なかったからって安堵の息を吐いてんじゃねぇよ。ちょっとは俺のフォローに回る姿勢を見せてくれ!
「……まあ、言葉遣いの真意は置いとくとして。その子をうちに住まわせるねぇ……」
 翠恋は椅子から立ち上がる。
 その動作だけで、家族全員がビクっと肩を震わせた。そりゃあ、まあビビるよな。
 翠恋は、こちらを見つめて言い放つ。『見つめている』だけだろうが何故か『睨みつける』ような気がしてきた。
「……俊介、アンタ……。それ、本気で言ってんの?」
 
 場 が 完 全 に 凍 り つ い た。

 だから嫌だったんだ。だからこの人を最後の説得に回したかったんだ。住人全員を味方につけてからにしたかったんだ。
 この人は頭の回転が速い分、若干融通が利かない部分も備えている。だから、彼女の前では冗談などは鉄槌対象だ。忘れてたなども鉄槌対象だ。喧嘩などしたら処刑対象だ。
 むしろ、彼女の強さを逆手に取れば、彼女の説得に成功しただけで、住人個人に問いかけるまでも無く、青羽を住まわせる事が出来るのだが。切り札はそう簡単にこっちについてくれない。
 彼女の『決定』は、高崎家の『総意』に容易に変換可能だ。
「頼むよ、翠恋姉! こいつは、青羽は困ってるんだ! 一人じゃ寂しいだろうし、可哀想だろ!」
「馬鹿ね、俊介。私はそういうことを論点にするんじゃなく、高校生の少女をこんな他人だらけの場所に置く事が納得いかないのよ」
 翠恋の言う事は最もだ。
 むしろ、俺の言葉の方が無理を言っている。なんてことは、他の誰もが分かっているはずだ。
 それでも、俺は何としてでも翠恋を納得させなければならない。
 そのためなら俺は―――、
「俺は、何でもやってやる! だから頼む! 青羽をうちに住まわせてやってくれないか!?」
「……何でも……?」
 俺のその言葉に、翠恋が反応する。
 勝負あり! そう思ったが、現実とは中々に上手くいかないもので。
「……ふぅん。何でも、ねぇ」

 翠恋は、ただ怪しく表情を歪めるだけだった。

14竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/01(日) 13:54:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
(第三者視点)

 俊介と翠恋は睨み合うように、お互いの視線を重ねていた。
 既に戦場のような緊張感を生み出している食堂にいる全員が、その緊張感に身を強張らせ、指一本動かす事さえままならなかった。
 ただでさえ、腕を組みながら座っている翠恋が怖いのに、それと睨み合っている俊介はどんな恐怖に陥っているのだろう。
 幽美、駆、藍、子湖乃、晃の五人は、自分が俊介の位置に立っていたら、たまらなくなってその場から走り去ってしまうだろうと考えている。
 その緊張感に、何も出来ず彼らと同じように指一本動かせない人物がもう一人いた。

 渦中の人間、青羽色葉だ。

 本当は今すぐ自分が『もう良いです。ご迷惑をおかけしました』とでも言って出て行けばこんな状態にならないで済んだだろうに、そう言い出す勇気が無かった。
 自分から『ここに住んだらダメかな?』と問いかけておいて、自分はこういう時どうすることも出来ない。
 そんな自分の無力さが、恥ずかしくて、情けなくて、泣き出しそうになってしまう。
 緊張感の中心点に位置するであろう翠恋が、こんな張り詰めた空気を払うかのように口を開いた。

「……何でもする、ねぇ……。その言葉に、虚偽はないかしら?」
「ねぇよ! 男は二言はねぇ。男ってのは約束を守れって、博斗に教えられたんでな!」
 俊介は翠恋の言葉に即答する。
 だが、翠恋は俊介を睨みつけて、恐ろしさが混じった声色で俊介に一言だけ告げる。

「博斗『お兄さん』ね」

 翠恋のその瞳に、俊介は背筋に悪寒が走るのを感じた。
 身の毛がよだつ、とはこのことだろうか。まさか現実で体験する事になろうとは。しかもその相手が自分の姉になろうとは創造もしてなかった。
「まったく、何であなたは姉や兄を呼び捨てに出来るのかしら。『呼び捨てで良い』っていう人物しかダメって言ったでしょう? まあ、博斗なら気にしてないんだろうケド」
 翠恋は呆れたようにそう言った。
 兄や姉を呼び捨てにしている人物は他にもいる。
 幽美や駆だってそうだし、呼び捨てではないにしろ明架梨だって、姉には『ちゃん』。兄には『くん』付けで呼ぶこともある。
 さすがに、翠恋を呼び捨てにする人物はいない。
 呼び捨てにした瞬間、どういう処罰が待っているか分からないからだ。
「まあいいわ。そこが本題じゃないもの。つまらない話の方に脱線していったけど……採集確認。本当に何でもするのね?」
「ああ、勿論だ! でも、犯罪とかはちょっと……」
「安心しなさい。誰が弟に犯罪なんかさせるのよ。そこまで暴君になった覚えはないんだけど」
 それもそうか。
 そこら辺はちゃんとした人で良かった。
 
 幽美は『一日一個。私の言う事を聞きなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 駆は『一日一時間勉強しなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 藍は『今日一日私の言う事を何でも聞きなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 子湖乃は『絶対にその子を守ってあげなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 晃は『何でもいいからネタ十連発』と翠恋が言うと思っていた。
 だが、翠恋の提示した内容は、全員の予想を。俊介の考えを。青羽の想像を遥かに凌駕するものだった。

「じゃあ、俊介。あなた、このマンションから出て行きなさい」

15竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/01(日) 13:55:08 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
(第三者視点)

 俊介と翠恋は睨み合うように、お互いの視線を重ねていた。
 既に戦場のような緊張感を生み出している食堂にいる全員が、その緊張感に身を強張らせ、指一本動かす事さえままならなかった。
 ただでさえ、腕を組みながら座っている翠恋が怖いのに、それと睨み合っている俊介はどんな恐怖に陥っているのだろう。
 幽美、駆、藍、子湖乃、晃の五人は、自分が俊介の位置に立っていたら、たまらなくなってその場から走り去ってしまうだろうと考えている。
 その緊張感に、何も出来ず彼らと同じように指一本動かせない人物がもう一人いた。

 渦中の人間、青羽色葉だ。

 本当は今すぐ自分が『もう良いです。ご迷惑をおかけしました』とでも言って出て行けばこんな状態にならないで済んだだろうに、そう言い出す勇気が無かった。
 自分から『ここに住んだらダメかな?』と問いかけておいて、自分はこういう時どうすることも出来ない。
 そんな自分の無力さが、恥ずかしくて、情けなくて、泣き出しそうになってしまう。
 緊張感の中心点に位置するであろう翠恋が、こんな張り詰めた空気を払うかのように口を開いた。

「……何でもする、ねぇ……。その言葉に、虚偽はないかしら?」
「ねぇよ! 男は二言はねぇ。男ってのは約束を守れって、博斗に教えられたんでな!」
 俊介は翠恋の言葉に即答する。
 だが、翠恋は俊介を睨みつけて、恐ろしさが混じった声色で俊介に一言だけ告げる。

「博斗『お兄さん』ね」

 翠恋のその瞳に、俊介は背筋に悪寒が走るのを感じた。
 身の毛がよだつ、とはこのことだろうか。まさか現実で体験する事になろうとは。しかもその相手が自分の姉になろうとは創造もしてなかった。
「まったく、何であなたは姉や兄を呼び捨てに出来るのかしら。『呼び捨てで良い』っていう人物しかダメって言ったでしょう? まあ、博斗なら気にしてないんだろうケド」
 翠恋は呆れたようにそう言った。
 兄や姉を呼び捨てにしている人物は他にもいる。
 幽美や駆だってそうだし、呼び捨てではないにしろ明架梨だって、姉には『ちゃん』。兄には『くん』付けで呼ぶこともある。
 さすがに、翠恋を呼び捨てにする人物はいない。
 呼び捨てにした瞬間、どういう処罰が待っているか分からないからだ。
「まあいいわ。そこが本題じゃないもの。つまらない話の方に脱線していったけど……採集確認。本当に何でもするのね?」
「ああ、勿論だ! でも、犯罪とかはちょっと……」
「安心しなさい。誰が弟に犯罪なんかさせるのよ。そこまで暴君になった覚えはないんだけど」
 それもそうか。
 そこら辺はちゃんとした人で良かった。
 
 幽美は『一日一個。私の言う事を聞きなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 駆は『一日一時間勉強しなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 藍は『今日一日私の言う事を何でも聞きなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 子湖乃は『絶対にその子を守ってあげなさい』と翠恋が言うと思っていた。
 晃は『何でもいいからネタ十連発』と翠恋が言うと思っていた。
 だが、翠恋の提示した内容は、全員の予想を。俊介の考えを。青羽の想像を遥かに凌駕するものだった。

「じゃあ、俊介。あなた、このマンションから出て行きなさい」

16竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/01(日) 13:56:09 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
同じ文を二回書き込んでしまいました。
>>15は無視してください((

17:2012/07/01(日) 13:57:07 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>16
キモッ死ね。

18:2012/07/01(日) 14:00:14 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>1
シコシコうっぜーぞ
オxニー系痴態小説曝すな(笑)中二病拗らせるとこれだから。

19玄野計:2012/07/03(火) 17:40:07 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
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 中二病拗らせるとこうなるのか!!  ,/: :// o l !/ /o l.}: : : : : : :`:ヽ 、
                  /:,.-ーl { ゙-"ノノl l. ゙ ‐゙ノノ,,,_: : : : : : : : : :ヽ、
              ゝ、,,ヽ /;;;;;;;;;;リ゙‐'ー=" _゛ =、: : : : : : : :ヽ、
              /  _________`゙ `'-- ヾ_____--⌒     `-: : : : : : : :
...-''"│    ∧  .ヽ.  ________   /   ____ ---‐‐‐ーー    \: : : : :
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20玄野計:2012/07/03(火) 17:40:51 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
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 中二病拗らせんな!!  ,/: :// o l !/ /o l.}: : : : : : :`:ヽ 、
                  /:,.-ーl { ゙-"ノノl l. ゙ ‐゙ノノ,,,_: : : : : : : : : :ヽ、
              ゝ、,,ヽ /;;;;;;;;;;リ゙‐'ー=" _゛ =、: : : : : : : :ヽ、
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21玄野計:2012/07/03(火) 17:41:03 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
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 便器がしゃべった!!  ,/: :// o l !/ /o l.}: : : : : : :`:ヽ 、
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              ゝ、,,ヽ /;;;;;;;;;;リ゙‐'ー=" _゛ =、: : : : : : : :ヽ、
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22玄野計:2012/07/03(火) 17:41:27 HOST:ntfkok244208.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
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 愚男がしゃべった!!  ,/: :// o l !/ /o l.}: : : : : : :`:ヽ 、
                  /:,.-ーl { ゙-"ノノl l. ゙ ‐゙ノノ,,,_: : : : : : : : : :ヽ、
              ゝ、,,ヽ /;;;;;;;;;;リ゙‐'ー=" _゛ =、: : : : : : : :ヽ、
              /  _________`゙ `'-- ヾ_____--⌒     `-: : : : : : : :
...-''"│    ∧  .ヽ.  ________   /   ____ ---‐‐‐ーー    \: : : : :
    !   /   .ヽ  ゙,ゝ、      /  ________rー''" ̄''ー、    `、: : :
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23竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/20(金) 21:04:59 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
(青羽色葉視点)

 今、何て言ったの?
 耳を疑うような一言だった。信じられない一言だった。間違っても自分の弟に言うような一言じゃなかった。
 私はそう思う―――いや、私じゃなくてもそう思うはず。
 じゃなかったら、今ここにいる全員が驚いた表情をするわけがない。

 『家を出て行け』なんて、この人は本気で言っているの―――?

「ち、ちょっと待ってよ翠恋姉!」
 椅子から勢いよく立ち上がりながら、高崎藍さんが口を開いた。
 彼女の表情は真剣そのもので、姉に講義するような表情じゃない。
「それ本気で言ってるの!? 俊介が出て行かずとも部屋なんて余って―――」
「藍……」
 高崎翠恋さんに名前を呼ばれただけで、藍さんはびくっと肩を震わせた。
 翠恋さんは前髪をかき上げながら、藍さんを睨みつけるように見つめる。
「貴女、私と俊介の会話を何も聞いてないのね。俊介『お兄さん』でしょ? 同じ年齢だからって呼び捨てするものじゃないわよ。博斗と同じく本人は気にしてないみたいだけど、ね」
 妹に放つ言葉とは思えないほど、翠恋さんの言葉は冷たく痛かった。
 自分に直接言われてるわけでもないのに、鳥肌が立ってしまうほど、恐ろしく感じた。
「それにね、藍。部屋が余ってる余ってないの問題じゃないの。俊介は『何でもする』って言ったんだもの……文句は無いでしょう? ね、俊介」
 言いながら、翠恋さんは俊介君に視線を向けた。
 全員の視線が一気に俊介君に集中する。
 皆俊介君の返答で一番望むのは、『出て行かない』ことを示唆する言葉だって事は分かる。
 でも、俊介君は―――、

「……分かったよ。俺が出て行くことで青羽を住まわせてもらえるんだろ? だったら、出て行ってやってもいい」

 現実は、何でこうも期待を綺麗に裏切ってくれるんだろう?
 期待を裏切って。望みを断ち切って。祈りを引き裂いて。神様、そんな事をして―――私達を絶望のどん底に突き落として何が楽しいの?
 でも分かってる。
 これは神様が決めた事じゃないってことぐらい。これは、俊介君自身が決めた事だって、私でも分かる。
「へー、カッコいいじゃん俊介。普通ならアンタが上から目線になってるとこを、平手打ち一発かましてやるところだけど、その男気に免じてそれはやめておいてあげるわ」
 翠恋さんは、弟が出て行くっていうのに何でこんなにも楽しそうに話しているんだろう?
 私は、兄も姉も弟も妹もいないからよく分からない。
 でも、これだけは確実に言える。
 
「……っ、こんなの……こんなの間違ってますよっ!!」

 思い切り叫んだせいか、私の声が食堂に響き渡った。
 その声に全員の視線が私に注目したけれど、今はそんなことはどうでもいい。
 私は、私の言いたい事を言うだけだ!
 それがたとえ―――、

「貴女は、自分の弟を追い出して何が楽しいんですか! それで貴女に何のメリットがあるって言うんですか! 私を住まわせるのが嫌なら、俊介君を追い出さずともハッキリそう言えばいいじゃないですか! 貴女は姉失格です! 弟を追い出すなんて言語道断です! 私が姉なら、弟にそんな事は絶対にしない! だから、俊介君を追い出さないであげてください!!」
「……、」
 そう、たとえ―――、

「口答えするには上等。頭を下げて頼むには、ちょっと調子に乗りすぎたんじゃない?」
 
 たとえ、この悪逆非道な女の心に届かなくても!

24竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/21(土) 14:03:01 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
(第三者視点)

 青羽色葉の言葉で、食堂の空気が一気に静まり返った。
 彼女の言葉の後に、誰も何の言葉も発さない。
 それは青羽色葉への無言の賛同か。それは青羽色葉への無言の反抗か。答えは誰にも分からない。
 誰もこの沈黙を破ろうとはしない。そもそも、破れる者などいない。
 いるとしたら、それはこの場においてたった一人しかいない。
 その人物が、ごく自然に口を開いた。

「……ふーん、まあ貴女の言い分は分かったわ」

 その人物は高崎翠恋の一人しかいない。
 沈静など存在せず、沈黙など目もくれず、静寂など無かった事にする。
 高崎翠恋の圧力には、どんな沈静も、沈黙も、静寂も。無かった事になってしまう。
 圧力に、押し潰されてしまうように。
「……翠恋姉……今の意見は、俺も賛同しかねるぜ……」
 頑張って震える声で晃が呟くように意見する。
 瞬間、翠恋の瞳が冷気を宿ったように、鋭く冷たく刺すような目つきに変わる。

「―――だったら晃も出て行く? 私は構わないけど?」

「……ッ!」
 晃が全身に寒さを覚える。
 死神にじっと見つめられているように、気持ちの悪い悪寒が走った。
 そんな晃を翠恋の瞳から守るように、幽美が晃の前に立つ。翠恋から晃を守るために。
「へぇ、幽美。貴女もようやく弟を守る気になれたのね」
「そうではない。弟を守る気になった、のではなく―――貴女に反抗する気になったのだ」
 翠恋と幽美の視線が交わる。
 青羽色葉を住まわせる以前に、家族崩壊の危機を迎えようとしている今の状況に、明架梨は目に涙を浮かべ、駆は腕を組んだまま、目を閉じ壁にもたれかかる。藍は心配そうな表情で、俊介をじっと見つめている。
「……貴女は何故そこまで彼女の住居を拒む? 我らの家族がこれ以上増えることなど、当分はないだろう。部屋の一つや二つ。明け渡したところで、何の問題にもならぬ」
「それはそうね。でもね、幽美。私が言いたいのは、そんなことじゃないのよ」
「……? 貴女は一体何を考えて……」
 翠恋は幽美から視線を外し、俊介へと視線を移した。
 彼女の目は、判決を言い渡す裁判長のようにしっかりと芯が通っているように見える。

「さて、どうするの俊介。出て行くか否か。貴方が出るのなら、青羽色葉ちゃんの事は私達に任せなさい。でも、貴方が出て行かないと言うのなら、その娘の事なんか知るもんですか。元いた場所に捨ててきなさい」

 翠恋の言葉はどこまでも冷たかった。
 青羽色葉の事を、動物程度の扱いしかしていない。そんな酷い翠恋の態度に、明架梨はついに泣き出してしまい、藍に抱きつく。晃ももう我慢できないのか、前に立っている幽美の服をきゅっと握りだす。
「……たよ」
 俊介が言葉を発する。
 その言葉に翠恋は僅かな反応も示さない。
「……何? 今なんて言ったの? ハッキリ言わないと分からないでしょ?」
 俊介は軽く息を吸い込み、真っ直ぐ翠恋を見つめて言い放った。

「分かったよ。……期限はいつまでだ?」

 俊介の言葉に全員が悔しさを堪え、奥歯をぎりっと噛み締める。
 俊介の問いに、翠恋だけが無感情の言葉を投げつける。
「今日中。今から急いで荷物まとめれば間に合うわよ」
「分かった。ありがとな、翠恋姉。……お世話に、なりました……!」
 俊介は深く頭を下げ翠恋に感謝の言葉を述べる。
 それを見ずに、翠恋は欠伸をして適当に返事を打った。

 食堂から出ようとする俊介の背中を誰も止める者などいない。
 悲しげな表情をする一同の中たった一人、高崎翠恋だけは笑みを浮かべていた。

25森間 登助 ◆t5lrTPDT2E:2012/07/21(土) 23:57:15 HOST:180-042-153-145.jp.fiberbit.net
 どうも、だいぶお久しぶりです、森間でございますm(_ _)m
 この前は、自分の復帰を兼ねた新作にコメントありがとうございました。しかしながら、諸事情によって止めざるを得なくなってしまいましたが…… もし詳しく知りたければ、スレの方で確認して下さい。本当にどうしようもないですが……

 今回はそのお詫びを兼ねて、レス数が少ないものからアドバイス&コメントしていこうと思います。

 さて、今回はバトル無しの作品だと見まして、どれどれどんな感じだろうかと期待大で読んでみたのですが……済みません、お詫びを兼ねるとはいえ、こればっかりは辛口になりかねませんのであしからず。
 まずは人称設定です。一人称と三人称が平行して執筆されているって明らかにおかしいですよね。普通は三人称か一人称か悩むところを、小説におけるルール無視で書いているとしか思えません。
 だいたい、視点移動をする場合は三人称が約束されたものでしょう。一人称は視点移動があってはならないものですよ? 
 一人称とは、一人の主人公となる人物を中心においてその人物が見ている景色や感情などを書くものです。その欠点を文章力で補おうとするのではなく、別人称の文章を混ぜるなんて、まず小説ではありません。悪いですが、これはもう勉強不足としか言いようがありません。掲示板のように掲載するのであれば、少なくとも小説の常識はふまえて書いて欲しいものです。もし自己満足でしたら、ノートに書けばいい問題ですしね。

 さて、常識の常識はもうこれで良いとして、次は文章表現やストーリー辺りを少し。
 まずは冒頭の時点でキャラクターの登場が多すぎます。僕も四人目辺りから付いていけなくなりました。ただでさえ苗字がほとんど同じという特殊な設定なのですから、それに合わせてそれ相応に区別が付けられるよう努力しましょう。
 そして、キャラクターはただ多ければ良いと言うことではありません。キャラクターの立ち位置一つ一つを考慮すれば、それだけで賑やかになるはずですよ。

 三つ目は設定。流石に描写はシッカリしているなと思いましたが、設定とのバランスが取れていません。文章中の説明及び描写のバランスは出来ています。問題なのは世界観設定です。
 ……失礼、少し壮大な言い方をしましたが、要するに高崎マンションのシステムがどうなっているのか説明が一切されていないと言うことです。大体マンションに食堂があること自体謎です。少なくとも僕は知りません。
 これは結構出来ていない人が多いので分らなくはないですが、読者の気持ちになってみて頭をリセットした状態で読んでみましょう。それでも分らないのなら親しい友人などに見て貰うのも手です。僕も投稿する前には三人の友人に読んで貰っています(まあ、つい何ヶ月前のことですが)。
 また、特定の人物がそれを理解していない状況で、後々事件に巻き込まれて分って行くという類でありましたら、もう少し伏線を張るべきだと思います。

 それと、これは何回も行ってますが、擬音について。
 状況に応じた擬音があまり使いこなせていないかと思います。そのせいで雰囲気に落ち着きが無く、読者がついて行きづらい仕上がりになっています。

 また、キャラクターについても矛盾点が。
 俊介の人柄についてですが、最初にドライな性格などと記述しておいて、人情深い性格に変貌していますが……?
 主人公(?)を格好良く見せたいのは分りますが、いつもは冷たい態度→仲間のピンチには人情深い としたいならば、もっと性格や過去についての裏付けがしていなければ理解できません。この時点で、一番俊介が矛盾したキャラクターになっていますよ。
 また、女性キャラの言葉遣いやポリシーなど現時点で深い裏付けがされていないため、ただ記号で区別するだけのもののように見えます。

 とりあえず、今挙げておいたほうが良い物を厳選して書かせていただきました。
 済みませんが、三人称と一人称の区別が付いてない時点で、「ちょこっと小説かいてみようかな」と思った駆け出し作家よりも知識不足ですよ。
 言い方が先程から厳しくなって申し訳ありませんが、小説のことをもっとサイト内などで勉強したから出直してきた方が良いかと思います……
 一作も出せていないダメダメ読者&アマチュア物書きですが、ここはご容赦を。何か質問、反論等ありましたら何なりと。
 それでは。

26竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/22(日) 01:22:39 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
森間 登助さん>

いつもながら、アドバイスありがとうございます。

申し訳ありません。
そこら辺は確かに、自分の勉強不足による失態でございます。
つまり、特定の一人称から三人称に移る、という書き方は大丈夫なんでございましょうか?
もしこれも間違っていたら、申し訳ありません。
理解力に乏しいもので。

とりあえず最初にさらっと登場人物を出して、後々で個人が活躍する話を入れようと思ったのですが……。
漫画などでもよく使われている手法なのですが、まず小説ではやりにくいですかね。
注意しておきます。

それは今書いている辺りが終わったら盛り込もうと……後で書こうと思っていたことが、ここでどんどん指摘されていく……。
とりあえず、マンションのことも、食堂がある件も、今の部分が一段落してから書こうと思っています。

それですが、俊介がドライに見えるのはイベントとか、そういう人生の岐路になるような事に対してです。
そもそも、ドライなら最初で子湖乃にあんな激しく突っ込まない気が……と思うのは僕だけでしょうか?
最初の方で裏づけをするのは、若干難しいと思うのですが……。それに過去の事をかくにしても、まだキャラの情報が足りませんし、出てきていきなり過去の出来事を仄めかすのも、自分的にはそうかと思うのですが。
それも、今の部分が終わってから……ですね。

登場人物をまずさらっと紹介してから、その後に一人ずつ細かく書いていこうと思っていたのですが……その思惑が早くも破綻しそうです。

とりあえず、アドバイスありがとうございました。
出来るだけ、反映させていきたいと思います。

27竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/22(日) 01:49:50 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
これからは三人称でいきますね。
忠告が多く、申し訳ありません。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「……ぷ、くくく……」
 俊介が食堂から出ようとすると、後ろから誰かの笑い声が聞こえてくる。
 誰の笑い声かは大体察しがついている。
 こんな状況で笑みをこぼす人間。こんな状況で笑える人間。おれはこの中で、いや。この世界中を探したとしても一人しかいないだろう。

 高崎翠恋だ。

「あーはっはっはっはっはっ!!」
 彼女は堪えきれなくなったのか、くすくすとした小さく控えめな笑いから、腹を抱えるような大きな笑いへと変わった。
 そんな彼女の態度に誰もが怒りを感じた。
 色葉が、幽美が、駆が、藍が、子湖乃が、晃が、明架梨が。だが、俊介だけは仕方ないと思っていた。
 たった一人の少女を住まわせるために去っていく男の背中が、哀れに見えたから笑ったと思っていたから。
 再び足を動かそうとする俊介の耳に、今までとは違う翠恋の声が飛んでくる。
「まーったく、アンタは本当に大馬鹿ね。その面倒を通り越した性格、一体お母さんかお父さんどっちの遺伝かしら」
「……最後の最後まで、悪口言わないでくれよ……」
 明るい翠恋の声に僅かに驚きながらも、俊介は悲しげな表情で翠恋に告げた。
 しかし、翠恋は俊介の目の前まで歩み寄り、言葉を続ける。

「……本当に馬鹿ね。でも、ごめんね。ベタな悪役しか出来ないから、そんな手段でしか、アンタの本気を確かめる術が思いつかなかったから。私、かなりアンタに嫌われちゃったかも」

「……は?」
 翠恋の言葉の意味を、その場の誰もが理解できなかった。
 ただ理解できるのは、さっきまでの翠恋と明らかに違うという事だけだ。
「だーかーらー、別に出て行かなくてもいいって言ってるの。本当にその娘を住まわせたいのね……。その娘を住まわせるため、どんな理不尽な条件を出されても呑めるか。それを確かめたかったのよ」
 つまり、今までの翠恋の言葉や行動はすべて俊介の覚悟を見極めるためのものだったのだ。
 そのため、あえて悪役を演じ、あえて怒りを煽るような行動を取り、あえて理不尽な要求を差し出した。
 俊介の覚悟を見届けたから、ネタばらししたのだろう。
「……翠恋姉……。アンタ、最初からそのつもりで……」
「初めてだったのよ。アンタが家族以外の誰かのために、あんな真剣な表情するの。……いや、家族の時でもあんま見たことないな」
 翠恋は思い出したように、言葉の最後に付け足した。
 翠恋は女神のような笑みを浮かべながら、そっと俊介を抱き寄せる。俊介より背が低いため、『抱き寄せる』よりは『抱きつく』に近い形になってしまっているが。
「……アンタは私の大切な弟なのよ……。そんなアンタに、出て行けなんて言う冷たい姉だと思われてたの? そえはちょっと悲しいかな」
「……悪い……翠恋姉」
 俊介の謝罪を聞いて、翠恋は納得したような笑みを浮かべると、
「いいのよ。他の奴には私が説得させとくから安心して」
 その言葉に俊介はホッとする。
 でも、と翠恋は区切って俊介に指を差す。
「ちゃぁーんと、色葉ちゃんを幸せにすること! じゃないと本当に出て行ってもらうから!」
「し、幸せにって……結婚じゃないんだし……!」
 青羽の住居が認められ、全員がホッと一安心し、藍と子湖乃と明架梨の三人は僅かに涙を浮かべていた。
 滅多に笑みを見せない幽美と駆も堪らず笑みをこぼしていた。

「俊介くん!」

 声とほぼ同時に、青羽色葉が涙を流しながら俊介に抱きつく。
「良かった、良かったよ……!」
 涙を流す青羽に、俊介はどうしていいか分からず抱きつかれたまま慌てだす。
 とりあえず頭を撫でて、落ち着かせようと試みているが、相手は一向に泣き止もうとしない。
「……俊介くん」
「ん?」
 青羽の言葉に俊介は耳を傾ける。
 青羽は囁くように、かつ嬉しそうな声で言った。
「……幸せに、してよね」
 その言葉に俊介は大きく溜息をついて、溜め込んだものを全て吐き出すように言った。

「……だから、結婚じゃねぇって言ってんだろぉ!!」

28竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/22(日) 02:19:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第二章「青羽色葉と高崎家の住人」

 青羽色葉。
 あらゆる騒動を経て、『高崎マンション』の二階の住人となった少女。
 彼女がここに住んでからまだ一週間も立たない内に、ここに住んでから初めての休日、土曜日の朝を迎えた。
 これは、そんな青羽色葉の一日の物語―――。

(……五時半か……)
 色葉は目覚まし時計に目を通して、眠気眼をこすっている。
 もう誰か起きているのかな? と思い、皆が集まっている食堂へと足を運ぶ。
 階段を下りている途中に、食堂の方から包丁の音や、いい匂いが漂ってきた。
 それに色葉は反応し、
(え……? もう誰か起きてるの?)
 色葉が食堂を除くようにひょこっと顔を入れると、台所で食材を切ったり、鍋の中の料理をしきりに見ている人物が目に入る。
 色葉の気配に気付いたのか、その人物は振り返って、明るい声で入り口にいる色葉に声をかけた。
「おはよう、色葉姉! 休日なのに早いね」
「……子湖のちゃんこそ……。いつもこんな時間に起きてるの……?」
 高崎子湖乃。
 中学三年生の十四歳。高崎家の七女でマンション二階の住人。金髪でくりっとした瞳が特徴的な少女なのだが、『僕はきっと性別を勘違いして生まれてきたんだ!』といつしか思うようになり、ボーイッシュな服装しかしなくなった。スカートなんて、タンスに残ってるかなぁ、と首を傾げるほどである。
 見た目に寄らず面倒見がよく、家事が大得意で、高崎家の家事は彼女でほとんどまかなっている。そのため、彼女が風邪など引いた時は、全員が右往左往しているらしい。
「まーね。今日はちょっと遅めだけど、皆の分のご飯作んなきゃいけないし」
「……遅め? ちなみに、今日は何時に起きたの?」
 色葉の言葉に『えっと』と思い出そうと、人差し指を顎に当てて考え始める。

「たしか、三時半だったよ。いつもは二時起き」

 色葉から言葉が失われた。
 自分の起きた二時間前に既に起きていらっしゃった……。そんな早く起きて身体は大丈夫なのか、心配になる。
 ちなみに、彼女は毎日十時には寝ているので、休日でも睡眠時間は五時間半しかない。
「……大丈夫なの? 学校とか……」
「勿論。僕は学校では寝ないからね。いつも休日には愛莉と一緒にお昼寝するし、大丈夫だよ」
 子湖乃はにっこりと笑いながらそう返す。
 色葉は子湖乃の頭を軽く撫でてやり、ふと思った事がある。
「ねぇ、子湖乃ちゃん。高崎家の長女って翠恋さんで、四女が幽美さんだよね?」
「うん、そーだよ」
 幽美が四女だというのは、誰かに聞いたか、もしくは自分から話したのかよく分からないが知っているらしい。
 色葉は続ける。
「それで、博斗さんが次男だよね……?」
「うん。それがどうかしたの?」
 軽く返す子湖乃に、色葉は思い出したように言う。

「私、まだ高崎家の人全員に会ってない!」

「あー、気付いちゃった……?」
 子湖乃が引きつった表情を浮かべる。
 ぶっちゃけ、いるということは知っているが、姿を見てない人が何人かいる。
 彼女が今現在顔と名前が一致するのは俊介、藍、駆、幽美、子湖乃だけである。
「……今部屋にいるかな? まだ会ってない人」
「んー、どうだろ。よく分かんないから、昼になっても出てこなかったら部屋に行ってみようか」
 正直、子湖乃は色葉を他の人に合わせることは気が進まない。

 何故なら、他の人もそれなりに面倒な人間が多いからだ。

29森間 登助 ◆t5lrTPDT2E:2012/07/22(日) 17:24:25 HOST:180-042-153-139.jp.fiberbit.net
 いろいろと質問がございましたので、とりあえず回答。

 特定の一人称から三人称へ、ですか。
 正直、一人称と三人称は一緒になってはダメなものなので、これもNGですね。それらしき文章を書くのは良いですが。

 あと、キャラの出し方ですが、以前にも漫画と小説を一緒にしてはいけないと言った記憶があるのは自分の勘違いでしょうか?
 漫画は絵というビジュアル面があるからこそキャラクターを区別しやすいのであって、ビジュアルのない小説においてはこれまたNGです。

 さらに性格のことに回答していきます。
 「俊介がドライに見えるのはイベントとか、そういう人生の岐路になるような事に対してです。」とありますが、それってちゃんと前文で表せていませんよね? そうやって短く出せているなら文中にも同じように描けたと思いますが?
 ちなみに、イベントの事は書いてありますが、それを例に挙げて全体的なドライとしか書いていません。また、そういう風にしか見えません。この場合は、イベントのみドライとハッキリ記述するか、ドライだが、感情的に動くこともある……と、この二択のどちらかで書きましょう。

 裏付けが難しいというのも、まず、詳しく書こうと焦りすぎるのが良くありません。
 こんなに俊介を見知った人物がいるならば、会話文というのが効率的でしょう。そのなかで、「俊介はドライだけど、人のためなら感情燃やすよね」という会話を入れるみたいな感じでしょうか。
 また、「〜が〜という事情があって、〜のような特殊な性格になってしまった」など、三人称の地の文でもこれは書けます。
 さて、女性キャラの方ですが、「何故、十代の若者が語尾に「〜じゃ」となっているのか」「中三女子が何故男装趣味なのか」という理由がないため、人間味がないということです。普通の人間にはあり得ないため、どんな経由でこの様になったか地の文で纏められたらいいかと思いました。
 これがギャルゲー等だったらまだいいものの、小説の場合は読者にどれほど共感を訴えられるかがキーポイントになりますので、それをお忘れ無く。
 例えば、ボクっ娘が兄妹の妹だったとしたら「僕の妹は、男だらけな家庭で育ったため一人称がボクになってしまった」など。こういう書き方が出来ます。
 この様に裏付けは、一人のキャラに付き一行範囲で表せることが分りましたでしょうか?

 それでは。

30竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/27(金) 19:31:29 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
 
了解です。
とりあえず、この質問は解決しました。

いいえ、勘違いではありません。
ですから、それを踏まえて反論させてもらいます。
確かに漫画と小説の一番の違いは絵のあるなしです。ここで僕が好んで読むライトノベルの作品だと、僕のほど多くはありませんが、一気に五、六人程度出している作品だってあります。
ライトノベルばかりを参考にするのはいけない、と言われもしましたが、あなたが出す参考になる作品は、決まってライトノベルですよね?
『それはプロだから』などという意見で、この質問は済ませないでもらえますか? かつ、馬鹿な僕でも納得できるような意見でお願いします。

僕は一気に結論まで到達してしまおう、という癖があるので。
じゃないと何となく頭から抜けてしまいそうで……それならノートに書くなりなんなりすればいいんですが、生憎お金がないので。
ちなみに、幽美の話し方については、かなり分かりにくい描写ですが、最初にちゃんと書いてますよ? 『俗に言う中二病で』という文のみですが、何となく変な喋り方をする理由が掴めるんじゃないでしょうか。
手がかりが少ないのもありますが、読解力があれば何となく分かってしまうような、と思うのは僕だけでいいとして。
そもそも、『普通の人間にはありえない』と断言するほどのことでしょうか?
身近にいないだけで、実際そういうことをする人がいるから、『中二病』や『僕っ娘』などの言葉が出来てるんじゃないでしょうか?

これは多分タブーだと思うんですけど、そもそもキャラの個性に理由は必要ですか?
キャラの性格や趣向だけならともかく、喋り方にまで理由が必要でしょうか?
これもまた、例に挙げるのがライトノベルなのですが、十二、三歳の少女の一人称が『僕』であったり、論文のような喋り方なのに理由は必要ですか?
もう一つもラノベですが、高校一年生の少年が『〜だぜい』『〜ですたい』などの言葉を使う、外国人なのに日本語を話すと『〜でございますよ』や『〜たるわよ』『〜なきことなのかしら』など。
以上のものにも理由が必要でしょうか?

31:2012/07/27(金) 19:46:38 HOST:zaq7719deca.zaq.ne.jp
竜野s>>

こんばんわです。

新作の小説ですか?

何かほのぼの系小説になりそうな予感がします(p_-)

頑張ってくださいね!!!

32竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/27(金) 21:28:56 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
燐さん>

コメントありがとうございます。

たまにはバトルのようなハイスピードなものではなく、こういったゆっくりと読めるものもいいかな、と思いましてw
まだ始まったばかりで、数多くあるうちの一つの山場が終了しました。
これからも、温かい目で見てくださると嬉しいです。

33竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/27(金) 22:34:41 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 朝早く起きた色葉と子湖乃の二人は食堂で、向かい合うように座りながら話していた。
 子湖乃はコーヒーカップを傾けながら、色葉との談笑に興じている。
「……しっかし、色葉姉も物好きだよね」
 子湖乃の言葉に色葉は意味が分からないのか、首を傾げた。
 そんな仕草をする色葉に、子湖乃は説明するような口調で言葉を続けた。
「だって、うちの兄妹なんて変態変人のオンパレードだよ? そんな奴らを自分から会いたいなんて……まあ、それも全貌を知らないから言えたことなんだろうけど」
 子湖乃は僅かに表情を緩ませながら言った。
 しかしながら、子湖乃の言ったとおり全貌を知らない色葉は、すぐさま反論に転じる。
「だ、だって失礼じゃん! 家族全員に挨拶もせず勝手にお邪魔しちゃったのと同じだし……やっぱり、そういうのは非常識だと思う!」
 
 変態変人オンパレードの中での『非常識』って何だろう、と子湖乃は思う。
 
 しかしながら、ぶっちゃけていうと彼女の急な入居を反対したのは、実質的には誰もいない。
 全員公認。そういう形で彼女の入居は認められている。そもそも、俊介が翠恋と話し終わった後に『残りの奴らは私が説得しとく』とか言っていたが、翠恋がちゃんとそれを実行したかは分からない。ちゃんとしたのなら問題ないだろう。そもそも彼女の説得を応じない人間は、このマンションの中には一人もいない。状況だけなら俊介しかいないと思う。通常にいたっては、彼も翠恋を前にしたら役立たずになってしまうのだが。
「まあ、常識を言うならそうだけど……本当に良いの? ここの住人変態とか変人がいっぱい……いや、かなり多い……じゃなくて、大半が……訂正しよう。全員そんなのだよ?」
 何度も訂正した挙句、結局は全員が変態変人にされてしまった。
 しかし、色葉が思うところそんなに変態や変人が多いという印象は薄い。
 それも色葉が会った事があるのはごく少数だ。
 俊介、藍、駆、幽美、子湖乃、晃、明架梨、翠恋の七人でマンション住人が変態変人と決めつけるのはどうだろうか。

「子湖乃ちゃんて変態かな? 私はすっごく普通の女の子だと思うんだけど……」
「僕? ははっ、冗談はよしてくれよ。僕のどこが変じゃないの? 男の子の格好してるじゃないか」
「……それだけじゃ変ってことにはならないよ!」

 色葉の言葉に子湖乃は困ったような表情をする。
「……変だよ、僕は。毎朝こんな早くに起きてるし……」
「でも、それは皆のご飯のために……」
 そう言い掛けた色葉の言葉が途切れる。
 瞬間、子湖乃の表情が明日や明後日よりさらに数日先を見てるような表情に変わる。
「え、どこが? 中学から始めた事が習慣になって、今ではこの時間に起きないと気が済まない女子のどこが変じゃないんだい?」

 子湖乃口調を変えてしまった。
 何故か色葉は、感じなくてもいい罪悪感を感じ始めているようだ。だが、気持ちは何となく分かる。
 そう言った子湖乃は思い出したように、色葉にある話を持ちかける。
「そうだ。今日は折角の休みだし、マンションの人に一人ずつ自己紹介していってもらおうよ」
「いいの?」
「だって、色葉姉もよく知りたがってるし。皆嫌がらないと思うよ? でも、それなりに面倒な人がいるけど……大丈夫?」
 こくり、と色葉は大きく頷いた。

「大丈夫!」
「……そっか。なら、いいんだけど……」
 色葉の意外なほどの食いつきに、子湖乃は僅かに眉を下げた。
 それから、彼女は視線を食堂の入り口に向ける。
「さて、と……最初に来るのは、藍姉かな?」

34竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/28(土) 21:40:14 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「えーと……色葉ちゃんとは学校でも会ってるから分かると思うけど、一応自己紹介するね。高崎藍。高校一年生の十五歳。マンション三階の住人です」
 子湖乃の言ったとおり、次に食堂に入ってきた人物は高崎家の五女、高崎藍だった。
 藍は色葉と向かい合うように座り、彼女の隣には子湖乃が両手の指を絡ませながら肘をついていた。
 案外早く紹介が終わってしまったため、子湖乃は視線だけを藍に向ける。
「……藍姉、いまいち締まんないから、何か適当に言って」
「えぇっ!? 何その無茶振り!?」
 子湖乃の言葉にそう返す藍だったが、子湖乃の言葉にも納得したのか話題を探そうと考え始める。
 すると、かなりいい話題が浮かんだのか、彼女の目つきが変わる。

「好物はエビピラフですっ!」
「藍姉。それ言ってどうするつもりだったの?」

 藍はどこか自信に満ち溢れていたが、言われた色葉の表情は僅かに引きつっている。
 半分泣きそうになりながらも、藍は新たな話題を持ちかける。
「……小学校から中学までバスケやってました……。でも、高校生になってからは新聞部に入ろうと思ってます……」
 それを聞いた子湖乃はじとっとした目で、落ち込んでいる藍を見る。
「何故それを先に話題にしなかった?」
「ごめん。今同じ事思った」
 藍の言葉に色葉は『部活かぁ』と呟く。
 今まで部活をやった事がないらしく、高校からは新しい事に挑戦しようと思っている、とクラスでの自己紹介の時に言っていた。
 一回新聞部に勧めたが、文の構成が苦手らしく、すぐに断られた。
「藍姉。もっと何かないの?」
「うー、何で私ばっか……。子湖乃は? 自己紹介したの?」
「おっと、そうだった。僕がまだだったね」
 そう言うと、子湖乃は椅子から立ち上がって、薄めの胸に手を当てる。

「高崎子湖乃。十四歳の中学三年生で、六女の高崎愛莉の妹だよ。ちなみに、僕は二階に済んでる。特技は家事全般。好きなものはパイナップルと寝ること。嫌いなものは汗と虫。好きな言葉は『早寝早起き』でっす!」

 子湖乃の自己紹介もすぐに終わった。
 というか一方的に喋っただけに見えるが、椅子に座りなおした彼女はどこか満足気だ。
 色葉としても、どう返していいか分からない。
「……子湖乃も私と大差ないよ」
「うっ!」
 ぼそっと発した藍の言葉が、子湖乃の心をぐさっと突き刺す。
 改めて自己紹介の難しさを思い知らされた藍と子湖乃は、
「(……自己紹介って意外と難しいよね)」
「(……だから言ったじゃん! よく会う私達は必要ないって)」
「(……でもさぁ、色葉姉が『もう一回顔と名前を一致させておきたい』って言うもんだから)」
「(……そりゃ気持ちは分かるけど)」
 それなりに小声で話しているのは分かるのだが、時刻は未だに朝の六時半だ。テレビを突いていなければ、食堂で大きな音や声もないので、会話の内容は全て色葉に筒抜け状態になっている。
 そんなことに気付いていない二人の背後から、

「さて、貴様らは私と色葉を置いて一体何を話しておるのじゃ?」

 ビクッ!! と二人の肩が大きく揺れる。
 振り返るとそこにいたのはゴスロリ衣装に身を纏った少女、高崎幽美だ。
 五月の中旬に差し掛かっていると言うのに、彼女は暑苦しそうな衣装を身に纏っている。暑くないのだろうか。
「そうだ、幽美姉。幽美姉も色葉姉に改めて自己紹介したら?」
「……ふん」
 子湖乃の言葉に幽美は鼻で笑い、腕を組みながら言葉を返す。
「……自己紹介、か。大方貴様らがやっていい感じにスベったので、私を道連れにしようという魂胆であろう? そんなこと、貴様の顔に書いてある。それしきの事を、闇の眷属である私が見抜けぬとでも思ったか!」
 さすがに言い返せない。
 子湖乃の腹の内は全て幽美に見通されていた。

 が、自己紹介は色葉の頼み。
 子湖乃の魂胆を見抜こうが、幽美も決して避けて通れぬ道なのだ。
 彼女は色葉の正面に座らされた。

35森間 登助 ◆t5lrTPDT2E:2012/07/29(日) 09:46:01 HOST:180-042-153-139.jp.fiberbit.net
 えーと、なんだかヒートアップしてしまいそうなので、一度落ち着いて説明のし直しをしますか。

 まあ、そうですね。アマチュアなら、別に娯楽として楽しむならそこまででもいいですね。僕も理解が出来ていない馬鹿でした、済みません。
 ちなみにライトノベルで示しているのは、ライトノベルに多く触れている貴方に分りやすいように記載した結果ですので、そこはご理解いただけるようお願いします。

 説明の部分では、実際そういうところはあまり読者に委ねない方が後になって安定します。
 まあ、これ以上追求してもあれですので、これも本気でプロを目指すのならという理由で謝罪。m(_ _)m

 これは一般論ですので、申し上げますと、東京生まれの東京育ちの人間が関西弁喋るかどうかって事です。言葉にも寄りますが、補足がなかった自分の過失です。済みません。
 今回は少しやり過ぎたところがありました。申し訳ありませんでした。

36竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/07/29(日) 10:39:18 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
いえいえ、こちらも少し熱くなりすぎました。

人数を出しすぎ、と書いている途中は意外と思わないんですがね。
それも頭の中で『さらっと人物一斉に出して、後で個人個人をピックアップしていこう』という構想が出来上がっているからかもしれません。
これからはライトノベルじゃなくても構いません。
多く触れている、といっても主にアニメとか見てるだけですから^^

なるほど。
結局はすぐに結論に到達しよう、という僕の悪い癖です。それに文字数とか考えると、どうも説明がへたくそになってしまって。

そういうことですか。
今回で分かりました。幽美は次で自己紹介させますので、口調が可笑しな理由も書こうと思います。
いや、こちらも少し喧嘩越しになりました。こちらからも、謝らせていただきます。

37竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/11(土) 21:10:36 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 色葉の向かいに腕組で座っている幽美は、左右に座っている藍と子湖乃を交互に見た。
 幽美にとって、彼女達は大事な妹であり、大切な家族である。ここは姉として二人の我侭に応えてあげねばならないのだろうか、と考え出す。兄や姉は弟や妹に期待されると、ついつい良いところを見せたくなってしまう。言ってみれば、好きな子が目の前にいる男子と同じだ。あれは大抵空回りするオチだが。
 重い溜息をついた幽美はやる気の無い表情をしてから、
「……高崎家四女である高崎幽美じゃ。今年十九歳である。ちなみに、私の部屋は二階じゃ」
 幽美は自己紹介を終えると、ふぅと息を吐いて、椅子から立ち上がり、食堂から出て行こうとしたところを、

 藍と子湖乃に全力で食い止められた。

「な、何をするのじゃ……。もう良いじゃろう。私の用は済んだ!」
「……いや、済んだけどさ……もうちょっとだけ付き合ってくれない?」
 子湖乃がそう頼み込む。
 恐らく色葉は住人全員に挨拶せねば気が済まないようで、これから各個人の部屋に向かおうとしているのだ。とは言っても、簡単な人物ばかりではないこのマンションの住人どもは藍と色葉と子湖乃だけでは突破できない要素が大きい。特に、翠恋は強敵だから。
 妹の我侭に応えるべく、幽美はなし崩し的に自己紹介チームに加わった。
 幽美はまた重い溜息をつき、呟くように言う。
「……何か、数年分の我侭が放出したようじゃ……」

 とりあえず、生まれた順に部屋を回っていく事にした色葉達自己紹介チームは、長女である高崎マンションのボス、高崎翠恋がい四階へと向かっていた。とりあえず階ごとに回った方がいいんじゃない、という藍の意見もあったが、色葉が生まれた順に回りたい、と熱望したらしい。
 四人は歩きながら、特に話すこともないため、自己紹介チームを重い空気が包んでいた。
 この空気に耐えられなくなったのか、色葉が口を開く。
「……あの、何で幽美さんは独特な喋り方をしてるんですか? 年寄りっぽいというか……」
 その言葉に幽美は生き生きとした表情を見せる。
 まるで、その質問を待っていたかのような反応を幽美は見せる。
「ふっふっふっ、知りたいか青羽色葉。いいだろう、ならば教えてやる」
 なにやら幽美の周りに黒いオーラが見える(ような気がする)。
 彼女は怪しげな笑みと共に、口を開いた。

「私は、この世に生を受けてから千余年もの月日を過ごしてきた。私は人に乗り移り、転生を繰り返す事により、不老不死ともいえる肉体を―――」
「幽美姉は俗に言う中二病で、大好きなアニメの敵キャラ『アスマリン・オーゼリック』の喋り方を真似る内にこうなったのさ。ちなみに、今でも部屋に篭ってアニメを観まくってるから、どんどん中二病が悪化して、今では『自分は闇の眷属。光の眷属を滅ぼすために生まれてきたのじゃ』とか痛い言葉を言うようになったんだ」

 子湖乃に詳しく説明され、幽美は柄にもなく顔を赤くする。
「ち、違うもん! 私は闇の眷属なんだもん! 決してアスマリン様の口調を真似てるとか、そんなんじゃないもんね!」
 動転して喋り方が変わってしまっている。
 変わっている、というよりむしろこれが本来の幽美の喋り方なのだろう。実に可愛らしい喋り方だ、と色葉は思う。
 顔を赤らめながら反論する幽美を、子湖乃は落ち着くようになだめている。もうどっちが姉だか分からない。
「と、とにかくじゃ! 私は千余年の時を転生して今に至る! 文句ある!?」
 幽美はまだ顔を赤くしながら、色葉を指差しそう言う。
 色葉は表情を引きつらせながら、首を横に振ると、幽美はふんと息を吐いて歩き始める。
 そして、そうこう話していると―――、

「ついに来たね」
「……うん。やっぱ緊張するなぁ」
「姉だろうに、緊張するなよ藍」
「……ここが、翠恋さんの部屋……!」
 四人の自己紹介チームは高崎翠恋の部屋の前に立っている。
 今まさに、ラスボスとの決戦を迎えるのと同等の緊張感が、四人を包み込んでいる。

 念のために言っておくが、高崎翠恋は化け物でもなんでもない、普通の女性だ。

38竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/08/18(土) 09:26:42 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 『高崎マンション』の魔王・翠恋の部屋の前に立つ、色葉、幽美、藍、子湖乃の四人。
 誰一人として扉を開けようとも、ノックしようともしない。
 色葉をここに住まわせる時の俊介との話し合いを見ていたら、誰もが恐れるだろうことは用意に想像できる。
 そんな中、部屋の前で腕を組んでいた幽美が、隣でかなり緊張している色葉に声を掛ける。
「……色葉。お前はあの日以来、翠恋姉に会ったのか?」
「……いえ、会ってません……。俊介くんとの話し合いの『あれ』が演技だったとしても……」
 確かにそうだ、と思う。
 普段から、マンションに住んでいる自分達でさえも翠恋と話すことは少ない。ただ分かるのは『面倒な我が家の権力者』という適当な立ち位置しか把握できていなかった。
 子湖乃は扉の前に立ち、インターホンに手を伸ばしていく。
「でも、止まってられないよ。翠恋姉が怖いのは分かるけど……」
 全員が息を呑む。
 いよいよ、最初にして最大の試練を迎える時が来た。

 ピン、ポーン!! と子湖乃がそのまま指でインターホンを押す。
 彼女が寝ていたら最悪だ、と思いながら扉を開くのを待っていると……。
 おかしいな、一分くらい待っても出てこないよ。

 全員が声を揃えて『あれ?』と口にする。
「……子湖乃。鳴らした、よね……?」
「うむ。私達にも聞こえてたから、間違いはないじゃろう」
 インターホンの音は、外にいる四人にも聞こえていた。
 もしかしたら、翠恋は一度寝ると中々起きてくれない人なのかも知れない。
 藍がもう一度インターホンに手を伸ばすと、
「あ、待って藍姉!」
 そう言った子湖乃が自分のポケットへと手を伸ばす。
 取り出したのは携帯電話だ。
 子湖乃が電話を掛ける相手は決まっている。

 そう、扉の向こう側にいる―――、
 高崎翠恋だ。

39:2012/09/02(日) 17:29:51 HOST:zaq31fbcab1.zaq.ne.jp
こんにちは。

翔太さん。

元燐ですm(__)m

暇な時に見ているんですが、登場人物が多すぎて憶えられません。

ま、結構ゆったりモードで見ていくので、よろしくです。

小説の感想などは次回書きます。

40竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/09/23(日) 01:16:02 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 子湖乃は携帯電話に耳を当て相手が電話に出るのをじっと待っている。
 彼女の携帯電話は『中身は男だ!』の彼女にしては以外にもピンク色で、可愛らしい犬のストラップがつけられている。本当に彼女は『中身は男だ!』と言ってもいい人物なのだろうか。だが、そこが彼女のおかしくも矛盾している部分なのかもしれない。
 携帯電話に相手が出たのか、子湖乃は『おっ』という声を漏らす。
『もしもし?』
 電話の相手、高崎翠恋はようやく朝の七時を回ったというのに、脳も身体も完全に覚醒しきっている声だった。割と生活はしっかりしているのかもしれない、と色葉は心の中で思う。
 扉一枚を隔て、翠恋と子湖乃は電話で会話をしている。なんとシュールな光景だろう。
 子湖のはごく普通なやりとりのような口調で、
「翠恋姉。今もしかして部屋の鍵閉めてる?」
『勿論じゃない。用心しないと』
「……翠恋姉。今耳にイヤホンかヘッドホンつけてた?」
『……ごめん。今すぐ鍵開けるわ……』
 携帯電話のスピーカー機能をオンにしていたため、あの絶対的なマンションの支配者、高崎翠恋が屈する瞬間を体験できた色葉、藍、幽美の三人は驚愕に満ちた表情をしていた。
 子湖乃が携帯電話をしまうと、
「ほら、入るよ皆。鍵開いたらしいから」

 翠恋の部屋は電気がついておらず、パソコンの画面の明かりだけが部屋を照らしていた。それも一台だけではない。ノートパソコンが二台机に並べられており、巨大なモニターのような画面が四つもあった。そのせいか、パソコンの画面からの光が集中している一点だけがかなり眩しく思えた。
 色葉達はパソコン画面の前の椅子に座る翠恋の前に立ち、まず最初に彼女の謝罪を聞いた。
「えと……その、ごめんなさい。私は毎日と言っていいほど仕事が山積みで部屋から出ることは滅多にないの……。そろそろ一段落つきそうだから。仕事に集中するため、普段はヘッドホンしてるのよ」
 申し訳なさそうに謝る彼女は可愛く思えた。
 いつもの統括者のような威厳は全く無く、普通の女性として。そしてしゅんと落ち込んでいる今の彼女を見て、色葉達は全員可愛さに心を打たれていた。
「で、子湖乃。来た理由はなんなの?」
「ああ、色葉姉がマンションの住人全員の顔と名前を一致させたいんだって。だから自己紹介してあげてよ」
 なるほど、と翠恋は快諾してくれた。
 咳払いをし姿勢を正して、にっこり笑顔を浮かべながら彼女は自己紹介を始めた。

「高崎家長女の高崎翠恋。部屋はここ、一階ね。年齢は永遠の二十歳ですっ☆」

 あーあ、やっちゃったよこの人。
 そんな視線を翠恋に送る藍、幽美、子湖乃の三人。今の自己紹介はないだろう、と色葉も心で思っている。ウインクもしてくれているのだが、皮膚の筋肉がぴくぴく動いているので、無理をしてるっぽい。
 色葉は恐る恐る翠恋に訊ねる。
「あ、あのー……本当の年齢は……?」
 表情に影が差す。
 なんともいえない恐怖を孕んだ表情で、にっこりしたまま翠恋は答える。
「永遠の二十歳ですっ☆」
「あの、えーと……」
「えーえんの、二十歳です」
「……は、はい……。そのとおりでございましたね……」
 色葉が半泣きになってしまったので、翠恋の自己紹介はここで終わってしまった。

41竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/10/07(日) 21:44:35 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「うぅ……」
 泣き出してしまいそうな色葉を、両横から慰める幽美と藍。子湖乃はそんな三人の後ろを着いて歩いていっている。
 翠恋の(精神的な意味での)殺人スマイルは色葉の心を深く抉ったようだ。色葉から黒い負のオーラが立ち上っているような、子湖乃はそんな錯覚に陥った。
 ふむ、と考えるような仕草をしながら幽美は、
「やはり翠恋姉はリスクが大きかったようじゃな。私も未だ、彼女と向き合うと身が硬直してしまう。まあ、それも私が強力な魔力を封印してるからであって、私が封印を解けば翠恋姉も我が前にひれ伏すことと―――、」
「あー、もしもし翠恋姉? 今幽美姉がさぁー」
「おい、子湖乃!? 翠恋姉に電話するな!!」
 子湖乃の声で幽美は勢いよく振り返る。
 案の定、子湖乃は自身の携帯電話を耳に当てていた。幽美が止めると通話はしていなかったようで、単に幽美の中二的発言が鬱陶しかったらしい。
 何もしていなかった藍と色葉は『あー、また言ってるよコイツ』みたいに聞き流していたに違いない。
「ぬぅ……、子湖乃謀ったな!」
「騙される方もどうかと思うけど? それに幽美姉の中二発言程度、翠恋姉は歯牙にもかけないだろうね」
 そんなことないもん!! と素を丸出した幽美が叫ぶ。
 そんな光景を傍観していた藍はくすっと、思わずといった調子で軽く吹き出した。
 色葉はそんな藍に、
「どうしたの、藍ちゃん」
「ん? いや、なんかさ……」
 言い合う幽美と子湖乃。ひいては姉妹。
 藍は笑みを浮かべながら、

「今までは、幽美姉も子湖乃も。心の底から笑わなかったなーってさ。色葉ちゃんのおかげだよ!」

「私、の……?」
 きょとんとした顔で色葉は聞き返す。藍は、ただ笑って頷くだけだ。色葉も嬉しさと照れがまじり、頬を僅かに赤く染める。
 色葉と藍が友情を深め合っている横から、幽美と子湖乃の汚い言葉の応酬が耳に入ってくる。

「大体貴様は、私を姉として慕ってないだろ!」
「慕ってるよ! そんな中二病を開放するなんて逆に尊敬するよ!」
「それは敬愛でも慕情でもなんでもないだろ! 私分かるもん!」
「幽美姉に何が分かるって言うんだよ! あれか、例の冥界の王から授かった『冥帝の邪王眼(めいていのじゃおうがん)』か!!」
「使うまでもないもん! 貴様の心など手に取るように分かるわ!」
「人って成長すると怖いね。昔は『私大きくなったら駆と結婚する』とか言ってたくせに!」

「「「え?」」」

 その場の発言者の子湖乃以外が驚きを露にする。
 わなわなしながら顔を赤くしていく幽美。そして廊下の奥から、

「え?」

 男の声が聞こえる。
 そこにいたのは、絶望に打ちひしがれた許婚(仮)の、
 高崎駆だ。

42竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/10/19(金) 21:20:40 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ただ喧嘩する声が聞こえてきただけだった。
 偶然四階に用があり、その帰りに妹と姉の叫び声が聞こえるなーと思って近寄ってみると、妹の口から突然衝撃の事実が告げられたのだ。
 当然のことではあるが、彼は悪くない。
 ただ四階に用があっただけで。ただその帰りに妹と姉の言い争いが聞こえただけで。ただ何事かと近づいただけで。ただ妹から衝撃の事実が告げられただけで。
 だから、二回目になるが、彼は。
 高崎駆は悪くない。
「……」
 言ってしまった当の本人である子湖乃も『あ、ヤベ』みたいな顔をしているし、幽美は耳まで真っ赤にしているし、藍と色葉は展開が気になるようでそわそわしている。
 幽美はあわあわした様子で、
「ち、違うぞ! 駆! い、今のは、その……子湖乃の冗談で……!」
「……何だろう。胸の奥底にしまっていたパンドラの箱が開けられた」
 全員が言葉の意味が理解できないまま、駆は口を押さえだした。
 その行動も全員が理解できないまま、駆は表情を悪くして、
「……すまん、藍。ちょっとトイレに……。吐き気が……」
「そこまで!?」
 さすがの幽美も驚いたようだ。
 自分が小さい頃言ってしまった言葉は、駆をそれほどまで追い詰めるものだったのか。何だか悲しくなってくる。
 しかし、ここは都合よく現れた駆を逃がすまい、と藍と子湖乃が駆の腕を掴んで引き止める。
「まーまー、駆兄! 折角なんだし、色葉ちゃんに自己紹介していこ、ね?」
「トイレは後で行けばいいじゃん! もう一回尋ねるのも面倒だし、ここで済ましちゃお?」
 妹二人に止められ、駆は渋々応じる事にした。
 とりあえず椅子などもないので、立ったまま自己紹介する羽目になったわけだが。

「高崎家三男の高崎駆。一階の住人だ。ちなみに年は今年で十八。翠恋姉の年齢は二十七だ」

 最後の付け足しいるか、と思いながらも翠恋の年齢が分かった色葉にとっては良かったことだった。
 しかし、ここで色葉は『あれ?』と思う。
 ―――高崎駆は意外と普通なんじゃないのか、と。
 見た目はカッコいいし、頭は良いらしいし、モテそうだし。初めて普通の人に会ったような気がした。
 が、
「見た目に騙されるなよ、色葉。こいつはこんな済ました顔をしておるが変態じゃぞ」
「え?」
「そうだよ。駆兄ってば勉強が趣味とか言ってるし。暇さえあれば勉強してるもん。私達もたまに問題出されるよね」
「え、え?」
「たしか一日五時間は勉強しないとすまないんだっけ? 学校での勉強時間抜いて。朝六時に起きて七時から八時まで勉強してるもんね。頭を起こすため」
「え、え、え?」
 つまり、

「「「こいつも変態ってこと」」」

 色葉は改めて実感した。
 やっぱりこのマンションに、普通の人っていないんだぁ。と。
 その片隅で、『俺は普通だろ』と駆は呟いている。

43竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/10/27(土) 17:42:20 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 駆は自己紹介をすると自分の部屋へと戻っていった。
 どうやら『吐き気がする』は嘘だったらしい。嘘だと分かった幽美はホッと胸を撫で下ろしていた。
 続いて、色葉達が向かったのは四階にいる長男の部屋だった。
 確か次男には一回会った事があったっけ、と色葉は曖昧な記憶を呼び起こす。自分と俊介を恋人だと勘違いしたあの人だ。恋人と勘違いされたと思い出すと、ちょっとだけ色葉は恥ずかしそうな顔をした。
 その恥を隠すため色葉は藍達に質問をする。
「ねえ、長男さんってどんな人なの? 普通の人?」
 ここまで来て普通じゃなかったら違和感じゃないし、普通だったら逆に違和感を感じてしまう。
 色葉は心のどこかで『普通であること』と『普通じゃないこと』の両方を願ってしまっていた。ここで普通の人じゃなくてもそれなりの驚きは無いだろうと思ってはいる。既に今一緒にいるメンバーも裏を返せば普通じゃないのだから。
 色葉の質問に藍が僅かに考えた後に、答えを絞り出すようなざっくりとした答えを言った。
「……お父さん、かな?」
 色葉は固まってしまう。
 ここってお父さんとお母さんとかっているの? いや、そもそも長男のところに向かってるんだよね?
 意味が理解できていない色葉の耳に、次は幽美の言葉が届く。
「うむ。強ち間違いではないじゃろう。私は奴を新聞読みながらコーヒー啜ってるところしか見たことないぞ」
(お父さんだ)
「それに休日やたらと出掛けようとするよね。鈴礼や明架梨を楽しませるように遊園地とかさ」
(お父さんだ!)
「それで料理はてんでダメだよねー。玉子焼きとか焦がしちゃうしさー」
(お父さんだ!!)
 謎のお父さん長男がどんなのか色葉はより気になってしまった。
 逆にここまでいくと普通なんじゃないだろうか? しかし話しによれば翠恋の弟らしく、二七歳以下でお父さんキャラも嫌だろうなあ、と思う。
 すると、長男の部屋の前に辿り着いた。
「着いたよ。ここがお父さん……じゃないや。亮(りょう)兄の部屋だ」
 子湖乃が言いながら部屋のドアノブに手を掛ける。


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