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メルヘンに囁いて、
15
:
ねここ
◆WuiwlRRul.
:2013/01/08(火) 19:45:44
第二理科室を飛び出して、
俺の鞄らしきものを持った沙月はぐいぐいと俺を引っ張っていった。
無言で歩き続けて、やっと昇降口につく。
「沙月」
俺が口を開くと、沙月は小さく肩を震わせて俯いていた。
もしかして泣いているのだろうか、と思って少し戸惑ってしまう。
「ごめん、その……上手くやれなくて」
こう思ったのは事実。
――だけど、これ以上淡井先生を騙したくないっていうのが本音だった。
「沙月、」
もう一度名前を呼ぶと、沙月は顔を上げて言った。
「煌くんのばか」
沙月の目からは涙があふれていて、更に戸惑ってしまう。
沙月は小さい頃からよく泣いていた。
でも、その涙は自分のための涙なんかじゃなくて。
たとえば沙月の母さん――今の母さんがもう離婚したはずの元夫にしばらくストーカーされていたことがあって。
そのときに、母さんを守ってやれない自分が嫌だって、母さんのために泣いていた。
俺の元母さんは、なぜか俺のことを恨んでいて。
「お前なんか産まなきゃよかった」って散々貶されて。
でもそのときに泣いたのも、俺じゃなく沙月だったんだ。
本当は弱いくせに強がって。
他人のために涙を流して、他人を守れない自分を悔やんで。
そんな沙月を見て俺は、初めて心から守りたいと思う人ができたんだ。
他人を守ろうとしている沙月が愛おしくて、儚くて。
今にも壊れてしまいそうなこの子を、俺が守らなきゃって思ったんだ。
なのに。
今沙月を泣かせているのは俺なんだ。
「沙月、泣くなよ」
「ごめんねっ……沙月、煌くんの気持ちわかってなかったっ……」
「沙月、」
「沙月ぜんぜん優しくない……人の夢潰そうとして、最低なことばっかりしてる……」
そんな酷い提案したのは沙月じゃなく俺なのに。
沙月は今、俺の所為で泣いてる。
俺の所為で、罪悪感に押しつぶされてる。
「沙月わかんないよ……沙月は、煌くんを助けたかっただけだったのっ……」
どんなに声をかけても、沙月は黙ろうとしなかった。
「不安だった、だけでっ……」
その一言を言って、更に泣き崩れた沙月。
俺はいつの間にか、そんな沙月を抱きしめていた。
「きら、くん……?」
驚いた声を出して、沙月が大人しくなる。
「俺さ、沙月が心配してくれて嬉しかった。危ないかもって教えてくれたときも、沙月がいなきゃ俺やばかったなって思ったよ」
できるだけ笑いながら、
できるだけ沙月を安心させるように言う。
「俺があのとき迷ったのは、たしかに夢を壊そうとしてる自分が嫌になったからだけど……沙月がそんな責任感じることじゃないじゃん」
「でも、」
「だって沙月もそれに気づいたんでしょ? ならまだ大丈夫だよ。録音も、証拠写真も撮ってないし」
まだ、手遅れなんかじゃないから。
「俺たちは何も知らない、何も見てない。それでいいんじゃない?」
現実逃避になるかもしれないけど。
それでも、それが一番沙月を落ち着かせる方法だから。
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