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メルヘンに囁いて、

13ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/07(月) 20:46:06







 時が過ぎるのは早いもので、あっというまに放課後。





「煌くん、ちょっといいかな?」




 いつものように、淡井先生の誘惑タイム。
 俺は機嫌が良いふりをして、沙月の元に飛んでいきたい気持ちを抑えた。




「なんですか?」

「これ運ぶの手伝ってほしくて」





 これ、と言って淡井先生が指さしたのは今日集めた提出物の山。
 新学期だから集めるものが多くて、こんなにどっさりになったんだろう。




「わかりました、職員室でいいですか?」

「うん、あたしの机の上に置いてほしくて」

「先生の机……俺わかんないですけど」

「大丈夫! あたしもこれ持って一緒行くよっ」




 次に淡井先生がこれと言ったのは学級日誌と出席簿と、英語のプリントの山。
 ちなみに淡井先生の担当科目は英語。




「……英語のプリント多いっすね」

「そうかな? まあ、このくらい大丈夫だよっ」




 とか言いながら学級日誌と出席簿が落ちそうになっている。
 ……危なっかしい人って思わせる作戦なのかわからないけど、大人しくハマってみることにした。




「学級日誌と出席簿くらい俺が持ちますよ」

「い、いいの? 煌くんの方が持ってる量多いのに」

「先生も女なんだから、こんくらい男に任せといてください」





 こんな言葉、沙月くらいにしか使わないだろう。
 まあこれは作戦なんだから、と思い込ませ、必死に羞恥から耐える。




「……なんか煌くん、こんなこと言っちゃあれだけど頼りになるよね」

「なんすかそれ、そういうのは沢田に言ってやってください」




 犠牲になる沢田。
 学級委員の恨みだこの野郎。



 まあ沢田も鈴ちゃんとか呼ぶほど淡井先生推しらしいし、大丈夫だろ。




「えー、何で沢田くん?」

「ちょ、そこでブーイングしちゃいます?」

「だってあたし、煌くんが……」




 そこまで言って、淡井先生は言葉を止める。
 これも作戦か?
 わざとらしい女だな。




「…………あ、着きましたよ先生」




 ここは一応鈍感なふりをして、職員室に入る。




「う、うん! ありがと煌くん」




 淡井先生の席までついていき、プリントを置いた。
 ふう、と深い溜息。
 嫌とかじゃなくて、ふう疲れた、みたいなほうのね。




「あれ、先生もこっちに用あるんですか?」




 俺が職員室を出ようとすると、ついてくる淡井先生。
 これは結構本心で聞いてみた。




「うん、あたし今日特別教室の戸締りの係で」

「あ、俺やっときましょうか?」

「いいの? でも……煌くんばっかりに押しつけるのは申し訳ないし」

「じゃあ二人でいきます?」




 結構軽いノリで、ふざけるようにそう聞く。





「え、あ……うん、二人がいいな」





 淡井先生が簡単にハマった。
 意外と単純だな、とか思ってみる。




 淡井先生は、ドアのすぐ横にある特別教室の鍵を持って歩き出した。
 鍵は紐で一つにまとめられていて、じゃらじゃらと音が鳴り響く。




「俺、こんないっぱいの鍵初めて見ました」




 鍵の形はそれぞれ違い、少し興味を持ってしまう。




「ふふん、あたしも初めて見たときはびっくりしたよー」




 なぜか自慢げな淡井先生。
 こういうところはやっぱり沙月に似てる、かな。




「あれ、淡井先生っていつから教師始めたんですか?」

「うーんと、一昨年だけど教育実習生として何回かこの学校は来たことあるんだ」

「え、じゃあ教師始めたときの年齢とか若すぎないっすか」

「早く現場に出たくてっ」





 夢を語る淡井先生はどこか楽しげでキラキラしてて――




 俺は、証拠写真を撮って校長に突き出して、
 この人の長年の夢をぶち壊そうとしてるんだと思うと、胸が痛くなってきた。






 今になって迷いが見え始める。






 なあ、沙月。
 俺、どうしたらいい?


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