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不思議少女×メルヘン世界

1ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/03(月) 18:58:06





 お久し振りです!
 ねここですどうも(・ω・`)


 新作予定……ではあるのですが、ある程度話が定まったら小説掲示板の方に移転していきたいと思います!


 不思議少女×メルヘン世界という如何にも謎すぎるタイトルですが
 実は普通の男子高校生の日常だったりします、てへっ←
 キモいとかいう苦情は受けつけませんがここらへんで小説の紹介にいきます。


 不思議少女は小説を読んでいくうちにわかると思います!
 ヒロイン的な女の子です(笑)
 そしてメルヘン世界は不思議少女の描くメルヘンな世界みたいな、そういうのを表現していますー!



 文才ぜろに等しいのですが
 まあ必死にがんばってますので←
 よければ読んでやってくださいです!

2ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/03(月) 18:59:36





「きらくんだいすきー!」



「きらくんあそぼ!」



「きらくんありがと!」



「きらくん、りののそばからはなれないでね」




 「きらくん、きらくん」って、いつも俺の後ろを追いかけて笑ってた子。
 小さいころの俺が、それでも本気で愛した子。



 君は今、何処で何をしているのかな。




 逢いたいよ、里乃――――



     ×



 懐かしい夢を見た。
 朝から嫌な気分だと小さく溜息を吐き新品の制服に腕を通すと、また憂鬱な気持ちが増す。


 俺の父さんの転勤で、俺が六歳の頃から東京に十年間ほど住んでいた。
 今やっと生まれ育った場所へ戻れたわけだけど――



 俺が愛したたった一人の女に会えるなんて、今更思ってない。



 会ったとしても忘れられてるだろうし、何より今までみたいな親しい関係には戻れないだろう。



 憂鬱の一言じゃ表せないほどの気分になった俺は、早々と朝ご飯を済ませ家を出た。



 新しい高校生活が始まる。



     ×



 俺が通うのは北桜高校という男女共学の高校。
 頭が悪いやつでもそれなりに勉強すれば入れそうな高校で、部活は文化系から運動系と数広くあるらしい。

 まあ、俺がこの高校を選んだ理由は家に近かったからってだけなんだけど。


 俺は一応新学期からの入学だから、転校生だとしてもそんな特別な扱いは受けない。
 指定された制服を着て、みんなと同じようにクラスが発表されている紙を見るし普通の高校生と何も変わらない。



 ただ一つ欠点があるとすれば、地元の友達が誰一人いないってことだけど。
 でも俺自身一人は嫌いではないから、東京のような都会と違って静かにのんびり暮らせる環境の此処も嫌いじゃなかった。


 自然が溢れた綺麗すぎる環境、というのもあまり好きではないけど。




 汚れた存在の俺が、その環境までもを汚してしまいそうな気がして。





 ――学校の門が開いた。
 あまりに早く来すぎて、生徒用の門はまだ開いていなかった。
 やっとかと思い中に入ると、少し道に迷いながらもクラス発表の紙が張り出された昇降口を見つける。


 俺は――――1年3組だ。
 矢野煌(やのきら)、だから出席番号は最後の方。今年は31番だ。



 人がいないからちょっと戸惑ったものの、とりあえず自分の出席番号の下駄箱に外靴をいれて教室に向かった。

3ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/03(月) 19:35:29






 教室につくと、今の二年生や先生たちが掃除したであろう綺麗な黒板に席順が書いてある紙が貼ってあった。
 どうやら出席番号順ではないようだ。
 適当にシャッフルしました感が溢れ出ている。


 俺の前の席は及川翔吾(おいかわしょうご)という男子で、後ろは……いない。
 右隣は女子の列になっていて、隣は逢沢里乃(あいざわりの)――――




 里乃……?




 まさか。
 同姓同名なだけできっとあの里乃ではないだろう。


 そう自分を納得させながらも、心の何処かでまた会えるかもしれないと期待している自分がいた。馬鹿馬鹿しい。




 とにかく席の把握に戻ろう。


 位置は窓際の一番後ろ。
 いい感じに寝れそうな席で、前は及川翔吾で右隣は逢沢里乃。
 ちなみに逢沢里乃の前は日花悠乃(ひばなゆの)。



 ……まあ、なかなか良い感じのクラスだろう。
 名前だけしか見てないけど。



 慣れない土地での生活、といっても過言ではないけど、俺らしく高校生活も頑張ろう。



     ×



 最初に教室に入ったのは俺で、その十分後くらいにやっと二人目が来た。
 なんとなくいじられキャラっぽい顔した男子で、六列ある中の右から三列目の一番前――つまり教卓に一番近い席に座っていた。
 哀れそうな雰囲気に思わず吹き出す。



「ぶっ……お前哀れだな」
「ちょ、おま! 俺が今嘆き叫びたいの我慢してたのにー!」
「嘆き叫ぶって何だし、意味わかんねー」
「……まあいいや、君名前なんて言うのー?」



 人懐っこいやつ。
 嫌いじゃない、てかなんとなく可愛い。



「人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀というものじゃないのか」



 ふざけて堅苦しいことを言ってみると、哀れくんは余計に哀れそうな表情をしていった。



「う、ごめん……俺乃崎哀斗(のざきあいと)。君は?」
「いやそんな謝られると思わなかったわ、冗談だよ。俺は矢野煌。よろしくな」



 矢野煌って、四文字しかなくて語呂が悪いから嫌いだ。
 それにきらってなんだよ、いまどきのキラキラ系男子かよ糞。



「きら?! きらって読むの?! 名前?!」
「うっせーな、そうだよ」


 哀斗のノリは嫌いじゃない。てかむしろ好き。
 楽しくて良い感じ。
 ただ名前には深く触れないでほしい。



「すご! かっこいー!」
「は? どこが? なんか女みてーでキラキラしてて嫌」
「えー、そうかなっ。それだったら俺なんか哀斗だよ。哀れの哀に斗だよ!!!」



 まあ、哀斗の哀って漢字は可哀想かもな。



 ――――そんな雑談をしていたら、やっともう一人、今度は女子が来た。
 俺たちの会話は自然と中断され、女子が気まずそうに俺側の席に近づく。



 ……と思ったら、この子は噂の日花悠乃さんじゃないか。



「ひばな、さん?」



 好奇心旺盛な俺がさり気なく声をかけてみると、日花さんは吃驚した表情で返事した。



「はいっ?」
「あー、ごめん急に。席近いからさ、よろしく」
「いえいえ! こちらこそよろしく……って君もしかして煌くん?!」



 なにそれ、日花さん俺の名前知ってるの?



「や、まあはい……矢野だけど」
「あのあの! 里乃の幼馴染のっ?!」



 幼馴染、なのかな。
 どう表現していいのかわからなくて、曖昧だけど軽く説明してみた。



「六歳で引っ越したけど、それまで里乃とは仲良かったかな」
「……多分君のこと、かも」
「え、なにそれ」
「まあそれはね、全員そろってからのお楽しみだよー」
「はあ……?」



 よくわからない。
 けど、この女子が里乃と仲良さそうなのは確かだ。


 とにかく俺は、日花さんの話の内容がわかるまで大人しく全員クラスメイトがそろうのを待つことにした。

4ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/04(火) 16:14:07






 俺が学校に来てから四十分ほど経とうとした頃、クラスメイトのほぼ大半が教室に集まってきた。
 俺は日花さんや哀斗と話していたけど、一向に逢沢里乃と及川翔吾が来る気配はなかった。



「日花さんと哀斗ってどこ中出身?」



 俺が何気なく聞くと、二人はにこにこ笑って言った。



「あたしは北中! てか日花か悠乃でいーよ」
「俺は南中ー!」



 じゃあ二人は中学バラバラなんだ。
 俺は日花さんの名前を頭の中で日花に切り替えてから言った。



「なのに二人仲良くね?」



 俺がつぶやくと、二人は声をそろえて言った。



「煌のお陰だろ!」「煌くんのお陰だよー!」




 まあ……俺は社交的とは言われるけど、実際心開いた人は数少ないし。
 こんなにフレンドリーに話してるけど俺だって警戒心とかあるし、緊張することだってある。
 だから、ほんの少し距離を置いて相手と接してるんだ。




 それからも他愛ない会話をしているうちに、チャイムが鳴ってみんなが席につき始めた。
 俺と日花と哀斗も空気を読んで席についてみたけど、逢沢里乃と及川翔吾はまだ来ていなかった。


 初日の入学式から遅刻か?、と思った瞬間――――




「わーっ、遅刻遅刻! 遅れてごめんなさいっ」
「遅れてすんません! あーもう、里乃が遠回りなんかするからっ!」



 吃驚するくらいの美少女とイケメンな二人組が、すごい勢いでドアを開けて入ってきた。


 そして何の迷いもなく席順の紙を見てこっちに向かってくる。
 どうやらこの美少女とイケメンが、俺の隣と前の席のやつららしい。


 美少女は席に座った途端、俺のことをじーっと見てきた。




「……な、なんすか」
「……もしかして煌くん?」




 思わず固まってしまった。


 だってこんな綺麗で可愛い美少女は俺の知り合いにいないって思いこんじゃってたから。
 逢沢里乃の顔を見た瞬間、俺が探してた里乃じゃないと思ったのに。



「り、の……?」
「きらくん……って、あのきらくん、だよね?」



 俺を見るなり里乃は涙目になってしまった。



「里乃、ずっと待ってたんだよ」




 待たせてごめん。
 心の中で小さくつぶやいてから、美少女に変身したそれでも中身は変わらない里乃に、何故かドキドキしていた。



「とりあえず里乃、座って」



 俺が思わず黙り込んでいると、さっきまで里乃の隣にいた及川翔吾が小さな声で言った。
 目に浮かぶ涙をごしごし拭いてから、そそくさと椅子を引いて座った。



「ん、まあ感動の再会おめでとう。てことで入学式の準備すっぞー」



 ちょっとチャラそうな先生がにこっと笑ってみんなの服装をチェックしだした。
 



「女子ー、スカートは膝上30cmで!」
「お前が女子の太腿見たいだけじゃねえか!」



 先生がふざけて言ったのに対し哀斗がさり気なく突っ込むと、教室には笑い声と和んだ空気が漂った。




 これから入学式だ。

5ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/04(火) 17:11:58





「はあ……」



 深い溜息を吐いた。
 ――のは、俺だけじゃないみたいだ。


 堅苦しい入学式を終え、ほんの数十分だったもののどっと疲れが溜まった。


 教室に戻った瞬間、みんな椅子にもたれかかって深い溜息っていう謎の一体感。
 でも里乃と及川翔吾は元気だった。



「翔ちゃん〜、疲れた」
「いやいや我慢しろよー」
「だってあんなに走ったんだよ!」
「それは里乃の所為だろ」
「里乃が行かなかったら翔ちゃん寝坊で遅刻してたよ」
「あーあーきこえなーい」



 ……仲良いんだな、二人。
 どんな関係なのか少し詳しく知りたくなった。


 俺が席に座って二人をちらちら見ていると、里乃がにこにこしながら傍に寄ってきた。



「煌くん! 久し振りっ」
「久し振りだなー、可愛すぎて気づかなかった」



 ふざけて笑ってみせると、里乃は途端にぽっと顔を赤くさせた。



「えちょ、そこ赤くなる?」
「不意打ちなんてずるいよ煌くん! さては煌くん小悪魔系男子狙ってるだろ!」
「ちょっと待て里乃、久し振りに会ってすこーし頭おかしくなったのかな?」
「てへっ」
「いやてへっじゃねーよ可愛いけど」



 ――楽しい。
 久し振りの里乃との会話がこんなに弾むと思ってもいなかった。



「あっ、紹介するね! これは翔ちゃんだよ〜」
「これってなんだよ」
「ごめんね、この人は翔ちゃんだよ!」



 翔ちゃんって呼んでるんだ。
 美男美女でお似合いだなあとか、羨ましいのと同時に皮肉めいた気持ちになってしまった。
 馬鹿な俺。



「翔ちゃんはね、煌くんが引っ越したあとに迷子になった里乃を保護してくれたんだよ〜」
「あ、じゃあ幼馴染みたいな感じの?」
「うん、そうかも」



 やばい、俺の心嫉妬で溢れてる。
 俺がいない間に里乃を守ってくれてたやつがいたって思うとすっごいもやもやする。



「翔ちゃんにも紹介するね! 噂の煌くんだよっ」
「この人が煌くんかー! ……やべ、イケメンやん」
「でしょ! 里乃の大事な人だよ」



 イケメンとか、イケメン翔吾くんに言われたくないんですけど。
 この人がいうともう嫌味にしかならない。


 でも何より、里乃に大事な人と言われたのが嬉しかった。
 幼馴染じゃないなら俺はなんなんだろうって思ったら、大事な人か。




 やべえ、嬉しい。




「じゃあ、翔ちゃんくん。よろしく」
「翔ちゃんくんって何やねん、翔ちゃんでいーよ」
「いいの? 俺は好きに呼んで」
「じゃあキラキラ星で」
「殺されたいか」
「うそ、じょーだん。煌って呼ぶ」



 なんだ、翔ちゃん良い人。


 イケメンで背高くて性格も良くて面白いとか、なにこれ最強。
 



「はい席につけー」



 チャラチャラ先生の声で雑談は終了したが、なんだかうまくいきそうな予感。




 ちなみにこのチャラい先生が担任だなんてそんなことは認めない。
 だって里乃が本当に膝上30cmスカートで入学式に挑もうとしたから。



 純粋な女の子を誘惑するのはいけないと思います。

6ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/05(水) 15:34:45






「俺は数学教師の滝沢幸喜(たきざわこうき)! よろしくなー」



 幸せの幸に喜ぶの喜とか。
 どんだけハッピーなことに浮かれてる先生なんだろ。


 まあ、優しくて面白そうだし、イケメンなのは気に食わないけど良しとしよう。



「じゃあ出席番号順に自己紹介しようか」



 はーい、と高校生らしくない元気な返事をする女子生徒(主に滝沢先生に惚れたやつら)。



「じゃあ一番、逢沢里乃!」



 里乃はあわてて椅子から立ち上がり、パタパタと駆け足で教卓の前に立った。
 可愛らしく微笑んでから、自分の紹介を始める里乃。



「逢沢里乃ですっ、好きなものは甘いものです」



 甘いものと聞いて、小さい頃に里乃がチョコを食べすぎてお腹を壊していたのを思い出した。
 小さい頃から大の甘党で甘いものが大好きすぎた里乃。
 今も変わらないんだな。



「逢沢は美少女だなあ」



 糞滝(滝沢先生)がニタニタ笑いながら言った。
 こいつ、いつか殺す。



 里乃はまたぽっと顔赤くさせちゃうんだろうなあ、と思ったら。
 意外にも、里乃は糞滝を無視して席についた。



「里乃、滝沢苦手なの?」



 そそくさと席に戻った里乃にそう聞くと、里乃は笑って言った。



「そんなことないよ」




 ――――その笑顔が偽物だってことくらい、俺にもわかるのに。
 悔しいけど、後で翔ちゃんに聞いてみよう。




 そんなことを考えていたらもう翔ちゃんの自己紹介の時間になっていた。




「及川翔吾です! スポーツ全般好きです、よろしくお願いします!」



 爽やかイケメンだな〜。
 それに加えてスポーツもできるとか、女子にモテるためだけに生まれてきたようなもんだよな。



 その後。



「日花悠乃ですっ、吹奏楽部に入るつもりです! よろしくお願いしますっ」
「乃崎哀斗だよ! えっと、その……仲良くしてくだしゃ、違うっ、仲良くしてくださ、……さい!」



 それぞれ個性的な自己紹介を終え、ついに俺の番が回ってきた。



「矢野煌です。東京から引っ越してきたんでこっちでの知り合いは少ないんですけど、良かったら声かけてください」



 なんて無愛想。
 なんて適当。


 そしてなんて大きな里乃と哀斗と翔ちゃんと悠乃の拍手。


 四人は俺を羞恥の気持ちでいっぱいにさせる天才かコラ。
 そんな幼稚園児みたいな拍手されたら顔も赤くなるわ。



「あはは、煌くんかわいー」



 里乃に言われたくねえよ。



 こうして、無駄に盛り上がった自己紹介が終わった。

7ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/05(水) 15:57:38





「じゃあ適当に学級委員決めっぞー」



 お前の適当は本当に適当すぎるよ。
 何勝手にあみだくじで決めようとしてんだよ。

 ――というツッコミは心の中にしまい、哀斗がにこっと笑ってつっこんだ。



「糞滝先生、推薦か立候補にしましょう」



 ただのいじられキャラかと思ってたけど、糞滝にはかなり強気だ。
 まあ仕返しされたらとことんペコペコ謝るようなキャラになるんだろうけど。



「はーい、じゃあ立候補しまーす」



 それ穿いてる意味あんの、ってくらい短くしたスカートを穿き髪を金色に近い茶色に染めた、いかにも不良な女子生徒が手を挙げた。



「はい、えーと……奈央(なお)!」



 糞滝が名簿を見て女子生徒の名前を呼ぶ。
 女子生徒はニヤリと不敵に笑った。



「女子の学級委員は逢沢さんが適任だと思いまーす」



 この女子生徒、絶対里乃のこと嫌いだな。
 適任とか、適当に任せるの略で言ってるだろ。



「あ〜、あたしも賛成ー!」
「あたしもー!」



 女子生徒から、次々に賛同の声があがった。
 もしかして里乃、あの不良女子の奈央って人以外の女子生徒にも嫌われてる……?



 ダメだ。
 離れていた十年間、俺の知らないところで里乃にたくさんありすぎている。



 これを機に――
 そう思って、俺はそっと手を挙げた。



「じゃあ俺、男子の学級委員やります」
「おお! キラキラ星くんやってくれるのか」
「糞滝先生殺しますよ?」
「……ごめんね矢野煌くん」



 糞滝は本当に糞だと思う。
 そしてついでに何でフルネームで呼んだんだろう。


 そんなことを考えていると、里乃はにこにこ笑って言った。



「煌くんがやるなら里乃もやります」



 悔しそうな女子生徒の表情。
 里乃が何気にドヤ顔をしていて可愛かったのは言うまでもない。




     ×



「はい、今日はこれにて解散!」



 糞滝先生の意味のわからない言葉を合図に、学級委員である俺が高校生活初めての号令をかけた。



「起立、礼」



 二、三年生はこれから部活があるらしいけど、俺たち一年はまだ部活が決まっていないから暇だ。
 よっぽど急いでいるやつら以外は、ゆっくりと教室に残っていた。



 もちろん、俺もその一人だ。



「里乃ってまだ家変わってない?」



 さり気なく里乃に話しかけると、里乃はにこにこ笑った。



「うん、変わってないよ〜」
「俺、また里乃の隣の家に引っ越してきたから! よろしくなー」
「そうなの?! じゃあ煌くんもいっしょに学校行こうよ!」



 煌くん「も」ってところがちょっと気に入らなかったけど、どうせもう一人は翔ちゃんだろうからいいや。



「翔ちゃんー、俺もいっしょに登校してい?」
「ああ、いいよー! てか煌、これから俺の家寄ってかね?」
「え、いいの?」
「だってお前、俺に聞きたいことたくさんあるだろ?」



 イケメンで性格良くておもしろくてスポーツもできる翔ちゃんは勘も鋭いってか。
 おまけに友達思いとか最強ですね。



「えー! 里乃も翔ちゃんの家行くー! 煌くんと遊ぶー!」
「里乃はだーめ、家に帰って勉強してなさい」
「むう」



 不満気な里乃の雰囲気を察したのか、日花が笑いながら寄ってきた。



「じゃあ里乃、今日はあたしと遊ぼ!」
「うん!」



 あらま。
 思った以上に早いな。



「じゃあ俺も煌くんと翔ちゃんと遊びたい!」



 もともと翔ちゃんとも仲が良かったのか、哀斗は挙手して言った。



 ということで。
 今日は俺×翔ちゃん×哀斗で遊びます。

8ねここ ◆WuiwlRRul.:2012/12/06(木) 16:26:06





「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「おっじゃまー」



 家には誰もいないとかいいながらちゃっかり挨拶する翔ちゃん。
 それにつられて挨拶する俺。
 馴れ馴れしい哀斗。



「俺の部屋は此処ね」



 二階への階段をのぼってすぐの部屋のドアを開け、翔ちゃんが微笑んだ。
 何この子イケメンすぎて笑える。



「せっかくだからジュースかお茶か出したいところなんだけど……」
「うん、そんな気遣わなくていいからいろいろ教えて」
「だよな」



 翔ちゃんは本当にイケメン。
 どのくらいイケメンかっていうといけって打つともう予測でイケメンって出てきちゃうくらいたくさんイケメンを連呼したくなるくらいイケメン。



「俺と里乃が出会ったのは小学一年生の入学式が終わったあとで、帰り道泣きながら人を探してる里乃に俺がバッタリ出会った感じ、かな」
「人を探してる?」
「ああ、それは煌のこと。きらくんきらくんって言いながら泣いてた」



 俺は引っ越すとき、実は里乃に何も言わずにいなくなってしまったんだ。
 でもその後きちんと手紙を書いて里乃に送った。
 「毎日手紙書くね」って引っ越してから初めて電話したときに言われて、本当に里乃は毎日のことを手紙に書いて一週間に一度送ってくれていた。



 里乃の大事な人は、本当に俺なんだなってすごく嬉しくなった。



「里乃さ、俺が言っちゃあれかもだけど可愛いだろ?」
「ああ、俺も可愛すぎて最初里乃だってわかんなかったし」
「そうなんだよ。それに自分のこと名前で呼ぶところとか、ぶりっ子してるって女子に思われて中二の時くらいから嫌われはじめたんだよ」



 里乃が嫌われていたのはその所為か。


 里乃は日花と元々友達っぽいから北中出身だよなきっと。
 哀斗は南中って言ってたけど、でも翔ちゃんと仲良いのは何でだろう。



「翔ちゃん出身どこ中?」
「え? あー……中二までは北中で里乃のこと見てやれてたんだけど、中三と同時に引っ越して南中に行ったんだよ」



 そっか。
 だから翔ちゃんはそんなに友達が多いのか(白目)。



「翔ちゃんはさ……里乃を好きになったりとかしなかったの?」
「正直好きなのかなって思ったときもあったかな」



 やっぱそうだよな。
 表情を曇らせる翔ちゃんの話を俺は静かに聞いた。



「でも、たまたま里乃が告白されてるところ見たときに、「ずっと待ってる大事な人がいるから付き合えないです」って振ってるの見てさ」




 呆然としてしまった。
 哀斗は顔を真っ赤にさせて俺を見てくる。
 翔ちゃんは、にこりと微笑んで言った。



「だからさ、里乃に片思いするやつらには「きらくん」っていう謎の強敵がいて勝ち目がなかったんだよ」



 俺がいない間、里乃との心の距離がぐんと離れていた気がした。
 でも、離れてたのは俺の方じゃん。
 里乃はずっと俺を待っててくれたじゃんか。



「よしっ、じゃあ今から行くか!」



 すくっと翔ちゃんが立ち上がり、哀斗もわーいと喜んだ素振りを見せた。



「え? 行くってどこに?」



 不思議そうに聞く俺に、翔ちゃんは必殺イケメンスマイルを繰り出した。



「悠乃の家! きっと里乃もいるだろうし」
「うへへ、女の子の家〜」
「哀斗はとりあえず帰ろっか」
「え、やだ!」



 和んだ雰囲気を出す二人だけど、俺は思考停止していた。



 今から行くのかよ。
 え、待って俺なんか今になって緊張してきた。



「煌、行かねえの?」



 意地悪そうな笑みを見せて聞く翔ちゃん(かっこいい)。
 「だったら俺が里乃にキスしちゃうけど〜」とかふざけたことを言いながら階段をおりはじめてしまった。



「ちょ、翔ちゃん腹黒い! 俺も行くわ」



 楽しそうに後ろを振り返っている翔ちゃんと哀斗の後を走るように追いかけた。



 日花の家に向かいます。

9ねここ ◆WuiwlRRul.:2013/01/07(月) 21:09:13







「ふう、ここで最後だね」





 教室に入って戸締りの確認をして、鍵を閉める。
 この作業を繰り返してずっとやってきた。




 職員室は一階にあって、一度三階まで登りきってから
 音楽室、家庭室、視聴覚室、金工室、木工室、第一理科室、調理室、第二理科室の順で鍵を閉めていく。




 そして今はちょうど、第二理科室の鍵を閉め終わったところだった。




「煌くん?」




 ぼーっとしていると、淡井先生が名前を呼んできた。
 俺らしくもなく、あわてて淡井先生の方を向く。





「なんですか?」

「なんかぼーっとしてたね、煌くんっぽくない」

「……そうですか?」

「うん……何かあったの?」

「……特に何も」





 理科室の机にもたれかかっていると、
 淡井先生が一歩一歩確実に歩み寄ってきてるのがわかった。






 そろそろだ。






 そう察知して、考えることはできたのに。
 携帯をこそっと取り出して録音するとか、写真の準備とかそういうことをする予定だったのに。






 楽しげに、キラキラとした瞳で夢を語る淡井先生の顔が思い浮かんで、なかなか動けなかった。






「ねえ、煌くん……あたし、」






 そっと、淡井先生の指が俺の頬に触れる。
 ぐい、と少し強引に机の上に押し倒された。








「あたしね、煌くんのこと好きになっちゃったみたい……」







 俺って馬鹿だ。
 ちょっとした感情の迷いに、こんなに優柔不断になるなんて。






 俺は黙り込んで、ただじっと淡井先生の顔を思い浮かべた。







 淡井先生の顔が近づく。
 キスされるんだって思って、でも今更逃げることもできなかった。






 唇が重なり合いそうになったその瞬間。








「煌くん!!!」







 沙月の声。




 ピタリと、淡井先生の体が止まった。





「煌くんのばか!! 煌くんは優しすぎなんだばか!!!」





 沙月の言葉に目が覚める。
 けどなぜか、淡井先生の夢を壊す気にはなれなくて。





「淡井先生」

「な、なあに?」




 動揺しまくりの淡井先生に作り笑顔を浮かべて言った。





「また明日」

「え、ええ……その、今のこと」

「わかってます……でも俺、」

「いいの! 言わないで……でもあたしの気持ちは変わらないし、今まで通りよろしくね!」




 良い人のふりを突き通したまま、沙月の元に駆け寄った。


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