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仮投下スレpart2
1
:
ネコミミの名無しさん
:2008/04/12(土) 21:27:39 ID:UaSBv.dg0
OP案、その他何らかの事情で本スレ投下の前に作品を出しておくためのスレです。
前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9783/1189603404/
762
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:58:16 ID:bQZRqflE0
この事実を知ったゆたかは、実験参加者たちが出演している作品を片っ端から集めるという行動に出た。
レンタルで大体済ませられるっていうのに、ゆたかは強情にも買い揃えると言い出し、そのためにバイトを始めたりもしたっけ。
一番最初に手に入れたのが、「宇宙の騎士テッカマンブレード」という作品。
私とゆたかにとっても縁深い人物……Dボゥイが主役を張っていたアニメだ。
内容はとても女子高生が見るようなものとは思えなかったけれど、ゆたかと私は食い入るように全49話を視聴した。
実験場では知ることができなかった、Dボゥイが抱えている確執と苦悩……それらを視聴者という立場で改めて知り、複雑な気持ちに襲われもした。
二人で一緒に「劇場版 天元突破グレンラガン」を見に行ったときなんて、ゆたかが感動で泣き出しちゃったりもした。
それにはアンチ=スパイラルも登場していて、壮絶な最期を遂げたりもしたのだが……本人は今頃どこでなにをしているのやら。
それは生き残ったみんなにも言えることだった。皆が元の世界に無事帰れたと仮定するなら、
ルルーシュやギルガメッシュはもうこの世にはいないのかもしれないし、違った歴史を歩んでいる可能性とてあり得る。
……こういうのを考えるのは苦手だからやめておこう。SFって、難しくてよくわかんないんだもの。
ゆたかのコレクションは、今日買った「カウボーイビバップ」、スパイクの出演作で、全作品コンプリートとなる。
さすがに、私やゆたかが登場しているアニメ作品は発見できなかったけれど……他の世界では、もしかしたら私たちもアニメキャラクターを演じているのかもしれない。
そんな感じで。
私たち二人はそれぞれの道を歩み出し、ゆたかはもうそろそろ高校を卒業するのだが……ああ、そういえば。
この世界にやって来たのは、私とゆたかだけじゃなかった。
もう一人の帰還者についても、ここで話しておこうと思う。
なんの縁か、こんなところにまでついてきてくれた彼――インテリジェント・デバイス、ストラーダについて。
◇ ◇ ◇
763
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:58:54 ID:bQZRqflE0
『どうやら、この地における私の役目は取り上げられてしまったようです。そこで、お二人に最初で最後のお願いをしたい』
帰還してしばらくの間は寡黙を貫き通していたストラーダが、不意にそんなことを言い出した。
クロスミラージュに問いかけていた勇ましい口ぶりとは違う、懇切丁寧な態度で、舞衣とゆたかに乞う。
『私という存在、そしてあなた方が彼の地から持ち出したいくつかの物品。それらは等しく、ここではオーバーテクノロジーと成り得るものです。
行き過ぎた技術は、文明の崩壊を招きかねない。いや、これは言いすぎだとは思いますが……どちらにせよ、もう私の役目は終わったのです』
ストラーダの要望により、舞衣とゆたかは誰もが寝静まる深夜、人気のない山奥へと足を運んだ。
当然それにはストラーダも同行し、二人の肩には感触の懐かしいデイパックが提げられてもいた。
『この虚構のような世界に関しても、ここに誘われたあなたたち二人に関しても、思うところはあります。
彼の地で螺旋力覚醒の第一号となった小早川ゆたか。螺旋力とは異なる想いの力で天元を目指して見せた鴇羽舞衣。
あなたたち二人はヴィラルほどではないとはいえ、アンチ=スパイラルにとっては絶好の観察対象なのかもしれません。
私も含め、鳥かごに閉じ込めておくには最適な組み合わせでもあるのでしょう。だからといって、それを甘んじて許す必要もない』
適当な場所に辿り着くまで、ストラーダは二人と言葉を交わし続けた。
デバイスとして、仮のマスターとして、双方とも大した間柄は築けなかったが、共有している〝想い出〟は移り変わるものではない。
そして、深い山中に足を踏み込んだとき、ストラーダがまた唐突に願う。
『私をこのまま土中深くに埋めていただきたいのです』
舞衣とゆたかは、さすがに承諾することができなかった。
相手はAIを持った程度の機械にすぎない、とはいえ、舞衣やゆたかの価値観から言わせれば、人間の命と重さはなんら変わりなかった。
ストラーダという確かにそこに在る存在に対して、所持者という肩書きを持ち合わせた二人は、選択を――。
「だめ。許さない」
――迫られ、ゆたかは即座に答えを選び取った。
平時の和やかな印象とは違う、あの壮絶なる螺旋の鉄火場を生き抜いた、戦士としての顔を毅然と向ける。
この反応を予想していなかったらしいストラーダは、表情を持たぬ槍の身に、驚きの様相を纏う。
「私は、いろんな人に守られて、今ここにいるの。フリードが私を庇ってくれたとき、強く、思ったから。
……生きていかなきゃ、いけないって。この命を守ってくれたみんなのためにも、精一杯、生きなきゃいけないから」
涙ぐんだ表情で、ゆたかは熱弁をふるい続けた。
受け取る側のストラーダは寡黙な槍へと立場を戻し、その心理を秘す。
主を失い、役目を失い、居場所すら失ったデバイスに、どのような施しを与えるべきなのか。
ゆたかも舞衣も知り得ず、しかし本人の要望どおりに命を埋没をさせ、終わらせることだけは違う、と頑なに信じ込む。
人間の傲慢とも取れる応答に、乞うた側のストラーダは、
764
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 01:59:39 ID:bQZRqflE0
『……あなたたちは、強いのですね』
少し寂しそうな音声で、本心を吐露し始めた。
『私はマスター……エリオ・モンディアルを失って以降、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタに悪用されようとも、一切の抵抗をしませんでした。
我が身はデバイス。人間に使役されて始めて意味を成す存在である。あのような非常時に、独断で民間人と意思疎通を図ることは許されない。
そんな堅苦しい考えが、いつの間にか根付いていたわけです。同僚のクロスミラージュは、〝気合〟による状況の打開を提唱、実行までして見せたのに』
ゆたかと舞衣は、ストラーダという槍についてなにも知らない。
会話を交えようとしても、本人が語ることを拒んできた。
実験場を脱出するその瞬間まで、ストラーダは己の流儀に従い続けたのだ。
そして、非常の時間が終了した今になり、ストラーダはようやく自身の胸の内を曝け出す。
時空管理局機動六課での生活、エリオらとの訓練に明け暮れる日々、日常から戦場に至る自らの生き様を、すべて告白する。
当然、今という現実を生きる辛辣な心境についても。
『羨ましくもあり、悔しくもある。私はなにを成すでもなく、幸運にも生き永らえる道を獲得した。
英雄王と共に旅立ったマッハキャリバーはともかく、クロスミラージュやフリードリヒに合わせる顔がありません。
いえ、だから、と自暴自棄になっているわけではないのです。ですが、あなたたちに進言するには酷な頼みでしたね。
……すいません、しばらく時間をくれないでしょうか? 今一度、一人で考えてみたいのです……これからの、生き方を』
ストラーダは悩ましげに呟き、しかし確かに、生き方を検討すると言い切った。
ゆたかと舞衣はストラーダの意志を汲み、その他の物品を土中に埋めた後、目印として槍の穂先を突き刺し放置した。
『……ありがとうございます。小早川ゆたか。鴇羽舞衣。お二人に……どうか幸福を』
そのまま別れの言葉もなしに立ち去った。
程なくして戻ったそこに、ストラーダは刺さっていなかった。
◇ ◇ ◇
765
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:00:34 ID:bQZRqflE0
――ストラーダはどこに消えてしまったのか。今でもその謎は判明していない。
確かなのは、ストラーダが一人では動けないということ。ゆえに、誰かが連れ出したという可能性しか考えられないのだ。
それは数多の多元宇宙を股にかける王ドロボウか、はたまた盗賊を追い回す傲岸不遜な英雄王の仕業か。
アンチ=スパイラルに回収された、という可能性だけは否定したかった。心情的に。
なんにせよ、もうストラーダと会うことはないのだろう。
悲しくはない。だって、ストラーダは確かに生きると言ったのだから。
私とゆたかも……クロスミラージュやフリードリヒに恥ずかしくない生き方をしようと思う。
さて、今となってはいろいろと過去の出来事を、振り返ってみまして。
私は峠を越えた先、海が一望できる崖の辺りでバイクを停めた。
ヘルメットを外し、ゆたかと共に海を眺めやる。
とはいっても、時刻はまだ朝焼けには程遠い。視界は真っ暗だ。
黒一色の海面には引き込まれそうな魅力があり、油断していると崖下へと足を進めてしまいそうだった。
深海よりも澄んだ暗闇に目を奪われながら、ゆたかが不意に言葉を漏らす。
「あのね、舞衣ちゃん。私、小説家になる」
「そっか……ゆたかが小説家にね……」
夢を持つのは良いことだ。私もゆたかも、そろそろ就職を考えたりする時期だしね。
無難に進級して、無難に求人漁って、無難に手に職つけるよりかは、よっぽど若者らしい。
小説家かー。私は文才ないからなぁ……遠い世界だわ。ホント、ゆたかってば志が高い。
いや、待って。
今、さらっと爆弾発言が飛び出したような……って!?
「はぃ〜っ!? しょ、小説家になる〜っ!?」
あまりの不意打ちに驚かされ、私は体を張ったオーバーリアクションで逆にゆたかを驚かせた。
微妙な気まずさが漂う中、ゆたかはほんのり赤面しながら、おどおどと口を開く。
766
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:01:10 ID:bQZRqflE0
「うん、あのね。最近、おじさんにいろいろ教わったりして……」
「そりゃあ、そうじろうさんは現役の作家さんだけどさ……だから影響されたってわけじゃないんでしょ?」
ゆたかは、コクリ、と可愛らしく頭を垂れた。
「影響された、っていうんなら……こっち、かな」
示して見せたのは、アニメイトの買い物袋。中身は本日購入したばかりのカウボーイビバップDVD-BOXだ。
「まだ漠然としてるんだけど、別に小説じゃなくてもいいの。アニメでも、漫画でも、絵本や芝居だっていい。私は、自分の手で物語を、ハッピーエンドを作ってみたい」
ハッピーエンド。
菫川先生が口々に語っていた言葉だ。
あの殺し合いの結末は、はたしてハッピーなんて言えたのだろうか……言えるわけ、ないか。
たくさんの人が死んで、たくさんの想いが潰えて、舞台を牛耳っていた支配者は、今もどこぞでふんぞり返っている。
私たちは生き永らえさせられただけ。と現実を鑑みれば、またちょっとブルーになってしまう。
「私、こっち戻ってきてから、みんなの出ているアニメをたくさん見た。
みんながみんなハッピーエンドっていうわけじゃなかったけれど、その生き方は決して作り物なんかじゃない。
Dボゥイさんも、菫川先生も、ルルーシュくんも、アンチ=スパイラルさんだって! 精一杯生きてるんだって……」
ははは……アンスパさんもですか。
ゆたからしいというか、なんというか。
言わんとしていることはわかるけど、まあ……うん。
「……それもいいかもね」
私は、自分の顔が恥ずかしくなるくらいにやけているのを自覚した。
構わず、己の両手首に意識を集中させる。
胸の底から高ぶってくる感情を、顕現させるように。
誰かを想う――意思をこの世へと表出させ、イメージは燃える炎の如く。
軽い熱気が放たれた後、私の両手首に宝輪――HiMEの証であるエレメントが具現化される。
うん、完璧。
こっちに来てからも、私のHiMEとしての能力は失われていない。
力を使うのは久しぶりだけど、身に染み付いた感覚はなかなか忘れないものだ。
767
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:02:01 ID:bQZRqflE0
「ま、舞衣ちゃん……」
「うん? どうしたのよゆたか、そんな心細そうな顔しちゃって」
「だって、ここでHiMEの力を使っちゃったら……アンチ=スパイラルさんが怒鳴り込んでくるかも……」
「あー……」
まあたしかに、媛星の脅威にも見舞われていない平和な地球で、こんな異能ひけらかすのはよろしくないだろう。
ただでさえアンチ=スパイラルに睨まれてる世界だし、はしゃいだ挙句、あとでどんなとばっちりが来るかは想像もできない。
……なんて諦める鴇羽舞衣じゃないわよ。明日は明日の風が吹く。それが私のモットーだもの。
「けど、さ。少しくらいなら大丈夫でしょ。そのために、人目のない場所と時間を選んだんだから、さ?」
私はウィンクして、ゆたかに同調を試みる。
堅物のアンチ=スパイラルだって、これくらいは見逃してくれるって、たぶん。
ゆたかは少し疲れた表情を浮かべて、だけどすぐに笑顔を作り直し、頷いてくれた。
少女が過去を顧みて、未来を按じ、夢を語る。
こんな気分のいい日には、空でも飛びたくなるってものだ。
久々に、あの子にも会いたいしね。
「じゃ、いくわよ」
「うん!」
私はゆたかの華奢な体を抱き寄せ、エレメントに宿る炎をさらに高めた。
大きく息を吸い、腹の底から燃焼するようにして、声を発する。
呼ぶ。応えてくれる。我が子に。母の想いに――。
「カグツチィィィィッ!」
◇ ◇ ◇
768
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:02:53 ID:bQZRqflE0
――舞衣ちゃんと一緒に、飛ぶ。
カグツチの背に乗って、雲の上まで突き抜けて、地球の天井を超えそうなくらい、高く。
傍らの舞衣ちゃんは、私が揺れで落ちないよう、ぎゅっと抱きとめていてくれる。
心地よかった。肌で感じる温もりが、カグツチから感じる熱気が、安らぎに変わっていく。
「あのね、舞衣ちゃん。さっきの話の続きなんだけど!」
「うん!」
羽ばたく轟音、風を切る圧力に負けないよう、私と舞衣ちゃんは声を大きくして言葉を交わす。
「舞衣ちゃんにも、手伝って欲しいの! 私がちゃんとやれるように、傍で見守っていてほしい!」
「オッケー! それくらいお安い御用……っていっても、具体的にはなにやればいいのー!?」
訊かれて、私は答えを返せなかった。
ハッピーエンドで終わる物語を作りたい。この想いは本物だけど、まだ漠然としている。
なにから始めればいいのかも、手探りだった。感情だけが先行している。でも、それが駄目だとは思わない。
みんなに、幸福な結末の素晴らしさを知ってもらいたいから。
悲しみだけじゃない、悲しみの先には喜びも待っているっていうことを、私が知ったから。
――あそこで私たちがやってきたことは、無駄じゃないんだって。証明として遺したいから。
「う〜ん、じゃあさ! これから二人で考えましょうよ! 時間ならまだ、た〜っぷりあることだしね!」
「うん、そうだよね! 私たちの時間は、まだまだこれからなんだよね!」
声を張り上げて、私と舞衣ちゃんは笑い合った。
風が気持ちいい。抱擁の熱が心地いい。実感できる生に幸福を覚える。
こなたおねえちゃん。つかさおねえちゃん。かがみおねえちゃん。
Dボゥイさん。シンヤさん。高嶺くん。明智さん。菫川先生。イリヤさん。
ジンさん。スパイクさん。奈緒ちゃん。ニアさん。ドモンさん。ガッシュくん。
スカーさん。ギルガメッシュさん。カミナさん。ルルーシュくん。
マッハキャリバー。クロスミラージュ。ストラーダ。フリード。
あそこで出会ったすべてのみんなに、私は言葉を送りたい。
小早川ゆたかは、ここで生きています。
今も、これからも……精一杯、生きてみます!
769
:
shining☆days
◆LXe12sNRSs
:2009/04/21(火) 02:04:41 ID:bQZRqflE0
「そうだゆたか! 約束! だったらアレ!」
「アレ……あっ、うん! アレだね!」
舞衣ちゃんが口に出したアレという単語に、私は当たりをつけた。
確認もせずに、二人でごそごそと荷物を探る。
あそこを発ってから、肌身離さず携帯していたお揃いの水晶を取り出し、見せ合った。
これは、私と舞衣ちゃんが約束ごとをするときの儀式みたいなもの。
Dボゥイさんとシンヤさんが残してくれたクリスタルが、今じゃすっかり指きりの代わりになっている。
「ここじゃ、私はゆたかのおねえちゃんだから。どこまでだってついていくし、どこにだってつれていってあげる!」
「私も、舞衣ちゃんと一緒にいたい! ううん、舞衣ちゃんと一緒にいる! 私たち、ずっと――!」
私と舞衣ちゃんの関係は、言葉では言い表せないものになっていた。
親友とも、姉妹とも、家族とも、恋人ともちょっと違う、不思議な関係。
今さら確かめ合うまでもなく、お互いがそう認め、刻んでいる。
――鴇羽舞衣を。
――小早川ゆたかを。
そうして、天壌の空間を翔るカグツチの背の上、約束は交わされる。
打ち鳴らされた水晶が、チンと優しい音を立てた。
【アニメキャラ・バトルロワイアル2nd らき☆すた with 舞-HiME――――shining☆days START!】
770
:
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:29:23 ID:m8XI02nQ0
それではこれより、ルルーシュのエピローグを投下します。
規制食らったのでこちらで
771
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:30:03 ID:m8XI02nQ0
行動には、常に結果がつきまとうものである。
誰がいかなる行動を取ろうとも、その先には必ず、その行動に応じた内容の結果が存在している。
であればすなわち結果とは、行動の変化によって表情を柔軟に変えるものというわけだ。
二者択一の○×問題にしても、どちらを選んだかによって、正解・不正解に未来は分岐する。
選択肢は二つしかないとも限らない。
三択、四択、時には十択以上にも。
得られた表面的事実は同じでも、抱く感情はまるで違うこともある。
1つ1つの選択が、複雑無数に枝分かれし、大樹を成すのが多元宇宙。
ならば、彼が取った行動の結果は――
◆
――ゼロ。
かつて合衆国日本に姿を現し、世界のあらゆる悪と戦うことを表明した革命家である。
神聖ブリタニア帝国の手に落ちた日本を瞬く間に奪還し、世界最大の国家連合・超合衆国連合を設立。
そして遂にブリタニアとも戦い、勝利を掴んだ英雄である。
今やその影響力は、名実共に世界最大。
小さな島国でデビューを飾ったテロリストは、そこから文字通り世界全国を刈り取ったのだ。
そしてその仮面の男こそが――偽りの螺旋王、ルルーシュ・ランペルージだった。
世界制覇に乗り出したブリタニアを打倒し、妹ナナリーの望む優しい世界を作ること。
自らを捨てた帝国への復讐を果たしたルルーシュは、遂に望む世界を手中に収めたのだ。
そして今、かの箱庭より生還した黒き皇子は、1人玉座へと頭を垂れている。
ブリタニア帝国首都・ペンドラゴン。
その中心に位置する王城の、玉座の間に彼はいた。
身に纏った漆黒の装束は、あくまで仮面の男・ゼロのもの。
かつて世界の3分の1を支配した、世界最強の帝国の長は別にいた。
ふ、と。
自虐的な色を含んだ笑み。
悲痛な気配の宿るそれは、さながらうなだれる様にも似て。
ルルーシュの紫の視線の先には、1人の少女の姿があった。
ブロンドを思わせる輝きの混ざった茶髪。閉じられたまま開かぬ瞳。その身を彩る豪奢なドレス。
彼女こそが、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝。
彼女こそが、ナナリー・ランペルージ。
ルルーシュの愛した妹にして、今やブリタニアの頂点に立つ者だ。
「……何を間違ってしまったんだろうな、俺は」
ルルーシュが問いかける。
ナナリーは答えない。
ふっと穏やかな微笑を湛え、微かに首を傾げるだけだ。
一体何を間違ったのだろう。
一体どこで間違ったのだろう。
ルルーシュがブリタニアを倒し、ナナリーを王座に据えること。これが彼の最終目的。
望む世界を作るための地位を、彼女に与えるはずだった。
妹はブリタニア、兄は超合衆国連合。
それぞれがそれぞれの頂点に立ち、平和な世界の実現のため、共に歩んでいくはずだった。
なのに何故、こんな結果になってしまったのだろう。
こんな残酷な結末を、突きつけられる羽目になってしまったのだろう。
いつ間違った。どこで、何を間違った。
ルルーシュの思考は、ゆっくりと過去へとさかのぼる。
772
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:30:56 ID:m8XI02nQ0
行動には、常に結果がつきまとうものである。
誰がいかなる行動を取ろうとも、その先には必ず、その行動に応じた内容の結果が存在している。
であればすなわち結果とは、行動の変化によって表情を柔軟に変えるものというわけだ。
二者択一の○×問題にしても、どちらを選んだかによって、正解・不正解に未来は分岐する。
選択肢は二つしかないとも限らない。
三択、四択、時には十択以上にも。
得られた表面的事実は同じでも、抱く感情はまるで違うこともある。
1つ1つの選択が、複雑無数に枝分かれし、大樹を成すのが多元宇宙。
ならば、彼が取った行動の結果は――
◆
――ゼロ。
かつて合衆国日本に姿を現し、世界のあらゆる悪と戦うことを表明した革命家である。
神聖ブリタニア帝国の手に落ちた日本を瞬く間に奪還し、世界最大の国家連合・超合衆国連合を設立。
そして遂にブリタニアとも戦い、勝利を掴んだ英雄である。
今やその影響力は、名実共に世界最大。
小さな島国でデビューを飾ったテロリストは、そこから文字通り世界全国を刈り取ったのだ。
そしてその仮面の男こそが――偽りの螺旋王、ルルーシュ・ランペルージだった。
世界制覇に乗り出したブリタニアを打倒し、妹ナナリーの望む優しい世界を作ること。
自らを捨てた帝国への復讐を果たしたルルーシュは、遂に望む世界を手中に収めたのだ。
そして今、かの箱庭より生還した黒き皇子は、1人玉座へと頭を垂れている。
ブリタニア帝国首都・ペンドラゴン。
その中心に位置する王城の、玉座の間に彼はいた。
身に纏った漆黒の装束は、あくまで仮面の男・ゼロのもの。
かつて世界の3分の1を支配した、世界最強の帝国の長は別にいた。
ふ、と。
自虐的な色を含んだ笑み。
悲痛な気配の宿るそれは、さながらうなだれる様にも似て。
ルルーシュの紫の視線の先には、1人の少女の姿があった。
ブロンドを思わせる輝きの混ざった茶髪。閉じられたまま開かぬ瞳。その身を彩る豪奢なドレス。
彼女こそが、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝。
彼女こそが、ナナリー・ランペルージ。
ルルーシュの愛した妹にして、今やブリタニアの頂点に立つ者だ。
「……何を間違ってしまったんだろうな、俺は」
ルルーシュが問いかける。
ナナリーは答えない。
ふっと穏やかな微笑を湛え、微かに首を傾げるだけだ。
一体何を間違ったのだろう。
一体どこで間違ったのだろう。
ルルーシュがブリタニアを倒し、ナナリーを王座に据えること。これが彼の最終目的。
望む世界を作るための地位を、彼女に与えるはずだった。
妹はブリタニア、兄は超合衆国連合。
それぞれがそれぞれの頂点に立ち、平和な世界の実現のため、共に歩んでいくはずだった。
なのに何故、こんな結果になってしまったのだろう。
こんな残酷な結末を、突きつけられる羽目になってしまったのだろう。
いつ間違った。どこで、何を間違った。
ルルーシュの思考は、ゆっくりと過去へとさかのぼる。
773
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:32:01 ID:m8XI02nQ0
◆
最低最悪の科学者・ロージェノムの実験場――そこから脱した彼が最初に行ったのは、まず情報確認だった。
彼にはC.C.という共犯者がいる。不死身を体現したかのような、正体不明のわがまま娘だ。
ルルーシュには元の世界に帰って最初に、彼女に問いたださなければならないことがあった。
――V.V.とは誰だ?
開口一番の問いがそれだ。
ルルーシュはあの螺旋王のデータバンクで、己の辿るある程度の未来の事象を把握している。
そしてその物語の中に、彼の知らぬファクターが存在した。それがV.V.という少年だ。
あの箱庭にあった情報を真実とするならば、こいつはランスロットのパイロット・スザクにギアスの情報を明かし、
あまつさえナナリーを誘拐するということになる。
これがマオならまだいい。ギアス能力者がギアスの存在を知っているのは当たり前。
だとするならば、その少年は何者だ。何故ギアスのことを知っている。
そいつもマオ同様、C.C.と何らかの関係を持っているのではないか。
彼女と行動を共にしていたのか。はたまた彼と同じギアス能力者か。
少なくともルルーシュの知る盤面の上に、このような駒は存在していない。決して見過ごせるものではない。
当のC.C.自身はというと、一瞬この問いに大層驚いてみせた。
だがやがて観念したのか、静かに白状を始めた。
V.V.の正体を。その恐るべき目的を。
金髪の少年・V.V.は、C.C.よりも後に能力に目覚めた、同じ“コード”の持ち主らしい。
ここで言うコードとは、彼女の持つ魔女の力の総称のことだそうだ。
要するにV.V.もまた彼女と同じく、「不死の身体」と「ギアスを与える力」を有しているということ。
そして既にこの少年は――当時のブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと契約を結んでいた。
彼はブリタニア王の実兄であった。
おおよそ二桁にも満たぬ外見年齢しかないV.V.は、しかしルルーシュの伯父だったのだ。
コードの能力に目覚めるには、ギアス能力を授けられている必要がある。
彼がどのタイミングでに魔人の力を手にしたのか。それは今となっては定かではない。
だがかつてのブリタニア王家の内乱の折、兄V.V.は間違いなくコード能力に覚醒し、弟シャルルはギアス能力を授けられた。
そしてそのコードの力で、彼らが為し遂げんとした恐るべき計画がある。
それがラグナレクの接続だ。
現在のブリタニアの王城には、“アーカーシャの剣”と呼ばれる遺跡が存在する。
そして同時にこの地球には、それと近似した遺跡が随所に残されているのだそうだ。
後者の遺跡に関してはルルーシュも知っている。正確には、未来の彼が目撃している。
日本の式根島のすぐ近く――神根島と呼ばれる無人島に、その遺跡の1つがあるらしい。
そしてそれら全てを手中に収め、V.V.とC.C.の――案の定、彼女らはかつて協力関係にあった――コード能力を用い、
アーカーシャの剣を起動すること。
それがブリタニアの兄弟の最終目的であり、シャルルが始めた侵略戦争の最大の理由だった。
この行為を、ラグナレクの接続と呼称するのだという。
そしてその行動に伴い、引き起こされる結果は――全人類の合一化。
そもそもアーカーシャの剣とは、「Cの世界」と呼ばれるものに干渉するための端末なのだという。
Cの世界とは、言うなれば集合無意識。
時間、国境、血縁……はたまた生死の境界すら問わず、あらゆる人間の無意識が溶け合ったものである。
シャルルはこれを操作することで、全ての人間の有意識さえも、そのCの世界に取り込もうというのだ。
774
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:32:31 ID:m8XI02nQ0
これは由々しき事態である。
確かに全ての人間が1つとなれば、あらゆる思想は統一され、争いのない平和な世界が実現されるだろう。
だがその世界には平和しかない。
自分と他者の境界を取り払うということは、世界の全員が自分であるということ。
すなわちそれは、自分以外に誰もいない世界と同じだ。
そもそも人は何故平和を求めるのかといえば、大切な人々と共に穏やかで楽しい時間を過ごしたいからである。
ならば、独りぼっちで謳歌する平和に、一体どれほどの価値があるだろう。
皇帝の掲げた理想と計画は、既に構想の段階で、大いなる矛盾を抱えていたということだ。
結局のところ彼の理想は、思い上がった偽善者の大量虐殺に過ぎない。
地球上の全人類が、それを理解してもいない人間に皆殺しにされるのだ。
C.C.の言葉を信用するならば、まだラグナレクの接続までには猶予が残されている。
ブリタニアによる世界制覇が成し遂げられていない今、計画の実行にはまだ遺跡が足りない。
それが全て皇帝の手中に収まるよりも早く、帝国を打倒しなければならないのだ。
さて、改めてルルーシュはブリタニアと戦うことになるわけだが、ここで解決すべき課題が3つある。
1つはシャーリー・フェネットのこと。
1つは枢木スザクのこと。
1つはユーフェミア・リ・ブリタニアのこと。
彼女ら3人のうちシャーリーとユーフェミアは、遠からず自分の戦いに巻き込み悲劇を味わうことになってしまう者。
そして残されたスザクは、このままでは最悪の強敵として戦うことになってしまう者。
未来のビジョンを見たことで把握したこれらのリスクは、可能な限り抑え込まなければならない。
これはC.C.に聞いたことだが、ルルーシュが行方をくらましていた数日間、スザクは何事もなく学園に登校していたらしい。
カレン・シュタットフェルトも同様だ。
つまりあの殺し合いの場にいた彼らは、アンチスパイラルの言葉を借りるなら、自分とは違う多元宇宙の住人であったということ。
もう二度と会えないとばかり思っていた親友が生きていたのは嬉しいが、おかげで対処すべき案件も増えてしまった。
また、ジェレミア・ゴッドバルトの方にも手を打っておきたかったが、
こちらは既にブリタニアに身柄を確保されている。今から手を出すのは難しいだろう。
ともあれそれらの課題を抱え、ルルーシュは行動を開始した。
まず最初に振りかかったのは、シャーリーの問題である。
螺旋の城にて垣間見た未来においては、スザクに撃墜されたところを目撃され、正体を知られてしまうという結果を迎えていた。
戦闘が始まってからという状況を考えると、黒の騎士団の団員に見つけさせるという対処法も厳しいだろう。
であれば、取るべき手段は1つ。スザクに撃墜されないようにするということ。
ここは藤堂奪還作戦で用いることになっていた、対ランスロット戦術を、データよりも先に持ち出すことで対処した。
先のナリタ連山からルルーシュは、ランスロットの戦闘データの分析を始めている。
このデータは次のトウキョウ湾での戦いを経てようやく完成するわけだが、それをそのトウキョウ湾で出すわけだ。
今は未完成の戦術でも、未来では既に完成している。そしてルルーシュは既にそれを見てきている。
少々もったいないカードの切り方ではあるものの、結果としてランスロットを撤退に追い込むことには成功。
ゼロへの憎しみを拭い去ることこそできなかったものの、シャーリーに正体を知られるという事態は回避された。
そしてこの時同時に、ルルーシュを嗅ぎ回っていたヴィレッタ・ヌゥも、戦闘に紛れて始末している。
775
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:33:05 ID:m8XI02nQ0
――未来は変わった。変えることができたんだ。未来を、世界を変える力……俺にはその力がある……!
あの螺旋王の居城から手に入れた未来の情報。
禁断の果実を口にしたルルーシュは、既定された未来を改変することに成功した。
思えばこの瞬間から、彼の増長は始まっていたのかもしれない。
ルルーシュ・ランペルージは勝利したのだ。
ただの一度ではああったものの、軍でもランスロットでもなく、世界そのものを屈服させた。
人知を超えた存在から勝利をもぎ取ったという事実に、ルルーシュは大いに酔い、笑った。
その後、マオなどの細かな事象に対応しつつ戦う中で、彼は2つ目の課題に直面する。
枢木スザクだ。
これは3つの課題の中で、最も慎重に扱わなければならないものでもあった。
なすべきことは決まっている。説得し仲間に引き入れること。
だが、時期が問題だ。
あまり早期に彼を手駒に加えては、式根島でのランスロット捕獲作戦が実行されなくなる。
これがなければルルーシュが神根島に流されることもなくなり、新型KMF・ガウェインを強奪することも難しくなるのだ。
飛行能力と絶大な火力を有したガウェインのスペックは、まさに圧倒的の一言に尽きる。
ハドロン砲の炎で大地を焼き、天空に君臨する漆黒と黄金の巨体は、まさしく神話の魔王そのもの。
とはいえこのガウェインも、単なる遺跡調査のために持ち出される予定のもの。黒の騎士団を動かす大義がない。
故にこの機体は未来情報通り、どさくさ紛れに強奪しなければならない。
だが遅すぎてもいけない。説得の機会がユーフェミアを利用した後では、まず間違いなくまともに話も聞かなくなるだろう。
あの資料の最後に見た、遺跡での対峙がいい例だ。スザクにとってユーフェミアとは、それだけの価値のある存在だった。
そして更に最終手段として、ギアスをかける余地も残しておきたい。
となるとやはりスザクを仲間に引き入れるのは、ロージェノムの資料と同じタイミングに限定される。
すなわち、ランスロット捕獲作戦の瞬間だ。
そしてルルーシュは式根島にて、その作戦を実行する。
ゲフィオンディスターバーで白騎士を無力化し、そのコックピットへと滑り込んだ。
素顔を晒すためだ。
犯罪者ゼロとしてでなく、親友ルルーシュとして説得するために。
憎むべき敵ではなく愛すべき友としてでなら、話を聞いてくれると信じていた。
自分達2人でできないことは何もない。そう信じていたかった。
それが恐らくルルーシュに残された、最後の良心であったのだろう。
ゼロはまだ、スザクにとって決定的な行動を起こしてはいないはずだ。彼だけは味方になってくれるはずだ、と。
だがしかし、少年の抱いた淡い期待は、脆くも打ち砕かれることになる。
――友達だからこそ、君の行いを見逃すわけにはいかない。今からでも罪を償うんだ。
否定。
かけられた言葉は予想の反対。
これ以上罪にまみれる君を見たくない。弁護には僕も協力する。だからすぐに自首するんだ。
ひどく優しい声音をして、スザクはルルーシュを拒絶したのだ。
これは全くの予想外。
本来の歴史とは異なる行動を取った。これで未来を変えられるはずだった。
だが、状況は何も変わらない。しかも正体を知られた分、前よりも不利になってしまった。
何故だ。
何故お前は俺を裏切る。
沸々とルルーシュの胸に込み上げた、理不尽な怒り。
信頼していたのに裏切られた。状況が全く思い通りにいかない。力を手にしたはずだったのに。
怒り狂う彼の視線の先では、なおもスザクが説得の言葉を重ねている。
そして、遂にこの瞬間。
――……お前が……お前が、悪いんだぞ……お前が俺を裏切ったんだからなぁぁッ!!
776
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LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:33:40 ID:m8XI02nQ0
ルルーシュはギアスを発動させた。
唯一支配はしたくないと、願い続けていたいた相手を、その異能で操ってしまったのだ。
“俺の部下になれ”。
憤怒と憎悪の導くままに、吐き捨てたのは8文字のワード。
あらゆる自由と意思は失われ、スザクは忠実な下僕となった。
ルルーシュはその手で愛すべき友を、操り人形へと変えてしまったのだ。
その後スザクは彼に従い、現れたガウェインの砲撃から脱出。
後はあらかじめ用意されていた未来のシナリオのまま、ガウェインを強奪し神根島を脱出した。
この時ランスロットで共に脱出したスザクには、その場に居合わせたシュナイゼル・エル・ブリタニアを抹殺させている。
母の仇の情報を聞き出せなかったのは、残念と言えば残念だが、今はそんなことを気にしてはいられなかった。
どうせ後から戦う皇帝に聞き出せばいい。厄介なシュナイゼルは今のうちに殺してしまえ。
スザクを手にかけたルルーシュの箍は、既に完全に外れていた。
まともでいられるはずもない。何せ唯一無二の親友の人格を、完全に破壊してしまったのだ。
なりふり構う余裕など、全て狂気に押し流されていた。
両の瞳を潤ませながら、ルルーシュはひたすらに笑い続けていた。
不本意な形ではあったものの、スザクの課題をクリアしたルルーシュに残されたのは、ユーフェミアの存在だった。
行政特区日本という形で、限定的に日本人の復権を実現するという方針。
彼女の提唱するこの特区が実現されては、黒の騎士団の存在意義は失われてしまう。
当然未来におけるルルーシュも、これを阻止すべく行動した。
その時ギアスの暴走により、偶然下してしまった命令は、会場に集まった日本人を虐殺しろというもの。
これも人々を煽るという意味では悪くない選択だが、それでは無駄に血が流されてしまう。
今後ブリタニア本国という巨大な敵と戦うことを考えると、戦力の芽を断ってしまうのは旨味がない。
ここはやはり、資料の自分が最初に考案した策を実行することにしよう、と判断した。
スザクにギアスをかけ、歯止めのきかなくなったルルーシュにとっては、
ユーフェミアも日本人も、ブリタニアを倒すための駒に過ぎなかったのだ。
こうして行政特区式典に姿を現したルルーシュは、ユーフェミアとの一対一の対峙に臨む。
本来の歴史同様、彼女はゼロの正体を神根島で知っていた。
故にルルーシュへと手を差し伸べ、共に行政特区を築いていこうと提案する。
だが、その手が握り返されることはなかった。
――さようなら、ユフィ。多分、初恋だったよ。
代わりに返されたのは、狂える魔人の凄絶な笑み。
真紅に輝く左の瞳と、あらかじめ用意していたニードルガンだ。
実銃よりも威力の低いこれを、敢えて自分に向けて撃たせることで、ユーフェミアを「日本人を騙した悪者」へと仕立て上げる。
その後、ゼロが奇跡の復活を遂げてみせ、人心を一気に手繰り寄せる。これがルルーシュの作戦だ。
ユーフェミアはこの命令を忠実に実行、一転して魔女と罵られることとなる。
そして復活したルルーシュにより、遂に合衆国日本設立が宣言された。
こうして多くの相違点を孕みながらも、ルルーシュの現実は未来のビジョンにおける、最後の戦いの舞台へと一歩踏み出したのだ。
777
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:34:16 ID:m8XI02nQ0
皇暦2017年、トウキョウ。
遂にエリア11史上に残る、最大規模の反乱の幕が切って落とされた。
トウキョウ事変である。
既に情報を得ていたルルーシュは、それらを元に反省点を改善し、完璧な指揮をもってこの戦いに臨んだ。
資料通りに戦っていては、最終的にほとんど返り討ちに近い結果を招いてしまうのだ。何もしない方がおかしい。
まず、直接の敗北の要因となったナナリーに関しては、誘拐される前に直接手を打った。
彼女を「ブリタニアに捨てられた皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアだ」と敢えて公表することで、騎士団の保護下に置いたのである。
そして、総督コーネリア・リ・ブリタニアとジェレミア。
これにはそれぞれカレンの紅蓮弐式、スザクのランスロットを割り当てることで対処。
元々データにおける黒の騎士団の劣勢の一因は、ランスロットが暴れ回ったこと、それに紅蓮が早期に撃破されたことにもあった。
そのスザクが自軍に加わり、カレンも撃墜を免れたのだ。進軍効率は目に見えて向上した。
こうしてトウキョウ政庁制圧に成功したルルーシュは、瞬く間にエリア11全土を掌握。
見事日本をブリタニアから奪還し、合衆国日本を立ち上げたのである。
一国の大統領となったゼロは、いよいよ本格的にブリタニアとの戦争体制を整える。
まずは中華連邦へと手をかけ現行政府を打破、圧政と貧困に喘ぐ国民達を解放してみせた。
こうして極東各国との盟約締結に着手し、
ブリタニアとの戦争で散り散りとなっていたたEU諸国とも繋がりを得たルルーシュは、超合衆国連合の構想を発表。
更に裏では、スザクの上官ロイド・アスプルンドと接触し、懐柔することに成功。
強大なブリタニアに立ち向かうだけの国力と技術を、ようやく得るに至ったのである。
当然、決戦に至るまでに時間はかからなかった。
程なくして超合衆国連合は、ブリタニアとの全面戦争に突入。
ルルーシュが長らく待ち望んだシャルルとの対決が、いよいよ実現したのだ。
当然、帝国の戦力も一筋縄ではいかない。 帝国最強の12騎士・ナイトオブラウンズ、更にはV.V.の精製したギアス能力者軍団もいる。
だがここでも、スザク・カレンの両者がいること、また、予期せぬ形でジェレミアが騎士団に加入したのが幸いした。
ロイドの開発したランスロットと紅蓮の改良型・第9世代KMFは、ラウンズの第7世代を遥かに凌ぐ性能を発揮。
更に元は対ルルーシュ用として送り込まれたジェレミアのギアスキャンセラーも、ギアス能力者相手に絶大な威力を誇った。
ここに藤堂の新型・斬月、中華連邦の武人・李星刻の駆る神虎が加わることで、エースパイロットの戦力差は対等となる。
兵隊の力が互角となれば、後は軍師の戦略の出番だ。
既にブリタニア側の指揮官のうち、シュナイゼル・コーネリアは死亡している。となれば戦略面はルルーシュの独壇場。
壮絶な決戦を制したのは、反逆者ゼロの率いる黒の騎士団だった。
逆らう奴らに容赦はしない。命乞いをする敵も皆殺し。味方はとうに、全員ギアスの奴隷に変えていた。
戦乱の果てに、遂にルルーシュは皇帝シャルルを殺害。V.V.をもコード能力者用のカプセルに封印。
世界全土を超合衆国連合の傘下とし、地球上のほぼ全ての国家を統一するに至ったのである。
憎きブリタニアは滅ぼした。母の仇はシャルルから聞き出した。
多くの犠牲を払いながらも、全てをその手に勝ち取った。
ルルーシュはいよいよ、最大にして最後の目的を実行に移す。
これまで厳重に保護していたナナリーに、ブリタニアの王座を託す日が来たのだ。
兄は合衆国を、妹は帝国を。
兄妹2人で力を合わせ、優しい世界を作り出す。その目標の実現の日。
ナナリーがブリタニアの女帝となったその瞬間、ようやくルルーシュの長き戦いは終わるはずだった。
――お兄様……私は、こんな世界を望んでいたんじゃありません!
それを否定されることがなければ。
778
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LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:34:50 ID:m8XI02nQ0
――な……何を言っているんだナナリー! 俺はお前のために、今まで……!
――ごめんなさい、お兄様……でも、こんなのはやっぱり間違っています!
よく考えてみれば分かる話ではあった。
心優しいナナリーが、誰かの犠牲の上に成り立つ世界を与えられて、喜ぶはずもないのだと。
自分のために多くの血が流れたと知って、嫌悪感を示さないような子ではないじゃないか、と。
だが、遂にルルーシュはここに至るまで気付かなかった。
いいや、気付きたくなかったのかもしれなかった。
スザクの心を踏みにじり、破壊してまで得た世界が、否定されるなどということは認められなかった。
であれば自分は何のために、多くの犠牲を払ってきたのか。
何のために無二の親友を手にかけたのか。
今さら否定されてたまるか。
もう戻ることはできないんだ。
自分がどれだけの労力をなげうって、お前のために頑張ってきたと思っている。
どうして大切な人間に限って、自分のことを分かってくれない。どうして思い通りにならないんだ。
許さない。
俺の行動を否定することは許さない。
ナナリーであろうと許しはしない。
――う……うるさい! 黙れ、黙れ、黙れっ!
怒りも露わな視線をナナリーに向けるという暴挙。
憎しみさえも叫びからにじみ出るという暴走。
最愛の妹の存在を、怒り憎むという矛盾。
制御できぬ極大の憤怒と憎悪の中、ルルーシュが投げかけた言葉は。
――お前は黙って、俺の言うことを聞いていればいいんだっ!!
779
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LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:35:32 ID:m8XI02nQ0
◆
こんなはずではなかった。
全てが後の祭りだった。
激情の皇子が我に返ったのは、命令が実行された後。
あろうことかルルーシュは、閉じられた瞼を強引にこじ開け、ナナリーにギアスをかけていたのだ。
ギアスによる命令は絶対。かけた本人にさえも覆せない。
黙って俺の言うことを聞け、と。
ルルーシュがそう命じた通り、ナナリーは彼に黙って従い続けるだろう。
口も瞳も開くことなく、ルルーシュの声だけを聞き続けるだろう。
ナナリーは完全に壊れてしまった。
愛らしい妹はどこにもいない。ここにあるのはただの抜け殻。
世界で最も愛しい者の姿をした、ルルーシュの痛ましき罪の証。
こうして傍にいるだけでも苦しくて、されど、見放すこともできなくて。
周りを見回してみても、もう自分の側には誰もいない。
敵対する者は皆殺しにしてきた。味方は全員ギアスで従わせた。
唯一魔眼の効かぬジェレミアは、忠義の猛攻の果てに討ち死にだ。
愛すべき親友も妹も、死体同然の操り人形。
もはやこの地上のどこにも、ルルーシュが頼れる人間はいなかった。
望むもの全てを手に入れながら、突き進んできた道程の果てに、たどり着いたのは独りぼっちの地平。
切り捨て、利用し続けてきたその先は、地獄のごとき孤独の世界。
こんなはずではなかった。
こんな結末を望んでいたんじゃなかった。
勝ち続ければいいのではなかったのか。
立ちはだかる障害全てを打ち砕けば、幸福になれるのではなかったのか。
どれだけ後悔しようとも、力の結果は覆せない。
王の力はお前を孤独にする。
かつてギアスを手にした時、ルルーシュが聞かされていた言葉だ。
あの時は深く意味を考えることもなかったが、なるほどこういうことだったのか。
ふ、と。
自嘲する。
己自身を嘲笑う。
全くもって滑稽なものだ。
世界の支配者になったつもりが、結局は未来に踊らされた道化だったということか。
(あいつらならば、どうしていただろうか)
ふと、そんなことを考えていた。
もしもあの世界で出会ったあいつらが、自分の立場に立たされていたら。
ここにいるのがルルーシュ・ランペルージではなく、あの殺し合いを取り巻く誰かであったならば、と。
仮定することに意味はないが、どうしてもそう考えざるをえなかった。
780
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:36:06 ID:m8XI02nQ0
螺旋の王を名乗りながら、逃亡の果てにみっともなく死亡した男――ロージェノムだったならばどうだったか。
恐らくその強大な力でルルーシュ同様にブリタニアを倒し、その後はナナリーを自分の世界に閉じ込めるだろう。
糸色望だったならばどうか。
何だかんだと不平を垂れるうちに周りの部下達がブリタニアを倒し、望まぬ王座に座る羽目になりそうだ。
ニアだったならばどうか。
そもそも最初からこんなことは考えず、ナナリーと2人で静かに暮らす道を選んでいただろう。
ビクトリームだったならばどうか。
……駄目だ。こいつは真っ向からブリタニアに向かっていくだろうが、その先がまるで想像できない。
高嶺清麿だったならばどうか。
多くの血を流すゼロのやり方を捨て、彼なりの平和活動に身を投じ、弾圧され死ぬのが落ちだろうか。
Dボゥイだったならばどうか。
いかなる痛みも苦しみも1人で背負い込み、それこそブリタニアを倒したその瞬間、限界を迎えて事切れるだろう。
スバル・ナカジマだったならばどうか。
その馬鹿正直な性分故に、幾度となく傷つくことになるだろうが、その果てには本当に望むものを手に入れていたかもしれない。
カミナだったならばどうか。
彼ならば仮面すら必要とせず、ブリタニアを打倒できただろうが、果たしてその先世界を治められるだけの頭があるかどうか。
獣人四天王だったならばどうか。
こいつらは論外だ。1人1人の能力は、ゼロを演ずるにはまるで足りない。まず間違いなく、何らかの形で討ち死にする。
東方不敗だったならばどうか。
恐らく自分とまるきり同じ道を辿るだろうが、彼がナナリーに打ちのめされる姿は、どうにも上手く想像できない。
ニコラス・D・ウルフウッドだったならばどうか。
自分と同じようにブリタニアを倒し、1人自分の罪を背負い、ナナリーにも正体を明かさず姿を消すだろう。
ギルガメッシュだったならばどうか。
これまた自分と同じようにブリタニアを倒し、ナナリーを従わせ、そのくせそれがどうしたと平気な顔をするに違いない。
小早川ゆたかだったならばどうか。
良心の呵責と戦場の恐怖、そして指導者のプレッシャーに耐え切れず、志半ばに自殺するだろう。
鴇羽舞衣だったならばどうか。
彼女ほどの力と意志の持ち主ならば、誰からも望まれるヒーロー活劇を展開することもできただろう。
ヴィラルだったならばどうか。
馬鹿正直に自分の正体をナナリーに明かし、彼女に説得された挙句、戦いを放り捨ててもおかしくない。
菫川ねねねだったならばどうか。
自分なりのハッピーエンドを模索する彼女ならば、ナナリーさえも納得させる結末を迎えられただろうか。
ジンだったならばどうか。
やはりその過程は予想できないが、最後にブリタニアという国さえも盗み取り、忽然と姿を消す様だけは見て取れる。
(そして……)
――「ニアがな、山小屋の一件、庇ってくれてありがとうだってよ」
あの飄々とした癖毛の男――スパイク・スピーゲルだったならばどうか。
きっと彼は大人だったのだろう。
痛みを知らなさすぎたが故に。子供でありすぎたが故に。
こうして絶望の闇に沈んだ自分と違い、彼は間違いなく大人だった。
であれば彼ならば、自分とはまるで違う結末を迎えられただろうか。
物言わぬナナリー・ランペルージへと、希望を与えることができただろうか。
いいや、あれはああ見えてどこかお人よしだ。本人は否定するだろうが、少なからず正義漢の一面を持ち合わせている。
そんな人間は長生きしない。
どこかで誰かに騙されて、命を落とす羽目になるのが落ちだ。
ああ、なんだ。結局自分と同じ位置にたどり着く前に、途中でリタイアしてしまうではないか。
考えるだけ無駄だった。そんなことは考えるまでもなかった。
(つくづく俺はあいつが嫌いだ)
改めて再認識する。
不思議と、苦笑がこぼれた。
781
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:36:37 ID:m8XI02nQ0
「――ルルーシュ」
その時だ。
かつ、かつ、かつ、と。
乾いた靴音が床を叩く。
入り口の方へと振り返れば、そこには1人の少女の姿。
「ああ、お前か……何か用か?」
これがC.C.だ。
ギアスの力をルルーシュに与えた、緑髪と黄金の瞳の魔女だ。
彼女はいつだって突然だった。
不躾に、唐突に。
いつだって突然現れて、自分の用件を押し付けるのだ。
もう慣れきってしまったことだ。故に、自然に問いかける。
「なに、そろそろ私との契約を果たしてもらおうと思っただけだ」
無感情に。無表情で。
それが当然だとでも言わんばかりに、さらりとC.C.が言ってのける。
差し出した手のひらに乗せられていたのは、黒光りするピストルの銃口。
「……これで俺に何をしろと?」
言いながら、一応拳銃を受け取る。
「ギアスを持つ者は自身の契約者を殺すことで、そのコードを継承することができる……そして同時に、私達が死ねるのはその時だけだ」
「何が言いたい?」
「死にたいんだよ、私は。この長すぎる孤独の生涯を閉じるために、私はお前に力を与えたんだ」
ああ、そうか。
そういうことだったのか。
彼女もかつてギアス能力者であったと、何かの折に聞いたことがある。
数百年もの遥かな昔、C.C.は多くの愛に囲まれていた。
他者に自分を愛させるギアスで、あらゆる望みを叶えてきたのだそうだ。
だが、やがて分からなくなってきた。
誰が自分を愛していて、誰が自分を愛していないのか。
誰から向けられるのが真実の愛で、誰から向けられるのが作り物の愛なのか、と。
何者からも愛を感じられなくなり、愛した契約者にも裏切られ、魔女となった後には蔑まれ。
「自分が独りでいることに耐えられないから、俺だけにその孤独を背負えと?」
C.C.もまたルルーシュと、同じ痛みを背負っていたのだ。
度しがたいとばかり思っていた彼女が、こんなにも近い存在だったとは。
ああ、その思いには共感しよう。
自分の周りに確かなものは何もない。
その孤独は自分も嫌というほど味わったし、今後も味わい続けていくのだろう。
「だが」
それでも。
だからこそ。
「させないよ、そんなことは」
それを引き受けることは認められない。
彼女だけが孤独から解放され、死して幸せになることは許さない。
スザクを手にかけた狂気と、ナナリーを失った絶望。
それを背負い続けたまま、未来永劫を孤独に生き永らえることなど御免だ。
かちゃり。
金属の音が鳴る。
冷たい銃口の先端は、漆黒の髪の頭部に。
嗚呼、螺旋王よ。自分もお前達を笑えまい。
孤独と絶望に耐えかねた自分は、今まさに自らの手で、逃げの一手を打とうとしている。
アンチ=スパイラルよ。
言いだしっぺでありながら、どうやら自分が最も早く、この実験から降りることになりそうだ。
「待て、ルル――」
「さよならだ――C.C.」
――ばん。
782
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:37:05 ID:m8XI02nQ0
◆
行動には常に結果がつきまとう。
行動が変われば結果は変わる。
しかし、当人にとって最善の行動を選び続けることが、最善の結果を引き寄せるとは限らない。
あえて負け続け、辛酸を舐め続けることで、ようやく見えてくるものもある。
正しい歴史におけるルルーシュ・ランペルージは、幾度となく苦境を味わい続けてきた。
シャーリーの記憶を奪うこと。
ユーフェミアの手を血に染めさせること。
シャルルに記憶を書き換えられること。
この世界では出会わなかった、偽りの弟を喪うこと。
数多の屈辱と数多の悲しみは、絶えず彼の心を蝕み続けてきた。
だがその負け戦の果てにルルーシュは、真に充実した勝利と結末を迎え、微笑と共に短い生涯を閉じたのだ。
ブリタニアを倒し、世界を手にしたこと。そして最期は自ら命を断ったこと。
歴史に残された結果そのものは、どちらの道のりもよく似ている。
しかし勝ち続けたルルーシュは、失う苦しみに堪えかね狂気に堕ち、本当に大切なものを自ら捨ててしまった。
甘やかされた子供は我慢を知らない。思い通りにいかないことには、すぐに顔を真っ赤にして怒る。
稚拙なたとえではあるが、まさしくルルーシュの失敗の原因は、それと同じものだったのだろう。
螺旋王の情報とギアスに溺れ、我こそは全能の存在であると慢心した少年は、それ故に破滅へと追い込まれたのだ。
なまじ恵まれすぎた境遇が、最後の最後で彼を残酷な結末へと叩き落としたのだ。
行動には結果がつきまとう。
一度呈示された結果は、決して覆ることはない。
それがいかなるものであったとしても。
ブリタニアの少年、ルルーシュが選んだ結末は――ゼロ。
【コードギアス 反逆のルルーシュ――――――BAD END】
783
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:37:52 ID:m8XI02nQ0
ルルーシュ・ランペルージは逝った。
これにて螺旋の王が筆を執った物語の、全ての要素が完結したように見える。
月の箱庭に囚われ、それでも屈することなく立ち向かった者達のその後は、これで一通り語られた。
スパイク・スピーゲルは戦いで失った手のひらを取り戻し、愛する者との穏やかな暮らしを掴み取った。
菫川ねねねは元の世界で作家稼業に戻りながらも、またもや面倒事に巻き込まれてしまったようだ。
小早川ゆたかと鴇羽舞衣は、ゆたかの世界に近しくも異なる世界で、新たな日常を歩み始めた。
唯一ルルーシュ・ランペルージのみが絶望に直面し、自ら己の未来を閉じた。
ギルガメッシュの物語に至っては、未だ完結してすらいない。王ドロボウとのいたちごっこの繰り返しだ。
そしてヴィラルはアンチ=スパイラルが滅びた後も、悠久の夢の中に漂っている。
ロージェノムは死んだ。
チミルフも死んだ。グアームも死んだ。シトマンドラも死んだ。アディーネも死んだ。
ウルフウッドも死んだ。東方不敗も死んだ。
スカーも死んだ。ガッシュも死んだ。 ドモンも死んだ。シャマルも死んだ。フリードも死んだ。
カミナも死んだ。クロミラも死んだ。
ルルーシュも生き残った後に死んだ。
スパイクが、ゆたかが、舞衣が、ねねねが、ギルガメッシュが、そしてヴィラルが生き延びた。
物語の結末は、これで全て描かれたように見える。
残された全ての要素に決着がつき、堂々の完結を迎えたように見える。
だが。
まだ、足りない。
足りないのだ。
この物語に残されたファクターの、全てを語り終えたと断じるには、まだある要素が明らかに足りない。
そもそも、もう一度あらすじを振り返ってみよう。
幾多の犠牲を払った参加者達は、遂にカミナとクロミラの駆るグレンラガンによって、見事実験の舞台を脱出。
最後に残された刺客・ウルフウッドを倒し、アンチ=スパイラルとの交渉にも一応成功。
アンチ=スパイラルに与えられた技術により、ようやく元の世界へと戻ることができた。
そこから先は前述の通りだ。
一見すると、全てのエピローグは語られたように見える。
だが、足りない。
よくよく読み返してみれば、この構図からは、ある者の結末が決定的に抜け落ちている。
そう。
――参加者達をそれぞれの世界に帰した後、アンチ=スパイラルはどうなったのか?
784
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:38:37 ID:m8XI02nQ0
ヴィラルのエピソードを読み返してみよう。
天元突破者を手に入れた、この物語のアンチ=スパイラルは、その後螺旋族に滅ぼされたと記されている。
賽を転がしても零や七は出ないが、一から六のうちのいずれかの数字が、延々と連続する可能性は存在する。
どれほどの敗北の世界を重ねても、どこかで螺旋族の勝利する可能性はあるはずだ。
そして彼らの世界では、その可能性が実践された、と。
だが、彼ないし彼女がいかにして倒されたかは、そこには詳細には記されていない。
断片的な文面からは、その要素がごっそりそぎ落とされているのだ。
残されたこのたった1つの要素を語らずして、物語が完結を迎えられるはずなどないではないか。
誰がどのような形で天元突破に目覚め、どのような戦いの果てに勝利したか。
誰がいつどこで何度賽を振り、どの目が連続して出続けたのか。
――否。
それだけではない。
厳密に言えば、この賽のたとえ話からも、ある可能性が抜け落ちている。
この仮定においては、振るべき賽がどんなものかは定められていないのだ。
事前に賽の情報は与えられていない。
であれば、それがどんな材質だろうと、どんな色であろうと自由。
要するに、こういうことだ。
そもそもアンチ=スパイラルを倒したのは、本当に螺旋力だったのか?
問題外の仮定かもしれない。
文面には確かに、アンチ=スパイラルは螺旋の力の前に敗れた、と明記されている。
だが、所詮それは書き手の主観だ。
物語とは、その筆を執った者が思い描いた通りにしか書かれない。
つまりこの螺旋力が、実は作家の思い違いであり、本当は全くの別物であった可能性もありうるのだ。
仮によく似たものが存在すれば。
螺旋力と同じく緑色の輝きを放ち、生命の進化を促す力が存在したとすれば。
そのくせその性質は、実は全くの別物であったとすれば。
まどろっこしい物言いは好みではないだろう。
ではそろそろ、単刀直入に言うとしよう。
――この世界のアンチ=スパイラルを滅ぼしたのは、実は螺旋力ではなかった。
785
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:39:13 ID:m8XI02nQ0
◆
『……何ということだ……』
無明の宇宙の暗黒の中、ぼんやりと浮かぶ漆黒の影。
2つの目と口だけが白く染まったヒトガタが、目の前の光景に頭を抱えている。
信じられない。
頭の悪い感想だが、今のアンチ=スパイラルには、この一言が限界だ。
数多の多元宇宙全てを制する力も、数多の多元宇宙全てより得た叡智も、まるで役に立ちはしない。
いいや、たとえここにいるのがアンチ=スパイラルでなかったとしても、この状況を理解できる者がいるかどうか。
無限に広がる超螺旋宇宙。そこに展開されているのは戦場。
反螺旋種族の大軍勢が、同等の敵性戦力と戦争を繰り広げている。
ただ文章に書き起こすだけならば、さほど気になることでもないだろう。
しかし、それでもありえないのだ。
たった今防衛線を展開しているのは、そんじょそこらの軍隊ではない。
無限に広がる世界の分岐、その全てを支配することすら可能とする、アンチ=スパイラルの大軍団なのだ。
幾千、幾万では語れない。
その数は那由多の彼方すら突破し、無量大数の領域にさえ。
そして今攻め入ってきた敵勢が、それとほとんど互角の物量を誇っているのだ。
それだけではない。
膠着状態にあった戦況は徐々に押され、今や逆にこちらが不利に陥っている。
ムガンが。アシュタンガ級が。ハスタグライ級が。パダ級が。
迫りくる怒涛の大軍団を前に、それらがみるみるうちに蹂躙されていく。
こんなことがありえるものか。
多元宇宙の彼方にも、このような苦境は存在した。
大いなる道程の果て、螺旋に目覚めた青年・シモンの操る螺旋力の魔神――超銀河グレンラガンの活躍だ。
だが、それもあくまで孤高の将。
支える者達がいたとしても、実際に動いていた機動兵器はグレンラガンのみ。
互角の物量戦に持ち込まれ、その上敗北に近づいているなど、まさに前代未聞の事象。
いいやそもそも、こいつらは一体何者なのだ。
それは船だ。
先端に顔が付いているものの、紛れもなくそれは宇宙の船だ。
それならまだいい。かの螺旋族の巨大戦艦――カテドラル・テラと同様の特徴。
だが、似ているのはその一点だけ。
赤、白、黄色、その他諸々。それぞれ多種多様な色に塗り分けられた艦隊は、奴らのそれとはまるで違う。
細かな部分の造形は、螺旋族のそれを大きく逸脱している。
中には複数の機体で合体し、ヒトガタをなす物もある。その形状にもまるで見覚えがない。
今まさに襲い来る侵略者達は、多元宇宙のどの世界にも存在しないのだ。
何より、あれは本当に螺旋族なのか。
確かに緑の光を動力としているが、あの艦隊が操る武器の性質は、螺旋力とは微妙に異なる気がする。
スパイラルの象徴――ドリルを操る機体もいるにはいる。だが、それだけではないのだ。
トマホークを振るう物。拳で殴りかかる物。剣で相手を両断する物。ミサイルの嵐を巻き起こす物。
幾千幾万もの姿形の、あらゆる力が存在している。
果たして螺旋の力とは、これほどまでの柔軟なものであったか。
ひょっとするとここにいるのは、もはや螺旋族ですらない、全く別の存在ではないのか。
『――否』
だが、しかし。
『否否否否否否否否否否否否ぁぁぁっ!』
そんな結論は認められない。
断じて認めてなるものか。
螺旋力と戦うため。そのためだけに身につけた、天下無双のこの力。
それが螺旋力ですらない、どこの馬の骨とも分からぬ力に、そうそう屈してなるものか。
あれは螺旋力だ。
誰が何と言おうと螺旋力だ。螺旋力でないはずがない。
そして。
786
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:40:19 ID:m8XI02nQ0
『我らは負けるわけにはいかんのだ――螺旋の力を操る者共にィッ!』
その螺旋の力にすらも、屈するわけにはいかないのだ。
進化の成れの果て/袋小路の変異/破滅を生む暴力の権化――スパイラル・ネメシス。
起こさせるわけにはいかない。負けるわけにはいかない。
螺旋族は滅ぼしつくさねば。それこそが宇宙を守る道なのだ。
自分達が破滅することは、すなわち宇宙の破滅を意味するのだ。
故に、アンチ=スパイラルは迎え撃つ。
最大最強の戦力で――グランゼボーマで迎え撃つ。
いつからかそこに存在していた、無頼の来客のその頭を。
混沌の漆黒の中に浮かび上がった、巨大な赤きヒトガタを。
鬼神。
まさにその一言こそ、その威容を表すにふさわしい。
巨大。かの者のサイズを表現するのには、もはやその一言すら生ぬるい。
超螺旋宇宙の中心で、漆黒の魔神と向き合う姿は、その体躯とほぼ同等の大きさ。
銀河すらもその手に掴む、グランゼボーマと同等なのだ。
それがいかなる意味を持つのか、もはや言葉で語る必要はない。語ることのできる言葉すらない。
幾度血を浴び続けてきたのだろう。
幾度敵を退けてきたのだろう。
真紅に燃える身体の頂点、その頭部から突き出しているのは、まさしく鬼の五本角。
おぞましくも神々しい。
神のごとき荘厳さと、悪魔のごとき恐ろしさ。
すなわち、鬼神。
『受けよ螺旋族! インフィニティィィィビッグバン――ストオォォォォォームッ!!!』
瞬間、宇宙に激震奔る。
無音の真空空間が、あるはずもない音に鳴動する。
グランゼボーマが掴むのは銀河。2つの銀河を1つに合わせ、その反発が爆発を生む。
まさに天地開闢の力。
三千世界の暗闇を、眩い光輝で照らし出す創世の爆発。
アンチ=スパイラルの持つ最大火力――その威力、まさにビッグバン。
激烈な出力が激流をなし、赤き鬼神へと襲い掛かる。
人も、機械も、月も、惑星も、銀河も、世界の全てを一挙に飲み込み、蹂躙し焼き尽くす必殺の熱量。
耐えられるものなど皆無。避けられるものなど絶無。
人知など当に突き抜けた波濤が殺到し、侵略の鬼を飲み込んだ。
《――■■■■ビーム》
かに見えた。
刹那、激震は重ねられる。
天地創世の紫炎と真っ向からぶつかるのは、新緑に輝く生命の波動。
鬼神の放つ一筋の光条が、インフィニティ・ビッグバン・ストームをも受け止める。
その出力、まさにビッグバン。
そちらがそう来るというのなら、こちらも合わせてやろうと言わんばかりに。
折り重ねられた超新星爆発。超螺旋宇宙を揺るがす猛烈な衝撃。
ビッグバン同士がぶつかったのだ。その余波はもはや言うに語らず。
銀河が消える。銀河が消える。銀河が、銀河が、銀河が。
新たな世界を生み出す光は、その矛先を破滅へと転じる。
『馬鹿な……』
ありえない。
こんなことがあるはずがない。
宇宙に並びうるはずもない一撃が、こうもあっさりと凌がれた。
あらゆる戦闘の過程を省略し、一撃必殺の覚悟で放った攻撃が、ただの一発で無力化される。
787
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:40:49 ID:m8XI02nQ0
『……ああ、そうか……』
ずしん、ずしん、と。
足音が聞こえてくるようだった。
大地なきはずの宇宙を闊歩する、真紅の鬼神の足音が。
『はははは……そうか、そういうことだったのか!』
遂にアンチ=スパイラルは理解する。
半ば強引に解釈する。己自身を納得させる。
これが、これこそが。
我々が最も恐れてきた、スパイラル・ネメシスの発現なのだと。
このおぞましき鬼神の姿こそが、螺旋の進化の成れの果てなのだ、と。
赤き拳が振り上がる。
気付けば、両者の距離には差などなかった。
ひとたびその鉄拳を振り下ろせば、この身は粉々に砕かれるだろう。
ああ、そうだ。
我々は失敗してしまったのだ。
避けねばならなかった破滅の時を、この世界では迎えてしまったのだ。
『見るがいい! これが貴様ら螺旋族の――いや! 螺旋力の行き着く、おぞましき姿だァッ!!』
叫ぶ。
絶叫する。
自らの監視するモルモット達へと。
かの倣岸にして臆病な螺旋の王のもと、箱庭に集められた人間達へと。
気まぐれの果てにそれぞれの世界へと送り、監視を続けていた実験動物達へと。
認めよう。
ここが我らの死に場所だ。
我らは螺旋を倒せなかった。
最悪の瞬間を回避することもできず、無様な結果を晒してしまった。
だが、この結末は他人事ではない。
お前達にも起こりうる未来なのだと。
螺旋の本能の赴くままに、愚かにも進化を続けるお前達とて、最後にはこの道を辿るのだと。
これは警告だ。
その警告のためにこそ我らは果てよう。
どの道抵抗したとて、到底かなうはずもないのだ。
相手はスパイラル・ネメシスなのだから。
この無限の多元宇宙の中、唯一アンチ=スパイラルが恐れる存在なのだから。
自力で倒せる存在など、一体誰が恐れるものか。
最後の瞬間、くわとその姿を睨みつける。
グランゼボーマの頭部へと。
アンチ=スパイラルの本星へと。
吸い込まれるようにして振り下ろされる、その拳をじっと睨みつける。
右の拳を振り上げる、忌まわしき進化の鬼神の姿を。
その名を叫んだ。
それが最期の矜持であるかのように。
宇宙の果てまでも轟かすように、その名をはっきりと絶叫した。
788
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:41:14 ID:m8XI02nQ0
―― ゲ ッ タ ー エ ン ペ ラ ー ! ! !
.
789
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:41:48 ID:m8XI02nQ0
◆
戦いは終わる。
この世界での敗北。
あまねく次元世界のその1つで、アンチ=スパイラルを滅ぼしたのは、螺旋族の力ではなかった。
ゲッター線。
反螺旋族の知りうる世界のどこにも、存在すら観測されていなかった力。
宇宙の崩壊を止めるために、進化を留めようとする彼らとは対照的に。
宇宙の崩壊を止めるために、それを倒しうる進化を加速させる力。
彼らがこの世界に現れた理由は定かではない。
あるいは、かのロージェノムが多元宇宙の扉を開いたことで、異界の門が開いたのか。
彼らの知りえなかった宇宙のファクターが、認識の壁を越えて現れたのか。
いずれにせよ、大いなる敵と戦うために、更なる進化を求めるゲッター艦隊にとって、彼らは敵に他ならなかった。
破綻を恐れ停滞を望む連中など、この宇宙には必要なき種族。
ましてそれが、進化を望む種族を食い潰そうとするならなおさらだ。
故に、制裁を下した。
艦隊の一部を、渦中の螺旋族とやらの星へ応援によこしたが、その戦線も終結しただろう。
であれば、後は立ち去るだけだ。
それなりの力は持っているらしいが、あの星の螺旋族という連中は、未だ彼らの求める水準には達していない。
更なる進化を待つ必要がある。
この宇宙を飲み込まんとする、大いなるうねりに抗いうる進化を。
故に、今は立ち去ろう。
そしてその進化を見届けよう。
来たるべき瞬間を迎えた時にこそ、彼らの戦場へと駆り立てるために。
そしてその艦隊が今、偶然見つけたものがある。
それは人に似た姿でありながら、人にあらざる者だった。
螺旋の星の獣人とかいう存在が、いくつかの機材と共に発見された。
驚いたことに、生きている。
五感の機能全てを停止させながら、未だ生きて宇宙を漂っている。
計測される高エネルギーは、すなわちこれこそがアンチ=スパイラルの言う、天元突破というものか。
あのグランゼボーマの崩壊から生き延びた、その設備の堅牢さには感心する。
だが、中に収められていた獣人には、まるで価値が見出せなかった。
この存在もまた、奴らと同じ穴の狢なのだと。
優れた進化の力に目覚めながら、それを停滞のために使っている。
いかなる事情かは知らないが、己の意識へと引きこもった軟弱者に用はない。
故にその獣人には特に何の興味も見せず、漆黒の虚空へと放り出す。
しかし、獣人を閉じ込めていた機材を見たとき。
《ほぅ》
にやり、と。
かの者の声に滲むのは、笑み。
巨大な鋼鉄の鬼神の顔に、表情が浮かぶことはない。
しかし、その中に潜む何者かの顔は、確かに笑っていたのだろう。
とんだはずれだとばかり思っていたものに、僅かに興味を引くものが残されていたのだから。
機材に一緒に積まれていたのは、資料。あの螺旋王が計画した、進化のための殺し合いの顛末。
その表題を、読み上げる。
すなわち。
790
:
そして――――――
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:42:16 ID:m8XI02nQ0
《……バトルロワイアル……》
【ゲッターエンペラー@■(■ェ■■!!)ゲッ■ー■■ ■界■■■日】
――To be continued Next "ANIME-CHARA BATTLE ROYALE"...?
791
:
◆9L.gxDzakI
:2009/05/02(土) 22:42:42 ID:m8XI02nQ0
投下終了。
なんか、もう、色々とすんません
792
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜(修正)
◆9L.gxDzakI
:2009/05/10(日) 14:41:02 ID:/ktMSEpk0
>>773
を以下のように差し替えます。
◆
――おかえり、ルルーシュ。夕べは一晩中どこをほっつき歩いていたんだ?
最低最悪の科学者・ロージェノムの実験場――そこから脱した彼が最初に聞いたのは、そんな言葉だった。
発したのは彼の共犯者。
C.C.という少女である。不死身を体現したかのような、正体不明のわがまま娘だ。
ここに1つ、驚くべき事実がある。
ルルーシュがあの殺し合いに巻き込まれた期間は、少なく見積もっても最低3日。
実際に箱庭に閉じ込められていた2日間と、そこに脱出用の飛行機の調整期間を含めて3日だ。
だがC.C.は、彼がいない期間を1日と断じたのだ。
どうやら自分は元の世界に帰るついでに、最低2日分過去へと遡ってしまったらしい、と認識する。
世界を座標に例えたとして、時間を縦、空間を横とするならば、多元世界間の移動は斜めとなるらしい。
ということは斜め移動のさなかに、縦に当たる時間の推移がついてくるのも、ありえない話ではないということか。
ちなみに、彼がこうして帰還を果たしたことで、世界にはある変化が生じている。
そもそも先の殺し合いの際、その舞台裏でもまた、もう1つの壮絶な殺し合いが展開されていた。
螺旋民族とアンチ=スパイラル一派の全面戦争である。
双方全滅の結果を招いたこの戦闘には、ロージェノムに拉致されたルルーシュを救出すべく、このC.C.も参加していたのだ。
しかし、こうしてルルーシュは帰ってきた。
彼女を戦場へと誘った存在が、この世界へと呼びかける理由が、それによってなくなってしまった。
この瞬間、世界は新たな多元宇宙へと分岐する。
ルルーシュがC.C.の参戦よりも早く帰ってきたことで、「ルルーシュが失踪の1日後に帰ってきた世界」が新たに生まれ、
この世界のC.C.は、「ルルーシュが失踪した後C.C.が戦線に誘われた世界」のC.C.とは、別の人物となったのである。
ともあれそのようなことは、ルルーシュにとっては知る由もない余談なのだが。
閑話休題。
そうして帰還し、C.C.の問いかけにも適当に応じた彼が最初に行ったのは、まず情報確認だった。
ルルーシュには元の世界に帰って最初に、彼女に問いたださなければならないことがあった。
793
:
LAST CODE 〜ゼロの魔王〜(修正)
◆9L.gxDzakI
:2009/05/10(日) 14:42:03 ID:/ktMSEpk0
――V.V.とは誰だ?
開口一番の問いがそれだ。
ルルーシュはあの螺旋王のデータバンクで、己の辿るある程度の未来の事象を把握している。
そしてその物語の中に、彼の知らぬファクターが存在した。それがV.V.という少年だ。
あの箱庭にあった情報を真実とするならば、こいつはランスロットのパイロット・スザクにギアスの情報を明かし、
あまつさえナナリーを誘拐するということになる。
これがマオならまだいい。ギアス能力者がギアスの存在を知っているのは当たり前。
だとするならば、その少年は何者だ。何故ギアスのことを知っている。
そいつもマオ同様、C.C.と何らかの関係を持っているのではないか。
彼女と行動を共にしていたのか。はたまた彼と同じギアス能力者か。
少なくともルルーシュの知る盤面の上に、このような駒は存在していない。決して見過ごせるものではない。
当のC.C.自身はというと、一瞬この問いに大層驚いてみせた。
だがやがて観念したのか、静かに白状を始めた。
V.V.の正体を。その恐るべき目的を。
金髪の少年・V.V.は、C.C.よりも後に能力に目覚めた、同じ“コード”の持ち主らしい。
ここで言うコードとは、彼女の持つ魔女の力の総称のことだそうだ。
要するにV.V.もまた彼女と同じく、「不死の身体」と「ギアスを与える力」を有しているということ。
そして既にこの少年は――当時のブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと契約を結んでいた。
彼はブリタニア王の実兄であった。
おおよそ二桁にも満たぬ外見年齢しかないV.V.は、しかしルルーシュの伯父だったのだ。
コードの能力に目覚めるには、ギアス能力を授けられている必要がある。
彼がどのタイミングでに魔人の力を手にしたのか。それは今となっては定かではない。
だがかつてのブリタニア王家の内乱の折、兄V.V.は間違いなくコード能力に覚醒し、弟シャルルはギアス能力を授けられた。
そしてそのコードの力で、彼らが為し遂げんとした恐るべき計画がある。
それがラグナレクの接続だ。
現在のブリタニアの王城には、“アーカーシャの剣”と呼ばれる遺跡が存在する。
そして同時にこの地球には、それと近似した遺跡が随所に残されているのだそうだ。
後者の遺跡に関してはルルーシュも知っている。正確には、未来の彼が目撃している。
日本の式根島のすぐ近く――神根島と呼ばれる無人島に、その遺跡の1つがあるらしい。
そしてそれら全てを手中に収め、V.V.とC.C.の――案の定、彼女らはかつて協力関係にあった――コード能力を用い、
アーカーシャの剣を起動すること。
それがブリタニアの兄弟の最終目的であり、シャルルが始めた侵略戦争の最大の理由だった。
この行為を、ラグナレクの接続と呼称するのだという。
そしてその行動に伴い、引き起こされる結果は――全人類の合一化。
そもそもアーカーシャの剣とは、「Cの世界」と呼ばれるものに干渉するための端末なのだという。
Cの世界とは、言うなれば集合無意識。
時間、国境、血縁……はたまた生死の境界すら問わず、あらゆる人間の無意識が溶け合ったものである。
シャルルはこれを操作することで、全ての人間の有意識さえも、そのCの世界に取り込もうというのだ。
794
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:05:22 ID:NIXAKoOw0
投下します。
795
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:10:18 ID:NIXAKoOw0
ボクは知らなかった。
ささいで、どうでもいい予定だと思っていたから。
"コタローくん、すぐ帰ってくるよ"――と、ハカセが言ったから。
あの装置の完成で、すっかり気が緩んでいたんだ。
だからボクは、1人でお留守番していた。
"戻ったら一緒にクロちゃんを助けに行こうねハカセ!"
どうして。
ハカセ、ボクにはわからないよ。こんなの、あんまりじゃないか。
どうして一緒に連れて行ってくれなかったの?
あそこにいた他のみんなも、知ってたんだね? ボクだけ除け者にしてさ。
ボクを元の世界に戻すなんて、ひどいよ。
残されたボクはとっても寂しい。
怒りたくても、怒る気がしない。
この別れに、すがすがしさなんてあるもんか!
【"サイボーグクロちゃん"――――天才少年コタロー】
◇
796
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:13:52 ID:NIXAKoOw0
「――これをお渡しするように、と……ハカセは」
剛万太郎ハカセのデジタルレターを受け取ったのは、クロちゃん達がいなくなってから一週間後。
ツーンとふんぞり返りながら、ニャンニャンアーミー5匹が、ごみ捨て場にやってきた。
ボクとミーくんとハカセの家がごみ捨て場にあることを、彼らは知っている。ハカセと縁を切っていたロボットだから。
聞くまでもなかった。アイツらが来るときは、決まって揉め事がついてくるんだ。
嫌な予感がしない奴なんていない。
おそるおそる箱を開けると……中にはレターがあった。
『君に真実を伝えるためだけに、私はこの映像を撮っている』
それには、異世界からのハカセの報告が克明に記録されていた。
クロちゃん達3人に何が起きて、自分が何をしているのか。
ボクとハカセを招いたあの異世界の人たちが何者なのか。
彼らは何を企んでいたのか、その"本当の目的"のことも。
ハカセがボクを元の世界に先に帰すように頼んだから、ボクは無事であること。
そしてボクの他にも、ボクが住む世界に"運ばれた物"があるということも。
ハカセは全てを話してくれた。
『見終えたら誰にもわからないように始末してくれ。出来れば、"あれ"も処分してほしい』
多元宇宙を巻き込んだ大戦の結末がどうなるのか、ハカセにはわかっていたんだ。
敵も味方も関係なく、とてつもない被害だけが残されるだけ。99%の兵が死んでいくと。
だから通信が傍受されているのも承知の上で、メッセージを送ってくれた。
ハカセも死にそうな姿だった。どうすることも出来ないって顔をしていた。
『帰りを待つ皆を支えてあげられるのは、コタローくんだけだ……ワシじゃない。寂しいなぁ』
その日はニャンニャンアーミーを帰し、ナナちゃんにもジムにも話さず、黙って寝た。
次の日、ボクは久しぶりに出かけた。
ボクとハカセの間には秘密の合図がある。"あれ"はきっと、ハカセの昔の研究所に仕舞い込んであるモノのこと。
「こっちだ、ついてこい」
ニャンニャンアーミーはボクの侵入を拒むことなく、いつの間にか案内役になっていた。
素っ気無い態度だが、昨日のことを考えれば、ハカセはきっと彼らにデジタルレターで連絡していたのだろう。
今はニャンニャンアーミーの寝床になっている研究所で、ボクは久しぶりにそれと再会した。
次元移動装置。
ボクたちは一度だけ、自分の住む世界とは違う世界で冒険したことがある。
その砂だらけ異世界から元の世界に帰るとき、ボク達はこれを使ったんだ。
適当に配線を調べてみる。念入りにメンテナンスされた後があった。内部には大量の設計図が散らばっていた。
ハカセがこの世界に送り込んだ物は、おそらくこの設計図の山。
異次元大戦でもこの技術は使われたのかもしれない。
「元々ハカセは、ちょくちょくこの装置を見にきていました。我々アーミーはみんなでガン無視してましたけど」
ボクとハカセは、一度この装置に乗って多元宇宙の狭間に行ったはずなのに、装置は無くなっていなかった。
ということは、ハカセとボクが乗った装置は、これの複製品だったんだろう。
おそらくあのチューンナップもこいつにしてるんじゃないかな……。
「こいつとそっくりなマシーン、何台も作ってましたよ。残っているのはコイツだけですが」
忠誠心を失ったニャンニャンアーミーの目線にもくれず、ハカセはずっと前からメンテと調査をしていたのかな。
たった数時間であの次元移動装置のメンテを行うなんて不可能だし、事実なんだろうけど。
797
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:15:36 ID:NIXAKoOw0
「こんなの、作る、暇が、あるんだったら……少しは、私たち、にも……サービスを……グス」
ボロボロと涙を零すアーミーたちに、ちょっぴり同情しながらも、ボクは何も答えなかった。
アーミーたちはボクと違って、リアルなハカセを目撃した最期の知人。
大切な人の最後の触れ合いを、つまらない形で終わらせてしまったアーミーズ。
彼らにかける言葉なんて、今のボクには見つからない。
ボクは何も言わず、次元移動装置に乗り込んだ。
無論、このマシーンを使うためだ。
次元移動装置があれば、あらゆる世界に飛べる。
辛い過去に会うこともなく、自分が生きている世界。
世界征服を成功させて、世の中丸ごとぶっ壊した自分がいる世界。
ハカセ、ボクはこの装置を始末しないよ。
このまま黙って見てるだけなんて、ボクには出来ない。
この装置で、ボクは"ボク"に会いにいこう。
◇
798
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:18:20 ID:NIXAKoOw0
◇
知ってますか?
世間であなたが何と呼ばれているか。
1人の女生徒と駆け落ちして蒸発した問題教師ですって。
笑っちゃうわ。
普段のあなたを見ている人なら、そんな発想が出るわけないもの。
生徒の失踪に責任を感じて、自分の命を……なんて真似もできないクセに。
早く帰ってきてください。
新井先生、へ組の勤務時間がそろそろ本業のトータルを越えそうです。
みんな期待してませんよ?
期待しているのは、私だけ……ふふふ。ふふふ。ふ……
…………意気地なし。
後ろ向きで、小心者で、勘違いをさせちゃって、嫌いになれない
あなたは、とっても面倒くさい人。
男って馬鹿ね。
【"さよなら絶望先生"――――2年へ組 常月まとい】
◇
799
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:22:18 ID:NIXAKoOw0
「新井先生、糸色先生と――ちゃんは両思いだったの? 」
「糸色先生はそんなタマじゃないわね。彼女は本気だったのかもしれないけれど」
生徒のカウンセラーを幾度もこなしていけば、こんなこともある。
カウンセラーの世間話を逆に患者に聞かせるアプローチ。
私は患者の少年に"あの人"にまつわる愚痴のようなものを、聞かせているのだ。
嫌な気はしない。大事なことは、本人が意欲を持って人と繋がろうとする傾向が現れること。
「ボクもそう思う。だって糸色先生は"みんなが大好きなんです"って言ってたもん」
今日の患者は常連の男の子。世間と認識がズレているわ。
いきなりやって来て"あの人"を遠方で見かけたと言い張るんだから、つい気を許しちゃうわね。
こんなにハツラツとしているのに、あんなニュースを聞けば、悲しみで一杯にもなる。
事件当時に名乗り出なかったから、口から出任せを言ってるのかもしれないのけれど。
でも"あの人"を慕っているには変わりはない。その感情は……きっと真実。
「せんせーは、いつ帰ってくるの? 」
「ノゾム、何か言ってなかったのかよ」
どういうわけか、最近はこの子たちも一緒に話に参加するようになった。
まったく。あなたは本当に無責任。
残されたみんなが、どうしてるかも知らないで。
あちこち徘徊したり、殴ったり、掘ったり、背伸びしたり、謝ったり、怪我したり、描いたり、脱いだり。
……いつも通りだと思う? 時折、涙を流しているというのに。
「新井先生、例えばの話だけど、ボク聞いてもいい? 」
「……あ、えと。何かしら」
「もしもこの世に、全く同じ人間が生きている2つの世界があったとするよね」
「ハイハイ"なんだってー"、"なんだってー"」
「主人公はどっちの世界も同じ人なんだけど、選べるヒロインは1人だけなんだ」
「風呂ーラとBeerンカ? 」
お酒を飲んだら風呂に入れないでしょう。小森さん、発想が古いロトよ。
交くんも呆れるのは勝手だけど、その顔は止めなさい。ギャラ100万$のミステリー調査班長Aになってるわよ。
風呂に入った後ならお酒も飲めるけど、両方とるのは道徳に反しそうね。
「でもメインヒロイン候補A、Bはある日突然いなくなっちゃうんだよ」
「Aルートのヒロインは感情欠落を装った、なんちゃって電波キャラだな。きっと偽名を使った女スパイだ」
「Bルートのヒロインは完璧超人。きっちり束縛できなかったから、諦めて離婚した」
「……問題は主人公も両方いなくなっちゃうんだ」
ぴしり、と私の何かに亀裂が走ったような気がした。
「駆け落ちしたのね」
無意識に言葉が出てしまった。
……哀れね。どこまでいっても、例え話でしかないというのに。
あの報道はただの世迷言。そんなはずはないと信じている。
あたしが、この子の話に"あの人"を重ねていたなんて。
どうしてこんなことを口走ってしまったのかしら。
「本当にそうかな」
私は何も答えない。
こうして今日も日が暮れてゆく。
彼のやってくる日に、奇妙な楽しみを覚えたせいか、私の心は少し変わった。
私の心に染み渡る、悪戯に時間を浪費する寂しさは減った。
「ボクは違うと思う」
でも、それだけ。
私の世界が大きく変わることはない。
私には変えることができない。
「そんなの寂しいよ、先生」
きっと。
◇
800
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:23:45 ID:NIXAKoOw0
◇
ヘッヘへ〜〜どうだい、このタキシード決まってるだろ!?
少林寺を盛り上げるためには、こういう異文化を嗜むことも疎かにしちゃいけねぇ。
みんなで神輿担ぐんなら、もう国だの家柄だの言ってる場合じゃねーんだ。
せっかく叶った少林寺の再興なんだ。もう一回沈むのはゴメンだね。
あのガンダムファイトのおかげで、他国からの入門者がワンサカ来たんだ。
規模がデカくなりすぎたから急遽、俺が師範代だぜ?
あの頭の硬かった連中の仕業とは思えねぇ〜。
だが乗りかかった船だ。大事なのは心と心! 拳で語れば立場を超える!
俺はガンダムファイトでいっぱい学んできたんだからな。
――っとと、いけね。じゃあまた後でな〜〜!
【"機動武闘伝Gガンダム"――――少林寺師範代 サイ・サイシー】
◇
801
:
ネコミミの名無しさん
:2009/05/24(日) 15:30:25 ID:NIXAKoOw0
「ようやく最後の1人が来ましたね」
バタバタとけたたましく響く足音。
ベッドに横たわる私の下に、最後の客がやってくる。
私の夫が絆を交わした、誇りある同盟者。
「おいィ? 随分と遅いんじゃねェかサイ・サイシー! こんな大事な日に遅刻とはな。
俺が許しても、レインの寿命がストレスでマックスになっちまうぜ!? 」
私の右隣のイスで足を組んでいる彼も。
私の左隣で凛と立つながら微笑む彼も。
この日のために世界中から飛んできてくれた。
「ゼハァー……悪ィ悪ィ! レイン、おめでとさん! ハヒィー、ちかりた……」
「シャリーたちが、下で立食パーティの準備を始めてるぜ。チャイニーズ・グルメ、手伝ってきなァ! 」
「あいよガッテン承知〜〜! 」
私と夫の最愛なる子供の誕生。
その祝福のために、夫の戦友4人と、その取り巻きのみんなが、この場所に。
産後の日立ては良好。今日は外出の許可が降りた初日。これほど嬉しいことはないわ。
あの激闘が起こる前は、こんな事になるなんて思いもよらなかった。
「らしくないですね、一番張り切っていた彼が遅刻とは」
「ドモン・カッシュの捜索」
この大切な時に、一番そばにいてほしい人が、いないことも。
「Oh! それは言っちゃならねぇぜアルゴ〜〜あ、Sorryレイン……」
私の夫、ドモン・カッシュが姿を消して何ヶ月たっただろうか。
行方をくらます前日に交わした口付けの感触は、まだ私の唇に残っている。
どこにいるのか、無事なのか、どうして帰ってこなくなったのか。
仲間があらゆる情報網で探しても、あの人を見つけることは出来なかった。
「流派東方……王者(チャンプ)の風は、どこへ靡いているのやら」
当ての無い旅に出たとは思えなかった。
彼と時を同じくして行方不明になったアレンビー・ビアズリーやウルベ・イシカワ。
この偶然を偶然で済ませる人は誰もいなかった。でも、今のところ世間では何も起こっていない。
私の元に舞い込んだモノと言えば――あの人を慕う声。
「――レインさん! サイのアニキが"そろそろ料理が完成する"って! 早く食べよう! 」
あの人の武勇伝が、この子と私と、私の子を繋いでくれた。
何もわからず悲しみに暮れていた日々。
皆が遠慮して私と距離をとっていた中、門戸を叩いたのはこの子だった。
"お姉さん、ドモン・カッシュのお母さんだよね! ……あれ? 奥さんだっけ!? "
都市部から離れた山奥に住んでいると言ったその子は、私の夫に命を救われたと訴えた。
無論、いきなり受け入れることは出来なかった。あれほど探し回ったのだから。
でもこの子の一報は、立ち直る切欠になった。
少年の幾度にわたる来訪を迎える内に、ドモンを探す日よりもドモンを待つ日が増えた。
「来たなァBLACK CAT!? だが落ち着け、まだ慌てる時間じゃない」
世界中を飛び回っていたせいで、私はお腹の子に危うい負担を強いていたのだ。
あのまま無理をし続けていたら、私もこのお腹の子も――。
ドモンが帰ってきたとき、私たちはどんなに悲しい顔で迎えていただろうか。
彼の親兄弟のように、冷たい肌を晒していたかもしれない。
「わかってるさ! ボクたちは"イタダキマス"がReady Go……でしょ!? 」
「いいセンスですね。少年の純粋さが、ズレたユーモラスに息吹を与えている」
ドモンはきっと生きている。
あの人はきっとどこかで、今日も誰かを助けている。
この子のような無垢な少年たちを救い続けているんだわ。
「ありがとう。みんな、私たちもそろそろ行きましょう」
802
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:38:14 ID:NIXAKoOw0
◇
泣く子も黙る王ドロボウ。奪うものは人の心から星の瞬きまで。
ガキの頃はそんな義賊みてーな輩に憧れたもんさ。そんな俺も今じゃ酒に溺れるケチな泥棒だ。
ここにはそんな野郎がウジャウジャいるぜ。
お偉いさんは、この街を皮肉ってこう言うんだ――。
……あぁ!? そうだな。そっから話そう。
いいか? 王ドロボウは何でも盗む。それは知ってるよな。
ある日、どっかの売人が笑って言ったんだ。
"アイツの夢玉が詰まった宝箱は一体どこにあるんだろうな"ってよ。
風の噂を聞きつけて、"そこ"に三流が集まった。
王ドロボウの名を語り、二流が甘い汁を吸おうとした。
巨大なマーケットにしようと、一流が嗅ぎつけやがった。
いつしかこの街は、ドロボウが暮らす集落になっちまったんだ。
でもお誰もここを潰そうなんて考えないんだな、これが。
色々、裏があるんだぜ。噂じゃ花園都市、色彩都市、日出処の王国……盗電団も関わってるそうな。
……ドロボウの都? あんな片田舎と一緒にしちゃいけねぇよ。
あそこに監禁(す)んでたダブル・マーメイドも、この街に引越したみたいだぜ。
やってることは、何も変わらねぇんだけどな。
『王ドロボウの都』なんて、よく言ったもんだぜ。
【"王ドロボウJING"――――送り狼(センディング・ウルフ) ギンジョウ】
◇
803
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:40:03 ID:NIXAKoOw0
◇
「さぁさぁ!この金属で出来た丈夫な糸! 王ドロボウ印が付いたブーメランとセットでどうだい! 」
「王ドロボウが冥界の皇子から奪い取った毒薬。こんな豆粒でも虎はコロリ逝くぜ」
「焼肉王ドロボウの都店、ただいま2時間9分待ちで〜〜す」
「3人の王が聖なる杯で交わす伝説知ってアルか?なんとその1つがここに……」
「百合の香りが染み込んだシーツ、お買い上げアリガトゴザイマー……HEY、お札! YOUちゃんと枚数チェックしてYO! 」
「どんな缶でも一秒で中身を抜き出せる魔法の缶切りだぁ! ドロボウなら時"も"金成りだろぉ! 」
「王ドロボウモデルのコート。今年は深紅と黄のマーブルが彼のマイブームかしら」
有象無象に飛ぶ商人たちの口八丁。今日もドロボウたちの宴は続く。
その馬鹿騒ぎから、少し離れた一画。そこには、この無法地帯で唯一法が適応される酒場がある。
"カシスちゃんに手を出したら死刑"、"カシスちゃんに惚れたら無期懲役"が合言葉。
「ねぇカシスさ〜〜ん、ジンって昔はどんらガキらったの〜〜? あんたも恋の終身刑もらっちゃった〜〜? 」
「カシス様! 私は見たんです! 流れ星みたいに飛んで黄金から逃げる男を! あれは間違いなく王ドロボウなのです! 」
「ハイハイ、それよりツケを先に払ってね」
"心を奪われた"とのたまう自称・愛人。"この目で見た"と自慢げに話す自称・知り合い。
後から後からやってくる客をいなすのを、私はどれだけ繰り返してきたのだろう。
アイツが戻ってくるはずがない、と待ち続けて……もう。待つのに疲れた身の気持ちも考えて欲しいわね。
「カシスおねーちゃん、王ドロボウって本当にいるの? 」
「さぁ、どうかしら……アイスミルクでいい? 」
この獣のほっかりむりを着た少年も、大事なお客様の1人。
去るものは追わず、来るものは拒まず……それがウチのモットー。
村はすっかり大きくなり、私が子供のときとは比べ物にならないほど、広く、高くなっていった。
「――その答えを届けるのが、俺の仕事だ」
「あらポスティーノ、今日は非番(プライベート)かしら」
「さしずめ有給休暇ってとこさ」
何度も親しく接していたわけではないけど……彼とは長い付き合いね。
安いヘルメットに古ぼけたゴーグル、だぶだぶしたドドメ色のコート。世界を駆け回る郵便屋には、とても見えない。
「やっと見つけたよ、おじさん! ボク、王ドロボウにどうしても会いたいんだ」
「生憎、人間は重量オーバーでね、封筒に入るような子供じゃ、将来切手にも載れないぜ」
「じゃあこの手紙! この手紙を王ドロボウに渡して! お願い! 」
手紙、か。そう言えばジンに手紙を書いたことなかったな。
あいつとそんなハイカラなやり取り、もう少ししておけば良かったかな。
「わかった、引き受けよう」
……いいや。違うわ。この後悔は嘘。
私、本当は考えていたの。ただ、動かなかっただけ。ジンを気にかけて、動いた気になってただけ。
ポスティーノなら、絶対にジンへ手紙を届けてくれるだろうから。
"返事がきっと返ってくる"。そんなわかりきった答えを、しなくてもいいやって。
「お姉さんもどう? やろうよ! グリーティング・カードメイク! 」
そうよ、これでもう何度目かしら。
毎日毎日、同じように悩んで糸口を見つけて解釈していく。
でもその糸は使い捨ての勿忘草。だから私は今夜も馳せる。
「あそこのズッコケ三兄弟呼んで来て。皆でまとめて、出してやろうじゃない」
愛する人への、切なる思いに。
「こういうのも、悪くないわね……」
今夜はたまたま『行動が伴った』だけ。
804
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:42:18 ID:NIXAKoOw0
◇
あー……めんどくせー……めんどくせー……。
ケツがかゆいなぁ……身体をかくの、めんどくせー……。
穴掘らなきゃな……掘るの、めんどくせー……。
クソすんのもめんどくせー……息するのもめんどくせー……。
あーそろそろ起きねーと……やっぱめんどくせー……。
なーんにも、できねー……つーかやる気が起きねー……。
めんどくせー……めんどくせー……。
あー……なーんでこんなことになっちまったんだー……?
……ま、いいや。めんどくせー……考えるのもめんどくせー……。
【"天元突破グレンラガン"――――南ドッカナイ村出身 漢 バチョーン】
◇
805
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:45:54 ID:NIXAKoOw0
◇
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピッピピピッピピピッピピピッピピ
『大量消失被害における、直接的影響を受けた並行世界、その現状調査結果』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピッピピピッピピッピピピピッ
『神行――――エージェント――おそらく単独で――上海――失敗――――――』
『――高校―年生――単独で拉致――糸色―――生徒を捜索し――失踪―』
『――高校――生――糸色望と同じく――――世間は両者を―――――――――』
『糸色望――高校教師――と同時に被害を受け――親しい――接触成功――』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピピピッピピピピピッピピピピ
『アレンビ――――ドモン――同世界――ウルベ――世間は――恐怖―――――』
『――――ゲルマン―――死亡――詳細不明――弟と同じく――捜索中に―――』
『――不敗――――単独で拉致被害に――弟子の敗北――地球は崩――――――』
『ドモン――ストップ――と――ガンダム――世間は行方不明――妻と――成功』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピピッピピッピピピピピピピピ
『ヴィラルは単独で――現状は大きな変化は無く―――カミナ―働―――――け』
『―ア―――同じく単――グレン団――崩――シモ――フラ―――グ―――折れ』
『――コ――やはり―独――団は暴走――――粉砕――――玉砕――大火災――』
『カミナ――大きな―痛―――チミ――負―る―――アッ――死――恐怖―――』
ピピピピピッピピピッピピッピピピピッピピピピピッピピピピピピピピピッピピッピピピピッ
『シモンは単独で拉致。おそらく人間は獣人に大敗北。当時の関係者に接触成功』
ピピッ!
「……うるせーなー……、おいガキ、それ止めろ」
乾いた大地に、パックリ割れたクレバスの底で、ボクはありったけの事実をデータにまとめる。
クロちゃんたちのように攫われて、殺し合いを強いられた82名の人たち。
彼らが住んでいた世界に実際に飛んで、現在、どうなったのか……調べて『対応』するんだ。
剛ハカセが改造した次元転移装置は、異世界を『横軸』、時間の流れを『縦軸』として移動できるんだ。
ここまで来るのに、色んなことが一杯あった。
ボクが出る幕も無く、前を向いて生きている人たち。
どうにもできず、押しつぶされてしまった人たち
世界そのものが壊れてしまい、その崩壊に飲み込まれてしまった人たち。
どうしたらいいのかわからず、ぼんやりと時間を過ごす人たち。
みんなボクと同じく、去っていった人たちとの思い出を、回帰していた……。
「あー……やっぱめんどくせー……怒る気も起こらねー……」
「おじさん、そんなこと言わないでコレでも食べてよ」
そして今もボクは――今日はシモンくんが誘拐された世界で――調査を続けている。
この世界も、前の3つの世界と同じだった。
核となるメンバーを失った大グレン団は、空中分解を起こして、バラバラになっていた。
ヴィラルが誘拐された世界は、それほど大きな変化は見られないけど、もう少し調べてみないと結論は出せない。
一枚岩だった絆も、些細な穴を衝かれれば、こんなにもあっさりと壊れてしまうなんて……とガッカリする暇はない。
とにかくこの世界は文明が極端に進んでいない世界のためか、生きた敗残兵を見つけるだけでもひと苦労。
「……食べるのもめんどくせー……」
バシャッッ
「あっちぃぃいいい〜〜!? 」
そんな訳でボクは、出来立てのラーメンを、このオジサンの頭にぶっかけてみた。
「てめぇ何しやがる! このバチョーン様の頭に油ギットギトのお湯ぶっかけやがって!」
「あはは、ブタモグラの肉を煮込んで作ったスープだよ。肉のエキスがたっぷり出てるでしょ」
「オマケになんだ、この硬くて太くて長い黄色の糸は! 気持ち悪いったらありゃしねぇ! 」
「でも美味いでしょ? 」
「…………! ん……ま、まぁ……まぁまぁだな」
「ブタモグラって火で炙って焼く以外にも、こんな調理法があるんだ」
この旅もあと少しで一つの区切りを迎える。
それはボクなりの結論、考え、これからの方針を決める上で大事なことだ。
「またご馳走するよ。じゃあねオジサン」
ボクには"避けられない邂逅"が迫っている。
ずっとそれから逃げ続けてはいたけれど、そろそろ真正面から受け止めなきゃいけない。
行こう。
多分、"あそこ"で待ってるんだ。
あの2人は。
◇
806
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:49:19 ID:NIXAKoOw0
◇
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
これは
私たちにとっての
現実(リアル)
君にとっては
ただの
ファンタジー?
【????????????――――魔法少女リリカルなのはStrikerS】
◇
青く青く広がる草原の真ん中に、ボクを乗せた装置が降り立つ。
ここはスバル・ナカジマさんの所属する機動六課が存在する。
彼女たちに関係がある並行世界……つまり拉致被害を受けた世界は幾つかある。
スバル・ナカジマさんを始めとした4人の隊員が消えた世界A。
彼女たちの上司、八神はやてさんたちが消えた世界B。
「くると思ってたよ、おばさん。顔を見せるのは初めてかな」
腰まで伸びた金色のストレート。ピッチリとラインが合ったスーツ。
この人はボクを知らないかもしれない。でもボクはこの人を知っている。
「1人の犯罪者が忽然と姿を消したの。これだけ言えば、充分かしら」
最後の1人……クアットロという名の眼鏡っ子が消えた世界C。
この第三の世界に来ることは、ボクにとって自殺行為に繋がるかもしれなかった。
なぜなら『この世界の、この女の人』は、『時を移動する』ことも『異世界へ移動する』こともできるから。
しかし『並行世界へ移動する』――つまり第三の軸を動くことはできない。
「私も遠巻きながらロージェノムの事件を知ったわ。君が知っていることを教えてほしいの」
「やり方がセコイよ。たまたまボクがいた座標の世界で、あんたの仲間、ボクに何をした? 」
ボクの世界旅行は時として危険なことがいっぱいあった。
明らかな外的要素による襲撃(装置の奪取が狙いだったんだろうけど)を、片時も忘れたことはない。
何度かの衝突で、彼らが移動できる『時の軸』と『異世界の軸』がわかったから、逃げ道も確保できたんだけど。
「"赤いおばさん"がいないね?周りに仲間が隠れているのは、わかってるぞ」
「わかってる。だから私は君の善意を全身全霊で優先する。君が今のままをあり続けるのなら」
「そのつもりだから。もう一切干渉するなよ。絶対だからな! 」
偉そうな口を叩ける立場じゃないけど、ボクはボクのルールを破っていたつもりはない。
ボクは並行世界の自分に会いにいったこともない。
ボクは誰かの死を直接的の操作しようとしたこともない。
ボクは"ハンバーグが食べたかったのに、どうしてスパゲティが出てくるの"なんて駄々こねていないぞ。
ボクは寂しさを紛れさせたかっただけ。
ボクのように苦しむ人の悲しみを、和らげたかっただけなんだから!
「――でも、君は、何も知らないほうが良かったのかもしれない」
それなのに。
それなのにどうして? おばさん。
その哀れみの目は何?
おばさんにも、ボクの知らない……
「こちらフェイト、バインドによる拘束を確認。少年を捕獲します」
何かが……あるの?
「今はゆっくり休んで。これは私たちの問題なの」
807
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:49:58 ID:NIXAKoOw0
◇
お嬢さん――いつしか 周りは火の海――♪
もう、よふかし(パジャマゲーム)は――およしよ――♪
よふかし(パジャマゲーム)は――およしよ――♪
【???????――――???????】
◇
『フェイト時空官! こちら第六班ですが、艦隊はもはや修復不可能です! このままでは全滅してしまいます! 』
『こちら第四班! 操縦不能! まさか我々時空管理局の戦力をたかが1人の…ぐぁぁぁぁぁぁ!! 』
『フェイト! そっちが済んだら加勢に頂戴! コイツ、核ミサイルよりタチが悪いからっ! 』
彗星の如く走る閃光に、次から次へと業火の悲鳴をあげて地に堕ちる艦隊。
「勇気ある模倣犯(コピー・ブラックキャット)から挑戦状を受け取りましたので、参上仕りました。
不肖王ドロボウ、時間のくび木にはめ込まれた皆様から、この装置を盗まさせていただきます」
そして赤く赤く燃える焼け野原の真ん中に、しゃんと舞い降りた黄色の詩人。
「あ、あそこでテロ行為をしている暴君と私めは、一切の関係がございませ〜ん。どうぞよろしく」
"そんな理不尽な貰い方して貰ったモノの分は、ちゃんと返さないと"
そう言ったのは私の親友。私たちが掲げた信念でもある。
黒猫の少年は、私たちとは少し違う。直接あそこに招かれた者と、遠巻きの違い。
ロージェノムの件では私たちも遠巻きに終わってしまったけれど。
献身的に尽くす姿に、管理局も大目に見てきた。私たちが率先して周囲をなだめていたから。
「気持ちはわかるけど、この子の悪戯(やさしさ)を0にするのは、過保護すぎやしない? 」
そうこうしている内に、ここまで動く彼の将来に不安を懸念始めていた。
生涯かけて背負わなければならない業を、本当に彼が背負う必要があるのか。
だから私たちは、彼を眠らせて安全に保護し(未来を先読みされている不安もあったが)、事を成そうと――
バシッ
顔。
痛い。
誰……?
「忘れ物だよ」
あれ。
どうして。
バインド、解かれた?
この子……やはりわかっていたの?
こうされる事を?
「欲しくて欲しくてしょうがないんだろ! 」
目をこすりながら、私にぶつかって、落ちた物を観る。
膨大な設計図をまとめた束だった。原始的な結び方でぎゅんと縛ってある。
作りたかったら自分達で勝手に作れ、ということだろうか。
確かに……道理だ。それがこの子の師匠に対する、敬意なのかもしれない。
「ファンタジーなんかじゃない。これもボクにとっても現実だよ。
ハカセもクロちゃんもミーくんもマタタビくんも生きていた」
未来を変えるのは……若者たちの仕事、か。
「ボクはやめないぞ。だっておばさんも、この人も、みんなみんな……」
謎の青年に抱きかかえられながら、あかんべーをする少年。
もう彼に私たちは必要ないのかもしれない。
私たちが私たちの世界で、生き続けるように。
彼は"自分の世界"を自分で選び――進み続けるのだろう。
「生きているんだから! 」
装置が発する光に包まれ、段々消え行く2人。
彼らを。彼らの道を見届けたら。
――私も自分を助けにいこう。
【アニメキャラ・バトルロワイアル2nd Epilogue サイボーグクロちゃん with XXX――――END】
808
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:50:21 ID:NIXAKoOw0
「ようやく雑種にも、あの黒猫衣装の素晴らしさが理解できる時代になったか」
「ねー聞いてる? こいつら全員やっちゃっていいの? あんたにしちゃゴミ掃除なんだろうけど」
『詳しくは後ほどお話します。今は彼らの処理を優先事項に』
【Thank you for Everybody, Thank you for Everything... but, Not all story end? 】
809
:
◆hNG3vL8qjA
:2009/05/24(日) 15:57:01 ID:NIXAKoOw0
投下完了しました。
タイトルは extra SHOT 『EL FIN 〜人、生、あるいは――未亡人〜』
810
:
ネコミミの名無しさん
:2011/03/05(土) 21:34:33 ID:EQklWcIY0
あげ
811
:
ネコミミの名無しさん
:2013/07/12(金) 04:10:04 ID:Zu0oaLok0
広告に埋もれるのもなんなので上げ
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