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仮投下スレpart2

1ネコミミの名無しさん:2008/04/12(土) 21:27:39 ID:UaSBv.dg0
OP案、その他何らかの事情で本スレ投下の前に作品を出しておくためのスレです。

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9783/1189603404/

2THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:47:32 ID:w3fU1Ss.0
「それで、なんなんだオマエは?」

まだ深い夜。
一面に広がる真っ暗闇の中を走りぬけてゆく真っ赤な消防車。
その助手席から後部座席に向けて、当然の疑問が投げかけられた。

「ほう、我が拝顔の栄誉に預かりながら我の名を問うか?
 本来ならばその不敬。懲罰に値するのだが、現在が特例的事態故、特別に許そう。感謝するがよい」

当たり前のように踏ん反り返りながら、答える態度は傲岸不遜。
そもそも答えになってないという横暴っぷリに加え、何故か感謝を求められる始末である。
助手席の男もさすがにこの事態には困り果て、運転席に座りハンドルを握っている少年に助けを求めるような視線を向けた。

「おいジン。なんなんだこいつは?」
「いや。そこでオレにフラれても困るんだけど。
 ねえ黒猫の人。とりあえず、オレも名前くらいは聞いておきたいんだけど?」
運転手の問いかけに、黒猫姿の客人は仕方ないといった態度ながらも、おずおずと口を開いた。

「我の名はギルガメッシュ。人類最古の英雄王である」
「へえ王(キング)か。そいつは奇遇だ、たしかドモンもキングだったよね?」
「ん? ああ確かにそうだな」
「なに?」
述べられたある単語に反応し、ギルガメッシュの端整なまつげがピクリと動いた。
それに二人は気付かず、そのまま自己紹介は続けられた。

「俺はネオジャパンのガンダムファイター、”キングオブハート”ドモン・カッシュだ」
「そしてオレは”王ドロボウ”ジン。よろしく英雄王さん」

堂々としたドモンの声とおどけた風なジンの声。
比較的交友的に返された名乗り、だったのだが、とたんに消防車内の温度が氷点下まで落ちた。
冷源は語るまでもなく後部座席。
そこに鎮座する男の、冷たく燃える真紅の眼から発せられていた。

「……この我を前にして自ら王を名乗る不埒者が二人、か。
 まったく、ここは礼も弁えぬ愚か者が多くて困るな?」

英雄王の漏らした呟きは誰に向けた物でも無い。
ただ、猛毒にもにた冷気が、静かに狭い消防署内に蔓延していく。
どうにもこうにも、後の男には”王”と言う単語は禁句だったらしいい。
そのことに、いち早く気付いたジンが先手を取ってやうやうしくも口を開いた。

「いやいや、王さま。私めは王と行っても輝くものなら星さえ盗む、下賎な賊の王に御座います」
「ふむ? なるほど。王は王でも卑しき賊の王であったか。
 ならば、王を名乗るはおこがましくもあるが。わざわざこの我が自ら歯牙にかけるまでもないか」

述べられたその弁に、ギルガメッシュは一つ頷く。
ジン関してはそれで納得したのか、ギルガメッシュは運転席から助手席へと視線を移した。
当然ながら向けられた視線の先にいるのはキングオブハート、ドモンカッシュ。

「では、そちらの小僧はなんだ? 
 力量はともかく、その品のなさはどう見ても王の器ではないが?」
「王じゃなくキングオブハートだ。
 師より受け継ぎしシャッフル同盟の証である称号だ!」

言って、ドモンは右腕に光輝くキングオブハートを見せつける。

「称号か。まあ、よかろう。カードの王に憤慨するのもバカらしい」

その印を確認して、ギルガメッシュは不満気ながら殺意を収めた。

3THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:48:03 ID:w3fU1Ss.0
ひとまずそれに胸をなでおろしながら、ジンが後部座席に向かって問いかけた。

「それで、ギルガメッシュは刑務所にいったいなんのようなの? 自首でもするつもり」
「我は今、頭のキレる家臣を求めていてな。
 刑務所にはアケチとかいう雑種がいるらしいので使えるかどうかをこの我自ら見定めてやろうというわけだ。
 それに、あの人形との件もある、下らぬ形とはいえ英雄王たるこの我が約束を違える訳にもいくまい?」
「へぇ」

この状況で武力でなく知力を集めようとしている。
その言葉を聞いて、ジンはギルガメッシュが対螺旋王を目指していることを察した。
つまり、一応の目指すところは同じという事だ。
とはいえ信頼に足るかはまた別の話だ。
頭のキレる参加者と聞いて脳裏に浮かぶのは清麿だったが、今は彼に関しては黙っておくことにする。

「ってことは、ギルガメッシュも螺旋王に一泡食わせようって口なわけだ?」
「まあ、そんなところだ。だが今は情報が足りぬ。
 モノのついでだ雑種ども、貴様等の持っている情報を我に献上せよ」
「情報交換ってこと? それなら、」

こちらにとっても都合がいいと、ジンはその提案に応じようとした。
だが、応じる意志を告げ切る前に酷く不満気な声がその言葉を断絶した。

「交換だと? 何を言うかたわけ。貴様等の持っている情報を我に献上せよと言っている。
 貴様衆愚が王たる我に献上するは道理としても、我が貴様にくれてやる道理はなかろう。
 情報とて我が財の一欠片。その恩恵を受けてよいのは我の家臣と民だけだ」

余りにも理不尽、余りにも身勝手な物言いだった。
交換などという行為は互いの立場ば平等である場合に行われるものだ。
そして、この王に己と他者が平等などという価値観はありえない。
英雄王が行おうとしているのは一方的な搾取である。
そんな英雄王の態度に対して王ドロボウは憤慨するでもなく、先ほどと同じく軽い口調で頭を垂れた。

「それでは英雄王。これより我等が情報を献上致しますので、その見返りに卑しき私めに褒美を頂戴致したいしだいで御座います」
「ふむ?」
ギルガメッシュはジンの言葉を噛み締めた後、声も高らかに笑い始めた。

「ハッハッハッ! なるほど、そうか!
 賢王として足らしめるのらば、いくら相手が衆愚とて供物を捧げた者を無下にするわけにも行くまいな!?
 なかなかよいぞ盗賊王。献上した情報の内容如何では貴様の望む褒美もくれてやろってもよい」

ジンの言い分が甚く気に入ったのか、英雄王は上機嫌な声でそう告げた。
交換ではなく献上と褒美と形は変わったものの、とうもあれ情報のやり取りが成立した。
それを確認し、ハンドルを片手で握りながらジンは懐からメモとペンを取り出した。

4THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:48:27 ID:w3fU1Ss.0
「何をしている?」

その動作を訝しむ様な声がかかる。
盗聴を警戒するのならば当然の用心といえる行為である。
疑問を持たれるような行為ではないはずなのだが。

「ふん。盗み聞きへの配慮ならば不要だ。
 だいたい記述するための道具が支給されている時点でそんなものは無意味だ」
「ま、たしかに、ドロボウがいるってわかってて監視カメラを付けない家はないだろうけどね」

たしかに筆談してくださいと言わんばかりの筆記用具を渡しておきながら監視してない、なんてこともありえない話である。
とは言え、もっと念のためという価値観というか、慎重さをもってほしいものだが。

「おいおい、じゃあどうするんだ。どうやっても筒抜けになるってんじゃ情報のやり取りなんて出来ないんじゃないか?」

会話に割り込んできたドモンは言う。
なるべく、そいうことも口にしない方がいいんじゃないかな、と思いつつもジンもその言葉に心中で同意する。
だが、ギルガメッシュはまったく焦った風でもなく、堂々とした態度のまま口を開く。

「問題なかろう。ロージェノムに直接この会話が伝わることはないし、伝わったところで何があろうと奴は爆破などはせぬ」
「直接的に伝わらないっていうのは?」
「監視などという下らん作業は雑兵に一任するが常であろう。間違っても王の任ではない」
「じゃあ、その部下が爆破を行う可能性は?」
「それこそありえん。首輪の爆破などという直接的な殺生与奪の権利は王のみが持つことを許される王の権利だ。
 故に、王以外の人間がこれを爆破する権限を持っている事などありえない」

繰り返される問答に一切の迷いはない。
それはあくまで、王としての観点による王としての意見だった。
信頼に足るかと言えばそうではない。
納得できないかと言えばそうでもない。
だが、明確に反旗を翻しているジン自身の首が繋がっていること。
そして、今それ以上に危ない橋を渡っているはずの清麿の名が今だ呼ばれていないことを含めれば爆破されないという一点は信用できる。
なにより、この程度の橋を渡れないようじゃ、これから先やって行けないだろう。
そう心を決めたジンは、情報をハッキリと口にし始めた。



5THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:48:56 ID:w3fU1Ss.0
「ふむ。なるほど、大体わかった」

ジンとドモンより献上された情報を聞き終え、英雄王はそう頷いた。

「ま、これを見る限り、首輪(それ)に関してはそいつに任せてよいだろう」

言って、ギルガメッシュは受け取ったメモを指先で弾いて捨てた。
提示情報として最大のカードであると思われた首輪メモはその一言で切り捨てられた。
それよりも英雄王の眼がねに適ったのはジンの提示した情報ではなく、ドモンの提示した二つの情報だった。
それは、奇妙な神父との遭遇、ではなく。

一つは会場がループしていると言う話。

そしてもう一つは。

「貴様がその師匠とやらに感じた違和感とはなんだ?」

ドモンとその師匠の食い違いについてだった。

「違和感というわけじゃないが。
 改められたはずの人間抹殺という考え今だ師匠は持ち続けていらっしゃった。
 この場で何があったかはわからないが、嘆かわしいことだ…………ッ!」
「だが、かつてもその考えを持っていたと?」
「ああ、その通りだ。
 だが師匠は確かに人間も自然の一部であると考えを改められて――――」
「ああ、もうよい」
握りこぶしで熱弁するドモンを、ギルガメッシュは心底どうでもよいといった風にあしらう。

「やはり、同一世界から集められた相手も違っているようだな」
「違ってるって何がだ?」
「単純に召還された時間軸か、もしくは召還された並行世界だな」
「いや、正直よく分からん」

説明に理解を示さないドモンに、ギルガメッシュは呆れたように溜息を漏らした。
そして、面倒くさそうながらも説明を続ける。

「ようするにだ、同一人物だからと行って同一存在であるとは限らないという事だ。
 貴様の師匠とやらは心変えした後ではなく、妄執にとりかれた時間軸からここに来たのか。
 妄執に取り付かれたままの世界からここに連れてこられたか、だ」

ギルガメッシュからすれば最大限わかりやすくいってやったつもりなのだろうが、ドモンの頭の疑問符はまだ取れない。
「……わかるか、ジン?」
「ま、なんとなくはね」
隣のジンに同意を求めて見たものの、置いてきぼりは自分だけだったことを知らされ、そのうちドモンはこの件に関して考えるのをやめた。
とりあえず、そうか、とだけ相槌をうってドモンは押し黙った。



6THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:49:30 ID:w3fU1Ss.0
「さて、情報献上大儀であった。褒美を取らす。
 我への問いかけを許すぞ。何なりと聞くがよい」

ひとまず二人の献上した情報は英雄王を満足させたのか、ギルガメッシュは二人に問いかけを許した。

「じゃあ、とりあえず、最初に聞いてきた渦巻く『螺旋の力』ってなに?」

それに対してジンが始めに問いかけたのは螺旋の力について。
彼の記憶が確かならば、始まりの時や放送の時に螺旋王がたびたび口にしていた言葉だ。

「なんだ、そんな事すら知らぬのか。
 その螺旋の力の覚醒こそ、この殺し合いにおけるロージェノムの目的だ」
「なに!? どういう事だ!?」

聞き捨てならない言葉に弾かれるよに、ドモンは助手席から後部座席に身を乗り出した。
掴みかかる勢いで迫る赤鉢巻を見て、ギルガメッシュは怪訝そうに眉をひそめる。

「寄るな暑苦しい、死にたくなくばそれ以上我にそのむさ苦しい顔を近づけるな。
 ついでに、耳障りだからその口も開くな、癪に障る」
「なんだと、この野郎……っ!」
「あー。はいはい。続きをどうぞ英雄王」

今にも喧嘩を始めそうな二人をなだめながらジンが話の続きを促す。
促された英雄王はドモンに対して不満気な感情をひとまず仕舞い込み話の続きを口にする。

「螺旋の力を目覚めさせるのがこの遊戯の目的だ。
 それは恐らく拮抗した戦いの中で生まれるモノだ、まあ条件はそれだけではないのだろうが」
「拮抗した戦いだと?」
「そうだ、貴様等にも下らん能力制限がかけられているだろう? それは弱者と強者の間に拮抗した戦いを生み出すための処置だ。
 拮抗し命がけの戦いの果てに目覚める力。それが恐らく奴の求める螺旋の力だ」

堂々と情報をひけらかすギルガメッシュだったが、その説明に疑問を感じたのか、ジンが少しだけ不満気に唸りをあげた。

「うーん。けど、それもおかしくない?
 ドモンとか清麿とか、ここにくるまでに結構命がけの戦いをしてきてる人もいるはずなんだけど。
 拮抗した戦いでその力が目覚めるんなら、わざわざこんなことしなくてもとっくに目覚めてるんじゃないの?」

ジンの知りうるだけでも、この場には死線を越えてきた人間は往々にして存在する。
かく言うジンも第七監獄、面武闘会とそれなりの修羅場は潜ってきていた。
だが、そのギルガメッシュの語るような螺旋の力になどジン自身覚えがない。

「そうだ、それが一番おかしな点だ」
ジンの疑問をギルガメッシュは否定するでもなく肯定した。

「ならば考えてみろ。これまでと、これからのいったい何が違うのか?
 なぜこれまでそれが起りえなかったのか?
 なぜ今それが起こりうるのか?」

そして問いかけ。
その問いに暫し思考を巡らせたジンは、至った結論を口にする。

「つまり、役者は同じでも踊る舞台が違えば演目も違うってこと?」
「そうだな。恐らく違うのは”ここ”だ」
ジンの回答にギルガメッシュは満足げに然りと頷きながら地面を指差す。

「じゃあ、アイツの言ってた実験ってのは」
「参加者だけの実験ではなく、この会場の実験という事なのだろう」
「なら僕等はまさしくモルモットってことか。いやぁ。舐められたもんだねホント」

英雄王の叩きつけた真実に、王ドロボウはその顔に皮肉げな笑みを貼り付けた。

「まあ、人選もまったく無作為というわけでもあるまい。
 恐らくは多種多様のサンプルを試しめみたかったのだろうが、」

7THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:50:00 ID:w3fU1Ss.0

「フザケるなッ!!」

バコン、という鈍い音。
唐突に英雄王の言葉を遮って消防車が大きく跳ねた。

「うわ、ちょっと車壊さないでよドモン!?」

傾きかけた消防車のバランスを取るため、慌ててハンドルを切る王ドロボウ。
その抗議の視線の先には拳大に陥没した消防車の扉があった。
その陥没にピタリとハマる拳を持った男、ドモン・カッシュは醒めやらぬ怒りに震えながら叫んだ。

「サンプルだと? モルモットだと? フザケやがって!
 俺や師匠はそんな事のために撒きこまれたっていうのか?
 そんな事のために多くの人たちが死んでいったっていうのか?
 そんな事のためにアレンビーは死んだって言うのか!?」

何十人という人間を動物実験扱いして、死に至らしめるなどと言う理不尽、到底許せるものではない。
まして、その結果、彼の兄と戦友は死んだのだ。
己が掌が破れる勢いで拳を握り、怒りをあらわにするドモン。
その様子を、ギルガメッシュは興味深そうに見つめていた。

「ふむ。見たところ貴様も目覚めているようだな」
「目覚めてる? なんの事だ?」

感情を高ぶらせ叫ぶドモンから、僅かに漏れた緑の螺旋。
その輝きを見逃すほど英雄王の眼力は節穴ではない。

「目覚めてるって、さっきから言ってた螺旋の力ってやつ?」
「そうだ。だが、このような雑種まで目覚めるとはもはや見境なしだな。
 いささかハードルが下がりすぎだ。この調子なら畜生でも覚醒しかねんな」
「いわゆるバーゲンセールってやつ?」
「……よく分からんが、なんか酷い言われようだな」

なぜか二人に好き勝手言われるドモン。
一人力に目覚めたはずなのに、なんだろうこの敗北感。

「それも長時間この空間に居た弊害だな。なるほど実験は大成功と見える」
「ってことは、ここにはホントに螺旋の力の覚醒を促進する要素があるってことか」
「そうだな、だがそれだけではあるまい。
 この会場を覆う結界の効果は螺旋の力覚醒の促進に加え、空間内の戦闘能力制限といったところか。
 その他外世界からの探知及び接触遮断などもあるかもしれんが今のところハッキリといえたところではないな。
 上空を調査したが、恐らく形状はドーム型、端に行くほど天井は低い。
 会場のループは結界に触れさせぬための処置だろうな。
 外枠を禁止エリアにしてもよいのだろうが、その場合は首輪が無力化された場合に対処できぬからな。
 いや、まったく、よく出来た箱庭だ、やつもさぞ満足だろうよ」

この会場の状態を次々と看破しながら、本当に感心した声で英雄王はそうごちた。

8THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:50:25 ID:w3fU1Ss.0
そして、暫しの思案の後、ジンに向かって切り出した。

「ふむ、そうだな。運転手、行き先を変えるぞ」
「いいけど、お客さんどかに寄り道で?」
「ああ、博物館にな。
 丁度力に目覚めたこいつがいるのだ。奴が何をそんなに見せたがっているのこいつを使って見てやろう」
「見せたがってるもの?」
「うむ。あれを見よ」

そう言ってギルガメッシュが彼方を指差す。
その夜の先、目を凝らさねば見えない程の距離に映るのは螺旋状の建物。

「うわぁ、ド派手だねまさしく天を突く螺旋城って感じ?」
「なんであれを螺旋王が見せたがっているモノってわかるんだ?」
「わからぬか? 明らかにあの施設は概観からして他の施設と乖離しているだろう」
「いや。さすがにそれは見ればわかるが」
「ではそれは何故だ?」
「何故ってそりゃあ、造った人間が違うからじゃないか?」
一見当たり前過ぎるようなドモンの返答だが、その答えにジンはハッとしたように何かに気付いた。

「いや、ちょっと待ってドモン」

たしかに螺旋状の建物を建築したのは螺旋王だろう。
施設の形状、螺旋王という名からしてそれは間違えない。
なら、当然の疑問として浮かぶのは。

「……じゃあ、他の建物はいったい誰が造ったんだ?」

「その答えは先ほどの会場がループしている話と照らし合わせてればそうすれば自ずと見えてくる。
 本当に会場がループしているなら明らかにおかしな点ががあるだろう」

幾度めかの試すような英雄王の問いかけ。
このマップの違和感に。
それは薄々ジンも感じていたことだ。

「そうだね、ハッキリ言って、このマップは余りにもループを想定していない。
 特に横、山腹の先がいきなり湖だなんて、手抜き工事にもほどがあるよ。
 概観の乖離した施設といい、ここは見るからにツギハギだらけだ。
 これはもう設計士を捕まえて告訴したほうがいいね」

「そうだ、恐らくここは奴が全てを一から設計して創り上げたのではい。
 造ったというよりどこか適当な地形をそっくりそのまま複製したのだろう。生物を除いてな。
 そして、そこに必要最低限の施設を立て手を加えた。といったところか。
 ふん。いくら実験に関わりのない所とは言え、後付けだらけのやっつけ仕事にも程がある」

かぶりを振って呆れたようにそう呟くギルガメッシュ。
だが、ドモンはどうしても納得できないのか、ギルガメッシュに向けて問いを投げた。

「いや、やっつけ仕事って、なんでそんな適当なことをしたんだ?」

そのドモンの疑問も当然といえば当然だ。
これ程の計画を成しとげた螺旋王が、そんな不完全なことをする理由などあるとは思えない。

9THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:51:03 ID:w3fU1Ss.0
「じゃあドモン逆に聞くけど、温めてた計画を不完全なまま実行しなければならない理由ってなにがあると思う?」

そのドモンの疑問に答える声は後部座席ではなく、すぐ右手の運転席から。
ジンは既にその理由に察しがついているようだ。
ドモンを導くように問いかける。

「それは……そうだな」

万全とはいえない状況で作戦を決行する理由とは何か?
その問いにドモンは自身の経験に照らし合わせて考えを巡らす。
新宿でのデスアーミー撃退作戦。
ギアナ高地からの脱出作戦。
共通するのは一つ。
デビルガンダム。迫り来る敵対者の存在だ。

「なら、螺旋王は敵に攻め込まれているっていうのか!?」
「そ。半端な用意でオレ達をもてなしてるのは他にお客さんがいるからさ。
 そのお客さんがアポもなしに訪ねてきたんで慌てて用意したのがこの舞台ってとこかな?」
「ま、それが妥当な結論だな。
 もしくは何らかの形で攻めてくることが知れての対応策やもしれんが、どちらにせよ第三勢力の存在はあるとみていいだろう」

「なるほど……それはわかったが、それと博物館を見せたがってるって話とどう繋がる」

「わからぬか? わざわざ急を要する事態の中、違和感を残してまで追加した建造物だぞ。
 それ相応のモノを用意してあるのだろうよ。おそら貴様が地下に見つけた施設もその類だろう。まあ、十中八九脱出ようの施設だろうがな。
 この我に対する度重なる無礼。本来なら問答無用で殺すところだが。
 博物館にある内容如何では、言い分を聞いてから殺してやってもよい」

結局殺すのかと言う突っ込みは置いておいても。
流石に今吐かれたセリフは捨て置けない。

「脱出用の施設だと? まさか」
「別に驚く程のことではなかろう? 先も述べた通り、奴は殺し合いの完遂ではないのだからな。
 その証拠に、ここには殺し合いには何の役も立たぬ、脱出の為に用意された施設や支給品があるはずだ。
 そして、それに対して正規の手順を踏めば脱出が可能となるように出来ているのだろう」
「なるほどね、目的を達成してくれたよい子にご褒美ってことか」

本当に、舐められているのだと実感しジンは皮肉げに肩をすくめる。
それに答えるように、ギルガメッシュは赤い宝石のような瞳を見開き殺意と愉悦の入り混じった笑みを浮べた。

「だがな、奴の定めた道順など知った事か。そんなものは壊してしまえ、だ。
 徹底的に根本的に壊滅的に、奴の計画と目的と、命ごと何もかもぶち壊してしまえ」

螺旋王の計画を握りつぶすように拳を固めるギルガメッシュ。
与えられた方法などまったく魅力を感じないのはジンも同じだ。
盗んでこその王ドロボウである。
踊る場所も踊りの内容も自分で選ぶ。
相手の掌で踊らされているのなんて真っ平ごめんだ。
だが、それ以上にジンの不安を煽る、英雄王の笑み。
この男は敵か味方か、今だジンはその真意を測りかねていた。

10THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:51:44 ID:w3fU1Ss.0
「だが、脱出方法を破壊したら、ここから出られなくなるんじゃないか?」

相手の手の内で踊るのが嫌でも、脱出できなければ意味がない。
そう考えるドモンも憂鬱を、英雄王は鼻で笑った。

「ふん。問題ない。我の剣があれば、こんな空間跡形もなく破壊して外にでることくらいは造作ない」

堂々と告げる英雄王。
正確にはエアならばこの会場を破壊出来る、ではなく。
エア出なくとも同レベルの衝撃ならばこの会場を破壊することは可能であると英雄王は考えている。
まあ、エアと同レベルの兵器が存在するなど露ほども思わぬ英雄王は、間違ってもそんなことは口にしないが。

「オレの剣? なんだそれは、それがあれば脱出できるのか?」
「無論だ。我にしか扱えぬ唯一無二の英雄王の剣だ。
 形状は、そうだな、赤い円柱状の剣なのだが。知らぬか?」

抽象的な説明だがドモンとジン、両名はその奇妙な剣に心当たりがあった。
先刻、ジンが拾い上げた荷物の中にそれに該当するモノがあったはずだ。

「赤い円柱状? それな―――」
「―――ちょっとストップドモン。ギルガメッシュちょっとタンマ」
「うむ。タンマを許す」

すんなりタンマを許されたので、遠慮なくジンとドモンはその場で顔を突き合わせてひそひそ話を始める。

「どうしたんだジン? 赤い円柱状の剣なら、確かオマエの荷物にあっただろ?
 それを渡せばアイツに脱出できるっていうんなら渡せばいいじゃないか?」
「いやいや、美味しい話には裏があるってね。どもう話が美味すぎる」

偶然拾い上げた、会場を破壊出来るという剣に。
これまた偶然拾い上げた、螺旋王の計画を破壊出来ると言う男。
これが偶然揃うだなどという、余りにも出来すぎた状況に、ジンは言いようのない不安を覚えた。

「ねえギルガメッシュ、一つ聞いていい?」
ひとまずタンマを終了し、ジンはギルガメッシュに問いかける。

「うむ。問いを許すぞ盗賊王」
「この会場が崩壊したら具体的にどうなるの? 例えば残った人とかさ?」

ジンの質問に、そんなことかとギルガメッシュは平然とした顔で答えた。

「その後、どこかの空間に繋がるはずだ、まあ十中八九螺旋王の世界だろうな。奴を殺すには丁度いい。
 あとは我の知った事ではないが。脱出できず崩壊に撒きこまれた奴等は全滅だろうな。まぁ死んだら死んだでそれはそいつの運だろう」
「なっ……!?」

目茶苦茶な事を当然のことのように言ってのけるその様にドモンは言葉を詰まらせる。
その発言が、冗談でも牽制でもなんでもないことが、嫌というほど理解できてしまったからだ。
ギルガメッシュは本気でここにいる人間全てを見捨てることになんの躊躇も感じていない。
言葉を詰まらすその様を見て、ギルガメッシュは二人を安心させるように、まったく安心できない言葉を口にする。

「なに安心しろ、我の身ならば心配入らん。撒きこまれるようなヘマはせん」

他者のことなどまったく眼中にない、どこまでも傲慢な言葉。
その言葉にドモンは、溜まりにまたったギルガメッシュに対する怒りを爆発させ、沸きあがる感情にまかせて叫んだ。
秩序の守り手シャッフル同盟の一人として、否、一人の人間として、断じてその傲慢さを許すわけには行かない。

「駄目だ! 貴様のような他者を顧みる事の出来ない輩に、断じてあの剣は渡すわけにはいかん!」

堂々と啖呵を切るドモンだったが。
それと対象的に運転席のジンは思わず頭を抱え。
後部座席のギルガメシュはその赤い双眸を細めた。

11THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:52:09 ID:w3fU1Ss.0
「ほぅ。渡すわけにはいかぬときたか。
 それはつまり、今、我の剣――エアは貴様等の手にあると?」

予想通りの展開にジンは大きく溜息を吐いた。
背中には氷でも刺したような冷たい感覚。
ごまかしきれないと悟り、ジンはひとまず偽らず告げる。

「確かに僕等はさっきギルガメッシュが言ってた剣を持ってる」

回答一つ誤れば即ゲームオーバーだ。
エンドはもちろんデットエンド。
なんせ、運転席と後部座席という時点で既に後を取られてる。
座席越しに一突きされればお終いだ。

「流石だな賊の王。我の財にまで手を付けたか。
 その罪は万死に値するが異論はあるまいな?」
「もちろんあるよ。別にその剣は盗んだわけじゃない、拾っただけだ。
 ギルガメッシュだってこのゲームのシステムくらいわかってるでしょ?」
「ならば返せ。それは我にしか扱えぬ我の剣だ。
 貴様等雑種が手にしたところで正しく扱える代物でもない」

最後通知だとばかりに王ドロボウに英雄王が決断を迫る。
選択肢は渡すか渡さないかの単純な二者択一。
だが、素直に渡せば参加者が全滅。
かといって渡さなければ自分が死ぬ。
となると、選択肢は一つ。

「わかった渡す」

ここでNoといえば即死亡だ。
渡さないという選択肢はないだろう。

「ただし、条件つきだ。
 その会場の破壊を行うのは、殺人者を除く生存者全員が集まった時にすること。
 これを約束してくれるんなら剣をそっちにわたすけど、どう?」

渡すのも駄目。
渡さないのも駄目。
ならば、条件付で渡すってのが最大限の譲歩だろう。
相手にとっても待つだけで労せず己の剣を取り戻せる、悪くない条件のはずである。

「条件? 何を勘違いしているのだ? 我がよこせと言っている。
 渡さぬというのならば力付くで略奪するまでだ、命があるうちにさっさとよこせ」

だが、交渉するにも相手が余りにも悪かった。
なにせ、まるで交渉が成立していない。
状況は二対一。
ドモンもかなりの手練である。
戦況は悪くないはずだと、ジンが冷静に戦力を分析し戦うという選択肢を視野に入れ始めた、その時だった。

「ほらよ」

ドモンが後部座席に赤い円柱を放り投げたのは。

12THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:52:47 ID:w3fU1Ss.0
ギルガメッシュは投げられたそれを片手で掴みとる。
投げ渡されたそれは見紛うことなき乖離剣。

「ちょ、ドモン!?」

突然のドモンの暴走にジンは驚きと戸惑いの声をあげた。
狼狽するジンの様子を意に介さず、ドモンは助手席から立ち上がりギルガメッシュを睨みつけてこう告げた。

「ただし、ギルガメッシュ、貴様にこの場でガンダムファイトを申し込む!!」

英雄王ギルガメッシュに対し、ドモン・カッシュは乖離剣と共に宣戦布告を叩きつけた。

「断る」
「オレが勝ったら先ほどジンが言った条件を、って、なにぃ!?」

にべもなく、申し出は却下された。
一秒にも見たぬ早業であった。

「何故だ!?」
「何故もクソもあるか。世迷言も大概にせよ。
 何故この我がそんな訳のわからぬ事に付き合わねばならぬのだ?」
「ぐっ!」
「……ドモン。そう言うことは渡す前に言おうよ」
「うっ!」

追い討ちをかけるギルガメッシュの言葉に、呆れたようなジンの声。
責める様な視線が実に痛い。

「ええい! とにかくファイトだ! 貴様とは一度ファイトをせねば気がすまん!」

もうこうなったら自棄である。
というより、これまで溜まりに溜まった鬱憤の清算を含めて、渡しちゃった以上ファイトしなければ収まりがつかないのである。

「たわけ。貴様の気など我が知るか」
「なんだとッ!」

13THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:53:06 ID:w3fU1Ss.0
ファイト以前に喧嘩を始めそうな二人のやり取りはさておき、ジンは一人頭を悩ませる。
議題は以下にしてあの剣を使用される前に取り返すか。
王ドロボウとして盗むのは専門分野だが、この相手に真正面からではかなり厳しい。
となると一瞬の隙を狙うしかないのだが、この状況で隙を見せる相手だろうか。
バックミラー越しに注意深く相手を観察し、ジンはギルガメッシュの出方を伺う。
その気配を察してか英雄王は口を開く。

「ふん。心配せずともすぐさまこの会場を破壊を行うわけではない。
 我とてまだやる事があるのでな。それが済むまで会場の破壊は行わぬ」
「やることって?」
「ここにある我の財を取り返すことだ。そのついでにあの男に借りを返さばならんか。
 そうだな、あとは確実を期するならば結界に近づくため飛行する手段があったほうがよいな。まあそれはよかろう。
 実行はそれらが終わった後だな。
 それまで貴様等雑種どもが何をしようと我の知ったことではない。
 参加者を集めたければその間に勝手に集めろ。
 平穏無事に脱出したいやつは、奴の定めた手順でも構わぬというのならば勝手に脱出すればよい。
 我は奴の首を取りに行く。そうだな、奴の首を取りたいと志願するものがあれば同行を許すもいいだろう」

要するに螺旋王の首を取りたいやつだけ残ればいい、という事らしい。
その言葉を聞いて、やっとジンは目の前の男の気質をおぼろげながらに理解した。
この男に他者を害する意図はない。
かといて他者を救う意志もない。
好き勝手に動き、その結果誰かを救うこともあれば殺すこともある、
恵みの雨で人を救う事もあれば、洪水によって人を殺すこともある、いわば天災のようなものだ。
天災は人の力じゃ止められない。

だが、止められなくとも、ハリケーンだってミサイル一つ打ち込めば少し軌道を変えることくらいはできるのだ。

損にも得にもなる存在ならば、特になる方向に誘導してやればいい。
そこはこちらの腕の見せどころである。

「OKOK そうさせてもらうよ。
 ドモンもそろそろ席に座って、もうすぐ付くよ、博物館!」

眼前に迫る螺旋の城。
その中にあるのは希望か、絶望か、はたまたお宝か。
それを確かめるべく聳え立つ螺旋の城に、三人の王は辿りついた。

14THE KING OF FIGHTERS:2008/04/13(日) 01:54:11 ID:w3fU1Ss.0
【D-4/博物館/深夜】

【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:消防車の運転席。全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
    予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿、カリバーン@Fate/stay night、ゲイボルク@Fate/stay night、短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
1:博物館に向かう、中にある物がお宝なら盗む。
2:カミナを探し、仲間を集めつつ左回りで映画館、あるいは卸売り市場に向かう。スパイク達と合流した後に図書館を目指す。
3:ラッド、ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
4:ニアに疑心暗鬼。
5:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
6:マタタビ殺害事件の真相について考える。
7:時間に余裕が出来たらデパートの地下空間を調べる。
8:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。

【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身に打撲、背中に中ダメージ、すり傷無数、疲労(中)、明鏡止水の境地
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、師匠を説得した後螺旋王をヒートエンド
0:博物館に向かう
1:カミナたちを探しながら、映画館または卸売り市場に向かう。
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める。
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する。
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
7:東方不敗を説得する。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※ループについて認識しました。
※カミナ、クロスミラージュのこれまでの経緯を把握しました。
※第三放送があった事に気が付いていません。
※清麿メモについて把握しました。
※螺旋力覚醒

【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:疲労(大)、全身に裂傷(中)、身体の各部に打撲、 慢心・油断はない
[装備]:乖離剣エア@Fate/stay night、クロちゃんスーツ(大人用)@サイボーグクロちゃん
[道具]:支給品一式、クロちゃんマスク(大人用)@サイボーグクロちゃん、偽・螺旋剣@Fate/stay night
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【天の鎖】の入手。【王の財宝】の再入手。
1:ドモンの螺旋力を利用して博物館の中身を確認する。
2:その後、刑務所へ向かう
3:“螺旋王へ至る道”を模索。最終的にはアルベルトに逆襲を果たす。
4:北部へ向かい、頭脳派の生存者を配下に加える。
5:異世界の情報、宝具、またはそれに順ずる道具を集める(エレメントに興味)。
6:“螺旋の力に目覚めた少女”に興味。
7:目障りな雑種は叩き切る(特にドモンに不快感)
8:全ての財を手に入れた後会場をエアで破壊する。

※螺旋状のアイテムである偽・螺旋剣に何か価値を見出したようですがエアを手に入れたので、もう割とどうでもいいようです。
※ヴァッシュ、静留の所有品について把握しています。それらから何かのアイデアを思いつく可能性があります。
※ヴァッシュたちと情報交換しました。
※ジンたちと情報交換しました。

【会場に対するギルガメッシュの考察】
・会場は何処かの土地の複製
・全体を結界に覆われている
・結界の形はドーム状
・結界の効果は螺旋力覚醒の促進及び能力制限
・外部との遮断(推察の域を出ない)
・結界はエア、もしくはそれと同レベルの衝撃で破壊できる

15螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:45:08 ID:bOFCzp7w0
全て遠き理想郷、その名を冠すべきが場所が現実に存在するとしたらその世界こそがそうなのかも知れない。
無生物を生物へと変え、自然の猛威の象徴たる台風ですら意のままに消し去る驚天の技術。
因果率さえも気ままに操り、平行世界はおろか鏡面世界やワームホール内すら自由に行き来する時空間支配。

それらをたやすく可能とする道具が実に気軽に市販されているにも関わらず、社会のバランスを崩すことなく平均以上の治安を保つ成熟した住民達。
衣料品などの販売店はほぼ完全に無人化され、街を駆け巡る道路はどれ程の高さから飛び降りようと無傷の着地を可能にする。
完全な球状に整えられた家屋の中で人々は現実と変わらぬ景色を楽しみ、無重力の中で眠る。
気象庁とは気象を予報する庁ではない、気象を決定する庁である。

時に22世紀のトーキョー。人類には最早不可能など残されてはいないかに思われた。
が、解決すべき課題がなくなった訳ではない。
例えば環境問題。許容量を超えたモノ達の氾濫は今なお大きな問題として社会に居座り続けている。
例えば科学への依存。科学は人間の生活を豊かにしたが同時に心を貧しくしたのではあるまいか、等の言説はいつの世でも同じように叫ばれている。
そして例えば……時間犯罪者。

16螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:46:04 ID:bOFCzp7w0



22世紀のトーキョーシティはその日も変わらず平和そのものだった。
無機質でありながら丸みのある柔らかさを失わない建物達が林立し、クルマは地はもとより空にも飛び交う。
雑然とした印象を与えかねないそれらを補うかのように、公園では余暇を楽しむ人々が暖かな時を過ごしていた。
この世界の都市の典型とも言うべき街。トーキョーシティネリマブロックススキガハラストリート。

高水準の治安が約束された街の平穏はそう簡単に破られることはない。
並大抵の犯罪者ではタイムパトロールの手を逃れて事件を起こすことなどできないと皆知っているのだ。
だから、自分達の上空に突如として円形の空間が開き、そこから翼竜を模したデザインの大型の機動船が脱兎のような勢いで飛び出したとしても……この街の平穏が乱れることはなかった。
当事者達がどうであるかはともかくとして。





「ワープ終わったぞっ!どうだ!?」
「まただ!外壁に取り付いていやがった!」
「畜生っ!化け物かよあいつは!?」
船の中、それほど広くない複座式の操縦席には真っ青になって悲鳴を挙げる二人の男がいた。

富豪然とした肥えた体格の赤ら顔の男、ドルマンスタインと目出し帽のように顔の僅かな部分のみを露出させた黒服の男。
恐竜ハンターとして数多くの恐竜を追い立ててきた彼等が、今は逆の立場へと追いやられている。
計器類はさすがにまだ危険域を示してこそいないが、外壁は姿の見えない襲撃者から執拗に加えられてる攻撃で既にぼろぼろだ。
もう一撃くらえば、航行不能になることは確実だろう。

いたぶるのを楽しんでいるとしか思えない“そいつ”は外壁からは何とか振り落としたものの、さらに追いすがってくることは間違いない。
仮にこの船が落とされたしたら、自分達は一体どうなるのか。具体的な想像はできないがろくでもない目に合わされるだろうことは不思議と自然に想像できた。

船全体が大きく揺れる。単純な操縦ミスだ。敵の姿はまだ見えない。
恐慌が深まりつつある操縦席の中、このような事態に陥るハメになった原因が大きな後悔を伴って二人の脳裏に思い返されて行った。

17螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:47:35 ID:bOFCzp7w0
今になって思えばそもそもの発端はあのときの映像ディスクだったのだろう。
立体映像での再生が当たり前となった現代で、再生装置を別に必要とする旧世代型のディスクだったのが印象に残っている。
奇妙に古ぼけた汚れのついたそのディスクとは、仕事の後立ち寄ったうらびれた雰囲気の酒場で出会った。

「姿が見えんぞ。撒いたのか!?」
「良く見ろ!真下から上がってきてやがる!」

恐竜ハンターとは過去で捕獲した恐竜を物好きな好事家達に高値で売りさばく密輸業の一種であり、歴史に重大な影響を与えるとして捕まれば厳罰に処される時間犯罪でもある。
世間で広く知られているように、れっきとした犯罪行為だ。
そんな仕事を二人はもう何年も続けている。手痛い目を見たこともあるが、その筋ではかなり知られたいわゆるベテランだという自負もある。
その日の仕事もそれを裏付けるかのように順調に進み、二人は見事望外の大金をせしめることに成功した。
祝杯としゃれこむべく、そのまま適当に選んだ時代と場所で見つけた酒場へと足を運び。
それが、転落の始まりとなった。

「おい、また撃ってきたぞ!」
「くそ、見たこともない道具を使いやがってぇ!」

どことも知れない薄暗い酒場には、やはりと言うか客は少なかった。
気にすることもなくカウンターに座り、普段より数ランク上の酒を注文する。
二人の他に目立った客といえば、偉そうにするのが当たり前と言わんばかりにどっかりと葉巻を加えた中年の客と、皮肉がそのまま素の表情になってしまったように口を歪ませる優男風の客の二人くらいだ。
他にもブルドックのような姿の客や全身金色のロボットの客など色々いたようにも思うが、暗い店内のさらに暗い一角に陣取っていたため確かなことは分からなかった。

しばらくは仕事の武勇伝を肴に気持ちよく酒を進めていた。
高揚した気分での酒は面白いように進み、すぐにほろ酔いとなる。そのままいけば記憶が残らないような状態になっていただろう。
そんなときに声を掛けてきたのが、にやにやとした笑みを浮かべた中年の男の客だった
馴れ馴れしい態度の男は意外と甲高い声でこう切り出した。
――おめぇさんたち、大分羽振りがよさそうじゃあねぇか。

「ぐぅ!掠めたぞ、揺らすな!」
「じゃあお前がやれってんだ!」

18螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:48:40 ID:bOFCzp7w0
おだてに乗って嬉々として自慢話を始める、などという無様な真似は酔っていてもさすがにしなかった。
適当にあしらおうと手を振ってあっちへ行けと示した。だがその仕草があからさま過ぎたのか、中年は構わずひっと笑うとカウンターの隣の席にどかっと腰を下ろしてしまった。
──まぁ、そう邪険にするなぁ。今はこんななりでも昔は社長って呼ばれたこともあったんだぜぇ。
続いて告げられた企業名はガルタイト、とか言ったか。
興味が無かったので良く覚えていない。トカイがどうのと言っていた気もする。
ともかく、二人に件のディスクの買い取りを持ちかけたのがその自称元社長の男だった。

「狙い撃ちだ!もう一度ワープは!?」
「まだ時間がかかる!!」

――モノが古いせいでまだ中を見れちゃあいないんだが、こいつはとびっきりだ。何せ……。
とある時間犯罪者が起こした数十人もの人間の殺人ショーを収録したディスク。
噂だけは聞いたことがあった。数年程前からちらほらと耳にするようになった噂だ。
作成者は捕まり既に死んでいるだのいないのと、いかにもな尾ひれがついた賞味期限の短い噂でしかなかったが、思えば意外と長い間囁かれていた気もする。
それもある時期を境にぱったりと聞かなくなったのだが。
――これがその最後の一つってやつだ
全く取り合わず一笑に付した。
そんな二人を嘲笑う新たな声が、背後から聞こえた。

「このままじゃ埒があかん!街に入れ!」
「ビルを盾にか!さっすが悪党ぉ!」

ドラコルルと、どこか人の神経に障る口調でその男は名乗った。そしてこれでもある惑星で結構な立場にいたこともある、と自称元社長と似たようなことを言った。
試しにじゃあなぜ今はこんなところにいるのだと聞いてみたが、ドラコルルは悔しげにガキどもが、と呟くだけで多くを語らなかった。
子供という言葉には二人にも苦い思い出がある。それ以上は触れなかった。
隣を見ると、自称元社長も何故か顔を伏せていた。
ドラコルルが顔を上げるまでには多少の時間を必要としたが、開かれたその唇には元通りの皮肉げな歪みが取り戻されていた。
──そいつは本物だよ。俺の昔の上司も持ってた。
かなりの高額で仕入れたにも関わらず、それを見る直前に消息不明になったという。

「いなくなったぞ!今度こそ引き離したか!」
「このままワープだ!!」

19螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:49:11 ID:bOFCzp7w0
ドラコルルがそれ以上を語らず席に戻ってしまったので真偽の程は分からなかった。人を騙しなれている口調からしてかなり誇張が含まれているように感じたのを覚えている。
が、ディスクの中身はともかく高額でという部分には惹かれるものがあった。
すぐに転売してしまえばいい。そう思い、ディスクを引き取ることにした。
自称元社長は売りたいと言うより厄介を押し付けたいとい気持ちが強かったのか、かなり足元を見た金額にも関わらず金を受け取ると安心したように元いた席へと消えて行った。
二人の手元には虚実不明の因縁が付けられたディスクだけが残った。

「あ……」
「あ……」

気が付くとそれなりに賑わっていた店内にはほとんど客がいなくなっていた。
まるで、ここでの出会いは一夜限りの幻だったとでも言うように。
気温まで低くなったように感じられた。
明け方が近くなっていたのかも知れない。
二人の恐竜ハンターは顔を見合せ、一つ身震いをすると河岸を変えるべく立ち上がった。
言葉少なに勘定を済ませ、店を後にしようとして。
──ああ、ところで……
──ああ、そうそう……
どこか早足になっていたその背中に、最後の客となった二人の男達の声が投げ掛けられた。
二人の足が吸い付けられたようにぴたりと止まった。震えてはいなかったように思う。
──言い忘れてことなんだが。
──これは聞いた話なんだが。
言われたことの意味が良く分からなかった。その時はまだ。
二人が告げてきたのは同一の内容の、ディスクに纏わるもう一つの噂だった。

「はぁ〜い。チンピラの小悪党さん達、そろそろ観念してもらえるかしら?」

曰く、そのディスクを持つもののところにはあかいあくまがやってくる、と。




20螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:50:46 ID:bOFCzp7w0
右手に魔術杖。身に纏う衣装は見る者の目を引く真っ赤な色。
ツインテールにしてもなお余る質感たっぷりの髪を風になびかせる妙齢の女性、遠坂凛は穏やかに笑みで脅しをかけながら内心物凄く焦っていた。

今やっていることは凛の本来の仕事とは全く関係がない。
第2魔法についての研究や、着々と押し付けられる科目数が増えてきている時計塔の講師としての仕事が本職顔負けの追走劇に関係あるはずがない。
確かに、複数の次元世界に影響を与える事態全般を取り締まる時空管理局の魔導士としての自分なら多少は関係があると言っても良いかも知れない。
だがそれも凛が手を出すことを許される範囲でならのことである。
今いる世界はまずい。というか、少々面倒くさい。

第一特例管理外世界。
忘れようにも忘れられない、そして同時に忘れたくないあの事件をきっかけに初めて時空管理局がその存在を知ることとなった次元世界。
大抵の次元世界よりは優れた技術を持ち、それ故に自らそれらを管理するという職務を負った時空管理局が、唯一その責務を放棄し存在すら秘匿としたいわくつきの世界である。
理由は、ひとえに圧倒的な技術力の差という語につきた。
管理局の数段、もしかしたら数十段先を行く次元管理能力に加え、時間すら掌握するその超技術。
魔法と見紛うばかりの、凛の世界では逆に技術が進むほど魔法は減っていくのだが、奇跡の数々に触れついに管理局はこの次元世界への一切の干渉を行わないとする決定を下した。
管理局の力が無くても十分に自衛は可能、というのが表向きの理由だ。
それはまあその通りなのだろうけど、喧嘩になったらどう頑張っても勝てない相手のご機嫌を損ないたくないというのが本当のところだろう。
少々ひねた解釈だが、凛はそう思っている。
それだけに、先方にご迷惑をお掛けした組織の下っ端にどのようなくだらないお咎めがなされるかと思うと実に面倒くさい。

(時間移動される前にちゃちゃっと済ませるつもりだったのに……はぁ、戻ったらまたリインの説教ね、これじゃ)
もはや自分に厳しくするのが意地なってきた感さえある相棒の眉がつり上がる様を想像し、心中で溜め息をつく。
どうあれ、余りことを大きくしすぎるのはまずいのだ。
時計塔とも管理局とも関係ない。凛がここにいる理由は彼女とその周囲のほんの数人しか関わらない、非常に個人的なものなのだから。

『何なんだよてめぇは!?タイムパトロールでもねぇ癖になんで俺達を狙う!』
外部スピーカーから流れる無個性な叫びを耳に素通りさせる。
別にお前達が持っているディスクがどんなえげつない経緯で作られた物で、存在を知ってからこっちそれを消滅させるためにただでさえ希少ななオフの時間をどれだけ犠牲にしてきたかくどくどと説明するつもりはない。
ついでに言えばお前達の持っているそれが確認されている最後の一枚であるため、万感の思いを込めていっちょ派手にぶっ飛ばしてやろうなどとは思っていても言わない。

21螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:52:08 ID:bOFCzp7w0
凛は内心の感情などおくびにも出さず、肝の小さい男なら心の底から震え上がると経験上知っている笑みをにっこりと浮かべて言った。
「運が悪かったわね。一応死なないくらいに加減してあげるけど、もしものときはごめんなさい」
『な・っ・と・くできるか〜〜っ!!』
切れたのかやけくそになったのか、プテラノドンのような外観の機体で突撃を敢行してくる。分かりやすい連中だ。

バリアジャケットを風に踊らせ軽く回避し背後に回った。
乗ってる奴等は雑魚でも機体の性能は十分驚異だ。何よりどんな能力を持つか知れない道具を持ち出されるのは避けたい。
一撃で落とし、戦意を喪失させる。凛は綺麗に整えられた指をすっと構えた。
「ガンド!」
声とともに、指先から光球を撃ち出す。高速で発射されたそれは桃色を基調にしながらも、どこか灰色がかったくすみを持ち合わせていた。
北欧に伝わる呪いを魔力スフィアと融合させた、凛オリジナルの魔術。
本来の呪いの効果に加え魔力ダメージを与えることができ、さらに物理破壊も行えるとあって実戦でもそれ以外の場面でも非常に重宝している技だ。
光球はそのまま確実に翼竜の急所を撃ち抜くと思われたが、そこまで狙い通りにはいかずすんでのところで旋回されかわされてしまった。

全速で逃げようとする敵に慌てることなく、凛はその場から次々と次弾を浴びせかける。大きく弧を描く機械の竜はその殆どを生意気な高機動で回避したが、命中した分には確実にダメージを与えているという手応えがあった。
(よし、ちょろい!)
煙を上げゆっくりと高度を下げる機体に凛が心中で快哉を叫ぶ。視界の中で小さくなる翼竜の顔が焦っているようにさえ見えた。
なので、さらにだめ押しの一撃を加えることにする。

「スターライトブレイカー!一応死なない程度に行くわよ!」
『All right, my second master』
髪をかき揚げ威勢良く声を上げる凛に呼応して、右手のデバイスが形を変える。
馴染み過ぎるくらいに馴染んだ魔術杖の長距離砲撃形態。周囲に展開される円環状の魔方陣が心地よい集中をもたらしてくれる。
「カウントお願い。……これで最後なんだもの、派手にいこうじゃない」
『Yes.10……9……8……』
本来この程度の戦闘には必要のない手順を敢えて踏み、凛は何かを噛み締めるような仕草で静かに照準を定める。
おあつらえ向きに下は大きな池を湛えた公園だ。多少盛大にやっても、まぁ何とかなる。
既に親指ほどの大きさになっている小悪党どもの船を見据えながら、しかし凛は瞳の奥で別の物を見ていた。

それは思いだしたくないもない最悪の記憶だったり、今も心の奥で淡い光を放つ記憶だったりした。正負に突き出た極上の思い出は人によっては忘れてしまいたいと思うかもしれない。
だがどんな種類の記憶でも、凛にとっては等しく価値のあるもの。現在を形作る大切な自分の一部だ。決して無くしたいなんて思わない。
いくつもの出会いと別れの末に託された無限の思いの先に、今の凛はあるのだから。

『5……4……3……』
思考をクリアにする。
遮るものは、何もない。
呼吸が、清清しいほど静かに通った。

『2……1……』
錐もみに落ちていく悪夢の残り香を完全に消し去るために、凛は真っ直ぐな意思を込めて言葉を放った。

『0』

22螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:53:10 ID:bOFCzp7w0
「スターライト!!ブレってえええ!?」
放ちはしたが直後に目標の機体に起きた爆発はそれとは何の関わりもなかった。
プテラノドンは形を失い残骸をまき散らしながら一気に落っこちていく。どうやらさっきの魔力弾が思った以上に良いところに入っていたらしい。
しかも間の悪いことに敵は最後のあがきにワープを試みたのか、連鎖的に爆発する機体は無理やりこじ開けられた空間の中に落ち込みあっという間に消えてしまった。

「……」
後には、無駄に蓄積された魔力と行き場の失った凛の決意だけが残された。
「ねぇ……あれ帰ってこれると思う?もしくは追えると思う……?」
青筋を立てるのも何か違う気がして、実に中途半端な表情のまま馴染みのデバイスの意見を聞く。
帰ってきたのはもちろん絶望的だという内容の言葉。よしんばパイロットが助かっても機体の破損状況からして帰還は不可能。手段がない以上当然追跡もまた不可能とのことだった。
複雑、消化不良、憮然。大体そのような感情の真ん中くらいを表情に浮かべる。
いつの間にか、凛の周囲を数台のタイムマリンが取り囲んでいた。

「貴方は完全に包囲されている!速やかに武器を捨てて投降しなさい!」
いつの時代も変わらない赤色のサイレンと呼び掛けの声を聞きながら。
とりあえず凛は終わったのだと思うことにし、何故だかがっくりと肩を落とした。


その後、遠坂凛が元いた次元世界に戻るためどれ程の苦労を必要としたかは定かではない。
たとえ、あわや犯罪者の烙印を押される寸前の事態になったとしても。
たとえ、その過程で22世紀の技術に間近に触れる機会を得た彼女が結果として自身の第2魔法に関する研究を飛躍的に進めることになったとしても。
それらはみんな、全く別の話である。




23螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:53:56 ID:bOFCzp7w0
その日、王都テッペリンの北方1600キロの地点に突如として虚空から奇妙な物体が出現した。
最初に発見したのはその地方で人間狩りの任についていた名もなき獣人。報告が速やかに行われたこともあり、それに対する調査は迅速かつ的確に行われた。
どこか異質さを感じさせるガンメン似の機体の破損状況は酷いもので、当初は屑鉄ぐらいしか出ないのではと思われたものの、どうにか形を残していた物とその機体自身を回収し調査は終了。
その結果、それは彼等が用いるガンメンに見ためこそ似ている部分もあったが様々な部分が決定的に異なることが判明した。

他に具体的な収穫としてもたらされたのは、用途不明の道具数点と奇妙な格好をした二人のニンゲン。
地下に潜っているはずのニンゲンがそのようなところから現われた事実は驚愕をもって迎えられたと思われるが、詳細については不明。
記録にはただ、二人が訳のわからないことを叫び続け、やがて尋問に耐えられず死亡したという事実が残されているのみである。
死体は一切省みられることなくどことも知れぬ場所に放棄されたようだ。

一方、尋問で得られた言葉と回収された用途不明の道具達は打ち捨てられることもなく彼等の組織の仕組みに従い上へまた上へと回されて行った。
様々な土地で少しずつ位の高いものへと渡されていき、渡されたものもやはりそれが何なのか分からず次の者へと引き渡す。そうしたことが幾度か繰り返された。
くるくるとした連鎖の先で、やがてそれらは全ての獣人の始祖たる存在へと辿り着く。
そしてついに、未来世界の技術が螺旋の頂点に立つ王の下へと引き渡された。

「ロージェノムよ、面白い報告が上がってきておるぞ?」
「ほう……」

献上された品は数点の道具と無限の容量を持つ袋、それに古ぼけた一枚のディスク。
もしもボックス
シズメバチの巣
タイムマシン
グッスリ枕
四次元ポケット
そして精霊王ギガゾンビによって起こされたバトルロワイヤル、そのほぼ全てを記録した映像ディスク。

それらが全て螺旋王の手の中へと収められそして――。
全ての悲劇が、ここから始まる。

24螺旋のはじまり ◆10fcvoEbko:2008/04/13(日) 21:54:43 ID:bOFCzp7w0
【多元世界の発見について】
ギガゾンビが発信していた映像を収めたディスクからバトルロワイヤル(アニ1st)及び多元世界の存在を知り、改修したもしもボックスの多元世界に関する機能を解析することで移動・干渉する技術を手に入れました。
バトルロワイヤルのルールについても前回のバトルロワイヤルを参考にしています。

【多元世界を行き来する方法について】
回収した恐竜ハンターのタイムマシンを修理し、多元世界を移動する機能を組み込んで移動手段としています。一台きりか、量産に成功しているかは不明です。

恐竜ハンターのタイムマシンのビジュアルについては
http://jp.youtube.com/watch?v=3XfmivNLRzU
の1:38あたりから。

【移動可能な多元世界の範囲について】
参加者達がいた次元・時間にはどこも問題なく移動可能と思われます。新しい世界を発見するために必要な時間は不明です。

【参加者を集めた方法について】
カネバチの巣とぐっすり枕の機能を参考にした捕獲装置を使用。捕獲された者は強力な催眠装置で眠り、無抵抗になります。
また、デイパックには四次元ポケットの機能が使われています。

【シズメバチの巣】
風船を割るように人の怒りをしぼませるシズメバチという機械の蜂の巣。これの巣をぽんと一度叩くと解き放ち、もう一度ぽんと叩くと中に吸い込むことができる。原作では普通の蜂も吸い込んでいた。
原作コミックスでは第8巻に登場。
【グッスリまくら】
催眠装置を搭載し手にしたものを容赦なく眠らせる枕。眠らせる強さは調節が可能。
原作コミックスでは第22巻に登場。

※上記以外のドラえもん世界の道具・技術については完全に破壊されたため存在していません。

25童話『森のくまさん』 ◆10fcvoEbko:2008/04/19(土) 01:17:38 ID:/ovXct/o0
あるところに一人の王女さまがいました。
王女さまといっても、偉そうにしたりわがままをいったりはする悪い王女さまではありません。
彼女はまだほんの小さな子供でしたが、そんなことをしたら大切な人たちがいやな思いをしてしまうことをちゃんと知っていました。
優しい王女さまは、同じように優しい沢山の人からとても大切にされました。
人を殺しなさいといわれたときにきちんと反対できたのも、心の中で彼女の大切な人達が支えてくれたからでした。
けれども、彼女の大切な人たちは彼女の知らないところで死んでしまいました。
力強く手を引っ張ってくれた少年にも、暖かく彼女を包んでくれたおばあさんにも永遠に会うことができなくなってしまったのです。
王女さまは胸が潰れるような悲しみを感じました。そのまま本当にからだが潰れてしまうかと思いました。


王女さまにまた大切な人ができました。とても背の高い神父さまです。
神父さまは悲しみに沈む王女さまにありがたいお話を聞かせてくださいました。
低い声で仰るそのお話はとてもむずかしく、初めは理解できませんでした。
でも彼女は優しさと一緒にかしこさも持っていましたから、すぐに神父さまのいうことが正しいのだと気付きました。
かしこい王女さまはみんなを殺します。そうすれば大切な人達にまた会えるからです。
神父さまが授けてくださった魔法の槍で、彼女はみんなを殺します。
それが正しいのだと、神父さまが教えてくれました。
神父さまの教えに従い、王女さまは色んな人達をおそいました。
まだ誰も殺してあげられていないけれど、王女さまは負けずにがんばるつもりでした。
そんな王女さまに大変なことがおきました。
魔法の槍が動かなくなったのです。

26童話『森のくまさん』 ◆10fcvoEbko:2008/04/19(土) 01:18:13 ID:/ovXct/o0
世界の上半分は月のきれいな夜空でした。下半分は捨てられたごみ達でした。その真ん中で、王女さまはひとりぼっちでした。
みんなを殺してあげるために使うはずだった魔法の槍は、少し前から何をいっても応えてくれなくなってしまいました。それどころか形も槍ではなく、時計のようなものに変わってしまったのです。
実は王女さまが神父さまからいただいたのは槍だけではありません。それを動かすための特別な力も一緒に分けてもらっていたのです。
でもそれはいつまでも使えるものではなく、ついさっき時間切れになってしまいました。
王女さまはさっきまでの素敵な笑顔はどこへやら、たいへん困ったという顔できょろきょろと細い首をふります。
それはそうでしょう。王女さまはいま砂漠のように広いごみの海にぽつんと取り残されてしまっているのですから。

魔法の槍に頼りきりだった王女さまは自分の足で帰ることもできません。
魔法で作ったとても頑丈な服も消えてなくなってしまいました。今の王女さまの格好は汚れていてとてもみすぼらしいものです。
王女さまは急に周りが怖いものばかりのように思えてきました。
さっきまでは何とも思わなかったじゅうたんの染みやランプの破片が、みんな自分を狙っているように思えてきます。
一人ぼっちになった王女さまはとても弱くなってしまいました。
早く神父さまに会わないと。会ってもう一度魔法の力を分けてもらわないと。
そう思うのですが、体は前みたいに速く動いてくれません。
とうとう王女さまは転んでしまいました。きれいな顔にきずがついてりんごのように真っ赤な血が流れます。
王女さまは痛いのとつらいのとでまた涙が出そうになりました。
もし王女様がただのかよわい女の子だったとしたら、そのままわんわん泣いていたかもしれません。

王女さまはりっぱでした。涙をぐっとこらえて立ち上がると、危ないものをさけながらそろそろと歩き始めます。
他に頼る人もいない場所でそんなことができるのも、王女さまが立ち直る強さを持っているからです。
ここで倒れてしまったら王女さまの大切な人も死んだままです。会ってお話しすることも、一緒にお茶を飲むこともできません。
きらいだった人たちを王女さまと同じ考えにして生き返らせてあげることもできなくなってしまいます。
あなたはムカつきます、そういって王女さまをぺちんとたたいた女の子のことを思い出しました。
殺したと思ったのに、放送で名前をよばれなかったとてもいやな女の子です。
こっちこそ、ムカつきます。

27童話『森のくまさん』 ◆10fcvoEbko:2008/04/19(土) 01:19:36 ID:/ovXct/o0
王女さまは、いじわるな女の子になんか負けません。彼女はみんなのお手本になるのにふさわしい、強くて凛々しい王女さまです。
けれども、その体はやっぱりとても疲れていたので少しすると足が少しも前に進まなくなってしまいました。王女さまの気持ちは前に進むことでいっぱいなのにです。
どうしようもなくなった王女さまは小さくうずくまります。
いまにもくじけてしまいそうですが、ここまでとってもとってもがんばってきた王女さまを責めるなんて誰にもできません。
それどころか、よくがんばったねとご褒美をあげてもいいくらいです。
そうです。みんなのためにこんなにがんばっている王女さまが悲しんでいるのに、そのままになんてしておけるはずがありません。

精いっぱい働いた王女さまを助けようと、勇敢な兵隊が救いの手を差し伸べました。
顔を伏せていた王女さまはすぐには気付きませんでしたが、そこにいたのは確かに彼女だけの兵隊でした。
粘土のような金属のような不思議な体で王女さまを見守るロボットの兵隊です。
王女さまは少しだけびっくりしていましたが、すぐに顔をほころばせました。
その兵隊がとても優しく、そして自分をいつも一番に考えてくれていることを彼女は知っていたからです。
兵隊は王女さまの前に静かに歩みよると、うやうやしくお辞儀をします。
よく見るとその体にはたくさんのごみがついていました。
実は兵隊はとても疲れていたので、いままでごみの中で眠っていたのです。王女さまが悲しんでいることに気付き、慌てて励ましにきたのでした。
王女さまがいまいるごみ捨て場にはただのごみでいっぱいでしたが、そうでないものもたくさんあるのです。

このごみ捨て場は、そういう場所なのです。
王女さまが悪い王様に誘拐されたとき、王女さまの世界の道具たちも一緒に誘拐されました。王女さまとは違う世界でも同じことが行われました。
そうして集められた道具たちはいるものといらないものに分けられ、いらないものは捨てられてしまいました。
そんな道具たちと本当にいらないごみ達ががたくさん集まってできたのが、このごみ捨て場なのでした。

28童話『森のくまさん』 ◆10fcvoEbko:2008/04/19(土) 01:20:22 ID:/ovXct/o0
もちろん王女さまはそんなことは知りません。ただごみがついていてはかわいそうと、兵隊をきれいに掃除してあげます。
すっかりきれいになった兵隊はさっきまでと同じ表情のはずなのに、どこか嬉しそうに見えました。
そんな兵隊の様子がほほえましくて、彼女もにっこりと笑いました。
まだ大切な人たちが元気だったころを思い出させるような、素敵な笑顔でした。
元どおり元気になった王女さまは彼女の、彼女のためだけの兵隊に向かっていいました。

「あなたは私のいうことを聞いてください。他のみんなを殺してください」
兵隊は素直なしぐさでこくりとうなずきました。
兵隊は王女さまを優しく抱き寄せると、彼女が愛しくて仕方がないといった様子で肩に乗せました。
王女さまの命令するとおりに、ゆっくりと空に顔を向けます。そうして両腕を大きく広げると空を飛ぶための羽をだしました。
生き物のようでありながら自然のどの生き物にもにていない、不思議な羽でした。
それを両腕ぜんぶに広げて王女さまを乗せた兵隊は飛び立ちます。
それは魔法の槍なんかよりもずっと速く、飛び出した二人の姿はあっという間に汚いごみ捨て場からは見えなくなってしまいました。
元気よく空を飛ぶ兵隊の姿は、王女さまのために働けることをこころの底から喜んでいるようにも見えました。
こうして王女さまは、今のところはとても幸せになりました。

――おしまい。

29童話『森のくまさん』 ◆10fcvoEbko:2008/04/19(土) 01:20:45 ID:/ovXct/o0
【E-4/ゴミ処分場上空/2日目/深夜】

【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)、頬に切り傷、おさげ喪失、右頬にモミジ
[装備]:ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ
機体状況:無傷、多少の汚れ
[道具]:支給品一式 (食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml 2本)、ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(待機状態)、びしょ濡れのかがみの制服、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガン、暗視スコープ、音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、士郎となつきと千里の支給品一式
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる。
1:北に向かい、卸売り市場付近で言峰を捜索。保護してもらうと同時に新たに令呪を貰う。
2:途中見かけた人間はロボット兵に殺させる。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:恩人の言峰は一番最後に殺してあげる。
5:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。但し、防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。 夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※第三回放送を聞き逃しました。
※価値観が崩壊しましたが、判断力は失っていません。
※かがみを殺したと思っていますが、当人の顔は確認していません。
※会場のループを認識しました。


【ごみ処理場について】
大量のごみの中には参加者を誘拐するさいに持ち出された各世界の道具が埋もれています。支給品の選別からもれたものと思われますが、その量や支給品との質の違いについては不明。


【ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ】
ラピュタ王国が使う自律稼動式ロボット兵器。頭部に付けられた大小二つのビームが主な武装。本編の描写を見る限りビームは誘爆性のものと思われる。胸部のジェットと両腕の羽で飛行も可能。優秀な人工知能が搭載されており、シータの命令に従い彼女を守ることを第一に考えている。

30Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:22:29 ID:1APxGToc0
「ほほう…」

モニターから一連の戦闘を見ていた螺旋王が、にやりと笑った。
まさか、このようなことになろうとは。
まるで、藤乃静留に関する何から何まで、この光景のためにお膳立てされたかのようだった。
今、モニターに映っているのは、黒い液状の液体とも気体ともつかないものをもくもく吐き出し続ける清姫の姿。
地に落ちたそれは強い粘性を示しながら拡がりゆく。
際限なく垂れ流されるタールが悪臭を放ちながら押し寄せるがごとく。
螺旋王は知っている。吐き出されているそれが、聖杯の泥と呼ばれるものであることを。
『この世全ての悪』を内包した、あの空間とも物体とも言える塊は、
螺旋王にとってはアンチスパイラルが用いたデススパイラルフィールドを彷彿とさせるもの。
あれは螺旋力そのものを空間に取り込み超高密度で物質化するものであったが、
今、目にしている聖杯の泥は、螺旋力ではなく悪意そのものの物質化と言うべき。
そして悪意は決して、螺旋力と無縁のものではない。
清姫に喰われたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが秘めていた聖杯は、
ランサーのみを贄として発動できるものではなかったが、
そこへ螺旋力覚醒者…加えて、いつか英霊となる可能性を持っていた男、衛宮士郎も呑み込まれ、
さらに、自らを人身御供にただ一筋の強き想い、高純度高密度の螺旋力を捧げた藤乃静留によって、
目覚めがついに始まった、という筋書きのようだ。
そして聖杯とは、他を破壊することによって使用者の願いを叶える呪いの器。
あの藤乃静留の想い、すなわち清姫の想いが『なつきさえいれば、後は何もいらない』であるならば、
今や清姫そのものとなった聖杯は、なつきだけの世界を創り出すために他のあらゆるものを滅ぼし尽くすであろう。

「新世界創造…果たして、貴様に届くかな」

場合によっては、ラゼンガンで戦闘の渦中に降り立つも一興か。
螺旋王は肘をつき、引き続き観戦の構えに入る。
あの清姫が吐き出した泥の中に突っ込んだカグツチは、
清姫と同じように力が抜けて静止していた。
頭上にいる鴇羽舞衣も、またしかり。




************************************



「あ、あ、あ」

牢の中から引っ張り上げられた鴇羽舞衣は、気がつけば呪いの中にいた。
真っ黒い泥のような空間に、無数の顔が浮かび上がる。
恨みの形相で睨む詩帆。
不愉快そうに眉を寄せる祐一。
冷笑する黎人さん。
嘲笑する会長さん。
よそよそしい目で見てくる千絵とあおい。
泣きわめく命(みこと)。
無関心な、他人を見る目のなつき。

「…いや、嫌ぁ」

のけぞっても、見える景色は変わらない。
全てがこちらに回り込んでくるようだ。
こちらを見ながら震える雪乃が。
その隣で軽蔑と憤怒を瞳に込める執行部部長が。
冷たく見放す父と母が。

「やめて、見ないで、そんな目で…見ないでよ」

31Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:25:14 ID:1APxGToc0
上から見下す碧先生。
小馬鹿にするようににやける奈緒。
アリッサを抱きしめ、無感情の目に敵意を込める深優。
我慢など、できない。
一瞬たりとも、できるものか。

「やだ、助けてよ…誰か、助けて。
 助けてよ、巧海、巧海ぃぃぃっ」

走り出そうとしたところで、足元に妙な感触。
下を見下ろす。そこにあったのは。

「助けて、助けてよ、お姉ちゃぁぁぁん」
「い、いやぁぁぁぁ――――っ、巧海ぃぃぃっ?」
「重いよぉ、お姉ちゃんが重いよぉぉ。
 なのに、お姉ちゃんが、いつまでたっても重いんだよぉぉ」
「ご、ごめんね、ごめんね、巧海…ゆるして、巧海」

踏みつけていた巧海の顔から、あわくって足を放す。
だが、その先でも、その先でも、そのさらに先でも。

「重いよぉぉー」
「重いよぉぉー」
「お姉ちゃんが重いよぉぉぉお」
「重いよぉぉぉぉぉぉぉ」

「嫌ぁぁぁ―――っ! 嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ」

踏みつけているのは全て、巧海の顔だった。
いつまでもいつまでも聞こえ続ける悲鳴。
自分が重たいばっかりに。
つまづいて、転げる。もちろん、巧海の顔につまづいて。
倒れた先も、巧海の顔。
すがりつくように、抱きしめた。

「ごめんね、巧海、あたし、あなたを守るから」
「近寄るなぁ!」
「ひぃぃっ?」

斬りつけてきたのは苦無(くない)。
舞衣の右手をすぱりと飛ばしたのは、巧海の男友達。
…いや、違う。HiMEの一人だった子だ。

「お前がいるから、お前がいるから巧海は苦しんだんだろ!」
「そんな、あたしは、ただ」
「黙れ! 少しでも悪いと思っているのなら、巧海の目の前から永遠に消えろ!」
「た、たくみ…そうなの…違うでしょう?
 違うって言ってよぉぉ、助けてよぉぉ」
「重いよぉぉ、お姉ちゃんが、重いぃぃ」
「…あ…たく、み…う…」

足から、一気に力が抜けた。
もう走らなくてもいいという安心感を得てしまった。
そこへのしかかってくる、顔、顔、顔。

32Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:27:27 ID:1APxGToc0
「へぇぇー、嫌がられてたんだねー」
「なのに気づかないで、あたしエライエライ、だってー」
「あなたが巧海をちゃんと見てれば、あなたなんかに任せなかったのに」
「情けないな、こんな風に育つとは…」
「舞衣なんかに聞いたのがバカだった。
 お前なんかに兄上への気持ちがわかるわけなかったぞ」
「結局、私を見逃したのも、可哀想な自分を汚したくなかったからなんですね」
「ふん、自分可愛さか。よくも被害者面ができたものだ」
「…わっかんねぇよ、お前」
「あなたの身勝手さで、お兄ちゃんを汚さないで」
「ばぁーっかみたぁい、偽善者、いい気味」
「底が割れましたね、舞衣さん。あなたはチンケすぎる」
「ほんま、呆れたわあ」
「風華学園から、不穏分子は排除、排除よ」

「あ、う、やめ、やめてよぉ…みんな、やめてぇ」

頭を抱える。ぶんぶん振る。
もう逃げられない。走れない。
そこへさらに顔、顔、顔。

「何が信じてもいい、だ! アニキじゃないくせに。
 俺は死んだ、もういない!」
「キミは調子に乗りすぎたねぇ〜、もうダメだと思うよ」
「カワイソーなあたしは死なない、いつか誰か助けてくれる。
 そぅお〜思ってたろぉ? 甘いぜぇ、甘いよなぁ〜?」
「だからお前はアホなのだぁ」

殺し合いの中でも、罪は重なり続けていた。
あたしなんかに、この男が責められるものだったのか。

「…Dボゥイ」

その後ろにいた気難しい顔に、声をかける。
助けを求める。

「Dボゥイ、助けてよ。
 やり直したいよ、こんなの嫌だよ」
「っはぁーい、そこまでー!」

突如として舞衣の目の前に、陽気な声と顔が立ち塞がった。
全員の罵声が止まる。
見上げた先の、その顔は。

「み、碧先生!」
「みんな、よってたかってカッコ悪いよぉ?
 この子にはさぁ、たった一言だけ言ってあげればいいじゃない」
「…先生ぇ」
「辛かったよね、舞衣ちゃん。もう、いいんだよ」
「うん…うんっ」

思わず涙がにじむ。
ぽろぽろとこぼれ落ちた雫が、心を洗う。
とにかくめげるということのない、
一時は同僚、今は先生、そして仲間の一言は。


「 死 ね 」

33Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:28:06 ID:1APxGToc0
舞衣の涙を、干からびさせた。

「あのさぁ舞衣ちゃん、じゅうななさい的にスッゴイ不思議なんだけどさぁー。
 どうしてそんなになってまで生きてられるのかなぁーって」
「碧先生、そんなことをこの子にわからせるのは酷ですよー。
 酷なだけに、こうー、頭がコックリコックリ…なんつってー」
「笑えないなぁ迫水センセ…ま、この子の勘違いっぷりほどじゃないけどさ。
 恥っずっかっしいよねぇー、死ねば助かるのにぃ」

アッハハハハハハハハ…
杉浦碧が大爆笑を始めると、波を打つように哄笑の渦が広がっていく。
誰もが、舞衣を指さして笑っている。
その中には罵声も混じった。怒声も、泣き声も混じっていた。
だが、一様に聞こえてくる声はひとつ。


死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね



舞衣は、倒れ伏した。
その眼は光を失い、何一つ見ることはない。
もう、何も聞きたくない。感じたくない。
願うことは、もはや、ひとつ。

「殺して…
 お願い、殺して…
 誰か、殺してぇ」
「ふん、それでいいのか、お前は」

嘲笑の中、傍らに立った誰かが聞く。
もう、誰でもいい。

「いいから、殺して」
「言いたいことのひとつくらいあるだろう。
 お前らしくもない」
「もういいのよ、殺してよ。
 みんなの言う通り、あたしは、自分可愛さで誰かを踏み台にして、不幸にして…
 死んだ方がいい奴なんだから」

ぱんっ

…何も感じたくなかった頬に、しびれる痛みが走った。
胸ぐらをつかみ上げられて気づく。
その誰かが、誰なのか。

「ふざけるな!」
「…なつ、き?」
「ふざけるな…ふざけるなよ?
 お前は今、泣いているだろうがっ…
 心にもないことを、ほざくな!」

34Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:29:27 ID:1APxGToc0
さらなる平手で吹っ飛ばされる。
尻餅をついた舞衣は顔に手をやり、気づく。
手をべったりと濡らす、透明な雫。
涙が再び、瞳の奥から湧き出し始めたことに。
周りからは相変わらずの嘲笑と、死ね、死ねの連呼。
涙が、さらに溢れ出す。

「悔しいだろう?…わかるか?
 お前は今、悔しいんだ!
 こんなくだらんことを言われて、ハイそうですかと納得する奴なのか、お前は!」
「あたしは、巧海を…」
「違う! 私の知っているお前は、違う!
 お前が心の奥底でどう思っていたかなど、知ったことじゃない。
 だがお前の自分可愛さからだったとしても、お前は弟を守っていたじゃないか!
 母さんを守れなかった私より、ずっとすごいことをお前はやってきたじゃないか!
 それをバカにされて、お前が悔しくないわけが、ないっ!」
「でも、あたし、守れなくて…」
「何よりっ!」

なつきが、舞衣の周囲を示す。
降り注ぐ下品な笑い声と罵声とを。

「よく見ろ!
 お前が守りたかった奴等は、こいつらなのか?
 こんなつまらん奴等を守るために、お前は戦ってきたのか?
 お前の目には、私が、命(みこと)が、みんながこんな風に映っていたとでもいうのか?
 応えろっ、舞衣っ!」
「…っ、う…」

喉が、引っ張られる。
罪悪感に引っ張られる。
舌がつりそうで、動かない。
なつきが声を荒げた。

「応えろ!」
「……違うっ」

舞衣は、手をつく。膝をつく。
重たい。重たくてたまらない。
だが、立ち上がる。
立ち上がる力を、見つけた!

「違うっ!
 あたしが、あたしが守りたかったのは…あの、まぶしかった毎日!
 こんな奴等じゃ、ない!」
「だったら呼べ、お前の想いの力を、ここに!」

胸の前に腕を組む。
そうだ、守りたいものは、最初からここにあったじゃないか。
こんなにも熱く燃え盛っていたのに、気づいていなかっただけだった。
ここで見させられたまやかしとは似ても似つかない、尊いものに。
今まで忘れていた想いを、呼ぼう。


「カグツチィィィィ―――――ッッッ!!」

35Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:30:19 ID:1APxGToc0
光の渦が闇を裂く。薄紙のように燃やし尽くしていく。
できの悪い偽物どもも、笑い声と一緒に焼け死んでいく。
その中でなつきはやさしく微笑むと、霞のように消えた。

「舞衣、頼む。静留を…」






―――ふと気がつくと、船だった。
鴇羽舞衣は、大型船から夕焼け沈む海に臨んでいた。
何ごとかと思い周囲を見回す背後から聞こえてきた声は。

「覚えてる? お姉ちゃん」
「…た、巧海?」
「僕とお姉ちゃんで、風華にやってきたフェリー。まっぷたつになった船だよ。
 すごい騒ぎだったのに、お姉ちゃん、僕の薬を取りに行ってくれてたんだよね」
「巧海ぃっ…」

抱きしめる。
首から肩に両腕を回して、思いきり。
思考が行動に、感情に追いつかなかった。

「…苦しいよ、お姉ちゃん」
「巧海、ごめんね、巧海ぃぃっ…」
「どうして謝るの」
「だって、だってぇ…あたし、巧海を守れなくて…
 …違うっ、あたしのせいでお父さんとお母さんが死んでなかったら、巧海だって」

泣きじゃくる舞衣を、巧海はしばらく黙って受け止めていた。
少しして、口を開く。ぽつりと漏らすように。

「じゃあさ、お姉ちゃん」
「え?」
「もしお姉ちゃんが、僕の面倒を見なくてもよかったら…
 お父さんとお母さんが無事だったら、僕のことはどうでもよかった?」
「…………」

絶句する。思考停止に陥りかける。
予想外すぎる切り返しであったから。
だが、数秒もしないうちにこみ上げてきたのは、やはり涙。
罪悪感ではない…むしろ怒り。そして愛しさ。

「そんなわけないじゃない、馬鹿ぁっ」

今まで以上に思いきり抱きしめた。
巧海の身になって考えるのを忘れかかっていたくらいに。

「あんたは巧海でしょ。あたしの弟でしょ。
 代わりなんかいない…たったひとりの、あたしの大好きな巧海でしょ?
 そんな気持ちに理由なんかいるの? ないわよ、そんなの!」

36Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:31:09 ID:1APxGToc0
言葉と一緒に、堰を切ったように流れる涙。
今まで必死になってきた過去の全てが、
その涙を目蓋に留めることを許さなかった。
ああ、こんな涙を流せなくなったのは、いつからだっただろう。
つらい現実の中、罪という名のおためごかしで顔面を塗り固めてきたのは誰だったのか。
そんな自分の背中に、今度は弟が手を回した。

「お姉ちゃん」

確かめるように背をさする手は、やがて交差し。
そして、力強く抱きしめ返す。
病弱の細腕には信じられない力。知らなかった力。
力に込められて紡がれる思いに。

「僕も、お姉ちゃんが大好きだから」
「たく、み…」
「苦しまないでよ…悲しまないでよっ。
 つらいときは、つらいって言ってよ。愚痴ってよ。僕にお姉ちゃんを助けさせてよ。
 僕はお姉ちゃんに、幸せになってほしかったんだから!」

…舞衣は、泣いた。
その場に崩れ落ち、大声を上げて泣き続けた。
抱きしめて支えてくれる巧海も、大粒の涙を隠そうともしなかった。
思い重なって、ひとつになる。
痛みではない。重荷などでは、もっと、ない。
この、壊れそうなほどの切なさは…炎だ。
今までも、そしてこれからも自分を突き動かし続ける、炎だ。

「…行ってくるね」

やがて、舞衣の方から、手を放した。
立ち上がって、行かねばならない場所がある。

「頼まれたんだ、なつきに…
 それだけじゃなくて、守りたい人もいるから」
「一人で大丈夫? 僕も、一緒に行く?」

冗談めかした口調で笑う巧海の頭を、
舞衣は軽くこつんと叩いた。

「バカ。あんたは重たいのよ」
「ふふ、そうだね」
「こんなに大きくなっちゃって、もう」

もしかしたら、自分の背を追い抜くのもそう遠くなかったかもしれない。
そんなことを思い、やはり笑う。巧海も笑った。

「じゃあ…お別れだね」
「……うん。バイバイ、巧海」

水面下からカグツチが顔を出した。
躊躇なく飛び降りた舞衣を背に、空へ飛び上がる。

「あ、お姉ちゃん、最後に!」
「なぁに、巧海?」
「空高くまで上がったら、一度だけ振り向いてみて。
 一度だけ、だよ」
「…うん!」

37Shining days after ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:31:59 ID:1APxGToc0
カグツチが姿を変える。
シアーズの衛星を叩き落とす際に使われた、ジェット形態だ。
これならば、宇宙にまで到達するのも誇張なしに一瞬である。
だから、加速をかけ始めた瞬間に舞衣は振り向き、見た。

「みんな…」

巧海の後ろに父母がいた。
父母の後ろに命(みこと)がいた。
その隣になつきがいて、楯がいて、詩帆がいて。
千絵がいて、あおいがいて、あかねがいて、碧先生がいて…
今までに出会った思い出の全てが、船上から舞衣を見守っている!
またも涙がこぼれるが、振り向くのは一度だけと約束した。
見据えるべきは、進む先のみ。

「ありがとう、みんな…行くわよ、カグツチ!」

ありったけの思いを胸に、悪意の泥の中へ、再び。
雲を切り裂いたカグツチは、あっという間に闇に包まれていった…



【鴇羽舞衣@舞‐HiME 螺旋力覚醒】

38小さな星が降りるとき ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:33:15 ID:1APxGToc0
清姫の意志は、藤乃静留の意志である。
そして清姫自体が聖杯そのものとなって泥を吐き出し続ける以上、
当の静留もまた無事でいられる道理はなかった。
鴇羽舞衣と同様に、精神界の地獄に堕ちることとなる。

「邪魔っ…邪魔、邪魔や、あっち行き、あっち行きよし」

手中にエレメントを発現させた静留は、出くわすもの全てを切り刻みながら走り回っていた。
家族だろうが友人だろうが、五体を切り分けて飛ばすのに躊躇はない。
父もいたし、母もいた。先生方もいたし、同級生は当然のこと…同一人物に出くわすのも数多い。
珠洲城遥などはすでに百回以上斬っている気がする。死ね死ね言われるのも聞き飽きた。
あそこにいる、顔に入れ墨を彫った男は、えぇと…ああ、ジャグジーか。
走り抜けざまに首を飛ばす。
さっきから出てくるたび、泣きそうな顔で何かを言いかけるのだが…どうせ口を開けば、死ね死ね、だろう。
そんなものに関わっている時間はない。
直感的にわかるのだ。ここにはなつきがいるはずだと…
周囲にはすでに、屍の山が積み上がっている。
斬った相手は一顧だにせず走ってきたが、同じようなところをぐるぐると回り続けているらしい。
同じ死体を一カ所に集めて目印にしてみて、ようやくはっきりしたことだった。
だから今のように、山から離れたところにジャグジーが出ると面倒くさい。また現在地を見失ってしまうではないか。
…静留は気づいていない。今の地獄をルーチンワーク化することで自らの正気を保っていることに。
現れる父も母も、遥も雪乃も黎人も、ジャグジーも、ヴァッシュ・ザ・スタンピードも、まな板の上の大根か何かだとしか考えないようにしていた。
だが、確実に蝕まれる。彼女とて、別に人を殺したり苦しめたりするのが好きだというわけではない。
野に咲く花が引きちぎられれば心を痛める、やわらな優しい心の持ち主である。
ただ、なつきという愛しい人の存在が大きすぎるがゆえに、手の中に守りたいものが収まりきらない。それだけだ。
そして、それ以外を簡単に切り捨てることで、なつきへの愛を証明しようとする。
そう、自分はこんなにもなつきを愛している、と。

『私はお前に対して、お前が抱いているような気持ちを持つことはできない』

なつきの応えは、これだった。ならば、それでも良かった。
清姫とデュランが相打ちになったとき、互いに同時に消えていくことができたのだから。
なつきは、デュランに自分への想いを乗せていてくれたのだから。
だから今も、全ての想いを賭け続ける。なつきのためになら、全てを捨てられる。
なつきへの愛が満ちていることを実感し続けるために、戦う。
すなわち、満ちていないことが、怖い。それは、なつきへの裏切りに他ならないから。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードのように、ラブ・アンド・ピースを唱えて生きるのも素敵かもしれない。
あの男は率直に言ってアホだが、敬意は払うに足る人間だと思う。
だが、自分にはあのような生き方は許されない。
いや…あるいは、あの男のラブ・アンド・ピースも、自分にとってのなつきと同じものではないか。
何より大切に思うがゆえに、守り抜くことがつらく、かなしくもなる…
そして、つらく、かなしく思うことそれ自体が、なつきへの裏切りで。
なつきを愛することがつらいとは何ごとだ。心からそう思う。
だから、今もこうして自分の前になつきが現れてくれないのだ。
もし、なつきに見放されてしまったら、自分は…

「なつき…うちの大好きな、なつき。なつきっ」

四方八方から現れる人影を切り崩しながら、走る。
誰が現れようが、どうでもいい。
自分はなつきしか探してはいない。
邪魔だ、そこをどけ。二度と出てくるな。

「なつ…くぅぅっ」

斬った死体に足を取られ、倒れる。
その眼前に現れた、足二本…見間違えるはずがない!

39小さな星が降りるとき ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:33:49 ID:1APxGToc0
「なつ…!」

ついに現れた玖我なつきは、静留の頭をふみつけた。
そのままごりごりと力をこめて、頬から顎を潰しにかかる。

「なつ…なっ…」

愛しい人の名前を呼ぼうとするも、かなわない。
ふみつけた足が止まると同時に、眼を上にやる。
冷たい目をしたなつきが、エレメントの銃口をこちらに向けていた。

「私の名を、なれなれしく…呼ぶな、人殺し!」
「…な、つ」
「呼ぶなと言った!」

顎を蹴り飛ばされながら、諦観の境地に達する静留だった。
最初からわかっていたはずだ。なつきが人殺しなどを喜ぶはずがないと。
それを承知でここまで来たのだ。なつきを生き返す、それだけのために。
だから。

「ここで、死ね、人殺し」

こうなることが、むしろ望みだった。
喜びの涙が、あふれる。

「あんたの手で死ねるんなら、本望やわ」

引き金を握り締める音が聞こえる。
最後に愛しい人の名を呼ぶと同時に、この意識は途絶えるだろう。
それでいい。この人が、自分の目の前に残ってさえいてくれれば。

「なつ…」

全ての静寂が訪れるであろうその瞬間。
頭上を通り抜けたのは熱風。閃光。そして。

「会長さんから、離れなさいっ!」

巨大な破裂音にも似た、打撃音だった。
足が離れるのに従うように後ろを向くと、
頬から顎まで大きく裂けたなつきが甲高い悲鳴を上げて消滅する真っ最中。

「なつき…なつきぃぃぃぃぃっ!」

すぐ助け起こしに向かうも、間に合わない。
静留の手の中で、なつきは真っ黒な泥になって消えていった。
幽鬼のように顔を上げたその先には、
構えた右手の拳を降ろす鴇羽舞衣の姿。
両手両足にエレメントを発現している。
あれを使って、気づかないほどの遠くから加速して殴りに来たのか…なつきを!

「鴇羽はん」
「…会長さん。間に合った」
「あんた、なつきに何の恨みがあるんえ」
「会長さん、あれがなつきだとでも思ってるの?
 …そっか、そうだよね。認めたくないよね」

あまつさえ、この哀れむような眼は何だ…
静留の激情は、静かに頂点を振り切った。

40小さな星が降りるとき ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:35:25 ID:1APxGToc0
「逝きよし、骨も残しませんえ」
「目を、覚ましてあげる…!」

闇の中、清姫が目覚める。





************************************




(これが、会長さんの想い…なつきへの想い、なの?)

天の闇は全て蛇。
襲い来る物量の濁流を言い表すならば、その一言に尽きた。
黒い泥で出来た超巨大な蛇…カグツチなど分子ひとつ分に満たない…の口から
さらに無数の巨大な蛇が飛び出し、その口からさらに無数の巨大な蛇が押し寄せる。
その数は、億、兆、京、垓…那由他、不可思議、無量大数…だか何だか知りはしないが、端から数というレベルの話ではない。
今、舞衣がカグツチと共に飛んでいるのも、どこかの蛇の口の中の中の中の中の…で、
その中からさらに飛びかかってくる、ぎっしり詰まった大量の蛇を焼き払ってこじ開けた空間の中である。
少しでも火勢が弱まれば、またたく間にカグツチもろとも呑み込まれ巻き付かれ破砕されることだろう。
だが舞衣は、なにひとつ脅威を感じない。何故ならば。

(…違う。
 この蛇は会長さんのチャイルドじゃない。会長さんの想いに寄生しているだけの、ただの悪意の塊!)

胸の中に燃え盛る、この想いの灯火をなめるな。
たとえこの世全てが相手だろうが、この世を終わらせる存在が相手だろうが、
この温もりさえそばにあれば、怖いものなどあるものか。
同じHiMEである藤乃静留にもわかるはずだ。
同じように、人を愛して、守りたくて…戦っているんだから!
その思い自体が人を傷つけることもあるだろう。哀しい結果に終わることも。
だが、誰かが誰かを幸せにしたいと願うことに、間違いなどひとつもない。
誰かを好きになった気持ちに、嘘も本当もないように。
だから、戦う。藤乃静留を救うために。Dボゥイを守るために。
巧海のときのように、シモンのときのように、自身の無力を呪わないために。
そして何よりも…この胸に息づいた、自分自身の想いを燃やし続けるために。
物量に負けかかる。舞衣の全身にも蛇が這い始める…が!

「んん…はぁぁぁぁ!
 カァグツチィィィィィィ―――――ッッッ!!」

一呼吸溜めた裂帛の気合いと同時に、カグツチから吐き出された炎。
舞衣とカグツチとにまとわりつき牙を立てた蛇どもが瞬時に燃え尽き、
光に照らされるあらゆる存在が溶けるように消滅していく。
最初から何もなかったように暗黒の世界に戻ったが、
また十数秒もしないうちに、あの彼方から今のような蛇が再び押し寄せるだろう。

「…何度でも来なさいよ」

舞衣は、吼えた。

41小さな星が降りるとき ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:36:40 ID:1APxGToc0
「何度でも来なさいよ!
 その都度その都度、何回でも、何十回でも、何百回でも打ち破ってみせるから!
 最後には会長さん、あなたが出て来ざるを得ないようにしてあげる!
 さあ、早く、次っ!」
「見え透いた強がりを言わはりますなあ」

応えるように、泥の底から這い出してきた清姫。
その頭上に乗っているのは、静留と、なつき…もどき。

「なして、そんなに吼えられますのん」
「そんなの当然じゃない。絶対に負けないからよ」
「ほなら、その身で知っておくれやす」

静留が、エレメントを引き抜いた。
自ら決着をつける気になったのだろう。
舞衣もまた、身構える。望むところだ。

「うちの想いを前に、立ってられるかどうか…」
「そのなつき、偽物じゃない」
「黙りよし!」

両者、跳躍は同時。切り結ぶ。
得物のリーチで断然、静留が有利だった。
舞衣は刃をエレメントで止め、防御する側の体勢に押し込まれる。

「…もう、わかってるんでしょ?
 なつきが今のあなたを見て、どう思うのかって」
「知った風な口、叩かんとき」
「じゃあ、なつきはあなたに死ねって言うの?
 会長さんの好きななつきは、そんなに苦しんでるあなたを見て、
 殴ったり蹴ったりするみたいなロクでなしってわけ?
 女の子として見る目なさすぎるわよ、それ」

無言で薙刀を叩きつけてくる静留。
素人の舞衣の目から見ても読みやすい攻撃。
明らかに動揺している。彼女らしくない。

「あたし、会長さんのことはよく知らないけど…
 無理してきたんでしょ。なつきのために、ずっと」
「黙れと…言うてます!」
「そこのなつきは、あなたの罪悪感につけ込んで出てきた偽物よ。
 なつきのこと、本当に好きだったら…あなた、わかってるはず!」

大上段から振りかぶられた一撃をしのいで、膝で蹴りつけ吹っ飛ばす。
清姫の頭上に落着した静留が、確かめるように隣を見ると…
そこにいたはずのなつきが、いつの間にか消え去っていた。

「…そう、どすなあ」

寂しく笑った静留はふたりと立ち、またエレメントを構える。

「もう、なつきは、死にましたさかいになぁ」
「会長さん…」
「せやから、うちは…なつきを生き返します」
「どうやって?」
「この黒い泥の力、全部清姫のものになれば、できます。
 それで、全部…なんもかも全部、呑み込みつくせば…」
「そんなことっ」

42小さな星が降りるとき ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:38:17 ID:1APxGToc0
無理だ、ありえない。
こんな悪意の塊で、一体、なつきの何を蘇えそうというのか。
それに、だ。

「そんなことしたら、なつき、絶対に悲しむ」
「ええどすか、鴇羽はん…
 なつきはなぁ、死んでるんどす。
 悲しむことも、怒ることも、このまんまじゃ二度とない」
「嘘だっ!!」
「何が嘘なんやっ!!」

即刻、怒鳴り返されるが、舞衣は知っている。
今さっき、知ったばかりだ。
それを知らない藤乃静留にこれ以上、なつきを苦しめさせるわけには、いかない。

「なつきは今も悲しんでる、怒ってるわよ!」
「何を言…」
「あなたの胸に聞いてみてよ!
 今、あなたの中のなつきは笑っているの?
 あなたに向かって、笑いかけてくれているの?
 あなたのこと、誇りに思ってくれているの?」
「……あ、う…」
「あたしの中のなつきは、あなたを見て泣いてる。
 やりきれない顔で、うつむいてる。
 誰が、なつきの涙を止めてあげるの? 誰なの?」
「ぐ、ううっ…」
「そんなことして、なつきを生き返して…
 そんな風に大勢殺された上に生き返ったなつきは、死ぬまで救われない!
 自分のことと、大好きなあなたのことを、永遠に、呪って、嘆いて、ただ苦しみながら生きていく!
 あなたの勝手で、そんな生命を与えたいっていうの?
 …ねぇ、応えて。今、あなたの中で、なつきの思いはどこにあるの? ねぇ!」

舞衣の声だけが、こだまして響き渡った。
数秒、時間が停止する。
二人はただ、立ち尽くして対峙し続け…
やがて藤乃静留は、エレメントをとり落とした。

「う、あ、あ……
 なつき…うち、は…なつきぃ…なつきぃぃぃぃ〜〜〜〜〜ッ!!」

全ての泥が、静留に向かって一斉に押し寄せた。
否、静留自身の目から、耳から、鼻から、口から、泥が噴出する。
もはや完全にコントロールを失ったらしい。
つまり…静留自身が、この力を手放したということ。
だったら、あとは。

「怖いよね、苦しいよね。
 でも、それがあなたの、たったひとつの真実だから。
 抱いたまま、手放さないで…
 今、伝えるから。あたしの中の、なつきの想いを!」

巡る、巡る、想いの螺旋。
それはモザイクのカケラのように繋ぎ合わさって。

43小さな星が降りるとき ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:39:01 ID:1APxGToc0
「 カァァグツチィィィィィィ―――――――ッッッ!! 」

この世全てを焼き払う開闢の炎が、天地を覆った。





************************************




「うちの…負け、どすな」

気がつけば二人、全壊した路上に横たわっていた。
もはや疲労しきって指一本動かせない舞衣は、
そばにいる静留の様子を確認することさえままならない。
が、話し声の雰囲気から察するに、彼女の死期は動かしがたいようだ。
うすうす、そんなことを感じ取る。
やるだけやったし、なつきとの約束もなんとか果たせたとはいえ、
じわじわとくやしさがこみ上げてきてならない。
自分の暴走が、もう少し早く収まっていたならば、あるいは…

「勝ちとか負けとか、そんなんじゃなくて。
 会長さんが本当の想いに気づけたのなら、
 なつきは、あなたに笑ってくれるから…それだけよ」

想いの具現たるチャイルドは、互いに消え去ってしまった。
精神世界での戦いの最中、あの泥と一緒に、この世から無くなり果てたらしい。

「ほんま、ええ子や…なつきは。
 こんな…こんなうちに、笑ってくれてる」
「でしょ? なつき、ね…あたしに、お願いしてきたのよ。
 『静留を一人にしないでくれ』って。ホントに…いい子でしょ」

くすくすくす。
かすれたような笑い声で、二人、笑う。
空が、丁度明るくなり始めた頃合いだった。
そして。

「舞衣はん」
「…な、何?」
「おおきにな」

静留はこれっきり、何も喋らなくなった。
しばらく話しかけてはみるも、正真正銘のこれっきりであった。
意識が薄れていく舞衣の瞳に、わずかな涙が光る。

(これで良かったのかな、なつき…)




【藤乃静留@舞‐HiME 死亡】

44小さな星が降りるとき ◆ZJTBOvEGT.:2008/04/24(木) 02:39:40 ID:1APxGToc0
【D-4南部/モノレール線路沿い/二日目/黎明】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、着衣及び首輪なし、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:
1:静留の死を悼む。
2:Dボゥイに会いたい。
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※思考力の復活に伴い、ギアスの影響が復活する可能性があります。

※聖杯は完全に破壊されました。
※ビシャスが所持していたパニッシャー@トライガンは、清姫と共に消滅しました。
※ぶっ飛ばされた清姫が突っ込んだため、D-4南部でモノレールの線路が一部破壊されています。
※カグツチと清姫の戦闘により、D-4南東部は建物の倒壊が目立ちます。

45盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:49:58 ID:j4HHE1Tc0
 着替えと食事を終え、かがみはシガレットケースから葉巻を一つ取り出した。
 ランタンで葉巻に火をつけ、口に咥える。

――未成年の喫煙は体に悪いって言うけど、私にはもう関係ないわよね。

 自嘲し、静かに紫煙を吸い込む。
 初めての喫煙だが、咽ることもなく吸うことが出来た。
 ラッド・ルッソの記憶の恩恵だと、かがみは誰に言われずとも理解していた。


――最悪な気分。でも、アンタが言ったのはこういうことよね。


 ラッド・ルッソの記憶を使っていることを考えると、かがみの体に震えが走る。
 無意識の内に、かがみにはラッド・ルッソの力を使うことへの忌避が植え込まれていた。
 それでも、かがみはあえてラッド・ルッソの記憶を引き出す。


 『力に二度と飲み込まれるな、みごとあの力を制した姿をワシに見せつけてみせろ』


 自虐的な笑みを浮かべ、かがみは顔をうつむける。
 力に対する恐怖がある。友を失った悲しみがある。それでも、かがみは立ち止まれない。
 それはとっくの前に、覚悟していたことだ。

――大丈夫、絶対に取り戻すから。

 この別離とて、かがみが螺旋王を『食う』までのしばしのお別れでしかない。
 柊かがみは、いずれ全てを取り戻す。
 それは、絶対的な約束だ。

――でも、少し疲れてるんだから休憩ぐらいさせなさいよね。

 傷の痛みには既に慣れ、すぐに完治する。
 それでも、まだこの喪失感だけは慣れることが出来ない。

――この痛みに慣れたら、私はもっと成長したってことでいいのかな?

 問いかけるように、覇気のない目でかがみは顔を上げる。
 視線の先には、威風堂々とした男がまるで彫像のように立ち尽くしていた。
 葉巻が全部灰になるまで、ずっとその男を目に焼き付けておこう。
 そう決め、かがみは改めて葉巻を口にした。

 傷つくごとに、かがみはそれを強さに換えて生き残ってきた。
 そして目の前の男のことも、かがみは己の強さへと換えて行くだろう。
 けれども、今は疲れきった少女に安らぎの一時を――

46盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:50:48 ID:j4HHE1Tc0
 ■


 決着から言ってしまうと、ダブルノックアウトだった。
 ウルフウッドの渾身のストレートに対し、ヴァッシュが反撃のクロスカウンター。
 しかしそれまでに何度も拳を交わしていたこともあり、両者共に疲労が蓄積していた。
 よって互いに碌な反応が出来ず、互いの拳は互いの顔面に食い込むことになったのである。

「……おのれ、トンガリ」
「……痛いぞ、ウルフウッド」

 怨嗟の言葉を吐き、共に崩れ落ちるようにアスファルトの上に仰向けで寝転がる。
 殴り合いながらも落ちてきたアスファルトの上に移動するあたり、二人にはまだ余裕が伺えた。
 とはいえ疲労していのは事実のようで、底の抜けた天井から星空を仰ぎながら二人は息を整える。

「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………ぐぅ」
「寝んな!」

 安らかそうな寝息に、ウルフウッドは即座に突っ込みを入れた。
 突込みを入れられた方のヴァッシュは、片手を上げて起きていることを主張する。

「まったく、本当に相変わらずな奴やな」
「そういう君は、なんだかピリピリしすぎじゃないか」

 核心に触れる言葉に、ウルフウッドは沈黙で答える。
 苛立ちの原因を話したところで、ウルフウッドには何のプラスにもならない。
 それどころか目の前の男に知られた場合、それこそマイナスが大盤振る舞いでやってくることをよく知っている。

「……まあいいけどさ、ところでウルフウッド」
「なんや、言っとくが話題によっては黙秘権使わせてもらうからな」
「それは困るな……ええと、ちょっとした確認なんだけど」

 ヴァッシュは一度言葉を止め、目を細める。
 なんとなく、ウルフウッドには確認の内容が予想できた。

「生きてるんだよな」
「……?見ての通りや。それともワイが偽者かなんかに見えるんか」

 なぜ殺し合いに乗ったかを問いただしてくると思っていたウルフウッドは、肩透かしをもらった気分になった。
 ウルフウッドの答えに、いいやと呟き少し嬉しそうにヴァッシュは笑った。
 死人が生き返ったことを、きっと本心から喜んでいるのだろう。
 そして当の生き返った死人は、ヴァッシュとは正反対の感情を抱いていた。

――阿呆、お前が嬉しくてもワイは嬉しくなんかないわ。
――死んだっちゅうのに、殺し合いのために無理やり働かされとるんやぞ。
――ワイがどんだけイラついて、惨めな気分になったのか分かっとんのか。

47盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:52:31 ID:j4HHE1Tc0
 下火になった怒りが、また燻り出してきたのをウルフッドは自覚した。
 そんなウルフウッドの感情を知ってか知らずか、ヴァッシュは身体を起こして近くの壁に近寄る。

「なんや、もう行くんか」
「ああ、静留さんのことも気になるしね」
「……ワイ、肋骨折とるし誰かさんのおかげでボロボロなんやけど」
「奇遇だね、僕も誰かさんのおかげでボロボロさ」

 ヴァッシュは皮肉を皮肉で返し、瓦礫とむき出しの配管をつたって手早く壁を登り始めた。
 このまま下水に留まってもしかたないため、ウルフウッドもヴァッシュに続くために立ち上がる。

――本当に相変わらずやな。
――今日も明日も、人のためってか。
――勘弁してや。
――ワイが、ホンマに惨めやないか。

 ヴァッシュは死別する以前と同じように、ウルフウッドと接する。
 そのことが、ウルフウッドにはたまらなく苦しかった。

――ワイは、お前が大嫌いな殺し合いに乗っとるんやぞ。
――お前と旅してた男の本性なんぞ、所詮はこんなもんなんや。

 ヴァッシュと共にいると、どうしても共に旅をしていた時を思い出す。
 死の危険があったし、騙しているという葛藤もあった。
 それでも、あの旅はとても楽しいものだった。
 
――ハンッ!何を、今更!

 どこからか、死ねと囁かれ気がした。

48盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:53:25 ID:j4HHE1Tc0
 ■


 拾った日本刀を持ち主の頭上に突き立て、簡易の墓標とした。
 駄賃代わりの防弾ジャケットとデイパックは既に徴収済み。
 それで、了承のない一方的なビジネスは終了した。

「俺が着たら呪われそうだし、ルルーシュにでも着せてやるかね」

 血がべったりと付着した防弾ジャケットをデイパックに納め、スパイクは改めて周囲を見渡す。
 一言で言うなら、瓦礫だらけの荒野だった。
 映画館を含め周囲の建物は全て倒壊しており、アスファルトの一部には大きな穴が空いている。

「……鉄板が怪獣、大穴で人間台風って所か」

 宇宙船サイズの爬虫類が暴れまわれば、当然こうなるのだろう。
 そして、それに人間台風というエッセンスが加わってさらに被害が拡大したのか。

「さて、まずは生存者の確認で……この場合は、卸売り市場に行った方がいいのか?」

 スパイクがジン達との合流地点としたのは、目の前の倒壊した映画館だ。
 そして映画館に何らかの理由で近づけない場合、合流地点は卸売り市場へと変更するという話になっている。
 だが映画館は既に目印としては機能しておらず、加えて――

「怪獣の進行方向って、思いっきりあいつらの通るルートだよな……」

 怪獣が過ぎ去った方向を眺めながら、スパイクはジン達の無事を軽く祈った。
 ジンはかなり機転が利くし、ドモンの身体能力もあって深刻な事態ではないだろう。
 しかし、合流が遅れるのは間違いあるまい。

「まあ、まずは生存者の確認か」

 問題を先送りにし、スパイクは声を張り上げるために大きく息を吸い込む。
 さてなんと言おうかと考えたところで、スパイクの耳に声が届いた。

「ところでトンガリ、お前の決着はついたんか?」
「うっ!」
「なんやその返事は、まだついてへんのか」
「いや、ついたにはついたんだけど……」
「だけど?」
「気絶させて捕まえた直後になぜか『ココ』にいて……もうけっこう経つから、たぶん、逃げられた」
「同情したる、この阿呆」
「あ、いやええと、あ、そうだ!」
「今度はなんやねん」
「メリルとミリィたちがさ、地下水掘ってるんだ」
「……何やっとんねん、ホンマに」
「ひょっとしたら、もう掘り当ててるかもね」
「でもお前がアイツを取り逃がしたせいで、うかうか安心できへんな」
「…………」
「すまん、ちっと言いすぎた。謝るからそのなんとも言えん顔やめろや」

 その楽しげな会話は、大穴の方から聞こえた。
 大きく吸い込んだ息を、スパイクはそのまま吐き出す。
 今度はなんと声をかけるか考えながら、思わず呟いた。

「……うまいこと言ったつもりは無かったんだけどな」

49盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:54:36 ID:j4HHE1Tc0
 ■

 ヴァッシュとウルフウッドがちょうど大穴から這い上がったところに、コートを着た男が近寄って来る。
 見知らぬ男の接近にウルフウッドは警戒を強めたが、すぐに緩めることになった。

「や、スパイクさん。さっきぶり」
「スパイクでいいぜ、賞金首。ブルース・リーの名言は役に立ったか?」
「お前か!このド阿呆にいらんこと吹き込んでくれたのは!」

 ヴァッシュが銃をぶん投げて清姫に特攻をかけることになった原因に、ウルフウッドは思わず突っ込みを入れる。

「酷い言われようだなおい。ところで、お前さんは?」
「……ニコラス・D・ウルフウッド、牧師や」
「牧師ね……俺はスパイク・スティーゲル、賞金稼ぎだ」

 一瞬の間は、おそらく牧師らしくない格好に戸惑ったのだろう。
 ウルフウッドはこれまでの経験からそう判断し、特に気にも留めなかった。
 これで一通り自己紹介が終わったと判断し、スパイクが口を開く。

「さてと。ちょいと殺風景だが座る場所には困らないし、軽く情報交換としようか」

 同意するように軽く頷き――ウルフウッドは、心の中で頭を抱えた。
 スパイクがこの殺し合いに乗っていないのは明白であり、ウルフウッドの嗅覚がこの賞金稼ぎが相当な腕前だと知らせている。
 さらに自身の怪我の状況と装備を考えると、圧倒的に不利なのは間違いない。

――さらに言うなら、ワイが殺し合いに乗っとるのを知っとる奴がおるし!

 スパイクに悟られぬように、チラリと横目でヴァッシュを見る。
 視線に気がついたヴァッシュは、予想外にも安心しろといった感じのジェスチャーを返した。

――……何考えとんねん、コイツは。

 ■

 そしてウルフウッドの不安をよそに、情報交換が始まった。
 とはいえ何時誰が来るとも分からない場所のため、『軽く』の言葉通りにそれぞれが持っている有力な情報を交換し合うだけだ。
 それぞれの目的と、知りうる限りの危険人物。その他に気をつけること。

 まずは発案者のスパイク。
 仲間を集めているという目的を話し、ヴァッシュの人柄を信じてか最終的な合流場所が図書館であることも明かした。
 危険人物については赤目に褐色肌で額に×字の傷がある男、東方不敗という老人という二名。
 前者はウルフウッドが、後者はヴァッシュがそれぞれ遭遇していた。

50盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:55:29 ID:j4HHE1Tc0
 次にヴァッシュ。
 ヴァッシュは戦いを止めるということは決めていたが、具体的な考えはなかった。
 危険人物については現在も清姫に乗って暴れているだろう藤野静留、自分勝手でどう動くか分からないギルガメッシュの二名。
 ビシャスの名前も出したが、スパイクが既にビシャスが死亡していることを話したため除外。
 二回目の放送を聞き逃したと言ったときは笑ってやろうかと思ったが、自分も聞き逃していたことを思い出し止めておいた。
 結局、ウルフウッドの名前は出さなかった。

 最後にウルフウッド。
 目的は適当にでっち上げ、殺し合いには乗っていないが襲われたら容赦する気はないということにした。
 危険人物については恨みを込めて柊かがみ、衝撃のアルベルトの名を挙げる。
 最後に危険人物ではないが、要注意人物として言峰綺麗。こちらも若干の恨みを込めている。

 以上で、ウルフウッドが肝を冷やした情報交換は終了となった。

 ■

 これまでの情報を交換し合った後は、これからどうするかである。
 ウルフウッドとしては出来るだけ早くこの場を離れたかっが、適当な理由を口にする前にスパイクが口を開いた。

「ああすまん。さっき聞き忘れたんだが、鴇羽舞衣と小早川ゆたか、あとテッククリスタルっていうのに聞き覚えはあるか?」
「いや、ワイは知らんな」
「残念ながら僕も……けど」

 ヴァッシュは自信がなさそうに頬を掻きながら、続けた。

「けど、なんだ?」
「下水道に落ちる時にチラッと見ただけなんだけど……後から来た怪獣の方に、女の子が乗ってた」

 よくあのタイミングで見ることが出来たなと思いつつ、ウルフウッドは二人の会話を聞いていた。
 要約するとスパイクが探している女の子の特徴が、ヴァッシュの見た女の子と酷似しているという話である。
 話が終わるとスパイクは片手を顔に当て、天を仰いだ。

「……これはまたきついな」
「どんな関係なんや」
「いや、頼まれただけさ。煙草と交換でな」

 スパイクは姿勢を元に戻すと、おもむろに複数のデイパックから荷物を取り出し整理を始める。
 話の流れから、おそらく怪獣のところに行く準備なのだろう。

――煙草と交換で命を張るっちゅうのは、割に合ってないんとちゃうか?

「とこで、お前さんたちはどうする?出来れば手伝って欲しいんだが」
「悪いがパスさせてもらうわ。今の状態やと足手まといやからな」
「僕は……」

51盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:56:26 ID:j4HHE1Tc0
 キッパリと断るウルフウッドに対し、ヴァッシュは煮え切らない返事を返す。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードらしくない言動に、ウルフウッドは眉をひそめた。
 ヴァッシュとの付き合いの短いスパイクはそんな差異になど気づかず、話を続ける。

「まあ、ほとんど自殺行為な訳だしな。俺も確認を取るだけにするつもりだ」

 特に二人を責めることもなく、スパイクはデイパックをそれぞれ二人に渡した。
 ウルフウッドが渡されたデイパックを検めると、食料などの一式と短剣と拳銃が入っていた。
 ヴァッシュの方のデイパックも同じようなもので、さっそく銃を取り出し調子を確かめている。

「ええんか?」
「ああ。その代わりと言ったらなんだが、先に卸売り市場か図書館に行って待っててくれないか」
「……なんや、番人代わりかい」
「どのみち、アンタは身体を休ませなきゃいけないだろ?」
 
 そのついでで構わないと、スパイクは続ける。
 体調不良を理由にした身としては、ぐうの音もでなかった。
 さてお人よしはどう出るかと考え――ヴァッシュが銃を見つめながら考え込んでいることに気がついた。

「どうした、トンガリ」
「……いや」

 歯切れの悪い声に、とうとうスパイクまで眉根をよせる。
 ウルフウッドは目の前の男が何を悩んでいるかと考え、すぐに思い至った。
 そして思い至った瞬間に――ウルフウッドはヴァッシュのこめかみに銃口を突きつけていた。

「なっ、おい!」
「動くんやない、間違って引き金を引いてしまうかもしれんで!」

 突然の事態にスパイクは反応が遅れ、ウルフウッドの恫喝により身動きが取れなくなった。
 銃口を突きつけられている方のヴァッシュは、無言。
 ただ少し寂しそうな顔を浮かべていた。

「なあ、トンガリ。お前、ワイとシズルって嬢ちゃんを天秤にかけとったな」
「……」
「今更、お前の生き方に何を言ってもしゃあないちゅうことは分かり切っとる。
 どうせ、どっちを選ぶなんて出来へんかったんやろ」
「……」
「そんでどっちも上手いことする方法が思いつかんくて、ウジウジ悩んどった」
「……」
「違うか、腰抜け」
「……違う」

 ようやく、ヴァッシュが口を開いた。
 悲しいような、苦しいような、その他に色々と混ざった表情を浮かべ、口を開く。


「また、お前と一緒に共戦(たたか)いたいと思ったんだ」


 馬鹿にするように口を歪めたつもりだが、うまくやれた自信はなかった。
 正直に言うと、嬉しかった。また一緒に馬鹿な旅が出来ると思うと、心が躍る。
 そして――また、どこかから死ねと聞こえた。
 まったくその通りだ、こんな救いようのない自分はさっさと死んだほうがいい。

「キモいわ、ボケ」

 ウルフウッドの拳が、ヴァッシュの顔面に突き刺さった。

52盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:57:52 ID:j4HHE1Tc0
 ■


 ひょっとしたらと、夢想する。
 この馬鹿げたゲームが始まった時に、あの人よしのように行動していれば心の底から笑い合えたかもしれない。
 メリルやミリィのいる、あの砂だらけの星に帰る気になっていたかもしれない。

「……都合よすぎやな」

 自嘲し、ウルフウッドは瓦礫の中を歩く。
 もう既に、ウルフウッドは選んでしまったのだ。
 女子供だろうと容赦はしない、自分の手でこのゲームを終わらせるのだと。

――じゃあ、なんでワイはトンガリを撃たんかった?

 自問し、月を見上げる。
 そもそも、ヴァッシュに銃を突きつけたのが不可解だ。
 あのまま円満に終わるとは思えなかったが、もう少しタイミングというものがあるだろうに。
 ヴァッシュを殴り飛ばした後は、一目散にその場を逃げ出した。
 追っ手は、今のところない。来るとしたら、ヴァッシュかスパイクか、もしくはその両方か。
 無性に、煙草が欲しくなった。

――結局、ワイの決意はあの馬鹿を撃てんぐらい弱いもんなんか。

 答えは、出ない。
 そしてまた、今度はあざ笑うように死ねと聞こえた。

 死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、
 しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、しね、
 シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、シネ、

「やかましいわボケ!!」

 間断なく聞こえる声に、ウルフウッドは思わず叫んでいた。

――疲れが溜まってんのか、幻聴が激しくなってきたわ。

 一先ず、ウルフウッドは休める場所を探すことにした。
 こんな状態では、ある程度以上の実力を持つ者と出会った場合に勝つことは難しい。
 追っ手のことも考えウルフウッドは歩みを速めようとし――いい加減、聞きなれた声が掛けられた。

「急に大声を出さないでよ、ビックリしたじゃない」
「………………迂闊やぞ、ウルフウッド」

 ウルフウッドは声がかけられるまで気配に気づかなかった自分に舌打ちし、ため息をつきながら声を掛けられた方を向く。
 予想通りに、柊かがみがそこにいた。
 今度の装いは見覚えのある眼帯に、黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳だ。
 ウルフウッドの正直な今の気分を一言で表すと、いい加減にウザイ。

「……見なかったことにして行ってええか?」
「あら、さっきと違って落ち着いてるわね。何かいい事でもあったの?」

53盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:58:41 ID:j4HHE1Tc0
 いいえ最悪です、化け物の相手をしているとお人よしが追いかけてきそうなんではよ行かせろやボケ。
 心中で罵詈雑言を吐きながら、ウルフウッドは顔をフレンドリーに保つ。
 近くに禁止エリアがないことは、先ほどの情報交換のついでに確認してある。
 つまり目の前の少女を殺す手段がウルフウッドにはなく、交戦するだけ弾と労力の無駄だと判断したのだ。

「顔が引きつってて、キモいわよ」
「あーはいはい、学習能力のないお子様はこれやから」
「……アンタ、別に衝撃に釣られてって訳じゃなさそうね。そっちの怪獣の方でも何かあったの?」

 尋ねながら、かがみはてじっくりと間合いを詰めてくる。
 ウルフウッドはかがみの言葉の意味が分からず、首を傾げる。

「……そっか、そっちでもこっちの衝撃に匹敵する何かがあったっていうなら辻褄は合うわね」
「脳内解決はやめれ、嫌われるぞ」

――それにしても、動きが随分前とは違う。
――素人臭さが抜けとる……何があった?

 ウルフウッドの疑問を他所に、かがみはまたじりじりと間合いを詰める。
 かがみは頭部へのダメージを警戒してか、剣を取り出して顔面の前方にかざし盾代わりとした。
 その姿を見て、ウルフウッドは先ほどの思考を振り払う。

――心臓とか足とか、まるで無防備やんけ。

 相手の力量を見誤るほど疲れているのだと考え、ウルフウッドは早々に終わらせることにした。
 即興でプランを練る。弾を一発足に撃ち込み、体勢が崩れたところで延髄に短剣を突き刺す。
 いくら化け物であろうと、人の形をしている以上神経の伝達系は同じであろうと考えてのことだ。

「なあ、嬢ちゃん」
「何、今更命乞い?」
「その眼帯を嬢ちゃんがつけとるってことは、あの髭オヤジはくたばったんか?」

 ウルフウッドの言葉に、一瞬かがみが硬直する。
 その隙をウルフウッドが逃すはずもなく、即座に拳銃を発砲。
 銃弾は正確にかがみの膝の皿に向けて突き進み――見えない壁に、弾かれた。

54盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 01:59:24 ID:j4HHE1Tc0
「っ!こいつは!」

 その光景に、ウルフウッドは見覚えがあった。
 シータという少女を狙い撃った時と、まったく同じ現象。
 驚愕するウフルウッドに対し、かがみがうっすらと笑う。

――初めっからこれが狙いか!

 自身の考えた通り、ウルフウッドは相手の力量を見誤るほど疲れていたのだ。
 即座にウルフウッドは短剣を取り出したが、その瞬間に驚くほどの速さでかがみが間合いを詰めてきた。
 ……だが、速いといっても以前と比べてのことだ。
 既にシータによる高速攻撃を食らっていたウルフウッドにしてみれば、まだ遅い。
 少なくともかがみの剣がウルフウッドの身体に食い込むまでには、銃口をかがみに密着させて撃つことができる。

――ああ糞!この餓鬼が!

 これでも銃弾が弾かれたら、絶対に拳銃暴発するなと考えながらウルフウッドはかがみの顎の下に銃口を引っ付ける。
 かがみが驚きの顔を浮かべたが、どうやらこのまま剣を振り切るつもりのようだ。
 引き金を引くのと、剣を振り下ろすのではどちらが早いか。答えは決まっている。
 ウルフウッドは躊躇なく引き金を引こうとし――

 なぜか、よく知っているお人よしの姿が脳裏に走った。

 そしてそれはウルフウッドに引き金を引かせるのを遅らせ、致命的な隙となった。
 かがみの剣が、ウルフウッドの頭部に迫る。
 そして――銃声。


 かがみの持つ剣が、手のひらから零れ――ウルフウッドの持つ銃が、音を立てて転がった。


「……、誰!仲間!」

 かがみが穴の空いた手を庇いながら、反対の手で剣を拾い大きく距離を取る。
 視線は、第三者が撃ったと思わしき銃弾が飛んできた方向。
 ウルフウッドはそこにいるのが誰なのか、予想がついた。
 これほどの精密射撃、ウルフウッドが知る限り一人しかいない。

「いや」

 闇夜から、赤いコートを着た金髪の男が現れる。
 正確にかがみの手とウルフウッドの銃を打ち抜いた証拠に、手に持った銃からは硝煙が立ち上っていた。
 男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは万感の思いを込め、言った。


「友達さ」

55盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 02:00:08 ID:j4HHE1Tc0
 ■


 スパイク・スティーゲルは、無性に煙草が吸いたかった。
 ウルフウッドというチンピラ風の男が、ただの牧師ではないことは一目で分かっていた。
 それでも、ヴァッシュと自然に掛け合う姿を見て信用できると思ったのだ。

「……もうちょいと、慎重になるべきだったな」

 ある決着がついたことで気が抜けていたのか、ひょっとしたら浮かれていたのかと自問する。
 スパイクはウルフウッドに、図書館で仲間と合流すると話してしまった。
 もしウルフウッドにその気があれば、次に襲撃先に図書館を選ぶ可能性がある。

――カレンを守れず、この上ルルーシュを守れなかったら本当に呪われるな。

 ウルフウッドの追跡は、ヴァッシュに任せた。
 やり取りを見た限り、ヴァッシュが説得すればウルフウッドは応じそうな雰囲気があったからだ。
 ヴァッシュを送り出すときに一悶着があったが、どうにか出発させ――

「それで、俺はついでにシズルって奴も確保しないといけなくなった訳だ」

 鴇羽舞衣のついでに、とするには些か規模がでかいような気がする。
 しかしヴァッシュを安心させるため、他に手が思いつかなかった以上はしかたがなかった。
 進行方向にはジンとドモンもいるし、手伝ってもらってもいいかもしれない。

――まあ、危険が超危険になっただけだ。

 考えて見れば、簡単だ。
 いつもの賞金稼ぎと同じように、殺さないように捕まえればいい。
 賞金首は鴇羽舞衣と藤野静留、賞金は煙草と……

「これが終わったら、ちゃんと酒の一杯ぐらい奢れよ」

 交わした約束を思い出し、スパイクは賞金首を追って駆け出した。

56盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 02:00:42 ID:j4HHE1Tc0
 ■


 『それ』がウルフウッドに感染したのは、本当に偶然だった。

 清姫が聖杯を飲み込んだ時点から、『それ』の侵食は始まっていた。
 HiMEという想いを物質化する能力の影響か、それとも螺旋力の影響か、微小ながらも『それ』と繋がる門が開いたのだ。
 少しずつ、深く、静かに『それ』は清姫の体内を巡った。
 そして『それ』が巡る清姫の身体の上を駆け回っていたのが、ウルフウッドだ。
 もちろん、それだけで『それ』がウルフウッドに入り込む訳がない。

 しかし、ウルフウッドはかのアーサー王の剣を清姫の外皮に打ち込んでいた。

 その一撃は清姫の外皮に確かに傷を作り――その傷から、『それ』は溢れて出していた。
 そしてそれは、誰に気づかれることもなくウルフウッドに触れた。
 即座に『それ』の影響が出なかったのは、おそらく螺旋王の設けた制限のおかげだろう。
 だが、時間をかけて『それ』はゆっくりとウルフッドを蝕む。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 ウルフウッドに、けっして消えない汚れを塗りつけている。

57盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 02:01:45 ID:j4HHE1Tc0
【B-5南部/瓦礫の山/2日目/深夜――黎明直前】

【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、黒を基調としてゴスロリ服、髪留め無し、やや自暴自棄
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
    クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル
    ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、穴の開いたシルバーケープ(使用できるか不明)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[道具]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×5 消費/水入りペットボトル×2消費])、
 【武器】
 超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING
 包丁、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、王の財宝@Fate/stay night、ミロク@舞-HiME
【特殊な道具】
 フラップター@天空の城ラピュタ、雷泥のローラースケート@トライガン、
 テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
 緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、サングラス@カウボーイビバップ
 アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ
 ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、赤絵の具@王ドロボウJING、
 黄金の鎧@Fate/stay night(半壊)、シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
 首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
 シガレットケースと葉巻(葉巻-1本)、ボイスレコーダー、大量の貴金属アクセサリ、防水性の紙×10、暗視双眼鏡、  
【その他】
 奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
 がらくた×3、柊かがみの靴、破れたチャイナ服、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、ガンメンの設計図まとめ、
壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS

[思考]
 基本−1:アルベルトの言葉通りに二度と力に呑まれず、己の道を違えない。
 基本−2:螺旋王を『喰って』願いを叶えた後、BF団員となるためにアルベルトの世界に向かう。
 0:……仲間、こいつに?
 1:螺旋王を『食って』、全てを取り戻す。
 2:ウルフウッドを倒して、千里の敵を討つ。
 3:ヴァッシュを警戒。
 4:ラッド・ルッソの知識を小出しにし、慣れる。
[備考]:
 ※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
 ※会場端のワープを認識。
 ※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
 ※繰り返しのフルボッコで心身ともに、大分慣れました。
 ※ラッド・ルッソを喰って、彼の知識、経験、その他全てを吸収しました。
  フラップターの操縦も可能です。
 ※ラッドが螺旋力に覚醒していた為、今のところ螺旋力が増大しています。
 ※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
 ※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
 ※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
 ※小早川ゆたかとの再会に不安を抱いています。
 ※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力に加え、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力が蓄えられています。
 ※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
  2ndフォームは『黒を基調としたゴシックロリータ風の衣裳』です、その下に最後の予備の服を着用しています。
 ※ラッドの力を使用することにトラウマを感じています。

 ※螺旋力覚醒

58盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 02:02:21 ID:j4HHE1Tc0
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]:疲労(大)、全身打撲
[装備]:ワルサーP99(残弾11/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実
[道具]:支給品一式×2
[思考]
基本方針:殺し合いを止める。
 1:ウルフウッドを説得する。
2:目の前の少女も説得する。
3:1〜2が終わったら、スパイクの応援に行く。
4:スパイクたちとチームを組む。
5:全部が終わったら、スパイクに酒を奢る。
[備考]
※隠し銃に弾丸は入っていません。どこかで補充しない限り使用不能です。
※ギルガメッシュと情報を交換。衝撃のアルベルトとその連れを警戒しています。
※スパイクと情報交換を行いました。ブルース・リーの魂が胸に刻まれています。

※第二放送を聞き逃しました。が、情報交換で補完したため備考欄から外します。

【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:疲れによる認識力判断力の欠如、情緒不安定、全身に浅い裂傷(治療済み)、肋骨骨折、全身打撲、頭部裂傷、貧血気味
聖杯の泥に感染
[装備]:コルトガバメント(残弾:3/7発)、アゾット剣@Fate/stay night
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:ゲームに乗る……?
1:ほれ見い、追いつかれた。
2:売られた喧嘩は買う。
3:ヴァッシュに関した鬱屈した感情
4:自分の手でゲームを終わらせる。 女子供にも容赦はしない。迷いも……ない。
5:タバコが欲しい。
6:言峰に対して――――?
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。
が、ヴァッシュ・ザ・スタンピードに出会って――
※シータを槍(ストラーダ)、鎌鼬(ルフトメッサー )、高速移動の使い手と認識しました。
※言峰の言葉により感情の波が一定していません。躁鬱的な傾向が見られます。

※第三回放送を聞き逃しました。が、情報交換により補完しました。備考欄から外します。

【聖杯の泥@Fate/stay night】
 この世全て悪。……詳細は後ほど投下します。
 とりあえず、ずっと死ね死ね死ねと囁きが聞こえる程度のものです。

59盟友  ◆1sC7CjNPu2:2008/04/25(金) 02:03:10 ID:j4HHE1Tc0
【C-5南西/道路/二日目/深夜――黎明直前】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(小)、心労(中)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(全て治療済)、左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし)
[装備]:デザートイーグル(残弾3/8、予備マガジン×2)、ジェリコ941改(残弾7/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター、
    ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ、
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少)@現実
    日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実
    レーダー(破損)@アニロワオリジナル、 ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、
    高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿、水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
1:さーて、ジン達は無事かね……
2:うまくやってくれよ、ヴァッシュ……
3:カミナを探しつつ、映画館及び卸売り市場付近でジン達と合流。その後、図書館を目指す。
4:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
5:小早川ゆたか・鴇羽舞衣を探す。テッククリスタルの入手。対処法は状況次第。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
 (周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※Dボゥイと出会った参加者の情報、Dボゥイのこれまでの顛末、ラダムについての情報を入手しました。
※ヴァッシュと情報交換を行いました。
※ウルフウッドと情報交換を行いました。

【その他】
※C-5にビシャスの日本刀@カウボーイビバップを墓標とした墓があります。
 埋めていません。
※ヴァッシュが所持していたナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、
 ウルフウッドが所持していたエクスカリバー@Fate/stay night、
 デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、
 ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!、はC-3の大穴付近に放置(潰された可能性アリ)。

60邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:02:33 ID:hmy7UzJE0
天から星が降りそうな夜の下に一つの邂逅がある。
ただしそこには人間は一人としていない。
ヒトでないものとヒトでないもの、そしてヒトだったものしかそこには存在しないのだ。

細波が聞こえてくるほどに海は近く、しかしそれ以外に一切音はない。
――――風は、冷たく吹き荒ぶ。
夜の海風というのは強くまた寒いものだ。
この場に相応しい空気をもたらすかのように、ただただ立ち竦む二者を打ち付け続けている。
不意に今までのものより強いものが、一迅。

波の音が、掻き消された。
無数の木の葉がさざめき、舞い散る。
少年の姿をした彼は、その一枚を頬に貼り付けたまま呆然と呟いた。

「ビクト、リーム……」

相対する異形は、

「おぬしが、おぬしが……、このような事をやったというのか?」

――――驚愕に染まったままだ。
ただ。ただただ、うわごとの様に少年の名を呟くのみ。

「ガッシュ……、こ、こいつは無関係なのだぁああああぁぁああ! これは、わたしとはッ、」

少年の耳にその言葉は届かない。
いや、届く届かない以前に、それどころではないのだ。
何故ならば、

「……違うのだろう? 違うといってくれビクトリーム!
 おぬしはこのような事をする男ではない! そうだろう!?」

ガッシュの知るビクトリームは、人殺しをするような性格はしていなかった。
押し付けがましく人の話を聴かないとはいえ、どこか愛嬌のある憎めない存在。
それがビクトリームだ。
彼はそれを“信じた”。そして、“信じたかった”。
それだけで今は精一杯だったのだ。
王の風格を持ち合わせるとはいえ、ガッシュは良くも悪くもあまりに純粋すぎる。
子供というイメージを具現化した存在であることは、否定しようのない事実なのだ。

「そうだ、ちッ、違うッ! わたしではない! わたしなはずがない!
 このわたしがこのような事をするはずがねぇだろうがぁッ……!
 何故にそんな事をしなくちゃならんのだボケェェェェェエエェエエェエエエッ!」

だから、その思いを迷う事無くぶつけることが出来る。
……泣きそうな顔で、躊躇いもなく。
ビクトリームの肩を掴んで、揺すりながら。

「……それは、キャンチョメの魔本、なのだ……。
 だとしたら、そこに倒れているのはきっとフォルゴレなのだ。
 フォルゴレはとっくに死んでしまったのだから、おぬしが殺せたはずはないのだ。
 今ここにおぬしがいたとしても、おかしくなんてないのだ。
 そうなのだろう、たまたま居ただけなのだろう、ビクトリーム!!」

「…………!」

真っ直ぐな、愚直とさえ言える信頼。
ビクトリームはそれを受けて得た感情は、

――――居心地の悪さだった。

61邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:03:25 ID:hmy7UzJE0
元々の性格に加えて、コミュニケーションのなかった千年間。
ビクトリームにとって、これほどまでに信頼をぶつけられるのはほぼ初めての事。
それも理由さえ分からずに、ただただ『こんなことをするはずがない』とぶつけてこられる。

それこそがガッシュ・ベルの持つ王の気質であり、在り方なのではあるのだが……、当然ビクトリームには理解できるはずもない。
そもそもが敵対関係だったのだ。ガッシュ個人は嫌いではないとはいえ、しかしそこまで深い付き合いではない。
にもかかわらずここまで信頼されるというのは不気味ですらあった。

加えて間の悪いことに、ビクトリームはこの会場に来て信頼という言葉の意味を理解しつつあった。
それ故にその言葉が真実であるというのは何となく分かってしまう。
半端に分かる分、それは理解できないものよりなお強く心に食い込んでくるのだ。
もちろん嫌な気分ではないのだが、地に足が着かないような不安定な気持ち悪さが湧き上がるのは止めようもない。
それでも振りほどこうにも振りほどけないのは、相手が信頼しているゆえに、だ。

結果として。
ビクトリームは、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
そして、ガッシュはただ問うことしか出来なかった。


――――どれだけその均衡が続いただろうか。

シーソーが傾くのは、一瞬である。


「……おいガッシュー! どこに居やがるんだテメエはよ!!」


どこからともなく響く声。
聞き覚えのあるその声が、ビクトリームに一つの行動をもたらした。

「……グラサン・ジャック……!」

驚愕でも悲哀でもない曖昧な表情を浮かべた直後、

「ブルワァァアアアアァアアアアァ! スーパー・V・大回転ンンンンンンン!!」
「ビクトリーム!?」

一回転するほどに思い切り体を捻り、ガッシュを振りほどく。
逃走、その一言で表せる行動をビクトリームは選ばざるを得なかった。
――――背中にかかるガッシュの声も無視してただひたすら駆ける。駆ける。駆ける。

「ビクトリーム! ど、どこへ行くのだ!?」

振り返って、ガッシュに何か言ってやりたかった。
グラサン・ジャックにも同じくだ。

……だが、それ以上にここに居るのが怖かった。

62邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:04:25 ID:hmy7UzJE0
只でさえ居づらいこの場に、罪悪感で顔を合わせたくない男が訪れた。
それだけで、ビクトリームがその選択を選ぶには十分過ぎたのだ。
声の聞こえる方向ではないどこかへ。
無意識のうちに元来た方向へ。
とにかくここを離れる為に。
――――それが最適解でないことを知る機会すらなかった彼にとっては、それ以外に取りうる手段など無かったのである。

「……オイ、お前、ガンメンモドキ……?」
「ビクトリームさん!?」

背中にかかる声はどちらも見知った人間の声だ。
だが、それでも。いや、それ故に一刻も早くここから離れたい。
……たとえ、そのどちらもが自分が探していたはずの存在だとしても。

月の下、彼はどこまでも駆けて行く。逃げていく。戻っていく。
誰一人居ない町の中を通って。
ドーム球場の傍らを通り過ぎ、海に飛び込み、泳いで。
潮に流されながらも、行く先がどこかも定めないまま。


「……何故だぁぁぁああああああ! 何故このわたしが逃げなくてはならんのだ!
 くぉぉおおぉお、止まれ止まるのだマイフット!
 道無き道を踵を鳴らしていくでないわぁぁぁああああああ!」


――――いつしか深い森の中を走っていることに気付いても、ビクトリームはその足を止めなかった。



◇ ◇ ◇


「クソッタレ、何処に行きやがったガンメンモドキ!」
「……ビクトリームさんは悪いヒトじゃないはずです。
 多分、いいえ、絶対にあそこにいらっしゃった方を殺してなんていないです」
「ウヌゥ……、わたしのせいなのか? 何故。何故逃げたのだビクトリーム!」
『……おそらく後ろめたさによるものと思われます。
 カミナとの別離は決裂のような形だったと聞き及んでいましたし、
 ガッシュの無条件の信頼も、時としてかえって重荷になることもありうるでしょうから』


――――四者四様の言葉を交わす一つの集団。
……その話題の内容はたった一人の魔物についてのものだった。
探してかれこれどれほど経ったろうか。
その間に出会ったものは一人としていない。

当然だ。
この辺りは戦線から遠く、また、彼らの探し人も海を渡って反対の地図の端にいるのだから。
ループの知識はあるとはいえ、そこまで思い当たらなくとも仕方ないと言えるだろう。
それ以上に、カミナが泳げないという理由も大きかったのだが。

では、探し始めた時の事をカミナの視点で思い返してみよう。

彼が見た光景は実に単純なものだ。
死体のそばで呆然と立ち竦むガッシュと、西に向かって闇に溶け消えゆくV字の後姿。
それだけだ。

63邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:05:10 ID:hmy7UzJE0
そこからどうすべきかはまさしく即断。
探して一発ぶん殴ったあとにぶん殴らせる。それでおあいこにするために、とにかく探すことを決めた。
その意見はニアもガッシュも一致しており、ニアとの詳細な情報交換を行ないながらも辺りを調べてみることにしたのである。
ビクトリームが殺人をしたかどうかは誰も言い出す事はなかった。
それぞれがそれぞれの理由で、ビクトリームはそんな事をしないと思っていたからだ。
ついでに言うなら、死体の硬直などからクロスミラージュが死亡時間は随分前だと保証したのも根拠になっただろう。
たまたま死体を見つけたビクトリームにガッシュが鉢合わせた。それが当然のように彼らの間での結論となった。

まずはビクトリームが向かった方角である西に向かったが、しかし見つからない。
まさか泳いでまで逃げるとは想定していなかった為、行き違いになったかもしれないと辺りを虱潰しに探すことにしたが、いつまで経っても梨のつぶてだ。
果たして、いつしか彼らは水族館の近くまでやって来る次第となった。

「……こんだけ探していねえってことは、もしかしたら全然違う方向に行っちまったのかもしれねぇな……」
『その可能性は高いですね。考えられる可能性としては、海を泳いで渡ったか、あるいは北の方角に向かったかですが……』

長時間の捜索のためにイライラ気味ではあるが、カミナのそれはむしろ気遣うような声色でのものだった。
理由は単純。
先刻からずっと鳴り響く轟音である。

遠くとは分かっていながらも戦慄せざるを得ないそれに、ビクトリームが巻き込まれてはいないだろうか。
それをカミナは心配しているのだ。
更に言うなら、ここから見えるほどの巨大な炎と、時折それに照らし出される何かが余計に不安を煽っていた。
……ここは、港湾。
遮るものがない為に、対岸の光景も丸見えなのである。

そんな現実味の無い争いを前に、クロスミラージュは一つ諦めの念を吐く。

『……おそらくあの辺りはほぼ廃墟と化しているでしょう。それは線路も例外なくです。
 これでモノレールによる移動はほぼ不可能になりました。
 元々F-5の駅でMr.ドモンと再開する事は難しいと考えていましたが、デパートに向かうには再度移動手段を考えなくてはいけないですね』

そんな嘆息にしかし、カミナは平然と思いついたままのことを言う。

「あん? あのガンメンモドキを見つけた後の事か?」
『……はい。ここは3方を海に囲まれた場所ですし、カミナは泳ぐことが出来ません。
 デパートに向かうためには、まずは北部に向かって観覧車の側を迂回し……』
「だぁーッ、面倒くせぇないちいち! 素直にエキから延びるあの道を通っちまえばいいだろうが!」

そう言ってカミナが指差した先にある物は、モノレールの線路だった。
なるほど、確かにモノレールが来なければ通る事はできるだろう。
この状況でモノレールが動いているとは考えづらいし、よしんば動いていたとしてもダイヤグラムでいつどの辺りを通るのかを把握していれば問題ないだろう。
……だが。

『モノレールの高架は確かに通路になりますが……、
 しかし、あの破壊規模ではD-4駅にも被害が及んでいる可能性があります。
 その場合は我々が高架から降りる手段が無い為、引き返すことになるでしょう。
 ここからでは博物館に隠れて確認できないために断言は出来ませんが……」

見たところ、一見博物館までは被害が出ていないように見えるので一応破壊はされていないとはクロスミラージュも思う。
だがしかし、それはあくまで『今のところ』でしかない。
あの付近でずっと交戦を続けている未確認巨大生命体がいつ巻き込んでもおかしくはないのだ。
できる限りあの近辺には近づきたくない所である。
特に高架で近づいた場合は逃げ場がない。
途中に降りる場所もないため、そうなった場合は引き返す以外に手段はないのだ。

その旨をカミナに伝えると、しかし彼はニヤリと笑って受け流した。

64邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:05:57 ID:hmy7UzJE0
「ヘ、だったらエキで降りずに途中で降りちまえばいいじゃねえかよ」
『そんな無茶な、高架から飛び降りても無意味に怪我をするだけです。
 ……遠回りでも今後を考えるとよりリスクの低い、』
「だったらどうしたよ、無理を通して道理を蹴っ飛ばしちまえばいい!
 おいクロミラ、あそこの下を見てみろよ。丁度いい足場があるじゃねえか」

カミナが指差したその先にある建物。
それは地図にある施設の一つ――――、

『……発電所、ですか』

「おうよ! あそこの近くまで行って、あそこに飛び移っちまえばすむだろ。
 ガッシュ、ニア! お前らもそのくらい平気でできんだろ?」

「ウヌ!」
「はい!」

魔物の子であるガッシュ。見た目に反し運動神経のいいニア。
そしてカミナ自身も生身でガンメンに立ち向かえる程の強さを持つ男である。
山登りしたくらいでヒィヒィいうようなもやしっ子とは縁遠い面子である以上、行軍に問題は全く無い。

「よぅしいい返事だ! 後はさっさとガンメンモドキを探し出して、全員でドモンのところに向かっちまえばいい!
 そんじゃあ行くぜ!」

そう言いきり背中を翻すカミナ。
何度見ても変わらないいつも通りのその態度を見て、何とも彼らしい、とクロスミラージュは思う。
彼の荒っぽさは、時として人を惹きつける魅力があるのだろう。
……考えてみれば、彼にだいぶ感化されてきたように思う。
これほどまでに自分が喋るなどとはティアナと居た時にはあまり無かったことだ。

彼女の運命を思い出し、少し複雑な気分になったが――――、
しかし、クロスミラージュは思考を切り替え、ビクトリームらしき反応を探すことにした。
同時、カミナの声が響き渡る。


「……さっさと出て来いガンメンモドキィィィイイイイイィィィ!!
 テメェの食いたがってるメロンがここにあんだからよぉッ!!」


――――返答は、対岸から響く轟音しか存在しなかった。
まあ要するに、ここにはビクトリームは居ない。
ただその事実を確認することになっただけだ。
さすがに探し疲れてきたのか、カミナすらガクリと肩を落とす。

「……ビクトリームは、私たちを信頼してはくれなかったのだろうか……」

ぽつりと、ガッシュが呟きをもらす。
それが真実ならば彼にとってショックは大きいだろう。
……いい加減、夜も遅い。
だいぶ疲れがたまっているためか、それはガッシュらしくはない諦め混じりの言葉だった。

「――――違います!」

……それを否定する声は、女のもの。
ニアは自分がビクトリームから聞いたカミナへの感情を根拠に全員を叱咤激励する。
……彼を信じ続けよう、と。

65邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:07:08 ID:hmy7UzJE0
「ビクトリームさんは、私がお父様……、螺旋王の娘だということを知った後も変わらず接してくれました。
 ……ですから、絶対にこちらへ戻ってきます。
 あの方は心根は優しい方です。必ず戻ってきて、アニキさんと仲直りしてくれます!」

「……そうだな。テメェが信じてやらなきゃ戻ってくるものも戻らねぇ」

パン、とカミナは両手で頬を打ち、落としていた肩をいからせながらぐっと拳を握り締めた。
そのままニアの背中を思い切り叩いて告げる。

「いい心意気だぞニア! さすがシモンが見込んだことだけはある!
 いいぜ、お前も大グレン団の一員としてこのカミナ様が認めてやる!」

その言葉に何を見出したのか。
痛がりながらもニアは満面の笑みを浮かばせて、得心したとばかりに力強く頷いた。

「……はいっ!」



直後。
カミナたちの背後から、誰もいなかったはずの場所から。
聞いただけで萎縮するような声色の言葉が放たれた。

「……確かにいい心意気ではないか。螺旋の王女というのも満更ではない」

……カミナ。ガッシュ。ニア。
三者全員が戦慄を覚え、ゆっくりと同時に振り向いていく。

「好奇心に従って来てみれば。
 ……ワシもたまには童心に帰ってみるものだな。
 貴様らにはもっと情報を吐いてもらうこととしよう」

――――そこに居たのは、絶望の象徴。
全身から覇気を漂わせながら、その怪物はただ告げる。



「……なあ、青二才?」


◇ ◇ ◇


――――きっかけは実に些細なものだった。

怒涛のチミルフと名乗った獣との戦い。
それを終えて東方不敗が気づいた時には、すでにシャマルという癒しの術の使い手は姿を晦ましていた。
結果、新たな回復手段を模索しなければならなくなった訳だが、しかし闇雲に探し回っても効率は悪い。
ならば、どうすべきか。

66邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:08:15 ID:hmy7UzJE0
治療を急かしたせいかどうかは分からないが、東方不敗は自身の体調が存外優れていないことを理解している。
……特に腹の傷が、だ。
痛みこそ殆ど感じないものの、呼吸の乱れなどからして感じている以上に厄介な傷のようだ。
放置しておけばまずい事は重々理解している。
……それがシャマルの意図的なものであるかどうかは分からない。
治療を中断させたのは自分であるのだし、先に痛みだけを取り除いて後から全体を持ち直させる算段だったかもしれないからだ。
だが、何にせよ自分の傷は未だに内出血が続いていないであろう事と、その割に痛みは感じていないことは事実である。
これは好機でもあり、また、まずい状況であるとも言えよう。
戦闘に痛みを感じずに臨める事は有りがたいが、さりとて放っておく訳にもいかないのだから。
あまりに激しい動きをした場合、更に悪化することも考えうる。

と、そこで思い当たったのが各所施設の存在だ。
先程は煮え切らない感情に任せてぶん投げてしまったが、思うにあの顔面機械は何かの利用価値があったかもしれない。
そもそもあんなものが消防署にあること事態が不自然というものだろう。
だとすれば、あれは支給品同様螺旋王が殺し合いの為に用意した道具と考えればしっくり来る。
要するに、他の参加者の誰かの持ち物ということだ。

ならば。
あのような機械も存在するならば。
もしかしたら自分の機体――――、マスターガンダムがどこかに隠されていてもおかしくはない。
そして、マスターガンダムはDG細胞の産物である。

……つまり、だ。
マスターガンダムを構成するDG細胞を利用すれば、傷の修復も行なえるかもしれない。
一度は感染を跳ね除けた体、DG細胞の修復力を制御することとて不可能ではないと考える。

では、どこに向かうか。
どこにならば、マスターガンダムを隠し得るか。
それを考慮した時、最初に目指したのは――――古墳だった。

施設巡りをすると決めた後、消防署の近隣に存在するものを確かめると、映画館、病院、刑務所、古墳、学校が考えられた。
――――まずその中から選択肢で消去されたのは病院。
あまりにも向かう人物が多いだろうと予測される施設である為、もう碌なものは残っていないだろう。
次いで、映画館。
あそこはおそらくまだ激戦区。今から向かっても再度争いに巻き込まれることだろう。
一応以前訪れた時は大して調べては居ないのだが、衛宮士郎という若造の仲間が陣取っていたということを考えると望みは薄い。
学校も以前訪れたことがあるため割愛。

……となると、選択肢は刑務所と古墳の二つ。
この時点で消去法は使えなくなった。
だとすれば、行き先を決定するのは積極的な理由だ。

東方不敗が古墳を選んだ理由は非常にシンプル。
……単に、禁止エリアに囲まれることが確定したからというだけだ。
いずれ進入が難しくなる地点を先に調べておこうと思い、古墳を選んだのである。

――――そして、古墳の近くまでたどり着いた時。
彼は目を疑う光景を見ることとなる。


それは、Vだった。
Vの字だった。
……いや、それだけならばいい。
もちろん気になるといえば気になるが、この会場では何が起こってもおかしくないのだし気にした方が時間の無駄だ。

問題は、Vの字が突如空中から出現したということなのだ。

67邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:08:55 ID:hmy7UzJE0
さしもの東方不敗もこれには驚いた。
その隙にVの字はどこかに姿を消してしまっていたが、Vそのものは特に重要だとも思えなかったので捨て置く。
とりあえずVが現れた付近を調べてみることにし、接近した。

近づいてみて手を伸ばした時、東方不敗の予想通りちょうどVの字が現れた辺りで自分の手が消えるという現象が起こった。
だが、手の感覚がなくなったわけではない。
そこでその現象が何か、東方不敗は得心する。
更にそれを確かめるべく首ごと前へ踏み込んだとき、想定通りの事実が彼を出迎えた。

――――海が、そこにあったのだ。
森の中に居たはずなのに、どこかに転送されたかのように。
今の今まで、周囲は一面の森でしかなかったのに。

会場がループしている。
東方不敗はそれを直感的に理解した。

……だが、実際にはループではなく単に見知らぬどこかに飛ばされただけかもしれない。
それを確かめる必要があるだろう。
方法は簡単だ、地図を見れば古墳の反対側付近には水族館などの施設がある。
それがあることを確認すればいい。
その通りにした。

結果。
東方不敗の予測は証明された。
見事その先には水族館があり、そしておまけというには豪華すぎる副賞までついてさえくれたのだ。



「……さっさと出て来いガンメンモドキィィィイイイイイィィィ!!
 テメェの食いたがってるメロンがここにあんだからよぉッ!!」


……若々しい男の尋ね人の声が響いてくる。
気配を消して接近し、話を聞けばなんと。

「ビクトリームさんは、私がお父様……、螺旋王の娘だということを知った後も変わらず接してくれました」


……そう、螺旋王の娘を名乗る少女がいるではないか。
自称とはいえ、放って置くにはあまりにも惜しい。
螺旋王とののつながりに何か期待できるかもしれず、また、何らかの情報を握っている可能性もある。

故に東方不敗は歩み出ることにした。
これは儲けものだ。
少女を確保すれば、螺旋王に近づく為に何か収穫を得ることが出来るかもしれないと。
邪魔になるようなら始末するが、とりあえずはやはり情報だ。

東方不敗は問いかける。
――――ニヤリと笑いを浮かべ、威風堂々と。


「……確かにいい心意気ではないか。螺旋の王女というのも満更ではない。
 好奇心に従って来てみれば。……ワシもたまには童心に帰ってみるものだな。
 貴様らにはもっと情報を吐いてもらうこととしよう。
 ……なあ、青二才?」

68邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:09:51 ID:hmy7UzJE0
全員が即座に身構える中、不意に一番背の高い男と、彼の持つ板から声が響いた。

「やいやいやいやい誰だよジジイ、何のつもりだ、あん?」
『……何者です? 目的は?』

トランシーバーのようなものだろうか?
少し奇妙に思うも、あまり興味はない。
必要なものを得る為に、さっさと話を進めることにする。

「フン、……東方不敗マスターアジアというしがない武術家よ。
 貴様らこそ礼儀がなっていないな、人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが道理だろう」

皮肉で返す。……と、思いもよらない反応が男から返ってきた。

「……トウホウフハイ? まさか、ドモンの師匠か!?」
「む……、ドモンの知り合いか?」

おうよと答える男。思ったよりスムーズに交渉できそうだ。
それを証明するかのように各々の自己紹介が始まる。
……存外単純な集団のようだ。手玉に取りやすいかもしれない。

「ウヌ……、ガッシュ・ベルなのだ」
「ニア・テッペリンです」
「覚えとけ、生まれと育ちはジーハ村、グレン団がリーダーカミナ様たぁ俺の事だ!」

三者三様の挨拶を耳に入れながらも東方不敗の笑みは崩れない。
そんな彼に、カミナと名乗った男の持つ板が問いかける。

『……クロスミラージュです。Mr.東方不敗。……急に接触してくるとは、貴方の目的はなんですか?
 そして、貴方はゲームに乗っているのですか?』

その口ぶりから、この板切れが交渉相手であると東方不敗は即座に理解する。
……他の人間は大して頭が良さそうには思えない。
さて、どう出るべきか。

ここで喧嘩腰になるならば、得られる情報も得られなくなる。
……多少は下手に出るべきだろう。
知るべき情報を握られたまま殺してしまっては元も子もないのだから。
答えるべき情報と答えざるべき情報を即座に整理し、口に出していく。

「……情報が欲しくてな。貴様らの持つ情報をワシにも分けてもらいたい。
 何、ドモンの師であるワシならば有効利用できるだろう。
 知っている事はあるか?」

口ぶりとは裏腹に東方不敗は大して期待はしていない。
今までのやり取りからして判断した結果だ。
念のため聞いておくことに越したことはないというのと、ニアが螺旋王の娘ということから何か得られるかもしれないと思っての駄目元程度のものだ。


『……我々の知っていることは多くありません。この会場が実はループしているということ。そして……』

……そんな事か、と落胆する。
つい先刻であれば有用な情報であったろうが、今となっては既知の事でしかない。
情報が得られないならば、螺旋王との繋がりにニア以外を皆殺しに――――、


『…………螺旋王の力の一端。この会場に我々を集めた方法に関する考察くらいのものです』
「……なに」

69邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:10:40 ID:hmy7UzJE0
……自分の『異なる星の人々を集めた』という仮説。
それには色々と無理がある上に、自分自身でも半信半疑な代物だ。
考察とはいえこの交渉の場で切ったカードという事は、少なくともそれなりの根拠があることだろう。
……ならば、ある一面では螺旋王に通ずる真実である可能性は高い。
聞く価値はある、と判断する。

「ふむ。……それはどのような物か言ってみるといい。
 ワシとしても是非聞いておきたいところだ」

しかし、そうは問屋が卸さない。

『……でしたら、そちらの握っている情報も開示してください。
 我々がそれを聞いた後でしたらこちらの考察をお伝えします』

……当然といえば当然だ。
何しろ、情報だけ搾り出されてとんずらされたのではたまらない。
こちらから申し出た交渉でもあるため、先に情報を開示するのも筋というものだろう。
どうせニア以外は殺すのだ、喋っても大して影響はあるまい。
現に、カミナもガッシュもニアも、全員が既に頭に疑問符を浮かべている。
それなりに話の通じるのは板切れを通じて話している人間くらいのものだろう。
上手く考えたものだ、と思う。
この方法ならば自分の身を安全な所においたままで他の参加者と交流できる。


「ふむ、……道理だな。あいわかった」

……とりあえず、敵意を持たれずに情報交換できる空気は作り出せた。
後はこちらの情報を話した後、情報を引き出してニア以外を始末すればいい。
一応は、、話す情報は真実を話しておく。
下手に即席の偽の情報を流して気付かれるよりは、真実味のあるそちらの方が信憑性が増すだろう。

故に、開示する。
自身の持つ螺旋遺伝子の実験に関する考察を。
何らかの要因で覚醒するであろう、その力について。


「……このような所だな。他に何かあるか?」

『……成程。確かに、螺旋王の言葉を考えれば充分ありえますが……』

好感触と判断。
……ならば、後一押しだ。
何か与えられる情報はあっただろうか。
考え――――、一つ思い当たる。
大したものではないとは思うが、それでも単純に数は武器になる。
情報であっても同じくだ。
……一押し、それさえあればいい。

70邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:11:34 ID:hmy7UzJE0
「……ならば、おまけ程度にもう一つの情報を教えてやろう。
 地図上にある消防署にな、赤い不細工なカラクリ人形が鎮座していたぞ。
 役に立つかどうかは分からんが、螺旋王の置いたものに違いなかろう。
 詳しく調べれば何かの意味が……、」

と、唐突にその言葉は遮られる。

「おいジジイ! も、もしかしてその人形ってよ、このくらいの大きさで、顔に手足の生えた奴か!?」

――――焦ったような、喜んだようなカミナの言葉。
それまでやることを持て余して貧乏ゆすりをしていた姿との豹変振りはおかしいくらいである。
当たりを引いた。
……何でも言ってみるものだ。何が役に立つのかは分からない。
東方不敗はこの齢になってもなお新鮮に実感するその事実に、苦笑しながらも肯定の言葉を告げる。
……敢えて、自分が投げ飛ばしたということは口にせずに。

「その通りよ。……まあ、消防署の北の方のどこかに吹き飛ばされてしまっておったがな。
 役に立つならばそれにこしたことはなかろう」

ラガン。
そんな名前を呟いて明後日の方向――――消防署とは全く関係ない方向を向くカミナ。
次いでその名詞の意味を理解し、花開くように期待の表情を浮かべるニア。
それを感じたからかどうなのか、クロスミラージュは前置きなしに話し始める。
……一押しが、効いた様である。

『……分かりました。では、こちらもお伝えしましょう。
 文明レベルの問題で、考察を伝えられる相手が居なかったのも事実ですからいい機会ではあるでしょう』


……そしてクロスミラージュは話し出す。
多元世界の概念を。
時間軸の異なる参加者たちの境遇を。
知り合い同士とはいえ、違う世界から招かれた可能性を。


「…………」

東方不敗は、ただ無言で返す。
その沈黙の内にどれだけの思考が展開されているのかは本人以外には分かる由もない。

『荒唐無稽ではあるでしょうが、現状を考慮すると矛盾を解消するにはこれが最適な能力と考えられます。
 可能性としても、わたしの世界では平行世界観の移動方法は確立されている事を考慮すれば0ではないかと』

「……いや、そうか。……むぅ、……確かに」

……確かに、荒唐無稽ではある。
だが東方不敗は十分ありうると判断した。

相羽シンヤやDボゥイの様な、能力は図抜けているのに技術がそこそこどまりなアンバランスな人間。
衛宮士郎やシャマルの持つ魔法としか呼べない能力。
ヴィラルやチミルフと言った異形。

71邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:12:27 ID:hmy7UzJE0
そのどれもが、自分の知る世界とは違う――――、違和感としか呼べない何かを持ち合わせていた。
自分の考えた宇宙人仮説。
それで納得できる点も多くあるが、しかし宇宙人とは自分と同じ世界に存在するものである。
物理法則まで異なるわけではないのだ。
……ならば、自分の世界の物理法則で説明できない事象はむしろ他の世界の法則によるものと考えた方が自然かもしれない。
どちらにせよ荒唐無稽なことは変わらないのだから、より矛盾の少ない説のほうが信憑性はあるだろう。

……そして何より、一番の証拠はドモンの取った言動の不可解さだった。
自分を師として敬愛するあの態度。
しこりのように残っていたその奇妙さは、しかし多元世界という解を代入すればすんなり溶けるのだ。
要するに、あのドモンは自分と対立する前か、……その後か。
いつか和解するという可能性を実現させた世界のドモンであるならば、矛盾はない。

……ならば、あのドモンは何処から来たドモンなのだろう。
あの戦いは茶番だったのだろうか。流派東方不敗の奥義を継承したというあの喜びは何の意味があったのか。

……分からない。全てが螺旋王の手の上なのだろうか。

だが、ただ一ついえるのは――――、少なくともドモンが、石破天驚拳を修める世界もあるということだ。
……つまり、あのドモンは自分の知らぬ先を行くドモンであるのかもしれない。

……ならば。
それを見極められるのは、ある意味喜ばしいことではないだろうか。
病に侵された自分が決して見極めることが出来なかったはずの弟子の大成した姿。
考えてみれば、それは叶わぬ望みが叶うということだ。

そして、そもそもの多元世界を渡るという螺旋王の力。
……このことがどういうことを意味するかはおいおい考えるとしても、しかし有益な事は間違いないだろう。
多元世界。ありとあらゆる可能性。
それを自由に使う事ができるなら――――、


それを思い浮かべようとして、しかし東方不敗は頭を振った。

「……しばし、考える必要がある、か」

あくまで可能性の域だ。
これを確定させるには情報が足りなさ過ぎる。
無論、十分すぎる収穫ではあるのだが。

「……さて、と」

これはどう考えても相手の取って置きの情報だ。
ならば、これ以上の情報は粘っても得られないことだろう。
要するに。
要するに、だ。

「……そうそう、最期に一つ貴様らに伝えておくべき情報があってな」



ラガンとやらの話題で盛り上がり、ガッシュも交えて和やかに談笑するニアとカミナに、東方不敗もゆっくりと笑みを向ける。
……ただのそれだけで空気が一変した。
何処までも冷たく。
何処までも鋭利に。


「……ワシは殺し合いに乗っている。まあ、取るに足りない情報だろう?
 これから死に行く貴様らにとってはな」

72邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:13:27 ID:hmy7UzJE0
「……ジジイ……っ!」

切り替えはその場の誰よりも早く。
――――カミナは、即座に立ち塞がった。
……ニアの前に。

いい目ではあるな、と東方不敗は思う。
自分が何をしたいのか、その為に何をすべきか。
それを直感的に理解し、躊躇いなく行動に移すことが出来る。

だがそれは若さによる強さだ。
真っ直ぐで硬いが――――、折れるときはあっけなく、そして脆い。

そんな代物で出来た楯で少女を守ろうとするならば、対策はただ一つ。

「フン……。安心せい、螺旋王の娘ならば利用価値はある。
 貴様らを殺そうともこの娘だけは生かしてやろう」

挑発し――――、正面から叩き潰す。

「……ざけんなよオイ! んな事させるかよ……ッ!!
 俺を誰だと思ってやがる!
 このカミナ様を甘く見るんじゃねえ!」

……よもや、力の差を弁えていない訳ではないだろう。
それでもただひたすら愚直にぶつかろうとしている理由は単純だ。
勇気でもない。
無謀でもない。

――――青さだ。

故に、それをあらゆる方向から打ち据える。
自分自身がいかに強大かをアピールし、その殻を叩き割ってしまえば済むことだ。

「クク、……楯になろうとは愚かなことだな。
 実に都合がいい、ワシもこの場に来てから赤い髪の小娘一人しか殺しておらんでな。
 ……そろそろ本気で動きたいと思っていたところだ青二才。
 貴様が肩慣らしの相手になってくれるのか?」

挑発に加え、具体的な殺人の示唆。
これはカミナを萎縮させる為だ。
どんなに鍛えようとも、偶然殺してしまう場合にはともかく、人が誰かを殺そうと思って殺すには覚悟がいる。
……その覚悟を、空気のようにこなせる事を見せつける。 
そして、肩慣らしの言葉。
その程度に扱ってやれば、青二才の若造ならまず憤る。
たとえ表面上変わっておらずとも、確実に心の中に波紋ができているはずだ。
後は生かすも殺すも思いのまま。
殺すとは言ったが、生かしておいてもニアへの脅迫に使えるだろう。
怒りに身を任せ、まともな判断力を失うがいい。

……それが東方不敗の見通しだった、のだが。


「……赤い髪の、女?」

73邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:14:15 ID:hmy7UzJE0
――――想定外ではあった。
カミナの反応は予想外のものだった。東方不敗にとってよい意味での。
驚愕。
その一文字で表せるその表情は、東方不敗にとっては意味する所を読み取るのは容易いことだった。
見れば、ニアの顔も似たような色に染まっている。
単純にして明確な縁故だ。
――――なんという偶然。なんという好機。

口の端を歪に。これ以上ない程、歪に。


「……赤く、長い髪を束ねた小娘よ」

「……やめろ」

――――その声は、どこまでも弱々しく。

「あちこちを露出させた服と髑髏の髪飾りをつけていてな、こいつ――――この布で腹を刺し貫いてくれたわ」」

「やめろ……!」

その声は、何処までも悲壮に溢れ。

「名前はそう、何と呼ばれていたか――――」

「やめろっつってんだろ……ッ!」

その声はどこまでも怒りに満ち。

「ヨーコ、……だったか。なあ、聞き覚えはあるか? 青二才」

「やめろぉおぉぉおぉおおおおおおおぉおおおおおぉおおおおぉおおッ!!」


何より、無力な自分への後悔が止め処なく湧き続けていた。


自身の怪我も忘れ。
ニアの事すら忘れ。
カミナは吠え――――、剣を手にとって一直線に東方不敗に向かって斬りかかる。


『カミ……、』

自分を制止する声すらどうでもいい。
――――ただ、カミナは目の前の男を叩き切りたかった。

74邪ノ嗤フ刻−オニノワラウコロ− ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:14:48 ID:hmy7UzJE0
それが男の思う壺だと、分かりすぎるほど分かりながらも、なお。

しかし、カミナの動きよりなお早く東方不敗の手が動く。

カミナの全身に衝撃が走った。


――――天の光は全て星と言ったのは誰だったか。

……仰向けで飛んでいるのかもしれない。
それだけを理解して、カミナはもう一人怒りに打ち震える必要はなくなった。

75あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:15:44 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇


「カミナ、何を一人で先走っているのだ!
 勝てるものも勝てなくなるぞ!!」

……何故ならば、彼には仲間が居るのだから。

「……ガッシュ?」

気付けばそこはガッシュの腕の中だった。
仰向けに飛んでいるのではなく、小脇に抱えて横から掻っ攫われたのだ、
見れば東方不敗は先ほどから全く動いていない。
一人突進したカミナを無理矢理静止させる為にそんな行為に及んだのだろう。

『カミナ、ここは一人でどうにかできる局面ではありません!』

懐から響くクロスミラージュの声。

「ヨーコさんは、私にとっても仲間です……。
 私だって、大グレン団の一員です!」

ぐっと拳を握り、力強く頷くニア。

呆けた様な顔でそれを見回した後、顔を一瞬くしゃくしゃに歪める。
――――誰もが気のせいかと思うような間に表情を元に戻し、カミナは苦笑をあらためて作り出す。

「……ああ、そうだよな。
 俺にはお前達がいる。そして、ヨーコだって俺の大切な仲間だ。
 行くぜ野郎ども! 大グレン団、目の前のジジイをぶっ倒すぞ!!」

鬨の声が上がる。
ガッシュから飛び降りたカミナは剣を抜き放ち、背に皆の声を受けながら口上を張り上げる。

「行くぜジジイ……。
 いざここで会ったからにゃあ、俺は逃げねぇ、退かねぇ、振り向かねぇ!
 テメエがヨーコの仇だって言うなら尚更だ、覚悟しやがれ!
 あいつが生きていても、……本当に死んじまったとしても、それを語ったテメエを許す道理なんてどこにもねぇんだ!」

相対する東方不敗はただ悠然と。
流水よりなお緩やかな動きで構えを作る。

「ほう、ワシを殺せるものならやってみるがいい青二才が。
 敵討ちを諦め尻尾を振って逃げ帰るなら見逃してやってもいいのだぞ?
 ワシが興味あるのはそこの娘のみ。貴様など路傍の石ころほどの価値もないわッ!!」

カミナはしかし一歩も退かない。
――――己が信念を、吠える。叫ぶ。轟かせる。

76あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:16:45 ID:hmy7UzJE0
「殺しゃしねぇ……、殺しゃしねえよ。
 俺はこの殺し合いなんざに乗らねえと決めた、だったらそれを貫き通す!
 それが俺の意地だ!
 テメェがヨーコを本当に殺したんだってんなら、アイツの墓の前で100万回土下座させてやらぁ!」

「青い、青いぞ若造がぁッ!!
 さあ、来てみせるがいい己が憎悪を剣に乗せて!」


――――戦いの始まりを告げるベルが鳴る。


カミナは既に手に慣れてしまった魔本を取り出しながら、一つの考えを展開させる。
自分らしくないとは分かっていながらも。
――――ヨーコの事は本当かどうかは分からない。
だが、少なくとも目の前の男が彼女に相対したのは事実だろう。
そして、その実力の桁外れさも、痛いほどに分かる。

目的はニアだ。
……たとえ自分の無力さゆえにこぼした人が居たとしても、彼女だけは、守り抜かなくてはならない。
絶対に、絶対にだ。
頭のどこかがそれを強く強く告げている。

カミナの信条はとても青いものだ。
仲間を絶対に信頼し、自分自身が信じたことも貫き通す。
だがしかし、傍らに居るニアは自らもまた力になろうとしているのだ。

……そこに矛盾が生じる。
彼女が戦いを望むなら、自分もそれを信じるべきではないのか。
彼女の戦う意思を無視してでも、逃げろと言うべきではないのか。

絶対に守り抜くためには、ニアに逃げて欲しい。
だが、ただ逃げろと言ってもニアはまず逃げないだろう。
これまでの会話で充分分かっていたし、自分の弟分の大切な人間なら、そうであるのがむしろ当然だ。

……その心意気はカミナにとって嬉しいことでもあり、同時に辛いことでもある。
東方不敗ほどの実力者と相対するならば、彼女の存在はむしろ逃げて欲しいのだから。

故に、カミナは悩む。
不得手と分かっていながらも脳髄を働かせて。

……その果てに、解決の為の一手として、一つの案をカミナは告げる。

「……ニア! お前は早くあのガンメンモドキを探して来い!」

「あ、アニキさん!?」

戸惑うニアを尻目に、魔本を捲りながらカミナは彼女にどうすべきかを伝えていく。

「お前もアイツの本が読めたんだろ?
 だったらさっさと探して来い、四人で戦ったほうが勝ちやすいだろうがよ!」

……もちろん、ビクトリームとの合流などは期待していない。
あくまでもここからニアを逃がす為の方便だ。
負けるつもりはないがとにかく自分たちで時間を稼ぎ、彼女を遠くに逃がせればそれでいい。

77あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:17:36 ID:hmy7UzJE0
「で、でも……!」

それに感づいているのか、純粋に戦力が心配なのか。
当然のようにニアは不安げな目でカミナを見つめる。
……その時間さえ惜しいと言うのに。

だから、カミナは思い切り怒鳴る。

「俺を誰だと思ってやがる! 泣く子が余計に喚く大グレン団の鬼リーダー、カミナ様だろが!
 余計な心配してんじゃねえ、
 さっさと行けぇえええええぇぇええぇぇぇぇえぇえッ!!」

「――――!」

……今にも泣きそうな表情をわずかに見せた後、俯いたニアは……、
即座に後ろを向いて脱兎のごとくあらぬ方向へと駆け出していく。

振り向きもせず音だけで確認するカミナ。
ガッシュと目を合わせてニヤリと笑い会った後、いまだ構えを崩さない東方不敗にようやく向き直る。
自信の表れか舐められているのか、今のやり取りの間にも彼は全く攻撃を加えようとはしていなかった。

『……見逃してしまっていいのですか』

クロスミラージュの問い掛けに、しかし東方不敗は嗤ってそれを一蹴する。

「このワシが小娘一人見つけられんと思うのか?
 いまあ奴を捕らえるより優先すべき事は、その近くに飛び回る羽虫どもを駆除することよ。
 さあ、茶番は終わりだ。
 ……来るがいい青二才ッ!!」


……ベルは鳴り終わり、幕が開く。
戦いの舞台はこうして整った。

これより始まるのは――――、男が己の意地をかけた死合である。


「……ラウザルク!!」

カミナが手にした本に浮かび上がった呪文を口にした瞬間、ガッシュの体が光を纏う。
最早字が読めることにカミナが驚くことはない。
そういうものだと理解しているからだ。

そのままガッシュは一息に東方不敗に接近。
左右のラッシュを繰り出しながら、必殺の時を作ろうとする。

「ムゥ!?」

――――東方不敗が顔を歪める。
焦りや苦渋というほどではないが、確実に厄介だとは思っているのだろう。

技は未熟。間合いの読み方や位置取りも良いとは言えない。
……だが、単純に速い。力強い。
それもそのはずだ。ラウザルクは身体強化呪文。
只でさえ人より強靭な魔物の体を更に数段押し上げる効果を持つ。
たとえ技術が未熟でも、そのパワーとスピードは人の及ぶ範疇にない。

78あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:18:23 ID:hmy7UzJE0
……しかし、それを乗り越えるのが人間だ。
たとえ体躯に及ばぬ熊であろうと獅子であろうと、技を以って仕留める存在こそが人間だ。
交差の一瞬で無数の連撃を打ち合い離脱。

「くぅ……っ」
「せぁあああぁああああっ!!」

単純極まりない左右の連打を繰り出したガッシュに対し、
東方不敗はフェイントと力の強弱、放つタイミングの緩急などを芸術的なまでに調節した舞踊を披露。
流れるようにガッシュの攻撃を全て受け流しながら、確実に自身の一撃を入れていく。
結果として現れる光景は、一方的に弾き飛ばされるガッシュの姿だ。

……しかし、そこで終わるならば一流の武術止まりでしかない。
自身の攻撃で吹き飛ばされるガッシュに更に追いつき追い越し、

「シィィィイイイイイイィイィイッ!」

――――流派東方不敗、背転脚。

金色の矮躯を一撃で粉砕する。

……いや、しようとした。

「らぁぁああああぁ、俺を忘れてんじゃねえソードぉ!」

「ちぃっ……」

カミナの剣による一撃。
片手に本を、片手に剣をという魔物のパートナーの戦法としては型破りすぎる代物だが、それをこなしてしまうのがカミナという男。
それを防ぐ為に蹴撃を中断せざるを得なかったのだ。
指の二本で刃を受け止め、思い切り引く。

「……っとぉ!」

だがそれでもカミナは剣を掴み続ける。結果、バランスを崩して前のめりになった。
……好機とみて東方不敗は距離を詰めようとした。
が、ふと背中に手を回し、握る。

「な、背中に目が生えておるのか!?」

掴んだものは、ガッシュ・ベルの腕。
吹き飛ばされた後、建物を蹴った反動を利用して背後に迫ったそれを気配と空気の流れから読み取り、対処したまでだ。

……やはり存外、厄介だ。
東方不敗はそう分析する。
身体能力だけが取り得なガッシュ。
心意気や躊躇いのなさ、即座の判断力は買うが、常人の域を出ていないカミナ。
片方だけなら全く問題はないが、連携されるとなると制限がかかった上に疲弊したこの身では反応が遅れる。

79あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:19:23 ID:hmy7UzJE0
……故に、勝負は長引かせない。
これからの一連の攻防で決着をつけることを確定させ、その為に行動する。


掴んだままのガッシュの腕。それに力を込め、

「ウヌ!? ぬうぅぅぁああぁぁあああああああぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ……」

――――思い切り上空へと放り投げる。


何をするのだぁぁあぁぁ……、と、残響音のような声と共に、遥か上空へ。
ここから確認すれば、ガッシュは豆粒のような大きさにしか見えていない。

つまり、わずかな時間とはいえ1対1の状況になったわけだ。
こうなれば後は単純。
すぐ側で体勢を立て直した小煩い青二才をどうにかすればいい。


「おらおらおらおらぁ、アトミックファイヤーブレードッ!!」

――――その場のインスピレーションですよと言わんばかりの適当な技名を、カミナは突きと共に繰り出すものの。

「ふ……ッ!」
「オイ、マジかよ!」

その刃をスウェーバックだけでやり過ごし、容易く体に手刀を叩き込む。

「ぐぅっ……」

どうにか刀身で受け止めるカミナ。
しかし、その一撃はあっさりとなんでも切れる剣を二つに叩き折り止まらない。
減衰した一撃はカミナの胴体に到達すると肋骨2本を二つに割り、その勢いのままカミナをまっすぐ突き飛ばした。
――――十数メートルほど飛ばされた先、いつしか辿り着いていた砂浜に幾度かバウンドしてようやくカミナは静止する。


「……フン。ようやく力量の差を思い知ったか? 青二才」

――――東方不敗は、無傷。
あれだけの交戦を、二人がかりで行なってさえこの様だ。
……むしろよくやったと言えるだろう。

カミナは口端に笑みを浮かべるのを東方不敗は見届けた。
……やり遂げた、と言う笑みを。
それを、東方不敗はニアを逃がしきれたことへの安堵だと推察する。

――――事実、それは成し遂げられた。
少なくともこれから自分はニアを探す必要があるだろう。
時間稼ぎの目論見はまんまと成功された。
敵対するとはいえ、殺すのは惜しいと東方不敗は思う。

真っ直ぐな気性とそれを貫き通せる意地。
青いところはあるが、ドモンに通ずる所も感じられた。
――――流派東方不敗を伝授してやりたいとすら思わされる。
まあ、現状と恨まれた事実を考えればそんなのは夢物語だ。

80あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:20:33 ID:hmy7UzJE0
月明かりの下、尻餅をついて倒れたままのカミナの体を見据えつつ東方不敗は悠然と立つ。

最初はニアへの脅迫に生かしておこうかとも思ったが、しかし情が移ればそれだけ面倒なことになるだろう。
……ここは、殺しておいた方が後腐れがなくて良い。

だから、その通りにする。……ほんの少しの情けも込めて。

「さて、遺言くらいは聞いてやろう。何か伝えたいことはあるか?
 このワシに啖呵を吐いたその度胸に免じてひとつくらいはいうことを聞いてやらんでもないぞ?」

その言葉を受けて、果たしてカミナは何事かを呟いた。

「――――」

「む? 何と?」

……小さくて聞こえなかった。
何を言ったのかと再度問い、耳を澄ましてみればようやくその言葉が耳に届く。


「……テメエが倒れてろ、クソジジイ」


「――――な、」

気付く。
……カミナの手にある奇妙な本、その輝きに。

先ほどの身体強化呪文とは比べ物にならない力の密度に。

天を仰ぐ。

「ガッシュ、お前の出番だ!
 お前ならこのクソジジイをぶちのめせる。お前ならできる、俺はそう信じた!
 お前を信じる俺を信じろ、そしてお前を信じるお前を信じろ!
 いくぜダチ公……!」


――――そこには、強大な緑色の光を迸らせる魔物の子供が居た。
星々が散りばめられた夜の空。
そこから悠然と降臨するは王者の威風。
風が、強く強く吹き荒れた。

全ては布石。
ガッシュが飛び道具をこれまで使わなかったのも、カミナが自ら立ち回って注意を引かせたのもこの瞬間に通じている。
……尤も、特に考えずに直感にしたがってそうしていたのは事実ではあるが。

81あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:21:38 ID:hmy7UzJE0
――――カミナの声が、亡びの時を呼び寄せる。


「……バオウ、」


東方不敗は直感する。
何もかもをも食らい尽くす雷の竜の姿を幻視することで。
この技は食らってはいけないと。
絶対に出させてはいけないと。
それを全身が告げている。

防ぐに能わず。
もたらす破壊は甚大に過ぎ、ヒトの身にて耐える術はなし。

避けるに能わず。
如何なる場所に逃げようと、その竜は何処までも追い続け、巨体を以ってヒトを磨り潰す。

壊すに能わず。
立ち向かうは愚かとしか呼べず、ヒトはただただ蹂躙されるのみ。


……その元凶は遠く。
当然だ。
遠距離攻撃手段の可能性を見損じ、遠くに投げ放ったのは誰でもない自分なのだから。
今から流派東方不敗のいかなる技を繰り出そうとも届くには時間がなさ過ぎる。


――――そして、ソレは告げられた。


「ザケルガァァァアアアァァァアァアアアアァアアアッ!!」







――――風が、吹き止んだ。

何もない。
たったの一つを除いて、そこにはもう存在しない。

82あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:22:57 ID:hmy7UzJE0
……何がないのか? 存在しないのか?

答えは単純。たったの一語。


『変わったもの』は、何もない。

……カミナの肩に刺さった、奇妙な短剣を別として。

カミナは倒れたままで。
ガッシュは宙に居たままで。

東方不敗は、そこに威風堂々と立ったままで。


状況は、何一つ変わっていない。


「……嘘だろ、オイ」

――――ただ呆然とカミナが呟くと同時。
ガッシュは術の反動で気を失ったまま、あっけなく地面に落下した。


◇ ◇ ◇


『契約――――、魔法そのものをキャンセルするデバイス!?
 そんな、こんなものがあるなんて――――』

地面に尻餅をついたままのカミナの方から声が聞こえてくる。

だが、東方不敗にとっては些事に過ぎない。
今はとりあえず危機を脱出したことを喜び、しかしそれに溺れず次にするべきことを考えねばならない。
世の中は結果で動く。
過程を考えても意味のないことに捕らわれても仕方ない。

……そう。何故自分が全くの無事なのかは、東方不敗には分からない。
ただ、彼は自分の直感を信じて行動し、結果として生き延びた。それだけだ。



――――まさに死の呪文が告げられようとしたその瞬間東方不敗が取ったのは、カミナへの対処だった。

今までの戦法を推察するに、カミナの持つ本が何らかの影響をガッシュに与えている事は確実と推測。
故に、届かないガッシュをどうにかして呪文を防ぐより、カミナさえ何とかすればいいと考えた。

確実ではないが、それしかあれを放たせないための術がないのならば全力で事を成すまでである。
判断は刹那、行動は瞬間。
わずか一言が告げられるまでの間に、カミナに対してできる事を直感から導き出す。

83あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:23:46 ID:hmy7UzJE0
――――そう、それは直感だった。
東方不敗という武術を極めた人間の頂点が、数多の戦闘の経験から導き出した現状を打破する術。
それを成す為に必要な道具を彼は手に取っていた。
何故それを選んだのか、考えはない。理由もない。
……ただ、『それ』ならば現状を打破できると戦士の勘が告げていた。
たとえその仕組みが理解できなくとも、あの呪文を無と化せるのだと。

だから、東方不敗はソレに賭けた。
摩訶不思議なその道具に。何より、自分自身の勘に、命の全てを。


彼が自らを託したその道具は、こう謳われた神秘の結晶。
 
破戒すべき全ての符、と。


ルールブレイカー。
ありとあらゆる契約を、魔術的な強化や生命を破戒し無と化す宝具である。
それは異なる世界のものとて例外ではない。

一瞬で手に取ったそれを、東方不敗は即座にカミナに投げつける。
……とにかく刺さればいいと、狙いを定めはしなかった為に刺さった場所は肩になったが、効果は即座に現れた。

カミナからガッシュに流れ込む心の力。
それが一瞬にて断ち切られ、結果、バオウ・ザケルガも形を保てず霧散した。
破戒すべき全ての符は、ガッシュとカミナの契約を強制破棄したのである。


当然、東方不敗はそれを知る由もない。
考えることすらしない。

何故ならば、今すべき事は他にある。
落下し、うずくまるガッシュに近寄っていく。

既に術の弊害による気絶からは冷めているのか、東方不敗の接近に慌て、何かないかとデイパックに手を突っ込んだ所を捕縛する。
下手な支給品でまた厄介なことになられてはたまらない。

「……そのまま動くでないぞ。
 鞄から手を抜いた時点で、何を持っていようが、何も持っていなかろうがあそこの青二才が死に至る事になる」

口元を歪めながらそう告げてみせれば、ガッシュはウヌ、と呟き泣きそうな顔で動きを止めた。
何が起こったかも理解できない状況で、いきなり窮地に立たされたにもかかわらず反応がそれだけなら大したものだ。
今の自分の立場を知っているが故に、危険な行動を取らない賢さは持っているようである。
――――実に人質にはもってこいだ。
言葉通りに置物のように動かないガッシュを脇に抱え、あらためてカミナに向き直る。

「……理解できたか? 青二才。
 まずはその本を捨ててこちらに来るのだ。さもないとどうなるかは……分かっているな?」

……殺すにせよ殺さないにせよ、とにかくは本からカミナを引き剥がす。

「クソ……ッ」

84あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:24:58 ID:hmy7UzJE0
悪態を突き、憤りながらもカミナは言うとおりにすることしか出来ない。
……それが、彼の青さだ。
良くも悪くも一直線にしか進めない。
だからこそ皆の上に立ち導く時は強く輝き皆を惹きつけるが、逆に守勢に立たされれば脆いのだ。
これまでの彼の人生の殆どはジーハ村という狭い交友関係の場所にあり、故にこういう駆け引きは殆ど縁がなかった。
何かあっても、全て彼自身の責任となったからだ。

だから、仲間が窮地に立たされ、それが自分の行動一つで左右される場合、彼の取れることなど――――言いなりになるしかない。
たとえそれが自身の気持ちに反することになってもだ。
あまりにも危うい生き方。それをここに来てカミナは実感せざるを得なかった。
悔しく、また、情けない。
けれど、ガッシュの命を考えればこうするしか道はない。

魔本をその場に捨て、両手を挙げながら一歩、二歩。
砂浜の上を無防備に進んでいく。

10mほどで歩くのを止め、東方不敗と向かい合う。

「……これでいいだろ、ガッシュを離しやがれ」

東方不敗がクックと笑いを漏らす。

……癇に障る。それ以上に悔しくてたまらない。
目の前にいるのはヨーコの仇かもしれないのだから。

しかし、その感情を泣きそうな顔をしたガッシュを見て押さえつける。

後悔はない。これでいいのだ。
仲間を守る。カミナは皆の兄貴分でありリーダーなのだから。

……だから、カミナは絶望する。

「……成程、確かにこれでいい。
 人質は一人で充分だ。あの小娘の思い入れが強いのは貴様の方だろう、青二才。
 ……もう、この子供は用済みという訳だ」
「……っ! カミ、ナ……」

東方不敗の浮かべた悦の表情は、その自負すら叩き潰したのだから。
――――ガッシュを、殺す。
危険性を利便性を考慮し、躊躇いなく東方不敗はその決断を下した。

「テメェ……ッ!! くそ……くそぉ……っ」

無力。無力。無力。無力。無力。
理不尽にも敵のなすがままにされ、反撃すら出来ない。
何が俺を誰だと思ってやがる、だろう。
結局何も出来はしない。

いつしか、カミナは泣いていた。
東方不敗への憤怒を露にしながらも、何も出来ない自身があまりにも悔しかった。
ここまでの挫折感を味わったのは初めてだった。

85あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:26:17 ID:hmy7UzJE0
「フン、貴様にはまだ生きていてもらうぞ。
 ワシの走狗として情報を集めてもらうとしようか」

がくり、とその言葉を聞いて地面に膝をつく。
ただただ、悔しかった。
悔しいの一文字しか心になかった。

カミナ一人ではガッシュを救う事は出来はしない。
仲間を守ることすら貫けない。


――――そう、だからこそ、仲間がいる。


「――――アニキさん! ガッシュさん……!」

「……な、」

背後から聞こえた声に、カミナは驚きを隠せなかった。


◇ ◇ ◇


――――嘘だと分かっていた。
いや、嘘というより方便だろう。自分をここから逃がす為の。

嫌だった。
何も出来ないのは。そして、むざむざ退くのは。

逃げない、退かない、振り返らない。
それこそが大グレン団の心意気だ。
シモンが受け継いでいたそれを、カミナは強く見せ付けてくれた。

カミナは自分を認めてくれた。
ならば自分も大グレン団だ。
そして、それを誇りたかった。

だから、最初こそ言うことを聞こうと思ったけど、引き返す。
……自分も力になりたいと、その想いだけを心に宿して。


「――――アニキさん! ガッシュさん……!」
「……ニア?」


見ればガッシュが東方不敗の脇に抱えられ、カミナは涙に濡れて膝をついている。
何とかしなければならない。
自分にできる事は何か、それを即座に見つけ出す。

86あばよ、ダチ公(前編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:27:08 ID:hmy7UzJE0
カミナの背後に落ちている本。
一度ビクトリームのときに経験がある。
あれを使いたい。
使って、皆を救い出す!
絶対にこの場を切り抜けてみせる!

……自分も意地を貫ける、大グレン団の一員なのだから――――!

その想いが迸る。
ニアの全身から光が漏れ出し、緑に染まる。
体躯は一瞬で活性化し、ニアの走りを加速させた。

運動を止めずに地面から本を掻っ攫い、開く。
求めるはこの場を切り抜ける方法。
想いの力は確かにそれを導き、答えた。

本に浮かび上がるその呪文の名前を強く強く口にする。
必要なのは強力な一撃ではない。
ガッシュが東方不敗を振りほどくことさえできればいい。
シンプルイズベスト。
単純ゆえに出が早く、体勢を崩さざるをえない攻撃を解き放つ――――!


「ザケ――――、」



――――暗転。

最後に見た光景は、東方不敗の片腕から延びる布切れが自分の手を打ち据え、体ごと吹き飛ばす光景だった。
本が、手から零れ落ちてゆく。

87あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:28:23 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇


「……甘いわ。この東方不敗が貴様が素直に逃げ出したと思い込んだとでも考えたか?
 青二才、貴様に似てよい気質はしておるが――――、意地だけでは何も得られんということがこれでよく分かったろう?」

希望は蹂躙される。
たった一人の手によって。

東方不敗は布切れ――――、マスタークロスを翻す。

東方不敗がマスタークロスを今まで使わなかったのはこの為だ。
まさしく先ほどのカミナとガッシュがラウザルクで戦ったのと同じ理由。
飛び道具がないと思い込ませ、ニアの油断を誘う。
本当に逃げたなら探せばよし、隠れて機を窺うのならその瞬間に打ち据えればよし。

殺してはいない。怪我も手が痺れるくらいの者だ。
色々と利用価値があるのだ、気絶させるに留めてある。


……全ての手は潰えた。
カミナの表情は雄弁にそれを物語っている。

……泣き笑いだった。

逃がしたかった。それも叶わない。
逃げずに立ち向かった。それは嬉しい。

……カミナには、もうその二つの感情しか残っていなかった。
故に、隠すものは何もなく素直にそれが出てきていた。
他の感情は何もかも、深い深い挫折に落ち込み奈落へと消えていった。

「……フン」

こうなってはもう用はない。
中々の骨を持つ男だっただけに惜しいとは思うが、必要なのはニアだけだ。

辺りを見渡す。

倒れ、動かないニア。
体を震わせながらも言いつけを守って固まったままのガッシュ。
泣き笑いのまま、地面に手をついてこちらを見上げるだけのカミナ。

最早この三人の誰もが戦いの意思を放棄した。

――――そして立ち続けるのは東方不敗ただ一人。
これが結末だ。
それを認め、東方不敗は笑った。
高々と、高々と。

「ク、クク、ワハハハハハハハハ……!!
 中々に面白かったぞ貴様ら!
 しかしこれで仕舞いだ、敬意を表してこのワシの最大の技で葬ってやろう!」

88あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:29:49 ID:hmy7UzJE0
ガッシュを小脇に抱えたまま、東方不敗はゆらりと体を動かし一つの構えを形作っていく。
当る先は勿論カミナ。
無防備なその体を見据え、己が精神を集中させていく。

「……東方不敗が最終奥義」

これぞ狼の群をただ一撃で薙ぎ払ったとされる究極の一撃なり。

「……石破ぁっ!」

眼前の敵に全てを注ぎ込む。
もたらされる結果は実に単純。


「天……ッ! 驚……ッ!」



「グラサン・ジャックになぁにさらしてくれとるのだこのおさげマニアがぁあぁああぁあああぁあああああ!」

「――――!」

あまりにもらしくない、第三者の割り込みへの不注意。
中途半端に気に入ったカミナに意識を向けるあまり後方への警戒を怠ったが故に、既にソレに背後数メートルまで接近することを許していた。

「ブルァァアアアァアアァァアアッ!!」

……そう、まさしく――――東方不敗の間合いに。

錐揉みを加えながら体ごと東方不敗にぶつかろうと勢いを減じさせないビクトリームの突撃。
東方不敗は即座に判断を下す。
戦う意思を失ったカミナよりも、この邪魔者を排除する方が優先事項であると。
腕に溜めたその一撃をスライドさせ、そのままビクトリームの方へと突き出してゆく。

――――カミナは、これから起こることを理解し、それを防ごうと大声を出す。
……せめて、自分に東方不敗の注意を向かせようと。
ビクトリームだけでも助かって欲しいと。


「逃げろッ、ガンメンモド、」


無駄。



「拳――――――――――――――――!!」



ビクトリームの首から下が全て破砕した。

89あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:30:43 ID:hmy7UzJE0
否、それは粉砕。
わずか数瞬前にビクトリームだったものが、微塵よりなお小さく細かい単位まで分解されていく。


何が起こったか理解できないという表情のビクトリームの頭部の真下から、ゆっくりと首輪が地面に落ちていった。


「――――ビクトリー、」


……名前を呼んで、理解した。
ああ、俺はコイツの事は……ちったぁ気に入ってたのかもな、と。
そして、……もう下らねえド付き合いもできねぇんだな、と。


「ビクトリィィィィィイィイイィィイィィムッ!!」

ガッシュの絶叫がカミナを現実に引き戻す。

見れば、東方不敗がビクトリームのにじり寄ってきた背後を向いている隙に、ガッシュはデイパックの中で握り続けていたそれを東方不敗に突き刺していた。

「……何故だぁぁぁぁぁぁぁああぁあああ!!」
「ク……!」」

――――巨大なドリルを、自分を掴む腕に。
力が緩み、ガッシュは東方不敗を振りほどく。
地面に転げ落ちながらも、しかしガッシュは吠えるのをやめようとしない。
優しい王として。
仲間を殺した理由を、問うために。

「何故だ! 何故、ビクトリームを殺したのだ!! 答えろ、答えるのだッ!!」

……その事実が、ようやくカミナの頭の中に浸透していく。
乖離していた現実が。
ごとりとビクトリームの頭だけが地面に落ちる光景が。
腕から開放された瞬間、反撃を防ぐ為にマスタークロスでガッシュが吹き飛ばされる瞬間が。
ビクトリームのデイパックからこぼれた本が、ゆっくりと燃えていく様が。


「テメェェエェエエエェエエエエエェッ!!」


――――その一瞬で、カミナの全身が緑の光に包まれる。
それはその場にいた全員が目を疑うほどの煌きとなり、力を堂々と誇示していた。

ガッシュを打ち据える東方不敗も。
布の一撃を耐え、しかし押し切られるガッシュも。
いつしか気絶から醒め、ビクトリームの体が消滅しているのを目の当たりにしたニアも。
何より、カミナの懐で直にその光に触れたクロスミラージュも。


『カミナ――――』

……クロスミラージュのボディに螺旋の力が充満していく。
そして理解。
これならば、自分を動かせるに違いないと。

90あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:31:29 ID:hmy7UzJE0
「いくぜ……ダチ公! あのジジイをぶちのめしてやる!!
 なあクロスミラージュ! ここで退いたら男じゃねえ!」

肩のルールブレイカーを引き抜き叫ぶ。
クロスミラージュを手に取った瞬間、カミナの体に幾つもの赤いくろがねが浮かび上がり、装着されていく。
バリアジャケット。
それによって顕現するは紅蓮羅顔。
彼が相棒と認めた男との合体によって生まれ出でる巨人、その写し身である。

その手にあるは二丁の拳銃、しかして拳銃でないものだ。
クロスミラージュのダガーモード。
通常ならそこから生成されるはずの刃は、今は螺旋の形状を為していた。
天をも突くドリルの形へと、螺旋の力は刃を進化させたのだ。

『「ギガ……」』

カミナとクロスミラージュは同時に叫び、射線を東方不敗へ。
カートリッジロード。
最後に一つだけ残っていた薬莢が排出され、宙に舞う。
左の銃口から、まるでブーメランのような光弾が射出され、東方不敗を縫い止めんとする。

『「ドリル……ッ!!」』

――――だが、それは無意味と化す。

遅い。
ただ単純に遅い。

初動が遅い、溜めが遅い、狙いが遅い、呼吸が遅い。
ありとあらゆる動作が遅すぎる。

「流派東方不敗が奥義……!」

東方不敗マスターアジア。
彼にとって、彼らが児戯を繰り出すまでの間などまさしく遊ぶ暇さえあるものだ。
初撃のブーメランが彼のその身に弾かれた。
何故ならば既に東方不敗は行動を終えている。

「超級覇王ッ……」

肩に腕に巨大なドリルを刺したままでありながら、全身から迸る衝撃が近づくもの全てを無力化する。


「電影弾――――!」

突撃。
あらゆるものを弾き飛ばしながら、今だ初撃の体勢から動かないカミナを蹂躙し、駆逐する――――。



そのはず、だった。

91あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:32:25 ID:hmy7UzJE0
「…………ッ!!」

意に反して体が急に停止する。
それも、銃口をこちらに向けたカミナの直前で。

……見れば、全身にいつしか鎖が絡みついていた。
黄金の輝きを持つ鎖が。
全身に力を込めてさえびくともしない。
超級覇王電影弾を持ってしてさえ、東方不敗の鍛え抜かれた肉体を以ってさえ傷一つ付けられない。

その鎖の名は天の鎖、エルキドゥ。
かの英雄王ギルガメッシュが乖離剣以上に信頼する、神をも縛る宝具である。

振り向く。
最早意識も定かでない頭だけのVの字が東方不敗に密着。
そこから延びる天の鎖は、東方不敗の全身に絡み付いて完全なる拘束を果たしていた。



◇ ◇ ◇



――――何故か、そうしなければいけない気がしたのだ。
ただ、会って謝りたかったのかもしれない。
一度は逃げ出したとはいえ、それでも帰ってきたのはそのためだった。
理由も分からない感情で退いた彼は、しかし。

――――絶対に退かない男の顔を思い出した。

理由の分からない感情で、その男に向かい合うことを選び直したのだ。


……結局まともに会話をする事は叶わなかったが、しかし選んだ行動に後悔はない。
だが、ただ一言、その男に言ってやりたいことが残っていた。

「…………………、」

――――――――伝わっただろうか。
最早自身の耳には何一つ聞こえない。
口を動かしたと、その筋肉の動きが分かるだけだ。

それでもいい、と思った。

目の前の男は、泣きながら。
それでも歯を食いしばって、力強く頷いたのだから。

……自分たちに向けられたドリルに自ら体を突っ込ませる。
この男を失わせたくない、そう思ってしまったのだ。

――――それを最後に、ビクトリームの視界は緑の光に染まる。

92あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:33:05 ID:hmy7UzJE0
永遠に。



◇ ◇ ◇



最後の瞬間に、Vの字は口をわずかに動かした。
声は聞こえない。
おそらくその余力さえなかったのだろう。

……だが、カミナには伝わった。
読唇術の心得など当然なかったが、それでも何と言っているのかは充分すぎるほどに。


「パートナーとは――――」

こういうものなのだろう? と。

それきり、ビクトリームは東方不敗ごと自身の体を前に突き出した。

何のためにそんな事をしたのか、理由は痛いほどに分かる。
更に言うなら、これは最後の足掻きだ。
ここでそれをしなくても、ビクトリームは助からない。
それでも、しかしそれでもカミナはそれを叶えたくなかった。
道理など、蹴っ飛ばしてやりたかった。
キャッカンテキな判断などごめんだった。

だが、そうしなければビクトリームの意気に答えてやることなど出来はしない。
ガッシュやニアを守りきることも出来はしない。

だから。
カミナは泣き叫びながら、それでも全力でクロスミラージュの引き鉄を押し込んだ。

『「ファイヤー……ッ、」』

クロスミラージュに込められた最後のカートリッジ3つが全て排出される。
周囲に無数に光球が浮いたと同時、それら全てがクロスミラージュ先端に集い巨大なドリルを形成した。

高町なのはがティアナに撃ち込んだ収束クロスファイヤーシュート。
その応用を、ポイントブランクショットで叩き込む。
かつてない高出力を由来とし、クロスミラージュはまるでレイジングハートの様に極太の光の柱を射出した。


『「シュート――――――――」』




消えていく。消えていく。

天まで届くドリルが、その先にあるもの全てを掻き消していく。

東方不敗も、天の鎖も、ビクトリームの頭も何もかも。

93あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:34:17 ID:hmy7UzJE0
今だ放出され続け、天まで届く螺旋の柱。
ふと、クロスミラージュはカミナが何かを呟いたことに気付いたが、しかしその記録を抹消することにした。
その言葉は自分が受け取るべきものではないのだから。



「……あばよ、ダチ公」





【ニア@天元突破グレンラガン 螺旋力覚醒】
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!! 螺旋力覚醒】


【ビクトリーム@金色のガッシュベル!! 死亡】


◇ ◇ ◇


――――以上、一連の事象及び自分の得た情報、特に東方不敗より情報交換で得た彼の考察と、
カミナが自分を使用可能だったという事実を元に、ある仮説を提示する。

すなわち、螺旋力とは何か、という事だ。

まず第一に言えるのは、魔力とは螺旋力の関係についてである。
魔力によって運用される自分が魔力を持たないカミナによって使用可能であった以上、少なくとも相互に関連性がある事は間違いないだろう。

さて、魔力が螺旋力によって代用可能なら、それらの関係性は何だろう?
魔力が螺旋力を生み出しているか、螺旋力が魔力を生み出しているか、
その2パターンが考えられる。

ここで、自分は後者を推したい。
魔力とは、螺旋力が何らかの変質を遂げたものである、ということだ。
この事は、魔力をもつ人間はごく限られた存在でしかないという事実に対し、
螺旋力はカミナや東方不敗を含め、本来魔力を持たない人間にも発現しうる遍在性からの推測である。

……東方不敗によるならば、たとえ誰であろうとも螺旋力は窮地に立たされれば発揮しうるものという考察がある。
以下、螺旋力は誰もが本来持ちうるが、発揮される機会はそれこそ殺し合いのような特殊な状況下のみという前提で話を進めよう。

カミナが螺旋力を用いて自身を使った際、その体力の消費は魔力使用時よりも遥かに大きいものだった。
ここから、螺旋力と魔力の関係は、原油とガソリンの様なものではないかと考えたのだ。

螺旋力を持っていたとしても、不純物が多すぎて魔法を運用するには効率が悪すぎる。
そこで、何かしらの変質作用を施すことで精製し、魔法を使うのに最適化されたのが魔力という訳である。

この『何かしらの変質作用』を生まれつき持つ人間こそが、魔法使いとなり得るのである。
つまり、魔法使いや魔術師の素質とは、その作用をもたらす回路――――“魔術回路”とでも言うべきものが生来どれだけ備わっているかによって決定されるのだ。


これを踏まえて、螺旋力とは何か、を考えてみよう。

94あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:35:04 ID:hmy7UzJE0
まず、魔力とは精神力、あるいはそれに順ずるものである。
その上で、ガッシュ・ベルのような魔物を考慮すると、その正体が見えてくる。
彼らは魔力を持っているが、単体ではその力を発動させることは叶わない。
術を発動させるのには、『心の力』こそが必要なのである。
心の力が彼らを経由することで術という形になるのだ。

まさしく、螺旋力が魔術回路を通ることで魔法や魔術になるのと同じ様にである。

……つまり、螺旋力とは心――――、意思を動かす原動力そのものではないだろうか?
生命が生き延びようとする本能そのものと言えるかもしれない。

生命体の定義とは、自己保存と自己複製の2つを持ち合わせている事だ。
加えて、重要になる要素がもう一つ。

――――進化、である。

自己保存にしても自己複製にしても、それらは生命が自身の要素をできる限り長く保たせる為の指向性である。
だがこれだけでは、いずれ来るかもしれない環境の激変に耐えられないならば、滅んでしまうのは必定といえるだろう。
その為に、生命は進化するのだ。
いかなる壁が目の前に迫ろうとも、それを穿ち突き破るために。

生き延びようとする意思は、進化を求めることに他ならない。

即ち螺旋力とは進化を求め、進化を促し、進化に導かれる力であり、
またその意思によって生み出され、意思を生み出している力でもある。
生き延びようとするための意思そのものこそ――――螺旋力だというのが自分の結論である。


これを拡大解釈するならば、更にいくつかの仮説が提示できる。

まず、生命の存在する環境内のネットワークそのものが螺旋力を持ちうる可能性についてである。
一部の魔導士の使う合体魔法。
これらは、異なる個体の魔力であっても、意思を同調させれば一つの力になり得ることの証となる。
ここで、あらゆる生命に共通する自己保存と自己複製の本能を思い出してみよう。
即ち、意思の根底にある本能が全ての生命に共通な以上、魔力、ひいては螺旋力は一つの指向性を持って環境上に展開されている可能性があるのだ。
つまり、――――同じ世界に存在するありとあらゆる生命体の生み出した、潜在的な螺旋力の奔流。
世界に散らばる生命種そのものによって生み出される、惑星規模のエネルギー。
――――“地脈”とでも呼称できるだろうか。
そのようなものが存在する可能性がある。
この“地脈”を用いた魔法形態も、多元世界のどこかにあるかもしれない。

第二の仮説としては、自分のような機械やプログラム生命体、人造生命体が螺旋力を持ちうる可能性についてである。
これらに関しては、限りなくノーに近いということが出来るだろう。
そもそも螺旋力の由来からして生命活動が必須なのであるのだから。
……だが、しかし可能性は0ではない。
自己保存と自己複製。
これらを備え、更に進化し向上しようとする意思を持ち得るほどに高度な技術で生み出された存在ならば、螺旋力は備わりうるだろう。
――――現在、機動六課で唯一生き残っているはずのシャマル女史を想定。
彼女ほど高度に組み上げられたプログラムなら、螺旋力を発現する事は可能と判断する。
現状がどうであるかは別としても、もし彼女が覚醒したならば仮説を補強する材料となるだろう。


――――以上が、自分自身が現状のデータから導き出した考察である。
荒唐無稽とはいえ、これらが内包する可能性は非常に多様であると言えるだろう。
……明智健悟の様な、考察を最大限に運用可能な参加者との接触を望む次第である。

95あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:35:44 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇


静寂が訪れるまでどれだけ立ったろうか。

――――カミナは地面に手を着いて、子供の様に泣いていた。
小さな村に押し込められて、世界を知ることのなかった彼にとっては初めてに近い挫折。
そして、ビクトリームを死なせてしまったことへの後悔と悲しみ。
ヨーコが死んだと聞かされた事への絶望。
東方不敗への激しい怒り。
それらを一度に味わわされ、ただ慟哭するしかできなかった。

友を失ったガッシュも手を握り締め、海の方を向いて動かない。
クロスミラージュも、早く移動すべきと分かっていながら敢えて声をかけることはしなかった。

夜明けは遠く、月と星は煌々と。
位置を変えながらも今だ輝き続けている。


いつか目指すと誓ったそれを見ようともせず、風に打ち付けられるまま。

――――ただ、カミナは哭く。

その光景はいつか見た誰かに重なるようで、ニアは傍らに寄り続け、カミナの体にゆっくりと手を添える。
ぴくりと震えるも、しかしカミナは動かない。


――――そのまま、たった一言だけをニアに伝えた。


「……ありがとうな」


いずれ彼は立ち上がる。
信じようとも信じなくとも、それは確かな事実だ。
何故なら、彼はリーダーなのだから。

……だから誰しもそれを待つ。
待って、彼が自分たちを導いてくれるその時までただ耐え忍ぶのだ。



――――夜明けは遠く、しかし確かに近づいている。




【E-1南部/海岸付近/二日目/黎明】

96あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:36:29 ID:hmy7UzJE0
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(中)、疲労(特大)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(激しく動かすと激痛が走る)、
    頭にタンコブ、ずぶ濡れ、激しい慟哭、強い決意、螺旋力増大中
[装備]:クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4:0/4)
    折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
    バリアジャケット
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】   
    アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!
    ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!、ルールブレイカー@Fate/stay night
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:畜生……っ!!
1:ビクトリーム……。
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ! コイツは俺が守ってみせる!
3:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? シャクだが、行かねぇワケにはな……。
5:グレン……もしかしたら、あそこ(E-6)に? 
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ドモンはどこに居やがるんだよ。
8:……線路からハツデンショに飛び降りちまえば、ぶっ壊れた駅になんざ行く必要はねえ!

[備考]
※E-6にグレンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。死を受け入れられる状態です。
※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
 禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ました。
 しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。
※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※東方不敗に対する激しい怒りを覚えました。
※螺旋力覚醒

97あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:37:05 ID:hmy7UzJE0
【クロスミラージュの思考】
0:カミナを気遣ってしばし黙っている。
1:東方不敗が再度こちらに来ないうちに早めに移動する。彼の吹き飛ばされた南部には行きたくない。
2:ドモンはとっくに移動したと判断。モノレールの線路でD-4駅方面(発電所)に行き、北部からデパート方面に向かいつつ捜索。
3:明智と合流してカートリッジの補給や情報交換をしたい。
4:東方不敗を最優先で警戒する。

※ルールブレイカーの効果に気付きました。
※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
※各放送内容を記録しています。
※シモンについて多数の情報を得ました。
※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。
※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。
※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。


【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(中)、両手に痺れ、ギアス?、右頬にモミジ、
    下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ、強い悲しみ、螺旋力覚醒
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:……アニキさん。
1:ビクトリームさん、私は……。
2:カミナを元気付けたい。
3:出来ればシータを止めたい。
4:ルルーシュと一緒に脱出に向けて動く。
5:ルルーシュを探す。
6:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。
7:東方不敗を最優先で警戒する。

[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。しかし本人に会ったので知識と現実の乖離に気付きました。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
 今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※ガッシュの魔本に反応しました。
※カミナ、クロスミラージュと詳細な情報を交換しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。

※螺旋力覚醒

98あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:37:41 ID:hmy7UzJE0
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ、全身打撲(中)、肉体疲労(大)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 深い後悔、螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
    リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
    アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:すまないのだ、ビクトリーム……。
1:カミナ達と戦う。
2:ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:東方不敗を最優先で警戒する。

[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
 いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。
※東方不敗からラガンの所在について聞きました。
※螺旋力覚醒

[持ち物]:支給品一式×8
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
ロージェノムのコアドリル×5@天元突破グレンラガン
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)


※カミナ達のすぐそばにビクトリームのデイパック
(支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、 キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!)
 が落ちています。
※ビクトリームの魔本@金色のガッシュベル!!は焼失しました。


【ロージェノムのコアドリル@天元突破グレンラガン】
ロージェノムが周囲に従える6人の女性の本当の姿。最初からドリル形態で6つ全てを支給。
これら6つがスピンオンすることで、彼専用ガンメンのラゼンガンを起動させることが出来る。
ちなみにこれは多元宇宙のどこかのロージェノムのもので、主催者のロージェノムの持ち物ではない。
奪われた側のロージェノムはラゼンガンを起動させることは出来ないが、
そもそも素で強いし体一つでグレンラガンと殴り合っても無問題だろう、多分。

99あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:38:35 ID:hmy7UzJE0
◇ ◇ ◇


「――――ク、ハハハハハハハハハハハ……!」


高笑いが鳴り響く。
――――東方不敗のそれに間違いない。

ここはテーマパークのすぐ側の海岸。
ずぶ濡れなのは、どうにかそこまで泳ぎついた事の証だ。

「ワッハッハッハッハッハッハッハ!! あの青二才、いや、カミナめ、やりおるわ!
 ハッハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハ!!」

愉快だった。
実に愉快だった。

何せ、あの男は宣言通り敢えて自分を殺さなかったのだから。
殺し合いなど乗らないと言い切った意地。
伴侶を殺され、友を失ってもなお貫き通すその気質。
青さもここまでくれば実に面白いというものだ。

「――――気に入った! 気に入ったぞカミナよ!
 機会さえあるならば流派東方不敗を伝授してやりたいくらいだ!
 ワハハハハハハハハハハハハハハ!!」

ドリルを放たれたあの瞬間、東方不敗は死さえも覚悟した。
それほどの一撃をこの身に浴びて怪我一つ負っていないとは、意図してそうした以外に考えられない。

クロスミラージュの非殺傷設定。
カミナは己の意地にかけて、東方不敗を仇と分かっていてもそれを解除しなかったのである。

もちろん東方不敗にそんな事は分からない。
分からないが――――、

「……愛用の布やワシの服を消し飛ばしておいて、ワシだけを生かすとは奇妙な技だが――――、な」

……その事実は雄弁にカミナの意思を物語っていた。

舐められた訳でないのはこれまでのやり取りで十分分かっている。
それ故に、カミナの気性はとてつもなく心地よいものに感じられた。

あれほどの一撃ならば、鎖に捕らわれて無防備になった自分自身を殺すことさえできたかもしれないのに、だ。

……尤も、実際にはいくら非殺傷設定とはいえ東方不敗がこれほどまでに平然としていられるのは普通には考えられない。
気絶一つすらせずにここまで辿り着いたのは、東方不敗の運と、何より力量によるものに他ならないだろう。

東方不敗は月の下、その身一つで高々と笑う。
手には、金色に光る鎖をぶら下げて。


――――今にも目の前にドリルが迫るその瞬間、東方不敗は己を絡め取る鎖を握り、抗いの意思を発揮した。
その直後のことだ。
自身の体が緑の光に包まれたかと思うと鎖が東方不敗の意思のままに動き、Vの字をした異形の頭をドリルに対する盾にしたのである。

100あばよ、ダチ公(後編) ◆wYjszMXgAo:2008/04/25(金) 23:39:43 ID:hmy7UzJE0
……東方不敗は覚えている。
Dボゥイの体に浮かび上がった螺旋の力と、それを注ぐことで光を放った剣の事を。
その時と同じことが起こったのだ。

既に生命活動を停止し消え去ろうとしているビクトリームに天の鎖を制する力はなく、支配権を奪い取った。
そこに螺旋の力を流し込み、ビクトリームの頭が完全にこの世界から消失するまでの間、直撃を防ぎきったのである。

理解する。
自分自身も、螺旋の力に目覚めたことを。
そして、この鎖はとても強力な武器なのであると。
意のままに動き、そしてまた、あの一撃で傷一つ負わないほどに頑強なのだから。

また、もう一つ。
東方不敗の肩に刺さったままのドリルも、あの攻撃に耐え抜いた。
丈夫な武器を持っておくに越したことはない。

愛用の布を失って、途轍もない疲労を背負ったとはいえ収穫は豊作だった。
――――故に、笑う。
自身の手にした力を喜び、その心地よさに浸るために。


……とはいえ、流石にしばらくはまともに動けないだろう。
体を回復させ、治療する必要がある。
これからどこに向かえばそれは成し遂げられるだろうか。
失ってしまったとはいえ、地図は大体を記憶している。

考え、思い当たった所は――――、

「フム、空港に向かうか」

空港とは、多くの人が出入りするが故にそれなりの設備が整っている。
もちろんその中には薬や医療器具も含まれているだろう。
これから旅立とうとする人への商品もあるし、気分を悪くした人のために簡易な病室もある。
休憩場所としても薬の補給にももってこいだろう。
薬は空輸されることも多いため、コンテナなどに収められている可能性もある。

また、移動手段の確保にも役立つだろう。
東方不敗はこの辺りが戦場からだいぶ離れていることをその鍛え抜かれた感覚で察知していた。
体を休めるには非常に都合がいいが、その分戦線に向かうのは手間になるはずだ。
空港という性質上、様々な乗り物が置かれていると推測。
それこそラッドに与えたようなフラップターも手に入るかもしれない。

他にも何かが隠されている可能性も、十分あるのだ。

……そこまで考え、近場が禁止エリアになることを思い出す。
早めに向かったほうがいいだろう。


「クク。実に面白いな、螺旋王。貴様が求めるこの力――――悪くはない」


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