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仮投下スレ

1名無しセカンド:2007/09/12(水) 22:23:24 ID:0Uwi1m8E0
OP案、その他何らかの事情で本スレ投下の前に作品を出しておくためのスレです。

951第四回放送案C ◆LXe12sNRSs:2008/03/27(木) 08:29:31 ID:I.SheTVI0
また、廻ったな。
貴様らがその地に足を踏み入れてから、24時間が経過した。
一日をこうも長く感じた者はおるまい?
時を重ねるごとに増す怨嗟の声は、私の下にもしかと届いている。
もっとも、その怨嗟を愉悦としている者は私ではなく――何人かの当事者たちだろうがな。
特に、この六時間は壮絶であった。
仲間の窮地に駆ける者、愛を唱える者、死を前に立ち向かう者……
散っていった者たちも含め、実に様々な成長を見せてくれる。

そう――人間は進化を止められぬ生き物だ。

この言葉、心に刻みつけておくがいい。
自らが、螺旋の構造に捉われた人間であると信じるならばな。

さて、死者の発表に移る。


(死者)


以上、××名。
次に、禁止エリアだ。


(禁止エリア)


以上だ。
……闘争はやまぬ、な。
結構。それでこそ、貴様らを一同に会した意味がある。
そう、特に――相次ぐ螺旋力の覚醒を目にしているときなど、心が躍る。
あの輝きは実に美しいものだ。この身が滾るほどにな。
だがまだだ。まだ足りん。
私は知っている。
人間には限界こそあれど、それを突破する術があるとな。
各々、切磋琢磨し合うことを心がけるのだな。
では、争いを再開するがいい。

952W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/29(土) 23:50:31 ID:tF5RYsWk0
「さて」

全員が席に着いたのを見て、明智がバカに神妙な声を出す。
広すぎる会議室の端っこ、そこに寄せ集めた机の小島。
私達はその小さな島を囲んで四人、お行儀よく席についていた。

上座には明智。ホワイトボードを背負って全員を見据え、議長役をヤル気満々の姿勢。
滲み出るを通り越して溢れ出してる自信が相変わらず鼻につくが、それでも嵌って見えるあたり、流石は天下のエリート様だ。
明智の右には高嶺清麿。目で資料を追いながら、耳ではしっかり明智の話を待ちわびている。
見た目はがきんちょなのに、その振る舞いには何というか、不思議な風格があった。
隙のなさがあった、と言い換えてもいいかもしれない。
やっぱ、プロフィールに天才少年とか書かれちゃう奴はどっか違うってことなんだろーか。
まあ、んなこと言ったら私だって、昔は散々天才天才と持て囃されたモンだけど。
そのさらに右、明智から一番遠いところには小早川ゆたか。こっちは正真正銘、フツーのがきんちょだ。
こういう場にはあんまり慣れてないのか、あからさまに緊張している。
「まじめにお話しなくっちゃ!」って気負いが姿勢からも目線から伝わってきて、何だか微笑ましい。
アニタにもこんぐらいの可愛げがありゃあいいのにと思いかけて、やめた。
そんなこと、今更言ってもしょうがないことだから。
私は明智の左側にいる。

「時間も惜しい、早速始めましょう。
 螺旋王という悪魔が仕組んだこの殺し合い……そこに潜む謎の解明をね」

資料を手に立ち上がり、明智がいよいよ語りだす。
その様は何だかミステリードラマのラストで事件の真相について話す探偵のようで。
ああ、そういえばコイツ本職だったな。
私は一瞬遅れで思い出す。

「高嶺君が得た情報と私達がこれまでに得た情報……それらを総合し、推理した結果、私は一つの結論に辿り着きました」

ごくり、と誰かが唾を飲む音が聞こえた。

「私の出した結論はこうです。
 螺旋王は私達が一人でも多く、この殺し合いからを脱出することを期待している」





私は明智が何を言ってるのか分からなかった。
出てきた結論があまりにも突飛過ぎて「何言ってんだよ」の一言も言えなかった。
だってそうだろ?
螺旋王はあのいけすかないハゲ親父は始めに私達に何て言った?
『お前たちは今から全員で、最後の一人になるまで殺し合うこと』
そう言ったんじゃなかったか?
それがどうしてそういう結論になる?
確かに、螺旋王の本当の目的が殺し合いそのものではなく、その途中にあるってのは分かった。
だけど、いくら何でも『脱出を期待している』ってのは……

横を見ると、ゆたかが私と同じような困惑した顔で私を見ている。
そりゃそーだ。
誰だってこんなことを聞かされればそんな顔になる。

「……もちろん、説明してくれるんだろうな」

烈火のごとく明智を問い詰めたい衝動をどーにかこーにか理性で押さえ込み、私は声を抑えて訊く。
普段なら喚き散らしていたであろうところを抑えられたのは、今までの明智を見ているからか。

953W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/29(土) 23:51:17 ID:tF5RYsWk0
「ええ、もちろんですよ。高嶺君」
「はい」

明智が促すと、清麿はバッグをごそごそやり、中から一つのビニール袋を取り出した。
縛ってあった袋の口を開け、中身を机の上にぶちまける。
出てきたのは、鈍く光を反射するいくつかの金属片と、三つの黒いビー玉。

「えっと、何ですか?これ?」
「分解した首輪のパーツさ」
「!!」
「これが!?」

イメージと違うなというのが第一印象だった。
清麿が病院で死んだ奴の首輪を外し、分解に挑戦したっていうのは私も聞いてた。
てっきり、もっと原型を残した形で外れるもんだと思ってただけに、このバラバラっぷりは予想外だ。

「この首輪はオレが病院に安置してあった死体の首から抜き取ったものだ。
 分解の方法はいたってシンプル」

清麿はそう言うとバッグから首輪をもう一つ取り出して机に置き、空いた手にプラスドライバーを構えた。

「シールを剥がしたところにあるネジにプラスドライバーをあて」

プラスドライバーと首輪を同じ手に持ち、もう一方の手でネームシールを剥がすと、下からプラスの頭を晒したネジが顔を出した。
なるほど、そりゃ確かに盲点だ。シールなんて気づきゃ簡単なことなのに。
映画館の近くで首輪を拾ったときに気づけなかった自分を何だか馬鹿みたいに思いながら、私は手を首の後ろに廻した。
爪をちょっと立てて自分のをひっかくと、そこにも確かな段差。
あー確かにあるわ。
ふと目を上げると、自分と同じことをしているゆたかと目が合う。
何か知らんが恥ずかしい。

「一気に回す」

清麿がドライバーをネジにあてがって左に回すと、首輪はあっけなくバラバラになった。
それが今まで一つのモノだったのが嘘みたいだ。
部品が机に当たる渇いた音が響く。

「なるほど。で、これと螺旋王が私達に脱出して欲しがってるってこととがどう結びつく?」
「せっかちなのはよくないですよ菫川先生。更年期ですか?」
「うっさい!まだ私はそんな齢じゃない」
「それは失礼。では、続きをお願いしますよ高嶺君」
「ああ」

お得意の嫌味で私の追及を逸らした明智が続きを促すと、清麿は右手にドライバーを持ったまま、腕を首の後ろに回す。

「見ての通り、所有者のいなくなった首輪はドライバーを使えば簡単に外れる。
 そのことを知ったオレは次にこう考えた。
 『じゃあ、まだ生きている人間の首に嵌ってる首輪のネジを回したら、一体どうなるんだろう』ってね」

ゆたかの顔色が変わったのが分かる。
私の背中にもゾクっときたものがある。
明智だけがいつもの微笑を崩さずに清麿を見守っていた。

954W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/29(土) 23:52:01 ID:tF5RYsWk0
「それを知るためにはどうすればいいか?簡単だ。回してみればいい。
 こんな風になッッッッ!!!!!」

気合一閃。
清麿はドライバーを力強く掴むと、自分の首輪へ差しこみさっきよりも勢いよく、捻った。
だが、さっきと違ってネジは回らない。首輪もバラバラになったりしない。
歯を食いしばってふんばっている清麿の腕だけが生まれたての子鹿みたいにプルプル震えている。
おい、もうよせよ、私がそう言おうとした刹那

『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』

あの男の声が聞こえた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

同時に清麿が悲鳴をあげる。
体中をびくびく痙攣させて、ドライバーを取り落とし、スッ転ぶ。

「高嶺くんっ!?」
「おい、アンタ、大丈夫か!!?」
「……心配ない」

床に蹲った清麿が腕をあげ、駆け寄ろうとしたゆたかを制する。
清麿は上げた腕をそのまま机の端にかけると、そこを支えに一気に立ち上がった。
多少、まだ足は震えてるみたいだが、その動きはおおむねしっかりしている。
どうやら命に別状はないみたいだ。
私はほっと息をついて、乗り出していた体を元に戻した。

「……知ってたのか」
「ええ。あなた方がイリヤ君を見送りに行っている間に聞きました」
「………………『螺旋力なき者よ』か」
「ええ……私の言ったことの意味、もうお分かりでしょう。
 首輪についたネジを見つけ、回した者に向けて言い放たれる言葉が『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』。
 言い換えればこれは『螺旋力を持たない者が首輪を外そうとするな』ということです。
 つまりこれは裏を返せば――」
「『螺旋力さえあれば首輪は外れる』。そう言いたいってことか」
「フッ、さすがは菫川先生、ご名答です」

明智は目を細め、もったいぶったような含み笑いを漏らす。

「螺旋王は私達をこの区画に閉じ込め、最後の一人になるまで殺し合いをすることを命じました。
 首輪はその殺し合いの間、私達が主催者に歯向かうことを禁じ、また同時に脱走を封じるための枷だったはずです。
 ところが、その枷には何と囚人自らが外すことができるように、わざわざ鍵がつけてあった。
 一方の手で人を閉じ込め、もう一方の手で解放の手助けをする。
 これはとても不合理なことと言わざるを得ません
 螺旋王はどうしてわざわざそんなことをしたんでしょう?」
「……螺旋王の本当の目的が閉鎖空間での殺し合いじゃないから、か」
「そのとおりです。
 彼の目的は私達を閉じ込めることでも、また、殺し合いをさせることでもない。
 螺旋王の真の目的は殺し合いの過程で生まれる私達の変化を観察することにあります。
 そして、その変化とは螺旋力の覚醒のことを指していると見てまず間違いない。
 ここまではいいですね?」
「ああ。途中こそ違うけど、ここまでの結論はあんたが今までに言ってたのと同じだしな」

そうだ。ここまでじゃ今までと同じ。
『螺旋王が参加者に脱出して欲しがっている』とまではとても言えない。
私が欲しいのはその先だ。

だけど、明智はすぐには話し出さず、マグカップを取ってコーヒーをひと啜りした。
ずずずという音が静かな会議室にやけにうるさく響く。
いつの間にかゆたかも清麿も元の席に戻り、次の言葉を目線で促していた。

「――さて、そうなると問題になってくるのが『一体、螺旋王はどうやって私達の螺旋力を測定しているのか』ということです。
 もし、参加者の一人が螺旋力に覚醒したとしても、それを螺旋王が分からなければ実験の意味がないですからね」
「いや、螺旋王は常に私たちのことを監視してるんだろ?だったら見てれば分かるんじゃ……」
「なるほど。それも一つの考え方ではあります。
 しかし、せっかくの実験です。どうせならばもっと詳細なデータが欲しいとは思いませんか?
 目覚めたか、目覚めていないかという1、0のデータではなく
 どんな人間が、どんなときに、どれくらいの螺旋力を発揮したかが分かるような、詳細なデータがね」
「そういうのがあれば便利だと思いますけど、そんなことできるんですか?」
「いや、まあ、カメラも通さず会場を監視できるかもしれないような奴なんだから、何ができてもおかしくないと思うけど……」
「いいえ、監視に用いられているような超技術や魔法を使わなくても、詳細なデータを知ることはできますよ。
 首輪に計測装置を仕込めばいいんです」

955W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/29(土) 23:54:57 ID:tF5RYsWk0
なるほど。確かにそれはあり得る。
いや、螺旋力が目覚めることが首輪を外す条件なら、むしろ、そう考えたほうが自然ですらある。
首輪自身に着けてるヤツの螺旋力を測る機能がなけりゃ、この条件は実現しない。

私は再びすべすべした首輪に手を遣った。
ここから私のデータが逐一螺旋王に送られてるのかと思うと、かなり気分が悪い。
そのとき、金属の表面をなぞっていた私の指がちょっとしたはずみでさっきのシールに触れた。
あれ、ちょっと待て。

「……でも、よく考えたらそれっておかしくないか?螺旋力が目覚めたらこの首輪外せるんだろ?
 せっかく測定するべき螺旋力が目覚めたのに、そのときには取り外し自由ってんじゃ意味ねーよな?」
「『螺旋力が目覚めれば首輪が外せる』というのは単なる比喩でしかありません。
 おそらく、実際にはある人間の螺旋力の数値が一定を超えたときにはじめて首輪が外れる仕組みになってるんでしょう」
「外した奴の螺旋力は測らなくていいのか?首輪外せるってことは螺旋力強いんだろ?」
「確かに一見するとおかしく見えます。
 でも、逆にこう考えることはできませんか。『首輪を外せる人間の螺旋力はもう測定する必要はない』」
「何でそうなる?」
「首輪が外せるほどの螺旋力があればこの実験の対象者としてはもう『合格』だからですよ」
「『合格』ぅ?」

思わず表情が歪む。
んーどうにも明智の話が……分かりそうで分からない。

「菫川先生、こう考えてみてくれませんか」

腕を組んで渋い顔をしていると、これまで黙っていた清麿が口を開いた。

「鼠を迷路に何匹か放り込んで、ゴールまで辿り着けるかを見る実験がありますよね?
 今、オレ達参加者を鼠、迷路をこの殺し合いだと考えてみてください。
 オレ達鼠は生き残るため、必死でこの迷路、つまり殺し合いの中を走り回ります。
 この状況で、オレ達が迷路から出る、つまり、殺し合いから解放されるにはどうしたらいいですか?」
「そりゃあ……ゴールに着けばいいんじゃないの?」
「そのとおり!じゃあ、この殺し合いにおけるゴールって何ですか?」
「えーっと、それは……最後の一人になること……かな?」
「残念だけど不正解。実験者である螺旋王は実験の目的に合うようにゴールを設定するはずです。
 菫川先生、この殺し合いの目的は何でした?」
「……明智の理屈が正しいとするなら、参加者の螺旋力を目覚めさせること……あ、ってことはそれがゴールになるのか」
「正解!じゃあ、最後の問題。螺旋力が目覚めるとオレ達には何ができるようになりますか?」
「何が……って首輪が、あ、ああ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!」

私は思わずのけぞって大声を上げてしまった。

「ご理解いただけたようですね、菫川先生。
 そうです。首輪を外した参加者はその時点でゲームクリア。
 彼にとっての実験、即ち殺し合いはそこで終了します。

 この殺し合いは最後の一人を決めるバトルロワイヤルなどではありません。
 螺旋力が覚醒した者から抜けていく勝ち抜けゲームです。
 首輪は言わばその勝ち負けを判定するためのテスター。試金石。
 そうでなければ、螺旋王が首輪を解除できる仕組みをわざわざ組み込んだことの説明がつかない。
 首輪を外した参加者をも交えて殺し合いを継続しようというのはあまりに不合理。
 もし、そのようなことを行おうものなら
 首輪が外れた参加者はたちまちのうちに禁止エリアに逃げ込み、首輪をつけた参加者の手は及ばなくなるでしょう。
 そもそも、首輪なしでも何ら今までと変わりなく殺し合いが進行するなら、始めから首輪などつけないはずです。

 これでもうお分かりでしょう。
 螺旋王は私達参加者が一人でも多く螺旋力に覚醒し、殺し合いから脱出することを期待しています」

立ち上がり、腕を振るって明智が熱弁する。
その姿は数々の難事件を解決してきたエリート刑事のそれにふさわしく、何だかバカに迫力があった。

956W.O.D 〜Wisemen On Discipline〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/29(土) 23:55:29 ID:tF5RYsWk0
「……大筋は理解した。けど、一つ質問がある。
 首輪を外せば殺し合いは終わるって言うが、具体的にはどうなるんだ?」
「パターンとしては二つ考えられると思います。
 まず一つは首輪を外した瞬間にこの会場から即座に除外されるパターン」
「即座に除外?できるのか、そんなこと?」
「先生、よーく思い出してください。
 私達はどうやってこの会場まで連れてこられましたか?」
「……そうか!テレポート!」
「ええ。おそらく、あの空間転移を行うための装置がこの首輪には組み込まれているんでしょう。
 首輪が外れる瞬間、もし参加者が生きていればある場所に向けて飛ぶようあらかじめセットされていたとしたら……」
「首輪が外れて大喜びした一秒後には螺旋王の檻の中に逆戻りってわけか。悪趣味だな」
「檻に引き戻された次の行き先が第二の実験場か、解剖台か、それとも別の何かかは分かりませんが
 そのまま元の世界に還してもらえる可能性は限りなくゼロでしょうね」

私はもう一度、首輪に手を触れた。
その感触は前よりも冷たく、不気味。
首輪を嵌められた直後にも感じた、抜き身の刃を突きつけられるような怖気が、今、再び私を貫く。

「……分かった。で、もう一つは?」
「もう一つは、首輪を外し、第一の実験である殺し合いが終了した瞬間、その場で第二の実験が開始されるパターンです。
 この会場から抜け出すには首輪を外すことにプラスして、何か別の条件が必要だと言い換えることもできるでしょう」
「……首輪の解除は第一関門。本当のゴールは別にあるってことか」
「ご明察です。
 それが何なのか、今の時点ではっきりした事は言えません。
 ですが、螺旋王の目的から考えれば、螺旋力に関する何かしらであることはまず間違いない。
 あるいは『エド』君の言っていた『お宝』とやらが、その正体なのかもしれませんね」

私は今までの発言を要約し、逐一手元のメモに書き留める。
まとめていくうち、頭の中で情報が整理されていく。
なるほど。この殺し合いは螺旋王が螺旋力を収穫するための人間牧場ってわけかい。
出来のいいヤツだけさっさと収穫して、出来損ないは競争の末、死ぬに任せる。
ハッ、何とも人をコケにした話じゃないか。
紙の上を走るシャーペンが圧されてギッと鳴った。

957W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/29(土) 23:58:20 ID:tF5RYsWk0






「しっかし、女子トイレが建物に一つしかないってどうよ?
 男女差別も甚だしいっつーか。なあ、ゆたかもそう思わない?」

辛気臭い刑務所の廊下を私とゆたかはとぼとぼと歩いていた。
向かう先は女性用トイレ。
おそらく男囚用だったと思われるこの監獄に一つしかない、女達のある意味パラダイス。

「しょうがないですよ。うちの学校の旧校舎とかもそうでしたし」
「はーっ、これだから古い建物は困るんだ!
 しかもあるのが三階ってどういうことよ!?
 普通は来客用に一階に作るだろうが!?」

長いミーティングを終えた私達は一旦解散し、休憩をとっていた。
ほどよい緊張から解放された後っていうのは、どういう理屈か知らないが何かもよおしてくる。
それは老いも若きも変わりはなく……そんなわけで、私とゆたかは女同士『ツレション』と洒落こんでるってわけ。

「……でも、凄いですよね」
「ふぇ?何が?」

唐突な話題の変化に思わず変な声が出る。

「菫川先生、凄いですよ。
 あんな風にいろいろ考えて、いろいろ言えるなんて、凄いです!
 私なんて、途中からはついていくのが精一杯で……」
「……別にすごかないよ」
「そんなことないです!
 菫川先生だけじゃなくて、明智さんも!高嶺君も!
 首輪がどうとか、螺旋王さんの目的がどうとか、わたし、考えたこともありませんでした。
 イリヤちゃんだって、一人で怖い人のところに説得に行ったりして、すごく立派……
 ……それに比べたら、私なんて何もできなくて……」

ゆたかの声が曇る。
足取りが鈍くなり、目線は下を向いてしまう。
心なしか、腕も震えているのが分かる。
さっきまでの気楽な空気はどこへやら、だ。

ああ、そうか、と思う。
ゆたかが何を考えてるのか。
ゆたかがさっきの会議に出ていて何を思ったか。
私には痛いほどに分かった。

「ゆたか」
「……なんですか」
「何もできないのは私も一緒だよ」
「……そんなことっ!」
「本当だよ。
 私は明智や清麿みたいに頭がいいわけじゃないし、イリヤみたいに魔法が使えるわけでもない。
 それに、ゆたかが一緒にいたDボゥイって人みたいに腕っ節が強いわけでもない」

そう、何もできない、何もできてないのは私も同じだから。
だけど……

「でも、菫川先生はちゃんと明智さんのお話についていってました!
 おかしいと思ったところはちゃんと質問したりして。
 それができるだけでも……」
「そんなのは慣れの問題さ。
 私の方が事前に知ってた情報の量が多かったからそれだけ多くのことが言えた。そんだけのことだ」
「でも……」
「でもな、ゆたか」

しゃがみこみ、小さなゆたかの肩に手を乗せて、真っ直ぐ目を見る。
これだけは言わなきゃいけないと思ったから。

「いつまでもできないままでいちゃいけないんだ。
 あんたも、私もね。
 こんな私たちにだって、できることはある。
 今までの自分を振り返ってみな。自分のできること、必ずあるはずだ。
 そいつを見つけて、できるようにしなくちゃ。
 例えば……あんたはイリヤの無事を祈ってやったじゃないか。
 あれだって十分、あいつの助けになってるはずだ。
 だから、もう、そんな顔すんな。…………ほら」

958W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/29(土) 23:59:41 ID:tF5RYsWk0
袖口で、零れかけた涙を拭ってやる。
すると、ゆたかも自分が泣きそうなことに気づいたのか、慌てて目頭に手を遣り、涙を拭き取った。

「ごめんなさい、菫川先生。
 何か情けないこと言っちゃって」
「いいって、いいって。
 誰にでも愚痴りたくなることはあるさ」
「それじゃあ」
「ああ、出すもん出して、スッキリしよ」

やっと見えてきたトイレの入り口をくぐり、私たちはそれぞれの個室に入る。
バタンと、ドアの閉まる音が狭い室内に響いた。





(あ〜しかし、私も頑張らなきゃダメだよなあ、マジで)

穿いてたモンをおろし、便器に腰掛けてから、私は大きな溜め息をついた。
ゆたか相手に随分と偉そうなことを言ったが、実際は人のことを言えた義理じゃない。

(ゆたかの言うとおり、明智も清麿も、イリヤもすごいよ。
 あれだけのことをサラっとやってのけるんだから)

イリヤは危険人物が密集している映画館に自分で志願して行った。
大切な人を救い出し、元の世界での敵を説得するために。

明智と清麿は首輪や各種の資料を研究し、あれだけの推理を展開してみせた。
この後は『エド』とやらが施設に情報を送った方法を調べるつもりらしい。
もし分かれば、同じ方法を使ってさっきの仮説を流し、生き残りの参加者に戦いを止めるよう促すつもりだそうだ。
また、首輪解除の効果をはっきりさせるため、螺旋力による解除を実際に試してみることも検討中。
確かに、首輪を外したら実際どうなるのかがはっきり分かれば、明智の言う『螺旋力を材料にした実験中止』の余地も出てくる。
できることはまだまだあるって感じだ。

それに比べて私はどうか?
多分、私が今やらなきゃいけないことは、螺旋王の筋書きを覆すシナリオを作ることだ。
私の本で奴の計画をひっくり返し、物語をハッピーエンドに導くことだ。
それを実現する小説を書くため、私はもうずっと頭を捻り続けている。
殺人者から逃げながら、明智の話を聞きながら。

でも、ネタが浮かばない。
こういうときに限って、一行たりとも書くべき文章が出てこない。
書きたいものはある。
何かこう、漠然としたものが胸に溜まってウゾウゾしてるのは分かるんだ。
でも、それが言葉にならない。形にならない。

(あーっ、クソッ!!
 これじゃ自分の部屋でパソコンの前に座ってるのと変わらないじゃないか!
 しっかりしろ!菫川ねねね!!)

せっかく一人になれたんだ。
この機会に集中して考えてみよう。

そう思って目を閉じ、意識を集中し、頭をわさわさと掻く。
脳みそのギアを入れ、中身を撹拌し、物語を抽出しようと試みる。
心臓あたりに溜まった情念を、小説という鋳型に嵌めて、吐き出そうと試みる。
試みる。
試みる。
試みる。

――結局私は出すものを出し終わった後も、文章の一切れたりとひねり出すことはできなかった。

959W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:00:24 ID:hN5CjMOE0





錆びかけの蛇口を捻り、水を出す。
手を晒すと、凍るような冷たさだった。

「ゆたか〜」

手を洗いながら呼びかけるが、返事は返ってこない。
どうやら、私がうんうん唸っている間に早々と出てしまったらしい。
そういえば、ついつい長篭りしてしまった気がしなくもない。

(あ〜〜まずったなー。便秘と勘違いされたかね、こりゃ)

そんな馬鹿なことを考えながら、廊下に出る。
けど、そこにもゆたかの姿はない。
暗く、陰鬱な白い廊下だけが延々と続いている。

「ゆたか?」

待ちかねて先に帰っちゃったんだろうか。
そう思い、明智たちのいる部屋へ帰ろうと、踵を返した矢先。

「きゃっ!?」

というゆたかの短い悲鳴と
金属で殴りつけるような鈍い音が響いた。

「ゆたかっ!!」

私はその音に何か危険なものを感じ、音がした方へとダッシュする。
廊下を行きに来た方向へ少し走り、角を曲がったそこはエレベーターホール。
やはり薄暗いそこには、飾りっ気ゼロのエレベーターが二基あった。
見ると、手前側のエレベーターの扉が開いている。

「ゆたか!?」

閉まりかける扉を手で押さえ、私はエレベーターの中に飛び込んだ。
奥の壁にもたれかかるようにしてゆたかはいた。
誰かに殴られたんだろうか。頭を押さえて体を震わせている。
円錐型のアクセサリが床に落ちてはいたが、おかしなことに犯人の姿は影も形もなかった。

「ちくしょう!どこのどいつだ!?」

激昂し犯人をとっ捕まえてやろうと走り出す。
しかし。

「……待……って、センセ……」

ゆたかの小さな手が裾を掴み、私の動きは止められた。

「大丈夫かゆたか!?誰にやられた!?」
「ちが……うの……私……ころんで、階のボタンが、変に」
「階のボタン?」

その言葉に反応し、ふとそちらを見る。
そこにはあからさまに不自然な大きく、赤いボタンがあった。

960W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:01:36 ID:hN5CjMOE0





頭の痛みが収まるのを待って、私はゆたかにことの次第を尋ねた。

「おい、一体、これはどうなってんだ?」
「先生、心配かけてごめんなさい」

ゆたかが語ったところによると、真相はこうらしい。

ゆたかは自分の用事を済ませた後、トイレの外でしばらく私を待っていた。
しかし、私が一向に出てくる様子がないので、先に帰ろうと廊下を歩き始めたところ、行きには見逃していたエレベーターを発見した。
薄暗い階段を一人で降りていくことに若干の心細さを感じていた彼女はこれ幸いとエレベーターを呼び、これに乗る。
ところが、一階のボタンを押し、明智たちのところへ帰ろうとしたところで、疲れが出たのか急にめまいに襲われてしまった。
ぐらついた拍子にボタン下の金属板に強く体をぶつけたところ、突然、金属板が手前に勢いよく開く。
板に押されて吹き飛ばされた彼女は壁に頭をぶつけ、悲鳴をあげたところで私が気がついた……というわけらしい。

確かに見れば、行き先指定ボタンの下部にある金属部がごっそりこちらにせり出している。
しかも、せり出した部分の上には、これ見よがしな赤いボタン。
怪しい。
怪しすぎる。
もう、ここまで来るとボタンの横に“Danger”とか入ってないのが逆に不自然だ。

「ゆたか、階段で帰って明智にこのことを伝えてくれ」
「え……菫川先生はどうするんですか?」
「私はこのボタンを押してみる」
「ええ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「しーっ!声が大きい!!」
「で、でも、それって危ないんじゃ……」
「大丈夫。螺旋王の目的から考えて、事故死するような危ないボタンは置いたりしないはずっ!多分」
「多分って!」
「いいから言うこと聞く!」
「あう〜」

何と言うか、我ながら無茶な説得でゆたかを帰らせると、私はボタンに向き直った。
何でこんなことを言ってしまったのかは分からない。
普通に考えれば、明智や清麿に報せ、全員で確認してから動くのが筋だろう。
けど、それをしなかったのは何故か。
あるいは、何もできない自分に焦っていたのかもしれない。
あるいは、好奇心が勝ったのかもしれない。
――あるいは、それは作家としての直感だったのかもしれない。


何にせよ、私は息を吸い込むと迷うことなく手を伸ばし、ボタンを押した。


途端、扉が機械音を響かせながら閉じ、エレベーターは動き出した。

「エレベーターに隠された、隠しボタン、ねぇ」

私には奇妙な確信があった。
そう、私にとって、エレベーターの秘密は馴染みのあるものだったから。
神保町の秘密の本屋。
センセーに教えてもらった、センセーと通った本屋。
センセーがいなくなったあとも、センセーの本を買うためしばしば立ち寄ったあの本屋。
エレベーターの秘密、隠された秘密の階といえば、私にとってはあそこしかない。
もしかしたら、あの本屋のことを知っていたからこそ、私はボタンを押すことを躊躇わなかったのかもしれない。

案の定、エレベーターは地下を突き破る。
本来、あるはずのない地下へと降りていく。

チーンという音が鳴り、扉が開く。
しかし、そこにあったのはあの懐かしい本屋じゃなかった。
そこにあったのは――――闇だ。

961W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:02:13 ID:hN5CjMOE0





闇。
そこにあったのは一面の闇だった。
手を触れることのできそうな、掬えそうなほど濃い闇。
エレベータは地下を突き破り、地獄に落ちた。
そう言われたら信じてしまいそうなほど、目の前は絶望的な闇だった。

半ば予想していた未来を裏切られ、私の額には冷たい汗が浮かぶ。
ごくりと、唾を飲み込む喉の音さえ響くほど、ここは静かだ。

(な、何なんだよここはっ!?)

今更ながら、懐中電灯を持ってこなかったことを心底後悔する。
取りに帰ろうか、という考えが一瞬、頭を掠めたが、すぐに首を振って否定する。

(あんな無理言って出てきたんだ、ここで引いちゃあ、女が廃る)

我ながら無駄な男気、いや、女気か?と自分で自分に突っ込みを入れつつ、私は足を一歩前に踏み出した。

ふわりと、体が浮く錯覚を感じる。
エレベーターの光が届く範囲を出て、一歩一歩。
踏み込む闇は奈落のそれと多分変わらない。
足を踏み出すごとに、脳が落ちると誤解する。
闇から出ずる危険を恐れて、本能が神経を過敏にさせる。
上下左右どこもが奈落。
動いてないのに落ちている感覚。
歩いているのか、浮いているのか分からない。
手を突っ張って、自分の位置を確かめようと思っても、壁がどこにも見当たらない。

(ぐっ、思ったよりヤバイ!?やっぱ、ここは一遍、引き返して……っ?)

私らしからぬ弱気が体を蝕んだそのとき、闇に塞がれた目が何かを捉えた。

(あれは……何?)

遥か前方。
黒一色に塗りつぶされた視界の中に一箇所だけ、緑の点がある。
その点はまるで闇に潜む怪物の目のように動かず、じっとこっちを見つめている。

怖い、という感情よりも、見たい、という感情が勝った。
私はまるで誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように、ふらりふらりと光に向かう。
幸い、足元は人工的に均されているようで、引っかかるようなものはない。
近づくにつれ、緑の点が徐々に大きく、多くなっていく。
一つだった点が二つに。二つだった点が四つに。
夜光虫みたいだな、と私は思う。
水を掻くと、その軌跡にあわせて光る夜光虫。
その光が増えていく様をスローで再生してるみたいだ。

さらに近づく。
既に緑の光は点じゃない。
何か、明らかに人工の何かが緑色の光を発している。

(これは……何だ?)

私が記憶の底からその答えを引き上げる前に、視界が急に開けた。

962W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:03:07 ID:hN5CjMOE0
(メロン、ジュース?)

私が始めに抱いた感想はそれだった。
視界一面に、光るグラス入りのメロンジュースが並んでいる。ご丁寧にチェリーまで浮かべて。
美味そうなメロンジュースたちはしかし、重力の法則に従う気がないらしく、巨大な球形の壁にびっしりと貼り付いている。
その中身を一滴もこぼすことなく。
もし、この世にメロンジュースが採れる畑があるなら、丁度、こんなようなものに違いない。
多分、私がはじめに歩いていた闇は廊下だったんだろう。
エレベータとこの球状のデカイ部屋を繋いでたってわけだ。
そしてその廊下は部屋の中でも途切れることなく続いていて、この空間のど真ん中、球の中心に向かって延びていた。
私はその上を導かれるように歩く。

(メロンジュースの海に降り立った美人女流作家……止めた。シュールにもほどがある)

部屋の中に完全に入ってしまい、球の半径を歩く段になってくると、段々目が慣れてきて、周りがクリアに見えてくる。
そうなってはじめて、私は今までメロンジュースだと思っていたものの正体を知った。

(これって確か!!)

私はそのメロンジュースたちを支給品リストで見たことがあった。
忘れるはずもない。
支給品の枠を三枠もとっていて、記述も多かったから印象に残っている。

「シズマ管……」

確か、そういう名前だったと思う。
シズマ博士って人が発明した完全無公害、完全リサイクル可能のエネルギー源、シズマドライブ。
でも、それには重大な欠陥があって、使い続けると、ある一定の時点で地球上の酸素を全て破壊しつくしてしまう。
この殺し合いに支給されてる三本はその欠陥を取り除くための、言わば修理装置。
で、修理の効果を発揮するためにはそのために作られた特別の機械に設置する必要が……っ!

「まさか!」

目を宙に泳がせ、支給品リストの記述を必死で再生した私は、気づいた。
だとするとここは!!

今までのぼんやりとした歩みを止め、私は全力で走り出した。
球の中心、廊下の終点を目指して。
中空に浮かんでいる廊下が足の作る衝撃に耐え切れずに揺れるが、そんなこと構やしない。
私の予想が正しければ、多分、ここには……

「あった……」

球の中心には私の思っていたものと同じものがあった。
多分、予備知識がなければ何に使うんだかさっぱり分からない機械。
そしてその上に空いた三つの穴!

「やっぱり……ここがアレを起動させるための場所なんだ」

凄いものを見つけてやった!という興奮が体を包んだのは一瞬だった。
すぐに冷たい疑問が背中を這い上がる。

これがここにあるってことは、螺旋王はアンチ・シズマ管をここで使うことを想定してるってこと。
アンチ・シズマ管の使用を想定してるってことはもしかして……

「この会場でも酸素の破壊が起こる……ってこと?」

私も明智もこれまでアンチ・シズマ管のことを「思わせぶりなだけのハズレ支給品」と判断してきた。
何せ、この殺し合いに支給されているもののなかにはハズレが多い。
ライトノベルだの、絵の具だの、ヘッドホンだの、ブリだの……一番酷いのはお菓子の箱に割り箸をつけただけ玩具という体たらく。
これだけ見てると、螺旋王は本当は殺し合いをさせる気なんかないんじゃないかと思えてくる。
……って、でも、今回の明智の推理で本当にそうだったことが分かったことになるのか。
何だか……まあいい!!
とにかくそういうことだったから、アンチ・シズマ管もその中の一種だろうと考えて思考の脇に追いやってきた。

だが、ここにそれを起動させる装置があるとなれば話は別。
アンチ・シズマ管は実用品として支給された可能性がグンと高くなり、それに伴って

「アンチ・シズマ管を必要とする危機が実際に起こる可能性も高くなる……か」

くそっ!
それって実はかなりやばいんじゃないのか?
酸素が破壊されるなんてことになったら、起こる結果は一つ。
螺旋力もへったくれもなく、皆まとめてあの世行きだ。

この殺し合いが始まってから、もうすぐ二十四時間が経つ。
酸素破壊のタイムリミットがいつまでかは知らないが、現実に起こりうる範囲なんだとしたら、かなり差し迫っている恐れがある。

963W.O.D 〜World Of Darkness〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:04:01 ID:hN5CjMOE0
「いや、でも待てよ」

パニックに陥りそうな頭をもう一つの思考が押しとどめた。

(明智の推理が正しければ、螺旋王の目的は一人でも多くの参加者が螺旋力に目覚めること。
 だったら、酸素破壊で全滅なんて、螺旋王からすりゃ最悪の結末なんじゃないのか?
 ということはアンチ・シズマ管はやっぱりブラフ……ああっ、いや、でも)

理屈から考えれば酸素破壊はありえない。
けど、そう断定することもできない。
何せ、間違えば参加者全滅だ。
あまりに重い。重すぎる。

「あーちくしょー!!分からん!!どっちなんだ一体!?」

溜まったイライラを解消するように、廊下の手すりに拳を叩きつけた……その瞬間だった。


私の脳みそに、緑の稲妻が閃いた。


(――マッハキャリバーの力を借りて“変身”したの。バリアジャケットって言うんだって)

(――超科学や魔法が存在すると確認できた今)

(――イメージしてって言うから、動きやすそうのを思い浮かべてみたの。そしたら、こんなん出ました〜!)

(――首輪に計測装置を仕込めばいいんです)

(――そうです。首輪を外した参加者はその時点でゲームクリア)


「アンチ・シズマ管、フォーグラー博士、酸素の破壊……」

(――そうだ。アケチからの伝言。 ネネネに物語を書いてほしい――って)


出たくて、出たくて、うずうずしていたものが。
出たくても、出たくても、出て来れなかったものが。
それを切欠に。堰を切ったように。
溢れ出した。

964W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:05:10 ID:hN5CjMOE0





胸が。
胸が痛みます。
ちくちく、ちくちくした針みたいなものがおっぱいの裏にあって、それがグルグル回って
私の胸をちくちく、ちくちく刺してくるんです。
どうしてこんなに痛いんだろう?
私は考えます。

高嶺君が菫川先生の見つけた秘密の地下を調べに行ったのに、私は何にもできないから?――そうだと思います。
明智さんがガジェットドローンって機械を使って仲間を集めようとしてるのに、私は何にもできないから?――そうだと思います。
それとも、菫川先生に嘘をついたから?――そうだと思います。

エレベーターであのボタンを見つけたのは偶然。
私はそう菫川先生に話したけど、それは嘘です。
本当は分かってたんです。
エレベーターには何かあるって。

私は首にかけた紐を手繰り寄せて、あの不思議なドリルを手元に引き寄せます。
あのとき、廊下で菫川先生を待っていると、このドリルが突然光り始めました。
ピカッピカッて、本当にいきなり。
その光はどうしてかわかりませんけど、私をどこかに案内してるように思えました。
ちょっと怖かったけど、あのときはこれで皆さんの役に立てるかもってそう思ったんです。
今までの自分を振り返れって、きっと役に立てるって先生に言われて、それで……
あれ?そう思ったらドリルが光りだしたんだったかな?
ん〜〜どっちが先は忘れちゃいました。

とにかく、私はあのドリルが言うがまま歩いていったんです。
そうしたら、エレベーターがあって、三階に止まってました。
ドリルをエレベーターのほうに向けたら、何だか強く光ったので、そうかと思って、私はエレベーターに乗りました。
ここから後はもっと簡単でした。
行き先ボタンの下のところ、あのボタンがあったところに小さな穴が開いてたんです。
ちょうど、このドリルが入るくらいの小さな穴。
私はまた、そうかと思ってこれをその穴に入れたんです。

そうしたら、いきなり、緑の光がバーッって溢れて、すっごい綺麗で、でも、気がついたら私は飛ばされて、頭をぶつけてました。
んー何かちょっと分かりにくいかもですね、この説明。
私、説明、あんまり得意じゃなくて……ごめんなさい。
あ、そういえば、緑の光が出るちょっと前に螺旋王さんの声が聞こえた気がします。
何言ってたかまでは覚えてないですけど。

それで、私、気がついたら菫川先生に助けられてました。
誰がやった、何があったってすごく訊かれたのを覚えてます。
何だか頭が痛くて、私は頭に手をやりました。
自分の手が冷たくて、ひんやり気持ちよかったです。

でも、その手の感触を味わってたら、何だか怖くなってきたんです。
私、そのとき思い出したんです。明智さんの言ってたこと。
『ラセンリョク』がないと手に入らない『お宝』……
あれって多分、そういうことなんだ。私って多分そういうことなんだ。
そう思ったら、何だかすっごく怖くなってきて。

確かに、うれしいなって思うところもありました。
もしそうなら、私、皆さんの役に立てるから。
私にもやれることができるから。

でも、怖い方が勝ちました。
明智さん言ってました。
『今すぐにとは言わないけど、螺旋力で首輪を解除する実験がしたい』って。
きっと、私、お役に立てます。
でも、そうしたら私、テレポートしちゃうかもしれないんです。
あの怖い螺旋王さんのところに。たった一人で。
多分、そうしたら、もうかがみおねえちゃんにも会えないし、シンヤさんのお墓も作ってあげられません。
そんなの嫌!絶対に嫌!
そう思って、気がついたら、嘘、ついてました。

965W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:05:46 ID:hN5CjMOE0
こなたおねえちゃんはよく私のこと『ゆーちゃんはいい子だねー』って褒めてくれましたけど、そんなことありません。
私は悪い子です。
信じてくれた菫川先生に嘘ついた悪い子です。

だから、私、ちゃんと謝ろうと思うんです。
今も目の前で頑張ってる明智さんに『ごめんなさい。私、嘘つきました』って。
謝って、ちゃんと許してもらわなきゃって。
だから。
だから……

「明智さん!」
「何ですか?小早川君」

明智さんはわざわざ作業の手を止めて、こっちに向かってにっこり応えてくれます。
その笑顔はとても綺麗で、だから、また胸がずきんと痛みました。
早く、謝らなくっちゃ。

「あの……明智さん、わたし、わたし……」
「?
 どうかしましたか?もしかして体調が優れないとか?」

謝らなくっちゃ。
謝らなくっちゃ。
謝らなくっちゃ!!

「……あの、菫川先生は……どこ、ですか?」
「……ああ。菫川先生ならお一人で部屋に篭られてます」

……でも、ダメでした。
謝ろうとすると、螺旋王さんの声が、螺旋王さんの顔が浮かんできて、どうしても声が出ないんです。
あと一歩なのに、謝らなきゃいけないのに、一人で螺旋王さんのところへ行く自分が浮かんで、ダメなんです!

明智さん達が無理矢理首輪を外させるような人たちだなんて思ってるわけじゃないです。
きっと、事情を話せば、優しく分かってくれる人たちだって知ってます。
でも、何でか言えないんです。
私がそうだってことを話したら、首輪を外さなきゃいけないような、そんな気がして怖いんです!

「……生憎、ご気分が優れないようなので、直接会いにいくのはよしたほうがいいでしょう。
 私でよければ代わりに聞きますが、何か用事でしたか?」
「いえ……ただ、いないなぁって思って」

返事をする明智さんの表情は何故かちょっと怖い気がして、私はビクってしてしまいます。
もしかしたら、明智さんは頭がいいから、もう私の嘘に気づいてるのかもしれません。
そう思うと、何だか嫌で、また胸がチクチクします。

チクチクが本当に痛くて耐えられなくなったとき、私の頭には何故かDボゥイさんの顔が浮かびます。
どうしてかは分からないけど、何でかいきなり浮かんでくるんです。
でも、あの人の顔が浮かんでるときは、何だか少しだけ痛みが和らぐ気がします。

966W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:06:38 ID:hN5CjMOE0





私は書いていた。
書いて書いて書きまくっていた。
流れるように、いや、飛ぶように書いていた。

機関銃を撃ちまくるかのようにキーボードを叩き、自分の中の物語をディスプレイに吐き出す。
この刑務所にパソコンの使える部屋があって本当によかった。
私は断然、手書きよりもワープロ派なのでこっちの方が助かる。
まあ、手書きでもできんことはないけど、スピードが圧倒的に落ちるし、何よりいつもと感覚が違うのが気に食わない。

私が今書いているものについて、今更、いちいち何だかんだと言う必要はないと思うが、一応、言っておく。
私が今書いているのは『螺旋王の思惑をひっくり返すシナリオ』だ。
明智に頼まれた、そして何より私が書くと誓った、菫川ねねね渾身の一作だ。
押しても引いても捻っても、どうやっても書けなかったモヤモヤが今、怒涛のように溢れ出している。

例えるならその様は文字の洪水。いや、文字の土石流だ。
その流れの圧倒的な速度と勢いは自分で書いているにもかかわらず、未だ自分で信じられない。
どんなに好調だった時だって、今と比べりゃスランプと大差ない。
そう思えるほどにスラスラ筆が進む。
書きたい言葉に指の動きが追いつかない。
こんなことは今までの作家人生で初めてだった。

神が降りる、という言葉がある。
ふとしたきっかけが今までの停滞を吹き飛ばし、思いもつかない好調が実現した時、人はその様を神に例え、自らを神の拠り代に準える。
そういう意味で言えば、あのメロンジュース畑の真ん中で私に降りたのは間違いなく神だったことだろう。

私があのとき思いついたこと。
それは一言で言うなら脱出策だった。
しかも、それは螺旋王の裏をかき、奴の思いに反して皆を救える奇襲策。
螺旋王の用意した方法に頼らずに首輪を無効化し、しかも、脱出の可能性を繋げる。
そんな策が私みたいな奴の頭から出たことをまずもって神に感謝するべきだと思う。

ん?どんな計画かって?耳かっぽじってよく聞いとけよ!!
私が思いついた策。
それはアンチ・シズマ管と刑務所地下の装置とを使った脱出計画だ。
まずアンチ・シズマ管を三本集める。
次にこれを地下の装置にはめ込んで起動させる。
基本的にはこれで終わりだ。
え?それじゃあ、よしんば酸素の破壊が防げるだけで、脱出には繋がらないって?
確かに。普通のやり方でやったらそうだろうな。
でも、少し考えてみてくれ。
そうやって嵌めこんだアンチ・シズマ管がもし、フォーグラー博士に改造される前のものだったらどうなるか?

バシュタールの惨劇。
アレがあった世界から来た人間はかつて起こったその現象のことをそう呼んでるらしい。
試作型のシズマ管三本をアホタレな博士が炉心に嵌めこんだせいで起こった大惨事。
たったそれだけのことで国が一つ吹っ飛び、地球のエネルギーが残らず停止。
地球上の人類の三分の二が死んだって話だ。
まったくもって恐ろしい。チェルノブイリが裸足で逃げ出すスケールだ。
でも、私はこの事件に関する支給品名簿の記述を思い出したとき、正直、心臓が飛び出るくらい嬉しかった。
何でかって?おいおいいい加減察すれ。

もし、バシュタールの惨劇と同じことがこの会場で起きたらどうなると思う?
資料にあった爆発の規模からして多分こうだろうな。
爆発が起き、刑務所を中心に周囲3キロ四方が蒸発し、『会場内の全てのエネルギーが中和される』。
大切なのはここ。『全てのエネルギーが中和される』ってところ。

この会場内にはモノレールや各種施設をはじめ、螺旋王が設置したモノが数多くある。
もしこのエネルギー中和現象が起これば、それらのモノは当然に活動をやめる。
モノレールや豪華客船は動かなくなり、観覧車は回らなくなり、発電所は電気を送らず――首輪は機能を停止するはずだ。
爆破機能はもとより、螺旋力感知機能もテレポート機能も、みんなまとめてパーだ。
そうなりゃ、こんなモンはただのダサいアクセサリ。外す方法はいくらでもある。

967W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:07:31 ID:hN5CjMOE0
加えて言うなら、停止するのは何も私達の目に見えるモノだけじゃない。
例えば監視。明智は私たちには分からない何らかの方法で行われてるといってたが
それがもし、高度な技術によって作られた機械によるものだったら?当然止まる。
例えばバリア。この会場の端と端が繋がっていることはレーダーに映った参加者の動きを見てれば一目瞭然。
その機能だって、もしエネルギー機関を使って維持させてるなら?当然死ぬ。
そして、例えば隠蔽。マッハキャリバーの仲間は次元と次元を行き来して平和を守る治安機関の出身らしい。
……ってことは、その治安機関……時空管理局は当然、仲間の居場所を探してるはずだ。
そんな奴らから、螺旋王はどうやって身を隠してる?
答えは決まってる。何らかの手段でこの会場を時空管理局の目から隠蔽してるんだ。
ゲリラが敵機の偵察から逃れるために、屋根に工夫するのと同じ理屈だな。
でも、その隠蔽だって、エネルギー中和の条件に引っかかれば、当然外れる。
そうすれば、外からの助けだって、十分に期待できるんじゃないのか?

さて、実現すればいいことずくめっぽいバシュタールの惨劇だが、実は大きな問題がある。
この会場にあるのはあくまで『アンチ・シズマ管』であって『試作型シズマ管』じゃない。
肝心のものがなきゃ、コトを起そうったって、夢のまた夢だ。
でも、実はこの『ここには試作型シズマ管がない』ってことが今回の計画のミソ。
螺旋王を出し抜くためのポイントってわけだ。

ここで一つ知っといてもらいたいことがある。
実はこの会場で支給されている『アンチ・シズマ管』は
フォーグラー博士がバシュタールの惨劇のときに使われた『試作型シズマ管』を改造したモンだってこと。
つまりこの二つ、元は同じものなんだよ。
そこで私は考えた。
『試作型シズマ管』を『アンチ・シズマ管』に改造できるってことは
『アンチ・シズマ管』を『試作型シズマ管』に改造することもできるんじゃないかってな。
あー、一つ言っとくが、もちろん私にゃそんなことはできん。根っからの文型人間だしな。
だが、ここには警察庁キャリア官僚様の明智がいる。IQ190の天才少年、清麿がいる。
時空管理局の魔法使いがいる!サーヴァントがいる!テッカマンがいる!錬金術師がいる!
私ができなくても――必ずできる奴がいる!
そういう奴にやってもらえばいいんだよ。
三人寄れば文殊の知恵……ってのは明智のセリフだったか。

となれば、乗り越えるべきハードルはあと一つ。
いかにしてこの計画を他の奴等に伝えるかだけだ。
螺旋王は常にこのフィールドを監視している。
私達の一挙手一投足は奴に録画され、発言は一言一句漏らさず録音されているだろう。
だから、普通に口に出したり、筆談を使ったりしてこの計画を伝えても、一瞬で螺旋王にバレる。
これでは、せっかく計画を練っても成功は望めない。
だけど、この問題は問題にならない。
何故なら、もう解決する、今、解決に向かってる問題だからなッ!

968W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:08:10 ID:hN5CjMOE0
私は書いている。
物語を書いている。
螺旋王の鼻っ柱をへし折るために書いている。
ぱっと見それとは分からないように。小説の形をとって。脱出計画を書いている!
指が攣ろうと、肩が張ろうと、ただひたすらにディスプレイに向かって。
読んだ人間にだけ分かるように、細心の注意を払って書いている。

私は物語の力を信じている。
センセーが愛し、センセーが信じた物語の力を。
本はその読者だけに本当の姿を見せてくれる。
本を手に取り、自分の手でページをめくり、自分の目で字を追った者にだけ、物語は心を開く。
あらすじを聞いたり、概要を読んだり、映画を見たりしただけじゃ分からない深さが読書にはあるんだ。
センセーは誰よりもそのことを知っていた。
私はセンセーからそのことを教わった。
そんな私が今、全力で書いている。
私の全てを賭けて書いている。
だから、この物語は本当に読んだ人間にしか伝わらない。
監視なんて名目で、斜め読みした連中には絶対に伝わらない!!

書いていること自体が怪しくならないよう、注意も払った。
現に私が書いている物語のタイトルは『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンに捧ぐ』だ。
レーダーを見ていた明智からイリヤと士郎の反応が動かなくなったことを聞いた。
もしかしたら、イリヤが死んだかもしれないことを教えてもらった。
表向き、私が書いているのはイリヤの追悼小説だ。
仲間の死を嘆き悲しんだ小説家が自分の心を静めるために小説を書いている、今の私はそういうことになっている。
実際、明智にも清麿にもそう伝えてある。
そして、それは嘘で、でも本当だ。
今日の朝を思い出す。
フォルゴレ、イリヤ、私。三人の散歩を思い出す。
もしかしたら、本当は、という思いはもちろんある。
放送であいつの名前が呼ばれないことを今も全力で祈っている。
でも、状況から見てそれは……いや、今は祈ろう。
ああ、ここにパソコンがあって本当によかった。
もし放送でイリヤの名前が呼ばれたら、私はせっかくの原稿を水に濡らしてしまうだろうから。

悲しみを振り払って、いや、それすら原稿に刻まれる文字として叩きつけ、私は書く。
アンチ・シズマ管は本当に無事なのか?本当にシズマ管を改造できる人間はまだ生きているのか?
バシュタールの惨劇から起こる爆発の規模が大きすぎて結局全滅って結末はないのか?
エネルギーを中和したとして私たちが助かる道は本当にあるのか?
不安は募る。
しかし、その不安さえも原稿に織り交ぜ、私は書いて書いて書きまくる。

見ろ螺旋王。
これが菫川ねねねの戦いだ。
機知もなく、魔法も使えず、力も無い、小説書きの戦いだ。
私は書く。
私の物語がお前のシナリオを塗り替えるまで。
だから……だから……




「書くまで死ねるかッッ!!!」

969W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:08:47 ID:hN5CjMOE0

【B-7/刑務所内/1日目/真夜中(放送直前)】

【チーム:戦術交渉部隊】(明智、ねねね、清麿、ゆたか)
 [共通思考]
 1:各種リスト、便利アイテムを利用した豊富な情報量による仲間の選別及び勧誘。
 2:基本的には交渉で慎重に。しかし、実力行使も場合によっては行う。
 3:螺旋力による首輪の解除が可能な者を探す。
 4:エドが情報を送信した手段を探り、可能ならそのチャンネルで停戦を呼びかける。
 5:最終目的は主催者の打倒、ゲームからの脱出。
 6:携帯電話の現在位置探査を利用して危険を避ける。
 7:映画館内部にジンやラッド、その他協力できそうな人物が到達したら携帯電話で各施設に連絡を入れる。
 8:人員が揃い次第、各所施設に調査班を派遣する。
 9:万一刑務所が安全でないと判断できた場合、警察署へ向かう。

 [考察内容]
 《螺旋王の目的》
  1:殺し合いを通じた参加者の螺旋力覚醒
 《首輪》
  1:螺旋力の覚醒により解除可能
  2:ただし、解除時に螺旋王の元へ転移する可能性アリ
[備考]
 ※明智とねねねの考察メモの内容は同じです。
 ※ガジェットドローンを誰かの元に派遣した可能性があります。



【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康、悲しみ、決意 螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた、 詳細名簿+@アニロワオリジナル、手書きの警戒者リスト
     『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)、考察メモ
[思考]:
 基本:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
 1:会場内でバシュタールの惨劇を起し、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
 2:1の計画を皆に伝え、螺旋王のシナリオを覆すために本を書く。
 3:1を達成するためアンチ・シズマ管、改造スキル持ちを探し、脱出手段を検討する。
 4:ラッド・ルッソの動向には警戒する。
 5:柊かがみに出会ったら、「ポン太くんのぬいぐるみ」と「フルメタル・パニック全巻セット」を返却する。
 6:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
 7:東方不敗を最優先で警戒。
[備考]
 ※詳細名簿+はアニタと読子のページだけ破り取られています。
 ※詳細名簿+の情報から、参加者それぞれに先入観を抱いている可能性があります。
 ※殺人鬼であるラッドに軽度の不信感を抱いています。
 ※思考7、パラレルワールド説について。
 富士見書房という自分が知り得ない日本の出版社の存在から、単純な異世界だけではなく、パラレルワールドの概念を考慮しています。
 例えば、柊かがみは同じ日本人だとしても、ねねねの世界には存在しない富士見書房の存在する日本に住んでいるようなので、
 ねねねの住む日本とは別の日本、即ちパラレルワールドの住人である可能性が高い、と考えています。
 この理論の延長で、会場内にいる読子やアニタも、ひょっとしたらねねねとは面識のないパラレルワールドの住人ではないかと考えています。
 ※イリヤと士郎の再会により、自分の知る人物がやはり同じ世界の住人ではないかと疑い始めました。

970W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:09:29 ID:hN5CjMOE0
【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:右肩に裂傷(応急手当済み)、上着喪失、強い決意
[装備]:レミントンM700(弾数3)、フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、携帯電話、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、閃光弾×1
     予備カートリッジ8、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、参加者詳細名簿、
     ダイヤグラムのコピー、首輪(キャロ)、考察メモ 支給品リスト@アニロワオリジナル
[思考]:
 基本:螺旋王より早く『螺旋力』を手に入れ、それを材料に実験を終わらせる
 1:エドが情報を送信した手段を探り、可能ならそのチャンネルで停戦を呼びかける。
 2:菫川ねねねに情報を提供し、螺旋王を出し抜く『本』(方策)を書いてもらう。
 3:螺旋力が具体的に何を指すのか? それを考察する。
 4:螺旋力による首輪解除を試してみたい。
 5:ラッド・ルッソの動向には注意する。
 6:2日目の正午以降。博物館の閉じられた扉の先を検証する。
 7:東方不敗を最優先で警戒。
[備考]
 ※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
 ※ガジェットドローンを誰かの元に派遣した可能性があります。
 ※ラッドがシンヤを殺害したと推測しています。
 ※豪華客船にいた人々はガッシュ以外全滅したと推測しています。
 ※ルルーシュ一行、またはジン一行の誰かがマタタビを殺害したと推測しています。


【高嶺清麿@金色のガッシュベル!!】
[状態]:右耳欠損(ガーゼで処置済)、疲労(小)、精神疲労(小)、強い決意
[装備]:イングラムM10(9mmパラベラム弾22/32)
[道具]:支給品一式(水ボトルの1/2消費、おにぎり4つ消費)、殺し合いについての考察をまとめたメモ、
    イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル!!、
    無限エネルギー装置@サイボーグクロちゃん、清麿の右耳
    首輪(エド/解体済み)、首輪(エリオ/解体済み)、首輪(アニタ)、清麿のネームシール、
    各種治療薬、各種治療器具、各種毒物、各種毒ガス原料、各種爆発物原料、使い捨て手術用メス×14
[思考]
基本方針:螺旋王を打倒して、ゲームから脱出する
1:地下の空洞(大怪球のコクピット)を調査する
2:脱出方法の研究をする(螺旋力、首輪、螺旋王、空間そのものについてなど包括的に)
3:周辺で起こっている殺し合いには、極力、関わらない(有用な情報が得られそうな場合は例外)
4:研究に必要な情報収集。とくに螺旋力について知りたい。
5:螺旋王に挑むための仲間(ガッシュ等)を集める。その過程で出る犠牲者は極力減らしたい。
[備考]
※首輪のネジを隠していたネームシールが剥がされ、またほんの少しだけネジが回っています。
※ラッドの言った『人間』というキーワードに何か引っかかるものがあるようです。

[清麿の考察]
※監視について
監視されていることは確実。方法は監視カメラのような原始的なものではなく、螺旋王の能力かオーバーテクノロジーによるもの。
参加者が監視に気づくかどうかは螺旋王にとって大事ではない。むしろそれを含め試されている可能性アリ。
※螺旋王の真の目的について
螺旋王の目的は、道楽ではない。趣旨は殺し合いではなく実験、もしくは別のなにか(各種仮説を参考)。
ゆえに、参加者の無為な死を望みはしない。首輪による爆破や、反抗分子への粛清も、よほどのことがない限りありえない。
【仮説①】【仮説②】【仮説③】をメモにまとめています。
※首輪について
螺旋状に編まれたケーブルは導火線。三つの謎の黒球は、どれか一つが爆弾。また、清麿の理解が追いつく機械ではなくオーバーテクノロジーによるもの。
ネジを回すと、螺旋王のメッセージ付きで電流が流れる。しかし、死に至るレベルではない。
上記のことから、螺旋王にとって首輪は単なる拘束器具ではなく、参加者を試す道具の一つであると推測。
螺旋王からの遠隔爆破の危険性は(たとえこちらが大々的に反逆を企てたとしても)限りなく低い。
※螺旋力について
………………………アルェー?

971W.O.D 〜Write Or Die〜 ◆RwRVJyFBpg:2008/03/30(日) 00:10:14 ID:hN5CjMOE0
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:疲労(小)、心労(大)、やや茫然、後悔、螺旋力覚醒
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:デイバック、支給品一式、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
    鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、M16アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)
    M203グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
基本:元の日常へと戻れるようがんばってみる。
1:皆に嘘のことを謝りたい。でも螺旋力覚醒者だと知られるのが怖い。
2:明智たちの力になりたい。
3:イリヤの無事を祈る
4:Dボゥイと会いたい
5:シンヤを弔う為に、どうにかして病院に戻りたい。
6:ちゃんと弔ったら清麿たちに同行する。
7:シンヤを殺したラッドにどう対応すればいいのか分からない。
8:Dボゥイの為にクリスタルを回収する。
[備考]
※コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました。
※清麿に対して負の感情は持っていません。
※イリヤに親近感を抱いています。
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。



※保有するアイテムの詳細は、以下の通り。
 【参加者詳細名簿】
  全参加者の簡単なプロフィールと、その人物に関するあだ名や悪評、悪口などが書かれた名簿です。



 【参加者詳細名簿+】
  全参加者の個人情報と、その人物に関する客観的な経歴が記されています。情状など主観になる事は書かれていません。
  ※読子・リードマンとアニタ・キングのページはねねねが破いて捨ててしまいました。



 【警戒者リスト】
  ねねねがメモに書いた、要注意人物のリスト。自分、または仲間が遭遇した危険人物の名前が書き連ねてあります。
  「高遠遙一」「ロイ・マスタング」「ビシャス」「相羽シンヤ」「東方不敗」「鴇羽舞衣」「ニコラス・D・ウルフウッド」
  また、仲間がゲーム参加以前で敵対していた人物や、詳細名簿のプロフィールから要警戒と判断した人物を要注意人物として記載しています。
  「ギルガメッシュ」「言峰綺礼」 「ラッド・ルッソ」他。



 【全支給品リスト】
  螺旋王が支給した全アイテムが記されたカタログ。正式名称と写真。使い方、本来の持ち主の名が記載されています。



 【携帯電話】
  通常の携帯電話としての機能の他に、参加者の画像閲覧と、参加者の位置検索ができる機能があります。
  また、いくつかの電話番号がメモリに入っています。(※判明しているのは映画館の電話番号、他は不明)
  [位置検索]
  参加者を選び、パスを入力することで現在位置を特定できる。(※パスは支給された支給品名。全て解除済み)
  現在位置は首輪からの信号を元に検出される。



 【ダイヤグラムのコピー】
  明智健吾がD-4にある駅でコピーしてきた、モノレールのダイヤグラム。



 【首輪】
  明智健吾が死体から回収した、キャロ・ル・ルシエの首輪。



 【考察メモ】
  雑多に書き留められた大量のメモ。明智、ねねねの考察や、特定時間の参加者の位置などが書き残されている。

972ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:12:21 ID:7tSltJGA0
一瞬の静止。
間を置かず身を沈め、殺人狂は攻城の投石兵器ばりの突進力で即座に身を詰めてくる。

アルベルトは再度掌に衝撃波を発生させ、同時、もう一つの衝撃波を推進力に変換。
自身を砲弾と変えて殺人狂に相対する。

「かあぁぁあああぁぁぁぁぁあああああああああぁあああああっ!!」
「おいおいマジかよどうやってるんだよオイオイオイオイオイオイ!!」

激音。

擦れ違いざま、殺人狂の左腕とアルベルトの右掌が交差。
殺人狂の左腕が砕け散り、アルベルトは無傷。
……否。右掌こそ無事だが、ボディに一撃食らっていた。
軽いものとはいえ、殺人狂は左右のワンツーを繰り出していたのだ。
直後、殺人狂の腕が修復を完了する。
結果だけ見ればダメージが残るのはアルベルトだけだ。

「く……ッ」

実感する。
元々の制限に加えて、今の自身は更に能力が低下している。
胸に突き刺さったヴァルセーレの剣が、今も自身の力を吸い取り続けているのだ。

そして相対する殺人狂は、異常なほどの螺旋の力を放出し続けている。
元の体が一般人であろうとも、それを補い余りあるほどの。
不死者の回復能力頼りに、筋力を限界まで酷使しているのも大きな要素だ。

それ以上に、そもそもの回復能力。
――――キリがない。


拳を交わし、収束した衝撃波を放ち、生身の右腕で殴られ、鋼鉄の左腕を吹き飛ばし、
建物ごと殺人狂に衝撃波を叩き込み、フック船長の鉤爪に肋骨を折られ、
足場を破壊して動きを制限し、空を駆け、特大の衝撃波を放ちながら。
――――それでも、殺人狂はその全てを無と化していく。

……しかし、諦めるという文字はアルベルトの脳裏にその一画すら存在しない。
そう、彼女を護り、導くと誓ったばかりではないか。
彼女の自我が危機に陥ればそれを救い出し、力に呑まれ道を踏み外したなら正しい方向を示すこと彼の信じた道。

――――草間大作に、戴宗がそうしたように。
柊かがみに見せねばならない。
自分たちの道は、揺らぐ事無く確かに此処にあるのだと。

呼ぶ。呼ぶ。呼びかける。
柊かがみである事を放棄した殺人狂。
それでも彼女を取り戻せる事を信じて、声を張り上げ彼女の名前を咆える。

届け。届け。突き破れ。

973ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:13:44 ID:7tSltJGA0
「いいか、……柊かがみ!」

背後に回りこむ殺人狂の足下に衝撃波を打ち込む。

「ワシは決して貴様に恨みを抱いた訳でもなければ、落胆した訳でもないッ!!」

態勢を崩した殺人狂に拡散する衝撃波を叩き込む。威力そのものよりも、吹き飛ばす事を重視して。

「だがな、この梯子の先にどんな光景があろうとも、これだけは分かっているぞ!」

既に原形を留めていないコンクリートの壁に叩きつけられるも、殺人狂は即座に立ち上がる。

「……そう、我らの運命は、こんな狂人などに好きにさせるものではないッ!」

狂った哄笑を続ける殺人狂と正面から向かい合い、アルベルトは己の胸に刺さった剣の柄を握り締める。

「全ては我々BF団と、かの螺旋の王の勢力どもとで、決着をつけるものだ!!」

肉が、組織が潰される音とともに剣がゆっくりと引き抜かれた。
同時、殺人狂は躊躇わずにこちらに突っ込んでくる。

「違うか!」

――――彼女に届かせねばならない。
殺人狂という殻を突き破り、彼女の意思そのものまで届けねばならない。
自分の意志を。自分たちの道を。

その為には、普通のカタチでは駄目なのだ。

「……違うかッ!」

衝撃波に力を加え、手に持つ剣に纏わせる。
ただ纏わせるのではない。……カタチを操作し、練り上げる。
――――螺旋のカタチに。
彼女の意思まで届き、梯子の先の天元すらも突破しうるドリルの形に。

殺人狂の螺旋の輝きすら霞むほどの緑色の眩さが、周囲を燦然と照らし出す。


「…………違うかぁぁぁああぁぁあぁぁあああぁッ!」


一歩を踏み出し、剣を、『柊かがみ』に突き刺して行く。
剣はその体躯にゆっくりと呑みこまれ――――、



緑と赤黒の衝撃が、辺りの全てを染めていく。

974ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:14:52 ID:7tSltJGA0
――――気がつけば、かがみはそこにいた。

廃墟。
いや、爆心地か。
周囲を見渡せば、あちこちが瓦礫に覆われ崩れている。
特に酷いのは自分の真後ろだ。
石ころ一つ残っていないとすら言っていいだろう。
ちょうど、自分の真後ろだけまるでドリルか何かで抉られたかのように、
数百メートル、あるいはそれ以上にも渡って全ての建造物が消え去っていたのだ。

何となく胴体に脱力感と違和感を感じてそちらを見てみれば、自分の腹を剣が貫通していた。
慣れてはいるけど、痛いなあ、とだけ考え、そして気付く。
ちょうど剣の切っ先の方向が、背後の建造物の消失した方と同じ向きだ。
まるで、刀身の先端からビームでも出たみたいだと思い、苦笑する。
とりあえずそれを引っこ抜いて、そばの適当な瓦礫に立てかける。
すぐに回復する体を見て、そういえばそんな体だったなあ、と思い出した。

よくよく観察すると、服も申し訳程度にボロ布が纏わりついているだけで裸同然だ。
まともに回らない頭で、とりあえず着替えないとね、と思う。

――――何か忘れている気がする。
だけど、それが何なのか。
とても大切なことのはずなのに、思い出したくないような気もする。

考えて、考えて、考えて――――、
諦めようと思ったけど、もう少しだけ考えてみようと顎に手を当てた瞬間、その声が耳に届いた。

「……ようやく目覚めたか、不死身の」

――――それだけで全てを思い出した。

アルベルトの体に沈み込んでいく剣の感触を。
自分の名を呼び、意思の奮起を促し続ける彼の声を。
自身の体に突き刺さった剣と、そこから発された緑と赤黒の閃光を。

全て、全て。

「あ、あ、……アル、ベルト? 生きて……」

回らない口でただ呆然と言葉を紡ぐ。
気がつけば、傍らにはアルベルトがいつの間にか立っていた。
乱れた髪で、スーツをあちこち破らせながら相変わらずの態度の彼は、ゆっくりと手を上にあげる。

殴られるかもしれないと、びくりと体を震わせるかがみの頭に、ぽんと暖かいものがのる。
……怒りも恨みもなく、そのままアルベルトはかがみを撫でていた。

「……ふん。まあ、及第点といった所か」

ぶっきらぼうな口調ながら、声色は優しい。
見れば、表情も未だ見たことのないような穏やかな笑みだった。

975ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:15:40 ID:7tSltJGA0
「……アルベルト?」

理解が追いつかず、今まで以上に呆気に取られた表情でかがみはそのまま撫でられるに身を任せる事しかできない。

「……力に呑まれた結果とはいえ、このワシに一太刀を入れたのだぞ?
 もっと誇りに思うがいい」

――――その言葉を聞いた途端、かがみの瞳からぼろぼろぼろぼろ涙が零れ落ちる。
えずき続け、肩を震わせてごめんなさいごめんなさいと繰り返すかがみ。

アルベルトは何も言わず、ただ頭を撫で続けていた。
散々髪の毛をかき乱した後、アルベルトは自身の顔に手を当て、眼帯を取り外す。
そしてあらためてかがみに向き直り、言葉を続けた。

「……戦場に出る時でない限り、これを常に身につけておけ。
 ワシが貴様を認める証であり、また、貴様が二度と力に呑まれぬ為の戒めだ。
 自らの意思で、あの狂人の力を行使するべきときこそ――――、その眼帯を外すがいい」

涙を湛えたままの自分を見上げるかがみの目に眼帯を括りつけながら、アルベルトは目を弓にして、笑みを更に強くする。
かがみを安心させるかのように。

「しばしあの力を忌み嫌うかもしれんが、考え様によっては悪いことではないのだぞ?
 このワシを相手取る事ができるほどの力を、貴様は得たのだからな」

泣き続けて息苦しくなったので、ゆっくりと息を吸う。
何か言わなくてはいけないと思うも、かがみはしかし何も言葉が思いつかずに口をパクパクさせるだけだ。
立てかけられた剣を手に取り、かがみに手渡しながらアルベルトは言葉を連ねる。

「――――この剣も、ワシの力を大分蓄えたようだ。
 いずれ貴様の力になることだろう」

そうして、アルベルトは表情を真面目なものに戻し、かがみの目を見つめながら一語一句力を込めて伝えていく。
彼女への、戒めの言葉を。

「……かがみよ。
 二度と己が力に飲み込まれるな。みごとあの力を制した姿をワシに見せつけてみせろ。
 ……そして、己が道を違えるな。見失う事無く、常に進み続けるのだ。
 それこそが天元を越え、その先にあるものを掴み取る為の術なのだから」

ケースから葉巻を取り出し、火をつける。
それを咥えて一服しながら、アルベルトは遥か空を見上げ、呟いた。

「さて、共に行こうか。……不死身の柊かがみよ。
 我らの目指す果てはまだ遠く、しかし確たる未来は必ずや待ち受けているのだから」


夜の闇に紫煙が立ち昇ってゆく。
――――まるで、細い細い梯子のように。
しかし、確かに天上へとそれは届いていた。

976ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:16:14 ID:7tSltJGA0
◇ ◇ ◇


……ふと、葉巻が大部短くなっている事に気づき、アルベルトはシガレットケースを探して体をまさぐる。
だが、それをするまでもなかった。
……目の前には誰かの手。
突き出されているのは自身のシガレットケースだ。

「――――よう、衝撃の。
 こいつを落とすとはお前さんらしくないな」

アルベルトはその姿を見て目を見開く。
それもそのはずだ。
――――彼は、上海で、そしてここで。
二回とも不本意に死に別れたはずの宿敵だったのだから。

「な、戴、宗……?」

馬鹿な、と続けようとして、しかし戴宗は豪快にそれを笑い飛ばす。

「何を驚いてんだよ衝撃の旦那。
 ここは死人が生き返ることすらありえるってお前さんが言い出したんじゃねえか。
 ……あっちには俺の討ち取った、セルバンテスだって来てんだぜ?」

ニヤリと言う笑いと共に背後を親指で指差す戴宗。
見れば、廃墟にかすんでオイル・ダラーと呼ばれた男の懐かしい姿が浮かび上がっている。
二人の顔を見比べて、アルベルトは納得とばかりに破顔した。
大きな声で。
大きな声で。
思い切り笑う。

「ク、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
 ……なんと! 螺旋の王も実に粋な計らいをしてくれる!
 実に、実に整った舞台ではないか!」

戴宗からケースを受け取りながら二本目の葉巻を抜き出し、咥える。
そのまま腕を組み、アルベルトは戴宗に向かって問いかける。

「……未練は今この時にもあるか? 戴宗」

「ありゃ、実にやる気だねぇ、衝撃の。
 お前さんの盟友はあそこでお前さんを待っているんだぜ?
 今更決着をつけ直す意味なんてあるのかよ」

闘う気のなさそうな台詞に反し、戴宗は躊躇いなく拳を構える。
嬉しそうに笑いながら、これこそ未練を消し去る最高の機会だと言わんばかりに。
対するアルベルトの顔に浮かぶのも全く同じ表情だった。

「フン、……それで貴様とワシの因縁が消える訳ではなかろう。
 ワシはワシの道を進む。
 それ故に、あ奴の所に行く前に貴様との決着をつけねばならんのだ。
 貴様が使命に準じたように――――、そうだろう、戴宗」

977ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:17:10 ID:7tSltJGA0
――――そして、それだけではない。
自分の生き様というものを見せてやらねばいけない人間がいるからだ。
目を閉じ、すぐ近くでこのやり取りを見ているはずの彼女を意識する。

「……あの嬢ちゃんか」

耳に届く戴宗の声を肯定し、アルベルトは静かに問いかける。

「――――貴様にとっての草間大作は、ワシにとってのあ奴のような存在だったのか?」

聞こえる声は、しかしそれを肯定しない。
ただ、自分たちのとっての真実を告げるだけだ。

「……さぁなあ。ただ言える事はあるぜ。
 ……俺達はあいつらを間違った大人にしちゃぁいけない。
 それを貫いてんのは真実だろ? これからも、これからもな」

――――それを聞き、アルベルトは僅かに息を吐く。
腕を解き、両腕に衝撃波を溜める。
おそらく向かいでは戴宗が噴射拳を同じ様に使おうとしているだろう。
目を開けなくても分かる。

暗闇の中で、アルベルトは一人の少女に対して告げる。

「……さあ、見るがいい柊かがみよ。
 これこそが、衝撃のアルベルトの進む道だ」

満面の笑みを見せながら、アルベルトは走り出す。
その両手に二つ名の通りの衝撃波を携えて、戴宗との一騎討ちにいざ臨む。


――――さあ、決着をつけようか。
貴様とワシの生き様を、後から来る者に見せ付けてやろう。


「なぁ……、戴宗」



◇ ◇ ◇


誰かの名前を呼んだその直後。


――――ぽとり、とアルベルトの手から葉巻が落ちた。

978ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:17:52 ID:7tSltJGA0
シガレットケースの中に残る葉巻は二本。
アルベルトは結局一本だけを吸った後、もう二度とそれを取り出すことはなかった。


「……アルベルト?」

少女の声が夜の闇に溶け消える。

風は静かに冷気を運び。
月は静かに万事を照らし。
星は静かに空に瞬き。
人は静かに、現実に身を浸していく。

たった一人の少女を除き、何一つ動くもののない廃墟の中で。

衝撃のアルベルトは威風堂々と、空を見据えて立っていた。



――――他の何をすることもなく、ただ立っていた。




【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日- 螺旋力覚醒】
【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日- 全生命活動停止確認】



【B-5南部/道端/1日目/深夜】

979ALBERT THE IMPACTR ◆wYjszMXgAo:2008/04/08(火) 22:18:24 ID:7tSltJGA0
【柊かがみ@らき☆すた】
[状態]:不死者、ずたずたの番長ルック(吐瀉物まみれ、殆ど裸)、髪留め無し、空腹、脱力、茫然自失
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
    クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル
    ぼろぼろのつかさのスカーフ@らき☆すた、壊れたローラーブーツ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
    穴の開いたシルバーケープ(使用できるか不明)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
[思考]
 基本−1:アルベルトの言葉通りに二度と力に呑まれず、己の道を違えない。
 基本−2:螺旋王を『喰って』願いを叶えた後、BF団員となるためにアルベルトの世界に向かう。
 0:……アルベルト?

[備考]:
 ※ボイスレコーダーには、なつきによるドモン(チェス)への伝言が記録されています。
 ※会場端のワープを認識。
 ※奈緒からギルガメッシュの持つ情報を手に入れました。
 ※繰り返しのフルボッコで心身ともに、大分慣れました。
 ※ラッド・ルッソを喰って、彼の知識、経験、その他全てを吸収しました。
  フラップターの操縦も可能です。
 ※ラッドが螺旋力に覚醒していた為、今のところ螺旋力が増大しています。
 ※ラッドの知識により、不死者の再生力への制限に思い当たりました。
 ※本人の意思とは無関係にギルガメッシュ、Dボゥイ、舞衣に強い殺意を抱いています。
 ※『自分が死なない』に類する台詞を聞いたとき、非常に強い殺意が湧き上がります。抑え切れない可能性があります。
 ※小早川ゆたかとの再会に不安を抱いています。
 ※ヴァルセーレの剣にはガッシュ本編までの魔物の力に加え、奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力が蓄えられています。
 ※かがみのバリアジャケットは『ラッドのアルカトラズスタイル(青い囚人服+義手状の鋼鉄製左篭手)』です。
  現在喪失中ですが、再構築は可能です。
 ※ラッドの力を使用することにトラウマを感じています。
  
 ※螺旋力覚醒

[持ち物]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×4消費/水入りペットボトル×1消費])、

【武器】
 超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING
 包丁、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、王の財宝@Fate/stay night、ミロク@舞-HiME
【特殊な道具】
 フラップター@天空の城ラピュタ、雷泥のローラースケート@トライガン、
 テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
 緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、サングラス@カウボーイビバップ
 アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ
 ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、赤絵の具@王ドロボウJING、
 黄金の鎧@Fate/stay night(半壊)、シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
 首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
 シガレットケースと葉巻(葉巻-2本)、ボイスレコーダー、大量の貴金属アクセサリ、
 防水性の紙×10、暗視双眼鏡、  
【その他】
 奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
 がらくた×3、柊かがみの靴、予備の服×1、破れたチャイナ服、ガンメンの設計図まとめ


※アルベルトの衝撃波によりB-5中部〜南部が壊滅しました。B-5周辺にいるキャラクターが認知した可能性があります。
※結城奈緒@舞-HiMEはアルベルトの衝撃波に巻き込まれたため、B-5近辺のどこかに吹き飛ばされました。

980本スレ15-582差し替え ◆wYjszMXgAo:2008/04/09(水) 18:31:55 ID:eFtF4Ju20
アルベルトを見つめる。
彼は、何も言わない。
ただ自分が立ち上がるのを待っているだけだ。

「……あ、」

――――そうだ。
誓ったではないか、神にでもなってみせると。
『不死身の柊かがみ』は、そこまでたどり着いてみせると。
ならば、それこそ確かな自身の縁だ。

彼女のアイデンティティは、確かにここにある。
BF団の、不死身の柊かがみ。
今の彼女がそうである事に疑いはないのだから。
たとえラッドの記憶に翻弄されようとも。
小早川ゆたかに柊かがみであることを否定されたとしても。
――――アルベルトは、確かに自分が不死身の柊かがみであると認めてくれたのだから。

ぐしぐしと涙を擦り、無理にでも笑顔を作る。
自分たちの道程は、まだまだ遠くまで続いている。
その果てを見定めるためには立ち止まるのは早すぎるのだ。

「……うん。ごめん、心配かけた。
 私は不死身の柊かがみ。……それは確かなことよね。
 ありがとうアルベルト。……もう平気だから」

涙が止まったかどうかは分からない。
だがかがみは頷き、ふらふらとしながらも立ち上がる。
いまだに手はまともに動かないし、足下もおぼつかないがどうにか頭ははっきりしてきていた。
……無駄な時間を過ごす意義は少ない。
さっさと話題を切り替えて、少しでも有益な会話をするべきだろう。
ラッドの力を試すという目的も達成できた以上、奈緒などに構っている暇はないのだから。

と、一つ話しておくべき事に思い当たる。
自分たちの最終目的である螺旋王を『食う』ということに関する重大な弱点についてだ。
わざとらしくこほん、と咳をつき、かがみはゆっくりと話しはじめる。

「あ、そうだ。さっきテンション上がってた時にも言ってたと思うけどさ。
 ……あの男の記憶から推理したことについて、ちょっと言っておきたいことがね」

落ち着きを取り戻したかがみのその声に、心中で安堵をしながらもアルベルトは頷いてみせる。
……先ほどの奈緒に向けたかがみの言葉の中でも引っかかっていた部位だ。

「……ふむ。……不死者の能力の制限か」
「……うん」

鹿威しのようにこくりとかがみは頷き、ラッドの記憶にある『不死者を殺せる可能性』を言葉にして連ねていく。

981本スレ15-587差し替え ◆wYjszMXgAo:2008/04/09(水) 18:33:21 ID:eFtF4Ju20
「考えてみればおかしいしね、螺旋王が死なない人間をここに放り込むなんて。
 ……私たちと同じく、ラッド・ルッソもこう考えてたわ。
 『禁止エリアに不死者を放り込めば、殺せるだろう』って。
 多分それは間違ってないわ。
 もしそうでないなら、私みたいな不死者は禁止エリアに突っ込んで首輪を爆破させればいい。
 後はそこに待機していれば優勝するのは簡単よ。全エリアが禁止エリアになるのを待つだけなんだから」

ここまではアルベルトにとっても予測の範疇だ。
あらためて確認し、頷いてみせる。
かがみはそれを認めると続きを話し出した。

「……で、それはつまり、首が胴体から離れたら、きっと再生できないってこと。
 この意味、アルベルトなら分かるでしょ?」

……つまりは、一定以上の深いダメージを食らった場合、不死者でもどうにもならないことがあるということだ。
主催者はどうにかして参加者の力を縛っているのはアルベルト自身が良く分かっている。
……ならば、不死者に対しても制限がかかると考えるのはむしろ当然の事だろう。

いくら不死とはいえ、これからはかがみの生死について警戒のレベルを引き上げるに越したことはない。
アルベルトはかがみの言わんとすることをそう捉え、真剣な表情で答えて見せた。

「道理だな。ワシの力も十全ではない。……むしろ当然の措置か」

その返答に対して、かがみは俯きながら、悪い可能性をさらにリストアップする。

「……もしかしたら頭に致命傷を受けたりしても同じかも」

告げるかがみの顔色は、先刻とは別の意味で浮かない。
考えるまでもなくアルベルトは一つの可能性に思い当たる。

「……不死身のよ。死に恐怖したのか? その可能性に」

「……うん」

当たり前だろう。不死だからとこれまでそれに頼ってきたものにとって、それが十全でないという可能性を突きつけられたのだから。
これまで多少は安心していた分、襲い掛かる不安は倍加してもおかしくはない。
だから、アルベルトは言い放つ。
それこそが当然なのだと言わんばかりに。

「いい心掛けよ。死を覚悟するに越したことはないのだ」

――――そう。
生命とは、そもそも死するもの。
それを意識することこそ自然であり、しないのはそれこそ慢心なのだ。
あの、ギルガメッシュのように。

されど、これは言っておく必要があるだろう。

『梯子は足りているのか?』

――――ずっと脳内に響き続ける神父の声。
それに対する返答でもある。
口に出し、伝えることで言霊を現実化させる。
これこそが、我々の道であると。

「……だが、案ずることはない。
 不死身の柊かがみよ、貴様は安心してよいのだ。
 ――――ワシが貴様を守って見せるからな」

……柄にもない。分かっている。
目の前のかがみすら顔を紅くし、慌てているくらいなのだから。

982本スレ15-41差し替え ◆wYjszMXgAo:2008/04/09(水) 18:34:41 ID:eFtF4Ju20
[持ち物]:デイバッグ×14(支給品一式×14[うち一つ食料なし、食料×4消費/水入りペットボトル×1消費])、

【武器】
 超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING
 包丁、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、王の財宝@Fate/stay night、ミロク@舞-HiME
【特殊な道具】
 フラップター@天空の城ラピュタ、雷泥のローラースケート@トライガン、
 テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、オドラデクエンジン@王ドロボウJING
 緑色の鉱石@天元突破グレンラガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ)、サングラス@カウボーイビバップ
 アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、マオのヘッドホン@コードギアス 反逆のルルーシュ
 ヴァッシュの手配書@トライガン、魔鏡の欠片@金色のガッシュベル、赤絵の具@王ドロボウJING、
 黄金の鎧@Fate/stay night(半壊)、シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師、
 首輪(つかさ)、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)、首輪(クアットロ)
【通常の道具】
 シガレットケースと葉巻(葉巻-2本)、ボイスレコーダー、大量の貴金属アクセサリ、
 防水性の紙×10、暗視双眼鏡、  
【その他】
 奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
 がらくた×3、柊かがみの靴、予備の服×1、破れたチャイナ服、ガンメンの設計図まとめ


※アルベルトの衝撃波によりB-5中部〜南部が壊滅しました。B-5周辺にいるキャラクターが認知した可能性があります。
※ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!の首輪は南東方向に吹き飛ばされました。現在C-6西部を飛行中です。落下位置は未定です。
※結城奈緒@舞-HiMEはアルベルトの衝撃波に巻き込まれたため、B-5近辺の何処かに吹き飛ばされました。

983 ◆wYjszMXgAo:2008/04/09(水) 18:35:38 ID:eFtF4Ju20
と、名前欄にミス。>>980-981はそれぞれ本スレ14の差し替えです。

984俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:10:04 ID:fBE.W2Uw0
「ブルゥゥゥゥウウウァァアアアアアアアアア!!!」

雄たけびと共に海面から謎の物体が飛び出した。

それを一言で言えば“V”
見るからに“V”
明らかに“V”
美しいまでに“V”
海水を飛沫に変えて全身から飛ばす“V”
月明かりに照らされてるよ“V”
意味もなく飛んじゃってるよ“V”
何でポーズ決めてんだよ“V”
そりゃVだからだろ“V”
ま、Vじゃしょうがねぇな“V”
“V”だしな。
うん、“V”だから。
て名感じで、まさに全身で“V”の字を表現している謎の生命体である。

「ビクトリーーーーーーム!!!!」

人の認識する常識を一足飛びで飛び越えた想像外の容姿を持つそれは、一旦中空で華麗にポーズを決める。
そして、恍惚とした表情を浮かべた後、その表情のまま確かな地面へと着地する。当然、“V”の体勢を維持したままで。



さて、ではわかりやすいように現状の説明を挟もう。

謎の生命体こと、ビクトリームは空に消えた少女二人を追うために会場のループに従って再び海へと飛び出した。
改めて言う事でもないが、これでもビクトリームとて魔物の子である。
身体能力は常人を軽く凌駕している存在であり、そもそも、さほど高くもない波で溺れる事自体ありえないのだ。
先ほど溺れた理由はただ一つ、頭部と胴体が離れていたため、泳ぐために必要なバランスを失ってしまったから、という他ない。
バランスを失えば、当然泳ぎ方は醜く崩れる。加えて準備運動もせずに泳ぐなど愚の骨頂。
結果として、心身ともに不安定なままバランスを保てず不自然な体制になり、足を攣り、そのまま溺れるのは必然といえよう。
つまり、頭部と胴体がしっかりと繋がってさえ居れば、ビクトリームが溺れる事などありえないのである。

その反省点を踏まえ、今回は事前対策も万全だ。
先ほど出会った額に“X”の華麗な傷跡を持つ男から手に入れた鎖で体と頭部を強引につなぎ合わせ、頭部と胴体が分離しないようにしている。
これでバランスも万全。もう波に流される事もない。
ビクトリームは意気揚々と対岸に向かって泳ぎ始めた。



そして結果として辿り着いたのが今の状況である。
想定どおり、波を物ともしない泳ぎで視界に捉えていた対岸まで泳ぎきったどころか、勢いに任せたまま飛び上がり、Vの姿勢で着地。
自身の泳ぎっぷりと、『一度溺れた』という事実を跳ね除ける事ができたという達成感。
その事実に酔いしれるあまり、恍惚とした表情でついお決まりのポーズを作ってしまったのである。

「いいぞぉ!我が体よ!素晴らしいまでに美しいVの体制だ!」

両足を綺麗に揃え、両手を自身の頭部のVの字と寸分狂わぬ角度で頭上へと上げたその姿は、本人曰く、華麗なるVの体勢との事。
この体勢こそが彼にとっての至高の体勢なのであろう。
この瞬間だけは、自身の目的すらも一瞬とはいえ忘れさせるのかもしれない……。

「と、それどころではない!
 早く小娘どもを探さねば!」

数秒間の後、自身の目的をようやく思い出したようにVの体勢を解き、空へと視線を滑らせる。
だが、残念ながら目に映る範囲に目的の存在を見つけられない。
まぁ、考えてみれば当然ある。
二人の少女、シータとニアを見失ってから既に30分以上が経過している。
高速で飛び去ってしまった最後の姿を思い出す限り、こんな近くに二人の姿を確認できるはずはない。
それこそ、ループを利用して、会場を一周して再びここに戻ってこない限り見つかる事はないだろう。

「クッソォォ〜、私とした事がぁぁ……」

全身に鎖を巻きつけたVの字を模った奇妙なオブジェに、人の四肢とは明らかに掛け離れた手足を生やしているそれが、見るからに肩を落として落ち込み始める。
いはやは、なんとも奇妙な光景だ。
まぁ、そもそも、人ならざるものが落ち込んでいる時点で、それは人の認識の範囲外の出来事。
いうなれば、ビクトリームの一挙手一投足全てが奇妙な行動という括りで片付ける事ができるである。
もしこの光景を誰かが見ていたら、奇妙すぎるあまり近づこうとさえ思わない事だろう。ま、関係ない話だ。

「こうなったら、何が何でもあやつらを見つけてくれるわ!
 必ず私が貴様らを、いや、ベリィ〜なメロンを取り戻してやる!
 まってろ小娘どもォォォ!!!」

僅か5秒で気を取り直したのは流石は“V”といった所か。この際、何が流石なのかは考えたくもない。
ビクトリームは確かな進路をも定めぬまま走り出した。
ただ闇雲に、ただ全力で、たった一つの目的のために走り出したのだ。
当然、頭上で響いている放送など聞き流して。


そして数分後、その闇雲に動かし続けた足が不意に止まった。



◆ ◆ ◆

985俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:10:35 ID:fBE.W2Uw0
ピクリと小指が動き、固い感触に触れた。
濡れた指がザラリとした物を撫でる。
これは……、石?砂?
あれ?私は、死んだはずでは……。

理解できない状況のまま、私は瞼を持ち上げる。
すると、そこには先ほど落ちていく時に見たと同じような星空が広がっていた。

――助かった……のでしょうか……。

濡れた髪を重たく感じながら、私は視界を左右に走らせる。
すると、少し離れた場所に立っている金色の髪をした子供と、青い髪をした男の人が見えた。

――あの方達が助けてくれた?

疑問に思いながらも、生まれもっての教育のせいか、お礼を言わなければという衝動に駆られる。
体を起こそうとする。
どうやら体に異常はないらしい。
少し力を入れただけで起き上がる事ができた。

――お礼を、お礼を言わなければ……。

そう考えて声を発しようとした瞬間、離れた場所に立っている青い髪の男の方から声が聞こえてきた。
それに自然と耳を傾けてしまう。

『……カミナ。彼女を保護しますか? 万一ゲームに乗っていたら……』

「……ああ。ま、そん時はそん時だ」

一人しかいないというのに二人分の声が聞こえてきた。
一瞬疑問に思ったが、今はその会話を耳に入れることだけで精神的にも精一杯だ。
仕方ないので、会話の中から最優先で考えるべき単語のみを拾い上げる。

――か、みな……。
  何でしょう、どこかできいた事があるよう……。

それは何度も聞いた気がする単語。
いや、単語じゃない。
それは名前だ。
誰か、大切な、大切な人の名前……。

そう思った瞬間、私はある事に気がついた。
目の前の男の人、よく見れば、その姿形にはどこか見覚えがある。
そう、それは、シモンが部屋で一人で作っていた、あの……。

――か、み、な……、カミナ……、もしかして!?

気が着けば目の前に左右が鋭くとがったサングラスが浮かんでいた。
数秒間思考の渦の中に居たため、目の前まで探し人の接近に気付けなかったのだ。

「よう、目が覚めたか? 気分はどうだ?」

シモンのアニキさんが、そこに居た……。



◆ ◆ ◆

986俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:11:37 ID:fBE.W2Uw0
少女が目を覚ました時、もう一つの生命も意識を取り戻していた。

『あれぇ?何だ…、ボク、いったい……』

それは魚。
ブリと呼ばれる全長1.5メートルほどある回遊魚である。

『あ、まただ、また呼吸ができない』

目覚めたばかりだが、ブリは早速死に掛けていた。
理由は単純。
本来深海100メートルほどで生息しているはずの存在が、なぜか現在は陸に上がっているからである。

『く、苦しいよ! 早く、早く戻らなきゃ……、ボクの居場所に……』

本能が囁くのだろうか、ブリは漠然とだが海がある方向と距離を理解していた。
ゆえに、必死にその方向へ体を向けようとする。
だが、残念なことにどうしても体が動かない。
本来帰るべき場所である海までは僅か1メートルもないというのに……。

『なんで……、どうして……』

必死になって理由を探し始める。
すると、理由はすぐに見つかった。
自身の体に巻きつけられていたロープが近くに居た人間に掴まれていたからだ。

『そんな!離して!離してよ! このままじゃボク、死んじゃうよ!』

ブリの訴え。
勿論届かない。
ブリの言葉が人に通じるはずはないのだ。

『嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……、こんなとこで死ねないよ!
 さっき決意したばかりじゃないか!』

理不尽な事態にブリは必死に抵抗を始める。
それこそ、先ほど抱いた決意のままに自身の体に湧き上がる『生存』という単純な本能に身を任せる。

『ボクは死にたくない!
 死んでたまるか!
 絶対に生き延びてやる!』

それはもう必然の事態になっているのかもしれない。
ブリがそう思った瞬間、再び自身の体に力が沸いた。
見ればあの緑色の光がまたも彼を包んでいる。

『いける!』

ブリの決意は再び体を動かす事に成功した。
絶対的な『生きたい』という願いと共に体に巻きつけられたロープを振りほどき、ブリは海へと自身の体を躍らせたのだった。



◆ ◆ ◆

987俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:13:12 ID:fBE.W2Uw0
「ンヌ?」

「あっ!」

背後で聞こえたるは響く様な水を叩く音。
その音に反応し、二人の男は目の前の少女の事を一時的に忘れ、慌てて音の聞こえた方に視線を向ける。
すると案の定、そこにはあるべき物が既に無い光景が映し出されていた。

「ブ、ブリがぁぁーーーー!!!!」

状況を受け止め、真っ先に飛び出したのは金色の髪を海水で濡らした少年の方。
改めて言うことでもないが、少年、ガッシュにとっての“彼”は、単なる栄養源等という言葉では収まりきれない。
言ってしまえば、これは既に愛だ。
好きで好きで好きで好きで、まっしぐらという言葉を猫如きに独占されるのが我慢なら無いほど、『ブリ』という名の彼を愛しているのである。
ガッシュにとってブリとは幸福だ。それさえあれば自身の欲求の内の『食欲』という欲求は肉体的にも精神的にも確実に満たされる。
それを理解しているからこそ、目の前の光景、さっきまでそこにあったはずの“彼”=『ブリ』が逃げ出したという事実は、今のガッシュには耐えられないのだ。
欲求の内の大半を食欲で占めてる彼だからこそ、現状さえも視界から消し、何を置いても欲望に順ずるまま行動に移すのも当然といえよう。

少年は何も考えない。ただ、自身の衝動が示すままに行動しただけだ。
その先に何が待っているのか、また、自身の行動が世界にどう影響を齎すかなど、一ミリたりとも考えはしない。
確保していた獲物が逃げた焦りと僅かな怒りに翻弄されるまま、獲物を奪われた狼のように瞳をギラつかせつつ、追いかけるようにその身を再び海面へと羽ばたかせる。
それだけだ、本当にただそれだけ。
そんな容易い感情一つで、少年は明かりも何も無い漆黒の海へと消えていく。
数瞬後、先ほど聞こえてきたと同種の水音が虚しく響き渡った。

988俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:13:41 ID:fBE.W2Uw0
「ま、待て!ガッシュ!」

ブリが逃げ出したことに気づいたのは隣に居た青い髪の青年、カミナも同じ。
だが、カミナはガッシュほどブリに執着は無かった。
船での食事で幾分かは腹は満たされている上に目の前の少女の存在の方が遥かに気にかかる。
ゆえに、ガッシュの様に勢いに任せたまま飛び出すということはない。
カミナはただ見ていただけだ。ガッシュが海へと飛び込む瞬間を。

響き渡る水音に水飛沫。
ガッシュが海へとダイブした証拠である。

「クッソ!……チッ!クロミラ!!」

言葉尻は慌てながらも、即座に最善の判断を下す。
この状況でガッシュの追う最善の一手は唯一つ、クロスミラージュにガッシュの魔力を探知してもらい、決して見失ってはいけないということだ。

『マズイですよカミナ!
 魔力の反応は海岸沿いを北に向かって高速で移動しています。
 このままでは直ぐにでも禁止エリアに飛び込む事に……』

クロスミラージュの言葉にカミナの顔に焦りの色が浮かぶ。

「マジかよ!?何でそうなんだ!
 しょうがねぇ、俺達も追うぞ」

少女の事が気になりながらもカミナは決断する。
大切な仲間が生命の危機に瀕しているとわかった以上、少女の事ばかりに気を取られるわけにはいかないからだ。

だが、だからといってガッシュと同じように海へ飛び込むという愚策はしない。
いまだ泳ぎが覚束ないカミナに常人を遥かに超える体力を持つ魔物の子、ガッシュを追うのは不可能というものだからだ。
それはクロスミラージュの反応からも十分に理解できる。
ゆえに、飛び込んで追いかけるという選択肢はない。
カミナが下した判断は、ガッシュを見失わないように陸路を使って追うという一般的なものとなった。

『当然です。ですが、彼女をこのままというわけにもいきません、どうするつもりですか?』

クロスミラージュの言葉に走り出したい衝動を抑えカミナが一瞬の思考をめぐらす。
目の前の少女をどうするか、それは重要な問題だ
そもそも、少女の名前さえも聞いていない上に、安全か危険かの漠然とした判断もまだなのである。
こんな状況で、もし何も考えずにガッシュを追うという選択肢を選んでしまったせいで背後から襲われでもしたら、それこそ笑い話ではすまない。
ここは冷静な判断をすべき場面である。だが……。

「んな事は、走りながら考える!
 おい、いきなりで悪ィが一緒に来てもらうぜ、立てるか?」

カミナの下した決断、それは、この状況ではもっとも愚かで、もっとも軽率なものだった。
いまだキョトンと状況を理解できていない少女に向かって右手を伸ばし、立ち上がらせようとするカミナ。
それをクロスミラージュが慌ててとめる。
 
『ま、待ってくださいカミナ、まだ殺し合いに乗った人間かどうかの判別もまだです。そんな軽率な行動は……』

「うるせぇ!黙ってろ!
 理由ははっきりわかんねぇし、説明もできねぇが、コイツは大丈夫なんだよ!
 こいつを信じろ、こいつを守ってやれ、そんな風に、なんかこう、心の奥底で色んなもんがざわめくんだよ」

『で、ですが……』

「いいから!テメェは俺を信じればいい!こいつを信じる俺を信じやがれ!」

相も変わらず、独自の理論で切迫した状況の中で自身を貫こうとする。
それに振り回される方は正直たまったものじゃないだろう。
だが、カミナという男、それを平然と貫き通してなお、人を惹きつける魅力を持つ男なのだ。
短い時間とはいえ、それを何度も目の当たりにしてきたクロスミラージュは続く言葉を失ってしまったのは必然といえよう。
こうなってしまえば、何を言っても無駄というものである。

ちなみに、正直カミナ自身なぜ自分がこんな事を言い出すのか分かってはいない。
ただ、漠然と記憶、いや、心に刻んでいるのだ。
目の前の少女は守らなければならない、と……。

989俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:15:01 ID:fBE.W2Uw0
「おい、どうした?なにボケッとした目で見てんだよ。やっぱどっか調子悪いのか?」

ガッシュを追うために移動しながら少女から事情を聞こうとしたカミナは、少女を立ち上がらせるために右手を伸ばしていた。
しかし、いつまでたっても少女はその手を取らない。
恐れているのだろうか?一瞬そう考えたが、そういうわけでもない。
手を伸ばすカミナに呆気に取られた様な二つの瞳が突き刺したまま固まっているからだ。

「なんだぁ?俺の顔になんかついてんのか?」

その眼差しをむず痒く感じたカミナは強引に少女の手を取って立たせようとする。
すると、その瞬間、まるで意識を取り戻したように少女の表情が光ったように綻んだ。



「貴方が、シモンの……、シモンの言っていたアニキさん、なのですね!?」



そして突然、そんな言葉が少女から発せられた。



目を見開くカミナ。
そのカミナを太陽のような笑顔で見つめる少女。



タイミングに合わせるかのように、いや、あざ笑うように、螺旋王の放送が始まった。



◆ ◆ ◆



『禁止エリアへの侵入を確認しました。
 警告を無視して一分後までに退避しない場合、首輪の爆破機能が起動します』

ブリを追いかけるガッシュには当然そんな声は聞こえない。
警告音が聞こえていないという事は、当然放送の事など知る由もない。
ガッシュが見ているもの、それは猛スピードで泳いでいる一匹の魚のみだ。

「ウヌゥ〜!待つのだぁ〜!」

水中でその言葉が正常に発せられたかは定かではない。
だが、目前に居るブリにはそれで十分なのだ。
ガッシュにとっては何が何でも捕まえるという決意の現われ。
対するブリにしてみれば、それは確かな開戦の狼煙。
弱肉強食の理に従い、捕まったら自分の人生はそこで終わるという生存をかけた戦いなのである。
ゆえにこれは、確かに命を掛けた一対一の戦いと言っていいだろう。

泳ぐ、泳ぐ、螺旋力に目覚めたブリの速さは尋常ではない。
既に常識的な回遊魚の泳ぐ速度を遥かに凌駕している。

対するはガッシュ。
本来は、ただの子供が水泳の王者とも言うべき1メートルを越す巨体を誇るブリの泳ぎに適うはずはない。
だが、ガッシュは普通の子供ではないのだ。
ガッシュは魔物の子。
それも、幾多の戦いを潜り抜けたお陰で、魔物の中の常識をも超えた身体能力を獲得した子供なのである。
その泳ぐ速度は普通の回遊魚に勝るとも劣らない。
加えて、螺旋力に目覚めているのはガッシュも同じ。
自力の差が同じであり、螺旋力にも目覚めているとあらば、この戦いの勝敗を決めるのは、双方の決意。
つまり、螺旋力をどれだけひねり出せるかという事である。


逃げるブリ。
追いかけるガッシュ。
数分後、戦いはあっけなく結末を迎えた……。



◆ ◆ ◆

990俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:16:10 ID:fBE.W2Uw0
ビクトリームは一つの事実の前に時を止めていた。

彼の見つけたもの、それは、一人の男の死体。
大きく広がった血溜まりの上にうつ伏せで倒れている肉の塊。
頭が割られ、頭蓋が完全に砕かれ、脳みそどころか顔のパーツ一つ一つですら原形をとどめていない、男の死体。
大量に広がった血を掃除するように吸い上げたのだろう、白いシャツが赤く染まっている。
加えて、割られた頭部に張り付いている髪も、それが元は金髪だったという事実も、おそらく科学捜査でもしないと判別しない事だろう。
つまり、男の死体を一言で表すとしたら、『赤一色』、それ以外ない。そんな死体だ。

男の死体を目の当たりにした瞬間、ビクトリームは固まった。
勿論、死体に恐怖したというわけじゃない。
ビクトリームとて魔物同士の戦いで相手の命を奪いかねないような術を幾重にも見てきた。
戦いに敗れた場合、そのような結末を予期していないはずもなく、心を乱さない程度の覚悟は常に持っている。
まぁ、流石にここまで凄惨な死体を想定していたわけではないので、流石に一瞬は息を呑んだが、
それ以上に、その死体が放つ何ともいえぬ存在感がビクトリームの足を止めさせたのだ。

ビクトリームは何かを感じ取っていた。
それまで行使してきた我道を貫くような振る舞いが一旦鳴りを潜めてしまうほど、冷静な思考が求められる事態に直面したと感じ取ってしまったのである。
なぜなら、男はビクトリームを動揺させるものを持っていたからだ、抱えるように、守るように……。

「これは……、魔物のパートナーか?」

そう呟いた理由はただ一つ。
うつ伏せに倒れた男の死体から、僅かに自分の良く知る魔力の反応を感じ取ったからだ。
それは――言うなれば『心の力』。
人間が魔本と呼ばれる本に『心の力』と呼ばれる力を込め、魔物の力を人間界で発現させる為に必要なエネルギー。
人間界で魔物が戦うために、なくてはならない代わりのきかない力だ。
それを微かに感じ取ってしまったのだ。

恐る恐る死体に手を伸ばし、うつ伏せの体を起こして懐に手を入れる。
両手に大量の血が付着するのも構わず、魔力の発信源を追い求めるように“それ”をとりだした。
それはやはり、一冊の本だった……。

「や、やはり魔本か……。
 という事は、この男は死ぬ寸前まで魔物と共に戦っていたという事か?
 だとしたら、この男のパートナーは今どこに……」

そう言葉にした瞬間、ビクトリームは背後に人の気配を感じ取る。

「おぬし……」

声が掛けられた。
あわてて振り返ると、そこにはある意味捜し求めていた見知った顔が立っていた。

「な、何をやっておるのだ……」

呆然とした表情の中に明らかに動揺の色が浮かんでいるのが見える。
目を凝らさなくてもわかった。そこに居たのはブリを小脇に抱えたガッシュだった……。

991俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:19:33 ID:fBE.W2Uw0
【C-1東部/道路上/2日目/深夜】

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ肉体疲労(中)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
    リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
    アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ビクトリームと……死体?
1:カミナたちのところに戻る。
2:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:今すぐにでもブリは食べたいが、一応カミナたちのところに戻ってから。

[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※螺旋力覚醒
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
 いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。



[持ち物]:支給品一式×8(ランダムアイテム0〜1つ ジェット・高遠確認済み)
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1〜6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)



※ドーラの大砲@天空の城ラピュタは、船に上陸した際に弾を使いきり壊れてしまったので破棄しました。
※東風のステッキ@カウボーイビバップも船に上陸する直前の際に使用しました。
※賢者の石が砕けました。破片が4つ残っています。何らかの用途に使用できる可能性があります。

992俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:20:19 ID:fBE.W2Uw0
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!!】
[状態]:肉体的にも精神的にも色んな意味で大ダメージ、鼻を骨折、歯二本欠損、股間の紳士がボロボロ、ずぶ濡れ
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay nightで、頭と体を縛り付けている。
[道具]:支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、
    ビクトリームの魔本@金色のガッシュベル!! 、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考・状況] 
0:ガッシュ!?
1:こんどこそ小娘達を追うぞ! 小娘どもを追うのはメロンが欲しいからで、別に心配なぞしておらん!?
2:パートナーの気持ち? 相手を思いやる?
4:吠え面書いてるであろう藤乃くぅんを笑いにデパートに行くのもまぁアリか…心配な訳じゃ無いぞ!?
5:カミナに対し、無意識の罪悪感。
6:シータに対し、意味の分からないイライラ
7:F-1海岸線のメロン6個に未練。

[備考]
※参戦時期は、少なくとも石版から復活し、モヒカン・エースと出会った後。ガッシュ&清麿を知ってるようです。
※会場内での魔本の仕組み(耐火加工も)に気づいていません。
※モヒカン・エースは諦めかけており、カミナに希望を見出し始めています。ニアが魔本を読めた理由はかけらも気にしていません。
※静留と話し合ったせいか、さすがに名簿確認、支給品確認、地図確認は済ませた模様。お互いの世界の情報は少なくとも交換したようです。
※分離中の『頭』は、禁止エリアに入っても大丈夫のようです。 ただし、身体の扱い(禁止エリアでどうなるのか?など)は、次回以降の書き手さんにお任せします。
※変態トリオ(クレア、はやて、マタタビ)、六課の制服を着た人間を危険人物と認識しています。
※ニアとジンにはマタタビの危険性について話していません。
※第四回放送は聞いていましたが、無我夢中で走っていたので断片的にしか頭に入ってません。

993俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:21:01 ID:fBE.W2Uw0
「あー、ちょっと待て、
 ワリィが、さっぱりわからねえ!」

そう言ったのはカミナだった。
ニアから齎された話、そして放送、それらを吟味した結果、でてきた言葉がそれである。



まずは現在の状況を説明しよう。

ブリを追って海へと飛び込んだガッシュが禁止エリアに突入すると言うクロスミラージュの言葉に驚かされ、即座に追いかけようとしたのだが、
その直後、目覚めたニアが放った『シモンのアニキさん』発言と放送(チミルフの参加)という二つの衝撃により、
一瞬とはいえガッシュの事をカミナは頭の中から霧散させてしまったのだ。
だが当然、そのまま動乱に流されるまま混乱しているわけには行かない。
カミナはとりあえず、混乱する思考に靄を掛け見ないようにし、ガッシュを追う事を決める。
ニアを立ち上がらせようと伸ばしっぱなしになっていた右手を、今度は相手が掴むのを待たずに拾い上げるように掴み、そのまま強引に立たせる。
そして、「とりあえず話は後だ!」の一言で二人そろって走り始めたのだ。

勿論、走っている間に難しい話を抜きにした自己紹介程度の情報交換はできる。
ニアは走りながら、必死にで自分の事を話した。
自分の事、シモンの事、シモンが語ってくれたカミナのこと、そして、大グレン団の事。
それら全ては確かにカミナの知ってる大グレン団であり、シモンそのものの話だった。
ただ一点、自分が既に死んでいるということを聞かされるまでは……。



「なぜです?私は私の知っている事を……」

不意に立ち止まったカミナに合わせてニアも立ち止まり、考えるように俯いているカミナに向かってニアは言った。

「テメェが嘘を付いてねぇってのは何となくだがわかる。
 お前が語ったシモンはまさしく俺の知ってるシモンだし、大グレン団についてもおかしな点はねぇ。
 ヨーコ、リーロン、ロシウ、キタン、ダヤッカ……、確かにそいつ等は俺の知ってる奴等と一緒だよ。
 だがな、そこに俺がいねぇってのはどういうことなんだ?
 テメェの話で言えば、俺様が既に死ん出る事になる、チミルフを倒してな。
 コイツは一体なんだ?わけがわからねぇ」

「ですから、私がシモンに助けられたとき、アニキさんは既にお亡くなりになって……」



「それがわからねぇって言ってんだよ!」



カミナの声は咆哮のように響き渡り、辺りを震えさせた。
それは、目の前に居るニア、そして黙って話を聞いていたクロスミラージュも、一瞬とはいえ思考を停止させるほど大きな声だった。
ちなみに、既にこの時点でカミナの頭の中から完全にガッシュの事は消えている。
つまり、それだけカミナにとってショックな話なのである。

まぁ、それも当然の事だろう。
目の前の少女の話では既に自分が死んでいる事になるのだ。
それを、「はい、そうですか」と受け止められる人間など居やしない。
カミナは怒りを覚えているのだ、この理解不能なことを言う少女に対して……。



◆ ◆ ◆

994俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:22:00 ID:fBE.W2Uw0
一度ニアの話とカミナの記憶について整理をしよう。

カミナの前に居る少女、名前はニア。
大グレン団の調理主任という立場にして、螺旋王の娘。
自我が芽生えたからという理由のみで螺旋王から捨てられたニアは、偶然にもシモンに発見され、命を救われる。
外の世界を知らなかったニアは、そこで始めて人間を知り、人間を弾圧しようとする自分の父、螺旋王の行いを知った。
螺旋王のやる事に賛同できなかったニアは、螺旋王にその真意を問う為に、大グレン団に参加する。

とまぁ、ここまでは、あくまでニアが語るこれまでの経緯である。
それは確かにニアの記憶であり、この記憶に間違いなんて一つもない。
『ニアを知る』大グレン団の面々に確認をとっても、全員が全員、ニアの話を真実だと言うだろう。

そこにカミナという人間が居なければだが……。

そう、問題はやはり、ニアの前に居る男、カミナがその記憶の欠片すらも共有しては居ないという事なのだ。
 
カミナは知らない。
シモンが助けたというニアという少女の事を。
カミナは知らない。
チミルフ以外の四天王の事を。
カミナは知らない。
ダイグレンと呼ばれる巨大地上戦艦型ガンメンを大グレン団の母艦にしている事を。
それがチミルフの操ったダイガンザンであるという事を。
カミナは知らない。
そのダイガンザンを手に入れるために自分が死んだという事を……。

そう、つまりは、ニアの語る全てはカミナという男が死んだ後の話なのだ。
ゆえに、二人の間に埋めようのない決定的な矛盾点が生じているのである。



◆ ◆ ◆



「俺が死んでるように見えるってのか!?
 ふざけんなよ!テメェ!
 俺はまだ死んでもいねぇし、これから先も死ぬ気はねぇ!
 ついでに言えば、チミルフを倒すのはこれからだ!
 俺もアイツもまだ死んじゃいねぇんだよ!!!」

体がわなわなと震え、ニアを鋭い眼差し睨むカミナ。
一気に言い放ったせいか、多少息が荒くなっている。

カミナの記憶では、シモンのラガンを使い、チミルフのダイガンザンを乗っ取る計画、それを、ほんの数十時間前に立てたばかりなのである。
それがどういうわけか、この馬鹿げた殺し合いに無理やり呼ばれたお陰で全て狂ってしまった。
本当なら今頃、そのチミルフと決着をつけ、大グレン団の旗をダイガンザンに突き刺していてもおかしくはないというのに……。
つまり、カミナにとってチミルフとの決戦はあくまで『これから』の事なのである。

カミナは認めない。
認められるはずもない。
自分が死んだなどというふざけた話など信じられるはずがないのだ。

「螺旋王の言葉を信じるなんざ本当は胸糞ワリィ事だが、現にヤツが言ったじゃねぇか! チミルフをこの殺し合いに参加させるってな!
 テメェは言ったよな、俺はチミルフを倒して死んだって、シモンからそう聞いたって、そう言ったよな?
 ならこれはどういう事だ!俺は生きてるし、アイツも死んでねぇ! この食い違いをどう説明してくれんだよ」

最初は笑顔でカミナの顔を見ていたニアだったが、流石に途中から、言い返せないままに悲しい表情を浮かべてカミナの眼差しを受け入れている。
だが、間違っても視線を逸らすような事はしない。
それがニアの強さだからだ。

「それは私にもわかりません。
 ですが、私の言っていることは全て本当の話です。どうか信じてください」

「わかってる!わかってるよ!
 テメェが嘘を付いているなんて思ってねぇ!!
 だがな、納得できなきゃ同じじゃねぇか……。
 テメェの話を信じるとしたら、俺は既に死んでいて、螺旋王がこの馬鹿な実験の為に俺もチミルフも生き返らせたって事になる。
 だとしたらよ、俺は本当に唯の螺旋王の操り人形じゃねぇか……」

青い髪に左右が鋭く尖った赤いサングラス、そして体に彫られた刺青。
ジーハ村どころか地上隅々にその名をとどろかす悪名高きグレン団の不撓不屈の鬼リーダー。
それがカミナだ。カミナの誇りだ。
そいつを、その男の魂を、螺旋王は人形を作るようにこの世界に蘇らせたと言うのだ。
そんな事を認められるはずはない。認めていいはずがない。
ゆえに、カミナはやり場のない怒りのままに我を失うほど感情を顕にしてしまうのである。

「そんなんよ……、どうやっても納得できるわけねぇだろうがよぉぉ!!!」

カミナの怒りが爆発する。
だが、カミナの怒りはぶつけ様のない怒り。

一瞬何もかも忘れ、カミナは吼えるままに右手に握り締めていた板切れを地面へと叩きつけてしまう。
それは、これまで自分と共にここまできた一時の相棒とも言うべき存在だった……。



◆ ◆ ◆

995俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:22:40 ID:fBE.W2Uw0
『落ち着いてください、カミナ』

叩き付けられたショックで、というわけではない。
いや、勿論、理不尽な扱いに苦言を呈したくはなるが、今はそれどころではない事をその存在は知っていた。
クロスミラージュがこれまで一言も発せず黙っていたのは、全ての情報を整理するためである。

『貴方の考えは確かに理にかなっています。
 彼女の話を全面的に信じるとしたら、今この場に居る貴方が螺旋王が作り出した命である可能性は十分にあるでしょう。
 ですが、私はその考えとは別の可能性を提示します。
 勿論、正しい正しくないではなく、もう一つの可能性として……』

硬いコンクリートに叩きつけられた待機状態のクロスミラージュが無造作に道路の真ん中に転がっている。
そんな状況だというのに文句一つ言わず、二人にハッキリと伝わるようにゆっくりと言葉を発した。
ちなみに、走ってるときの自己紹介時にクロスミラージュの事も当然含まれているため、ニアの驚きはない。

「あん?どういうことだクロミラ」

クロスミラージュの言葉にカミナは血が上った頭を強制的に冷やされた。
怒りに任せたまま叩き付けてしまった存在が仲間だった事を思い出し、自分の行動を恥じた為だ。
だが、それで完全に苛立ちが収まるわけではない。
落ちたクロスミラージュを拾い上げ、自分の眼前へと持って行き、鋭い眼差しをぶつける。

『螺旋王の持つ力は確かに強大です。
 私が知る常識を遥かに超える技術も数多く持っていることでしょう。
 もしかしたらカミナの考えるように、本当に命を操れるのかもしれません。事実このゲームの優勝者の願いをかなえるといってるわけですから。
 ですが、私はその可能性より、もっと確実な方法があると考えます』

「確実な方法だと?」



『つまり、カミナと彼女、貴方方二人が、まったく別の世界から連れてこられたという可能性です』



カミナとニア、二人の頭の上に疑問符が浮かんだ。

『順を追って説明しましょう。
 カミナは言いましたね。
 自分とチミルフが戦うのはこれからだ、と。
 つまり、彼女が知ってるような、チミルフという螺旋王の部下との決戦に赴く記憶から勝利する記憶、その過程、そして、死ぬ記憶がない、そういう事になりますよね』

「あたりめぇだろ!
 何度も言うが、俺は一度だって死んじゃいねぇんだよ!」

『ですが、それはおかしいんですよ。
 彼女の話を信用した場合、カミナが自分が死んだ事を知らないはずはない。
 もし、本当に知らないんだとしたら、螺旋王によって蘇生させられた際、記憶の一部を消去されたという事になります。
 ですが、実際問題、一体それが螺旋王にとってどれだけの意味を持つというのでしょう?
 螺旋王にしてみれば、カミナが自分が死んだ事を知っていようと知っていまいと、どうでもいいはずです。
 勿論、此度新たな参加者として名を連ねたチミルフとの戦いをもう一度演出させる為という理由付けもできますが、
 それならば、わざわざ一日経った今になってチミルフを参加させる意味が分かりません。
 カミナとチミルフを戦わせるのが目的だというなら最初からチミルフを参加させればいいのにそれをしなかった、
 つまり、螺旋王はカミナの記憶を操作する事でおきるチミルフとの邂逅を重要視していないと考えられます。
 そうなると必然的に、手間を掛けてカミナの記憶を消したという可能性そのものが疑わしくなり、
 引いては螺旋王によって蘇生させられたという考え自体を否定すべきだと、私は考えます』

一気にまくし立てたクロスミラージュ。
当然、今の話を理解できる思考をカミナもニアも有してはいない。見事なまでに魂が抜けたように間抜けな顔を晒していた。
それを察し、即座に言葉を続ける。

『つまり、貴方は死んだわけじゃない、そういうことです』

996俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:23:12 ID:fBE.W2Uw0
クロスミラージュが何を言っているのか、それを理解できわけではないが、カミナはその一言で一応納得したように表情を元に戻す。
そして、大きく溜息を付きながら答えた。

「フゥ〜、あー、なんだかわかんねぇが、
 つまり、俺は死んでねぇってお前は言いてぇんだよな?
 ならよ、何でコイツは『俺が死んだ』、なんて記憶をもってやがんだよ」 

『そこです。
 彼女が、“カミナは死んだ人間”、という記憶を持っていること自体、螺旋王の力を知る突破口だと私は考えます』

そう前置きした上で、クロスミラージュはニアへと質問の矛先を変えた。

『ニアさん、貴方はカミナを死んだ人間だと聞かされた、といいましたね?
 では、こういう話を聞いた事はありませんか?
 “カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と……』

その問いが出た瞬間、二人の人間の頭に先ほどより大きな疑問符が浮かんだ。
質問の意味が理解できないのである。

「……いえ、そのような話は……」

『そうですか。なるほど……。
 だとしたら、螺旋王の力は既に私の理解する次元を遥かに越えたところにあると考えられます……』

なぜかそこでクロスミラージュの言葉がとまった。
まるで、次に続く言葉を言いたくないかのように、人間のように言葉を詰まらせたのである。



『……螺旋王の持つ力、それは、多元宇宙を自由に行き来する事ができる力、というのが考えられます』



「た、たげん、うちゅう? な、なんだそりゃ?」

クロスミラージュの発した言葉を聴き、カミナ、ニア共に、何一つ理解できないというのがアリアリと分かるほど呆けた顔に変わる。
それを確認したクロスミラージュは、次に続ける言葉を躊躇った。
クロスミラージュは冷静に考えたのだ。
これ以降の話は、おそらく今の二人では到底理解できないという事を……。



『……カミナ、ガッシュを追いましょう。
 魔力の反応は無事禁止エリアを抜け、この先にいるようです』

「あ、ああ……
 だが、話は……」

『魔力の反応が二つあります。
 一つはガッシュですが、もう一つについては分かりません。おそらく他の参加者かと……』

「なに!?敵か!?」

『はい、ですから速く向かいましょう』

「お、おう!」



クロスミラージュは話を逸らした。
それが現時点でもっとも正しい選択だと信じて……。



◆ ◆ ◆

997俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:24:25 ID:fBE.W2Uw0
カミナとニア。
この二人の記憶の矛盾を説明できる解釈を、帰謬法を用いて説明しよう。

それは螺旋王が時間跳躍の手段を持っていると仮定することから始まる。

まず、ニアガ大グレン団という一団に参加している時代の螺旋王がニアを誘拐、このゲームに参加させる。
つづいて、時間跳躍つまりタイムトラベルで過去へと行き、カミナをチミルフとの決戦前夜からさらってくる。
これで、一応二人の記憶の矛盾はなくなると考えられる。
だが、これは実際問題ありえない。
なぜなら、ニアがカミナのこと『死んだ人間』と記憶しているからだ。
もし時間跳躍を利用して二人を集めたのだとしたら、カミナを誘拐した時点でタイムパラドックスがおきる。
つまり、ニアは存在自体消滅するか、もしくは記憶が書き換わらなければおかしいのである。

存在が消滅する理由は単純だ。
もしカミナが決戦前夜に誘拐されていたとしたら、リーダーを失った一団はどうなっていただろう。
事実と同じように螺旋王の部下に勝てたかだろうか、いや、最悪の場合、そのまま敗北したのではないだろうか。
敗北していた場合、ニアはシモンに助けられてはいない事になり、ニアの命がそこで終わる。それは記憶どころの騒ぎではないだろう。
だが、現にニアはここの存在している。
ゆえにもう一つの仮説、記憶が書き換わったという可能性を考えるべきだ。
それを確認するために、クロスミラージュは先ほどニアに質問したのだ。

“カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と聞かされてはいないか?と……。

ニアが持つ記憶、これが最大の焦点。
『戦いの果てに死んだ人間』から『カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました』というふうに記憶が書き換わっていたとしたら、
螺旋王が時間跳躍を駆使して彼等を集めたと一応は考察がまとまる。
だが、ニアはそんな話は聞いた事がないと言った。
これはつまり、タイムパラドックスがおきなかった事を指しており、時間跳躍そのものに矛盾が生じてしまうのだ。
つまり、ニアの記憶という一点のみに絞った考察ではあるが、時間跳躍の可能性は限りなく薄くなると考えられるのである。

では、二人を集めた方法とは、螺旋王の力とは何のか?
時間跳躍が否定される以上、現在ここにいるニアという存在とカミナという存在が等しく存在している事を考えるに、新たな仮説を立てることができる。
それこそがクロスミラージュが辿り着いた二人の状況を説明できる仮説だ。

ニアはカミナが誘拐された事を知らない。
それは、言い換えれば、カミナとニアは同じ時間軸上に存在していなかった事を指し示している。

つまり、平行世界の移動、いや、時間跳躍を含めた全ての次元に干渉するという力だ。

螺旋王の力とは、無限に生まれ続ける多元宇宙に自由に干渉する力。
それが、現在カミナとニアの記憶を整理して導き出された結論である。

998俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:24:57 ID:fBE.W2Uw0
クロスミラージュは自身が立てた仮説を二人に聞かせる事を躊躇った。
そもそも、文字すら読めないというカミナと、その彼とほぼ同一の世界から来ていおり、自分の事を語っている時に度々物を知らないような発言を繰り返していたニア。
この二人に、今自分が考えた話を聞かせたとして、それを理解できるとは到底思えないからだ。
なぜなら、クロスミラージュが立てた仮説は、ある一定の基本概念を知ってる事が大前提の講釈なのである。

おそらくだが、この二人、カミナとニアは人が想像し作ってきた基本的な空想話ですら頭に入っていないだろう。
過去と未来という概念を理解しているか怪しい。
知ってたとして、時間跳躍の可能性を想像した事があるか怪しい。
想像した事があるとして、タイムトラベルの持つ矛盾点まで想像している可能性は?
上げれば切がない。
加えて、『自分がもしあの時こうやっていたら』という考えから派生した世界を綿密に想像した事があるかどうか怪しい。
それがどういう世界で、何がどう違ってくるのか、また、本当にそんな世界はないのだろうか、そういう単純な思考をした事があるか怪しい。
自分がもう一人いるかもしれない、という可能性は?
つまりは平行世界の概念。
“この世界と似て非なるもの”の存在をたとえ信じていなくても頭には入っているかどうかという事が、これから話す事に大きくかかわってくるのである。

流石のクロスミラージュでも、全てを一から説明するのはいくらなんでも時間がなさ過ぎる。
説明したとして、彼等がそれを理解できるのは何時間後か、何十時間後か……。
それでは意味はない。
説明している間に殺し合いに乗った人間の襲撃を受け、下手をした二人が死んでしまう可能性もあるからだ。
そんな無茶はできない。
ではどうするか、時間を掛けてでも二人に説明するのか、それとも、仮説中からもっとも事実に近い事だけを話し、理解できるかどうかを二人に任せるのか。



クロスミラージュは悩む。
些細とはいえ、後々重要になってくるであろう判断を迫られているのだ。
勿論、この仮説が正しいかどうかはわからない。
だが考えて置いて損はないだろう。
なにせ、目の前の二人に限ってのみ言えば、自身のこれからの運命を左右しかねない話になるからだ。



二人は考えてはいない。
螺旋王を倒すという事がどういう事なのかを。
そして、この世界で死んだ者が、本当に自分の知ってる者だったのか、という事を……。



二人は気づいていない。
この世界の螺旋王を倒せても、自分達の世界にも螺旋王がいる可能性があるという事を。
生きて元の世界に帰ったとき、目の前に死んだはずの大切な人が現れる、そんな可能性がある事を……。



勿論、覚悟しなくてはならないクロスミラージュも同じだ。
多元宇宙に干渉する力を螺旋王が持っているのだとしたら、
この世界で無残にも命を落としたクロスミラージュが良く知る彼女たちは本当にクロスミラージュの知っている彼女等なのだろうか。



もし違うのだとしたら……。

999俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:25:50 ID:fBE.W2Uw0
【C-1南東/道路上/2日目/深夜】

【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、体力消耗(大)、全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意、螺旋力覚醒・増大中
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
    【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】   
    アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!、
    クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
    ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:と、とりあえずガッシュのところに。
1:何がなんだかさっぱりわからねぇ!
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ!コイツは俺が守る!
3:チミルフだと?丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
5:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ガンメンモドキ(ビクトリーム)よぉ……そうならそうって早く言えってんだ。

[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。2人の死を受け入れられる状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
 禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
 ただし、クロスミラージュがその事実を把握しています。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ましたが、なぜか今は読めません。
※少女(ニア)の保護に義務感のようなものを感じています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※螺旋力覚醒
※ニアと情報交換しました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※クロスミラージュが『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
 ですが、それをカミナ達に話すのを迷っています。

1000俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk:2008/04/12(土) 00:26:14 ID:fBE.W2Uw0



【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(小)、ギアス?、右頬にモミジ、下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:一体どういうことでしょう。
1:出来ればシータを止めたい。
2:ルルーシュとビクトリームと一緒に脱出に向けて動く。
3:ビクトリームに頼んでグラサン・ジャックさんに会わせてもらう。
4:ルルーシュ達を探す。
5:お父様(ロージェノム)を止める。
6:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。

[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
 気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
 今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※カミナと情報を交換しました。




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