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避難所用SS投下スレ11冊目

1 名無しさん :2014/02/18(火) 02:41:49 ID:0ZzKXktk
このスレは
・ゼロ魔キャラが逆召喚される等、微妙に本スレの趣旨と外れてしまう場合。
・エロゲ原作とかエログロだったりする為に本スレに投下しづらい
などの場合に、SSや小ネタを投下する為の掲示板です。

なお、規制で本スレに書き込めない場合は以下に投下してください

【代理用】投下スレ【練習用】6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1279437349/

【前スレ】
避難所用SS投下スレ10冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1288025939/
避難所用SS投下スレ9冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1242311197/
避難所用SS投下スレ8冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1223714491/
避難所用SS投下スレ7冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1212839699/
避難所用SS投下スレ6冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1205553774/
避難所用SS投下スレ5冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1196722042/
避難所用SS投下スレ4冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1192896674/
避難所用SS投下スレ3冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1190024934/
避難所用SS投下スレ2冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1186423993/
避難所用SS投下スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1184432868/

613 ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo :2017/02/28(火) 22:17:57 ID:iBf32hzg
以上で、80話の投稿は終了です。

ゼロの使い魔も原作がようやくの完結。天国のヤマグチ先生と代筆のお方、そして押絵担当の兎塚エイジ先生。お疲れ様でした。
自分としてもここまでのめりこんだライトノベルは記憶になく、多分この先もゼロ魔以上のライトノベルに出会う事は無いと思います。
そしてゼロ魔が完結した事で、これからいろいろなサイトでゼロの使い魔の二次創作が増える事を祈っています。 
 
では皆さん、また来月お会いしましょう。

614 名無しさん :2017/02/28(火) 22:24:49 ID:vqGQrbeY
乙です!
これを機にまた盛り上がらないかな

615 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 22:52:51 ID:7SD9eaBU
こんばんは、ご無沙汰しております。
遅くなって申し訳ありませんでしたが、よろしければ23:00頃からまた続きを投下させてくださいませ。

616 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:00:13 ID:7SD9eaBU

 ラ・ロシェールに着いた翌日の朝。

「ンー……、よく寝たの」

 ディーキンはさすがに冒険者らしく、朝早くすっきりと目を覚ました。
 昨日の長旅の疲れもまったく残っていない。
 それから、まだ寝ている同行者たちを起こさないようにそっと部屋を抜け出すと、昨日ワルドが借りた部屋に向かった。

 ディーキンはその空き部屋で、ジンの商人・ヴォルカリオンを呼び出して買い物をしたり、フェイルーンの仲間たちと連絡を取ったりなど、必要な作業をてきぱきとこなしていった。
 ギーシュやワルドに見られると説明が面倒だし、特にワルドには今のところあまりいろいろな事を知られたくなかったので、場所を変えたのである。
 せっかく余分に借りた部屋なのだから、出来る限り有効に活用させてもらおうというわけだ。

 そうして当面の仕事を早朝のうちにすませてしまうと、ディーキンは最後に《英雄達の饗宴(ヒーローズ・フィースト)》の呪文を使って、御馳走の並んだ食卓を用意し始めた。
 有益な恩恵を与えてくれるこの食事は旅の間常に食べるようにしておきたいが、まさか下の階にある酒場で自前の料理をずらずらと並べるわけにもいかないので、この部屋へ皆を集めて食べようと考えたのだ。

「……あれ?」

 呪文も完成して食卓の用意が整ったところで、さて皆を起こそうかと部屋を出たディーキンは、何やらあたりをきょろきょろと伺いながら廊下を歩いているワルドの姿に気が付いた。
 ワルドの方でもすぐにディーキンの姿をみとめてそちらへ近づいていくと、にこやかな顔で挨拶をする。

「おはよう、使い魔君。捜したよ、昨日借りた部屋を見てみたかったのかい?」

「おはようなの、ワルドお兄さん。ディーキンはね、あの部屋にみんなの朝ごはんを用意しておいたんだ」

 ディーキンは元気よく挨拶を返すとそう伝えて、自分は他の皆を呼んでくるからよければ先に食べていてくれと勧めた。
 ワルドは確かに疑わしい相手ではあるが、黒だと確定しないうちは動向に注意はするものの、基本的には仲間として接するつもりでいる。
 仲間である以上、一人だけ食事に招かないなどという法はないだろう。

「用意がいいね、ありがたくいただくとしよう。ああ、ところで……」

 ワルドはにっこりと微笑むと、他の皆を起こしに行こうとするディーキンを呼び止めた。

「きみは、伝説の使い魔である『ガンダールヴ』なんだろう?」

「……へっ?」

 ディーキンは一瞬、ワルドが何を言っているのか分からずにきょとんとした。
 それから、ちょっと考えて問い返す。

「ええと、『ガンダールヴ』っていうのは、その……。ブリミルっていう人の、使い魔のこと……だよね?」

「そうだよ。我々の偉大なる始祖、ブリミルに仕えたという四人の使い魔の一人だ。君はその『ガンダールヴ』なのだろう?」

 ワルドの確信を持った様子とは対照的に、ディーキンは何がなんだか分からず、困ったように頬を掻いた。

「アー……、ワルドさん? ディーキンが思うに、あんたはなにか、とてつもない勘違いをしてるんじゃないかと思うんだけど……」

 そう言ってはみたものの、ワルドの確信は揺るがないようだった。

「いやいや、隠さなくともいいよ。ああ、それとも、本当に知らなかったのかな?」

 彼は口の端に薄い笑みを浮かべて、肩をすくめる。

「ルイズから聞いたんだが、君の使い魔のルーンは左手の甲にあるのだろう? それこそが、伝説の『ガンダールヴ』の証なのだよ」

617 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:02:37 ID:7SD9eaBU

「…………」

 ディーキンは無理にそれ以上ワルドの言い分を否定しようとはせずに、自信ありげな彼の顔を黙ってじいっと見つめた。
 ややあって、口を開く。

「……ウーン。でも、左手にルーンのある使い魔なんて大勢いるんじゃないかと思うんだけど。あんたはなんで、ディーキンがその『ガンダールヴ』だって思ったの?」

 そう問われたワルドは、ちょっと困ったように首をかしげた。

「……ああ。それはその、あれだ……。僕は歴史と強者に興味があってね。自然と、最強のメイジであった始祖ブリミルとその使い魔については、王立図書館などでよく勉強していたんだよ」

「オオ、王立図書館? ディーキンも見てみたいの、学院の図書館よりも、もっといっぱい本があるかな?」

「はは、それはどうかわからないが……。君は、小さいのに勉強熱心なことだな」

 本の方に気を惹かれた様子で目を輝かせるディーキンを見て、ワルドは上手く誤魔化せたなと目を細めて小さく頷く。

「……で、君の昨夜の戦いぶりを見て思い当たったのさ。これこそあらゆる武器を使いこなして敵と対峙し、主を守ったというあの『ガンダールヴ』に違いない、とね」

「アア、なるほど……。わかったの」

 ディーキンはこくりと頷きながらそう言ったものの、内心ではまったく納得してはいなかった。
 明らかにワルドが言い訳をして誤魔化そうとしたらしいのも見て取れたが、それ以外にも彼の言い分には不自然な点が多すぎる。

 亜人が武器を少々上手く使ってみせた程度のことで伝説の使い魔だなどとは、あまりにも発想が飛躍しすぎてはいないか。
 自分が大きな人間にとってはいかにも貧弱そうで、武器の扱いなどできなさそうに見えるというのは、ちょっと不本意ではあるがまあ理解はできる。
 それが予想外に武器を上手に扱ったものだから、以前に勉強した『ガンダールヴ』をふと思い浮かべた……というところまでは、ありえなくはないかもしれない。
 しかし、あるいはそうなのではないかと考えるくらいはあるにしても、そうに違いないと断定するのには根拠が薄弱すぎるだろう。
 なのにどうして、『君はもしかしたらガンダールヴなのではないか』という質問形ではなく、『君はガンダールヴなんだろう』という断定形で話し始めたのか?

 実際には、ディーキンは契約を結んでいない以上正式な使い魔ではないからその推測は誤りなわけだが、まったくの的外れでもない。
 召喚者であるルイズが始祖ブリミルと同様の『虚無』の使い手であるという、奇妙な共通点があるのだ。
 件の系統が長年に渡って失われた伝説の系統とされていることを思えば偶然の一致というには出来過ぎており、そのあたりがまた解せなかった。
 この男はどうして、そんな中途半端な誤りを犯したのだろうか?

 いずれにせよ、傭兵と戦うところを見て初めてそうかもしれないと思ったなどというのは嘘に違いない。
 それ以外にも、明らかに何らかの根拠を掴んでいるのだ。
 それは一体なんなのか……。

(……ウーン。もしかして、デルフとか?)

 ディーキンは、かつてその伝説の使い魔の手に握られていたという意思を持つ剣のことを思い浮かべた。
 もしもワルドが何らかの書物などであの剣のことを知っていて、見てそれだと気付いていたのだとしたら、その持ち主が『ガンダールヴ』だと推測する根拠になるだろうか?

 しかし、それはまずないだろうな、とディーキンは思い直した。

 あの剣はシエスタに渡し、彼女がずっと背負っていたのだから、まずそれをディーキンと結びつける理由がない。
 それに、傭兵との戦いのときでもシエスタが使ったのはクロスボウだけで、あの剣は一度もワルドの前では抜かれていないのだ。
 道中でもずっとグリフォンに跨ったままルイズとだけ話していたこの男が、鞘に納められたままのデルフリンガーの正体に気付いて目をつけていたとは思えない。

(ええと、じゃあ……。他に、考えられるのは……)

618 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:05:03 ID:7SD9eaBU

 しかし、ワルドが話を続けてきたので、それ以上その場で考えをまとめる余裕はなかった。

「それで、だ。その伝説の実力がどれほどのものかを、ちょっと知りたいと思ってね。手合わせ願いたい」

「へっ? ……ええと、あんたとディーキンとが……手合わせ?」

 ディーキンがきょとんとしているのを見て、ワルドはにやっと笑うと、自分の腰に差した杖をぽんぽんと叩いて見せた。

「そうだ。つまり、これさ。あまり堅苦しくない言い方をすれば、殴りっこ、とでもいうのかな?」

「アー……」

 ディーキンは困ったように頬を掻いて、さてどうしたものかと考え込んだ。
 タバサに挑まれた時と同じで、やりたいかやりたくないかと言われればもちろん後者であるのだが……。

「……その、また今度、戻って来てからじゃ駄目かな? 今は大事な頼まれごとの最中だし、余計な怪我をするようなことはしない方がいいんじゃないの?」

 とりあえず無難にそう言っては見たものの、ワルドは首を振って豪快に笑ってみせた。

「心配することはない、ちょっとした手合せだよ。どっちも大怪我なんてしないし、今日は休みじゃないか。休む時間はたっぷりあるさ。……それとも、おじけづいたのかい?」

 挑発するようなワルドの物言いに、ディーキンは反論するでもなく素直に頷く。

「もちろんなの。あんたは強そうだし……、ディーキンは、痛いのは好きじゃないもの」

 ディーキンが気弱そうに肩をすくめてそう言うのを聞いて、ワルドは拍子抜けした様子で顔をしかめた。

「……伝説ともあろう者が、ずいぶんと弱気なことを言うじゃないか。それでよく、ルイズの使い魔が務まるね?」

「イヤ、ディーキンは大事な時にはちゃんとルイズのために戦うよ。でも、今は……」

「いやいや、今だからこそ必要なことさ! つまり……、そう、実力だ。同行者として、互いに実力を知っておくことはいざという時のために大切だろう? まさにその、大事な時のためだ!」

 ワルドはやや強い口調で、そう主張した。
 彼としては、まずルイズの前でこの使い魔を負かして見せることが大事だった。
 どうせ今はルイズも見てはいないのだし多少強引に説き伏せることになっても構わない、まずは勝負の場に引き出すことだ。

「……それにね、僕としては、婚約者の使い魔である君が本当に頼れるものかどうかを確かめたくなったのだよ。使い魔君、さあ、君にいざという時に本当にルイズを守って戦う勇気があるのなら、今僕と戦いたまえ!」

 ディーキンは、ワルドの挑戦的な物言いを聞きながら顔をしかめた。
 言葉だけを聞いていると婚約者を案じて使い魔に勇ましく対抗心を燃やす男と言った風情なのだが、どうも本気でそう思っているのか疑わしい。
 こうして正面から話し込んでみると、キュルケの言ったとおりだということがよく分かった。
 熱のこもった言葉とは裏腹に、この男の目はまるでブラックドラゴンの瞳のように冷たいままなのだ。
 敵かどうかはまだわからないが、少なくとも善人だとは思えない。

 とはいえ、このまま断り続けても承服してくれそうにないので、仕方なく曖昧に頷いた。

「わかったの、考えておくよ。……でも、とにかく食事が終わってからにして欲しいの。せっかく用意したのが駄目になっちゃうし、食べてからの方が力も出るでしょ?」

「よし、いいとも。それでは、食事の後に中庭でやろう。ここはかつてアルビオンからの侵攻に備えるための砦だったからね、練兵場があるんだ」

 ワルドは、これで話がまとまったと満足していた。
 もとよりルイズの前で使い魔の頼りにならぬことを示してやるために持ちかけた話なのだ、彼女が起きてきて食事をとってからでなんら問題はない。
 多少は実力を警戒していたが、痛いから手合せは嫌だなどと泣き言を吐いてみっともなく自己弁護をする意気地のない亜人の子供に過ぎないとわかったからには、伝説であろうが取るに足らぬ。

 ディーキンは頷いてワルドと別れると、今度こそ皆を起こしに向かった……。

619 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:07:08 ID:7SD9eaBU





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「ふーん……。それはまた、妙な話ねえ?」

 話を聞いたキュルケが、髪の毛を指先で弄びながら呟いた。
 皆を起こして回った後、ディーキンは適当な理由をでっち上げて他の者たちを先に行かせ、キュルケとタバサだけに残ってもらって先程の件を手短に伝えたのだ。

「ねえ、2人はどうして、あの人がそんな勘違いをしたんだと思う?」

 ディーキンに問われて、しばらくじっと考え込んでいたタバサが顔を上げた。

「……あの男は、ルイズが『虚無』だと知っていたのかもしれない。だから、あなたを『ガンダールヴ』だと思い込んだ」

 それを聞いて、キュルケも思案気に頷く。

「ああ、そうね……。小さい頃のルイズと知り合いだったそうだし、あの子についていろいろ調べてみてその事に気付いた、ってのはありえるかもしれないわ」

「オオ、なるほど……。そうだね、そうかもしれないの」

 ディーキンは、2人の考察に感心したように頷いた。
 確かに、昨日会ったばかりのワルドが自分のことを詳しく知っていたというのはありそうにもないが、昔のルイズについてはよく知っていたはずだ。
 となると、その関係からルイズの使い魔を務める自分を『虚無の使い魔』だと考え、たまたま武器を使ったところを見たことから『ガンダールヴ』だと推測したというのは筋が通っている。
 やはり、頼れる仲間がいて何でも相談できるというのはいいものである。

「ええと、そうだとすると……。あの人は、ルイズの力を狙ってるとか? 別に、こっちの邪魔をしようとしてる敵とかじゃないってことなのかな?」

 こちらの世界では伝説とされる『虚無』の力を求めてルイズに近づいた、というのなら話は分かる。
 その場合、単にこの旅をきっかけに彼女の気を惹こうとしているだけだから任務の成否に関心がないのだ、ということで昨夜の不審な態度の説明もつくだろう。

「ふんっ……。つまりはあの子の力が欲しくて、今さらになって婚約者面して擦り寄ってきたってことかしら? やっぱり、ろくでもない男ね!」

 ディーキンの推測を聞いて、キュルケは嫌悪感も露わに吐き捨てた。
 仮にあの男が敵でなかったにしても、少なくとも『虚無』の力について気が付いていたというのなら、それを知っていながら落ちこぼれ扱いされて苦しむルイズに何も教えずにずっと放っておいたのは確かだ。
 それでルイズを愛しているだなどと、どの面を下げてそんなことが言えるのだろうか。

 とはいえ……、もちろんそんな利己心しかない男にルイズに近づいてほしくはないのだが、もしそれだけだとすれば不快な男ではあるが敵というほどのものではない、ということになろう。

「そうとも限らない。敵でもあるかもしれない」

 立腹する親友とは対照的に、タバサはいつも通り淡々とそう指摘して、注意を促した。

「アルビオンの首魁も、自分は『虚無』だと主張している。それが本当であの男がアルビオンの手の者なら、2人の共通点に気が付いたからこそルイズが『虚無』だと思った、ということも考えられる」

「ウーン、そうか……そうだね……」

620 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:09:02 ID:7SD9eaBU

「いずれにしろ推測、今はまだ断定できない。……それよりも、そろそろ食事に行くべき」

 タバサはそう話をまとめると、立ち上がって部屋の外へ向かった。
 いい加減に食事に行かなくてはならない、あまり遅れればワルドに何か勘ぐられないとも限らないのだから。
 まあ、単純にお腹が空いたのでさっさと食べたかった、というのもあるが。

「アア、そうだね。食事が消えちゃったら困るの」

 ディーキンもそう言って、キュルケを促して急いで食事に向かうことにした。
 ワルドに勘ぐられるからということもあるが、さっさと食べないと《英雄達の饗宴》の呪文の時間切れで食事が消えてしまうのである。





「それで……。結局ディー君は、あの男に挑まれたっていう手合せだかを受ける気なのかしら?」

 キュルケも2人に続きながら、ふと思い出したようにそう質問した。

「私としては、あの男がルイズの前で見事に負かされて大恥をかくところとか見てみたいものだけど、ねえ?」

 タバサはそれを聞くと僅かに眉をひそめて、意地の悪い笑みを浮かべながらディーキンをけしかけようとする親友に注意した。

「敵の可能性が高いものに、手の内を見せるのは得策でない」

 ディーキンには、こちらの世界で知られていない未知の呪文や予想外の能力を持っているという大きな強みがある。
 また、相手が今のところかなりこちらのことを見下しているらしいということも有利な点のひとつだ。
 タバサとしても正直、ワルドがディーキンに打ち負かされるところを見られたら爽快だろうなとは思うが、くだらない手合わせなどで彼の手の内を公開し、相手に警戒させてしまうのは馬鹿げたことである。

 だからといって、ディーキンにわざと負けてほしくもない。
 彼があんな不愉快な男に負けるなんて、たとえお芝居でもそんなところは見たくない。
 そんなことを、するくらいなら……。

「……どうしても相手が戦いたがるのなら、代わりに私がやってもいい」

 タバサは、そう提案してみた。
 それによって自分が見た目ほど無力でないことは知られてしまうが、代わりに自分を要警戒対象だと感じさせることで、ディーキンから相手の注意を逸らせることができるかもしれない。
 そうすれば、彼にとっては有利になろうというものだ。

 あの不快な男を自分の手で負かしてやりたいという気持ちも、ちょっぴりある。
 昨日は黙って走り続けたが、決して不満に思っていなかったわけでも疲れていなかったわけでもないのだ。
 相手は魔法衛士隊の隊長でおそらくはスクウェアクラスなのだろうが、自分はまだトライアングルとはいえ北花壇騎士として数々の汚れ仕事をこなしてきた。
 お行儀のいい戦いしか経験していないような王宮務めの魔法衛士などに、それもこちらを見くびって油断しきった愚か者などに負けるつもりはない。
 ……本当は勝たない方がいいのかもしれないが、何気にタバサはかなりの負けず嫌いなのだった。

「そうだね。ディーキンは、いろいろ考えてみたんだけど――――」

 そう前置きして、ディーキンは自分の考えを口にした……。

621 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:11:13 ID:7SD9eaBU

 しばしの後、食事を終えた一行は宿の中庭に集まった。

 かつては貴族たちが集まって王族の閲兵を受けたという練兵場だったらしいが、今ではただの物置き場となっているようだ。
 樽や空き箱が乱雑に積み上げられ、かつての栄華の名残を僅かに留める石製の旗立て台が苔むして佇んでいる。

「亜人の君にはわからんだろうが、かのフィリップ三世の治下にはここでよく貴族が決闘したものさ」

 一行を案内してきたワルドが、自分のすぐ後ろに続くディーキンにそんな講釈を垂れた。

「オオ、そうなの?」

 こんな忘れ去られたような場所の歴史についてまで詳しく知っているということは、ワルドは本当に書物などを読んで知識を集めるのが好きなのかもしれない。
 まあ、ただ単に以前にもこの宿に泊まったことがあってその時に宿側の紹介で知ったとか、先輩の貴族に昔語りを聞かされたとかしただけなのかもしれないが。

「ええと……、フィリップ三世っていうのは確か、今のお姫様のおじいさんのこと……だよね?」

 少し首を傾げて記憶を手繰りながら、そう確認した。
 こちらに来てからまだそれほど日は経っていないが、勉強は既にかなりしている。
 ディーキンはバードであるから、物語や歴史についても当然学んでいた。

「ほう、よく知ってるね」

 ワルドが、やや意外そうに目を丸くして頷く。

「そうだとも、偉大な国王だった……。そして、古き良き時代だった。王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……、貴族が貴族らしかった時代さ」

「うん、その頃のいろんな英雄の物語があるんだよね。ええと、『烈風』カリンの話とか?」

 やや芝居がかった調子で感慨深そうに講釈を続けるワルドに、ディーキンが頷きながら相槌を打つ。
 ルイズはその名を聞いてぴくりと眉を持ち上げたが、特に何も言わなかった。

「その通り。かの時代には、名誉と誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあっていた。様々な物語で、そう語られている」

 ワルドはそこで一旦言葉を切ってディーキンの方を見ると、ちょっと皮肉っぽく笑いながら肩を竦めた。

「……でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」

「フウン……、そうなの?」

 ディーキンはじっとワルドの方を見つめ返して、首を傾げた。
 この男はいかにも忠義篤い貴族のような顔をしているが、今の話からすると現在では王には力がなく、貴族の忠誠も王の元にはないと考えているようだ。
 そして表情や声色などから察するに、それをとりたてて遺憾に思っているような様子もない。

 しかも、婚約者の使い魔が本当に彼女を守れるような存在なのかを確かめたいなどと言い出すわりには、女性を巡っての決闘は『くだらないこと』だという。
 ディーキンはバードとして、異性のために命を懸けて戦った者たちの勇ましい物語や美しい物語、悲恋の物語などをいくつも知っていた。
 まあ確かに、戦いで勝つことと女性の心を掴むこととは別問題だろう。だが少なくとも、真剣な想いを胸に抱いて命がけで戦った者たちのことをくだらないとは思わない。
 本気で愛する女性がいる男ならば、そのために決闘することをくだらないだなどと、一言で切って捨てられるものだろうか。
 彼は本当に、表向きの態度で表しているほどにルイズを愛しているのだろうか?

 そうしたディーキンの疑念も知らず、ワルドは彼に立ち止まっておくよう手で示しながら、ゆっくりと距離を離していった。

「さて……。なるほど君は勉強熱心のようだが、しかし使い魔の本分は主を守ることだ。その腕前の方はどうかな?」

 余裕ぶってそんなことを言いながら、おおむね二十歩ほどの距離を開けて立ち止まる。

「距離はこんなものでいいか。それでは介添え人もいることだし、そろそろ始めようか」

622 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:13:48 ID:7SD9eaBU

 そう宣言していよいよ手合せを始めようかとするワルドに、ルイズが苦言を呈した。

「……ねえ、ワルド。ディーキン。さっきも言ったけど、何もこんな時に手合せなんかしなくてもいいんじゃないの?」

 彼女は先程の食事時にこの手合わせの話を聞いた際にも、今はそんなことをしている場合じゃないし止めておいたら、と言って反対したのだ。

「はは、そうだろうね。……でも、貴族というヤツはやっかいでね。強いか弱いか、それが気になると確かめずにはいられないのさ。特に、それが婚約者の使い魔となるとね」

「……」

 ルイズはワルドの返事を聞くと、顔をしかめた。
 つまりは婚約者……彼から気軽にそう呼ばれることには少し戸惑っているが……の使い魔が頼りになるものかどうか確かめたい、ということか。
 想ってもらえて嬉しいような、勝手な熱を吹かないでくれと抗議したくなるような、なんともむずがゆい気分だった。

 とはいえ、おそらく動機がそれだけではないことはルイズも察していた。
 昨夜はディーキンが伝説の使い魔だなどと突拍子もないことを言い出したので面食らったが、どうもこの調子だと未だに、本気でそう信じているらしい。
 彼が伝説の使い魔だからその力を確かめてみたい、とでも考えているのだろう。

 取り決めで秘密にすることになっているから、彼はそもそも自分の使い魔ではないし、当然伝説の使い魔などでもありえないのだと伝えることができないのがもどかしかった。

「ウーン、ディーキンは痛いのはあんまり好きじゃないけど……。ワルドお兄さんがやってみたいっていうからね、お付き合いしようと思うの」

 ディーキンはいろいろと考えた結果、ワルドの手合せの申し込みをそのまま素直に受けようと決めたのである。

 もちろん、ディーキンはワルドとは違って、彼と自分のどちらが強いかなどということに興味はない。
 個々の強さなどよりも、仲間全体としての強さのほうが冒険者にとっては重要だからだ。
 そもそも強さなんてものは、その時の状況によっても変わるものである。たとえば、いくらファイターが正面切っての戦いでは強いと言っても、全員がファイターなどというパーティではまともに冒険をできるとは思えまい。
 まあ……世の中は広いので、そんな試みに愚かと知りつつ挑戦するような強者たちもどこかにはいるのかもしれないが。

 ともかく、タバサが自分が代わってもよいと申し出てくれもしたし、実際シエスタとギーシュの時のように彼女とワルドの決闘を横で見て歌にでもまとめる方がよほど自分の好みには合っていた。
 しかしながら現在の状況から判断すると、彼女に任せるというのはどうにもあまりよい方法だとは思えなかった。
 仮にそうしたとすれば、なぜ無関係な少女が横からしゃしゃり出てきたのかとワルドに訝られるだろう。
 彼が味方で純粋に手合わせを望んでいるだけだったなら不満や不信感を抱かれる元になろうし、敵だとしても不自然に思われてかえって勘ぐられる結果になりかねない。
 そうでなくとも、自分の気が進まないことを友人に押し付けるなどというのはあまり褒められたものではあるまい。

 もし仮にワルドが特に敵というほどのものではなく純粋に手合わせを望んでいるだけか、もしくは単にルイズに対する下心があるだけなのならば……。
 その場合は、特に手合わせを拒否し続ける必要もないだろう。
 彼がルイズに自分の頼りになるところをアピールしたり、使い魔の頼りなさを見せつけたりしたいとでも思っているのなら、この方法は的外れだと断言できる。
 自分が勝とうが負けようが、そんなことでルイズが仲間に幻滅したりワルドを今より高く買ったりすることはありえない。
 ただその場合には、昨日の傭兵を雇った敵が別にいることになるのでそれに対する備えという意味ではいくらか体力などを消耗するであろうから若干不利益にはなるが、まあ許容できないほどのものではあるまい。

 逆に、ワルドが懸念する通り本当に敵だったとすれば……。
 さすがに手合わせ中の事故にかこつけて殺すなどといったあからさまな行為にまでは及ぶまいが、こちらの実力を探ろうという程度の狙いはあるのかもしれない。
 しかし、逆にこちらもワルドの手の内を多少なりと探ることはできるし、上手くすればこちらの戦力について誤解を与えることもできるだろう。
 それに彼が敵であればどの道この後も様々な手を打って来るに相違なく、今回の提案を断固として拒否してみたところで、根本的な解決にはなっていない。

623 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:16:04 ID:7SD9eaBU

 以上のようにいろいろなケースについて総合的に考えてみると、彼が敵だった場合でもそうでなかった場合でも、手合わせをあくまで拒否し続けるメリットはほとんどないように思えた。
 戦い方に多少気を配る必要はあるだろうが、素直に受けておけばまず大きな問題はないだろう。
 多数のメイジを擁する魔法国家において王族を守る衛士隊長だというからには強いのだろうし、大した必要もないのに痛い目に遭うのは嫌なのだが、それはもう仕方あるまい。

「もう……」

 ルイズはディーキンにそう言われてもまだ納得がいかないようで、むっつりしている。
 今日は休日だとはいえ、仮にも大事な任務の最中なのにそんなことで体力を使ったり、あまつさえ怪我をしたりするのは彼女にはおよそ馬鹿げたことに思えたのだ。
 とはいえ彼が自分の正式な使い魔ではない以上、本人がやってもいいというのなら中止をそれ以上強く要求するわけにもいかなかった。

「その代わり、試合が終わったらここで決闘したって言う人たちの話を聞かせてくれる? ディーキンはそういうのが好きだよ!」

「はは、いいとも。まあ、大した話はないがね。……それでは、他の皆は離れていてくれ」

 わくわくと目を輝かせながらねだるディーキンに対して薄い笑みを浮かべると、ワルドは軽く頷きながら腰から杖を引き抜いた。
 短めの細剣(レイピア)のような形状をした鉄拵えの杖は普通のメイジのそれとは一線を画しており、いかにも軍人らしい。

 それを受けて、他の者たちは試合の邪魔にならないように中庭の端の方へ離れていく。
 ディーキンも戦いに備えて、荷物袋の中から六尺棒(クォータースタッフ)を取り出そうとした。

「……ン?」

 その時、タバサが後からくいくいとディーキンの腕を引いた。
 ディーキンが振り返ると、彼女はかがみ込んで顔の高さを合わせ、彼の耳元で小さく呟くように声をかける。

「がんばって。まけないで……」

「ア……、ありがとうなの。ディーキンはがんばるよ!」

 にっと笑ったディーキンに小さく頷くと、タバサは黙ってくるりときびすを返した。
 そのままとことことキュルケたちの元に歩いて行き、彼女らと一緒に観戦する体勢に入る。



「タバサ、何かディー君に作戦でもあげてたの?」

 キュルケの問いに首を振ると、タバサは独り言のようにぽつりと呟いた。

「おねがい。……と、おまじない……」

 それを耳聡く聞きとめたキュルケは、にやにやしながらタバサを後ろから抱き締めた。

「ははあ、おまじないねえ? あなたみたいなお姫様の応援を受けたからには、ディー君の勝ちは決まったようなものよね!」

 僅かに頬を赤らめながら親友にうりうりと弄られているタバサをよそに、ギーシュはシエスタと勝敗の行方について話し合っていた。

「やれやれ。彼がどのくらい強いのかは知らないが魔法衛士隊はメイジの中でもエリート揃い、ましてや子爵はその隊長だ。到底勝負にはならないだろうに、どうして子爵は手合わせをしたいなんて言い出したんだろうね?」

「それは……そうかもしれません。けど、私は先生なら、きっと引けは取られないと思いますわ!」

「まさか! 彼はまだ、ほんの子どもじゃないか。そりゃあ、変わった先住魔法を使えるようだし、武器もかなり扱えるようだが、さすがに戦闘訓練を積んだ魔法衛士には……」

 ギーシュとシエスタがそんな風に議論していたところへ、タバサを抱きかかえながら運んできたキュルケが口を挟んだ。

「そういえばあなたは、ディー君が戦うところは見たことがないんだっけ。きっと面白いものが見られるわよ」

「キュルケ、君まで? まさかそんな、冗談だろう……」

624 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:18:04 ID:7SD9eaBU

「……」

 タバサは仲間たちのそんな気楽な会話を聞きながら、先ほどの『おねがい』について少し後悔していた。

 ディーキンに負けないでほしいというのは、結局のところ自分の願みであって彼のためを思って出た言葉ではなかったかもしれない。
 自分は彼の負けるところなど見たくないが、彼自身にはおそらく、そんなこだわりはないのではないだろうか。
 ならばワルドの警戒を解くためにも、不審に思われない程度に適当に戦って負けてしまったほうが賢明だったのではないか。
 なのにあんなことを頼んだら、彼の性格ではせっかく仲間に応援してもらったのだから多少不利益になっても勝たなくては、と思ってしまうかもしれない。
 実際、勝つと明言こそしなかったものの、がんばるとは言ってくれていたし……。

「あら、じゃあ賭けてみる? 私はディー君が勝つ方に5エキューね。シエスタは?」

「え? ……あ、その。も、もちろん私は、先生が勝たれるって信じていますけど、賭け事はちょっと……」

「私もそんな賭けはしないわよ、もう! とにかく、早く終わって欲しいものだわ……」

 申し訳なさそうに辞退するシエスタと、一人楽しげにしているキュルケを白い目で睨むルイズ。
 彼女らの方をぼんやり眺めながら、タバサは今、くよくよと悩んでも仕方がないと思い直した。

 もう言ってしまったものは、今さら仕方あるまい。
 それよりも、とりあえず今、やるべきことは。

「……私も、あの人が勝つ方に10エキューで」

 この機会に金を稼いでおくことだった。

 だって、宿代もかかるし。
 新しい本も、買いたいし。



 そんな仲間たちの楽しげな会話をよそに、ディーキンは今度こそ六尺棒を構えてワルドと向き合った。

 魔力も何もなく、武器というよりは雑多な用途に使う道具のようなものだが、大事な仕事の最中に手合わせなどで大怪我をしかねない刃物をやたらに振り回すものでもあるまい。
 もちろん、メインウェポンを抜かないことで手の内を隠すという意味合いも多少ある。
 この手のいわゆる棍のような武器は普段あまり使わないが、不信感を持たれないであろう程度には自在に扱えるつもりだ。

 タバサの懸念は実のところまったくの杞憂で、わざとワルドに負けておこうなどという気はディーキンには元々なかった。
 向こうは自分のことを『ガンダールヴ』とやらだと信じているようなので、その誤解を保つべく呪文や呪歌などは使わずに武器だけを駆使してそれらしく戦うつもりでいたのだ。
 相手に万が一にも不信感を持たれないためにも、その制限の範囲内では真面目に勝負したほうがよいだろう。

 ワルドもまた、杖を前方に突き出して構えをとった。

「さあ、全力で来たまえ」

 ワルドは幼児のごとく小柄な相手を見下しながら、余裕たっぷりにそう宣言する。

(ウーン……)

 さてこの人は、フェイルーンでいうとどのようなクラスに相当する相手なのだろうか、とディーキンは考えてみた。
 先手を打とうとするでもなく距離を取ろうとするでもなく、わざわざ相手の攻撃を待ち受けて武器で斬り結ぶつもりらしい。
 こちらを侮っているというのもあるのだろうが、武器での戦いにもかなりの自信をもっているようだ。

 同じ武闘派のメイジであるタバサは、積極的に武器で斬り結ぼうとはせず、素早く動き回って相手との距離を保ちながら呪文で急所を突こうとする戦い方だった。
 体格的な違いもあるだろうが、進んで武器で挑んでくるということは彼女よりも武器を用いた近接戦を得意にしているのだろうか。
 だとすれば、ダスクブレード(黄昏の剣)やへクスブレード(呪詛剣士)のようなものだろうか?
 もしそうだとすると、仮に互いの技量が同程度であったなら、バードが呪歌も用いずに武器対武器での戦闘をするのは非常に分が悪い。
 もちろん、ワルドがどの程度本気で戦うつもりでいるのかにもよるが……。

625 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:21:07 ID:7SD9eaBU

「どうした、来ないのか? いいだろう、君に仕掛ける踏ん切りがつかないのであれば、ではこちらからいこう!」

 構えたままなかなかかかってこない相手に痺れを切らしたのか、ワルドはそう宣言すると姿勢を低くして一直線にディーキンに飛び掛かっていった。
 真っ直ぐに狙い定めて、細剣杖で突きを繰り出す。
 ディーキンはその一撃を棍ではねあげて反らしたが、それを十分に予測していたワルドは次の瞬間には頭上で武器をくるりとひねって敵に向け直し、激しく突き下ろしてきた。

 それは力強く、訓練に訓練を重ねて洗練された完璧な動きだった。
 しかるにその攻撃を向けられたディーキンは、いささか拍子抜けしたような思いを抱いていた。
 ワルドの攻撃はごく初歩的な手順で、あまりにも基本に忠実すぎたのだ。

(ディーキンを油断させておいて、隙を突くつもりかも……)

 そう考えて慎重に判断を保留すると、上からの攻撃を棍をひねって逆側の端で受け流した後に安易に反撃に出るのを避け、一旦飛び退いて距離を置いた。

 ワルドは相手を逃すまいと追いすがり、さらに何発かの突きを繰り出す。
 そのいずれもが、ただ基本をしっかりと押さえたというだけの、独自性も何もないありきたりで素直すぎる攻撃だった。
 ディーキンは反撃に転じることこそなかったが、棍を巧みに操ってそれらを危なげなく防いでいく。

 罠ではなく、正しくこれが目の前の相手の武器の技量なのだということをディーキンが確信できるまで、そう時間はかからなかった。

 この男の近接戦闘技術は、メイジとして見れば確かにかなりのものだろう。
 少なくとも昨夜襲ってきたようなありきたりの傭兵程度の相手であれば、魔法を使わずとも問題になるまい。
 並みの傭兵が1回斬り付けてくる間にこの男ならそれを避けた上で2発は突きを叩き込み返すことができるだろう、そのくらいには実力が違っている。
 この世界では魔法が重要視され、戦士の能力が総じて低いらしいということも考え合わせれば、トップレベルでさえあるかもしれない。

 しかし、ディーキンにはこの男が2度突きを繰り出す間に3回は斬り付けることができる自信があったし、ボスやヴァレンならば少なくとも4回はいけるだろうと思えた。
 なかなかの武器の妙技であり、素人同然の相手ならば多少パワーやスピードで後れを取っていても容易くいなして手玉に取れるだけの腕前はあろうが、逆に言えばただそれだけなのだ。
 確かに十分に訓練を積んだ完璧な動きではあるが、あくまでも基本をしっかり修めたというレベルでの完璧だった。

 前線で敵と斬り結ぶ役目は概ねボスやヴァレンが引き受けてくれていたので、ディーキンはたまに敵の数が多すぎる時に余った相手と後衛を守って打ち合う程度だったが、それでもこの男よりも腕の立つ戦士と戦った経験は幾度もあった。
 一例をあげるなら、アンダーダークで戦ったドロウ軍の精鋭兵たちである。
 以前はその地の貴族であったという仲間のナシーラによれば、ドロウの大都市メンゾベランザンで戦士を志す貴族の子息は、まず各貴族家お抱えの剣匠(ソードマスター)の元で20歳まで厳しい訓練を受けるらしい。
 その後、白兵院(メイレイ・マグセア)と呼ばれる戦士学校に入学して10年の間休みなく鍛えられ続け、30歳にしてようやく一人前の戦士として卒業し、それぞれの能力に応じた地位に就くのだという。
 むろん、入学した生徒の一部は過酷な訓練の過程で見込みなしとして放校になったり、競い合う級友たちからの謀殺などによって卒業の前に命を落としたりするのだ。
 かの名高いドロウの英雄ドリッズト・ドゥアーデンはかつてその学院を主席で卒業したというが、たとえ末席での卒業者であっても並みの人間の傭兵など及びもつかないほど洗練された技量を有しているであろうことは疑いようもない。

626 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:23:24 ID:7SD9eaBU

 どうやらワルドは、ダスクブレードやへクスブレードというよりはむしろウォーメイジ(戦の魔道師)あたりに近いタイプのようだ、とディーキンは踏んだ。

 主力はあくまでも魔法であり、近接戦の技術はそれで相手を倒すためというよりは、距離を詰められた時に攻撃を避けつつ詠唱を完成させたり敵をいなして間合いを取ったりするためだけのもののようだ。
 剣と魔法との融合による互いの高め合いなどという境地にはほど遠く、単なる戦場での必要性から魔法が武器に対して示した冷たい妥協、冷ややかな敬意。その域に留まっており、それ以上の特別な戦闘技術などを習得しているわけではない。
 革鎧の隙間を狙ったごく軽い突きなどを時折交えてくるあたりからも、明らかに武器を用いた実戦経験が足りていないのが察せられた。
 そのような突きは肉が柔らかいためにごく軽く当てるだけでも容易に怯ませられる人間などに対する牽制に適したもので、全身を硬い鱗に覆われたディーキンのような相手に対して用いても威力不足で効果が期待できない代物なのだ。
 同じ人間相手の訓練はよく積んでいるのだろうが、亜人や幻獣などの類に出会ったときにわざわざ武器で攻撃することはまずないだろうから、相手の性質に応じて臨機応変に戦い方を変えるなどということにはおそらくあまり馴染みがないに違いない。

 この程度の技術でわざわざ自分から武器戦闘に持ち込むということは、あくまでも手合わせだからということもあろうが、とどのつまりはこちらを完全に見くびっているのだろう。
 もしもワルドが敵なのだとすればそれは結構なことではあるし、他人から侮られるのにも慣れてはいるが、そうはいってもやはり少しはむっとした。

 一方で、対戦相手であるワルドの方も、僅かながら焦りと苛立ちとを覚え始めていた。

(く……! さすがは『ガンダールヴ』といったところか!)

 手合わせとして不自然のない程度の範囲で魔法を交えて戦ってもよいが、武器対武器の戦闘でも自分の方がずっと強いことを示せればいうことはない。
 いかに伝説とはいえ所詮は小さな亜人の子供、使い魔として得た高い能力があるにもせよ技術は甘く荒いことだろう。
 ゆえに、修練に修練を重ねて洗練された自分の剣技をもってすれば容易く手玉に取れるはずだ……。

 そう思って、ワルドは先程から自分が知る限りの様々な型の攻撃を駆使して打ち込み、突き、払い、相手の守りを崩そうとしてきた。
 だが、これが一向に功を奏さないのだ。

 敵の技巧が思ったより高い上、試合前の気弱な発言の割にはこちらの攻撃に怯えている様子もない。
 おまけにこれまで戦ったことがないほど小柄な体格の相手で、実際に立ち合ってみると想像以上に戦いにくかった。

 もう諦めて、魔法を使ってさっさと片をつけてしまおうか?

 いや、それも癪だ。
 それに、剣で敵わぬものだから魔法に頼ったなどと、ルイズから思われてもつまらない。

(向こうは先程から一切反撃もせずに守りに徹している、俺に奴の守りが打ち破れんのはそのために過ぎん!)

 攻撃してくれば、その時に必ずや隙が生じるはず。
 そこを突くことで現状を打開してやろうと、ワルドは一旦飛び退いてディーキンを挑発してみた。

「どうした使い魔君、防戦一方かね? 伝説の名が泣くぞ、遠慮なく反撃してきたまえ!」

「ン……、わかったの」

 ちょうど少しばかりいらだっていたディーキンは、素直に頷いてその誘いに乗ることにした。
 どの道、いつまでも守ってばかりはいられないのだ。
 反撃して魔法も使わせれば、相手の実力をまたいくらか計ることができるだろう。

「いくよ!」

 棍を構え直して少し姿勢を低くすると、ディーキンは一気に飛び出してワルド目がけて打ち掛かった。
 一足飛びに間合いを詰めて棍を下から振るい、ワルドの頭に叩きつけようとする。

(ふん、扱いやすい子供だ)

 ワルドは内心でほくそ笑むと、杖を持ち上げてディーキンの攻撃を正面から受け止めようとした。
 その後、棍を上方に逸らして隙だらけになった胴体に蹴りを叩き込み、地面に転がしてやった上で杖を返して突き下ろすつもりだった。

627 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:25:08 ID:7SD9eaBU

「……ぐぅっ!?」

 だが、その小柄な体格からは想像もできないほど重い一撃に、ワルドは思わず顔をしかめた。
 腕に渾身の力を込めて、かろうじて杖を弾かれずに受けきるのが精一杯で、蹴りを出して反撃に転じる余裕などない。

「ぬう、……っ、うぉぉっ!?」

 ディーキンはワルドに最初の一撃を受け止められるや、すかさず体をひねって棍の逆側で足元に向けて追撃を繰り出していた。
 腕の痺れを堪えながら、ワルドは間一髪その一撃をかわして後ろに飛び退く。
 しかし、ディーキンはさらにそれを追うように片手に棍を握り直して思い切り体を伸ばし、ワルドの胴体目がけて突きを叩き込んだ。

「がっ!!」

 その3撃目を避けきれずにもろに食らったワルドは、悶絶してよろめく。

 しかし、さすがは魔法衛士隊の隊長というべきか。
 ディーキンが突き出した棍を手元に引き寄せて握り直し、更に追撃をかけようとした時には、既に苦痛をこらえて呪文を完成させていた。
 今まさに自分へかかって来ようとする相手の目の前で素早く横薙ぎに杖を振り、『ウインド・ブレイク』を炸裂させる。
 その突風をまともに受けて、ディーキンは後方へ吹き飛ばされた。

「オオ……」

 咄嗟に翼を広げてブレーキをかけ、数メートルの後退で踏み止まったものの、さすがに魔法の腕前は確かなものだとディーキンは内心で納得していた。
 この詠唱の速さは、明らかに先日対戦したタバサの最速の詠唱と同等か、それよりもなお上でさえあるかも知れない。
 となると、この男はフェイルーンでいうところの《呪文高速化(クイックン・スペル)》や《即時呪文高速化(サドン・クイックン)》のような技術を習得しているのだろうか……。

 ディーキンは知らないことだったが、事実ワルドの持つ『閃光』の二つ名は、その詠唱速度の速さを讃えて贈られたものだった。

 ワルドは敵が押し退けられている間にどうにか攻撃のダメージからは立ち直ったものの、精神的なショックは肉体的なダメージなどよりもはるかに大きかった。
 魔法衛士隊の隊長を務めるこの自分が、伝説とはいえたかが亜人の子供ごときに、ほんの数秒の一連の攻撃で魔法を“使わさせられた”のである。
 それもただの呪文ではなく、『閃光』の二つ名で讃えられ、誇りとしている奥の手の『高速詠唱』をだ。
 もしそうしなければ、あのまま打ち倒されてしまっていたに違いない。

(おのれ、『ガンダールヴ』……!)

 この屈辱は、いずれ必ず倍にして返してやるぞ。
 ワルドはそう心に決めながら、心中の怒りと屈辱とを努めて押し隠し、不敵な笑みを繕ってみせると羽根帽子を被り直した。

「……どうやら僕は、君を侮っていたようだね。君のその武器の腕前に敬意を表して、僕もここからはメイジとして魔法を使わさせてもらうとしよう」

「わかったの。じゃあ、まだやるってことなんだね?」

 先程攻撃を受けた彼の身を案じて念のために聞いただけだったのだが、屈辱に心をかき乱されているワルドにはそれが自分に対する嘲りのように思えたらしく、目に僅かに怒りの色を浮かべた。

「当然だ、あの程度で勝ち誇らないでもらおう。僕たち魔法衛士隊の本領はこれからだよ、使い魔君」

 ディーキンは黙って頷くと、あらためて棍を構え直した。
 戦いは、まだまだこれからのようだ……。

628 Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia ◆B5SqCyGxsg :2017/03/01(水) 23:27:24 ID:7SD9eaBU
今回は以上になります。
よろしければ、次回もまたどうぞよろしくお願いいたします。

原作の完結を機に、また戻ってきてくださる方や、新しい作品を書いてくださる方が増えればと願っております。

629 名無しさん :2017/03/02(木) 22:25:50 ID:2W2ilkWQ
乙です!

630 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:01:37 ID:FT6P8YLU
こんばんは、焼き鮭です。投下を始めさせていただきます。
開始は23:04からで。

631 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:04:11 ID:FT6P8YLU
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十九話「四冊目『THE FINAL BATTLE』(その3)」
スペースリセッター グローカービショップ
ファイナルリセッター ギガエンドラ
デラシオン
隕石小珍獣ミーニン
ネイチュア宇宙人ギャシー星人
チャイルドバルタン シルビィ 登場

 本の世界を巡る旅も四冊目に突入。四冊目は、かつてコスモスペースで起きた、地球の存亡を
懸けた一大決戦を基にした物語だった。才人とゼロはムサシとともに、ウルトラマンジャスティスと
して、将来危険な星になるとして地球のリセットを図る宇宙正義の側に立つルイズに、地球は危険では
ないことを訴えかける。そして先んじて地球を攻撃するグローカー軍団に立ち向かうが、次から次へと
湧いてくるグローカーに大苦戦。それを救ったのが、ムサシとコスモスが救ってきた怪獣たち。
地球のために大勢の者たちが行動する光景に、ルイズの心は揺れる。
 だが劣勢に業を煮やしたかのように、グローカーマザーが最終形態のグローカービショップに
変形した! 更にファイナルリセッター・ギガエンドラも地球に接近しつつある! 地球最大の
危機が訪れていた!

[任務ノ障害ヲ、完全ニ消去]
 傷ついた怪獣たちを下がらせたゼロとコスモスは、無機質に与えられた命令を繰り返しながら
迫り来るグローカービショップに向き直り、敢然と立ち向かっていく。
「シェエアッ!」
「ハァッ!」
 二人の拳がグローカービショップを打ち据えるが、鋼鉄の巨体は全く揺るがず、効果は
見られなかった。逆にコスモスがグローカービショップの剛腕に弾き飛ばされる。
「ウワァッ!」
『コスモスッ!』
 ゼロはグローカービショップのボディをがっしり掴んで押し出そうとするも、グローカー
ビショップは背面のバーニアからジェット噴射を行い、ゼロを押し返していく。
 恐ろしいことに、グローカービショップの馬力はストロングコロナのパワーすら上回っている!
『ぐッ……! うぅッ……!』
[消去。消去]
 それでも必死に抗うゼロだったが、グローカービショップの顔面から放たれた光線によって
吹っ飛ばされてしまった。
『ぐああぁぁッ! ぐッ、何のこれしきぃッ!』
 どうにか踏みとどまったゼロがガルネイトバスターを発射。しかしそれも、グローカー
ビショップの腕から撃ち出される光弾に相殺された。
 コスモスペースの宇宙正義を司るデラシオンの駆使する戦闘ロボットの最終形態は、
グローカールークの戦闘力をもはるかに超越している!
『ちっくしょう……!』
 肩で息をするゼロとコスモスのカラータイマーは赤く点滅していた。無理もない。最初から
休息もなしに延々と戦い詰めだったのだ。むしろよくエネルギーが持っている方である。
 しかし果たして、この消耗した状態で目の前の恐るべき破壊ロボットを倒すことは出来るの
だろうか?
「無理だ……。グローカービショップはデラシオンの陸戦最強の兵器。あの状態で倒すこと
などとても……」
 ルイズは否定するが、それは更に否定される。
「いいや。ムサシは奇跡を起こせる。いや……ムサシたちだけじゃない。俺たちが奇跡を起こす!」
 ヒウラだ。気がつけば、元チームEYESのメンバーがルイズの前に集まっていた。
「キャップ、エリア一帯の民間人の避難が完了しました!」
 シノブの報告にうなずくヒウラ。

632 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:06:47 ID:FT6P8YLU
「よし。それじゃあ俺たちの想いを、ムサシに向けて送るぞ!」
「想いを……?」
 どういうことか、レイジャと分離して戻ってきたジーンが話す。
「ここにいる者たちのムサシに対する想いをエネルギーに変え、コスモスに送り込む。未来を
信じる想いが……コスモスの命の光となる!」
「未来を信じる、想い……!」
『さぁ、始めるよ!』
 高く浮き上がったシルヴィを中心に据えて、ヒウラたちやシャウ、ジーン、ミーニンも
円陣を作った。
「ムサシにもらった、たくさんのもの……今度は私たちが、彼に届ける……!」
 シャウの言葉を合図とするように、彼らはムサシとの思い出を脳裏によみがえらせていく。
彼との出会いから始まり、ともに保護活動を行った日々、喜びを分かち合った記憶、時に辛く
苦しい思いをし合ったこと、何度も助け、助けられ、一緒に未来を夢見て……その未来が、
これからも続いていくことを強く信じる……。
 その信じる心が、光となって彼らの身体から溢れ出てきた。彼らの光の強さ、そして温かさは、
ウルトラマンジャスティスであるルイズの肌にまざまざと伝わってきた。
 ルイズは目を見開く。
「コスモス、ゼロ……これが、お前たちがこの星を守ろうとする理由か。これが……人間の
未来を信じる理由なのか!」
 その時、グローカービショップに追い詰められるコスモスとゼロを援護しようと、フブキと
ナツキ隊員の駆るテックライガー二号がレーザーを発射した。
「止まれぇぇーッ!」
 だがグローカービショップには全く通じず、反撃の光弾が機体をかすめた。
「うわぁぁぁッ!」
 それだけでテックライガーが火を噴いて大破し、墜落していく。
『キャップ、脱出をッ!』
「駄目だ脱出できない!」
 緊急脱出装置も故障し、テックライガーはまっさかさまに地面に向かって落ちていく。
コスモスとゼロは首をグローカービショップに掴まれていて、助けに向かうことが出来ない!
 この瞬間、ルイズは羽根状のバッジ、ジャストランサーを手に取り、羽根を二枚に展開して
己の胸に装着した。
「あああぁぁぁぁ―――――――ッ!!」
 ジャストランサーから光がほとばしり――ウルトラマンジャスティスに変身して、墜落間近の
テックライガーを受け止めて救ったのだった。
『あれはッ!』
『ジャスティス……!』
 テックライガーをそっと地面に下ろしたジャスティスは、全身が輝いて姿が変化。胸の
プロテクターが金色のものとなる。
 これはジャスティスが己の真の正義に目覚めた時に発動する、より力に溢れた戦闘形態、
クラッシャーモード。それまで後悔のために頑なであったジャスティスだったが、ムサシたち
地球人の心と怪獣ともつながっている絆を目の当たりし、遂に彼らの夢と未来を信じたのであった!
「デェアッ!」
 ジャスティスはまっすぐ前に伸ばした両腕からダグリューム光線を放ち、グローカービショップの
ボディを撃った。破壊することは出来なかったが、衝撃でクローの拘束が緩んでコスモスとゼロは
脱出することが出来た。
 そしてヒウラたちの放つ光も集まり切り、シルヴィがそれをコスモスへと送る!
『ムサシ! これがみんなの希望の光だよ! 受け取って!!』
 送られた光はコスモスのカラータイマーに吸い込まれて青に戻らせたばかりか、コスモスを
更なる姿へと変身させた!
「セェアッ!」

633 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:09:14 ID:FT6P8YLU
 ムサシの優しさ、強さ、勇気に、皆の未来を信じる希望が加わった、ウルトラマンコスモス・
フューチャーモードだ!
『コスモスも、新しい姿に……!』
 片膝を突いているゼロには、ジャスティスがエネルギーを分け与えて回復させる。
『ジャスティス……分かってくれたのか……!』
 ゼロの中の才人はジャスティスの顔を、その中のルイズを見つめる。すると才人に一層の
勇気が湧き上がり、ゼロの力となっていく。
『よぉしッ! エネルギー全回復だぜッ!』
 力強く立ち上がったゼロは、通常のウルトラマンゼロに変身するとゼロツインソードを
その手に握り締めた。その左右にコスモスとジャスティスが並び立ち、グローカービショップと
対峙する!
[全テノ障害ヲ、消去]
『はんッ! 消去消去ってうるさいぜ! それしか言えねぇのかッ!』
 グローカービショップが両腕から光弾を発射してくるが、ゼロがツインソードでそれを
ばっさりと切り払う。
『でぇあッ!』
 その間にコスモスとジャスティスが超スピードでグローカービショップの背後を取り、
ジャンプからの同時キックでグローカービショップのバーニアを粉砕した。
「タァァッ!!」
 これでグローカービショップは突進攻撃が行えなくなった。機動力を失ったグローカー
ビショップを、着地したコスモスとジャスティスが振り向きざまに蹴り飛ばす。
「デェアッ!!」
 新たな姿となったコスモスたちのパワーに押されるグローカービショップだが、やはり
宇宙正義の最強の刺客ロボットは伊達ではない。右腕でジャスティスを掴んで締め上げ、
左腕でコスモスを殴り飛ばす。
「ウゥッ!」
「セェェェアッ!」
 だがそこにゼロが素早く飛び込んできて、ツインソードを閃かせて腕のクローを切り飛ばした。
これでジャスティスが解放される。
『さっきの借りの分だぜ!』
 グローカービショップは腕の光弾発射口をゼロに向けた。
[任務ノ障害ヲ、完全ニ消去]
『てぇぇぇあぁッ!』
 そこにすかさずゼロツインソードの斬撃が叩き込まれ、グローカービショップの右腕は
完全に破砕された。
 ならばと左腕を持ち上げるグローカービショップだが、そこにはコスモスのコスモストライクが
撃ち込まれた。
「セェアッ!」
 光線が左腕も粉砕し、グローカービショップは武器のほとんどを失う。
「ウアァッ!」
 更にジャスティスがグローカービショップの懐に潜り込んで、相手の巨体を肩の上に担ぎ上げた。
「ンンンンン……! ゼェェアッ!」
 投げ飛ばされたグローカービショップがまっさかさまに地面に叩きつけられた。
[消去。消去。消去]
 それでも止まらず、頭部から光弾をひたすら連射してウルトラマンたちを狙ってくる。
「セアッ!」
 それにコスモスが前に出てゴールデンエクストラバリアを張り、光弾をさえぎる。その間に
ジャスティスがバトレックショットをグローカービショップの顔面に叩き込む。
「デアッ!」
 この一撃によりグローカービショップの攻撃が途切れた。その瞬間、ゼロが叫ぶ。
『今だッ! とどめの一撃だ!』
 コスモスとジャスティスは互いの腕を交差し、エネルギーを相乗効果で高めていく。ゼロは
タイミングを見計らってツインソードを投擲した!

634 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:11:43 ID:FT6P8YLU
『でぇぇぇりゃあッ!』
「デアッ!!」
 コスモスとジャスティスが放った究極の合体光線、クロスパーフェクションがゼロツインソードに
当たり、加速させてグローカービショップに命中させる!
 三人の力を一つに纏めたソードは、頑強な装甲のグローカービショップを一刀両断したのだった!
[消、去……消……去……消……]
 真っ二つになったグローカービショップはバラバラに爆散。遂にグローカーを全て撃破
することに成功したのだ!
 しかし、これで終わった訳ではない。むしろここからが本当の正念場なのだ。
『後は宇宙のあいつだけだぜ……!』
 ゼロたちが互いにうなずき合うと、大空、その先の宇宙空間へ向けて猛スピードで飛び上がっていった。
「シェアッ!!!」

 宇宙空間で地球に迫りつつあるのは、最後にして最大のリセッター、ギガエンドラ。その全長は
一キロメートルを超えるという、ロボットどころか最早超巨大な移動要塞だ。宇宙用テックライガー
三機が先んじてギガエンドラに集中攻撃を浴びせていたが、ギガエンドラは全くスピードを緩めていなかった。
 しかもドーナツ型のギガエンドラの中央部に、膨大なエネルギーが集中し出す。とうとう
地球のリセットが開始されようとしているのだ! ゼロたちはその場にギリギリ間に合った。
 コスモスがジャスティスに問う。
『ジャスティス、これを止める方法は!?』
『破壊する以外に、方法はない』
 ゼロたちはギガエンドラにありったけのエネルギーを叩き込むことに決める。
「オォォォォ……ゼアァッ!!」
「デリャアアアァァァァァッ!」
 コスモスとジャスティスがクロスパーフェクションを、ゼロがゼロツインシュートを全力で
発射した! 命中したギガエンドラがまばゆい閃光の中に呑まれる。
『よぉっしッ!』
 ぐっと手を固く握ったゼロだが……実際にはギガエンドラは、傷一つついていなかった!
 それどころか、眼球のようなレーザー砲から莫大な破壊光線を撃って反撃してきた!
『うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!?』
 ギガエンドラの攻撃の威力はすさまじく、たった一撃でゼロたち三人が簡単に弾き飛ばされ、
大気圏に叩き落とされる。
『ぐあああぁぁぁぁぁぁぁッ! 熱ッ……!』
 大気圏の摩擦熱で身体を焼かれる三人だが、ゼロが背後にウルトラゼロディフェンサーを
張って摩擦熱を防ぐ。
『防御は任せろ! 二人はギガエンドラをッ!』
「シュッ!」
 ゼロに守られながら、コスモスとジャスティスがコスモストライクとダグリューム光線を
撃ち続けた。……が、ギガエンドラには焦げ目すらつかない!
 そしてギガエンドラは、遂に最終攻撃を開始。機体の中央から、地球の全てを滅ぼせるほどの
消滅エネルギーを放ってきた!
『やばいッ! ウルトラゼロディフェンダー!!』
 ゼロは迫り来る消滅エネルギーに対してウルトラゼロディフェンダーを展開し、エネルギーを
遮断しようとする。
 だがあまりに巨大なエネルギーを前に、ウルトラの星の聖なる盾もひび割れ、砕け散って
しまいそうになる!
『ぐッ……! や、やらせるかぁぁぁぁ……!!』
 ゼロは背面のバリアも維持しながら盾を押さえ、崩壊を必死で食い止める。だがいくら何でも
あまりに無理。ゼロのエネルギーが急激に消耗していき、カラータイマーは危険な状態になる。

635 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:14:23 ID:FT6P8YLU
『ゼロッ!』
『俺たちのことはいい! それより、ギガエンドラを止めるんだぁッ!』
 ムサシがたまらず叫んだが、ゼロは攻撃続行を促す。しかしいくらコスモスとジャスティスが
撃ち続けても、ギガエンドラの様子に変化は全く起こらない。
 このままでは明らかにゼロの身体が吹き飛んでしまう方が先だ……。だがそれでも、ゼロと
才人はあきらめていない!
『俺たちは……あきらめねぇぜッ! 最後の最後まで戦い抜いて……奇跡を起こすんだぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
 ゼロと才人の叫びが――ウルティメイトブレスレットの輝きを呼び起こした!
 ブレスレットがゼロの腕から飛び立ち、宇宙空間でまぶしく煌めいた。その輝きを浴びた
コスモスとジャスティスは、導かれるように光へ飛び込む!
「セアッ!」
「デアァッ!」
『!! あれは……!』 
 コスモスとジャスティスがコンタクトし、二人のカラータイマーが重なり合って……一人の
新たなるウルトラマンが誕生した!
「シェアァッ!」
 新しいウルトラマンはゼロに代わって消滅エネルギーをその身に受け止める。それどころか
エネルギーを己のカラータイマーに全て吸収し、ギガエンドラに向かって飛んでいく。
『あれは……あれが、伝説に語り継がれる、奇跡のウルトラ戦士……!』
 それは、ギャシー星の伝説の中にも存在が語られている。宇宙の大いなる二つの力が出逢う時、
真の姿となって現れる宇宙の神……。
 ウルトラマンレジェンド!
「オオオオオ……! デヤァァァッ!!」
 ギガエンドラの中心部まで行き着いたレジェンドは、究極技スパークレジェンドを発動。
消滅エネルギーを押し戻されたギガエンドラは内側からボロボロに崩壊していく。
 そして最後に、大爆発を起こして塵も残さず消え去ったのであった。
『すげぇ……。これがレジェンドの力……ウルトラの奇跡か……!』
 奇跡の力を目の当たりにして、身体のダメージも忘れて呆けているゼロ。そこにレジェンドが
舞い戻ってきて、彼にエネルギーを与えて回復させた。傷つき切った身体も、レジェンドの莫大な
エネルギーでみるみる内に再生する。
『あれだけの負傷が治っていく……! ありがとう、ウルトラマンレジェンド!』
 ゼロの感謝の言葉に、レジェンドは無言ながらも温かい感情を乗せてうなずき返した。
『――そうまでして、何故人類を救おうとする。伝説の戦士、ウルトラマンレジェンド。
そして未知の戦士、ウルトラマンゼロ』
 突然、第三者の声が響いてきた。ゼロとレジェンドが振り向くと――グローカーマザーが
数え切れないほど宇宙空間に浮遊していた。
 そしてその背後の空間に七色の光の渦が現れる。それこそがデラシオン。コスモスペースの
宇宙正義の体現者だ。
 デラシオンを前にして、レジェンドはコスモスとジャスティスの姿に戻る。同時にゼロの腕に
ウルティメイトブレスレットが戻った。
『デラシオン……私は知ったのだ。ウルトラマンコスモスたちと信じた、この星の命たちを』
 ジャスティスはデラシオンに訴えかける。
『泣き……笑い……怒り……そして、思いやる心を持つ。この命たち、未来をも含め……
彼らは、信ずるに足る存在だと』

636 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:15:53 ID:FT6P8YLU
 コスモスもまたデラシオンに語りかける。
『人類は、決して愚かではない。必ず、その非を正すことの出来る存在だ』
 そしてゼロが、告げた。
『俺たちは未来を信じ、人間も希望を信じた! これが、その結果なんだッ!』
 すると――大量のグローカーマザーが一機、また一機とデラシオンの光の中に消えていく。
『!』
『我らも信じよう、光の戦士たちを……。そして、人類から送られ続けたメッセージを……』
 デラシオンが帰っていく。遂に心を動かされて、宇宙正義の決定を取り消して。人間が
あきらめることなく送り続けたメッセージが後押しとなって。
 それは、EYESが送り続けた言葉……「希望」であった。

 ……四冊目の本も無事に完結に迎えることが出来た。救われた地球はその後無事に復興し、
ムサシは計画通りに遊星ジュランへと出発。そして怪獣との共存の道を歩み始めたのであった。
 それが、ウルトラマンコスモスが見た地球の歴史だったのだ。
「素敵な話だったな……」
『ああ……。コスモスのたどった道程と人間の希望、しかとこの目で見させてもらったぜ』
 才人とゼロは余韻を噛み締めながら、自分たちが完結させた本を手に取りじっと見つめていた。
 するとそこにルイズがやってくる。
「サイトさん……」
「ルイズ! 起きてて大丈夫なのか?」
「はい……。今は身体の調子がいいので」
 ルイズは才人にこんな話を告げる。
「サイトさん、わたしさっき、こんな夢を見ました」
「夢?」
「夢の中のわたしは、たくさんの人を消し去ろうとするような、恐ろしくもどこか寂しさを
抱えた人になってました。何だか、サイトさんにも迷惑を掛けたような気がして……」
 それを聞いてハッとなる才人。今の説明は、ウルトラマンジャスティスになっていたルイズ
そのものだ。
 やはり『古き本』には、ルイズの心が入り込んでいるのか。それで本体のルイズの夢にも
影響が出たのかもしれない。
「でも……わたしは色んな人と出会うことで、変わっていきました。そして最後にはすっかり
心を改めて、多くの人たちを救ったんです。とても晴ればれとした気持ちで……何故だか、
このことをサイトさんに話したい気分で目覚めました。どうということはない、夢のことの
はずなのに……」
 不思議そうなルイズに、才人はそっと微笑みながら呼びかけた。
「いや……たとえ夢でも、何か大事なものを心に感じたのなら、それはきっと本当のことだよ」
「……? よく分かりませんが……」
 小首を傾げるルイズに、才人はおかしそうに、そしてどこか満足そうにクスクス笑ったのであった。

637 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/06(月) 23:16:33 ID:FT6P8YLU
以上です。
これマジいい話でっせ。

638 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/14(火) 05:14:24 ID:arnE2TOs
おはようございます、焼き鮭です。今回の投下を行います。
開始は5:18からで。

639 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/14(火) 05:18:06 ID:arnE2TOs
ウルトラマンゼロの使い魔
第百四十話「五冊目『ウルトラCLIMAX』(その1)」
機械獣スカウトバーサーク
機械人形オートマトン
古代怪鳥レギーラ
超音速怪獣ヘイレン 登場

 ルイズの記憶を取り戻すために、本の旅を続行する才人とゼロ。四冊目はコスモスペースの
歴史を元にした本であり、地球に訪れた最大の危機にゼロはウルトラマンコスモスとともに
立ち向かった。宇宙正義に則って地球のリセットを行おうとするデラシオンのリセッター
ロボット軍団に、ムサシとコスモスが関わった人間と怪獣たち、そして真の正義に目覚めた
ウルトラマンジャスティスと懸命に戦い続け、遂にはデラシオンの心を動かし地球を守り抜く
という奇跡を達成したのであった。
 だが本はまだ後二冊残っている。五冊目の本の旅を開始する直前、才人はルイズの診察を
行ったジャンボットと話をしていた。

「ジャンボット、ルイズの容態はどうだった?」
 才人はシエスタのブレスレット越しに、ジャンボットに問いかけた。ジャンボットは
残念そうに答える。
『可もなく、不可もなくと言ったところだな。悪化する様子はないのは幸いだが、かと言って
依然として記憶中枢が快方に向かう兆しも見られなかった』
「そっか……」
 やや落胆してため息を吐く才人。
「本は残り二冊まで来たのに、記憶は全然戻らないままか。やっぱり全部終わらせないことには、
ルイズは完全には治らないのかな」
『……そのことで、少し話がある』
 ジャンボットは少しだけ重いトーンとなって告げた。
「どうしたんだ、急に?」
『リーヴルの説明では、ルイズは己の力を本に吸収されてああなったということだったが、
私はそれに違和感を覚えている』
 ジャンボットの言葉に才人は面食らった。
「……具体的には、どういうことだ?」
『メイジの力は個人の脳の作用に由来しているのが分析の結果分かっているのだが、それは
記憶中枢とは直接関係していない。だから仮に魔力を奪われる……脳に干渉されることが
あっても、記憶だけ失って他の脳機能は平常通り、というのはいささか奇妙だ。他の障害……
たとえば、感覚や運動機能の異常等を併発していてもおかしくはないのに』
 とのジャンボットの説明を受けて、才人は腕を組んで頭をひねった。
「あー、それはつまり、何て言うか……今の状況は自然じゃない、ってこと?」
『簡潔に言えばそうなるな。自然に今の状態になったと言うよりは、何か恣意的なものが
働いた、というように思える』
 ジャンボットに続いてシエスタが意見する。
「わたしは平民ですから、魔力のことなんて全然分からないですけど……一冊の本を完結するごとに
ミス・ヴァリエールの魔力が戻ってるのなら、段階的に回復していくものじゃないでしょうか? 
わたしも、ミス・ヴァリエールの病状はちょっと不自然じゃないかって思います」
「そうか……。じゃあやっぱり、リーヴルが何かしてるのかな?」
『いや。ここに来てから絶えず彼女の行動をつぶさに監視しているが、怪しい動きは一度も
見られなかった。少なくとも、彼女自身が何かをしているという訳ではなさそうだ』
 ここまでの話を纏めて、ゼロが声を発する。
『ってことはやっぱ、リーヴルの後ろには正体不明の誰かがいるって線が濃厚だな。そいつの
力のせいで、ルイズはすんなり治らないのかもしれねぇ』
 才人はゼロに聞き返す。
「でも、その誰かっていうのは何者なんだ? タバサも探ってくれてるが、未だ尻尾も掴めてない」
 タバサは昨日のリーヴルとの会話で、誰かを人質にされているのではないかと推測した
才人の頼みでリーヴルの周囲も洗ったが、特に誰かいなくなったという事実はなかった。

640 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/14(火) 05:20:33 ID:arnE2TOs
 ではどうしてあんな話をし出したのか……皆目見当がつかなかった。
『確かに……。だが俺は、そもそもの最初の図書館に出るって言ってた幽霊がヒントなんじゃ
ねぇかって考えてる』
「幽霊が?」
『まぁ勘だが、リーヴルは完全にデタラメを言ってたんじゃないと思うぜ。たとえば……
実体を持たない存在っていう意味だとか』
「実体を持たない存在か……」
 才人は夢の中に存在していた怪獣やガンQ、ビゾームなどを思い出した。
『はっきりとした実体を持たない生き物ってのも、広い宇宙にはいくつか存在してる。だが
いくつかはいるから、それだけじゃ絞り切るのは難しいな……』
『そもそも、我々が知っているものとは限らない。そうだったら、事前知識は役には立たないぞ』
 ジャンボットもそう言った。
 結局今回の相談ではこれ以上の成果は出ず、五冊目の本の攻略を行う時間となった。

 いつものように魔法の支度をしたリーヴルが、才人に尋ねかける。
「準備はよろしいですか?」
「ああ……」
 才人はリーヴルの様子を観察するが、例によって淡々としているばかりで、その挙動から
考えを読むことは出来なかった。本当に彼女は何かを隠しているのか、背後に別の誰かが
いるのか……今の才人では見通せなかった。
 今の彼に出来ることは、五冊目の本を選ぶことだ。
『いよいよ後二冊だ……。次に攻略する本より、最後に回すのをどっちにするかって選択になるな』
 ゼロは少し考えてから、結論を出した。
『右の奴は、少し込み入った内容になりそうだ。そっちを最後にしよう』
『よし。じゃあ、五冊目はこいつだな』
 本の選択をして、いざ旅立とうとする。
 しかしその直前、ルイズが才人の元に駆け込んできた。
「あ、あの!」
「ルイズ! 寝てなくていいのか!?」
「せめて、見送らせてほしいと思って……。どうか、無事に戻ってきて下さい」
 必死な表情で頼んでくるルイズ。自分のために才人が危険な旅を続けていることに後ろめたさを
覚えているのだろう。
 才人はそんな彼女を元気づけるために、力強く返答した。
「任せとけって! 絶対、元のお前に戻してやるからな!」
 そして才人とゼロは、五冊目の本の世界に向かっていった……。

   ‐ウルトラCLIMAX‐

 ある晩、街を突如どこからともなく出現した奇怪な外見の巨大ロボットが襲った!
 ロボットは強固な装甲でDASHの攻撃を物ともせず暴れ、ダッシュバードを両肩からの
光線で返り討ちする。しかし墜落しかかるダッシュバードを、トウマ・カイトが変身した
赤き巨人が受け止めて救う。
「シュアッ!」
 彼は異常気象により怪獣が連続して出現するようになってしまった地球に降り立ち、カイトと
ともに数々の敵を打ち倒してきた光の戦士、ウルトラマンマックスだ!
 マックスはロボットと激しく戦い、最後にはギャラクシーカノンの一撃によって見事粉砕し、
街には平和な夜が戻った。
 ……しかし巨大ロボットの正体は、戦った相手の能力を全て解析してどこかへと送信する
斥候、スカウトバーサークだった。本当の事件発生の前触れでしかなかったのだ。

641 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/14(火) 05:24:11 ID:arnE2TOs
 そしてマックスがスカウトバーサークと戦った一部始終を、いつの間にか街中に現れていた
三面の不気味な人形、オートマトンが声もなく見つめていたのだった……。

 そしてオートマトンはある日突然、一斉に口を開いてしゃべり出した。
『地上の人間たちに宣告する。今すぐ地球を汚す戦争を取りやめよ。化石燃料を燃焼させる
開発をやめよ。地球人類が、地球大気を汚すことでしか文明を築けないのなら、文明を捨てて
退化せよ。今から三十時間以内に、地上の人類が全ての経済活動をやめねば、我々デロスは
バーサークシステムを起動し、全世界のDASH基地を破壊する』
 オートマトンは世界中の至るところに出現していた。何者が、いつ、誰にも気づかれることなく
世界中に設置していったのだ? デロスの正体とは何か? バーサークシステムとやらが起動したら、
本当に全てのDASH基地が破壊されてしまうのか? デロスは、それほどの力を有しているというのか……? 
まだ何も分からないが、カイトは直感で今までの敵とは訳が違う相手であることを感じ取っていた。
 地球人類は今まさに、最大のクライマックスを迎えようとしているのだ。

「……この世界でも、大変なことが起きようとしてるみたいだな」
 本の中の世界にやってきた才人は、混乱に襲われて右往左往している街の人間たちの様子を
高台の上から観察しながら、ゼロに呼びかけた。
「デロスって何者なんだろう。また侵略宇宙人の類かな。それとも、ノンマルトやデラシオンの
ような……」
『……それに関してはまだ何とも言えねぇ』
 才人の問いかけに答えたゼロは、意識を足下に向ける。
『だが一つだけ確かなのは……居場所は頭上や地上のどこかじゃないってことだ』
 謎の気配は足下……その更に深くの座標から感じられるのだった。

 オートマトンの宣告から一時間後、ベースポセイドンが真下からの攻撃によって破壊された! 
しかし職員は、三十分前の攻撃予告を受けて脱出していたため全員無事であった。
 更にヨシナガ博士がオートマトンを解析したことで、機械部分に地下八千メートルにしか
存在しない元素119が使用されていることが判明した。デロスとは地底人だったのだ!
 更にデロスが地表とマントルの境目、モホロビチッチ不連続面の空洞に住んでいる種族だと
いうことが突き止められ、カイトとミズキ両隊員が地上人代表として交渉の任に就き、地底へ
潜行することが決定された。……が、先走った某国の軍が地底貫通ミサイルを使用し、デロスへの
先制攻撃を強行しようとした!
 DASHはその凶行を止めようとしたが、それより早く、空を飛ぶ二体の怪獣が地底貫通
ミサイル基地を襲撃した……!

『キィ――――――イ!』
『グワァ―――ッ! キイィッ!』
 ベースタイタンのメインモニターに映されたミサイル基地を、二体の羽を持つ怪獣が空から
降り立って襲撃。一体は明らかに普通の鳥とは全く違う肉体構造の怪鳥。もう一体は全身が
甲冑で覆われたような怪鳥だ。これを見たコバが叫ぶ。
「こいつら、前に出てきた怪獣だ! 確かレギーラとヘイレン……!」
「でもどうして今頃!? それに狙ったようにミサイル基地を襲うなんて……」
 理解が出来ないミズキをよそに、古代怪鳥レギーラと超音速怪獣ヘイレンはビームを発射して
地底貫通ミサイルを片っ端から破壊していった。ヒジカタ隊長が思わず腰を浮かす。
「どうしてミサイルを率先して破壊するんだ!?」
 その訳を、アンドロイドのエリー――の役に当てはめられたルイズが分析した。
「怪獣は、デロスによってコントロールされている可能性が78%」
「missile攻撃に対するcounterで送り込まれてきたってこと?」
 ショーンが聞き返している中でもレギーラとヘイレンは攻撃を続けて、ミサイルを破壊し尽くした。

642 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/14(火) 05:26:31 ID:arnE2TOs
『キィ――――――イ!』
『グワァ―――ッ! キイィッ!』
 しかし怪獣たちの暴力はそれで止まらず、周囲の人間にも襲いかかろうとする! 思わず
叫ぶカイト。
「大変だッ!」
「でも、今から飛んでいっても間に合わない……!」
 ミズキが歯噛みした時、ココが電子音を発して何かをルイズに伝える。
「ミサイル基地上空より新たな生命反応」
「また怪獣のお出ましか!?」
 コバの言葉を否定するルイズ。
「いいえ。反応のパターンは、ウルトラマンマックスと近似しています」
「マックスと近似って……まさか!?」
 驚愕するDASH隊員たちの見つめるモニターの中で、怪獣たちの面前に青と赤の巨人が
着地して牽制する姿が映された。
 誰であろう、ウルトラマンゼロである!
「新しい、ウルトラマン……!?」
「この状況で……!?」
 カイトたちは驚きで口がふさがらなかった。

「セェアッ!」
 人命を守るために駆けつけたゼロは一気に怪獣たちの間に切り込んでいき、ジャンプキックで
レギーラとヘイレンを左右に薙ぎ倒した。
「キィ――――――イ!」
 いち早く起き上がったレギーラが胸の二つの孔から大型フックを出し、跳びはねながら
ゼロへと肉薄していく。フックをガチガチ鳴らして、ゼロを捕らえようとする。
「デアッ!」
 だがゼロはフックをはっしと受け止めて、腕力を振り絞ってフックを引っこ抜いた!
「キィ――――――イ!」
 武器をもぎ取られて後ずさるレギーラだが、すぐに大きく羽ばたいて突風を巻き起こし始める。
「グッ!」
 建物もバラバラに吹き飛ばす風速にゼロは体勢を崩すが、どうにか踏みとどまった。が、
そこにヘイレンが素早い挙動で体当たりしてくる。
「ウアッ!」
 さすがにかわすことは出来ず、はね飛ばされるゼロ。更にレギーラが胸の孔から拘束光線を
発射し、ゼロの身体に巻きつけて自由を奪った。
「ウッ……!」
「キィ――――――イ!」
「キイィッ! グワァ―――ッ!」
 動けなくなったゼロに、レギーラとヘイレンはすかさず光線を撃ち込んでなぶる。合体攻撃に
苦しめられるゼロ。
「シェアッ!」
 しかしウルトラ念力によってゼロスラッガーを自動で飛ばし、己に巻きついた拘束光線を
切断して自由を取り戻した。そして迫ってきた光線を打ち払って、スラッガーで反撃する。
「キィ――――――イ!」
「グワァ―――ッ! キイィッ!」
 胴体を斬りつけられてひるむレギーラとヘイレン。その隙を突いて、ゼロは左腕を真横に伸ばした。
「シェアァッ!」
 精神を集中し、放つ必殺のワイドゼロショット!
「キィ――――――イ!!」
 レギーラは一撃で爆散せしめたが、ヘイレンは命中する寸前に飛び上がって回避した。
「トアッ!」
 上空高くに飛翔したヘイレンを追って、自身も飛び上がるゼロ。しかしヘイレンは超音速怪獣と
呼ばれるだけはあり、音速をはるかに超える速度で縦横無尽に飛び回り、ゼロを翻弄する。
「グワァ―――ッ! キイィッ!」

643 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/14(火) 05:28:29 ID:arnE2TOs
「ウオアッ!」
 背後から猛然と突っ込んでくるヘイレン。ギリギリでかわすゼロだが、猛スピードで飛ぶ
ヘイレンからは強烈なソニックブームが発生しており、それを食らって弾き飛ばされる。
エネルギーが残り少なくなってきたのをカラータイマーが報せる。
 空はヘイレンの領域だ。さしものゼロも苦しいか?
『何の! 負けねぇぜッ!』
 ここでゼロはルナミラクルゼロに変身。超能力による加速によってヘイレンと同等の速度を出し、
ヘイレンに追いつくことに成功する。
「グワァ―――ッ!?」
「ハァッ!」
 今度は逆にこちらがヘイレンの周囲を巧みに飛び交うことにより、ヘイレンを追い込んでいく。
そして機を見計らい、ゼロスラッガーを再度飛ばした。
『ミラクルゼロスラッガー!』
 超能力によって増殖させたスラッガーにより、ヘイレンを滅多切りにする。
「グワァ―――ッ!! キイィッ!!」
 それが決め手となり、ヘイレンは空中で爆発四散した。それを見届けたゼロが停止。
「シェアッ!」
 そうして方向を転換し、海を越えて日本列島――東京湾に設立しているベースタイタンの
方角へ向かって飛び去っていった。

 光となったゼロは、ベースタイタン付近の人気のない場所へと降り立った。才人の姿に
戻って着地すると、そこに走ってくる人影が。
「おーい! そこの君!」
 トウマ・カイトだ。才人は振り向いて、カイトの顔を確かめる。カイトも才人の手前で
立ち止まって、真剣な面持ちで尋ねてきた。
「君が、さっきのウルトラマンだね?」
「ええ。ウルトラマンゼロ……平賀才人です。あなたがウルトラマンマックス、トウマ・
カイト隊員ですね」
 互いの素性を確認し合うと、カイトが才人に質問を重ねた。
「君は、どうして今のこの星にやってきたんだ?」
「……そのことで、マックスとして地球を守ってきたあなたにお話しがあります、カイト隊員」
 才人は険しい表情で切り出した。
「地中深くから、地上の人間に向かって警告と宣戦を布告してきてるもう一つの地球人の種族に
関することです」
 その才人の言葉に、カイトもまた厳しい顔つきとなって生唾を呑み込んだ……。

644 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/14(火) 05:29:38 ID:arnE2TOs
今回はここまでです。
割とマックス好き。

645 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/21(火) 06:16:45 ID:6aQ37z/Q
おはようございます、焼き鮭です。投下をさせてもらいます。
開始は6:20からで。

646 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/21(火) 06:20:09 ID:6aQ37z/Q
ウルトラマンゼロの使い魔
第百四十一話「五冊目『ウルトラCLIMAX』(その2)」
装甲怪獣レッドキング
古代怪獣ゴモラ
機械獣サテライトバーサーク 登場

 『古き本』もいよいよ残りが二冊。そして五冊目の本は、ウルトラマンマックスが守っていた
地球が舞台の物語だった。ある夜突然街を襲った怪ロボットの出現を始まりとして、人類は謎の
地底人デロスから脅迫を受けることになる。人類の文明放棄を求めるデロスに対し、血気に逸った
某国が地底貫通ミサイルで攻撃しようとしたが、怪獣レギーラとヘイレンによって阻止された。
そのまま人間を襲おうとした怪獣たちはゼロによって倒され、ゼロと才人はその足でマックスに
変身するトウマ・カイトと接触した。才人たちは、地上人と地底人の争いを解決に導けるのだろうか。

 ベースタイタンを臨む海岸線。東京湾に浮かぶ、今まで幾多の怪獣や宇宙人と戦ってきた
DASHの本拠地をながめながら、才人はカイトとの会話を始めた。
「単刀直入に言います、カイト隊員。デロスは宇宙人や侵略者ではありません。元々から
この星の地下に存在していた地底人……紛れもなく、この地球で人知れず栄えていたもう
一つの『人間』です」
「……やっぱり、そうなのか」
 才人から報告されたことを、カイトはよく噛み締めながらつぶやいた。
 才人とゼロは独自調査により、デロスがノンマルトのような、正真正銘地球の生物が進化した
末に誕生した種族である確証を得ていた。そのことを踏まえて、才人はカイトに告げる。
「そして、同じ星の文明同士の争いには、原則としてウルトラ戦士は干渉できません。それが
宇宙のルールなんです」
「……!」
「だから、デロス相手だとたとえどんな事態が起きたとしても、マックスの助けは得られない
ものだと考えて下さい」
 忠告する才人。そんな彼に、カイトは聞き返す。
「でも君たちは、さっき地球人……いや、地上人を助けてくれたじゃないか」
「あれはあくまで人命救助です。地上人の地底攻撃作戦に加担した訳じゃありません」
 現に、やろうと思えばもっと早くに怪獣たちに戦いを挑むことが出来た。それをしなかったのは、
ミサイルの破壊を阻害することは地上人に宇宙の掟を破って肩入れすることになってしまうからだ。
それをしては物語が破綻してしまう恐れがある。
「繰り返しますが、デロスとの間に決着をつけることに、ウルトラ戦士は手を貸せません。
あなたたち『地球人』が全てやらなくちゃいけないんです」
「俺たちが……」
 才人の言葉を受けたカイトの表情に陰りが見える。
「……不安ですか?」
「ああ……正直言うとね。これまでも俺たちは力いっぱい戦ってはきたけど、ほとんどの場合
最終的にはマックスに手助けしてもらってた。そのマックスの助けなしに事に当たらなければ
いけないということが、これほど心細いことだとは……」
 不安の色が抜けないカイトではあるが、内心で己を鼓舞しながら顔を上げた。
「いや……これからはそれをしなければいけないんだ。マックスも、自分の国に帰る時が
近づいてると言ってた。いつまでも頼っていられないってのは、とっくに考えてたことだ。
地球の未来は、俺たち自身で変えていかなればいけないんだ……!」
 固い使命感を顔に窺わせるカイトに、才人はこの部分で心配はいらないだろうと判断した。
話は次に移る。
「もう一つ、デロスの真意は俺たちもまだ掴んでませんが、地上人を滅ぼしたいとかそういった
無法が目的じゃないはずです。それをするつもりなら、事前に警告をする必要はありませんから」
 過去のM78ワールドの地球にはゴース星人という、デロスのように地中からの攻撃に目を
つけた侵略者がいたが、彼らは降伏勧告はしたものの実際の攻撃の際には警告など一切発さず、
世界中の格都市に甚大な人命被害をもたらした。それと比較したら、デロスは今のところ被害を
最小限に留めようとしているように見える。

647 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/21(火) 06:22:50 ID:6aQ37z/Q
「つまり、デロスには悪意はないものと思われます。悪意がないのなら、きっと……いや、
必ず分かり合うことが出来る! 勝ち負けじゃない解決法があります。カイトさん、どうか
頑張ってこの地球全体を救って下さい」
 才人の心からの応援に、カイトは謝意を示す。
「ありがとう。……けど、どうして君はそんなにも親身になってくれるんだ? 君からしたら、
俺はどこの誰とも知らない人間だろう」
「いえ……いつでも、どんな場所でも、人の平和を願うのがウルトラ戦士ですから」
 最早言うまでもなく、それは才人自身にとっての願いにもなっていた。これまで数多くの
人間から見せてもらった奇跡……この世界でも起こるものと信じている。

 いよいよカイトとミズキがデロスとの交渉のために、モホロビチッチ不連続面へ向けて
出発する時がやってきた。地中潜行用のドリルモードに換装したダッシュバード三号を
機動母艦ダッシュマザーが海上へと搬送していくのを、地上から才人が見上げている。
「作戦が始まったか……」
『話し合いが上手く行くといいんだけどな……』
 と願うゼロだが、才人は別のことを気に掛けていた。
「地中の世界に行って、無事でいられるかな……。地底戦車って事故が多いし」
 M78ワールドの歴代の防衛隊では、ベルシダーやマグマライザー等様々な種類の地底戦車が
試作されたが、実際に地中に潜ると何らかのトラブルに見舞われて搭乗員が命に危機に瀕する
嫌なジンクスが存在していた。そのため現在では、地底戦車そのものが開発されなくなって
久しい。ダッシュバード三号もそうならないといいのだが……。
『とにかく俺たちも後についていこうぜ。カイトにはああ言ったが、万が一のことも考えられる』
「ああ……」
 才人はゼロアイを装着して、光となるとダッシュマザーの後をつけていく。そしてダッシュマザー
からダッシュバード三号が発進し、海中に潜って海底からデロスの国へ向かっていくのを、ダッシュ
バードが作る地中の道からこっそりとついていく。
 そしてしばらくの間、地中を延々と掘り進んでいったダッシュバードが……岩盤を貫いて
開けた空間の中に飛び出した! 才人とゼロもまた、地底に存在する広大な空間へと躍り出る。
『ここが……デロスの世界……!』
 直径は何キロあるのだろうか。端が見えないほどの広さの空洞に、淡く発光するキノコの
ようなものが無数に点在している。中央には、地上のどんな建物も及ばないような丈のタワーが
集中していた。あれは何だろうか?
 そしてダッシュバードはこの大空洞のちょうど天井から飛び出してしまっていた。そのまま
真っ逆さまに転落していく。ドリルモードでは飛行は出来ないのだ!
『ダッシュバードが危ない!』
『待て! 下手に手を出さず、様子を見るんだ……』
 落下していくダッシュバードの姿に慌てる才人だが、ダッシュバードはホバー噴射を駆使して
どうにか安全に着地しようとしている。このまま何事もなく空洞の底に着陸できるだろうか。
「……ピッギャ――ゴオオオウ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
 だがその時、空洞の底を突き破って二体の怪獣が出現した! 目を見張る才人。
『あれはレッドキング、ゴモラ!』
 装甲怪獣レッドキングと古代怪獣ゴモラ。デロスが自分たちの都市の防衛用として放し飼いに
している怪獣だろうか。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 そしてレッドキングは口から岩石を大量に吐き出し、あろうことかダッシュバードを攻撃
したのだった!
『ああ!?』

648 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/21(火) 06:25:51 ID:6aQ37z/Q
 岩石がかすめたダッシュバードはホバーが途切れ、地面に墜落してしまう。その衝撃はひどく、
機体は一瞬にして半壊、しかも上下逆に落下したので搭乗しているカイトとミズキが押し潰される
形になっている!
『大変だ!』
 才人は慌てふためくが、カイトの方は奇跡的に無事のようであった。
「ミズキ、大丈夫か!? ミズキ!!」
 しかしミズキの方は負傷が深刻であった。意識を失い、生命反応が弱っているのが遠くからでも
見て取れるほどであった。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
 しかも墜落したダッシュバードへと、レッドキングとゴモラが迫っていく。このままでは
話し合いをする暇もなく、カイトたちが叩き潰されてしまう!
『まずいぜ! ゼロッ!』
『ああ! 行くぞ!』
 それをさせてはならない。ゼロは遂に辛抱ならなくなって、ウルトラマンゼロの姿に変身して
二体の怪獣に背後から飛びかかる。
『待て! あいつらには手出しさせねぇぜッ!』
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
 ゼロはレッドキングとゴモラの首に腕を回して捕らえると、ストロングコロナに二段変身して
怪力を発揮。力ずくで引っ張ってカイトたちから遠ざけていく。その間にカイトはミズキを抱えて
ダッシュバードから脱出した。
「ウルトラマンゼロ……! ありがとう……」
 カイトは自分たちを助けるゼロの姿を見上げると礼を告げ、手近な場所にミズキの身体を横たえる。
「しっかりしろミズキ!」
 必死に呼びかけるカイトだが、ミズキは目を覚ます気配を見せない。そしてデロスの指定した
タイムリミットまで、もう残り三分しかなかった。
「くそ……! ミズキ、待っててくれよ!」
 カイトはやむなく使命を優先し、無人の大空洞に向かってあらん限りの声量で叫び始めた。
「おーい! 地上から話をしに来たー! 無茶な要求をしないでくれー! 地上には、平和を
望む人間が、大勢暮らしているんだー!」
 だがデロスからの返答はない。……その代わりかのように、乱立している巨大なタワーが
ミサイルのように飛び上がっていく!
「攻撃を始めたのか!? よせー!!」
 カイトの叫びも虚しく、タワーは次々と発進していく。ゼロはレッドキングの岩石攻撃を
かわしてヘッドバッドを決め、ゴモラのみぞおちに横拳を突き入れてひるませると飛んでいく
タワーを見上げる。
『ゼロ、タワーが! 地上への攻撃が始まっちまったぜ!』
『ああ……! だが俺たちには、それを止めることは出来ねぇ……!』
 悔しいが、ゼロにはなす術なく見ていることしか出来なかった。ここでタワーを撃墜することは、
宇宙からの来訪者としての領分を侵すことになってしまう。
「ここまで来て、何も出来なかったのか……!? バカヤロー!! 何故こんなことをー!!」
 無力さに苛まれて絶叫しているカイトの背後からは、ずんぐりとしているが人型のロボットが
接近していた。地底の警備ロボット、サテライトバーサークだ……!
「うわッ!?」
 振り返ったカイトの首をサテライトバーサークは鷲掴みにして吊り上げる。
「俺は戦いに来たんじゃないんだぁ……!」
 とカイトが訴えても、サテライトバーサークはまるで反応を見せない。サテライトバーサーク
自身は感情を持たない、与えられた命令を実行するだけの機械なのだ。
『ぐッ……!』
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
「ギャオオオオオオオオ!」

649 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/21(火) 06:27:48 ID:6aQ37z/Q
 レッドキングとゴモラを押さえ込んでいるゼロは、カイトが襲われているのを目にして
うめき声を発する。本心では彼を助けてあげたい。しかし同じ星の文明同士の直接的な諍い
には、どんな形でさえ干渉することはならない。
 もどかしい思いを抱えていると……。
「放しなさーいッ!」
 ミズキが目を覚まし、サテライトバーサークに向かって叫んだ。傷ついた肉体を必死で
支えながら、脅しを掛ける。
「カイトを放さないと……バードスリーをここで自爆させるわ! 密閉されたこの空間で
バードスリーが爆発したら……この都市ごと消滅するわよ!?」
 ミズキがダッシュパッドのスイッチを押すと、ダッシュバードのノズルからジェット噴射が
発せられ、機体が急加熱していく。ミズキが本気である証明だった。
 これを受けてか、サテライトバーサークから声が発せられる。
『我はバーサーク。デロスを保護するシステム……』
 カイトとミズキが驚きで目を見開いた。

 その頃、地上では……ベースタイタンを始めとする、世界中のDASH基地が、地下から
突き出てきたデロスの巨大タワーによって全壊していた。その領地を乗っ取るように
地上に現れたタワーの先端がスパークしている。
 臨時基地としてUDFハンガーに退避していたDASHのメンバーに対して、ルイズがタワーの
分析結果を報告した。
「あの塔は膨大なアルファ粒子発生システムで、空気中の窒素と二酸化炭素を変換しています。
このまま世界各国の塔が酸素変換を続けると、八週間で地球全体の大気組成が変わります」
 続いてショーンが告げる。
「高濃度の酸素があの塔に充満してる! 攻撃デキナイ!」
「このまま手も出せないのかよ! くそぉッ!」
 コバが憤懣やるせなく司令室のコンソール台を叩いた。
「このまま地球の大気を変え、地上の生き物を絶滅させようとしているのかもしれない!」
 ヒジカタの推測を、ヨシナガ博士が否定した。
「そうではないわ。むしろ、地球の大気を、太古の時代に戻そうとしてるのよ!」

 ミズキはカイトを吊り上げたままのサテライトバーサークに訴えかける。
「同じ地球に住んでる者同士、どうして争わないといけないの!? そんなに私たちに滅んでほしい!?」
 それに対するサテライトバーサークの回答は、

650 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/21(火) 06:29:03 ID:6aQ37z/Q
『地球に生まれた生物を滅ぼしたいと、デロスは考えていない。しかし、地上の人間が地球の
環境を変えてしまったため、デロスは滅びようとしているのだ』
「えッ……!?」
 今の言葉に、カイトもミズキも、ゼロもまた衝撃を受けていた。

 ルイズはオートマトンのコアからデロスの情報を解読していた。
「デロスは滅びようとする種族。地球を取り巻くオゾン層が人間の産業によって薄くなり、
太陽からの有害放射線が地中にまで届くようになってしまった」

『デロスは太陽の有害放射線により滅びつつある。デロスはバーサークシステムに、デロスの
保護を命じた。バーサークは、止められない』
 ゼロは怪獣たちと戦いながらつぶやく。
『そういうことだったのか……!』
 デロスは自分たちの命の危機という後がない事態のために行動を起こしている。しかし、
地上の人間とて今更全ての文明を放棄することは不可能。それほどまでに人間の数は増えて
しまったのだ。これを解決する手段があるのだろうか……。
「そんな……もう間に合わないの……!? 人間は滅びるしかないの……?」
 そして絶望したミズキの気力が途切れ、その場で前のめりに倒れ込んだ。
「ミズキ!?」
「やっぱり……未来なんて……」
「ミズキーッ!!」
 再び倒れたミズキを目にして、カイトは馬鹿力を出し、サテライトバーサークの拘束を
振りほどいてミズキの元へ駆け寄った。
「ミズキ! ミズキ、しっかりしろ!」
 懸命に呼びかけるカイトだが、ミズキの呼吸は既に途絶えつつあった。
「ごめんね、カイト……! 私、やっぱり……」
「何言ってんだよ……あきらめるなよミズキッ!」
 カイトの呼びかけも虚しく、ミズキは彼の腕の中で力を失う。
『なッ……!!』
 レッドキングを押し返したゼロは、ミズキからの生命反応が消えたことに、言葉を失った。
「ミズキいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
 カイトの絶叫が、広大な地底世界の隅にまで轟いた……。

651 ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc :2017/03/21(火) 06:29:39 ID:6aQ37z/Q
ここまで。
事故は起こるさ(地底戦車)。

652 Deep River ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 00:47:40 ID:DkmUwvwg
こんばんは。作者です。先ずはこっちから投下をさせてもらいます。
開始は0:50からで。
一応トリップ付けておきます。

653 Deep River ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 00:50:12 ID:DkmUwvwg
「ふむ。その噂が真であるならば非常に困った事になるのう。しかし、当人に如何にしてそれを伝えるべきか……」

本塔最上階にある学院長室で、ミス・ロングビルは学院長のオールド・オスマンに、ルイズの召喚した使い魔とロマリアで起きた聖堂騎士大量殺戮事件との関連性を語っていた。
粗方聞き終わったオスマン氏は神経質そうに髭を弄りながら今後の対策を語り出す。

「いずれにしてもじゃ、ミス・ヴァリエールが召喚した生き物がロマリアで事件を起こした生き物と同種であるという確たる物証は今のところ一つとしてない。
あるのは噂という不確定性極まりない状況証拠のみじゃ。ただそれだけの理由で神聖な儀式によって召喚された個人の使い魔を殺処分するなぞ言語道断にして愚の骨頂じゃ。」
「しかしオールド・オスマン。火竜はどのような環境でどう育てようと火竜のままです。今回の事態はそれと同じだと思うのですが……」
「時として虫も殺さぬほどに大人しい火竜が生まれる事もあるそうじゃが、君はそういった事例を知らんかね?確立に賭けるのであれば、わしは少しでも自分に希望を生み出すほうに私財を賭ける性格なのでな。
もし暴れてロマリアの一件と同じ事が起きるのであれば、その時はその使い魔を殺すまでじゃが、仮にその前に同種の生き物であるとの事実確認がなされた際には、何らかの予防策を講じ遂行すれば良い。
我々は人間じゃ。困難に遭遇した際、早々と諦めて何もせずに逃げる諸動物とは違うのじゃ。試行錯誤し、物を作り出し、自分の力以上の物に進んで立ち向かう。それが人間じゃ。
ミスタ・コルベール、ミスタ・エラブル、そしてミス・ロングビル。生徒の上に立つ教師が、かように短絡的な結論しか出せないのでは困るぞい。
それとミス・ロングビル。ミス・ヴァリエールの使い魔がそんなに危険というのであれば、ロマリアの噂話を精査し、似顔絵の一つや二つでも描いて実地調査を行うことじゃ。
それからミスタ・エラブル。君は確か任期満了に近かったかの?」

エラブル氏はコルベール氏と同い年ぐらいではあったが魔法生物学の任期である十五年が後三日で来るといった状況だった。エラブル氏は少し残念そうに「はい」と短く答える。

「安心せい。ミスタ・コルベール、君はミスタ・エラブルの代わりに使い魔の動向と生態を観察し、気になる事があったら逐一漏らさずノートに書き留めておくようにしたらどうかね?」

コルベール氏は、「成程。ミス・ロングビルとの行動とも連動出来る。」と考え「ははあ」と深く頭を下げる。ついでに今度はコルベール氏が質問をした。

「して学院長。この一件、王宮やアカデミーに報告するのですか?」

次の瞬間、彼はそんな質問をしなければ良かったと酷く後悔した。オスマン氏が冷ややかな目と声でその質問に的確な答え方をしたからだ。

「王宮に報告して何とする?ロマリアの一件が事実だと分かったら、暇を持て余した貴族連中にとってこれほど都合の良い戦争道具はありゃせんぞ。
アカデミーなぞ尚更拙い。どんな実験をされる事になるやら分かったものではないからの。君とて生徒の悲しむ顔というものは見たくあるまい?」

コルベール氏は気弱そうに「はあ」と言ったきり黙ってしまったが、内心はオスマン氏の深謀にいたく感心していた。
これでセクハラ癖さえなければ完璧なのだが。まあ人は誰でも短所というものを持ちうるものである。

「ともかくこの件に関しては短いようじゃがこれで終わりとする。ミス・ヴァリエールにはくれぐれも噂を悟られんように伝えるのじゃぞ。」

オスマン氏の厳命に、三人は気を引き締めた返事で対応した。

654 Deep River 第三話 ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 00:52:18 ID:DkmUwvwg
ルイズは寮内にあるトイレの前で困っていた。どう困っていたかというと使い魔の少女、サフィーの扱いに困っていたのである。
別にサフィーが面倒事を引き起こしたわけではない。ルイズはこれまでの人生において、当然ながら子育てという物を全くしたことが無かったので、今後どうすればいいかさっぱり見当がつかないのだ。
まず自分の名前と主人の名前をおぼろげながらも言えるようになった。それは人間の基準に照らし合わせて考えれば信じられないほどの早さであった。
しかしサフィーは亜人である。そういった事は人間の域に止まらないのかもしれない。
取り敢えず、次に覚えさせるは日常生活における身の回りの変化に自分で対応させていくという事だ。
部屋の中でルイズが徐にサフィーのスカートを捲くってみると、誰かは分からないが急にもよおす事になっても困らないように、きちんと処置が施されていた。
だが早くこれを外せるようにならないと、後々嫌な噂を立てられることになるだろう。
この際使い魔としての責務とかは後回しにしたって問題は無い。まずは日常生活で困らない程度に基本的な事は覚えさせておかねばならない。それにこのくらいの事は他の者もやっていることだろう。
そういった経緯でここまでやって来たのだが、厄介な事に名前を言う時以外では、サフィーは基本的に「みゅう」しか言わない、というか言えない。
理解したのかしていないのかも分からない、全くの手探り状態で始めることにルイズは不安を感じていた時、後ろからコルベール氏の声がかかった。

「ミス・ヴァリエール!こちらにいましたか!」
「ミスタ・コルベール……あの何か私に御用ですか?」
「実は君の使い魔についてなんだが……今、少しでも時間は取れますかね?」
「え?ええ、少しなら構いませんけど。何かサフィーについて分かった事があるんですか?」

サフィー?ああ、使い魔の名前ですかと思ってコルベール氏はルイズの使い魔を見やる。
すると亜人の少女はびくっと大きく震えてルイズの後ろにさっと隠れた。どうやらとんでもなく人見知りの激しい性格のようである。

「ははどうやら私はその子に嫌われてしまったようですな。」
「すみません。でも多分サフィーは時間をかけて接しないと相手に心を開かないみたいなんです。実際に私も最初は怖がられましたから。」
「そうなのか……君もいろいろと大変なのですな。さてミス・ヴァリエール。話があるのはその亜人についてなのですが……」

その瞬間にルイズの表情に墨のような暗く黒い影がさっと走った。部屋にいる時にちらとでも疑った事がもし本当になるのだとしたら暗澹たる気持ちになったからだ。
ルイズは一言一句を確かめるように話し出す。

「ミスタ・コルベール。サフィーはその、亜人は亜人でも何の亜人なのかは分からないんですね?」
「え?ううむ、確かにどの書籍にもミス・サフィーと同じ特徴を持つ生物は載っていなかった。学院長もご存知ではないそうです。」
「じゃあ、人の手に負えない生き物だとか、災いをもたらすような生き物ではないんですね?」
「まあ、それに関しては未だ調査中です。断定的に言える事は今のところ何もありませんよ。だからあんし……」
「もしそうならサフィーは殺されちゃう。そんなの駄目よ。私にとって魔法が成功した証、いいえ!私の大事な大事な使い魔なのよ!」
「もし?ミス・ヴァリエール?」

心配するミスタ・コルベールを余所にルイズはサフィーをひしと抱きしめて囁くように言った。

「大丈夫よ、サフィー。世界中の人達があなたを狙っても私だけは守ってあげる。怖がらなくてもいいの。私が……命にかけても守るから……」
「ミス・ヴァリエール!」

655 Deep River 第三話 ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 00:53:03 ID:DkmUwvwg
遠のきかけていたルイズの意識は、そこで一瞬にして戻って来た。
傍にいるサフィーを見ると最初の時と同じ様に酷く脅えていた。まるで雨の日に外へ捨てられた犬の様だと言えば妥当だろうか。
ルイズが落ち着きを取り戻したのを確かめたコルベール氏は溜め息一つ吐いて対応する。

「我々はミス・サフィーを殺すような事はしません。ええ、始祖ブリミルに誓っても良いくらいです。
ただこれまで確認された事の無い亜人ですので、宜しければ我々がミス・サフィーの動向や生態といった物を調査するのに協力していただけないかと。」

その依頼にルイズは少し考え込んでしまう。
それはつまり、サフィーが毎日何時に起きて何時に眠るかとか、何を食べたり、見知らぬ事物についてどんな反応を示すかというのを逐一観察される、或いは自分が先生に報告するという趣旨の物であるという事だ。
大まかな所は教えてもいいが、どこと無く自分の生活におけるプライベートな内容がばれそうになるのが怖い。それに正直言えばそういう事は女の先生に切り出してほしい物だ。

「コルベール先生。調べる人を変えさせてもらうわけにはいかないでしょうか?」
「調べる人?ああ、確かに私では君達も気まずいという事だね。では、ミセス・シュヴルーズあたりに手配してみよう。
彼女なら女性としてきちんと対応してくれるだろうし、君がもしミス・サフィーを養育するにあたって困った事が出てきた時に何かと相談に乗ってくれるかもしれませんしね。」

それの方がよっぽど有り難い。ルイズは小さく「それで良いです。」と答え、ほっとした様に一息を吐く。

「ところでミス・ヴァリエール。もう夜も遅いですよ。消灯時間も近付いているのに何をしてたんですか?」

随分とデリカシーの無い質問ね、とルイズは呟きかけた。
いくら彼もある程度の経緯は知らないとはいえ、この場所、トイレの前で女が二人、しかも片方はまるっきし赤ん坊の様な振る舞いしか出来ないときたら、これから何をするのか察してさっさと退散してくれたっていいじゃないか。
だがそんな感情はおくびにも出さず、ルイズはコルベール氏に悪い印象を与えないようあくまでにこやかに応対する。

「サフィーはまだ日常生活が出来ないんです。だから私が手伝って、それから慣れさせて一日も早く立派な使い魔にしないといけないんです!」
「そうか……なるほど、人並みの知能を持った亜人にとって、主人が率先してやるべき動作を教えるというのは良い教育方法です。
良い心がけですね。感心しますよ。ですがそういうものには大抵思わぬ落とし穴が待っているものですよ。」
「どういう事ですか?」
「急がず焦らずじっくり挑んだ方が良いという時もあるということです。
子供が成長することは、親にとってこれ異常ないほどの喜びであることは古今東西変わりはありませんが、あまりにあれもこれもと詰め込もうとすると、子供はパニックを起こして親に反抗するようになってしまうものです。
それにあの人の子供で何々がうまくいったから自分も、と思い違いをして功を焦ろうとすると上手くいかない、という時もあります。要は自分流を模索しながら気長にやってみる事です。
あー……練習もいいですけど、明日の生活に支障が無い程度にしておきなさい。それじゃ、お休み。」

コルベール氏は踵を返し寮塔から出て行った。
ルイズは暫くの間ぼうっとそこに立ちつくしていたが、傍で自分の服を引っ張るサフィーに気づき直ぐに元に戻った。

「ごめんね、サフィー。さ、練習しましょうか。」

656 Deep River 第三話 ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 00:54:34 ID:DkmUwvwg
同じ頃、ロマリアの大聖堂の巨大な一室では、一人の男性が鬼気迫る表情をしている拘束された少女に対しとある術をかけていた。
厳密に言えばそれは人間の少女とは違う。なぜならば彼女は頭に一対の角を持っていたからだ。

『ナウシド・イサ・エイワーズ・ハガラズ・ユル・ベオグ……』

まるで詩を詠うかのように美しく繊細な声が部屋いっぱいに反響する。

『ニード・イス・アルジーズ・ベルカナ・マン・ラグー!』

声が一頻り大きく響き、部屋の空気が陽炎の様にゆらっと揺れた後、術をかけられた少女の表情は一気にとろんと眠りそうなものになる。
そして男性は、今度は教会にある組み鐘が出すよう様な光沢のある声ではっきりと言った。

「君は今日一日何もしていない。そして君は心の内奥から聞こえてくる声を全く知らない。それが何時、そして何故起きるのか。どんな意味合いがあるのか何もかも。」

男性の言葉は、事情を知らないものが聞けば更にショッキングな物となっていく。

「君はここに来る前の事は何一つ知らない。すべて忘れている。どこでどんな人達とどんな風に過ごしたのか。何もかも。分かったかな?分かったなら『はい』とだけ返事をしたまえ。」
「はい……」

亜人の少女は虚ろな声で男性の声に答える。どう見ても一筋の疑問も持たずに。
男性はそれを見ると穏やかに微笑み、自分の配下の者に彼女を拘束から放つよう指示した。
自由の身となった少女は、生まれたての小鹿のようにふらふらと男性に向かって歩く。
それを見た男性は誰にも聞こえないよう小さく嘆息した。

「やれやれ……試験では何とか十日程は持つようになりましたが、安全のためにはまだまだこの処置を毎日続けなければならないとは……骨の折れる物ですね。」

少女は尚も前に向かって歩く。
彼女に偽りのアイデンティティーを与えた見目麗しき男性に向かって。

657 Deep River 第三話 ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 00:57:25 ID:DkmUwvwg
投下終わります。
引き続き1時よりLFOの続きを投下します。

お手空きの方が何方かおられましたら、まとめwikiへの反映お願い致します。

658 Louise and Little Familiar's Orders ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 01:02:30 ID:DkmUwvwg
お待たせしました。投下はじめます。

Louise and Little Familiar's Orders 「He needs water, and I need love.」

「マンタイン!!」

ミーは叫んでいた。何処にそんな声を出せる余裕があったのか分からないが、とにかく目の前に現れたポケモンを見て驚きのあまり声を出したのだ。
それも……大きい。普通マンタインは体長2m程の筈なのだが、今ミーの前にいるそれはゆうにその3倍以上はありそうな大きさをしている。
盗賊達はいきなり現れた見た事もない動物の姿に一瞬怯んだが、能天気そうな顔立ちと無力そうにばたばたしているのを見て次第に笑い出した。

「は……ははははっ!驚かしやがる!何だぁ、この生き物は?」
「魚か?いや、違うな。魚なら鱗がねえとおかしいぜ。するってえとこいつぁ……」
「どっちでもいいぜ。この世に物好きな貴族はたんまりいるんだ。そいつも一緒に貰おうじゃねえか!」

相手がそんな風に好き勝手言い合っている内、ミーは体を起き上がらせマンタインに近付いて触ってみる。
するとその瞬間、嘗てピンチになった時ヒメグマに触った時のように、様々な情報がミーの頭の中に一種の奔流として流れ込んできた。
レベルは10。能力値は全体的にそこそこ。使える技はたいあたり、ちょうおんぱ、そしてなみのり。現在の状態は健康そのもの。
だからこそ余計に疑問に思えた。まだ卵から孵ってそんなに経っていなさそうなのに、何をどうしたらこんなにも大きく育つのか。元々のトレーナーは相当の腕があったに違いない。
そしてミーはこの状況を何とかする方法を考えた。ポケモンの技を人間相手に繰り出すのは気が引けるが、今はそんな悠長な事を言っている場合ではない。
それからミーはマンタインを優しく撫でて落ち着かせる。不思議な事にどこをどう触ってやれば十分に落ち着かせられるのかも、さっき触った時に頭の中に入ってきた。まるで長年一緒だった相棒のように。
そしておぼつかない足取りで上に乗る。何かすると思ったのだろう盗賊達とやり合っていたヒメグマも遅れまいと乗っかった。
盗賊達は逃がすものかと飛びかかろうとしたが、次の瞬間驚くべき事が起きた。

659 Louise and Little Familiar's Orders ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 01:04:08 ID:DkmUwvwg
「きゃあああっ!!」
「な、何だこりゃぁーっ?!!」

ミーの前方と後方で絶叫が響き渡った。
それもそのはず。それまで池はおろか水溜りさえも無かったマンタインのいる場所に、地面から大量の水が吹き出してきたからだ。
しかもただ噴き出すだけではない。水は地面に浸み込む事無くだんだんその場に溜まりだし、更には小さいながらも波を起こし、まるで海の一部を切り取ってきたかのような光景を作り出している。
こうなると盗賊達の思考は完全に停止してしまう。何が起きているのか全く分からないために最早声をあげる者すらいない。無論武器を掲げて攻撃しようなどという輩もいなかった。
そしてミーはマンタインにしっかりとしがみ付きながら前を見据え、たった一言だけ命令を下す。

「マンタイン……なみのり!!」

言うが早いかマンタインは両の鰭を二、三回ばたつかせた。すると地面に広がっていた波の淵が50サント程音も無くスーッと退いていく。
だが次の瞬間、その淵はフワッと盛り上がり、次いで波高がゆうに5メイルはあろうかという波が起きた。マンタインはその波の表面を勢い良く滑走し、文字通り「乗りこなして」いく。
盗賊達はその波を見るや否や、訳の分からない言葉を絶叫したり、獲物を放り投げるなどして一目散に逃げ出した。
しかしフネの何倍もあるスピードの波は盗賊達を一人残らず足元から掬って飲み込み、あっという間に森の奥の方へと流していった。
そして実に不思議な事にミーの後方にいるルイズ、シエスタ、そして子供達や馬車は少しも水に浸かることは無かった。
あまりの光景に全員が呆気に取られていたが、マンタインが起こした波も水も引いてきた頃、ルイズが叫んだ。

「今よ!全員馬車に乗りなさい!トリスタニアまで急ぐわよ!」

言われずともと言わんばかりに、子供達が我先にと馬車の荷台に乗っかる。シエスタはルイズの隣に乗り馬車を走らせるため手綱を手に取る。
ミーはマンタインを取り敢えず一旦ボールに戻し、ヒメグマを連れて荷台に乗っかる。
それから程無くして馬車は走り始めた。

馬車はトリスタニアに続く街道をひた走る。道中で人と会う事は殆ど無かったが、馬車の荷台は賑やかなものだった。
ルイズが食料を調達していたおかげで、シエスタとその兄弟達は何とか飢えを凌ぐ事は出来た。馬車の荷台が大きく横になる事が出来もしたのでこれまでの道中を考えれば天と地ほどの違いがあった。
ルイズは素直に感謝された。そして子供達の歓声を聞いて、ほんの少し人助けも悪くないと思うようになっていた。そんな時、彼女は同じく御者台にいたシエスタに抱かれていたミーに話しかける。

「ねえ、ミー。さっき聞こうとしてたけど忘れてたわ。ポケモンってあんたが最初に持ったのもそうだけど……その、あんたはヴィンダールブなんでしょうけど、どんなポケモンでも操れるの?」

市場での競り、そしてフーケとの一戦を見て、そして先程の一件。今更伝説云々を聞くつもりは無かった。
突然の質問にミーは少し黙ってしまう。自分はどんなレベルのポケモンでも手なづけられるバッジを持っているわけではない。それを得る為にはフスベシティまで行き、強力なポケモンでもってジムリーダーを倒さなければならないのだが。
それ以前にミーはポケモンを持って良い年齢に達していない。それにはあと5年も待たなければならないのだ。

「分からないです。ミーはまだバッジを持っていないですから……」
「バッジ?それがあるとどうなるの?」
「えっと……ポケモンに言う事を聞かせられるようになるとか、数は少ないけど決まった技が使えられるようになるとか……」

それを聞いてルイズは考えた。ミーがヴィンダールブというのであれば、そのバッジというものが必要不可欠な物なのだろうか?何しろヴィンダールブはあらゆる獣を操る事が出来る能力を有しているのであるから。

660 Louise and Little Familiar's Orders ◆BGjq.lB0EA :2017/03/27(月) 01:10:53 ID:DkmUwvwg
投下終わります。ちょっと短かったでしょうか。
にしても、お休みしている間にヤマグチ先生が逝去されたり、原作が完結したり色々ありましたね。
これを機に新作が止まってる他のSSの作者さんも戻って来てくれたりすると、同じSS作者として嬉しかったり。
岡本先生のヤンジャンでの新連載楽しみだし、ポケモンはモンスターの数含め今じゃ何が何だか…。
投下ペースはマイペースになるかもですが何卒宜しくです。

あと、まとめサイトの方、宜しくお願い致します。

661 名無しさん :2017/03/27(月) 20:46:04 ID:FDowJIog
お久し振りで乙です

662 名無しさん :2017/03/28(火) 08:16:25 ID:co0J4z3.
乙!


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