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避難スレ

1ルシファー@掲示板管理人 ◆8hviTNCQt.:2007/06/08(金) 02:31:57 ID:6n09DZuE
とりあえず避難用のスレ。
使うことは少ないかもしれないですが、規制された時にでも使用して下さい。

2名無しのスフィア社社員:2007/06/08(金) 02:40:54 ID:s1G3mEZg
とりあえずこっちに書かせてもらうぜぇ〜!
心底乙ッ!

修正云々のやりとりがし易くなるからありがたいです

3名無しのスフィア社社員:2007/06/08(金) 08:24:25 ID:AOR4HlFs
超GJ!
なんとなく避難所があると落ち着くw

4名無しのスフィア社社員:2007/06/09(土) 14:08:25 ID:GYjoZti2
お前の命掛けの行動、僕は敬意を表するッ

>>3
わかるわかるww
没作品投下スレと一時投下スレあたりは近い内に立つかもね
死者スレは……どうなんだろw

5名無しのスフィア社社員:2007/08/04(土) 11:46:24 ID:C6x0Whg2
2chはずっと規制されてるみたいなのでこっちに投下。

 ttp://smallup.dip.jp/uploader/upload.cgi?mode=dl&file=358
現時点での生存者の現在地をまとめてみた。
 (ちなみに72話までの状況、8月4日未明時点のWikiの内容を参考にした)
赤印が交戦中、赤文字が現時点でマーダー寄りのキャラ。
場所があやふやなキャラについては適当に置いておいたので、そこの所はご了承。

6名無しのスフィア社社員:2007/10/22(月) 13:20:17 ID:qfaASegI
2chにはやっぱり書き込めないのでこっちに投下。
「力が無ければ頭を使え!」終了時点での現在位置と状況メモでも。

【G−2/昼】
 ・ミカエル
  平瀬村にて絶賛引きこもり中。
  放送後から全く動きがないのが気がかり。
【B−3/真昼】
 ・リドリー
  鎌石村内海岸付近にて。
  定時放送を挟んだため、ほうきのエネルギーは充電済か。
  拠点にするにはいいと思っているようだが、数時間後には続々と人が集まるぞ!
【C−4/真昼】
 ・ロキ
  首輪研究中の自転車マスターLv3。
  昼の時点ではこの位置だが、夕方にはD−2付近に移動している模様。
  エルネスト達とどう接触するのかが気になるところ。
【E−2/真昼】
 ・マリア、クレス
  クレスが絶対安静状態なので、少なくとも次の放送までは足止めを喰らっている。
  クレスが目覚めた後どうするかは未定。
 ・ボーマン
  一応殺し合いには乗ったものの、心の中には迷いや自己嫌悪が渦巻いている模様。
  なるべく人との接触を避けて行動したいが、どこへ向かっているかは不明。
【F−3/真昼】
 ・ミランダ
  チェスターかルシオについていくと決めたもののどっちについていったかはまだ不明。
  一応殺し合いに乗っているのだが……その、がんばってください。
【I−6/真昼】
 ・レオン
  氷川村内探索中。
  首輪についていろいろと考えているものの、今のところ誰一人接触を果たせていないのが不安要素。

7名無しのスフィア社社員:2007/10/22(月) 13:20:50 ID:qfaASegI
上げてしまった、すまん

【E−4/午後】
 ・チサト、ガルヴァドス、チェスター
  ホテル跡前にて一悶着あった後。
  クロードを追うかどうかは不明。
 ・クロード
  勘違いされまくりの光の勇者。
  ひとまず南東に逃走中だが、下手するとアシュトンと遭遇の危機が!
  そして3人の誤解を解ける日は来るのか!?
【F−2/午後】
 ・洵、ルシオ
  平瀬村にいる間だけ共に行動。
  その後どうするかは不明。
【H−4/午後】
 ・アーチェ
  拡声器フラグで死ななかったものの、精神的に相当追い詰められている模様。
  とにかく西へと走行中。
【H−5(G−5とH−5の境界付近)/午後】
 ・アリューゼ、プリシス、ジャック
  ジャックはアーチェを追いたいようだが、どう動くかは不明。
  そういえば作中で双龍の男が〜と言っていたが、プリシスはアシュトンだと気づいているのか?
【H−6/午後】
 ・アシュトン
  源五郎池付近の東部にて潜伏?中。
  ディメンジョン・スリップがなくなった以上、もう無茶はできないが……。
【I−6/午後】
 ・アルベル
  氷川村散策中。
  メイド服、どうするんですかwww
【H−7/午後(もうまもなく夕方)】
 ・ガブリエル
  焼場建物内部にて絶賛引きこもり中。
  ミカエルもそうだが、十賢者は引きこもるのが大好きなのか?
 ・無人君(意思持ちランダムアイテム)
  どこかへ逃走中。
  果たして誰に拾ってもらえるのだろうか……?

8名無しのスフィア社社員:2007/10/22(月) 13:21:36 ID:qfaASegI
更に夕方組。

【C−6/夕方】
 ・レナス、ソフィア、レザード
  観音堂にて、レザードの個人レッスン中。
  3回目放送(深夜)までに鎌石村に到着したいところ。
 ・ブラムス
  レナスたちとは別れて単独行動で鎌石村へ。
  夜が近いので徐々に本調子に戻りつつある。
  いまだ外す気配は皆無だが、いつになったらヅラを外すのか!?
 ・IMITATIVEブレア
  鎌石小中学校校舎内の教室にて拷問手段を思案中。
  どこへ向かうかは2回目の放送次第。
 ・ガウェイン
  こちらも鎌石村へ。
  ガセ情報を流す約束をしたものの、ブレアの事を完全には信用しきっていない模様。
【D−2/夕方】
 ・エルネスト、クラース、フェイト
  とりあえず鎌石村へ。
  しかし付近にはロキが! 逃げて逃げてー!
【I−7/夕方】
 ・ディアス、レナ
  診療所前にて。
  とりあえずオペラを弔うが、その後の方針は未定。
【C−4/夕方(まもなく第2回放送)】
 ・ミラージュ
  鎌石村役場内にて潜伏中。
 ・すず
  鎌石村中心部、民家の一室にて潜伏中。
 ・クリフ、ルーファス組
  ミラージュの書置きを見つけ、役場に向かって猛ダッシュ中。
  放送でアリーシャの死を知る事になるルーファスがどう動くのかも気になるところ。

どう見ても鎌石村が修羅場になりそうです、本当に(ry
夕方の時点で4人、更に目的地にしているのが5人、付近にいるのが約1名、
約1名も昼から離れなければ鎌石村近辺に潜伏、深夜までに到着予定が3人と、
生存者の約3分の1が関わる事になりますね。

98の訂正:2007/10/23(火) 16:01:13 ID:6pa..hNI
Wikiに書かれていたからからそのまま書いたが、
マップを見ていて引っかかる部分があるなと思ったら
ガウェインと偽ブレアは【C−6】ではなく【D−6】っぽくないか?

訂正しようにも作者さんの事もあるし、勝手に修正するわけにも行かないし、
本スレに書き込めないから率先して確認取るわけにもいかないからな……。
誰か気づいた方、作者さんに確認とっていただけると嬉しい。

10 ◆wNjp7OZc.s:2007/10/24(水) 03:20:19 ID:loMTEbQs
ブレアとガウェインはD−6ですね。こちらのミスだったようです。
wikiの方も修正しておきますね。
失礼しました。

11名無しのスフィア社社員:2007/10/24(水) 17:14:15 ID:MfATrF0M
作者さん本人降臨ktkr!
訂正乙です!

12 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:40:18 ID:V9mKCRT6
続きを投下します

13 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:42:14 ID:V9mKCRT6

―――目を覚ますのだ。
―――リドリー・ティンバーレイクよ。

誰かが私を呼んでいる。
私はまだ寝ていたいのに声の主はそれを邪魔する。
目蓋に明かりが灯る。
あれほどあった痛みが治まっている。
リドリーは軽くなった身体を起こし、辺りを見渡す。
「ここは…金龍城」

金龍城。
目を覚ました場所はかつて自分の中に金龍を宿した場所。
自分が銀龍に殺された場所だった。

―――ドックン

『リドリーーー!! オレだ! ジャックだ!』

―――ドックン―――ドックン

『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』

―――ドックン―――ドックン―――ドックン

「リドリーよ」
「!?」
突如の声にリドリーはハッと声の元を振り向く。

14 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:44:16 ID:V9mKCRT6

黄金の神殿の中央に光の粒子が集まり、形を成していく。
そこには、毅然と佇む一匹の龍。
全身を金色の鱗を覆わせ、神々しいまでに金色のオーラを漂わせる金の龍。
金龍―――クェーサーである。

クェーサーはリドリーを見据えると。
「時は満ちた。銀龍フォティーノ亡き今、お前は器として役目を果たす時が来たのだ」
リドリーは表情を変えず向き合う。
「我は銀龍に代わって、歪みに満ちた世界を正し、新たな世界を創造し、監視せねばならない。
 我らは復活したのだ。運命はもう近くまで来ている。
 我らは融合し、一つになった。だが、フォティーノがいる限り、交代することは叶うことはなかった。
 しかし、フォティーノは死んだ。この殺し合いの舞台で消え去ったのだ。
 銀龍をも屠る力を有する者がこの舞台に蔓延っているのだ。
 我らは人間如きに殺されるわけにはいかない――――この意味が分かるな?」
「はい」
リドリーは小さく頷く
「そうだ。リドリーよ。お前の力では最後まで生き残れない。
 我らはトゥトアスの秩序を監視しなければならないのだ。ここで倒れるわけにいかないのだ」
「………」
「さて、始めようではないか。案ずることはない。
 お前の意識は取り込まれ、完全に我のものとなる。
 お前は何も心配いらな――――」

「――――クェーサー……」

15 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:46:00 ID:V9mKCRT6
リドリーはイグニートソードを取り出し、自分の首元に剣を当てる。

「私と一緒に死にましょう」

「何…!?」
金龍の顔が強張る。
「私にはどうしても守りたい人間がいます。
 ですから、我が命をもって使命を終わらせます」
「何だと!? 貴様は気は確かなのか?
 一人の人間のために世界を滅ぼしていいのか?
 人間を野放しにしておけばトゥトアスの大地はどうなる?
 お前一人の勝手の行動がアルガンダースを蔓延させ、世界を滅ぼすことになるのだぞ」
「私も―――」

リドリーは金龍城に再び戻って、あることを思い出していた。
何故忘れていたのであろう? こんなに大切なことを。

+++

16 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:47:56 ID:V9mKCRT6
金龍の器。
私には宿命があった。私には成就しなければならない理由がある。
だから、私はもう引き返せない。
霊継ぎの儀式を受けてから自分の存在意義を考えてきた。
そして、決心したのだ。
トゥトアスの歪みを救えるのなら喜んでこの身を金龍に捧げようと。

騎士たるもの常に冷静であり、正しい判断をしなければならない。
国と民を守る者は国と民のためならば個人的な感情に流されてはならない。
私は幼いころからそう教わってきた。
そうか―――ならば私は皆の見本になるために貴族の名に恥じない立派な騎士になろう。
そのために不要のことは一切排除しよう。
そう決意した。
それからというものずっと寒かった。私の心は城壁のように凍えていた。
でも、自分を殺し、前に進まなければならなかった。

だって……それが一番正しいことだから――――……

17 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:51:28 ID:V9mKCRT6

後悔はなかった。私が死ぬことで世界が救われるのだから。
トゥトアスはもう疲弊しきっていた。
人間たちの傲慢が世界を枯渇させ、アルガンダースを蔓延させる原因を生んだ。
人間たちがこのまま繁栄しつつければ、世界は近いうちに滅び去ってしまう。
だから、私は一度世界を創り直すために、金龍の器になることを望んだ。
―――この私…リドリーという存在を失ってでもいいと
―――自分が自分でなくなっていいと

金龍が光臨すれば、私の意識は失われ、人間たちの滅亡は必至である。
でも、トゥトアスが救われるなら、私は全てを擲った。
人間たちを裏切ってでも、私は成さなければならい。
唯一自分だけが世界を救えるのだ。自分と人間たちを犠牲にすれば、世界の秩序が守られる。
そう、自分に言い聞かせる。

18 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:53:38 ID:V9mKCRT6
度に―――アイツのことが頭に浮かんだ。
でも、世界を救うためには私を捨てなければならない。
そう、また言い聞かせた。
でも、また―――アイツの事が心に浮かんだ。

私はアイツを振り切るように世界の果てへと金龍降臨の地へと向かった。
……いや、今思えば逃げていたかもしれない。

そして、私は金龍の器へとなろうとしていたとき。
『リドリーーー!! オレだ! ―――だ!』
それでも
アイツは
アイツは
追いかけてきてくれた。

19 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:54:16 ID:V9mKCRT6

―――ドックン

嬉しかった。
初めて会ったときと変わらないまま、何も変わらないまま、呼んでくれた。
その瞬間、意識が薄れる。銀龍の攻撃を一身に受けたのだ。
死。
命の灯火が薄れるのが分かった。
それでも、アイツは心配そうに私を抱きしめくれた。

―――ドックン―――ドックン

暖かい抱擁。永遠に解けることのないと思っていた心が満ちていく。
そして、また呼んでくれた。
『リドリーっ! おい! しっかりしろ! リドリーっ!』
私の名前を―――リドリーを。私として呼んでくれた。

―――ドックン―――ドックン―――ドックン

その瞬間、分かったんだ。
『……嬉しい。また名前を呼んでもらえた』
困惑するアイツの顔、見物だったな。
『…私はお前と…』

+++

20 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:56:05 ID:V9mKCRT6

「私も初めは金龍に全てを捧げるつもりでした。
 そのためにかつての仲間を殺めることになっても、宿命に従うことが正しいことだから。
 でも、アイツは何度傷つけても、私を仲間だと家族だと言ってくれた。
 何もなかった私に。
 想いを
 意志を
 教えてくれたのは彼だった」
頬が温かくなっていく。

アイツを想えば
       笑みがこぼれる。
アイツを想えば
       胸が締めつけられる。
アイツを想えば

―――生きていると実感する

21 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 01:57:59 ID:V9mKCRT6
悲しくないのに涙が溢れてくる。
「私は―――ジャックが愛おしい。
 愛しくて
 愛しくて
 たまらない」
本当は嫌だ。
自分が自分じゃなくなるのは嫌だ。
私が私でなくなれば、この想いもなくなってしまう。
ジャックに対する愛しい想いも消えてしまう。
ジャックは私の希望だ。だから命に代えて彼を『守りたい』。
自力では金龍を抑えられない。しかし、好機は今であった。
金龍が私の意識に融合する前に手を打つ。
強制的に入れ替わる前に自分を殺す。
私たちは一心同体、私の精神を殺せば、同時に金龍も殺せる。
これは使命でもなんでもない。
これは紛れもなく自分の意志。

暖かい愛しい涙が頬中に伝い落ちていく
「出会ってくれてありがとうジャック。
 ―――大好き」
瞳を閉じ、覚悟を決める。最後の戦い。
人類の敵である金龍クェーサーを倒すべく、リドリーは剣を自分の心臓に振り翳す。
愛しき者を守るため、少女は自分の想いを身体に刻む。

22カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:02:29 ID:V9mKCRT6


―――どうしてあなただけ助かろうとするの?

か細い生気のない声が耳朶を打つ。
「え…!?」
リドリーは閉じていた目を見開く。その瞬間、金縛りにあう。
そこには、褐色肌の少女と凛とした風貌の女性、長い金髪の女性が私を覗きこんでいた。
その目は生気がなく恨めしそうに私を魅入っていた。彼女たちは皆この舞台で私が殺した者たちであった。
一同は一斉に壊れたオルガンのように訴えかける。

「「「どうしてあなただけ助かろうとするの?」」」

三人の身体から夥しい血が溢れ出る。それは私が刻み込んだ箇所から止め処なく吹き出る。口元から蛇口のように零れ出る。
「「「痛かったよ」」」「「「苦しかったよ」」」「「「死にたくなかったよ」」」「「「生きたかったよ」」」
「「「報われなかったよ」」」「「「家族のところ帰りたかったよ」」」「「「愛する人のところに戻りたかったよ」」」
「「「助かりたかったよ」」」
「「「でもどうしてあなただけ助かろうとするの?」」」
「「「私たちはあなたに対して何もしなかったのにどうしてこんなことするの?」」」
「「「どうして殺したの?」」」

「ちっちがう!!」
リドリーは後退しながらも頭を左右に振り必死に否定する。
恐怖から涙が滲み出る、目を背けられない。
言い聞かせる。これは幻だと、性質の悪い幻覚だと。

23カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:05:02 ID:V9mKCRT6
しかし、悪夢は覚めない。死体達は生々しく私を睨みつける。
「ククク、リドリー・ティンバーレイク。これがお前が背負ってきた道程だ。
 どの人間よりも業に満ちておる。足下を見るがいい」
どこからか金龍の声が聞こえる。その声に咄嗟に足元を見る。
足元には積み上げてきた死体の数々。
人間。妖精。ライトエルフ。ダークエルフ。ブラッドオーク――――
ありとあらゆるの種族が無造作に積み上げられていた。
数十万という死体の山の上でリドリーは足を踏みしめていた。

あまりの凄惨な光景に思考が停止する。何も考えられない。
「そうだ、すべてお前によって引き起こされた戦争で死んだ者たちだ。
 お前はその頂点に立っている。お前が望もうと望むまいと本来唾棄される存在」
「違う、私は私は―――」
突然死体たちがコーラスを上げるように絶叫する。

「「「「「「「「「「「「「――――――――」」」」」」」」」」」――――――――

24カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:06:40 ID:V9mKCRT6
終わりのない怨恨の言葉、罵声、呪詛。
耳が脳が全身が引き裂ける。精神が粉々に砕かれてしまう。
「リドリーよ。意志には関係なく、償わなければならない。
金龍の器として、お前は使命を完遂しなくてはならない」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
リドリーはジャックのことを想い、剣を手に取る。
これら全ては金龍が見せている幻だ。
今のうちに始末をつけないと手遅れになる。
リドリーは自らの命を絶つべく剣を振り下ろす。

だが、身体が動かない。
持っていた剣をカランと地面に落とす。
周囲は地獄のような光景ではなく、元の金龍城へと変わっていた。

「ククク……助かったよ。お前が躊躇している内に身体のほとんどをのっとることができた」
自分が自分でなくなる感覚が蝕んでいく。精神が腐蝕していく。
いいようのない嫌悪感が広がる。
「そんな……」
思考が絶望に塗り潰されていく。
そんなリドリーを見て金龍は満足げに笑みを浮かべる。
吐き気を催すぐらい邪悪な笑み。

「人間ごときがこの私に敵うと思ったか!? 愚か者がッ!!」

その瞬間、身体は完全に自分ではなくなった。
―――ジャック、ごめんね……

+++

25カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:09:02 ID:V9mKCRT6

ソファの上で横たわっていた少女は身体を起こす。
ここは鎌石局の待ち受けの一室。少女は戦闘で傷ついたケガを癒すために、休息を取っていた。
あれほど悩ませていた全身の激痛は治まっている。
ケガはまだ残っているが戦闘に支障はきたすことのない微々たるものだ。
突如、少女は大声で笑い出す。
「あはははははははははははははははははははは。
 ああ、なんて気分がいい! 最高に気分がいいよ!
 やっとこの手で直接いたぶれる。人間どもをいたぶれる」
そこには、姿形は少女のなりをしているが、全てにおいて元の少女とは違った。
そいつは金龍クェーサー。トゥトアスの監視者。秩序を調停する者。
人類にとって紛れもなく悪。全人類を脅かす敵。
クェーサーが今そこに吼えていた。

「さーて、身体の馴染み具合はどうかな」
クェーサーは手を翳す。無尽蔵といえる魔力によって形成された武器が現れる。
器となった少女が得意としていた武器―――黄金の斧が具現化する。
「……」
金龍はいまいち納得いかず、頭を掻く。
今度は両手を合わせ魔力を込め、正面に振り下ろす。収束させた魔力を放出させる。
爆音と共に正面に巨大な穴が出来上がる。
手加減をしているとはいえかなりの威力である。

26カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:11:19 ID:V9mKCRT6
「これが、ルシファーが言っていた制限か?
 ……違うな」
確かに真の力が開放できない。
いまいち魔力が練り上がらない。
だが、内部から自分の能力を抑えている奴がいる。

「あははは。リドリーめ。無駄な足掻きを」
微力ながら、リドリーが自分の動きを拘束するために抗っている。
所詮は海原に石を投げ込むぐらいの抵抗。本当に微力なものだ。
だが、鬱陶しい。この私に付き纏うな羽虫が。
金龍は考える。リドリーの思考を完全に融合させるにはどうすればいいのか。
答えは簡単だ。
「だったら、お前が守ろうとし、愛していた者を殺そう。お前のひどく絶望する様を見届けよう」

今後の行動方針? 否、もうすでに決まっている。
金龍の胸には、心に決めていたものがある。銀龍フォティーノとジャック・ラッセルの邪魔が入ったために、叶えられなかった願い。
渇望、切望、熱望していた。
金龍は望む―――
殺戮を。抹殺を。惨殺を。虐殺を。根絶を。絶滅を。殲滅を。死滅を。滅亡を。
すべてを人間どもに刻み込むのだ。
それだけが金龍クェーサーが求める最上級の望みだから。

27カタストロフィーは想いとは裏腹に ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:13:52 ID:V9mKCRT6
【C−4/夜中】
【リドリー・ティンバーレイク】[MP残量:80%]
[状態:金龍クェーサー、腹部に激しい痛み、肋骨にヒビ、自己治癒中]
[装備:イグニートソード@SO3]
[道具:グラビティレイザー(エネルギー残量[90/100])@SO3、忍刀菖蒲@TOP、アーチェのホウキ@TOP
    他クレアとスフレの支給品幾つか(0〜4)、荷物一式×3]
[行動方針:人間の根絶、最後まで生き残る]
[思考1:ジャックを殺す]
[思考2:人間を殺す]
[現在位置:鎌石局受付]
※ミラージュの荷物(支給品一式、ルーズリーフ、及びそれに記したメモ)は役場内に放置されています
※リドリーの意識はまだ消えていません
※制限により金龍化はできません。
 魔力を増幅するようなデバイスがあるなら別。


【イグニートソード】
封印された魔人の憤怒により刀身が赤く染まった魔剣。
・低確率で火球が飛び出す。

【グラビティレイザー】
重力衝撃波を利用した銃。
SO3本編最強のフェイズガン。EXダンジョンは除く。

28 ◆O4VWua9pzs:2008/03/06(木) 02:15:02 ID:V9mKCRT6
投下完了。
指南のほどお願いいたします

29名無しのスフィア社社員:2008/04/29(火) 15:09:24 ID:ceK6emJ2
スレに書こうと思ったら規制とか\(^o^)/
避難スレの存在に意味があるんだかないんだかよくわかんないけど保守しておこう


>>本スレ111
期待!
放送時には鎌石村が修羅場になると思いきや、修羅場はどうやらD-5になりそうだ
更なる修羅場の種はまだまだ残っているしなぁ……

1人D-5でブーンしている不審人物は幸運だったのか、それとも不幸だったのか─

30 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:27:40 ID:Sq4t0KR6
携帯から支援しようとしたら携帯もつながらなくなってたのでこちらに続きを投下します

31不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:29:12 ID:Sq4t0KR6
――そんな打算的な思惑通りにいくほど、この殺し合いは甘くはなかった。
チェスター君に頼みはしたものの、正直宛てにはなりそうもない。
そのうえチェスター君を行かせてしまった私にクレス君は少なからず不満を抱いたと思う。
「マリアさん……僕は……間違っているのでしょうか……」
そして何よりの失策はクレス君の自信を喪失させた事。折角仲間の死を乗り越えられたというのにこれでは不味い。
生き残っている仲間を救うためにも、復讐ではなく脱出のための策作りを優先する。そのこと自体は正しい。むしろ最善の選択だ。
かと言って、このままチェスター君を放っておいて見殺しにするのが善であるわけでもない。
あちらを立てればこちらが立たず。難しい問題だ。
「いいえ、間違っていないわ。貴方も、そしてチェスター君も」
正義の反対はまた別の正義である。非常によく聞く言葉だ。それこそ野球ゲームですら聞けるフレーズだろう。
だが、頻繁によく耳にするという事はそれ相応の理由があるからだ。
つまり、この考えは正しい。少なくとも大衆が支持する程度の正しさは持っている。
「チェスター君と意見がぶつかるのはこれが初めて、なんてことはないはずよ。共に冒険をしていれば衝突することぐらいある。
 ただ今までと違うのは、どちらかが折れるまで話し合う時間がないことと、どちらかを後回しに出来るほどの時間もないということ。
 まったくこの殺し合いはよく出来てるわ……今までの冒険と違って圧倒的に時間がない。パーティー全員の要望を聞けなくすることで、最終的な目標が同じ者同士を分断させる狙いがあるのかもしれないわね」
この殺し合いのルールは非常によくできている。腹立たしいが、そう評価せざるを得ないだろう。
これが普通の旅ならば、優先順位で揉めることはあれど基本的に最後は全員の希望を叶えられる。
だがここではそうも行かないのだ。仮に複数のやりたい事があって、それらがまったく同じであっても、それらの優先順位が違う者とは決して共に行動出来ない。
だからこそクレス君には念を押していたのだ。仲間が死んでも、その優先順位を変えないように。私と別れ、敵討ちや仲間の埋葬に行ったりしないように。
「仲間の仇を討とうとする気持ちも、仲間の死を乗り越えて生きてる仲間を救おうとする気持ちも、正しい事に変わりはないわ。
 ただその二つの優先順位が、貴方とチェスター君とで違っちゃっただけ。それだけの話よ」

未だにクレス君は俯いている。これでいいのかと自問自答しているのか、無力感に打ちひしがれているのかは分からないけど。
それでも、彼には立ち上がってもらわなければいけない。私一人でどうにか出来るほど、ルシファーは甘くないのだから。
「……チェスター君を追いたい気持ちは分かるわ。だけど、私達の怪我じゃ何も出来ない。出来るとしたら足を引っ張ることぐらいよ」
「こんな怪我ぐらい、気になりません」
「……クレス君、落ち着いて。貴方も本当は分かっているはずよ。怪我人二人がサイキックガン一つでどうこう出来るわけがないって。
 分かっていて、“何かが出来るのに何もしなかった”と思い込むのはやめなさい。自分を責めるのは簡単だけど、それで行動を起こす事を止めるのはただの逃げよ」
クレス君は喋らない。きつい言葉で凹んでいる、ということなら可愛らしいの一言で済むのだが、そういうわけでもなさそうだ。
おそらく彼は、頭の隅に浮かんでしまった邪な考えを振り切れずにいる。感情の赴くままにそれを叫びたくなっている。
それでも彼の理性がそれを押し留めているのだろう。仲間の死に呆然とするだけだった先程までと比べると、それは成長とも取れた。

32不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:33:02 ID:Sq4t0KR6
『救えるかも分からない見ず知らずの人間の命よりも、目の前にいる大切な人の命を守りたい』
その考えは、決して責められるものじゃない。人間なら誰もがそう思うだろう。
クレス君の仲間だから信頼はするつもりだったが、チェスター君にかつての仲間達ほど思い入れがあるかと聞かれれば勿論ノーだ。
彼はつい1時間前に出会ったばかりの会話もろくすっぽした事のない、言わば“知人の知人”なのだ。私は彼がどんな音楽が好みなのかも知らないのだ。
そんな彼とかつての仲間を対等に扱っては、かつての仲間に失礼というものだ。
だけどそれは決して口に出してはならない。その考えは、一歩間違えれば『他者を犠牲にしてでも生かしたい者を生かす』という思想に繋がる。
それになにより口に出されて良い気はしない。無用な不信感は与えないべきだ。
クレス君もそれが分かっているからこそ、口に出さずにいるのだろう。
『大切な親友を見殺しにして、見知らぬ者達と共に脱出することに意味なんてない。今すぐにでも彼を追う』と。
だから私もその考えを言葉に出して否定はしない。それがおそらく、その考えを押し殺す彼に対する礼儀というやつだろうから。

「それに、アーチェを追って来なかった事から察するに、クロードはすでに移動を始めているはずよ。こちらには現れなかったし、おそらく次の獲物を求めてアーチェとは違う進路を選んだんでしょうね。
 あれからそこそこ時間も経っているし、よほど運が悪くない限りすぐには遭遇はしないはずよ」
「……今思えば、どうしてそのクロードって人が追って来ないのか、ちゃんと考えるべきでしたね……」
クレスが自嘲めいた笑みを浮かべる。どうやら彼は責任感が強すぎるらしい。
「アーチェが死んだか確認にも来なかったほどだもの、よほど自信のある技だったんだと思うわ。彼女がここに辿り着いた時には、おそらく既に手遅れだった」
そうは言ったものの、大がかりな準備もなしにそんな事が本当に出来るのか怪しいものだ。クロードが犯人じゃない可能性も大いにある。
だからこそ次にボーマンに会っても無条件で信頼したりはしないし、むしろ疑ってかかるべきだと思っている。
もっとも、今のクレス君にはこれ以上負担をかけるわけにいかないので当分ボーマン犯人説は胸の内にしまっておくが。
とは言え、クロードを警戒しておくに越したことはない。彼が殺し合いに乗っていることは確実なのだ。最悪の事態を想定しておいて損はない。
仮に本当にアーチェがクロードによって殺害されていた場合、それはクロードから逃亡することは不可能ということ指し示す。如何に不利な状況になろうと、先程の戦いのように逃走することは出来ない。
いずれクロードは倒さねばならないが、その時までには万全の準備をしておきたいものだ。
出来れば、接近せずに倒せるような策も欲しい。
「……そう、ですね。すみません、くだらないことを言って」
「気にしないで。それより、この村で使えそうなものがないか探しましょう。私達にも出来ることが、きっとあるはずよ」
「……はい!」
やはりクレス君は強い。もう少しウジウジされるかと思ったけど、彼は素直に従ってくれる。
おそらく彼の胸には強い決意が秘められているのだろう。決して挫けないという、強い決意が。
(……その決意が砕けないよう、気をつけなくちゃね)
強い決意程、“決意を破らねば決意を貫き通せぬ場面”に弱い。今回のように大勢を救うために仲間を見殺しにする可能性が高い行動を、彼は次も選べるのだろうか?
仲間のために決意した意思を貫くため、彼は仲間を犠牲にするような非情な選択を出来るのだろうか?
答えはまだ、わからない。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

33不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:40:39 ID:Sq4t0KR6





「アシュトン! アシュトンじゃないか!」
それは全くの偶然だった。ホテルを目指し走り始め、間もなく見慣れた横顔を発見したのだ。
だがしかし、ここは過酷な殺し合いの場。不意に声をかけたのがいけなかったのか、ドラゴンブレスで迎撃される。
が、これはなんとかスターガードで防ぐことができた。ジャックの遺品を持ってきたのは正解だったようだ。
その際にエネミーサーチが警告を発してきたが気にしない。
ただの警戒レベルでも反応してしまうということはアーチェの件で学習済みだ。
ここでアシュトンに剣を向けて今までと同じ失敗を犯す程馬鹿じゃない。
「あぁ……なんだ、クロードか」
ほら、こうして剣を向けず敵意がない事をきちんと示せば、ちゃんと相手にも伝わるんだ。
アシュトンはギョロとウルルンを制止し、バツが悪そうに眉を下げた。。
「ごめんごめん、ちょっとピリピリしててさ。駄目だよ二人とも、クロードに攻撃しちゃあ」
「まったく、気をつけてくれよ」
返す言葉に怒りの念は含めない。ただただ軽い、冗談を飛ばす口調で言う。
みんなで旅していた頃の事を思い出し、自然と顔が綻んだ。
「ごめんごめん。それよりクロード、今まで……」
「ごめん、アシュトン。今は時間が惜しいんだ……あの煙が上がっている場所に、チサトさん達がいるかもしれない」
そう、誤解を与えずアシュトンと合流できた今、一刻も早くチサトさんの所に戻らなくては。
アシュトンがいればチサトさん達の誤解も簡単に解けるだろう。
「……チサトさんが? もしかしてクロード、チサトさんと会ったの?」
「ああ……詳しくは行きながら説明する。ついてきてくれるか?」
不安が全く無かったと言えば嘘になる。ここはこんな島だ。ろくすっぽ説明もされずついてこいと言われたら拒絶したっておかしくない。
それでもアシュトンは微笑んでくれた。話を聞く前から、頷いてくれた。
「勿論だよ。だって僕らは親友じゃないか」
「ありがとう。さ、行こう!」
ああ、そうだな。普段はどこかヘタレてるのに、こういう時は本当に頼もしく思えるから困る。
……ありがとうアシュトン。急いでたから適当に喋ってるように聞こえたかもしれないけど、本当に感謝しているよ。
さすがは僕の親友だ。

「……チサトさんの他に仲間はいるのかい?」
移動しながら、アシュトンが聞いてくる。まぁ当然の質問だろう。仲間は多いに越したことはないのだから。
「いや、それが……分からないんだ」
誤解を解くためにも、どの道アシュトンには真実を伝えねばならないだろう。
アシュトンにまでいらぬ誤解を受けぬよう言葉を選び、正直に告白を始める。
「実はチサトさんには誤解を受けちゃってね……僕がこの島で人を殺して回ってるって」
「何でまたそんな誤解を?」
「いやさ、化け物からチサトさんを助けようとして攻撃したんだけど、それが原因みたいなんだ」
思わず苦笑いが漏れる。
確かに短絡的だったかもしれないが、仲間を守るための行動がまさかここまで話を拗れさせる事になるとは。
「あ、そうそう、これは仲間の話に繋がるんだけど、その時青い髪の青年にも襲われたんだ」
「青い髪の青年?」
「ああ。何でか知らないけど僕が女の子を殺したって言って、チサトさんと一緒になって襲ってきたんだ。
 一応正義感は強いみたいだったし、チサトさんと一緒にいるとは思う。誤情報を流したいだけの悪者って可能性もないわけじゃあないけど、ちょっと考えにくいかな?
 あと、倒したはずの化け物も普通に起き上がって僕を攻撃してきたから、共通の敵を持った者同士ってことで一緒にいる可能性も……」
「はは、クロードも敵が多いんだね」
おかしそうに笑みを浮かべるアシュトン。苦笑いならともかく普通に笑みを浮かべられたことに違和感を感じるが、どうおかしいのか上手く表現できそうにないので口に出さないでおいた。
まったく、笑い事じゃないんだけどな……
「……ん? クロード“も”?」
そこで気づいた。クロードも、という表現に。
もしかしてアシュトンも僕と同じように誰かから誤解を受けたのだろうか?
アシュトンなら大いにあり得る。というか誤解を受けない方が難しいだろう。

34不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:42:02 ID:Sq4t0KR6
「ああ、うん。ピンクの髪の女の子を逃がしちゃってね」
「……まさか、アーチェか!?」
驚いたな。まさか同じ人物に誤解されているなんて。
逃がしちゃって、という事は僕と同じように誤解を解こうと追い回したのだろう。
彼女があれだけ怯えていたのは、凶暴そうなドラゴンを背負った青年に追いかけまわされてたからなのかもしれない。
「……クロードの知り合いなの?」
一瞬、アシュトンの目が凍てつくような冷たさになった。いや、なった気がしただけかもしれないが。
それでも、やっぱり何かおかしい気がした。もっとも僕もこの島に来てからどうも空回りばかりしているから、この島独自の雰囲気が人を変えてるのかもしれないけど。
だからアシュトンの異変は特に気にしないことにした。きっとチサトさんの目に映った僕も今までの僕とは違うのだろうし、それが原因でまた仲間と仲違いなんて御免である。
「あー、うん、知り合いっていうか何って言うか……僕の事も誤解してる娘なんだ。
 ジャックっていうアーチェの仲間が誤解を解いてくれるはずだったんだけど……」
ジャック・ラッセル。この島にきてまともに会話できた最初の人物。
彼が死んだのは僕の失策のせいだと言えるだろう。あの時僕が付いて行ってれば、今頃は……
「そう……死んだんだ、彼……」
どうやらアシュトンもジャックの事を知っているらしい。どの程度の知人なのかは分からないが。
「ねえ、クロード」
「ん?」
もう二度とジャックの時のようにはならない。
そう誓った矢先だった。アシュトンから、思いがけない言葉が聞けたのは。
「ごめん。僕達ここで別れよう」





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





まったく、俺はネーデ人に何か縁でもあるのだろうか?
あと数時間で禁止エリアになる場所に留まる奴はいないだろうと判断し通り抜けようとしたD-04で、俺はノエルと再会した。
仲間に会うのはこれで二人目。これで目出度く二人しかいないネーデ人の知り合い両方に再会したことになる。
もっとも、ノエルの方はとうの昔に冷たい体になっているのだが。
(……念のため診ておくか)
時計で時間を確認する。大丈夫だ、禁止エリアになるまでにはまだ時間がある。
本格的な検死なんて勿論無理だが、ゆっくり死体を眺められるほど安全なエリアなどそうそうない。
殺害犯の獲物ぐらいしか得られる情報はなさそうだが、情報はあって困るものじゃないからな。

35不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:48:34 ID:Sq4t0KR6
――俺は弱い。この先生き残るためには、その事実を素直に受け入れるしかないだろう。
紋章術者のようにデカい一発も持ってなければ、剣士のようにリーチがあるわけでもない。
これが殺し合い開始直後なら、得意武器を持てなかった剣士くらいになら勝てるのだろうが、すでに12時間も経っている。
武器を得られなかった者達は既に全滅しているだろう。そして彼らを殺した強者達は、奪った支給品でさらに強力になっているはずだ。
そんな連中に真っ向から挑んで勝てると思う程、俺は自信過剰じゃない。そんなものは己の命を縮めるだけだ。
大事なのは現状をしっかりと把握すること。そしてその把握した手札をうまく使ってゲームを進めることだ。
そして今の俺の手札は、正直相当なものである。勿論悪い意味で。
大富豪の最強カードが11だった時に感じる「何だこれ」という感想をそっくりそのまま抱けるだろう。
まず自分の支給品がアクアベリーオンリー。子供の遠足のリュックサックにだってもう少し何か入っているぞ。
しかもそのアクアベリーすらアドレー相手に無意味に消費してしまった。いや、残っていても特に使い道はなかった気もするけど。
しかしアドレーの支給品だけは唯一のアタリと言っていいだろう。普通の人にとっては使えない代物かもしれないが、薬剤師の自分にとってはこの上なく有難いアイテム。
実際調合セットに含まれたアイテムを利用して先程2人も殺すことが出来た。まさに大富豪における八切りの8。弱い手札の中じゃ実質一番強いカードだ。
しかしこのカードはもう切れない。アルテミスリーフが半分ほど残っているだけなのだ。
そこまでして得たものは、正直割に合わない物ばかり。
まず七色の飴玉。これは論外。舐めると楽しい気分になるとか。アホか。
そしてパラライチェック。本来ならばアタリにも思えるのだが、これを装備したチサトがしっかり麻痺するのを見てしまっている。
じっくり見てもよく分からないが、模造品か出来そこないなのだろう。まぁ、「麻痺は効かないぞ」というハッタリにはなりそうなので装備しておくが。
最後の一つはフェイトアーマー。装備しているとHPが少しづつ回復するというよく分からない仕組みの鎧だ。
凍結も無効にするらしく、紋章術師との戦いに非常に有効に思われるが、如何せん武器がない。
これだけ付加効果のある鎧なのだ。素手で撲殺する間敵の攻撃を防ぎ続けてくれるほど頑丈な出来ではないだろう。
一応痛みを和らげるために装備はしとくが、過度に期待して無茶をすることはよした方がよさそうだ。
やはり武器だ、武器がいる。素手なのとナックルがあるのとじゃ天と地ほどの差があるからな……
だがしかしそう簡単に武器など手に入るものだろうか?
先程も言ったように、この殺し合いももう中盤に入っている。武器を持った人間を殺して奪うのには骨が折れることだろう。
チサト達にやったように騙し打ちで毒を盛ろうにも盛るための毒物がない。それになにより、俺を信用してくれる奴があとどれほどいると言うのか。
チサトとノエルだけでなく、すでにセリーヌとオペラが死亡している。クロードはゲームに乗っている。ディアスはかつての仲間ってだけで信用してくれるほどお人よしではないだろう。
つまり無条件で俺を信じれくれそうな人間は残すところあと5人。レナにアシュトン、レオンにプリシス、それからエルネスト。
俺を除いて現在生存者が33人と仮定すると、俺を信じてくれそうなのはだいたい6人に1人ということになる。
俺の予想ではこれは殺し合いに乗った奴と遭遇するよりも低い確率である。
そして未だに殺人鬼には会っておらず、無条件で信頼してくれる者には会ったばかり。確率からいって無条件で信頼してもらえる仲間には当分会えないと思った方がいいだろう。
だとしたら誰かとの同盟を考えるべきなのかもしれない。信頼を得ることは難しいが、利害が一致する人間を見つけることは容易いはず。
人間的に信頼できなかろうが構わないのだ。すでに周りは敵だらけで、これ以上悪い事にはなりようがない状況なのだから。

36不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:49:11 ID:Sq4t0KR6
「ん……? こいつは……ッ!」
数多くつけられたノエルの傷。それらを見ながら視線を足もとまでずらしていき、そして気付いた。
バーニィシューズ。
普段走り回らない紋章術師だろうとバーニィ並みの俊足を得られる魅惑のアイテム。これを求めてバーニィレースで破産する者も少なくはないらしい。
(ノエルを殺した奴はバーニィシューズの効果を知らなかったのか?)
とすると、ノエル殺人犯への認識を改める必要がある。てっきりノエルすら一撃でしとめられない人間だと思っていたが、どうやらバーニィシューズを履いたノエルを逃がさない程の実力者のようだ。
正直俺ならバーニィシューズを履いた奴にあっさりと逃げられる自身がある。犯人は機動力に優れているのか……
バーニィシューズを頂くとするが、これで安心だとは思わない方がよさそうだ。特にこの傷の大きさに合う剣を持つ機動力の高い殺人鬼と戦う際は逃げるという選択肢を消した方が良さそうだ。
そうなった時に一人ではやはり不利。俺が生き残るのに仲間の存在は必要不可欠だ。
だが一枚岩の大集団ではいけない。優勝狙いとばれた途端、その結束力で俺の前に立ち塞がれる。
利害関係のみで成り立っている集団か、もしくは武器はよくても本人に運動能力のない集団が望ましい。そういう所なら裏切る際にも勝算がある。
とりあえずノエルから脱がせたバーニィシューズを履き、金髪の青年の死体を診る。
大きな刺し傷以外に特に傷は見受けられず、大した情報は得られそうにない。
若干痙攣の後が見られるが、短い時間で道具もなしじゃ麻痺攻撃を食らったのかは分からなさそうだ。まあだが麻痺攻撃を警戒しとくに越したことはないだろうな。

「さて……行くか」
目的地は変更だ。本当ならここを突っ切って釜石村まで行きたかったが、今の手札じゃあそこに行くメリットがない。
拠点にぴったりの場所に潜む殺人者がいる場合そいつの狙いはまず間違いなく奇襲であり、それはすなわち話を聞く気がない事を指す。
殺し合いをする気のない者がいる場合は集団と見ていいだろう。
『前衛が少ない場合は前衛になると言って武器を貰い、前衛がいる場合は前衛の連中が消耗するまで守ってもらう』というのが当初の作戦だったが、この作戦ももう使えない。
仮に後者になった場合、まず間違いなく前衛の奴にバーニィシューズを譲渡するはめになる。
現段階でバーニィシューズは俺の手札の最強カードになったのだ。それを早々に手放すわけにはいかない。
武器の譲渡をしなくて済みそうな、本当に利害関係のみのチームを組む。そのために俺は今から森へと引き返す。
生に執着し傷ついた奴が単独でいるとしたら、他者に見つかりにくい森の中だろう事が一点。
そして予想以上に煙を上げるホテルには自然と人が集まるであろうことが一点だ。
現れたのが話の通じない相手の場合今の装備ではピンチになるが、例の逃走が不可能そうな剣士が相手じゃない限りバーニィシューズで逃げられるはずだ。
まだガソリンが付着したままだから逃走経路が限られるが……その程度のギャンブルは仕方がないと割り切るしかあるまい。
山分けという条件を持ちかけて取りに行ってもらえば回収し損ねたガルヴァドスの支給品も手に入るかもしれないのだ。
この賭けのリターンは決して低いものじゃない。どちらかと言えばローリスク・ハイリターンな方。
だったら答えは決まっている。コールだ。鬼が出るか蛇が出るか、その賭けに乗ってやる。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

37不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:55:32 ID:Sq4t0KR6
「別れようって……一体どうして!」
「クロードは誤解されてるんだし、その方がいいよ。」
誤解されているんだから、一緒に行かない方がいい。
かつて僕がジャックに提案し、そして後悔する原因になった提案を、今アシュトンはしてきている。
「駄目だ! この島では何があるのか分からないんだ、別行動なんて危険すぎる!」
アシュトンに悪気がないのは分かっているのに、つい声を荒げてしまう。
また同じミスを犯すわけにはいかないんだ!
「心配しないでよ。これでも一応クロードの足は引っ張らずにきたつもりだけど?」
「分かってるよ、アシュトンが弱いだなんて思っちゃいない。でもこの島には十賢者だって……」
「だから別れるんだよ、クロード」
アシュトンが急に立ち止まる。置いて行っては本末転倒なので、仕方なしに足を止めた。
「ねえクロード。プリシスを見てないかい?」
「いや……見てないけど……」
「僕は会ったよ。殺し合いが始まってすぐに、池の近くで」
プリシスに会った。それは素直に喜べることだ。プリシスは大切な仲間の一人だし、首輪を外せる可能性がある数少ない人物だ。
だけど、どうしても喜びの言葉が口から出ない。
プリシスに会ったのなら、何故アシュトンは単独行動をしているのだろう?
いつもの彼なら、プリシスを一人になんかしないはずなのに……
「でもね、僕は拒絶されちゃったんだ。だから傍にはいられない。心配だけどね」
馬鹿な……プリシスがアシュトンを拒絶したって?
確かにアシュトンに恋愛感情を持ってるってわけじゃなかったのかもしれないが、少なくとも嫌ってなんかいなかったはずだ。
それなのに、どうして……
「ああ、いいんだよクロード、そんな顔をしなくても……この島は“そういうルール”なんだもん。かつての仲間だって拒絶される可能性はあるよ」
確かにそうだ。一人しか生き残れないというルール上、仲間だろうが手放しでは信用できない。
積極的に仲間を殺して回る人がいなくても、疑わしい仲間を避けるのは当然のことと言える。
それでもやっぱりプリシスがアシュトンをっていうのは考えにくいけど、僕とチサトさんの前例がある。
何かしらの誤解を受けて拒絶されたという可能性もあるだろう。
「それよりも、クロードにはプリシスの護衛を頼みたいんだ」
「プリシスの……?」
「うん。変な大男が傍にいたみたいだけど、彼一人じゃちょっと心配だからね。クロードなら実力的に申し分ないし、プリシスに拒絶される心配もないからさ」
そう言ったアシュトンの表情はどこか悲しそうだった。
本当は自分で守ってあげたいんだろう。だけど、きっと彼はそれが出来ないでいるのだ。
理由は聞けない。見ただけで分かる戦闘の痕が、おそらく関係してくるのだろう。
僕のように戦闘する姿を見られたか、もしくは……誰かを殺すところを見られたのかもしれない。
暗いうえに服の色に溶け込んでいてわかりづらいが、アシュトンの体には血痕が付いている。
とはいえ、さっきからアシュトンが僕を襲って来ないことからも分かる通り、アシュトンに自ら仕掛ける気などない。
おそらくはあの冒険の時みたいに襲ってきた者を倒したにすぎないのだろう。
だがそんなことただの目撃者には分からない。分からせようにも逃げられたらどうしようもない。
僕がアーチェやチサトさんの誤解を解けなかったように、アシュトンもまた誤解を解くのに失敗したのだろう。
「だから、チサトさんは僕に任せて、クロードはプリシスの元に向かってほしいんだ。
 クロードが言ったように、十賢者みたいな強い奴らがたくさんいる今、プリシスの護衛は多いに越したことがないからね」
「でも、だからって……」
「頼むよ、クロード…………君にしか出来ないんだ」

38不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:56:18 ID:Sq4t0KR6
君にしかできない。
そう言われて、僕の心は揺らぎ始めた。
確かに、もう12時間近く経っているのだからのんびりしている時間はないし、アシュトンには倒すとまでは行かなくても十賢者から逃げ果せるだけの実力がある。
その怪我の原因かもしれない馴れない両手剣が不安材料ではあるが、ギョロとウルルンのおかげで奇襲には対処できるだろう。
実際僕と違い自力で修羅場も乗り越えてきたように見える。
……あれ? むしろ未だに修羅場を乗り越えたことがない僕の方がおかしいのか?
ま、まあとにかく、確かにアシュトンの言う通り僕は心配しすぎなのかもしれない。
何よりアシュトンの誤解を解けるのは、実際にアシュトンが殺し合いに乗っていないと知ってる僕だけかもしれないんだ。
それぞれ仲間がいなくて誤解までされている身。誤解は広まりつつあるのかもしれないし、被害を少しでも減らすよう一刻も早く誤解を解いて回り仲間を作るか?
それこそ、今やらなければ後悔する事なのかもしれない。被害が大きくなりすぎてどうにもならないことになったら目も当てられない。
ジャックの時のように間抜け面して待っているのではなく、かと言って非効率的にも固まって行動するでもなく、僕は僕にしか出来ないことをやるべきじゃあないのか?
「……プリシスはどこに?」
「今は分からない。けど、僕もクロードも見てないってことは氷川村の方にはいないんだと思う」
「そうか……じゃあ、こうしよう。もうちょっと行けば確か分かれ道があるはずだ」
デイパックから地図を出して確認する。G-05で道が二股に別れていた。
「僕はここを右に行こうと思う。神社を覗いて、それから山を反時計回りに移動しながらプリシスを探す」
「……なるほど。じゃあ僕はホテル跡に寄って、それから平瀬村やらを覗いて反時計回りに移動してくよ」
決まりだ。一旦ここで別れて、それぞれ自分にしか出来ない事に全力を出す。
そして仲間を集めて合流し、プリシスと一緒に首輪を外す方法を考える!
「待ち合わせ場所は、そうだな……釜石村にしよう。どんなに遅くても次の次の放送までには釜石村に来ること」
「オーケイ、分かったよ。9時間後にはプリシスと会えるんだね……頑張らなくちゃ」
いや、僕がプリシスを見つけられるとは限らないんだが。
そう思ったが口には出さない。やる気を出してるならそれを殺ぐことはないだろう。
「ああ、そうだ、これ……使ってないし、アシュトンに渡しておくよ」
そう言って、ジャックの形見のレーザーウェポンを差し出す。
アシュトンの事を誤解したまま死んでしまったジャックは僕を恨むかもしれないが、これからのアシュトンの行動を見ていればきっと許してくれるはずだ。
「使い方はまだよく分かってないんだけど、ジャックが装備してたものだから使えるものだと思うんだ」
「……いいのかい? クロードにだって必要かもしれないじゃないか」
「いいさ。僕には愛用の剣があって、楯もあって、そのうえ敵意のある者を教えてくれるアイテムなんかも持っているんだ。これ以上僕が持ってたら罰が当たっちゃうよ」
そう言って、半ば強引にアシュトンへ押しつける。
これで少しでもアシュトンが生き残る確率が上がればいいな。
「それじゃ、僕は行くよ。後悔しないよう少しでも早く行きたいから」
「あ、うん、分かったよ。クロードの事を誤解してる人がいたら、ちゃんと誤解を解いておいてあげるから安心して。
 ……クロードが殺し合いに乗った、なんて聞いたら、きっとプリシスは泣いちゃうもんね」
「アシュトン……」
寂しそうにアシュトンが笑う。それからすぐにアシュトンは僕に背を向け走り出した。「それじゃ」と、ただそれだけ続けて。
「僕も……僕もちゃあんと誤解を解いて回るから! だから、だから死ぬなよ、アシュトーンッ!」
危険を顧みず大声で叫ぶ。素直な気持ちを伝えたかったから。声が届いたかは分からないけど。
アシュトンの誤解は解いておくから、アシュトンの居場所は作っておくから、無事にもう一度再開したい。
この気持ちに嘘はない。だから僕も走り始める。もう二度と同じ過ちを繰り返さないように。
迷いも吹っ切った。頭は冷静になった。僕にしか往けない道を見つけた。だったら後は走るだけだ。それでいいんだよね、父さん、ジャック――



放送の内容を聞き忘れた事を後悔するのは、それから数十分後の事だった。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

39不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 09:58:38 ID:Sq4t0KR6
煙を見せつけられたのは、一体これで何度めだろうか。
走り始めてしばらくすると、木々の上に見える夜空に煙が立ち上るのが見えた。
最初に思い出したのはあの日襲われたトーティス村で、次に浮かんだのは焼け落ちた学校。
それからアミィ、名前も知らない女の子の亡骸、そしてアーチェ。
憎悪が腹の底から溢れ出し顔面に現れるのが自分でも分かるようだった。
「あの野郎……ッ!」
あの煙で分かった。奴はあそこにいる。あいつがまた誰かを焼き殺そうとしてやがるんだ。
そしてその場所も大体の見当がついている。
「くそっ、待ってろよ、チサト!」
あの時一緒にクロードと戦った一人と一匹。
あいつらは決して悪い奴なんかじゃなかった。時間があればゆっくり話もしたかった。
いや、過去形なんかじゃない。もう一度あいつらと話して、出来れば一緒にクロードの野郎と戦いたかった。
だけどもうそれは難しい事なのかもしれない。
前回は準備が出来ていなかったからか何もすることなく撤退したが、クロードはご丁寧にアーチェを爆殺するほどの残忍な男。
目撃者は全員消すぐらいのことを平気でしかない男なのだ。
その男が俺達三人を野放しにしてくれるはずがなかったんだ!
「くそっ、くそっ」
もっとだ、もっと速く走るんだ俺!
もう二度とあんな想いはしたくないんだろ! 救える命を救いたいんだろ!
必死の思いで草を掻き分け前へと進む。走りやすい道を探す時間も惜しい。
ただ今は、今度こそ誰かを救えると信じて足を動かすだけだった。

どれだけ時間が経ったのか分からない。ただ恐ろしいまでに長く感じた。
頭の隅で、冷静な自分がこう告げる。「クロードの野郎はもう行っちまってるよ。チサト達は諦めて、息を整えたらクロード探索を始める方がいいんじゃないか」と。
それでも俺は止まらなかった。止まれなかった。
クレスみたいに完璧じゃないけど、時空の戦士の出来損ないもいいとこだけど、それでも何かが出来る筈だって。そう思いたくて、俺は森を駆け抜ける。
するとようやく森を抜け、俺の細い目に爛々と輝く炎が映った。
残念ながら見間違いの類ではない。どこからどう見てもあの時のホテルだ。
「ちく……しょおォ!」
この現実に動揺したのか、はたまた全力疾走したツケか、心臓が破裂するんじゃないかと思う程胸はバクバク言っている。
それでもそんなことを気にする余裕、俺にはなかった。
足に鞭打ちホテルの中に飛び込んで、精一杯声を出す。
「おい、誰か……誰かいないのか……!?」
その時だ。頭にコンと何かが当たった。クロードかと思い慌てて振り向く。
『男の腕には若干きついため火傷した手に優しくない』
そんな理由でエンプレシアを拳から外していたことを一瞬後悔し、石を投げた人物の姿を見てそれが徒労だったと知った。
ホテルからそれなりに離れた木陰から小石を放ったその影は、全く予想していなかった、だが予想出来ないわけじゃなかった人物の者だった。
「よう、数時間ぶりだな。金髪の兄ちゃんには会えたかチェスター?」
ボーマンの口元が笑みを形作る。その歪みが邪悪なものに見えたのは、おそらくは揺らめく炎のせいだろう。
そんな風に見えてしまうとは、どうやら俺は相当疲れているらしい。
「どうだ、俺の自慢の秘仙丹は効いたかい?」
その言葉に、俺の胸がチクリと痛んだ。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆

40不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:00:18 ID:Sq4t0KR6
短い眠りから目を覚まし、冷静になった頭で今までの行いを思い出して以来、アシュトン・アンカースは猛烈に後悔していた。
遊び間隔で男の傷口を抉ったことを。
紋章術師と思われる女性をいたぶるように何度も何度も斬りつけたことを。
変った服を着た少女の頭部を踏み潰したことを。
そして、レオンに対して行ったことを。
それら全てを、アシュトンは心の底から悔いていた。
(僕は馬鹿だ。何てことをしたんだ……)
休息を取る間は警戒をギョロとウルルンに任せ、自身は極力神経を摺り減らさないようにするはずだったが、“呑気に他事を考えられる程度の余裕”はアシュトンに冷静さと深い後悔を与えてしまった。
その事に気付いていたがずっと黙っていたギョロが、ようやくその口を開き本人へと尋ねてみた。
「……ふぎゃー(……どうした、アシュトン)
 ふぎゃふぎゃ、ふぎゃっふ(ホテルのある方向には既に火の手が上がっている。疲労が溜まっているなら無理してチサトを殺しに行く必要はない)
 ……ふぎゃっふぎゃぎゃ(……それとも、何か気になることでもあるのか?)」
気になること。それの中身が、今の二匹は気になっている。
アシュトンは今、何を考えている? 一体今のアシュトンはどうしたいんだ?
「ううん、そうじゃないよ…………ただ、今まで僕が殺してきた人達の事を考えちゃってさ」
「…………」
「少し、後悔してる。あの時の僕は馬鹿だった。ギョロ達にも迷惑だったよね、ごめん」
二人に申し訳なさそうに頭を下げ、これからのことを考える。
(ちゃんと反省しなくちゃな……)
情けなく眉を下げ、かつて光の勇者ご一行の台所番として活躍していたころのアシュトンの表情で。
アシュトンは、心の底から反省をする。

(次からは遊ばないでさっさと殺さなくっちゃね)

――致命傷を与えた後で首を撥ねずに暢気に男をいたぶったせいで、紋章術師に反撃の余地を与えてしまった。
――紋章術師を嬲り殺しにすることに時間を裂いたせいで、獲物を一人逃がしてしまった。
――少女の首を意味なく踏み砕く事に時間を使い、残りの人間を殺す時間を失ってしまった。
――レオンに要らない事をペラペラ喋るのに体力を使い、レオンを仕留め損なった。

“それらの事を”アシュトンは猛烈に後悔している。
後悔し、そして悪魔は成長する。
バーサーカーモードが解けて失ってしまった破壊力をカバーするように、頭はだんだん冴えてくる。
プリシスも大男という協力者を使っていた。光の勇者を始めとする歴代の英雄達には、必ずパートナーがいた。
一人で偉業は成せないのだ。むしろ仲間を上手く使ってこそ、ヒーローはカッコよくなれるのだ。エクスペルを救ったクロード・C・ケニーがそうであったように。
そこから殺人鬼は習んだのだ。仲間を作る事は大切である、と。

41不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:02:34 ID:Sq4t0KR6

もっとも、彼がクロードを仲間にしようとしたのはそういった理由からではない。
理由は簡単。クロードに言った通り、今クロードが死ぬとプリシスが悲しむから。
プリシスに好かれたいと思っているという事は、未だにプリシスはクロードの事を想っているのだと認めている事になる。
その事に気付いてしまえば、クロードの死がプリシスに何を齎すのか予想するのは簡単だった。
そして、アシュトンは決めたのだ。クロードだけはまだ殺さないと。
クロードを殺すのは、集めた首輪を見せてプリシスの一番になってからだと。そうすれば、プリシスは泣かないで済む。だって一番はクロードじゃないのだから。
(そうさ、僕は君のためならどんなことだって出来る)
今のアシュトンは、ギョロとウルルンが思った以上に強かった。
確かにレオンを斬りつける時まではプリシスを“殺人の言い訳”にしている節があった。毎回毎回プリシスの事を口に出していたのもそのためだ。
だが今の彼はそうではない。冷静に考えて、“彼は自分が誤っていることを認めた”のだ。
それでもなお、彼はプリシスのために殺し合いに乗ろうと決めた。泥を被ってでもプリシスの望みを叶えたいと思った。
何故なら彼はプリシスの事が好きだから。
だからアシュトンは無理矢理手プリシスを手に入れようとはしなかった。プリシスが笑ってくれなければ、奪い取っても意味がないと思ったから。
プリシス自らが自分を好きになってくれないと意味がないのだ。

――プリシスも、きっとそうなのだろう。

冷静になりプリシスの行動の不可解さに気付いたアシュトンは、ある一つの結論を出した。
それは『プリシスは最後の一人になるつもりなど無い』というもの。
もし仮に最後の一人になるともりでいるのなら、何故裏切るかも知れない大男を傍に置き、自分に惚れていると分かっている男を遠ざけようとするのだろうか。
告白した時の反応からも、特別自分が嫌われているわけじゃないことくらいは分かっていた。
理由は考えたらあっさりと出てきた。僕を殺す気などなかったのだ。そもそも最後の一人になりたいのなら、あそこで追いかけてくるのが自然である。
つまり賢いプリシスは一人だけしか生き残れないと分かって『この戦いに生き残りたい』と考えたのではなく、『一番好きな人を生き残らせたい』と考えたのだ。
自分と同じ事を考え、本当は人を殺したくないけどクロードを生き残らせるために仕方なく人を殺すことにした。
見るからに危なそうな自ら手を下す踏ん切りのつかないプリシスが雇った戦闘狂といったところか。
だとしたらプリシスが殺し合いに乗ったと広めてしまったのはプリシスにとって不本意かもしれない。
だが、それによってプリシスが殺し合いに乗れるのなら、それは喜ばしい事なのだ。踏ん切りをつけさせてあげられるなんて、こんなに嬉しい事はない。
『プリシスに好かれる事』と『プリシスに嫌われるかもしれないがプリシスの役に立てること』なら、迷いなく後者を選ぶ。
それがアシュトン・アンカースという男であり、それが新たな彼の行動方針を支えている。
今は嫌われてもいいからプリシスの役に立ちたいと。あの日プリシスが言ったように、いつか1番になれる日がくるのだから、その時まではどれだけ泥を被ろうが構わないと。
(プリシスは気付いているんだ。クロードに想いは届かないって。だから2番目に好きな僕に失恋の辛さを受け止めてもらおうと、あの時生かしておいたんだね)
軽快か足取りで、アシュトンはホテル跡へと向かっていく。
大切な人の笑顔を、なんとしてでも守り抜くために。

42不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:04:00 ID:Sq4t0KR6






☆  ★  ☆  ★  ☆





迂闊だった。バーニィシューズという強力なカードを手に入れたせいで、楽観的になっていた。
少し考えれば分かることじゃないか。何故この事に思い至らなかったのか。
『秘仙丹を飲み爆死した友人を見て怒りに駆られたチェスターが、俺と出会った場所まで復讐を果たすためにやってくる』
ホテルに戻らなければ簡単に避けれたはずの些細なトラブル。
だが、遭遇してしまった“些細なトラブル”は“何としても崩さねばならない高い壁”へと切り替わる。
奴は情報を握っている。俺が殺し合いに乗ったという情報を。
その情報は、スタンスを偽り殺し合う気のない者の中に潜伏することを不可能にする最悪のカード。
これを使われると話が通じるかどうか怪しい殺し合う気の者のみとしか手を組めなくなる。
ただでさえ少ないカードをこれ以上減らされては堪らない。奴は始末する。今、ここで!
(とは言ったものの、俺はこれ以上近付けないからな……あちらさんから来てもらうとするか)
考えてる内にチェスターの後姿が炎の中へと消えそうになる。これ以上中に入られたらまずい。
ガソリンのせいで近付けない以上、あちらから近づいてもらう必要がある。
放っておいて炎でやられるのを待ってもいいんだが、正面口以外から脱出された場合が厄介だ。
こちらは炎に近付けないせいで遠回りをしながら奴を追いかけるはめになる。
だから俺は足もとから適当にそれなりの大きさの石を拾い上げる。
コントロールには自信がないが、背中を狙えばどこかしらには当たるだろう。万が一外したとしても何かを投げられたことには気付くはずだ。
肉弾戦を主にやってるため遠くまで飛ばすだけの肩の力くらい持っている。
そして大きく振りかぶり、チェスター目掛けて投げつけた。
結果は予想外の大当たり。頭部という名の急所に当たるとは思わなかった。
当然こちらに気付いたチェスター。
思わぬ不意打ちを受けたからか、間抜けにも棒立ちになっている。こういう時に遠距離用の武器があればな……いや、なくてもガソリンさえなければ首枷で仕留めてやったのに。
「よう、数時間ぶりだな。金髪の兄ちゃんには会えたかチェスター?」
とにかく今はこちらに来てもらわない事には始まらない。
そう思い、これみよがしに笑顔を作り皮肉を言う。
金髪の青年の事を聞いた時の反応からして、チェスターは簡単に熱くなるタイプだ。ここまで小馬鹿にされてればキレて飛びかかってくるだろう。
手ぶらであるし、遠距離攻撃をされはしまいと踏み、木の陰から姿を現しとどめの一言を口にする。
「どうだ、俺の自慢の秘仙丹は効いたかい?」

43不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:05:40 ID:Sq4t0KR6
しばしの沈黙。飛びかかってくるかと身構えていた俺には予想外の事だった。
チェスターが顔を上げる。くしゃくしゃになったその顔は、憐れになるほどみっともなかった。
「俺、俺……すまねぇ……あんたが折角くれたってのに、無駄にしちまった……
 アーチェの奴が疲れてるみたいだからあげたら、すでにクロードの奴に何かされてたみたいで、爆発……しちまった……ッ!」
一体何を言っている? クロード、だと? もしかしてこいつは、俺が渡した秘仙丹の正体に気が付いてないのか?
何故クロードの仕業だと思っているのか分からないが、俺に対する敵意は全く感じられない。
それどころかむしろ俺の事を信頼しているようにも見える。
(おいおい、ひょっとしてこれはカミサマの贈り物ってやつか?)
よほど辛い出来事だったのか、チェスターはアーチェという奴の死を口にすることで感情のコントロールが効かなくなったらしく、その場でしゃがみ込んでしまった。
おいおい、泣きながら地面を叩くとか、そういう青臭い事はもう少し安全な場面でやった方がいいんじゃないのか?
「おい、まずはこっちに来い! そのままじゃ焼け死んじまうぞ!」
折角手に入れたカードをみすみす手放すことなど出来やしない。まずはチェスターを安全な場所に移してからゆっくりと同盟を結べばいい。
奴は俺を疑ってはいないようだし、クロードの情報を与えれば喜んで仲間になりそうだ。
「チサトもガルヴァドスも死んだ! 俺だけはガソリンを引っ被りながらもガルヴァドスの技のおかげで助かったが、他の二人は助からなかった!」
最初にチェスターと会った時、あいつはホテルの方から来た。チサトと情報交換をしている可能性はかなり高い。
が、ガルヴァドスの方は見た目が見た目だ。どんな効果のある技を使えるのかまで把握してるほどコミュニケーションはとっていないだろう。
「ガルヴァドスによって脱出させられたなら、どうしてガルヴァドスが死んだと断言できるんだ」と言われたら反論できないのが難点だが、その時は単身チェスターに確認に行ってもらうだけだ。
チェスターという手駒を失うのは痛いが、そうなっても俺自身には被害は出ない。
もっとも、精神的に参っているらしいチェスターは「そうか……」とだけ呟いてとぼとぼと歩いて来たのでそんな考えは全くの徒労だったわけだが。
ていうか分かったならサクサク動いて貰いたいものだ。チンタラしてたら焼け死んでしまうぞ。
……こんな状態じゃあガルヴァドスのデイパックは諦めた方が良さそうだな。
まぁそれでもいいさ。大して労せず仲間を得ることが出来たんだ。お釣りは十分くる。
まずは話を聞いてやり、それに合わせて二人の死をクロードのせいにする。それからクロードを倒すためという名目の元で協力させる。
……悪く思うなよ、クロード。どうせお前は乗っちまってるんだ。恨むなら自分が乗ったことを知る人間を生かした己の甘さを恨んでくれ。

44不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:15:46 ID:Sq4t0KR6





☆  ★  ☆  ★  ☆





(いたぶって遊ぶようなマネは論外だよなあ、百害あって一利なしって感じだし)
ホテル跡を目指しながら、僕は今後の戦い方を考える。
これまでのように自分が楽しむかのような戦い方をするわけにはいかない。あれは隙も大きくなるし無駄な体力を使ってしまう。
自分の命は、プリシスのために使わなくてはならないのだ。
自分の体力は、プリシスの夢を叶えるためだけに使わなくてはならないのだ。
弱者をいたぶる際の細やかな満足感のために時間とMPを使うなど、あってはならないことである。
(……それに、惨殺してやりたいほどの恨みがあるわけじゃないしね)
感情の高ぶりに身を任せて必要以上にいたぶった事には罪悪感を感じている。
そもそも、こんなことにならなければ恨みもない人間を自ら襲うなんてしない。人を斬ること自体別にそんなに好きじゃないのだ。
だからその点においても反省はしているし、悪かったなとも素直に思う。
素直に思うが、殺さなければよかったとは露ほども思わない。だって彼女達を殺したのは大切な人の笑顔を守るためなのだから。
(次からは首なり心臓なりを狙って楽に殺してあげなくっちゃ。そうすれば相手も苦しまないで済むし、僕も迅速に次の行動に移れる。うん、一石三鳥だ!)
だから僕は決意する。もう二度と遊んだりなんかしないと。無駄な事は絶対にしないと。
そうでもしなくちゃ、プリシスの笑顔は守れないから。
「……そうだ。次の放送でどの道立ち止まらなきゃいけないし、その時にでも遺書を書こう!」
「ふぎゃ!?(遺書!?)」
「ふぎゃっふー!(何を考えているんだアシュトン!)」
あ、2人とも怒ってる。もしかして遺書を書いてすぐに死ぬとでも思っているのだろうか。
プリシスを置いてさっさと死ぬわけなんてないのに……ずっと一緒にいるんだから、そんなことぐらい言わなくっても分かってほしいな。
「考えたんだ、僕が殺しちゃった人達にお詫びをする方法を。
 それでね、思い付いたんだけど、彼らにも家族や友達がいると思うんだ。
 だから、あの旅で稼いだ僕のお金を、全額僕が殺しちゃった人達の大切な人が受け取れるように遺言を書いとこうかなと思って」
勿論、そんなことで罪が消えるわけではないけれど、やらないよりはいいだろうと思った。
殺したくないけど殺さなくっちゃいけないのなら、せめてこれくらいはしなくっちゃね!
「ふぎゃー……(アシュトン、お前……)」
「ふぎゃ、ふぎゃふ!(待て、誰かいる、それも二人だ!)」
何だ、生きてたのか。それが正直な感想だった。煙が立ち込めてたし、てっきりもうチサトさんは死んでるものだと思ってたけど。
まあでも、生きてたなら生きてたで利用法はある。さっきまでと違って、今の僕なら何でも上手く利用できる気がしている。愛の力は偉大ってことかな?
とにかくチサトさんは生かしておこう。そしてクロードの誤解を解いて釜石村まで連れていくんだ。
そうすればきっとプリシスは喜んでくれる。プリシスの幸せが僕の幸せなように、クロードの幸せはきっとプリシスの幸せなんだ。
だからクロードの誤解を解いたことが分かれば喜ぶはずだし、目の前で首輪を取れば自分が殺したわけでもない死体から回収するなんてズルをしてないって証明にもなる。
チサトさんは道中で首輪集めるのに利用して釜石村でプリシスの目の前で死んでもらうとしよう。
勿論、痛くないように配慮して殺してあげる。それが誰にとっても幸せな選択肢だ。
(……それに、プリシスが変な誤解をして傷ついちゃったら嫌だしね)
クロードはいい奴だ。ずっと旅してきたからよく分かる。彼は自分のために殺し合いに参加するような奴ではない。プリシスもそれは分かっているだろう。
だからもしクロードが殺し合いに乗る場合、それはやはり自分ではなく“他の誰か”のためなんだ。そしてその“誰か”は、まず間違いなくプリシスじゃない。
だからプリシスがその事を考えないよう、クロードが殺し合いに乗ってるなんて誤解は片っ端から解かねばならない。
そして、万が一耳に入ってた時の事を考えて誤解だったと証明してあげなくてはならない。
まったく、罪作りな男だね、クロードは。

45不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:17:18 ID:Sq4t0KR6
「あれ……? ボーマンさん?」
敵意はない。そう示そうと敢えて堂々姿を見せたはいいものの、そこにいたのは見慣れぬ男とボーマンさんの二人だった。
化け物とやらの姿は勿論、チサトさんの姿もない。
「アシュトンか……」
どこか警戒したような雰囲気を出すボーマンさん。まあこの島では妥当な反応だろう。
隣にいる男はどこか呆けたようにこちらを見ている。その男の髪色は、クロードが言っていたチサトさんと共にクロードを襲った奴のそれだった。
(確かこの青い髪の男は殺し合いに乗ってない確率が高いんだったっけ……っていうことはボーマンさんも殺し合う気はないのかな?)
冷静に分析しながら二人を見る。
ボーマンさんはこちらの出方を窺うように、青髪の男は何かを考え込むようにしながら僕の方を見つめていた。
「アシュトン……お前はこのゲームに乗ってるのか?」
当然のように尋ねられる質問の答えを用意してなかった事に今更ながら気付いてしまう。
まいった、どうしよう。不誠実だろうがここは嘘をついて「乗っていない」と答えた方が得策だろうか。
悩んでいると、青髪の男が急にその目を見開いた。
「ドラゴンを……背負った男……ッ!」
男の顔が見る見る内に怒りに染まる。おかしいな、君とは初対面のはずなんだけど。僕、君に何かやったっけ?
考える間もなく、青髪の男が掴みかかって来た。勿論ぼけっと突っ立ってやられてあげるつもりはない。
バックステップで男と距離を取り、迎撃態勢に入る。
本当ならここで放ったドラゴンブレスが当たるものだと思っていたけど、ブレスを出すのが若干いつもより遅かったせいで当たらなかった。
もしかしたら二匹とも、僕にずっと付き合わせてたせいで体調不良なのかもしれない。
「いきなりどうしたんだチェスター!」
チェスターと呼ばれた青髪の男を押さえつけ、結果的に数秒遅れのドラゴンブレスからチェスターの命を救うことになったボーマンさんがチェスターに問う。
そこでチェスターから飛び出したのは、思いがけない言葉だった。
「そいつだ! アーチェを、アーチェを襲いやがった野郎は! 龍を背中に生やした男なんだッ!」
……やれやれ。反省した途端、調子に乗って時のツケがきた。僕って本当についてないなあ。
まあ、今回は高い授業料だと思っておこう。実際アーチェとかいう女を逃がしたのは僕の責任でもあるんだから。
だからとりあえずチェスターとやらを説得して、それが無駄なら……さっき決めたように、素早く手際よく殺しちゃおう。





☆  ★  ☆  ★  ☆

46不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:20:28 ID:Sq4t0KR6





こんなにも幸運が続いていいのだろうか?
チェスターは俺が思う以上にいい情報を持っていた。
(おいおい、あのアシュトンが乗ってたってマジかよ……)
アシュトンはてっきり殺し合い反対派だと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。
チェスターが叫んでいる言葉を鵜呑みにするなら、アシュトンはアーチェとやらの仲間を二人も惨殺したらしい。
見たところ使い慣れてなさそうな両手剣で二人もの人間を殺したのなら上出来じゃないか。正直、ここで手放すには惜しい存在だ。
アシュトンには少しでも多く殺してもらわなくちゃいけない。
すでにこれだけの傷だ、俺と戦う事になる前にはくたばってくれるだろう。万が一死ななくても重症のアシュトンになら勝てるはずだ。
「待て、チェスター、落ち着くんだ! お前は実際にアシュトンが殺すところを見たわけじゃあないんだろ?」
「くっ……確かにそうだけどよ、アイツは言ってたんだ、二匹の龍を背負った男に襲われたって!」
先程から叫んでいる内容は、アーチェという少女から聞いたものに過ぎないようだ。それも、外見的特徴しか聞いていないらしい。
「あのなぁチェスター。お前さんの常識ではどうか知らんが、背中に龍を背負った奴なんて山一つ越えりゃたくさんいるぞ」
呆れたような声を出す。少しわざとらしすぎた気もするが、チェスターはその事に違和感を覚えることなく「どういう意味だよ」と返してきた。
「お前の住んでる地域ではどうなのか知らんが、俺の住んでる国には龍を背負ったタルルートっていう種族がいるんだよ」
勿論嘘だ。そんな部族はいやしない。種族の名前なんざアシュトンが樽好きだったことを思い出して咄嗟に付けた適当極まりない名前だ。
だが、チェスターにはそんなこと分かりっこない。言っちゃ悪いが頭の方は良くなさそうだし、世界中の民族を暗記しているなんてことまず無いだろう。
「……くそっ、悪かったよ!」
バツが悪そうにチェスターが言う。どうやら疑いながらも納得してくれたようだ(もっとも、納得がいかなくてもこう言うしかないだろうが)
「……ボーマンさん?」
不思議そうにアシュトンが呟きを漏らす。まあそれも仕方がないだろう。嘘をついてまで殺し合いに乗ってると言われた人物を庇う理由など普通はないのだ。
「ま、これから俺達は仲間になるんだ。仲良くやろうじゃないか」
その疑問を解決するため、チェスターの肩に手を置いてからアシュトンの方へと歩み寄る。
そして耳元で囁いてやった。「事情は分からないが、信じているからな」と。
これでいい。これでアシュトンは俺の事を“限りなく怪しくてもかつての仲間をどんな信じようとする馬鹿”と見てくれるはずだ。
それでいい。アシュトンには『利用しやすい奴』と思い込ませておく。
「いつでも始末出来て、今はまだ使えている」と思われてるうちはアシュトンに襲われる事もないだろう。

47不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:24:07 ID:Sq4t0KR6
アシュトンへの耳打ちを終えると、わざとらしく肩を組みチェスターの所まで連れて行く。
「今さっきの事は互いに忘れろ。もう俺達はチームだ。強敵であるクロードを倒すための、な」
「……ああ、そうだな。悔しいが、俺一人じゃアイツを倒せそうにねえ。力を貸してくれ」
弱弱しく頭を下げるチェスター。その無様な姿がとても憐れで、クロード討伐ぐらいは本当に付き合ってやろうとさえ思えてきた。
「ああ、勿論だ」
当然こう返事をしておく。ようやく強者ともそれなりに渡り合えるカードを手中に収めたのだ、自らカードの機嫌を損ねる事はない。
「……そう、だね」
アシュトンの返事が歯切れ悪い。相手がクロードということもあって気圧されたか?
もしくはチサトを殺すまでの俺みたいにかつての仲間を殺めることには抵抗があるのか……
まぁどちらだろうが関係ない。戦闘で壁としてきっちり働いてもらえばいいのだ。
「ああ、そうだ、誰か弓支給されてないか?」
思い出したようにチェスターが呟く。が、生憎二人とも首を横に振るだけだった。
「……なあ、チェスター、言わなくちゃいけないことがある」
「ん?」
「俺達は弱い。仲間を守ってやれる余裕なんかないほどに。だから今こうしてチームを組んでクロードに挑もうとしている」
チェスターにハッキリ言わなくてはいけないこと。それはチームを組む最大のデメリットである支給品の再分配について。
チーム全体の利益が最大になるよう分配すると、アシュトンにバーニィシューズを譲渡するはめになる。下手したらフェイトアーマーもだ。
折角得たバーニィシューズを手放す程俺は馬鹿じゃあない。
「俺達は戦闘の時自分の身を自分で守らなくちゃならない。なら支給品をどうするかは各自の自由だ。自分の身を守るのに必要だと思う者は無理に譲らなくてもいい」
「で、でもよ、折角仲間になったんだから……」
「ああ、だからまずは要らないと思った物だけを互いに挙げよう。そして合意が取れればそれらを交換すればいい」
あくまで等価交換。その言葉にチェスターは不満そうだが気に留めず話を進める。
「で、俺はパラライズチェックと七色の飴玉とかいうアイテムを要らないと思ってる。チェスターは何かないのか、交換に出してもいいアイテムは」
効果が期待できないパラライズチェックとどんな成分なのか一切不明な怪しい飴玉。
後者はともかく、うまくいけば前者の方は何かしらと交換できるかもしれない。
「……俺は弓も持ってないし、何でも交換していい」
そう言ってチェスターはデイパックからアイテムを出す。
地べたに置かれたアイテムは、スーパーボールに、それから……
「エンプレシアか」
エンプレシア。レナが使っていたナックルだ。
サイズが若干きついかもしれないが、ナックルは俺の待ち望んでいた武器だ。これを逃す手はない。
「チェスター、悪いがこいつをパラライズチェックと交換しないか? 何なら飴玉も全部やる」
気分が明るくなる薬物でも仕込まれているであろう飴玉は砕けば調合に使えたかもしれないが、エンプレシアと交換なら惜しくない。
何としてもここは武器を手に入れなくては……
「ん、ああ……あんたに任せるよ」
「おいおい……いいのか、そんな適当で」
言いながらもしっかりエンプレシアを試着する。
うーん、やはり少しばかりきついな。あまり長い間装備していると拳を痛めそうだ。
「ああ、ここ来るまでの旅じゃ仲間に要らないアイテムを譲るのは当たり前だったからよ……
 まあ、今思えばそういう風潮もクレスがリーダーをやってたからかもしれねえけど、俺はそういう方が気楽だから」
どうやらチェスターはかつての冒険の時と同じように在りたいらしい。甘い考えだ。
言えばスーパーボールもくれそうだが、そうしてしまったらチェスターが戦力外になるのでやめておく。
この場でチェスターを殺してアシュトンとだけ組んでもいいが、アシュトンが俺を殺そうとしてきた場合サシだと少々分が悪い。
チェスターには最小限の武装だけを与えておくのが得策だろう。
「ああ、そうだ。この飴玉は今舐めておけ。気分が明るくなるそうだ。仲間が死んで辛いのは分かるが、塞ぎ込んでちゃやれるものもやれなくなる」
足を引っ張らないように、というのもあるが、それ以上にこの怪しいアイテムの実験台にするためにチェスターに七色の飴玉を勧める。
チェスターは特に警戒をすることもなく言われるがままに飴玉を舐めはじめた。即効性はなさそうだが……まあ様子見だろう。

48不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:24:53 ID:Sq4t0KR6
「アシュトンは何かないのか、要らない物」
「……ないですよ。それに僕は今の武器でも何とかやれますから」
やれやれ、殺し合いに乗ってるだけあって上辺の付き合いもする気はないってか。
ま、確かに上辺だけでも仲良くしちまうと殺すのがつらくなるからな……だが俺はもう躊躇わない。家族の元に帰るためなら何だってやってやるさ。
「それより早く移動しよう。平瀬村には人もいそうだし、放送までには探索を終えちゃいたい」
アシュトンの提案に反対する理由は特にない。実際拠点にもってこいな村には獲物が少なからずいるだろう。
貧弱な武装で釜石村に向かおうとした時と違い、今の俺には仲間も武器もある。よほどの強敵と当たらない限り死ぬことはないだろう。
チェスターが殺し合いに乗り気じゃないっぽいのが難点だが……思考能力は低下しているようだし、うまく言いくるめられるかもしれない。
「あ……悪い。俺、平瀬村には行きたくねえんだ」
が、平瀬村行きは予想外にもチェスターの反対にあってしまう。アシュトンが露骨に不満を顔に出した。こんな状況でも分かりやすい奴だ。
「その、仲間が二人ほどいるんだけどよ、なんっつーかさ、あの二人は俺なんかより全然凄いっていうか、見てるものが違うっていうか……
 脱出のため何を優先すべきかが分かってるって言えばいいのかな。
 とにかく、今の俺じゃあ奴らの力になれそうにないんだ。それどころか足を引っ張るかもしれない。だから合流したくねえ。
 それに、俺はクロードの野郎を倒したいんだ。二人は平瀬村を拠点にするみたいだから、一緒にいたらそれもできねえ。
 ……だから、悪い。俺の我儘だけど、出来れば俺に付き合ってくれ」
再び頭を下げるチェスター。正直長々と喋られてもその気持ちはよく分からない。
だが反殺し合いの人間で、頭脳的で、なおかつ強大な力を持っているのだとしたら、そんな奴とは関わらない方がいいに決まっている。
自分が何人も殺した事に感づかれる恐れがあるうえに、最後の一人になるために“抜ける”ことが出来なさそうだからな。
かと言って十賢者すら蘇らせるような奴を倒せるとも思えないし、そもそも自分を倒せるような奴を参加させるほどルシファーとやらも馬鹿じゃあるまい。
そんな連中と組むにはリスクばかりが高すぎる。アシュトンは不満なようだが、平瀬村は避けた方が賢明だろう。
「おいおい、そんな顔するなよアシュトン。仲間が頭まで下げたんだ、付き合うしかないだろ」
「……分かりました。じゃあ、とりあえずは菅原神社ならどう?」
殺し合いに乗っているとはいえアシュトンはアシュトンか……
あのアシュトンが殺し合いに乗ったって言うから、てっきり「従わなければ殺す」ぐらいに理性がぶっ壊れたのかと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
どちらの方が利用しやすいのかは分からないから素直に喜んでいいものか微妙だが。
「ああ、悪いな……俺はそれでOKだ」
「俺も異論はない」
さて、チーム全体の方針は決まったな。あとはチェスターをうまく騙して人数を減らしていくだけだな。
……待ってろよ、ニーネ、エリス。絶対に家に帰るからな。





☆  ★  ☆  ★  ☆

49不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:32:30 ID:Sq4t0KR6
(やれやれ、困ったな)
ホテル跡を離れ数十分。アシュトンは一人考えていた。
ボーマンにより二人と組む事になったのは構わない(むしろ有難い)のだが、如何せん彼らはクロードを敵対視している。
クロードの性格上、自分が生きて帰るために殺し合いに乗ることはまずないだろう。
だから「クロードが殺し合いに乗った」と聞いた者は誰しもが「クロードはレナのために殺し合いに乗った」と考える。
おそらくプリシスの耳に入った場合、プリシスだってそう思うだろう。そしてその心はきっとどうしようもないぐらい傷つくのだ。
その事がアシュトンには許せないのだ。その後自分の物になりやすいとしても、プリシスが傷づかないに越したことはない。
そのためにも、プリシスの一番になれるまではクロードがゲームに乗ったと耳に入れさせてはいけないのだ。
唯一の救いはプリシスとの合流まで時間があることだが、それまでに誤解を解けるかどうか……
(だけど……悪いことだけじゃなかったし、うまくやれば今まで以上にプリシスの役に立てるかもしれない)
殺し合いに乗ったからと言って気が強くなるわけでもなければ発言力が強くなるわけでもない。
アシュトンがチームの行動方針を無理矢理決めることはほぼ不可能だ。だが……
(ボーマンさんは僕達に嘘をついている)
考えていることを予測出来れば、個人単位でならそれとなく誘導できるかもしれない。
情報を武器と扱うなら、アシュトンの手には今『クロードの正体』いう最強の武器がある事になる。
先程チサト達がどうなったかを聞いた際にボーマンから引き出せた「二人はクロードに殺された」の言葉――これが嘘だというのはその時クロードと居た自分自身が一番良く分かっている。
こんな嘘をつく理由なんて猿にだって分かる。自分がチサトとガルヴァドスを殺したのだ。
それはつまり、クロードの無実を晴らすと同時にボーマンを敵に回すことを示している。
だが今のアシュトンにとって同盟を結びプリシスの笑顔のため利用できる参加者は貴重である。
クロードの無実をどのタイミングで晴らすべきか。そのことだけをアシュトンは考える。
早く解かねばならないが、極力長い事ボーマンを利用したい。さて、最良のタイミングは一体いつだろうか?
(やれやれ、なかなか一人っきりにはなれそうもないし、これじゃあギョロとウルルンに意見を聞くこともできないや)

50不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:34:35 ID:Sq4t0KR6
そう、アシュトンは今ギョロとウルルンとコミュニケーションを取ることが出来ない。
二匹の声はボーマンたちには理解できないが、アシュトンの声は普通に聞こえてしまうのだ。
だから、彼らは一つになれない。二匹にとって目の前にいるのは、今までのように“言葉にしなくても考えの理解できるアシュトン”ではないのだから。
『首輪を狩る』
それが、彼らを繋ぐ共通の目的。
『プリシス・F・ノイマン』
それが、彼らに不協和音をもたらす存在。
(ふふ、でも頑張るよプリシス……君が笑顔でいてくれるなら、僕は何だって我慢できる……
 僕が“一番”になれるまでプリシスの笑顔を守れる人がクロードしかいないって言うのなら、僕はよろこんでクロードを君に会わせるよ。
 僕の“一番”は君なんだから。君の幸せは全部僕が叶えてあげるよ)
――プリシスのためなら死ぬことさえ辞さないアシュトン・アンカースは、およそ9時間後に訪れるであろう再会を糧に歩を進める。

(どうする……? アシュトンには悪いが、人間のために命を無駄に捨てる気はない。
 ……何を考えているのか分からない以上、プリシスに会うのは得策じゃないだろう。下手なフォローは裏目に出かねない。ウルルンもそこは分かっているだろう。
 赤髪の女を殺した後のように、なんとかしてプリシスに会わせないようにしなくてはな…… さっさと死んでくれるといいのだが……)
――死ぬつもりなど毛頭ないギョロは、プリシスが死ぬまでどのようにアシュトンを引き離しておくかを考える。
何かしら理由を考えてアシュトンを釜石村から遠ざけなければならない。アシュトンがプリシスのために自殺するのを避けるために。
そして同時にプリシスを失った際にどうフォローするかも考える。アシュトンがプリシスの後を追わないように。その後、プリシス蘇生のために優勝を目指すバーサーカーになるよう誘導する言葉を。

(クロードか……不味い事になったな。最後の数人での乱戦に縺れ込ませてその隙にプリシスを消すつもりだったが……
 仮に本当にプリシスが殺し合いに乗っていたとしても、アシュトンと同じように『愛しい人を生き残らせる』ことを考えてる場合、その場にはプリシスだけでなくクロードもいることになる……
 12時間経つというのに、奴は大きな傷を負っているように見えなかった……
 消耗させた方がいいかもしれないが、奴は殺し合いを止める気でいる……仲間を集め立ちはだかれては分が悪い……
 アシュトンが何を考えているのかは分からないが、クロードとプリシスは殺させてもらう、釜石村でッ)
――死ぬつもりなど毛頭ないウルルンは、アシュトンの生存の枷になる二人を如何にして殺すかを考える。
次で釜石村で会った時に、アシュトンに咎められぬよう出来るだけ事故を装うような形で殺す方法を。
そしてプリシスの蘇生を仄めかし、自分自身の生存を第一目標にさせる方法を。

彼らは、プリシスを中心にバラバラになりつつあった。

51不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:39:57 ID:Sq4t0KR6





☆  ★  ☆  ★  ☆





したくもない殺し合いを命じられた。別に誰が悪いわけでもないさ。
そう、バラバラの道を行く彼らだけど、根本にあることは何も変わっちゃいないんだ。
一人の勇者は同じ失敗を犯さないように何が何でも一人の大切な仲間を信じると決めて、
一人の剣士は二度と大切な人を失わないように折れかけの心に鞭を打ち、
一人の女性は大切な人を一人でも多く救うために感情を殺そうとし、
一人の夫は大切な家族を泣かせないために最善の選択を取り、
一人の青年はせめてこれ以上大切な者を殺されないように憎悪と殺意を原動力にし、
そして一人の男と二匹の龍は大切な者の笑顔と生存のために尽力しようとしている。
ただそれだけなのだ。誰もが皆、大切な人のために行動しているだけなのだ。
この中に誰か明確な悪人がいるわけじゃあない。これは倒すべき絶対悪がいる物語ではない。
ほんのちょっぴり個々の想いが強すぎて、不協和音を奏でてしまう。
要するに、これはそれだけの話なのだ。本当にただ、それだけの話。





【E-04/真夜中】
【アシュトン・アンカース】[MP残量:100%(最大130%)]
[状態:疲労小、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕にかすり傷(応急処置済み)、右腕打撲]
[装備:アヴクール@RS、ルナタブレット、マジックミスト]
[道具:無稼働銃、レーザーウェポン(形状:初期状態)、???←もともとネルの支給品一つ、首輪×3、荷物一式×2]
[行動方針:第4回放送頃に釜石村でクロード・プリシスに再会し、プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考2:チェスター・ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考3:菅原神社に向かう]
[思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]
[備考1:ギョロとウルルンは基本的にアシュトンの意向を尊重しますが、プリシスのためにアシュトンが最終的に死ぬことだけは避けたいと思っています]
[備考2:ギョロとウルルンはアシュトンが何を考えてるのか分からなくなるつつあります。そのためアシュトンとの連携がうまくいかない可能性があります]
[現在位置:ホテル跡周辺。西]

【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的、精神的疲労(重度)、クロードに対する憎悪、無力感からくるクレスに対する劣等感]
[装備:パラライチェック@SO2の紛い物(効果のほどは不明)、七色の飴玉(舐めてます)]
[道具:スーパーボール@SO2、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する]
[思考2:アシュトン・ボーマンと協力して弱い者や仲間を集める]
[思考3:今の自分では精神的にも能力的にもただの足手まといなので、クレス達とは出来れば合流したくない]
[思考4:菅原神社に向かう]
[備考:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[現在位置:ホテル跡周辺。西]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:40%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れ(気化するまで火気厳禁)]
[装備:フェイトアーマー@RS、バーニィシューズ]
[道具:エンプレシア@SO2、調合セット一式、七色の飴玉×2@VP、荷物一式*2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:アシュトン・チェスターを利用し確実に人数を減らしていく]
[思考3:菅原神社に向かいながら安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:秘仙丹のストックが1個あります]
[備考3:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[現在位置:ホテル跡周辺。西]

52不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:42:02 ID:Sq4t0KR6
【F-02/夜中】
【クレス・アルベイン】[MP残量:30%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、何も出来ていない自分に対する苛立ちと失望(軽度)]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:平瀬村を捜索し、武器(出来れば剣がいい)や仲間を集める]
[思考2:拠点になりそうな建物を探してそこで脱出に向けての話し合いをする]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つ]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:平瀬村を捜索し、武器(出来れば剣がいい)や仲間を集める]
[思考2:拠点になりそうな建物を探してそこで脱出に向けての話し合いをする]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考4:移動しても問題なさそうな装備もしくは仲間が得られた場合は平瀬村から出て仲間を探しに行くつもり]
[現在位置:平瀬村内北東部]



【G-05/夜中】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:85%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、武器を振り回すには難あり)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)]
[装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード]
[道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:神塚山を反時計回りに移動するルートで仲間を集め、第4回放送までに釜石村に行きアシュトンとアシュトンの見つけた仲間達に合流する]
[思考2:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考3:アーチェを追って誤解を解きたかったが何処へ逃げたか分からないうえ行動に疑問を感じているので、今はただ会える事を祈るのみ。会えたら誤解をちゃんと解こう]
[思考4:第一回放送の禁止エリアの把握]
[思考5:リドリーを探してみる]
[現在位置:G-05、G-05とG-06の境界付近]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:第一回放送の内容の内、死亡者とG-03が禁止エリアという事は把握]

53不協和音 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 10:47:46 ID:Sq4t0KR6
投下終了。こんだけ長々やっておいてただの繋ぎですみません。
アシュトンのチート的強さと発狂っぷりはSO2の仲間が死んだ時の顔真っ赤な状態みたいなものだと解釈し、休息を挟んだら元に戻るんじゃないかなと思ってこうしましたがOKですかね?
一人で進めまくってよかったのかな……

「同じような解説を延々しててクドイ」等の苦情も歓迎。
どうすればすっきりした文が書けるのやら……

それと>>51のラストに
※三人がどこまで情報を共有しているのかは次の書き手さんにお任せします
の一文を追加しておいてください

54名無しのスフィア社社員:2008/05/03(土) 20:36:53 ID:tUraOXqw
まだ規制されてるのでこっちで

超長編乙!
そして志村、鎌石村鎌石村ーッ!

55 ◆wKs3a28q6Q:2008/05/03(土) 21:23:14 ID:aYGzKxeg
('A`)

wiki収録の際は釜石から鎌石に直しておきます……

56名無しのスフィア社社員:2008/06/12(木) 23:30:20 ID:lj43Rd/E
おまいら誰も更新しないからとりあえず二話分だけ更新してくるよ
現在状況とかやってくれる人がいるとありがたい

・・と思いきや無人君死亡話が長すぎて入らなかったorz
どこできればいいですかね?

57名無しのスフィア社社員:2008/06/22(日) 00:25:43 ID:TZJV6III
最近2ちゃんが重いし、書き込めないって人のために専ブラを紹介しとく
もうすぐ100話なんだし盛り上がっていこうぜ!

PC→JaneStyle
    ttp://janestyle.s11.xrea.com/

携帯→i2ch(家ゲーRPGの板入ってから『ロワ』で検索かければ表示される)
     ttp://i2ch.net/

58名無しのスフィア社社員:2008/06/24(火) 02:01:37 ID:xX1/QkIg
さるさんウゼエエエエエエエエエエエ

というわけで続きはこちらに
どなたか代理投下お願いします

59久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:02:16 ID:xX1/QkIg
「見えてきたな」
前方に見えてきた平瀬村を見ながら、エルネストがポツリと呟く。
その言葉からは緊張感を感じ取ることが出来た。
無理もない。嫌という程の実力を見せてきた男と、これから戦おうというのだから。
彼らは警戒を解かずに村に入り、そして自転車のベルを鳴らす。
フェイト達がそうであったように殺し合いに乗らない人間を集めるという目的もあるが、一番の目的はミカエルを誘き寄せるためである。
幸い三人もいるため、奇襲はまず防げるはずだ。
それならば、向こうに待ち伏せされる事を防ぐ意味も込めて自ら誘き出す方が得策である。
そう考え、ベルを鳴らしていたのだが――

「危ないッ!」
自転車から飛び降り、ロキを地面へと押し倒すフェイト。
彼らの首を揃って跳ね跳ばせたであろう軌道を、一陣の剣圧が通り過ぎる。
剣圧。ミカエルには使えぬはずの必殺技。
フェイトとロキが顔を上げると、案の定そこにいたのはミカエルではなかった。
そのことは、ミカエルを知らぬロキにでさえ理解できる。
何故なら、刀を構えて立っていたのは己も知ってる者なのだから。
「ジュン……だったな? 何だい、君は殺し合いに乗っているのかい?」
隙を見せず、ロキが洵に問いかける。
フェイトはロキを庇うように立ち、エルネストもまた自転車の向こう側からいつでもザイルで援護できる体勢を取っていた。
しばしの沈黙。洵にはまだ言葉を発するつもりがない。
「い、一体何を!?」
睨みあいに割り込んできたのは、驚きふためく少女の声。
彼女は洵がロキに不意打ちした事に驚いている。今洵に殺されては困るのだ。
それでは集めてから一網打尽にするという自分の計画が狂ってしまう。
しかしその本音を決して表には出さないで、少女ことミランダは洵を宥めようとする。
洵はミランダのそんな行動を待っていた。
ミランダが何故自ら仕掛けたのかを聞きに来て初めて作戦は成功するのだ。
ロキに仕掛けた段階で逃げられるという可能性が僅かにあったが、その危険は回避した。
漏れそうな笑みを堪え、あくまで真面目な表情を作りながら声を荒げる。
「黙れ。いいかミランダ、その男は殺し合いに乗っている」
「……ふうん、随分面白い言いがかりをつけてくれるじゃないか」
洵の言葉を聞き、ロキはクスクスと笑みを漏らす。
彼の考えでは、洵がそう言っている理由として考えられるのは2つだけ。
『殺し合いに乗っていて自分達を同士討ちさせたい』か、『ビヴィグの殺害現場を見られていたか』だ。
距離的に考えて後者は無いなと考えたロキは、洵が可笑しくてならなかった。
今から自分は目の前の馬鹿を論破する。追い詰められる洵の姿を想像すると、悪戯心に火が付くように思えた。
「言いがかりだと言うのならば答えてもらおう。ルシオを殺害し、ドラゴンオーブを使い神界の征服まで企んだような貴様が殺し合いに反対する理由が何処にある」
だが――その炎は、あっと言うまで掻き消された。その表情からも笑みが消え、この島にきて初めてロキの心に焦りが生まれる。
(なッ……!? そうか、クソ、迂闊だった……ルシファーが時間を操るってことは、何も参加者は“過去”だけとは限らないじというのに……ッ!)
『自分自身が誰かにとっての“過去の人”である』という事を考えていなかった己を呪い、ロキは洵への対応を考える。
無論洵は抹殺する。洵の側にいるあの女もだ。自分に疑念を抱いたのならエルネストも抹殺しよう。必要なのはフェイトだけだ。
一番の問題はこの場を切り抜けた後だ。最悪レナスやブラムスも自分の企みを知っている可能性がある。
そうなった場合、同盟を結べるものは皆無となるだろう。
(どうする……? この失態、どう取り返す!?)

他事を考えながらも隙がないロキ。彼の姿を横目で見ながら、フェイトは彼について考えている。
正直に言うならば、あまりロキにいい印象はない。
クラースに対する態度はお世辞にもいいものとは言えなかったし、所持していた支給品も本人と返り討ちにした者の二人分にしては多すぎるように思えた。
折角得た新たな仲間を失いたくないため黙っていたが、それは失敗だったかもしれない。
残り人数も少ないことで焦っていた可能性もある。とにかく、ロキを手放しに信頼したことは反省すべきなのかもしれない。
(もう一度、冷静に考える必要があるんじゃないのか? 本当にロキを信じていいのか……もしかしたら、目の前の二人を信じるべきなんじゃないのか……)、
フェイトは考える。心ここにあらずのままで、人形のように刀を構えて佇みながら。

60久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:07:30 ID:xX1/QkIg
『洵……聞こえるか』
再び懐から聞こえてきた声に、洵は僅かな苛立ちを覚える。
こちらの都合を少しは考え、通信を自重しようとは思わないのだろうか?
『悪いけど、もう限界だ……二人の内一人が殺された。もう一人も取り押さえられている。お前が何と言おうと助けにいく!』
自ら危険に首を突っ込むその姿勢に些かうんざりしながらも、折角のルシオからの通信は利用せねばと思い至った。
ミランダに目配せし、「取ってくれ」とだけ伝える。さすがに何の事か分かるらしく、洵の懐からコミュニケーターを取り出した。
「……気持ちは分かるが、こちらに来てもらいたいな。こちらも今戦闘中でな」
『なっ……本当か!?』
コミュニケーターから聞こえる声。その声に、ロキは聞き覚えがあった。
殺さなければならないと考えていた、かつて自分が使い捨てたエインフェリア。
「ああ、話してやれ。お前を騙し、ヴァルキリーを殺そうとした邪神とな」
にやりと笑い、洵はコミュニケーターを放り投げる。
俯いたままのロキに代わり、フェイトがそれをキャッチした。
コミュニケーターからは、未だにルシオの声が聞こえ続ける。
『ロキ……お前まさか、ロキなのか!?』
コミュニケーターの向こうから聞こえる声。その声が演技とは、フェイトにはとても思えなかった。
フェイトの手のコミュニケーターを、ロキのストライクアクスが乱暴に弾き飛ばす。
元はと言えばコインで決めたスタンスだが、それでも予定を狂わされるのは腹が立った。
『鬱陶しい、殺してやる』
後先なんて考えない。自分の力を過信しているわけではない。
ロキの頭は、至極冷静に「こいつらを全員殺したところで脱出プランに支障はない。最悪フェイトも殺せばいい」という答えを導き出したのだ。
ロキが動く。そして振り上げたストライクアクスは――

「危ない、左だ!」
「洵さん!」
エルネストとミランダの叫び声により、中断せざるを得なくなる。
ロキは己の力を過信しない。この迫りくる炎を受けられると思うほど、愚かな脳みそはしていない。
洵とロキは素早く回避し、そして炎が襲ってきた方向へと意識を向ける。勿論、互いへの牽制も忘れずに。
逸早く攻撃に気付いたミランダは、現在自分の取るべき行動を決めかねていた。
参加者を集め、一網打尽にしてしまいたい。だが、これだけ険悪な人間が手を取り合うなど出来るのだろうか?
(神よ……これも試練なのですか?)
ミランダは考える。洵に付いて援護すれば、人数を一気に減らす事が出来る。仲間に引き込むというステップは踏めなかったが、本来の目的は達成だ。
だが、問題もある。洵には時限爆弾の効果を偽っているため、下手な援護は疑心を与えるだけかもしれない。誰かが早々に死んでくれたら、そいつの武器を使えるのだが……
そしてミランダにとってそれ以上に問題となるのが『これが神の与えた試練かもしれない』という事である。
それが『この状況をどう切り抜けるか』という類のものならば上記の方法で切り抜けられるのだが、『如何にして彼らを結束させるか』を問われている可能性も否定できないのだ。
彼らを宥め、結束させ、当初の予定どおりそれからまとめて吹き飛ばす。それこそが求められている事だとしたら、上記の方法は使うわけにはいかない。
ミランダは考える。己がどう動くべきか。神は何を求めているのか。

「ミカエル……ッ!」
己の手足のようにザイルを使い、素早い回避の出来ないフェイトを手繰り寄せたエルネスト。
彼は僅かな疑心をロキに抱くも、すぐに自己解決へと至った。
ロキは殺し合いに放り込まれる前に悪事をしていた。それは事実だろうと思っている。
だが、ロキはまだ子供だ。本当の“吐き気をもよおす邪悪”というものを目の当たりにし、心を入れ替えたとしてもなんらおかしなことはない。
だとしたら、自分はどうするべきだろうか?
決まっている。ロキの仲間として、年長者として、ロキの分まで謝罪するのだ。そして許しを得、和解させる。
自分はロクでもない彼氏だった。愛する人の死に目にすら逢えず、短い間とはいえ共に戦った男すら止める事が出来なかった。
そんな自分でも、仲間を信じてやる事は出来る。手の差し伸べられる距離に仲間がいる。
死んでしまったオペラのためにも、『オペラの愛するエルネスト』でいるためにも、信じる心を失うわけにはいかないのだ。
そのためにも、まずはこの状況を切り抜けなければならない。

61久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:09:07 ID:xX1/QkIg
「よお……久しぶりだなお前らァ! ご丁寧に揃ってくれちゃってよォッ!」

仲間を偽り、この期に人数を減らしたい洵。
仲間を作るべきか否か、神の意思を知ろうとするミランダ。
仲間を想い、どちらに行くべきなのか悩むルシオ。
仲間を駒と考え、不都合な人物の抹消を目論むロキ。
仲間を信じ、意地でも正しくあり続けたいエルネスト。
仲間を信じたいからこそ、ロキに疑念を抱くフェイト。
仲間など作らず、本能のままに殺しつくしたいミカエル。

「ぶっ殺してやるぜェェェェッ! スピキュゥゥゥゥルッ!!」

様々な想いが入り混じり、平瀬村の大規模な戦闘が今、幕を開ける。




【F-02/夜中】
【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態:健康]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、荷物一式]
[行動方針:知り合いと合流(特にレナス)]
[思考1:洵達の援護に行くか殺し合いに乗った二人組(クレス・マリア)に仕掛けるか決断する]
[思考2:洵、少女(ミランダ)と合流]
[思考3:平瀬村で仲間の詮索]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:平瀬村内北東部よりやや南]
[備考]:※コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません
    ※マリアとクレスを危険人物と認識(名前は知りません)
    ※最初の通信時に驚いたのはアーチェ爆死を見たからです。
    ※洵とのやり取りの間にチェスターはクレスらと離別しました。すぐに駆けつけても97話に割り込む事はありません。



【F-01/夜中】
【ミカエル】[MP残量:50%]
[状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)]
[装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)]
[道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利]
[思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す]
[思考2:この場にいる奴皆殺し]
[思考3:この場の人間を殺しつくしたらそろそろ借り場を他に移す]
[思考4:使える防具が欲しい]
[現在位置:平瀬村北西部]
[備考]:デコッパゲ(チェスター)と茶髪優男(ルシオ)は死んだと思っています。


【洵】[MP残量:90%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘に多少支障をきたす程度]
[装備:ダマスクスソード@TOP、木刀]
[道具:コミュニケーター@SO3、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:出会った者は殺すが、積極的に獲物を探したりはしない]
[思考2:ロキを殺害し、今後に備え支給品を充実させる]
[思考3:ロキの仲間も出来る事ならこの場で殺しておきたい]
[思考4:現時点でルシオとミランダを殺すつもりはないが、邪魔になるようなら殺す事も考える]
[思考5:ルシオを使ってレナスを利用もしくは殺害]
[思考6:ゲームボーイを探す]
[現在地:平瀬村北西部]

【ミランダ】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:無し]
[道具:時限爆弾@現実、パニックパウダー@RS、荷物一式]
[行動方針:神の御心のままに]
[思考1:神の意図を正しく理解し、この状況を何とかする]
[思考2:洵やルシオを利用して参加者を集める]
[思考3:直接的な行動はなるべく控える]
[思考4:参加者を一箇所に集め一網打尽にする]
[現在位置:平瀬村北西部]

62久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:10:01 ID:xX1/QkIg
【ロキ】[MP残量:95%]
[状態:正常・自転車マスターLv4]
[装備:ストライクアクス@TOP、ママチャリ(ミカエルの炎により半壊)@現実世界]
[道具:10フォル@SO、グーングニル3@TOP、空き瓶@RS、デッキブラシ@TOP、スタンガン、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:洵・ミランダ・ミカエルの殺害]
[思考2:見つけ出してルシオを殺害]
[思考3:出来ればフェイトは手ゴマとして取っておきたい。エルネストは別にどうでもいい]
[思考3:自転車で街道を走って島を一周する。途中であった人間達にはいい加減な情報を与える]
[思考4:首輪を外す方法を考える]
[思考5:レナス、ブラムスの捜索(自分の悪事を知っているんじゃないかと警戒し始めている)]
[思考6:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[現在位置:平瀬村北西部]

【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:100%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)、ロキに対する不信感]
[装備:ファルシオン@VP2]
[道具:鉄パイプ-R1@SO3、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ミカエルの打倒。洵達とは出来れば戦いたくない]
[思考2:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考3:ロキを信用していいのか見極める]
[思考4:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[現在位置:平瀬村北西部]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:ザイル@現実世界]
[道具:荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間は絶対に守り抜く。フェイト・ロキは勿論出来れば洵達も死なせたくない]
[思考2:ミカエルを倒す。その後で生き残っていたら洵とミランダを説得しロキと和解してもらう]
[思考3:仲間と合流]
[思考4:炎のモンスターを警戒]
[思考5:平瀬村で医療品捜索後、ロキ達と島を一周。出来ればその後クラースと合流したい]
[現在位置:平瀬村北西部]



【C-02/夜】
【クラース・F・レスター】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:シウススペシャル@SO1、スケベほん@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:鎌石村へ行き、フェイトから得た情報を手土産に首輪の解析を進めるチームに入れてもらう]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:参加者が1/3になっても脱出方法が分からないようなら脱出は無理と判断し殺し合いに乗る]
[現在位置:D-02、道から少し外れた森の中を鎌石村方面へ移動中]

63久し振り。 ◆wKs3a28q6Q:2008/06/24(火) 02:12:22 ID:xX1/QkIg
以上です
支援して下さった方、有難うございました
繋ぎで100話目かっさらってすみません。今も反省してない。

64 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:40:28 ID:SsOv3JnA
では、続きを投下します。

65 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:41:13 ID:SsOv3JnA
ミカエルは再度、ブラムスに躍りかかる。
拳対拳の、零距離も同然の激戦。
双方が双方の拳を受け、脚を止め、肘を払い、膝をいなすそのたびに、いくつもの炸裂音と閃光が迸る。
「てめえはぜってぇブチ殺してやる! それが終わったら残りの3人もまとめて皆殺しだぁ!!
覚悟しやがれこのコスプレ変態仮面野郎!!!」
「温い――真の戦士であれば『殺す』などと発言する前に、相手を『殺して』いなければならん。
『殺す』などと吠える前にな」
ブラムスはミカエルの渾身の突きを受け止め、その反動で一気に間合いを取る。
基本の構えを崩すことなく、ブラムスは静かにこの乱入者の分析を行っていた。
(なるほど――どうやら我が先ほど用いた小細工の正体には気付いていないようだな。
小技でかき乱せば、決して渡り合えぬ相手ではないか)
ブラムスが先ほどミカエルの初撃をかわした際に用いた小細工……その正体は『分身(レヴェリー)』と呼ばれる、
戦士にのみ使用を許された秘技である。
闘気によって練り上げた分身を身にまとい、分身にその動きをトレースさせることで、
一撃で二撃分の攻撃を敵に与えるこの技は、使おうと思えばこのような小細工にも使えるのだ。
すなわちブラムスは、先ほど闘気で練り上げた分身をミカエルの前面に展開し、
ミカエルの拳がその分身にヒットした隙に、がら空きになったミカエルの上空に跳躍。
そのままミカエルの拳の上に着地し、挨拶代わりの蹴りを彼の顔面に見舞ってやった――
これが、彼が行った小細工の全容となる。
もちろん、ブラムスはその真相をミカエルに講釈してやるつもりはなど、未来永劫微塵もないのだが。
(とはいえ、第三者がここに闖入してくるなどという事態は、我にも予想外だ。
ましてやこの男は、本来の実力は我とそう大きく変わるものではない――いささか危うい状況と言わざるを得まい)
ブラムスはミカエルの放った炎波の軌道を見切り、それを紙一重でかわし可能な限り隙を作らぬよう努める。
ブラムスの背後で、顎の外れた褐色の肌の青年が涙目になりながら、
そのとばっちりから必死で逃れようとズタボロの肉体を引きずるが、ブラムスはそれに必要最低限の注意のみを払う。
(だが我の考えの至らなさを省みるのは後からいくらでも出来よう。
今なすべきは、この状況の俯瞰と、選び取るべき次なる一手の吟味だ。
ひとまずこの局面、我にとって最悪の事態は、この男とロキが結託し結果的に二対一の戦いを強いられる事だが、
『残る3人も皆殺し』と言ったこの男の姿勢から、それはまずあり得ぬ事態だろう)
ミカエルの言っていた「3人」の内訳は、言うまでもなくエルネスト、フェイト、ロキのこと。
もちろんこの宣言がブラムスの読みを狂わせるために放たれたブラフ、という可能性も皆無ではないが、
この男の性格からしてそれはあり得ない、とブラムスは読み解く。
すなわち、この男はクラースの存在には気付いていない。
(――しかし、結託をされずとも結果的に挟み撃ちにされる可能性は十分に存在する。
ロキもいつまで沈黙しているか分からぬ。消耗を避けるという意味でも、可能な限り短期決戦を図るべきだろう)
ロキに止めを刺すことさえできれば、一気に戦局は自身に有利なものとなる。それにはあと、拳打の一撃で十分。
だが残念なことに、この男ほどの手練を前にしては、その一撃を与える隙すら作り出すのは至難の業。
下手に背を向ければ、その瞬間大火力の正拳突きが自らの背に炸裂するだろう。
ロキに止めの一撃を与えることを牽制されるこの局面、結果的にミカエルはロキを防衛し、
そしてロキに回復の時間を与えているという構図になる。

66 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:41:49 ID:SsOv3JnA
この状態でロキがその顎を再度嵌め終え、魔術の詠唱を再び可能としたなら……
そしてそのタイミングが、上手いことミカエルの攻撃と同期してしまったなら……
いかに夜の帳が己の力を後押ししているとは言え、その挟撃で窮地に立たされる危険性は極めて高い。
そしてロキの側はミカエルの攻撃と魔術を同期させることくらい、やって来ない方がおかしいだろう。
たとえミカエルと急ごしらえの同盟を結ぶことはないとは言え、
漁夫の利に対する目ざとさに関して、ロキほど優れた者はなかなかいない。
敵の敵は味方ではないが、敵の敵を味方として利用することなら、いくらでも可能なのだ。
(……となると、クラースなるあの男が、どこまで機転を利かせて動いてくれるかが勝負か。
それがもし当てに出来ぬ事態となったならば――)
最悪の場合、撤退も計算に入れねばならない。ブラムスはそう状況を読む。
もちろん、クラースとの約束はエルネストとフェイトの救助。それと引き換えに、自身は情報を得ることが出来る。
しかしそれにこだわり過ぎて自身が命を落とすようなことになれば、元も子もない。
その場合は遠慮なくクラースとの約束を反故にし、この場は撤退する。
この判断を冷酷非情と糾弾することはもちろん可能だが、必要に応じてその冷酷非情な判断を容赦なく下せない者に、
王の座に着く資格は無い。
それは人間の王であれ、不死者の王であれ、変わらぬ真理である。
ブラムスはその帝王学にのっとって、遥かなる過去から現代まで、ただの一度も下克上の憂き目に遭うことなく、
己の居城の玉座を守り続けてきたのだ。
ミカエルの繰り出した三連続のジャブをいなしたブラムスは、攻撃をかわしざまにしゃがみ込みながらの足払い。
それが虚空しか切れなかったの感じたブラムスは、瞬間後方宙返りで一気に転身。
あと一瞬後方宙返りが遅れていたなら、ミカエルの繰り出した烈火で全身を包まれていただろう。
ブラムスはミカエルの拳の軌道を回避行動と並行して分析。この男の癖を伺うことにする。
(さて、どうしてくれたものか――)
沖木島の夜を、再度闇と炎が禍々しく彩った。
ついでに、淋しく光るブラムスのヅラも。

67 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:42:35 ID:SsOv3JnA
【D−2/夜中】
【クラース・F・レスター】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、自転車@現実世界、デッキブラシ@TOP、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:目前の乱戦に対応(召喚術を使う? 先にフェイトとエルネストを助ける? それとも……)]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]


【ブラムス】[MP残量:75%]
[状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界、トライエンプレム@SO、袈裟@沖木島、仏像の仮面@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2
ソフィアのメモ、荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島]
[行動方針:情報収集(夜間は積極的に行動)]
[思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:クラースの機転を期待しロキと目の前の男(ミカエル)に対処。あわよくば撃破する]
[思考6:最悪の場合、クラースとの『取り引き』を反故にし撤退する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:スキル『レヴェリー』で作られたブラムスの分身は破壊されました。
この戦闘が決着するまで、再度分身を生み出すことは出来ません]


【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:80%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)ザイルで拘束中 気絶中]
[装備:無し]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP?]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考3:縄を切り、自由を得る]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)ザイルで拘束中 気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:縄を切り、自由を得る]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]

[備考]: フェイト、エルネストの装備と支給品はその場に放置されてます。


【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:正常・自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
顔面が作画崩壊 顎関節脱臼 再起不能(リタイア)寸前 神生終了のお知らせ]
[装備:グーングニル3@TOP]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、
首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:レナス、ブラムスの捜索]
[思考2:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考3:首輪を外す方法を考える]
[思考4:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考5:痛みに耐えて顎を嵌め直す]
[思考6:この状況に対応する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考1:現在顎が外れているため、これを整復するまで会話や呪文詠唱などはほぼ不可能です]
[備考2:なおロキは自分をフルボッコにした相手がブラムスだとは、今のところ気付いていません
(ただしブラムスの決め技「ブラッディカリス」を目撃して気付いた可能性もあります)]

【ミカエル】[MP残量:20%]
[状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)、図星を突かれて逆ギレ]
[装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)]
[道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利]
[思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す]
[思考2:目の前の変態仮面野郎をブチ殺す]
[思考3:それが終わったら残りの3人(フェイト、エルネスト、ロキ)もまとめて皆殺し]
[思考4:狩場を鎌石村に変更]
[思考5:使える防具が欲しい]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:デコッパゲ(チェスター)は死んだと思っています。]

68 ◆Mf/../UJt6:2008/09/24(水) 01:44:16 ID:SsOv3JnA
以上で、本編の投下は終了です。

ちなみにこのSSのタイトルは
「今夜の沖木島は所により一時棺桶、その後に炎が降るでしょう。ご注意下さい」です。

69名無しのスフィア社社員:2008/10/20(月) 22:17:57 ID:85y711ac
畜生、昨日まで書き込めていたのに、書き込もうとしたら規制がかけられているとか何事だよ('A`)
ここに書いても気付いてもらえる可能性があまりに低すぎるが、書くだけ書いてみる

>>本スレ123
確かに制限はつけないとやりたい放題しすぎるのもまずいよな

制限の候補としてVP2みたいに使いすぎると力が弱まっていくっと言うのも挙げてみる
(安定の力を破壊の為に利用すれば何とかかんとかの部分から)

70闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:27:40 ID:bUVETw3U
あたりの雑木林は、まるで山火事にでもあったかのように、炎の真紅に染まり、揺らめく。
全身を引き裂くような苛烈な熱を前に、ブラムスもまた構える。
近寄れば輻射熱だけで体の焦げそうな業火を前に、それでもブラムスは怯もうとしない。
「さあ――今こそ共に舞おうではないか」
大地に仁王立ちするブラムスの全身を、濃密な闇が包み始め、ミカエルの輻射熱の浸透を阻む。
火に含まれる二大要素は、言うまでもなく光と熱。
しかし闇は光を遮り、そして光のもたらす熱をも防ぎ止める。
「我と貴様――最後まで舞い切るはただ1人の――」
ブラムスのまとう闇の密度は恐るべき速度で高まり、そして臨界点を超越するまでにそう時間はかからない。
鮮血色の闇――ブラムスの闘気のボルテージが極大を迎えようとしている証が、
そのまま彼自身にまとわれ、炎の光を頑ななまでに拒絶。
炎が闇を焼き払うか。
闇が炎を呑み込むか。
選び取られる結末は、どちらかただ一つきり。
それが決まるのは、次の一合。
「おおおおおあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」
ミカエルの姿が、黄金の残像と化す。
その光景を遠目から見る者は、その様相を何に例えようか。
ブラムスは、そんな叙情的な思索に耽りたい衝動に駆られなかったわけではない。
それほどまでに、彼の炎は鮮烈で、激烈で、それでいて純粋無垢だった。
炸裂すれば自らの身を灰になるまで焼き尽くす滅びの猛火が、周囲の空間そのものすらも焼き尽くさんばかりに、
唸りを上げて周囲に轟いた。

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

71闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:28:54 ID:bUVETw3U
(よし――上手いこと挑発に乗ったか)
奥義のための『溜め』の体勢に入ったミカエルを見やり、ブラムスは自らの策が成ったことを知る。
ミカエルに対し吐いてみせた、けれん味たっぷりの口上――それらは全てが真実であり、全てが虚偽とも言える。
ブラムスは不死者でありながら、同時に拳士でもある。
不死者の持つ獣性と、拳士としての求道心が同居する彼の胸中は、
もちろん強大な敵との戦いで昂ぶりもするし、時にはその不正なる生すら賭けたいと思うほどに、
戦いという行為に飢えることもある。
しかしただ戦という行為自体を求めるだけであれば、所詮ブラムスはただ強いだけの不死者に過ぎない。
不死者の王を名乗るのであれば、求められるものはただ戦に酔うだけの獣性のみではないのだ。
あらゆる不死者をかしずかせる絶対のカリスマ、そして自らの誤りを許さない知性、
これらもまた、求められる。
そのブラムスの知性は、この目の前の敵が真に命を賭けるに値しない敵であると、彼自身に静かに告げていた。
(残念ながら、我の命ならざる命は、貴様のような痴れ者ごときにくれてやれるほど安くはない。
我は貴様のような手合いこそ、最も嫌悪するものだ)
ブラムスが最も嫌悪する存在――それは自らの弱さに絶望し不貞腐れ、
それ以降あがく事を放棄する意気地なしでもなければ、
常に他者をだまくらかし卑劣な策略に嵌めようと試みる、臆病者でもない。
自らに力があると理解しながら、その力を善事にも悪事にも用いようとせず、
ただ自らの破壊衝動の奴隷に成り下がり、けだもののようにしか振る舞えぬ愚か者である。
下級の不死者の中には、けだもののようにしか振る舞えぬ者達も決して少なくはなく、
むしろそれらの方が多数派とも言えよう。
けれども彼らが長年の戦いや偶発的な事由などにより、強大な力を持つに至ったのならば、
いつまでもけだもののごとき振る舞いを許しておくべきではないと、彼は心中で断じている。
人間にとっては、このような例えが適切だろう。
もし大の大人が赤子のように泣き叫び、自らの不満を感情的に叩き付ける事しかできなければ、
もしくは白痴のような愚劣な発言を行うことしかできなければ、周囲の人間はそれをどう評しようか?
言うまでもなく、周囲の人間は彼または彼女を蔑み、見下し、良くとも憐れむのが精々であろう。
ブラムスにとってのミカエルは、それと同じこと。
(念のため、奴にも『フレイを殺したのは貴様か?』と問おうかと、一瞬でも考えた我もまた愚劣なものよ。
それに関しては、我もまた恥じ入らねばならぬ)
ブラムスは、ゆえにミカエルに出会った時点で、彼がフレイ殺害の実行者では無いと断じた。
フレイはこの手の手合いに殺されるほどに、間抜けではない――
百歩譲って、本当にミカエルがフレイ殺害の犯人であったとしたなら、
フレイはそれだけ自身の見ぬ間に堕していたということ。
そんなフレイなど死んだところで、ブラムスの胸に哀悼の意など、雀の涙ほどにも湧いて来ない。
(では、早々に貴様は葬らせてもらうとするか。
たとえ虚言とは言え、貴様にあれほどの麗辞を送ったなど、思い出すだけでも胸が悪くなる)
ブラムスもまた、ミカエルに応じてその内なる魔力を練り上げるが、それもまた表面的なものに過ぎない。
この男の膂力は、不死者の怪力を持つ自身に匹敵し、下手をすれば凌駕する。
そしてミカエルは闇の力に耐性を持ち、対する自身はミカエルの炎を苦手とする。
先ほど「スピキュール」を「ブラッディカリス」で相殺したときは、
幸いにも炎と闇の秘めたエネルギーの絶対量がほぼ同値だったからこそ、無傷で相殺に成功したのだ。
もし何か一つでも不運な要素が起これば、「ブラッデイカリス」が押し負ける危険も十二分。
万一押し負けてミカエルの炎を直接浴びれば、ブラムスもただでは済まされない。
ならば真正面からぶち当たるなど、二度とあってはならない。それ以外に、手が残されていないときを除けば。
(貴様が『スピキュール』とやらを放つ瞬間に、我は貴様の背後を頂こう)
ブラムスが一見ミカエルを好敵手と認め、真っ向勝負を望む旨を吐露したのは、全て虚言。
その虚言でミカエルを挑発し、大技を誘ったところでミカエルの背後を取り、そこから不意打ちの一撃を見舞う。
それが、ブラムスの狙い。
仮に不意打ちに失敗したとしても、ブラムスの戦士としての勘は告げている――ミカエルの疲労具合を見れば、
おそらくあと一撃大技を撃たせれば、さしものミカエルとて疲労困憊となるだろう。
対するこちらは、可能な限り消耗を抑えた立ち回りを心がけている。
後はその残されたスタミナの差にものを言わせ、一気に畳み掛ければよい。

72闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:29:57 ID:bUVETw3U
(――が、我も念のため保険はかけておくとするか)
ブラムスは顔面を覆う仮面に、そっと手をかける。
ブラムスの仮面が外れ、その下から現れるは、遮られるものなき魔の眼光。
その眼光が、忽然と揺れる。
目の前で灼熱の炎に包まれるミカエルの姿が消えた。
その先は、上空。
「むう!?」
「炎を練ってたときに思っててんだけどよぉ……」
その強靭な肉体が可能とする、常人の数十倍の高度を稼げる超跳躍。
ミカエルは、舞った。
この急ごしらえの雑木林の、空き地の上空へ。
黄金の残像と残熱が尾を引きつつ、高空に留まる。
そこから放射される熱量は未だ衰えず――むしろ、増加する一方!
「何もてめえ相手に馬鹿正直にあたりに行かずとも、ここからパワー全開で『スピキュール』をブチかましゃあ……」
空に燃える、黄金色の熱。
ミカエルのまとう熱の密度はまさに太陽のそれを思わせるが、彼が空に昇る事で、
その姿はますます太陽に近いものとなる。
「この辺り一体、マグマの海に変える事くれえできなくはねえんだよなあ。つまり――」
ミカエルの直下の大地が、突如として巻き起こった焼け付く暴風に破砕される。
ミカエルから放射される熱が空気を異常加熱し、それが結果として風すらも呼ぶ。
にわかに巻き起こる火炎旋風――すなわち、山火事や震災後の広域火災の熱が巻き起こす、火炎そのものを含んだ竜巻。
破砕と同時に融解を起こす地面が、ミカエルの壮烈なまでの大破壊を彩る。
「てめえもそれ以外の3人もまとめていっぺんに焼け死ぬから、手間が省けて好都合ってもんよォ!!!」
ミカエルの肉体の一点を焦点とし、黄金の輝きが殺到。
言うまでもなく、その向かう先は彼自身の右手。
「ところで変態仮面野郎……太陽はどうしてあちぃか、知ってるか? その答えは簡単だ」
金色の光が、更なる臨界点を突破。
その結果が白色光――完全なる白色光。
量子力学の説くところの、温度無限大の黒体にのみ放射することを許される、超熱光に他ならない。
「太陽はその中心にそのパワーを集中させてっから、あれだけあちぃんだぜ!!
今のこの、俺様の右手みてぇになぁ!!!」
ミカエルの右手が、真っ白に燃える。
さながら光ですらもその内に呑み込むブラックホールのように、ミカエル自身を取り囲む熱を、光を、
余さず吸い上げ回収し、そこに自らが喚起した全ての熱エネルギーを凝縮する。
地上に生み出された小さな恒星――それが、ミカエルの今の右手の状態を形容するに、最もふさわしい言葉。
ミカエルの周囲から、全ての熱が消え去った。
それが意味するところは、災厄の回避ではない。
むしろ、災厄の前兆、嵐の前の静けさ。
「食らいな……この中心温度無限大の……最強最高温の『スピキュール』を!!!」
「それは御免被ろう!」
今の言葉の持ち主は、ブラムスではない。
ミカエルの足元の空間が、突如として歪む。
そこに穿たれるのは、極少のワームホール。
ミカエルがワームホールの出現を悟った瞬間に、そのワームホールは細長い何かを鋭く射出していた。
その正体は、ただ一筋の縄。
ワームホールを経由して伸びた縄が、自らの身をうねらせる。
狙うは、ミカエルの左足首。
「何だとぉッ!!?」
ミカエルの左足首は、そのまま縄に食いつかれた。
食いついた勢いそのままに、ミカエルの足首に絡みつく縄。
そしてミカエルは今空中に跳躍している――本来飛行できない彼が空中でこれを受けることが、
何を意味しているかは余りに明白。
「まさか……この技は!?」
「ようやく気付いたようだな。だが、時すでに遅し、と言わせてもらおうか」
絡みついた縄が、そのままワームホールの向こう側に帰還しようとする。
無論この程度の勢いならば、いくらでも縄の張力には対抗できるし、引き千切っても焼き払ってもいい。
だが、ここは空中。
そして、焼き払うための熱は全て、右手に集中。
すなわち、この縄の張力に対抗する手段は、この瞬間のミカエルには存在しない。
「『ディメンジョンウィップ』!!」
絡みついた縄がびん、と音を立て、ミカエルの体を宙で泳がせる。
ミカエルは焼け残った雑木林の影に佇む男を睨みながらも、たまらずに体勢を崩していた。
彼の瞳に焼きついていた人物、それは言うまでもなく金髪のテトラジェネスの男だった。

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

73闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:30:59 ID:bUVETw3U
「お前がスピキュールを繰り出す瞬間、待っていたぞ」
自身の目前に穿たれたワームホールには目もくれずに、
エルネストは空中で縄に左足首を絡め取られたミカエルを不敵に睨む。
厳密に言えば、待っていたのはミカエルが「スピキュール」を放つ瞬間ではなく、
彼の周囲をまとう炎のオーラが消え去る瞬間であったが、特に「スピキュール」を放つ瞬間の隙は最高。
「お前の放つ『スピキュール』は体術の範疇に入るだろうが、
炎を右手に集約させる瞬間の隙は、どちらかと言えばその性質は紋章術の呪紋詠唱に近い。
よって一度妨害されれば、また溜めを最初からやり直さねばならないはずだ」
独り言のように言うエルネスト。
空に飛び上がったまま体勢を崩したミカエルは、何やら怒り狂ったような声を上げてはいるが、
エルネストはその内容を聞き流していた。
ふつ、と「ディメンジョンウィップ」で上空に放った縄の手応えが、ワームホールの向こうで途切れる。
ミカエルが上空で再度全身高温のオーラをまとわせ、縄を発火点まで加熱させて焼き切る様子が、
テトラジェネスの視力には鮮明に映る。
(さて、これでお前はあのブラムスなる男に数秒の時間を与える羽目になったが、どうなるかな?)
先端が無残に焼け焦げた縄が、ワームホールの向こう側から戻り、追ってワームホール自体も消滅。
「ディメンジョンウウィップ」――闘気で空間を歪め、ごく小規模のワームホールを形成し、
その向こうにいる敵をワームホール越しに鞭で打ち据える、エルネストの遠隔攻撃技である。
この技自体は、エルネストの技の中でも初級のものに入るが、この局面では他のどの技よりも有効なもの。
むしろ、エルネストがこの技を心得ていたからこそ、こんな奇襲が成立し、また成功したのだ。
エルネストは、フェイトに事前に自らの得意技を告げておいたことを、静かに正解だったと自己評価する。
(なかなかどうして、フェイトも随分と目端が利くようだな)
現在のところ、ロキは雑木林の空き地の向こう側で半無力化され、
ブラムスは雑木林の空き地でミカエルと格闘戦を行っている。
ならば、紋章術ほどの射程はないが、ピンポイント攻撃の可能なエルネストがミカエルを叩き、
紋章術の射程がなければ攻撃できないロキを、紋章術と召喚術を使えるフェイトとクラースが叩く。
それが、フェイトの提案した作戦内容。
エルネストが視線を移せば、作戦を提案した張本人であるフェイトはしゃがみ込んだまま、
左手で右手首を支え、紋章術の発動にかかろうとしている。
エルネストが「ディメンジョンウィップ」を放つ直前、一瞬限り指で示したその方向に、
右手手の平が向いている。
その手の平いっぱいに、青白い電光がスパークを起こし始めていた。
(紋章術はソフィアほど得意じゃないけれど――)
フェイトの遺伝子そのものに刻まれた、紋章の力が全身を駆け巡る。
彼自身の精神力が生体電流を捕まえ、整流し、同時に大気を引き裂くに足るほどの高電圧にまで、
そのボルテージを増幅させる。
(――即興のアレンジ、うまくいってくれよ!)
「ライトニングブラストッ!!」
フェイトの右手から、紫電が迸り駆け巡る。

74闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:32:17 ID:bUVETw3U
フェイトの放った雷は、秒速30万kmに迫らんばかりの超高速で雑木林跡の空き地を駆け抜ける。
そして雷が空き地の中間地点ほどに差し掛かった瞬間。
「広がれっ!!」
フェイトの命じた通りに、先ほどまでたった一筋しか流れていなかった雷が、数十にも分裂する。
まるで貴人の手により広げられ、その中の艶やかな絵画を披露する日本(ジャパン)の民芸品、扇子のように。
ブラムスとミカエルの乱戦区域を大きく外して撃ったため、拡散しても稲光は彼ら二者を襲うようなことはない。
辺りは瞬間的にカメラのフラッシュが焚かれたように白光で染め上げられ、たちまちに光度を増す。
人間の視力でも、空き地越しにロキの姿を視認できるレベルにまで。
これこそが、フェイトの用意した光源の正体。
ロキがその身を埋めている雑木林は樹木が乱立しているせいで、一つや二つ光源を用意したところで、
その全てを照らし出すことはできない。それだけではできる影も多過ぎて、暗闇という死角を無くしきる事はできない。
だが、光を数十もの角度から当てることができれば、その死角の数は十二分に減らすことはできよう。
フェイトは紋章術「ライトニングブラスト」をロキの沈んだ雑木林の辺りに撃ち込み、
その手前で稲妻を数十に分裂させることで、稲妻そのものを複数の角度から一気に雑木林内部を照らすための、
光源として用いたのだ。
この手法ならば、例え暗闇越しにでもロキの姿をおぼろげながら確認できるほどの、
テトラジェネス級の視力は要らない。
エルネストにある程度の方角さえ指示してもらえれば、その方角に「ライトニングブラスト」を撃ち込み、
手前で拡散させるだけでフェイトの役割は果たされる。
光源であるフェイトの「ライトニングブラスト」の方に、そこまで高い精度は要求されないためである。
仮にロキへ「ライトニングブラスト」が命中したのならば、それはそれで自身らにとっては望外の僥倖。
そして本命は、「ライトニングブラスト」の稲光でロキの姿を確認した、クラースの方にある。
詠唱待機を行っているクラースがロキの姿を視認した瞬間、彼には最期の瞬間が訪れる。
そのロキに向け、クラースの召喚術「オリジン」が――。
「!!!」
フェイトは、その光景に目を瞠った。
「ライトニングブラスト」に照らし出された雑木林の奥に、彼が見た光景とは――

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

75闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:32:54 ID:bUVETw3U
(ほう、これはこれは)
仮面を右手に握り締め、その握り締めた右手を顎の辺りでわだかまらせていたブラムスは、
仮面の影からその様子を伺っていた。
ミカエルの足元に正体不明の縄が伸び、それがミカエルの動きを縛め、
ひいては「スピキュール」の溜めを無効化した、その様子を。
顔面から外された仮面は、早々に彼の懐へと消える。
一方で彼の両足は、即座に地面を強打していた。
この雑木林跡の空き地一体を支配する圧倒的な熱気を切り裂いて、ブラムスは飛鳥のように舞い上がる。
(陳腐な言い回しではあるが、言わせて頂こうか――)
「その隙、貰い受ける」
仮面を外され、素顔を夜風に晒すブラムスが跳躍した先は、もちろんのこと空中で姿勢を崩したミカエルのもと。
一体ミカエルの身に何が起こったのか、完全に把握はできないが、今この瞬間で重要なのは、
ミカエルが絶好の隙を見せてくれたということ。
ブラムスの背から、黒色の霧が立ち上る。
東の空にかかる月を、背に負う形でミカエルに飛びかかるブラムスの姿は、さながら巨大な黒翼を広げた蝙蝠。
更に言えば、背より蝙蝠の翼を広げ、闇夜を飛ぶ暗黒の王、ヴァンパイアの姿そのもの。
ブラムスはその身を不死者にやつして以来、長年の修業と研鑽を経た結果、
残念ながら本物の翼は失われ、また魔力による飛行すらも不可能となった。
それ以外にもヴァンパイアとしての力のいくつかは失われたが、それで得たものもまた大きい。
ヴァンパイアが持つ弱点のうちの一つ、ニンニクも彼には効かない。
雨や川などの流れ水に行動を阻まれることもない。
むしろ今では、流れ水よりも炎の方が彼に深刻な打撃を与えるくらいである。
聖印や聖水なども、真なる霊力のこもったものでなければ、恐怖など微塵も感じない。
そして不死者の最大の弱点である直射日光すら、今のブラムスは不完全ながらも克服している。
これらの弱点を克服することができたのであれば、翼を奪われたくらい嘆くには値しない。
今のブラムスの背を飾る黒霧の翼は、ゆえに正しくは翼ではない。
霧に転じつつある、彼の肉体そのもの。
体勢を崩したミカエルに肉薄する瞬間、ブラムスの全身は再度黒い霧に姿を変えた。
ミカエルと空中で正面衝突することなく、霧と化した彼の体はミカエルの背後へと回る。
『影討ち(ダーク)』を用いた彼の体は、ちょうど空中でミカエルの背を取る形で、再度実体化。
やはり首輪は外れないが、無防備な彼の背中を取ることができたのは、今は何物にも変えがたい好機。
ブラムスは右手を振りかざし、その五本の指を互いにぴたりと寄り添わせる。
繰り出すは、貫き手。
このまま右手をミカエルの背の左側に突き込み、肋骨の隙間から心臓に肉薄し、突き破る。
(貴様が『セーブツヘーキ』なる人外の存在とは言え、どうやら体内に血も流れているようだな。
ならば、心臓を貫けばいかな貴様でもひとたまりもあるまい!)
もはやこれが、本当に素手から繰り出される攻撃であるのかを疑いたくなるほどに鋭利な一撃が、ミカエルの背を強襲。
決まれば、この戦いの趨勢は完全に決していただろう。
ブラムスの右手手首が、後ろ手に回されたミカエルの右手に捻り上げられていなかったならば。
「むうっ!!?」
下手をすれば岩石すら握り潰しかねない握力が、ブラムスの貫き手を食い止める。

76闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:33:41 ID:bUVETw3U
「甘っちょれぇんだよ、変態仮面野郎――」
続き、ブラムスの左手手首すら、ミカエルの左手に掴み上げられる。
空中で全身を海老反りの状態にしたミカエルは、その両足で蟹挟みを繰り出し、ブラムスの両足をロック。
結果として、ミカエルはブラムスを背負った体勢で、彼に空中十文字固めをかけた形となる。
ミカエルの周囲の気温が、再度急激に上昇。
「この十賢者である俺様が、二度も同じ手を食うと思ったのかよォ!!?」
ミカエルの「スピキュール」は、エルネストの「ディメンジョンウィップ」で妨害され、結局発動することはなかった。
だが逆を言えば、ミカエルは再度、全身に炎のオーラをまとい直すことを許されたことになる。
たちまちのうちに、ブラムスの着る袈裟の裾が煙を上げ始めた。発火点に達するまでは、もう僅かの時間も無い。
「このまま俺様の炎を、零距離で浴びてもらうぜぇ! てめえもつくづく飛んで火に入る夏の――がぎえぇっ!!!」
ミカエルの言葉尻が、汚らしい悲鳴に潰れた。
ミカエルの首筋を、二つの激痛が走り抜ける。
途端、ミカエルの目の焦点が、どこにも定まらなくなった。
彼の全身が、まるで力という力が流れ出してしまったかのように弛緩する。
ミカエルの全身をまとっていた陽炎すら、夜空に散逸。
見れば、ミカエルは顔面蒼白――血の気が、完全に引いてしまっている。
せっかくブラムスにかけた空中十文字固めも、呆気なく解けてしまった。
「貴様にとっては残念やも分からぬが――」
ミカエルの背から解放されたブラムスは、離れざまにミカエルの背後から裏拳を見舞う。
その口元を、ミカエルの血で赤く染めながら。
その血でも赤く染まることのない、白い牙を剥き出しにしながら。
「――我とて貴様が同じ手を二度食うことなど、最初から期待していない」
ブラムスの裏拳が、ミカエルのこめかみを背後から強打。
空中で頭部に横方向の運動エネルギーを加えられたミカエルの体は、たちまち逆さまになる。
すなわち、足を天に、頭を地に向ける形に。
今度は、ブラムスがミカエルの体をロックする番。
ミカエルがブラムスに蟹挟みをかけたのと同様にして、ブラムスがミカエルに蟹挟みをかけ返す。
ブラムスの足が、ミカエルの両腕を挟み込み、彼が受け身を取ることを禁じる。
一方のブラムスの腕はミカエルの両足首辺りを掴み上げ、足の動きすらも封じ込める。
「――ところで、知っているかミカエルとやら?」
それが終われば、自由落下が始まる。
翼を持つ者、魔術により大地のいましめから解放された者を除けば、万物に等しく運命付けられた現象が。
「蝋燭の火というものは、その芯を押さえてやれば存外にたやすく消えるものなのだ」
空中に舞った二者に、大地が恐ろしいまでの勢いで迫ってくる。
ブラムス自身の攻撃は、闇の力に耐性を持つミカエルには効きにくい。
ならば、自身の肉体ではなく大地そのものを武器とすればよい。
そう判断したブラムスが、ミカエルへの引導に選び取った技はパイルドライバー。
相手を空中で逆さまの体勢でホールドしたまま、相手を脳天から地面に叩き落とし、
その頭部に2人分の全体重を炸裂させる、超人的大技である。
パイルドライバーは完全な形で決まれば、相手の両手両足の動きを完全に封じ、
必然的に受け身を取ることすらも許されなくなる。
その状態でミカエル自身とブラムスの2人分の全体重に、ブラムス自身の膂力までも加われば、何が起こるかは明白。
「例えるなら、今の貴様のようにしてな」

77闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:34:13 ID:bUVETw3U
大地が、ミカエルの脳天と激突した。
巻き起こる地響き。吹き上がる土煙。
ブラムスがミカエルにかけたパイルドライバーが見事に決まった、その証拠。
地面にクレーターを穿つほどの勢いで叩き付けられたミカエルの頭部から、鈍い音。
ブラムスは両手両足越しに、その音を静かに聞いていた。
(殺(と)った――いや、まだか)
ブラムスはミカエルの頭蓋骨が複雑骨折を起こしたことを、その手の内に残る感触で知りながら、
一旦はミカエルの懐より離脱。
万一彼が再度立ち上がってきたとしても、すぐさま格闘に応じられるよう、利き手を引き逆の手を前に出す。
ブラムスがミカエルから離れ、そして数瞬たった後に、舞う一陣の夜風。
土煙の中から、彼の姿は現れる。
ブラムスが作り上げたクレーターの中心部で、ミカエルは逆立ちしていた。
もし頭部が完全に地面に埋まった状態のまま、全身が天を向いた格好のまま硬直している状態を、
「逆立ち」と表現するのが正しければ、の話ではあるが。
ブラムスは再度、懐から取り出した仏像の仮面で、その赤く濡れた顔を覆う。
それにしても、この男の血は今まで味わったことの無い、奇妙な味だった、
とブラムスが口内に残る血液の後味を心の中で評した時、ミカエルの体は地面へとくずおれた。
その拍子に、地面に埋まっていたミカエルの首から上が、掘り返される形となる。
さすがはネーデ史上最強最悪の生物兵器、十賢者と言ったところか。
首から上も辛うじてではあるが、原形を留めてはいた。
彼の髪には自身の血で染まり、目に痛いまでの赤と化してはいたが。
「て……めえ……ッ……!」
「ふむ――頭蓋が砕け、脳が挫傷してもなお息があるとはな」
怨嗟の声を吐くミカエルの元に、ブラムスは首の骨を鳴らせながら、静かに近寄る。
うつ伏せになった状態で、辛うじて首をかしげ、ブラムスを視界に収めることに成功したミカエル。
かすみつつある彼の視界に映っているものは、あちこちが焼け焦げた袈裟をまとった、一体の悪魔だった。
悪魔はその両目に、血のように赤い眼光を燃やしながら、彼を静かに睥睨する。
その目にこもっている感情は、すでに敵への憎悪でも怒りでもない。
かといって、死に絶えつつある獲物を弄ばんとする、悪辣な嗜虐心でもない。
そこには、本当に何の感情もこもってはいなかった。
人間は道を歩く時、蟻一匹を踏み潰したところでほとんどの者は何の情感も覚えまい。
今のこの男も、それと同じこと。
もはやミカエルを、どうとも思ってはいない。
ミカエルに止めを刺すことなど、せいぜい消し損ねた熾火を踏みつけ、
完全に火を消そうとする程度にしか考えていない。
ブラムスの右足が、そっと持ち上がった。
「なればこそ、念のため止めは刺しておくとするか」
それが終わったなら、右足が振り下ろされる。
頭蓋が砕けた、ミカエルの頭部へと。
「下手に貴様のような痴れ者に食い下がられると、のちのち面倒が起こり兼ねんのでな」
ブラムスの右足は、ミカエルの首っ玉に叩き落された。
ブラムスの足の下で、ぐしゃりという湿った音が響いた。
ミカエルの頭部は、とうとう完全に原形を失った。

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

78闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:35:27 ID:bUVETw3U
「……というわけでようやく一段落着いたので紹介する。
彼はヅラムス……じゃなくてブラムス。私がさっき逃げ出したとき、近場で偶然捕まえた助っ人だ」
残された雑木林の空き地の一角に、一同は集っていた。
ミカエルが残した多くのマグマの池はすでに冷えて固まり、飴状に融解したまま再凝固した、
不気味な傷跡が多く残る。
すでにこの一帯を焦がした熱量は主共々に死に絶え、周囲は夜の暗さと、わずかばかりの肌寒さを取り戻していた。
その中で再度小さな焚き火を囲み、一同は車座を組んでいたのだ。
クラースの紹介を受けたブラムスは、会釈も何もせずに、ひどく無愛想な様子で残る二者に名乗る。
「我はブラムス――ゆえあってこの辺りを偵察していたところ、
このクラースなる男に出会い、この喫緊の事態を知ってやって来た」
ブラムスの名乗りに応じるようにして、残る二者もまた自ら自己紹介を行う。
「フェイト・ラインゴッドです。よろしくお願いします」
「エルネスト・レヴィード。考古学を学んでいる。
ところでブラムスとやら、申し訳ないがあんたに早速質問がある」
「ほう? 何だ?」
エルネストは三つの目を同時にブラムスに向け――そして思い出したように彼の顔から視線を反らす。
それが原因か、彼の言葉の切れはいつにもなく悪い。
「その……つまり……単刀直入に聞こう。あんたはどうやら、ヴァンパイアか?」
「……ヴァンパイア?」
エルネストが突如として繰り出した言葉に、フェイトは怪訝な様子で疑問符を放つ。
エルネストは一つ頷き、今度はフェイトの方に視線を向けて語り出す。
「ああ、ヴァンパイア……すなわち、お前の故郷である地球の東欧(イースタン・ユーロップ)を発祥とする、
空想上の生き物だ。
確か元来は東欧(イースタン・ユーロップ)の民話に出てくる、ゾンビやその手の類の仲間だったのが、
地球暦で言うところの西暦1400年代、ルーマニアを統治していたヴラド三世の、
『串刺し公』の逸話と融合して生まれたものだった、と地球の民俗学の本に記述されていた気がするな。
ちなみにこのヴラド三世は自らのことを『ヴラド・ドラキュラ』と名乗ったとされるが、
彼をモチーフにして作られた地球の文学作品が『吸血鬼ドラキュラ』……
同じく地球暦の19世紀末期に、イングランドの小説家ブラム・ストーカーが著した怪奇小説だ」
エルネストはこともなげに、それだけの知識を披露。
フェイトはそれに、思わず目を剥く事を禁じえない。
「地球人の僕よりも詳しいんですね……エルネストさん」
「まあな。俺は自分の向かった惑星の、知的生命体に伝わるこの手の伝承は一通りチェックしておく主義でね。
これがその惑星の古代文明について考察する際、役立つこともままあるからな」
「それで、エルネストさんは何故、ブラムスさんがそのヴァンパイアだと思ったんですか?」
首をかしげるフェイトに対し、エルネストは「それはな」、と短く発言。
再度ブラムスの顔に目を向けようとして――結局直視することは諦めた。
「ブラムスが見せてくれた能力、そしてミカエルを空中で無力化した、とある攻撃が論拠だ」
エルネストは右手の親指のみを立て、彼らの車座の外側にある、それを指し示す。
「幸いミカエルの死体は首から下が原形を留めている。
何なら後でミカエルの首筋を見てみろ。
小さいながらもミカエルの頚動脈にまで達している、深い刺し傷が二つ残っているはずだ」
「……それは遠慮しておきます」
心底からの嫌悪感を露に、フェイトはぞっとしない思いでエルネストの提案を断った。

79闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:36:43 ID:bUVETw3U
確かにミカエルの死体の首から下は原形を留めてこそいるが、
首から上はブラムスの手により……もとい、足により踏み砕かれている。
フェイトとてその得物で多くのモンスターや、時には地球人をも含む知的種族を斬っては来たものの、
さすがにそんな惨殺死体を好きこのんで眺めたいと思うほどに、その精神は歪んでいない。
無論エルネストとて、その提案はあくまで冗談半分で行ったものだ、と軽く笑い飛ばすことも忘れはしないが。
「あの時フェイトはロキの方に注意が行っていたから、見逃していたかも知れないが、
実はこのブラムスという男は、俺の『ディメンジョンウィップ』でミカエルを怯ませたとき、
空中でミカエルの背後を取り、そこから不意打ちをかけようとしていた。
もちろんミカエルもただやられるままではなく、背中越しにブラムスの体を捕まえ、
自身からのゼロ距離熱放射でブラムスをこんがり焼くつもりだったんだろうが、
そこでブラムスは何と、ミカエルの首筋に噛み付いて、そこからミカエルの血を吸っていたのさ」
ブラムスはエルネストの説明を聞き届け、軽くその首を縦に振りエルネストを肯定する。
「実を言えばあの時、あのミカエルとやらが我の体を掴み取ってくれたのは、むしろ幸いであった。
奴が我の体を掴み、密着間合いまで引き寄せたことで、自然と我の口元は奴の首筋に持っていかれ、
更に我の牙に対する防御を自ら放棄した形になる。
我が奴の首筋に噛み付くための膳立てを整えたのは、皮肉にも奴自身というわけだ。
念のため奴の懐に飛び込む前に、この仮面を外しておいたのは正解であった」
ブラムスが言葉を放ち終えれば、会話の主導権は再度エルネストのものとなる。
「奴ら十賢者は、いかにネーデ史上最強の生物兵器とは言え、
生物をベースにして出来ている以上、生物にかけられた制約には逆らえない。
大量出血を起こせば失血死だってするし、そこまで行かずとも貧血になることは十分ありえる。
ましてやブラムスがさっき狙ったのは頚動脈――脳に直結する血管だ。
そんなものを破られて大出血を起こした挙句に、さらに血液まで吸い取られれば、
いかな十賢者ですらイチコロで意識を失わざるを得ない、というわけだな」
「そもそも常人ならば、我が首筋から吸血を行った時点で、頭から上に流れている血を全て失い、死に至るがな。
それなのに奴は我が吸血を行った上で、脳天から地面に叩き落としてすら、まだ辛うじて生きていた。
つくづく、出鱈目なまでの生への執着心よ」
ブラムスはひどく不満そうな、つまらなそうな、そんな憮然とした様子で首を一つだけこきりと鳴らせた。
一方のエルネストの言葉は、次をもって結論へと向かう。
「それ以前にも、ブラムスは自身の体を黒い霧に変えて、
霧になった体をミカエルの背後で再度実体化させた上で、不意打ちを行うという真似までやってくれている。
自らの体を霧に変えたり、二本の牙で吸血を行ったり、その手の能力は地球の伝承にあった、
ヴァンパイアと実に酷似していてね――それが、俺がブラムスをヴァンパイアではないかと推察した論拠だ」
「なるほど、分かりました」
疑問が氷解し、ようやくのことで腑に落ちたフェイト。
エルネストの持論については、ブラムス自身から若干の訂正が成されたのだが。
「厳密に言うなれば、我は不死者王(ノーライフキング)……不死者の王たるヴァンパイアの、そのまた王君ぞ。
――ひとたび玉座を離れしまっては、我の威光も伝わらぬやも分からぬがな」
(((伝わらねー理由はそこじゃねーし!!!)))
ブラムスのその発言を受け、奇しくも残る3人の心の叫びはぴたりと一致していた。
ここで改めて読者諸氏に問わねばなるまい――今のブラムスについて。
今のブラムスの姿は、あちこちが焼け焦げた袈裟を着込み、その顔面は仏像の仮面がへばりついている。
極めつけはその頭部に装着された、頭髪が絶滅危惧種扱いの文字通り不毛の荒野と化した頭皮をあしらった、
セミパーフェクトハゲのカツラ。
ミカエルの巻き起こす紅蓮の嵐を潜り抜けても、不自然なまでに焦げ跡が残らないそのヅラは、
光とついでに熱の反射率まで100%なのかと思わず疑いたくなる。
とにかくそんな姿の人間――歯に衣着せずに言えば、「一見気の触れた」人間しか見えない今のブラムスの姿は、
偉大なる不死者の王と自称されて納得する者はいなくとも、
寺の住職の変装をした上で、寺に今しがた火事場泥棒を敢行してきたこそ泥と言われれば納得できてしまえる
人間の方が多数派としか思えない、実にファンキーなスタイルと言わざるを得まい。
これこそが、今の今までこの場の3人が、ブラムスの姿を直視できずにいたその理由。

80闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:37:22 ID:bUVETw3U
ブラムスの発言を最後に、実に気まずい空気が沈留。
それをブラムス自身が感じ取ったのか、はたまた気付くことなく我が道を行った結果そうなったのか、
次なる発言者もまた、ブラムス。
「ところで次は我が問おう。果たしてロキはどうなったのだ?」
ブラムスが視線を滑らせた先にたまたまいた人物は、クラースその人。
クラースは慌てて視線を反らそうかとも一瞬考えたが、すでにブラムスにガン睨みされているこの状況では、
それも色々な意味で不可能と悟り、観念したように口を開く。
「……それは……その……どうやら逃げられたらしい……」
「……逃げられた、とな?」
「はい。僕が『ライトニングブラスト』で視界を確保した時点では、すでに向こうの雑木林から姿が消えていたんです」
奥歯に物が挟まったような物言いのクラースに代わり、質問を補完したのはフェイト。
フェイトはブラムスに、彼がミカエルと戦っている間に即席で組み立てた作戦の内容を、静かに説明。
ミカエルとの戦いと同時進行で何が起こっていたのか、それもまたブラムスの知るところとなる。
「……というわけなんです。
おそらく、ミカエルが『スピキュール』を空中から発射して、この辺り一帯を焼き払うと宣言したとき、
ロキは逃げ出すことを決定して即座に逃げ出したみたいですね」
「なるほど……そのタイミングなら、ちょうど俺の注意はミカエルの方に向いていたし、無理の無い推測だ。
俺が目を離したタイミングとロキの逃走のタイミングが上手いこと一致したから、
ロキは結果的に逃走の瞬間を目撃されずに済んだ、ということか」
フェイトの説明に納得するエルネスト。そこに、一度は口ごもったクラースの言葉が蘇る。
「フェイトが『ライトニングブラスト』でロキのいた雑木林を照らしてくれた時、
そこにはもう奴の姿はなかった。結局私の用意した『オリジン』は無駄になってしまった形というわけだ」
丸太のように太い両腕を、がっぷりと胸の前で組んだブラムスも、クラースに続く。
「ふむ……確かにあの状況では、ロキにとっての最善手は逃げ出すことだった、と考えられなくはあるまい。
奴は『スピキュール』を本気で撃てば、この辺り一帯を火山の火口のようにできると言っていたが、
あながちそれも虚言ではなかっただろう――奴の『スピキュール』を真正面から受けた我だからこそ、
それが身に染みて分かる。
もしミカエルの手により、我ら4人が消し炭になればもっけの幸いと思い、逃げを打ったのかも知れぬな」
ブラムスは赤い眼光に満ちた両目を、ふとあらぬ方へと向ける。
ついしばらく前、自身がロキを叩きのめし倒れ伏さしめた辺りの、雑木林の一角を。
「――追ってあいつにも止めを刺すのか、ブラムス?」
「もし奴の確たる消息を掴めるのなら、追撃をかけるにやぶさかではない。
だがあれほどに叩きのめしてやったのであれば、奴が治癒の魔術を使えることを感情に入れても、
どの道しばらくはまともに動けまい。
今はそれより、我はお前達3人を鎌石村まで護送することの方が、重要な事項だと判断する。
あわよくば、この殺し合いに乗っている他者により止めを刺されるか、そのまま野垂れ死ぬ事を期待しよう」
けしかけるように聞いたエルネストに、ブラムスはその意を持たぬことを告げる。
「それに、我にはお前達を相手に話さねばならぬことも聞かねばならぬことも、山積みとなっている。
我もおおよそこの島で何が起こっているのか、その全容はある程度は把握できた。
こんな下らぬ茶番にいつまでも付き合ってはいられぬ以上、この茶番を終わらせるためにも、
迅速かつ正確に動かねばならぬ。
その為にも我はお前達3人を相手に暫定的な同盟を結び、我の他の仲間が来る鎌石村に、お前達を招きたいのだ」
「――なるほど。ヴァンパイアの王様が、俺達に随分と優しいことだな」
ともすれば皮肉に聞こえかねないエルネストの発言。
それを聞いたフェイトとクラースは、思わずぎょっとなる。

81闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:37:59 ID:bUVETw3U
「お、おいエルネスト、そういう言い方は……!」
「そうですよ、それじゃあまるで――」
「もちろん我のこの申し出が、お前達を嵌めるための罠だと疑うのならば、我も決して強要はせんがな」
ブラムスはその言葉を置き捨てるように言い、そっと踵を返す。
ブラムスが先ほど向かってきた方角となる、沖木島の北の空へと。
おりしも月の位置は、そろそろブラムスの背に移ろうかという時間帯。
「勘違いされると困るので予め言っておこう。
我がこうしてお前達と同盟を申し出たのは、あくまで我が我が居城に帰らんとするがため。
今のところ、仲間を募り共に方策を練るのが、それを成し遂げる最良の行動と判断しているからに過ぎぬ。
もし状況が変化し、この島に最後まで立ち続ける道を選ぶ方が、我が城への帰還に近いとならば――」
ブラムスは静かに、その足を踏み出す。
向かうは、沖木島の北部――鎌石村。
「――我はお前達を手にかけることすら、何のためらいも抱かぬつもりよ」
ブラムスの足元から、僅かに起こる土煙。
ミカエルが見境なく熱量を撒き散らしたその結果か、土はひどく乾ききっていた。
その土と同じくらいに乾いた、小さな笑い声。
テトラジェネスの、男のもの。
「なるほどな、その言葉を聞いて安心した」
静かに笑む、エルネスト。彼の肩にかかる金髪が、かすかに揺れる。
一方で彼の発言を聞いたフェイトとクラースは、更にその目をぎょっと見開くことになる。
「おいエルネスト――それじゃあまるで……!」
「逆に考えろ。ブラムスは俺達に、事前に自らの裏切るタイミングを告げてくれたんだ。
最初から俺達を利用するつもりで近寄ってくる人間は、ふつうそんなご丁寧な真似はしないだろう。
自身の意図を、相手に隠すことなく全て告げるというのは、馬鹿正直ではあるが最も誠実な取り引きの態度だ。
奴はああも『誠実な』態度で、俺達に取り引きを持ちかけてきた。
奴が信用のできる相手であることは、まず間違いあるまい。違うか?」
「……そうかも、知れないですけど」
それでも、フェイトの弁舌の切れは、悪い。
「ひとまず、この足で鎌石村まで向かうとするぞ。
我も先ほど鎌石村はざっと概観してきたが、あそこには身を潜めるにちょうどいい家屋はたくさんある。
今から向かえば、おそらくその道中で例の放送の時間に差し掛かるだろうが、
一旦村に着きさえすれば、体を休める時間も施設もあろう。
お前達人間は、夜間のうちは休息せねば体も保つまい……そうだろう?」
歩み出したブラムスを眺めながら、エルネストは熾した小さな焚き火に傍らの土をすくい、乗せる。
その上から軽く土を踏みしめ、完全な消火が行われたことを、手の平で温度を感じ取り再度確認。
その手つきは、すでに冒険というものに慣れ切ってしまった、アウトドア派の学者にふさわしい、鮮やかなもの。
クラースは一つ肩を竦め、「よっこらしょ」という妙に若さの感じられないかけ声と共にその場を立つ。
彼の手足に着けられた鳴子が、思い出したようにからころと鳴った。
「とりあえず現状の把握が出来なのなら、双方の情報の交換は移動しながら行えば問題はあるまい。
ところで、フェイトと言ったか」
「……何でしょうか?」
一応命の恩人とは言え、自身の態度が固いままであることを無意識のうちに感じながらも、
フェイトはブラムスの呼びかけに応えた。
ブラムスはいつの間にか、懐から一枚の白い紙を取り出し、背中越しにフェイトへと告げる。
「先ほどから出す時機を伺っていたのだが、我はお前宛てに一通の手紙を預かっていた。それを渡さねばなるまい」
「……一体、誰からのです?」
「ソフィア・エスティードなる少女からだ」
それを聴いた瞬間、フェイトの目の色が変わる。
傍らに置いておいた装備一式を無造作に引っつかみ、そのまま重たげだった腰を持ち上げ、
ブラムスの元へと駆け寄る。
「そうならそうと早く行って下さい! ソフィアはまだ生きてるんですよね!?」
「我が最後に確認できた時点では、の話だがな」
フェイトはブラムスの元にまで走ったなら、彼の手にあった手紙をほとんどひったくるような勢いで受け取る。
その様子を見る三眼の考古学者と、鳴子と刺青の召喚師は意味深な笑み。
「フェイトも、まだまだ子供ということか」
「どうやらソフィアなる子は、フェイトのステディのようだな」
いかがわしい記事の載ったタブロイド紙を開き、そこに掲載された有名人のゴシップを楽しむような、
少しばかり下賎な気持ちが2人の中に湧き、仲良く生暖かいニヤニヤ笑いを浮かべる。
一方のフェイトは、そんな大人2人の視線に気付くことなく、彼の仲間からの便りを手に取り、読み始めていた。

82闇の王と炎の王、激突のこと ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:38:30 ID:bUVETw3U
【D−2/夜中】
【クラース・F・レスター】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、自転車@現実世界、デッキブラシ@TOP、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]


【ブラムス】[MP残量:70%]
[状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中。
全身に軽度の火傷(ミカエルに吸血を行ったため、じわじわ回復中)]
[装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SO、
袈裟@沖木島(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2
荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島]
[行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)]
[思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:鎌石村に向かいながら、3人と情報交換]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]
[備考:ブラムスのヴァンパイアの能力については、
「原作のゲームシステムで再現可能な能力のみ使用可能」というガイドラインを提案します。
今回は肉体を霧に変化させる能力をスキル「ダーク」で、
吸血によるDMEの回復は>>242の武器特性で再現しました。
なお原作のゲームシステムで再現可能なスキルなどは存在しないので、
吸血による目標の下僕化は不可能とします]



【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:75%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)]
[装備:鉄パイプ-R1@SO3]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP?、ソフィアのメモ、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考3:ソフィアのメモを読みたい!]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]
[備考:ロキに武装解除された鉄パイプ-R1@SO3を取り戻しました]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:95%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2]
[道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:ブラムスを取り引き相手として信用]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]
[備考1:ロキに武装解除されたシウススペシャル@SO1を取り戻しました]
[備考2:ミカエルの死体からダークウィップ@SO2、ウッドシールド@SO2、
魔杖サターンアイズを回収しました]

【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
顔面が作画崩壊 顎関節脱臼 再起不能(リタイア)寸前 神生終了のお知らせ 現在逃走中?]
[装備:グーングニル3@TOP]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、
首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:レナス、ブラムスの捜索]
[思考2:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考3:首輪を外す方法を考える]
[思考4:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考5:痛みに耐えて顎を嵌め直す]
[思考6:この状況に対応する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中→行方不明]
[備考1:現在顎が外れているため、これを整復するまで会話や呪文詠唱などはほぼ不可能です]
[備考2:なおロキは自分をフルボッコにした相手がブラムスだとは、今のところ気付いていません
(ただしブラムスの決め技「ブラッディカリス」を目撃して気付いた可能性もあります)]

【ミカエル死亡】
【残り22人+α?】

83 ◆Mf/../UJt6:2009/01/12(月) 01:44:27 ID:bUVETw3U
以上です。
今回はロキの消息を描写しなかったり、情報交換をあまり行わなかったりと
若干展開が荒削りですが、題名の通り今回のSSの主題は
ブラムスVSミカエルに持ってこようと考えたので、
荒っぽいつくりであることを承知で、あえてこのような形に書かせていただきました。

今回はブラムスのヴァンパイア能力をフルに活用させていただきましたが、
備考にもある通りゲーム中のスキルの派生形という形で納得いただければ、
と思います。

それから現在の残り人数の表記に関しては、私が提案した暫定的なものです。
正式決定は、放送やその後の作者に決めていただきたく思います。


それから最後に。
ヅラムスの活躍をお待ちの読者さん、ご容赦下さい。
私の筆力が足りなかったせいで、今回はヅラムスがブラムスに戻ったことを、
深くお詫びいたしたく思います。

それでは、意見質問等お待ちしております。

84名無しのスフィア社社員:2009/01/12(月) 02:30:26 ID:mT8F6Eog
アッー!
やっぱり無理だったか……

だれか、だいりとうか、たのむ

85代理投下2:2009/01/12(月) 03:00:37 ID:vYzQW1vU
【D−2/夜中】
【クラース・F・レスター】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、自転車@現実世界、デッキブラシ@TOP、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]


【ブラムス】[MP残量:70%]
[状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中。
全身に軽度の火傷(ミカエルに吸血を行ったため、じわじわ回復中)]
[装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SO、
袈裟@沖木島(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2
荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島]
[行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)]
[思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:鎌石村に向かいながら、3人と情報交換]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]
[備考:ブラムスのヴァンパイアの能力については、
「原作のゲームシステムで再現可能な能力のみ使用可能」というガイドラインを提案します。
今回は肉体を霧に変化させる能力をスキル「ダーク」で、
吸血によるDMEの回復は>>242の武器特性で再現しました。
なお原作のゲームシステムで再現可能なスキルなどは存在しないので、
吸血による目標の下僕化は不可能とします]



【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:75%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)]
[装備:鉄パイプ-R1@SO3]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP?、ソフィアのメモ、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考3:ソフィアのメモを読みたい!]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]
[備考:ロキに武装解除された鉄パイプ-R1@SO3を取り戻しました]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:95%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2]
[道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:ブラムスを取り引き相手として信用]
[現在位置:D-2北部、焼き払われた雑木林]
[備考1:ロキに武装解除されたシウススペシャル@SO1を取り戻しました]
[備考2:ミカエルの死体からダークウィップ@SO2、ウッドシールド@SO2、
魔杖サターンアイズを回収しました]

【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
顔面が作画崩壊 顎関節脱臼 再起不能(リタイア)寸前 神生終了のお知らせ 現在逃走中?]
[装備:グーングニル3@TOP]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、
首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:レナス、ブラムスの捜索]
[思考2:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考3:首輪を外す方法を考える]
[思考4:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考5:痛みに耐えて顎を嵌め直す]
[思考6:この状況に対応する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中→行方不明]
[備考1:現在顎が外れているため、これを整復するまで会話や呪文詠唱などはほぼ不可能です]
[備考2:なおロキは自分をフルボッコにした相手がブラムスだとは、今のところ気付いていません
(ただしブラムスの決め技「ブラッディカリス」を目撃して気付いた可能性もあります)]

【ミカエル死亡】
【残り22人+α?】

86名無しのスフィア社社員:2009/01/12(月) 03:01:17 ID:vYzQW1vU
間違えたorz
吊ってくる

87進展:2009/02/09(月) 22:47:32 ID:5iKa7EVQ
4人の話し合いはすんなり決まったのだが、そこには何故かちょっと涙目なレオンがいた。
「ねぇ、ちょっとプリシス」
アルベルとレナに気付かれないようにそっとプリシスに耳打ちをするレオン。
「どうしてもこのチーム分けなの?」
レオンの抗議の内容はたった今パーティー内会議にて決定したチーム分けの件についてだ。
その話し合いの末レオンはアルベルと、プリシスはレナと組んで行動する事になっている。
「そうだけど何か?」
何を今更そんな事聞いてんの? と言いたげな表情をしながらレオンの問いに答るプリシス。
「だって、あのアルベルって人の僕を見る目が時々尋常じゃないんだよ?
 もしかしたら僕食べられちゃうかもしれないよ?(性的な意味で)」
「何言ってんの? あれだって普通の人間なんだからレオンを食べたりしないって(食欲を満たす的な意味で)」
「本当に大丈夫かな?」
(僕の言わんとしてること通じてるのかな?)
「大丈夫だって! それに二手に分かれる事を決めたのはレオンじゃん。
 戦力の分配を均等にするなら、接近戦が出来る私とアルベルは別チームにしなければならないし、
 腕っ節は悔しいけどアルベルの方が強い。
 そうなると私に組ませるなら多少でも格闘術の心得があるレナの方が適役じゃん」
「ううっ、それは判るんだけど…」
「うるさいうるさいうるさい。レオンも男なんだから一度決まった事にウダウダ言わない!」

88進展:2009/02/09(月) 22:48:58 ID:5iKa7EVQ
「あの二人なにを話しているんだろう?」
二人の様子に気付いたレナが呟く。
「おい」
そんな彼女に用があるのかアルベルがいつもどおりの不機嫌顔で話しかける。
「選別だ。持ってけ」
そうぶっきらぼうに言いながら護身刀“竜穿”を差し出す。
「これは…」
レナにも見覚えがあった。この島に来て直ぐディアスと出会った時に彼が持っていた短刀だ。
「これぐらいのサイズの刀なら剣術の素人でも十分護身用に使いこなせるはずだ。お前にはおあつらえ向きの武器だ」
ディアスがその強い思いと共にオペラを貫いた短刀。
レナはディアスの見せた意地とオペラから託された願いを思い出しながら、強くこの短刀の柄を握り締めた。
「ただし貸すだけだ。俺の仲m、ゲフンゲフン! 
知り合いというかむかつく奴というか、とにかくその剣の本来の持ち主は俺の世界の人間なんだ。
そいつの親父も使っていたっつう業物で、せめて墓代わりにその剣を持ち替えt、違う!
俺の世界では値打ちもんなんだよ! だから必ず返せよ! いいな!」
顔を赤くしながら言いたい事を言い終えたのか、
もう用はないと言わんばかりにそっぽを向くとレオンとプリシスの方に向かって声をかけた。
「おら! 準備はいいのかよガキ共!」
「ガキって言うな!」「ううっ、はい…」
プリシスとレオンは異なった返答をしながらも準備は出来ていたのか、直ぐにこちらに寄ってきた。

89進展:2009/02/09(月) 22:50:18 ID:5iKa7EVQ
「よしっ! それじゃあしゅっぱーつ! 行こっ、レナ」
「ええ、よろしくねプリシス」
拳を高々と突き上げ、いの一番に神社内から飛び出したプリシスとそれに続いて出ていったレナに
ガキの使いじゃねえんだぞ、わかってんのか?と思いながら見送った後レオンの方に振り返るアルベル。
「おら、俺らも行くぞ」
声をかけられたレオンの方は若干怯えた様子で、アルベルを見上げながら、
「うん…。よろしくね。アルベルお兄ちゃん…」
と力なく返した。
(お兄ちゃん…)
彼の中でその響きが数度反芻した後に、アルベルの中で電流が流れた(気がした)
むしろ彼の中で何かが芽生えたと表現した方が良いのだろうか。
それも無理からぬ事で、何せショタっ子猫耳メイドに若干涙目の表情で上目遣いに名前にお兄ちゃん付きで呼ばれてしまっては
その筋の人はおろか、普通の至って健全な筆者の様にノーマルな人間でも何かに目覚めてしまう事は請け合いである。

そんなレオンの一言にうろたえた様に一歩後ずさりをし、顔を赤くするアルベル。
(お兄ちゃんとはまた強烈な…。寝ている時も十分だったが起きている時もカワイイじゃnゲフンゲフン!
落ち着け俺! こんなガキがカワイイだと? 冗談じゃねえ! そうだ! こういう時は素数を数えるんだ! 4…6…8…9…10)
完全に動揺しきったアルベルは素数ではない方の数字を脳内でカウントしていた。
そんなアルベルの様子を見ながらレオンは
(本当に大丈夫かな…?)
と、この先に待ち受けるであろう困難と身の危険(いろんな意味で)を思い、大きくため息をついたのであった。
頑張れレオン君! 君達の戦いはこれからだ!!

90進展:2009/02/09(月) 22:51:50 ID:5iKa7EVQ
【G-06/深夜】
【アルベル・ノックス】[MP残量:90%]
[状態:左手首に深い切り傷(レナに治癒の紋章術をかけてもらいました。しばらく安静にすれば完全に回復します)、
左肩に咬み傷(レナに治癒の紋章術をかけてもらいました。しばらく安静にすれば完全に回復します)、
左の奥歯が一本欠けている。疲労小]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????×0〜1、
鉄パイプ@SO3、????(アリューゼの持ち物、確認済み)、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法…はこのガキ共が何とかするだろ!]
[思考1:レオンと共にひとまず行動。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、死んで間もない人物の結晶体*1、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:エルネストを探す]
[思考4:レオンキュンハァハァ…はっ! 俺は一体なにを]
[思考5:龍を背負った男(アシュトン)を警戒]
[現在位置:鷹野神社内部]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔100/100〕@SO2]
[道具:ドレメラ工具セット@SO3、????←本人確認済み、
解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、
無人君制御用端末@SO2?、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒]
[思考1:レナと共にひとまず行動。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)、ヴァルキリーを探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]

[現在位置:鷹野神社敷地内]

91進展:2009/02/09(月) 22:52:44 ID:5iKa7EVQ
【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%]
[状態:左腕にやや違和感(だいぶ慣れてきた)]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3、幻衣ミラージュ・ローブ(ローブが血まみれの為上からメイド服を着用)]
[道具:どーじん、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式]
[行動方針:これ以上の犠牲者を防ぐ為、早急に首輪を解除。その後ルシファーを倒す]
[思考1:アルベルと共にひとまず行動。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:結晶体*4、死んで間もない人の結晶体*1、結晶体の起動キーを探す]
[思考3:死んで間もない人の結晶体を入手したら可能な限り調査する]
[思考4:信頼できる・できそうな仲間(エルネスト優先)
やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[思考5:服着替えたい…]
[思考6:アルベルお兄ちゃん…、その、目が…怖いです]
[備考1:プリシスと首輪解析の作業をして確定した点
① 盗聴器が首輪に付随している事。
② 結晶体が首輪の機能のコントロールを行っている事
③ 首輪の持ち主が死ぬと結晶体の機能が停止する事
まだ確証がもてない考察
① 能力制限について(62話の考察)
② 死んで間もない人間の結晶体が首輪解析に使えるかどうか]
[現在位置:鷹野神社内部]


【レナ・ランフォード】[MP残量:40%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、
精神的疲労大]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3]
[道具:荷物一式、魔眼のピアス(左耳用)]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。打倒ルシファー]
[思考1:プリシスと共にひとまず行動。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[思考5:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡し、何があったかを話す]

[現在位置:鷹野神社敷地内]

92進展:2009/02/09(月) 22:53:38 ID:5iKa7EVQ
投下終了です。寝ないで酒飲みながら草稿したら普段と違った作風になってしまった。
レナを目立たそうとしてたのに思いっきり空気だしorz
ただ、書きたかった大筋(チーム分割、謎の台座の存在)については書けてたので、誤字チェックをメインに推敲をしました。
台座についてですが一応自分が考えている脱出フラグ用のギミックなのですが、
こういう場合それについての内容って他の書き手や住民と共有した方がいいのでしょうか?
まぁ、このロワの参戦作品を一通りプレイしている方はお気づきでしょうが、共有する必要があるなら言って下さい。
一通りまとめてスレか、ネタバレみたいになるのが嫌でしたらしたらばに書き込もうと思います。
後、あえてチームアルベルとチームプリシスがどっちの村に行ったかは書きませんでした。
第3回放送後の山場は間違いなく鎌石村大乱戦でしょうが、
そこにプリシスたちが行くと更にアシュトンの説得というイベントまで追加になり密度が濃くなりすぎるんじゃないかな?と思ったからです。
説得の可否によっては残り僅かな戦闘力のあるマーダーが減ってしまいますしね。
各チームの行き先は次の書き手の方が決めてください。
あと最後に放送担当の書き手さんには悪いですが、こいつらには鷹野神社に行ってもらいました。
どうしても目印になる施設に台座を置きたかったんです。すみませんした。

93名無しのスフィア社社員:2009/02/10(火) 10:10:25 ID:OBO0nlP6
      / ̄ ̄\
    /ノ( _ノ  \        
    | ⌒(( ●)(●)       いい加減にするだろ常考!
    .|     (__人__) /⌒l
     |     ` ⌒´ノ |`'''| 
    / ⌒ヽ     }  |  |            ____    
   /  へ  \   }__/ /           /─  ?\   
 / / |      ノ   ノ           /●))  ((●\ . ’, ・  ぐぇあ
( _ ノ    |      \´       _   /    (__人__)’,∴\ ,  ’ 
       |       \_,, -‐ ''"   ̄ ゙̄''?---└'´ ̄`ヽ/  > て 
       .|                        __ ノ /  (
       ヽ           _,, -‐ ''" ̄ヽ、 ̄ `ー'´  /  r'" ̄
         \       , '´          /       .| 
          \     (           /       |
            \    \        /        



      / ̄ ̄\
    /      \        
    | /      
    .|  ● /;;;;;;;;;;ヽ  /⌒l
     |    i;;;;;;;;;;;;;;;;;;i  |`'''| 
    / ⌒ヽ     }  |  |            ____    
   /  へ  \   }__/ /           /─  ?\   
 / / |      ノ   ノ           /●))  ((●\ . ’, ・  ぐぇあ
( _ ノ    |      \´       _   /    (__人__)’,∴\ ,  ’ 
       |       \_,, -‐ ''"   ̄ ゙̄''?---└'´ ̄`ヽ/  > て 
       .|                        __ ノ /  (
       ヽ           _,, -‐ ''" ̄ヽ、 ̄ `ー'´  /  r'" ̄
         \       , '´          /       .| 
          \     (           /       |
            \    \        /        





        /     , ーーーーーーーー-- 、
        / /^^^^^)/        ___ __    |
       //    /        /   | ヽ   | , ー -- 、
       /|   | ヽ,.        ヽ___ |__ノ   //     ヽ
      / |   |ヽ ヽ_________________________ノ .l ///// |
      / |   |   /      ___    | ///// |
     /  |   |     ●  /;;;;;;;;;;ヽ, ●| ///// |
     /  |   |         i;;;;;;;;;;;;;;;;;;i   l ///// |
    /   |   |                 | //// /
    /   |    \       ヽ----/   /__,,,,, ノ
   /  / \     ヽ,____ `--'´ _/

94名無しのスフィア社社員:2009/02/10(火) 10:11:01 ID:OBO0nlP6
うは、ごめ操作ミスって変なの書いた
忘れてくれ

95名無しのスフィア社社員:2009/02/11(水) 17:54:33 ID:QefrJjLg
>>94 kwsk!!

96名無しのスフィア社社員:2009/02/11(水) 18:10:31 ID:YE9sIdfw
メモ帳やワードだとAAずれるから適当なスレで書き込みボックス開いてやってたんだよ
んで「書き込み押さなきゃ大丈夫だろ」とたかくくってたらキーボード操作ミスって何故か書き込まれたと
お前らも投下する気ないのに書き込みボックス使って作業するときは字数制限引っかかるよう先に開業しまくっといた方がいいぜ…

とりあえずもう忘れろ、なっ

97 ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 02:46:05 ID:z3j7D.9.
規制されているのでこちらに。
連絡が遅れて申し訳ございません
今日中には何とか投下できるようにします。すいません

本スレ>>604
遅れといて言うのもなんですが、俺は10日でも長すぎるくらいだと思います。
予約による独占という面もありますし

98Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:00:51 ID:zqSEfSHM
さるさんなのでここに続きを投下します

99Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:01:58 ID:zqSEfSHM

(絶対に挫けないと。絶対に最後まで戦い続けると僕は誓いました。
だから、あきらめずに何度でもあなたの名前を呼びます)

クレス君は私の言った言葉を投げかける。でも、立ち上がれない。
孤独はもう嫌だ。親しい人の死が、拒絶されることが恐ろしいのだから。

(マリアさんもあきらめないでください)

お母さんと同じことを言うのね。あの時は、私にみんなを守る力があった、必要とされていた。
けど、今の私に何の存在価値もないわ。

(貴女のおかげで僕は立ち直れた)

買い被りすぎよ。私はただ君に逃げていただけの卑怯者。
そんな私を知って、君は嫌悪するわ。

(ミントのことも、みんなのことも。だから、あきらめないでください)

無理よ。いくら君が言おうとも信用できない。だって私は化け物だから。
その気になれば、世界すら崩壊できる力持っている兵器だから。

(僕にはマリアさんが必要です)

「本当に…?」

感嘆の声を漏らしてしまう。感情が揺さぶられたような気がした。
私は何もできず足手纏いなのに、クレスは必死に呼び続けている。
クレス君が必死に戦っているのに、応えるように恐怖が薄れていく
私も戦いたい。でも、立ち上がらない、信用できない、恐怖を拭いきれない。

100Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:03:01 ID:zqSEfSHM
(僕は絶対に――――――)

クレスの心の叫びが響く。私の中で何かが弾けたような気がした。
燻っていた負の感情が一気に放出されたように落ち着いていく。
この漲っていく熱い感情は何か分からない。
でも、私は彼の元へ帰らないといけない。
彼が私を必要としているかは分からないが、私は前に進まなければならない。
マリアは弱っていた足を奮い立たせると、中央に座り込んでいる少女に声をかけられる。

『行くのね』
「ええ、私は彼に伝えなければならない。私の熱い感情が忘れ去る前に」
『現実は辛いわよ。辛い記憶は忘れたほうが楽なのに…貴女はそれを選ぶのね』
「ええ、そうね。私を必要としている人がいる。私は戻らないといけない」
『そう……決心は固いようね。あの時のように…』

マリアは現実に戻る方法は薄々感じていた。
手を胸に当てると気合入れ決心する。

『「さようなら、私」』

101Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:04:16 ID:zqSEfSHM

マリアは目の前にあり記憶の球体を深く覗き込む。自分の膨大な記憶が脳内に雪崩れ込んでいく。
出生から現在に至るまでの記憶が毒のようにくらい付いていく。
楽しい記憶も辛い記憶も脳内に一気に入りこめば、精神を破壊しかけないほど、苦痛が苛む。
マリアは必死に耐える、現実に戻るためにクレスに会うために。
記憶の渦とマリアが溶け込み一体化する。
現実の世界に輪廻する最中。
マリアは白い世界の観測者、もう一人の自分の顔を初めて見た。

その瞬間、色んな私がいろんな世界で存在していた映像が流れ込む。

ある世界は私がフェイトに告白する世界。
違うある世界はリーベルと一緒に結ばれる世界。
また違うある世界は平穏な惑星でゆったりと暮らす世界。
クリフとミラージュで新しいクォーク発足に追われる世界。

様々な世界が私の中に平行して渦巻いていく。
私たちの未来は様々な事象によって作られていく、そんな風に感じられる。
たぶん、ここの出来事はほとんど覚えていないだろう。けど、私は絶対に忘れないだろう。

最後に見たもう一人の自分が満足げに微笑んでいたことを。

――
――――
――――――

102Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:05:39 ID:zqSEfSHM

「マリアさん、大丈夫ですか!?心配しました」

初めてまともな反応を示したマリアにクレスは驚きと安堵の言葉をかける。

「ミラージュ…ミラージュ…」

マリアは気付いたのだ。
私が一番逃げていた。
大切な仲間の死を感じとることを。
一回目の放送の時から、私は背けていたのだ。
クレス君に過剰なまでに構うことでその存在に目を背けていた。
クレス君に臆病な感情を押し付けることで、自分の弱さを押し込んでいた。
身近にいる大切な存在の死を最も背けていたのは私だった。

「どうしてあなたが死ななくちゃならないの?
 戦争で両親を亡くした、私を引き取ってくれた。
 本当の娘のように接してくれて……」
「マリアさん、それ以上話さなくていい。
 僕はマリアさんが元気なだけで嬉しいですから」
「お願い最後まで聞いてほしいの。そして、君に謝りたいの」

そして、マリアは自分の罪を語り出す。
その一声は「ごめんなさい」から始まった。

+++

103Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:07:31 ID:zqSEfSHM

「―――――というわけなの」

マリアが全てを語り終えると、クレスは真剣な眼差しでマリアの言葉を噛み締めていた。
目の前にいる少女が人間ではなく、兵器だ。そんなことを突きつけられれば、誰しもその話を疑いたくなる。
だが、マリアの口調は真剣そのものであった。

「どう、理解できた。私は遺伝子操作された兵器なの。
 姿かたちは人間の姿をしているけど、君とは違う……人とは全くかけ離れた存在。
 ルシファーに対抗するために肉体改造された存在なの」

マリアは内に秘めていた出生秘密を語り終えた。
彼女にとって、自分が遺伝子操作生物兵器だということは最大のコンプレックスである。
自分の力を行使するたび、自分の存在が否定されているように感じる。
私はルシファーを倒すためだけに作られた存在。そう、思うたびに嫌な感情が蝕むのだ。
仲間でも、私たちの真実を知るものは少ない。
フェイトにその真実を語った時は、親近感があったからこそ難なく言えたが。
それを赤の他人であるクレスに話すことは、己の裸体を曝け出すのに等しい。いや、その以上の嫌悪感があった。
でも、クレス君なら、話して大丈夫だ。そんな予感をさせる。

「その気になれば私の力は世界の法則させも改変させることも可能よ。
 もちろん制御できればの話だけどね」

淡々と冷めたような口調でマリアは語りだす。

「どう、私の秘密を聞いて、怖くなった?」

104Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:09:26 ID:zqSEfSHM
マリアの横目が突き刺さる。
クレスはその視線を交差させ、真っ直ぐに彼女の青い瞳を見据える。
彼女の青い瞳は海のように深く澄んでいる。彼女の告白はそれほど覚悟が必要だったのだろう。
心なしか体が震えているように見える。
だからこそ、僕は彼女の決意に誠意を持って答えなければならない。

「いいえ」

クレスは素直な気持ちを伝える。
例えマリアが生物兵器であろうとモンスターであろうとクレスの心は一心も変わらない。

「マリアさんが何であろうと僕の気持ちは変わりません。
 ミントが死んだ時も、アーチェが死んだ時も、チェスターが去った時もマリアさんは助けてくれました。
 マリアさんは弱くなった僕を叱咤し励ましてくれた。いつでも僕のことを心配してくれました。
 僕はそんな厳しくも心優しいあなたがいてくれたからこそ、僕は前に進むことができた。
 そこにあった想いは確かにマリアさんそのものでした。
 だから、いつでもマリアさんはマリアさんのままです。
 マリアさんがマリアさんである限り、僕はあなたが必要です」

クレスの真摯な言葉にマリアはそっと胸を撫で下ろし俯く。

「ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいわ」
「ええ、マリアさんの言葉で僕も気張らないといけなくなりました」

問題は後回しにしてはいけない。マリアにそう教えられたような気がした。
クレスはぐっと力を込めて、握り締めた拳を見つめる。

105Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:10:38 ID:zqSEfSHM

「やっぱり、僕はチェスターのことを止めなくてはいけない。
 アイツが復讐に染まるのだけは絶対に見たくないんだ。
 ダオスのときのように、心をすり減らすアイツは見たくない」

マリアはクレスの決意を聞くと、勘違いしていたなと穏やかに視線を寄せた。

「強いのね、クレス君は…」

クレス君は強い。私の何倍もずっと強い。私も君のように強くなりたい。
そう、気付かれないように小さく決意するのであった。

「そ、そうですか。僕、全然役に立っていないですけど」
「うふふ、そんなことないわよ。君には色々と助けられているわ」

マリアはクレスに柔らかい笑みを浮かべる。
この舞台に着てから初めて穏やかな空気が二人の間に流れる。
硬さがなくなった笑みにクレスは胸を高鳴らした。
初めて見る彼女の穏やかな笑みにミントの優しい笑みが重なる。

106Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:12:13 ID:zqSEfSHM

「綺麗だ……」

クレスはポツリと言葉を漏らす。
脈絡のない言葉にマリアは「ふぇ」と間の抜けた声を発する。
ほんの一秒間の動揺を立て直し、すかさず顔を背け紅色に染め上がった頬を隠す。
マリアは顔を隠したまま馬鹿みたいに動揺させた諸悪の根源を睨み付ける。

「いきなり、変なこと言わないでくれない。びっくりするじゃない」
「…うえっと!? 無意識っていいますか…考えていたことが軽はずみといいますか。
 マリアさんの笑顔がとても綺麗だから……。
 って、決して普段のマリアさんが綺麗じゃないとかではありませんよ!
 普段のマリアさんも綺麗ですし…さっきの笑顔も本当に綺麗で……」
「あーーもう、分かったから口を開かないでちょうだい」

あたふたと弁明の名をした褒め言葉にマリアは殺気を帯びた視線を効かせる。
クレスは「はい!?」と素っ頓狂な返事するとその場にへたり込んだ。
あまりにも歯が浮くような台詞に心臓に悪いなあと一息を付いて、心を落ち着けさせる。
が、胸の高まりはおさまることをしらない。
自分をこんな風にしたクレスに対し、理不尽な怒りが込み上がる。
マリアはその怒りをもう一度視線でぶつけると「ひぃ」とクレスはよりいっそうへたり込むのだった。

107Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:13:27 ID:zqSEfSHM

そんな微妙な空気の中、外に飛び出していたミランダがどたどたと部屋に上がりこんでくる。

「マリアさんは大丈夫ですか、クレスさん!?
 仲間のところに行ってきたのですが、すでに出かけていたようで。
 あれ……?」

ぎこちなく隣同士で並んでいる二人になんともよそよそしい空気を感じ取る。
ミランダはそんな空気を汲み取り、そそくさと後退さる。

「もしかして、お邪魔でしたか?」
「いやいや、とんでもないよ。ねえ、マリアさん」

「ええ」と頷くマリア。
いいタイミングでミランダが現れてくれたおかげ、クレスは一息飲む。
マリアさんを怒らしたなあ、と自己嫌悪に陥りそうだった。

「ごめんなさい、ミランダ。貴女には迷惑をかけたようね」
「どういたしまして、それに困った時はお互い様です」

マリアはミランダに対し一礼すると、ミランダは両手を左右振りながら微笑む。
ほんの一瞬の笑みを零すとミランダはすぐに真顔になり、現状を逐一報告する。
マリアの非常事態に仲間を呼びにいったことを。そして、洵とルシオがいなかったことを。

+++

108Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:15:30 ID:zqSEfSHM

ミランダは困惑していた。マリアとクレスに洵とルシオの元へ連れて行くことに。
マリアとクレスの情報から二人は顔見知りで、更に因縁の中というではないか。
そんな間柄に洵とルシオを紹介できるはずもなく、必死にミランダは案を練っていた。
どうすれば、争いを回避できるのか。
色んな方法をイメージし、実行するが、一向にビジョンが見えてこない。
そんな最中、頭を悩ますミランダに三回目の放送が鳴り響く。

ミランダは思考を一時中断し、内容に聞き入る。
放送内容を最後まで聞くと、ミランダはよりいっそう頭が痛くなった。
増えていく死亡者たちに。更にその中には、龍殺しの英雄ジャックがいるではないか。
妖精たちの戦争に終戦をもたらした彼が死ぬなんて。

ミランダは理解しなければならなかった。この殺し合いの舞台は私の範疇を越えている。
ミカエルのような人間の力を超える輩が跋扈として存在している。
だからこそ、私は協力者を集い、最後の最後まで勝ち残らなければならない。
こんなところで、信頼できる協力者を無闇に散らすわけにはいかない。
――――最後に私が笑うためにも。

決意を再認識したミランダの耳に慌てふためくクレスの声が聞こえる。
青色の髪の少女が情緒不安定に蹲っている様子が見て取れた。
その刹那、天命の閃きがミランダに舞い降りる。
そうだ、この混乱に乗じてごまかせ、と天使が囁くのだ。
ミランダはすぐに行動を開始した。

109Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:17:23 ID:zqSEfSHM

「私、仲間を呼んできます!!」

咄嗟に、そう、言うと、ドアを勢いよく開いて、慌てて外に飛び出す。
マリアのために仲間を呼びにいくのか?
私の帰りを待つルシオと洵の元へと?
いや、違う。これは、演技だ。
私は仲間を呼びに行くつもりなど毛頭なかった。
今ここで、マリアとクレスに彼らを会わせるのはもったいない。
まだ、参加者は二十人以上いるのだ。ここで殺し合わせるのはまだ早い。
ミランダはそんな算段を企てて、飛び出した。
適当に時間を潰して、算段通りにことを進める。


半時間後、何食わぬ顔でクレスたちの元へ戻ると、マリアは落ち着きを取り戻していた。
私は予定通りに「会えなかった」と報告する。
適当に偽造した書置きを見せると彼らは私の言葉を信用したようで「残念ね」と、青髪の少女が呟いた。

ミランダは上手くいったとため息を付く。
これで私の信頼にひびが入ることなく、いけそうだ。
むしろ、仲間を救おうとする姿勢に、信頼も鰻上りに違いない。
ミランダが心中でほくそ笑んでいると、マリアが突然彼女に近づきそっと耳打ちする。

110Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:18:19 ID:zqSEfSHM

「ごめんなさい、ミランダ。ちょっと、席を外してもらえないかしら?」
「えっ!?」

ミランダは耳を疑った。もしかして、ばれてしまったのか。
額に大粒の汗が流れる。

「どうして、ですか?」
「えっと、それは、その……実は二人きりで話がしたいの」

マリアはもじもじと身体を震わせ、後ろに呆けているクレスに視線を向ける。
マリアの顔は恥ずかしいのか、頬赤らめている。
私を退散させる演技なのだろうか。一瞬、疑いの目がよぎる。
が、マリアの恥じらいは真に迫っているものがある。あの疑い深い少女が心を開くのだ。
ここで下手にごねて、信頼を失うよりも、ここは一歩引いたほうがいい。
でも、何となく、嬉しそうに赤らめるマリアにムカムカしたので。

「えっと……分かりました。私みたいなお邪魔虫はいないほうがいいですよね。
 クレスさんと二人きりで、楽しんでください」

嫌味の一つや二つ言わないと腹の虫がおさまらない。
ミランダはわざと、後ろのクレスに聞こえるように言ってやった。
クレスは何のことやらさっぱりのようで、ハテナマークを掲げていた。が、マリアには効果は絶大だった。
動揺するマリアを尻目にミランダは居間に向かうとソファに座り込んで、今後について考えるのであった。

+++

111Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:21:04 ID:zqSEfSHM

後ろでのほほんとしているクレスが憎たらしい。
ミランダを納得させるための演技だとはいえ、私が必死に恥ずかしい真似をしているのに、
当の本人は他人事のように不思議な顔をしている。

「変なミランダだな。いきなり何を…」
「君は黙っていてくれる」
「ひえっ!! もしかして…マリアさん怒っています?」
「別に」

ドンと大きくベッド上に腰掛けるとマリアはクレスを睨み付ける。
クレスは蛇に睨まれた蛙のようにカチンコチンに固まってしまった。
思いのほか固まってしまったクレスのことを見ると、マリアは「こんなことがしたいわけじゃないのに」と嘆息を漏らす。

でも、そうは言ってられない。
マリアはパックから筆記用具と紙を取り出すと、落ち込んでいるクレスに放り渡す。
慌ててクレスはそれをキャッチすると声を噤みそうになるが。
口元に人差し指を立て、『静かにして』と合図を送る。

『これから重要な話をするわ、たぶん盗聴されている可能性があるから筆談でお願い』

一瞬の動揺の後、乾いた笑みを浮かべるクレス。
そんなクレスにじとと痛い視線を浴びせるとすぐに枯れた笑いを引っ込め、
ペンを手に取り字を走らせ、『本当ですか?』と紙を向ける。
クレスの疑問にマリアはええと頷く。

『私が書き出すことに絶対に驚かないで欲しい』

112Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:22:28 ID:zqSEfSHM

前書きを書き出すと、マリアは盗聴されている根拠を書き出す。
ルシファーが大人しく高みの見物しているとは思えない、何らかの形で私たちの監視をしている、
とマリアは順を追って説明する。まず、一番の根拠は死亡者の順番だ。
放送のたびに死亡者の名前が読み上げられるが、
その順番に名簿順ではなく、バラバラに読み上げられている。
先のミラージュの件にしろ、その違和感は拭いきれない。
たぶんルシファーは死亡した順番どおりに読み上げていると考察する。
なら、どうやって死亡した順番を確認できるのであろうか?
カメラはないと踏む。大規模な戦闘が起きれば何らかの拍子で破壊されてしまう可能性がある。
私たちの安否確認するなら、首輪が適任だろう。

そこに何らかの機能を施しているに間違いないとマリアは睨んだ。
この首輪にはカメラのレンズのようなものは付いていない。
カメラに代わる物、盗聴器なら、しっくり来る答えだ。
はクレスに伝え終えると、クレスはマリアの的確な考察に感動した。

『凄いですね。マリアさん、感動しました』

でも、クレスには一つ疑問が残る。こんな重要な話なのに、どうしてミランダがいないんだ。
クレスは疑問を伝えようとするが、マリアは答えをあらかじめ用意していたようにそれを遮った。

『驚くのはまだ早いわ。これはまだ前菜にすぎない。
 本当に重要な話はこれから。これだけは君にしか伝えられない。
 なんせ、これには私たちの未来がかかっているから』

最後に『覚悟はいい?』と書き出すと、クレスは小さく頷いた。

『まず、世界を消去するルシファーを倒して、エターナルスフィア(ES)は救われたところまで話したわね?』

クレスはコクリと首を縦に振って肯定の意を示す。

113Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:23:45 ID:zqSEfSHM

『確かにルシファーは倒され、ESは救われた“かもしれない”』
『かもしれない?』
『結果だけを見れば、私たちはFD人の支配から逃れ、独立したように見えるわ。
 だけど、それは違う。君には話していないけど、ESはルシファーによって滅ぼされた』

いきなり突きつけられたマリアの言葉に目を丸くさせる。

『どういうことです? 僕には意味が分かりません』
『言葉通りの意味よ。世界は跡形もなく消滅したってこと。
 それ以上説明は要るかしら』

クレスはマリアの妄言とも言える言葉に息を飲む。

『世界がなくなったのにどうして僕たちがここにいるんですか?
 マリアさんの話が本当なら、僕たちはとっくに』
『確かに世界が無くなったら、私たちの存在はそこには無くなるはずよね?
 私たち自身もESが消去されたと時、覚悟したわ』

マリアは記憶をたどりながら、あの出来事を思い出していく。
ルシファーの最後の抵抗により、ES崩壊とともに消えていく、自分と仲間たち。
足元から何もなかったように自分たちは消去されていった。
あの感覚は忘れない。自分が消えていく感覚は今でもありありと覚えている。
私たちは完全にルシファーによって消されたのだ。
でも……。

114Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:26:01 ID:zqSEfSHM

『でも、私たちは生きていた。変な話よね。
 世界がなくなったのに、私たちが存在しているなんて』
『そうです。だから、マリアさんの勘違いといえなくありませんか?』
『そこで私たちはなぜ存在しているかをデカルト的な解釈で結論づけたわ』
『デカルト?』
『地球の有名な哲学者、彼の説明は長くなるから省くけど。
 彼の言葉に“我思う、ゆえに我あり”という言葉があるわ。
 簡単に説明すると、たとえ世界が虚構であっても、
 その存在を疑っている意識の自分という存在は否定できないという考え方よ』
『ええっと、つまり、世界が“偽物”でも、自分が認識している限りその世界は“本物”だと言うことですか』
『ちょっと、違うような気がするけど。私が言いたいのはそんなところ。
 私は哲学者じゃないから深くは分からないけど、大体そんな感じに踏まえて置いて』

マリアはペットボトルに口をつけ一息付くと、話を続ける。

『あの時は、混乱気味だったし、助かった安堵から深くは考えなかった。
 けど…改めてこの考えは直さないといけない』
『どうしてです?』
『この説だと、ルシファーの存在が不可解になってしまう。
 FD人であるルシファーは――――なぜ私たちに干渉できるという疑問が出てくるわ。
 ESは消滅したはずなのに。
 FD人にとって“無”となったモノになぜ干渉できるか?』
『実のところ…ESは崩壊していなかった?』
『その説も否定できないけど……私は覚えている…自分が消えてなくなる感覚を。
 だから、私は“ESが崩壊している”という前提の基で新しい説を唱えるわ。
 私たちはルシファーに“滅ぼされたES”ではなく、
 ルシファーに“滅ぼされなかったES”に存在している。
 
 ―――――ESの平行世界(パラレルワールド)に存在しているという説よ』

115Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:28:03 ID:zqSEfSHM
平行世界。マリア自信も懐疑的だが、何故だがそう考えてしまう。
どこかで、様々な世界で暮らす私を見たような気がしたから。
白い記憶が、そんな閃きを与えるのだ。

『ブレアは以前言っていたわ。
 “ESはすでにFD空間からの制御を放れ、別の空間になっている”と。
 それに加え、
 “私たちの世界からエターナルスフィアへの一方的な干渉は行うことができなくなっている”
 とも、彼女は言っていた。
 上記の言葉はあの創造主であるルシファーすら、反論できずにあぐねていたからたぶんは真実だと思う。
 すでにESは独立していた。だから、私たちはFD世界から干渉できるESが崩壊した瞬間、
 その意識は別の平行世界のESへと移行したと考えられる』

クレスはマリアの話に度肝を抜かれる。
あまりにも突拍子もない話に思考が追いつかなくなる。が必死に思考をフル回転させる。

『ブレアの言葉はさらにある説を教えてくれる。
 FD空間からES世界に“一方的な干渉はできない”という説が新たに浮上するわ』
『確かに、マリアさんの平行世界説はもっともらしいですよ。
 でも、もう一つの方はありえません。現に僕たちは一方的に干渉されています。
 僕たちは何気ない日常から突然こんなところに集められました。
 この状況こそ、その説を真っ向から否定できます』
『君の言う通り、私たちは一方的な干渉を受けている。
 だけど“ある条件”を満たせば“一方的に干渉できない”ルールは破られる。
 その条件とは――――ルシファーがESの深層まで潜り込んだときのみ解除されると考えられる』

116Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:30:03 ID:zqSEfSHM

マリアは細かく説明する。
かつて、エクスキューショナーが送り込まれた時、私たちはFD空間に潜り込んで、それを阻止しようとした。
エクスキューショナーは所詮バグを取り除くためのプログラムでしかない。
FD人自身が直接、私たちに危害を加えるわけではない。
あくまで、本来あったプログラムを発動させただけの『間接的な行為』だ。
だから、私たちは直接ES内でアンインストーラーを起動させ、そのプログラムを削除させたのだが。
思わぬところで、邪魔が入った。それはルシファーがES内の深層から新しいプログラムを起動し、それを妨害したのだ。
それはもう間接の域を超え、『直接的な行為』となっている。
他にも、ルシファーはブレアの偽者を作ることに成功している。
ESの深層に潜り込めば、何もかもが可能になるのだろう。
創造という神の領域すらも。

『つまり、マリアさんが言うには、ルシファーは深層に潜り込んで僕たちに干渉している。
 でも、矛盾しませんか。マリアさんの話だとルシファーはES崩壊とともに死んだはずでは…』
『私たちはルシファーを倒すことには成功した。だけど、殺してはいないわ。
 あくまで私たちはES崩壊に巻き込まれ、死んだと思っていただけ』

一度マリアたちはルシファーの横暴を阻止することに成功しているのだ。
だが、自棄になったルシファーは直接マリアたちというバグを消去するのではなく、ESごと消去させる
暴挙に出る。

『では、ルシファーは僕たちと同じように、平行世界のESに移行した?』
『それは違うはず、私たちはESの住人だけど、ルシファーはFD人。
 崩壊に巻き込まれれば死を意味するはず』
『ならどうして、ルシファーは僕たちに干渉できるのですか?』

117Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:31:05 ID:zqSEfSHM

崩壊の直前まで付き添ってくれたブレアも死を恐れたのか最後にはいなくなっていた。
FD空間に帰っていたのだろう。そのときの最後の言葉が頭の中で反芻する。

『崩壊の直前、ブレアはルシファーに向かってこう言っていたわ。
 “エターナルスフィアに精神を投影したまま、こんなことをすれば兄さんもただではすまない”と。
 そして、その瞬間、私たちの最終決戦がはじまるわけだけど』

そのときのルシファーの力は異常であった。
以前には無かった得体の知れない力を奮い、私たちに立ち向かってきたのだ。
今思い出すと、ルシファーは何故、最後の最後にあれだけの力を手に入れたのか。
疑問に思っていたのだが、ここに来てようやく分かった。

『ルシファーが生きている理由。それは――――』

ブレアの言葉が本当なら、この答えにしかたどり着けない。
マリアは自分で考察したとはいえ汗が滲み出る。それほど、この考察は突飛もない

118Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:32:40 ID:zqSEfSHM

『――――ルシファーはエターナルスフィアと融合した』

クレスはマリアの話に息を飲んだ。
あまりにも凄まじい話の連続に驚愕の色は隠せない。

『だから、ルシファーは崩壊の時に死ぬ事は無かった。
 それもそのはずルシファーはES住人ではなく、ESそのものになったのだから』

いくつもの偶然が重なった結果なのだろう。
ルシファーは精神を投影し過ぎてしまった。
その上、そこはESの深層だ。そして、崩壊による莫大なエネルギーがルシファーに流れ込む。
ルシファーの精神は変質を起こし、ESそのものになった。
マリアはそう分析する。

呆然とするクレスにマリアは紙を渡す。
そこには『まだ、驚くのは早い。本番はこれから』と書かれていた。
クレスは気を引き締めると目で「お願いします」と合図を送った。

『ルシファーはESと融合した結果、ある能力を得た。
 その能力こそが、私たちを苦しめる要因となっている。
 ディストラクション(破壊)、アルティネイション(改変)、コネクション(接続)。
 それらに対抗すべく、得た力。
 私たちの言葉で言えば“マテリアライゼイション”と言えばいいのかしら』

マリアは自分で考察したとはいえ、驚愕に満ちていた。
とんでもない話だが、ほとんどの事象が簡単に説明できるのだ。
ダオスのように死んだ存在がいることやES内にブレアがいることを考えれば、
この考えが一番しっくり来るのだ。
この干渉しすぎている現状を説明するには、最も納得のいくものである。

119Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:33:39 ID:zqSEfSHM

『奴の能力は――――実現。
 強く願ったことを、望んだことを、実現させる能力よ』

そんな馬鹿な、とクレスは突拍子もない話に返事をあぐねている。

『もし、マリアさんの説が真実だとしたら』

クレスは考えたくはないが、今後を左右する状況にマリアの答えを託す。
信じたくない気持ちは分かるが、マリアははっきりと書き示す。

クレスは紙を受け取ると、ゆっくりと字を眺める。やはり、想像通りの答えが書かれていた。
そこには『ルシファーに勝つことは不可能』だと、強く書かれていた。
クレスはマリアの方を振り向く、マリアはクレスの視線に気付くと、小さく顔を振った。

『言葉通りよ、私たちには勝ち目はない』

ルシファーが“マテリアライゼイション(実現)”という能力を所持していたなら、勝ち目は一切ない。
例えば、ルシファーがどんな攻撃も一切受け付けないと強く考えていれば、
それだけで対抗できる術はなくなるのだ。
フェイトのディストラクションでも、突破できるか分からない。
いや、そんな遠回りをする必要すらない。
死ねと念じるだけで私たちは終わってしまう。

120Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:36:35 ID:zqSEfSHM
『でも、まだ悲観することはないわ』

だが、まだあきらめる必要はない。
マリアはルシファーの一連の行動からあることを考えていた。

『ここはあくまで予則の域だから、絶対とは言い切れない。
まず一つ目に入る前に私たちが集められた時を思い出してみて。
ルシファー以外にも他に人物はいなかった?』
『確かルシファーの仲間と思わし、黒装束の集団がいました』

クレスは今一度あの惨劇の舞台を思い出す。
和服を着た少女が烈火の如く、閃光の嵐を浴びせられ、崩れ落ちる瞬間を。
あの時は咄嗟の出来事に何もできなかった。
あの記憶を振り返るたび、ルシファーに対する憎悪と自分に対する無力さが苛む。

『ルシファーの能力なら一人で事足りるのに、意味もなく集団となって現れた。
集団で脅さなくても、自分の能力を見せ付けるだけで十分なのに。
ルシファーは、そう、しなかった。いや、できなかったのだ。
君には分かる?』

ぶんぶんと頭を振って否定の意を示す。

121Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:38:23 ID:zqSEfSHM

『まず説明する前に質問するわね。
 クレス君が自分の家のベッドで寝たと想像してみてほしい』

クレスは内容通りに就寝をイメージさせる。
そこに何の意味があるか分からないがマリアに従うまま想像する。

『感想は?』。そう一文字書かれた紙を見る。
これといった感想もないので、いつも通りに目覚めたことを書き出す。
その感想を見通すと、マリアはうんと頷いてペンを走らせる。

『質問。
 寝ていた人が朝起きたら全く別のところにいた。
 そんなことはありえると思う?』
『ありえませんよ。運び出さない限り、最後に目を閉じたところから、目を覚まします。
 それが、突然、未知の場所にいたなんて考えられません』
『そう、そこなのよ。ルシファーにもそれが起こったのよ』

マリアは説明していく。
ルシファーは私たちに倒され、意識を失った。
その間にESと融合がはじまるのだが、ルシファーは自分の状態に気付かなかった。
ルシファーは世界を崩壊させると、投影していた精神は強制的に弾かれるものだと思いこんでいた。
そのため、いつもの作業部屋にいるはずと脳が勘違いしたのだ。
目覚めた瞬間、ルシファーは能力を発動させる。
いつもの風景を創造していく、いつもの日常を創造していく。
ルシファーはES内に仮想のFD空間を作り上げていったのだ。
あくまで推測だと付け加えていく。

『たぶん、ルシファーは自分の能力に気付いていないはず。
 それに、仮想FD空間にいる限り、私たちに勝てる見込みはある。
 ルシファーの能力は願うだけで結果に変えるというとんでもない能力かもしれない。
 でも、ルシファーはわざわざ入れる必要のない過程を間において、意識にブレーキをかけている』

122Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:39:53 ID:zqSEfSHM

執筆で例えるなら、思うだけで文字が浮かび上がっていくのに、わざわざ手を動かして字を書いていく。
手という媒体を省くことができるのに、当たり前だと思っていることが染み付いているため、気付かないのだ。

『FD空間にいる限り、ルシファーは自分が一般人だと思いこんでいる。
 ES内に入れば強気になって、とんでもない強さを発揮するかもしれないけど。
 それでも、ルシファーが能力に気付かないうちは対処できる』

まだ可能性はあるんですねと、クレスは安堵のため息を付く。
マリアはここで初めてミランダをこの場に外した理由を説明する。

『反応よ。彼女は神に対しての反応が普通と思えなかった。
 それに、彼女は神を妄信的に信奉しているように見えるのよ。
 宗教狂いとは行かないけど暗鬱な感情が見え隠れしていた。
 ある種神のような存在のルシファーの話は彼女に話せないと判断したまで。
 だから、ミランダには席を外させてもらったわ』
『ミランダは僕たちを治癒してくれました』
『ボーマンの件があるから、治癒してくれたから善人とは限らないわ』
『でも、根拠はありません。彼女は本当に僕たちのことを思って』

埒があかない、とマリアは言葉を借りる。兄のような存在であるクリフを思い出す。
ぶっきらぼうに話す彼が、心に描かれる。

『女の勘よ』

その言葉を最後にマリアは口を開く。

「もう、そろそろ、疲れたわね」

トンと跳ね飛ぶと、マリアは困惑するクレスを見つめるのであった。

+++

123Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:42:22 ID:zqSEfSHM

半時間以上続いた筆談を終えると、眠気が襲ってきたのか。
マリアは猫のように身体を大きく伸ばす。

「マリアさんは僕を付きっ切りで看ていてくれましたから、朝まで寝ていてください。
 僕は扉の前で見張っておきますから」
「そうね、ここは体力を温存させるためにも、睡眠が必要ね。
 朝まで君に任せるわ」
「もちろんですとも。ミランダにも寝るように伝えます」

『その前に知って欲しいの』

いきなり紙を差し出すとマリアは寂しげに佇む。
目の前の少年は自分のこと以上に仲間のことを大切にする。
だから、伝えなればならない。傷つく彼をこれ以上見たくない
クレスはキョトンとしながらも、受け渡された紙を黙読する。

『私の説が正しいのなら、私の能力アルティネイションは重要ではなくなる。
 だから、君は私のために無理をする必要はない』

そう、マリアたちの能力はFD空間に行くための能力なのだ。
マリアの説ならルシファーはES内にいるはずである。
そのため、マリアたちの能力はさほど重要ではない。

『もし、私が足手纏いになるようにことが起これば、切捨て――――』

クレスは書かれている字を最後まで読み終える前にマリアの瞳を見据える。
そして、マリアに対する答えを文字ではなく、言葉として想いを伝える。
それが、彼女に対する精一杯の誓いだから。

124Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:43:54 ID:zqSEfSHM

「―――マリアさんは僕が命に代えても守ります。
 僕は最後まで絶対にあなたを守り通します」

臆面もない言葉にマリアは赤らめた顔を逸らした。
目の前のいるクレスの瞳に濁りというものはない。ここまで純粋で真っ直ぐな人は見たことがない。
この男はよくもまあ、こんな恥ずかしい言葉をいとも簡単に吐けるのだろうか。
彼の性格上、その言葉に嘘偽りは一切ないだろう。
だからこそ、愛の告白のような誓いは胸を高鳴らしてしまうし、
そういう言葉に慣れていないせいか歯痒い気持ちで満たされる。

「マリア……」

でも、この仲間同士の殺し合いと疑心暗鬼が謳歌するこの舞台で最も信頼できる嬉しい言葉。
だから、私も何らかの形で示さなければならない。私からの友好の証をこの胸に託したい。

「えっ」
「私のことはマリアと呼んで、私も君のことクレスって呼ぶから」
「あの……いきなり何を…マリアさん」

摩訶不思議な返答にクレスは怒らせてしまったのではないかと動揺する。
が、マリアはクレスのたじろぎぶりに目もくれず、小悪魔のような笑みを浮かべる。

「うふふ、おやすみなさい、クレス」
「うえっと、おやすみ、マリアさ……マ、マリア」

『さん』付けしようとすると、マリアは軽く視線を尖らせる。
クレスは慌てて言葉を言い直すと機嫌を直したようで、マリアは軽快に扉を閉める。

「ありがとう……クレス」

ドアを締め切るとマリアは聞こえないようなか細い声でお礼の言葉を伝える。
その言葉はドアの音に掻き消され、霞のように消えていった。

+++

125Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:46:26 ID:zqSEfSHM

青髪を揺らした少女は最後にボソッと何かを言っていたようだが、ドアに阻まれ何も聞き取れなかった。
クレスは女の子の気持ちは分からないな、とため息を付く。
でも、はじめて見せる彼女の笑みは綺麗だったな、と思いながらミランダの元へと足を進めた。

居間でくつろいでいたミランダを発見するとクレスは睡眠をとるように提案する。

「そうですか。それではお言葉に甘えて。えっと……クレスさん、何か良い事ありましたか?」
「ん、どうしてだい?」
「さっきから嬉しそう笑っていらっしゃるものですから」

ミランダはにたにたと頬を緩めているクレスに何気なく尋ねてみた。

「ああ、まあね」

マリアと初めて出会った時よりも、遥かに親しくなったことにクレスは感慨深くなる。
何だろうか。彼女に溜まっていた、負の感情が吐き出されたのだろう。
彼女は確実に強くなったし、穏やかになったはずだ。まあ、厳しいところは変わらなそうだけど。

「マリア自身、僕自身、溜まっていたものを全部出したから、
 お互いに心身ともにすっきりできたんだ。
 だから、僕は嬉しいんですよ」

クレスは照れながら頭を掻いた。

「……あれ? ミランダ…顔が真っ赤だけど…どうしたんだい?」

ミランダの褐色の肌が真っ赤に染まっている。
クレスはわけも分からず、熱があるのかいと尋ねるが。

「だから、二人きりになりたかったのですね」
「半時間以上も部屋から出ないから変だと思ったんですよ」
「私が近くにいるのに、恥ずかしくないと思わないのかしら」
「思い出してみればギシギシと全体が揺れていた気も……」

ミランダは惚けたままぶつぶつと呟きながら、マリアとは別の寝室に向かっていったのだ。

「変なミランダだな…」

クレスはハテナマークを掲げ、ミランダが寝室に入るのを見届けると見張り番の任に付いたのであった。

126Your truth is my false ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:50:07 ID:zqSEfSHM
【F−1/深夜】

【クレス・アルベイン】[MP残量:40%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ30%程度]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:皆を救うためにルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:仲間を守る(特にマリアを)]
[思考2:6時まで見張り番をする]
[思考3:チェスターを説得する]
[思考4:平瀬村を捜索し、武器(出来れば剣がいい)や仲間を集める]
[思考5:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つ]
[現在位置:平瀬村の民家B(表札に『中島』と書かれている民家)内]

【マリア・トレイター】[MP残量:70%]
[状態:睡眠中、右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:睡眠が終わりしだい平瀬村を捜索し、武器(出来れば剣がいい)や仲間を集める]
[思考2:ミランダは信用できない]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考4:移動しても問題なさそうな装備もしくは仲間が得られた場合は平瀬村から出て仲間を探しに行くつもり]
[現在位置:平瀬村の民家B内]
※クレスに対し、絶大な信頼をおいています。
※高い確率でブレアは偽者だと考えています
※マリアの考察
・自分たちはFD世界から観測できるエターナルスフィアではなく、
 別の平行世界の(ED空間から独立した)エターナルスフィアに存在している。
・ルシファーはエターナルスフィアそのものになった(ブレアの言葉から)。
 そのため、万物を実現する力を手に入れた
・ルシファーは本来のFD空間におらず、ES内に自分が創造した仮想のFD空間に存在している。
・ルシファーはエターナルスフィアと融合したことに気付いていない。
・ルシファーの居場所さえ特定すれば、フェイト、マリア、ソフィアの能力は重要ではないと考えています。

【ミランダ】[MP残量:10%]
[状態:睡眠中]
[装備:無し]
[道具:時限爆弾@現実、パニックパウダー@RS、荷物一式]
[行動方針:神の御心のままに]
[思考1:……不潔]
[思考2:参加者を一箇所に集め一網打尽にする]
[思考3:クレスとマリアを利用して参加者を集めたい]
[思考4:直接的な行動はなるべく控える]
[現在位置:平瀬村の民家B内]
※ミランダはクレス達を目撃してからしばらく二人をつけていました。
 途中で気付かれたものの、しばらくは移動していたので、ルシオ達の潜伏する民家Aと現在ミランダ達のいる民家Bはそれなりの距離があります。
※クレスとマリアが恋人同士だと半ば思っています。

127 ◆O4VWua9pzs:2009/02/22(日) 13:52:23 ID:zqSEfSHM
投下完了しました
色々と問題がありそうなので、指摘がありましたら教えてください

128名無しのスフィア社社員:2009/02/22(日) 14:34:42 ID:Myl6IHEQ
スレの容量が埋まりますた
過疎ってるからか誰も次スレの時期って気が付かなかったのな・・・w
スレ立て誰がいく?
あとテンプレの禁止エリアの部分は今の放送に合わせて書き換えたほうがいいかなと思うんだけど

129名無しのスフィア社社員:2009/02/22(日) 14:37:30 ID:.yfGO1Rw
代理投下のものですが、えーと、スレッドが終わってしまいました\(^o^)/
ちと所用で今から15〜20分程度席外しますので、それまでに動きがなかったら行動起こします

130名無しのスフィア社社員:2009/02/22(日) 14:39:41 ID:Myl6IHEQ
じゃあ俺立ててくる
たださるさん食らってるからテンプレは多分貼れないんで頼みます

131名無しのスフィア社社員:2009/02/22(日) 14:46:31 ID:Myl6IHEQ
立てれたしテンプレ貼れるみたいだ
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1235281316/

んでちょっと提案なんだけど、テンプレ長いと優しくないって聞くし、書き手・読み手の心得なんかは
「wikiの『テンプレ』の項目に心得が乗っていますので、よければ一読下さい」
くらいで省略しちゃっていいんじゃないかしら
あと死んだキャラの制限云々はスレのテンプレからはもう消してもいいんじゃないかなあと
wikには「今までの議論で決めたことの目安」として残せばいいと思うけど

132名無しのスフィア社社員:2009/02/22(日) 14:52:58 ID:.yfGO1Rw
今戻りました、重ね重ね申し訳ないです

その件については他の人の意見も聞いてみたいところではあるかな
今の段階だと勝手にテンプレ云々という人がいるかもしれないし
とりあえず今回はそのまま掲載させていただきます

133名無しのスフィア社社員:2009/02/22(日) 15:16:46 ID:Myl6IHEQ
了解です
またさるさんいきそうなんでテンプレおよび代理投下は任せます
そしてこっちで言っておきます、テンプレ投下ありがとうございました

134名無しのスフィア社社員:2009/02/22(日) 15:27:58 ID:.yfGO1Rw
こっちでも一応報告

テンプレ及び代理投下、何とかさるさんに邪魔されずに完了しました
こちらこそ混乱させてしまって申し訳ないです
一応前スレと現行スレでしくじったら避難スレに云々とか書いておいたので、
多分テンプレの件も気付いてくれる……と思いたいです

135名無しのスフィア社社員:2009/03/11(水) 03:43:22 ID:gzi8KfOg
うげえ、さるさんくらった・・・
ほぼ投下終わってたのにっ・・・!
っというわけでどなたかよろしければ代理投下お願いします

136To Destroy Nightmare ◆wKs3a28q6Q:2009/03/11(水) 03:43:53 ID:gzi8KfOg

「チッ……とにかくだ、無駄な時間を過ごしちまったからな」
レオンに背を向けしゃがみこむアルベル。
「乗れ。かっ飛ばすぞ」
レオンの目には、その背中がとても大きく見えた。
一方的に助けられていることへの負い目はあるが、これ以上心配をかけたくないこともあり、アルベルの要請に笑顔で答える。
「うんっ! 行こう、アルベルお兄ちゃん!」
アルベルの首に両手を回し、体重をアルベルへと預ける。
つい先程までなら体を密着させることに抵抗を覚えただろうが、今のレオンに躊躇いはない。
むしろ己の足を積極的にアルベルの腰へと絡めている。
勿論これは両者共に腕を負傷していることため振り落とされる可能性が高そうという理由からやっているのだが……
(くっ……よく考えたらコイツが女だったら女だったでこの体勢は色々とヤバイんじゃねえか?)
危険と無縁な状態のアルベルにはそんなこと関係ないわけで。
俗に言う『あててんのよ状態』にアルベルは顔を赤くし動揺してしまう。
いやまあ、当然レオンの胸は当てられるほど膨らんでいないし、股間の炎刃王もフリルまみれのスカートのおかげで感触は伝わっていないのだが。
それでも心はドッキンばくばくアルベル。
捲くれたスカートから覗く下着とめくれ上がった上着越しに見えたないしょのつぼみ――先程見てしまったその姿がなかなか頭から離れないようだ。
しかし『相手が少女であることを望んでたし、ロリコンねノックス』と彼を責めないでやってほしい。
地の文でノーマルな人間ですら何かに目覚めると明記されるほどレオンが可愛いのがいけないのだ。
とはいえ可愛いは正義なのでレオンに非があるというわけでないし、アルベルが人として『よっしゃあああッッ THE ENDォオ!!』なことには変わりないのだけど。
レオンは大変なものを盗んでいきました。アルベルの威厳です。

(くそっ、しっかりしろ俺! こっからが正念場だぞ)
くそみそ、もといクソムシと己を罵り、アルベルは正気を取り戻すべく頭を振る。
歪みのアルベルと呼ばれた頃の自分を、昔の冷酷だった自分を思い出せ。
クソガキ如きに心乱される男じゃなかっただろ、と心の中で何度も呟く。
「手、痛かった? ごめんお兄ちゃん」とレオンが耳元で囁いてきた。いやまあ、実際は身長差の関係でたまたま耳元にレオンの唇が来ていただけだけど。
赤く染まった頬が背負われたレオンから見えなかったのは幸いだろう。
仮に見てしまったとしたら、アルベルのうほエイトオーワン疑惑が復活し全体重を預けることができなくなっていたはずだ。
しっかりと抱きついていないと振り落とされる恐れがあるので、レオンのアルベルに対する(性的な面での)恐怖心がなくなったことはかなり大きい。
赤くなっているアルベルにはこのフォーメーションが悪影響に思えるが、今までも肝心な場面ではいつものアルベルに戻れていたので恐らくは問題ないだろう。

137To Destroy Nightmare ◆wKs3a28q6Q:2009/03/11(水) 03:45:56 ID:gzi8KfOg

「一回降りた方がいい?」
自分を支える腕が痛んだのではと心配するレオン。
少しでも負担を減らそうと力をこめて密着するほど逆効果だとは気付いていないようである。
「だ、大丈夫だッ! それより……」
スカート越しながら股間が密着しているので感触で性別が分かるんじゃないのか、などという品のない発想を頭から叩き出してアルベルが言う。
「今からもう掛けられるか? 一気に行くぞ」
何故かは知らないが、ここでは技を繰り出したり紋章術を使ったりするといつも以上に疲弊するらしい。
まだ一度も試していないため、レオンがどれくらいでバテるかは分からない。
故にここまでは紋章術を温存して地道に歩いてきたが、そろそろ実験を兼ねて使ってもいい頃だとアルベルは考えている。
奇襲の心配が少ないここなら安心して実験ができるし、スタミナ切れの心配がないようならこのまま突撃したっていい。
「うん、いけるよ!」
――チーム分けの後、アルベルが鎌石村へと続くこのルートを希望した一番の理由。
それが、D-04とC-05の禁止エリアの存在である。
奇襲の心配がないから全力疾走できるとは言え、この組み合わせでなければ禁止エリアを突っ切って村まで行くという作戦は取らなかっただろう。
楽に背負って移動できるレオンが、移動速度を上げる紋章術『ヘイスト』を習得していたのは僥倖だった。
レオンがヘイストを掛け、レオンを背負ったアルベルが禁止エリアを駆け抜ける。
単純な作戦だが、少しでも早く村に着くには最善の方法である。
大雑把にとはいえD-04とC-05の境界の方角に向かっているので、走り抜けなければならない距離は1エリア分にも満たないだろう。
「ヘイスト!」
レオンに初めて襲い掛かる疲労。
視線の先には、アルベルの首に回した左腕から覗く支給された腕時計。
現在の時刻さえ見ておけば、ヘイストのだいたいの持続時間が分かる。
あまりに早く効果が切れるようなら、時間のロスになるが進路の変更を検討しなくてはならない。
(いつでもまた唱えられるようにしなきゃ……万が一禁止エリアで切れても、動じずに唱えれば大丈夫だ……っ)
言い聞かせるように心の中で呟くレオン。
より一層力強くアルベルを抱きしめ、深呼吸で臨戦態勢に入る。
おそらくヘイストも唱えられてあと4回だろう。
4回目のヘイストの後、自分を回復してくれた後のレナのように自分も倒れる可能性がある。
できることなら3回以内で走り抜けたい。
「しっかり掴まってろ、振り落とされても知らねえぞクソガキ」
アルベルの頭にも、もう煩悩はない。
あるのは、生き残るために全力を尽くそうという意思のみである。
二人の命は、レオンのヘイストとアルベルの脚力に委ねられた。






やみを縫うように、アルベルは暗い森を駆け抜ける。
らんらんと輝く星空のように強い光を瞳に宿して。
なみだを拭い、もう泣かないと誓ったレオンは、必死にアルベルにしがみつく。
いろいろな人から貰った想いを胸に、自分にしか出来ないことを成す為に。
かすかな希望の光を信じて、二人の戦士が鎌石村へと駆けて行く――






【F-05/深夜】

【アルベル・ノックス】[MP残量:90%]
[状態:左手首に深い切り傷(レナに治癒の紋章術をかけてもらいました。しばらく安静にすれば完全に回復します)、
    左肩に咬み傷(レナに治癒の紋章術をかけてもらいました。しばらく安静にすれば完全に回復します)、
    左の奥歯が一本欠けている。疲労小。ヘイスト]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????×0〜1、
鉄パイプ@SO3、????(アリューゼの持ち物、確認済み)、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法…はこのガキ共が何とかするだろ!]
[思考1:レオンと共に鎌石村へ。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、死んで間もない人物の結晶体*1、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:エルネストを探す]
[思考4:レオンキュンハァハァ…こんなに可愛いんだし女の可能性も…はっ! 俺は一体なにを]
[思考5:龍を背負った男(アシュトン)を警戒]
[現在位置:鷹野神社内部]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

138To Destroy Nightmare ◆wKs3a28q6Q:2009/03/11(水) 03:46:44 ID:gzi8KfOg

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:80%]
[状態:左腕にやや違和感(だいぶ慣れてきた)]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3、幻衣ミラージュ・ローブ(ローブが血まみれの為上からメイド服を着用)]
[道具:どーじん、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式]
[行動方針:これ以上の犠牲者を防ぐ為、早急に首輪を解除。その後ルシファーを倒す]
[思考1:アルベルと共に鎌石村へ。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:結晶体*4、死んで間もない人の結晶体*1、結晶体の起動キーを探す]
[思考3:死んで間もない人の結晶体を入手したら可能な限り調査する]
[思考4:信頼できる・できそうな仲間(エルネスト優先)やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[思考5:狩野であればアシュトンを説得したい]
[備考1:プリシスと首輪解析の作業をして確定した点
① 盗聴器が首輪に付随している事。
② 結晶体が首輪の機能のコントロールを行っている事
③ 首輪の持ち主が死ぬと結晶体の機能が停止する事
まだ確証がもてない考察
① 能力制限について(62話の考察)
② 死んで間もない人間の結晶体が首輪解析に使えるかどうか]
[現在位置:鷹野神社内部]

139 ◆wKs3a28q6Q:2009/03/11(水) 03:50:17 ID:gzi8KfOg
いじょうで投下を終わります
いささかネタに走りすぎたかなとも思いましたが、アルベルのアッーフラグ(?)をとりあえず戦闘に影響を及ぼさない形にしてみました
男同士の恋愛という色々デンジャラスな要素を含んでますが、個人的にギャグの範疇かなと思っています。

まずいようなら遠慮なさらず言ってください
また、修正箇所等ございましたらご指摘の方お願いいたします

140 ◆wKs3a28q6Q:2009/03/15(日) 08:55:52 ID:WjFqTkFU
また規制喰らったのでこちらに書かせて頂きます

感想およびアドバイスありがとうございました
アドバイスをもとに精進したいと思います

修正及び破棄の必要性はなさそうなので、wikiに収録させて頂きました
またその際指摘された現在地を神社内部から山頂に変更し、
さすがに時間経過が遅すぎるかなということで時間帯も深夜から黎明へと変更しました

141名無しのスフィア社社員:2009/04/01(水) 20:57:45 ID:yzYKH8YU
よし、木端書き手の俺からアドバイスだ
書いてる時は全力で自惚れとけ
投下中も「まあ合格点だな」と思って投下しとけ
そして投下後に布団の中でバタバタするんだ!
何か洒落にならない問題があったら指摘されるから、なっ!



しかしAAA,地味な新作特設ページを今日更新してるけど、あれってエイプリルフールネタなのかしら・・・





と、ここまで書いてまた規制されてることを知った
いい加減規制(いい加減にせい)って感じだわ畜生・・・

142大空の翼(続き):2009/04/19(日) 15:04:52 ID:HWDwQLAU
               エルネスト
        フェイト↓    ↓  クラース↓
          ___  ___    ___
         /⌒  ⌒/⌒(○)⌒\/⌒  ⌒\
       /( ○) /( ○)  (○ /( ○)   (○)\
      /::::⌒(_/::::⌒(__人__) /:::::::⌒(__人__)⌒:::: \
     |    ゝ'゚|    ゝ'゚    |    ゝ'゚      ≦ 三 ゚。 ゚
     \   。≧ \   。≧   \   。≧       三 ==-

                 ━━┓┃┃
       ジェットストリーム   ┃   ━━━━━━━━
                   ┃               ┃┃┃
                                     ┛


※このAAはイメージ映像ですが、概ね今の彼らの状態と一致しています。

143大空の翼(続き):2009/04/19(日) 15:06:44 ID:HWDwQLAU
説明しよう。何故彼らが3人同時にブーッをしてしまったのかを。
想像して欲しい。彼らの目の前で浮かび上がったデッキブラシから回転し、
地面に対して激しいランデブーを試みたこのドジっ子魔法少女(中身はヅラムス)が軸となるデッキブラシと接していた部分は当然尻。
その部分が上に来てしまえば、万物全てが重力の束縛から逃れられる事は適わず。
スカートが捲れ上がり、まぁ、そのなんだ? 
描写するのもおぞましいので端的に書くと魔法少女の岩石の様にゴツイヒップを覆う白地の布がフェイト達3名とファーストコンタクトを果たしたのだ。
それは正にこの世の地獄絵図。
見たくも無いのにその光景を網膜に焼き付けてしまった一行は、某ラピュタ王が『バルス!』と言われた時と同じ心境なのである。

「ぬぬぬぅ、失敗してしまった」
頭をカツラ越しに摩りながらブラムスが立ち上がった。
事前に被っていた波平のカツラのおかげで怪我をする事はなかった様である。
まさか、彼がこのカツラを初めて被る時に懸念していた『鬘が無ければ即死だった』という事態が現実の物になろうとは誰も予想してなかったのではないだろうか。
「(ドジっ子魔法少女がホウキでの飛翔に失敗。「いたたっ、失敗しちゃった」って光景は王道的な萌えシチュだと言うのに、
 中身がブラムスなだけでここまで酷いものになろうとは…)」
「(そんな事はどうでもいい。
 それよりも、お前の下らん魔法少女談義が原因でこの様な事になっているのだからどうにかしろ!)」
「(無茶を言うなっ! 実はコスプレなんてものは必要ないと告げて激昂でもさせてみろ。
 きっと奴は俺の直腸にあの手に握るイチジク浣腸の中身をぶちまけるに違いない)」
と、中年二人は囁くように口論を開始。
そんな二人を横目に見ながらフェイトがブラムスに歩み寄る。
「ちょっとブラムスさん。それを貸してくれませんか?」
ブラムスの手よりデッキブラシを譲り受けたフェイトはおもむろにそれに跨った。
「待つのだフェイト。その様な平服ではそれを使う事は…」
しかし、ブラムスの懸念とは裏腹にスムーズな浮上を遂げるフェイト。
元々バスケットの優秀選手に選ばれる程運動神経も良く、
ファイトシュミレーターでも似た様なモーションのキャラがいた事が幸いしたのか、フェイトは難なくこのデッキブラシを扱う事が出来た。
「なんと! 何故フェイトは着替えもせずに空を飛ぶことが出来るのだ?」
エルネストの魔法少女理論を鵜呑みにしているブラムスは困惑するばかり。
このままでは自分の直腸に決して入れてはならない劇物が浸入する怖れありと見たエルネストがすかさずフォローを入れる。
「そ、その、ブラムス。言い忘れていたのだが、中には衣装を変える事も無くホウキを扱える天才型魔法少女と呼ばれる存在がいるのだ。
 フェイトがまさかそれとは思わなかったなぁー」
どう考えても後付の嘘八百なのだが、その身に纏う衣装同様純真ピュアな心を持つブラムスは彼の言葉を事を信じた。
これにてエルネストは未知のレッドゾーンへチャレンジ(バブルローション直腸注入)をなんとか回避できたのであった。
「何はともあれ、これで僕が鎌石村に行く必要はなくなりましたね。
 少しでも早くソフィアにあって安心させてやりたいんです。お願いします。
 我侭を言っているのは十分承知です。
 でも、僕を観音堂の方のルートに行かせて下さい!」
飛行テストを終えたフェイトが一同に嘆願する。
「わかった。但しそっちのルートはブラムスの知り合いのレナスですら殺してしまった敵がいる可能性が高いんだ。
 だから、ブラムスと一緒に行ってくれ。戦力は高い方がいいだろう?」
(こいつ…一緒に歩きたくないからと不審者王をフェイトに押し付けたな?)
クラースが提案する中オリジンが冷やかな目でクラースを見つめた。

144大空の翼(続き):2009/04/19(日) 15:08:08 ID:HWDwQLAU
こうしてチーム分けは終了した。
クラース・エルネスト組は自転車を使いこのまま鎌石村に直行。
対してフェイト・ブラムス組は禁止エリアになる前にE−4を通過しE−5、D−5へ。
それぞれの組が目的地にてソフィア達を捜索する事となった。

出発の準備を終えた中年コンビが、まだ準備を続けているフェイト達へと振り返った。
「いいか? 無茶だけはするなよ? それと再合流ポイントは次の放送までにホテル跡近くのF−4の街道だからな。忘れるなよ」
「後ブラムス、戦闘となった場合相手は強敵だと予想される。ここはフェイトにデッキブラシを相乗りさせてもらい体力を温存しておくんだ」
サドルに跨るエルネストと、荷台に腰を掛けたクラースがチーム『魔法少女(♂)』の面々に語りかける。
「はい」「うむ」
それに対し了解を返す二人を確認すると、エルネストは力強くペダルを漕ぎ始めた。
「それでは僕達も行きましょう」
「わかった」
フェイトはデッキブラシに跨ると徐々に浮上を開始させた。
その後ろではブラムスも同様にデッキブラシに跨っている。
「ブラムスさん。柄を持っているとまたさっきみたいに頭が下になっちゃいますよ?」
「そうか…。では、我はどうしたらよいのだ?」
「僕の体に腕を回してください。そうそんな感じです。後のバランスは僕が取りますから」
「うむ」
ブラムスの頷きを得てフェイトはデッキブラシを離陸させた。
かなりの快速で夜空を駆けるフェイト達。
しかしフェイトは気付いてしまった。
読者諸氏もお気付きであろう。フェイトの体をガッチリホールドしているブラムスの体勢はそう、所謂『あててんのよ状態』なのだ。
そんな状況にフェイトは顔を真っ青にさせてげんなりしてしまう。
いやまあ、ブラムスの胸は当てられる程に膨らんではいるのだが、鋼のように硬い筋肉に覆われていて、
股間のユグドラシルもミニスカートのおかげで感触は直に伝わってきてしまう。
そんな状況だからこそ彼の心は正に萎え萎え。
捲くれたスカートから覗く下着とめくれ上がった上着越しに見えたないしょのつぼみ――先程見てしまったその姿がなかなか頭から離れないようだ。
どうやらフェイトはこの歳にして新たなトラウマを抱える事となってしまったらしい。
だから『そんなに嫌なら、降ろしちゃえばいいじゃねぇか』と彼を責めないでやってほしい。
彼の心は最早罅だらけのクリスタルハート。そんな事をブラムスに頼む気力すらないのである。
因みにこれから1、2時間後アルベルはレオン相手にフェイトと同じ様なシチュエーション(男に女装させ密着)で
ドッキリドキドキ体験をする事になるのだが、中身が違うだけでここまでリアクションが変わるものなのかと痛感する事しきりである。
当然神ならぬフェイトやアルベルがこの事実を知る由も無い。


頑張れ! フェイト!!
負けるな! フェイト!!
そっちの方角にはソフィアがいるんだから元気を出せ!

但し、こんな変態を連れているフェイトと、かっこいい王子様に守られていたソフィアが再開を果たした時に
二人の関係がどうなるかまではこのSSの作者は責任を持ちませんのであしからず。

145大空の翼(続き):2009/04/19(日) 15:09:05 ID:HWDwQLAU
【D−2/真夜中】

チーム【中年】
【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2、自転車@現実世界]
[道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:ブラムスを取り引き相手として信用]
[思考4:鎌石村でブラムスの仲間を捜索]
[思考5:次の放送までにF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]

【クラース・F・レスター】[MP残量:80%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[思考4:鎌石村でブラムスの仲間を捜索]
[思考5:次の放送までにF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]
[現在位置:D-2北部、街道を鎌石村に向けて北上中]

146大空の翼(続き):2009/04/19(日) 15:09:45 ID:HWDwQLAU
チーム【魔法少女(♂)】

【ブラムス】[MP残量:80%]
[状態:キュアブラムスに華麗に変身。本人はこの上なく真剣にコスプレを敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SO、
魔法少女コスチューム@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2
荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島、袈裟@沖木島(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島]
[行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)]
[思考1:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考2:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考3:フレイ、レナスを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考4:フェイトと共にD−5、E−5に行きソフィア達を捜索]
[思考5:次の放送までにF−4にてチーム中年と合流]

【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:85%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)、魂が抜けかかっている]
[装備:鉄パイプ-R1@SO3]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP?、デッキブラシ@TOP、ソフィアのメモ、首輪、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考3:ソフィアと合流したい!]
[思考4:次の放送までにF−4にてチーム中年と合流]
[現在位置:D-2東部、東西に流れる川付近]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

147 ◆yHjSlOJmms:2009/04/19(日) 15:14:18 ID:HWDwQLAU
以上で投下終了です。

寝る前に降りて来た電波「youキュアブラムス出しちゃいなyo」の言葉を再現したらこんな事に…。

それと◆Mf/../UJt6氏と◆wKs3a28q6Q氏におきましては勝手ながら両名の作品から一部文章にアレンジを加えて使わせていただきました。
気分を害されたのであれば速攻修正するんでおっしゃって下さい。

後時間表記間違えました【深夜】です。

148 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:01:49 ID:fWuyGAv6
そして初さるさん喰らいましたので、続きはこちらに投下します。


ボーマンは苛立っていた。現在彼は、とある作業中である。
(まだ腕が痺れてやがる!あんのゴリラ野郎が!)
クリフの攻撃をガードした腕が痺れているせいで作業がしにくい。その事が彼を苛立たせていた。
いや、これは些細な事に過ぎない。苛立つ最大の原因は他にある。
バーストタックルをドロップキックで防いだ後からボーマンの動きは鈍くなっていた。
クリフは「タックルで足を痛めた為」だと考えたがそれは違う。
鈍さの原因、そして現在ボーマンが苛立っている最大の原因は「バーニィシューズが壊れてしまった事」にあった。
元々バーニィシューズは戦闘用に作られたものではない。
走る時の衝撃程度は吸収出来ても、攻撃の衝撃に強い造りにはなってないのだ。
クリフのバーストタックルとボーマンのドロップキックの衝撃を受け止めて耐えられる訳がない。
しかし、ガソリンまみれのボーマンがバーストタックルの炎を防ぐ事が出来たのは、
ガソリンが全くかかっていなかったバーニィシューズを履いていたからである事も事実。
バーニィシューズを犠牲にしなければ今頃は焼け死んでいただろう。
そして意図した事ではないが「足を痛めた」とクリフに誤解させ、大きなダメージも負う事無く戦闘を乗り切れた事も考慮すれば、
使い捨てのアイテムと割り切るなら相当な効力を発揮したと言える。
だが、バーニィシューズが無くなった今「支給品を手に入れる為に役場に向かう」という作戦は変更せざるを得ない。
到底一番乗りは不可能だろうし、他の参加者と出会ったら逃げ切れる保証も無い。
ならばどうするか。答えは既に決まっていた。
(バーニィシューズを壊した責任は取ってもらわねぇとな)

先程、バーニィシューズが壊れている事に気付いたボーマンは愕然とした。
(なっ!?壊れて…これじゃ…役場に…いや…アシュトンはまだかよ!?)
そして軽くパニックを起こす。クリフが何かしゃべっているが言葉が頭に入ってこない。
(アシュトン?…来るわけねぇ。役場…じゃねぇ、こいつが先だ)
クリフの顔付きが変わり、近づいてきた。
先程は不安感からだったが、今度は焦燥感から再び後退りする。
(だがどうする?バーニィシューズが…)
パニックは治まってきたものの、バーニィシューズが壊れたショック、そして、影響は大きい。
今までクリフと互角に立ち回れていたのはバーニィシューズが有った為だと言っても過言ではないのだ。
戦うにしろ、逃げるにしろ、バーニィシューズが無ければ不利は明白。
ではどうすればいいのか?しかし、対策を考えているを考えている暇など与えてくれるはずもなく、クリフが距離を詰めて来た。
反射的にバックステップで距離を取ろうとする。が、すぐに食らいつかれる。
(くッ、足が重てぇ)
実際には足が動かない訳ではない。
バーニィシューズのスピードに慣れすぎていたボーマンには自分本来のフットワークが遅く感じられているだけの事。
つまりただの錯覚なのだ。しかし、錯覚とはいえ動きにくい事に変わりは無い。
「遅えよ!」
そう言ってクリフが攻撃を仕掛けてきた。
何とかバックステップで避けるが、やはり足が重く動きにくい。そして、全くクリフとの距離を離せない。
クリフが追いながらパンチの連打を繰り出してきた。
何とか下がりながら避けるが、ボーマンが下がるよりもクリフの踏み込みの方が速く、徐々に近づかれている。
顔面への攻撃に目が慣れてきたボーマンに、クリフの足払いが引っかかる。バランスを崩したところに追い討ちを掛けられた。
(くそっ避けきれねぇか!)
ついには、やむを得ずガードする事となった。
先程の接近戦で分かっていた事だがクリフのパワーはガードした腕を痺れさせるのだ。
それを計算ずくなのか、ガードの上からでもお構い無しに攻撃は続いた。
エンプレシアとミスリルガーターがぶつかり合い、重い衝撃がボーマンの腕に伝わる。
動きが重い今ではフットワークを使って衝撃を流す事も難しく、
クリフの常人離れしたパワーと、サイズの合わないエンプレシアがますます腕を痺れさせる。

149 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:02:39 ID:fWuyGAv6
(やべぇ…腕が…)
もう何発かガードしていたら腕が持たなかっただろう、という時、クリフのローキックが繰り出された。
反射的にジャンプして避ける。その瞬間、クリフがバランスを崩し、一瞬の隙が生まれていた。
クリフの隙に反応して、ローキックを避けたジャンプから跳び蹴りを放つ。
蹴りはクリフの顔面にクリーンヒットし、クリフが仰け反った。
(チャンス!)
「おぉぉぉっ!!」
両拳のラッシュを仕掛ける。だが腕の痺れが影響し、拳に100%の力を乗せる事が出来ていない。
(くそっ、この馬鹿力が…)
拳では駄目だと判断し、ドロップキックを決めてクリフを吹っ飛ばした。
追撃するチャンスではあったが、先程『桜花連撃』を決めたシーンがフラッシュバックし、それを思い留まらせる。
クリフは桜花連撃をまともに食らっておきながらも、あれだけ高い跳躍から恐ろしい破壊力の急降下で反撃してきたタフネスだ。
腕に力が入らない今、それだけのタフネスを仕留めきれるとは思えない。
そう判断したボーマンは「距離を取る事」を選択した。距離を取ってまずは腕を回復させたい。そしてもう一つ…
ボーマンはクリフが蹴り倒した樹の場所まで走るとボーマン、倒れた樹、そしてクリフが一直線上になるよう位置取りをし
『旋風掌!』
倒れた樹に向かい旋風掌を撃ち込んだ。
旋風掌は樹に生えている木の葉を大量に巻き込み、軌道上にいるクリフに襲い掛かる。
「……!」
クリフが何か叫んでいたようだが、その声は竜巻に阻まれボーマンには届かなかった。
旋風掌がクリフを飲み込んだ事を確認すると、ボーマンはクリフとは反対方向に全力で逃走した。

100メートル程は走っただろうか。
ようやくクリフから離れる事が出来たボーマンだが、それだけでは事態は何一つ好転しない。
(バーニィシューズが壊れるってのは…ちっ最悪だぜ。これじゃ役場には行けねぇ)
役場での支給品入手はもう望めない。
(…アシュトンの方はもう終わったか?)
アシュトンのところに戻れば戦利品を分けてもらえるだろうか?
合流した時はアイテムの交換を拒否されたが、新たに入手したアイテムならばアシュトンも分けないとは言えないだろう。
(…いや、そういや金髪が「仲間を待たせてる」だとかヌカしてやがったな)
だが、きっとボーマンを見失ったクリフは仲間の所へ戻ろうとする。
同じ目的地に向かうとなると、バーニィシューズが壊れた今ではクリフに追いつかれる可能性も充分に有る。
逆に、クリフが戻るところを尾行する事も考えたが、その場合でも気付かれればやはり戦闘になる。
決定打もバーニィシューズも無い状態では、再び戦闘になった場合はこちらの圧倒的不利は明白。
(ここはやっぱ手持ちのカードで何とかするしかねぇな)
ボーマンは足を止めるとデイバッグからフェイトアーマーのカツラ部分と調合セットを取り出す。
(カツラも着けると徐々に体力が回復する、ねぇ。あまり時間は無いが…腕の痺れぐらい取れんだろ)
そう期待をしてカツラを装着する。
アシュトン達にフェイトアーマーの存在を知られたくなかったから装備していなかったが、今なら問題ない。
(アルテミスリーフが約2/3か…殆ど気休めにしかならんが無いよりマシだな)
これで調合用の薬草は底をついてしまうが仕方ない。
普段だったらニーネが、非常時に備えてボーマンの白衣に薬草をいくつか入れておいてくれるのだが
その薬草はこの島には持ち込めなかったようだ。
「ニーネ…エリス…」
つい妻と娘の事を考えたが、いや、とボーマンは頭を振る。
感傷に浸るのは全てが終わってからで良い。今は作業に集中しなくては。

150 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:03:13 ID:fWuyGAv6
残り2/3しかないアルテミスリーフを更に半分にちぎり、調合作業を開始する。
元々量が少ないので普段よりも時間は掛からない。すぐにフェアリィグラスが完成した。
(次はと…今なら邪魔なチェスターはいねえ。ようやく破砕弾を作れるぜ)
そう、ボーマンが今まで破砕弾を作れなかった理由はチェスターにあった。
アシュトン、チェスターと合流してからここまで、破砕弾を作る時間的余裕ならいくらでも有ったのだが、
チェスターに破砕弾を作るところ、または使うところを見られては、
チェスターに「仲間が爆死したのはボーマンの丸薬のせいだ」と気付かれてしまうかもしれない。そんな危険は冒せなかった。
だが今ならば何も障害はない。ボーマンは早速破砕弾の製作に取り掛かる。
そして、この破砕弾を使用する予定の相手を思い浮かべた。
(今度は俺が奴を追いかける番ってか)
これで決定打が手に入る。そう、距離を取ったもう1つの理由は「決定打」を手に入れる事にあった。
後は仲間の元に戻るクリフを尾行し、アシュトン達と供に奴を殺すか、その前に直接破砕弾で殺すか…どちらでも良い。
どちらにせよクリフを殺し、奴のアイテムを奪い取ってやるのだ。
(バーニィシューズを壊した責任は取ってもらわねぇとな)


ボーマンを見失ったクリフは焦燥感に駆られていた。
(やべえ逃がした…ミラージュ…急がねぇと)
木の葉での目隠し、などという手を使われたとはいえ、むざむざボーマンを逃がしてしまった。
このまま役場に向かわれたならばミラージュが危ない。
焦ったクリフは痛むあばらを押さえ、とにかくボーマンを追おうと走り出した。が、すぐに首輪から警告音が鳴り始めた。

『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』

「っと」(30秒?)
再び禁止エリアに入ってしまった。
竜巻の中にしばらく居たせいで方向感覚が麻痺していたようだ。
後退して禁止エリアを出ると、デイバッグから地図とコンパスを取り出して方向を確かめる。
どうやら完全に方向を間違えてたらしい。今このC―5が禁止エリアでは無かったならば、クリフは真っ直ぐC―6に向かっていた。
(さっきは確か20秒だったが…めんどくせえもん作りやがって、ルシファーの野郎!
…まあいい、何秒だか知らねえが要は警告なったらエリア出りゃ良いんだろ。むしろ現在地の確認になるじゃねえか)
地図を見て、辺りに目印になる様なものは無さそうだ、と判断したクリフは
禁止エリアに入った時の警告をナビ代わりに利用すれば良いと考えた。
いちいちコンパスを見ながら走るよりはよっぽど速く移動出来るだろう。
地図とコンパスをしまうと忌々しそうに目の前の禁止エリアを一瞥し、移動しようとした。その時、
(…何だ?ありゃあ?)
禁止エリア内に落ちている何かがクリフの視界に入った。
何かの塊の様な物が落ちている。あの辺りはさっきクリフとボーマンが戦っていた場所だ。
自身は何か落とした覚えはない。とすればボーマンのだろうか?あるいは別の誰かの物か。
急ぎたい気持ちは有ったが、それが気になったクリフは首輪の警告は無視して塊を拾いに行った。
(…こいつは…どこかで…)
確かにどこかで見た覚えがある。
D−5に戻ってそれを確認すると、ピンク色の毛皮のような物だった。
(これは…そうだ、バーニィに似て…バーニィ!?)
ふと、ボーマンのボロボロの足を連想して、
「バーニィシューズか!?…そういうことかよ!」
1つの答えに辿り着く。

151 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:04:48 ID:fWuyGAv6
クリフの知っている物とは形状が異なるが、確かにソレはバーニィシューズの破片だった。
(野郎の動きが鈍ったのはバーニィシューズが壊れただけだったってか。…くそったれが!)
つまりボーマンの足にはダメージなんて無いのだ。
冷静に観察していればボーマンにダメージを負ったような素振が無い事に気付いただろう。
だが、目先の「勝機」に目が眩み、判断力が鈍っていたのかもしれない。
その判断ミスのせいでクリフは無駄なダメージを負い、ボーマンを取り逃がす事になってしまった。
「情け…ねえ……だが」
自らの判断ミスを悔やむと、バーニィシューズの欠片を握りつぶし禁止エリア内に放り投げた。
(バーニィシューズはぶっ壊したんだ。それなら奴が役場に着く前に追い…いや、まてよ…野郎はそもそも何が狙いだ?)
そして、謎が1つ解けた事に刺激され、ようやくクリフは現状を冷静に考え始める。
デイバッグからペットボトルを取り出した。うがいをし、水を吐き出す。
吐き出した水には大量の砂と血が混じっていた。
(あの状況で役場に行く?なわけねえだろ。行ってどうする?)
ほぼ互角の戦闘状態からの突然の逃亡。
慌てたクリフはミラージュの身を案じて追いかけた訳だが、そもそものボーマンの目的は何なのか?
少なくとも、役場方面に逃走したからと言って役場に行くとは限らない。むしろ、行く理由など無いはずだ。
(なら…ミラージュがあの野郎に襲われる心配なんかまず無い…か?)
確かに普通に考えればミラージュがボーマンに襲われる可能性は少ない、いや、皆無に等しいだろう。
実際にはボーマンは役場に向かっていたのだが、第3回放送を聞いていないクリフに、ボーマンが役場を目指す理由は考え付かない。
(考えられるとしたら…奴の有利な場所に俺を誘い込む…これか?
いや、あれは誘ってるような走り方じゃねぇ。明らかに振り切る走り方だった…ちっ、分からねえ)
考えてもボーマンの狙いなど分かりそうもない。クリフは頭を掻きむしると一つ舌打ちをし、余計な事を考えるのを止めた。
(…まあ、野郎の目的なんざどうでもいい。今はミラージュを護りに行く。野郎を見つけたらぶちのめす。それだけだ)
ボーマンが役場に行く可能性などは無いはずだが、他の参加者ならば、いつ、どんな理由で役場に行くか分からない。
ならば、自分のやる事はやはりミラージュを護りに行く事。そう結論付けた。
そして「最悪ボーマンを逃がしてもミラージュに危険は無い」という結論はクリフの心を幾分か楽にさせ、余裕を持たせた。
クリフはもう1度うがいをする。口の中の砂は気にならない程度には落とせた。ペットボトルをしまい、辺りを見渡す。
(野郎が戻ってこないとは限らねぇ。一応不意打ちは警戒しとかないとな)
クリフは辺りを警戒しながら、役場を目指して慎重に移動を始めた。


近づいてくる足音を聞き、まだ破砕弾を作り終えていないボーマンは少し焦った。
(あいつ、こっち来んのか!?仲間待たせてんじゃねぇのかよ?
…どうあっても俺を倒すってのか。チッ、まだ途中だってのに…しょうがねぇな)
足音はボーマンより東南側を、ほぼ西に向かって移動しているようだ。
つまり真っ直ぐボーマンに向かってきている訳では無いのだが、のんびりと作業している訳にもいかなくなった。
ボーマンは急ピッチで締めの作業に入る。
通常よりもサイズが小さくなってしまい殺傷能力に不安が残るが、この際贅沢は言ってられない。
(後は丸めてっと…何とか出来たな。…服も脱いどきたかったが…)
ガソリンまみれの服を着ていると破砕弾の飛び火に対してやや不安が残るし、
同じ理由から、自分の技の1つで炎の闘気を使用する「朱雀双爪撃」が撃てない。
それ故、出来れば脱いでおきたかったが、足音の持ち主、つまりクリフの姿が見え始めた。どうやらそんな暇は無いようだ。
ボーマンは広げた荷物を音を立ててデイバッグに突っ込んだ。足音が止まる。ボーマンの気配に気付いたようだ。

「てめえ、居やがんのか?出てきやがれ!」

クリフの怒号が聞こえる。ボーマンの姿まではまだ確認出来てないようだ。
(ああ、出て行ってやろうじゃねぇか!)
ボーマンはフェアリィグラスを飲み干した。

152 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:05:24 ID:fWuyGAv6
ボーマンからの不意打ちを警戒して、念の為に禁止エリアからやや離れて移動していたクリフだったが
ガサガサと何かの音がしたのを聞き取り、立ち止まって警戒心を音のした方向に向けた。何か居る。
(…まさか猫や犬とかいうオチじゃねえだろうな?)
そう言えばクリフはこの島で野生生物の姿を一度も見ていない。哺乳類や爬虫類ならまだしも、鳥や昆虫すら見ていない。
おそらくは、この島がエターナルスフィア内に「この殺し合いの為だけに作られたフィールド」だから
余計な物は存在しないという事なのだろうか。(クリフが見てない、または気付いてないだけかもしれないが)
だとしたら、やはりこの気配は人のものだ。
「てめえ、居やがるのか?出てきやがれ!」
声をかけるが返事は無い。
だが、返事の代わりだろうか、再び同じ方向から何かの音が聞こえた。いや、音だけではない。暗闇に動く影が2つ程見えた。
(……誰だ?)
クリフに若干の迷いが生じる。ボーマンなら1人のはずだが、今見えたのは2つの影だ。
見間違いか、ボーマンに龍の男とは別の仲間が居たのか、それとも全く別の参加者か、
考えを巡らせていると、影の1つが飛び出してきた。それはやはりボーマン。ただ、何故か髪が青くなっている。
「なんだぁ?急いでたと思ったらイメチェンしてたのかよ。青髪の野郎は腹黒いって相場は決まってるんだぜ?」
クリフは悪態をつくが、ボーマンは何も答えないで真っ直ぐクリフに向かってくる。
(シカトしやがって。…いや、こいつ…?)
クリフは違和感を覚えた。ついさっきまでは逃げ回っていたボーマンがただ向かってくる、と言うのはどう考えても不自然だ。
何か狙いが有る、それは分かる。だがその狙いは何なのか?今見えた影、または青くなった髪に関係あるのだろうか?
クリフは影が見えた場所に視線を移したが、そこにはもう何も見えない。
(何だか分からんが…)
ボーマンは全く速度を落とすこと無く突っ込んでくる。もう考えている余裕は無い。
ボーマンが走り込むそのままの勢いで右腕を振り下ろしてきた。
(…チッ、しゃあねぇな)
狙いが分からないが、仕方なくボーマンの攻撃を左手で受け流し、右拳でガラ空きの顔面を殴り抜ける。
完璧に入った、と思った瞬間、パン、と軽い手応えをクリフの拳に残してボーマンは消滅した。
「あん!?」
その時クリフの背後から1つの影が迫る。分身に気を取られていたクリフは気配に気付くのが一瞬遅れた。
(後ろか!)
ボーマンがクリフの脇腹目掛けてスピードの乗ったサイドキックを放っていた。
クリフは振り向かずに身体を捻って回避しようとするが、ワンテンポ遅い。
キックがクリフの脇腹を掠め、折れたあばらから更に激痛が走った。
クリフは痛みを堪え、身体を捻った勢いで回し蹴りを放ったが、空を切る。ボーマンは暗闇に走り去っていた。

153 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:05:57 ID:fWuyGAv6
(…そういう作戦かよ…)
仕組みは分からないがボーマンは分身を作り出す事が出来るようだ。
暗闇に乗じて本体と分身で攻撃を仕掛けてくる。しかも、気配を感じてもそれが本物か分身かは分からない。
(暗闇と分身、2つの隠れ蓑に紛れてのヒットアンドアウェイか。なかなか厄介…っと、また来やがった!)
再びボーマン、いやボーマン達が姿を現し向かってくる。今度は1人が前、少し遅れて2人が続いている。
(今度は3人かよ!…1つ確かめてみるか)
クリフはデイバッグからまだ水の残っているペットボトルを取り出すと、先頭のボーマン目掛けて思い切り投げつけた。
ペットボトルは回転しながらボーマンの顔面目掛けて飛んでいくが、そのボーマンは全く避けようとせず、そのまま命中した。
ペットボトルは弾かれて地面に落ち、ボーマンは何のリアクションも無く突進してくる。
(…つまりこの分身は幻や残像って訳じゃねえ…闘気が形作ってるってとこか?)
先頭のボーマンがパンチを放つ。クリフはそれを全力を込めてガードした。腕に衝撃が走る。だが、
(…本物の攻撃よりは軽いな)
拍子抜け、とまでは行かないが分身の攻撃力は高くないようだ。
今の分身は走り去りながら消滅していく。分身発生から消滅までは7〜10秒といったところか。
しかし落ち着いて分析している暇は無い。入れ替わるように後ろの2体が迫り来る。
(だったらこう言うのはどうだ?)
クリフは地面を蹴り、ボーマン達に向かって振り抜いた。抉り取られた土が細かく拡散してボーマン達に降り掛かる。
至極単純な目潰しだ。しかし、どちらもノーリアクション。突進は止まらなかった。
「全部偽者かよ!」
(なら奴は……そういう事か!)
2体のボーマンが浴びせ蹴りを放ってきたが分身と分かっていれば問題は無い。攻撃力が高くないのは確認済みだ。
クリフはそれぞれを片手1本ずつで受け流した。やはり軽い。
(…てめぇが姑息な野郎だってのは…)
クリフはすかさず自分の上空を確認、そして蹴りを突き上げる。そこにはもう1人のボーマンが飛びかかってきていた。
「分かってんだよぉ!」
2人の視線と殺気がぶつかり合った。
ボーマンの拳とクリフの蹴りが衝撃音を作り出す。どちらの攻撃も完全に相殺された。


ボーマンは落下の勢いを利用して地面を転がり、そのまま前方に跳躍して距離を離し、闇に溶け込んだ。
クリフを視認するが、今の反撃の体勢の悪さが影響して追いかけてこれなかったようだ。
(っつぅ!野郎…もう死方陣に対応して来やがるか…やってくれるぜ)
死方陣は、最大3体の分身を闘気により作り出し攻撃する技だ。
攻撃力も持続力も高くはないのだが、分身は作り出した時のボーマンと寸分違わず同じ姿をしていて幻惑効果が極めて高い。
その死方陣がこうも早く対応された事は今までの経験上、記憶に無かった。
いずれ対応されるとしても、もっと先だと考えていたのだがまさか2回目とは。
(…ま、それはそれで構わねぇけどな!『死方陣!』)
だがボーマンは、三度死方陣を繰り出した。この技は1度対応されただけで死ぬ技ではない。
むしろその対応を糧にして新たな駆け引きを生み出せる。
ボーマンは、クリフとの戦いはもうまともに接近戦はしない事に決めていた。
認めたくは無いが接近戦はクリフの方が有利だ。バーニィシューズが無くてもスピードならボーマンに分があるが、
クリフ程の実力者ならばすぐに対応してくるだろう。接近戦ではいずれ敗北するのは明白だ。
だったらわざわざ相手の土俵に立つ事は無い。ボーマンには接近戦以外でも戦う手段があるのだから。
クリフを倒すには撹乱してのヒットアンドアウェイで弱点を突くのがベストだろう。その為には死方陣は最適な技だった。

ボーマンは今度は4体になり、正面から前列に2体、後列に2体でクリフに突進する。
(対応出来るもんならしてみやがれ!)

154 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:06:43 ID:fWuyGAv6
(4体…どうやら分身は3体までか?もっと出せるならさっきやってんだろうしな)
3度目の分身が迫り来る。辺りの気配を探るが、他に気配は感じられない。おそらく今回は本体もこの中に居る。
ならば、とクリフは再び地面を抉り、土を飛ばした。本体が居るならこれで特定出来るはずだ。
だが、それに反応するかのように前列の分身2体が高く跳躍し、後列の分身2体は顔をガードして突っ込んできた。
(そんな事も出来んのかよ!…全く良い技だ。神宮流にも取り入れたいぜ!)
これにはクリフも意表を突かれたが、すぐに体勢を整え、構え直した。
(だが…今のに対応したって事はやはりこの中に本体が居るって事だな)
そう判断すると、クリフはボーマン達を迎え撃つ事を選択した。
この分身技は避けるだけならば比較的容易かもしれない。だが、本体がこの中に居ると言う推測が正しいのなら、
そしてもし空中に跳んだ2体のどちらかが本体ならば、これはボーマンに反撃するチャンスでもあるのだ。
先にクリフまで到達したのは地上に居る2体。跳躍した2体が降りて来るまでにはまだ余裕がある。まずは地上の2体を対処する。
(とりあえず殴り飛ばす訳にはいかねえか)
本体が跳躍した側に居た場合、突進してきた分身に攻撃してしまっては、わざわざ自身の隙を晒けだす事になる。
逆に地上に居る場合、完全な二択となる訳だが、正解を引き当てたところで間違いなく回避なりガードなりしてくるだろう。
つまり本体がどちらに居るとしても、クリーンヒットは望めない。
そう考え、クリフは地上の2体の攻撃はまずガードを固めて凌ぐ事にする。
クリフは少し身体をずらし、2体の攻撃を大体同じ角度から来るように位置を調節した。
ボーマン達が同時に襲い掛かってくる。
片方が左ストレート、もう片方はステップインからのサイドキックを放ってきたが、
クリフは両手を少し動かす事で、両方の攻撃を完璧にガードしきった。
ガードしたミスリルガーターから衝撃音が2度発生した。先程と同じく、軽い衝撃音だ。
(軽い…上か!)
跳躍していた2体は既に攻撃態勢に入っている。
(上から来るなら何体居ようと問題ねえ!)
だがクリフには反撃に転じれる対空技がある。クリフは自分の顔の前で両手を交差させ、ボーマン達の真ん中に狙いを定めた。

「痺れちまいな!『マイト・ディスチャージ!』」

クリフの頭上に巨大な球体の闘気の塊が発現し、爆発した。


地上の分身がガードされた後、ボーマンはクリフが両手を交差させたのを見て、そのまま防御に徹するのかと考えた。
(だったら遠慮無く…って、何かやべぇ!)
だがクリフから伝わってくる闘気はとても防御の為とは思えない。確実に何かしてくる。ボーマンは咄嗟に身体を小さくした。
「痺れちまいな!『マイト・ディスチャージ!』」
クリフの頭上に巨大な球体の闘気の塊が発現し、爆発する。跳躍していた2体のボーマンはとても避ける事が出来ない。
成す術無く爆発に飲み込まれた。そして―――2体共消滅した。

155 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:07:22 ID:fWuyGAv6
(対空技か!脅かしやがって!)
その瞬間、クリフの胸部から骨の粉砕される鈍い音が数回鳴り響いた。
「うぐぁっ!?……て…め…」
クリフの身体が「く」の字に折れ曲がる。更に骨の折れた激痛は流石に堪えきれなかったようだ。
「へっ、蹴りが軽いからって分身とは限らねぇだろ?痺れるのはてめぇの方だったな!」
(顔面が良い位置に来てるじゃねえか!)
言い終わると同時にボーマンは更に強打を叩き込み、クリフを殴り飛ばした。
ボーマンは「後列の2体の内の一方」に居た。わざと分身程度に力を落とした攻撃をガードさせる事で
自信を分身だとクリフに誤解させ、クリフが「跳躍している2体」に気を取られている隙を攻撃したのだ。
マイト・ディスチャージを撃たれた時はどのような技を撃ち出されるか分からなかったので、
地上に居る自分も巻き込まれる事を警戒して回避行動を取ったが、結果的にはそれは無用な心配であった。
(確実に肋骨の数本を粉砕したが…)
吹っ飛んだクリフの様子を伺う。立ち上がろうとしているが、口からは血を吐き出し、身体は痙攣を起こしているようだ。
見るからにダメージは大きい。
「頃合だな」
後はガソリンまみれの白衣をクリフに被せ、破砕弾をぶち当てれば終わりだ。
おそらくは破砕弾だけでも充分殺せるとは思っているが、念には念を入れておくに越した事はない。
ボーマンはデイバッグから白衣を取り出し、洗濯物を干す時のようにパンッ、と広げ、
「最後だ!『死方陣!』」
そして死方陣を発動した。ボーマン達がクリフを中心とした正方形を作る。相手を逃がさない為の陣形ならばこれがベストだ。
クリフはどうにか立ち上がっていたが、ボーマン達を睨みつけると、体力の限界のせいかフラついて屈みこんだ。
口元が動いていたが声は聞こえなかった。いや、そもそも声も出せていないのかもしれない。
(恨むんじゃねぇぞ…ってのは無理な相談か。まあいい、止めだ!)
ボーマンは一気に正方形の陣形を縮小させる。
最初の分身が襲いかかるのと同時に、ボーマンは白衣をクリフの頭上から被せた。

「イチ」

クリフが何かを呟いたのが聞こえた。
言葉の意味を考える間もなく、まだ手から離してない白衣が風圧に持ち上げられ、屈み込んでいたクリフの姿が消えた。
(何!?)
被せようとしていた白衣のせいではっきりとは見えなかったが、クリフは跳躍したようだった。分身の攻撃も当たっていない。
ボーマンは反射的に上空を見上げた。やはりクリフが高く跳躍している。
(さっきの急降下か?悪あが――)
ボーマンの目が、クリフの方向から落下してくる黒い何かを捉えた。
その瞬間、ボーマンは爆音と閃光に包まれ、全ての感覚が吹っ飛んだ。

156 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:09:24 ID:fWuyGAv6
(全くよ…気付いてみりゃあこんな簡単な事だったとはな)
ボーマンが分身したのを確認して、クリフはピンを抜いて屈みこんだ。
「4」
ボーマンの分身は確かに見ただけでは判別不能だ。
クリフも最初は見分ける事しか考えていなかったが、そもそもそれが誤りだった。
重要な事は「どのボーマンが本物か」ではなく「ボーマンは何処に向かうか」だったのだ。
「3」
分身は発現してから10秒程度で消える事は先程確認してある。そして、当然ボーマン達が向かう場所はクリフの所だ。
つまり、ボーマンは分身したら「10秒以内に」「クリフのところへ」必ず向かってくる。
その事に気付けば対処は全く難しくはない。
「2」
ボーマン達が4体同時にクリフに向かって突進してきた。何故か白衣を広げているが、どうでも良い。
(走って逃げる奴には使えねえがな、走って来る奴には立派に使っていけるんだぜ)
「1」
タイミングはこれ以上無いくらいに良い。
クリフは全力を込めて跳躍し、持っていた缶を手から放した。クリフの居た場所に4人のボーマンが集まってきている。
1人、白衣を広げていたボーマンがクリフを見上げたが、星空を見上げて跳躍していたクリフの視界には入らない。
(なかなか良い月だ。クラウストロのには劣るが悪くねえ。俺の審美眼に認められるってのは自信持っていいぜ、お月さんよ)
だが、ボーマンが上を見上げるのはクリフの予想通り。見なくても分かっていた。
クリフの下方で閃光が発し、爆音が辺りを包んだ。クリフの投げた閃光手榴弾が作動したのだ。
(やれやれ、やかましい合図だぜ。…だが、ジャンプに釣られて俺を見上げたてめえは、まともに喰らっちまっただろ?)
閃光手榴弾の爆発に巻き込まれた者は視覚、聴覚を奪われ、爆音によるショックで身体が数秒間硬直する。
基本的に殺傷能力は無いが、遥か昔の閃光手榴弾であれば、爆心地の側に居る者が軽度の火傷を負う程度には攻撃力が有った。
そして、クリフの使った閃光手榴弾はどう考えても20世紀の骨董品とも言える代物だった。
無論、投げたクリフ本人は両手で耳を塞いでいたが、それでも爆音は手を突き抜けて、聴覚を軽く麻痺させた。
だがそれでも大した問題は無い。後は一撃を叩き込んでケリをつけるだけなのだから。
光が治まった事を確認するとクリフは地上を見下ろした。
直視していないとは言え、閃光に包まれたクリフの目は明順応を起こしている。
月明かり程度の光源では、数メートル下の暗闇の中は全く見えないはずだが、見下ろす先には4人のボーマンの姿が朧気に見えた。
その内の1人が立ち尽くしたまま何故か燃えている。その炎により姿が浮かび上がっているようだ。

『エリアル・レイド!!』

クリフはエリアル・レイドを放った。狙いは燃えているボーマンより若干離れた位置。
まるで獲物を狙う猛禽類のような勢いで急降下し、一瞬で地面に到達する。
地面に到達した瞬間、衝撃音と共にクリフの足元から破壊エネルギーの衝撃波が発生し、ボーマン達に襲い掛かった。
ボーマン達が一体ずつ掻き消されていく。最後に残ったのは立ち尽くしたまま燃えているボーマンだ。
ショック状態が覚めていないボーマンは身を護る事も避ける事も出来ない。
そもそも攻撃されている事にも自分が燃えている事にも気付いていないだろう。
衝撃波に巻き込まれ、ボーマンは炎に焼かれながら数メートル上空に吹っ飛ばされた。
物理法則に従って頭から落下を始め、受け身を取る事すらも許されず
『ゴシャアッ!』と奇妙な音を立てて地面に激突し、そして崩れ落ちた。

157 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:09:56 ID:fWuyGAv6
(…どうだ?)
しばらく様子を伺うが、ボーマンが立ち上がる気配は無い。クリフは荒い呼吸をしながら、地面に片膝をついて座り込んだ。
(…はぁ…はぁ…やっぱ動けねえ……野郎、くたばったんだろうな?)
肉体的にも精神的にも限界だったクリフは、エリアル・レイドを撃てばしばらく動けなくなるとは予想していた。
ボーマンに直にエリアル・レイドを当てなかったのも、動けなくなった自分に貰い火するのを警戒しての事だ。
だがクリーンヒットしたとはいえ、衝撃波だけでは蹴り部分よりも攻撃力は落ちる。
おまけに、もし石畳やコンクリートの地面に落下したのならボーマンは即死だったであろうが、ここの地面は土である。
仕留め切れたかどうか今一自信が無かった。
もう1度ボーマンの様子を伺うが、動く気配は無い。死んでいるのか気を失っているだけなのかは分からないが、
「まだショック状態なだけ」と言う事は無いだろう。
何にせよ炎を消さない限りはボーマンは助かりようもない。そして、クリフに炎を消す気は全く無い。
クリフは勝利を確信し、とりあえず安堵する。

「へっ、手こずらせやがって…しかし俺も良い様だぜ。こんなんじゃミラージュのとこ行っても、足手まといにしかならねえ…」
とにかくボーマンは倒した。
後は役場に向かいミラージュを助けに行くだけなのだが、今の戦闘でクェーサー戦の傷がことごとく開いてしまっている。
クェーサー戦の時の疲労よりはマシではあるが、精神力も使い果たし、歩くのがやっとの状態だ。
どうしたものかと考えた時、ボーマンが持っているデイバッグがクリフの目に留まった。
(…こいつ回復アイテムは持ってねえのか?デイバッグは…まだ燃えてねえな)
クリフはボーマンの持ち物に対して淡い期待を抱き、デイバッグを回収しようと彼に近づいた。
炎に焼かれていて死んだ振りも無いだろうが、念の為にボーマンへの警戒は怠らない。
だが、やはりボーマンはピクリとも動かない。燃えている為に呼吸を確かめる事も出来ないので、
生きているかどうかまでは確認出来ないが、動く事は不可能だろう。
それならば、これ以上火力が強くなる前にデイバッグを回収しようと、クリフはボーマンのデイバッグに手を伸ばした。


凄まじい閃光と爆音、そして続けて鳴り響いた衝撃音に導かれて、レザードはその場所に到着した。
2人の人間が居る。1人は倒れていて燃えている。誰かは分からない。
もう1人は顔はよく見えないが、体格や格好からクリフだと判別出来た。
クリフはまだレザードの存在に気付いていない。
(クリフ?生きていたか。…ヴァルキュリアが戻るまでの間とはいえ、あの金龍から生き残るとはなかなかやる。
…と、言いたいところだが、彼が生きているという事はおそらくソフィアも生きているか…)
レザードは倒されている男を見る。
(どうやらクリフは金龍とは別の参加者に襲われたようだが…
クリフがヴァルキュリア達と別行動を取る理由は無いはず。にも拘らず今クリフが1人で戦っていたという事は、
敵は複数でやってきてヴァルキュリアとクリフが分散して戦う事となった、といったところか。
すると、ヴァルキュリアは現在も戦闘中である可能性が有るな…)
ソフィアが生きているであろう事。レナスが今も戦闘中であろう事。
この2つの推測から、レザードの胸中にある不安が広がる。
その不安は1つの目的を発生させ、レザードは瞬時に推測に基づいた計画を立てた。
(まずは確認の為、クリフに話を聞いておく必要がある。
最悪の展開を考えれば、倒されている男はとりあえず生きている方が好ましいが…)
クリフが男に近づいていく。止めを刺す気だろうか?今はそれを止めさせなくてはならない。
レザードは呪文を発動する準備を行う。かつてミッドガルドでメルティーナを殺害した呪文だ。
レザードはクリフが燃えている男に手を伸ばしかけたところで声を掛けた。

158 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:10:37 ID:fWuyGAv6
「クリフ、ご無事でしたか」

後ろから声を掛けられた。まだ耳鳴りが残っている為に少し声が遠いが、聞き取る事は出来る。聞き覚えのある声だ。
クリフが振り向くとレザードが微笑みながら、左手をクリフの方向に向けて立っていた。
「レザード!?てめえ、さっきはよくも…って、おい!?」
レザードの左手に紋章力のようなエネルギーが集まっている。
クリフがまさか、と思った瞬間、レザードの左手から光線が撃ち出された。
クリフは反射的に防御体勢を取るが、光線はクリフの身体の横を通りぬけていった。
目で光線の軌道を追うと、光線はボーマンに命中して炎を消していく。どうやら冷気の紋章術のようだ。
(こいつを助ける気か?何でまた?)
数秒後、ボーマンを燃やしていた炎は完全に消火された。
レザードが呪紋を止めたのを見てクリフは口を開こうとしたが、それより先にレザードが話し始めた。
「先程は私の力が及ばずにあなた方を置き去りにしてしまう事となり、申し訳ありませんでした」
「あん?」
クェーサー戦の話のようだ。
「本来の私の移送方陣ならば、あの場に居た全員を移動させる事が可能だったのですが、
 能力制限のせいか、ここでは移送方陣の効果範囲がごく狭い範囲に狭められているようです。
 私もその事には、先程移送方陣を発動させた時に初めて気付きました」
「…要するに、自分だけ逃げ出す事になったのは能力制限のせいだと言いたいのか?」
「言い訳にしかなりませんがその通りです。そして、移送方陣には回数制限も掛けられていたようで、
 再び移送方陣でお2人を助けに行こうとしても、発動する事すら不可能でした。
 ですが、これは完全に私の落ち度です。私がもっと早い段階で移送方陣を試して能力制限に気付いていれば、
 金龍には別の手段を用いて対抗する事が出来たのですから。
 …ともあれ、ご無事で何よりです」
その言葉を聞き、クリフは考える。
確かにこのようなサバイバルゲームでは瞬間移動の能力は強力すぎる。
ルシファー側からしてみれば是非とも制限を掛けたい能力なのは間違いないと思われ、レザードの言ってる事は筋が通っている。
筋は通っているのだが、クリフは先程レザードに置き去りにされたという印象が強く、
彼の言い分を鵜呑みには出来ない気持ちが大きかった。しかし、否定する材料も無い。
釈然としないが、クリフはとりあえず置き去りにされた事は置いておく事にした。聞きたい事はもう1つある。
「チッ、それはまあ良い。それでお前、何でこいつを助ける?」
「いえ、彼には少々聞きたい事が有りましてね…最も話す事が可能なら、ですが。まあ、その事については後程説明致します。
 それよりもクリフ、あの後金龍はどうなったのです?貴方とソフィアとで倒したのですか?」
その質問を受け、クリフはソフィアの事を思い出した。ソフィアにも危険が迫っているのだった。
「そうだ!っつぅ!」
レザードにソフィアの事を話そうとして思わず力んでしまい、身体が痛み、よろめいた。
「大丈夫ですか!?…無理をしてはいけません。少し横になると良いでしょう」
レザードは倒れかけるクリフを両手で支え、地面に寝かせた。
「レザード、お前ソフィアを助けに行ってやってくれ!ソフィアが危ねえんだ!」
「落ち着いて下さいクリフ。ソフィアが危険と言うのはどういう事です?」
「こいつの仲間とソフィアが戦ってんだ」
クリフはボーマンを指差す。

159 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:11:09 ID:fWuyGAv6
「クェーサーの事は俺にも良く分からねえ。奴との戦いの途中で気を失っちまって、目が覚めた時は奴はもう居なかった」
レザードは1つ頷き、先を促した。
「だがクェーサーの代わりに…て言うのも変だが、俺が起きた時はソフィアがこいつらと戦ってた。
 このオッサンと、龍を背負った男と、後もう1人、ただ突っ立って見てただけの野郎だが、その3人組だ」
「…ソフィアが戦っていた?彼女1人で、ですか?」
レザードは怪訝な顔をした。ソフィアが戦っているという事が信じられない様子だ。
「他に誰が居るっつーんだ!…あ、いや、そういや何でか知らねえがルーファスの奴が生きてたみたいだ。
 俺が起きた時、側に寝ていやがった。…もしかしたらクェーサーはあいつが何とかしたのかもしれねえ。
 今もルーファスが起きてりゃ良いんだが…」
「…なるほど、大体の状況は理解しました。ソフィアの居場所は金龍と戦っていた場所ですね?」
レザードがそう言い、立ち上がったところを
「そうだ、頼むぜ。…あ、ちょっと待て。もう1つある」
クリフが引き止めた。
「…どうしました?」
「お前、回復の呪紋って使えねえか?使えるなら1つ頼みたいんだがな。
 俺はミラージュを助けに行ってやらなきゃならねえんだ」
ミラージュの事はクェーサーに襲われる前の情報交換で話していた。
「…ミラージュ?確か鎌石村役場に待たせているという、貴方とソフィアの仲間でしたね?
 ですが、今、ここから向かわれるおつもりですか?」
レザードは眉をひそめる。おそらく禁止エリアの事が引っかかっているのだろう。
クリフはレザードに、禁止エリアの30秒の時間制限について話した。
「そう言う事でしたか…」
レザードは何やら考え込みそうな雰囲気だ。
「考えんのは後回しにしてくれ。で、回復呪紋は出来るのか?」
レザードは我に返ったような表情を見せたが、クリフと目が合うと微笑みを見せた。
「勿論です。では横になり目を閉じていて下さい」
「…悪いな」
クリフは言われた通り、目を瞑る。レザードが再びクリフの側に屈み込む気配が感じられた。
「少し冷えますが、心配なさらず、そのまま横になっていて下さい」
(冷える?何で冷えるんだ?)
クリフがそう聞こうとしたその時、クリフの身体を冷気が包んだ。
冷気の正体が何なのか、考える間も与えられず、クリフの意識は急速に暗闇に落ちていった。


クリフの話を聞き終えたレザードは、男の消火に使ったのと同じ呪文でクリフを凍結させ、彼のデイバッグの中身を確認した。
だが、目当てのドラゴンオーブは入ってない。やはりレナスが持っているようだ。
(まあ、期待はしていなかったがな。
それにしても、この男正気か?ソフィア1人にヴァルキュリアを任せるとは愚作、愚行にも程がある。
考えたくはないが、これではヴァルキュリアが既に殺されている可能性も高いか…?)
レザードが想定していた状況の中でも、今の状況は限りなく最悪に近い。
最悪なのは当然、レナスが既に殺されている事である。だが、今レナスが(クリフが確認した時点では)生きているとはいえ、
ソフィアが1人でレナスを守っているという状況は、最悪の状況と大して変わらないとレザードには思えた。
そして、レナスをそんな状況に陥らせたクリフに激しい怒りを感じていた。

160 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:11:40 ID:fWuyGAv6
(…いや、2人がかりでもソフィア1人を殺しきれなかったような屑共が相手ならば、まだ結論を出すのは早い。
…どちらにしても、まずはこの男だ)
レザードは燃えていた男の様子を伺う。レザードはその男に利用価値を見出していた。
(この男も凍結させるつもりだったのだがな…フリーズチェックの類の道具でも持っているようだな。
…ま、それはどうでも良いが)
燃えていたにも関わらず全く動く様子も見られなかったので既に死んでいる可能性が高いと考えていたが、
腹部が僅かに上下に動いていた。つまり呼吸は止まっていないようだ。
レザードは触診する。彼はホムンクルス研究の一環として、人体の構造には精通している。
先程起きた爆発音からすれば身体の一部が吹き飛んでいても不思議では無かったのだが、そのような致命的な怪我は見当たらない。
(察するに、頭部を強打され脳震盪を起こし、気を失ったところに火を点けられた、といったところか。
頭蓋や首に骨折は見られない。内臓の破裂も無さそうだ。ならば最も重傷なのは火傷部分か)
レザードは自分の荷物からアップルグミとペットボトルを取り出した。
アップルグミを全てすり潰し、ペットボトルに入れて軽く振る。そして男の口へ少量ずつ、ゆっくり流し込んだ。
(グミ単品ではあまり期待は出来ないが、全て使えばあるいは…)
グミ入りの水を全て飲ませ、少し待つと効果が表れ始めた。
焼けただれていた皮膚が多少回復したが、期待していた程の効果は無い。
「ふむ…この程度か。まあ試しておくには良い機会だ」
レザードはそう言い、呪文の詠唱を始めた。
『キュア・プラムス』
癒しの光が男を包む。だが、アップルグミ同様、予想以上に効果が見られない。
普段ならば8割方のダメージを回復出来る回復呪文だが、ここでは回復効果は1割有るかどうかといったところだった。
それでもグミの効力と合わせて、どうにか火傷は重度から軽度くらいまでには回復していた。
(私の「キュア・プラムス」でもこの程度か…攻撃呪文よりも回復呪文の方が制限が厳しいようだな。…仕方あるまい)
レザードがもう1度キュア・プラムスを唱えると、男は微かな呻き声を上げ始める。
(この程度回復すれば動けるだろう。…時間が惜しい。さっさと意識を取り戻して頂くとしよう)
レザードは、もう一本ペットボトルを取り出すと、少し乱暴に男の口に水を流し込んだ。


溺れているような感覚と共にボーマンは意識を取り戻した。そして、
「――ブハッ――ッゲホッゲハッゴヘッ」
口から水を吐き出し、噎(む)せた。噎せながら身体を捻りうつ伏せになる。咳が止まらず、肺が苦しい。
(何だ!?この水は?)
ボーマンは胸を押さえて地面に手をつくと、しばらくの間何も考える事が出来ずに、ただ噎せていた。

「気付かれましたか。良かった」

声を掛けられて初めてボーマンは誰かが側に居る事に気付き、振り返った。
(誰だこいつは?)
全く面識の無い男をボーマンは警戒し、咳き込みながら睨み付ける。

161 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:12:14 ID:fWuyGAv6
「誤解しないで頂きたい。私に戦う気など有りません。私の名はレザード・ヴァレス。
 貴方に協力して頂きたい事がありましてね、不躾ですが戦いに割り込ませて頂きました」
ボーマンは自分が戦闘中だった事を思い出した。死方陣でクリフに止めをさそうとした後、記憶が無い。
(そうだ!俺は何で倒れてるんだ?金髪の野郎は?)
ボーマンは辺りを見回し、そしてクリフの氷像に気付いた。
「何だ?…どうなってんだ、これは?」
驚いてレザードを見る。やったとしたらこの男しかいない。
「…これはアンタがやったのか!?」
「そうです」
「さっき『戦う気がない』とか言ってたよな…こんなことしでかしといて、『戦う気がない』だ?」
「ああ、彼は凍結しているだけで、命に別状は有りません。十〜数十分もすれば自然と元に戻りますよ。
 貴方と話をするには、こうした方が都合が良かったものですから。
 それに、私が助けなければ貴方は命を落としていたのですよ?疑われては心外です」
言われてボーマンは身体中、特に頭と首、そして上半身が妙に痛む事に気が付いた。
身体を見ると、服は所々焼け焦げ、上半身には火傷が出来ている。さっきまではこのような焦げ跡、火傷は無かった。
いつの間にか気絶していたようだが、何故気絶するような事になったのか全く覚えていない。
ボーマンは立ち上がろうとし、身体がダルく、重い事を自覚する。このダメージにもやはり覚えが無い。
おそらく死方陣を放った時、クリフに手痛い反撃、それも気絶するような一撃を喰らわされたのだろう。
この男が助けてくれていなければ自分が死んでいたと言うのもどうやら確かのようだ。
「…一応、礼は言っといた方が良さそうだな。えっと、レザードっつったか?俺はボーマン・ジーンだ。
 助けてくれてありがとよ。アンタの目的もこのゲームを止める事かい?」
ボーマンは自分が殺し合いに乗っていない事を仄めかした。
彼は、殺し合いに乗っていない人物ならば利用する、というスタンスを変える気は全く無かった。
例え、それが自分の命を救ってくれた人物だとしてもだ。むしろそのような人物の方が利用しやすい。
見たところ紋章術師の様だし、仲間にしておいて損は無い。そう思った。
「目的を偽らなくて結構ですよ?あなた方から彼らに襲い掛かったのでしょう?」
「――!?」
言い当てられ、ボーマンは言葉に詰まってしまった。
(チッ、こいつ、金髪と情報交換でもしてやがったのか?
「割り込んだ」とか言うからてっきり不意打ちで凍らせたものかと思ったが…いや、まだ誤魔化せる)
そう簡単に殺し合い乗ってる事を認める訳にはいかない。ボーマンはどうにか誤魔化す事を考えた。
「…確かにそうなんだが、元はと言えばそいつ等が、まだ14,5歳くらいの少女を殺してね。
 その子の敵を取ってやろうとしたのさ。俺はそんな弱い者を殺すような奴が1番嫌いでね」
ボーマンはクリフ達に襲い掛かった大義名分を話す。
先程、役場で別の参加者に出会った場合にクリフを貶める為に考えた大義名分だった。これは半分は事実なのだ。
「ほう…14,5歳の少女?…もしや、その少女とは金髪で髪を左右に分け、赤い服を着ていた少女、ですか?」
「――!?…ああ、そうだが…知ってる子か?」
再び言い当てられ、ボーマンは少しレザードに不気味な気持ちを抱く。
「いえ、知り合いという程ではありません。それより確認しますが、その少女が殺されるところを見たのですか?」
「…いや、殺されるところってか、その少女の死に目にあったのさ。誰かに襲われて必死で逃げてきたようでな。
 酷え有様だったぜ。全身を何かで貫かれたような傷跡があって、血塗れだった。
 彼女の血の跡を辿っていったらその男達が居たって訳さ」
これも事実だ。最も事実を話しているからと言って、相手が信じてくれるかは別問題だが。
「『逃げてきたようだ』という事は、その少女とは会話はしていないのですね?」
「…ああ、話す事も出来ない状態だった」
「そういうことですか。これで確信出来ました」

162 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:12:46 ID:fWuyGAv6
どうやら誤魔化せたようだ。ボーマンはホッとする。
「分かってくれたかい?」
レザードは微笑んで言う。
「ええ、貴方が確実に殺し合いに乗っている事が確信出来ました」
「ちょっ!?…おいおい兄ちゃん、アンタ話聞いてたのかよ?」
「勿論聞いていましたよ。貴方はその少女が殺される現場は見ていないのでしょう?」
「いや、だからな――」
ボーマンは再び説明しようとしたが、その言葉はレザードに遮られた。

「そして、少女の血の跡を辿っていった先で、クリフ達と出会った。その時、話が出来た人物はソフィアのみ。
 …ああ、ソフィアというのはこの男の仲間の娘の名前ですけどね。
 殺し合いに乗っていない人物が、あの小娘に問答無用で攻撃を仕掛ける訳が無いのですよ。
 彼女と会話をしていたとすれば、なおさら詳しく事情を聞き出そうとするでしょう。
 あれほど無害そうな娘ですし、ソフィアから先に攻撃を仕掛けるような事はまずありませんからね。
 もしも少女が直接殺される場面を見ていた、もしくは死に際に敵討ちでも頼まれた、と言うならば、
 殺し合いに乗っていない者でも敵を討つ為に襲い掛かる、と言う事は充分有り得ますが、
 貴方はどちらもそうではないと仰った。
 おそらく貴方の目的は、主催者に対抗しているかのような意思表示してこの殺し合いで利用できる仲間を増やす事、でしょう?
 そう、今私にやったようにね。
 貴方の仲間の『龍を背負った男』というのも貴方と同じ考えでしょうね。
 唯一殺し合いに乗っていないのは、ソフィアに襲い掛からず、ただ立ち尽くして見ていたという男のみ。違いますか?」

レザードはボーマンに口を挟む余地も与えず、一方的に捲くし立てた。
ボーマンも途中から口を挟もうとは思わなくなり、レザードを睨みつけていた。それほど完璧に見透かされた。
この男が知り合いだったのは金髪少女ではなく、クリフとその仲間の方だったという事か。
ここから誤魔化す事は出来ないだろう。
「…てめえ、この金髪の仲間か?」
だったら何故氷付けにしているのかが疑問ではあったが、そうとしか考えられない。
「そんな事はどうでも良いでしょう?それより、先程申し上げたはずです。『目的を偽らなくて結構です』と。
 貴方がこの殺し合いに乗っている事は私にとっても都合が良いのです。その事を想定した上で、貴方に治療を施したのですから」
「…どういうことだ?」
「私と協定関係を結びませんか?取引と言い直しても差し支え有りませんが。
 私は貴方の命を助けました。その代価として、して頂きたい事があるのです」
手を組もうという事だろうか。
ボーマンは正直、このレザードという男とは関わりたくなかった。自分が何を企もうと、全て見抜かれる様な気がしていた。
出来ればここは逃げ出したいのだが、自分をマーダーだと気付いている人物を野放しにしておくのも不安がある。
殺すにしても、今のコンディションで勝てる自信はあまり無い。
とりあえず、話を聞くだけでも聞いてみるか、とボーマンは考えた。

163 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:13:23 ID:fWuyGAv6
「…何がしたいんだ?」
「今、貴方の仲間はソフィアと戦闘中ですね?その戦闘を止めて頂きたいのです」
「戦闘を止める?あの嬢ちゃんを助けてくれって事か?」
(やっぱり仲間なんじゃねえかよ)
ボーマンはそう思った。が、すぐに否定される。
「そうではありません。ソフィアの側に緑髪の長髪の男が眠っていましたね?
 彼に用が有りましてね、今死なれるのは困るのですよ」
(そういやもう1人眠ってたな。そっちを助けたいってのか。…だけど、手遅れなんじゃねーか?)
ボーマンの考えを見抜くかのようにレザードが続ける。
「もしも手遅れでしたら、せめて彼に預けた私の道具だけでも回収したいのです。
 貴方の仲間が彼を殺した場合は、彼の道具は貴方の仲間が手に入れる事になるでしょう?
 その場合、私がそれを回収するには貴方に協力して頂くのが最も効率が良い」
(要するにその道具が目的という事か?…それなら、緑髪の男が死んでても逆上して向かって来る事はなさそうだな。
それに、もし向かってきてもその時にはアシュトン達と一緒だ。3人がかりなら負けねえだろ。
…断ったら今1人でこいつと戦うハメになりかねねえし、だったらここは、とりあえず引受けておくのが無難か。
アシュトン達と合流したら…ま、成り行き次第だな)
ボーマンはとりあえずレザードとの取引に乗る事に決めた。

「…そんな事で良けりゃ協力しても良いけどよ、俺の仲間を止めるにしても何か理由が必要だろ?
 俺達も『少女の敵討ち』を理由に攻撃を仕掛けたんだから、『何でもいいからやめろ』ってんじゃあいつらも納得しないぜ?」
ボーマン達は一応「正義の為に」という大義名分をかざして襲い掛かったのだ。
それを止めさせる理由がボーマンには思い浮かばなかったのだが、レザードは考える様子も見せずに言った。
「簡単です。『少女の敵討ち』という誤解が解けて、貴方とクリフは和解した事にすれば良い」
「誤解?誤解ったって、実際あいつらが殺したんだろ?ソフィアって嬢ちゃんはそう言ってたぜ?」
「それは事実ですが、その『金髪の少女』が曲者でしてね。ソフィア達が居た場所はご覧になられたでしょう?」
言われてボーマンはソフィアの居た場所を思い返す。地面にはいくつものクレーターが有り、木々は薙ぎ倒されていた。
「ああ。酷え有様だったが…おいおい、まさかアレをやったのがあの『金髪の少女』だとか言わねえだろうな?」
「月並みな言い方ですが、そのまさか、です。あの少女は外見とは裏腹に、強大で凶暴な魔力を持つ怪物でした。
 いえ、正確に言えば、その怪物があの少女の身体に乗り移っていたようです。
 それは、自らの事を『神』と称していましたが、確かにそれだけの能力を持っていました」
「『神』だ?」
ボーマンは十賢者達を思い出す。
(…自称『神』ってのにはろくな奴がいねえな)
「ええ、その力で我々に襲い掛かってきたのですよ。
 私はその戦いで逸れてしまいましたが、どうにかクリフ達は勝利を収めてくれたようです」
にわかには信じがたい話ではあるが、先程少女の死体を調べ、
少女の腕に素手で人を貫いたような痕跡を確認しているボーマンは割とすんなり受け入れる事が出来た。

164 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:14:06 ID:fWuyGAv6
「なるほどな…実は悪者は『金髪少女』の方、か」
「そういうことです。貴方とクリフは誤解が解ければ、表面上は主催者に対抗する者達同士。
 協力し合う事になっても不思議は有りません」
理屈は通る。チェスターなんかはソフィアを殺さずに済んで喜ぶかもしれない。
「…それなら何とかなりそうだな。じゃあ協力するぜ」
「感謝致します。そうと決まれば急ぎましょう」
レザードは自分の荷物をまとめ始める。だが、ボーマンには1つ気になる事があった。
「おいおい、ちょっと待て。まだ何か有るんだろ?」
「はい?」
「俺が殺し合いに乗っていた方が都合が良いって言っただろ?だったら、他に何か俺にやらせたい事が有るって事だよな?」
「ええ。仰る通りですが、今は時間が惜しい。その話は移動しながらにしませんか?」
「…まあ別に良いけどな、それも『命を助けてもらった分の要求』に入るのか?」
マーダーにやらせたい事など汚れ仕事以外の何物でも無いだろう。確かに命は助けてくれたようだが、
正直、今一その実感は無いのだ。にも拘らず、そう幾つも要求されたのでは割に合わない気がした。
「…何か要求が有るのならば伺いますよ。私に出来る事であれば」
「別にそう面倒な事じゃないさ。何かアイテムを分けてくれりゃそれで良いぜ」
ボーマンは別にレザードにやらせたい事など無い。
いや、利用できるならそれに越した事は無いが、この男は今一信用出来ない。
それなら道具を分けてもらうくらいが無難で確実だろう。
「ならば…ふむ、そうですね、ついでですし、少々お待ちを」
レザードはそう言って、自分のデイバッグから剣を取り出した。
(剣かよ…)
ボーマンは正直落胆した。自分は剣を扱えない。
アシュトンとアイテムを交換する時になら使えそうだが、出来れば直接自分が使えるものが良い。
「…他の物は無いか?悪いが剣は苦手でな」
「いえ、この剣は、こう使うのです」
レザードはクリフの氷像の前に立つと、刃を下に向けた剣を構え、振りかぶった。
「え?(おい、ちょっと待て――)」
ボーマンがそう声を掛けようとしたが、レザードは既に剣を振り下ろしていた。

165 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:14:46 ID:fWuyGAv6
『バリィン!』と氷の砕ける音が響く。レザードの剣はクリフの胸から背中に突き抜け、完全に心臓を貫いた。
剣を引き抜く時、クリフの砕けた胸部がパラパラと地面に落ち、クリフの胸部には太い槍で貫かれたような風穴が開いた。
これには流石にボーマンも驚いた。
クリフが死ぬ事自体は別にどうでも良いが、レザードとクリフは仲間だったはずだ。まさか何の躊躇いも見せずに殺すとは。
レザードは続けて、凍っているクリフのデイバッグを切り落とし、唖然としているボーマンに話しかけてきた。
「彼のデイバッグを差し上げましょう。…ああ、失礼、貴方にはこのガントレットも必要ですね」
ボーマンが装備しているエンプレシアを見たレザードは再び剣を振りかぶり、クリフの両腕を砕き落とす。
もうボーマンも声を掛けようとは思わなかった。
「凍結している人間は返り血の心配がありませんからね、後始末が楽で良い。…さて、これで如何です?」
レザードはクリフの腕からミスリルガーターを外し、クリフのデイバッグに入れてボーマンの足元に放り投げた。
いつの間にかデイバッグの凍結は解除されていた。
「…こいつ、お前の仲間じゃ無かったのか?」
「その様な事は1度も申し上げておりませんが?」
「…さっき一緒に『金髪少女』と戦ったとか言ってただろうが」
「共闘したからといって仲間とは限らないでしょう?それに、彼は重大なミスを犯していますのでね、罰のようなものです」
レザードはなんでもない事のように言う。
「罰…ねえ…」
(罰って…刑罰かよ。しかも死刑じゃねえか。こいつ、上手くすりゃ利用出来るか?
とか考えてる場合じゃねえな。適当なところで逃げねえと…)
ボーマンはレザードの妙な威圧感に気圧されていた。クリフから感じた威圧感とは全く異なる威圧感だ。
そう、強いて言えば、レザードの威圧感は十賢者達から感じたそれに近い。人を人とも思わない、あの冷酷な威圧感に。

「それではお気に召しませんか?」
レザードが問いかけてきた。
ボーマンはとりあえず、今の出来事は気にしないことにして、デイバッグの中身をチラリと確認する。
ミスリルガーター以外にもいくつかのアイテムが見えた。
「…いや、上等だぜ」
そして自分の荷物とまとめた。
今装備しているエンプレシアを外し、早速ミスリルガーターを装着する。
試しに素振りをしてみるが、やはりエンプレシアに比べると格段に使い勝手が良かった。
「だけどよ、クリフがこれ装備してたのはソフィアも知ってるだろ。
 俺が持ってたらやべえんじゃねえか?そもそも『俺と戦ってたクリフはどうした?』なんて聞かれたらどうするんだよ?」
「…まあ、同じ型の武器が支給されていても不思議は有りませんが、
 その点には気付かずに疑問を持たれる可能性も有りますね…
 しばらくそのガントレットはデイバッグに仕舞っておいて頂けますか?」
「…ま、しょうがねえな」
結局ミスリルガーターはデイバッグに仕舞い、再びエンプレシアを装着した。

166 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:15:28 ID:fWuyGAv6
「クリフの行方ですが、彼は鎌石村役場に仲間を待たせていました。
 その方を迎えに行った事にすれば良いでしょう。その後で何が起きようとも我々の知るところでは有りません。
 例え氷付けにされて砕かれようとね」
「役場に仲間が居る?なるほどな、道理で…」
ボーマンはクリフが自分を追いかけてきた理由を理解した。
実際のところは彼も役場に向かっていただけの事だったのだ。
「他にはありませんね?それでは急ぎましょう。繰り返しますが、時間が惜しい。
 もう1つの取引と情報交換等は道すがら行います。宜しいですね?」
「ああ」
2人はD−5東部に向かって走り始めた。
ボーマンは最後にクリフの氷像をチラリと見て、そしてレザードの背中を睨んだ。
(こうはならねえように、気ィ引き締めてくか)
ボーマンは、レザードの後からついて行く。とてもレザードに背中を見せる気にはなれなかった。


走り始めてすぐ、ボーマンが質問をしてきた。
「それで、もう1つの要求ってのは何なんだ?」
ボーマンがレザードのやや後ろを走っているが、レザードは振り向かずに話す。
「これはソフィア達2人が生きている事が前提ですが」
「ああ。んで何だよ?」
「緑髪の男にはばれないように、ソフィアを殺害して頂きたい」
「…はあ?」
レザードの2つ目の要求。
それは、先程クリフが生きている事を知った時に生まれた目的、ソフィアの殺害だった。
ソフィアは今では戦う気構えを見せているようだが、所詮はソフィア、実力の程度は知れている。
ソフィアが生きている限り、レナスはソフィアを守り続けようとするだろう。
それはつまり、先の金龍戦の様な事を繰り返す恐れが有り、レナスを死の縁に立たせ続ける事に他ならない。
レザードは、ソフィアの為にレナスを失う、などという事は断じて許せなかった。
ならばその危険性の元凶であるソフィアには居なくなってもらう。これがレザードの出した結論。
ソフィアを殺さずとも、例えばブラムスのようにレナスが信用出来る強者にソフィアを任せ、
レナスとソフィアに別行動を取らせる事が出来るのならばそれでも良いのだが、
ブラムスが錬石村に先行している現在、そのような都合の良い強者が他に居るはずも無く、やはり殺すのが最も手っ取り早い。
いつ再び金龍のような敵が現れるかは分からないのだから。

「そんなもん自分でやれば良いじゃねえか。まさか、女は殺したくない、とか言わねえだろうな?」
「その様なつまらぬ信条は持ち合わせていませんが、少々訳が有りましてね」
レザード自らがソフィアを殺すのは容易い事だが、万が一それがレナスにばれてしまってはレナスと敵対する事になってしまう。
それはレザードの望むところではないのだ。
「引き受けて頂けますね?」
「…まあ俺は構わないけどよ。報酬は前払いでもらってる事だしな」
ボーマンはデイバッグをポンッと叩いた。
「では取引成立ですね。ただし、殺害のタイミングは状況を見て私が指示致しますので、決して先走らぬようにお願いします」
「ああ」

167 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:16:12 ID:fWuyGAv6
ソフィア殺害の前に、ドラゴンオーブだけは何としても確保しなくてはならない。
脱出する際、ドラゴンオーブが有ればソフィアの能力『コネクション』が不必要だという事は
先程ソフィア達を見捨てた時に結論付けたが、逆に言えばドラゴンオーブが無ければソフィアが必要となってしまうのだ。
もしもドラゴンオーブが破壊されているなりなんなりでこの殺し合いの舞台から消失してしまえば、
レナスと共に脱出するには、不本意ながらソフィアに頼るしか無く、殺す訳にはいかなくなる。
「で、2人が死んじまってる場合は、さっき言ってたみたいに、緑髪の男に預けた道具の回収だけで良いのか?」
「…ええ。とりあえずは」
もしレナス、ソフィアが既に殺されている場合は、先程ボーマンに説明した通り
レナスの道具(ドラゴンオーブ)を回収する事を第一に考え、ボーマンはそれに協力させる。
つまり、レナスが生死、どちらの場合でも、ボーマンには利用価値が有るのだ。
むしろ、ボーマンと手を組んだ最大の理由は、この最悪の状況を想定しての事だった。
ドラゴンオーブさえあれば、輪魂の呪が使用出来たのだ。換魂の法も使用出来る可能性は高いはず。
ならば再びレナスを蘇らせる事が出来るはずなのだ。そうレザードは考えていた。

「とりあえず…ねえ。後からアレコレ追加するのは止めて頂きたいもんだがな」
「ご心配無く。せいぜいクリフの道具分の要求を1つする程度ですよ。
 ところで、取引の話はさておき、情報交換を行いたいのですが宜しいですか?伺いたい事が有るのです」
レザードは今の内にボーマンから第3回放送の内容を聞いておきたかった。
話をしやすいよう、少し走るペースを落としてボーマンと並ぼうとする。
だが、何故かボーマンもペースを落とし、前に出てこようとしない。
レザードは振り返り、ボーマンの顔をチラリと伺う。そして前を向き直し、
(ふん…それで警戒しているつもりか?…まあいい。せいぜい役に立って頂きますよ?)
そう考え、ボーマンを蔑むように微笑んだ。


レザードとボーマンが走り去って数分後、クリフの氷像が解凍し始めた。
完全に凍り付いていた身体が元に戻り始め、徐々にクリフの目が開きだす。
クリフは胸を貫かれていたが、体中が凍結して、いわば仮死状態のようになっていた為、その時点では絶命しなかったのだ。
そして今、その凍結は自然と解除された。
(…終わったのか?)
今、クリフの胸には風穴が開き、両腕は砕け散っている。
だが凍結していた事が彼の痛覚を完全に麻痺させていた為、本来襲いかかるはずの激痛は、彼には感じられていなかった。
クリフは起き上がろうとした。が、身体が全く動かない。
胸の風穴、そして両腕から出血が始まっていた。瞬く間におびただしい程の量の血液が流れ出てくる。
クリフは再び冷気を感じ、急激に目の前が暗くなり始め、意識が薄れていった。
(何だよ、まだ終わってねえのか)
それは先程意識を失った時と同じ様な感覚だったので、クリフはまだ治療中であるものだと思い込む。
だが違った。今クリフが冷気だと感じたもの、それは単に出血多量による体温の低下だった。
出血した血液は地面に染み込むが、すぐに飽和状態となり、土の上に血溜まりを作り始めた。
(とっとと頼むぜ、レザード。ミラージュを待たせてんだからよ…)
心の中でレザードに話しかける。
だが、その場所に居るのはクリフのみだ。他には誰もいない。クリフはその事にも、もう気付けない。

クリフの意識は再び暗黒に落ちていく。

先程との決定的な違いは1つだけ。

彼が目覚める事は、もう二度と、無かったという事だ。

168 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:16:58 ID:fWuyGAv6
【D−5/深夜】
【レザード・ヴァレス】[MP残量:25%]
[状態:疲労小]
[装備:サーペントトゥース、天使の唇、大いなる経典]
[道具:神槍パラダイム、エルブンボウ、矢×40本、レナス人形フルカラー、ブラッディーアーマー、アントラー・ソード、転換の杖@VP(ノエルの支給品)、ダブった魔剣グラム、合成素材×2(ダーククリスタル、スプラッシュスター)、荷物一式×5]
[行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る]
[思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える]
[思考2:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない]
[思考3:ドラゴンオーブを確保する]
[思考4:ボーマンを利用し、足手まといのソフィアを殺害したい]
[思考5:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考6:ブレアを警戒。ブレアとまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す]
[思考7:首輪をどうにかしたい]
[備考1:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません]
[備考2:第3回放送の内容はボーマンから聞き出しています]
[備考3:アップルグミは使い切りました]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:5%]
[状態:全身に打身や打撲 上半身に軽度の火傷]
[装備:エンプレシア、フェイトアーマー]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉×2、ミスリルガーター、サイレンスカード×2、エターナルソード、メルーファ、バニッシュボム×5、フレイの首輪、荷物一式×5]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:アシュトン・チェスターを利用し確実に人数を減らしていく]
[思考3:とりあえずレザードと一緒に行動。取引を行うか破棄するかは成り行き次第]
[思考4:菅原神社に向かいながら安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草は使いきりました]
[備考2:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[備考3:ガソリン塗れの衣類は焼けています。再び引火する可能性の有無は後の書き手さん次第で]
[備考4:クリフのデイバッグはまだ詳しくは中身を確認していません]
[備考5:ミニサイズの破砕弾が1つあります]
[備考6:バーニィシューズは壊れました]


【クリフ・フィッター死亡】
【残り21人+α?】

169 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:39:07 ID:sIFsGIFM
以上で投下終了です。

アップルグミに期待してたらエライ目に合いました…
動かすキャラとアイテムが登場する話は隅から隅まで読まないといけませんね。

170名無しのスフィア社社員:2009/05/05(火) 21:40:42 ID:aXxcsjN2
ですね

171ヴァンパイアハンターK:2009/06/21(日) 19:41:32 ID:ezdgDn3A
「ただしその時が来ても、ブラムスの知識では判断出来得ない脱出方法を伝え、
 その脱出方法が有効だと考えている間ならば再び協力してくれるはずだ」
「判断出来得ない脱出方法?」
「ああ。純粋故…と言って良いのかは分からんが、
 ブラムスは未知の事についてはあまり疑いも持たずに受け入れる、
 という事がさっきのやり取りで分かったからな」

(さっきのやり取り?…ああ…エルネスト教授の魔法少女論の事か…)
それをブラムスが素直に信じた事について話しているのだ。

「つまり…騙すと言うのか?」
「そう言う事になるな。無論、本当に別の脱出手段が有るなら歓迎するが。
 …騙すにしても、それなりに説得力の有る脱出方法を提示出来なければ、逆に危険が増すだけかもしれん。
 見抜かれたらあのバブルローションが炸裂する事になりそうだ」
あえて『何処に』炸裂するのかは省略したが、2人は同じ場所を想像する。
何気なく「チーム中年」の呼吸は合ってきているようだ。

「だがエルネスト。ブラムス達が向かった先でソフィアの死体を見つける事も考えられる。
 そうすると最悪の場合、合流する時点で既に裏切っている可能性も有るんじゃないか?」
「その可能性も有る。合流前に何か考える必要が有るかもしれないな。
 クラース、お前は何かそれらしい脱出手段は思いつかないか?」

(…脱出方法…)
一瞬クラースが思い浮かべたのは、『時の剣・エターナルソード』の事だった。
時間と空間を操るエターナルソードならば、おそらくこの島からの脱出も不可能ではない。
だが、エターナルソードはクラース自身が彼の世界で封印したのだ。この島に存在しない以上、考えるだけ無駄だ。

「急に言われてもな…まあ、考えてみよう。お前の方は何か――」
クラースが言いかけたところで、エルネストが自転車をゆっくりと停めた。
「――…どうした?何故停めるんだ?」
「到着したぞ。後100m程で鎌石村に入る」
「何?」
クラースは辺りを見回す。
だが、彼にはこれまで同様の代わり映えしない一本道にしか見えなかった。
「見えるのか?」
「朧気にだが、建物の陰が見える。言っただろう?視力には自信があるんだ」
正面に向かい目を凝らすが、やはりクラースには朧気にも見えない。

172ヴァンパイアハンターK:2009/06/21(日) 19:42:20 ID:ezdgDn3A
「クラース。今の内に確認しておくぞ。まずは支給品が置かれた鎌石村役場からだな」
「ああ。次にブラムスが仲間達との合流場所に決めているというC−4の最も東南にある民家だ。
 奴の仲間達がそこに居ないのなら、村の他の場所に居るような事もまず無いだろう」
つまり鎌石村全体を詳しく調べる必要は無いのだ。
C−4の最も東南の民家を合流地点にしたのは、D−4から村に入った場合に1番近くにある民家だから、と言う事らしい。

「まあそれも戦闘の形跡が無ければの話だがな。
 もしもブラムスの仲間達に会えたら直ちにF−4に向かう。会えなかった場合だが…」
エルネストは横目でクラースを見る。
「念の為にブラムスとの合流は放送後にするか?」
これはクラースがブラムスを警戒している事を考慮しての発言だった。

(そうだな…放送後に合流する事にするなら、急いで戻る必要も無い。
 この村で一休みする時間が出来、私の精神力も回復するが…まあそれを考えるのは後回しで良いか)

「それは後で考えても良いだろう。今は役場に向かうとしよう」
「…ああ。じゃあ行くぞ!」
エルネストは再び自転車を漕ぎ始めた。


役場に着くまでの間は何事も起きなかった。到着した2人は自転車から降りる。
辺りに音を立てている物は何一つ無く、誰かがいる気配なども全く無いが、油断は出来ない。
「クラース、少し離れていてくれ」
「あ、ああ。分かった」
役場のドアから少し離れた所で立ち止まると、エルネストはドアを観察した。
とりあえず、危険な物が仕掛けられている様子は無い。
「それじゃあ行くぞ」
エルネストは縄を構えた。
「ハッ!」
掛け声と共に振るわれた縄がドアの取っ手に巻きつく。エルネストは器用に縄を操り、ドアを開けた。

(大したものだな。…正直出会った時、剣も魔術も使えないと知った時はどうしたものかと思ったが)
初めて間近でエルネストの縄捌きを見る事になったクラースは素直に感心した。

「ドアには罠の類の物は無いようだ。…俺達が一番乗りかもな」
もしも他の誰かが先にこの役場に来ていたとしたら、支給品目当てに集まる参加者を狙って
罠くらい張っていてもおかしくはないとエルネストは考えていたが、とりあえずはそれは無いようだ。
「じゃあ、クラース」
「了解!『シルフ!』」
辺りに一陣の風が吹き、クラースの召喚した『シルフ』が吸い込まれるように役場内に入っていく。
もしも誰かが居るなら必ず何らかの音が発生する。シルフ達の力で役場内の音を探知するのだ。

「…誰かが居る気配は無い。
 だが、シルフでは閉じている扉の奥の気配までは探知出来ないからな。注意は怠るなよ」
「分かった。周辺の探知を頼むぞ」
「任せてくれ」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」

エルネストはもう1度縄を振るって手繰り寄せると、慎重に役場内に入っていった。

173ヴァンパイアハンターK:2009/06/21(日) 19:43:04 ID:ezdgDn3A
【C-03/深夜】

チーム【中年】
【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2、自転車@現実世界]
[道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:ブラムスを取り引き相手として信用]
[思考4:鎌石村でブラムスの仲間を捜索]
[思考5:次の放送前後にF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]

【クラース・F・レスター】[MP残量:50%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動(ブラムスの同盟破棄は警戒)]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[思考4:鎌石村でブラムスの仲間を捜索]
[思考5:次の放送前後にF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]
[思考6:ブラムスにはアスカが有効(?)]

[現在位置:C-03 鎌石村役場]

【残り21人+α?】

174名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:32:18 ID:rW5XtX.Y
内容:
ここはトライエース(以下AAA)キャラでバトルロワイヤルを行う企画です。
参加資格は全員にあります。
参加型リレー小説というテーマを元に、皆さんで物語を作り上げていきましょう。

・企画発祥スレ
バトルロワイアル企画を考える inゲームサロン
ttp://game10.2ch.net/test/read.cgi/gsaloon/1160050565/l50
・過去スレ
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1162909976/
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1172767328/
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1186147301/
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1204348476/
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1222700688/
ttp://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1235281316/
・まとめWiki
ttp://www23.atwiki.jp/aaarowa/
・したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/9356/

詳しい説明・ルールは>>2以降。

175名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:33:18 ID:rW5XtX.Y
【基本ルール】
・全員で殺し合いを行い、生き残った最後の一人が勝者。
・勝者には元の世界への帰還と、それとは別の褒美が主催者より与えられる?(未決定)
・参加者間でのやり取りに反則はない。
・参加者全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者無し)となる。

【スタート時の持ち物】
・参加者があらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
(義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない)
・また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される
・ゲーム開始直前に参加者は開催側から以下の物を支給される

「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。鞄などの類であればなんでも可
「地図」→ 大まかな地形の記された地図。禁止エリアがあるならば、それを判別するための境界線と座標がひかれている。
「コンパス」→ 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる
「照明器具」→ 着火器具+携帯ランタン(油は2〜3日分or切れない)、または懐中電灯。
「筆記用具」→ 普通の鉛筆と紙、もしくはノートの類。
「水と食料」→ 通常の飲料と食料。目安としては通常の成人男性で二〜三日分。
「名簿」→全ての参加者の名前のみ明記。
「時計」→ 普通の時計。時刻がわかる。主催者側が指定する時刻はこの時計で確認する
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが入っている。作中の道具や武器、銃火器など

【放送関連】
一日四回、六時間毎に放送が入る。(0時、6時、12時、18時)
放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等。

【首輪・禁止エリア関連】
ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。 
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
例え首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
首輪の材質は「何が起きても首に超フィットする不思議なご都合主義パワーが篭った首輪」。
よって体を巨大化させるなどしても首輪を外すことは出来ない。
主催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
禁止エリアは1時間ごとに1エリアづつ増えていく(以前は2時間に1つだったが、ペースが速まった)

176名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:34:16 ID:rW5XtX.Y
【能力・能力制限関連】
身体能力、攻撃能力については基本的に無し。
(ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合あり)
治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は「気絶状態を治す」程度。
キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限される。
しかしステータス異常回復は普通に行える。
その他、時空間移動能力なども使用不可。
MPを消費するということは精神的に消耗すること。MPを消費する=疲れる。
全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいると判断された人物。
MPは自然に徐々に回復(通常時なら二時間で10%、睡眠時はその2倍ぐらい)?

【キャラの特殊能力制限で決まっている設定】
・レナス 原子配列変換及びMP変換、世界再生能力の無効、精神集中※後述
・フェイト ディストラクションの弱体化(本編で使える技は特に制限なし)
・マリア アルティネイションの弱体化(本編で使える技は特にry)
・ロキ ドラゴンオーブによるパワー解放の無効(支給品のドラゴンオーブを入手すれば可)
・レザード 移送方陣の無効 屍霊術(一人ぐらい)


※レナスの精神集中について
1.放送毎に1回使用可能
2.使用中は完全に無防備
3.使用するには集中できる環境が必要
4.聞ける声は任意で選べない
5.声は聞こえるが人物を特定できる程鮮明ではない
6.ブラムス探知能力は無し
7.一応レナス一行が介入する事でその人間の死を回避する事は可能(放っておいたり、間に合わない場合は当然死亡)

【アイテム・クリエイション・料理関連】
アイテムによる回復は制限を受けない。
料理は「材料があればつくれるが、回復効果はない」いわゆる空腹を満たす程度。
ボーマンの調合スキルは薬草があればOK

【フェイズガン関連】
フェイズガンは弾丸がなく、エネルギー弾を発射する銃である。
だから弾込めする必要はないが、エネルギーが切れると撃てなくなる。

最大エネルギー量は100%で、銃の残量を(***/100)と示す。
[例] (70/100)とすると,残量が70%残っていることになる。

銃の威力または性能によって、弾を撃ったときの消費量が異なる。
またエネルギーが足りないときは一切撃てない。
[例] 残量が(41/100)の時、パルスショットガン(散弾式のフェイズガン)消費エネ33%は撃てるが、残量が(32/100)の時は撃てない

フェイズガンのエネルギーは放送ごとに50%補充される。
注意)徐々に補充されるわけではなく、一気に補充される。

フェイズガンを所持品と持っているとき〔名前〕〔性能〕〔消費エネルギー〕〔残量〕の順番に書く。

177名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:35:31 ID:rW5XtX.Y
【会場関連】
舞台になるのは原作ロワと同じ沖木島。街並みは現代風の田舎町。
現地調達できるアイテムは『普通に使ったら武器にならない』かつ『類似品が支給されてない』
・悪い例
「押入漁ってたらこんなの出ちゃいました」
「ちょwニュートロンボムwww」
・良い例
「押入漁ってたらこんなの出ちゃいました」
「広辞苑か……まあ役に立つかもなしれないし、貰っておくか」
食料は一軒につき一食分程度?
診療所には医療器具は無い?

178名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:36:01 ID:rW5XtX.Y
【作品を書いた時の必要事項】
・作中での時間表記
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

・キャラ表記について
 【座標/場所/時間】
 【キャラクター名】[MP残量]
 [装備]:キャラクターが装備している武器など、すぐに使える(使っている)ものを記入。
 [道具]:キャラクターがザックなどにしまっている武器・アイテムなどを記入。
 [状態]:キャラクターの肉体的、精神的状態を記入。
 [思考]:現在具体的に考えている事・行っている事を記入。
 [行動方針]:キャラクターの目的
 [備考]:その他何か特記事項。無くても良い。

【名前 死亡】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
【残り○○人】※死亡したキャラが出た場合のみいれる。
以下、人数分。

−例−
【クロード・C・ケニー】[MP残量:50%]
[装備:木刀]
[道具:アップルグミ・フェイスガン・デイバック(支給品一式)]
[状態:頭部裂傷]
[思考:混乱]
[行動方針:主催者を打倒]

【ノートン 死亡】
【残り40人】

【修正に関して】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NGや修正を申し立てられるのは、
 「明らかな矛盾がある」「設定が違う」「時間の進み方が異常」「明らかに荒らす意図の元に書かれている」
 「雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)」
 以上の要件のうち、一つ以上を満たしている場合のみです。
・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は
 修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。

179名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:40:53 ID:rW5XtX.Y
【書き手/読み手心得】
ttp://www23.atwiki.jp/aaarowa/pages/204.htmlの該当する項目を見てください。

【予約制度】

トリップを付けてキャラクター名を書き込むと一定期間の間そのキャラクターの話を他作者が投下することができなくなるシステム。
目的はキャラ被りで書き進めた作品が没になることを防ぐため。
大抵のロワだと予約期限があるのだが、よく考えたらAAAロワには予約期限がない。
「近日投下が無理っぽいなら連絡ください」くらいアバウトでもやっていけちゃってるところがAAAロワの凄いところであり魅力的なところでもある。

トリップ作成テストツール
ttp://www.dawgsdk.org/tripmona/tools

ちなみに予約無しのゲリラ投下ならばトリップの必要は無い。

180名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:42:08 ID:rW5XtX.Y
【参加者&生存状況】

スターオーシャン2(SO2) 7/15
○クロード/○レナ/●セリーヌ/○アシュトン/○プリシス/○ボーマン/●ディアス
○レオン/●オペラ/○エルネスト/●ノエル/●チサト/●シン/●ミカエル/●ガブリエル

スターオーシャン3(SO3) 5/15
○フェイト/○ソフィア/●スフレ/●クリフ/●ネル/●ロジャー/○マリア/○アルベル
●アドレー/●ミラージュ/●クレア/●ノートン/●ビウィグ/●ヴォックス/○IMITATIVEブレア

ヴァルキリープロファイル(VP)  5/13
●レナス/●アリューゼ/○レザード/○ルシオ/●メルティーナ/●ジェラード
●夢瑠/●ロウファ/●エイミ/○ジュン/○ブラムス/○ロキ/●フレイ

ヴァルキリープロファイル2(VP2)  0/2
●アリーシャ/●ルーファス

ラジアータストーリーズ(RS) 1/8
●ジャック/●リドリー/●ガンツ/●エルウェン/●ガウェイン/○ミランダ
●ガルヴァドス/●ルシオン

テイルズオブファンタジア(TOP)  3/9
○クレス/●ミント/○チェスター/○クラース/●アーチェ/●すず
●ダオス/●デミテル/●ジェストーナ

合計 21/62
○=生存 ●=死亡(一日目深夜〜、開始から18時間前後経過)

禁止エリア
C-04、G-03、E-06
19時にH-07、21時にI-07、23時にD-04
1時にD-06、2時にE-02、3時にI-06、4時にE-04、5時にF-06、6時(4回目の放送と同時)にG-07

主催者:ルシファー(スフィア社)@SO3


【キャラの参加時期】
基本的に本編終了後(原作で死亡しているキャラは死亡した後)
SO2:本編終了後、BS前
VP:レナスとルシオはAエンド後 ロキとフレイはChapter7〜8辺り?
VP2:アリーシャ、ルーファス共にユグドラシルのオーディン戦後
RS:人間編END後?
TOP:チェスターは未来編突入直後

181名無しのスフィア社社員:2009/07/05(日) 12:42:43 ID:rW5XtX.Y
ちょっとテンプレ案として作ってみましたがどうでしょうか?

182179改案:2009/07/05(日) 13:22:42 ID:rW5XtX.Y
【書き手/読み手心得】
ttp://www23.atwiki.jp/aaarowa/pages/204.htmlの該当する項目を見てください。

【予約制度】

トリップ※を付けてキャラクター名を書き込むと一定期間の間そのキャラクターの話を他作者が投下することができなくなるシステム。
目的はキャラ被りで書き進めた作品が没になることを防ぐため。
大抵のロワだと予約期限があるのだが、よく考えたらAAAロワには予約期限がない。
「近日投下が無理っぽいなら連絡ください」くらいアバウトでもやっていけちゃってるところがAAAロワの凄いところであり魅力的なところでもある。

トリップ作成テストツール
ttp://www.dawgsdk.org/tripmona/tools

ちなみに予約無しのゲリラ投下ならばトリップの必要は無い。

※トリップは名前欄に『#(半角)+好きな文字列』を入力することで、全く別の文字列を表示する、本人認証に使える機能です。
 万が一のため個人情報に繋がるものや、被りそうなものは避けることをおすすめします

183名無しのスフィア社社員:2009/07/22(水) 19:37:19 ID:/jY8NcbI
32Kくらいだったはず
ただ追跡表やらがあるから、30越えたら分割だと思っていいと思うよ






って本スレに書こうとしたらとうとう規制くらったでござるの巻
ここからが本当の規制地獄か・・・

184 ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:27:59 ID:/biSofOk
さるさん食らいました……
続きをこちらで投下します。

―――――――――


「ドラゴンオーブをこちらへ」
レザードのその言葉で、ソフィアは固まった。

『――レザードには気をつけろ、アイツは別の何か企んでやがる――』
『――絶対にアイツに心を開くな。アイツは危険だ。このドラゴンオーブを狙ってやがる――』

レザードと再会した時から、ソフィアの頭のどこかでルーファスの遺言とも言える最期の言葉が繰り返し響いていた。
レザードが何かを企んでいると言っても殺し合いに乗っている訳では無いだろうし、
ルーファスの言うようなレザードの危険性など、ソフィアには全く感じられていない。
それは、レザードと再会した今でも同じだ。
だが、何度もソフィアを護ってくれたルーファスが、今にも消え去りそうな意識を必死に繋ぎ止めて残してくれた遺言。
その言葉は、ソフィアの感覚などよりも遥かに重く、信頼に値する言葉の筈なのだ。
ソフィアはこれまで、その言葉を信じ、レザードに気を許さないでいるつもりだった。
それでも、そのレザードから直接ドラゴンオーブを求められてしまっているこの状況。
一体どうすればいいのか?ソフィアには全く分からなかった。

「どうしたんだよ、ソフィア?」
固まってるソフィアを怪訝に思ったのか、チェスターが声を掛ける。
レザードは変わらず、微笑みながら手を差し出している。
そう、答えなくても怪しまれるのだ。早く何か言わなくてはならない。
そうして、ソフィアが出した結論は、

「……持ってません」

ただ、白を切る事だった。

「持っていない?フッ、では何故バッグをそのように大切そうに抱え込んでいる?」
「!?」

指摘されて、ソフィアは思わず自分の持つデイパックを見る。そこで初めて気が付いた。
確かに先程まではただ手に持っていただけの筈のデイパックを、今はしっかりと抱え込んでいた。
レザードからオーブを渡すように言われた時、無意識にオーブの入っている自分のデイパックを抱え込んでしまったようだ。
ドラゴンオーブを護ろうとする想いが強かった故の行動だったのだろう。が、この場合は完全に裏目に出ていた。

「こ、これは――」「なっ……何だ!?」
どうにか取り繕おうとしたその時、聞こえてきたチェスターの小さな悲鳴。
ソフィアが顔を起こすと、何故かレザードが居た筈の位置にはボーマンが居た。驚いたような表情でこちらを見ている。
何が起きたのか。レザードは何処へ行ったのか。ソフィアが戸惑ったその時、

「余計な手間をかけさせないで頂きたいものだが」
「ッ?!きゃあッ!」

気付かぬ内にソフィアのすぐ隣に居たレザードがデイパックを強引に奪い取った。

185Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:29:09 ID:/biSofOk
「レザード!てめえ何してんだよ!!」
そのレザードの行動に怒りを見せるチェスターが、レザードに突っ掛かろうとしたが、
「落ち着けってチェスター!レザードはただデイパックの中身を確認するだけじゃねえか」
ボーマンが止めに入り、チェスターを抑えた。
「何言ってんだボーマンさん!
 何だかよく分からねえ魔術まで使って荷物をひったくるなんて絶対おかしいだろ!」
「いや、それはな――」

チェスターの知る所ではないが、レザードは特に魔術を使った訳ではない。
ただ、ソフィアが下を向いた瞬間、『転換の杖』を使用してチェスターとソフィアの位置を入れ替え、
ソフィアを自分の隣に移動させただけであった。そして2人が戸惑っている隙にデイパックを奪い取ったのだ。

レザードは、もめているボーマンとチェスターを完全に無視してソフィアのデイパックを開き、
当然のように中からドラゴンオーブを取り出した。
取り出されたオーブは只の水晶玉のようだったが、レザードが手をかざした途端、
ルーファスがソフィアにそれを託した時と同じように、いや、その時以上に、燃え盛るような深紅の輝きに包まれる。
一瞬、その場に居た全員がオーブの輝きと、その尋常ならざる魔力に心を奪われた。

「これは……」
「何だ……!?……この紋章力は……?」
「……きれい……」
「フフフ。どうやらオーブに異常は無いようだな。これさえあれば……」

レザードは1人、満足そうに微笑む。
その表情を見たソフィアはハッと我に返り、目を見開いた。

――絶対にアイツに心を開くな。アイツは危険だ――
再びソフィアの頭に響くルーファスの声。ソフィアはルーファスの真意をようやく理解出来た気がした。
ドラゴンオーブの輝きが照らし出しているレザードの微笑は、邪悪さで揺らめいている。
そう。ソフィアにでもレザードの本質が一目で分かる程に。

(この人は……危険……ッ!!)
ルーファスの意思に突き動かされるかのように、ソフィアは叫んだ。

「か、返して下さい!それは私が護らなくちゃいけないんです!」
「返せだと?何か勘違いをしているようだな。このドラゴンオーブは元々私の持ち物なのだぞ?」
「……え!?」
「ルーファスが私の荷物から――」「レザードッ!!」
ボーマンの身体を突き飛ばすように押して、チェスターはソフィアの前に出てきた。
レザードは彼の方を向き、呆れたような素振を見せる。
「おやおや……人の話に割って入るとは随分不躾な方ですね?」
「ふざけてんじゃねえ!ソフィアから奪った荷物を今すぐ返しやがれ!」
今にも弓を構えだしそうなチェスターに、レザードは「やれやれ」と首を振る。

186Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:30:09 ID:/biSofOk
「仕方有りませんね。ボーマン、こちらへ」
「あん?……何だよ?」
ボーマンがレザードの方へと移動すると、
「ソフィア。しっかりと受け取って下さいよ?」
レザードはソフィアの頭上に向かいデイパックを放り投げた。
「あ!」
ソフィア、チェスター、ボーマンまでもが思わずデイパックを目で追った。
デイパックはソフィアの頭上を越える軌道を取っていた。それを見ていた為、彼等は誰1人として気付かない。
レザードの足元で方陣が描き始められた事に。

方陣が光り輝き始めた。そして、レザードは方陣の中で、言った。

「2人共、平瀬村は危険である可能性は高い。くれぐれも注意して下さい。
 それでは後程、鎌石村でお会いしましょう」

突然レザードの方向から輝きだした光に振り向いたチェスターとソフィアは見た。
レザード、ボーマン、レナスが光の中へ姿を消していく瞬間を。

「何だ!?おい、レザードォ!!」
「これ……!」

チェスターとソフィアが叫ぶが、既に遅い。
光が消えた時、3人の姿もまた、消えていた。


☆  ★  ☆


(間に合わなかった……くそぉ!)
左手に握る首輪探知機を睨み、クロードは悔しそうに顔を歪めた。

アシュトンの目指す方向を探知機で確認した時、確かに2つの光点が存在していた。
これがアシュトンの言う2人組のマーダーなのだとクロードは判断し、
彼等との正確な距離を測る為に探知機の探知範囲を最も縮小して進んでいたのだが、
しばらく歩き、もう一度探知機を確認してみた時の事。
このエリアの北西寄りに有った2つの光点がこのマーダー組に近付いており、ついには接触してしまったのだ。
それを見たクロードはアシュトンに首輪探知機の事を伝え、慌てて走り出した。
ギョロとウルルンを消滅させるような危険な相手と接触しては、どう考えても殺される。
一番近くに居るのは自分達だ。助けられるのは自分達しかいない。彼等を助けなくては。
そう考え、走り出したのだ。
だが、現実は非情である、とでも言おうか。
クロード達が走り出してからしばらく後に、4つまとまっていた光点の内の2つが消え去ってしまった。
光点が消える……それはすなわち、その光点の人物の“死”だ。

187Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:31:04 ID:/biSofOk
(こいつらは……。アシュトンの敵討ちを止めていられる状況じゃなさそうだ。この2人は絶対に倒さなくちゃならない!)

モニター越しに、とは言え、殺人を見せつけられたクロードは自らの正義感を奮い立たせた。
ギョロとウルルンを消滅させ、新たに犠牲者を増やしたマーダー組。
放置しておけば殺戮、惨劇は繰り返されるばかりだろう。今ここで倒さなくてはならない。

「ん……動いた!こいつら移動を始めたぞ!これは……僕らの方向だ!」

光点はクロード達の方向に向かって移動を始めている。

「こっちに来るんだったら……」「クロード!その機械ちょっと貸して!」
「え?わっ!」

アシュトンはクロードから、半ばひったくるようにして探知機を奪い取った。

(いてて……何だよ乱暴だな……
 でも、この2人組がこっちに来るのは好都合だ!これなら先回りして待ち伏せ出来る!
 まあ……ちょっと卑怯かもしれないけど、仕方ないよな……)

相手は凶悪な殺戮者達だが、アシュトンの話に寄れば1人は弓使い、1人は紋章術師だ。
この森の中で待ち伏せして至近距離から攻撃出来れば、クロード達は圧倒的有利に戦える筈。
己の作戦の姑息さには少々抵抗を感じるが、相手は危険な殺戮者達。
確実に倒さなくてはならないのだから手段を選んではいられないだろう。

「アシュトン。こいつらだけど……」
「うん……分かってるよ。クロード」
「え?」
「こいつら……逃がすもんか!!」

言うが早いか、アシュトンは探知機を持ったまま走り出してしまった。

「ええ!?ちょっ、待てよアシュトン!!こいつらには進路を先回りして待ち伏せて……おーい、話を聞けってぇ!!
 ……駄目だ、興奮しすぎてる!今のアシュトンに細かい作戦考えさせるのは無理か!
 ……ってまずい!そんな興奮してる時にその2人と鉢合わせたら……」

あれ程冷静さを失っているアシュトンがマーダーと再会したらどうなるか?
最悪の想像が頭を過(よぎ)り、クロードは思わず身震いをした。
アシュトンは疲労をまるで見せる事なく森を駆け抜けていく。

188Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:32:23 ID:/biSofOk
「待てよっ!アシュトン!!」

クロードもアシュトンを追いかけ始めた。だが、
(え!?は、速い!?)
いつもだったら脚力はクロードの方が勝っている筈だったのだが、
今のアシュトンの足はクロードが知る以上に速く、気を抜けばすぐにでも彼を見失ってしまいそうだ。
(何でアシュトンがこんなに速いんだ!?……火事場の馬鹿力ってやつか!?)
今のアシュトンはギョロとウルルンの仇の光点を見た事で怒りを爆発させており、疲労を忘れている。
確かにそれは、『火事場の馬鹿力』と呼ばれる人間の底力に通じるものが有った。
だが、アシュトンの速力上昇の理由は、その精神的な理由だけではない。
最も大きな理由は、ギョロとウルルンが居なくなった事実そのものに有った。
背中に取り付く2匹の龍が消え去ったという身体的、物理的な事実。
皮肉な事に、親友を失った事が、アシュトンにかつての冒険には無い身軽さをもたらしていたのだ。

「アシュ……あッ!」
再び叫ぼうとしてクロードは思い出した。マーダーの2人組との距離はそう遠くはない事を。
叫びながらアシュトンを追いかけていたら、2人組にも声が届いてしまうかもしれない。
こちらの存在、居場所を伝える事となってしまえばますます危険だ。

(くそっ!でもアシュトンを止めないとやっぱり危険だし……とにかく追いつかないと!
 こういう暴走を僕が止めないといけないっていうのに……ッ!)

アシュトンを護る為に。そして暴走を止める為に。
クロードは全力でアシュトンの後を追った。


☆  ★  ☆


辺りにはまるで人気も無く、不気味な程に静かな場所で、突如光り輝く方陣が地面に展開され、3人の人間が出現した。

「……何だ?!チェスター?何処行った?」

光が消えた時、チェスター、ソフィアの姿もまた、消えていた。
そう考えたボーマンは、思わずチェスターを探した。だが、彼等の姿は何処にも見られない。
(……何処行ったんだ?)
ボーマンはこの現象の元凶である筈のレザードを振り向いた。

「レザード、何したんだ?殺した……んじゃねえよな?」
「殺してなどいませんよ。彼等にはまだ利用価値は有るのでね」
「じゃあ、あいつらは何処に行ったんだよ?」
「まだ先程の場所に居りますよ?移動したのは我々の方です」
「あん?」
レザードはボーマンの背後を指差して言った。
「見覚えが有るでしょう?」

ボーマンはレザードの指している先を見た。
そこには、凍結が解除されている事以外は先程同様の姿をしているクリフの死体が横たわっていた。

189Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:33:42 ID:/biSofOk
「おっ!?……クリフ……!?」
「ええ。ここは貴方とクリフの戦っていた場所です」

ボーマンは周囲を見渡した。
レザードの言う通り、確かにそこは先程までクリフと戦っていた場所だった。

(……こんなところまで一瞬で移動出来るのか……
 さっきの話じゃ死んだ奴を生き返らせたり……こいつ、何でもアリだな……)

ボーマンは改めてレザードの能力に舌を巻いた。

「でも何でこんなとこ来たんだ?忘れ物でも有ったか?」
「…………いえ、実は1つ試しておきたい事が有りまして」
「試したい事?」
「ええ。貴方にも確認して頂きたい事です。
 まあ大して時間は掛かりません。その間、休んでいて下さって結構ですよ?」
「……そうか?……じゃあそうさせてもらうわ」

ボーマンは適当な樹の側で座り込み、寄りかかった。
レザードの様子を窺うと、彼はクリフの死体の側で屈み込んでいた。
何をしているのか気にはなるが、ボーマンには今の内にやるべき事が有る。

(何してやがるんだか知らねえが……俺はアイテムの確認をしとかねえとな)

そう、これまで時間が無かったが、ようやくクリフの支給品を確認する事が出来るのだ。
先程はとりあえず中身を詰め替えただけだったので、
自分がどのようなアイテムを持っているのか、ボーマンは把握していなかった。

(さてと、ミスリルガーター以外には何が入ってんだ?)
ボーマンはデイパックを開き、中身を出した。
(まずは……剣が、2種類……こっちの小剣はアシュトンが使ってた事も有った気がするな。
 まあ俺には必要無いし、どっちの剣もトレード用だな。レザードの仲間と何か交換出来るかもしれねえ。
 他には……これは爆弾か?ボム系は色んな種類有るからな。説明書は……っと。
 なになに?……障害物を消し去る爆弾?人体には影響無いって……また特殊な爆弾だな。
 まあ何かには使えるだろうが……微妙だな。
 後は……おっ!!こいつはもしかして……やっぱりサイレンスカードか!)

クリフの持っていたアイテムには、現状のボーマンにとって最も重要なアイテムが入っていた。
すなわち、レザードへの対抗手段と成り得るだけのアイテムだ。
サイレンスカードは強制的に呪紋を使用禁止にするアイテム。魔術師のレザードには最大級に有効なアイテムとなる。

190Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:35:52 ID:/biSofOk
(こいつが有ればチェスターやアシュトンが居なくてもレザードに勝てるじゃねえか!)

いくら何でも術の使えないレザードに負ける事は無い筈だ
新たに芽生えたレザードへの勝機に、ボーマンの胸は高鳴っていた。

(……ま、そうは言っても今すぐ仕掛ける必要は無いな。
 こいつの性格からすりゃあ、用済みになった時点で俺を殺そうとするんだろうが、
 ソフィアが生きてる限りは俺との取引を破棄にはしないだろ)

一時はどうなる事かと考えたが、レザードに対する保険は出来た。
自らの優位性を確信したボーマンは、その高揚感からか、レザードを見た。

「なッ!?何だとぉ!?」

そして、度肝を抜かれた。

レザードの前には、確かに胸に風穴の開いているクリフが幽鬼のように立っていたのだ。





(ヴァルキュリアとソフィアは分断させた。今は、とりあえずそれで良い。
 ……念の為、ブラムスとの合流後には、彼にも平瀬村に向かって頂くとしようか。
 ブラムス程の者をソフィアの護衛に向かわせたのならば、
 ヴァルキュリアも覚醒した後にソフィアを助けに行こうとは考えないだろう。
 今は……それで良い……今は……)

レザードがソフィアを殺さなかった事に難しい理由は無い。
ただ単純に、マリア・トレイターの居場所を突き止める事、そして合流する事を優先しただけだ。
マリア・トレイターの能力『アルティネイション』は、この世界の物質の性質を『改変』出来るという。
つまり、この忌々しい首輪を最も簡単に無効化出来る可能性を持つ人物なのだ。
レザードにとってもそのような人物は重要である。出来るだけ効率よく仲間にしたい。
そのマリアを仲間にする為には元々の知り合いであるソフィアは都合が良く、
今は殺すよりも利用した方が良い。レザードはそう考えた。
勿論この島に連れて来られている以上はマリアも能力に制限を掛けられている筈。普通に考えれば首輪の改変など不可能だろう。
だが、ドラゴンオーブの魔力ならばどうか。
オーブはこの島での制限すら無効にし、レザードに移送方陣を使わせた。
更には、本来ならばレザード1人では使用すら出来ない換魂の法をも使わせた。
ならば、マリア・トレイターにドラゴンオーブを持たせれば、
首輪はおろか参加者に掛けられている能力制限だろうと『改変』する事は可能の筈。
ドラゴンオーブの力を体感しているレザードは、そう踏んでいた。

191Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:36:54 ID:/biSofOk
そしてレザードがこの場所で試しておきたかった事。
それは『ドラゴンオーブを利用した屍霊術がどれ程の効力を発揮出来るか』だった。
前述の通り、オーブはレザードに移送方陣、換魂の法を使わせた。
それ程の力を持つドラゴンオーブを利用して屍霊術を発動すれば、一体どれ程の効力が有るのか?
レザードの普段の屍霊術を上回るのは当然として、その死体の能力をどこまで引き出せるのか?
生前以上の能力は出せるのか?肉体の強度は上がるのか?精神力が枯渇する事も無くなるのではないか?
屍霊術で操る死体にブラッディアーマーを着せたらどうなるのか?様々な期待が持てる。
結果次第では、脱出の為の最重要人物であるフェイト、マリア、ソフィアの3名は死んでいても構わない。
いや、寧ろ殺害する方が相応しいかもしれない。
能力を制限されている今の状態よりも、屍霊術で操る方が能力を引き出せるのだとしたら、
彼等を生かしておく理由は何も無いのだから。
例えレザードの期待通りの効果が出ないとしても、最低でもルシファーに対しての戦力的な問題は解決する。
この島にある全ての死体がこちら側の戦力となるのだから。
そう、屍霊術を試しておく事は、脱出の為の保険でもあり、ルシファーへの対抗手段でも有るのだ。
1つ問題が有るとすれば、屍霊術に対して難色を示すであろうレナスの存在だが、
ルシファーを倒すという大義名分は有る。説得も難しくは無いだろう。

「さて、ボーマン。貴方は生前のクリフと直接戦っている、極めて貴重な人物です」
「おい、ちょっと待て!まさかてめえ……そいつと戦えってんじゃねえだろうな!?」
「……なるほど、そのような展開も面白そうですが……戦ってみたいですか?」
「冗談じゃねえ!嫌に決まってるだろうが!!」
「ふっ、そうでしょうね。まあ、貴方に戦って頂こうとは考えていませんよ。
 今からこのクリフを操り、辺りの樹々に攻撃を仕掛けます。
 彼の能力が生前と比べてどの程度変化しているか、その判断をして頂きたい」

ボーマンは1つ溜息を吐くと少々呆れ気味に言った。
「……お前さん本当に何でもアリだな……」
「何か?」
「いや、何でもねえ」
「……まあ良いでしょう。それではいきますよ」

レザードはそう言い、ルシファーを倒す為の、この島を脱出する為の実験を開始する。
とても合理的に。とてもえげつない方法で。

192Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:39:06 ID:/biSofOk
【D-05/黎明】
【レザード・ヴァレス】[MP残量:5%]
[状態:精神力を使用した事による疲労(やや大)]
[装備:サーペントトゥース@SO2、天使の唇@VP、大いなる経典@VP2]
[道具:ブラッディーアーマー@SO2、合成素材×2、ダーククリスタル、スプラッシュスター@SO3、ドラゴンオーブ、アントラー・ソード、転換の杖@VP、エルブンボウ(矢×40本)、レナス人形フルカラー@VP2、神槍パラダイム、ダブった魔剣グラム@RS、荷物一式×5]
[行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る]
[思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える]
[思考2:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない]
[思考3:ドラゴンオーブを利用した屍霊術の限界を調べる]
[思考4:屍霊術の効力次第ではフェイト、マリア、ソフィアの3人は殺害した方が良い]
[思考5:ボーマンを利用し、いずれは足手纏いのソフィアを殺害したい]
[思考6:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考7:ブレアを警戒。ブレアとまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す]
[思考8:首輪をどうにかしたい]
[備考1:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません]
[備考2:クリフの持っていたアイテムは把握してません]


【ボーマン・ジーン】[MP残量:10%]
[状態:全身に打身や打撲 上半身に軽度の火傷 フェイトアーマーの効果により徐々に体力と怪我は回復中]
[装備:エンプレシア@SO2、フェイトアーマー@RS]
[道具:サイレンスカード×2、メルーファ、調合セット一式@SO2、バニッシュボム×5、ミスリルガーター@SO3、七色の飴玉×2@VP、エターナルソード@TOP、首輪×1、荷物一式×5]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:とりあえずレザードと一緒に行動。取引を行うか破棄するかは成り行き次第]
[思考3:安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草は使いきりました]
[備考2:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[備考3:ガソリン塗れの衣類は焼けています。再び引火する可能性の有無は後の書き手さん次第で]
[備考4:クリフの持っていたアイテムを把握しました]
[備考5:ミニサイズの破砕弾が1つあります]


【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:45%]
[状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中]
[装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:4回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:後7〜8時間以内にレナスの意識で目を覚まします]

【現在位置:D-05北西部】


☆  ★  ☆

193Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:40:16 ID:/biSofOk
弓の心得を持つ者の第六感、いや、五感の全神経だろうか。
(何だ?何か……嫌な感じだ!)
平瀬村へ向かう途中の森の中。
チェスターは前方に何かを感じ取り、これまでレザードへの愚痴ばかりをこぼしていた口を閉じて立ち止まった。

「ソフィア、待ってくれ!……何か聞こえないか?」
「え?………………いえ、特に何も……」
「……いや、聞こえる!」

チェスターは目を閉じて感覚を聴覚に集中させた。
風が立てている夜の森の葉擦れに混じり、それと似て非なる音、落ち葉を掻き分けるような音が聞こえてくる。
その音は、徐々に大きくなってきていた。

「……足音だ!……速いぞ!誰かがこっちに走ってくる!」
「ほ、本当ですか!」
「ああ!」

チェスターは神弓シルヴァンボウを、ソフィアはクラップロッドをそれぞれ構えた。

「……またボーマンさんだったり……」
「そうだと良いけどな」

…………カサカサカサカサ――

足音はソフィアにも聞こえる程に大きくなり、真っ直ぐにこちらに近付いてきている。

(何だ?まるで俺達の位置が分かってるみたいじゃ……)

唐突に足音が止まった。

(こっちに気付いたのか?……声を掛けるべき……こ、これは?!)
「チェ、チェスターさん!これ!」

チェスターとソフィアは驚愕した。
いつの間にか自分達の周囲に木の葉がビッシリと舞い上げられているのだ。

194Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:41:13 ID:/biSofOk
「この技は!アシュ――」「リーフ・スラッシュ!!」

咄嗟に気配の方向にシルヴァンボウを構えた。
ほぼ同時にチェスターの腕に訪れる衝撃と派手に響く金属音。思わず弓を手から放しそうになる。
チェスターが、ヤバい!、と思う間も無く、アシュトンは次の動作に入っていた。
アシュトンの剣が降り下ろされる直前、

「させないんだから!」

ソフィアのクラップロッドが回転しつつ飛んでいく。
アシュトンは「ちっ!」と舌打ちをしながらそれをガード。
その隙にチェスターは転がるようにしてアシュトンから距離を取り、
ソフィアはブーメランのように戻ってきたクラップロッドをキャッチしてチェスターの横に駆け寄った。

「随分と早いお帰りじゃねえかよ、アシュトン!」
「……2人の仇だ……今度こそ死んでもらうよ!」
「勝手な事を言ってんじゃ…………!?」

アシュトンの足音が聞こえてきた方向で、何かが光っているのが視界に入った。
いや、『光っている』という表現は適切ではない。『燃えている』のだ。
火の玉が数発、こちらの方向へ飛んできていた。


☆  ★  ☆


どのくらい走ってきたのか、クロード自身にも良く分からない。
アシュトンの走っている気配は感じてはいたが、クロードは完全にアシュトンの姿を見失っていた。

(くそっ!……全然追いつけない!アシュトンがこんな力を出す程激昂するなんて……
 僕が追いつかなきゃアシュトンが危険だって言うのに……
 ん?金属音!しまった!もうアシュトンが……また金属音だ。……戦いが始まっているんだ!
 まずい!まだ遠いって言うのに……今聞こえてきたのは……あっちの方だよな?どうにか援護しないと!)

クロードは金属音のした方向の見当を付けると、右手に炎の闘気を溜め、
(バースト・ナックル!これで……)
思い切り投げつけた。
バースト・ナックルは数発に分裂し、地面に着弾。
そしてアシュトンと、他の2人の姿を照らし出す。やはり戦いは始まっていたのだ。

「見えた!これなら――」


☆  ★  ☆

195Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:42:06 ID:/biSofOk
「な、何だ!?」
火の玉はチェスター達が避けるまでもなく、2人には当たらない軌道で飛んで来る。
不思議な事に、アシュトンも驚いた様子でその火の玉を凝視していた。

ドンッ! ドンッ! ドンッ!

火の玉は全て地面に着弾して落ち葉を焦がし、周囲を明るくし始めた。
(誰だ!?)
チェスターがそう考えた次の瞬間、

「ソードッ・ボンバーーーッ!!!」

たった今飛来した火の玉とは比べ物にならない程の大きさの、巨大な火球が飛んできた。
一瞬チェスターの身体が硬直する。
恐怖で?いや違う。チェスター自身も気付いていないが、それは歓喜に近いと言える感情だった。
この火球は知っている。決して忘れる事はない。
捜し求めていた男。今の位置からは死角に居るその男の姿を、チェスターは火球の後ろにはっきりと見ていた。

(この技は!アシュトン!てめえ……やっぱりあの野郎と組んでやがったのか!
 そんな奴を俺は一瞬でも仲間だと……アーチェを殺した奴等を仲間だと……ふっざけやがってぇ!!!)

「チェスターさん!?」
「……ッ!」

ソフィアからの呼び掛けで呆けていた自分に気が付いた。既にソフィアは火球の軌道の外へ退避している。
「うおぉ!」
迫り来る火球を何とかギリギリでソフィアの方向へと避けると、
チェスターは立ち上がり様、火球の飛来してきた方向へと向き、

「クロォォォーーードォォォォォォォォォォーーー!!!!!」

腹の底から湧き上がる激情を絶叫に変えた。


☆  ★  ☆

196Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:43:16 ID:/biSofOk
「クロォォォーーードォォォォォォォォォォーーー!!!!!」

何?!相手は僕を知っているのか?
いや、この声……ここに来てから確かに聞いた事がある!
確か……チサトさん……そうだ、チサトさんと会った時に跳び出してきた彼の声じゃないか!

……え?何だって?!そんな馬鹿な!彼が殺戮者だって?!
彼は僕を殺し合いに乗っていたと誤解してたから攻撃してきたはずだろ!?
それが何でアシュトンを攻撃したんだ?何でさっきの2人を殺したんだ?そんなのおかしいじゃ……まてよ?

『――お前があの娘を!あの娘を焼き殺した!そこのアイツみたいに!!――』

そうだ、彼はそう言っていた。僕が誰かを焼き殺したと誤解して問答無用で殴りかかって来たんだ。
まさか…………アシュトンも同じ誤解を受けて?……ギョロ!?炎を吐けるギョロが居たから……?
じゃあさっきの2人を殺したのも……誤解で?そんな……冗談だろ?そんな事で……人を殺したのか?

そんな事でギョロとウルルンが殺されたのか?

誤解なんかで……あいつの勘違いなんかでギョロとウルルンが殺されたのか……?

あいつが跳びかかってきたから……僕はチサトさんに誤解された……

あいつの思い込みのせいで……僕はチサトさんを護れなかった……

あいつの自己満足の為に、僕達は振り回されているっていうのか?

あいつの正義の為に、他の誰かが命を危険に晒されなくちゃいけないのか?

そんなのって……無いだろ……何なんだよ、あいつは……



……いくらなんでも……許せない!あいつは……ここで止めなくちゃ!

197Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:43:51 ID:/biSofOk
【D-05/黎明】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:80%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)、背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)]
[装備:エターナルスフィア、スターガード@SO2、エネミー・サーチ@VP]
[道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機@BR、荷物一式×2(水残り僅か)]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:アシュトンと戦っているやつらを無力化する。殺す気は無い]
[思考2:アシュトンと共に行動]
[思考3:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考4:レザードを倒す その為の仲間も集めたい]
[思考5:ブレア、ロキとも鎌石村で合流]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:チェスターの事は、『ゲームには乗ってないけど危険な人物』として認識しました]


【アシュトン・アンカース】[MP残量:60%(最大130%)]
[状態:疲労中、激しい怒り、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕打撲・ギョロ、ウルルン消滅(但し、その分身軽になった)]
[装備:アヴクール@RS、ルナタブレット@SO2、マジックミスト@SO3]
[道具:無稼働銃、物質透化ユニット@SO3、首輪×3、荷物一式×2]
[行動方針:プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:チェスターとソフィアを殺してギョロとウルルンの仇を討つ]
[思考2:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考3:ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]
[備考1:ギョロとウルルンを殺された怒りが原因で一時的に思考1しか考えられなくなっています]


【ソフィア・エスティード】[MP残量:15%]
[状態:疲労中 ドラゴンオーブを護れなかった事に対するショック]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:魔剣グラム@RS、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:アシュトン、クロードを倒す]
[思考2:平瀬村へマリアを探しに行く]
[思考3:フェイトを探す]
[思考4:マリアと合流後、鎌石村に向かいブラムス、レザードと合流]
[思考5:自分の知り合いを探す]
[思考6:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[思考7:レザードを警戒]
[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]


【チェスター・バークライト】[MP残量:55%]
[状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ(矢×15本)@VP、パラライチェック@SO2]
[道具:レーザーウェポン@SO3、アーチェのホウキ@TOP、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:クロード!殺してやる!]
[思考2:アシュトンを倒す]
[思考3:平瀬村へ向かい、マリア、クレスと合流。その後鎌石村へ]
[思考4:レザードを警戒]
[備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[備考2:クレスに対して感じていた蟠(わだかま)りは無くなりました]

【現在位置:D-05南部】

198Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:44:38 ID:/biSofOk
☆  ★  ☆


血痕を追跡して辿り着いた終点で、
何かを確認するように歩き回るブラムスに抱えられながら、フェイトはこの場所を見下ろしていた。
その場所は酷く荒れ果てており、恐ろしく激しい戦闘が行われた事は一目瞭然だった。
しかし、そこには既に誰も居ない。誰かの死体すらも無い。
有る物と言えば、あちらこちらに飛散している血痕と、散らばっている矢くらいのもの。
手掛かりはここで尽きてしまったようだ。

「さっきの少女はここで……こんな戦闘に巻き込まれたって言うのか……?」
「……クン……クン…………いや、『巻き込まれた』のではない。
 あの娘……ここで数人を相手取って戦っていたようだ。その痕跡が残っている」
フェイトはその言葉に驚き、勢いよくブラムスを見上げた。
「何を言ってるんですか!?あんな子にそんな事出来るわけが無いですよ!」
ブラムスは頭を振り、
「具体的にどの様な事が起きたのかまでは判らぬが、
 この場に残る娘の血痕から動きを分析すれば、あの娘が只の人間ではない事は分かる。
 ……おそらくは我やレナスに匹敵する実力の持ち主であろう」
そう明言した。
獲物を追跡する為に備えられている不死者の本能。
血液の臭いで人物の区別がつけられるブラムスならではの洞察だ。

「そんな馬鹿な!……あんな子が?どう見たってただの女の子だったのに……」
「……フェイト。気付かぬか?『あの娘は我やレナス同等の力を持つ』……我はそう言ったのだ」
「はい……?あっ!」
少し遅れてフェイトは気付いた。
「それじゃまさか……ここで戦っていたのがレナスさんやソフィア達……?」
「然様(さよう)」

何故かヅラがキラリと輝いた……フェイトはそんな錯覚を起こす。

「レナスに匹敵する実力者が其処彼処(そこかしこ)に沸いて出てくるとは考え難い。
 レナスはここであの娘と戦い、そして命を落とした。
 だが、レナスもただで殺された訳ではなく、敵にもそれ相応の深手を負わせ、相打ちに持ち込んだのだ。
 それならばレナスが殺されているにも関わらず、レザードやソフィアが未だ生存している事に説明はつく」

その激闘の結果がこの荒野という事だろうか。
フェイトは先程のブラムスとミカエルの戦闘と戦闘後の状況を思い出し、そして納得する。
ブラムスクラスの強者同士が戦えば、その戦闘地域周辺がただでは済みようが無い事は経験済みだ。

199Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:45:52 ID:/biSofOk
「だったら……ソフィアは無事なんですね!」
少なくとも『レナスを殺した危険人物がソフィアを追っている』という事は無いのだ。
だが、ブラムスは再び頭を振った。
「いや、あの娘がここから立ち去った後、この場では更に別の戦闘が行われている。
 飛散している血液の鮮度で分かるのだ。
 ソフィアがその時に居合わせていたのなら、安全と決め付けるのは早計であろう」
「そ、そんな!」
「兎にも角にも、最早この場には誰も居らぬ。ならば追跡を続けねばなるまい」

そう言いブラムスは再び辺りの血痕を確認し始めた。

「どれがソフィアの血痕か分かるんですか!?」
「我はソフィアの血液を知らぬ故、判別は出来ぬが……」

ブラムスの見たところ、この場所から移動している血痕は先程の少女の物を除けば3グループ有った。
1グループはここから北の方向へと向かっている2種類の血痕。
1グループはここから南西の方向へと向かっている1種類の血痕。
そして、正確には『移動している血痕』ではないが、
血を流しながらも一箇所に留まっていたような血痕の残る場所から南の方向へと向かっている数人分の足跡と、
何かを引きずっているような痕跡。

このどれかにソフィアは必ず居る筈なのだ。

ブラムスは少しの間思案して、口を開いた。

「追跡すべきは――」

200Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:46:28 ID:/biSofOk
【D-05/黎明】
【ブラムス】[MP残量:90%]
[状態:キュアブラムスに華麗に変身。本人はこの上なく真剣にコスプレを敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SOシリーズ、魔法少女コスチューム@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2、和式の棺桶、袈裟(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島、荷物一式×2]
[行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)]
[思考1:追跡する血痕、痕跡を選ぶ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイ、レナスを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:次の放送までにF-04にてチーム中年と合流]

[血痕、痕跡について]
ブラムスの見つけた血痕、痕跡の内、
・北に向かっているのはボーマンとクリフのものです。
 基本的には、辿れば禁止エリアを経由して、クリフの死体の有る地点に到着します。
・南西に向かっているのはアシュトンのものです。
 基本的には、辿ればこの地点からは遠回りになりますが、D-05南西部を経由してアシュトンの所に到着します。
・南に向かっているのはルーファスの身体を引きずっていった痕跡です。
 辿っても森の中の数十m先で引きずる痕跡は消えています。
 この痕跡を辿ってチェスター、ソフィアの後を辿れるかどうかは後の書き手さん次第で。

勿論何かのきっかけで、それ以外の行動を取る事も有り得ます。


【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:95%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)、お姫様だっこ(されている)]
[装備:鉄パイプ-R1@SO3]
[道具:ストライクアクスの欠片、デッキブラシ@TOP、ソフィアのメモ、首輪×1、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ソフィアと合流したい!]
[思考2:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考3:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考4:次の放送までにF-04にてチーム中年と合流]
[備考1:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【現在位置:D-05東部】

【残り21人+α】

201Stairway To …… ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 20:53:21 ID:/biSofOk
いくつのフラグを潰してるのか?超不安ですが、以上で投下終了です。

今回の大きな問題点は……
レザードがチート過ぎ。
レザードがチート過ぎ。
レザードがチート過ぎ。
レザードがチート過ぎ。
レザードがチート過ぎ。

でしょうか……

他にも問題点、矛盾点、誤字脱字、アドバイス、感想などなどございましたらドシドシお寄せ下さい。

そして支援、代理投下ありがとうございます!
何気にさるさん前に支援して頂いたのは初めての予感!

202名無しのスフィア社社員:2009/09/02(水) 21:00:56 ID:ZI5R.ASA
>>190まではできたけれど、それ以後はダメだったよ……
残りは他の人に託す

ひとまず投下お疲れ様でした
変態がチートというよりも外道、えげつねぇ、怖いよ!というのが印象に残りました
じっくりとした感想はさるさんがお帰りになってから改めて……

203 ◆cAkzNuGcZQ:2009/09/02(水) 21:26:59 ID:/biSofOk
馬鹿な……ラストの状態表でさるさん再び……
だ、代理投下をお願い申し上げます。

204状態表でのさるさんって何なの?馬鹿なの?伝統なの?:2009/10/08(木) 13:25:36 ID:7cAQYouY

(どうする……? 非戦闘員のミランダのことも考えて、私達はアルベル達との待ち合わせ場所に向かう?
 そうすればクロード達との戦闘を回避しながらプリシス達と仲間になることができるけど……)

だがしかし、それでいいのだろうか。
北に参加者が集中している可能性が高い今、南で待機している間は誰かに会う確率が恐ろしく低いと言ってもいいだろう。
大事な仲間が北で戦っているかもしれないのに、自分達は呑気こいて待機していていいものだろうか。
もし自分の仲間やクレスの仲間が放送で呼ばれたときに、後悔したりはしないだろうか?

(そもそもプリシス達を行かせるのもリスキー……彼女達は脱出の要になる可能性が高いわ。
 何とか説得して北上を止めさせるのも手ね……
 けど、不満を溜めこんだり、仲間の死を放送を聞いて自責の念を感じたりしたら……
 負の感情でいっぱいになって、考察なんてやってられなくなる……その可能性もまた否定できない)

何か選ぼうとすると、何かしら問題点にぶち当たる。
どうすればいい。
どうすれば。

「マリアさ……マリア。そんなに思いつめなくても大丈夫ですよ。
 失敗しそうになったら、僕が全力で支えますから。
 それに、貴方が選んだ道を共に歩いた結果なら、どんな未来になろうとも僕は決して後悔しない」

真っ直ぐな瞳に、呆れ半分恥ずかしさ半分の感情が浮かんでくる。
まったく、この男は。
もっと思慮深くなったり、恥じらいというものをもつべきではないだろうか。
勝手に考え込んで勝手に照れてる自分が何だか馬鹿みたいではないか。

(……でも、確かにウジウジ悩んでいられる時間はないわね。
 どう動いても一長一短で、どれが一番いい選択か客観的には分からない。
 ならば、私は私を信じる。どんな選択をしても支えてくれるというクレスの言葉を信じる。
 そして、根拠がなくとも私が今一番ベストだと思う選択をする――!)

意を決し、クレスへと声をかける。

「決めたわ。いい、クレス。私達は――――――――」







【F-01/早朝】


【クレス・アルベイン】[MP残量:60%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ35%程度に回復]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:皆を救うためにルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:仲間を守る(特にマリアを)]
[思考2:今回はマリアの決定に従う]
[思考3:チェスターを説得する]
[思考4:プリシスとレナがどうするのか少し気になる]
[思考5:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つ]
[現在位置:平瀬村の民家B(表札に『中島』と書かれている民家)内・居間]
※プリシス達の持つ首輪の情報と鷹野神社の台座の情報を聞きました。

205名無しのスフィア社社員:2009/10/08(木) 13:26:07 ID:7cAQYouY

【マリア・トレイター】[MP残量:100%]
[状態:睡眠中、右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:どうするか決断する]
[思考2:ミランダは信用できない]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考4:移動しても問題なさそうな装備もしくは仲間が得られた場合は平瀬村から出て仲間を探しに行くつもり]
[現在位置:平瀬村の民家B内]
※クレスに対し、絶大な信頼をおいています。
※高い確率でブレアは偽者だと考えています
※マリアの考察
自分たちはFD世界から観測できるエターナルスフィアではなく、
 別の平行世界の(ED空間から独立した)エターナルスフィアに存在している。
ルシファーはエターナルスフィアそのものになった(ブレアの言葉から)。
 そのため、万物を実現する力を手に入れた
ルシファーは本来のFD空間におらず、ES内に自分が創造した仮想のFD空間に存在している。
ルシファーはエターナルスフィアと融合したことに気付いていない。
ルシファーの居場所さえ特定すれば、フェイト、マリア、ソフィアの能力は重要ではないと考えています。

【ミランダ】[MP残量:50%]
[状態: 爆 睡 中 ]
[装備:無し]
[道具:時限爆弾@現実、パニックパウダー@RS、荷物一式]
[行動方針:神の御心のままに]
[思考1:……Zzzzz……]
[思考2:参加者を一箇所に集め一網打尽にする]
[思考3:クレスとマリアを利用して参加者を集めたい]
[思考4:直接的な行動はなるべく控える]
[現在位置:平瀬村の民家B内]
※ミランダはクレス達を目撃してからしばらく二人をつけていました。
 途中で気付かれたものの、しばらくは移動していたので、ルシオ達の潜伏する民家Aと現在ミランダ達のいる民家Bはそれなりの距離があります。
※クレスとマリアが恋人同士だと半ば思っています。

206>>205・微修正。こちらを本投下お願いします:2009/10/08(木) 13:28:01 ID:7cAQYouY

【マリア・トレイター】[MP残量:100%]
[状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:どうするか決断する]
[思考2:ミランダは信用できない]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考4:移動しても問題なさそうな装備もしくは仲間が得られた場合は平瀬村から出て仲間を探しに行くつもり]
[現在位置:平瀬村の民家B内・居間]
※クレスに対し、絶大な信頼をおいています。
※高い確率でブレアは偽者だと考えています
※マリアの考察
自分たちはFD世界から観測できるエターナルスフィアではなく、
 別の平行世界の(ED空間から独立した)エターナルスフィアに存在している。
ルシファーはエターナルスフィアそのものになった(ブレアの言葉から)。
 そのため、万物を実現する力を手に入れた
ルシファーは本来のFD空間におらず、ES内に自分が創造した仮想のFD空間に存在している。
ルシファーはエターナルスフィアと融合したことに気付いていない。
ルシファーの居場所さえ特定すれば、フェイト、マリア、ソフィアの能力は重要ではないと考えています。

【ミランダ】[MP残量:50%]
[状態: 爆 睡 中 ]
[装備:無し]
[道具:時限爆弾@現実、パニックパウダー@RS、荷物一式]
[行動方針:神の御心のままに]
[思考1:……Zzzzz……]
[思考2:参加者を一箇所に集め一網打尽にする]
[思考3:クレスとマリアを利用して参加者を集めたい]
[思考4:直接的な行動はなるべく控える]
[現在位置:平瀬村の民家B内・和室の布団の中]
※ミランダはクレス達を目撃してからしばらく二人をつけていました。
 途中で気付かれたものの、しばらくは移動していたので、ルシオ達の潜伏する民家Aと現在ミランダ達のいる民家Bはそれなりの距離があります。
※クレスとマリアが恋人同士だと半ば思っています。

207名無しのスフィア社社員:2009/10/08(木) 13:29:37 ID:7cAQYouY

【レナ・ランフォード】[MP残量:55%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、精神的疲労極大、ショック、混乱]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3、魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:どうすればいいのか混乱中]
[思考2:次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る?]
[思考3:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考4:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考5:アシュトンを説得したい]
[思考6:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡し、何があったかを話す]
[現在位置:平瀬村の民家B内・居間の出口を少し出たところ]
※クレスからルシファーについて大ざっぱに聞きました。
 今は半信半疑ですが、マリアのように詳しい人間にしっかりとした説明を受ければ信じるものと思われます。


【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック(また更に大きく)、クロードがゲームに乗った事に対する(ry、ボーマンが(ry]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔100/100〕@SO2 盗賊てぶくろ@SO2]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す]
[思考1:北に行ってクロードやアシュトンを一刻も早く止めたい]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:クラースという人物も考古学の知識がありそうなので優先して探してみる]
[現在位置:平瀬村の民家B内・居間の出口を少し出たところ]
※クレスからルシファーについて大ざっぱに聞きました。
 今は半信半疑ですが、マリアのように詳しい人間にしっかりとした説明を受ければ信じるものと思われます。







【カラーバット@現地調達品】
小さい子供向けのプラスッチク制安全バット。
殺傷能力は限りなく0で、耐久性も低いため鍋の蓋よりも防御に向かない。
バットの破損を覚悟すれば魔人剣一発くらいならば撃てるかもしれないが、基本的には気休め程度の存在である。
『武器を探す』という行動方針に乗っ取り、ミランダとの情報交換の後(第104話終了後)に手分けして家探しをした際に発見。
家の子供がカラーバットから普通のバットに乗り換えたためか、押し入れの中から見つかった。
収穫としてボールと一緒に居間まで運んだが、直後に始まった放送でそれどころじゃなくなったため、しばらく居間に放置されていた。
それを見張りに行く直前(108話終了後)に回収し、諸事に至る。

208 ◆wKs3a28q6Q:2009/10/08(木) 13:31:18 ID:7cAQYouY
異常です。
今回も締め切りを大幅に遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。
猛省し、今後はきちんと己の筆の速度とリアルの予定を考えたうえで予約させて頂きます。

また、「武器にならないからいいかな」と思い、勝手にバットを現地調達させてしまいました
問題があるようならおっしゃってください

209 ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:34:49 ID:wZThit..
日曜夜とか言ってこんな時間になってしまった……
相変わらず規制中なのでこちらに投下します。

210Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:35:38 ID:wZThit..
ロキまでの距離は、後10メートル程。
無意識の内に、ルシオは剣を握り直していた。


ロキから浴びせかけられている殺気は、否応無しにあの時の事をルシオに思い起こさせていた。
ヴァルハラ宮殿の『水鏡の間』でロキと戦い、掠り傷の1つすらも負わせられずに殺された、あの時の事を。
その身に甦るのは、憎悪、狂喜、破滅の入り混じった、不死者達よりも遥かにおぞましく、歪んだロキの波動。
あの時は、その波動に当てられただけで圧倒的な力の差を思い知った。
その魔力の込められた一撃をどうにか防いだ時、自分には一片の勝機も無いのだという事を思い知った。
それでもルシオは戦った。虚勢とも取れる言葉を吐きながら、必死で抗った。
ヴァルキリーの封印された記憶を取り戻す為に。もう1度プラチナに、ヴァルキリーではなく、プラチナに会う為に。
彼は死ぬわけにはいかなかったから。

斬りつけられた激痛で、足を踏み外した事にも気付かなかった。
落下した事を理解したのは床に叩きつけられた後。高い天井と、輝いている水鏡を見つめていた時だ。
既にその時、ルシオの魂は空間に溶け込むかのように消滅しつつあった。
魂の死。輪廻の理から外れていく実感。肉体の死では味わう事の無かった感覚。
ルシオはその実感にゆっくりと侵食されていった。
自分が消えていく恐怖にじわじわと包まれていった。堪えきれず、叫ぼうとした。
だが、声は出せなかった。身体に力は入らない。声を出せる状態では無かった。
ルシオに出来る事は、水鏡を見つめ続ける事だけだった。

水鏡の間の床は冷え切っていた。
その場所は、これまでルシオが触れてきた何よりも、冷たかった。
到底這い上がる事も叶わない奈落の底の様に思えた。
薄暗い意識の中でも眩しく映る水鏡の強い輝きと、感じていた床の冷たさ。
それが最後の知覚となり、ルシオは無に飲み込まれた。

後には、何も残らなかった。


ロキまでの距離は、後5メートル程。
無意識の内に、ルシオは剣を握り直していた。


今、目の前に居るのは、ルシオを消滅させた張本人。絶望感と無力感を植えつけた男。
だが、今はあの時とは状況が違う。
今のロキには解放された真の能力もドラゴンオーブの魔力も無い。
加えて、ブラムスに敗北して手負いの状態。下級神としての能力も充分には出し切れない筈。
それらの事実を、ルシオは改めて確認する。
あの時とは違う。勝機は有る。
そう自分に言い聞かせるように。自分を納得させるかのように。


ロキはもう目前だった。いつもの薄ら笑いは、無い。
無意識の内に、ルシオは剣を握り直していた。

211Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:36:24 ID:wZThit..


(……妙だ)

走り込みながらもロキの動きを警戒していた洵は、1つの違和感を覚えた。
迫る洵とルシオに向かって、ロキから放たれている凄まじいまでの殺気。
並の者、例えばミランダ辺りの参加者なら、この殺気だけで身体が萎縮し、その場に硬直してしまうだろう。
思わずその様な事を連想させる程の圧力を、洵は今その身に受けている。
だが、その攻撃的な圧力とは裏腹に、ロキはまるで防御に徹するかのように槍の側面を洵達に向けている。
魔術を発動させる気配も感じられず、ただ二人を待ち構えているのみだ。
ヴァルキリーやブレア、ルシオの話によれば、ロキは魔術師でありながらも武器の心得も有り、槍もある程度自在に扱える筈。
攻め手はいくらでもあるだろうに自分から攻撃を仕掛けようとせず待ちに徹するというのは、
“人間ごときが相手なら本気を出すまでもない”
そういった類のプライドが邪魔をしての事だろうか。だとしたら、

(侮られているという事ならば……構わん。寧ろ、ありがたい!
 その驕りに塗れたまま死んでくれるのならな!)

そう、ありがたい。
相手が油断している間、力を出し切らない間に勝負を決められるのなら、それに越した事は無いのだから。
洵は戦闘を楽しみたい訳でも実力を競い合わせたい訳でもない。あくまでも自分が生き残れればそれで良い。
極力ダメージを避けられるのならば、戦闘の過程に意味などは無い。

ロキの出方を窺う為に先を走らせていたルシオが、目測だがもう数歩でロキの間合い内に入る位置にまで距離を詰めた。
ロキの持つ槍は片手でも扱える大きさ。とは言え、贔屓目に見ても二人の持つ剣よりもリーチは長い。
待ちに徹するとしても普通に考えれば先手はロキの筈である。洵はルシオを援護出来るよう、両剣を構えた。

(さあ、どう出る!)

212Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:37:00 ID:wZThit..


(これは……そういう事! ……まずいわね)

ルシオと洵を待ち構えているロキに違和感を覚えたのはブレアも同様だった。
だが洵とは違い、ブレアの抱いた違和感は一瞬後には氷解する。彼女の持つ『事前情報』によって。
ブレアの持つ『事前情報』とは“情報を知らされている”程度の物ではない。
完全に数値化された全参加者のステータスがその頭脳の中にインストールされているのだ。
参加者達は『意志』や『感情』という、純粋なプログラムであるブレアには理解不能な要素を持っている為、
参加者達の思考や行動方針を完璧に分析する事は流石に不可能であるが、こと戦術においてはその限りではない。
戦術的思考とは合理的判断に基づいて決定される場合が多いからだ。
先程までのようにノイズの妨害も受けていない今のブレアには、対象者のステータスに現在状況を照らし合わせて
戦術的思考を分析、判断するのは比較的容易い事だった。それはロキが対象でも例外ではない。
しかし、ブレアの分析したロキの行動から導き出される結論。それはブレアにとっても望ましくない結論だった。

(まさかロキがこれほど慎重に戦う気になるなんて……
 このままでは、ルシオと洵は殆どロキにダメージを与える事無く殺される確率が高い……)

今ロキは、全力をもって確実に二人を始末しようとしている。
確かにロキと二人を戦い合わせる前に行った計算では、ロキが最初から全力を出す可能性も導き出されていたが、
疲労、ダメージの残るロキは、格下の二人に対しては力を温存して戦おうとする確率の方が遥かに高かったのだ。
力を温存して戦うのならば、今のロキではルシオと洵を簡単には倒しきれず、
結果として体力の消耗は激しいものとなる計算だったのだが、現実にはロキは力の温存よりも全力を出す方を選んでしまっている。
これでは期待していた程にはロキを疲弊させる事も叶わず、2つの駒は無駄に失われる事となってしまう。

(動くべき……かしら?)

ブレアの目的はロキを疲弊させる事だが、ルシオ達に任せているだけでは期待していた程の結果は得られない。
計算と同等の、またはそれ以上の結果を出すにはブレア自身が動く必要が出てきていた。
しかし、動けばその分ロキに裏切りがばれる確率も高まり、ばれれば最悪殺される事も有り得る。

(……いえ、折角のチャンスだけど、私の身が危険になる確率は低い方が良い。
 ここは、これ以上動かない方が良さそうね。……そうと決まれば……)

ブレアは服についた砂を叩きながら立ち上がり、街道を外れた茂みの方へと目を向ける。
戦闘が終わるまでは彼女にやる事はもう無い。だったら少しでも安全な場所へと避難した方が良いだろう。

ルシオとロキが今まさに交錯しようとする時、ブレアは静かに移動を始めた。

213Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:37:46 ID:wZThit..


ルシオがロキの間合い内に到達しようとする丁度その時、
ルシオとは反対側から走り込んでいた洵が、ロキに向かって両剣から衝撃波(スプラッシュ)を放った。
それに合わせ、そこまで動きを見せなかったロキがようやく動き出す。
フッと息を吐くと、短く持った槍を素早く横薙ぎに一閃。それだけで2つの衝撃波が撃ち消された。
だが、単発のスプラッシュ程度が通用しない事はルシオも洵も想定している。狙いはルシオがより安全にロキに接近する事。
ルシオはその瞬間身を低く沈ませて踏み込むと、一気に自らの間合いギリギリまで入り込み、ロキを見上げた。
洵は再び援護の体勢を取り、射抜くような視線でロキを捉えた。

「食らえ!」「そりゃあぁぁッ!」

ルシオはロキの胴を狙い、下段に構えていた剣を振り上げる。洵は走り込みながら連続して衝撃波を撃ち続ける。
それらに対し再び、そして先程よりも圧倒的に素早く、巧みに振るわれるロキの払い返し。
その一撃は、たった一振りでルシオの剣を上方へと流し、同時に洵の方向へ洵同様の衝撃波を繰り出した。
いや、“同様”とは言い難い。ロキの繰り出した衝撃波は洵のそれを遥かに凌駕していたのだから。

『ちぃ!』

小さな舌打ちがイヤホンを通じてルシオに伝わった。
洵の撃ち出した多数の衝撃波。その全てがロキのたった1発の衝撃波に飲み込まれ、消えていく。
スプラッシュ自体は本来攻撃力の高い技ではないが、半分とは言え巨人族の血を引くロキの力で繰り出されたのならば話は別だ。
流石にこれを直撃させる訳にはいかない。
しかしルシオがフォローを入れるまでもなく、洵は咄嗟に前方へ跳躍して衝撃波を回避した。
前方、即ちロキの方向。攻撃の手を休める気は無いらしい。

『撃たせるなルシオ!』
『分かってる!』

指示を受けるまでもなく、ルシオは既に弾き上げられていた剣に闘気を込めていた。
宙に浮いていてこれ以上回避のしようが無い洵を援護する為に。
洵は、空中で再び衝撃波を連打する。
自身を援護させる為の、ルシオへの援護射撃の為に。
ルシオはその気配を感じ取り、剣を全力で振り下ろした。

「ラウンドリップ・セイバーーーッ!!」

電撃に似た性質の闘気を纏わせた剣で、強引に敵を仰け反らせて隙を作り出すルシオ最大の奥義。
ルシオが両手持ちで振り下ろすその剣を、ロキは“軽々と”といった様子で槍を回転させ、弾き返そうとした。
が、剣と槍が交差した瞬間、ロキの身体が衝撃に流される。

214Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:38:19 ID:wZThit..
「何ッ?!」

予想外の威力だったのだろう。ロキは動揺の声を漏らし、驚愕の表情を浮かべた。
仰け反りの隙を目掛ける、続け様のルシオの二撃目と洵の衝撃波。
崩れたと思われたロキの体勢は、しかし、瞬時に立て直されていた。
ロキは槍を両手で握ると、まるで風車の様に回転させて二人の攻撃を迎え撃つ。
その遠心力は、洵の衝撃波を掻き消しながらルシオの二撃目を、ラウンドリップ・セイバーをも弾き返した。
最大の奥義がたった二撃目で破られた現実。本来ならば心が折れかかっても不思議は無い状況だが、それでもルシオは怯まない。
寧ろ、ルシオの表情に浮かんだのは絶望ではなく、ある種の希望だった。彼は手応えを感じていたのだ。
ルシオは弾かれた勢いに身体を任せ、着地する洵を尻目に三撃目をフルスイングした。
しかしロキの風車も更に回転を増しており、またもルシオの剣は弾かれる。衝撃波は既に全て消されていた。

『合わせろ!』

そこで洵が風の如き勢いでロキの前に躍り込む。
間髪入れず、風車の回転に逆らう様に叩きつけられる洵の両剣に合わせ、ルシオは四撃目を斬り上げた。
ほぼ同時に鳴り響く二つの金属音。
二人の剣はそれぞれが槍の両端を殴り抜け、遂に風車の勢いを完全に相殺した。ロキの槍は僅かながら逆方向に弾かれている。

「チッ!」

今度はロキが舌を打つ番だった。
ロキが硬直した一瞬の隙間、洵は跳び込んだ。身体ごとぶつけるかの様な剣撃が火花を散らす。
そのままロキの脇を通り抜け、背後を取ろうと動く洵。
彼を目で追うロキに向かい、更に強大な闘気を纏わせたルシオの剣が荒々しく振り下ろされる。
雷鳴のような轟音が鳴り響くも、槍に阻まれロキに直撃はしない。
だが、ロキの身体をその場に釘付けにし、洵が回り込む時間を稼いだ。
回り込んだ直後、振り向き様の二連撃がロキの後頭部へ疾走する。
紙一重の所で屈まれ、剣の下に潜られるも、その二剣がルシオの大振りの隙を埋め、
そしてロキが反撃に転じるよりも早くルシオを攻撃動作に移らせた。
連続してぶつかり合う二人の剣とロキの槍。それにより奏でられる金属音は、徐々にテンポを上げていく。
エインフェリア達が魅せる見事な連携は、ロキに割り込む余地を与えなかった。
過去、共闘した事は数える程度しか無い彼等だが、二人の根底に共通するエインフェリアとしての日々が、
ヴァルキリーの元で、ヴァルキリーの戦術を基礎として己を鍛え上げていた日々が、
互いを良く知る間柄ではなく、共に戦った経験が少ないルシオと洵に絶妙なコンビネーションを確立させていた。

武器から飛び散る火花は、暗闇の街道にロキの姿を明瞭に照らし出す程に凄まじい。
正面から、側面から、背面からの連携。或いは前後、そして左右からの挟撃。
二人はロキを中心とした円を描くかの様に動き、ありとあらゆる角度から斬りつける。
互いが互いの隙をカバーし合い、絶え間無く攻め立て、ロキを防戦一方に追い込んでいた。
とは言え、真に見事なのはロキの方かもしれない。
ロキは未だにルシオ達の振るう剣を一太刀たりともまともには受けていないのだから。
それでも二人の剣閃は、幾本かに1つの割合でロキの衣服を、髪を、皮膚を確かに掠め、確実に傷跡を残していた。
そしてその掠める間隔は徐々に狭まってきている。それは、ロキが二人の剣を捌ききれなくなってきている確かな証拠。

215Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:38:52 ID:wZThit..
――いける!――

ルシオの感じていた手応えは確信へと変わっていた。
直接打ち合わせている剣の衝撃と、それにより生じる手の痺れが、ルシオに伝えてくれる。
自らに言い聞かせた言葉を、実感を伴わせて理解させてくれる。
今のロキは、決して手が届かない程の存在ではないという事を。
かつての力も、恐怖も、絶望も存在しないという事を。

確かに単純な力比べでは今もロキが上を行った。
ラウンドリップ・セイバーの一撃ですら力負けをするのだから、それは認めざるを得ない。
だが、それも大した問題ではない。
1対1の戦いならともかく、今はその差を埋めてくれる頼もしい仲間が居る。
洵との連携が有れば、ロキの攻撃をも跳ね返せるのだから。

一刀一刀打ち合わせる毎に、心のどこかに今も存在していたロキへの恐れが払拭されていく。
それにつれてルシオの動きが徐々に軽快になり、ロキへと振るわれる剣が鋭さを増していく。
このままいけば、ロキを捉えるのは時間の問題だ。

(勝てる! 今度こそ、ロキを倒せる!)

ルシオはそう確信を持っていた。



――やはり、何か有る――

一方の洵は攻撃を続けながらも、最初に感じていた違和感を消す事が出来ていなかった。
確かに今攻め立てているのは洵達の方だが、
実の所、ロキは二人のこれだけの猛攻を受けながらも最初から殆どその場を動いていないのだ。
槍で捌くだけでなく、足を使って攻撃を回避をしていればここまで防戦一方の状況に陥る事は無い筈。
それでも動こうとしないのは何故なのか。
それもやはり二人を侮っているからだと思えなくも無いが、相手はロキ。
ルシオを利用して巧妙にドラゴンオーブを盗み出し、ラグナロクを引き起こした策士。
“侮りを見せている”と考えるよりも“何かを企んでいる”と思えてしまうのは自然な流れだろう。

『いける!』

時折イヤホンから伝わるルシオの呟きの様子からは、“ロキが策を持っている”などとは予想もしていない事が窺える。
菅原神社で見せたような洞察力が働いていないのは、ロキが相手故の焦りか、または気負い過ぎか。
何にせよ、ロキの策を看破するには頼りになりそうもないルシオに対し、洵は八つ当たりに近い腹立たしさを覚えていた。

(チッ! ルシオは当てにならんな。
 ロキ……こいつが何を考えているのかは読めんが……)

洵にはロキの策はまるで予想がつかない。
だが、ロキがどのような策を持っていたとしても、今の攻撃を中断する訳にはいかなかった。
このまま攻め続ける事が出来ればいずれ自分達の剣がロキに届く。その未来像は洵にも見えているのだから。
今を逃してしまえば再びこの様な好機が来るという保証は無く、
ロキの策を警戒して攻撃を中断する事は、勝機を失う事になりかねない。

(読めんのなら、こいつが策を施す前に片を付けるしかない。ならば…………む!?)

至極単純な結論を出し、次の一手を打とうとした正にその時、洵は気付いた。
ロキが今、何かを呟いている事に。

216Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:39:41 ID:wZThit..
「――――――――まあ、こんなところだな」

はっきりと聞き取れたのは最後の言葉のみ。
その呟きの意味を考える間も無くロキの雰囲気が一変し、瞬間、洵の全身を冷たいものが通り抜ける。
洵は直ちに剣を止め、弾かれる様にロキから離れた。ワンテンポ遅れて、ルシオがロキから離れる姿が視界に入った。
直後、今まで二人が居た地面の上に黒い怨念の様な影が出現し、爆発するかの様な勢いで隆起した。
ロキの姿が一瞬にして、影と、影に巻き上げられた砂煙に包まれて見えなくなる。
巻き起こされた風圧で舞い上がる砂埃が容赦無く顔に降りかかり、思わず洵は両手で顔を庇い、目を細めた。

(シャドウ・サーヴァント!?
 これがただのシャドウ・サーヴァントか……!)

自身の知るその魔術とあまりにも規模の違う圧力に驚きの表情を隠せなかったが、唖然としている暇は無い。
洵は、自分とは離れた位置に退避したルシオを見た。
ルシオも同じ様な体勢で顔を庇いながら、こちらの様子を窺っているようだ。

『無事か?』
『ああ、何とか。そっちは?』
『問題無い』

どうやらルシオも上手く避けた様子だ。
素早くその確認を終えると、洵は治まりかけた砂埃の中で、油断無く砂煙の中心に向かい構えを取った。
ロキの気配は未だその場に有るが、あの様な威力の魔術を見せられては今までの様に斬りかかる事は少々躊躇われる。
攻め方を変えるべきか否か。逡巡していると、砂煙の中からロキの声が響いてきた。

「フン、良く今のを避けたな。
 流石はレナスの選定したエインフェリア様達……だよな? 倭国人のお前もそうなんだろ?
 中々の状況判断だ、褒めてやろう。だけどな、――」

再び、全身に鳥肌が立つかの様な強烈な寒気。
ロキから異常な波動が、とても神のものとは思えない程に禍々しい魔力が、瞬時に周囲に広がった。
砂煙が全て吹き飛び、ロキの姿がその場に現れる。
ロキは、青白く薄く透き通る結界に覆われていた。
その結界は、魔術師が自らの魔術に巻き込まれない為、相殺用に使用する守護方陣。

「――死ね」

そして、ロキの魔力が彼の足元に渦を巻く様に集まりだし、次第に形を成し始め、輝きを帯びて行く。
洵は一目で理解する。それは要するに――

217Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:40:24 ID:wZThit..
『大魔法だって!?』

ルシオも同じく理解したらしく、呟いた。
そう、確かにロキが生成しているものは、大魔法を発動する為の魔方陣。
恐らくは大魔法の威力を最大まで引き出す方陣を作り出そうとしている。
魔術を扱えない洵やルシオでも、これまで幾度となく仲間達が使用するのを見てきたのだ。その位の知識は有るし、判断も出来る。
しかし、今このタイミングでロキが大魔法を選択する理由が不明だった。
詠唱を終えるまで二人が黙って見ているとでも考えているのだろうか。

(先程までは魔術を使用せず、今度は誰の援護も無しに大魔法だと?
 ……やはり俺達を侮って…………いや、違う!?)

そう、侮りではない。その事に漸く洵は気付いた。
ロキはやはり策を持っていた。二人を一度に葬り去る策を。

(予行演習……か!)

つまり、全ては大魔法を発動する為の予行演習だったのだ。
大魔法を発動するには、術師が魔方陣の中に居る必要が有る。
ロキがその場から動こうとしなかったのは、魔方陣の中から動かずに二人に対処する事を想定した為。
大魔法詠唱時には別の魔術を使用出来ない。
魔術を使わずに槍のみで防御に専念していたのも、その事を考慮した為。
そして先程の呟きは、聞き取れた言葉から推測するに、
方陣の生成と大魔法発動までに必要な時間を計る秒読みか何か。

『くそっ! なめるなッ!』

ルシオが叫び、ロキに向かい駆け出していく。
“いや違う、なめてなどいない”そう洵は思った。
ロキは初めから今まで全力を出していた。
ダメージの残る身体で二人の攻撃を捌ききれるかどうかを、全力で確かめていた。
そして、魔方陣生成から大魔法を詠唱しきるまでの間ならば洵達の猛攻を捌ききれると判断したのだ。
攻め込んでいたのは確かに洵達二人だったが、追い込まれていたのもまた二人の方だったという事か。
魔術軽減用の装飾品も持たない今この大魔法を食らえば、洵達が生き残れる可能性は、無い。

(まずい、どうする!?)

洵は街道を素早く見回して、唇を噛んだ。
この街道には、大魔法をやり過ごせそうな場所や遮蔽物は何も無い。
道外れにはそれなりに木々も生えているが、そんなものではシャドウ・サーヴァントですら防げそうもない。
身を護るという選択肢は選べない。いつの間にか、冷や汗が全身を濡らしていた。

ロキの魔方陣が完成する。
この規模の魔方陣から放たれる大魔法からは逃げ切る事も難しいだろう。
だとしたら、攻めるしかない。

(今までの様な戦い方では勝ち目は薄い……だが、付け込める筈!)

ロキが大魔法を放とうとしている今なら魔術での反撃は来ない。そしてロキはあの場所を動けない。
予めそれが分かっていれば、遣り様は有る。
出しそびれた一手は今も有効だと判断し、洵は殺意を込めて地面を蹴りつけた。
“手数を増やす”という至極単純な、しかし、洵最大の一手を出す為に。

「千光刃ッ!!!」

218Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:41:01 ID:wZThit..


「其は、汝が――」

ロキの詠唱が開始するのとほぼ同時に、洵の姿がぶれた。
数瞬後、先に走り出していたルシオよりも早くロキの目前に到達した洵は、
ロキとすれ違い様に一際大きな火花を散らし、残像を残してロキから離れていく。
その残像が消え去らない内に、洵はロキへと舞い戻り、再び火花を散らす。
ルシオはそこで斬りかかったが、上手くタイミングを合わせる事が出来ない。
まるで突風の様に移動を繰り返す洵。
その洵の攻撃のタイミングと自分の攻撃のタイミングが合わず、あっさりと攻撃が捌かれる。

「――為の道標なり。――」

洵はルシオの後方へと駆け抜けて行く。
ならば次はルシオと同じ角度で洵が攻撃を仕掛ける筈。ルシオも攻撃を合わせ易い。
後方で地面が蹴りつけられる音が響き、洵がルシオを追い抜いた。
その洵にルシオが剣を合わせるべく動く。しかし、ロキは既に動いていた。
ロキは地面に槍を叩きつける。アスファルトを大量の石つぶてと変え、そのまま二人に向かって振り抜いた。
石つぶてはまるで散弾の様に放たれた。
高速で石つぶてに向かう形となった洵が、殆どの石をその身に受けて吹き飛ばされ、
ルシオも同様に強制的に攻撃を中断させられる。

「――我は頌歌を以て、――」

洵は身体を震わしながらも起き上がるが、流石に千光刃へのカウンターのダメージは有るようだ。
しかし、悪いが気に掛けている暇は無い。詠唱が終わってしまえば、待つのは死のみなのだから。
ルシオがそう考え、ロキにもう1度斬りかかろうとした時、洵が茂みの方へと走り出し、暗闇の中へ消えて行った。

『洵!?』

返事は無かった。
イヤホンから聞こえてくる音は、草木を掻き分けて走る足音のみ。
ルシオは状況を認識出来なかった。

「――汝を供宴の贄と――」

とにかく、自分一人で止めるしかない。
ルシオは剣を振り被ろうとし、視界に入ったのはロキの腕が槍を引く動作。
その尋常ではない腕の速さから繰り出される槍の速度を連想し、ルシオは咄嗟にアービトレイターを盾代わりに構えた。
連想通りの速度と予想以上の威力が、ルシオの構えた剣ごとルシオの身体を後方に弾き飛ばす。

(…………え?)

ロキとの距離が離れてしまった。

「――捧げよう」

詠唱が、終わるというのに。

219Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:42:11 ID:wZThit..
間に合わない。その事を認識した時、ルシオの感覚がスローモーションの様になる。
ロキの口元がゆっくりと上がる。あの時に見た薄ら笑いがそこに有る。
ルシオは何も考えられずに、ただ見ていた。
まるであの時の水鏡の輝きに包まれているかの様な、真っ白に染まった世界で、ロキの口が開くのをただ見ていた。

次の瞬間、ロキが勢いよく後ろを振り返った。
1秒が経ち、2秒が経ち、3秒が経ち、大魔法はまだ発動されない。

『――うっ――』

何か鈍い音と、呻き声が耳に飛び込んできた。
そこで漸くルシオはハッと我に返り、思わず耳を触る。

(今のは?)

イヤホンからの声。つまり洵の居場所での音だ。
しかし、洵の声には聞こえなかった。今の声は――

『ルシオ、黙っていろ』

続けて聞こえてきたのは、洵の押し殺した様な声と、茂みを駆け抜けているかの様な草の擦れる音。
その一言でルシオは洵の考えを理解した。
平瀬村の民家での事だ。洵と支給品の確認を行っている際、二人が思い付いた手が有った。
洵は今、その手をロキに仕掛けようとしている。
だが、ロキが大魔法を発動しないのは何故なのか。洵は何をしたのか。
ロキが振り向いている方向は洵が消えた方向ではないが、タイミングを考えれば洵が何かをした事は間違いない筈だ。
ルシオもロキの見るその方向を注視する。暗闇の中には取り立てて目を引くような物は――――有った。
魔方陣の放つ光のせいで今まで気が付かなかったが、
茂みの奥、街道からは少し離れている場所に、青白い光が浮かび上がっている。

(あれは……結界? じゃあ……)

その方向から近付いてくる草の音。ルシオの耳に伝わる音と同じ音。
その音と共に、洵が茂みから跳び出してきた。
左肩に、ブレアを担ぎながら。

220Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:43:05 ID:wZThit..


はっきり言って、洵は逃げ出すつもりで茂みに跳び込んだ。
千光刃が破られてしまえば、もう洵にはロキを切り崩せる手段は無い。
逃げ切れる可能性は限りなく少ないものの、それでもルシオを犠牲にすればどうにかなるかもしれない。そう考えて逃げ出した。
故に、走っている際にその輝きが視界に入ったのは紛れも無い偶然だ。
戦闘中は露ほども思い出さなかったブレアの存在。
偶然視界に入った結界の輝きの中にはブレアが居た。それで洵は、ロキにブレアを護る意思が有る事を認識した。

一か八か。

ブレアを護る意思がロキに有るのならば、それを利用出来るかもしれない。
洵は咄嗟に走る方向を変え、結界を目指す。
結界内のブレアが洵に気付き、困惑の表情を向ける。
瞬く間にブレアに詰め寄った洵は、ブレアの鳩尾に拳をめり込ませた。

「うっ」

低い呻き声を上げて崩れ落ちるブレアを一旦は支え、直ぐ様結界内から放り出した。
待つ事数秒。ロキが詠唱を終えている事はイヤホンを通じて知っていた。にも拘わらず、大魔法は発動されない。
やはり、と洵は1つ頷いた。
ロキにはブレアを護る意思が有る。ブレアはとりあえず大魔法の抑止力になる。これは、新たな勝機だ。
その確信を得た洵は、ブレアに1つの仕掛けを施し、そしてルシオに一言指示を出した。
それは、ロキを殺す為の仕掛けと指示。所詮は賭けに過ぎないものだが、やるだけの価値は有る。
ブレアを連れて逃げればこの場は凌げるだろうが、そうすれば今後はロキに追われる状況になる。
ルシオを失ってのロキとの再戦など、洵に勝機は無い。僅かにでも勝機が有るのは、今、攻めてこそ。
洵は気絶しているブレアを担ぎ上げると、街道に向かって走り出し――

221Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:43:43 ID:wZThit..
茂みから跳び出した洵は、ブレアを担ぎながらロキへと向かった。
ロキは、怒りに満ち溢れた表情で洵を睨み付けている。

(千光刃ッ!)

洵はロキの槍の届かない距離で、魔方陣の円周を回る様に跳び始めた。
先程はたった3回目で止められた千光刃だが、今度は速度を最大まで上げてから勝負を仕掛ける。
硬いアスファルトを1つ蹴る毎に、洵の速度は増していく。
既に、普通の人間には目で追えない程。洵の姿が何人にも見える程に速度は上がっている。
しかし、ロキの鋭い眼光は確実に洵を捉えて動いていた。

(見えているか……だが、ここだ!)

残像すらも何体居るのか把握出来なくなった時、洵はロキに向かって跳んだ。
同時に左手で支えていたブレアをロキに向かい突き飛ばす。
ロキの右腕に持つ槍からは、完全に洵は死角に入った。
ロキの槍の軌道ではブレアを貫かない限り洵には届かない。そしてブレアを退かさない限り槍で防御も出来ない。
ブレアの身体がロキに接近する。そのブレアの脇をすり抜ける様に洵はロキに肉薄した。

「そりゃあぁぁぁ!!」

洵の剣が光を切り裂き、閃光へと変わり、真っ直ぐロキの首へと吸い込まれていく。
確実にロキの槍よりも速い。
洵が“殺った”と思った時、ロキの左腕が首を護る様に動いた。

ガンッ!

まるで硬い物に斬りつけた様な音が辺りに響き、ロキの左腕が異常な方向に折れ曲がる。
洵には一瞬、何が起きたのか解らなかった。左腕。ただの左腕でロキは首を護ったのだ。
だが、続いてロキの腕に走った光を見て洵は気付く。

(ガード・レインフォースか!?)

防御力を高める魔術『ガード・レインフォース』の光。
何時の間にかロキが掛けていたその魔術が、本来切断される筈の左腕を骨折程度のダメージまで軽減していたのだ。
その事実を認識した瞬間、洵の顔面をロキの左脚が捉えた。
洵の身体は数メートル後方へ飛ばされ、手から落ちたアービトレイターが街道を滑っていく。
洵は地面を転がるも、すぐに体勢を立て直しロキを見やる。
ロキはブレアを自らの背後に無造作に倒していた。
そして、自身を覆っていた結界を少し広げ、ブレアを完全に包み込んでいた。

既に今、ロキが大魔法発動を躊躇う理由は無くなった。

222Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:44:19 ID:wZThit..


ブレアを人質に取る。確かにそれは“ブレアの仲間であるロキ”に対しては有効な手段だろう。
当然ロキもそれは予想していた。相手に明確な弱点が有るならば、それを狙うのは戦闘の基本。
逆の立場ならロキもそうするだろうし、その場合の対応策も考えていた。
だが、あくまでもロキの対応策は、相手がブレアに危害を加える気が無い事が前提となる。
まさか、あのレナスが直々に選定したエインフェリアが、
無力かつ無抵抗なブレアを今の様に『盾』として使うというのは予想外の事だった。
倭国人がロキの攻撃をブレアで防ぐ気ならば、ブレアを殺さずに倭国人だけを狙う事は不可能に近い。
無理にブレアを生かしておく気も無いが、
人間如きとの戦闘でブレアを護り切れないなどという事は、ロキのプライドが許さなかった。
そこでロキはわざと隙を見せ、倭国人を誘い込んだ。
ブレアを護る為ではなくプライドを護る為。ロキは左腕を差し出し、ブレアを奪還したのだ。
ブレアを奪還すれば、後は、二人の息の根を止めるだけ。
ロキは、溜め込まれている膨大な魔力を魔方陣から解放する為、魔術の名前を叫ぼうとした。
その時――

「うおあああァァァァ――」

(何ッ!?)

ロキの背後、それも相当な至近距離からルシオの絶叫が響いた。
その瞬間、ロキに動揺が走り、ドクンッと心臓が1つ大きく跳ねる。
そんな場所に居る筈が無い。気配など感じられなかった。接近された事に気付かなかったなどと有り得ない。
思考が入り乱れ、停止する。焦りから一瞬で全身が熱くなる。

「カル――ぐッ!」

慌てる余り詠唱を急いでしまい、ブラムスに殴られた顎に激痛が走った。
間に合わない。斬った方が速い。
ロキは振り向き様、右から左へグーングニルを薙ぎ払った。

(――?!――)

手応えは、何も無かった。ドクンッと再びロキの心臓が跳ねる。
声のした場所は間違いなく至近距離。グーングニルは間違いなくその距離を通過した。それなのに、ルシオは居ない。
絶叫は、未だ至近距離から聞こえているのに。

(いや、下か?!)

ロキは下から声が聞こえてくる事に気付き、視線を落とした。
そこにはブレアが居る。ルシオの絶叫が聞こえてくるのは、確かに倒れているブレアからだ。
いや、正確には違う。声は同時に別の方向、離れた場所からもう1つ響いていた。
ロキはその事に気付き、混乱したまま視線を上げる。至近距離に合っていた目の焦点が遠距離に向けられる。
そこには、先程の位置から走り込んでくるルシオの姿が有った。

(何だ?! 何が――)

この数瞬、ロキの思考は完全にルシオのみに向けられていた。

223Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:45:00 ID:wZThit..


洵の仕掛け。それは、コミュニケーターの小型イヤホンだった。
ブレアを捕まえた時、音量を最大に上げたイヤホンを彼女の襟元に接着させておいた。
そしてブレアがロキの背後に倒れている事を確認した時、

『今だ!』

一言だけルシオに合図を出した。
成功する保証など何も無く、一か八かの賭けではあったが、まんまとハマった。
ロキは完璧にその声に反応を見せてしまっているのだから。

ロキが振り返った瞬間、洵は動いていた。
デイパックに入れておいた木刀に手を掛け、地面を滑空。
ロキの後頭部に向けて全力で木刀を振り切った。
衝撃が洵の掌を駆け抜け、木刀がへし折れた。折れた先端が回転しながら宙を舞う。
洵渾身の一撃はガードレインフォースの上からロキの意識を断ち切っていた。

「洵! どけっ!」

射程距離内に到達したルシオが電撃を放たんとしていた。
洵は折れた木刀を放り投げると、ブレアの足を掴み、彼女を引き摺る様にその場から離脱。
ルシオから放たれた電撃が地面を稲光の様に疾走し、ロキの足から全身に伝導する。

「がぁ…………………………ッ!!!」

既に薄氷の様に脆くなっていたガードレインフォースがその電撃で消滅し、
ロキは完全に無防備で感電していた。


――無限の剣閃!――
この決定的な隙を見逃す筈が無い。ダマスクスソードを抜いた洵の殺気がロキに突き刺さる。

――プラチナッ!――
間髪を入れず、ルシオの闘気が更なる電撃へと変わり、アービトレイターに注がれる。

224Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:49:40 ID:wZThit..
力強く地面を蹴りつける音が2つ響き、一瞬にして3人の距離が縮まった。
ロキの背中と胸部に走る2本の剣閃。
その剣閃をなぞるかの様に赤い血が吹き出した。
揺らめいて崩れ落ちかけるロキの身体を、洵からの連撃が無理矢理に起こす。
起こされた身体をその場に固定するかの様に、ルシオからの電撃がロキを感電させる。
倒れる事すら許さない洵の連撃とルシオの一撃が交互に、あるいは同時にロキに襲いかかった。
それは『連携』と呼べるような代物ではない。
二人はただ全身全霊を込めて、己の技をロキにぶつけているだけ。
連続して繰り出される剣閃はロキの身体を煌めかせ、赤く染め上げていく。

「奥義!」

2人は同時に切り上げた。ロキの身体は血飛沫を撒き散らしながら宙に舞い上げられる。
ルシオはその血飛沫に導かれるように跳躍し、

「ラウンドリップ・セイバーーーッ!!!」

轟雷を纏わせた剣を振りかぶり、血飛沫の中心に向かって斬り下ろした。
アービトレイターがロキの鎖骨から脇腹までの骨と肉を抉り出す。
体内に入り込んだ電撃がロキの全身を焼きながら駆け巡った。
電撃は、出口を求めるかの様に内側から皮膚を裂き、その傷口から血液と共に体外へと放出され表皮を伝わる。
体内からも体外からも焼かれた状態で、ロキはアスファルトに叩きつけられた。
褐色だった肌は、これ以上染めようも無い程に赤く変わり果て、
それでも電撃によって肉体の痙攣が起こる度、血液は勢い良く流れ出る。
その痙攣も、電撃のエネルギーが無くなるに連れて頻度が少なくなる。
やがて痙攣が止まったその後は、ロキの身体はもう、動く事は無かった。

ロキは既に、絶命していたから。



ルシオと洵はしばらくの間、無言で立っていた。
この場所でロキと出会ってから、時間にすれば10分にも満たない程度。
しかし、そのたった10分がどれ程壮絶な内容だったか。今も二人から流れる冷や汗が物語っている。
肉体的なダメージはそこまでは無い。しかし、1つ間違えれば死んでいた戦いだ。
精神の消耗の度合いはかつて経験した事の無い程だった。
無言で立っているのも、単に疲弊し切っているというだけの事。
今は二人とも、ただ休みたかった。

沈黙を破ったのはブレアからの呻き声。
それを聞いた二人は同時に振り返り、横たわっているブレアを見る。彼女はまだ起き出す様子は無い。
洵は布を取り出し、アービトレイターに付着している血を拭いながら言った。

「行くぞ」
「……そうだな。……ブレアはどうする?」
「連れて行く。こいつにはまだ聞ける事が有るからな」

布を捨てると、洵はブレアへと近付いていく。
ルシオはロキの方向へと向き直すと、今尚残る魔方陣を見た。
主も行き場所も失った魔力は、生成された時とは逆に徐々に光を失い、空中に飛散する様に静かに消えていく最中だ。
どことなくその様子は儚げで、ルシオの目を惹いた。
まるで、魔方陣と共にロキの魂も消滅していくような。
そんな錯覚を抱きながら、ルシオは魔方陣を眺めていた。辺りが再び暗闇を取り戻すまで。

225Carnage Anthem  ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:50:10 ID:wZThit..
【E-01/黎明】
【洵】[MP残量:0%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘にはほとんど支障がない
    全身に打撲 精神的疲労大]
[装備:ダマスクスソード@TOP,アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3,アナライズボール,@RS,スターオーシャンBS@現実世界,荷物一式×3,ロキの荷物]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:民家へ戻り身体を休める]
[思考2:ルシオ、ブレアを利用し、殺し合いを有利に進める(但しブレアは完全には信用しない)]
[思考3:他の事は後で考える]
[備考1:木刀は壊れました]
[備考2:ブレアの荷物一式は洵が持っています]

【ルシオ】[MP残量:0%]
[状態:精神的疲労大]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:マジカルカメラ(マジカルフィルム付き)@SO2,コミュニケーター@SO3,????×1,荷物一式×2]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:民家へ戻り身体を休める]
[思考2:洵と協力し、殺し合いを有利に進める]
[思考3:ブレアから情報を得る]
[思考4:レザードを警戒。レナスの死体の状態を知りたい]
[思考5:レナスを大切に思う自身に対する諦観。現状は積極的な交戦を選ばない]
[思考6:ゲームボーイを探す]
[備考1:コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません。(イヤホン、マイク、音量込みで)]
[備考2:マリアとクレスを危険人物と認識]
[備考3:マジカルカメラで複写出来る物、マジカルフィルムの個数は後の書き手さんに一任。
     ????×1は洵、ルシオとも確認済み]

【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:参加者に出来る限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:???]
[備考1:ロキが死んだ事は知りません
[備考2:フェイト達に会うまでは保身を優先し、誤情報を広めるつもりはありません]
[備考3:クロードの持ち物で存在を知らないのは「昂魔の鏡」「首輪探知機」の2つです]

[現在地:E-01南部。二股の道]

【ロキ死亡】
【残り20人+α?】

226 ◆cAkzNuGcZQ:2009/12/07(月) 03:54:42 ID:wZThit..
以上で投下終了です。
相も変わらずオリジナル設定満載です。

展開上の問題点、矛盾点、説明不足の点、誤字脱字、今後の展開縛り
などなど、気付かれましたらどしどしご指摘下さい。

227名無しのスフィア社社員:2009/12/07(月) 10:30:10 ID:ZD0DxkgY
規制されてるからこちらに感想を。
新作GJ!
予約された時点でもう十中八九ルシ男は死ぬと思ったから、まさかの健闘にビックリしたw
ロキは結局、最後までプライドが仇になったなあ。
これでラスボスキャラ全滅かな?にしてもよくこの2人で勝てたもんだw

228名無しのスフィア社社員:2009/12/07(月) 21:05:25 ID:5h29pv.w
とりあえず>>219まで本スレに代理投下済

所用と時間稼ぎをかねて10〜30分前後席外します
その間に誰か代理投下が来たら任せます

229名無しのスフィア社社員:2009/12/07(月) 22:00:02 ID:DWsiSveo
>>228さんじゃないけど代理投下完了しました。

230名無しのスフィア社社員:2009/12/07(月) 23:23:19 ID:5h29pv.w
所用が長引いた上にしばらく代理投下のことが頭からすっぽ抜けていたなんて……
>>229さんには感謝してもしきれないッ!

感想はまた改めてじっくりと……

231名無しのスフィア社社員:2010/01/01(金) 22:56:13 ID:Wf5M6I6Y
あけおめ!
携帯もPCも規制されてるからこっちに書くけど、気付いてもらえるかな……?


本スレ>>472
年単位で誰の投下も無いとは考えたくないなw

ここはあえて感電さんのラジオに挑戦する形で①で!

232名無しのスフィア社社員:2010/01/02(土) 01:37:23 ID:WUITE0C6
あけおめー
俺も携帯もPCも規制。昨日の夜までは書き込み出来たのに……

>>472
③で。具体的には8日夜希望

233231:2010/01/02(土) 20:31:17 ID:cRYWr/76
あ、俺は特に①でなくては都合悪い事はないので、他の方に合わせますよ〜

234名無しのスフィア社社員:2010/01/04(月) 22:38:11 ID:zupaHkCs
あえて避難スレに書いてみる(転載不要)

ラジオまでに今回のタイトル絵でも描けたらという無謀な事を考えてみた
直下から1人(ロワに出ている)1キャラ、先着2名様までの絵を添えて頑張って描くよ('(゚∀゚∩
期限は……とりあえず6日午前0時までにしてみよう

235名無しのスフィア社社員:2010/01/05(火) 01:43:39 ID:d7OYJ3uk
時空剣士に乙を言いに来てみれば、こんな素晴らしい企画が立ち上がっているとは!
とりあえず本スレの時空剣士乙。
そんな風にロワを引っ張る時空剣士を讃える意味で、テイルズキャラからリクエストしたいと思います!

デミテルか……ジェストーナか……と悩みましたが、ここはやはり時空剣士ことクレスで!

236名無しのスフィア社社員:2010/01/05(火) 17:53:49 ID:eWT1t51I
やはり外見的な意味ではブラムスと言いたいが…
せっかくだからおにゃのこがいいよね!
じゃあ時空剣士の相方マリアさんを描いてクレッス!

237名無しのスフィア社社員:2010/01/05(火) 19:04:43 ID:/Lm6y.W6
時空剣士とマリアさん把握、当初企画出す前に考えていた2キャラが見事に当たって吹いた
あくまでメインはタイトルなので、キャラはちょっと添える程度だから期待はしないように!

>>236
やっぱり華はないと、ですよねー
そしてついでに時空剣士乙

238名無しのスフィア社社員:2010/01/05(火) 19:51:45 ID:Hk.f9iag
くっ、俺の居ぬ間にこんな楽しいことになってるとは……w
楽しみにしてるぜー

239名無しのスフィア社社員:2010/01/06(水) 00:08:17 ID:Pv875JNE
こんな所で聞くのもアレだけど、
取りあえずラジオ参加するにはマイク&スカイプがあればいいの?
ステレオミックス機能とか俺のPC無さそう

240名無しのスフィア社社員:2010/01/06(水) 00:10:08 ID:5xxMpMWA
うん、そうだよ
俺のにだってそんな高度な機能ないよ

とりあえずスレ立ててくる
そこにFAQみたいな感じで乱入の仕方とかテンプレ代わりに書いとくよ

241名無しのスフィア社社員:2010/01/06(水) 00:13:43 ID:Pv875JNE
即レスありがとう
当日、もしかしたら日付変わる位に参戦するかも…
マジで誰か録音よろしくね!!

242名無しのスフィア社社員:2010/01/06(水) 03:40:37 ID:5xxMpMWA
色々あって遅くなったけどラジオ実況スレ立てました↓
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9356/1262715890/

次回以降あるか分かんないし、あっても同じスレ使うの不便かなぁと思ったので『第0回実況スレ』にしちゃったけどよかったかしら

とりあえず乱入の仕方とかについては明日の夜にでもテンプレみたいな感じでまとめてスレに乗っける予定です

243名無しのスフィア社社員:2010/01/06(水) 19:04:07 ID:3HhYhj.s
>>242
お疲れ様です、そして言わせて欲しい
何なんだあのしょっぱなからクライマックスの時空剣士っぷりは!
マリアさんにフルボッコにされればいいよ!

244名無しのスフィア社社員:2010/01/07(木) 00:28:36 ID:fW6xlkmE
>>242
スレ立て乙です!
次回ラジオとかはまあ適当に決めていきましょう。

時空剣士め。タイトル絵に選ばれたからってはしゃぎやがって……

245237:2010/01/07(木) 21:11:44 ID:rrMWs5es
看板絵描くにあたってリクエスト募って自分を追い込んだつもりが全然間に合ってないよ……
ギリギリまであがくけど間に合わなかったらごめんよ!

246名無しのスフィア社社員:2010/01/07(木) 23:38:29 ID:DeTNqXSI
全然いいですよ!あまり無理しないで下さい

かくいう俺はラジオまでに一作投下したかったけど諦めました…

247名無しのスフィア社社員:2010/01/08(金) 04:53:22 ID:1JOGIHuw
全然気にする事はない

かくいう俺は録音方法理解するのを諦めそうだしな……('A`)

248名無しのスフィア社社員:2010/01/08(金) 07:27:44 ID:1JOGIHuw
家出る前に録音機能のチェックがてら一人試験放送してみた
録音はできたけど完璧な無音だった

……本番までに音入るようになるんだろうか……
わかっちゃいたけど簡単じゃなさすぎだろネトラジ……

249名無しのスフィア社社員:2010/01/16(土) 13:06:50 ID:QoT/58.c
この前規制解除されたばかりだと思ったのに……


本スレ>>503
レオンはどーじん開けばタエーとブルァァも飛び出てくるかもしれないし鉄壁だな。

本スレ>>502
過去スレのアップ乙です!
昔の流れはまったく知らないから楽しみだー
後でゆっくり見させて頂きます!

250名無しのスフィア社社員:2010/02/02(火) 06:37:24 ID:zZE037qU
ロワ辞典更新ッ!
wikiの悪ふざけみたいな文章は悪乗りがすぎると感じたら遠慮なく言ってほしいんだぜ
しかし項目増えてきたなあw
見にくくなってきたけど、【】の部分は色とかつけた方がいいんだろうか



と書こうとしたら規制だった泣きたい

251名無しのスフィア社社員:2010/02/03(水) 19:26:26 ID:dlhfzcnU
>>250
編集乙です。
辞典編集と聞けば時空剣士を思い出してしまう俺はもう駄目かもしれない。

252名無しのスフィア社社員:2010/02/21(日) 22:12:41 ID:nHue1VUE
ちょっと宣伝

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1166778157/ (実況スレ)
ttp://r-0109.ddo.jp:8000/  (ラジオアドレス)

ここで現在パロロワDJ集結ラジオ中
AAAロワのツアー回にゲスト参加した人達が大集合
いろんなロワの話をしてるし、AAAの話になるかもしれないから、暇な人はぜひ

253名無しのスフィア社社員:2010/03/10(水) 01:08:20 ID:VqRN5CO6
>>252
すみません、この録音のパスって何でしょう?
ヒント見てもまるで分からなかったので教えて頂けると助かります。

254名無しのスフィア社社員:2010/03/10(水) 01:14:45 ID:eI5UojGU
37564 の五文字だよん

しかし俺もさっき落とそうとしたらもう残ってなかったという('A`)
今度再うpお願いしてみよう……

ちなみにそのスレのおみやげ↓

       く   何  /i ::i : i::: :::   ヽ i:::ヽ   ヽ  ヾ       、`ヽ、   ー'            て
        |  が .| i ::i :: i::: , '     i i::: \  iヽ     ..    ヽ、__ヽ  )   よ   バ  .感  (
        |  過 .|ノ ,: :::i i/__---ー一i i-- 、ヽ iヽ    、::     ヽ   ヽ.  ぉ   カ  電  (
        |  疎 | / ::i  i'ニ __      i i   `ヽ i::_、::    i::::  ヽ 丶.    |   ぉ   に  の |
        ) だ  |.i  ::ハ. i   __ `ヽ 、 i i    i  iヽ::::..   i::::  、 ヽ   |   ぉ  し   く   |
       ノ.  よ (.l  :/ ; i/"iO"`ヽ`  ii  --ー__ i"ヽ::::   i:::::: ヽヽ ヽ   |   ぉ   や  せ (
_人_人_/ト  ̄`v-√/,i  :i/-i i ` !、"'ソ       '"O ヽ、 i::::   i::::::: ヽ \ 、  |   ! !  が   に |
). し 少 (      ソ.i /i:;(iヽ、`ー    !::    !、_'ソ ゝ 、::::   i,、::::::  丶    |       っ       |
| ろ .人 (       i i 丶i  `    ,r'^'‐-..,_  `ー   ::ハ、:::  iヽi`、:::: 丶  |     て     |
| オ .数 {       i i \`-i    ,r'`゙ ̄`゛'ィ゙i      /) )i:::  i ヽ' ヽ、 丶.ノ              /
| ラ  を ゝ      v  `-,!   |,r'     }     /ソノヽ:: i     `丶、´つ ..ィ'!ヽ    /`Y´
| ァ  生 ゝ          ' ヽ . !       V     /-'"/ヘ:: i        ヽ    ) /
| ァ  過 ゝ    ,ー---- 、_ i\ ヽ,   _/    /`-'"ヽ  i::i              /
|    疎 (     .i、_      `ー- 、      ,..:'"i ソi::::: i、  ':
|    う ゝ    i:::::::::ー-- - 、   ヽ__ ,  '"::::: iー- 、:::_ ヽ
)    と(   ___/:::::::::::::     `丶  i__``ー-----丶、|::::  l 丶
へwへイ - '"-- 、 `丶、::::.......     i   i:::`ー-------'" |:::  l  i
        `   >、 `丶、     i  i:::::::::::::     i .|:::  i'l,,,, '"

255名無しのスフィア社社員:2010/03/10(水) 02:08:55 ID:VqRN5CO6
そのまんま皆殺しでしたか……何故分からなかった俺。
再うp依頼、是非お願い申し上げます。


このAAは天才過ぎるww
時空剣士の墓AAはこれでw

256名無しのスフィア社社員:2010/03/23(火) 11:21:37 ID:L.cRD3KU
ちょいと提案。
今特に予約も無く本スレの話題も少ないので、某ロワにならって
今までの話を振り返ってみるってのはどうだろう?
1日5話くらいで、感想書いたり書き手さんに裏話とかあったら書いてもらったり。
本スレでやるかしたらばでやるかは考えなきゃならんけど。

257名無しのスフィア社社員:2010/03/23(火) 13:04:13 ID:SmD1oWvY
楽しそうだな
ただ規制激しいししたらばがいいんじゃないかと思う
「古い作品にもガンガン感想作るスレ」みたいなのをしたらばに立てて、そこで開幕イベントみたくやるといいかも
読み返しやすいとやる気に繋がりやすいだろうし

258名無しのスフィア社社員:2010/03/23(火) 20:36:50 ID:61XR0CiQ
死者スレ動かすのに夢中でこっち気付かなかったw


面白そうだと思います!
やるならしたらばが良いな。携帯から書きこめるのは便利だし。
一応本スレに「こっちでこんな企画出てますよ」って告知した方がいいかな?

259名無しのスフィア社社員:2010/03/26(金) 01:07:25 ID:WYKiC4J.
じゃあ日にちとルール決めようか。
明日土曜0時から1日5話ずつ語ってくって感じで良いかな?
自分は今日深夜スレ立てできそうに無いから他の人に任せたいけど…。
それとも1回スレ立てずにやって様子を見た方がいいかな?
あんまりレス少ないようならやっても意味が無いし…。

取りあえずテンプレ用として最初の5話+オープニング
0 オープニング    ルシファー、ルシフェル、那々美、レナス、フェイト、マリア◆OlJO4SP4Ck
1 砂漠に落ちた涙    ジェラード、ミカエル ◆ZhOaCEIpb2
2 咎人の剣    オペラ、ミント ◆okXJ25qcL.
3 受難        アルベル 名無しさん
4 野望のはじまり……? ノートン、ディアス、レナ ◆jxFHuXgYU
5 己の往く道    デミテル、洵 ◆wKs3a28q6Q

260名無しのスフィア社社員:2010/03/26(金) 01:09:36 ID:1PsM7Lxk
せっかくチャットが有るんだし、開幕イベント的に初めはチャットでやってみるってのも良くね?

261名無しのスフィア社社員:2010/03/26(金) 01:53:07 ID:tGVMT8Z.
ちょっと意見というかなんというか。
過疎ロワだし毎日見てる人ばかりでも無いだろうし、1日で区切っちゃうのも急ぎすぎじゃないかな?
3〜4日で15〜20話とかでのんびりやるのも良い気もするがどうだろう?

チャットも面白そう!
開幕イベントも良いけど、1週間分の総集編で定期的に、とかも面白いかも!

262名無しのスフィア社社員:2010/03/26(金) 19:32:30 ID:tC.GRy.2
「古い作品にもガンガン感想つけるスレ」立ててみたよ!

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9356/1269599224/

とりあえず意見も出てることだしどんな風に進めるか分からんから
テンプレに>>259の5話入れてないけど、良かったかな?

263名無しのスフィア社社員:2010/03/27(土) 13:44:24 ID:Uh.83Nlw
チャットはチャットで別のをやりたいなあ
過去語りをチャットでやっちゃうとログ流れて「見返してニヤニヤ」ができなくなっちまうw

264 ◆cAkzNuGcZQ:2010/03/27(土) 20:17:57 ID:kbZDWo9c
AAAチャットは書き込みから1週間以内のログなら管理人が保存出来るんで、
チャットで語って後日こっちの感想スレにログ張る形にすれば問題ないかと!

265名無しのスフィア社社員:2010/03/28(日) 02:01:56 ID:jahq5LCI
ちなみにログ張るとしたらこんな感じ
前に試しに保存したやつ

2010/01/19 00:37:39 弾ける血飛沫の腐臭『キュア・◆cAkzNuGcZQ』に華麗に変身!!!
2010/01/19 00:37:46 ◆cAkzNuGcZQ てすと
2010/01/19 00:38:58
2010/01/19 00:39:40 銃は動かねぇし、斬られるし、退室しなきゃならねぇし。……本当に◆cAkzNuGcZQはツイてねぇな。
2010/01/19 02:21:44 弾ける血飛沫の腐臭『キュア・カカズ(cakz)』に華麗に変身!!!
2010/01/19 02:22:26 カカズ(cakz) クレスおみくじテスト
2010/01/19 02:22:46 zikuukensi 夜は姿が見えにくいから、気合を入れナイトいけないな……
2010/01/19 02:23:07 zikuukensi 夜は姿が見えにくいから、気合を入れナイトいけないな……
2010/01/19 02:24:00 zikuukensi 大切な人の未来を守るためにも、前を未来といけませんし。
2010/01/19 02:26:11
2010/01/19 02:28:08 カカズ(cakz)さんによってzikuukensiさんの発言がクリアされました。
2010/01/19 02:31:09 カカズ(cakz) なんてこった……
2010/01/19 02:32:24 カカズ(cakz) 全消去以外じゃおみくじ消せないのか……
2010/01/19 02:33:32 カカズ(cakz) ちなみにクレスおみくじのキーは「zikuukensi」
2010/01/19 02:33:37 zikuukensi 許してくれっす
2010/01/19 02:33:58 カカズ(cakz) いいのが出たw
2010/01/19 02:34:01 銃は動かねぇし、斬られるし、退室しなきゃならねぇし。……本当にカカズ(cakz)はツイてねぇな。

266名無しのスフィア社社員:2010/04/01(木) 17:04:37 ID:1Jsx7qms
しまった、今日はエイプリルフールか……
何かしらのねたを用意しておくんだった……


そして本スレ予約きたああああああああ!!
これは期待せざるをえない

267 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/07(水) 19:02:23 ID:HaNeAPFk
規制とかもう慣れた。

中間報告なんぞを。
進行状況は6〜7割程度です。多分日曜には投下出来そうです。
これまでの自分の話に無いくらいの短編になりそうですが、でも期限ギリギリの投下w
ご容赦を。

268 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 01:45:31 ID:iBZ5vN3g
慣れてもやっぱり悔しいのが規制か……
ミランダ投下します。

269御心 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 01:46:36 ID:iBZ5vN3g
何処となくひんやりとした暗い廊下から寝室内へと入ったミランダは、扉を閉めるとすぐに施錠をした。
ドアノブに手をかけたままの姿勢で廊下側に意識を向けてみると、
少ししてから廊下を遠ざかる足音が。続いて玄関のドアを開く音が耳に入る。
どうやらクレスはミランダが磯野家で見張りをした時とは違い、表で見張りに当たるらしい。
カチャリ。と玄関のドアの金具が立てた音を最後に、廊下からは物音一つ聞こえなくなる。
ミランダは両手で顔を包み、「はぁ〜〜〜」と一つ、長めの溜息を吐いた。

(お二方はこの神の試練を何と心得ているのでしょう!
 神が与えたもうた神聖なる試練の中で、あんな、あの様な不埒な行いを…………!)

マリアとクレスに対し、ミランダの心中では軽蔑の念が渦巻いていた。
それは無理のない事である。
ミランダの解釈では、この島は神の試練を行う場所。つまりは神の御前とも言える神聖な場所なのだ。
この島に飛ばされてからのミランダが1人でいる時でも畏まった態度を取ってしまうのも、神の存在を無意識に気にかけての事。
その神聖な場所での、彼女曰く『不埒な行い』。決して許される事ではない。

だが一方で。
その軽蔑や怒りの念とは裏腹に、彼女の頭が勝手に思い浮かべてしまうのは、一糸纏わぬマリアとクレスの姿だった。
それも無理のない事である。
ミランダは神に仕える身であるとは言え、年頃の少女。そういった方面の知識も経験も乏しい少女なのだ。
ほんの幾枚かの壁を隔てた先での、彼女曰く『不埒な行い』。意識するなと言う方が無理な話である。
互いの名を囁き合うマリアとクレス。絡み合う視線と視線、指と指。やがて二人の身体も重なり合い――――
そんなありきたりと言えばありきたりな、
しかし、日々モンク、そして僧侶としての修行に明け暮れてきた純真無垢な少女には刺激が強すぎる映像に、

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!)

ミランダの思考はピンク色に染まった。体温が一気に10℃くらい上昇した気がする。
呼吸が荒くなる。心臓の鼓動が爆発でもするかのように速まる。全身が燃えるように熱い。いつの間にか喉もカラカラだ。
思わず頭をぷるぷると振るが、いかがわしい想像は消えてくれない。

(わわわ、私までこの様な事を……!)

ミランダは胸に手を当て、とにかく気を落ち着けようと深呼吸を試みた。
大きくゆっくりと息を吸い、ゆっくりと息を吐き出す。
速まっている拍動と渇いた喉のせいで少々息苦しさを覚えるが、何度も何度も、ゆっくりと繰り返す。吸って、吐いてを繰り返す。
と、幾度目かの深呼吸でミランダは、自身の手が柔らかな物体に触れている事に気付き、ハッとした。
迂闊にも卑猥な妄想に惑わされていたこの数分間は完全に頭から飛んでいた物の存在。
それは、懐に忍ばせておいた彼女の切り札、パニックパウダーの感触だった。

270御心 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 01:47:57 ID:iBZ5vN3g
ミランダの着用している神聖オラシオン教団の修道服は、モンクとしての修行もこなすオラシオンの僧侶達の為、
動きやすさを重視して身体にフィットするサウナスーツの様な造りとなっている。
その為、基本的には修道服の中に何かを隠していても、その部分は不自然に膨らみ、目立ってしまう事となる。
一応ミランダは、同じくオラシオンから支給されている修道女の衣も纏いはしているが、それも小さめのショール程度のサイズの物。
異物による不自然な膨らみを隠せる程の物ではない。
ではミランダは修道服の何処にパニックパウダーを隠しているのか。
答えは簡単。女性ならば膨らみが有ってもなんら不自然では無い箇所。胸である。
ミランダの胸は今、彼女の事を知る者が見れば疑問に思う程に膨らんでいる。
とはいえ客観的に見るなら、そのサイズ自体には不自然なところはない。
AAカップがCになる。その程度の変化であり、元々のミランダを知る者以外の人物ならば特に疑問にも思わない程度の膨らみだ。
そこは、自らの肉体を最大限利用した、ミランダならではの絶妙な隠し場所なのだ。

神の試練に打ち勝つ為の切り札の存在を思い出し、今が神の試練の最中である事を強く意識すると、
ミランダの乱された思考は次第にクリアなものへと落ち着いていった。

(……そうです。こんな事で惑わされてはいけません。
 私は絶対にこの試練を乗り越えなければならないのですから。
 この『二度目の試練』は必ず……!)

ミランダは身体の向きを変え、窓から差し込む月明かりを頼りに窓際へと移動する。
彼女は1日の終わりには必ず神に祈りを捧げる。その習慣は、この様な状況下でも決して変わる事は無い。
換気用に取り付けられたと思われる小さめの窓の下で月光にその身を晒すと、少女はいつもの様に胸の前で手を組み、天を仰いだ。

(……神の試練を受け入れようとしないばかりか、神を冒涜するが如き行為。
 マリアさんとクレスさんにはいずれ神罰が下されることでしょう。
 …………いいえ、神の御手を煩わせるまでもありませんね。
 私がこの試練を乗り越えれば、それはお二方への裁きに繋がるのですから)

少女の口から祈りの言葉が紡ぎ出された。
和風の寝室内に誓いの言葉が響き渡った。

(その為にも、そして人々のお役に立てるよう成長する為にも。
 私は必ずこの苦行を。この試練を乗り越えてご覧に入れます。
 ……神よ。どうか、私を御護り下さい……ゴドウィン様、私に勇気を……)

神聖オラシオン教団の信仰する二神『イセリア神』『セレスタ神』も、少女の師匠であるゴドウィンも、
決してその様な祈りや誓いなど望まぬとも知らずに、少女は1人、祈り続けた。
『一度目の試練』の事を思い出しながら。

     ★     ☆     ★

271御心 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 01:50:45 ID:iBZ5vN3g
ミランダはあの日――『一度目の試練』の日――までは、この世の全てに癒しと安らぎをもたらす事が出来る、と本気で信じていた。
無論だが『一度目の試練』と言っても、今回の様な形式で行われた訳でも、ミランダが勝ち残り優勝者となった訳でも無い。
それどころか、ミランダが直接その『試練』で戦った訳でもない。
ではミランダが思う『一度目の神の試練』とは何なのか。
それは、ここ100年のラジアータ史上で最大規模の死傷者数を記録し、
事実上、人間と妖精との戦争の最終決戦となった『ルプス門の惨劇』の事だった。

ラジアータ城下町の南西に位置するルプス門口。
あの日、ルプス門が通じている地域『アディン地方』より、妖精軍がラジアータ王国に全種族の全勢力を以って奇襲を仕掛けてきた。
もしもこの奇襲が成功していれば人間側は大した抵抗も出来ずに敗北を喫していたであろうが、
とある内通者(ルシオン)により妖精軍の情報が人間側に漏れていた為、予めルプス門周辺の防備を王国騎士団や4大ギルドの精鋭達、
そして龍殺しの英雄ジャック・ラッセル率いるチーム・アハトで固める事が出来、何とか妖精軍の侵攻をくい止める事に成功したのだ。

ただ、あくまでもそれは奇襲を避ける事が出来ただけに過ぎず、人間と妖精軍との全面対決が真っ向から行われた事に変わりは無い。
戦場となった場所の名に因(ちな)み、後に『ルプス門の惨劇』と呼ばれる様になったこの戦い。
人間の勝利で終結したとは言え、戦闘直後のルプス門周辺は正に『惨劇』としか言い表しようの無い悲惨な状況だった。
アディン地方の、本来ならば歩いているだけでも眠気を誘う程にのどかな雰囲気を醸(かも)し出していた筈の草原は、
草木を鮮やかな紅色で雑に染め上げられ、その紅の上から更なる紅が塗りたくられ、一面の景色をどす黒く変色させていた。
その黒い景色の中に沈んでいるのは、無数、という言葉でもまだ足りない程の、
人間、エルフ族、オーク族、ゴブリン族、ドワーフ族の肉塊の数々。
顔面が陥没している者。全身が焼け焦げていたり切り刻まれたりしている者。身体が千切られバラバラになっている者。etc,etc……
辺りに散らばる犠牲者達の状態は様々だったが、無惨な有様は種族を問わず平等で。
彼等の血肉が生み出した、むせ返り、吐き気を催す程の悪臭は、
その日から数週間かけられて行われた死体の確認、収容、埋葬作業がどうにか終わった後でも、この一帯から消える事は無かった。

この戦いにはミランダの所属する神聖オラシオン教団にも、ラジアータ王国騎士団から助力要請が有った。
教皇カインより、ミランダを含めた癒しの力を持つ僧侶達に与えられた役割は、戦いでの負傷者の治療。
僧侶達がルプス門の内側に待機し、妖精軍との戦いが始まった場合は門より運び込まれてくる負傷者達を治療する。そういう段取りだ。
傷付いた者を癒す。
この世の全てに癒しと安らぎをもたらす事が出来ると信じていたミランダにとって、それは遣り甲斐の有る役目の筈だった。
しかし、いざ戦闘が始まってみれば、遣り甲斐の有る、などと言う悠長な想いは瞬く間に吹き飛ばされた。
運び込まれてきた負傷者達の怪我の具合は、かつてミランダが見た事のあるどんな怪我よりも酷い状態ばかりだったのだ。
考えてみれば当然の事である。これは戦争。殺し合いだ。訓練で負った打撲や擦傷を治すのとは訳が違うのだ。
内臓まで見える程の大怪我に思わず吐き気を覚えたミランダだったが、それでもうろたえず、必死で彼等に治療を施した。
負傷者は次々に運び込まれてきた。治療が間に合わせる事が出来ず命を落とした者も居た。
同じ僧侶であるエレナやアディーナ、のんびり屋のクライブまでもがてんてこ舞いだった。
ある意味では、ルプス門の内側も立派な戦場となっていた。

272御心 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 01:51:22 ID:iBZ5vN3g
何時間が経過しただろうか。ミランダはふと違和感を覚えた。
確かに怪我を完治させた筈の人物が、再び運び込まれて来ていたのだ。
彼女はそれまで、治療を終えた人々が何処へ行っていたのかは気にも留めていなかった。気にする余裕などは無かった。
怪我が治った者達。彼等は当然、戦力として再び戦場へと戻っていくのではないか。何故そんな事にも気付かなかったのか。
その事を理解した時、ミランダの胸中は虚しさに襲われた。

怪我が回復した者は、戦場に戻って戦うのだ。そして負傷すればまた治療の為に運ばれてくる。
いや、次はこちらに帰って来れずに死んでしまう者もいるだろう。
それでは自分のやっている事はなんなのだろう?
ただ誰にも死んでほしくないだけなのに。だから必死に治しているのに。
これじゃ死の恐怖を何度も与えているだけなのではないのか?
この世の全てに癒しと安らぎをもたらす事が出来る?
これは癒しと呼べるのだろうか? これはただの責め苦なのではないか? 安らぎは何処に有るのだろうか?

自分の信念が幻想に過ぎない事を薄々と理解させられながらも、ミランダは1人、また1人と治療を続けた。
それでも、自分は彼等を助けるしかない。それが自分に与えられた役割なのだから。
いつしか胸中の虚しさも忘れ去る程に無我夢中に、ミランダは怪我人の間を往復し、祈りを捧げ続けていた。

戦いが人間側の勝利で終結し、重体の負傷者達の治療も一段落したミランダ達に、
休む間も間も無く次の指示――門外での生存者探し――が言い渡された。
外で倒れている者は運ぶ事すら危険な状態にある為、僧侶達が直接その場に赴き治療を施すしかない。
と言うのが騎士団の見解であり、それは尤もな判断だったと言えるだろう。



ただ、ルプス門が開きミランダの目の前に広がった光景。
それは、崩れかけていた信念に最後の一押しを加えるには充分の地獄絵図だった。





あの日ミランダは、神とは人に苦行を与える事もある存在なのだと知った。
全ての人々を自分の手で癒す事など不可能なのだと知った。
自身の考えがどれ程甘い物だったのか。未熟さを痛感させられた。
戦場では、癒しも安らぎも無力だったのだ。

故にミランダは、この殺し合いをすんなりと神の試練として受け入れる事が出来た。
あの時の何百人と亡くなった試練に比べれば、60人余りが犠牲になる試練など規模としては小さい方だ、と受け入れる事が出来た。
神の試練を乗り越えれば、きっと自分は成長出来る。
成長すれば、きっと今よりも強い癒しの力を手に入れられる筈だ。
あの時の様な状況でも、あの時よりも大勢の人々を救える力を手に入れられる筈なのだ。
だから、この試練は必ず乗り越えなくてはならない。
60人の人間を犠牲にしてでも、どの様な手段を使ってでも、乗り越えなくてはならないのだ。
それが『一度目の試練』で彼女が学んだ事だった。

     ★     ☆     ★

273御心 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 01:52:04 ID:iBZ5vN3g
祈りを捧げ終えたミランダは、いつもより少し遅めの就寝になりました、などと考えながら床に就いた。
遅めの就寝。いや、就寝の時間に限った事ではない。この日は全てにおいて生活リズムの狂った1日だった。
慣れない事の連続で身体が疲れきっていたのだろう。間も無く室内では静かな寝息が立てられ始めた。

…………そう、この1日は慣れない事の連続だった。
人を殺す決心をした。殺戮者に命を狙われた。生き残る為に彼女なりに策を練り、立ち回った。
何もかもが初体験。少女の本来の生活には馴染みの無い体験ばかりであった。
しかし、どうにか1日は乗り越えた。困難にも打ち勝った。
時限爆弾やパニックパウダーの存在は誰にも気付かれる事も無く、隠し通せた。
洵達とマリア達を引き合わせる事も回避出来た。
安全に睡眠の取れる場所も見つけても油断せず、支給された道具は決して手放さなかった。
この島の中では比較的力の無い少女にしては上出来の、いや、出来過ぎの1日だった。

それ故に、ミランダ・ニームは気付けない。
己の行動に成功のイメージしか見えていない少女には気付けない。
たった今、自身が至極単純な失敗を犯してしまっていた事に。
客観的に見れば気付かない方が不思議に思えるくらいに単純な、
しかし、少女にとって命取りになる程に致命的な失敗を犯してしまっていた事に。





ポンッ





数時間後。静まり返った中島家の一室の布団の中。
安らかに眠りながら寝返りを一つ打った少女の胸元で、
何かが破裂する音が小さく鳴った。誰にも聞かれる事無く控えめに鳴った。
その破裂音がこれから中島家で何を引き起こすのか。はたまた何も起きないのか。
少女の、そして中島家に集まる人々の行く末を暗示するに相応しい言葉を選ぶとしたら、この一言だろうか。





そう。全ては――――神の御心のままに――――





「っくしゅっ!」

274御心 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 01:52:37 ID:iBZ5vN3g
【F-01/早朝】

【ミランダ】[MP残量:50%]
[状態: 爆 睡 中 +パニックパウダーを吸い込んでいる]
[装備:無し]
[道具:時限爆弾@現実、パニックパウダー(?)、荷物一式]
[行動方針:神の試練を乗り越える]
[思考1:……Zzzzz……]
[思考2:参加者を一箇所に集め一網打尽にする]
[思考3:クレスとマリアを利用して参加者を集めたい]
[思考4:直接的な行動はなるべく控える]
※ミランダが吸い込んだ分以外のパニックパウダーが修道服の中や布団の中に残っている可能性が有ります。
 残っているとしたら、ミランダが動き回ればパウダーが周囲に広がる危険も有ります。
 パニックパウダーでどの様な効果が出るかは後の書き手さんに一任。
※ミランダはクレス達を目撃してからしばらく二人をつけていました。
 途中で気付かれたものの、しばらくは移動していたので、ルシオ達の潜伏する民家Aと現在ミランダ達のいる民家Bはそれなりの距離があります。
※クレスとマリアが恋人同士だと半ば思っています。

【現在位置:F-01/平瀬村の民家B内・和室の布団の中】
【残り20人+α】

275 ◆cAkzNuGcZQ:2010/04/11(日) 02:00:38 ID:iBZ5vN3g
相当短い話ですが、以上で投下終了です。
とりあえず、どなたか代理投下をお願い申し上げます。

ミランダがどう動くのか楽しみ! と言って下さった方、すみません。
実質寝てるだけで全然動いてませんw

今回問題点となりそうなのは
・貴重なマーダーと貴重な支給品に何すんだ!
・ミランダとか掘り下げなくて良いわ!
とかでしょうか……
過去の話はほぼ創作なのですが、問題ありますでしょうか?

その他にも御指摘ありましたらどしどし書き込んでやって下さい。

276名無しのスフィア社社員:2010/04/24(土) 14:21:00 ID:Ok3jmcp.
本スレ、川相さん回収したいのに規制でできねえwwwww

しかしまさか時空剣士全盛のここで見ることになろうとはwww

277名無しのスフィア社社員:2010/04/24(土) 19:50:40 ID:J/qpUwBI
しかし時空剣士と誤解されてしまっている。
ここは本物の時空剣士に違いを見せつけてもらいたいものだw

278名無しのスフィア社社員:2010/04/25(日) 23:46:42 ID:Y6bvOZjg
かわいそうですね!

279名無しのスフィア社社員:2010/04/26(月) 01:50:37 ID:H6ShU5Nc
>>278
頼むから黙ってろ

280名無しのスフィア社社員:2010/05/13(木) 18:34:59 ID:aQvzRaGI
>本スレ
生きてはいるけど規制解除される気がしなくてやる気起きない

281名無しのスフィア社社員:2010/05/14(金) 00:24:28 ID:VYgtl7vc
同じく書き込めん。規制関係ない人がうらやましい。

282名無しのスフィア社社員:2010/05/14(金) 01:38:36 ID:ahAJ1UhQ
同じく規制。最近は解除されても一月くらいで再規制の繰り返しだから碌に書き込みが出来ない

283名無しのスフィア社社員:2010/05/15(土) 19:46:05 ID:2n2huOYM
規制はどうなるのかな?
今後もこんなふうに規制続いてくんなら面倒すぎるぜ……

284名無しのスフィア社社員:2010/05/16(日) 14:15:37 ID:EnyDGoTs
よっぽどの大規模規制でない限り規制はされないけれど、こうも規制が多いと確かにやってられないよな……

285名無しのスフィア社社員:2010/05/17(月) 18:45:51 ID:mhq5aXjA
考えようによっては規制も捨てたもんではない。
過疎ってるのを規制のせいに出来るからな。

286名無しのスフィア社社員:2010/06/07(月) 05:35:37 ID:Nb4gULTI
本スレGJすぎる
リアルが落ち着いたら俺も協力しねえとなー

287名無しのスフィア社社員:2010/06/15(火) 18:41:01 ID:JBtKs7nE
規制で本スレ過疎だからってダジャレばっかり……いいかげんき(に)せい!

288名無しのスフィア社社員:2010/06/16(水) 17:27:25 ID:AXy4qOQ6
>>287
時空剣士は消毒だー!

289 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:33:53 ID:9BvbXwA6
最早避難所の住人と化してる俺です。
主催者陣営(+IMITATIVEブレア)投下します。

290『B』:2010/07/15(木) 15:35:22 ID:9BvbXwA6
スフィア社最上階にある重役室の一室。
その部屋は実に殺風景だった。無機質な金属の壁に囲まれ、一切の飾り気も無く、家具の類の物すら見当たらない。
目に付く物と言えば部屋の中心に配置されている巨大なコンソールくらいだ。
とても個人に割り当てられた部屋とは思えぬ程に生活感が無く、物悲しさの漂う部屋だが、
何の為に存在しているのかと用途を問えばこの上なく分かり易い部屋だとも言えた。

部屋の主――ベリアルはコンソールの前に座り、
光で生成され空間に投影されている数枚のモニターの内の1枚を、険しい顔付きで睨みつける様に眺めていた。
その鋭い眼光と屈強そうな図体、そして無骨そうな表情は、いかにも『大雑把な肉体派』という印象を抱かせるが、
偏見に近いそんな印象とは裏腹に、彼は実に丁寧に、精確に、そして迅速に仕事をこなす人物だ。
技術者としての能力も高く、会社に対する忠誠心も厚い。ルシファーも彼には絶大な信頼を寄せていた。

そのベリアル。社長室から戻ると直ちにルシファーから受けた指示を実行に移し、ここまでは黙々と作業を進めてきたのだが、
彼の手は今は止まっていた。キーボードから離れ、口元に当てられている。
怠けているわけではない。行き詰っているわけでもない。少々面倒な展開に頭を悩ませているのだ。

(これは、どう判断するべきか……)

モニターに表示されているのはドラゴンオーブのデータだった。
プログラムの調査に取り掛かれば、異常は拍子抜けする程あっさりと発見する事が出来た。
E・S(エターナル・スフィア)のメイン端末には外部からの侵入の形跡がしっかりと残っており、
ドラゴンオーブは確かにその侵入者によりデータを弄られていたのだ。

ただ、今その事実は重要視する事ではない。
確かにこのプロジェクトに外部から侵入者が入り込み、しかもプログラムを書き換えられてしまっている事は
大いに問題ではあるのだが、そこまではドラゴンオーブの異常に気付いた時点で推測出来ていた事。
オーブのプログラムも後で修復すれば良い。取り立てて悩む事ではないのだ。
それよりも問題なのは、侵入者がプロジェクトに介入してきたタイミングだった。
残されていた痕跡を見る限り、侵入者がプログラムを書き換えたのはプロジェクトを開始する『数日前』の事だった。
『現在』ではなく『数日前』だ。『現在』は外部からメイン端末にアクセスしている者は存在していない。

ベリアルが思案を巡らせているのはこの点についてだった。
もしも現在進行形でプログラムを書き換えている侵入者がいるならば、
その目的はプロジェクトの妨害や破壊であると考えて良いだろう。
それなら話は簡単だ。アクセス先を追跡し、相応の対処をしてやればいい。
しかし、この侵入者のアクセスは『数日前』。そして、やった事と言えばドラゴンオーブの制限を弄っただけだ。
それも制限を完全に解除したのではなく、『緩めた』だけに過ぎないのだ。

ベリアルは別のモニターへと視線を動かした。それにはルシオン・ヒューイットのパラメータが2種類表示されている。
1つはドラゴンオーブの力で銀龍へと変身した時のパラメータ。もう1つは元の世界(ラジアータ)での銀龍のパラメータだ。
プロジェクト内でルシオンが銀龍化に成功した時は誰もが『ルシオンが制限を解除し銀龍へと変身を遂げた』事に気を取られ、
故に気付かなかったが、ここで銀龍化を遂げたルシオンのパラメータは元の世界でのパラメータと比べると圧倒的に低いものだった。

ドラゴンオーブは本来ならば、一瞬で世界を滅ぼす程の魔力を秘めている。
その魔力をもってすればルシオンの制限を解除し銀龍化させる事など容易い事であり、
その気になればプロジェクトの破壊も行える程の危険なアイテムなのだが、今のドラゴンオーブはそれ程の魔力を有していない。
ベリアル達が制限をかけた時よりは遥かに高い魔力ではあるが、それでもプロジェクトの破壊に使用するには力不足だ。

291『B』 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:36:37 ID:9BvbXwA6
となれば、侵入者は一体何の目的でこんな事をしたのか。
愉快犯。ただのいたずら。そんな言葉もベリアルの脳裏に浮かんではいた。
以前エクスキューショナー・プロジェクトでE・Sの銀河系区画の削除を行っていた際には、
レコダからスフィア社のE・Sメイン端末に不正にアクセスしてデバック作業を閲覧していた女性がいた。
その女性は何処かの会社の技術者というわけでもなく、どこにでもいる様な一般女性だった。
今回の侵入者も、その時と同様に興味本意でアクセスしただけの人物だという可能性は充分にある。
あるにはあるのだが、そう断定するだけの根拠も無く、そもそも楽観的過ぎる考えだ。

(……まあいい。どうあれ外部からの侵入者がいた事は事実。先にそれだけ報告し、残りの任務を続けるか)

今ここで侵入者の動機について考えを巡らせていても仕方のない事だと開き直り、ベリアルはルシファーに報告する事にした。
判断はルシファーに任せれば良い。自分は与えられた仕事をこなすだけだ。
携帯型の通信用端末を取り出すと、光で生成された簡易コンソールを空間に展開させた。
そしてルシファーのナンバーを開こうとした丁度その時、その端末からシグナルが鳴り出した。誰かから通信が入ったのだ。
モニターに表示された名前を見て、思わず小さな溜息を吐いた。正直あまり得意ではない人物の名前だった。
気乗りはしないが出ない訳にもいかず、ベリアルはやれやれと端末を操作し、通信を繋いだ。

『ベリアルだ』
『分かってるわよ♪ ホントにいつでも事務的ねぇ。ど〜お? そっちの調子は?』
『何の用だ?』
『まぁったく〜。その愛想の悪さ少しは直そうとしたら? まあそれもキミの魅力なん・だけ・ど♪』

モニターの中でその「男」――ベルゼブルは無意味に身体をくねらせながら無駄口をたたいた。
彼は口調は勿論の事、こういったリアクションでも一々女性臭さを強調しようとする。
以前「気持ち悪いからやめろ」と不満をストレートに伝えた事があったが、
その時のベルゼブルの反応は「たおやかでしょう? うふふ♪」だった。
言っても無駄。その事をよく理解しているベリアルは一切を無視して話を続けた。

『何の用だと聞いている』
『はいはい、そんな露骨にしかめっ面しなくてもイイわよぉ。
 報告があるのよ、報告が。一応キミに伝えておこうと思ってね』
『報告?』
『アザゼルからよ。ついさっき通信が入ったの』

ベルゼブルはこちらの反応を窺う為か、一旦言葉を切った。
アザゼルからの報告。現在アザゼル達保安部隊に下されている主な指令と言えば、
プロジェクトの盗聴器での監視と、休暇中のブレアの監視。この2つだ。どちらかに問題が発生したという事だろうか。
数秒の沈黙。中々続きを話そうとしないベルゼブルに痺れを切らし「それで?」と先を促すと、彼は楽しそうに口を開いた。

『「対象をロストしました」だってさぁ』

つまりブレアの方だ。ブレアを見失った、監視に失敗した、という事。
思わずドラゴンオーブのデータが表示されているモニターに目を移した。
その目が見ているのはデータではなく、まだ見えぬ侵入者の姿だったが。

292『B』 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:37:12 ID:9BvbXwA6
(偶然……か?)

不甲斐ない保安部隊には何らかのペナルティを課す必要があるが、それは後で良いとして、
今は、見失ったのは単なる保安部隊のミスなのか、それともブレアが自らの意思で保安部隊の監視から逃れたのか、
このどちらのケースなのかを確認しなくてはならない。もしも後者なら――――

『その状況は?』
『さぁ? 聞いてないわよ?』
『……何故だ?』
『最初だけ聞いたら「じゃ後はアンタが自分で社長に報告しなさいよ」って言って通信切ってやったのよ。
 だって、そんな報告したら社長に怒られるじゃない? アタシは嫌だもの、怒られるの。
 あいつきっと今頃大目玉食らってるわよぉ♪ ウフフ、いい気味♪ 想像するだけでいい気分♪』

そう言えば、ベルゼブルから「アザゼルが年下のくせに生意気だ」などという愚痴を聞かされた覚えもあった。
ちょっとした嫌がらせのつもりなのだろう。
何故この報告を受けておきながらベルゼブルの機嫌が妙に良いのか、理由が分かった。

『……業務には支障を来さない程度にしておけ』
『このくらいじゃ支障なんてないわよ。それよりキミの方はどう?
 社長室に呼ばれてたんだから、何か命令があったんでしょう?』
『ああ。…………そう、今丁度その件でオーナーに報告をするところだった。切るぞ』
『え、その件? ちょっと待って、アタシにも詳しく――――』



ピッ



これ以上のベルゼブルとの会話は時間の無駄だと判断し、ベリアルは通信を切った。
話がルシファーに伝わっているのならば、そちらから詳しい状況を聞いた方が遥かに効率が良い。
ベリアルは再びコンソールを操作して、今度こそルシファーに通信を入れようとし――――思い留まった。

(……まだアザゼルが報告中かもしれんな)

そうであれば邪魔をしてはならない。
報告はしばらく後で行うとして、それまではプログラムを見直しておく事にした。
指示された命令を全て終えたわけではないし、侵入者が手を加えたのがドラゴンオーブだけとも限らない。
更には侵入者が再び現れないとも限らない。
やるべき事は多い。時間は一秒たりとも無駄には出来ないのだ。
ベリアルは再びキーボードを操作し始める。姿の見えない侵入者に、無意識にブレアの影を重ねていた。




【時間帯不明】

【ベリアル】
[行動方針:オーナーの方針に従う。]
[思考1:与えられた任務の続行。]
[思考2:後でオーナーへの報告を済ませる。同時にオーナーから詳しい事情を聞く。]

【現在位置:スフィア社211階・重役室(ベリアルの部屋)】




     ★     ☆     ★

293『B』 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:37:48 ID:9BvbXwA6




「――アタシにも詳しく教えなさいよ! ……ってちょっと! 待ちなさいって言…………あ〜あ、切られちゃった」

モニターが映し出していたのは、会話の途中(のつもり)だったというのに通信を終えようとするベリアルの姿だった。
騒いではみたものの、モニター越しの人間を止める事など出来るはずもなく、通信は一方的に打ち切られた。
この様子だともう一度通信を入れたところで今度は出もしないだろう。
酷くぞんざいな扱いだが、しかし、ベルゼブルは特に腹を立てる事もなく、相変わらず薄気味悪く口端を吊り上げていた。

ベリアルが受けた指示についての話を振りはしたが、
実の所、直接話を聞くまでもなく指示内容の予想はついていた。十中八九ドラゴンオーブのチェックだろう。

ルシオンの銀龍化。レザードの輪魂の呪と制限を無視した移送方陣。
ドラゴンオーブの異常は誰の目にも明らかで、引き起こされた現象はどちらもゲームの進行に影響を及ぼす程のものだったのだ。
チェックを行わない理由は何処にも無い。
普段、重要なプログラムのチェックを行う場合には必ずベルゼブルかベリアルのどちらかが担当となるのだが、
現在ベルゼブルにその指示が来ていない以上、担当はベリアルとなる。至極単純なロジックだ。
それでも話を聞き出そうとしたのは、割合にしてみれば半分は確認の為。残りの半分は、単なるついでだ。

(社長に報告があるとか言ってたわね。プログラムが弄られた証拠でも見つけたのかしら?
 ……なら、これもついでね)

ベルゼブルは鼻唄交じりに椅子に座り直し、腕を前に伸ばした。
空間に投影されたままの通信端末にリズミカルに操作を加えていくと、間も無くコール音が流れ、相手を呼び出し始める。
待つ事数秒。小さな電子音と共に通信が繋がった。それを確認したベルゼブルはおどけた様子で口を開いた。

『こちら「B」。「B」より「B」へ。どーぞ?』
『…………何なの、それ?』

モニターには、ベリアルよりも怪訝そうな表情でこちらを見る女性が映し出された。
彼女はベリアル同様に巨大なコンソールの前に座り、何かの作業をしているところだった。

『うふふ♪ スパイ映画みたいな雰囲気出てカッコ良いでしょう?』
『悪いけど、遊びに付き合ってる暇は無いのよ。何か用なの?』

「あら? キミだってよく無駄に意味有り気なイニシャルだけの署名をしたりするじゃない♪」
そんな売り言葉を思い付いたが、彼女の様子を見て、それは心の中に留めておく事にした。
彼女は既にベルゼブルの方を、正確にはベルゼブルが映っているであろうモニターの方を見てはいない。
自身のコンソールに視線を戻し「暇は無い」という言葉を強調するかのように、
キーボード上に置いた両手を凄まじい速さで動かしている。確かに下らない受け答えをしている余裕は無さそうだ。
ベルゼブルは、彼には珍しく相手の気持ちを汲んでやる事にした。

『……まあ良いわ。ちょっと教えてあげたい事があるのよ』

女性は僅かに頷き、先を促した。手を止める気配も振り向く気配も無い。
ベルゼブルはウフッと笑みをこぼすと、アザゼルの報告内容と、ついでにベリアルへの推測を伝えた。

294『B』 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:38:18 ID:9BvbXwA6





『――――というわけで、アタシからは以上よ。キミがどう動いてるのか知らないけど、大丈夫なの?』
『心配してくれるの?』
『当たり前じゃない。キミが頑張らないとつまらないもの』
『まあ、一応お礼は言っておくわね』
『フフ♪ 頑張ってね。ブレア』



ピッ



(あの顔……うふふ♪)

ブレアの表情を思い出し、思わず含み笑いが出た。
結局ブレアはこちらを振り向く事はなかったが、最初に向けたあの怪訝そうな表情。
ベルゼブルは誰とは問わずに怪訝そうな表情というものを見慣れていた。(別に見たくて見るのではなく、頻繁に向けられるのだが)
基本的に冷静沈着で礼儀を弁(わきま)えているブレアからはそういった表情を向けられる事はこれまでには無かったのだが、
今の彼女には感情をコントロールする余裕も無いようだ。その必死さが新鮮で、つい笑ってしまった。

(ドラゴンオーブは彼女の仕業なんでしょうけど、他にはどんな手を使うのかしら?)

ブレアがどんな手段でこのプロジェクトを妨害しようとしているのかは聞いてはいないが、
今行っていた作業が彼女の次の手なのだろうとは想像がつく。
モニター越しでははっきりとは見えなかったが、
ブレアの操作していたコンソールには1人のキャラクターのデータが表示されていた。
それをどう使うのかしら、と、しばし思考に耽(ふけ)ろうとしていたベルゼブル。
そんな彼を咎めるかの様に通信用端末が電子音を奏で出した。

(あら? 誰かし…………げ、社長!?)

ルシファーの名前が表示されたモニターを見て、ベルゼブルの表情は途端に気弱なものになった。
今、ルシファーの自分に対する用件といえば、保安部隊の失態に関する事くらいしか思い浮かばない。
現在の保安部隊はベルゼブルの指揮下。彼も責任を問われる立場にあると言えば、あるのだ。

(アタシも? 何でよぉ。何でアタシもなのよ?
 アザゼルだけでいいじゃないの! 元々あいつの部隊なのに!)

コール音は無情に鳴り響いている。
このまま無視し続けたいところだが、説教ではなく何かの命令や指示かもしれないのだから、そんな事は出来る筈もない。

(もしもお説教だったら……アザゼル、覚えてなさいよ!)

既に嫌がらせをしていた事などはすっかり忘れ、
ベルゼブルは保安部隊最高責任者の顔を恨めしそうに思い出しながら、通信に出る覚悟を決めた。




【時間帯不明】

【ベルゼブル】
[行動方針:社長から指示された事は行うが、プロジェクトが成功しようと失敗しようとどちらでも構わない。]
[思考1:プロジェクトが失敗した時の社長の顔を見てみたい。]
[思考2:ブレアに協力出来る事があれば、誰かにばれない程度には動く。]
[思考3:ばれる危険を冒してまでブレアに協力する気は無い。]
[思考4:自分で直接妨害工作を行う気も無い。]
[備考1:ルシファーから連絡が入りましたが、内容は説教とは限りません。また、特に必要のある事とも限りません。]

【現在位置:スフィア社211階・重役室(ベルゼブルの部屋)】

295『B』 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:39:23 ID:9BvbXwA6
     ★     ☆     ★




「――――でも、どうしてこのプロジェクトの事を教えてくれたの?
 今更私のクビを切る為の口実作りだとは思わないけれど、貴方にメリットが有るとも思えないの」
「ん〜? そんな細かい事、気にしなくても良いんじゃない?」
「気持ちが悪いのよ」
「良く言われるんだよねぇ。ほんっとに失礼しちゃう」
「そういう意味じゃないわ」
「フフ、分かってるわよぅ♪」
「……まあ、言いたくないなら――」
「――なんだよねぇ」
「えっ?」
「嫌いなんだよねぇ。社長の事」
「……?」
「何よ? 変な顔しちゃって♪」
「そういう噂は聞いた事があるわ。けど……まさか、それが理由?」
「いけない?――――」





ベルゼブルがブレアに情報をリークしてきたのは、プロジェクトの企画が上がってすぐの事だった。
結局のところ、何故ベルゼブルがこの様な行動を取ったのか、ブレアには良く分からない。
或いは、彼の口にした「社長が嫌いだから」この言葉が全てなのかもしれない。
とにかくもたらされた情報通り、ブレアには唐突に長めの休暇が与えられ、そしてプロジェクトは始まった。

(ベルゼブルにはとりあえず感謝しておかないとね)

ここまではベルゼブルの言葉に嘘は無かった。今の、アザゼルやベリアル達に関する情報も正しいのだろう。
真意の分からない男だが、今回は信用してもよさそうだ。とりあえず、情報だけは。

最初にこのプロジェクトの事を聞かされた時は到底信じられなかった。
ベルゼブルが自分を謀っているとしか考えられなかった。
「既に全てのデータが完全に消去された筈のE・Sに再びアクセス出来る様になっていた」
などと、誰が信じられるだろうか。
ルシファーがどの様な手段でE・Sを再生したのか、はっきりとした事は未だに分からない。
考えられるとしたら、ソフィアの『コネクション』の能力を解析したのではないか、という事くらいだった。
つまり、E・Sを『再生』したのではなく、消去した筈のE・Sに『アクセス』しているのではないか。
存在しないデータにアクセスするなど現実的には不可能としか思えないが、
ソフィアの『コネクション』は別の次元と次元をも接続するという、これまでの常識では計りきれない能力だ。
その能力なら、次元を超える事に比べれば失われたデータに再度アクセスする事など容易いのではないだろうか。
まあ、全ては想像の範疇を超えないのだが。
とにかく、現在E・Sにアクセス出来る事は事実。
E・S内の人間の命を弄ぶようなプロジェクト。知ったからには何としても止めなくてはならない。
しかし、ブレアが真っ向から反対意見をぶつけたところで取り合ってもらえない事は分かりきっていた。
本気で止めるなら手段は1つしかない。出来る限り大勢の参加者達を脱出させ、このプロジェクトを失敗に終わらせるのだ。

296『B』 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:39:54 ID:9BvbXwA6
その一心でブレアはキーボードを叩いていた。今彼女が行っている作業は、その為の『切り札』を作る作業だ。
先程ベルゼブルが見たように、モニターには1人のキャラクターのデータが表示されている。
正確には「キャラクター」ではなく「プログラム」だが、プロジェクト内では「キャラクター」である事には違いはない。

表示されているのは――――【IMITATIVEブレア】
ブレア自身の名前を冠するプログラムだった。

(あの時は酷い目にあったけど、今度は私が利用させてもらうわよ)

IMITATIVEブレアはE・S内で自然に生まれたNPCとは違い、スフィア社が0から制作した純粋なプログラムだ。
故に、このプロジェクトの参加者の中では唯一データの『上書き』が可能な存在だった。つまり、

【IMITATIVEブレアをブレアがコントロール出来る様、データの『上書き』をする】

それが、ブレアの『切り札』だ。
コントロールするとはいえ、ゲームの主人公の様に1から10まで全ての行動を操るのではない。
それも可能ではあるがブレアには他にもやらなければならない事がある。付きっ切りで操作するわけにはいかない。
だから、基本的に行動は今まで通りに「IMITATIVEブレア」に任せる。
ブレアがするのは「IMITATIVEブレア」の思考を不自然にならない程度に操る事。
IMITATIVEブレアの思考を操り、誘導し、最終的にはフェイト達の様に脱出を試みる参加者に脱出方法を伝え、脱出させる。
それでこのプロジェクトは失敗に終わらせる事が出来るのだ。

つい先程、IMITATIVEブレアはロキとの戦闘で気を失ってくれた。
わざわざルシファー達も気を失っている者の様子を窺いはしない筈。
つまりそれは、誰にも気付かれずにデータを『上書き』する絶好のチャンスだった。
ブレアは迷わずデータの『上書き』を始め、そして、間も無くそれは完了するところだ。

しかし、IMITATIVEブレアのプログラムを書き換えているという事は、
現在ブレアはE・Sのメイン端末にアクセスしているという事に他ならない。
では何故ベリアルはブレアのアクセスに気が付かないのか。
実は、ブレアは今、直接E・Sのメイン端末にアクセスしているのではない。
彼女が直接アクセスしているのは『ベリアルの端末』だった。ベリアルの端末を経由してメイン端末にアクセスしているのだ。
これならば外部からの不審なアクセスなど存在せず、気付かれる事なくプログラムを書き換えられる。

ドラゴンオーブのデータを書き換えたのも、最大の目的はこの為だった。
一見いたずら程度にも思えるドラゴンオーブのプログラム書き換えは、
『E・Sメイン端末に直接アクセスする外部からの侵入者』を印象付け、『外部』に目を向けさせる為のミス・ディレクション。
ドラゴンオーブ程のアイテムを囮に使う。意味有り気な制限の解除も、印象付けとしては申し分なかっただろう。
実際ブレアは未だにベリアルには気付かれていないのだから。

297『B』 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:40:35 ID:9BvbXwA6
(もうすぐ……)

終わりを意識しての事か、キーボードを叩く勢いがいつの間にか強くなっていた。
もうすぐ書き換えが完了する。もうすぐだ。後少しで――――

(終わった!)

プログラムを打ち込み終えると同時に、ブレアは大きく息を吸い、そして吐き出した。
これで、IMITATIVEブレアはマニュアル操作も可能となった。作戦の第1段階は終了だ。
だがまだまだ気は抜けない。今はまだスタート地点に立っただけで、ここからが本番なのだから。
とりあえず当面の目的は――――IMITATIVEブレアが洵、ルシオに殺されないようにする事、だろうか。

(何とか生き残っていて。私が行くまで頑張るのよ、ソフィア。マリア。フェイト……)





【時間帯不明(黎明以降)】

【ブレア・ランドベルド】
[行動方針:プロジェクトの妨害]
[思考1:IMITATIVEブレアを不自然にならない程度にコントロールしてフェイト達に脱出方法を知らせる。]
[思考2:ベルゼブルの真意を理解は出来ないが、一応は信用する。]
[備考1:以降のIMITATIVEブレアはブレアが思考をコントロールしている可能性があります。]
[備考2:IMITATIVEブレアのコントロールはリアルタイムで行います。
     それ故、ブレアの都合によりコントロール出来ない場合もあります。]
[備考3:ドラゴンオーブ以外のプログラムにも何かの仕掛けを施している可能性があります。]
[備考4:他にも参加者を脱出させる方法を考えている、もしくは用意している可能性があります。]

【現在位置:???】
【残り20人+α】

298 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/15(木) 15:42:30 ID:9BvbXwA6
以上で投下終了です。どなたか代理投下をお願い申し上げます!

マリアの考察(ルシファーによるマテリアライズ展開)は潰れないように書いたつもりではありますが、如何でしょうか?
作者がコンピューターに全く詳しくないので何か不自然な点がある可能性が高いですが、何かお気付きになられましたらどしどしご指摘下さい。

その他にも説明不足だと思われる点、意味が分かりにくい点、誤字脱字、矛盾点、感想、展開おかしくね? など、ありましたらどーぞ。
なんでもいいのでレス頂けると喜びます。

299名無しのスフィア社社員:2010/07/17(土) 19:19:56 ID:vFd8Ivas
>>本スレ
代理投下乙+感想ありがとうございます!
アザゼルさんは……スフィア社突入展開になれば出番に備えて充電中なんでしょうw
そしてむしろ誰も呼んでませんよアザゼルさん、という……w


ところで、そろそろ次スレの時期。
どなたかスレ立てお願い申し上げます。(まだ早いかな?)
俺は規制中なので……

300 ◆cAkzNuGcZQ:2010/07/17(土) 19:21:24 ID:vFd8Ivas
あう……トリ忘れた……

301名無しのスフィア社社員:2010/07/20(火) 19:54:59 ID:lQ21IA3Q
こっちでも告知
AAAキャラバトルロワイアルpart8
ttp://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1279622643/

>>299-300
警告ありがとう、素で気づかなかった……

302名無しのスフィア社社員:2010/07/20(火) 23:54:46 ID:L7juJR/Q
スレ立て乙であります!
Wikiとパロロワ辞典はやっときますよー。

303名無しのスフィア社社員:2010/08/02(月) 18:24:07 ID:jdOrhIVQ
一応お知らせ
板移転に伴いアドレスが変更になりました
ttp://toki.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1279622643/

304名無しのスフィア社社員:2010/08/02(月) 21:01:11 ID:RvvuYPgA
おお! お知らせどうもです。
後でWikiのリンク変更しておきますね!

305名無しのスフィア社社員:2010/08/02(月) 21:16:17 ID:jdOrhIVQ
>>304
過去ログ収録のお仕事を思い出したのでついでにしてしまった、反省はしていない

そろそろあれこれ描いてみないとという所だが……どうしたものか

306名無しのスフィア社社員:2010/08/02(月) 22:06:30 ID:RvvuYPgA
描き手さんでしたか。過去ログ作業乙であります!

次回作ですか。ふむ……描くキャラの投票を取ってみるのは如何でしょう?
イベントがあれば活性化に繋がる気がします!
よろしければ3ヶ月に一度くらいのペースでお願いしたいところですw

307名無しのスフィア社社員:2010/08/02(月) 22:47:11 ID:jdOrhIVQ
>>306
少ししたらしばらく忙しい時期が続くので、
8月末前後以降でないとまともに描く気力と時間が取れないのが悲しいところだったりします
元々遅筆で気まぐれ極まりないので描く!と約束して守れる保証がないのもダメダメなところです

とはいえ、落ち着いたら1度は投票かリクエストか何かをやってみたいとは思ってます
予定は未定すぎてちゃんとしたことはいえませんが……

308名無しのスフィア社社員:2010/08/03(火) 01:01:52 ID:ThsQBUHQ
まあ勝手な提案ですので聞き流してやって下さいw
投票など期待はしておりますが、AAAロワ住人は皆マイペースが売りですからね!

後、Wikiの方まで更新してもらってありがとうございます!

309名無しのスフィア社社員:2010/09/07(火) 11:57:10 ID:DUACScsw
よーやく予約キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!

あのパートは書きたいのに行き詰ってたから期待して待っていたいw

310名無しのスフィア社社員:2010/09/08(水) 00:54:02 ID:csUSQ5wY
時空剣士乙。
時空剣士も予約が来るとテンション上がるのかw

311名無しのスフィア社社員:2010/09/08(水) 21:10:07 ID:X96Mn5G.
油断した、ここに時空剣士出没だと……!

312名無しのスフィア社社員:2010/09/08(水) 22:52:27 ID:xRvzCwEY
「(ダジャレを言ったら)あかんのか?」
「(この流れに)飽かんのか?」

313名無しのスフィア社社員:2010/09/08(水) 23:15:36 ID:X96Mn5G.
>>312
時空剣士爆破されろ

314名無しのスフィア社社員:2010/09/12(日) 14:00:58 ID:HgDN796I
期日は、締切っていうより「このくらい経ったら報告してね、無事かどうか不安になるから」って感じの目安だった気がするw

315名無しのスフィア社社員:2010/09/15(水) 18:29:37 ID:wVg4xAuQ
うわあああああああ、レオン、アルベルウウウウウ
クリフと並びロワの主人公と称された男もここで死亡か
……それでもロワの主人公が時空剣士になる未来だけは想像できないから困る

アシュトンとソフィアはここで一時リタイアかー
クロード、地味に大ピンチじゃねーかw
まだまだ早朝ですらないし、このままだとノンストップでヅラ戦まで行きかねねえぞw

316名無しのスフィア社社員:2010/09/15(水) 20:03:03 ID:wVg4xAuQ
アルベルは頑張っても面白くならなかった
死亡者名鑑難しいよ死亡者名鑑
誰かもっとシンプルでナイスなの考えとくれ……

アルベルはAA改変しようにもAA一個もないから困る
プリンのAAも困難だしなあ



とりあえず折角作ったし供養しとく
廃材利用場所にしてサーセンw



                              【Before】

容   ツンデレ        登場話でギャグ    シリアスもこなせる男
赦            プロが子供相手にデレる王道。まさにレオン!    いい男 人気キャラ
零   敵に厳しく味方に甘い                プ    因縁持ち          対
           AAAロワの主人公     腐     リ             フラグ  主
      恋ク貴                  女    ン   這い上がる        催
      愛ロ重    メイドいんアッハーン    子   .↓ 死んでいった奴らの想い   の
      フスな                    歓   人    受け継ぐ魂         要
腹筋   ラオ    鉄パイプ所持         喜 ●●
      グ|                 BL    / ̄ ̄ ̄\   ルックスもイケメンだ
       バ   常に自分を鍛える       /~\~~~~/~~\      俺のケツイの中でショウネンしぼう
       |                     /  <●>  <●>   \ 主
 うほっ     や ら な い か      |     (__人__)    | 催   プリシスチームの戦闘要員
                   アッールベル  \    `ー'´    /  と
     くそむしテクニック           /           \ 因  ノックスが木材で千本ノックする
 罵               ドSキャラ                   縁
 倒                     「この話で死ぬ要素はないッ!!(キリッ」







                            【After】

                                ゙i\
                                 ゙i (,
                                 i  ゙i
                                 i|  i,
                                  i|  ',
         / ̄ ̄ ̄ ̄\                 i|   |i
       /    /VVVVV                i|.   |i
       |     | ̄ ̄\´                ,.i.    |      なんということでしょう……!!
       |     │  (●)               ,.i     ゝ
       .|    |   (___ノ             ゝ      |i__
        |    |    ´ノ             , '       |i   ` ヽ
       .|   |     }            /       |i__ノ′    \     ●―
        VVVVV゙―゙゙ ̄\          , '        |i( O)    ゝ、 ヽ    ●ノ
        /          \   ,, ,. ,., ' , '         |iヽ⌒(__ (●)  i    
      /             \  `゙ィ/          .|i:ヘ、   入__)⌒:: |
      |   アストン  /´\    , ,. ,. /`         ,.|i.. て  )(    。 ノ。
      |       、ト ゙)  \ ゙ィ/`, ' `       ゝソ;:  ,(  ゝ__) oノ
                    ` , ' /ミ   .,  /´⌒`Y´⌒`  ー  人
                    , ' ` ,.  , ' /, ' ;`     アッールベル    )
                    , '  /                      ノ

317名無しのスフィア社社員:2010/09/15(水) 20:03:52 ID:wVg4xAuQ
間違えた誤爆ですしにたい

318名無しのスフィア社社員:2010/09/15(水) 20:47:07 ID:BtiafXW6
名鑑製作乙です。
充分にやにやできるから大丈夫!

>>315
地味に気絶してるチェス太のことも忘れないでほしいの……

319名無しのスフィア社社員:2010/09/15(水) 20:56:38 ID:wVg4xAuQ
>>318
素で忘れてたわ……
しかし北部戦線恐ろしいな、気絶か死亡以外で戦線抜けられたの変態眼鏡組だけかよ……

320名無しのスフィア社社員:2010/09/16(木) 01:55:15 ID:YYBNO/YU
始まりはクリフがルーファスをここに追い込んだことだったんだよね。
さすがは元祖疫病神様だw

321名無しのスフィア社社員:2010/09/20(月) 03:06:12 ID:ppVmXlDI
はええええええええええ!!
もう投下とかどういうことなの……これがスロークイックだというのっ……!?

同人誌がまた増えて吹いた
今度はレオンとアルベルかよwwwwwwこいつら死んでもそっち人気かwwwwwww

そして順調に増えていくクロード包囲網
もうこれクロードがマーダーって情報持ってない参加者っておねんねしてるルーファスくらいなんじゃねーのかw

一方レザードも着々と敵を増やしているな
ボーマンさんがステルスらしさを発揮してきたがはたして……



あと、死亡者名鑑でレオンを載せてみました
悪ノリが過ぎたとか文が簡潔なものにならなかったとかいろいろあるけど、何より一番謝罪しなければならないのは文書形式間違えたっぽいことです
これ、ページリンクも貼れないし、多分文書形式間違ってるんだよね……
か、管理人さん、管理人権限があれば文書形式を変更できるっぽいのでお願いしてもよろしいでしょうか

322名無しのスフィア社社員:2010/09/20(月) 11:25:11 ID:zvNJ3el2
>>321
名鑑乙です!
まさか編集練習用ページを利用するとは思わなかったw
ヅラにレオン……あそこもカオスだ。


文章形式は間違えておられませんでしたのでご安心を!
今回の問題はWikiの仕様上、[[]]とか{{}}とかの中に別のタグを使えない事にあったようです。
少々修正させて頂きましたのでご確認下さい。

323名無しのスフィア社社員:2010/09/20(月) 11:29:30 ID:D7tD2xoo
な、なるほど……知らなかった……
助かりました、ありがとうございます

324 ◆yHjSlOJmms:2010/10/03(日) 15:39:15 ID:F5BJpz8Y
さるったんでこっちで↓
ある程度投下したら休憩しますんで続きが来なくても心配しないで下さい

325とあるリーダーの戦場:2010/10/03(日) 15:40:33 ID:F5BJpz8Y
(少々手荒になるけど窓を割るしかないようね…)

だが手元に投げつけて窓を破れそうなものが一切無い。
一旦二人の所に戻って…駄目だ。服に付いてしまった粉末をあの二人が吸ってしまうかも。

(丁度いいわ。予行演習よ…)

ふすまに張ってある紙を一部引っぺがし小さく丸める。
普通ならこんなものをぶつけても窓ガラスなんて割れない。
そう”普通ならば”だ。
掌に乗せた紙くずに意識を集中させる。
『アルティネイション』を使ってこの紙くずの物質情報を改変し、窓ガラスを破壊できるようにする。

(くっ、変化はあるみたいだけど。いつもよりうまくいかない…)

恐らくは能力制限か何かなのだろう。加えて少し気を緩めるだけで元の物質に戻っていってしまう。
首筋の後ろ辺りがチリチリするような感覚を訴えてきた。これは能力を使いすぎた時に襲ってくる症状だ。

(『アルティネイション』の力も抑えられている上にシビアな時間制限まで付いているのね…)

こんな単純な構造な紙くずでさえ苦労しているのだ。仕組みが大体わかったところであんな複雑な構造の首輪には使えたもんじゃない。
それだけ判っただけでも収穫といえる。
四苦八苦しながらもどうにか紙くずの改変を終えた。だが気を抜けば直ぐにも元に戻ってしまう。
私は意を決し大きくその紙くずを振りかぶった。

ガッシャーーーン!!

小気味のいい音と共に窓ガラスに穴が穿たれる。それと共に少しずつ部屋を満たしていた粉末が外へと流れ出ていった。

(後は治癒の紋章術が使えると言っていたレナに体内の毒素を浄化する様な紋章術を使ってもらえば一段落ね…)
「なんですかっ!? 今の音? 何があったんです?」
(丁度いい…呼びに行く手間が省けたわ)
「もう少し時間を置いてからあの二人に浄化の効果がある紋章術をお願い。事情はその後彼らから聞きましょう」

後になって思い返してみれば、大きな物音を立てたのは失敗だったかもしれない。
けれど、この時正常な判断力を奪われていた私はその失敗に気付く事が出来なかった。

326とあるリーダーの戦場:2010/10/03(日) 15:41:04 ID:F5BJpz8Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ロキとの戦闘に勝利を収めた俺達は、気絶したブレアと共に休憩に使った民家へと戻ってきていた。
小一時間ほど休憩をしてた時だった。

ガッシャーーーン!!

割と近い位置からこの音が聞こえてきのは。

「洵今の音は?」
「わからんが近い位置に他の参加者がいるようだな…。続く物音が聞こえてこないという事は戦闘中ではないようだが…」

そう言うと洵は自分の荷物と剣に手を伸ばした。

「行くつもりか?」
「当然だ」
「ブレアはどうする?」
「簀巻きにしてここに置いておくか、連れて行くしかあるまい」

流石にブレアを身動きの取れない状態にしてこの家に置いて行く訳にもいかない。
もしここに別のゲームに乗った参加者が現れたら抵抗する事無く殺されてしまう。
仕方なく俺はブレアを背負って洵の後についていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

僕はミランダと並んで居間で正座させられていた。
目の前には怖い顔をしたマリアがいる。
性質の悪い薬の効果だった事は既に聞かされている。ミランダが隠し持っていたものらしい。
ミランダ曰く武器も持っていない自分を守る為に護身用として僕らにも内緒で隠していたそうだ。
それが寝返りをうった拍子にぶちまけられてしまったのではないかという事になっている。
そう、端的に言うとあれは不慮の事故なはず。なのに僕はマリアから説教を受けていた。
やれ、配慮が足りないだの。弛んでいるだの。と色々と言われている。
そしてこの薬の性質が悪いのが、この手の薬のお約束として効果が及んでる最中の記憶は無くなっている筈なのに、不幸な事にばっちりと覚えているのだ。
それに止せばいいのに僕はうっかりマリアに言ってしまった。眠くなったからミランダの布団に潜り込もうとしてしまった事とか…。
もう完全にマリアはお叱りモードだ。なんかみんなからの視線も冷たい。
ミランダもさり気なく僕から距離をとって座っているし…

「あんマリア…(あんまりだ…)」

その後マリアの怒りゲージが振り切ってしまったのは言うまでもない。

327とあるリーダーの戦場:2010/10/03(日) 15:42:25 ID:F5BJpz8Y
「なんかもう色々疲れた…」

漸くマリアからのお説教タイムが終了したものの居心地の悪さを感じて見張りに出る事を提案した。
実際首輪に関しては僕が出来る事はなさそうだし、他にやれそうな事も無い。
出掛けにレナが

「クレスは剣を使うんだよね? 危ないかもしれないからこれを使って…」

と言って一振りの短刀を差し出してくれた。何処と無く表情は強張っていたものの彼女の優しさが身に染みる。
見張りとしての方針はさっきとは異なり塀の外に出て周囲に気を配る事にする。
空も白んできているから不意打ちの心配は少ない。それに、いち早く近づいてくる相手を察知しておけば対応の幅も広がるというものだ。
扉を閉めて、家の門から路地に出て何気なく右に視線を移した。
そこに男が一人いた。そいつも直ぐ傍の角を曲がった直後でこちらの存在に今まさに気付いたところだった。
だが、そんな事より問題はこの男に見覚えがある事だ。昼間僕とマリアを襲った男。そう、こいつは確実にゲームに乗っている。
すぐさま短剣を構え距離を開ける。

(まずい…この家から出てくるのを見られた…。マリアがいる事はこいつも知ってるだろうし、なんとかして中にいるみんなに危険を知らせないと)

相手も臨戦態勢に移っていた。取り出した剣を両手で構えこちらの様子を伺っているが何やら小言で呟いている。

「お前はっ! 昼間のっ!!」

不自然になり過ぎない様に注意しながらも大きな声を出す。これでどうにか中のみんなが異変に気付いてくれればいいのだけれど。

「やはり生きていたか。致命傷を与えたと思っていたが、逃げられたのだから当然と言えば当然か…」

相手から放たれる殺気が話し合いの余地など無い事を告げている。こうなったらやるしかない。
こちらの獲物は短刀一本だけたがそう悲観する様なものでもない。この路地の道幅はそんなに広くない。
横薙ぎにあの男が持つ様な刀剣を振るうには無理がある。傍にある塀に引っかかってしまうからだ。
故に相手の剣閃は限られてくる。
そこに僕の勝機がある。

328とあるリーダーの戦場:2010/10/03(日) 15:43:05 ID:F5BJpz8Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

俺の前を行っていた洵が動きを止めた。丁度曲がり角を曲がった所である。
止まれとこちらに合図をよこしながら静かに武器を構えた。

『敵だルシオ。昼間俺と戦った相手だ…。中々の使い手でもある。お前は回り込め。挟撃するぞ』

コミュニケーターから洵の抑えた声が聞こえてくる。
俺は気絶したミランダを塀に持たれかけさせてから回り込むべく移動を開始した。

『やつには青い髪をした同行者の女がいる。警戒を怠るなよ。それと…前に戦った時に持っていなかった武器を持っている。他にも仲間が出来たのかも知れん』
『わかった。30秒くれ。急いで回り込む』

腰に佩いた剣の柄に手をかけ疾走する。

(同行者がいるとすればやはりこの家か…)

目線の高さぐらいの塀に囲まれている二階建ての家屋。
気を付けなければならないのは二階からの弓闘士等による遠距離攻撃だろう。
十分射線も確保でき。高い位置からの射撃故に身を隠すのも容易ではない。
一方的に滅多打ちにあうのが予想される。周囲を見回しなんとか身を隠せそうな位置を確認しておく。
後は援護射撃が来るタイミングを見誤らなければなんとかなるだろう。

『待たせた。こっちは準備完了だ』

曲がり角の塀に身を隠し洵に通信を送る。

『了解した。俺の二太刀目に併せろ』

言うや否や持ち前の俊足で対峙している金髪の剣士に洵が飛び掛った。
右手に握った剣を上段から振り下ろす。
対する相手も洵が言う様に中々の手錬らしい。
下手に体重の乗った一撃を手にした短刀で受けるのではなく、僅かなバックステップで洵の間合いから抜け出していた。
間髪いれず洵が追撃。
左手に持った剣で突きを繰りだした。

(今だっ!)

それと同時に俺も身を隠していた所から躍り出る。
完全に不意を付く事ができた。こちらに気付いた様だけれどもう遅い。
洵の攻撃を捌いて俺の対応をする事は不可能だ。

329とあるリーダーの戦場:2010/10/03(日) 15:43:58 ID:F5BJpz8Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

クレスが出て行って直ぐの事だった。外からクレスの声が聞こえてきた。
緊迫したその様子から敵襲だと判断した私は居間にいる面々を見渡した。
それぞれ一様に事態を察したのか、私を見つめ判断を待っている。
机の上には機械部品やら図面やらが広がっていて速やかに撤退に移れる状態ではない。
命あってのなんとやら、放棄して撤退を優先する事も考えたが、武器の乏しい私達がそうするにはあまりにもリスクがありすぎる。
それに首輪の部品やそれらを置いていく事も得策ではない。次の入手がいつになるかもわからないし、誰か別の参加者に見せれば新たなヒントを得れる可能性も残っている。

「一先ず私とクレスで時間を稼いでくるわ。プリシスは机の上を片付けて撤収準備を。レナとミランダは私と一緒に二階へ」

私の指示に一同は頷いてくれた。直ちにレナ達を伴って二階へ向かいベランダから状況を把握する。

(取り敢えずここからライフルの援護射撃をしつつ、準備が整い次第レナの広範囲攻撃の紋章術でかく乱。
 その後撤退が一番現実的かしら? 非戦闘員のミランダは一階のプリシスとの連絡係辺りが適任ね)

それぞれの役割をすばやく割り振る。なんだかんだ言っても個々の技能を把握しての采配には慣れている自分がいる。
だが、若干の作戦変更が必要なようだ。銃口を向けようとしたクレスの対峙している相手。あいつは昼間私達を襲撃した侍風の男だ。
あいつは足が速い。それに引き換えこちらは非戦闘員を含む5人の大所帯。とてもじゃないが逃げ切れないだろう。
そしてその男の傍に2つの人影。一つは私達のいる家の塀を回りこむ様に移動している。おそらく彼はクレスを挟み撃ちにしようと動いているのだろう。
もう一つの人影。力なく壁によりかかるその女性の姿は

(ブレア! 何故? 彼らに捕まっているのかしら? ルシファーの妹だと知った彼らに交渉の材料にでもされようとしているのだろうか?)

思わぬ人物を思わぬ状況で発見した事で若干思考が横道にそれてしまった。
こうしている間にも、もう一人の男がクレスの背後に回り込みつつあった。

(今重要な事は彼らの撃退ね。もたもたしていたらクレスが危ない)

一先ずブレアの事は頭の中から閉め出し、迫る脅威への対処法を画策する。
俊足の侍男と更に武器を持った彼の協力者と思しき人物。最早撤退は不可能だろう。
彼らを戦闘不能にするしか私達に道はない。
だが、こちらはそれを実現出来る程の戦力を有しているのか?
剣士のクレスには短いながらも刃物が渡されている。それに対峙している男を負傷を負った状態にもかかわらず後一歩の所まで追い詰めていた。
あの侍男はクレスに抑えてもらっても大丈夫なはずだ。楽観視できる相手ではないが、さりとて彼が勝てない相手でもない。
問題はもう一人の剣士。初めて見るからどんな戦い方をするかもわからないし、当然戦闘能力も未知数だ。
一つ言えるのは私が援護射撃を行うという作戦は破棄せざるを得ない事。流石のクレスも挟み撃ちをされた状態かつ1対2で前衛を勤めきるのは難しい。

(私も前に出て茶髪の方を抑えるしかないけれど、あの狭い路地が問題よね)

手持ちの武器は現在ライフルしかない。素手で出て行くのも論外だが、こんな長物を持ってても動きが制限されてしまうだろう。
基本は相手の攻撃を受け止める盾代わりにして、隙あらば狙い撃つのが理想だが可能だろうか?
やはり拳銃が欲しい。使い慣れた武器があれば大体の相手に対処できる自身がある。

330とあるリーダーの戦場:2010/10/03(日) 15:44:32 ID:F5BJpz8Y
状況の吟味は終わった。現在の私達の戦力でこの窮地を乗り越えるにはこれしかない。
後はそれらを実行できるかどうかだが、こればっかりはみんなを信頼して任せるしかない。

「作戦変更よ。ミランダ。プリシスに私の武器の調整をいそがせて。
 その後は非戦闘員の貴方はプリシスと共に一階で待機。但し負傷者が出たら治療に回って貰うからそのつもりで。
 レナ。貴方は遊撃担当よ。襲撃者は私とクレス以外に誰かがいる事までは把握していないはず。
 基本方針はここで戦況を見つつ、私かクレスがピンチになった時の援護をお願い。
 細かい内容は貴方に任せるけど、そこまで気負う必要は無いわ。紋章術の援護ならどんなものであれ前で戦っているものにとっては助かるから。
 私はクレスと一緒に前に出て戦う。
 いい? 相手はかなりの強敵よ。でも、みんながそれぞれのやるべき事を全うすれば必ず勝てるわ。
 私が指揮を取る以上、不要な犠牲なんて絶対に出させない!」

最後の言葉は目の前の二人よりも自分自身に言い聞かせる様に言った。
二人は揃って頷き返してくれたが、若干ミランダの様子がおかしい。
外の様子を見た後からなのだが、荒事とかに慣れていないからだろうか?
けれど細かい詮索をする時間も無いし、パニックを起こしている様には見えないから気にしない事にする。
ミランダが下に行くのを見届けてから、すぐさまベランダに出て射撃体勢に移った。
今まさにクレスの背後から茶髪の剣士が攻撃を仕掛けようとしている。
スコープを覗き照準。直ちに引き金を引き発砲。
銃身の先から七色の輝きを放つ球体状のエネルギーが亜光速で撃ち出された。

だが、狙いは完璧だったのに避けられてしまった。亜光速の攻撃を見てから回避なんて人間業ではない。こちらの攻撃が読まれていたのだろう。
しかしとんでもない威力だ。地面に大穴を穿ってしまっている。
未知の怪物にはこの威力が必要だが、対人兵器としては大出力過ぎる。
エネルギー消費量も大きく、一発撃っただけでエネルギー残量が3/4まで減っている。
ますます使い所を選ばなくてはいけなくなってしまった。牽制射なんて出来たものではない。
一撃必殺こそが最重要な狙撃兵器としては随分と漢気の溢れる調整である。

(やはり盾に使うのがメインになりそうね)

ライフル銃を抱えベランダから飛び降りる。二階だから大した高さではない。
クレスの背後に着地し、背中合わせに並び立つ。

「危なかったです。ありがとうございました」
「まだ安心するのは早いわ。撤退は困難だからこいつらを迎え撃つわよ。私は茶髪の方を相手にするから貴方は昼間の男をお願い」
「わかりました」

331名無しのスフィア社社員:2010/10/03(日) 16:06:34 ID:TRYhdscY
執筆・投下お疲れ様です。
>>330までの代理投下を完了しました。
書き込みの上限が4KB/60行になっているので、レス数を抑えるために
勝手ながら複数のレスを結合させてもらっております。

332名無しのスフィア社社員:2010/10/03(日) 16:37:29 ID:TRYhdscY
支援でさるさんくらいました……。
氏が再び規制を受けた場合は、こちらに投下していただければ
0分を待って代理投下にうつります。

333名無しのスフィア社社員:2010/10/03(日) 17:26:09 ID:F5BJpz8Y
>>332支援まことにありがとうございます。

後状態表一個なのにさるさん食らっちまったい。
こっちもお願いいたします

334とある癒し手達の戦場:2010/10/03(日) 17:26:46 ID:F5BJpz8Y
【洵】[MP残量:10%]
[状態:手の平に切り傷 電撃による軽い火傷 全身に打撲と裂傷 肉体、精神的疲労大]
[装備:ダマスクスソード@TOP,アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3,アナライズボール,@RS,スターオーシャンBS@現実世界,荷物一式×2]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:金髪剣士達を倒す(まだ増援が出てくるかもしれないと警戒はしている)]
[思考2:ルシオ、ブレアを利用し、殺し合いを有利に進める(但しブレアは完全には信用しない)]
[思考3:他の事は後で考える]
[備考2:ブレアの荷物一式は洵が持っています]
[現在位置:平瀬村の民家B外 『スターフレア』でほぼ更地になった一帯]

【ルシオ】[MP残量:5%]
[状態:身体の何箇所かに軽い打撲と裂傷 肉体、精神的疲労大]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:マジカルカメラ(マジカルフィルム付き)@SO2
    コミュニケーター, 10フォル@SOシリーズ,ファルシオン@VP2,空き瓶@RS,グーングニル3@TOP
    拡声器,スタンガン,ボーリング玉@現実世界,韋駄天×1@SO2,首輪,荷物一式×4]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:青髪女達に対処(まだ増援が出てくるかもしれないと警戒はしている)]
[思考2:洵と協力し、殺し合いを有利に進める]
[思考3:ブレアから情報を得る]
[思考4:他の事は後で考える]
[備考1:ロキの荷物を回収しました]


【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:気絶中 腹部の打撲 顔や手足に軽いすり傷]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:参加者に出来る限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:???]
[備考1:ロキが死んだ事は知りません]

パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔0/100〕@SO3
セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔0/100〕@SO2
万能包丁@SO2がそれぞれ平瀬村の民家B外 『スターフレア』で被害を受けていない一角(道幅が狭い)に落ちています。

【ミランダ・ニーム死亡】
【残り17人+α】

335 ◆yHjSlOJmms:2010/10/03(日) 17:29:56 ID:F5BJpz8Y
以上になります。

始めてここまで長いの書いた…。チェックも大変ですわ。
一応何度も確認したけど大丈夫っすかね?

一番不安なのはキャラ把握をしていないミランダの挙動。
取り合えず自分の知ってるミランダはここでの投下があった分のみ。
読み直してがんばってキャラを掴もうとしたんですが大丈夫でしょうか?

336 ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:19:42 ID:qCRwirIo
さるさん来てしまった……
支援してくださった方、ありがとうございました。
続きはこちらで。もうタイトル付けてもいいか。

337 ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:20:23 ID:qCRwirIo
とりあえずage

338時空剣士、堕つ  ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:21:26 ID:qCRwirIo
そういう事か、と洵は理解する。
ブレアは洵が最後に居た場所から見て、後ろ側の曲がり道に置いたはずだ。
確かにルシオの居たあの位置からではブレアの姿は見えない。
姿の見えない者にまで、果たして道具の効力が及ぶのか――――ルシオの言う通り、分からない。
ブレアを連れて逃げるなら、確保するのが最も確実な手段だ。
ルシオの位置からブレアの居る路地に辿り着くには、マリア達をどうにか押し退けるか、路地を回り込むしかないが、
前者は今のルシオには危険が大きすぎるだろう。選択の余地は無かった。

『ならばブレアのところまで、急げ!』
『とっくに走ってるさ! だけど――――』

ルシオの声を遮ったのは、やはり爆音だった。あの光の魔術だとしたら危険だ。
ふと洵はイヤホンを取り外して耳を澄ますが、この場の空気の流れは実に穏やかなもの。
彼の耳にまでは爆音は響いて来なかった。クレスは相当遠くまで転移してきたらしい。
再びイヤホンを付け直す。アスファルトを駆ける足音の勢いが、ルシオの無事を伝えてくれた。

『ルシオ!』
『…………大丈夫だ。もう少しでブレアの場所に――――な、何?!』
『今度は何だ!?』
『ブレアが……いないんだ!』
『何だと!?』
『逃げたのか? それとも何処かに隠れて――――まずい、前からマリアが来る。…………駄目だ、挟まれた!』

ルシオの足音は止まっていた。そして通信の内容。
察するに、もうルシオにブレアを探している余裕は無いだろう。

『やむを得ん、逃げろ! ブレアがついて来ないとも限らんのだろう?』
『あ、ああ。分かった!』

直後、三度目の爆音が洵の耳を襲い、思わず顔を顰(しか)めた。
しかし、その音は不自然な程の速さで小さくなり、代わりにイヤホンからは強風に巻き込まれたような音が聞こえてくる。
何が起きているのか、音だけでは洵には判別がつかなかった。
光の爆発とは別の魔術でも放たれたのか、それとも離脱が出来たのか。
気が逸る。しばらくして全ての音が消えると、洵はたまらず声をかけた。

『どうなった!?』
『…………何とか、逃げ切った』

どうやら強風の様な音は離脱の際の音だったらしい。
ルシオも致命傷までは負わずに済んだようだ。とりあえず、息を吐き出す。
とすれば、残る心配事はただ一つ。

『ブレアは、どうだ?』
『……ブレアは――――』

339時空剣士、堕つ  ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:21:59 ID:qCRwirIo
【???/早朝】

【洵】[MP残量:0%]
[状態:手の平に切り傷 電撃による軽い火傷 全身に打撲と裂傷 肉体、精神的疲労大]
[装備:ダマスクスソード@TOP、アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、アナライズボール@RS、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式×2]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:現在位置を特定する]
[思考2:ブレアは離脱出来たのか?]
[思考3:ルシオ、ブレアを利用し、殺し合いを有利に進める(但しブレアは完全には信用しない)]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[備考1:ブレアの荷物一式は洵が持っています]
[現在位置:???]
※近くにクレスの死体があります。
※クレスと洵は中島家からそれなりに遠くに転移しました。具体的な場所は後の書き手さんに一任します。
※クレスの死体にはポイズンチェックが残っています。



【???/早朝】

【ルシオ】[MP残量:5%]
[状態:身体の何箇所かに軽い打撲。身体中に裂傷、打ち身、火傷。衣服が所々焼け焦げている。肉体、精神的疲労大]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:マジカルカメラ(マジカルフィルム×?)@SO2、
    コミュニケーター、10フォル@SOシリーズ、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、グーングニル3@TOP
    拡声器、スタンガン、ボーリング玉@現実世界、首輪、荷物一式×4]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:ブレアがどうなったのかを洵に伝える]
[思考2:洵と協力し、殺し合いを有利に進める]
[思考3:ブレアから情報を得る]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[備考1:デイパックの中にはピンボケ写真か、サイキックガン:エネルギー残量〔10〕[70/100]が入っています]
[現在位置:???]
※韋駄天を使用しました。効力は17話参照。ルシオが何処まで移動したかは後の書き手さんに一任します。

340時空剣士、堕つ  ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:24:14 ID:qCRwirIo
【???/早朝】

【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:腹部の打撲 顔や手足に軽いすり傷]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:参加者に出来る限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:???]
[思考2:レザードがマーダーだと広める]
[思考3:無差別な殺害はせずに、集団に入り込み内部崩壊や気持ちが揺れてる人間の後押しに重点を置き行動]
[思考4:レナの死をクロードが知った場合クロードをマーダーに仕立て上げる(その場にいたら)]
[備考1:ロキが死んだ事は知りません]
[備考2:ブレアに思考をある程度コントロールされています]
[現在位置:???]
※IMITATIVEブレアもルシオと一緒に韋駄天で移動出来たかどうかは後の書き手さんに一任します。
 韋駄天で移動したのなら、移動した姿をマリア達に見られているかもしれません。
 韋駄天で移動していなければ、IMITATIVEブレアは中島家付近の民家2階にいます。


【F・D界】

【ブレア・ランドベルド】
[行動方針:プロジェクトの妨害]
[思考1:???]
[思考2:IMITATIVEブレアを不自然にならない程度にコントロールしてフェイト達に脱出方法を知らせる]
[思考3:ベルゼブルの真意を理解は出来ないが、一応は信用する]
[備考1:IMITATIVEブレアのコントロールはリアルタイムで行います。
    それ故、ブレアの都合によりコントロール出来ない場合もあります]
[備考2:ドラゴンオーブ以外のプログラムにも何らかの仕掛けを施している可能性があります]
[備考3:他にも参加者を脱出させる方法を考えている、もしくは用意している可能性があります]
[現在位置:???]


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★

341時空剣士、堕つ  ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:24:55 ID:qCRwirIo
「良し、完璧!」

首輪解除ツールへの数値入力と確認を終えたプリシスはそれを乱雑にデイパックに突っ込むと、
足元に置いてあるマグナムパンチを素早く装着し、弾かれる様に居間を飛び出した。
ついさっきまで嫌でも耳に飛び込んできた戦闘音は、数分程前から何も聞こえて来なくなっている。
不安でたまらなかった。
戦闘音が止んだという事は、戦闘はもう終わったのではないのか。だとしたら、何故誰も帰って来ないのか。
戦闘が終了しても誰も帰って来ない。つまり――――嫌な想像が頭を過ぎる。

(そんなの……許さないんだから!)

プリシスは玄関の扉を体当たりでもするかのように開け、外に出た。
辺りの様相は、クレスの案内で自分がこの家に来た時とはまるで変わっていた。
破壊の規模に驚きつつも、周囲に視線を巡らせる。
一番最初に目に止まったのは、すぐ近くに倒れているミランダの身体だった。

「ミランダ!?」

駆け寄り、思わず小さな悲鳴を漏らした。
ミランダは首を切断されて死んでいた。気付けば付近の壁には大量の血液が付着している。
その臭いがもたらす吐き気をどうにか飲み込むと、プリシスは続けて辺りを見回した。

「っ!? な、何あれ……?」

視界に異常な物体が入り込んだ。
それは、腕のように見えた。腕らしき物体が二つ、地面の小さな血溜まりの中に落ちている。
恐る恐る近づいてみると、それはやはり人の腕。最悪な事に、見覚えのある篭手まで付いているではないか。

「これ……ク、クレスの?! じゃあ……」

間違いなく、それはクレスが身に付けていた篭手。だが、クレス本人はそこにはいない。
もう一度辺りを見回してみるが、クレスの姿は見当たらない。

「レ、レナ?! マリア?! クレスーー?! どこにいんのーー?!」

元来冷静沈着とは縁遠い性格のプリシス。
仲間達の身に起きた惨劇の痕跡を前にして、彼女は皆の名前を大声で叫んでいた。
敵がまだ近くに居るかもしれない、とは考えもしないで。ただ仲間の身を案じて。

342時空剣士、堕つ  ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:25:28 ID:qCRwirIo
ジャリ

その声に反応するかのように立てられた何かの音。
プリシスは振り返った。音は後方の曲がり角の先から聞こえてきた気がする。
迷わず小さな身体を走らせた。角を曲がったプリシスが見たのは、立ち尽くしているマリアとレナだ。
生きている。仲間の無事な姿を見たプリシスは、安堵で涙がこぼれそうになる目を押さえ、二人の元に駆け寄った。

「レナ、良かった。無事だったんだね!
 ねえ、クレスは? クレスはどうしたの?! 敵はどうなったの? ねえ。ねえ!」

尋ねながら二人の顔を覗き込むが、レナも、マリアも、プリシスと視線を合わせようとはしなかった。
二人とも小刻みに身体を震わしながら、ただ黙って立っている。
その表情に浮かんでいるのは悲愴とも憎悪とも判別はつかないが、確実に分かるのは決して好ましい感情ではないという事。

「どうしたの? ……ねえ、教えてよ! クレスは――」
「クレスは!」

怒鳴りつけるように、しかし震える声でプリシスを制したのはマリアだった。
プリシスは口を閉ざし、マリアの言葉を待った。

「クレスは、死んだわ」

マリアの言葉と同時に、隣に居たレナの目に涙が溢れる。
薄々は気付いていた解答だったが、その言葉は予想以上に重くプリシスの心に伸し掛かった。
信じたくない。その思いとは裏腹に、堪えていた涙が再度視界を滲ませた。
堪えれば堪えるほどにその大きな瞳に涙が溜まり、辺りを歪ませていく。

「う、嘘でしょ……? 嘘だよね?」
「……本当よ。クレスは助からない。敵にも逃げられたわ。…………この戦いは私達の、負け、ね」

力無く淡々と紡がれた言葉に、プリシスの目からはついに涙が零れ落ちる。今度は、堪えられなかった。
マリアの顔付きが、これまでの精悍さを忘れてしまったかのように弱気なものになりつつある事も、
今のプリシスの歪みきった視界には映らなかった。

343時空剣士、堕つ  ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:25:58 ID:qCRwirIo
【F-01/早朝】

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:電撃による軽い火傷 右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有]
[装備:無し]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:…………]
[思考2:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)を憎悪]
[思考3:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考4:次の放送後に鎌石村方面に向かう]
[思考5:ブレアを確保したい]
※高い確率でブレアは偽者だと考えています。
※プリシス達の持つ首輪の情報と鷹野神社の台座の情報を聞きました。

【レナ・ランフォード】[MP残量:5%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、
    精神的疲労極大、ミランダが死んだ事に対するショック、その後首輪を手に入れるため彼女に行った仕打ちに対する罪悪感]
[装備:魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:首輪、荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:…………]
[思考2:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)を警戒]
[思考3:次の放送後に鎌石村方面に向かう]
[思考4:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考5:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考6:アシュトンを説得したい]
[思考7:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡し、何があったかを話す]

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック(また更に大きく)、クロードがゲームに乗った事に対する(ry、ボーマンが(ry]
[装備:マグナムパンチ@SO2、盗賊てぶくろ@SO2]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、
    メモに書いた首輪の図面、結晶体について分析したメモ荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す]
[思考1:二人から詳しく話を聞きたい]
[思考2:次の放送後に鎌石村方面に向かう]
[思考3:レオンの掲示した物(結晶体×4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考4:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考5:クラースという人物も考古学の知識がありそうなので優先して探してみる]
[備考1:制御ユニットをハッキングする装置は完成しました]

[現在位置:平瀬村の民家(中島家)周辺]

パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔0/100〕@SO3
セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔0/100〕@SO2
万能包丁@SO2が平瀬村の民家B外 『スターフレア』で被害を受けていない一角(道幅が狭い)に。
護身刀“竜穿”@SO3
壊れたサイキックガン(フェイズガンの形に改造):エネルギー残量〔10〕[60/100]@SO2
カラーバット@現実が平瀬村の民家B外『スターフレア』でほぼ更地になった一帯に落ちています。


【クレス・アルベイン死亡】
【残り16人+α】

344名無しのスフィア社社員:2010/11/29(月) 19:26:52 ID:r5bH94Z.
代理行ってきます

345 ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:31:53 ID:qCRwirIo
以上で投下終了です。どなたか代理投下をお願いします。

最後はIMITATIVEブレアの居場所を極力曖昧にしたかったのでこんな感じになりました。
決してクレスを失ったマリアの心理描写が面倒だったわけではございません。ええ、ございませんとも。

感想、ご指摘頂けると幸いです。

346 ◆cAkzNuGcZQ:2010/11/29(月) 19:32:36 ID:qCRwirIo
>>344
ありがとうございます! 宜しくお願い申し上げます!

347名無しのスフィア社社員:2010/11/30(火) 21:35:41 ID:Q17HgrMc
クレス…、よく頑張ったな。安らかに眠ってくれ。
しかし、これでまた一人対主催が減ったか…。厳しいな〜。
対主催組、ルシファーに勝てよ。

348名無しのスフィア社社員:2011/04/01(金) 19:07:19 ID:.iz60LKs
エイプリルフールネタ、死亡者リストの「揺らされまくって失血死」が地味にワロタw
実際ありえそうなだけに

349 ◆wKs3a28q6Q:2011/05/14(土) 17:14:27 ID:u/trJOCk
ルシ男、クロード、アシュトンで予約いたします!

350 ◆wKs3a28q6Q:2011/05/15(日) 14:46:05 ID:Gmllo6U6
辞典とか見やすいようにカスタムしてみた
「逆に見にくくなった!」とかあったら遠慮無く言っておくれ

351名無しのスフィア社社員:2011/05/15(日) 14:46:41 ID:Gmllo6U6
鳥消し忘れてた……

352名無しのスフィア社社員:2011/05/16(月) 12:02:50 ID:I7gas2lE
編集乙です! 使いやすくなったと思います。

トリはドンマイですが、まあラジオからIDも変わってませんしw

353名無しのスフィア社社員:2011/10/05(水) 23:52:05 ID:jmCJvoBQ
規制で書き込めないんだよォォォーーーーーーーーーーーーッ
新スレは新作完成報告の後でいいんじゃないかな

354名無しのスフィア社社員:2011/10/06(木) 23:41:12 ID:bzk/TMpE
おいw 新スレの1がクロードじゃねーかwww

355名無しのスフィア社社員:2013/08/23(金) 21:32:18 ID:1HsLKl4Y
夏に停滞し冬に活性化する、それがAAAロワ

356名無しのスフィア社社員:2013/09/07(土) 15:17:14 ID:qJxVI2.w
停滞だなんて言ってると手痛いしっぺ返しをくらうかもしれないぜ?

357名無しのスフィア社社員:2013/09/08(日) 19:26:13 ID:A9W8P38g
>>355
そう書くとAAAロワは夏バテするすれなんだと錯覚してしまう
>>356
時空剣士爆発しろ

358名無しのスフィア社社員:2015/12/01(火) 21:07:39 ID:vA83dIAA
         l    ィ.!.:::::::::::::::::i i:::::::::i ヽ ヽヽ
        / /.   .l::;;|:::::::::::::::::i i:::::::::ト、 i  }ヽ
       //l :. .l:::l | ,ィzz\  ii ,イ芯ヾレ!  !ヽ
      //l :.  /  |{弋zリ     ¨´≠彡'リ
        l : /l ::|ハ::{  ≠     '       }ヽl
        l :/ l :: ィト   ー― '    ,!  !
        /  l :/ l              ,イ     「本スレがdat落ちだとお?」
           レヽl''l个:.、       /ハ
              V ヽ`T - イノリ
             /  ∥ =只= ∥ ヘ
             i  /   ´ `   ヘ  i
              ゙、 ヘ.___,ヘ__,ノヾr’
              |=.|.| | ´╂`.| |..|.=|
              | | | |,・╂>.|,| | i
               ; ,|//.・╋> ;ヽ| i.

359名無しのスフィア社社員:2015/12/01(火) 21:24:12 ID:vA83dIAA
       く   投  /i ::i : i::: :::   ヽ i:::ヽ   ヽ  ヾ       、`ヽ、   ー'            て
        |  下 .| i ::i :: i::: , '     i i::: \  iヽ     ..    ヽ、__ヽ  )   よ   バ  .本  (
        |  ま .|ノ ,: :::i i/__---ー一i i-- 、ヽ iヽ    、::     ヽ   ヽ.  ぉ   カ  ス  (
        |  だ | / ::i  i'ニ __      i i   `ヽ i::_、::    i::::  ヽ 丶.    |   ぉ   に  レ |
        ) か  |.i  ::ハ. i   __ `ヽ 、 i i    i  iヽ::::..   i::::  、 ヽ   |   ぉ  し   落   |
       ノ.  よ (.l  :/ ; i/"iO"`ヽ`  ii  --ー__ i"ヽ::::   i:::::: ヽヽ ヽ   |   ぉ   や  ち (
_人_人_/ト  ̄`v-√/,i  :i/-i i ` !、"'ソ       '"O ヽ、 i::::   i::::::: ヽ \ 、  |   ! !  が   た |
). し だ (      ソ.i /i:;(iヽ、`ー    !::    !、_'ソ ゝ 、::::   i,、::::::  丶    |       っ   と   |
| ろ れ (       i i 丶i  `    ,r'^'‐-..,_  `ー   ::ハ、:::  iヽi`、:::: 丶  |     て   か |
| オ か {       i i \`-i    ,r'`゙ ̄`゛'ィ゙i      /) )i:::  i ヽ' ヽ、 丶.ノ              /
| ラ な ゝ      v  `-,!   |,r'     }     /ソノヽ:: i     `丶、´つ ..ィ'!ヽ    /`Y´
| ァ .ん ゝ          ' ヽ . !       V     /-'"/ヘ:: i        ヽ    ) /
| ァ  と ゝ    ,ー---- 、_ i\ ヽ,   _/    /`-'"ヽ  i::i              /
|    う (     .i、_      `ー- 、      ,..:'"i ソi::::: i、  ':
|    か ゝ    i:::::::::ー-- - 、   ヽ__ ,  '"::::: iー- 、:::_ ヽ
)     (   ___/:::::::::::::     `丶  i__``ー-----丶、|::::  l 丶
へwへイ - '"-- 、 `丶、::::.......     i   i:::`ー-------'" |:::  l  i
        `   >、 `丶、     i  i:::::::::::::     i .|:::  i'l,,,, '"

360名無しのスフィア社社員:2016/01/06(水) 05:35:11 ID:TRkT1ebE
したらば投下でよくない?

361名無しのスフィア社社員:2016/01/10(日) 02:09:00 ID:mN8g286g
新スレどうするかね?立てる?

362名無しのスフィア社社員:2016/01/10(日) 20:56:00 ID:oVXR06qk
2CHは転載禁止と言われてるからしたらば進行でいいんじゃないかな。
総合版って手もあるけど、このペースだと総合版でも落ちそうだし……w

363名無しのスフィア社社員:2016/04/03(日) 20:16:25 ID:3lLbmPOE
今この流れに気がついた
スレ立てて投下しようと思ってたんだが、スレ立てない方がええの?

364 ◆cAkzNuGcZQ:2016/04/03(日) 22:56:09 ID:rgRh6bpk
>>363
2chにですよね?
実は>>362は自分の意見ではありますが、新スレ立てても大丈夫かと!
投下超期待してます!

365名無しのスフィア社社員:2016/04/03(日) 23:42:02 ID:3lLbmPOE
ありがとうございます
立ててきました

366名無しのスフィア社社員:2016/11/26(土) 00:04:05 ID:ujxF5yIw
ハッピーバースデーAAAロワ!


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