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改めて唐突に始まる短編@リクエスト・オーダー

1サラ:2006/12/14(木) 00:37:22
唐突に始まる仮想戦記短編 リクエスト・オーダー


「金曜日が雨ならば、きっと日曜日も雨だろう」


 気象観測隊の月次報告によれば、週末は晴れるとのこと。
 しかし、最新の気象観測レーダーも、古の格言には敵わなかったらしい。金曜日に雨が降っていたので、私は嫌な予感がした。
 私は空を見上げる。
 頬に伝う雫が、今日の天気を教えてくれる。

「日曜日は雨でした」

 私は野球帽を目深にかぶりなおし、傘もささずに濡れるに任せた。
 少しばかり、雨に濡れたい気分になったのだ。
 それなりに機嫌は悪い。
 何も休日に降らなくてもいいだろう。他にやることがなかったのかと、小一時間ほど問い詰めたい。問い詰めたい。
 雨は小降りで、濡れるに任せるにはちょうどいい具合だ。
 夏の北海道に降る雨は、こんな雨が多い。鉛色の空は妙に明るく、雲は薄いようだった。
 滑走路脇の草原には、自生のラベンダーが咲いている。雨に濡れていて、少しばかり俯いていた。
 その紫の花弁を震わせるように、アプローチに入った輸送機は乾いたプロペラの奏音を撒き散らして緩やかなタッチダウン。
 ゴムの擦れる、ぎゅっとした音が鼓膜に届く。
 複葉布張りという時代錯誤なスタイルの輸送機は、それでも樺太の端にある辺鄙な基地と本道を結ぶ貴重な移動交通手段だった。
 1000馬力のレシプロ・空冷ガソリンエンジンが乾いた駆動音を響かせて、誘導路へと向かって滑走していく。
 アレでも頑張れば10人は乗れるほど大きな機体だ。それが何故、布張りで、複葉機なのかはよく分からない。整備性や生産性を考慮した結果という話だが、何を考慮すればそうなるのかはやはり理解できなかった。
 アレが初飛行した1947年はMig15が初飛行した年でもある。朝鮮戦争、津軽海峡事変で大活躍したMig15だ。
 同じ年に飛んだ2機の飛行機の間には何か埋められない深い溝があるように思えてらなかった。常識では理解できない、人間の認知能力を遥かに越えた、共産主義国家においては存在しないとされる霊魂の存在を仮定しなければならないほど困難な壁がそこには存在するように思われた。少なくとも、何かがおかしかったことは疑いの余地がない。林業用、農業用にしても、もう少し何か別の方法があったように思えてならなかった。

2サラ:2006/12/14(木) 00:38:47
 アントノフの複葉輸送機は滑走路の向こうのハンガーの前で止った。
 のたのたとオンボロのZILのタンクローリーがやってきて、荷物を下す傍らに燃料補給が始まった。実にのんびりとしたものだった。
 かつてここが、80年代の冷戦終末期において核爆撃機の発進基地とされていたことを誰が信じてくれるだろうか?
 きっと、誰も信じてくれないだろう。
 それでも北海道が半世紀ほどソビエト連邦の構成国の1つだったことが疑いの余地もない事実である。ホンの十四五年前に、私はソ連人だった。
 補修のされていない滑走路からはアスファルトのひび割れに土が積もり、そこに根を下した雑草が緑の顔をのぞかせている。
 私はシロツメクサの白い花を一輪摘んだ。
 5000m級の、核爆撃機発進用の滑走路は整備補修が不可能なので、今は大部分が草原に帰ろうとしている。
 この滑走路は巨大なツポレフの4発ターボプロップ機が2機同時に発進してもまだ余裕があったそうだ。私はその光景を見たことがないけれど、それはそれは壮大な眺めだったらしい。
 無闇に広大な滑走路の跡が、ここが冷戦の最前線だったことを今に伝えている。

「三枝大尉。何やってるんだ?」

 ここで、女心が分からない鈍感が現れた。

「見ればわかると思うけど?」
 
 私はいつになくぶっきらぼうに答えた。

「疑問文に疑問文で答えると0点になるって知らないのか?」

 漫画好きの山田久義軍曹は妙にイラっとくることを言う。
 しかし、三枝は何も言わなかった。いつものことだからだ。階級差はあるけれど、軍曹と三枝は友人でもある。
 軍曹はこの基地に赴任してからの旧知で、外で会うことも少なくない。
 この大柄でどこかピントのずれた顔をした軍曹は、豊原郊外にある空軍基地においてちょっとした有名人だった。
 何がどう有名なのかは追って説明することになるが、とにかく有名人だった。東京ですら名がしられるほどの、有名人である。
 彼がこの基地に来たことは地方版のプラウダでちょっとした記事になったほどだ。

「見ればわかることをいちいち聞く方が悪いのよ。雨が濡れているに決まっているじゃないの?」
「好きこんでそんなことをする奴を初めてみた。馬鹿じゃないのか?」
「煩いから、あっちいってよ」

3サラ:2006/12/14(木) 00:40:08
 私は少しばかり1人になりたかったので、軍曹が邪魔で仕方がなかった。

「どうせまたふられたんだろ?」
 
 軍曹は聞き捨てならないことを言う。

「なんで知ってるのよ?」

 私は半眼で呻いた。
 同時にどこから情報が漏れたのか、素早く計算していた。およその見当はつくが、見当がついたところで既にどうもならない可能性が高い。
 情報というものは常に拡散する傾向があり、その対策は基本的に何もない。これは熱力学第2法則に合致する。
 カオスは常に増大し、混沌の大海は真実を孕みつつ膨張する。どこかで揺らぎが生まれ、新しい世界が誕生するその日まで。

「壁に耳あり、障子に目あり。人の口に戸板は立てられず、醜聞は千里を駆ける」
「醜聞ってほどじゃないはずなんだどね」
「確かに、聞き苦しい話じゃないな。面白おかしくはあるが」

 軍曹は妙に真面目な顔をして言う。

「なに・・・次があるさ」
「気楽に言ってくれる。でも、ありがとう」

 全くありがたくはないが、それでも気は紛れる。
 失恋に痛手を負うほど若くはないけれど、落ち込みはするし、へこみもする。
 女としての魅力については、半ば諦めているが、それでも自分が女性であることは生物学的に疑いの余地がない。
 しかし、どうせなら男に生まれてきたかった。心の底からそう思う。

「用事はそれだけ?」
「いや、本題がまだだ。ちょっと手伝ってくれ。人手が足りないんだ」
 
 オイルで染まった黒い軍手で軍曹は手を上げた。
 降参ということらしい。

「か弱い乙女に力仕事の手伝いをしろっていうの?」
「あんたの冗談はたまに恐ろしいくらいに笑えないことがある。今のがそうだ。あんたがか弱いっていうのは、か弱いって言葉に対する冒涜だと思うぞ」
「煩いよ、バカ」

 私は思い切りブーツのかかとで軍曹の鳩尾を蹴り上げた。



 続きます

4サラ:2006/12/15(金) 00:23:21
 嘗てここは東洋最大の航空基地だった。
 何かにつけて大きいことが幼児的なまでに好きなロシア人は何を思ったのか、冬になると極寒の世界となる樺太にそれを造った。
 5000m級の滑走路に、正・副・予備の2000m級滑走路。巨大な整備ハンガー、バンカーバスターの直撃に耐える地下式格納庫と戦略爆撃機を昇降させる巨大なエレベーターシステム。コンクリート台座に埋め込んだ垂直発射型の中距離ミサイルと砲塔型の対空砲座が50基ほど。高射砲を天辺に乗っけた高射砲塔なんてものまである。
 正気をどこかに置き忘れたような、まるで子供が考えた秘密基地。
 問題はそれが誰にも反対されることなく予算がついてしまったこと。
 ソヴィエトが崩壊するその日まで工事が続いていたというから驚いてしまう。
 私は事の次第を聞いて呆れかえったものだった。自分の払ってきた税金の使われ方としてはあまりにもくだらなさ過ぎる。
 効率や経済性を無視して、好きなだけ予算をかけてつくった巨大な基地は、今は静かに朽ちるに任せていた。維持費だけで地方都市の年間予算を超えてしまうからだ。北方に興味がない日本政府は、この基地を3年後に閉鎖するという。
 もったいない話だ。
 核爆撃機用の巨大なハンガーを見上げて、私はそう思う。
 ジャンボジェット機を2機同時に格納しても、まだあまりあるそれは巨大な粗大ゴミ置き場だった。
 埃の積もったガラクタが山のように積み上げられている。
 整備隊の男衆がそのガラクタに楽しそうに群がっていた。
 気がついたら、私は半歩だけブーツのかかとを後退させていた。

5サラ:2006/12/15(金) 00:23:56
「逃げるなよ」
「ちぇっ」

 肩をつかまれて私は渋々ハンガーへ連行された。
 
「お、待っとたぞ」
「じーさん。こりゃ、何の騒ぎよ」

 白というよりは、銀に近い白髪をクリームで固めた整備隊長は珂珂と笑った。
 マトショリーカのような体形に鶉の卵のような顔が鎮座している。はちきれんばかりの腹をサスペンダーで吊り下げた老整備兵は、三枝の古い友人の1人だ。
 老コンドラチェンコはこの基地の古株で、ソヴィエト軍が撤退するときも基地に残った数少ない残留希望者の一人だった。
 三枝は他の誰かよりも幾らかはこの肥満の老整備兵のこと知っていた。
 何故、国に帰らないのかと聞いたこともある。思慮の足りない不躾な質問だった。しかし、彼は怒ることもなく、複雑な笑みを浮かべて頭を振るのだった。
 アフガニスタンでの失敗はソヴィエトにとって致命傷だった。老コンドラチェンコにとってもそうだった。そういうことだった。

「まぁ、見ての通りだよ。ちょっとした掘り出しものを見つけたのさ」

 コンドラチェンコはニヤリと笑う。
 息子ぐらいの歳の部下に囲まれてご満悦といった具合である。
 
「アレが?」
「アレが、さ。偉大なるスホーイ設計局の最初のジェット戦闘機、Su−9Kだ」

 格納庫に鎮座した銀地の戦闘機は鈍くアルミの銀地を輝かせていた。
 一見して、いかにもロシア的なデザインの飛行機だった。何かが泥臭く、スマートさに欠ける。兵器は見てくれではないけれど、それでも何かがおかしいと思う。
 しかし、その戦闘機はどこかで見たような気がしてらなかった。
 私ははてなと首を捻る。どこかで見たような気がするのだが、しかし、思い出せない。

「Me262にパクリですけどね」

 山田軍曹は答えを言った。
 
「あー・・・そういえば、そうね。Me262に似てるんだ」

6サラ:2006/12/15(金) 00:24:33
 Me262は第2次世界大戦でドイツが実戦投入した最初のジェット戦闘機だ。
 2基のエンジンを翼下に吊り下げて、最初から後退翼を採用していた。詳しいことはしらないが、それはそれは凄い飛行機だったらしい。
 古典に興味のない三枝には理解不能な話だ。軍事オタクの同期生が妙に嬉しそうに写真を見せてくれたことが変な具合に印象に残っている。その程度だ。
 格納庫に鎮座したSu−9は一見して、Me262によく似ていた。
 うろ覚えの記憶なのであてにはならないが。

「パクリというのは酷いぞ。せめてオマージュと呼ぶべきだ」

 苦りきった顔でコンドラチェンコは言う。

「真似したのは否定しないんだ?」
「まぁ・・・な。しかし、似ているのはデザインだけだ。機体の設計は全てオリジナルだぞ。Me262は参考にした程度にすぎん」
「参考にしたなら、せめて後退翼はそのまま残せばいいでしょう。退歩してどうするんですか」

 かなり容赦のない口調で軍曹は言った。
 うろ覚えだが、しかし、Me262とSu−9は微妙に何かが違う気がした。
 まず目に付くのは、主翼の形だった。Me262は今風の後退翼である。しかし、Su−9は直線翼だ。それだけで随分印象が違う。他にも指摘すればキリがないと思うが、胴体が妙に丸い気がした。Me262は前から見ると3角形に近い形をしていたはずだ。 

「なんか、都落ちした有名女優が網走のスナックでママさんしているような・・・何故だかとても切ない気分になる飛行機ね」

 三枝は妙に的確な感想を述べた。
 打ちのめされたように老コンドラチェンコは肩を落す。
 三枝は少し可愛そうな気分になる。

7サラ:2006/12/15(金) 00:25:09
「ところでこの飛行機、どこからもってきたの?半世紀前のオンボロじゃないの?」
「ガラクタの中から隊長がひっぱってきたらしいが、俺にもよく分からん。だが、ここには何でもあるからな。こんな珍品の1つや2つは眠っていても不思議じゃない」
「あんな骨董品まで?」
「詳しいことは分からんが、きっと駐留時代に標的機か何かにするつもりで持ち込んだ奴のあまりものじゃないかと思う」
「冷戦の遺物ってわけか・・・」

 半世紀ほど北海道にソヴィエト軍が駐留していたが、撤退するときに装備の殆どを駐屯地に遺棄していった。大部分は自衛隊が回収したそうだが、一部は海外に流れてマフィアの手に渡ったらしい。
 そこら辺の事情はよく分からなかった。
 あの頃の私は給料が出ない軍を抜け出して実家で畑を耕していた。給料が出なくなっても飢えずに済んだのは、実家が農家だったからだ。
 そうでなければ、女衒に身売りをしたか、さもなくばマフィアの兵隊をしていただろう。或いはその両方か。どちらにしても楽しい気分にならないだろう。

「ところで、アレをどうするのさ?」
「もちろん決まっておる。飛行機は空を飛ぶためにあるのだ。飛ばす。燃料の手配もしてある。エンジンの整備もした。機体もモスボールしてあったからきっと大丈夫だ」
 
 コンドラチェンコはよく通る声ではっきりと言った。
 何か酷く嫌な予感がした。

「確認してもいいかしら?誰があのオンボロを飛ばすの?」
「そんなこと決まっておる」

 小首を傾げて、さも当然そうにコンドラチェンコは言った。

「お前さんに決まっておるじゃないか」
「そんなことだろうと思った」

 Su−9はちょうどエンジンの試運転を始めたところだった。

8永遠のなぞ:2008/01/09(水) 23:39:53
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かならず氏にます。
でも、逃れる方法はあります、
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すみません、僕、氏にたくないんだす


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