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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】
243
:
煌月の鎮魂歌10 34/43
:2017/08/12(土) 23:03:38
「雑種! 私生児! ベルモンドの名前に値しない屑め、お前なんかが聖鞭を手に入れる
なんてあるはずがない! 消えろ、薄汚い犬! ただの人殺しの捨て子め!」
ののしられようとも、もはやユリウスの心に怒りはわかなかった。ベルモンドの名も、
聖鞭の所持者の資格も、ユリウスにとっては自分とはほとんどかかわりのないなにかであ
って、たまたま運命がその気まぐれで与えたにはた迷惑な代物でしかない。それによって
自分を支えてきたラファエルにとって、それらを失うことは天地が砕け散るのと同じ災厄
かもしれない。だが、もともとブロンクスの〈赤い毒蛇〉として立ち、ベルモンドの名に
背を向けて成長したユリウスにとって、投げつけられる言葉はたんなる自己確認の意味し
かもたず、かえって、必死に言いつのる異腹の弟に、あわれみめいたものを抱かせた。
「なんとか言えよ、──ちくしょう!」
白い歯をむいて、ラファエルは叫んだ。取り戻した足を踏みならし、ユリウスののど元
めがけて闇の鞭を飛ばす。皮膚のすぐそばへ迫る革でできた毒蛇の牙をユリウスは感知し
た。肌にとまる塵を払うのと同じだった。空中で屈曲したヴァンパイア・キラーはおよそ
物理法則を無視した動きを見せ、自らの暗黒の影を叩いて、その先を真っ二つに裂いた。
生きた暗黒の鞭は金切り声を上げてきしみ、よじれた。ラファエルもまたのけぞって腕を
押さえた。裂かれた鞭と同様、腕には肉のはぜた傷口が口を開いて湯気を立てていた。地
は一滴も流れなかった。
「なぜ? なんでだよ!」ラファエルは泣き叫んだ。
「僕は強くなったのに。偽ベルモンドの贋の鞭なんて、僕の敵じゃないはずなのに!」
「ベルモンドであろうがなかろうが、俺は俺だ」
ユリウスは呟いた。ラファエルの耳には届いていないようだった。金髪を振り乱して叫
びつづける腹違いの弟に、これまで感じたこともないほど胸が痛んだ。できねことなら手
を伸ばして抱きしめてやりたかったが、それがもっとも、相手にとって残酷な侮辱となる
こともわかっていた。
「そして俺は、俺のやるべきことをやるだけだ、ラファエル。俺は──」
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